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打ち上げ花火で終わらないために。祭りのあとの浅虫に、遺されたもの、変わったこと。[DINIG OUT AOMORI-ASAMUSHI with LEXUS/青森県青森市]
ダイニングアウト青森浅虫課題も抱える北の温泉街、その変化と今後の目標とは。
2019年7月に開催された『DINING OUT AOMORI-ASAMUSHI with LEXUS』。青森の豊かな海の幸を、魚介フレンチのスペシャリト・目黒浩太郎シェフが類まれなセンスで伝えた2夜限りの晩餐は、いつまでも鳴り止まぬ拍手とともに幕を下ろしました。
もちろんこの成功は、目黒シェフの料理だけではなく、青森の食材や浅虫温泉という土地の魅力、地元スタッフの連携などさまざまな要素の結果。そして終演後、誇りに満ちた晴れやかな顔の地元スタッフを見るにつけ、この『DINING OUT』がひとときの盛り上がりではなく、地元を変える第一歩となるであろうことを確信するのです。
そう、『DINING OUT』の理念は、地域に眠る魅力を掘り起こし、そこに新たな価値を創出すること。晩餐の終盤に陸奥湾に上がった打ち上げ花火のようにただ消えていくのではなく、今後も継続的に地元が発展する、そのきっかけとなることを目指しているのです。
地元住民の熱意はあるものの、全国の多くの温泉地と同様に、数々の課題も抱える浅虫温泉。では今回の『DINING OUT』は浅虫に何を残し、浅虫はどう変わっていくのでしょうか?
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ダイニングアウト青森浅虫地域に根付いた見えざる絆。それこそが最大の収穫。
浅虫温泉は、陸奥湾に沿って弓状に伸びる海岸線に10軒ほどの温泉旅館が連なる小さな温泉街。しかし娯楽施設や土産物売り場を併設した大型の旅館が多く、別の旅館で働くスタッフ同士の繋がりは生まれにくい状況でした。
しかし、『DINING OUT』に参加し、同じ目標に向けて邁進したスタッフ同士は、もはや仲間。サービススタッフとして参加したある旅館の番頭さんは「顔は知っているけど話したことがない方々と知り合うことができました。これは街の活気に繋がる財産だと思います」と話しました。キッチンスタッフとして腕を振るった板前さんも「料理人同士で意見交換できるようになったことが、想像以上の収穫です」と言います。
過去の『DINING OUT』においても、この“参加した地元スタッフの交流”が大きな効果を生んでいます。なかには知り合ったスタッフ同士が声を上げ、地元だけの力で行う野外レストランイベントが開催されることも。数夜限りの『DINING OUT』ですが、そこで生まれた絆は、変わることなく地元に残されるものなのでしょう。
ダイニングアウト青森浅虫晩餐の会場を、今後も続く新たな観光名所に。
今回の『DINING OUT』が残したものは、目に見えないスタッフの絆ばかりではありませんでした。形として浅虫に残り、これからも続くもの。そのひとつが、今回の晩餐に使用された会場です。
過去15回開催された『DINING OUT』ですが、その多くの舞台は史跡や名勝が使用されました。本来食事をする場所ではなく、しかしその土地を象徴するような会場。そこで楽しむディナーだからこそ、特別な時間を演出し、その地の魅力を改めて伝えるのです。
そして今回の会場に選ばれたのは浅虫温泉の高台に建つ陸奥護国寺でした。起源をたどれば鎌倉時代中期にまで遡る歴史ある密教寺院の境内が、晩餐の会場です。しかも今回は、ただ機材を運び込むだけではありません。生い茂る木々が視界を遮り、凹凸のある地面は足を取る。そこで、ご住職の理解を得たうえで、この地を手入れし、今後も地元の名所となるような展望を蘇らせたのです。
会場を作り出すために現場に手を入れることは、『DINING OUT』で初めての試みです。イベントのために土地に手を入れることに、賛否はあるかもしれません。しかし手入れをして今後も継続的に使用される場所を生み出すことに、未来への希望を託しました。同時に「あじさい募金」を発足し、この会場への道に咲く美しいあじさいを守り、さらに増やす試みも始められています。現在はまだ小さな活動ですが、やがてこのあじさいの小径が浅虫を代表する名所となり、またこの会場が浅虫の消えない情熱の象徴となることを目指して。
ダイニングアウト青森浅虫浅虫の財産を活かすために、シェフから手渡された朝食のレシピ。
「浅虫は、なまじ素材が良いものだから、手間をかけた料理が少ないのかもしれません。そのまま刺身にすれば十分おいしいわけですからね」とある老舗旅館の旦那は、そう話しました。たしかに目の前に広がる陸奥湾の恵みは四季折々。鮮度抜群で豊富な魚があれば、凝った料理は不要なのかもしれません。しかし温泉という非日常に踏み入れたゲストにとって、「食」が印象を左右する重大な要素であることも事実。そんな浅虫温泉に、目黒シェフから贈り物がありました。それは陸奥湾の魚介をシェフのアイデアでアレンジする朝食のレシピです。
その料理は、青森でよく食べられる山菜であるミズを細かく刻み、同じく刻んだアジの刺身や薬味とともに貝のスープと合わせる冷たい魚介スープ。魚や野菜を入れ替えれば通年作ることが可能で、さっぱりとした中に魚介の旨味がしっかりと詰まった浅虫の朝食にふさわしい一品です。見えないところに手間暇をかけることで、さらに輝く陸奥湾の魚介。あまりに近くにあり過ぎて、地元の人は気づかなかった財産に改めて気づいてほしい。そんなメッセージを込めた、シェフからの贈り物でした。
このレシピを伝える場には、各旅館の大女将や社長も参加。もちろん旅館ごとに置かれる状況は異なり、そのままのレシピで提供し続けることは難しいかもしれません。しかし、目黒シェフの思いはしっかりと伝わった様子。「素晴らしいシェフが、浅虫のために考えてくれた料理。これをこれから変わっていくきっかけにしないとね」とある女将のそんな言葉が印象的でした。
1985 年、神奈川県生まれ。祖父は和食の料理人、母は栄養士とい う環境で育つ中で自然と料理人を志す。服部栄養専門学校を卒業後、 都内複数の店で修業後、渡仏。フランス最大の港町マルセイユのミシ ュラン三ツ星店「Le Petit Nice」へ入店し、魚介に特化した素材の 扱いやフランス料理の技術を習得。帰国後には日本を代表する名店 「カンテサンス」にて、ガストロノミーの基礎ともなる、食材の最適 調理や火入れなどさらに研鑽を積んだ。2015 年、「abysse」をオープ ン。日本で獲れる世界トップクラスの魚介類を使用し、魚介に特化し たフランス料理を提供し、ミシュラン東京では一つ星を獲得している。
abysse HP:https://abysse.jp/


