御宿 友喜美荘・おやど あんと湯治文化が根付く長湯の地。
温泉地に長期滞在し、温泉で治療や保養、休養を行い、心身の療養を行う「湯治」。竹田市直入町にある長湯温泉でも、昔から湯治が行われてきました。雄大な山々に囲まれた自然美溢れる長湯温泉は、世界でも有数の炭酸泉が湧く温泉地。今回は長湯温泉の中でも、温浴効果が高い「湯」を持つ温泉宿と、「食」へのこだわりを持つ湯治宿、2つの宿をご紹介します。
▶詳細は、TAKETA TIMES/高原野菜に名湯、秘湯。知られざる魅力が満載の、名水の里。
御宿 友喜美荘・おやど あんと山懐に佇む安らぎの温泉宿『御宿 友喜美荘』。
まず訪れたのは長湯温泉の中心部から車で5分。静けさに包まれた長湯湖のそばに『御宿 友喜美荘』はあります。『友喜美荘』は7室だけの小さな隠れ宿。ここでは季節の野菜を中心に湧水で仕立てた創作会席が楽しめる他、自家源泉から湧く炭酸泉の露天風呂が評判を呼んでいます。
『友喜美荘』には家族風呂がひとつと、露天風呂つきの大浴場があります。日によって褐色だったり、緑がかっていたり、白く濁っていたりと、異なる表情を見せてくれる『友喜美荘』の湯。この日は緑がかった湯が迎えてくれました。
泉質は美肌泉質の代表格ともいわれる炭酸水素塩泉。自家源泉から湧く湯は高温のため、炭酸泉特有のガスが溶け出し、身体にしゅわしゅわと気泡がつくことはありませんが、炭酸泉が持つ高い効能は変わらず。内湯にも露天風呂にも湯船には湯の花がたっぷりと浮かび、温泉成分の濃さを物語っています。
宿の露天風呂は、先代の社長が手造りしたという岩風呂。こぢんまりとしているものの、屋根がない露天風呂に浸かりながら見上げれば、青く澄んだ空と豊かな緑が迎えてくれ、開放感は十分。小鳥のさえずりや風に揺れる木々の音をBGMにゆったりと浸かることができるのです。ひんやりとした空気に包まれる山あいの露天風呂でも、血液の循環が良くなる炭酸ガスの影響で浸かっているとすぐに身体の芯からポカポカと温まってきました。刺激が少なく、さらりとして柔らかい湯は、皮膚病や神経麻痺、冷え性に効果がある他、不要な角質や毛穴の汚れを取り除いてくれるためツルツル肌が手に入るといわれています。湯に入っていながらも滑らかな肌を実感できる美肌の湯は、さっぱりとした清涼感も得られ、ずっと浸かっていたくなるほどの心地よさ。更に湯冷めしにくいため、湯温が低いことで知られる長湯温泉の中でも冬にお勧めしたい温泉なのです。
御宿 友喜美荘・おやど あんと満天の星が迎える露天風呂。
爽快感のある湯に感動していると、オーナーが「この湯を楽しむのに、もっと良い時間帯がある」と教えてくれました。それが夜の露天風呂。静まり返った山懐の空には満天の星だけが輝き、美しい天体ショーが見られるのだといいます。あたりに街灯がないため、冬の時期は陽が沈むとすぐに星たちが顔を出すという『友喜美荘』。立ち寄り入浴をするなら宿泊客の夕飯時が狙い目だと聞き、18時過ぎにお風呂へと向かいました。
大浴場は、運良く貸切。内風呂を抜けて露天風呂への扉を開けると、黄金色の温泉が待っていました。夜のとばりに包まれた空間には源泉かけ流しの湯の音だけが静かに響き、湯気の向こうにはキラキラと無数の星が煌めきます。ここは日々の喧騒から離れた別世界。頰をかすめるひんやりとした外気の冷たさと湯加減の塩梅がちょうど良く、身体を優しく包む湯に身を任せていると、現れたのは夜空を切り裂く流れ星。突然のサプライズがよりいっそう、幻想的な入浴体験を高めてくれました。
鳥のさえずりや木々のざわめき。自然に抱かれた場所で癒され、心も身体もリフレッシュすることができました。昼の爽快感溢れる湯と、夜の幻想的な星空に出合える露天風呂。昼も夜も、1日中静けさに包まれた空間で癒しの湯治体験がかなう温泉宿です。
御宿 友喜美荘・おやど あんとビーガン料理のシェフが営む湯治宿。
次に紹介するのは2018年7月、直入町にオープンした『おやど あんと』。 重度のステロイド依存症皮膚炎に苦しんだ過去を持つオーナーの赤嶺貴仁氏が「同じ悩みを抱える方の救いになれば」と始めた宿は、「食」から始める健康について一緒に学べる場にもなっています。
幼少期から軽度のアトピーを発症していた赤嶺氏は、長年ステロイドの薬を使い続けたことで10年前にステロイド依存症皮膚炎を発症。その後症状は瞬く間に悪化し、一時は死を覚悟するほどに苦しんだといいます。そんな過酷な病に対し赤嶺氏は、温泉に浸かって湯治をしながら食事制限をすることで治癒。その経験が、宿を始めるきっかけになったそうです。
御宿 友喜美荘・おやど あんと病に悩んだ経験を、宿を通じて誰かのために。
「病に苦しんでいた当時は温泉つきの物件を借りて、1日5回くらい温泉に浸かっていました。それからいろんな本やインターネットでステロイド依存症皮膚炎について調べていると、乳製品や肉、魚がアトピーを悪化させるということを知って。そこからビーガン料理に興味を持つようになったんです」と赤嶺氏は話します。
8年間療養を続け、食事の大切さを実感した赤嶺氏は、ベジフードを取り入れているフレンチシェフやイタリアンシェフの下で料理を研究。フレンチやイタリアンのみならず、ラーメンやハンバーガー、カツ丼などのジャンクフードもベジフードを使って挑戦。様々なアレンジを楽しんでいると、今度は「自分と同じように、食べたいけど食べられずに苦しんでいる人に向けて料理を発信したい」と、ケータリングが中心の「vegan食堂minneola」を立ち上げました。自分のための料理から、誰かのために。赤嶺氏の料理は、「一般的なビーガン料理では味が薄く物足りない」と敬遠していた人たちからも支持を集めるようになり、各地でビーガン料理を披露するようになりました。
料理人として活動を続けているうちに、赤嶺氏の興味は自然と食材へと向かいます。
「一時は病で死ぬ思いをして。命と向き合う経験をしたからこそ、食材の命をもらうということにはすごく敏感になっていたんです。“生産者の思いが込められた食材を感謝しながら食べる”ということの大切さを多くの人に知ってもらいたいから、自分で田んぼと畑を作って。そこで子供たちと一緒に昔ながらの手植えをしたり、野菜を作ったりするようになりました」と赤嶺氏は言います。
田んぼや畑で無農薬の野菜作りや米作りをしたり、大豆を作って味噌を作ったり。食材はもちろん、調味料にいたるまで、自らの手で作るようになった赤嶺氏。そうして昔ながらの丁寧な暮らしを楽しみ始めた赤嶺氏は、「自分が送っている豊かな暮らしを伝えることで、誰かの力になれたら」と、宿という場の提供を始めたのです。
宿では宿泊をするだけでなく、ビーガン料理の作り方を教えてくれる料理教室や、野菜作りや米作りの体験も行っています。食材から自分で作ることの楽しさを知り、そしてそれを美味しく頂くことで、体内から療養を促してくれるのです。また宿泊客のオーダーによって、田植え作業から登山、料理教室にいたるまで、様々な体験を赤嶺氏がプロデュースしてくれるのもこの宿の特徴。徒歩圏内にある温泉を巡りながら、身体に優しいビーガン料理と自然を満喫できるアクティビティで癒される稀有な宿です。
住所:大分県竹田市直入町長湯7497-1 MAP
電話:0974-75-3000
御宿 友喜美荘 HP:http://www.yukimiso.com/
住所:大分県竹田市直入町大字長湯8024番地 MAP
電話:0974-70-5299
おやど あんと HP:https://910anto.localinfo.jp/?fbclid=IwAR1SmD-iAvyIWqJGJDhOS31Z4bHLp_3q6qssXKlp4Ju0XjM3RP8UPZjA6bU