Brandon K. Hill

Clubhouseで明確になった後発サービスが勝つための5つのポイントとは

2週間ほど前から日本では音声SNSサービス、Clubhouseの人気が急激に高まってきている。この現象に関して、アメリカ側の視点から書かれた記事「Demystify the Clubhouse Craze in Japan」にも記載されている、ある一つの点に関して考えたい。 それは、サービスの形態自体は特に斬新ではないということ。音声を利用したサービスはPodcastをはじめ、以前より多く存在していたし、それにSNS要素を追加させたタイプもStand.fmやDabelなどの先発サービスがリリースされていた。 それなのに、かなり後発のClubhouseがなぜそんなにも爆発的な話題を集めているのか?おそらく、その謎を解くことがサービスデザインにおける大きなヒントになると考えられる。 後発でもヒットしたプロダクト例 この謎を解くために、まずは今までに他の商品やサービスで後発なのにヒットした例や、先発なのに失敗した例を見てみることにする。というのも成功しているサービスの多くが結構後発である。逆に真っ先に動いた企業は、タイミングが早すぎたり、市場の準備ができる前に資金が尽きてしまうことも多い。 ■ Gmail リリース日: 2004年4月 先発サービス: Hotmail, AOL, Yahoo Mail 現在ではEメールの代名詞になっているGmailも、実はかなり後発のサービス。ネットの普及が進み、Webメールサービスが提供されていたのが90年代中盤。HotmailやAOL, そしてYahoo Mailなのが代表的なサービスになっていった。 しかし、Googleによる、よりクリーンで使いやすいメールとして”Email that doesn’t suck (イケてるメールサービス)”をキャッチコピーとしたGmailの人気が一気に高まり、後発ながらも、現在最も多くのユーザーを獲得しているメールサービスとなった。 Gmailの前に人気の高かったHotmail。スパムがめっちゃ多かった ■ Zoom リリース日: 2012年9月 先発サービス: Skype, Google Meet, WhatsApp リモートワークが進んだことで、最もユーザーを増加させたサービスの一つがZoomだろう。それまでもSkypeやGoogle Meetなど、ビデオコールのサービスが多く存在しており、完全にレッドオーシャンだと思われた市場に彗星のごとく登場した。 それも、それまでの多くのサービスが無料だったのに対して、Zoomは無料プランに制限をかけ、多くのユーザーが有料プランを利用している。それにより、売り上げもうなぎ登りになり、上場も果たした。 Zoom以前にも無料のビデオコールのサービスが存在していた ■ Slack リリース日: 2013年7月 先発サービス: HipChat, Yammer, Chatwork ビジネスチャットツールとして、現在では堂々たる地位にあるSlackも、実はそのカテゴリーにおいては、結構な後発のサービス。 Slackが出る前にも、HipChatやYammer, そして日本発のChatworkなど、複数のビジネスチャットツールが存在していた。しかし、Slackはそれらを大外からことごとくぶち抜いてしまった。 Slackよりも前にリリースされていたHipChat(左)とYammar(右) ■ Facebook リリース日: 2004年2月 先発サービス: Friendster, MySpace Facebookが元祖SNSサービスだと思っている人も少なくないだろう。しかし実は、Facebookの前にもFriendsterやMySpaceといった類似のサービスが存在してた。 日本にもmixiがあったが、現在では「マイミク申請していいですか?」と聞いて理解してくれる人は少ないか、笑いをこらえるのに必死になる人もいるだろう。 Friendster(左)とMySpace(右)はFacebookの数年前にリリースされていた ■ Google リリース日: 1997年1月 先発サービス: Friendster, MySpace ネットが普及し始めて最も初期のサービスが検索エンジン。その中でGoogle Seachは最も後にリリースされたサービスになる。 Googleが出てくる前までは、Yahoo, Excite, Lycos, AltaVista, Infoseekなど、複数の検索エンジンが乱立しており、毎月のように利用者ランキングが入れ替わる検索エンジン戦国時代だった。そんな中で天下布武を成し遂げたのが、後発のGoogleだった。 ■ iPhone リリース日: 1997年1月 先発サービス: Palm, Blackberry, ザウルス, ガラケー 世界初のスマホはiPhone出ることは間違いない。そういった意味では先発のように思うかもしれないが、実はその前にもいくつか類似のデバイスは存在していた。 Palmやザウルスに代表されるPDAやBlackberryだ。ネットに繋がる携帯という意味では、日本のガラケーが十年以上も前にすでに存在していた。 スマホの前身であるPDAやBlackberry ■ Tesla リリース日: 2010年5月 (Model S) 先発サービス: GM EV1, シボレー Volt 自動車会社として世界一の時価総額を達成したTeslaは、もちろん自動車会社としてはめちゃくちゃ後発。むしろ21世紀にできた数少ない自動車メーカーだろう。 そして、EV車両としても、すでにGMやシボレーがTeslaよりも前にリリースしていた。しかし、それらがことごとく大失敗をしたEV焼け野原の中から、真打としてTeslaがリリースした初の量産モデルのModel Sが大成功した。 アメリカ初の量産EVであるGMのEV1は派手に失敗した ■ Instacart リリース日: 2013年6月 先発サービス: Webvan […]

DXを推進する前に必要な5つのカルチャー変革

日本では企業のDX推進が急務とされているようだが、いまいちうまくできている感じがしない。それもそのはずで、DXの第一歩はテクノロジー導入ではなくて、カルチャー変革であるから。
例えば、まずは成功しているテクノロジー系スタートアップに共通している企業カルチャーを参考にし、実践するなどの取り組みがなければ、最近流行りのDXなんちゃらを実現するのは無理だろう。
イノベーティブな企業になるための5つのカルチャー変革
これまで日米の複数の大企業やスタートアップと仕事をしてみた結果、デジタルテクノロジーを活用し…

btrax CEOによる2021年のイノベーショントレンド予想

毎年行っているイノベーション予測の中で、おそらく今年が最も難しいだろう。というのも、2020年初に想定していた未来はパンデミックの襲来でその起動が大きく変わってしまったから。変化と混乱の中で、時代は大きく変化している。
この急速な変化と不確実性の中で、新しいニーズがどんどんと生み出され、それに対して求められるソリューションも山積み。この非現実的とも言える新しい日常生活で、今年こそは、今までにないほどイノベーションが求められる年になってくるだろう。
リモートワーク採用の加速から消費者の行動の変化まで、…

【2021年予想】5のスタートアップトレンドと注目サービス25選

2020年がスタートアップにとってジェットコースターのような年にだったことは間違いない。パンデミックの影響で一部のテクノロジー系スタートアップは閉鎖を余儀なくされたが、多くのスタートアップが成功したのは、時代の変化に合わせて事業戦略や製品をピボットしたからだ。 人々の生活としても、リモートでの仕事、ショッピング、ソーシャルなどへの大規模なシフトが伴った。それに合わせ、多くのデジタルサービスへの需要が高まった。ある意味、パンデミックが多くのサービスに対してのストレステストとなった。 2020年に消滅した18のスタートアップとその理由 大型IPOと資金調達 2020年はLemonade, Snowflake, Airbnb, Unity, DoorDashに代表される大型IPOが達成された年でもある。また、世界の混乱の陰で着々と資金調達を行なったスタートアップも少なくない。その総調達額の合計は136億ドルにも達する。 2020年のスタートアップ資金調達額ランキング Yuanfudao (中国) – 教育系: 32億ドル Ke.com (中国) – 不動産系: 24億ドル WM Motor (中国) – モビリティ: 15億ドル Gojek (シンガポール) – 教育系: 12億ドル Ryaen Holding (シンガポール) – 投資系: 10億ドル MGI Tech (中国) – ヘルスケア系: 10億ドル Wandian Yunwang (中国) – eコマース系: 9億ドル Grab (シンガポール) – ライドシェア系: 8.56億ドル JD Health (中国) – ヘルスケア系: 8.3億ドル Resilience (アメリカ) – バイオ医薬品製造系: 7.5億ドル 2021年からのスタートアップトレンド予想 2020年に引き続き2021年もスタートアップに対しては、さらなる変革が求められている。ほとんどの企業は、既存のテクノロジーと将来のテクノロジーを吟味し、生き残るための方法を模索している。その一方で、ニューノーマルにおける新しいニーズに対して参入するサービスもどんどん出てくると考えられる。 2021年も確実に繁栄を続けるであろうスタートアップ業界のトレンドをいくつか紹介する。このトレンドをもとに商品やサービス開発の参考になれば幸いである。 リモートワーク関連 デリバリーロボット系 遠隔医療関連 オンライン教育関連 5Gを活用したスタートアップサービス 1. リモートワーク関連 パンデミックで話題になった新しいワークスタイルには、まだまだ大きな成長の余地がある。2020年に多くの企業がリモートワーキングモデルに移行する中でも、多くの課題が見えてきた。そして、現在のサービスやツールでリモートワークが完全に解決したとは言えない。 もちろん、セキュリティは大きな課題となるが(例:Zoomのセキュリティ懸念)、それ以外にも、オフィスで働いている人たちとのコラボレーションや、個人のリモートプロセスの自動化などの機会も十分残されている。 パンデミックが落ち着いてからも引き続きリモートワークを続けると答える企業は多く、この市場はまだまだ黎明期で、スタートアップがこれらの問題に取り組むための大きなチャンスがあることを意味している。多くのスタートアップは、2021年に向けてリモートワークツールの分野での成長が期待されている。 リモートワーク関連で注目のスタートアップは: Spatial: ARを活用したコラボサービス Abodoo: ノマドワーカーのためのプラットフォーム Miro: バーチャルホワイトボードツール Figma: コラボレーション型デザインツール Bluescape: 大企業向けコラボツール Spatial: ARを活用したコラボサービス リモートワークが進む中で、ホワイトボードや付箋を利用したコラボやディスカッション、ワークショップの必要性も高まっている。その相反する2つのニーズをARと3Dテクノロジーを活用して実現するサービスを提供しているところが注目ポイント。 https://spatial.is/ Abodoo: ノマドワーカーのためのプラットフォーム リモートワークやフレキシブルな仕事を探している人が、無料でスキルプロフィールを作成してチャンスにマッチするようにするためのプラットフォーム。新しいワークスタイルに求められるタイプのサービスである。 https://www.abodoo.com/ Miro: バーチャルホワイトボードツール リモートワークの最大のデメリットである、複数でのコラボレーションワークをオンラインで再現したサービス。ビートラックスでも、2020年よりオンラインワークショップの際に利用している。付箋機能も充実しているため、ワークショップ向けだ。 https://miro.com/ Figma: コラボレーション型デザインツール 2015年にリリースされ、すでにデザイン業界ではよく知られているFigmaは、リモートワークを中心としたワークスタイルに最適なツールになった。多くの場合、UIのデザインやプロトタイプ作成に利用されるが、一般的なドキュメント作成などでも利用可能。現在、ビートラックス社内でもメインのデザインツールの一つになっている。 https://www.figma.com/ Bluescape: 大企業向けコラボツール コラボレーション系ツールを提供するSaaS企業の中でも、Bluescapeはより視覚的に理解しやすいツールを充実している。複数のチームメンバーで作成するコンテンツや、会話内容をオンラインの仮想ワークスペースで一元管理できるようになっている。また、大企業向けにセキュリティーにも力を入れている。 https://www.bluescape.com/ リモートワークで企業カルチャーを醸成する方法 […]

これから失われる仕事と求められ続ける3つの能力

2020年が百年に一回あるかないかの時代の変還期であったことは間違い無いだろう。それまでのテクノロジーの進化で生活スタイルに少しずつ変化は訪れていたが、今回のパンデミックの影響はそれまでの10年以上の大きなシフトを世の中に生み出した。 1年間で10年分成長したEC市場 例えば、eコマースひとつとってみても、Stay homeでオンラインでオーダーする機会が増えたことにより、全体の買い物におけるECの占める率が格段に増大した。 アメリカ国内に関する統計を見てみると、新型コロナウィルスが広がり、人々の生活に影響が出始めた2020年4月までの統計だけでも、実にその成長率は10%を超えている。それまでの年間成長率が2%以下であったことを考えると、驚異的な伸びである。 2020年だけでeコマースは10年分の成長を成し遂げた コロナの影響で時代の変化が加速 今年に入って、おそらく多くの方々がリモートワークを経験したと思われる。また、感染予防のために、ミーティングをオンラインで行ったり、出張を控えたりするのが一般的になってきている。 また、これまでの業務形態に対して何らかの変化を強いられたケースや、業務そのものが消滅したケース、場合によっては会社ごと無くなってしまうこともあっただろう。 仕事内容にも大きなシフトが これまでもネットやAIの発達などでさまざまな職業に変化が生まれていた。それに加えDXの普及もあり、今年1年間だけでも相当な種類の仕事に影響が生まれた。また、今後の影響も考えて、コロナの影響、時代の変化、テクノロジーの進化のキラーコンボによって多くの仕事に影響が出ると考えられる。 米国労働省による失業保険に関する統計によると、下記の業界に大きな影響が出ている。 コロナの影響で失われた仕事の割合 宿泊業: 42.3%↓ スポーツ・芸能: 45.5%↓ 家具屋: 46.3%↓ レストラン・バー: 48.1%↓ 映画撮影・サウンド収録: 48.3%↓ 歯科医院: 53.3%↓ ランドリー・クリーニング: 53.5%↓ アパレル店舗: 58.9%↓ 遊園地・カジノ: 59.9%↓ 観光に関する搬送業: 62.1%↓ おそらく下記のような仕事はしばらくの間必要とされないか、ニーズが格段に低下する。もしくは、今後存在しなくなっているかもしれない。 レジ係 銀行の窓口 飛び込み営業 旅行エージェント イベントプランナー アパレルショップ店員 ウェイトレス・ウェイター 15年後にあなたの職業が存在している可能性 ここで紹介した調査データがある。アメリカの調査期間が、既存の職業の20年後における生存率を割り出した。その結果による職業と15年後のに機械に奪われる可能性に関する調査結果を幾つか紹介する。 現在の職業が15年後に機械に奪われる可能性: プログラマー: 48.1% ソフトウェアエンジニア: 4.2% 家政婦: 68.8% ウェイター/ウェイトレス: 93.7% バーテン: 76.8% 調理師: 96.3% シェフ: 10.1% 経理: 97.6% 経理部長: 6.9% 単純作業の仕事内容は消える可能性が高い これをみてもわかる通り、その仕事内容によって20年後もその職業が存在するかどうかが大きく異なる。例えば、機械化率96.3%の調理師と93.7%のウェイターが示すのは、15年後の世の中の多くのレストランが全自動になっていると言う事である。その一方で、メニューを考案したり、調理方法を決めるシェフは自動化される可能性が低い。 同じく単純作業が仕事の経理の仕事は97.6%の確率で機械に奪われると予想されているのに対し、経理部長という人とのコミュニケーションを必要とされるマネージャー職を機械が行える可能性は7%も無い。これは、人間だからこそ出来るタイプの仕事だからであろう。 ユーザーの立場に立って設計や仕様決めを行うソフトウェアエンジニアの仕事はほぼ機械に奪われる可能性が無い (4.2%)に対して,ある程度単純作業となるプログラマーの仕事は50%弱の可能性で今後自動化が進む。 新しく生み出される仕事も 自動化に関するテクノロジーが進む事で無くなる仕事があると同時に、新しい仕事も生み出されると予測される。 マッキンゼーの調査によると、新たに創出される仕事の7割は「人間的な仕事」が占めている。直感的な意思決定、創造的な成果、芸術的なデザイン、顧客や取引先との複雑な交渉。企業にとって多くの価値創造は人間にしかできない仕事によって支えられている。 時代の変化でこれから生まれる8のデザイナー職 今後も普遍的に必要とされる3つの能力 では、どのようなスキルを身につければこれからも人工知能等の機械に仕事を奪われないのであろうか。現在の企業内での仕事内容は、管理された組織の中で正しい答えに辿り着く為の正確な単純作業や、精密な作業が求められて来たタスクが多く存在する。 しかし、そのような仕事は上記のデータを見ても分かる通り、近い将来ほぼ確実に賃金の安い地域にアウトソースされるか、機械にとってかわられることで消滅してしまう可能性が非常に高い。 その一方で、これから紹介する3つのスキルはどれだけテクノロジーが進化し、時代が変化してても人間にしか出来ない内容であると思う。 1. クリエイティブ 0から1を作り出すこと。これは機械には出来ない。AIは過去のデータを元に未来を予測することは出来るが、全く新しいものを作り出すのは人間にしか出来ない。デザイナーやエンジニア等のクリエイティブな仕事はこれからもどんどん必要とされていく一方であろう。特に今回のコロナに代表されるようなVUCAの時代においてはクリエイティブは最も重要なスキルの一つになってくる。 0から1を生み出すクリエイティブな能力の構成要素は Curiosity(探求心) Empathy(共感) Imagine(発想) Create(創作) Play(遊び) Share(共有) Reflect(内省) 関連記事: 2020年から最大の企業資産はクリエイティブ人材になる 2. リーダーシップ 優れたビジョンを掲げ、卓越したコミニュケーション能力で人々を導いて行く存在。相手の気持ちに共感し、人間との心の通じたやりとりができるそのスキルは自動化が進む現代こそ一層求められている。人間がロボットのリーダーに従って心が一つになる時代は恐らくしばらくは来ないだろう。 人々を正しい方向に進めるリーダーの存在価値としては: 相手に共感する 何よりもまず方向性を決める ビジョンを共有する 相手のために尽くす 周りをインスパイアする 心の支えとなる 関連記事: 偉大なリーダーによる100の名言から読み取った5つの「コミュニケーションの秘訣」 3. 起業家精神 機械は基本的には起業しない。むしろ絶対にしないだろう。交渉力、ビジネスセンス、問題解決能力が求められるのが起業的スキルである。その点においてはテクノロジーがどんなに進化しても、新しいプロダクトやビジネスを通じ社会を変えて行く起業家は世の中にとって今後もより一層必要とされるだろう。 挑戦を恐れない ユーザー視点で物事を考える 長期的なスパンと大きなスケールで考える すぐに諦めないしぶとさ 暖かいハートと冷酷な判断 壮大な夢と現実的な実行プラン 関連記事: Youはなぜ面倒な起業家なんかに? […]

2020年に消滅した18のスタートアップとその理由

毎年恒例のその年に消滅したスタートアップシリーズ。毎年多くのスタートアップがその姿を消している中で、2020年はとびきり厳しい一年となった。 パンデミックにより人々の生活は一変し、旅行やリテールに代表されるサービスへのニーズが極端に下がった。それに伴い、ニューノーマル下で必要頻度の下がったサービスは停止を余儀なくされている。 難易度Maxの2020年を生き残れなかったスタートアップ 10社中9社が消滅すると言われるスタートアップゲームの中でも、おそらく2020年はこれまでと比較にならないレベルの難易度の高さ。パンデミックによるロックダウンにより業務を停止したり、サービスを縮小せざるをえない状況に追い込まれた。 また、VCからの投資の縮小も加わり、難易度はMaxレベル。実際に多くのスタートアップはスタッフのレイオフを進め、必死に生き残りにかけている。 それでは2020年に生き残れなかったスタートアップを紹介する。 Atrium 資金調達額: 7,550万ドル 概要: Twitchのファウンダーであるジャスティン・カンが立ち上げたリーガルテック系スタートアップ。機械学習を活用して法的文書のデジタル化を自動化し、資金調達、商業契約、株式の分配と雇用問題、買収取引などのプロセス改善を実現する。アプリケーションを提供していた。 Andreessen Horowitzなどの著名VCからの資金調達に成功し、100人ほどのスタッフを雇っていたが、スタートアから約3年経った2020年3月にオペレーションの停止をジャスティンが自身のツイートで発表。 Thank you to all the clients, investors, and Atrium team members who took a swing. Things didn’t work out as planned and that is my responsibility. We took a swing at something big and you all have my admiration and gratitude. — Justin Kan (@justinkan) March 5, 2020 失敗理由: 法務というアナログな業界に対しての破壊的イノベーションを目指していたが、法律事務所における既存のプロセスのDXに対してのハードルの高さに直面した。 Brandless 資金調達額: 2.9億ドル 概要: ノンブランドの家庭用品、パーソナルケア、ベビー用品、ペット用品を定価3ドルで販売していたeコマースのスタートアップ、Brandlessは、2月上旬にD2C分野での過密と激しい競争を理由に、事業の停止を発表した。 シリーズCにおけるメインの投資家はSoft Bank Vision Fundで、2.2億ドルを調達したと報じられたが、Axiosの報道よると、実際に受け取った金額は1億ドルのみで、残りの1.2億ドルはゴール達成の際に支払われる形となっていたとのこと。 失敗理由: SoftBankからの猛烈なプレッシャーと、誤ったビジネスモデルが相まって、厳しい戦いを強いられていた。具体的には、高い配送料と品質の問題に悩まされ、SoftBankの設定した高い目標を達成するために一部の製品を9ドルに値上げしようとしたこともあったが、無駄だったと報道されている。 厳しい資金繰りに直面したBrandlessは、昨年3月にスタッフの13%をレイオフすることを余儀なくされ、共同創業者兼CEOのティナ・シャーキーは同月に辞任を余儀なくされた。その後、元ウォールマートのCOOをCEOに就任し、方向転換を目指したが、求める結果が出せずに終了した。 Essential 資金調達額: 3.3億ドル 概要: 元Googleの幹部でAndroidの生みの親であるアンディー・ルービン氏が設立したモバイルデバイス スタートアップのEssentialは、製品を発売前からユニコーンの地位に達していた。しかし、同社初のスマートフォンであるEssential Phoneは2017年8月に発売されたが、評価は散々なものとなってしまった。 一時期、シリコンバレーで最も有望なスタートアップの一つとされていたが、著名な投資家陣による多くの資金調達を行なったにもかかわらず、目立った成果を挙げることができず、失敗に終わってしまった。 失敗理由: ルービンが在職中にGoogleの従業員から性的不正行為で告発されていたことがニューヨークタイムズの報道で明らかになった後、Essentialの評判は2018年に下降線を辿り始めた。 さらに、約束していた、Amazon Echoに似たインテリジェントアシスタントと、Ambient OSという名前のオペレーティングシステム(OS)は、決して届けられなかった。 HubHaus 資金調達額: 1,140万ドル 概要: HubHausは、大人向けの寮が流行るだろうというニーズを狙った、長期賃貸住宅プラットフォーム。都市部で働く社会人をターゲットにした。WeWorkに代表されるコワーキングスペースのニーズの拡大に合わせ、居住に対するシェアリングニーズが高まると予測していた。 失敗理由: WeWorkのIPOの失敗により、投資家からの資金調達に難航し、約1100万ドルしか調達できなかった。また、コロナ禍により働き方に大きな変化が起きたと同時に、サンフランシスコなどに代表される都心部の家賃が軒並み定価。長期レンタル型のサービスニーズの低下に苦しみ、サービス停止を余儀なくされた。 Hipmunk 資金調達額: 5,500万ドル 概要: 2010年より旅行系価格比較サービスを展開してたHipmunkは、フライト、ホテル、レンタカーなどの情報を一括表示し、消費者に最もお得な価格を提示提示。その後、SAPの関連会社であるConcurに買収されたが、今年サービスを終了した。 失敗理由: 驚くべきことに、サービス終了の理由はコロナによるものではない。というのも、Hipmunkはパンデミックが世界的に広がる前の、1月23日に運用をストップしたからだ。コロナが旅行業界にインパクトを与えるまでもなく、Hipmunkはすでにユーザーを失っていた。 その原因とされるのが、買収されたことによるサービスアップデートの鈍化と、ユーザーが必ずしも安い情報の表示だけでは便利と感じなくなってきたからというもの。サービス終了直前にファウンダーが買い戻しを試みるものの、その望みは叶わなかった。 IfOnly 資金調達額: 5,140万ドル 概要: IfOnlyはプライベートヨガなどの少数参加イベントのマーケットプレイスを提供していた。しかし、パンデミックによりビジネスモデルが大きな課題にさらされた。最終的には、投資元の一社であるMasterCardによって買収されたが、IfOnlyが夏に閉鎖することを明らかにするまで、買収は発表されなかった。 失敗理由: イベント系のプラットフォームが総じてそうであるように、パンデミックにより、複数の人が一つの場所に集まるタイプの活動は自粛され、そのニーズが極端に低下することになった。 […]

ビートラックスがリブランディングにかけた思い – ギャップを埋めるために –

ビートラックスはこの度、創業以来のブランドの大幅なリニューアルを行なった。その背景には、イメージをアップデートするだけではない複数の要因があった。 今回のリブランディングでは、ブランド要素だけではなく、会社のビジョン、カルチャーバリュー、そしてサービスの内容も全て一新し、まさに新しいビートラックスとして生まれ変わった。   リブランディングに至った背景 それでは、ビートラックスのCEOとして、また、このプロジェクトのリーダーとして、リブランディングを進めたその具体的な理由とプロセスを紹介する。 コモディティー化していくサービス内容 ビートラックスは2004年にサンフランシコを拠点に、Webデザイン会社としてスタートした。その後、3-5年を目処にサービスをアップデートしてきている。というのも、変化の早いこの地域では、市場のニーズに合わせ、サービスの更新を行わないとすぐに淘汰されてしまう。 直近で言うと、2015年ごろよりデザイン思考をベースとしたワークショップ形式のサービスを提供してきている。これは当時、日本ではあまり馴染みの少なかったプロセスで、リーンスタートアップや、UXデザインなどの概念を取り入れた内容が日本の多くの企業に求められ始めていた。 しかし、その後、我々の想像を超えるほどに日本で“デザイン思考ブーム”が始まり、猫も杓子も “デザイン思考ください”、と言う感じになってきた。これは、顧客ニーズが高まると同時に、競合も増えるのが当然。 ここ数年でいうと、日本国内でデザイン思考のワークショップを提供する企業が増え、市場は飽和状態に。自ずと価格も下がっていく傾向になっていた。 元々はデザインサービスを提供する手段としてのワークショップだったのだが、多くの企業が”研修”を受けるためだけに依頼するケースも増えきていた。 その状況と会社のビジョンの整合性をしっかりとる必要があると感じた。 イノベーションという言葉の陳腐化 デザイン思考ワークショップのコモディティー化と共に変化してきたのが、“イノベーション”という言葉の概念。まあ、概念というよりは、単純に簡単に使われすぎていることが原因のように感じる。 我々もここ数年は、“イノベーションデザイン会社”というカテゴリーに自らを置いていたのだが、そもそもイノベーションという言葉自体が陳腐化されたために、その職種の存在意義やポジショニングが怪しくなってきていると感じていた。 イノベーションという単語が一人歩きし始めて、企業が自分たちの取り組みをよく見せるために、便利に使われてしまっているように感じる。これは昨今のDXブームにもつながる要因である。 それもあり、一度しっかりと自分たちの存在意義を見つめ直す必要があった。 “シリコンバレー感”に頼る限界 それらに加え、限界を感じ始めていたのが “シリコンバレー感”。これは、我々がサンフランシスコでスタートし、現在のUSオフィスも同じ場所にあることが理由で、“シリコンバレーのデザイン会社”が一つの売りになっている事実がある。 世界的にみてもスタートアップの中心地で、革新的なサービスが生み出される地域であることは間違いがない。しかし、シリコンバレーを拠点にしたことで自動的に凄い会社になれるわけではない。 もちろん、世界で最も競争が激しくコストの高いこの地域で15年以上生き残ってきたことに対する自負はあるが、それだけでは価値のあるサービスを提供できるという条件にはならない。 しかし、この“シリコンバレー感”を主な理由としてもらっている仕事は少なくなく、その期待に答えられるように、しっかりとしたサービス内容と結果を追求する必要があった。 言い換えると、シリコンバレーのイメージだけでビジネスを継続させていくのには限界があり、理想と現実のギャップを埋める必要があった。 世の中の急激な変化 そして、もちろん言わずもがな、パンデミックに代表される2020年における世の中の急激な変化である。これにより、人々の生活スタイルは大きく変化し、暮らす、働く、学ぶ、遊ぶ、に対しての新しいニーズがどんどん生まれた。 それらに対して、我々はどのようなカルチャーを大切にし、どのようなサービスを提供していくべきなのかもしっかりと考え直した。 チームの崩壊 求められるサービスが変化し始めたことで、会社としてのスキルセットやチーム編成も急激に変わった。また、リモートで仕事をすることが増えたスタッフは、自分と向き合う時間が増え、将来に対しての考えを新たにする者もいた。 具体的には、日本に戻るスタッフや転職を行うスタッフなど。ビートラックスという会社、ブランドも自分自身と向き合い、新しい存在にならなければならない事は明白だった。 経営者としての苦悩の日々 自分自身も経営者として、複数の急激な変化に対して苦悩する日々が続いた。それは、自分が求める経営者としてのあるべき理想と、現状とのギャップがかなり大きいことが理由だろう。 また、デザイン会社としての存在価値や、認知度、実績に対しても、まだまだ納得できておらず、全ては自分の実力の足りなさであると考えた。 デザイン会社としての覚悟 今回のリブランディングにおいてまず最初に行ったのが、会社の存在意義の再定義。ビジョンをより明確にし、自分たちがなぜ存在し、日々の活動を行なっているかをしっかりと考え尽くす必要があった。 その答えは、 btrax → We Design そう、単純なことであるが、デザイン会社であることを忘れないということ。 解決するべきは世の中に存在する様々なギャップ そして、自分たちが解決するべき課題を理解する。それは、社会や企業、ユーザーが抱えているギャップを埋めてあげる事。具体的には下記のようなギャップが存在している。 異なるカルチャー間のギャップ 達成したい未来と現在とのギャップ デザインとビジネスとの感覚的ギャップ 大企業とスタートアップの間の意識ギャップ ユーザーが求めるものと提供されているサービスとのギャップ これらをデザインサービスを通じて解決するのが、我々の指名であると考えている。 今回のリブランディングにおける主なアウトプット では、この背景をベースに、リブランディングを通じ、どのようなアウトプットを行なっていったかを紹介する。 ちなみに、今回のプロセスでは、ほぼほぼ全てリモートで、オンラインツールを駆使しながら、日本とアメリカのチームをつないで進めた。 新しいビジョンを定義 まず最初に行ったのは、ビジョンの再定義。自分たちは上記のギャップを埋め、より良い未来を作り出すのが最大の役割だと認識し、新しいビジョンを定めた。 We design the future by bridging the gaps. (ギャップを埋めることで未来をデザインする)   カルチャーバリューもアップデート ビジョンが新しくなったのに伴い、会社のカルチャーバリューもアップデートした。 btrax Culture Values   WE ARE ALL DESIGNERS   Be a forward thinker – 未来志向であれ Learn from the past to determine what’s next Driven by creativity – クリエイティブでいこう Always find creative ways to bridge the gaps Empathize differences – 違いを理解しあおう We value diversity […]

今さら聞けないスタートアップピッチの基本

スタートアップの定番といえばピッチだろう。イベントや投資家の前で数分間のプレゼンで自分たちのビジョンを説明し、賛同者を集める。シリコンバレーから始まったこの手法は、今では世界中に広がり、スタートアップの運命を左右する重要なスキルになってきている。 そのやり方やテクニックはいくつかのバリエーションがあるが、基本的な部分は共通している。世の中における既存の課題を説明し、それを解決するためのアイディア、チーム構成、目指す結果などがそれである。 シリコンバレー流のピッチテクニックを紹介 すでにご存知の方も多いかもしれないが、これからスタートアップを始める方や、ピッチの内容を改善したいと思われている方々のために、いま一度ピッチの基本をおさらいしておこう。ちなみに、今回紹介するのはシリコンバレーを中心に活躍するVCであり、友人のEdith Yeungによる内容をベースにしている。 目次: まずは投資家が何を求めているかを理解する 起業家は何を求めているのか? 意外と知らないとても重要な一つのこと 最初のピッチでは何を伝えれば良いのか? どのような態度で臨めば良いのか やってはいけないピッチ内容 ピッチ後に投資家に対して聞くべき質問 最初のピッチの後に送るメールの内容 まずは投資家が何を求めているかを理解する 戦いの基本はまず敵を知ることから。スタートアップピッチの場合、その多くは投資を受けるために行う。であれば、投資をしてくれる人 = 投資家 はどのような会社に投資をしたいと思っているかを理解するのが重要である。 これは意外と見落としがちなポイントであるが、多くの投資家は起業家が気に入ったからと言って投資するわけではない。特にVCの人たちは、預かったお金から何倍ものリターンを出すことを生業としているので、起業家の人柄や事業のビジョンに共感した“だけ”では投資をしてくれない。 では、どのような スタートアップに投資したいと考えているのか? GAFAの次に来る企業 や iPhoneの次に来るプロダクト である。 そう。小さな成功ではなくて、世界のトップ企業にもなれそうな成功からのビッグリターンを望んでいる。この大きな成功は俗にムーンショットと呼ばれる。 VCに関してもっと早く知っておきたかったリアルな実態 起業家は何を求めているのか? では、逆に起業家側は投資家へのピッチを通じて何を実現しようとしているのだろうか? まずは、 投資してくれること そして、 事業の成長を手助けしてくれること だろう。そう、百戦錬磨のビジネスの先輩からお金をもらい、助けもしてもらう。なかなかの要求なのだ。 【おもわず投資したくなる】資金調達を成功させるピッチ-8つの秘訣 意外と知らないとても重要な一つのこと もう一つピッチに関してとても重要なことがあるので、紹介するそれは。 投資家は最初のピッチだけで投資することは100%ない ということ。 最初のピッチだけで投資を決めるのは、初対面の人と結婚するようなものだ。投資家と起業家がカップルだとすれば、最低でも数回はデートをしないとその相性はわからない。 エンジェル投資家の裏側教えます【インタビュー】シリコンバレーのスーパーエンジェル投資家: ロン・コンウェイ 最初のピッチでは何を伝えれば良いのか? ピッチをしたからといっていきなり投資をしてくれないのであれば、最初のピッチではどのように行えば良いのだろうか? 1. 解決するべき課題: 例: Airbnb 旅行する人にとって滞在費は重要な課題である 多くのホテルの立地ではリアルな街を体験しにくい 住宅に滞在する便利な方法がない 2. 作っているソリューションの簡単な説明 例: Facebook thefacebook.comは、大学でのソーシャルネットワークを介して学生、卒業生、教職員、スタッフを接続する拡大しているオンラインディレクトリです。このオンラインディレクトリは、友達同士の繋がりを可能にし、コースやイントラと学校間のネットワークを含む社会的ネットワーク、および組み込みのメッセージングシステムを持っています。 3. それはどのように機能するのか 簡単なダイアグラムやイラストでプロダクトがどのように動くかを説明する。 例: Castle 4. これまでのトラクション トラクションとは主にユーザー獲得数などを基準とした成長率。もしすでにユーザーを獲得している場合は、これまでの成長率をグラフで表現することが多い。プロダクトがユーザーに受け入れらえている一つの証明になる。 例: Instagram 5. ビジネスモデル もしすでに売上の獲得方法がわかっている場合は、その方法をわかりやすく説明する。 例: Airbnb 6. チーム構成 投資をする際に、課題に注目する投資家もいれば、ソリューションを重視する人もいる。しかし、“人”に投資するという考えの投資家も少なくない。ファウンダーをはじめ、どのようなチーム構成なのか、それぞれの実績も含めてピッチに盛り込むと良い。 例: Mapme 7. 競合情報 ユーザーから見て近いサービスを提供している他の企業の名前とそれぞれのポジショニングを提示し、自分たちのユニークさを強調する。 例: Slack 8. アンフェア・アドバンテージ 自分たちにしかできない特別な優位性。特許をとっていたり、特別なコネがあったり、すでに広い認知度があるなど、他の会社が参入しにくい要素を提示する。 世界一競争が激しいシリコンバレーで15年生き残れた最大の秘訣とは 9. 追加情報 これら以外に、もし時間の余裕があるのであれば、下記の情報も盛り込むのも良い プロダクトのデモ マーケットサイズ マーケットトレンド ユーザーの声 利用しているテクノロジー 規制や制約事項 知的所有権 ピッチの際に投資家から聞かれる10の質問 どのような態度で臨めば良いのか ピッチを行う際の起業家はどのような雰囲気であるべきなのか?投資家が好感を抱くのは下記の3つのポイント 1. 自信がある これはプレゼンの神様、スティーブ・ジョブスの雰囲気にも通じる。 2. 有能そう ハッタリでも良いが、自分たちがやっている事柄に対しての能力が高そうに見せる。 3. 端的に簡潔に 長々と話すよりも短いフレーズでクリアに伝えるのが良い 「日本式」ピッチあるある5つ:グローバルに通用するためのコツとは やってはいけないピッチ内容 […]

ライフスタイルブランドとは – その代表事例と構築方法 –

物が売れなくなったと言われる現代において、消費者の購買意欲を訴求するにはどうしたら良いだろうか。品質や価格は限界まで追求され、他の製品との差別化も非常に難しくなってきている。 その一方で、ファンから強烈に愛され「一人勝ち」しているブランドがいくつかある。特に価格が安いわけでも、品質が極端に異なるわけでもない。それでも他のブランドを寄せ付けない魅力。それが、ライフスタイルブランドだ。 ライフスタイルブランドとは ライフスタイルブランドを簡潔に説明すると、 “提供する商品やサービスの裏にある信念やストーリーに共鳴した消費者が、自分自身の価値観、願望、生き方を具現化し、共通の意識をもったコミュニティーの一部になれると感じられるブランド。” だろう。 例えば、エルメス。ブランドの一番の魅力は、エルメスの商品を所有しているだけではなく、エルメスを所有している人のライフスタイルを生きていると感じられること、なのだ。 ライフスタイルブランドは、時に大きな憧れの存在にもなり、(まだ) 所有していなくてもインスタでフォローしているブランドになったりする。 ブランド側としては、消費者の生き方の定義に貢献する製品を目標に、人々を鼓舞し、導き、やる気を起こさせることをゴールとした活動通じてライフスタイルブランドとしての地位を確立する。 そうすることでブランドとしての大きな競争優位性を獲得することができる。 ライフスタイルブランドの5つの特徴 熱心なファンを獲得している ユーザーを感情的に訴求している ニッチなオーディエンスと繋がっている コミュニティ生成につながる活動を行なっている コンテンツには自社商品をフィーチャーしすぎない ライフスタイルブランドの強み では、実際にライフスタイルブランドになったらどのようなメリットがあるのだろうか。 1. プロダクトカテゴリーの代名詞になる まずはその存在がカテゴリーにおける代表的な名前になるということ。Red Bullがその代表だろう。 ユーザーは、“エナジードリンク”を飲むというよりも、“Red Bull”か”Red Bullっぽい他のドリンク”を飲む、と表現される。その時点でRed Bull以外のエナジードリンクブランドに差をつけていることになる。 2. 他のブランドと比べられなくなる 同じ商品の他のブランドと比べられることが少なくなり、消費者にとっての“一択”の対象になることができる。AppleのiPhoneが良い例。一度iPhoneを使い始めたら、次に買うスマホもiPhoneである可能性が非常に高く、他のブランドのスマホを検討することを行わなくなる。実際の統計でも、iPhoneにおける顧客リピート率は90%を超えている。 また、過剰な広告やセールス活動などで顧客を追いかけなくても、既存顧客が同じ価値観を持つ周りの人たちを呼び込んでくれる。そして自ずと売り上げと経営が安定する。 3. 高く売れる そう、一番わかりやすいメリットがこれ。ライフスタイルブランドは高く売れる。場合によってはめっちゃ高く売れる。AppleやSupremeが良い例だろう。他にはローレックスやフェラーリもそう。 そのブランドのロゴが記載されているか、そうでないかで値段が数倍から数十倍異なる。ある意味究極のメリットである。その理由は品質だけではなく、ブランドが提供するメッセージやストリーが重要な役割を果たしている。 代表的なライフスタイルブランド それでは、それぞれのカテゴリーで代名詞で呼ばれるレベルの、世界で愛されている代表的なライフスタイルブランドを紹介する。 Red Bull: 翼を授かりたい人たちのために Vespa: スーツでおしゃれにローマの街を Blue Bottle Coffee: 大衆とは一味違うこだわりのプレミアム感 Supreme: 赤い背景と白地のFuturaにクールなファンが集まる Nike: トップを狙うすべての挑戦者たちへ G-Shock: ストリートライフを楽しむための頼れるアイテム Lululemon: ヨガ愛好家を中心に、マインドフルネスを体現する Harley Davidson: 自由を愛する現代のカウボーイ達へ LaCroix: 健康志向の人たちがステータスとして飲む健康ソーダ Muji: ミニマルなライフスタイルを求める人たちへの究極の提案 Red Bull: 翼を授かりたい人たちのために 21世紀に入って最も躍進したライフスタイルブランドの一つがRed Bullだろう。商品カテゴリー的には、エナジードリンクだが、むしろRed Bullと呼ばれることの方が多いことからもわかるとおり、競合と比べても圧倒的なブランド的アドバンテージを誇っている。 Red Bullの提案するライフスタイルを一言で表現すると「アドレナリン出まくり」で、飲むだけで超人になれそうな感じ。身も心もパフォーマンスアップを求める人たちが共鳴している。 キャッチコピーの“Gives You Wings (翼を授ける) ” に始まり、F1をはじめとした様々なエクストリームスポーツへの協賛を通じて、一貫したのブランドイメージ構築に成功している。 それまでは、疲れたおっちゃんたちが飲むもの、というイメージが強かった栄養ドリンクを一気にスタイリッシュに変革させ、疲労回復よりも、強烈なパフォーマンスアップのイメージを与え、スリルや興奮を求める人たちに愛されるブランドになった。 ストーリーこそがブランド価値の源泉である【日本からグローバルブランドを Part 2.】 Vespa: スーツでおしゃれにローマの街を 原チャリの代表がスーパーカブなら、おしゃれなスクーターの代名詞がVespa。そのレトロなデザインが人気を集め、このイタリアブランドは、世界で多くのファンを魅了している。 そのきっかけとなったのが、映画、ローマの休日での二人の男女がローマの街をVespaで走り回るシーン。 そんなストーリーもあり、Vespaに乗れば、誰でもオードリー・ヘップバーンやグレゴリー・ペックの気分に、どんな場所でも一瞬にしてローマの街角に変えてしまう魔力を感じる。 小さめのヘルメットを被り、おしゃれなスカーフを身につけて乗るそのスタイルは一つのライフスタイルとして確立されている。Vespaの存在は、乗り物というよりも、むしろファッションアイテムの一つに近い。 パワーやスピードを追いかけるのではなく、可愛さやおしゃれさの追求は、その他のバイクやスクーターとは一線を画する存在になっている。 Blue Bottle Coffee: 大衆とは一味違うこだわりのプレミアム感 サードウェーブコーヒーの代名詞でもあるブルーボトルコーヒーは日本にインスパイアされた西海岸ブランドでもある。 お手軽にコーヒーを楽しめるスタバとは対照的に、時間をかけてじっくりとこだわってコーヒーを楽しむ。これは元々日本の喫茶店が提供していたコーヒーの楽しみ方。 この日本的コーヒー文化にアメリカ西海岸のスタートアップカルチャーを掛け合わせ、ミニマルで洗練されたブランドとして広がっていった。 ブルーボトルが追求する、禅にも通じるこの精神に共鳴したサンフランシスコ地域の起業家たちがサポートすることで、人と世の中に優しいライフスタイルブランドになった。 そして、日本に「逆輸入」された際にも一気にその人気が広がり、オープン日には行列ができるほどに。現在でも大衆とは一味違った雰囲気を好む人たちに愛され、毎日のようにそのロゴの入ったマグカップがインスタにアップされている。 それは本当に自分が好きな事ですか? – SNSが行動に与える影響 – Supreme: 赤い背景と白地のFuturaにクールなファンが群がる 話題性のあるコラボレーション、カルト的な支持者、そして売り切れ続出。シュプリームは今、世界で最も大きなブランドの一つだ。 1994年にニューヨークの小さなアンダーグラウンドスケートショップとしてスタートした同ブランドは、スケーターやストリートウェアファン、国際的なファッションフォロワーの間で、カルト的なフォロワーを生み出している。 真っ赤な背景にイタリックのFuturaを採用したロゴ。そのプロダクトは限定品だらけで、かなり割高とも思えるプレミアム価格で売買されている。それでも売れまくる。 その秘密は「クール」であること。 シュプリームはクールな人たちによって設立され、クールな場所で、クールな人たちと一緒に仕事をしている。 そして、クールな人たちが身につけているクールな商品で、クールな雑誌に取り上げられる。また、クールではない人たちがクールであると感じるための方法でもある。 消費者行動に革命を起こす3つのファッション系スタートアップ Nike: トップを狙うすべての挑戦者たちへ […]

GoogleとAppleの違いを画像で表現してみた

スマホ、スマートホーム、クラウドサービスなど、多くの分野で覇権を競っているのがシリコンバレーの巨大テクノロジー企業、Google, Apple。
時価総額ランキングでも常に上位にランキングし、ビジネスモデルの側面ではかなり共通点がありそうなこの2社。しかし実はさまざまな側面でかなり異なる戦略を取っている。
GoogleとAppleのデザイン、組織、カルチャー、マーケティングなど10の項目に対してのアプローチの違いを画像で表現してみた。

Google: ユーザーが欲しいと思っているものを作る
Ap…

Googleによるスタートアップ買収と事業シナジー事例8選

大企業がスタートアップを買収して事業シナジーを生み出す。いわゆる戦略的買収のシナリオは珍しくない。しかし、買収後に期待された結果がしっかりと出るのはかなり珍しい。 というのも、買収した大企業と、されたスタートアップとの企業カルチャーの違いでスタッフがごっそりやめてしまうことが後を絶たず、予想したほどの結果につながらないことが多いからだ。 スタートアップ買収名人Google そんな中で、スタートアップのM&Aが最も盛んに行われているシリコンバレーを代表するGoogle (Alphabet社)は、買収した後の事業への組み込みが非常に上手い。 「作れないなら買っちゃえば」という合言葉の元、自社サービスの創出方法の1つとして、スタートアップの戦略的買収を大きな軸としている。 2001年から現在までGoogleが買収した企業数は240以上にものぼる。 これまでのGoogleによる買収額ランキング 平均で1.5週間に1社を買収 Googleの決断スピードは凄まじく速い。例えば2014年の1年間では、同社は実に35社の企業を買収している。これは平均すると1.5週間に1社のペース。約10日間の間に1つの会社がGoogleのものとなっていることになる。 社内の買収チームでは、ある一定の金額までであれば上司に相談しなくても担当者レベルで買収の決定が出来るようになっており、それぞれのディールに費やすスピードアップに対しての意識とプロセスが徹底されている。 こうすることで新しいテクノロジーや人材、サービスの獲得、そして競合を減らすことを可能にしている。 日本がシリコンバレーに100倍の差を付けられている1つの事 多くの人気サービスへ繋がった買収例 現在では多くのユーザーに利用されてるGoogleのサービスのその多くは、実は元々他のスタートアップが展開していたもので、Googleが買収したことで事業シナジーが生み出された結果である。 具体的には下記の3つの方法でシナジーを生み出している Googleが保有する技術やユーザーベースと連動し、単独のサービスとして育てる 既存のサービス内に実装することでその精度を上げる 複数のスタートアップを組み合わせて新規サービスを生み出す そんなイノベーションの種となった8つのスタートアップ買収事例を紹介する。 Android → 世界一のモバイルOSに YouTube → 世界一の動画プラットフォームに Postini  → Gmailに実装 Waze  → Mapsに実装 Applied Semantics  → AdSenseに実装 Urchin → Analyticsの前身 Where 2 → Mapsに実装 Keyhole  → Mapsに実装 Android 買収時期: 2005年 買収金額: 5000万ドル Googleの最も成功したM&Aと言われているのが、2005年のAndroidの買収。元Appleの社員によってスタートした創立2年ほどの小さなスタートアップを買収したことが、その後のスマホ市場におけるGoogleの運命を大きく動かした。 Androidは元々はデジカメ向けのOSを開発していたが、Googleが買収後、3年間を費やしモバイル向けのOS開発を進めた。iPhone発表の1年後の2008年に一般リリースを行った。現在は世界で最も利用されているOSになっている それを考慮すると5000万ドルはかなり破格の金額だろう。 YouTube 買収時期: 2006年 買収金額: 16.5億ドル 当時はかなり狂ってると言われていたのが、YouTubeの買収。創立1.5年ほどの小さなビデオシェアリングサービスに対して16.5億ドルもの大金を叩いて獲得したのだから。 実際、後日GoogleはYouTube買収がかなり割高の金額であったことを認めている。そもそも、YouTubeにアップされている多くの動画は権利問題を抱えていたし、その他のヒットコンテンツは猫の動画ばかりであった。そしてビジネス的にも大赤字のサービス。 しかし、長期的にみるとビデオプラットフォームのニーズは高まる一方だと判断。加えて、自社で開発していたGoogle Videoが鳴かず飛ばずだったこともあり、同じ動画プラットホームとしてYouTubeを買収する判断は正しかったと言える。 現在YouTubeはもちろん動画プラットフォームとしてはダントツ。検索エンジンとしても世界で2番目に利用されている。2019年の同プラットフォームの売り上げは150億ドルに達している。 Postini 買収時期: 2007年 買収金額: 約6.25億ドル 現在ではメールサービスの代表であるGmailが普及した理由の一つが、迷惑メールの仕分け精度の高さだろう。その仕組みの裏にはPostiniが開発したシステムが隠されていた。 それまでの無料メールサービスの多くは受信ボックスが迷惑メールで埋め尽くされており、ユーザーはうんざりしていた。そんな時期に「使えるメール」をキャッチコピーに掲げたGmailは後発だったが、かなり使えるサービスで一気にユーザーが増えた。 元々企業向けにメールやメッセージ系サービスのセキュリティやコンプライアンス保護の仕組みを提供していたPostiniのシステムをGmailに導入し、その精度を格段にアップさせたことも大きな要因。 当時はその買収額が高すぎるとの批判もあったが、結果的にはGmailが業界ダントツのメールサービスに成長し、その何倍もの価値を生み出している。 Waze 買収時期: 2013年 買収金額: 約11億ドル Googleによるこれまでの企業買収金額のTop5にランクインしているのがソーシャルマッピングアプリを提供しているWaze。Wazeは、シリコンバレーの本社と、イスラエルの開発拠点を通じてユーザーからのリアルタイム情報をもとに、交通情報とルート表示の仕組みを提供するサービスを提供。 Google Mapnに対してWazeのコンテンツを追加することにより、モバイルデバイスを中心に、ユーザー同士によるコンテンツによる交通情報のリアルタイム表示が可能になった。 また、UberやLyftなどのライドシェアサービスにも広く利用され、サービス向上に大きく貢献している。今後は自動運転技術との連動も期待されているサービスとなっている。 Applied Semantics 買収時期: 2003年 買収金額: 1.02億ドル Google自体がまだまだ駆け出しの検索エンジンサービス会社だった2003年に、サンタモニカのとある無名スタートアップを買収した。Applied Semanticsと呼ばれるそのスタートアップは、オンライン広告に関するソフトウェアを開発していた。 その地味さからこの買収はあまり知られていないかもしれないが、実はGoogleのコアビジネスモデルに対して多大なる貢献をしている。 この買収により、AdSenseサービスにおけるコンテンツに対する広告表示の精度を格段にアップさせ、Overtureに代表される競合に対して大きな差をつけることに成功した。 Urchin Software 買収時期: 2005年 買収金額: 約3000万ドル 現在では多くのWebサイトに導入されているアクセス解析サービスのGoogle Analyticsは、2005年にGoogleが買収したUrchinというサービスが元になっている。 その当時のアクセス解析はサーバーのログを可視化し、グラフとして表示される仕組みが代表的で、その中でもホスティング会社やISPが提供するパッケージに同封されていたUrchinが使いやすかった。 この解析サービスと検索データを組み合わせることで、現在ではアクセス解析のデフォルトサービスとして利用されているGoogle Analyticsが生み出された。それを考えると3000万ドルの買収額は決して高くない。 Where 2 Technologies 買収時期: 2004年 買収金額: 非公開 Google系のサービスの中でも最も身近なGoogle Mapが生まれた背景には、2つのスタートアップの買収がある。下記に紹介するKayholeと、オーストラリアのWhere 2だ。 Where 2は元々パソコン向けのダウンロード型アプリケーションを開発していたが、Googleのファウンダー、 […]

サービスデザインで考慮すべき3種類の心理的ハードルとは

サービスデザインを行う際にはなるべくユーザーに使いやすい体験を提供するのが一つのゴールとなる。その一方で、どうしても使いにくいと思われてしまう要素がある。 なるべくそれらの「ハードル」を取り除くことが、ユーザーに楽しい時間を提供するためには不可欠になってくる。 ユーザーに対してのハードルとは サービスのUXにおけるハードルとは、ユーザーが利用する際に“摩擦”を起こす要素のこと。心理的にはネガティブな要素を与える。それにより目的を達成することを諦めてしまう = コンバージョンが下がる結果を生み出す要因となる。 この心理的なネガティブ要素が多くなってくると、コンバージョンが下がり、最終的なビジネス的ゴールの達成が困難になってくる。以前に紹介した通り、ポジティブな感情がネガティブな感情を上回るには3つのポジティブな感情が必要になる。 Googleも採用するめっちゃ使えるUXデザイン手法 心理的なハードルには3つの種類がある では、具体的にどのような要素がユーザーにとってのハードルとなってくるのだろうか?大きく、下記の3つのレベルに分けられる。 操作性ハードル 認知的ハードル 感情的ハードル それでは、それぞれのハードルについての詳しい内容を見てみよう。 レベル1: 操作性ハードル プロダクトのUIを操作する際にユーザーが感じるハードル。これは、ユーザーが目的を達成するのを妨げているいくつかの要素が原因になっている。 このハードルを下げるために、下記のようなUXデザインを施す。 操作性ハードルを下げるデザイン例: 一貫性のある操作性 直感的な操作性 気楽に使える雰囲気 CTAがわかりやすい 少ないステップ 少ない入力フォームの項目 速いロード時間 ロード時間が0.1秒減ると1%売り上げが増えるAmazon 例えばロード時間が増えることで操作ハードルが上がる。その弊害としてコンバージョンレートが下がる。Amazonではこの操作はハードルを下げることに日々心血を注いでいる。 というのも、Amazonのサイトのロード時間が0.1秒下がるごとに、売り上げが1%減少することがわかっている。逆に言うと、ロード時間を少しでも短縮できれば全体売り上げの増加も見込めるということだ。 ユーザーを夢中にさせるAmazonが採用する4つのUXデザイン要素 操作性ハードルを下げて大成功したiPhone この操作性ハードルを大幅に減らすことで大成功したプロダクトがiPhoneだろう。 iPhoneが出現する前にも、携帯からメールをチェックしたり、ネットにつなげることで同様な機能を持たせていたデバイスも既に存在していた。日本だとガラケー、アメリカだとBlackberryやWindows Mobileがそれである。 しかし、iPhoneはモバイルデバイスの概念全てが変わるほどのインパクトを与えた。その秘訣は「スマホ」が圧倒的に操作性ハードルの低いプロダクトであるからだ。 マルチタッチスクリーンの技術革新のおかげで、タッチパネルでありながら抜群の操作性を実現し、それまでの物理キーボードと比べても格段に操作性ハードルを下げることに成功した。また、ズームや回転などのUX要素を取り入れることでアプリも直感的に操作可能にしたことも大きい。 それまではガラケーの操作性で満足していたユーザーも、時間が経つにつれiPhoneに代表されるスマホのUXに引き寄せられていった。その裏には操作性ハードルの低さが隠されていた。 後発でも一番になれたSlackの操作性 現在では多くの人たちに利用されているチャット系アプリが普及した一番の理由が、その操作性ハードルの低さだろう。元々はメールが主流だった時代に、最新のメールアドレスを気にしなくても良い、より少ない入力項目、即座に返信が返ってくる、などのUXの良さから人気が高まった。 その中でビジネスで利用されるサービスの代表がSlackだろう。しかし、Slack自体の登場は競合のWhatsApp, HipChat, Yammer, Chatworkなどのよりも後で、かなり出遅れた感があった。 しかし、Slackは競合よりも操作性ハードルを極端に下げたことにより一気に人気が高まった。 Slack成長物語 〜世界のユーザーに愛されるプロダクト舞台裏〜 操作性ハードルを下げる方法 この操作性ハードルを下げる最も有効な方法の一つがユーザビリティテストだろう。エンドユーザーがプロダクトを実際に使用しているシーンを目の当たりにすることで、想定していなかったハードルを発見することもある。 また、プロダクトのリリース後も継続的なユーザーテストを繰り返すことで、段階的にハードルを下げることができるようになる。 優れたユーザビリティを実現する25のUXデザイン基本概念 レベル2: 認知的ハードル 次のレベルのハードルは「認知的ハードル」である。認知的ハードルは、ユーザーが操作している際の脳に対する負荷であり、認知負荷とも表現される。例えると、脳のメモリの利用量のような感じ。 タスクを実行する際に認知負荷が高いことはすなわち認知的ハードルが高いことを意味する。そしてUXデザイナーのゴールの一つが、認知的ハードルを最小化することになる。 ちなみに、認知的ハードルは前出の操作性ハードルよりも、より広い範囲での要素が影響する。その例をいくつか見ていこう。 タクシーに乗る認知的ハードルを下げたUber 現在ではアメリカをはじめとして多くの国々で利用されているライドシェアサービスの代表的存在がUber。Uberが登場したことでタクシーに乗らなくなったユーザーも多い。その理由がUberにおける認知的ハードルの低さにある。 タクシーに乗るためのステップ 事前予約 – タクシー会社の電話番号を調べる – 電話をして予約をする – 電話がつながらない場合は何度もかけ直す – 車両が空いてない場合他の会社に電話をする or 道に出てタクシーが来るのを待つ (いつ来るかわからない) 車両に乗り行き先を告げる運転手が行き先を調べる 到着時に初めて金額がわかる チップを計算する (海外の場合) 支払いを行う お釣りをもらう 苦情があってもどこに連絡して良いかわからない これがUberの場合は アプリを開く 車両を呼ぶ 金額が明記される いつ来るかが一目瞭然 車両に乗る 目的地で車両を降りる 苦情がある場合はアプリ経由で報告可能 と、脳にかかる負担がかなり軽減されているのがわかる。言い換えると認知的ハードルがかなり低いサービスになっている。 そのポイントとなっているのは、いつ来るかわからない、誰が来るかわからない、いくらかかるかわからない、いくら払えば良いかわからない、等の不確定要素を極力減らしたことにより、脳への負担が減ったことになる。 創業5年で企業価値5兆円に: Uberが示す急成長のポイント 認知的ハードルを下げてヤフオクとの差別化を図ったメルカリ 日本のサービスでも認知的ハードルを下げることでUX的に大きな差別化を図ったサービスがメルカリ。それまでもヤフオクなどを中心に、ユーザー同士が物の売買を行うプラットフォームは存在していた。 では、後発のメルカリがなぜ成功できたのだろうか?そこには認知的ハードルを下げたことによるUX改善に大きな秘密が隠されている。 それではそれぞれを利用する際に脳が行うタスクを見てみよう。 ヤフオク 欲しいものを考える サイトを開く 欲しいものを検索する 同じ物を他の出品者と比べる 入札する 定期的に入札状況をチェック メルカリ 隙間時間にとりあえずアプリを開く ボーッとしながら商品を閲覧する 良さげなアイテムを開く 興味があれば購入、なければパス また暇な時にアプリを開く ここでわかるのが、ヤフオクでユーザーが行う行動の多くが”タスク”であり、それがメルカリになると”暇つぶし”に近い。どちらがより脳に負担がかかるかは明白だ。 このように、ユーザーの行動をタスクから遊びや暇つぶしに変換してあげることで認知的ハードルが大幅に下がる。 認知的ハードルを下げる方法 この認知的ハードルを理解し、効果的な方法を考えるために役立つのがユーザージャーニーだろう。 […]

最近のアイコンが似通ってきている問題

最近のスタートアップにおけるロゴトレンドでは、そのスタイルに多くの類似性があることがわかった。その中でも、特にスマホ向けのアプリの影響でアイコンの存在がそのブランドを強く印象づける役割を果たしている。
最近のロゴが似通ってきている問題 – 第2弾

多くのアイコンがどんどんカラフルに
限られたスペースに複数のアイコンが並ぶスマホのホーム画面で存在感を出すためなのか、最近のアイコンはどんどんカラフルになってきている。これは、画面の解像度が上がってきている恩恵でもあるが、どんどん没個性にもつ…

なぜ日本にはデザイナー出身の経営者が少ないのか

先週、日本デザイン学会主宰の「2020年度 日本デザイン学会 秋季企画大会」というイベントに登壇させていただいた。 セッションテーマは「チーム・クリエイション」。デザイナーを取り巻くチームとビジネスに関するトピックだったため、自分が感じている「海外から見た日本の状況」について触れさせていただいた。 というのも、最近ではビジネスにおけるデザインの重要さが叫ばれている。 マッキンゼーの調査でも、デザインを経営に活用している企業は平均と比べ、売り上げの伸びが32%もアップし、株主へのリターンも56%高くなっているという結果が出た。 その割には、日本企業におけるデザイナーの役割と立場がまだまだ地味で、ビジネスの根幹に入り込めていないように感じていたから。 数字で証明されたデザイン経営の重要性 デザイン責任者を配置している海外企業 一方で、海外、特にアメリカのスタートアップでは多くのデザイナー出身者が起業し、成功している。 また、大企業でも経営陣にCDO (Chief Design Officer) や CCO (Chief Creative Officer) を配置し、経営にデザインを積極的に取り入れている会社が増えている。 CDOやCCOのいる主な企業・団体 3M ピクサー ペプシコ DBS銀行 ロジテック フィリップス ヘルシンキ市 キアモーターズ ロスアンゼルス市 ウォルトデズニースタジオ * https://en.wikipedia.org/wiki/Chief_design_officer デザインドリブンな世界一の企業: Apple デザインバックグラウンドを持つ経営陣が多いことで知られる最も著名な企業がAppleだろう。 そもそもファウンダーのスティーブ・ジョブスは熱狂的なデザインオタクだったし、後期にAppleを復活させた彼の右腕、ジョナサン・アイブも世界最高峰のデザイナーである。 技術力が重要視されていた20世紀では倒産寸前までになっていたAppleは、デザイン力が重要になった21世紀になって強烈に成長し、名実ともに世界一の企業に君臨している。 Appleを1兆ドル企業に成長させた6つのデザイン哲学 デザイナー出身の起業家たち: ジョブスチルドレンの功績 そして現代の起業家のその多くがデザイナー出身だったり、デザインバックグラウンドを持っている。そして、そのような人たちが経営陣にいる企業の成長率の高さは統計的にも実証されている。 デジタルプロダクトを通じたユーザー体験が重要になってきている現代においては、商品の差別化要因はどんどん少なくなり、最後に残されたのがデザイン性とブランド力になってきているのが理由だろう。 デザインバックグラウンドを持つ起業家のその多くがジョブスに憧れ、優れたプロダクトを武器に会社を成長させている、いわゆるジョブスチルドレンである。 この流れはアメリカだけではなく、取締役の多くがデザイン経験を持つサムスンや、海外から多くのデザイナーを採用しているアリババなど、韓国や中国の会社の多くもその流れを踏襲してる。 デザインバックグラウンドを持つ主な起業家: Jack Dorsey – Twitter, Square Brian Chesky – Airbnb Evan Sharp – Pinterest Chad Hurley – YouTube Stewart Butterfield – Slack David Karp – Tumblr Charles Adler – Kickstarter Dave Morin – Path 参照:【デザイン × 経営】ビジネスにおけるデザインの価値を追求する7人の起業家 日本企業におけるデザイナーの役割って何? ここからが本題。そんな世界の潮流の中で、ではなぜ日本の企業の経営陣にデザイナー出身者があまりいないのか? そもそも日本企業の従業員で「デザイナー」という肩書を持つスタッフ自体が驚くほど少ない気がする。では、日本企業におけるデザイナーの役割とは、一体何なのだろうか? おそらくその仕事は、プロダクト制作における最終工程の装飾や、ブランディングにおけるビジュアルデザインの一部にとどまっているケースが少なくない。 とある日本の会社では、企画会議に出席したデザイナーに対して「なぜあなたが参加してるのですか?」と言われたという。 そうなってくると、どうしてもプロダクトが提供するユーザー体験の質は下がるし、ブランド資産も積み上がりにくくなってくるだろう。 なぜ日本ではデザイナー出身の経営者が少ないのか? 従業員にデザイナーが少なく、その役割も限定的なのであれば、経営陣にデザインがわかる人が少ないのもうなずける。しかし、デザインがビジネスにとても重要な時代に日本企業の経営陣にデザイナー出身者が極端に少ない場合、企業としての競争力は極端に下がってしまう。 それなのに、日本企業の経営陣にデザインバックグラウンドを持っている人はかなり少ない。 それはなぜなのか? この答えは、日本は経営において営業がとても重要であるから。 言い換えると、日本では営業力が企業にとってとても重要な役割を果たす。下手するとプロダクトの質以上に。自ずと営業畑出身の人間が経営者や取締役などに出世しやすい。 特に経営者が創業者ではない企業はこの傾向が顕著だ。 この理由は、以前に一緒に登壇したTakramの田川さんも、Goodpatchの土屋くんも、今回登壇したNOSIGNERの太刀川さんも、AIR Designの中平さんも一様に同意していただいた。 めっちゃ使いにくいプロダクトのなのに何故か売れている。その理由は営業力にあったりする。 最近ではメルカリのようにエンジニア出身の人が経営をしている会社も増えているが、デザイナー出身者はまだまだ少ないだろう。 結果として日本の多くの優秀なデザイナー達は、自分たちのフィールドだけにとどまり、ウンチクを語る日々を過ごしている。 日本と海外でなぜこんなにも違うのか? では逆に、アメリカをはじめとした海外ではデザイナー出身の経営者が多いのか?おそらくその秘密は、国土の広さにあると思われる。アメリカと日本の国土の違いをおさらいしてみよう。 ざっとこんな感じである。 アメリカの国土は日本の約26倍。 ニューヨークからサンフランシスコまでは飛行機で片道6時間。3時間の時差がある。近そうに思えるロサンゼルスからサンフランシスコまでも飛行機で1時間以上かかる。サンフランシスコ – シリコンバレー間だって、車で1時間以上かかる。 これはどういうことかというと、簡単に足で稼ぐ営業ができないということ。では、どのようにして顧客やユーザーを集めれば良いのか? そう。プロダクトの質、ブランド力、マーケティングにフォーカスするしかない。 足を使った営業力に頼れない分、他の方法でユーザーを集めてくるしかないのだ。 […]

Googleも採用するめっちゃ使えるUXデザイン手法

先週アップしたエシカルデザインに関する内容に関して、具体的にどのようにして“正しいデザイン”を行えば良いのかという質問が寄せられた。一つの方法は、UXピラミッドの原則に従ってプロダクトの体験価値を検証したり、UXハニカムを活用する方法もある。
それらに加えて今回紹介したいのは、GoogleのAndroidチームが採用しているUXデザイン手法である。とてもシンプルですぐにでも活用できる内容になっている。
進化するデジタルプロダクトに対するUXデザインアプローチ
サービスのデジタル化やDXが進む中で、多…

全てのデザイナーが知っておくべきエシカルデザインとは

広がる支持 エシカル(倫理的な)デザインとは?
デザイナーにとって、エシカルデザインの重要性とは
ビジネスゴールとユーザーメリットを両立するには
デザイナーだけでなく全員が持つべき「エシカル視点」
エシカルデザインを考える際の3つの要素:時間・環境・生活

デザイナーの仕事の一つが、ユーザーが夢中になるプロダクトを作り出すこと。UXデザイナーを中心に、提供側のビジネスゴールを達成するために様々な“仕掛け”が施され、ユーザーが無意識のうちに夢中になっていることも多い。
我々が頻繁にインスタをチェック…

UXデザイナーとは?その役割と仕事内容, 求められるスキル

UXの定義・UXデザイナーの役割をおさらい UXデザイナーは何をもって「優秀」とされるか? UXデザイナーに求められるスキルセット 今日からできるUXデザイナーとして活躍するためにできる5つの行動 ビジネスにおけるデザインの重要性が高まるにつれ、様々なデザイナーの役割と職種名が生まれ始めている。 その中でも、ここ数年でもっとも注目されているのがUXデザイナーだろう。DXへの流れも加速したことで、その需要の大きさから多くのデザイナーがUXデザイナーになるべくスキルアップを進めている。 その一方で、UXデザイナーの仕事の内容だったり、組織での役割だったり、求められるスキルセットに関しては共通認識がまだまだはっきりしていないことも多い。 デザイナーに必要なのはスキルアップではなくスキルチェンジ UXデザインとは? では、そもそもUXデザインとは何なのか? UXとは、User Experience (ユーザー体験) の略で、一言で言ってしまえばサービス利用者の体験そのものを示す。 サービス提供者はプロダクトやシステムの品質・機能等を提供し、それらを受け取ったユーザーはその経験を振り返ることで初めてサービス価値を認識する。ここの機能と価値をつなぐ役割こそがUXデザイン。 注意したいのが、ここでのデザインとは見た目や雰囲気だけではなく、製品やサービスそのものを設計することが最も重要だということ。 そしてその利用体験を企画段階から戦略的に設計するのがUXデザイナーの仕事となる。“デザイナー”のキーワードが入っているが、その内容はユーザー調査から始まり、仮設立案、プロトタイプ作成、実験、検証、改善、など多岐にわたる。 ビートラックスのデザインチームも、このUXデザイナーを中心に編成されているが、それぞれのスタッフのバックグラウンドとスキルセットには結構幅がある。 UXデザインプロセス入門 – 基本的な6ステップ 優秀なUXデザイナーとは? 実際のデザインやプロダクト造りの現場で優秀だと思われるUXデザイナーには共通しているポイントがある。まずは、グラフィックデザイン、ソフトウェア開発、デザインリサーチなど、異なるフィールドへの深い理解があること。 そして、プロダクトの体験のクオリティーを高めるために、UXとUIの両方の分野においての技術も求められる。もちろん機能的な部分も網羅することになるので、エンジニアチームとのやりとりも多い。 言い換えると右脳と左脳のバランスが取れている。 また、UXデザインの最終的ゴールが、ユーザーとビジネスゴールの両方を達成であることから、物づくりに対してビジネス的視点を持つことも必要になってくる。 それらを踏まえると、UXデザイナーは、デザイン的観点、エンジニア的観点、ビジネス的観点の3つの領域をしっかりと理解していることが必要だろう。 優れたUXデザイナーが持つ資質・マインドセットとは?【インタビュー】ホワイトハウスも注目のUXデザイナーJanice Fraser氏(後編) UXデザイナーの主な役割 ではUXデザイナーの具体的な役割を紹介してみよう。 カスタマージャーニーマップ作成 ペルソナ作成 A/Bテストの実施、分析 ユーザーリサーチ実施 ワイヤーフレーム作成 プロトタイプ作成 ユーザビリティーリサーチ実施 プロダクト改善ポイントの抽出 UXデザイナーに求められるスキルセット これだけ幅広い役割のUXデザイナーだが、実際に活躍するにはどのようなスキルが求められるのだろうか? コミュニケーション能力 データ分析能力 マーケティングに関しての基本知識 ブランディングに関しての経験 ユーザーに対する共感力 コーディングやプログラミングに関しての知識 ロジックと感覚の両立 気配り上手 【これからのスキル】デザイナーとエンジニアの境界線がどんどん無くなる UXデザイナーになるためにできること すでに何かしらのデザイン関係の仕事をしている人や、これからUXデザイナーとして活躍するための5つの方法を紹介する。 1. 個人作業からチームプレーヤーへ フリーランスを中心に、これまでのデザインの仕事は1人で職人的な作業をすることが多い。 しかしこれがUXデザイナーになると、1人で作業をする時間がほとんどないと言って良い。ユーザーとの対話、経営層からのヒアリング、プロダクトチームとのディスカッション、エンジニアとのプロトタイプ作り、マーケティングチームとの顧客獲得における体験設計など、仕事中は必ず誰かと一緒に仕事をしていると考えて良い。 それを考えると全て1人で完結する必要がない。逆に、メンバーそれぞれのスキルと強みを活用して結果を生み出すことが求められる。 この辺は1人で戦っていた初代ドラクエと、その後のパーティー編成での戦い方の違いにも通じるところがある。 一般的なプロジェクトチーム例: プロジェクトマネージャー クリエイティブディレクター ビジュアルデザイナー UXデザイナー エンジニア コピーライター マーケター ピクサーのデザインチームが重要視する4つのプロセス 2. 完璧主義を捨て去る グラフィックやビジュアルのデザイナーの仕事は、できるだけ“完璧な”作りこみをするである。ピクセルやミリ単位のずれを無くし、素材や発色にもとことんこだわる。まさに職人的仕事になる。 それに対し、UXデザイナーはデザインスプリントに代表されるように、速いスピードでの仮説立案とモックアップやプロトタイプ作成が求められる。 そこで作り出されるものは、“ラフでも良いからユーザー検証可能なデザイン”であり、完成とはほぼ遠い不完全なデザインであることも少なくない。 体験をデザインするためには、ユーザーとの対話が最優先。UXデザイナーの仕事としても、ざっくりとした大枠を決め、検証し、そこから導き出された枠組みをビジュアルデザイナーに手渡しし、“清書”してもらう。 その点で元々グラフィックやUIのデザインを行なって来たデザイナーはそのスキルを一度”切り離す”必要が出てくる。 一般的に新しいことを学ぶ“Learn”よりも、すでに身についていることを忘れる“Unlearn”の方がよっぽど難しく、かなり苦しいところであるが、理解しなければならない。 デザインスプリント入門 – 話題の高速サービス開発法とは 3. デザインを「目的」から「手段」に UXデザインの最終的なゴールはビジネス的目的とユーザー的目的の両方を達成することであり、デザインすること自体はあくまでその手段の1つでしかない。 その点において、UXデザインにおけるデザインの役割は、最適なユーザー体験を通じビジネスゴールを達成するための手段であり、デザインがある意味“黒子”の役割になる。 そこにはデザイナーとしての自己主張よりも、あくまで主役はユーザー。それも見えないルールでユーザーを無意識のうちに導いてあげる設計を作り出す事が求められる。 雰囲気だけでクールなアイコンや可愛いイラストを使うのではなく、ユーザーの求めるゴールをもっともストレスなく達成したり、1%でも送信率の高いWebフォームを設計する事がUXデザイナーの仕事となる。 ユーザーとビジネスのゴールが合致するかどうかを見極め、アイコンやイラストを採用するかしないかを冷静に判断する必要性が出てくる。 そのために“誰が” “いつ” “何を” “何を目的で” ”どのように” 使うかを包括的に考えなければならない。そのためにブランディング面も考慮した上で、場合によって“デザイン性”を犠牲にする冷静な判断が求められる。 ユーザーを夢中にさせるAmazonが採用する4つのUXデザイン要素 4. 組織内での存在感・影響力をアップさせる プロダクトの成功と会社の成長、この2つを鍵を握るのがUXデザイナーの仕事だとしたら、企業内での重要性はかなり高いはず。 その一方で、これまで組織内におけるデザイナーの役割としては、全ての企画、仕様、場合によっては試作品が完了してから、“イケてるルックスにしておいて” 的なノリで仕事を振られるケースが多かった。 だとしたら、これからUXデザイナーになる人は、社内で異なる役職や部署の人たちを巻き込んで、包括的な仕事の仕方をする必要があるだろう。 そのためには出世も1つの手段であるが、意外と盲点なのが“影響力の高さ”である。どこの会社や組織でも、特に高い役職に就いているわけではないのに、妙に周りの人を巻き込むのが上手い人がいる。UXデザイナーは多くの人を巻き込む必要があるため、この影響力は不可欠である。 そのためには人間的魅力をアップさせ、多くの人の心を掴む必要が出てくる。 これまでは誰もいない部屋で1人でヘッドフォンをしながら黙々とデザインをしていたデザイナーも、UXデザイナーになりたいのであれば、自ら多くの人と触れ合い、異なる考え方を理解し、組織内でのキーパーソンにならなければならない。 デザイナーとは職種ではなくマインドセットである 5. Looks goodからWorks great! へ これまで1mmや1pxをストイッックなまでに追求して来た人たちは、ついついそれに没頭するがゆえに“どう見えるか”のクオリティーにとらわれ、“どのように動くか”を忘れがちである。 しかし、異なる複数のデバイスやタッチポイントにおいて、全てがインタラクティブになって来ている今の時代、“静止画”の見た目が良いだけで完結するケースが壊滅的に減って来ている。 より良い動きをデザインするためには、見た目以上にコンテンツやインタラクティブ要素、異なるタッチッポイントでの“感覚的要素”の設計が重要になってくる。そのためにはラフでも良いのでプロトタイプ作成のスキルが求められる。 […]

ニューノーマル時代に注目の海外スタートアップサービス25選

新型コロナウィルス の拡大が世界的に叫ばれ始めてから半年以上たった今、新しい生活スタイル = ニューノーマルの浸透がどんどん進んでいる。 パンデミックが収束しても、それまでの生活スタイルには戻らないという専門家もいる。そうなってくると、これまでとは大幅に異なるニーズが世の中に溢れ、それに対するソリューションサービスが多く求められてくるだろう。 具体的には下記のような領域でのサービスが注目されている。(詳細は後半部に記載) DX系サービス 非接触系サービス 心と体のケア系サービス リモート教育系サービス リモートワーク系サービス シリコンバレーを中心に、海外ではすでに多くのスタートアップが新規課題を解決するべくサービスをリリースしている。そんなニューノーマルに対応しているサービスの中でもbtraxが特に注目しているスタートアップを25選んでみた。 ニューノーマル時代にbtraxが注目する25のスタートアップ それでは具体的なスタートアップを見ていこう。 Lattice: 人材管理プラットフォーム Lemonade: P2P型デジタル保険 Alto Pharmacy: オンライン薬局 Mindstrong: メンタルウェルネス Outreach: 営業系SaaS Curastive: 医療テクノロジー MasterClass: オンライン習い事 Loom: 遠隔コミュニケーション Capsule: 処方箋薬のデリバリー Upkey: 企業と大学をつなぐプラットフォーム Zipline: ドローンによる宅配サービス Verkada: 企業向けセキュリティシステム Drift: 営業/マーケティングプラットフォーム Modern Health: 従業員のメンタルケア Tula Skincare: クリーンビューティー系スキンケア Cameo: 動画マーケットプラットフォーム Wealthfront: ロボアドバイザー型投資サービス Spatial: AR/VR型オンラインコミュニケーションツール Bungalow: シェアハウスプラットフォーム Guild Education: 教育福利厚生オンラインプラットフォーム P.volve: 家庭用フィットネスプラットフォーム Samsara: テレマティックソリューション Nuro: 非接触型マイクロデリバリー Chief: 女性向けコーチングプラットフォーム Carbon Health: 医療プラットフォーム スタートアップ名: Lattice 領域: 人材管理プラットフォーム 概要: 組織マネージメントツールであるLatticeは、企業が目標を設定し、従業員のゴール達成度合いをトラックし、その達成状況に合わせリワードを提供する。それにより、スタッフのパフォーマンスを効率的に管理することを可能にする。 多くの企業がリモートワークへのシフトが進む中で需要が高まっており、今年10月から今年の7月の間に約500社の新規顧客を獲得している。また、4500万ドルの追加資金調達を行い、その評価額は約4億ドルに達している。 注目の理由: 実際に顔を合わせる頻度が減った業務スタイルにおける新しいニーズに対応しているため。 https://lattice.com/ スタートアップ名: Lemonade 領域: P2P型デジタル保険 概要: Lemonadeは月額5ドルからの手頃な保険を提供するスタートアップ。 世界初のP2P保険サービスとして2015年にローンチた。 P2P型保険というコンセプトは、ユーザーとユーザーをつなげることで、それまで中間に存在していた保険会社の概念を廃止することで、よりユーザーにとって魅力の高い保険を提供することをゴールとしている。 スマホ一つあれば、面倒な手続きをしなくても簡単に保険に入会、利用することが可能。保険金の申請、支払いも数分間で行われる。そして費用の支払いも月々のサプスクリプションなので、若者を中心に手軽に利用できるようになっている。 注目の理由: そのスムーズな体験を通じて保険のDXを実現しているため、新しい顧客層の獲得が期待できるため。 https://www.lemonade.com/ スタートアップ名: Alto Pharmacy 領域: オンライン薬局 概要: 元Facebookの従業員によって始められたオンライン薬局であるAlto Pharmacyは、薬剤師へのリモートアクセス、薬の無料配達、価格の透明性の実現をゴールとしている。 パンデミックが発生してからは、医師やクリニックのスタッフの遠隔医療への移行を支援し、サプライチェーンを潜在的な不足から守るための新しい仕組みの提供と、非接触型デリバリーシステムを導入している。 1月に2億5000万ドルを調達し、全米での事業拡大を進めている。 注目の理由: 遠隔医療へのニーズが急激に高まっているため。 https://alto.com/ スタートアップ名: Mindstrong 領域: メンタルウェルネス 概要: Mindstrongは、重度の精神疾患(統合失調症、大うつ病性障害、強迫性障害)を持つ患者とセラピストを結び、ビデオや電話、テキストでコミュニケーションを取ることができるメンタルヘルスケアプラットフォームを提供してる。 […]

ヒットサービスに重要なのは “革新的アイディア” ではない!?

「めっちゃ良いアイディアだね。今までにも同じようなの5回ぐらい聞いたことあるけど」
先日行われた起業家向けのメンタリングセッションで伝えた一言。画期的なアイディアだと思っても、すでに他の人も同じようなことを考えているケースは少なくない。
こんな感じで新規事業を考える際のアイディア出しに関してのアドバイスを聞かれることが多い。
特に、デザインスプリントなどのワークショップなどでは短時間に複数のアイディア出しをしなければならないので、行き詰まった際の打開策を知りたいという声も少なくない。
しかし、ぶっち…

ワークショップをするべきか?会議をするべきか? それが問題だ

会議とワークショップ、効果的に使い分けできていますか? 「無駄な時間」にしないために気をつけるべきこと 会議とワークショップ、それぞれの目的・役割・構造の違い 多種多様な会議 / ワークショップ、目的に合わせた実施方法 「ミーティングにするか、ワークショップ形式にするか。」 現代の企業におけるディスカッションや意思決定の方法は多様になっている。特にオンラインで行うシーンも増え、企業としてもどのような進め方をするのが良いのか迷いがちだろう。 我々もデザインワークショップやデザインスプリント、フォーカスグループなどを通じてサービスのアイディアをディスカッションしたり、素早い意思決定を促したりしている。 でも実際の現場では、ワークショップっぽい会議もあるし、会議になってしまうワークショップもある。全く意味の無い時間になることもありえる。 そしてこの状況は、それぞれの定義や適切な使い方が曖昧な組織で起こりやすい。 会議とワークショップの用途の違い 一般的に、会議では情報共有や議論を行い、目標設定や意思決定を行うのが目的。一方で、ワークショップは問題を解決したり、実行可能な目標を達成するためのもの。 ワークショップと会議の違いを理解することで誰もが時間を節約し、グループコラボレーションを最大限に活用することができる。 では、具体的に無駄になってしまう会議とワークショップの特徴を洗い出した上で、ワークショップと会議の目的、範囲、長さ、構造、準備時間の違いを比較してみよう。 無駄な会議とは? まずは一つの結論として、どのようなミーティングや会議が無駄になってしまうのだろうかを考えてみる。通常、会議には複数人数のが参加するため、無駄な時間が発生してしまうと参加人数分の時間が失われてしまう。 そのこともあり、多くのアメリカ企業ではなるべく会議の数を少なく、時間を短く、参加人数を制限することが推奨されている。 無駄な会議になってしまう主な要素: はっきりとしたアジェンダがない 何も発言しない人が参加している 次のアクションが決まらない 10分で済む内容に60分かける 意思決定者が参加していない 無駄に参加人数が多い などが挙げられる。 ムダだらけの会議 – 海外から見た日本式ミーティングの謎 無駄になるワークショップとは? ワークショップさえ行えば会議での課題が簡単に解決すると思っている人もいる。しかしそれは大きな間違い。 ワークショップをやったからといって全てがうまくいくとは限らない。その最も大きな原因は、そもそも達成したいゴール (目的) と手段 (ワークショップ) が合致していないことだ。 具体的には、目標がはっきりしていなかったり、参加者が活動自体が無意味に思えたり、何も達成できていないような気がしたりなど。多くの場合、適切なファシリテーターが不在であることが原因だったりもする。 無駄なワークショップになってしまう主な要素: 達成すべきゴールが曖昧 プログラム内容が適切にデザインされていない ファシリテーター不在 ファシリテーターのスキル不足 参加者同士の信頼関係ができていない 他の業務に中断され、内容にフォーカスできていない 上司の顔色を伺いながらのアウトプット などが挙げられる。 デザイン思考の本質とは?—新米ファシリテーターの経験を通して気づいたこと ワークショップは万能ではない ワークショップをやる目的でワークショップを開催する、手段の目的化が起きているケースもある。特に最近はデザイン系のワークショップが流行っていることもあり、とりあえずやってみたいという要望が後を絶たない。 長時間同じ部屋にみんなを集めれば魔法がかかると思っている人も少なくない。 しかし、我々のようにクライアントに対してワークショップを企画・実行するデザイン会社としては、とりあえずやってみる前に一度目的の設定や参加者の選定など、企画段階をしっかりと詰めることをオススメすることが多い。 これは、解決すべき問題があらかじめ定義されていない場合や、コラボレーションの必要性がない課題、または事前の十分な計画がない状態だとワークショップは時間の無駄になってしまうため、これらを未然に防ぐためである。 そして、内容が稚拙なため、意思決定者などの重役レベルの人もそのようなワークショップの招待を拒否することが多い。 会議とワークショップ: それぞれの目的と役割 会議は参加者が情報を交換し、ディスカッションをするための方法である。 それに比べてワークショップは問題を解決することが目的。アイデアを生み出すことに時間を割き、グループが実行可能なゴール達成するための実践的な活動である。 簡単に言えば、会議は物事を議論する場所で、ワークショップは物事を実行に移す場所である。 この違いから、会議では多くのトピックを浅くカバーするのに適しているが、ワークショップは問題を深く集中的にカバーするのに適している。 会議とミーティングのそれぞれの目的や方法 会議の目的と種類 出席者が情報を発信したり受け取ったりするための専用の時間と場所を設けるのが会議の主な目的となる。会議の中では、いくつかのトピックをカバーすることができる。 一方で、決定や行動項目は、必ずしも同じ集まりの中で定義されたり、その場で即座に行動に移されたりする必要はない。 会議の種類と目的には下記が挙げられる: プロジェクトキックオフ プロジェクトの概要や役割などの重要な情報を話し合うために、チームメンバーが一堂に会してプロジェクトに取り組む最初の集まり。 スタンドアップ 機能横断的なチームがプロジェクト全体の進捗状況や障害に関する最新情報を共有するために、毎日素早く(通常は15分程度)報告会を行う。 振り返り 定期的に行われるディスカッションで、チームがどのように連携して仕事をしているかを振り返り、プロセスを改善する方法を検討する。 1on1 リードやマネージャーが直属のメンバーと会い、プロジェクトや個人の成長、キャリアアップの機会について話し合うための時間。 リーダーチームミーティング 複数のサブチームにまたがる機能横断的なリーダーが集まり、進捗状況、学習内容、未解決のアクションアイテムについて議論する。 デザインチームミーティング UXやデザインチームのメンバーが一堂に会して、仕事や知識、インスピレーションの源を共有する機会。 デザインレビュー デザインチームのメンバーが進捗状況を発表し、デザインに対するフィードバックを受ける。 オフサイト チームメンバーがオフィス外の場所に集まり、ディスカッションを行う。普段と異なるセットアップのカジュアルな雰囲気の中で、気持ちのリフレッシュにもなり、新しいアイディアが出やすくなる。 オフィス外でのミーティングを行うのも効果的 ワークショップの目的と種類 複数のチームからのインプットと同意を必要とする状況や、同じタイミングでのディスカッションと深い考察、そして意思決定が求められる状況においては、共同作業の実践的なワークショップ形式に適している。 ビートラックスが企業向けに提供しているデザインスプリントも素早いスピードでの正しい意思決定を一番の目的としている。 ワークショップの種類と目的には下記が挙げられる: ディスカバリーワークショップ チームメンバーと主要な知識保有者が集まり、現状を理解した上で今後のプロジェクトのマイルストーンや計画の方向性を決めていく。 チームビルディング 業務にあまり関係ないテーマを元にチームごとに一つのゴールを達成するために競うゲームなどを通じてチームの連帯感をアップさせる。 ユーザー共感ワークショップ デザイナー、研究者、その他の関係者がサービスを設計する前に、ユーザーのニーズについての共通理解をするために行う。 デザインワークショップ 複数の部署から主要チームメンバーが集まり、様々な視点からのアイデアを迅速に生成し、議論する。 優先順位付けのワークショップ チームメンバーおよび他の主要な意思決定者がどの項目が最も重要であるかを決定し、それらに優先順位をつけるために一緒に集まり行う。 アイディエーションショップ ビジネスやサービスの内容をできるだけ多く出すことにフォーカスを当てたワークショップ。質より量を重要視する。 レビューワークショップ デザインプロセスに不可欠な役割を担うメンバーが協力して、目的に照らし合わせてデザインを分析・改善する。 ビートラックスで行われているワークショップの様子 会議とワークショップの構造的違い ワークショップと会議では基本的な目的が異なるため、それぞれの構造も異なるべきである。多くの場合、会議はワークショップよりも受動的なもので、参加者はほとんどの時間を話したり聞いたりしている。 しかし、最近の会議のトレンド、特にオンラインミーティングでは、より雑談を促進するためにあえて議題と異なる日常生活の話をしたり、クイズを出したり、普段無口なスタッフにあえて話を振ることで、チームワークを促進するケースも増えている。 もちろんワークショップでは、参加したメンバー全員からのフルコミットが求められる。話したり聞いたりだけではなく、スケッチをしたり、プロトタイプを作ったり、寸劇を通じてアイディアを発表することも多い。 会議における理想的なアジェンダ スタンドアップ会議や1on1の会議など、日常的に行われている会議であっても、アジェンダを作る利点は大きい。 時間の経過とともに変化する議論項目に柔軟に対応できるようなアジェンダを導入するための効果的な方法の一つとして、会議の前に自由形式の質問を短いリストにして投稿者に提供する方法がある。 オンライン会議の場合は、チャットシステムなどを活用してリアルタイムで質問を送ることも可能。 例えば、従来の日常的なスタンドアップでは対話が軌道に乗るように、決められた項目に沿って質疑を行う。それにより短時間で求められる情報共有が可能になる。 スタンドアップで利用される質問リスト […]

Appleの復活と躍進のシンボル iMacの進化をデザイン視点で振り返る

iMacはデザイン・イノベーションのシンボル 初代・2代目iMac:“パソコンっぽくない”デザインで世界に流行を巻き起こした 3代目iMac:Appleの姿勢の現れ、デザインの重要性を追究したプロダクト 4代目・5代目iMac:Appleのスタイルを確立したエレガントでシンプルなデザイン 6代目iMac:プラスチックからアルミニウムへ、持続可能性も考慮したデザインに 圧倒的な先進性と変わらぬデザイン哲学、iMacにはタイムレスな魅力がある Appleは史上初の時価総額2兆ドルを超えた企業になった。もちろん同時にその時点で世界で最も価値のある企業になったということである。グローバルブランドランキングでも堂々第一位を獲得。名実ともに世界一の会社になっている。 一時期は倒産寸前まで追い込まれていた企業とは思えないぐらいの大躍進をしたことになる。 そのAppleを復活させたのはティーブ・ジョブスであることは間違いない。一時は会社を去った彼が復帰したことで、Appleは「救済」された。 そして起死回生を支えたプロダクトが紛れもなくiMacである。 20数年前に瀕死の状態だったAppleはジョブスが復帰しiMacをリリースしたことで息を吹き返し、今日に続く大きな成長を成し遂げた。 iMacの歴史はデザイン・イノベーションの歴史 デザイナーにとってiMacのデザインストーリーから学べることは多い。色、形、素材、小型化の探求は、リリースされるごとに大きなブレークスルーをもたらした。 また、iMacというプロダクト自体がイノベーション、ビジネス戦略、ハードウェアデザイン、ソフトウェア開発、ユーザー体験全てにおいてイノベーションの本筋を学ぶ優れた教材にもなっている。 Apple復活、そして躍進の象徴でもあるiMacのデザインの進化を見てみよう。 初代iMac (1998): Appleを倒産から救った革命児 1985年にAppleを去ったスティーブ・ジョブズが同社に復帰したのが1997年。その際に真っ先に手をつけたのが、プロダクトラインの一新である。 ジョブスがいなくなった後のApple製品は数が多すぎたし、何よりもデザインがどんどんダサくなっていった。それに対してジョブスは大胆にほとんどのプロダクトを廃止。 限られたリソースを「一つのプロダクト」にフォーカスした。そして、急ピッチでデザイン・開発され、復帰第1弾としてリリースされたのが初代のiMacである。 ジョブズがアップルに復帰して最初にメジャーリリースされた初代iMacは、当時インダストリアルデザインのVPを務めていたジョナサン・アイブを世に送り出したコンピュータであると同時に、Appleが復活の道を歩むことを発表したマシンでもある。 申し訳ありませんが、ベージュはありません。 iMacのデザインは、ベージュの四角い箱に入っていたそれまでのパソコンの常識を全て覆した。ブルーのな半透明の筐体に全てが入れられ、CPUとディスプレイが一体型。 ちなみにこの色の正式名称は”ボンダイブルー”で、ジョブスがオーストラリアのボンダイビーチの海の色からインスパイアされてつけた。 この半透明のデザインスキームは、キーボード、マウス、そしてUSBケーブルに至るまで細部にまで採用された。その後、キャッチーな5つのカラーオプションも追加した。 そしてその色の名前自体がおしゃれ。 ボンダイブルー ブルーベリー グレープ タンジェリン ライム ストロベリー 初代iMacの全てが“パソコンっぽく”なかった。それはまさに“レトロフューチャリズム”を体現したデザイン。 当時はことキャンディカラー&スケルトンのデザインスキームをパクる企業が続出するほど大流行した。 ちなみに、このiMacの鮮やかな色合いは、1960年代のオリベッティ・タイプライターからインスパイアされたと言われている。 初期のボンダイブルーに追加された5つのカラーオプション デザインの可愛らしさに人気が集まり、教室やリビングルームに置くパソコンとしても大人気。Macというプロダクトを一部のマニアックなファン向けから、学校や家庭で使えるみんなのパソコンに成長させた。 また、多くのWindowsユーザーが初めてMacに乗り換えるきっかけにもなったプロダクトでもある。 そして、性能も当時にしては十分。インターネット時代のために作られたApple初のコンピュータでもあった(“i”はインターネットの意味)。 ただ、こだわって”まん丸”にデザインされたマウスは手首が痛くなるほどめっちゃ使い難かった。 2000年にリリースされた2代目ではデザインと性能の改善をするとともに、インディゴブルーをはじめとした、13色の豊富なカラースキームを提供した。 2代目iMacに採用された13色のカラースキーム 3代目iMac (2002): フラットスクリーンを採用した通称 ランプiMac 初代および2代目iMacの大きなプレッシャーを受け、次にリリースされるiMacに世の中の注目は集まった。しかし、結果としてそれは良い意味で期待を大きく裏切る結果となった。 2002年のMacworld San Franciscoにて、iMacのデザインの話題は色から形へと移った。ここで発表された3代目のiMac、正式名称 iMac G4はその形を大きく変化させ、カラーバリエーションは白だけになった。 そのシェイプは再びパソコンの常識を覆すものであった。むしろその形は家電に近く、動く姿はまるでピクサーのオープニングアニメーションに登場するLUXO Jrランプのアニメーションを彷彿とさせ、このモデルは通称ランプiMacやiLampと呼ばれた。 実際、ピクサーはAppleと協力してiMacを題材にした2つの短編アニメーションを制作した。 ピクサーからインスパイアされたiMacのCM この世代のiMacからディスプレイがCRTから液晶フラットパネルに移行した。その裏にはジョナサン・アイブによる「重力に逆らっているように見える」デザインを実現する狙いがあった。 磨き上げられたネックに吊るされた15インチの液晶パネルは、iMacの部品を収納するドーム型のベースに固定されている。コンピューターの筐体とディスプレイを区別することで、LCDパネルを薄く動かしやすいデザインを実現した。 この設計により、ディスプレイを360°縦横無尽に動かすことを可能にした。キーボードもマウスも透明感を残しながらも進化させた。 その当時ジョナサン・アイヴは、彼のこだわりが凝縮されたモデルだと説明。与えられた制約を生かし、限りなくエレガントなデザインを生み出した。 確かにそれは初代iMacにも劣らない革命的なデザインであり、シンプルさの追求でもあった。そして、無機質なプロダクトに「可愛らしさ」を追加することでより親しみやすさをアップさせた。 この斬新なデザインが評価され、現在、近代美術館の建築デザイン部門にも展示されている。 Appleではデザインが最も重要であり、テクノロジーはそのデザインを実現する手段として極限まで追及されていることを体現したプロダクトでもある。 ソフトウェア面を見ても、iTunes, iMovie, iPhotoなど、現在も利用されているアプリの源流であるiLifeシリーズのソフトウェアがプリインストールされたのもこのモデルからである。 しかし、この世代のiMacに弱点がないわけではない。デザイン性を追及した結果、スピーカーを内蔵することができず、外付けにせざるをえなくなった。 外付けスピーカーを余儀なくされた3代目iMac 4代目iMac (2004): iPodのデザインモチーフをパソコンに採用 次世代iMacのキャッチコピーはシンプルだった。それは、”From the creators of iPod(iPodの生みの親たちから)”だ。 これは、Appleのビジネスが音楽プレーヤーによって急速に変貌を遂げたことを端的に表している。 かつては単目的のアクセサリーだったiPodは、この時点で現代の多くのユーザーのデジタルライフスタイルに欠かせない存在となり、iMacにもデザインにも直接影響を与えている。 このモデルの正式名称はiMac G5。デザイン面では、これまでの奇抜なシェイプや素材ではなく、よりシンプルに洗練されたスタイルを追及。フラットパネルディスプレイに本体のパーツ全てを格納することで、究極のエレガントさを生み出した。 ディスプレイの厚みは2インチ弱。アルミニウム製の台座に吊るされたiMac G5は、当時世界で最も薄いデスクトップコンピュータだったとAppleは主張していた。 先代に引き続き、カラーは白のみでディスプレイサイズは17インチと20インチの2種類。全体のシェイプ、雰囲気、プラスチックの質感の全てがiPodとのデザイン的共通項となっていた。 このデザインを踏襲した第5世代では、より薄く、性能をよりパワフルに、そしてiSightカメラを標準装備することでオンラインコミュニケーションに動画の概念を導入した。 2006年にはそれまでで最も大きなスクリーンを持つ24インチのモデルを追加した。この辺からが現在のiMacに直結したデザインスキームが始まっている。 iPodのデザインスキームを採用した4代目iMac 6代目iMac (2007): プラスチックからアルミニウムへ、時代が変わる iPodがiMac G5のデザインに影響を与えたように、iPhoneも次世代iMacにインスピレーションを与えた。 この世代からそれまで一貫して採用してきたデザインスキームである透明感から、新しいデザインスキームである”メタル感”への移行を進めた。これは同じ年に発表された初代iPhoneと同じ。 プラスチックはほとんど使われず、黒いガラスのベゼルとアルミニウムの筐体に囲まれた大きくて光沢のあるディスプレイは、iMacを一瞬にしてよりモダンな印象にした。 外側のケーシングには、RAMアップグレード用のスロットにアクセスするために、目に見える一本のネジが使われている。同様のスタイルは、AppleのCinema DisplayやユニボディのMacBookにも採用された。 スティーブ・ジョブズは、プロのユーザーは新しいデザインが従来のモデルよりもプロ用のコンピュータに似ていると感じ、消費者はさらにハイエンドのコンシューマー向け製品に似ていると感じていると説明。 このユーザーフィードバックをもとに、MacBookやディスプレイもそれまでプラスチックから、アルミやチタン合成をメイン素材として採用し始めている。 アルミをメイン素材としたMac Proとディスプレイ また、この時期から世の中ではテクノロジー企業やデジタルデバイスの環境に対する影響が叫ばれ始めていた。 それはAppleに対しても例外ではなく、20インチや24インチのディスプレイへの移行は、すべてのパーツにおいてさらに多くの材料が使われることを意味していた。 プラスチックに比べ、アルミニウムとガラス素材はリサイクル性にも優れてる。プラスチックからアルミニウムとガラスに切り替えたことは、持続可能性の面で大きな飛躍を実現した。 その後、よりシンプルさを追及するために、マウスもキーボードもワイヤレスを採用した。2009年の7代目ではUnibodyを、2014年にはRatina 5Kのディスプレイを実現した。 その後もiMacはシンプルさと性能の追及は続けられ、エレガントなデザインとカテゴリー最高レベルの性能の両立を達成し続けている。 まとめ: iMacはそれぞれの時代における最高峰のデザインの体現 このようにiMacは時代とともに進化を続け、現在の姿にたどり着いている。新しいモデルがリリースされるたびに「その手があったか!」という感を受ける。 それはAppleが常にデザインの限界を推し進め、与えられた制限の中で最大限のデザインを成し遂げることで常に時代の最先端を進んでいることがわかる。 […]

これからの企業が不況の中で成長したビジネスから学べる4つの教訓とは

新型コロナウィルスの拡大で世界的にGDPが低下 不況に強いとされる5つの産業 不況がきっかけで誕生・成長した企業 リーマンショック直後に生まれた多くのスタートアップ 不況がイノベーションに不可欠な理由 新型コロナウィルス の経済に対して与える影響が少しずつ表に出始めている。内閣府の発表によると4~6月期の国内総生産(GDP)速報値は物価変動の影響を除く実質で前期比7.8%減、年率換算では27.8%減だった。 マイナス成長は3四半期連続で、減少率は比較可能な1980年以降でこれまで最大だった2009年1~3月期(前期比年率17.8%減)を超えた。 世界レベルでの実質GDP増減率 (年率) 落ち込みはリーマン時の3.5倍 日本はまだマシな方で、国外を見てみると主要国の2020年4~6月期の実質国内総生産(GDP)は前年同期比9.1%減少した。リーマン危機時の約3.5倍の落ち込みとなった。 特にイギリス、フランス、イタリアなどのヨーロッパ各国の低下が目立つ。また、アメリカも日本を上回る低下を見せている。 出所: 時事通信 作成: 2020.8.16 Masashi Hagihara 実際にアメリカのスタートアップ界隈でもレイオフが進み、全米での失業率も急激に増えてきている。 コロナの影響でアメリカのスタートアップではどのくらいレイオフが進んでいるのか 不況こそイノベーションを生み出す最適なタイミング これだけを見ると、悪いことしか起こっていないように感じられる。しかし、歴史的には多くのビジネスやサービスが不況の最中に生み出されている。 現在でもユーザーに愛されている多くの企業やブランド、製品のその多くは景気が良い時よりも世の中に大きな変化がもたらされた時期にリリースされたケースが少なくない。 米国ユーイング・マリオン・カウフマン財団による2009年の調査によると、フォーチュン500社のうち不況や弱気市場で創業した企業の割合は驚異的に57%に達している。 その主な理由としては: 世の中が大きく変革することで新たな社会課題が生まれる 就職できなかった人が起業家になってビジネスを始める 人件費などのビジネスを行う上でのコストが下がる 倒産するビジネスが多くなるため、競合が少ない ニューノーマルが生み出す4つの意外な社会課題 不況に強いとされる5つの産業 歴史的に見ると不況や景気後退の影響を受けやすい業界もあれば、景気がどうなろうと業績が好調な業界もある。 景気に全く左右されない企業は無いが、失業率が上昇したり、消費者心理が低下したりしても、次のような業界は好調な業績を上げている傾向がある。 日用消費財 景気がどうなろうと人々は特定の日用品を定期的に必要としている。 歯磨き粉、石鹸、シャンプー、洗濯洗剤、食器用洗剤、トイレットペーパー、ペーパータオル。これらの製品は常に需要があるため、消費者の必需品とされている。 P&Gは不景気の時期にに自社のブランディングに注力し、業績を成長させた歴史がある。 スーパー・ディスカウントストア 不景気になると外食を控える傾向があるが、消費者はどこかで食品を購入する必要があり、その多くはスーパーやディスカウントショップで購入される。 ウォールマートやコストコは不景気になる程業績が伸びている。 酒類メーカー 調査によると、不況時には消費者はアルコールやその他の悪徳品に費やす総額が少なくなる傾向にあるが、バーよりも家で飲む機会が増える。そしてより安価な製品をより多く購入するにつれ飲酒量は増加する傾向にある。 不景気が与えるストレスもアルコールの需要を高める理由になる。 コスメ関連 不況にもかかわらず、女性も男性も社交的な場や仕事場での外出時には身だしなみを整えたいと考えている。 例えばエスティローダーは、不景気で人々の気持ちが沈む時期に、少しでも明るい気持ちになれる真っ赤なリップが大ヒットして業績を伸ばした。 葬儀関連のサービス 人生で確実に訪れるのは「死」と「税金」の2つと言われる。不況の際に必ずしも業績が上がるわけでは無いが、葬儀関連のサービス景気に左右されない産業である。 不況がきっかけで誕生・成長した企業 それでは実際に不況の時期が一つの転機となった企業の例を紹介する。 GE – 1980 天才発明家エジソンがジェネラル・エレクトリック社 (GE) をニューヨーク州で設立したのは1890年。世界経済が不況に陥っただけでなく、米国経済の崩壊と金の供給不足に直面した。 しかし、同社は生き残り、1896年にはダウ・ジョーンズ工業平均株価の12社のうちの1社となり、113年後の今日に至っている。 IBM – 1896 IBMが1896年にニューヨークで設立された頃、米国経済は長期的な低迷に至っていた。 その後、1924年にトーマス・ワトソンが経営を引継ぎ、パンチカードのコア技術をベースに大企業のクライアントとの大規模なプロジェクトの獲得に注力することで会社を急成長させた。 その成長の秘訣は「ビッグ・ブルー」と呼ばれるようになった同社の文化的基盤だと言われている。 General Motors – 1908 1908年9月16日にミシガン州フリントにゼネラル・モーターズが設立された。当時、米国の金融システムが再び暴落し、連邦準備制度の創設を促すきっかけとなった暴落から立ち直ろうとする中、GMはオールズモビル、キャデラック、リライアンス・トラック・カンパニーなどのブランドをわずか1年の間に買収した。 1923年にアルフレッド・P・スローンが引き継ぎシボレーブランドが飛躍たことで、1980年代まで続く前例のない成長曲線を描いた。 Disney – 1923 兄弟ウォルトとロイディズニーは1923年にディズニーブラザーズカートゥーンスタジオをロサンゼルスにあった叔父ロバートのガレージ設立した。 そこで不思議の国のアリスやラッキーラビットのオズワルドなどの作品を制作。しかし、当時は大恐慌の真っ只中で、しばらくは鳴かず飛ばずでだった。 転機となったのはミッキーマウスの登場だった。ミッキーは、会社を新たな高みへと押し上げ、世界一のエンターテインメント企業にまで成長させた。 Apple, Google, ディズニーも最初はこんな小さなガレージからスタートした Microsoft – 1975 1975年、米国はスタグフレーションに陥っていた。失業率の上昇とインフレ率の上昇とGDPの低迷が重なり、OPECが原油価格を4倍にすることを決定した結果ガソリン価格が大幅に高騰した。 ビル・ゲイツとポール・アレンは、最初の顧客の本社近くのアルバカーキ(N.M.)にマイクロソフト社を設立した。 その後、1979年にワシントン州ベルビューに移転した同社は、MS-DOS、Windows、Microsoft Officeなどの製品を立て続けにリリースし、世界一のIT企業への急速に成長した。 CNN – 1980 連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ抑制のために積極的な利上げを決定したとき、それは「二番底」と呼ばれる不況を引き起こした。 1980年6月1日(日)午後5時、メディア起業家のテッド・ターナー氏がカメラの前に立ち、24時間ニュースを放送する米国初の新チャンネル「ケーブル・ニュース・ネットワーク」を視聴者に紹介したのはこのような谷間の最初の出来事だった。 現在では、1982年にCNN2という名前でデビューした姉妹ネットワークのヘッドライン・ニュースとともにCNNのニュース番組は世界中のテレビで見ることができるほどに成長した。 ユニクロ – 1997 前身の「ユニーク・クロージング・ウエアハウス」が設立されたのは1984年だが、ユニクロとして最も飛躍したのがバブル崩壊後の1997年頃から。 その時期よりプライベートブランド)の売上比率を一挙に高め、製造直売小売業(SPA)に業態転換したことで大きく飛躍した。翌年に発売された「フリース」は衣料は2~3万枚も売れればヒットといわれた時代に、200万枚も販売を記録した。 翌年は800万枚のメガヒットを記録し、日本中がフリースブームに沸いた。ユニクロはバブル&デフレの波に上手に乗ったことで大躍進を遂げたことになる。 Apple – 2001 もちろんAppleの創設は2001年ではなく、1976年。しかし、現在の急成長の基盤を作ったのはジョブスが同社に復帰して数年後の2001年頃。その時期は、ドットコムバブルが崩壊し、テクノロジー系の企業に関わった多くの人が苦い経験をしていた。 ジョブズがエンジニアチームに依頼してiPodのプロトタイプを開発したのもこの頃のこと。2001年10月23日に発売された5GBのiPodは、わずか1年の開発期間を経て”ポケットの中に1000曲を入れる “を可能にした。 そして、iPodとそのiTunes音楽プラットフォームは瞬く間にヒットしただけでなく、iPhoneやiPadへの道を切り開き、Appleを世界のトップ企業として再確立させた。 【クレジットカード革命】Apple Cardから学ぶ革新的UXデザインのポイント リーマンショック直後に生まれた多くのスタートアップ スタートアップの事例からも学んでいこう。 おそらく直近で一番記憶に近い大きな不況が2008年頃に起こったリーマンショックだろう。実はこの直後から、現在多くの人に利用されているサービスが生み出されている。 […]

2020年が日本のデザイナー達に与える12のインパクト

2020年もすでに下半期に入っているが、すでにあまりにも多くの事柄が起きており、人々の生活、働き方、価値観もが大きく変化している。そこには新しい課題が生まれ、それを解決するためのソリューションが速いスピードで求められる。 デザインが問題解決に対する最適な方法を見つけるための手段であるならば、この時代がデザイナーに与える影響も少なくはない。これからの時代にデザイナーやデザイン会社、そして社会全体に求められるデザインに関するインパクトを考えてみた。 企業価値にデザイン力が大きく影響する 経営層にもデザイナーが参加し始める より広い視野でデザインを行わなければならない 他のスタッフの視点からものづくりを考えなければならない 行動心理学の理解が重要なデザインスキルになる ユーザー視点はお客様第一ではないことを理解する 人工知能 (AI) と仲良くデザイン作業を行う時代が近づいている デザイナーはデータを理解し活用しなければならない スクリーン以外のユーザーインターフェースをデザインする時代 よりコミュニケーションスキルが重要になってくる キャリアアップにはスキルアップとスキルチェンジの両方が必要になる グローバルに活躍できないデザイナーは頭打ちになる 一つの時代の節目ともなる2020年。これからデザイナーの役割とそれを取り巻く環境の変化に関して、我々ビートラックスが信じているデザイナーの未来をご紹介したい。 1. 企業価値にデザイン力が大きく影響する 2020年に入ってからもシリコンバレーを中心としたテクノロジー企業であるGAFAやTeslaの株価が大幅に上がり続けている。世界的に見ても企業価値が高い企業には一つの共通点がある。 それは、デザインをとても重要視している点。特にUXやCXデザインと言ったユーザーの直接のタッチポイントになるエリアに対する投資が非常に大きい。 スタートアップ企業の将来的価値を計る際にもデザインに関する知識やスタッフの能力、設備等の要素が評価の基準となるだろう。 一部のシリコンバレーのVCではいち早くデザイン業界経験のある人材獲得を進めている。また、Google Venturesも、スタートアップの価値を判断するときや成長ステージにおいてもデザイン力を非常に重要視していることで知られている。 ということは、世界的な視野で見ると、今後デザイナーの需要はどんどん高まると考えられる。 統計データで見るデザインの経営に対するインパクトの大きさ 2. 経営層にもデザイナーが参加し始める デザインがビジネスに与える影響が大きくなるにつれてエクゼクティブチームにデザイナーを参加させている企業が増えてきている。 物事の捉え方や解釈の仕方、また判断を下すときなどにもデザイン的考察を入れることで結果に大きな差が生まれる。これは、変化のスピードがどんどん加速していく中でロジックだけでは説明のつかない状況がどんどん増えていくのが理由だ。 企業のトップも、言葉や数字だけでは説明しきれないけれど“どこか良いと思わせる”何かに気づくが一つの重要なスキルとなる。 これまでは、“センス”や“直感”などの言葉で認識されていたが、それこそがもしかしたらデザイン的な感覚ではないかと思う。判断に迷ったらデザイン理論的に優れた方を選べば間違いはない。 アメリカでは既にCDO (Chief Design Officer)や、CCO (Chief Creative Officer)などの役職のポジションも存在する。そう考えると、現在はデザイナーとして働いている人でもキャリアパスとして企業の役員や、場合によっては社長を目指すことも間違っていない選択なのかもしれない。 【デザイン × 経営】ビジネスにおけるデザインの価値を追求する7人の起業家 3. より広い視野でデザインを行わなければならない 最近は日本でも知名度が高まってきている「ダイバーシティー」という単語。「多様性」を意味するが、具体的にはどのような要素が含まれているのだろうか?LGBTなどに代表される性別的な要素や人種はわかりやすい例であるが、それ以外にも複数のファクターが存在している。 世界中には様々なバックグラウンドを持つ人々がいるが、一つの場所で生活しているとどうしてもそれを忘れがちになる。特に日本国内に住む98%が「日本人」であることを考えると日本が相当ダイバーシティの低い国であるということになる。 日本と比べても実に多種多様な人種が集まっているアメリカでもまだまだ多くのデザインが画一的なデモグラフィーを中心に考えられており、マイノリティーと言われるユーザーを考慮していないケースが少なくない。 それを象徴するのがターゲットを性別と年齢だけで区切ってしまう手法。おそらくこの手法は日本国外へ出た瞬間に一瞬で通用しなくなる。 加えて、今後は日本にも海外からの移住者がどんどん増えていくことを考えると、日本企業も早い段階からダイバーシティーへの理解とインクルーシブデザインの採用を進めていく必要があるだろう。 インクルーシブデザインとは?現代の多様性に寄り添う7つの実例 4. 他のスタッフの視点からものづくりを考えなければならない デザイン思考の基本はユーザー視点でものづくりを進めることであるが、デザイナー職の人たちはどうしてもデザイナー的視点に終始しがちなところがある。 デザインの役割が広がってきている現代においては仕事上で関わる人の幅も広がる。これまではデザインチーム内で仕事をしてきた人も、エンジニアやビジネス、場合によっては人事系の役割の人たちとのコラボレーションも増えてくるだろう。 そうなった際に相手の気持ちを理解するために、相手の仕事内容に加え、技術面も多少は身につけておくとコミュニケーションが非常にスムーズに進む。 例えば、デザイナーとエンジニアは2つの異なる職業とされて来た。しかし、テクノロジーが進むにつれエンジニアの経験やバックグラウンドを持つデザイナーは非常に重要な人材となるだろう。 逆にデザイナーからエンジニアに転身することも珍しくはない。この2つの職業の境界線はどんどんなくなり始めている。今後は、僕はエンジニアだから…, 私はデザイナーだから… などの言い訳は出来なくなる。 【これからのスキル】デザイナーとエンジニアの境界線がどんどん無くなる 5. 行動心理学の理解が重要なデザインスキルになる User Centered Design (ユーザー中心のデザイン) を行う歳には、利用する人の目的を最も正しい方法で達成するためのデザインが必要とされる。その目的を果たすために利用時のユーザーの心理を捉え、理解し、それに対して最適な施策を打ち出す必要がある。 例えばUXデザイナーでデザイン科卒ではなく心理学や人間工学、人類学を学んだ人も意外と多い。 逆に考えると、これまではデザインだけを学んで来た人も今後は上記のようなその他の幅広い学問の知識も必要とされるということだ。人間という生き物をより理解することでより最適なデザインを作り出せるようになる。 そういった意味では、脳科学を学ぶことで人間の脳がどのようなデザインにどう反応するかを理解することが出来たりもする。 人々の行動を変える行動心理学の力【ビヘイビアデザイン】 6. ユーザー視点はお客様第一ではないことを理解する 日本で古くから商習慣として根付いている「お客様第一主義」は素晴らしい。しかし、そこからはなぜか世の中を驚かせるようなソリューションが生まれにくい。おそらくその理由は、お客様第一主義とユーザー中心デザイン (UCD) が似て非なるものだからだろう。 ビジネスやプロダクトデザインにおいて、お客様の声を最優先することは一見当たり前のように感じる。しかし、お客様の声をそのまま商品に反映するのと、その潜在ニーズをより深く理解し、顧客の想像を超えるレベルのプロダクト作り出すのとでは、結果に大きな差が生まれる。 少し前に話題になった「ここがちゃうねんデザイン思考」にも紹介されている通り、ユーザー視点で物事を考えることは、顧客の言うことをすべてやることではない。 お客様第一主義とユーザー中心デザインの違い 7. 人工知能 (AI) と仲良くデザイン作業を行う時代が近づいている ユーザーにとって最適な見た目のデザインや体験を、システムが自動的に生成することも理論的に不可能ではない。そうなってくるとデザイナーの仕事は無くなってしまうのか?いや、むしろ、そのAIを最大限活用することこそがデザイナーの仕事になってくる。 人工知能や機械学習などのシステムが得意とするところと、人間が得意な部分を掛け合わせシステムにもより良いクリエイティブ作成を教えることによって、最も効率的で効果的なデザインを行うのがデザイナーの仕事だ。まさに人と機械のハーモニーがゴールの仕事である。 機械に仕事が奪われるのではないか?と危惧する声もあるが、0から1を作り出すこと、これは機械には出来ない。AIは過去のデータを元に未来を予測することは出来るが、全く新しいものを作り出すのは人間にしか出来ない。デザイナーやエンジニア等のクリエイティブな仕事はこれからもどんどん必要とされていく一方であろう。 人工知能 (AI)や機械に絶対奪われない3つのスキル 8. デザイナーはデータを理解し活用しなければならない デザイナーが感覚やデザイン理論だけをベースに仕事を行う時代は終わるだろう。何が本当に正しいデザインかの判断をある程度データから読み取る必要がある。そして、常にデータを分析しながらデザインの改善を行う。 それぞれの目的に沿った正しいデザインを行うためにはデータありきで仕事をしなければならない。特に、ユーザビリティやユーザーエクスペリエンスなど、利用するユーザーありきのデザインの結果はデータが全てである。 ユーザーとテクノロジーをつなぐのがデザイナーの仕事だとしたら、データをビジュアル化する役割としてのでデザイナーの存在価値がどんどん高まっていくだろう。 では、急激なスピードで増え続けている膨大なデータを今後どのように活用していけば良いのか。この課題を抱えていない企業は恐らくないだろう。 得られた数字を元にデザインを柔軟に変更し改善を進めて行くことが重要になっていく。これからはデザイナーとデータサイエンティストという、一見関係の薄そうな2つの職業が密接に関連してくるだろう。 デザインには直感とデータどちらを採用すべき? 9. スクリーン以外のユーザーインターフェースをデザインする時代 デザインが必要とされるデバイスの種類がどんどん広がっている。これまでは“紙かスクリーンか?”の2択だったアウトプット媒体も、AR/VR、ジェスチャー、ボイスコマンド、そして脳波まで様々なインターフェースを通じてユーザーとの対話が行われ始めている。 そんな中で、全く新しいジャンルのデザイナーの必要性が高まってきている。例えば、例えばリアルタイムで生成される3Dオブジェクトの表示方法や、人工知能 (AI) をベースとしたシステムを活用してVR環境内を動き回るアバターキャラクターのデザインなど、これまでには存在していなかったタイプのスキルが必要とされる。 また、感染を減らすための非接触インターフェイスのデザインや、リアルな画像/動画とバーチャルオブジェクトを組み合わせた形のいわゆるAR型インターフェースのデザインの出現も予想される。そこにはPCやスマホなどの既存のデバイスとは別次元の操作性とユーザー体験の設計が求められる。 目に見えない動きやインタラクションをデザインするには、新たな表現方法が必要とされてくる。 今さら聞けないユーザーインターフェイス (UI) の基本 10. よりコミュニケーションスキルが重要になってくる デザイナーと言うと、絵を描いて形だけを決める仕事だと勘違いしている人が多いのだが、実はそれらは最終アウトプットのごく一部。本来デザイナーの仕事というのは、与えられた制限の中で求められる最大限の結果を生み出すプロセスのその全てに関わる職業である。 […]

成功するブランド名やプロダクトのネーミング方法【ブランディング入門#4】

ヒットするブランド名を考えるには具体的な手法がある 世界的な有名ブランドの名前の由来 偶然ではない!成功するブランドやプロダクト名に共通する3つの法則 ネーミングの際に気をつけたい6つのポイント 6つのタイプ別ネーミング事例 ビジネスアイディアを考え、プランを作成したは良いが、商品やサービス、そして会社名などのいわゆる“ブランドネーム”を何にするかで悩んでしまうケースは意外と多い。 響きが良く、海外の人達にも覚えてもらいやすい。そして、時間が経っても色あせない、そんな優れたブランド名を考えるのは容易ではない。一方で、成功する名前を付けるのは、グローバルブランド構築の第一歩でもある。 有名ブランド名の由来 まずは、現在著名になっているブランド名の由来を見てみよう。有名な内容から、全く知られていないネーミングの秘密もあり、面白い。 ナイキ: Nike ギリシャ神話の勝利の女神の名前から。 アップル: Apple 創業者のスティーブ・ジョブスが果実食主義者であり、それまで勤めていた会社「ATARI社」よりも電話帳で前にくる名前にしたかったため。 パンドラ : Pandora 音楽サブスクリプションのPandoraは由来は、ギリシャ神話のアポロが音楽のプレゼントをPandoraに与えたことに由来する。 ニベア : Nivea ニベアはラテン語で雪の白さを表す単語。白いスキンクリームを表す名前として選ばれた。 キャディラック : Cadillac デトロイト市を設立したフランスの冒険家の名前が由来。 レゴ : Lego デンマーク語の“leg godt (よく遊ぶ)”から。 ソニー : SONY ラテン語で音を表す“Sonus”から ハーゲンダッツ : Haagen-Dazs “ハーゲンダッツ”という響きからヨーロッパのブランドっぽい。しかし、それは大きな勘違い。ブランド名自体は全くの造語であり、意味は全く無い。実は創設者が“ヨーロッパ風”のブランド名を狙い、デンマーク語っぽい響きの名前を考案したのである。 プロによるネーミング方法を公開 ビートラックスでは、ブランディングサービスの一つとして、新しくサービスを作る際や、日本で展開しているプロダクトを海外展開する場合のブランドローカリゼーションの一環として、プロダクトやブランドのネーミングを行っている。 今回はその場合のプロセスとして気をつけているポイントや具体的な手法をご紹介したい。 偶然ではない!成功するブランドやプロダクト名に共通する3つの法則 世界的なブランドをそのブランド価値を包括的に分析しランキングする、InterBrandが発表しているブランドランキングを統計的に分析し、成功事例を元に分析したパターンを元に、成功するブランド名に関する3つの法則を紹介する。 世界のブランドランキングのTop 30のうち、60%が下記の2つ以上の条件を、そして、実に86%がいずれかの条件を満たしているという結果になった。 1. 長さはアルファベットで5文字から10文字以内 歴史的に見て成功しているブランド名のその多くが英語のアルファベット表記で、5文字以上で10文字以内である。これは短くて覚えやすい、書きやすいだけではなく、最近ではメールやTwitterなどのデジタルメディア上でもメリットが大きい。 例: HONDA (5文字) Disney (5文字) Microsoft (9文字) Starbucks (9文字) Facebook (8文字) 2. 同じアルファベット文字が2回以上繰り返されている 英語圏の人達から見ると、ブランド名に同じ文字が2回以上入っていると、なんとなく可愛いイメージがあり愛着が湧きやすい。 例: Apple (pが2回) Google (oが2回) CocaCola (Cが3回、oが2回) Toyota (oが2回) Canon (nが2回) 3. 子音 (硬音) の文字を最低でも1つ含んでいる 子音文字とは、発音した時に「ア・イ・ウ・エ・オ」の音以外になる文字で、その中でも硬音は、英語で発音した際に硬い印象がある文字。具体的なアルファベットで言うと、“Z, B, T, G, Y, H”がそれにあたる。 例: SONY (Y) IBM (B) Uber (B) BMW (B) Amazon (Z) ネーミングの際に気をつけたい6のポイント 上記踏まえて実際にネーミングをする際には、いくつか注意するべきポイントがある。特に、最終的に海外でも知名度を上げたい場合は、これらをきっちりと押さえておきたい。 1. 外国の人にも発音しやすい 日本国内では解りやすく、サービス内容を想像しやすい名前であっても、外国では発音しにくい場合がある。日本語で多く見られる英単語ではなく、かつ複数の母音が含まれている名前。 例えば、サイボウズ、ドコモ、アラタナなどは日本語を話さない人々にとっては、とても発音しにくく、覚えてもらいにくいので注意が必要だ。 2. 他言語で他のものを連想させる名前は危ない 日本では何の問題もなく通用していても、海外に出ると使えない商品やブランド名がある。例えば、“カルピス”は英語圏だと “Cow piss (牛のおしっこ)” に響きが近いので、「カルピコ」に名前を変えている。また、ポカリスウェットの“スウェット”は、英語では“汗”という意味であるため、微妙なイメージと感じる人もいる。 […]

サービスをデザインする際に重要な「7つの大罪」とは

ヒットしているサービスには共通する「秘密」がある
サービス例とそれぞれの秘密を紹介
ユーザーの心をくすぐるデザインのコツ
キーワードは「探索」「学習」「表現」「承認」

「7つの大罪」という言葉を聞いたことがあるだろうか? キリスト教において罪の根源とされる7種類の悪しき感情、欲望などを指す語のことを指す。いくつかの説やバリエーションがあるが、下記の7つが現在一般的に広く知られており、映画の「Se7en」でも採用されているリストは以下だ。

憤怒 (Wrath)
強欲 (Greed)
傲慢 (Pr…

UXデザインとCXデザインの違いとそれぞれの役割

混乱しがちなUXとCXの違いを説明
そもそもUXってなんだっけ
最近出てきたCXの概念と企業へのメリット
UXデザイナーとCXデザイナーの役割
ブランディングにおけるCXの重要性

最近のデザイン界隈において、あまりにも多くの専門用語が飛び交っている。その中でも最もよく使われているバズワードが「UXデザイン」だろう。それなのに、その概念は時代と共に変化し、内容がイマイチわかりにくい部分もある。
UIとUXとの違いは何か?の問いから始まり、その守備範囲、UXデザイナーの役割など、異なる人やコンテキス…

自動車メーカーのリブランディング分析: Nissan、VW、BMW

多くの自動車メーカーがリブランディングを進めている Nissanの事例紹介 VWの事例紹介 BMWの事例紹介 3社のリブランディングにおける主な共通点と展望 ブランドにおけるロゴの真の役割とは? デジタルメディアの普及により、UIデザインやブランディングにおけるフラットデザインの採用が進んでいる。その波は最も”物理的”なプロダクトを提供している自動車メーカーにも影響を与え、複数のブランドが軒並みリブランディングを進めている。その中でも今回は、Nissan、VW、BMWの事例を紹介する。 Nissanのリブランディング事例 先日、Nissanが大胆なリブランディングを行った。最も象徴的なのが、ロゴの大幅な変更。このリブランディングプロジェクトでは、これまで20年近く利用されていたブランドロゴを大胆に刷新した。 デジタルファーストのデザインスタイル それまでデザインは、グラデーションやエンボス等の立体エフェクトを活用し、車両のボンネットに載っているエンブレムを彷彿とさせた。そのデザインテーマを踏襲しながらも、立体的な物理デザインから、一色によるフラットなデザインに変更された。 このリブランディングプロジェクトは、日産自動車株式会社のグローバルデザイン担当専務執行役員、アルフォンソ・アルバイサの主導によって2017年にスタートした。キーワードは「細さ、軽さ、柔軟性」 同氏はプレスリリースにて、今回のリブランディングでは、“科学、技術、コネクティビティにおけるブレークスルーによる顧客への根本的な変化からインスピレーションを得た” と語っている。 コネクテッドなライフスタイルに対応 過去20年間で人々の生活が大きく変化した。インターネットを中心に、我々の生活においてスクリーンやデジタルデバイスに接する機会が格段に増えた。 自動車のコネクテッド化もどんどん進んでいる。それに対応するために、Nissanも、デジタルタッチポイントに強いブランドを象徴するのをゴールとしたアプローチである。 例えば、今回新しくデザインされたロゴは、車内でLEDイルミネーションとしてロゴが光った際に美しく見えることも重要視されている。 時代と共に大きく変化をしてきたNissanブランド 今回のリブランディングはかなり大きな変化のように思える。しかし、下記の通り、Nissanはこれまでも時代の変化に合わせて、幾度となくロゴのリデザインを行っている。 他の自動車ブランドと比べてみても、その変更の頻度はかなり高いと言えるだろう。 Nissanの新しいロゴを分析 Nissanのこの新しいロゴは、全般的にかなりポジティブな印象を受ける。時代のトレンドであるデジタルメディアに上手に対応しているし、ロゴに求められる最も重要な要素の一つである、複数の利用シーンでの可視性も高くなった。 細かいポイントを中心に分析をしてみる。 1. メタル感から未来感へ 一つ前のロゴと比べて最も大きな違いは、ロゴから受け取るイメージ。これまでのロゴが3Dっぽさを演出したことで、自動車メーカーっぽいメタルな感じだった。今回のリデザインでは、フラットになったことで、より未来的なイメージを醸し出している。 2. オープンさを上手に演出 これまでは“NISSAN”の文字部分が閉じられた空間内にデザインされていたのに対し、新しいロゴでは開いた空間となったことで、オープンなイメージが演出されている。同時に、“円”の部分との間に絶妙なスペースを設けたことで、無意識のうちに前ロゴとの共通点を確保している。 3. シンメトリー“N”のバランスが良い このロゴの最も優れている点の一つが、NISSANの最初と最後の“N”とその周りのスペースと、円のエッジ部分とのアラインメントのバランスが共通していることで、Nで始まりNで終わる同ブランド名を優れたデザインに落とし込んでいる。 4. Nの上下の曲線の角度が不安定に感じる その一方で、気になる点が全く無いわけでもない。では、新しいロゴの懸念点を“あえて”指摘してみる。 一番大きな問題なのは、Nの上下の円から直線をつなぐカーブの曲線が内側と外側で異なることで、微妙に“ズレている”感覚を与え、見る人を少し不安な気持ちにさせること。これはデザイン理論でいう“Tangent”という状態を発生させている。 5. シンプルにしたことで汎用性の高さと環境への配慮を実現 今回のリブランディングでロゴの構成要素を減らしたことで、車両自体以外のより多くの場面で活用可能になった。それによりアナログでもデジタルでも使いやすくなった。また、3D効果を廃止したことで、制作にかかる工程やコストも下がるので、環境にも優しくなっている。 VWのリブランディング事例 フォルクスワーゲン (VW) も2019年に大幅なリブランディングを通じ、ロゴのアップデートを行った。その方向性はNissanと同様に、立体的・メタル感のあるものから、シンプルでフラットなものになった。 New Volkswagenと呼ばれるこのリブランディングプロジェクトには、実に9ヶ月の時間と19の社内チーム、17の外部デザインエージェンシーが関わっている。 プロジェクト責任者でもある同社CMOによると、今回のリブランディングのゴールは、全てのタッチポイントにおいて、より総合的なグローバルブランド体験の創造であるとのこと。新しいロゴは、より人間的で生き生きしたものになり、顧客の視点をより多く取り入れ、本物のストーリーを伝えたいと考えているとも語っている。 自動車のロゴからアプリのアイコンスタイルへ VWのロゴはその構成要素を極端に減らすことにより、モダンでシンプルなものとなった。それにより、利用における汎用性は格段に上がり、特にデジタルメディアでの利用性は非常に高まっていると言える。 この新しいをロゴ見ると、まるでモバイルアプリでも提供しているアメリカ西海岸のスタートアップっぽい感じがする。以前の記事でも紹介した通り、最近のスタートアップロゴは共通して、アイコン感を演出し、ロゴタイプよりも、ロゴシンボルの方を重要視する傾向にある。 最近のスタートアップのロゴのスタイルが似通ってきている問題について それもそのはず。VWはこれからWeb、モバイルアプリ、Apple Watchアプリなどのデジタルプラットフォームにおいて、複数のブランド展開を進めていく予定なのだ。これは、デジタル・アナログの両方でユーザーに体験を届けようとする同社のモビリティーカンパニーとしての方向性を感じさせる。 VWのロゴ遍歴 ドイツ語で「国民車」を意味するフォルクスワーゲンのブランドの歴史は1939年より始まる。設立当初から、円の中に”V”と”W”の文字を縦に配置しするロゴのモチーフは共通。 そして、時代と共に微調整を重ね、2000年より、メタリックさと立体感を打ち出したロゴに変更し、2012年には、より金属感をました先代のロゴに辿りついた。 VWのこれまでのロゴの変更遍歴を見てみると、そのブランドの一貫性の高さは、自動車ブランド随一と言っても良いだろう。 VWの新しいロゴを分析 では今回新しくなったVWのロゴを少し分析してみる。全体的に最も大きな変化としては、アウトラインスタイルに移行し、フラットになったこと。採用されている色も一色のみで、これ以上削れる要素がないほどに洗練されている。 全体のコントラストが強くなり、可視性も高まった。それにより、利用シーンを選ばない汎用性の高さを獲得したと言える。 加えて、その他の細かいポイントを分析してみる。 1. 重厚感よりも可愛らしさを演出 今回のリデザインでユーザーがイメージ的に最も変化があったとすれば、その可愛さだろう。細いラインを採用したことで、より繊細に雰囲気が醸し出されている。同時に、一つ前の重厚感は無くなり、軽さ、柔軟さ、可愛らしさを演出している。 2. 少し未完成な感じが親しみやすさを感じさせる このデザイン、プロの視点から見ると、少しアンバランスな部分がある。VとWの間のわずかな隙間や、円の部分と文字の部分のアウトラインの太さの微妙な違い、そしてWの下の隙間などがそれである。おそらくこれはあえてそうすることで、少し不器用な感じで、親しみやすさだしたのではないかとも感じる。 3. “動くフレーム”のコンセプトを上手に活用 ロゴのリデザインに加え、今回のVWのリブランディングで最も特質すべき点は、ブランド全体の異なるタッチポイントを上手につなげたところだろう。自動車ブランドはどうしても、車両とデジタルでユーザー体験が分断されがちであるが、下記のコンセプト動画でも表現されているように、VWは”動くフレーム”のコンセプトで、そのギャップを上手に埋めたと言える。 BMWのリブランディング事例 最後に紹介するのはBMWの事例。同社は2020年の3月にリブランディングを行い、ロゴのアップデートも行った。その結果は、前出の2つの事例と同様に、メタリック、立体的なものから、フラットなデザインになった。 加えて、BMWは、ロゴの背景を透明にするという大胆なデザインを採用した。そして、このアップデートに対して、世界のデザイナーの間で議論が広がっている。 BMWのロゴ遍歴 BMWのブランド名は、Bayerische Motoren Werkeの頭文字を取ったもの。元々は軍用飛行機のエンジンを製造しており、その歴史は100年以上も前の1917年に遡る。その当時はBtoBのビジネスモデルであったこともあり、当初ブランドロゴはなかった。 一般的には、ロゴのモチーフは飛行機のプロペラだとされることが多いが、実は、本社のあったブラビア州のシンボルカラーの青と白を採用したとのこと。ある日、飛行機を掲載した広告を採用したことで、そのロゴがプロペラをモチーフとしているという噂が広がったという。 その後、時代と共に微調整をかけているが、初期のデザインから大きな変更はない。 BMWの新しいロゴを分析 今回のリブランディングでは、デジタルネイティブの若い層をターゲットにし、その層によりアピールするスタイルを採用している。具体的には、立体的なグラデーションを廃止し、思いっきりフラットなスタイルに振った。 そして、顧客に対して自動車メーカーよりも、リレーションシップブランドとしてのポジショニングを優先した事によるリデザインである。同社の100年以上の歴史の中でも、最も大胆なリブランディングと言っても良いだろう。 下記に細かなポイントを掘り下げていく。 1. オープンさと透明性の高さをロゴにも反映 このロゴの最もユニークなところは、BMWの文字が記載された円のエリアが透明になっていること。これは、オープンさと透明性の高さをモチーフとしている。 その一方で、この試作はかなりギャンブルでもある。というのも、ロゴが置かれる背景によっては、ブランド名が読みにくくなったり、ロゴの一貫性が下がるからだ。デザイナー的な視点で見ると、まるでデザインファイルから背景レイヤーを誤って削除したまま出力ようにも見える。 2. 伝統よりもモダンな未来を想起 今回のリブランディングでは、フラットなデザインを採用することでこれまでのBMWのブランドを大胆に刷新した。それにより、100年以上続く同ブランドの伝統を武器にするよりも、より現代、そして未来に向かって進んでいるイメージを与えることができるだろう。 既存のBMWファンの中には多少残念に思う人もいるかもしれないが、これからブランドに接し始める新規ユーザーに対しては、よりフレッシュなイメージを届けられるだろう。 3. インスタ映えを優先 実はこの新しいロゴ、背景などを入れ替えることで、めっちゃインスタ映えする。BMWの公式インスタアカウントでも、動画がアップされている。デジタル時代に最適化されたロゴであると言えると同時に、自動車メーカーの枠にとらわれない同社の意気込みを感じる。 View this post on Instagram Introducing the new BMW brand design for online and offline communication. 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デザイン入門 【UXデザイン編】プロダクトやサービスの体験をデザインする

ここ最近の市場動向を見てみると、ヒットしている商品やサービスには共通点がある。それは、どれもユーザーや顧客に対して、最もふさわしい利用体験を提供しているということだ。
プロダクトをスペックや性能で選ぶ時代が終焉を迎え、利用した際に具体的な何を得られるかがプロダクトの成功を左右する最も重要なファクターなってきている。
それは言い換えると、商品自体にお金を払う時代が終わり、ユーザーは“経験”に価値を見いだすようになったとも言える。
ユーザー体験を制するものが勝つ
ハードウェアやソフトウェアも全てサービス…

UXデザインプロセス入門 – 基本的な6ステップ

Step1 – 理解: Understand Step 2 – 共感: Emphasize Step 3 – アイディエート: Ideate Step 4 – プロトタイプ: Prototype Step 5 – テスト: Test Step 6 – ローンチ&計測: Launch&Measure ユーザー体験を設計するUXデザインは、現代ではかなり高い認知度を獲得し、多くの企業が注目をしている。その一番の理由が、「スペック重視」から「体験重視」にビジネスもモデルが変換し始めたことだろう。 ユーザーのフォーカスが、所有することから利用することに移行したことで、プロダクト提供側も、より良い体験設計が求められている。 これからの時代にヒットするのはサービス化されたプロダクトだと言えるだろう。そこで最も重要な存在になってくるが、UXデザインであり、UXデザイナーである。 意外と知られていないUXデザインのプロセス その一方で、肝心のUXデザインのプロセスは意外と知られてない上に、多くのデザイナー達がUXを学ぶ方法を未だに模索しているケースが後を絶たない。 ビートラックスでもデザインチームを中心に、UXデザインのプロセスを社内全体に共有しているが、今回はそのUXデザインプロセスと、それぞれのステップで作り出される活動と成果物をまとめて紹介する。 UXデザインにおける6つのステップ ビートラックスによるUXデザインプロセス Step1 – 理解: Understand 最初のステップはユーザーの課題とビジネスのゴールを理解することから始まる。見た目を美しくするだけでは、ユーザーとビジネスの両方の課題を解決することは永遠に不可能である。 主な活動・成果物: ユーザーインタビュー 消費者アンケート マーケット調査 競合調査 ステークホルダーインタビュー お客様第一主義とユーザー中心デザインの違い Step 2 – 共感: Emphasize 優れたデザインを生み出すために最も重要なプロセスがエンパサイズ。デザインを受け取る人たちへの共感をすることだ。彼らがが何を見て、何を感じて、何を経験しているかを理解しなければ、デザインは無意味な作業になってしまう。 主な活動・成果物: ペルソナ ユーザーストーリー ユーザーシナリオ エンパシーマップ カスタマージャーニーマップ デザイン思考入門 Part 2 – Empathize 理解と共感 Step 3 – アイディエート: Ideate アイディエートとは、アイディアを出すプロセスのことで、アイディエーションとも呼ばれる。アイディエーションとは、良いものも悪いものも含めて、可能性のあるすべての解決策を探り、どのようなアイデアで前進すべきかを絞り込んでいく。そのプロセスは対話的で共同作業的であるため、メンバーが一つの場所に集まり、一気に進めていくことが多い。 主な活動・成果物: ブレインストーミング スケッチ ムードボード リファレンス アイディエーションとは?効率的に行うための5つのポイント Step 4 – プロトタイプ: Prototype プロトタイプは、Webやアプリの場合、UIやコンテンツ構成などを確認し、その操作性を理解すること。ハードウェアなどでも、どのようなユーザー体験を提供できるかを理解するために制作される。その役割に合わせ、早い段階でラフなものを作ることもあれば、かなり作り込み、細部の確認に活用する場合もある。 主な活動・成果物: ユーザーフロー ペーパープロトタイプ ワイヤーフレーム インタラクティブプロトタイプ コンセプト動画 ロールプレイ デザイン思考入門 Part 5 – Prototype 今さら人に聞けないプロトタイプの作り方 Step 5 – テスト: Test アイディアやモックアップ、プロトタイプをユーザーにぶつけ、フィードバックを得ることでデザインを洗練させる段階だ。テストを行う時期が早ければ早いほど、変更が容易になり、デザインの制度を高めることが可能になる。 主な活動・成果物: ユーザビリティテスト ヒューリスティック評価 アクセシビリティ評価 フォーカスグループ オンライン調査 […]

一人の男が4年前に放ったメッセージが今、世界を動かし始めた

世界中を巻き込むBLMのムーブメント、その4年前にはある別の動きが。 とある男の行動が全米を巻き込んだ。一部賛同があるも、大統領をも激怒させ、批判、その末の流浪。 もう終わったと思われていた彼を、ある企業がブランドキャンペーンに起用。さらに物議を醸す。 しかし今回のフロイド事件で、彼自身、そして当時の広告に書かれたメッセージに再注目。 4年にわたる一連の動きから、ブランドメッセージに本当に込めるべきものを問う。 BLM (Black Lives Matter)。日本でも少しずつ浸透し始めたキーワード。アメリカにおける黒人差別を無くそうという活動を通じて発せられるメッセージである。首都のワシントンD.C.やシアトル、サンフランシスコのストリートに黄色の文字がペイントされたり、各地のデモでプラカードを掲げたりして、多くの人への認知活動を広めている。 この活動は、アメリカだけでなく世界各地にも広がり、これまでの差別・虐待の歴史や現状に対しての理解が高まったり、状況の改善に繋がるような施策が始まったりもしており、人類にとってもその価値は非常に大きい。 世界各地に広がるBLMデモ 約4年前、一人の男が自らの信念を貫いた 今でこそ多くの人々からの支持を得ているこのBLMムーブメントであるが、2016年にも黒人差別問題に対して一人のNFL選手が静かな、しかし、とても強力なメッセージを発信していたことはあまり知られていない。 彼の名前はコリン・キャパニック (Colin Kaepernick)。当時サンフランシスコ・フォーティナイナーズのクオーターバックとして大活躍をしていたスター選手だ。 その彼が2016年8月26日に行われたプレシーズンマッチで試合前の国歌斉唱でベンチに座ったまま立ち上がらず、起立を拒否した。その理由を「黒人や有色人種への差別がまかり通る国に敬意は払えない」と語っている。その具体的な原因は、相次ぐ警官の黒人対する暴力だとされる。 アメリカでは、スポーツの試合を含む様々な採点で必ずと言って良いほど星条旗が掲げられ、国家斉唱が行われる。そこでは、会場にいる全ての人が立ち上がり、帽子を脱ぐのが常識とされている。特に選手という立場で起立しないことは考えられない。 だから当然、彼のこの行動は大きな物議を醸し、彼の元には殺害予告が届くまでに発展した。しかし、次の試合からも彼はひざまづく姿勢を貫いた。そして、それに賛同する他の選手も同じポーズを取り始めた。ピーク時には実に200人の選手が国歌斉唱時にひざまづく、座る、拳をあげるアクションで抗議を示した。 国歌斉唱の際にひざまづき、抗議の意を示すキャパニック選手 (中央) 彼のこの態度に対してトランプ大統領が激怒 キャパニック選手のこの行動に対して激怒したのがアメリカ大統領のドナルド・トランプだ。彼は「星条旗を冒涜し、アメリカの伝統に泥を塗るようなバカ野郎はクビだ!」と荒ぶった。そして「多くのNFLオーナーは私の友人だ」とも付け加えた。 ちなみに、イギリスの調査会社YouGov (英語版) の調査によると、全体では国歌斉唱時に起立しなかったことに賛成しているのは29%にとどまり、69%が反対だった。しかし、黒人に限ると72%がキャパニックの抗議に賛成する一方、反対は19%となった。 その後、NFLは選手会の反対を押し切り、2018年5月に、国歌斉唱時の起立を事実上義務化した。 キャパニックはチームを早期離脱 この騒動が発端となり、キャパニックは申し分ない成績だったのにも関わらず、2016年シーズン終了後チームとの契約の早期終了を選択し、フリーエージェントとなった。一説にはチームを実質上クビになったとも言われている。 彼を雇ってくれるチームはなかった フォーティナイナーズを離脱し、フリーとなったキャパニック選手。それまでの輝かしい成績をもってすれば、すぐにチームが見つかると思われた。しかし、どのチームも彼を雇おうとはしなかった。 一度、シアトル・シーホークスが彼を合同練習に招待したことで期待されたが、結果として明らかに実力の劣る他の選手を選択した。 それでも、キャパニックはその後も人種差別撤廃への活動を続け、これまでに100万ドル以上を寄付している。 Nikeが「浪人」の彼を広告に起用 しかし、その後世の中を大きく驚かせることが起こった。なんと、2018年にNIkeが彼を広告キャンペーンに起用したのだ。どこのチームとも契約ができない状態、イコール現役ではない浪人選手を起用するのは通常、ありえない。それも彼が採用されたのは、“Just Do it”の30周年キャンペーン。 このキャンペーンにて、モノクロのキャパニック選手の顔写真の上に書かれたメッセージは 何かを信じろ。例えそれが全てを犠牲にすることだとしても。 原文は ”Believe in something. Even if it means sacrificing everything.” NikeのJust do it. 30周年キャンペーンに起用されたメッセージ 一部ではアンチNikeキャンペーンも このメッセージを気に入らないとした人々が、ネット上にNikeのスニーカーを燃やす動画をアップしたり、Twitter上でNikeをディスるハッシュタグを使ったキャンペーンを行ったりした。それも影響したのかキャンペーンリリースの翌日には、Nike社の株価が3.2%下がった。 ドナルド・トランプも”What was Nike thinking? (Nikeは何考えてんだ)”とツイートした。このブランドキャンペーンは失敗に終わったかと思われた。 しかし、数日後にはNikeのオンライン売り上げが25%アップ。ブランドの発するメッセージに共感した消費者が商品を買い始めたのだ。俳優のニック・キャノンは、大量のNikeの商品を買い、ホームレスに与えた。一見世の中へのインパクトを重視したキャンペーンだったが、結果的にはビジネス的にも成功した。 フロイド事件で再び注目を浴びる このキャンペーンの約2年後の2020年6月、ミネアポリスにて警察官によるアフリカ系米国人の暴行死事件が起きた。この事件がきっかけに、冒頭のBLMをはじめとした多くのデモやプロテストが世界各地に広がった。 アメリカ各地でこのデモは一週間以上も続き、警察との衝突も発生した。その一方で、デモを無理に鎮圧するのではなく、自分たちも賛同する警官も出てきた。都市によっては、警察署長自らがひざまづくことで賛同の意を表明した。 そう、これは4年前のコリン・キャパニックがとったのと同じポーズである。 警官がひざまづき、人種差別に対してのデモへ理解を示す NFLが謝罪 そしてついにNFLから「謝罪」ともとれる声明がTwitterを上で発信された。2020年6月5日、ロジャー・グッデルコミッショナーは、「かつて私たちがNFL選手の言葉を聞かなかったのは間違っていた。我々は、全ての人が発言し平和的に抗議することを応援します」とのツイートを行った。 具体的な選手の名前や事例は明記されていないが、恐らくこれはキャパニック選手による抗議のことと理解して間違いないだろう。 We, the NFL, condemn racism and the systematic oppression of Black People. We, the NFL, admit we were wrong for not listening to NFL players earlier and encourage all to speak out and peacefully protest. We, the NFL, believe Black Lives […]

インクルーシブデザインとは?現代の多様性に寄り添う7つの実例

今こそ向き合うべき「インクルーシブ」という概念 様々な肌の色に対応。Band-Aidの絆創膏 まさにユニバーサルデザイン。スパイラル形式のお風呂 性別も体型も。あらゆる既成概念にとらわれないジェンダーニュートラルな下着 宗教の違いに合わせて。リデザインされたキューピーちゃん 赤ちゃんから大人になるまで。ずっと使える椅子 男性も女性も、さらには宇宙人まで。誰でも使えるニュートラルトイレ カラーリングの知られざる理由。青と赤のカスタネット ここから始めるインクルーシブデザイン入門 誰のためのデザインか?徹底的なユーザー視点で既成概念を崩す発想が競争優位性を勝ち取る ここ数週間アメリカでは、デモやネット上での熱い議論など、人種や考え方の違いによる様々な軋轢が表面化している。それに伴い、これまでは「普通」と考えられていた概念が見直され、より多様性を受け入れる動きが進んでいる。 日本と比べても、実に多種多様な人種が集まっているアメリカでも、まだまだ多くの商品やマーケティングメッセージが画一的なデモグラフィーを中心に考えられており、マイノリティーと言われるユーザーを考慮していないケースが少なくない。 その一方で、サンフランシスコを中心とした都心部では、ダイバーシティ(多様性)を受け入れ、それを考慮することで、より多くの人々のためのプロダクト作りやマーケティング手法が進んでいる。 関連記事: 令和に絶対押さえるべきインクルーシブマーケティングとは。事例6選 ダイバーシティーの主な構成要素 最近は日本でも知名度が高まってきている「ダイバーシティー」という単語。「多様性」を意味するが、具体的にはどのような要素が含まれているのだろうか?LGBTなどに代表される性別的な要素や人種はわかりやすい例であるが、それ以外にも複数のファクターが存在している。 性別 年齢 人種 言語 体型 肌の色 宗教 食習慣 障がい 収入 利き手 ライフスタイル 人々の多種多様な要素を包み込むのがインクルーシブ 世界中には上記のような様々なバックグラウンドを持つ人々がいるが、一つの場所で生活していると、どうしてもそれを忘れがちになる。特に日本国内に住む98%が「日本人」であることを考えると、日本が相当ダイバーシティの低い国であるということになる。 それを象徴するのが、ターゲットを性別と年齢だけで区切ってしまうマーケティング手法。おそらくこの手法は、日本国外へ出た瞬間に、一瞬で通用しなくなる。 加えて、今後は日本にも海外からの移住者がどんどん増えていくことを考えると、日本企業も、早い段階からダイバーシティーへの理解とインクルーシブデザインの採用を進めていく必要があるだろう。 インクルーシブデザインとは どんなデザインのプロセスにおいても、特定の顧客を除外してしまう可能性がある。インクルーシブデザインは、ユーザーの多様性を理解することで、意思決定の情報を提供し、できるだけ多くの人を取り込むことに貢献することをゴールとしたデザイン手法。ユーザーの多様性は、能力、ニーズ、願望などに様々なバリエーションがあり、インクルーシブデザインでは、それらを広範囲でカバーしている。 近いコンセプトとしては、ユーザー中心デザインや、ユニバーサルデザイン、そしてアクセシビリティーというものも存在する。 インクルーシブデザインは、一人でも多くの人に役立つ製品を作るのがゴールとなる。アクセシビリティはそれ自体がゴールとなるが、インクルージョンはそれ以上の意味を持つ。達成できれば、多様な特性を持った人が、様々な環境で自分の製品を使用することが可能になる。特に何百万人もの人々のためにデザインをする場合、人々が体験に参加するためのさまざまな方法を作ることが重要になってくる。 インクルーシブデザインが考慮するべき要素 多種多様な人々に寄り添うインクルーシブデザイン事例 では、具体的には世の中にはデザインを通じて、どの表に多種多様な人々に対応しているのだろうか。実際の例をいくつか見てみよう。 1. 異なる肌の色に対応したバンドエイド これまでは、形やサイズ、柄などの種類のバリエーションはいくつかあったが、より多くの肌の色の消費者に対応するべく、Band-Aidは複数の色味を持つ商品をリリースした。そして、公式のインスタグラムでは”We hear you. We see you. We’re listening to you.⁣” という、消費者のことを親身に考えているというブランドメッセージを発信している。 様々な肌の色に対応したバンドエイド 2. 車椅子の方でもスムーズに使えて、健常者にも違和感のないお風呂 デザインが解決すべき最も大きな多様性の一つが障がい者向けの施設だろう。特にトイレやお風呂は、日常での利用頻度も高いため、とても重要な場所になってくる。駅や総合施設などでは、車椅子の方でも利用できるトイレを見かけることはあるが、お風呂はあまり知られていないだろう。 今回紹介するお風呂は、静岡県のJIKKAというゲストハウスに設置されたスパイラル形式のお風呂。5mのスロープを設置することで、体の不自由な方や、お年寄りにも優しい設計を実現している。 身体の不自由な方も使いやすいJIKKAのお風呂 3. 性別や体型の既成概念にとらわれない下着 下着といえば、ついついヴィクトリアズシークレットのセクシー系や、トミーヒルフィガーのワイルド系など、どうしても型にはまったスタイルを想像しがちであるが、TomboyXでは、多様性の高いユーザー向けに、多種多様なアイテムを提案している。 トランクスやボクサーブリーフなどの男性的な下着を女性の体に合わせてアレンジしたり、男性の体向けにフェミニンなデザインを提供したりもしている。これはいわゆる、ジェンダーニュートラルのコンセプト。「男性っぽさ」や「女性っぽさ」からあえて離れることで、新しいニーズに対応している。 全ての性別・体型に対応しているTomboyXのオールニュートラル下着 4. 宗教の違いに合わせてキャラクターをリデザインしたキューピーマヨネーズ 日本でもお馴染みのキューピーちゃんであるが、実は販売されている地域で、そのキャラクターのデザインが一部変更されている。変更している地域は、東南アジアのマレーシア、インドネシア。オリジナルのキューピーの背中の羽をなくし、顔と手だけのデザインになってる。 この地域ではイスラム教徒の方々が多いのが理由。イスラム教では、偶像崇拝が禁じられており、オリジナルの羽のついたキューピーは、天使と受け止められる可能性を考慮したものなのだ。 オリジナル(左) とイスラム圏向け(右)のキューピーマヨネーズ 5. 赤ちゃんから大人までが使える椅子 赤ちゃんが生まれて、成長する過程では、身体がどんどん大きくなる。その度に家具を買い替えていると非常にコスト高になる。 この課題を解決すべく、北欧のデザイナー Peter Opsvikは、一生使える椅子をデザインした。TRIPP TRAPPと呼ばれるこの椅子は、生まれた直後から、大人になっても使える。全てのライフステージをインクルーシブにデザインされている。  成長に合わせて使い続けられるTRIPP TRAPPの椅子 6. 誰でも使えるニュートラルトイレ 海外では、男性でも女性でも利用できるトイレが増えてきているが、ヨーロッパなどでは文字通り「誰でも」使えるユニバーサルトイレが出現。 サイネージには、男性、女性、車椅子、老人、人魚、バッドマン、アンドロイド、そして宇宙人までが表記され、しっかりと点字も記載されている。まさに、全てを内包 (インクルード) するデザインとなっている。 ユーモアのあるインクルーシブトイレのサイン 7. 男の子でも女の子でも使えるカスタネット おそらくほとんどの人が学校で使ったことのあるカスタネット。多くの場合、赤と青の2色で構成されている。実は、その理由は男子でも女子でも使えるようにするため。もともとは、男の子向けの青と女の子向けの赤が別々に存在してた。 しかし、クラスによって男女比率が異なったりすることで、どちらかの数が足りない状態が発生していた。そこで、両方の色を合わせて一つにすることで、どちらでも使えるようにデザインをしたというもの。ちなみに現代では、青=男性、女性=赤、という概念自体がなくなり始めている。 男子でも女子でも使える赤と青が合わさったカスタネット インクルーシブデザイン入門 それでは、どのようにすれば、多様性に対応したデザインが実現できるのだろうか?我々btraxでは、世界の異なる地域の様々なニーズに合わせたプロダクトに対するデザインを提供するために、まずはユーザーを深く理解し、共感することからデザインのプロセスを始めている。 これは、デザイン思考のプロセスの第一歩である、エンパサイズのプロセスでもある。 そして、実際のデザインプロセスを進めるにあたり、下記のような命題を踏まえ、より多くの人々に受け入れられるようなプロダクト作りを進める。 デザインを始める前に自分たちにはどんなバイアスがかかっているのか? このデザインを良しとしないのはどのような人だろうか? 必要のない要素にこだわってはいないか? 自分のためだけのデザインになっていないか? 最終的に誰のためにデザインをしているのか? どんなデザインチームでも、これらのシンプルな質問を自問自答し、包括性について考え始めることが重要になってくる。 インクルーシブデザインを実現するための6つのステップ 実際にデザインプロセスを進めるにあたって、下記の6つのステップが有効になる。 1. 排除されているポイントとユーザーを理解する 排除のポイントを積極的に探し出し、それを利用して新しいアイデアを生み出し、新しい解決策を生み出す機会を模索する。人々がどのようにして、なぜ排除されているのかを正確に理解することで、よりインクルーシブになるための具体的なステップを確立することができる。例えば、動画作成をする場合に、耳の不自由なユーザーにもメッセージが届くかどうかを検証するために、音量がオフになっていても、内容が伝わるかの検証を行う。 2. 状況に応じた課題を特定する 排除は状況に応じて発生する可能性がある。ユーザーがプロダクトを利用している際の「特定」のポイントにてインプルーシブではない瞬間が発生していることを探る。今回の例の場合、通常は問題なく視聴できている動画コンテンツでも、空港やカフェなどの騒がしい場所では、音が聞こえなくなる瞬間がある。その場合、耳の不自由なユーザー向けにデザインされた要素がその課題を解決してくれる。 3. […]

ニューノーマルが生み出す4つの意外な社会課題

外出自粛が少しずつ解除され、徐々に日常生活に戻り始めている。それはアメリカでも同じで、サンフランシスコでも規制解除の段階的なフェーズが提示された。今週から街に出てくる人の数や、道を走る車の量が増えてきた。
しかし、決して今までの生活に戻ったわけではなく「ニューノーマル」と呼ばれる、新しい生活スタイルへの順応が求められている。具体的には、ソーシャルディスタンスの実践、外出時のマスクを着用義務、バーやレストランのキャパ制限など。
それらに対して、新しい仕組みやデザインを活用して、より良い生活を実現させて…

コロナ危機でシェアリングエコノミーはどうなってしまうのか?

シェアリングエコノミーの歴史とコロナショックが巻き起こす強制的なゲームチェンジ
スマホの普及との相乗効果で、「シェアリング」は本流に (2010 – 2020年)
所有の減少はサービスの消費を促すと踏んだ矢先の…コロナ流行
原点回帰の時。シェアリング本来の「人間と人間のつながりや助け合い」に価値を感じるように
数字や評価だけに踊らされるな。重要なのは、問題の本質を解決すること

今から12年ほど前、スマホの普及が少しずつ始まってきた頃、AirbnbやUber、Lyft、We…

スタートアップのレイオフ – 明暗を分けたAirbnbとBirdの事例

新型コロナウィルスの影響で、多くのスタートアップにてレイオフ (一時解雇) が進んでる。具体的な状況は「コロナの影響でアメリカのスタートアップではどのくらいレイオフが進んでいるのか」にて説明されているが、現在まで400社以上がレイオフを行っている。
中でも最も多くのスタッフをレイオフした1社がAirbnbであるが、その進め方やCEOからのメッセージ内容の素晴らしさは注目を集めた。プロセス・内容共に、企業として、リーダーとして模範となるだろう。その一方で、同じくレイオフを行ったシェアリングスクーターの…

リーダーシップにワビサビはいらない – コロナ対応に見る日米5つの違い

今こそ問われるリーダーシップの本質を5つに分けて日米比較

スピード感は「命」
人々のメンタルは規制強度と緩急で変わってしまう
リーダーの最大の役割は、決断に責任を持つこと
曖昧な指示出しこそ、緊急事態を招く
平時のリーダーと有事のリーダー像は異なる

困難な状況下でこそリーダーシップの真価が最も問われる。
アメリカに住み、会社を経営していると、国家に何かしらの危機が訪れた際に、国や州の対応次第で国民の生活も、会社の存続も大きく左右されるということをダイレクトに感じる。これは、大統領や州知事のリーダ…

ロックダウン直前にオープンしたインスタ映えレストランの現状

満を辞してサンフランシスコにインスタ映え確実なレストランが開店!ただ、タイミングが悪かった… 外出自粛令による売上の大幅縮小とレイオフの実施、起死回生の策を探る ソーシャルメディアの活用とユーザーの嗜好に合わせたメニュー改編でピンチを乗り越える 店舗でのハイレベルな顧客体験をデリバリーでどう再現するか、重要なのはモノより体験 街中が封鎖される直前に体験重視のめっちゃオシャレなレストランがオープンしたらどうなってしまうのか? シェフでオーナーのカセム・セーンサワンと妻のイング・チャタージーは、3月初旬にサンフランシスコ市内に新しいレストランをソフトオープンした。 このレストラン、Son & Gardenはインスタ映えを求めるキラキラ系の熱狂的な夢をイメージしてデザインされた。 インスタ映えバッチリのたSon & Gardenのインテリア インスタ映えを狙った体験型レストラン in サンフランシスコ 室内の壁や天井には花が散りばめられ、全体にブルーの花柄の壁紙が貼られている。店内には「シークレットバー」と呼ばれるエリアもあり、テーブルと座り心地の良いベルベットのラウンジチェアが用意されている。 メニューとしては、アフタヌーンティーセットに加え、バニラソースとブルーベリーのコンポートを使ったリコッタパンケーキ、ポテトウェッジとマッシュルームソースのフライドチキンドーナツ、自家製ベーコンとエンドウ豆、卵、ペコリーノ・ロマーノを使ったパスタカルボナーラなどがある。 その内装、盛り付け、雰囲気、サービス、全てがソーシャルメディアでシェアされることに特化してデザインを施されたレストランだ。 提供するメニューや食器もかなりオシャレ キラキラ系女子垂涎の演出満載 リコッタのパンケーキとブルーベリーのコンポートが芸術的に盛り付けられ、「クラウド9」と呼ばれるスパークリングワインのカクテルの上には、青い蝶々をあしらった綿菓子がトッピング。 すべてがインスタグラムで話題になるように仕立てられたもので、招待されたインフルエンサーたちは、Son & Gardenがグランドオープンする前から、三脚やリングライトを持ってきて、このマジカルな空間を撮影していた。 インフルエンサーを通じて話題沸騰になる…予定だった しかし、3月16日にはサンフランシスベイエリアでは、外出自粛が施行され、レストランやバーの営業に大きな制限が設けられた。それにより、この体験型の新しいレストランがテイクアウトのみに追い込まれた。 オープンまでに2年間という年月と、かなりのコストを掛けオープンに漕ぎ着けた。しかしそのわずか2週間後に市によりシェルターインプレイスの要請が発動された。それにより、忙しい日には2万ドル近くあった売り上げが、4,000ドルにまで落ち込んだとオーナーは語る。 View this post on Instagram Who’s ready to par-tea? ☕️❤️ Tag your pals who needs to experience the Son & Garden High Tea Set! ⤵️⤵️⤵️ A post shared by Son & Garden (@sonandgarden) on Feb 23, 2020 at 6:38pm PST スタッフをレイオフし家賃支払いの猶予要請も これにより、スタッフの60%をレイオフせざるを得なくなり、2ヶ月分の家賃支払いの延期を物件の大家にリクエストした。彼らは州政府に中小企業向け支援を申請しているが、いまだ返事は来ていないという。 現在、全国のレストランの多くが苦戦している中、Son & Gardenのような新しいレストランは特に厳しい状況にある。老舗レストランではある程度テイクアウトを求める常連客を期待できるが、新規オープンの所はまだ忠実なファンを確保できていない。 そのため、インスタ映えするブランチのためにデザインされたSon & Gardenも、シェルターインプレイスの下では、テイクアウトとデリバリーのみにピボットしなければならなくなった。 View this post on Instagram We have exciting news! Our beautiful Cloud 9 boozy drink is available to go 🦋☁️ You can now enjoy this fun drink at home. Available for pick up in store […]

コロナの影響でアメリカのスタートアップではどのくらいレイオフが進んでいるのか

前回の「コロナショックがこれからスタートアップに与える影響」でも触れたが、新型コロナウィルス の経済に与える影響が少しずつ具体化される中で、スタートアップも少なからず影響を受け始めている。 アメリカでは、企業の業績が下がる際に人件費を抑制するために一時的に従業員を解雇する「レイオフ」という仕組みがある。これは、経済や会社の都合で行われるため、一般的な「解雇」とは異なり、対象となる従業員には失業保険が一定期間支払われる。 スタートアップで進むレイオフ Layoffs.fyiによると、この仕組みを利用して、多くのスタートアップでレイオフが進んでいる。3月11日から現在までの統計では、290社が約3万人をレイオフしている。業界として目立つのは、リテール、フード、フィットネス、モビリティ、不動産など、人が動くことで生まれるリアルサービスを提供する企業だ。 著名なスタートアップの例としては: Groupon: 2,800人 – 全体の44% Magic Leap: 1,000人 – 全体の50% Yelp: 1,000人 – 全体の17% Eventbrite: 500人 – 全体の45% Lending Club: 460人 – 全体の30% B8ta: 250人 – 全体の50% Everlane: 227人 WeWork: 250人 Thumbtack: 250人 – 全体の30% GoPro: 200人 – 全体の20% Getaround: 100人 – 全体の25% Casper: 78人 – 全体の21% ユニコーンの”ツノ”が折れ始めている 上記の中には評価額が10億ドル以上のユニコーン企業も6社含まれており、全体の46%である8,416人をレイオフしている。これは、一社につき平均で26%の従業員をレイオフしていることになる。その中でも、85%をレイオフし破産したOneWeb、67%をレイオフしたZume、50%をレイオフしたToastなどもある。 実は仕事を失っても生活できる制度 これだけを見ると、かなり多くの人々が露頭に迷うことになりそうな気がするが、アメリカではレイオフが頻繁に行われるため、それに対する失業保険の制度がある。 加えて、今回の米政府の緊急特別予算で、通常の金額 (カリフォルニア州だと最大$450/週) プラス、週$600の失業保険がもらえるようになった。これにより、万が一無職になっても週$1,000以上、月で$4,000以上受け取ることができるので、しばらくは生活に困窮することはなさそうだ。 また、下手に無給休暇を出すよりも、レイオフになった方がありがたい。企業としても、レイオフを進めることでコスト削減になるので、Win-Winの結果になることもある。 そして、また事態が収束したら採用し直すこともあると考えられる。そういった意味では、日本的なリストラとは少しニュアンスが異なる。 Twitter上で再就職活動 レイオフされたスタッフが、Twitterを活用して、自身及び同僚の再就職を進めているケースもある。本日1,000人のレイオフを行ったMagic LeapのスタッフであるAlexandria Hestonもその一人で、彼女のツイートに対して採用に関するレスも見られる。 Hi All! In terms of #magicleap layoffs – please feel free to thread below of open positions you feel would help individuals who were let go and I can share in groups. These are people looking into AR/VR industry, but also general engineering, design, games […]

コロナショックがこれからスタートアップに与える影響

レイオフ、バリュエーション低下、コロナショックがスタートアップに与える多大な影響
VC側も投資を減少せざるを得ない状況、スタートアップの死活問題
人材獲得の易化と本質的な課題の露呈、コロナショックはコロナチャンスになりうる

コロナショックが世界を震撼させてから、1ヶ月ほどになる。生活やビジネスなど、様々な事柄に影響が出始めているが、スタートアップに対してはどうだろうか?2019年までは、ユニコーンやデカコーンブームや大型IPOなど、華々しいトピックが踊ったスタートアップ 界隈も、今回の状況で受け…

Allbirds、CasperなどD2Cエキスパートに聞くブランド構築6つのポイント

日本でもじわじわと認知度が高まり始めてきているD2Cブランド。すでにアメリカでは、Everlane、Allbirds、Werby Parker, Casperなどのブランドの人気が高く、急成長や上場などの大成功する事例も増えてきている。 freshtraxでは、これまでも何度かD2Cに関する記事を書いてきたが、今回は実際にD2Cブランドを構築している人たちによるアドバイスを紹介する。 Direct to Consumer とは Direct to Consumer (D2C) とはその名前の通り、自ら企画、製造した商品をどこの店舗にも介すことなく販売するビジネスモデルのことである。もともとは店舗を持たず、オンライン販売のみが主流であったが、ここ数年でオンラインで販売開始後に、実店舗を出す事例が増えてきている。 中間業者を極力省き、製造から販売までをブランドが一括管理することで、消費者に直接商品をリーズナブルに届けられるようになるだけではなく、それぞれの工程の透明性を高め、ブランドに対しての高い帰属意識を構築しているのが特徴。 アメリカを中心に、このD2C型のビジネスモデルをベースにするスタートアップが急激に増えてきている。 参考: アパレル業界を席巻する新勢力 – Direct to Consumer (D2C) で成功した7つのブランド D2Cビジネスの成長例 日本ではD2Cはまだまだ個人事業や中小企業のイメージを持たれがちだが、アメリカではかなりのビッグビジネスになっている。 2015年創業のAwayは1年目に5万台 (売上約12億円) を達成 Warby ParkerがFast Company誌上で最もイノベーティブな会社に選ばれる Casperの売り上げ: 1年目1億円、2年目100億円、3年目200億円、現在上場準備中 Allbirdsが創業2年で売り上げ100億円を突破 Bonobosが創業10年でウォールマートに約350億円で買収される 参考: 【ボノボス】アメリカ発 オンライン・メンズアパレルブランド Bonobos 成功物語 D2Cの2つの特徴 D2Cは従来のブランドと比べると下記の点においてかなり特徴的である。 選び抜かれた少数精鋭のアイテム D2Cブランドは選び抜かれた少数精鋭のアイテムでスタートすることが多い。ブランド力を築いてから販売商品を増やしていくという方法はかつてラグジュアリーブランドが行ってきたそれと共通している。ルイヴィトンが鞄メーカーとしてのブランドを築いてからライフスタイル提案という形で販売商品を増やしていったのは有名な話だろう。 今となっては多くの販売商品を抱えるD2Cブランドも最初は少ないアイテムでのスタートであるケースが多い。前回の記事でご紹介したWarby Parkerが当初扱ったのは$95のメガネのみ、Bonobosはデニム以外のメンズパンツのみ、Everlaneも無地のTシャツ・ネクタイ・かばんのみでのスタートだったという。 ストーリーによるブランディング ストーリーによるブランディングもD2Cの特徴としてあげられる。D2Cブランドの多くは歴史が浅く、著名なデザイナーを擁している訳でもない為、ストーリーによってアイデンティティを確立させるブランドが多い。 例えば、Warby Parkerの誕生のきっかけは創業者自らの辛い経験に基づいているという。公式サイトにはこう書いてある。「私が学生の頃、バックパッカーをしている間にメガネを無くしてしまいました。新しいものを買いに行きましたが、値段が高すぎたため購入を断念せざる得えなったのです。その結果、大学院での1学期間は目を細め、不満を言いながら過ごすことになってしまいました。Warby Parkerを興したのは、そんな苦い思い出を皆様には味わって欲しくないという思いがきっかけです。」 ストーリーによるブランディングは従来の店舗での販売をメインに行うブランドよりも、自宅で落ち着いてゆっくり買い物が出来るD2Cとの相性が良いと言えるかもしれない。ストーリーに引き込まれると、彼らの魂の篭った商品を思わず買ってみたくなってしまうだろう。 参考: Direct to Consumer (D2C) 躍進の理由と大企業のジレンマ D2Cブランドに共通する主なブランドメッセージ これはあくまで感覚的なのだが、D2Cブランドがユーザーや世の中に発している共通のメッセージがある。 サステイナブルな素材で人と環境に優しい 製造工場などでの労働環境が良い 無駄なコストを掛けていない 誇大な広告にお金を掛けない 高い透明性でユーザーと共に成長してく 店舗がある場合はその地域に還元する 性別やLGBTなどの多様性への高い意識 世の中を良くすための寄付活動を行っている 中間業者などの既得権益を払拭する 参考: ミッションを売れ! 薄利多売から抜け出すためのD2C戦略とは ↑ EverlaneのSF店舗に展示されている人と地域に対する寄付活動のポップ D2Cエキスパートに聞くブランド構築のポイント これから紹介するのは、D2Cの第一線で活躍するエキスパートによるアドバイス。ユーザーに正しいD2C体験を届ける際に役立つ。おそらく近いうちに日本でもD2Cの潮流が来ると思われるので、知っておいて損はないはず。 体験を最優先したブランド構築を 他のブランドを真似しない スピード重視 できるだけ早く告知を始める ゴール設定は現実的に 時には競合も支援する 1. 体験を最優先したブランド構築を D2Cはユーザーに届ける体験を通じてそのブランド価値を生み出している。例えばマットレスを提供するCasperは、マットレスそのものよりも、質の良い睡眠体験を販売している。同じつ、Glossierはそのプロダクトを通じて、より良いコスメ体験を提供しているのだ。 それを実現するためにはどうしたら良いのか?Casperでは、マットレスに入っている素材よりも、より良い睡眠の効果をユーザーにストリートして届けている。もちろん素材に関してもしっかりと説明はしているが、広告でもキャンペーンでも、彼らのメッセージは必ずより良い睡眠に関してのものだ。 体験を通じたブランド構築をするもう一つの方法は、それぞれの顧客の特性をしっかりと理解すること。Glossierが提供する楽しげなブランディングの裏には、ブランドを愛する顧客の嗜好をしっかりと理解することを差別化要因としている。 そして、ソーシャルメディアなどを通じて、専属のコミュニティースタッフが日々やりとりを重ねている。それが功を奏し、アンバサダーを中心に口コミで多くのファンが広がっていった。 Dollar Shave ClubやWarby Parkerなどの以前までのD2Cブランドが便利さを前面に出していたのと比べてみても、最近のD2Cはより体験を重要視したブランド構築を行っている。 参考: D2Cブランドに学ぶウェブサイトに必要な3つのUX要素とは 2. 他のブランドを真似しない 成功しているモデルを徹底的に研究し、それをなぞるのが、これまでのビジネス戦略の定番の1つだった。これがD2Cになると全く通用しない。むしろ逆効果になってしまう。 そもそもD2Cブランドは、プロダクトやストーリーにおいて、オリジナル性が非常に重要になっている。ユーザーの記憶に残り、周りの人々に自慢したくなるようなブランドにするためには、他がやっていないオリジナル演出が不可欠だ。 その1つが開封体験だろう。オンラインで販売されたプロダクトが届き、パッケージを開ける体験は、ブランドに接する一番最初のタッチポイントであり、ユーザーに強烈な印象を与えることができる。 実に、Dotcom Distributionが2016年に実施したEコマースのパッケージングに関する調査によると、しっかりとブランディングされたプレゼントようなプレミアム感のあるパッケージは、ブランドに対するロイヤリティーを上げ、さらにクチコミを促進するという。 参考: D2Cブランドに学ぶ!カスタマーと繋がる開封体験デザイン 3. スピード重視 多くのD2Cはスタートアップである。これは、デジタルテクノロジーを活用しているからだけではなく、スピードも重要視しているから。既存のブランドは、じっくりと時間をかけて行うことが多いが、D2Cブランドの場合は、それだけ早く動き、アップデートできるから勝負の鍵となる。 そのスピード感を実現するために、小さくスタートすることが多い。Bonobosは当初お洒落なズボンだけで始めたし、Allbirdsのラインアップもウールのスニーカーだけであった。 もちろん色やサイズのバリエーションはあるのだが、全ての工程でのスピードを上げるために、最小限のプロダクト数にするのがD2C流。その後、ユーザーからのデータを元に、次の商品の企画や、翌月の選定を行うのが一般的になってきている。 参考: シリコンバレーの企業はどのようにしてスピードを上げているのか? […]

VCに関してもっと早く知っておきたかったリアルな実態

スターツアップエコシステムを語る上で、絶対に外すことにできない存在。それがVCだろう。VCとは、ベンチャーキャピタリストの略で、資金を集め、ファンドを作り、スタートアップに投資を行い、そこからリターンを獲得するのが主な仕事。どうしても、このVCという人たちの本来の役割が意外と知られていないことが多い。 起業家や起業家に憧れる人たちがVCに対して抱くキラキラなイメージと、実際の現場には大きなギャップがあると感じられる。 参考: なぜVCはいつも偉そうなのか 下記は、アメリカで連続起業家として活動しているAaron Dininによるポスト”What I Wish Someone Had Told Me About Venture Capitalists”を日本語にしたもの。彼の起業家としての学びの一つとして、VCとは、投資のゴール、そして彼らとの関わり方などがわかりやすく説明されている。 アメリカの起業家が学んだVCの実態 私はシリアルアントレプレナーであることもあり、起業してから最初の10年ぐらいはVCに対して大きな憧れを持っていた。まるで有名人に対してのように彼らのTwitterをフォローし、著名なVCが登壇するイベントに出席し、Andreesen、Sequoia、Benchmarkなどの著名VCとのミーティングを他の起業家に自慢したりした。 もちろん投資はしてくれなかったが、上記のようなVCとのミーティングに漕ぎ着けられただけで、自分の会社の存在価値が証明された気になっていた。 しかし、後に私はVCの目的を完全に勘違いしていたことに気づく。そしてそれが、長い間資金調達がうまくいかなかった原因ともなっていた。 VCはロックスターだと思っていたという勘違い おそらくスタートアップとVCとの関係性について誤解している人は私だけではないと思う。ある意味、若い起業家は取り巻く環境で、VCをちゃんと理解するよりも、崇拝するように仕掛けられている。 テクノロジー系のメディアには資金調達に関する見出しが踊り、成功者として称える。そして、スタートアップの価値を、世の中に対するインパクト (例: 1万人の子供の命を救った) よりも、評価額 (例: 巨大なユニコーン誕生) で測る。カンファレンスやイベントでは、VCや資金調達に成功した起業家達がステージを飾る。 そんな環境の中で、スタートアップの創業者達は、いつの間にかユーザーの課題解決よりも、投資家が求めることを中心に戦略を立てるようになっていく。 VCをもっとちゃんと理解してほしい この記事を通じて私は、自分がVCから投資を受ける側であるスタートアップの起業家になりたての頃に教えて欲しかった、VCの真の目的とその実態について説明できればと思っている。 それにより、これから起業家になる人たちに対して、1. VCとの正しい関わり方、2. そもそもVCから投資を受けるべきか、を理解してもらえればと思う。 なぜVCが存在しているのか? 起業家目線からは、どうしてもVCは「スタートアップを支援する存在」だと思いがちである。究極的には、VCはスタートアップに投資し、その成長を助ける。それにより、彼らは「創業者達の成功を支援するのが最終目的」のように見えてしまう。 しかし、VCの最終目的がスタートアップの成功と考えること自体が、VCの本当の目的を理解しにくくさせているのも事実だ。 VCは投資機関として、投資家や組織のお金をより幅広く投資することを担っている。したがって、VCの最終ゴールは起業家の夢を実現することではない。彼らの最終目標は投資家に対してより多くのリターンを還元することだ。 上記のポイントはは、起業家がVCに対して持つイメージと、VCの実態とのギャップを埋めるためにも、しっかりと理解しておくの事がかなり重要。 VCが成功するために、投資ターゲットとなるスタートアップは、下記に対して大きなポテンシャルを持っている必要がある。 投資額よりも何倍も大きな評価額を生み出す 他の会社に買収されるか上場するといったエクジットを通じて、投資ファンドに対してリターンを提供する ベンチャーファンドの仕組み これから紹介するのは、VCのビジネスモデルの基本を理解してもらうために、自分の生徒に説明する際にも利用する、極端にシンプル化にしたアナロジーである。完璧ではないが、基本的な理解を得るためには十分だと思う。 例えば10億円のベンチャーファンド (投資向けのお金) があったとする。そのお金を株式市場に投資すると、おそらく10%ぐらいのリターンは得られる。VCはそれよりも多いリターンを目指すのが仕事。 VCはその10億円のファンドを活用し、スタートアップに投資することで、”市場に勝つ”ことを目指す。今回の例では、シンプルにその10億円を10分割し、一口1億円で10社への投資を行うことにする。 一般的にアメリカのVC界では、投資した会社の50%からはリターンを期待できない。投資したお金は紙切れになってしまう。残りの5社のうち4社からは投資した額と同等のリターンを期待する。今回の例だと、この時点でリターンは4億となる。 ということは、現時点で9社からのリターンは4億で、全体投資額の40%しか戻ってきていない。全然ダメだ。しかし、まだ1社残っている。その10番目の会社が”ホームラン”を打つ。大成功したことで、投資額に対して10倍のリターンを出す。すなわち1億が10億に化ける。 これらを合算すると、当初の10億の投資は、合計14億のリターンを生み出した。40%のリターンをファンドにお金を入れてくれた人たちに分配することが可能になる。なかなかおいしい仕組みと思うだろうか?でも、現実はもうちょい複雑である。 持ち株率、希薄化、追加出資 上記の例では、投資した1億の資金がいとも簡単に10億のリターンを出したと仮定している。文字で書くと簡単そうに思えるかもしれないが、実際のにそれを実現しようとすると、なかなか難しい。どうやったら1,000円が10,000円に化けるかを想像してみると、その難しさが実感できるかもしれない。「ユニコーン」と呼ばれるスタートアップが、実存しない動物に例えられる理由も理解できる。 では、どのようなプロセスで1億が10億のリターンを出すに至るかをもう少し説明してみたい。 話を単純にするために、最初に投資した時点で、他にそのスタートアップには投資家がいないと仮定する。そして、1億を投資する代わりに会社の25%の株式を取得したとする。(念のために説明すると、この投資を受けた場合、その会社は、プレで3億、ポストで4億の評価額となる。) この時点で10倍のリターンを生み出すためには、その会社が40億で買収される必要がある。(40億で買収されれば、その25%が10億になるので。) 残念ながら、現実はのVCやスタートアップの世界では、ほぼそうならない。当初4億の評価額を受けた会社が40億で売却されるまで、全く追加出資を受けずに済むことは、まれであるからだ。 多くの場合は、それまでに何度か追加出資を受けることになる。おそらく12ヶ月以内に (願わくば) 当初よりも高い評価額で。追加で出資を受ける場合、既存の株主は、新規の投資家のために自身の持ち株を目減りさせる必要がある。これを希薄化と呼ぶ。 今回のケースでは、当初投資側が4億の評価額の会社の25%を所有していたが、その会社に追加出資を獲得する新規投資家の取り分を与えるために、その25%の持ち株率が下がってしまう。 例えば、この会社が評価額8億 (プレ) で2億の追加出資を受けた場合は、ポストの評価額が10億になる。その場合の創業者、既存投資家、新規投資家の持ち株率は下記のように変化する。 創業者: 60% (75%からダウン) 既存投資家: 20% (25%からダウン) 新規投資家: 20% 追加出資をした新規投資家に20%を渡すために、創業者と既存投資家の持ち株率が下がってしまった。しかし、評価額が10億になったため、その20%の価値は2億になり、当初の4億の25%である、1億の倍の価値になったことになる。これをわかりやすくリスト化すると: 創業時: 評価額4億 創業者: 75%: 3億 投資家: 25%: 1億 追加出資獲得時: 評価額10億 創業者: 60%: 6億 既存投資家: 20%: 2億 新規投資家: 20%: 2億 なかなかイケてるだろう? VCが元々3億の評価額の会社に1億を出資したことで、追加出資を受けた時点で、その評価額は10億にまで膨れ上がった。実に6億も増えたことになる。VCの投資分も1億から2億へと、倍になった。 ここで、当初のゴールである1億の投資を10億にまで増やすことを考えてみよう。持ち株率が20%になったので、そも目標を達成するには、当初の40億より10億多い、50億で会社が買収される必要が出てきた。 念のため、この追加出資の概念について補足する。今回の仮想VCのモデルでは、10億のファンドを10社に投資しただけであったが、現実のVCは、投資した会社の中で優良だと思われるところに、その後も追加で出資することが珍しくない。そうすることで、持ち株比率の希薄化を避けるのだ。 ややこしい追加出資やリターンの細かな説明や計算ロジックはここまでにする。基本的な計算式は変わらない。追加出資が行われた場合は、売却額を上げる必要があるということ。 VCが投資したくなる会社の特徴 ここまでじっくり読んでくれたか、軽く飛ばし読みしたかはわからないが、その仕組みがわかれば、おそらくVCが投資するスタートアップには一定の特徴があることに気づいただろう。VCが投資対象として評価するのは、おのずと急激に大幅成長が見込める会社になってくる。 一方で、そのような急成長を期待できる会社は限られてくる。起業家としてVCからの投資を求める前に、そもそも彼らが求めるタイプの会社であるかどうか、そして創業者としてそれを達成する能力があるかをを自問して欲しい。 1億円は大きなお金のように感じるかもしれないが、VCにおけるリターンのロジックは変わらない。受け取る金額に限らず、スタートアップは何倍ものリターンを出すことが求められる。 今回の例では、1億を投資し、その会社に対してプラス6億の”価値”を生み出した。言い換えると、600%のROIを達成したことになる。株式市場への投資が平均10%程度のROIである事と、それ世界のトップ企業からのリターンの平均である事を理解していただきたい。 それを踏まえると、VCがスタートアップに求めるリターンの大きさが理解できると思う。トップクラスの大企業でも毎年10%の成長を達成する程度であるのに対し、スタートアップは何百倍ものリターンを求められるのだ。まさにハイリスクハイリターン。多くのスタートアップが失敗に終わるのも理解できる。同時にスタートアップを成功させる難易度の高さもわかっただろう。 VC自身も起業家である 投資を受けたスタートアップに求められるリターンの高さはハンパないが、VCが背負うプレッシャーも尋常ではない。なんせ、預かったお金を使って株式投資よりも大きなリターンを生み出す事を期待されているのだから。 そのゴールを実現するために、VCの人たちはリスクの高いスタートアップ投資を通じて、最終的にポジティブなROIを生み出さなければならない。ほぼ不可能に近いぐらいの難易度である。VCの約半数は失敗し、45%はトントンのリターンで終わるのもうなずける。 自分もスタートアップを始めた頃は、VCの仕事がこんなにも大変だとは全く知らなかった。てっきり、VCは業界におけるロックスターであり、気に入ったスタートアップにさくっと何億も投資する。まるで、アッシャーがジャステ・ビーバーを”発掘”したように、起業家を一晩にして成功に導いてくれる存在だと思っていた。 そんな夢を見てた頃の自分は、起業家と言うよりも、VCの前でピッチをしまくるパフォーマーだった。彼らの投資対象になるようなビジネスモデルを理解してもらうよりも、自分のピッチスキルとプロダクトがクールであることばかりをアピールしていた。 今から考えると、VCに対してピッチのスキルを認めてもらったり、プロダクトを好きになってもらう事は、投資をしてもらう事とは全く別の軸であった。彼らは、ピッチの素晴らしさを期待しているわけではなく、自分たちの投資モデルに最も適した会社を探していたのだ。なぜなら、彼らも自分たちのプロダクトをピッチをしなければならないから。 VCもピッチをする責任がある […]

2020年から最大の企業資産はクリエイティブ人材になる

これから人間が最も価値を発揮できるのはクリエイティブな仕事
正確性やミスをしないことは、もはや強みではない
創造性を育む企業カルチャーをと仕組みの整備を

AIやロボットの発達で、人間の仕事がどんどん奪われていく。おそらく、暗記や、計算、データ分析などでは既にコンピューターにお任せした方が良い。単純作業系も、ロボティックスが発展するに合わせて、人間が行う部分は減っていくだろう。しかし、自動化に関するテクノロジーが進むことで無くなる仕事があると一方で、新しい仕事も生み出されると予測される。
マッキン…

大企業xスタートアップのオープンイノベーションをガンガン実現するDelta航空【CES 2020】

大企業がスタートアップとコラボし、新しい価値を生み出す。これは、多くの企業が目標に取り組んでおり、シリコンバレーに拠点を構える日本企業の最も重要なゴールの一つともなっている。
その一方で、実際の成功例は驚くほどに少ない。そもそも、多くのスタートアップは大企業との取り組みに興味がない。むしろ、めんどくさいとすら思われている。これは日本でもアメリカでも、ほぼ同じような状況である。
スタートアップが大企業に持つイメージ

スピードが遅い
偉そう
プロセスがめんどくさい
社員がポンコツ
できない理由を並べる…

2020年に日本企業の経営スピードを上げる5つの方法

先日、我々のアドバイザーもしていただいている澤さんがVoicyにて日本企業と外資系企業での働き方の違いについてお話しされていた。(Voicy: 高いお給料をもらえる会社という考え方について。) GAFAなどの企業は給料が高いだけではなく、従業員の時間を尊重し自由に使える仕組みを提供する事で、より有意義な仕事環境を与えているという内容。旧態然とした仕組みで従業員を管理し、無駄に時間を奪って経営スピードを鈍らせている日本の大企業とはスピード感も全然違うとのこと。 シリコンバレーの企業の決断スピードは日本の100倍 実はこの分析は正しく、シリコンバレーの企業が世界的に凄いとされている理由の1つが、そのスピードの速さであろう。特にデジタルが主流になってきている現代では、これがかなり強力な武器となる。 日本企業が完璧なプロダクトを1つ出す間に、シリコンバレーの競合は20%の完成度のものを5つ出し、ヒットしたものだけを残し改善すると言われるほど、決断、実行、リリースのスピードが速い。 一説によると、日本企業とシリコンバレーの企業を比較すると、その決断スピードには100倍の差があると言う。これは、例えると時速3kmで進むカメと、時速300kmのF1カーぐらい異なるということだ。ある意味、全くカテゴリーが異なる。 参考: 日本がシリコンバレーに100倍の差を付けられている1つの事 Appleでの象徴的な出来事 Appleもスピードを重要視していることがわかるエピソードを紹介したい。2008年にプロダクトマネージャーの一人がミーティングにて、CEOのTim Cookに対して中国の工場での生産に大きな問題が発生している事を伝えた。するとCookは「それはまずい。誰か出向いてどうにかしなければ」と言った。 そのミーティングは継続し、30分ほどが経った時点でCookがその担当者に対し「あれ、なんで君はまだここにいるんだ?」と言うと、彼は急いでサンフランシスコ空港に直行し、服も着替えずにその足で中国行きの便に飛び乗ったという。 Amazonは平均で11.6秒に一回の頻度でデプロイしている Amazonでも、スピードに関しての意識はかなり高い。その一例として、彼らは実に平均で11.6秒に一回ソフトウェアの更新を行なっているというのだ。 もちろんこれは平日だけでのケースではあるが、常に最善の体験をユーザーに届けるため、そして競合に勝つために、新しい仕様リリースしまくっているということになる。 Googleがたどり着いたハイパフォーマンスチームに共通する5つのポイント その決断スピードが速い事で知られるGoogleは以前に業績の良いチームの共通点を探るべく、社内の180のチームに行ったリサーチプロジェクトを行った。その結果によると、個々のチームメンバーのスペックには全く共通点はなく、その仕組みやカルチャーが最も重要であるということがわかった。 その5つの共通点は下記の通り: 信頼性: 時間通りに結果を出せる信頼性が担保されている 透明性: ゴールとそれぞれの役割がクリアになっている 仕事の意義: 仕事の内容が個々のメンバーにとって意義のあるものになっている インパクト: 仕事の結果が社会に良い影響を与える 心理的安全性: 恐怖や不安を感じることなく自分の意見を伝えられる状態が担保されている 上記の中でも、5番目の心理的安全性が保たれていることが、業績を上げるために最も重要なポイントだとGoogleは定義している。この調査の結果、自分の意見を周りの反応を恐れることなく発言できる環境を作ることを最優先するべきだと分かった。 日本企業が経営スピードを上げるための5つの方法 では、こんな時代に日本企業はどうするべきなのか?おそらく、新しく何かを始めるよりも、既存の古臭い仕組みを打破することが必要になってくる。具体的には下記の5つが挙げられる: 1. メール文章の簡略化 日本の場合、ビジネスメールの書き方の基本として、「お世話になります。XXX社の〇〇です」から始め「よろしくおねがいします」でしめることがマナーとさている。そしてその内容もかなり丁寧に書かなければならない。 おそらくこのようなメールの書き方一つをとっても、日本全体でのGDPの1%ぐらいを浪費してしまっているのではないか。そもそも、そんなメール、モバイルのプレビューで見たら、全部「お世話になっております」しか表示されなく、可視性がかなり低くなってしまう。 アメリカでは、メールを書くときには短い方が良いとされる。というのも、読む人の時間を極力奪わないために、ごく単純にわかりやすく書く方が逆に良い印象を与えやすい。 GoodpatchのCEOの土屋くんがうちでインターンをしてた頃、家を借りるために大家に出したメールになかなか返信がない状態が続いた。その内容を見たら、とにかく丁寧すぎて、読む気にもならない。そこでアメリカ風のノリで書き換えたら一発で返信が来た例を紹介する。 元のメール内容: Whom it may concern, Hi my name is Naofumi Tsuchiya. I am visiting San Francisco from Japan. I have my family with me staying here. So, I need to have a room in a safer area. I need to find a room from June X to July X. I have found your room listing on Craigslist. It looks very interesting. I’d like to come to your place to take a look […]

2020年にヒットサービスを生み出す3つの秘訣

世界的にヒットしているサービスやブランドにはどのような共通点があるのだろうか?スペック重視の時代は随分前に終わりを告げ、プロダクトのサービス化が進んでいる。そのような状況に加え、シェアリングエコノミーやD2Cなど、ユーザーを取り巻く環境は急激に変化している。
世界に先駆けて、次のヒットを生み出すことにフォーカスを当てているシリコンバレーを始めとしたアメリカの企業は、2020年以降、どのような要素を含む商品やサービスがユーザーに喜ばれるかを日々研究している。
我々btraxも、日本企業向けにグローバル…

2020年に予想される10のスタートアップトレンドと注目サービス15選

2019年はシリコンバレーを中心に、グローバル規模でスタートアップに関する多くの変化があった。代表的なのが、ユニコーン至上主義から、社会利益追求型へのシフト。 それまでは、評価額をどれだけ高くできるかをゴールにしていたのが、どれだけ世の中に対してポジティブな影響を与えられるかにフォーカスが移り始めている。これはスタートアップ市場の寡占化 & 熟成化が進んだことが1つの理由だと考えられる。 参考: 日本からユニコーン企業を生み出すために必要な5つのポイント 2020年に予想される主なスタートアップトレンド 他にも予想されるスタートアップを取り巻くトレンドに関する主なキーワードをまずは紹介する。 エクジット至上主義から継続性 ユニコーンブームがひと段落 IoT系に再び注目が集まる 経済的価値に加えて社会的価値の重要性 B2B向けサービスの躍進 テクノロジーよりもユーザー体験 正しいチームカルチャーの重要性 金融業界の大きな改革が進む 心を豊かにするウェルネス系サービス ノンデジタルでのブランド構築 1. エクジット至上主義から継続性 スタートアップのゴールの1つが、短時間でIPOやバイアウトなどのエクジットを達成し、一攫千金を得ること。日本国内の感覚だと、なるべく早い段階の上場を、アメリカだと、なるべく高い金額での売却を狙うことが多い。そのために、赤字での上場や、手段を選ばないユーザー獲得方法などの裏技を駆使することも多い。 その一方で、昨今のWeWorkでの一件などから、早急なエクジットよりも、継続性の高いビジネスモデルが求められるようになってきている。 参考: ベンチャー企業とスタートアップの違い 2. ユニコーンブームがひと段落 上記に関連し、末上場で評価額10億ドルを超える、ユニコーン企業ブームもひと段落する感じがする。上場前のUberに見られるように、グロース重視で、評価額を上げるだけ上げたは良いものの、その後の展開に苦しむケースも増え始めたことにより「ユニコーンを目指そう!」という目標自体がダサい感じになり始めている。もちろん、日本からユニコーンを出そう、という日本政府の方針も時代遅れな感じがする。 参考: ユニコーンの次はデカコーン 3. IoT系に再び注目が集まる 一時期は「モノのインターネット」とも呼ばれ、注目を集めていたIoT系のプロダクトであるが、ビジネスとしては、うまくいかないケースが多く、ここ数年で縮小気味であった。しかし、今年からはB2B系のIoTソリューションや、スマートホームやリテール、エンタメ系など、よりユーザーの日常生活に密着した、新しい形のIoT系プロダクトやサービスがリリースされたことで、再燃してきている感じがする。一時期は下火になったIoT系のスタートアップに再び注目が集まり始めている。 参考: 2020年知らないと恥ずかしい!?米国で注目のIoTサービス5選 4. 経済的価値に加えて社会的価値の重要性 お金儲けだけではなく、社会に対するポジティブな影響を与えられるサービスや企業に人気が集まる。ここ数年で話題になってきているD2C系のブランドや、代用肉のスタートアップも、社会貢献のストーリーを前面に出すことで、注目が集まっている。「ユニコーンとシマウマの違いを知っていますか?」でも語られている通り、大規模、急成長が特徴であったユニコーンに対するアンチテーゼとしても興味深い。 参考: イノベーションの効果測定方法 5. B2B向けサービスの躍進 スタートアップサービスと聞くと、どうしてもアプリやWeb系を想像しがちであるが、実は、業務効率化、顧客獲得、バックオフィス運営などのB2B系のソリューションもかなり注目されている。代表的なものだと、日本でも導入が増えてきているSlackや、Smart HRに代表される、既存の面倒な仕組みをクラウド化して改善する、実務系サービスが挙げられるだろう。 6. テクノロジーよりもユーザー体験 これまでは主に消費者向けのサービスが中心に、優れたユーザー体験を提供することが、そのサービスの大きな価値になってきている。それに加え、今後はB2Bを含め、あらゆるサービスにその重要性は高まっている。例えばMealPalの様に、既存のサービスと同じ内容であったとしても、UX部分を大幅に改善するだけでも、新しい価値提供に繋がるケースも少なくはない。 参考: 【今さら聞けない】デザインがビジネスにこれほど重要な理由 7. 正しいチームカルチャーの重要性 スタートアップは多くの場合、急成長を達成するために全てが流動的に変化する一時的な集合体である事が一般的であった。しかし、より継続的な存在になるためには、社内カルチャーの醸成の重要性が高まってきている。これも、WeWorkの一件で明るみに出た部分でもある。 参考: イノベーションを生み出す海外企業カルチャー10事例 8. 金融業界の大きな改革が進む 2019年は日本でもモバイルペイメントに代表されるようなキャッシュレス系サービスが話題になっていたが、今年はそれらを含む各種フィンテック系ソリューションの知名度がより高まってくるだろう。それと同時に、既存の金融業界は今まで以上にユーザーに喜ばれる体験の提供が求められる。もしかしたらスタートアップサービスの影響で、大手の金融機関の経営に大きな影響が現れ始めるかもしれない。 参考: 銀行はなぜ滅びるのか – それを阻止する方法は? (金融革命 Part 1) 9. 心を豊かにするウェルネス系サービス 世の中にデバイスとデジタルサービスが普及するに合わせ、ユーザーの心の豊かさを危惧する声が上がり始めている。実際、平均的なユーザーは、人と接する時間よりも、デバイスを触っている時間の方が多い。そんな時代の変化に合わせ、人々の心を豊かにする、ウェルネス系のサービスに注目が集まる。 参考: テクノロジー中毒の危険性? 人間よりもデバイスと過ごす時間が多い時代に 10. ノンデジタルでのブランド構築 インターネットを通じて情報にアクセスしやすくなったことで、ユーザーは商品やサービスに関する情報に対して敏感になっている。そのため、最近の傾向としてユーザーはブランドに対して透明性や信頼性を求めるようになった。そこに対していかにリアルなストーリーや、イベントなどを通じた「人間味」出せるかが、スタートアップにおけるブランド構築のポイントになり始めている。 参考: D2Cブランドに学ぶブランド認知向上に効果的なキャンペーン事例4選 2020年にbtraxが注目するスタートアップ 上記のトレンドを踏まえ、クライアント企業とスタートアップとのコラボを提供している我々btraxも注目している15のスタートアップを下記に紹介する。 Spatial ARを活用したコラボサービス 注目ポイント: リモートワークが進む中で、ホワイトボードや付箋を利用したコラボやディスカッション、ワークショップの必要性も高まっている。その二つの相反するニーズをARと3Dテクノロジーを活用して実現するサービス。 本社: ニューヨーク 領域: AR、業務改善、3D https://spatial.is/ Impossible Foods 植物性タンパク質で作った代替肉 注目ポイント: アメリカで現在大きな社会問題の1つにもなっている家畜と食用肉の関係を解決するために、動物の命を奪わずに美味しい肉を提供することをゴールとしている。実際に食べてみても、実際の肉と遜色のないクオリティーで、現在では大手ハンバーガーチェーンのBurger Kingにも採用されている。 本社: シリコンバレー 領域: フードテック、食品 https://impossiblefoods.com/ 関連記事: ビヨンドミートだけじゃない。食品産業に革命を起こす次世代フードを実食。 Nova Credit 移民の人たち向けクレジット金融サービス 注目ポイント: 移民の多いアメリカであるが、国外から移住してきた人にとってすぐにクレジットカードを獲得するのは非常に難易度が高い。そんな社会的問題に対して、テクノロジーを活用し、それぞれの母国でのクレジットヒストリーを活用することで解決するサービス。 本社: サンフランシスコ 領域: フィンテック、金融 https://www.novacredit.com/ AirGarage 利用していないスペースを駐車場として貸し借りするプラットフォーム […]

2019年のデザイン経営トレンドを振り返る

2019年を締めくくるにあたり、経営におけるデザインの与えるポジティブインパクトについて、まとめてみたい。アメリカ西海岸をはじめ、多くの企業がすでにデザインの恩恵を受けているが、まだまだその数は少なく、世の中のビジネスの大半は、その重要性をいまだ実感していない。 数字で表される経営に対するデザインの力 米国のコンサルティング会社Motiv Strategiesによると、デザイン的考え方を経営に積極的に取り入れている上場企業16社は、その株価の伸びがS&P 500全体と比べ2003年から2013年の10年間で228%高くなっているという統計を発表した。 ちなみに、このDesign Value Index指数におけるDesign-centric Organizationに選ばれるための評価項目は下記の通り: 過去10年間で上場している 経営とマネージメントの根幹にデザインを活用してる デザインに関する事柄に対しての投資と影響力が増えている 企業の組織構造とプロセスにデザインが浸透している 経営陣に15-20年のデザインバックグラウンドをもつ者が含まれている 経営トップ及び部門長がデザインの重要性を理解し実践している 参照: Design Can Drive Exceptional Returns for Shareholders また、2018年10月のマッキンゼーによる調査では、デザインを経営に活用している企業は平均と比べ、売り上げの伸びが32%もアップし、株主へのリターンも56%高くなっているという結果が出ている。 参考: 数字で証明されたデザイン経営の重要性 デザイン施策の計測方法とその活用事例 マッキンゼーのパートナーであり、イギリスでプロダクト開発とデザインに関するサービスを提供するベネディクト・シェパードによると、商品の差別化がどんどん難しくなってきている現代において、多くの企業の重役たちが、プロダクトやサービスデザインの重要性を叫び始めていると語る。マッキンゼーの調査では、下記の4つの領域においてのデザインの経営に対するインパクトを計測している。 1. デザインの影響が実際の数字で計測できる領域での活用 例: とあるゲーム会社はホームページのユーザビリティを改善したことで売り上げが25%アップした。 2. ユーザーとの対話を最優先したユーザー体験 (UX) 設計 例: とあるホテルは、お土産のアヒルのおもちゃにそれぞれの都市名を刻印することで、コレクション性を高めた。それにより顧客の維持率が3%高まった。 3. プロジェクトチームに優秀なデザイナーを参加させ裁量を任せる 例: ストリーミング音楽配信サービスのSpotifyではデザイナーに多くの権限を与え、自分たちの判断で自由な活動ができるようにした。 4. プロダクト開発においてリサーチ、プロトタイピング、改善を推奨 例: とある旅客クルーズ会社は、ユーザー行動調査及び支払データを元に、船上で人気の高い活動を分析し、機械学習を活用することで、最も効率の良い船のレイアウトを導き出した リサーチの結果、上記の4つの領域を一貫して実行している企業は売り上げなどの業績が他の企業よりも急上昇していることがわかった。逆に言うと、この4つ全てをしっかりとコミットしていなければ、しっかりとした結果が出てないという事でもあった。 デザインが経営に与える具体的なインパクト InVisionが実施した、デザインを経営経営に取り入れている企業300社に対するリサーチによると、具体的に下記のようなメリットが表れている。 商品のクオリティに対するインパクト ユーザビリティ改善: 81% 顧客満足度向上: 71% 業務に与えるインパクト 社員の作業効率の向上: 33% 商品の市場リリーススピードの向上: 29% 会社の利益に対するインパクト 売り上げの向上: 42% コンバージョン率の向上: 35% コスト削減: 30% マーケットポジショニングに関してのインパクト ブランド価値向上: 39% 新しい市場参入への効果: 25% デザインパテントや知的財産権への効果: 13% 評価額や株価への効果: 10% 2019年はデザイン経営元年 グローバル規模では上記のような統計データがあるものの、日本国内において本当の意味でデザインの経営における重要性が理解され始めたのはここ最近であり、2019年になってからやっと本格的に企業がデザインに対しての取り組みを進めていると感じる。 今年は年始に予測した通り、主に下記のような変化があったと感じる。 デザインが経営資源の一つの軸に 差別化要因としてのデザインの役割 データ活用とAI連動の実用化 デザイナーの概念の変革 デザイン会社と企業の連動が常識に 参考: 【2019年】デザインと経営に関する5つのトレンド予測 世の中が豊かになったからこそ求められるデザイン的価値 これまではどの企業も価格や機能、品質などの「カタログ要素」で勝負をしてきた。しかし、全てのプロダクトのコモディティ化が進む中では、カタログには乗りにくい特性、例えば、斬新さや、美しさ、使い心地の良さなどで他社製品と争うことになる。 現代のような豊かな時代では、合理的、理論的、そして機能的な必要に訴えるだけのプロダクトでは、とうてい利益は上げられない。これからのビジネスの世界では、手頃な価格で十分な機能が備わった製品を製造するだけではもはや不十分である。 数字で表現できる性能の高さに加え、感覚的に美しく、ユニークで、意味があり、利用体験の優れたプロダクトでなければ、消費者の心を動かすことが難しくなってきている。 差別化の最後の砦となるデザイン的要素 むしろデザイン力を武器にすれば、大きな差別化要素を生み出すことも可能になってくる。 このことは、SONYの前会長、大賀典雄氏の下記の言葉からも推し量ることができるだろう。 SONYでは、同業他社の製品は全て基本的に同じ技術を使っていて、価格、性能、そして特徴に差はないと考えている。市場において製品を差別化できるものは、デザインをおいて他にない。 価格競争から抜け出し付加価値で勝負 特にアメリカでは、今日の供給気味の市場の中で、他社製品やサービスとの差別化を図るには、デザイン性やユーザー体験の品質が高く、消費者の心に訴えかけるようなものを提供するしかなくなってきている。 言い換えると、どれだけ付加価値を提供できるかが勝負のポイントになってくる。さもなければ、熾烈な価格競争に巻き込まれるのがオチであり、中国などの製造コストの安い国には全くをもって太刀打ちすることが出来ない。 まずは社員にデザイナー的マインドセットを デザイン経営を始めるにあたり、よく聞かれるのは「何から始めたら良いでしょうか?」という質問。答えとしては、スタッフの方々にデザインの基本や、その役割を理解してもらう事から始めるのが良いと思われる。言い換えると、デザイナー的マインドセットを身に付ける事である。 デザイナー的マインドセットとは デザイナーの人たちが普段問題解決を行う際に利用している考え方やプロセスを元にした価値観や考え方。 デザイナー的考え方: クリアにコミュニケーションを行なう 正しいものを正しいところに 自由な発想からスタート 制限をクリエイティブの源に 顧客/ユーザー視点で考える 仮説 → コンセプト→ プロトタイプ → 検証→ 改善のプロセス 失敗から学ぶ 心地よさを優先する ロジックと感覚の両方を活用 分かりやすく使いやすくを優先 Less is more 相手の気持ちを理解する 細部にこだわる […]

2019年のデザイン経営トレンドを振り返る

2019年を締めくくるにあたり、経営におけるデザインの与えるポジティブインパクトについて、まとめてみたい。アメリカ西海岸をはじめ、多くの企業がすでにデザインの恩恵を受けているが、まだまだその数は少なく、世の中のビジネスの大半は、その重要性をいまだ実感していない。 数字で表される経営に対するデザインの力 米国のコンサルティング会社Motiv Strategiesによると、デザイン的考え方を経営に積極的に取り入れている上場企業16社は、その株価の伸びがS&P 500全体と比べ2003年から2013年の10年間で228%高くなっているという統計を発表した。 ちなみに、このDesign Value Index指数におけるDesign-centric Organizationに選ばれるための評価項目は下記の通り: 過去10年間で上場している 経営とマネージメントの根幹にデザインを活用してる デザインに関する事柄に対しての投資と影響力が増えている 企業の組織構造とプロセスにデザインが浸透している 経営陣に15-20年のデザインバックグラウンドをもつ者が含まれている 経営トップ及び部門長がデザインの重要性を理解し実践している 参照: Design Can Drive Exceptional Returns for Shareholders また、2018年10月のマッキンゼーによる調査では、デザインを経営に活用している企業は平均と比べ、売り上げの伸びが32%もアップし、株主へのリターンも56%高くなっているという結果が出ている。 参考: 数字で証明されたデザイン経営の重要性 デザイン施策の計測方法とその活用事例 マッキンゼーのパートナーであり、イギリスでプロダクト開発とデザインに関するサービスを提供するベネディクト・シェパードによると、商品の差別化がどんどん難しくなってきている現代において、多くの企業の重役たちが、プロダクトやサービスデザインの重要性を叫び始めていると語る。マッキンゼーの調査では、下記の4つの領域においてのデザインの経営に対するインパクトを計測している。 1. デザインの影響が実際の数字で計測できる領域での活用 例: とあるゲーム会社はホームページのユーザビリティを改善したことで売り上げが25%アップした。 2. ユーザーとの対話を最優先したユーザー体験 (UX) 設計 例: とあるホテルは、お土産のアヒルのおもちゃにそれぞれの都市名を刻印することで、コレクション性を高めた。それにより顧客の維持率が3%高まった。 3. プロジェクトチームに優秀なデザイナーを参加させ裁量を任せる 例: ストリーミング音楽配信サービスのSpotifyではデザイナーに多くの権限を与え、自分たちの判断で自由な活動ができるようにした。 4. プロダクト開発においてリサーチ、プロトタイピング、改善を推奨 例: とある旅客クルーズ会社は、ユーザー行動調査及び支払データを元に、船上で人気の高い活動を分析し、機械学習を活用することで、最も効率の良い船のレイアウトを導き出した リサーチの結果、上記の4つの領域を一貫して実行している企業は売り上げなどの業績が他の企業よりも急上昇していることがわかった。逆に言うと、この4つ全てをしっかりとコミットしていなければ、しっかりとした結果が出てないという事でもあった。 デザインが経営に与える具体的なインパクト InVisionが実施した、デザインを経営経営に取り入れている企業300社に対するリサーチによると、具体的に下記のようなメリットが表れている。 商品のクオリティに対するインパクト ユーザビリティ改善: 81% 顧客満足度向上: 71% 業務に与えるインパクト 社員の作業効率の向上: 33% 商品の市場リリーススピードの向上: 29% 会社の利益に対するインパクト 売り上げの向上: 42% コンバージョン率の向上: 35% コスト削減: 30% マーケットポジショニングに関してのインパクト ブランド価値向上: 39% 新しい市場参入への効果: 25% デザインパテントや知的財産権への効果: 13% 評価額や株価への効果: 10% 2019年はデザイン経営元年 グローバル規模では上記のような統計データがあるものの、日本国内において本当の意味でデザインの経営における重要性が理解され始めたのはここ最近であり、2019年になってからやっと本格的に企業がデザインに対しての取り組みを進めていると感じる。 今年は年始に予測した通り、主に下記のような変化があったと感じる。 デザインが経営資源の一つの軸に 差別化要因としてのデザインの役割 データ活用とAI連動の実用化 デザイナーの概念の変革 デザイン会社と企業の連動が常識に 参考: 【2019年】デザインと経営に関する5つのトレンド予測 世の中が豊かになったからこそ求められるデザイン的価値 これまではどの企業も価格や機能、品質などの「カタログ要素」で勝負をしてきた。しかし、全てのプロダクトのコモディティ化が進む中では、カタログには乗りにくい特性、例えば、斬新さや、美しさ、使い心地の良さなどで他社製品と争うことになる。 現代のような豊かな時代では、合理的、理論的、そして機能的な必要に訴えるだけのプロダクトでは、とうてい利益は上げられない。これからのビジネスの世界では、手頃な価格で十分な機能が備わった製品を製造するだけではもはや不十分である。 数字で表現できる性能の高さに加え、感覚的に美しく、ユニークで、意味があり、利用体験の優れたプロダクトでなければ、消費者の心を動かすことが難しくなってきている。 差別化の最後の砦となるデザイン的要素 むしろデザイン力を武器にすれば、大きな差別化要素を生み出すことも可能になってくる。 このことは、SONYの前会長、大賀典雄氏の下記の言葉からも推し量ることができるだろう。 SONYでは、同業他社の製品は全て基本的に同じ技術を使っていて、価格、性能、そして特徴に差はないと考えている。市場において製品を差別化できるものは、デザインをおいて他にない。 価格競争から抜け出し付加価値で勝負 特にアメリカでは、今日の供給気味の市場の中で、他社製品やサービスとの差別化を図るには、デザイン性やユーザー体験の品質が高く、消費者の心に訴えかけるようなものを提供するしかなくなってきている。 言い換えると、どれだけ付加価値を提供できるかが勝負のポイントになってくる。さもなければ、熾烈な価格競争に巻き込まれるのがオチであり、中国などの製造コストの安い国には全くをもって太刀打ちすることが出来ない。 まずは社員にデザイナー的マインドセットを デザイン経営を始めるにあたり、よく聞かれるのは「何から始めたら良いでしょうか?」という質問。答えとしては、スタッフの方々にデザインの基本や、その役割を理解してもらう事から始めるのが良いと思われる。言い換えると、デザイナー的マインドセットを身に付ける事である。 デザイナー的マインドセットとは デザイナーの人たちが普段問題解決を行う際に利用している考え方やプロセスを元にした価値観や考え方。 デザイナー的考え方: クリアにコミュニケーションを行なう 正しいものを正しいところに 自由な発想からスタート 制限をクリエイティブの源に 顧客/ユーザー視点で考える 仮説 → コンセプト→ プロトタイプ → 検証→ 改善のプロセス 失敗から学ぶ 心地よさを優先する ロジックと感覚の両方を活用 分かりやすく使いやすくを優先 Less is more 相手の気持ちを理解する 細部にこだわる […]

2019年に消滅したスタートアップとその理由

毎年恒例、その年に無くなってしまったスタートアップ特集。その失敗理由などから学ぶことで、今後の役に立てようというのが目的。こちらアメリカでは失敗することが必ずしも悪いことではなく、そこから得るものがあれば成功へのプロセスの1つとして捉えることも可能になる。 特に新陳代謝の激しいスタートアップ業界では、派手な成功ストーリーの裏では、連日新しい企業が生まれては消えている。IBM Institute for Business Value and Oxford Economicsの調査によると、実にその90%は5年以内に無くなると言われている。その失敗理由やサービス内容を知るだけでも今後の大きな学びになる。 惜しくも2019年に無くなってしまったスタートアップ達 2019年12月25日現在までで、確認されているだけで553のスタートアップが消滅し、その合計資金調達金額は$19億ドルにのぼる。そんな中でも、今回はその資金調達額と、期待値の規模ベースにいくつかをピックアップしてみた。 Layer カスタマーサービス向けのチャットボットシステムを提供し、インドのフードデリバリー大手のSwiggyなどにも採用されたが、競合の存在や、成長速度の鈍化などが理由で、2019年10月末にサービスを停止した。なお、現在Layer.comは25万ドルで売り出し中。 事業エリア: チャットボット 資金調達額合計: 4400万ドル 失敗理由: 投資家からのプレッシャー 主な原因: 会社の成長スピードに対しての投資家からのプレッシャーに対し、Intercomなどの競合の存在もあり、より大きなマーケット獲得をすることができなかった。 Stimwave 神経系の症状に対して、ワイヤレステクノロジーを活用した医療デバイスを開発するStimwaveは、これまで入院を余儀なくされていた患者に対して、より自由なライフスタイルを送れるようなソリューションを提供していた。 事業エリア: ヘルスケア 資金調達額合計: 5470万ドル 失敗理由: 市場ニーズに合っていなかった 主な原因: 同社のソリューションの効果に相反するような裁判所による判例もあり、当初想定している効果が得られにくいと考えられた。 Anki カーネギーメロン大学の卒業生によって2010年に創立されたAnkiは、2016年にAIを実装した家庭用ロボット、Cozmoをリリース。その後、2018年には最新モデルであるCozmoをグラウドファンディングでリリースし、190万ドルを集めた。Fast Companyが選ぶ、2018年度の”The Word’s Most Innovative Companies” のロボティックスカテゴリーで1位を獲得するなど、絶好調に見えたが、あえなく終了してしまった。 事業エリア: ロボティクス 資金調達額合計: 1.82億ドル 失敗理由: 資金が尽きた 主な原因: 150万ユニットのプロダクトを販売したものの、ハードウェアビジネスにおけるコストは非常に高く、利益を出すのが難しいと判断した。 Laurel & Wolf 2014年より、インテリアデザイナーと顧客をマッチングさせるプラットフォームを提供していたLaurel & Wolf。その期待値の高さから、eBay、Dropbox、 Twitter、 Uberなどにも投資を行ったVCであるBenchmarkからの投資も獲得。2017年にはHome Depotとのパートナーシップも発表し、順風満帆のように見えていたが、2019年の初頭にサービス停止に追い込まれた。 事業エリア: インテリアマーケットプレイス 資金調達額合計: 3580万ドル 失敗理由: 運営コストとサービスの質の低さ 主な原因: それまでは比較的好評だったサービスが、2018年の夏頃からネガティブな口コミが書かれ始めた。ユーザーとサービス提供側とのトラブルが続出していた。 Call9 高齢者をターゲットに、老人ホームや介護施設と医師をつなげることで、緊急時に必要とされるオンデマンド型救急医師派遣プラットフォームを提供していた。 事業エリア: ヘルスケア 資金調達額合計: 3400万ドル 失敗理由: 市場ニーズが追いついていない 主な原因: 加えて、投資家との折り合いがつかず、サービス終了に追い込まれた。 Aria Insights 石油採掘場、軍用、警備用などのシーンにて、ドローンを活用することで、人間では危険だと思われる場所からデータを集めるソリューションンを提供していたが、既存のニーズに合っていなかったという理由で終了した。 事業エリア: ドローン 資金調達額合計: 3900万ドル 失敗理由: プロダクトが時代よりも先進的すぎた 主な原因: 将来起こるであろう課題にフォーカスしすぎたため、現代ではまだ必要とされていないプロダクトを作ってしまった。 Arivale ユーザーの遺伝子、血液、そしてマイクロバイオームデータから、それぞれに最適な情報を提供することで、ウェルネスの達成と病気予防と提供したが、2019年の5月にサービスをクローズした。 事業エリア: ヘルスケア 資金調達額合計: 5260万ドル 失敗理由: サービスのコスト高 主な原因: 医療データにおけるテスト、分析にかかるコストが高く、ユーザーへのチャージ金額との折り合いがつかなかった。 Kahuna 最新の機械学習テクノロジーを活用し、よりパーソナライズな体験を提供するマーケティングオートメーションサービスの提供を目指していたが、2019年の前半にサービスを停止し、5月にはサイトも消滅した。 事業エリア: マーケティングオートメーション 資金調達額合計: 5800万ドル 失敗理由: 未発表 主な原因: いきなりサービスが停止され、具体的な説明も無い。 Nomiku 元々ニューヨークに住んでいたカップルがサンフランシスコに引っ越し、ハードウェアアクセレレーターに参加。その後Samsungからの投資も獲得し、真空調理法を実現するスマートデバイスを開発した。2017年には、真空調理法で作られた料理のサブスクリプション型デリバリーサービスにピボットした。ちなみに社名は日本語の”飲み食い”が由来。 事業エリア: スマート調理デバイス 資金調達額合計: […]

なぜ優秀なデザイナーでも酷いデザインを生み出してしまうのか?

日常生活において「なんでこんなデザインにしちゃったんだろう?」と感じることが意外と多い。誰がどう見たって醜いルックス、どうしたって使いにくい操作性、非常に心地悪い体験、などなど。もっと良いデザイナーにデザインさせろよ!と思うかもしれない。でも、もしかしたら原因は他にある可能性も。 優秀なデザイナー ≠ 優れたアウトプット 優れたデザイナーに頼めば、必ず優れたデザインをしてもらえるのか?答えはNo。むしろどんな優秀なデザイナーであっても、低いアウトプットのクオリティーが低いものになってしまうこともある。そして、その理由はデザイナーのスキル以外にあったりする。これは、イコール優秀なデザイナーさえ雇えばクオリティーの高い結果が出るわけではないということでもある。 ■ 醜いデザインが生み出されてしまう主な理由■ 事前に十分なインプットが得られていない 間違った期待値設定 クライアントや担当者に対して間違った質問をしている 民主主義の決定プロセス PM主体のプロジェクトプロセス フィードバックではなく承認を求め始める 身の丈に合わないプロダクトスペック チームメンバーの主観だけで決めてしまう 全体のUXよりも見た目のデザインを優先してしまう 長期的なUXゴールよりも短期的な結果を優先してしまう 組織が分断されている デザイナースキルのミスマッチ 心理的安全性が担保されていない 多様性の低いチームメンバー構成 求めるデザインの仮説を立て、リサーチを行い、ユーザーとの対話もし、チェックポイントごとに関係各所と綿密な確認も行なった。その後、QAをして、リリースまで漕ぎ着けた。しかし、完成したものを見てみると、なぜか微妙な結果になっている。そのような事例は後を絶たない。これは、デザイナーの能力に問題があったのではなく、多くの場合、組織構造、プロセスや期待値設定など、複合的な理由であることがほとんど。 より良い結果を望むのであれば、デザイナーの方々だけでなく、社内でも、社外でも、デザイナーと仕事をする方々にもぜひ覚えておきたい落とし穴をいくつか紹介する。 事前に十分なインプットが得られていない これは、デザイン会社とクライアントとのプロジェクトで生まれやすい落とし穴。本来はプロジェクトをスタートする時点で、クライアント側からプロジェクトの目的やゴールなど、の入念なインプットに十分な時間を費やすべきなのであるが、どうしても忙しい、納期がきつい、めんどくさい、などの理由で、いきなりデザイン作業に移行してしまうことがある。この“見切り発車”が大きな落とし穴。 そうなると、しばらくしてから出来上がった物がクライアントが想定していた目的に準じていない感じになってしまう。我々、btraxでは、プロジェクトの開始時の1-2週間を”ディスカバリーフェーズ”と名付けた、情報共有と信頼関係構築のための期間に充てる。そうすることで、結果的に時間とコストの短縮につながる。 典型的な結果例: クライアントから発注内容と異なるというクレームが出る 間違った期待値設定 デザインが課題の解決や目的達成のための手段だとするならば、まず最初のゴールや期待値の設定がとても重要になってくる。しかし、多くの場合その時点で既にズレが生じている。多くの場合は、当初設定していた期待値よりも、より多くのことを求めすぎる傾向がある。 例えば、ECサイトのチェックアウト機能の改善という目標に対して、リピート顧客がよりスムーズに買い物ができるようにするために、ステップを減らす、というゴール設定をしたとする。しかし、それがいつの間にか「ユーザーの買い物体験の向上」といった、壮大なるテーマにすり替わり、デザインフォーカスがぶれ始める。 その結果、本当に何を達成すべきかを見失い始め、当初設定していたゴール達成が難しくなってくる。これは、多くの場合、プロジェクトリーダーが上司の顔を気にしすぎることで、欲張りになってしまっているのが原因だ。 典型的な結果例: 何をするにも使いにくいデザイン、構成要素が多すぎて分かりにくい 関連記事: デザイン最優先のAirbnbがユーザー獲得のために行う3つのマインドセットと4つのコアプロセス クライアントや担当者に対して間違った質問をしている デザイナーが最もしてはいけない質問は「こんな感じでどうでしょうか?」だろう。この質問をした瞬間に、そのデザインに対する主導権は相手に渡ってしまい、デザイナーの仕事は一気に言われたことだけをやる、オペレーターになってしまう。 そして、最悪なことに、その時点からデザインのことがよくわからない素人が、個人的な感覚で指示を出し始める。そこにデザイナーとしてのアイディアを提案する余地は残されていない。そうなってくると、その後はデザインのクオリティーがどんどん劣化してしまうだけだ。 以前に先輩のデザイナーから受けた最も重要なアドバイスの1つが「デザインプレゼンの際にはデザインの話をするな」だった。この狙いは、そのデザインが解決するべき課題や、目的、経営的ゴール、プロダクトのビジョンなどにフォーカスを当てることで、デザインを”目的”ではなく、あくまで”手段”として客観的に捉えるようにすることだ。 その目的も考慮せずに、ボタンの色は青が良いか、赤が良いか、のような議論が始まったとしたら要注意である。 典型的な結果例: デザイン理論的にもトンチンカンなアウトプット 民主主義の決定プロセス 優れたデザインを世の中に出すことよりも、プロジェクトメンバーや上司の顔色を伺うことを優先したプロダクトは必ず失敗する。例えば、Appleの製品のその多くが、機能面でかなり”削られた”ものであるケースが多い。それは、iPhoneの物理的ボタンの数や、Macbookのポートの数を見てもわかる。これがもし、プロジェクト参加メンバーみんなの合意を得るプロセスであったとしたら、あのようなプロダクトは生まれない。 また、SONYのウォークマンのような、新しい価値を生み出すプロダクトは、熱狂的なリーダーの一存で決まっていくことも多い。この辺は議論やぶつかりを避ける傾向にある日本企業にとっては大きなハンデとなっている。 典型的な結果例: つまらないデザイン、機能てんこ盛りのプロダクト 関連記事: なぜデザインはシンプルな方が良いのか PM主体のプロジェクトプロセス ユーザーのと対話がデザインプロセスの中で最も重要なポイントであるのであれば、デザイナー自身がエンドユーザーとの対話ができていないのに優れたデザインを生み出すのは、ほぼ不可能に近いだろう。しかし、多くの場合は、プロジェクト担当者やPMの方が表に立ち、デザイナーはあくまで”裏方”として仕事を進めていく。ここにプロセス的に大きな問題が潜んでいる。 デザイナー自身が直接ユーザーとの対話ができないことでモチベーションが下がり、デザインのオーナーシップが失われる。そして、その後はデザイナーとPMとの伝言ゲームが始まり、負のスパイラルに陥る。加えて、デザイナーは最終的なビジネスゴールを理解するのが難しくなり、見た目のデザインだけに終始してしまう現象が発生する。 典型的な結果例: 見た目のクオリティーは悪くないが、妙に使いにくいUX フィードバックではなく承認を求め始める プロジェクトにおける定期的なチェックポイントでは、主にフィードバックとディスカッションに時間を費やすべきなのであるが、チーム内、およびデザイン会社とクライアントの間でフラットな信頼関係が構築されていない場合、どうしても、承認を得るのが目的になってしまい、ミーティングの内容も「これで進めて良いでしょうか」に終始してしまう。 このプロセスに巻き込まれると、承認を得るために、決定権のある人の顔色ばかりを伺ってしまい、デザイナーのスキル以上のアウトプットを出すことが不可能になる。 典型的な結果例: とてもダサいデザイン 身の丈に合わないプロダクトスペック サイトやサービス、プロダクトを考える際には、リリースした後の状態も考慮して設計をする必要がある。と言うのも、あれもこれも含めてしまって、リリース後にコンテンツが間に合わないケースが多発しているからだ。 例えば、更新頻度がめっちゃ低いブログや、表記項目だけあって、中身が空っぽのECページなど、明らかにリリース後の運用フェーズを想定せずにデザインされていることが意外と多い。また、リソースの足りなさから、箱は作ったものの、中身が空っぽの状態でユーザーに届けられる。 そうなると「これ、誰が責任持ってアップデートしていくの?」という質問が公開後にされ、短時間でサービス終了に追い込まれるケースも少なくない。 典型的な結果例: UIは美しいが、コンテンツが空っぽのアプリ チームメンバーの主観だけで決めてしまう 優れたデザインプロセスには、ユーザーとの対話が不可欠である。しかし、現実はそれを行っていない場合の方が多いだろう。なぜなら、デザイナーを含めた、プロジェクトチームのメンバーの直感で多くのことが決められるからだ。人間は視覚で物事を判断しやすく、ことビジュアルデザインに関しては、エンドユーザーでなくとも、意見が言いやすい。 それが上司なのか、クライアントなのか、製作者なのかはケースによって異なるだろうが、想定される利用者からのフィードバックを得ずにデザインされたプロダクトのクオリティーはどうしても低くなってしまいがちである。 典型的な結果例: 説明してもらわないと意図が伝わりにくいプロダクト 全体のUXよりも見た目のデザインを優先してしまう これは、昔からの叩き上げや、アーティスト気質のデザイナーが陥りやすいトラップ。本来、プロダクトやサービスにおけるデザインクオリティーを考えた場合、総合的なユーザー体験が最も優先されるべきである。しかし、目先のビジュアルクオリティーにこだわりすぎたがために、利用した際に、使いにくい、心地悪いUXになってしまうこともある。 このポイントにおけるもう1つの弊害は、デザインした内容が技術的に実現不可能であるケース。見た目にこだわりすぎて、実際にどのようなテクノロジーを活用して”動かす”かを見落としているために、総合的なUXが全く実現されなくなる。 典型的な結果例: 全てが画像になっているサイト 長期的なUXゴールよりも短期的な結果を優先してしまう ビジネス的な結果を重視するのは良いのだが、短期的な結果を求めすぎるが故に、長期的なユーザー体験が犠牲になる。そして、最終的にはブランド価値の低下を招き、顧客離れが起こってしまう。 例えば、短期的な売り上げや問い合わせを増やすことに気が取られすぎると、サイトに余計なポップアップバナーやキャンペーン広告がどんどん表示されたり、連日割引メールが届いたりする。短期の売り上げ目標を達成し、予算獲得をしたいのはわかるが、長期的には絶対的にマイナスなイメージしか残らない。 典型的な結果例: 売り上げ重視が丸見えの使いにくいサイト 関連記事: UXハニカム – UXデザインの正しい品質評価方法 – 組織が分断されている 多くの現代企業における大きな問題の1つが、組織の分断だろう。戦略、マーケティング、企画、エンジニアリング、などそれぞれの役割のチーム間にギャップができてしまうと、ユーザーにとって使いにくいプロダクトや体験が生み出される。優れたデザインを求めるのであれば、相互が重なり合う、”クロスファンクショナル”なチームが理想とされる。 お互いがお互いの領域を理解しながらも、自分たちの専門分野をカバーすることで、一貫したユーザー体験を生み出すことができると考えられている。 典型的な結果例: 一貫性の無い体験、低いユーザービリティー 関連記事: 澤円x越川慎司激論!日本企業がイノベーションを生み出す組織になるには【DFI 2019】 デザイナースキルのミスマッチ そもそも、”優秀なデザイナー” という概念自体がナンセンス。それぞれのデザイナーには得意な範囲や、媒体、スタイルがあり、どんなプロジェクトに対しても良い結果を出すことのできるデザイナーは皆無だろう。 加えて、今の時代は、グラフィック、Web、イラスト、UI、UX、サービスデザイン、ビジネスデザイン、などデザイナーが関わる範囲が無限大に広がっており、一人のデザイナーが全てのエリアで貢献するのはほぼほぼ不可能である。 これは医者に例えると分かりやすい。一言で”医者”と言っても、内科、外科、精神科など、異なる症状に対して、そこにエキスパートがいる。何事も適材適所が重要だ。 逆に考えると、デザイナーとしては、自分の得意な領域とスタイルを集解と理解し、そのスキルセットに合致した役割を与えてもらえるプロジェクトに関わらないと大怪我をしてしまう。 典型的な結果例: フレキシブルになっていないUI、ずれた色やレイアウト、タイポグラフィーの詰めが甘いパンフレット 心理的安全性が担保されていない 優れたデザインを生み出すには、ディスカッションをする時点で、異なる役割の人から多種多様なアイディアを出すことから始める。その際には、”Yes, &”と呼ばれる、相手の意見を否定せずに、よりそれを良くする助言をする姿勢が良いとされる。そうすることで、どんな肩書きや役職の人であっても、否定されることを怖がらずに発言ができる安心感が得られる。 これを心理的安全性の担保されている状態と呼び、Googleが行った調査によると、パフォーマンスの高いチームに共通していたポイントだという。相手の反応が怖くてクレイジーなアイディアが出せないチームは、面白いプロダクトが作り出せない、と解釈しても良いだろう。 典型的な結果例: どこかで見たことのある平凡なプロダクト 関連記事: 上司が若手を育むための5つのマインドセット【DFI 2019】 […]

世界最大のテクノロジーカンファレンスCES 2020の注目ポイント

2020年の年明け、米国ラスベガスにて1月7日から10日にかけてCES 2020が開催される (メディア向けカンファレンスは1月5日、6日)。CESは、世界最大規模のテクノロジーカンファレンスで、以前は家電中心だった内容が、ここ数年で急激に拡大し、モビリティー、ヘルスケア、エンタメなど、テクノロジーを活用する様々な業界が参加、出展している。 そんな世界が注目するCESに関しての見どころを説明。最後には関連イベントの紹介も。 年々規模も注目度もどんどん高まっている イベントとしての規模も桁外れで、メインのコンベンションセンターだけでも、東京ビッグサイト4つ分の広さ。それに加えて周辺のホテルの会場などを含めると11箇所で展示が行われる。予想される来場者数は18万人以上、4000を超える出展企業、7000以上のメディア関係者の参加が予定されている。ラスベガス市に対するその経済効果は実に300億円以上とも言われている。 このイベントの注目度は年を追うごとに高まっており、2018年のTOYOTA ePallet、2019年のLG Rollable TVなど、CESを目指して新規プロダクトコンセプトのリリースをしている企業もかなり多い。 関連: 主要メディアが伝えないCES 2019で感じた5つのポイント CES 2020で注目したい10の見どころまとめ では、btraxのCEOとして個人的に注目したい10のポイントをまとめてみた。 展示の半分くらいはモビリティーとMaaS系。革新的なサービスの誕生が期待される VR/AR/MR/XRの細分化が進む。実用的な新サービス情報もお披露目される AIとロボティックスからは、AI技術が具体的にどのように活用されるかがみられる ヘルステックだけでなく、心のケアまでおよぶウェルネステックにも注目 コンセプトに留まらない、5Gの活用事例に期待 日常生活により密着した、スマートホーム等のIoT系プロダクトには再注目 Appleが28年ぶりの参加!「What Do Consumers Want?」セッションに参加 数十年大きな変化なかった旅行体験を変革させるテクノロジーが登場 インクルーシブを目的としたセクシャル系プロダクト展示の解禁 徐々に下がりつつある日本企業の今年のプレゼンスにも注目 モビリティーとMaaS系 数年前までは家電がメインであったCES (元々はConsumer Electronic Showの略) も、今となっては展示内容の半分ぐらいはモビリティー関連になってきている。それくらいに、モビリティー業界は大きな変革の時期に来ており、自動車メーカーやサプライヤーををはじめとした各社が、最新テクノロジーをどのようにいち早く取り入れ、移動やロジスティックスなどのエリアにて、革新的なサービスを生み出しているかに注目が集まる。 関連セッション: BYTON Media Days News Conference ZF Media Days News Conference When Will Advanced Automotive Tech Pay Off? Bosch Media Days News Conference Continental Automotive Media Days News Conference Crawl, Walk, Run: Scaling Mobility Ecosystems Products for the Future of Mobility Ground or Aerial: Which Will Win Autonomy? Innovations in Last Mile Toyota Media Days News Conference Connecting the Dots for Mobility Solutions Faurecia Media Days News Conference Human Experience in the Future of Mobility Hyundai […]

【今さら聞けない】デザインがビジネスにこれほど重要な理由

経営におけるデザインの重要性が叫ばれるが具体的な成果があまり出ていない デザインがもたらす7つのメリットとは? なぜデザインがイノベーションに不可欠なのか? 企業内にデザインを浸透させるための7つのポイント グローバル規模でデザイン的競争力をあげるには デザイン思考やデザイン経営などのバズワードが巷にあふれ、オープンイノベーションやデジタルトランスフォーメーションなどのカタカタキーワードが羅列される。そんな状況で実際に結果としてどのようなアウトプットが生み出されているのか?おそらく、日本国内で働いている人たちのその多くが、上記のようなトレンドとに関する取り組みに少なからず関わったことがあることだろう。 その一方で、デザインがプロダクトや企業経営に対して具体的な結果として効果を生み出した事例は、日本国内で見渡してみると驚くほどに少なく感じる。その一方で、グローバル規模で考えてみると、デザインのビジネスに対する利点は具体的な数字としてクリアになってきている、 参考: 統計データで見るデザインの経営に対するインパクトの大きさ そのギャップを少しでも埋められないかと思い、我々btraxでもfreshtraxのようなメディア、DESIGN for Innovationに代表されるイベント、そして、デザインサービスを通じて、日本企業の国際的デザイン競争力の向上に寄与できないかと試みている。 今回は、先日開催されたイベント、DESIGN for Innovationの総括として、最も基本的な事柄である、なぜデザインが企業の経営やビジネス全体に重要な役割を果たしているのかを今一度まとめてみることにした。 デザインがもたらす7つのメリット “良い”デザインが大切な理由を考える際に、そこからどのようなメリットを得るかがわかると理解しやすい。大きく分けると恐らく下記の7つに集約されるだろう。 1. ユーザビリティー向上 直接的な効果として、商品やソフトウェアなどの使いやすさが向上する。例えば、リモコン1つとってみても、ボタンの数が少ない方が使いやすい。デザインの質を上げれば、単純により使いやすいプロダクトになる。 参考: 優れたユーザビリティを実現する25の基本概念 2. 効率性の向上 ソフトウェアが使いにくいために、作業効率が下がってしまった経験はないだろうか?特に業務用システムの場合、どうしてもセキュリティーや安全性を優先することで、使いやすさが犠牲になってしまうことも多い。その一方で、シリコンバレーの企業を中心に、最近では、効率性を高めるデザインに注目が集まってきている。 日本でも働きかた改革などの影響で、労働時間を減らす傾向にある。その一方で、求められる結果は同じであることも多い。少ない時間で同じ結果を得るには、より効率化を進める必要が出てくる。そこで必要になってくるのが、より優れたデザインを採用したツールや環境だったり、プロセスだったりする。 参考: 【ワークライフバランスはもう古い】新しい働き方、ワークライフインテグレーションとは 3. 安全性の向上 デザインの品質が悪いと、時に人の命も奪う結果につながってしまう。2016年の夏にロサンゼルスの郊外の自宅の入り口付近で、27歳の俳優が死亡した。それも、自身が運転していた車に押しつぶされて。どうやら、彼は一度自動車を停め、自宅のゲートを開けようとしていたところだったと推測された。 なぜこんなことが起こったのか?調査によると、彼の2015モデルのジープはリコール対象になっていた。原因はそのシフトレバーのデザイン。パッと見では”P (パーキング) “に入れていることがわかりにくい事で、それまでにも100件ほどの事故が発生していたという。間違ったデザインが安全性を下げてしまった例である。 参考: UXピラミッド – UXデザインの正しい評価方法 – 4. 競争力の向上 現代において、多くの企業が脅威を感じるライバル的存在に共通しているものは何か?おそらく、そのデザイン性の高さだろう。例えば、テクノロジー業界で考えてみると、世界的にユーザー数の多いTop 7社 (Google, Amazon, Facebook, Apple, Microsoft, Salesforce, Oracle) のすべての会社には専属のデザインチームが存在しており、ブランディングからプロダクトのユーザー体験までを横断的に管理している。そうすることで、より多くのユーザーを集め、最終的な企業競争力を高めている。 そうなってくると、デザイン性の高さそのものが企業にとっての武器となる。一昔前は、Appleのプロダクトを愛していたのは一部の強烈なファン層だけだったが、いつの間にかマジョリティーの消費者がiPhoneを利用するようになった。高いデザイン性を提供するプロダクトでないと利用されなくなってきている例だ。 参考: 【経営xデザイン】なぜデザインオリエンテッドな企業は強いのか 5. 利益率の向上 優れたデザインやユーザー体験を施したプロダクトづくりができれば、多くのユーザーを獲得する事ができる。自ずと結果として、売り上げや利益の向上に繋がる。特に利益率については、Appleの製品が競合のものよりも割高であ事から考えてみても、高い利幅を獲得していることは想像に難くない。 実際のリサーチ統計を見てみても、デザインへの投資は具体的な数字として表れ始めている。 製品デザインへの投資が1%増えるごとに、売り上げと利益は平均して3-4%増加する。(ロンドン・ビジネススクール) デザインを経営に活用している企業は平均と比べ、売り上げの伸びが32%もアップし、株主へのリターンも56%高くなっている。 (マッキンゼー) デザイン的アプローチを経営の戦略に積極的に取り入れている状況企業の株価の伸び率が、S&P 500全体平均と比べ10年間で228%高くなっている。(Design Value Index Results) 参考: 数字で証明されたデザイン経営の重要性 6. ウェルネス向上 デザインの意外な役割として、人々の心に対してのポジティブな効果もある。特に最近は、デジタルデバイスとソーシャルメディアの普及で、人と接する時間よりも、デバイスと過ごす時間の方が多くってきており、精神的に疲れている人が増えている。それを癒すのもデザインの役割りだ。 シリコンバレーの企業の中には、「自分たちのサービスは、果たしてユーザーの人生にポジティブな影響を与えているのか?」と疑問を感じるところも出てきている。特にデザイナーたちからは、「お金儲けのために、ユーザーの人生を台無しにしてしまっていないか?」との意見もある。 特にUXデザイナーの間では、エシカル (倫理的な) デザインの概念が議論され、すでにプロダクトに採用しているケースもある。 そしてすでにAppleのScreen TimeやGoogleのFocus Modeなど、ユーザーのより良い人生 (ウェルビーイング) のためのデザインが進んでいる。 参考: デジタルウェルビーイングを実現する ”使わせない” デザインとは? 7. クオリティーオブライフ、クオリティーオブワークの向上 そして最終的に優れたデザインは、日々の生活の品質や仕事をしている時間の価値の向上にもつながる。住環境やオフィス環境のデザイン要素を改善することで、より充実した日常生活を送ることができる。昨今話題のWeWorkがそのデザインにこだわりまくっている理由も理解できるだろう。 最近我々btraxも、コミュニケーションがより促進されるデザインへとオフィスの一部をリニューアルした。   View this post on Instagram   参考: ブランド戦略 × オフィスデザイン ー 成功事例に見る企業ブランド構築手法 デザインとイノベーションとの関係 そして、今回の本題である昨今叫ばれているビジネスにおけるデザインの重要性であるが、その背景にはテクノロジーの進歩と、ユーザーの期待値の上昇があると考えられる。 時代が進むにつれ、テクノロジーが進化し、ムーアの定義で説明されているように、どんどん新しく優れたテクノロジーが普及する。それに伴い、ユーザーの日常生活にテクノロジーが入り込み、特別なことではなくなってくる。言い換えると、加速するテクノロジーのコモディティー化が急速に加速していく。 結果として、商品やサービスから提供されるユーザー体験に対する消費者のの期待値はどんどん高まる。企業側は、その期待値にどのように対応できるか = デザイン的な熟成が進むかが、向こう5年以内の勝負の分かれ目となってくると考えられる。 ユーザーが求める体験を提供できる企業は勝ち残り、そうでないところは衰退していくのは明白だ。そのためには、いち早く、企業内にデザインを”インストール”する必要が出てくる。 企業にデザインをインストールための7つのポイント では、実際に社内にデザイン的考え方を浸透させるためにはどのようにな方法があるだろうか?おそらく下記の7つが必要とされると思われる。 […]

こんまりから学ぶグローバル進出3つのポイント

今週サンフランシスコの中心部に位置する大規模なイベント会場で、楽天が毎年主宰しているカンファレンス、Rakuten Optimismが開催された。代表の三木谷さんに加え、目玉ゲストとして、こんまりこと、近藤 麻理恵さんが出演した。
アメリカにおけるこんまりの人気は異常で、CBSの人気番組、The Late Show with Stephen Colbertをはじめとして、全国ネットのテレビ番組に複数出演したり、自身のNetflixチャンネルを提供したりもしている。そして、このイベントで最もオーディエ…

【インスタ、エアビー、Slack等】人気サービスの初期ユーザー獲得方法

現在では世界中で数100万人以上のユーザーから絶大なる人気を誇っているサービスにも、必ず初期ユーザーがいたはず。多くのサービスがユーザー獲得に苦しむ中で、人気サービスはどのようにして無名の頃にユーザーを集めていったのだろうか? それぞれのサービス内容や時代背景によって、そのユーザー獲得方法は異なるが、全てに共通しているのは、かなりユニークな方法を取っているという事。今回は現在人気になっている下記の32サービス企業のユーザー獲得方法を紹介する。 Airbnb Alibaba Amazon Apple DoorDash Dropbox Facebook Firefox GitHub Groupon Gumroad Hotmail Instagram Intercom Microsoft Mixpanel Paypal Pinterest ProductHunt Reddit Salesforce Skype Slack Stripe Tinder Trello Twitch Twitter Whatsapp WordPress Zapier Zoom Airbnb 初期ユーザー獲得方法: ブロガーへのコンタクト サンフランシスコ市内でデザインカンファレンスが開催された際に、市内のホテルがソールドアウト状態に目をつけたファウンダーの3人が、一緒に住んでいたアパートの家賃を稼ぐために3つのエアベッドを貸し出したのがきっかけ。 そのデザインカンファレンスの来場者に知ってもらうために、デザイン関連のブログにかたっぱしからメールを出し、記事にしてもらった。直後に最初の宿泊者を獲得。まだ具体的なサービスができていない状態であったが、その時のアイディアをその後AirbedandBreakfastというサービスに進化させ、カンファレンス参加者たちをターゲットとして広がっていった。 ちなみに、初期の段階はではホスト側のユーザーが実際にエアベッドを設置することが義務付けられていたという。 参考: デザイン最優先のAirbnbがユーザー獲得のために行う3つのマインドセットと4つのコアプロセス Alibaba 初期ユーザー獲得方法: 電話営業&対人での対応 ネットがビジネスに使われ始め、Eコマース黎明期の時代に、ジャック・マーが大学の友人と共にオンラインマーケットプレイスを作るべく始めたのが、Alibabaである。彼らは片っ端から店舗ユーザーに電話営業を行った。初期の頃は、店舗側が直接メーカーに訪問をしてからアカウント作成をしていた。その際には、Alibabaのスタッフがプラットフォーム上に商品の掲載する方法を教えていた。 こうすることで、初期ユーザーからのフィードバックを得たり、システムの不具合や使いにくい点を目の当たりにすることができたことで、サービスの改善につながっていった。 参考: アリババ創業者 ジャック・マー 成功への10の秘訣 Amazon 初期ユーザー獲得方法: 口コミ オンラインで書籍を売るモデルでスタートしたAmazon.comであるが、その頃にはすでに世の中にはいくつかの類似サービスが存在していた。開発に関わった人々全員が、サイトのURLを家族や友人に送ることで、その存在を知らせた。それが、初期の売り上げにつながった。 Amazonで一番最初に買い物をしたのは、John Wainwrightという名前の男性。実は当時のスタッフの元同僚であるJohnにAmazonを紹介したことで、1995年の4月3日に科学系の本を購入。最初の顧客ということで、現在でもシアトルのAmazon本社には彼の名前のついたビルが存在している。 参考: Amazonを成功に導いたユーザーを夢中にさせる4つのUXデザイン要素 Apple 初期ユーザー獲得方法: 地元の展示会で発表 ファウンダーのジョブズとヴォズニアックがDIYで作成したサーキットボードをHomebrew Computer Clubと呼ばれる地元の展示会で発表したことで、パソコン販売店を営んでいたPaul Tellerと出会う。そこで、単価$500×50ユニットの受注を受ける。 当時パーツを仕入れるお金が無かった二人は、大手製造業者に納品30日後の支払い条件での部品提供契約を取り付ける。それにより、30日以内に50台のサーキットボードを作り上げ、納品時に売り上げを受け取ることで資金を繋いだ。 参考: Apple, Google, ディズニーも最初はこんな小さなガレージからスタートした DoorDash 初期ユーザー獲得方法: ローカルSEO 出前代行サービスとして急成長を続けるDoorDashは当初小さなデリバリー会社だった。しかし、アメリカではレストランが出前をすることが一般的では無かったことに目をつけたファウンダーが、シンプルなLPを作成し、そこに地元 (Palo Alto) のレストランのメニューに彼らの電話番後を記載したPDFをアップした。 同じ地域のユーザーがレストラン名で検索すると、彼らのサイトがヒットすることが増え、ユーザーが集まった。また、当時はデリバリーも自社スタッフが行っており、直接ユーザーと対話することで、サービス改善につなげた。 Dropbox 初期ユーザー獲得方法: 動画マーケティング+ウェイティングリスト 初期のベータユーザー向けに、ウェイティングリストを掲載したLPを作成。そこにユーザーを集めるために、Dropboxのサービスコンセプト動画を作成し、多くのスタートアップ関係者やエンジニアがチェックするHackerNewsに動画リンクを貼ることで、5,000ユーザーがリストに申し込んだ。 その後、動画+ウェイティングリストの戦略を繰り返すことで、より多くのユーザーを獲得した。 Facebook 初期ユーザー獲得方法: 個人的な招待+口コミ 有名な話であるが、初期のFacebookはザッカーバーグの通っていたスタンフォード大学の学生向けのサービスとして開始した。初期の頃はThe Phoenixと呼ばれるサークル内を中心に、ファウンダー達のクラスメイトや友人がユーザーとなり広がっていった。 2004年の2月のリリースから1ヶ月以内で、ハーバード学生の約半分が利用を開始し、その後スタンフォードやコロンビア、イェールといった大学にも広がっていった。 参考: 小さく始める事の重要さ【Amazon, Facebook, YouTube等】大人気サービスの初期バージョンとは Firefox 初期ユーザー獲得方法: 既存のコミュニティーへのシェア Firefoxがリリースされた当初は、Mozillaプロジェクトの1つのサービス的位置付けだった。彼らは、ブラウザーのダウンローダブルリンクをFTPサイトに掲載した。当時、FTPサイトは、ファイルをダウンロードするためのディレクトリ的役割を果たしており、既存のユーザーに対していち早くプロダクトの存在を知らせることができた。 その後、多くのブログやニュースに取り上げてもらうことで、一気にユーザー数を増やした。 GitHub 初期ユーザー獲得方法: 口コミ+公開プロフィール GitHubが2008年にリリースされる頃には、すでに6,000人ほどのベータユーザーを獲得してた。デベロッパー向けのオープンプラットフォームであるGitHubは、その性質上、デベロッパー同士で、コードの共有リンクをシェアし合うようになり、リンクを受け取ったユーザーがベータユーザーとして登録し始め、募集開始から約二ヶ月あまりで、6,000人のベータユーザーを獲得した。 参考: CEOが自ら語った「イノベーションを起こすためのGithubの哲学」 Groupon 初期ユーザー獲得方法: フライヤー ファウンダーのAndrew Masonは、元々政治関係のプラットフォームを作成していたが。投資家の一人がAndrewにお金を設ける方法を学ぶ必要があると考えた。Andrewは入居者向けに、同じオフィスビルのピザ屋さんの半額フライヤーを配ったところ、フライヤーに掲載していたLPのアドレスから複数のユーザーがサインアップしたことで、Grouponの原型となるサービスの初期ユーザーを獲得した、 […]

デザイン思考のプロセスだけでは革新的な製品が生まれない?説

デザイン思考は基本的なマインドセットであり、イノベーション創出のための万能な方法論ではない デザイン思考を学んで終わりにしない。「当たり前」にし、そのあとの行動に移してやっと価値が出てくる デザイン思考に倣うだけでは心に響くプロダクトは生まれない イノベーションに必要な要素 = (マインドセット+カルチャー+パッション) x アクション みんな頑張ってデザイン思考を会得しようとしている デザイン思考の重要性が一般的に浸透し、多くの企業が何らかの方法でその手法を社内に取り入れようとしている。有望な若手を1日のデザイン思考ワークショップに参加させたり、経営陣自らがデザインの重要性を学ぶためのセミナーを受けたりなど、それなりの活動を進めていることが多い。 やってみたけど結果が出ない? しかしここに来て、多くの企業の方々から聞こえてくるのは、「それなりにやってはみたものの、イマイチ結果につながっていない」と言う課題。そもそも、ここでの”結果”とは何を意味するのか? よくよく聞いてみるとそれは、「デザイン思考を活用した画期的な事業の創出」だと言う。おそらく彼らは、デザイン思考を取得すれば、今まで不可能だったようなアイディアや、ビジネスモデルが生まれると考えているのだろう。 実はそれは大きな間違いなのかもしれない。「ここがちゃうねんデザイン思考。5つの違いを理解してモヤモヤを解決」でも説明されている通り、そもそもデザイン思考は基本的なマインドセットであり、万能なメソッドではない。と言うことは、デザイン思考自体は、あくまでイノベーションを生み出すための”下地”であり、方法論ではない。 言い換えると、デザイン思考を学んだだけでは期待する結果を得るのは難しい。実際に活用しながら試行錯誤していく必要がある。我々が提供しているデザイン思考をベースとしたワークショップでも、数ヶ月にわたり実際にスタートアップサービスを作りながら、やっとヒットするサービスの糸口を掴みかけるような状態なのである。 グローバル的には多くの成功事例が生まれている その一方で、「統計データで見るデザインの経営に対するインパクトの大きさ」を見てもわかる通り、デザインを経営に導入することのメリットがあるのは明白なのである。 具体的な経営的な数字でデザインの重要性が明確になればなるほど、世の中の多くの企業たちが、ビジネスにおけるデザインの重要性に着目し、自分たちも乗り遅れないように何らかの試作をしなければ、と考え始めるのは当然の流れだろう。 そもそも何がデザイン思考なのかがわかりにくい そんな世の中の流れもあり、最近の日本では、猫も杓子もデザイン思考を叫び、本屋さんには関連した本が平積みされている。コンビニでも思わず「デザイン思考ください」と言ってしまいそうになる。 その一方で、何がデザイン思考なのか?それはどのようなメリットがあるのか、に関しては明確かつ統一した理解がない。そもそも、その概念自体が広すぎて、人によって解釈が違うし、利用方法も違う。そして、デザイン思考という概念自体が本来そうあるべきである。 なぜなら、デザイン思考は厳密なプロセスやルールなのではなく、参考程度に活用するべき考え方であるから。なので、「デザイン思考とは?」と聞くこと自体が愚問である。 ↑ 数多く出版されているデザイン思考関連の書籍 実は一番困惑しているのは現場のデザイナー達 デザイン思考って何?と言う質問に一番困惑するのは、もしかしたらデザイナー達だろう。そもそも、自分たちが今まで情熱を持って、長い年月を費やしてやってきた事が1つのブームになり、デザインの”デ”の字もわからないお偉いさんが、知ったかぶりで「やっぱデザイン思考だよねー」って擦り寄ってきても、「は?」と思ってしまうこともある。 それだけデザインは奥が深く、一朝一夕で身につくものでもない。それを、昨今のトレンドにより、誰でも簡単に学ぶことができ、ビジネスに即効性があると思われると、かなりしんどい。そして、昨今の社内デザイナー達は、他のスタッフにデザイン思考を教えることに毎日奔走し始めている。そうなってくると、本来やりたかったデザインの仕事がなかなかできなくなり、モチベーション低下にも繋がりかねない。 また、経営の現場に単純にデザイナーを突っ込めば全てが解決するわけではない。なのに、成功している会社の多くはデザインを経営に活用している、と言う理由だけで、なぜかデザインは万能な魔法のような捉え方をしているケースも見受けられる。 社内にしっかりとデザインを浸透させたければ、まずはスタッフのマインドセット、次にカルチャー変革が求められる。 そもそも、デザイン思考を社内に浸透させたければ、デザイナーよりもファシリテーター的な役割の人が行う方がよっぽど効果が高い。我々、btraxでも、デザイン思考ワークショップを提供する際には、ファシリテーターがメインで進めていくようにしている。 ↑ ファシリテーターがリードするbtraxでのデザイン思考ワークショップの様子 スタートアップ業界ではすでに”母国語”化している ちなみに、サンフランシスコやシリコンバレーのスタートアップ界隈では、今更デザイン思考を学んだりはしない。自分を含め、ここに長く住んでいる人たちにとってみると、デザイン思考的な流れでサービスを作るのがあまりにも当たり前のやり方すぎて、いまさら体系立てて学ぶことはあまりしない。 サービスを考えるときに、特定のユーザーのニーズにフォーカスを当てるのは当たり前だし、短いスパンでプロトタイプを作成し、ユーザーテストをするのも当たり前。アイディア段階でカフェに行って横に座ってる人からフィードバックをもらいながら改善したい、よりふさわしいユーザーを紹介してもらったりするのも日常茶飯事である。 それはまるでデザイン思考がすでに我々にとっては”母国語”になっており、努力して会得するものでない感じなのだ。例えると、英語を学んでいる人は、その文法から発音までを論理的に身につけようとするが、生まれつき喋れる人は、逆にそんなややこしい部分は気にも止めない。 海で生まれた魚は、泳ぐことを一から学ばないのに似ている。「Fishes can swim」ではなく、「Fishes swim」となる。同様に、スティーブ・ジョブズが一からデザイン思考を学んだとは想像しづらい。 デザイン思考を会得してやっとスタートラインに立てるレベル ここで気付いた方もいるかもしれないが、「英語が喋れる = グローバル」ではない。それは単純に海外の人とのやりとりをしやすくなっただけであり、そのスキル自体はコミュニケーションの第一歩でしかない。これは、「デザイン思考 = イノベーション」ではないのに似ている。 イノベーションを生み出している企業がデザイン思考を活用してるのは間違いない。しかし、それはあくまで基本中の基本ができているだけであり、万能ではない。デザイン思考プラス何かがなければ、求める結果を得ることは非常に難しい。 デザイン思考は”思考”ではなく、”行動”であるべき これはその呼び方が大きな問題がるのかもしれないが、デザイン”思考”を通じて結果を出したければ、早い段階で、考えることよりも、行動に移す必要がある。下記のダイアグラムを見てもわかる通り、デザイン思考のプロセスにおいては、多くの箇所で行動が求められる。そして、それを短いサイクルとして、グルグル回す必要がある。ちなみに、デザイナーに求められる能力の1つが、短時間でどれだけ多くの量のアウトプットを出せるかである。 以前にアメリカで被験者を2つのグループに分け、一定時間内に陶芸を作る実験を行った。Aのグループには、「最も優れた作品を作ってください」と伝え、Bのグループには、「作品の質ではなく、使った粘土の量が多さで評価します」と伝えた。すると、Bグループの方が最終的には、より優れた作品を作った結果となった。トライアルアンドエラーを多く繰り返した方が良いものが出来上がりやすかった。 デザイン思考でも、どれだけの量の失敗を繰り返せるかが重要で、座学よりもアウトプット重視するべきである。 しかし、デザイン思考を”思考”のままで終わらせているケースが後を絶たない。優れたプロダクトを生み出したければ、頭で考えるより、まず行動。習うより慣れよ、が求められる。なのに、デザイン”思考”と名付けてしまったのが誤解を生み出す1つの原因になってると思われる。 ↑ 思考よりも行動が重視されるデザイン思考のプロセス 実際の現場はかなりカオス 実際のところ、デザイン思考を活用しても、その成功率は必ずしも高くは無い。しかし、プロダクトが生み出されるのに要するコストと時間が短縮されるので、長期的にみると良い結果につながる。 そして、議論よりも行動重視でプロダクト作りを進めている現場は、想像ができないぐらいに、はちゃめちゃであり、またそうあるべきである。プロセスの行ったり来たり、コンセプトの練り直し、ニーズの再認識は日常茶飯事で、チーム内のいざこざや、感情のぶつかり合い、仲間割れも珍しく無い。 それが本当に良いものを生み出すためのクリエイティブなプロセスなのであるが、和を大切にする日本の文化や、大企業のエリート経営陣にはなかなか理解のしづらい部分でもある。 会社がカオスな状況を許容してくれない限り、良いものは生まれづらい。 デザイン思考プロセスを丁寧になぞってできたプロダクトは面白味がない これはとても主観的な感想になるが、デザイン思考の教科書に従って、お勉強した内容を元に、そのプロセスを丁寧になぞって作り上げらたプロダクトは、妙に”のっぺり”としている。そして世の中にある他のサービスにかなり類似したものが出来上がる。何か一味足りない。スパイスが効いていない感じがする。 なぜか?多くの場合、作っている人たちが本当に作りたいものを作っていない場合があるから。教科書に書いてあるやり方をしっかりと踏まえ、間違えの無いように1つ1つしっかりと検証して作ったとしても、そこに強い情熱や想いが無ければ、なんかつまらない物が出来上がる。 作る側に強い愛情が無いと、ユーザーにとっても魅力的なプロダクトにはならない。ユーザー検証を通じて、”つじつまのあう”プロダクトは作れるかもしれないが、なぜか心に響かないものになりがち。単純にデザイン思考のプロセスを踏まえ、ユーザーが欲しいと言ったものを作ったところで、それは単なる御用聞きプロダクトになってしまいがちである。 参考: お客様第一主義とユーザー中心デザインの違い デザイン思考は音楽におけるカノン進行みたいなもの この感覚、何かに似ているなー?と思って考えてみた。そうそう、それはまるでカノン進行を活用したヒットソングっぽい。カノン進行とは、パフェルベルのカノンと言うクラシックの名曲に利用されているコード進行。それが、日本人の耳に妙に心地よく聞こえることから、そのコード進行をベースに作曲するとヒットソングを生み出しやすいと言うことで、多用されている。 ミュージシャンの間でも、「ヒットを生み出したければ、カノン進行を使えばなんとかなる」とされるが、同時にそれは禁断の果実でもあり、妙にどっかで聞いたことのあるJ-Popソングになりがちで、イマイチ面白味がない作品になってしまう。 うまくいかないケースに欠如しているのは何か? では、本題に戻って、なぜデザイン思考のプロセスだけでは革新的な製品が生まれないのか?おそらく、ここで重要なのが、そこに強い情熱があるか無いか。企業の新規サービスを作る際には、もちろん最終的な売り上げが重要になってくるのだから、ヒットを狙って物づくりをする必要が出てくる。それにデザイン思考が用いられる。 その一方で、本能的にデザイン思考を取り入れているスタートアップの多くは、初めから売り上げを意識しない。むしろ特定のユーザーや社会、そして作っている人たち自身が強烈に感じている課題を解決するための手段として、プロダクト作りをする。そこには、他の人ではなかなか持つことのできないレベルのパッションがあり、それが大きな原動力となる。 強いパッションがあれば、物凄い勢いでニーズの深掘りを行い、素早く試作品を作り上げ、テストを繰り返す。そして、その結果に合わせて、どんどん改善やピボットを行う。それはまるでアーティストの自己表現にも通じるものがあり、ヒットソングを狙った理詰な作業とは異なる。 イノベーションに必要な要素とは デザイン思考だけではイノベーションが生み出されないとしたら、他にどんな要素が必要になってくるのだろうか?おそらく、それには、下記の要素が求められると思われる。 マインドセット: デザイン思考自体がそもそもプロセスというよりは、基本的に理解しておくべきマインドセットである。それぞれのメンバーが、ユーザー視点の考え方をしっかりと理解し、会社の利益の前に課題解決のためのマインドセットをしっかりと共有しておく必要がある。 カルチャー: 次に、チームや組織におけるカルチャー的要素。自由に発言しやすい心理的安全性と、失敗を許容する考え方。そして、机上の空論よりも、速いスピードでアウトプットを評価するカルチャーが求められる。 パッション: 最も重要な要素になってくるのが、プロダクトやサービスに対する情熱。自分たちが本当に解決したい課題に対してのソリューションの具現化としてのプロダクトであること。そして、そこに他の人たちよりも強い情熱を注ぐ必要がある。 アクション: そして、上記の3つの要素をしっかりとアクションに移すこと。アクションの部分が無ければ、全てがゼロになってしまう。どれだけ強い情熱を持っていても、検討の結果、見送ることにした場合、アウトプットはゼロである。 結論として、イノベーションを生み出すためには、下記の方程式が必要になってくるのでは無いかと思う。 イノベーション = (マインドセット+カルチャー+パッション) x アクション デザイン思考を上手に活用している秘訣を学ぶイベント もちろん、実際にうまくいっているケースも多数ある。その1つを紹介するのが、11月5日に東京で開催されるDESIGN for Innovationでの下記のセッション。詳細は公式サイトにて紹介されている。 『デザイン思考を利用したグローバルイノベーション創出方法』 日本が世界に誇るモビリティー企業であるHONDA、YAMAHAの2社が急激に変化をしている市場にて、どのような方法で生き残り、成長を続けるのか。デザイン思考的アプローチや、社外のスタートアップとのコラボレーションなど、最先端の取り組みを紹介。 日本国外のユーザーの心を掴むプロダクトの秘訣とは。それぞれの企業にて、従来とは異なるアプローチからイノベーションに取り組んでいる2名が、どのようにこれからのユーザーに受け入れられるプロダクト作りをしていくのかを語る。 杉本 直樹氏 / CEO、 本田R&Dイノベーションズ / 執行役員 統括機能本部 オープンイノベーション戦略担当、 株式会社 本田技術研究所 長屋 明浩氏 / 執行役員デザイン本部長、ヤマハ発動機株式会社 […]

最近のロゴが似通ってきている問題 – 第2弾

最近になってYahoo本社のロゴがまたアップデートされた。Yahoo! Japanのロゴはかなり長い間変更されていないのに。これはいかにも、変化スピードの速いシリコンバレーを象徴するようだ。なるべくゆっくり進むことが多い日本文化と比べてみても、企業の平均生存率が15%であるアメリカでは、”変化しない=死”を意味することもあり、ロゴのアップデートもかなり頻繁に行われる。

↑ 最近アップデートされたYahooのロゴ
時代の変化に合わせてロゴもアップデート
ではなぜロゴを変える必…

統計データで見るデザインの経営に対するインパクトの大きさ

ここ数年で経営に対するデザインの重要性に注目が集まっている。デザインを経営に活用している企業の株価の伸びが平均値の2倍以上であったり、デザインを経営に活用している企業は平均と比べ、売り上げの伸びが32%もアップし、株主へのリターンも56%高くなっているなど、その結果が具体的な数字に表れ始めている。 参考: 数字で証明されたデザイン経営の重要性 デザインと経営に関する最新のリサーチ結果 そんな中でも、デザイナー向けのプロトタイピングツールを提供するInVisionが、これまでにないレベルの世界規模でのデザインに関するリサーチを発表した。The New Design Frontierと名付けられたこのレポートでは、世界中のさまざまな規模の企業や団体をリサーチを実施した。 リサーチ対象の内訳は、大企業:71%、エージェンシー:25%、非営利団体:2%、行政:1%で、金融や教育、エンタメなどの異なる24の業界から2,200を超える団体。 70%の企業が積極的に経営に対してデザインを活用してる その結果、全体の2/3以上が、デザインを機能や見た目以外にも活用しているという事がわかった。全体の70%の企業が商品の開発や企業経営のプロセスにデザイン的考えを導入していると答えている。 デザインの浸透に関する主なアンケート結果: 商品開発プロセスに組み込まれている: 66% デザインリーダーが商品開発やエンジニアリーダーと連動している: 53% 従業員がデザインプロセスに参加している: 51% 重役がデザインプロセスに関わっている: 49% 従業員がユーザーや顧客リサーチに関わっている: 48% デザインが経営に与えるインパクトが理解できる統計 また下記の通り、デザインの経営に対する効果としては、効率、利益、ポジショニングなどに加え、3/4近くの企業がデザインを通じて顧客の満足度とユーザービリティが改善されたと答えている。(サンプル数:2,229団体) 商品のクオリティに対するインパクト ユーザビリティ改善: 81% 顧客満足度向上: 71% 業務に与えるインパクト 社員の作業効率の向上: 33% 商品の市場リリーススピードの向上: 29% 会社の利益に対するインパクト 売り上げの向上: 42% コンバージョン率の向上: 35% コスト削減: 30% マーケットポジショニングに関してのインパクト ブランド価値向上: 39% 新しい市場参入への効果: 25% デザインパテントや知的財産権への効果: 13% 評価額や株価への効果: 10% 組織内におけるデザイン熟成度と経営へのインパクトにおけるデザインレベルとその効果 このレポートでは、企業や組織がどれだけデザインを業務や経営に活かしているかによって、会社自体のデザインレベルを5段階に分けている。その結果、経営に対してデザインのポテンシャルを最大限に引き出しているLevel 5に入るのは、全体のわずか5%にとどまった。 全体の80%の企業が常にデザインを企業内の何かしらのプロセスに導入している中で、実に95%はまだまだデザインを活用する余地が残っている。 デザインの活用度合いレベルと全体での割合 Level 1 – 見た目に対してのデザインを重視している: 41% Level 2 – 定期的にデザインワークショップを実施している: 21% Level 3 – 業務プロセスにデザインが導入されている: 21% Level 4 – 絶え間ない仮説検証が行われている: 12% Level 5 – デザインこそがビジネスの根幹になっている: 5% 組織が大きくなるほど経営戦略へのデザイン導入難易度が上がる 組織の規模が大きくなればなるほど、デザインを経営に浸透させる難易度が高まる。例えば、大企業と比較した場合、最高レベルであるLevel 5の比率は、中小企業で2倍、小規模企業で3倍ほどの開きが見られる。 多くの大企業は、組織構造やプロセスが複雑化しており、経営に対してのデザインの導入に時間がかかる結果となっている。 デザインチームの大きさと経営へのインパクトは必ずしも比例しない 上記のデザインレベルにて、高い数字を達成している = 経営へのインパクトが大きい企業におけるデザインチームが必ずしも大きいとは限らない。 重要なのは、組織内でどのような影響力を持ち、経営陣からのサポート受けているかであり、デザイナーの数や大きさだけではそのインパクトを測ることはできないと言う結果が出ている。 言い換えると、むやみに多くのデザイナーを採用したとしても、そこにしっかりとしたプロセスとカルチャーがない場合は、宝の持ち腐れになってしまう可能性もあるのだ。逆にたとえデザイナーの数が少なくても、経営に有効活用することが十分可能と言うことである。 デザイン経営に遅れを取るアジア諸国 企業に対するデザインの浸透度合いを地域ごとに見てみると、大きな違いは見られないが、主に北アメリカとヨーロッパが経営戦略にデザインを活用しているLevel 5の率が他の地域と比べ比較的高い。 その一方で、南米とアジア地域は、中間レベルのLevel 2, 3はそれなりの比率となっているが、Level 5はそれぞれ1%、 3%と低い数字となっている。 それぞれのデザインレベルのメリットと改善点 では、それぞれのデザインレベルごとに、ユーザーや企業にとってどのようなメリットがあるのか、そして、次のレベルに上がるにはどのような点が課題となっているかの詳細を紹介する。また、それぞれのレベルにおける平均デザイナー数の調査結果も掲載してみた。 Level 1 – 見た目に対してのデザインを重視している: 41% デザインを活用することで、主にUIなどの画面やプロダクトの見た目の改善を行っている。一昔前は、デザインレベルが低い=デザイナーが足りない、といのが一般的な理由であった。 しかし、レベル1に属する組織のデザイナーの数は平均30人。これは最高レベルであるレベル5組織のそれの倍であり、デザイナーの数がデザインレベルに比例するわけではないことがわかる。 Level 1では、デザイナーの影響範囲はかなり狭く、主にスクリーン上などでの”見た目のデザイン”にとどまっているケースが多い。 平均的なデザイナー数: […]

ロゴにおけるデザインの重要性がわかるマッシュアップ例

以前に「君の名は」がテレビ放送された際に、そのストーリーに合わせて、提供企業のロゴが入れ替わるという演出がされていた。ロゴの色やデザインをそのままに、文字の部分だけを入れ替えている。一見すると入れ替わっていることすら気づかないぐらいのナチュラルさである。
これは、人間の目が「読む」ということよりも「見る」ことを優先していることから、デザインを「なんとなく」の雰囲気で受け取り、脳が理解していることがわかる。

↑ 「君の名は」でのスポンサー表示画面
このロゴを入れ替えは、デザイナーたちの間で「マッシュ…

ブランド価値を下げてしまう7つの落とし穴

最近活躍している企業やプロダクトは共通してブランディングを重要視している。
ブランディングの最終目的は「価値の向上」である。価値を上げる対象は、商品であったり、サービスであったり、企業だったり、人だったりもする。
ブランド資産は目に財務資料に載らない大きな価値
強いブランドは模倣不可能な「見えない価値」を得ることが可能となる。そしてそれは数字では計りにくいこの価値が実は大きな差別化要素となり、競争で優位に立つことで長期的に成功するためには欠かせない重要な資産となるのだ。
参考: 今さら人には聞きにく…

【クレジットカード革命】Apple Cardから学ぶ革新的UXデザインのポイント

もしAppleがクレジットカードを作ったら? シンプル、クール、使いやすい。こんな形容詞が思い浮かぶAppleというブランドが、もしクレジットカードを作ったらどんなものになるだろうか? 今年の初めに発表されたAppleが提供するクレジットカード、Apple Cardが北米ユーザー向けに限定的提供を開始した。これにより、現在のところ、アメリカ在住の特定のユーザーがApple Cardを手にすることができる。*米国時間8月20日に他のアメリカの全ユーザー向けにリリース開始 選ばれたユーザーにはメールにて案内が届き、iPhoneのWalletアプリ内から申し込む。ラッキーなことに自分も選ばれたようなので、早速申し込み、使ってみた。 ↑ Appleから特定のユーザーだけに送られてくる招待メール これまでのクレジットカードの常識を覆す体験満載 では、Apple Cardは何が特別なのか? 実は、そのカード自体から利用体験、アプリとの連動性など、すべてのタッチポイントにおいて、デジタルな現代に最適な体験がデザインされている。 特に、これまでのクレジットカードは、銀行などの金融機関が発行しているものがほとんどで、顧客体験もその延長線上にあった。しかし、以前の「銀行はなぜ滅びるのか – それを阻止する方法は?」を読んでも分かる通り、金融機関が提供する体験はお世辞にも良いものではない。 今回、その体験をAppleが思いっきりリ・デザインすることで、これまでの常識を覆すようなスムーズな利用体験をユーザーに提供している。そのいくつかのポイントを紹介する。 アプリ上から一瞬で申請、数秒後から利用可能 通常アメリカでクレジットカードを申請する際には、銀行の店舗やオンラインで必要事項を入力し送信する。その数週間後に審査結果が郵送され、承認された場合はカードが同封され、却下の際にはお詫びの手紙が添えられている。そのプロセスに要する時間は少なくても数週間。 これがApple Cardの場合、Walletアプリにクレジットカードを追加する要領でできてしまう。Appleから選ばれたユーザーは、Wallet内の➕アイコンをクリックすると、申請プロセスに進むことができる。 必要事項を記入し、その数秒後に承認か否かが表示され、承認された場合、Apple Pay経由で即座に利用可能となる。そして、物理的なカードは、その数日後に送られてくる。これにより、プロセスに要する時間の大幅短縮と、カードが届くまで待っている時間がなくなった。 ↑ カードの申請はWalletアプリ内から行う 番号が記載されていないチタン製のカード 自分の場合は、アプリで申請してから5日後にFedExにてカードが送られてきた。ちなみにカードの発送状況もアプリから確認ができる。 中心にAppleのロゴが刻印された真っ白なパッケージを開けると、中はインスタを思わせるカラフルなデザインが施されている。そしてその真ん中に真っ白なカードが同封されている。 驚くべきことに、このカードには通常のクレジットカードにはあまり見られない工夫がされている。まず、どこにもカード番号も有効期限も記載されていない。表面にAppleのロゴと所有者の名前、裏面には発行銀行のGoldman SachsのロゴとMasterCardのロゴだけだ。 これはカード番号が無いというわけではなく、実はアプリ内でカード番号と有効期限などの情報を確認することができるようになっている。オンラインショッピングなので番号が必要な際には、その方法で情報が獲得可能。 ↑ パッケージに同封されたカードには番号も有効期限も記載されていない 卓越した開封体験とソーシャルシェア性を提供 最初はなぜ番号が記載されていないのか?と思ったが、物理カードに番号を記載しないことで、落としてもセキュリティー的な部分での優位性が保たれるし、何よりもインスタなどのSNS経由で、ゲットしたことを友達に自慢しやすくなることに気づいた。 まさにAppleらしい逆転の発想とシンプルさの追求がされている。 また、カードの素材はチタンで、一般的なプラスチックのものよりもかなりの重厚感がある。ちなみに、CompareCards社のリサーチによると、アメリカ国内のクレジットカード利用者の38%が、素材でカードを選ぶと答えており、ミレニアルになるとその割合は53%にまでアップするという。 チタンのカードは消費者の所有欲を掻き立てる。加えて、容易に切ったりすることができないため、内蔵されているチップを切り取ることが難しく、セキュリティー向上の役割を果たしているとも言える。 開けてびっくりの演出と、手で持った時の満足感がしっかりと設計されている。ユーザーとカードとの最初の接点である、開封体験も総合的に上手にデザインされているのもさすがAppleと感じた。 参考: D2Cブランドに学ぶ!カスタマーと繋がる開封体験デザイン View this post on Instagram Quite happy so far. #applecard #applecreditcard A post shared by brandonkhill (@brandonkhill) on Aug 19, 2019 at 4:32pm PDT 革新的なアクティベーション方法 そして、Apple Cardの最も革新的な体験の1つが、そのアクティベーション方法だろう。通常の場合、新しいクレジットカードを利用する前に、カードに記載されている電話番号に電話するか、サイトに行って番号を入力する。 これは、手間がかかるだけでなく、セキュリティ的に甘い。なぜなら、本人ではない人がもしそのカードを受け取り、アクティベーションしたとしても、本人確認される事は稀であるから。 これがApple Cardの場合はどうなっているのか。驚くべきことに、カードを登録したWalletアプリが入っているiPhoneをパッケージの下の部分に当て、画面に表示されたボタンをたっぷするだけ。そのプロセスに要する時間はおよそ5秒。 それもパッケージがそれぞのユーザーのWalletアプリと紐づいているため、他のユーザーのiPhoneを当てた場合は、アクティベーションができないようになっている。 カード所有者本人のiPhoneを利用しない限りカードを使うことができないため、かなり安全な設計が施されている。そして何より、電話したりサイトにログインしたりせずに一瞬でアクティベーションできるのが最高だ。 ↑ ユーザーのiPhoneをパッケージ部分に当てるだけで一瞬でカードがアクティベートされる ユーザー体験のコアはWalletアプリとの連動性にあり そして、ここからがApple Cardが提供するユーザー体験が最も大きな価値を生み出している要因。Walletアプリとの連動性である。 もともとWalletアプリは、他のクレジットカードなどを登録することで、Apple Payを通じてキャッシュレス決済を可能にする役割としてiPhoneにインストールされている。しかし、自分を含め、アメリカでApple Payを使う機会は意外と少なく、Walletアプリもほとんど使ったことがなかった。Apple Cardに出会う前までは。 実際にApple Cardを店舗で使ってみる。そうするとその直後に利用履歴が自動的にWalletアプリに表示される。それも、金額だけではなく、利用した場所の写真とロケーション情報のマップも。 また、利用した商品のジャンルによってカードとグラフがカラフルに色分けされることで、どのような内容に利用しているのかが一目でわかるようになっている。また、それぞれの利用金額に対するキャッシュバックの額も表示される。 ちなみに、物理カードは1%、Apple Payを使うと2%、Uber、UberEats、およびAppleで買い物をすると3%のキャッシュバックとなっている。 このように、利用状況を即座に可視化することで、リアルタイム性と透明性を高め、ユーザーの安心感とセキュリティ向上を達成している。 ↑ 利用状況とそれぞれの詳細が一目でわかるWalletアプリ Less-is-moreを体現した”無い無い尽くし”が体験の質を高める 生前よりスティーブ・ジョブスもAppleのデザイン哲学の1つとして掲げている”Less-is-more (少ない方がより多くを得られる) “ は、このApple Cardにもしっかりと受け継がれているように感じる。 参考: Appleを1兆ドル企業に成長させた6つのデザイン哲学 そこには、ミニマルなデザインの裏に、大きなメリットがいくつも隠されている。例えば、カード自体に番号が表示されていないのは、上記の理由に加え、もし番号が漏れた際の対策にもメリットを生み出す。 カードの番号はWalletアプリ内でいつでも変えることができるため、万が一番号を変えたいときは、アプリ経由でリクエストすれば良い。また、その際新しい番号が既存のカードにクラウド上で紐づけられるため、物理的なカードを取得し直す必要がない。 こうすることで、カード会社に電話をする手間、カード再発行の手間とコストを抑えることに成功しているのだろう。また、カードメンバー規約等もデジタル化されているため、通常であればカードに同封される分厚い書類が存在していないのも良い。 Apple Cardが改善した体験 カードの申請: Walletアプリ内から → 手間が減る 利用開始までの待ち時間: Walletアプリ内からすぐに利用 → 待ち時間無し […]

世界一競争が激しいシリコンバレーで15年生き残れた最大の秘訣とは

2019年8月9日、btraxは創立15周年を迎えた。 アメリカでは新しい企業が10年以上生き残れる確率は5%に満たないと言われる。おそらく、これが15年ともなるとその生存率は数パーセントに満たないだろう。 例えそれがトップの大企業でも、その半分以上が15年以内にその姿を消す。そもそも、アメリカの企業全体の平均寿命が15年なのである。そして、その場所がシリコンバレーになってくると、スタートアップ企業をはじめ、短いスパンで結果を求められるので、よりその生存率は下がる。 参考: 現代における大企業の平均寿命は15年 – 生き残り戦略としてのイノベーション 難易度Maxの状態からの船出 そして、もしそれが世界有数の激戦区にて、ビジネスを全く勉強した事のない人が、僅かな資本金で始めたとしたらどうなるだろうか? この会社の創設者にはビジネスのバックグラウンドがほとんど無く、サンフランシスコという強烈な街で大学卒業直後に$5,000の資金だけを頼りに会社をスタートした。 そう、これが僕がこの会社、btraxを始めた時の状況である。その後、外部からの投資を受けた事はない。ちなみに、The Ultimate Startup Failure Rate Reportによると、毎日123,300のビジネスがその姿を消しているという。 海が荒れているのに出航するのは単なるアホと言われたのに… 会社を始めようと思っていた頃にシリコンバレーで投資家をしている友人に相談した事があった。彼からのアドバイスは ”最高のコンディションだと思って船を出しても途中で遭難するのがビジネス。まして、海が荒れている状態なのに出航するのは単なるアホだよ” と。 至極当然なアドバイスだろう。シリコンバレーという地域では、世界有数の天才たちが多くの資金を元にしのぎを削っている。そんな場所で経営の事を全く知らず、僅かな資金だけでビジネスを始めれば99.9%の確率で秒殺される。 それでも初めて、続けてしまった。今振り返ってみても、なぜそんな事が出来たのか。大きな謎である。良いタイミングなので、その秘訣を自問自答してみたところ、生き残るために重要な1つのポイントが見えてきた。 自分たちにしかできない”ズルい”アドバンテージに着目 それは、会社を初めて数年後に、他の会社が簡単真似のしにくいユニークさ、言い換えると、ズルいアドベンテージに焦点を当てた事だと思っている。 恐らく日本の社会で生活していると意外と気付きにくい事なのであるが、実はビジネスの世界においては、どれだけユニークな存在になれるか、もっと言うと、”ズルい” やり方ができるかが、その会社の大きな武器となる。 ちなみに、英語ではこの武器の事を”アンフェア・アドバンテージ (Unfair Advantage) “と呼ぶ。 では、どのようなきっかけでそのズルさにたどり着いたかを振り返ってみたい。 当初はデザイン力だけで勝ち残るつもりだった 元々大学でデザインしか勉強してこなかった自分としては、せっかくデザイン会社を始めるのだから、デザイン力だけで世界と勝負したかった。 言い換えると、それ以外の部分を”売り”にするのは、いささか邪道な気がしていて、デザイン以外のバックグラウンドを活用する気は全くなかった。振り返ってみると、実はこの”こだわり”は非常に危険で、恐らくそのまま進んでいたら今頃会社は存在していないと思う。 参考: アメリカでWeb制作会社が存在出来ない5つの理由 先輩起業家の一言が視野を広げた 会社を始めてからしばらくした頃、漠然とした行き詰まりを感じ始めていた。優秀なデザイナーも揃い、ちゃんとしたオフィスも構えた。しかし、なかなか大きな規模の仕事を見つける事が出来ない。 その一方で、サンフランシスコにはIDEO、frogをはじめとした世界有数のデザイン会社がいくつかあり、彼らの存在がロールモデルとなっていた。 自分たちもどうにか一流のデザイン会社の仲間入りが出来ないか。そんな想いを先輩に話した。 それに対して彼は一言、”自分だったら競合が上がれない土俵で戦うけどな” と答えた。 そう、同じデザインという漠然としたフィールドで戦うと競争が激しすぎて、経営者としては賢くない。自分が最も優位に立てるフィールドを見つけるべきという事である。 デザイナーとしてのこだわりがデザイン会社を潰してしまう 世界最高のデザイン力でトップを目指す こんなビジョンを掲げるデザイン会社は少なくない。しかし、これは多くのデザイナーやデザイン会社が陥りやすいトラップでもある事に気付く事は難しい。 何を言いたいかというと、デザイン会社を経営するにあたり、デザインのクオリティー “だけ” で生き残るのは、無駄に難易度が高くなり、生存率が急激に下がってしまうという事。 自分たちのユニークさを見つける大切さ 質の高いデザインをする事に加えて、果たしてどんな事がbtraxにとってユニークな価値となるのだろうか?この問いを始めた時から「他にマネのしにくい事をする」という経営における1つの重要な指針が決まった。 ビジネスにおいて競合は少なければ少ないほど良いし、そもそも、ほぼいない状態を見つける事が出来れば、他と争う必要もなくなる。 結果的に、サンフランシスコという場所、日本のバックグラウンド、スタートアップのカルチャーや手法をデザインに掛け合わせる事で、現在のbtraxのユニークな遺伝子が定まっていった。そしてそれがのちに自分たちが持つズルさ=アンフェアアドバンテージになっていった。 ビジネスではズルさが最大の武器になる ズルいという言葉自体は、ネガティブな響きがあるかもしれない。しかし、それをビジネスで上手に活用すればユニークな長所にもなり得る。 もちろん法を犯したりすることや、人を傷つける事は許されないが、それ以外の部分では、自分たちが持つユニークなアドバンテージを最大限活用する事で、競合にはマネができにくい価値が提供できるようになる。 アメリカでは美徳とされるアンフェア・アドバンテージ こちらアメリカでは、通常何かを決める際にはそれが”フェア”であるかが重要視される。一方で、これが経営のフィールドになると、逆の論理が良しとされる事が多い。 例えばスタートアップのピッチにおける質疑の際に「君たちのアンフェア・アドバンテージは?」と聞かれているシーンをよく見かける。これは、そのチームが、自分たちにしか出来ないような”ずるい優位性”や”裏技”を持っているのか?という意味。 どれだけ素晴らしいサービスを作ったとしても、簡単に真似されたりする場合、その会社の競争優位性が下がってしまうため、何かしらマネのできないようなズルいアドバンテージを持ち合わせている必要がある。 シリコンバレーが評価するのは優秀よりユニークな人 なぜシリコンバレーの地域がここまで長い期間で世界から注目されているのか?恐らくその1つの理由は、この地域にしかいないようなユニークな人材が世界中から集まってくるからだろう。 世の中には、いわゆる優秀な人はいくらでもいるが、ユニークな人は少ない。そもそも少ないからユニークと定義されている。こと、会社の経営者となると、ジョブス然り、ザッカーバーグ然り、イーロン・マスク然り、彼らの武器はそのユニークさにある。 彼らは、他の人には持ち合わせていない視点や、強烈なファンベース、PayPalマフィアに代表される独自のネットワークを上手に活用する事で、マネのしづらいユニーク性を確保した。 そして、そのユニークさを活用して優秀なスタッフを束ねる事で、自分たちにしか持てないアンフェア・アドバンテージを作り出している。 ズルい作戦でのし上がった織田信長 実は日本でもこのズルい戦略で運命を切り開いた人がいる。織田信長はまだ弱小大名だった頃、拡大勢力の今川義元を奇襲攻撃で討ち取った。総勢2万5千の今川軍に対して織田軍は数千の規模。誰の目から見てもどちらが勝つかは明白だった。そんな完全状況でも織田信長が勝った。 どのようにして?今川の兵を散らせて、義元を横から奇襲するという、ズルい作戦を取ったらからである。でも、戦いの場ではそれもアリな戦略。その後信長は一気にその勢力を全国へと広げていった。これはビジネスという戦場でも同じ事が言える。 意外なところに転がっているアンフェア・アドバンテージ ちなみにこのアンフェア・アドバンテージは、決して難しい事である必要はなかったりもする。例えば、重要な人物へのコネを持っていたり、すでに多くのファンを抱えていたり、父親が大統領だったり、ルックスの良い社員を入れて営業成績を上げたり、などの方法がある。 また、シリコンバレーの多くのスタートアップはかなりの赤字を出しながらも成長を続ける。Uberだって、WeWorkだって、年間数千億円規模の赤字だったりする。これは、大規模な投資を受けているので、無理に日銭稼ぎに走る必要がない。そうなってくると、赤字でもなんでも、思いっきりユーザー獲得にぶっこむ事が可能になる。これもかなりのズルいアドバンテージである。 重要なのは、コネでも家柄でも、バックグラウンドでも、資金力でも、特殊能力でも、戦わなくてもすむこと。もしくは、”こいつにとは戦ってもしかたがない”と思わせる事。言い換えると、どれだけ”不戦勝”で勝っていけるかが生き残りのポイントとなってくる。 ズルいと言われる回数がバロメーターになる もしかしたら、このアンフェア = “ズルい”アドバンテージをどれだけ持てるかが、その会社の寿命や成長に深く関わってくるのではないかと思う。特に差別化が難しくなってきている現代においては、常にユニークであり続ける事が大きなアドバンテージになってくる。 そのためには、定期的に “これを他の人がやったらどうなるか?” や、 ”今やっていることは他の会社でも出来てしまうだろうか?” を考える。そして、もし少しでも戦いになりそうであれば、やり方やサービス自体をアップデートしていく。それも、自身が持つアンフェア・アドバンテージを最大活用して。 ビジネスや仕事ではどれだけ”アンフェア”なアドバンテージを見つけ、それを活用出来るかが勝負になる。そのバロメーターの1つが、周りの人たちにどれだけ「それ、ズルいよ」と言われるかだと思っている。 横並び主義の日本だと気付きづらい自分のアドバンテージ ここアメリカでは当たり前のズルさの活用が、日本の社会だと意外と気づきづらい。もしくはあまり良いとされてない事が多い。 人と違う事をする人をあまり評価しない風潮の日本の中では、無意識のうちに”フェア”な戦い方をしようとし、なぜか同じ領域でビジネスを展開しようとする会社が後を絶たない。 例えば、ガラケーが一般的だった時代は、日本の各メーカー、キャリアが似たり寄ったりの商品とサービスを提供していた。そんな頃、Appleは全く異なるタイプの携帯電話の開発に注力していた。自分たちのアンフェア・アドバンテージである、iTunesのインフラを最大活用して。 これもまた優れたものを作る前に、まずユニークな視点を重要視するシリコンバレー的な発想だと感じる。 逆にアンフェア・アドバンテージを見つけるないと、企業は競合他社との激しい競争に巻き込まれる。その結果として、長時間重労働を強いられる事になってしまう。 日本のバックグラウンドをアンフェア・アドバンテージにしたショー・コスギ 「君もPerfect Body」でお馴染みのケイン・コスギの父親であり、ハリウッドスターのショー・コスギは、生まれ育った日本で会得した空手の経験を活かした事で、他の俳優にはマネのできない忍者という役柄で大人気を集めた。 これが日本国内であれば、空手ができる人は多くいるし、忍者の役もそこまで特別ではない。しかし、その当時、ハリウッドで空手の動きを使って忍者役ができる人はわずかで、ショー・コスギは自身のアンフェア・アドバンテージを最大限活用したと言えるだろう。 それまでの彼は他の俳優と同じオーディションを受け、英語のハンデもあり、ことごとく落ちていたという。一時は生活にも困窮していたが、自分しかできない忍者というキャラクターを確立した事で大成功を収めた。 優秀である必要は無いが、ユニークである必要はある ダーウィンの進化論によると、最も強いものが生き残るのではなく、最も環境に順応した種族が生き残る。言い換えると「強い者」が残るのではなく、「適した者」が残るという事。 これは、ビジネスの世界でも同じで、モノが溢れ、テクノロジーが発達した現代においては、よりユニークな価値が出せる企業や人材が生き残るのではないかと感じてる。 そういった意味だと、平均値の中にいるよりも、アウトライヤー=ハズレ値である方が、よりサバイバル能力が高いのかもしれない。この概念は、以前の「世界を変えているのは頭の良い不良たちだ」で紹介されている概念にも通じるところがある気がする。 信頼できるスタッフを揃えてユニークなビジョンを語れ こうなってくると、起業家にとって重要な役割は、自分たちのアンフェア・アドバンテージを定め、優秀なスタッフを集め、ビジョンを語ることになってくる。 以前、長年経営コンサルティングを提供している、とあるメンターの方から下記のようなアドバイスを頂いた。 “私には君の会社の社長はできない。なぜなら私は優秀かもしれないが、君は唯一無二の存在であり、ビジョナリーであるからだ。お金儲けの事は信頼出来るスタッフに任せて、自分自身はひたすら自分たちが実現したいビジョンを叫び続けろ。” ちなみに、自分はまだまだこれが出来ていないので、今後の大きな課題でもある。 自己分析: btraxのアンフェア・アドバンテージ では、サンフランシスコという、世界でトップレベルにコストと競争が激しい街で生き残るためのbtraxのアンフェア・アドバンテージは何であるのか? これを機会に少し冷静に自己分析してみた。 1. ロケーション まずは、ロケーション的なアドバンテージ。もともとサンフランシスコでスタートした会社であり、その当時は現在ほど地価が高騰していなかったこともあり、2006年の時点より現在のオフィスビルに入居している。 ここはSOMAと呼ばれるスタートアップの中心地であり、これ以上ないぐらいの立地。もし今から借りようとしてもなかなか物件が見つかりにくいのではないかと思う。 […]