2021年春夏シーズンのロンドン・ファッション・ウイークが終了しました。ニューヨークに続き、今回も“できるだけリアルタイムに近いペース”で取材を進めていきます。今回は9月17〜22日(現地時間)に開催されたロンドン・ファッション・ウイークから、話題のブランドや編集部が面白いと思ったデザイナーをピックアップして紹介。メンズとウィメンズのロンドン・コレクションを取材している「WWDジャパン」の大塚千践デスクと大杉真心記者がデジタルもリポートします。
ドラァグクイーンの六変幻に釘付け
大塚:初日の「バーバリー(BURBERRY)」がすごかったですが、ロンドンは若手がたくさん参加してますね。6月のメンズの際にさんざん指摘されていたロンドン・ファッション・ウイークの公式サイトの使いづらさは、結局今回も改善されなかったですね。視覚的にスケジュールと連動してないので、ラインナップが一覧で見られないのがもったいない。でもスマートフォンで見たら、パソコンよりも使いやすくてちょっと驚きました。もともとスマホ仕様だったのか。
大杉:私も今回、ちゃんとサイトを使いこなせるようになりました。動画が再生できてかつ、簡単にプレスリリースもダウンロードできて便利だと思いました。これでルック画像も一括ダウンロードできたら最強なんですが……(笑)。でも、確かにスマホのほうが操作しやすい仕様になっていますね。ロンドン・ファッション・ウイークの公式インスタグラムも活発に更新されていて、ストーリーズを毎日異なるインフルエンサーがテイクオーバーする企画も面白かったです。特に5日目のドラァグクイーンのジジ・グード(Gigi Goode)がファッション・ウイークに参加するブランドの服に着替えていく回は思わず見入ってしまいました。
エッセンシャルワーカーをモデルに起用した「ハルパーン」
大杉:「ヴェルサーチェ(VERSACE)」で経験を積んだマイケル・ハルパーン(Michael Halpern)による「ハルパーン」はイブニングドレスに強いブランドです。今回は、地下鉄の運転手や病院スタッフなど、エッセンシャルワーカーや医療従事者をモデルに起用して動画を撮影しました。皆素敵に着こなしているんですが、インタビューもとても感動的で。彼女たちが「今回のパンデミックを経て、多くの方から感謝されることが増えて、自分たちの仕事に誇りを持つことができた」と話していたのが印象的でした。
大塚:元気になる動画でしたね!色や柄にあふれた服に袖を通すことで、みんなの表情が生き生きしていた。これがファッションの醍醐味ですよ。撮影もモデルのように決めポーズさせるのではなく、それぞれが思うがままに踊ったり談笑したりする自然な姿を撮っているのがよかった。最後にデザイナーのハルパーンが頭からペンキをかぶるドリフのコントみたいなオチで、終始笑顔になる映像でした。
「べサニー ウィリアムズ」は貧困層の母子家庭を支援するコレクション
大塚:「べサニー ウィリアムズ(BETHANY WILLIAMS)」も、「ハルパーン」と同じくプロのモデルが登場しない映像でしたね。
大杉:はい。環境問題や社会問題に取り組むブランドで知られていますが、今回は「べサニー ウィリアムズ」が支援を続けている、イギリスのホームレス・貧困層の母子家庭を支援する団体マグパイ プロジェクト(Magpie Project)と協業したコレクションでした。柄は子どもたちが描いた絵をアーティストがコラージュしたものだそう。コレクションの20%の収益が寄付される仕組みになるそう。モデルとして登場したママと子どもたちが出演して、笑顔でポーズを決めているのが微笑ましかったですね。
大塚:自然体なムードに彼女の服はなじむのかとちょっと心配していたけど、みんなにんな似合っていてめちゃ素敵でした。カラフルなモチーフをアートのように組み合わせるデザインのアプローチはデビューのころからあまり変わっていないけれど、最近はクオリティーがメキメキ上がってちゃんと“売れる服”になってきた印象。僕がロンドン・メンズで初めて見た頃はちょっと荒っぽいクラフト感が出てしまっていのだけど、今は洗練されています。子供服は日本でも普通に需要ありそう。
「トーガ」はヴィヴィアン・サッセン、「スピード」とのコラボ
大塚:「トーガ(TOGA)」も「べサニー ウィリアムズ」のような鮮やかな色使いで引き込まれましたねえ。今回の映像をディレクションしたオランダの写真家、ヴィヴィアン・サッセン(Viviane Sassen)らしい力のある色彩でしたし、服も彼女の作品をイメージしているんでしょうか?
大杉:確かにボールドな色使いがヴィヴィアン・サッセンらしいですね。コレクションは、“WHOLESOME, CUTTING, SPLITTING(健康、切断、分裂)”がキーワードになっているそう。断ち切りの袖や裾や、石のようなアクセサリーもポイントになっていて、荒々しさがありながらも、アーティスティックです。動画も全てを見せないように、断片的にイメージを出していく編集がかっこよくて、5回も再生しちゃいました。“健康”のキーワードでは、スイムウエアブランド「スピード(SPEEDO)」とのスポーツウエアやスイムウエアが登場しましたね。
大塚:「スピード」とのコラボは意外性がありました。日本で「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」を手掛けるゴールドウインが手掛けていますが、「スピード」はライフスタイル向けの提案をここ2、3年で強化していて、「トーガ」とのタッグでそのイメージをさらに訴求していきたいのでしょうね。にしてもロゴをドンと使っていたり、機能素材だったり、インラインというよりはカプセルコレクションのような提案になるんでしょうか。ちょっと欲しい。
大杉:私も欲しいです。私は泳げないので必要ないのですが、スイムキャップのスタイリングも魅力的に感じました。他にもバッグやコート、ショーツなどもチラっと見えて、早く全貌を知りたいです!
「ボラ アクス」は看護師として働いた若い貴族の女性たちが着想源
大塚:「ボラ アクス(BORA AKSU)」は、今シーズンのロンドンでは珍しいリアルのショーのライブ配信でしたね。横長のベンチに1人だけ座るというソーシャルディスタンシングで、いい天気とロマンチックなドレスが気持ちよかった。でもこれ、モデル全員がマスクしているということですかね?今までありそうでなかったかも。招待客はほぼほぼマスクしていないけども。
大杉:モデルたちが付けていたのは、オーガンジーを使ったシースルーマスクでしたね。マスク生活が続き、外出時はすっかり口紅を塗らなくなってしまったのですが、このマスクだったら口元も見えるのでメイクも楽しめそうです。コロナの感染予防にはならないかもしれませんが……(笑)。コレクション自体は第一次世界大戦中に看護師として戦場に送り込まれた若い貴族の女性たちが着想源になっているそう。確かに白でまとめたルックがナースらしい。現在の医療従事者へのリスペクトも感じられます。
大塚:音楽もムードがあって素敵でした。でも、画面左をダッシュで行ったり来たりしているカメラマンのお兄さんのファイトも気になりました(笑)。
シュールな笑いを誘う「ヒリヤー バートリー」
大杉:かつて、「マーク バイ マーク ジェイコブス(MARC BY MARC JACOBS)」のクリエイティブ・ディレクターを務めていたルエラ・バートリー(Luella Bartley)とケイティ・ヒリヤー(Katie Hillier)のデュオによる「ヒリヤー バートリー(HILLIER BARTLEY)」もファッション・ウイークに参加していましたね。コレクション発表ではなく、ショートフィルムの公開でした。今回のロンドンコレで一番ツボでした。
大塚:チープなインディーズ映画感がかわいくて最高。モデルの登場シーンは完全に「ターミネーター」のオマージュですね(笑)。T-800が未来からやってくる場面の再現だけど、モデルの演技がぎこちなくてそれもまたかわいい。ペーパークリップイヤリングにかなり焦点を当てたストーリーだったけど、ブランドのアイコンか何かなんですか?服はあまり出てこないですが、最後まで楽しんで見ちゃいました。
大杉:ペーパークリップイヤリングはブランドのアイコン的なジュエリーの一つです。タイトルが“Keep it together”でしたが、クリップで紙を「まとめる」という意味と、「落ち着いて」という意味のダブルミーニングになっていましたね。このご時世にぴったりなメッセージですし、シュールな笑いを提供してくれて後味がよかったです。
シリアスになりすぎてちょっとコワい「アートスクール」
大塚:ロンドン・メンズではよくも悪くも話題に上がる新鋭「アートスクール」は、今回は時期を遅らせてショー形式の動画を公開しました。年齢や性別、人種などあらゆる境界線を越えたクリエイションを表現するためのモデルの人選や演出というのは理解できるのですが、同じ手法を続けられるとさすがに食傷気味かも。
大杉:モデルのキャスティングはさすがだなと思って見ていました。ウエアはちょっとボロボロ感があり、メイクは血色ゼロで、モデルたちがゾンビのようになってしまっています……。これは狙っているんでしょうか?
大塚:狙ってるというより、狙いすぎですね。昔は笑い飛ばせるユーモアが込められていたのに、最近はシリアスになりすぎてちょっとコワいんです。約15分間の動画をフルで視聴するのは正直しんどかった。服はミリタリーとテーラリングベースで、肩やウエストのシェイプをアレンジして大人の服作りをしたい気概は理解したいのですけど、逆にプロダクションの荒っぽさが出てしまった印象です。ロンドン期待のデザイナーであることは間違いないので、そろそろ進化した姿が見たい。
新デザイナーの実力は?「カシミ」のウィメンズがデビュー
大塚:「カシミ(QASIMI)」は創業デザイナーのハリド・アル・カシミ(Khalid Al Qasimi)が昨年7月に急逝後、双子のフール・アル・カシミ(Hoor Al Qasimi)がクリエイティブ・ディレクターに就いて指揮する初のコレクションです。アートやデザインに造詣が深いキャリアですが、ファッションのデザインは未経験のはずなので、その手腕に注目して見ました。結果、その浅い経験が今回はプラスに作用したのではないでしょうか。ウィメンズもデビューしましたね。
大杉:フールの本格デビューコレクションなんですね。軽やかでクラフト感があり、知的さもある。ウィメンズも今まであったように自然です。
大塚:動画はライザップ(RIZAP)のCMのようにクルクル回るだけなんですけど、素材の上質さがはっきり伝わります。ハリドのころからラグジュアリーな素材にはこだわっていましたが、彼はそこにストリートウエアの要素を足すのが上手かった。一方でフールはデザインがシンプルな分、結果的にハリドの品質への思いをベストに近い形で継承したのではないでしょうか。モチーフの使い方ははもうちょっとキャッチーでもいいかなと思いましたが、ウィメンズの取り扱いがドバイの大型店で早速決まったようで、今後が楽しみです。
大きな期待を持ち過ぎてしまった「ザンダー ゾウ」
大塚:奇天烈隊長の「ザンダー ゾウ(XANDER ZHOU)」が動画で発表ときたら、絶対にフツーのことはしてこないはずだと思ってスタート前からドキドキしてました。が、いざ変なムービーから本編が始まると……普通のショー動画!意外でした。“真実的虚偽性”と題したコレクションは、いつものようにフューチャリスティック。体や服に付けたジュエルなどのパーツは、モーションキャプチャで役者が体に付ける機材のイメージでしょうか。
大杉:いつも変化球で楽しませてくれるブランドですが、特に大きなサプライズはなかったですね。私は粒々などが苦手なトライポフォビア(集合体恐怖症)なので、体にハトメを貼り付けたルックなどは直視できませんでした……。一目見ただけで、ずっと鳥肌立ちっぱなしです。
大塚:途中から仮面を付けたモデルが登場してテーマのストーリーをなぞるムードを出しつつ、終盤にかけては近未来のようなスポーツウエアにカラフルな色を用いて、ドットで龍を描いたり、マンダリンカラーを付けたりして母国中国のムードも加えました。コレクションは特に悪くなかったのですが、単調なショー動画を15分も見るのはやっぱり辛い。期待していただけに、ちょっと残念でした。
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