IoT導入事例ファイル3: 安価にIoT化を実現できるビーコンと4社の事例

こんにちは、AI・IoTの活用事例を集めている盛岡在住ライターの宮田文机です。2019年ももう終わりですね。今年は、AI・IoT元年といわれた2017年から2年経ち、本格的に導入を検討する企業が大きく増加した年といえるでしょう。他社に乗り遅れないため工場のIoT化を推し進めたいという需要もどんどん高まっているのではないでしょうか?

中小企業に役立つAI・IoTの導入事例を紹介するこの連載。第三回となる今回は「ビーコン(Beacon)」を使った工場のIoT化事例をご紹介します。

誰もが知るツールとはいえないため、まずはその基礎知識をご説明しましょう。

ビーコン(Beacon)とは?

ビーコン(Beacon)は“Bluetoothの無線通信技術を利用した位置特定・情報通信技術”です。消費電力が非常に小さいBLE(Bluetooth Low Energy)が開発され、2013年にApple社が独自のBLEであるiBeaconがリリースされてから大きく注目を集めました。ビーコン発信機と受信機が通信することで、発信機の位置を特定したり情報を送信したりすることが可能です。しかも数百円~数千円と非常に安価に手に入れることができ、ほとんどの場合BLEが用いられているため少ない電力で使えます。

位置情報を特定する技術としてGPSを思い浮かべる方もいるでしょう。GPSは通信に人工衛星を用いますが、ビーコンは手のひらサイズの機械で位置情報をやりとりします。そのため情報通信が出来る範囲は数メートルから数百メートルと狭くなりますが、その分省電力・安価で正確に位置情報を把握することが出来ます。さらに発信機と受信機のやり取りで完結するため地下や屋内でもスムーズに通信を行わせることが可能です。

ビーコンは商業施設でのキャンペーン通知や雪崩時の捜索などさまざまな用途で用いられています。そして、製造業の現場でも生産性向上やムダの削減に大きく貢献しています。

実際の事例を見てみましょう。

事例1:台車の位置情報を把握しムダを削減した株式会社三松

建築部品や精密加工機械部品など幅広い機械装置の組立てを行う九州の株式会社三松。同社が課題として抱えていたのが、“台車の紛失問題”。顧客企業に組み立てた製品を納品する際に用いた台車が返ってこない事態が多数起こっていたのです。また見つからない台車を探す時間も生産性を下げる要因となっていました。

そこで導入したのが「ビーコンで各台車の位置情報を把握するシステム」。台車にビーコンを取り付けることで工場内マップ上で各台車の位置を一覧することを可能にしました。台車の紛失問題が解決されただけでなく、探す時間が不要になったことで業務効率が改善され、年間約3%の工数削減につながったといいます。

事例2:織機の稼働状況を可視化した丸井織物株式会社

石川県能登町の繊維メーカー丸井織物は積極的なIoT活用により、コストを押さえつつ幅広いニーズに応えることを可能にしています。丸井織物が活用するのが前述のiBeacon。織機にセンサーを取り付けることで、職員がiPod touchを近づけた際に稼働情報を読み取れるようにしました。その結果、不具合が起きても簡単に原因を特定し記録をすることができるようになったということです。

センサーは後付けでメーターや動きから情報を取得できるため、旧式の機械にも対応可能。メンテナンスの精度向上や生産性アップにつながっているということです。

事例3:位置情報で進捗や工数把握を実現したケーアイ工業

静岡県富士市にて金属加工に携わる60名規模のケーアイ工業株式会社。同社はビーコンで作業指示書の位置情報を得ることで工場の進捗や正確な工数まで把握できるようにしました。

その仕組みは製品・部品とともに作業指示書が工場内を移動することで成り立っています。作業指示書の位置が移動するということは、その前の工作機械による作業が完了したということです。すなわち、移動したということは作業が進んだということであり、各移動の間の時間を計測すれば正確な工数も把握することができます。結果としてデータを基にカイゼンの議論が行えるようになり、作業者の意識も高まったそうです。

事例4:出荷の効率をビーコンタグで高めたネスレ日本

最後はネスカフェやキットカットで知られるネスレ日本の事例です。ここでビーコンは製品の積み込みを行うトラックの位置情報・ステータスを可視化し、出荷の効率を高める役割を発揮しました。

ドライバーがトラックの待機場に到達した段階で行き先、車体ナンバーやドライバーの連絡先といった情報がビーコンタグに登録されドライバーに手渡されます。ビーコンタグを使えば、それらの情報とともに位置がわかるため「どこ行きのトラックがいつどこにいるか」工場側で簡単に把握できるように。次に来るトラックの行き先に合わせて出荷準備を行い、ベストなタイミングでドライバーを呼び出す仕組みが整いました。

同社の計測によると、システム導入以前/以後でトラックドライバーの拘束時間に約30%の違いが生じたそうです。

まとめ

製造現場のIoT化を安価に実現できるビーコンの概要と活用事例についてご紹介しました。

モノの位置情報を把握できる機能だけでも多様な活用法があり、記事中で紹介したように進捗把握や効率アップにつなげることができます。これまであまり目を向けてこなかった方も、ビーコンを使ってムダや非効率を改善できないか一度考えてみてください。

IoT導入事例ファイル2: データ活用が工場や人、品質に効果をもたらした6社の事例

こんにちは、製造業のデジタル化を応援するライターの宮田文机です。

近年のデジタル化のキーワードの一つとして挙げられるのが「データ活用」。プロセス改善やトレーサビリティ(追跡可能性)の確保に生かすべく、ものづくりの現場におけるデータ活用推進は年々進められています。

IoT導入事例ファイル第二回では、データ活用を実地した企業6社の例をご紹介。

一口にデータ活用といってもその内容は生産性向上、品質向上、在庫状況の把握など多種多様です。

温度データを品質管理に活用する東京鋳造所

群馬県高崎市でアルミの金型鋳造に従事する30~40名規模の東京鋳造所。1929年創業と長い歴史を誇る同社は2020年の東京オリンピックを目標に工場のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める「VISION2020」を掲げ、その一環としてデータ計測による品質管理を開始しました。

まずは鋳造に用いる金型に8本の熱電対を設置して温度をリアルタイムで測定。最も安定して高品質な製品を生産できる温度バランスを探ったそうです。そうして導き出したベストな管理データを活用することでロボットに自動で品質管理を行わせることが可能に。さらに、同社の海外進出の際、日本で得られたデータを共有することで、スムーズに同品質の製品を生み出せる環境が整ったといいます。

データを生産管理の効率化とコスト削減につなげた長島鋳物

長島鋳物は埼玉県川口市にてマンホール蓋枠製造に携わるものづくり企業です。近年特に多様化が進んでいるマンホール。必然的に多品種少量生産となり、管理コストが高まっていました。そこで同社が着手したのが鋳造工程のIoT化。

製品ごとに異なる材料の量や冷却に必要な時間、鋳造の進み具合などのデータを電気炉と注湯機に新設したセンサーから取得し、タブレットなどでリアルタイム把握できる環境を構築。さらに適切な炉内温度を測定することで10%の電気代削減にもつなげることができたそうです。

なお、同社工場のIoT化にかかったコストは一般社団法人環境共創イニシアチブが運営する「地域工場・中小企業等の省エネルギー設備導入補助金」によって賄われました。こうした公的補助は中小企業のIoT化の大きな味方です。

「人」のデータを生かして適材適所を実現する今橋製作所

茨城県日立市で発電機部品、自動車部品、医療機器部品、宇宙機器部品、半導体製造装置部品などの切削加工に取り組んでいる今橋製作所。緻密かつ高度な加工が求められる部品の製造を行うものづくり企業であり、その分工員の熟練や適性が重視されます。

そんな同社が実施しているのは“データ活用で従業員を適切に配置し活躍を後押しすること”。工員の思考力やストレス耐性、機器の使いこなしといった個人特性をコンサルティング会社と協力してデータ化。適切な配置やメンタルケア、離職防止に生かしています。

採用市場における人手不足は今後も続くことが予測されます。機器や設備だけでなく「人」のデータも生かすことで生産性向上や働き方改革といった大目標につなげられるでしょう。

クラウド経由で在庫データを把握する山田木管工業所

続いての先進企業は、岐阜県山県市の山田木管工業所。

手ぬぐい額などのオリジナル額縁やモダン神棚、四方框扉(しほうかまちとびら)といった木造りの温かみのある製品を生み出す企業です。同社では、在庫状況の把握をデータによって効率化しました。

具体的には、商品バーコードをスマホで読み取ることで、クラウドサービスを通して在庫数や最低在庫切れ、製造の優先順位などを把握できるシステムを構築。それまで完成品置き場まで移動して在庫状況を確認していた手間がなくなり、業務効率が非常に高まったといいます。

同社の取り組みは経済産業省が後押しする「スマートものづくり応援隊」の協力を受けて実施されました。

情報管理の手間を減らし短納期で他社に差をつける山口製作所

自動車関連部品やPCヒンジ関連部品のプレス加工・組立を行う新潟県小千谷市の山口製作所。同社は工場のIT化にいち早く取り組み、他社と比較して7~8割の短納期生産を可能にしています。そのスピードを支えているのはマイクロソフト社のAccessをベースに独自開発した生産管理システムと、中小企業庁の「ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金」を利用して導入したデータ収集型機械制御システム。

製品データを一つのシステムに統合することで情報を呼び出す手間を削減でき、さらに工場の稼働状況を顧客に開示することでトレーサビリティにも寄与しました。同工場のデジタル化は生産性を約3倍向上させたというデータも出ているそうです。

データの共有で「人」をつなげる今野製作所

最後はIoTで設備と人をつないだ工場の事例をみてみましょう。東京都足立区に本社を構え、油圧機器・板金加工・エンジニアリング&サービス・福祉機器の4事業を展開する今野製作所です。

同社はリーマンショックによる業績低下を契機に、業務フローの改善に着手。引き合い・受注・生産・在庫状況にまつわるデータをほぼリアルタイムで全社的に共有できるシステムを構築し、従業員全員が一丸となって目標達成に取り組める環境を整えました。結果としてある製品の受注売り上げは約5倍になるといった成果が得られたそうです。

今野製作所はこの成功体験を生かし、自社内だけでなく他社との協業もIoTで実現することに取り組みました。西川精機製作所とエー・アイ・エスの2社と共同で運営する「東京町工場 ものづくりのワ」での情報共有やノウハウ蓄積にも同社が構築したシステムが生かされています。

まとめ

品質管理、コスト削減、人材配置、情報管理、トレーサビリティ確保、情報共有……、ものづくりに「データ活用」の考え方を取り入れることで生かされるポイントは枚挙にいとまがありません。

実際近年データ活用に対する意識は製造業全体で高まっており、2015年から2016年で「生産プロセスにおいて何らかのデータ収集を行っている」と経済産業省に回答した企業は大企業で20%、中小企業で26%増加しました。

多くの企業が次に進むべきは、データ収集からデータ活用のフェーズです。そのために本記事の事例をぜひ参考にしてください。