プログラムを担うエマニュエル・ファーヴル(Emmanuelle Fabre)クリスチャン ディオール クチュール ヒューマンリソーシズ ディレクターは趣旨を、「才能ある女性が彼女たち自身、ならびに夢を自覚するためのサポート。特に自信を持ち、仲間と強固なネットワークを築く価値という、学校では教えてくれない学びの機会を提供したい」と話します。重要視するのは、「強固なネットワーク」なのでしょう。彼女は次世代を担う女性を「私生活を犠牲にせず、つながり、ネットワークを深め、正直に、競争を恐れずリーダーシップを磨ける人物」と捉えます。一人のカリスマではなく、個性豊かなコミュニティーで社会をけん引しようというのは、実に今っぽいところ。とは言え率直に言ってプログラムは、日本の女性が置かれている現状よりもずっと先、女性が男性同様に活躍する社会を実現するための過程でもありながら、さらに先の未来でもある印象です。エマニュエル・ディレクターは、「これは、CSR(企業の社会的責任)だけではない。社会的価値を創造し、ポジティブな社会変革を促進するプログラムなの」と壮大な野望、そして夢を語ります。アーティスティック・ディレクターに就任して最初に発表したコレクション「私たちは皆、フェミニストであるべき(We Should All Be Feminists)」以来、絶えず女性のエンパワーメントを考え続けるマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)同様、ビジョンは壮大です。
プログラムはまず、「シンギュラリティー」を学ぶことから始まりました。デジタルの世界に足を突っ込む僕にとっての「シンギュラリティー」は、2045年までに訪れるとされる“AI(人工知能)が、人間を超えてしまうとき”のことですが、一般的には「特異性」という意味。他の人にはない、自分だけのアイデンティティーに迫ろうという講座でありワークショップです。ここで彼女たちの背中を押したのは、オスカー・ワイルドの(Oscar Wilde)の「Be Yourself, the Others Are Already Taken!(自分らしくあれ!誰かの真似をしても、その人には決して追いつけないから)」という言葉。アイルランド出身の詩人オスカー・ワイルドは、退廃的な19世紀末文学の代表家でしたが、同性愛者だったがゆえに収監されて失意のままに没した人物です。こういう耽美な人物が登場するのは、フランスメゾンならではですね(笑)。
6月のメンズでフランチェスコは、「いよいよ地球がヤバい。今こそ、革命が必要だ」と考え、1960年代の若き革命家エルネスト・チェ・ゲバラ(Ernesto Che Guevara)を現代に蘇らせました。「今回のウィメンズは、革命後の理想郷?」。そう思ってバックステージでフランチェスコに話を聞くと、「メンズのチェは、戦士。今回のウィメンズも、“花の戦士”。内側から力と美をバクハツさせるんだよ」と教えてくれます。なるほど、やはり今は、男女ともに戦わなくてはダメな時代なのですね。まだ30代の若きデザイナーが、これほどまでに真剣に地球に向き合っていること、感銘を受けます。
JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。
「コス」は、2007年にH&Mグループが立ち上げた英・ロンドン発のブランドだ。12年に香港、14年に韓国に進出。その後、14年に東京・南青山に日本初のストアをオープンし、2号店の横浜、3号店の銀座を順次オープンした。ブランド名の「COS」とは、「コレクション・オブ・スタイル(COLLECTION OF STYLE)」の略。