Brandon K. Hill

デザイナーなら知っておきたい、使っちゃいけない商標登録済みブランドカラー

多くのブランドには、その色だけで顧客にその存在を想起させる「ブランドカラー」が存在する。最も有名なのは、色の名前にもなっているティファニーの青だろう。 そして実は、いくつかの著名ブランドは、ブランドカラーを商標登録しており、同じ色を似たような商品やコンテキストや利用することを防いでいる。 商標カラーを利用したことで訴訟になったことも 2012年、有名な靴のブランドであるクリスチャン・ルブタンは、そのシンボルでもある、女性用シューズの赤いソールの使用をめぐり、競合ブランドであるイヴ・サンローランに対する訴訟を起こし、勝訴しまている。 ブランドにとって色が重要な要素である5つの理由 上記の事例からもわかる通り、色はブランドにとってそれほど重要な要素になっている。 我々が企業向けのブランディングを行う際には、最終成果物であるブランドガイドラインを作成する。その中でも、ロゴやタイポグラフィーに加え、カラーパレットは、とても重要なコンテンツになることが多い。 その理由とては下記の5つが挙げられるだろう 1. 色は感情に訴える 究極的にいうと、ブランディングのゴールは、受け取りての感情を動かすこと。その点で、色が与える影響は大きい。赤やオレンジの暖色はやさしく感じるし、青や緑の寒色はクールに感じるなど。 2. 色は一瞬で認識される 人が目で認識する際に、色に頼ることが多い。ホーム画面からアプリのアイコンを探す時もそうだが、まずは色を記憶しており、そこから認識することが多い。 3. 色は記憶に残りやすい 一度目にしたブランドのイメージが記憶される時、ロゴの形と同じぐらいか、もしかしたらそれ以上に色で覚えている。例えば、スタバは緑、マックは黄色、YouTubeは赤、など。 4. 色はブランドポジショニングに役立つ 高級ブランドにするか、カジュアルブランドにするか、などなど、ブランドのポジショニングを決める際にも色は多いに役立つ。ラグジュアリーであれば、ゴールドやシルバー、ポップな感じなら黄色や緑など。 5 色はブランドの一貫性を提供する 色がブランドに与えるもう一つの価値は、一貫性。どこでどんな状態でそのブランドを目にしていても、使われている色が一貫していれば、一貫性を感じることができる。 【こんなにも凄い】色が人の心理と行動に与える影響とは 商標登録されている6つの著名ブランド では、実際に商標登録がされているブランドとその色の名前をHex Codeと共に6つ紹介する。 Tiffany Blue   #0ABAB5 Coca-Cola Red   #F40000 Cadbury Purple   #330066 Barbie Pink   #E0218A UPS Brown   #351C15 URoyal Mail Red   #FF0000 この色はどのブランド?10の商標ブランドカラー 商標登録するには? では最後に、自社のブランドカラーを商標登録してみたい!という方々のために、必要な3つの要素を紹介する。ブランドカラーで商標を取るには、以下のような条件が必要とされる: その色がブランドと結びついて消費者に認知されていること(識別力) 他社と混同しない独自性があること 長期間・一貫してその色を使っている実績があること(特に単色の場合) btraxの提供できる価値 […]

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馬車の馬でいるか?自動車の運転手になるか? 〜生成AI時代のデザイナーに突きつけられる決断〜

この1〜2年で、デザイン業界の空気が明らかに変わった。 MidjourneyやDALL·E、Adobe Fireflyなどの画像生成AIは、もはや「試しに遊ぶ」段階を越え、本格的な制作の現場でも使われ始めている。そして決定的なのが、ChatGPTの画像生成機能の大幅アップデートだ。 なんてたって、スケッチをアップロードすれば、それがアプリのUIになるし、写真と文字を入れれば、良い感じのバナーグラフィックを生成してくれるんだから。 車の馬のままでいるか?それとも、自動車を運転したいのか? これは、僕が今一番全てのデザイナーたちに切実に伝えたい一言だ。 ChatGPTをはじめとする生成AIの進化が、私たちデザイナーにまさに「時代の転換点」に立たせている。イラスト、グラフィック、そしてWebデザイン——これまでは “人の手” でしか作れなかったものが、機械で生成できる時代になった。 そんな未来はずっと先だと思っていた。でもそれは、すでに「現実」として目の前にある。 生成AIツールは、それまでのデザイナーにとって便利なツールから、一部のデザイナーたちの存在すらも脅かす存在にまで進化しているのだから。 イラストレーターやWebデザイナーが感じている“ざわざわ” そんな、デザインの現場で日常的にこんな声が聞こえてきている。 「クライアントから“これ、AIで作れない?”って聞かれた」 「イラストの単価が明らかに下がってきている」 「ポートフォリオの差別化が難しくなった」 「“人が描いた”ことの価値を説明しないといけなくなった」 つまり、デザイナーの立場が揺らぎはじめているのだ。 デザイナー終了説? それとも始まりの合図? 先日公開された『画像生成AIの進化、本業の人はどうみる? 現実味を帯びる「デザイナー終了説」の真実』では、実際のデザインの現場における生成AIの利用ケースと今後脅かされるデザイン職に関してのお話をした。 その中でも触れたのだが、生成AIの影響で「終わってしまう」職種もあれば、これから「始まる」デザイナー職もある。 指示通りに作るだけの“手”はAIで代替できる だが、“方向性を定める頭脳”は、むしろこれまで以上に重要になる これはまるで、かつての馬車がエンジンによって自動車に置き換えられた歴史と似ている。 動力はAI(エンジン)に置き換わる。けれど、どこへ行くかを決めて、ハンドルを握る人間(ドライバー)は必要だ。 「道を決める人」になるか、「言われたまま走る馬」のままか これは、今のデザイナーが直面しているシンプルかつ根源的な問いだ。 あなたは、まだ“馬”としての役割を果たしていたいですか?
それとも、“車を運転する側”に進化したいですか? 前者を選べば、間違いなく今後は厳しくなる。なぜなら、AIは疲れないし、早いし、文句も言わない。コストも安い。人間が戦って勝てる見込みは少ない。その証拠に、現代に馬車はほとんどない。というか、あってもそれはリゾート地などの「遊び」で利用されるだけだ。 一方で、後者を選ぶなら、そこには明るい未来が待ってるだろう。例え動力が馬からエンジン、もしくは電動のモーターになったとしても、しばらくの間は、行き先を決めて、それを操作する役割が必要なのだから。 そこで求められるのは「指示を受けて作る力」ではなく「状況を理解して、正しい判断を下す力」だ。たとえば以下のような役割が求められる: 商品やビジネスの価値デザインに落とし込むクリエイティブディレクター ブランドの世界観を視覚的に定義するアートディレクター ユーザーの体験を最大化させ、プロダクトの価値を高められるUXデザイナー 事業全体をデザインで推進するデザインストラテジスト ⠀ここに共通するのは、”考える力” と “決める力” である。 「進化できるデザイナー」が持つ3つの資質 では、これからの時代において“馬ではなく運転手になるデザイナー”とは、どのような人なのか? 以下の3つの資質がカギになると思う。 1. コンセプト思考力 単なる「綺麗なビジュアル」ではなく、「なぜこれなのか?」を説明できる力。言い換えれば、ロジカルなストーリーテリング力が必要になる。 2. ディレクション力 他者(AIや他のデザイナー)を動かすためのビジョン設定力とフィードバック力。個人プレーからチームプレーへの変換が求められる。 3. テクノロジーへの理解と好奇心 ツールとしてAIを使いこなす力。怖がるのではなく、積極的に“仲間にする”マインド。もちろん生身の人間とも仕事をするが、適材適所でAIツールも使い倒すぐらいのスキルが必要。 最後に:決めるのは「今」 デザインを生業とし、デザイン業界に身を置く人間として断言できることとしては、生成AIは、ただのトレンドではない。これは、産業構造そのものが変わる兆しだ。 「私には関係ない」「まだ大丈夫」と目を背けることはできる。でもその間にも、世界は加速度的に変化していく。そして、デザイナーに対しての影響は想像以上に大きいだろう。 君は、馬のままでいたいですか?
それとも、エンジンを積んで未来を切り開く運転手になりたいですか? 決めるのは、今だ。 この記事で紹介したインタビューはこちら: ▶︎『画像生成AIの進化、本業の人はどうみる? 現実味を帯びる「デザイナー終了説」の真実』 この内容に関連するポッドキャスト

Appleから学ぶ “シンプルだけど刺さる” 英語キャッチコピー8つのポイント

最近は米国市場向けのブランディング案件で、英語のキャッチコピーを書くことが増えている。多くは、日本企業の海外展開プロジェクトの重要な役割を果たす。 英語でのキャッチコピーを作成するのは、日本語のそれとは手法が大きく異なり、完全に考え方を切り替える必要がある。 【ローカライゼーションの第1歩】アメリカのキャッチコピーの特徴 僕が一番参考にしているのは、Apple。 みなさんご存知の年間4,000億ドルを売り上げる、世界トップ級の企業。その卓越したデザインでファンも多いが、実はWebサイトや広告、プロモ動画とかで使われるキャッチコピーも素晴らしい。 Appleを3兆ドル企業に成長させた6つのデザイン哲学 なので、今回はAppleから学べるコピーライティングの8つのポイントを紹介する。 簡潔で明確 韻(ライム) メタファー表現 反復 比較 大胆な約束 希望と憧れを喚起する表現 ユニークセールスポイント(USP)表現 1. 簡潔で明確 プロダクト同様、Appleのキャチコピーはかなりシンプル。無駄を削り、研ぎ澄まされている。 1秒以内に見た人の注意を惹き、その簡潔さでチラ見しただけでもメッセージが伝わるようなキャッチコピーが採用されている。 2. 韻(ライム) Appleのキャッチコピーのもう一つの特徴が、韻を踏む表現が利用されている点。英語表現だと、特に語尾の響きが同じになると、リズミカルで覚えやすい。 3. メタファー表現 メタファーとは比喩のこと。 Appleは比喩表現を上手に活用し、メッセージを文章とビジュアルの両方で伝えている。これにより記憶に残りやすくなり、結果的に売上にもつながる。 4. 反復 ライムや比喩表現と同じく効果的なのが、反復的な表現。 特に英語では、同じ単語を複数回入れ込むことで、より記憶に残りやすくなる。 Appleはコピーの中で最も重要な言葉を繰り返すケースが多い。これにより、伝えたいことが強調され、消費者の記憶にも残りやすくなる効果がある。 5. 比較 Appleは製品の特徴を、旧モデルと比較することで示すケースが多い。 それを視覚的なイメージでも表現することで、見た者の頭の中に「より大きく、より良くなった」と印象づけている。 6. 大胆な約束 ファウンダーのスティーブ・ジョブズのキャラ同様、Appleは世の中に大胆な約束を放つのが好きだ。そのキャッチコピーを通じて、見る者に対して「自分こそが最高だ」とアピールする。 消費者は、自社の製品に自信を持ち、大胆な約束ができる企業を好む。そしてAppleのファンになっていく。 7. 希望と憧れを喚起する表現 Appleのキャッチコピーはまるで、「これさえあれば自分の望むものが手に入れられる」と人々に希望と憧れを与えるものが多い。 特に人間の最も根源的な欲求、健康、富、ステータスに訴えかける内容だ。 8. ユニークセールスポイント(USP)表現 UPSとは、広告業界で使われる用語で、競合と差別化できる独自の強みや魅力のことを指す。企業やブランドが、自社の製品やサービスを市場で際立たせるために強調するポイント。 USPが明確だと、消費者に「なぜこの商品を選ぶべきなのか」を強く印象づけることができる。 これまでもAppleは「シンプルで直感的な使いやすさ」「革新性」「洗練されたデザイン」といったUSPを前面に打ち出している。 海外向けキャッチコピーはユニークな要素が多い 英語のキャッチコピーの特徴を見てみると、日本のキャッチコピーとは異なる点が多く見つかる。 しかし、日米のキャッチコピーに共通しているのは、どちらも消費者の思考や課題を想像し、それをいかに魅力的に訴求できるかが重要であるということだ。 btraxができること btraxでは、日本企業が海外市場向けに効果的なキャッチコピーやブランドメッセージを作成するためのサポートを提供しています。英語圏の消費者に響く言葉選び、文化的背景を考慮した表現、ブランドの強みを最大限に活かしたコピーライティングなど、グローバル市場で成功するための戦略をご提案します。 海外展開を検討している企業や、英語のキャッチコピーをより効果的にしたい方は、ぜひbtraxにご相談ください。

Evernoteはどこに行ったのか? 〜始まりから成長、日本との深い関係、そして凋落の足跡〜

かつて「もう紙のノートはいらない」と言わしめたデジタルノートサービスが、Evernoteである。数あるメモアプリの中でも一時は圧倒的な存在感を放ち、多くのユーザーの“第二の脳”として君臨していた。 しかし近年、その名前を耳にする機会がめっきり減ったと感じる人は多いのではないか。本記事では、Evernoteがどのようにして生まれ、いかに日本で熱狂的に受け入れられ、そしてなぜ失速してしまったのかを振り返る。 Evernoteの始まり Evernoteの源流は、ロシア系アメリカ人の起業家ステパン・パチコフ(Stepan Pachikov)が2000年代前半に立ち上げた「メモを一元管理できるソフトウェア」にある。 その後、2007年ごろにフィル・リービン(Phil Libin)が経営に加わり、クラウド型ノートサービスとしてのEvernoteが本格的に再始動した。 当時、「クラウド×ノート」という組み合わせは画期的だった。写真や音声、PDFドキュメントなど、あらゆる情報をひとつにまとめ、パソコンやスマートフォン、タブレットといった複数のデバイス間で同期できる点が革新だったのである。 爆発的な成長と「第二の脳」 2008年の正式リリース後、Evernoteは世界中で急速にユーザーを獲得した。ビジネスパーソンを中心に、「個人の生産性を高めるツール」として支持を集め、関連アプリも続々と登場した。 名刺管理に特化した「Evernote Hello」や食事ログアプリ「Evernote Food」など、多様なアプリを揃え、エコシステムを広げていったのだ。 「すべての情報を一か所に集約する」というコンセプトは、ユーザーに強いインパクトを与えた。大量のドキュメントやウェブクリップ、画像、さらには手書きのメモまで一元管理し、必要な情報をすぐに検索して呼び出せる利便性は他社に先んじていた。 それはまるでユーザーに「第二の脳を」提供していた。 日本との強い結びつき Evernoteが特に成功したのが日本市場である。そこにはいくつかの理由がある。 1. 日本の「メモ文化」 日本では手帳やメモによる情報整理が根強く、紙媒体でもノートを活用する慣習が長く続いてきた。デジタル環境でもメモをしっかり整理したいと考える利用者が多く、Evernoteのサービスコンセプトとの相性が抜群によかった。 2. 日本語認識の精度とUI/UX Evernoteは早期から日本語の文字認識(OCR)に力を入れ、日本語ユーザーがスムーズに使えるインターフェースを整備した。この対応が日本におけるユーザー拡大に大きく貢献した。 3. 日経新聞とのコラボレーション 日経新聞がEvernoteに2000万ドル出資し、かつて日本経済新聞の電子版と連携。記事をワンクリックでEvernoteにクリップできる機能が提供された時期があった。ビジネスや経済に関する情報を手軽にストックしておけることから、ビジネスパーソンにとってEvernoteがさらに有用なツールとなった。 参照: 日経新聞がEvernoteに2000万ドル出資 Evernoteから電子版記事の引用が可能に 4. 熱心なコミュニティ 国内ではEvernoteがまだ認知度を獲得しきれていない段階から、ブログやビジネス書を通じて使い方を広める「伝道師」のような存在がいた。コミュニティ主導の情報発信がファンを増やす後押しとなり、日本市場での人気を一気に高めたのである。 失速のきっかけ 一時は飛ぶ鳥を落とす勢いだったEvernoteだが、2010年代後半から徐々に存在感が薄れていった。その要因を以下に整理する。 1 競合の台頭 Google KeepやMicrosoft OneNote、Appleのメモアプリなど、主要IT企業が無料で使えるノートアプリを積極的に提供し始めた。特にOneNoteはOfficeとの親和性が高く、ビジネスシーンで多用されるようになった。こうした無料・純正の選択肢が増えることで、Evernoteの強みが埋没していった。 2 ビジネスモデルの変化と混乱 Evernoteは長らく無料で使いやすいサービスとの印象が強かった。しかし2016年頃から、有料プランへの誘導を強化するために、無料プランの制限強化や価格改定を繰り返した。 これにより、ユーザー離れを招き、さらに経営陣の交代やレイオフ(大規模な人員削減)なども重なって、サービスの方向性が定まらない印象を与えた。 3 モバイルアプリの完成度の低下 機能は豊富であったものの、動作の重さやバグの多発など、使い勝手の面でユーザーを悩ませることが増えた。アップデートに伴う同期エラーやデータ消失といったトラブルが報告されるなど、アプリの信頼性を損なう出来事が続いた。 4 新規ユーザー獲得における停滞 既存ユーザーの満足度が落ちる一方で、新しい世代のユーザーに向けた革新的なアプローチが不足していた。ワークフローの自動化やAI連携といった機能は他社が先行して取り入れ、Evernoteの差別化要素は相対的に薄れていった。 現在のEvernoteはどうなっているのか 近年のEvernoteは、ビジネス利用を強化する姿勢を示している。企業向けのコラボレーション機能やタスク管理の拡充に力を注ぎ、「メモアプリ」というイメージから「生産性向上プラットフォーム」へとシフトしようとしているのだ。 しかし、すでにMicrosoft 365やGoogle Workspaceなど、包括的なエコシステムが多くの企業で根付いている状況下で、Evernoteが割って入るのは容易ではない。 加えて、2022年以降も経営方針の転換や人員削減が伝えられており、独立系プラットフォームとしての生き残り戦略がどこまで功を奏するかは不透明である。 まとめ:Evernoteは本当に消えてしまったのか? 「Evernoteはどこに行ったのか?」と問いかけたくなるほど、その勢いが衰えたのは事実だ。しかし、サービス自体が消えてしまったわけではなく、有料プランやビジネス向けプランを継続提供している。今もなお、「Evernoteでなければ困る」というコアユーザーは存在する。 一方で、競合アプリが充実し、無料ツールが充実した今、これからEvernoteをあえて選ぶ理由は薄れているのも事実である。 かつてのような熱狂的な支持は失われ、一般ユーザーにとっては「Evernoteってまだあったのか」という印象が強まっている。 おわりに IT業界は技術革新のサイクルが早く、新たなアイデアや使い勝手を絶えず磨き続けることが生き残りの条件といえる。 Evernoteがノートアプリの王者に君臨した時期は、それほど長くはなかったかもしれないが、その理念や機能がもたらした「情報管理の革命」は、ほかのサービスに確実に受け継がれている。 Evernoteが今後、独自の進化を遂げて再び脚光を浴びるのか、それともこのまま静かにフェードアウトしてしまうのかは、まだ結論を出せる段階にはない。 私たちが情報管理の課題に向き合い続ける限り、「Evernoteの遺伝子」が何らかのかたちで残り続けることは間違いないだろう。今後のアップデートが復活の糸口となるのか、その動向を注視したい。 オープンである事&フラットである事の重要さ

【ポリコレにサヨナラ】 スーパーボウルのCMから見るアメリカ社会の揺り戻し

アメリカで毎年2月に開催されるアメフトの決勝戦「スーパーボウル」は、全米最大のスポーツイベントの一つ。試合に注目が集まるのはもちろんのこと、豪華アーティストによるハーフタイムショーや、試合中に放送されるCMにも大きな関心が寄せられる。 そう、スーパーボウルは、その時代を表す「アメリカ文化の縮図」である。 世界で最も高額のスーパーボウルのCM枠 特に、スーパーボウルのCM枠は年間でも最も高額とされ、30秒の放映に数億円から数十億円の予算がかかる。こうした巨額の広告枠を買う企業は、世界的に著名な飲料ブランドや自動車メーカーから、IT企業やスタートアップまで多岐にわたる。 スーパーボウルのCMは「アメリカ文化を象徴する存在」ともいわれる。視聴者にとっては試合そのものと同じくらい、あるいはそれ以上に楽しみなコンテンツでもあるのだ。 ポリコレから古き良きアメリカへ 昨年まではポリティカル・コレクトネス(いわゆるポリコレ)やLGBTQ+への配慮が前面に押し出されたCMが多い印象だったが、2025年はそれが一気に様変わりしている。 まるで80年代・90年代に回帰したような、古き良きアメリカの雰囲気を感じさせるCMが目立つのだ。これがトランプ新政権の誕生と関係しているのかは定かでないが、「アメリカ社会のより戻し」を象徴する事例として興味深い。 2025年に注目されたスーパーボウルのCM ここからは、今年放送されたスーパーボウルのCMの中から、とりわけ興味を引かれたものをいくつか紹介する。 懐かしさを感じさせる演出や、少々不謹慎なユーモアが再び受け入れられているようにも思える。さっそく、どんなCMがあったのか振り返っていこう。 Carl’s Jr. いきなりブロンドセクシーギャル登場のファストフードバーガーのCM。星をモチーフにした服装も雰囲気も、コルベットも、ザ・アメリカって感じ。 Bud light アメリカの週末。隣人を集めた家の庭でのBBQ。 ジョークたっぷりの演出と、なんといってもこのBGM. タイムマシーンで80年代に戻った感じ。思わずマーティーとドクを探してしまう。 Frank’s RedHot ブロンドのパリス・ヒルトンを起用。 キラキラボトルに入ったホットソースをバービーっぽくセクシーに紹介。 Stella Artois デビッド・ベッカムを起用し、生き別れになった双子の兄弟を探しにアメリカへ。そこでマット・デイモンと再会。兄弟が著名なサッカー選手だと知った最後のジョークがめっちゃウケる。 Hellmann’s 大手マヨネーズブランドのCM. メグ・ライアンとビリー・クリスタルが出演し、ラブコメ映画『恋人たちの予感』のワンシーンを再現。去年までだったら許されなかっただろう攻めた演出で商品の魅力を伝える。 Jeep 大自然の中をハリソン・フォードがジープで駆け抜ける。アメリカの兵士、大きな星条旗、ガソリン車もあるし、EVもある。違いがあるからこそ自由になれる。人生に取説はない。たとえ彼の苗字が「フォード」でもジープに乗ったって良いんだぜ。アメリカの自由を体現したCM. Bud Light #2 上記で紹介したBud LightのCMの30秒版別ショット。アメリカンな二人がガレージの前でビール片手に「ビールのCMで飲むシーンはNGなんだぜ。」「え?いつからよ?」「まあ、変えてくれるまで待てよ。」そう、実はアメリカではビールのCMでビールを飲んではいけない。それを逆手に取った演出。 Liquid Death Dub Lightとは真逆にグビグビ飲んでる。それも、パイロットが、外科医が、裁判官が、警察官が仕事中に。BGMの歌詞も「飲め飲め!仕事中に飲め!みんな仕事中に飲んでる!」という、なんとも不謹慎なもの。でも実はこれ、ミネラルウォーターのCM. 真面目路線から面白さへのシフト いくつかのCMを取り上げてみると、昨年まで主流だったDEI(多様性・公平性・包括性)を前面に掲げた“ポリコレ色”が薄れ、より「楽しさ」や「個性」を重視する流れが強まっているように感じる。 不謹慎ギリギリの表現や攻めたユーモアが再び容認され始めたことは、まさに時代が変化している証左といえよう。 今後は日本のブランドにも影響する 2025年はアメリカ社会のみならず、世界的にも新たな動きが生まれる節目の年となりそうだ。ポリコレの概念を完全に無視するわけではないにせよ、過剰に縛られることなく新たなクリエイティブや価値観が模索されはじめているのだろう。 では、日本はどのような道をたどるのか。政治や消費者の意識変化など、多様な要因が組み合わさりながら、広告やエンターテインメントの形がさらに変わっていくと考えられる。 必要なのは社会・文化的な背景の理解 こうした激動の状況下で、日本企業がアメリカ市場におけるプロモーションやブランディングに挑戦する際、信頼できるパートナーを見つけることは非常に重要である。 btraxは、これまで数多くの日本ブランドの米国進出をサポートしてきた実績をもとに、市場調査から戦略立案、ブランド構築、マーケティング支援までを一貫して提供している。 アメリカ社会が大きく変化する今だからこそ、柔軟な対応と的確なクリエイティブが求められる。そうした新時代の動きに合わせたプロモーション戦略を模索する上で、btraxの知見やネットワークは大いに力となるだろう。

CES 2025で注目したい日本企業による6つのプロダクト

1月7日よりラスベガスで開催される世界最大級のテクノロジーイベント、CES 2025。 今年もテクノロジー業界の最前線をリードする企業やスタートアップが集結し、世界中から注目を集める場である。このイベントでは、AI、IoT、ロボティクス、自動車技術、ヘルスケア、スマートホームなど、多岐にわたる分野の最先端技術やプロダクトが披露される。 CESでは、出展された数多くのイノベーティブなプロダクトの中から、特に優れたものに「イノベーションアワード」と呼ばれる賞を授与する。 この賞は、デザイン、機能性、技術的進歩、社会的影響など、さまざまな観点から評価されるものであり、業界内外で大きな注目を集める指標である。 世界で高く評価される日本のプロダクト 今年も多くのプロダクトが事前選出される中、日本企業が手掛けた技術やデザインが特に目立っている。日本の精密技術や独創的なデザイン力、そしてユニークな発想は、毎年高い評価を得ている。日本企業の創造性と技術力がいかに世界で評価されているかがわかるだろう。 今回は、事前選出されたプロダクトを中心に、テクノロジー、デザイン、イノベーションのそれぞれの項目を解説しながら、注目すべき日本企業による6つのプロダクトを紹介する。 マイクロ e-モビリティ コンセプト by Suzuki Suzukiの多用途型マイクロeモビリティプラットフォームは、長年培ってきた電動車椅子の技術を活用し、さまざまなロボットの足回りを提供するコンセプト。 自動運転やAIなどの技術と組み合わせることで、パートナー企業と共に多様な分野の課題をロボットで解決することを目指している。 テクノロジー 自動運転やAI技術を統合することで、精密で柔軟な動作を実現し、多様な環境での適応性を高めている。 デザイン コンパクトで堅牢なデザインが特徴的。黄色と黒のコントラストを活用したモダンな外観は、視認性を高めるだけでなく、機能性とスタイリッシュさを両立している。 イノベーション パートナー企業との協業により、物流、農業、災害対応など、多岐にわたる分野の課題をロボットで解決する可能性を提案。単なる移動手段に留まらず、多用途で持続可能な社会の実現を目指すプラットフォームとして、新たなロボティクスの標準を示している。 Mixed Reality Makeup – 0 min try-on studio by Kose コスメブランドのKoseが提供するMixed Reality Makeupは、高速プロジェクションマッピング技術に基づき、全く新しいメイク試着体験を提供するシステム。 リアルなメイクを直接顔に投影し、顔の動きにも追随する。顧客は現実の3D空間で無数のメイクデザインを試すことができるため、従来の試着方法やARメイクフィルターと比べて、より迅速に、確信を持って、そして楽しく製品を選ぶことが可能になる。 テクノロジー 高速プロジェクションマッピング技術を採用。リアルタイムで顔にメイクを直接投影し、顔の動きに応じて精密に追随することで、臨場感あふれる体験を提供。 デザイン スタイリッシュで直感的なインターフェースにより、簡単かつ楽しく操作できる設計。幅広い顧客層に対応するために、色鮮やかなビジュアルとモダンなデザインを融合。 イノベーション 現実世界の3D空間で無数のメイクデザインを試せる仕組みを提供。従来の試着方法やARメイクフィルターを超え、迅速かつ楽しい意思決定を可能にする新しい標準を確立。 Bio Leg 日本初のスタートアップ、Bio Legが提供するのは、切断によって失われた脚の力を補う電動式の義足膝。電動アシストを活用することでユーザーの身体的負担を軽減し、よりスムーズな歩行体験を提供する。 さらに、バイオニックマッスル技術により、異なる姿勢や地形間での移行を容易にする設計となっている。また、自然なシルエットを持つことでバランスを促進し、視覚的な調和も実現している。 テクノロジー 電動モーターと複数のセンサーを統合し、動作をサポートするとともに、不快感を軽減し、移動性を向上させる技術。 デザイン ふくらはぎの筋肉の膨らみを活かし、黒いカーボン素材を使用することで自然な外見を強調し、人間の膝に似たデザインを実現。自己表現をサポートする。 イノベーション 人間の膝の動きの特徴を模倣し、柔軟性と力強さを提供。単なる補助器具としてではなく、自信とスタイルの象徴へと変貌させている。 Sony XR Head-Mounted Display SRH-S1 MetaやAppleも参入するVR/XR領域に対して、SONYが提供する「高品質な片目4K対応XRヘッドマウントディスプレイと3Dオブジェクト操作専用コントローラー」はかなり期待できる内容。主な特徴としては 多様な空間コンテンツのニーズに応えるXRヘッドマウントディスプレイ 4KマイクロOLEDパネルにより鮮やかでリアルな映像を実現 ビデオシースルー機能でミックスドリアリティの作成を可能に Qualcommの最新XRプロセッサ「Snapdragon® XR2+ Gen 2 Platform」を搭載 最適な重量配分と素材により、長時間使用時の快適さと安定性を提供 フリップアップ機構により、物理空間と仮想空間の簡単な切り替えが可能 テクノロジー 片目4K解像度を提供するXRヘッドセットと、3Dオブジェクトとのインタラクションに最適化された専用コントローラーにより、超高精細で没入感のある体験を実現。 デザイン 快適性を追求した人間工学に基づく設計とモダンな外観で、ユーザーの利便性を最大化。 イノベーション 新しいXRインターフェースを採用し、3Dオブジェクトとの正確な操作を可能にすることで、拡張現実技術の新しい基準を提示。 Qolo Rehabilitation つくば市の産学リエゾン共同研究センター初のハードウェアスタートアップ、Qoloが開発したリハビリテーション用デバイス、Qolo Rehabilitationは、下肢障害を持つ患者向けの世界初・業界初の立位補助装置であり、リハビリテーションの現場を革新するプロダクト。 このシステムは、セラピストの介入を最小限に抑えながら、転倒防止と定量的な治療データの提供を実現する。支援デバイス、内蔵センサー、データ可視化用のタブレットを含む構成で、特に重度障害患者の早期トレーニングに不可欠な動的立位運動をサポートする。また、ユニークな無動力メカニズムを採用し、リアルタイムのデータ収集と傾向分析が可能である。 コンパクトかつ持ち運びやすい設計により、リハビリ室や患者の居室、ラウンジなど、さまざまな環境での利用が容易である。 テクノロジー 内蔵センサーとデータ可視化用タブレットにより、転倒防止を実現するとともに、治療の進捗を定量的に把握できるシステムを提供。無動力メカニズムを採用し、リアルタイムでデータを収集・分析することで、治療の効率化を可能にする。 デザイン コンパクトで持ち運びが容易な設計は、リハビリ室だけでなく、患者の居室やラウンジなど、多様な環境での利用を想定。シンプルながら機能性を重視したデザインが、患者と医療従事者の双方にとって使いやすいプロダクトを実現している。 イノベーション 下肢障害患者向けの世界初・業界初の立位補助装置として、セラピストの介入を最小限に抑えながら、動的立位運動のサポートを提供。リハビリテーションの早期段階から利用可能で、患者の回復プロセスを加速させるだけでなく、治療の質を向上させる新しい標準を確立している。 Romi by Mixi ミクシーが提供するRomiは、手のひらサイズの感情支援AIロボット。複雑なリアルタイム会話が可能な次世代モデルを実装している。このロボットは発話の順番を待つ必要がなく、ユーザーが話している最中にも素早く介入し、聞こえた内容や会話履歴、さらにはその場で「見た」情報に基づいてコメントを生成する。 この機能を実現するため、深層学習モデルを開発し、日本国内で多くの人々が不安や孤独を和らげるために使用しているオリジナルのRomiロボットをさらに「人間らしく」進化させた。 また、クラウドシステムにより、Romiの音声、物理的動作(揺れや回転)、視覚的表現(LCDディスプレイによる「表情」)を統合的にコントロールし、対面での会話体験を最適にシミュレーションすることを可能にしている。 テクノロジー 会話中に聞こえた内容や履歴、視覚的な情報を即座に処理して適切なコメントを生成する。クラウドシステムによる音声、動作、表情の統合制御が、対面での自然なコミュニケーションを実現。 デザイン 手のひらサイズのコンパクトなデザインに、親しみやすい丸みを帯びたフォルムを採用。LCDディスプレイによるかわいらしい「表情」が、ユーザーとの感情的なつながりを強化。現代的で洗練された外観は、家庭や職場など、どのような環境にも調和する。 イノベーション 孤独感や不安を軽減するための感情支援デバイスとして、日本国内で多くのユーザーに愛用されている。これまでのモデルから進化し、さらに人間らしい応答性と感情表現を提供。会話を通じてユーザーの心の健康を支える新しい形のAIロボットとして、日常生活における新しい価値を創出している。 2025年に期待したい日本発のイノベーション 失われた30年なんて言われ方をしたりもするが、CES 2025においては、これら6つの日本のイノベーションは、創造性と最先端技術の融合を象徴しており、技術革新における日本の世界的リーダーとしての地位を改めて期待したいと思う。

デザインとは何なのか?いま一度考えてみよう。

デザインとは何か?
この問いは、古今東西のデザイナーたちによって繰り返し探求され、議論されてきた。
Apple創設者のスティーブ・ジョブズや、IDEOのティム・ブラウンといった著名なデザイナーたちの言葉には、デザインの本質が凝縮されている。
デザインはどう見えるか+どう機能するか
ジョブズは、「デザインは見た目のことではなく、どう機能するかだ」と述べている。このシンプルながら深遠な言葉は、デザインが単なる装飾以上のものであることを示している。
彼のリーダーシップのもとで開発されたApple製品は、機…

瞬間的にめっちゃ流行った Clubhouse (クラブハウス) はなぜ失敗したのか?そこから学べる5つの教訓

コロナ禍真っ只中の2021年の初頭、日本を含め、世界で大きな話題を呼んだサービスがある。「Clubhouse (クラブハウス) 」だ。 今でも覚えている人もいるかもしれないが、招待制の音声メディアサービスで、当時は参加したい人が増えすぎて、招待券がメルカリで売られるレベルにまで加熱していた。 その理由の一つが、イケてる起業家からインフルエンサー、そしてアイドルまでが参加し、ユーザーとの”生” の交流ができていたから。 イケてる奴らはみんな使ってるClubhouse また、イーロン・マスクやマーク・ザッカーバーグ、a16zなど、シリコンバレーの著名起業家やVC, そして暗号通貨コミュニティーの間でも頻繁に利用され、大きな話題を呼んでいた。 2021年の1月から4月の3ヶ月間で実に1400万ダウンロードを記録し、”The Next Big Thing” として大きな注目を集めた。それに合わせるように評価額も40億ドルを超え、ユニコーンが4頭いた計算になる。 しかし、その成長の勢いを保てず、さらにプラットフォームの収益化にも失敗した結果、ユーザーの利用頻度が低下し、その評価額も下落していった。 Clubhouseの主な投資家 Clubhouseは一気にユーザーを集めただけではなく、シリコンバレーの著名投資家やVCから資金調達を行なったことでも大きな話題になった。 特にAndreessen Horowitz (a16z) は、イチオシ投資先スタートアップとして、パートナーの2人が主要インフルエンサーとして出演するなど、マーケティング面でも大きな支援を提供していた。 Andreessen Horowitz Clubhouseへの初期投資家の一つで。2020年5月に1000万ドルのシード資金を出資し、2021年1月のシリーズAでも追加出資を行った。このシリーズAでは1億ドルを調達し、評価額は10億ドルと報じられている。 同ファームのジェネラルパートナーであるアンドリュー・チェン氏はブログで「Clubhouseは偶然の出会いが生む会話とユーザー生成コンテンツを見事に実現した」と評価していた。 また「ソーシャルオーディオの主要プラットフォームになる可能性がある」とも強調していた。 DST Global DST GlobalはClubhouseに1億ドルを出資し、評価額を10億ドル規模まで引き上げた。わずか数カ月前までは1億ドル程度の評価額だったため、飛躍的な上昇といえる。この投資により、Clubhouseは世界で最も価値あるソーシャルメディア系スタートアップの一つとみなされた。 DST Globalの創業者兼CEOであるユーリ・ミルナー氏は投資当時、「Clubhouseは音声を軸にした新しいタイプのSNSで、世界中の数百万人の注目を集めている」と述べ、アプリの可能性に期待感を示していた。 Tiger Global Management 2021年4月のシリーズCにおいて5,000万ドルを調達し、評価額は40億ドルにまで達したと報じられている。リード投資家はTiger Global Managementであった。 同ファームのマネージングパートナーであるスコット・シュライファー氏は「Clubhouseは音声をソーシャルに変革し、人々のコミュニケーションの在り方を変えている」とコメントしている。 実際の損益や数字は明らかになっていないが、2020年から2021年にかけての急速な人気と、その後の失速ぶりを見るだけでも、その落差は非常に大きかったといえる。CEO自身も「(アプリが)急速に伸びすぎた」と語っている。 Clubhouseの栄光と挫折から学べる5つの教訓 ではなぜここまで急激にユーザーと資金を集めたClubhouseが失速したのか?また、そこから得られる教訓を考えてみよう。 教訓1:過度なブーム(ハイプ)に注意する Clubhouseの初期成功の大きな要因は、「次なるSNSの本命」ともてはやされた過度なブームであった。有名人や業界のインフルエンサーがこぞって参加し、話題を集めた。 しかし、この盛り上がりは必ずしも持続可能ではなく、Twitter (X) やSpotifyなどが類似機能を提供し始めると、Clubhouseはユーザー数を維持できなくなった。 瞬間風速的に一気に注目を集めたからといって、必ずしも継続性があるわけではない。これまでの多くのスタートアップサービスがそうであった通り、過度なブーム=ハイプに気をつけなければならない。 教訓2:競合環境を見極める Clubhouseは、Twitter (X) の「Spaces」などの競合サービスに直面し、十分な差別化ができないまま競争にさらされた。 先行者優位があったとしても、差別化できなければ市場に埋もれてしまう可能性がある。競合の多い市場で差をつけるのは、優れたスタートアップであっても容易ではない。 特に新しいカテゴリーを開拓する場合、既存の人気サービスに後追いされる可能性が高い。そうなってくると、一時は先行優位性で引っ張れるが、後発サービスに駆逐される可能性がある。 教訓3:明確な収益化戦略を持つ Clubhouseは広告やサブスクといった収益源を持たず、収益化に苦戦した。 魅力的なプロダクトやユーザーベースがあっても、長期的に財務的に安定する方法を持たない企業は投資においてリスクが高い。 最初のうちは無料サービスでガンガンユーザーを増やすのは良いが、どこかのタイミングでプロダクトやユーザー特性に合った明確な収益モデルが重要である。 特に音声系のサービスは、SoundCloudやSpotifyが苦戦したように、マネタイズすることは容易ではなく、その辺の戦略を早い段階で立てておく必要があるだろう。 教訓4:長期的なユーザーエンゲージメントの可能性を見極める Clubhouseは急激にユーザーを増やしたが、そのユーザーを継続的に引き留めることに失敗した。 多くの人がアプリを一度ダウンロードしてみたものの、すぐに飽きて使わなくなるケースが多かったのである。そもそも、何度か使っているうちに、Clubhouse内での会話がかなり「不毛」であることに気づき、時間の無駄使いをしていると感じるユーザーも少なくなかっただろうと想像できる。 その結果、ユーザーが望む機能よりもそうでない機能が先行してしまい、ユーザーにとっての魅力を保ち続けることが難しくなった。 むしろ、現在でも引き続き使い続けている人がいるのだろうか? 教訓5:一時の社会的変化にだけ合致したサービスを避ける Clubhouseが大バズりしていた時期は、世界的に新型コロナウィルスが蔓延し、多くの人々かコロナ禍での「ステイホーム」を余儀なくされていた。 その結果、時間を持て余すものの、人との交流ができないため、何かしらのコミュニケーションツールを欲していた。それも、文字だけではなく、音声といった「血の通った」方法で。 そんな時期に、顔を出さずに気軽に音声だけで参加できて、同じトピックでさまざまな人たちと交流できるプラットフォーム、Clubhouseが出てきたもんだから、大流行り。 しかし、コロナが明け、リアルに人と会えるようになったことで、わざわざ音声ツールを使う必要がなくなった。 まとめ Clubhouseの急成長と急失速は、とりわけサービスをデザインする際、そしてスタートアップのビジネスモデルを考える際の大きな教訓になる。 どんなスタートアップにも成長と成功の可能性は確かに存在するが、競合環境、収益化戦略、長期的なユーザーエンゲージメントなどの要素を慎重に見極める必要がある。 そのためには、ユーザーニーズの掘り起こし、競合サービスの状況、そして未来予測をした上でのプロダクト作りが求められるだろう。

CES 2025 ガイド  世界最大のテックカンファレンスの基本情報と注目したい10のテクノロジートレンド

2025年もテクノロジーの最前線を知る絶好の機会として、世界中のテクノロジー企業が一堂に会する「CES(Consumer Electronics Show)」がラスベガスで開催される。 毎年、次々と発表される革新的な製品やサービスが注目を集め、未来のテクノロジーを垣間見ることができる。CES 2025では、どんな画期的な技術や製品が登場するのだろうか。 CES 2024の様子 CESの歩き方と2025年のテクノロジー予測 本記事では、CES 2025で期待されるトップ10の技術とトレンドを紹介し、どのようなイノベーションが私たちの生活を変えるのかを予測する。 要注意!会場がデカすぎる! 現場での発表や展示エリアが東京ドーム4個分と膨大すぎて何から見て良いかわからくなりがち。 CES 2025の基本情報 開催時期: 2025年1月7-10日 (Media Dayは5, 6日) 開催場所: ラスベガスコンベンションセンター、Venetian Expo. Venetian, Aria, Mandaley Bay等 出店社数: 3,500以上 (見込) 来場者数: 13万人以上 (見込) 公式サイト: https://www.ces.tech/ イベント・展示エリア CESでは、LVCCだけではなく、ストリップと呼ばれるラスベガスの中心エリアに複数のイベント・展示エリアを設置する。それらは大きく分けて3のエリアに分布し、それぞれのエリアの複数の建物の中で開催される。 時間節約のコツ3選 これだけ膨大なエリアを回らなければならないので、時間がいくらあっても足りない。なので本題に入る前に時間を節約するためのコツ3つほど紹介する。 1. スケジュール管理は公式アプリで まずはどこに行ってどの展示やセッションを見るかを事前に決めておくのが良い。というのも、現地に到着してからだとあまりにもバタバタしすぎてて、それどころでは無いから。 ここで問題になるのが、同じ時間に複数のセッション・展示が同時に行われていおり、それも前後の予定の場所とかなり離れている可能性もあるということ。 一つずつのセッションをWebで確認して、カレンダーに入れていくのは気が遠くなるレベルの作業になる。 ここで便利なのが、公式アプリ CES App。こちらをダウンロードしてログインすれば、日時に合わせたスケジュールが表示され、”Add to Agenda” をタップしておくだけで、 事前に、そして自動的にスケジュールが生成される。 2. 入場バッジのピックアップは空港で イベント会場に到着してまず最初の難関は入場バッジの引き換えプロセスだろう。事前にメールやアプリ経由で受け取ったQRコードを紙の入場バッジに変えるのだが、かなりの列になっていることが多い。 そこで便利になるのが、空港に設置された引換所だ。 飛行機を降りて荷物を受け取るエリアの駐車用に近い側、エスカレーター横に設置されており、フライトごとに到着時間が異なるので、大きな混雑になることが少ない。 また、開催日の前日や、結構夜遅くまで開いているので、かなり便利で時間の短縮につながる。 3. LVCCの建物間移動は無料のTeslaタクシー (Vegas LOOP) で イベントの会場が複数の建物に点在しているため、建物間の移動だけでもかなりの時間を要する。また、タクシーやUberなどのライドシェアを捕まえようとも、なかなか時間がかかってしまう。 加えて、交通渋滞も予想されるので、予定していたセッションに間に合わないケースが多発する。 それを解決してくれるのが、通称 Teslaタクシーと呼ばれるVegas LOOPだ。これは3つあるLVCC間をトンネルを通じてつないだルートをスムーズに移動してくれる便利な乗り物。それも完全無料!事前予約も要らないし、待ち時間もほぼ無い、かなり画期的な移動手段である。 では、CESの基本をカバーしたところで、本題の見どころをいくつか紹介する。 CES 2025で注目したいテクノロジートレンド CESで、テクノロジーのさまざまな分野を議論する幅広いセッション複数ある。 ざっと考えても、デジタルヘルス、AI、サステナビリティ、ゲーム、自動車テクノロジー、サイバーセキュリティ、フィンテック、さらには宇宙テクノロジーなどが含まれる。 そんな中でも、今回特に注目したいセッションはこちら。 CES 2025の注目セッションの一部をご紹介: AI搭載デバイスとソフトウェア 革新的な複合現実(MR)体験 ウェアラブル技術の突破口 携帯型ゲーム機 スマートホームの革新 ヘルステクノロジーの進展 持続可能な技術とグリーンソリューション 次世代電気自動車(EV) 量子コンピュータの進展 ロボティクスと自律システム 1. AI搭載デバイスとソフトウェア 人工知能(AI)は消費者向け電子機器にますます統合されており、CES 2025では個人アシスタントからゲーム用ハードウェアに至るまで、さまざまな分野でAIの可能性が示されるだろう。 注目すべきポイントは、効率性を高め、ユーザー体験を向上させるために特別に設計されたチップを搭載したAI搭載ノートパソコンである。 例えば、AIは使用パターンに基づいてバッテリー寿命を最適化したり、写真やビデオ編集をAI支援で改善することが考えられる。 具体例: 起死回生を狙うIntelの「プロジェクトアテナ」は、バッテリー管理をAIで強化し、システムの反応性を改善することで、ユーザーの使用状況に基づいた電力管理を予測する Microsoftの「Surface」シリーズは、AIを活用してタッチ操作を予測し、パフォーマンスを向上させるデバイスを登場させる AIを搭載したスマートフォンのカメラは、ユーザーの好みに合わせて自動で色合いや明るさを調整し、より鮮明な写真を撮影できるように進化している 2. 革新的な複合現実(MR)体験 複合現実(MR)はCES 2025で大きな進展が期待されており、Microsoft、SONY、Metaなどの企業がリーダーとして登場する 次世代のヘッドセットが発表され、より快適で軽量なデザイン、解像度の向上、視野角の拡大、さらにAI技術を駆使したインタラクションが可能になる また、ビジネスでのリモートコラボレーションやエンターテイメントで新しいMRアプリケーションが登場する 具体例: Metaは、ARアプリとの統合が強化されたQuest Proの後継機を発表し、エンターテイメントやビジネス向けの新しいプラットフォームを提供する Microsoftは、HoloLensの新しいバージョンを発表し、製造業や医療業界向けにMR技術を活用したソリューションを提供する SONYは、PSVR 2の後継機を発表し、VRゲームの体験を一層リアルに進化させる 3. ウェアラブル技術の突破口 CES 2025では、ウェアラブル技術の進化が大きな注目を集めるだろう。 […]

【2024年総まとめ】今年実施されたグローバル企業12社のリブランディング事例とその理由

2024年もそろそろ終わりに近づいている。 今年も多くのブランドが、ロゴのリデザインやリファイン、そして大幅なリブランディングを行った。 その中でロゴのリデザインや、リブランディングを行なった12のブランドを紹介する。 その前に、ブランドやブランディング、そしてロゴの役割などをざっとおさらいしてみよう。 ブランドにおけるロゴの真の役割とは? リブランディングや、ロゴの進化の真のインパクトは、会社の進化と新しいサービスの価値が消費者に受け入れられるかどうかで決まってくる。それがうまくいけば、誰も新しいロゴに文句を言う人はいないだろう。 一方で、期待値に応えられない場合は、新しいロゴと一緒にブランド価値が大きく下がる可能性もある。 現状における新しいロゴは、それ自体のクオリティーや価値に関係なく、新しい時代の明確なシンボルでもある。 それは、最近のネガティブな情勢に対して、より軽く、楽しく、明るい未来を連想させる、ブランドの意思表示としても読み取れる。 優れたロゴを構成する5つの要素 2024年にリブランディングを行った12のブランド それでは本題の今年リブランディングを行ったブランドを紹介する。 1. Figma ここ数年で急激にユーザーを増やしているデザインツールの FIgma。一時はAdobeに買収されることが決まっていたが、独占禁止法に抵触する可能性があり、破談に。 その後、ノンデザイナーにも使ってもらえるツールになることで、より大きな成長に向けて、リブランディングを行なった。ロゴだけではなく、キービジュアルも併せて刷新した。 2. 7Up Keurig Dr Pepper社傘下の7UPの今回のリブランディングは、かなり大規模なイメージチェンジを行なった。おそらく、ここ数年で最も優れたリブランディングの一つだろう。 今回のリブランディングのテーマは、「アップリフティング」な印象を与えること、そしてより現代的なアプローチを取り入れること。明るいグリーンの色調と、レトロスタイルのネオンの雰囲気に加え、数字の7を際立たせるクールな3D効果によって実現されている。 このリブランディングは、見た目が素晴らしいだけでなく、アイコニックな製品に新たな光を当て、特に若い世代のオーディエンスを引きつけることに成功している。 3. Pepsi 7UPのリブランディングに続き、アイデンティティを変更。このリブランディングには、新しいリブランディングは、ペプシの125周年記念のお祝いの一環として導入され、15年ぶりのリブランディングとなった。 新しいペプシのロゴは、過去のクラシカルなロゴからインスパイアされ、より鮮やかな色とスタイライズされたタイポグラフィを使用し、大文字のフォントで構成され、クールで大胆な印象を与えている。 4. Nokia Nokiaは45年ぶりのブランド刷新を行なった。これまでの太字のインパクトのあるものから、よりデジタルっぽい印象のあるデザインに変更。このリブランディングは、Nokiaの戦略的なシフトを反映しており、消費者向けモバイルフォンからビジネステクノロジーソリューションへの焦点移行を示している。 しかし、このデザイン選択は賛否両論を呼んでいて、エッジの効いた角張ったスタイルは、耐久性と信頼性の高いモバイルデバイスを製造していることで知られる企業よりも、AIを専門とするテックスタートアップにふさわしいと評価する人もいる。 5.Eurostar ヨーロッパの鉄道会社、ユーロスターは、2022年にもう一つの人気鉄道会社タリスと合併したことにより、リブランディングを行なった。 リブランディングされたロゴデザインとブランドビジュアルは、この2つの会社をひとつにまとめるとともに、2030年までに年間の乗客数を3000万人に倍増させるという新しいビジョンを体現している。 このリブランディングを手掛けたデザインスタジオによると、この新しいロゴのコンセプトは「ユーロスターに星を取り戻させる」 6. Bumble 米国発のマッチングアプリ、Bumbleは、パンデミック後の大規模なブランド刷新の一環として、もロゴのリデザインを行なった。 「私たちが変わったので、あなたは変わる必要はない」というタグラインのもと、新しいロゴとブランドアイデンティティを刷新。 ぱっと見は大幅な変更は行われていないが、小文字だった「b」を大文字にすることにより、ブランドの成長を表現。また、アイコン部分も六角形を取り除き、よりソフトな印象を与えている。 7. Johnson & Johnson 消費財ブランドのJohnson & Johnsonも大幅なリブランディングを行なった。これまで130年以上も使用されてきたアイコニックなロゴを刷新した。 新しいロゴは、アイコニックなスクリプト体のデザインではなく、最近流行りのシンプルなサンセリフ体のフォントを採用。その結果、ロゴはあまりにも一般的で単純に見えるようになってしまったと言わざるを得ない。 8. Lamborghini ランボルギーニは20年ぶりにブランドのロゴを一新した。これまでの伝説的なエンブレムを踏襲しつつ、デジタル時代に合わせたよりダイナミックでモダンなデザインに変更。このリブランディングは、ランボルギーニがデジタル時代に向けて進化するための広範なブランドの再活性化の一環として位置づけられている。 しかし、このデザイン変更は賛否両論を呼んでおり、伝統的なロゴの魅力を守りつつも、よりデジタルフレンドリーで現代的な印象を与えることが、古いロゴのファンには物足りないと感じる人もいるようだ。 9. LG 韓国の消費者向けテクノロジーブランドであるLGは、ブランドに大きな変更を加えた。最も大きな変更は、3Dロゴから2Dのフラットなロゴデザインへの移行。 この新しいロゴは、現代的なデザインコンセプトとよく調和しており、ブランドにとって必要不可欠な変更だった。ロゴの刷新に加えて、リブランディングは「Life’s Good」というスローガンをマーケティングキャンペーンの前面に出し、ミレニアル世代やZ世代の消費者をターゲットにした。 10. Fanta Fantaも定期的にリブランディングを行なっている。コカ・コーラ傘下のFantaは、そのロゴからオレンジの形状や色を完全に排除し、テキストのみを使った単色のレトロスタイルに変更。 この新しいデザインは、7UPの新しいデザインに使われた多くの要素と共通している。しかし、少し凡庸な感じのデザインでもあり、2008年のカラフルなロゴが持っていた楽しく遊び心のある印象をうまく再現することはできていない。 11. Jaguar 高級自動車ブランド、ジャガーのリブランディング。モダンなサンセリフフォントとホログラムを採用。まるでアパレルやコスメブラドのようなエレガントさと洗練。若さすら感じる柔らかいデザイン。 このリブランディングが発表されるや否や、デザイン業界を中心に膨大な量の批判意見が広がり、ネットを賑わせている。逆にそれが良いプロモーションになったと語る人もいる。実際の消費者調査でも、ジャガーに対するポジティブな印象が23.1%から15.3%へ減少し、ネガティブが21%から40.5%に急増している。 ロゴやビジュアルのアップデートに合わせ、こちらの “Copy nothing”とのタイトルのコンセプト動画もリリースされた。全体に広がるおしゃれダイバーシティー&インクルージョン感が今となっては少し古臭く感じる。何よりも、ジャガーが何を売っている会社なのかすらわからない状態になってしまっているのが大きな問題だろう。 12. btrax そして最後は我々 btraxのリブランディング。 2020年に会社の会社のビジョン、カルチャーバリュー、そしてサービスの内容をアップデートした際に、大規模なリブランディングを行った。 ビートラックスがリブランディングにかけた思い – ギャップを埋めるために – それから4年たち、パンデミックの終了、AIなどのテクノロジーの進化、そして世界を取り巻く社会的な変化を踏まえ、提供サービスの刷新に併せ、ブランドのマイナーアップデートを行った。 今回のアップデートでは主に、利用するタイプフェイス、カラーパレット、そしてキービジュアル要素の更新を行い、アメリカ西海岸のデザイン会社らしい、よりイキイキとした雰囲気を採用。 また、Webサイトはこれまで日本語ページと英語ページで異なるデザインを採用していたが、より共通したサービスを提供することになり、基本デザインの統一化も行った。 今後も、日本国内外の企業のイノベーションとグローバル展開のために、より一層のサポートができればと思っている。 btraxの新しいウェブサイト リブランディングを行う主な理由 さて、そもそもなぜリブランディングをする必要があるのだろうか? 主に下記の理由が挙げられるだろう。 デジタルデバイス普及などの時代の変化 ブランドやサービス価値の変化 ターゲットユーザーの変化 世の中のトレンドの変化 会社のフェーズの変化 主要プロダクトの変化 予算が余ったから

ラウンドワンの米国展開成功から考えるアメリカでウケる「マイルドヤンキー」型ビジネスモデル

どんなビジネスがアメリカでウケそうでしょうか? 日本企業の方々と話をする中で、最も多く聞かれる質問がこれだ。 多くの起業家たちがシリコンバレーに来るが、その多くはテクノロジー系のスタートアップ企業を立ち上げる。しかし、これまでアメリカで「大成功」を収めた日本人スタートアップ起業家は、ほとんどいないのが現状だ。 ラーメンが大ブーム 一方で、ここ数年、アメリカではラーメンが大ブームとなり、一杯20ドルもするラーメンに多くのアメリカ人が列をなしている。寿司も依然として人気で、回転寿司などの新しい形態の店舗が増加中だ。 さらに、丸亀製麺に代表されるうどんなど、他の日本料理も着実に知名度を上げている。 アメリカの丸亀製麺から考える日本でDXが進まない本当の理由 自動車、家電、寿司、ラーメンの次にアメリカで流行るのは? そんな中、現在アメリカで大ヒットしているMade-in-Japanの商材がある。それは自動車でも寿司でもラーメンでもなく、総合アミューズメント施設だ。日本語で言うところの「ゲーセン」とボウリング、カラオケなどを一体化した施設で展開しているラウンドワンがその代表だ。 公式サイトによると、ラウンドワンの米国市場における営業利益は100億円規模に成長しているという。 日本のアイテムがゲットできるクレーンゲームが人気 中でも特に人気が高まっているのが、クレーンゲーム、通称UFOキャッチャーだ。景品として手に入るのは日本のアニメグッズやキャラクター系のぬいぐるみで、アニメ人気の上昇に伴い、その需要も急増している。 全米に50店舗以上。破竹の勢いで展開 ラウンドワンは、2010年にロサンゼルス郊外のプエンテヒルズ・モールに初の海外店舗をオープンして以来、10年余りで全米50店舗以上を展開している。都市部に限らず、郊外や内陸部の人口密度が低い地域にも進出している点が特徴だ。 郊外のモールに出現した総合アミューズメント施設 上記の写真を見ても分かる通り、ラウンドワンは日本からアメリカ市場に展開した企業としては珍しく、日系やアジア系が多く住む都心部だけではなく、その多くが郊外のモールや、内陸地域のかなり人口密度の低い州や街に出店している。 また、カリフォルニアやニューヨーク、シカゴといった地域でも、店舗自体は都心部から離れた郊外のモール内に位置することが多い。 ラウンドワン・サンフランシスコ店を訪れてみた 2024年11月下旬、サンフランシスコ店が新たにオープンしたとのことで実際に訪問してみた。店舗は市内郊外に位置する「ストーンズタウン・ショッピングモール」の地下にあり、アクセスは裏手の駐車場から直結という、自動車社会のアメリカらしい作りになっている。 店内は広大なアーケードエリアが中心で、ボウリングやフードコートも併設されている。 アーケードは全てプリペイドカード式 中に入ると、真っ先に目に入るのがアーケードエリア。そしてその真ん中にカード購入マシーンが置いてある。そう、アーケードで遊ぶには現金やクレジットカードではなく、プリペイド式のカードを購入する必要がある。 このカードを各機種にスライドすることでプレイが開始する。必要なクレジット数は機種によって異なり、例えばクレーンゲームは小さいもので9クレジット、大きなものでは14クレジット必要だった。 店舗によって異なる提供サービス ラウンドワンの米国店舗では、地域や店舗サイズによって提供されるサービスが異なる。例えば、ポートランド店では、アーケードやボウリングに加え、ビリヤードやカラオケなども楽しめる。 US公式サイトによると、以下のようなエリアが提供されている店舗もある。 アーケードゲーム ボウリング カラオケ ダーツ ビリヤード 卓球 スポッチャ キッズプレイゾーン 食事とドリンク 全米でラウンドワンがバカウケしている10の理由 では、なぜここまでアメリカでラウンドワンがヒットしているのか。 実際に行ってみた感想と、現在のアメリカが抱える社会的状況、ライフスタイルの変化、地理的なファクター、そしてあまり知られていない若者たちに広がる”とある闇” など、その理由を考察してみよう。 1. 田舎すぎて遊ぶところがない メディア等でアメリカの様子が取り上げられる際、その多くはニューヨークやLAといった都心のエリアである。その一方で、国土の90%以上が非都心部であるアメリカは、実は巨大な田舎なのだ。 世界のテクノロジーの中心のように語られるシリコンバレーですら、実際に来てみると、その「何もなさ」に驚愕する人が続出する。 そんな感じだから、若者にとっては超退屈なエリアがほとんどで、遊び場が極端に少ない。頑張っても映画館やボーリング、下手するとショッピングモールやウォールマートが限界だ。もちろん、パチンコも違法なので存在していない。 そんな状況に、ワンストップで遊べる複合アミューズメント施設が出来た。それも深夜まで営業している。多くの若者がこぞって集まってくるのが理解できる。 2. デートする場所が無い 遊ぶ場所が少ないということは、デートをする場所にも困るということだ。 特に21歳未満はお酒が飲めないだけではなく、バーやクラブに入ることすら許されない。その一方で、自動車の免許は16歳から取れるので、少々の距離があっても等ですることは可能。 日本ではあまりおしゃれと思われないようなアーケードやボーリングは、アメリカの若者にとっては貴重なデートスポットになる。 3. ダウンタウン地域の治安悪化と郊外の発展 日本でも頻繁にニュースに取り上げられているが、パンデミック以降、都心部の治安が悪化したことで、多くの店舗が閉店に追い込まれている。 その一方で、郊外の地域は以前よりも発展してきており、ダウンタウンのゴースト化とショッピングモールの隆盛のコントラストが強くなってきている。 4. 外食が高すぎる 昨今のインフレで様々なものが高騰しているが、アメリカでは特に外食にかかるコストが爆あがりしている。食べ物の値段が上がっているだけではなく、それに連動したウェイターやウェイトレスに払うチップ額も割高で加算される上に、その率もかつての15%ぐらいから、18-20%にするのが一般的になりつつある。 その点、ラウンドワンのフォードエリアは全てカウンターオーダーなのでチップはかからない。予算に限りのある若者にとっても、これは嬉しい。 5. インバウンド客が戻っても日本のB級グルメが気軽に楽しめる ラウンドワンのフードエリアではピザやハンバーガー、フライドチキンなどの格安のファストフードに加え、たこ焼きや餃子、ラーメンといった日本のB食うグルメも提供される。 インバウンド需要で盛り上がる日本だが、一度日本に行き、その食文化の素晴らしさを知ったアメリカ人たちにとっては、また日本の食事が楽しめるのはとても嬉しい。それも、アメリカ基準ではかなりお手頃な価格で。 6. リモートワーク普及による田舎への移住 都心部の衰退の背景の一つがリモートワークの普及であることは間違いない。そして、アメリカは都会と田舎の家賃や不動産価格が極端に異なるため、ここ数年で都会から郊外や田舎に引っ越す人が増えている。 例えば、2023年一年だけで9万人以上がカリフォルニア州を去っているが、テキサス州は40万人も人口を増やしている。郊外はもちろんファミリー層も多く、家族で行ける場所としてもラウンドワンが重宝している。 7. 空きテナントの多い郊外のモール ここ数年のリモートワークに伴ったオンラインショッピングの発展で、多くのショッピングモールに空き店舗が増えている。 そこを狙ったラウンドワンは、経営難に陥っているショッピングモール内の空きスペースを活用して出店している。これにより、モール全体の集客力を高める効果があり、モール側からの出店オファーも増加している。 8. 日本のアニメ&レトロゲームブーム アメリカのラウンドワンに行って驚くのが、アーケードエリアに設置されているゲームの「古さ」。日本では十数年ぐらい前に流行ったような機種がいまだに喜ばれている。 実際、いまだにガンダムのような古いアニメや、ストリートファイター2のようなレトロゲームがいまだに人気で、日本で飽きられたコンテンツであっても、アメリカに持って来ればまだまだ稼ぐことのできる可能性がある。 9. 日本のキャラクター人気の上昇 以前よりアジア系を中心に日本のアニメ人気の上昇にあわせ、関連キャラクターアイテムやフィギュアも人気になってきている。 ラウンドワンで人気の高いクレーンゲーム系の景品がそれらのキャラクターアイテムになっており、他では手に入りにくいアイテムをゲットできる。 10. 若者のお酒離れと教会離れ。そしてドラッグ問題 「最近の若者は酒を飲まない。」これは日本でも聞かれるトレンドであるが、アメリカでも若者のお酒離れが進んでいる。実際、ここ数年における米国市場でのノンアルコール系飲料の売り上げが毎年上昇している。 また、アメリカの地方都市の定番であった「教会に集まる」習慣も、多様化が進んだことで、一般的ではなくなってきた。言い換えると、よりコミュニティ形成の難易度が上がる。それとともに、周りの目の届かないホームパーティーやクラブなどの場所で違法ドラッグを利用する可能性も高まってきている。 そんな中、より安全が担保されているラウンドワンは、明るく清潔な店舗環境で、安心して “健全に” 遊べる場所でもあるのだ。 ラウンドワンデリシャス – アメリカ市場に全振り 今回の記事作成にあたり、日本のラウンドワン公式サイトを訪れてみると、トップページに「実質年収1,500万円」というバナーが目を引いた。 海外に活動の場を移したことで、収入が大幅にアップした日本人料理人のニュースを目にしたことがあるが、ラウンドワンもその流れに乗り、今後アメリカに出店予定の本格和食店舗で働く人材を募集しているようだ。しかも、英語力は問わないという。 さらに、2025年には「ラウンドワンデリシャス」と呼ばれる和食店を集めたエリアのオープンを計画中とのこと。エンターテインメント施設に和食文化を融合させる新たな挑戦だ。アミューズメントに加え、クオリティの高い和食を提供することで、ラウンドワンは今後もアメリカ市場への注力を一層強めていくようだ。 まとめ: 下手なテック系よりもマイルドヤンキー向けビジネス 日本で熟成、もしくは廃れ始めた内容のビジネスであっても、アメリカでは希少価値があり、日本の2-3倍の値段で売っても安く思ってくれるケースもある。 言い換えると、日本でこれまでやってきて、レッドオーシャンになったタイプのビジネスでも、そのやり方をそのままアメリカに持ってきただけで、美味しい商売になる可能性がある。 アメリカはデジタル系やテクノロジーは発達しているが、都市環境は整っておらず、日本のど田舎よりもかなり閑散としている。 アメリカの若者の多くが郊外や地方土地に住み、自動車を所有。可処分所得と娯楽施設が限られている。日本でいうところのいわゆる “マイルドヤンキー” 型ライフスタイルを送っている。そこに日本で熟成した「マイルドヤンキー型ビジネス」が郊外ライフスタイルと合致し、大ヒットを生み出した。 ラウンドワンの米国展開は、名付けて「ヤンキー文化の逆輸入」なのだ。 でもバカにしてはいけない。下手なキラキラ系スタートアップ起業家なんかよりも、よっぽど米国ユーザーの心を掴み、大金を稼ぎ、大成功するポテンシャルを秘めているのだから。

【Luupの台頭で再燃】なぜeスクーターはここまで批判されるのか?

最近日本では電動キックスクーター、別名eスクーターの話題が絶えない。特にスタートアップのLuupによる資金調達など、新たな電動マイクロモビリティとしてその勢いはどんどん増している感じがする。 後を経たない反対派の意見 その一方で、SNS上では「危なすぎる」「廃止すべきだ」「海外では禁止している街が多い」などの意見も散見され、かなり炎上気味な状態。 そんな中で、東京に加え、世界の他の街のeスクーターを取り巻く状況も踏まえ、個人的な考察をしてみたいと思う。 乗り物としてのeスクーターの危険性 そもそもなぜこんなにも反対論が多いのだろうか? それはおそらく、その車輪の小ささと重心の高さだろう。こちらのスクーターレースの動画を見てもわかるとおおり、細かなコーナーでは転倒する人が多発しており、その操作には一定の技術が必要とされる。 反対派の中には、この不安定さを指摘する人も少なくない。 eスクーターレースの様子 pic.twitter.com/OotayXHDUT — Brandon K. Hill | CEO of btrax 🇺🇸x🇯🇵/2 (@BrandonKHill) March 12, 2024 東京でもeスクーターを日常で見かけることの多くなった その一方で、ここ一年ほどで東京都内でeスクーターに乗る人たちを見ることが多くなったように感じる。 また、駅前や商業施設などにLuupのステーション設置を目にすることも少なくない。 サンフランシスコでの事情 では、世界の他の街ではどうなっているのであろうか。 まずはbtraxの本社のあるサンフランシスコでは、市民の日常の足としてかなり重宝している。市内のいたる所にBirdやLimeなど、複数のシェアリングeスクーターが置かれ、アプリ経由で気軽に利用することが可能。 ちなみに、btraxのオフィスにも二台ほどeスクーターが常備されており、スタッフがいつでも利用できるようになっている。 バルセロナでの事情 先日訪問したバルセロナではどうだろうか? こちらでも、多くの人たちが徒歩や自転車、メトロに合わせ、eスクーターでの移動を行なっていた。 ニューヨーク、パリ、マドリッド、メルボルンでは禁止 サンフランシスコやバルセロナで普及する一方で、eスクーターを禁止する都市も少なくない。 例えば、ニューヨーク市やパリ、マドリッドやメルボルンでは、その危険性からeスクーターの利用を禁止している。 なぜここまで都市によって事情が異なるのか? Eスクーターが日常的に普及している都市と、完全に禁止する都市。 なぜここまでの差が出ているのだろうか?それは、それぞれの都市の構造によるところが大きい。例えば、サンフランシスコの市街地の道は、車道と歩道に加え、”Bike lane” と呼ばれるかなり広めの自転車専用レーンがあり、eスクーターもそこを走ることが可能。 それにより、車道を走りながらも、安心して自動車との “共存” が可能なのだ。 バルセロナ市街地には自動車が侵入禁止の道が多くあたり、時間によりバリケードが設置され、自動車が入れないようにしている。これにより、安全にeスクーターが利用可能になる。 歩道で乗るのは結構危険 ちなみに、車道でeスクーターを乗るのは少し怖い感じがするが、歩道を走るのは、歩行者を危険にさらす可能性が高く、禁止されているので、絶対にやめた方が良い。 こちらの動画のように、出会い頭でぶつかり、歩行者へ多大なる被害を与えてしまうことになる。 日本でも電動キックスクーターが随分と普及してると思うけど、ぜひお気をつけください。先日、ロスアンゼルスで歩道を走るキックスクーターが道を横切る男性に衝突。事を荒げたくないと思った男性は病院に行かなかった。しかし、頭部に受けたダメージが原因でその後に亡くなっている。 pic.twitter.com/EjDGcQ0r3C — Brandon K. Hill | CEO of btrax 🇺🇸x🇯🇵/2 (@BrandonKHill) September 24, 2024 保守派 vs イノベーターの二元論ではない こんな感じで、それぞれの都市によってeスクーターへの法規対応が大きく異なる。 そんな中、日本国内ではLuupに代表される、シェアリングスクーターに対しての強い批判をする保守派と、新しいモビリティへの期待が高まる確信派との間での激しいぶつかり合いが定期的に見られる。 しかし、それはeスクーターという乗り物自体だけにフォーカスを当てているうちは、かなり的外れな気もする。 そんなビジネスの正しさとかの話じゃなくて、単純に「Luupあぶねーだろ」って言ってんの。 pic.twitter.com/wGj1OfQDfw — まことぴ (@makotopic) October 22, 2024 結論: eスクーターが安全に普及するには都市インフラが不可欠 Eスクーターが危ない乗り物なのか、東京をはじめとする日本の都市で普及させるべきかどうかに関しては、都市のインフラと併せて考える必要があるだろう。 例えば、上記で紹介したサンフランシスコの場合、自転車専用レーンのおかげでかなり安全に感じる。 その一方で、パリのような道が狭く、歩道と車道の距離が近いような都市においては、危なかっかしすぎて乗る気にもならない。 今後、東京でeスクーターを安全に普及させるには、まずは都市のインフラの整備から行う必要があるように思われる。

ロゴデザインの費用: いくらが相場なのか?高い事例と安い事例紹介

「ロゴのデザイン費用っていくらぐらいなのですか?」と聞かれることが多い。 これに関しては、本当にピンキリで、同じ「ロゴ」だとしても、複数の条件の違いによって、500円の時もあれば、5000万円の時もある。言い換えると、「相場」と言うものが存在しない、かなり不思議な世界である。 なので、どのような要素がデザイン費用に影響を与えるのかの詳細と、実際にあった高額な事例と低価格な事例を紹介する。 ロゴデザインの費用に影響を与える10つの要素 では、具体的にどのような要因がロゴをデザインする際の費用に影響を与えるのだろうか。下記の10の要素が最もインパクトが大きいと思われる。 1. 仕事の範囲 依頼内容がロゴデザインだけなのか、それとも企業アイデンティティに対しての全体的なブランディングを行うのか。また、その際に各種ガイドライン作成や、今後の運営まで含むのかによって費用は異なる。 たとえば、ロゴ単体のデザインと、それを補完するデザインシステムの作成では、かかる時間もコストも大きく違ってくるし、デザインしたロゴを活用した各種バリエーションビジュアルをデザインするかどうも費用感に大きく影響する。 今さら聞けないデザインシステム入門 2. コミュニケーション量 実は、デザイン系プロジェクトのその多くは、デザイン作業そのものよりも、クライアントとのコミュニケーションに多くの時間が割かれることが多い。 黙って自由にデザインさせてくれるのであれば、短期間で良いものが生み出せるはずなのに、複数回にわたるミーティングやプレゼンテーション、そして承認を得るための補足資料の作成等を行なっているうちに、プロジェクトに費やす時間がどんどんと増えていく。 したがって、頻繁なやり取りや多くのフィードバックを求められるプロジェクトでは、費用が高くなる傾向ある。 btraxのデザイナーが考えるクライアントコミュニケーションの5つのコツ 3. リサーチ量 無邪気にロゴをデザインするだけなのと、競合調査や市場分析、既存の類似ロゴのチェックなどのリサーチを事前に行うかどうかによっても、費用が大きく異なる。 専門デザインエージェンシーであれば、一般的にその辺のプロセスはしっかりと行うが、駆け出しのフリーランサーとかになってくると、省略してしまいがち。 しかし、Airbnbのように、後々類似するロゴが見つかって、大きな問題になり、余計にコストがかかるようなケースも少なくない。 ロゴのリデザイン ー Gapの失敗 Airbnbの成功の背景にある理由とは 4. バリエーション数とラウンド数 それぞれのステップで提案するデザインのバリエーション数や、修正を行うラウンドの数も費用に大きく影響する。 一般的に、バリエーションが多く、修正回数が増えるほど、プロジェクトのコストも増加しがち。 また、場合によってはいつまでも決まらずに、無限ループ状態に陥ることもあり、そうなってくると、本当はチャージしたいのにできない最悪のケースになることもある。 Uberの失敗 非デザイナー社長がリブランディングに関わるとどうなるのか 5. 利用用途 デザインしたロゴが、その後どのような場所で利用されていくのかも、ロゴデザインの仕事内容に大きな影響を与える。 デジタルのみで使用されるのか、印刷物やビルボード、さらにはアニメーションとしても利用されるのかによって、デザインの要件が変わり、費用も変動する。 また、現代では、利用されるシーンに合わせて、それぞれに最適なロゴバリエーションをデザインする、レスポンシブロゴの必要性も高まっており、それの有無によってもコストが大幅に異なってくる。 例えば、印刷物、デジタルメディア、看板、広告、大型ビルボード、商品パッケージなど、あらゆる場面で一貫性を持って機能するデザインが求められる。 ロゴもレスポンシブロゴの時代へ 6. 権利条件 ロゴの著作権を誰が保持するか、またそのロゴから他のデザイン要素が派生した場合の費用が発生するかなど、権利に関する取り決めも費用に大きく影響する。 特に、デザインをした際の元ファイルをクライアントに全て譲渡するのか、それとも最終アウトプットの利用権利だけを与えるのかによっても、同じ作業量の仕事であっても、その価値と費用が大きく異なる。 例えば、サンフランシスコの工業デザイン会社のAmmunitionがBeatsのヘッドフォンをデザインした際の条件は、デザイン費用プラス、一台売れるたびにロイヤリティーが入る仕組みになっていた。 デザイン案件に必要な契約書はこの1ページだけ 7. 永続性 デザインするロゴが、一時的なキャンペーン用なのか、それとも長期間にわたって使用されるのかも、デザインのアプローチやコストに影響を与える。 例えば、季節限定の商品やイベント、プロモーションのために一時的に使用されるロゴは、その目的が達成された後に役割を終えるため、将来的な汎用性を考慮する必要が少なく、比較的短期間でデザインプロセスが完了することが可能性が高い。 一方で、ロゴが長期間にわたり使用される予定であれば、そのデザインには時間とリソースがより多く費やされる傾向がある。 企業の象徴として長期的に使用されるロゴは、時代を超えて適応し続ける必要があり、普遍的でありながらも、ブランドの進化をサポートできるデザインが求められるのが理由。 最近のロゴがどんどん黒くなっていく「ブラック化現象」について 7. クライアントの規模 クライアントの規模が大きいほど、関与する組織レイヤーが増え、プロセスが複雑化し、結果としてコストが高くなることが一般的。 それにより、ロゴデザインにおけるフィードバックの回数が増えたり、複数の部署やステークホルダーからの承認が必要になる傾向が見られる。 例えば、グローバル企業や大手ブランドの場合、ロゴデザインの変更は企業全体に及ぶ影響を持つ。そのため、マーケティング部門、経営層、法務部門、さらには地域ごとのブランドマネージャーなど、さまざまな関係者がプロジェクトに関与することになる。 それぞれの関係者が異なる視点や要望を持っているため、それをすべて取り入れつつ、統一感のあるデザインを作り上げることが求められる。 さらに、ブランドガイドラインや法的要件が厳格に設定されていることが多く、それに準拠するための追加的な作業が発生することもある。 これらの要件に対応するためには、デザイナーが専門的な知識を持っている必要があり、その分、プロジェクト全体の複雑さとコストが増大する要因となる。 逆に、小規模なクライアントの場合、意思決定のプロセスがシンプルで、関与する人々の数も少ないため、迅速にデザインプロセスを進められることも少なくない。 大企業で優れた新規事業が「空中分解」するワケ 社内組織の限界を超える事業切り出し戦略 8. 誰がデザインしたのか デザインを誰が担当するかも費用に大きな影響を与えます。たとえば、Nikeのロゴは学生、Twitterは友人、そしてCoka-Colaは社員によってデザインされたため、費用は無料かわずかだった。 逆に、著名なデザイナーが手掛けたロゴでは、そのデザイン自体にプレミア価格がつくことがある。 学生や新進のデザイナーが腕試しとして低価格でデザインを提供することもあるが、著名なデザイナーが手掛けるロゴデザインは、それ自体がブランドにとっての資産となる。 そのため、こうしたプロジェクトには、クライアントが長期的な投資として高額な費用を支払うことが一般的。特にグローバルに展開する企業にとって、ロゴのデザインは単なる視覚的な要素ではなく、ブランド戦略の中核をなす重要な要素となるため、その価値は計り知れない。 “タダでやってくれませんか?” 問題への正しい対応方法 9. ロゴがビジネスに与えるインパクト そのロゴをデザインしたことでクライアントが享受するビジネス的メリットの差によってもコスト感は大きく異なる。 例えば、ロゴが新しくなることで、売り上げが10%アップする場合、年商100億円の企業には、10億円以上の価値があるが、年商100万円の場合、10万円程度しかないと思われる可能性がある。 売り上げが多い企業や、グローバル企業のデザイン案件の予算が総じて大きいのはこれが理由。同じデザインの仕事だったとしても、クライアントが得るポジティブインパクトが多い方が、多くの費用が費やされる。 最も効果的なデザイン案件の見積りの出し方 10. クライアントとの関係性 そして、もしかしたら最も影響があるのかな?と思われるのが、これまでのクライアントとの関係性。 相手がノリの通じる企業のトップなのか、頭の硬い中間層なのかで、ロゴデザインのプロジェクトに費やされる時間と労力に雲泥の差が出る。 したがって、「ロゴのデザイン費用はいくらですか?」と聞かれると、逆に答えにくい。むしろ、こちらから「私をどれだけ信頼していますか?」と聞いてから見積もりを出したい気分。 クライアントには絶対に聞かせられないデザイナーの本音 高額なロゴデザインの事例 では、実際にこれまでデザインされたロゴの中で、予算の大きかったものをいくつか紹介する。 ペプシ: 100万ドル ペプシのロゴリデザインは、2008年に行われ、その費用100万ドル。このリデザインには、ロゴそのものだけでなく、ブランド全体のビジュアルアイデンティティの刷新が含まれていた。 アクセンチュア: 1億ドル アクセンチュアのロゴは、2000年に会社がリブランディングを行った際にデザインされた。このプロジェクトには1億ドルが投じられ、その結果、アクセンチュアの「>」のシンボルが誕生した。 BP: 2億ドル BP(British Petroleum)のロゴリデザインはアクセンチュアの倍の予算、2億ドルが充てられた。2000年に導入されたこの新しいロゴは、環境に優しいイメージを強調するために「ヘリオス」を象徴するデザインを採用。ロゴの変更と共に、全社的なリブランディングが行われ、その費用が巨額になった要因。 シマンテック: 10億ドル 最も高額なロゴのデザイン費用の一つがシマンテック。その金額はなんと10億ドル!企業全体のリブランディングの一環であったことが大きな要因。この巨額な費用には、ロゴデザインだけでなく、セキュリティ製品群の再ブランディングやマーケティング戦略全体の見直しが含まれている。 低価格なロゴデザインの事例 では逆に安い値段でデザインされたロゴの紹介。いくつかは一時的なものだったり、すでにリデザインされているが、Nikeのように、その後も普遍的に利用されているものある。 Google: 0 Googleの最初のロゴは、共同創業者であるセルゲイ・ブリンによってデザインされた。このロゴは、GIMPという無料の画像編集ソフトを使って作成されたもので、ほぼコストゼロで誕生。その後、コンセプトをそのままに、洗練されたロゴにリデザインされている。 Coca-Cola: 0 Coca-Colaのロゴは、1886年に同社の会計士であるフランク・メイソン・ロビンソンがデザイン。社員だったので、特別な費用はかかっていない。現在よく目にするコーラのロゴは、彼が考案した手書き風のロゴを洗練させたもの。 Twitter: 15ドル Twitterの初期ロゴは、ストック素材サイトのiStockphotoから15ドルで購入したもの。 このデザインを手がけた日本在住のデザイナー、サイモン・オクスリー氏は、当初Twitterがそのデザインを使用していることに気づいておらず、スタッフの一人が鳥のアニメーション化について許可を求めて連絡してきたことで初めて知ることとなった。 […]

デザイン思考は何が問題なのか?その限界と先にある可能性

「デザイン思考を導入してみんですけど、これといった結果が出てないんですが…」 日本企業にデザイン思考ブームが到来して、数年経ち、効果について検証し始める時期になってきてるのだろう。 デザイン思考は現代のビジネスにおいて、重要な役割を果たすが、同時にその限界と課題についても多くの議論がされている。 その辺に関して、掘り下げてみたいと思う。 誰にでもわかるデザイン思考の基本とプロセス デザイン思考の誤解とその限界 そもそも、企業がこの手法を取り入れようとする背景には、イノベーションの創出を期待していることが多い。 しかし最近では、デザイン思考を導入してみたものの、それだけでは十分ではないという現実に直面する企業も少なくない。 これは、デザイン思考を万能なツールと過信し、そのプロセスさえ踏めば、何かしら新しいイノベーションや、ヒットサービスが生み出されると勘違いしている部分が大きい。 では、どのようにしてデザイン思考を超えて、真のイノベーションを実現することができるのだろうか? “イノベーション“ や ”DX” をバズワードで終わらせないために大切な2つのこと デザイン思考の現状と課題 デザイン思考は、その名の通り、ユーザー中心の視点から問題を解決し、新しい価値を創造するための方法論だ。 しかし、実際には、単にデザイン思考を導入するだけでは、企業が期待するような革新的な成果を得ることは難しい。 多くの企業がデザイン思考を実践しているものの、結果が伴わないことが多く、その理由としては、デザイン思考がプロセスとしては万能ではなく、他の要素と組み合わせる必要があることが挙げられる。 デザイン思考プロセスを丁寧になぞったプロダクトは面白味がない これは非常に主観的な意見だが、デザイン思考のロジックに従い、プロセスを丁寧に進めて作られたプロダクトは、妙に「平坦」に感じられることがある。 世の中にある他のサービスと似通ったものになりがちで、何かが足りないような感覚を覚える。まるで。いまひとつスパイスが効いていないような印象。 その理由は、多くの場合、作り手が本当に作りたいものを作っていないから。 たとえプロセスをしっかりと踏み、1つ1つ検証を行ったとしても、そこに強い情熱や思いがなければ、出来上がるものはなんとなく退屈なものになってしまう。 作り手に強い愛情がなければ、ユーザーにとっても魅力的なプロダクトにはならない。ユーザー検証を通じて、論理的にはまとまったプロダクトを作れるかもしれないが、なぜか心には響かないものになりがち。 単にデザイン思考のプロセスを踏んで、ユーザーが欲しいと言ったものを作っただけでは、それは単なる「御用聞き」のプロダクトになってしまう可能性が高い。 お客様第一主義とユーザー中心デザインの違いとは デザイン思考 ≠ イノベーション デザイン思考を取り入れる際に多くの企業が抱える誤解は、デザイン思考そのものがイノベーションの創出に直結するというもの。 しかし、実際にはデザイン思考はあくまで一つのフレームワークであり、単独で革新をもたらすものではない。重要なのは、デザイン思考をどのように実践し、他の要素とどのように組み合わせるかだ。 特に日本企業においては、表層的な部分ではそのプロセスをなぞりながらも、デザイン思考の本当の意味での実践が難しいとされており、その理由として文化的な背景や組織のマインドセットが影響している。 ここがちゃうねんデザイン思考。5つの誤解とは イノベーションを生むためのマインドセット では、何が欠如しているのだろうか? イノベーションを生み出すためには、単なるデザイン思考の実践だけでなく、組織全体のマインドセットの変革が不可欠だ。 いくらスタートアップの真似事のようなやり方をしても、その組織の根底にある考え方や文化が、旧態依然としたレガシー企業だったとすれば、「なんちゃってデザイン思考」でしかいないのだ。 必要なのは、企業の売り上げや利益、そして自分たちの組織内でのポジションや出世よりも、ユーザー視点での問題解決を最優先に考え、失敗を恐れずに挑戦する文化を醸成すること。 全ての人に必要なデザイン的マインドセット:デザイン会社の非デザイナーが体感していること 行動としてのデザイン思考 個人的には「デザイン思考」の最も大きな欠陥は、その名称にあると思っている。 そう、この「思考」という単語がよくない。そもそも、考えているだけで実現できる結果など、エスパーでない限り、ほぼ不可能だからだ。 デザイン思考を実践する上で重要なのは、そのプロセスを単に形式的に行うのではなく、実際の行動に移すこと。 考えてばかりじゃなく、短期間で多くのプロトタイプを作成し、フィードバックを得、そしてダメならピボットして、ガンガン改善する。そんな姿勢がない限り、世の中に愛されるプロダクトは生み出されない。 そう。デザイン思考は、単なる思考プロセスではなく、実際の行動を伴うものであるべきだ。 企業がイノベーションを生み出すためには、議論よりも行動に重きを置き、短期間での実験と検証を繰り返す必要がある。これは、企業が変化のスピードに対応し、競争力を維持するために不可欠なアプローチである。 イノベーションを生み出すために -空想者から行動者に変革する5つの方法- 始動プログラムより カオスから生まれるクリエイティブなプロセス 実際のデザイン思考のプロセスは、想像以上にカオスであり、その中でこそ真のイノベーションが生まれる。 計画通りに進まないプロジェクト、突発的な問題や感情のぶつかり合いが頻繁に発生することもあるが、これらはすべてクリエイティブなプロセスの一部。 このような環境を許容し、支持する企業文化があって初めて、革新的なプロダクトやサービスが生まれる。 一言で表現すると「お利口さんからの脱却」が求められる。 結論: 最も重要なのはデザイン思考を超えた要素 デザイン思考だけではイノベーションを実現するのに十分ではない。 組織全体でユーザー中心のアプローチを根付かせ、失敗を恐れず挑戦する文化を醸成することが不可欠。これには、トップダウンでのリーダーシップと、現場レベルでの自主性が融合したカルチャー変革が求められる。 デザイン思考を超えて、マインドセット、カルチャー、パッション、アクションといった要素を組み合わせることで、初めて企業は真のイノベーションを生み出すことが可能になる。 イノベーションを生み出すための要素: ユーザー視点 未来志向 柔軟な組織マインドセット 失敗を許容するカルチャー 当事者たちのパッション 強いリーダーシップ 早い段階でのアクション これらの要素を実現し、日々の業務に反映させることで、初めて未来の成功につながっていくと思う。 では、実際にどうすればそんな状況が生み出せるのか。詳しくは下記のイベントにて事例を含め、そのノウハウを伝授します。

日本とシリコンバレーのスタートアップを取り巻く環境の違い

先日、うちのサンフランシスコオフィスに日本から起業家が二人訪問した。
普段はそのような訪問は無闇に受けないようにしているのだが、今回は信頼する投資家の知人による紹介で、会ってみることに。
一人はエクジット寸前。もう一人もかなりの規模の資金を調達した、いわゆる “成功者” だ。日本的な感覚だと。
その二人が初めてサンフランシスコに来て感じたこと。それは、成功の成功の規模と定義の違い。そして、日本とは大きく異なる起業家を取り巻く環境だ。
成功できるかどうかは、環境に大きく左右される
具体的な環境の違いを…

【会社の資金を全額カジノにぶっ込む!】存続の危機を乗り越えた5つのトンデモストーリー

企業の歴史において、危機的な状況に直面することは珍しいことではない。むしろ、倒産の危機に瀕したことのない企業を探すことの方が難しいだろう。
実際、アメリカでは、Fortune 500と呼ばれるトップ500社の実に52%が15年以内に無くなっている。ということは、世界的に有名な企業であっても、一歩間違えばいつ消滅してもおかしくない。
現代における大企業の平均寿命は15年 – 生き残り戦略としてのイノベーション

著名企業5社の驚異の倒産回避体験
今回は、Apple、Tesla、FedEx、…

ピボットとは? スタートアップサービスにおける方向転換の美学

失敗率が80%とも90%とも言われるスタートアップにおいては、最初のアイディア通りにうまくいくことの方が少ない。 プロダクトを作っているその過程や、資金調達のプロセス中、そしてリリースした後も、周りの反応を見ながら「方向転換」を行うのが一般的。 逆に考えると、いつまで経ってもポジティブな反応が得られないプロダクトやビジネスモデルを進めていてたとしても、良い結果が出ずに失敗してしまう可能性が高い ピボットは最高の「失敗回避策」 日本はアメリカに比べて起業家やスタートアップの数が少ない。 その理由として、日本は失敗に厳しく、アメリカは寛容である。本当にそうなのか? 実はそんな事はない。アメリカだろうが、シリコンバレーだろうが、失敗に対して良いイメージはないし、本人も嬉しいわけはない。 そんな時に便利なのが「ピボット」という言葉。 例えば、始めたサービスのユーザー数の伸びが芳しくない時にも、「サービスを終了しました」と言うよりも、「ピボットすることにしました」と言う方が、ダメージが少なく感じる。 そう、あくまで方向転換であって、失敗ではないと。 シリコンバレーの起業家が失敗した後はどうなるの? ピボットの種類 では、具体的にビボットとはどんなものなのか? 実は、その内容に応じて、Plan AからZまで、いくつか種類があるので見ていこう。 Plan A: 現状維持 当初のアイディアそのままに進められるケース。厳密にはピボットではない。 ターゲットとしたユーザー層の伸びが想定通りか、それ以上で、ビジネスモデルとしても成立する見込みがあるため、方向転換をしなくてよかった状態。 例: Google Search Plan B: ターゲットを変える Plan Bは、サービスの名前と内容をあまり変えずに、ターゲットとなるユーザー層を変えるケース。自分たちの想定していないユーザーたちからの人気や、ニーズに合致した際に行う。 ライドシェアの代表であるUberは、2009年のリリース時には、リムジンの時間貸しサービスとしてスタートした。 アメリアでのリムジンは、基本的に1日ごとのチャーター。かなりのコストになる。しかし、VIP客の送迎などで、その時だけでも高級車両と優れたサービスを利用したいと言うニーズに対応したサービス。 当然、価格もタクシーよりも割高で、富裕層向けの存在だった。 そしてUberはリリース後、数年経った2011年にピボットを行い、一般ユーザー向けにライドシェアという概念でのサービスをスタート。それが軌道に乗り、現在に至る。 例: Uber Plan C: サービス価値を変える 同じようなサービスでも、それぞれによって少しずつユーザーが受け取るサービスかちが異なる。もし自分たちが提供しようとしている価値がユーザーが求めるものと異なる場合は、その提供価値自体をピボットする必要が出てくる。 日本でもおそらく多くの方々に利用されているフォトシェアリングアプリのインスタグラムもまた大きくピボットしたサービスの一つ。 初期バージョンは “Burbn” と呼ばれるチェックイン機能をメインの価値とした、SNSアプリとしてリリースされた。 その後、ユーザーの利用パターンを分析したところ、チェックイン機能よりも、写真をアップロードするケースの多いことが判明。そこでピボットを決断し、一度サービスを停止してから、インスタグラムと言う名前で再リリースし、現在に至る。 同じようなサービスでも、その価値を変えることで、一気に人気が得られることもある例だ。 例: インスタグラム 参考: インスタ12周年 – パクリサービスから世界一のSNSへの道 Plan Z: 勇気ある撤退 ターゲットを変えても、サービス価値を変えても、サービス自体を変えても、どうしても求められる結果が得られなさそうだった場合はどうしたら良いのか? そんな時は Plan Z を適用しよう。 Plan Zとは、勇気を持って一度事業を撤退する作戦。でも失敗ではない。何がうまくいかないかを学ぶことができた事自体に価値があるし、今後の展開に役立てるための「一時的な」終了でしかない。場合によっては、姿形を変えて再リリースされることもある。 このタイプのピボットの例としては、Google Glass が挙げられる。 Google Glassは、2013年にリリースされた AR グラス。ファウンダーのセルゲイ・ブリンが常時着用してたこともあり、その当時はかなりの話題となっていた。 しかし、思ったほどのトラクション獲得が出来ず、2015年に一般販売を終了した。 その後、2017年にパイロットや医療従事者向けなど、産業用デバイスとして利用されることが発表された。 参考: アメリカのトップVC: リード・ホフマンに聞いた起業家としての心得 事業内容をピボットして成功した企業 5選 さて、上記の事例で紹介したサービス、プロダクト以外にも多くの著名企業が、創業当時は現在とは全く異なる内容の事業を展開していた。その後、時代の変化に合わせ、見事にピボットをし、成功している。 おそらく多くの方々も知らないであろう、事業ピボットで成功した5つの企業を紹介する。 YouTube: マッチングサービス 皆さんもご存知、世界最大の動画サイトのYouTube。実は最初はマッチングサービスとしてスタートしている。ユーザーが自身の動画をアップ・視聴して、好みの相手にメッセージを送り、デートに繋げるのがコンセプト それも当初は「Tune In, Hook Up」という、かなりチャラいコンセプトで展開していた。 このサービス自体は成功しなかったものの、そこで得られた優れた動画とアップロードプラットフォームをもとに、現在の動画シェアリングサービスとしてピボットした。 TOYOTA: 紡績業 世界のTOYOTAは、豊田自動織機製作所としてスタートし、その後自動車製造に業務をピボットしている。 その歴史は、豊田自動織機製作所の創業から始まる。 当初は豊田紡織として1918年に設立され、自動織機を利用して綿製品の製造・販売を行っていた。1923年の関東大震災を契機に、自動車が実用品としての価値を認識され始め、それまで贅沢品と見られていた自動車の公共性と利便性が再評価される。 この背景を受け、1933年9月1日には豊田自動織機製作所内に「自動車部」を新設し、自動車製造へと業務を拡大。自動車製造への本格的な参入は、1936年に「トヨダ・AA型乗用車」を発売することで現実のものとなり、翌1937年にはこれを更に推し進める形でトヨタ自動車工業が設立された。 こうして、元々は織機製造からスタートした企業が、自動車産業へと事業を転換し、現在では世界的な自動車メーカーとして知られるトヨタ自動車の礎が築かれていった。 ローソン: ミルク販売店 国内コンビニTop3に入るローソンは、元々オハイオ州が発祥。1939年に酪農家のJ・J・ローソンが乳製品工場で、ミルクを販売するための店を始めた。当時の名前はローソンズ・ミルク・カンパニー。 当時はミルクを家庭に配達するのが一般的だったのを、お店で売り始めたのが新しかった。ちなみに、ローソンのロゴに牛乳の瓶が描かれているのも、ミルクストアから始まったのが由来。 その後順調に店舗を増やし、食品や日用品を販売するコンビニエンスストアに成長。オハイオ州外を含め、700店舗まで拡大した。 その後、本国では消滅したが、日本でのビジネス展開が開始され、現在では誰もが知るコンビニチェーンの一つにまで成長した。   参考: 日本で生き続ける3つの消滅した米国ブランド  アバクロ: アウトドア器具ブランド アバクロンビー&フィッチ、日本では親しみを込めて「アバクロ」と呼ばれるこのブランドは、スポーツショップとしてその歴史をスタートした。 創業当初からキャンプ用品、釣り具、その他アウトドアグッズの製造販売を手掛け、冒険心あふれる男性たちに必要な無骨な商品を提供していた。実際、冒険家であり作家であるアーネスト・ヘミングウェイが顧客の一人であり、洋服や釣り具を購入していたことはよく知られている。 この時代のアバクロは、男性客が全顧客の85%を占めるなど、明らかに男性向けのブランドとしてのアイデンティティを確立していた。女性客は主に男性に同伴する形で店を訪れ、女性自身が自分のために何かを選ぶというよりは、男性の購入を支える役割が主であった。 しかし、1988年に買収された後、ブランドは一新され、若者向けのヴィンテージ風カジュアルファッションブランドへと変身を遂げた 特に20代前半の若者をターゲットに設定し、これまでのアウトドアやスポーツ用品のイメージから、よりファッショナブルで若々しいスタイルを提案するブランドへと生まれ変わった。 任天堂: 花札製造 現在は誰もが知るゲーム機メーカーの任天堂であるが、元々は花札やカルタを製造する企業であった。1889年の創業時には、カルタや花札を製造する企業としてスタートした。その後、タクシー、食品、ラブホテル、玩具など多岐にわたる事業を経てゲーム業界に参入した。 […]

生成AIがこれからのデザインに与える4つの大きな影響

生成AIが世の中で注目されてから約一年ほどが経過した。 去年の今頃はChatGPTの威力に驚き、画像生成の面白さに狂喜乱舞した人たちが、頻繁にそのノウハウや出力した “作品” を自慢げにSNSポストしていた。 そして現在はどうだろう? 恐らく少し落ち着いてきたかな?と感じる。それとも皆少し食傷気味になってるのか、生成AIによる画像でドヤできる感じではなくなってきた。 その一方で、確実に時代は進んでおり、各種業務でのAI活用は着実に進んでいる。 そんな中でも今回はデザイン領域にフォーカスを当てた、生成AIの活用方法、よりカッコよく言うと「生成AIがデザイン業界に与えるインパクト」をまとめてみた。 大きな変化として考えられるのは下記の4つ。 ワークショップでの活用 サービスデザインのプロセス変化 動画生成に活用 ブランドエンジンを生成・活用 1. ワークショップでの活用 恐らくみなさんの中でもデザインワークショップに参加された方もいると思う。 新しいアイディアを出したり、既存の企画の可視化、およびプロトタイプを利用したユーザーテストなど、現在のデザインの現場では、ワークショップ活用が一般的になってきている。 我々btraxでも、新規商品の企画出しのためのデザインスプリントや、既存サービスの海外展開におけるフォーカスグループなどなど、多様な場面でワークショップ活用をしている。 その中でも、アイディアの可視化、コミュニケーションの補助、そしてブランドイメージ構築のための方向性を決めるための手法として、様々なビジュアリゼーションを行う。 しかし、慣れていない参加者の場合、それが難しい。もちろんbtraxのデザイナーが一緒になって可視化を行うのであるが、出力できる量には限りがある。 そこで生成AIの出番となる。 例えば、下記の例のように、考えたサービスアイディアの粒度を上げるために、ストーリーボードを生成AIを活用してアウトプットする。これはAirbnbの例であるが、よりそのサービスイメージを得やすい結果となっている。 2. サービスデザインのプロセス変化 AIの威力はサービスデザインのプロセスにも大きな影響を与え始めている。 というのも、これから作り出される商品やサービスは、よりユーザーが使いやすいものにするため、その多くにAIが実装される。 例えば、これまではアプリ経由で餃子のデリバリーを頼む場合、Uber Eatsや出前館のアプリを開き、その中で最もお手頃な食べ物を選んで、オーダーをしていた。 しかし、近い将来はAIソフトや、AIエージェント、そしてスマホ自体にAIが実装された場合、ユーザーは「一番早く、安く餃子が届くようにオーダーして」とだけ言えば、残りのプロセスはAIがやってくれる。 ということは、全体のユーザー体験 (UX) プロセスが大幅に変わる。そして、UIの量も格段に少なくなっていく。 サービスデザイナーとしてみれば、それを考慮したサービス設計が必要になってくるのだ。 実はこの「AIエージェント」というコンセプトは、実際のハードウェアとしても発表されている。 Rabbitのr1や、SoftBankが投資するHumane のAI Pinなどである。 今後これらのプロダクトが普及すればするほど、ヒトとテクノロジーの関係性がどんどん変化し、そこに必要とされるUXデザインやサービスデザインの概念が大幅に変化していくだろう。 3. 動画生成に活用 恐らく生成AIで、現在最も注目を集めているのが動画作成での利用だろう。 これまでもStable DiffusionやMidjourneyなどの画像生成系AIツール経由で画像を生成し。それを動画に変化する方法で “ハック” しながら動画作成を行ってるケースは見られた。 しかし、先日のOpenAIによる動画生成サービス Soraの発表で、この領域への注目が一気に高まった。そのリアルな表現で、動画作成に対するAIの威力がどんどん高まり、次の次元に進んだ感があるからだ。 Soraに加えて注目したいのがPikaだ。 サンフランシスコで定期的に開催されているAIイベント「AI for Designers」で会ったPikaのファウンダーの一人であるMatanによると、Soraが映画クオリティーの動画作成を目指しているのに対し、Pikaはよりカジュアルな動画生成にターゲットを絞っている。 特にアニメ調のショートムービーや、CM, ミュージックビデオの生成などはPikaが得意とするところ。 例えばこの動画を見てほしい。元々約1,200万円ほどの予算で撮影・編集されたサボンのCMを、元の動画を一歳利用せず、プロンプトと商品画像だけを利用して、AIによって1日で再現したもの。 恐らくこのくらいの長さであれば、ほぼ全てAIで生成し、編集してしまえば、かなりコスパの高い方法でアウトプットが得られるだろう。 4. ブランドエンジンを生成・活用 もう一つ生成AIが活躍しそうなフィールドがブランディングである。 これまでの一般的なブランディングは、下記の様に、調査からアウトプットまで、全て「人力」で行う、かなり属人的で地道なプロセスだった。 そこで、より効率を上げ、ブランドの統一性を保持するた目的で、今後は生成AIの活用に注目したい。 ChatGPTsなどの生成AIツールでは、個々のユーザーによってチューニングが可能。AIが出力する内容を、それぞれの好みに合わせて「味付け」が出来るのだ。 ブランドのトーンやバリュー、パーソナリティーなどをAIに教え込むことで、それぞれのブランドに合わせた「AIブランドエンジン」が生み出される。 一度AIブランドエンジンをセットアップしてしまえば「うちのブランドっぽい広告生成して」とか「今度の商品のリリース文章をうちのブランドのトーンで書いて」などの指示をするだけで、AIが生成してくれるという仕組み。 これはではかなり手間のかかる「ブランディング」領域でも生成AIを導入することで、効率化と精度アップが見込まれる。 この続きは3月7日のイベントにて さてこんな感じで、今後デザインの業界にどんどん活用されるであろう生成AIだが、より詳しい話や、ここでは書けない内容などは、3月7日に開催されるイベント「生成AIが企業活動に与えるインパクト」にて、お話しします。 みなさんのご参加をお待ちしております!

なんちゃってUXデザイナー見破る7つのポイント

UXデザイナーの重要性が高まるにつれて、多くのデザイナーが自分のことを “UXデザイナー” と呼ぶようになって来ている。 その一方で、その仕事内容があまりにもぼんやりしすぎてて、面接の際にどの人が本当にUXデザインスキルがあるのかがわかりにくい。という疑問を持つことがある。 そもそもUXデザイナーは本当にデザイナーなのか?という説もあるくらいだ。 UXデザイナーは本当にデザイナー?UXデザインの役割の拡大 ポートフォリオに騙されるな! 実際のところ、ポートフォリオに掲載されている作品の質だけで判断することは難しいし、そもそもほとんどのプロジェクトがチームで行うため、その人がどこまで関わっているのかを見極めるのも容易ではない。 また、freshtraxを日々読んでいれば、デザイナーとしての知識はかなり蓄積するが、残念ながら、それだけで優れたUXデザイナーになれるわけでもない。 【給与差1.4倍】グラフィックデザイナーからUXデザイナーになる方法 UXデザイナーの標準スキルが明確ではない そもそもUXデザイナーという肩書き自体が比較的新しいものであるため、その仕事内容とスキルセットが明確になっていないのも一つの原因だろう。 元々Webデザイナーをやっていた人が、ワイヤーフレームとフローチャートを作成した経験を元に「UXデザインできます!」と宣言しているのかもしれない。 CXデザインとは?UXデザインとの違いとそれぞれの役割 偽物デザイナーをあぶり出す では逆に “なんちゃって” のデザイナーを見極めることができれば、消去法で自ずと本物をあぶり出すことができる。これまで何十人も面接してきた経験を元に、偽物のUXデザイナーの見分け方を公開する。 志望者の多いUXデザイナー職を採用する際に、下記の5つのポイントに関する質問を行い、その答えの内容でその人が本物のUXデザイナーを見分けることができるだろう。 1. よく聞くと単なるUIデザイナー これが一番あるあるなパターン。UXデザイナーポジションに対しての応募者のかなりの割合が、実はUIデザイナーのスキルしか持ち合わせていない。 これまでの実績を見てみても、明らかにUIのデザインやビジュアルデザインの作り込みはしているが、ユーザーリサーチや体験の設計などのUXデザインに関するプロセスを実践した経験はない。 もしくは、UIデザインとUXデザインを混合してしまっているケースすらある。 まずは、UIデザイナーとUXデザイナーの役割の違いを理解するところから始めた方が良いだろう。 UXデザイナーとは?仕事内容、求められるスキル、活躍するデザイナーとは 2. UXデザインの経験がワイヤーフレーム作成のみ 元々WebデザインやアプリUIデザインを行っていたデザイナーが、手っ取り早くUXデザインができるふりをする方法がワイヤーフレームの実績をポートフォリオに掲載する事。なんとなくもっともらしく見える。 しかし、そもそもワイヤーフレームの役割や、作成に至るまでのプロセスが理解できていないと、UXデザイナーとは言えない。 ワイヤーフレーム自体はあくまで全体像を把握したり、ユーザーテストで利用し、データを収集するための際の手段でしかなく、目的にするべきではない。 そもそも、マルチデバイスが当たり前の現代においては、ワイヤーフレームの作成はコンテンツ作成と同時に進める必要があり、むしろ全体を通じたメッセージングの方が重要なので、ワイヤーフレーム自体の価値がかなり低くなっているのも事実。 UXデザイナーの仕事は、伝えるべきことに対して最も効果的な体験を構成することである、ワイヤーフレームの作成自体が目的になるべきではない。 UXデザインプロセスの基本的な6ステップ 3. UXデザインの基本的な構成要素が理解できていない これもUXデザインにおける基本的な内容だが、その構成要素が理解できていないパターン。 真のUXデザイナーであれば、タスクフローや情報アーキテクチャ、インタラクションデザインといった個々の要素はもちろんのこと、それらを体系的に統合することで、誰しもが直感的に利用できるシームレスなユーザー体験をデザインできるはず。 しかし、名ばかりのUXデザイナーにこの基本的な洞察が欠けているケースがしばしばある。単に綺麗な画面を作ることに注力し、ユーザーが目的を達成するまでの一連の流れを明確にデザインできていない。 本物のUXデザイナーを見極めるには、その人物がユーザー体験全体の森を見渡す目を持っているかどうかを確認することが不可欠になる。 【わかりやすく解説】UXデザインの基本と主要概念 4. UXデザインのプロセスを知らない UXデザインのプロセスには、調査、アイデア創出、プロトタイピング、テストといった一連の段階が存在する。 しかし、中にはUXデザイナーを名乗りながら、こうした基本的なプロセスすら理解していない人がいる。 彼らは単に画面のモックアップを作成することに注力し、その先のプロセスを考えようとしない。ユーザー調査なしに勝手な仮定のもとで設計を始めたり、納得のいくまでプロトタイプを繰り返し改善したりすることなく、最初のアイデアをそのまま提供したがる傾向がある。 本物のUXデザイナーは、この定石とでもいうべき一連のプロセスを熟知しており、それを適切に運用して最善の結果を導き出せる能力を備えているはず。プロセスを省略する姿勢は、プロのUXデザイナーの資質に欠けると言わざるを得ないだろう。 UXデザインプロセスの基本的な6ステップ 5. UXとユーザビリティーを混合している UXとユーザビリティは、ともにユーザー中心の設計を目指すものの、似て非なる概念である。 ユーザビリティは、主にタスクの遂行効率や使いやすさ、エラー率の低減など、システムの機能面での改善を扱いう。 一方UXは、ユーザーの感情面や価値観に訴えかける体験のデザインを重視する。楽しさ、魅力、満足感といった主観的な側面に注力するのが特徴。 したがって、この2つを混同している人は、UXデザインの本質を見誤っていると言えるだろう。システムの効率化にばかり気を取られ、感性面を置き去りにしがち。結果的に、使いやすいけど、なんかワクワクしないプロダクトになってしまう。 本物のUXデザイナーであれば、ユーザビリティとUXの違いを明確に理解し、両面の改善をバランス良く図ることができるはず。この視点が欠如している場合は、なんちゃってUXデザイナーじゃないかと疑って良いだろう。 6. ビジネスゴールとユーザーメリットのバランス取りが苦手 UXデザインにおいては、ビジネスの目的とユーザーのメリットを両立させることが大切になる。 たとえば、ECサイトの場合、単に商品を売りたいというビジネスゴールと、購入がしやすくなることをユーザーは求めており、その二つを上手に達成するのがUXデザイナーの役割になる。 本来のUXデザイナーであれば、こうしたニーズのバランスを取りながら、win-winなソリューションを生み出す洞察力があるはず。 しかし、中にはビジネス目線のみで設計を進めがちな人もいる。ユーザー体験をある程度犠牲にしてでもコンバージョン率や売上を最大化しようとしがち。特に営業ノルマを重視しすぎるが故にこのパターンにハマるケースがある。 逆に、ユーザー目線に傾き過ぎ、ビジネス上の制約を無視した純粋に使いやすいシステムを提案するデザイナーもいる。この場合は、デザイナーのエゴが強すぎて、企業の利益を置き去りにしてしまうのだ。 いずれにせよ、このバランス感覚が欠如しているのは、本物のUXデザイナーとは言えないだろう。 「良いデザイン」とは?GoogleのUX Lead Designerから学んだ5つのこと 7. ユーザーテストとフォーカスグループの違いがわからない ユーザーテストとフォーカスグループは、ともにUXデザインにおける重要な調査手法だが、その目的と方法は異なる。 ユーザーテストは、プロトタイプや実際の製品を個人に操作してもらい、タスク遂行できるかどうかを観察するテスト。使いにくさの発見が主眼となる。 一方、フォーカスグループは、数人のユーザーに意見を求めるグループディスカッション形式で、新機能への要望や概念に対する感想を聞き出すのが目的となる。 本物のUXデザイナーであれば、この2つの手法の違いと使い分けを理解しているはず。言い換えると、目的に応じて適切な調査手法を選択できる力量が求められる。 この基本的知識がない場合は、なんちゃってUXデザイナーである可能性が高い。 実践デザイン思考!量より質を極めるユーザーリサーチ基本のキ まとめ: 優れたUXデザイナーを見分けるのは難しい デジタル化が進んだ2010年代以降、UXデザイナーはトレンドの職種となり、自称UXデザイナーもも増えている。しかし実際には、本物のUXデザイン能力を備えている人物はまだ少数派なのが現状である。 今回の内容を参考に、優れたUXデザイナーを見極めるためのポイントを抑えたい。ただし、完璧なUXデザイナーは存在しないことも理解しておく必要はある。 大切なのは自身の専門性を磨き続け、ユーザー体験の向上に真摯に取り組む姿勢を持ち合わせているかどうか。 優秀なUXデザイナーの育成には、実践を積み重ねることが不可欠。ユーザーとビジネスの狭間で失敗を恐れず挑戦し続けることが、この分野で成功への近道と言えるだろう。 こいつできるな!と思わせるUXデザイナー 7つのソフトスキル

主要メディアが伝えないCES 2024の裏側 〜 本当のイベントは夜の秘密部屋で 〜 

今年もCESに参加してきた。 そう、毎年恒例ラスベガスで開催される世界最大規模のテクノロジーイベントである。 関連記事: CES 2024 ガイド: 世界最大のテックカンファレンスの基本情報と見どころ7選 今年は日本からも多くのメディア関係者さん達が来ており、すでに各種チャンネルにて複数の取材レポート記事や動画が配信されている。 ということで、我々としては一般来場者が知らない、そして普段メディアがあまり伝えない「CESの裏側」をレポートしてみようと思う。 多くの発表はMedia Day (1/7-8) にて CESといえば、コンベンションセンターを中心とした、膨大なエリアでの展示が有名だ。でも実は本当にインパクトのあるセッションと展示は、一般公開日の前日と前々日に行われている。 そこでは、CES運営団体のCTAによる見所や、主要企業によるメディアセッション、そして特に興味深いプロダクトが展示される「Unveiled」が開催される。 Unveiledは実は誰でも展示可能 これまで何度もCESに参加しているのに、一つ大きな勘違いをしていることに最近気づいた。 というのも、この “Unveiled” と呼ばれるセッションでは、CTAによって選ばれた “Innovation Awards” 受賞プロダクトが多く展示されているため、てっきり選ばれた人達だけしか展示できないのかと思ってた。 しかし、先日サンフランシスコで開催されたCES 2024報告会で、これまで13回の展示経験を誇るShiftfallの岩佐氏によって新たな真実が明かされた。 なんとUnveiledは、お金さえ払えば誰でも展示できるとのこと。それも展示費用はそこまで高額ではないため、かなりコスパが良い。 Unveiledのセッション自体は3時間程度であるが、比較的小さな会場で多くのメディア関係者と接することができるのが魅力とのこと。 展示場所はポイントシステムで決まる さて、これも岩佐氏から聞いた内容。 毎年世界から来た数多くの企業がより良い展示場所を狙って凌ぎを削っているCESだが、その場所はどのように決められるのか?いつも気になっていた。 そこにはどうやら「ポイントシステム」的なものがあるらしく、ブース展示する度にポイントが加算され、それが増えるとより有利なロケーションに展示させてくれるとのこと。 ということは、以前より展示している企業が有利になる。ちなみに第一回から展示しているのは我らがPanasonicである。 ただ、最近は韓国企業がかなりの予算を割いて参加しているため、何かしらの “ブースト” がかかってるっぽい。 会場を歩いていると日本語がめっちゃ聞こえてくる これは毎回思うのだが、会場やその付近を歩いていると、かなりの確率で日本語が聞こえてくる。 おそらくメディア関係者だったり、展示している企業の方々だったり、見学に来ている人たちだと思う。他の国の人たちと比べても結構多いイメージ。 日本企業の展示量はそこまでではないはずなので、やはり取材やリサーチに来ている人が多い。 やっぱり皆んなインプットが好きなんだなー。って感じる。ちなみに、日本人の来場者は日本企業のブースを中心に周りがち。 日本企業はすごい。でも韓国企業はもっとすごい。 第一回からの参加企業がPanasonicだったり、メイン会場のプロダクトが家電系だったり、注目のWest会場がモビリティー展示中心だったりと、このイベントは何かと日本企業が得意なプロダクトカテゴリーが多い。 それもあって、毎年多くの日本企業が展示参加し、注目を集めている。 しかしながら、ここ5年くらいは韓国企業の勢いがすごい。Sumsong, LG, Hyndai, KIAといった大企業をはじめ、スタートアップ企業の参加数も韓国勢が最も多い。 中国追い出されたの? 韓国企業と対照的なのが中国企業。 一時期 (2018年くらい) までは、膨大な量の企業が深圳から展示に来ていたり、キーノートがファーウェイだったりなど、飛ぶ鳥を落とす勢いだった。 しかし、それが理由なのかはわからないが、2019年の一件以来、急激になりを潜め、中国企業だらけだったLVCC Southは去年に続き、今年も利用されていなかった。 CTAが公式発表をしているわけでないが、何かしらの力学が働いていそうな気がする。 アメリカの大物が居ない… と思ったら! 最近のCESのもう一つの特徴は、意外とアメリカ企業の参加が少ないということ。 よく考えたら確かに展示やキーノートを行っている企業はアジアやヨー六っぱから来ている事が多く、”地元” のアメリカ企業は多くない。 そして、実はテクノロジー業界の大物スピーカーもあまり参加していない。 例えば、去年のキーノートはジョンディアのCEO。今年はウォールマートのCEOで、いわゆるビッグテック企業ですらない。 と思っていたら!ウォールマートのCEOが「ここでうちのパートナー企業のCEOを呼んで良いかな?Microsoftのサティアです!」とサプライズゲストとして、サティア・ナデラを登場させたのには驚いた。スピーカーリストにも掲載されてなかったので、特に。 現場のワクワク感による感覚補正に要注意 これもCESの意外な落とし穴なのだが、会場の雰囲気がかなりワクワクするので、そこに展示されている内容も何割増かの感じでよく見える。 特にハードウェアガジェット系は、普段の生活で使わなさそうなものでもキラキラして見えて、ついつい欲しくなってしまう。 修学旅行に行って木刀を買ってしまうあの感じ。 去年以前のプレゼンが無かったことにも (パラレルワールド?) これもCESの特徴の一つなのだが、ド派手に展示し、大きな注目を集め、なおかつイノベーションアワードも獲得したようなプロダクトがその後、音沙汰なくなることがある。 イベント中はかなりの将来性を感じさせるようなプロダクトでも、翌年は全く無かったことになってることも多々あり、夢だったのかな?と感じることもある。 その代表が中国のEVメーカーのByton。自らをTeslaキラーと呼び、2018年からド派手に展示とセッションを行い、その後3年間連続で参加。2020年のセッションでは米国での販売目処がついた、とまで説明していた。 それが現在は会社が倒産。期待されたプロダクトも泡のように消えてしまった。 本当のネットワーキングは夜に秘密部屋で行われる 最後にCESに参加する一番のメリットであるネットワーキングについて。 世界中から10万人以上の人たちが同じエリアに集まる事もあり、普段会えないような人にも会えるチャンスがある。でもどこで? その答えは「あまり知られてない秘密の部屋」で。 そう、CESは日中のセッションや展示の後に、夜の時間様々なパーティーが行われている。その中でも、メディア向けや招待制のシークレットパーティーもあり、限られた人しか参加できない。 大体そのようなパーティーは、外からはなかなか分からない ”ヴィラ” と呼ばれるホテルの隠れ部屋で行われることが多い。ヴィラにはいくつかの部屋とプールのある中庭があり、食べ物や飲み物が振る舞われる。 通常はパーティーを開催する企業がヴィラを貸し切り、例えば、VR関係者や、企業のエクゼクティブなど、希望する業界や役職の人たちだけど限定で招待する。 もしこのプライベートパーティーに招待されることができれば、そこに集まる人たちと一気にネットワークが広がる。 さて、続きを知りたい方は、ぜひ1月25日に虎ノ門ヒルズで開催される下記のイベントにご参加ください。

【さよならUXデザイナー】AIによってUXデザイナーは消滅するのか?

2024年に入り、デザイン業界にも大きな変化が訪れようとしている。ここ数年間、蝶よ花よと持て囃されていた「UXデザイナー職」に陰りが見えてきている。 というのも、米国求人サイトのIndeedのここ10年間における統計によると、2022年を頂点に、UXデザイナーやリサーチャーのニーズが減っているのだ。 平均給与が一年で11%下落 UXリサーチャーの求人数が一年で73%下落 UXデザイナーの求人数が一年で73%下落 AIの影響でUX関連の仕事が無くなる? どうやら求人が減っているだけではなく、GoogleやMetaなどのビッグテックでもUX関連職のレイオフが進んでいるらしい。 一説にはAIの急激な普及により、多くの仕事が自動化され、人間が行う必要が亡くなった。UXデザイナーやリサーチャー職もその煽りを受けている。とされる。 でも本当にそうなのだろうか? いまさら聞けないジェネレーティブAIの基本【生成系AI vol.1】 UXデザイナーのニーズが減っているの本当の理由 こちらのグラフを見てほしい。 これはテクノロジー職全体の求人数の推移なのだが、お気づきだろうか?パンデミックのスタートした2020年初め頃に一度下がった後に、2021年、2022年と急激に増えている。 これは恐らく、当初は景気が大幅に後退すると予測し、レイオフを進めたが、意外とどうにかなりそうだということと、新しいニーズに対するサービス需要、そしてスタートアップへの投資が盛んになったのが原因だろう。 その後、金利の上昇などもあり、景気後退とスタートアップへの投資が急激に冷え込んだことが原因でテクノロジー関連の求人も減った。 ある意味、2022-2023の一年がプチテクノロジーバブルだったわけだ。 コロナの影響でアメリカのスタートアップではどのくらいレイオフが進んでいるのか 実はUXリサーチャーのニーズは爆上がり中 そう、短期間で見れば急激にUX関連の仕事がなくなっているように見えるかもしれない。しかし、5-10年スパンで見るとかなり増えている。というか激増している。 実際のところ、2018年と比べても、UXデザイナーの求人は23%増えているし、UXリサーチャーに至っては53%増加しているのだ。 急激に下がったように見えたのは、2023年の “UXバブル” が起こったのが原因だと考えらえる。 今後はAIを活用したUXデザイナーが活躍する 恐らくAIによってUXデザイナーが消滅するわけではない。 ただ、他の職種と同様に、AIを仕事を活用していないUXデザイナーは、活用している人たちに仕事が奪われる可能性はかなり高いだろう。 特に様々なプロダクトにAIが本格的に実装され始める2024年においては、AIどりぶんなプロダクトのユーザー体験を設計するUXデザイナーや、どんなテクノロジーを活用したら良いのかのインサイトを集められるUXリサーチャーのニーズがどんどん高まっていくと予想される。 かつてグラフィックデザイナーやWebデザイナーがUIデザイナー、UXデザイナーに変換していったように、AIの普及により、これから我々もまだ見ぬ新たなデザイナー職が生み出される過渡期なのかもしれない。 UXデザイナーとは?仕事内容、求められるスキル、活躍するデザイナーとは

CES 2024 ガイド: 世界最大のテックカンファレンスの基本情報と見どころ7選

毎年メディア枠で参加している世界最大のテックカンファレンス、CES。今後のテクノロジートレンドを把握し、より良いプロダクト作りに繋げるためにはかなり重要な機会となる。 しかし、現場での発表や展示エリアが東京ドーム4個分と膨大すぎて何から見て良いかわからくなりがち。そして近年のテクノロジー進化も著しい。そこで、CES 2024で注目したい10のテクノロジーと、見どころを7つまとめてみた。 CES 2024の基本情報 開催時期: 2024年1月9-12日 (Media Dayは7, 8日) 開催場所: ラスベガスコンベンションセンター、Venetian Expo. Venetian, Aria, Bandaley Bay等 出店社数: 3,500以上 (見込) 来場者数: 13万人以上 (見込) 公式サイト: https://www.ces.tech/ イベント・展示エリア CESでは、LVCCだけではなく、ストリップと呼ばれるラスベガスの中心エリアに複数のイベント・展示エリアを設置する。それらは大きく分けて3のエリアに分布し、それぞれのエリアの複数の建物の中で開催される。 Tech East: Las Vegas Convention and World Trade Center (LVCC) Westgate Las Vegas Renaissance Las Vegas Tech West: Venetian Expo The Venetian The Palazzo Wynn Las Vegas Encore at Wynn Tech South: ARIA Cosmopolitan Park MGM Vdara Mandaley Bay (Media Day) 時間節約のコツ3選 これだけ膨大なエリアを回らなければならないので、時間がいくらあっても足りない。なので本題に入る前に時間を節約するためのコツ3つほど紹介する。 1. スケジュール管理は公式アプリで まずはどこに行ってどの展示やセッションを見るかを事前に決めておくのが良い。というのも、現地に到着してからだとあまりにもバタバタしすぎてて、それどころでは無いから。 ここで問題になるのが、同じ時間に複数のセッション・展示が同時に行われていおり、それも前後の予定の場所とかなり離れている可能性もあるということ。 一つずつのセッションをWebで確認して、カレンダーに入れていくのは気が遠くなるレベルの作業になる。 ここで便利なのが、公式アプリ CES App。こちらをダウンロードしてログインすれば、日時に合わせたスケジュールが表示され、”Add to Agenda” をタップしておくだけで、 事前に、そして自動的にスケジュールが生成される。 2. 入場バッジのピックアップは空港で イベント会場に到着してまず最初の難関は入場バッジの引き換えプロセスだろう。事前にメールやアプリ経由で受け取ったQRコードを紙の入場バッジに変えるのだが、かなりの列になっていることが多い。 そこで便利になるのが、空港に設置された引換所だ。 飛行機を降りて荷物を受け取るエリアの駐車用に近い側、エスカレーター横に設置されており、フライトごとに到着時間が異なるので、大きな混雑になることが少ない。 また、開催日の前日や、結構夜遅くまで開いているので、かなり便利で時間の短縮につながる。 3. LVCCの建物間移動は無料のTeslaタクシー (Vegas LOOP) で イベントの会場が複数の建物に点在しているため、建物間の移動だけでもかなりの時間を要する。また、タクシーやUberなどのライドシェアを捕まえようとも、なかなか時間がかかってしまう。 加えて、交通渋滞も予想されるので、予定していたセッションに間に合わないケースが多発する。 それを解決してくれるのが、通称 Teslaタクシーと呼ばれるVegas LOOPだ。これは3つあるLVCC間をトンネルを通じてつないだルートをスムーズに移動してくれる便利な乗り物。それも完全無料!事前予約も要らないし、待ち時間もほぼ無い、かなり画期的な移動手段である。 CES 2024で注目したいテクノロジーセッション CESでは、テクノロジーのさまざまな分野を議論する幅広いセッション複数ある。 ざっと考えても、デジタルヘルス、AI、サステナビリティ、ゲーム、自動車テクノロジー、サイバーセキュリティ、フィンテック、さらには宇宙テクノロジーなどが含まれる。 そんな中でも、今回特に注目したいセッションはこちら。 CES 2024の注目セッションの一部をご紹介: デジタルヘルス: テクノロジーがヘルスケアをどのように変革しているか、デジタルヘルスの最新動向、そして未来予測 生成AI: AIがどのように新しいコンテンツ、デザイン、ソリューションを様々な業界に生み出しているか サステナビリティ: […]

デザインの力でケチャップ詐称を見抜け!ハインツのキャンペーンが面白い

アメリカの大手ケチャップブランドのハインツ。そのクラシックなボトルの形が印象的で、世界中のファーストフード店に置かれている。 ただ、オリジナルの瓶ボトルはその使い勝手の悪さから、UIとしては素晴らしいけど、UXが最悪との評判で、最近は上下逆さにしたプラスチック製のボトルが主流になってきている。 ボトルの中身を詐称するケースが多発 そんなケチャップの代名詞とも言えるハインツだが、一つ大きな課題を抱えている。レストランやファーストフード店にてそのボトルに中身をより安価な他社メーカーのケチャップを入れ替えている疑いだ。 これを彼らは Ketchup Fraud (ケチャップ詐称) と呼ぶ。 最近ではそれを逆手に取ったキャンペーンを展開し、話題を集めいている。 これは “’Even when it isn’t Heinz, it has to be Heinz’ ” (ハインツじゃなくても、ハインツじゃなきゃダメなんだ) と呼ばれる広告キャンペーンで、レストランの厨房でこっそりボトルの中身を入れ替える写真や動画を見せ、より “本物感” を演出。 デザインの力を活用してケチャップ詐称を防ぐキャンペーンを展開 そんなケチャップ詐称に対応するべく、ハインツ社は世界共通の色見本帳を提供するPANTONE社とパートナーシップを組み、公式のケチャップ色 = Heinz Redを制定した。 そしてその色をケチャップボトルのラベルに印刷することで、内容物との相違を目視で可能にし、本物を識別できるようにした。 トルコのレストラン500店舗以上で展開 この “Is that Heinz” と呼ばれるキャンペーンは、大手広告代理店のWunderman Thompsonによってトルコ国内のレストラン500店舗以上で展開された。 ハインツのボトルに入っているケチャップとラベルの色との違いで、Heinz, Not Heinz, Still not heinz, Is that even ketchup? と表記されたクリエイティブと、動画を作成。 ハインツの本物感を演出する結果に このキャンペーンは、合計10万回以上シェアされ、同ブランドの知名度をアップさせただけでなく、ハインツ以外は偽物 = ハインツだけが本物であるイメージ構築に貢献した。 デザインがユーザーの課題の解決と、ブランド構築の両方を上手に達成した好例と言える。 「Is that Heinz」のキャンペーン動画

デザインの未来はどうなるのか?〜Btrax Design Dayに懸ける想い〜

WeWorkの倒産やIDEOの日本撤退など、近年、私たちデザイナーやスタートアップを取り巻く環境は大きく変化している。 2010年代に大流行した「シリコンバレー×デザイン」を中心としたデザインとスタートアップのブームは、日本企業のデザイン思考への関心を高めたり、自由なワークスタイルの許容を広げたりするなど、ある種の漠然とした憧れを抱かせることには成功したと言える。 デザインに対する過度な期待値 振り返ると、当時はデザインへの期待が過熱気味で 「デザイン思考を会得すればイノベーションが生まれる」と考える向きも多かった。 しかしその熱狂は裏付けとなる具体的成果を十分に生み出せず「やってる感」の域を出なかったプロジェクトも少なくなかった。 デザイン思考を学んだり、デザイナーの真似事をするだけでは、具体的な結果につながりにくいのも事実。我々もデザイン会社としてその誤解を解き、より正しい理解を広げるための情報を配信したり、定期的にデザインに関するイベントを開催している。 デザインをとりまく環境変化に影響した5つの要因 この短期間でデザインを取り巻く環境が激変した背景には、複数の要因が絡み合っていると考えられる。主な5つの要因は次の通り。 1. ワークスタイルの変化 ここ数年間で最も大きな出来事といえば、世界的なパンデミックの拡大と、それに伴うリモートワークの普及だろう。対面を大好きな日本企業文化ですら、現在ではオンラインミーティングや、リモートワークが一般的である。 それまで「仕事」といえば社員がオフィスに出社するのが常識だった。それがモバイルデバイスの普及やクラウドツールの充実で、シリコンバレー型のコワーキングスペースが普及し、社内外コラボも加速した。WeWorkの台頭がそれを象徴している。 しかし、新型コロナウィルスの拡大で、今度は人と人が対面で会うことすらない状態での働き方が広がる。これは時間短縮や効率向上、フレキシビリティー的にはかなり有利だろう。 その一方で、雑談っぽいディスカッションから面白いアイディアを出したり、スケッチやホワイトボードなどでニュアンスを伝えるのにはかなり不向きになる。 特に新規事業作りやサービスデザインのプロセスでは、人と人が相手の温度を感じながら新らしいモノを生み出すプロセスが不可欠で、完全リモートになってしまった場合、「デザイン」をする方法が大きな課題となる。 2. “やってる感” の限界 シリコンバレーに拠点を置く日本企業は多い。その主な目的は “情報収集” と “新規事業づくり” だ。これは一見すると具体的に何をしているのかが理解されにくい。もしくは、本当に何もしていないのかもしれない。 多くの企業はシリコンバレー地域のコワーキングやアクセレレーターにメンバー登録をし、スタートアップを紹介してもらったり、VCに資金を預け、スタートアップとのコラボを期待する。しかし、多くのスタートアップは大企業とのコラボに興味がなく、その思惑は実現しないことが多い。 拠点を構えていない場合でも視察で訪れる企業も多く、オフィスの写真を撮って満足して帰って行かれる。 そのような活動がどのような結果に繋がったのか?その答えは、現時点ではかなり厳しいものだと言える。 だからこそ、短期間では周りや本社からはどうしても “やってる感” の演出にしか捉えられず、そろそろ売り上げにつながる具体的な結果を提示しないと、肩身が狭くなってくる。 そこで重要になってくるのが、新規事業作りにおけるデザインの重要性なのだが、デザイン思考を学ぶだけでは、やはりこの “やってる感” 以上の結果を生み出すことは容易ではない。思考だけではなく、実践が伴ってはじめて「本当の結果」につながることになる。 3. ユニコーンブームの終焉 ここ数年でスタートアップを取り巻く状況も一変した。その一つがユニコーンブームの終焉だろう。 ユニコーン企業というのは、未上場で評価額が10億ドル以上の企業を指す。上場前のUberやAirbnb, 最近だとOpenAIやSpaceXが該当する。数年前まではユニコーン企業になることが、スタートアップのステータスであり、成功のひとつのバロメーターであった。 しかし、そこには大きな落とし穴があった。評価額の概念が結構曖昧で、業界ブームで実態とかけ離れた高額評価がなされることも多い。冒頭のWeWorkも上場前の2019年時点での評価額は470億ドルにまで膨れ上がっていた。 同様に当時は実態が伴わないスタートアップでもユニコーンになる例が多かった。しかしその結果、AllbirdsやBirdといった新興企業は上場後株安に見舞われている。 そんなこともあり、世界の投資家たちは “ユニコーンであること” よりも、より堅実に売上を上げられるスタートアップに注目をシフトさせており、ユニコーンを目標にしているスタートアップも減少気味だ。そもそも、ユニコーンを目指すこと自体が少し時代遅れな響きさえある。 これは、デザインの側面から見ても大きな変化が求められる。 今までのようにユーザーニーズに対して最適な体験を設計するだけの仕事から、よりビジネス面でも結果の出せるプロダクト作りが求められる時代に入ったことを示している。 4. インフレと円安 ここ数年で一つ大きく変化したもの、それがインフレと円安の状況だ。 この世界経済を取り巻く環境変化は一見デザインにあまり関係ないように思われる。しかし、さまざまな影響がある。 まずポジティブな面。 円安は日本の製品が国外で価格競争力を持つことを意味する。そのため、海外での需要が増加すれば、日本製のプロダクトをより多くの海外ユーザーに使ってもらえる機会が生まれ、そこにおけるデザインの重要性が高まる。 一方でコスト上昇により、プロジェクト予算を圧迫されたり、消費低迷でデザイン需要そのものが変動したりするリスクもある。 人件費も上昇するため、海外からのデザイン人材の獲得の難易度は上がる。これまでのようにカジュアルに海外出張に行くのも難しくなっている。 今後は為替や経済の変動に対する適切な戦略や柔軟性を持つことが、デザイン業界においても重要になってくる。 5. AIの進化 そしてデザインに対する最も大きなインパクトがAIの進化だろう。 人工知能をはじめとする新しいテクノロジーが急速に台頭しており、デザイナーが手作業で行っていた業務の自動化が進んでいる。 例えば、UIデザイン領域では、FigmaやAdobe XDなどのツールがコンポーネント設計やスタイルガイドの自動反映といった機能を持ち、効率化を支援している。 一方で、DALL-EやMidjourneyなどの画像生成AIは、イメージ製作そのものを自動で行えるようになりつつある。この先数年でデザイナーの役割はこうしたツールの管理・活用を中心に移行していく可能性が高い。 これにより、近いうちにデザイナーの仕事内容やデザイン会社の役割が大きくシフトすることが予想される。 具体的にはデザインのアウトプット作業は今後人間が行うことは随分と減るだろう。これはまるで、そろばんを使いこなして計算してきた時代から、電卓で数字を叩き出す時代へ変化するようなものだ。 電卓が発明された後も経理や会計の仕事は残っているし、むしろ需要が高まっている。一方で「計算をすること」自体には価値がなく、それを利用して「どのような価値を生み出すか」に焦点が当てられる。 同じく「デザインをすること」自体の価値はこれからどんどん低下する。言い換えると、デザイン作業のコモディティ化が進む。 その一方で、デザインによって生み出されるビジネス的、そして社会的価値は今度より拡大するのは間違いない。 アウトプットする作業に費やしていた時間やエネルギーを今後はより目標に直結したデザインワークに向けることが可能になるだろう。 これからのデザインの未来はどうなるのか このような時代の変革期において、今後デザインの価値とその役割はどのように進んでいくのだろうか? そんなデザインの未来に関しては、来週12月6日のイベント「Btrax Design Day」にて下記のトピックを含むセッションを通じてお届けする。 1. キーノートスピーチ:Design for the Next Generation AI, インフレ, 円安など、近年稀に見る環境変化においてデザインはどのような価値を提供できるのだろうか?btraxのCEOがグローバル視点で社会と企業にとってより重要になるデザインの役割を具体的にご説明する。 2. 若者に愛されるブランドとは? アメリカと日本のZ世代の本音 生まれながらにテクノロジーやデジタルの世界に囲まれ、これまでの時代とは異なる価値観を持つ若者は今、何を考え、どう暮らしているのか?若者に愛されるブランドや企業とはどのようなものなのか。日本とアメリカのZ世代の生の声を聞きながら、リアルな価値観を紐解く。 3. BtoBレガシー企業が世界に仕掛ける、新たなブランドデザイン オリジナルアニメプロジェクトの本格始動を発表したYanmar。日本の伝統あるBtoB企業が今なぜ、ブランディングに力を入れているのだろうか?キャラクター・IPを活用した新しいブランドデザインの実例から、グローバルなブランド力を高めるために日本企業が活用できるアセットや、認知向上に留まらないブランドデザインの価値を考える。 4. ミニワークショップ 「Playable」をテーマに、アクティビティワークショップを実施。btraxのデザイン思考研修などで実践している内容をアレンジし、“本気で遊ぶ” ようにワクワクしながら仕事に取り組む状態を作るアクティビティを体感いただける。詳細は当日のお楽しみに! 5. AIと人間が共創する新時代のデザイン 生成系AIの登場により、デザインに求められる役割が変わりつつあることは先述の通りだ。生成系AIは、ビジネスやデザインの世界をどう変えたのか?今まさに世界中で法律や倫理面のリスクも論じられている中で、今後どのようにAIと共存していくべきなのだろうか? 6. アメリカ企業が語る、デザインドリブンなカルチャーの真髄とは 「カルチャー変革が急務」と言われる一方で、その価値や意味を理解しないままの取り組みが多いのも事実。実は、変革の鍵は、未来のユーザーに焦点を当てるデザインドリブンなカルチャーにある。デザインドリブンな経営を実践するアメリカ企業の生の声を聞きながら、サービスや意思決定、組織づくりにどのようにデザインの考え方を取り入れているのか、そのヒントを探る。 7. マイノリティ視点がイノベーションを起こす:インクルーシブデザインの力 新しいイノベーションの種として、これまで製品開発のターゲットから除外されがちだった多様な背景を持つ人たちの視点から新たな課題を見つける「インクルーシブデザイン」が注目されている。アメリカのIT企業で関心が高まる「ニューロダイバーシティ」などを切り口に、社会課題を解決するプロダクト創出の手法についてパネルディスカッションを行う。 8. ネットワーキングパーティー カンファレンスの後は、ご参加の皆さまや登壇者の方々、btraxメンバーと交流いただける時間も。ドリンクを片手に軽食をつまみながら、イベントの振り返りやアイディアの交換、新たなビジネスの可能性について語り合いましょう! またこのイベントに来ていただいた方には、btrax初の書籍である「発想から実践まで デザインの思考法図鑑」を筆者サイン入りで贈呈 (学割チケットを除く)。イベント詳細及びチケット購入は公式サイトより。

デザイナーをマネージするのが難しい3つの理由

デザイン会社を経営していて定期的に思うことがある。 「デザイナーってマネージしにくい」 おそらく共感する人もいると思う。というのも、似たような立場の友人も同じ感想を言っていたから。 でもこれ、必ずしもデザイナー自身だけの問題ではない。その職種の特性上の課題もあったりして、なかなか難易度の高い仕組みが求められたりするのもその理由。 【改めて基本を解説】デザイナーの役割とその仕事内容とは デザイナーをマネージするのが難しい3つの理由 デザイナーのマネージって難しいな?って感じる理由はおそらく3つある気がする。 その3つを紹介し、それぞれの解説もする。 結果測定の難しさ エゴイスティックな性格 評価制度の複雑さ 1. 結果測定の難しさ まず最初の理由は、その特性上、仕事の結果を測るのが難しいから。 マネージャーの仕事の一つは、スタッフの仕事の内容を測定して評価すること。 これが営業だったら売り上げだったり、マーケティングだったらPVだったりコンバージョン率だったりと、何かと数字で結果を測定することができる。 しかし、デザイナーの仕事の結果がよかったのか、それとも微妙だったのかを客観的に誰もが納得する形で行うのはかなり難しい。 というのも「何が正しいデザインなのか?」の問いはその時々でかなり変化するから。 そして厄介なことに、デザイナーは自己評価と会社からの評価、クライアントからの評価、そしてそのデザインが生み出す最終的な結果が乖離することも多い職種である。 そうなってくるとかなりギクシャクしてしまう。 例えば、デザイナー自身が良いと思って作ったデザインに対して上司がダメ出しをする。 それに合わせて作り直したデザインをクライアントに提出。でも、クライアントは気に入らず、変更を依頼。その内容が元々デザインしたものだった。 この場合、そのデザイナーは良い結果を出したことになるのか?実はそこで終わらない。 そのデザインを世の中にリリースして、そこから生まれた結果こそがデザインの本当の結果となるだろう。 ということは、デザインの本当の結果を測定するにはかなりの時間がかかるし、これがブランティング系のプロジェクトだった場合は、より結果測定の難易度が上がる。 ブランド価値の効果測定方法 〜2つのデータ活用法〜 2. エゴイスティックな性格 次は「デザイナー」と呼ばれる人たちの気質が原因。 全員が全員そうであると断言するつもりはない。しかし自分の経験則からしても、デザイナーは他職種の人達と比べても、相対的にエゴが強い人が多い傾向にあると思っている。 もちろんその仕事上、個性が強くなければいけないし、ある程度は自己主張をしていかなければ自分のアイディアを通すことができないことも事実だ。 よくあるパターンは、上司やクライアントがデザイナーにダメ出しをした際に、デザイナーが「いや、これは俺のこだわりなので変えたくないです」というようなことを言い出すこと。 そうなってくると、どちらが正しいかの証明は難しく、言い合いになったり、その場の空気が悪くなることも。 そしてそれが拗れると人間関係にも影響が出たり、現場の雰囲気が険悪になってしまったりするリスクがある。 では、自己主張がなければよいのかというとそうではない。自分の頭で考えずに、言ったことしかやらないオペレーターに成り下がってしまう。 言われた通りにデザインをするのは簡単だが、それでは良いデザインは生み出されない。 このように考えていくと、正とされる答えがないなかなか難しい問題だ。 優れたデザイナーは自分で主張すべき局面と、相手のリクエストに柔軟に対応すべきタイミングを見分けるのが上手い。 もはやデザイナーは職種ではなくマインドセット 〜デザイナーのマインドセットとは〜 3. 評価制度の複雑さ そして最後は、デザイナーの評価制度の設計の難しさである。 デザイナーの役割が多種多様になっている現代において、全てを網羅して、誰が見てもフェアな人事評価制度を作るのはかなり至難の業なのだ。 そう、「デザイナー」と言っても、デザインリサーチャーから、UIデザイナー、UXデザイナー、サービスデザイナー、インタラクションデザイナーなどなど、多岐にわたるデザイン領域があるため、一つの評価制度だけを全ての職種に当てはめることはできない。 では、どのような評価基準で人事システムを設計すればよいのだろうか? 恐らく全デザイナーに求められる「必須科目」とそれぞれの職種ごとに異なる「オプション科目」の混合で評価できる仕組みが必要になると考えている。 例えば、プレゼンスキルとコミュニケーションスキルと、ユーザー理解は全てのデザイナーに必要な能力。 それに加え、職種に応じてビジュアルのデザインやモーショングラフィック、ペルソナ設計やインタラクション設計などの個別スキルを基準に入れていくとよいだろう。 例えば、このようなスキルマトリックスを用いてそれぞれの項目におけるレベルを測る方法も効果的だ。 そして実はデザイナーにとって重要なスキルの多くが「非デザインスキル」だったりもする。 「良いデザイナー」と「優れたデザイナー」を分けるのは、デザインスキル自体だけでなく、それ以外のソフトスキルなのだ。 その辺りもデザイナーの評価システムに入れると、より死角の少ないシステムになるだろう。 プロのデザイナーとして活躍するために必要な8つの非デザインスキル この続きは12月6日に開催されるイベントで こんな感じで、やっぱデザイナーをマネージするのは難しい。 実際の現場で実際にどんな感じでマネージしたり、されたりしているかの実例は、来月12月6日に東京で開催されれるイベント「Btrax Design Day」で登壇するChris Otaによって説明してもらう予定だ。 Chrisはサンフランシスコのライドシェアスタートアップ、Lyftで働くデザイナー。 LyftはUberのライバル的存在であるが、そのデザイン性の高さと、デザイナーを中心とした企業カルチャーで差別化を図っている。 イベント詳細やチケット購入はこちらから。 こちらの内容に関するポッドキャスト

デザインとは何か?その4つの役割とは

「デザインとは何か?」 これはデザイナーにとっても、それ以外の人々にとっても永遠の問い。 人によって「デザイン」の概念が異なり、それが理由でミス・コミュニケーションがやちょっとした争いすら発生する原因にもなっているからだ。 同じく現代の「デザイナー」と呼ばれる人たちの役割も多種多様で、一言で表現するのはかなり難しい。 そして「デザイン」の担う領域がどんどん広がっている現代において「デザインとは?」という問いは、例えば「言葉とは何か?」といった問いに近いレベルだ。 英語のdesign, Design, DESIGN その違いを知っていますか? 結局デザインとは何なのか? さて、本題に戻ろう。 デザインとは何であるか?これを言い換えると「デザインの役割とは?」である。 人生をデザインに捧げてきた人間として自分なりにその答えをここに表記する。間違っているかもしれないが…。 大きく分けてデザインの役割は4つある。 デザインの役割: 可視化 課題解決 導き シンプル化 【デザインの役割1: 可視化】 デザインは思考の可視化である – ソール・バス おそらく「デザイン」と聞いて最も多くの人たちが想像するのがこの役割。 絵を描いたり色を塗ったり、いわゆる「装飾」的な役割としてのデザイン。 現代では時代遅れと思われがちな役割であるが、これもデザインの最も重要な定義のひとつ。 ここで重要になってくるのは、ではデザインは一体 “何” を可視化するのか? いくつかあるので紹介しよう。 デザインが可視化するもの – 情報 みなさんの日常に最も馴染みのあるデザインが可視化するもの。それは情報である。 世の中はさまざまな情報で溢れているが、それをより人間が直感的にわかりやすく表示するのがデザインの役割の一つ。 例えばこの画像のように、左の表から右のグラフに変換するだけでもかなり理解しやすくなる。結果として、より直感的に理解できるようになり、コミュニケーションに必要とされる時間の短縮にもつながっていく。 デザインが可視化するもの – アイディア 次にデザインが可視化するのはアイディア。 ビジネスのプレゼンやスタートアップのピッチをする際に利用するスライドやデモ動画などがその例だろう。 一人の頭の中にだけあるアイディアを言葉以上にわかりやすい形で可視化することで、その価値が伝わりやすくなる。 そして価値が認められることで、周りの人々を巻き込んだり、予算を獲得したり、投資を受けやすくなったりするメリットがある。 デザインが可視化するもの – ブランド デザイナーの役割の一つとして、ロゴやアイデンティティのデザインがある。これは、その企業やサービスなどのビジョンの可視化に他ならない。 世の中に対し、その存在価値をより視覚的にわかりやすく表現することにより、一目で認識しやすくするのがロゴの役割だ。 したがって「ロゴデザイン = ビジョンの可視化」である。 デザインが可視化するもの – 体験 デザインの役割のひとつが「目に見えないものの可視化」だとするならば「体験」も可視化するとより伝わるようになる。 そもそも体験の可視化なんて可能なの?と思うかもれしれないが、実は既にかなりさまざまなシーンでされている。 その代表的な例が広告。 テレビやウェブ、そして街角のビルボードまで、多くの広告は商品の紹介以上に、そこから得られる体験の可視化を通じたコミュニケーションこそが最も需要な役割である。 デザインをする際に利用するタイポグラフィ、色や形、レイアウト、スペースといった表層は、単なるビジュアルの要素でなく、人間の感情や心理的な影響を持ち、体験そのものの印象を形作る重要な要素なのである。 優れたデザインを通じることで、ビジュアルの要素が整合性を持って設計され、ユーザーの感情や認知に働きかけることで、より効果的なコミュニケーションが可能になる。 【デザインの役割2: 課題解決】 デザインは問題解決のプロセスであり、美しい解の追求である。 – ドン・ノーマン 次のデザインの役割、それは課題の解決。 自分も以前より「デザインの定義って何ですか?」って聞かれた際には、ほぼ毎回「課題を解決するための最も効率的なプロセス」と答えていた。 特に21世紀に入ってから注目されているデザインのフィールド、例えばデザイン思考やUXデザインにおいては、その目的がユーザーの課題解決に定められることが多い。 そして、現代の世の中にある多くのプロダクトは、消費者やユーザーの課題を解決するために生み出されたものである。 では実際にデザインが課題を解決した例をいくつか紹介する。必ずしも デザイン “だけ” で解決したわけではないが、デザインが課題解決という重要な役割の一端を担っていることをお伝えしたい。 デザインが課題解決した例: トースター レトロなタイプのトースター。その見た目も、焼けた時にポンッとパンが飛び出す感じもとても可愛い。 実はこのデザイン、とある課題を解決している。 それは、焼き過ぎを防ぐことと焼けたことを知らせること。 焼けた時にパンが飛び出してくれないといつ焼けたのかが分からないし、そのまま放置すると焦げてしまう。 それに対して飛び出すデザインにしたことで、その二つの課題をしっかりと解決している。 デザインが課題解決した例: カスタネット もうひとつ課題を色によってその課題を解決したプロダクトがある。 きっとみなさんの多くが触れたことがあるであろうカスタネット。 多くの場合、赤と青の2色で構成されている。実はその理由は、男子でも女子でも使えるようにするため。 もともとこれがデザインされた当時は、男の子向けには青、女の子向けには赤、というように性別で色が定められていた。 しかし、クラスによって男女比率が異なるケースがあることで、どちらかの数が足りない状態が頻発していた。そこで、両方の色を合わせて一つにすることで、誰でも使えるようにデザインにしたというもの。 デザインが課題解決した例: スタッキングできる椅子 複数の椅子を重ねて収納できるデザインも、省スペースによって課題解決をした例。 日本の小学校でも授業が終わった後に椅子を重ねて教室の後ろに置くことで掃除をしたりする。 当たり前のように思われがちだが、重ねられる椅子もしっかりとデザインとして工夫が施されているからこその機能である。 【デザインの役割3: 導き】 “デザイン” は見た目のことではなく“どう機能するか” だ – スティーブ・ジョブズ 以前にSNS上で “デザインの敗北” というキーワードがバズったことがある。 施したデザインがユーザーに対して有用な結果を生み出していなかったことから、「役割を果たしていない = 敗北した状態」と言われていた。 その例のひとつがこの公衆トイレのサイネージ。 性別を想起させる典型的なデザインをあえて排除した造形を採用している。おそらく性差別的な表現を避けるためのインクルーシブなデザインを目指したのだろう。 でも、これだと男性用と女性用の識別が難しく、かえってユーザーが混乱してしまう。 それに対応すべく、下の部分に手書きで「男性」「女性」が記載されたテープが後付けて貼らレルという誠に残念な応急処理がなされている。 […]

著名10ブランドのハロウィーンキャンペーン

アメリカは10月の下旬に入ると街がハロウィーン一色になってくる。それに合わせ各ブランドもハロウィーンにちなんだキャンペーンを行う。 その特性上、少し怖くて少し可愛らしいビジュアルを活用したものが多く、毎年見てて楽しくなる。ということで、今回は10の署名ブランドがこれまでに行ったハロウィーンにちなんだ広告キャンペーンを紹介する。 今回紹介するブランドは: マクドナルド ハイネケン ギネス コーラ vs ペプシ メルセデス vs BMW Oreo Ikea Jeep マクドナルド ハロウィーンキャンペーンと聞いて真っ先に思いつくのがマクドナルド。 毎年ちょっとした遊び心があり、シンプルながらも印象に残るビジュアルを作成している。 ハイネケン マクドナルドと同じレベルで毎年ハロウィーンキャンペーンに力を入れているのがビールブランドのハイネケン。 かなりリアルな写真とグラフィックを活用してホラー演出をしている広告が面白い。 ギネス こちらもビールブランドのギネス。 黒ビールの代名詞である同ブランドは、ビールの”泡”を使った表現をしている。 コーラ vs ペプシ 何かとライバル関係になりがちなコーラとペプシだが、ハロウィーンキャンペーンでもちょっとしたライバル合戦が勃発した。 まずペプシが左の写真の広告を掲載。キャッチコピーは “We wish you a scary Halloween!”. それに対して今度はコーラの方が同じ写真を使って “Everybody wants to be a hero!” と表記した広告で応対した。 この “プロレス” 状態のキャンペーンは大きな注目を集め、お互いにとってポジティブな結果となった。 メルセデス vs BMW もう一つのライバルブランドがメルセデスとBMW. 様々な場所で対戦が見られるこの二つだが、以前にハロウィーンにも一悶着あった。 まずBMWが同社USAのSNSアカウントに左のようなベンツがBMWの被り物を被った写真と “Now every car can dress up as its favorite superhiro (みんな憧れのヒーローのコスプレができます) のコメントをポスト。 それに対して今度はベンツの方が似たような写真に “Behind the cover, there is only one here. (カバーの下には本物のヒーローがいます) と表記した広告で対抗した。 見ている側からするとかなり楽しいバトルになった。 Oreo クッキーブランドのOreoも毎年ハロウィーンの時期にクリエイティブなキャンペーンを行っている。 キャッチコピーが “Milk’s favorite cookie” なだけに、下記のようにミルクとクッキーだけで満月や牙などのハロウィーンにちなんだクリエイティブ表現をしている。 IKEA これはIKEAが2020年に行ったシルエットキャンペーン。商品の家具を工夫して少しおばけっぽいシルエットを演出。 通常のカタログに近いレイアウトながらも上手にハロウィーン感を出している。 Jeep 自動車ブランドのJeepは、その特徴的なフロントグリルを活用し、かわいいイラストベースのハロウィーン広告を作成。 いつもはオフロード感満載のブランドイメージだが、ハロウィーンの時だけは親しみやすいイメージを打ち出した。 まとめ 今回は8社のハロウィーンキャンペーンをご紹介した。 ブランドイメージを保ちながらも遊び心のあるクリエイティブを使用したキャンペーンや、あえてライバル社と同じクリエイティブを使用してキャッチコピーで応戦する形で話題を集めるキャンペーンなど、思わずクスッとするものも多かったのではないだろうか。 2023年のハロウィンキャンペーンにも注目したい。 btraxは各社のブランド価値の定義と言語化から、ブランドストーリーとブランド体験の設計、ブランド認知拡大のためのクリエイティブ企画・実行をサポートしている。 弊社のサービス内容にご興味をお持ちの方は、ぜひお気軽にお問合せを。

デザイナーなら知っておきたい11の錯視と調整方法

最近はデザインの範囲がかなり広がり、デザイン思考や、UXデザイン、そしてサービスデザインなど「見た目」だけではないデザイン領域が注目されている。 それと同時に「デザイナー」と呼ばれる人の中で基本的なビジュアルデザインに関する知識が乏しい人も少なくはなくなってきた。 しかし、いかなるデザインフィールドであったとしてもデザインの基礎知識が重要であることには変わりない。 英語のdesign, Design, DESIGN その違いを知っていますか? そこで今回はヴィジュアルデザインの細部に関する視覚的錯覚 = 錯視に関しての11のポイントを紹介したい。 一流デザイナーはみんな知っている”錯視調整” 「神は細部に宿る」と言われる通り、”良いデザイナー”と”素晴らしいデザイナー”を分けるポイントの一つに、細かい部分の作り込みが挙げられる。 デザインソフトを使って自動調整しても何故かしっくりこない時がある。それは、視覚的錯覚が理由。 ヴィジュアルデザインにおいては、いわゆる錯視と呼ばれる状態が頻繁に発生するのだ。ここで紹介されている錯視を考慮し、微調整を施せるようになれば、デザイナーとしてのスキルレベルが一つ上がるだろう。 三角形二等分錯視 垂直水平錯視 マッハバンド ヘリング錯視 ハーマングリッド 同時コントラスト錯視 ムンカー・ホワイト錯視 ウォーターカラーイリュージョン ジャストロー錯視 コーンスウィート錯視 ミュラーリヤー錯視 おまけ: Google ロゴに隠された微調整 1. 三角形二等分錯視 まずは小学校の算数の時間に出てきそうな名前の錯視から紹介しよう。 ロゴやアイコンにおいて複雑な幾何学的形状や奇妙な比率のものは視覚的錯覚を起こしやすい。特に三角形のオブジェクトを使ってデザインをする際には注意が必要だ。 機械的に左右対称にしたり、完璧にアラインを取ったと思っても、何故かしっくりこないことがある。そんな時にはマニュアル作業での介入が必要になる。 具体的な例を説明しよう。 三角形を曲線や直線のコンテナ内に置くと、要素が視覚的に”ズレて”見えることがある。これは「三角形二等分錯視」と呼ばれる効果が原因。 YouTubeのアイコンが良い例だろう。 三角形二等分錯視が生まれる原因 三角形の質量の中心は最小外接矩形に基づいて計算される。したがって、正三角形の高さのちょうど半分の場所に点を置くと、視覚的にはるかに半分より上にあるように見えるのだ。 この錯視が発生するのは下記の2つの原因があるとされている。 三角形特有の「底辺」の存在によるスケーリング:三角形は、1つの頂点が遠方にあり、底辺が手前にあるように知覚されることがあるため 三角形特有の重心:中点を求めると人は上下の面積が等しいところを重心と置きがちだが、正三角形の重心は実際の中点よりも下にあるため 三角形を箱の中で中心に見せるには、三角形の重心を求める必要がある。重心とは各頂点から対辺中点への線が交わる点だ。 以下はそれを得るための計算式だ: と、こんなにも複雑な式になってしまうが、心配はいらない。 中心点は、各辺から対角の頂点への距離の1/3の位置にあることさえ理解していれば、三角形や他の図形にも応用することが可能。 それを踏まえて最終的な視覚調整をすれば、違和感の無いデザインを生み出すことができるだろう。 2. 垂直水平錯視 デザインの基本的な構成要素としてよく利用される正方形。実はこの正方形も視覚的な錯覚を生み出しやすい。 Figmaなどのデザインソフトで完璧な1:1の正方形を作成したはずが、パッと見違和感を感じることがある。垂直の辺が、水平の辺よりも長く見える感じがすることがあるだろう。 まるで少し縦長の長方形のような感じ。でも実際に測ってみると完璧な正方形だ。 この錯覚は垂直水平錯視と呼ばれている。 この錯視が面白いのは、異なるカルチャーや性別によっても微妙に異なって見えるところだ。 都市部に住む人々は、農村部に住む人々よりもこの錯視の影響を強く受ける傾向があるらしい。 都市部に住む人々の方が、農村部に住む人々よりもこの錯視の影響を強く受けることが知られている。これは、農村部の人々は平らな土地や平野部に住むことが多く、より距離の感覚に慣れているからだと考え得られている。 農村部の人々は丸い家に住んでいることが多く、図形の認識により慣れているからだとか。 3. マッハバンド UIデザインなどでは、同じ色味のオブジェクトを異なる濃淡で並べるデザイン手法がある。そうした際、それぞれのオブジェクトの間に陰影が見えることがある。 これはオーストリアの物理学者エルンスト・マッハが100年以上前に発見した錯視で “マッハバンド” と呼ばれる。実際には同じ色なのだが、横の色の影響で陰影が見える。 この錯視が発生する技術的な理由は “側方抑制” によるものである。これは、暗い部分はさらに暗く見え、明るい部分はさらに明るく見えるという錯覚。 側方抑制を簡単に説明すると、光を感知する視細胞が網膜の中に無数に存在(1億個程度と言われている)する中で、近隣する視細胞同士の活動を抑制的に作用させることで、境界線を際立たせて見えるようになることだ。(参照) マッハバンドはデザインの世界でも理解しておく必要があるが、実は歯科医にとって大きな障害となっているそうだ。 歯のX線撮影では、輝度の変化を分析するためにグレースケール画像が生成されるが、マッハバンドが正しく識別されないと、誤診断の要因となったりもしているためだ。 4. ヘリング錯視 画面をスクロールしている際に、非常に細い線が含まれるロゴや、微小な点が施された背景画像などが動いているように見えたことはないだろうか?もしくは、動画の中で表示されているテレビ画面の線が光って見えたりしたことがあるかもしれない。 これは、2つのグリッドパターンが重ね合わされた “ムアレ模様” を動かした時にそれ自体が動いて見える視覚的幻想である。 ムアレ模様自体は厳密には錯視ではなく、ヘリング錯視を引き起こすパターンである。 下記のSONOSのロゴの例は、ムアレ模様、ヘリングの錯視、視覚的な運動錯視を組み合わせている。この視覚的テクニックはオプ・アートの世界ではかなり一般的なものになっている。 5. ハーマングリッド SNSなどでも定期的にシェアされるタイプの画像。グリッドレイアウトに背景とのコントラストの高い正方形を並べると周囲の正方形の交点にあるはずのない”シミ”が見える錯視。 特に交差部分にランダムにドットを表示すると、表示されていないところに黒い影が見える。こちらも前述した側方抑制の影響によるものだ。 6. 同時コントラスト錯視 同じ色の2つのオブジェクトを、異なるコントラストの背景に置くと、その2つのオブジェクトが実際は異なる色であるかのように見える現象。 この現象は、ビジュアルデザインの世界では「同時コントラスト錯視」として知られる。どのように色が違って見えるかは人によって異なる場合がある。 この錯視がなぜ起こるのかについて確固たる理論は未だないが、側方抑制が理由の一つではないかと推測されている。 7. ムンカー・ホワイト錯視 下記のGIFを見ると、左の紫のブロックの方が右の紫のブロックよりも色が明るく見えるが、実際には両方のブロックは同じ色だ。ムンカー・ホワイト錯視の原因も側方抑制によるものと言われている。 8. ウォーターカラーイリュージョン 下記の長方形を見てもらいたい。外枠に囲われた内側の色は何だろうか。 例えば、赤枠の長方形。その内側の白色はほんのり赤みがかっているように見えるのではないだろうか。しかし、実際は真っ白なのだ。 この視覚現象は、ウォーターカラーイリュージョン (水彩錯視) と呼ばれ、有彩色2色を用いて図柄の輪郭を描くことで、内側の色が水彩絵の具で彩色したときのように滲んで感じられる錯視現象のことをいう。 上記のボタンに関しても同じ現象が起こっており、内側の白い部分にうっすらと外枠の色が滲み出てるように見える場合がある。 9. ジャストロー錯視 これは皆さんにも馴染みのある錯覚かもしれない。同じ大きさの2つのかまぼこ形を並べると、弧の中心の側に置いた図形がより大きく見える現象。 なぜかまぼこ形を二つ並べるとサイズが異なると知覚するのか、実は決定的なロジックは解明されていない。 一説によると大きな半径と小さな半径の違いに脳が混乱するからだと言われている。つまり、短い側が長い側をさらに長く見せ、長い側が短い側をさらに短く見せている。 10. コーンスウィート錯視 コーンスウィート錯視は、グラデーションと中央の線を使用して、画像の一方がもう一方より暗く見える状況を作り出す。 下図では、中央の垂直な線を境に左側の長方形が右側の長方形より暗く感じるだろう。ところが、2つの画像を縦に並べてみるとわかる通り、2つの長方形は本当は同じ明るさなのだ。 この錯視は、前述の錯視と似た効果だが、実際には下記の2つの点で大きく異なっている: マッハバンドの例では、効果は各オブジェクトの境界に近い領域に見られる錯覚だが、コーンスウィートの錯視はオブジェクト全体の色に影響する。 コーンスウィートの錯視では端の明るい部分はより明るく、暗い部分はより暗く見える。これは通常のコントラスト効果とは逆の状態だ。 11. ミュラーリヤー錯視 […]

シリコンバレーの起業家が失敗した後はどうなるの?

皆さんもご存知の通り、シリコンバレーには多くのスタートアップがひしめき合っている。実際のこちらの統計を見てみても分かる通り、社会人の実に68%がスタートアップに所属している。 ということは、自ずと起業家の数も多い。 そこでふと気になることがある。そう、失敗率が95%といわれるスタートアップの起業家は “失敗” したその後、どのような道を歩んでいくのだろうか? シリコンバレーにいる周りの起業家たちを見てみると、大体これから紹介する3つのキャリアパスになっていく事が多い。 初心者でもわかるスタートアップ起業の基本 失敗後の起業家のキャリア では、シリコンバレー地域で失敗したスタートアップ起業家がその後どのような人生を歩んでいるのかを紹介する。 1. もう一回チャレンジ カリスマ投資家のロン・コンウェイによる「起業家になる人間は生まれつき起業家の遺伝子が組み込まれている」(エンジェル投資家の裏側教えます) の発言からも分かる通り、そもそも起業家になる人のその多くは起業家にしかなれない人たちである。 なので一度起業家として失敗した後も、次のスタートアップを始める人が多い。むしろ失敗したというよりも、その経験から多くを学んだということで、次に繋げるというロジックだ。 実際、ジャック・ドーシーやショーン・パーカー、トラビス・カラニックなどなど、現在では成功している起業家の多くもそこにたどり着くまで何度か失敗をしている。 投資する側もそれは織り込み済みで、同じ起業家に複数回投資するケースも少なくない。むしろ一度失敗したからといってあっさり諦めるのは起業家としての資質が欠けているのかもしれない。 そして、シリコンバレーには複数の会社を「起業した」人たちの事を指す表現として「連続起業家」という便利な言葉がある。お気づきだろうか?そう、別に全ての会社を成功させていなくても、何社も起業さえしていれば連続起業家と名乗って良いのだ。 まるで複数のビジネスを成功させているようにカッコよく聞こえるが、多くの場合、何社も失敗させているだけだったりする。 Uber創業者 トラビス・カラニックの驚異の失敗歴 2. VCに就職 次はスタートアップに投資する側に回るキャリアパス。 ある程度成功していれば自分の資産で投資するエンジェル投資家になるケースが多いのだが、そうじゃない場合は外部の資金を使って投資運用を行うベンチャーキャピタル (VC) になる方法がある。 成功もしていないのになぜVCになれるのか?と思うかもしれないが、それには幾つか理由がある。 まずは、一度でも起業していればスタートアップに関してのある程度の知識と経験を持ち合わせている。プロダクト作りからピッチ、ユーザー獲得、そして資金調達まで、一通りの知見があるため、教育コストが低い。 また、元々起業家だったということで投資先のファウンダーたちからの信頼が得やすくなる。多くの起業家は若く社会人経験も少ないため、 “大人” 達への警戒心が強い。特に投資家などの金融系の人々に対しては警戒しがちである。 その点「いや、最近まで起業家だったから気持ち分かるよ。僕は他の投資家とは違って君達の味方だよ」的なキャラ設定が可能になるため、投資へのハードルが下げられるというメリットもある。 そして、元起業家の人はシリコンバレー特有のネットワーク = インナーサークルに入っている事も多く、投資会社として有益な内部情報を人づてで得られることがアドバンテージになる。 それらのメリットがあるため、スタートアップ起業家として失敗した人を積極的にリクルーティングしたがるVCも少なくはない。 もっと早く知っておきたかったVCのリアルな実態 3. ビッグテックに就職 そしてこれが最もシリコンバレーらしいキャリアパス。 GoogleやAppleに代表されるようないわゆるビッグテック企業は起業経験のある人材を積極的に探している。例えそれが失敗した起業家であったとしてもだ。 なぜ起業家を求めているのか?ビッグテック企業は既存のサービス運営と同時に常に新しいサービス作りも行っている。そこで重要になってくるのが起業家精神である。しかし、1でも紹介した通り、起業家的マインドセットを持つ人間はあまり多くなく、見つけるのが難しい。 それも大企業に就職を希望する人たちはどうしてもサラリーマン気質になりがちで、リスクを取りたがらない。実際にGoogleの新規事業を生み出すGoogle Xでは「どれだけ失敗したか」を人事評価基準に入れ、失敗した数が多いほど評価が高まる仕組みになっている。そこまでしないとなかなか斬新なアイディアを形にできる人が少ないのだ。 そんな時に目をつけたのが元起業家達。彼ら彼女らは新しいことを始めるのが大好きで、リスクを恐れない。そして大きな野望を持っている。 よく日本から来た方々に「なぜシリコンバレーのビッグテックはこんなにもイケてるサービスを次から次へとリリースできるのですか?」と聞かれる事があるが、その理由の一つが元起業家の採用にあったりするのではないかと思う。 この仕組みは日本の大企業も取り入れると良いと思うが、なかなか採用の仕組みを変えるのは難しそうだ。 なぜアメリカのエリート大学生は起業を選ぶのか スタートアップの失敗理由 Top10 その95%が失敗すると言われているスタートアップでは、その失敗に関するデータはかなり多い。数ある理由の中でダントツなのは、作り出したプロダクトが市場のニーズに合っていないケース。 このデータを見てもわかる通り、自分たちが作り出したものが本当にユーザーに求められているのかを繰り返し検証するのがとても大切だ。 僕は君が起業家になることをオススメしない 日本の起業家達の末路は? ここまでシリコンバレーでの事情を紹介してきたが、日本だとどうなのだろうか? 日本では起業家が失敗した場合、その後どうなるのか。興味があったので、会社の経営をしている友人に聞いてみた。答えは「悲惨だよ」の一言。あまり表には出ていないが、日本では起業して失敗するとその後の人生がかなり厳しくなるというのだ それを教えてくれた友人が、一つの例として紹介してくれた記事には下記のように示されている。 “信用力の弱い経営者は、融資の担保として、複数の生命保険に加入することをなかば強制されていたことである。みずから死を選ぶことで会社への融資が返される” 引用元: 地方で自殺が急増した「意外な理由」〜日本社会の隠れたタブー 自分の友人の中でも起業経験のある数名はその後他のスタートアップに就職したり、メルカリなどのビッグテックに参画したケースは聞いた事がある。しかしいわゆるレガシー的な大企業に採用されたというケースはあまり無いのではないか?その辺も気になるところだ。 あ、うちの会社は元起業家の方々大歓迎です! 筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.

TikTokはどのようにAIを活用してユーザーを夢中にしているのか?【サービスデザイン】

最近TikTokを使っている時間が半端ない。寝る前とかにサクッと見ようとしても気づいたら1時間以上も動画を見てしまっている。だって好きなタイプの動画が次から次へとおすすめされてくるから。 「こいつ分かってんなー」と思うくらい、まるで魔法のようにツボを押さえたセレクションを表示してくる。それによりプチ中毒になるくらいに毎日かなりの時間をTikTokに捧げている。 それもそのはずで、どうやらTikTokはAIを最大活用し、それぞれのユーザーが最も喜ぶような内容の動画を表示する。それも恐ろしいことにその精度は日々高くなり、ユーザー体験の品質もうなぎのぼりに。 クリエーター側も一つの動画をアップした瞬間に一気に視聴数が上がり、フォロワーもどんどん増える。これもアプリの裏で動く“したたかな” AIによる仕業だ。 そして、調べれば調べるほどTikTokのアルゴリズムの精度の高さや、AIの凄さに驚愕する。せっかくなので、TikTokはどのようにAIを活用して自分を含む多くの人々を夢中にしているのかをまとめてみることにした。 この記事の要点 少し長くなるのでまずは要点のまとめから。 TikTokは世界のSNSユーザーの1/3に利用されている TikTokは最もエンゲージメントの高いSNSアプリ TikTokはユーザーとクリエイターの両方のユーザーエクスペリエンスを向上させるためにAIを活用している TikTokのAIはおすすめされた動画を視聴するユーザーの各行動を徹底的に追跡している AIが追跡したデータを元にユーザーの個性や感情ををマッピングする ユーザーが動画に対していいね、コメント、シェアなどの行動を一切とらなくても、AIは短時間で好みのコンテンツを察知する TikTokが活用するこのAIアルゴリズムはYouTubeやInstagramといった競合他社のものよりも優れている TikTokとは? 念の為、TikTokを知らない人のために簡単な概要を。 TikTokは中国のByteDance社が運営するショート動画SNSサービスで、Z世代などの若者を中心に日本を含め、世界中で大人気になっている。 数あるコンテンツの中でも音楽に合わせて踊るような動画が人気で、TikTokがきっかけでヒットソングが生まれたりすることもある。TikTokの動画クリエイターの中でも、多くのフォロワーを抱えるユーザーはTikTokerと呼ばれ、TikTokへの動画投稿により大きな収益を得ているケースもある。 その一方で、その中毒性の高さや社会への悪影響、そしてユーザーデータの利用に関しての懸念も上がっており、その結果インドや中国では利用が禁止されている。アメリカの一部の州でも利用ができない措置が取られている。 TikTokに関する凄い統計 TikTokの凄さを理解するために、まずはファクトベースの統計データをいくつか紹介する。 たった4年余りの間に30億回以上のダウンロードを集め、地球上の全てのSNSユーザーの実に1/3が利用している 世界のインターネットユーザー48億人のうち、20.83%がTikTokを利用している アクティブユーザー数は月間10億人で、これはTwitter, Telegram, Reddit, Pinterest, Snapchatを上回る TikTokは最もエンゲージメントの高いSNSアプリで、平均セッション時間は10.85分で、2位のPinterestの5.06分を大きく上回っている 2018年1月から2020年7月までにグローバルユーザーベースが1157.76%増加 2021年の上半期だけで383万回のインストール数を記録し、非ゲームアプリの中では最もダウンロードされたアプリとなった 2021年におけるソーシャルメディアアプリの中で7位にランクイン TikTokの親会社 (ByteDance) は2021年8月に2800億ドルの評価額に達し、世界でも有数のデカコーンである TikTokクリエイターは最大1億人のフォロワーを持ち、年間最大500万ドルを稼ぐ アメリカの月間TikTokユーザー数は現在1億人を超える。これは、アメリカの2億6760万人のモバイルインターネットユーザーの37.36%に相当し、特にZ世代に大人気のアプリである 18歳以上のアメリカ人はおよそ14.3億時間をTikTokに費やしたと推定されている(2020年3月のデータ) TikTokユーザーの90%は、TikTokを毎日利用している ユーザーがTIkTokに夢中になるその秘密 TikTokの凄いのは、一度使い始めたらなかなかやめられないところだろう。少しの時間潰しのために開いたら最後、永遠と見てしまう。 実際のところ、TikTokのユーザー利用時間はInstagramやSnapChatよりも多い。しかしこれは必ずしもコンテンツの品質が高いからではない。 その理由は一つ、TikTokがそれぞれのユーザーが喜ぶようなコンテンツを上手に表示できているからに他ならない。 それを可能にしているのが、AIテクノロジーを活用したアルゴリズムと呼ばれる仕組み。TikTokはこの仕組みを使って精度の高い関連動画をおすすめに表示している。 TikTokのAIアルゴリズム概要 動画が最初に投稿されると、TikTokはそれを少人数の視聴者に表示 そのグループがその動画を好きかどうか、視聴するかどうか、共有するかどうかに基づいて、その動画を他の人に推薦するかどうかを決定 ユーザーの行動(つまり、コンテンツとのやり取り)と言語、使用されているデバイスなどの基本的なデータを分析 この分析に基づいて詳細なユーザープロファイルを作成し、そのユーザーの中心となる性格特性と興味をプロファイリング プロファイルを使用し最も関連性の高いコンテンツとマッチング 関連コンテンツを識別には、キャプションの自然言語処理、動画の内容を識別するためのコンピュータビジョン、ハッシュタグや使用された音声、タグ付けされた人物などのメタデータを活用 このTikTokアルゴリズムをざっくり説明したのが下記の図だ。 TikTok AIとその他の類似アプリとの違い 強力なAIアルゴリズム自体は特に珍しい物ではない。FacebookやInstagram, YouTube, Netflixなどのアプリもユーザーエンゲージメントを高めるために、以前からAIを活用している。 しかし、TikTokのAIはユーザーのエンゲージメントを高めるだけではなく、より “中毒” になるように設計されている。 それはテクノロジーサイドだけではなく、ユーザー体験 (UX) にも及んでいる。TikTokのUXは、極力ユーザーが利用する際に摩擦を取り除くようにデザインされている。 例えば、YouTubeであれば検索、いいねやチャンネル登録をすることでサービス側がユーザーの好みを理解するが、TikTokは単純に好きな動画を好きな長さで視ているだけで、どんどんアプリ側がそのユーザーにとってよりよいUXにアップデートされていくのだ。 TikTokのAIはクリエイターも夢中にさせる また、TikTokがすごいのはユーザー側だけではない。クリエイターにとってもかなり魅力的なプラットフォームになっている。 YouTubeやInstagramとは異なり、TikTokではクリエイターが有名になるためには常にコンテンツを定期的に制作する必要はない。一定の期間コンテンツを作成した後放置していたとしても、TikTokが自動的にそのコンテンツをユーザーに表示し、視聴数やいいね、コメントを稼いでくれる。 それによりクリエイター達も、よりバズるコンテンツを作ろう、とどんどん夢中になっていくのだ。 TikTokのAI採用するサイコグラフィック予測モデル このアルゴリズムがユーザーを夢中にさせる大きな要因となっている。ではその中身をもう少し深ぼってみよう。 TikTokのAIアルゴリズムは、ユーザーのプロフィールやデモグラフィーではなく、心情に基づく予測 = サイコグラフィック予測モデルを活用している。 表示された動画にユーザーがどのような反応を示すかで、そのユーザーの性格や感情を分析・予測し、その時の感情に最適な動画を高精度でおすすめしてくるのだ。 「おすすめ」に選ばれる基準 動画情報: 動画のキャプション、音、タグ等 ユーザー情報: ユーザーの好みや、これまでにいいね、シェア、コメントした動画のタイプ等 デバイス/利用環境: 言語設定、ロケーション、デバイスの種類等 また、このAIアルゴリズムは、クリエイターの動画に映る顔の表情などの内容も察知し、利用中のユーザーの感情に合わせてリコメンドを選出する仕組みになっている。 そして恐ろしいことにそれは顕在的なニーズだけではなく、ユーザー自身も気づいていない潜在的なレベルにまで達し、文字通り”心がえぐられる”動画が次から次へとお薦められる仕組みになっている。 TikTokは恋人よりも正確に相手を理解する? このTikTokが採用しているAIアルゴリズムは、二人の人間が恋人同士になるまでのプロセスに似ている。 最初は知らない人同士、もしくは友達としてスタート。その後LINEや電話でお互いを知る。そして、数回のデートで相手の特性をより掴み取り、何にどう反応するかを理解していく。 その “データ” を元に自分も相手にとって喜んでもらえる言動を心がけるようになっていく。もしくは、興味がなければ他の人を探し始める。 これは相手の価値観、趣味嗜好、バックグラウンド、道徳的傾向、 癖、好みのタイプ、好感ポイント、感情の起伏、バイオリズムなどの個性を「デート」や「交際」と呼ばれるやり取りを通じて相互に理解していくプロセスだ。 通常人間同士だとお互いを理解していくには最低でも数時間から数日間はかかるものであるが、これをTikTokはいくつかの動画を数十分見せるだけでかなり正確に達成する。 相手を理解し、それに最適な対応を予測する。人間関係において最も重要で最も難易度の高い内容をAIはやってしまっているのだ。 スタンフォード大学の教授ミハル・コシンスキによれば、AIは人間よりも性格特性を正確に予測することができる。AIは無関係な手がかりから外向性、開放性、神経症的傾向、協調性、誠実性を正しく評価できるという。 こちらが積極的に行動しなくても理解してくれる そしてTikTokのAIアルゴリズムが凄いところは、ユーザーが能動的に行動を起こさなくても、知らず知らずのうちにAIが “察してくれる” ところだ。 ユーザーが何が好きなのかを理解する際に必ずしもいいねボタンを押してもらう必要はないのだ。もちろん押してくれれば明確な意思表示としてちゃんとカウントする。 そうでなくても、動画をどのくらいの時間見たか、何度見たか、シェアしたか等々、ユーザーな細かな挙動を刻一刻と記録し、それが好意的な反応だったかそうではなかったのかをしっかりと理解するのだ。 TikTokはまた、ユーザーが使用しているデバイスの種類、デバイスの言語、地理的な位置も抜かりなく研究し、それらのデータを元により相手の好みに合った動画を推奨してくれ、そしてその精度は利用する度に向上していく。 これだけの気遣いのできるTikTok。これは普段「なんで私のことわかってくれないの!」とストレスを感じている人にとってはかなり嬉しいだろう。 ウォールストリートジャーナルがボットを利用した実験を行った これまで説明してきたTikTokのAIアルゴリズムの仕組みであるが、これらはニューヨークタイムズの調査によって発見された社内ドキュメントをベースに予測したものだ。 しかしどうやら、その仕組みはもっともっと複雑で、そして精度が高いことが、ウォールストリートジャーナルの実験によって分かってきている。 ウォールストリートジャーナルは、何百ものボットを作成し、TikTokの機能やその背後にある熱狂の要因を分析。これらのボットはそれぞれIPアドレスによる位置情報を有していた、性別や興味などの情報はプロフィールに設定していなかった。 TikTokを初めて利用するボットに対して、まず一連のランダムで人気のある動画とあまり人気のない動画が推薦される。その動画を最後まで視たか、スキップしたか、複数回視たかによってユーザーの属性と動画の価値を判別するのだ。 その後、AIはボットがそれぞれの動画を視聴するのにどれだけの時間を費やしたか、一時停止したか、再度視聴したか、動画が終了する前にスキップしたかを細かく追跡していることが判明。 そのボットを利用し、しばらく実験を続けそのデータを分析。その結果、ByteDance社による説明とは異なり、TikTokは何よりもユーザーの視聴時間を最重要視していることが分かった。 […]

最近のロゴがどんどん黒くなっていく「ブラック化現象」について

最近Webサイトやスマホアプリを利用していてふと気づいたことがある。 「あれ、さっき見てたのどれだっけ?」と思うくらい無意識のうちにどれだったかがわからない状態。そう、アイコンがどれも似ている。その感覚自体は以前にもあったのだが、今回は趣が少し違う。 以前は「アイコン全てカラフル問題」だったのが、今回は「アイコンどんどん黒くなっていく問題 = ブラック化現象」が発生している。 そう、最近は白と黒のアイコンがあまりにも多くないか?そんな気がして少し考察してみることにした。 【トレンド分析】最近のアイコンのデザインが似通ってきている問題 X → Twitterへのドラスティックなリブランドの衝撃 まずその傾向の代表が、爽やかな水色からシックなモノトーンになった Twitter、いや、Xだろう。 厳密に言うとTwitterからXへのリブランディング… なのかな? それまでのブランドイメージとは全く異なる超ブラック化を進めた例だ。 Twitter→X 事例から考えるリブランディングのポイント テクノロジー企業ロゴの “ブラック化” が進んでいる この “黒” を基調にしたロゴやアイコンを採用しているのはXだけではない。実はここ数年で多くのテクノロジー企業やスタートアップがそのロゴをモノトーンにアップデートしているのだ。 なんで皆同じことするの?と思った矢先、我々btraxも2020年末にロゴを黒を基調にしたものにアップデートしていたことに気づく。我ながらびっくりした。偶然というにはタイミングが良すぎる。 Threadsお前もか! ブラック化しているのは既存サービスだけではない。新規サービスでも最初からブラックアイコンを採用しているケースも増えてきている。 2020年の記事「【トレンド分析】最近のアイコンのデザインが似通ってきている問題」では、多くのアイコンがどんどんカラフルになり、見分けがつかなくなってきているトレンドを紹介した。 その際に、元々は青一色だったFacebookメッセンジャーのアイコンもそのトレンドに乗っかり、しれっとパープルのグラデーションになった事から「メッセンジャーお前もか!」とツッコミを入れた。 と思ったら、今回はカラフル代表のインスタでも有名なそのMeta社が新規リリースした「Threads」がしっかりこのブラック化トレンドに合わせたアイコンを採用してきた。パクリ芸で有名なザッカーバーグらしい “あっぱれな” デザインである。 ブラック化したファビコンをブラウザータブで並べると分かりにくい カラフルなアイコンからブラック化するこの劇的な変化は当初自分を含む多くのユーザーを困惑させた。ただ、現在では少しずつでも慣れてきた。単体のアイコンとしては。 しかし、今度は異なる問題が出てきた。他のアプリやサービスと並べた場合の見分けがつきにくいのだ。 例えばUberやTikTok, そしてNewsPicksと混乱してしまう。特にちゃんと考えてない時には。そして、多くのユーザーは利用時にちゃんと考えてない。だから問題だ。 スマホ上にアイコンを並べると本当にカオス これがスマホ上のアイコンの場合、よりややこしくなる。 冒頭でも触れた通り、以前まではアプリアイコンがカラフルすぎて識別しにくい問題が発生していた。簡単に言うと、脳が疲れるのである。 と思っていたら、最近は逆の問題が発生している。モノトーンのアイコンが多すぎて、これはこれで識別しにくい。 こんな感じでアイコンを並べたら最後、毎回ものすごく迷ってしまう。 ロゴがどんどん黒くなる5つの理由 ではなぜこの時期にこんなにも多くの企業、サービス、ブランドが “ブラック化” を進めているのだろうか?ごく個人的な視点でその理由を5つほど考えてみた。 1. デジタルとリアルの融合を表現するため 10年くらい前まではアプリ系サービスの多くがデジタルの世界だけにとどまっていた。しかし、最近人気のあるサービスは現実世界の日常生活と直結しているものが多い。 デジタルサービスだったらカラフルでキラキラも良いが、これが日常生活にもつながっている = より地に足のついたモノトーンになったのではないか、という仮説。 2. 可視性を優先したため 文字や画像の可視性 = 見やすさを最優先する場合、コントラストが強いに越したことはない。そしてこの世で最もコントラストが強い色は白と黒である。 可視性を高めることで、アクセシビリティーやインクルーシブといった、昨今のユーザー課題の解決につながると考えたのかもしれない。 3. ファッショナブルだから 皆さんもご存知の通り、多くのアパレルブランドのロゴはかなりシンプルなモノトーンである。特に高級ブランドになればなるほど “色” をあまり使わないロゴが多い。 もしかしたらスタートアップやテクノロジー企業も熟成が進み、そろそろ高級感やファッショナブルな雰囲気のブランドになろうとしているのかもしれない。 4. 周りがカラフルすぎるから 多くのアプリやロゴがカラフルになっている中で、“あえて” モノトーンを採用することでより差別化を図っているのかもしれない。例えばTikTokが出てきた頃は、黒っぽいアイコンが少なかったのでかなり目立っていた。 以前のようなグラデーション祭りの時代であればかなり効果的だったかもしれない。しかし、最近は逆にモノトーンが増えてきたことで、逆に”没個性”な感じもしてしまう。 5. 不景気 & しんどい時代の象徴であるため 世の中の景気が悪くなると、道を歩く人々の着ている服も地味になっていくと聞いたことがある。 ここ数年はスタートアップにとってまさに “冬” の時期。資金調達がかなり厳しかったり、時代の変化でサービスのビボットを余儀なくされている。 また、2020年当初から3年ほどのパンデミックによる厳しい時期を経験し、多くの企業がそれまでのイケイケムードから一変して、シリアスモードに入った。それに合わせシックな色合いのロゴを採用したのかもしれない。 ちなみにロゴがカラーからモノトーンになることでインクの節約に繋がり、印刷物等の制作コストが抑えられるというメリットもある。 なぜデザインはシンプルな方が良いのか – 5つの理由と6つの鉄則 カラフルアイコンがユーザーに与える精神的負荷 このブラック化現象には実は一つメリットがある。スマホ中毒を抑える効果だ。 アプリのアイコンをカラフルにすることで、よりユーザーが利用する頻度を高める効果があるとの見解がある。これは、ブラウザー会社のMozillaによる研究で、1週間スマホの画面を白黒に設定してみるというユーザー実験からの結果だ。 この実験の結果、アイコンをより目立たないようにしたことで、アプリの利用頻度の低下、オンラインショッピングの購入金額の低下など、ユーザーによる「スマホ中毒」を少しでも緩和ができたという。 これは逆に言うと、カラフルな画面では、アクティブ時間が増えてしまう可能性があるということだ。 サンフランシスコに住む起業家の友人も、無駄に時間が取られるのを防ぐためにスマホの画面を白黒にするというこの方法をとっている。 どうやらカラフルなアイコンはアプリの識別を難しくするだけではなく、ユーザーに対しての精神的負荷も生み出しているようだ。 参考: デジタルウェルビーイングを実現する ”使わせない” デザインとは? まとめ: 白黒はっきりしよう このような感じでロゴの “黒化” の理由を仮説をもとに考察してみた。 おそらく今後はあまりにも多くのロゴがモノトーンになったことで、逆にカラフルなロゴが復活するのかもしれない。 どちらにせよ時代の変化の分岐点にいるのは間違いないと思われる。モノトーンの次にくるデザイントレンドは何だろうか? 筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.

AX 2023を終えて – 日本に残されたブランドアセット活用

2023年7月1日から4日間、アメリカのロサンゼルスにてAnime Expo 2023 が開催された。このイベントは日本国外における世界最大のアニメの祭典であり、世界の日本のコンテンツファンにとっては “聖地巡礼” で訪れるべき、とも言える場所だ。 Anime Expo 2023概要 Anime Expo、通称AXは毎年ロサンゼルスで開催されているアニメの祭典で、Wikipediaによると今年2023年の累計来場者数は約38万名となっている。(Age Rant調べ) 1992年にシリコンバレー地域のサンノゼで開催された初回、その当時の来場者は1750名であり、かなりニッチなイベントであった。 その後米国におけるアニメ人気が高まり、1994年よりカリフォルニア南部に開催場所を移したのだ。 会場には展示ブースの他に、各種パネルディスカッション、コスプレコンテスト、ミニコンサート、同人アーティストによる作品展示コーナーなどなど、コンテンツはかなり盛りだくさんだ。 拡大する世界におけるアニメ市場 実際に参加してみるとわかるのだが、海外でのアニメ人気は年々加熱しており、会場はものすごい熱気に包まれている。その中でも、日本のアニメの輸出先としても、アメリカは大きな割合を占めている。 下のデータからも分かるように、実際アメリカのアニメ市場は急速に拡大中であり、2030年には500億ドル以上の収益が見込めるという。 アニメは日本に残された数少ないグローバル資産 このように、アニメ人気は世界で拡大している。そして、AXは、ほぼほぼ “純日本製” のコンテンツだけで世界を熱狂させられるイベント。そんなイベントは他にはほぼ無いだろう。 もしこれが日本車だけの展示会や、日本の家電だけで埋め尽くされた家電見本市だったとしたら、10万人以上のオーディエンスが集まることは想像しにくい。 それを考えても、アニメは日本が保有する数少ないグローバル市場に通用する固有資産だと考えられる。 日本のアニメがアメリカで爆発的な人気を集める理由と事例3選 アニメを活用したグローバルブランド構築 ということはこの資産を企業のブランディングに活用しない手はない。と思った。 もちろんアニメ風のCMなどを活用してる企業はいくつもある。しかし、その多くが国内向けだけに放送されたり、単なるプロモーション動画に終始してしまっている。 でも我々は本気で世界で多くのファンが存在しているアニメというコンテンツに真摯に向き合い、あくまでそれ単体で楽しめる商業作品を作る。それも日本の優れたアーティストやクリエイターとコラボすることで世界に打って出るのを目標に。 その第1弾として、クライアントのヤンマーホールディングス株式会社(以下、ヤンマー社)と共にAX会場のロビースペースに巨大な展示を行った。 それも日本のお家芸である「ロボット」の展示 今回展示したブースには今まであまり目にしたことのない造形の「ロボット」が中央に設置されている。これはヤンマー社のデザイン部とのコラボで作成されたアニメキャラクターの一つ。それをいち早くエキスポの入り口ど真ん中に展示した。 ロボットをキャラクターの一つとして採用したきっかけは、とあるサンフランシスコのデザイン会社で参加した “The History of Robots” と呼ばれるセッション。 そこでロボットの歴史が説明されていたのだが、多くのロボット産業に関わるデザイナーやエンジニアが鉄腕アトムや鉄人28号、ドラえもんやガンダム、エバンゲリオンに至るまで、日本で生まれたロボットのキャラクターにインスパイアされていたためだ。 それに、実社会におけるロボット製品も日本が世界を牽引している事実もある。 これはアニメに加えてロボットも日本が世界に誇れるアセットであるという証明だと感じた。 今回は、どうしても筋肉質で男性的な造形になりがちなロボットのフォルムに、あえて繊細なラインを採用することで、より中性的な存在を目指した。 目指すはアート×デザイン×マーケティングのクロスオーバー ところで、そもそもなぜデザイン会社がアニメ制作や、AXの展示に関わっているの?という疑問が出てくる。 そう、これまでの常識であれば “アニメ” はかなりユニークな業界で、商業的なデザインをしている会社は専門外な感じがする。 しかし、今回我々がチャレンジしているのは、アニメの中だけの世界観ではなく、それをブランディングやマーケティングといった “実生活” にもリンクすることで、さまざまな領域へのクロスオーバーを実現することである。 アニメという、場合によってはクローズドな世界にとどまってしまいがちなコンテンツを、より日常生活にも直結した内容につなげる。そうすることで、今までに無いようなステージを作り出せるのではないか?と考えている。 最初からグローバルに そしてここがかなり重要なポイント。日本のアニメコンテンツの多くは主に国内の人々に向けて作られている。というのも、その内容がかなりハイコンテキストであるため、その繊細さや情緒が海外のオーディエンスには理解してもらいにくい。と思われている。 その一方で、今回のAXに代表されるように、最近では海外でも複数の大規模アニメイベントが開催され、世界中のアニメファン達が集まっている。そして、その多くが日本の人たちと同じくらいか、場合によってはそれ以上にアニメに対して豊富な知識を持っている。 実際、今回の展示の時にも複数の人たちから、かなり “濃い” 質問を受けた。 そのくらい、現代では世界中にアニメに対して強烈に愛情を注いでいる人たちがたくさんいるということだ。 パネルディスカッションにも参加 今回のAXでは、ロビーブースでの展示だけではなく、メディア関係者や業界の方々向けのVIPパーティー、そして作品の裏側をディスカッションするパネルセッションも開催された。 そこでの我々の狙いとしては、ビジュアルデザインや造形の展示だけでなく、その裏にあるストーリーや哲学、そしてヤンマー社のビジョンを伝える事だった。 もちろん世界のアニメファンの心をしっかりと掴むため、セッション中に今回のキービジュアルのアートワークを担当したYKBX氏によるライブドローイングも披露する事にした。 しかし会場が… 大きすぎる。オーディエンスは集まるのか? 今回は世の中に対して『未ル』のリアルお披露目。そしてセッションの日程が3日目 (月曜日) の朝イチの時間帯ということで、パネルセッションにはあまり多くの人たちが集まることは期待しにくかった。 しかし、前日にリハーサルを兼ねて会場に行ってみると、かなりの大きさ。そしてそこに整然と並べられた椅子の数。300席を優に越していた。まるで株主総会を行うような会場の雰囲気である。 それを見た瞬間「あ、これは厳しいかも」と直感的に感じた。 全く新しいコンテンツのアメリカでの初めてのお披露目。全てが初めてのチャレンジでこのキャパシティーを埋めるのは至難の技である。 以前にアマチュアバンドでライブをした事が何回かあったが、初ライブに来るのは友人を含めて10人程度がせいぜいだろうという感覚だった。 これは無理かな?と思った瞬間の奇跡 そしてパネルセッション当日。 朝イチの時間帯ということもあり、開始30分前の時点で会場の近くには誰もいない。もちろん、パネルセッションの会場内には関係者しかいない。 機材チェックを済ませ「こんな感じで人が来るのかなー?」と思っていた矢先、スタッフの人スタッフの1人から「どうやら100人ぐらいの列ができているらしい」との情報が。 安心して胸を撫で下ろした直後「あれ、ガセネタだったらしいよ」ともう1人のスタッフが言う。 そして、開場の時間になっても誰も入ってこない。そして数分するとやっとポツリポツリと入ってきた。数人だけ。その数名が着席したのが、パネルセッション開始時間5分ぐらい前。会場は異様な静けさに包まれていた。 開始3分ぐらい前になってもそれ以上誰も入ってこない。正直「ダメだこりゃ」と思った。 その瞬間、奥の扉が開き、たくさんの人々が怒涛のように入ってきた。それも100人どころではない。全くお客さんの入りが止まらず、開始時間になってもどんどんどんどんと会場に人が入ってくる。 結局、ほぼ満席の状態でパネルセッションがスタートした。 確かに感じた “マイノリティー” 同士の結束感 そして驚いたのはパネルセッションに集まってくれたオーディエンスの数だけではない。その熱気とアニメに対する情熱、そして今回の作品『未ル』に対しての大きな興味だ。 パネルセッションが進むにつれて、内容に対して大きな拍手と歓声が湧き上がり、その盛り上がりはどんどんエスカレート。 最終的には会場が一体になるロックコンサートのような盛り上がりを感じた。これには本当に感動した。 おそらく彼らはアニメ好きという、アメリカを代表する海外におけるある種の “マイノリティー” であるからこその結束力があるのではないかと思う。 そして、オーディエンスの強い興味は予定より20分以上も延長して進められた質疑の時間にも現れている。 参加者達はこれから我々が作ろうとしている作品、そしてコンテンツに対しての強い興味とヒット作品を制作する難易度の高さ、そして何より日本企業が世界に向けて発信するメッセージに対してのサポートを示してくれた。 時間切れになりパネルセッションが終了した後も、複数の参加者たちがSNSを通じて熱いメッセージを送ってくれた。 我々の新たな挑戦の門出にふさわしいセッションになったことがとても嬉しかったし、オーディエンスの存在が今後も大きな励みになるだろうと感じた。 グローバルに戦うなら日本の武器を最大活用しよう このように、AX 2023における我々の挑戦は大成功のうちに幕を閉じた。というよりも、まだ始まったばかりであり、これからが本当の勝負になってくる。 なぜ日本のメーカーがアニメを作るの?という質問が多く寄せられているが、その理由は “Why not?” 。そう、日本が最も世界に誇れるアセットであるアニメを活用しない方が不自然だ。 アメリカの企業はハリウッド映画とのタイアップを頻繁に行なっているし、ヨーロッパの企業はF1をはじめとするレースイベントとのコラボが盛んだ。それらは自分たちの地域が世界的に誇れる “武器” を理解し、活用している。 その一方で、日本企業の多くがグローバル市場におけるブランド地位の獲得に苦戦している。素晴らしいプロダクトと卓越したサービスは提供できる。しかし “ブランド” という概念ではまだまだ存在感が薄い。 これからはアートだってデザインだって音楽だって映像だって、どんどんブランディングに取り入れ、よりダイナミックな体験を消費者に届ける。そんなことができる企業こそがグローバル規模で愛されるブランドになっていくと我々は信じている。 Anime Expo 2023で披露された「未ル」のコンセプトビデオ

AIの進化が我々の仕事に与える7つの変化【生成系AI Vol. 4】

AIの話題になると最も興味が湧いてくるのが、我々の現在の仕事に対する影響だ。特に高い知能やスキル、そしてクリエイティブな能力が求められるタイプの職表に対しての影響が気になるところ。 というのも、これまで人間の仕事を機械が代わりに行う際には工場やロボットのような、単純作業が主な役割と考えられてきた。言い換えると、マルチタスクよりもシングルタスクの方が得意な分野であった。 アメリカの丸亀製麺から考える日本でDXが進まない本当の理由 しかしここ数年のAIの発達と生成系AIの登場でより知能的な領域にまでAIが進出していくことが予想される。 ということで、今回はAIが我々の仕事に与える影響を考えてみたい。 無くなる可能性の高い仕事 現在存在する仕事が無くなってしまう?そんなことが果たしてあるのだろうか? まずはこの画像を見てほしい。 右上から電話交換手、タイピスト、馬車の運転手、エレベーターガール。これは時代の変化と共に無くなった、もしくは絶滅しかけている仕事である。 このように一時期は存在していた仕事でも、テクノロジーの進化でその存在価値が著しく低下する職表は確実に存在する。 統計で見る未来予想 ゴールドマンサックスのリサーチによると、約3分の2の仕事が生成系AIの影響を受ける見込みとのこと。 これらの職種の雇用割合と、それらの仕事の25%から50%のタスクが自動化の影響を受けることを考慮すると、現在実施されている仕事のうち最大25%が生成系AIによって自動化される可能性がある。 アメリカやヨーロッパの分析を基にした推定によれば、生成型AIによって、約3億人分の正規の仕事が置き換えられるという計算になる。 短・中・長期ごとに生成系AIによって変化する仕事 実際に複数の生成系ツールを使ってみて「これは直ぐにでも変化するな」と思った仕事もあれば、もう少し時間がかかりそうなもの。そして、おそらくあと数年は大きな影響は受けないが、長期的には変化が訪れそうな仕事を考えてみた。 直近で変化しそうな仕事 フォトグラファー イラストレーター 3Dモデラー ライター モデル これらの職業は生成系AI、特にMidjourneyのような画像生成系やChatGPTに代表される文字生成系AIを活用すれば今にでもある程度代替できる。もちろん全て一瞬にして無くなることはないが、需要はかなり下がる傾向があると予想される。 中期的に変化しそうな仕事 コーダー リサーチャー グラフィックデザイナー UI デザイナー 秘書 上記はもう少し時間はかかりそうだが、確実に変化が訪れそうな職業。現段階ではむしろAIを活用することで効率が上がり、しばらくはより短い時間でアウトプットができると考えられる。 長期的に変化しそうな仕事 会計士 弁護士 通訳 税理士 マーケター 短期間ではあまりAIの影響を受けないかもしれないが、3-5年もすればかなりAIによってその仕事の内容ややり方が変化すると思われる職業。ここで紹介されている職種のその多くが、現在のマニュアル工程の多くがAIによって自動化されていくだろう。 クリエイティブ系の職業は生成系AIの影響が大きい 第一回でも紹介した通り、ジェネレーティブAIは何かを生み出すタイプとAI. ということは自ずとクリエイティブ系の仕事に対しての影響が大きいと考えられる。 またそれは同時に、現在存在していないような新しい仕事を生み出す可能性もある。 クリエイティブ職にフォーカスを当てて、現在のクリエイティブ系の職種の中でも、生成系AIによって必要性が上がりそうな仕事と下がりそうな仕事をそれぞれ3つほど考えてみた。 生成系AIで必要性が下がりそうなタイプの仕事 Top 3 イラストレーター フォトグラファー コピーライター これらの仕事はある意味「オペレーション」に近いタイプの仕事内容。言い換えると「作るだけ」の仕事であり、AIに取って代わられる可能性がかなり高い。 生成系AIで必要性が上がりそうなタイプの仕事 Top 3 クリエイティブディレクター アートディレクター UXデザイナー 逆にAIや機械ではなかなか真似のできないのが全体のクリエイティブの指示や、総合的な体験を設計するような仕事。 ある意味インスピレーションが必要だったり、ゼロイチで物事を考えたり、文化的特性を理解していないとなかなか良い仕事はできないので、AIはまだまだ苦手なんじゃないかなと思われる。 AIに負けない新しい価値を生み出すために必要なマインドセットとは? AIが進化することで我々の仕事に与える7つの変化 では最後に、その職種に関係なく幅広い視点で生成系AIによって、我々の日常における仕事にどのような変化が訪れるかを予想してみる。 プロンプトエンジニアの重要性が高まる ファクトチェックがかなり重要な職業になる 事務職の生産効率性が爆上がりする クリエイティブ職がより身近なものに AIによってSNSマーケティングが完全自動化される 肉体労働系の職種のニーズがかなり高まる AIによって勤務時間が短縮される 1. プロンプトエンジニアの重要性が高まる 生成系AIが世の中に普及したことで一気に注目が集まっているのが「プロンプトエンジニア」という名前の職種。 以前のエントリーでも紹介した通り、文字や文章を出力してくれるChatGPTや画像生成系のAIサービスを利用する際に不可欠なのがプロンプトである。 言い換えると、AIからの出力のクオリティーは入力したプロンプトや、その結果を元にチューニングしたプロンプト内容によって大きく左右される。 ということは、優れたアウトプットには優れたプロンプトが不可欠であり、それをコントロールするのがプロンプトエンジニアの役割。 まあ「エンジニア」と呼ばれているが、難しいコードを書くわけではないので、トライアンドエラーの場数を踏めば誰でもプロンプトエンジニアになる事が可能で、これまでのエンジニア職よりもかなり間口が広いと思う。 ジェネレーティブAIにおけるプロンプトとは?【生成系AI Vol.2】 2. ファクトチェックがかなり重要な職業になる AIによって生成された文章や画像、そして映像などはここ数ヶ月だけでもかなりそのクリティーが向上しており、そろそろ人間の目だけではそれが本当なのか偽物なのかの区別がつかなくなってきている。 結果的に、ディープフェイクなどの偽コンテンツが世の中に蔓延し始めている。 特にChatGPTなどのテキストベースのAIツールは不正確さが最大の問題になっている。ChatGPTと対話する際、無意識のうちにその発言を信頼してしまう。しかし、これらのAIツールは実際には自身が言っていることが真実かどうかを知ることはできず、単に人間らしく信頼できる情報を提示するだけなのだ。 言い換えると、そこに解決すべき明確なギャップが存在します。このギャップを埋めるために必要なのが、ファクトチェッカーの仕事。AIツールが一般的になるにつれて、信頼性のある正確な情報を提供し、デマの拡散を抑制するために、舞台裏で働くファクトチェッカーの数が増えていくだろう。 一つの例として、GoogleやMicrosoftなどの企業が近い将来、BardやBing ChatのようなAI搭載の検索エンジンに対して大規模なファクトチェッカーチームを編成することが予想されている。 これから失われる仕事と求められ続ける3つの能力 3. 事務職の生産効率性が爆上がりする 生成系AIを使う一番のメリットは生産性の向上だろう。すでに多くのSaaS系ツールにAIが導入されており、作業効率がどんどん高くなっている。 例えば、GoogleはGmail, Docs, Sheets, SlidesなどのGoogle Workspaceアプリで生成系AIを導入している。同様に、MicrosoftもOffice 365の生産性向上アプリスイートで同様の取り組みを行っている。他の多くの企業のプロダクトにもAI技術を導入し始めている。 これらのAIツールが開発され、誰にでも利用可能になると、これらのツールは世界中の頭脳労働者の生産性を飛躍的に向上させるだろう。 資料の準備やビジネスプレゼンテーション、マーケティングキャンペーン、ニュースレターなど、かつて数時間かかっていた仕事が数分で完了するようになる。 これは一部の人にとっては、仕事を失う危険性を感じさせるかもしれない。でも、AIがオフィス業務の退屈な作業を単純化してくれれば、それは同時に思考をより創造的な仕事に活用することが可能になってくるだろう。 現代の日本企業に必要なのはクリエイティブな組織だ 4. クリエイティブ職がより身近なものに 文中でも説明した通り、生成系AIの中でも、DALL-EやMidjourneyなどの画像生成系AIツールがクリエイティブ界に大きな影響を与えている。 すでに多くのアーティスト他cx日が、著作権保護された作品を参考にすることは不公平だと、これらのツールの使用に抗議している。 しかし、より実用的な観点から見ると、我々 btrax の現場でもそうだが、創造的なAIツールは芸術家、グラフィックデザイナー、インテリアデザイナー、ファッションデザイナー、プロダクトデザイナーがより速く新しいアイデアを出すこと補助する役割になってきている。 AIが最初のラフな下書きを作成することで、後で迅速に微調整や調整を行い、より迅速にオリジナルのコンテンツを生み出す柔軟性が得られるのだ。 実際に、特定のアーティストの独自のスタイルでオリジナルの音楽を作成できるAIツールが既に登場している。したがって、ミュージシャンやソングライターも将来的にはこの技術を利用する可能性があるだろう。 生成系AIはまだ完全に動画作成をマスターしていないが、これらのツールの急速な進歩を考えると、2023年末までにはそのクオリティーの有無は別として、AIが作成した動画が世の中に蔓延することも驚くことではないだろう。 その後それらが十分な品質になれば、映画製作者たちもこの技術をインスピレーションの源として活用する可能性が多いあるだろう。 […]

ガイ・カワサキから学ぶ、スタートアップ定番 10の間違い

現在のシリコンバレーにおけるスタートアップエコシステムの源流を作ったのは間違いなくAppleだろう。 そのAppleの黎明期だった1984年にエヴァンジェリスト (伝道師) として参画したのが日系アメリカ人のガイ・カワサキだ。彼はAppleの魅力を世界に広げることで、マッキントッシュの成功に大きく寄与した。 現在は起業家 / ベンチャーキャピタリストとして活躍している彼は、これまでに多くの起業家に対して投資家、アドバイザーとしての立場から多大なる影響を与え、成功に導いてきた。また、複数の関連著書を通じてスタートアップ成功のための「法則」を伝えている。 起業家にありがちな10の定番ミス 今回はそのガイ・カワサキが以前にUCバークレーで行った講演「スタートアップ起業家にありがちな10の間違い」を動画共に紹介したい。 どれもかなり “あるある” な感じで、すでに体験したことのある人も多いと思うが、ぜひ参考になれば嬉しい。 1. 市場の1%を獲得するのは意外と難しい 全市場の1%獲得すればかなりの売り上げが見込める。それもあり、スタートアップで商品やサービスを展開する際に、既存の市場の1%程度であればなんとか獲得できそうだと思いがち。 しかしそれは大きな間違いで、一見簡単に儲かりそうだけどそんな簡単じゃない。ドッグフードの実例をもとにわかりやすく説明している。 2. スケールアップを急ぎすぎる 多くのスタートアップが最初から急成長を見込んでオペレーション拡充を急ぎがち。でも実際にはスケールが遅れて倒産する企業はない。 そもそも、そんなに急いで体制を整えたところで、ユーザーやオーダーが集まらない限りは無駄なコストになるだけだ。 3. パートナーシップに期待するな スタートアップを始めた直後はユーザーも売り上げも少ないため、大企業などとのパートナーシップを結んだりするだろう。しかし、パートナーシップは全く意味がない。 そんなの売り上げが無い時の言い訳にすぎないのだ。起業家に必要なのは数字を達成すること。余計なことに気を取られずにとりあえず業績を上げることに集中するべき。 4.ピッチよりもプロトタイプを作ろう スタートアップにとってピッチはとても大切だが、現代では可能な限りプロトタイプを作成して投資家に見せた方が何かと有利だ。ピッチではいくらでも誤魔化すことができるが、プロトタイプでは無理だ。 そして、プロトタイプがあるということはある程度プロダクトがあることを意味するので、投資家からのバリュエーションを挙げてもらいやすくなる。 5.ピッチの際には10/20/30ルールを採用せよ 多くの場合、スタートアップのピッチを行う際にプレゼンに色々盛り込もうとしすぎる。そんな時はガイ・カワサキ流、ピッチの10/20/30ルールを活用するのがおすすめ。 スライドを利用したピッチを行う場合の目安は10ページ, 時間は20分, フォントのサイズは30ポイントだ。そうすることで本当に重要な情報だけがピッチに凝縮されることになる。 6. 全て同時進行で行え 一般的な企業では一つずつタスクをこなすことが一般的だ。しかし、スタートアップの世界では複数の事柄が一気に動き出す。 順番で行うことはできない。「資金調達が出来たらプロダクト作り始めます」は絶対にダメ。チーム作りも、資金調達も、プロダクト作りも、採用も、仕組み作りも全て同時に行わなければならない。 7. 株式の51%を保有すれば会社のコントロールが出来るは幻想 創業者達が株式の過半数を所有していればコントロールを奪われない。と思うのは完全に間違い。外部資本が入った瞬間からコントロールを失う。 株式会社だから全ては取締役会の決議で決まる。51%以上のシェアがあれば大丈夫。それはスタートアップの世界では通用しない。現実では決議で決まることはほとんどないのだ。 8. 特許はあまり意味がない 特許さえ取れば競合に真似されないと思ったら大間違い。スタートアップはあまり特許を過信しない方が良い。その理由として、特許を取っているだけでは真似されることを防御できないし、一旦訴訟になるとお金も時間もたくさん掛かるからだ。 なので、もし投資家とのミーティングで特許の話をするのは一回だけにした方が良い。それ以上言うと相手の興味がなくなる可能性がある。 9. バランスの取れたメンバーの採用を スタートアップの初期メンバーを探す際には自分が持っていないスキルの人間を優先して採用すべし。初期の頃などは、ついつい自分に似た人に興味を持ちがちなので要注意。 自分がエンジニアだったらビジネス担当を。ビジネス担当だったらエンジニアを採用することで、バランスの取れた強いチームを作ることが可能になる。 10. 投資家とは友達になるな スタートアップの多くはどこかの段階でVCから投資を受ける時がある。そこで勘違いしがちなのが「VCは友達」と思ってしまうこと。もちろんできるだけ支援はしてくれると思うが、業績が出ないままでいると冷酷な判断をされることも少なくはない。 そもそも彼らの仕事は起業家と友達になることではない。リアルな現実がそこにある。VCからの投資を受ける際にはそこを理解しておこう。 11. VCに過度な期待をするな VCはスタートアップのプロだから投資してくれたらさぞかし手厚いサポートも受けられると思ってる人が多い。しかし現実はそんなに甘くない。一ヶ月に数時間もらえれば良い方だ。 彼らは非常に忙しいし、投資からのリターンを出すことが最優先になるため、特に業績の良くないスタートアップにはなかなか時間を割いてくれない。 One ore thing的なエピソード。 終わりに シリコンバレー地域でも、ガイ・カワサキ以上にスタートアップや起業家が持つべき心得をここまで明確に理解し、表現できる人はかなり少ない。それもユーモアを交え、わかりやすい英語で話してくれる。 今後紹介したセッションはかなり昔のものにはなるが、その内容はタイムレスで現代の起業家にもかなり貴重な示唆に富んでいると思う。 以前に対談させていただいたこともあるが、彼は知識が豊富なだけでなく視点の鋭さや、時流理解のセンスも飛び抜けている。対談の最後に彼の本にサインと “Change the World!” と書いてくれたのが嬉しかった。 筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.

ジェネレーティブAIを支えるテクノロジー【生成系AI Vol. 3】

これまで「生成系AI 」シリーズのFreshtraxでは、生成系AIの基本(Vol.1)とプロンプト(Vol.2)に関してできるだけ分かりやすくまとめてきた。 今回はVol.3として、生成系AIのその “裏” にあるテクノロジーに焦点を当て、なぜ生成系AIでこんなにも凄いことが実現できているかの謎に迫りたいと思う。 もちろんその背景には数多くのテクノロジーが複雑に絡み合っているが、今回の趣旨はできるだけわかりやすく説明することなので、焦点を絞って基本的な部分だけを抽出した。 よく聞く”LLM”とは さて、生成系AIのテクノロジーと聞いて真っ先に思いつくのが “LLM” と言う単語。ニュースやSNSでもAIとセットのように語られることが多い。 LLMとはLarge Language Modelsの略。 日本語で簡単に表現すると、たくさんの言語データを集積した「かたまり」のようなものとでも言えるだろう。(多分) LLMは何をしてくれるの? 膨大な言語データを集めたモデルの主な役割としては、 リサーチ (Research)、分析 (Analyze)、翻訳 (Translate)、予想 (Predict)、変換 (Transform) である。 一言で表現するとLLMは生成系AIが動くためのコアの部分、すなわちエンジンのようなものである。 LLMはどんな企業が強いの? では、そもそもこのLLMは、どのような企業が提供しているのか?そして、どの企業が現在のところLLMをリードしているのか?いくつかの企業の例を挙げてみよう。 OpenAI – まずは皆さまご存知のChatGPTを提供しているOpenAI社。現在のところMicrosoftのバックアップもあり、かなりリードしている。 Google – 次に、これまた皆さまご存じのGoogle社。検索やマップなどのサービスを通じてこれまで集めた膨大なデータを元にしたLLMを保持している。 Meta– そしてもう一社注目したいのがFacebook改めMeta社。FacebookやInstagram、そしてWhatsappといった、さまざまなフォーマットのデータが多くのユーザーから集められるサービスを武器に、LLMを作り上げている。 上記の3社が今のところ「LLM三国志」のような感じだが、今後この勢力図も新規参入を含め、どんどん変化する可能性もあるだろう。 もう一つ、トランスフォーマー 生成系AIのテクノロジーを語る上でLLMに加え、もう一つ覚えておきたいのが “トランスフォーマー”と言われるもの。このトランスフォーマーの登場が現在の生成系AIを格段に進化させた起爆剤にもなった。 トランスフォーマーは、データを処理するための技術のひとつで、機械学習や強化学習に用いる技術のことだ。これにより、AIによる出力生成の精度が上がる。自然言語やDNAのような連続的なデータを処理するために利用される。 また、機械学習の一種である教師なし学習にも利用される。教師なし学習とは、データセットの構造を学習するために、人間がラベルをつけなくてもデータを分類し、パターンを見つけ、推奨を行うことができる手法のこと。それにより、大規模モデルの作成が簡単になりGPT2 -> 3 -> 4のように開発速度が向上した。 生成系AIの裏には”LLM”と”トランスフォーマー”というテクノロジーが利用されていると考えれば、基本中の基本は抑えられているのではないだろうか。 いきなりAIサービスが急増した理由は? 生成系AIに関連するサービスは日進月歩。毎週のように新しいサービスがリリースされている。 昨日できなかったことが急に今日可能になることも少なくない。それをキャッチアップするだけでも大変だ。 そもそもなぜ2022年後半から2023年明けにかけてこんなにも生成系AIとAI関連のサービスが怒涛の発展を遂げたのか? おそらくAI系のテクノロジーが世界の複数の場所で水面下で研究開発が進んでおり、ここ数年で一気に花開いたのであろうと考えられる。 その要因の一つが、ネット上の膨大なるデータ収集によるもの。GPT-3などは Common Crawl のデータ(世界中のWebサイト)がメインの学習元としてデータの収集を行なった。 また、テクノロジーの発展はその性質上、指数関数的に一気に進み、どこかのタイミングでビッグバンのように世の中に広がる。そして、その直前まではあまり気づかなかったりもする。 そしてもう一つの説。それはコロナ禍がAIの発展に大きく貢献したというもの。これは、Future Today InstituteのCEO, Amy Webbが提唱する説で、SXSW 2023における彼女のキーノートプレゼンテーションでも説明されていた。 皆さんも記憶に新しいと思うが、2020年初頭にパンデミックが始まった直後から仕事も学校もリモートになり、世界中がオンラインでミーティングや授業を行っていた。 そうなるとどうなるか?文字だけではなく、画像、映像、声、ロケーションなどなどのさまざまなデータが収集される。 AIはどれだけのデータを収集できるかでその精度が左右されることもあり、コロナ禍の3年で急激にデータが集まったことで、その精度がどんどん高まっていったらしい。 今後の展開は? こんなにも毎日急激に発展している生成系AIだが、今後どのように展開して行くのだろうか? おそらく我々が現在目の当たりにしているのはまだまだ序盤で、今後は文字や画像だけではなく、音、声、動画、そして映画などもAIによって生成されて行く可能性が高い。 そしてディープフェイクなど、さまざまな著作権、プライバシーの課題が出てくる。それに対する法整備も急ぐ必要がありそうだ。 次回は生成系AIの発展が仕事に与える影響に関してまとめていく。 参考: AIが生成したビールのコマーシャル

サイモン・シネックから学ぶリーダーシップ 12の極意

TEDで大人気になったトークや、著書『WHYから始めよ! インスパイア型リーダーはここが違う』で有名なサイモン・シネック。成功する会社とそうでない会社の違いや、ビジョンやパーパスの重要性を説く彼は、アメリカをはじめ世界中でリーダーシップを学ぶ多くの人々から支持を得ている。
彼の提唱するスタイルは「サーバントリーダーシップ」と呼ばれるもので、21世紀のリーダー手法として取り入れている企業も多い。
今回は冒頭のトーク以外にも数多くの素晴らしいスピーチを行っているサイモン・シネックから、リーダーシップに関…

ジェネレーティブAIにおけるプロンプトとは?【生成系AI Vol. 2】

前回の「いまさら聞けないジェネレーティブAIの基本【生成系AI Vol. 1】」に続き、生成系AIに関して第2弾の記事をお届けする。今回のトピックは「プロンプト」。できるだけ専門用語を使わずにわかりやすく解説していこう。 先日開催されたウェビナーにて講演を行なった内容を一部抜粋してお届けする。 生成系AIに欠かせない「入力 = プロンプト」 文字や文章を出力してくれるChatGPTや画像生成系のAIサービスを利用する際に不可欠なのがプロンプトである。 プロンプトはユーザーがAIに対して行う「入力」。それ以上でもそれ以下でもない。 たとえばChatGPTに、「日本の都道府県とその県庁所在地をテーブルで表示して」と入力すれば下記のアウトプット (抜粋) が得られる。そして入力したその文章こそが「プロンプト」だ。 プロンプトを書く際のコツ では、プロンプトはどのように書いたら良いのだろうか? その答えを、プロンプトを受け取る側 = ChatGPTさんに聞いてみた。その答えがこちら。 目的を明確にする:何をAIに生成してほしいのか、具体的に定義しましょう。例えば、小説のプロット、詩のスタイル、商品のレビューなどが考えられます。 キーワードを使う:プロンプトにキーワードを含めると、AIがより正確な結果を生成することができます。例えば、「恋愛小説を書いてください」というプロンプトよりも、「若いカップルが失恋して再会する話を書いてください」というプロンプトのほうが、より具体的でAIに指示しやすくなります。 長さを指定する:AIに生成する長さを指定することもできます。例えば、詩を10行にしたい場合は、「10行の詩を書いてください」というプロンプトを作成することができます。 省略可能なパラメーターを指定する:AIに特定の情報を提供したい場合、プロンプトに省略可能なパラメーターを指定することができます。例えば「〇〇というキャラクターが主人公の小説を書いてください。〇〇の特徴は何ですか?」というプロンプトでは、主人公のキャラクターの特徴をAIに提供することができます。 以上のように、プロンプトを作成する際は、具体的な目的、キーワード、長さ、省略可能なパラメーターなどを考慮して、できるだけ明確に指示するようにしましょう。 画像生成にも威力を発揮するプロンプト プロンプト入力はChatGPTのような文字生成系のAIだけではなく、画像生成系のAIでも重要な役割を果たす。 実例を元に、どのような入力をするとどのような画像が生成されるかを見てみよう。 プロンプト:food photography, hamburger in the style of a mcdonald’s big mac, but luxurious michelin kitchen style –v 5 プロンプト:80s lotus esprit chrome details, nostalgic and timeless, warm and soft, sepia tones, deserted industrial warehouse, Fujifilm X – T4 with 35mm lens, shallow depth of field, early morning light プロンプト:Joe biden and donald trump laughing and playing golf together, mid day, natural direct sunlight, photography, eye level shot AIが苦手なプロンプトもある こんな感じで上手にプロンプトを活用すればAIによって驚くほどにリアルな画像が生成される。 その一方でAIは万能ではないのがわかる例を紹介する。文化的なコンテキストが求められるプロンプトは意外と苦手だ。 たとえば以下のような感じ。 プロンプト:こたつにみかん 上手なプロンプトを作成するためのポイント このようにプロンプトの入力内容次第でその結果が大きく変化するのが生成系AIの特徴である。したがって、より良いプロンプトを作成するのが重要になってくる。 上手なプロンプトの作成方法を、きたがわ 🍥 ChatGPT活用術さん (@bukuta_3) のポストを元にもう少し深掘りしてみようと思う。 プロンプトの内容と目的を明確にして書く プロンプトは具体的に書く (細かく・詳しく) 明確な言葉を使う *曖昧な単語はなるべく使用しない コンテキストを追加する (文章の前後関係を書く) […]

いまさら聞けないジェネレーティブAIの基本【生成系AI vol.1】

ここ数週間でジェネレーティブAI (生成系AI) がネットを中心に大旋風を巻き起こしている。 SNSを見ればタイムラインに次から次へとChatGPTの上手な使い方やアウトプット画面。そしてAIによって生成されたリアルな画像がシェアされている。 そして一週間でものすごい数のAI系のサービスがリリースされている。 生成系AIの進化が爆速すぎる あまりにもいきなりすぎる。あまりにも進化スピードが速すぎる感じがする。昨日できなかったことが今日できるようになったりしてる。 まるで今までの1年間におけるテクノロジーの進化がまるで1日で一気に達成されてる感覚。 そんな爆速なスピードで生成系AIが普及し始めたものだから、ついていくのがやっとな感じがする。僕自身も会社のテクノロジー主任に教えてもらいながらなんとか知識を保っているレベルだ。 生成系AIのウェビナーに登壇することに そんな状態だったのにも関わらず先日「世界に衝撃!Generative AIとは?」というタイトルのウェビナーで登壇した。 元々は友人でもあるTomorrow Accessの傍島さんから一ヶ月ほど前に依頼をいただき、その際には快諾した。しかし、それからイベント開催するまでの間にとんでもなく進化してしまった。 GPT-4がリリースされ、ChatGPTもアップデートされ、Midjourneyもv5になった。というか、ここで自分で書いていても正直よくわからないくらいだ。 デザイナー目線で説明する生成系AI そのため、僕が行ったウェビナーの内容は極力誰にでもわかるように心がけた。そしてできる限りデザイナー目線でのお話をした。 今回はその内容を元に誰にでもわかる生成系AIの基本をウェビナーで利用したスライドを活用しながらまとめることにした。 この記事はその第一弾である基本編である。 生成系 (ジェネレーティブ) AIとは? まずは基本中の基本。そもそも「生成系AI」って何?というところから。 これは生成を意味する英語の “Generate” と人工知能である “AI” を合わせた “Generative AI” の日本語表記で「AIで何かを生成する」という意味。 簡単に表現すると2つ以上の入力に対してAIが “いい感じ” に出力を生成してくれるのが生成系AIのサービスだったりする。 例えば、「サンフランシスコの風景写真とモネの画風を合わせて」とAIにお願いするとこんな感じになる。 また、ChatGPTのように何かを聞いたらそれに対して答えてくれる仕組みと、音声を再現する仕組みを合わせて、故スティーブ・ジョブズを再現できたりもする。AIがジョブズの声を学んだことで実現した結果がこれ。 ということで、おさらいになってしまうが、生成系AIは一言で表現すると、”文字 や 画像等を等入力しAIに生成させる” 仕組み、である。 何が生成できるの? じゃあ、そんなすごいAIだったらどんなものが生成できるのか? 全てを想定することは永遠に難しいが、今のところは: 文章 画像 動画 ゲーム Webサイト アプリ 音声 はアウトプットとして確実に生成することが可能。 文字から画像、画像から文字、画像から画像も可能 生成系AIの使い方で最も一般的なのは、文字を入力して文字を出力してもらう手法。ChatGPTはまさにそうで、指示に従ってメールの本文を書いてくれたりする。 次に一般的なのは、文字を入力してそれに応じた画像を生成する使い方。たとえばこんな感じ。 また、画像から文字を生成することも可能で、AIが画像に写っている物体を分析してユーザーからの指示に応じた内容を生成してくれる。 あと、複数の画像を提供して、それを元にAIが画像を生成することも可能になっている。例えばこの例のような感じで。 ここまで読めば、難しいことがわからなくても、とりあえず生成系AIがかなり便利なのがお分かりいただけたと思う。 なぜ革命的なの? こんなにも凄いことができるのだからかなり革命的。 でも、何がそんなに騒がれるほど凄いのかというと、インターネットがこの世に生まれてから、恐らくこのテクノロジーによって時代が “第三期” 情報革命に入ろうとしているからだ。 第一期はWebが普及し、ハイパーリンクで情報が得られるようになった時代。初期の頃のYahooやWikipediaなどが良い例。 第二期はネット上の情報が増えすぎて、リンクだけでは追えなくなったことで “検索” テクノロジーを活用して情報を獲得するようになった時代。まさにGoogleが世界一になった理由がそれ。 そして、第三期が対話と生成で情報が獲得できる時代。まさに我々は生成系AIの登場によって第三期情報革命を目の当たりにしようとしているのだ。 続きは来週… 次回は生成系AIを操る際に重要になってくる「プロンプト」に関してできるだけ簡単に、わかりやすくまとめる予定です。

【統計】海外スタートアップの創業者達はいくら給料をもらっているのか

メディアやイベントで毎日のようにもてはやされ、外側から見るとかなりキラキラで儲かっていそう、お金持っていそう、セレブ、などと思われる起業家たち。 特に主要メディアに取り上げられたり、イベントで登壇している人達を見るとどうしても「かなり儲かってんだろうなー」と思ってしまう。 特に大きな額の投資を受けたニュースなどを見ると、一瞬で多くのお金を手にしたように見えてしまう。 しかし、巨額の投資を受けたからといって個人的に大きなお金が入って来ているわけではない。 むしろ、スタッフには多めの報酬を払っていてもファウンダー達はかなり節約しているケースも少なくはない。 そろそろ資金調達の際に”おめでとう”と言うのをやめないか? 創業者の給料は誰が決めるのか? 以前にシリコンバレーでVC (ベンチャーキャピタル) の友人に聞いたことがある。「ところで投資した先のスタートアップ創業者の給料に関しては口出しするんですか?」と。 答えは「いや、常識的な範囲で決めてくれれば特に口出ししないよ」だった。では、常識的な範囲とは幾らなのだろうか? 彼によるとシリコンバレー地域だったら年収25万ドル (3000万円) くらいだそうだ。 結構オイシイなーと感じた。 250社のスタートアップ創業者からの統計データ これからご紹介するのはKruze Consulting社が行ったアメリカを中心とした海外のスタートアップ250社の創業者の報酬に関する調査である。 この調査に参加したスタートアップは、バイオテクノロジー、eコマース、EdTech、FinTech、ヘルステック、ハードウェア、SaaSなど、さまざまな業界に渡る。 その結果を見てみると、そのステージにによってかなり開きはあるが、かなり興味深い結果だと感じる。 2023年度版スタートアップ創業者の給与事情 この調査では資金を調達したスタートアップの創業者の平均年収は約15万ドル(約2, 000万円)で、創業者の中央値は14万ドル(約1,800万円)近くになる。 CEOの年収は毎年増加傾向 2022年のスタートアップCEOの平均給与は、2021年の水準から2.7%増加して15万ドルとなり、中央値は14万ドルに増加した。 この平均値は、パンデミックの影響でCEOの報酬が落ち込んだ2020年から7.9%上昇したことになる。2022年のCEO報酬の増加により、2018年以降のCEO(および創業者)の平均報酬に見られるような、全体的に「右肩上がり」の傾向が復活している。 下表は、2018年以降の平均給与と中央値を示してる。 調達額が創業者の報酬に影響を与える なお、創業者の報酬は、スタートアップが調達した資本金の額によって異なる。以下は、資金調達額別の創業者給与の内訳だ。 <200万ドル未満の資金調達:創業者の平均給与は10万ドル 200万ドル以上500万ドル未満:創業者の平均給与13.5万ドル 500万ドル以上1000万ドル未満:創業者の平均給与17.1万ドル このデータによると、VCからの資金調達を行ったスタートアップはCEOとそれ以外の役職の創業者はほぼ同じ収入を得る傾向が見られた。 これは、その後の追加での資金調達の状況次第で変わっていく可能性があり、CEOが他の創業者よりも報酬が増える可能性が高い。 さらに、後期段階の企業では、創業者兼CEOの代わりに「雇われCEO」が就任することが多く、こうした外部の人間は創業者よりもかなり多くの収入を得る傾向がある。 ステージ別スタートアップ創業者の報酬水準 スタートアップの創業者は、資金調達が後期になるにつれて、より高い給与を得る傾向にある。 これは当然で、会社が後期になるにつれリスクが軽減され、投資家からの現金と利益が確保しやすい。 その結果、創業者の報酬を上げる余裕ができる。 シード:~13万ドル シリーズA:18万ドル〜19万ドル シリーズB:25万ドル26万ドル 役職別スタートアップ創業者の平均年収 では、創業者の中でも異なる役割の人は報酬も異なるのだろうか?結果的にはそこまで大きな開きはない。 初期の段階では技術系の創業者 (CTOの役割) は、CEOの役割の人よりも報酬が高い傾向がある。これは、経験豊富なエンジニアは採用が難しいのに対し、誰でも自分が始めたスタートアップの最高経営責任者 (CEO) になれるからだろう。 収益を上げるスタートアップでは、最も高い報酬を得ているのはセールスリーダーであることが多い。 性別によっても報酬が異なる傾向 スタートアップの給与面でも男女格差が生じている。 モーニングスター社による2022年度の調査によると、2015年から2019年にかけてCEOの男女の給与格差は縮小していた しかし、2020年のパンデミックの際にアメリカの企業全体で再び給与格差が拡大し、スタートアップ企業に関する調査でもその傾向が見られた。 女性CEOはパンデミックのピーク時に給与が30%減少し(2019年の13万8000ドルに対し10万1000ドル)、男性CEOの給与は増加している(2019年の14万3千ドルに対し14万6千ドル)。 この拡大した差が、2022年のデータで縮小することを期待されたが、残念ながらそうはならなかった。 世界で活躍する女性起業家たちと、取り巻く環境への課題 日本のスタートアップはどんな感じなんだろう? このような感じで海外、主にアメリカのスタートアップ創業者やCEOの給与データを紹介した。もちろん、そのステージや調達資金額で随分と差があり、個々のケースで異なると思うが、一つの参考にはなると思う。 この辺、日本の場合は現在どのような感じになっているのだろうか?かなり興味がある。 ベンチャー企業とスタートアップ その定義と違いとは?

面白アイディアが日本企業によって殺される12のステップ

今年も経産省によるイノベーター創出のためのプログラム「始動 Next Innovator」の選抜グループがシリコンバレーに訪問している。彼らはこの地のスタートアップカルチャーを吸収し、自分たちの新たなビジネス作りに繋げる。
このプログラムの第一期から僕はメンターとして協力させていだだき、メンタリングを通じて、これまでに100名以上の起業家たちに対してビジネス、マーケティング、デザイン面を中心にアドバイスを提供してきた。
イノベーションを生み出すために -空想者から行動者に変革する5つの方法- 始動プ…

アメリカの回転寿司から学ぶフルオートメーションの未来

以前に「アメリカの丸亀製麺から考える日本でDXが進まない本当の理由」でアメリカでの飲食の労働現場についてお伝えした。 アメリカの飲食店は完全分業スタイル 高いバイト料 (2,000円以上) にも関わらず、シングルタスクしか出来ず、いっぱいのうどんに下記の12人が必要とされる。 オーダーを取る人 麺を準備する人 麺を茹でる人 茹でた麺を渡す人 麺を冷やす人 麺をお椀に入れる人 お椀に汁を入れる人 お椀にトッピングを入れる人 お椀をお客さんに渡す人 天ぷらを揚げる人 揚げた天ぷらを並べる人 会計をする人 それぞれの工程がきっちりと分業されており、それぞれの “担当者” が決まっている。言い換えると、一人につき一つの作業が割り当てられているのだ。 高騰する人件費 これだけの従業員が必要ということは、もちろんお店へのコストも掛かってくる。そしてその結果として、値段も高くなる。 加えて、昨今のインフレでお店への負担はどんどん高まるばかり。そこで必要になってくるのが自動化やデジタル化だ。 全自動のくら寿司に行ってみた 面白いことに、上記で紹介されている丸亀うどんサンフランシスコ店があるのと同じショッピングセンター内に、これも日本から上陸したくら寿司がある。 丸亀とは対照的にくら寿司はほぼ完全オートメーションで運営されている。その手法やセキュリティーに対しての配慮などが興味深かったのでレポートする。 店内は日本の回転寿司と同じ くら寿司はアメリカでも日本の回転寿司とほぼ変わらないサービスを提供している。レーンにお寿司が流れ、個別オーダーも可能。 座席はブース型 座席の感じもおそらく日本と一緒。ブースがいくつか並んでおり、そこに4-6人のグループで座る形になる。 オーダーはタブレットから もちろん個別オーダーはタブレットから可能。メニュー内容は多少ローカライズされているものの、この辺も上手にアメリカに上陸した感じがする。 飲み物はロボットが持ってくる お寿司はレーンに回っているものをとるか、個別オーダーしたものが高速で流れてくる。 飲み物に関しては専用のロボットが客席まで運んでくれる。ここでも人間がいらなくなっている仕組み。 お皿は食べる度に流し込む仕組み 日本の回転寿司だと食べた分だけお皿を積み上げ、最後にお会計になるが、アメリカのくら寿司は食べ終わったお皿を専用の受け口に流し込む。 そしてシステムが自動的にお皿をカウントし、お会計に加算される仕組み。 ちなみにお茶は有料 これは全くの余談だが、アメリカだとお寿司屋さんでもお茶は有料になる。くら寿司サンフランシスコ店のお茶は$3.5 (400円) だった。 ガラス張りの店舗は外から丸見え 最近の日本では回転寿司などの飲食店でのイタズラが横行しているようだが、アメリカの店舗は周りがガラス張りになっていることもあり、お客さんの状況が丸見え。 もしかしたらそうすることで逆にセキュリティー的な利点があるのかもしれない。 お会計もタブレットで行う お食事が終わったらタブレットの右下の “Check Out” ボタンを押し、お会計に進む。 アメリカの場合、ほとんどのお客さんがクレジットカードかキャッシュレスで支払うため、全てのプロセスが座席で、無人で進む。ちなみに値段は日本の2-3倍。 人がいるのは主にキッチンの中 では、アメリカのくら寿司には従業員が全くいないのか?そんなことはない。キッチンの中でオーダーごとにお寿司を作る板さんと、たまにテーブルを見回ってくる定員、というかセキュリティー担当はいる。 でも、お店のサイズに対してはかなりの少人数で回しているイメージだ。 アメリカで進むレストランの無人化 このように、以前紹介した丸亀うどんとは対照的に、くら寿司はかなりのオートメーション化を進めている。 この流れは全米の他のレストランにも進んでおり、マクドナルドなどのファーストフードなどでもオーダーはタッチスクリーンで行うことで人件費の削減を進めている。 近いうちに日本にも訪れる問題 日本ではまだまだ安価で高品質な人材がいるかもしれない。しかし、それも労働人口の低下で数年もすると厳しくなってくる可能性が高い。 その一方で、自動化や効率化を進めたことで、昨今に見られるような問題が発生するリスクも高まるので、どのように対処していくのかが注目される。   筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.

「サステナ」推しでお腹いっぱい – 主要メディアが伝えないCES 2023の裏側

今年も世界最大のテクノロジーカンファレンス、CESがラスベガスで開催された。 かなり遅いタイミングとなってしまったが、現地に参加したレポートをお届けする。 主要メディアを中心に多くの方々がかなり包括的な記事を書かれているので、僕自身は自分が感じたバイアス満載のぶっちゃけな「裏CES」という文脈でこの記事をお届けする。 メディアは教えてくれない裏CES そう。多くのメディアはどれだけ「凄い」テクノロジーやプロダクトが発表されたかに焦点を絞り、やや “盛った” 感じのレポートに終始している。 そうするのがメディアの役割であるためだからだが、場合によっては参加したレポーターの正直な感想が書きにくくなっているのではないだろうか。 実際に参加したメディア系の方々に聞いても「ぶっちゃけはこうなんだけど、建前上はこのように書いておかないと…。」という意見も実際にあった。 今回、この記事では、実際に参加して感じた、あくまで率直で個人的な感想をお伝えする。 規模は例年の2/3ぐらいかな? 今年の最終来場者数は11万人ちょっとで、去年の1.5倍から2倍ぐらいの規模らしい。 とはいうものの、コロナ前の状況から比べるとこれでも少し少ない印象を受けた。 実際に2019年まで利用されていたラスベガスコンベンションセンターのSouthとWestgateホテルは利用されておらず、フルスケール開催は来年かなー、という感じだ。 勿論、とはいえそれでもかなりの規模のイベントであることは間違いない。 猫も杓子もサステナかよ! 今回も一般展示が始まる2日前より始まるメディアセッションから参加させていただいた。 これらのセッションでは、プレスカンファレンスを通じて複数の企業がそのビジョンや新規プロダクトの「初お披露目」を行う。 セッションの直前キャンセルが相次いだ去年と比べて、今年は多くの企業がしっかりとメディア発表を行った。 参加したのは、Bosh, LG, Samsung, Panasonic, Canon, Hisense, TCL, Valeo, HD Hyundai, Omron Healthcare, SONY, AMD, BMW, そしてCES主催者がプレゼンする2023 Trends to Watch。 上記のセッションに共通しているのが 「サステイナブルへの取り組み」だ。 自然豊かな緑や地球の映像を投影しながら、我々はどれだけ環境に良いことをしているのかの説明が相次いだ。本当にそればかりで、後半は感覚が麻痺してくるレベル。 特にイベント主催者のCTAによるサステナ押しはすごかった。 というか、そもそも環境保護が重要なのであれば、ラスベガスで大量のエネルギーを消費し、世界中から飛行機に乗って10万人以上の来場者を集めるCESというイベントを開催すること自体がかなり非環境的な気もするが…。 優しくするのは人、社会、環境 では、具体的にサステナは何に対しての姿勢なのか?SDGsと同じく、あまりにぼんやり&ざっくりとしたコンセプトな上に、皆が語っているので、いまいちピンとこない。 でも今回はSamsung社がそれをわかりやすく説明してくれた。 サステナブル = 優しさであり、その対象は3つ。人、社会、環境である。 なるほど、会社の存在目的とビジョンをプロダクトを通じて表現していく。その対象は人であり、社会であり、環境であると。 デジタルツインだらけ 展示ブースを周っていてひときわ多かったのが、デジタルツインをコンセプトにしたもの。 自動車の車体や都市だけではなく、人間の体や脳の中身まで、あらゆるもののデジタルコピーを作成し、クラウド上に保管する。そして、その状況や内容を逐一管理できるという仕組みだ。 実際、どのような役割を果たすかはまだまだ未知数であるが、これからはリアルに存在すると同時にデジタル空間でも同じような存在が保持されていく時代になるかもしれない。 メタバースはまだまだ入り口 数年前より注目されているメタバースであるが、CES 2023ではもう新しいコンセプトのMoT (Metaverse of Things) が発表されていた。 これは、メタバースをより身近にするために、専用のVRゴーグル等のデバイスがなくても、家庭やオフィス、車の中でメタバースを体験できる仕組み。 一瞬何のこっちゃと思ったが、おそらく言いたかったのは、まだまだメタバースどっぷりの生活にはならないが、日々の中でメタバース的な体験に触れる瞬間は増えてくるよ、ということだろう。しかし、だからと言って完全に腑に落ちたかと言われると、まだやはり「何のこっちゃ感」は残った。 日本は世界のイノベーションチャンピオン「◯◯位」 今回のCESのキーノートでは、CTAによる世界のイノベーション先進国の発表が行われた。そのなもグローバルイノベーションチャンピオン。 さて日本は何位だっただろう? 正解は、25位。ランキングに入ったのは良いが、微妙な位置だ。経済規模や技術力を考えると少し低いのではと感じた。 日本が採点で特に低かったのは実に「ダイバーシティー」の項目だったそう。 AからEのグレードの中でなんと 「Dマイナス」の評価で、 これはかなり低い。 男女の格差や多様性に関しての課題が大きかったとのことだ。 みんな同じもの作ってるよね プレスカンファレンスや展示場を周って、気づいたことがある。 それは、「どの企業も近い領域で勝負している」ということ。言葉を変えると、カバーしている領域がどんどん被ってきている。 例えば、もともと家電をやっていたメーカーは自動車やヘルスケアの領域まで進出していたり、自動車ブランドが家電領域でサービスを提供し始めたり、といったものだ。 最もそれを象徴的に表現してたのがSONYのプレスカンファレンスにて発表された 、SONY Honda Mobility の自動車ブランドAFEELAだろう。 家電のSONYと自動車のHONDAがタッグを組んで作り出したハイブリッドモビリティーな感じのブランドである。 やっぱコンテンツがあると強い そんな感じで、みんな同じ領域に進出してる中で何が差別化要因になってくるのか? その一つが「コンテンツ」だろうと思う。 例えばFacebookは社運をかけてメタバース事業に乗り出し、社名もMetaに変更した。 しかし苦戦している。これは恐らく彼らがもともとコンテンツをほとんど持っていなかったからだろう。 デバイスやシステムがあっても、そこにキラーコンテンツが存在しなければ、ユーザーに利用する価値をあまり感じてもらえない。 その一方で、例えばSONYのような会社は、新しいデバイスをリリースしても、ゲームや映画といったコンテンツがあるので、一気に人気を集めやすい。 もしかしたら車の中でコンテンツをガンガン提供すれば上記のAFEELAも人気ブランドになっていくかもしれない。(運転していない時にグランツーリスモ用のレーシングシュミレーターとして利用できるとか…。) ブランド力が大きな武器になる時代 そしてもう一つの差別化要因はブランド力。 これだけ多くのテクノロジーが発達し、デバイスやパーツがコモディティー化していく中では、多くの企業が類似したプロダクトをリリースしていくことは避けられない。 例えばSamsungなんかは、日常家電からキッチン周り、ベッドルーム、バスルーム、ワークスペース、ベビーケア、シニアケア、ヘルスケア、スマート家電、モビリティーまで、本当に全部乗せである。 では消費者はどのような基準で興味を持ち、購入を検討するのだろうか?それは恐らくブランド力に違いない。 「何を作っているのか」よりも、「誰がなぜ作っているのか」が重要な差別化要素になってくると思われる。 「水」に関してのプロダクトが多い 去年まではあまり目立たなかったが、今年複数見られたのが「水」を作り出すデバイス。 これもやはりサステナビリティ文脈からくる環境保護への取り組みの一つだと思われる。 それらは空気中の水分を集め、飲料水を生み出す仕組み。軽く見ただけでもフランス、アメリカ、韓国の企業が同じようなデバイスを製造・販売している。 やっぱ韓国めっちゃ強いよね 数年前まではCESといえば中国企業満載のイベントだった。 しかし3年ほど前の華為をきっかけにアメリカと中国の関係性が微妙になっていくにつれ、一気に中国企業の展示数も減った。 それに代わって激増したのが韓国企業。 もちろん以前よりSamsung, LG, Hyundaiのような大企業は展示していたが、それ以外のスタートアップや中堅企業、そしてそれぞれの地域や産業を代表する団体まで、至る所で韓国企業発の展示が見られた。 これには米国市場に対して、国としての強い覚悟と勢いを感じた。 日本企業は視察だけで展示しない! それに対して、日本企業で展示しているところは多くなかった。 […]

2023年にヒット間違いなしの海外スタートアップサービス7選

2023年もすでに2週間目に突入し、そろそろ本格的に仕事モードに入った人たちも多いのかな?と思う。こちらサンフランシスコでは、ここ数年のコロナムードから一変、すでにコロナ明け感満載だ。 とはいえ、世界的にみてみると、パンデミックや戦争、異常気象や金利の上昇などなど、人々の生活と働き方が大幅に変化したことで、世の中には解決しなければならない課題が数多く存在している。 2023年に世界を変えるイノベーション予測 10選 特にテクノロジーを活用して課題解決を進めるスタートアップにとってみると、この時代の変革期は大きなチャンスでもある。今年も私たちはアメリカで流行りそうなサービスやスタートアップをどんどん紹介していこうと思う。 2023年に注目のスタートアップサービス ということで、btraxの代表としてサービスデザインの側面から日々複数のサービスを見ていく中で、今年も注目のスタートアップとヒットすると思われるサービスを7つほど紹介する。 BeReal Adalo Callin Stable Diffusion Phantom Valar Labs Gotham Greens 1. BeReal リアルな友達とだけリアルな写真を共有する サービス概要: フランス発のスタートアップが提供するBeRealは、フィルターや加工なしの、よりリアルな写真をリアルな友人とだけ共有することを目的としたアプリ。 1日1回、ランダムな時間に、アプリから「今日のBeRealを投稿する時間です」という通知が届く。 ユーザーは2分間だけ写真を撮ることができ、背面カメラで行動を撮影すると同時に、前面カメラでユーザーの写真を撮影する。 ユーザーは、2分間の制限時間外に写真を撮り直したり、投稿したりすることができるが、取り直したことが通知される。また、画像の加工やフィルタリングや編集は一切行われないので、本当にリアルな画像だけが共有される。 注目の理由: すでにアメリカでGen Zと呼ばれるZ世代を中心に、インスタに代表されるようなルッキズムから来る写真の加工にうんざりしているユーザーからの人気を得ている。 2022年に急成長し、すでに現在ではアメリカのティーンエイジャーの実に1/3がBeRealを毎月利用しているそうだ。 今後アメリカ以外の地域のユーザー開拓も進めると予想され、近いうちに日本のユーザーからの人気も広がりそうな予感がする。 2. Adalo 誰でもサイトとアプリが作れるノーコードツール サービス概要: Adaloは、誰でもモバイルアプリやウェブアプリを作成できるようにするためのノーコードビルダー。 直感的なドラッグ&ドロップ機能により、ネイティブのモバイルアプリや ウェブアプリを簡単に作成可能にしている。 Adaloを使えば、コードの知識がなくてもアプリを構築することができるようになる。 注目の理由: サイトやアプリ制作のニーズは年々高まっているにも関わらず、モバイルアプリやウェブアプリを作成するスキルを持つ人は、一般人口のわずか0.3%に過ぎない。 この状況を変えるために、ノーコードツールの必要性が高まっていくのではないだろうか。 3. Callin コミュニティー型ポッドキャスティングプラトフォーム サービス概要: ユーザーがライブのオーディオコンテンツを作成し、1つのプラットフォームで楽しむことができるポッドキャスティングアプリ、Callin。 ポッドキャスティングやマルチメディアの市場は参入が難しいとされているが、この型を破ろうとしている。 2021年に立ち上げられたシリコンバレーのスタートアップであるCalinは、ソーシャルオーディオの長所と「ソーシャルポッドキャスティング」という全く新しい概念を融合させようとしている。 創業者のDavid Sacks氏によると、このコンセプトは、ライブ会話やソーシャルディスカバビリティといったソーシャルオーディオの長所をポッドキャスティングと組み合わせることで、業界初となるものを生み出すと語る。 注目の理由: リリース直後より、LAUNCHやGoldcrest Capitalなどの投資家から、1200万ドルの資金調達を完了させた。 現在、Play Storeだけで10,000以上のダウンロードを誇っている。 ポッドキャスティング業界はブームが続いており、広告収入もそれに追随していることから、2023年はこのプラットフォームにとって非常に良い年となることが予想される。 4. Stable Diffusion AIがとんでもなく高クオリティーの画像を生成してくれる サービス概要: 2022年8月に公開されたStable Diffusionは、AIによる画像生成ツール。 テキストを入力するとそれに沿った画像を出力してくれる。 10億個近いパラメータ数をもち、およそ20億個の画像とテキストのペアで学習されている。 入力するテキストを工夫することで、複雑な画像でもいとも簡単に生成してしまう。 AIによる画像生成ツールとしてはこれまでも、MidjourneyやDALL-E 2など、入力テキストを画像に変換してくれるモデルは存在していた。 そんな中、Stable Diffusionがひときわ注目されたのは、他のAI生成サービスの多くが枚数やパラメーターに利用制限を掛けているのに対して、Stable Diffusionが「だれでも無制限に使えた」からだろう。 注目の理由: AIを活用した画像や文章生成ツールは、ここ数ヶ月で一気に注目が集まっている。 その中でもStable Diffusionは、より多くのパラメーターを有し、高いクオリティーの画像を生成してくれる。 その応用は無限で、世界中のアーティストやクリエイティブな思考全般に多大な影響を及ぼすと考えられる。 絵を描く特別なスキルがなくても、入力する文字やパラメーターを操作することで、短時間で大量の画像生成がされるため、今後クリエイティブ制作のプロセスに大きな影響を与えると考えられる。 5. Phantom めっちゃ使いやすいデジタルワレット サービス概要: NFTやその他のブロックチェーンは急速に主流になりつつあるが、金融や暗号のリテラシーが十分ではない場合、投資を検討している一般ユーザーにとっては高い参入障壁となっている。 Phantomは、この問題を解決するために、NFTを保管・管理するための使いやすいデジタルウォレットを提供している。 2021年にシリコンバレーで設立されたこのスタートアップは、当初はSolanaブロックチェーンプラットフォームで活動をしていた。 しかし、最近はWeb3空間全体からコミュニティを集め、ユーザーアクセスをさらに拡大するために、イーサリアムとポリゴンにサポートを拡大している。 注目の理由: リリースからわずか半年で200万人のアクティブユーザーを迎え、現在のユーザー数は300万人を超えると推定されている。 2022年の時点ですでにユニコーンの地位を獲得し、シリーズBの資金調達で1億900万ドルを確保。言うまでもなく、2023年にはより一層の活躍が期待されている。 6. Valar Labs AIを活用してより精度の高いがん治療を サービス概要: Valar labsは、シリコンバレーのパロアルトに拠点を置くスタートアップ。最新の人工知能(AI)技術を活用して、がん治療における大きな課題解決を目指している。 ハーバード大学とスタンフォード大学の研究者が2021年に設立した同社は、画像データの可能性を引き出すために臨床グレードのディープラーニングに投資し、腫瘍医が患者についてより多くの情報に基づいた判断を下せるようなソリューションを提供している。 注目の理由: 現在のところ、がん医療における多くの決断には不確実性が伴い、それにより生命の損失と何十億ドルものコストが掛かってしまっている。 それに対して、画期的な技術で世界の長年の課題を解決することで、Valar Labsはがん医療を飛躍的に前進させる可能性を秘めている。現在のツールが不確実性を減らすのに十分でない医療分野において、このブレークスルーはかなり大きなものになるかもしれない。 また、著名VCのa16z が投資していたり、ヘルステックのスタートアップには珍しく、Valar Labsはサイトのデザインが非常に素晴らしいのにも好感が持てる。 7. Gotham Greens 大都会のビルの中でサステイナブルな農業を実現 サービス概要: ゴッサム・グリーンズは、ニューヨーク市ブルックリン区に設立・本社を置くスタートアップ。温室で年間を通じて地元の野菜を栽培し、レタス、ハーブ、サラダドレッシング、ソースなどを同社のブランド名で販売している。 これはいわゆるヴァーティカル・ファーミング(垂直農法)と呼ばれる仕組みで、倉庫を改造して、葉物野菜からハーブ、イチゴに至るまでさまざまな作物の栽培スペースにするというものである。 […]

2023年に世界を変えるイノベーション予測 10選

2022年は世界の多くの地域でパンデミック規制が緩和されたことで、やっとコロナが収束に向かっているかなと感じられ始めたと思ったら、記録的なインフレ、ロシアのウクライナ侵攻、気候変動の影響による異常気象など、経済的にも環境的にも、かなり変化の大きい一年だった。 おそらくこの流れは2023年にも継続され、人々の生活も、社会環境も、仕事の仕方に対しても新しいアプローチが求められてくると思われる。言い換えると、これまでよりも一層イノベーションが求められる時代になってきた。 では、2023年にどのような変化、そしてそれに対するイノベーションが生み出されるのかについて、10の予想をしてみる。 1. SNSの利用率が下がり始める 2010年代から破竹の勢いでユーザーを増やし続けてきたSNS。しかし、今年は転換期になりそうな予感がする。 若者のFacebook離れから、イーロンマスクがTwitterを買収した事によるサービスの変化。そして、米国におけるTikTokの禁止の可能性などなど、そろそろ右肩上がりのSNSにもかげりが見え始めているのではないだろうか。 SNS上の誹謗中傷やプライバシー問題などの懸念もあり、多くのユーザーがSNSに対しての不満や不安を感じている。 また、ユーザーの行動を追いかけるSNSのアルゴリズムの危険性を不安視する声も出ている。 それもあり、不特定多数のユーザーが集まる大型SNSチャンネルから、Discord、Mastodon、Geneva、Substack、Patreonといったプライベートな空間でのコミュニティ形成を重視するサービスへの人気が移行し始めている。 これらのニッチなプラットフォームの中には、従来のSNSサービスを模倣したものもあるが、多くはスクロールに何時間も費やしたくない、短時間の利用を好むユーザーに対応している。 例えば、BeRealは、日に1枚しか写真を撮れない。WeAre8では、1日にスクロールが8分間に限定されている。 これらの新しいサービスの人気は定量的にも実証され始めている。例えば、BeRealの会員数は、2022年の1月から4月までの間になんと315%増加している。 TwitterやFacebook, Instagramがすぐに無くなるようなことはないだろう。 しかし、ユーザーはより安全で快適なコミュニティを求めるようになり、SNSの勢力図が大きく変わっていく可能性が高い。 ~Facebook離れは本当なのか~ 米国若者ソーシャルメディア最新実情 2. VCはユニコーン企業よりも黒字化企業への投資を優先する 2013年、ベンチャーキャピタリストのアイリーン・リーが、10億ドル以上の評価額を得た非上場スタートアップを「ユニコーン」と定義した。「ユニコーン」と名付けられたのは、そんなスタートアップは神話上の生物と同じくらい珍しいものだったからだ。 当時はUberやAirbnb, WeWorkなどのユニコーンに対して、猫も杓子も投資をしたがる「ユニコーンバブル」が広がり始めていた。 しかし、2010年代半ばになると、サンフランシスコやシリコンバレーを中心に、「ユニコーン」だらけになり、日本の国民的スナック菓子とんがりコーンと同じくらい一般的な存在になってきた。 それがエスカレートし、多くのVCが必ずしもその評価額に値しない企業に対しても巨額の資金を投じた。 その後、ユニコーンバブルが弾け、WeWork、Theranos、FTXといったユニコーンは、数百億ドルの価値を消し去り、見事に崩壊した。 加えて、ここ数年の景気の不透明感から多くの投資家がソフトバンクのヴィジョンファンドに代表されるように投資基準を格段に厳しくし、ユニコーンだからといって安易に投資しなくなってきている。 実際に、スタートアップへの投資とユニコーン出現率の鈍化は顕著で、CB Insightsによると、2022年第3四半期に誕生したユニコーン企業はわずか25社で、2021年の同時期と比べても5倍も少ないというデータがある。 言い換えると、投資家たちはスタートアップや起業家に対してこれまでのような幻想的な賭けに出ることを躊躇し始めている。 これからは巨大な評価額よりも、堅実に売上と利益を出せるスタートアップへの投資を優先していくだろう。 スタートアップとしても、1、2年での一攫千金を狙うのではなく、長期的に利益の確保が可能になる企業を目指す必要が出てくるだろう。 ユニコーン企業の次はゼブラ企業? ゼブラ企業の特徴と可能性とは? 3. リモートワークからハイブリッドワークへ パンデミックの影響で2021年中は完全リモートワークを許容していた企業も、少しずつではあるが “Back to Office” を始めている。TwitterやAppleに代表されるシリコンバレーのテック系企業のいくつかも社員のオフィス出社を義務付けている。 やはりリモートだけでは不可能なタイプの仕事や、対面の方がより良い結果が出せるタスクも多いことがその理由。 また、家で一人で仕事をすることで孤独を感じ、メンタルに影響が出ているケースも増えてきている。オフィスに出社するメリットも少なからずあるようだ。 おそらくそれが理由で、LinkedIn Economic Graphの分析によると、リモートワークの求人広告が減少していることがわかった。10月にLinkedInに掲載された求人情報のうち、リモートワークの選択肢を提供していたのは7件のうち1件だけだった。 今後はリモートワークとオフィスワークを混合させた、ハイブリッドなワークスタイルを採用する企業が増えてくるだろう。 ハイブリッドワークではリモートワークの柔軟性を確保しながらも、時折対面してのメンタリングや交流の場を設けることができる。 スタンフォード大学の経済学者であるニック・ブルームもオフィスでのコラボレーションが重要であると唱える。 マイクロソフト社の調査によると、ハイブリッドワークは短期的な生産性を高めるが、長期的なコミュニティや創造性を低下させる可能性もあるという。 ブルーム氏によると、企業は従業員のニーズに合わせて、会社全体で1つのスケジュールを作成するか、チームに決定させるかを決める必要があるとのこと。 2023年はハイブリッドワークがより正式なものになり、会社が出勤日を指定したり、スタッフが事前にオフィス に出勤する日を調整するようになってくるだろう。 新しい時代に広がる10のワークスタイル変革 4. AIの実用化が加速する これまでもずっと「AIがヤバい!」と言われてきたが、いまいちその凄さが実感できなかった。 しかし、2022年後半ぐらいからStable Diffusionによる画像生成や、ChatGPTによる文章作成など、リアルにAIの「ヤバさ」を見せつけられている。 そして、我々の目に付く範囲だけではなく、さまざまな産業において我々はAIの恩恵を受けている。 看護師はAIを利用して健康状態が悪化しそうな患者を見守り、投資家はAIを利用して投資ポートフォリオを調整する。モデルナ社の新型コロナウイルスワクチンの開発でも、AIは重要な役割を果たした。 これからAIはより直感的になり、複数の「感覚」を同時に使うことが増えていくだろう。マルチモーダルAIアプリケーションにより、AIシステムは音声、視覚、言語データを組み合わせて、また互いに関連づけながら処理することができるようになってくる。 例えば、テキストプロンプトに基づいてオリジナルアートを生成できるDALL-Eのようなツールは、このアプローチの初期の例と言えるだろう。 マルチモーダルAIは、AIシステムが高度に洗練されたニュアンスでデータや環境を分析できるようになるため、今後数年のうちに新しいアプリケーションで飛躍することが期待されている。 医療分野では、マルチモーダルAIが患者の画像や履歴、バイオセンサーからのデータを組み合わせて検査し、診断や治療法の提案を行なえるようになる可能性がある。 また恐ろしいことに、マルチモーダルシステムへの移行により、AIは現在よりもさらに創造的な力を持つようになる。 例えば、Netflixがユーザーごとに単にお薦めを表示させるのではなく、それぞれのユーザーの好みに基づいて全く新しい映画を創り出すことも、近い将来起こっていくかもしれない。 5. 医療従事者の人手不足をテクノロジーが解決する 世界では、医師や看護師などの医療従事者が不足している。 WHOの保健医療人材ディレクターであるジム・キャンベルによると、医療従事者は人口の3倍の速さで増加すると予想されているが、それでも2030年までにさらに1000万人の臨床医が必要になるとのこと。 この状況に対処するために、2023年には、世界中の病院、ハイテク企業、政府機関が団結して、2つの重要な方法を取ることが予想される。 それは、手元にある限られた人材資源を共有することと、患者への対応と新しい医療従事者の育成のために新しいテクノロジーを導入すること。 アマゾンウェブサービスの国際公共部門健康担当最高医療責任者であるローランド・イリングは、「こうしたニーズを補うため、バーチャルケア、遠隔モニタリング、在宅医療などの動きが活発になっています」と述べている。 「また、将来の医療従事者を育成する必要性もあり、デジタルヘルス教育の新しい方法に焦点を当てた製品が増えている」とも語る。 WSは、シアトルに拠点を置くHurone AIなどのスタートアップに資金を提供していく予定。 Hurone AIは、ルワンダでアプリをテストしており、人口1300万人の国全体で、20人足らずの腫瘍医の治療を支援する。 また、米国心臓病学会は、バーチャルリアリティ手術トレーニング会社のOsso VRと提携し、特定の心臓手術のためのグローバルカリキュラムを作成しようとしている。 このように、医療従事者の人手不足を補うために、急ピッチでテクノロジーによる解決策が進んできている、 【医療テック×UX】スタートアップが変えた私達のヘルスケア体験 6. サステイナブルファッションが注目される 国連によると、我々が衣料品に使用する素材の約60%はプラスチックで、毎年約50万トンのプラスチック製マイクロファイバーが海に放出されていると言われている。 この環境負荷を軽減するため、デザイナーやメーカーは、藻類、パイナップルの皮、キノコなどの新素材から衣服を作るなど、植物由来のソリューションにますます注目するようになっている。 これはアパレル業界においても、よりサステイナブルな素材に注目が集まっているということだ。 例えば、畜産業が環境に与える影響を考えると、植物由来の生地はレザーの代用品として特に魅力的と言われている。 デンマークのブランドGanniは、2023年までにレザーを使用しないことを計画しており、ブドウの皮、植物油、水性ポリウレタンでできたVEGEAのような代替品を使用する予定。 キノコやその他の菌類の糸状の根である「菌糸」は、いくつかのレザー代替品の基礎となっており、実はエルメスやStella McCartneyが早くから着目し、採用している素材だ。 ココナッツとコルクを使った完全プラスチックフリーの生地「Mirum」は、BMWを含む投資家から8500万ドルの資金提供を獲得している。 藻類と海藻は、テクニカルファブリックの分野にも進出していくだろう。 英国の生地会社Pangaiaは、海藻パウダーを使ったレジャーウェアを作っており、藻類を使った吸汗速乾素材の研究にも着手している。 サステナビリティ・コンサルタントのソーニャ・パレンティは、植物由来の布地の多く、特に完全にプラスチックフリーのものは、まだまだ実験段階であると述べている。 一方で、より分解しやすいバイオベースの素材の比率を高めた新しい生地が登場することを期待している。 「ファッション界のプラスチック危機を解決することはできませんが、化石燃料から完全に脱却するための解決策の一部になる可能性があります」と彼女は語っている。 海外ブランドが「できるだけ買わないでください」を広げる意外な理由 7. 都市部を中心にヴァーティカル・ファーミング(垂直農法)が広がる 2022年に世界人口は80億人を超えた。それに合わせ、世界的な食糧難が危惧されている。 加えて、今世紀半ばには65億人もの人々が都市部に住むと推測されている。都心部に屋内農場を設けることで、急増する都心部の人口の食糧を賄うのに役立つと考えられている。 これはヴァーティカル・ファーミング(垂直農法)と呼ばれる仕組みで、倉庫を改造して、葉物野菜からハーブ、イチゴに至るまでさまざまな作物の栽培スペースにするというものである。 2022年上半期、投資家は8億ドル以上を垂直農場系の企業に投じた。2030年までにこの屋内農業ビジネスは、330億ドル規模になる可能性があるとされる。 気候管理された屋内農場には、従来の農場と比較して重要な利点があるとされる。 年間を通じて栽培が可能で、植物を積み重ねることができるため、より少ない土地でより多くの食料を生産でき、害虫や異常気象の影響を受けにくいのだ。 また、農場を消費者に近づけることで、輸送や冷蔵の必要性も少なくなる。 この業界では、毎月のように新しい垂直型農場が誕生している。 AeroFarmsは最近、バージニア州ダンビルに150,000平方フィートの施設をオープンさせた。 […]

2022年にリブランディングを行った12のブランド

2022年もそろそろ終わりに近づいている。 今年も多くのブランドが、ロゴのリデザインやリファイン、そして大幅なリブランディングを行った。 その中でも著名な12のブランドを紹介する。 その前に、ブランドやブランディング、そしてロゴの役割などをざっとおさらいしてみよう。 ブランドにおけるロゴの真の役割とは? リブランディングや、ロゴの進化の真のインパクトは、会社の進化と新しいサービスの価値が消費者に受け入れられるかどうかで決まってくる。それがうまくいけば、誰も新しいロゴに文句を言う人はいないだろう。 一方で、期待値に応えられない場合は、新しいロゴと一緒にブランド価値が大きく下がる可能性もある。 現状における新しいロゴは、それ自体のクオリティーや価値に関係なく、新しい時代の明確なシンボルでもある。 それは、最近のネガティブな情勢に対して、より軽く、楽しく、明るい未来を連想させる、ブランドの意思表示としても読み取れる。 優れたロゴを構成する5つの要素 リブランディングを行う主な理由 そもそもなぜリブランディングをする必要があるのだろうか? 主に下記の理由が挙げられるだろう。 デジタルデバイス普及などの時代の変化 ブランドやサービス価値の変化 ターゲットユーザーの変化 世の中のトレンドの変化 会社のフェーズの変化 主要プロダクトの変化 予算が余ったから Uberの失敗 非デザイナー社長がリブランディングに関わるとどうなるのか 2022年にリブランディングを行った12のブランド それでは本題の今年リブランディングを行ったブランドを紹介する。 Audi 以前に「自動車メーカーのリブランディング分析: Nissan, VW, BMW」で紹介したように、ここ数年で自動車メーカーのリブランディングがどんどん進んでいる。 そんな中で、2022年もいくつかの自動車ブランドがアップデートを行なった。まずはAudi。Audiといえば4つの円で構成されるロゴが象徴的であるが、今回はそれをより一層洗練させた。 90年にわたるブランドの歴史の中で、どのロゴもリングの形は変わっていないが、今回のアップデートでは、リングの光沢のあるクローム色を取り除き、ホワイトまたはグレーに細いブラックの縁取りを施している。 よりシンプルでフラットにすることで、デジタルへの対応とサステイナブルなブランドへの進化を表現している。 今回のリブランディングに対して、Audiのデザイン主任のMarc Lichte氏は “Good design is Less design” と語っている。 Instagram インスタも2022年にさりげなくロゴをアップデートしたのをご存知だろうか?おそらくほとんどのユーザーが気づかないレベルでのアップデートを施している。 具体的には全体のデザイン要素はそのままに、アイコンにおける線の太さと場所、そしてグラデーション部分の色味加減と角度を変更している。 Instagramの公式発表によると、新しいブランドアイデンティティは、「より没入感のある包括的な体験を生み出すために…継続的な進化を受け入れるようにデザインされています」とのこと。 些細な変更でも進化を続けている良い例だろう。 インスタ12周年 – パクリサービスから世界一のSNSへの道 Baskin-Robbins (サーティワンアイスクリーム) 日本では31(サーティワン)の名前で知られているBaskin-Robbinsも今年リブランディングを行った。本国のアメリカでは “BR” の名称が浸透しているため、よりその二文字を強調し、ちゃんと “31” と見えるような工夫も施されている。 新しいロゴの全体の雰囲気は何かレトロな感じがする。同社によると、ロゴを刷新することで、新しいオーディエンスをこのブランドに惹きつけるのが狙いだとのこと。 実はこの新しいロゴのモチーフとして、1953年の広告キャンペーンで使用されたピンクとブラウンを採用している。原点に立ち返り、ブランドの活性化を図っている。 Citroen 欧州の大手自動車メーカーであるシトロエンは、世界中の大手自動車販売会社にならって、デジタルファーストを目指す自動車ブランドとして、ロゴを一新した。 同社もAudiと同様に、新しいロゴをデザインするのではなく、初代のロゴモチーフを再活性化させることを選択した。元々あったロゴシンボルをモチーフに原点回帰し、より洗練したアイコン的デザインに進化させている。 アンドレ・シトロエンの楕円形のロゴが再び登場したことで、シトロエンのクルマに使われるロゴがより現代的になり、旧ロゴの雑多な印象が薄れ、より幾何学的な形に置き換えられている。新しいロゴは、よりスマートな美しさを備えている。 Sprite スプライトの新しいロゴは、コカ・コーラグループの第2位の飲料ブランドとしては初めてとなる、グローバルなブランド刷新の一環として発表された。 新しいロゴは、過去の象徴的なフラッシュロゴを簡略化したもの。それまでもかなり認知度の高かった旧ロゴを一新する決断力は半端なかったのではないだろうか。 新しいロゴは、ユニークなフォントデザインなど視覚的な魅力はそのままに、ワードマークは従来のボーダーから脱却し、文字の躍動感を高めることで新たな次元に到達している。 ちなみに、スプライトはこのリブランディングに合わせ、ボトルの色も従来の緑から透明に変更し、よりサステイナブルなブランドの実現を目指している。 Zapier 世界中の何千もの企業に利用されているアプリケーション統合プラットフォームであるZapierは、2022年、同社の10年の歴史の中で初めてブランドとロゴを更新した。 Zapierのユーザーに対する価値である “magic and motion (魔法と動き)” をより適切に捉えるための取り組みの一環として、古いロゴから一新し、真新しいロゴと刷新されたブランドアイデンティティを手に入れた。 Zapierは、赤いアンダースコアをロゴマークに加え、大胆でレトロなフォントを採用することで、インパクトの薄かったロゴをよりパンチの効いたものにした。 Hootsuite ソーシャル管理ツールのHootsuiteも大胆なリブランディングを行った。 新しいブランディングは、ブランドアイコンである「Owly」をより中心的なキャラクターとして位置づけ、よりフレンドリーなソーシャルプラットフォームと世界のビジョンを強調している。 ここ数年のスタートアップロゴのトレンドであったシンプルかつプレインなデザイン、言い換えるとかなり没個性なデザインをあえて避け、より個性的なキャラクターを利用したデザインを採用しているのが面白いと感じる。 【ロゴもユーザー体験に】最近のスタートアップのロゴが似通ってきている問題について Lufthansa ドイツの大手航空会社であるルフトハンザのブランディングの変更はごくわずかで、見分けるのが難しいほど。ヒントは、アイコンと書体の違いにある。 ルフトハンザの旧デザインは約100年前に作られたもの。そこで今回のリブランディングでは、ルフトハンザを洗練された現代的なデザインにすることが目指された。 その業界柄、大きな変更をしてしまうと全ての機体を塗り直さなければならなくなるため、旧ロゴでも認識できるように、あまり大胆なアップデートは行われなかった模様。 その一方で、細かなデザイントリートメントを洗練させたことで、現代的なイメージを生み出している。 m&ms 新しいM&M’sのロゴは、進歩的な世界のためのデザインアップデートとされる。 デザインを担当したマース社によると、角度のあるロゴから直線的なロゴへのわずかな調整により、視覚的な焦点が”&” マークに集まり、ブランドが帰属意識と一体感を重視していることを表しているとのこと。 また、M&Mのキャラクターセットも変更され、特に一部のMsが履いている靴がアップデートされている。 新しいロゴは、デザイン的な観点から見ると、”&” マークに目が行く。また、文字の間隔など、さりげないデザイン要素で視線を集め、コンセプトを構築している点も素晴らしい。 Aston Martin 先日、2021年からF1シーズン参画しているアストンマーティンは、2003年以来の大規模なロゴの更新を行った。 ピーター・サヴィルがデザインしたアストンマーティンの2022年のロゴ更新は、自動車大手がブランドの活性化のために伝統的なロゴの要素を弾き出したもうひとつの例だろう。 アストンマーティンの新しいロゴは、ロゴを大幅に改善するためにゼロから始める必要がないことを示す良い例だ。 古いグラデーションを捨て、翼とフォントに重みを加えるなど、いくつかのシンプルなデザインの変更により、アストンマーティンはより洗練されたロゴを手に入れた。 HotJar データ分析プラットフォームを提供するHotJarは、マッチングアプリTinderに似すぎているブランドアイデンティティから脱却するために、アップデートが必要だった。 両社のロゴに使われている炎が類似しており、カラーリングもほぼ同じであるため、差別化を図るために切り替えが求められたのだ。 2022年のこの時期に、HotJarは未来に向けたブランドを作り上げるためにリブランディングを行った。 製品やインサイトを正確に紹介することに注力することが重要であり、ロゴをかなりシンプルにすることが必須だった。 新しいロゴは旧ロゴで採用してたJの上のピンク色の炎の代わりに、Hの前に2つの熱波が描かれ、ピンクではなくレンジ色を採用。 これにより、HotJarのメイン機能であるユーザー行動の特定に役立つヒートマップを連想させるデザインとなった。 Bugatti 欧州の高級スポーツカーブランドであるブガッティの新しいコーポレート・アイデンティティは、自動車業界の枠を超えるというブガッティの野望を示すものである。 これまでのクラシックなスタイルを捨て、よりモダンなモビリティーカンパニーへの進化を感じさせるデザイン。 2022年のロゴは、パンチの効いた、パワフルで、プレステージ性の高いデザインに仕上がっていいる。 2022年のリブランディングから見るロゴデザインのトレンド […]

2022年に消滅した10のスタートアップとその理由

毎年恒例その年に無くなってしまったスタートアップまとめ。その失敗理由などから学ぶことで、今後の役に立てようというのが目的。 特に新陳代謝の激しいスタートアップ業界では、派手な成功ストーリーの裏では、連日新しい企業が生まれては消えている。 スタートアップの90%は5年以内に消滅 IBM Institute for Business Value and Oxford Economicsの調査によると、新規スタートアップの実にその90%は5年以内に無くなると言われている。 その失敗理由やサービス内容を知るだけでも今後の大きな学びになる。 ベンチャー企業とスタートアップ その定義と違いとは? 2022年はスタートアップにも厳しい年になった 2022年はそろそろコロナ明けで、世界経済も上向きになるかと思われた矢先、露・ウクライナ紛争が悪化し物価が上昇、米国の金利上昇政策やインフレの影響もあり、株式が暴落すると、経済的な懸念が広がった。 そのため、投資家はさらに撤退し、すでに資金繰りに苦労していた新興企業は、より大きな負担を強いられることになった。 2022年に無くなってしまったスタートアップ達 そんな中で多くのスタートアップが消滅した。その中でも特筆したい10社をピックアップしてご紹介する。 Reali Realiは不動産マーケットプレイスを提供するスタートアップ。 住宅の買い手と売り手のためのワンストップショップとして設計された不動産プラットフォームを提供していた。 同社のプラットフォームは、不動産、住宅ローンなどを統合することで、可視性を高めている。2015年にシリコンバレーに設立された。 事業エリア: 不動産マーケットプレイス 資金調達額合計: 2.9億ドル 失敗理由: 市場と資金調達環境の悪化 主な原因: Realiは2022年末までにカリフォルニア州以外の州に進出する計画を発表した。 しかし、「厳しい不動産と金融市場の状況」と「好ましくない資本調達環境」のために、事態は悪化したとRealiは引用している。 Bolt Mobility Boltは、2018年にオリンピック出場選手でもあるスプリンターのウサイン・ボルトが共同設立したe-bikeとスクーターのスタートアップ。 交通渋滞、駐車場の混雑、カーボンフットプリントへの影響を軽減することを目的とした、安全でスマートかつ持続可能な輸送ソリューションを通じて、交通に革命を起こすことを目標にしていた。 事業エリア: マイクロモビリティ 資金調達額合計: 4100万ドル 失敗理由: 資金調達環境の悪化 主な原因: Boltは7月末に閉鎖され、姿を消した。 同社がサービスを提供していた多くの都市で営業を停止し、公共機関は残された数十万ドル相当の使用不能な機器の処理に追われることになった。 同社に情報提供や機器撤去の支援を求めた顧客も多く、ボルトの担当者や同社CEOにメールを送っても返事がないという報告もあった。 8月初旬、同社はウェブサイト上で声明を発表し、必要な資金を調達できなかったため、事業を停止することになったと説明した。 Kitty Hawk Kitty Hawkは、GoogleのムーンショットプロジェクトであるGoogle Xの共同創業者であるSebastian Thrunによって創業した、「空飛ぶクルマ」のスタートアップ。 Googleの共同創業者ラリー・ペイジの支援を受けて、2010年にスタートした。2015年に垂直離陸対応機「Flyer」を公開するまで、その事業をほとんどがベールに包まれていた。 事業エリア: 空飛ぶクルマ 資金調達額合計: 100万ドル 失敗理由: 内部分裂とビジネスモデル的問題 主な原因: 2022年にフライヤー・プロジェクトを閉鎖し、ボーイング社との合弁事業としてもう1つの公的プロジェクトを分離するなど、同社は製品の焦点を継続的にシフトしていった。 電動自律型航空機(Heaviside)の開発には全力を注いでいたようだが、この分野での競争の激化や、Thrun氏とHeavisideのプログラムリーダーDamon Vander Lindの内部抗争によって、進展が阻まれることになった。 また、Thrun氏は「いくら探しても、ビジネスとして成立する道筋が見えてこない」と語っている。 BankNorth Bank Northは、先進的なクラウドネイティブテクノロジーと地域分散型モデルを組み合わせて融資や金融支援サービスを提供する地域ビジネス銀行で、借り手はローンをはじめとする金融債権を摩擦なくタイムリーに利用できるようにする仕組みを提供していた。 フィンテックにおけるネオバンク系スタートアップの一社だ。 事業エリア: ネオバンク 資金調達額合計: 4100万ドル 失敗理由: 資金調達の失敗 主な原因: マンチェスターに本拠を置くネオバンクBank Northは、イングランド銀行からの銀行免許取得に必要な資金を調達できなかったため、業務を終了することになった。 取締役会長のRon Emersonは、同行の株主に宛てた書簡で、完全に規制された銀行になるために必要な期間内に資金を確保できなかったと述べている。 Fast サンフランシスコに本社を置くFastはオンラインでの購入をより速く、安全に、そして誰にでも簡単にすることがミッションだ。異なるショッピングサイトでも、ワンクリックでのサインインと購入を可能にし、ユーザーが購入しやすく、販売者が販売しやすいテクノロジーを提供する。 同社は、Stripe、Addition、Index Ventureなどの投資家が支援する案件で1億2500万ドルの資金を調達し、好調な滑り出しを見せていた。 事業エリア: ECソリューション 資金調達額合計: 1.2億ドル 失敗理由: 財務状況の悪化 主な原因: Fastは、Stripeが主導する1億200万ドルのシリーズBを調達したにもかかわらず、2021年の売上高はわずか数10万ドル規模にとどまっていた。 それに対して、同社のバーンレートは月1,000万ドルとも言われ、収益化の見込みがかなり厳しくなっていた。 Bulter 2018年にニューヨークで設立されたBulterは、ホテル向けのルームサービスやアメニティ運営を提供する。 ホテルと提携し、Butlerの各拠点からルームサービス、ケータリング、その他の食品系アメニティを提供する。 ゲストとのコミュニケーション手段としてSMSを使用することで、Butlerは多くのホテルにサービスを提供し、ホテル側はルームサービスなどの各種サービスをアウトソースできる。 事業エリア: オンデマンド型ホテルサービス 資金調達額合計: 5070万ドル 失敗理由: 市場状況の悪化 主な原因: 5月中旬に「まだ存続している」というメッセージを発信したにもかかわらず、実はその数日前に、Butlerは1000人以上の従業員全員を解雇していた。その後、同社が本当に倒産したことが報道された。 当時、Butler社のCEOであるPremtim Gjonbalic氏も投資家もこの件についてコメントしておらず、3年間の契約を結んでいたオフィスも1年足らずで放棄された。 Protonn シリコンバレーとインドに拠点を持つProtonnは、専門職のフリーランサーを支援するためのワンストップマーケティングソリューションを提供。CRMからビデオマーケティングまで、デジタルチャンネルでの総合ツールを開発していた。 […]

話題の無人タクシー Cruiseをサンフランシスコで乗ってみた。その驚愕のユーザー体験とは!

サンフランシスコの街を歩いていると、頻繁に屋根の上やドアの横に各種センサーやカメラのついた車を見かけることがある。これらは自動運転を実現するためのテスト走行を行っている車両で、WaymoやZooxなどのスタートアップのもの。 そんな自動運転車両の中でも、一際目立つのが白とオレンジでカラーリングされた Cruiseの車両。彼らのオフィスが我々 btraxと同じブロックにあることもあり、SOMA地区ではしょっちゅう見かける。 Cruiseとは? このCruiseというスタートアップは自動運転技術を利用し、無人タクシーの実用化を目指している。これまでにGeneral Motors (GM) を筆頭に実に合計150億ドルもの資金を集めている。 オフィスはサンフランシスコのSOMA地区にあり、元々Dropboxの本社として建てられたビルを利用。 以前にSF Design Weekというイベントにて同社デザイナー達がこれからの自動運転に求められるUX設計に関するセッションを行なっていた。 2022年より実用テスト開始 2013年にスタートしたCruiseであるが、10 年弱の時間を経てやっと実用テストが開始された。 2022年の2月にサンフランシスコ市からの認可がおり、公道でのテスト走行が許可された。 そして、同年7月にはアプリを利用して課金も開始された。と言っても、現在はまだクローズドベータの状態で、選ばれた数少ないユーザー向けにしかサービス提供を行なっていない。 ちなみに、筆頭株主がGMということもあり、車両はGM製のEV、シボレー・ボルトが採用されている。 ついに招待状が届いた! そして念願の招待状がメールで届いたので日本から来たスタッフと一緒に乗ってみることにした。 そしたらその乗車体験がかなりの驚愕の体験だったので、一つずつそのポイントをこれから紹介する。 オンボーディング体験 まずは車に乗る前のアプリに “乗る” ためのオンボーディング体験。これはかなりスムーズで、UberやLyftなどの有人ライドシェアアプリに慣れていれば、かなりわかりやすい。 乗るところから降りるところまでの利用方法もアプリ内でステップバイステップのイラストで説明されているので、ストレスは皆無だった。 乗れる時間とルートがかなり制限されている さて、ここからが問題。実はCruiseのサービスはまだ試験運転中ということもあり、サンフランシスコ市だけでしか利用できない。それも、エリアと利用時間がかなり制限されている。 というのも、限りなく安全に利用できるようにするために、市から許可された内容にかなりの制約が課されている。具体的には、利用時間は夜の10時から朝の6時まで。走行できるのは密集地を避けた市内の1/4程度のエリアのみ。最高速度は30マイル (48キロ) まで。など。 早速利用してみる でもやっぱり乗ってみたいことには変わりなく、夜の10時を待って利用してみることにした。それもわざわざCruiseに乗るためだけに利用エリアに車で出向き、特に目的もなく呼んでみた。 なお、アプリの利用感は他のライドシェアとほぼ同じで、違和感は全くない。 乗り場を指定したのに歩かされる ただここに一つ落とし穴があった。本来であれば指定した場所に来てくれるはずのライド系アプリなのだが、Cruiseの場合はどうやらルートに制限があるらしく、自分がいる場所から少し先のピックアップポイントまで歩かせられる結果となった。 まあ、この辺もまだまだベータ版ということだと理解した。 車がなかなか止まらない 今回担当してくれる車両の名前 (ニックネーム) は、ブルーベリー君。 そして実際に車両が来たのだが、近くに来て減速した後に一旦止まってからまた少し前に進んだりと、かなり自信なさげ。止まるところを探しているのか、乗客を探しているのか、かなりきょどった感じだった。 そして本当に無人だった! 車両が目の前に停まった時点から5分以内にアプリでドアを解除し、乗る仕組み。 当たり前なのだが、中には誰もおらず、本当に無人タクシーだった。これはかなり驚いた。というか感動した。人生で初めて運転手のいないタクシーに乗るのだから。 座席前にタブレット表示と車内アナウンスが流れる 実際に乗ってみると、座席の前に二つのタブレットが設置され「Cruiseへようこそ。まずはシートベルトをお締めください。シートベルトが装着され次第出発します。」という自動アナウンスが流れた。 この辺もこれまでの有人タクシーやライド系アプリと比べてもかなり未来的な感覚を覚えた。 運転はかなり安全 そして肝心の運転なのだが、かなりゆっくり& 正確で、かなりの安心感を得られた。自動運転自体はこれまでもTeslaで何度も経験しているので、恐怖心はほとんど無い。 でも… なぜか降ろしてくれない! そんな感じで順調に乗車体験が進んだのだが、ここで大きな問題が発生!車内アナウンスで「そろそろ目的地に到着するので降りる準備をしてください」とのメッセージが流れるも、一向に止まる気配がない! 同乗していたスタッフの「あれ、これかなり遠ざかってませんか?」の一言で気づいたのだが、目的地からどんどん離れていってる。 同じルートを何周も 慌てて車内のタブレットを見てみると、確かに目的地から遠ざかっている。それだけではなく、一度きたルートをもう一度周っている様子。 まあ急いでるわけでは無いので、サンフランシスコをぐるぐる回るアトラクションと考えれば良いが、スタッフの「いや、アトラクションはちゃんと止まってくれますよ」の一言で現実に気づく。 強制終了も、指定したところからかなり遠いところで降ろされる 黙っていても一向に止まる気配がないので、車両の天井部分に設置されている “END RIDE” ボタンを押して止めてもらう事にした。これは文字通りの “強制終了” ボタン。 本来は押さなくても良いのだが、今回は押さないと止まらないので、利用することにした。 やっと止まってくれたと思ったら、本来の目的の場所からかなり離れた場所に停められ、結局真夜中にサンフランシスコの坂道を3ブロックほど歩く羽目になってしまった。 そしてもう一回… 乗れない! Cruiseに乗る目的で移動したわけだから、帰りももちろんCruiseに乗る… 予定だった。しかしここでまたトラブル発生!なんとアプリで呼んだスターダスト君が目の前に来たと思ったら、何度も素通りしていくのだ。 3, 4回目ぐらい周ってきて、でやっと減速して止まってくれたかなー、と思ったらまたノロノロと動き出して去っていってしまった。これはかなり切なかった。 諦めて歩くことに もう時間も時間 (23時過ぎ) だったので、スターダスト号に乗るのは諦めて歩いて帰ることにした。実はCruiseのルートはかなりの遠回りで、歩けは数ブロックの距離。 もうしばらくはこの車両は見たくない!っていう怒りを覚えたが、帰りに見たグレース大聖堂の美しさに癒され、気持ちが治まった。 結論: まだまだ改善点が多いけど今後に期待! さて、今回のCruiseに関するユーザー体験調査だが、かなり複雑な気持ちにさせられた。 サイトやアプリなどのソフト面はかなり完璧に近い。 しかし実際の車両に乗車した際の体験はそのクオリティー云々よりも、誤作動が多すぎて、全くタクシーとして機能していないと言わざるを得なかった。 そもそも止まってくれない、降りれない、というのはタクシーとしては完全に致命的。 まあ、まだまだベータ版だから、という気もするが、実際に課金もしているし、早く解決してほしいなと思った。 ちなみに気になる料金はUberで同じ距離を乗った場合の半額ぐらい。 でもやっぱり思うのは、こんな状態でも実地でテストさせてくれるサンフランシスコ市の懐の深さだろう。 やっぱり新しいイノベーションが生み出されるのはこういう場所なんだろうなー。と感じた。 おそらく東京では絶対にテストさせてくれないと思う。 参考動画: Cruiseに乗った際の様子がわかるショート動画 Amazon, Google, YouTube等の初期バージョンから学ぶ小さく始めることの重要さ

インスタ12周年 – パクリサービスから世界一のSNSへの道

インスタグラムは今から12年前の2010年10月にリリースされた。 当時2人の若者によって作られたこのアプリが、現在では全世界で10億人のアクティブユーザーを獲得するまでに成長した。 そして、リリースからわずか2年で10億ドル (1,400億円) という高額でFacebookによって買収された。そのストーリーはまさにスタートアップの成功物語そのもの。 今回はインスタ12周年を記念して、当時のことも振り返りながらその道のりを振り返ってみよう。 始まりはサンフランシスコ湾沿いのコワーキングスペース インスタの始まりは2人の若者の出会いだった。 その二人の若者とは、スタンフォード大学在学中にTwitterの前身であるOdeoでインターンをし、卒業後にはGoogleで働いていたKevin Systromとブラジル出身のエンジニアのMike Kriegerである。 この2人は当時サンフランシスコ湾沿いのピア38の中にあった、Dogpatch Labsと呼ばれるコワーキングスペースのデスクを借りてアプリ作りをしていた。 ちなみにこのコワーキングスペースは、我々btraxのオフィスから徒歩5分の距離にあり、当時のbtraxインターンだった土屋尚史と一緒に訪問した。それがきっかけとなり、彼はのちに創業した会社をDogpatchを逆にし、Goodpatchと名付けた。 最初は既存SNSのパクリサービスからスタート 当初インスタはその原型となるBurbn (バーボン) というHTML5をベースにしたチェックイン型ソーシャルアプリとしてリリースされた。 その当時はチェックインアプリとしてFour squareが人気を集めており、それを真似た仕様だった。 そもそもそのアプリ自体はファウンダーのKevinが一人で自作で作ったものであり、かなりお粗末な内容でもあった。 そして、すでに先発のサービスがある中で、人気を集めるのに苦戦していた。 ユーザーデータから意外な事実が判明 そこでユーザーの動向を調べたところ、アプリの利用方法に1つの特殊なパターンがあることに気がついた。それは、チェックインアプリにも関わらず、チェックインもせずに写真だけアップしているユーザーが多いということ。 それも、どうやら写真をアップする際のフィルターに人気の秘密があると突き止め、勇気を持ってBurbnを終了させ、Instagramとして作り変えた。 当時は写真を保管するアプリとソーシャルアプリは多く存在していたが、その2つを上手に掛け合わせ、それもユーザーがフィルターを選んでいる最中にアップを行うことで、スムーズな利用体験を提供した。 サービスをビボットしたことが転機となる このサービスの内容を変更したのは、俗に 「ピボット」と呼ばれる手法。 サービスはしばしば、ユーザーの利用パターンを分析して、より喜んでもらえる体験を提供するためにその価値を変更することがある。 多くの人気サービスは元々異なる内容でスタートし、ピボットすることでヒットしたケースが少なくない。 実は最初はサイドプロジェクトだった ちなみに、ファウンダーのKevinが一人でBurbnを作っていた頃は、Nextop.comというトラベル系のサービスを提供するスタートアップでプロダクトマネージャーをしており、インスタはサイドプロジェクトであった。 多くのサービスがそうであるように、シリコンバレー界隈のスタートアップは週末の趣味の一環としてサイドプロジェクト的に始まることが多い。 サイドプロジェクトから生まれた大ヒットサービスたち 資金調達のきっかけは、とあるパーティーでの出会い 自身のスタートアップを “本職” にするためには資金調達が不可欠になってきていた。しかし、彼らには投資家とのコネクションがなかった。 それを救ったのがHunchと呼ばれるスタートアップのオフィスでのカクテルパーティー。そのパーティーでKevinはベースラインベンチャーズとアンドリーセンホロウィッツの投資家2人にプロトタイプを見せたところ興味を持ってもらえた。 後日カフェでミーティングを行い、両社から合計50万ドルの投資を受けたことで、仕事を辞め、インスタの開発に専念することとなった。 その資金を元手にエンジニアを採用 資金調達を成功させたことで、スタンフォード大学のプログラムで出会ったエンジニアのMikeを共同創業者として迎えた。 このブラジル出身の25歳のエンジニアは、UXデザインの知識も持ち合わせており、プロダクトの成長に大きく貢献することになる。 1つの機能だけにフォーカス Mikeがジョインしたタイミングで創業者の2人は、プロダクトを全面的に見直すことにした。彼らのテーマは 「1つの機能だけに徹底的にこだわること」。 そう、多くのサービスが複数の機能を実装しようとしている中で、その逆を考えた。1つのことしかできないけど、それが優れているサービスを作ることを。 サービスデザインの極意 機能を「シンプルにする」ことの難しさとは 一度サービスを停止し、作り替える そこでインスタの前身となるBurbnのサービス停止を決断。ユーザーデータを分析し、最も使われている機能だけに集中することにした。 その結果、写真のアップロードとそれに対するLikeとコメントだけを抽出することを決め、新しいサービスに作り替えることを決定。 名前もInstagramに変更 ちなみに、このピボットでアプリの名前もBurbnからInstagramに変更することにした。この名前の由来はインスタント (Instant) と テレグラム (Telegram) の造語。 当時より本人たちはカメラっぽい響きもあるこの名前を非常に気に入っていた。 初期バージョンのインスタ開発秘話 それからの8週間、創業者の2人は昼夜を問わずInstagramを完成させるために開発を続けた。 友人に共有し、ベータ版でテストし、バグを修正した。例えば、当時はパスワードに「@」記号が含まれていると、ユーザーの携帯電話上でアプリがクラッシュするというバグがあった。 また、最初は30種類以上あったフィルターから11種類に絞った。 これらの決定は、「根拠も理由もなく、ただ多くの実験とベータユーザーからのフィードバック」によってなされた。まさに追い込みの時期だった。 その理由はただ一つ、「できるだけ早くリリースしたかったから」だ。 Amazon, Google, YouTube等の初期バージョンから学ぶ小さく始めることの重要さ そしてついにその日が来た! 2010年10月6日の午前0時15分にインスタはついに産声をあげた。 構想に1年、開発にはわずか8週間しか費やしていないこのアプリがその後世界のユーザーを熱狂させ、彼らを大金持ちにすることになる。 真夜中にアプリをリリースした創業者の2人は、しばらく誰も気づいてくれないと思い、少なくとも6時間は待ってみようと思っていた。 しかし、リリースの数分以内に、世界中からダウンロードが殺到し始めた。 いきなりダウンロードが急増 リリース後数時間で1万を超えるユーザーを獲得し、その日の終わりにはあまりにも増え続けるので、本人たちは「数え間違えてるのではないか?」と思ったほど。 もちろんサーバーの容量を追加するためにその日、彼らはほとんど睡眠を取れなかったという。 その後、発売後1週間が経過した時点で、インスタグラムは10万ダウンロードを突破。 その1週間後にはさらに10万人がアプリをダウンロードし、そして12月中旬には、100万人のユーザーを抱えるまでに成長した。 ヒットの秘訣はそのリリースタイミング インスタがここまで当初からヒットしたのは、おそらくそのリリースのタイミングであったと考えられる。 というのも、世界初のスマホ、iPhoneが発表されたのが2007年。App Storeが公開されたのが2008年。 一般ユーザーがスマホを使い始めるのに1-2年かかったことを考えると、インスタがリリースされた2010年は、モバイルSNSアプリにとっては最高のタイミングだったと考えられる。 そしてマークザッカーバーグによって10億ドルで買収される 世界中から3000万人以上のユーザーを獲得したインスタは、リリースからわずか551日、スタッフ数は12人。全く収益のない状態でFacebookに10億ドルで買収されることになった。 インスタ成功の時系列 これまで12年のインスタの歴史を時系列で振り返ってみよう。 2009年 10/21 Instagramの前身となるサービス「Burbn」が登場。Kevin Systrom氏が開発 2010年 10/6 Instagramをリリース。リリース1週間で10万人のユーザー数が集まる 12/12 ユーザー数が100万人を突破 2011年 1月 ハッシュタグの機能が追加される 6月 MAU数が500万人を突破 9月 MAU数が1,000万人を突破 2012年 4/3 Andoroid版のアプリがリリース。1日経たずして100万回以上DLされる 4/19 FacebookがInstagramを約10億米ドルで買収 […]

起業家を目指すなら日本の大学には行かない方が良いかもしれない3つの理由

アメリカで成功している起業家の多くが大学を出ていない。もしくは大学院をドロップアウトしてる。例えば:

スティーブ・ジョブス: リード大学中退
マーク・ザッカーバーグ: ハーバード大学中退
ビル・ゲイツ: ハーバード大学中退
ジャック・ドーシー: ニューヨーク大学中退
イーロン・マスク: スタンフォード大学院を2日で中退

そしてこれは必ずしも上記のようなシリコンバレー系起業家に限ったことではない。
成功者の多くがかつては劣等生
アメリカでは成功者の多くが学生の頃は劣等生。Fortune誌によるトッ…

スタバのスリーブから学ぶ、アフォーダンスとシグニファイア【UXデザイン】

とある午後、サンフランシスコのスタバでラテを買った際に気づいたことがある。 カップの外側に、熱い飲み物による火傷を防止するためにつける「スリーブ」が非常に上手にデザインされていることを。 そう、スタバロゴの顔がついている茶色い帯のような物体のことだ。 それをよく観察してみたところ、UXデザインにおける「アフォーダンス」と「シグニファイア」を上手に活用し、ユーザーにとって使いやすい設計になっていた。 ということで、今回は普段の日常生活で馴染みのあるアイテムを通じて、UXデザインに関する構成要素を学んでみたいと思う。 UXデザインにおける「アフォーダンス」と「シグニファイア」とは? そもそも普段聞き慣れない「アフォーダンス」と「シグニファイア」とは何か?これはデザイン用語、それもUXデザインで利用される単語だ。 専門的に深ぼるとかなり詳しい概念があると思うが、あえて簡単に説明すると: アフォーダンスとは プロダクトやサービスに施された視覚的・物理的な表示で、どのように利用するかを、わかりやすく感じさせるためのデザインの要素のこと。 アフォーダンスが優れていると、難しい説明をしなくてもユーザーは使いやすさを感じるし、実際にユーザーが使った際にもその役割を迷うことなく使うことができる。 例えば、角が丸い箱に「サインアップ」と書いてあればサインアップボタンだと直感的に理解できる。など。 シグニファイアとは 「このように動きますよ」というシグナルを送ってくれる設計のこと。ユーザーに適切な行動を伝えるための印や音、認識可能な指標を指す。 それによりユーザーが直感的に感じられる役割を果たす。 例えば、ボタンの上にマウスを持ってくると色が変わることで、押すと送信されるなどの何かしらのアクションが発生する。など。 (専門家の皆様、間違ってたらすみません。) スタバのスリーブのUXデザイン さて、本題のスタバのスリーブにおけるUXデザイン。それもアフォーダンスとシグニファイアについての役割を分析してみよう。 皆様にも馴染みの深いスタバのカップとスリーブだと思うが、そのスリーブの内側を観察したことはあるだろうか? よくみてみると、滑り止めのギザギザしたデザインの内側に無色透明の物体が付着している。これは実は接着剤で、高温に触れると接着剤が溶けて、スリーブがカップとくっつく仕組みになっている。 熱い飲み物を入れたカップにスリーブを装着すると、包み込まれたカップがずり落ちないように設計されているのだ。 アフォーダンス要素 スターバックスのスリーブには。アフォーダンスがしっかり定義されている。 カップにフィットし、その形状や外周はカップよりも大きく、コーヒーカップにフィットするように上と下は空洞になっている。 また、カップのロゴよりも大きめの顔が印刷されていることで、パズルのようにロゴとその外側に顔を合わせたくなる心理効果もある。 スリーブの形、色、内側のギザギザの設計、そして、この接着剤。これらの構成要素により、スリーブの役割を想像できやすいし、期待される実際の機能も担保されている。 シグニファイア要素 加えて、このスリーブには “ちょっとした” シグニファイア要素が隠されている。冒頭で説明した通り、シグニファイアはユーザーに  “さあ、このように使ってください” とシグナルを届ける仕組み。 スタバのスリーブは、カップを通すためにスリーブを広げた際に、「カチッ」とした音が出るようになっている。これは内側の接着剤が離れた音だと思われる。 この音が、音声信号としてのシグニファイアの役割を果たしている。この音がすることで下記の信号を送ってくれている。 スリーブが開いたので、カップを入れてください このスリーブには粘着性があります 熱くなった表面に触れると粘着性が復活します   View this post on Instagram   A post shared by Brandon K. Hill (@brandonkhill) まとめ こんな感じで、日常の身近にある製品でも、興味を持ってじっくりと観察してみると、どのような意図でデザインがされているかを学ぶことができる。 今回のスタバのスリーブでは、UXデザインにおけるアフォーダンスとシグニファイアに関して直感的に理解することができた。 アフォーダンスだけではプロダクトの目的を示すことはできない 明示的なアフォーダンスとともに、対象物の意図や目的を定義するシニフィエが必要である プロダクトデザインは、「どのように見えるか(デジタル、リアルを問わず)」ではなく、「マクロとミクロの相互作用」が適切に含まれていることが重要 粘着性のあるスリーブは、スターバックスがカップを持つ人に対して 「飲料はやけどする 」と警告しているため、不要な訴訟を回避するのにも役立つ。少なくとも、この粘着性のあるスリーブにより、ユーザーがカップを持っている間、不快になることなくラテを楽しむことができる プロダクトのデザインは、そのブランドのビジョンを体現する必要がある。今回のスタバの場合はその詳細までのUXデザインを通じ、同ブランドの「一度に一人、一杯、一地域から、感動体験を届ける」というビジョンを体現していると感じる UXピラミッド – UXデザインの正しい評価方法 – ぜひ皆さんも、日々の生活で興味を持った商品やサービスのUXデザイン要素を研究してみると面白いかも。 筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.

起業家達よ、注目されることが目的になっていないか?

メンタリングなどを通じたスタートアップの起業家を見ていて、ふとした違和感を感じることがある。それは、何の為にスタートアップをやっているのか?という点。 起業する目的は主に、社会の解題解決、自己実現、お金儲けなど、いくつかあると思うが、それとは別に「キラキラ」に引き寄せられているケースもあるんじゃないか?と感じる。 自分が目立つこと。最新トレンドに乗っかること。資金をたくさん集めること。ありえないレベルの夢を掲げて注目されること。それ自体には全く問題はないが、手段が目的になってしまう状態には違和感を感じる。 実はこの状態はアメリカでも定期的に話題になる、俗に “Shiny Object Syndrome” と呼ばれる状態。日本語にすると「キラキラ症候群」といった感じだろうか? スタートアップの落とし穴 – キラキラ症候群とは スタートアップの起業家の多くは、一般的な人々よりぶっ飛んだ感覚を持っている人が多い。それゆえにかなり謎な思想や行動をとりがちなのだが、それが必ずしも適切ではないこともある。 その中の一つが “光りモノ” に目が眩むキラキラ症候群。地味なことより派手なこと。古臭いやり方より最新のテクノロジー。地道な手法よりも一発ででっかく儲けたい。 下記で紹介するのは起業家がはまりがちな4つのキラキラタイプ。一度軽く目を通しておくだけでも、いざとなった時の自己抑制につながると思う。 キラキラタイプ1: 自己承認欲求最優先 「目立つことが大好き」「自己顕示欲が強く、常に注目を浴びていないと気がすまない」は、起業家にありがちな気質。しかし、それがエスカレートしすぎると、プロダクトやユーザーの前に、自分のエゴを満たすことを目的にしてしまう。それが一つめのキラキラタイプ。 例えば、イベントに登壇する。ピッチ大会で賞を取りまくる。著名人と対談をする。メディア取材を片っ端から受ける。そしてそれをSNSにドヤ顔でアップする。など。 もちろんアーリーステージのスタートアップにとっては、優れたPRは世の中にサービスの存在を知ってもらったり、投資家の注目を集めたり、ユーザー獲得の面でも大きなメリットもある。 でも、もしそれが起業家の自己満足のためにやっているのであれば、脚光を浴びるに必死になるのを一旦やめて、まずプロダクトの作り込みに集中するべきだろう。 本気で取り組んでいる創業者たちは、24時間365日プロダクト作りに取り組み、友人や親戚からお金を借りてユーザーを探し、人材獲得のために奔走する。 そんな日々を送ってれば、自ずと複数のメディアインタビューや頻繁にイベントに登壇したり、パネルディスカッションに参加する時間はない。 参考: Youはなぜ面倒な起業家なんかに? 例えば、ピッチイベントに出場する目的はあくまでユーザーを集める。フィードバックをもらってプロダクトを改善する。投資家に知ってもらう。そして、仲間を集めるための手段であって、それ自体が目的になるべきではない。 メディアに露出するのも同様で、まわりからもてはやされたり、承認欲求を満たすための目的とするべきではない。 ヴァージングループ創設者のリチャード・ブロンソンはいくら大きなお金を積まれても、自分のビジネスに役立たない講演依頼は受けないと答えている。 起業家が目立つに越したことはないが、それはあくまで手段であって目的になるべきではない。 くれぐれも、自己承認欲求に取り憑かれたスポットライト症候群にならないように気をつけたい。 参考: モテない起業家は成功しにくいと思わせる7つの理由 キラキラタイプ2: 最新バズワード大好き 多くのスタートアップは、最新のテクノロジーを活用してユーザーの課題解決をおこなったり、楽しみを与えたりして成功している。 自ずとその起業家たちも最新トレンドへの感度が高い。その一方で、常にバズワードだけを追いかけ、次から次への事業内容を変える起業家も少なくはない。 これからVRの時代と豪語してた人のサービスがあっさりとWeb3系に変わっていたり、IoTに飛びついた起業家がいつの間にかNFTに興味が移ってしまって元々のプロジェクトが途中で頓挫したりなど。 これ系のキラキラ症候群は、非常に開きっぽく、プロダクトがやっと形になり始めたなと思ったら、急にモチベーションが下がったりする。 参考: “イノベーション“や”DX”をバズワードで終わらせないために大切な2つのこと もちろん、まだ誰もやっていないタイプの事業を真っ先にやることで、ある程度の優位性を獲得することはできる。しかし、本質的にそのサービス自体への情熱があまり強くなく、単純にキラキラしたバズワードを追っかけてるだけだったとしたら、価値を生み出すのは難しい。 最新テクノロジーや、話題になっているバズワードなどは、あくまで手段であって、目的にするべきではないし、次から次にトレンドを追っかけてる暇があったら、なんでも良いから一つのサービスをさっさとリリースしてしまった方が良い。 そして、何かに強烈な情熱が湧くまで安易にスタートアップを始めない方が良いと思う。 参考: 僕は君が起業家になることをオススメしない キラキラタイプ3: 資金調達至上主義 「スタートアップ = まずは資金調達」と思っている人が結構いる。おそらくこれはテック系メディアを中心に、スタートアップの資金調達のニュースが日々飛び交ってるからだろう。 でも、実はVCなどの外部からの資金調達をしなくて済むのであれば、それに越したことはない。むしろ、できるだけ自己資金で進めた方が良いとアドバイスする投資家もいるぐらいだ。シリコンバレーのカリスマ投資家、ロン・コンウェイもその一人。 参考: エンジェル投資家の裏側教えます【インタビュー】シリコンバレーのスーパーエンジェル投資家: ロン・コンウェイ それなのに、プロダクト作りよりもなるべく多くの資金を調達することに注力したり、プロダクトの内容自体を資金調達しやすいかどうかだけで決めたりするケースがある。 一言で言うと、資金調達が成功と勘違いしているキラキラパターン。 以前にメンタリングしているの起業家から「投資を受けやすいから、プロダクトの説明文に “AI Powered” と入れたい」と相談された。 僕は「君のプロダクトは本当にAI Poweredなの?」って普通の質問をしたら「いや、そうじゃないけど…」との答え。単に “AI” と入れておいた方が投資家からの “引き” が強いからだという。 これはかなり不誠実だなと感じた。でも、シリコンバレー界隈でも、セラノスやWeWorkなど、巨額の資金調達を達成するために、ある程度の “ハッタリ” をかますケースも珍しくない。 資金調達は良いプロダクトを作り、ユーザーの課題解決を進めるためのプロセスの一つでしかない。それが目的になってしまったり、安易に資金調達のニュースに踊らされない方が良いだろう。 参考: そろそろ資金調達の際に”おめでとう”と言うのをやめないか? キラキラタイプ4: 誇大妄想 but ノーアクション 以前に、始める前から「デカコーンを目指します!」と豪語した人がいた。デカコーンとは、ユニコーンよりも大きな評価額を得たスタートアップのこと。 スタートアップの評価額は、そのプロダクトの将来的な可能性や、市場トレンドとのタイミングなどでざっくりと決まっていく。 ユニコーンになる企業は、その将来性やサービスの希少性、マーケットの規模で高い評価額を獲得する。でもそれはあくまで一つの指標でしかない。 なので、そもそもユニコーンを目指すこと自体が微妙な感じがする。それよりも大きな価値の デカコーンを目指すとは、なかなか大きな野望である。 参考: ユニコーンの次はデカコーン しかしその一方で、大きなことを言っている割には、いつまで経っても小さな一歩が踏み出せていないことも多い。しばらくしてから話を聞いてみると、もっとすごいアイディアが思いついたと言う。でも、それを達成するためのアクションは取れていない。 そんな人に限って、スモールビジネスをスタートアップの格下にとらえたりしている。 どれだけ大きな夢があったとしても、行動に起こしていなければ、世の中へのインパクトはゼロである。それより、小さくても、泥臭くても良いから、何かしら始めた方が良い。どんなに大きな夢を持っていても、小さな一歩を踏み出さないと何も始まらない。 10 x 0 = 0 0+1 = 1 そうでもしないと、いつまで経っても「なんちゃって起業家 = ワナビー」のままである。”やってる感” だけのワナビー起業家は、なかなかカッコ悪い。 参考: 起業家ワナビーとリアル起業家との違い 起業家≠ロックスター こんな感じで、キラキラしたイメージの強い起業家の中には、本人自身がキラキラ症候群になってしまってるケースもある。これは、手段と目的が逆転してしまってる状態で、本人は無邪気であったとしても、結構周りに迷惑をかけてしまうこともある。 また、起業家をヒーロー化するのは必ずしも良いわけではない。投資家もメディアも “本物” の起業家を見定めにくくなるから。 参考: ロックバンドとスタートアップ、15の共通点と成功法則 起業家にはキラキラよりも大切なことがある 親身になって相談してくれた人や、本物を見極めようと真剣に取り組んでる投資家、そしてリリースを心待ちにしている初期ユーザーなど、キラキラ起業家に巻き込まれてがっかりする経験は少なくない。 キラキラなイメージに引き寄せられた人々は、しばらくすると中身の空っぽさに失望して去っていく。最悪の場合、キラキラ感だけを追いかける起業家は、スタートアップ的なノリを楽しみながら、投資家のお金をじゃぶじゃぶ使ってるだけという印象を与えてしまう。 […]

海外でB2B企業ブランディングが重要な理由と優れた事例6選

「B2B企業にブランディングは必要か?」これは最も聞かれる質問の一つ。日本国内ではどうかはよくわからないが、アメリカ市場や、グローバルでみると答えは完全にYES。 というのも、InterBrandが毎年発表している世界のブランドランキング「Best Global Brands」を見てみると、そのTop 20のうち5社がB2Bビジネスである。これは、波いる競合を勝ち抜いて、B2B企業がしっかりとブランディングに力を入れていることがわかる。 しかし、B2B系の日本企業の多くがブランディングを蔑ろにしがちである。 日本でB2B企業はブランディングが必要無いと思われがちな理由 そもそも日本ではなぜB2Bならブランディングに力を入れる必要がないと思っているのか?おそらくヒントは日本の商習慣にあると考えられる。 多くのB2B系の企業は、営業こそ頑張るが、一度顧客を獲得してしまえば半永続的にその取引が続く。それが自動車のパーツ製造であれ、下請けサービス企業であれ、企業同士の関係性を重要視する日本では、取引が始まれば「結婚」したのも同然な感じで別れにくくなる。 しかし、これが例えばアメリカだと頻繁に取引先の見直しがされ、価値がなければ短期間で切られることも多い。より良い取引先が現れれば速攻顧客を失う。なので「恋人」っぽい関係。 具体的な例としてApple。同社はしばらくの間MacのパソコンにIntelのプロセッサーを利用していたが、最近になって自社開発のM1, M2チップに変更した。また、コカコーラやマクドナルドなどの大手企業も、毎年広告代理店を比較検討し、定期的に変更している。 このように、例え長い間取引が続いていたとしても安泰ではない。逆にいうと新規のB2B企業にもいくらでもチャンスがある。それを活用したのがSalesforceだろう。彼らは卓越したブランド力で、既存のCRMソフトウェアをバッタバッタと薙ぎ倒してきた。 B2B企業にとってブランド資産はかなりの財産 このように、アメリカをはじめとした海外市場では、例えB2Bモデルであってもブランド力がかなり重要になる。むしろ誰も知らないような企業がB2B市場を開拓するのはかなり難易度が高い。 ここで基本となるブランド力の4レベルを見てみよう。下記のようにブランド力の強さによって4つのレベルに分けられる。誰も知らないLevel 1だと、営業をするにもマーケティングを行うにしてもかなりしんどい。言い換えるとコストがめっちゃ高くなる。 そこでブランディングを行うのだが、もちろん目指すのはもちろんLevel 4。ここまで行くと「この製品はこのブランド」という代名詞な存在になれる。具体例だとXerox, FedEx, Zoomなど。これらは英語の動詞になるレベル。 Xerox it FedEx it Let’s Zoom B2Bブランディング事例紹介 では具体的にB2B企業が行った優れたブランディング事例を紹介する。注目したいのはどれも一般消費者が見ても面白い、楽しいレベルにまで研ぎ澄まされているところ。一つのエンタメとしても十分見れるクオリティーで、話題になりやすい。 1. 3M – $3m (300万ドル) 強奪チャレンジ バンクーバーのバス停で透明のケースに300万ドル。どうにかして割ることができれば現金がもらえる。これは3Mの強化ガラス (スコッチシールド) の強さを示すキャンペーン。ルールは道具を使わないこと。挑戦者の様子を映すカメラも設置された。 結局誰もガラスを破ることが出来ずに 3M製品の安全性を証明する結果となった。 このキャンペーンが話題になり、3M社は1日で100万ドルを売り上げと3ヶ月の受注待ちオーダーを達成した。 2. nVidia – トリックアートでその高性能を表現 パソコンなどのデジタルデバイス向けチップを開発するnVidiaがテクノロジー系カンファレンスイベントの会場で行ったトリックアートのキャンペーン。 多くの来場者が本当に地面に穴が開いているのかと思い、集まってきた。 nVidiaの知名度が上がっただけではなく、そのクリエイティブな発想からビデオチップブランドとしての地位を築き上げるきっかけにもなった。 Adobe – 日本のおじさんが頑張って大量のオンラインオーダーに対応 Adobeが提供する企業向けデジタルマーケティングプラットフォームのブランディング動画。 百科事典を販売する企業にオンラインから大量のオーダーが入る。同社らそれを印刷しているのは日本で、印刷工場のおっちゃんが必死に本を刷りまくる。そして国際船便でアメリカに発送し、会社は大成功。のはずだったが、そのオーダーをしていたのは実は…。 笑えるオチと、最後の “御社のマーケティング、ちゃんと出来てますか?” のメッセージがかなりシュールで、ちゃんとツールを導入しなきゃ、という気にさせてくれる。 4. Volvo Trucks – トラックの強靭さを往年のアクションスターが表現 欧州自動車ブランドVolvoの法人向けトラック部門が作成したブランド動画。エクスペンダブルズなどにも出演している往年のアクションスター、ジャン=クロード・ヴァン・ダムがエンヤの曲に合わせ自身のこれまでの苦労話と、それによって鍛え上げられた心身のストーリーを語りながらズームアウト。 実は2台のトラックの上に乗っていて、それらがバックしながら少しずつ離れていく…。という展開。 アクションスターの強さとトラックの強靭さを結びつけ、ラストシーンでその凄さを映像で表現するのは素晴らしい。 5. Salesforce – B2BとB2Cの壁を超えた存在を表現 B2B企業として最もブランディングに成功した例の一つがSalesforceだろう。一般消費者もその名前を一度は聞いたことがあるくらいに、知名度は高い。 その理由は、毎年サンフランシスコで開催されるDreamfoceのイベントと、著名アーティストを招いたアフターパーティー。そして、各メディアで展開されるブランドキャンペーンである。 今回紹介するのは、”We Bring Companies and Customers Together” キャンペーンで、B2BとB2Cの垣根を超えて、企業と消費者を繋ぐ役割を表現している。利用する側も、受け取る側も両方が喜ぶサービスであることが伝わる。 これにより、企業にも消費者にも価値のあるブランドである事を伝えることに成功。 Intel – 250体のドローンがラスベガスの上空にアートを描く ラスベガスで開始されている世界最大のテクノロジーカンファレンスであるCESで、毎年メインのイベントを提供しているのが、半導体で有名なIntelだ。日本だと以前より「インテル入ってる」のキャッチコピーで有名だが、本国のアメリカでは「脱半導体メーカー」を目指している。 5年ほど前より同社CEOが「我々は今後半導体ではなくAIテクノロジーのブランドとしての認知度を高めていく」と宣言している通り、データとAIテクノロジーの開発と、それに伴うブランディング施策を急激に進めている。 その一つが2018年に行った、250台のドローンを活用したエアアート。事前に作成したプログラムに応じてドローンが動き、ベラージオホテルの噴水の上空でパフォーマンスショーを行った。 これには大きな話題を呼び「Intel = 半導体メーカー」のイメージ脱却の足がかりとなった。 まとめ: B2B企業こそしっかりとブランディングを グローバル企業は、B2Bのビジネスが中心でも、しっかりとブランディングを行っている。それもかなり見ていて楽しいストーリーやコンテンツを提供し、一般消費者の記憶にも残るレベルになっている。 海外ではどんな商材であっても、常に競合との差別化が重要で、その辺を怠ると、どんなに営業やマーケが頑張ったところで結果が出にくい。という教訓に基づくものだろう。 我々のクライアントの過半数がB2B企業である。そのことからも、今後はB2B向けブランディングの重要性がどんどん高まってくると思われる。

銀行業務における顧客体験 (CX) 6つのトレンド

2020年のパンデミック。 2022年のロシア・ウクライナ危機。 からのインフレと景気後退。 そんなこんなで銀行業界を取り巻く状況は、かなり前から危ういものになってきている。以前よりハーバードレビューによると、旧態依然とした銀行業務だけを今後も提供し続けた場合、現在の銀行の92% は10年以内に消滅すると予想されている。 フィンテックの影響で銀行の92%は10年以内に消滅する? 2021年からフィンテックへの投資も拡大 こういった状況を打破するために、2022年からは本気で世界中の金融機関の変革に焦点が当てられ、フィンテックや新しいタイプの金融サービスに対しての投資もかなり盛んになってきている。 銀行業務もデジタルが主戦場 世界中の銀行にとって、デジタルチャンネルへの移行は優先事項となっている。こうした取り組みは、進化する顧客の期待に応えることで、顧客体験を向上させたいという思いが主な動機である。 具体的には、デジタルアプリ、パーソナライゼーションツール、金融教育リソースを組み込んだデジタルサービスを提供することを目標にしている。 フォレスター社の調査を見てみてもそれは顕著で、世界の金融業界の意思決定者へのインタビューにて、全体の85%がDXを推進していると答えている。そして、組織変革の主な推進力は、「顧客体験の向上」がトップ(33%)次いで「収益の拡大」(32%)「コストの削減」(32%)となっている。 Unbluの調査でも、DXにおける最優先課題はモバイルアプリとオムニチャネルおよびパーソナライゼーションツールにおける顧客体験になっている。 銀行業務のDXにおいて、最も重要なフィールドは、デジタルアプリ体験、パーソナライゼーション、金融教育である。 最も重要なのが顧客エクスペリエンス (CX) DX推進が急速に進んだこともあり、銀行を中心とした金融業界にとって、今後最も重要になってくる差別化要因は顧客体験だろう。 顧客体験はカスタマーエクスペリエンス (CX) とも表現される。その名の通り、顧客が受け取る体験のこと。 例えば銀行であれば支店の窓口での体験や、オンラインバンキング、サポートセンターの対応まで、さまざまなタッチポイントにおいて、顧客が感じる体験の質を指す。 CXデザインとは?UXデザインとの違いとそれぞれの役割 金融機関にとってCXこそが差別化要因 ガートナーの調査によると、金融機関の81%が競争要因がCXになっており、特に2021年以降はCXこそが不可欠な差別化要因になっていると回答している。 さらに、76%以上の顧客が、企業が自分たちのニーズや期待を予測し、理解することを期待している。そして、企業はこれらの期待に応えるべく、迅速かつ果敢に対応する必要があるという。 これは、金融機関が提供するサービスのその内容がどれも似通っており、顧客にとっては受け取る体験以外は違いが感じられにくくなっているということでもある。 なぜCXがビジネスにとって重要なのか? 顧客体験が重要なのは金融機関だけではない。その他のあらゆる種類のビジネスにとっても、最重要事項になってきている。その証拠に下記の統計を紹介する。 86%の顧客がより良いカスタマーサービスを受けられるのであれば、より多くの金額を払っても良いと思っている 世界中の96%の顧客が、ブランドロイヤリティの決め手として顧客体験を挙げている 76%以上の顧客がより良い顧客体験のためにブランドを切り替えるのは簡単だと考えている 39%の顧客が顧客体験の悪い企業とは取引をしたくないと答えた データ元: SupperOffice, State of Global Customer Service by Microsoft, State of the Connected Customer. Dimensional Research これらのデータからも分かる通り、優れた顧客体験は、ブランドの評判を高め、企業の収益に影響を与えるだけでなく、顧客維持に直接的な役割を果たす。また、クロスセリングやアップセリングの機会の増加にも貢献する。 CXが優れている銀行の5つの例 世界的に顧客満足度の高い代表的な銀行による優れた顧客体験の具体例を5つほど紹介する。 Capital One 2020年度のJ.D. Powerランキングで顧客満足度1位に輝いたCapital Oneの成功の秘訣は、デジタルバンキング体験の継続的な改善への取り組みである。 デジタルウォレットや非接触型決済オプションの提供、AIアシスタントへの自然言語処理機能の追加、デジタル預金の実現など、Capital Oneは常にCXを最適化するための革新的な方法を模索している。 また、同行は最近、ウォルマートやアマゾンとのリワードプログラムの提携により、顧客がお気に入りのeコマース小売業者との支出をより効率的に活用できるようになったことでも注目を集めている。 JPMorgan Chase ランキング2位は米国最大の資産シェアを誇るChase。包括的で使いやすいモバイルバンキングアプリ、迅速なカスタマーサービス、無料のオンライン請求書支払いシステム、無料の金融教育ウェブキャスト「Chase Chats」などで高い評価を受けている。 Chaseは優れたデジタル体験を通じ、顧客満足度ランキングで常にトップまたはそれに近い位置を獲得している。 PNC PNCは以前より、ハイブリッド・バンキング、広大な支店網(正確には2,400店)、モバイルアプリ「バーチャルウォレット」によるデジタルマネー管理サービスの提供が強み。支店をデジタルツールのトレーニングセンターと兼用するなど、物理とデジタルを融合させ、銀行業務における顧客体験を最適化する方法を常に模索している。 また、PNCは、小さなことにも気を配っている点も評価できる。例えば、18,000台あるATMでは、顧客が好きな額面を選んで引き出しができるようになっており、小銭を用意する手間が省けるようになっている。 TD Bank TD銀行が自らを「アメリカで最も便利な銀行」と称している。1,200以上の支店を持ち、その多くが競合他社よりも早くから営業し、遅くまで営業しているため、顧客は自分のスケジュールに合わせて必要なサービスを簡単に受けることがきる。 この優れた顧客体験をTD Bankはデジタルチャンネルにも反映している。データ分析を活用し、デジタルサービスやオムニチャネル体験の向上にも努めている。 Ally Bank 店舗を持たないオンラインバンクであるAlly Bankは、24時間対応の迅速なカスタマーサービス、最低預金額や月々の維持手数料の無料化、対話型AIデジタルバンキングアシスタント「アリーアシスト」により、2009年の創業以来、オンラインリテールバンキングの分野でリーダー的地位を獲得している。 TD Bankと同様に、よりリアルなAIインタラクションを提供するためのコグニティブコンピューティングへの投資や、超個性化のための顧客360度ビューの開発など、データの活用による顧客体験の充実を図る継続的な取り組みについての情報発信も行っている。 CXを構成する5つの要素 では、優れた顧客体験を生み出すにはどのようなポイントを押さえておく必要があるのだろうか?一度、CXを構成する5つの要素を見てみよう。 現在の状況と制約に対する理解 全てのタッチポイントにおいて顧客に対してのコミットメント 組織全体とスタッフ一人ひとりのCXに対する理解 データを活用した意思決定 グローバルな視点とローカルレベルでの柔軟な対応 金融機関が提供しているCXの品質を高めるには上記のポイントを理解する必要がある。当然であるが、経営レベルでのコミットメントが不可欠となる。 金融における顧客体験に求められるポイント 2022年以降、顧客は従来の顧客体験では喜ばなくなる。 顧客は複数のブランドを使い分けることができ、選択肢に事欠くことはない。このような顧客を維持し、エンゲージするためには、これまでの金融業界における習慣、慣行、方法を一度捨て切る必要が不可欠である。 その代わりに、以下のような新時代の顧客の期待の根源に迫ることで、有意義な体験を提供することに注力したいところ。 情報への即時アクセスの提供 タッチポイントを越えたレスポンスの良いサービスの提供 オンデマンドサービスのための新しいツールや技術の採用 顧客がいつでもどこでも企業と対話できるようにする パーソナライズされた情報共有 銀行業務におけるUXおよびCXの最新トレンド では本題の銀行をはじめとした金融業界に求められる最新の顧客体験に関するポイントを6つ紹介する。 1. なるべく “人間” っぽい体験を 日本でもDXが叫ばれているが、顧客はAIでも機械でもない。従って、体験がデジタルになりすぎるのは良くない。 どんなにテクノロジーが進んでも、生身の人間はパーソナルな体験とリアルタイムでのやりとりを求める。機械よりも人間とのやりとりを望んでいる。 例えば、ドイツのコメルツ銀行は、スピード、セキュリティ、シンプルな体験を実現するためにDXを進めている。この銀行のモデルは、支店の3分の1を閉鎖し、銀行員、アドバイザー、従来のコールセンターをのスタッフをオンライン経由のバンキングセンターに集約した。そうすることで、スムーズなデジタル体験を提供しながらも、顧客は生身の人間とのやりとりが可能になっている。 チャットボットはどのように企業で活用されているのか? 2. 素早い対応を提供する ほとんどの顧客は、リクエストに対してすぐに結果が出ることを期待している。 顧客が解決策を待つ時間を1秒でも失うことは、顧客の忠誠心を失うことに一歩近づくことになる。 例えばファイナンシャル・アドバイザーとの対話を素早く実現するために、人工知能(AI)、機械学習(ML)、自動化を活用した、パーソナライズされた、状況に応じた、より現代的なソリューションを提供することが求められる。 […]

新しい時代に広がる10のワークスタイル変革

リモートワークやDXが進んだことにより、働き方も急速に変化し始めている。場所や時間に縛られない働き方や、半永久的にリモートワークを承認する仕組みを導入した例もある。
その変化に伴い、企業側も生産性の向上や、採用戦略の一つとして新しいワークスタイルを導入する必要性が高まっている。
求められる10のワークスタイル変革
これから紹介するJacob Morganによる10の新しい時代のワークスタイル変革は、すでに多くの欧米企業で採用されている。
その生産性の高さと従業員満足度の高さを考えてみると、どうしても…

スタートアップの「実現するまでハッタリかませ」文化について

先日、こちらのツイートに対して多くの反響をいただいた。 この動画に出演されている女性は実際には存在していない。AIによって生成されたCG女優だそうです。最新テクノロジーはすでにこんなことまで実現できるようになってる。モデルさんキラー。 pic.twitter.com/VfMEPTrFf9 — Brandon K. Hill | CEO of btrax (@BrandonKHill) May 15, 2022 その中でも “これは本当にできているのか?本当のフェイクではないのではないか?顔だけではないか。前から似たようなものもあった。” といった内容のコメントもいただいた。 ちなみに、この動画は香港のパンテオンラボというスタートアップが自分達の技術のプロモーション用に製作した技術デモである。 その技術レベルの真偽は謎のままであるが、それがかなりスタートアップっぽいなと思った。 “Fake it till you make it” というのも、実は多くのスタートアップは初期段階で “出来ている風” の動画やプロトタイプをリリースすることが多い。 「AIによる完全自動化」や「独自のアルゴリズム」などのフレーズが飛び交うが、実はその裏では人力で動かしていたり、全く技術開発が追いついていないケースも実は少なくない。 しかし一方で、シリコンバレーを中心に、スタートアップの人たちの間では “Fake it till you make it (実現するまでハッタリをかませ)” という言葉があるほど、ある意味日常茶飯事でもある。 例えば、表面的にはAIによるチャットボットのように見せていて、実際は裏で人間が動いてる。なんていうことも頻繁に聞く話である。 これまでにもFake itフェーズを経験しているスタートアップがいくつもある。そんな中でも代表的な例を紹介する。 注: 我々がハッタリを推奨しているということではなく、あくまで、スタートアップを成功に導くための考え方の一例として、過去の事例から学べるエッセンスを参考にしていただければ幸いだ。 パソコンがないのに開発案件を受注したマイクロソフト ”一生を砂糖水を売るか世界を変えるチャンスに賭けるか” めっちゃクールなデザインの指輪でピッチ大会優勝 ストアの全てのパソコンにPinterestを表示 海賊版配信から正規ライセンス配信で大成功したクランチーロール 筋金入りのハッタリだったセラノス 運営チームがサクラだったマッチングアプリ 存在しないサービスをLP+PPCで市場テスト 身に付けたい技術を履歴書に羅列した某CEO パソコンがないのに開発案件を受注したマイクロソフト 世の中にパソコンというものが普及すると考えていたファウンダーのビル・ゲイツとポール・アレンは、パソコン製造メーカーのMITS社に営業電話をかけ、ソフトウェアの重要性を売り込んだ。 その当時、彼らはMITS社のパソコンを所有しておらず、ソフトも全くできていなかったにも関わらず。 結果的にその後2人は大学のPCを利用し、8週間でBASICを作り上げ納品に成功した。 ギリギリで帳尻を合わせた有名な事例だ。 ”一生を砂糖水を売るか世界を変えるチャンスに賭けるか” Appleがスタートしてまだ5年しか経っていないにも関わらず、ペプシコの敏腕CEOを引き抜いたジョブス。 その時に彼に言ったのが “このまま一生、砂糖水を売り続けるのか、それとも世界を変えるチャンスを見たいですか?” まだまだ小さな会社だったのにも関わらず、ビジネス界の大先輩にこんな大口を叩いたのも、なかなかだ。 世界を変えているのは頭の良い不良たちだ めっちゃクールなデザインの指輪でピッチ大会優勝 我々ビートラックスは以前、日本のスタートアップ向けにサンフランシスコでピッチイベント (SF Japan Night) を開催していた。 その際に日本で予選会を行っていたのだが、第5回大会では、指輪型のIoTデバイスをクールにプレゼンしたRingが優勝した。 ファウンダーの吉田くんが、洗練されたデザインの指輪を振りかざすだけで、メッセージを送れたり、改札を通れたりするデモを披露。そのクールさゆえに、会場が大いに盛り上がった。 しかし優勝後にわかったことが、実はそのデバイスはピッチ当時 “がわ” だけであり、テクノロジー自体はまだまだ開発中であったということ。 そして、製品化したプロダクトもデモ版とはかなり違うものがリリースされた。 ただ、スタートアップではピボットやデザインの変更は日常茶飯事。むしろユーザーに向き合い、改善を進めている印でもあることは、この場で改めてお伝えしておきたい。 ストアの全てのパソコンにPinterestを表示 ハッタリを一番活用しがちなのが、スタートアップの立ち上げ時期。それぞれがユニークな手法でユーザー獲得をする中でも、Pinterestが行った施策が面白い。 最初は、ファウンダーのベンがサービスを友人や家族に知らせ、彼らがユーザーとなった。そしてその後、連日複数のパソコンストアに通い、置いてあるパソコンのブラウザーにPinterest.comを開いたままにしたことで、知名度を上げたのだ。 主要スタートアップサービスの初期ユーザー獲得方法 海賊版配信から正規ライセンス配信で大成功したクランチーロール 次は、カリフォルニア州立大学、バークレー校に通うアニメ好きの若者たちが投稿サイトを立ち上げたクランチーロールの事例。 当時は日本アニメのファンサブが中心に投稿され、その多くが法的には著作権を侵害する内容であったが、サイトは急成長を遂げていった。 その後、日本法人を設立し、アニメ会社と提携について交渉を開始。自サイトの違法動画を削除、動画投稿サイトにおける違法投稿の検出ソフトの提供などを行い、テレビ東京や、GDH、東映などとも契約を結ぶまでに至った。 その後も成長を続け、現在ではソニーグループの傘下に入り、世界ユーザー数は1億2000万人(有料会員500万人)を誇っている。 筋金入りのハッタリだったセラノス おそらく今まで最も壮大なハッタリスタートアップといえば、セラノスだろう。 セラノスのサービスは、たった数滴の血液検査を通じて手軽にユーザーに対して30項目の検査を可能にするというコンセプト。当時19歳だった女性起業家、エリザベス・ホームズにより2003年に創業した。 彼女は、女性版ジョブスと言われるほどのカリスマ性を武器に、多くの著名人とのコネクションを構築。そしてそれを活用することで世の中に”夢を見させる”ことを可能にした。 セラノスは、医療業界や投資家から大きな注目を集め、シリコンバレーの大手VCの数社をはじめ、オラクルの創業者からも投資を受けた。最終的には会社は90億ドルの評価額となり、7億ドル以上もの資金を集めた。 そして社外取締役にも元国務長官、元国防長官、労働省長官、国務長官、海軍提督や上院議員などを揃え、でアメリカのドラッグストア大手ともパートナーシップを結んだ。 しかし、内部からのタレコミもあり、実はハッタリだらけの内情をウォール・ストリート・ジャーナル紙にバラされてしまった。 その結果彼女は刑事告訴を受け、裁判で有罪になったのだ。 ハッタリ系スタートアップ大賞 運営チームがサクラだったマッチングアプリ 以前に我々が日本のマッチング系アプリに対する支援を行っていた頃、出来たばかりのサービスをテストしてみようと思い、使ってみた。 そのアプリは相手とメッセージを送り合い、マッチして初めて写真と名前が表示される仕組みだった。 マッチしたユーザーが見つかった!と思った束の間、その相手がまさにそのスタートアップの運営スタッフだったのだ。その時はお互いかなり気まずい雰囲気になった。 存在しないサービスをLP+PPCで市場テスト 実はハッタリ作戦は、プロダクトの方向性が決まってない時にも利用可能。 シリコンバレー界隈のスタートアップでは定番となっているのが、その実現性は一旦無視して、複数のプロダクトコンセプトを出すこと。 それぞれに対しての理想的なキャッチコピーとビジュアルを掲載したLPを作成し、それに連動するWeb広告を走らせる。 その結果を見て、最も反応の良かったコンセプトを採用することで、プロダクトの成功率を上げるという手法だ。 身に付けたい技術を履歴書に羅列した某CEO 最後は自分自身の体験。学生で駆け出しデザイナーだった頃、どうしてもプロのデザイナーになりたかったため、必要とされるスキルを片っ端から履歴書に書いた。 もちろん、複数のプロジェクトを受注できたのだが、できるふりをしていたため、それがバレないように必死にスキルを身につけた。 また、どうしても自分だけでは解決できない場合は、大学の先生に手伝ってもらったりもしていた。 なぜたまにはハッタリもありな5つの理由 このような感じで、何かを始めた直後は特にハッタリが必要になる。 […]

日本の制作会社が世界で一番コスパが良い10の理由

ここ数年でまた日本でWebやアプリの制作会社が増えてきているように感じる。新たにデザイナーを目指す人も多く見かけるようになった。 Web制作会社が生き残りにくいアメリカ的な感覚で考えると、かなり興味深い。 アメリカの場合は、英語でやりとりする事ができればよりコストの安い国に発注したりできる。また、デザイン事態が事業のコアに近いということで、デザインチームのインハウス化を進めている状況が増えていることで、単独の制作会社として生き残るのは非常に難易度が高い。 アメリカでWeb制作会社が存在出来ない5つの理由 日本の制作会社はコスパがめっちゃ良い 世界的に見ても日本の制作会社のコスパはかなり高い。かなり技術力があり、責任を持って仕事をしてくれる割に値段がリーズナブル。 おそらくその背景には以下に紹介する10のファクターが要因になっていると考えられる。 物価の安さ&為替 仕事に対しての姿勢 優秀な人材の多さ デザイナーの待遇が良くない おもてなしの精神 治安良い&インフラが安定してる 職人気質 日常におけるUXの高さ スタートアップ市場が熟成していない お客様は神様の考え方 1. 物価の安さ&為替 最近の日本は世界的に見てもかなり物価が安い。安くなったというよりは、他の国の物価が上がったのに対して、日本はここ30年ぐらいあまり変化がない。 例えば、2005年ぐらいまではサンフランシスコより東京の方が生活コストが高かったが、今はサンフランシスコの生活コストは東京の2.5倍ほどだ。 下記のビッグマック指数を見てもわかる通り、世界全体で見ても日本の物価の安さは特筆すべきものがある。そして安いのは物だけではなく、サービスも同じ。そもそも全体の給与が上がっていないのだから当然だろう。 物価の安さに加え、近ごろは円安が進み、どうやら20年ぶりぐらいの状況になっているらしい。こうなってくると、ドル換算にすると、日本の会社の見積もりはかなりお得に感じる。 イメージ的には以前は10万円だったのが、7万円になったイメージ。そして今後もこの円安はまだまだ進む予測もされている。 不況に強いビジネスと成長した企業から学べる4つの教訓とは 2. 仕事に対しての姿勢 日本が世界に最も誇れるのがその平均的教育レベルの高さと、仕事に対しての勤勉さだろう。特に、仕事に対しては、その対価に関係なく、課された内容をしっかりと遂行する姿勢、対応のきめ細やかさは唯一無二の存在。 これがアメリカだと、単価の安い案件に対してはそれなりのサービスしか受けられないし、比較的コストが低い東南アジアなどの国々でも手抜きされることも少なくない。もちろんプロジェクトの状態にかかわらず、定時になったら家に帰ってしまう。 その点、多くの日本企業で働く人たちや、フリーランサーは仕事に対しての責任感がかなり高く、納期に間に合わせるために残業したり、週末も働いてくれたりする。また、万が一間に合わない場合があっても、事前にしっかりとお知らせしてくれるケースがほとんど。この辺は、他の国だと直前まで知らされずに “Sorry” で済まさる場合も何度かあった。 加えて、識字率の高さや義務教育の高い浸透率が理由なのか、その報酬にかかわらず、仕事に対しての取り組み方と責任感において、日本を上回る国はないと思われる。 アメリカの丸亀製麺から考える日本でDXが進まない本当の理由 3. 優秀な人材の多さ 求人に応募してきてくれる候補者を見て思ったのだが、日本は優秀デザイナーの人材がかなり豊富。 10年ぐらい前までは、デザイナーはかなり特殊な仕事で、広告系かグラフィックデザイナーが多かったが、最近ではWebやUI, そして少しずつではあるがUXデザイナーも増えてきている。 美大だけではなく、総合大学でもデザインのプログラムがどんどん増えてきているみたいで、即戦力になるデザイン人材が多いと思う。 日本に憧れるピクサーの社員が語る仕事の裏側【インタビュー】グラント・アレクサンダー 4. デザイナーの待遇が良くない 日本は優秀なデザイナーが多い割に、実はその待遇は世界的に見てもかなり良くないと言わざるを得ないだろう。 それには複数の理由が考えられるが、サービスにお金を払わない文化が大きく影響しているように感じる。 これは日本特有の「納品文化」がまだまだはびこっており、数字やカタチで測ることが容易ではないデザイナーの価値がまだまだ理解されにくい土壌かもしれない。 ということは、優秀なデザイナーを擁する制作会社にお得な金額で仕事をお願いしやすい状態になりやすい。 なぜ日本ではデザイナーの地位が上がらないのか?~海外デザイナーとの比較~ 5. おもてなしの精神 某広告代理店の企業理念ではないが「そこまでやるか!」と感じてしまうぐらいに気の利いたサービスを提供してくれるのが日本企業のすごいところ。 これは飲食店や旅館、航空会社だけにとどまらず、制作会社も他の国と比べて相当サービスが素晴らしい。こちらが頼む前に「必要だと思って事前にやっておきました」とか、デザインに対する補足資料の量も半端ない。 やはりこれは日本が世界に誇れる「おもてなし精神」のなせる技だろう。 寿司職人から学ぶ究極のUXデザイン6つの極意とは 6. 治安良い&インフラが安定してる これは国内にいるとイマイチ気付きにくいが、世界的に見て日本は異常なぐらいに治安が良い。犯罪が少ないだけではなく、とにかく良い人が多い。 例えば、落とし物をしてもかなりの確率で戻ってくる。令和元年に落とし物として警察に届けられた現金の総額はなんと約40億円。携帯を落としても9割弱が持ち主に戻ってくる。こういう部分はとんでもなく素晴らしい国。 以前にバングラデッシュにある開発会社に発注したことがあったが、納期の直前に彼らのオフィスの近くで自爆テロがあったらしく、慌ててスタッフが全員帰ってしまった。それにより、納期に大幅な遅れが生じた。 また、電気やネットのインフラが安定しているのもかなりのアドバンテージ。というのも、嘘みたいだが、サンフランシスコ市街地ですら停電になることがある。アメリカの都心部でもそうなのだから、他の国でも電気やネットが落ちても不思議ではない。 日本の場合はその様な事態になることがかなり稀であるため、安心して仕事を頼める。 日本で生き続ける3つの消滅した米国ブランド 7. 職人気質 モノづくりに対するDNAがなせる技なのか、日本人の細部へのこだわりは半端ない。そして、物事に対するストイックな意識は世界的見てもトップレベル。 その素晴らしさを映画ラストサムライでトム・クルーズ演じる主人公は下記のように示している。 “彼らは目覚めた瞬間から自らを物事に没頭し、日々自身を戒めながら完璧を実現するために精進する。” これはまさに職人気質と言えるもので、たとえそれが繰り返しの続く単純作業だったとしても、高いクオリティーのアプトプットを実現する。HTMLのコーディングなんかはかなり根気のいる作業だが、日本の制作会社は手抜きをすることなく、しっかりと結果を出してくれる。 日本の技術力が世界的にすごい本当の理由 8. 日常におけるUXの高さ これも海外で生活しないと気づかないのだが、日本の日常生活におけるユーザー体験はかなり高い。 多機能な自動販売機から始まり、滅多に遅れない電車、わかりやすい標識、迅速で効率的なコンビニの業務、レストランでの高い顧客体験など、おそらく日本でしか体験できないほどの便利さがそこにある。 そんな高レベルの体験に日々接していると、感覚的にも研ぎ澄まされ、自分達が作り出すユーザー向けのデザインスタンダードも自ずと高くなっている。 サンフランシスコのUXデザイナーが体験した日本から学ぶべきUXとは 9. スタートアップ市場が熟成していない サンフランシスコ地域でデザイン会社を経営する最も大きな悩みの一つが、周辺にあるスタートアップの存在。というのも、この街にはTwitterやPinterest、AIrbnbやLyftなど、デザイン性の高いプロダクトを提供するスタートアップが山ほどあり、人材獲得競争が激化している。 結果的に優秀なデザイナーや制作に関わる人材がどんどんスタートアップに引き抜かれる。もちろん新規採用のハードルも高くなる。 その点日本はまだまだスタートアップが熟成していないため、人材の獲得の難易度はまだ高くないように感じられる。 結果として、制作会社だったとしても優秀なデザイナーを配することが現実的に可能になっている。 日本で起業家が生まれにくい3つの理由 10. お客様は神様の考え方 そしてやっぱり最後はお客さまは神様の考え方。どんな金額であったとしても、お金をもらっている = お客さまである限りは、圧倒的な主従関係の概念が根強く残っている。 これは同時にクライアントの立場になればある程度のワガママも通しやすく、日本の制作会社にお願いするROIが高まる。 特に提案段階でも手厚いサポートをしてくれたり、場合によってはデザインコンセプトを提出してくれたりするあたりなんかは、正当な対価をもらってないのにかなりのサービスを受けることが可能なのである。 “タダでやってくれませんか?” 問題への正しい対応方法 でも弱点もあり これらを総合的に考えると、やはり日本の制作会社はかなりコスパが良い。他の国々の人たちには教えたくないぐらいの裏技だ。 この良さをどんどん世界に広げていけば、世界のデジタル工場になれる日も近いかもしれない。 ただやはりいくつか弱点もあるので、ついでに紹介する。 弱点1: 英語力 はい。基本中の基本。だけど重要な点として、日本国外のプロジェクトをやったことのある制作会社はあまり多くない。 海外クライアントとのやり取りはもちろん英語になるのだが、デザイナーをはじめとして、英語でのビジネスコミュニケーションができる会社はまだ少ないだろう。 弱点2: プレゼン力 英語でのコミュニケーション能力と同等かそれ以上に重要になってくるのがプレゼン力。というのも、特にアメリカの企業はデザインなぜ” を重要視するから。 言い換えると、そのデザインがどのように課題の解決につながるかをロジカルに説明することを期待する。なので、受身の姿勢では海外のクライアントから良い評価を得るのは難しくなる。 弱点3: 消費税 日本では物にもサービスにも消費税がかかるが、アメリカをはじめとして海外のいくつかの国ではサービスには消費税がかからない。 なので、それらの国々のクライアントからは+10%割高に感じられる可能性がある。この辺は今後日本の税制がどう変わっていくかによって、大きく左右される可能性がある。 弱点4: 祝日が多すぎる […]

UXデザイナーは本当にデザイナーなのか

最近とあることに気づいた。UXデザイナーポジションへの応募が多いが、そのバックグラウンドがかなり多種多様なのである。 元々Webデザイナーをしていた人もいるし、マーケター出身の人もいる。デザインとは関係のない学部や職種出身の人もいるし、前職がスタバのバリスタのケースもあった。 UXデザイナーの役割多すぎ問題 言われてみれば、”UXデザイナー” のその役割と必要なスキルがあまりにも広く、そして曖昧なこともあり、非常にわかりにくいポジションになってる気がする。 仕事内容も、デザイナーと呼ぶにはかなり多くの非デザインスキルが求められる。正直いうと、そもそもこれってデザイナーの仕事なのか?と思うこともしばしばある。 そんなこともあり、そもそも一人のデザイナーがUXデザインに求められる全てをまかなうのは、非現実的なのではないかとも思ってきている。 そもそもUXって何? このややこしさの根本原因は “UX” という言葉の意味が分かりにくく、人によって微妙にずれているからかもしれない。 なので、まずはUXがなんぞやっていうところからクリアにしていこう。 UXとはユーザー体験の英語訳である “User Experience” を短く、かっこよく表現したもの。その定義としては: 人々が製品に接するとき、そしてその接点から得られる経験そのもの。UXは、成功率、エラー率、離脱率、タスク完了までの時間、完了までのクリック数などの指標で測定される。 が適切だと思う。また、ユーザビリティーの父と呼ばれるヤコブ・ニールセン率いるNielsen Norman Groupによると、 UXは、エンドユーザーと企業、サービス、製品とのインタラクションのすべての側面を包含する と定義されている。 お気付きになっただろうか?上記の定義のどちらにも “デザイン” という言葉が含まれていないことを。 そう。もうお分かりですね。ユーザー体験 (UX) には、ライター、リサーチャー、プログラマー、情報アーキテクト、マーケター、そしてデザイナーなど、多くの多様な部門や専門家が優れたユーザー体験を生み出す責任を負っている。そしてもちろん、最も重要なのが経営陣の役割だろう。 【わかりやすく解説】UXデザインの基本と主要概念 UXとCXは何が違うの ここで少し余談になるが、日本語でよく言う「顧客体験」とユーザー体験は同じ意味なのだろうか? この議論をもう少し専門的な言葉で表現すると “UXとCXって何が違うの?” になる。 CXとは “Customer Experience” の省略形で、顧客体験と訳される。それぞれは密接に連動しているが、UXがエンドユーザー、つまり製品やサービスを使う人に焦点を当てているのに対し、CXは顧客に焦点を当てている。簡単に言うと、CX はUXを内包している形になる。 多くの場合、顧客も製品やサービスを使用しているが、場合によっては誰かに代わって製品やサービスを購入している可能性もある。 例えば、多くの「おもちゃ」のメインユーザーは子供である。その一方で、その製品を購入する顧客は親になる。この場合、おもちゃにおけるUXデザインのターゲットが子供になるのに対して、CXデザインは購入する親にも訴求する体験を設計する必要が出てくる。 したがって、顧客が必ずしもユーザーではないことも理解してデザインするのがCXデザインである。 UXデザイン 主にプロダクトにおけるユーザーの体験の質を上げる CXデザイン 顧客と企業との全ての接点における体験の質を上げる CXデザインとは?UXデザインとの違いとそれぞれの役割 優れたUXとは? ユーザー体験の価値を高めるのがUXデザイナーの仕事だとすれば、そもそも何を持って優れたUXって言うのだろうか? 優れたUXは、プロダクトの体験の総合値によってのみ実現される。例えば、Webサイトの読み込みが遅くてユーザーがイライラするような場合は、エンジニアがそれを改善する仕事になる。 コンテンツがユーザーの心に響かない、あるいは価値のある情報を提供できないなら、それはコンテンツライターの責任。また、ニュースレターの解約率が高いのであればマーケティング担当者が解決すべき問題になってくる。 このように、優れたUXを生み出すには、総合的なチームワークが求められる。自ずとUXデザイナーには、見た目の美しさや使いやすさだけではなく、それ以外の多くのポイントに触れる必要があり、自ずとその責任者も幅広い知識と経験が求められる。 UXピラミッド – UXデザインの正しい評価方法 – なぜUXの改善はデザイナーの仕事になったのか UXの品質改善には多種多様なタッチポイントの改善が必要なのに、なぜか全てデザイナーの責任とされちゃっている節がある。UXデザインのことがちゃんと理解できていない組織は特に。 なぜそうなっているのだろうか? おそらく、プロダクトのUXを改善するというと、多くの人はまず見た目デザインの改善を思い浮かべる。また、UXとユーザーインターフェース(UI)デザインを混同している人も多い。 それぞれは優れたUXを生み出すための戦略の一部であるが、それだけでは不十分である。 もう一つややこしいのは、多くのデザイン関連の出版物やメディアで、デザインとUXをあたかも同じような分野であるかのように表現していること。実際、デザインとUXは大いに重なりあっている。 でも、ユーザー体験の品質が悪い場合、それはデザインに原因があることもあるし、それ以外の要素を改善しなければならないこともある。 UXデザイナーの力だけでUXのその全てを改善できる場合もあるし、多くの場合はカスタマーサポート、価格帯、営業の態度など、それ以外の要素が原因になってる。 従って、UXとデザインを混同してしまうのは正しい考え方ではない。 UXデザイナーだけで解決できない問題が多い このように、UXは総合的な体験価値のそれぞれの要素で構成されているとするのであれば、デザイナー1人で解決できるわけがないだろう。 むしろ、組織のすべての部門がUXの理念を念頭に置いて協力しても、優れたリサーチやインタビュー、テストを採用しなければ、どんな製品も最高のユーザー体験を実現することはできない。 と言うことは、デザイナーだけで解決できる範囲は限られており、それ以外の専門家と一緒に物事を進めない限り、ユーザー体験の品質は改善されない。 なので、UXデザインはデザインだけでなく、それ以外の多くの役割の人たちの協力が求められる。 UXデザインプロセスの基本的な6ステップ 必要なのは総合的なUXチーム その一方で、組織内の複数の部署に対して「UX改善しておいてね」とだけ言ってても何も始まらない。 そこで、UXリサーチャーをはじめとするUXのスペシャリスト達が活躍することになる。それぞれ少しずつ異なる役割で構成されるUXチームは、もちろんデザイナーもいるが、それ以外も多種多様な役割のメンバーで構成される。 そのUXチームに関する役割は、マーケティングチームの構成に近いのかもしれない。チーム全体で、文章を書き、インタビューし、調査し、記述的・予測的な分析を行う。そして、 私たちデザイナーは、データ、洞察、その他の情報、推奨事項に基づいて、処方的なソリューションを提案していく。 従って、UXデザイナーと呼ばれる人たちは、UXをデザインする仕事というよりも、総合的なUXチームのメンバーの一人となり、デザイナー的観点からUX改善を進める役割になってくると思われる。 UXデザイナーという謎の役職名 このまで読めばわかると思うが、UXデザイナーの実態は周りのチームメンバーたちの構成によって大きく変化する。 なので、A社のUXデザイナーとB社のUXデザイナーでは、その仕事内容が大きく変わるし、エージェンシーと事業会社でもその立ち位置が全く異なることも少なくない。 UXの改善にはかなり総合的なチームが必要になってくるのに、なぜかUXデザイナーの人が全てそれを行うイメージがいまだに多く広がっている。そして、おそらく本人たちが一番困惑していると思う。 もはやデザイナーとは職種ではなくマインドセットである そもそもデザイナーの仕事って何? ここで一度 “デザイナー” と呼ばれる人たちの仕事内容をおさらいしてみよう。 そもそもここ数年でデザイナーの重要性が高まりすぎて、猫も杓子もデザイナーのキーワードが乱用され、その実態が少しぼやけてきている気がする。 デザイナーというと、絵を描いて形だけを決める仕事だと勘違いしている人が多いのだが、実はそれらは最終アウトプットのごく一部であり、本来デザイナーの仕事というのは、与えられた制限の中で、求められる最大限の結果を生み出すプロセスのその全てに関わる職業である。 実はデザイナーの仕事のうち、3分の2はコミュニケーションであると言っても過言ではない。 デザイナーの仕事の最初の3分の1が、正しい人を探してその人から正しい情報を引き出す事で、次の3分の1が実際のデザイン作業。 そして最後の3分の1が出来たものの情報を正しい人に正しく伝える事。この行程を経て、はじめてきちんとしたデザインが作り上げられる。 つまり、最初と最後の3分の1ずつは、コミュニケーション能力にかかっている。”黙っていても良い物を作れば売れる”という時代は終わり、作ったものの見せ方や、伝え方と言ったマーケティング、プロモーション、プレゼンテーションの部分もデザイナーが考える必要がある。 その普遍的なデザインプロセスが、UXデザインにも密接に関わってきている。 【改めて基本を解説】デザイナーの役割とその仕事内容とは UXデザイナーの肩書きがインフレ気味 最近では多くのデザイナーがUXデザイナーになりたがっている。 どうしてそうなってしまったのだろうか?おそらく、その裏には我々デザイナーの悲しい存在価値がある。 企業におけるデザイナーの存在は、テクノロジーやマーケティングなど、「動くか動かないか」や「数字」で判断される分野とは異なり、デザインは常に数値化が困難な分野。その不透明さゆえに、ビジネスのフィールドにおいて我々の仕事はあまり真剣に捉えてくれない壁があった。 そこで出てきたのがデザインとビジネスを融合させ、結果に繋がるデザイン = 「UXデザイナー」という肩書き。その戦略が功を奏し、その重要性は爆上がり。その結果UXデザインのインフレを招いてしまっている。 UXデザイナーとは?仕事内容、求められるスキル、活躍するデザイナーとは 「UXデザイナー > Webデザイナー」は誤り 冒頭で触れたように、元々Webデザイナーをしていた人が、UXデザイナーにスキルチェンジしようとするケースが増えてきている。これは、UXデザイナーの方が市場ニーズが高く、待遇も良いからだろう。 しかし、その安易な考えは危険。 WebデザイナーはUXデザイナーより価値が低いわけではないし、UXデザイナーはWebデザイナーの上位互換でもない。そもそも役割が全く違う。 でも、多くの組織では、WebデザイナーをUXデザイナーの下に配属し、ディレクションをもらってWebデザインをしたり、UXデザイナーを名乗る上司からジュースを買いに行かされたりしている。 そんな日々を続ければ「いつかはUXデザイナーに」って思ってしまうのも仕方ないだろう。 […]

UXデザイナーは本当にデザイナーなのか

最近とあることに気づいた。UXデザイナーポジションへの応募が多いが、そのバックグラウンドがかなり多種多様なのである。 元々Webデザイナーをしていた人もいるし、マーケター出身の人もいる。デザインとは関係のない学部や職種出身の人もいるし、前職がスタバのバリスタのケースもあった。 UXデザイナーの役割多すぎ問題 言われてみれば、”UXデザイナー” のその役割と必要なスキルがあまりにも広く、そして曖昧なこともあり、非常にわかりにくいポジションになってる気がする。 仕事内容も、デザイナーと呼ぶにはかなり多くの非デザインスキルが求められる。正直いうと、そもそもこれってデザイナーの仕事なのか?と思うこともしばしばある。 そんなこともあり、そもそも一人のデザイナーがUXデザインに求められる全てをまかなうのは、非現実的なのではないかとも思ってきている。 そもそもUXって何? このややこしさの根本原因は “UX” という言葉の意味が分かりにくく、人によって微妙にずれているからかもしれない。 なので、まずはUXがなんぞやっていうところからクリアにしていこう。 UXとはユーザー体験の英語訳である “User Experience” を短く、かっこよく表現したもの。その定義としては: 人々が製品に接するとき、そしてその接点から得られる経験そのもの。UXは、成功率、エラー率、離脱率、タスク完了までの時間、完了までのクリック数などの指標で測定される。 が適切だと思う。また、ユーザビリティーの父と呼ばれるヤコブ・ニールセン率いるNielsen Norman Groupによると、 UXは、エンドユーザーと企業、サービス、製品とのインタラクションのすべての側面を包含する と定義されている。 お気付きになっただろうか?上記の定義のどちらにも “デザイン” という言葉が含まれていないことを。 そう。もうお分かりですね。ユーザー体験 (UX) には、ライター、リサーチャー、プログラマー、情報アーキテクト、マーケター、そしてデザイナーなど、多くの多様な部門や専門家が優れたユーザー体験を生み出す責任を負っている。そしてもちろん、最も重要なのが経営陣の役割だろう。 【わかりやすく解説】UXデザインの基本と主要概念 UXとCXは何が違うの ここで少し余談になるが、日本語でよく言う「顧客体験」とユーザー体験は同じ意味なのだろうか? この議論をもう少し専門的な言葉で表現すると “UXとCXって何が違うの?” になる。 CXとは “Customer Experience” の省略形で、顧客体験と訳される。それぞれは密接に連動しているが、UXがエンドユーザー、つまり製品やサービスを使う人に焦点を当てているのに対し、CXは顧客に焦点を当てている。簡単に言うと、CX はUXを内包している形になる。 多くの場合、顧客も製品やサービスを使用しているが、場合によっては誰かに代わって製品やサービスを購入している可能性もある。 例えば、多くの「おもちゃ」のメインユーザーは子供である。その一方で、その製品を購入する顧客は親になる。この場合、おもちゃにおけるUXデザインのターゲットが子供になるのに対して、CXデザインは購入する親にも訴求する体験を設計する必要が出てくる。 したがって、顧客が必ずしもユーザーではないことも理解してデザインするのがCXデザインである。 UXデザイン 主にプロダクトにおけるユーザーの体験の質を上げる CXデザイン 顧客と企業との全ての接点における体験の質を上げる CXデザインとは?UXデザインとの違いとそれぞれの役割 優れたUXとは? ユーザー体験の価値を高めるのがUXデザイナーの仕事だとすれば、そもそも何を持って優れたUXって言うのだろうか? 優れたUXは、プロダクトの体験の総合値によってのみ実現される。例えば、Webサイトの読み込みが遅くてユーザーがイライラするような場合は、エンジニアがそれを改善する仕事になる。 コンテンツがユーザーの心に響かない、あるいは価値のある情報を提供できないなら、それはコンテンツライターの責任。また、ニュースレターの解約率が高いのであればマーケティング担当者が解決すべき問題になってくる。 このように、優れたUXを生み出すには、総合的なチームワークが求められる。自ずとUXデザイナーには、見た目の美しさや使いやすさだけではなく、それ以外の多くのポイントに触れる必要があり、自ずとその責任者も幅広い知識と経験が求められる。 UXピラミッド – UXデザインの正しい評価方法 – なぜUXの改善はデザイナーの仕事になったのか UXの品質改善には多種多様なタッチポイントの改善が必要なのに、なぜか全てデザイナーの責任とされちゃっている節がある。UXデザインのことがちゃんと理解できていない組織は特に。 なぜそうなっているのだろうか? おそらく、プロダクトのUXを改善するというと、多くの人はまず見た目デザインの改善を思い浮かべる。また、UXとユーザーインターフェース(UI)デザインを混同している人も多い。 それぞれは優れたUXを生み出すための戦略の一部であるが、それだけでは不十分である。 もう一つややこしいのは、多くのデザイン関連の出版物やメディアで、デザインとUXをあたかも同じような分野であるかのように表現していること。実際、デザインとUXは大いに重なりあっている。 でも、ユーザー体験の品質が悪い場合、それはデザインに原因があることもあるし、それ以外の要素を改善しなければならないこともある。 UXデザイナーの力だけでUXのその全てを改善できる場合もあるし、多くの場合はカスタマーサポート、価格帯、営業の態度など、それ以外の要素が原因になってる。 従って、UXとデザインを混同してしまうのは正しい考え方ではない。 UXデザイナーだけで解決できない問題が多い このように、UXは総合的な体験価値のそれぞれの要素で構成されているとするのであれば、デザイナー1人で解決できるわけがないだろう。 むしろ、組織のすべての部門がUXの理念を念頭に置いて協力しても、優れたリサーチやインタビュー、テストを採用しなければ、どんな製品も最高のユーザー体験を実現することはできない。 と言うことは、デザイナーだけで解決できる範囲は限られており、それ以外の専門家と一緒に物事を進めない限り、ユーザー体験の品質は改善されない。 なので、UXデザインはデザインだけでなく、それ以外の多くの役割の人たちの協力が求められる。 UXデザインプロセスの基本的な6ステップ 必要なのは総合的なUXチーム その一方で、組織内の複数の部署に対して「UX改善しておいてね」とだけ言ってても何も始まらない。 そこで、UXリサーチャーをはじめとするUXのスペシャリスト達が活躍することになる。それぞれ少しずつ異なる役割で構成されるUXチームは、もちろんデザイナーもいるが、それ以外も多種多様な役割のメンバーで構成される。 そのUXチームに関する役割は、マーケティングチームの構成に近いのかもしれない。チーム全体で、文章を書き、インタビューし、調査し、記述的・予測的な分析を行う。そして、 私たちデザイナーは、データ、洞察、その他の情報、推奨事項に基づいて、処方的なソリューションを提案していく。 従って、UXデザイナーと呼ばれる人たちは、UXをデザインする仕事というよりも、総合的なUXチームのメンバーの一人となり、デザイナー的観点からUX改善を進める役割になってくると思われる。 UXデザイナーという謎の役職名 このまで読めばわかると思うが、UXデザイナーの実態は周りのチームメンバーたちの構成によって大きく変化する。 なので、A社のUXデザイナーとB社のUXデザイナーでは、その仕事内容が大きく変わるし、エージェンシーと事業会社でもその立ち位置が全く異なることも少なくない。 UXの改善にはかなり総合的なチームが必要になってくるのに、なぜかUXデザイナーの人が全てそれを行うイメージがいまだに多く広がっている。そして、おそらく本人たちが一番困惑していると思う。 もはやデザイナーとは職種ではなくマインドセットである そもそもデザイナーの仕事って何? ここで一度 “デザイナー” と呼ばれる人たちの仕事内容をおさらいしてみよう。 そもそもここ数年でデザイナーの重要性が高まりすぎて、猫も杓子もデザイナーのキーワードが乱用され、その実態が少しぼやけてきている気がする。 デザイナーというと、絵を描いて形だけを決める仕事だと勘違いしている人が多いのだが、実はそれらは最終アウトプットのごく一部であり、本来デザイナーの仕事というのは、与えられた制限の中で、求められる最大限の結果を生み出すプロセスのその全てに関わる職業である。 実はデザイナーの仕事のうち、3分の2はコミュニケーションであると言っても過言ではない。 デザイナーの仕事の最初の3分の1が、正しい人を探してその人から正しい情報を引き出す事で、次の3分の1が実際のデザイン作業。 そして最後の3分の1が出来たものの情報を正しい人に正しく伝える事。この行程を経て、はじめてきちんとしたデザインが作り上げられる。 つまり、最初と最後の3分の1ずつは、コミュニケーション能力にかかっている。”黙っていても良い物を作れば売れる”という時代は終わり、作ったものの見せ方や、伝え方と言ったマーケティング、プロモーション、プレゼンテーションの部分もデザイナーが考える必要がある。 その普遍的なデザインプロセスが、UXデザインにも密接に関わってきている。 【改めて基本を解説】デザイナーの役割とその仕事内容とは UXデザイナーの肩書きがインフレ気味 最近では多くのデザイナーがUXデザイナーになりたがっている。 どうしてそうなってしまったのだろうか?おそらく、その裏には我々デザイナーの悲しい存在価値がある。 企業におけるデザイナーの存在は、テクノロジーやマーケティングなど、「動くか動かないか」や「数字」で判断される分野とは異なり、デザインは常に数値化が困難な分野。その不透明さゆえに、ビジネスのフィールドにおいて我々の仕事はあまり真剣に捉えてくれない壁があった。 そこで出てきたのがデザインとビジネスを融合させ、結果に繋がるデザイン = 「UXデザイナー」という肩書き。その戦略が功を奏し、その重要性は爆上がり。その結果UXデザインのインフレを招いてしまっている。 UXデザイナーとは?仕事内容、求められるスキル、活躍するデザイナーとは 「UXデザイナー > Webデザイナー」は誤り 冒頭で触れたように、元々Webデザイナーをしていた人が、UXデザイナーにスキルチェンジしようとするケースが増えてきている。これは、UXデザイナーの方が市場ニーズが高く、待遇も良いからだろう。 しかし、その安易な考えは危険。 WebデザイナーはUXデザイナーより価値が低いわけではないし、UXデザイナーはWebデザイナーの上位互換でもない。そもそも役割が全く違う。 でも、多くの組織では、WebデザイナーをUXデザイナーの下に配属し、ディレクションをもらってWebデザインをしたり、UXデザイナーを名乗る上司からジュースを買いに行かされたりしている。 そんな日々を続ければ「いつかはUXデザイナーに」って思ってしまうのも仕方ないだろう。 […]

やらかし事例から学ぶブランディングの要注意ポイント

企業や商品のブランディングを行う際、その目的はイメージアップやファンの拡大だろう。でも逆効果になってしまったケースも少なくはない。 ブランディングやらかし事例の紹介 では早速、「やらかしてしまったブランディング事例」を紹介する。 Gap: ダサダサの新ロゴを数日で撤回 Peloton: 夫から妻へのクリスマスプレゼントCMが炎上 マクドナルド&バーガーキング: ヘルシーメニューが全くヒットしない Uber: ロゴのリデザインで社長が暴走 ドルチェ&ガッパーナ: 中国向けのCMが大炎上 Gap: ダサダサの新ロゴを数日で撤回 アメリカのファストファッションブランドであるGap。日本でも馴染みの深いブランドであるが、以前にロゴのリデザインを行ったことをご存知の方は少ないのではないだろうか。 それもそのはず。なぜなら、公表後わずか6日間という短期間で新しいロゴの使用を止め、元のロゴに戻してしまったのだから。 フォントは様々な企業のロゴにおいて採用されている”王道”のHelveticaを使い、色も以前のロゴにも採用されていた深いブルーにグラデーションをかけたもの。なかなか安易なセレクション。 これはお世辞にも “優れた” ロゴとは言えない。どうやら、社外からの応募された作品の中の一つだったらしく、プロの目から見てもかなりお粗末だ。 結果は不評の嵐。1週間と保たずに元のロゴへと戻し、100億円以上の損失をもたらしてしまったという。 学び: ロゴデザインは安易にトレンドを追いかけるのではなく、ブランドの強みと伝統を表現しよう 関連: ロゴのリデザイン ー Gapの失敗 Airbnbの成功の背景にある理由とは Peloton: 夫から妻へのクリスマスプレゼントCMが炎上 Pelotonは、フィットネスバイクやランニングマシン、そして登録型のレッスン動画ストリーミングサービスを展開している。 フィットネスバイクとランニングマシーンには、大型のHDタッチパネルが付いている。ユーザーは、このスクリーン上で提供されるPelotonのエクササイズプラットフォームから好きな動画を選択し、エクササイズを行う。 生放送のクラスに参加することもできるし、オンデマンドクラスもある。ユーザーはエクササイズの種類からクラスを選べることはもちろん、好きな音楽のジャンルから選択も可能。 このサービスが人気を集め、2019年に上場を果たしている。その勢いに乗ってその年のクリスマス時期にテレビCMを放送したのだが、その内容がユーザーからの反感を買い、株価が1日に5%も下がった。 そのCMがこちら。 これの何が問題なのか? どうやら、「クリスマスプレゼントとして夫が妻にエクササイズマシーンを贈る」というシナリオが、男性優位の視点で女性は痩せるべき、というメッセージが込められていると捉えられたのが原因らしい。 学び: アメリカ向けのCM はそのメッセージングを慎重に考える必要あり 関連: 米国最新フィットネススタートアップ3選。キーワードは「自宅」 マクドナルド&バーガーキング: ヘルシーメニューが全くヒットしない みんな大好きヘルシーフード。もし大好きなファストフード店でよりヘルシーな食事ができたら最高だよね。 そんな風潮に合わせ、日本マクドナルドは2006年に新メニュー「サラダマック」が登場した。 当時のプレスリリースには「体によいことをムリせず楽しく続け、バランスのいい生活を応援するマクドナルドからの新しい提案として、野菜と果物を使ったカラダにやさしい5種類の新メニュー『サラダマック』を、2006年5月13日(土)から全国のマクドナルドで発売いたします」と書かれている。 しかしこれが大失敗に終わった。なぜか?そう。マックに行くお客さんは背徳的な高カロリーフードを楽しみに言ってるのだ。言い換えると、マックというブランドにヘルシーさなんて求めていないのだ。 同じく、アメリカのバーガーキングでも以前に低脂質、低カロリーのフライドポテトが発売されたことがあるが、これも失敗に終わっている。 学び: 自分のブランドの社会における立ち位置をしっかりと理解しよう 関連: アメリカの丸亀製麺から考える日本でDXが進まない本当の理由 Uber: ロゴのリデザインで社長が暴走 その事件は2016年の初頭に起こった。スマホにインストールされているUberのアイコンが識別できないほどに変貌していた。色も違えば形も違う。 何より全く”Uber”っぽくなくなっていた。Uber全体のブランドアイデンティティが突如リデザインされたのが理由。 なぜこんなことになったのだろうか? リブランディングに至ったストーリーを読んでみるとこれが実に面白い。 今回のプロセスに関しては、UberのCEOのTravisが自ら指揮を取って行ったというのである。 米国のテクノロジーメディア, Wiredは今回のUberのリブランディングに関して、下記の様に取り上げた: CEOのTravis Karanickはデザイナーではない。にも関わらず、リブランディングにおけるプロセスを他にゆだねることは出来なかった。おそらく彼にとってはこのリブランディングプロジェクトは一つの自己表現の場だったのかもしれない。そして、周りのスタッフには“デザインのことはよくわからないけど、重要なのは知っている。だから良いものを作りたい”と語った。 そして、リリース直後よりUberの新しいロゴやビジュアルアイデンティティに対して、ユーザーから多くのコメントが寄せされた。そして、その多くが下記のような批判的なものだった。 誰でも簡単にデザイナーになれると思ってるんじゃないかな。 CEOの“複数のアイディアがあって全て表現したい”という声が聞こえてくる。 CEOはデザインプロセスに関わるべきであるが、直接指示を出すべきではない。 新しいロゴから伝わってくるのは、”ものすごく多くのお金と周りにイエスマンがいますよ”ということ。 うちのデザイン会社ではクライアントが全てのプロセスに関わりたいと希望する場合は+20%チャージしています。中途半端に関わられると余計に仕事がやりにくくなるので。 学び: ブランディングはトップの個人的なエゴではなく、プロフェッショナルなチームで進めるべき 関連: 非デザイナー社長が自社リブランディングに関わるとどうなるのか – The Case of Uber ドルチェ&ガッパーナ: 中国向けのCMが大炎上 日本でも大人気のイタリアファッションブランドのドルチェ&ガッバーナが2018年にアップしたネットCMの動画が大きな波紋を呼んだ。 これは、同ブランド上海で行われる大規模ファッションショーのプロモーション用に制作、公式インスタ上にアップされた動画。問題になったのは、衣装に身を包んだ中国人モデルが、ピザやパスタなどのイタリア料理を箸で食べるシーン。 この動画を見たユーザー同士がSNS上で中国を侮辱しているということで、大炎上を巻き起こした。 結果として、不買運動が加速。アリババなどの大手ECサイトからD&Gのアイテムが削除され、出演モデルは謝罪文をアップ、ファッションショーは直前で取りやめ、同ブランドの経営者2名が謝罪動画をアップ、そして最終的には、D&Gは中国市場から撤退する事態になった。 学び: ブランドのローカライズは、その地域でのユーザーテストをしっかりやろう 関連: 日本の誇り: 和食のブランドローカリゼーション ブランディングをやらかさないための4つのポイント 1. ブランドの存在意義が明確になっていない ブランディングがうまくいかないまず最初の原因は、自分達の存在意義の欠如。言い換えると、そのブランドが世の中に対してどのような役割を果たすのかが明確になっていないことだ。 他のものを全て取り払っても、そのブランドからは奪い去ることのできない要素 = ブランドコワが明確にされていないと、その後の施策は全く役に立たない。 それを明確にするには、ブランドの存在意義を明確にすることから始める必要がある。 ブランドの本質的な存在意義をクリアに定義する良い方法は、それを短いフレーズで表現すること。例えばNikeの”Just do it.” や Appleの “Think Different” など。 これからのブランドはどんどん透明になっていく 2. ブランド名がイケてない […]

海外の著名ブランドから学ぶブランドストーリー作成のポイント

いつもノースフェイスしか着ない友人がいた。理由を聞いてみたら「どんな過酷な状況でも果敢にチャレンジする人たちをサポートしたいっていうブランドストーリーに共感したから。」と答えた。 このブランド名称の由来になった、「ノースフェイス」とはヨセミテの登山ルートの名称。北側に面しており、陽のあたりが良くなく、凍りやすいことで、最も過酷な登山ルートである。 The North Faceは、そこに挑戦するような人たちをサポートするべく名付けられた。ロゴもハーフドームの形をモチーフにしている。 ブランドの差別化要因となるストーリー この例の様に、ブランドを選ぶ理由として、プロダクトのクオリティーだけではなく、そのブランドストーリーを重要視する消費者が増えてきている。 ニューロエコノミストのPaul Zak氏による2014年の研究では、キャラクターを中心としたストーリーがあると、消費者は56%も多くのお金をチャリティに寄付するというデータがある。 また、Headstream社による「Brand Storytelling Report」によると、消費者の79%がブランドにストーリーを語ってほしいと答えた。その一方で、調査対象となった2,000人の成人のうち85%が、ブランドが語る印象的なストーリーの例を挙げられないことも明らかになっている。 大阪・関西万博 の公式キャラクターの裏にある素敵なストーリー 2025年に大阪で開催予定の万博の公式キャラクターが発表された。公式ロゴを元になっているが、このキャラクターはSNSなどで賛否両論だが、その裏には素敵なストーリーがあった。これを読めば異なる印象を受けるのではないだろうか。 ストーリーはブランドと人々をつなげる架け橋 人々の “つながり” がどんどん曖昧に広がっていく現代において、ブランドと消費者の関係性もどんどん変化している。 そんな時代に企業が消費者と真に繋がるためには、ブランドストーリーを語るのが効果的。ブランドストーリーを上手に伝えることができれば、市場での優位な地位を確立することができる。 ストーリーが効果的な理由 では、なぜ人々はストーリーに魅力を感じるのだろうか?その理由は: ストーリーは情報過多によるノイズを消してくれるから ストーリーは人々が興味を惹かれる手法で情報を整理してくれるから ストーリーは人間の脳が最も理解しやすいタイプの情報であるから 簡単に言うと ブランディングにおけるストーリーとは、ロゴと並んでも最も人々に伝わり、理解し、共感しやすいメッセージである。 特に膨大なる情報が溢れている現代においては、より短時間で共感しやすい形での情報伝達が求められている。重要になってくるのは受け手に “理解” を求めず “共感” を喚起することだ。 そのためにはまず興味を持ってもらう必要がある。複雑なデータに興味を持つ人はあまり多くない。 日本企業はストーリーテリングが苦手 実はこのブランディングのためのストーリーテリングは、日本企業がかなり苦手。 もちろん広告代理店に発注したCM動画にはかなり感動的なものもあるが、それはあくまで商品を中心としたキャンペーンに過ぎず、世界の消費者向けへのブランド確立に繋がっているケースはかなり少ないだろう。 そもそも多くの企業はいまだにブランド作りの重要性に気づいていない。 なぜなら、技術や品質こそが価値であり、それさえあれば売れるといまだに思い込んでいるから。 今から約30年前の高度成長期には、技術=価値という式が成り立っていた。多機能で高機能な商品ほど良い製品とされ、価格も高かった。 しかし、それだけではだんだん差別化することが出来なくなって来たので、そこにデザイン的な価値というものが追加された。多機能・高性能なだけではなく、オシャレでカッコ良いものがどんどん売れるようになっていったのだ。 そして今の時代はもはやプロダクトそのものだけでは十分では無くなってきている。そこで重要になるのが“ブランドストーリー”だ。 【日本からグローバルブランドを Part 1.】なぜ日本企業は「供給者」としてしか輝けないのか 著名ブランドのブランドストーリー例 そんな中で、成功しているブランドは、ストーリーを用いてメッセージを明確にする方法を知っており、ブランドのストーリーテリングを非常に強力な武器にしている。 では、海外の著名ブランドの事例を見てみよう。 Apple Starbucks Tesla Nike Rolex 1. Apple 世界企業におけるブランド価値ランキングで不動の一位を守り続けているのがApple. 創業者のスティーブ・ジョブスは生前「“世界で最も偉大な存在はストーリーテラーだろう。」と語っている。 もちろん本人も素晴らしいストーリーテラーである。これはもしかしたら、一度Appleを離れた後に、Pixerを買収・成長させた経験が生かされているのかもしれない。 AppleのストーリーテリングのDNAを代表するのが、ジョブス復帰後第一弾のキャンペーンである Think Differentだろう。 このキャンペーンでは、商品は一切表示せずに、アインシュタインやガンジーなど、世の中の課題にチャレンジする人々のストーリーを通じて、Appleの顧客は皆世の中を変えていくヒーローであることを伝えた。 このストーリーを通じたAppleのストーリーテリングは、現代のAppleというブランドを構成する重要な要素となっている。 2. Starbucks スターバックスは、単にコーヒーを提供するだけでなく、お客様に快適で洗練されたリラックス空間を提供することで爆発的に人気を拡大した。 カフェをそれまでのコーヒーを飲む場所から、人々が集う場所として、そして自分の居場所としての場を提供している。 その新しい価値をより多くの人に伝えるために、顧客がどう感じたいかを理解し、ストーリーとして表現した。 スターバックスがスタートした1970年台、アメリカでコーヒーは店で豆を買い、家庭で飲むものとされていた。それを、イタリア風の人々が集うエスプレッソバーからヒントを得て、コーヒーを飲みながら人々がくつろぐ場所の提案をストーリーとともに広げていった。 そしてスターバックスは単なるコーヒー屋さんから、くつろぎを与えるライフブランドに変革した。 それにより、相場が50セントだった商品を、1杯3ドルも4ドルも取ることができたのだ。それも国内シェアの実に57%を占めるレベルにまで。 ライフスタイルブランドとは – その代表事例と構築方法 – Tesla 現在では自動車ブランドとしての絶大なるブランド地位を築き上げているTeslaであるが、その最も大きなファクターになったのが、2016年に発表になったModel 3だろう。 が発表後わずか1週間で325,000台、1ヶ月で400,000台を超える予約を獲得した。それも、多くのユーザーは実車も見ていないし、納車の時期もはっきりしていない状態だったのに。 そんなまるで新型iPhoneのようなバカ売れを実現したのが、Teslaのブランド力、およびCEOのElon Muskによるブランドストーリーだろう。 例えば、最も好きなブランドとして、自動車のTesla挙げた26歳の男性は、その理由を、“世の中の未来を視野に入れたグローバルなブランドと感じるから。そして代表のイーロン・マスクはリスクを恐れずチャレンジを続ける所に共感出来るから。” と答えた。 その他にもTeslaが好きな主な理由としては: イノベーションをサポートしたい 社会、環境に優しくありたい 先進的でありたい イーロン・マスクの無謀なチャレンジを応援したい すなわち、今回のModel 3に対しても、上記のような「なぜ = そのブランドが持つビジョンやストーリー」が大きな購入動機になっていると考えられる。 Tesla Model 3は予約段階で1.4兆円の売上!!その3つの顧客体験とは (CX) 4. Nike 1971年の創業以来、NIkeのミッションは「世界中のすべてのアスリートにインスピレーションとイノベーションをもたらすこと」。 Nikeは「体を持っている人は皆アスリートであり、その肩書きを得るためにコートやフィールドでスターになる必要はない」というストーリーを伝えている。 Nikeは、スポーツを文化、国境、障壁を越えた世界共通言語と捉えており、それがストーリーテリングへのアプローチになっている。Nikeのストーリーは、ヒーロー像をベース展開する。 しかし、観客が外部の力と戦うのではなく、皆、自分自身と闘っていることをNikeは知っている。 私たちの中には、走りに行かずにソファに座っていたいという気持ちがある。ジムに行かずにスヌーズボタンを押したくなるような自分。 それは、誰もが共感できることであり、私たちにとって強い感情的な痛みを伴うものだろう。 私たちは勇気を持って、夢を追い求めることができるのだろうか? まずは、とにかく動いてみよう。- Nikeのスローガン “Just do it!”は、そのメッセージを完璧に捉えている。 Nikeは行動を起こすように鼓舞し、顧客が自分のスト=リーを通じて、勝利の気分を味わわせてくれるブランドなのだ。 […]