PROFILE: 「ブレス」(講談社)PROFILE: 「月刊少年シリウス」(毎月26日発売)で連載中。周囲の期待に合わせて生きてきた宇田川アイアと、夢を追うことに一歩踏み出せずにいた炭崎純。そんな2人が互いに支え合い、メイクアップアーティストとモデル、それぞれの夢に向かって進んでいく。仲間やライバルとの出会いを通して描かれるのは、夢を追う楽しさだけでなく、不安や葛藤と向き合うリアルな姿をマンガに収めた。2025年5月には7巻と、ヘア&メイクアップアーティストの世界を目指すためのオフィシャルガイド「メイクを仕事にしたいなら ヘア&メイクアップアーティストを目指すためのキャリアガイド」を発売した。
「月刊少年シリウス」で連載中の漫画「ブレス」は、夢を追いかける楽しさや不安、葛藤などと向き合う等身大の姿を描く青春バディストーリーだ。
「メイクアップアーティストになる」という夢を諦めかけていた元モデルの高校生・宇田川アイアは、そばかすを気にして自信を持てずにいた同級生・炭崎純と学園祭のコンテストに出場することになる。アイアはヘア&メイクを担当するスタイリストとして、炭崎はモデルとして、二人三脚でランウエイに挑む。コンテストは無事成功に終わり、炭崎の“隠れた魅力”を引き出せたことで、アイア自身も再び夢に向き合い始める――。
メイクアップアーティストとモデル。一歩踏み出した先は、焦ったり、ライバルと自分を比較して悶々としたりしながらも、地道に技術を磨き続けるしかない泥くさい世界。それでも好きなことへの熱量を高く持ち、挑戦を止めない。そんな姿に、かつての自分自身を思い出す人も少なくないだろう。
「ブレス」で描かれているのは、夢を追う青春のまぶしさだけではない。現実の厳しさと、それでも前を向く登場人物たちの姿は、どう生まれているのか。こうしたリアリティーは、“好き”を仕事にした当事者でもある作者・園山ゆきの先生の実体験がヒントとなっている。
“好き”を仕事にした自分自身の葛藤も作品のヒントに
「ブレス」©園山ゆきの/講談社
園山ゆきの: もともとメイクが大好きだったので、「メイクを題材にした漫画を描きたい」と、担当編集者に相談したのがきっかけでした。連載誌は、「月刊少年シリウス」。少年誌ということもあり、少し意外に思う方も多いかもしれません。
連載がスタートした22年は“ジェンダーレスコスメ”が市場に増え始めたタイミングでもあり、「ブレス」が男性にメイクの魅力を知ってもらう機会になれば、と後押ししてもらいました。そんな経緯もあって、純粋に漫画作品として男女問わずに楽しんでもらえるようにメイクのハウツーはなるべく少なく、キャラクターの人間性や心情を丁寧に描くことを意識しています。
そしてひらめいたのが、周囲が期待しているイメージの通りに振る舞って、本音を隠して生きてきた男女のバディーもの。ヘア&メイクアップアーティストに強く憧れながらも、「自分には才能がない」ことを突きつけられるのを恐れて、一度は夢を手放してしまった宇田川アイアと、アイアとの出会いによってモデルになりたいという思いに火がついた炭崎純が、互いに刺激や励ましを与え合い、自分自身の在り方を変えながら夢に向かって進んでいくストーリーにしました。
そんな2人はもちろん、2人が出会っていく人々の人生から、夢を追うことの楽しさだけでなく、業界の厳しさや苦しさまでを赤裸々に届けたいという気持ちが強くあって。作品のインスピレーションになっているのは、主に自分自身が学生時代に感じていたこと。当時のクラスメイトや先生との会話がもとになっている場面もあります。
例えば、アイアの「今から本気でメイクやっていくのって遅いと思う?」という問いに、純ちゃんが「遅いと言ったらやめる?」と問い返すシーン、あれはまさに私の実体験。絵を描くことを仕事にしようと決意するのが遅かったことから不安になり、そんなことを口にしたときがありました。
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「ブレス」(1巻)©園山ゆきの/講談社
「ブレス」(1巻)©園山ゆきの/講談社
特に思い入れのあるシーンは、「これは特別なことなんかじゃない 積み重ねてきた人すべてに起こることなんだ」というセリフ。モデルとして思うような活躍ができず、自信をなくした北山由希子が、メイクの力で新たな自分と出会うという場面です。
「ブレス」(3巻)©園山ゆきの/講談社
何事においても“続ける”というのは、不安との闘いでもあると思うんです。「このまま続けて大丈夫なのかな?」「このやり方で合っているかな?」といった不安感が、前に進むうえでの障害物になることだってある。だからこそ積み重ねてきた自分自身を肯定する彼女の言葉が、自分への、そして多くの読者にとってのエールになっていたらいいなと願っています。
メイクのおかげで、前向きな気持ちになれたり、「自分は大丈夫」と思えたりする瞬間がある――。作中では、そんなメイクの底知れない可能性やパワーも伝えていきたいと考えています。
モノクロの世界でも想像力をかき立てる、メイクと衣装の“リアル”を追求
「ブレス」©園山ゆきの/講談社
園山ゆきの: 心情の描写に加えて、メイクの表現もリアルを追求しているのが「ブレス」の特徴です。モノクロの世界なのに、メイクの質感や色合いまでも伝わってくるような繊細な絵を意識しています。ヘア&メイクアップアーティストの手指の動きや所作など、細かい部分までこだわっています。
「ブレス」を描くにあたって、ファッション&ヘアメイクを教える「バンタンデザイン研究所」にたくさんのサポートをいただきました。授業風景を見せてもらったり、講師の方に取材をしたりして分かったのは、メイクによって“誰か”を輝かせたいという熱い気持ちを持った生徒さんが多いこと。自分の外見に対するコンプレックスから、メイクの道を志している方も少なくありませんでした。
アイアくんたちが挑むヘア&メイクアップコンテスト「U21(アンダー21)」では、メイクの世界観に合った衣装をたくさん考える必要がありました。ここでもバンタンデザイン研究所の方に協力を仰ぎ、卒業生であるスタイリストの二階堂呼幸(こゆき)さん を紹介していただきました。
漫画のキャラクターの衣装を、スタイリストに考案してもらうのは本当に稀なこと。メゾンブランドの過去のランウエイ動画やアーカイブを参考に、衣装デザインの提案から、平面である漫画の中での立体的な服のディテール表現まで、細かくアドバイスをもらいました。
モノクロな漫画の世界でも服の質感や動きを感じられるよう、素材選びやドレープの出方まで提案してくれました。
取材のために、美容メディア「ヴォーチェ(VOCE)」の撮影を見学したのも良い経験になりました。撮影現場に入ってまず思ったのは、1つの作品に「こんなにも大勢の人が関わるのか」ということ。ヘア&メイクアップアーティスト、モデル、カメラマン、スタイリスト、編集者、そしてそれぞれのアシスタント。一人ひとりがプロとしての使命を持ち、よりよい作品をつくるために協働しているのを目の当たりにしてぐっときました。
また、「かわいい!」が飛び交うあの空気感は、実際に現場にいるからこそ感じられるもの。漫画を通して少しでもその温度を伝えられたら、と思っています。もうひとつ、撮影現場でじっくりと観察していたのは、ヘア&メイクアップアーティストの体の使い方。メイクを施すときの体勢や手指の動きには人それぞれ個性があり、その繊細な動きまで漫画に落とし込むことも意識しています。
気配りや気遣いが、ますます大切な時代に 「ブレス」が気付きのきっかけになれば
「メイクを仕事にしたいなら ヘア&メイクアップアーティストを目指すためのキャリアガイド」
園山ゆきの: 見ているだけでワクワクするような“華やかな世界”を描きたい一方で、その裏側にある地道な努力や葛藤も、「ブレス」ではきちんと伝えたいんです。夢を追う道のりは、ときに泥くさく、辛いものでもありますよね。けれど、最近はそんな努力を経ずとも夢をかなえるチャンスが巡ってきやすい時代とも言えます。
5月には、ヘア&メイクアップアーティストの世界を目指している人のために、オフィシャルガイド「メイクを仕事にしたいなら ヘア&メイクアップアーティストを目指すためのキャリアガイド」を発売しました。プロのpaku☆chanさんと対談しましたが、10年前と比べて、デビューの仕方や活躍の場が大きく変化しているようです。
例えば、SNSに作品を投稿すれば誰でも“漫画家”と名乗ることができるように、メイクの世界でも、数年にわたるアシスタント経験を踏まず、動画やSNSからチャンスを掴んでデビューする方が増えたと聞きました。
間口が広がったことで、誰もがチャレンジしやすくなったのは、本当に素晴らしいことだと思います。でも、その一方で昔のように誰かに厳しく教え込まれる場面が減った今、成長するためには自分で“察して動く力“がより強く求められているように感じています。
ヘア&メイクアップアーティストは、モデルの肌に直接触れる職業。技術面はもちろん、相手を思いやる心と心地よい距離感を保つ配慮がとても大切だと、「ヴォーチェ」の取材現場で改めて感じました。プロになるまでの道筋は人それぞれでも、その先でどんなふうに振る舞えるのか――。目の前の人を喜ばせるために、少し先のことまで想像して動けるかどうかが、力の差になるのではないかと思っています。
「ブレス」©園山ゆきの/講談社
夢を追う日々は、楽しいことばかりではありません。いくら好きなことであっても、辛いと感じる瞬間はあるし、周りがまぶしく見えて、自分だけが取り残されたように感じることもあると思います。
それでも、人生を少し“引き”で見てみたときに、「あのころは苦しかったけれど、今となっては宝物だ」と思える日がきっと訪れるはず。そんなふうに、夢の途中の苦しささえも肯定できるような作品を描いていきたい。
「ブレス」が一人でも多くの方に寄り添える作品になるよう、これからどうしていくか。私も自分自身に問い続けて、探りながらゴールを見つけるつもりです。アイアくんや純ちゃんの姿が、読者のみなさんにとって、目の前の壁を乗り越えるきっかけになってくれたら、こんなにうれしいことはありません。
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