紀寺の家自然と生きる。自然に生きる。
奈良には、自然が溢れています。『紀寺の家』からゆっくりとそれを目指すに連れ、町の風景から樹々の風景へと変化し、徐々に人の気配は消えてゆきます。中には1000年以上、地に根を張り続ける木のある森もあり、そこに身を置けば、人類の無力ささえ感じます。
また、霧や靄をまとった自然の姿は、生命力にみなぎり、野生を感じさせます。真の自然とは、ただ優しく、美しいだけではありません。時に狂気も孕みながら、神聖なる領域を維持しているのだと思います。
大地があり、種が落ち、芽生え、雨によって水を蓄え、植物は育ち、やがて森や林、山を作る。環境が備われば、生き物も暮らし、そこには生態系が創造されます。ただただ、圧倒されつつ、私たち人間はこの場所から生まれた恵みをいただいているのだと気付きます。
『紀寺の家』では田んぼを借り、苗から育てたお米でごはんを炊いています。苗は、山々から湧き出る水によって育ちます。私たち人間は、それを体内に取り入れます。自然に生かされているのです。日々の忙しさに感け、そんな当たり前を忘れてしまいがちですが、決して、当たり前は当たり前ではありません。
自然と生きるとは何か。自然に生きるとは何か。技術やテクノロジーが進化し続けるからこそ、考えなければいけないことだと思います。人類の本当の進化は、いつの時代も創造力から生まれていると信じているからです。
紀寺の家見えるものではなく、見えないことを知る。
奈良には数々の伝統行事があります。中には、1000年以上前より続くものもあり、その行事を知ることは、町の歴史や文化を知ることにもつながります。
日本各地に著名な行事は数多くありますが、ただ見るだけで終えてはいけないと思います。そこに深く根付いた理由や源に触れることに意味があると考えるからです。残り続けているからには、何か大切なメッセージが隠されているはずです。なぜ、なくしてはいけないのか。なぜ、なくならなかったのか。なぜ、想うのか、祈るのか、願うのか。
見えるものではなく、見えないことに本質は潜んでいます。創造力を膨らませ、考え続けるからこそ、応えが見つかるのだと思います。
紀寺の家ものの命は、人の命よりも長い。
『紀寺の家』は、100年余の歴史を刻む建物です。5棟の町家群を修復したそこには、独特の時間が流れていると思います。その理由を少し考えてみました。
修復するという行為は、実は、非常に時間と手間がかかります。いっそのこと、解体し、建て直してしまった方が効率良く建築物はできてしまいます。しかし、『紀寺の家』は、古き良き建物を残す活動を続けています。なぜなら、そうやってこれまでも誰かが守ってきたからです。
建物を残すということは、風景を残すことにつながると思います。それを先人たちが成してくれたおかげで、時空を超えた奈良町の邂逅体験を現代に与えてくれました。
『紀寺の家』では、長きにわたり生き続けている建物の呼吸を感じていただけると思います。使い込まれた床、撓んだ木材、圧倒的存在を放つ梁……。経年による老いは、深みを増し、美しい空間を形成しています。つまり、ここには、100年前の時間が残っているのです。
いつか、私たち人間は死を迎えてしまいます。しかし、建物は、その後も生き続けていくでしょう。『紀寺の家』がこれからできることは何か。それは、正しい人に正しくこの建物を引き継いでいくことです。
これから先、この建物には、どんな未来が待っているのだろうか。未来を創造するということは、過去を振り返るきっかけにもなるのです。そんな両輪的発想から何が生まれるのか。
ものの命は、人の命よりも長いです。100年後も『紀寺の家』が建つ奈良町の風景を創造しながら、今日もまたお客様をお迎えしています。そして、ほんの少しでも「創造的休暇」を感じるようなことがあれば、是非、『紀寺の家』の方々に教えてあげていただければと思います。
紀寺の家灯の数だけ、暮らしがある。
奈良町には、古い民家が建ち並ぶ風景が今なお残っています。旧市街地ゆえ、夜になると暗さが際立ちますが、それによって存在感を増すのが灯です。
路地に建ち並ぶ民家からこぼれ落ちる灯は、古き良き奈良町の風景だと思っています。
灯の数だけ暮らしがある。
灯の数だけ家庭がある。
灯の数だけおいしいごはんがある。
灯は創造力を掻き立てます。
風景は、心の奥にあった記憶を手繰り寄せてくれます。ある日、そんなことに想いを馳せながら散歩をしてみると、突如現れる異質な空間も愛おしく感じました。さらに歩を進めると、足元に百日紅。目の上に咲く花の美しさもあれば、散る美しさもある。
視点を変えれば、いつもの風景が全く違うものに映るかもしれません。
住所:奈良県奈良市紀寺町779 MAP
TEL:0742-25-5500(受付時間9:00~19:00)
http://machiyado.com
Photographs:HARUHI OKUYAMA
Text:YUICHI KURAMOCHI
