イノベーション

多様なキャリアを持つUXデザイナーが語る「ユーザー中心デザインの重要性」【btrax voice #11 KJ Kim】

btrax社員の生の声をお届けする「btrax voice」シリーズ。
今回のインタビューは、UX DesignerのKJ Kim 。今回KJには、『ユーザー視点のデザインの重要性』というテーマで、ユニークなキャリアパスを歩んできたKJがどうしてUXデザイナーになったのか、また様々な環境でキャリアを積んできたからこそ気づいたユーザー視点の重要性について伺いました。
Who is KJ?

K.J. Kim (金匡宰)
btrax, Inc. UX Designer
Pratt Institute (…

最新テクノロジーによる新たな金融テロリスト対策への取り組みがいよいよ米国で始動

マネーロンダリング(Money Laundering:資金洗浄)、犯罪や不当な取引で得た資金「汚いお金」を「きれいなお金」にするという行為は、現代社会においてその手口・手段も巧妙化、さらに地理的・国際的な拡大を続け、国連薬物犯罪事務所(UNODC:United Nations Office on Drugs and Crime)によれば、毎年8000億ドルから2兆2000億ドル(世界のGDPの2〜5%)相当が資金洗浄されていると公表されています。またBasel AML Index(Anti-Mone…

デザイン思考の力を公共サービスへ!日本と世界の活用事例3選

2018年8月9日、特許庁は庁内にCDO(チーフ・デザイン・オフィサー)として統括責任者を設置し、その下に「デザイン経営プロジェクトチーム」を立ち上げることを発表した。これは、中央省庁が行政サービス向上のためにデザイン思考を本格的に取り入れた初の例である。
米国を起点として提唱されてきたデザイン思考は、日本においてもここ数年間でその認知度を高めてきたが、これまでその活用を積極的に行ってきたのは民間企業であったように感じられる。
2010年頃から日本においてもデザインコンサルティングファームの参入、も…

優れたデザイナーになりたければダヴィンチから学ぼう

どのようにしてデザインを学べば良いのか?今まで聞かれた質問の中で最も多いのがこれ。特に、どこでUXデザインを学べが良いか?という質問は、答えに困ることが多い。なぜなら、デザインは奥が深く、最近様々な分野で求められるUXデザインになると、その幅もとても広くなり、異なる領域の理解と、デザインだけではなく、エンジニアリングの知識も求められることも少なくない。
例えば、「【これからのスキル】デザイナーとエンジニアの境界線がどんどん無くなる」で紹介されているように、自分が設計したものは自分が動かす時代になって…

なぜ日本の大企業にイノベーションチームが必要なのか?

最近では多くの日本企業が「イノベーション」を取り入れようとあれやこれやと試しているのが見られる。一方で言うは易し行うは難しと感じ始めている企業も多いのではないだろうか。今までの長い歴史や風習がある中で、自分たちだけで変わろうとするのはなかなか難しいことである。
btraxは今年で創業15年を迎える比較的若い会社だが、イノベーション創出のためにデザインを活用することを様々な業界のプロジェクトで行ってきた。しかも日本国内にとどまらず、サンフランシスコを中心としたアメリカでもサービスの提供をしている。
前…

ブランド拡大に役立つシェアリング小売スペースという新しい選択肢

昨今、AmazonやShopify、ソーシャルメディアなどオンラインで商品を売るビジネスのためのツールが充実し、D2C(Direct to Consumer)をはじめ多くのデジタルネイティブブランドが勢いを増している。
そしてこれらのデジタルブランドはオンラインでのビジネスがある程度軌道に乗り始めると、オフライン・実店舗にも進出をする。実際、AWAY、Everlane、Warby Parkerなど多くのD2Cブランドが店舗拡大をしている。
こういったスタートアップD2Cは何百万ドルもの資金調達に成功…

他のブースと差をつけろ!トレードショーでエンゲージを高めた成功事例3選

開発中の新しいサービスや商品を感度の高いユーザーに試してもらうための場として、トレードショーといった展示会に参加するという手段を検討してみてはいかがだろうか。トレードショーはターゲットになりうるユーザーにサービスを展示できる絶好の機会であり、また投資家による提案や企業同士のコラボレーションなども期待できる場だ。 サービス開発者にとってトレードショー出展のメリットとは 数あるトレードショーの中でも注目されているのが、間も無く開催を迎えるアメリカ最大のクリエイティブ・ビジネス・フェスティバル、SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)だ。開催地はテキサス州オースティンで、イベント期間中は街全体のいたるところで関連イベントが行われる。 「SXSWを新サービス発表の場として選ぶべき理由」でも紹介した通り、SXSW出店のメリットは以下の通りだ。 1. 感度の高いイノベーターやアーリーアダターからのフィードバック獲得 2. 見込み初期ユーザーの獲得 3. 世界各国からのパブリシティの獲得 当日は2,000以上のカンファレンスやセッションが行われるほか、7万5千人もの参加者が来場する。スタートアップや企業が新しいサービスやプロダクトを展示しており、新規事業開発者にとってサービスのマーケットテストやブランディングのためにも非常に効果的な場だ。 参考記事:【SXSW2017レポート】キーワードは「社会問題解決型」注目の最新テクノロジー5選 上記の効果を最大化するには、展示するコンテンツ(サービス)はもちろん、当日のエンゲージメントも重要になってくる。そこで今回の記事では、過去のSXSW出展企業が行ったエンゲージメント向上のための事例をご紹介する。 (画像はSXSWのホームページより) トレードショーでのエンゲージを高めた成功事例3選 1. VANS:24時間限定のSNSコンテンツをヒントにゲーム感覚で景品をプレゼント トレードショーにてSNSを活用することは欠かせなくなっている。参加者は参加企業のSNSを閲覧・フォローすることで、事前に展示内容を知ることができたり、当日の様子がわかったり、様々な情報を入手することができるのだ。 またハッシュタグを上手く使えば、来場者にもSNSでの投稿を促すことができる。さらには会場にきていない世界中の人々も巻き込んだプロモーションも可能になる。というのも、イベントに参加できなかった人でもテクノロジーや新しいサービス・プロダクトに興味があるSNSユーザーは、イベントのハッシュタグを用いて情報を集めることが多いからだ。そのため、SNSの活用によるプロモーション効果は絶大だ。 シューズメーカのVANSはSNSを用いてゲームっぽくプレゼントの提供をするプロモーションを実施した。 まずVANSは、ツイッターなどのSNSを通じて、#SXSWのハッシュタグとともに、VANSのカスタムメイドの靴を無料でプレゼントすることを告知。その後、その靴を手に入れるための手順をインスタグラムストーリーにて確認するように促した。 このプレゼントを手に入れるにはインスタグラムストーリーに投稿された動画を手がかりに、SXSWの会場内に隠されたカスタムコードを入手し、靴が配布される会場内の指定の場所までたどり着く必要がある。つまり、広い会場の中でカスタムコードの居場所を探し当てる、ゲームのような体験を提供したのだ。 この企画が参加者のエンゲージメントを高められた理由は、インスタグラムのストーリーが24時間の限定コンテンツであることだ。時間が限定されていることからヒントが消えてしまうという危機感を持たせ、短時間で多くの参加者からのエンゲージを得られた。 2. Gaterade:ブースデザインによりプロダクトの世界観を可視化 ブースデザインは、人を引き付けるという点で非常に重要である。ただ人目を引くポスターや演出で存在感を出すだけでなく、その製品・プロダクトの世界観を表現したり、参加者が満足できるような体験を提供することが、エンゲージ向上に繋がるのだ。 アメリカ発のスポーツドリンクブランドGatoradeは、2018年のSXSWにて体験型の展示を行った。一見そのブースはGatoradeの商品が陳列された普通のポップアップストアのように見えるが、実はある大きな仕掛けが隠されている。 商品が陳列されている棚を開くと、そこにはジムエリアが広がっているのだ。ジムエリアには、Gatoradeが開発したVRバスケットボールゲーム「Beat the Blitz」をはじめとしたVRトレーニングシステムが設置してあり、トレードショーの参加者は実際にVRゲームの体験ができるようになっている。 (写真はADWEEKから引用) Gatoradeは、従来のスポーツドリンクメーカーとしての存在感だけでなく、Gatoradeが力を入れるテクノロジーを活用したVRゲームを紹介することによって、今後のスポーツ分野におけるテクノロジー活用の可能性を提示し、その未来に貢献したいというGatoradeの立場を表明した。 Gatoradeはこのようにしてブースの入り口から、最新機能のゲームなどを通した一貫したブランディング体験を提供することでエンゲージメント向上を図っていた。 3. Tinder:アプリのダウンロード・利用と引き換えにフリーギフトを提供 参加者をブースに呼びつけるきっかけとして、小物やステッカーなどのフリーギフトをブースに置くことがある。持ち帰って「こんな展示があったな」と参加者に思い出してもらうことがもできる。 こういったフリーギフトは客を引きつけて、話を聞いてもらうなどのインタラクションのきっかけにもなるが、特別目新しい工夫ではない。しかし、このフリーギフトを有効に活用すると、ユーザーからのエンゲージメントを得られる絶好の機会になる。 オンラインデーティングアプリのTinderは、2018年のSXSWにて、アプリをダウンロードするとアイスクリームをもらえるフリーギフトの特典を用意した。 このキャンペーンの意図は、ただフリーでアイスクリームを配布してくれる素敵な企業だと思ってもらいたいという理由だけではない。無料のアイスクリームを手に入れるためには、Tinderのアプリをダウンロードしてから実際に使用し、”golden ticket”と書かれている画面をスワイプする必要がある。 これは、まず新規のユーザーにアプリをダウンロードするきっかけを与えるだけでなく、Tinderのサービスを実際に使う機会を提供している。ダウンロードで終わりになるのではなく、アプリを開き、スワイプするというところまでユーザーとアプリがエンゲージすることになる。 無料アイスクリーム配布というキャンペーンを通して、参加者にアプリを「使わせる」ことで、Tinderというサービスを知ってもらうのにより深いエンゲージが獲得できたのだ。 まとめ ユーザー中心のサービスをブラッシュアップする手段として、トレードショーは最適な場だ。トレードショーはマーケットテストという側面だけでなく、ユーザーにブランドの体験を提供し、エンゲージできる機会でもある。 筆者は先日東京ビッグサイトで行われたSlush Tokyoにも足を運んだ。そこで様々なスタートアップがピッチを行ったり、ブースを出展する様子を見て、客を引き付ける展示にも「ユーザー視点」があるということを強く感じた。 そしてSlush Tokyoの講演等でよく耳にしたフレーズがまさに「ユーザーエクスペリエンス」や「ユーザーセントリックアプローチ(ユーザー中心型アプローチ)」といったものであった。プロダクトやサービスそのものだけでなく、トレードショーでの出展でブースに客を引き付けるためには常にユーザーの視点に立って考えることが必要なのである。 btraxでは、展示の効果を最大限に引き出すためのサポートはもちろん、サービス開発からマーケティングまで一貫したサービスを行っている。まだ新規サービス開発中の方も、すでにトレードショー出展をご検討中の方も、是非btraxにご相談ください。お問い合わせはこちらから。

「誰にも使われない機能を持つ製品」が生まれてしまう2つの理由

2019年1月のある日。いつものようにベッドで寝転びながらTwitterを見ていると、あるメディアのツイートが目に止まった。
<スマホと連携する、最新スマート冷蔵庫を発表。価格は40万円代。>
ある家電メーカーがインターネットに繋がる冷蔵庫、いわゆるIoTの冷蔵庫を発表したようだ。特徴的な機能は、スマホで庫内の温度調整や運転状況の確認が出来たり、スマホにドアの閉め忘れなどを通知してくれること。専用アプリを使ってカメラで食材の画像を撮影すれば、庫内の食材管理も可能だという。
「いったい誰がこんな機能使…

動物実験廃止を促進する美容ブランドと消費者の意識変化

読者の皆さんは、普段薬や化粧品を購入する上で「商品の製造過程で動物実験が行われているかどうか」を意識することはあるだろうか?昨年9月にカリフォルニア州である衝撃的な法案が可決された。それは2020年以降カリフォルニア州で動物実験を行う化粧品の販売、輸入が一切禁止されるというもの。
これまで人間への安全性を確かめるためにウサギやモルモットなどの動物が実験に使われてきたが、年々動物実験の是非をめぐり様々な議論が世界中でなされている。
今回は、実験の反対運動や代替法の開発、新たな法律の制定など動物実験を取…

生き残りをかけた小売の挑戦〜メイシーズ、ダンキン、ウォルマート〜

インターネットやモバイルの普及、高速回線の登場などにより、消費者の購買行動は大きく変化してきたが、その変化の速度自体も早くなってきている。 例えば読者の皆さんは5年前、どのようにブランドを知り、購入まで至っただろうか。おそらく今のようにインスタグラムでブランドを知り、ショッパブルボタンから購入をしたという人はほぼいないだろう(そもそもショッパブル機能自体が2016年にリリースされたものだ)。 また、オンラインでの買い物が企業やユーザーにとってどれだけ標準になったかを考えることからもその変化を実感することができるのではないだろうか。 AmazonやeBayなどEコマースを中心としたサービスが台頭してくると、老舗の大手小売企業もビジネスをEコマースへと広げてきた。その結果、かつて実店舗を利用していた客がEコマースへ流れていくと、多くの実店舗が閉店へと追い込まれるようになった。 実際に、実店舗の閉店計画は以下の通り発表されている。 大手ラグジュアリーデパートのNeiman Marcusは2017年、アウトレットラインのthe Last Call38店舗のうち10店舗を閉店した。2018年時点で50億ドルの負債を抱えている。 創業100年以上の大手小売Searsは2019年に全国80の店舗を閉めることを発表している。2018年には経営破綻。2013年から2018年までの間に店舗数は2,000から700へ激減。 2017年経営破綻を発表した子供服Gymboreeは2019年に最高900となる店舗の閉鎖を計画している。 大手デパートのメイシーズも2019年に8店舗閉める計画がある。 この一方で、残った実店舗の買い物体験をよりよくするための新しい積極的な取り組みが見られるのも事実だ。特に大手小売企業は実店舗というチャネルの最適化のため試行錯誤を繰り返している。 そのチャレンジぶりはアマゾンやeBayといったデジタルネイティブ企業の勢いに追いつくためではなく、追い越そうという、どこか「スタートアップ」的な動きをしているようにも見える。 そこで今回は、店舗数を最小限にした大手小売企業が行っている、ユーザー志向の新しい購買体験を提供するための取り組みを紹介する。 関連記事:ミレニアルにはブランドネームではなく体験を売れ!ー 炭酸飲料大手企業の挑戦 小売大手の新しい取り組み 1. メイシーズ: 社員をインフルエンサーにするプログラム 1858年から続く大手デパートのメイシーズも先に述べた通り、実店舗を中心とした経営に苦しんでいる小売企業の1つだ。 そんなメイシーズは昨今主流となってきたインフルエンサーを活用したマーケティングを独自の方法で取り入れるため、社内インフルエンサープログラムを開始した。 Style Crewと呼ばれるこのプログラムはレジ担当から幹部まで誰でも申し込むことができる。申し込みをしたインフルエンサーたちは、事前に受け取った制作費用予算から写真や動画などのコンテンツ作りを行う。 作成したコンテンツはインフルエンサーのSNS及びメイシーズStyle Crewの専用ページに投稿され、これらの活動が売上に繋がるとインセンティブが入るという仕組みだという。 (それぞれの従業員兼インフルエンサーのフォロワー数は1万〜千くらいで、いわゆるマイクロインフルエンサーが多い。インフルエンサーのひとりであるMichelle Kunzのインスラグラムより転載) インフルエンサー達はメイシーズで販売している商品を取り扱ったビデオコンテンツや写真コンテンツを作成し、インスタグラムやYouTubeに投稿している(下記ビデオリンク参照)。もちろんメイシーズのソーシャルアカウントやウェブサイトにも掲載されている。 もちろん投稿から商品情報を確認したり、メイシーズの販売ページへの導線も確保されている。インフルエンサーはデジタルでコンテンツを配信することで、ユーザーとのエンゲージメントやより親近感のあるコンテンツによるアピールにより、ファン拡大やEコマースへの流入も狙っていると考えられる。 さらに、デジタルだけでなく、実店舗への来店促進にも役立っているようだ。 インフルエンサーの中には店舗でスタイリストをしている人もいたり、働いている店舗を写していたりする人もいるので、本人に実際に会うことができたり、写っている商品を確実にお店で試すことができたりと、オンラインとオフライン融合の可能性が広がっている。 (インフルエンサープログラムのメンバーはメイシーズで買える商品を自分の興味や知識を活かして紹介する。公式サイトより転載) さらに企業としては、ソーシャルで活躍したい従業員(インフルエンサー)をサポートし、ブランドをさらに理解してもらうことで企業対従業員の良い関係作りにもなると前向きだ。 またそのコンテンツを通して、メイシーズはファッションとトレンドを押さえた小売であるという認知向上を狙っている。 このプログラムに参加しているインフルエンサーの数は、開始時2018年に約20人規模で始まってから、現在では400名ほどに増えている。 現在はアパレル商品や化粧品を中心に取り上げているが、2019年は家具や日用品など、メイシーズが扱う全てのカテゴリーに拡大する計画をしている。幅広いジャンルのインフルエンサーを育てる狙いだ。 関連記事:小売業界の敵はAmazonではない? これからの小売が知っておくべき課題 2. ダンキンドーナツ:リブランドと未来型店舗によるUX改善計画 ドーナツで有名なファストフード小売チェーンのダンキンドーナツ、改めダンキンは未来型店舗に向けた計画を2018年に発表した。名前の変更も今回のコンセプトにあったリブランディングの一部なのである。 ダンキンはこれらのコンセプトを店頭で試す前に、イノベーションラボでそのテクノロジーと体験を再現している。イノベーションラボでテストされている取り組みの一例は以下の通り。 従来のお店の窓に貼られた広告の代わりとして、ホログラムにより投影された広告。広告を掲載するのに壁、紙媒体はいらなくなる。 自動コーヒーマシンも試しているが、ラテアートを楽しめるコーヒーマシンの開発もしている(彼らはセルフィーニトロコーヒーと呼んでいる)。 他にも注文したものを受け取れる無人ロッカーや性別、年齢、気分を分析してそれに基づいたオススメメニューを提案してくれるAIシステムなどを開発している。 イノベーションラボを訪問した記事によるとまた精度が高くなかったり具体的な活用事例がまだなかったりするようだ。しかしながら、ダンキンのイノベーションラボには、昨今の競争の激しい小売業界で生き残るためにもとりあえず試してみて失敗からも学ぶといった姿勢があるのではないだろうか。 3. ウォルマート:小売最大手の最新テクノロジーを使った取り組み ウォルマートは日本の西友を子会社にもつ、売上額で世界最大の小売企業だ。そんなウォルマートも1位の座にあぐらをかくことなく、挑戦をし続けている。 彼らが2018年に発表した取り組みに、Flippy(フリッピー)というAIを搭載した揚げ物調理ロボットがある。このロボットは受けた注文数と揚げ時間を考慮して、最適なタイミングで出来立ての揚げ物を作ることができる。 フリッピーは揚げ物全ての調理をするわけではなく、人と手分けしながら作業の効率化やサービスの向上を目指す、協働ロボットだ。フリッピー自身が油に溜まったカスを掃除するのも可愛らしい。 (フリッピーを開発しているはMiso Roboticsというスタートアップ) また、ウォルマートもWalmart Labsと呼ばれるラボチームを持っており、ここでも様々な実験を行なっている。 例えば店舗を徘徊して管理する棚ロボット。店内を歩き回り、店内の不具合(ラベル・値札の間違いや陳列場所違いなど)や在庫をチェックしている。認識したデータを従業員に共有し、のちに従業員が直すことができるようになることを目指しているという。 現在はまだ開発段階で、まだフル活用には至っていない。今後、ウォルマートが開発しているツールとの連携ができれば、繰り返しのマニュアル作業をロボットが行い、人は顧客の対応に集中できるようになるというのが狙いという。 関連記事:Amazon Go型の無人レジ店舗の普及を目指す2つのスタートアップ企業 まとめ ここサンフランシスコも、都市部とはいえ、実店舗が閉店しているところを見かけるし、デパートなどは閑散としていることも多々ある。実際の数字もお見せした通り、決して好調とは言えない状態だ。しかしながら、実店舗を”絞り”ながら、新しい体験の創出に注力している。そして店舗に新しい役割を持たせようとしている。 今回紹介した大手小売企業も逆境の中、もしかしたら失敗かもしれないけどやってみている姿が感じられるではないだろうか。やはりアジャイル的に試していくのが成功に導く道なのかもしれない。 ただ焦って立ち止まるのではなく、最高の体験イノベーションを創り出すために試行錯誤する小売業界はこれからも注目だ。そしてぜひ、彼らのようにできることからやり始めてみるのはどうだろうか。 参考: ・E-commerce share of total retail sales in United States from 2013 to 2021 ・Will There Be A Physical Retail Store In 10-20 Years? ・Inside Macy’s 300-employee influencer program ・How Macy’s is using its store employees and stylists as Instagram influencers to drive sales ・See […]

イノベーション=技術革新はもう古い!新たな価値を創造した9事例

会社の生き残りをかけてイノベーション担当部署があらゆる企業で創設されている。イノベーションの必要性が自社内でも議論し始められ、そもそもイノベーションとは?と改めて問い直している読者も多いかもしれない。
iPodやAirbnb、Facebookがイノベーションの事例として挙げられることも多いが、それらに匹敵するようなアイデアが生まれるとは思えないという声もクライアント企業からよく聞く。
関連記事:「馬鹿げた」アイデアから生まれた3つの世界的なサービス
しかし、これらのような社会のあり方を大きく変えるよ…

社員の自律性が企業を強くする!セルフマネジメントを促す組織体制とは?

従業員は勤務時間のうち20%を、個人的に取り組みたいプロジェクトに使うことができる
これはかの有名なGoogleの「20%ルール」である。この制度からはGmailなどの有名サービスも数多く生まれ、同社のイノベーションの源泉とも称されてきた。しかしながら、Googleのエリック・シュミット氏等によるマネジメント書籍『How Google Works – 私たちの働き方とマネジメント』では、この「20%ルール」の真の目的について、次のように述べられている。
「20%ルールの最も重要な成果は、そこから生ま…

主要メディアが伝えないCES 2019で感じた5つのポイント

これまでに複数のメディア経由でご存知だと思うが、今年のCESでは、5G, AI, VR, AR、MaaSなどなどの最新のテクノロジーと、それらを活用した商品やサービスが展示さた。
CESは毎年ラスベガスで開催される世界最大のテクノロジーカンファレンスで、世界中の企業が最新テクノロジーを活用したプロダクトの発表を行う。その中には、家電だけではなく、自動車やヘルスケア、そして各国からのスタートアップなどのエリアもあり、大変エキサイティングなイベントでもある。
このイベントに毎年参加することで、テクノロジ…

ロボットハンバーガー店Creatorで感じたUXの改善点

2018年6月27日、サンフランシスコにCreatorと呼ばれるレストランがオープンした。ここは主な調理工程の最初から最後までを自動化した世界初のレストランで、完全にロボットが作ったハンバーガーを$6で提供している。Alex Vardakostasによって2012年に設立され、以前はMomentum Machinesとして知られた同社は、今年ついにここサンフランシスコに最初の店舗を出したのだ。 オープン当初は招待制だったこのレストランだが、3か月後の9月25日、ついに一般客の利用が可能になった。そこで筆者はbtraxの同僚2人とともにその「ロボットが作るハンバーガー」を体験することにした。 未来のハンバーガーレストランに潜入 店に入ると左側に食材と2台のハンバーガー製造ロボット、右側にテーブル席がある。小さなレストランであるうえ、営業時間が限られているためか、席を探すカスタマ―や歩き回る店員などで混みあっていた。雰囲気はカジュアルで、明るい色使いと木のアクセントが親しみやすさを出している。 程なくして店員が我々に気づき、ロボットのある場所まで案内してメニューを渡してくれた。ハンバーガーは5種類、フライドポテトなどのサイドメニューや飲み物もある。注文内容を決めると、店員はその場でスマホ端末を使ってオーダーを処理し、そのまま支払いとなった。どうやら調理以外の部分は人間が担うようだ。 待つ間に、実際にロボットがハンバーガーを作る様子を見ることができた。注文したハンバーガー3人前とフライドポテト2人前が出来上がるまで10分位だっただろうか。調理が終わると店員が機械から取り出し、ボックスに入れ、トレイに置く。名前が呼ばれて受け取ったあと、セルフサービスで飲み物を入れ、テーブルについた。食べ終わると店員がトレイを下げにやってきて、アンケートへの協力を求められた。 ハンバーガーを作るロボットとは では実際にロボットがどうやってハンバーガーを作っているのかをご説明しよう。まず、こちらがCreatorのハンバーガー製造ロボットだ。 写真の通り、このロボットは「オールインワン」で、パンをトーストするところからトマトのスライス、ミートパティを焼くところまで、ハンバーガーづくりに必要な工程すべてを順序通りに行う。全長14フィート(4.3メートル)で、20のアクチュエーター、350のセンサー、20のコンピューターにより自律的に考えて動くことができる。 また搭載されたAIにより、カスタマ―のリクエストに応じて材料を追加したり省いたりすることが可能で、店ではそれの様子を実際に見ることができる。このロボットは店のメイン部分に設置され透明なガラスで囲われているので、カスタマ―はすべての工程を見ることができ、まさにこれから口にするものが作られる様子を見ることができるのだ。 ハンバーガーができるまで 上部にはエアチューブが3本あり、焼き立てのブリオッシュ・パンが入っている。オーダーが入ると、パンを押し出し、振動ナイフでカット、トーストしたあとにバターを塗り、ベルト上に置かれたペーパートレイの上に載せる。 パンを載せたトレイが各材料が入ったガラスチューブの下を通る前に、決められた量のソースとスパイスをパンの上に塗る。その後玉ねぎ、トマト、ピクルスを各場所でスライスして載せ、その後レタスとチーズを載せる。 “The place for awesome inventions, innovative ideas, and constant inspiration.” 💡 🔧 from the team at INVENTIONS INSIDER. Happy to have you over at our place. Creatorさんの投稿 2018年9月4日火曜日 (動画:CreatorのFacebookページより) この間、ロボットはパティとなる肉を機械の内部で調理し、焼き上がると他の材料が載ったパンの上に落としてハンバーガーの出来上がりだ。 人間の役割は? ハイテク色満載のCreatorだが、すでにお分かりのように人間を排除しているわけではない。むしろ人間もチームの一員として活躍している。『ロボット・アシスタント』という役割名を与えられた人間は、オーダーを取ったり、出来上がったハンバーガーを運んだり、テーブル席の片づけを行ったりと結構仕事がある。 また機械に不具合が出た場合の対応や材料の補充も行っている。なお、ハンバーガーの調理自体はロボットが行ってはいるが、ソースの配合やレシピ開発は未だ人間によって行われている。 もう1つ特筆すべき点として、このレストランは水、木、金のみ営業している。その他の日はエンジニアが機械を点検し改良するのに充てられているのだ。どうやら人間不要になる日がすぐに来るというわけではなさそうだ。 食事中、ロボットアテンダントの1人である女性と話すことができた。6月のオープン時から働いている彼女はこの仕事がとても気に入っているという。 彼女の説明によると、アテンダントは機械にそれぞれ各材料を補充する役目を与えられていて、ハンバーガーを作るのに必要な材料が切れないようにしている。それが終わったらランチの混雑時間に備える。営業時間が終わると清掃して翌日の準備と、ロボットへの補充以外は普通のレストランのスタッフと仕事内容はあまり変わらなさそうだった。 ロボットが調理する唯一のレストラン 調理工程という面において一般的なハンバーガーレストランと比べると大きく異なる。通常のハンバーガーレストランでは、人間が機械を使ってハンバーガーを作っており、グリルやフライパンは常に稼働状態だ。一方Creatorのロボットは感応式フライパンを備えており、オーダーが入ったときのみスイッチが入る仕組みだ。 そのためカスタマ―が少ないときにアイドリングするというような無駄な電力消費が発生せず、そうして節約したお金を食材に回すことができる。実際彼らは高品質のオーガニック材料を使うことにこだわっていて、カスタマ―も健康的な食事を摂っているという認識を持つことができるのだ。 サンフランシスコにはZume Pizza、Eatsa、Café X Coffee Barなど、ロボットが活躍しているレストランが他にもある。Zume Pizzaでロボットが担うのは、ピザを作る工程において繰り返し発生する簡単な作業の部分だ。Eatsaでは人間が調理するが人間を介さずにオーダーとピックアップができるという仕組みだ。 Café X Coffee Barでは三菱製のロボットアームがコーヒーを作って提供してくれる。しかしいずれの店でもロボットが自力で食材をカットし、それらを合わせて調理し、またオーダーによって材料を変えるようなことは見られない。ここにCreatorのすごさがわかるだろう。 関連記事:あなたはきっと知らない。サンフランシスコの○○○イノベーション【btrax voice #3 Mark Wake】 UXに改善の余地あり ミレニアル世代のカスタマ―の1人として筆者が気に入ったのは、Creatorが推している透明性というコンセプトと健康的な食事を提供しているという点だ。他よりも健康的なハンバーガーだと知りながら食べるのは満足感があったし、実際の調理場面を見ることができたのもよかった。ロボット自身がパンをトーストし、バターを塗り、材料をスライスしてそれらを1つのハンバーガーにしていたことも素晴らしかった。 ただ、他のハンバーガーレストランでのエクスペリエンスと大きく違うかと言ったら実はそうは感じなかった。接したのは人間で、ロボットと何かやり取りしたわけではなかったからだ。唯一のロボット体験はハンバーガーが作られている場面を見たことだけだった。 関連記事:ミレニアルにはブランドネームではなく体験を売れ!ー 炭酸飲料大手企業の挑戦 一緒に行った同僚(男性、X世代)もあまり感動した様子ではなかった。曰く、「ハンバーガーが特別おいしいかというとそうでもないし、ロボットもちょっと子供だましっぽい。人間がまだ多くの部分を担ってるし、オーダーのプロセスについても列に並ぶわけではなく、たまたま居たアテンダントが対応してくれたという感じでちょっと違和感があった」とのこと。ただ店の雰囲気は気に入ったようだった。 もう1人の同僚(女性、ミレニアル世代)は非常に楽しんでいた。「キレイでおしゃれなハンバーガー屋さんのちょっとロボット化したバージョンですね。ロボットのデザインもいいと思います。ロボットの活用は効率性やコストカットのためだけではなく、カスタマ―や従業員をハッピーにするべきものだと気付かされました。」 ただ少し不満もあったようで、ロボットの動きがスローすぎて待ち時間を長く感じてしまったとのこと。また、ロボットが作っているハンバーガーのうち、どれが自分のオーダー分かわからないこともマイナスポイントとして挙げていた。 彼女はユーザーにとってロボットの活用が常にベストソリューションになるわけではないと指摘し、Creatorがテクノロジー起点ではなくもっとユーザー起点になるともっとよくなるだろうと言っていた。しかし彼女は店員がアンケートを取っていたことにも注目しており、「アンケート結果に基づいてサービス改善をしようとしていることはわかるので、また今度来てみたい」とも言っていた。 Creatorは健康志向・透明性重視・省エネでありながら、新しいエクスペリエンスを生み出すために日々改善に取り組んでいる。カスタマ―に受け入れられるかどうかはわからないながらも、オールインワンのハンバーガー製造機を作ったこと、そしてロボットの可能性をこういう形で我々に見せてくれたこと自体は素晴らしいことだ。

2019年からデザインが提供する3つの新しい価値

先日書いた「2019年デザインと経営に関する5つのトレンド予測」に多くの反響をいただいたと同時に、腑に落ちないところやよく理解できない部分があるとのご指摘もあったので、補足も兼ねてこれまでにはあまり取りだたされることのなかった、デザインの新しい価値についてもう少し具体的に説明したいと思う。
そもそも、デザイン思考に代表される、デザイナー的考え方とはどのようなものなのであろうか?それを理解するところから始め、それがどのような価値を生み出すのかを検証する。
デザイナー的マインドセットとは
デザイナーの人…

【2018年】デザインに関する流れをカテゴリー別にふりかえる

2018年、デザインを取り巻く環境はどのように変化したのであろうか? おそらくここ10年の中で、最も世の中の注目が高まった一年であると言える。実際、経済産業省は「『デザイン経営』宣言」としての報告書を発表し、日本企業に対して経営におけるデザインの重要性を提唱。
また、マッキンゼーによる調査では、デザインを経営に活用している企業は平均と比べ売り上げの伸びが32%もアップし、株主へのリターンも56%高くなっているという結果になっている。
では、異なるデザイン分野において今年はどのような動きがあったかを総…

【2018年】業界別イノベーション最新事例まとめ

早いもので2018年もあと2日で終りを告げる。平成最後の今年は、豪雨や猛暑、台風などのあらゆる自然災害、米朝首脳会談、日産自動車カルロス・ゴーン会長の逮捕など記憶に残る出来事が続いたように思える。
ここサンフランシスコでも、Appleの時価総額がアメリカ企業として初めて1兆ドルを突破したというビッグニュースをはじめ、アメリカ中間選挙やカリフォルニア州の大規模な山火事など、記憶に残る出来事が相変わらず多い1年だった。
freshtraxでは今年も業界や分野別でイノベーションの最新事例をお届けしてきたが…

2018年はイーロン・マスクにとって地獄のような一年だった

今から一年ほど前の2017年中頃にイーロン・マスクは下記のようなツイートをしていた。 If you buy a ticket to hell, it isn’t fair to blame hell … — Elon Musk (@elonmusk) July 30, 2017 日本語にするのであれば、 「みずから地獄行きのチケットを買ったのであれば、それに対して文句を言うべきではない」 と言う感じ。起業家になるって決めたのであれば、地獄をくぐり抜ける覚悟をしろ、といったところだろうか。 そして、翌年の2018年は、彼にとってまさに地獄とも言える一年になった。数々の困難が降りかかり、それをくぐり抜けていく様子は、下手なハリウッド映画よりもエキサイティング。 しかし、恐らく本人にとってはとても辛く苦しい道のりであった道のりであっただろう。もしくは、こんな困難も冷静に乗り越えられるぐらいに、稀代のアイアンマン起業家はタフなのかもしれない。 同じ起業家として、そしてシリコンバレーのイノベーターとして、最も尊敬する一人でもある彼の2018年の出来事を振り返ってみたい。 数々の困難に直面したイーロン・マスクの2018年 では、2018年だけで彼はどれほどのチャレンジを経験しているのかを紹介する。壮絶に見えるが、これらはたった1年間だけでの出来事である。 2月: バッテリー関係の問題が生じ、Model 3のリリースが (再度) 遅れる 2017年の7月に発表したTeslaの最新モデルであるModel 3は、当初年内のデリバリーを予定していた。しかし、何度となく生産が遅れ、今年の2月には、バッテリーモジュールの開発に関する致命的な問題が見つかり、またも遅れが生じた。 それに対して、事前に予約していたユーザーからは「また遅れてるのかよ!」といった辛辣なツイートを受けている。 Holy cow! Pushed back again, @Tesla?!? pic.twitter.com/g7yN8OViHe — Zach Honig (@ZachHonig) February 8, 2018 4月: Model 3が生産目標に追いつかず工場で寝泊りをする日々が続く Model 3の生産に関しての遅れを取り戻し、生産目標に追いつくために一時は元Appleで働いていたスタッフを主任に抜擢するが、状況は改善されなかった。事態を深刻に見たイーロン・マスクは、その原因を過剰な自動化と説明。 About a year ago, I asked Doug to manage both engineering & production. He agreed that Tesla needed eng & prod better aligned, so we don’t design cars that are crazy hard to build. Right now, tho, better to divide & conquer, so I’m back to sleeping at factory. Car biz is hell […]

【2018年】モビリティ業界で注目され始めたMaaSとは?

あなたは日常的に、どの様な交通手段を使っているだろうか?例えば会社へ行く時。あなたは5分歩いてバス停へ行き、ICカードをタッチして8:15発のバスに乗る。
駅に着いたらまたICカードをタッチして、乗車率120%の満員電車に10分間揺られた後、ようやく駅に着いたのは8:55。会議に遅刻しそうなのでタクシーを使い、カードで支払おうと思ったら対応していない!なんとか現金での支払いを終え、オフィスに着く頃には疲れ果てている… その様な日常が、一変する可能性があるかもしれない。
バスも電車もタクシ…

【2018年】モビリティ業界で注目され始めたMaaSとは?

あなたは日常的に、どの様な交通手段を使っているだろうか?例えば会社へ行く時。あなたは5分歩いてバス停へ行き、ICカードをタッチして8:15発のバスに乗る。
駅に着いたらまたICカードをタッチして、乗車率120%の満員電車に10分間揺られた後、ようやく駅に着いたのは8:55。会議に遅刻しそうなのでタクシーを使い、カードで支払おうと思ったら対応していない!なんとか現金での支払いを終え、オフィスに着く頃には疲れ果てている… その様な日常が、一変する可能性があるかもしれない。
バスも電車もタクシ…

【2018年】注目を浴びた4つのテック分野とスタートアップまとめ

2018年も多くの方にfreshtraxの記事を読んでいただいた。これまでは様々な業界に関するスタートアップやUX、デザイン、マーケティングのトレンドを紹介してきたが、その中でも特に多く読まれた記事や話題になった記事など、注目を集めた分野があった。 それがフィンテック、小売テック、医療テック、アグリテックの4つで、これらの分野が日本でも徐々に浸透してきたことの表れではないだろうか。 そこで今回は2018年記事総集編として、2018年に多く読まれた記事の分野と、その中で注目されたスタートアップを改めて紹介する。 関連記事:【2018年】btraxが注目する10のスタートアップ 注目分野① フィンテック フィンテックは金融(ファイナンス)とテクノロジーの領域のことである。大手銀行や政府の金融機関など、長く存在してきた企業や組織、規制など、かなり複雑性と困難が強いられる分野とも言われる。 しかしながらユーザーが抱えている問題の多くは共通しており、サービスがスタートすると爆発的に広がっていく例も多い。 iPhoneやiPadにレジ機能を持たせるデバイス(ソフトウェア)であるSquareや個人間送金サービスのVenmoなどが代表例ではないだろうか。 freshtraxで今年取り上げた記事では新たな個人間送金サービスが注目を浴びた。2017年6月にスタートしたばかりのZelleというスタートアップである。 セキュリティ面が安心の個人送金アプリZelle Zelleはサービス開始当初から30以上のアメリカ国内金融機関とパートナーを結んだことで話題を呼んだ。世界的に広がりつつあるキャッシュレス決済の中、それをさらに後押しする勢いだ。 また、Zelle独自のアプリからだけではなく、各銀行が運営する口座管理アプリやWebサービスを通してアカウントの設定と送金サービスの利用ができる。 筆者も使ったことがあるが、新たにアプリのダウンロードをする必要はなく、あくまでも既に持っている自分の銀行のアプリの延長でZelleに登録して使用するといった流れであった。 たとえばアメリカの大手銀行であるバンク・オブ・アメリカの利用者のうち、すでに300万人がZelleを利用しており、未だに利用者は増え続けている。 既存の個人間送金サービスであるVenmoやCash Appなどとの違いは2つある。1つは送金処理が即座にされること、もう1つは大手銀行ともパートナーシップを結んでいるというセキュリティー面での安心感だ。 (ZelleのUI。公式サイトより転載) 特に後者に関しては今までのサービスに関するトラブルなどからユーザーが敏感になっている点だ。日本も金銭に関わるセキュリティーへの関心は特に高い。こういった理由からもこの記事に注目が集まったのではないだろうか。 サンフランシスコで生活しているとVenmoは欠かせないアプリの一つになっており、「I’ll Venmo you(Venmoするね=Venmoで送金するね)」といったようにVenmoが動詞化しているほどだが、近いうちにZelleも同じように使われるかもしれない。 取り上げた記事:アメリカで話題の個人間送金サービス Zelle(ゼル)とは 注目分野② 小売テック サンフランシスコにもとうとうAmazon Goがオープンしたように、2018年はAI導入のレジレスストアなど小売テックが盛り上がった1年だったと言える。 freshtraxでも、AmazonといったEコマース小売からウォルマートやクローガーといった大手小売など小売業界の変革について紹介した「小売業界の敵はAmazonではない? これからの小売が知っておくべき課題」記事が多く読まれたが、その中でも注目されたのはリアルタイム商品棚管理のtraxだ。 リアルタイム在庫管理や商品分析を行うtrax traxはAI技術とカメラを駆使して、陳列した商品の状態や商品ブランドシェア率、品切れ、一度手に取ったが戻した商品のデータなどの情報を把握して分析する技術を扱う。 これにより在庫管理プロセスの改善だけでなく、分析の結果を効果的な商品陳列や商品のパッケージデザインの改善に役立てることができるのだ。 実際に同社のツールを導入したCoca-Cola Hellenic社では在庫を63%削減することに成功。他にも、P&Gやネスレなどの大手商品ブランド会社を顧客にしている。 お店の商品陳列用の棚をスマートフォンやタブレット端末で写真を取るだけで、そのデータをクラウドからレポートとして小売業者やメーカーにリアルタイム配信することができる。 Eコマースでの買い物が広がる一方で、新しい技術を取り入れた実店舗を拡大する小売ブランドが増えてきた。このようなユーザーにとって必要なテクノロジーを駆使した新しい買い物体験で勝負する動きは今後も注目である。 注目分野③ 医療テック 今年はユーザーの医療体験を変える様々なスタートアップや、フェムテックと呼ばれる女性に特化したヘルスケアテックを紹介した。その中でも話題になったのは唾液からDNA検査をし、自分の先祖やルーツを調べることができるサービスだ。 戸籍制度がなく、移民も多いアメリカにおいて、ニーズの多いサービスなのだ。入国記録や移民記録、婚姻記録に兵役記録に至るまで様々なデータを活用し、家系を辿っていく。 自分の先祖やルーツを調べてくれる23andMeとAncestory 23andMeも同様のサービスで、btraxスタッフや筆者の知人も試したくらい身近なサービスだ。アメリカには移民や混血の人が多いため、自分が一体どこの国にルーツがありそれがどのくらい割合を占めているのか気になることはよくあるようだ。 また、健康面や体の特徴などの情報もわかるので医者に見せて健康管理に役立てることもできるのだ。 (サンプルレポートより転載) Ancestryも同様のサービスを行っている。彼らは会社として「自分たちのルーツなどを知ることが人とのつながりを大切にすることにつながる」ということを謳っている。 彼らのこのような思いはオフィスにも反映されていて、オフィスの壁にはAncestryの検査によって判明した先祖の写真と社員の写真が飾られているという。 取り上げた記事:ブランド戦略 × オフィスデザイン ー 成功事例に見る企業ブランド構築手法 注目分野④ アグリテック 世界的な人口増加に伴い、今後より多くの食料が必要になると言われている中、農業とテクノロジーの分野であるアグリテックへの注目が高まっている。 アグリテックには作物や酪農の管理システムや農業の自動化、アーバンファーミングなど多岐に渡ったサービスが存在する。 その中でもインドア・ファーミングとして過去最大の投資額を調達し、ソフトバンクの孫正義会長も2億ドルの投資をしたことでも知られるPlentyはアグリテック業界内でもすでに有名だ。 健康的で十分な食の供給実現を目指すPlenty Plentyは生産性の高い水耕栽培を実現させたバーティカル・ファーミングを行うスタートアップ。多くのバーティカル・ファーミングの取り組みでは、水平に設置されたトレーを使用して栽培を行うが、Plentyでは独自に設計されたポール状のタワーで栽培を行う。 (こちらのウェブサイトより転載) このタワーが壁のように並べられ、今までの農業のやり方と比較すると同じ面積で350倍の生産ができるようになったのだ。 ちなみにPlentyの技術で作られた野菜はサンフランシスコにオープンしたばかりのロボットハンバーガーレストランであるCreatorで販売されている。 アグリテックと食品ロボットという業界の異なるスタートアップがコラボレーションして食体験を豊かにしていくというのはシリコンバレーのマインドセットと通じるものがあるように思う。 番外編:ペットテック!? まだ馴染みは少ないもの注目されつつある分野 番外編では先に紹介したテック業界ほど浸透はまだしてないもの、注目を集めつつあるペットテックを勝手に取り上げる。 付け加えておくと 2018年のCESでも紹介され、freshtraxの「2018年のIT動向を読み解く7つのキーワード」記事でも注目された分野である。 アメリカのペット市場は大きい。2017年、ペット関連商品市場はアメリカだけで690億ドルの支出があったという(世界全体で約1090億ドル)。 ペットテック分野だけでみても、2017年には約3億ドルの投資があり、5年前よりも3倍以増えている。 ペット用の肥満問題に挑むPetrics 米国では自宅で飼われている犬や猫の数は8,000万匹ほどいるとされているが、犬においては約6割が肥満というデータがある。肥満の問題は人間だけではなかったのだ。 この事態の解決に挑むのがペット用スマートベッド・ウェアラブルデバイスのスタートアップ、Petricsだ。Petricsのスマートベッドは、ペットがベッドの上に乗ると運動量や体重といった健康状態を把握することができる。 また、ウェアラブルデバイスもペットの首輪などにつけてそれぞれアプリと連動して使用すると健康状態に合った食事量や運動量を知ることができる。効果的なダイエットが可能になるというわけだ。 (Petricsのベッドとウェアラブルデバイス。こちらのウェブサイトより転載。) このサービスはペットテックとくくってみたが、飼い主にとってはペットの医療テックと思えるくらい重要なのではないだろうか。 ちなみにミレニアル世代はペットを所有する割合が一番多い世代だ。実際サンフランシスコでは20-30代とみられる人がペットを連れている姿をよく見かけるし、ペットOKのオフィスも少なくない。スタートアップが生み出すペットテックを必要としている人、犬、猫は確かに多そうである。 まとめ 様々な業界がテクノロジーと掛け合わされて〇〇テックと呼ばれるようになって久しい。バスワードになって有名になり、最新鋭のテクノロジーが注目されることも多いが、それを使うユーザーがいてここで紹介したスタートアップのように広まっていくことを忘れないでほしい。 どのスタートアップもただ技術を作って売り出した訳ではない。ユーザーの問題があったからそこに最新テクノロジーを使って解決策、より良い体験を提供していったのだ。 2019年はどのような〇〇テックが出てくるか、今から楽しみである。ユーザーの抱えている問題をみていくとその予測のヒントが隠されているかもしれない。 参考: Should You Use Venmo, Zelle or Cash App? Everything You Need to Know About the Hottest Mobile Payment Apps Trax raises $125 million to bring computer vision insights to retailers’ shelves Billionaires make […]

ヤマハとコニカミノルタが語る「経営におけるデザインの役割」とは【DFI2018】

btraxでは毎年デザインと経営の融合をテーマにしたカンファレンスDESIGN for Innovationを開催し、3年目となる今年は10月11日(木)にFiNC有楽町にて行われた。
当日は様々な切り口でデザインと経営に関する基調講演やパネルディスカッションが行われたのだが、その中の一つではヤマハ発動機の長屋明浩氏とコニカミノルタの平賀明子氏をゲストスピーカーとしてお招きし、日々経営やビジネスに対してどのようにデザインの価値を取り入れているのかお話を伺った。
お二人ともデザイナー出身でありながら執…

Amazon Go型の無人レジ店舗の普及を目指す2つのスタートアップ企業

以前の記事「AmazonGoの仕組みは脅威となるか?サンフランシスコ店へ行ってみた」で紹介したように、実はAmazon Goストアがサンフランシスコに展開する以前に、2社のスタートアップがすでにレジレス店舗の試験的なデモ店舗をサンフランシスコ市内で展開していた。
サンフランシスコに突如現れたレジレス店舗
Amazonが3年という短い期間で3000店舗ほどまでに拡大を計画しているレジレス店舗であるが、その台頭により、レジレス店舗ひいてはその技術やIot、AIを活用し、小売業界の革新を目指しているスター…

SXSWを新サービス発表の場として選ぶべき理由

今年度もアメリカ・テキサス州オースティンでSXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト) が3月に開催される。最新のプロダクトをお披露目し、また情報収集するために世界中から人が集まるこのイベントはサンフランシスコからも多くの企業やスタートアップが参加する。そんな大注目のイベントについて改めて紹介しよう。 そもそもSXSWとは? SXSWはもともとアーティストやクリエイティブな人々の活躍の機会を提供することを目的に1987年に始まった音楽イベントである。1年目は177のインディーズバンドが集まり、観客数は少ないながら熱狂的なファンの心を当時から掴んでいた。 開始から30年以上が経過した現在、SXSWのテーマは音楽のみならず映画やテクノロジーも合わさるようになり、特に最先端のテクノロジーを世界中に向けて披露する場として注目を浴びるようになった。今や多くのブランドが新プロダクトの「初披露」の場としてSXSWを選んでいる。ちなみに展示されるプロダクトのほとんどは10年前には存在していないものだと言っても過言ではないだろう。 2018年は3月9日~18日に開催された。この10日間で約432,500人が来場し、地元オースティンに与えた経済効果は約3.5億ドルに上った。このことからもいかに大きなイベントであるかがわかるだろう。 TwitterもSXSWから広まった これまでに多くのプロダクトやサービスがSXSWを経て世の中に広まっていったが、最大のサクセス・ストーリーとして語られるのはTwitterだろう。 Twitterがお披露目されたのはローンチから9か月後のSXSW2007だ。彼らは玄関のパネルスクリーンにてサービス概要を展示したほか、SXSW参加者が気軽にTwitterを体験できるよう、テキストメッセージで登録しSXSWアンバサダーをフォローできるというこのイベント限定の機能を提供した。これがきっかけてTwitterは新しいメディア・プラットフォームとしてのポジションを確立したのである。 ほかにも、位置情報をベースにしたソーシャルネットワーキングサービスのFoursquareは2009年に出展後大きな成功を収めたし、食べ物の写真共有アプリのFoodspottingは2010年に出展後急成長を遂げ2013年にOpenTableに1千万ドルで買収された。またSkypeはGroupMeというグループチャットアプリを2011年のSXSWでローンチ、その後2013年まで出展を経て今も成長を続けている。 freshtraxでは以前にも「【SXSW2017レポート】キーワードは「社会問題解決型」注目の最新テクノロジー5選」でSXSWでお披露目されたスタートアップを紹介しているのでそちらも参考にしてほしい。 SXSWでプロダクトを発表するメリット ではなぜ多くの企業は新プロダクトのお披露目の場としてSXSWを選ぶのだろうか。それには以下の3つのメリットが考えられる。 フィードバックの獲得 ユーザーの獲得 パブリシティの獲得 2018年の統計データを見ると、SXSWに参加する目的で一番多かったのが「新しいビジネスの機会発見」だった。SXSWはまさに新しいビジネスを求めて人が集まる場であり、会場は感度の高いイノベーターやアーリーアダプターで溢れている。そんな彼らに対してプロダクトを展示し、直接フィードバックが得られることは間違いなく大きなメリットだ。 また、当然彼らはプロダクトの初期ユーザーにもなりうる。感度が高く新しいものを試すマインドに溢れているだけでなく、購買力の強い層が集まるのも特徴だ。ちなみに2018年の来場者では25~44歳が68%を占め、全体の58%が世帯年収10万ドル以上だった。 さらに、集まるメディア・プレス関係者の数もすごい。2018年には世界中から4035のメディア・プレス関係者が集まったほか、SXSWが取り上げられたオンラインメディア・テレビ・ブログ等すべて合計したメディアバリューは4.3億ドルに上った。 なぜ企業やスタートアップが新プロダクト発表の場としてSXSWに照準を合わせるのか、お分かりいただけただろうか。 2018年に注目を集めたYAHAMAの展示 昨年のSXSWでは、YAMAHAが博報堂アイ・スタジオとコラボレーションした「Duet with YOO」というAIとの共奏体験を実現する体験型インスタレーションを展示した。自分がピアノを演奏すると、AIがそれに合わせて合奏を始めてくれるというものだ。 展示した4日間で約700人が実際に演奏を体験し、実際に生のフィードバックを収集。さらに日経BPや宣伝会議といった日本のメディアのほか、アメリカのメディアengagetなどにも取り上げられた。また、テキサス州立大学ジャーナリズム&コミュニケーション学部のチームからも取材を受け、「音楽を学ぶための楽しいアプローチ」だと紹介されるなど、パブリシティの獲得にも成功した。 btraxとともにSXSW2019を目指しませんか? 2019年のSXSWは3月8日~17日に開催される。これまでbtraxでは日本企業向けにSXSW展示のプロモーションサポートを行ってきたが、SXSW2019ではそれだけに留まらず、プロダクトを発表することに照準を合わせた2つの新サービスメニューを提供する。 プロダクト開発を支援する「Product Alpha」 SXSWに向けて新しいサービスを開発しローンチするまでをbtraxが一貫してサポート。アジャイルにサービスMVPをつくり、新しい事業領域の開拓を支援する。また、SXSWでの展示、北米でのPRサポートも実施。 既存プロダクトの展示をサポート「Brand Activation」 既存のプロダクトをSXSWで展示し北米でのPRを支援するサービス。グローバル市場でのパブリシティを獲得して国内・国外での認知度向上をサポート。 新プロダクト開発を検討中の方、すでにあるプロダクトをSXSWで展示したい方は下記フォームから是非お問合せを。

製品開発力向上を目指した技術開発ナレッジDB刷新ーー未来の成長と発展のためのDICの取組みを支えるレシピ開発管理ソリューション事例

「化ける学問」と書く化学。原料を混合し化学反応させることで様々な機能を持つ素材を提供し、あらゆる産業の基礎として産業全体のイノベーションを支えている化学産業では、常に革新的な材料や技術の追求が続けられています。化学メーカ ...…

デザインがつくりだすダークサイドの危険性

毎分のようにスマホに通知が表示され、SNS上での反応に一喜一憂する。インスタがあまりにも使いやすく、楽しいので、5分おきに見てしまう。夜中にふと目が覚めてメールのチェックをする。Amazonで必要のない物までついつ購入し […]

デザインがつくりだすダークサイドの危険性

毎分のようにスマホに通知が表示され、SNS上での反応に一喜一憂する。インスタがあまりにも使いやすく、楽しいので、5分おきに見てしまう。夜中にふと目が覚めてメールのチェックをする。Amazonで必要のない物までついつ購入し […]

イノベーションの効果測定方法

現代の企業にとって、新しい事業を生み出したり、仕組みを変えたり、革新的なサービス提供方法を考えたりなど、いわゆるイノベーションの重要性が高まっていることは間違いないだろう。世界の企業時価総額を見てみても、トップにランキン […]

コンコルドの失敗から学ぶスペック至上主義の危険性

コンコルドという飛行機をご存知だろうか?おそらくある一定以上の世代であれば、知ってる、聞いたことある、見たことある。そして、もしかしたら乗った事がある方もいるかもしれない。 この飛行機は、イギリスとフランスが共同開発した […]

米国企業が実践するデザイン思考の活用例3選

2018年5月、経済産業省は『デザイン経営宣言』を発表した。同省は「デザインを企業価値向上のための重要な経営資源として活⽤する経営」としてデザイン経営を定義し、より多くの日本企業がこれを取り入れるよう促している。 このよ […]

日本企業がシリコンバレー的スピードを身につける方法

先日福岡にて開催されたグローバルスタートアップイベント、Waraku SummitにてWiLのパートナーである琴 章憲氏との対談をする機会をいただいた。スタートアップをはじめとして、日本企業のグローバル展開に関するトピックにてのディスカッションを行った。 そこで、彼が日本企業がシリコンバレーの企業に勝てない一つの大きな理由として挙げていたのが、決断と実行スピードの違いだ。例えば彼が前職で出向していたTwitter社でのエピソード。 それまではプログラミング言語としてRubyを利用していたが、ユーザー数の増加と今後のスケールを念頭に、ある日突然エンジニアリングトップよりScalaに切り替えることが決定された。これでTwitterのエンジニアは問答無用で翌日からScalaを利用しなければならない。さもなければ会社に残れないからだ。 これがもし日本企業で似たような事があったとしたら、内部調整とエンジニアたちのスキル獲得期間などを考慮し、最低でも数ヶ月は猶予期間を設けるだろう。シリコンバレーではそんなゆっくりはしてられない。即決定、即実行が基本である。 ↑上記のセッション動画 シリコンバレーの企業と日本企業の決断スピードの差は100倍 以前にも紹介したが、シリコンバレーの企業が世界的に凄いとされている理由の一つがそのスピードの速さであろう。特にデジタルが主流になってきている現代では、これがかなり強力な武器となる。 日本企業が完璧なプロダクトを1つ出す間に、シリコンバレーの競合は20%の完成度のものを5つ出し、ヒットしたものだけを残し改善すると言われるほど、決断、実行、リリースのスピードが速い。 一説によると、日本企業とシリコンバレーの企業を比較すると、その決断スピードには100倍の差があると言う。これは、例えると時速3kmで進むカメと、時速300kmのF1カーぐらい異なると言う事だ。ある意味、全くカテゴリーが異なる。 参考: 日本がシリコンバレーに100倍の差を付けられている1つの事 スピードが大きな競争優位性となる3つの理由 現代のビジネスにおいては、時間をかけるのが一番のリスクとなりえるだろう。スピードが遅いのは命取りにもなりえる。 特に急激な成長を一つのゴールとしているスタートアップにおいては、”速すぎる” と言うことはほとんどない。「今さら聞けないリーンスタートアップの基本」でも紹介されている通り、できるだけ早い段階でリリースをし、改善するのがシリコンバレーのスタンダードにもなりつつある。 急いで決断、行動することのリスクよりも、得られるメリットの方が大きい。もしそれが原因で失敗したとしても、取り返しのつかないことは少なくなってきていると感じる。スピードが速いことで得られるメリットを3つ紹介したい。 1. チャンスは長居してくれない 時代が激しく変化する現代において、ビジネスチャンスを掴みたければ、タイミングが重要になる。例えば、スマホ普及に合わせたLINE, FacebookによるInstagramの買収、リーマンショック後の不況で大人気になったシェアリングエコノミー系サービス、ブロードバンドの普及が整った時期に一気に普及したYouTubeなど、上手にチャンスを掴み取ったサービスは少なくない。 また、「世界を変えられなかった12のサービス ~第一次ドットコム時代のアイディア~」で紹介されているように、タイミングがずれているとどんな良いサービスでもヒットしないケースもある。 2. 顧客ニーズの高速化 スピードが求められるのはビジネス機会のタイミングだけではない。顧客やニーズへの対応スピードも、その企業の価値を左右する大きなファクターとなってくる。ユーザーニーズに合わせ、プロダクトをどれだけの頻度でアップデートできるか、顧客の問い合わせにリアルタイムに対応できるかも顧客満足度を大きく左右するだろう。 3. 競合に対する防御策 決断と行動のスピードが速ければ、競合の動きにもうまく対応する事ができる。逆にその対応が遅れると致命的な結果にもなり得る。例えば、Netflixに駆逐されたビデオレンタルのBlockbusterや、Amazon対応が遅れたBordersなど、動きが遅すぎて、新規参入のライバルに対し完全に後手にまわってしまって滅んだ企業も多い。 参考: 近い将来テクノロジーが葬る10の産業 実例: GAFAのスピードに対しての意識の高さ 冒頭のTwitter社でのエピソードに加え、世界のトップを牽引するテクノロジー企業であるGAFA (Google, Apple, Facebook, Amazon) におけるスピードに関しての実例も紹介したい。 失敗の数だけ評価の対象になるGoogle X 前回の「日本がシリコンバレーに100倍の差を付けられている1つの事」にて、平均で約10日間の間に1つの会社を買収することからも、その動きの速さが理解できたGoogle. その新規事業を生み出すためのラボ的組織のGoogle Xでは、失敗を恐れずに、新しいことにどんどんチャレンジできるように、ユニークな人事評価規準を設けている。 失敗の数の多さが、評価の対象になると言うのだ。イノベーションに失敗はつきもので、恐る恐る一つのことをじっくりやるよりも、速いスピードでガンガン進め、その中のわずかでも大ヒットを出す事が出来れば大成功である。 それを実現するために、Google Xでは、一つのプロジェクトを成功させたスタッフよりも、100の失敗を経験したスタッフの方が高い評価を得られるような仕組みを導入している。 Appleでの象徴的な出来事 現時点で世界一の時価総額を誇るAppleもスピードを重要視していることがわかるエピソードを紹介したい。2008年にプロダクトマネージャーの一人がミーティングにて、CEOのTim Cookに対して中国の工場での生産に大きな問題が発生している事を伝えた。するとCookは「それはまずい。誰か出向いてどうにかしなければ」と言った。 そのミーティングは継続し、30分ほどが経った時点でそのプロダクトマネージャーに対しCookが「あれ、なんで君はまだここにいるんだ?」と言うと、彼は急いでサンフランシスコ空港に直行し、服も着替えずにその足で中国行きの便に飛び乗った。 Amazonは平均で11.6秒に一回の頻度でデプロイしている Appleに迫る勢いで時価総額記録を更新し続けているAmazonも、スピードに関しての意識はかなり高い。その一例として、彼らは実に平均で11.6秒に一回ソフトウェアの更新を行なっているとい言うだ。 もちろんこれは平日だけでのケースではあるが、常に最善の体験をユーザーに届けるため、そして競合に勝つために、新しい仕様リリースしまくっていると言うことになる。 スピード優先を社訓にしているFacebook シリコンバレーの企業の中でも、の動きの速さを武器にしていることで有名な企業がFacebookだろう。オフィスのいたるところに社訓である”Move fast, and break things. “ や “Done is better than perfect.”と書かれた表札が飾られていることからもわかる通り、彼らのモットーはとりあえず作り、リリースし、そこから改善をしよう、と言うもの。 ソフトウェア、特にWebやアプリなどのプロダクトの場合、リリースしてからいくらでも変更が効くので、完璧を目指す必要はない。ある程度の精度が得られた時点でとりあえずリリース。ユーザーの反応を見ながら改善をすることができる。それも、特定のユーザーだけを対象にすることも可能なので、速く動く事のメリットは大きい。 ↑Facebook社の壁に飾られた社訓 日本企業は「礼儀正しく時間を奪う」 それではなぜ日本企業はスピードが遅いのだろうか?その理由は実はその「礼儀正しさ」に隠されている。これは、企業のワークスタイルの改善を進めている日本マイクロソフト株式会社 テクノロジーセンター センター長の澤 円氏による分析で、彼によると日本企業は「礼儀正しく時間を奪う」事で、生産性を極端に下げていると言う。 これは言い換えると、多くの時間を費やしている割りには、アプトプット量が極端に少ない。時間をかけるべきところと、そうで無いところの分類がズレているとも考えられるだろう。 例えば、見るだけで済む結果のレポートに関しては、わざわざ会議をしなくても、メールやチャットで送っておき、各々が空いた時間に確認すれば良いはず。なのに、日本企業は「礼儀正しく」するために、わざわざ忙しい人たちの時間を割いて「報告会議を」行う。 加えて下記のような点も日本企業のスピードを遅くしている要因であると思われる。 スタート時間にシビアで終わり時間には無頓着 日本企業は、出勤時間や会議の開始時間には神経質であるが、なぜか終わり時間には全く無頓着である事が多い気がする。スタートには少しでも遅れれば警告されるが、仕事も会議もなぜか終わり時間をシビアに管理しているケースはまだまだ少ないように感じられる。 何も決まらない会議が多い そして、1日の仕事時間の大部分を割かれる肝心の会議でも、報告と議論はされども、何一つ決定しない、もしくは決定できる人がそもそも最初から参加してない事で「前向きに検討」することしかできないケースが後を絶たない。こんな単純な決定をするだけなのに何時間かけてんだ?と思うこともしばしばある。 決断を先送りしてもペナルティー無し そもそも決定がされない理由の一つとして、決裁権のある役職の人が決断を先送りしても、何のペナルティーも受けない事が理由だろう。これがアメリカの企業の場合、会議で発言しない人や決断をできないマネージャーは会社にとって必要のない人材だとみなされ、最悪首になるケースだってある。 参考: 海外から見た日本式ミーティングの謎 ちなみに、上記で紹介した澤 円氏は、10月11日に東京で開催されるDESIGN for innovation 2018にも下記のトピックで登壇していただく予定。 『イノベーションを生み出すために日本企業が変えるべき習慣』 DESIGN for innovation 2018 開催日程: 2018年10月11日(木)13:30〜20:00 (懇親会含) 会場名: FiNC有楽町 >> イベント詳細はこちらから << シリコンバレーではどのように企業スピードを上げているのか? では、シリコンバレーの企業はいかなる方法でスピードアップを図っているのだろうか?”Move fast or die”と言われるほど、スピードが遅い事が命取りになるこの地域では、徹底的な効率化が進められ、急成長のための素早い行動が推奨されている。 アメリカではメールは短いほど良い […]

ZOZOが語るテクノロジーを活用したファッション体験とは【田端信太郎氏・金山裕樹氏インタビュー前編】

日本発、世界のファッション・テックを牽引する株式会社スタートトゥデイ。もともと輸入CD・レコードのオンライン販売からスタートした会社だったが、日本のファッションブランドのEC化に先駆けて、2004年にインターネット上のセレクトショップを集積したファッションショッピングサイト『ZOZOTOWN』の運営を開始。
現在では、ZOZOTOWN出店ブランド数は1,100件を超え、アクティブ会員数は545万人を超えている。またEC事業を核としながらも、ユーザーのファッション体験を向上するために、テクノロジーを活…

アメリカ西海岸のCEO達に学ぶ4つのワークスタイル

社内コミュニケーションツールやタスク管理ツール等テクノロジーの発達で「いつでも、どこでも、誰とでも働ける時代」になっている。一方、今まで以上に仕事とうまく向き合わないと四六時中仕事のプレッシャーやストレスに晒されてしまう時代でもある。自己管理をどのように行うか、その能力は今まで以上に求められていると言えるだろう。
今回はそんなテクノロジー化が進む社会の中で、自分流で仕事と向き合う方法を紹介する。アメリカ西海岸のCEO達の事例を中心に彼らがどのようなルールを持って自身の仕事と私生活を保っているか見てい…

人生を何に捧げるべきかを見つける方法

日常生活の中でどのように自分が好きなこと、やりたいことを見つけることができるのか?「やりたい事が見つからない本当の理由 – そして見つけるための4つの方法」ではそんな多くの人々が感じる疑問に対して、下記の4つの方法で情熱とモチベーションを見つける方法を説明している。
やりたい事を見つける4つの方法

やっていて楽しいことをやる (What)
なぜやるかにフォーカスする (Why)
どうやるかにこだわる (How)
誰のためにやるかを考えてみる (Who)

では、これが「人生…

店舗はもう不要!? 自宅で試着し放題の新サービストレンド

試着をし、気に入った商品のみを購入をする

普段衣料品を購入する際に当たり前に行う試着というプロセス。これこそが、衣料品のオンラインショッピングにおける一番の課題であった。

確かに、オンラインショッピングで、1つの商品のサイズや色を複数注文して、自宅で試着し、返品をするという方法も無くはない。しかし、この場合、カスタマーは試着するために、一旦全商品を購入しなければならない。後々返品すれば返金されるとしても、試着をするために商品を全て購入するというのは、現実的にはやや厳しい話である。
購入…

銀行はなぜ滅びるのか – それを阻止する方法は? (金融革命 Part 1)

銀行での楽しい体験をしたことのある人は一体どのくらいいるであろうか? 様々なビジネスにおけるユーザー体験が改善される現代において、おそらく銀行は最も質の低い体験を提供していると言わざるを得ないだろう。

確かに、入り口にいる紳士が整理券を丁寧に手渡ししてくれるところまでは良い。しかし、そのあとの待ち時間、面倒な書類、短い営業時間、いちいち発生する手数料、融通の利かない担当者など、顧客がそこで体験する時間のクオリティーは非常に低いと感じる人も多いはず。

そして、その訪問が融資目的だったとした…

イノベーションが生まれ続けるサンフランシスコの生活とは

皆さんはサンフランシスコに住む人々の生活を明確に描けるだろうか?どのように生活し、どのように仕事しているか、想像できるだろうか。今回は、我々サンフランシスコで働く人の生活の中に浸透しているテクノロジーを、衣食住(仕事)という切り口で紹介し、サンフランシスコがイノベーションを生み出し続ける街である所以をお伝えしたいと思う。

衣:便利なだけではないオンラインファッションブランドの魅力
食:オンラインサービスを使った方がより便利でお得という価値が確実に広まりつつある
住(働く):サンフラン…

【デザインスプリント入門】話題の高速サービス開発法とは

デザインスプリントをご存知だろうか?米国グーグルで生まれたデザインスプリント(以下、スプリントとも表記)は、たった5日間で、デザイン、プロトタイピング、ユーザーへのアイデア検証を行い、ビジネス上の問題に答えを出すためプロセスのことで、オンライン上では「黄金メソッド」などと呼ぶ謳い文句も目にする。

スプリントは、FacebookやAirbnb、Blue Bottle Coffeeをはじめとするサンフランシスコ・ベイエリアの最先端企業から、国際機関、非営利組織、学校などでもすでに採用されており、大…

海外出張をムダに終わらせない3つのポイント

毎年5月以降は新年度のスタートが落ち着き海外への出張者が増える時期とも言われている。国土交通省観光庁によると2017年5月の海外出張者は39.8千人と同年4月と比較し73%もの増加があるという。

私自身もお客様の出張に合わせて弊社サンフランシスコオフィスの訪問やミーティングの相談を多く頂く時期になったと実感がある。
海外出張に行くこと自体が目的なのか?
実際に出張でサンフランシスコに行かれる方にその目的を伺うと、このような回答が多い。

・新規ビジネス創出の機会を模索する為の商談やミー…

イノベーションの力でアメリカを健康に!フード系スタートアップの活躍

「スタートアップ」という言葉がだいぶ浸透し、日本でもアントレプレナー向けのミートアップや起業家を育成するようなプログラムや施設が増えてきた。そんな今だからこそ改めて触れておきたい点がある。

それは成功している多くのスタートアップは問題を解決するために生まれてきたということだ。ユーザーの理解から始まり、問題を特定をし、新しい価値のあるソリューションを提供し続けることで急成長を成し遂げてきたのである。

関連記事:今さら聞けないリーンスタートアップの基本

こういったスタートアップのなか…

ディスラプト (破壊) されるサービスに共通する4つの不満要素

インターネットやスマホに代表されるテクノロジーの出現により、様々な業界においてよりユーザーメリットの高いサービスが生み出され、既存のプレイヤーたちを脅かしている。これを”Disruptive Innovation”と呼ばれれ、日本語では「破壊的イノベーション」と訳される。

たとえこれまで数十年以上も続いているようなサービスであったとしても、大きな変革の波に乗り遅れると、いともたやすく「破壊」されることがある。
新規サービスが原因じゃない。ユーザーが正しい選択をしているだけだ
下記の例を見て…

日本の新規サービス規制に思う事

先日、日本国内の民泊に対する規制強化でAirbnbの足元の登録件数が約8割減の1万3800件まで減ったというニュースを見た。

関連: エアビーが日本で予約をキャンセル-民泊施設への規制強化で

自分でも頻繁に利用しているサービスでもあり、これには大変大きなショックを受けた。この動きは、これは「ユーザーのためになる = 正義」の概念が強いサンフランシスコに住んでいると、大きな謎である。

正直、今回の規制は、ユーザーに素晴らしい体験を広めるのを全力で阻止しているようにしか感じられなかった…

海外のCINOに学ぶ、組織におけるイノベーション創出の場づくりとは

「我が社で何かイノベーションを起こしたい」こう考える経営者や新規ビジネス担当は少なくないのではないだろうか。まずは新規事業を任せられる積極的な人材を増やそう!と考えるものの、社内を見渡せば、言われた仕事だけを淡々こなす受動的な社員にあふれていて、イノベーションどころか、率先して業務の改善に関わろうとする社員もあまりいない。

最近、クライアントと接するなかで、そんな理想とは程遠い現実にため息をついているマネジメント層の声を直接耳にすることが多い。一方、世界を見渡すと、組織ぐるみでイノベーション創…

小売業界の敵はAmazonではない? これからの小売が知っておくべき課題

小売業は現在、変革期に差し掛かっている。おそらくここ数年で大きな変化が訪れる産業の一つである。

その証拠として、実店舗型の小売業者の経営破綻、店舗閉鎖が相次いている。それらはEコマースやデジタルの普及が影響を与えていることは明らかだが、消費者が実店舗よりもAmazonなどのEコマースを選んだとは単純に言い切れないのである。
Eコマースは小売業界の売上高のほんの一部でしかない
実際に、NRF(全米小売協会)が毎年出している全米の小売業界の売上高ランキング2017年版によると、上位10社が