ものづくりの課題を解決する3つの型

こんにちは、マスターブラックベルトの津吉です。

皆さんは毎日様々な課題に直面されてものづくりに励んでいることと思われます。ところで皆さんは日々のものづくりに関する課題をどのように解決していますか?試行錯誤の繰り返しでしょうか?それとも手順を踏んで問題を解決しているのでしょうか。これまでも何度かこの場をお借りして、リーンシックスシグマについて触れてきましたが、ここで改めてものづくりの課題を解決するフレームワークとして取り上げたいと思います。

ものづくりには課題を解決する最適な型

ものづくりには課題を解決する最適な型があります。型は“手順”と言っても良いかもしれません。また型は武道における流儀のようなものです。そしてどのような場合にどの型を使うかは、対戦相手次第です。ものづくりの対戦相手とその対策手法には次の3つの型があります。

図1 ものづくりの3つの型(フレームワーク)

型1: 対戦相手とその対策手法: 既存製品や既存プロセスの問題解決で使うシックスシグマのDMAIC

  • Define
  • Measure
  • Analyze
  • Improve
  • Control

型2: 対戦相手とその対策手法: 新規製品開発や新規プロセス開発で使うDFSS:Design for Six Sigma のDMADOV

  • Define
  • Measure
  • Analyze
  • Design
  • Optimize
  • Verify

型3: 対戦相手とその対策手法: 既存プロセスの問題解決で使うリーンのPDCA

  • Plan
  • Do
  • Check
  • Act

図2: 問題解決のための3つのフレームワーク

型1: シックスシグマ

シックスシグマの誕生は今から30年ほど前1980年台のアメリカまで遡ります。当時のアメリカは製品の品質面などで日本に大きく後れをとっていました。そこで日本に追いつくために日本のものづくりを調べました。

しかし、日本のものづくりの現場で普通に行われていたようなことが、文化や言葉の違いからか、当時のアメリカ人にはなかなか理解することができませんでした。そこでアメリカ人は日本のものづくりを徹底的に研究し、科学的思考と組み合わせながら誰でも理解できるような形で「ものづくりの手法(考え方や手順)」を型として体系化していきました。そこで誕生したものがシックスシグマという型です。

シックスシグマは問題解決を一つのプロジェクトとしてとらえて、(Define)問題の定義から始め、(Measure)それを測定し、(Analyze)分析し、(Improve)改善策を施し、(Control)改善が定着したかどうかを管理するという5つのフェーズ(DMAIC)を取ります。

型2: DFSS(Design for Six Sigma)

シックスシグマは既存の製品の問題を解決する場合やその製造プロセスの改善にはある程度有効でしたが、既存の製品やプロセスに改善を加えるため、その成果には限度がありました。その限度を打ち破るためには新しい製品や新しいプロセスを設計する必要があります。

新しい製品やプロセスには狙った目標(ターゲット)があります。その新しい目標を達成するための開発のために使われる手法(型)がDFSS(Design for Six Sigma)という型でした。シックスシグマのDMAICと同様に、DFSSは(Define)問題の定義から始め、(Measure)それを測定し、(Analyze)分析し、(Design)新しいプロセスや製品を設計し、(Optimize)新しい設計を最適化し、最後に(Verify)新しい設計を確認するという6つのフェーズDMADOVを取ります

型3: リーン

1980年代にアメリカ・マサチューセッツ工科大学で日本の自動差産業の生産方式が研究されました。特に徹底的に生産過程の無駄を省いたトヨタ生産方式が研究され、この徹底的に無駄を省いたトヨタ生産方式(型)のことをリーン方式と呼びました。

そしてジャストインタイム方式(JIS)やカンバン方式など、リーン生産方式は工業的な生産活動に関連する改善・改革に関するモデルとなりました。

図3: Six SigmやDFSS、Lean を使う企業

既存のプロセスの改善で用いられるリーンは(Plan)計画(Do)実行(check)チェック(Act)実施というフェーズをプロジェクトごとに行います。シックスシグマやDFSS、リーンは、問題(ものづくり)を一つのプロジェクトとしてとらえて、一つずつ解決していくフレームワーク(型)として現在では多くの企業で使われています。

問題解決のフレームワークを使うメリット

最適でかつ定型的なツール類をDMAICやDMADOV、またはPDCAの各フェーズごとに使うことで、問題解決の精度が上ります。また一つの問題対策を一つのプロジェクトとして捉えるため、プロジェクトの完了数が即ち問題を解決した数と考えることができるだけでなく、問題解決に掛かった費用や日数などの管理もできるようになります。

リーンシックスシグマやDFSS、リーンには様々な問題解決の方法やツール類、統計処理方法などが予め用意されているので、それに当てはめて使うことで、比較的簡単に問題解決の精度があがり期待した結果が得られるだけでなく、企業経営にプラスの面をもたらします。

問題解決のフレームワークを使うデメリット

解決策がおおよそ分かっている状態で、上記のような問題解決のフレームワークを使うと、余計に時間がかかってしまうという問題があります。分かりきった結果を求めるために、余計なツール類を使って余計なデータを取得し、それを分析することは時間や手間の浪費になります。そのような場合は “Just Do It”というように対策をさっさと施してしまう方が早いでしょう。

またリーンシックスシグマやDFSS、リーンを使う場合、ブラックベルトやグリーンベルトなど専門のスタッフが企業内にいることが望ましいため、専門スタッフの教育が必要になります。そのような人員の確保や教育が企業にとっては難しかったり、または負担となったりする場合があります。

専門スタッフの確保が難しかったり、フレームワークの教育が悪かったりする場合は、費用と時間ばかりかかって肝心の問題が解決されないという問題があります。これらを解決するためには企業が経営戦略の一環としてとして、専門スタッフの教育を含め問題解決のフレームワークを本気になって導入する必要があります。

スピードが決め手に

経営環境が目まぐるしく変化する現在では、問題を解決するスピードが重要です。シックスシグマやDFSS、リーンを使って他社よりも早く各フェーズを回し、問題を解決することが企業存続のためにますます重要になるでしょう。

IoTの4つ発展段階「可視」、「検出・診断」、「予測」、「 対策」

明けましておめでとうございます、マスターブラックベルトの津吉です。今年も宜しくお願いいたします。

冬本番を迎え、私が住む北国では下の写真のように川がすっかり凍ってしまいました。今回は凍った川の“譬え話”を混ぜながら、IIoT(Industrial Internet of Things)やスマートファクトリーについて考えてみたいと思います。

凍った川を渡れますか?

ところで、もし「凍った川の上を歩いて渡れ」と言われたら、皆さんはどうしますか?平均水深は50センチです。川を渡れるかどうかは、この街に長く住んでいれば“経験と勘”だけで判断できるでしょう。経験がなくても、平均水深がたったの50センチなら思い切って川を渡ってみるかもしれません。(データを扱わない“ものづくり”の現場を想像してみて下さい)

しかし用心深い皆さんは川のデータを求めるはずです。そこで「1月の最大水深は5メートル、平均は50センチ、平均的な氷の厚さは10センチ」という情報を得ました。川を渡ってみますか?(過去のデータだけに頼る“ものづくり”の現場を想像してみて下さい)

更に用心深い皆さんは、過去のデータではなく、今の氷の状態を聞くでしょう。そこで「今日の氷の厚さは平均12センチ。12センチもあるのできっと大丈夫」という情報を得ました。川を渡ってみますか?(平均値だけでものごとを判断する“ものづくり”の現場を想像してみて下さい)

氷が割れて冷たい川に落ちる確率(リスク)を5%以下にしたい皆さんは、川全体の平均値ではなく、今現在立っているこの場所の氷の厚さを、歩を進めるごとに知りたいはずです。そこで

  • 氷厚センサー
  • 水深センサー
  • 水温センサー
  • 水流センサー

を手に入れました。川を渡ってみますか?(経常利益を少なくとも5%確保したい“ものづくり”の現場が、IIoT機器を手に入れたところを想像してみて下さい)

スマートファクトリーの発展段階

“ものづくり”の現場は、経験や勘、過去のデータや平均値という束縛から離れて、リアルタイムデータを手にするところからスマートファクトリーが始まります。しかしスマートファクトリーはリアルタイムデータだけではありません。スマートファクトリーには4つの要素と4つの発展段階があります。

スマートファクトリーの4つの要素

  1. 人の意思
  2. スマートファクトリー・システム
  3. 人の知恵や知識、経験
  4. 人の改善努力

スマートファクトリーの4つの発展段階:

  1. 可視(何が起こっているのか)
  2. 検出・診断(何故起こったのか)
  3. 予測(何が起こるのか)
  4. 対策(何をすれば良いのか)

スマートファクトリーの発展段階がAIと共に進むにつれて、人の知恵や知識、経験を使って「ものを見る」ことが少なくなっていきます。しかし一方で、

  • 目標と計画を立てる「人の意思」
  • 取得した情報を使った「行動への意思決定」
  • “ものづくり”を改善しようとする「人の改善努力」

は変わらないどころか、ますます重要になっていきます。「スマートファクトリーやAIが導入されると仕事がなくなる」とよく言われますが、実際はこれまでとは異なる「意思決定と行動」という、機械では置き換えることができない人の能力に重心が移るだけです。

IIoTを導入した場合の川を渡る判断

凍った川の例に戻れば、「川を渡る」という目標を設定したものの、各種センサーを手に入れただけではまだ第1段階の「可視」に過ぎません。センサーから得た情報を(AIではなく)自分の頭で分析しながら、一歩一歩進まなければなりません。

そこで、危険の検出と診断を行ってくれる機能をシステムに追加しました(第2段階)。しかし警報を聞いた時はすでに遅く、避難を始めた瞬間に氷のヒビが一斉に広がり、冷たい川に転落してしまうかもしれません。

そこで、氷が割れる危険な状態を前もって予測する機能をシステムに追加しました(第3段階)。しかし危険な状態を予測してから、一体どちらの方向にどのくらいの速さで避難すれば良いのでしょうか。まだ経験と勘が頼りです。

そこで、「どちらの方向にどのくらいの速さで今歩けば良いのか」、最適な行動(対策)を教えてくれる機能をシステムに追加しました(第4段階)。ここまで改善すれば、凍った川に転落する確率を最小限に抑えることができます。

IIoTとスマートファクトリーの導入

凍った川を安全に渡るだけでもこれだけ改善努力が必要になりますが、その価値は十分あります。これは不良品質を改善しながら(前回の記事を参照のこと)数パーセントの利益を確保しようと努力する“ものづくり”も同様です。

もし皆さんがIIoTやスマートファクトリーの導入をお考えでしたら、新年を迎えた今、その計画を実行に移してみませんか?

IoTの4つ発展段階「可視」、「検出・診断」、「予測」、「 対策」

明けましておめでとうございます、マスターブラックベルトの津吉です。今年も宜しくお願いいたします。

冬本番を迎え、私が住む北国では下の写真のように川がすっかり凍ってしまいました。今回は凍った川の“譬え話”を混ぜながら、IIoT(Industrial Internet of Things)やスマートファクトリーについて考えてみたいと思います。

凍った川を渡れますか?

ところで、もし「凍った川の上を歩いて渡れ」と言われたら、皆さんはどうしますか?平均水深は50センチです。川を渡れるかどうかは、この街に長く住んでいれば“経験と勘”だけで判断できるでしょう。経験がなくても、平均水深がたったの50センチなら思い切って川を渡ってみるかもしれません。(データを扱わない“ものづくり”の現場を想像してみて下さい)

しかし用心深い皆さんは川のデータを求めるはずです。そこで「1月の最大水深は5メートル、平均は50センチ、平均的な氷の厚さは10センチ」という情報を得ました。川を渡ってみますか?(過去のデータだけに頼る“ものづくり”の現場を想像してみて下さい)

更に用心深い皆さんは、過去のデータではなく、今の氷の状態を聞くでしょう。そこで「今日の氷の厚さは平均12センチ。12センチもあるのできっと大丈夫」という情報を得ました。川を渡ってみますか?(平均値だけでものごとを判断する“ものづくり”の現場を想像してみて下さい)

氷が割れて冷たい川に落ちる確率(リスク)を5%以下にしたい皆さんは、川全体の平均値ではなく、今現在立っているこの場所の氷の厚さを、歩を進めるごとに知りたいはずです。そこで

  • 氷厚センサー
  • 水深センサー
  • 水温センサー
  • 水流センサー

を手に入れました。川を渡ってみますか?(経常利益を少なくとも5%確保したい“ものづくり”の現場が、IIoT機器を手に入れたところを想像してみて下さい)

スマートファクトリーの発展段階

“ものづくり”の現場は、経験や勘、過去のデータや平均値という束縛から離れて、リアルタイムデータを手にするところからスマートファクトリーが始まります。しかしスマートファクトリーはリアルタイムデータだけではありません。スマートファクトリーには4つの要素と4つの発展段階があります。

スマートファクトリーの4つの要素

  1. 人の意思
  2. スマートファクトリー・システム
  3. 人の知恵や知識、経験
  4. 人の改善努力

スマートファクトリーの4つの発展段階:

  1. 可視(何が起こっているのか)
  2. 検出・診断(何故起こったのか)
  3. 予測(何が起こるのか)
  4. 対策(何をすれば良いのか)

スマートファクトリーの発展段階がAIと共に進むにつれて、人の知恵や知識、経験を使って「ものを見る」ことが少なくなっていきます。しかし一方で、

  • 目標と計画を立てる「人の意思」
  • 取得した情報を使った「行動への意思決定」
  • “ものづくり”を改善しようとする「人の改善努力」

は変わらないどころか、ますます重要になっていきます。「スマートファクトリーやAIが導入されると仕事がなくなる」とよく言われますが、実際はこれまでとは異なる「意思決定と行動」という、機械では置き換えることができない人の能力に重心が移るだけです。

IIoTを導入した場合の川を渡る判断

凍った川の例に戻れば、「川を渡る」という目標を設定したものの、各種センサーを手に入れただけではまだ第1段階の「可視」に過ぎません。センサーから得た情報を(AIではなく)自分の頭で分析しながら、一歩一歩進まなければなりません。

そこで、危険の検出と診断を行ってくれる機能をシステムに追加しました(第2段階)。しかし警報を聞いた時はすでに遅く、避難を始めた瞬間に氷のヒビが一斉に広がり、冷たい川に転落してしまうかもしれません。

そこで、氷が割れる危険な状態を前もって予測する機能をシステムに追加しました(第3段階)。しかし危険な状態を予測してから、一体どちらの方向にどのくらいの速さで避難すれば良いのでしょうか。まだ経験と勘が頼りです。

そこで、「どちらの方向にどのくらいの速さで今歩けば良いのか」、最適な行動(対策)を教えてくれる機能をシステムに追加しました(第4段階)。ここまで改善すれば、凍った川に転落する確率を最小限に抑えることができます。

IIoTとスマートファクトリーの導入

凍った川を安全に渡るだけでもこれだけ改善努力が必要になりますが、その価値は十分あります。これは不良品質を改善しながら(前回の記事を参照のこと)数パーセントの利益を確保しようと努力する“ものづくり”も同様です。

もし皆さんがIIoTやスマートファクトリーの導入をお考えでしたら、新年を迎えた今、その計画を実行に移してみませんか?

なぜIoTに注目が集まっているのか?

こんにちは、マスターブラックベルトの津吉です。

時々リコールといった製品の不具合に関するニュースがテレビや新聞に流れますが、ものづくりを日頃行っている皆さんは製品の不良品質とどのように付き合っていますか?不良品質に伴うコストをどのように考えていますか?今回は不良品質に伴うコストとそれを防ぐためのコストについて考えてみたいと思います。

不良品質に伴うコスト(Cost of Poor Quality: COPQ)

一概に不良品質に伴うコストと言っても、実際には様々なコストに分類することができます。

防止コスト:製造プロセスの管理や、そこでの製品検査や点検に伴うコストです。そのための社員教育やトレーニング費用も含みます。統計的手法を用いた分析や設計レビューに使われる時間なども防止コストに含まれます。

評価コスト:サプライヤーから送られてきた材料の受入検査、または外部機関に依頼した製品の評価費用(検査や点検)、そしてISO-9001のような外部監査費用などが評価コストに含まれます。

測定器等のコスト:品質対策に使われる機材や測定器等のコストが含まれます(製品の製造目的以外に使われるもの)。

内部エラーコスト:スクラップ品の原材料費、手直しに伴う人件費などが含まれます。また悪い歩留まりを見越した余分な在庫も内部エラーコストに含まれます。

外部エラーコスト:不良品の返品や値引き、品質契約違反に伴う罰金や罰則に伴うコスト、苦情処理に伴う人件費、補償に伴う交換部品や人件費などが含まれます。

顧客が蒙るコスト:不良品が原因で顧客の工場が稼働停止になったり、顧客の設備にダメージを与えた場合の補償費用です。また稼働停止期間中の代替製品や代替サービスの費用も顧客が蒙る(顧客に補償する)コストに含まれます。

顧客の不満足に伴うコスト:不良品が原因で顧客が不満を持てば、その声は市場に広まります。結果的にその製品の売上や市場シェアの低下を招きます。

評判を失うことに伴うコスト:不良品質が企業の評判を落とすことになれば、一つの製品だけに留まらず、他の製品の売上や市場シェアの低下をも招きます。上場企業であれば株価にも悪影響を与え、株主集団訴訟に発展することもあるでしょう。

不良品質に伴うコストの影響

「制御可能な不良品質コスト(防止コスト、評価コスト、測定器等のコスト)」を1とすると、「不良品質の結果に伴うコスト(内部エラーコスト、外部エラーコスト)」は10、そして「間接不良品質コスト(顧客が蒙るコスト、不満足に伴うコスト、評判を失うコスト)」は100になると一般的に言われています。

逆に言えば、不良品質を防ぐためにたった1のコストを支払うことで、100の「間接不良品質コスト」が防げる計算になります。

この不良品質に伴うコストの影響度合いは、私たちの感覚とも一致するのではないでしょうか。

例えば最近あったS自動車会社のリコール費用は800億円以上に上ると言われています。リコールの原因は測定データの改ざんでした(人員不足と教育体制の機能不全のため)。品質管理費用を少しばかり惜しんだために、その100倍以上のリコール費用を払うことになった良い例です。

シックスシグマやIoTを導入する理由

不良品質を改善するシックスシグマでは統計的工程管理を行うため、シックスシグマを導入する際は社員教育や統計処理ソフトウェアが必要になります。これは不良品質の「防止コスト」に当たります。

しかし「防止コスト」は「不良品質の結果に伴うコスト」や「間接不良品質コスト」に比べれば遥かに安くすみます。つまり企業がシックスシグマ等の改善プロジェクトを推し進める理由は、「防止コスト」の相対的安さにあります。

同じ理由から、「測定器等のコスト」に当たるIoT(Internet of Things)の導入も進んでいます。IoTの導入は決して安くはありませんが、やはり「不良品質の結果に伴うコスト」や「間接不良品質コスト」に比べれば遥かに安くすむため、今IoTに注目が集まっているようです。

機会があれば皆さんの職場でも、不良品質に伴うコストを計算してみては如何でしょうか。きっとそれを防ぐための対策費用の方が遥かに安いはずです。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)は進んでいますか?

こんにちは、マスターブラックベルトの津吉です。

ものづくりの現場にはデジタル機器がすっかり浸透し、今ではデジタル的なものづくりが普通になりました。みなさんの現場でもアナログ的なものづくりからデジタル的なものづくりへの移行、つまりDX(デジタル・トランスフォーメーション)は進んでいますか?今回はあるものづくりの現場で行ったDXの試みと、その利点について説明してみたいと思います。

現場からの依頼

事の始まりは、ある検査プロセスからの依頼でした。依頼内容は「製品の検査プロセスで不合格品が時々発生するので、製品が悪いのか、それとも検査プロセスが悪いのか、一度調べて欲しい」というものでした。

製品は兎も角として、なぜ検査プロセスまで調べなくてはいけないのか、その理由を改めて聞いてみると、「製品が一品一品異なるオーダーメイドなので、検査プロセスの設定や手順をその都度製品に合わせて変更しているから」とのことでした。

アナログ的な検査プロセス

そこでまず、現場のオペレータにこれまでの検査履歴を見せてもらいました。しかしオペレータが持ってきたものは、製品シリアルナンバーのリストが印刷された紙に、製品それぞれの合否結果が手書きで記入されたものでした。これだけでは何も分析ができないので、オペレータに「パラメータの設定値や測定結果など、他のデータは記録していないのか?」と尋ねると、「検査手順書通りにパラメータを設定しているので、特に他には記録はしていない」との返事でした。

仕方がないので、ここから検査プロセスのDXを始めてみました。

アナログデータの取得からデジタルデータへの変換

まずDXへの手始めとして、検査プロセスのデータをすべて記録してもらうようにオペレータに依頼しました。製品の測定データ、電圧や電流などのパラメータ設定データなど、検査の合否に影響があると考えられるすべてのデータです。もちろん検査結果の合否だけではなく、検査測定値も記録してもらいました。

この段階ではまだオペレータが手で測定し、取得したデータを手でパソコンに打ち込むというアナログ/デジタル変換ですが、検査が進むうちに分析に必要な十分な量のデジタル・データセットが揃ってきました。

デジタルデータの分析

データセットに記録されたレコードには検査プロセスで得たすべてのデータが製品シリアルナンバーごとに記録されています。このデータセットとソフトウェアを使って、まずは回帰分析を行いました。

回帰分析を行うことで、検査結果に影響を与えている主因子を見つけ出すことができました。また回帰分析で導き出した数値モデルを使って、検査プロセスの最適化を行ったり、検査測定値のバラツキを検討したりすることもできました(モンテカルロ・シミュレーション)。

結果とし、検査プロセスの不具合を発見したり、改善(最適化)したりすることが簡単に行えました。

DX: デジタル・トランスフォーメーション

当初の依頼の目的はすでに達成しましたが、さすがにオペレータが検査のたびに今後もいちいち手でデータを収集していては大変です(また人的エラーも発生します)。そこで検査プロセスから自動的にデータを収集する簡単なプログラムをPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラー)を使って作りました。

自動収集したデータは社内ネットワークを通してデータセットに記録されるようになり、どこからでもデータセットにアクセスできるようになりました。ここまで来ると簡単なIoTシステムと言っても差し支えないと思います。

機械学習への応用

検査のたびに大きくなるデータセットを使って、機械学習も行ってみました。機械学習によって検査結果を事前に予測することで、複雑な検査プロセスを簡略化し、コストダウンとリードタイムの短縮が図れるかもしれないと考えたからです。実際にその手応えを掴みつつあります。

DXの効果

PLCとネットワーク、データ解析用のソフトウェアを組み合わせるだけで、簡単に検査プロセスのDXが図れました。それだけではなく、様々な分析も行えるようになり、検査プロセスの改善やコストダウンが行るようになりました。

機会があれば、皆さんの現場でもぜひDXをお試し下さい。きっと良い結果が得られると思います。

便利なツール「進化的調整方法」

こんにちは、マスターブラックベルトの津吉です。

先週末、久しぶりに日曜大工をしました。植木鉢を載せるテーブルを作るために木材を切り揃え、組み立て、さらにニスを塗って仕上げました。使った電動工具は丸ノコ盤、卓上丸ノコ、電動ドリル、そしてサンダーの4種類。電動工具を使わなければ、とても一日では終わらなかったことでしょう。ツールの威力は生産性が劇的に高まることだけではありません。ツールを使うことで素人でもそれなりの物に仕上げることができます。それは大工仕事だけに限ったことではなく、普段の仕事でも同じことが言えます。

そこで今回は普段の仕事で気軽に使える便利なツール「最適化のための進化的調整方法」をご紹介したいと思います。

陸王の「こはぜ屋」でも使えるツール

足袋工場「こはぜ屋」が陸王というランニングシューズを作るテレビドラマを皆さんもご覧になったことと思います。

あのドラマの中で、「シルクレイ製造装置を再稼働させて最初のサンプルが作れるようになるまで数か月は必要だ」と飯山専務は言い、事実、飯山専務と一緒に仕事をしていた大地の二人は、2週間以上も深夜まで毎日働き、試行錯誤を繰り返しながら設備の再調整をしていました。

もし彼らが「最適化のための進化的調整方法」を使っていたら、恐らく3日もあれば再調整は終わっていたでしょう。

陸王 (引用 TBS)

「最適化のための進化的調整方法」ってナニ?

最適化と聞くと、数学や統計学の知識が必要な難しいものと思われがちですが、この最適化手法は数学も統計学も全く必要ありません。足し算と割り算ができれば十分です。

下の図は「最適化のための進化的調整方法」のイメージを表しています。

  1. 最初に3つの調整点(三角形の頂点1、頂点2、頂点3)を任意に決めて、それぞれの調整点から結果を取得します
  2. それぞれの結果と目標値を比較して次の調整点(頂点4)を計算し、頂点4の調整値から結果を取得します
  3. 新しい三角形(頂点2、頂点3、頂点4)の結果と目標値を比較して次の調整点(頂点5)を計算し、頂点5の調整値から結果を取得します
  4. 新しい三角形(頂点2、頂点4、頂点5)の結果と目標値を比較して次の調整点(頂点6)を計算し、頂点6の調整値から結果を取得します
  5. 新しい三角形(頂点4、頂点5、頂点6)の結果と目標値を比較して次の調整点(頂点7)を計算し、頂点7の調整値から結果を取得します

この手順を何度か繰り返しているうちに、結果が目標値に次第に近づいていき、最終的には最適値が得られる調整値に収束していきます。試行錯誤を繰り返しながら闇雲に調整するよりも、はるかに早く生産的で確実な調整ができます。

次の調整点(頂点)の計算方法はとても簡単ですが、ここでは十分に説明しきれないので、ご興味のある方はぜひ私のブログを参照して下さい。

最適化のための進化的調整方法

どんな仕事に使えるのか

調整パラメータの数が2つ以上であれば「最適化のための進化的調整方法」が使えます。例えば、

  • 生産システムのパラメータ調整
  • 在庫量の調整
  • プロセスラインの調整
  • 製造装置の調整
  • サプライチェーンの調整

など。調整パラメータの数が4つ以上になるとグラフでは表現できなくなりますが(4次元グラフになってしまうため)、最適化のための手順はまったく同じです。

進化的調整方法の応用範囲

「最適化のための進化的調整方法」のメリット

最後に「最適化のための進化的調整方法」を使う利点をいくつか挙げておきます。

  • 通常業務中に仕事(生産)を継続しながら調整ができます。
  • 一般的な最適化手法のように特別な準備や環境を用意したり、通常業務を停止して試験を行う必要がありません。
  • 難しい数学や統計の知識はまったく必要ありません。足し算と割り算だけで計算ができます。またエクセルを使える知識があれば十分です。
  • 一般的な最適化手法に比べて調整回数が少なくて済み、その分早く調整作業が終わります。
  • 完全な最適値ではないかもしれませんが、十分満足できる最適値を得ることができます。
  • 通常業務を継続しながら調整(最適化)できるので、調整中に作った製品も販売することができます。

計算方法など更に詳細な内容についてご興味のある方は、ぜひ私のブログを参照してください。

海外のものづくりの現場で使われているリーンシックスシグマとは?

どのようにすれば早く、安く、確実に、楽に、そして質の高いものづくりができるのか。試行錯誤しているうちに、たどり着いた手法、それが「リーンシックスシグマ」でした。企業の大小を問わず世界の製造業では一般的なリーンシックスシグマですが、不思議なことに日本ではほとんど普及していません。

申し遅れました。私、津吉 政広と申します。リーンシックスシグマのマスターブラックベルトとして製品開発はもとより、製造プロセスやビジネス・プロセスの改善などに携わっています。日頃ものづくりに携わっておられる日本の製造業の皆様にもリーンシックスシグマを少しでも知ってもらいたいと思い、筆を執りました。

リーンシックスシグマってなに?

世界中のものづくりの現場では次から次へと現れる課題や問題と格闘しています。日々の課題を解決するために、日本が生み出したものづくりの知恵やアイデアは、日本だけではなく世界中の多くのものづくりの現場で使われています。実はその日本が生み出したものづくりの知恵やアイデアがたくさん詰まっているものが、リーンシックスシグマなのです。

リーンシックスシグマの誕生は今から30年ほど前のアメリカまで遡ります。当時のアメリカは製品の品質面などで日本に大きく後れをとっていました。そこで日本に追いつくために日本のものづくりを調べました。

しかし日本のものづくりの現場で普通に行われていたようなことが、文化や言葉の違いからか、当時のアメリカ人にはなかなか理解することができませんでした。そこでアメリカ人は日本のものづくりを徹底的に研究し、科学的思考と組み合わせながら誰でも理解できるような形で「ものづくりの手法(考え方や手順)」を体系化していきました。そこで誕生したものがリーンシックスシグマなのです。

国や文化にとらわれずに体系化されたものづくりの手法「リーンシックスシグマ」は、グローバル化の時代には品質や生産性を上げる手法として最適でした。そのためアメリカ企業が南米や中国、韓国、欧州、インドなどに進出するに伴い、リーンシックスシグマも世界中に広がっていきました。

本当に日本の知恵やアイデアが詰まっているの?

先日久しぶりにある製造業で働く友人と会って話をしたとき、友人に自分の仕事を説明しようと思って「リーンシックスシグマって、知っている?」と尋ねてみました。友人曰く「何それ?」。

そこで続けて「ブラックベルトとか、グリーンベルトとか、聞いたことない?」と尋ねてみると、友人曰く「武道の話をしているの?仕事の話をしているのかと思っていた」との返事。

さらに「それじゃ、QFD(品質機能展開)とか、狩野モデルとか、田口メソッドとか、特性要因図とか、5Sとか、知っている?」と尋ねると、友人は「ああ、それなら知っている。うちでも色々な部署が使っているよ」とのこと。

この友人のように、日本のものづくりの現場ではまるで空気のように知らず知らずのうちに偉大な先人達が残した知恵やアイデアを使っています。リーンシックスシグマはそのような日本で発明された馴染み深いツール類を利用しやすいようにまとめたものなので、日本のものづくりの現場でも自然と活かせるはずです。

リーンシックスシグマって外国の、しかも大企業のものでしょ。日本の中小企業には関係がないのでは?

私は町工場を扱ったテレビドラマや小説が好きです。特に「陸王」が大好きです。しかしハラハラドキドキする展開を楽しむ一方、「こはぜ屋さんがもしリーンシックスシグマを使っていれば、こんな苦労はしなくても済んだのに」と何度も思いました。実は日本の中小企業だからこそ日本の知恵やアイデアが活きているリーンシックスシグマを効果的に使う場面がたくさんあるのです。

ものづくりを行う中小企業がどのようにリーンシックスシグマを使って生産性や品質を高めていくのか、できれば「陸王」などの話を織り交ぜながら今後話をすることができたらと思っています。今後ともよろしくお願いします。