ショー本番まで約2時間となり、モデルたちが真っ白なランウエイを歩くリハーサルがスタートした。歩く位置やスピード、ターンの勢い、視線などに細かい指示が飛ぶ。フィナーレのシーンでは、モデルがずらりと並ぶフォーメーションから、白いバラを持つ手の角度にまで微調整が入る。さらにショー開始のライティングとBGMスタートのタイミング、光の入り方まで、籠谷友近率いいるヴィジョンズ アンド パラドックス(VISIONS AND PARADOX)の演出チームが会場内を忙しく駆け回ってベストな状態に仕上げていった。これはきっとオオスミさんの最後のコレクションだからではなく、いつも通りの「ミスター・ジェントルマン」なのだろう。思えば、ここのショーはいつだって完璧に作り込まれていた。セットやBGMなどを含め、見た人をワクワクさせてくれるハッピーなエンターテインメントだったからだ。そんな慌ただしい現場の隅で、吉井デザイナーは静かに見守っていた。オオスミさんの写真を横に置いて。
そしていよいよ本番。ブラックのドレスコードをまとった真っ黒の来場者によって、真っ白のランウエイがいっそう際立つ。座席には白いバラが一輪置かれており、開演を待つ間はそれぞれがバラを手に取りながらオオスミさんへの思いを馳せていたのだろう。ショー会場によくある賑やかな談笑ムードは少なく、無言でランウエイを見つめる来場者が多かった。いよいよショーが始まり、40人のモデルたちが続々と登場する。今シーズンのコレクションには、危機や不安に直面している人類に対する愛や平和への願いが込められている。服にのせたのは、“FREE YOUR MIND(心の解放)”“PRACTICE NONVIOLENCE(非暴力の実践)”“LOVE IS LOVE(愛はどんな形であれ愛)”というストレートなメッセージ。複数の編み地にフリンジやポンポンを付けたファンシーなニットや超ロング丈のプリーツシャツ、前後反転したエコファージャケットなど、ベーシックアイテムに違和感のあるディテールを加える手法はいつも以上に強い。それらにレッグカバーやアームカバーなどのパーツウエアを組み合わせてキャッチーさが加えたり、シルエットに強弱を付けたり、パテントとウールの素材感を対比させたりする巧みなバランスのレイヤードでスタイルを構築していく。「ヨシコ クリエーション(YOSHIKO CREATION)」とのアクセサリーや「サキアス(SAKIAS)」とのシューズなど、人気のコラボレーションも継続した。そして、サプライズのアイテムも登場した。オオスミデザイナーが「フェノメノン(PHENOMENON)」で使っていた“レモンツリーカモ”と“ブルータイガーカモ”がタイツに差し込まれていたのだ。
伊勢丹新宿本店で開催中の期間限定ショップオードパルファム”(120mL、3万円)“ドロッパー”(15mL、6500円)“ホームメイド センティッド キャンドル” (200g、9000円)“ホームフレグランス” (100mL、9500円/500mL、2万6000円)“ハンドジェル”(70mL、1819円/200 mL 、4000円、500 mL 、7000円)パルファムホテルのロビー「ラブソルー」のラボ
エントランスには、“水”を連想させる巨大なクラゲのオブジェを登場。店舗フロアはラグジュアリーさとリラックス感が共存し、らせん階段や曲線のカウンター、イサム・ノグチらによる丸みを帯びた家具など、あらゆる流線型を用いて水の流れを表現している。1階にはウィメンズのレザーグッズとウォッチ、ファインジュエリーをそろえ、季節のアイテムが並ぶポップインスペースを常設する。「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」の川久保玲デザイナーとコラボレーションしたトート“バッグ ウィズ ホールズ(BAG WITH HOOLES)”も並ぶ。
6階のVIP・VICサロンと7階のカフェは、ゆったりとしたカジュアルな空間に、ポップで色彩豊かな家具やアートを配置して遊び心を加えた。サロンにはらせん階段の壁紙の着想源となった藤村喜美子の絵画“Wave Blue Line”を飾る。カフェの天井には水面に浮かぶ葉っぱをイメージした装飾を一面に配置し、“水の柱”の最上階を演出した。細部にまで“水”を演出する仕掛けがあり、それらを探す楽しみ方もできる店舗だ。
地元ニューヨークの職人とのコラボレーションも初の試みとして実施。職人技術の魅力を届けるため、家族経営の小さなニット工場や刺しゅう工房に依頼して“A Love Letter to New York”と題したカプセルコレクションを“コーチ フォーエバー”の中で制作した。“NEW YORK”の文字やてんとう虫、花などを刺しゅうしたアウターウエアやバッグを展開している。
さらに、“責任”は生産工程全体も指している。今回新たに挑戦したのが、コミュニティーへの還元だ。ニューヨークはパンデミック初期、厳しく苦しい状況にあった。そこで、地元のメーカーを支援するために“、A Love Letter to New York”と題したカプセルコレクションも“コーチ フォーエバー”の中で発表した。職人たちが、アイテムに刺しゅうを施したり、アポロのセーター、キース・ヘリングのTシャツ、モトジャケットなど、最近のコレクションからお気に入りのアーカイブピースを制作したりした。今までになかった新しい試みで、ニューヨーク発の素晴らしさを証明するものに仕上げることができた。
荒尾:リテール体験の改革は、お客さまにとっての悩みや課題が出発点。2018年に「FUTUREX Smart Store by SK-II」をオープンしましたが、当時はお客さま、特に若い世代にとって日本の伝統的な化粧品売り場やカウンターはハードルが高く、「見た目で買うか買わないか判断されているんじゃないか」「座ったら何か買わされるんじゃないか」など、ストレスやプレッシャーを感じているというインサイトがありました。さらに今の時代、消費者はショッピング前に商品のことを調べ、美容部員より知識を持っている人もいたり、かと言って自分の肌のことを分かっていないから何を使ったらいいのかも分からずセルフの店舗では物足りないと思ったりしている方もいたんです。それらの解決策として開発しました。
見どころ:金木志穂が手掛ける「ベースマーク」は、東コレ2回目の参戦。“CROSS THE LINE”をテーマに、クラシカルな西洋の伝統とモダンな東洋のカルチャーを融合しました。得意とする異素材のミックスや、クラシックなアイテムをモードに昇華するテクニックは健在。東洋でお守りや魔除けとして使われるフリンジの装飾が付くアイテムをはじめ、オリジナル素材にジャージーを斜めにドッキングしたセットアップ、ダッフルコートの袖や後ろ身頃の半分をパイルジャカードで切り替えたアウターなどを提案しました。これだけのテクニックを駆使しながら、コレクションピースで約12万円というコスパにもビックリ。これまでウィメンズブランドとして活動してきましたが、今シーズンからは男性モデルをムービーに起用するなど、ユニセックスブランドとして打ち出しています。個人的ネクストブレイク筆頭候補です!
「ザ・ノース・フェイス パープルレーベル(THE NORTH FACE PURPLE LABEL以下、パープルレーベル)」は、イギリス・ロンドン発のスケートボードブランド「パレス スケートボード(PALACE SKATEBOARDS以下、パレス)」と協業し、日本限定のカプセルコレクションを3月27日に発売する。「ナナミカ」代官山店や「ザ・ノース・フェイス」直営店、「パレス」旗艦店とブランド公式オンラインストアなどで取り扱う。
コレクションは、“The City with Purple Wind(パープルが吹く街)”をコンセプトに、「パープルレーベル」のコラボレーションでは初のアパレルラインをラインアップするほか、キャップやバッグなど全11型をそろえる。「パープルレーベル」のアーカイブをベースに、「パレス」のストリートカルチャーを融合している。縦糸にインディゴ染めのコットン糸、横糸にナイロン糸のインディゴリップストップを使用し、両ブランドのロゴをあしらったオーバーサイズのジャケット(3万1000円)や、同素材のパンツ(2万2000円)、フィッシングジャケットをベースにしたベスト(3万円)などのほか、コーデュラナイロンのデイバッグ(2万6000円) 、ジェットキャップ(7800円)、バンダナ(3000円)といった小物も製作した。
石川:昔は洋服に合わせてスニーカーを選んでいたと思うけど、スニーカーのカラーリングに合わせたセットアップとか、今はスニーカーに合わせて洋服を選んでいる人が多いんじゃないかなと思ったんです。スニーカーの行列に並んでいる人たちも例えば“エア ジョーダン1”の“シカゴ(赤白黒のカラーリング)”を履いて「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」の黒いパンツに「シュプリーム(SUPREME)」の赤いダウンを合わせたりしてる。そうするとスニーカーに合わせた赤黒のコーデができるから。そういう視点で設計しているブランドが世の中にないな、と。盛り上がっているコミュニティーがあって、そこに足りないものや、ありそうでないものがあるからそれを提案している感じ。しかも90年代だったらできなかったけど、今だったら一斉に世界に向けて売れる。そうすればニッチなマーケットでも世界中にバラ撒けるんで、大きなうねりにできる。日本の中だけで(売上高)10億円売るより、世界で100億円売る方が供給量も多く感じないし、そういうイメージでビジネスができると思ったんです。
JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員