2018年度 年末年始休業のお知らせ

藍染年末年始画像

 

平素は格別のお引き立てをいただき、厚く御礼申し上げます。

 

誠に勝手ながら、下記期間を年末年始休業とさせていただきます。
大変ご迷惑をお掛けいたしますが、何卒ご了承くださいますようお願い申し上げます。

 

■2018年12月29日(土)~ 2019年1月6日(日)までの期間

 

※ 2019年1月7日(月)より、通常業務を開始します。
※ 休暇中のお問い合わせにつきましては、2019年1月7日(月)以降に対応させていただきます。

 

今後共、何卒宜しくお願い申し上げます。

料理人としての稼働領域を押し広げ続ける[NEW GENERATION HOPPING・ピッツェリア&トラットリア フェリーチェ/福島県会津若松]

矢澤氏。幼少期から大学を卒業するまでスキーをやっていたという根っからの体育会系。

ニュージェネレーションホッピング・ピッツェリア&トラットリア フェリーチェ立ち働く姿が絵になるオープンキッチン。

本格ナポリピッツァや会津の食材を使った料理が評判の『Pizzeria Felice』。ここで、腕を振るうのはオーナーの矢澤直之氏です。
「根っからのイタリア好きで、この店の内装もイタリア人がナポリピッツァの店を開くために西海岸に渡ったはいいけれど、お金がないので工場を借りてオープンしました、みたいな雰囲気にしたかったんです。会津の大工さんは腕がいいから、思いのほか綺麗になっちゃったんですけど(笑)」。そのコンセプトどおり、店外の喫煙スペースとしてPENZOILのドラム缶を使用するなど随所にイタリアの香りが。最もこだわったのは働く姿が絵になるよう設計されたオープンキッチン。「お客様に料理を味わって頂くだけでなく、料理を作る過程で体験したことや作る楽しさを自分の言葉でお伝えしたくて」と矢澤氏。

信条は「料理が人を楽しくする」。ゆえに、矢澤氏の料理は見た目からしてエネルギッシュ。西会津産の椎茸を丸ごと使ったパスタは、惜しげもなく盛られたカラスミを絡めて頂きます。「この料理の肝は椎茸を切らずにそのまま使うこと。お出汁を閉じ込めることができるので、絶対にその方が美味しいじゃないですか。今回、太めのスパゲットーニを合わせたのは、そんなぷりぷりの椎茸と咀嚼回数を合わせるため。食材同士の咀嚼回数を合わせると味が決まるんです」。椎茸から溢れ出るエキスとカラスミの旨味が合わさり、口の中でパスタと絡み合う。幸せな三位一体に自家栽培の味の濃いイタリアンパセリがいい仕事をしてくれます。

「身知らず柿と生ハムのカプレーゼ仕立て」は食べた瞬間、体内を駆け巡る旨味に身をよじってしまうほど。矢澤氏が「会津特産の身知らず柿は、枝が折れるんじゃないかってぐらい重たい実をたわわにつける身のほど知らずだから、その名がついたといわれています」と教えてくれました。焼酎で渋抜きをした柿は、糖度があるのにシャキシャキとした食感。白和えに柿が使われることにヒントを得たひと品です。「柿の白和えはつぶ貝などで脂分を補いますが、そこは生ハムを使って仕上げにパルミジャーノをふりかけ、イタリアンへと着地させました」

▶詳細は、NEW GENERATION HOPPING MINAMI AIZU/南会津の一年を密着取材! 春夏秋冬を作家と巡り、若き力を発掘する旅へ。

まるで映画の1場面のようなオープンキッチン。カウンターに座れば、美食とともに軽快なトークが楽しめる。

無垢の木を多用した店内。開放的な空間に、ピッツァの香ばしい香りが漂う。

細かな水蒸気が発生する薪で焼くことで、外は香り良くこんがりと、中はもっちりと仕上がる。

ニュージェネレーションホッピング・ピッツェリア&トラットリア フェリーチェ小麦の香りが鼻に抜ける本格ナポリピッツァ。

「今はイタリアンに軸足を置きつつ、和食や日本の文化のいい所もどんどん取り入れたいと思っています。昔は頑なでしたけど」と矢澤氏。引き算の美学や所作に感じるところがあるそうで、各地に足を運んでは伊と和の垣根を超えた料理人との付き合いを広げています。次なるひと皿は、豪快に骨つきで頂く会津地鶏のもも肉のロースト。「三島町産の会津地鶏は旨味が濃く、締めたてを岩塩でマリネして5~6日寝かせてローストしています。必要な旨味を残しつつ余分な水分を出してやると、味が調うんです」。

次に頂いたのはナポリピッツァ。店内で存在感を放つ大きな薪窯は、門外不出の製法が代々伝わるというナポリの工房に出向き、上下をバラして船便で輸送。乾燥のため店内に積み上げられた杉と松の薪を使い、Pizza職人の林添継聖氏がマルゲリータを焼き上げます。外には香ばしい焼き目がつき、中はもっちり。ひと口食べると小麦の香りが鼻に抜け、モッツァレラとトマト、生地の旨味が口の中に広がります。メリハリの利いた塩味も良く、ついワイングラスに手が伸びてしまいます。思わず頬がゆるむ身知らず柿とゴルゴンゾーラのピッツァは、濃厚で雑味のない桧枝岐(南会津郡の村)の蜂蜜をかけることで深みが増します。

最後に頂いた「ロベルタ」は、塩漬けにした豚の頬肉を熟成させたグアンチャーレの薄切りとたっぷりのルッコラがのった1枚。熱々の生地に薄切り肉をのせれば、その熱で透明になった脂がトロトロに。美味しく頂いていると、店外からシャッターを叩く人物がいます。その人から矢澤氏が受け取ったのは、大きなポリ袋いっぱいに入った新鮮なクレソンでした。1本頂くと、シャキシャキと歯ざわりが良く、瑞々しい苦みが口の中に広がります。「今の方は古いお客様で、喜多方の山奥で新鮮なクレソンを取ってきてくださるんです。お返しはパンとビール。物々交換です(笑)」。

3歳の時にはコンロで袋ラーメンを作っていたという矢澤氏。料理への情熱はその頃から!?

かぶりついた瞬間、口中に椎茸のエキスが迸(ほとばし)る「西会津産生しいたけとカラスミのスパゲッティ」2,200円

雪のようにパルミジャーノをふった「身知らず柿と生ハムのカプレーゼ仕立て」1,400円。

鶏のエキスがうつった付け合わせの葱もたまらない「会津地鶏の骨付きモモ肉のロースト(1本)」2,400円。

イタリア産の小麦粉を使用。Pizza職人の林添氏は『Ristorante Acqua Pazza』時代からの仲間。

存在感のあるナポリ製の薪窯。渋い色調のタイルはマダムの未来氏と選んだ。

もっちりジューシーなモッツァレラとフレッシュなトマトソースの「マルゲリータ」1,400円。

「身知らず柿とゴルゴンゾーラチーズ」2,000円。「料理と相性がいいこの柿はリゾットにしても美味しい」と矢澤氏。

「ロベルタ」2,200円はルッコラとトマトがふんだんに乗っているので、見た目以上にさっぱり食べられる。

鬼才ジャン・フランコ・マンカ氏の「パーネヴィーノ」をはじめ、イタリアの自然派ワインを多く取り扱う。

ニュージェネレーションホッピング・ピッツェリア&トラットリア フェリーチェ5ヵ月かけて肥料を作る本気の野菜作り。

『Pizzeria Felice』の料理には自家栽培の野菜も使われています。「畑がある場所は磐梯山が綺麗に見える場所。『あぁ、会津って盆地なんだな』と実感できますよ」と矢澤氏。

そこで、北会津町にある「しぜん村」にお伺いしました。畑を使わせてもらっているおばあちゃんは、若い就農者に「野菜の気持ちになって考えてみろ!」と叱咤激励する頼もしい人。矢澤氏は彼女から秘伝の肥料のレシピも受け継いでいます。胡麻油かすや無農薬のリンゴ、糖蜜などのミネラル分と自家製酵母菌や麹菌など何十種類もの材料を混ぜ込んで完全発酵させた有機肥料は、どこか甘い香り。これらは12月の寒仕込みに始まり、翌年4月にやっと完成します。

手間暇かけて本気の野菜作りを始めてから、実感していることがあると矢澤氏。「日本には四季があって、昔から旬の野菜を食べてきたじゃないですか。それって本当に利にかなっているんですよね。旬の野菜を食べることは、その季節にかかりやすい病気の予防になりますし、環境に負担をかけないで作られた野菜はノンストレスで、エコにもつながります」と言います。そんなお話を伺いながら矢澤氏が育てたルッコラを1枚食べてみると、ふっくらとした葉には弾力があり、噛みちぎると鮮烈な香りと苦みが体内に流れ込んできました。

「しぜん村」のビニールハウス内で色の濃いイタリアンパセリを収穫する矢澤氏。

「ここのところ忙しくて見に来れていなかったんですが、ちゃんと出来てる」と嬉しそう。

なるべく自然の状態で野菜を育むようにしているそうで、草や虫ものびのびしていた。

自家製発酵肥料の良さが直感的にわかるのか、愛犬のベペが肥料を食べようとして矢澤氏にたしなめられていた。

植物の生育に必要なミネラルと菌を土壌に与えてやることで健全な根を張ることができ、深みのある味わいの作物が育つ。

健全な環境で育った作物は色が濃い。このトウガラシも冴えたコントラスが美しかった。

持つと見た目以上に重く、ぎゅっと実が詰まっていることが実感できる「かぼちゃ」。

空と大地の間を磐梯山脈が走る最高のロケーション。思わず深呼吸したくなる。

帰路につく矢澤氏と愛犬ベペ。前方にはたわわに実った身知らず柿。本当に枝が折れそうだった。

ニュージェネレーションホッピング・ピッツェリア&トラットリア フェリーチェ名料理人の腕は世界に通じる最強の武器。

会津産の食材だから使うのではなく、自分が美味しいと思うものを使うようにしていたら、それが会津産の食材だったという矢澤氏。「昔から食べていた身知らず柿なんかにしても、子供の頃は特別美味しいとは思っていませんでした。けれど、料理人になって改めて食べてみて、とても魅力的な食材だと気付いたんです」。

そんな会津の食材について広く知って頂こうと、2018年10月にはかつての修業先である青山の『Ristorante Acqua Pazza』で、日髙良実シェフ総監修のもと、会津にご縁のある5人のシェフとともに1日限りのポップアップディナーを開催。身欠きニシンや会津産馬肉といった食材にイタリアのエスプリが吹き込まれた逸品が供される中、矢澤氏は「つちや農園の亀の尾と松茸のリゾット」と「松本さんの栗の蜂蜜でつくったモンテビアンコ 仁井田本家風」で、多くの方から好評を得ました。

東京とピエモンテ州アルバのひとつ星レストラン『La Ciau del Tornavento』でイタリア料理のみならず、料理人魂を学んだ矢澤氏には、地元である会津に対し歯がゆく思っていることがあります。「会津にはいいものがたくさんあるのに、まだまだ知られていないものが多いんです」。それもあって、いつの日か改めて海外に渡り、世界に向けて発信力を身につけたいとも考えています。「料理ができるって最強の武器を持っているようなものだと思うんです。そんな料理人になったのですから、料理人として意味があることをやっていきたい。僕自身が発信力を持ち、外から会津の食材や文化を伝えていくことができたらと考えています」。

1夜限りのディナーのために、日髙良実シェフ総監修のもと5人の名シェフが集った。(未来氏撮影)。

矢澤氏のドルチェ「松本さんの栗の蜂蜜でつくったモンテビアンコ 仁井田本家風」。仁井田本家とは創業300余年の郡山の蔵元。(未来氏撮影)

住所:〒965-0042  福島県会津若松市大町1-2-55 MAP
電話:0242-36-7666
ピッツェリア&トラットリア フェリーチェ HP:http://www.pizzeria-felice.jp/

店主偏愛の酒で旅人を癒す。[NEW GENERATION HOPPING・時さえ忘れて/福島県会津若松市]

ハンドドリップでコーヒーを淹れる鈴木氏。

ニュージェネレーションホッピング・時さえ忘れて何もないようで、何でもある場所で。

ホテルに荷物を置いてふらっと立ち寄り、アンダーな照明の中カウンター席でホッとひと息──。旅先で素の自分に戻れる場所があれば、そこはやがて第二、第三の故郷と呼びたくなる場所へと変わっていくのではないでしょうか。ジャズの名曲『時さえ忘れて』を店名に冠したこちらは、そんな風に肩の力を抜いて寛ぎたい空間です。

場所は会津若松市役所のすぐそばにある雑居ビルの2階。看板はありません。赤いカーペットが貼られた階段をのぼると、小さな椅子に立てかけられた黒板に「OPEN」の文字。アーチ状の扉を開けると、そこが『時さえ忘れて』です。店主は鈴木啓介氏。会津若松で生まれ、10年ほど東京で働いた後にUターン。そのきっかけは?と取材班がたずねると、鈴木氏は「盆暮れ正月だけでなく、もっと家族と一緒にいたいと思ったんです。一度戻ってきてみると食べ物は美味しいし、面白い人は多いし、歴史や文化に恵まれた場所なんだと改めて思いまして。『ここには何もない』と言う人もいますが、視点を変えれば都会にはないものがいくつもあるんですよね。もう(都会に)出ようとは思わないです」と答えてくれました。店を構えて、もうすぐ4年になろうとしています。

東京では酒舗や飲食店に勤めていたという鈴木氏。そこでハードリカーについて学び、地元に帰ってからは「会津娘」の蔵元・高橋庄作酒造店にて醸造を学びました。会津鉄道の門田(もんでん)駅にほど近いこちらは、「土産土法」(地元・会津の米と水を使い、土地の人が土地の手法で酒造りを行うという造語)に誠実に取り組んでいる蔵元です。そもそも、お酒関連の仕事に就こうと思ったきっかけは何だったのでしょう? 「もともとあまり社交的な人間ではなかったのですが、大学時代にアルバイトをしていた居酒屋でいろんな人と話すのが楽しくなって。親にも驚かれたぐらいです。『お前が接客やってるのか?』って」と鈴木氏は話します。

▶詳細は、NEW GENERATION HOPPING MINAMI AIZU/南会津の一年を密着取材! 春夏秋冬を作家と巡り、若き力を発掘する旅へ。

ちょっと妖しい階段をのぼると、かわいらしいアーチ状の扉が表れる。元はスナックだった

ゆったり配されたテーブルが心地いい店内。しかし、特等席はカウンターだ。

ニュージェネレーションホッピング・時さえ忘れてクラフトビールと、冷めても美味しい燗酒と。

カウンター席に座り、何気なく右手を見ると、冷蔵庫に直接取りつけられた3つのタップが目に入りました。「ドリルを使って自分で冷蔵庫に穴を開けました」と言う鈴木氏。それもこれも、縁あって扱うことになったという6社のクラフトビールをベストな状態で飲んでもらいたいという思いから。京都醸造のものを中心に、その都度入れ替えつつ提供しているという、各社の手仕事が息づくクラフトビール。この日のラインナップは京都醸造の限定醸造シリーズ「荷下夫の一息」とシーズナル商品の「秋の気まぐれ」、北海道は上富良野にある忽布古丹(ほっぷこたん)醸造の「早に雨」でした。

鈴木氏がクラフトビールに目覚めたのは、味はもちろん目に見えない力があると思うからだそうです。「クラフトビールが飲める場に足を運ぶと、老いも若きもみんな楽しそうなんですよね。クラフトビールにはコミュニティを形成する力があると思うんです」と鈴木氏は話します。鈴木氏がクラフトビールと同じくコミュニティをつくりだす力があると考えているのがコーヒーです。そこで、信頼を寄せるロースター「Lover’s coffee」から豆を仕入れ、丁寧にハンドドリップで提供。取材中に淹れて頂いた1杯は、「今この時間をコーヒーブレイクと呼びたい」と思えるものでした。

もちろん、日本酒にもこだわりがあるそうです。「酒器で味が変わりますから」と言う鈴木氏が使うのは、会津本郷焼の「草春窯 工房 爽」の白磁。シンプルでありながら美しいラインで、口にあたった時の滑らかさが気持ちいい酒器です。ここでお燗を頼むと、何やら鈴木氏が軍手をつけ始めました。実はこちらでは湯煎ではなく、徳利(とっくり)を蒸気にあてて均一に温度を上げていく蒸し燗での提供となるのです。試しに湯煎の燗酒(かんざけ)と蒸し燗酒の飲み比べをさせて頂くと、蒸し燗酒の方がカドのない滑らかな飲み口で、味にも膨らみがあると感じました。冷めても味が崩れないのも嬉しいところです。

美味しくクラフトビールを飲んでもらうために自ら業務用冷蔵庫に穴をあけた。

京都醸造の「秋の気まぐれ」290ml 850円、400ml 1,150円、580ml 1,600円とサイズが選べる。

ドイツの気鋭ボトラー「ザ・ウイスキー・エージェンシー」のプライベートストックなど希少なウイスキーも。

名古屋の名居酒屋『大甚』の燗酒の旨さに感銘を受けた白隠正宗(はくいんまさむね)の杜氏(とうじ)によるセミナーにて学んだ蒸し燗。

ニュージェネレーションホッピング・時さえ忘れて店主の好きなものを詰め込んだセレクトショップ。

「言ってしまえば、ウチはセレクトショップのようなもの」と鈴木氏。ワインはなるべくナチュラルなものを揃え、ウイスキーはシングルカスク・ヴィンテージを中心にスピリッツも少々。おつまみは自家製食パンとミックスナッツのみで、氷を入れず、全ての材料を冷やして作る「だるまハイボール」や自家製生姜漬けウォッカを使った辛口モスコミュールも人気です。全てのお酒の根底にある「自分が美味しいと思う酒を、美味しく飲んでもらいたい」という鈴木氏の想いが、居心地の良さを加速させます。「会津って本当に酒が好きな人が多いんです。土地柄のポテンシャルがあるからこそ、ウチのようなお店がやっていけるんでしょうね」と鈴木氏は話します。

美味しいお酒で心がほぐれてくると、目に入るもの全てが気になってきます。例えば、レトロな足踏みミシンとドライフラワー、ワインの木箱に入った写真集に窓辺に置かれたヘンリー・D・ソローの『森の生活』、猿が畑からスイカを盗みだす瞬間をイラストにおこしたTシャツ……。ここにいると、ひとつのものをきっかけに、数珠つなぎに話の輪が広がっていきます。

会津若松には洒落た花屋も多い。最近オープンした近所の花屋で仕入れた花をご自身でドライに仕立てた。

イベントを通して、ここを訪れて。さまざまな入口から、酒に携わる人々がここに吸い寄せられてくる。

ニュージェネレーションホッピング・時さえ忘れて経絡のようにつながる人と人、人と酒。

「場所をひとつ構えることで、飲食物を出すのみならず、人と人がつながっていくのが面白い」と鈴木氏。経絡のように有機的につながるそれらの輪は少しずつ拡大傾向にあるようで、店内にはカリフォルニアで日本酒を造っているというアメリカ人や写真家のサインが躍ります。最近は西会津のアーティストやゲストハウスと共同主催でイベントを開催。「上野尻(かみのじり)に行列ができた!」と周囲の人が驚くぐらいの集客で、中には新潟や白河から訪れた人もいたそうです。

「東京に住んでいた頃は、『自分が住む街がこうなってほしい』なんて考えたこともありませんでした。だけど、こっちに帰ってきてからは、僕らの世代でがんばっている個人経営の店が気になって。みんな本当にいいものを提供しようと一生懸命だし、そういうお店が根付く町になればいいなとか、そこでの自分の役割は?とか、そういうことを考えるようになってきたんです。それで、都会に出ていた人が会津に帰ってきた時、『地元も捨てたもんじゃないな』と、誰かの希望につながれば」と鈴木氏は語ります。淡々とした口調ながら熱量は高め。自分の好きなものにまっすぐな鈴木氏が作りだす空間で1杯飲めば、その酒はいつもより深く心に沁みるはずです。

「例えば『植木屋商店』の白井さんみたいな先輩がいてくださるのはとても励みになります」と鈴木氏。

住所:〒965-0871 福島県会津若松市栄町1-40 2F MAP
電話:0242-22-0530
時さえ忘れて HP:https://savannaparty.wixsite.com/tokisaewasurete

料理人としての稼働領域を押し広げ続ける[NEW GENERATION HOPPING・ピッツェリア&トラットリア フェリーチェ/福島県会津若松]

矢澤氏。幼少期から大学を卒業するまでスキーをやっていたという根っからの体育会系。

ニュージェネレーションホッピング・ピッツェリア&トラットリア フェリーチェ立ち働く姿が絵になるオープンキッチン。

本格ナポリピッツァや会津の食材を使った料理が評判の『Pizzeria Felice』。ここで、腕を振るうのはオーナーの矢澤直之氏です。
「根っからのイタリア好きで、この店の内装もイタリア人がナポリピッツァの店を開くために西海岸に渡ったはいいけれど、お金がないので工場を借りてオープンしました、みたいな雰囲気にしたかったんです。会津の大工さんは腕がいいから、思いのほか綺麗になっちゃったんですけど(笑)」。そのコンセプトどおり、店外の喫煙スペースとしてPENZOILのドラム缶を使用するなど随所にイタリアの香りが。最もこだわったのは働く姿が絵になるよう設計されたオープンキッチン。「お客様に料理を味わって頂くだけでなく、料理を作る過程で体験したことや作る楽しさを自分の言葉でお伝えしたくて」と矢澤氏。

信条は「料理が人を楽しくする」。ゆえに、矢澤氏の料理は見た目からしてエネルギッシュ。西会津産の椎茸を丸ごと使ったパスタは、惜しげもなく盛られたカラスミを絡めて頂きます。「この料理の肝は椎茸を切らずにそのまま使うこと。お出汁を閉じ込めることができるので、絶対にその方が美味しいじゃないですか。今回、太めのスパゲットーニを合わせたのは、そんなぷりぷりの椎茸と咀嚼回数を合わせるため。食材同士の咀嚼回数を合わせると味が決まるんです」。椎茸から溢れ出るエキスとカラスミの旨味が合わさり、口の中でパスタと絡み合う。幸せな三位一体に自家栽培の味の濃いイタリアンパセリがいい仕事をしてくれます。

「身知らず柿と生ハムのカプレーゼ仕立て」は食べた瞬間、体内を駆け巡る旨味に身をよじってしまうほど。矢澤氏が「会津特産の身知らず柿は、枝が折れるんじゃないかってぐらい重たい実をたわわにつける身のほど知らずだから、その名がついたといわれています」と教えてくれました。焼酎で渋抜きをした柿は、糖度があるのにシャキシャキとした食感。白和えに柿が使われることにヒントを得たひと品です。「柿の白和えはつぶ貝などで脂分を補いますが、そこは生ハムを使って仕上げにパルミジャーノをふりかけ、イタリアンへと着地させました」

▶詳細は、NEW GENERATION HOPPING MINAMI AIZU/南会津の一年を密着取材! 春夏秋冬を作家と巡り、若き力を発掘する旅へ。

まるで映画の1場面のようなオープンキッチン。カウンターに座れば、美食とともに軽快なトークが楽しめる。

無垢の木を多用した店内。開放的な空間に、ピッツァの香ばしい香りが漂う。

細かな水蒸気が発生する薪で焼くことで、外は香り良くこんがりと、中はもっちりと仕上がる。

ニュージェネレーションホッピング・ピッツェリア&トラットリア フェリーチェ小麦の香りが鼻に抜ける本格ナポリピッツァ。

「今はイタリアンに軸足を置きつつ、和食や日本の文化のいい所もどんどん取り入れたいと思っています。昔は頑なでしたけど」と矢澤氏。引き算の美学や所作に感じるところがあるそうで、各地に足を運んでは伊と和の垣根を超えた料理人との付き合いを広げています。次なるひと皿は、豪快に骨つきで頂く会津地鶏のもも肉のロースト。「三島町産の会津地鶏は旨味が濃く、締めたてを岩塩でマリネして5~6日寝かせてローストしています。必要な旨味を残しつつ余分な水分を出してやると、味が調うんです」。

次に頂いたのはナポリピッツァ。店内で存在感を放つ大きな薪窯は、門外不出の製法が代々伝わるというナポリの工房に出向き、上下をバラして船便で輸送。乾燥のため店内に積み上げられた杉と松の薪を使い、Pizza職人の林添継聖氏がマルゲリータを焼き上げます。外には香ばしい焼き目がつき、中はもっちり。ひと口食べると小麦の香りが鼻に抜け、モッツァレラとトマト、生地の旨味が口の中に広がります。メリハリの利いた塩味も良く、ついワイングラスに手が伸びてしまいます。思わず頬がゆるむ身知らず柿とゴルゴンゾーラのピッツァは、濃厚で雑味のない桧枝岐(南会津郡の村)の蜂蜜をかけることで深みが増します。

最後に頂いた「ロベルタ」は、塩漬けにした豚の頬肉を熟成させたグアンチャーレの薄切りとたっぷりのルッコラがのった1枚。熱々の生地に薄切り肉をのせれば、その熱で透明になった脂がトロトロに。美味しく頂いていると、店外からシャッターを叩く人物がいます。その人から矢澤氏が受け取ったのは、大きなポリ袋いっぱいに入った新鮮なクレソンでした。1本頂くと、シャキシャキと歯ざわりが良く、瑞々しい苦みが口の中に広がります。「今の方は古いお客様で、喜多方の山奥で新鮮なクレソンを取ってきてくださるんです。お返しはパンとビール。物々交換です(笑)」。

3歳の時にはコンロで袋ラーメンを作っていたという矢澤氏。料理への情熱はその頃から!?

かぶりついた瞬間、口中に椎茸のエキスが迸(ほとばし)る「西会津産生しいたけとカラスミのスパゲッティ」2,200円

雪のようにパルミジャーノをふった「身知らず柿と生ハムのカプレーゼ仕立て」1,400円。

鶏のエキスがうつった付け合わせの葱もたまらない「会津地鶏の骨付きモモ肉のロースト(1本)」2,400円。

イタリア産の小麦粉を使用。Pizza職人の林添氏は『Ristorante Acqua Pazza』時代からの仲間。

存在感のあるナポリ製の薪窯。渋い色調のタイルはマダムの未来氏と選んだ。

もっちりジューシーなモッツァレラとフレッシュなトマトソースの「マルゲリータ」1,400円。

「身知らず柿とゴルゴンゾーラチーズ」2,000円。「料理と相性がいいこの柿はリゾットにしても美味しい」と矢澤氏。

「ロベルタ」2,200円はルッコラとトマトがふんだんに乗っているので、見た目以上にさっぱり食べられる。

鬼才ジャン・フランコ・マンカ氏の「パーネヴィーノ」をはじめ、イタリアの自然派ワインを多く取り扱う。

ニュージェネレーションホッピング・ピッツェリア&トラットリア フェリーチェ5ヵ月かけて肥料を作る本気の野菜作り。

『Pizzeria Felice』の料理には自家栽培の野菜も使われています。「畑がある場所は磐梯山が綺麗に見える場所。『あぁ、会津って盆地なんだな』と実感できますよ」と矢澤氏。

そこで、北会津町にある「しぜん村」にお伺いしました。畑を使わせてもらっているおばあちゃんは、若い就農者に「野菜の気持ちになって考えてみろ!」と叱咤激励する頼もしい人。矢澤氏は彼女から秘伝の肥料のレシピも受け継いでいます。胡麻油かすや無農薬のリンゴ、糖蜜などのミネラル分と自家製酵母菌や麹菌など何十種類もの材料を混ぜ込んで完全発酵させた有機肥料は、どこか甘い香り。これらは12月の寒仕込みに始まり、翌年4月にやっと完成します。

手間暇かけて本気の野菜作りを始めてから、実感していることがあると矢澤氏。「日本には四季があって、昔から旬の野菜を食べてきたじゃないですか。それって本当に利にかなっているんですよね。旬の野菜を食べることは、その季節にかかりやすい病気の予防になりますし、環境に負担をかけないで作られた野菜はノンストレスで、エコにもつながります」と言います。そんなお話を伺いながら矢澤氏が育てたルッコラを1枚食べてみると、ふっくらとした葉には弾力があり、噛みちぎると鮮烈な香りと苦みが体内に流れ込んできました。

「しぜん村」のビニールハウス内で色の濃いイタリアンパセリを収穫する矢澤氏。

「ここのところ忙しくて見に来れていなかったんですが、ちゃんと出来てる」と嬉しそう。

なるべく自然の状態で野菜を育むようにしているそうで、草や虫ものびのびしていた。

自家製発酵肥料の良さが直感的にわかるのか、愛犬のベペが肥料を食べようとして矢澤氏にたしなめられていた。

植物の生育に必要なミネラルと菌を土壌に与えてやることで健全な根を張ることができ、深みのある味わいの作物が育つ。

健全な環境で育った作物は色が濃い。このトウガラシも冴えたコントラスが美しかった。

持つと見た目以上に重く、ぎゅっと実が詰まっていることが実感できる「かぼちゃ」。

空と大地の間を磐梯山脈が走る最高のロケーション。思わず深呼吸したくなる。

帰路につく矢澤氏と愛犬ベペ。前方にはたわわに実った身知らず柿。本当に枝が折れそうだった。

ニュージェネレーションホッピング・ピッツェリア&トラットリア フェリーチェ名料理人の腕は世界に通じる最強の武器。

会津産の食材だから使うのではなく、自分が美味しいと思うものを使うようにしていたら、それが会津産の食材だったという矢澤氏。「昔から食べていた身知らず柿なんかにしても、子供の頃は特別美味しいとは思っていませんでした。けれど、料理人になって改めて食べてみて、とても魅力的な食材だと気付いたんです」。

そんな会津の食材について広く知って頂こうと、2018年10月にはかつての修業先である青山の『Ristorante Acqua Pazza』で、日髙良実シェフ総監修のもと、会津にご縁のある5人のシェフとともに1日限りのポップアップディナーを開催。身欠きニシンや会津産馬肉といった食材にイタリアのエスプリが吹き込まれた逸品が供される中、矢澤氏は「つちや農園の亀の尾と松茸のリゾット」と「松本さんの栗の蜂蜜でつくったモンテビアンコ 仁井田本家風」で、多くの方から好評を得ました。

東京とピエモンテ州アルバのひとつ星レストラン『La Ciau del Tornavento』でイタリア料理のみならず、料理人魂を学んだ矢澤氏には、地元である会津に対し歯がゆく思っていることがあります。「会津にはいいものがたくさんあるのに、まだまだ知られていないものが多いんです」。それもあって、いつの日か改めて海外に渡り、世界に向けて発信力を身につけたいとも考えています。「料理ができるって最強の武器を持っているようなものだと思うんです。そんな料理人になったのですから、料理人として意味があることをやっていきたい。僕自身が発信力を持ち、外から会津の食材や文化を伝えていくことができたらと考えています」。

1夜限りのディナーのために、日髙良実シェフ総監修のもと5人の名シェフが集った。(未来氏撮影)。

矢澤氏のドルチェ「松本さんの栗の蜂蜜でつくったモンテビアンコ 仁井田本家風」。仁井田本家とは創業300余年の郡山の蔵元。(未来氏撮影)

住所:〒965-0042  福島県会津若松市大町1-2-55 MAP
電話:0242-36-7666
ピッツェリア&トラットリア フェリーチェ HP:http://www.pizzeria-felice.jp/

料理人としての稼働領域を押し広げ続ける[NEW GENERATION HOPPING・ピッツェリア&トラットリア フェリーチェ/福島県会津若松]

矢澤氏。幼少期から大学を卒業するまでスキーをやっていたという根っからの体育会系。

ニュージェネレーションホッピング・ピッツェリア&トラットリア フェリーチェ立ち働く姿が絵になるオープンキッチン。

本格ナポリピッツァや会津の食材を使った料理が評判の『Pizzeria Felice』。ここで、腕を振るうのはオーナーの矢澤直之氏です。
「根っからのイタリア好きで、この店の内装もイタリア人がナポリピッツァの店を開くために西海岸に渡ったはいいけれど、お金がないので工場を借りてオープンしました、みたいな雰囲気にしたかったんです。会津の大工さんは腕がいいから、思いのほか綺麗になっちゃったんですけど(笑)」。そのコンセプトどおり、店外の喫煙スペースとしてPENZOILのドラム缶を使用するなど随所にイタリアの香りが。最もこだわったのは働く姿が絵になるよう設計されたオープンキッチン。「お客様に料理を味わって頂くだけでなく、料理を作る過程で体験したことや作る楽しさを自分の言葉でお伝えしたくて」と矢澤氏。

信条は「料理が人を楽しくする」。ゆえに、矢澤氏の料理は見た目からしてエネルギッシュ。西会津産の椎茸を丸ごと使ったパスタは、惜しげもなく盛られたカラスミを絡めて頂きます。「この料理の肝は椎茸を切らずにそのまま使うこと。お出汁を閉じ込めることができるので、絶対にその方が美味しいじゃないですか。今回、太めのスパゲットーニを合わせたのは、そんなぷりぷりの椎茸と咀嚼回数を合わせるため。食材同士の咀嚼回数を合わせると味が決まるんです」。椎茸から溢れ出るエキスとカラスミの旨味が合わさり、口の中でパスタと絡み合う。幸せな三位一体に自家栽培の味の濃いイタリアンパセリがいい仕事をしてくれます。

「身知らず柿と生ハムのカプレーゼ仕立て」は食べた瞬間、体内を駆け巡る旨味に身をよじってしまうほど。矢澤氏が「会津特産の身知らず柿は、枝が折れるんじゃないかってぐらい重たい実をたわわにつける身のほど知らずだから、その名がついたといわれています」と教えてくれました。焼酎で渋抜きをした柿は、糖度があるのにシャキシャキとした食感。白和えに柿が使われることにヒントを得たひと品です。「柿の白和えはつぶ貝などで脂分を補いますが、そこは生ハムを使って仕上げにパルミジャーノをふりかけ、イタリアンへと着地させました」

▶詳細は、NEW GENERATION HOPPING MINAMI AIZU/南会津の一年を密着取材! 春夏秋冬を作家と巡り、若き力を発掘する旅へ。

まるで映画の1場面のようなオープンキッチン。カウンターに座れば、美食とともに軽快なトークが楽しめる。

無垢の木を多用した店内。開放的な空間に、ピッツァの香ばしい香りが漂う。

細かな水蒸気が発生する薪で焼くことで、外は香り良くこんがりと、中はもっちりと仕上がる。

ニュージェネレーションホッピング・ピッツェリア&トラットリア フェリーチェ小麦の香りが鼻に抜ける本格ナポリピッツァ。

「今はイタリアンに軸足を置きつつ、和食や日本の文化のいい所もどんどん取り入れたいと思っています。昔は頑なでしたけど」と矢澤氏。引き算の美学や所作に感じるところがあるそうで、各地に足を運んでは伊と和の垣根を超えた料理人との付き合いを広げています。次なるひと皿は、豪快に骨つきで頂く会津地鶏のもも肉のロースト。「三島町産の会津地鶏は旨味が濃く、締めたてを岩塩でマリネして5~6日寝かせてローストしています。必要な旨味を残しつつ余分な水分を出してやると、味が調うんです」。

次に頂いたのはナポリピッツァ。店内で存在感を放つ大きな薪窯は、門外不出の製法が代々伝わるというナポリの工房に出向き、上下をバラして船便で輸送。乾燥のため店内に積み上げられた杉と松の薪を使い、Pizza職人の林添継聖氏がマルゲリータを焼き上げます。外には香ばしい焼き目がつき、中はもっちり。ひと口食べると小麦の香りが鼻に抜け、モッツァレラとトマト、生地の旨味が口の中に広がります。メリハリの利いた塩味も良く、ついワイングラスに手が伸びてしまいます。思わず頬がゆるむ身知らず柿とゴルゴンゾーラのピッツァは、濃厚で雑味のない桧枝岐(南会津郡の村)の蜂蜜をかけることで深みが増します。

最後に頂いた「ロベルタ」は、塩漬けにした豚の頬肉を熟成させたグアンチャーレの薄切りとたっぷりのルッコラがのった1枚。熱々の生地に薄切り肉をのせれば、その熱で透明になった脂がトロトロに。美味しく頂いていると、店外からシャッターを叩く人物がいます。その人から矢澤氏が受け取ったのは、大きなポリ袋いっぱいに入った新鮮なクレソンでした。1本頂くと、シャキシャキと歯ざわりが良く、瑞々しい苦みが口の中に広がります。「今の方は古いお客様で、喜多方の山奥で新鮮なクレソンを取ってきてくださるんです。お返しはパンとビール。物々交換です(笑)」。

3歳の時にはコンロで袋ラーメンを作っていたという矢澤氏。料理への情熱はその頃から!?

かぶりついた瞬間、口中に椎茸のエキスが迸(ほとばし)る「西会津産生しいたけとカラスミのスパゲッティ」2,200円

雪のようにパルミジャーノをふった「身知らず柿と生ハムのカプレーゼ仕立て」1,400円。

鶏のエキスがうつった付け合わせの葱もたまらない「会津地鶏の骨付きモモ肉のロースト(1本)」2,400円。

イタリア産の小麦粉を使用。Pizza職人の林添氏は『Ristorante Acqua Pazza』時代からの仲間。

存在感のあるナポリ製の薪窯。渋い色調のタイルはマダムの未来氏と選んだ。

もっちりジューシーなモッツァレラとフレッシュなトマトソースの「マルゲリータ」1,400円。

「身知らず柿とゴルゴンゾーラチーズ」2,000円。「料理と相性がいいこの柿はリゾットにしても美味しい」と矢澤氏。

「ロベルタ」2,200円はルッコラとトマトがふんだんに乗っているので、見た目以上にさっぱり食べられる。

鬼才ジャン・フランコ・マンカ氏の「パーネヴィーノ」をはじめ、イタリアの自然派ワインを多く取り扱う。

ニュージェネレーションホッピング・ピッツェリア&トラットリア フェリーチェ5ヵ月かけて肥料を作る本気の野菜作り。

『Pizzeria Felice』の料理には自家栽培の野菜も使われています。「畑がある場所は磐梯山が綺麗に見える場所。『あぁ、会津って盆地なんだな』と実感できますよ」と矢澤氏。

そこで、北会津町にある「しぜん村」にお伺いしました。畑を使わせてもらっているおばあちゃんは、若い就農者に「野菜の気持ちになって考えてみろ!」と叱咤激励する頼もしい人。矢澤氏は彼女から秘伝の肥料のレシピも受け継いでいます。胡麻油かすや無農薬のリンゴ、糖蜜などのミネラル分と自家製酵母菌や麹菌など何十種類もの材料を混ぜ込んで完全発酵させた有機肥料は、どこか甘い香り。これらは12月の寒仕込みに始まり、翌年4月にやっと完成します。

手間暇かけて本気の野菜作りを始めてから、実感していることがあると矢澤氏。「日本には四季があって、昔から旬の野菜を食べてきたじゃないですか。それって本当に利にかなっているんですよね。旬の野菜を食べることは、その季節にかかりやすい病気の予防になりますし、環境に負担をかけないで作られた野菜はノンストレスで、エコにもつながります」と言います。そんなお話を伺いながら矢澤氏が育てたルッコラを1枚食べてみると、ふっくらとした葉には弾力があり、噛みちぎると鮮烈な香りと苦みが体内に流れ込んできました。

「しぜん村」のビニールハウス内で色の濃いイタリアンパセリを収穫する矢澤氏。

「ここのところ忙しくて見に来れていなかったんですが、ちゃんと出来てる」と嬉しそう。

なるべく自然の状態で野菜を育むようにしているそうで、草や虫ものびのびしていた。

自家製発酵肥料の良さが直感的にわかるのか、愛犬のベペが肥料を食べようとして矢澤氏にたしなめられていた。

植物の生育に必要なミネラルと菌を土壌に与えてやることで健全な根を張ることができ、深みのある味わいの作物が育つ。

健全な環境で育った作物は色が濃い。このトウガラシも冴えたコントラスが美しかった。

持つと見た目以上に重く、ぎゅっと実が詰まっていることが実感できる「かぼちゃ」。

空と大地の間を磐梯山脈が走る最高のロケーション。思わず深呼吸したくなる。

帰路につく矢澤氏と愛犬ベペ。前方にはたわわに実った身知らず柿。本当に枝が折れそうだった。

ニュージェネレーションホッピング・ピッツェリア&トラットリア フェリーチェ名料理人の腕は世界に通じる最強の武器。

会津産の食材だから使うのではなく、自分が美味しいと思うものを使うようにしていたら、それが会津産の食材だったという矢澤氏。「昔から食べていた身知らず柿なんかにしても、子供の頃は特別美味しいとは思っていませんでした。けれど、料理人になって改めて食べてみて、とても魅力的な食材だと気付いたんです」。

そんな会津の食材について広く知って頂こうと、2018年10月にはかつての修業先である青山の『Ristorante Acqua Pazza』で、日髙良実シェフ総監修のもと、会津にご縁のある5人のシェフとともに1日限りのポップアップディナーを開催。身欠きニシンや会津産馬肉といった食材にイタリアのエスプリが吹き込まれた逸品が供される中、矢澤氏は「つちや農園の亀の尾と松茸のリゾット」と「松本さんの栗の蜂蜜でつくったモンテビアンコ 仁井田本家風」で、多くの方から好評を得ました。

東京とピエモンテ州アルバのひとつ星レストラン『La Ciau del Tornavento』でイタリア料理のみならず、料理人魂を学んだ矢澤氏には、地元である会津に対し歯がゆく思っていることがあります。「会津にはいいものがたくさんあるのに、まだまだ知られていないものが多いんです」。それもあって、いつの日か改めて海外に渡り、世界に向けて発信力を身につけたいとも考えています。「料理ができるって最強の武器を持っているようなものだと思うんです。そんな料理人になったのですから、料理人として意味があることをやっていきたい。僕自身が発信力を持ち、外から会津の食材や文化を伝えていくことができたらと考えています」。

1夜限りのディナーのために、日髙良実シェフ総監修のもと5人の名シェフが集った。(未来氏撮影)。

矢澤氏のドルチェ「松本さんの栗の蜂蜜でつくったモンテビアンコ 仁井田本家風」。仁井田本家とは創業300余年の郡山の蔵元。(未来氏撮影)

住所:〒965-0042  福島県会津若松市大町1-2-55 MAP
電話:0242-36-7666
ピッツェリア&トラットリア フェリーチェ HP:http://www.pizzeria-felice.jp/

店主偏愛の酒で旅人を癒す。[NEW GENERATION HOPPING・時さえ忘れて/福島県会津若松市]

ハンドドリップでコーヒーを淹れる鈴木氏。

ニュージェネレーションホッピング・時さえ忘れて何もないようで、何でもある場所で。

ホテルに荷物を置いてふらっと立ち寄り、アンダーな照明の中カウンター席でホッとひと息──。旅先で素の自分に戻れる場所があれば、そこはやがて第二、第三の故郷と呼びたくなる場所へと変わっていくのではないでしょうか。ジャズの名曲『時さえ忘れて』を店名に冠したこちらは、そんな風に肩の力を抜いて寛ぎたい空間です。

場所は会津若松市役所のすぐそばにある雑居ビルの2階。看板はありません。赤いカーペットが貼られた階段をのぼると、小さな椅子に立てかけられた黒板に「OPEN」の文字。アーチ状の扉を開けると、そこが『時さえ忘れて』です。店主は鈴木啓介氏。会津若松で生まれ、10年ほど東京で働いた後にUターン。そのきっかけは?と取材班がたずねると、鈴木氏は「盆暮れ正月だけでなく、もっと家族と一緒にいたいと思ったんです。一度戻ってきてみると食べ物は美味しいし、面白い人は多いし、歴史や文化に恵まれた場所なんだと改めて思いまして。『ここには何もない』と言う人もいますが、視点を変えれば都会にはないものがいくつもあるんですよね。もう(都会に)出ようとは思わないです」と答えてくれました。店を構えて、もうすぐ4年になろうとしています。

東京では酒舗や飲食店に勤めていたという鈴木氏。そこでハードリカーについて学び、地元に帰ってからは「会津娘」の蔵元・高橋庄作酒造店にて醸造を学びました。会津鉄道の門田(もんでん)駅にほど近いこちらは、「土産土法」(地元・会津の米と水を使い、土地の人が土地の手法で酒造りを行うという造語)に誠実に取り組んでいる蔵元です。そもそも、お酒関連の仕事に就こうと思ったきっかけは何だったのでしょう? 「もともとあまり社交的な人間ではなかったのですが、大学時代にアルバイトをしていた居酒屋でいろんな人と話すのが楽しくなって。親にも驚かれたぐらいです。『お前が接客やってるのか?』って」と鈴木氏は話します。

▶詳細は、NEW GENERATION HOPPING MINAMI AIZU/南会津の一年を密着取材! 春夏秋冬を作家と巡り、若き力を発掘する旅へ。

ちょっと妖しい階段をのぼると、かわいらしいアーチ状の扉が表れる。元はスナックだった

ゆったり配されたテーブルが心地いい店内。しかし、特等席はカウンターだ。

ニュージェネレーションホッピング・時さえ忘れてクラフトビールと、冷めても美味しい燗酒と。

カウンター席に座り、何気なく右手を見ると、冷蔵庫に直接取りつけられた3つのタップが目に入りました。「ドリルを使って自分で冷蔵庫に穴を開けました」と言う鈴木氏。それもこれも、縁あって扱うことになったという6社のクラフトビールをベストな状態で飲んでもらいたいという思いから。京都醸造のものを中心に、その都度入れ替えつつ提供しているという、各社の手仕事が息づくクラフトビール。この日のラインナップは京都醸造の限定醸造シリーズ「荷下夫の一息」とシーズナル商品の「秋の気まぐれ」、北海道は上富良野にある忽布古丹(ほっぷこたん)醸造の「早に雨」でした。

鈴木氏がクラフトビールに目覚めたのは、味はもちろん目に見えない力があると思うからだそうです。「クラフトビールが飲める場に足を運ぶと、老いも若きもみんな楽しそうなんですよね。クラフトビールにはコミュニティを形成する力があると思うんです」と鈴木氏は話します。鈴木氏がクラフトビールと同じくコミュニティをつくりだす力があると考えているのがコーヒーです。そこで、信頼を寄せるロースター「Lover’s coffee」から豆を仕入れ、丁寧にハンドドリップで提供。取材中に淹れて頂いた1杯は、「今この時間をコーヒーブレイクと呼びたい」と思えるものでした。

もちろん、日本酒にもこだわりがあるそうです。「酒器で味が変わりますから」と言う鈴木氏が使うのは、会津本郷焼の「草春窯 工房 爽」の白磁。シンプルでありながら美しいラインで、口にあたった時の滑らかさが気持ちいい酒器です。ここでお燗を頼むと、何やら鈴木氏が軍手をつけ始めました。実はこちらでは湯煎ではなく、徳利(とっくり)を蒸気にあてて均一に温度を上げていく蒸し燗での提供となるのです。試しに湯煎の燗酒(かんざけ)と蒸し燗酒の飲み比べをさせて頂くと、蒸し燗酒の方がカドのない滑らかな飲み口で、味にも膨らみがあると感じました。冷めても味が崩れないのも嬉しいところです。

美味しくクラフトビールを飲んでもらうために自ら業務用冷蔵庫に穴をあけた。

京都醸造の「秋の気まぐれ」290ml 850円、400ml 1,150円、580ml 1,600円とサイズが選べる。

ドイツの気鋭ボトラー「ザ・ウイスキー・エージェンシー」のプライベートストックなど希少なウイスキーも。

名古屋の名居酒屋『大甚』の燗酒の旨さに感銘を受けた白隠正宗(はくいんまさむね)の杜氏(とうじ)によるセミナーにて学んだ蒸し燗。

ニュージェネレーションホッピング・時さえ忘れて店主の好きなものを詰め込んだセレクトショップ。

「言ってしまえば、ウチはセレクトショップのようなもの」と鈴木氏。ワインはなるべくナチュラルなものを揃え、ウイスキーはシングルカスク・ヴィンテージを中心にスピリッツも少々。おつまみは自家製食パンとミックスナッツのみで、氷を入れず、全ての材料を冷やして作る「だるまハイボール」や自家製生姜漬けウォッカを使った辛口モスコミュールも人気です。全てのお酒の根底にある「自分が美味しいと思う酒を、美味しく飲んでもらいたい」という鈴木氏の想いが、居心地の良さを加速させます。「会津って本当に酒が好きな人が多いんです。土地柄のポテンシャルがあるからこそ、ウチのようなお店がやっていけるんでしょうね」と鈴木氏は話します。

美味しいお酒で心がほぐれてくると、目に入るもの全てが気になってきます。例えば、レトロな足踏みミシンとドライフラワー、ワインの木箱に入った写真集に窓辺に置かれたヘンリー・D・ソローの『森の生活』、猿が畑からスイカを盗みだす瞬間をイラストにおこしたTシャツ……。ここにいると、ひとつのものをきっかけに、数珠つなぎに話の輪が広がっていきます。

会津若松には洒落た花屋も多い。最近オープンした近所の花屋で仕入れた花をご自身でドライに仕立てた。

イベントを通して、ここを訪れて。さまざまな入口から、酒に携わる人々がここに吸い寄せられてくる。

ニュージェネレーションホッピング・時さえ忘れて経絡のようにつながる人と人、人と酒。

「場所をひとつ構えることで、飲食物を出すのみならず、人と人がつながっていくのが面白い」と鈴木氏。経絡のように有機的につながるそれらの輪は少しずつ拡大傾向にあるようで、店内にはカリフォルニアで日本酒を造っているというアメリカ人や写真家のサインが躍ります。最近は西会津のアーティストやゲストハウスと共同主催でイベントを開催。「上野尻(かみのじり)に行列ができた!」と周囲の人が驚くぐらいの集客で、中には新潟や白河から訪れた人もいたそうです。

「東京に住んでいた頃は、『自分が住む街がこうなってほしい』なんて考えたこともありませんでした。だけど、こっちに帰ってきてからは、僕らの世代でがんばっている個人経営の店が気になって。みんな本当にいいものを提供しようと一生懸命だし、そういうお店が根付く町になればいいなとか、そこでの自分の役割は?とか、そういうことを考えるようになってきたんです。それで、都会に出ていた人が会津に帰ってきた時、『地元も捨てたもんじゃないな』と、誰かの希望につながれば」と鈴木氏は語ります。淡々とした口調ながら熱量は高め。自分の好きなものにまっすぐな鈴木氏が作りだす空間で1杯飲めば、その酒はいつもより深く心に沁みるはずです。

「例えば『植木屋商店』の白井さんみたいな先輩がいてくださるのはとても励みになります」と鈴木氏。

住所:〒965-0871 福島県会津若松市栄町1-40 2F MAP
電話:0242-22-0530
時さえ忘れて HP:https://savannaparty.wixsite.com/tokisaewasurete