ベルリンのクロイツベルク地区に位置する「グロピウス・バウ(Gropius Bau)」で、オノ・ヨーコの展覧会「YOKO ONO : MUSIC OF THE MIND」が開催している。同展は、ロンドンのテート・モダンが主催し、デュッセルドルフのノルトライン・ヴェストファーレン州立美術館とベルリンのグロピウス・バウがコラボレーションする形で実現した大規模な回顧展だ。
グロピウス・バウは、1881年に建築家マルティン・グロピウスによって設立された「王立応用美術博物館(Königliches Kunstgewerbemuseum)」と付属の装飾美術学校の跡地になるが、第二次世界大戦の時に空爆を受け、一旦は廃墟と化した。しかし、1978年から大規模な改修工事を行い、展覧会施設として必要な設備を整え、81年にオープン。設立当初の19世紀ネオ・ルネサンス様式をそのまま取り入れた外観と当時の風情を残しつつ、現代に合わせたモダンな内装が特徴的でレストランやショップも併設されている。現在は、ベルリンの重要歴史的建築として文化財保護法のもと保護されている。
エントランスを抜け、吹き抜け天井から自然光が差し込む開放的なアトリウムに向かうと「PEACE is POWER」の巨大バナーが目に入る。これは、オノ・ヨーコが2017年から継続的に行っている平和を願うプロジェクトであり、世界各地で開催されている展覧会を通じて観客にメッセージを伝えている。
バナーの下には「Wish Tree for Berlin」と題した9本の木が設置されており、短冊のような白い紙に観客は自由に願いごとを書き、枝に結びつけることができる。96年より世界各地で設置されてきた「Wish Tree」は、幼い頃に訪れた日本の寺院からインスパイアされているという。ベルリンの「Wish Tree」は「破壊と再生」がテーマ。空襲により廃墟となったグロピウス・バウは、しばらくの間放置され、解体の危機にまで晒されていたが、見事に美術館として再建された現在の姿と放置されていた間に自然発生した落葉樹からイメージされている。
展覧会終了後、「Wish Tree」の願いごとはアイスランドに位置するジョン・レノンの誕生日を記念して設置された光の塔「IMAGINE PEACE TOWER」に埋められる仕組みだ。アトリウムは無料で開放されており、誰でも同プロジェクトに参加することが可能。
いくつもの部屋に分かれている2階の展示エリアでは、50年代から制作してきた200点以上もの作品が時系列に沿って紹介されている。直筆の文章で部屋中が埋め尽くされた66年制作の「The Blue Room Event」や64年に自費出版された「グレープフルーツ」の草稿を全公開するなど、オノ・ヨーコ作品を代表する言葉や文章が様々な展示方法で観ることができる。
他にも、観客の参加によって完成する「インストラクション・ピース」やコンセプチュアル・アート、さらに未公開の写真、音楽、映像などで構成されており、各部屋ごとにテーマに沿った空間が演出されている。
ある部屋では、64年に草月アートセンターで上演したオノ・ヨーコのパフォーマンスとして最も知られている「Cut Piece」の映像が上映されている。これは、ストリップティーズをアートに落とし込んだ「Strip Tease Show」の一部で、観客がハサミで彼女の服を一枚ずつ切り取っていく様子がモノクロフィルムで映し出されていた。恥じらいを帯びた訝しい表情がクローズアップされ、露になった胸を隠しながら、震えているようにも見える姿が印象的だ。

オノ・ヨーコは、同じパフォーマンスを03年にパリの小劇場でも再演している。9.11以降の政治的状況やイラク戦争へ抗議し、観客に切り取られた衣服の断片を愛する人に送るよう呼びかけた。いつの時代であっても、世界のどこに拠点を置いていても、オノ・ヨーコの作品は一貫として「平和」を訴えかけ、観客が自主的に参加し、考え、行動することに意味を持たせている。
66年に制作された「White Chess Set」は、戦略や戦争のメタファーでもあるチェスの駒と盤を白一色に統一し、色の識別ができないことで、対立が不可能になることや互いに助け合いながらゲームを進める必要があることを表現し、対立よりも共存と協調が大切であることを促している。
また、01年に制作された「Helmets (Pieces of Sky)」は、第二次世界大戦中に使用されたドイツ軍のヘルメットを天井から逆さに吊るし、中に青色のパズルのピースが入れた作品。戦争の象徴である軍用ヘルメットを逆さにすることで単なる容器として扱い、中には平和の象徴である青い空をイメージしたブルーカラーのパズルのピースを入れることによって「暴力の器を希望で満たす」という強い比喩を生み出している。観客はパズルのピースを自由に取り出したり、持ち帰ることが可能。
60年代のアメリカは、黒人公民権運動、フェミニズム運動、ベトナム戦争への反発が高まった時代であり、オノ・ヨーコも活動家として注目を集めていた。中でもジョン・レノンとの共作「WAR IS OVER! IF YOU WANT IT」や「ベッド・イン」は、世界の誰もが知っているメッセージ性の強い代表作だろう。戦争によって1つの街の中で1つの国が東西に分断されるという数奇な運命をたどったベルリンで、大規模な展覧会を開催する意義があると実感させられる展示であり、オノ・ヨーコ本人も13年に以下のコメントを残している。
“I love Berlin and have already been here so many times. Berlin is part of my body!”(私はベルリンが大好きで、すでに何回も訪れています。ベルリンは私の身体の一部なのです)
現在、ベルリンではグロピウス・バウと並行して、オノ・ヨーコに関連する展示が2カ所で開催されている。近年、フェミニズムやセクシュアリティにフォーカスした展覧会に力を入れている美術館「ノイエ・ナショナルギャラリー(Neue Nationalgalerie)」では、「YOKO ONO : MUSIC OF THE MIND」と連動したサテライト展覧会として「YOKO ONO: DREAM TOGETHER」が開催されている。また、ミッテ地区に位置する「ノイエ・ベルリナー・クンストフェライン(n.b.k.)」では、屋外ビルボードにて「TOUCH」の文字が掲示されている。
なお、グロピウス・バウの会期は8月31日までとなっており、会期中にはさまざまなプログラムが予定されている。
PHOTOS:LUCA GIRARDINI
◼️Gropius Bau
住所:Niederkirchnerstraße 7 10963 Berlin
https://www.berlinerfestspiele.de/en/gropius-bau
The post オノ・ヨーコ回顧展「MUSIC OF THE MIND」に込められたベルリンへの思い appeared first on WWDJAPAN.