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自分たちでできることから。DIYで行う、mitosayaの実験的プロジェクト。[mitosaya 薬草園蒸留所/千葉県夷隅郡]
mitosaya薬草園蒸留所工事期間は、なんと4ヵ月! 自ら仕上げた、東屋を超えた東屋。
蒸留所ができるまでの間、今できることに江口宏志氏は取り組んでいます。その中から、今回は3つ取り上げたいと思います。
まずは、敷地内にある東屋の改修です。
本来、東屋とは屋根と柱だけの小屋。つまり休憩所です。しかし、今回の改修では、東屋を超える東屋に進化しました。まるでヴィラやコテージを思わせるようなそこは、焼杉の壁が設えられ、冬の寒さをしのげるストーブも設置し、窓にはペアガラスを採用。室内にはベッドなども配され、家具には座面をレザーに張り替えたハンス・J・ウェグナーのビンテージの椅子。棚には本が並びます。
その全てを江口氏が自ら4ヵ月かけて作り上げたというから驚きです。
「素人の僕がやったので、作っては不具合が起きたり、それをまた作り直したり、杉板の焼きにもムラがあったり……」と江口氏は言います。
蒸留家を目指していたはずが、いつしか大工に!?という冗談はさておき、「今後、わざわざ遠くから蒸留所まで足を運んでくださるお客様もいらっしゃると思います。そんな方々にゆっくりと過ごして頂ける場所になったらいいなと。そして、いつかは泊まれる施設になるといいなと思い、作りました」と話す江口氏。
前回の取材で話していた「未来のことばかり話している」という言葉を思い出します。
ちなみに、この日に置いてあった本は、ジェイムズ・リーバンクス作の『羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季』と江口まゆみ作・小のもとこ絵の『タイ ラオス ベトナム 酒紀行』でした。
両者に共通しているのは、「旅」を感じる作品という点です。取材班からの「これはこの東屋で読んでほしいと思う作品をセレクトしたのですか?」との問いに、「いや、僕がこの間寝る前に読んだ本です(笑)」との答え。「でも、いつかはここへいらっしゃるお客様のために本をセレクトしたいですね」と、一瞬、ブックディレクターの表情を見せた江口氏でした。
『mitosaya 薬草園蒸留所』へ訪れた際は、東屋へぜひ。
mitosaya薬草園蒸留所月報、「蒸留家12ヶ月」とともに何が送られるかわからないギフトを。
現在、江口氏は、『mitosaya 薬草園蒸留所』の月報を発行しています。そんな活動も江口氏らしいです。
「カレル・チャペックの『園芸家12ヶ月』や植草甚一の作品に挟み込まれている月報みたいなものを作りたいなぁと思って。正直、どうでも良い内容もあるのですが……。僕がやるとついこうなっちゃう」とはにかむ江口氏。
その月報には、今の蒸留所の状況や『mitosaya 薬草園蒸留所』で採れた植物を使った料理のレシピ、何が送られるかわからないギフトについて書かれています。
ちなみに、vol.1の月報「newsletter mitosaya botanical distillery」とともに送られたギフトは、2種のシロップです。ひとつは、春に咲いた染井吉野の花を塩漬けにした後、ホワイトバルサミコ酢を加えた「染井吉野の花びらシロップ」。もうひとつは、2017年秋に収穫したウコンをひと冬乾燥させた後、同じショウガ科の生姜を加えた「春ウコンの根っこシロップ」です。
ともに炭酸水で割って飲むも良し、料理のアクセントに使うも良し、の万能シロップです。そして、味だけではなく、瓶やパッケージデザインが美しいことも特筆すべき点。プロダクトとしても高いクオリティを実現しています。月報のvol.2以降も期待が高まります。
mitosaya薬草園蒸留所苗を植えること。それは、一生涯その場所が特別な場所になるということ。
『mitosaya 薬草園蒸留所』では、お客様の苗木を限定数植える活動もしていました。苗木には多くの種類がありますが、どれも将来的に大きくなる木ばかり。お客様の中には、「結婚の記念に」など、思い出に残すためにと参加された方もいたようです。
植物の良いところは、成長し続けることです。今年よりも来年、来年よりも再来年、10年後よりも20年後、20年後よりも30年後……。人生100歳時代と囁かれる昨今、樹々の成長を見続けられるのは、この先ずっと楽しみになるでしょう。
そして、その植えた人物の中には、江口氏の母も。
「まさか母親と苗木を植える日が来るとは」と照れ笑いをする江口氏。植えた苗木は、プラムの木でした。
「責任を持ってこの樹々を育て、実った植物を使って、いつの日かその人だけのお酒を作り、お届けしたいと思っています」と江口氏は話します。
また、『mitosaya 薬草園蒸留所』では、新たに養蜂も始めました。「蜂は、半径約2〜3kmを活動範囲にしているそうです。養蜂することによって施設内の植物を活性化させ、蜜を採取し、今後何かに活かしたいと思っています」と、江口氏。
日々、小さな達成を喜びにし、徐々にカタチになりつつある『mitosaya 薬草園蒸留所』。蒸留所の完成ももう間近だ。
住所:千葉県夷隅郡大多喜町大多喜486 MAP
http://mitosaya.com
info@mitosaya.com
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世界最大級の水上花火「三尺玉海上自爆」。[熊野大花火大会/三重県熊野市]
三重県熊野市客船から観るも良し、メイン会場で観るも良し。
2017年のコラムでは客船から観る熊野大花火大会をテーマに紹介いたしました。今回はメイン会場で観る熊野大花火大会について2017年のコラム「花火と客船クルーズ」を捕捉する形で書き進めていきたいと思います。このコラムと2017年のコラムを合わせてお読みいただければ幸いです。
熊野大花火大会の最寄り駅である熊野駅は、日ごろは電車が一日に数本という静かでのどかな町です。交通の便が良いとは決して言えません。花火大会当日は電車の増便がありますが、念のため交通手段や宿泊については十分にお調べの上お出かけいただく事をお勧めします。メイン観覧席となる七里御浜は砂浜ではなく玉砂利です。一つ一つの石は波に削られ丸く、座っても痛くはありませんが、真夏の焼けつくような日差しで日中はかなり熱くなります。夜になっても温かいままですので多少厚めのシートをお持ちになるとよろしいかと思います。
三重県熊野市夜空いっぱいに広がる計算し尽くされた花火。
熊野大花火大会の特徴として立地を生かした打上筒の設置があります。上空に打ち上げるものだけでなく、斜めや横に向かって打ち上げられるように打上筒が設置してあります。様々な角度をつけて花火を打ち上げることにより夜空いっぱいに花火が広がるように計算されています。フィナーレを飾る鬼ヶ城大仕掛け「巌頭のとどろき」の一幕に彩色千輪という一際華やかな花火を夜空いっぱいに開花させる場面があります。このシーンが私は大好きです。この場面だけは毎年必ず撮影したいので緊張する瞬間でもあります。
熊野大花火大会一番の目玉でもあり客船からも大迫力の「三尺玉海上自爆」ですが、メイン会場での観覧はまた格別です。「いよいよ三尺玉海上自爆です」というアナウンスに会場全体がどよめく様に盛り上がってまいります。そして始めに小さなスターマインが上がります。「この場所に三尺玉が開きますよ」というお知らせの花火です。その後、観客全員でカウントダウン。そしてついにその時は訪れます。心の準備は出来ていても、その遥か上をいく迫力に思わず後ずさりする程です。海上から押し寄せてくる花火の迫力は会場全体の浜に響き渡り空気を震わせお腹にずしりと響きます。メイン会場ならではの感動と興奮を体感できます。三尺玉は鉄製の筏に乗せられ海上に浮かべられた状態で開きます。三尺玉開発(花火が開くことを開発といいます)の威力で鉄製の筏はぐにゃりと曲がります。
三重県熊野市翌日は打ち上げ現場でもある世界遺産「鬼ヶ城」へ。
時間に余裕があれば花火大会の翌日に「鬼ヶ城」を訪ねても楽しいでしょう。国の天然記念物であり世界遺産でもある「鬼ヶ城」は熊野大花火大会の打ち上げ現場でもあります。どんなところから花火が打ち上っていたのか一見の価値ありです。時間によっては花火師さん達が片付け作業を行っているかも知れませんし、一部はまだ立ち入り禁止になっている場合もありますのでその点は十分ご注意ください。鬼ヶ城センターでは熊野特産の柑橘類新姫(にいひめ)のドリンクやポン酢など名産品を販売しています。レストランでは熊野地鶏などもいただけます。更に熊野の歴史紹介や熊野大花火大会の映像上映、また三尺玉のレプリカも展示されていますので三尺玉がどれほどの大きさかご覧いただけます。
日時:2018年8月17日(金)
場所:三重県熊野市 七里御浜海岸 MAP
煙火業者(50音順):伊藤煙火工業、伊那火工堀内煙火店、紀州煙火、和田煙火店
熊野市観光協会HP:https://www.kumano-kankou.info/kumano-fireworks/
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1963年神奈川県横浜市生まれ。写真の技術を独学で学び30歳で写真家として独立。打ち上げ花火を独自の手法で撮り続けている。写真展、イベント、雑誌、メディアでの発表を続け、近年では花火の解説や講演会の依頼、写真教室での指導が増えている。
ムック本「超 花火撮影術」 電子書籍でも発売中。
http://www.astroarts.co.jp/kachoufugetsu-fun/products/hanabi/index-j.shtml
DVD「デジタルカメラ 花火撮影術」 Amazonにて発売中。
https://goo.gl/1rNY56
書籍「眺望絶佳の打ち上げ花火」発売中。
http://www.genkosha.co.jp/gmook/?p=13751
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神の領域が幻想のデジタルアート空間になる。[下鴨神社 糺の森の光の祭 Art by teamLab – TOKIO インカラミ/京都府京都市]
京都府京都市古都の神社が幻想の灯で満ちる。
真夏の神社。ノスタルジックな響きとともに、不思議な涼感と未知なる存在への畏怖(いふ)まで想起させてくれる言葉です。そんな真夏の神社で、今夏、幻想的な光の祭典が催されます。
その祭典の名は『下鴨神社 糺の森の光の祭 Art by teamLab – TOKIO インカラミ』。
ユネスコ世界文化遺産の“古都京都の文化財”に指定されている下鴨神社(正式名:賀茂御祖神社(かもみおやじんじゃ))を舞台に、その参道や楼閣内を光のアート空間に変えるイベントです。
非物質的なデジタルアートによって「自然が自然のままアートになる」という『チームラボ』のアートプロジェクト、「Digitized Nature」の一環として企画されました。
京都府京都市デジタル×自然が生み出す新たなアート。
『チームラボ』は2001年から活動を開始したアートコレクティブです。アーティスト・プログラマ・エンジニア・CGアニメーター・数学者・建築家など様々な分野のスペシャリストで構成されており、集団的創造によって人間と自然、そして、自身と世界との新たな関係をアートによって模索しています。
そんな『チームラボ』が展開する「Digitized Nature」は、光や音などの非物質的なテクノロジーによって、自然を破壊することなくアートにするという試み。自然が長い時をかけて築き上げた妙(たえ)なる造形を生かし、その悠久の時をもアートの中に映し出してくれます。
京都府京都市厳粛な参道に「たちつづけるものたち」。呼吸を思わせる球体の明滅が神秘の世界へいざなう。
下鴨神社の参道沿いに広がる「糺の森(ただすのもり)」は、太古の姿をそのまま残した広大な森です。静寂の中に佇む高い木々の合間には、ゆっくり明滅する球体が並んでいます。それらは木々を照らす光と呼応するかのように、輝いては消え、消えては輝き、人が触れればそれぞれの色に応じた特有の音色を響かせます。
このアートの名は、『呼応する、たちつづけるものたちと森 – 下鴨神社 糺の森 /Resisting and Resonating Ovoids and Forest – Forest of Tadasu at Shimogamo Shrine』。
光と音は放射状に伝播し、連続して広がりながら、幻想の協奏曲を奏でていきます。光と音のさざめきは、下鴨神社の楼門の中に漂う光の球体にまで伝播していき、空間を超えて共鳴します。
長い参道の向こうから押し寄せる光は、自分以外の人や、森に住む動物たちの存在を知らせてくれます。他者の存在を強く意識して互いに感じ合う経験は、自らの存在の意味と、神社という神々の領域の神秘性をより高めてくれるでしょう。
京都府京都市光と音のデジタルテクノロジーを駆使した、「人々の存在によって変化するアート空間」。
参道の先に現れる荘厳な楼門の中には、宙に浮かんだ球体たちが漂っています。これらも自ら光を放っており、呼吸めいた明滅を見せてくれます。
このアートは、『呼応する球体 / Resonating Spheres – Shimogamo Shrine』。人の手で叩かれたり、何かにぶつかったりするなどして衝撃を受けると、その光は色を変え、特有の音色を響かせます。その反応は周囲の球体にまで広がっていき、色も同様に変化していきます。
球体の近くの木々も同様に呼応して、光と音を伝播させながらさざめきます。人工のマテリアルが、自然の木々や人々の存在と共鳴する――デジタルと自然と人によって織り成されるアートは、真夏の夜の神秘性をより高めてくれるでしょう。
球体たちは、参道の「たちつづけるものたち」とも楼門を超えて呼応します。境界を超えて伝播していく光と音は、やはり他の人々や動物たちの存在を強く意識させてくれます。
京都府京都市大都市の中の自然を舞台に繰り広げられる、変幻自在のアート。
京都という大都市の中にありながら、森閑(しんかん)とした深山を思わせる空間がデジタルのアートで満ちる。非現実的な世界を創出しながらも、その成立には「人」の存在が不可欠です。ここを訪れ、鑑賞する人々の存在があって、初めて「光の祭」は完成するのです。
また、このイベントは単なるライトアップではなく、一過性の催しでもなく、京都の文化価値の向上をも図る継続的な取り組みです。伝統行事として根付かせる意図で企画されており、1回目の2016年に続いて、2018年で2回目の開催となります。更に、今後も末永く継続されていく予定です。
<イベント概要>
世界文化遺産の神社が、光と音のデジタルアート空間に変貌するイベント。下鴨神社(賀茂御祖神社)の参道と楼門内が、チームラボによる作品『呼応する、たちつづけるものたちと森 – 下鴨神社 糺の森』と、『呼応する球体 – 下鴨神社 糺の森』の2つの作品によって彩られる。
開催期間:2018年8月17日(金)~9月2日(日)
開催場所:下鴨神社(賀茂御祖神社)糺の森
時間:18:30~22:00(最終入場21:30)
※会場の混雑状況により変更することがあります。
入場料:平日1,000円 土日1,200円
※小学生以下無料
※8月17日(金)~19日(日)3日間のみ使用可能な限定前売ペア券 1,200円(2名1組)
※前売ペア券は、枚数限定で販売致します。
※販売場所:ローソン・ミニストップ各店舗
※Loppi【Lコード:57291】
ローチケ:http://l-tike.com/tl-sg/
HP:http://shimogamo-lightfestival.teamlab.art
※開催中は、会場でも販売致します。
写真提供:チームラボ
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2次元で3次元を描く!?大分から世界へ名を轟かせる、革新的な立体造形物。[FLATS/大分県国東市]
大分県国東市
CTスキャンで輪切りにしたような、インパクトある立体造形物「FLATS(フラッツ)」。セレクトショップやミュージアムショップで、あるいはアート展示会やデパートのショーウィンドウで、一度は目にしたことがある方も多いことでしょう。では商品を手に取って、そのパッケージの裏書きを見てみます。そこには、思わぬ文字が記されます。「大分県国東市」。いまや世界からも注目を集めるスタイリッシュで革新的な作品は、のどかな里山の風景が残る山間の町で生み出されていたのです。大分から世界に名を轟かせる「FLATS」、その誕生秘話や製作の背景を探りに、国東市を訪ねました。
大分県国東市舞台は大分県の里山にある廃校になった小学校。
大分県国東市。空港から少し離れるだけで、周囲は緑濃い山々と田園が織りなすのどかな景色に変わります。車に乗って30分ほど。聞いていた住所に到着すると、そこには小学校がありました。そう、この廃校になった小学校を拠点に「FLATS」を製作する国東時間株式会社は運営されているのです。
出迎えてくれた代表・松岡勇樹氏に案内され、まずは内部を一周。構想を練るアトリエがあり、過去の作品がずらりと並ぶ展示室があり、加工場があり、会議室があり、在庫が積まれた倉庫がある。つまり初期構想から企画、製作、梱包、発送まで、「FLATS」のすべてが、この校舎内で完結しているのです。文字通りのメイド・イン・国東。では、その誕生のストーリーを伺ってみましょう。
もともと建築設計の仕事をしていた松岡氏。ある時、友人のデザイナーが出店する展示会でマネキンを使う必要に迫られました。しかし市販のマネキンは高額。ならば作ってしまおうと、マネキン製作に取り掛かります。「作ってみるか」というライトなスタートではありましたが、取り掛かってみるとそれは、簡単な道ではありませんでした。
大分県国東市試行錯誤を経て誕生した組み立て式段ボールマネキン。
素材として「いわば必然的」に選んだのは、身近にあり、安価で、加工が容易な段ボール。しかしいざ折り曲げてみると、どうしても滑らかな曲線ができない。曲面ではなく多角形になってしまう。何度も試行錯誤を繰り返す時間が続きます。
そんな時、突如松岡氏にあるアイデアが湧きました。それは2次元の平面を積み重ねることで立体を表現するという方法。仕事柄、立体を平面で考えることに慣れた建築家らしい発想です。
手書きでデザインを起こし、段ボールをカッターで切って作った第一号のマネキン。「段ボールのトルソー」の意味で「d-torso」と名付けられました。しかし当初は展示会で通常のマネキンとして使用するだけで、販売をする予定もなかったのだといいます。
しかし売る気はなくとも、人々は放っておきませんでした。3次元を横にスライスして2次元にし、それを重ねることで再び3次元を作る。そして2次元同士を繋ぐ表面の部分は、人間の想像力で補完する。そんな独特な発想は、展示会の会場でも注目を集めたのでしょう。やがて松岡氏の元に、製作の依頼が次々と舞い込み始めます。
しばらく後、松岡氏はPCで3Dデザインを起こし、レーザーカッターで加工する方法を採用しました。これにはさまざまな素材を加工できる上、金型などを必要としないため小ロットでも製作できるというメリットがありました。もちろん保管や配送のしやすさ、組み立て式段ボールマネキンというインパクトも作用したことでしょう。各界からの注目はさらに高まり、徐々に存在感を増した「d-torso(現在のFLATS)」。松岡氏は、この「d-torso」の製造、販売をする『有限会社アキ工作社』を、生まれ故郷である大分空港近くの安岐町(あきまち)に設立しました。1998年のことでした。
大分県国東市目指したのは都会の時間に縛られない、国東らしい働き方。
独創的なスタイルで世界に名を轟かせる組み立て式マネキンですが、それを手がける会社にもまた、さまざまなオリジナリティが潜んでいます。そのひとつは、やはり廃校となった小学校を拠点としていることです。
2002年頃からは海外取引も盛んになり、2004年にアトリエを新築。5年ほどそこを本社として製造をやっていましたが、だんだんと手狭になって来たときに折よく、この廃校の話が舞い込んできました。廃校を事業所に転換して再利用する、という国東市の方針によるものです。「すでにインターネットも普及していましたから、どこでも同じことはできます。ならば少しでも地元のためになるように」と松岡氏。事実この場に移ったことで地域との接点が増えたといいます。校庭ではお祭りも開催され、地域交流の拠点にもなっています。
2011年の震災も転機でした。「それまで前提としていた社会が一瞬で崩れ去りました。そこで考え方も変えることにしたのです」松岡氏はそう振り返ります。そして松岡氏はひとつの決断をします。「せっかく環境の良い場所にいるのだから、東京のシステムに合わせる必要はない。国東には国東固有の時間があるはず」と、自身の会社を週休3日制にしたのです。「4日はオン。残りの3日は地域に入って、さまざまな体験をしてほしい」松岡氏は社員たちにそう伝えました。この“国東らしい時間の使い方”が功を奏したのでしょう。勤務時間が4/5となりましたが、社の収益は3割増加。「これだけが理由とは特定できませんが」と言いながらも、確かな手応えを感じていたようです。
のどかな里山で、週休3日で運営される会社。そう聞くと、どこかのんびりした地方企業を思い起こします。世界で話題を集めるクールな作品が、ここから生み出されていることに、改めて驚かされました。
大分県国東市世界のマーケットから日本の伝統まで。終わることのない挑戦。
「しょうがないから作るか、というモチベーションの低いスタート」と松岡氏が笑う組み立て式段ボールマネキン。しかしその斬新な発想は、瞬く間に各所からの注目の的となりました。ミキモト銀座本店のマネキン、エルメスのディスプレイなどを手がけたことで、さらに知名度に拍車がかかりました。
また新たに制作したミニチュアキットではサンリオ、東宝、ムーミンなど、さまざまなキャラクターとのコラボレーションも実現。とくにビジネスパートナーの選定にシビアなことで知られるディズニーは、相手側からオファーがあったといいます。さらに同様の構造を使ったパッケージは、ワインや自動車メーカーのノベルティにも採用されました。まさに大躍進といえる活躍です。
創業20年となった2018年には、社名を国東時間株式会社に、商品名を「d-torso」から「FLATS」に一新。そしていま、松岡氏はさらなるステージに挑戦しています。それが能舞台の美術製作。薪能の舞台を飾る「老松」を、史上初めて立体造形物で表現することに挑んでいるのです。
松の複雑な形を表現する難しさだけではありません。もともと2次元である「老松」を一度3次元のデザインにしてから、それを再び2次元に。さらに組み立てて3次元にするというステップが、松岡氏の新たな挑戦なのです。あるいは海外からも高い評価を得た「FLATS」が日本の伝統芸能に立ち返るという挑戦でもあります。
「平面パーツを組み立てて3次元を表現する」という基本構造は変えず、さまざまなジャンルに果敢に挑む国東時間株式会社と松岡勇樹氏。地名を冠した社名と共に続くその活動は、いまや地域の方々の誇りとなっていることでしょう。
住所:大分県国東市安岐町富清3209-2 MAP
電話:0978-64-3002
https://kunisakitime.com/