大澤錬「WWDJAPAN.com」記者(以下、大澤):連日の登場、失礼します(笑)。本日はパリメンズ最終日の厳選5ブランドを振り返ります。最終日まで僕らも一気に駆け抜けてきました!今シーズンもデジタルならではの試みや、限られた人数の中でのショーなど、発表の仕方はさまざま。前シーズンよりもアップデートが進みました。本日もよろしくお願いします。
村上要「WWDJAPAN.com」編集長(以下、村上):デジタルでも「あぁ、もう最終日なのか……。寂しいな」という気持ちは変わりませんね(笑)。そう思うのは、良いコレクションが多かった証拠です。
最終日トップバッターは「ジル サンダー」
村上:「ジル サンダー(JIL SANDER)」は、「ステキなコレクションなんだろうな」って思うけれど、「見せ方は、コレが正解?」とも考えました。暗がりや切り替え、クローズアップが多い“雰囲気系”のムービーだと、絶妙なプロポーションバランスや素材感、控えめなディテールは分かりづらいですね。起毛感の高いネルシャツ素材のブルゾンや、ハニカム構造が独特なニット、0.5サイズオーバーくらいのシャツドレスなど、「ちゃんと見たい!!」と言う欲求に駆られるアイテムが多いから尚更。感度が高く、自分を持っているから自由に解釈できるファンが多そうなブランドであることを考えると、シンプルに全容を見せて、「あとはご自由に判断してください」って任せちゃうくらいの見せ方で良かった気がします。そんなにデジタルが得意なブランドじゃないから、その辺りは少しずつ学んでいくのかな?
大澤:全体的に映像が暗く見づらいので、僕は食い入るように見てしまいました。個人的にはダブルフェイスのトレンチコート、パステルカラーのロングブーツがお気に入り。コートやニットに施されたポートレートは、1920年代にフローレンス・アンリ(Florence Henri)が撮影したバウハウスの女性アーティストやデザイナーたちだそうです。大胆に“MOTHER”と記したシルバーネックレスは、家族の重要性・大切さを表現しています。メニューの構成はさすがの一言ですね。
初のキッズウエアを発表
村上:さぁ、今シーズン一番難解なムービーですよ。「トム ブラウン(THOM BROWNE)」です。アイコニックなスーツを着たキッズたちが、仕事して、遊んで、ゴミを投げ捨てたり、牛乳を吹き出したりで終了という、全編モノクロ2分チョイのムービーでした。コレは一体、どう解釈したら良いのでしょうか(笑)?単純にキッズウエアのローンチをお知らせするものなのか?それとも、郷愁を誘うことも狙っていたのか?相変わらず、多くを語らないまま一石を投じるカンジ。キライじゃありません(笑)。
大澤:今回は初のキッズウエア(2〜10歳向け)を発表するためのムービーだそうです。クリエイションは大人向けのコレクションと変わらないようですね(笑)。「トム ブラウン」は直営店も含めて独自の世界観があり、面白いブランドと思っていますが、クリエイションの変化が少なく寂しさも感じます。ムービー自体は「キッザニア」で働くキッズたちを見ているようで、朗らかな気持ちになりました。日本でも「トム ブラウン」を身にまとった子どもたちを見られるといいですね。
「Y/プロ」が少しリアルクローズに
村上:「ディーゼル(DIESEL)」のクリエイションも手がけることになったグレン・マーティンス(Glenn Martens)の「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」は、もっとアバンギャルドになると思っていたけれど、むしろちょっぴりリアルになりました。極端なプロポーションは控えめ。もちろん、随所で生地をひねったり、穴を開けたりで“たわんだ洋服”が多いけれど、少なくとも「どう着たらいいのか?」はちゃんとわかる。小難しいのは疲れちゃう今のムードを感じたのかな?折り返すとウエスタンブーツ風のディテールが現れて、あたかも履いているように見えるデニムとか、面白かった。大胆でありながら、消費者を置いてきぼりにもしない。「ディーゼル」でも、上手いことやってくれそうな気がします。
大澤:今回は少しだけ落ち着いた「Y/プロ」でしたね。「着るのに一苦労」というのは少なそう。トータルで着こなすのはハードルが高いけど、一点一点のアイテムを入れ込むだけで、コーディネートはかなり変わりそうです。コロナ明けに、ストリートスナップを撮られたい人には「もってこい」(笑)。今シーズンは古着の要素が強かったように思います。作業着のようなナイロンのセットアップ、キルティングジャケット、ウオッシュ加工のストレートジーンズ、スタジャンなど。また「カナダグース(CANADA GOOSE)」とのコラボアイテムも引き続き発表していました。
「ユニクロ U」との差別化はいかに⁉︎
村上:「ルメール(LEMAIRE)」は、やっぱり秋冬の方がいいですね。ルックを構成するアイテムが増えてコーディネイトで見せられると、どうしても比較されてしまう「ユニクロ U(UNIQLO U)」との違いが際立ちます。ちょっとだけ肩パッドを入れたジャケットや、少しだけ贅沢に生地を使ったシャツドレス、部分的なファー使い、それにグラデーションなどの積み重ねが「ユニクロ U」との明確な差別化につながっていて、「あぁ、2つのブランドを続ける意味があるんだな」って実感できます。
大澤:僕には大人っぽすぎるので、普段あまり拝見することがないブランドでした。冒頭は「ユニクロ U」のイメージが強すぎるあまり、変化を感じなかったのが正直なところです。終盤に差し掛かると、グラデーションのコートやシャツ、マキシコート、ファーブルゾン、赤のセットアップなど、よりファッショナブルな印象へと変わりました。個人的には「ユニクロ U」との両立の難しさを感じました。カジュアルダウンしすぎても難しいし、大人の雰囲気を醸し出すと若い世代には刺さらない。ターゲット層が狭いのかなと感じてしまいました。
パリメンズ最後の砦は「1017 アリックス 9SM」
大澤:フィナーレを務めるのは「1017 アリックス 9SM(1017 ALYX 9SM)」。期待が大きいからこそ、写真だけなのは残念に思いました。「ジバンシィ(GIVENCHY)」のトップに就任して以降、クリエイションの質がさらに上がったように思います。上質な日常着に、メタルバックルやカラーリングで少し遊び心を加え、良い意味で大人っぽさが滲み出ている。バッグやアクセサリーを強く打ち出している点も、「デザイナーが継続的に強く推していきたいアイテム」というのが伺えますね。ダンベルのような形をしたハンドバッグ、オールレッドのムートンも気になりました。
村上:パリメンズのフィナーレが写真だけなのはちょっぴり残念ですが、クリエイション自体は随分変えてきましたね。最初はメタルバックル付きのストリートから始まって、直近はブラックのフォーマル路線でしたが、今シーズンはその中間を突いてきたカンジ。シャープなカッティングながら、ベビーピンクやスカイブルーなどの可愛らしい色合いで、モードやストリート一辺倒でもありません。「ジバンシィ」とも明確に差別化できていて、素直に「良き新機軸に挑戦しているな」って思えます。
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松下久美:ファッション週刊紙「WWDジャパン」のデスク、シニアエディター、「日本繊維新聞」の小売り・流通記者として、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)
髙田翔子(たかだしょうこ):1982年東京都東村山市生まれ。大学卒業後、ビジネス・実用書出版社勤務を経てフリーライターに。主に女性誌、書籍、WEBでインタビュー、読み物記事などを執筆。肌年齢だけは20代の診断。旅と読書とお酒が好き。電車好き1男の母
野島一美(のじまひとみ):1976年東京都杉並区生まれ。幼少期を香港、NYで過ごす。大学卒業後はテレビ制作会社で報道映像資料編集等に携わった後、東京大学生産技術研究所で教授秘書に。結婚後はフリーのライターとして雑誌VERY(光文社)で育児・早期教育について等執筆。和太鼓にはまる2男1女の母
小島健輔(こじま・けんすけ):慶應義塾大学卒。大手婦人服専門店チェーンに勤務した後、小島ファッションマーケティングを設立。マーケティング&マーチャンダイジングからサプライチェーン&ロジスティクスまで店舗とネットを一体にC&Cやウェブルーミングストアを提唱。著書に店舗販売とECの明日を検証した「店は生き残れるか」(商業界)、12月11日に出版した「アパレルの終焉と再生」(朝日新書)