私を変えた3人のデザイナー【トミー・ヒルフィガー編】 マリエが本音で語る「私の33年目のサステナブル」

通学中に、デザイナーのトミー・ヒルフィガー(Tommy Hilfiger)がパーソンズで講演するという1枚のポスターが目に止まり、参加した。

講演会での出来事は、鮮烈に覚えている。彼は何百人もの聴衆の前で、自身の生い立ちやブランドを設立した背景、ロゴのカラーの意味について話してくれた。私は彼の言葉をなんとか理解しようと、必死にメモを取りながら聞いた。

当時「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」は、設立して25周年を迎えたところだった。その1年前、私は幸運にもニューヨーク・メトロポリタン歌劇場で開催されたブランド創立25周年記念パーティーに参加。オペラハウスの階段で行われたファッションショーをはじめ、米ロックバンドのストロークス(The Strokes)によるライブパフォーマンスも行われた。

そのころから、私の中で一つの疑問があった。

「トミー ヒルフィガー」は、アメリカを代表するデザイナーズブランドだ。でも当時の日本では、デザイナーズブランドという認識は薄く、“スポーツブランド”または“R&Bブランド”という印象が強かった。彼はその事実を知っているのか。それについてどう考えているのか。どうしても知りたかった。

講演会終盤の質疑応答の時間に、私は手を挙げた。「こんな質問をしたら会場からつまみ出されるのではないか」と怖かったが、チャレンジしたかった。

「私は日本から来ました。英語が分かりづらかったらごめんなさい。日本では、あなたのブランドはデザイナーズブランドだと思われていません。スポーツブランド、またはR&Bと精通するブランドだと思われています。そのことをご存知ですか?それについてどう思いますか?今後、日本でのブランドイメージを変えるつもりはありますか?」と、率直に聞いた。緊張は頂点に達していた。

すると彼は、「内緒だよ!僕は日本でのイメージにもちろん気付いている。だから今度、東京・原宿に大きなフラッグシップストアを構えるんだ。今、君を招待したよ!」と答えてくれた。

私は「Thank you」と言いつつ、震えと緊張で泣きそうになりながら、自分の席に戻った。講演会が終わり、自分が質問できたことに満足しながら会場を後にしていると、「トミー ヒルフィガー」のチームが近づいてきて、「あの質問をしたのは君だね?最高の質問だったよ。原宿に旗艦店をオープンする際は、君を招待するよ」と話してくれた。

実際、翌2012年4月、アジア初の最大規模の旗艦店「トミー ヒルフィガー」表参道店がオープンした時、トミー・ヒルフィガーは飛行機代を出して本当に私を招待してくれた。

それ以降も、彼には何度も会う機会に恵まれた。私は毎回彼に質問を投げかけ、彼は常にストレートなアンサーで返してくれた。そのたびに、彼のビジネスセンスとデザインセンスに感化された。彼は世界をデザインしている。ビジネスセンスとデザインセンス、創造力が持続可能な社会を生むと学んだ、とても大切な出会いだった。

次週、「フィリップ・リムとの出会い」につづく……

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しまむら4月度は一昨年比4%増 一度離れた客がコロナ禍で再度定着

 専門店チェーン、セレクトショップの2021年4月度売上高(既存店ベース)は、2019年4月との比較で「20%前後の落ち込み」という声が多く上がった。コロナ禍でほぼ1カ月間休業していた店舗が多かった20年4月との対比では、売り上げが2倍前後という声が目立つ。引き続き、足元商圏に強い業態の堅調が目立った。

 「ファッションセンターしまむら」の売上高は、19年4月との対比で4.3%増。気温上昇に伴い、初夏物・夏物の衣料や肌着が売れた。「一度離れてしまっていたお客さまが、コロナ禍をきっかけに再度リピーターになっているという声が店頭からはあがっている」と広報担当者。「実需に合わせた商品構成など品揃えの改善に長らく取り組んできたことで、(再来店した客の)定着につながっている」と見る。ただし、計測期間が3月21日〜4月20日のため、コロナ禍の状況がより悪化した月末を含む他社に比べると数字がやや上振れしている可能性はある。

 「ユニクロ(UNIQLO)」(4月1〜30日)の売上高は、19年4月に対し「2割弱の落ち込み」(広報担当者)。4都府県で25日以降緊急事態宣言が発令されたこともあり、「お客さまの外出が減り、月後半はなかなか売り上げが伸びなかった。5月以降も都心の人出は少なく、足元商圏で集客できる店に人が集まるといった状況が続いており、地域差が大きい」。

 アダストリア(同)の売上高は19年4月比で20.2%減。「上旬は気温も高くいい滑り出しだったが、中旬以降、コロナ禍の再拡大で客足が鈍った。ただし、緊急事態宣言が出た都内でも営業を続けている路面店や、東京と近接する神奈川の川崎、武蔵小杉、千葉の船橋などの店舗の売り上げは悪くはない、消費ムード自体が大きく減退しているという印象ではない」と広報担当者。

 ユナイテッドアローズ(同)は19年4月に対し27.3%減。「無印良品」(同)は20年4月に対し41.3%増、19年4月比は非公表。

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作曲家の阿部海太郎が奏でる“記憶をなくす”メロディー 音声座談会「蓉子の部屋」Vol.11

 「蓉子の部屋」は、川島蓉子・伊藤忠ファッションシステム取締役/ifs 未来研究所所長が、毎回ゲストを招き“未来”について考える音声番組です。未曾有の状況の中、業界は“未来”について考えなければならない現実に直面しています。そんな中、少しでも業界人に役立つヒントやカケラを音声配信でお届けします。近所のスーパーに行く時や、通勤・通学時に気軽に聞いてください(笑)。

 第11回は、作曲家の阿部海太郎が登場。同氏は楽曲をはじめ、コンサートの企画やアルバム制作など、優れた美的感覚と知性から生まれる音楽表現に多方面から注目が集まっています。これまで森山開次が演出・振付の「星の王子さま ―サン=テグジュペリからの手紙―」やNHK「日曜美術館」テーマ曲、ドラマ「京都人の密かな愉しみ」、映画「ペンギン・ハイウェイ」などを手掛けてきました。音声座談会では、「最初は作曲家を目指していなかった」と話す理由や曲作りの苦悩、そして「メロディーが持つ再現の可能性」について聞きました。また音声内では、手巻きオルゴールの生演奏も流しています。優しい音の群れが心に染み入り、記憶の一部をなくしていくような感覚に陥ります。是非、お聞きください。

川島蓉子:1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、『すいません、ほぼ日の経営。』などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている

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小松マテーレ、抗ウイルスマスク好調、純利益31.6%増 21年3月期

 合繊生地大手の小松マテーレの2021年3月期決算は売上高が前期比17.8%減の300億円、営業利益が同12.1%減の14億円、経常利益が同11.0%減の19億円、純利益が同31.6%増の18億円だった。コロナ禍の長期化で主力のテキスタイル事業が大幅な減収減益を強いられたものの、マスクを中心とした製品事業がカバーした。純利益の増加は期中に清算した中国子会社の土地の売却益8億6600万円によるもの。佐々木久衛社長は「コロナ禍を契機に不採算事業の抜本的な見直しとビジネスモデルの再構築に取り組んだ。ネット通販で抗ウイルスのマスクが爆発的に売れて、主力のテキスタイル事業をカバーした」という。

 売上高の約65%を占める衣料ファブリック部門の売上高は同23.6%減の192億円。主力の欧州の高級ブランド向けのテキスタイル販売が、ロックダウンなどにより営業活動が大幅に制限され、同31.5%減と苦戦した。カーシートや湿布剤などの資材ファブリック事業も含めたテキスタイル事業の営業利益は同45.0%減の8億6000万円だった。

 一方で好調だったのがコロナ禍をきっかけにスタートした抗ウイルスマスク販売。ネット通販のスタートにより、売上高は倍増の16億9600万円、営業利益は5億円(前期は1700万円)と大幅に拡大し、テキスタイル事業の減益分をカバーした。

 22年3月期の見通しは、売上高が300億円(前期比6.6%増)、営業利益が14億円(同27.0%増)、経常利益が19億円(同20.0%増)、純利益が18億円(同2.2%増)。中山大輔専務取締役は「渡航ができないなど営業活動は現在も制限されているが、主力の欧州高級ブランドからの受注はコロナ前の水準まで戻りつつある」とし、主力のテキスタイル事業の復調を見込んでいる。

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島精機、赤字幅が178億円に拡大 コロナで生産調整が長期化 21年3月期

 横編機大手の島精機製作所の2021年3月期決算は、純損失が178億円(前期は84億円の損失)と2年連続の赤字となり、赤字幅も拡大した。一昨年から続く暖冬に伴うアパレル市場の低迷に加え、コロナ禍も加わったことで世界規模でのファッション市場の低迷が長期化しており、セーターやスニーカー生産に使用する横編機で高いシェアを持つ同社に大きな影響を与えた。売上高は同26.3%減の244億円で、ピーク時の18年3月期の718億円と比較すると約3分の1にまで落ち込んだ。稼働率の低迷を受け、減損損失として101億円を当別損失として計上した。

 売上高の大半を占める横編機の売上高は同32.0%減の155億円。販売台数は4705台(前期は5117台)で、うち新鋭機「ホールガーメント(WG)」機は764台(同1026台)だった。トルコやバングラデシュなどの落ち込みが激しく、全エリアで低調に推移したものの、「第1四半期(20年4〜6月)がボトムで、徐々に上向いている」(島三博社長)という。

 22年3月期は売上高280億円(前期比14.3%増)、営業損失70億円、経常損失63億円、純損失64億円と、3年連続の赤字の見通し。

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アルノー氏も投資 仏リファービッシュ携帯のマーケットプレイスが日本上陸

 フランスのリファービッシュ(整備済み)中古スマホ販売の大手のバックマーケット(Back Market)が日本での事業を本格的にスタートした。同社は2014年に設立されたスタートアップで、6年で欧州ファービッシュ市場におけるトップ企業に成長している。2018年にはベルナール・アルノー(Bernard Arnault)LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)会長兼CEOが個人で投資を行うなど投資家から注目を集めている。

 現在欧米12カ国で事業展開しており3月にアジア初となるバックマーケットジャパンを設立した。リファービッシュとは“整備済み品”を意味し、回収されたスマートフォンやタブレットの中古品を検査・テスト・クリーニング、必要であれば修理を行い販売される。全通信会社で利用可能なSIMフリー端末を新品の30~70%の価格で販売する。バックマーケットは、販売者と消費者をつなぐマーケットプレイスであり、独自の品質基準を設けている。

 上陸にあたり同社は「バックマーケットは“新品がすべて”というテック消費のあり方に疑問を抱いたところから始まった。世界では年間5000万トンの電子廃棄物(e-waste)が出ていると言われている。そんなテック消費に革命を起こすべく生まれたのがバックマーケットだ。われわれのミッションはリファービッシュに価値と信頼をもたらすこと。全商品、最低1年の保証付きでクオリティの高い中古・リファービッシュの電子機器を提供している」と説明している

 ティボ・フグ・ド・ラローズ共同創業者兼CEOは4月末の時点で「日本でローンチをして、1か月が経ち、すでに、フランス及び米国のローンチ時と比べて、過去最高の売り上げを記録しておりよい滑り出しだ。今後、採用活動を強化し、この勢いを保ちながら日本の消費者の需要・期待に応えていきたい。24年までに、日本をバックマーケットにおける売上トップ5の市場にする」と話している。 21年には日本事業に10億円の投資を予定しており、数カ月内に有償保証や買い取りサービスの追加、商品カテゴリーの拡充も行う計画だ。

 環境意識の高まりで特に若い世代では電子廃棄物への関心も高まっている。欧米と比べて新品嗜好が強いと言われる日本市場でリファービッシュが浸透するかが注目される。

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「ルイ・ヴィトン」「シャネル」「ディオール」などが中国で続々と価格改定 46%値上げしたバッグも

 「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」「シャネル(CHANEL)」「ディオール(DIOR)」などのラグジュアリーブランドは、コロナ禍が一足早く落ち着いた中国市場での値上げに踏み切っている。

 例えば、「ルイ・ヴィトン」のエントリーモデルで肩に掛けられる小型バッグ“ポシェット・アクセソワール(Pochette Accessories)”は4200人民元(約6万7200円)から6150人民元(約9万8400円)と46.4%値上げされた。同様に、「シャネル」の“ミニ スクエア クラシック フラップ(Mini Square Classic Flap)”は2万1600人民元(約34万5600円)から2万8500人民元(約45万6000円)と31.9%の値上げとなっている。為替の影響も多少あるかもしれないが、かなり大幅な値上げだといえるだろう。なお、「エルメス(HERMES)」は3〜6%の値上げを実施している。

 こうした価格変動をモニタリングしている中国の人気ファッション・インフルエンサー、ミスターバッグ(Mr. Bags)によれば、ラグジュアリーブランドは全ての商品を一度に値上げするのではなく、特定のバッグやシリーズを値上げした後、しばらく様子を見てから別のバッグなどの価格改定を行っているという。

 値上げの多くは2020年に行われたが、21年にもこうした傾向が続きそうだ。「グッチ(GUCCI)」は3月9日に中国市場で“ネオ ヴィンテージ GGスプリーム(Neo Vintage GG Supreme)”シリーズを15%、“ホースビット 1955(Horsebit 1955)”シリーズを5%程度値上げした。これにより中国では2万500人民元(約32万8000円)となったバッグが、英国では1670ポンド(約25万円)とおよそ8万円近く安く購入できる。

 国内外でこれほど大きな価格差があることは、中国の代理購入業者にとってまたとないビジネスチャンスだろう。中国では19年1月にECを広くカバーする電子商務法(中華人民共和国電子商務法)が施行され、代理購入業者の登録と納税を義務付けているが、こうしたことを加味してもかなりの儲けが出ることは容易に想像できる。一方、中国の消費者が値上げを気にしている様子はあまりない。新価格に改定される前には店舗に行列ができるものの、それ以上の混乱はないようだ。

 20年から21年にかけて価格改定されたブランドバッグの値上がり幅トップ15を以下に紹介する。

1. 「ルイ・ヴィトン」“ポシェット・アクセソワール”
4200人民元(約6万7200円)→ 6150人民元(約9万8400円)、46.4%増

2. 「シャネル」“ミニ スクエア クラシック フラップ”
2万1600人民元(約34万5600円)→ 2万8500人民元(約45万6000円)、31.9%増

3. 「ルイ・ヴィトン」“ポッシュ・トワレ 26(Toiletry Pouch 26)”
3450人民元(約5万5200円)→ 4450人民元(約7万1200円)、28.9%増

4. 「ルイ・ヴィトン」“ミュルティ・ポシェット・アクセソワール(Multi Pochette Accessories)”
1万2500人民元(約20万円)→ 1万6000人民元(約25万6000円)、28.0%増

5. 「プラダ(PRADA)」“リ エディション(Re-Editon)2005”
8700人民元(約13万9200円)→ 1万1000人民元(約17万6000円)、26.4%増

6. 「ディオール」“サドル ミニバッグ(Saddle Mini Bag)”
2万人民元(約32万円)→ 2万5000人民元(約40万円)、25.0%増

7. 「シャネル」“スモール クラシック フラップ(Small Classic Flap)”
3万7600人民元(約60万1600円)→ 4万6800人民元(約74万8800円)、24.5%増

8. 「ディオール」“レディ ディオール ミニ バッグ(Mini Lady Dior)”
2万7000人民元(約43万2000円)→ 3万3000人民元(約52万8000円)、22.2%増

9. 「ディオール」“ブック トート ミニ(Mini Dior Book Tote)”
1万6000人民元(約25万6000円)→ 1万9500人民元(約31万2000円)、21.9%増

10. 「シャネル」“ミディアム クラシック フラップ(Medium Classic Flap)”および“2.55 リイシュー(2.55 Reissue)”
4万2600人民元(約68万1600円)→ 5万1500人民元(約82万4000円)、20.9%増

11. 「ディオール」“30 モンテーニュ(30 Montaigne)”
2万2500人民元(約36万円)→ 2万7000人民元(約43万2000円)、20.0%増

12. 「シャネル」“ラージ クラシック フラップ(Large Classic Flap)”
4万7100人民元(約75万3600円)→ 5万6100人民元(約89万7600円)、19.1%増

13. 「グッチ」“ジャッキー ミニ(Mini Jackie)”
1万4300人民元(約22万8800円)→ 1万6900人民元(約27万400円)、18.2%増

14. 「ディオール」“レディ ディオール ミディアム バッグ(Medium Lady Dior)”
3万4000人民元(約54万4000円)→ 4万人民元(約64万円)、17.6%増

15. 「グッチ」“GGマーモント スーパーミニバッグ(Super Mini GG Marmont)”
6450人民元(約10万3200円)→ 7500人民元(約12万円)、16.3%増

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ヨーロッパで日本発の価値を示し、機能とデザインで評価される「ワコール」の若代祥世 ランジェリー業界の開拓者 vol.7

 新型コロナウイルスの感染拡大は、従来の商品やサービスの在り方に変化をもたらしている。その影響は下着業界にも及んでいるのは言うまでもなく、ライフスタイルが大きく変わるなか、既成概念に縛られない新たな価値観の提供や働き方にも変革が求められている。この連載では、コロナ禍に先んじて新領域の商品やサービスを生み出してきた下着業界の開拓者を紹介する。

 最終回となる第7回に登場するのは、ワコールホールディングスの100%子会社で、主に欧州事業を担うワコール ヨーロッパの若代祥世「ワコール(WACOAL)」ランジェリーディレクターだ。日本と中国でパタンナー・デザイナーの経験を積んだ後、2016年に渡英。日本のワコールの開発力とヨーロッパの市場が求めるデザインの美しさを融合させ、18年にはパリ国際ランジェリー展の「デザイナー・オブ・ザ・イヤー」をアジア発のブランドとして初めて受賞し、その存在感をヨーロッパで確実なものにした。

――現在の仕事内容を教えてください。

若代祥世「ワコール」ランジェリーディレクター(以下、若代):ワコールヨーロッパが30カ国で展開する「ワコール」ブランドのランジェリーディレクターとして、シーズントレンドの情報収集、デザインや商品構成の立案、フィッティングの確認、コスト管理、全体のスケジュール管理などを行っている。それに加え、日本のワコールで開発された機能や新素材を企画担当に紹介するイノベーションミーティングの運営責任者も兼任している。「ワコール」のデザインチームは4人で、日本人は私だけだ。

――現在のイギリスと仕事環境の状況は?

若代:昨年3月末にロックダウンを経験して以来、規制緩和と引き締めの繰り返しが続いている。リモートワークになって1年になるが、最初のロックダウンでは、多くの同僚が一時帰休(Furlough)になった(*)。デザインチームにそれをどう説明するか、数日眠れなかった。3シーズン分のサンプルと仕事道具を自宅に移動し、出社は2週間に1回程度。材料やサンプルを取りに行く時だけ出社している。21年秋冬コレクションはベテランデザイナーと私の2人で手掛け、リモートワークのコツをつかむことができた。その後、一時帰休から復帰したメンバー2人が加わり、22年春夏コレクションを制作した。

*新型コロナ感染拡大防止のために英国政府が行う企業向け支援策で、休職している間の賃金の8割を政府が補助する(上限あり)。

言葉の壁や文化の違いを超えた“強固なチームワーク”が支えに

――コロナ禍の前と後では、仕事の仕方は変わった?

若代:マネジメントの仕方が大きく変わった。会社に行けず、直接会うことができない中で、私たちを助けたのは“強固なチームワーク”だ。チームワークが必要だと頭では理解していたつもりだったが、本当の意味は理解できず行動できていなかったのがコロナ禍前の私だった。イギリスは新型コロナウイルスの感染者も多いし、テレビでは失業者のニュースが流れ、同僚は自身の生活に不安な思いを抱えていた。そのような状況下で安心して働けるように、本人だけでなくその家族にも気を配るようになり、チーム全体で助け合えるようになったことはもの作りにプラスになっている。“強固なチームワーク”というものを理解し、体で習得することができたことは貴重な経験。チームが一体となる感覚は、日本と欧州の差、言葉の壁、文化の違いを超えたもので、今後も仕事を進める上で大きな助けになるに違いない。

――デザイナーの仕事内容に日本とヨーロッパで違いはあるか?

若代:私が日本のワコールでデザイナーをしていたころは、新機能開発を熱心に行った。シーズンごとに新機能を打ち出したキャンペーン商品を提案していたので、新開発素材の情報収集やワコール人間科学研究所(以下、人科研)との開発ミーティング、キャンペーンプロジェクトの運営と、とにかく新商品の開発に全力を注いでいた。一方、ワコール ヨーロッパでは継続品の新色開発が約7割、新商品の開発が約3割という仕事配分だ。これは、欧州内の多くの国へ広く円滑に販売していく方法と、日本という一つの国で新商品を浸透させていく販売方法の違いだと思う。欧州ではそれぞれの国に主力ブランドがあり、その中で各ブランドの特性を表現する必要がある。優れたフィッティングと継続品の実績がブランドの信頼につながるため、商品の約7割が継続品だ。

――欧州は広くて体型も好みも異なる。その中で同じ商品を売る難しさは?

若代:各国のデザインやフィッティングの好みを理解しつつ、より多くの消費者の期待に応え、「ワコール」らしさを表現すること。それが欧州で「ワコール」の存在感を示すことであり、私の仕事。18年秋冬から継続している“レース パーフェクション”と、19年に発売した“ラフィネ”は、この欧州戦略の成功例だ。

“3D スマート&トライ”を欧州へ

――欧州で日本生まれのワコールが存在感を示すために必要なこととは?

若代:「ワコール」のアイデンティティーを商品で表現すること。“日本文化と欧州文化の融合”を具現化できるのは、欧州の中でも日本生まれの「ワコール」だけ。また、“人間科学とファッションの融合”という弊社の強みは、イノベーションを求める欧州市場から期待されており、仕事をする上でも一番面白いところだ。その期待に応えることで、「ワコール」の存在感を増すことができると確信している。

――それを実現するために、どのような商品開発をしている?

若代:ブランドを象徴するコレクションが、21年秋冬シーズンに3つある。一つが、パリのノートルダム寺院をイメージしてデザインした“ルミエール ドルチェ”。19年の同寺院の火災のニュースを見て動揺したが、復興を願う気持ちはパリや欧州の人々と同じで、その思いを表現した。ほかのコレクションに比べて価格が高く、コロナ禍では厳しいかと思ったが、フランスの小売店からの支持が高く多く受注を受けた。もう一つが、日本の美しさと欧州の感覚を融合したコレクション“桜”だ。日本のレースメーカーと開発し、桜とその澄んだ空気のイメージを、欧州の女性が好む、パッドなしのバルコニーブラなどで表現した。次に「ワコール」が得意とするイノベーション技術を発揮した “グロワール”だ。これは日本でも使用されている日本製のナノファイバーを生地に編み込み、ブラジャーのバックベルトとショーツのヒップ部分に使用することで、脇やヒップ下を適度に抑えてボディーラインを整える。日本のクラフツマンシップが光る商品を提案できたと思う。

――今後の目標と、それを達成するための課題は?

若代:この連載の第1回目に登場した篠塚と人科研のメンバーとともに“3D スマート&トライ”を欧州で展開する準備を進めている。このプロジェクトを達成するにはさまざまな課題があるが、解決の糸口は強固なチームワークによるアイデアの抽出にあると感じている。欧州の消費者に「ワコールの」“人間科学とファッションの融合”と、“デジタルが結ぶ新しい下着体験”を楽しんでもらいたい。

川原好恵:ビブレで販売促進、広報、店舗開発などを経て現在フリーランスのエディター・ライター。ランジェリー分野では、海外のランジェリー市場について15年以上定期的に取材を行っており、最新情報をファッション誌や専門誌などに寄稿。ビューティ&ヘルス分野ではアロマテラピーなどの自然療法やネイルファッションに関する実用書をライターとして数多く担当。日本アロマ環境協会認定アロマテラピーアドバイザー。文化服装学院ファッションマーチャンダイジング科出身

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田谷が美容室「TAYA」など33店舗を閉鎖、銀座コア店や青山店も

 美容室チェーン「タヤ(TAYA)」など全国に117店舗の美容室を運営する田谷は、新型コロナウイルスの影響で業績が悪化したことを受け、構造改革プラン「T9」を発表した。その一環として2022年3月期中に5ブランドのサロン「タヤ」「タヤアンドコー(TAYA&CO.)」「シャンプー(SHANPOO)」「ミッシェルデルヴァン(MICHEL DERVYN)」「カペリプント N.Y.(Capelli Punto N.Y.)」の内、経営効率が悪化した33店舗を閉鎖する。すでに5月31日には「タヤ」の銀座コア店や青山店など13店舗の閉鎖が決定している。「T9」ではそのほか、新人事制度の導入やECサイトを含む“ネット関連事業”の本格稼働、組織再編などに取り組み、再成長を目指す。

 田谷の21年3月期決算は、売上高が前期比22.4%減の67億円、営業損益が12億円の赤字(前期は3億円の赤字)、経常損益が12億円の赤字(同4億円の赤字)、純損益は10億円の赤字(同3億円の赤字)だった。今期の業績予想は、新型コロナの影響で適正かつ合理的な算定をすることが困難であるため、現段階では未定とした。

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【家飲み】塚田農場の「家飲み便」。生産者を支援する塚田らしい気遣いがステキだぜ

 外食チェーンの通販サイトが増えている。家飲みでも"ちょっと贅沢"需要を狙い、自社ブランドのメニューを販売するだけではなく、各社とも様々な工夫を凝らしている。なかでも、エー・ピーカンパニーの子会社である塚田農場プラスの通販サイト「おうち塚田農場 家飲み便」は、手間と時間を省いた酒飲みにはうれしいアイテムが揃っている。
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物語コーポレーションが焼肉チェーン日本一を宣言?「かるびとはらみ」で、牛角・焼肉ライクのマーケットを奪取

 株式会社物語コーポレーション(本社:愛知県豊橋市、代表取締役社長:加藤 央之)が、「焼肉きんぐ」に次ぐ第二の柱として、2021年4月26日(月)、埼玉県ふじみ野市に「焼肉 かるびとはらみ(以下、かるびとはらみ)」1号店をオープンさせた。「焼肉きんぐ」は、全国で263店舗を展開(4月現在)、「焼肉きんぐ」と連動して、焼肉チェーン日本一を本気で獲りにきた。
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「アフター・コロナ」と「アフター・チャイナ」への究極の選択 小島健輔リポート

 ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。コロナ禍で大打撃を受けるファッション業界は、同時にサステナビリティやサプライチェーンの問題にも対応を迫られている。未曽有のピンチにどう臨むべきなのか。

 コロナ禍の2020年は通勤着が激減して購入単価も落ち衣料消費が8掛けに萎縮し、環境省「SUSTAINABLE FASHION」リポートでは「なるべく新たに買わず、リペアして大切に長く使い、リユース・リサイクルして衣料廃棄を減しましょう」(筆者要約)とさらなる萎縮を求められ、直近では3回目の緊急事態宣言に直撃され、新疆綿問題では欧米と中国の板ばさみとなって「人道か商売か」の究極の選択を迫られる四面楚歌のアパレル業界だが、そろそろアフター・コロナ(A.C.)を見極めて事業の抜本的再構築を急ぐときではないか。

サステナブル“革命”の衝撃

 環境省「SUSTAINABLE FASHION」レポートは「これからのファッションを持続可能に」をテーマに、衣服の生産から着用、廃棄に至るまで環境負荷を軽減するには何をすべきか、消費者とファッション業界の両方に平易な言葉で提言しているが、業界には極めて厳しい内容だ。

 「ファッションと環境の現状」では、商品企画段階、原材料調達・紡績・染色・裁断・縫製の生産段階、輸送・物流段階、販売・利用・排出段階、回収・リペア・リユース・リサイクル段階と、データをそろえていかに環境負荷が大きいか図で示し、「より安くより多くって、いいこと?」と問いかけ、「ファッションと環境へのアクション」では、消費者として取り組めること、ファッション企業として取り組めることを左右に対比して具体的なアクションを提議している。

 とりわけ消費者に対しては「今持っている服を長く大切に着よう」「リユースでファッションを楽しもう」「先のことを考えて本当に必要な服だけ買おう」「買わないこともサステナブル」と、安易な「衝動買い」や「使い捨て」を戒め、「長く着られる服」を慎重に選んで購入し、シェアやリペア、リユースで一着を長く楽しむ「サステナブルファッション」を推奨している。

 消費者がそんな提案を実行すれば「新品」衣料の購入は激減し、コロナで8掛けに萎縮したアパレル市場はさらに縮んでしまう。「買い替え」と「使い捨て」を否定されてはアパレル業界は拡販する術を失い、事業の縮小を迫られる。加えて安価なリユース(中古衣料)が広がれば割高な「新品」の販売は今以上に圧迫されるから、アパレル業界にとっては「死亡宣告」にも等しい。

 実際、先進国の中古衣料が流れ込んだアフリカやアジアの後進国では現地のアパレル産業が壊滅し、ナイジェリアやベトナムなど中古衣料の輸入を禁止したり制限する国も多くなっている。長年の過剰供給で流通在庫もタンス在庫も膨れ上がった状態からリユースシフトが進めば、「流通在庫十年分、タンス在庫百年分」と揶揄されてリユースが主流となり「新品」市場が8分の1に激減した着物業界の二の舞になりかねない。衣料消費が本当に「サステナブル」になればアパレル業界は壊滅してしまう。

サステナブルMDと時間軸の転換

 サステナブル“革命”がどの程度の勢いで進むのか予測する術はないが、アパレル企業が取るべき対応は明白だ。それは商品とMD(マーチャンダイジング)、商品財務と流通戦略の二軸の転換に他ならない。
まずは「買い替え」と「使い捨て」をあおる「ファスト商品」から長く使える「ランニング商品」や「インベスティメント商品」に商品開発の軸を移し、マーチャンダイジングとサプライの継続性を確立することだ。

 アパレル商品には、ワンシーズン使い捨ての消費財たる「ファスト商品」、数シーズン着回せるタフな多年性消費財たる「ランニング商品」、大切に使えば10年以上も着られる耐久消費財としての「インベスティメント商品」の3種がある。近年は低価格化が進んで使い捨ての「ファスト商品」が広がるにつれ、定番的な「ランニング商品」は割高なNB(ナショナルブランド)から「ユニクロ」など手頃なSPA(製造小売り)商品に代わり、フィットのトレンドが激変する中、値が張る「新品」のブランドもの「インベスティメント商品」が敬遠される一方、ユーズドでは人気アイテムとなっていた。

 トレンドに左右されず耐久性もある定番的「ランニング商品」、それにものづくり神話やブランド価値も加わる「インベスティメント商品」は賞味期間も販売期間も長い。何年も微細な改良を続けて継続販売するから、シーズン末に売れ残っても叩き売る必要がなく、翌シーズンに持ち越して「正価」で販売すれば良い。

 そんな「長く着られる服」「長く売れる服」に軸足を移せば、過剰供給と叩き売りで損なわれた「正価信頼感」や「愛着感」が復活し、マーチャンダイジングが安定して顧客が継続し、サプライヤーとの関係もサステナブルになる。過剰供給と叩き売りのロスとコストが抑制される分、原価率が高まって「お値打ち感」も回復し正価消化率も高まるが、在庫回転と資金回転はガクンとスローになる。

 サステナブルなマーチャンダイジングはスローなマーチャンダイジングと同義であり、ていねいに作って大切に売る分、スローな時間軸での在庫運用と資金マネジメントが問われる。アトリエ生産する欧州の高級ブランドなど年に2回転もしないし、ワインやシャンパンの事業では1回転するのに何年も要する。「インベスティメント商品」はそんな時間軸の中で“熟成”されていくのだ。

 在庫回転がスローな分、資金の余裕と売上金の回収速度が問われるから、拡販より継続を重視し、ランニングコストが低く売上金回収の早いD2C流通に注力するべきで、ランニングコストが高く売上金回収の遅い百貨店や商業施設は回避されるべきだ。

A.C.世界への究極の選択

 A.C.とは「アフター・コロナ」だけでなく「アフター・チャイナ」(中国なき世界)という意味も大きい。A.C.世界を展望するとき、生産でも販売でも中国に依存するかしないかで戦略は180度異なる。

 中国の暴力的覇権と人権抑圧に目をつむっても商売を取るなら、生産地としても市場としても中国の存在を謳歌できるが、欧米市場から締め出されるリスクが生じる。欧米の要求に同調するなら新疆綿どころか中国生産の綿製品すべてを回避するしかなく、そんなことをすれば中国市場から確実に締め出される。

 新疆綿は中国生産綿花の8割以上を占め、その紡績や染色、製品化は中国の各地で行われるから、新疆綿の使用を否定するなら中国生産の綿糸と綿製品の全てを回避するしかなく、中国生産から撤退するに等しい。急速な経済成長でコストが上昇しているとはいえ、長年の取引で品質も安定し、小ロット短サイクル対応も可能な中国生産を捨てられるのかと躊躇しているうちに、世界的な脱中国のサプライチェーン再編に置いていかれるかもしれない。

 日本のアパレル業界にとっては南アジアぐらいしか移転する産地が見出せないが、欧米のアパレル業界には南アジアに加え、南欧・東欧・ロシア、アフリカ・中近東、中南米という選択肢もあり、中国を切り捨てる決断は容易だ。すでに電子部品や医薬品など戦略物資については中国の隔離が始まっており、政治的対立が極まればアパレル生産でも中国を切り捨てる覚悟はできている。中国は成長する魅力的な巨大市場でもあるが、欧米のアパレル事業者はカントリーリスクを見極めて撤退を始めている。

 「商売と政治は別」などと煙幕を張る経営者もいるが、欧米と中国の対立はもはやそんな日和見を容認する段階ではなく、軍事的にも日本が対中国AAJI包囲陣(QUAD=アメリカ、オーストラリア、日本、インドの枠組み)の中枢に組み込まれた以上、双方から「show the flag」と迫られることになる。もはや中国は生産地としても市場としても企業の存亡に関わるカントリーリスクとなったのではないか。

小島健輔(こじま・けんすけ):慶應義塾大学卒。大手婦人服専門店チェーンに勤務した後、小島ファッションマーケティングを設立。マーケティング&マーチャンダイジングからサプライチェーン&ロジスティクスまで店舗とネットを一体にC&Cやウェブルーミングストアを提唱。著書に店舗販売とECの明日を検証した「店は生き残れるか」(商業界)、12月11日に出版した「アパレルの終焉と再生」(朝日新書)

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「アフター・コロナ」と「アフター・チャイナ」への究極の選択 小島健輔リポート

 ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。コロナ禍で大打撃を受けるファッション業界は、同時にサステナビリティやサプライチェーンの問題にも対応を迫られている。未曽有のピンチにどう臨むべきなのか。

 コロナ禍の2020年は通勤着が激減して購入単価も落ち衣料消費が8掛けに萎縮し、環境省「SUSTAINABLE FASHION」リポートでは「なるべく新たに買わず、リペアして大切に長く使い、リユース・リサイクルして衣料廃棄を減しましょう」(筆者要約)とさらなる萎縮を求められ、直近では3回目の緊急事態宣言に直撃され、新疆綿問題では欧米と中国の板ばさみとなって「人道か商売か」の究極の選択を迫られる四面楚歌のアパレル業界だが、そろそろアフター・コロナ(A.C.)を見極めて事業の抜本的再構築を急ぐときではないか。

サステナブル“革命”の衝撃

 環境省「SUSTAINABLE FASHION」レポートは「これからのファッションを持続可能に」をテーマに、衣服の生産から着用、廃棄に至るまで環境負荷を軽減するには何をすべきか、消費者とファッション業界の両方に平易な言葉で提言しているが、業界には極めて厳しい内容だ。

 「ファッションと環境の現状」では、商品企画段階、原材料調達・紡績・染色・裁断・縫製の生産段階、輸送・物流段階、販売・利用・排出段階、回収・リペア・リユース・リサイクル段階と、データをそろえていかに環境負荷が大きいか図で示し、「より安くより多くって、いいこと?」と問いかけ、「ファッションと環境へのアクション」では、消費者として取り組めること、ファッション企業として取り組めることを左右に対比して具体的なアクションを提議している。

 とりわけ消費者に対しては「今持っている服を長く大切に着よう」「リユースでファッションを楽しもう」「先のことを考えて本当に必要な服だけ買おう」「買わないこともサステナブル」と、安易な「衝動買い」や「使い捨て」を戒め、「長く着られる服」を慎重に選んで購入し、シェアやリペア、リユースで一着を長く楽しむ「サステナブルファッション」を推奨している。

 消費者がそんな提案を実行すれば「新品」衣料の購入は激減し、コロナで8掛けに萎縮したアパレル市場はさらに縮んでしまう。「買い替え」と「使い捨て」を否定されてはアパレル業界は拡販する術を失い、事業の縮小を迫られる。加えて安価なリユース(中古衣料)が広がれば割高な「新品」の販売は今以上に圧迫されるから、アパレル業界にとっては「死亡宣告」にも等しい。

 実際、先進国の中古衣料が流れ込んだアフリカやアジアの後進国では現地のアパレル産業が壊滅し、ナイジェリアやベトナムなど中古衣料の輸入を禁止したり制限する国も多くなっている。長年の過剰供給で流通在庫もタンス在庫も膨れ上がった状態からリユースシフトが進めば、「流通在庫十年分、タンス在庫百年分」と揶揄されてリユースが主流となり「新品」市場が8分の1に激減した着物業界の二の舞になりかねない。衣料消費が本当に「サステナブル」になればアパレル業界は壊滅してしまう。

サステナブルMDと時間軸の転換

 サステナブル“革命”がどの程度の勢いで進むのか予測する術はないが、アパレル企業が取るべき対応は明白だ。それは商品とMD(マーチャンダイジング)、商品財務と流通戦略の二軸の転換に他ならない。
まずは「買い替え」と「使い捨て」をあおる「ファスト商品」から長く使える「ランニング商品」や「インベスティメント商品」に商品開発の軸を移し、マーチャンダイジングとサプライの継続性を確立することだ。

 アパレル商品には、ワンシーズン使い捨ての消費財たる「ファスト商品」、数シーズン着回せるタフな多年性消費財たる「ランニング商品」、大切に使えば10年以上も着られる耐久消費財としての「インベスティメント商品」の3種がある。近年は低価格化が進んで使い捨ての「ファスト商品」が広がるにつれ、定番的な「ランニング商品」は割高なNB(ナショナルブランド)から「ユニクロ」など手頃なSPA(製造小売り)商品に代わり、フィットのトレンドが激変する中、値が張る「新品」のブランドもの「インベスティメント商品」が敬遠される一方、ユーズドでは人気アイテムとなっていた。

 トレンドに左右されず耐久性もある定番的「ランニング商品」、それにものづくり神話やブランド価値も加わる「インベスティメント商品」は賞味期間も販売期間も長い。何年も微細な改良を続けて継続販売するから、シーズン末に売れ残っても叩き売る必要がなく、翌シーズンに持ち越して「正価」で販売すれば良い。

 そんな「長く着られる服」「長く売れる服」に軸足を移せば、過剰供給と叩き売りで損なわれた「正価信頼感」や「愛着感」が復活し、マーチャンダイジングが安定して顧客が継続し、サプライヤーとの関係もサステナブルになる。過剰供給と叩き売りのロスとコストが抑制される分、原価率が高まって「お値打ち感」も回復し正価消化率も高まるが、在庫回転と資金回転はガクンとスローになる。

 サステナブルなマーチャンダイジングはスローなマーチャンダイジングと同義であり、ていねいに作って大切に売る分、スローな時間軸での在庫運用と資金マネジメントが問われる。アトリエ生産する欧州の高級ブランドなど年に2回転もしないし、ワインやシャンパンの事業では1回転するのに何年も要する。「インベスティメント商品」はそんな時間軸の中で“熟成”されていくのだ。

 在庫回転がスローな分、資金の余裕と売上金の回収速度が問われるから、拡販より継続を重視し、ランニングコストが低く売上金回収の早いD2C流通に注力するべきで、ランニングコストが高く売上金回収の遅い百貨店や商業施設は回避されるべきだ。

A.C.世界への究極の選択

 A.C.とは「アフター・コロナ」だけでなく「アフター・チャイナ」(中国なき世界)という意味も大きい。A.C.世界を展望するとき、生産でも販売でも中国に依存するかしないかで戦略は180度異なる。

 中国の暴力的覇権と人権抑圧に目をつむっても商売を取るなら、生産地としても市場としても中国の存在を謳歌できるが、欧米市場から締め出されるリスクが生じる。欧米の要求に同調するなら新疆綿どころか中国生産の綿製品すべてを回避するしかなく、そんなことをすれば中国市場から確実に締め出される。

 新疆綿は中国生産綿花の8割以上を占め、その紡績や染色、製品化は中国の各地で行われるから、新疆綿の使用を否定するなら中国生産の綿糸と綿製品の全てを回避するしかなく、中国生産から撤退するに等しい。急速な経済成長でコストが上昇しているとはいえ、長年の取引で品質も安定し、小ロット短サイクル対応も可能な中国生産を捨てられるのかと躊躇しているうちに、世界的な脱中国のサプライチェーン再編に置いていかれるかもしれない。

 日本のアパレル業界にとっては南アジアぐらいしか移転する産地が見出せないが、欧米のアパレル業界には南アジアに加え、南欧・東欧・ロシア、アフリカ・中近東、中南米という選択肢もあり、中国を切り捨てる決断は容易だ。すでに電子部品や医薬品など戦略物資については中国の隔離が始まっており、政治的対立が極まればアパレル生産でも中国を切り捨てる覚悟はできている。中国は成長する魅力的な巨大市場でもあるが、欧米のアパレル事業者はカントリーリスクを見極めて撤退を始めている。

 「商売と政治は別」などと煙幕を張る経営者もいるが、欧米と中国の対立はもはやそんな日和見を容認する段階ではなく、軍事的にも日本が対中国AAJI包囲陣(QUAD=アメリカ、オーストラリア、日本、インドの枠組み)の中枢に組み込まれた以上、双方から「show the flag」と迫られることになる。もはや中国は生産地としても市場としても企業の存亡に関わるカントリーリスクとなったのではないか。

小島健輔(こじま・けんすけ):慶應義塾大学卒。大手婦人服専門店チェーンに勤務した後、小島ファッションマーケティングを設立。マーケティング&マーチャンダイジングからサプライチェーン&ロジスティクスまで店舗とネットを一体にC&Cやウェブルーミングストアを提唱。著書に店舗販売とECの明日を検証した「店は生き残れるか」(商業界)、12月11日に出版した「アパレルの終焉と再生」(朝日新書)

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すかいらーく、「ジョナサン」を見限り「新型ファミレス」に注力。キーワードは「小さな非日常体験」と「客単価1500円」

 すかいらーくグループがブランドの再構築を急いでいる。低迷する「ジョナサン」を中心に総合ファミレス業態がコロナ禍で苦戦しているからだ。新戦力は、上質喫茶の「むさしの森珈琲」とハワイアンの「ラ・オハナ」。共通するのは「小さな非日常体験」だ。
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