「グレイト」のYosh(左)とデザイナーのジヨン・キム PHOTO:MASASHI URA
韓国出⾝デザイナーのジヨン・キムによるファッションブランド「ジヨンキム(JIYONGKIM)」。デザイナーのジヨン・キムは、日本の⽂化服装学院卒業後、ロンドンのセントラル・セント・マーチンズ(Central Saint Martins) を卒業。在学中に「ルメール(LEMAIRE)」やヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)がデザイナーを務めていた「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON )」でインターンを務めた後、2021年春夏から自身のメンズブランドをスタートした。
同ブランドの特徴は、⽔や化学薬品を使わずに⽇光で1〜3カ月ほど服を⽇焼けさせる「サンフェード」を行うことでできる独特のデザインで、24年度「LVMH」プライズのセミファイナリストに選ばれるなど、今注目を集める若手デザイナーの一人だ。
3月にはセレクトショップ「グレイト(GR8)」 で、デザイナーのジヨン自らが監修を行ったポップアップを開催した。もともと「グレイト」のYoshi・スペシャルプロジェクトマネージャーとはブランド設立時から親交があったという。今回、ポップアップに合わせて来日したデザイナーのジヨンと「グレイト」Yoshiに、2人の出会いからブランドの成り立ちや特徴、そして最近スタートしたウィメンズについて語ってもらった。
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ジヨンキム」創設時からの交流
「グレイト」のYosh(左)とデザイナーのジヨン・キム PHOTO:MASASHI URA
WWD:Yoshiさんは創設時から「ジヨンキム」のファンだったそうですが、2人はいつごろ知り合ったんですか?
ジヨン・キム(以下、ジヨン): 確か2021年ごろだったと思います。私のセントラル・セント・マーチンズの卒業制作をYoshiさんがインスタで見て、「オーダーしたい」と連絡がきたんです。最初は個人オーダーかなと思っていたんですけど、聞いたら「『グレイト』で販売したい」って言われて。当時はまだ学生だったので、値段のつけ方もよく分からなくて、Yoshiさんにいろいろと相談しながら、「グレイト」で販売してもらえることになったんです。
Yoshi: もともと「コマウェア(CMMAWEAR)」っていう韓国ブランドのデザイナーのギズモという2人の共通の友達がいて。彼から「この人やばいかも」っていうメッセージがきて、それがジヨンのインスタのアカウントだったんです。当時は自分の作った服をいっぱい投稿しているわけでもなく、学校の課題の制作過程とかを投稿していたくらいだったんですけど、その感じがめちゃめちゃ良くて。それで、「『グレイト』で販売したい」ってインスタのDMを送りました。
当時はジヨンから「まだ売ってない」って言われたんですけど、社長の久保(光博)に話して、「この人はすごくなるかもしれないから、ちょっとトライしたい」と話して。普通に考えたらセレクトショップの店員がブランドの立ち上げから関わることって多分ないと思うんですけど、チャレンジしたいなと思って。それくらいすごく可能性も感じたんですよね。
それから週に何回も電話しながら、値段のつけ方とかを2人で話し合って。当時はコロナ禍で緊急事態宣言が出ていたこともあって、僕が1人でディスプレーして、その写真をジヨンに送って確認してもらったり、プレスリリースも作ったりして。そこから僕らがつながっている世界中のファッション好きの人たちが気に入って、結構SNSで拡散してくれて、広まっていった感じです。最初の販売はオンラインのみだったんですけど。初日で60〜70%ぐらい売れて。その後、日本のショールームを紹介して、毎シーズンパリでも展示会をやっていて、着実に人気を得ていっている感じです。
WWD:ブランドの立ち上げにも関わっていたんですね。その卒業制作作品では、今のテイストの服を作っていたんですか?
ジヨン: その時から今でも私の服の特徴にもなっている「サンフェード」っていう服を外に置いて自然に日焼けさせる加工方法はやっていました。最初に「グレイト」で販売した時って今よりも高かったんですよね。
Yoshi: 全部高単価だったんですけど、ジヨンがやっていることを考えると、それくらいの値段をつけないとマイナスになっちゃうし、最初のコレクションだったので、それでも売れると思ってました。ラフ・シモンズじゃないですけど、歳月が経てば経つほど、すごく価値が付くと思ったので。
ジヨン: 全部一点物だったし、「サンフェード」ってすごく時間がかかるので、その値段でも売れたのはうれしかったですね。
ビンテージ好きが買いたい服を作る
デザイナーのジヨン・キム PHOTO:MASASHI URA
WWD:「サンフェード」の手法はいつごろから始めたんですか?
ジヨン: セント・マーチンズの卒業制作を準備する前からです。子供のころからファッションが好きで、特にビンテージが好きでした。日本でも文化(服装学院)に通ってる時にも、友達とよくビンテージショップに行ってました。でもセレクトショップなどに行った時に僕が買いたいと思う服があまりなくて。僕みたいなビンテージ好きが買いたいと思える服ってどんな服なのかって考えていたら、「サンフェード」という手法を思いついたんです。全て微妙に柄が変わるので一点物になるし、サステナブルで持続可能性があるのもいいなと思いました。
あと、僕がプリントがあまり好きじゃないんです。ロゴとかどんなブランドを着ているのか、相手が分かるのがあまり好きじゃなかったんですよね。それでビンテージが好きだったっていうのもあって、そういう趣向が今のブランドにつながったと思います。
WWD:「サンフェード」での日焼けの柄はある程度デザインできるんですか?
ジヨン: 厳密にはできないですが、自分たちで想像しながらこういう風にやってみようみたいなのはあります。でも、天気も日々変わるので、思い通りにはいかなかったりして。でも、そういうランダムさも好きなんですよね。
WWD:日焼けというと、服にとってはマイナスなイメージがありますが、それをデザインとして活かすのはいいですね。
ジヨン: その発想の転換がやりたかったんです。ショーウインドウに飾ってあって日焼けした製品って売れなくなるじゃないですか。だから日焼けを美しいデザインとして提案できれば、新しい美学を作れるんじゃないかと思いました。
WWD:サステナブルへの意識はいつごろから?
ジヨン: もともとはサステナブルなファッションをやりたいとかは意識していなくて、自分が好きなのがビンテージの服だったり、素材だったので、自然とサステナブルな志向になっていきました。それでリサイクルされたポリエステルやアップサイクルした素材を使うようになりました。
毎シーズン新しいことに挑戦
デザイナーのジヨン・キム PHOTO:MASASHI URA
WWD :Yoshiさんはジヨンさんの服に対して、どこに魅力を感じていますか?
Yoshi: セレクトショップのスタッフなので、もともとはそのシーズンのはやりのものとか、どっちかというと他の人が着ていないような奇抜なデザインの服を着ることが多かったんですけど、最近は落ち着いたものが好きになってきたりもして。そんな中で、ジヨンの服を見た時に、明らかに他の服と違いがあって、「サンフェード」もですが、色味だったり、素材だったり、パターンの取り方だったり、派手ではないんだけど、感覚として「すごい」って感じたんです。毎シーズン、ジヨンの新しい感覚に刺激を受けるので、そこが魅力ですね。あとはやっぱり、服を作る工程を見ているので、ジヨンの服にはストーリーが詰まっている。
WWD:ジヨンさんと出会って4年ほど経ち、変わったなと感じる部分は?
Yoshi: 毎シーズン、コレクションを作っている時に連絡を取り合ってるんです。そこで売り上げの話もしていて、「今シーズンはこれが良かった」とか「これがちょっと動きが悪かった」とかも話すんです。それで、その意見をちゃんと次のシーズンに反映してくれていて。それこそ「サンフェード」が特徴ですけど、全部が「サンフェード」した商品だと単価も高くなってしまうし、時間もかかるから、それ以外のアイテムもあったらいいよねって言ったら、そういうアイテムを作ったりもしているし。そこのバランスの取り方だったりとか、毎シーズン、何かしらの進化を感じます。
WWD:今回のポップアップはどういう経緯でやることになったんですか?
ジヨン: 私のブランドは基本的にはランウエイではなく、展示会でプレゼンテーションをやっているんです。韓国では6、7回ぐらいやっていて、結構大きな場所でやらせてもらっていて。そこでは服だけを見せるんじゃなくて、どんなふうに「サンフェード」しているのか、制作過程やインスピレーション源とかも見せているんです。それを韓国以外でもやってみたいと思ってました、最初はやっぱり「グレイト」でやりたいと思って、それでYoshiさんに相談したら、「ぜひやろう」っていうことになりました。
Yoshi: 韓国だとすごく大きい場所を借りてやっていて、毎日多くの人が並んでいたり、BTSのような韓国のアーティストも来たりしているんです。そうした韓国での展示会を見ていたので、日本でもやりたいなと思っていたんですけど、なかなかタイミングが合わなくて、今回ようやくタイミングがあってやることになりました。
日本でやるにあたって、ファッション好きな人がデザイナーと触れられる機会を作れたらと思って、2日間店頭にも出てもらったんです。これをきっかけに「ジヨンキム」の制作過程とかを知ってもらうと、若い人たちの服作りの可能性も広がるかなと思って。
「グレイト」でのポップアップの様子
「グレイト」でのポップアップの様子
「グレイト」でのポップアップの様子
「グレイト」でのポップアップの様子
「グレイト」でのポップアップの様子
「グレイト」でのポップアップの様子
「グレイト」でのポップアップの様子
「グレイト」でのポップアップの様子
新しくウィメンズをスタート
デザイナーのジヨン・キム PHOTO:MASASHI URA
WWD:そもそもジヨンさんが韓国のファッション学校ではなく、日本の文化服装学院を選んだ理由は?
ジヨン: ビンテージが好きで、高校生のころから日本のヤフオクとかで服を探して買っていたんです。日本には、アメリカやヨーロッパのビンテージがたくさん集まっているので、それで日本に行ったら、ビンテージショップにいっぱい行けるなと思って(笑)。
WWD:韓国には古着屋はあまりないんですか?
ジヨン: 今はたくさんできてるんですけど、当時はあまりなくて。やっぱり日本の方がたくさんあります。
WWD:文化を卒業して、セントラル・セント・マーチンズに入学しますが、その経緯は?
ジヨン: 文化は2年で卒業したんですけど、通ってる時はウィメンズの技術を中心にパターンや服の作り方をすごく勉強して。それでもっとデザインやクリエイティブなことやメンズをしっかりと学びたいと思って、セント・マーチンズに入学しました。それで大学を卒業後に大学院に入学したんですけど、大学在学中にCOVID-19になってしまって、大学院は韓国にいながらオンラインで勉強しつつ、自分のブランドもやって、忙しかったですね。
WWD:ブランドができて4年ほど経ちますが、手応えは感じていますか?
ジヨン: まだまだです。毎シーズン新しいことに挑戦したくて、23年秋冬から「サンフェード」をしていないデザインの服を増やしているんですけど、すごく評判がよくて。あと25年の秋冬シーズンからはウィメンズも始めたんです。
WWD:ウィメンズを始めたのは何かきっかけがあったんですか。
ジヨン: もともと文化に通っている時はウィメンズを学んでいたので、いつかやりたいとは思っていたんです。だから今シーズンのウィメンズはマーケティング的なことを考えずに本当に自分の作りたい服を作りました。自分にとっても新しい挑戦だったので、面白かったですね。でも、次のシーズンからは、もっと着てもらう人の感覚とかも考えながらデザインしていくと思います。
Yoshi: 僕もそのウィメンズの展示会に行ったんですけど、リアルクローズでさらっと着る感じではなくて、ちょっとアート寄りの感じの服でした。一緒に行った友達はすごく気に入ってましたね。
ジヨン: 自分的にメンズウエアは、ウエアラブルなことを意識して作っているんですが、ウィメンズだともっとクリエイティブなことができるんじゃないかなっていうのもあったんです。僕がやってるメンズウエアって、パンツにはパンツの、シャツにはシャツのルールがあって、そこを守って作っていたんですけど、ウィメンズはドレスだと「サンフェード」の見せ方もまた違ってきたり、もう少し自由に作れるかなと思って。
WWD:今後はメンズ、ウィメンズ両方やっていく?
ジヨン: やっていきたいですね。
WWD :メンズでも服のシルエットも変わったものがありますが、どう考えているんですか?
ジヨン: 僕の場合は実際にハンドドレーピングしながらデザインを考えることが多くて。絵を描いて、パタンナーさんにお願いするのではなくて、自分でポケットとかシルエットとかまで組んでから、パタンナーさんと話しながら、もっといい服になるように、作っていく感じです。
WWD:今後のブランドのビジョンは?
ジヨン: 今まで作ってきた価値をちゃんと守って、服作りを続けていきたい。あと、4月にはソウルに旗艦店を作るんです。それができると、そこでインストレーションしたり、もっといろんなことができると思うので、楽しみにしていてほしいです。
WWD:Yohiさんがジヨンさんに期待することは?
Yoshi: 一番はこのブランドに集中して、ずっと継続してもらうことなんですけど、どこかビッグメゾンのデザイナーになることも期待しています。それぐらいの技術やアイデアは持っていると思うので。
WWD:ランウエイでの発表については?
ジヨン: ランウエイはやりたい気持ちはあるんですけど、自分のブランドの場合は展示会でしっかりとプレゼンテーションをして、じっくりと見てもらう方がストーリーも伝わるので、合っていると思います。でも、機会があればいつかはやってみたいですね。
「ジヨンキム」
「ジヨンキム(JIYONGKIM)」は、韓国出身デザイナージヨン・キム(Jiyong Kim)によるブランド。文化服装学院卒業後、ロンドンのセントラル・セント・マーチンズ(Central Saint Martins)を卒業。在学中に「ルメール(LEMAIRE)」やヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)がデザイナーを務めていた「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON )」でインターンを務めた後、アシスタントデザイナーを経験。現状のファッション業界の生産サイクルに疑問を呈し、CSMの卒業コレクションは、ビンテージのベルベットや工場で余ったナイロン生地で構成。無駄のない自然エネルギーに着目し、水や化学薬品を使わずに日光で1〜3カ月ほど服を日焼けさせる「サンフェード」を使用し、サスティナブルに特化しながら全く新しいものを作り上げ、唯一無二のコレクションを発表している。
https://jiyongkim.net/
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