トレンドを語るにあたり、近年欠かせないのは“Z世代”の存在感。若者たちは何に関心を持ち、悩み、そして何を着ているのか――。「WWDJAPAN」は、若者とファッション業界をつなぐプラットフォームになるべく、その“リアル”をお届けする。
新たにスタートする本企画では、学生が悩む“キャリア”にフォーカス。毎回ゲストとして招いたファッション&ビューティ業界の先輩方に、事前に履歴書を記入してもらう。その履歴書を元に、学生たちがインタビュアーとしてゲストに質問する“囲み取材”を実施する。初回のゲストは村上要「WWDJAPAN」編集長。参加した11人の学生が、さまざまな質問を投げかけた。
PROFILE: 村上要/「WWDJAPAN」編集長PROFILE: 東北大学教育学部卒業後、地元の静岡新聞社で社会部記者を務める。退職後、ニューヨーク州立ファッション工科大学(F.I.T.)でファッション・ジャーナリズムを含むファッション・コミュニケーションを専攻。2度目の大学卒業後、現地でのファッション誌アシスタントを経て帰国。タイアップ制作、「WWDビューティ」デスク、「WWDモバイル」デスク、「ファッションニュース」編集長、「WWDJAPAN.com」編集長を経て、2021年4月から現職
初キャリアは「コム デ ギャルソン」を着て
事件現場に向かう新聞記者
学⽣:教育学部卒業後、新聞記者になった経緯を教えてください。
村上要「WWDJAPAN」編集⻑(以下、村上): 教育学部に進んだので、教員免許も取りました。でも教育実習で職員室に入ったとき「自分には合わないかも」って直感したんです。今だったらまた違う気持ちで受け止められたかもしれないけど、当時の僕には少し閉鎖的な世界に見えてしまったんです。そこから方向転換して就職活動を始め、地元の「静岡新聞」を受けることに。まだ就職氷河期だったので、数千人が体育館に集まって試験を受けていたと思います。
学⽣:新聞記者時代は、どんな仕事を?
村上: 事件や事故、裁判を担当する社会部記者として、毎日警察署に通って取材、原稿を書くのが仕事でした。当時は23歳。すでにファッション好きだった僕は、「コム デ ギャルソン・オム プリュス(COMME DES GARCONS HOMME PLUS)」を着て事件現場に行くような記者でした。火事だと服がすぐ煤だらけになるから、ブランド服はよくダメにしました。途中から現場に行く前に着替えるようにすると、「来るの遅い」って怒られることも多かったですね(苦笑)。
服装のことでは、よく注意されたな。ジャケット&パンツにネクタイ姿ではあったけど、いわゆる背広は、入社して2年間、一度も着なかった。警察署に初めて行った日なんて、補導された若者の兄だと思われて、少年課に案内されたくらい(笑)。記事も硬派な事件ものより、「男子高校生の美容ブーム」とか「地元カフェごはん」とかカルチャーなものが書きたくて。上司は、「お前の記事はどこに載せればいいんだ」って、悩んでいました(苦笑)。
学⽣:そもそも記者の経験があったのでしょうか?
村上: 学生の頃から文章を書くのは好きで、新入生歓迎パンフレットを作ったことがあるんです。先生や先輩にインタビューして、学食や仙台のおすすめスポットを紹介したり。それを見た仙台のタウン誌の方から声をかけてもらって、絵付きコラムを毎月連載することに。それがすごく楽しかった。
学⽣:新聞社から、どのようにファッションの世界へ?
村上: そのときの僕は、「伝えたいことを書く」ことに意味があると思っていました。でも、会社員はそれじゃダメ。自分のやりたいことと、会社から求められることを合わせていかないと、双方幸せになれないって気づいたんです。そこで自分の関心や興味がある業界で仕事しようと、改めてファッションについて学ぶためニューヨークに発ちました。
「記者は名刺一枚で、会いたい人に会える魅力的な仕事」
学⽣:記者という仕事の魅力とは?また、編集者との違いは?
村上: 編集者は、ライターやカメラマンを起用して、チームで記事を作る司令塔。人の力を引き出すのが大事な仕事ですね。一方の記者は、自分で取材して自分で書くのが基本。自分が面白いと思うこと、読者の役に立つと思うことを見つけて、直接形にしていきます。僕が思う記者の一番の魅力は、会いたい人に会えること。名刺一枚あれば、行きたい場所に行って、会いたい人に話を聞ける。ジャーナリストって、知らないことを知るのが好きな人が多いんですよ。僕も、ワクワクする話を伝えるべき人に届けたいって思うし、正直それがファッションじゃなくても、全然違う分野でも記者なら続けられる気がします。
学生:キャリアの中で影響を受けた人物はいますか?
村上: 一番は「WWDJAPAN」元編集長の山室一幸さんですね。真っ白なロングコートにミンクのマフラー、「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」のドクロ付きステッキを持って、西麻布の交差点を歩いている姿を初めて見たときは、本当に衝撃でした。もともと「ファッション通信」というテレビ番組のプロデューサーから出版の世界に入られた方で、原稿を書く経験はほとんどなかったはずだけれど、ものすごく努力して、メディアを牽引する編集者になった。とにかくモードな方で、ずっとこの業界を愛し、そして業界からも愛され続けた方でした。
学生:村上さん自身が編集長になろうと思ったきっかけは?
村上: 正直、入社1年目で「なれる」って思いました(笑)。ただ、本当に「なろう」と志したのは、だいぶ後のこと。編集長は媒体を背負うので、マネジメントや対外調整も必要で、自分のやりたい取材ばかりができるわけじゃない。それでもチームを束ねれば、もっと大きな、もっと面白いことが実現できる立場です。そうすると会える人も一気に広がり、記者という立場以上にあらゆる声を直接聞けるようになりました。とはいえ、やっぱり自分で面白いと思う記事を取材して書いていきたい。どんな役職に就いても、記者としての姿勢は持ち続けたいと思っています。
学生:「ファッションが好き」という気持ちだけで、仕事にしても良いのでしょうか?
村上: 服を着るのが本当に好きなら、消費者として関わるのも立派な選択。でも業界で働くなら、潮流や変化を理解しながら、「洋服で人を高揚させる」とか「社会の空気を感情を込めて伝える」ことができるという魅力に心酔できるかが大事です。
「知らない世界を知ること」で
プライベートも仕事に活きてくる
学⽣:出版業界は縮小傾向だが、今度どう変化していくのでしょうか?AI技術の影響をどのように感じていますか?
村上: 市場は確かに縮小しています。「WWDJAPAN」の週刊紙も本当に色々頑張って、微増ってカンジです(苦笑)。今後、ニュースはAIが書いてくれるようになるでしょう。でも、着眼点や分析はまだ人間の強み。2〜3年は勝てるはず。僕らは価値ある情報を届けるために、イベントやセミナー、将来的にはコンサルみたいな形にも変わっていくかもしれない。それでも、「WWDJAPAN」というメディアの本質である「悩んでいる人に寄り添う」ことは変わりません。そこは絶対に変わらないと思っています。
学⽣:ファッション業界には性的マイノリティーの方が多い印象ですが、なぜなのでしょうか?
村上: 例えば、ゲイは「女性の気持ちがわかるから」とか、「クリエイティブだから」といわれるけれど、当事者の僕は「そんなことないよ」と思っています。ただ、ファッション業界には、ことジェンダーに関する多様性に寛容な空気があるのは確かです。例えば前職では先輩から、「お前も結婚して、子どもを作ってからが一人前だ」と言われることが時々ありました。先輩に悪気はないんです。むしろ前職での活躍を願っての激励でした。でも、ゲイの僕はそれを聞くたび「そんな未来、想像できないなぁ。シンドいなぁ」と思っていました。だから僕は、ジェンダーに関して寛容なファッション業界は、生きやすい。こと海外のファッションやビューティ業界では私と同じように、他の業界でちょっとした“生きづらさ”を感じてきた人たちが頑張っている印象です。ゆえに多様性が育まれたのだと思います。一方の日本は、ストレートの人も多いですよ(笑)。
学生:仕事とプライベートはどう切り分けていますか?
村上: 私は「それが良い」と思って選んでいますが、仕事とプライベートの境界線はほとんどないですね。洋服が好きだし、人と話すのも好きだから、仕事が全然苦ではありません。ただ、今の会社に入って最初の3年くらいは即戦力になろうと必死で働いていたので、気づいたら会社と自宅の往復ばかり。世間からズレてしまっていました。そんなとき、あるバイヤーの方の話を聞いて、ハッとしたんです。彼女が働いていたお店は、代官山ではトップブランドの洋服を販売しつつ、新宿の駅ビルでは多くの女性に向けて自社企画の洋服を提案していました。だからパリコレで最先端のファッションを1週間見続けたあと、日本に帰ったら必ず丸の内線の満員電車に乗って、働く女性たちと同じ目線に立つようにしていると。それ以来、「知らない世の中を知る」ってすごく大事だと思うようになって、なるべく会社から離れた時間を作って、いろんな世界を見るようにしています。
村上編集長が説く
「キャリア選びの“正解”」とは
学生:私自身別業界に就職が決まったものの、ファッションの道に未練があります。後悔しない選択をするために、何かアドバイスをいただきたいです。
村上: まずは、その業界でやってみたらいいと思います。正解を選ぼうとすると、決断のたびにしんどくなって、後悔しやすい生き方になりかねない。選んだことを正解にする。そんな心構えでいたほうが前を向けます。そこで努力が報われなければ、違う道に進めばいい。僕自身、新聞記者時代の2年間で、世の中の変化を汲み取って文章にする力や社会を見つめる力が鍛えられました。それが「ファッションは社会を変えうる」という今の考え方につながっているし、文章を速く書くスキルは今の仕事でも大きな武器です。どの経験も糧になっています。だから、まずは目の前のことに全力で向き合ってみる。それは絶対に無駄なことではありませんよ。
学生:人に伝える文章を書くときのポイントとは?記事を書くときは、どんなことを意識していますか?
村上: 最初から最後まで「何を伝えたいのか」というゴールを意識し続けて書くことをオススメします。ありがちなのは、途中で自分が何を書きたかったのか分からなくなっちゃうこと。文章に限らず、課題に取り組む中で問題が発生すると、その解決に追われて、気づけば“完成させること”が目的になってしまうんです。大事なのは「ゴール」を決めて、意識し続けること。誰に読んでもらって、どう感じてもらいたいのか。それを最初から明確にして書く。これが一番の近道だと思います。
学⽣:最後に、キャリアについて悩む私たちに応援コメントをいただけるとうれしいです!
村上: 「◯◯になるために今、何をすべきですか?」と聞かれると、「あぁ悩んでいるんだな」って印象を受けますね。僕のような記者や編集者の仕事に憧れを持ってくれることは本当にうれしい。でも、その道にたどり着く方法は人それぞれ。タイパやコスパに囚われて考える必要はありません。「それでいい」じゃなくて「それがいい」と思える道を選び、選んだものを正解にしていく。好きなことを仕事にできるのは、本当に幸せなこと。皆さんにも、そんな仕事に出合ってほしいと思います。
【参加学生ファッションスナップ】
名前:杉田美侑(すぎた・みゆ)
インスタグラム:@miyu_mymy
学校:早稲田大学
一言コメント:「買ったばかりのパンプスを履きたくて」
着用アイテム:トップス/イロット、ボトム/不明、シューズ/バーニーズ ニューヨーク、ブレスレット/サークルの先輩からのプレゼント、リング/祖母のお下がり
名前:小山瑞可(こやま・みずか)
インスタグラム:@mizu_wander
学校:早稲田大学
一言コメント:「百均のひもを巻いてみました」
着用アイテム:トップス/オンスカ、ボトム/ビンテージ、シューズ/ザラ、アクセサリー/無限堂、バッグ/母親のお下がり
名前:丸山倖花(まるやま・さちか)
インスタグラム:@3chim
学校:東京女子大学
一言コメント:「お気に入りのマーチンをメインに!」
着用アイテム:トップス、ボトム/共にビンテージ、シューズ/ドクターマーチン、アクセサリー/ティーナジョジュン、バッグ/イル ビゾンテ
名前:前田晟及(まえだ・せいごう)
インスタグラム:@maedasei__
学校:明治大学
一言コメント:「町田康というパンク歌手のイベントがあったので、パンクコーデに」
着用アイテム:トップス/ザ・スターリンのバンドTシャツ、ボトム/ユウキハシモト、シューズ/トーガ、バッグ/コーチ、バンダナ/ビンテージ
名前:日原可経(ひはら・よしのり)
インスタグラム:@0120.0158.1121
学校:日本大学
一言コメント:「少年っぽく」
着用アイテム:トップス/ヨウジヤマモト、ボトム/ワイズ、シューズ/アディダス、アクセサリー/ラッドミュージシャン
名前:安藤美羽(あんどう・みう)
インスタグラム:@3luando
学校:日本大学
一言コメント:「トップスを主役にコーディネート」
着用アイテム:トップス/プリーツ プリーズ イッセイ ミヤケ、ボトム/ニュニュ、シューズ/チャールズ&キーズ、バッグ/コーチ、アクセサリー/ティファニー
名前:生田杏(いくた・あん)
インスタグラム:@talkspretty
学校:青山学院大学
着用アイテム:トップス/ドルチェ&ガッバーナ、ボトム/ザラ、シューズ/プーマ、、バッグ/アバクロンビー&フィッチ、小物入れ/エヴィス、アクセサリー/パリのお土産、フェラガモ、母のお下がり
名前:小島てしか(こじま・てしか)
学校:聖心女子大学
一言コメント:「キラキラのスカーフをポイントにまとめました」
着用アイテム:トップス/グレースコンチネンタル、ボトム/ビンテージ、シューズ/ドクターマーチン、スカーフ/ビンテージ、パールネックレス/祖母のお下がり、リング/ヴィヴィアン・ウエストウッド
名前:榎本菜波(えのもと・ななみ)
インスタグラム:@dnt_.ery._heaven
学校:創価大学
一言コメント:「企画に合わせて、記者風に!」
着用アイテム:ジャケット、ボトム/アオキ、トップス/ユニクロ×マメ クロゴウチ、シューズ/不明
次回は、森永邦彦「ANREALAGE(アンリアレイジ)」デザイナーが登場。早稲田大学在学中に文化服装学院でも学び、2003年に自身のブランドを立ち上げた背景、そしてパリへの挑戦、今後の目標などをお聞きします。
PHOTOS:NAOKI MURAMATSU
TEXT:RIE KAMOI
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