神戸のヘアサロン「スクリーン」が銀座に出店 距離を超えたワンチームになることへの挑戦

 2014年に岡山県出身の神谷翼代表とKAORIディレクターが兵庫県・神戸で立ち上げたヘアサロン「スクリーン(SCREEN)」。縁もゆかりもない土地で顧客ゼロからスタートしたが、抱えていた不安に反し大人の女性たちの支持を集めて、翌年には2店舗目の「シスター バイ スクリーン(SISTER.by SCREEN)」を開業した。そして今年5月には、新たに東京・銀座に3店舗目となる「スクリーン ギンザ メゾン(SCREEN GINZA MAISON.)」をオープン。新型コロナウイルスの影響は神戸での営業や新規オープンに暗い影を落としたが、6月に入り大幅に復調してきているという。銀座店では新規顧客を獲得し始め、かつて東京で働いていたときの神谷代表の顧客がうわさを聞きつけて来店し、約7年ぶりに再会を果たすこともあるそうだ。未知の土地・神戸でのオープンから6年を経て、再び新たな土地である銀座への出店を決め、スタッフを伸ばすために挑戦を続ける神谷代表とKAORIディレクターに話を聞いた。

WWD:神戸と銀座に店を構える理由は。

神谷翼代表(以下、神谷):僕は東京・青山のサロンで、KAORIは岡山のサロンで美容師をやっていましたが、結婚を機に2人でお店をすることにしました。神戸の居留地の街並みと大人の女性のファッショナブルさに衝撃を受けてしまって、「スクリーン」のスタートとして基本となる土台をこの場所でつくりたいという思いが強くなりました。もちろん、ゼロからスタートさせることへの不安は大きかったですし、神戸の大人の女性を素敵にしたいと思ったものの、大人の女性は変わるよりも今を維持したい人が多いではないかという勝手な美容師側の思い込みがありました。ですがふたを開けてみると、大人の女性が紹介やわざわざ調べて来てくれたりして、新鮮さや刺激を求めているとすごく感じました。ビジネス上や、保護者としての姿とか、大人の女性にはさまざまな制約がありますが、変わりたいと思っているところが解けてくると、もっと女性は自由になれるんです。大人の女性を素敵にしたいという思いから今回銀座に出店しました。

WWD:再びゼロからの土地で築き上げていくことになるが。

神谷:新規出店には不安はつきものですが、ぼくらには神戸での経験があります。応援してくれるお客さまがたくさんいて、そこでの経験が僕たちの背中を押してくれています。神戸のお客さまに銀座への出店を伝えると、涙ながらに「おめでとう」と喜んで応援してくれるんです。お客さまは業界の大会に挑戦するときには応援団みたいに、ぼくらの美容にかける思いを理解してくれているんです。髪の毛を切ることで素敵にしてくれるから「スクリーン」に来るだけでなく、「自分も何か新しいことにチャレンジしたいと思わせてくれる」とお客さまが言ってくれることもあります。一生懸命やってきた結果ですが、僕たちが挑戦することがひとつのサービスになっていたんだなと気づきました。

WWD:銀座店はどのようサロンを目指すか。

神谷:不安だらけのスタートで新型コロナウイルスの影響も大きかったけれども、こういう逆境も「スクリーン」っぽいかなと思います。お客さまはすごく心配してくれますけれど、不安が大きい分乗り越えられたらもっと大きな思いになるはずです。応援してくれるたくさんの神戸のお客さまのためにもくじけるわけにはいきません。

今回、銀座店には東京での経験がない神戸のスタッフが挑戦することになります。ぼくが神戸でサロンワークを始めたときに、(洗練されたお客さまが多い)東京でやってるみたいと思ったんです。スタッフが神戸でファッショナブルな大人の方からたくさん学ばせてもらったことは、絶対に銀座でも通用するはずです。神戸と銀座で何かを変えようとは一切思っていなくて、それぞれの生の情報をもって影響を与え合いたいですね。

去年はロシアやマレーシアなど海外でヘアショーなどの仕事をたくさんして、世界は広いようで狭いとあらためて感じました。だから、日本にあるヘアサロン「スクリーン」と考えられたらいいのではと。新型コロナの影響が大きかったので神戸をもとに戻すことも今は大事ですが、ゆくゆくはいろんなスタッフを神戸と銀座を行き来させたいですね。神戸と東京の間で流れをつくることが目標です。

WWD:オープニングメンバーはどうやって決めた?

神谷:銀座の店長は神戸の「スクリーン」を引っ張ってきてくれた橋本佳奈という女性スタッフを中心に、神戸で腕を磨いたメンバーを中心に構成しています。加えてぼくとKAORI、福井は神戸と銀座を半月ずつ行き来する予定です。

お客さまがわざわざ来店してくれる美容師を生み出す

WWD:神戸と銀座の行き来には交通費など経費面が大変そうだ。

KAORIディレクター(以下、KAORI):今のスタッフとなら新しいサロン展開の形をつくれるんじゃないかと思いました。ずっと神戸にこだわってやってきましたが、東京と神戸を点と点にするのではなく結んでいきたいです。神戸にある2店舗はすごく近所で、一日の中でもスタッフが行き来するぐらい、他店舗というよりは一緒のチームという感覚です。それが銀座と神戸という距離があってもできるかどうかが挑戦です。普通は、美容師は転勤もなければ出張もありません。サロンという居場所があって、お客さまをお迎えする立場なので、神戸と銀座を行き来することで新しい働き方ができると思います。銀座店の店長の橋本は6月の1週目は神戸でも働きましたが、彼女のスケジュールに合わせて来店するお客さまも多く、そんなお客さまがいてくれることがうれしくて毎日泣いていたぐらいです。自分を求めて来店してくれることのありがたさや、お客さまの愛情を感じられる働き方ではないでしょうか。こういったことに価値を見出して新しい何かが生まれる感覚があったので、交通費も投資だと思っています。

神谷:スタッフにとっては、東京に挑戦できる環境はプレッシャーでもあると思いますよ。自分とKAORIの2人でもう一回銀座でスタートすることは簡単かもしれないけど、それでは「スクリーン」じゃなくなってしまう。銀座にお店を出すということは、僕らだけではできないスタッフの可能性を広げることにもつながります。

WWD:物件へのこだわりも強かったと聞いたが。

神谷:どうしてもこの物件にしたくて、1月からおさえて4月のオープンを目指していましたが、新型コロナの影響もあってようやく5月中旬にオープンしました。もともと4カ月ほどは準備期間として仮家賃が発生しようとも、新しい挑戦、神戸の「スクリーン」をレベルアップするための期間だったので、これも投資の一つと考えて乗り越えることができました。

KAORI:直感でここがいいと思ったんですよね。神戸の2店舗と同じように、2人で図面を引いてCGを作ってこだわりました。何も手を入れていないゼロの状態がとても好きだったから、デザインをすることにも葛藤がありました。2人で作り上げていくことは男女の目線の違いもあって、毎日ぶつかり合ったことでいい化学反応が生まれたんじゃないでしょうか。女性目線では非日常的なところにこだわりました。女性は私生活とは遠い場所でもなじんでしまう感覚があると思います。非日常的だけど心地いいところを狙いました。

WWD:そんなスタイリッシュでクールな空間ですが、スタッフのみなさんはなんともアットホームで(笑)。

KAORI:アットホームさは人が出すものであって、サロンの空間は背筋が伸びるような場所がいいんです。最初は緊張するかもしれないけれど、空間とのギャップが私たちの雰囲気を感じ取ってもらいやすいと思います。また、このお店の雰囲気で選んで来てくれるお客さまは、求めているヘアスタイルのデザインも強いはずです。デザインを求めて来てくれたお客さまに対してて、この空間に見合う技術を提供しなければならないので、スタッフたちの背筋も伸びるのではないでしょうか。

WWD:最後に今後の目標を教えてください。

神谷:新型コロナの影響もあり、いろんなものがずれ込みましたが、自粛のため来店できなかったお客さまからも多く予約をいただき、昨年の6月よりも大幅に売り上げが伸びています。銀座店は新規のお客さまの来店だけでなく、かつての自分の東京の顧客や、神戸から東京に引っ越しをされたお客さまもうわさを聞いて来てくださることもあります。銀座店もきちんと安定させながら、スタッフにとっての挑戦になり刺激になることで、さらに可能性を広げていけたらと思っています。

KAORI:毎日マスクをして過ごす生活は人生で初めてで、女性にとって顔を隠して生活することは今までになかったことですよね。思う存分メイクができないということで、メイクとファッションの要素を表現できるヘアスタイルの重要性をあらためて感じました。色々とストレスがたまっている中で、髪で元気を与えていきたいですね。リップは塗れないかもしれないけれど、メイクをするようにヘアカラーを楽しんでもらいたいです。

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ただの眼鏡屋やあらへんで! 月島の下町でトレンド最先端をゆく新店「ダウンタウン」

 レトロな風情を色濃く残す東京・月島の街。もんじゃ焼き店が軒を並べる名物通りの西中通商店街(通称もんじゃストリート)から東に外れて徒歩1分ほどの住宅街に、アイウエアセレクトショップ「ダウンタウン(DOWNTOWN)」が5月末オープンした。「緊急事態宣言」の解除(5月25日)から徐々ににぎわいを取り戻しつつある下町で、高感度なアイウエアを武器に新たなビジネスチャンスを模索している。

 直訳すれば“下町”の店名の通り、ノスタルジックな街並みに溶け込むような佇まい。昔ながらの駄菓子屋ほどのこぢんまりとした店内(24平方メートル)だが、内装はアーティストの「ノー・ヴァカンシー(NO VACANCY)」が手掛けたネオンサインが彩るクールな雰囲気だ。商品のラインアップも「マツダアイウエア(MATSUDA EYEWEAR)」「アイヴァン(EYEVAN)」「ジャック・デュラン(JACQUES DURAND)」など国内外の感度の高い眼鏡、サングラスをそろえる。ボストン型やウエリントン型など定番を押さえながら、アバンギャルドなフレームもラインアップする。

変貌する下町で高まるファッション需要に着目

 なぜ下町で、それも親和性のなさそうなハイエンドなアイウエアショップを開いたのか。「都心の眼鏡のセレクトショップはすでにオーバーストア。初めから出店の視野には入れていなかった」と原崇「ダウンタウン」オーナーは語る。月島は勝どきや晴海などオフィスタワーの開発が進むエリアにも近いことから、タワーマンションなどに若いパワーカップルが多く住む街に変貌しつつある。「この辺りに住む人は可処分所得が多いし、ファッションを楽しみたいという潜在的なニーズは大きいはず。銀座にも近いけれど、そこに構える店とは距離的にギリギリ(取り扱いブランドの)バッティングにならない。だから絶好の立地だった」。

 レコードプレーヤーから流れるジャズと、メガネのレンズを切り出す機械音が心地よく調和する空間。原氏の共同経営者で眼鏡技術者の中山勇佑氏が、視力検査、加工、調整まで全ての工程を担っている。メガネの聖地・鯖江を有する福井県出身の2人は小学生以来の付き合いだが、当初は選んだ道は違った。中山氏はアイウエアセレクトショップ「グローブスペックス(GLOBE SPECS)」でメガネ一筋のキャリアを歩んだ。かたや原氏はラグジュアリーブランドの婦人服の販売員を長く経験したのち、3年前に眼鏡業界に入ったばかりだ。

 2人が再び結びついたのは、「アイウエアショップはファッションとメガネのスペシャリスト、両方がそろってこそ本物の提案ができる」という考えで意気投合したから。「アイウエアショップは『メガネ一筋』のキャリアの方がやっているところばかり。僕(原氏)から見ると、ファッション目線の提案が物足りないと感じていた。かといってアパレルの店が付け焼き刃的にアイウエアの別注企画をしようにも、服と眼鏡では展示会から納品までのスケジュール感も全然違うから難しい。違う畑を歩んできた僕ら2人だからこそ提案できる価値があると思った」(原氏)。

 店名は、誰もが知るあの超大物お笑いコンビにもあやかっている。「ボケとツッコミではないけれど(笑)。阿吽の呼吸で、銀座からも足を運んでもらえるような話題性のある店を作れたらいい」。

コロナで人生観がリセット メガネは「自分探しの手段」

 数字の「2」が眼鏡のテンプル、「0」がレンズの形にも見えることから、「2020年=メガネの年」――。そんな縁起のよさに期待したものの、開業前に新型コロナが直撃。不安の中でのオープンとなったが、開店初日から近隣に住む家族連れが店を訪れ、手応えを感じている。「数万円のメガネフレームを試着し、購入を即決するようなお子さま連れのご夫婦方もいらっしゃって、正直驚いている」。

 店の外壁には「lookin' for the face(新しい顔を探そう)」と記した看板を掲げた。「メガネは、掛けるだけで普段と違う自分を発見したり、演出したりする力がある。今は大変な状況だけれど、一方であらゆる人の人生観、価値観がリセットされている。新しい自分が見つかることを期待して、メガネを手に取る人が増えているのかも。今、お客さまがお店に来てくださっているのは、古い街並みに新しい店ができたという『ちょっとした違和感』がきっかけかもしれない。だがゆくゆくはアイウエアの価値、投資する意味をこの下町中に広げていくという気概でやっていきたい」。

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ただの眼鏡屋やあらへんで! 月島の下町でトレンド最先端をゆく新店「ダウンタウン」

 レトロな風情を色濃く残す東京・月島の街。もんじゃ焼き店が軒を並べる名物通りの西中通商店街(通称もんじゃストリート)から東に外れて徒歩1分ほどの住宅街に、アイウエアセレクトショップ「ダウンタウン(DOWNTOWN)」が5月末オープンした。「緊急事態宣言」の解除(5月25日)から徐々ににぎわいを取り戻しつつある下町で、高感度なアイウエアを武器に新たなビジネスチャンスを模索している。

 直訳すれば“下町”の店名の通り、ノスタルジックな街並みに溶け込むような佇まい。昔ながらの駄菓子屋ほどのこぢんまりとした店内(24平方メートル)だが、内装はアーティストの「ノー・ヴァカンシー(NO VACANCY)」が手掛けたネオンサインが彩るクールな雰囲気だ。商品のラインアップも「マツダアイウエア(MATSUDA EYEWEAR)」「アイヴァン(EYEVAN)」「ジャック・デュラン(JACQUES DURAND)」など国内外の感度の高い眼鏡、サングラスをそろえる。ボストン型やウエリントン型など定番を押さえながら、アバンギャルドなフレームもラインアップする。

変貌する下町で高まるファッション需要に着目

 なぜ下町で、それも親和性のなさそうなハイエンドなアイウエアショップを開いたのか。「都心の眼鏡のセレクトショップはすでにオーバーストア。初めから出店の視野には入れていなかった」と原崇「ダウンタウン」オーナーは語る。月島は勝どきや晴海などオフィスタワーの開発が進むエリアにも近いことから、タワーマンションなどに若いパワーカップルが多く住む街に変貌しつつある。「この辺りに住む人は可処分所得が多いし、ファッションを楽しみたいという潜在的なニーズは大きいはず。銀座にも近いけれど、そこに構える店とは距離的にギリギリ(取り扱いブランドの)バッティングにならない。だから絶好の立地だった」。

 レコードプレーヤーから流れるジャズと、メガネのレンズを切り出す機械音が心地よく調和する空間。原氏の共同経営者で眼鏡技術者の中山勇佑氏が、視力検査、加工、調整まで全ての工程を担っている。メガネの聖地・鯖江を有する福井県出身の2人は小学生以来の付き合いだが、当初は選んだ道は違った。中山氏はアイウエアセレクトショップ「グローブスペックス(GLOBE SPECS)」でメガネ一筋のキャリアを歩んだ。かたや原氏はラグジュアリーブランドの婦人服の販売員を長く経験したのち、3年前に眼鏡業界に入ったばかりだ。

 2人が再び結びついたのは、「アイウエアショップはファッションとメガネのスペシャリスト、両方がそろってこそ本物の提案ができる」という考えで意気投合したから。「アイウエアショップは『メガネ一筋』のキャリアの方がやっているところばかり。僕(原氏)から見ると、ファッション目線の提案が物足りないと感じていた。かといってアパレルの店が付け焼き刃的にアイウエアの別注企画をしようにも、服と眼鏡では展示会から納品までのスケジュール感も全然違うから難しい。違う畑を歩んできた僕ら2人だからこそ提案できる価値があると思った」(原氏)。

 店名は、誰もが知るあの超大物お笑いコンビにもあやかっている。「ボケとツッコミではないけれど(笑)。阿吽の呼吸で、銀座からも足を運んでもらえるような話題性のある店を作れたらいい」。

コロナで人生観がリセット メガネは「自分探しの手段」

 数字の「2」が眼鏡のテンプル、「0」がレンズの形にも見えることから、「2020年=メガネの年」――。そんな縁起のよさに期待したものの、開業前に新型コロナが直撃。不安の中でのオープンとなったが、開店初日から近隣に住む家族連れが店を訪れ、手応えを感じている。「数万円のメガネフレームを試着し、購入を即決するようなお子さま連れのご夫婦方もいらっしゃって、正直驚いている」。

 店の外壁には「lookin' for the face(新しい顔を探そう)」と記した看板を掲げた。「メガネは、掛けるだけで普段と違う自分を発見したり、演出したりする力がある。今は大変な状況だけれど、一方であらゆる人の人生観、価値観がリセットされている。新しい自分が見つかることを期待して、メガネを手に取る人が増えているのかも。今、お客さまがお店に来てくださっているのは、古い街並みに新しい店ができたという『ちょっとした違和感』がきっかけかもしれない。だがゆくゆくはアイウエアの価値、投資する意味をこの下町中に広げていくという気概でやっていきたい」。

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「イケア」が都心出店を加速 背景に新型コロナによる“おうち時間”の増加も

 スウェーデン発インテリア「イケア(IKEA)」は、6月8日に初の東京都心店となるイケア原宿をオープンした。さらに年末には、渋谷の「フォーエバー21(FOREVER 21)」跡地に出店を予定している。今年2月には、渋谷に法人向け店舗であるイケア フォー ビジネスを開業するなど、都心への出店を加速している。


 今まで、イケアは、神奈川県・港北や千葉県・船橋など郊外の大型店が中心だった。家具だけでなく雑貨も取りそろえ、カフェやキッズルーム、駐車場完備の店舗はファミリー層の顧客が主体だった。都心への進出は、郊外ではアプローチしにくかった若い世代を狙ったものだ。この数年、イケアは新しい顧客層の獲得に積極的に動いていた。17年4月の自社EC開始を手始めに、積極的なミレニアル世代の取り込みに着手する。同年8月の時点で売上高に占めるEC比率は5%になり、数年以内に比率を20%に伸ばすという目標を掲げた。また、ミレニアル世代の心をつかむコラボレーションを続々と発表。「オフ-ホワイト ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」と「イケア」のアイコンショッパー“フラクタ”のコラボに始まり、19年にはアブローとのコラボ家具“マルケラッド”を発売するなど継続的に協業している。18年には、米ロサンゼルス発ストリートウエアブランドの「スタンプド(STAMPED)」とコラボし、スケートボードやキャップなども発売するなど、ミレニアル世代に響く施策を立て続けに打ち出してきた。アブローとのコラボは大成功を収め、「イケア」はミレニアル世代が注目するべきブランドのポジショニングを得た。


 市場環境もイケアの追い風になる。新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの人が自宅で過ごす時間が長くなった。消費者の関心は、ファッションや車などから"おうち時間"へ移っている。とはいえ、予算の関係で家具を新調するというケースはそう多くない。「イケア」は家具だけでなく、在宅勤務に役立つグッズをはじめ、アウトドア、キッチンなど、ライフスタイルに関連するものをほぼ網羅する。在庫さえあればECで購入可能だ。緊急事態宣言が解除され、徐々に店舗が開き始めたタイミングでのイケア原宿のオープンは、外出自粛で買い物に飢えた都心の消費者の注目の的になった。現在のところ、平日昼でも店内は大勢の客でにぎわい、レジには数十人もの長い行列ができている。同店では、一人暮らしの部屋など都心の小さいスペースに合う商材をそろえ、カフェや世界初のスウェーデンコンビニを併設するなど話題性もたっぷりだ。

 原宿店オープン直後の渋谷出店のニュースで、都心シフトを鮮明にした。原宿店は2層2500平方メートルだが、渋谷店は7層4800平方メートルと約2倍の広さ。2万平方メートルの郊外店には及ばないが、原宿店以上に家具や生活雑貨関連の品ぞろえが充実するだろう。原宿店も渋谷店も立地は抜群。家族だけでなく、都心在住のさまざまな消費者にアピールしそうだ。一方、日本のインテリア企業ニトリも17年ごろから、渋谷をはじめ新宿や池袋の百貨店内に続々と出店している。ニトリも郊外店中心だったが、都心に出店することで、都心のファミリー層や若い消費者の取り込みに成功した。それ以前は“わざわざ出かける”店だったのが、身近な店になり、家具から雑貨まで生活必需品を廉価で提供している。イケアの都心進出により、王者であるニトリや、あるいは無印良品とも競合する場面が増えていくことが予想される。

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