カテゴリー: デザイン
【ファシリテーションの裏側】円滑なワークショップ運営のためのツールと活用事例
btraxのサンフランシスコオフィスでは、10週間のデザイン思考ワークショップを提供している。
このワークショップの参加者は、サンフランシスコに滞在する間、スタートアップになりきってサービス開発を行う。
筆者は現在、ファシリテーションアシスタントとしてワークショップに携わっており、ワークショップ運営の実態を目にする機会があった。
そこで本記事では、ワークショップを円滑に進めるためのツールと活用方法について、実際の事例とともにまとめていく。
ちなみに今回のワークショップは、オフラインとオンラインを組み合わせたハイブリッド形式で開講されている。
そのため本記事では、オンラインのみで開催するワークショップでも利用可能なツールをご紹介する。
Slack
最初にご紹介するのは、皆さんご存じのコミュニケーションツールSlackである。
Slackは、ワークショップ中のレクチャー資料共有、チーム内のコミュニケーション、健康管理などの用途で使用されている。

Slackのチャンネル一覧
ここでは、4つのチャンネルとその活用方法をご紹介する。
➀#interview
まず最初にご紹介するのはインタビュー専用のチャンネルである。
本ワークショップでは、1対1のオンラインインタビューを通して、実際の生活者の声を聞く機会を設けている。
その際、インタビュー中にのみ活用されるチャンネルを用意している。このチャンネルには、主に2つの活用方法がある。
1つ目は追加質問を共有する場としての役割だ。
チームのメンバーやファシリテーターが、さらに深掘りしたい質問をSlackに投稿する。インタビュアーやアシスタントはそれを見て、臨機応変に追加質問を尋ねていく。
2つ目に英語力のサポートのための活用方法がある。
参加者の中には、海外在住や留学経験がある方から、全く英語に自信のない方まで、様々な方がいらっしゃる。
そこでスタッフは、英語力に不安のあるチームのために、英語表現の修正やインタビューのサポートを行う。
英語表現の面では、インタビュースクリプトやピッチ資料などの翻訳作業を行ったり、より伝わりやすい言葉選びを提案したり、といったサポートをしている。
またインタビューの際には、スタッフはインタビューの様子を見ながらユーザーの発言を同時通訳してSlackに打ち込む。
参加者はその訳を見て、相槌を打ったり、次の質問を考えることができる。
事前にチームとファシリテーターで相談し、インタビュー時に使用するチャンネルとその用途を共通認識として決めておくのだ。
それにより複数のチャンネルを行き来する必要がなくなり、インタビューに集中しやすい環境をつくっている。
➁#health-check
次にご紹介するのは、「health-check」チャンネルである。
コロナ禍でも安全にワークショップを行うためには、事前のルール作り、そして関係者間での綿密なコミュニケーションが欠かせない。
私たちは、ワークショップの事前準備として、San Francisco Department of HealthやCDCを参考にoffice use protocol(オフィスの使用規則のようなもの)を作成している。
政府機関の規則には変更が多いため、毎回のワークショップで一から内容を見直す必要があるのだ。
オフィスの入口には、アルコールジェルと体温計を用意している。
ワークショップの期間、参加者は体温計で体温を測定し、毎朝Slackに報告する仕組みがある。

オフィスのアルコールジェルと体温計

#health-checkチャンネルにて、毎朝リマインドを行っている様子
➂#things_you_learned
3つめは、一日の学びや疑問を共有するチャンネル「things_you_learned」だ。
参加者は、一日のワークの終わりに[Fact] [Thought] [Question]の3項目を投稿する。
それを翌朝のチェックインで発表してもらい、各々の悩みや質問を全体で考える機会をつくっている。
これには参加者一人ひとりが一日の学びを振り返るだけでなく、互いの学びや感想を見ることで相互作用を生む狙いもある。

毎日の課題 レクチャー資料より
④btrax_internal
次にご紹介するのは、スタッフ用の「btrax_internal」チャンネル。
ファシリテーションとは、やるべきことや手順が教科書のようにはっきりと決まっているものではない。
参加者一人一人の様子や、チームの雰囲気、議論の流れを見て、その場の状況に合わせた対応が必要となる。
そのため、ファシリテーターは、臨機応変な対応ができるよう、常に意識している。
柔軟な対応を可能にするには、ファシリテーター同士の綿密なコミュニケーションが不可欠だ。
このチャンネルはそのようなコミュニケーションの場として活用されている。
これらは、より実りあるワークショップを参加者に提供するべく行われている工夫なのだ。
FigJam
次にご紹介するのはFigJamだ。こちらもデザイン業界では良く知られている、コラボレーション型デザインツールである。
ワークショップ初日には「How to use FigJam」という時間が設けられている。
この時間では、参加者に自己紹介シートを作成するという課題を与え、実際に手を動かしながら使い方を覚えてもらう。

FigJamを使用して自己紹介シートを完成させる
FigJamは、毎日のチェックイン・チェックアウトの他、宿題の提出やチームごとのオンラインホワイトボードとしての役割を担っている。それぞれ詳細に見ていこう。
➀チェックイン・チェックアウト
btraxでは、チェックイン、チェックアウトという時間を設けている。
これは、参加者が1日の始まりと終わりに集まり、自身の気分を共有する場だ。
この時間を取ることによって、参加者は「参加者としての気持ちの準備」をしたり、1日を振り返ったりする機会を得られるのだ。
対面のワークショップでは、気持ちの書かれた画用紙に人形やシールを置き、メンバーに共有する。
一方、オンラインでチェックインを行う際には、対面で行う際と変わらない環境を提供するため、シートをFigJam上に用意する。

それぞれの好きなスタンプやイラストにより、個性溢れるシートが完成する
➁宿題の提出・共有
続いての活用方法は、宿題の提出と共有である。
ワークショップを通しての目標や、フィールドワークでの発見など、参加者に宿題を出すことがしばしばある。
宿題には、シートや文章を穴埋めするスタイルのものが多い。
参加者はFigJam上のシートに自らの答えを書き込み、全体で発表する。

ホームワークシートの一例
またこれらに加え、ワークショップ運営に欠かせない機能が2つある。
まずはFigJamのboardの右上から設定できる、タイマー機能である。
このタイマー機能によって、発言の持ち時間を管理したり、ブレインストーミングの時間を決めたりすることができる。
ワークショップにおいては、敢えて時間を決めて議論を前に進めてみることがある。この機能は、そういった時にも非常に役立つのである。
さらにFigJamには、チームのコミュニケーションを促す機能が多く含まれている。
そのなかでも今回はコメント機能とGoodスタンプの活用方法についてご説明する。
Goodスタンプは、チーム内での投票や、互いのアイディアに軽いリアクションをするときに非常に便利な機能である。
またファシリテーターが、議論の流れを止めずに助言をしたいときには、しばしばコメント機能が使われている。
この機能によって、会話を途切れさせることなく、それでいてメンバーの目に自然に入る場所に、文字を残しておくことができるのだ。
口頭の発言だと、直接細かなニュアンスが伝えられる代わりに、どうしても話の流れを止めてしまうことがある。
コメント機能は、それを補う形で活用できるアイテムでもあるのだ。
こういった活用方法によってbtraxでは、ワークショップの開催形態に囚われず、クオリティを維持することができている。
btraxオフィス
最後にご紹介するのはズバリ、btraxのサンフランシスコオフィスである。
オフィスに常備されている備品はザっと以下のようなものだ。
消毒ジェル、スプレー、スナック、コーヒー、クッション、付箋、ペン、イーゼルパッド、ホワイトボード、アイディアペイント、マーカー
これらは、オフィスの利用者たちにクリエイティブな思考を促すアイテムたちである。
ワークショップの参加者はこういったアイテムを自由に使って議論を進めることができる。
これらの備品や食べ物の補充も、ファシリテーターの重要な仕事の1つだ。

ワークショップ開講中に常備される食べ物

白熱する議論の様子
またオフィスにはいくつかの部屋があるが、それぞれの部屋が個性を持っていて、雰囲気も異なる。
そのため議論に詰まった際には、気分転換のための部屋移動をファシリテーターから提案することもある。
さらにワークショップの期間には、オフィスで毎朝30分のヨガ教室が開講される。
一日の始まりに心と身体を整え、気持ちよくワークに入ることができる。

毎朝オフィスで行われるヨガ教室の様子
このようにbtraxでは、オフィスそのものの環境づくりにもこだわっている。
おわりに
ここまで、ワークショップで使用されているツールとその活用事例をご紹介したが、いかがだっただろうか。
「デザイン思考」や「ワークショップ」と聞くと、捉えどころがなく抽象的な印象を受ける方は少なくないだろう。
本記事では、そんな実態の見えにくいワークショップの「知られざる一面」をお見せした。
btraxは、10週間のプログラムのみならず、新サービスの開発や、デザイン思考研修にてワークショッププログラムを設計し、提供している。
サービスにご興味がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
ワークショップの目的・心得やファシリテーションのコツについては、以下の記事も併せてご覧いただくと、より理解が深まるだろう。
- ワークショップはオンラインでも上手くいく?押さえておきたいポイント5つ
- ファシリテーションとは?議論を前進させる基本のメソッド
- Ideas for Ideas – アイディアのためのアイディア Design Sprintのファシリテーターとしての学び
Written by: Miyu Okubo
デザイナーが陥りがちな5つの認知バイアスとよくある失敗例
大学院に進学してイノベーションの研究をしたおかげで、気づけたことがある。
その一つが、バイアスを理解することの重要性だ。
私はUI/UXデザインの仕事を一度離れてイノベーションの研究をするまで、自分が効率化を求めて無駄を排除するような、「柔軟性に欠けた人物」であることに気がつかなかった。
というのも、仕事をしている間に無意識に周りに影響され、先入観(バイアス)を持ってしまっていたからだ。
もちろん、仕事の効率化を求めることは大切だが、創造力が求められる現場だと、このバイアスが邪魔になることも多い。
例えば、新しいコンセプト提案を依頼されたときに、その仕事に慣れている人が効率を重視した方法で行うと、斬新なアイディアが出にくくなる傾向がある。
実際にKim & Ryuの研究によると、経験を積んだデザイナーは、そうでない人と比較して問題のカテゴライズに慣れているため、最初に定義した問題に執着する傾向があることが示唆されている。
このように、仕事への慣れにより、無意識に創造力を下げるバイアスに陥ることがある。
そのため、この記事では創造力を高めたいデザイナー向けに、デザイナーの仕事に慣れることにより無意識にかかりうる5つの認知バイアスと、それらの認知バイアスにかかってしまった際に起こりうる失敗例をピックアップしてご紹介する。
1. ダニング・クルーガー効果 (dunning kruger effect)
ダニング・クルーガー効果とは、初心者が少し仕事に慣れて自信がつき、「優越の錯覚」をした時に起こりやすいもので、正しく自己評価できずに、自身を過大評価してしまうことである。
逆に専門家は同じくらいの自信を持っていても、適切な判断ができるのでダニング・クルーガー効果は起こりづらい。
ダニング・クルーガー効果では下記のような曲線図が広く取り上げられている。縦軸が自信の度合い、横軸が知識や経験を表している。
初心者の段階では、知識や経験が増加するにつれて大きく自信が付き始め、「優越の錯覚」にたどり着く。「優越の錯覚」では完全に物事を理解したつもりになり、自分の行動に対して肯定的になる。
しかし、その山を越えてより知識をつけていく過程で、自分の知識と経験はまだまだ不足していることに気づき、自信を失って、「絶望の谷」に陥る。
そしてそれらをさらに乗り越えることで「継続の台地」に至る。この段階は、更なる学びと経験を繰り返しながら、謙虚さと自信の両方を合わせ持っている状態だ。
自分の苦手なこと、得意なこと、知らないこと、知っていることをそれぞれ理解しており、適切な自己評価ができる状態とも言える。錯覚ではない本当の自信がついてくる時と言われている。
ここで重要な点は何に対して初心者であるかだ。
例えば、クライアントワークで今まで経験しなかった領域のプロダクトに携わるとき、クライアントワークという点では専門家であるが、その領域に関しては初心者の状態になる。
そのため、このバイアスは経験豊かな人でもかかり得る可能性が大いにある。
よくある失敗例:
- コンセプト立案の際に、既存のやり方に固執したことが原因で、新しい視点を持てなくなり、結果的に斬新な提案ができなくなってしまう。
- UIデザインの際に他領域の方の声を聞かずに自分の正しいと思った方向に一直線で進んでしまい、偏った考えでデザインの制作をしてしまう。

ダニング・クルーガー曲線の図解。
2. デザイン固着 (design fixation)
デザイン固着とは、既存のデザインの特徴に過度に依存してしまい、デザイナーの創造的なアウトプットが制限される状況である。
例えば、仕事に慣れたデザイナーは短時間で高いアウトプットを出すために、一つの要素にこだわる傾向がある。
そして結果的に、幅広いデザインスタイルの検討ができなくなり同じようなビジュアルが生まれてしまう可能性がある。
よくある失敗例:
- デザイン制作の際に最初のデザインにこだわって幅広い案を検討することができなくなってしまう。
- デザインプロセスを進める際に最初に出たアイディアに固執して、方向性を大幅に修正することができなくなる。

デザイン固着の図解。一つの要素にこだわると、全く新しいアイディアは生まれにくく、アイディアの幅が狭くなる傾向にある。
3. サンクコストバイアス (sunk cost effect)
サンクコストバイアスとは「もったいない」という感情に縛られて、合理的な判断ができなくなることである。
例えば、仕事に慣れたデザイナーがデザインスプリントを行う際に、時間対効果的に「もったいない」無駄なことを避けて、いつも通りのやり方を選ぶ傾向がある。
これにより、失敗はしないが、革新性のあるアイディアもまた生まれにくい。
よくある失敗例:
- 新しいコンセプト提案をする際に、自身の専門知識を元にした方法に固執し、新しい視点が持てなくなり、結果的に斬新な提案ができなくなってしまう。
- 新しい機能についてアイディアを発散する際に、時間対効果を高くするために既存のアイディアの発散のやり方で進めてしまった結果、斬新性の低いアイディアになる。
- UIデザインを制作してフィードバックをもらった際に、既存の素材を捨てるのがもったいないと思い、大幅にデザインを変更することが難しくなる。

サンクコストバイアスの図解。時間対効果を高めることを重要視しすぎて、アイディアの斬新性が失われてしまう可能性がある。
4. 認知的定着 (cognitive entrenchment)
認知的定着とは、ある分野の知識が豊富なために、その知見に固執してしまい、新鮮な視点で物事を見ることがしにくくなってしまうことだ。
例えば、医療分野の経験が豊富なデザイナーが医療に関する新しいサービス案を考えるように指示された時、彼らは経験の浅いデザイナーよりも創造性が低い提案が多い傾向がある。
というのも、疑うべき前提を当然のことのように考えてしまい、革新的なものが生まれにくいからだ。
よくある失敗例:
- 新しいコンセプト提案をする際に、自分が専門にしていた知識からの引用のようなアイディアが多くなってしまう。
- ランディングページを制作する際に、専門用語を無意識のうちに多用してしまう。

認知的定着の図解。自らの知見に固執してしまうことで視野の狭いアウトプットになってしまう。
5. 同調バイアス (conformity bias)
同調バイアスとは、他者がどう行動するかを参考にして同じ行動をとることだ。
例えば、企業で働くデザイナーはその企業のカルチャーやデザインプロセスに染まり、新しい考え方を持つのが難しくなる傾向がある。結果的に、既存概念を破壊するアイディアを創出しにくくなる。
よくある失敗例:
- 知らず知らずのうちに所属組織のカルチャーやアウトプットの方法が染み付き、行うべき議論を疎かにしてしまう。
- 上司のやり方を真似するうちにそのやり方が染みつき、自分のオリジナリティのある考えが減ってしまう。

同調バイアスの図解。企業に属することで、所属組織の方法が染み付き、新たな視点で物事を見たり考えたりすることが難しくなってしまう。
まとめ
チェスの研究では、「プロプレイヤーは既に知っている情報への認知バイアスを防ぐことができないが、一流プレイヤーはできる」と述べられている。
デザイナーの場合もスペシャリストを目指すには、認知バイアスを理解して自分のフレームを知ることが重要になってくると思われる。
そのため自分も、引き続き認知バイアスを学び続けて、デザイナーとしてスペシャリストになれるよう努力したい。
もっと認知バイアスについて学びたくなったら:
参考:
Kim & Ryu
A design thinking rationality framework: framing and solving design problems in early concept generation
(https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/07370024.2014.896706)
Chess Players
Inflexibility of experts—Reality or myth? Quantifying the Einstellung effect in chess masters
(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0010028507000102)
Written by: Ryusei Anzai
b-side of btrax #4 デザインの力で日米のクライアントさまをサポートする、btraxのマネージャーの素顔とは
btraxで働くメンバーをご紹介する「b-side of btrax」シリーズ。
第4弾となる今回紹介するチームは、btrax Japanにてゼネラルマネージャー、シニアアドバイザーを務めている2名です。
btrax Japanの会社全般のマネジメント、クライアントさまや外部の方との関係構築、プロジェクトの進行管理、法務、経理など、その業務は多岐にわたります。
今回はお2人のバックグラウンドから、btraxへの入社理由、今後btraxでやっていきたいことまで、幅広くお届けします。
btraxではどんな人が働いているの?と気になっている方、ぜひ最後までお付き合いください!
Mitsutaka Kaneko / General Manager
バックグラウンドを教えてください
大学は国際政治経済学部で、インターナショナルビジネスを専攻していました。
学生時代の4年間はAIESECという国際的な学生非営利団体で活動したり、アメリカのカーネギーメロン大学に1ヶ月短期留学した経験も相まって、大学時代から国際的な仕事をしたいと考えていました。

AIESECの国際会議で各国の代表メンバーと
社会人になって1社目はインターナショナルに活躍でき、かつ学んできた経営学を活かせると考え、外資系コンサルティング会社に就職しました。
当時はeコマースの先駆けの時代で、インターネットを活用した新しいサービスの立ち上げに関わるプロジェクトを多く経験しました。
2社目では、中国人の社長が設立したITベンチャーに入社し、中国の子会社に赴任したり、社長室長として社長の元で経営を肌で体感し、新規事業の立ち上げや子会社の社長なども経験してきました。
なぜbtraxに入社したのですか?
サンフランシスコ、スタートアップ文化、デザインに共感したからです。
2社目の企業に在籍中に大前研一氏が主催するBond-BBT MBAプログラムに参加し、その勉強の中でバージニア大学のSaras Sarasvathy教授が提唱するEffectuation(エフェクチュエーション)という考え方を知りました。
そして、スタートアップやイノベーションに興味があることに気がつき、MBAの仲間と一緒に1週間かけてシリコンバレーのスタートアップを訪問する企画を実施しました。
その企画の中で、実際に訪問した企業の1社がbtraxで、それがbtraxとの出会いでした。

シリコンバレー訪問中に参加した当時btraxが主催していたSF Japan Nightファイナルの様子
その後、当時のbtraxにはAccount Managerのポジションが必要だったことから、FounderでありCEOのBrandonから声をかけてもらい、入社を決めました。
btraxでは具体的にどのような仕事をしていますか?
入社して最初のミッションは当時サービスを開始していたSFイノベーションプログラムを日本の大企業のニーズに合わせてリニューアルし、より価値のあるメニューにしていくことでした。
そのためには現場に入って実際にプログラム運営にも関わる必要があると考え、最初しばらくはサンフランシスコに滞在してプログラムのファシリテーションも行っていました。
その後、セールス中心のAccount Managerではなく、よりクライアントが価値を提供できるように提案し一緒にその価値作りをサポートしていく役割が必要と考え、現在のBusiness Producer制度を提案し、自らBusiness Producerとして活動してきました。
現在はbtrax JapanのGeneral Managerを務めており、btraxの東京側に関わるマネジメント全般を担当しています。
btraxでの働きがいを教えてください
メンバーの海外に対する挑戦を後押しできる環境があるところです。
日本にいてもグローバルに活躍できる会社であると思いますが、社員が海外での仕事などに挑戦したいと考えた時に、挑戦を後押しできる会社でありたいと思っています。
今後btraxでやっていきたいことはなんですか?
btrax全体のことを考えて動くことをより追求していきたいです。
btraxは以前と比べてメンバーも増え、会社として実現できることが多くなってきており、ようやく昔描いていた会社像やビジョンを体現できるようになっていると感じます。
今後は日本側のマネジメントだけでなく、日米のオフィスの連携をより強固にしながら会社全体のマネジメントの強化に繋げていきたいと考えています。
今新たに挑戦していることはなんですか?
現在、経営の傍ら、スタンフォードのビジネススクールが提供するLEADプログラムに参加して、世界中の経営者や管理職の方々と学んでいます。
経営やデザインなどの知見を拡げることはもちろんですが、シリコンバレーをはじめとする世界中の方々との人脈も広げていきたいと考えています。
Hidemaru Sato / Senior Advisor
バックグラウンドを教えてください
大阪生まれです。高校までは大阪で過ごし、大学生になって東京へ出てきました。
大学では、理工学部で自動制御工学を専攻していました。特に熱伝導の制御についての卒論でしたが、今となってはどうしてこんな堅い勉強をしていたのか疑問です。
そのまま大学院へ進もうと思ったのですが、勉強するならグローバルだ!と思い、アメリカの大学院へ進みました。
大学院での2年間は人生で最も勉強した時期でした。

大学院生時代の友人と
その甲斐もあって無事に修士課程を修了して、東京へ戻りました。大学院ではコンピュータサイエンスの科目も取っていて、プログラミングに興味を持ったのもこの時期でした。
東京では外資系の大手コンピュータ企業に就職し、当時最先端であったコンピュータグラフィックスのソフトウエアの開発、様々なCG映像の作成に携わりました。
日経から「プレゼングラフのすべて」という書籍を出版したのもこの頃です。
9年間ほどCGのシステムエンジニアとして過ごしていましたが、海外で仕事がしてみたいということもあり、ロサンゼルスに渡りました。
現地では日本企業の駐在員として、家族帯同で10年ほど過ごしました。
その後、米国企業の日本進出ブームもあり東京へ戻って、米国企業の日本法人の立ち上げを数社ほど行いました。

日本支社の立ち上げをおこなった企業のメンバーと
アメリカ法人で働く中で、日米両方の文化と共に、黎明期の最先端のIT技術を体得し、それらの知見を活かして経営に携わっていました。
なぜbtraxへ入社したのですか?
オンライントラベルの大手Expediaの日本法人の立ち上げに奮闘していたときに、当時サンフランシスコで新進気鋭のデザイン会社であったbtrax, Inc.のCEO、Brandonと知り合ったことがきっかけです。
Expediaの日本語ウェブサイトの立ち上げおよびローカライゼーションで苦労していた時に、btraxに依頼しました。
その後、Brandonが日本法人を立ち上げた時に、btraxの一員として加わりました。
Brandonが日本とアメリカの企業文化を理解していることが魅力に感じましたし、Expediaの案件での仕事ぶりに感動したからです。
2015年のことですので、すでに7年が経過しました。日本法人の社員としては3人目でした。
btraxでの働きがいを教えてください
魅力的でかつ個性的なメンバーに囲まれて仕事ができることが働きがいになっています。
自分はSenior Advisorという立場で、経営全般のサポートをしています。
様々なプロジェクトでメンバーとしてサポートすることもありますが、大きな役割はExternal Relationです。
つまり、btraxの業務を助けてくれる様々な外部の方々、スタートアップ界隈のメンバー、投資家や業界の専門家などとのネットワークを業務に生かせるようにサポートしています。
また、日本法人の経理や総務、法務といったロジスティックスの部分でも出来る限りのサポートをしています。
働きがいと聞かれても一言では難しいですが、強いて言えば、自分の主義主張、アントレプレナーシップを持っている、魅力的で個性的な若い社員の皆さんと一緒に仕事ができることだと思います。

btraxのメンバーと、サンフランシスコにて
今後btraxでやっていきたいことはなんですか?
Senior Advisorとして、これまで以上に様々な案件でメンバーの相談相手になることと、より素敵で楽しく仕事ができる会社にすることです。
コロナ禍でここ2年間ほどは、在宅勤務が通常になったので、オンラインの良いところ悪いところが明確にわかってきました。
コロナ禍もずいぶんと安定してきた昨今ですので、メンバー各自が業務を遂行する上で最も適切なハイブリッドな職場環境を実現していきたいと思っています。
今興味、関心のあることはなんですか?
学生さんを含めて、日本中にいる起業家候補生の皆さんに、グローバルに通用するアントレプレナーシップをbtraxから発信していくことです。
btraxでは過去6年間にわたって、福岡市主催の起業家育成プログラムの企画・運営に携わってきました。
その経験から多くのアントレプレナーシップを持った方々とのネットワークを持っています。
そのような方々から相談を受けることも多く、楽しく仕事をしています。
「起業や、会社の中の新たな部署での挑戦をするのならまずはbtraxに相談してみよう」と、多くの方々が思うような会社にすることに大きな関心があります。
おわりに
今回はbtrax Japanでゼネラルマネージャー、シニアアドバイザーを務めるお2人をご紹介しました!
btraxのメンバーのことを少しでも知っていただけたでしょうか?
今後もbtraxは、日米双方のクライアントさまに対して、デザインの力で国を超えた橋渡しをし、新たなビジネスを生み出すお手伝いをさせていただきます。
btraxについて、より詳しく知りたい方は、弊社のサービス情報がまとまったサービスサイトをご覧ください。
次回はbtraxで、デザインリサーチャーとして活躍するお二人をご紹介します!どうぞお楽しみに!
b-side of btrax #4 デザインの力で日米のクライアントさまをサポートする、btraxのマネージャーの素顔とは
btraxで働くメンバーをご紹介する「b-side of btrax」シリーズ。
第4弾となる今回紹介するチームは、btrax Japanにてゼネラルマネージャー、シニアアドバイザーを務めている2名です。
btrax Japanの会社全般のマネジメント、クライアントさまや外部の方との関係構築、プロジェクトの進行管理、法務、経理など、その業務は多岐にわたります。
今回はお2人のバックグラウンドから、btraxへの入社理由、今後btraxでやっていきたいことまで、幅広くお届けします。
btraxではどんな人が働いているの?と気になっている方、ぜひ最後までお付き合いください!
Mitsutaka Kaneko / General Manager
バックグラウンドを教えてください
大学は国際政治経済学部で、インターナショナルビジネスを専攻していました。
学生時代の4年間はAIESECという国際的な学生非営利団体で活動したり、アメリカのカーネギーメロン大学に1ヶ月短期留学した経験も相まって、大学時代から国際的な仕事をしたいと考えていました。

AIESECの国際会議で各国の代表メンバーと
社会人になって1社目はインターナショナルに活躍でき、かつ学んできた経営学を活かせると考え、外資系コンサルティング会社に就職しました。
当時はeコマースの先駆けの時代で、インターネットを活用した新しいサービスの立ち上げに関わるプロジェクトを多く経験しました。
2社目では、中国人の社長が設立したITベンチャーに入社し、中国の子会社に赴任したり、社長室長として社長の元で経営を肌で体感し、新規事業の立ち上げや子会社の社長なども経験してきました。
なぜbtraxに入社したのですか?
サンフランシスコ、スタートアップ文化、デザインに共感したからです。
2社目の企業に在籍中に大前研一氏が主催するBond-BBT MBAプログラムに参加し、その勉強の中でバージニア大学のSaras Sarasvathy教授が提唱するEffectuation(エフェクチュエーション)という考え方を知りました。
そして、スタートアップやイノベーションに興味があることに気がつき、MBAの仲間と一緒に1週間かけてシリコンバレーのスタートアップを訪問する企画を実施しました。
その企画の中で、実際に訪問した企業の1社がbtraxで、それがbtraxとの出会いでした。

シリコンバレー訪問中に参加した当時btraxが主催していたSF Japan Nightファイナルの様子
その後、当時のbtraxにはAccount Managerのポジションが必要だったことから、FounderでありCEOのBrandonから声をかけてもらい、入社を決めました。
btraxでは具体的にどのような仕事をしていますか?
入社して最初のミッションは当時サービスを開始していたSFイノベーションプログラムを日本の大企業のニーズに合わせてリニューアルし、より価値のあるメニューにしていくことでした。
そのためには現場に入って実際にプログラム運営にも関わる必要があると考え、最初しばらくはサンフランシスコに滞在してプログラムのファシリテーションも行っていました。
その後、セールス中心のAccount Managerではなく、よりクライアントが価値を提供できるように提案し一緒にその価値作りをサポートしていく役割が必要と考え、現在のBusiness Producer制度を提案し、自らBusiness Producerとして活動してきました。
現在はbtrax JapanのGeneral Managerを務めており、btraxの東京側に関わるマネジメント全般を担当しています。
btraxでの働きがいを教えてください
メンバーの海外に対する挑戦を後押しできる環境があるところです。
日本にいてもグローバルに活躍できる会社であると思いますが、社員が海外での仕事などに挑戦したいと考えた時に、挑戦を後押しできる会社でありたいと思っています。
今後btraxでやっていきたいことはなんですか?
btrax全体のことを考えて動くことをより追求していきたいです。
btraxは以前と比べてメンバーも増え、会社として実現できることが多くなってきており、ようやく昔描いていた会社像やビジョンを体現できるようになっていると感じます。
今後は日本側のマネジメントだけでなく、日米のオフィスの連携をより強固にしながら会社全体のマネジメントの強化に繋げていきたいと考えています。
今新たに挑戦していることはなんですか?
現在、経営の傍ら、スタンフォードのビジネススクールが提供するLEADプログラムに参加して、世界中の経営者や管理職の方々と学んでいます。
経営やデザインなどの知見を拡げることはもちろんですが、シリコンバレーをはじめとする世界中の方々との人脈も広げていきたいと考えています。
Hidemaru Sato / Senior Advisor
バックグラウンドを教えてください
大阪生まれです。高校までは大阪で過ごし、大学生になって東京へ出てきました。
大学では、理工学部で自動制御工学を専攻していました。特に熱伝導の制御についての卒論でしたが、今となってはどうしてこんな堅い勉強をしていたのか疑問です。
そのまま大学院へ進もうと思ったのですが、勉強するならグローバルだ!と思い、アメリカの大学院へ進みました。
大学院での2年間は人生で最も勉強した時期でした。

大学院生時代の友人と
その甲斐もあって無事に修士課程を修了して、東京へ戻りました。大学院ではコンピュータサイエンスの科目も取っていて、プログラミングに興味を持ったのもこの時期でした。
東京では外資系の大手コンピュータ企業に就職し、当時最先端であったコンピュータグラフィックスのソフトウエアの開発、様々なCG映像の作成に携わりました。
日経から「プレゼングラフのすべて」という書籍を出版したのもこの頃です。
9年間ほどCGのシステムエンジニアとして過ごしていましたが、海外で仕事がしてみたいということもあり、ロサンゼルスに渡りました。
現地では日本企業の駐在員として、家族帯同で10年ほど過ごしました。
その後、米国企業の日本進出ブームもあり東京へ戻って、米国企業の日本法人の立ち上げを数社ほど行いました。

日本支社の立ち上げをおこなった企業のメンバーと
アメリカ法人で働く中で、日米両方の文化と共に、黎明期の最先端のIT技術を体得し、それらの知見を活かして経営に携わっていました。
なぜbtraxへ入社したのですか?
オンライントラベルの大手Expediaの日本法人の立ち上げに奮闘していたときに、当時サンフランシスコで新進気鋭のデザイン会社であったbtrax, Inc.のCEO、Brandonと知り合ったことがきっかけです。
Expediaの日本語ウェブサイトの立ち上げおよびローカライゼーションで苦労していた時に、btraxに依頼しました。
その後、Brandonが日本法人を立ち上げた時に、btraxの一員として加わりました。
Brandonが日本とアメリカの企業文化を理解していることが魅力に感じましたし、Expediaの案件での仕事ぶりに感動したからです。
2015年のことですので、すでに7年が経過しました。日本法人の社員としては3人目でした。
btraxでの働きがいを教えてください
魅力的でかつ個性的なメンバーに囲まれて仕事ができることが働きがいになっています。
自分はSenior Advisorという立場で、経営全般のサポートをしています。
様々なプロジェクトでメンバーとしてサポートすることもありますが、大きな役割はExternal Relationです。
つまり、btraxの業務を助けてくれる様々な外部の方々、スタートアップ界隈のメンバー、投資家や業界の専門家などとのネットワークを業務に生かせるようにサポートしています。
また、日本法人の経理や総務、法務といったロジスティックスの部分でも出来る限りのサポートをしています。
働きがいと聞かれても一言では難しいですが、強いて言えば、自分の主義主張、アントレプレナーシップを持っている、魅力的で個性的な若い社員の皆さんと一緒に仕事ができることだと思います。

btraxのメンバーと、サンフランシスコにて
今後btraxでやっていきたいことはなんですか?
Senior Advisorとして、これまで以上に様々な案件でメンバーの相談相手になることと、より素敵で楽しく仕事ができる会社にすることです。
コロナ禍でここ2年間ほどは、在宅勤務が通常になったので、オンラインの良いところ悪いところが明確にわかってきました。
コロナ禍もずいぶんと安定してきた昨今ですので、メンバー各自が業務を遂行する上で最も適切なハイブリッドな職場環境を実現していきたいと思っています。
今興味、関心のあることはなんですか?
学生さんを含めて、日本中にいる起業家候補生の皆さんに、グローバルに通用するアントレプレナーシップをbtraxから発信していくことです。
btraxでは過去6年間にわたって、福岡市主催の起業家育成プログラムの企画・運営に携わってきました。
その経験から多くのアントレプレナーシップを持った方々とのネットワークを持っています。
そのような方々から相談を受けることも多く、楽しく仕事をしています。
「起業や、会社の中の新たな部署での挑戦をするのならまずはbtraxに相談してみよう」と、多くの方々が思うような会社にすることに大きな関心があります。
おわりに
今回はbtrax Japanでゼネラルマネージャー、シニアアドバイザーを務めるお2人をご紹介しました!
btraxのメンバーのことを少しでも知っていただけたでしょうか?
今後もbtraxは、日米双方のクライアントさまに対して、デザインの力で国を超えた橋渡しをし、新たなビジネスを生み出すお手伝いをさせていただきます。
btraxについて、より詳しく知りたい方は、弊社のサービス情報がまとまったサービスサイトをご覧ください。
次回はbtraxで、デザインリサーチャーとして活躍するお二人をご紹介します!どうぞお楽しみに!
CXデザイン実現のための「カスタマージャーニー発想」そのコアにある3つの考え方
最近、CXという概念が浸透し、その「実装」に奔走するフェーズに入ってきている。
本記事では、そんなCXについて、基本の定義、ビジネスにおける重要性、これから企業に求められるCX実装のために持つべき観点をまとめてお伝えしたい。
CXとは?
そもそもCXとは、Customer Experienceの略であり、日本語では顧客体験と表現される。似て非なる概念として、UX (User Experience)があるが、セットで考えると理解しやすいだろう。
UXがユーザーを対象としているのに対し、CXはユーザーを含むそのサービスやプロダクトに関わる人全員を対象としている。
つまり、CXとUXは包含関係にあり、全くの別物と捉えるのではなく、UXを含むさらに広範囲を対象としているのがCXだと考えるべきだろう。
また、「UXデザイン」同様に「CXデザイン」という言葉もよく聞かれるようになっている。これは、ユーザー体験だけでなく、その前後を含む顧客体験全体をデザインする行為と考えるのがわかりやすいと思う。
関連記事: CXデザインとは?UXデザインとの違いとそれぞれの役割
ビジネスにおいてCXが重要視されている理由
では、そんなCXという概念が、なぜビジネスにおいて重要とされ始めているのか。
その何よりも強力な理由が、CXの質と売上が比例することが明らかになりつつあるからだ。つまり、より良いCXを提供している企業は、売上も高いのだ。
いくつか具体的な数字を用いてご説明しよう。
Dimension Data社による調査では、CXを改善した企業のうち84%が収益の向上を、また79%がコスト削減を実現したと報告されている。
また、顧客ロイヤリティという観点では、 同社が2つの結果を発表している。
1つは、CXを改善し向上させた企業のうち92%が、顧客ロイヤリティの向上をも実現することができたということ。
そしてもう1つは、彼らの調査対象のうち73%の消費者は、良い顧客体験は、自分たちがそのブランドに対して抱くロイヤリティに影響すると考えている、ということだ。
こうした数字を見ていくだけでも、CXが持つビジネスにおけるポジティブな影響と重要性が垣間見えてくるだろう。
CXを考える上で重要なこと
では、CXを実装し、顧客との関係性を構築するためにはどんな考え方を持つと良いのだろうか?
筆者は「カスタマージャーニー発想」が重要なマインドセットであると考えている。そして、このカスタマージャーニー発想は、顧客のサービス体験を「線」で捉えることと、本記事では定義したい。
CXをデザインすることはすなわち、UXも含めて顧客体験全体を考えることである。
UXとCXの関係性については上記の通りだが、サービス体験という名の、顧客にとっての旅の始まりから終わりまでを一貫したものとして捉えることがカスタマージャーニー発想であり、これがCXの基盤になると考えている。
あえて「線で捉える」としたのは、この手の話には、「顧客とのタッチポイント」という言葉が頻出することに関係する。
というのも「タッチポイント」という言葉には「ポイント」という表現が用いられているため、「点」の印象を持ちやすいだろう。
しかし、ここでは、複数のタッチポイントが連なることで線形を描いている、あるいは、タッチポイントを繋いでいくことで線状のカスタマージャーニーができあがるイメージを持っていただきたい。
オンラインで情報を収集をしてオフラインの店舗に買いに行く、オフラインで実際に目にしたものを後日オンラインショップで購入する。など、顧客は、無意識のうちにチャネルを縦横無尽に行き来して、最終的な購買やサービスの利用に至るもの。
したがって、カスタマージャーニーを考える側としても、「オンラインだから」「オフラインだから」とチャネルを区別して単体で捉えるのではなく、総合的な流れを考えることが重要だと考えている。
カスタマージャーニー発想を支える3つの概念
そんな「カスタマージャーニー発想」を考える時に、理解しておきたいのが、以下の3つの概念である。
- デザイン思考のマインドセット
- サービスドミナントロジックの基本原理
- デジタライゼーション
デザイン思考
まずはデザイン思考。今回はそのプロセスを解説するのではなく、あくまでもデザイン思考が持つ特徴について簡単にご説明したい。
具体的には、反復性のあるプロセスであることだ。
デザイン思考は、5つのプロセスで成り立っているが、それを遵守することだけが正ではない。実際のデザイン思考を用いた現場では、プロセスを行ったり来たりすることも少なくない。
下記の図はbtraxが考える、デザイン思考を用いたサービスデザインのプロセスを表現したものだ。
ご覧の通り、必ずしも左から右に進む矢印だけではなく、右から左への矢印、すなわち前のプロセスに戻っていくアプローチも入っている。
今いるプロセスがどこなのか、何を達成しようとしているのかを明確にしながら、その時必要なプロセスを踏むことがデザイン思考の基本と言えるだろう。
サービス・ドミナント・ロジック
2つ目のサービス・ドミナント・ロジックは、小難しいカタカナだと敬遠したくなる気持ちもわかる。しかし、内容はそこまで複雑ではない。
サービス・ドミナント・ロジックは、一般的に有形の「モノ/プロダクト」と、無形の「サービス」と考えられている両者を包括的に捉え、顧客との価値共創を目指すことと定義されている。
ここでのポイントは、顧客との価値の共創にある。
サービス・ドミナント・ロジックは、「モノとしての価値は、それが実際に使われるまでは生まれない」、別の言い方をすれば、「モノは使われて初めて価値を持つ」という考え方に立脚している。
そして、実際にモノを使ってもらう前後の過程を「サービス」として、重要視するものだ。
つまり、顧客の使用がなければ、モノが価値を持つことができないという意味で、顧客はモノおよびサービス価値の共創者であると考えられるのだ。
デジタライゼーション
最後に、デジタライゼーション。昨今言うまでもなくデジタル化が進んでいるが、これによる変化を理解することが、カスタマージャーニー発想をより骨太なものにしてくれるという意味でご紹介しておきたい。
というのも、デジタライゼーションが可能にしたこと。それは、まさにオフラインとオンラインという概念を顕在化させたことだと考えている。
つまり、デジタルおよびオンラインという概念が生まれたからこそ、それまで必然視されていたオフラインの存在やその特性がかえって際立ち、結果的にそれぞれの特徴を活かしたアプローチが取れるようになってきたということだ。
OMO(Online Merges Offline)という考え方はまさにこれに当たるものだろう。
そういう意味で、一連の顧客体験における、さまざまなチャネルを縦横無尽に行き来しながら進んでいく様子は、デジタライゼーションによって可能になっていると言っても過言ではないだろう。
また、デジタライゼーションは、サービスそのものの柔軟性も高める働きをしていると考えることもできそうだ。
その一例として、デジタルでは、欠陥によるダメージが作り切りのモノよりも小さいのではないか、という話を挙げたい。
この具体的な説明には、アプリの例がわかりやすいだろう。
アプリは、まだ一部の機能が万全でなくてもリリースされることが多い。もしくは、リリースしても不具合が見つかれば、アプリは公開したまま修正を行い、新しいバージョンをリリースするといった対応が可能だ。
もちろん致命的な失敗や、従来は考えにも及ばなかった脅威もあるため、安易に「失敗しても問題ない」とは言えない。しかし、多少の欠陥を認めながらもサービスを継続させやすいのは、デジタルに移行してこその新たな在り方ではないだろうか。
カスタマージャーニー発想の本質は、垣根を超える柔軟性
最後に、ここまで簡単に今回のテーマに寄せて定義をご紹介した「デザイン思考」「サービス・ドミナント・ロジック」「デジタライゼーション」の3つが、なぜカスタマージャーニー発想に重要なのかを明確にしていきたい。
この理由を考える際に、3つに共通するポイントに着目したい。
それは、いずれも何らかの境目を薄くする、あるいは垣根を超える柔軟性を持ったアプローチであるということだ。そしてこれこそが、カスタマージャーニー発想の醸成、さらにはCXデザインをよりよく行うため最大のポイントではないかと筆者は考えている。
デザイン思考は各プロセスの垣根を超え柔軟にプロセスを横断していく。
また、サービス・ドミナント・ロジックは、その定義が物語るように、ハードとソフト、あるいはモノとサービスの境界を融解し、1つのサービスとして価値を提供することを指す。
そしてデジタライゼーションは、オンラインとオフラインという考え方を明確にし、そして両者を活用した総合的な戦略および施策立案を可能にした。
このように三者ともユーザーや顧客を中心に据えることで、彼らに良い体験を届けるためのプロセスや手段に対し、ある意味寛容に、多くの選択肢を持った考え方であると言えそうだ。

カスタマージャーニーマップ例
柔軟なアプローチには、柔軟なチームを
最後に、上記を実現するために、組織内においては、部署間の連携がこれまで以上に必須となるだろう。もうお気づきかもしれないが、カスタマージャーニーやCXをまったくの他人事にできる部署は一つとして存在しないのである。
もちろん、それぞれのタッチポインやチャネルに対し、担当部署やメインで取り組むチームは割り当てられるだろう。
しかし、ここで重要なのは、各部署が担当する内容が「その部署だけのもの」にならないように留意する必要があるのではないかと考えている。
終わりに
CXの重要性に始まり、実際にCXをマインドセットとしてどのように捉えると良いのか、その糸口となりそうな3つの考え方とその背景にある共通点について解説をした。
UXに引き続きCXもそのベールが少しずつはがれ、実用に向けた取り組みをなされている方も多いだろう。理解を深めるために本記事が少しでも参考になれば幸いだ。
btraxでは、まさに本記事でご紹介したようなUX含めCXを総合的に捉えるアプローチを重要視し、ユーザーや市場を理解するリサーチから、ブランドデザイン、サービスデザイン、そしてそれらをユーザーにお届けするコミュニケーションデザインまで、包括的にサービスを提供させていただいている。
各フェーズにおける実際のアプローチや、過去のクライアントさまの事例は下記の会社概要PDFにてご紹介している。ご興味のある方はぜひダウンロードください。
参考記事: Why (and How) Customer Experience Drives Business Growth
ユーザーが「使い続ける」サービスの特徴と事例4選
現在弊社はクライアントワークで、とあるアプリの開発に携わっている。
ヘルスケア系のサービスに興味や関心はあるけれど、日常の習慣の中に取り込めていない人にも利用してもらえるようなサービスを作ることを目的としている。
どうしたら、ユーザーにサービスを継続してもらえるか?という課題にフォーカスして、社内アイディエーションと、クライアントも含めたワークショップ形式で、アイディア出しを行った。
その際、ヘルスケア系に限らず、さまざまなジャンルのアプリをリサーチして参考にした。
この記事では、リサーチをもとに、継続のしやすさという観点で優れていると感じたサービスをご紹介する。
日々の記録や言語学習のような、「使い続けてもらうこと」に本質があるアプリを中心にピックアップし、それぞれのアプリが実践している継続しやすいポイントをまとめてみた。
- Duolingo
- Nike Run Club
- Forest
- muute
1.Duolingo

DuolingoのアプリのUI(参照)
まず最初に紹介するのが、言語学習アプリのDuolingo。テレビCMも放送しているので、存在を知っている人も多いはず。
アメリカ発の言語学習アプリで、約40か国の言語の中から、好きな言語を学ぶことができる。
弊社メンバーが長く使い続けていると聞いたため、筆者も実際にインストールしてみた。そして、少し使い続けてみて、いいなと思った点をまとめてみた。
Good point
(1)毎回のレッスンが短いので、サクッと学べる
1レッスンあたりの問題数が少ないので、ちょっとした移動時間や待ち時間にも利用できる。
5分で終わると分かっているので、隙間時間に軽い気持ちでレッスンを受けられることがとても魅力的だと感じた。
(2)続けていくことでバッジがもらえる
レッスンを進めていくことでバッジがもらえるため、過去の積み上げが可視化されることで達成感があり、着実にコースを進められているという指標になる。
(3)続けないと、もう一度コースを受けないといけなくなってしまう
しばらくアプリを放置してしまうと、今までクリアしてきたコースをもう一度最初からやり直さなければならなくなる。
せっかくクリアしたところをもう一度最初から、というのは避けたいため、やらねば!という気持ちにさせてくれる。多少スパルタに感じるやり方も、習慣化のためには必要な要素なのかもしれない。
(4)適度にユニークな通知が来る
アプリをしばらく開かないと、スマホに通知が入るのだが、その通知がちょっとおちゃめなのだ。(通知の頻度は個人で設定可能)
Duolingoのメインキャラクターである緑の鳥のDuoくん含め、複数のキャラクターが交互に、「アプリに戻っておいで〜」と呼びかけてくれる。
2.Nike Run Club

Nike Run ClubのアプリのUI(参照)
ご存じの方やお使いの方も多いであろうNikeから出ているランニングアプリ、Nike Run Club。走行スピード、距離、ルートなどの記録全般を行ってくれるアプリだ。
記録以外の機能は極力少なくし、大事な「記録」という機能に特化していることがユーザーに長く使われる理由かもしれない。
Good point
(1)記録をシェアできる
自分のランニングの記録を他の人とシェアすることができ、お互いにスコアを見ることができる。
シェアすることで、お互いにモチベーションを高め合い、ランニングを継続しやすくする効果があると考えられる。
また、シェアできるだけでなく、コミュニティにも参加できる。
参加することで、チームで何かを達成するという楽しさが感じられるとともに、自分もより頑張りたいという気持ちにさせてくれそうだ。
(2)マイルストーンバッジやトロフィーを獲得できる
連続記録や、自己ベストを出すと、アプリがお祝いしてくれてマイルストーンやトロフィーを獲得できる。
(3)目標達成をサポートしてくれる
目標を設定し、目標達成までの達成率を可視化してくれるので、モチベーションをキープしやすい。
3.Forest

スマホを見ていない間に木が育つ、ForestのアプリのUI(参照)
Forestは、言うなればスマホ中毒を解決するためのアプリ。
どこへ行くにも何をするにもスマホが欠かせない現代だからこそ生まれたサービスだ。
仕組みはとてもシンプルで、スマホを開いていない時間に木が育つというもの。日本の有料仕事効率化アプリのランキングでは現在1位(2022年7月時点)で、世界でも157ヵ国に渡って利用されている。
Good point
(1)究極にシンプルである
1つ目の特徴はなんといっても、スマホを触っていない時間に木が育つというシンプルさ。
新しいアプリを使う際に使い方が難しい、セットアップがややこしい、などの不便さが一切ない。
(2)育てることで愛着が湧く
自分のアクションによって何かが育つことで、愛着が湧いて継続したくなる効果がある。
このアプリの場合は、「スマホを開かない」ということがアクションになる。
(3)頑張りが可視化される
自分がどれだけスマホを触らずにいられたかという今までの頑張りの軌跡が、木というアバターで可視化される。そのため、どれだけ頑張ったかがわかりやすく、モチベーションを保ちやすい。
自分がスマホを開かなかった間にこんなに木が成長した、という達成感が得られそうだ。
4. muute

muuteのアプリのUI。柔らかい印象を与える曲線と色使いが印象的。(参照)
muuteは、AIが思考と感情を分析してフィードバックをくれるジャーナリングアプリ。筆者も継続して利用していた。
ただ書くだけでなく、分析が定期的に入ることで振り返りができるのが楽しくて、継続のモチベーションに繋がった。
Good point
(1)偉人の言葉をくれる
日記を書いたあとに毎回ひとことだけ、偉人の言葉がもらえる。
前向きな気持ちになれたり、ひとつ小さな知識が増えたという満足感を得られる。
(2)毎週と毎月のインサイトまとめが届く

毎週のレポートのUI。(参照)
自分が直近でよく考えていたことや感情を、それぞれ週単位と月単位とでアプリが自動で分析して、その結果を提示してくれる。
自分の思考や感情を客観的に振り返ることができ、変化を知ることができるのは、紙の日記にはない面白い特徴だ。
(3)テーマに沿って書ける
もちろん自由に文章も書けるが、与えられたテーマをもとに日記を書くことも可能。
日記を書きたいけど毎日何を書けば良いかわからず結局放置してしまう、という継続を阻むありがちな課題を解決し、何かを書くきっかけになる。
まとめ
サービスを継続して使えるよう施されている工夫として、共通している要素として挙げられるのが、まず、軌跡が可視化されるということだ。何らかの「カタチ」で今までの自分の成長を見て振り返ることができる。
Duolingoであれば、レッスンを進めることでバッジを獲得でき、今までの努力が可視化される。
Nike Run Clubも、記録に応じてバッジやトロフィーを獲得でき、走ったときの様々なデータを振り返りながら比較ができる。
また、Forestの場合、スマホを触っていない時間が木の成長で表現され、muuteは、日々の日記を、週ごと、月ごとのインサイトで客観的に振り返ることができる。
人間何かしらで記録をしていないとすぐに忘れてしまうし、記録があれば、ここまでやってきたから次もやろう、という次へのモチベーションに繋がりやすいのだと感じた。
ある種それまでにかけた時間やお金、努力を惜しむ気持ちから来る「コンコルド効果」のようなものに近いのかもしれないが、何かを習慣化させるという場合においては、上手に活用できれば効果的な手段かもしれない。
また、記録系サービスに限らず、どれだけハードルを感じさせず、楽しく使ってもらえるかが、ユーザーにとって大事な要素だと感じた。
難しそう、複雑そうと思わせない工夫や、ちょっとした隙間時間に使えるような気軽さが、継続して利用してもらうための必要な要素である。
また、それと同時に、ポジティブになれる言葉をもらえたり、何かが育つ愛着があったりと、楽しいポイントもサービスに組み込まれていると使いたくなる人も増えるはずだ。
btraxでは、上記のような使い続けてもらえるためのサービスデザインのみならず、そのサービスデザインの基盤となるリサーチ、ブランドのビジョンを言語化をする段階からサポートさせていただいている。
btraxのサービスにご興味をお持ちの方は是非、弊社のサービスページをご覧ください
スタバのスリーブから学ぶ、アフォーダンスとシグニファイア【UXデザイン】
とある午後、サンフランシスコのスタバでラテを買った際に気づいたことがある。
カップの外側に、熱い飲み物による火傷を防止するためにつける「スリーブ」が非常に上手にデザインされていることを。
そう、スタバロゴの顔がついている茶色い帯のような物体のことだ。
それをよく観察してみたところ、UXデザインにおける「アフォーダンス」と「シグニファイア」を上手に活用し、ユーザーにとって使いやすい設計になっていた。
ということで、今回は普段の日常生活で馴染みのあるアイテムを通じて、UXデザインに関する構成要素を学んでみたいと思う。

スタバのスリーブ
UXデザインにおける「アフォーダンス」と「シグニファイア」とは?
そもそも普段聞き慣れない「アフォーダンス」と「シグニファイア」とは何か?これはデザイン用語、それもUXデザインで利用される単語だ。
専門的に深ぼるとかなり詳しい概念があると思うが、あえて簡単に説明すると:
アフォーダンスとは
プロダクトやサービスに施された視覚的・物理的な表示で、どのように利用するかを、わかりやすく感じさせるためのデザインの要素のこと。
アフォーダンスが優れていると、難しい説明をしなくてもユーザーは使いやすさを感じるし、実際にユーザーが使った際にもその役割を迷うことなく使うことができる。
例えば、角が丸い箱に「サインアップ」と書いてあればサインアップボタンだと直感的に理解できる。など。
シグニファイアとは
「このように動きますよ」というシグナルを送ってくれる設計のこと。ユーザーに適切な行動を伝えるための印や音、認識可能な指標を指す。
それによりユーザーが直感的に感じられる役割を果たす。
例えば、ボタンの上にマウスを持ってくると色が変わることで、押すと送信されるなどの何かしらのアクションが発生する。など。
(専門家の皆様、間違ってたらすみません。)

アフォーダンスとシグニファイアについて
スタバのスリーブのUXデザイン
さて、本題のスタバのスリーブにおけるUXデザイン。それもアフォーダンスとシグニファイアについての役割を分析してみよう。
皆様にも馴染みの深いスタバのカップとスリーブだと思うが、そのスリーブの内側を観察したことはあるだろうか?
よくみてみると、滑り止めのギザギザしたデザインの内側に無色透明の物体が付着している。これは実は接着剤で、高温に触れると接着剤が溶けて、スリーブがカップとくっつく仕組みになっている。
熱い飲み物を入れたカップにスリーブを装着すると、包み込まれたカップがずり落ちないように設計されているのだ。

内側に接着剤が仕込まれているスタバのスリーブ
アフォーダンス要素
スターバックスのスリーブには。アフォーダンスがしっかり定義されている。
カップにフィットし、その形状や外周はカップよりも大きく、コーヒーカップにフィットするように上と下は空洞になっている。
また、カップのロゴよりも大きめの顔が印刷されていることで、パズルのようにロゴとその外側に顔を合わせたくなる心理効果もある。
スリーブの形、色、内側のギザギザの設計、そして、この接着剤。これらの構成要素により、スリーブの役割を想像できやすいし、期待される実際の機能も担保されている。

アフォーダンス設計の上手なスタバのカップとスリーブ
シグニファイア要素
加えて、このスリーブには “ちょっとした” シグニファイア要素が隠されている。冒頭で説明した通り、シグニファイアはユーザーに “さあ、このように使ってください” とシグナルを届ける仕組み。
スタバのスリーブは、カップを通すためにスリーブを広げた際に、「カチッ」とした音が出るようになっている。これは内側の接着剤が離れた音だと思われる。
この音が、音声信号としてのシグニファイアの役割を果たしている。この音がすることで下記の信号を送ってくれている。
- スリーブが開いたので、カップを入れてください
- このスリーブには粘着性があります
- 熱くなった表面に触れると粘着性が復活します
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まとめ
こんな感じで、日常の身近にある製品でも、興味を持ってじっくりと観察してみると、どのような意図でデザインがされているかを学ぶことができる。
今回のスタバのスリーブでは、UXデザインにおけるアフォーダンスとシグニファイアに関して直感的に理解することができた。
- アフォーダンスだけではプロダクトの目的を示すことはできない
- 明示的なアフォーダンスとともに、対象物の意図や目的を定義するシニフィエが必要である
- プロダクトデザインは、「どのように見えるか(デジタル、リアルを問わず)」ではなく、「マクロとミクロの相互作用」が適切に含まれていることが重要
- 粘着性のあるスリーブは、スターバックスがカップを持つ人に対して 「飲料はやけどする 」と警告しているため、不要な訴訟を回避するのにも役立つ。少なくとも、この粘着性のあるスリーブにより、ユーザーがカップを持っている間、不快になることなくラテを楽しむことができる
- プロダクトのデザインは、そのブランドのビジョンを体現する必要がある。今回のスタバの場合はその詳細までのUXデザインを通じ、同ブランドの「一度に一人、一杯、一地域から、感動体験を届ける」というビジョンを体現していると感じる
ぜひ皆さんも、日々の生活で興味を持った商品やサービスのUXデザイン要素を研究してみると面白いかも。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
btraxのデザイナーが考えるクライアントコミュニケーションの5つのコツ
デザイナーの仕事は、実は「デザインをしていない時」こそが重要であると筆者は考えている。
というのも、もちろん成果物も重要であるが、その手前で、どんな手順を踏んでそのアウトプットまで辿り着いたかも重要であり、むしろそういった過程こそが、最終的なアウトプットのクオリティに大きく影響を与えると感じている。
特にデザイナーがクライアントワークに入った場合、成果物の完成度は、技術的なデザインのクオリティの高さだけでなく、クライアントからの期待にどれだけ応えられたか、という側面にも大きく左右されるのだ。
筆者もデザイナーとして、クライアントワークでデザイン業務をすることが多い。しかしこの記事では、クライアントワークの過程で気がついた、デザイン業務以外でデザイナーが気をつけるべき点を紹介していく。
- プロジェクトゴールの見直し
- デザインプロセスの設計と説明
- 言葉の認識確認と辞書作り
- レビュー会の適切な運営
- 社内での咀嚼の時間
1.プロジェクトゴールの見直し
クライアントへの提案時はもちろん、提案後、実際にプロジェクト化し、プロジェクトが始まる際といった早期のタイミングでもゴールの見直し、再確認は行うべきだ。
具体的には定義されている課題やゴールは適切かを確認する必要がある。
クライアントが設定してきた課題やゴールが適切かを改めて自分達で問うことで、課題の背景に興味を持つことができる。
クライアントにも確認をとりながら課題の背景を知っていくことで、クライアントから受け取った資料の文字情報や会議の会話では見えてこなかった部分が見えてくる。
場合によっては課題のリフレーミング(再定義)を行うことで、より最終的な成果物が効果的なものになると考える。
気をつけなくてはいけないのが、これはあくまでも「見直し」であり、場合によっては他の方法を提案しようというものであり、必ずしもクライアントの意見を否定したほうがいいというわけではないということだ。
デザイナーにはクライアントからの要望を冷静に見定めていく客観性が求められ、もし課題そのものが間違っていると感じるのであれば、その理由をしっかりと言語化をしクライアントに伝える必要がある。

クライアントからの要件を整理している様子
2.デザインプロセスの設計と説明
デザイナーの考えるプロセスを、デザイナーではない人にも理解してもらうことは、仕事に対する納得度と相手からの理解度を得るためにもとても重要な作業である。
大概の現場において、デザインの教科書に載っているプロセス通りに事が進むことは少ない。
ゆえにデザイナーはプロジェクトごとにプロセスの最適化が必要である。
この時、そのアレンジしたプロセスがデザイナーの独りよがりなものにならないためにも、クライアントにそのプロセスの意図をわかりやすく説明することはとても重要だ。
相手にわかりやすく伝えようとする行為は自身の提案する各プロセスがどんな意味を持つのかを自分でも改めて客観的に理解するのにも役に立つのではないかと感じている。

相手にわかりやすくデザインプロセスを伝えるためのポイント
デザインプロセスを筆者がクライアントに説明する上で、気をつけていることが3つある。
1つ目は専門的な言葉やカタカナ語など特定の業界の人が使いやすい言葉を避けること。また、使わざるを得ない場面であればその単語を説明する一言を付け加えることである。
最近はデザイン系の言葉が一般にも認知されてきてはいるが、なるべくデザインの専門用語も避けるべきだと思っている。
2つ目はスライドに図を使ったり、スライドに載っている図や文章でクライアントが理解できていない場合は、FigmaやMiro上でその場で新たに図を作成して説明する。
3つ目は、人によって解釈が違いそうな言葉を使う際には、その言葉と意味が混在されやすい別の言葉を比較し、今回使いたい言葉の意味をはっきりとさせる。
このように相手がデザインに関する知識が無い前提に丁寧に言葉遣いや説明の方法を気をつける必要があると考える。
3.言葉の認識と辞書作り
クライアントによっては、その会社ならではの専門用語や略称があったりする。
そういった言葉については、わからないときははっきりと意味を聞き、その言葉と定義をまとめたプロジェクト用の「辞書」となるものを作っておくのがおすすめだ。
そうすることで認識の齟齬を防止し、表記の揺れをなくすための対策になる。
さらに可能であれば、普段のクライアントの言葉遣いを真似ることをおすすめする。
そうすることで彼らとのコミュニケーションがスムーズになり、結果として認識の齟齬が少なくなる。
また、クライアントに自分たちがプロジェクトのことを十分に理解しているという安心感を持ってもらえるようになる。

クライアントが会話の中で使用している用語を「〜とは」の形式でまとめたもの。
ちなみにビートラックスでは、プロジェクトにおける辞書作りの一つの方法として、付箋にわからない言葉を意味を聞いたのち、付箋でまとめて一目で見直すことができるようにしている。
スプレッドシートにまとめるより見やすく、後からグルーピングもしやすく、領域ごとの言葉の整理ができるからである。
4.レビュー会の適切な運営
これはデザインをした後の話だが、クライアントとのデザインレビューとその事前準備も重要だ。
レビュー会は、クライアントが求めることと自分たちの現状の進捗の差分を話し合いながら把握できる貴重な時間である。
そのため、話し合いで議論すべきポイントが事前に絞られ、検証したいことがクライアントにも十分に理解されていることが重要である。そうすることで少ない時間でクライアントから欲しい意見を引き出すことができる。
そのためには前提として、2で紹介した【デザインプロセスの設計と説明】によってそのプロセスへの理解を常に得られていることが重要だ。
筆者は定例会議で今現在のプロセスで行っていることを資料の最初に入れておき、毎回の会議の初めに確認する時間を作っている。少しくどいと思われるくらいに丁寧に表現した方が、クライアントにとっては結果的に効果的だと実感している。

定例会議でのクライアントへの現状の共有のために、このようなスライドを作成している
しかし、そうは言ってもレビュー会では意見の発散に終始してしまう時もある。
その際には、議事録ノートに「Parking Lot (今は一旦おいておいて)」と呼ばれる欄を作ってそこにまとめておき、後から振り返れるようにすると意見が無駄にならずに済む。
ちなみに近年はリモートワークが一般的になったことによってオンラインツールを活用したレビューの実施が可能になった。
そこでビートラックスでは、デザインのUIなどのレビューは会議外で自由にFigmaなどでコメントをもらい、会議ではそのフィードバックに対する認識の確認や議論する場という、時間による棲み分けを明確にしてみた。
このようにすることで、効率が良くレビューの進行を行うことができた。
5 社内での咀嚼の時間
レビュー会後や定例会議の直後に、社内のプロジェクトメンバーでクライアントからの意見を整理し、「咀嚼」する時間も、メンバーの認識を揃えて次のアクションを明確にする上で重要だと考える。
クライアントからの意見を受け、なぜ彼らがそのような発言をしたのかをすぐにメンバー全員で考えるメリットは以下である。
- クライアントからの意見や言葉のイントネーションや意図をまだ鮮明に覚えているため、議論が効率的に行える。
- 皆で一度話し合うことで「なぜそのような修正が必要なのか」を改めて問いやすくなる。
- 話し合いの中でネクストアクションをタスクレベルまで細分化・具体化できる。
- チーム内で認識の齟齬がなくなる。
このように会議直後にメンバーみんなで話し合うことで、クライアントの求めていることは何かを常に意識しながら効率よく次へと進めるだろう。
終わりに
今回はデザインスキルとは違った観点で、デザイナーにとって重要なクライアントとのプロジェクト進行に関するポイントをまとめた。いずれも共通して重要なスキルは、コミュニケーションの丁寧さだと感じた。
特に、クライアントから大量の情報を受け取り、それを適切な形でユーザーに届けるデザイナーという仕事の特性上、クライアントのコミュニケーションの質は、最終成果物のクオリティに大きく影響すると感じている。
この記事で述べた内容は、著者が実際にクライアントとのプロジェクトを通じて感じたり、実践したことになる。
みなさんの仕事において、少しでも参考になれば幸いだ。
btraxサンフランシスコで働くデザイナーが語る、デザインにまつわる3つの日米差
弊社では、コロナになって以降オンラインでイベントを行なってきたが、先日、サンフランシスコで2年ぶりに対面イベントを実施することができた。

btraxサンフランシスコオフィスで行われたイベントの様子。
イベントのテーマは“Designing for Japan: Different Perspectives”。
1時間半のイベントでは4つのセッションをオムニバス形式で実施した。
今回はイベントの前半部分のセッションのテーマであった「デザインにまつわる日米差」の内容を3つのトピックに分けてお届けする。
アメリカから日本の会社とビジネスを行う経営者としての視点、そして、日本のクライアントと共に働くアメリカのデザイナーの視点ならではのデザインにまつわる考察をご紹介する。
- 日米のデザインの捉えられ方の違い
- 日米のクライアントとデザイン会社の関わり方の違い
- 日米のデザインのアウトプットの違い
1. 日米のデザインの捉えられ方の違い
シフトしつつあるデザインの考え方
「デザイン」とは元来、クライアントがデザイナーに依頼してデザイナーが依頼されたものの通りに作る作業のことを指していた。とても単純で明快だ。
しかしこの10年くらいで、デザインとはビジネス、テクノロジー等、あらゆる領域での「顧客の課題解決」の手段の一つとなった。
デザイナーは「依頼されたものを作る人」から「課題解決のための戦略を考える人」という、広義の言葉に変化した。
それに伴って、ユーザー視点でヒットする商品やサービスを作り出すための、「デザイン思考」と呼ばれる考え方が浸透した。
変化しきったアメリカ、発展途上の日本

デザインの捉えられ方の変遷(イベントスライドより抜粋)
日本でももちろんデザイン思考は主流の考え方になりつつある。しかし、アメリカと比べると、日本はまだまだデザインの考え方が「依頼型」で止まってしまっているケースが多い。
それにはいくつもの要因が絡み合っているのだが、今回はその理由として、2つの要因を取り上げる。
日米のビジネスのスケールの方法の違い

日米のビジネスのスケールの方法の違い(イベント資料より抜粋)
日米のデザインに対する考え方が異なる理由の1つとして、ビジネスのスケール方法が挙げられる。
一言で言うと、アメリカは優れたユーザー体験やブランドストーリーで売り込むのが主流であるのに対して、日本は営業で売り込むのが主流だ。
なぜアメリカがユーザー体験やブランドストーリーにこだわるのかというと、アメリカは国土が広すぎて、足で稼ぐ営業の難易度が日本よりも極めて高いからである。
アメリカ国内でも時差があるアメリカ。「車で4時間」は、日本人にとっては長旅に感じられるだろうが、アメリカ人にとっては日常茶飯事。
しかし、だからといって長時間の移動を伴う営業活動ができるかというと、それは現実的ではない。
では、どのようにして顧客やユーザーを集めれば良いのか?その答えが、プロダクトの使いごこち(ユーザー体験)の質、ブランドストーリー、マーケティングである。
ゆえに、営業で解決するのではなく、プロダクトを作る段階からユーザーのニーズに沿った、課題解決を目的としたデザインをし、ブランドストーリーを構築することがより重要視されるようになってきている。
これが、アメリカが日本よりも大きく「デザイン」の概念が変化を遂げている理由の一つである。
日米のデザイン会社とクライアントとの関わり方の違い

日米のデザイン会社と、クライアントの関わり方の違いを表す図(イベント資料より抜粋)
日米のデザインに対する考え方が異なる理由の2つ目として、日米のデザイン会社との関わり方が挙げられる。
アメリカのデザイン会社の場合、クライアント企業とデザイン会社はかなり密接に協業する。
上の図のように、クライアントとデザイン会社が直接やりとりをして課題解決に取り組み、プロジェクト単位でより多くの人手が必要になった時はフリーランスのデザイナーに依頼をする。
一方日本のデザイン会社の場合は、広告代理店がクライアント企業と関わりを持つ事例が多い。
ゆえに、デザイン会社はクライアントと直接ではなく、広告代理店が考えた戦略に対してデザインを制作することで形にし、クライアントの要望に応えるという構図になりがちだ。
すなわち、デザイン会社が広告代理店に「外注」されており、広告代理店に頼まれたものを「納品」している状態なのだ。
デザイナーが「依頼されたものを作る」状況そのものが変わらない限り、今のようなデザイナーが下請けをしている状況から抜け出せないのではないだろうか。
この構図を変えることが、日本でのデザイナーの地位を上げる一歩になると考える。
2. アメリカのデザイン会社の視点で見る、日米の働き方の違い
クライアントとの働き方の日米差
アメリカの企業は会議の場でネクストステップを決定する。
一方で日本のクライアントは、一度会議でこちらの提案内容を聞いたのち、社内に持ち帰って改めて内部で議論する傾向にある。
その背景として日本では、メンバー全員の意見を合意してから次に進む「合意形成」の文化が大変強い傾向にある。
下記のカルチャーマップをご覧いただいてもわかるように、「決定」の項目において日本がかなり合意を重んじていることが見て取れるだろう。

エリン・メイヤー氏が提唱した「カルチャーマップ」の日米比較(画像参照元)

世界と比較しても、日本は合意形成を重んじていることが理解できる(画像参照元)
弊社のアメリカ人デザイナーであるJonathanとJaredによると、日本ではアメリカよりも調和が重んじられており、全員が賛成したアイディアに決定することが多いと感じているようだ。
そのため、日本のクライアントにデザインを提案するときは、クライアントが社内で議論しやすいように、そして非デザイナーでもデザインの良し悪しがわかりやすいように、よりデザインの意図を詳細に説明し、なぜAが選ばれてBが選ばれなかったのかを詳細に説明するようにしているそうだ。
クライアントが社内に持ち帰った際に、会議にいなかったメンバーにデザインの意図を聞かれた時に答えられるようにするためだ。
彼らが日本のクライアントと働く際は、それゆえ、クライアントと一緒にトライアンドエラーを繰り返しながらデザインを一緒に考えていくプロセスがアメリカのクライアントに比べて多いそうだ。
このように、文化背景の違いはデザイン制作のプロセスの違いにも関係すると言えるだろう。
3. 日米のデザインのアウトプットの違い – Holistic(全体論的)な日本、Analytical(分析的)なアメリカ
2)アメリカのデザイン会社の視点で見る、日米の働き方の違いでも言及したように、日本は全てのパターンを考え尽くして答えを出すHolistic(全体論的)な傾向がある。
対してアメリカでは、多くの情報をさまざまな観点でグルーピングして、少ない情報の中で早く結論を出して前に進めるAnalytical(分析的)な傾向がある。
それは働き方だけではなく、デザインのアウトプットにも表れている。下記の図をご覧いただきたい。Mercariのサイト(左:アメリカ、右:日本)を左右に並べているものだ。

Mercariのサイト(左:アメリカ、右:日本)(イベント資料より抜粋)
見ていただくとお分かりいただけるように、色も異なれば、ロゴまでローカイライズされている。
特に言及すべきは、情報量だ。
最初に述べたように、右側の日本のサイトが情報を詳細に見せようとしていることに対して、アメリカのサイトは画像によって情報がグループ化されており、画面上にある文字情報が少なく感じられる。
Yahoo!の検索ページ(左:日本、右:アメリカ)も、日本ページは詳細に文字情報が詰め込まれているのに対して、アメリカのサイトはより画像が多く、画像一つにつき一つのニュースという見せ方で、情報がグループ化されていることがわかる。

Yahoo!の検索ページ(左:日本、右:アメリカ)(イベント資料より抜粋)
上記を見ても、ページに表示される情報量が大きく異なっている。

イベント資料より抜粋
働き方もデザインのアウトプットも全く異なる日本とアメリカ。
そのギャップを乗り越えるためには、作ったものに対して早めにフィードバックをいただき、「どうしたらより良くなるか」という視点で改善することもプロセスのうちだという。
初めから100%理想通りのものを目指そうとするのではなく、現時点でのベストなものを持って行って、クライアントと議論をしながらより理想に近づけていく、そのプロセスの中で、より良いアイディアやデザインが誕生するのだ。

ConFigでのプレゼンテーションより引用。
最後に、JonathanとJaredが共感したという画像を共有しよう。
「プロダクトは世界中どこでも一緒に見えるものを作る必要はない。展開先の国に合わせて適応したデザインに落とし込んで、その地で『使われる』ことがより大切だ。」と書かれている。
その国でプロダクトを使う人が違和感なく使えるようにすることが大切で、どの国でも見た目を揃えることやトンマナを揃えることが、世界で通用するデザインではないということだ。
文化背景の違う国のプロダクトを作成するときはまさにこのマインドセットが重要だと2人は言う。
まとめ
今回は、アメリカのデザイン会社の視点から見たデザインにまつわる日米差というテーマで、デザインの捉えられ方の違い、クライアントとの働き方の違い、デザインのアウトプットの違いという3つの「違い」を取り上げた。
btraxは日米に拠点を置くデザイン会社だからこそ、今回お伝えしたようなギャップを理解するべく、日々尽力している。
btraxではプロダクト、サービスを最適化するためのマーケットリサーチからUXデザイン、ブランド体験の言語化と設計、顧客とのコミュニケーション方法の改善まで、一期通貫して支援している。気になる方は是非、弊社のサービス内容がまとまったPDFをご覧いただきたい。
今回のイベントのアーカイブ動画はこちら。イベントの内容が気になった方は、ぜひデザイナーたちの解説を聴きながら、記事の内容を振り返ってみてください。
b-side of btrax #1 デザインの価値を世界に届けるbtraxのマーケターの素顔とは
btraxで働くメンバーをご紹介する「b-side of btrax」シリーズ。
シリーズ初回となる今回紹介するチームは、btrax Japanのマーケティングチームです。
マーケティングチームは、大きく分けるとbtrax自社内向けの業務とクライアントワークの2つの業務を担当しています。
① btrax自社内向け業務
自社のプロモーションや広報、リード獲得などを目的とした戦略立案から実行まで全般を担当。
具体的には本ブログ「Freshtrax」の記事執筆や運用、毎月2回のニュースレターの配信、日々のSNS運用、イベント運営など、幅広い業務を行っています。
② クライアントワーク
主にアメリカから日本市場に参入を目指す企業やブランドを支援するプロジェクトに入ることが多くあります。
その際は、日本市場に関する様々なリサーチをした上で、プロダクトやサービスを展開する際の戦略立案と実行のサポートをします。
また、進出先市場に合わせた、Webサイトをはじめとするコンテンツのローカライゼーションなど、現地ユーザーにより良い体験が届けられるようコミュニケーションのご支援をします。
今回はチームメンバー2人のバックグラウンドから、btraxへの入社理由、今後btraxで挑戦したいことまで、幅広くお届けします。
btraxではどんな人が働いているの?と気になっている方、ぜひ最後までお付き合いください!
Aoi Omori : Marketing Specialist
バックグラウンドを教えてください
日本で生まれ育ち、大学まで日本の教育を受けてきました。今の自分には大学時代の経験が最も大きく影響していると思います。
大学生になって初めて海外を旅し、その時からグローバル基準で物事を捉えることに刺激を受け、視野が開けた気がしました。
また、大学時代は複数の会社で、マーケティング関係のインターンとして働いていました。
Webメディアのライターや編集アシスタント、SEO関連業務のアシスタント、イベント運営などを通じ、価値を生み出し、そして届けるというマーケティングの面白さを実感してきました。

大学時代、LA旅行で初めてアメリカを訪れた際の写真(相当浮かれています)
なぜbtraxに入社したのですか?
それまでの自分の経験を振り返った際に、それを最大化できる環境だと思ったからです。
それと、デザイン思考という考え方に出会い、非常に共感をしたのも大きな理由です。
さまざまな見方はありますが、デザイン思考の「失敗を受け入れ、さらなる改善のステップにすること」、これはとても人間的かつ現実味がある考え方だと思います。
当時、過ちや逸脱が許容されないような考え方に息が詰まる思いをしていたのですが、このスタンスをとるデザイン思考に出会い、どこか救われた思いでした。
そして、どうにかしてこの“デザイン思考”とやらを活用して価値を届けられるようになりたいと思ったことも、btrax入社の大きなきっかけになりました。入社して4年目になりますが、今もこの思いは変わっていません。

入社後初の大きなミッションは『Design for Innovation 2019』の運営。 写真は当日の会場の様子。
btraxでの働きがいを教えてください
あえてひとつに絞るなら、前向きな挑戦の場であることです。
自分の今ある強みと、新たな挑戦の部分とをそれぞれ把握した上でプロジェクトに参加できたり、自ら仕事を提案して進めたりすることができます。
基本的に最初からNOと言われることはありません。
できないからやらないのではなく、困難だったとしても、どうすればできるのかを考えてフィードバックをもらう、という流れがデフォルトになっていると思います。
そういう意味で、極めてポジティブなマインドで仕事ができていると感じます。自分の頭で考えて汗をかける人にはうってつけの環境です。

San Franciscoオフィスからの眺め。この空の青さが忘れられないです。
今後btraxでやっていきたいことはなんですか?
よりデザインとマーケティングの領域を横断していくような仕事をしていきたいです。
デザイン会社であるbtraxでマーケターとして仕事をしてきて思うのは、デザインもマーケティングにも専門的な領域こそあれど、1つのサービスを生み出し、その価値を届ける際には、お互いと密接に関わってこそ成り立つものだということです。
btraxとしても改めて、リサーチからデザイン、そしてコミュニケーションまでを一貫してサポートする体制へと基盤が固まってきたタイミングでもあります。
今後はこういったプロジェクトで、クライアントさんに伴走する形でデザインやマーケティングを通じたご支援をしていきたいです。
今興味、関心のあることはなんですか?
言葉以外の方法での表現です。具体的には、アートを鑑賞したり、デザインツールを勉強したり、絵を描き始めたりしています。
マーケターとして仕事をしている以上、どうしても文字を通じた表現が多いのですが、文字ばかりを読み書きすることに対し、たまに飽きや疲れを感じる瞬間があります。笑
何かを伝える手段は文字だけではないという基本に立ち返って、純粋な気持ちで自由に勉強しています。
Ayaka Matsuda : Marketing Associate
バックグラウンドを教えてください
幼少期と小学生の頃、2回アメリカに住んでおり、また、幼稚園から18歳までずっと英会話を続けてきました。
そのため、幼少期から海外に出て見たことのない景色を見ること、その土地の人と話し、新たな視野を広げることが今もすごく好きです。
その影響か、学生時代は海外や外国語に関わる活動に参画してきました。高校時代はイギリスに短期留学し、世界中から集まった学生と共に学びました。
大学に入ってからは、カンボジアとインドネシアへの東南アジア派遣に参加したり、国際系の団体で、カナダのブリティッシュコロンビア大学の学生と2週間日本の文化体験をするプログラムの企画、運営を経験したりしました。
また英語以外の言語の習得と文化理解を目的とし、大学ではフランス文学を専攻していました。

大学1年時に参加したカンボジア渡航の様子。
なぜbtraxに入社したのですか?
一言で言えば、自分が社会に伝えたい価値とbtraxのサービスやビジョンが一致していたからです。
大学3年生からHRTechベンチャーで1年弱、カスタマーサクセス職としてインターンをしていました。
そのインターンの中でLINEの顧客管理ツールを用いてユーザーとコミュニケーションをとっていた際、どうしたらユーザーにとってより使い心地の良い導線設計になるかを常に考えていました。
それがとても面白いと感じたことが、自分のアンテナが「UXデザイン」「デザイン思考」に関わることに向いていると気が付いたきっかけです。
より実践の場で学びたいと感じ、インターンを探したことでbtraxと出会いました。
さらに、海外経験を積んできた身として、日米双方のクライアントに対しサービスを提供していることにも興味を惹かれました。半年間ほどインターンをしたのち、2022年4月よりフルタイムとして参画しています。
btraxでの働きがいを教えてください
沢山あるので箇条書きにしますが、下記が魅力であり働きがいであると感じています。
- 目標達成に向けて協力的なメンバーばかりであること
- 失敗を成功の過程の一部と捉えて前に進めること
- 職種の違うメンバー同士へのリスペクトがあること
- チームメンバー全員からフラットに意見をもらいながら企画を進められること
- 上記のAoiさんと同じですが、基本的にNOはなく、自分からやった方が良いことを見つけ、仕事を作りに行けること
- 異なる文化圏のチームと仕事をすることも多いので、自分にない視点を持っている人と接することが多く、学びが多くあること

btraxのメンバー。日米双方の拠点から、オンラインで連携しながら仕事をしています。
今後btraxでやっていきたいことはなんですか?
クライアントさんのプロジェクトでも、社内のプロジェクトでも、期待値を超える仕事をし続けることです。
btraxは小さな組織なので、自分ごととして一人一人が高いパフォーマンスを上げることが求められる環境だと感じます。
自分が担当することはもちろん、会社として埋めきれていないところを埋められるよう常に視野を広く持つようにしています。
日々自分の力が足りないと感じることも多くありますが、良い成長痛だと感じています。

btrax Japanオフィスの様子
今興味、関心のあることはなんですか?
UXデザイン、ブランディングなどはもちろんですが、暮らしの中に潜むデザインに興味があります。
具体的には、10月の試験に向けてインテリアコーディネーターの試験勉強をしているところです。
勉強をしていく中でインテリアとユーザー体験がかなり密接な関係にあることがわかり、インテリアという身近な暮らしの中に潜んでいるデザインにもアンテナを張れるようになってきました。
まとめ
今回はマーケティングチームのメンバーを紹介しました!
btraxのメンバーのことを少しでも知っていただけたでしょうか?
今後もbtraxは、日米双方のクライアントさまに対して、デザインの力で国や国を超えた橋渡しをし、新たなビジネスを生み出すお手伝いをさせていただきます。
btraxについて、より詳しく知りたい方は、弊社のサービス情報がまとまったPDF資料をご覧ください。
次回はbtraxでビジネスプロデューサーとして活躍する2名をご紹介します!どうぞお楽しみに!
Adobe Stockから学ぶ、2022年日本のビジュアルトレンド予測
2022年のAdobe Stock Creative Trends Forecastが公開された。
Adobe Stockとは、あらゆるクリエイティブプロジェクトに利用できる高品質なロイヤリティフリーの写真、ビデオ、イラスト、ベクター、3D、テンプレート数千万点を厳選して、デザイナーや企業、教育機関、官公庁向けに提供するストックフォトサービスだ。(参考)
毎年、世界と地域のクリエイティブトレンド予測(Creative Trends Forecast)を発表している。
Adobe StockのCreative Trends Forecastは、Visual Trends、Design Trends、Motion Trendsの3つのセクションに分かれている。
2022年は世界と日本のクリエイティブトレンドを対象としている。btraxは日本のCreative Trends Forecastのうち、ビジュアルトレンドの制作において協業させていただいた。
今回は第二弾として、日本のビジュアルトレンド予測について、AdobeのPrincipal of Consumer and Creative Insights、Brenda Milis にインタビューした内容をまとめてお伝えする。Brendaは現在Adobe Stockにおいて、年間のAdobe Stock Creative Trends Forecast作成、公開のイニシアチブを持ち、ビジュアルトレンドにまつわる全てをリードされている。
※第一弾、世界のクリエイティブトレンド予測はこちらからご覧ください。
Q: なぜAdobe Stockにはクリエイティブトレンドに特化した役職があるのでしょうか?
Adobe Stockの画像を使う人は、使うその時に権威性があって、新鮮と感じてもらえるような画像を求めていると思うからです。
しかし、みなさんも感じておられる通り、私たちは本当に変化の速い世界に生きていますので、ビジュアルトレンドの変化は本当に速くなっています。
そのような背景から、リアルタイムでユーザーに魅力的に感じてもらえる画像を用意するには、100%クリエイティブトレンドにコミットする専門の役職が必要になります。
私の役割は言い換えれば、人々の興味関心がどのように動いているのかを伝えることになると思います。
Q: 今年の地域別のビジュアルトレンド予測の地域として日本を選んだのはなぜですか?
日本は常に新たなモノや流行が生み出されている国で、私たちにとってもトレンドを追うことが大変重要だと思ったからです。
Adobeはグローバル企業なので、世界的なトレンド予測だけでなく地域別のトレンド予測をすることにも大変重きを置いています。
その中でも日本は優先度高くトレンドを追いたい国の一つでした。
Q: グローバルトレンドと比較して、2022年の日本のビジュアルトレンドの印象はいかがでしたか?
グローバルトレンドと比較しても、とても似た傾向があると思いました。btraxと協力して発見した、2022年の日本の2つのビジュアルトレンドを紹介します。

Credit: Adobe Stock / Nabi Tang/ Stocksy(参照)
1つ目は、家族間の関係性の変化です。英語では”Family Ties”とタイトルをつけました。
年代の垣根を超えて交流が深まっている家族関係の変化と、親と子、という関係よりもより友人のような、同年代のような関わりをする親子が増えていることが挙げられます。それが感情的な繋がりをより親密にしています。
世界的にも、人々の感情的なつながりが重要視されていることは言うまでもありません。
日本は家族関係の変化にそれが表れていることが大変興味深いポイントですね。

Credit (左から): Adobe Stock / imagenavi, Adobe Stock(参照)
2つ目は、多様性の促進です。英語では”Open-Mindedness”とタイトルをつけました。
このトレンドには、メンタルヘルスの重要性の高まりが関係していると思います。
世界的にも同じ兆候が見られますが、多様性の尊重だったり、自己のアイデンティティを受け入れる動きだったりが加速していると感じます。
Q: バックグラウンドも違う他国のトレンドを追うことは大変難しいと思いますが、他の地域のトレンドはどのようにして追っているのですか?
まさにbtraxに協力していただいたところですね!日本のビジュアルトレンドの制作において、リサーチからレポートまで協力していただきました。
私はアメリカ人ですから、日本の画像やデザインに精通した人と協力することが必要でした。
もし私が日本語を話せたとしても、私は他の地域のトレンドを追うために自分の感覚だけを頼りにすることはないと思います。
なぜなら、日本に住んでいなければ日本の文化の一部に属していることにはならないからです。
ゆえにどの地域のトレンドを考えるにしても、その地域のデザインやクリエイティブに精通している人と協業しています。
btraxには日本という文化圏で暮らしており、かつデザインやマーケティングに知見のあるメンバーがいたので、ビジュアルトレンドのリサーチと相性が良いと感じ、今回btraxに依頼しました。
btraxのメンバーは全てのプラットフォームやチャネル、広告、ポスターなど、あらゆる種類のビジュアルをリサーチし、さまざまな業界のことを紹介してくれました。
ビジュアルに関わる全てのプロジェクトにおいて本当に重要なことです。
協業することで、効率よくリサーチを進めることができ、プロジェクトの成功を収めることができたと思っています。
Q: 2022年の日本のビジュアルトレンド全体で、特に重要なキーワードは何だと思いますか?
難しいですね。1つに決められないです。
トレンドごとにいくつかキーワードを上げるとするならば、まず多様性のトレンド”Open Mindedness”に関しては、compassion(同情)、 acceptance(受容)、diversity(多様性)identities(アイデンティティ)が挙げられると思います。
日本のAdobe Stockのグループとも協業していますが、「多様性」という言葉に含める概念の範囲が広がったと感じています。
例えば、今までも年代の多様性は言及されてきましたが、体型や性別にまつわる多様性は話題に挙がってきにくいことだったと思います。
今でも多様性=体型や性別にまつわることも含める、という考え方は完全に主流になったかと言われれば、まだ完全ではないと思いますが、少しづつ広がってきている動きですね。
日本でも「多様性」という概念に含める概念の幅は広がっていると感じています。
アイデンティティの多様性、とも言い換えられるかもしれませんね。それに加えて、ジェンダーの概念も変化していると感じています。
「女性らしさ」「男性らしさ」という文脈で語られてきたことは今では変化してきており、そもそも性別を2つのタイプに当てはめること自体が今では普通ではなくなってきていると感じます。
そして、家族の繋がり”Family Ties”に関してはintimacy(親密さ)、connection(繋がり)、closeness(親しさ)が挙げられると思います。

Credit: Monet, Adobe Stock (参照)
家族が描かれたビジュアルでは本当によく表現されることだと思います。
より心の繋がりが見えるように、顔を近づけている描写だったり、笑顔の描写だったり、肌のふれあいの描写だったりが表現されていますね。
トレンド予測は、その年になった時にトレンドが主流になっていることが大切ですが、そのトレンドが成長するかどうかまで予測する必要があります。
そして私たちはそれを、定量的、定性的なデータを分析することで可能にします。
特に、業界の異なるCMやポスターを見ることは、ビジュアルトレンドを予測する上で大切です。
例えば「多様性の尊重」というメッセージを発信しようとしたら、どの業界も同じようなビジュアルを用いて表現します。
すなわちさまざまな業界のCMやポスターに用いられているビジュアルを見て共通点があるかどうかを見ると、その国が産業や業界を超えて、どんなメッセージを消費者に伝えようとしているかが理解できます。
今回の日本の2つのトレンドもそのようにして洗い出しました。
Q: 2022年は、地域別のトレンドとして日本を挙げていました。2021年以前も毎年、グローバルトレンドと、ある特定の地域のトレンド、どちらもリサーチされていたのでしょうか?
はい、そうです。チームメンバーがあらゆる地域におり、地域ごとのトレンドも作っています。あらゆる地域のトレンド予測を取り上げるとともに、今回行った日本のトレンドに関しても引き続き追っていきます。
グローバルトレンドももちろん重要ですが、どうしても世界共通のジェネラルなトレンドなので、その地域特有のトレンドも同時に発表することに重きを置いています。
もちろん、日本に関して言えば、日本企業は世界中に顧客を持っていますから、グローバルトレンドも重要ですね。
地域ごとにも、世界中にも、見ている人たちがいますから。
どちらにも情報を提供することができるように毎年準備しています。
早く実際に各地域を訪れる経験ができるようになると良いですね。
いつかみなさんにもお会いできると良いですね!その土地を肌で感じること、人と一緒にいることは全く違う体験になりますからね。
オンラインで調べたりするのと、実際に現場に行って人と会ったりするのを比べると、実際に会ったときに自分が得られるエネルギーが全く違います。なぜこれほどまでに違うのか、私が不思議に思っていることでもあります。
オンライン上で暮らして働くことは多くの人にとって必要不可欠なことになりましたが、実際にトレンドをリサーチした国に行ったり、共に仕事をした人に直接お会いしたりすることを楽しみにしています。
まとめ
今回はAdobe Stock Creative Trends Forecastの制作の過程やリサーチの過程をお聞きした。
グローバルトレンドはまた違い、自分の文化ではない国のトレンドをどのようにしてリサーチするのか、制作秘話も伺うことができた。
今後Creative Trends Forecastを参考にしたり、Stock Photoを用いる際は、このようなたくさんのチームが関わって作成されたものだと思い出していただけたら幸いだ。
Adobe Stock Trendに関してより詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
インタビューの様子はこちらからご覧いただけます。
Adobe Stockから学ぶ、2022年日本のビジュアルトレンド予測
2022年のAdobe Stock Creative Trends Forecastが公開された。
Adobe Stockとは、あらゆるクリエイティブプロジェクトに利用できる高品質なロイヤリティフリーの写真、ビデオ、イラスト、ベクター、3D、テンプレート数千万点を厳選して、デザイナーや企業、教育機関、官公庁向けに提供するストックフォトサービスだ。(参考)
毎年、世界と地域のクリエイティブトレンド予測(Creative Trends Forecast)を発表している。
Adobe StockのCreative Trends Forecastは、Visual Trends、Design Trends、Motion Trendsの3つのセクションに分かれている。
2022年は世界と日本のクリエイティブトレンドを対象としている。btraxは日本のCreative Trends Forecastのうち、ビジュアルトレンドの制作において協業させていただいた。
今回は第二弾として、日本のビジュアルトレンド予測について、AdobeのPrincipal of Consumer and Creative Insights、Brenda Milis にインタビューした内容をまとめてお伝えする。Brendaは現在Adobe Stockにおいて、年間のAdobe Stock Creative Trends Forecast作成、公開のイニシアチブを持ち、ビジュアルトレンドにまつわる全てをリードされている。
※第一弾、世界のクリエイティブトレンド予測はこちらからご覧ください。
Q: なぜAdobe Stockにはクリエイティブトレンドに特化した役職があるのでしょうか?
Adobe Stockの画像を使う人は、使うその時に権威性があって、新鮮と感じてもらえるような画像を求めていると思うからです。
しかし、みなさんも感じておられる通り、私たちは本当に変化の速い世界に生きていますので、ビジュアルトレンドの変化は本当に速くなっています。
そのような背景から、リアルタイムでユーザーに魅力的に感じてもらえる画像を用意するには、100%クリエイティブトレンドにコミットする専門の役職が必要になります。
私の役割は言い換えれば、人々の興味関心がどのように動いているのかを伝えることになると思います。
Q: 今年の地域別のビジュアルトレンド予測の地域として日本を選んだのはなぜですか?
日本は常に新たなモノや流行が生み出されている国で、私たちにとってもトレンドを追うことが大変重要だと思ったからです。
Adobeはグローバル企業なので、世界的なトレンド予測だけでなく地域別のトレンド予測をすることにも大変重きを置いています。
その中でも日本は優先度高くトレンドを追いたい国の一つでした。
Q: グローバルトレンドと比較して、2022年の日本のビジュアルトレンドの印象はいかがでしたか?
グローバルトレンドと比較しても、とても似た傾向があると思いました。btraxと協力して発見した、2022年の日本の2つのビジュアルトレンドを紹介します。

Credit: Adobe Stock / Nabi Tang/ Stocksy(参照)
1つ目は、家族間の関係性の変化です。英語では”Family Ties”とタイトルをつけました。
年代の垣根を超えて交流が深まっている家族関係の変化と、親と子、という関係よりもより友人のような、同年代のような関わりをする親子が増えていることが挙げられます。それが感情的な繋がりをより親密にしています。
世界的にも、人々の感情的なつながりが重要視されていることは言うまでもありません。
日本は家族関係の変化にそれが表れていることが大変興味深いポイントですね。

Credit (左から): Adobe Stock / imagenavi, Adobe Stock(参照)
2つ目は、多様性の促進です。英語では”Open-Mindedness”とタイトルをつけました。
このトレンドには、メンタルヘルスの重要性の高まりが関係していると思います。
世界的にも同じ兆候が見られますが、多様性の尊重だったり、自己のアイデンティティを受け入れる動きだったりが加速していると感じます。
Q: バックグラウンドも違う他国のトレンドを追うことは大変難しいと思いますが、他の地域のトレンドはどのようにして追っているのですか?
まさにbtraxに協力していただいたところですね!日本のビジュアルトレンドの制作において、リサーチからレポートまで協力していただきました。
私はアメリカ人ですから、日本の画像やデザインに精通した人と協力することが必要でした。
もし私が日本語を話せたとしても、私は他の地域のトレンドを追うために自分の感覚だけを頼りにすることはないと思います。
なぜなら、日本に住んでいなければ日本の文化の一部に属していることにはならないからです。
ゆえにどの地域のトレンドを考えるにしても、その地域のデザインやクリエイティブに精通している人と協業しています。
btraxには日本という文化圏で暮らしており、かつデザインやマーケティングに知見のあるメンバーがいたので、ビジュアルトレンドのリサーチと相性が良いと感じ、今回btraxに依頼しました。
btraxのメンバーは全てのプラットフォームやチャネル、広告、ポスターなど、あらゆる種類のビジュアルをリサーチし、さまざまな業界のことを紹介してくれました。
ビジュアルに関わる全てのプロジェクトにおいて本当に重要なことです。
協業することで、効率よくリサーチを進めることができ、プロジェクトの成功を収めることができたと思っています。
Q: 2022年の日本のビジュアルトレンド全体で、特に重要なキーワードは何だと思いますか?
難しいですね。1つに決められないです。
トレンドごとにいくつかキーワードを上げるとするならば、まず多様性のトレンド”Open Mindedness”に関しては、compassion(同情)、 acceptance(受容)、diversity(多様性)identities(アイデンティティ)が挙げられると思います。
日本のAdobe Stockのグループとも協業していますが、「多様性」という言葉に含める概念の範囲が広がったと感じています。
例えば、今までも年代の多様性は言及されてきましたが、体型や性別にまつわる多様性は話題に挙がってきにくいことだったと思います。
今でも多様性=体型や性別にまつわることも含める、という考え方は完全に主流になったかと言われれば、まだ完全ではないと思いますが、少しづつ広がってきている動きですね。
日本でも「多様性」という概念に含める概念の幅は広がっていると感じています。
アイデンティティの多様性、とも言い換えられるかもしれませんね。それに加えて、ジェンダーの概念も変化していると感じています。
「女性らしさ」「男性らしさ」という文脈で語られてきたことは今では変化してきており、そもそも性別を2つのタイプに当てはめること自体が今では普通ではなくなってきていると感じます。
そして、家族の繋がり”Family Ties”に関してはintimacy(親密さ)、connection(繋がり)、closeness(親しさ)が挙げられると思います。

Credit: Monet, Adobe Stock (参照)
家族が描かれたビジュアルでは本当によく表現されることだと思います。
より心の繋がりが見えるように、顔を近づけている描写だったり、笑顔の描写だったり、肌のふれあいの描写だったりが表現されていますね。
トレンド予測は、その年になった時にトレンドが主流になっていることが大切ですが、そのトレンドが成長するかどうかまで予測する必要があります。
そして私たちはそれを、定量的、定性的なデータを分析することで可能にします。
特に、業界の異なるCMやポスターを見ることは、ビジュアルトレンドを予測する上で大切です。
例えば「多様性の尊重」というメッセージを発信しようとしたら、どの業界も同じようなビジュアルを用いて表現します。
すなわちさまざまな業界のCMやポスターに用いられているビジュアルを見て共通点があるかどうかを見ると、その国が産業や業界を超えて、どんなメッセージを消費者に伝えようとしているかが理解できます。
今回の日本の2つのトレンドもそのようにして洗い出しました。
Q: 2022年は、地域別のトレンドとして日本を挙げていました。2021年以前も毎年、グローバルトレンドと、ある特定の地域のトレンド、どちらもリサーチされていたのでしょうか?
はい、そうです。チームメンバーがあらゆる地域におり、地域ごとのトレンドも作っています。あらゆる地域のトレンド予測を取り上げるとともに、今回行った日本のトレンドに関しても引き続き追っていきます。
グローバルトレンドももちろん重要ですが、どうしても世界共通のジェネラルなトレンドなので、その地域特有のトレンドも同時に発表することに重きを置いています。
もちろん、日本に関して言えば、日本企業は世界中に顧客を持っていますから、グローバルトレンドも重要ですね。
地域ごとにも、世界中にも、見ている人たちがいますから。
どちらにも情報を提供することができるように毎年準備しています。
早く実際に各地域を訪れる経験ができるようになると良いですね。
いつかみなさんにもお会いできると良いですね!その土地を肌で感じること、人と一緒にいることは全く違う体験になりますからね。
オンラインで調べたりするのと、実際に現場に行って人と会ったりするのを比べると、実際に会ったときに自分が得られるエネルギーが全く違います。なぜこれほどまでに違うのか、私が不思議に思っていることでもあります。
オンライン上で暮らして働くことは多くの人にとって必要不可欠なことになりましたが、実際にトレンドをリサーチした国に行ったり、共に仕事をした人に直接お会いしたりすることを楽しみにしています。
まとめ
今回はAdobe Stock Creative Trends Forecastの制作の過程やリサーチの過程をお聞きした。
グローバルトレンドはまた違い、自分の文化ではない国のトレンドをどのようにしてリサーチするのか、制作秘話も伺うことができた。
今後Creative Trends Forecastを参考にしたり、Stock Photoを用いる際は、このようなたくさんのチームが関わって作成されたものだと思い出していただけたら幸いだ。
Adobe Stock Trendに関してより詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
インタビューの様子はこちらからご覧いただけます。
Adobe Stockから学ぶ、2022年の世界のクリエイティブトレンド予測
2022年のAdobe Stock Creative Trends Forecastが公開された。
Adobe Stockとは、あらゆるクリエイティブプロジェクトに利用できる高品質なロイヤリティフリーの写真、ビデオ、イラスト、ベクター、3D、テンプレート数千万点を厳選して、デザイナーや企業、教育機関、官公庁向けに提供するストックフォトサービスだ。(参考)
毎年、世界と地域のクリエイティブトレンド予測(Creative Trends Forecast)を発表している。
Adobe StockのCreative Trends Forecastは、Visual Trends、Design Trends、Motion Trendsの3つのセクションに分かれている。2022年は世界と日本のクリエイティブトレンドを対象としていた。
btraxは日本のCreative Trends Forecastのうち、ビジュアルトレンドの制作において協業させていただいた。
今回は世界のビジュアルトレンド予測について、AdobeのPrincipal of Consumer and Creative Insights、Brenda Milis 氏にインタビューした内容をまとめてお伝えする。
この記事を読んでからAdobe Stockを見ると、企画者の視点でビジュアルを楽しむことができ、新たな発見があるだろう。
Q: 簡単に自己紹介とご経歴をいただけますか?
Brenda Milisです。現在Adobe Stockにおいて、年間のAdobe Stock Creative Trends Forecast作成、公開のイニシアチブを取っています。
私のキャリアの始まりはフォトディレクターでした。様々な業界のディレクションを担当していました。
仕事を始めてからずっと「ビジュアル」に関わる仕事をしてきたので、日常的にフォトストックを使ってビジュアルや、アイコンの使い方などをリサーチしてきました。リサーチが私のキャリアにおいて強みであり、情熱を持てることでした。
Adobe StockのCreative Trends Forecastは、かなり影響力のあるものだと感じています。なぜなら、クリエイティブトレンドをグローバル規模で、年間を通して、あらゆる業界の広告やメッセージをもとに予測するからです。
私たちのクリエイティブトレンド予測は、将来的に主流のトレンドとなっていきます。
Q: 今では、SNSなどのオンラインでもビジュアルが見られる時代になりました。しかし一方で、ビルボードなど、オフラインの世界にももちろんビジュアルは溢れています。この変化は、現代のクリエイティブトレンドのリサーチにどのように影響していますか?
全てのプラットフォーム、場所、チャネルで、全ての人がある時は意識的に、またある時は無意識的に画像を見ています。
ビジュアルトレンドが大変重要だと思う理由として、現代のビジュアルは本当に目まぐるしく変化していることが挙げられます。
というのも、いつ何時も私たちはどこを見ても何らかの画像を目にしていて、その画像を「消費」しているからです。
人々が四六時中携帯を見るようになる前、私たちは道を歩いていたり、地下鉄の広告を見たり、店舗のウィンドーディスプレイを見たり、そのようにして画像を発見していました。
それは今も続いていることです。しかし今では家でプライベートの時間を過ごしている時も、SNSを介して画像を見ています。それに伴って、私のリサーチはかなり幅広くなりました。
なぜなら、SNSの活用によって今までの時代よりもはるかにビジュアルを目にする機会が増えたからです。
これは企業にとっても重要な変化で、ビジュアルを変えることで常にブランドを進化させ、自社が顧客に対してどのような関わり方をしたいのかを示すことが以前よりも容易になったということです。
Q: 2022年のグローバルのビジュアルトレンドを制作した印象をお聞かせください。
特に興味深く感じたことは、ここ数年のコロナウイルス感染症による厳しい状況に反して、ポジティブな雰囲気のビジュアルがトレンドになりやすいということです。
そして今年は、どの国でも同じようなビジュアルがトレンドになっていることが印象的でした。Adobeはグローバル企業ですので、トレンド予測を完成させるまでに、各国のスタッフと密に連携しながら綿密なリサーチを行います。
2022年のトレンド予測を作る際初めて地域ごとのスタッフに自分が考えたグローバルトレンド予測を発表した時に、どの国でもすぐに賛同が得られました。
パンデミックによってどの国でも行動範囲が縮小してライフスタイルが似てきているので、同じようなトレンドになりやすいからだと考えます。
Q: 今のお話より、各国のチームとどのように協業しているのかを知ることができました。毎年このStock Trendのプロジェクトを牽引されていますが、毎年どのようなプロセスとスケジュールでリサーチを行っているのでしょうか?
いつも私は前半の半年で広く浅くリサーチを実施します。そして、1年の後半に差し掛かった辺りで、範囲を広げるというよりは、今までのリサーチをもとに深掘りするようなリサーチに切り替えます。
例えば、Adobe Stockのユーザーが何を検索しているか、ファッション、美容、ビデオゲーム、メディア、エンタメ、テクノロジー…など、さまざまな領域を総合的に見て、全ての領域においてどんな画像が検索されているかをリサーチします。
私自身も日々人気のカルチャー、年代別のトレンド、アート、などリサーチをたくさんしています。
全ての領域に共通して見られる特定のビジュアルがないかどうかを求めて、他地域のチームやAdobe Creative Cloudチームにリサーチに行き、彼らの視点からのフィードバックを求めることもあります。
このように、私はAdobeの他地域のチームや、Adobe Creative Cloudチームなど、たくさんのチームと連携し、協力を仰ぎながら進めています。
そして、大体の時期については、6月の終わり頃から9月までの間で、全ての広範囲のリサーチを終わらせて、発見したことに関してAdobeの他地域のチームや、Adobe Creative Cloudチームにフィードバックをもらいに行くようにしています。
そうすることで、これらのトレンド予測はより確からしいものになっていきます。そうして、全世界に公開できるようなトレンド予測は出来上がっています。
Q: トレンドを常にリサーチされていると思いますが、一旦スイッチを切って、全ての情報をシャットアウトしようという気分になることはありませんか?例えば、森に入って何もしないでテントに籠る時間を作るとか。
私はきっと森に入っても、その中で見えたものに関して考えてしまいますね笑、アウトドアはご存じのかもしれませんが今のトレンドだから。
全ての公式なリサーチから離れようと思ったら全てのデバイスからシャットアウトして、記事を読んだり、情報を比較したりすることから離れなければいけないと思います。
でも私は個人的に、世界がビジュアル的にどのように動いているのかをリサーチしたり、パズルのピースをはめていくような作業をするのが本当に面白いと感じている人なんです。
なので、もし私がキャンプに行ったとしたら、私はきっと自然の中にいることや、外で活動することがどれほど大切かを実感すると思います、そしてやはり、どこからかトレンドを見つけ出そうとしてしまうかもしれません笑。
Q: 次の質問は、トレンド予測の正確性に関する質問です。例えば、2020年の予測は、どのくらい正確に当たっていたのでしょうか?というのも、2020年に感染症が広まり、あのような状況になるなんて誰も予測できなかったですからね。
2020年ですか、かなり前ですね!リサーチしていたのが2019年になるから、2020年は正直思い出せないのですが、コロナ期間中のトレンド予測として挙げるのであれば、2021年のトレンド予測は、本当に的を得ていたのではないかと思います。
2021年の実際の広告やブランドが発信していたメッセージは似ていました。私たちに語りかけるようなメッセージでしたね。例えば、「この状況を一緒に乗り切りましょう!」とか。
2020年に、私は2021年のトレンドを見つけ出せるか不安でしたが、いつも通りのプロセスを踏んでリサーチをしたところ本当に正確だったと記憶しています。
なので、結論としては、私たちのトレンドは時代や私たちの生活を急激に変化させるもの(例えばパンデミックなど)が現れない限り、本当に正確だと思います。
コロナという状況の中でも、人生の中にポジティブな瞬間を見つけ出すのは必要なことですね。
ええ、本当にそう感じます。2022年のトレンドのうち1つに、”Powerfully Playful”というものがあります。これは2022年の一番強力なトレンドであり、メッセージではないかと推測しています。
いろいろな物事が確実にストレスフルな方向に進んでいて、人々は楽しい想像を掻き立てられるような、美しくてポジティブなメッセージのビジュアルを求めているのではないかと思います。

Credit: Left: Adobe Stock / MiriamDraws, Right: Adobe Stock / Gerardo.(参照)
全てのモチーフのトレンドには、なぜそれが人気なのか、理由があります。この世の中を生きる私たちの心に余裕や安心をもたらすからだと考えています。
過去2年間のパンデミックの時代の中で、メンタルヘルスや感情に関係するビジュアルが重宝されるようになりました。
全ての人の状況は違いますが、私たちは皆メンタルを健康に保つことは大切だと痛感していると思います。前向きなメッセージを発するビジュアルは、それを助ける要素になっていると思います。
2022年のビジュアルトレンドの一つに”The Centered Self”というものが挙げられます。これは落ち着いて、自分を労わる時間をとることを意味します。

Credit: Adobe Stock / Hayden Williams/Stocksy. (参照)
ビジュアルは本当に大きな力を持っていて、他の人と相互にリアルタイムで交流する機会の減った現代だからこそ大きなパワーを持つようになりました。
Q: 今回のトレンドで驚いたことはありますか?
私は毎年その年のトレンドに驚いています。毎年、どうやってトレンドの予測をしようか?と思うのです。
なぜなら、明らかになっていることなんて一つもないから。しかしリサーチをし続けるうちに、トレンドは姿を表すものなんですよ。
2022年のトレンドにも驚きました。毎年、地域ごとに少しづつ違うのですが、世界的にほぼ一律に同じようなビジュアルがトレンドになっていたので驚きました。
まとめ
今回はAdobe Stockの制作の過程やリサーチの過程をお聞きした。
今後 Creative Trends Forecastを参考にしたり、Adobe Stockの素材を用いる際は、沢山の人の努力の賜物だと思い出していただけたら幸いだ。
次回は、btraxもリサーチに携わった日本版Creative Trends Forecastの作成秘話をご紹介する。
2022年の日本特有の2つのビジュアルトレンドは、グローバルトレンドと似ていたのか、違ったのか?そして、btraxがどのように関わったのか?
ぜひJapanese Trend編もお楽しみに!
2022年度のCreative Trendsに関して、より詳しく知りたい方はこちらの動画もご覧ください。
2022 Creative Trends from Adobe Stock | Adobe Creative Cloud
インタビューの様子はこちらからも視聴いただけます。インタビューの全貌が気になった方は是非ご覧ください。
日本の制作会社が世界で一番コスパが良い10の理由
ここ数年でまた日本でWebやアプリの制作会社が増えてきているように感じる。新たにデザイナーを目指す人も多く見かけるようになった。
Web制作会社が生き残りにくいアメリカ的な感覚で考えると、かなり興味深い。
アメリカの場合は、英語でやりとりする事ができればよりコストの安い国に発注したりできる。また、デザイン事態が事業のコアに近いということで、デザインチームのインハウス化を進めている状況が増えていることで、単独の制作会社として生き残るのは非常に難易度が高い。
日本の制作会社はコスパがめっちゃ良い
世界的に見ても日本の制作会社のコスパはかなり高い。かなり技術力があり、責任を持って仕事をしてくれる割に値段がリーズナブル。
おそらくその背景には以下に紹介する10のファクターが要因になっていると考えられる。
- 物価の安さ&為替
- 仕事に対しての姿勢
- 優秀な人材の多さ
- デザイナーの待遇が良くない
- おもてなしの精神
- 治安良い&インフラが安定してる
- 職人気質
- 日常におけるUXの高さ
- スタートアップ市場が熟成していない
- お客様は神様の考え方
1. 物価の安さ&為替
最近の日本は世界的に見てもかなり物価が安い。安くなったというよりは、他の国の物価が上がったのに対して、日本はここ30年ぐらいあまり変化がない。
例えば、2005年ぐらいまではサンフランシスコより東京の方が生活コストが高かったが、今はサンフランシスコの生活コストは東京の2.5倍ほどだ。
下記のビッグマック指数を見てもわかる通り、世界全体で見ても日本の物価の安さは特筆すべきものがある。そして安いのは物だけではなく、サービスも同じ。そもそも全体の給与が上がっていないのだから当然だろう。

世界各国の物価のバロメーターであるビッグマック指数: 日本は中国より低い32位 – 出典: 日刊ゲンダイDIGITAL
物価の安さに加え、近ごろは円安が進み、どうやら20年ぶりぐらいの状況になっているらしい。こうなってくると、ドル換算にすると、日本の会社の見積もりはかなりお得に感じる。
イメージ的には以前は10万円だったのが、7万円になったイメージ。そして今後もこの円安はまだまだ進む予測もされている。
2. 仕事に対しての姿勢
日本が世界に最も誇れるのがその平均的教育レベルの高さと、仕事に対しての勤勉さだろう。特に、仕事に対しては、その対価に関係なく、課された内容をしっかりと遂行する姿勢、対応のきめ細やかさは唯一無二の存在。
これがアメリカだと、単価の安い案件に対してはそれなりのサービスしか受けられないし、比較的コストが低い東南アジアなどの国々でも手抜きされることも少なくない。もちろんプロジェクトの状態にかかわらず、定時になったら家に帰ってしまう。
その点、多くの日本企業で働く人たちや、フリーランサーは仕事に対しての責任感がかなり高く、納期に間に合わせるために残業したり、週末も働いてくれたりする。また、万が一間に合わない場合があっても、事前にしっかりとお知らせしてくれるケースがほとんど。この辺は、他の国だと直前まで知らされずに “Sorry” で済まさる場合も何度かあった。
加えて、識字率の高さや義務教育の高い浸透率が理由なのか、その報酬にかかわらず、仕事に対しての取り組み方と責任感において、日本を上回る国はないと思われる。
3. 優秀な人材の多さ
求人に応募してきてくれる候補者を見て思ったのだが、日本は優秀デザイナーの人材がかなり豊富。
10年ぐらい前までは、デザイナーはかなり特殊な仕事で、広告系かグラフィックデザイナーが多かったが、最近ではWebやUI, そして少しずつではあるがUXデザイナーも増えてきている。
美大だけではなく、総合大学でもデザインのプログラムがどんどん増えてきているみたいで、即戦力になるデザイン人材が多いと思う。
4. デザイナーの待遇が良くない
日本は優秀なデザイナーが多い割に、実はその待遇は世界的に見てもかなり良くないと言わざるを得ないだろう。
それには複数の理由が考えられるが、サービスにお金を払わない文化が大きく影響しているように感じる。
これは日本特有の「納品文化」がまだまだはびこっており、数字やカタチで測ることが容易ではないデザイナーの価値がまだまだ理解されにくい土壌かもしれない。
ということは、優秀なデザイナーを擁する制作会社にお得な金額で仕事をお願いしやすい状態になりやすい。
5. おもてなしの精神
某広告代理店の企業理念ではないが「そこまでやるか!」と感じてしまうぐらいに気の利いたサービスを提供してくれるのが日本企業のすごいところ。
これは飲食店や旅館、航空会社だけにとどまらず、制作会社も他の国と比べて相当サービスが素晴らしい。こちらが頼む前に「必要だと思って事前にやっておきました」とか、デザインに対する補足資料の量も半端ない。
やはりこれは日本が世界に誇れる「おもてなし精神」のなせる技だろう。
6. 治安良い&インフラが安定してる
これは国内にいるとイマイチ気付きにくいが、世界的に見て日本は異常なぐらいに治安が良い。犯罪が少ないだけではなく、とにかく良い人が多い。
例えば、落とし物をしてもかなりの確率で戻ってくる。令和元年に落とし物として警察に届けられた現金の総額はなんと約40億円。携帯を落としても9割弱が持ち主に戻ってくる。こういう部分はとんでもなく素晴らしい国。
以前にバングラデッシュにある開発会社に発注したことがあったが、納期の直前に彼らのオフィスの近くで自爆テロがあったらしく、慌ててスタッフが全員帰ってしまった。それにより、納期に大幅な遅れが生じた。
また、電気やネットのインフラが安定しているのもかなりのアドバンテージ。というのも、嘘みたいだが、サンフランシスコ市街地ですら停電になることがある。アメリカの都心部でもそうなのだから、他の国でも電気やネットが落ちても不思議ではない。
日本の場合はその様な事態になることがかなり稀であるため、安心して仕事を頼める。
7. 職人気質
モノづくりに対するDNAがなせる技なのか、日本人の細部へのこだわりは半端ない。そして、物事に対するストイックな意識は世界的見てもトップレベル。
その素晴らしさを映画ラストサムライでトム・クルーズ演じる主人公は下記のように示している。
“彼らは目覚めた瞬間から自らを物事に没頭し、日々自身を戒めながら完璧を実現するために精進する。”
これはまさに職人気質と言えるもので、たとえそれが繰り返しの続く単純作業だったとしても、高いクオリティーのアプトプットを実現する。HTMLのコーディングなんかはかなり根気のいる作業だが、日本の制作会社は手抜きをすることなく、しっかりと結果を出してくれる。
8. 日常におけるUXの高さ
これも海外で生活しないと気づかないのだが、日本の日常生活におけるユーザー体験はかなり高い。
多機能な自動販売機から始まり、滅多に遅れない電車、わかりやすい標識、迅速で効率的なコンビニの業務、レストランでの高い顧客体験など、おそらく日本でしか体験できないほどの便利さがそこにある。
そんな高レベルの体験に日々接していると、感覚的にも研ぎ澄まされ、自分達が作り出すユーザー向けのデザインスタンダードも自ずと高くなっている。
9. スタートアップ市場が熟成していない
サンフランシスコ地域でデザイン会社を経営する最も大きな悩みの一つが、周辺にあるスタートアップの存在。というのも、この街にはTwitterやPinterest、AIrbnbやLyftなど、デザイン性の高いプロダクトを提供するスタートアップが山ほどあり、人材獲得競争が激化している。
結果的に優秀なデザイナーや制作に関わる人材がどんどんスタートアップに引き抜かれる。もちろん新規採用のハードルも高くなる。
その点日本はまだまだスタートアップが熟成していないため、人材の獲得の難易度はまだ高くないように感じられる。
結果として、制作会社だったとしても優秀なデザイナーを配することが現実的に可能になっている。
10. お客様は神様の考え方
そしてやっぱり最後はお客さまは神様の考え方。どんな金額であったとしても、お金をもらっている = お客さまである限りは、圧倒的な主従関係の概念が根強く残っている。
これは同時にクライアントの立場になればある程度のワガママも通しやすく、日本の制作会社にお願いするROIが高まる。
特に提案段階でも手厚いサポートをしてくれたり、場合によってはデザインコンセプトを提出してくれたりするあたりなんかは、正当な対価をもらってないのにかなりのサービスを受けることが可能なのである。
でも弱点もあり
これらを総合的に考えると、やはり日本の制作会社はかなりコスパが良い。他の国々の人たちには教えたくないぐらいの裏技だ。
この良さをどんどん世界に広げていけば、世界のデジタル工場になれる日も近いかもしれない。
ただやはりいくつか弱点もあるので、ついでに紹介する。
弱点1: 英語力
はい。基本中の基本。だけど重要な点として、日本国外のプロジェクトをやったことのある制作会社はあまり多くない。
海外クライアントとのやり取りはもちろん英語になるのだが、デザイナーをはじめとして、英語でのビジネスコミュニケーションができる会社はまだ少ないだろう。
弱点2: プレゼン力
英語でのコミュニケーション能力と同等かそれ以上に重要になってくるのがプレゼン力。というのも、特にアメリカの企業はデザインなぜ” を重要視するから。
言い換えると、そのデザインがどのように課題の解決につながるかをロジカルに説明することを期待する。なので、受身の姿勢では海外のクライアントから良い評価を得るのは難しくなる。
弱点3: 消費税
日本では物にもサービスにも消費税がかかるが、アメリカをはじめとして海外のいくつかの国ではサービスには消費税がかからない。
なので、それらの国々のクライアントからは+10%割高に感じられる可能性がある。この辺は今後日本の税制がどう変わっていくかによって、大きく左右される可能性がある。
弱点4: 祝日が多すぎる
日本の人たちは普段から長時間働くのだが、実は祝日の数は世界的にもかなり多い方。1年間の祝日の合計は16日でアメリカの11日と比べてもかなり多い。
それに加えてゴールデンウィークと正月休み、お盆休みを入れるとかなりの日数で日本の企業は稼働していないことになる。海外のクライアントはそれらの事情はあまり考慮してくれないので、少しやりにくいと思われてしまうかもしれない。
弱点5: 人口が減っていく
これはイーロン・マスクが「当たり前のことを言うようだが、出生率が死亡率を超えなければ、日本はいずれ消滅するだろう」とコメントした通り。
日本の総人口は11年連続減少しており、去年は死者数(114万人)が、出生数(83万1,000人)を上回り、60万9,000人の自然減となった。このトレンドが続く限り、総合的に働ける人も少なくなり、いつかは会社も国も無くなってしまう危険性がある。
日本のデザインクオリティーを世界に広げるために
こんな感じで日本のデザイン会社や制作会社のクオリティーとコスパの高さは世界最高峰である。そんな素晴らしい日本クオリティーのデザインをより世の中に広げるために、我々はアメリカと日本のチームが日々連動し、それぞれの良いとこどりの仕組みを目指している。
これから日本の企業が生き残るため、そして多くのデザイナーが活躍できるためのフィールドを開拓していきたいと思う。
ロゴデザイン作成秘話 – TOKYO CREATIVE SALON 2022 –
この春行われた「TOKYO CREATIVE SALON」というイベントにおいて、弊社btraxでは、インスタレーション展示の空間演出を含んだデザインとディレクションを行った。
その一環として、日本橋エリアのキービジュアルを制作したため、この記事ではそのキービジュアル作成の裏側についてご紹介していく。
TOKYO CREATIVE SALONとは?
TOKYO CREATIVE SALONは、地域や民間企業が連携して、都内の複数エリアのイベントを一同に集結させた、プロジェクト型のクリエイティブイベントだ。2022年3月18日から3月27日まで開催された。
東京を、ファッション、アート、音楽、フード、カルチャーなど、さまざまなカテゴリーを融合できる場所と捉え、合計5つのエリアがそれぞれがテーマを持ち、発信する。
5つのエリアとは、日本橋、丸の内、銀座、渋谷、原宿。この中で今回btraxは、日本橋エリアの展示ディレクションとデザインまわり全般を担当した。日本橋エリアは、ファッションの分野で展開している。
ロゴデザイン
これが今回デザインした、TOKYO CREATIVE SALON日本橋エリアのロゴ。みなさんは、このロゴからどんな印象やメッセージを受け取るだろうか?
実は、これは漢字の「素」を少しデフォルメしてデザインしたロゴだ。
展示のメインテーマは、「素材からファッションを再定義する」というもの。
また、展示ブースは更にテーマごとに3つに分かれている。
- 日本橋というエリアは繊維の街として昔から知られていることから、素材の歴史と伝統を物語る「Traditional(トラディショナル)」のブース
- ファッションや素材における技術力と機能性に着目した「Technological(テクノロジカル)」のブース
- そして、これからのファッションを素材を通じて考える「Sustainable(サステナブル)」のブース
そして、これら3つのテーマを包括するコンセプトとして、どの時代においても、ファッションにおいて素材は大切であるとして「ファッション=素材」というコンセプトを定めた。
そしてこのコンセプトをロゴに落とし込み、布をイメージしたデザインにした。
ではここから、このロゴが完成するまでのプロセスを紹介していく。
1.リサーチ
まずは、参考になりそうなロゴをひたすら集めた。そして一通り集めたものを、カテゴライズしていく。
系統として、クラシックとモダンという軸と、文字中心とビジュアル寄りという2つの軸で分類していった。どんなデザインにするかはこの時点ではまだ決まっていなかったため、ひとまず広い意味合いを持つ「クラシック」と「モダン」を軸に決めた。
また、ロゴデザインをする際に、文字が含まれるものにするかどうかは全体のデザインに関わるため、最初の段階で決めた方がその後のプロセスとして制作がしやすいと判断し、もう一方の軸にした。
今回のロゴでは「素材」という文字を使ったデザインにしたいということは決まっており、さらにこのリサーチとその結果の分類によって、モダンな雰囲気にしようと方向性が決まった。
理由として、今回の企画全体のコンセプトにも通ずる「ファッションに使われている素材も、時代と共に進化している」という意味を込めるべく、ロゴもクラシック寄りにするのではなく、モダンな要素が必要だろうと考えたからだ。
2.ラフスケッチ
おおよその方向性が決まったら次はスケッチ。
スケッチの方法はデザイナーによって様々だが、筆者の場合、手描きで紙に描いていく方法と、フォントを漁りながらイラストレーターで色々試す方法を同時に試すことが多い。
2つの方法を同時に行う理由は、手描きとデジタルでそれぞれ出来ることが違い、お互いに足りない役割を担っているからだ。
手描きでのスケッチは、頭の中で浮かんだアイデアをよりスピーディーに可視化することができる。精度は高くなくても、イメージしているものをとりあえず形にすることができる。
反対に、イラストレーターで実際にパスを引いたり、フォントを置いてみるというやり方は、デザインの質感や色味が正確にイメージしやすくなる。

ラフスケッチの過程
3.イラストレーターで調整
作ったラフをもとに、より具体的なデザインのイメージが出来たら、今度はイラストレーターでそれを正確に作っていく作業を行う。

ロゴデザインの変遷
最初は「素材」の2文字でデザインしようとしたが、2文字を横並びにしたときの見栄えとバランスが良くなかったため、途中から「素」という文字だけで作ることに。
「素」という一文字だけにすることでインパクトが出るのではないかと考えたからだ。
そして少しずつ形を整えて、最終の形にまで持っていった。
ロゴの展開
完成したロゴは、さらに展示全体のキービジュアルや、展示会場の外壁デザインなどとして展開した。

キービジュアル

展示会場の外壁デザインも弊社で手掛けた。
一面全体にロゴを大きく使ったことで、インパクトが強く、人目を惹くデザインになり、それが結果的にある種の集客効果につながったように感じた。
今回「ロゴ感」を出すためにも、パッと見では漢字の「素」であることが識別しにくいデザインにしているため、それが大きく外壁としてプリントされていることで、あれは何だろう?と通りすがりの人に思わせることができたのではないかと思う。
最後に
筆者にとっては久しぶりのロゴデザインだったが、改めて一からどんなものにしようかを考え、コツコツと形にしていく作業は純粋に楽しいなと思った。
そしてデザインしたものが実際の外壁や暖簾にこれほど大きくプリントされ、人の目に触れることもなかなかない経験だったため、とても良い機会となった。
世の中無数のデザインで溢れているが、どれも視覚的にコンセプトやメッセージを伝えようと作られているもの。どういう意図やメッセージを込めて作られているものか考えながら見てみると、見方が変わって面白いかもしれない。
デザイナー目線で選ぶ、米国有名企業の斬新なロゴリデザイン5選
2021年は変化の多い年であった。コロナ禍がもはや生活の一部になり、多くの企業がリモートを前提にした働き方をするようになった。Web3.0やメタバースなどが流行り、その領域への進出を本格的に始めた企業もあった。
そんな中、デザインもビジネスや社会の変化に合わせてさまざまな試みが行われていると感じる。特にこの2021年は面白い試みのロゴデザインが多く発表された年だと感じた。
今回はそんな2021年に発表されたリブランディングの中でこれまでにない新しいロゴのアプローチだと感じたものを取り上げる。
1.「レトロ感」で美味しさを表現したBurger King
2021年1月ハンバーガーチェーンのバーガーキングは20年ぶりのリブランディングを発表した。デザインしたのはLondon、NY、Shanghaiに拠点をもつクリエイティブエージェンシーのJones Knowles Ritchieである。
これまでの赤と青が目立つ、スポーティーな印象のものから打って変わってレトロな印象を受ける柔らかい雰囲気のロゴになった。モダンでクリーンなロゴが流行っている中であえてレトロな印象のロゴを採用したところが新しいと感じた。
また、これまでのロゴにあった青色を「食べ物に青色は存在しない」という理由で排除したことで従来のものよりも食品を扱う企業らしさが出ている。
ロゴ以外にもカラーパレットや制服のデザインを見ても、どれもハンバーガーショップらしい、ハンバーガーの素材から抽出したかのような色使いになっており、オーガニックで安心できる印象を受ける。
この事例を見てわかるように、色から受ける印象は非常に大きい。特にそれがパレットとして複数色並べた時にそのブランドで作りたい世界観を感じられるものになっているとそのブランディングは優れていると言えるだろう。
2.事業領域を3Dを用いて表現したMeta
旧Facebookがよりメタバース領域へ踏み込むことの現れとして社名の変更に合わせた新しいロゴが発表された。
今後、Metaがメタバース領域を推進していくということがよりわかりやすくロゴとして表現されている。なおかつ旧Facebook時代の初期のロゴの名残を感じさせるような青色を再び採用している(Facebookの頃の最も新しいロゴはグレー一色だった)。
そのため、社名とシンボルマークが変わっても旧Facebookだとすぐに受け入れられたのではないだろうか。
また、ロゴとアニメーションの関係も大変興味深い。これまで多くのデジタルプロダクトの企業はフラットなロゴを採用することが一般的であったが、Metaのロゴは、ロゴが立体的に見えるように青色をグラデーションとして使っている。
またアニメーションでもそのように奥行きがあるものとして表現されている。おそらく新しいロゴでメタバース空間における3次元的な空間の広がりを表現しているのだろう。
奥にあるラインの方が明るい色になっている。
この事例からも今後デザイナーは平面に囚われることなく3次元的な発想と2次元的な発想を行き来する力も必要になるのではないだろうか。
3.素材感を用いたBLOCK(旧Square)
決済サービスを提供していた旧Squareが社名をBLOCKに変更した際のリブランディング。Metaと同じく3Dを前提としたロゴなのだがBLOCKの場合は常に動き続ける。
Metaの場合は複数のプロダクトをメタバース軸1本へと統率するための社名変更だが、BLOCKの場合は事業領域をブロックチェーン技術をベースに広げていくための変更になる。
この特定の形を持ち続けず動き続けるように見えるロゴから、ブロックチェーン領域にさまざまな形で挑戦するという意識が読み取れるのではないだろうか。
また、このロゴからは3次元やアニメーションに加えてテクスチャーの発想を感じ取ることができる。BLOCKのホームページを見ると、背景は赤色と水色のグラデーションになっている。
それがまるで鏡に反射するかのようにロゴの色が変わっていく。
4.映画作品との協調を目指したWarner Bros
サンフランシスコのデザイン会社Pentagramによって行われたWanner Brosのリブランディングで優れている点は、ロゴの活用方法までしっかりと考え込まれている点だ。
Warner Brosが今後のデジタルへ本格的にシフトするためにロゴをフラットにしただけではなく、本業である映画の映像に移った際にしっかりと存在感が出るように立体のロゴも残している。
他にも映画事業という会社の特性を活かせるように、各映画作品とのコラボ方法のフォーマットも提案されている。
どんな映画でもこの印象的な盾の形を模したロゴのアウトラインのなかに映画のキャラクターを入れることで、映画の世界観を壊さずに、うまくロゴをアピールできるようにしている。
このようにデザインするロゴの企業がどんな事業を持っているか、その特性を理解しロゴのアピールの作法まで踏み込み提案することがよいブランディングを行う上では重要だろう。
そのためデザイナーはロゴをデザインする企業の事業内容をしっかりと把握し、より踏み込んだ提案をすることが今後はより求められるのではないだろうか。
5.目の錯覚を用いたRENAULT
車メーカーのルノーも立体的な造形のロゴからフラットなロゴへとリデザインした。このリデザインに置いて優れている点は立体だった頃持っていた図の奥行き感が、目の錯覚を利用して表現され残されている点だ。
特に旧ロゴに見られる重なる部分の奥行き感が新しいフラットなロゴでも感じ取るとこることができるだろう。
このように目の錯覚といった人の目の見え方を学ぶこともロゴをデザインする上で重要な知識になる。
特にこの見え方を知ることはロゴの完成度を上げる上でも重要な知識になる。
まとめ
このように、一口にロゴデザインと言ってもその表現手法や運用方法はとても奥が深い。
特にこの記事で紹介したロゴのリデザインはどれも斬新な表現手法を取っているだけでなく、企業の理念やヴィジョンをうまく反映していると言える。
デザイナーはロゴをデザインする際にはクライアント企業の事業内容やヴィジョンへの深い理解をすることに加え、それをヴィジュアルとして表現するための幅広い表現手法を知っておく必要があるのではないだろうか。
UXデザイナーは本当にデザイナーなのか
最近とあることに気づいた。UXデザイナーポジションへの応募が多いが、そのバックグラウンドがかなり多種多様なのである。
元々Webデザイナーをしていた人もいるし、マーケター出身の人もいる。デザインとは関係のない学部や職種出身の人もいるし、前職がスタバのバリスタのケースもあった。
UXデザイナーの役割多すぎ問題
言われてみれば、”UXデザイナー” のその役割と必要なスキルがあまりにも広く、そして曖昧なこともあり、非常にわかりにくいポジションになってる気がする。
仕事内容も、デザイナーと呼ぶにはかなり多くの非デザインスキルが求められる。正直いうと、そもそもこれってデザイナーの仕事なのか?と思うこともしばしばある。
そんなこともあり、そもそも一人のデザイナーがUXデザインに求められる全てをまかなうのは、非現実的なのではないかとも思ってきている。
そもそもUXって何?
このややこしさの根本原因は “UX” という言葉の意味が分かりにくく、人によって微妙にずれているからかもしれない。
なので、まずはUXがなんぞやっていうところからクリアにしていこう。
UXとはユーザー体験の英語訳である “User Experience” を短く、かっこよく表現したもの。その定義としては:
人々が製品に接するとき、そしてその接点から得られる経験そのもの。UXは、成功率、エラー率、離脱率、タスク完了までの時間、完了までのクリック数などの指標で測定される。
が適切だと思う。また、ユーザビリティーの父と呼ばれるヤコブ・ニールセン率いるNielsen Norman Groupによると、
UXは、エンドユーザーと企業、サービス、製品とのインタラクションのすべての側面を包含する
と定義されている。
お気付きになっただろうか?上記の定義のどちらにも “デザイン” という言葉が含まれていないことを。
そう。もうお分かりですね。ユーザー体験 (UX) には、ライター、リサーチャー、プログラマー、情報アーキテクト、マーケター、そしてデザイナーなど、多くの多様な部門や専門家が優れたユーザー体験を生み出す責任を負っている。そしてもちろん、最も重要なのが経営陣の役割だろう。
UXとCXは何が違うの
ここで少し余談になるが、日本語でよく言う「顧客体験」とユーザー体験は同じ意味なのだろうか? この議論をもう少し専門的な言葉で表現すると “UXとCXって何が違うの?” になる。
CXとは “Customer Experience” の省略形で、顧客体験と訳される。それぞれは密接に連動しているが、UXがエンドユーザー、つまり製品やサービスを使う人に焦点を当てているのに対し、CXは顧客に焦点を当てている。簡単に言うと、CX はUXを内包している形になる。

UXとCXの違い
多くの場合、顧客も製品やサービスを使用しているが、場合によっては誰かに代わって製品やサービスを購入している可能性もある。
例えば、多くの「おもちゃ」のメインユーザーは子供である。その一方で、その製品を購入する顧客は親になる。この場合、おもちゃにおけるUXデザインのターゲットが子供になるのに対して、CXデザインは購入する親にも訴求する体験を設計する必要が出てくる。
したがって、顧客が必ずしもユーザーではないことも理解してデザインするのがCXデザインである。
UXデザイン
主にプロダクトにおけるユーザーの体験の質を上げる
CXデザイン
顧客と企業との全ての接点における体験の質を上げる
優れたUXとは?
ユーザー体験の価値を高めるのがUXデザイナーの仕事だとすれば、そもそも何を持って優れたUXって言うのだろうか?
優れたUXは、プロダクトの体験の総合値によってのみ実現される。例えば、Webサイトの読み込みが遅くてユーザーがイライラするような場合は、エンジニアがそれを改善する仕事になる。
コンテンツがユーザーの心に響かない、あるいは価値のある情報を提供できないなら、それはコンテンツライターの責任。また、ニュースレターの解約率が高いのであればマーケティング担当者が解決すべき問題になってくる。
このように、優れたUXを生み出すには、総合的なチームワークが求められる。自ずとUXデザイナーには、見た目の美しさや使いやすさだけではなく、それ以外の多くのポイントに触れる必要があり、自ずとその責任者も幅広い知識と経験が求められる。
なぜUXの改善はデザイナーの仕事になったのか
UXの品質改善には多種多様なタッチポイントの改善が必要なのに、なぜか全てデザイナーの責任とされちゃっている節がある。UXデザインのことがちゃんと理解できていない組織は特に。
なぜそうなっているのだろうか?
おそらく、プロダクトのUXを改善するというと、多くの人はまず見た目デザインの改善を思い浮かべる。また、UXとユーザーインターフェース(UI)デザインを混同している人も多い。
それぞれは優れたUXを生み出すための戦略の一部であるが、それだけでは不十分である。
もう一つややこしいのは、多くのデザイン関連の出版物やメディアで、デザインとUXをあたかも同じような分野であるかのように表現していること。実際、デザインとUXは大いに重なりあっている。
でも、ユーザー体験の品質が悪い場合、それはデザインに原因があることもあるし、それ以外の要素を改善しなければならないこともある。
UXデザイナーの力だけでUXのその全てを改善できる場合もあるし、多くの場合はカスタマーサポート、価格帯、営業の態度など、それ以外の要素が原因になってる。
従って、UXとデザインを混同してしまうのは正しい考え方ではない。
UXデザイナーだけで解決できない問題が多い
このように、UXは総合的な体験価値のそれぞれの要素で構成されているとするのであれば、デザイナー1人で解決できるわけがないだろう。
むしろ、組織のすべての部門がUXの理念を念頭に置いて協力しても、優れたリサーチやインタビュー、テストを採用しなければ、どんな製品も最高のユーザー体験を実現することはできない。
と言うことは、デザイナーだけで解決できる範囲は限られており、それ以外の専門家と一緒に物事を進めない限り、ユーザー体験の品質は改善されない。
なので、UXデザインはデザインだけでなく、それ以外の多くの役割の人たちの協力が求められる。
必要なのは総合的なUXチーム
その一方で、組織内の複数の部署に対して「UX改善しておいてね」とだけ言ってても何も始まらない。
そこで、UXリサーチャーをはじめとするUXのスペシャリスト達が活躍することになる。それぞれ少しずつ異なる役割で構成されるUXチームは、もちろんデザイナーもいるが、それ以外も多種多様な役割のメンバーで構成される。
そのUXチームに関する役割は、マーケティングチームの構成に近いのかもしれない。チーム全体で、文章を書き、インタビューし、調査し、記述的・予測的な分析を行う。そして、
私たちデザイナーは、データ、洞察、その他の情報、推奨事項に基づいて、処方的なソリューションを提案していく。
従って、UXデザイナーと呼ばれる人たちは、UXをデザインする仕事というよりも、総合的なUXチームのメンバーの一人となり、デザイナー的観点からUX改善を進める役割になってくると思われる。
UXデザイナーという謎の役職名
このまで読めばわかると思うが、UXデザイナーの実態は周りのチームメンバーたちの構成によって大きく変化する。
なので、A社のUXデザイナーとB社のUXデザイナーでは、その仕事内容が大きく変わるし、エージェンシーと事業会社でもその立ち位置が全く異なることも少なくない。
UXの改善にはかなり総合的なチームが必要になってくるのに、なぜかUXデザイナーの人が全てそれを行うイメージがいまだに多く広がっている。そして、おそらく本人たちが一番困惑していると思う。
そもそもデザイナーの仕事って何?
ここで一度 “デザイナー” と呼ばれる人たちの仕事内容をおさらいしてみよう。
そもそもここ数年でデザイナーの重要性が高まりすぎて、猫も杓子もデザイナーのキーワードが乱用され、その実態が少しぼやけてきている気がする。
デザイナーというと、絵を描いて形だけを決める仕事だと勘違いしている人が多いのだが、実はそれらは最終アウトプットのごく一部であり、本来デザイナーの仕事というのは、与えられた制限の中で、求められる最大限の結果を生み出すプロセスのその全てに関わる職業である。
実はデザイナーの仕事のうち、3分の2はコミュニケーションであると言っても過言ではない。
デザイナーの仕事の最初の3分の1が、正しい人を探してその人から正しい情報を引き出す事で、次の3分の1が実際のデザイン作業。
そして最後の3分の1が出来たものの情報を正しい人に正しく伝える事。この行程を経て、はじめてきちんとしたデザインが作り上げられる。
つまり、最初と最後の3分の1ずつは、コミュニケーション能力にかかっている。”黙っていても良い物を作れば売れる”という時代は終わり、作ったものの見せ方や、伝え方と言ったマーケティング、プロモーション、プレゼンテーションの部分もデザイナーが考える必要がある。
その普遍的なデザインプロセスが、UXデザインにも密接に関わってきている。
UXデザイナーの肩書きがインフレ気味
最近では多くのデザイナーがUXデザイナーになりたがっている。
どうしてそうなってしまったのだろうか?おそらく、その裏には我々デザイナーの悲しい存在価値がある。
企業におけるデザイナーの存在は、テクノロジーやマーケティングなど、「動くか動かないか」や「数字」で判断される分野とは異なり、デザインは常に数値化が困難な分野。その不透明さゆえに、ビジネスのフィールドにおいて我々の仕事はあまり真剣に捉えてくれない壁があった。
そこで出てきたのがデザインとビジネスを融合させ、結果に繋がるデザイン = 「UXデザイナー」という肩書き。その戦略が功を奏し、その重要性は爆上がり。その結果UXデザインのインフレを招いてしまっている。
「UXデザイナー > Webデザイナー」は誤り
冒頭で触れたように、元々Webデザイナーをしていた人が、UXデザイナーにスキルチェンジしようとするケースが増えてきている。これは、UXデザイナーの方が市場ニーズが高く、待遇も良いからだろう。
しかし、その安易な考えは危険。
WebデザイナーはUXデザイナーより価値が低いわけではないし、UXデザイナーはWebデザイナーの上位互換でもない。そもそも役割が全く違う。
でも、多くの組織では、WebデザイナーをUXデザイナーの下に配属し、ディレクションをもらってWebデザインをしたり、UXデザイナーを名乗る上司からジュースを買いに行かされたりしている。
そんな日々を続ければ「いつかはUXデザイナーに」って思ってしまうのも仕方ないだろう。
でも口先だけのUXデザイナーは結構多いし、UIデザインも、インタラクションも、ちょっとしたコーディングができるWebデザイナーも増えている。そうなってくると、下手な自称UXデザイナーよりも、手を動かせるWebデザイナーの方がよっぽど価値が高いように思われる。
Webデザイナーは昔からある仕事だから価値が低い。UXデザイナーは流行ってるから待遇が良い。っていう風潮には大きな疑問を感じる。
いつかUXデザイナーも淘汰されていく日が来る
このUXデザイナーインフレもいつかは収束していくだろう。現在の「UXデザイナー」という肩書きは、実質的な技術力よりも雰囲気に近い。
言うなれば、一昔前の「クリエイティブディレクター」的な響きがする。
なんか凄そうな感じはするが、その実態は人それぞれ。そもそも「UXデザイン」自体がかなり曖昧な概念であり、本当にそれはデザインなのか?と聞かれても、はっきり “Yes” 言える自信がない。
ただ一つ言えるのは、UXデザインのフィールドで活躍したいのであれば、専門的なスキルだけではなく、幅広いソフトスキルや非デザインスキルを身につける必要があるだろう。
もうしばらくはUXデザイナーのポジション募集が続くだろうから。
筆者: Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
【イベント総括編】ブランディングに関する24の質問に一問一答
先日btraxは、「日本企業はなぜブランディングが弱いのか? – btrax Event Series 01 Brand Design」というオンラインイベントを実施した。
ブランディングに関するよくある誤解を解消し、経営におけるブランディングの重要性をより深く理解していただくことを目指して開催した本イベントは、多くの方にご参加いただき、大盛況のうちに終了した。
しかし、イベント内にて参加者のみなさまからはご質問やコメントを非常に多くいただき、その数は、時間内では回答しきれないほどだった。
そこで、イベント当日、時間の都合上あまり十分な回答をすることができなかった、もしくは、回答をすることができなかったご質問に対して、登壇したbtrax CEO, Brandonより改めて回答をもらい、記事にまとめる運びとなった。
Q1. 日本でのブランディングとアメリカでのブランディングのプロセスに違いはありますか?
A. おそらく日本のブランディングプロセスの多くが、20世紀から行われていたCIデザインと、広告中心の手法が踏襲されていると考えられます。
一方でアメリカの場合は、多くの企業がデジタルチャンネルの活用を10年ほど前から積極的に行なっているため、それらを活用したよりスピーディーで柔軟な形のブランディングが行われていると思います。
Q2. 最近アメリカで話題になっているブランディング手法やケースがあれば教えて欲しいです。
A. これに関しては、まさに上記の質問にも関連する「リーンブランディング」ですね。
今までのようにじっくりと作り込むのではなくて、素早くリリースして、改善していく手法です。以前に弊社のブログにて詳しく紹介してあるので、そちらをご参照ください。
Q3. ブランディングの非常に良いサンプルとして、AppleのSteve JobsがやったThink Differentが非常に印象的でした。
A. とても素晴らしいブランドキャンペーンだったと思います。
特にテレビCMやビルボード広告で全く商品を紹介せずに、世界を変えた偉人の写真と共に自分達の信念を語ったというのが、模範的なブランドメッセージの発信方法だと思います。
Q4. 営業やマーケティング活動がブランディングだ、と思っている人にブランディングを上手く説明するにはどうしたらよいでしょうか?
A. 営業をする際にもブランド力がある企業の方が圧倒的に成果が出しやすいと思います。
飛び込み営業や、メールでの営業をした場合でも、無名のブランドよりもブランド力が高い企業の方が返事をもらえる可能性が格段に高くなると思います。また、マーケティングをする際にも同様で、その効果が高まると考えています。
Q5. 日本国内で展開するブランドを前提とした場合、営業力に頼らないブランディングを上層部に打診するにはどうしたらよいですか?
A. ブランド力が直接企業の売上、利益、時価総額に影響することをデータと一緒にプレゼンすると良いかと思います。
Q6. 今は「パーパス」がバズワードですが、パーパスとブランディングについてはどう説明していますか?
A. 現代のブランディングにおいては、企業の掲げるパーパスはとても重要な役割を果たします。
自分達の存在意義と、世の中に対してどのような役割を果たしたいかをより明確にすることで、ブランドメッセージもより伝わりやすくなると思います。
Q7. ブランドを構築してからお客様に認知されるまでどのくらいのスパンを見たほうがよいですか?
A. おそらく最低でも半年、理想的には1年はかかると思います。例えばAppleが倒産寸前の状態からJobsが復帰し、ブランド力が高まるまで最低でも3年はかかったと考えられます。
したがって、企業がブランディングの効果をあまりにも急ぎすぎてしまうと、長期的には逆効果になります。
Q8. 中小企業のブランディングで重要なことはありますか?
A. 多くの中小企業は、大企業に比べて小回りが利きやすく、失うものも少ない、トップの一存で物事を決めやすいなどのメリットがあると思います。
ブランディングにおいても速いスピードでどんどん世の中に発信していけるのではないかと思います。
Q9. ベンチャー企業に対してブランディング提案をするポイントはありますか?
立ち上げの初期はあまり名前やロゴにこだわりすぎなくても良いと思います。それよりも優れたプロダクトとユーザー獲得に注力するべきだと思います。
Q10. ブランド価値の算出方法を教えていただけますか?
A. 企業のブランド価値は常に流動的であるため、非常に難しい質問ですが、一般的には下記のような手法が活用されています。
- 同じ市場における類似商品・サービスと比べ、そのブランドがどれほど高く売れているかを比べて算出する方法。
- 買収された類似ブランドの売却価格、もしくは買収する際の金額を基準にする方法。
- 収入、キャッシュフロー、コスト削減、将来の収益などの財務指標をもとに、どの数字がブランドの評判や認知度によって直接得られたものかを評価する方法。
- 現在の顧客数を評価し、将来の顧客数を予測し、それぞれに生涯価値 (LTV)を割り当てる手法。
Q11.ブランディングは、プロダクトアウトとマーケットイン、どちらの思考から考え始めるのがよいですか?それとも自社ブランドなのでプロダクト側だけで考えてよいのでしょうか?
A. ブランド力とプロダクト力は企業の成功においては両輪の関係です。ですので、プロダクトのUXとブランドメッセージの統一が重要になってきます。
特にデジタルサービスはプロダクト自体がブランド力を牽引する役割を果たすので、プロダクトのUXもしっかりと作りたいところです。
Q12. 会社がブランディングを意識すべきタイミングはいつ頃だと思いますか?
A. 業界にもよりますが、プロダクトがある程度完成し、ユーザーがつき始めた頃がよいと思います。
例えばTwitterは、これまでに5回ほどロゴをアップデートし、その度にブランド力を高めています。

Twitter社のロゴの変遷
また、Airbnbも軌道に乗り始めた頃にブランドを大幅に改善しています。

Airbnb社のロゴの変遷
両者とも知名度が高まり、勢いに乗ったところで一気にブランディングに力を入れたようです。
Q13. 改めて体験デザインとは、具体的にどういったものですか?
A. これは世の中的にはUXデザインとかユーザー体験デザインと呼ばれているものです。商品やサービスを利用した際に、その利用者が受け取る体験の良し悪しを決めるデザインです。
また、UXデザイナーの仕事は利用者と提供者の両方が満足する体験をデザインすることになります。
Q14. 既存の商品やサービスをDX化、デザインする案件の場合、ブランディングと結びつけた事例はありますか?
A. 現在我々が行なっているプロジェクトのいくつかは、まさにDXとブランディングを掛け合わせたものです。
例えば、本業がアナログのものづくりの会社が、そのブランドメッセージをモバイルアプリ等のデジタルサービスを通じてユーザーに体感してもらうタイプのプロジェクトをいくつか進めています。
Q15. ターゲットが60歳以上の場合でもデジタルの手法を採るのでよいですか?
A. そうですね。現代では世代に関係なく、デジタルでのブランドコミュニケーションは必須だと感じます。
特に欧米の国々では高齢者でもパソコンやスマホを使いこなしているので、グローバル規模で考えるのであれば、サービスもデジタルメインで考えるべきだと思います。
Q16. アメリカのZ世代以下の世代はGAFAMのブランドをあまり支持しておらず、Web3向けの企業を支持していると聞きました。実際の現状はどうなっていますか?
A. そうですね。最近はGAFAM に代表される、いわゆる「ビッグテック」があまりにもユーザーのデータを所有して力を持ちすぎていることから、一部のユーザーからの不安と不満が挙がっているのは確かです。
一部の企業が独占するより、民主主義的に、Web3の概念に期待をしている人たちも増えてきていると思います。
Q17. ブランドの価値を与えるのはユーザーであり、ユーザーは「タダ」でその価値を提供するのは違和感があります。Web3の流れは必須ですね。
A. かなりレベルの高い質問ですね。ユーザーがブランド力を高めているのは間違いないですが、タダで行なっていることが必ずしも悪いとは思わないです。
また、Web3は今後どのような役割になるのかが未知数なので、ブランディングへの影響力に関しても楽しみに思っています。
Q18.国内事業を立ち上げていき、どこかのタイミングで海外進出を考える時に、ブランディングで注意して考えないといけないポイントは何ですか?
A. 既存の国内ブランドが海外展開する際には、特に社名やプロダクト名には要注意です。
例えば、カルピスが海外に展開する際にブランド名をカルピコに変更しました。これは、カルピスのままだと、英語圏では違う意味に捉えられるのが原因です。
また、ポカリスウェットも “汗”という単語が入っているので、英語の感覚だと少し違和感があります。
Q19. 日本企業のブランドロゴはなぜ会社名が入っているのでしょうか?アメリカはロゴだけが多い気がします。
A. これは以前にブログにまとめて、かなり色々な議論を生んだトピックですね (笑)。
僕としてはおそらく、日本の企業の場合、母国語ではないアルファベットを並べただけでも、記号としてのロゴとして認識がしやすいからや、アメリカの企業はなるべくスマホのホーム画面でも認知されやすいようなアイコン型のロゴに舵を切ってるからなどが理由だと思っています。
Q20. 日本や中国など、アメリカ以外でブランディングが上手だと感じる会社はありますか?
A. 現代においてはどこの国のブランドであっても、”非国籍感” のあるブランドが強いと思います。これはもともと、どこの国のブランドかに関係なく、支持者が多いブランドです。
例えばTikTokは、元々中国のサービスですが、アメリカではそれを知らない人も多いほどに、浸透しています。同じ意味で “スーパーマリオ” も良いブランドを確立していると思います。
Q21. 今の日本自体をブランディングするとしたら、何を強みにすべきだと思いますか?
A.「誠実さ」「正確さ」「安全さ」ですかね。世界を見ても、これほどこの3つを追求できている国はないと思っています。
Q22. インナーブランディングを実施する上で重要なポイントは何でしょうか?
A. 組織のメンバーに自分達のブランドの意味が自然と感じられるように、定期的にミーティングでその話をするとか、目につきやすい場所にブランドを表現したビジュアルや言語を掲示しておくなどがあります。
我々のサンフランシスコのオフィスには、自社のポスターを掲げていたりします。

btraxのサンフランシスコオフィスに飾られているカルチャーを表現したポスター
Q.23. ブランディングに取り組むにあたって、ブランドディレクターや、ブランドプランナーや、ブランドプロデューサーなど様々な肩書きの人がいます。どう見極めるべきですか?
A. これはおそらく日米や組織によって肩書きの名前や定義が異なるため、僕には正確に答える自信がありません。ただ、ブランディングに関わる人たちはできるだけ経営に近いポジションにいる方が良いと思っています。
Q24. btrax自身のブランディングはどこに重点を置いていますか?
A. 我々自身のブランディングを行う際には、できるだけ世の中に対して有益な情報を発信していくことで、ファンの方々を増やすことに注力しています。
顧客獲得の前に、応援してくれるファンを醸成することが我々のブランディング戦略のコアとなっています。
終わりに
ブランディングに関する内容から日本とアメリカを中心とする海外との違いのほか、非常に多岐にわたるご質問を頂戴し、改めて感謝申し上げます。。
イベント本編のBrandonに「日本企業はなぜブランディングが弱いのか?」をテーマに掲げたセミナーは下記の動画よりご覧ください。
今後もbtraxはイベントを開催してまいりますので、引き続きぜひチェックをお願いいたします!
パッケージデザインに与えるインフレの影響
コロナや戦争による物流危機や転職ブームの影響で、アメリカではこの1年間でインフレ率が7.9%にまで登っている。これは前代未聞の状況。
当然のように物価は高くなり、商品の値段も爆上がりしている。その一方で、値段をそのままに、中身の量を減らすことで辻褄を合わせている商品もある。

インフレで量が減っている商品
価格アップ以外に企業が行っている施策例
値段を上げる以外にインフレに対応する方法として下記のような例が挙げられる。
- 個数(量)を減らす。
- ピースを小さく縮める
- 嵩増しでサイズが変わってないように見せる
- 製品の品質を低下させる
- パッケージの中に余分なスペースを空ける
- デザインでユーザーを錯覚させる
しかし、あまりに露骨に量を減らすと消費者にネガティブイメージを与えてしまうので、パッケージを上手に “ごまかす” ことで、その影響を最小限に収めようとする動きもある。
底上げ、錯覚、確信犯。パッケージデザインのダークパターン例
この消費者やユーザーの錯覚を利用したデザインは以前より存在しており、ダークパターンとも呼ばれる。
決して心地よいものではないが、必要悪なのかもしれない。その例をいくつか見てみよう。
バナナミルク
日本のコンビニなどで発売されているバナナミルク。上までびっちり入っているように見えて、ひっくり返すと隙間がある。カップ上部の部分は飲料と同じ色でペイントされている。
練乳いちごミルク
パッケージに上手にイチゴの果肉っぽいデザインを施すことで、よりイチゴ感を増し増しにしている。
減らせるご飯
ご飯を入れる容器のデザインを微妙に変化させたことで、内容量を10%減らすことに成功。外から見てもその違いはあまりわからない。
左右に何も入っていない鉛筆
かわいいキャラに騙されててはいけない、左右の部分には何も入っていない。
ちょこっとしか入ってないチョコ
カラフルでデラックスなチョコボックスに見えて、開けてみると外から見えている部分しか入ってなかった残念な結果。
実はあまり内容量が変わらないマックのドリンク
マクドナルドでドリンクをオーダーする際に、S,M,Lのサイズがあるが、実はその内容量はあまり変わらない模様。
内容量の少ない保湿クリーム
光にすかしてみると二重構造になっている保湿クリームのパッケージ。
途中で切れてるブリトー
外から見たら繋がってそうなブリトーがパッケージを開けてみるとあら不思議、真ん中部分が無い。
途中で切れてるパテ
上記のブリトーと同じくパッケージでカバーされている真ん中部分が無いパテ。
中身が空っぽの色鉛筆パッケージ
箱の大きさからかなり多くのペンが入っていると思いきや…。
ペパロニ…っぽいピザ
ある意味ペパロニとチーズの2種類の味が楽しめるかもしれない。
まとめ: デザイナーはつらいよ
売り上げと利益をアップさせるのがデザイナーの仕事であることは間違いない。しかし、時にはデザイナー達の涙ぐましい努力が見えると当時に、少し切なくなってもくる。
また、あまりやりすぎるとブランドとしての評判を下げてしまう可能性もあるため、そのさじ加減は注意する必要があるだろう。