見積業務から開放される?!時代は自動見積もりサービス黎明期へ突入

テクノポートの徳山です。製造業の方とお話をしていると「見積り業務は社長の仕事」という方が多いようですが、営業活動に力を入れれば入れるほどその業務量が増え、社長業に割く時間が侵食されているケースをよく見受けます。そのような話を聞くたびに、ITの力により状況が改善されないものかと考えてしまいます。

そこで今回は、最新のIT技術により見積り業務が自動化される可能性について考察していきます。

見積り業務に翻弄される日本の中小製造業

見積り無料という悪しき文化の中で苦しむ製造業者

製造業の方とお話していると見積り業務がかなりの負担になっているという話をよく伺います。詳しく話を聞くと、メーカーや商社などを中心に、挨拶代わりに見積りをお願いされるようで、違う会社から同じ図面が回ってくるようなこともよくあるそうです。

発注者であるメーカーの購買部は常にコストダウンという目標を抱えているため、何とかしてその目標を達成しようと奮闘する訳ですが、中には取り敢えず相見積もりを行い(図面をばら撒き)、安くできる業者を掘り当てる、といった手法を採っている方もいるようです。しかし、そのような行為は発注者が努力せずコストダウンを行うための悪しき習慣だと思います。見積りは無料という文化が根づいてしまった中で、それに受注企業が犠牲になっている縮図は気持ちがいいものではありません。

調達業務にイノベーションが起きていない

製造業には様々な業務がありますが、設計業務はCAD/CAMの普及や3Dデータ化、製造業務は3Dプリンタの登場など、大きなイノベーションが起きています。しかし、上述したような現状を目の当たりにすると、購買・調達業務にはずっとイノベーションが起こっておらず、非効率な状態が続いているように感じます。

調達業務が非効率なために、製造業者は受注できるのかわからない図面に対し、多大な労力と時間を費やして見積りを作成しているのが現状です。

解決するためのアプローチ

解決するアプローチとしては、発注者側が調達業務のやり方を変えるか、製造業者側が見積り業務を極限まで効率化するか、が考えられます。しかし、一企業が努力しても業界の慣習を変えることは難しいでしょう。

そんな中、上記どちらかのアプローチにより、この悪しき慣習を変えるきっかけとなるサービスがいくつか現れてきているのでいくつかご紹介します。

発注者の調達業務を支援する自動見積りサービス

CADDi

キャディ株式会社というベンチャー企業が運営している自動見積りサービスです。Web上で3Dデータをアップするとすぐに見積り金額が算出され、そのまま発注までできてしまうサービスです。

現状は板金加工品だけですが、機械加工品(切削、旋盤、フライス、マシニング等)へのテスト対応をはじめているそうで、既に3,000社を超える企業が利用(同社HPより)しています。昨年12月には10.2億円の資金調達を行い、今年2月に行われた機械要素技術展では巨大な展示ブースを構えサービスのPRを行っていました。いま最も勢いのあるモノづくり系ベンチャー企業といっても過言ではありません。

弊社でも過去に同社を取材しておりますので、詳細はこちらをご覧ください。

meviy(メヴィー)

まだ聞き慣れないこちらのサービスですが、製造業であれば知らない人はいない、あのミスミが運営しています。CADDiと同様、3DデータのアップをWebサイト上で行うことで自動で見積りが算出され、そのまま発注ができるサービスです。こちらも現状は板金加工品や金型部品だけですが、今後切削加工品全般に対応していく予定だそうです。

製造業者の見積り業務を効率化する自動見積りサービス

Kabuku MMS

3Dプリント業界で有名な株式会社カブクという企業が運営するサービスです。

3Dプリント事業におけるワークフロー全体を効率化できるサービスなのですが、その中に見積りの自動化機能がついています。

秀逸なのは、見積り自動化機能を自社のホームページに埋め込むことが可能というところです。これにより、自社ホームページに自動見積りの窓口を設置でき、見積りを行う業務と顧客とのコミュニケーションが一切不要になります。

TerminalQ

株式会社NVTというベンチャー企業が開発したクラウド見積りサービスです。

切削業者向けのサービスで、見積り業務から請求業務までクラウドでの一元管理による効率化を行うことができます。自社工程を初期設定することで、その設定にもとづいた見積りがほぼ自動的に出来上がります。

こちらの会社は、八王子市にある月井精密株式会社という切削加工業者が自社のノウハウを活かし作り上げたサービスです。以前に当メディアの外部ライター・栗原さん(株式会社栗原精機 代表取締役)が記事として取り上げています。

まとめ:今後の展望

自動見積りサービスが普及するためのポイント

AI(人工知能)の発達

今回ご紹介したサービスのほとんどにAIが使われています。現段階では、アップできるデータや使用できる業態に制限があったりしますが、AIが発達することによりその制限が取り払われる可能性があります。

3Dデータの普及

自動見積りで使用できるデータは3Dデータが主流となっていますが、これはAIが金額を自動算出するのに適しているからです。3Dデータが扱える製造業者はまだまだ少ないですが、これが普及すれば自動見積りが使える案件が一気に増えます。

受注側と発注側のITリテラシーの向上

どのような素晴らしいサービスや仕組みが出来上がっても、それを使うユーザのリテラシーが追いつかないとどうしようもありません。ITが苦手と敬遠される方も多いですが、そのようなことを言っていられない時代はすぐそこに来ています。

自動化できない業務に勝機あり?

今後、自動見積りサービスが普及すると、見積りから製造までのプロセスがすべて自動化される可能性が出てきます。そうすると設備さえ揃えれば一連のプロセスを自動化できるようになり、このプロセスにおける付加価値は徐々に失われていきます。最終的には価格だけの競争になってくるでしょう。

価格勝負になるような相見積もりはできるだけ自動化を図り、これからは自動化できない業務に勝機が出てくると思われます。自動化できるような簡単な加工は自動化させてしまい、自動化で対応できないような高い技術力を要する加工や、機械では出来ないVA・VE提案に注力することで付加価値をつける必要が出てきます。

まだまだ未来のことだと思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、技術革新のスピードは想像以上に早いものです。来るべき未来に備えて、自社の経営戦略を見直してみてはいかがでしょうか。

ものづくりにイノベーションは必要か?

ものづくりドットコムの熊坂です。

私は周囲から暇そうに見えるらしく、あちこちの学会、研究会、同窓会などの幹事や役員を頼まれているうちに、10個くらい引き受けてしまっています。先週大学同窓会の県支部役員会で、来年度の活動計画を議論したのですが、懇親会以外のアイデアがなかなか出ません。東京本部は年に数回豪華な講師を集めて講演会を開きますが、地方都市に来てもらうのは大変で、しかも集客に苦労するのが目に見えています。ふと、本部の講演会を地方支部にネット配信する案を思いつきました。全国の地方支部に呼びかければ一支部あたりの費用負担は少なく、数人しか集まらなくても講師に気遣いは不要です。何より、知的刺激機会の少ない地方に最先端の情報を持ち込めます。

山梨が全国の先駆けとなり、このトレンドを生むという妄想が膨らんでいます。

さてものづくり革新のキーワードを毎回ひとつずつ紹介しており、今回は「イノベーション」についてお話します。

イノベーションってなんだ?

私の会社「産業革新研究所」は英文表記がIndustrial Innovation Institute Inc.であり、Inが4つ並んでいい感じなのですが、イノベーションを含んでいるため、必然的に意識が高まります。イノベーションは「新しくする」を意味するラテン語のInnovareを語源とし、経済学者であるシュンペーターが約100年前に使い始めました。彼はイノベーションは何もないところから突然現れるのではなく、既存事項同士を新たに組み合わせることで生まれ、またこれこそが経済発展の原動力と考えました。

例えば近年自動運転技術が急速に進歩しています。それを構成する要素技術は、ミリ波レーダー、高解像度カメラと画像処理、高速CPUなど既存技術の組み合わせであり、全く新たな技術はありませんが、十分にイノベーティブと言って良いでしょう。旧来イノベーションの日本語訳とされる「技術革新」は、新たな技術が必要と誤解されやすいことから、その表現を見直す機運が高まっています。

イノベーションしなくても何とかなる?

今から60年前にドラッカーは、「マーケティングとイノベーションだけが企業の基本的機能」であり、「イノベーションによってより経済的な財やサービスを作る」ことができると主張しました。現状を変えることは億劫であり、今のままで明日、来月、来年突然立ち行かなくなることもないでしょう。そのままずっと何とかなれば楽チンなのですが、競争の現代で現状にとどまることは、進歩してゆく社会の中で相対的に後退していくこととなり、イノベーションしないことが最大のリスクとなるでしょう。

イノベーションは難しいのか?

地道な改善活動が簡単とは言いません。非常に重要ですが、イノベーション=革新活動にはさらに難しい問題があります。製品やプロセスを革新するには人、資金や時間などの資源投入が必要であり、革新的であるほど成功の可能性が低く、場合によっては実現しても成果が不確かである点です。革新的な商品、サービスは従来と大きく異なっているために、経営者や顧客、市場が簡単に受け入れるとは限りません。顧客からの要求を愚直に実現しようとするほど、破壊的なイノベーションを実現できないと、クリステンセン教授は多くの事例を挙げながら説明しています。有名な「イノベーションのジレンマ」です。

特に大企業では担当部門長が大きなリスクを取ってイノベーションに成功したとしてもその見返りは限定的であり、一方革新的であるほど事業化は高い確率で失敗すると想定され、その時はキャリアを大きく傷つけてしまいますから、それくらいなら、小さいながらも確実に成果が出る業務を担当したいでしょう。また、たとえ担当部門長が革新的事業を進めようとしても、優秀な経営者ほど信憑性のある調査データを要求し、不確実なテーマは排除されるため、成功のイメージが持ちやすい過去に成功した類似製品を手掛けてしまいます。

その点で言えば中小企業の方が、資金や人材の目途が付くならば、経営者のトップダウンで革新的なプロジェクトを迅速に進めやすいかもしれません。

こんなことに気を付けてみよう

ドラッカーは、次のような機会でイノベーションが起こると考えました。

  1. 想定外の出来事
  2. 現実と理想の不一致
  3. 改善のニーズ
  4. 産業や市場の構造変化
  5. 人口構造の変化
  6. ものの見方、感じ方、考え方の変化
  7. 新しい知識の出現

このような場に遭遇した時に、それを機会として認識できるように感度を高めておくことが重要です。またクリステンセン教授は、イノベーションを実現させるには「顧客に頼らない」ことと、「コストをかけずに素早く柔軟に進出して試行錯誤する」ことを提案しています。先に書いたように革新的であるほど顧客は理解できません。提案側が信念を持って開発するしかないのですが、その不明確なアイデアに大きな資源を一気に投入することは危険です。簡易なサンプル(MVP:Minimum Viable Product)を作って顧客の反応を確かめ、小規模な販売で売れ行きを確認し、事業化の確信を得たところで本格的な投資に移るべきでしょう。

米国の3MやGoogleのように、自分の好きなテーマに業務時間のある割合を使うと明文化したり、定期的にイノベーションを議論する委員会やワークショップを開催するなど、持続的で定型的な仕組みが効果的です。事業化にあたっては、既存の事業の一部ではなく小さく柔軟な独立組織の方が迅速に立ち上げられるでしょう。それでも大企業内で事業化まで育てるのは容易ではありません。大きなイノベーションは、ベンチャーや中小企業に開発を任せて、事業化が見えてきた段階で大企業と提携するプロセスも注目されています。

どうでしょう、参考になりましたか?ものづくりドットコムの登録専門家では、中村大介さんがこの分野をお得意です。不明の点やご相談はQ&Aコーナーや問い合わせフォームで質問してください。