国宝松本城チャリティーガラディナー 語られなかった物語。だが、知るべき真実。
「Delicious Journeys in Matsumoto」の終盤、風景に彩りを添えたのは、花人・赤井 勝氏です。完成した作品は実にダイナミックで華やか。客席側からは、ライトアップされた作品を背景に「国宝 松本城」がそびえ立ち、圧巻の景色を創造しました。しかし、前記事同様、ここにも光と影が存在しており、その影を知る人は少ない。影とは、作品の基礎となったカラマツです。
松本に限らず、信州長野は、多くのカラマツが植林されています。樹齢は約70年。戦後に植えられ、当初は40年ほどで伐採し、その利用目的は土木用の資材でした。しかし、時代は変わり、鉄筋コンクリートの建物の乱立によって木造建築は激減。カラマツは放置。自生したものではなく、人が植林したもののため、人が解決すべき問題。それに約20年向き合い続けているのが、カラマツをはじめとした針葉樹などで家具やプロダクトを作る「アトリエ・エムフォオ」前田大作氏です。
「針葉樹というサステナブルな素材が日本の伝統工藝の文化によってラグジュアリーなプロダクトに変貌することに挑戦を続けてきました。持続可能な世界が決して単調ではなく人の活動で多様に輝けることの魅力を世界へ発信し共有したいと考えています。日本の木工家業を継ぎ、針葉樹を生かす文化を身につけた意味を、その使命と役割を、この数年で強く感じています」。
実は、カラマツは家具には不向きな材。老木であれば、目が詰まり、適用できますが、樹齢サイクルが40年程度になればより理想的。「若いカラマツは家具製作には不向きですが、そこに挑戦し、循環を作っていきたい」と言葉を続けます。
人の都合でもの作りをするのではなく、カラマツの成長に合わせてもの作りをする。それはなぜか。繰り返しですが、人が植えたものだから。足りないものや不便は、人の技術や知恵で補う。それが定め。しかし、カラマツにはちゃんと価値がある。その好例は、「伊勢神宮」に見られます。式年遷宮では20年に1度神殿を新築する営みが1300年もの間繰り返され続けおり、これは、成長の早い針葉樹だから実現できる持続的な営み。
「この地域に生息するカラマツの現状を知って欲しかった」。
そんな話を伺い、カラマツに新たな魂を吹き込んだのは赤井氏です。
国宝松本城チャリティーガラディナー 命に関わるもの同士の共鳴。この人が言うことは信じる。
「若いころは、どうすれば美しくなるか。どうすれば面白くなるか。そんな表現をしていました。ですが、年齢も重ね、様々な時代を経て、出会いに重きを置くようになりました」と赤井氏は話します。
出会いとは、花や植物、自然はもちろん、人、地域、もの、こと、食、風景など様々。花材だけでなく、その出会いも見えない材となり、創造力を掻き立てるのかもしれません。
「様々な出会いの中でも人との出会いは特別。なぜなら、声を聞くことができるから。それによって、魅力を感じ、興味が湧く。初めて前田さんにお会いした時、もの作りをしている人だって、すぐにわかりました。いつもであれば、こちらからリクエストすることもあるんですが、今回は、すべてお任せ。前田さんが用意してくれるカラマツなら自分は良い表現ができる、そう思いました」。
長く前田氏はカラマツを見続けているため、「主観的になってしまう自分を危惧している」と話していました。ゆえに、「客観的に見る赤井さんにカラマツがどう映るのか。ここに不安と期待がありました」。前述の赤井氏の言葉を聞き、前田氏は、外の世界との目線合わせも確認できたのではないでしょうか。そして、今回のコラボレーションによって、確認は自信にも繋がったのではないでしょうか。それは、赤井氏がゲストに作品を発表するときに発した一言に表れています。
「今回のメインの花材は、カラマツです」。
「Delicious Journeys in Matsumoto」に彩りを添えた作品は、ただ美しいだけではなく、そんなふたりの想いが込められているのです。海がない信州長野においては、「海を守るために山を守る」ではなく、「川を守るために山を守る」。その逆もまた然り。山々の恵みと林業は、運命共同体。カラマツを通して、食は林業と向き合えるか。これは、今を生きる我々にとって、思案すべき重要なテーマなのではないでしょうか。
「カラマツ利用の魅力は、針葉樹を植えてきた日本の民族の魅力だと思っています。それを誇りにしたい」と前田氏。
「前田さんと話していると、この人の言うことを信じれば必ず良い表現ができる。そう思っていました」と赤井氏。それはなぜか。
「“人”の“言”を“信”じる州、信州。そんな前田さんの言葉だから」。
Photographs:YOICHIRO KIKUCHI
Text:YUICHI KURAMOCHI
