嘘がないから、アスリートは影響力を高めているのだと思う エディターズレター(2020年9月29日配信分)

※この記事は2020年9月29日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから

嘘がないから、アスリートは影響力を高めているのだと思う

 大坂なおみ選手の行動やメッセージ発信がたびたび話題になっていますね。私もインスタグラムをフォローしており、新しい写真が上がるたびに「応援しています!」と心でつぶやきながら「いいね」を押しています。BLMのスローガンを記したTシャツ姿で登場したり、犠牲者の名前を書いたマスクを連日着用して勝ち続けたりと、人種差別に対する抗議を堂々と発信する姿は時に批判の対象にもなっていますが、それ以上にポジティブなムーブメントを起こしています。自身の影響力の大きさを十二分に理解した上で、起こす行動を尊敬します。

 アスリートの社会的な影響力は年々高まっているように見えます。もちろん、以前からトップアスリートが着用するシューズやウエアはマーケットを盛り上げてきましたが、今はマーケットにとどまらず、一般の人たちの行動に影響を与えるアクティビストとしての側面が強まっていると思います。

 なぜだろう?それは彼らの仕事に「嘘がないから」だと私は思います。彼らの仕事は言うまでもなくスポーツです。鍛え上げ、全力の姿を見せ続け、そして勝ち続けること。その結果があってこそ、言葉に説得力が生まれます。嘘などつきようがない、実に過酷な世界ですよね。でもだからこそ、フェイクニュースが溢れて何が本当か見えにくかったり、耳に刺激的な強い言葉だけが先行したりする今の世の中で、彼らの言葉は信頼され、ファンはヒーローと同じものを自分も身につけたいと思うのでしょう。

 大坂選手が全米オープンで優勝した直後に「ナイキ」がインスタグラムの「NIKEWOMEN」というアカウントで出したお祝いメッセージがよかった。

 「You won on your own, but you played for many.」
 「あなたは独力で勝利をつかんだ。大勢のために闘いながら」

 嘘がない。これはとても大きな価値なんだとあらためて思います。ファッションはこのこととどう向き合えるでしょうか?

IN FASHION:パリコレもストリートも。ジュエリーもインテリアも。今押さえておきたい旬なファッション関連ニュースやコラムを「WWDジャパン」編集長がピックアップし、レターを添えてお届けするメールマガジン。日々の取材を通じて今一番気になる話題を週に一度配信します。

エディターズレターとは?
「WWDジャパン」と「WWDビューティ」の編集者から、パーソナルなメッセージをあなたのメールボックスにダイレクトにお届けするメールマガジン。ファッションやビューティのみならず、テクノロジーやビジネス、グローバル、ダイバーシティなど、みなさまの興味に合わせて、現在9種類のテーマをお選びいただけます。届いたメールには直接返信をすることもできます。

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50〜60年代ファッションがキュート ネトフリで人気の「クイーンズ・ギャンビット」

 アニャ・テイラー・ジョイ(Anya Taylor-Joy)演じる孤児の少女、ベス・ハーモン(Beth Harmon)が、50〜60年代を舞台に男性優位のチェス界で世界一のプレーヤーを目指すネットフリックス(NETFLIX)の人気ドラマ「クイーンズ・ギャンビット(The Queen’s Gambit)」の配信が10月にスタートした。当時、イギリスの若い労働者の間で流行したモッズスタイルへのオマージュを込めた衣装の数々も見ものだ。

 衣装デザイナーのガブリエル・バインダー(Gabriele Binder)は、当時を思い起こさせるような色使いを一番に重視したといい、同作品では冒頭で子ども時代の主人公が孤児院にやって来るシーンや、後にチェスの試合で着用する襟付きドレスなど、ライトグリーンを基調とした衣装が多く登場する。

 また同作品には、主人公がパリで60年代にピエール・カルダン(Pierre Cardin)が流行らせた黒とベージュのドレスに着想を得た服を買ったり、モスクワで開催された決勝トーナメントでは以前に比べて華やかかつ洗練された格子柄のコートを着用するなど、国際的な評価を得ながら自信を付けていく様子をファッションの変化で表現するといった工夫も凝らしてある。

 なおブルックリン美術館(Brooklyn Museum)では、現在「ザ・クイーン・アンド・ザ・クラウン(The Queen and the Cown)」と題したバーチャル展覧会で同作品の衣装を展示している。オスカー受賞経験を持つ衣装デザイナーのルース・E・カーター(Ruth E. Carter)が司会を務める同展覧会のパネルディスカッションに登場したバインダーは、「かなり最初の段階で、ライトグリーンがハーモンの色だと感じていた。何がハーモンに強さや弱さを与えるのか、この色が彼女にパワーを与える要素は何なのかを見つけようとした。ライトグリーンはハーモンのホームカラーだ。チェスの試合で襟付きドレスを選んだ理由は、この色がハーモンに強さを与える様子を表現したかったからだ。試合のために世界各地を旅するようになると、彼女のスタイルはニューヨーク、パリ、モスクワなど各都市から影響を受け始める。アニャはとても品があって素直だから、すごくやりやすかった。ドレスはシンプルでストレートなものを選んだ。おしゃれではあるが、ドレスそのものが際立つほどファッショナブルなものではなかったから、どの衣装もアニャが着用したことでその魅力が引き立っていた」とコメントした。

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即完売のコスメブランド「リーカ」を手掛けるヘアメイク松田未来の“共感力”とは?

 コロナ禍の巣ごもり需要で“おうち美容”が盛り上がっているが、ネイルも同様に、ジェルネイルからセルフネイルに移行する人が増えており、ネイルポリッシュが再び注目されている。SNSでは大手メーカーに並び、ヘアメイクアップアーティストの松田未来が今年2月に立ち上げた「リーカ」のネイルが話題を集めている。彼女の人柄やセンスに共鳴するファンが多く、入荷したら即完売といった人気ぶりだ。さらに、9月に発売した自身初となるエッセイ本も好評を博している。ヘアメイクをはじめブランドプロデューサー、ラジオのパーソナリティーと幅広く活躍する彼女の仕事のあり方や書籍について話を聞いた。

WWD:ヘアメイクアップアーティストを志したきっかけは?

松田未来(以下、松田):中学生の頃に初めてパーマをかけた時の気持ちが忘れられず、今の仕事につながっています。可愛い髪型になった自分を見たあの瞬間、外見も内面も自信がついて自分のことを好きになれた。その経験が原点にあり、美容を通じて希望を持てる人が増えたらどんなに素敵なんだろうと美容の道に進みたいという気持ちが募り、専門学校卒業後に就職したサロンには11年勤務しました。そこではディレクターも店長も経験させていただいたのですが、もっと違う形の美容で、世の中に“還元したい!”と思い、ヘアメイクアップアーティストになる決意をしました。

WWD:ヘアメイクアップアーティストとしてのキャリアを積む中、今年2月には自身のコスメブランド「リーカ」を立ち上げ、瞬く間にSNSで話題に。ネイルは入荷すると即完売になるほど人気を博しているが、なぜ最初のプロダクトがネイルだったのか?

松田:それまでジェルネイルをしていたのですが、ジェルネイルを落としては、乾燥している爪にまた色を塗ってを繰り返していたので、素の爪がきれいな女性に憧れていました。そこで、ネイルサロンに行ってすっぴんの爪を整えてもらったんです。甘皮を処理し、爪の形を整え、透明のベースコートを塗っただけの自分の小さなパーツなのに、自信がもてました。

ブランドを立ち上げる際は、本来はわかりやすいアイテム、例えばブランドを象徴するアイテムとしてあげられるようなリップからがセオリーだと思っていました。ただ、自爪を整えた、あの時の感動が根幹にあったため、爪が美しいということはパワーがあるということを提案したかったのがきっかけです。

WWD:こだわったところは?

松田:“わたしが好きなこと”をテーマにしたカラーネームをつけたところです。容器にもこだわっているのですが、入手が難しいので、完売してから再販するまでにお時間をいただいている状態です。

WWD:ヒットしている理由をどのように捉えているか?

松田:タイアップもプロモーションもしていなく、タレントの方に依頼して拡散したわけでもないので、モノが売れない時代なのに売れているのはありがたいことですね。私のSNSも特徴的なフォロワー数を抱えていないので……。ただ、フォロワーの方と信頼できる関係性を築けているからかもしれません。

私自身、嘘がつけない性分なので、インスタグラムでPRの依頼があっても受けていません。自分が本当に良いと思ったモノを忖度しない紹介の仕方をしているので、共感していただけているのだと思います。私が紹介するコスメにフォロワーの方が考えてくれた#ミラマドコスメとタグをつけてみんなでシェアしてくれているのも嬉しいですね。そういったコミュニケーションの場があるので、ブランドを立ち上げたときにも、私が本当に作りたいと思っているんだなと感じてもらえたのだと思います。

WWD:ブランドデビューを果たし、さらに9月には初のエッセイ本を発売した。どういった内容か?

松田:講談社が運営していた「ホリックス」(現在サービス終了)で連載していたコラムを編集した内容になっています。「明日になるのが楽しみ」「私って、いいじゃん!」と思えるようなテーマを取り上げていた連載をベースにしていますが、美容論だけではなく、仕事をする上で感じたことや仕事柄で身についたコミュニケーションの力なども収録しているので、男性にもぜひ読んでいただきたいです。季節ごとにそれぞれのテーマに沿ってカテゴライズしているので、読者の皆さんが好きなところから読んで楽しんでいただけたら嬉しいです。装丁も控えめなデザインにしているので、最近元気がない子や忙しいあの人など相手のことを想像しながら、気使いの一つにギフトとして使ってもらえたらなと。いつかこの本をドラマ化するのが夢です(笑)。

WWD:ヘアメイクをはじめ、ブランドプロデューサーやアパレルコラボ、執筆、さらにはラジオのパーソナリティと幅広く活躍している。

松田:ラジオはタイミングよくお声がけいただいて。内容も、「未来さんが楽しめる番組だったらいいよ」と任せてもらえたので、リスナーの方の好きなものが増えたり、明日から取り入れてみようかなと思えるような話をしています。仕事柄、コスメブランドのキャラバンでブランドの歴史や商品の素晴らしさを聞くことが多く、これは私だけ聞くのはもったいない、全国に発信した方がいい!と思い、ゲストにPRの方を呼ぶこともあります。自分がワクワクしたり楽しいなと思えることは、どんどん皆さんにお伝えしたいですね。

WWD:今後チャレンジしたいことは?

松田:「リーカ」のアイテムを拡充したいです。“こういうのが欲しいのにどこにも売っていない!”というアイテムを作りたいと思っています。日々、初心忘れるべからず、自分が作りたいもの、お客さまにとって良いものとは何かを考えながら、あぐらをかかないようにしたいですね。長くずっと愛されるようなブランドに育てていきたいです。

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仕事が絶えないあの人の、“こうしてきたから、こうなった”コロナ禍でさらに注目の下地専門ブランド“ヌーディモア”泉祥子編

 転職はもちろん、本業を持ちながら第二のキャリアを築くパラレルキャリアや副業も一般化し始め、働き方も多様化しています。だからこそ働き方に関する悩みや課題は、就職を控える学生のみならず、社会人になっても人それぞれに持っているはず。

 そこでこの連載では、他業界から転身して活躍するファッション&ビューティ業界人にインタビュー。今に至るまでの道のりやエピソードの中に、これからの働き方へのヒントがある(?)かもしれません。

 新型コロナウイルスの影響による在宅勤務や外出自粛の増加にともない、美容に対する意識にも変化が生じています。「パナソニック(PANASONIC)」が10月に発表した調査によると、在宅勤務でメイクをしない時間が増加した女性は70%以上にのぼるといいます。“薄化粧”や“メイクがマスクに付かないこと”に関心が高まる今、改めて注目される“化粧下地”。今回は、下地専門ブランド「ヌーディモア(NUDYMORE)」プロデューサーの泉祥子さんに登場いただきます。飲食業界から化粧品業界へ転身を果たした泉さんのキャリア変遷に加え、不採算ブランドという立ち位置から“下地専門ブランド”として存在感を高める「ヌーディモア」の魅力をひも解きます。
※在宅勤務を行っている20~40代女性100名を対象にスキンケアについての調査を実施

WWD:化粧品に携わる前のお仕事から教えていただけますか?

泉祥子(以下、泉):山口県にある実家が喫茶店を営んでいたこともあり、飲食に関わる仕事に興味があったんだと思います。大学進学時に上京をし3年生のころ、渋谷にあるクリエイターやミュージシャンが集まる、“ザ・東京”とでもいうようなダイニングカフェでアルバイトをするように。しばらくしてお店の常連でもあったアパレルブランドの社長から、社内に飲食部門を立ち上げるため人を探していると聞き、「泉さん、やっちゃいなよ!」という軽いノリから、インターンをすることになりました。

WWD:具体的にはどのようなお仕事だったのでしょうか?

泉:レストランのメニュー開発から内装、制服決め、サービススタッフの研修まで何でもしましたね。とはいえ私自身が経験のない“ひよっこ”ですから、外部の方の協力を仰ぎながら全体のディレクションをするということが主な仕事。カメラマンや建築家、グラフィックデザイナーなどプロの仕事を間近で見ることのできる貴重な機会でした。何よりも五感をフル活用しながら、形のないコンセプトをゼロから形にしていくことは刺激的で、作る側と受け取る側(=お客さま)がいて初めてその空間が完成するということにも興奮しました。大学4年になり、就職活動もしていて内定までもらっていたのですが、結局そのまま飲食業界に進むことに決めました。

WWD:やりがいを感じていたのですね。

泉:はい。しかし3年半ぐらい経ったころ、燃え尽きてしまいました。立て続けに3店舗オープンし、それぞれの店舗のマネジメントや売り場でのサービスなど業務は多岐に渡っていたんです。朝8時半から深夜まで働き、タクシーで帰るような毎日でした。あるとき「もうやり切った!」と仕事を辞めて、ヨーロッパ旅行に行きました。半年ほどゆっくりしていたのですが、そろそろ家賃の支払いもやばいかも——そう思っていた矢先に友人から声をかけてもらい、化粧品会社でアルバイトをすることになりました。

その会社はベースメイクとスキンケア製品が主力で、スタッフによる販売力が売り。社内に商品開発といった部署はありませんでした。ほとんどの場合、創業以来のパートナーであったOEM (相手先ブランド生産)企業が企画からマーケティングまで行い、完成した商品を採用するというやり方でした。ほどなく社内から「お客さまのニーズに合った商品を作りたい」という話があがり、新たに商品部ができたタイミングで私もメンバーになったんです。25歳ごろですね。

WWD:元々美容の仕事への興味を持っていたのですか?

泉:いや、なかったです(笑)。初期メンバーは社長、秘書、私のみで、2カ月に1商品を出すということだけが決まっていました。商品開発のイロハも分かりませんし、大きな金額分の仕入れをするという緊張感ものし掛かってきました。OEMの方々には、文字通りゼロから教わりました。原料、成分、容器製造など化粧品作りに関わるすべての現場を見させていただきました。「原料だけでもこんなに取引先があるんだ」「ボトルのこのパーツを作る工場はまた別なのか」と驚きの連続。現場のプロの方を目の当たりにして、職人さんってクリエイティブだなと心底感じました。目には見えないコンセプトを形にするコスメ開発の作業ってレストランと同じだ!と気付いたんです。そうなるともう“異業種に転身した”という感覚や不安は消えて、お店づくりをしていたころのワクワク感でいっぱいになりました。

初めて手がけた商品での挫折から得た学び

WWD:初めて携わったのはどのようなアイテムだったのでしょう?

泉:美容液のリニューアルでした。愛用者の方々の信頼を損なわずに期待を超えなくちゃ!という大きなプレッシャーがありました。試行錯誤の末生み出した新美容液は既存品に比べて、原料や効果感、使用感も向上させましたし「なんならパッケージもちょっとおしゃれにしたぞ!」と満を持して発売。それが、全然売れなかったんです。

ここではっきりと分かったのは、お客さまが求めているのは効果や数値といったスペックだけではないということ。お客さまにとって化粧品は使ってきた歴史や経験と切り離せないもので、その延長線上に置いておきたいと思ってもらえる商品でないと価値がないということを思い知らされました。効果効能だけではない商品の魅力というのは、化粧品独特の嗜好性だと感じましたね。商品の“人格”をどうやって形作って、息を吹き込むかが要なんだ、と。これは実際にコスメをゼロから作ってみて分かったことでした。

WWD:なるほど。そのご経験と“情熱”をどのように形にされていったのでしょうか?

泉:この化粧品なしには人に会えない!と思うぐらい自分がのめり込める製品を生み出そう、そして納得するまでは商品を出さない——そう心に決めました。とはいえ2カ月に1度のペースで新商品を出さなくてはないので、どうしてもお尻が決まっています。「間に合わない」も「まぁいいか」も許されません。自分がとことん惚れた製品ならきっと悩みや年代が違ってもお客さまに愛してもらえるポイントがあるんじゃないかと信じて、試作品を何度も作り直しました。いざとなったらメーカーに入り浸って細かな調整を重ねるという日々でした。

WWD:それはOEM側との信頼関係があってこその技ですね。

泉:OEMからしたら大迷惑ですよね(笑)。自分の思いを製品に落とし込むために大切なことは、関わるすべての人を尊敬し、その人たちに愛されるかどうかだと思うんです。「お前が言うならしょうがない」と思っていただけることが、もう一踏ん張りに効いてくるんです。だからこそ、メーカー側のミスによってトラブルが発生したときは、普段の恩返しの機会と捉えて「大丈夫です!こちらでなんとかしますので!」と責めない姿勢でいることを心掛けました。結局、1人では何もできないですから。少しずつですが売り上げが伸び、部署は10人のチームになっていきました。

約10年間この仕事に携わり、その間に商品開発室長を経て役員までに。しかしずっと“プレイヤー”でいたかった私は、最終的に業務委託の契約にして、自分の会社を作ることにしたんです。

不採算ブランドを“下地専門ブランド”へ

WWD:そこで「ヌーディモア」に出合うのですね。

泉:はい。14年に立ち上げたトオンという会社では化粧品プロデューサーとして、企業の製品開発やブランディングを手掛けていました。そのうち、大手ドラッグチェーンの子会社が経営するコスメブランドから相談を受ける機会があって。「98年のデビュー以降、テコ入れもしておらず不採算。売り先もなくどうしよう」と。そのブランドが「ヌーディモア」でした。デビュー当時は人気メイクアップアーティストのプロデュースブランドということが売りだったけれど、契約はすでに終了。ただ販売だけを続けている状況でした。

売り上げを見ると確かにひどい数字でしたが、全体の7割が2種類の化粧下地によるものだったんです。スキンケアからファンデーション、アイシャドウなど70近い商品数の中で、リピートと口コミで下地だけが売れ続けている。それって逆に強みになるのでは?——そう感じた私はブランドごと譲り受け、16年に新たに「ヌーディモア」の会社(「クチュール」)を立ち上げました。

WWD:そこからどのように立て直されたのでしょうか?

泉:購入履歴やお客さまの声に耳を傾けると、やはり下地への支持が圧倒的。ここで、前職の“美容液リニューアル大失敗”の経験が生きました。ブランドの価値って作り手である私たちのものではなく、お客さまのもの。だからこそ「そうだよね、『ヌーディモア』といえば下地だよね」——そう感じてもらいながら、さらに愛されるブランドにしたいと考えたんです。

下地に特化するためにまず、下地以外のアイテムのほとんどを廃盤にしました。看板アイテムである下地“ブライトンカラー”と“ビューティヴェール”の基本設計は、ほぼデビュー時のまま。私が初めて「ヌーディモア」の下地を使用したとき、薄膜のヴェールなのに確実にトーンが上がる仕上がりに感動したんです。塗っているのか分からないようなスキンケアに極めて近い下地が多いなか、手応え感のある「ヌーディモア」は新鮮でした。パッケージも変えず、ロゴだけ変えているんですよ。

WWD:“変えない”ということも大きな決断だと思います。

泉:98年の誕生から生き残っている商品というのは本質がはっきりしている証拠。だからこそ商品の“骨格”はそのままに、製法の技術や原料のクオリティーを常に更新するようにしています。

下地2種を混ぜてアレンジしながら使用できるということも後から知ったんです。販売履歴を見てみると、2つの下地の同時購入が最も多かった。コールセンターの人に聞いてみたら、「ご愛用者さまは、質感と仕上がりの異なる2つの下地を混ぜて使っているんですよ」と。こんなにも下地が愛さているブランドは他にない——その思いで“日本初の下地専門ブランド”というコミュニケーションを掲げたわけですが、それがしっくりきていたのかなと今、実感しています。

WWD:コロナ禍の“マスクメイク”で下地がさらに注目されているように感じます。

泉:4月の緊急事態宣言以降、下地の昨年対比は約126%と伸びています。特に広告をしているわけではないので、口コミを見た新規のお客さまが増えている印象です。下地の市場は、ファンデーションの7分の1程度といわれているんです。5年前は“下地を使いましょう”という啓蒙活動していたくらいですから。

在宅勤務の増加でファンデーションをしっかり塗る機会が減ったり、マスクを着けるとメイクが崩れるからという理由でベースメイクを見直した方も多いと思うんです。また、「自分に必要なものって何だろう?」と立ち止まって考えた時に“隠す”や“盛る”ではないメイクの価値観に気付いた方も多いのかもしれません。自分らしさを生かしながらも気になるところはカモフラージュしたい——その役割は下地が得意だと思いますし、これからもそんな気持ち寄り添えるブランドでありたいですね。

WWD:飲食業界での経験が生きていると感じることはありますか?

泉:レストランビジネスもコスメも嗜好品=人生を豊かにしてくれるものだと信じています。食の体験で心揺さぶられたことからインスピレーションを受けることもあります。例えばクレンジング料“カウンセリング クレンズ”の開発で目指したのは、お粥でした。1日頑張った肌をリセットするクレンジングこそ、肌に乗せたときにホッとして心にもじんわりと染み渡るような優しいテクスチャーにしたかったんです。もちろん化粧品ならではの専門的な用語を使うこともありますが、五感に作用するような製品作りやコミュニケーションの方法も大切にしています。

WWD:今後、力を入れていきたいことはありますか?

泉:つい先日まで国立北京中医薬大学の日本校に通い、中医学と薬膳の勉強をしていました。中医学って、陰陽のバランスが大切でプラスがいいわけでもなく、マイナスが悪いわけでもなく自分なりの良いゼロ地点(ベース)があるという学問なんですね。肌を爆上げする!とかそういうことではなく、その人にとってのベストのベースを見つけてあげたいという「ヌーディモア」の考えと通じるものがあるように感じました。中医学の勉強を続けながら、インプットしたものを製品としてアウトプットしていけたらと思います。

WWD:泉さんにとって仕事とは?

泉: 呼吸したり、ご飯を食べたりすることと同列かもしれません。生きていることの一部であってプライベートの中に仕事がある、という感覚ですね。私は集団行動がめちゃくちゃ苦手で学生時代の通信簿では協調性の項目が「1」でした。化粧品会社に10年もいたのに、社長と秘書以外とは一度もランチに行かなかったぐらいですから(笑)。そんな私でも、好きなことや得意なことを見つけて楽しく働いてきて今があります。コロナの影響もあり、働き方はますます多様になって肩書きに囚われずに働ける環境は加速していくと思います。自分に合った環境さえ作ることができれば、やりがいを感じながら働けるんじゃないかな。

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「メルヴィータ」、主力のアルガンオイルからたるみに働きかける次世代の発酵オイル発売

 仏発オーガニックコスメブランド「メルヴィータ(MELVITA)」は、“発酵アルガンオイル”を使った新ライン「アルガン ビオアクティブ」シリーズを2021年1月20日に発売する。ラインアップはスキンケアクリーム、美容液、アイクリームの3品。価格は5300~7000円。

 「メルヴィータ」の主力製品である“ビオオイル アルガンオイル”は、高い保水力があり、化粧水の前に使用するブースター(導入美容液)として人気を集める。フランスでの発売から来年で30周年を迎え、現在も世界で1分に1本売れているロングセラー製品だ。「メルヴィータ」では長年のアルガン研究により酵母の一種を加えて発酵させた“発酵アルガンオイル”の有用性を確認。肌のたるみに働きかける次世代のアルガンオイル製品を誕生させた。

 “発酵アルガンオイル”のキー成分は、通常のアルガンオイルの22倍の高濃度で含まれるマイクロ脂肪酸と、発酵により生じる天然のセラミド様物質M.E.L(マンノシルエリスリトールリピッド)。肌にスムーズに浸透し、ハリのある肌を実現する。キー成分のほかスキンケアクリームにはコラーゲンの生成を促すアルガンの果肉エキス、美容液には肌の新陳代謝を高める発酵ベリーエキス、アイクリームには収れん作用のあるコーンフラワーウォーターを配合した。ブランドが実施した使用テストでは、クリームの28日間使用でハリが8%アップし、肌の滑らかさが14%アップした。

 同ブランドではアルガンオイル発売30周年を記念して、21年1~2月に特別キャンペーンを実施する。毎月21~30日に実施しているリサイクル活動「エコ10Days」の期間中、化粧品空き容器を「メルヴィータ」直営店に持って行くか、50円のチャリティステッカーを購入すると、“ビオオイル アルガンオイル”を500円引きで購入することができる(アルガンオイルローズ、キットを含む)。空き容器は「メルヴィータ」製品も受け付ける。

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