創業者兼ファウンダーで代表取締役CEOの龍川誠氏
スキンケアブランドの「ユンス(YUNTH)」と美容家電ブランドの「ブライト(BRIGHTE)」を展開し、急成長を遂げるAiロボティクス。昨年東証グロース市場へ上場し、売上高142億円、営業利益24億円(2025年3月期)と右肩上がりの成長を続けている。今月19日にはヘアケアブランド「ストレイン(STRAINE)」をローンチしたばかり。自社開発のAIマーケティングシステム「SELL」を強みに、ニーズを的確に捉えたプロダクトを開発し、効率的なマーケティングにより、ビューティ市場でも急速に存在感を増している。
創業者兼ファウンダーで代表取締役CEOの龍川誠氏が掲げるのは、2029年3月期に売上高2200億円、営業利益400億円、時価総額1兆円、そして「社員の平均年収1億円」という野心的な目標。さらにその先に“宇宙開発”すら見据えている。
WWD :まず、会社を立ち上げた経緯を教えてほしい。
龍川:大学生の頃に起業を経験し、2014年に当時流行していた女性向けのキュレーションメディアの会社(ロケットベンチャー社)を立ち上げました。半年ほどで月間1億PVに達して、ローンチから8カ月で6億円でバイアウトしました。
それから1年ぐらい経って、「また挑戦したい」という思いがすごく強くなってきました。当時から尊敬する先輩経営者に言われていたんです。「男なら上場しなきゃ」と(笑)。
再びメディア領域で勝負しようと「HowTwo」という社名の会社を立ち上げました。つまり”How To動画メディア”に特化した会社です。アプリを開発し、メイク、ヘアアレンジ、洋服の着こなし、料理……そういう生活まわりのHow To動画をひたすら投稿しました。毎日撮影して、編集して、投稿して。でも、以前のようにはいかず、あまり見られなかった(笑)。
WWD:何が原因だったのでしょう。
龍川:今思えば当然なのですが、InstagramやTikTokのようなSNSプラットフォームが主流になり始めていた時期でした。
例えば、Instagramのコンテンツで完結しましたし、全ての有益な情報が“そこに留まる”。わざわざ個別のアプリをダウンロードして、How to動画を見る習慣は、消えかけていました。
WWD:動画制作では撮影機材や編集、キャスティングなど、相当なコストがかかったのではないでしょうか。
龍川:何度も「この事業は厳しいかもしれない」と思ったことはありました。そんなとき支えてくれたのが、期待を寄せてくれる株主の皆様の存在です。自分ひとりでやっていたら、「もう諦めよう」で済ませられたかもしれません。でも、そこには外部からの大切な資金と想いが入っている。だからこそ、「絶対に失敗できない」という強い責任感とプレッシャーが常にありました。
WWD:そこから、どう発想を転換したのでしょうか?
龍川:まず、経営そのものをゼロベースで見直しました。「売上と利益が出ないと意味がない」という、いわば当たり前のことを改めて徹底したんです。ただ、この”当たり前”って、起業初期は意外と見落としがちで。つい格好つけたくて、「社会に新しい価値を〜」とか言いたくなる。でも、現実的にはキャッシュを稼げなければ何も始まりません。そこで、すべてのKPIを数値化し、徹底的に可視化することから着手しました。
その次に考えたのは、「誰が対価を支払ってくれるのか?」という点です。当時のメディアのビジネスモデルは、基本的にタイアップ広告収益が中心でした。
実際、私たちのクライアントの多くは美容系メーカーでしたが、彼らが本当に求めていたのは「メディアに掲載されること」ではなく、「商品が売れること」だったんです。であれば、こちらも「売れるところまで責任を持つ」モデルに切り替えるべきだと考えました。
東京・六本木のAiロボティクスのオフィス
東京・六本木のAiロボティクスのオフィス
WWD:それが、Aiロボティクスのマーケティング事業につながっていったわけですね。
龍川:まさに、その気づきが原点です。
通販ビジネスはオンラインで完結できて、顧客のあらゆる行動をデータとしてトラッキングできるのが特徴です。たとえば、「このクリエイティブを見たこのユーザーが、このタイミングで購入した」といった情報を取得できるため、クライアントに対して根拠を持って価値を提示することができます。
加えて、私たちの収益モデルも成果報酬型にしました。「1件売れたら◯円をいただく」という形式であれば、クライアントにとってはリスクがありません。一方で、私たちも売れなければ報酬はゼロですが、自ら運用精度を高めることで成果をあげていける。極めて合理的なビジネスモデルだと確信しました。
WWD:AIを導入しようと考えたのは、なぜだったのでしょうか?
龍川:マーケティング事業の運用には、想像以上に膨大な工数がかかるんです。広告クリエイティブの制作、広告の出稿・予算調整、A/Bテスト、ランディングページ(LP)の最適化、数値のモニタリング……とにかく人間の手作業が多すぎる。事業を始める前から「これは自動化しなければ成長できない」と感じていました。
ただし、単なる自動化では意味がありません。人間よりも高い精度でなければ、むしろ足を引っ張るだけです。だからこそ、私たちは人間の運用を超えるパフォーマンスを実現することを前提に、自社AIマーケティングシステム「SELL」の開発に踏み切りました。
WWD:「SELL」について、詳しく教えていただけますか。
龍川:「SELL」は、プラットフォーム (媒体) 企業の協力を得ながら、ゼロから自社開発したAIマーケティングシステムです。目的は非常に明確で、人間が担っている広告運用業務を、すべてAIに置き換えることにあります。
たとえばバナー広告を生成し、「誰に」「どの時間帯に」「どのようなメッセージで」届ければ最も反応が得られるのかを、AIが判断し、複数パターンを同時に生成・配信し、成果の高いものだけを残していく。このプロセスを、365日・24時間絶え間なく繰り返す。人間には到底できないことを、AIが黙々と実行し続けるのです。
「A/Bテストをしています」という企業は多いですが、私たちは何千何万通りのパターンをリアルタイムに毎秒単位で効果検証しているから、CPA (獲得コスト) と獲得件数をコントロールできているわけです。
WWD:「SELL」の精度は、どのように担保しているのですか?
龍川:最大の要因は、圧倒的なデータ量です。これまでポーラ・オルビスさん、ファンケルさん、資生堂さんなど、業界を代表する企業と取り組み、確かな成果を出してきました。そうした他社のマーケティングデータに加え、現在は自社ブランドであるスキンケアの「ユンス」や美容家電の「ブライト」にも応用しており、蓄積されているデータは膨大です。
システムの成熟とともに、単に「誰が、どの広告を、どのタイミングで、どこで見て、購入したか」といった購買行動だけでなく、「購入後にどれくらいの確率でリピートするか」まで予測できるようになっています。これにより、顧客ごとに最もLTV(顧客生涯価値)が高まる広告パターンを、AIが選定し、実行できる。すべてがフルオートメーションで完結する仕組みです。
WWD:そうした蓄積データを武器に、D2Cブランド事業へビジネスモデルを転換されたわけですね。
龍川:「ユンス」は、立ち上げ当初は戦略的な理由からAiロボティクス本体とは切り離した形でスタートさせました。2022年に完全子会社化したことで、本格的な事業のスケールアップが一気に加速しています。
WWD:これまで蓄積されてきたデータは、具体的にどのように活用しているのでしょうか?
龍川:たとえば、「ユンス」におけるCPA(顧客獲得単価)は、発売時からほとんど変化していません。一方で、LTV(顧客生涯価値)は毎月着実に伸び続け、定期コースが主な収益源となっております。その結果、売上も利益も継続的に右肩上がり。とてもシンプルな構造です。
デジタルマーケティングの世界では「CPAが上がった・下がった」といった議論が常に繰り返されていますが、広告運用を本質的かつ合理的に設計できていれば、そうした変動に振り回されることはありません。むしろ、LTVの最大化を軸に構築することで、着実な成長を実現できると考えています。
WWD:プロダクトそのものについても、詳しくお聞かせください。
龍川:私たちは、「これは間違いなくお客さまに効果を体感していただける」という確信を持てる商品しか世に出しません。代表的なのが、ユンスの“生VC美白美容液”です。発売から約4年弱経った現在も、生VC美白美容液の売上は順調に伸びており、それと並行して他のプロダクトも着実に育ってきています。
一方、美容家電ブランド「ブライト」では、今年3月に発売した“シャワードライヤー”が大きな反響を呼びました。 一般的な高級ドライヤーとの違いは、まず圧倒的な軽さ。そして、大風量。さらに最大の特徴は、ドライヤーでありながら髪の保湿もできるという点です。「ミストセラムを吹きかけながら乾かす」という世界初の構造を開発し、発売初日には楽天の家電ランキングで1位を獲得。初回出荷分も即完売しました。「価値が分かる方には、瞬時に伝わる」と自信を持って言える商品です。
WWD:外部からは、「マーケティングドリブンな企業」というイメージが強いように思います。
龍川:確かにそう見られることも多いのですが、実際には私たちは“プロダクトアウト型”の思想を強く持って商品開発を進めています。よく「売れるものを作る」と聞きますが、私たちは「購入後に満足してもらえ、また買っていただけるものしか作らない」というスタンスです。それが、ブランドを正しく、持続的に成長させていくための唯一の道だと考えています。
特に今の時代は、AIの進化によって「良いものが、より選ばれやすくなる時代」になったと実感しています。かつては、ユーザーにとって関係のない広告が表示され、真に価値のある商品が埋もれてしまうことも多くありました。しかし、今はユーザーの関心やニーズに即した情報が瞬時に届けられるようになり、「良いもの」がダイレクトに選ばれ、「そうでもないもの」は選ばれにくくなった。つまり、知ってもらうことのハードルが下がり、本質的に価値のあるプロダクトが正当に評価されやすくなっているんです。
この環境は、まさに私たちにとって追い風です。しっかりと価値のあるものを作れば、それがしっかりとお客様の手に届く。だからこそ、私たちはプロダクトそのものに徹底的にこだわります。
「ユンス」や「ブライト」の商品開発においても、OEM工場の研究者と日々密に連携し、私自身が処方の微調整やパーツ設計にまで深く関与しています。ファブレスではあっても、ものづくりの本質と真剣に向き合う姿勢を貫いています。
WWD:OEMでは、商品の圧倒的な差別化は難しいのではないでしょうか?
龍川:必ずしもそうとは限りません。重要なのは、OEM工場との関係性です。スケールは異なりますが、Appleの例が象徴的です。iPhoneはAppleの製品ですが、製造自体は台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)が担当しています。同じ工場では他の有名メーカーの製品も製造されていますが、それでもiPhoneが唯一無二の存在でいられるのはなぜか——。
それはAppleが、「この製品をこの価格で、これだけの数量を出す」と製造側に対してコミットしているからだと思います。この“覚悟”があるからこそ、工場からトッププライオリティーのパートナーとして扱われる。そして、それに見合ったクオリティや仕様の実現が可能になるのです。
私たちも同じです。「この本数を、この価格で、必ず売り切る」という覚悟を工場に明確に伝えることで、通常では実現が難しいような高度な仕様や差別化要素にも対応してもらえる。時間をかけて信頼関係を構築し、結果としてまるで同じ会社のような一体感と情熱をもって独自性ある商品開発が可能になるのです。
WWD:OEM工場とのコミュニケーションも、かなり密なのでしょうか?
龍川:はい、ほぼ毎日やりとりしています。最初の頃は専門用語が分からず、たくさん勉強しました。「ブライト」の美顔器やドライヤーを開発するうえでは、周波数や電圧、ミスト粒子、技術特許、特殊素材など、理解しておかなければならない技術的要素が非常に多いんです。化粧品に関しても同様で、成分や肌理論についてきちんと理解していなければ、工場側と本質的な会話は成り立ちませんし、本当に良いものは決して生まれないと思っています。
WWD:社員はわずか27人(25年3月末時点)とのことですが、2025年3月期の売上高は142億円、営業利益は24億円。極めて高効率な経営体制だと思いますが、どのように業務を回しているのでしょうか?
龍川:単純計算になりますが、1人当たりの売上高は5億円を超えています。おそらく業界でもトップクラスの水準だと思います。
この高い生産性を実現できているのは、それぞれの領域において非常に高い専門性を持ったプロフェッショナルが揃っているからです。商品開発担当、マーケティング、デザイン、CRM、撮影、PR、カスタマーサポート、倉庫・物流管理など複数の領域に携わりながらも、それぞれが高い水準で仕事をこなしています。
WWD:それだけの能力が求められるとなると、報酬も相応に高い水準なのでしょうか?
龍川:はい。私たちは29年までに、社員の「平均年収」を1億円にするという目標を掲げています。25年3月末時点での平均年収は1,250万円で、昨年度から350万円ほど上昇しました。ただ、1億円に到達するためには、単純計算で3カ月ごとに約45万円ずつ昇給していかなければなりません。それでも、本気でやりきるつもりです。
当然ながら、採用基準も非常に厳しくしています。新卒であれば、東京大学レベル以上の人材を中心に採用しています。中途採用で入社する場合にも、担当する専門領域において業界トップレベルの経験と能力が求められます。
もちろん、前職で年収数百万円ほどだった方が、いきなり年収数千万円レベルの仕事の成果を出すのはなかなか難しいと思います。でも、「数年以内に年収1億円相当の価値を生み出せる人材になる」という覚悟を持って入ってきてほしい。それくらいの強い意志と成長スピードを求めています。
WWD:2029年度には、売上高2200億円、営業利益400億円、時価総額1兆円という非常に野心的な目標を掲げていますね。
龍川:はい、その達成に向けて、毎年1ブランドずつ新たに立ち上げ、単体で売上高100億円を超えるブランドを複数育てていく方針です。そのためには、M&Aも積極的に行っていきます。すでに芽が出ているブランドの中から、「この事業なら一気に数百億円まで伸ばせる」という種を探し、経営資源を集中投入していきます。
今後は、ビューティ領域にとどまらず、ライフスタイル全般へと事業領域を広げていくつもりです。まずは「ストレイン」で、ドラッグストアやバラエティショップ市場に本格的に挑みます。これは正直、市場をひっくり返すレベルのインパクトがあると自負しています。実際に使っていただければ、その凄さを体感できるはずです。
WWD:長期的なビジョンについても教えてください。
龍川:2030年頃を目処に、“宇宙”への進出を見据えています。
私は、今後100年以内に人類が火星に移住する時代が到来すると本気で考えています。イーロン・マスク氏の発言は非常に理にかなっていますし、ジェフ・ベゾス氏も宇宙開発企業「ブルー・オリジン」を立ち上げています。ただ、現時点の技術ではまだ足りない部分が多くあります。
たとえばロケットの積載効率。数百トンの大型ロケットでも、実際に搭載できる物資はわずか1〜4%程度にすぎず、大半が燃料に充てられます。この制約のもとで、人が生活するための設備や建材を運ぶには、何度も届ける必要があります。そのため、莫大なコストがかかるため、現実的とは言えません。
大きな論点は、安全面と経済合理性を兼ね揃えながら「いかにして人間の生活可能環境を現地に構築するか」ということです。
私は「AIを搭載したヒト型ロボットがロボットをつくる」時代が必ず来ると考えています。まずはロボットを現地に送り、他のロボットを製造させる。そして、ロケットや居住基地の建設にまでつなげ、人類が生活可能なインフラを現地で整備していく。そうした段階的なアプローチが不可欠です。
火星や月のような環境では、大気がほとんどなく、宇宙放射線も降り注ぎます。そのため、人間がそのまま暮らすのは現実的ではなく、地下に居住空間を構築するのが妥当な選択になるでしょう。
こうした未来を見据え、私たちは「Aiロボティクス」という社名に込めた想いを、2030年頃を目処に事業として具現化していく予定です。現時点では、AIを搭載したソフトウェア型ロボットを活用したD2Cの会社でありますが、すでにヒト型ロボット領域に向けた準備も着実に進めており、社名と事業が本質的に一致する未来を形にしていく構想です。
WWD:構想のスケールが、まさに“果てしない”ですね。
龍川:こうしたビジョンは学生時代からずっと描いてきたものなんです。だからこそ、私が以前に立ち上げた会社の社名も「ロケットベンチャー」でした。
現在展開しているスキンケアや美容家電、ヘアケアといった事業は、もちろん当社の経営の根幹を担う重要な領域です。ただし、それだけの企業で終わるつもりはありません。
私は、AIとロボットの可能性を極限まで追求し、常にその先にある未来を見据えた事業を拡張していきたいと考えています。
結果的に「新しい自由を創造する会社」というミッションの実現に繋がり、それは私たちAiロボティクスの使命だと思っています。
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