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「まぐろが危ない!」。各界を代表するゲストが会し、まぐろの未来を本気で語り合った1日に迫る![まぐろミーティング vol.1/東京都中央区]
まぐろミーティング vol.1今から考えても遅くない! 太平洋クロマグロを救うのに何ができる!?
去る10月21日、築地で『まぐろミーティング vol.1』という名のイベントが、『一般社団法人 Chefs for the Blue』の協力のもと密かに開催されました。ゲストとして登場する面々は、『すきやばし次郎』の小野禎一氏、『カンテサンス』の岸田周三氏、『一般社団法人 Chefs for the Blue』理事の佐々木ひろこ氏、タベアルキストのマッキー牧元氏、さらに、豊洲市場から『株式会社フジタ水産』の代表取締役・藤田浩毅氏、大間のまぐろ漁師の南芳和氏といった各界を代表する顔ぶれ。そんなゲストが一堂に会し、一体何が行われるのでしょうか? まぐろのうまい食べ方でも討論されるイベントかと思えば、事態はもっと深刻なものでした。
「太平洋クロマグロ(近海本まぐろ)が、危機に瀕している」
「寿司屋から本まぐろが消える日がくるかもしれない」
にわかに信じがたいそんなことを本気で語り合うのが、今回のイベントの趣旨でした。そのことを世に訴え、まぐろの未来を皆で考えようと『日本の魚を考える会』が先頭に立ち、『一般社団法人 Chefs for the Blue』の協力のもと企画した今回のイベント。前述したゲストも皆、その危機に立ち向かおうと、登壇を決めた方々でした。
日本の食文化の一角を担う、まぐろがなくなる? まさか、そんなこと…。と、はじめは半信半疑だった取材班も、話を聞くにつれ、次第に考えが変わりました。大学教授が示したデータに目を疑い、漁師や仲卸など、まぐろと密接に関わる現場の訴えに悲壮感を覚え、料理人の声に焦りを募らせ、他人事ではないことを強く実感。たどり着いた答えは、日本人が本気でまぐろの未来について考えるのは、今しかないということ。
寿司屋から、日本の食文化から、まぐろが消えて無くなる前に…。
まぐろミーティング vol.1東京海洋大学・勝川教授が示した、太平洋クロマグロのデータ。会場に衝撃が走る!
今回、『日本の魚を考える会』が主催となり、『一般社団法人 Chefs for the Blue』の協力のもと開催された「まぐろミーティング vol.1」。イベントは4つのプログラムで構成され、各界を代表して招かれたゲストたちが、それぞれの置かれた立場から、危機に瀕する太平洋クロマグロについて、その見識や経験を交えて問題提起をする機会となりました。
その先陣を切ったのが、東京海洋大学准教授・勝川俊雄氏。モデレーターは、『一般社団法人 Chefs for the Blue』の理事で、フードジャーナリストの佐々木ひろこ氏が務め、イベントは幕を開けました。そこでいきなり、取材班は近海本まぐろの危機的現実を叩きつけられることになったのです。
太平洋まぐろ類国際科学委員会の出した報告書では、太平洋クロマグロ(近海本マグロ)の資源量は乱獲により過去最低レベルまでに落ちこみ、漁業が始まる以前の推定初期魚量に対して95%以上も減少したと言われています。
そして勝川氏が問題視するのは、産卵期における太平洋クロマグロの巻き網漁の漁獲だといいます。太平洋クロマグロは、その習性からある一定の温度帯の海水域でしか産卵せず、回遊魚でありながら、その産卵場所は日本の排他的海水域である、日本海と南西諸島の2箇所でしか産卵しないのです。そうして一堂に集まってくる太平洋クロマグロを、日本の漁船は産卵場で待ち構えるのです。
「巻き網は、群れになった魚を網でぐるりと巻いて、まさに一網打尽にできるため、効率が良い一方で、乱獲につながりやすい危険性もあるんです」
そこにモデレーターの佐々木氏が続きます。
「漁師が一本一本丁寧に処理する一本釣りやはえ縄漁と違い、一度にトン単位の魚が獲れる巻き網漁では、すぐに血抜きや神経締めができません。魚にとってはストレスのかかる状況で、太平洋クロマグロの体温も40度近くまで上がり、品質は一気に低下する。いわゆる身焼けをおこしてしまうのです」
さらにいえば、産卵期のまぐろは栄養が卵へといくため、身質はよくないと、勝川氏は説明してくれます。当然、そうして水揚げされた太平洋クロマグロは、市場で売れ残ることが多く、スーパーや回転寿司店などへと安く叩き売られることになります。問題は、ここまで資源が減少しているさなか、このように卵をはらんだ母まぐろが薄利多売されていることなのだと、勝川氏は提起してくれました。
それだけでなく、勝川氏は、漁獲量の減少、漁の種類、まぐろの幼魚(ヨコワ)を獲らずに6年後に漁獲した場合のメリットなどを、さまざまなデータと資料をもとに解説。太平洋クロマグロのおかれた現状を深掘りしてくれました。
まぐろミーティング vol.1資料から紐解いた危機感を、卸商と仲卸、漁師の3者が現場目線で説く。
そして、太平洋クロマグロについては現場目線からの声を聞き、さらなる深刻さを痛感することになります。大間のマグロ卸商である『株式会社魚忠』の新田忠明氏、豊洲市場のマグロ仲卸『株式会社フジタ水産』の藤田浩毅氏、大間でまぐろを一本釣りする漁師・南芳和氏の3名が登壇し、太平洋クロマグロの現状を、自らの仕事を通しての実感値で語ってくれました。
まず、新田氏からは、今年の卸値について。
「今年は最初からとんでもない価格から始まっていた。上はキロ2万円まで達し、その一方で下はキロ3,000円もあったりと。その差が大きすぎて、現場はますます混乱してしまっている状況ですね」
その説明に同じ反応を示すのが南氏で、「自分はただただ、一本釣りが好きで漁師を続けてきました。漁に出て、やって、やって、やりきって、どれだけいいまぐろを釣れるか。それが楽しかったし、この仕事のやりがい。ですが、いまは漁獲規制※の枠が少ない分、価格を気にしないといけない時代になってしまいました」
※2018年より成魚(30kg以上)の漁獲制限が導入されましたが、その内訳はというと、大中巻き網業者に全体の7割、一本釣りやはえ縄漁師など圧倒的に数の多い沿岸漁業者に3割。大中巻き網業者に対して圧倒的に少ない配分のため、沿岸まぐろ漁業者の生活は逼迫しているそうです。
一方で、藤田氏の口からは、豊洲市場での仲卸の立場としてこんな意見も。
「SNS全盛の時代で、いろんな情報が入ってくると思うのですが、目と耳で食べる人が多すぎて、『しっかり自分の舌で味わってほしい』ということをすごく思っています」といい、それがマグロの高騰にもつながっているのではないかと説きます。
「『サシがいっぱい入っている』とか『1番高いから』という情報が好きな人も実際たくさんいる。けれど、それが美味しいかといったら、必ずしもそうではない。脂ののりが味を決めるわけではなく、脂ののりは味を決める要素のひとつ。高いからいいわけでもありません」
自分でまぐろを味わって、本物の味を知ること。情報だけに流されず、味わい、知ることが、高騰が続く現状を打破する策のひとつにもなるのだと力を込めました。
次なる登壇者は遠洋まぐろのはえ縄漁業を営む『株式会社 臼福本店』の臼井壯太朗氏。一度は激減し、絶滅危惧種に指定された大西洋クロマグロの復活例を引き合いに、氏もまた、これから日本が取り組むべき課題をこうまとめていました。
「ヨーロッパでは、サステナブルな魚を選ぶ時代になっている。日本の消費者の価値観を変えていきたい。養殖のほうが手軽に食べられるとされるけれど、実はサステナブルとは言えない点が多い。そういう知識を持つことが、次世代へつなげることになる」
そこには様々な問題やしがらみがあることも承知の上で、こうした場でまぐろのおかれた現状を知った人たちが裾野から少しずつ情報を伝え広めていくことが、今後の鍵を握るとも話してくれました。
まぐろミーティング vol.1極上のまぐろに出会えるのは年に数本。30年前との激変ぶり!
最後のゲストは、寿司屋とフレンチを代表する2店からお二人が登場。『すきやばし次郎』小野禎一氏と三ツ星フレンチ『カンテサンス』岸田周三氏が登壇しました。モデレーターは、タベアルキストのマッキー牧元氏が務め、料理人、ジャーナリストの立場からの見解を示すことに。その中で小野氏は、ここ5年ぐらいで急激にまぐろを取り巻く状況が悪化したと嘆きます。
「30年くらい前は、毎日河岸に行って、好きな部位を好きなだけ買えるほどあったと、父(小野二郎氏)に聞いています。自分が河岸に行くうようになったのが25年ほど前で、その時はすでにいいまぐろと出会えなくなった日もちらほら出てきました」
そして、「それが“嫌な予感”となったのはいつぐらいですか」とのマッキー牧元氏の問にはこう答えます。
「15年くらい前からですね。そうしてだんだん少なくなって、ここ5年で急にいいまぐろは姿を消し始めた。いまは『これは素晴らしい!』というまぐろに出会えるのは、年に2、3本だけ」なのだそうです。
一方、岸田氏は、自らのレストランでまぐろを使うことはありませんが、太平洋クロマグロの置かれる状況については、料理人として真剣に向き合うべき課題だともいいます。
「私自身、まぐろに限らず、『魚の質が全体的に下がってきているな』という感覚はありました。2年くらい前に初めてまぐろの状況を佐々木(ひろこ)さんに聞いて、自分なりに勉強していくと、その中でもやはりまぐろはとくに危機的状況にあるんだなと実感したところです」といいます。
続いて、マッキー牧元氏が「これは小野二郎さんから聞いた話ですが」と前置きをし、
「いいまぐろを知っている客が少なくなって、それは言葉でしか伝えられなくなっていくのではないか」とも話してくれました。本物のまぐろの味が伝聞でしか知り得なくなるかもしれない。そんな状況までまぐろは追い込まれているのです。
まぐろミーティング vol.1問題提起で終わらない。知ってもらうことがまぐろの未来を救う第一歩に。
それぞれがそれぞれの立場で、太平洋クロマグロの危機的状況を説いてくれた今回の『まぐろミーティング vol.1』。しかし、これは単なる問題提起にしか過ぎません。これが何かを解決するものでもありません。これは解決のための第一歩なのです。
かつて大西洋クロマグロが絶滅の危機から復活した事例をみても、太平洋クロマグロの漁獲規制を整備していけば、問題が少しずつでも解消されるのは明らかです。現在はやっと導入が成立した段階で、その規制内容にはまだまだ問題が多いのが現実。より良い方向に進むためには、まず皆がこの状況を知ることが大切で、メディアがきちんと取り上げ大きな社会的問題になれば、規制に関わる法律の整備が急速に進むことでしょう。
そのための、まずは第一歩。多くの方に知ってもらうこと、関心を持ってもらうことが、まぐろの未来を救うとONESTORYも考えます。
「まぐろが危ない!」。各界を代表するゲストが会し、まぐろの未来を本気で語り合った1日に迫る![まぐろミーティング vol.1/東京都中央区]
まぐろミーティング vol.1今から考えても遅くない! 太平洋クロマグロを救うのに何ができる!?
去る10月21日、築地で『まぐろミーティング vol.1』という名のイベントが、『一般社団法人 Chefs for the Blue』の協力のもと密かに開催されました。ゲストとして登場する面々は、『すきやばし次郎』の小野禎一氏、『カンテサンス』の岸田周三氏、『一般社団法人 Chefs for the Blue』理事の佐々木ひろこ氏、タベアルキストのマッキー牧元氏、さらに、豊洲市場から『株式会社フジタ水産』の代表取締役・藤田浩毅氏、大間のまぐろ漁師の南芳和氏といった各界を代表する顔ぶれ。そんなゲストが一堂に会し、一体何が行われるのでしょうか? まぐろのうまい食べ方でも討論されるイベントかと思えば、事態はもっと深刻なものでした。
「太平洋クロマグロ(近海本まぐろ)が、危機に瀕している」
「寿司屋から本まぐろが消える日がくるかもしれない」
にわかに信じがたいそんなことを本気で語り合うのが、今回のイベントの趣旨でした。そのことを世に訴え、まぐろの未来を皆で考えようと『日本の魚を考える会』が先頭に立ち、『一般社団法人 Chefs for the Blue』の協力のもと企画した今回のイベント。前述したゲストも皆、その危機に立ち向かおうと、登壇を決めた方々でした。
日本の食文化の一角を担う、まぐろがなくなる? まさか、そんなこと…。と、はじめは半信半疑だった取材班も、話を聞くにつれ、次第に考えが変わりました。大学教授が示したデータに目を疑い、漁師や仲卸など、まぐろと密接に関わる現場の訴えに悲壮感を覚え、料理人の声に焦りを募らせ、他人事ではないことを強く実感。たどり着いた答えは、日本人が本気でまぐろの未来について考えるのは、今しかないということ。
寿司屋から、日本の食文化から、まぐろが消えて無くなる前に…。
まぐろミーティング vol.1東京海洋大学・勝川教授が示した、太平洋クロマグロのデータ。会場に衝撃が走る!
今回、『日本の魚を考える会』が主催となり、『一般社団法人 Chefs for the Blue』の協力のもと開催された「まぐろミーティング vol.1」。イベントは4つのプログラムで構成され、各界を代表して招かれたゲストたちが、それぞれの置かれた立場から、危機に瀕する太平洋クロマグロについて、その見識や経験を交えて問題提起をする機会となりました。
その先陣を切ったのが、東京海洋大学准教授・勝川俊雄氏。モデレーターは、『一般社団法人 Chefs for the Blue』の理事で、フードジャーナリストの佐々木ひろこ氏が務め、イベントは幕を開けました。そこでいきなり、取材班は近海本まぐろの危機的現実を叩きつけられることになったのです。
太平洋まぐろ類国際科学委員会の出した報告書では、太平洋クロマグロ(近海本マグロ)の資源量は乱獲により過去最低レベルまでに落ちこみ、漁業が始まる以前の推定初期魚量に対して95%以上も減少したと言われています。
そして勝川氏が問題視するのは、産卵期における太平洋クロマグロの巻き網漁の漁獲だといいます。太平洋クロマグロは、その習性からある一定の温度帯の海水域でしか産卵せず、回遊魚でありながら、その産卵場所は日本の排他的海水域である、日本海と南西諸島の2箇所でしか産卵しないのです。そうして一堂に集まってくる太平洋クロマグロを、日本の漁船は産卵場で待ち構えるのです。
「巻き網は、群れになった魚を網でぐるりと巻いて、まさに一網打尽にできるため、効率が良い一方で、乱獲につながりやすい危険性もあるんです」
そこにモデレーターの佐々木氏が続きます。
「漁師が一本一本丁寧に処理する一本釣りやはえ縄漁と違い、一度にトン単位の魚が獲れる巻き網漁では、すぐに血抜きや神経締めができません。魚にとってはストレスのかかる状況で、太平洋クロマグロの体温も40度近くまで上がり、品質は一気に低下する。いわゆる身焼けをおこしてしまうのです」
さらにいえば、産卵期のまぐろは栄養が卵へといくため、身質はよくないと、勝川氏は説明してくれます。当然、そうして水揚げされた太平洋クロマグロは、市場で売れ残ることが多く、スーパーや回転寿司店などへと安く叩き売られることになります。問題は、ここまで資源が減少しているさなか、このように卵をはらんだ母まぐろが薄利多売されていることなのだと、勝川氏は提起してくれました。
それだけでなく、勝川氏は、漁獲量の減少、漁の種類、まぐろの幼魚(ヨコワ)を獲らずに6年後に漁獲した場合のメリットなどを、さまざまなデータと資料をもとに解説。太平洋クロマグロのおかれた現状を深掘りしてくれました。
まぐろミーティング vol.1資料から紐解いた危機感を、卸商と仲卸、漁師の3者が現場目線で説く。
そして、太平洋クロマグロについては現場目線からの声を聞き、さらなる深刻さを痛感することになります。大間のマグロ卸商である『株式会社魚忠』の新田忠明氏、豊洲市場のマグロ仲卸『株式会社フジタ水産』の藤田浩毅氏、大間でまぐろを一本釣りする漁師・南芳和氏の3名が登壇し、太平洋クロマグロの現状を、自らの仕事を通しての実感値で語ってくれました。
まず、新田氏からは、今年の卸値について。
「今年は最初からとんでもない価格から始まっていた。上はキロ2万円まで達し、その一方で下はキロ3,000円もあったりと。その差が大きすぎて、現場はますます混乱してしまっている状況ですね」
その説明に同じ反応を示すのが南氏で、「自分はただただ、一本釣りが好きで漁師を続けてきました。漁に出て、やって、やって、やりきって、どれだけいいまぐろを釣れるか。それが楽しかったし、この仕事のやりがい。ですが、いまは漁獲規制※の枠が少ない分、価格を気にしないといけない時代になってしまいました」
※2018年より成魚(30kg以上)の漁獲制限が導入されましたが、その内訳はというと、大中巻き網業者に全体の7割、一本釣りやはえ縄漁師など圧倒的に数の多い沿岸漁業者に3割。大中巻き網業者に対して圧倒的に少ない配分のため、沿岸まぐろ漁業者の生活は逼迫しているそうです。
一方で、藤田氏の口からは、豊洲市場での仲卸の立場としてこんな意見も。
「SNS全盛の時代で、いろんな情報が入ってくると思うのですが、目と耳で食べる人が多すぎて、『しっかり自分の舌で味わってほしい』ということをすごく思っています」といい、それがマグロの高騰にもつながっているのではないかと説きます。
「『サシがいっぱい入っている』とか『1番高いから』という情報が好きな人も実際たくさんいる。けれど、それが美味しいかといったら、必ずしもそうではない。脂ののりが味を決めるわけではなく、脂ののりは味を決める要素のひとつ。高いからいいわけでもありません」
自分でまぐろを味わって、本物の味を知ること。情報だけに流されず、味わい、知ることが、高騰が続く現状を打破する策のひとつにもなるのだと力を込めました。
次なる登壇者は遠洋まぐろのはえ縄漁業を営む『株式会社 臼福本店』の臼井壯太朗氏。一度は激減し、絶滅危惧種に指定された大西洋クロマグロの復活例を引き合いに、氏もまた、これから日本が取り組むべき課題をこうまとめていました。
「ヨーロッパでは、サステナブルな魚を選ぶ時代になっている。日本の消費者の価値観を変えていきたい。養殖のほうが手軽に食べられるとされるけれど、実はサステナブルとは言えない点が多い。そういう知識を持つことが、次世代へつなげることになる」
そこには様々な問題やしがらみがあることも承知の上で、こうした場でまぐろのおかれた現状を知った人たちが裾野から少しずつ情報を伝え広めていくことが、今後の鍵を握るとも話してくれました。
まぐろミーティング vol.1極上のまぐろに出会えるのは年に数本。30年前との激変ぶり!
最後のゲストは、寿司屋とフレンチを代表する2店からお二人が登場。『すきやばし次郎』小野禎一氏と三ツ星フレンチ『カンテサンス』岸田周三氏が登壇しました。モデレーターは、タベアルキストのマッキー牧元氏が務め、料理人、ジャーナリストの立場からの見解を示すことに。その中で小野氏は、ここ5年ぐらいで急激にまぐろを取り巻く状況が悪化したと嘆きます。
「30年くらい前は、毎日河岸に行って、好きな部位を好きなだけ買えるほどあったと、父(小野二郎氏)に聞いています。自分が河岸に行くうようになったのが25年ほど前で、その時はすでにいいまぐろと出会えなくなった日もちらほら出てきました」
そして、「それが“嫌な予感”となったのはいつぐらいですか」とのマッキー牧元氏の問にはこう答えます。
「15年くらい前からですね。そうしてだんだん少なくなって、ここ5年で急にいいまぐろは姿を消し始めた。いまは『これは素晴らしい!』というまぐろに出会えるのは、年に2、3本だけ」なのだそうです。
一方、岸田氏は、自らのレストランでまぐろを使うことはありませんが、太平洋クロマグロの置かれる状況については、料理人として真剣に向き合うべき課題だともいいます。
「私自身、まぐろに限らず、『魚の質が全体的に下がってきているな』という感覚はありました。2年くらい前に初めてまぐろの状況を佐々木(ひろこ)さんに聞いて、自分なりに勉強していくと、その中でもやはりまぐろはとくに危機的状況にあるんだなと実感したところです」といいます。
続いて、マッキー牧元氏が「これは小野二郎さんから聞いた話ですが」と前置きをし、
「いいまぐろを知っている客が少なくなって、それは言葉でしか伝えられなくなっていくのではないか」とも話してくれました。本物のまぐろの味が伝聞でしか知り得なくなるかもしれない。そんな状況までまぐろは追い込まれているのです。
まぐろミーティング vol.1問題提起で終わらない。知ってもらうことがまぐろの未来を救う第一歩に。
それぞれがそれぞれの立場で、太平洋クロマグロの危機的状況を説いてくれた今回の『まぐろミーティング vol.1』。しかし、これは単なる問題提起にしか過ぎません。これが何かを解決するものでもありません。これは解決のための第一歩なのです。
かつて大西洋クロマグロが絶滅の危機から復活した事例をみても、太平洋クロマグロの漁獲規制を整備していけば、問題が少しずつでも解消されるのは明らかです。現在はやっと導入が成立した段階で、その規制内容にはまだまだ問題が多いのが現実。より良い方向に進むためには、まず皆がこの状況を知ることが大切で、メディアがきちんと取り上げ大きな社会的問題になれば、規制に関わる法律の整備が急速に進むことでしょう。
そのための、まずは第一歩。多くの方に知ってもらうこと、関心を持ってもらうことが、まぐろの未来を救うとONESTORYも考えます。