削ぎ落とすほどに、増していくもの。

畑萬陶苑「Texture」シリーズのひとつ、鉄粉が焼成で黒点となり表れる「Nashiji White」

Re Gallery SCEARN時代を越えて受け継がれる、格式という美意識。

かつて将軍への献上品としてだけ焼かれてきた器があります。
高く取られた高台は献上品としての格を示し、三次曲面を描くフォルムは光を受けて立体を見せます。呉須の青に、赤・黄・緑を重ねた四色のみという掟。そんな350年前から変わらぬ美意識を、今に伝える窯元があります。伊万里・鍋島焼の技術を受け継ぐ『畑萬陶苑』です。

「Re Gallery SCEARN」における3回目の展示「肌理(きめ)、語る。」で迎えるのは、その『畑萬陶苑』が手がける「Texture(テクスチャー)」シリーズ。伝統的な鍋島様式とは対照的に、異なる素材と技法によって、それぞれに固有の表情を持つ器群が並びます。近づくほどに、光の角度によって、異なる表情を見せます。

五代目を継ぐ畑石修嗣氏は、大学で彫刻を学んだのち、家業に入りました。ものを平面ではなく空間として捉える感覚は、彫刻の勉強を通じて培われたものだといいます。

「料理が乗り、光が当たったときにどう影が入るか。そこまで含めて、器の完成形をイメージしています」

器そのものだけで主張しすぎず、料理が乗って初めて完成する余白を残すことが、畑萬陶苑のもの作りの軸になっています。
「Texture」シリーズが生まれたきっかけは、かつてパリの『SOLA』で腕を振るい、現在は博多でレストランを営む料理人・吉武広樹氏との出会いでした。

「料理を盛りつけて、はじめて完成する皿を」

ときはデンマークのトップレストラン『NOMA』の隆盛時。世界的な潮流として自然な佇まいの器が求められた時代でもありました。そんな折、鍋島様式を形づくる要素を分解し、必要なものだけを組み合わせていく、いわば引き算の発想から生まれたのがこの「Texture」シリーズです。

何も加えず磁土そのものの白さを差し出す「White」、砂を吹きつけ磁肌を削り出す「White Matt」、鉄粉を釉薬に練り込み黒点を浮かび上がらせる「Nashiji」。削ぎ落とすことにより逆に際立つ、磁肌の存在感、フォルムの美しさ。それが「Texture」シリーズが提示した、鍋島の新たな可能性です。


一方、今回展示されるもうひとつのシリーズ、鍋島の色絵を纏う「大盃」は、『畑萬陶苑』にとって譲れない核。年に一度しか窯を焚けなかった時代に、職人たちが積み重ねてきた熱量の結晶。それは魂を込め、まさに命を削るような仕事だったに違いありません。

「先人の職人へのリスペクトを持ちながら、それよりもいいものを作りたいという思いでやっています」

そう語る畑石氏。

伝統と革新、対極にあるように見えるふたつのシリーズが、同じ窯元から生まれているという事実。線を描く者、中を塗る者。分業によって重なる層が、一人の作家の個性ではなく「畑萬陶苑らしさ」を形づくり、次の世代へと受け継がれていきます。

さらに今回の展示では、もうひとつの出会いも見どころです。
福井で244年続く老舗和菓子店「昆布屋孫兵衛」、十七代目・昆布智成氏。
父・孫兵衛氏が手がける和菓子と、自身が手がける洋菓子をひとつの店に並べる昆布氏は、日頃から畑萬陶苑の「Texture」シリーズを盛り付けの舞台として愛用しています。
アシェット・デセールは、器の余白があってこそ完成する一皿。伝統と現代、和と洋。異なる時間を歩んできたふたつの手仕事が、静かに響き合う瞬間です。

会期中は会場にて、昆布屋孫兵衛の焼き菓子を数量限定で販売。器と菓子、ふたつの手仕事が出会う時間を、ギャラリーで愉しむことができます。
会場は、自然光の入るミニマルな空間。差し込む柔らかな光により際立つ器のシルエットは、畑石が意識してデザインしたところ。対角にあるように見える伝統的な鍋島焼と「Texture」シリーズが、同じ窯元から生まれているという事実にこそ、ものづくりの面白さがあります。削ぎ落とした果てに立ち現れる、確かな輪郭。伊万里の窯から届いた器は、静かにそう語りかけてきます。
 

波間に宝尽くしを配した大盃。呉須の青と余白の間合いに、鍋島様式の格式が宿る。

サンドブラストの静かな質感に、昆布智成氏のデセールが重なる。器と菓子、ふたつの手仕事の対話。

「畑萬陶苑」五代目・畑石修嗣。受け継がれる鍋島の熱量を今の形に宿す。

「Re Gallery SCEARN」
TEL:03-6433-5201
住所:東京都北青山3-13-7 2F
営業時間:11:00〜19:00
定休日:月曜(祝日の場合は営業)
※1Fは、「SCEARN」ウェアを展開
公式HP:https://scearn.com/
 

[ギャラリーのご案内]
展示内容:肌理、語る。 畑萬陶苑 ✕ 昆布屋孫兵衛
期間:2026年7月23日(木)〜10月25日(日)