森を守るゴムと、土を育てる綿 「ヴェジャ」共同創業者が語る、素材と思想のあいだ

サステナビリティは矛盾だらけ。環境に配慮された素材も見方によってはそうでなくなる。そんなとき、実践者たちはどう考えるのか?来日したサステナビリティの先駆者であるフランスのスニーカーブランド「ヴェジャ(VEJA)」のフランソワ・ギラン・モリィヨン(Francois Ghislain Morillion)共同創業者に彼らが考える“正義”について聞いた。場所は、東京・原宿。ヴィンテージのサッカーシューズをベースにした最新モデル「パネンカ(Panenka)」のお披露目をするスペースだ。

重要なのは、ブランドの社会的意義をしっかり伝えること

WWD:最初に「パネンカ(Panenka)」のコンセプトを教えてください。

フランソワ:・ギラン・モリィヨン(Francois Ghislain Morillion)ヴェジャ共同創業者(以下、フランソワ):私たちは、「ヴェジャ」の思想や世界観を伝えるために、新しいスタイルやモデルを開発しています。その背景には、ブランドの世界観を体現する“言い訳”となる要素を探しているという想いがあります。今回はサッカーシューズの世界観を取り入れ、「パネンカ」という名のモデルをつくりました。これは、サッカーのペナルティーキック技術の名前にもなっているもので、その世界観を借りる形で新しいラインを展開しています。

重要なのは、ブランドの存在意義、つまり社会的意義をしっかりと主張することです。そのために、素材選びにもこだわっており、ラバー、コットン、ペットボトル由来のリサイクルポリエステルを積極的に使っています。これらをスポーティーなサッカーというイメージと結び付けて、新しいスタイルとして打ち出しています。

WWD::「言い訳」とは、どういう意味ですか?

フランソワ::ポルトガル語で“ヴェジャ”は「見る」という意味があります。つまり、デザインの裏にあるすべてのストーリーを見てほしいという意図があります。「こういう背景があるんだよ」と伝えるための“きっかけ”のようなものです。

「神様が植えた」と言われるゴムの木から採取

WWD::新作で採用した素材について教えてください。

フランソワ:::4つの主要な素材を使用しています。まず一つ目はアウトソールの天然ラバーです。これはブラジルのアマゾン地域に自生している、人工的に植えられたものではない「神様が植えた」と言われるゴムの木から採取しています。

WWD:「神様が植えた木」を採取して問題ないのですか?

フランソワ::逆です。アマゾンの森林破壊が大きな問題となっている今、この天然ゴムの使用は森林保全にもつながっています。各家庭が約300ヘクタールの森林を守りながらゴムを採取しており、現在約2000家族と契約しています。つまり、60万ヘクタールもの森を私たちの購買活動で保護していることになります。

WWD:なるほど、ゴムは木を切るのではなく、樹皮に切れ目を入れて樹液を収穫するから、木を枯らさず「ゴムを採るから森を残す」という構造が成立するのですね。現地とのやり取りはどのように行っていますか?

フランソワ:アマゾンには「ヴェジャ」のオフィスがあり、常駐のスタッフ6人が地元の方々と連携しています。ブラジルの生産者たちは小さなグループに分かれ、さらにそれを統括する協同組合のような団体が存在します。私たちはそういった組織と直接契約を結んでいます。

WWD:彼らは元々ゴム生産に関わっていたのですか?

フランソワ:はい、元々ゴムの生産技術は持っていましたが、価格が非常に低かったため生計の主軸にはしていませんでした。収入の約30%がゴムからで、残りはナッツの収穫や農業、畜産などで得ています。「ヴェジャ」が適正価格で買い取るようになったことで、ゴム生産への関心が高まり、生産量も増えています。

WWD:コットンも持続可能な方法で生産していると伺いました。

フランソワ:はい。私たちは約2000家族と「アグロエコロジー」方式で契約しています。これは、単一作物の栽培を禁止し、最低3種類以上の作物を同じ畑で育てるというルールです。例えば、コットンのほかにトウモロコシや豆などを育てることで、土壌の多様性と肥沃さを保っています。生産地は主にブラジルで、一部はペルーにもあります。2005年からこの方式で栽培されたコットンを継続的に使用しています。

WWD:新作の「パネンカ」では革素材も使っていますね?

フランソワウルグアイ産で、完全な自然放牧によるものです。森林を切り開くことなく、広大な自然草原で、1ヘクタールに1頭という贅沢な飼育環境で育てられています。飼料や飼育方法にも自然に配慮しており、「コンパ」と呼ばれる場所で自由に放牧されています。

WWD::リサイクルポリエステの仕組みは?

フランソワ:私たちは15年以上前から再生ポリエステルを使っています。ただし、私たちは「どこから来たペットボトルなのか?」という点まで重視しています。ブラジルの産廃業者と協力し、現地で回収されたペットボトルを洗浄・分類し、小さなチップ状にしてから再生糸にしています。特に「ヴェジャ」では、これらを持ち込む回収者(多くは女性)に対し、通常の2倍の価格で買い取ることで、独自のサプライチェーンを築いています。

WWD:マイクロプラスチック問題にはどう対応していますか?

フランソワ:マイクロプラスチックが問題であることは認識しています。衣類のように頻繁に洗濯されるものに比べ、靴は洗濯されにくいため、発生量は少ないと考えています。とはいえ、内側のライニングにリサイクルペット素材を使っており、これはコットンよりも耐用年数が長く、結果として環境負荷が少ないと考えています。

理想は、20〜30年後にはペットボトル自体の使用がなくなることですが、現状では使い終わったペットボトルを有効に循環させることが大切だと考えています。

私たちは常に自問自答を繰り返しています。以前、リサイクルポリエステルでスウェットを作ったこともありましたが、マイクロプラスチックの懸念から制作を中止したこともあります。完璧ではないからこそ、疑問を持ち、間違いを修正する柔軟さが必要だと考えています。

WWD:グローバル基準についての意見をお聞かせください。

フランソワ:グローバル基準の整備には賛成ですが、懸念もあります。基準を作る側(主に北半球の国々)が、基準を守るよう求める一方で、そのために必要なコストを十分に支払っていないという問題があります。

たとえば、発展途上国や小規模生産者に「この基準を守れ」と求めるだけでは不公平です。使用する側、つまり私たち消費国がそのコストを負担するべきだと考えます。私たちはブラジルの生産者に対しても、その理念に基づいて適正価格での取引を行っています。本来、サステナブルな基準とは、生産者に押し付けるものではなく、それを使用する企業や消費者が共に支えるべきものです。

売り上げよりも、共感を広げるために

WWD:ブランド設立から20年となり、日本ではこのほど、Seiya Nakamura 2.24と日本総代理店契約を結ぶなど、ビジネスの新展開にも意欲的です。現在の売上高は?

フランソワ:2024年は約2億4,500万ユーロ(約395億円)でほぼ横ばいで安定しています。

WWD:その売り上げに満足されていますか?

フランソワ:私たちは売上至上主義ではありません。共同創業者のセバスチャン・コップ(Sebastien Kopp)と私の二人が会社の株式を100%保有しており、外部の株主はいません。だから「もっと売り上げを上げろ」といったプレッシャーもありませんし、自分たちがやりたいことに集中できています。

特に今は、日本に来て、日本市場に私たちの考え方を知ってもらうこと、そして日本の文化を学ぶことの方がずっと大切です。売上数字よりも、価値観を共有できることの方が重要だと考えています。

WWD::買収や投資の話も多いのでは?

フランソワ:たくさんあります。でも私たちはそこを目指していません。投資の話は多く来ますが、「それは私たちの目標ではない」と断っています。

WWD:米国のトランプ政権の施策はビジネスに影響していますか?

フランソワ:弊社の生産はブラジルで行っており、アメリカに輸出する際は関税が10%かかります(2025年4月11日時点)。1足あたり約5ドル程度の影響ですので、特に大きな打撃は受けていません。それに政策が日々変わるので、深刻に受け止めすぎないようにしています。

WWD:地産地消に関しての考えを聞かせてください。

フランソワ:私たちはパリを拠点にしつつ、生産はブラジルで行っています。そして世界中に商品を届けていますが、空輸ではなく船便を使用しています。そのため、物流が排出するCO₂は全体のわずか3%にとどまっています。

一部ポルトガルで生産している商品もあり、それはパリまでトラック輸送しています。実は、ブラジルからの輸送の方が環境負荷が少ないケースもあるのです。「遠くで生産しているからサステナブルではない」というのは誤解で、実際にはより環境に配慮した仕組みで生産・輸送しています。

WWD:迷いなく、明確ですね。

フランソワ:ありがとうございます。私たちは完璧ではありませんし、間違えることもあります。でもその都度立ち止まり、考え直し、変化を受け入れる姿勢を大切にしています。科学技術も日々進化していますから、時には立場を変える必要もあります。それは当たり前のことであり、恐れることではありません。

銀行員時代、「自分はこれをやりたくない」と思った

WWD:創業時から広告に頼らないビジネス方針を掲げていることが広く知られています。改めて、現代ではチャレンジングな戦略では?

フランソワ:広告を使わないという方針は、「ヴェジャ」にとって不可欠です。なぜなら、私たちはラバーやコットンなどの原材料を、生産者が生活できるだけの適正価格で購入しており、競合の約2倍のコストがかかることもあります。それでも大手ブランドと同じくらいの価格で商品を販売できるのは、広告費を一切かけていないからです。もちろん、広告を使えばブランドがもっと大きくなる可能性もあります。しかし、それによって商品の価格が上がったり、素材にかける予算が減ったりすることは、私たちの信念に反します。だから、最初から一貫して広告を使わない方針を続けています。

WWD:経営学を学び、最初のキャリアは銀行だそうですが、それらの経験は役立っていますか?

フランソワ:大学では経営学を学びましたが、金融の実務経験は半年ほどしかなく、それを“キャリア”と呼べるかは疑問です。ただ、その短い経験から、「自分はこれをやりたくない」という気持ちを明確に持てたのは大きかったです。銀行で働いていたとき、上司たちの姿を見て「自分もこうなりたい」とはどうしても思えませんでした。

卒業前に共同創業者のセバスチャンと一緒に旅をして、多くの場所を訪れました。その中で「サステナビリティは非常に重要だ」と感じ、学校にその学びの機会を求めたのですが、校長先生には「そんなの誰も興味を持たない」と一蹴されました。でもその2年後、普通にサステナビリティの授業が始まっていて、「僕たちは少し早すぎたのかもしれない」と感じました。

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森を守るゴムと、土を育てる綿 「ヴェジャ」共同創業者が語る、素材と思想のあいだ

サステナビリティは矛盾だらけ。環境に配慮された素材も見方によってはそうでなくなる。そんなとき、実践者たちはどう考えるのか?来日したサステナビリティの先駆者であるフランスのスニーカーブランド「ヴェジャ(VEJA)」のフランソワ・ギラン・モリィヨン(Francois Ghislain Morillion)共同創業者に彼らが考える“正義”について聞いた。場所は、東京・原宿。ヴィンテージのサッカーシューズをベースにした最新モデル「パネンカ(Panenka)」のお披露目をするスペースだ。

重要なのは、ブランドの社会的意義をしっかり伝えること

WWD:最初に「パネンカ(Panenka)」のコンセプトを教えてください。

フランソワ:・ギラン・モリィヨン(Francois Ghislain Morillion)ヴェジャ共同創業者(以下、フランソワ):私たちは、「ヴェジャ」の思想や世界観を伝えるために、新しいスタイルやモデルを開発しています。その背景には、ブランドの世界観を体現する“言い訳”となる要素を探しているという想いがあります。今回はサッカーシューズの世界観を取り入れ、「パネンカ」という名のモデルをつくりました。これは、サッカーのペナルティーキック技術の名前にもなっているもので、その世界観を借りる形で新しいラインを展開しています。

重要なのは、ブランドの存在意義、つまり社会的意義をしっかりと主張することです。そのために、素材選びにもこだわっており、ラバー、コットン、ペットボトル由来のリサイクルポリエステルを積極的に使っています。これらをスポーティーなサッカーというイメージと結び付けて、新しいスタイルとして打ち出しています。

WWD::「言い訳」とは、どういう意味ですか?

フランソワ::ポルトガル語で“ヴェジャ”は「見る」という意味があります。つまり、デザインの裏にあるすべてのストーリーを見てほしいという意図があります。「こういう背景があるんだよ」と伝えるための“きっかけ”のようなものです。

「神様が植えた」と言われるゴムの木から採取

WWD::新作で採用した素材について教えてください。

フランソワ:::4つの主要な素材を使用しています。まず一つ目はアウトソールの天然ラバーです。これはブラジルのアマゾン地域に自生している、人工的に植えられたものではない「神様が植えた」と言われるゴムの木から採取しています。

WWD:「神様が植えた木」を採取して問題ないのですか?

フランソワ::逆です。アマゾンの森林破壊が大きな問題となっている今、この天然ゴムの使用は森林保全にもつながっています。各家庭が約300ヘクタールの森林を守りながらゴムを採取しており、現在約2000家族と契約しています。つまり、60万ヘクタールもの森を私たちの購買活動で保護していることになります。

WWD:なるほど、ゴムは木を切るのではなく、樹皮に切れ目を入れて樹液を収穫するから、木を枯らさず「ゴムを採るから森を残す」という構造が成立するのですね。現地とのやり取りはどのように行っていますか?

フランソワ:アマゾンには「ヴェジャ」のオフィスがあり、常駐のスタッフ6人が地元の方々と連携しています。ブラジルの生産者たちは小さなグループに分かれ、さらにそれを統括する協同組合のような団体が存在します。私たちはそういった組織と直接契約を結んでいます。

WWD:彼らは元々ゴム生産に関わっていたのですか?

フランソワ:はい、元々ゴムの生産技術は持っていましたが、価格が非常に低かったため生計の主軸にはしていませんでした。収入の約30%がゴムからで、残りはナッツの収穫や農業、畜産などで得ています。「ヴェジャ」が適正価格で買い取るようになったことで、ゴム生産への関心が高まり、生産量も増えています。

WWD:コットンも持続可能な方法で生産していると伺いました。

フランソワ:はい。私たちは約2000家族と「アグロエコロジー」方式で契約しています。これは、単一作物の栽培を禁止し、最低3種類以上の作物を同じ畑で育てるというルールです。例えば、コットンのほかにトウモロコシや豆などを育てることで、土壌の多様性と肥沃さを保っています。生産地は主にブラジルで、一部はペルーにもあります。2005年からこの方式で栽培されたコットンを継続的に使用しています。

WWD:新作の「パネンカ」では革素材も使っていますね?

フランソワウルグアイ産で、完全な自然放牧によるものです。森林を切り開くことなく、広大な自然草原で、1ヘクタールに1頭という贅沢な飼育環境で育てられています。飼料や飼育方法にも自然に配慮しており、「コンパ」と呼ばれる場所で自由に放牧されています。

WWD::リサイクルポリエステの仕組みは?

フランソワ:私たちは15年以上前から再生ポリエステルを使っています。ただし、私たちは「どこから来たペットボトルなのか?」という点まで重視しています。ブラジルの産廃業者と協力し、現地で回収されたペットボトルを洗浄・分類し、小さなチップ状にしてから再生糸にしています。特に「ヴェジャ」では、これらを持ち込む回収者(多くは女性)に対し、通常の2倍の価格で買い取ることで、独自のサプライチェーンを築いています。

WWD:マイクロプラスチック問題にはどう対応していますか?

フランソワ:マイクロプラスチックが問題であることは認識しています。衣類のように頻繁に洗濯されるものに比べ、靴は洗濯されにくいため、発生量は少ないと考えています。とはいえ、内側のライニングにリサイクルペット素材を使っており、これはコットンよりも耐用年数が長く、結果として環境負荷が少ないと考えています。

理想は、20〜30年後にはペットボトル自体の使用がなくなることですが、現状では使い終わったペットボトルを有効に循環させることが大切だと考えています。

私たちは常に自問自答を繰り返しています。以前、リサイクルポリエステルでスウェットを作ったこともありましたが、マイクロプラスチックの懸念から制作を中止したこともあります。完璧ではないからこそ、疑問を持ち、間違いを修正する柔軟さが必要だと考えています。

WWD:グローバル基準についての意見をお聞かせください。

フランソワ:グローバル基準の整備には賛成ですが、懸念もあります。基準を作る側(主に北半球の国々)が、基準を守るよう求める一方で、そのために必要なコストを十分に支払っていないという問題があります。

たとえば、発展途上国や小規模生産者に「この基準を守れ」と求めるだけでは不公平です。使用する側、つまり私たち消費国がそのコストを負担するべきだと考えます。私たちはブラジルの生産者に対しても、その理念に基づいて適正価格での取引を行っています。本来、サステナブルな基準とは、生産者に押し付けるものではなく、それを使用する企業や消費者が共に支えるべきものです。

売り上げよりも、共感を広げるために

WWD:ブランド設立から20年となり、日本ではこのほど、Seiya Nakamura 2.24と日本総代理店契約を結ぶなど、ビジネスの新展開にも意欲的です。現在の売上高は?

フランソワ:2024年は約2億4,500万ユーロ(約395億円)でほぼ横ばいで安定しています。

WWD:その売り上げに満足されていますか?

フランソワ:私たちは売上至上主義ではありません。共同創業者のセバスチャン・コップ(Sebastien Kopp)と私の二人が会社の株式を100%保有しており、外部の株主はいません。だから「もっと売り上げを上げろ」といったプレッシャーもありませんし、自分たちがやりたいことに集中できています。

特に今は、日本に来て、日本市場に私たちの考え方を知ってもらうこと、そして日本の文化を学ぶことの方がずっと大切です。売上数字よりも、価値観を共有できることの方が重要だと考えています。

WWD::買収や投資の話も多いのでは?

フランソワ:たくさんあります。でも私たちはそこを目指していません。投資の話は多く来ますが、「それは私たちの目標ではない」と断っています。

WWD:米国のトランプ政権の施策はビジネスに影響していますか?

フランソワ:弊社の生産はブラジルで行っており、アメリカに輸出する際は関税が10%かかります(2025年4月11日時点)。1足あたり約5ドル程度の影響ですので、特に大きな打撃は受けていません。それに政策が日々変わるので、深刻に受け止めすぎないようにしています。

WWD:地産地消に関しての考えを聞かせてください。

フランソワ:私たちはパリを拠点にしつつ、生産はブラジルで行っています。そして世界中に商品を届けていますが、空輸ではなく船便を使用しています。そのため、物流が排出するCO₂は全体のわずか3%にとどまっています。

一部ポルトガルで生産している商品もあり、それはパリまでトラック輸送しています。実は、ブラジルからの輸送の方が環境負荷が少ないケースもあるのです。「遠くで生産しているからサステナブルではない」というのは誤解で、実際にはより環境に配慮した仕組みで生産・輸送しています。

WWD:迷いなく、明確ですね。

フランソワ:ありがとうございます。私たちは完璧ではありませんし、間違えることもあります。でもその都度立ち止まり、考え直し、変化を受け入れる姿勢を大切にしています。科学技術も日々進化していますから、時には立場を変える必要もあります。それは当たり前のことであり、恐れることではありません。

銀行員時代、「自分はこれをやりたくない」と思った

WWD:創業時から広告に頼らないビジネス方針を掲げていることが広く知られています。改めて、現代ではチャレンジングな戦略では?

フランソワ:広告を使わないという方針は、「ヴェジャ」にとって不可欠です。なぜなら、私たちはラバーやコットンなどの原材料を、生産者が生活できるだけの適正価格で購入しており、競合の約2倍のコストがかかることもあります。それでも大手ブランドと同じくらいの価格で商品を販売できるのは、広告費を一切かけていないからです。もちろん、広告を使えばブランドがもっと大きくなる可能性もあります。しかし、それによって商品の価格が上がったり、素材にかける予算が減ったりすることは、私たちの信念に反します。だから、最初から一貫して広告を使わない方針を続けています。

WWD:経営学を学び、最初のキャリアは銀行だそうですが、それらの経験は役立っていますか?

フランソワ:大学では経営学を学びましたが、金融の実務経験は半年ほどしかなく、それを“キャリア”と呼べるかは疑問です。ただ、その短い経験から、「自分はこれをやりたくない」という気持ちを明確に持てたのは大きかったです。銀行で働いていたとき、上司たちの姿を見て「自分もこうなりたい」とはどうしても思えませんでした。

卒業前に共同創業者のセバスチャンと一緒に旅をして、多くの場所を訪れました。その中で「サステナビリティは非常に重要だ」と感じ、学校にその学びの機会を求めたのですが、校長先生には「そんなの誰も興味を持たない」と一蹴されました。でもその2年後、普通にサステナビリティの授業が始まっていて、「僕たちは少し早すぎたのかもしれない」と感じました。

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台湾出張で見つけたサステナブル素材の新潮流 台北FW取材から

「WWDJAPAN」ポッドキャストの「サステナブルファッション・トーク」は、ファッション業界のサステナビリティに関する最新ニュースやトレンドをざっくばらんにお話しする番組です。本番組では、サステナビリティ担当記者木村和花がホストを務め、「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクター向千鶴とともにお届けします。

3月末に行われた「台北ファッション・ウイーク」の取材のため、台湾を訪れました。「台北ファッション・ウイーク」の今シーズンのテーマは、「循環型ファッション」。合成繊維に強みを持つ台湾では、ペットボトルや古着を再利用したリサイクルポリエステルに加え、魚の鱗やバナナを原料とする繊維など、ユニークな新素材が次々と登場しています。地元の繊維企業を取材する中で見えてきた、サステナブル素材の新潮流についてお話しします。



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「マーカウェア」が情報開示ブロックチェーン導入 素材起点のトレーサビリティを前進

「マーカ(MARKA)」「マーカウェア(MARKAWARE)」を運営するエグジステンスはこのほど、アパレル業界に特化した情報開示ブロックチェーンソリューション「タドリチェーン ツナグ フォー ファッション(TADORi CHAiN– Tsunagu for Fashion、以下タドリチェーン)」を導入し、ウルグアイ産オーガニックウールのカプセルコレクションを発売した。これまでも長く、トレーサブルな素材調達に尽力してきた石川俊介デザイナーはいまWeb3(ブロックチェーン技術によって実現される分散型インターネット)の技術も取り入れながら、洋服の一生を「見守る」挑戦をしている。

トレーサビリティはブランド立ち上げ当初からの思い

「ファッションは農業だ」と語る石川俊介デザイナー。その言葉通り、服作りはオーガニックウールやコットン、アルパカといった原料の栽培地から始まり、着る人の手元に届いた後のケア方法まで見据えている。2000年代初頭からトレーサビリティを意識し、原料の牧場や紡績工場に足を運んできた石川デザイナーは「ブランドを始めた頃から、日本の工場の面白さを伝えたかった」と振り返る。まだ「トレーサビリティ」という言葉が一般的でなかった2000年代初頭、製品タグに協力工場の名前を明記し始めたのがその原点だ。「2014年には、工場名を明記した製品ラベルを導入し始めました。2012年頃にコーヒーショップを開いたとき、ちょうどアメリカでサードウェーブコーヒーが注目されていて、コーヒー農園のトレーサビリティが話題になっていた。じゃあ洋服でもできるだろうと考えたんです」。

その後、QRコードやウェブサイトを活用した情報提供を経て、今回のWeb3による「デジタルパスポート」へとつながった。導入した「タドリチェーン」はアップデータ(UPDATER)が提供する情報開⽰ブロックチェーン ソリューションで、フェーズに合わせた3つのバージョンがある。今回は、 “初期フェーズ”の導入で、製品タグのQRコードから原料の生産者や工場といった情報を得ることができる。

石川デザイナーの人生のテーマは「洋服・旅・食」。観光地ではなく、現地のリアルな暮らしに触れられる場所に惹かれる彼にとって、原料の生産現場を訪れることはまさに「旅の目的地」でもある。「コーヒー農園を訪ねるように、僕たちもコットンやウールの農場に足を運びたいと思うようになったんです。現地の生活や文化に触れることも、ものづくりの一部だと感じています。」これまでに訪れた場所はペルー、アルゼンチン、エジプト、ウガンダ、モンゴルなど多岐にわたる。中には自らネットで調べ、直接連絡を取ってアポイントを取りつけた場所もある。

垂直統合と認証──日本の産地を残すために

現在力を入れているのが、「スモールビジネスの限界」を超えるための拡張だ。商社などに頼らず単身で原料輸入も広げてきたが、「オーガニック原料を使うだけでは、スモールビジネスのままでは、産地に何も還元できない。原料をトン単位で買える規模にならないと、産地に影響を与える提案もできない」。そのため、近年は3t〜7t規模の発注も行っており、間の紡績工場と連携して年単位で素材を仕入れるスキームを構築中だという。

ヨーロッパを中心とした国際的なサステナビリティ基準の高まりを前に、日本の繊維産地は危機にあると石川デザイナーは指摘する。「2025年以降、日本の生地はハイブランドの選定対象から外れつつある。いま日本が動かなければ、世界市場で取り残されてしまう」。

それもあり注目するのが、「垂直統合」。紡績から仕上げまで一貫して対応できる体制を整えることが、持続的な輸出と競争力の鍵だという。「一貫生産ができる工場には、RWS(Responsible Wool Standard)やGOTSの認証取得を提案しています。最終的には生地ブランドとして海外に販売していきたい。目指すはそうですね、“一人「ロロピアーナ」”かな(笑)」。

洋服の一生を追いかける。ウエブ時代のトレーサビリティ

Web3技術によるNFT化された製品情報は、ユーザーの手に渡った後もその洋服の「一生」を見守るための仕組みだ。「製品のライフサイクル全体が見えるようになれば、アフターケア、二次流通、保証など多様な展開が可能になる」。それは思いだけではなく、実践に直結している。自らクリーニング師の資格を取得し、YouTubeでケア方法を発信。洗濯やアイロンの楽しさを伝えることで、「洋服を長く着ること」が本当のサステナビリティだと伝えている。「男性のお客様は、背景のストーリーやヒストリーにお金を払う。だからこそ、服の“ロマン”を伝えることが大事なんです」。

「タドリチェーン」の第⼆フェーズではサプライチェーン動脈の情報開⽰に加え、顧客が製品購⼊後の所有権移転や リペア履歴などの情報を管理することができる。25年秋冬コレクションではウルグアイウールだけでなくモンゴルカシミア製品に第二フェーズ用のプロダクトを導入する予定だ。

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「CFCL」の“サの字なきサステナ”、GAKU高校生の涙、廃棄501を扱う覚悟【向千鶴サステナDが行く】


向千鶴「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクターが取材を通じて出会った人、見つけた面白いことなどを日記形式でお届けします。読者から「人の感情を軸にサステナビリティを語っている」という評価をいただき、確かにそうかも、と納得しました。「人との出会い」やその後ろにあるストーリーを今回もお届けします。

容器を見て、心がスッとした。潔い美しさ

サキュレアクト「530」キャラバン(3/11)

私のビューティ×サステナビリティの先生(本質を教えてくれる方)のひとりが、サキュレアクトの塩原社長です。この記事の下部にリンクを載せているインタビュー記事のタイトル、インパクトがありますよね。「新商品を出すたびごみを作っている気になる」化粧品業界の闇から抜け、“未来の原料”と出合いサキュレアクトを起業――です。大量生産・廃棄に嫌気がさし、「25年携わった化粧品業界を卒業しよう」と考えた最中に、地球環境を改善する可能性を秘めた微細藻類に出合い、プラスチック製品を使わずごみを出さない工夫をするライフスタイルブランド『530(ファイブサーティ)』を立ち上げたそうです。

そんな塩原さんが、天然由来成分100%・ビーガン認証を取得した新製品“ナイトケア クリーム”をもって来社してくれました。見てください、この潔い容器を。ガラスとアルミだけを採用しているため、リサイクルしやすい。半顔ずつ使って試してみようと思います。

サステナぶらないサステナブルを楽しむ

繊維商社ヤギ展示会(3/12)


TBSでSDGs関連の番組を手がけている方の講演で、印象的だった言葉が「人は、喜怒哀楽のどれかに触れたときに心が動く」でした。どうしたらより多くの人にSDGs関連の番組に関心をもってもらえるか?という議題の中で出てきた言葉です。確かに、SDGs関連の情報は「正しい、けど伝わらない」という悩みが常について回ります。

展示会もまったく同じだと思います。そういった意味で、繊維商社ヤギの見せ方はとても上手でした。原料や生地の展示会なのに、まるでアパレルの展示会かと思うようなディスプレーや、テーマごとに設けられたブースの構成が、心に届くものになっていました。そして何より、お土産コーナーが可愛い!展示会のテーマである「サステナぶらないサステナブル」を、キャップや靴下、Tシャツにポップに落とし込んでいて、思わず「可愛い〜」と近寄ってしまいます。喜怒哀楽の「楽」が動いた瞬間ですね。デザインが得意なファッション業界には、この感覚をもっと発信してほしい!

世界へ飛び出せ!日本のイノベーション

ケリング・ジェネレーション・アワード(3/13)

ケリングによるスタートアップ支援につながるアワードがこちら。上海などで先行していたこのアワードですが、ジャパン社の担当者が「日本でも実現したい」と、数年前から準備を重ねてきたそうです。私自身もアドバイザリーボードとして参加したので、とても感慨深い。

新しいことの立ち上げにはものすごいエネルギーが必要です。矛盾だらけで正解が見えにくいサステナビリティの世界では、「オープンソース」マインドがとても大切。ここに集まった起業家たちが、情報を交換しながら互いに高め合っていく姿を目の当たりにして、改めてそう感じました。

ローラの本気度。リジェネラティブへ向かう

「ステュディオ アール スリーサーティー」展示会(3/13)

私はローラを尊敬しています。母国語ではない日本語をここまで習得した時点でまずすごい。そして、サステナビリティに対する考え方がとても真摯です。展示会では農業に関心があると話していたローラ。自身のブランド「ステュディオ アール スリーサーティー(STUDIO R330)」の展示会では、リジェネラティブ・コットンのアイテムなどが登場していました。

輝け!意識高い系若者

10代のクリエーションの学び舎「GAKU」合同展示会(3/23)

学び舎「GAKU」が三菱地所と協働し、10代がクリエイターや専門家とともに食・ファッション・建築の分野で「これからのサステナブル社会を構想する」ことを趣旨に、昨年10月から約半年間にわたってクラスを開講してきました。私は講師のひとりとして、成果発表の場で2人の高校生と3人の大人とともにトークイベントに参加しました。

テーマは「ファッションと地球のより良い関係の土台を考える」。難易度が高そうに聞こえますが、副題が「サステナビリティと向き合う中で感じたジレンマと、それらと向き合うことで見えてきた良い兆し」だったため、実際は非常に話しやすい内容でした。それは10代も同じだったようで、環境や人権の問題に関心を持つ高校生たちは、自分の思いを周囲に伝える中で葛藤を抱えていました。その葛藤は、ファッションを愛し、大切な人を思うからこそ生まれるもの。感極まって涙を流す学生の純粋さに触れ、抱きしめたくなるような瞬間がありました。

でも、その必要はありませんでした。彼らはすでに葛藤を越えて、友人や家族とより良い関係を築いていたからです。“意識高い系”。ともすれば揶揄に使われがちなこの言葉を、彼らには勲章のように掲げて進んでほしい。そして、彼らが堂々と自分の意見を言える環境を作るのは、私たち大人の役割だとも思います。

高橋さんが受賞した装苑賞作品が必見

「CFCL: KnitwearからKnit-wareへ」内覧会(3/24)

「CFCL」が5周年を記念して表参道・GYRE GALLERYで開催した展覧会では、代表兼クリエイティブディレクターの高橋悠介さんが自ら来場者に展示解説を行っていました。

わずか5年ながら、ニットへの深いこだわりと独自のクリエーションで存在感を確立してきた「CFCL」。この展示は単なる過去の振り返りではなく、ブランドの“哲学”を言語化し、次の5年を見据える再出発のような場になっていました。会場の入り口には、2009年に大学院生として装苑賞を受賞した作品が展示されています。まさにブランドの原点ともいえるニット作品であり、それだけでも足を運ぶ価値があると感じました。

「社員が60人を超え、私自身が面接に入ることもなくなりました。だからこそ、理念や哲学を改めて社内外に伝えたかった」と語る高橋さん。「ニットだからできることは、まだまだある。ようやくその入口に立ったばかりです」とも。

展覧会に“サステナ”の文字はひとつも登場しませんでしたが、映像で見せる生産工程の開示など、やっていることはまさに“サステナ中のサステナ”でした。

廃棄501と言えば山澤さん。その覚悟とは?

ヤマサワプレス(3/26)


展示会案内にあった「ヤマサワプレスの覚悟を見に来てください」の一文に誘われて、行ってきました。写真は「リーバイス501」が好きすぎて、アメリカで廃棄されると聞いたそれらを大量に買い付け、日本に運んだ山澤さん。「リーバイス」のお墨付きでアップサイクルに取り組み、たくさんの人を巻き込んできた情熱の持ち主です。日本の多くのデザイナーが、足立区にあるヤマサワプレスの町工場を訪れたことがあるのではないでしょうか。

今回新たに提案していたのは、リサイクルデニムを使ったジャケットなど。リメイク工程で出る端材を裁断し、バージンコットンを混ぜて紡績し直した生地を使用しているそうです。アメリカでジーンズを捨てた人は、まさかそれが日本でこんなに美しいブルーのジャケットになっているとは想像もしないでしょう。面白い時代です。

そして、ここで感動の再会がありました。大阪文化服装学院出身で、現在ヤマサワプレスで働いている松浪希峰さん。コロナ禍に私が同校で行ったセミナーを覚えていて、声をかけてくれました。「向さんの講義が、今の道に進む大きなきっかけでした」という言葉に思わず涙。後日も「今後も循環型のファッションを探求し、モノづくりに励んでいきたい」とメールをもらい、2度目の嬉し泣きです。がんばれ!

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価格40%、年齢マイナス5歳 「ジェイエムウエストン」のヴィンテージが生む新たな接点

ブランドが自社製品を顧客から回収し、修理・補修をして再販売するビジネスが広がっている。1891年創業のフランスの靴ブランド「ジェイエムウエストン(J.M. WESTON)」もそのひとつ。革靴には修理しながら長く愛用するカルチャーが根付いているが、同社は2019年からそれをビジネスモデルに組み込み、グローバル展開している。通常の40%という価格設定も手伝い、「ウエストン・ヴィンテージ(WESTON VINTAGE)」の顧客年齢は通常ラインと比べてマイナス5歳と新規顧客獲得にもつながっているという。伊勢丹新宿店メンズ館でのポップアップストアを控えて来日したマーク・デューリー ジェイエムウエストンCEOにその戦略と成果、課題を聞いた。

ヴィンテージを事業化するという挑戦

WWD:「ウエストン・ヴィンテージ」プロジェクトを始めたきっかけを教えてください。

マーク・デューリー ジェイエムウエストンCEO:このプロジェクトを始めたのは2019年です。実は「ジェイエムウエストン」では創業当初から靴の修理を行っており、現在では毎年約1万足をフランス・リモージュの工房で修理しています。多くのお客様が修理のために靴を持ち込まれる中で「もう履けない」と言われることが増えました。理由はさまざまで、足の形が変わった、ライフスタイルが変わったなどです。

お客様から「もう履けないけれど、この靴をどうすればいいか?」という声を受けて、われわれは「では、それらの靴を何かに活かせないか?」と考え始めました。同時に、当社のアーティスティック・ディレクターであり、ファッション史家でもあるオリヴィエ・サイヤール(Olivier Saillard)が、当社の“修理のDNA”を活かして、古い靴で何ができるかを模索していました。彼は、ヴィンテージの靴をカスタマイズしてパフォーマンスとして見せる試みを行っていて、それを店頭で展示しました。そこからこのプロジェクトがスタートしました。

2020年には、お客様から300足を買い取りました。24年には2000足と、23年から倍増しています。確実に関心が高まっていると感じています。

WWD:プロジェクトを開始したとき、チームや顧客の反応はどうでしたか?

マーク:19年当時、ヴィンテージや回収の取り組みを行っているブランドはほとんどありませんでした。「ジェイエムウエストン」の顧客はすでに修理に慣れていたので、靴を「売る」という新たなステップも比較的受け入れていただけました。

正直なところ、私自身もこの会社に入るまではヴィンテージの靴を履いたことがありませんでした。でも、「ウエストン・ヴィンテージ」では靴を完全に内部まで消毒し、インソールを交換して新品同様に仕上げています。また、「ジェイエムウエストン」の靴は伝統的な作りで、新品は硬く感じることがありますが、ヴィンテージはすでに履きならされているので、最初から快適です。

23年は2000足を回収し、そのうち670足を販売

WWD:若い世代の顧客が増えたそうですね。

マーク: はい、ヴィンテージ靴は新品より約40%安いため、若い世代にとって魅力的です。実際、ヴィンテージ製品の購入者の平均年齢は、通常の顧客より5歳若くなっています。日本でもフランスでも新しい顧客が増えており、初めて「ジェイエムウエストン」の靴を購入するきっかけになっています。

WWD:ヴィンテージ靴の魅力とは?

マーク: 例えば、長年履かれた革のパティーナ(経年変化による艶や風合い)は唯一無二の美しさを生み出します。また、すでに販売終了となっているモデルとも出会える可能性があります。5年前の靴もあれば、20年、25年前の靴もあります。当時の革は、現在の規制とは異なるなめし方法で加工されており、より深みのある表情を楽しめます。

WWD:回収した靴のうち、再販可能な割合は?

マーク: 23年は2000足を回収し、そのうち670足を販売しました。つまり約33%です。前年までは1000足回収して600足販売していたので、通常は60%前後です。昨年は回収数が急増したため、販売率が少し下がりました。

WWD: 「ウエストン・ヴィンテージ」を2019年にスタートして、これまで6年経ちました。特に印象に残っていることや、顧客の反応はありますか?

マーク: いくつかありますが、私が特に気に入っているのは、“宝探し”のような感覚です。ラグジュアリー業界では、世界中どこへ行ってもだいたい同じ商品が店頭に並んでいます。でも、ウェストンのヴィンテージはその都度違うので、サイズ、カラー、スタイルが毎回異なり、思いがけない出会いがあります。これは本当にワクワクする体験です。私自身、店舗でヴィンテージコーナーがあると、必ずチェックしています。

また、多くのお客さまが「この靴は修理できて、また再販売できるんだ」と発見してくださるのも素晴らしいことです。当社の価格帯では「長く大切に履ける投資価値のある靴」であることを実感していただきたいですし、二度、三度と履き継がれていくことで、さらにポジティブな気持ちになっていただけます。

日本について一つ紹介したいエピソードがあります。私たちが2回目のヴィンテージイベントを伊勢丹新宿店メンズ館で開催した際、開店初日に予想を超える反響がありました。地上階のポップアップスペースから、なんと7階まで行列ができたのです。お待たせしてご迷惑をおかけしましたが、その反響の大きさは本当に嬉しかったです。

伊勢丹新宿店で5回目のポップアップを開催

WWD: 日本の顧客は職人技やタイムレスに価値をおく傾向がありますから。

マーク: 日本のお客様は本当に職人技に敏感で、非常に知識が豊富です。時には私たち以上に靴の製法に詳しい方もいて、昨日も店舗マネージャーとの夕食で、縫製について非常に専門的な質問を受けました。こうした対話があるのは日本ならではで、多くのスタッフの教育が必要だと感じています。

WWD: 職人と深く話すこと自体がエンターテインメントですよね。

マーク: まさにその通りです。だからこそ、今年はマーケティング部門のスタッフの一人が、自ら靴を一足丸ごと作れるようになりました。彼は以前、靴工場で働いていたんです。こうした人材がいることで、クラフトマンシップをよりわかりやすく伝えることができます。個人的にも、日本のお客様は伝統的なものづくりを世界でもっとも理解してくださるマーケットだと感じています。

WWD: 4月30日から伊勢丹新宿店で5回目のポップアップを開催しますが、これまでとの違いは?

マーク: 初年度はミックスイベントだったので実質6回目ですが、本格的なヴィンテージイベントとしては今年で5回目になります。フランスから多くの靴を日本に持ち込みます。限定商品も一部用意しています。ヴィンテージ自体が一点物ですが、さらに特別な商品も並びます。

100足すべて違う靴を修理する難しさ

WWD: このプロジェクトにおける課題について教えてください。

マーク: 最大の課題の一つは、すべての靴が修理可能なわけではないということです。アウトソールを取り外して、新たに取り付けるには、アッパーの革が十分にしっかりしている必要があります。お手入れが不十分だと、革が乾燥してしまい、修理に耐えられないことがあります。これはお客様にとって理解が難しい点でもありますが、時にはどうしても修理できない靴もあるのです。

また、サプライチェーン面でも大きな挑戦があります。毎回違う靴が届くので、店舗ごとに回収した靴を一旦工場に集めて修理する必要があります。100足同じモデルを修理するのではなく、100足すべて違う靴を扱うことになるのです。

WWD: サイズの問題も大きいのでは?

マーク: そうですね、重要なポイントです。履き込まれた靴は、サイズが変わっていることがあります。オリジナルのサイズを表示するべきか、実際のサイズを再評価するべきか悩むところです。店舗スタッフにとっても、適切なフィッティングの提案がより難しくなります。ただし、履き心地自体は柔らかくて快適なことが多いです。

日本ではヴィンテージを「売る量」のほうが「買い取る量」より多い。つまり、フランスで回収した靴が日本市場のサイズに合わないことがあり、それも課題の一つです。ただ一方で、「パリで履かれていた靴を、今は東京で誰かが履いている」というロマンチックな物語にもなります。

新製品の開発に与える影響

WWD: 新品にはないストーリーですね。このプロジェクトは、新製品の開発にも影響を与えていますか?

マーク: はい、間違いなく影響があります。当初はアイコニックなモデルのみ修理対象としていましたが、今では全製品の100%を修理可能にしたいと考えています。たとえば、スニーカーではアウトソールを交換可能なように、全周にステッチを入れるなどの設計をしています。現在ではすべてのコレクション開発において、将来的に修理ができる構造かどうかを検討しています。

WWD: EUで進む消費者の「修理する権利」の規制への対応にもなりますね。それには職人の育成も必要です。

マーク: その通りです。靴産業では通常、工場ごとに特化した製品しか作らないのが一般的です。フランス・リモージュの工場では130年間、グッドイヤー製法の靴だけを作っていましが、現在はスニーカー製造を含めた職人技の幅を広げました。

最初に復刻したスニーカーは、1938年に作ったテニスシューズの再現です。もともと1920〜30年代、ウェストンはスポーツシューズのメーカーでもありました。社内で修理技術を持つことが、外部に依頼せず修理を可能にする重要なポイントなのです。

■ジェイエムウエストン 伊勢丹新宿店メンズ館 ポップアップ
日時: 2025年4月30日(水)~5月13日(火)
場所: 伊勢丹新宿店 メンズ館1階「ザ・ステージ」
住所:東京都新宿区新宿3-14-1
ジャズライブ: 5月10日(土)14時~/15時~/16時~ 各回約20分予定

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ウールマーク・プライズ本年度のグランプリは「ゴルチエ」のトップに就くデュラン・ランティンク

インターナショナル・ウールマーク・プライズ(INTERNATIONAL WOOLMARK PRIZE以下、IWP)はこのほど、ミラノで2025年度の授賞式を開催し、オランダ人デザイナーのデュラン・ランティンク(Duran Lantink)にグランプリを贈った。ランティンクはその後、「ジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)」のクリエイティブ・ディレクターに就任することが発表された。ランティンクには、例年より50%多い30万豪ドル(約2600万円)の賞金が贈られる。

ランティンクは、伝統的な手編みの技術に現代的な解釈をプラス。3月にパリで25-26年秋冬コレクションとして発表した、彫刻のように立体的なドレスが注目を集めた。ランティンクはコレクション制作に尽力したアムステルダム在住の女性ニッター15人からなるグループに謝意を示し、「ウールやニットの専門知識を持つ人々との対話が何より重要だった」と語った。「ウール、特に手編みには、独特の豊かさがある。機械編みではこのような作品はできない。また、グループとのゆったりとしたプロセスが果たす役割の大きさにも気がついた。自分は元来せっかちな人間だが、辛抱強さを学んだ」という。

「アライア」のミュリエはカール・ラガーフェルド賞を受賞

また、今回のプライズでは「アライア(ALAIA)」のピーター・ミュリエ(Pieter Mulier)=クリエイティブ・ディレクターが、メリノウールの可能性を広げたブランドや個人に贈られるカール・ラガーフェルド・イノベーション賞を受賞。審査員は、ミュリエが「アライア」の24年春夏コレクションで発表した、単一のウール糸のみを使用したウエアを高く評価した。さらに、ウールやウール混紡糸の梳毛紡績メーカーとして知られるドイツ・ニュルンベルクのズートヴェレ グループ(Suedwolle Group)は、サステナブルな実践においてリーダーシップとイノベーションを発揮してサプライチェーン賞を受賞した。

授賞式に出席したザ・ウールマーク・カンパニー(THE WOOLMARK COMPANY)のジョン・ロバーツ(John Roberts)=マネージング・ディレクターは、「コロナ禍以来、ウールの価格は40%下落し、生産量は2年間で20%減少している」とウール業界の窮状を訴えた。だからこそ受賞者を選ぶ際には、6万人の生産者の利益を最優先に考えたという。「私にとって重要なのは、ウールに対する人々の認識を変え、長期的にウールに対する需要を喚起できるか否か。農家にとっての最大の擁護者となれるデザイナーを求めていた」と語る。

今回から、イノベーションとサステナビリティに重点を置き、隔年開催となったウールマークプライズでは、コンテストに参加するデザイナーに6万豪ドル(520万円)を支給。各デザイナーは、25-26年秋冬コレクションの一部として、もしくは単独のコレクションとして、メリノウールを使用した6ルックを制作してメリノウールの多用途性、革新性、環境への配慮を提示した。

今年度の審査委員長は、先月「ヴェルサーチェ(VERSACE)」のクリエイティブ・ディレクターを退任したドナテラ・ヴェルサーチェ(Donatella Versace)が務めた。またゲスト審査員には「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー ™(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH™)」のイブラヒム・カマラ(Ibrahim Kamara)アート・イメージディレクターを招へい。ヴェルサーチェは「デュランの作品には、灰色の世界に生きる私たちが、今一番必要なエネルギーがある。伝統を尊重しつつ、ユーモアと楽観主義、そしてアナーキーな未来主義を体現している」と語った。このほか、「ゼニア(ZEGNA)」のアレッサンドロ・サルトリ(Alessandro Sartori)らの業界のエキスパートたちが名を連ねた。

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ウールマーク・プライズ本年度のグランプリは「ゴルチエ」のトップに就くデュラン・ランティンク

インターナショナル・ウールマーク・プライズ(INTERNATIONAL WOOLMARK PRIZE以下、IWP)はこのほど、ミラノで2025年度の授賞式を開催し、オランダ人デザイナーのデュラン・ランティンク(Duran Lantink)にグランプリを贈った。ランティンクはその後、「ジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)」のクリエイティブ・ディレクターに就任することが発表された。ランティンクには、例年より50%多い30万豪ドル(約2600万円)の賞金が贈られる。

ランティンクは、伝統的な手編みの技術に現代的な解釈をプラス。3月にパリで25-26年秋冬コレクションとして発表した、彫刻のように立体的なドレスが注目を集めた。ランティンクはコレクション制作に尽力したアムステルダム在住の女性ニッター15人からなるグループに謝意を示し、「ウールやニットの専門知識を持つ人々との対話が何より重要だった」と語った。「ウール、特に手編みには、独特の豊かさがある。機械編みではこのような作品はできない。また、グループとのゆったりとしたプロセスが果たす役割の大きさにも気がついた。自分は元来せっかちな人間だが、辛抱強さを学んだ」という。

「アライア」のミュリエはカール・ラガーフェルド賞を受賞

また、今回のプライズでは「アライア(ALAIA)」のピーター・ミュリエ(Pieter Mulier)=クリエイティブ・ディレクターが、メリノウールの可能性を広げたブランドや個人に贈られるカール・ラガーフェルド・イノベーション賞を受賞。審査員は、ミュリエが「アライア」の24年春夏コレクションで発表した、単一のウール糸のみを使用したウエアを高く評価した。さらに、ウールやウール混紡糸の梳毛紡績メーカーとして知られるドイツ・ニュルンベルクのズートヴェレ グループ(Suedwolle Group)は、サステナブルな実践においてリーダーシップとイノベーションを発揮してサプライチェーン賞を受賞した。

授賞式に出席したザ・ウールマーク・カンパニー(THE WOOLMARK COMPANY)のジョン・ロバーツ(John Roberts)=マネージング・ディレクターは、「コロナ禍以来、ウールの価格は40%下落し、生産量は2年間で20%減少している」とウール業界の窮状を訴えた。だからこそ受賞者を選ぶ際には、6万人の生産者の利益を最優先に考えたという。「私にとって重要なのは、ウールに対する人々の認識を変え、長期的にウールに対する需要を喚起できるか否か。農家にとっての最大の擁護者となれるデザイナーを求めていた」と語る。

今回から、イノベーションとサステナビリティに重点を置き、隔年開催となったウールマークプライズでは、コンテストに参加するデザイナーに6万豪ドル(520万円)を支給。各デザイナーは、25-26年秋冬コレクションの一部として、もしくは単独のコレクションとして、メリノウールを使用した6ルックを制作してメリノウールの多用途性、革新性、環境への配慮を提示した。

今年度の審査委員長は、先月「ヴェルサーチェ(VERSACE)」のクリエイティブ・ディレクターを退任したドナテラ・ヴェルサーチェ(Donatella Versace)が務めた。またゲスト審査員には「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー ™(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH™)」のイブラヒム・カマラ(Ibrahim Kamara)アート・イメージディレクターを招へい。ヴェルサーチェは「デュランの作品には、灰色の世界に生きる私たちが、今一番必要なエネルギーがある。伝統を尊重しつつ、ユーモアと楽観主義、そしてアナーキーな未来主義を体現している」と語った。このほか、「ゼニア(ZEGNA)」のアレッサンドロ・サルトリ(Alessandro Sartori)らの業界のエキスパートたちが名を連ねた。

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グランプリ受賞者が教える “良いピッチ”の秘訣 【ファーメンステーション・酒井里奈代表】

「WWDJAPAN」ポッドキャストの「サステナブルファッション・トーク」は、ファッション業界のサステナビリティに関する最新ニュースやトレンドをざっくばらんにお話しする番組です。本番組では、サステナビリティ担当記者木村和花がホストを務め、「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクター向千鶴とともにお届けします。

先週に引き続き、注目のスタートアップ企業、ファーメンステーションの酒井里奈代表取締役をゲストにお迎えしました。ケリング(KERING)が日本で初開催したスタートアップ企業のアワード「ケリング・ジェネレーション・アワード(KERING GENERATION AWARD)」での最優秀賞受賞をはじめ、世界各国でビジネスピッチを行い成果を上げている酒井代表に、人の心をつかむピッチの秘訣などを伺います。世界へ飛び出し、ファーメーステーションがこれから目指す世界についてもお話しいただきました。



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「群言堂」の“植物担当” 染料調達・営農・朝食のおもてなし、3足のわらじを履くに至るまで

PROFILE: 鈴木良拓:他郷阿部家 暮らし紡ぎ人兼SUZUKI FARMS代表

鈴木良拓:他郷阿部家 暮らし紡ぎ人兼SUZUKI FARMS代表
PROFILE: (すずき・よしひろ)1988年福島県南会津町生まれ。秋田公立美術工芸短期大学プロダクトデザイン科でデザインの基礎を学び、文化服装学院テキスタイルデザイン科でテキスタイルを学ぶ。2012年に石見銀山生活文化研究所に入社と同時に島根県大田市大森町へ移住。企画担当として主にテキスタイルデザインを手掛ける。19年に独立。「他郷阿部家」での朝食、台所周りの掃除や「阿部家」のメンテナンス業務、お客さまの感動価値を上げるものづくりに取り組みながら、随時里山パレットの染料となる植物の調達を行う

島根県大田市に拠点を置く群言堂グループが運営する宿泊施設「他郷阿部家」で朝食を担当する鈴木良拓さんは、自ら育てた野菜と卵を宿泊客にふるまう。聞けば、もともとは「石見銀山 群言堂」のテキスタイルデザインを担当し、大森町周辺で採取した草花や枝木などから染めた「里山パレット」を開発した人物で、今も「里山パレット」の染料になる植物を採集しながら、「阿部家」の仕事と営農を行う。

WWD:仕事のタイムスケジュールを教えてほしい。

鈴木:朝6時半に「阿部家」に来て8時からの朝食を準備し、朝食後はお客さまに群言堂の関連施設のご案内などを行う。11時のチェックアウト業務後は14時頃まで洗濯や掃除などを行う。お昼休憩後、15時頃からは(群言堂グループの創業者)登美さんからの頼まれごとや畑仕事、「里山パレット」の業務を行っている。18時には帰宅して家族のために夕食を作っている。「里山パレット」の下げ札に描かれた植物画も僕の担当。

WWD:大森町に移住したきっかけは?

鈴木:学生時代に生地の産地を巡り、機屋や染工場を見学させていただく中でインターンを経験した。そこでさまざまなブランドの生地ファイルが並ぶ中で「石見銀山生活文化研究所」というファイルを見つけた。「石見銀山」「研究所」って何だ?と興味を持ちファイルを見るとちゃんとした生地を作っていて惹かれた。調べると島根を拠点に面白い取り組みをしていた。求人は出ていなかったが問い合わせると面接することになり、学生時代に取り組んでいた自生する植物繊維で作った物や植物で染めた衣服などの作品をたくさん持って臨んだ。

WWD:大森町の本社で面接を行った。

鈴木:(創業者の)登美さんと大吉さん(夫妻)はもちろん経営陣がそろい10人に囲まれた面接だった。いろんな質問をされて答える中で大吉さんが盛り上がってきて「この町には手つかずの自然の資源があるが、生かし切れていない。植物資源を使ったものづくりをやってみないか」と言われた。後に登美さんが教えてくれたのは、登美さんは面接の時点では迷いがあって、面接帰りの電車で偶然一緒になりいろんな話をする中で採用を決めたそう。

WWD:12年にデザイナーとして採用され、テキスタイルデザインを担当した。

鈴木:入社後すぐに大森町周辺の植物を生かしたものづくりに取り組みはじめ、今は食堂になっているかやぶき屋根の建物で実験的に染め始め入社して1年が経ったころに「里山パレット」をスタートすることになった。

WWD:「里山パレット」は完全な草木染めではなく化学染料も用いる「ボタニカルダイ」を採用した。

鈴木:流通させるにはある程度の耐久性が必要だった。「ボタニカルダイ」は従来の草木染めで用いるような重金属を使わない自然由来の糊で色を吸着させる。色落ち防止のための化学染料を用いたハイブリッドな染色法で、文化服装学院時代に染め織りのアドバイスを頂いていた有機化学研究者が在籍する染めの会社が取り組んでいた。

WWD:「里山パレット」はどんな植物を用いているのか。また、染料になるかどうかをどう見極めているのか。

鈴木:畦道にある蓬、梅や桜の剪定をするときに出た枝、収穫が間に合わず落ちてしまったブルーベリーの実、山に自生する香りの良い黒文字(クロモジ)や湿気の多いところに生えるシダ植物など、大森の環境で得られるいろんな植物を使っている。大森らしい植物は何かな?という視点で探している。

色に関してはどの植物も色素を持っているので、例えば枝や幹、渋み味が強い植物はタンニンが多いのでブラウン系かな?とか、ブルーベリーやヨウシュヤマゴボウだったらアントシアニン系が多いかな?と大体の予測は立てながら集めている。

WWD:現在何種類くらいの植物から染料を作っているのか。

鈴木:少しずつ増えていて今は100種類以上ある。植物別にデータ化してシーズンごとに選んでいる。人気なのは明るめではっきりとした色。嬉しいのは10年続けると、「今年の黒文字の色が良かったよ」と徐々に色ではなく植物で見比べてくれる人が増えていること。気に入った形の服で10色そろえてくれる方もいる。

WWD:染料をどのように作り、染めているか。

鈴木:大森で染料となる植物を集めて乾燥か冷凍してストックし、それを「ボタニカルダイ」ができる会社に送り染料にしてもらった後に染工場で染めていただいている。1種類50~60kgストックしているものもあれば、集めにくいものは1kg単位でストックしてキロ単位で出荷している。採集しやすい植物も難しい植物も価格は一律で、どれくらい貴重か(採集が難しいか)などは「里山パレット」のページで紹介している。特に貴重なのは冬頃に集めるサカキやヒサカキの実で、小粒の実を寒い冬に集めなきゃいけないので手が冷たくなるし大変だけど、色がいい。

WWD:今は「里山パレット」の材料収集と営農、「阿部家」の運営に携わる。なぜ3足のわらじを履くことに?

鈴木:大森に移住してきてから田畑が荒れていくのが徐々に目立つようになった。もともと植物や森に興味があり「自然と自分の繋がり」を畑で表現してみたくなった。群言堂のお取引先などのお客さまが大森にいらしたときにスタッフたちが採ってきた山菜やイノシシ肉などでおもてなすることもあり、野菜も自分たちの手で育てたものが提供できればと考えた。また、大森町で畑や田んぼをしている人は少なく、1人くらい農業に注力する人がいると面白いいかな?とも思った。独立を選んだのは農家じゃないと農地が借りられないことに加えて、畑を借りるための資金がなかったから。借金をするために独立した。「群言堂」の仕事も引き続き行うことも決まっていたから独立できた。

実態は「群言堂」で稼いで畑に投資、それでも営農する意味

WWD:荒れた畑を野菜が採れる畑にするのは簡単ではない。今ではニホンミツバチが畑にやってくるまでになった。

鈴木:最初の3年は全く野菜ができず、意味があると思って始めたことだったがしんどかった。「群言堂」の仕事をしながら、もともと田んぼだった場所を畑にするなど土木工事から行っていたからとにかく必死だった。4年目からは人参や葉物野菜が採れるようになり、野菜による売り上げはわずかだったが心が安定した。その頃に「阿部家」に合流して、野菜のおもてなしを始めた。自分たちの手で育てた野菜と卵でつくる朝食は納得感があっていい仕事だと感じている。今は手放しでも野菜の花が咲いて種がこぼれ、新しく芽がでて放っておいても自然環境に任せることができるようになった。

育てた野菜は「阿部家」の朝食をメインに大森町にあるドイツパン屋べッカライコンディトライヒダカや近くのジビエ料理屋さんなど、顔が見える数店舗に卸している。そのほか、近所におすそ分けしたり、野菜のある時期に町の人や滞在されている人、保育園や学童の子どもたちに畑に入ってもらって収穫してもらっている。つい先日も保育園の子どもたちがタケノコ堀りに畑に来て、町の中での立ち位置ができて営農する意味を感じている。

WWD:畑で利益を出すのは難しいと聞く。

鈴木:大規模農家や土壌環境がいい畑以外はほぼ赤字なのではないか。僕は経費をかけずにやっていても営農だけでは赤字で、「『群言堂』で稼いで畑に投資」が実態に近い(笑)。今は投資になっているが、教育など何かをきっかけに活用できる可能性があるとも感じている。また群言堂グループとして「生活観光」を打ち出しているので畑が自分を表現できる場所として確立したい。

WWD:自然農法にこだわっている。

鈴木:森のような畑を作りたくて、農薬や肥料を使っていないので結果的に「自然農法」になった。人が支配的に管理するのではなく、自然環境に近い畑を作りたいと思った。というのも、父親が林業に関わっていたこともあり、家族の話題は森や自然のことが多く興味を持つようになった。中学生の頃に出合った植物生態学者の宮脇明さんの本に「本来の自然(森)というは、いろんな生き物がせめぎ合っている場所である。高木の下に亜高木、低木、下草、そして地面の下にもミミズや様々なバクテリアがいる」とあった。空間の中に色んな生き物がせめぎ合っているのが「自然」だという言葉が強く印象に残った。宮脇さんの植樹方法は本来そこにあったであろう植生を神社の鎮守の森などから導き出して何十種類もの木を混生密植させるもので、僕もそれを参考に60種類くらい科の違う野菜の種を混ぜて、はなさかじいさんのように畑に種をばら撒いて「小さな森のような畑」を作っている。農業というよりもものづくりに近い感覚で、生態系が成立する畑をつくっている。

WWD:結果的に「群言堂」の価値を上げる取り組みになった。

鈴木:経済優先の効率重視した農業ではなく、大森の「暮らし」の延長線上にある畑で採れたものをお客さまへのおもてなしとして提供した点がよかったのではないか。「里山パレット」もそうだが、里山の暮らしから環境に負荷をかけずに少しずついただいていることが「群言堂」らしく結果的に価値を高めることになるのではないか。

WWD:「群言堂らしさ」とは。

鈴木:よそのものに価値を見出してありがたがるのではなく、価値あるものは自分の身近にあると「群言堂」は考えている。僕の領域でいうならこの土地にある植物を活用すること。

WWD:大森町の暮らしについて教えてほしい。

鈴木:よそ者に対して壁がないのが第一印象だった。着いて1週間くらい経った頃、男子寮の前に軽トラを乗り付け「港にアジがあふれているから乗れ、いくぞ」と町の人が声をかけてくれた。

大森町は栄えていた時期はIターンで出来上がった町で、それが大森の気質として残っているのではないか。400人の小さな町で1本道に家が並んでいるので、それぞれの暮らしぶりがなんとなくわかるし、外から来た人でも感じられるところがユニークなところ。

WWD:群言堂で働くことについてどんなところが面白いか。

鈴木:単に出勤してから退勤するまでの関係でなく、そこで働くスタッフも(全員ではないが)大森に暮らしがあり、その家族や子どもたちも大森で生活している。働く場と暮らしの場、子育ての場がつながっているところが面白いと感じる。単に仕事の関係だけではなく、みな町民でもあり消防団や町の役割も持っていて町の機能を担い、助け合っている。仕事とプライベートが曖昧でそれが面白いと思う。夫婦、兄弟、親子で働く人もいて家族の延長の雰囲気がある。

WWD:今後取り組みたいことは?

鈴木:大吉さんが旗振りをしている町のコンソーシアムによって500年祭(2027年は石見銀山発見500年)に向けて山の整備が進んでおり、その際に切られる木を活用したい。町では森に関わる勉強会も行っていて、今年の6月頃から本格的に整備が始まる予定だ。例えば暮らしにつながる製品として「阿部家」の食卓に並べる食器を作るのはどうかと試作品を作っている。半年後に登美さんにプレゼンする予定だ。経済的な循環を生まなくても暮らしに溶け込む循環を生みたい。

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「群言堂」が目指す「地域一体型経営」、衣料品と観光事業から過疎地域を活性化

「石見銀山 群言堂」――島根県大田市大森町を拠点に“根のある暮らし”をコンセプトに衣料品や生活雑貨を手掛ける企業が、過疎地域の再生に一役買っている。「群言堂」は生き方や暮らし方を提案するライフスタイル産業の先駆け的存在でもある。大森町の人口は380人(令和7年3月31日現在)。そのうち小学校児童は24人、保育園児は28人と子どもの数が多く過疎地域としては極めて珍しい。群言堂グループ本社で働く社員は6人がUターン、25人が14の地域からのIターンと若い世代が移住している。同グループは衣料品の製造販売だけではなく、保育園留学や滞在型シェアオフィスを運営しており、中長期滞在者が増えて町の関係人口が増えている。

創業者から子どもへ引き継がれたバトン、「地域一体型経営」を目指して

「群言堂」を手掛ける株式会社石見銀山生活文化研究所は2019年、アパレル・飲食・観光事業を統合した石見銀山群言堂グループを設立し、創業者夫妻が経営を娘婿や娘に引き継いだ。そのときに創業者の一人松場大吉は次の世代に伝えたいこと12ケ条を示した。

一、 里山を離れることなく事業を進める覚悟を持て
二、 業種、業態にしばられるな
三、 改革、チャレンジを恐れるな 勇気こそ力である
四、 常に日常の暮らしに着目せよ
五、 類あって非のない価値を創れ
六、 対峙する人が憧れるスタイルを創れ
七、 常に若者に投票せよ
八、 儲けることは大事だが使い方がもっと大事である
九、 「経済49%、文化50%、崇高な理想1%」のバランスを持て
十、 どんな判断も里山でおこなえ
十一、紡いできた風景と生活文化を相続せよ
十二、根のある暮らしをとことん深く耕せ

同年、「生活観光」をコンセプトにした石見銀山生活観光研究所を設立し、観光業に本格的に乗り出す。町屋や古い建造物を改装し、中長期滞在者向けの宿泊施設や滞在型シェアオフィスをつくり、大成建設や中小企業のDXを支援するスタートアップのスタブロなどの企業を誘致した。

群言堂グループが掲げるのは「地域一体型経営」だ。松場忠社長は「地域を一つの会社のように捉えて地域内の事業者が連携して収益を最大化し、地域全体の発展に繋げる経営モデルだ。観光資源を有効活用し、地域全体の魅力を高めて町の存続を目指す」と意気込む。行政や異業種、町民たちと地域の在り方を探っている。本社のある島根県大田市大森町で「群言堂」の歩みと現在地、描く未来について、松場忠群言堂グループ社長と峰山由紀子石見銀山生活文化研究所所長、創業者の松場登美・群言堂グループ取締役に話を聞いた。

世界遺産でも土地の「暮らし」が残る場所

石見銀山はかつて世界の1/3量の銀を採掘していたとも言われる日本最大の銀山で、お膝元の大森町周辺はピーク時には約20万人が住んでいたという。しかし1923年の閉山後は“取り残された町”となり過疎化が進んだ。他方、開発が入らなかったことで街並みが残り1987年に伝統的建造物群保存地区に指定された。2007年には自然環境に配慮した「自然環境と共存した産業遺跡」であることが評価され世界遺産に登録された。

世界遺産登録後に観光地化が加速して地域の暮らしや生活文化が失われる場所は少なくない。大森町も世界遺産登録時にオーバーツーリズムを経験するが、その時町民たちは住民憲章を制定する。石見銀山遺跡を守り、活かし、未来に引き継ぎたいという願いを示すと同時に自らの暮らしを守るためだ。

住民憲章には「暮らし」という言葉が3回繰り返され、歴史と自然を守りながら大森町での「暮らし」を大事にしたいという住民の総意が示された。経済優先の観光ではなく、大森町ならではの地域づくりを重視した。

大森町に残る「暮らし」は世界に誇る遺産

群言堂グループがこれまで改修した町屋は16軒。「誰かのために景観を作るのではなく、まっとうな生業が行われていればおのずと美しくなる」とは創業者の松場登美取締役の言葉だ。本社やカフェを併設する本店、社員寮、そして武家屋敷を21年かけて修繕した宿泊施設「他郷阿部家」、中長期滞在者向けの宿泊施設など、町屋や建物の状態によって中の構造を残したり、現代風に改修したりと一軒一軒の個性を最大限に生かしている。同グループのシンボルで現在は社員食堂として活用している大きなかやぶき屋根が印象的な建物は1997年に広島県から移築したもの。「引き取り手が見つからないという新聞記事を偶然見つけたのがきっかけだった。今思えば、よくあそこまで多額の借金をして引き取ったなあ」と登美取締役は振り返る。

大森町を拠点に「石見銀山 群言堂」を創業したのは大森町出身の松場大吉と三重県出身の登美夫妻。仕事をつくるためにパッチワークの布小物の販売から始まり、89年に大森町に庄屋屋敷を改修して本店を開いた。

「大森町に戻ったのはバブル全盛期。その価値観の中では取り残された地域だったが、夫の大吉と私はここを選び事業を興した。ビジネスの舵は夫が切り、危機はしょっちゅうだった(笑)」と登美取締役は振り返る。「群言堂」の前進「ブラハウス(BURA HOUSE)」はカントリー調パッチワークの布小物ブランドで、「私たちは石見銀山を愛し、この地に根を下ろしてモノ作りをしたいと考えています」と商品ラベルに書き、広島など近隣地域の百貨店などへ赴き行商した。その「ブラハウス」が徐々に人気を集め、コピー商品が生まれるほどに成長した94年、「町を深く知れば知るほど、カントリー調のものを作る事業がふさわしいのかと考えるようになった。検討を重ねて日本人による日本人のためのものづくりをしようと『石見銀山 群言堂』を立ち上げた。「群言堂は中国人留学生が教えてくれた言葉。仲間が集まっておいしいものを食べお酒を飲みながら語り合う様子を見て『中国ではみんなが目線を一緒にして意見を出し合いながらいい流れをつくっていくことを“群言堂”という』と教えてくれた」。企業理念に造語“復古創新”を掲げた。「ただ古いものを蘇えらせるのではなく過去・現在・未来をつなぎ、未来のために今何をすべきかと暮らしの在り方を考えることを大切にしている」と登美取締役。98年に石見銀山生活文化研究所を設立した。

石見銀山の暮らしを伝える店として百貨店を中心に31店舗出店

群言堂グループの2025年6月期の売上高は25億5000万円を見込む。現在の従業員数は235人。古民家を再生した路面店や百貨店を中心に31店舗を展開し、顧客層のコアは60代後半だ。「石見銀山」を大々的にうたい、地域の暮らしを前面に打ち出し全国各地に31店舗を展開するのは稀有かもしれない。

衣料品は日本の繊維産地の技術力を生かした生地作りから産地と取り組む。近年存続の危機が叫ばれる産地を支えるためにコロナ禍の21年、厚みのある発注に切り替えるために1シーズンの型数を約200型から100~110型に絞った。そのうち20型が定番品だ。

創業者夫妻の娘で石見銀山生活文化研究所の峰山由紀子代表取締役所長は「私たちの強味は大森町という実態があること。大森町の暮らしの中で着たい服を大森町でデザインし、日々目にする景色からこの色が美しいといった感覚を大事にしている。山間にある町ならではの吹き下ろす風や湿度を感じながら正直に服づくりをしている」と語る。大森町の色を取り入れたいと考え、周辺で採取した草花や枝木などから染めた「里山パレット」は人気を集める製品の一つだ。ファッションブランドの多くはブランドとは直接関係のないところにインスピレーションを求め、ある種の夢やフィクションと製品を重ねて提案するところがあるが、「群言堂」は常に大森町の暮らしが中心にある。どちらがいいではなく、町に根差したものづくりが「群言堂」の独自性といえる。

大森町の工房を拡大、中長期滞在者を誘致

「群言堂」は20年からお直し・リメイクサービス「お気に入り相談室」に取り組む。この春、事業を拡大する。「中長期滞在と工房は相性がいい。お直しから仕立てまで相談のために町を訪れることができるよう工房を拡大する」と由紀子所長。現在、「お気に入り相談室」は舞台衣装を手掛けた経験を持つスタッフが全国の顧客の要望に応えているが、専門スタッフを増やして需要の広がりとともに体制を整える予定だ。「ものづくりの現場を大森町に持ちたい。創業期は内職さんを集めて大森で生産しており、本店の半分は工場だった。サプライチェーン構築や人を抱える難しさから大森での生産を断念したが、社会が変わってきているので、大森に工房を再び整えることはブランドとしてあるべき姿なのではないか」と由紀子所長。

ポイントを貯めると登美さんが手掛けた「他郷阿部家」で登美取締役と食事

21年かけて改装した築230年の武家屋敷「暮らす宿 他郷阿部家」は登美取締役の「捨てない暮らし」のアイデアが詰まった場所だ。飾りガラスをパッチワークした戸や和紙を張り合わせた障子、古材を活用した柱や廃校になった小学校のパイプ椅子など。「昔の日本の暮らしは廃材すら捨てず再利用していた。それはとても美しいこと。できるだけごみを出さないことを難しく考えるのではなくて楽しむことを伝えたい」と登美取締役。

「群言堂」には画期的なポイント制度がある。ポイントを貯めると登美取締役が10年間住みながら理想の暮らしの場をつくった「他郷阿部家」に宿泊できる。1日2組限定で、宿泊者は夕食を登美取締役とともにして会話を楽しむ。全国各地から顧客を大森町に招き、「群言堂」が大切にする暮らしを体験できる仕組みが秀逸で、08年にはじまりこれまでのべ1万1900人が宿泊した(一般客の宿泊は1組2人からで1人あたり4万4000円~)。登美取締役は「阿部家」とは「群言堂」にとって暮らしの豊かさや日本の美意識を伝える場だという。「ビジネスを通じて世の中にメッセージを伝えたいと思いながら活動してきた。この暮らしはどうですか?と提案したのが『阿部家』で、実際に感じてもらう場所をつくることが重要だった」。

「阿部家」は訪れた人にとって生活や暮らしを見つめ直すための機会になるだけでなく、群言堂グループが大森町で積み上げてきたことを顧客に見てもらう機会になり、コミュニティーづくりの場になっている。その結果、大森町の関係人口増加に一役買っている。

暮らしを体感する「生活観光」を事業に

石見銀山群言堂グループは「地域一体型経営」を掲げて町にも投資する。娘婿の松場忠社長は「投資額の売上高に対する割合などを決めているわけではないが、地域への投資は大事だと考えている。国や県、市からの補助金を活用しながら持続可能な地域づくりのためにいろいろなことに取り組んでいる」と語る。現在、観光業に力を入れるが経済合理性を優先しない。「観光産業は文化を守るためにあるはずなのに産業モデルによって文化を壊していることも多い。私たちはこの町の暮らしや生き方を感じていただきたいと思っている。町人と他愛のない会話を楽しむような、かつての日本に当たり前にあった豊かな交流がここにはある」と話す。

「地域にとって重要なのはその土地に思いを持つ企業や個人が増えること。大森町の今があるのは当社だけでなく、大森町をなんとかしたいという同じ想いを持った(義肢・装具・人工乳房などの医療器具を扱う)中村グレイスもあったから。人口減少社会が進めば進むほど支えなければいけない割合は増える。そうなったときに町を支える企業は多い方がいいし、対応できる枠組みを作っておく必要がある」。今後は中長期滞在者を増やすための取り組みを強化する。引き続き保育園留学や地域おこし協力隊インターンプログラムを活用した二地域居住推進事業「遊ぶ広報」、大企業との連携を進めていく予定だ。「全ては町の共感者を増やすため。応援者が増え、この地域で新事業を始める企業が増えることを期待している」。

大田市のサポートを受けて24年に開業した滞在型シェアオフィスは、専用個室が3室とフリーアドレスの大部屋を用意していて、運営は順調だ。「私たちの考え方に共感してくれる人たちとのマッチングを重視して誘致している」と忠社長。現在、中小企業のDXを支援する企業や抹茶などを輸出する商社を誘致しており、大成建設とはメタバース事業を協働している。「地域を守っていくためには特定の強い存在だけではなく、多様な企業や団体、個人との連携が重要だ。滞在型シェアオフィスもそのための拠点として活用していく」。

これからの地域づくりは民間主導、ガバナンスが重要に

「地域づくり=行政だったのが、民間の役割が大きくなり民間主導でやらなければいけない時代になっている。大切なのは民間が暴走し過ぎないようにカバナンスを効かせることと、外部資本と組むときは経済的利益だけを目的にしている企業ではなく、地域を一緒に作っていくという意識を共有できるところを選ぶことが大切だ」と忠社長。群言堂グループは文化庁や観光庁、大田市や島根県からの助成金を元に新たな活動を興すことも多い。例えば、キッテ大阪の店舗は島根県、滞在型シェアオフィスは大田市、二地域居住の推進は日本郵政や国土交通省とともに取り組む。「国の政策を理解し、自分たちの強味を生かして地域を盛り上げることが大切だ。事業化するときに大切にしているのは地域に足りないものを補完できるか、そして地域にとってプラスになるかだ。『阿部家』のように補完的な役割を担う事業もある」。オーバーツーリズムの経験が丁寧なまちづくりに生かされている。

群言堂グループの事業と直接関係ないが、創業者の娘で忠社長の妻である奈緒子さんは、地域の子育て支援の必要性を感じ、保育園と学童を運営する社会福祉法人の理事を務める。もともとあった保育園の運営団体がNPO法人から社会福祉法人に変わるタイミングで奈緒子さんが関わるようになった。「町の福祉を考えた時に子どもたちの居場所を優先して作ることが大切だと考えた。その結果子育てがしやすい環境を求めて移住してきた人も増えている。他方、住宅の供給が追い付いていない。現在の課題はすぐに居住できる住宅がないことだ」と忠社長。

構造自体を変える必要がある事柄は行政と連携

群言堂グループは行政とも積極的に連携する。「構造を変えないとうまくいかないことも多い。まず思いや考えを伝えて計画書にする。短期的、中長期的な構想を描き、構造を変えるための実証事業を行いながら改善を進めていく。行政の力による構造変化は丁寧に進めることが大切だ」。例えば、大森町の観光施設の運営を集約し、共通券を発行することで両方の施設に足を運んでもらえるようにするなどだ。運営団体が市であれば条例の改訂も必要になる。

持続可能な町づくりに一役買っているのが創業者の大吉さんだ。大吉さんは群言堂の経営から退いた後に、若い世代とまちの防災・教育・福祉・観光に取り組む地域運営組織「一般社団法人石見銀山みらいコンソーシアム」と地域限定の協同組合型人材派遣業「石見銀山大田ひと・まちづくり事業協同組合」を創設し、地域の在り方を日々検討しているという。

当面の人口目標は500人だ。「大森町には五百羅漢というお地蔵様があって、その中に必ず自分に似た顔があると言われている。500は一つのコミュニティーの目安になると思っている。急速な増加ではなく緩やかに増えていくことが理想」と忠社長。町の将来像については「これまでの500年は銀という資源による発展の歴史だった。これからの500年は小さくても幸せに生きていける社会を作ることが目標で、生き方やライフスタイルを世界に広める町にしたいと考えている」。

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「群言堂」が目指す「地域一体型経営」、衣料品と観光事業から過疎地域を活性化

「石見銀山 群言堂」――島根県大田市大森町を拠点に“根のある暮らし”をコンセプトに衣料品や生活雑貨を手掛ける企業が、過疎地域の再生に一役買っている。「群言堂」は生き方や暮らし方を提案するライフスタイル産業の先駆け的存在でもある。大森町の人口は380人(令和7年3月31日現在)。そのうち小学校児童は24人、保育園児は28人と子どもの数が多く過疎地域としては極めて珍しい。群言堂グループ本社で働く社員は6人がUターン、25人が14の地域からのIターンと若い世代が移住している。同グループは衣料品の製造販売だけではなく、保育園留学や滞在型シェアオフィスを運営しており、中長期滞在者が増えて町の関係人口が増えている。

創業者から子どもへ引き継がれたバトン、「地域一体型経営」を目指して

「群言堂」を手掛ける株式会社石見銀山生活文化研究所は2019年、アパレル・飲食・観光事業を統合した石見銀山群言堂グループを設立し、創業者夫妻が経営を娘婿や娘に引き継いだ。そのときに創業者の一人松場大吉は次の世代に伝えたいこと12ケ条を示した。

一、 里山を離れることなく事業を進める覚悟を持て
二、 業種、業態にしばられるな
三、 改革、チャレンジを恐れるな 勇気こそ力である
四、 常に日常の暮らしに着目せよ
五、 類あって非のない価値を創れ
六、 対峙する人が憧れるスタイルを創れ
七、 常に若者に投票せよ
八、 儲けることは大事だが使い方がもっと大事である
九、 「経済49%、文化50%、崇高な理想1%」のバランスを持て
十、 どんな判断も里山でおこなえ
十一、紡いできた風景と生活文化を相続せよ
十二、根のある暮らしをとことん深く耕せ

同年、「生活観光」をコンセプトにした石見銀山生活観光研究所を設立し、観光業に本格的に乗り出す。町屋や古い建造物を改装し、中長期滞在者向けの宿泊施設や滞在型シェアオフィスをつくり、大成建設や中小企業のDXを支援するスタートアップのスタブロなどの企業を誘致した。

群言堂グループが掲げるのは「地域一体型経営」だ。松場忠社長は「地域を一つの会社のように捉えて地域内の事業者が連携して収益を最大化し、地域全体の発展に繋げる経営モデルだ。観光資源を有効活用し、地域全体の魅力を高めて町の存続を目指す」と意気込む。行政や異業種、町民たちと地域の在り方を探っている。本社のある島根県大田市大森町で「群言堂」の歩みと現在地、描く未来について、松場忠群言堂グループ社長と峰山由紀子石見銀山生活文化研究所所長、創業者の松場登美・群言堂グループ取締役に話を聞いた。

世界遺産でも土地の「暮らし」が残る場所

石見銀山はかつて世界の1/3量の銀を採掘していたとも言われる日本最大の銀山で、お膝元の大森町周辺はピーク時には約20万人が住んでいたという。しかし1923年の閉山後は“取り残された町”となり過疎化が進んだ。他方、開発が入らなかったことで街並みが残り1987年に伝統的建造物群保存地区に指定された。2007年には自然環境に配慮した「自然環境と共存した産業遺跡」であることが評価され世界遺産に登録された。

世界遺産登録後に観光地化が加速して地域の暮らしや生活文化が失われる場所は少なくない。大森町も世界遺産登録時にオーバーツーリズムを経験するが、その時町民たちは住民憲章を制定する。石見銀山遺跡を守り、活かし、未来に引き継ぎたいという願いを示すと同時に自らの暮らしを守るためだ。

住民憲章には「暮らし」という言葉が3回繰り返され、歴史と自然を守りながら大森町での「暮らし」を大事にしたいという住民の総意が示された。経済優先の観光ではなく、大森町ならではの地域づくりを重視した。

大森町に残る「暮らし」は世界に誇る遺産

群言堂グループがこれまで改修した町屋は16軒。「誰かのために景観を作るのではなく、まっとうな生業が行われていればおのずと美しくなる」とは創業者の松場登美取締役の言葉だ。本社やカフェを併設する本店、社員寮、そして武家屋敷を21年かけて修繕した宿泊施設「他郷阿部家」、中長期滞在者向けの宿泊施設など、町屋や建物の状態によって中の構造を残したり、現代風に改修したりと一軒一軒の個性を最大限に生かしている。同グループのシンボルで現在は社員食堂として活用している大きなかやぶき屋根が印象的な建物は1997年に広島県から移築したもの。「引き取り手が見つからないという新聞記事を偶然見つけたのがきっかけだった。今思えば、よくあそこまで多額の借金をして引き取ったなあ」と登美取締役は振り返る。

大森町を拠点に「石見銀山 群言堂」を創業したのは大森町出身の松場大吉と三重県出身の登美夫妻。仕事をつくるためにパッチワークの布小物の販売から始まり、89年に大森町に庄屋屋敷を改修して本店を開いた。

「大森町に戻ったのはバブル全盛期。その価値観の中では取り残された地域だったが、夫の大吉と私はここを選び事業を興した。ビジネスの舵は夫が切り、危機はしょっちゅうだった(笑)」と登美取締役は振り返る。「群言堂」の前進「ブラハウス(BURA HOUSE)」はカントリー調パッチワークの布小物ブランドで、「私たちは石見銀山を愛し、この地に根を下ろしてモノ作りをしたいと考えています」と商品ラベルに書き、広島など近隣地域の百貨店などへ赴き行商した。その「ブラハウス」が徐々に人気を集め、コピー商品が生まれるほどに成長した94年、「町を深く知れば知るほど、カントリー調のものを作る事業がふさわしいのかと考えるようになった。検討を重ねて日本人による日本人のためのものづくりをしようと『石見銀山 群言堂』を立ち上げた。「群言堂は中国人留学生が教えてくれた言葉。仲間が集まっておいしいものを食べお酒を飲みながら語り合う様子を見て『中国ではみんなが目線を一緒にして意見を出し合いながらいい流れをつくっていくことを“群言堂”という』と教えてくれた」。企業理念に造語“復古創新”を掲げた。「ただ古いものを蘇えらせるのではなく過去・現在・未来をつなぎ、未来のために今何をすべきかと暮らしの在り方を考えることを大切にしている」と登美取締役。98年に石見銀山生活文化研究所を設立した。

石見銀山の暮らしを伝える店として百貨店を中心に31店舗出店

群言堂グループの2025年6月期の売上高は25億5000万円を見込む。現在の従業員数は235人。古民家を再生した路面店や百貨店を中心に31店舗を展開し、顧客層のコアは60代後半だ。「石見銀山」を大々的にうたい、地域の暮らしを前面に打ち出し全国各地に31店舗を展開するのは稀有かもしれない。

衣料品は日本の繊維産地の技術力を生かした生地作りから産地と取り組む。近年存続の危機が叫ばれる産地を支えるためにコロナ禍の21年、厚みのある発注に切り替えるために1シーズンの型数を約200型から100~110型に絞った。そのうち20型が定番品だ。

創業者夫妻の娘で石見銀山生活文化研究所の峰山由紀子代表取締役所長は「私たちの強味は大森町という実態があること。大森町の暮らしの中で着たい服を大森町でデザインし、日々目にする景色からこの色が美しいといった感覚を大事にしている。山間にある町ならではの吹き下ろす風や湿度を感じながら正直に服づくりをしている」と語る。大森町の色を取り入れたいと考え、周辺で採取した草花や枝木などから染めた「里山パレット」は人気を集める製品の一つだ。ファッションブランドの多くはブランドとは直接関係のないところにインスピレーションを求め、ある種の夢やフィクションと製品を重ねて提案するところがあるが、「群言堂」は常に大森町の暮らしが中心にある。どちらがいいではなく、町に根差したものづくりが「群言堂」の独自性といえる。

大森町の工房を拡大、中長期滞在者を誘致

「群言堂」は20年からお直し・リメイクサービス「お気に入り相談室」に取り組む。この春、事業を拡大する。「中長期滞在と工房は相性がいい。お直しから仕立てまで相談のために町を訪れることができるよう工房を拡大する」と由紀子所長。現在、「お気に入り相談室」は舞台衣装を手掛けた経験を持つスタッフが全国の顧客の要望に応えているが、専門スタッフを増やして需要の広がりとともに体制を整える予定だ。「ものづくりの現場を大森町に持ちたい。創業期は内職さんを集めて大森で生産しており、本店の半分は工場だった。サプライチェーン構築や人を抱える難しさから大森での生産を断念したが、社会が変わってきているので、大森に工房を再び整えることはブランドとしてあるべき姿なのではないか」と由紀子所長。

ポイントを貯めると登美さんが手掛けた「他郷阿部家」で登美取締役と食事

21年かけて改装した築230年の武家屋敷「暮らす宿 他郷阿部家」は登美取締役の「捨てない暮らし」のアイデアが詰まった場所だ。飾りガラスをパッチワークした戸や和紙を張り合わせた障子、古材を活用した柱や廃校になった小学校のパイプ椅子など。「昔の日本の暮らしは廃材すら捨てず再利用していた。それはとても美しいこと。できるだけごみを出さないことを難しく考えるのではなくて楽しむことを伝えたい」と登美取締役。

「群言堂」には画期的なポイント制度がある。ポイントを貯めると登美取締役が10年間住みながら理想の暮らしの場をつくった「他郷阿部家」に宿泊できる。1日2組限定で、宿泊者は夕食を登美取締役とともにして会話を楽しむ。全国各地から顧客を大森町に招き、「群言堂」が大切にする暮らしを体験できる仕組みが秀逸で、08年にはじまりこれまでのべ1万1900人が宿泊した(一般客の宿泊は1組2人からで1人あたり4万4000円~)。登美取締役は「阿部家」とは「群言堂」にとって暮らしの豊かさや日本の美意識を伝える場だという。「ビジネスを通じて世の中にメッセージを伝えたいと思いながら活動してきた。この暮らしはどうですか?と提案したのが『阿部家』で、実際に感じてもらう場所をつくることが重要だった」。

「阿部家」は訪れた人にとって生活や暮らしを見つめ直すための機会になるだけでなく、群言堂グループが大森町で積み上げてきたことを顧客に見てもらう機会になり、コミュニティーづくりの場になっている。その結果、大森町の関係人口増加に一役買っている。

暮らしを体感する「生活観光」を事業に

石見銀山群言堂グループは「地域一体型経営」を掲げて町にも投資する。娘婿の松場忠社長は「投資額の売上高に対する割合などを決めているわけではないが、地域への投資は大事だと考えている。国や県、市からの補助金を活用しながら持続可能な地域づくりのためにいろいろなことに取り組んでいる」と語る。現在、観光業に力を入れるが経済合理性を優先しない。「観光産業は文化を守るためにあるはずなのに産業モデルによって文化を壊していることも多い。私たちはこの町の暮らしや生き方を感じていただきたいと思っている。町人と他愛のない会話を楽しむような、かつての日本に当たり前にあった豊かな交流がここにはある」と話す。

「地域にとって重要なのはその土地に思いを持つ企業や個人が増えること。大森町の今があるのは当社だけでなく、大森町をなんとかしたいという同じ想いを持った(義肢・装具・人工乳房などの医療器具を扱う)中村グレイスもあったから。人口減少社会が進めば進むほど支えなければいけない割合は増える。そうなったときに町を支える企業は多い方がいいし、対応できる枠組みを作っておく必要がある」。今後は中長期滞在者を増やすための取り組みを強化する。引き続き保育園留学や地域おこし協力隊インターンプログラムを活用した二地域居住推進事業「遊ぶ広報」、大企業との連携を進めていく予定だ。「全ては町の共感者を増やすため。応援者が増え、この地域で新事業を始める企業が増えることを期待している」。

大田市のサポートを受けて24年に開業した滞在型シェアオフィスは、専用個室が3室とフリーアドレスの大部屋を用意していて、運営は順調だ。「私たちの考え方に共感してくれる人たちとのマッチングを重視して誘致している」と忠社長。現在、中小企業のDXを支援する企業や抹茶などを輸出する商社を誘致しており、大成建設とはメタバース事業を協働している。「地域を守っていくためには特定の強い存在だけではなく、多様な企業や団体、個人との連携が重要だ。滞在型シェアオフィスもそのための拠点として活用していく」。

これからの地域づくりは民間主導、ガバナンスが重要に

「地域づくり=行政だったのが、民間の役割が大きくなり民間主導でやらなければいけない時代になっている。大切なのは民間が暴走し過ぎないようにカバナンスを効かせることと、外部資本と組むときは経済的利益だけを目的にしている企業ではなく、地域を一緒に作っていくという意識を共有できるところを選ぶことが大切だ」と忠社長。群言堂グループは文化庁や観光庁、大田市や島根県からの助成金を元に新たな活動を興すことも多い。例えば、キッテ大阪の店舗は島根県、滞在型シェアオフィスは大田市、二地域居住の推進は日本郵政や国土交通省とともに取り組む。「国の政策を理解し、自分たちの強味を生かして地域を盛り上げることが大切だ。事業化するときに大切にしているのは地域に足りないものを補完できるか、そして地域にとってプラスになるかだ。『阿部家』のように補完的な役割を担う事業もある」。オーバーツーリズムの経験が丁寧なまちづくりに生かされている。

群言堂グループの事業と直接関係ないが、創業者の娘で忠社長の妻である奈緒子さんは、地域の子育て支援の必要性を感じ、保育園と学童を運営する社会福祉法人の理事を務める。もともとあった保育園の運営団体がNPO法人から社会福祉法人に変わるタイミングで奈緒子さんが関わるようになった。「町の福祉を考えた時に子どもたちの居場所を優先して作ることが大切だと考えた。その結果子育てがしやすい環境を求めて移住してきた人も増えている。他方、住宅の供給が追い付いていない。現在の課題はすぐに居住できる住宅がないことだ」と忠社長。

構造自体を変える必要がある事柄は行政と連携

群言堂グループは行政とも積極的に連携する。「構造を変えないとうまくいかないことも多い。まず思いや考えを伝えて計画書にする。短期的、中長期的な構想を描き、構造を変えるための実証事業を行いながら改善を進めていく。行政の力による構造変化は丁寧に進めることが大切だ」。例えば、大森町の観光施設の運営を集約し、共通券を発行することで両方の施設に足を運んでもらえるようにするなどだ。運営団体が市であれば条例の改訂も必要になる。

持続可能な町づくりに一役買っているのが創業者の大吉さんだ。大吉さんは群言堂の経営から退いた後に、若い世代とまちの防災・教育・福祉・観光に取り組む地域運営組織「一般社団法人石見銀山みらいコンソーシアム」と地域限定の協同組合型人材派遣業「石見銀山大田ひと・まちづくり事業協同組合」を創設し、地域の在り方を日々検討しているという。

当面の人口目標は500人だ。「大森町には五百羅漢というお地蔵様があって、その中に必ず自分に似た顔があると言われている。500は一つのコミュニティーの目安になると思っている。急速な増加ではなく緩やかに増えていくことが理想」と忠社長。町の将来像については「これまでの500年は銀という資源による発展の歴史だった。これからの500年は小さくても幸せに生きていける社会を作ることが目標で、生き方やライフスタイルを世界に広める町にしたいと考えている」。

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オンワード社員の“副業アップサイクル”第2弾はシャツ 「予想外の発見が業務に生きる」

オンワードホールディングスは、着なくなった衣料品から制作したアップサイクル製品の第2弾を発売した。同社社員15人が制作した95点はすべて1点物で、オンラインで4月7日から、「オンワード・リユースパーク 吉祥寺」で4月25日から販売する。

オンワードグループは、2009年から自社の衣料品を引き取る「オンワード・グリーン・キャンペーン」を行っており、19年間で累計約170万人から約884万点の衣料品を引き取った。それらは毛布や軍手、固形燃料に活用してきたが、新たな活用方法として昨年から「アップサイクル・アクション」をスタート。社員が副業として参加し、制作した作品は、自らで価格設定を行い、収益の90%を制作者に還元。残りの10%は、日本赤十字社への寄付している。

アウトレット部門や管理部門など日頃モノづくりに関わっていない社員も参加し、素材の選定からデザイン、縫製までを担当した。前回はデニムを使用したが、特殊ミシンが必要だったため難易度が高かったこともあり、今回は扱いやすいシャツを素材に選び、自宅や会社のミシンで自由に制作できるよう配慮された。制作は業務時間外に行う。期間は参加者の声を反映し、7月から翌年2月末までの7ヶ月間に延長された。

同プロジェクトは単体で収益につながる規模になっていないが、社内におけるサステナビリティへの関心の高まりや、日ごろの仕事の発想の転換など、目に見えない成果が出ているようだ。参加者のひとり、森本朱理さん(写真)はオンワード樫山のプロダクトグループ生産技術Div.レディス技術第二Sec.でパタンナーとして服作りに携わっている。「自由にものづくりができる機会は普段なかなかないが、このプロジェクトでは自分の好きなようにデザインし、制作できたのが楽しかった」と語る森本さん。最終的な販売においては、制作者名を明示することはないが、自身が制作したアイテムが実際に売り上げにつながることで、達成感を得たという。作品制作では日ごろ行っている「パターンを引く」工程を省き、布を自由に組み合わせる手法が多く用いた。例えば、シャツ3枚を解体し、それぞれの袖やカフスを使ってスカートを制作するなど、素材の新たな可能性を引き出している。「パターンに縛られないことで、新しい形が生まれたり、予想外の発見があったり。これらの経験は通常のパターン業務にも生かせる」と言う。

すべての工程を自分で行い、その上で販売価格を決定する。2回目の参加である森本さんの今回のもうひとつの目標は「もっと売れること」。「前回は自身の好みに偏ったデザインで売り上げに結びつかなかった反省を踏まえ、多くの人に届くよう意識した。たとえば誰でも着られるようにウエストをゴム仕様にするなど工夫を凝らした」と語る。「参加を通して、環境問題やサステナブルな取り組みに自然と関心が向くようになった。もっと多くの人にアップサイクルの魅力が伝わるようになれば古着のマーケットがすでに成立し、人気であるように、アップサイクルもひとつのマーケットとして広がるのでは?そうあってほしい」と熱く語る姿が印象的だった。

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アシックスが財団設立、スポーツを通し社会課題に取り組み 障がい者や青少年、女性を支援

アシックスは4月1日、一般財団法人ASICS Foundation(アシックスファウンデーション以下、財団)を設立した。「当社は『健全な身体に健全な精神があれかし』を創業哲学としている。世界にはまだまだスポーツに触れる機会が少ない人が多く存在している。財団ではそうした社会課題に向き合い、特に⻘少年、障がいのある方、女性を中心にスポーツの機会を提供し、スポーツを通じた社会貢献を推進していく。同時に、企業としての価値向上にもつなげる」と、廣田康人アシックス会長CEO。

財団に割り当てられた自社株からの配当を原資に、「社会的または経済的に困難な状況にある青少年、障がい者、女性などに対する運動・スポーツを通した支援を提供する団体への助成」(発表資料から)を行う。まずは日本や、アシックスの事業所・生産拠点がある国・地域(インド、インドネシア、ベトナム)での取り組みを予定する。

日本では障がい者と青少年、インドでは青少年と女性、インドネシア、ベトナムでは青少年にフォーカスする。スポーツ用具の提供やグラウンド整備などのハード面だけでなく、スポーツ教育、指導者教育、スポーツを通したロールモデルの育成など、ソフト面でも環境整備を進める。

財団理事長には、甲田知子アシックス常務執行役員が就任。評議員には元マラソンランナーでスポーツジャーナリストの増田明美氏、作家の岸田奈美氏ら、理事には元プロ卓球選手の石川佳純氏、元パラ水泳選手の一ノ瀬メイ氏らが就いた。石川理事は「財団の活動を通し、誰もがスポーツに触れられるきっかけを作り、スポーツを通じた学びや人生を豊かに感じられる瞬間を届けていきたい」とコメント。一ノ瀬理事は「(パラアスリートとして)現役時代は競技に専念できる環境を整えるのに障壁を感じた。日本の障がい者スポーツの一番の課題は、健常者、障がい者が完全に分けられていること。財団の活動を通し、あらゆる人のスポーツへの障壁を減らしていきたい」と語った。

評議員、理事で話し合い、3月に助成対象団体のガイドラインを策定した。5月から助成対象団体の公募を開始し、7、8月に視察訪問も含め助成対象を決定、10月に助成を開始する。初年度は8団体への助成を想定しており(日本では1〜2団体)、まずは1団体につき最長3年間の助成を予定する。5年間で、30団体前後を助成していく。

【INTERVIEW】
「事業活動と財団の両輪が必要」
甲田知子/ASICS Foundation理事長兼アシックス常務執行役員

アシックスは創業哲学にもある通り、誰もが一生涯、スポーツや運動を通して心身が満たされる世界の実現をビジョンとして掲げている。近年は(業績好調で)事業活動がうまくまわり始めているが、その中でわれわれのプロダクト、サービスが届きづらくなっている部分もある。例えば、高価格帯製品を増やしていることで、(途上国の弱い立場の人々などに)製品が届きづらいといったことだ。われわれの創業哲学やビジョンを実現していくためには、事業活動と財団の活動の両輪が重要だ。

社会貢献活動が事業活動にどんな影響をもたらすのかと聞かれることは多いが、財団の活動を積極的に行っていくことで、長期視点で「アシックス」のブランド価値向上につながると考えている。インドネシア、インド、ベトナムはここからスポーツ市場の拡大が見込めるエリアだ。また、個人的にはここが最も重要だと考えているが、財団の活動が、社員のエンゲージメント向上にもつながる。アシックスの社員は、やはりすごくスポーツが好きで、鬼塚喜八郎の創業哲学に感銘を受けている人が多い。若い世代になればなるほど、社会課題に取り組んでいる企業で働きたいという意識も強い。財団活動はまさに創業哲学の実現であり、社員のエンゲージメントが上がればパフォーマンスも上がり、結果的に企業価値も上がる。

日本では、まずは障がい者のスポーツ参画のハードルを下げるために活動している団体を助成していく。日本は障がい者スポーツの指導者も少ないし、障がい者を受け入れるスポーツの場も非常に限られている。そうした障壁をなくすために地道に活動しているNPOなどを助成したい。

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アシックスが財団設立、スポーツを通し社会課題に取り組み 障がい者や青少年、女性を支援

アシックスは4月1日、一般財団法人ASICS Foundation(アシックスファウンデーション以下、財団)を設立した。「当社は『健全な身体に健全な精神があれかし』を創業哲学としている。世界にはまだまだスポーツに触れる機会が少ない人が多く存在している。財団ではそうした社会課題に向き合い、特に⻘少年、障がいのある方、女性を中心にスポーツの機会を提供し、スポーツを通じた社会貢献を推進していく。同時に、企業としての価値向上にもつなげる」と、廣田康人アシックス会長CEO。

財団に割り当てられた自社株からの配当を原資に、「社会的または経済的に困難な状況にある青少年、障がい者、女性などに対する運動・スポーツを通した支援を提供する団体への助成」(発表資料から)を行う。まずは日本や、アシックスの事業所・生産拠点がある国・地域(インド、インドネシア、ベトナム)での取り組みを予定する。

日本では障がい者と青少年、インドでは青少年と女性、インドネシア、ベトナムでは青少年にフォーカスする。スポーツ用具の提供やグラウンド整備などのハード面だけでなく、スポーツ教育、指導者教育、スポーツを通したロールモデルの育成など、ソフト面でも環境整備を進める。

財団理事長には、甲田知子アシックス常務執行役員が就任。評議員には元マラソンランナーでスポーツジャーナリストの増田明美氏、作家の岸田奈美氏ら、理事には元プロ卓球選手の石川佳純氏、元パラ水泳選手の一ノ瀬メイ氏らが就いた。石川理事は「財団の活動を通し、誰もがスポーツに触れられるきっかけを作り、スポーツを通じた学びや人生を豊かに感じられる瞬間を届けていきたい」とコメント。一ノ瀬理事は「(パラアスリートとして)現役時代は競技に専念できる環境を整えるのに障壁を感じた。日本の障がい者スポーツの一番の課題は、健常者、障がい者が完全に分けられていること。財団の活動を通し、あらゆる人のスポーツへの障壁を減らしていきたい」と語った。

評議員、理事で話し合い、3月に助成対象団体のガイドラインを策定した。5月から助成対象団体の公募を開始し、7、8月に視察訪問も含め助成対象を決定、10月に助成を開始する。初年度は8団体への助成を想定しており(日本では1〜2団体)、まずは1団体につき最長3年間の助成を予定する。5年間で、30団体前後を助成していく。

【INTERVIEW】
「事業活動と財団の両輪が必要」
甲田知子/ASICS Foundation理事長兼アシックス常務執行役員

アシックスは創業哲学にもある通り、誰もが一生涯、スポーツや運動を通して心身が満たされる世界の実現をビジョンとして掲げている。近年は(業績好調で)事業活動がうまくまわり始めているが、その中でわれわれのプロダクト、サービスが届きづらくなっている部分もある。例えば、高価格帯製品を増やしていることで、(途上国の弱い立場の人々などに)製品が届きづらいといったことだ。われわれの創業哲学やビジョンを実現していくためには、事業活動と財団の活動の両輪が重要だ。

社会貢献活動が事業活動にどんな影響をもたらすのかと聞かれることは多いが、財団の活動を積極的に行っていくことで、長期視点で「アシックス」のブランド価値向上につながると考えている。インドネシア、インド、ベトナムはここからスポーツ市場の拡大が見込めるエリアだ。また、個人的にはここが最も重要だと考えているが、財団の活動が、社員のエンゲージメント向上にもつながる。アシックスの社員は、やはりすごくスポーツが好きで、鬼塚喜八郎の創業哲学に感銘を受けている人が多い。若い世代になればなるほど、社会課題に取り組んでいる企業で働きたいという意識も強い。財団活動はまさに創業哲学の実現であり、社員のエンゲージメントが上がればパフォーマンスも上がり、結果的に企業価値も上がる。

日本では、まずは障がい者のスポーツ参画のハードルを下げるために活動している団体を助成していく。日本は障がい者スポーツの指導者も少ないし、障がい者を受け入れるスポーツの場も非常に限られている。そうした障壁をなくすために地道に活動しているNPOなどを助成したい。

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カイハラが「バイオインディゴ」で染めたデニム 4月から量産開始

デニム大手のカイハラは4月から、バイオマス原料から製造した新しいインディゴ染料「バイオブルー(BIO BLUE)を使ったデニムの生産を開始した。染料は住友化学が開発しており、再生可能なバイオマスを原料に、微生物発酵を通じて生産する。カイハラは住友化学と共同で100%使いから、従来の石油由来の合成インディゴ染料との併用までの検証を重ね、従来品と遜色のない量産技術を確立した。稲垣博章・執行役員営業本部長は「バイオインディゴは従来品に比べ3〜3.5倍の価格になるため、10%のみを使うといった併用を考えている。もちろん取引先の希望があれば100%使いにも対応できる」という。まずは日本で生産し、染料のコストダウンや発注量によってはタイ生産も視野にいれる。

住友化学は2023年に、合成生物学を応用し人工タンパク質原料の研究開発と設計を手掛ける米国のギンコバイオワークス(GINKGO BIOWORKS)と提携していた。「バイオブルー」染料は微生物の発酵を利用して生産するため、従来の合成インディゴ染料に比べて環境負荷を大幅に削減できるという。

カイハラはすでに合成インディゴとの併用での量産技術を確立しており、まずはバイオインディゴ10%を配合し、広島県福山市の本社工場でのデニム糸の染色を行う。「今後は『バイオブルー』の供給体制の拡大やコストダウンを見ながら、使用比率を段階的に引き上げていく」(稲垣執行役員)考え。

4月13日に開幕する大阪・関西万博のパビリオン「住友館」でも、「バイオブルー」で染色したデニム生地を使ったバッグなど3本目を出品する。

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ラグジュアリー企業も注目する発酵技術とは 【ファーメンステーション・酒井里奈代表】

「WWDJAPAN」ポッドキャストの「サステナブルファッション・トーク」は、ファッション業界のサステナビリティに関する最新ニュースやトレンドをざっくばらんにお話しする番組です。本番組では、サステナビリティ担当記者木村和花がホストを務め、「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクター向千鶴とともにお届けします。

今回は注目のスタートアップ企業、ファーメンステーションの酒井里奈代表取締役をゲストにお迎えしました。ファーメンステーションは、食品廃棄物のような未利用資源を発酵技術を用いて再資源化するノウハウを持っています。先日「グッチ(GUCCI)」「サンローラン(SAINT LAURENT)」などの親会社であるケリング(KERING)が日本で初開催したスタートアップ企業のアワード「ケリング・ジェネレーション・アワード(KERING GENERATION AWARD)」で最優秀賞を受賞。ラグジュアリー企業も注目する発酵技術とは何か、起業までのストーリー、今後にかける思いなどを酒井さんに聞きました。



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ラグジュアリー企業も注目する発酵技術とは 【ファーメンステーション・酒井里奈代表】

「WWDJAPAN」ポッドキャストの「サステナブルファッション・トーク」は、ファッション業界のサステナビリティに関する最新ニュースやトレンドをざっくばらんにお話しする番組です。本番組では、サステナビリティ担当記者木村和花がホストを務め、「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクター向千鶴とともにお届けします。

今回は注目のスタートアップ企業、ファーメンステーションの酒井里奈代表取締役をゲストにお迎えしました。ファーメンステーションは、食品廃棄物のような未利用資源を発酵技術を用いて再資源化するノウハウを持っています。先日「グッチ(GUCCI)」「サンローラン(SAINT LAURENT)」などの親会社であるケリング(KERING)が日本で初開催したスタートアップ企業のアワード「ケリング・ジェネレーション・アワード(KERING GENERATION AWARD)」で最優秀賞を受賞。ラグジュアリー企業も注目する発酵技術とは何か、起業までのストーリー、今後にかける思いなどを酒井さんに聞きました。



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「デニム生地生産量日本一」の新リーダーが同業他社や異業種、行政と連携して目指す「市民の認知度100%」

PROFILE: 篠原由起/篠原テキスタイル代表取締役社長

篠原由起/篠原テキスタイル代表取締役社長
PROFILE: 1907年創業のデニム生地機屋「篠原テキスタイル」の5代目。大阪工業大学卒業後大正紡績に入社。紡績の製造現場、商品開発室、営業を経て、2012年に篠原テキスタイル入社。新規事業開発リーダーとしてデニム産地内同業他社、異業種、行政、教育機関との連携を深め、デニム産地の発展に取り組む。19年デニム製造工程で発生する残糸やBC反を活用したアップサイクルブランド「シノテックス」を立ち上げる。22年社長に就任。海外展示会への出展や国内他産地とのコラボ素材の開発、デニム・ジーンズの製造工場を回る工場見学ツアーの企画や若手デザイナーの支援を積極的に行う

日本一のデニム生地生産量を誇る広島県福山市。古くから繊維産業が盛んで備後産地として栄えてきたがその認知度は低い。産地継続の危機が叫ばれて久しいが近年、産地をブランディングして産地観光を目指す取り組みが増えている。福山市でも篠原テキスタイルの篠原由起社長がその認知度を高めてシビックプライドを醸成しようと同業他社や異業種、行政と協働しながら産地をけん引する。

篠原テキスタイルは日本三大絣のひとつ「備後絣」の生産から始まり今年で創業118年目。15年前から自社で生地展開をはじめ、旧式のシャトル織機や最新のエアージェット織機を活用してさまざまな風合いのデニム生地を生産する。現在の月産量は2500反(12万5000m)。ラグジュアリーブランドから国内のデザイナーズやデニムブランドに生地を供給する。篠原社長に現在の取り組みと未来の展望を聞く。

WWD:篠原テキスタイルの強味は?

篠原由起社長(以下、篠原):生地の自社展開を始めて15年。生地メーカーとしては後発だったので、アジアの量産型工場が作らないような織りにくいものを織って価値をつくることを目指した。これまで織っていた人工セルロースの「テンセル」に加えて、経糸と緯糸の番手や素材を変えて風合い豊かな生地をつくっている。また、カシミヤやシルクのネップ糸など従来デニムに使われていなかった糸を用いたデニム生地を提案している。特にラグジュアリーブランドから評判が良く、「なんじゃこりゃ」「これはデニムなのか」という触り心地の生地を提案している。

WWD:織りにくい生地を織るのは熟練技が必要だ。どのように技術をつなげているのか。

篠原:当社もちょうど技術を引き継ぐタイミングにある。これまで「見て覚える」「手を動かしてみる」といった感覚的な方法で技術を継承してきたが、動画を撮影してマニュアル化しているところだ。中学卒業後に入社して現在74歳のベテランスタッフが機械を動かす様子や機械のメンテナンスや改造の方法を記録している。現場の技術は日々進化するし、改善が必要になってきているので技術のマニュアル化は必須だ。

WWD:自社の生産工程から生まれる残糸や端材を用いて靴下や手袋、ニットキャップやバブーシュやハンドバッグなどを提案する「シノテックス(SINOTEX)」ブランドを19年に始動した。

篠原:例えば靴下の編立は福山の老舗ニットメーカーに依頼するなど、地元企業と協働することで福山市にさまざまな技術が集積していることを訴求している。人と人がつながり、企業と企業がつながることで新たな価値を生み出したい。自社ECサイトや地元の百貨店、福山や広島の雑貨店などに卸していて、お土産的に販売している。

WWD:残糸や端材の活用以外でのサステナビリティの取り組みと成果は?

篠原:定番のデニム生地をアメリカ産のリジェネラティブコットン糸(環境再生型農業で栽培された綿糸)に変えた。欧州基準で戦うために現在GOTS認証を申請中だ。リサイクルポリエステル糸を用いたデニム生地の開発にも力を入れているが、先日出展した欧州の素材見本市では反応がいまいちで、強味の「テンセル」、カシミヤやシルクなどセルロース系繊維の反応が良かった。

工場の省エネ化も進めており、LEDへの切り替えや太陽光パネルの設置、省エネタイプの機械への切り替えなどで電気使用量は2018年に比べて約30%削減できた。近年特に電気料金も上がってきているのでコストにも効いている。

WWD:異業種・行政・教育機関との連携について、何を目指しどのように連携しているのか。

篠原:目的は福山市がデニムの町だという認知度を高めること。現在の市民の認知度は42.6%で、タオルで知られる今治ならばほぼ100%だろう。認知度を上げるために大学や高校に出向きデニムについて伝えたり小学校の工場見学を受け入れたりしている。結果は10~20年後になるが、地道な活動を重ねることで就職先の選択肢にデニム産業を残したいと考えている。こうした活動を続けると地元でマルシェに出店すると「デニム屋さんだ」となり、やり続けることでデニムファンを増やせていると感じる。

行政とは福山市が「備中備後はデニムの産地」をPRするために16年に始動した「備中備後ジャパンデニムプロジェクト」を軸に、福山の企業の成長や人材確保の取り組みを支援するための「グリーンな企業プラットフォーム事業」に参画したり、福山市と一緒に一般家庭のジーンズの回収リサイクルプロジェクトを行ったりしている。市役所や商業施設、ガソリンスタンドや銀行など市内6カ所で回収したジーンズを反毛(はんもう)して新たな生地にしてバッグにしたりしている。企業から声がかかり、「ネームプレートにしたい」という話もある。

WWD:回収から再生産する事業は手間がかかり事業として成立させるには難易度が高そうだが。

篠原:部分使いであればコストに見合う。例えば企業の制服の一部に使用し回収の取り組みに賛同してもらうなど、デニムを福山市内で循環させることで、地元での認知を高めることが目的にある。回収拠点が町中にあることで福山市がデニムの町であることを訴求できる。また「つくる責任、つかう責任、回収も日本一」になれば、一般の方にもデニムの町だという認知が広がるのではないか。

WWD:工場見学について、地元小学校の受け入れだけでなく多くの事業者も受け入れている。

篠原:バイヤーさんを対象とした工場見学ツアーは昨年30~40回ほど実施した。またスノーピークが日本各地のものづくりや文化を継承することを目的に始めた「ローカル ウエア ツーリズム」とも協働している。

WWD:2023年のG7広島サミットの「サミットバッグ」に採用された。

篠原:広島県織物工業会が製作した。企画はディスカバーリンクせとうち、染色は坂本デニム、撚糸は備後撚糸、織りは当社に加えてカイハラと中国紡績織が行い、縫製は大江被服とC2が手掛けた。福山は市内で生地から製品まで作ることができる。そのほか、福山市内に6軒の医療施設を運営する医療法人徹慈会と制服づくりも始めている。当社とカイハラが素材提供をして縫製はC2が手掛ける予定だ。

また、産婦人科から退院のお祝いに提供するマザーズバッグをデニムでつくりたいという要望があるなど、今まで声がかからなかったところからも依頼があり、地道な活動の成果が見えてきている。

WWD:現在の課題は?

篠原:福山市でデニムを盛り上げるための連携はあるが、サプライチェーン全体の足並みをそろえるのが難しいとも感じている。福山市は素材や技術の町で製品ブランドが少なく、一般の人への訴求が難しい。そんな中で小売店との協働は直接生活者に届けられる一つの方法だと感じている。例えば、松屋銀座が日本のものづくりを紹介する「東京クリエイティブサロン」で紹介いただいたり、広島市拠点のセレクトショップで東京にも店舗を持つアクセが産地デニムブランド「ジャパンデニム」を立ち上げ、販売していただいたり。ただ、地元福山でも盛り上がりを作りたいので、BtoB向けの事業者が多い中でどのような仕組みにするのかを地元の地域商社などと検討しているところだ。

WWD:地域として目指すところは?

篠原:地域指名で来てくれる人が増えること。例えばシャンパーニュのシャンパン、今治のタオルといったように、業界内はもちろん一般での認知度を上げたい。

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「デニム生地生産量日本一」の新リーダーが同業他社や異業種、行政と連携して目指す「市民の認知度100%」

PROFILE: 篠原由起/篠原テキスタイル代表取締役社長

篠原由起/篠原テキスタイル代表取締役社長
PROFILE: 1907年創業のデニム生地機屋「篠原テキスタイル」の5代目。大阪工業大学卒業後大正紡績に入社。紡績の製造現場、商品開発室、営業を経て、2012年に篠原テキスタイル入社。新規事業開発リーダーとしてデニム産地内同業他社、異業種、行政、教育機関との連携を深め、デニム産地の発展に取り組む。19年デニム製造工程で発生する残糸やBC反を活用したアップサイクルブランド「シノテックス」を立ち上げる。22年社長に就任。海外展示会への出展や国内他産地とのコラボ素材の開発、デニム・ジーンズの製造工場を回る工場見学ツアーの企画や若手デザイナーの支援を積極的に行う

日本一のデニム生地生産量を誇る広島県福山市。古くから繊維産業が盛んで備後産地として栄えてきたがその認知度は低い。産地継続の危機が叫ばれて久しいが近年、産地をブランディングして産地観光を目指す取り組みが増えている。福山市でも篠原テキスタイルの篠原由起社長がその認知度を高めてシビックプライドを醸成しようと同業他社や異業種、行政と協働しながら産地をけん引する。

篠原テキスタイルは日本三大絣のひとつ「備後絣」の生産から始まり今年で創業118年目。15年前から自社で生地展開をはじめ、旧式のシャトル織機や最新のエアージェット織機を活用してさまざまな風合いのデニム生地を生産する。現在の月産量は2500反(12万5000m)。ラグジュアリーブランドから国内のデザイナーズやデニムブランドに生地を供給する。篠原社長に現在の取り組みと未来の展望を聞く。

WWD:篠原テキスタイルの強味は?

篠原由起社長(以下、篠原):生地の自社展開を始めて15年。生地メーカーとしては後発だったので、アジアの量産型工場が作らないような織りにくいものを織って価値をつくることを目指した。これまで織っていた人工セルロースの「テンセル」に加えて、経糸と緯糸の番手や素材を変えて風合い豊かな生地をつくっている。また、カシミヤやシルクのネップ糸など従来デニムに使われていなかった糸を用いたデニム生地を提案している。特にラグジュアリーブランドから評判が良く、「なんじゃこりゃ」「これはデニムなのか」という触り心地の生地を提案している。

WWD:織りにくい生地を織るのは熟練技が必要だ。どのように技術をつなげているのか。

篠原:当社もちょうど技術を引き継ぐタイミングにある。これまで「見て覚える」「手を動かしてみる」といった感覚的な方法で技術を継承してきたが、動画を撮影してマニュアル化しているところだ。中学卒業後に入社して現在74歳のベテランスタッフが機械を動かす様子や機械のメンテナンスや改造の方法を記録している。現場の技術は日々進化するし、改善が必要になってきているので技術のマニュアル化は必須だ。

WWD:自社の生産工程から生まれる残糸や端材を用いて靴下や手袋、ニットキャップやバブーシュやハンドバッグなどを提案する「シノテックス(SINOTEX)」ブランドを19年に始動した。

篠原:例えば靴下の編立は福山の老舗ニットメーカーに依頼するなど、地元企業と協働することで福山市にさまざまな技術が集積していることを訴求している。人と人がつながり、企業と企業がつながることで新たな価値を生み出したい。自社ECサイトや地元の百貨店、福山や広島の雑貨店などに卸していて、お土産的に販売している。

WWD:残糸や端材の活用以外でのサステナビリティの取り組みと成果は?

篠原:定番のデニム生地をアメリカ産のリジェネラティブコットン糸(環境再生型農業で栽培された綿糸)に変えた。欧州基準で戦うために現在GOTS認証を申請中だ。リサイクルポリエステル糸を用いたデニム生地の開発にも力を入れているが、先日出展した欧州の素材見本市では反応がいまいちで、強味の「テンセル」、カシミヤやシルクなどセルロース系繊維の反応が良かった。

工場の省エネ化も進めており、LEDへの切り替えや太陽光パネルの設置、省エネタイプの機械への切り替えなどで電気使用量は2018年に比べて約30%削減できた。近年特に電気料金も上がってきているのでコストにも効いている。

WWD:異業種・行政・教育機関との連携について、何を目指しどのように連携しているのか。

篠原:目的は福山市がデニムの町だという認知度を高めること。現在の市民の認知度は42.6%で、タオルで知られる今治ならばほぼ100%だろう。認知度を上げるために大学や高校に出向きデニムについて伝えたり小学校の工場見学を受け入れたりしている。結果は10~20年後になるが、地道な活動を重ねることで就職先の選択肢にデニム産業を残したいと考えている。こうした活動を続けると地元でマルシェに出店すると「デニム屋さんだ」となり、やり続けることでデニムファンを増やせていると感じる。

行政とは福山市が「備中備後はデニムの産地」をPRするために16年に始動した「備中備後ジャパンデニムプロジェクト」を軸に、福山の企業の成長や人材確保の取り組みを支援するための「グリーンな企業プラットフォーム事業」に参画したり、福山市と一緒に一般家庭のジーンズの回収リサイクルプロジェクトを行ったりしている。市役所や商業施設、ガソリンスタンドや銀行など市内6カ所で回収したジーンズを反毛(はんもう)して新たな生地にしてバッグにしたりしている。企業から声がかかり、「ネームプレートにしたい」という話もある。

WWD:回収から再生産する事業は手間がかかり事業として成立させるには難易度が高そうだが。

篠原:部分使いであればコストに見合う。例えば企業の制服の一部に使用し回収の取り組みに賛同してもらうなど、デニムを福山市内で循環させることで、地元での認知を高めることが目的にある。回収拠点が町中にあることで福山市がデニムの町であることを訴求できる。また「つくる責任、つかう責任、回収も日本一」になれば、一般の方にもデニムの町だという認知が広がるのではないか。

WWD:工場見学について、地元小学校の受け入れだけでなく多くの事業者も受け入れている。

篠原:バイヤーさんを対象とした工場見学ツアーは昨年30~40回ほど実施した。またスノーピークが日本各地のものづくりや文化を継承することを目的に始めた「ローカル ウエア ツーリズム」とも協働している。

WWD:2023年のG7広島サミットの「サミットバッグ」に採用された。

篠原:広島県織物工業会が製作した。企画はディスカバーリンクせとうち、染色は坂本デニム、撚糸は備後撚糸、織りは当社に加えてカイハラと中国紡績織が行い、縫製は大江被服とC2が手掛けた。福山は市内で生地から製品まで作ることができる。そのほか、福山市内に6軒の医療施設を運営する医療法人徹慈会と制服づくりも始めている。当社とカイハラが素材提供をして縫製はC2が手掛ける予定だ。

また、産婦人科から退院のお祝いに提供するマザーズバッグをデニムでつくりたいという要望があるなど、今まで声がかからなかったところからも依頼があり、地道な活動の成果が見えてきている。

WWD:現在の課題は?

篠原:福山市でデニムを盛り上げるための連携はあるが、サプライチェーン全体の足並みをそろえるのが難しいとも感じている。福山市は素材や技術の町で製品ブランドが少なく、一般の人への訴求が難しい。そんな中で小売店との協働は直接生活者に届けられる一つの方法だと感じている。例えば、松屋銀座が日本のものづくりを紹介する「東京クリエイティブサロン」で紹介いただいたり、広島市拠点のセレクトショップで東京にも店舗を持つアクセが産地デニムブランド「ジャパンデニム」を立ち上げ、販売していただいたり。ただ、地元福山でも盛り上がりを作りたいので、BtoB向けの事業者が多い中でどのような仕組みにするのかを地元の地域商社などと検討しているところだ。

WWD:地域として目指すところは?

篠原:地域指名で来てくれる人が増えること。例えばシャンパーニュのシャンパン、今治のタオルといったように、業界内はもちろん一般での認知度を上げたい。

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産地×デザイナーの「ジャパンデニム」好調 ギンザシックス4階の月坪売上高150~200万円

セレクトショップのパリゴを手掛けるアクセ(広島県尾道市、髙垣孝久社長)が力を入れる「ジャパンデニム(JAPAN DENIM)」 が好調だ。2023年3月にギンザシックス4階に開いた旗艦店は売り場面積が11.6坪ながら年間約2億円を売り上げる。店頭には常時約10ブランドと協業したアイテムが20型程度並び、価格帯はジーンズが2万円台中盤~3万円台前半、デザインスカートが3~5万円、デザインジャケットが4~8万円。客単価は約6万円、月坪売上高は150~200万円と好調だ。特に訪日外国人の来店が多くその比率は65~80%で、中でも中国からが最も多く訪日外国人全体の35~40%を占める。中国向けには中国版インスタグラム「REDBOOK」にオフィシャルアカウントを作り情報を配信している。

「ジャパンデニム」は広島県福山市が16年に「備中備後はデニムの産地」をPRするために始動した「備中備後ジャパンデニムプロジェクト」の一環で、同産地を拠点にするアクセが2018年に始動。福山市と岡山県井原市を中心とする備中備後地域で生産されるデニム生地を用い、同地域の縫製・加工業者と国内外のデザイナーとを組み合わせて世界に発信するもの。製品には各工程の工場名を明記してトレーサビリティを担保するほか、環境に配慮した素材や染色方法などにもこだわる。

現在の販路はギンザシックス店を除くパリゴ店頭とアクセのECサイトでギンザシックスの旗艦店と合わせると年間約3億円を売り上げる。好調の理由を「ジャパンデニム」のディレクターを務める高垣道夫アクセ専務取締役は「海外のお客さまは日本製デニムの付加価値を感じている。また、ブランドとのものづくりを進める中でブランド側にフィードバックを重ねて試行錯誤しながら、売れるデザインデニムづくりを目指している。結果的に1シーズンで消費されないデザインになり、シーズンを超えて売れ続けている」と胸を張る。パリゴはラグジュアリーからデザイナーズまで国内外のブランドを30年以上扱ってきており、デザイナーとのネットワークや店頭で動くアイテムなどのノウハウがある。

下げ札に事業者名を書いたことで新たな商売が始まっているという。「ブランドから直接生地や縫製工場にオーダーが入ったり、外国人からの問い合わせが増えていたりと聞く」と髙垣ディレクター。「プロジェクトを始めた理由は世界に誇れるデニム産地“備中備後エリア”の認知度を高めること。実は僕自身も詳しくは知らなかった。バイヤーとして各国のラグジュアリーブランドやデザイナーズブランドを買い付ける中で、デニムの多くが日本製であることを知った。さらにその多くが備中備後産地で作られていた。生産者は守秘義務で訴求できない理由を知り、直接世界に誇れる技術を訴求したいと始めて、少しずつ成果が出てきた」と手ごたえを話す。

今後は「国内の複数の商業施設から出店オファーがあるので、積極的に出店する。立ち上げ間もなくコロナ禍に入り海外への卸を止めていたが再開する。越境ECも計画中だ」と意気込む。

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産地×デザイナーの「ジャパンデニム」好調 ギンザシックス4階の月坪売上高150~200万円

セレクトショップのパリゴを手掛けるアクセ(広島県尾道市、髙垣孝久社長)が力を入れる「ジャパンデニム(JAPAN DENIM)」 が好調だ。2023年3月にギンザシックス4階に開いた旗艦店は売り場面積が11.6坪ながら年間約2億円を売り上げる。店頭には常時約10ブランドと協業したアイテムが20型程度並び、価格帯はジーンズが2万円台中盤~3万円台前半、デザインスカートが3~5万円、デザインジャケットが4~8万円。客単価は約6万円、月坪売上高は150~200万円と好調だ。特に訪日外国人の来店が多くその比率は65~80%で、中でも中国からが最も多く訪日外国人全体の35~40%を占める。中国向けには中国版インスタグラム「REDBOOK」にオフィシャルアカウントを作り情報を配信している。

「ジャパンデニム」は広島県福山市が16年に「備中備後はデニムの産地」をPRするために始動した「備中備後ジャパンデニムプロジェクト」の一環で、同産地を拠点にするアクセが2018年に始動。福山市と岡山県井原市を中心とする備中備後地域で生産されるデニム生地を用い、同地域の縫製・加工業者と国内外のデザイナーとを組み合わせて世界に発信するもの。製品には各工程の工場名を明記してトレーサビリティを担保するほか、環境に配慮した素材や染色方法などにもこだわる。

現在の販路はギンザシックス店を除くパリゴ店頭とアクセのECサイトでギンザシックスの旗艦店と合わせると年間約3億円を売り上げる。好調の理由を「ジャパンデニム」のディレクターを務める高垣道夫アクセ専務取締役は「海外のお客さまは日本製デニムの付加価値を感じている。また、ブランドとのものづくりを進める中でブランド側にフィードバックを重ねて試行錯誤しながら、売れるデザインデニムづくりを目指している。結果的に1シーズンで消費されないデザインになり、シーズンを超えて売れ続けている」と胸を張る。パリゴはラグジュアリーからデザイナーズまで国内外のブランドを30年以上扱ってきており、デザイナーとのネットワークや店頭で動くアイテムなどのノウハウがある。

下げ札に事業者名を書いたことで新たな商売が始まっているという。「ブランドから直接生地や縫製工場にオーダーが入ったり、外国人からの問い合わせが増えていたりと聞く」と髙垣ディレクター。「プロジェクトを始めた理由は世界に誇れるデニム産地“備中備後エリア”の認知度を高めること。実は僕自身も詳しくは知らなかった。バイヤーとして各国のラグジュアリーブランドやデザイナーズブランドを買い付ける中で、デニムの多くが日本製であることを知った。さらにその多くが備中備後産地で作られていた。生産者は守秘義務で訴求できない理由を知り、直接世界に誇れる技術を訴求したいと始めて、少しずつ成果が出てきた」と手ごたえを話す。

今後は「国内の複数の商業施設から出店オファーがあるので、積極的に出店する。立ち上げ間もなくコロナ禍に入り海外への卸を止めていたが再開する。越境ECも計画中だ」と意気込む。

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米「オールバーズ」、「世界初」の二酸化炭素排出量ゼロシューズを限定発売 再生型農場と取り組み

米サンフランシスコ発のフットウエアブランドで、日本では2024年6月からゴールドウインが独占販売する「オールバーズ(ALLBIRDS)」は、「世界初」というネット・ゼロカーボン・シューズの“ムーンショットゼロ(M0.0NSHOT Zero)”(3万5200円)を開発した。日本では4月5日に、同ブランドの東京・丸の内店限定で発売する。

“ムーンショットゼロ”は、素材選定、製造、輸送、廃棄までの製品の一連の流れにおいて、二酸化炭素換算排出量ゼロを達成した。ニットアッパーには、農場全体の二酸化炭素排出量に対し、同吸収量が2倍という再生型農場に由来するメリノウールを使用。カーボンネガティブな(=二酸化炭素排出量の方が吸収量よりも少ない)メリノウールを使うのはブランドとして初めてという。メタン由来のバイオプラスチックでできた装飾ボタン、サトウキビ由来のポリエチレンのパッケージもカーボンネガティブ。ミッドソール、アウトソールには、従来から採用している、サトウキビ由来のカーボンネガティブなEVAフォームを使用した。輸送にはバイオ燃料の船便を利用している。

日本のほか、ニューヨーク、ロンドン、ドバイ、ソウルの店舗で扱い、日本以外は既に発売済み。全世界で500足限定で、うち日本では75足を販売する。「発売時はどの都市でも行列ができた。特にドバイでの引き合いが高かった」(マーケティング担当者)という。

今後のカギは
他のシューズにいかに広げるか

「オールバーズ」は「ビジネスの力で気候変動を逆転させる」ことをミッションとして掲げている。計測を始めた20年のカーボンフットプリントに対し、25年は50%削減、30年までにカーボンフットプリントゼロを目標としている。23年時点で20年に対し40%の削減を達成したといい、「目標に対し前倒しで進行できている」と、ゴールドウインの西田幸平オールバーズ事業部長。

今後、ブランドが目標とするカーボンフットプリントゼロを達成するために、“ムーンショットゼロ”はマイルストーンとなる商品だという。「“ムーンショットゼロ”で採用した再生型農業の取り組みなどを、どう他のシューズにも広げていくかがカギ。“ムーンショットゼロ”は、今後の商品開発におけるDNAになる」という。

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米「オールバーズ」、「世界初」の二酸化炭素排出量ゼロシューズを限定発売 再生型農場と取り組み

米サンフランシスコ発のフットウエアブランドで、日本では2024年6月からゴールドウインが独占販売する「オールバーズ(ALLBIRDS)」は、「世界初」というネット・ゼロカーボン・シューズの“ムーンショットゼロ(M0.0NSHOT Zero)”(3万5200円)を開発した。日本では4月5日に、同ブランドの東京・丸の内店限定で発売する。

“ムーンショットゼロ”は、素材選定、製造、輸送、廃棄までの製品の一連の流れにおいて、二酸化炭素換算排出量ゼロを達成した。ニットアッパーには、農場全体の二酸化炭素排出量に対し、同吸収量が2倍という再生型農場に由来するメリノウールを使用。カーボンネガティブな(=二酸化炭素排出量の方が吸収量よりも少ない)メリノウールを使うのはブランドとして初めてという。メタン由来のバイオプラスチックでできた装飾ボタン、サトウキビ由来のポリエチレンのパッケージもカーボンネガティブ。ミッドソール、アウトソールには、従来から採用している、サトウキビ由来のカーボンネガティブなEVAフォームを使用した。輸送にはバイオ燃料の船便を利用している。

日本のほか、ニューヨーク、ロンドン、ドバイ、ソウルの店舗で扱い、日本以外は既に発売済み。全世界で500足限定で、うち日本では75足を販売する。「発売時はどの都市でも行列ができた。特にドバイでの引き合いが高かった」(マーケティング担当者)という。

今後のカギは
他のシューズにいかに広げるか

「オールバーズ」は「ビジネスの力で気候変動を逆転させる」ことをミッションとして掲げている。計測を始めた20年のカーボンフットプリントに対し、25年は50%削減、30年までにカーボンフットプリントゼロを目標としている。23年時点で20年に対し40%の削減を達成したといい、「目標に対し前倒しで進行できている」と、ゴールドウインの西田幸平オールバーズ事業部長。

今後、ブランドが目標とするカーボンフットプリントゼロを達成するために、“ムーンショットゼロ”はマイルストーンとなる商品だという。「“ムーンショットゼロ”で採用した再生型農業の取り組みなどを、どう他のシューズにも広げていくかがカギ。“ムーンショットゼロ”は、今後の商品開発におけるDNAになる」という。

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ステラ・マッカートニーと日本の高校生から聞いた 「自分が正しいと思うこと」の伝え方

「WWDJAPAN」ポッドキャストの「サステナブルファッション・トーク」は、ファッション業界のサステナビリティに関する最新ニュースやトレンドをざっくばらんにお話しする番組です。本番組では、サステナビリティ担当記者木村和花がホストを務め、「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクター向千鶴とともにお届けします。

今回は2025-26年秋冬ミラノ・ファッション・ウイークや最近の東京でのイベントについて振り返ります。今シーズンのランウェイには、毛足の長い人工ファーやシアリング使いの服がたくさん登場しました。一見ではリアルか人工か見分けもつかないこれらの素材使いはサステナビリティ観点から見てどう解釈したらよいのか?来日したデザイナー、ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)へのインタビューの感想を交え、迷いながら自分の考えを話します。イベントで出会った誠実な高校生との対話や、「CFCL」の展覧会のオープニングなど日々の取材の中で見つけた視点もシェアします。



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ステラ・マッカートニーと日本の高校生から聞いた 「自分が正しいと思うこと」の伝え方

「WWDJAPAN」ポッドキャストの「サステナブルファッション・トーク」は、ファッション業界のサステナビリティに関する最新ニュースやトレンドをざっくばらんにお話しする番組です。本番組では、サステナビリティ担当記者木村和花がホストを務め、「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクター向千鶴とともにお届けします。

今回は2025-26年秋冬ミラノ・ファッション・ウイークや最近の東京でのイベントについて振り返ります。今シーズンのランウェイには、毛足の長い人工ファーやシアリング使いの服がたくさん登場しました。一見ではリアルか人工か見分けもつかないこれらの素材使いはサステナビリティ観点から見てどう解釈したらよいのか?来日したデザイナー、ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)へのインタビューの感想を交え、迷いながら自分の考えを話します。イベントで出会った誠実な高校生との対話や、「CFCL」の展覧会のオープニングなど日々の取材の中で見つけた視点もシェアします。



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「トッズ」がデジタルプロダクトパスポートの適用を拡大、限定コンテンツやサービスも利用可能に

 「トッズ(TOD’S)」は、製品のトレーサビリティに関するデータを包括的に管理するデジタルプロダクトパスポート(DPP)を、“マイ ゴンミーノ”コレクションにも適用する。カスタマイズ製品の“ディーアイ バッグ”に続く導入となる。

“マイ ゴンミーノ”はブランドのアイコンであるドライビングシューズをパーソナライズできるサービス。DPP導入により、顧客は右足のソールに埋め込まれたNFCチップをスキャンし、製品の登録や所有権の主張などを自身のスマートフォンで行える。また、真贋証明書にもアクセス可能だ。

このDPPにはストーリーテリングなどの要素も登録されており、顧客はモカシン製作に携わる職人や職人技、品質に関する情報を得ることができる。さらに所有書のバーコードをトッズの店舗でスキャンすることで顧客データベースとも連携でき、ワンランク上の店舗体験が楽しめるほか、延長保証や専任の顧客アドバイザー、限定イベントなども利用可能になる。

今回のDPPは、オーラ ブロックチェーン コンソーシアム(AURA Blockchain Consortium)とテメラ社との協業で実現した。オーラ ブロックチェーン コンソーシアムは、ラグジュアリーブランドがブロックチェーン技術を容易に利用できるようにという目的で設立された非営利団体。50以上のラグジュアリーブランドにおいて、5000万点以上の製品をブロックチェーン上で管理している。一方、テメラ社は原材料の調達から製作、物流、流通、在庫管理、販売、アフターサービス、アップサイクルや使用後のプロセスまで、製品のライフサイクル全般に関連するすべての情報とデータの追跡をサポートしている。

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東京都のファッションデザイナーコンテストNFDTとSFDA 4人の若手がパリ行きを手に

東京都は、世界を舞台に活躍するファッションデザイナーを発掘・育成することを目的に、学生対象としたファッションコンテスト「ネクスト ファッション デザイナー オブ トウキョウ(Next Fashion Designer of Tokyo 2025 以下、NFDT)」および、着物等を活用した「サステナブル ファッション デザイン アワード 2025(Sustainable Fashion Design Award 2025 以下、SFDA)」を開催し、3月29日には六本木ヒルズ 大屋根プラザで最終審査が行われ、ファッションショーおよび審査員によるトークセッション、表彰式が実施された。大賞4名を含む、計16組(18名)が入賞を果たした。大賞には100万円が、優秀賞と特別選抜賞には50万円がそれぞれ賞金として授与された。また、受賞者には創業・ブランド立ち上げをサポートし、パリでの展示会参加などを支援する。

「SFDA」東京都知事賞ウェア部門は野口キララさんが、同ファッショングッズ部門は藤井大将がそれぞれ受賞。野口さんは「納得のいく作品を発表できただけでも十分幸せだったが、このような賞をいただけて嬉しい」とコメント。藤井大将さんは靴について学ぶ人が増え、靴業界が明るくなるきっかけとなれば嬉しい。今日の結果が新たな進歩につながることを願っている」と語った。

「NFDT」東京都知事賞フリー部門は、二宮櫻壽さんが、同インクルーシブデザイン部門は黒田菜々子さんが受賞。二宮さんは「この賞をいただけて光栄。1年間全力で制作してきたが、支えてくれた両親をはじめ、関わってくれたすべての人々に感謝している」と述べた。昨年もエントリーした黒田さんは「昨年の悔しさを、今年の結果で晴らすことができた。一人の力ではなく、先生方や友人、母の支えがあってこそ」と感謝を語った。
すべての発表の後には、小池百合子東京都知事の祝辞が、松本明子副知事によって代読された。祝辞では、「今年で3回目を迎えたNFDTとSFDAにおいて、受賞者の才能が満開の桜とともに花開いた瞬間に立ち会えたことを嬉しく思う。東京を世界有数のファッション都市とするため、未来を担うデザイナーの育成と支援を今後も続けていく」と力強いメッセージが送られた。

NFDT審査員長の日比野克彦東京藝術大学長/岐阜県美術館長/熊本市現代美術館長/東京都芸術文化評議会評議員は、「インクルーシブ部門やフリー部門では、新たな素材に刺激を受ける作品が多くあった。技術が進化する中で、若手が東京都を盛り上げてくれることを期待したい」と激励。NFDT副審査員長の原由美子ファッションディレクターは「70年代からファッションに携わってきたが、近年はインクルーシブやサステナブルといった新しい視点が加わっている。参加者はいずれも真剣に考え、自分にしかできないことを追求しており、感激した」と振り返った。

SFDA審査員長のノルベール・ルレLVMHモエヘネシー・ルイヴィトン・ジャパン合同会社社長は、「長年業界に関わってきたが、未来は明るいと実感できた。若さと未来を感じることができる場に立ち会えたことを光栄に思う。これからも若者を応援していきたい」、SFDA副審査員長の篠原ともえデザイナー/アーティストは、「大賞を受賞した二人の言葉が特に印象的だった。服づくりは一人ではできないということを、感謝の言葉からあらためて感じた。観客やスタッフの皆さまにも深く感謝を申し上げたい」としめくくった。

〈NFDT審査員〉
日比野克彦:東京藝術大学長/岐阜県美術館長/熊本市現代美術館長/東京都芸術文化評議会評議員(審査員長)
原由美子 :ファッションディレクター(副審査員長)
森永邦彦 :ANREALAGEデザイナー
高橋悠介 :株式会社CFCL/代表兼クリエイティブディレクター
向千鶴  :WWDJAPANサステナビリティディレクター
橋本航平 :株式会社三越伊勢丹 伊勢丹新宿店リ・スタイル バイヤー
織田友理子:NPO法人ウィーログ代表理事/NPO法人PADM代表(インクルーシブデザイン部門のみ)
山口大人 :一般社団法人日本アダプティブファッション協会理事(インクルーシブデザイン部門のみ)

〈SFDA審査員〉
ノルベール・ルレ:LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン・ジャパン合同会社社長(審査員長)
篠原ともえ   :デザイナー/アーティスト(副審査委員長)
石田栄莉子   :MALION vintageデザイナー
志鎌英明    :Children of the discordanceデザイナー ※当日欠席
大田由香梨   :LIFESTYLIST/クリエイティブディレクター
小湊千恵美   :FASHIONSNAPファッションディレクター
中西祥子    :株式会社三越伊勢丹 第2MDグループ/新宿 宝飾時計・雑貨商品部 婦人靴バイヤー
小泉文明    :株式会社メルカリ取締役会長/株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー代表取締役社長/公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)非常勤理事※当日欠席(事前に審査済み)

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万博・関西パビリオンの制服は藍染め「BUAISOU」がデザイン 徳島・上勝町の杉の間伐材を素材に

大阪・関西万博の関西パビリオンは、杉の間伐材から生まれた新素材「キノフ(KINOF)」を採用し、天然染料「阿波藍(あわあい)」で染めたユニホームを採用した。徳島県で生産される天然染料「阿波藍」はその深い青から「ジャパンブルー」としても知られ、2020年東京オリンピックのエンブレムにも採用されている。

今回のユニホームは、藍師・染師集団「ぶあいそう(BUAISOU)」がデザインおよび染色を手がけた。「キノフ」は、ゼロウェイストの取り組みで知られる徳島県上勝町で誕生した新しいファブリックブランド。日本建築に用いられる杉の間伐材から繊維を抽出している。藍染めの法被に描かれた絵柄は鯛の躍動感と、上勝の自然を融合しており、徳島の自然から感じ取る生命やその精神性を表現しているという。

制作者は「デザインには、踊っているのか、それとも外へ飛び出そうとしているのか、さまざまな解釈が可能な大きな鯛を登場させた。鯛は大きければ大きいほど『めでたい』とされる象徴的な存在。小さいうちは群れで行動するが、成魚になると単独で生きてゆく。また、夏に阿波おどりが始まると、徳島県民は必ず帰ってくるという話がある。これは、徳島ならではの美しい風景だと思う。藍の魅力は、実際に目の前で体験しなければ伝わりにくいもので、阿波おどりや鳴門の渦潮にも共通する部分がある。万博だけでなく、徳島にも足を運んでいただきたいという願いを込めた」とコメントしている。

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万博・関西パビリオンの制服は藍染め「BUAISOU」がデザイン 徳島・上勝町の杉の間伐材を素材に

大阪・関西万博の関西パビリオンは、杉の間伐材から生まれた新素材「キノフ(KINOF)」を採用し、天然染料「阿波藍(あわあい)」で染めたユニホームを採用した。徳島県で生産される天然染料「阿波藍」はその深い青から「ジャパンブルー」としても知られ、2020年東京オリンピックのエンブレムにも採用されている。

今回のユニホームは、藍師・染師集団「ぶあいそう(BUAISOU)」がデザインおよび染色を手がけた。「キノフ」は、ゼロウェイストの取り組みで知られる徳島県上勝町で誕生した新しいファブリックブランド。日本建築に用いられる杉の間伐材から繊維を抽出している。藍染めの法被に描かれた絵柄は鯛の躍動感と、上勝の自然を融合しており、徳島の自然から感じ取る生命やその精神性を表現しているという。

制作者は「デザインには、踊っているのか、それとも外へ飛び出そうとしているのか、さまざまな解釈が可能な大きな鯛を登場させた。鯛は大きければ大きいほど『めでたい』とされる象徴的な存在。小さいうちは群れで行動するが、成魚になると単独で生きてゆく。また、夏に阿波おどりが始まると、徳島県民は必ず帰ってくるという話がある。これは、徳島ならではの美しい風景だと思う。藍の魅力は、実際に目の前で体験しなければ伝わりにくいもので、阿波おどりや鳴門の渦潮にも共通する部分がある。万博だけでなく、徳島にも足を運んでいただきたいという願いを込めた」とコメントしている。

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“持続可能な製品”の大賞は能登のジャムと鎌倉のコーヒー豆 ソーシャルプロダクツ・アワード2025が発表

持続可能な社会の実現に向け、社会性と製品性の両面を評価するソーシャルプロダクツ・アワード(以下、SPA)はこのほど、2025年度の受賞製品を発表した。本年度のテーマである「令和6年度能登半島地震からの震災復興につながる商品・サービス」の大賞には石川県能登町でブルーベリーを栽培するひらみゆき農園のジャム「ごろごろ果実の能登ブルーベリー」が受賞。毎年共通の「自由テーマ」である「生活者が『持続可能な社会』づくりに参加できる商品・サービス」は、企業(三本珈琲、国分首都圏)・市民(鎌倉エシカルラボ)・行政(鎌倉市)が協働で展開する珈琲豆「鎌倉焙煎珈琲 フェアトレードかまくらブレンド」が賞を勝ち取った。

SPAは東日本大震災をきっかけに持続可能な社会の実現に向けて2012年にスタート。対象は生活者が購入可能なソーシャルプロダクツで、食品や住宅、旅行、金融製品などジャンルを問わない。審査員が製品・サービスの社会性、製品性、ストーリーを応募書類と実物から審査する。大賞、優秀賞、生活者審査員賞、環境大臣特別賞、審査員特別賞、ソーシャルプロダクツ賞を年度・自由テーマごとに選定する。

年度テーマで大賞を受賞した「ごろごろ果実の能登ブルーベリー」の平美由記ひらみゆき農園代表は「ブルーベリーは生で出荷できる時期が6〜8月と短い。それ以外でもブルーベリーを味わってほしいとジャムを17年から手がけている。ブルーベリーは、年間で1トン8000キログロムの収穫量があるが、そのうち約4割が規格外になる。それを活用して作っている。農園は高齢化が進んでいるが、私たち若手メンバーが産地を守っていきたいという思いが評価されてうれしい」とコメントした。

自由テーマの大賞「鎌倉焙煎珈琲 フェアトレードかまくらブレンド」の岩渕泰行・三本珈琲品質管理室課長兼研究・開発室は、「2050年に気候変動によりアラビカ種のコーヒー栽培適地が現在の50%にまで減少するという“コーヒーの2050年問題”がある。価格が高騰したり、美味しいコーヒーが飲めなくなったりすることを解決するための一つの手段として、全国に販路を持つ国分首都圏、鎌倉市のサポートにより24年8月にフェアトレード認証農園から調達したコーヒー豆を発売した。コーヒーを1杯飲むことで鎌倉市の緑地保全にも貢献できる仕組みも作っている。こうした3者連携に評価を得られた」と語った。

年度テーマ・自由テーマの生活者審査員賞には伊藤園のとろみつきのユニバーサルデザイン緑茶飲料「とろり緑茶」、ウテナの高知県北川村のゆずの種から抽出したオイルを配合したヘアケアシリーズ「ゆず油」シリーズが受賞。優秀賞は自由テーマのみで、デンソーの地域情報サービス「ライフビジョン」が選ばれた。年度テーマ・自由テーマの環境大臣特別賞に加賀木材の能登ヒバの端材を使用した100%天然成分のエッセンシャルウォーター「ノトヒバカラ エッセンシャルウォーター」、スリーピングトーキョーの国産有機大豆100%を使用した大豆ミート「ラベジ オーガニック」。ソーシャルプロダクツ賞はトヨクモの緊急時の安否確認から対策指示まで一括で活用できるシステム「安否確認サービス2」、ヘアサロンU+のカラーリング剤のプラスチックキャップをアップサイクルしたヘアブラシ「トク」などが獲得した。

中間玖幸SPA専務理事は「授賞式は毎年開催しているが、そこでは伝えきれない思いがあった。今回初めて製品の背景を発信できる場としてプレゼンの機会を設けた。社会全体にその思いが伝わることを願っている」と語った。

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“持続可能な製品”の大賞は能登のジャムと鎌倉のコーヒー豆 ソーシャルプロダクツ・アワード2025が発表

持続可能な社会の実現に向け、社会性と製品性の両面を評価するソーシャルプロダクツ・アワード(以下、SPA)はこのほど、2025年度の受賞製品を発表した。本年度のテーマである「令和6年度能登半島地震からの震災復興につながる商品・サービス」の大賞には石川県能登町でブルーベリーを栽培するひらみゆき農園のジャム「ごろごろ果実の能登ブルーベリー」が受賞。毎年共通の「自由テーマ」である「生活者が『持続可能な社会』づくりに参加できる商品・サービス」は、企業(三本珈琲、国分首都圏)・市民(鎌倉エシカルラボ)・行政(鎌倉市)が協働で展開する珈琲豆「鎌倉焙煎珈琲 フェアトレードかまくらブレンド」が賞を勝ち取った。

SPAは東日本大震災をきっかけに持続可能な社会の実現に向けて2012年にスタート。対象は生活者が購入可能なソーシャルプロダクツで、食品や住宅、旅行、金融製品などジャンルを問わない。審査員が製品・サービスの社会性、製品性、ストーリーを応募書類と実物から審査する。大賞、優秀賞、生活者審査員賞、環境大臣特別賞、審査員特別賞、ソーシャルプロダクツ賞を年度・自由テーマごとに選定する。

年度テーマで大賞を受賞した「ごろごろ果実の能登ブルーベリー」の平美由記ひらみゆき農園代表は「ブルーベリーは生で出荷できる時期が6〜8月と短い。それ以外でもブルーベリーを味わってほしいとジャムを17年から手がけている。ブルーベリーは、年間で1トン8000キログロムの収穫量があるが、そのうち約4割が規格外になる。それを活用して作っている。農園は高齢化が進んでいるが、私たち若手メンバーが産地を守っていきたいという思いが評価されてうれしい」とコメントした。

自由テーマの大賞「鎌倉焙煎珈琲 フェアトレードかまくらブレンド」の岩渕泰行・三本珈琲品質管理室課長兼研究・開発室は、「2050年に気候変動によりアラビカ種のコーヒー栽培適地が現在の50%にまで減少するという“コーヒーの2050年問題”がある。価格が高騰したり、美味しいコーヒーが飲めなくなったりすることを解決するための一つの手段として、全国に販路を持つ国分首都圏、鎌倉市のサポートにより24年8月にフェアトレード認証農園から調達したコーヒー豆を発売した。コーヒーを1杯飲むことで鎌倉市の緑地保全にも貢献できる仕組みも作っている。こうした3者連携に評価を得られた」と語った。

年度テーマ・自由テーマの生活者審査員賞には伊藤園のとろみつきのユニバーサルデザイン緑茶飲料「とろり緑茶」、ウテナの高知県北川村のゆずの種から抽出したオイルを配合したヘアケアシリーズ「ゆず油」シリーズが受賞。優秀賞は自由テーマのみで、デンソーの地域情報サービス「ライフビジョン」が選ばれた。年度テーマ・自由テーマの環境大臣特別賞に加賀木材の能登ヒバの端材を使用した100%天然成分のエッセンシャルウォーター「ノトヒバカラ エッセンシャルウォーター」、スリーピングトーキョーの国産有機大豆100%を使用した大豆ミート「ラベジ オーガニック」。ソーシャルプロダクツ賞はトヨクモの緊急時の安否確認から対策指示まで一括で活用できるシステム「安否確認サービス2」、ヘアサロンU+のカラーリング剤のプラスチックキャップをアップサイクルしたヘアブラシ「トク」などが獲得した。

中間玖幸SPA専務理事は「授賞式は毎年開催しているが、そこでは伝えきれない思いがあった。今回初めて製品の背景を発信できる場としてプレゼンの機会を設けた。社会全体にその思いが伝わることを願っている」と語った。

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「45R」の「藍職人いろいろ45」NY店開店5カ月、客単価26.6万円・新規客30%で計画通りに推移

フォーティファイブアールピーエムスタジオが手掛ける「藍職人いろいろ45」の海外1号店であるニューヨーク・クロスビーストリート店がオープンから5カ月が経った。「10月24日から3月までの売上高は計画通りに予算をクリアしている。予想外だったのは新規客が30%を占める点で新規ファンを獲得できている」と海外店舗を統括する同社あっぱれ部の栃澤千尋副部長は話す。ニューヨーク店の顧客層は30~50代で日本国内の40~60代よりもやや若く、客単価は1787ドル(約26万6000円)。売れ筋は1232ドル(約18万3000円)のデニムパンツと740ドル(約11万円)のスーピマオーガニックコットンガーゼのクルーネックTシャツで、、50万円を超える製品が並ぶ中ではエントリーアイテムになりつつある。「藍の価値を理解してくださっているお客さまが多い」。

「藍いろいろ職人45」のデリバリーは年に4回と決して多くはないが、コンスタントに売れているという。「新規アイテムがない中でスタッフが店頭での打ち出しを考えて工夫して接客している。その結果、例えば真冬にレザーサンダルが売れている」。

24年3月にオープンした「藍いろいろ職人45」1号店の阪急梅田店は計画比が約130%と好調に推移している。日本での客単価は約15万円で人気アイテムはレースのブラウスだという。

現在、全国の藍染め職人たちと協働して製品づくりに取り組む。藍染めは個体差が魅力でもあるが、人によって持つイメージが異なることは多い。「当社では手仕事が伝わるむら感を大事にしており、そのことは各職人に伝えて意思疎通しながら進めている」と栃澤副部長はいう。現在、フォーティファイブアールピーエムスタジオでは藍の栽培から発酵、染めまで行う職人が社内に1人いる。安定的な生産に向けて「今後は自社職人を増やし、東北にある倉庫に工房を作る計画がある」。

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「45R」の「藍職人いろいろ45」NY店開店5カ月、客単価26.6万円・新規客30%で計画通りに推移

フォーティファイブアールピーエムスタジオが手掛ける「藍職人いろいろ45」の海外1号店であるニューヨーク・クロスビーストリート店がオープンから5カ月が経った。「10月24日から3月までの売上高は計画通りに予算をクリアしている。予想外だったのは新規客が30%を占める点で新規ファンを獲得できている」と海外店舗を統括する同社あっぱれ部の栃澤千尋副部長は話す。ニューヨーク店の顧客層は30~50代で日本国内の40~60代よりもやや若く、客単価は1787ドル(約26万6000円)。売れ筋は1232ドル(約18万3000円)のデニムパンツと740ドル(約11万円)のスーピマオーガニックコットンガーゼのクルーネックTシャツで、、50万円を超える製品が並ぶ中ではエントリーアイテムになりつつある。「藍の価値を理解してくださっているお客さまが多い」。

「藍いろいろ職人45」のデリバリーは年に4回と決して多くはないが、コンスタントに売れているという。「新規アイテムがない中でスタッフが店頭での打ち出しを考えて工夫して接客している。その結果、例えば真冬にレザーサンダルが売れている」。

24年3月にオープンした「藍いろいろ職人45」1号店の阪急梅田店は計画比が約130%と好調に推移している。日本での客単価は約15万円で人気アイテムはレースのブラウスだという。

現在、全国の藍染め職人たちと協働して製品づくりに取り組む。藍染めは個体差が魅力でもあるが、人によって持つイメージが異なることは多い。「当社では手仕事が伝わるむら感を大事にしており、そのことは各職人に伝えて意思疎通しながら進めている」と栃澤副部長はいう。現在、フォーティファイブアールピーエムスタジオでは藍の栽培から発酵、染めまで行う職人が社内に1人いる。安定的な生産に向けて「今後は自社職人を増やし、東北にある倉庫に工房を作る計画がある」。

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ステラ・マッカートニー、サステナに迷い、向き合う次世代に語る責任ある創造

デザイナーのステラ・マッカートニー(Stella McCartney)がこのほど来日し、三越伊勢丹が主催する「三越伊勢丹ミライアワード」に参加した。「三越伊勢丹ミライアワード」は、さまざまな企業から集めた残反などを素材に、服飾学校の学生たちが作品づくりに取り組むアワード企画。2023年に続く2回目の開催となった今年は、エスモード東京校、東京モード学園、文化服装学院の学生らが参加した。

ステラは同アワードの審査員を務めたほか、文化服装学院で開催された特別トークショーにも登壇。浅尾慶一郎環境大臣と近藤詔太・伊勢丹新宿本店店長と共に、サステナビリティに取り組む意義などについて語った。イベントを終えたステラに、若手に期待することや今のファッション産業についての考えを聞いた。

WWD:「三越伊勢丹ミライアワード」に参加した感想は?

ステラ・マッカートニー(以下、ステラ):とても楽しかったわ。学生たちの作品はどれも非常にレベルが高くて、本当に驚いた。彼らがどれだけ真剣に取り組んだのかが、作品を通じてしっかりと伝わってきた。次世代デザイナーの作品を審査する機会はたびたびあるけど、ここまで優秀な作品ばかりのアワードは珍しい。優秀作品を選ぶのが本当に大変だったくらいよ。

WWD:若手のクリエイションを評価する際に大事にしている視点は?

ステラ:創造性とアイデア、パターンカッティングの精度といったテクニック。そしてサステナビリティ。それから、よく学生たちに聞くのは、自分がそれを本当に着たいかどうか。コスチュームではなく、ちゃんと着たいと思うものに仕上げているかは大切だと思う。

責任あるクリエイションこそファッショナブル

WWD:サステナビリティに真面目に取り組もうとするあまり、自分らしいクリエイションを発揮しきれない学生も多い印象だ。

ステラ:サステナビリティがクリエイションの障壁になってはいけないと思う。もちろん、素材のバリエーションには制限があるけど、本来そういう時こそよりクリエイティビティーを発揮するべきだと思う。私でさえいまだに使いたい素材はあっても、デザインを変えなければいけなかったり、欲しい色が実現しなかったり、毎度何かしらの壁にぶつかって奮闘している。でも、どうやったら“マッシュルームレザー“を調達できるか、ペットボトル由来の糸で理想とするボリューミーなニットウエアを作れるか、そういうことを考える工程こそクールでファッショナブルだと思う。

WWD:一方で、サステナビリティを自分ごと化しきれない学生もいる。

ステラ:素材の製造過程で行われていることを知れば、迷いもなくなるんじゃないかしら。たとえば、「こちらのレザーは、牛を殺して人々がガンになるようなリスクのある化学薬品を使いながら作られています。加えて、森林を伐採して作られた穀物は、飢餓に苦しむ人々ではなく、バッグになるための牛の食糧になっています」としか思えない素材と、「こちらの“マッシュルームレザー“は、そうした犠牲がなく作られています」と思える素材。この2つを並べられた状態で前者と後者を迷うなんてありえないと思う。必要なのは、十分な情報と代替素材へのアクセス。そして、サステナブルな選択をしやすくなる法律。昨日環境大臣にお会いした際には、「責任は私でもなく、若手でもなく、行政側にあるのよ」ときちんと伝えたわ。

WWD:トークショーでは、「作る責任との狭間で葛藤しています」と言った悩める学生からの質問が印象的だった。

ステラ:彼らとの交流は楽しかった。私の世代は孤独だったから。今私が実践していることの価値を本当に理解してくれているのは、若い世代の人たちだと感じている。

ショーは見る人が動物と地球への敬意を思い出すきっかけに

WWD:パリで発表したばかりのコレクションでも多くのイノベーティブな代替素材が登場した。

ステラ:スネークレザーのように見える素材は、キノコの菌糸体由来。スパンコールもすべて木材や再生可能なバイオマス原料からできているの。従来のスパンコールは石油やガソリンから作られていて、マイクロプラスチックを発生させるし、分解されないし地球にとっては悪いことばかり。正直、もっと厳しく規制されるべきだと思う。スネークのモチーフを使ったのは、かつて人間が文化の中で、蛇をとても神聖な存在として扱ってきた歴史を祝福する目的もあった。今では残虐に殺されて皮をはがれている蛇もいる。でも昔は蛇を尊敬し、崇拝していた。多くの動物との関係性についても、同じようなことが言える。特に日本人に対して声を大にして言いたいのは、捕鯨は禁止すべきということね。

WWD:近年はショー会場で新聞を配ったり、マルシェを開催したりと、多くの情報を発信しているのは、人々を教育するため?

ステラ:私はただ情報を伝えたいだけなの。動物の命の尊さや、当たり前に使用している素材の環境負荷を少しでも人々に思い出してほしい。そしてそれを美しい形で伝えようと努力している。例えば昨シーズン発表したニットウエアも、誰もあれがペットボトルから作られているなんて分からない。見た人の多くは「すごいデザイン!」って思うだけ。でも、たった一人でもちゃんと読んで、いろんな情報を知ってくれたらそれでいい。誰もやらないのだから、それが私の役割なんだと自覚している。

WWD:特に若い世代には、ステラと考えを共有する人物も多いはず。ファッションや音楽、アートなど今注目している若手はいる?

ステラ:情熱を持って活動している人たちはたくさんいると思う。ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)とかはまさにそうだけど、残念ながらファッション業界の中では本当に少ない。細かくは追えていないけど、若いデザイナーが私と同じような視点を持っていることは知っているし、これからの産業にはそういう人たちにあふれてほしいと願っているわ。

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ステラ・マッカートニー、サステナに迷い、向き合う次世代に語る責任ある創造

デザイナーのステラ・マッカートニー(Stella McCartney)がこのほど来日し、三越伊勢丹が主催する「三越伊勢丹ミライアワード」に参加した。「三越伊勢丹ミライアワード」は、さまざまな企業から集めた残反などを素材に、服飾学校の学生たちが作品づくりに取り組むアワード企画。2023年に続く2回目の開催となった今年は、エスモード東京校、東京モード学園、文化服装学院の学生らが参加した。

ステラは同アワードの審査員を務めたほか、文化服装学院で開催された特別トークショーにも登壇。浅尾慶一郎環境大臣と近藤詔太・伊勢丹新宿本店店長と共に、サステナビリティに取り組む意義などについて語った。イベントを終えたステラに、若手に期待することや今のファッション産業についての考えを聞いた。

WWD:「三越伊勢丹ミライアワード」に参加した感想は?

ステラ・マッカートニー(以下、ステラ):とても楽しかったわ。学生たちの作品はどれも非常にレベルが高くて、本当に驚いた。彼らがどれだけ真剣に取り組んだのかが、作品を通じてしっかりと伝わってきた。次世代デザイナーの作品を審査する機会はたびたびあるけど、ここまで優秀な作品ばかりのアワードは珍しい。優秀作品を選ぶのが本当に大変だったくらいよ。

WWD:若手のクリエイションを評価する際に大事にしている視点は?

ステラ:創造性とアイデア、パターンカッティングの精度といったテクニック。そしてサステナビリティ。それから、よく学生たちに聞くのは、自分がそれを本当に着たいかどうか。コスチュームではなく、ちゃんと着たいと思うものに仕上げているかは大切だと思う。

責任あるクリエイションこそファッショナブル

WWD:サステナビリティに真面目に取り組もうとするあまり、自分らしいクリエイションを発揮しきれない学生も多い印象だ。

ステラ:サステナビリティがクリエイションの障壁になってはいけないと思う。もちろん、素材のバリエーションには制限があるけど、本来そういう時こそよりクリエイティビティーを発揮するべきだと思う。私でさえいまだに使いたい素材はあっても、デザインを変えなければいけなかったり、欲しい色が実現しなかったり、毎度何かしらの壁にぶつかって奮闘している。でも、どうやったら“マッシュルームレザー“を調達できるか、ペットボトル由来の糸で理想とするボリューミーなニットウエアを作れるか、そういうことを考える工程こそクールでファッショナブルだと思う。

WWD:一方で、サステナビリティを自分ごと化しきれない学生もいる。

ステラ:素材の製造過程で行われていることを知れば、迷いもなくなるんじゃないかしら。たとえば、「こちらのレザーは、牛を殺して人々がガンになるようなリスクのある化学薬品を使いながら作られています。加えて、森林を伐採して作られた穀物は、飢餓に苦しむ人々ではなく、バッグになるための牛の食糧になっています」としか思えない素材と、「こちらの“マッシュルームレザー“は、そうした犠牲がなく作られています」と思える素材。この2つを並べられた状態で前者と後者を迷うなんてありえないと思う。必要なのは、十分な情報と代替素材へのアクセス。そして、サステナブルな選択をしやすくなる法律。昨日環境大臣にお会いした際には、「責任は私でもなく、若手でもなく、行政側にあるのよ」ときちんと伝えたわ。

WWD:トークショーでは、「作る責任との狭間で葛藤しています」と言った悩める学生からの質問が印象的だった。

ステラ:彼らとの交流は楽しかった。私の世代は孤独だったから。今私が実践していることの価値を本当に理解してくれているのは、若い世代の人たちだと感じている。

ショーは見る人が動物と地球への敬意を思い出すきっかけに

WWD:パリで発表したばかりのコレクションでも多くのイノベーティブな代替素材が登場した。

ステラ:スネークレザーのように見える素材は、キノコの菌糸体由来。スパンコールもすべて木材や再生可能なバイオマス原料からできているの。従来のスパンコールは石油やガソリンから作られていて、マイクロプラスチックを発生させるし、分解されないし地球にとっては悪いことばかり。正直、もっと厳しく規制されるべきだと思う。スネークのモチーフを使ったのは、かつて人間が文化の中で、蛇をとても神聖な存在として扱ってきた歴史を祝福する目的もあった。今では残虐に殺されて皮をはがれている蛇もいる。でも昔は蛇を尊敬し、崇拝していた。多くの動物との関係性についても、同じようなことが言える。特に日本人に対して声を大にして言いたいのは、捕鯨は禁止すべきということね。

WWD:近年はショー会場で新聞を配ったり、マルシェを開催したりと、多くの情報を発信しているのは、人々を教育するため?

ステラ:私はただ情報を伝えたいだけなの。動物の命の尊さや、当たり前に使用している素材の環境負荷を少しでも人々に思い出してほしい。そしてそれを美しい形で伝えようと努力している。例えば昨シーズン発表したニットウエアも、誰もあれがペットボトルから作られているなんて分からない。見た人の多くは「すごいデザイン!」って思うだけ。でも、たった一人でもちゃんと読んで、いろんな情報を知ってくれたらそれでいい。誰もやらないのだから、それが私の役割なんだと自覚している。

WWD:特に若い世代には、ステラと考えを共有する人物も多いはず。ファッションや音楽、アートなど今注目している若手はいる?

ステラ:情熱を持って活動している人たちはたくさんいると思う。ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)とかはまさにそうだけど、残念ながらファッション業界の中では本当に少ない。細かくは追えていないけど、若いデザイナーが私と同じような視点を持っていることは知っているし、これからの産業にはそういう人たちにあふれてほしいと願っているわ。

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廃棄予定の制服など活用 地域色豊かな衣装のリカちゃんが来館者をお出迎え 東急ステイ31施設

東急リゾーツ&ステイは、3月26日から6月18日まで、全国で運営するアパートメントホテル「東急ステイ」全31施設において、タカラトミーの着せ替え人形「リカちゃん」とのコラボレーションによる体験プロジェクト「Color Your STAY with Licca」を開催する。

本プロジェクトは、「ホテル×アップサイクル×リカちゃん」をテーマに、全国31施設それぞれにおいて、その地域ならではの特性を反映した衣装をまとったリカちゃんが来館者を迎える。素材には、入れ替えにより使用されなくなった同社の制服や制作者が着なくなった服などを活用している。展示されるのは、北海道から沖縄まで各地域をイメージして制作された31種類の“アップサイクル”衣装を着用したリカちゃんだ。制作は、コミュニティNewMakeの会員であるクリエイターが担当した。

また、サステナブルな視点を学ぶことができる体験型プログラムも実施予定。廃材を活用したリカちゃんの衣装をデザインする体験や、施設のイメージに合わせた地域クリエイターとのコラボレーション企画などが予定されている。プロジェクトは、宿泊者に限らず一般来館者も無料で参加可能。

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廃棄予定の制服など活用 地域色豊かな衣装のリカちゃんが来館者をお出迎え 東急ステイ31施設

東急リゾーツ&ステイは、3月26日から6月18日まで、全国で運営するアパートメントホテル「東急ステイ」全31施設において、タカラトミーの着せ替え人形「リカちゃん」とのコラボレーションによる体験プロジェクト「Color Your STAY with Licca」を開催する。

本プロジェクトは、「ホテル×アップサイクル×リカちゃん」をテーマに、全国31施設それぞれにおいて、その地域ならではの特性を反映した衣装をまとったリカちゃんが来館者を迎える。素材には、入れ替えにより使用されなくなった同社の制服や制作者が着なくなった服などを活用している。展示されるのは、北海道から沖縄まで各地域をイメージして制作された31種類の“アップサイクル”衣装を着用したリカちゃんだ。制作は、コミュニティNewMakeの会員であるクリエイターが担当した。

また、サステナブルな視点を学ぶことができる体験型プログラムも実施予定。廃材を活用したリカちゃんの衣装をデザインする体験や、施設のイメージに合わせた地域クリエイターとのコラボレーション企画などが予定されている。プロジェクトは、宿泊者に限らず一般来館者も無料で参加可能。

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ティピカが長期固定価格の直接取引でブラジルとコーヒー業界に新市場 ドトールが参画

コーヒー生豆のダイレクトトレードを行うオンラインプラットフォーム「ティピカ ホールディングス(TYPICA HOLDINGS)」は、3月26日に開催された日本・ブラジル経済フォーラムにおいて、長期固定価格によるダイレクトトレードの第一号案件に関する覚書を、両国首脳の立ち会いのもと発表した。ドトールコーヒー、ブラジルでコーヒーの倉庫・品質管理を担うACAUA、同じくブラジルで持続可能な農業向けの土壌ソリューションを提供するFertinutriがパートナーとして参画。ティピカは独自のプライシングモデルと新たなエコシステムの構築を通じ、2030年までに日・ブラジル間で10件、総額1000億円規模の市場創出を目指している。

投機マネーの流入で価格上昇「コーヒー2050年問題」

これまでコーヒー生豆の取引価格は先物市場の国際価格を基準として決定されてきた。しかし、近年は投機マネーの流入が激しく、過去1年間で約112%の価格変動が生じている。こうした価格の不安定さは生産者の収入に直接的な影響を与え、短期的な価格変動への対応が優先される結果、中長期的な視点での品質や生産量の安定が困難となっている。同様に、バイヤーにとっても調達コストの予測が難しくなり、経営の不確実性が増している。これにより、消費者へのコーヒー提供価格の上昇も進行しており、いわゆる「コーヒー2050年問題」を背景に、コーヒー産業全体のサステナビリティが脅かされている。

今回の覚書締結を契機に、ティピカは「世界中の志を同じくする生産者とバイヤーが同社のプラットフォームを通じて、実際のコストおよび付加価値に基づく長期固定価格の新たな枠組みによるダイレクトトレードを推進し、コーヒー取引の品質と経済性を向上させ、持続可能で発展的なコーヒー取引の実現を目指す」としている。

ドトールは年間取扱量の10%、1000トンの取引へ

ドトールはこの取引で年間最大1000トンのコーヒーを最大10年間取り扱う。1000トンは、同社の年間のコーヒー取扱量の10%に相当する。26日に開かれた会見でドトールコーヒーの星野正則社長は、「コーヒー生豆の価格高騰に加え、日本側においては円安による為替の影響もあり、非常に厳しい状況が続いている。今後の見通しも不透明である中、価格の安さだけを追求した品質の低いコーヒーを提供するのではなく、我々の使命はお客様に本当においしいコーヒーを適正な価格で安心して楽しんでいただくこと。その意味で、今回のような取り組みは、有益だ」と話している。

ティピカHDの後藤将CEOは、「ティピカは2019年からコーヒー生産者とロースターをつなぐダイレクトトレードプラットフォームの信頼を地道に築いてきたが、コーヒーの生産と取引は、国や地域によってビジネス習慣や宗教、文化などが大きく異なる非常に複雑な市場。ただオンラインプラットフォームを構築しただけでは機能しない。その中で今回、ドトールコーヒーからの強いコミットメントを得られたことは、大きな前進だ。例えば、『これだけの物量を、これだけの期間で』というような明確な条件があることで、生産者に対しても安定的な需要があることを示すことができた。これは非常に意味のある一歩だ」と話している。

ブラジルで148年続くコーヒー農園Fazenda Amizadeのマルセロ・カイシェタ・バルボサ・パテルノ氏は、「長年コーヒーに携わってきて、自分が知る限り、このような仕組みは世界初だ」とその意義を語っている。

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ティピカが長期固定価格の直接取引でブラジルとコーヒー業界に新市場 ドトールが参画

コーヒー生豆のダイレクトトレードを行うオンラインプラットフォーム「ティピカ ホールディングス(TYPICA HOLDINGS)」は、3月26日に開催された日本・ブラジル経済フォーラムにおいて、長期固定価格によるダイレクトトレードの第一号案件に関する覚書を、両国首脳の立ち会いのもと発表した。ドトールコーヒー、ブラジルでコーヒーの倉庫・品質管理を担うACAUA、同じくブラジルで持続可能な農業向けの土壌ソリューションを提供するFertinutriがパートナーとして参画。ティピカは独自のプライシングモデルと新たなエコシステムの構築を通じ、2030年までに日・ブラジル間で10件、総額1000億円規模の市場創出を目指している。

投機マネーの流入で価格上昇「コーヒー2050年問題」

これまでコーヒー生豆の取引価格は先物市場の国際価格を基準として決定されてきた。しかし、近年は投機マネーの流入が激しく、過去1年間で約112%の価格変動が生じている。こうした価格の不安定さは生産者の収入に直接的な影響を与え、短期的な価格変動への対応が優先される結果、中長期的な視点での品質や生産量の安定が困難となっている。同様に、バイヤーにとっても調達コストの予測が難しくなり、経営の不確実性が増している。これにより、消費者へのコーヒー提供価格の上昇も進行しており、いわゆる「コーヒー2050年問題」を背景に、コーヒー産業全体のサステナビリティが脅かされている。

今回の覚書締結を契機に、ティピカは「世界中の志を同じくする生産者とバイヤーが同社のプラットフォームを通じて、実際のコストおよび付加価値に基づく長期固定価格の新たな枠組みによるダイレクトトレードを推進し、コーヒー取引の品質と経済性を向上させ、持続可能で発展的なコーヒー取引の実現を目指す」としている。

ドトールは年間取扱量の10%、1000トンの取引へ

ドトールはこの取引で年間最大1000トンのコーヒーを最大10年間取り扱う。1000トンは、同社の年間のコーヒー取扱量の10%に相当する。26日に開かれた会見でドトールコーヒーの星野正則社長は、「コーヒー生豆の価格高騰に加え、日本側においては円安による為替の影響もあり、非常に厳しい状況が続いている。今後の見通しも不透明である中、価格の安さだけを追求した品質の低いコーヒーを提供するのではなく、我々の使命はお客様に本当においしいコーヒーを適正な価格で安心して楽しんでいただくこと。その意味で、今回のような取り組みは、有益だ」と話している。

ティピカHDの後藤将CEOは、「ティピカは2019年からコーヒー生産者とロースターをつなぐダイレクトトレードプラットフォームの信頼を地道に築いてきたが、コーヒーの生産と取引は、国や地域によってビジネス習慣や宗教、文化などが大きく異なる非常に複雑な市場。ただオンラインプラットフォームを構築しただけでは機能しない。その中で今回、ドトールコーヒーからの強いコミットメントを得られたことは、大きな前進だ。例えば、『これだけの物量を、これだけの期間で』というような明確な条件があることで、生産者に対しても安定的な需要があることを示すことができた。これは非常に意味のある一歩だ」と話している。

ブラジルで148年続くコーヒー農園Fazenda Amizadeのマルセロ・カイシェタ・バルボサ・パテルノ氏は、「長年コーヒーに携わってきて、自分が知る限り、このような仕組みは世界初だ」とその意義を語っている。

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ロンドンコレ振り返り、ストーリーテリングが上手な若手に心動く

「WWDJAPAN」ポッドキャストの「サステナブルファッション・トーク」は、ファッション業界のサステナビリティに関する最新ニュースやトレンドをざっくばらんにお話しする番組です。本番組では、サステナビリティ担当記者木村和花がホストを務め、「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクター向千鶴とともにお届けします。

ロンドン、ミラノのファッション・ウイーク取材を終えて先日帰国しました。今回は主にロンドン・ファッション・ウイークについて振り返ります。典型的なランウエイショーが多いミラノと比較して、ロンドンはコレクションの表現方法が多彩。演劇風のプレゼンテーションやレイブパーティー、観客参加型のRPGゲームのようなエンターテイメント性を組み込んだものなども体験しました。ロンドンの若手ブランドは皆、そうしたストーリーテリングの上手さに加えて、サステナビリティへの努力も欠かさない印象を受けます。それには英国ファッション協議会が継続する若手支援プロジェクト「ニュージェン」の応募基準に、かなり詳細な環境および社会的配慮の項目が設けられていることも大きいでしょう。今シーズン出合ったブランドの中から特に印象に残った若手ブランドについて話します。



この配信は以下のアプリでもご利用いただけます。​
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ロンドンコレ振り返り、ストーリーテリングが上手な若手に心動く

「WWDJAPAN」ポッドキャストの「サステナブルファッション・トーク」は、ファッション業界のサステナビリティに関する最新ニュースやトレンドをざっくばらんにお話しする番組です。本番組では、サステナビリティ担当記者木村和花がホストを務め、「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクター向千鶴とともにお届けします。

ロンドン、ミラノのファッション・ウイーク取材を終えて先日帰国しました。今回は主にロンドン・ファッション・ウイークについて振り返ります。典型的なランウエイショーが多いミラノと比較して、ロンドンはコレクションの表現方法が多彩。演劇風のプレゼンテーションやレイブパーティー、観客参加型のRPGゲームのようなエンターテイメント性を組み込んだものなども体験しました。ロンドンの若手ブランドは皆、そうしたストーリーテリングの上手さに加えて、サステナビリティへの努力も欠かさない印象を受けます。それには英国ファッション協議会が継続する若手支援プロジェクト「ニュージェン」の応募基準に、かなり詳細な環境および社会的配慮の項目が設けられていることも大きいでしょう。今シーズン出合ったブランドの中から特に印象に残った若手ブランドについて話します。



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エストネーションとマディソンブルーがアップサイクルプロジェクトを始動

エストネーション(ESTNATION)とマディソンブルー(MADISONBLUE)は、過去のコレクションを再構築するアップサイクルプロジェクト「リヴィーヴル(REVIVRE)」を始動した。

「過去のコレクションも古いモノではなく、変わらぬ価値がある」という思いのもと、ブランド開始時からセールをしない「マディソンブルー」のメンズアイテムをウィメンズサイズへと作り変えた。展開するのはいずれもジャケットを基にリデザインした計4型、7種類。上質なウール梳毛の強撚の糸を二重織りで織り上げたジャケットを半そでにカットし、後ろ見ごろにベルトを取り付けたウェストシェイプのジャケットや、高密度で織り上げたイタリア製の理念を使用したジャケット、ジレなど。上質な素材を今のバランスで着られるように仕立て上げた。価格はジレが9万5000円、ジャケットが17万5000円~29万5000円(いずれも税込)。エストネーション六本木ヒルズ店で11日から販売している。

3月下旬には、エストネーションのウィメンズチーフディレクター、藤本カンナと「マディソンブルー」のデザイナー・ディレクター、中山まりことの対談を公式サイトで公開予定。

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スタバが紙ストローを廃止 海洋生分解性のバイオマスプラスチック製へ切り替え

スターバックス コーヒー ジャパンは、3月24日よりバイオマスプラスチック製ストローを全国約2000店舗で導入する。これまで使用していた紙製ストローと比較し、原料調達から廃棄に至るライフサイクル全体で二酸化炭素排出量を低減しながら、より快適な飲用体験を提供できることから採用に至った。また、店舗からの廃棄物量についても、重量ベースで約200トンと半減する見込み。

まずは、紙ストローの在庫を使い切った店舗から、通年で提供するフラペチーノなどのアイスビバレッジ用のレギュラーストローの切り替えを行う。続いて、4月上旬を目処に、季節限定のフラペチーノ商品などに使用する太い口径のストローも順次切り替えていく予定だ。

同社は、石油由来のプラスチック製ストローの全廃を進め、2020年に紙製ストローを導入した。しかし、利用客からは「時間が経つとふやける」「紙の舌触りが気になる」といった声も寄せられていた。今回の新ストローは、今年1月から沖縄県内の全32店舗で先行導入し、「非常にポジティブなフィードバックをいただいている」と同社。

今回採用したのは、カネカが開発したバイオマス素材「グリーンプラネット」。植物油を主原料とし、海水中や土壌中に存在する微生物によって生分解される特性を持つ。同社の検証によれば、家庭用生ごみ処理機にこのストローとコーヒーかす、生ごみなどを投入したところ、7週間で分解が完了したという。同社は今後「回収工程にかかる環境負荷を踏まえた上で、適切な回収スキームについて検討を進めたい」という。

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アップサイクルに悩み、漁網処理を体験、マーク・ジェイコブスを前にアガる【向千鶴サステナDが行く】

向千鶴「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクターが取材を通じて出会った人、見つけた面白いことなどを日記形式でお届けします。人との出会いは新しい価値観との出会い。意見を交換し、自分の境界線をじわりじわりと広げてゆく毎日です。

釣り針を取り除きながら巨大な太平洋ゴミベルトを思う

「ヘリーハンセン」で漁網リサイクルレクチャー(1/27)

ゴールドウインのノルウェー発のアウトドアブランド「ヘリーハンセン(HELLY HANSEN)」は1月、「アニエスベー(AGNES B.)」とコラボレーションし海洋問題をテーマに据えた日本限定コレクションを発売しました。この日はスタッフが集まり、コレクションの原料ともなっている廃棄漁網を原料にしたリサイクルナイロン「ミューロン(MURON)」や、海洋プラスチック問題について学んでおり便乗しちゃいました。

講師を務めたのは、「ミューロン」を開発した、アパレル資材を扱う商社モリトアパレルの船崎康洋サステナブルデザイン室室長代理です。我々が手を動かしたのは短時間、しかも触る漁網は洗浄済みです。実際のリサイクル現場はそれよりはるかに過酷で地道な作業でしょう。それでも実際に漁網から錆びた釣り針を黙々と取り除く作業を行うことで現実を少し体感できました。

皆さんは、日本とハワイの間に漂流している「太平洋プラスチックごみベルト」をご存じですか?その大きさは、日本列島4倍くらいだそう。そんな危機感を背景に開発と普及にいそしむ船崎さんには「WWDJAPNA」のポッドキャストにもご登場いただいております。この記事の下の関連記事リンクからぜひ聴いてください。我らながら面白くお話をうかがえています!

江戸創業の繊維商社で革新的なアイデアと出会う

豊島展示会(1/28)

創業天保12年の繊維商社、豊島の展示会で面白い企業の製品と出会いました。廃棄される化粧品の中身を染料としてリサイクルするモーンガータ(MANGATA)です。同社は今では大手化粧品企業とも協業していますが、その原点は家庭での化粧品の廃棄だったそう。使い切らずに放置しているアイシャドウパレットなど、ありますよね。私は正直、1~2年「使うかも」と放置した後に、最終的には罪悪感とともにゴミとして捨ててきました。モンガータは“マジックウォーター(企業秘密)”でそれらを染料にリサイクルし、画材などに生かしています。素晴らしい!歴史ある豊島が江戸時代からその歴史を積み上げているのも、こういった革新的なアイデアをいち早く取り上げる姿勢があるからなのだと思います。

自己表現出来る場があることは人を笑顔にする

ファッション軸のサーキュラー体験イベント「エコマキ」(1/31)

東急プラザ原宿「ハラカド」4階で1月31日から3日間、リペアやリメイクを柱としたサステナビリティ×ファッションのイベントが開催され、ワークショップや映画配信などさまざまな体験型コンテンツが用意されました。この集合写真が象徴していますが、実現させたのは「つながり」の力。約50ブランドが「よしやろう」と集りました。Free Standarが音頭をとり、東急不動産、東急不動産SCマネジメン、CYKLUSと開催にこぎつけました。

会場には10本歩けば知り合いとぶつかるくらい、サステナビリティに取り組む業界関係者が多かったのですが、印象的なのは彼らの笑顔。普段は「あれがうまくいかない」「これが大変だ」なんて課題の話をすることが多いのですが、ここではみんなよい笑顔で楽しそう。自分が信じること、手がけていることをきちんと表現出来る場があることが、これほど人を笑顔にするのか、と新鮮な気づきがありました。そういうポジティブな発露はきっと来場者に伝播しますよね。

東大を会場に「何をもって未来?」を熱弁

経産省「みらいのファッション人材育成プログラム」成果発表会(2/1)

経済産業省の補助事業「みらいのファッション人材育成プログラム」にメンターとして参加し、この日は最終発表会でした。東京大学大学院情報学環・福武ホールを会場に5組の採択事業者(MAI SUZKI、ワコール、メタクロシス、JR西日本SC開発、シンフラックス)が情熱的にプレゼンテーション。関係者の間では、「何をもってクリエイター?」に始まり、「何をもって未来?」へと議論が広がり、伴走する側も時々立ち止まり考えながらの10カ月でした。

Mr.好奇心。大好きなデザイナーを前にメロメロになる

マーク・ジェイコブスへインタビュー(2/10 )

19年ぶりに来日した大好きなデザイナー、マーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)へのインタビューが実現し、文字通りメロメロになりました(笑)。私がサステナビリティに力を入れているのはファッションが好きだから。特にマークのような才能あるデザイナーに輝き続けて欲しいから。その世界が持続可能であるためには、間違っていたところは変えよう、サステナビリティを前提とした産業へ変わろう、というスタンスで活動をしています。

2000年代にコレクションマガジン「ファッションニュース」を作っていたとき、マークがインタビューで話していた「僕は時代や未来を予測するのはあまり得意ではないので将来のことはわからない。僕にとって未来は今取り掛かっている作業を進めること」という言葉が大好き。この瞬間を享受して、目の前の場所、人、時間を慈しむ勤勉な姿勢に感化されました。

そして昨年に「ヴォーグ(vogue)」が公開したムービー「A New York Day With Marc Jacobs and Jerry Saltz」で、アート評論家Jerry Saltzとの対話でマークは「まだやっていないこと、についてはわからない。突き動かしているのは好奇心。そして、好奇心には答えは必要ない。ただ存在するだけ」と話していて、その変わらないスタンスが嬉しかった。答えを求めすぎたり、将来を憂いすぎず、尽きない好奇心に突き動かされるままに、ただここに存在する一瞬一瞬を大切にする。自分もそうありたいです。

レンタル後にアップサイクルされる服という新ジャンル

大丸アップサイクルイベント「ループアワード」(2/15)

大丸松坂屋百貨店のファッションサブスクリプションサービス 「アナザーアドレス(ANOTHERADDRESS)」が主催するアップサイクルのコンテスト「ループアワード(roop Award)」に審査員として参加しました。アップサイクルは難しいです。「アップ」というからには、元の製品より価値が「アップ」してほしいですが、正直そうなっていない製品の方が多いのが現状だと思います。

でもこのコンテストは違いました。ちゃんとアップ、していました。価値は目に見えないものですから、「正しく」価値を積み上げてゆけるか否かは結局、手がける人の心持ちに始まり、それを維持するための仕組みづくりと実行力次第ですよね。審査するにあたり、実際に「アナザードレス」で服をレンタルしてみたことで、仕組みの背景には高度なデジタルの仕組みがあることなどがわかりました。DXとSXは切ってもきれない関係にあることを再確認したプロジェクトでもあります。

流行やトレンドはどうやって生まれるの?の難題に答える

J-WAVEで井桁弘恵さんのラジオ番組に出演(2/21)

モデルで女優の井桁弘恵さんのラジオ番組に呼んでいただき、ファッションをテーマに弾丸トークしました。「LOGISTEED TOMOLAB.〜TOMORROW LABORATORY」はJ-WAVE(81.3FM)で毎週土曜日 20:00〜20:54 にオンエア中。身の周りにある森羅万象をテーマにとり上げ、「ラボ」のチーフである井桁弘恵さんが、毎回フェロー(ゲスト)を迎えてさまざまな角度から話を進めるというコンセプトで、私のお題はもちろん、ファッションとサステナビリティ。流行やトレンドはどのように生まれて、変化してきたのか?などなど、聞き上手な井桁さんのリズムにすっかり乗っかり楽しく話しました。アーカイブはSpotifyなどのPod Castでも聴けるそうなのでぜひ!

JSFAなど業界3団体がアパレルのGHG測定・削減にエンジンかける

脱炭素に向けたガイドライン説明会(2/24)


業界3団体がタッグを組んで、アパレルの脱炭素に向けてグイっと一歩踏み出しました。ジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)、⼀般社団法⼈⽇本アパレル・ファッション産業協会(JAFIC)および協同組合関⻄ファッション連合(KanFA)が連携して環境省の⽀援を受けてアパレル企業が脱炭素に向けてGHG測定・削減を推進するためのガイドラインを策定。この日開かれた説明会には100人を超える業界各社のサステナビリティ担当が集まりました。

利害関係がバチバチにある企業が集まり、活発に議論を交わし、GHG測定・削減の実践につながる道筋をつけた。これ、結構すごいことです。写真左のワールドの枝村さんをはじめアパレルの「品質管理室」の皆さんの奮闘が大きいようです。大事なことはこのガイドラインをちゃんと使うこと。日本には規制はまだありませんが、上場企業にスコープ3の算定義務化が課される日は間近で、2026年以降には「プライム市場上場企業ないしはその一部」への適用が検討されています。時間はもうあまりありません。

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アップサイクルに悩み、漁網処理を体験、マーク・ジェイコブスを前にアガる【向千鶴サステナDが行く】

向千鶴「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクターが取材を通じて出会った人、見つけた面白いことなどを日記形式でお届けします。人との出会いは新しい価値観との出会い。意見を交換し、自分の境界線をじわりじわりと広げてゆく毎日です。

釣り針を取り除きながら巨大な太平洋ゴミベルトを思う

「ヘリーハンセン」で漁網リサイクルレクチャー(1/27)

ゴールドウインのノルウェー発のアウトドアブランド「ヘリーハンセン(HELLY HANSEN)」は1月、「アニエスベー(AGNES B.)」とコラボレーションし海洋問題をテーマに据えた日本限定コレクションを発売しました。この日はスタッフが集まり、コレクションの原料ともなっている廃棄漁網を原料にしたリサイクルナイロン「ミューロン(MURON)」や、海洋プラスチック問題について学んでおり便乗しちゃいました。

講師を務めたのは、「ミューロン」を開発した、アパレル資材を扱う商社モリトアパレルの船崎康洋サステナブルデザイン室室長代理です。我々が手を動かしたのは短時間、しかも触る漁網は洗浄済みです。実際のリサイクル現場はそれよりはるかに過酷で地道な作業でしょう。それでも実際に漁網から錆びた釣り針を黙々と取り除く作業を行うことで現実を少し体感できました。

皆さんは、日本とハワイの間に漂流している「太平洋プラスチックごみベルト」をご存じですか?その大きさは、日本列島4倍くらいだそう。そんな危機感を背景に開発と普及にいそしむ船崎さんには「WWDJAPNA」のポッドキャストにもご登場いただいております。この記事の下の関連記事リンクからぜひ聴いてください。我らながら面白くお話をうかがえています!

江戸創業の繊維商社で革新的なアイデアと出会う

豊島展示会(1/28)

創業天保12年の繊維商社、豊島の展示会で面白い企業の製品と出会いました。廃棄される化粧品の中身を染料としてリサイクルするモーンガータ(MANGATA)です。同社は今では大手化粧品企業とも協業していますが、その原点は家庭での化粧品の廃棄だったそう。使い切らずに放置しているアイシャドウパレットなど、ありますよね。私は正直、1~2年「使うかも」と放置した後に、最終的には罪悪感とともにゴミとして捨ててきました。モンガータは“マジックウォーター(企業秘密)”でそれらを染料にリサイクルし、画材などに生かしています。素晴らしい!歴史ある豊島が江戸時代からその歴史を積み上げているのも、こういった革新的なアイデアをいち早く取り上げる姿勢があるからなのだと思います。

自己表現出来る場があることは人を笑顔にする

ファッション軸のサーキュラー体験イベント「エコマキ」(1/31)

東急プラザ原宿「ハラカド」4階で1月31日から3日間、リペアやリメイクを柱としたサステナビリティ×ファッションのイベントが開催され、ワークショップや映画配信などさまざまな体験型コンテンツが用意されました。この集合写真が象徴していますが、実現させたのは「つながり」の力。約50ブランドが「よしやろう」と集りました。Free Standarが音頭をとり、東急不動産、東急不動産SCマネジメン、CYKLUSと開催にこぎつけました。

会場には10本歩けば知り合いとぶつかるくらい、サステナビリティに取り組む業界関係者が多かったのですが、印象的なのは彼らの笑顔。普段は「あれがうまくいかない」「これが大変だ」なんて課題の話をすることが多いのですが、ここではみんなよい笑顔で楽しそう。自分が信じること、手がけていることをきちんと表現出来る場があることが、これほど人を笑顔にするのか、と新鮮な気づきがありました。そういうポジティブな発露はきっと来場者に伝播しますよね。

東大を会場に「何をもって未来?」を熱弁

経産省「みらいのファッション人材育成プログラム」成果発表会(2/1)

経済産業省の補助事業「みらいのファッション人材育成プログラム」にメンターとして参加し、この日は最終発表会でした。東京大学大学院情報学環・福武ホールを会場に5組の採択事業者(MAI SUZKI、ワコール、メタクロシス、JR西日本SC開発、シンフラックス)が情熱的にプレゼンテーション。関係者の間では、「何をもってクリエイター?」に始まり、「何をもって未来?」へと議論が広がり、伴走する側も時々立ち止まり考えながらの10カ月でした。

Mr.好奇心。大好きなデザイナーを前にメロメロになる

マーク・ジェイコブスへインタビュー(2/10 )

19年ぶりに来日した大好きなデザイナー、マーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)へのインタビューが実現し、文字通りメロメロになりました(笑)。私がサステナビリティに力を入れているのはファッションが好きだから。特にマークのような才能あるデザイナーに輝き続けて欲しいから。その世界が持続可能であるためには、間違っていたところは変えよう、サステナビリティを前提とした産業へ変わろう、というスタンスで活動をしています。

2000年代にコレクションマガジン「ファッションニュース」を作っていたとき、マークがインタビューで話していた「僕は時代や未来を予測するのはあまり得意ではないので将来のことはわからない。僕にとって未来は今取り掛かっている作業を進めること」という言葉が大好き。この瞬間を享受して、目の前の場所、人、時間を慈しむ勤勉な姿勢に感化されました。

そして昨年に「ヴォーグ(vogue)」が公開したムービー「A New York Day With Marc Jacobs and Jerry Saltz」で、アート評論家Jerry Saltzとの対話でマークは「まだやっていないこと、についてはわからない。突き動かしているのは好奇心。そして、好奇心には答えは必要ない。ただ存在するだけ」と話していて、その変わらないスタンスが嬉しかった。答えを求めすぎたり、将来を憂いすぎず、尽きない好奇心に突き動かされるままに、ただここに存在する一瞬一瞬を大切にする。自分もそうありたいです。

レンタル後にアップサイクルされる服という新ジャンル

大丸アップサイクルイベント「ループアワード」(2/15)

大丸松坂屋百貨店のファッションサブスクリプションサービス 「アナザーアドレス(ANOTHERADDRESS)」が主催するアップサイクルのコンテスト「ループアワード(roop Award)」に審査員として参加しました。アップサイクルは難しいです。「アップ」というからには、元の製品より価値が「アップ」してほしいですが、正直そうなっていない製品の方が多いのが現状だと思います。

でもこのコンテストは違いました。ちゃんとアップ、していました。価値は目に見えないものですから、「正しく」価値を積み上げてゆけるか否かは結局、手がける人の心持ちに始まり、それを維持するための仕組みづくりと実行力次第ですよね。審査するにあたり、実際に「アナザードレス」で服をレンタルしてみたことで、仕組みの背景には高度なデジタルの仕組みがあることなどがわかりました。DXとSXは切ってもきれない関係にあることを再確認したプロジェクトでもあります。

流行やトレンドはどうやって生まれるの?の難題に答える

J-WAVEで井桁弘恵さんのラジオ番組に出演(2/21)

モデルで女優の井桁弘恵さんのラジオ番組に呼んでいただき、ファッションをテーマに弾丸トークしました。「LOGISTEED TOMOLAB.〜TOMORROW LABORATORY」はJ-WAVE(81.3FM)で毎週土曜日 20:00〜20:54 にオンエア中。身の周りにある森羅万象をテーマにとり上げ、「ラボ」のチーフである井桁弘恵さんが、毎回フェロー(ゲスト)を迎えてさまざまな角度から話を進めるというコンセプトで、私のお題はもちろん、ファッションとサステナビリティ。流行やトレンドはどのように生まれて、変化してきたのか?などなど、聞き上手な井桁さんのリズムにすっかり乗っかり楽しく話しました。アーカイブはSpotifyなどのPod Castでも聴けるそうなのでぜひ!

JSFAなど業界3団体がアパレルのGHG測定・削減にエンジンかける

脱炭素に向けたガイドライン説明会(2/24)


業界3団体がタッグを組んで、アパレルの脱炭素に向けてグイっと一歩踏み出しました。ジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)、⼀般社団法⼈⽇本アパレル・ファッション産業協会(JAFIC)および協同組合関⻄ファッション連合(KanFA)が連携して環境省の⽀援を受けてアパレル企業が脱炭素に向けてGHG測定・削減を推進するためのガイドラインを策定。この日開かれた説明会には100人を超える業界各社のサステナビリティ担当が集まりました。

利害関係がバチバチにある企業が集まり、活発に議論を交わし、GHG測定・削減の実践につながる道筋をつけた。これ、結構すごいことです。写真左のワールドの枝村さんをはじめアパレルの「品質管理室」の皆さんの奮闘が大きいようです。大事なことはこのガイドラインをちゃんと使うこと。日本には規制はまだありませんが、上場企業にスコープ3の算定義務化が課される日は間近で、2026年以降には「プライム市場上場企業ないしはその一部」への適用が検討されています。時間はもうあまりありません。

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向千鶴「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクターが取材を通じて出会った人、見つけた面白いことなどを日記形式でお届けします。人との出会いは新しい価値観との出会い。意見を交換し、自分の境界線をじわりじわりと広げてゆく毎日です。

釣り針を取り除きながら巨大な太平洋ゴミベルトを思う

「ヘリーハンセン」で漁網リサイクルレクチャー(1/27)

ゴールドウインのノルウェー発のアウトドアブランド「ヘリーハンセン(HELLY HANSEN)」は1月、「アニエスベー(AGNES B.)」とコラボレーションし海洋問題をテーマに据えた日本限定コレクションを発売しました。この日はスタッフが集まり、コレクションの原料ともなっている廃棄漁網を原料にしたリサイクルナイロン「ミューロン(MURON)」や、海洋プラスチック問題について学んでおり便乗しちゃいました。

講師を務めたのは、「ミューロン」を開発した、アパレル資材を扱う商社モリトアパレルの船崎康洋サステナブルデザイン室室長代理です。我々が手を動かしたのは短時間、しかも触る漁網は洗浄済みです。実際のリサイクル現場はそれよりはるかに過酷で地道な作業でしょう。それでも実際に漁網から錆びた釣り針を黙々と取り除く作業を行うことで現実を少し体感できました。

皆さんは、日本とハワイの間に漂流している「太平洋プラスチックごみベルト」をご存じですか?その大きさは、日本列島4倍くらいだそう。そんな危機感を背景に開発と普及にいそしむ船崎さんには「WWDJAPNA」のポッドキャストにもご登場いただいております。この記事の下の関連記事リンクからぜひ聴いてください。我らながら面白くお話をうかがえています!

江戸創業の繊維商社で革新的なアイデアと出会う

豊島展示会(1/28)

創業天保12年の繊維商社、豊島の展示会で面白い企業の製品と出会いました。廃棄される化粧品の中身を染料としてリサイクルするモーンガータ(MANGATA)です。同社は今では大手化粧品企業とも協業していますが、その原点は家庭での化粧品の廃棄だったそう。使い切らずに放置しているアイシャドウパレットなど、ありますよね。私は正直、1~2年「使うかも」と放置した後に、最終的には罪悪感とともにゴミとして捨ててきました。モンガータは“マジックウォーター(企業秘密)”でそれらを染料にリサイクルし、画材などに生かしています。素晴らしい!歴史ある豊島が江戸時代からその歴史を積み上げているのも、こういった革新的なアイデアをいち早く取り上げる姿勢があるからなのだと思います。

自己表現出来る場があることは人を笑顔にする

ファッション軸のサーキュラー体験イベント「エコマキ」(1/31)

東急プラザ原宿「ハラカド」4階で1月31日から3日間、リペアやリメイクを柱としたサステナビリティ×ファッションのイベントが開催され、ワークショップや映画配信などさまざまな体験型コンテンツが用意されました。この集合写真が象徴していますが、実現させたのは「つながり」の力。約50ブランドが「よしやろう」と集りました。Free Standarが音頭をとり、東急不動産、東急不動産SCマネジメン、CYKLUSと開催にこぎつけました。

会場には10本歩けば知り合いとぶつかるくらい、サステナビリティに取り組む業界関係者が多かったのですが、印象的なのは彼らの笑顔。普段は「あれがうまくいかない」「これが大変だ」なんて課題の話をすることが多いのですが、ここではみんなよい笑顔で楽しそう。自分が信じること、手がけていることをきちんと表現出来る場があることが、これほど人を笑顔にするのか、と新鮮な気づきがありました。そういうポジティブな発露はきっと来場者に伝播しますよね。

東大を会場に「何をもって未来?」を熱弁

経産省「みらいのファッション人材育成プログラム」成果発表会(2/1)

経済産業省の補助事業「みらいのファッション人材育成プログラム」にメンターとして参加し、この日は最終発表会でした。東京大学大学院情報学環・福武ホールを会場に5組の採択事業者(MAI SUZKI、ワコール、メタクロシス、JR西日本SC開発、シンフラックス)が情熱的にプレゼンテーション。関係者の間では、「何をもってクリエイター?」に始まり、「何をもって未来?」へと議論が広がり、伴走する側も時々立ち止まり考えながらの10カ月でした。

Mr.好奇心。大好きなデザイナーを前にメロメロになる

マーク・ジェイコブスへインタビュー(2/10 )

19年ぶりに来日した大好きなデザイナー、マーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)へのインタビューが実現し、文字通りメロメロになりました(笑)。私がサステナビリティに力を入れているのはファッションが好きだから。特にマークのような才能あるデザイナーに輝き続けて欲しいから。その世界が持続可能であるためには、間違っていたところは変えよう、サステナビリティを前提とした産業へ変わろう、というスタンスで活動をしています。

2000年代にコレクションマガジン「ファッションニュース」を作っていたとき、マークがインタビューで話していた「僕は時代や未来を予測するのはあまり得意ではないので将来のことはわからない。僕にとって未来は今取り掛かっている作業を進めること」という言葉が大好き。この瞬間を享受して、目の前の場所、人、時間を慈しむ勤勉な姿勢に感化されました。

そして昨年に「ヴォーグ(vogue)」が公開したムービー「A New York Day With Marc Jacobs and Jerry Saltz」で、アート評論家Jerry Saltzとの対話でマークは「まだやっていないこと、についてはわからない。突き動かしているのは好奇心。そして、好奇心には答えは必要ない。ただ存在するだけ」と話していて、その変わらないスタンスが嬉しかった。答えを求めすぎたり、将来を憂いすぎず、尽きない好奇心に突き動かされるままに、ただここに存在する一瞬一瞬を大切にする。自分もそうありたいです。

レンタル後にアップサイクルされる服という新ジャンル

大丸アップサイクルイベント「ループアワード」(2/15)

大丸松坂屋百貨店のファッションサブスクリプションサービス 「アナザーアドレス(ANOTHERADDRESS)」が主催するアップサイクルのコンテスト「ループアワード(roop Award)」に審査員として参加しました。アップサイクルは難しいです。「アップ」というからには、元の製品より価値が「アップ」してほしいですが、正直そうなっていない製品の方が多いのが現状だと思います。

でもこのコンテストは違いました。ちゃんとアップ、していました。価値は目に見えないものですから、「正しく」価値を積み上げてゆけるか否かは結局、手がける人の心持ちに始まり、それを維持するための仕組みづくりと実行力次第ですよね。審査するにあたり、実際に「アナザードレス」で服をレンタルしてみたことで、仕組みの背景には高度なデジタルの仕組みがあることなどがわかりました。DXとSXは切ってもきれない関係にあることを再確認したプロジェクトでもあります。

流行やトレンドはどうやって生まれるの?の難題に答える

J-WAVEで井桁弘恵さんのラジオ番組に出演(2/21)

モデルで女優の井桁弘恵さんのラジオ番組に呼んでいただき、ファッションをテーマに弾丸トークしました。「LOGISTEED TOMOLAB.〜TOMORROW LABORATORY」はJ-WAVE(81.3FM)で毎週土曜日 20:00〜20:54 にオンエア中。身の周りにある森羅万象をテーマにとり上げ、「ラボ」のチーフである井桁弘恵さんが、毎回フェロー(ゲスト)を迎えてさまざまな角度から話を進めるというコンセプトで、私のお題はもちろん、ファッションとサステナビリティ。流行やトレンドはどのように生まれて、変化してきたのか?などなど、聞き上手な井桁さんのリズムにすっかり乗っかり楽しく話しました。アーカイブはSpotifyなどのPod Castでも聴けるそうなのでぜひ!

JSFAなど業界3団体がアパレルのGHG測定・削減にエンジンかける

脱炭素に向けたガイドライン説明会(2/24)


業界3団体がタッグを組んで、アパレルの脱炭素に向けてグイっと一歩踏み出しました。ジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)、⼀般社団法⼈⽇本アパレル・ファッション産業協会(JAFIC)および協同組合関⻄ファッション連合(KanFA)が連携して環境省の⽀援を受けてアパレル企業が脱炭素に向けてGHG測定・削減を推進するためのガイドラインを策定。この日開かれた説明会には100人を超える業界各社のサステナビリティ担当が集まりました。

利害関係がバチバチにある企業が集まり、活発に議論を交わし、GHG測定・削減の実践につながる道筋をつけた。これ、結構すごいことです。写真左のワールドの枝村さんをはじめアパレルの「品質管理室」の皆さんの奮闘が大きいようです。大事なことはこのガイドラインをちゃんと使うこと。日本には規制はまだありませんが、上場企業にスコープ3の算定義務化が課される日は間近で、2026年以降には「プライム市場上場企業ないしはその一部」への適用が検討されています。時間はもうあまりありません。

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もんぺを年間2万本売る「うなぎの寝床」、地域文化から経済循環を生む

福岡県八女(やめ)市を拠点とするうなぎの寝床は、「もんぺ」を年間約2万本販売する。文化や歴史をひも解いたブランディングとビジネス戦略が巧みだ。日本の農作業着「もんぺ」とアメリカのワークパンツ「ジーンズ」とを重ね、日本のジーンズ「MONPE」として販売を開始。物販の直営店は八女の2店舗に加えて、アクロス福岡やららぽーと福岡、愛媛・大洲、グループ会社と共同運営で下北沢と池袋・千川の7店舗を展開し、もんぺの卸先は100件を超える。グループの売上高は5億5000万円(2025年1月期)。「地域文化商社」と称し、地域文化の「つなぎ手」としてもんぺだけではなく地域のものづくりを紹介する店舗や宿泊施設「Craft Inn手[te]」の運営、ツーリズム事業など、地域文化を編集して伝えている。

うなぎの寝床が町屋を改装して店舗や宿泊施設として運営する八女福島の重要伝統的建造物群保存地区は2002年に指定された場所。これまで約70軒の町家がリノベーションされて新たな店舗や工房、住宅に活用された。そのうち約20人が県外からの移住者だ。うなぎの寝床創業者で現顧問の白水高広氏に地域文化から経済循環を生む方法について聞いた。

PROFILE: 白水高広/うなぎの寝床創業者・顧問

白水高広/うなぎの寝床創業者・顧問
PROFILE: (しらみず・たかひろ)1985年佐賀県小城市生まれ。大分大学工学部福祉環境工学科建築コース卒業。2009年8月厚生労働省の雇用創出事業「九州ちくご元気計画」に関わり2年半プロジェクトの主任推進員として動く。同事業は11年グッドデザイン賞商工会議所会頭賞を受賞。12年7月にアンテナショップうなぎの寝床を立ち上げる。24年、テイクオーバーと資本提携し代表職から外れ顧問に。現在はさまざまな企業のコンサルティングを行う他、2023年テキスタイルデザイナーの光井花と新会社hana material design laboratoryを立ち上げる

機能性を訴求した短期的に消費されないものづくり

WWD:なぜ「もんぺ」だったのか。

白水高広うなぎの寝床創業者・顧問(以下、白水):義母の実家が「久留米絣」の織元で、妻が八女市の伝統工芸館で働いていた時期に「久留米絣をどうにかしたい」と家族で考え始めたことがきっかけだった。物産館で「もんぺ」の展示を見て、日常着として提案してその歴史や機能性が伝われば履いてくれる人が増えるのではと考え、11年に「もんぺ博覧会」を開催した。3日で約1500人が集まり、地元のテレビ局や新聞社は取り上げてくれた。1回きりのつもりが依頼されて翌年も続けることになった。

WWD:それを機にもんぺの製造販売が始まった?

白水:「買いたい」よりも「箪笥の肥やしになっている久留米絣の生地で作りたい」という要望が多かったので、当初は型紙を販売した。型紙は反物幅の布を無駄にしないように設計すると細身になったので12年に「現代風もんぺ」の型紙として販売を始めた。すると現物が欲しいという要望が増え始め、13年に機屋が抱えている縫製の内職さんに頼んでもんぺを作り始めた。それがNHKの情報番組「あさイチ」で取り上げられ、在庫が一瞬でなくなった。内職さんでは追いつかないので織元から生地を買い縫製工場に依頼して作り始めた。全国の店から依頼が増えて卸すようになりファブレス(自社で工場を持たず製品の製造を外部に委託するビジネスモデル)のメーカーになった。

WWD:明確なコンセプトのもとでビジネスを始めたわけではなかった。

白水:思い付きのように聞こえたかもしれないが、物産館で見たときから「いける」感覚はあった。着心地がいいことに加えて「伝統工芸」「ある程度の量が確保できる」「文化的背景がある」など付加価値もあった。「もんぺ」は福岡県南部筑後地方の綿織物「久留米絣」を用いて作られ、戦時中の1943年には婦人標準服として厚生省が活動衣として指定し、「蛍の墓」でも描かれた。戦後も農作業着として着続けられて機能的に実証されている。こうした情報を整えれば価格が1~2万円程度と設定しても売れるのではと仮説を立てた。

WWD:情報を整えるとは?

白水:整える情報は「機能的要素」「文化的要素」「視覚的要素」だと考えた。

「機能的要素」の訴求は一般消費者のリピートや口コミにつながる。「綿100%」「腰ゴム」「膝当てがついている」など機能を分解した。

「文化的要素」は一般の人が興味を持たなくても、メディアが興味を示してくれる。戦時中の厚生省の文献や農業の歴史など古本を集めて歴史をひも解き「日本のジーンズを目指して」というコピーを打ち出すとメディアが取り上げてくれた。

最後に「視覚的要素」はコーディネイト提案をした。ファッション業界は視覚的要素がとても強く、半期や四半期でどれだけ集客できるかというアプローチだが、僕らが重視したのは機能性の訴求。ファッションアイテムではなく生活用品として売るので結果的に短期的に消費されない提案になった。

WWD:情報に複数のレイヤーがある。

白水:「もんぺ」はいろんな情報のタグがあり、見る人によって異なる。たとえば「テレビで見た」という無意識的なタグから「自分が知っている店の人から聞いた」「歴史的な背景」「伝統工芸」「日本製」「かわいい」などさまざまにあるが、重視するタグは人によって違う。人々がタグのどれかに主観的に接触できるように情報を仕組み、結果的に「人は着心地に依存する」という仮説のもと、「機能性」のタグに集約できると考えた。

地域に足りない事業を興して地域の人がやれないことを実現する

WWD:「久留米絣」だけではなく、全国の繊維産地の生地を用いたもんぺをそろえる。

白水:他の産地と比較することで「久留米絣」の特徴はもちろん、全国の繊維産地を知ってもらう機会にもなる。奄美大島の泥染めや福山のデニム、遠州のコーデュロイや会津の木綿、「有松鳴海絞り」など同じフォーマット(型紙)でいろんな産地のもんぺを履き比べることができると、消費者は価格の違いや産地や生地の特性に目が向く。

WWD:それがヒットにつながった。

白水:想い入れがなく淡々と取り組んだのが良かったのではないか。想い入れがあると「これが好きだからこれで作る」となるが、想い入れがないから「柄で作ると高いから、機能性で勝負するために無地で作る」「技術によって値段を分ける」といった判断ができる。「久留米絣」産地だけに興味があるとそういう判断にならない。とはいえ、僕らが博多産地の生地生産量の約1/4を買っていて、もんぺ立ち上げの目的である産地継続にも力を入れている。1年に約7000反を購入して製品化している。

WWD:「もんぺ」はうなぎの寝床のヒット製品だが、ツーリズムや宿泊、メディア、資源活用、特許庁の地域団体商標のPR動画制作までプロジェクトは多岐にわたる。「地域文化商社」として事業を興しているが、そもそも「地域文化商社」のコンセプトが生まれて定義するに至った経緯を教えてほしい。

白水:地域文化が伝わらない理由は、魅力があるのに知られていない、知らなければ消費者は買うことができないことにある。知らせる・買えるようにする地域商社的領域をどれだけやれるかの実験と実行に取り組むことにした。地域文化を研究・解釈して、活用方法を探り、それを商社機能を使って地域に還元することが大切だと考えて活動している。基本的には地域に足りない事業を興して地域の人がやれないことを実現する。

WWD:具体的にどのようなアプローチで事業を興すのか。

白水:地域文化がベースにあり、それを体感できる場所が宿であり、本屋はやめてしまったけれど、まちづくりの中で地域文化拠点を作ったりツーリズムで体感をつくったりする。価値の見立てを行い、当社の見立てと地域の人や世間が思っている価値のギャップを埋め、価値を高めることを目指している。

そのために当社は地域構造の中で「つなぎ手」の領域を目指している。

「つくり手」や「にない手」は自分が地域を担っている意識がないことが多いので、僕らは文脈をひも解いて解釈を一緒に考える。代わりに調査して企画書を作る感じで、それをテレビ局や新聞社などに送ると取り上げてくれる。すると「にない手」に自分たちが担っているという意識が生まれ、意識が育つとシビックプライドが育つ。これだけだとボランティアになるのでこの状況自体を「つかい手」に伝える事業を行う。「つかい手」がアクセスできる店舗やEC、宿やツーリズムというサービスを作っている。

WWD:23年7月に愛媛県・大洲に店を開いたが、八女の事業モデルを全国に広げていくのか。

白水:八女をコンセプトモデルに他地域で応用できるかに興味がある。産地の資源の見立てと商品の仕入れ、地域内での可視化する店を作り、ECや卸先を探す。

大洲は町屋を修繕することを目的にまちづくり会社のキタマネジメントが店舗開発などに取り組んでおり、同社から依頼があった。

WWD:「地域文化を纏った商品やサービスが現代生活において成立したら、地域文化は残って行くし、そうでなければ淘汰されていく」として、さまざまな製品やサービスを提供する。地域で取り組む意義は?

白水:機能性を突き詰めても大手の製品の方が優れているから、そこで戦っても仕方ない。僕らはその地域でしか見つけられない文脈や情報を掘り下げ、地域で行うことでその文脈を引き継ぐことができるし差別化できる。知ってもらう機会が増えれば残る可能性が広がる。ただし、体感的にもいい製品でないと難しい。例えば着物は、文化的要素は脈々とつながってはいるが日常的に着ることは難しい。カットソーなど着心地がいいものがある中で逆行するのは難しい。過去の文脈を踏みながら、現代生活や現代の情報や需要にフィットしていけているか、生き続けているかを模索している。

情報を逆手にフィットし続けないと残らないという点ではファッション的なのかもしれない。うなぎの寝床全体としては生活用品としてもまちづくりとしても提案する情報の設計が重要で、メディアをはじめいろんな人々が許容できるようにしている。

人は印象的な体験によって意識と行動が変わる

WWD:今の生活文化にフィットしないけど残したいものがあるときにはどう取り組むのか?

白水:それこそツーリズム事業を始めたきっかけだ。モノの需要はないが技術をリファレンスできる状態にしておくことが必要で、プロセスを見せることの価値を創出した。もちろんモノはある一定数は流通させる必要はあるが、多くの人に対しては情報として提案する方がいいので、工房見学などを行うことで収益を生むようにしている。

モノの売り買いだけをしているとモノの売り買いだけで終わる。人は印象的な体験によって意識と行動が変わる。だから、モノを通じた地域文化の伝達はうなぎの寝床で行い、体験を通した地域文化の伝達はUNAラボラトリーズが行っている。

「つくり手」は良いものを作ったら売れるという思考で取り組むことが多いが、実際は「つくり手」がどういう思考で取り組んでいるかということにも価値があり、それをサービスに変えることが重要だと考えている。

WWD:白水さんは「地域文化」をある一定の地域における文化「土地と人、人と人が関わりあい生まれる現象の総体」と定義しているが、“ある一定の地域”とは何を指すか。どのくらいの大きさで、都心部や歴史が浅いニュータウンも含むのか。

白水:地域文化は伸び縮みするととらえている。例えば八女ならまちづくりの観点では重要伝統的建造物群保存地区の範囲でとらえる人もいるし、ものづくりの町としてとらえている人もいる。海外からみると日本らしい町屋の街並みととらえる人もいる。どういう範囲やテーマで文化圏を捉えるかによる。行政区は行政区でしかない。

どこの地域でも文化はある。都市部は自然が失われているかもしれないが、人と人が混じりあって生まれる習慣や慣習は必ずある。そこには自然的背景、地理的背景、歴史的文脈がある。地域は都度設定して何の文化かを定義する必要がある。僕はひとつに絞らないような枠組みにして、あらゆることを許容できるようにあいまいな定義をしている。

「知恵は行動しまくったら生まれる」、知識とは別

WWD:「地域文化商社」として活動するときに大切なこととは。

白水:研究や調査をちゃんとして、商品の見立てをしてから行動してみること。売ったり話を聞いたり、流通させたり。うまくいくものいかないものがあるので、とりあえず行動してうまくいったものは仕組化して残し、うまくいかなかったものはやめる。

うまくいかなくてもどうしても残したいものは何かしら価値があるはずで、そのギャップを何かしらの事業で埋められるのではないかと知恵を絞り行動する。知恵は行動しまくったら生まれる。それは知識とは別の話だ。僕らはそんなに知識は深くはないけれど、地域で動いていたら何かしらの知恵が生まれる。

WWD:失敗したことは?

水:そもそも失敗や成功とは何か、から考える必要がある。会社としては、10年間赤字もなく、トライ&エラーをしながらも成長し続けている。例えば自転車事業や反毛(はんもう)事業に取り組んだがうまく回らず事業を畳んだが、今につながっているので失敗ではない。そういうのはたくさんある。

人に依存し続ける仕組みを作ることが必要

WWD: 後継者不足に対して優秀な人材を産地に送り込むのがいいという声もあるが、人に依存する産地経営は難しいのでは?

白水:基本的に人に依存しない会社や産業の仕組みをつくるべきだと考えているが、地域文化を深く理解して広げるために思考して行動できる人を獲得する仕組みをつくらないといけないとも思う。新しい思考や考えを生み出していくのは人だから、ある程度人に依存しつつ、その人がいなくなっても自走できるような仕組みをつくることは必要だ。いかに人を獲得し続け、許容できるか。その状況をどれだけ作れるかが重要だ。そこで僕は今、インキュベーションのようなことを事業化したいと考えている。能力を持った人の人生をずらし、産地にぶち込むのが重要だと思っている。

例えば、当社でツーリズム事業を取り組むのは東京出身でロンドン大学で人類学を学び、「物語を海外に伝えたい」とやって来た人。2年程度で大学に戻る予定だったが、地元の人と結婚して子どもが生まれた。そうすると八女に居続けるし、新たに人類学観点のあるツーリズムが生まれている。それで回る会社も増えている。

現代社会は「価値化は情報化」

WWD:無価値、無意味とされるような文化や歴史、地域から有価値、意味を引き出すには何に着目すべきか。

白水:無価値のものはほぼない。現代はネット上にないもの、つまり情報として拾い上げられないものは価値がないと特に都市部の人が思い込んでいる状態だと感じている。「無価値だけど価値があるもの」とは、知られてないことは無価値だとする情報としての価値の話が中心だ。現代においては、価値化は情報化でもある。地方の人はその流れを見ながら、情報を差し込んでいくための戦略が必要だが、それをひも解ける人が地方には多くいない。

情報化できる人が地域に入り地域がうまくいっているように見えるが、それが良い状態かというと必ずしもイコールではない。経済規模が大きければ豊かとは限らず、そうでなくても豊かな地域はある。経済、暮らし、ファッション、生活用品など、地域事業者はどの尺度に根差した価値創出を目指したいのかを考える必要がある。

WWD:一社だけではなく地域で連携していくために必要なこととは?

白水:みんなでやるとうまくいかないことが多い。これが面白いからやりたいと主観的に始めてそれが広がれば産地に貢献できて残せるものがあるのではないか。メディアが面白がるのは強い情報にひもづいた産地で、個の強い意志や理論がないと難しいし、その人が活動できるフィールドをどう作るかも重要だ。「これをやったらうまくいく」はないが、起点をどこにするかはビジネスのインキュベーションにおいて重要だ。

WWD:産地として、地域として何を目指すがのよいか。

白水:地域の活動で小規模事業者とある程度の規模の企業のレイヤーが交じり合っていないことが多いが、違うレイヤーの人たちがどう対話して議論を生んでいくかが重要だと思っている。それをつなげるのは行政なのかもしれない。地域資源や土地性、文化や歴史と地域産業をつなげるコーディネイト役が必要だが、それは市長であり、行政の役割なのかもしれない。「政治的にどうしていくか」も重要だと思う。

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サステナビリティとモノづくりの狭間でつきない悩みと希望 【モデル、俳優、監督の岡本多緒】

「WWDJAPAN」ポッドキャストの「サステナブルファッション・トーク」は、ファッション業界のサステナビリティに関する最新ニュースやトレンドをざっくばらんにお話しする番組です。今週は「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクター向千鶴がサステナビリティ担当記者の皆合友紀子とともにお届けします。

ゲストは先週に引き続きモデル、俳優、監督、そしてアウターブランド「アボード・オブ・スノー」共同クリエイティブ・ディレクター兼サステイナビリティ・アンバサダーを務める岡本多緒さん。サステナビリティアンバサダーを務める「アボード・オブ・スノー」をテーマに、パートナーであるテンジンさんのルーツ、チベットや生産を行うネパールについてや、サステナビリティとモノづくりの狭間での悩みや希望についてお話しいただきます。

ゲストプロフィール

岡本多緒(おかもと・たお)2006年に渡仏し、数々のトップメゾン・雑誌等で世界のトップモデル“TAO”として活躍。13年に映画「ウルヴァリン:SAMURAI」で俳優デビューを果たし、ハリウッド作品を中心に数々の話題作に出演。これまでに映画監督として2本の短編作品を手掛ける。多岐にわたる活動の傍ら、環境問題や動物の権利について発信するポッドキャスト番組「Emerald Practices」のホストを務める他、動物と地球に大きな敬意を込めたアウターブランド「アボード・オブ・スノー」を手掛ける



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サステナビリティとモノづくりの狭間でつきない悩みと希望 【モデル、俳優、監督の岡本多緒】

「WWDJAPAN」ポッドキャストの「サステナブルファッション・トーク」は、ファッション業界のサステナビリティに関する最新ニュースやトレンドをざっくばらんにお話しする番組です。今週は「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクター向千鶴がサステナビリティ担当記者の皆合友紀子とともにお届けします。

ゲストは先週に引き続きモデル、俳優、監督、そしてアウターブランド「アボード・オブ・スノー」共同クリエイティブ・ディレクター兼サステイナビリティ・アンバサダーを務める岡本多緒さん。サステナビリティアンバサダーを務める「アボード・オブ・スノー」をテーマに、パートナーであるテンジンさんのルーツ、チベットや生産を行うネパールについてや、サステナビリティとモノづくりの狭間での悩みや希望についてお話しいただきます。

ゲストプロフィール

岡本多緒(おかもと・たお)2006年に渡仏し、数々のトップメゾン・雑誌等で世界のトップモデル“TAO”として活躍。13年に映画「ウルヴァリン:SAMURAI」で俳優デビューを果たし、ハリウッド作品を中心に数々の話題作に出演。これまでに映画監督として2本の短編作品を手掛ける。多岐にわたる活動の傍ら、環境問題や動物の権利について発信するポッドキャスト番組「Emerald Practices」のホストを務める他、動物と地球に大きな敬意を込めたアウターブランド「アボード・オブ・スノー」を手掛ける



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「グッチ」親会社ケリングが日本のスタートアップを表彰 最優秀賞にファーメンステーション

「グッチ(GUCCI)」「サンローラン(SAINT LAURENT)」などを擁するケリング(KERING)は、サステナビリティを推進するスタートアップ企業の発掘・推進を目的とした「ケリング・ジェネレーション・アワード(KERING GENERATION AWARD)」の授賞式を3月13日に東京・虎ノ門で開催した。日本企業を対象に開催したのは今回が初。ファイナリスト11社の中から、発酵技術で循環型社会の構築を目指すファーメンステーションが最優秀企業に輝いた。2位には有機フッ素化合物「PFAS」を使わない透湿防水性の繊維素材を開発したアンフィコ(AMPHICO)、3位に藻類を活用した製品開発を手掛けるアルガルバイオ(algal bio)、特別賞にバイオマス微生物を原料にしたインディゴ染料を開発したマイクロバイオファクトリーが選ばれた。

上位3社には、長期的なメンターシッププログラムをはじめ、グループ傘下ブランドのトップまたヨーロッパを拠点とするテキスタイルメーカーなどとの意見交換の機会、ケリングがパートナーを務める世界最大級のサステナビリティサミット「チェンジ ナウ」への出展権などを授与。また最優秀賞企業には賞金として1000万円を贈った。

フランソワ・アンリ・ピノー会長兼CEOと関山和秀スパイバー社長が対談

授賞式ではフランソワ・アンリ・ピノー(Francois-Henri Pinault)=会長兼最高経営責任者(CEO)が登壇。同社が研究開発に協力してきたスタートアップで、人工タンパク質「ブリュード・プロテイン(BREWED PROTEIN)」を製造するスパイバーの関山和秀社長と「サステナビリティに取り組む情熱」をテーマに対談した。

ケリングは、グループ全体で温室効果ガスの絶対排出量を2035年までに21年比で40%削減する野心的な目標を掲げる。ピノーCEOは、この目標について触れ、達成のためにはまだ世の中に存在しないイノベーションの力が必要だと強調。「既成概念にとらわれず、既存のビジネスルールを問う視点を持ち続けてソリューションを導き出してほしい」と参加者に呼びかけた。

関山社長はスパイバーのこれまでを振り返り、「大きく成長できた瞬間は、決して想定していたものではない。むしろまったく予期していなかった危機に直面したときに、突然訪れたチャンスによって切り抜けてきた。未来を見据え、信念を持ち続ければ機会は訪れる」と来場したスタートアップ企業たちを励ました。

1位に選出されたファーメンテーションは、規格外の農産物や飲料・食品工場で排出される製造残さなどの未利用資源を、独自の発酵技術で機能性バイオ原料へと転換する技術を有する。例えば、米ぬかなどを原料に用いたボディーケア商材や、ワインの搾りかすから製造するエタノールを用いたアロマ雑貨などに応用できる。企業との協業事例も多数持つ。「ポーラ(POLA)」は同技術によりゆずの未利用部から開発した保湿成分を用いた製品を開発。亀田製菓は代表商品「ハッピーターン」の製造過程で生じる規格外品を原料に、発酵アルコール(エタノール)を精製。「ハッピーターンから作った除菌ウェットティッシュ」を企画した。また、ファーメンステーションは2022年に、「Bコープ」認証を取得している。

2位のアンフィコは、欧米で規制が進む有機フッ素化合物「PFAS」に着目。従来「PFAS」が多用されていたアウトドアアパレル向けの機能性透湿防水テキスタイルをPFASフリーで実現する技術や、水汚染などの環境汚染を大幅に削減する無水着色技術を開発した。

3位のアルガルバイオは、微細藻類の育種、量産、培養技術を有し、持続可能な代替原料として提案する。同社によると、藻類は森林・農地・食物生産に影響を及ぼさず培養でき、光合成で二酸化炭素を固定する能力に優れている利点を持つ。また、アンチエイジングやUV吸収、保湿などに役立つさまざまな機能性成分と天然色素を含有し、ビューティーやファッションの分野での活用が期待できるという。

ファイナリスト企業はほかに、ラグジュアリーに特化したリセールプラットフォームのアーカイブストック(ARCHIVESTOCK)、生産工程の生地廃棄ゼロを目指すデザインシステムのシンフラックス(Synflux)、繰り返し利用できる梱包材プラットホームのコンベイ(comvey)、AIを活用したオンライン・クローゼットのアプリを核とするスタンディングオベーション(STANDING OVATION)、植物廃棄物を原料とした内装を製造するスペースワスプ(Spacewasp)、余剰化粧品資源から工業資材を製造するモーンガータ、繊維やフィルム素材の多孔化技術を使った高機能性素材を製造するファイバークレーズ(FiberCraze)が選ばれた。

同アワードは、ファッションとビューティー業界のサステナビリティを推進するイノベーションを持ち込むスタートアップ企業を発掘・育成することを目的に、2018年に中国で発足。これまでにサウジアラビアでも開催した。日本初開催となった今回は、スタートアップ成長支援の専門部隊CIC インスティチュートがサポート。審査員は、ケリングのフランソワ・アンリ・ピノー=会長兼CEOやマリー=クレール・ダヴー(Marie-Claire Daveu)=チーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)兼渉外担当責任者らボードメンバーに加え、渡辺貴生ゴールドウイン社長や山崎智士サティス製薬CEOら9人が務めた。

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「グッチ」親会社ケリングが日本のスタートアップを表彰 最優秀賞にファーメンステーション

「グッチ(GUCCI)」「サンローラン(SAINT LAURENT)」などを擁するケリング(KERING)は、サステナビリティを推進するスタートアップ企業の発掘・推進を目的とした「ケリング・ジェネレーション・アワード(KERING GENERATION AWARD)」の授賞式を3月13日に東京・虎ノ門で開催した。日本企業を対象に開催したのは今回が初。ファイナリスト11社の中から、発酵技術で循環型社会の構築を目指すファーメンステーションが最優秀企業に輝いた。2位には有機フッ素化合物「PFAS」を使わない透湿防水性の繊維素材を開発したアンフィコ(AMPHICO)、3位に藻類を活用した製品開発を手掛けるアルガルバイオ(algal bio)、特別賞にバイオマス微生物を原料にしたインディゴ染料を開発したマイクロバイオファクトリーが選ばれた。

上位3社には、長期的なメンターシッププログラムをはじめ、グループ傘下ブランドのトップまたヨーロッパを拠点とするテキスタイルメーカーなどとの意見交換の機会、ケリングがパートナーを務める世界最大級のサステナビリティサミット「チェンジ ナウ」への出展権などを授与。また最優秀賞企業には賞金として1000万円を贈った。

フランソワ・アンリ・ピノー会長兼CEOと関山和秀スパイバー社長が対談

授賞式ではフランソワ・アンリ・ピノー(Francois-Henri Pinault)=会長兼最高経営責任者(CEO)が登壇。同社が研究開発に協力してきたスタートアップで、人工タンパク質「ブリュード・プロテイン(BREWED PROTEIN)」を製造するスパイバーの関山和秀社長と「サステナビリティに取り組む情熱」をテーマに対談した。

ケリングは、グループ全体で温室効果ガスの絶対排出量を2035年までに21年比で40%削減する野心的な目標を掲げる。ピノーCEOは、この目標について触れ、達成のためにはまだ世の中に存在しないイノベーションの力が必要だと強調。「既成概念にとらわれず、既存のビジネスルールを問う視点を持ち続けてソリューションを導き出してほしい」と参加者に呼びかけた。

関山社長はスパイバーのこれまでを振り返り、「大きく成長できた瞬間は、決して想定していたものではない。むしろまったく予期していなかった危機に直面したときに、突然訪れたチャンスによって切り抜けてきた。未来を見据え、信念を持ち続ければ機会は訪れる」と来場したスタートアップ企業たちを励ました。

1位に選出されたファーメンテーションは、規格外の農産物や飲料・食品工場で排出される製造残さなどの未利用資源を、独自の発酵技術で機能性バイオ原料へと転換する技術を有する。例えば、米ぬかなどを原料に用いたボディーケア商材や、ワインの搾りかすから製造するエタノールを用いたアロマ雑貨などに応用できる。企業との協業事例も多数持つ。「ポーラ(POLA)」は同技術によりゆずの未利用部から開発した保湿成分を用いた製品を開発。亀田製菓は代表商品「ハッピーターン」の製造過程で生じる規格外品を原料に、発酵アルコール(エタノール)を精製。「ハッピーターンから作った除菌ウェットティッシュ」を企画した。また、ファーメンステーションは2022年に、「Bコープ」認証を取得している。

2位のアンフィコは、欧米で規制が進む有機フッ素化合物「PFAS」に着目。従来「PFAS」が多用されていたアウトドアアパレル向けの機能性透湿防水テキスタイルをPFASフリーで実現する技術や、水汚染などの環境汚染を大幅に削減する無水着色技術を開発した。

3位のアルガルバイオは、微細藻類の育種、量産、培養技術を有し、持続可能な代替原料として提案する。同社によると、藻類は森林・農地・食物生産に影響を及ぼさず培養でき、光合成で二酸化炭素を固定する能力に優れている利点を持つ。また、アンチエイジングやUV吸収、保湿などに役立つさまざまな機能性成分と天然色素を含有し、ビューティーやファッションの分野での活用が期待できるという。

ファイナリスト企業はほかに、ラグジュアリーに特化したリセールプラットフォームのアーカイブストック(ARCHIVESTOCK)、生産工程の生地廃棄ゼロを目指すデザインシステムのシンフラックス(Synflux)、繰り返し利用できる梱包材プラットホームのコンベイ(comvey)、AIを活用したオンライン・クローゼットのアプリを核とするスタンディングオベーション(STANDING OVATION)、植物廃棄物を原料とした内装を製造するスペースワスプ(Spacewasp)、余剰化粧品資源から工業資材を製造するモーンガータ、繊維やフィルム素材の多孔化技術を使った高機能性素材を製造するファイバークレーズ(FiberCraze)が選ばれた。

同アワードは、ファッションとビューティー業界のサステナビリティを推進するイノベーションを持ち込むスタートアップ企業を発掘・育成することを目的に、2018年に中国で発足。これまでにサウジアラビアでも開催した。日本初開催となった今回は、スタートアップ成長支援の専門部隊CIC インスティチュートがサポート。審査員は、ケリングのフランソワ・アンリ・ピノー=会長兼CEOやマリー=クレール・ダヴー(Marie-Claire Daveu)=チーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)兼渉外担当責任者らボードメンバーに加え、渡辺貴生ゴールドウイン社長や山崎智士サティス製薬CEOら9人が務めた。

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アダストリアがエコミットと衣類循環の新スキーム始動 「グローバルワーク」など190店舗で

アダストリアとエコミット(ECOMIT)は、衣類の循環を促進する新たなスキームを構築した。3月1日より、「グローバル ワーク(GLOBAL WORK)」を中心に、アダストリアの約190店舗において、エコミットが展開する資源循環サービス「パスト(PASSTO)」を活用した衣類回収を開始する。アダストリアはこれまで、衣料品在庫の焼却処分ゼロを方針に掲げ、「燃やさない、捨てない」ための施策を推進してきた。「パスト」を通じて、不要になった衣類を捨てるのではなく、次の人につなげる選択肢を提供する。

回収した衣類は全国にあるエコミットの循環センターに集められ、エコミットとアダストリアが共同で策定した独自の選別基準に基づき、エコミットの専門スタッフ「プロピッカー」によって選別される。選別後の衣類は、アダストリアグループの店舗(OFF STORE)でリユース製品として販売されるほか、国内外でリユース品として再流通される。また、「パスト」から回収した衣類の一部も「オフ ストア」で販売する予定。リユースが困難な衣類は素材別に選別し、リサイクルパートナーと協力して資源として再活用。ポリエステル100%の衣類を伊藤忠商事のリサイクルポリエステルブランド「レニュー(RENU)」のプロジェクトを通じてリサイクルポリエステルに変換し、アダストリアが展開する商品の一部に採用する。

実施店舗は「グローバルワーク」(GLOBAL WORK)、「ベイフロー」(BAYFLOW)、「レピピアルマリオ」(REPIPI ARMARIO)、「レプシィム」(LEPSIM)、「ローリーズファーム」(LOWRYS FARM)、「フォーエバー21」(FOREVER 21)、「オフ ストア(OFFSTORE)」の約190店舗。回収対象商品は衣類(こども服、トップス、ボトムス、ジャケット、コート、シャツ、スカートなど)。

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アダストリアがエコミットと衣類循環の新スキーム始動 「グローバルワーク」など190店舗で

アダストリアとエコミット(ECOMIT)は、衣類の循環を促進する新たなスキームを構築した。3月1日より、「グローバル ワーク(GLOBAL WORK)」を中心に、アダストリアの約190店舗において、エコミットが展開する資源循環サービス「パスト(PASSTO)」を活用した衣類回収を開始する。アダストリアはこれまで、衣料品在庫の焼却処分ゼロを方針に掲げ、「燃やさない、捨てない」ための施策を推進してきた。「パスト」を通じて、不要になった衣類を捨てるのではなく、次の人につなげる選択肢を提供する。

回収した衣類は全国にあるエコミットの循環センターに集められ、エコミットとアダストリアが共同で策定した独自の選別基準に基づき、エコミットの専門スタッフ「プロピッカー」によって選別される。選別後の衣類は、アダストリアグループの店舗(OFF STORE)でリユース製品として販売されるほか、国内外でリユース品として再流通される。また、「パスト」から回収した衣類の一部も「オフ ストア」で販売する予定。リユースが困難な衣類は素材別に選別し、リサイクルパートナーと協力して資源として再活用。ポリエステル100%の衣類を伊藤忠商事のリサイクルポリエステルブランド「レニュー(RENU)」のプロジェクトを通じてリサイクルポリエステルに変換し、アダストリアが展開する商品の一部に採用する。

実施店舗は「グローバルワーク」(GLOBAL WORK)、「ベイフロー」(BAYFLOW)、「レピピアルマリオ」(REPIPI ARMARIO)、「レプシィム」(LEPSIM)、「ローリーズファーム」(LOWRYS FARM)、「フォーエバー21」(FOREVER 21)、「オフ ストア(OFFSTORE)」の約190店舗。回収対象商品は衣類(こども服、トップス、ボトムス、ジャケット、コート、シャツ、スカートなど)。

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環境問題への意識が再熱したきっかけはグレタさん 【モデル、俳優、監督の岡本多緒】

「WWDJAPAN」ポッドキャストの「サステナブルファッション・トーク」は、ファッション業界のサステナビリティに関する最新ニュースやトレンドをざっくばらんにお話しする番組です。今週は「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクター向千鶴がサステナビリティ担当記者の皆合友紀子とともにお届けします。

今週のゲストはモデル、俳優、監督、そしてアウターブランド「アボード・オブ・スノー」共同クリエイティブ・ディレクター兼サステイナビリティ・アンバサダーを務める岡本多緒さんをお迎えして、表現者としてのキャリアや海外での活躍、そして環境問題への意識が高まったきっかけなどについてお話しいただきます。

ゲストプロフィール

岡本多緒(おかもと・たお)2006年に渡仏し、数々のトップメゾン・雑誌等で世界のトップモデル“TAO”として活躍。13年に映画「ウルヴァリン:SAMURAI」で俳優デビューを果たし、ハリウッド作品を中心に数々の話題作に出演。これまでに映画監督として2本の短編作品を手掛ける。多岐にわたる活動の傍ら、環境問題や動物の権利について発信するポッドキャスト番組「Emerald Practices」のホストを務める他、動物と地球に大きな敬意を込めたアウターブランド「アボード・オブ・スノー」を手掛ける



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LDHと帝人フロンティアが循環型リサイクル実現のためタッグ

「EXILE」などが所属するLDH JAPANと帝人フロンティアは3月10日、帝人フロンティアの持つケミカルリサイクル技術を軸にした循環型リサイクル取り組みで提携すると発表した。3月からスタートする「EXILE」の全国8カ所のライブツアー会場でポリエステル繊維を使用した衣料品の回収ブースを設置し、帝人フロンティアの「繊維to繊維」の仕組みや技術を紹介するほか、LDHの事業でリサイクルの啓蒙活動を実施したり、回収した衣料製品のリサイクル繊維を使ったツアーグッズなどの制作も計画する。「EXILE」メンバーで、LDHジャパンの橘ケンチソーシャル・イノベーション・オフィサーは「ツアーやSNSなど多くの機会を通じて、サステナブルな夢の循環を発信していく。ぜひ帝人フロンティアで取り組むリサイクルの現場をぜひ見て発信したい」と意気込みを語った。

繊維商社の帝人フロンティアは、1995年からリサイクルポリエステル「エコペット(ECOPET)」事業をスタート。2000年にはポリエステルのケミカルリサイクル事業をスタート、02年には「繊維to繊維」をスタートするなど、リサイクル技術とその事業化では世界的にも先頭を走ってきた。LDHとは、同社の主催する小学校4年生から6年生を対象としたフットサル大会「EXILE CUP」に、25年シーズンからオフィシャルスポンサーとして参加。リサイクルポリエステル繊維を使用した記念品の提供や使用済み衣料品のテスト回収を実施する。

帝人は3月に、松山事業所の「繊維to繊維」で生産する再生ポリエステル繊維について、国際的な認証制度で、グローバルサプライチェーンの信頼性を評価するISCC PLUS認証を取得していた。

LDHは2019年から福井市などと連携し、ソーシャルイノベーション事業に力を入れてきた。現在は40の自治体と110プロジェクトを実施している。

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LDHと帝人フロンティアが循環型リサイクル実現のためタッグ

「EXILE」などが所属するLDH JAPANと帝人フロンティアは3月10日、帝人フロンティアの持つケミカルリサイクル技術を軸にした循環型リサイクル取り組みで提携すると発表した。3月からスタートする「EXILE」の全国8カ所のライブツアー会場でポリエステル繊維を使用した衣料品の回収ブースを設置し、帝人フロンティアの「繊維to繊維」の仕組みや技術を紹介するほか、LDHの事業でリサイクルの啓蒙活動を実施したり、回収した衣料製品のリサイクル繊維を使ったツアーグッズなどの制作も計画する。「EXILE」メンバーで、LDHジャパンの橘ケンチソーシャル・イノベーション・オフィサーは「ツアーやSNSなど多くの機会を通じて、サステナブルな夢の循環を発信していく。ぜひ帝人フロンティアで取り組むリサイクルの現場をぜひ見て発信したい」と意気込みを語った。

繊維商社の帝人フロンティアは、1995年からリサイクルポリエステル「エコペット(ECOPET)」事業をスタート。2000年にはポリエステルのケミカルリサイクル事業をスタート、02年には「繊維to繊維」をスタートするなど、リサイクル技術とその事業化では世界的にも先頭を走ってきた。LDHとは、同社の主催する小学校4年生から6年生を対象としたフットサル大会「EXILE CUP」に、25年シーズンからオフィシャルスポンサーとして参加。リサイクルポリエステル繊維を使用した記念品の提供や使用済み衣料品のテスト回収を実施する。

帝人は3月に、松山事業所の「繊維to繊維」で生産する再生ポリエステル繊維について、国際的な認証制度で、グローバルサプライチェーンの信頼性を評価するISCC PLUS認証を取得していた。

LDHは2019年から福井市などと連携し、ソーシャルイノベーション事業に力を入れてきた。現在は40の自治体と110プロジェクトを実施している。

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イオンが使用済衣類をリサイクルした衣料品全39種を4ブランドで発売

イオンは、カイタックファミリーが手がける「MUDA ZERO(ムダゼロ)プロジェクト」の素材を活用した衣料品を、自社の4ブランド「セルフ+サービス(SELF+SERVICE)」「エシーム(ESSEME)」「ジュネママン(JEUNEMAMAN)」「ノアンヌ(noannu)」で発売した。価格は3278~6380円。

「MUDA ZEROプロジェクト」では消費者から回収した使用済みの衣類をリサイクルし、再製品化までを行なっている。綿や、ポリエステルといった素材の混合率に制約されず、全ての布製品を回収して再生できるのが特徴。イオンでは同プロジェクトで再生された糸や繊維を活用し、各ブランドから計39種類のオリジナル商品を販売している。製品のラインアップはブランドによって異なるが、シャツやデニムパンツなど。イオン各店舗とオンラインにて購入可能。

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「シスター」 が 「フィフティーズ・プロジェクト」と共に国際女性デーに合わせた展示開催 メインビジュアルはシシヤマザキ

セレクトブティック「シスター(Sister)」は、国際女性デーに合わせ、3月7日から9日まで、政治分野でのジェンダーギャップ解消を目指して活動する「フィフティーズ・プロジェクト(FIFTYS PROJECT)」と共に、展覧会「FIFTYS PROJECT ジェンダー平等とわたしたち」を、渋谷パルコ 1階のポップアップスペース「GATE」で開催する。

会場では、展示を通して「フィフティーズ・プロジェクト」の活動を紹介するとともに、ジェンダーと政治にまつわるこれまでとこれからの歩みを概観する。メインビジュアルに採用したのは、NHK朝の連続テレビ小説「虎に翼」のタイトルバックを手がけた、アーティストのシシヤマザキによるイラスト。同様のビジュアルをあしらったTシャツやフーディーなどの展覧会関連グッズのほか、三重県・尾鷲市に拠点を構える書店「トンガ坂文庫」が本展のために選書した書籍も販売する。なお、本展の売り上げの一部は、ジャンダー関連図書の購入にあて、自治体に寄贈する。

⚫︎国際女性デー2025 「FIFTYS PROJECT ジェンダー平等とわたしたち」
日程:2025年3月7日〜9日
時間:11:00〜21:00
場所:渋谷パルコ 1階 ポップアップスペース「GATE」
住所:東京都渋谷区宇田川町15-1

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「シスター」 が 「フィフティーズ・プロジェクト」と共に国際女性デーに合わせた展示開催 メインビジュアルはシシヤマザキ

セレクトブティック「シスター(Sister)」は、国際女性デーに合わせ、3月7日から9日まで、政治分野でのジェンダーギャップ解消を目指して活動する「フィフティーズ・プロジェクト(FIFTYS PROJECT)」と共に、展覧会「FIFTYS PROJECT ジェンダー平等とわたしたち」を、渋谷パルコ 1階のポップアップスペース「GATE」で開催する。

会場では、展示を通して「フィフティーズ・プロジェクト」の活動を紹介するとともに、ジェンダーと政治にまつわるこれまでとこれからの歩みを概観する。メインビジュアルに採用したのは、NHK朝の連続テレビ小説「虎に翼」のタイトルバックを手がけた、アーティストのシシヤマザキによるイラスト。同様のビジュアルをあしらったTシャツやフーディーなどの展覧会関連グッズのほか、三重県・尾鷲市に拠点を構える書店「トンガ坂文庫」が本展のために選書した書籍も販売する。なお、本展の売り上げの一部は、ジャンダー関連図書の購入にあて、自治体に寄贈する。

⚫︎国際女性デー2025 「FIFTYS PROJECT ジェンダー平等とわたしたち」
日程:2025年3月7日〜9日
時間:11:00〜21:00
場所:渋谷パルコ 1階 ポップアップスペース「GATE」
住所:東京都渋谷区宇田川町15-1

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デンマーク発「ガニー」が日本初直営店を渋谷パルコにオープン 限定色のバッグ発売


デンマーク・コペンハーゲン発のファッションブランド「ガニー(GANNI)」は、日本初の直営店「ガニー渋谷パルコ」を3月20日に渋谷パルコ3階にオープンする。「本オープンは、『ガニー』のグローバル市場への拡大において重要な展開であり、韓国、中国、タイに続くアジア市場でのブランドプレゼンス強化を示すものとなる。新店舗を通じて日本のファンとのさらなる繋がりを築くことを目指す」と同ブランド。

同店では2025年春夏コレクションの最新ウェアやアクセサリーを展開する。ライダーバックル付きトレンチコート、テーラードスーツ、コルセットディテールのデニム、スモッキングドレス、“XXL ホーボーバッグ”や“レースアップバレリーナ”といった人気アイテムをラインナップする。また、日本限定の特別企画として、ピンクの “ブウバケットバッグ”の先行予約を予定している。

Bコープ認証を取得している同ブランドは、サステナブルな取り組みに積極的で、バージン素材に代わる革新素材の研究・開発のイニシアチブ「ファブリック・オブ・フューチャー」などを通じて、2027年までに二酸化炭素排出量を50%削減するという目標を掲げている。同店にはリサイクルプラスチックやリサイクルゴム、日本で調達したリサイクル生地を使用したオリジナルのディスプレイや装飾が施される。

同ブランドは現在コペンハーゲン、パリ、ニューヨーク、上海にオフィスを構え、世界700以上の小売店で販売し、欧米およびアジアで70の店舗を運営している。

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エコミットが怒涛の提携発表 LINEヤフー、中部電力ミライズ、日本通運と「不要品を無料で手放せる仕組み」

エコミット(ECOMMIT)は3日、同社が運営する資源循環サービス「パスト(PASSTO)」について、LINEヤフー、中部電力ミライズ、日本通運などとの取り組みを相次いで発表した。いずれの提携も、利用者が条件付きで不要品を無料で手放せる仕組みとなっており、「より気軽にアクションできる仕組みを作ることで、自宅に眠る不要品を都市資源として生かし、循環につなげる」ことを目指す。

「サストモ」LINE公式アカウントのネットワークを生かして回収

LINEヤフーとは3日、会見を開き、LINEヤフーが運営するサステナビリティに関するメディア「サストモ」との本格稼働を発表した。「サストモ」LINE公式アカウントは500万人以上の友だちを持ち、そのネットワークを生かし、自宅の不要品の回収・選別・再流通を「宅配PASSTO」が行う。対象エリアは、北海道・沖縄・離島を除く国内全域で、年間のべ5万人の利用を目指す。

利用者は回収の「必須アイテム」を入れることで、その他のアイテムも併せて送料無料で不要品を送ることができる。回収した不要品は、エコミットが国内外でリユース品として再流通させるほか、リユースが難しいものはリサイクルパートナーを通じて再資源化する。将来的には「メーカーが集めたい資源を自宅から回収することで、ものづくりを変革する取り組みへとつなげたい」方針だ。

両社は昨年9月に「宅配パスト(PASSTO)」の実証実験を関東・中部・関西エリアで1ヶ月半限定で実施。その結果、3558人が「宅配PASSTO」を利用して約44トンの不要品を回収し、循環率(リユース・リサイクル率)は97%となった。エコミットは、これらの不要品を「都市資源」と呼び「より気軽に循環のアクションを行える仕組みを作ることで、自宅に眠る都市資源を手放し、循環につなげることができると明らかになった」と分析している。

“必須アイテム”が1点入っていれば他も無料で回収

この取り組みでユニークなのは、“必須アイテム”を設けた点だ。“必須アイテム”には、アクセサリーや小型家電、玩具、ホビー用品、調理器具などがあり、それらが1点入っていれば、他のアイテムも同梱できる仕組みとした。同梱アイテムには、衣類やタオル、ファッション雑貨、生活雑貨、アウトドア・スポーツ用品、食器類などが含まれる。その理由について川野輝之エコミット社長は「実装前に持続可能な仕組みを構築できるのか、つまり経済性を確保しながら環境と経済の両立が可能なのか、実証実験を進めてきた。宅配の費用をお客様からいただかずに回収するには、他でコストをまかなわなければならない。そのためすでに取得しているデータから一定の価値があり、経済性を確保できると分かっているアイテムを“必須アイテム”とした。“必須アイテム”が1点入っていれば、その他は何を入れても構わないので、それほど使い勝手は悪くないはずだ」と説明する。

また「回収の進展は目覚ましいが、それだけでは根本的な問題解決にはいたらない。現状、廃棄される資源の約70%が適切にリサイクルされておらず、これを食い止めることが重要だ。流通過程での製造・消費のあり方を見直す必要がある。製造業者や販売業者と連携し、資源の回収と再利用を推進するプラットフォームを構築していきたい」と中期目標を語った。

会見では、両社によるトークセッションも行われた。坂野晶エコミット取締役CSO ESG推進室長は「ひとつ懸念していることがあり、“パストしたら何とかしてもらえる、新しい物を買ってもいいよね”となりすぎることは違う。天然資源を大切にしながら、いかにしてビジネスも継続できるかを企業と考え実践してゆきたい」と問題提起すれば、長谷川琢也LINEヤフーサステナビリティ推進統括本部CSR本部課題解決メディアチームサストモ統括編集長が「多くの人が“消費しかわからない”のが現実だが、関わることで親近感、誇らしさを感じるもの。知ることで意識が変わるから、資源循環をより多くの人にとって身近なものにすることが大切だ」と返すなど、議論を深めた。

引っ越し時の不要品を無料で手放せる

中部電力ミライズとは、中部・関西の一部エリア(愛知県・三重県・岐阜県・長野県・静岡県・京都府・滋賀県・奈良県・大阪府・兵庫県・和歌山県)を対象に、「宅配パスト」の提供を3月3日から12月31日まで行う。中部電力ミライズが提供する家庭向けWEB会員サービス「カテエネ」のウェブサイトなどを通じて受け付ける。回収した不要品は、2025年春にオープン予定のエコミットの新拠点「中部サーキュラーセンター」で、国内外向けのリユース品として再流通されるほか、リユースが難しいものについてはリサイクルパートナーを通じて再資源化を行う。「中部エリアで回収したものを地域で循環させることができ、地域の廃棄物量の削減と、資源循環型の地域づくりに貢献する」と同社は述べている。

日本通運とも「宅配パスト」を3月3日から5月31日まで実施。日本通運の引越サービスの申し込み者を対象に、不要になった衣類・雑貨を宅配で送料ゼロで送ることができる。「引っ越し時に出る不要なものの中から、次の人につなげたいものを自宅から気軽に手放し、次の人につなげることができる」仕組みだ。

中部電力ミライズ、日本通運との取り組みも、LINEヤフー「サストモ」と同じく“必須アイテム”を入れることが条件となる。

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エコミットが怒涛の提携発表 LINEヤフー、中部電力ミライズ、日本通運と「不要品を無料で手放せる仕組み」

エコミット(ECOMMIT)は3日、同社が運営する資源循環サービス「パスト(PASSTO)」について、LINEヤフー、中部電力ミライズ、日本通運などとの取り組みを相次いで発表した。いずれの提携も、利用者が条件付きで不要品を無料で手放せる仕組みとなっており、「より気軽にアクションできる仕組みを作ることで、自宅に眠る不要品を都市資源として生かし、循環につなげる」ことを目指す。

「サストモ」LINE公式アカウントのネットワークを生かして回収

LINEヤフーとは3日、会見を開き、LINEヤフーが運営するサステナビリティに関するメディア「サストモ」との本格稼働を発表した。「サストモ」LINE公式アカウントは500万人以上の友だちを持ち、そのネットワークを生かし、自宅の不要品の回収・選別・再流通を「宅配PASSTO」が行う。対象エリアは、北海道・沖縄・離島を除く国内全域で、年間のべ5万人の利用を目指す。

利用者は回収の「必須アイテム」を入れることで、その他のアイテムも併せて送料無料で不要品を送ることができる。回収した不要品は、エコミットが国内外でリユース品として再流通させるほか、リユースが難しいものはリサイクルパートナーを通じて再資源化する。将来的には「メーカーが集めたい資源を自宅から回収することで、ものづくりを変革する取り組みへとつなげたい」方針だ。

両社は昨年9月に「宅配パスト(PASSTO)」の実証実験を関東・中部・関西エリアで1ヶ月半限定で実施。その結果、3558人が「宅配PASSTO」を利用して約44トンの不要品を回収し、循環率(リユース・リサイクル率)は97%となった。エコミットは、これらの不要品を「都市資源」と呼び「より気軽に循環のアクションを行える仕組みを作ることで、自宅に眠る都市資源を手放し、循環につなげることができると明らかになった」と分析している。

“必須アイテム”が1点入っていれば他も無料で回収

この取り組みでユニークなのは、“必須アイテム”を設けた点だ。“必須アイテム”には、アクセサリーや小型家電、玩具、ホビー用品、調理器具などがあり、それらが1点入っていれば、他のアイテムも同梱できる仕組みとした。同梱アイテムには、衣類やタオル、ファッション雑貨、生活雑貨、アウトドア・スポーツ用品、食器類などが含まれる。その理由について川野輝之エコミット社長は「実装前に持続可能な仕組みを構築できるのか、つまり経済性を確保しながら環境と経済の両立が可能なのか、実証実験を進めてきた。宅配の費用をお客様からいただかずに回収するには、他でコストをまかなわなければならない。そのためすでに取得しているデータから一定の価値があり、経済性を確保できると分かっているアイテムを“必須アイテム”とした。“必須アイテム”が1点入っていれば、その他は何を入れても構わないので、それほど使い勝手は悪くないはずだ」と説明する。

また「回収の進展は目覚ましいが、それだけでは根本的な問題解決にはいたらない。現状、廃棄される資源の約70%が適切にリサイクルされておらず、これを食い止めることが重要だ。流通過程での製造・消費のあり方を見直す必要がある。製造業者や販売業者と連携し、資源の回収と再利用を推進するプラットフォームを構築していきたい」と中期目標を語った。

会見では、両社によるトークセッションも行われた。坂野晶エコミット取締役CSO ESG推進室長は「ひとつ懸念していることがあり、“パストしたら何とかしてもらえる、新しい物を買ってもいいよね”となりすぎることは違う。天然資源を大切にしながら、いかにしてビジネスも継続できるかを企業と考え実践してゆきたい」と問題提起すれば、長谷川琢也LINEヤフーサステナビリティ推進統括本部CSR本部課題解決メディアチームサストモ統括編集長が「多くの人が“消費しかわからない”のが現実だが、関わることで親近感、誇らしさを感じるもの。知ることで意識が変わるから、資源循環をより多くの人にとって身近なものにすることが大切だ」と返すなど、議論を深めた。

引っ越し時の不要品を無料で手放せる

中部電力ミライズとは、中部・関西の一部エリア(愛知県・三重県・岐阜県・長野県・静岡県・京都府・滋賀県・奈良県・大阪府・兵庫県・和歌山県)を対象に、「宅配パスト」の提供を3月3日から12月31日まで行う。中部電力ミライズが提供する家庭向けWEB会員サービス「カテエネ」のウェブサイトなどを通じて受け付ける。回収した不要品は、2025年春にオープン予定のエコミットの新拠点「中部サーキュラーセンター」で、国内外向けのリユース品として再流通されるほか、リユースが難しいものについてはリサイクルパートナーを通じて再資源化を行う。「中部エリアで回収したものを地域で循環させることができ、地域の廃棄物量の削減と、資源循環型の地域づくりに貢献する」と同社は述べている。

日本通運とも「宅配パスト」を3月3日から5月31日まで実施。日本通運の引越サービスの申し込み者を対象に、不要になった衣類・雑貨を宅配で送料ゼロで送ることができる。「引っ越し時に出る不要なものの中から、次の人につなげたいものを自宅から気軽に手放し、次の人につなげることができる」仕組みだ。

中部電力ミライズ、日本通運との取り組みも、LINEヤフー「サストモ」と同じく“必須アイテム”を入れることが条件となる。

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日本のファッション企業は脱炭素やファッションロスに向けて何してる? 帝人フロンティア・鈴木優美子、ユニステップス・鎌田安里紗

「WWDJAPAN」ポッドキャストの「サステナブルファッション・トーク」は、ファッション業界のサステナビリティに関する最新ニュースやトレンドをざっくばらんにお話しする番組です。本番組では、サステナビリティ担当記者木村和花がホストを務め、「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクター向千鶴とともにお届けします。

先週に引き続きジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)の共同代表企業である帝人フロンティアから鈴木優美子さんと、事務局を務める一般社団法人ユニステップスの鎌田安里紗さんをゲストにお迎えし、JSFAの活動について聞きました。今回は脱炭素やファッションロスに向けて企業が連携して具体的に進めていることなど、生活者からは見えにくい企業活動について生の声でお伝えします。



この配信は以下のアプリでもご利用いただけます。​
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“月日貝”のペペロンチーノを試食! ファーマーユーが「鹿児島県のおいしいを広める」レストラン企画を監修

トランジットジェネラルオフィスが100%出資し、食を通して環境問題に取り組んでいるファーマーユー(FARMER YOU)は、鹿児島県からの委託を受けレストラン企画「ディスカバー ヒドゥン 鹿児島(Discover Hidden KAGOSHIMA)」をプロデュースする。3月1日から、全国のレストラン8店舗で鹿児島県産の食材を使用した期間限定メニューの提供をスタートした。

同企画の主役食材は、鹿児島県で獲れる「月日貝」だ。鮮やかな赤と白のコントラストが特徴の貝で、表が「太陽(日)」、裏が「月」のように見えることからその名が付けられた。漁獲量の増減が大きいため、地元の若手漁師たちは種苗研究を進め「持続可能な漁業」を実現し、未来の海を守ることへの挑戦を続けている。この月日貝は全店舗で使用し、おいしさや美しさだけでなく、未来に向けた漁師たちの想いを届ける。

月日貝のペペロンチーノを実食

東京・中目黒にあるカフェレストラン「リバーサイドクラブ(RIVERSIDE CLUB)」で提供する限定メニュー“ツキヒガイとローストトマトのペペロンチーノ”(1680円)を実際に試食してみた。

ローストしたトマトを太陽、月日貝を月に見立てた美しい一皿だ。月日貝は貝柱が大きく歯応えがあり、甘みが強い。タリアテッレの平たいパスタはソースがよく絡み、口いっぱいにガーリックの旨みが広がった。横には月日貝の真っ赤な貝殻が添えられていて、目で見ても楽しい。

ほか、「麻布台ヒルズカフェ(AZABUDAI HILLS CAFE)」では“初鰹のカルパッチョ”(1400円)を、鹿児島・天文館の「ザ ルーフ(THE ROOF)」では“鹿児島県産 黒牛 ステークフリット”(3900円)など、店舗によってさまざまなメニューが楽しめる。

ゴールは「月日貝のおいしさを知ってもらうこと」

月日貝のほか、日本で最も早く水揚げされる初ガツオ、鹿児島県産和牛、かごしま黒豚、早掘りたけのこ、「かごしまの農林水産物認証制度(K-GAP)」に認証された金柑やいちごなどを使用したメニューを用意する。

2月26日に開催した発表会に登壇した田尾あゆみファーマーユー社長は、「プロジェクトのゴールは月日貝をはじめ、鹿児島県のおいしい食材をたくさんの人に知ってもらうこと。一部メニューでは、月日貝の貝殻を練り込みアップサイクルした器で提供。食材だけでなく資源までも無駄にしない」とコメント。器は鹿児島在住の作家、さのるり氏に制作を依頼した。

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YKK「誰でも開け閉めがしやすいファスナー」が経産省のアワードで最優秀賞 認知症当事者と開発


YKKはこのほど、経済産業省が推進する「オレンジイノベーション・ アワード2024」で最優秀賞を受賞した。同アワードは、認知症イノベーションアライアンスワーキンググループ事務局が主催しており、認知症の人との共創のプロセスを重視し、そのプロセスや仕組み自体とユーザーフレンドリーな製品やサービスを表彰している。

YKK は「誰でも開け閉めがしやすいファスナー」を認知症当事者に触れてもらい、対話を通じて開発・改良を行ってきた。認知症当事者の声をもとに多世代への展開を目指している点や、マグネットの磁力により開具が引き合うファスナー「click-TRAK® Magnetic」 をはじめとする複数種類の製品サンプルを準備し、多様な当事者とともに開発を進めている点が評価された。

同省によると、日本では認知症及びMCI(軽度認知障害)の人の数は、2040年には合計約1200万人(認知症約584万人、MCI約613万人)に達し、65歳以上の高齢者の約3.3人に1人を占めるという。

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未活用の梅や抹茶を肌着の染料に  創業130年の「アングル」×「フード テキスタイル」


アングルは、規格外・未活用状態となった食材から抽出した天然染料を再活用する豊島のプロジェクト「フード テキスタイル(FOOD TEXITLE)」とコラボレーションし、肌や環境に配慮した肌着を3月8日からオンラインストアとポップアップイベント「130年の歴史、アングルのメリヤス展」で発売する。

「日本における食品ロス量は減少傾向にあるが、依然大きな課題として挙げられる。産業を超えたつながりで衣食住の生活シーンを彩りたい」と同社。1894年創業のアングルは長年、高品質な天然素材と高い機能性を重んじた肌着を手掛けてきた。

4アイテムをラインナップし、奈良県五條市の梅の実で抽出したアイボリーと、愛知県安城市の抹茶で抽出したイエローグリーンの2色を展開する。梅の実は農園で収穫された時に傷がついたり、変形して売りに出せない規格外品を回収して染料に、抹茶は日本産の碾茶(てんちゃ)を粉末にしたもので、加工する際に出る、粒子の不揃いなものやふるいに残ったものを再活用している。

■130年の歴史、アングルのメリヤス展
日時:2025年3月8日(土)〜19日(水)
会場:代官山 蔦屋書店
住所:東京都渋谷区猿楽町16-15

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未活用の梅や抹茶を肌着の染料に  創業130年の「アングル」×「フード テキスタイル」


アングルは、規格外・未活用状態となった食材から抽出した天然染料を再活用する豊島のプロジェクト「フード テキスタイル(FOOD TEXITLE)」とコラボレーションし、肌や環境に配慮した肌着を3月8日からオンラインストアとポップアップイベント「130年の歴史、アングルのメリヤス展」で発売する。

「日本における食品ロス量は減少傾向にあるが、依然大きな課題として挙げられる。産業を超えたつながりで衣食住の生活シーンを彩りたい」と同社。1894年創業のアングルは長年、高品質な天然素材と高い機能性を重んじた肌着を手掛けてきた。

4アイテムをラインナップし、奈良県五條市の梅の実で抽出したアイボリーと、愛知県安城市の抹茶で抽出したイエローグリーンの2色を展開する。梅の実は農園で収穫された時に傷がついたり、変形して売りに出せない規格外品を回収して染料に、抹茶は日本産の碾茶(てんちゃ)を粉末にしたもので、加工する際に出る、粒子の不揃いなものやふるいに残ったものを再活用している。

■130年の歴史、アングルのメリヤス展
日時:2025年3月8日(土)〜19日(水)
会場:代官山 蔦屋書店
住所:東京都渋谷区猿楽町16-15

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チヨダが他4社と靴業界向けのカーボンフットプリント算定・表示ルールを策定 

チヨダ物産は東邦レマック、TOSMAX、ダイマツ、山三商事とともに、環境省の令和6年度「製品・サービスのカーボンフットプリントに係るモデル事業」として参画し、靴業界を対象としたカーボンフットプリントの算定・表示ルールを策定した。27日にはその報告会を開催した。報告会には、賛同企業・団体としてチヨダ、ジーフット、シューマート、ワシントン靴店、カワノ、トモエ商事、日本ケミカルシューズ工業組合、東京都靴卸協同組合が参加をした。

カーボンフットプリントとは、Carbon Footprint of Products の頭文字で「CFP」と表され、商品の原材料調達から生産、流通・販売、使用、廃棄・リサイクルに至るまでの各段階で排出される温室効果ガスの量をCO2に換算したもの。統一のルールに基づいたCFP算定を行うことで、業界内の公平性を保ち、表示に同じマークを使用することによって分かりやすい情報提供を目指す。策定した同ルールは靴業界の企業・団体がCFPの算定を行う際や、その結果を表示する際に利用する考えだ。「消費者が脱炭素に貢献する製品・サービスを選択できる社会の実現に寄与し、靴業界全体が持続可能な社会の実現に向けて成長していけるよう引き続き努力する」と同社はコメントしている。

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「ジースター」がウォルター・ヴァン・ベイレンドンクと協業 「極力縫わない服」発売

「ジースター(G-STAR)」は26日、デザイナーのウォルター・ヴァン・ベイレンドンク(Walter Van Beirendonck)と協業したカプセルコレクション“デニム・ウィズ・ボールズ”を「ジースター」一部店舗と各取扱店で発売した。

「アントワープの6人」として知られるウォルターは今回、従来の方法にとらわれない服作りをディレクションしたという。「縫製」を最小限に抑え、接着剤やデザインテープを使用した19点をそろえた。3Dニットのオーバーサイズのトップスやセーターには、ウォルターの作品を象徴するスローガン・デザインとして「Future Proof」「Wow」「Stitch Less」の言葉をプリント。また、アクセントとしてエンボス加工で各所に立体的に表現したドットにはコレクション名「Denim with Balls」にかけた言葉遊びを込めた。

デニムアイテムはすべて、その生産工程における持続可能性への配慮が特定の基準をクリアしていることを示すクレードル・トゥ・クレードル(Cradle to Cradle)認証を取得した生地を使用している。

キャンペーンではウォルター自身がモデルを務め、写真家ポール・コイカーが撮影した。「伝統的な手法にとらわれない、新しい服作りに挑戦した。これまでとは異なる新しい手法を模索することが可能になった現在も、服が旧来の手法で縫製されているのはなぜだろう?今回のプロジェクトの主なテーマは“イノベーション”“リサーチ”“服作りの固定観念への挑戦だ。ジースターから完全な裁量権を与えてもらい、自由に作ることができた」とウォルターは話している。

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「ジースター」がウォルター・ヴァン・ベイレンドンクと協業 「極力縫わない服」発売

「ジースター(G-STAR)」は26日、デザイナーのウォルター・ヴァン・ベイレンドンク(Walter Van Beirendonck)と協業したカプセルコレクション“デニム・ウィズ・ボールズ”を「ジースター」一部店舗と各取扱店で発売した。

「アントワープの6人」として知られるウォルターは今回、従来の方法にとらわれない服作りをディレクションしたという。「縫製」を最小限に抑え、接着剤やデザインテープを使用した19点をそろえた。3Dニットのオーバーサイズのトップスやセーターには、ウォルターの作品を象徴するスローガン・デザインとして「Future Proof」「Wow」「Stitch Less」の言葉をプリント。また、アクセントとしてエンボス加工で各所に立体的に表現したドットにはコレクション名「Denim with Balls」にかけた言葉遊びを込めた。

デニムアイテムはすべて、その生産工程における持続可能性への配慮が特定の基準をクリアしていることを示すクレードル・トゥ・クレードル(Cradle to Cradle)認証を取得した生地を使用している。

キャンペーンではウォルター自身がモデルを務め、写真家ポール・コイカーが撮影した。「伝統的な手法にとらわれない、新しい服作りに挑戦した。これまでとは異なる新しい手法を模索することが可能になった現在も、服が旧来の手法で縫製されているのはなぜだろう?今回のプロジェクトの主なテーマは“イノベーション”“リサーチ”“服作りの固定観念への挑戦だ。ジースターから完全な裁量権を与えてもらい、自由に作ることができた」とウォルターは話している。

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「日本の宝」の技術継承に尾州・小塚毛織が挑む 多様な世代が奮闘中

「日本の宝」と繊維・アパレル産業に身を置く人の多くが一目置くテキスタイル職人がいる。尾州産地でファンシーツイードを織るカナーレの足立聖代表だ。足立さんはテキスタイルを企画設計し、尾州産地に残るションヘル織機を持つ工場に外注して得意なツイードを織り、誰もが知るラグジュアリーからデザイナーズまで多くの有力ブランドにその生地を提供してきた。しかし2020年、コロナ禍で需要が減り取引先でションヘル織機を持つ最後の工場が廃業を決めた。「ションヘル織機を自社で持たないと足立さんのものづくりが途絶えてしまう」。小塚毛織の小塚康弘社長が足立さんの技術継続のために立ち上がった。

ションヘル織機は100年以上前にドイツで開発され、日本ではドイツの織機を原型に平岩鉄工所や大隈鉄工所が製作し明治大正期から1960年代頃まで主力で使われていた旧式の織機だ。繊維への負荷が少なく立体的に織り上げることができ、手織りのような柔らかい風合いに仕上がる。そのションヘル織機の特徴を最大限に生かして他にはない生地をデザインするのが足立さんだ。

小塚毛織がションヘル織機を導入して自社工場を整備して4年余り。「予期せず人が集まり、需要が高まっている」と小塚社長は嬉しそうに話す。足立さんとの協業による売上高は工場開設前の10%程度から20%を占めるまでになった。「将来的には50%を目指したい」。ションヘル織機は超低速運転でゆっくりと丁寧に織り上げることができるが、織る量には限りがある。「足立さんはゼロからイチをつくることができる。焼き直しではない足立さんのものづくりを理解してもらえる売り先を広げていきたい」。足立さんが生み出すテキスタイルの価値を高めて販路を広げようと大手商社やセレクトショップが名乗りを上げはじめ、その輪が広がっている。

技術・人・環境を整えるまで

小塚毛織は2009年からカナーレと協働をはじめ、11年に業務提携して本格的にファンシーツイードの企画販売を開始した。小塚社長は「紳士服向けの生地の企画生産を得意としていたがレディス向けの企画ができていなかった。また海外の生産を理解すればするほど国内でしかできないことに取り組みたいと考えるようになった。足立さんと提携することでレディス向けの企画を強化したいと考えた」と当時を振り返る。

小塚毛織は工場を持たず、テキスタイルを企画して中国や台湾の協力工場で生産したものを販売していた。足立さんが企画したテキスタイルもションヘル織機を持つ尾州の工場に外注して織っていた。「ションヘル織機を扱える職人が移り変わりながらもなんとか織ってきたが、最後のションヘル織機を持つ協力工場が20年に廃業を決めた」。

コロナ禍の2020年、1976年まで稼働していた自社工場を改修してションヘル織機を5台、整経機など付帯設備を導入した。売上高6億6200万円(2020年3月期)の小塚毛織にとっては安くはない設備投資であり、織機を動かす社員の雇用も必要になる。「長期計画を立てていたらできなかった。足立さんのものづくりを継続させたいーーその一心で奮起した」。

機械があってもものづくりはできない。「技術(足立さん)と人(機械を動かす人)、そして作る環境を整える必要があった」。SNSで発信された足立さんのモノ作りに引き付けられたのが横井春奈さんだ。横井さんは「ぱっと見の魅力が強く印象に残った。他と違うのが明らかに見てわかる。これは布なのか?と思うほどだった」と振り返る。横井さんは、神奈川の美術大学で工芸を専攻し、「立体的なテクスチャーに興味を持ちテキスタイルを学んだ」。横井さんは卒業間近の1月末に小塚毛織に連絡をした。

「当時新卒で2人を採用した直後で簡単に雇用することができず断った」と小塚社長。「しかし、5月に横井さんから尾州産地で働くために引っ越してきたとメールが届いた。社員としての受け入れは難しかったが、放ってはおけない。パートタイムで採用することにした。仕事への真摯な姿勢を感じて22年1月に社員として受け入れた」。同年8月にはションヘル織機を扱う老舗機屋と北陸の繊維メーカーで経験を積んだ水野太介さんも、小塚社長と足立さんの考えに賛同し入社した。水野さんは、尾崎雄飛「サンカッケー」デザイナー(2024年に織物工場「岩安毛織」を買収し事業承継に取り組む)とのテキスタイルプロジェクトにも携わり二足の草鞋で織機を扱う。「以前なら有望な若手を自社で独占するのが当たり前だった。今は小さな工場が社員を抱えるのが難しいこともあり、有望な若手を数社で支えるような緩やかなネットワークが生まれている」(山田幸士・岐阜県毛織工業協同組合専務理事)。

さらにかつてションヘル織機の機屋をしていた82歳の大島さんと、ともに働いていた夫を亡くしたことを機にションヘル織機から離れていた83歳の坪内さんがパートタイムで加わり、4人体制になった。大島さんは足立さんが会社員の時から戦友のような関係だった人で、坪内さんは通りかかった小塚毛織でションヘル織機の音に引き寄せられるように立ち寄ったときに横井さんが声をかけたという。

ションヘル織機など古い機械を治すことができる織機修理業者も尾州には1~2件に減っているため、水野さんや横井さんは業者が調整する様子を覚えて自社でメンテナンスができるように取り組んでいる。

当初はシャトルが飛ぶなどトラブル続きだったというが、23年頃からようやく生産が安定してきて量産できるようになった。足立さんは「水野くんはすでに全部自分でやれていて天性のものがある。横井さんはコツコツ取り組めることが才能。本当に好きなことが伝わってくる」と嬉しそうに話してくれた。

「シンプルな設計なのに他とは違う」足立さんの仕事の凄み

凝ったテキスタイルは自由な発想と緻密な設計から生まれる。足立さんは「デザイナーのイメージをかたちにしていくときが一番面白い」という。「設計図は算数の世界。イメージを数字に置き換えて図面にしている」。その際に過去に実現したサンプルから発展させることも少なくなく、小塚毛織社屋にあるアーカイブルームにはこれまで手掛けた大量のテキスタイルが保管されている。足立さんの才能は長年の蓄積とそれを織る技術者に支えられている。

足立さんの凄みを横井さんは「織りの組織自体は意外にもシンプルな点。シンプルな設計なのに他と違うのが一番難しい。組織を複雑にすれば織る人が間違えることも増えることも配慮しているのだろう。長年の経験あってこそ生まれる設計」と話す。さらに「足立さんの仕事の本質は人間関係を構築することだと気づいた。日々やっているのはコミュニケーションで、お客さんの希望を企画に起こして糸屋や染屋と丁寧にやり取りを重ねている。何十年もかけて築いた信頼関係があり、現場と機械を知り尽くしているからこそ挑戦的な生地が生まれている」と分析する。

水野さんは「足立さんは誰よりもチャレンジャー。『これ無理じゃないか』と思うことにも果敢に挑戦する。僕にはない部分で勉強させてもらっている。例えば今取り組んでいるのはスリット加工したフィルムを経糸にも横糸にも織り込んでいるが、フィルムの品質に変更がありこれまでのようにいかずに苦戦している。それがようやく今朝から織れるようになった」と静かな口調で語る。工場でその織機を見るとビームに小さな錘がついていて、足立さんは錘を指差して「これこれ」と嬉しそうに教えてくれた。

小塚社長も「閑散期向けには横糸を飛ばして手作業切る複雑な生地を企画するなど、繁忙期と閑散期、状況に応じてテキスタイルを企画してくれる」と語るなど、足立さんには、一緒に働く人を大切にして相手先の仕事の環境や状況に応じて仕事を進める姿勢が垣間見られるエピソードが多い。

足立さんの技術を受け継ぐ若手たち

横井さんは足立さんの行動ルーティンを真似することを意識しているという。「例えば糸屋を巡り用事がなくても機屋を訪ねるというルーティンは、なぜそれをするのかわからなくても真似を続けていると、足立さんが意図していることが見えてくる。機屋にこまめに顔を出すのは高齢化で少し間が空くと辞めちゃう方も出てくるから。真似する中で自分が得意なことや苦手なことを知り、苦手なことは足立さんとは違う方法を見つけて、自分で一から織れるようになりたい」と話す。記録を残すことも大事だと考え、些細なことまでメモを取り、インスタグラム(@hataya_no_teshigoto)でも発信している。「足立さんのようにどんな無茶ぶりも断らず応えられるテキスタイルデザイナーになりたい。そして、使い先が分からないくらい斬新な生地を作りたい」。

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「日本の宝」の技術継承に尾州・小塚毛織が挑む 多様な世代が奮闘中

「日本の宝」と繊維・アパレル産業に身を置く人の多くが一目置くテキスタイル職人がいる。尾州産地でファンシーツイードを織るカナーレの足立聖代表だ。足立さんはテキスタイルを企画設計し、尾州産地に残るションヘル織機を持つ工場に外注して得意なツイードを織り、誰もが知るラグジュアリーからデザイナーズまで多くの有力ブランドにその生地を提供してきた。しかし2020年、コロナ禍で需要が減り取引先でションヘル織機を持つ最後の工場が廃業を決めた。「ションヘル織機を自社で持たないと足立さんのものづくりが途絶えてしまう」。小塚毛織の小塚康弘社長が足立さんの技術継続のために立ち上がった。

ションヘル織機は100年以上前にドイツで開発され、日本ではドイツの織機を原型に平岩鉄工所や大隈鉄工所が製作し明治大正期から1960年代頃まで主力で使われていた旧式の織機だ。繊維への負荷が少なく立体的に織り上げることができ、手織りのような柔らかい風合いに仕上がる。そのションヘル織機の特徴を最大限に生かして他にはない生地をデザインするのが足立さんだ。

小塚毛織がションヘル織機を導入して自社工場を整備して4年余り。「予期せず人が集まり、需要が高まっている」と小塚社長は嬉しそうに話す。足立さんとの協業による売上高は工場開設前の10%程度から20%を占めるまでになった。「将来的には50%を目指したい」。ションヘル織機は超低速運転でゆっくりと丁寧に織り上げることができるが、織る量には限りがある。「足立さんはゼロからイチをつくることができる。焼き直しではない足立さんのものづくりを理解してもらえる売り先を広げていきたい」。足立さんが生み出すテキスタイルの価値を高めて販路を広げようと大手商社やセレクトショップが名乗りを上げはじめ、その輪が広がっている。

技術・人・環境を整えるまで

小塚毛織は2009年からカナーレと協働をはじめ、11年に業務提携して本格的にファンシーツイードの企画販売を開始した。小塚社長は「紳士服向けの生地の企画生産を得意としていたがレディス向けの企画ができていなかった。また海外の生産を理解すればするほど国内でしかできないことに取り組みたいと考えるようになった。足立さんと提携することでレディス向けの企画を強化したいと考えた」と当時を振り返る。

小塚毛織は工場を持たず、テキスタイルを企画して中国や台湾の協力工場で生産したものを販売していた。足立さんが企画したテキスタイルもションヘル織機を持つ尾州の工場に外注して織っていた。「ションヘル織機を扱える職人が移り変わりながらもなんとか織ってきたが、最後のションヘル織機を持つ協力工場が20年に廃業を決めた」。

コロナ禍の2020年、1976年まで稼働していた自社工場を改修してションヘル織機を5台、整経機など付帯設備を導入した。売上高6億6200万円(2020年3月期)の小塚毛織にとっては安くはない設備投資であり、織機を動かす社員の雇用も必要になる。「長期計画を立てていたらできなかった。足立さんのものづくりを継続させたいーーその一心で奮起した」。

機械があってもものづくりはできない。「技術(足立さん)と人(機械を動かす人)、そして作る環境を整える必要があった」。SNSで発信された足立さんのモノ作りに引き付けられたのが横井春奈さんだ。横井さんは「ぱっと見の魅力が強く印象に残った。他と違うのが明らかに見てわかる。これは布なのか?と思うほどだった」と振り返る。横井さんは、神奈川の美術大学で工芸を専攻し、「立体的なテクスチャーに興味を持ちテキスタイルを学んだ」。横井さんは卒業間近の1月末に小塚毛織に連絡をした。

「当時新卒で2人を採用した直後で簡単に雇用することができず断った」と小塚社長。「しかし、5月に横井さんから尾州産地で働くために引っ越してきたとメールが届いた。社員としての受け入れは難しかったが、放ってはおけない。パートタイムで採用することにした。仕事への真摯な姿勢を感じて22年1月に社員として受け入れた」。同年8月にはションヘル織機を扱う老舗機屋と北陸の繊維メーカーで経験を積んだ水野太介さんも、小塚社長と足立さんの考えに賛同し入社した。水野さんは、尾崎雄飛「サンカッケー」デザイナー(2024年に織物工場「岩安毛織」を買収し事業承継に取り組む)とのテキスタイルプロジェクトにも携わり二足の草鞋で織機を扱う。「以前なら有望な若手を自社で独占するのが当たり前だった。今は小さな工場が社員を抱えるのが難しいこともあり、有望な若手を数社で支えるような緩やかなネットワークが生まれている」(山田幸士・岐阜県毛織工業協同組合専務理事)。

さらにかつてションヘル織機の機屋をしていた82歳の大島さんと、ともに働いていた夫を亡くしたことを機にションヘル織機から離れていた83歳の坪内さんがパートタイムで加わり、4人体制になった。大島さんは足立さんが会社員の時から戦友のような関係だった人で、坪内さんは通りかかった小塚毛織でションヘル織機の音に引き寄せられるように立ち寄ったときに横井さんが声をかけたという。

ションヘル織機など古い機械を治すことができる織機修理業者も尾州には1~2件に減っているため、水野さんや横井さんは業者が調整する様子を覚えて自社でメンテナンスができるように取り組んでいる。

当初はシャトルが飛ぶなどトラブル続きだったというが、23年頃からようやく生産が安定してきて量産できるようになった。足立さんは「水野くんはすでに全部自分でやれていて天性のものがある。横井さんはコツコツ取り組めることが才能。本当に好きなことが伝わってくる」と嬉しそうに話してくれた。

「シンプルな設計なのに他とは違う」足立さんの仕事の凄み

凝ったテキスタイルは自由な発想と緻密な設計から生まれる。足立さんは「デザイナーのイメージをかたちにしていくときが一番面白い」という。「設計図は算数の世界。イメージを数字に置き換えて図面にしている」。その際に過去に実現したサンプルから発展させることも少なくなく、小塚毛織社屋にあるアーカイブルームにはこれまで手掛けた大量のテキスタイルが保管されている。足立さんの才能は長年の蓄積とそれを織る技術者に支えられている。

足立さんの凄みを横井さんは「織りの組織自体は意外にもシンプルな点。シンプルな設計なのに他と違うのが一番難しい。組織を複雑にすれば織る人が間違えることも増えることも配慮しているのだろう。長年の経験あってこそ生まれる設計」と話す。さらに「足立さんの仕事の本質は人間関係を構築することだと気づいた。日々やっているのはコミュニケーションで、お客さんの希望を企画に起こして糸屋や染屋と丁寧にやり取りを重ねている。何十年もかけて築いた信頼関係があり、現場と機械を知り尽くしているからこそ挑戦的な生地が生まれている」と分析する。

水野さんは「足立さんは誰よりもチャレンジャー。『これ無理じゃないか』と思うことにも果敢に挑戦する。僕にはない部分で勉強させてもらっている。例えば今取り組んでいるのはスリット加工したフィルムを経糸にも横糸にも織り込んでいるが、フィルムの品質に変更がありこれまでのようにいかずに苦戦している。それがようやく今朝から織れるようになった」と静かな口調で語る。工場でその織機を見るとビームに小さな錘がついていて、足立さんは錘を指差して「これこれ」と嬉しそうに教えてくれた。

小塚社長も「閑散期向けには横糸を飛ばして手作業切る複雑な生地を企画するなど、繁忙期と閑散期、状況に応じてテキスタイルを企画してくれる」と語るなど、足立さんには、一緒に働く人を大切にして相手先の仕事の環境や状況に応じて仕事を進める姿勢が垣間見られるエピソードが多い。

足立さんの技術を受け継ぐ若手たち

横井さんは足立さんの行動ルーティンを真似することを意識しているという。「例えば糸屋を巡り用事がなくても機屋を訪ねるというルーティンは、なぜそれをするのかわからなくても真似を続けていると、足立さんが意図していることが見えてくる。機屋にこまめに顔を出すのは高齢化で少し間が空くと辞めちゃう方も出てくるから。真似する中で自分が得意なことや苦手なことを知り、苦手なことは足立さんとは違う方法を見つけて、自分で一から織れるようになりたい」と話す。記録を残すことも大事だと考え、些細なことまでメモを取り、インスタグラム(@hataya_no_teshigoto)でも発信している。「足立さんのようにどんな無茶ぶりも断らず応えられるテキスタイルデザイナーになりたい。そして、使い先が分からないくらい斬新な生地を作りたい」。

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「オールバーズ」が藍色コレクション発売、ワタナベズと天然藍染ワークショップを実施

「オールバーズ(ALLBIRDS)」はこのほど、春に向けた藍色コレクションを発表した。ツリーダッシャー2とツリーランナゴーの2種類を店頭とオンラインで展開している。またこの発売を記念して、徳島県上板町に藍染工房を構えるワタナベズ(Watanabe’s)による天然藍染ワークショップを開催する。

同工房によるワークショップは2021年から実施しており、今回は3月20日と21日にオールバーズ原宿店、22日と23日に丸の内店でそれぞれ実施する。価格は3500円(税込)。「オールバーズ」他、ゴールドウイングループ製品(「ノースフェイス」、「ヘリーハンセン」、「カンタベリー」、「アイスブレーカー」など)を対象に実施する。事前予約制だが、予約状況によっては当日参加も受け付ける。

また、今回のワークショップ参加者から抽選で4名にワタナベズの蒅藍建てキットをプレゼントする。オールバーズとのワークショップでの知見を元に開発されたこのキットでは、藍染液の発酵の仕組みを家庭で学び、自宅で染色を体験できる。

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東急不動産HDがマンション「BRANZ」など68施設で衣料品・雑貨回収スタート


東急不動産ホールディングスは、グループの東急不動産ならびに東急コミュニティー、東急リゾーツ&ステイの3社で、展開・管理する施設68施設(2025年1月現在)で衣料品・雑貨品回収サービス「アールループ(R-LOOP)」をスタートした。

「アールループ」は、ビーピーラボ(BPLab)及びブックオフコーポレーションが展開する循環型衣料品・雑貨品回収サービス。同社グループの営業所・事務所のほか、保有・管理するオフィスビルやマンションの共用部、リゾート施設などに回収ボックスを設置し「資源循環が身近なライフスタイルの実現に貢献する」ことを目指す。

ビーピーラボでは、経済産業省指定団体である日本再生資源事業協同組合連合会指定のリサイクル化証明書の運用を行っており、集まった衣料品について燃やす、埋めるなどをしない100%リサイクルの証明を行い、資源のトレーサビリティを確保した回収プラットフォームを提供する方針だ。

東急不動産ホールディングスは、23年12月にビーピーラボと契約を締結し、まずは10施設で試験的に不要になった衣料品・雑貨品の回収サービスを導入した。トライアルを重ね、特に、グループが分譲し管理するマンション「BRANZ」などでの好評を得て、「資源循環を身近に行えるライフスタイルがお客様に受け入れられることを実感したことから、拡大の検討を開始した」という。24年11月にはビーピーラボとブックオフとの協業スキーム「アールループ」が完成。以降、最初の2カ月間で不要になった衣料品・雑貨品約3386kgが回収された。そのうち、衣料品約2595kgがリサイクルされる。

スキー場では、スキー用品が雪山という過酷な環境で使用されることから、軽微な損傷や撥水性能の低下が見られると買い換えられることが多く、またその一方雪山以外のタウンユースには十分耐えられる製品が廃棄されるという現状に課題がある。そのため、東急スノーリゾートは25年1月から4カ所のスキー場へ回収ボックスを設置し、不要となった衣類や雑貨を3月31日まで回収している。

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ファッション産業の企業連携プラットホームJSFAって何? 帝人フロンティア・鈴木優美子、ユニステップス・鎌田安里紗

「WWDJAPAN」ポッドキャストの「サステナブルファッション・トーク」は、ファッション業界のサステナビリティに関する最新ニュースやトレンドをざっくばらんにお話しする番組です。本番組では、サステナビリティ担当記者木村和花がホストを務め、「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクター向千鶴とともにお届けします。

ファッション産業の企業連携プラットホーム、ジャパンサステナブルファッションアライアンス(JAPAN SUSTAINABLE FASHION ALLIANCE 以下、JSFA) は、産業のサステナビリティを推進する目的で2021年に設立されました。川上から川下まで産業に関わるさまざまなプレイヤーが集まり、カーボンニュートラルとファションロスゼロを目標に取り組んでいます。今回はJSFAの共同代表企業である帝人フロンティアから鈴木優美子さんと、事務局を務める一般社団法人ユニステップスの鎌田安里紗さんに、JSFAの日々の活動について聞きました。



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「ヴェジャ」からレトロなサッカースタイルの新作  認証農場から調達したレザーを採用

フランス発のスニーカーブランド「ヴェジャ(VEJA)」は、サッカーのPKにおけるテクニック、パネンカにちなんで名づけた新作シューズ“パネンカ(PANENKA)”を2月20日からヴェジャ公式オンラインストアで発売した。3月6日からはヴェジャ取り扱い店舗でも販売する。

パネンカは、クラシックなサッカージャージからインスピレーションを得た色と、ヴィンテージのサッカーシューズをベースにしたデザインで、大きなバックパネルも特徴的。キルティングのディテールによりクッション性を高め、ギザギザのカットを施したシュータンがレトロなイメージにつながっている。アッパーにはウルグアイの100%オーガニック認証農場から調達したレザーを採用しており、「ヴェジャ」史上最も柔らかいという。3色展開で、価格は各2万7500円。

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「ヴェジャ」からレトロなサッカースタイルの新作  認証農場から調達したレザーを採用

フランス発のスニーカーブランド「ヴェジャ(VEJA)」は、サッカーのPKにおけるテクニック、パネンカにちなんで名づけた新作シューズ“パネンカ(PANENKA)”を2月20日からヴェジャ公式オンラインストアで発売した。3月6日からはヴェジャ取り扱い店舗でも販売する。

パネンカは、クラシックなサッカージャージからインスピレーションを得た色と、ヴィンテージのサッカーシューズをベースにしたデザインで、大きなバックパネルも特徴的。キルティングのディテールによりクッション性を高め、ギザギザのカットを施したシュータンがレトロなイメージにつながっている。アッパーにはウルグアイの100%オーガニック認証農場から調達したレザーを採用しており、「ヴェジャ」史上最も柔らかいという。3色展開で、価格は各2万7500円。

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トップモデルと敏腕編集者がアウターを通じて伝えたいこと 岡本多緒&テンジンの「アボード・オブ・スノー」

PROFILE: (左)テンジン・ワイルド/アボード・オブ・スノーCEO兼クリエイティブディレクター、プロデューサー (右)岡本多緒/俳優、モデル、映画監督、アボード・オブ・スノー共同クリエイティブディレクター兼サステナビリティアンバサダー

PROFILE: 左:(Tenzin Wild)スイス生まれ。「ヴィジョネア」や「Vマガジン」でのキャリアを経て、2008年に「ザ・ラスト・マガジン」を共同設立。「ナイキ」「ジバンシィ」「タサキ」「ユニクロ」など多くの著名ブランドの広告も手掛けてきた。2020年には、自身のルーツであるチベット及びヒマラヤにインスパイアされたアウターウエアブランド「アボード・オブ・スノー」を妻の岡本多緒と立ち上げる 右:(おかもと・たお)1985年5月22日生まれ、千葉県出身。14歳でモデルデビュー後、TAOとしてパリやミラノ、ニューヨークのファッション・ウイークで活躍した。2013年に映画「ウルヴァリン:SAMURAI」で俳優デビューを果たし、ハリウッド作品を中心に数々の話題作に出演。23年には映画監督としてこれまで3本の短編作品を手掛ける。多岐にわたる活動の傍ら、環境問題や動物の権利について発信するポッドキャスト番組「エメラルド プラクティシズ」のホストを務める他、「アボード・オブ・スノー」も手掛ける

「アボード・オブ・スノー(ABODE OF SNOW)」は、米ファッション誌「ザ・ラスト・マガジン(The Last Magazine)」の編集長だったテンジン・ワイルド(Tenzin Wild)と、同氏の妻であり、モデル、俳優として活動する岡本多緒が、2020年に立ち上げたアウターウエアブランドだ。ワイルドのルーツであるチベットとヒマラヤの文化や伝統を背景に、岡本がライフワークとして取り組む環境活動を融合したファッションアイテムを提案している。現在、ロンハーマンや伊勢丹新宿本店など20店舗以上で取り扱う。昨年から拠点を東京に移した2人に、モノ作りの哲学などを語ってもらった。

ルーツのチベットへの思い
“責任あるモノ作り”への挑戦

WWDJAPAN(以下、WWD):改めて、ブランドを立ち上げたきっかけを教えてください。

テンジン・ワイルド(以下、ワイルド):私はスイス人の父とチベット人の母の間に生まれました。母はチベットで生まれ、その後スイスに移住した最初の難民の一人です。私自身はスイスで生まれ育ちましたが、2005年に初めてチベットを訪れ、その土地や文化の美しさに深く感銘を受けました。チベットといえば政治的な話題にフォーカスされがちですが、編集者としての経験を生かし、ファッションを通じて私のルーツであるチベットやヒマラヤの文化・伝統を伝えたいと思いました。

※1950年代に中国がチベットを侵略し、多くのチベット人が弾圧を逃れるため、インドやネパール、スイス、アメリカなどに移住した

WWD:ブランド名の由来は?

テンジン:“ヒマラヤ”は古代サンスクリット語で“雪の棲家”という意味で、ヒマラヤ山脈の人々の暮らしを指します。それを英語にし、「アボード・オブ・スノー」と名付けました。

WWD:テンジンさんの思いを聞いて、多緒さんはどのように感じましたか?

岡本多緒(以下、岡本):私自身、環境問題への意識が高まる中で、ブランドを立ち上げることがモノを増やすことにつながるのではないかと悩むこともありました。しかし、チベットの人々や、テンジンのようにルーツを持つ人たちが、自らの文化を消失する危機にひんしていることを知り、それを政治的ではない視点から発信したいという彼の思いに共感するようになりました。一からブランドを立ち上げるのであれば、責任あるモノ作りを徹底したいと話し合い、コロナ禍での新しい挑戦に不安もありましたが、手探りで始めてみようと奮起しました。

素材への徹底したこだわり
ニット以外は全て日本産

WWD:アウターウエアからスタートした理由は?

岡本:チベットは平均標高約4500メートルで、富士山の頂上(3776メートル)にいるような寒冷地です。常に厚着をしている住人たちを見て、アウターウエアとの親和性を感じました。

WWD:生産背景は?

ワイルド:17年頃からリサーチを始め、最初にニューヨークでサンプルを作ってみたのですが、満足できる品質には至りませんでした。ちょうどその頃、私が手掛けていた雑誌「ザ・ラスト・マガジン」で、「マメ クロゴウチ(MAME KUROGOUCHI)」の取材をしていて、デザイナーの黒河内真衣子さんが岡山県の工場を紹介してくれました。その縁で、日本での生産を始めました。

岡本:現在、縫製は日本とネパールの家族経営工場2つにお願いしています。実際に足を運んでみたところ、どちらも一緒に仕事をしたいと思える環境が整っていました。

WWD:素材はどのように選んでいますか?

岡本:ニットにはヒマラヤ山脈に生息するヤクのウールを使用しています。ヤクは換毛期に自然に毛が抜け落ちるため、動物を傷つけることなくウールを収穫できます。また、ヤクは草を根こそぎ食べず、草原が蘇りやすいため、環境にも優しいと言われています。遊牧民の生産者からヤクウールを購入していますが、トレーサビリティーにはまだ課題があり、現状エリアの特定が完全にできていない点がもどかしいです。

ニット以外は日本の素材にこだわっています。リサイクル素材を選んでおり、今シーズン特に気に入っているのは、昆布のようなハリのある手触りが特徴の“コンブ”。私たちのブランドでは“100%再生でき、循環する素材”を選んでいます。

ワイルド:また、オーガニック素材も少しずつ取り入れています。デニムにはオーガニックコットンを使用し、今シーズンはリサイクルウールを使ったアイテムも企画しています。

WWD:リサイクルダウンも使用していますよね。

岡本:全てのダウンアイテムには、羽毛製品を回収し、洗浄・精製加工した日本の“グリーンダウン(Green Down)”を使用しています。従来のバージンダウンは一度しか洗浄していないことが多く、アレルゲンが残ることがありますが、“グリーンダウン”は二度洗浄することで、きれいで軽やかな仕上がりになります。また、ダウンを封入するダウンパックにも通気性のいい素材を使用しているので、クオリティーが非常に高いです。この技術は海外でも驚かれます。

互いのキャリアで得た豊富な人脈
強力メンバーがサポート

WWD:デザインについては?

ワイルド:例えば、アイコンの“チュバ(CHUBA)”シリーズは、チベットの民族衣装であるチュバから着想を得たもので、ベストやトレンチコート、ジャケットのディテールにも取り入れています。最初は「伝統的すぎる」という声もありましたが、実際に袖を通してもらうことで、着回しやすいデザインであることが伝わりました。現在は日本人のデザイナーも一緒に仕事をしているおかげで、商品ラインアップを広げることができています。

WWD:ワイルドさんは編集者、多緒さんはモデルや俳優として活動してきたキャリアがブランド運営にどう生かされていますか?

ワイルド:ファッション業界に広いコネクションがあることですね。幸運なことに、私たちには相談できるデザイナーやCEOが身近にいました。また、私自身アートディレクターとして、多くのブランドに携わってきた経験によって、マーケティングやブランディングを理解しており、現在のブランド運営に役立っていると感じます。

岡本:私もフォトグラファーやスタイリストなど、業界に知人が多くいたことが大きかったです。一方で、モデル時代には気付けなかった生産側の立場も理解できるようになりました。ブランドの大小関係なく、一着一着丁寧に作られていることに気付かされ、今改めてモノ作りに対する感謝の気持ちを大切にしています。

WWD:ブランドのアイコンキャラクター“イエティ”はどのように生まれた?

岡本:私がデザインしたんです。ブランド名にちなんで雪男のイラストをいろいろと描きながら要素をそぎ落としていき、シンプルな “イエティ”が完成しました。

“イエティ”をアニメーション化して、環境問題について伝えるビデオを制作

2人が描く未来のビジョン
モノを作ることへの矛盾を乗り越え

WWD:現在のビジネスについては?

ワイルド:セールスは、ウィメンズはショールーム リンクス(Showroom Links)と、メンズはランヴェール(L'envers)と契約してサポートを受けています。現在はロンハーマン(Ron Herman)やスーパー エー マーケット(SUPER A MARKET)、スティーブン アラン(Steven Alan)をはじめとする20店舗で販売しています。24-25年秋冬シーズンからは、伊勢丹新宿本店での取り扱いもスタートしました。ブランドの認知度を広げる機会をもっと増やしたいです。

WWD:今後挑戦したいことは?

ワイルド:いつか店舗を構えたいですね。「アボード・オブ・スノー」では、商品にとどまらず、チベットをはじめ、ブータンやネパールといったヒマラヤ周辺地域の美しい文化や伝統を伝えていきたいです。旅行や食、アート、レジャーといったエディトリアル的要素を取り入れ、それらが自然につながるようにしたい。構想としては、他社の素晴らしいブランドも店舗で紹介したいと考えています。

岡本:私は、環境問題についてもっと関心を広げてもらえるよう力を入れていきたいです。例えば、ヒマラヤ山脈から採水される水は、アジアの多くの人々にとって重要な水源です。しかし、気候変動の影響で雪が溶け出し、地域の人々の生活や自然環境に深刻な影響を与える恐れがあると言われています。今後は、こういったストーリーも伝えていきたい。商品を通して環境問題を伝えることには矛盾があるかもしれません。でも、衣食住は人間にとって欠かせないもの。より良い選択肢を提示できるように心掛けていたいです。

PHOTOS : IBUKI

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業界3団体がアパレルの脱炭素推進ガイドライン策定 「できるだけ負担なく削減に着⼿を」

ジャパンサステナブルファッションアライアンス(以下、JSFA)、⼀般社団法⼈⽇本アパレル・ファッション産業協会(以下、JAFIC)および協同組合関⻄ファッション連合(KanFA)は連携し、環境省の「令和6年度バリューチェーン全体での脱炭素化推進モデル事業」の⽀援を受けてアパレル企業が脱炭素を推進するためのガイドラインを策定した。19日には東京で、関連団体ならびに百貨店協会に所属する100名超が参加し説明会が開かれた。

公開された温室効果ガス(以下、GHG)削減の考え方と概算方法に関する資料は、令和5年度にJAFICとJSFAが連携し、環境省の⽀援を受けて作成した解説から一歩進み、GHG削減に向けた考え⽅と削減量および削減率の概算⽅法を具体的にまとめたもの。「各社ができるだけ負担なく削減に着⼿できるよう考慮して作成した」(JSFA)という。

説明会の冒頭であいさつに立った鈴木恒則 JAFIC理事長・CSR委員会委員長は、アパレル産業の脱炭素推進施策について「非常にハードルは高いが、それを承知で何としてでも企業間で協力し実行しなければならない」と参加者に向けて力強くメッセージを送った。続いて登壇した環境省の杉井威夫地球環境局地球温暖化対策課脱炭素ビジネス推進室室長は「バリューチェーン全体の脱炭素化について」と題して講演を行った。2015年のパリ協定採択に始まるカーボンニュートラル実現に向けた国内外の動向や、日本政府が掲げる2050年ネットゼロ目標に向けたグリーン・トランスフォーメーション(GX)のロードマップを投資や規制の内容を交えた図解で解説。スコープ3算定義務化への動きについても触れ「動き出すのは今がラストチャンス」などと団体加盟各社を鼓舞した。

ガイドラインの内容については、JAFICから枝村正芳(ワールドプロダクションパートナーズ品質管理部仕入管理課)と、JSFAから竹内大祐(日本繊維製品品質技術センター)が説明に立ち、作成にいたる経緯にはじまり、排出量の具体的な策定方法や脱炭素化推進活動の例などを解説した。

会見中に繰り返されたのは「すべきことは緻密な算定ではなく、GHGの削減をすること」のメッセージだ。策定にあたっては、3団体の間で「手を止めないための」喧々諤々な議論が重ねられたという。また、サプライヤーなど社会の情報を入手しなくてもGHG削減アクションに着手できるように、算定の具体的な方法を提案。製品を細分化しすぎず「軽衣料」「中衣料」「重衣料」の3つに分類したことが象徴するようにアパレルビジネスに従事する人が使い慣れた言葉を使うなど「できるだけ負担なく削減に着⼿」する方法が考えられている。

資料は各団体の公式サイトから必要事項を記入の上、ダウンロードすることができる。

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業界3団体がアパレルの脱炭素推進ガイドライン策定 「できるだけ負担なく削減に着⼿を」

ジャパンサステナブルファッションアライアンス(以下、JSFA)、⼀般社団法⼈⽇本アパレル・ファッション産業協会(以下、JAFIC)および協同組合関⻄ファッション連合(KanFA)は連携し、環境省の「令和6年度バリューチェーン全体での脱炭素化推進モデル事業」の⽀援を受けてアパレル企業が脱炭素を推進するためのガイドラインを策定した。19日には東京で、関連団体ならびに百貨店協会に所属する100名超が参加し説明会が開かれた。

公開された温室効果ガス(以下、GHG)削減の考え方と概算方法に関する資料は、令和5年度にJAFICとJSFAが連携し、環境省の⽀援を受けて作成した解説から一歩進み、GHG削減に向けた考え⽅と削減量および削減率の概算⽅法を具体的にまとめたもの。「各社ができるだけ負担なく削減に着⼿できるよう考慮して作成した」(JSFA)という。

説明会の冒頭であいさつに立った鈴木恒則 JAFIC理事長・CSR委員会委員長は、アパレル産業の脱炭素推進施策について「非常にハードルは高いが、それを承知で何としてでも企業間で協力し実行しなければならない」と参加者に向けて力強くメッセージを送った。続いて登壇した環境省の杉井威夫地球環境局地球温暖化対策課脱炭素ビジネス推進室室長は「バリューチェーン全体の脱炭素化について」と題して講演を行った。2015年のパリ協定採択に始まるカーボンニュートラル実現に向けた国内外の動向や、日本政府が掲げる2050年ネットゼロ目標に向けたグリーン・トランスフォーメーション(GX)のロードマップを投資や規制の内容を交えた図解で解説。スコープ3算定義務化への動きについても触れ「動き出すのは今がラストチャンス」などと団体加盟各社を鼓舞した。

ガイドラインの内容については、JAFICから枝村正芳(ワールドプロダクションパートナーズ品質管理部仕入管理課)と、JSFAから竹内大祐(日本繊維製品品質技術センター)が説明に立ち、作成にいたる経緯にはじまり、排出量の具体的な策定方法や脱炭素化推進活動の例などを解説した。

会見中に繰り返されたのは「すべきことは緻密な算定ではなく、GHGの削減をすること」のメッセージだ。策定にあたっては、3団体の間で「手を止めないための」喧々諤々な議論が重ねられたという。また、サプライヤーなど社会の情報を入手しなくてもGHG削減アクションに着手できるように、算定の具体的な方法を提案。製品を細分化しすぎず「軽衣料」「中衣料」「重衣料」の3つに分類したことが象徴するようにアパレルビジネスに従事する人が使い慣れた言葉を使うなど「できるだけ負担なく削減に着⼿」する方法が考えられている。

資料は各団体の公式サイトから必要事項を記入の上、ダウンロードすることができる。

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京都独自の藍染め「京藍」の復活と継承に挑む松﨑陸 「ヴァレクストラ」と協業も

偶然ニューヨークで出合った藍染めに惹かれ、染色の修業先で見つけた文献から「歴史をさかのぼると日本で最も品質の高い藍を作っていたのは京都で、その産地が偶然にも地元の洛西であることを知った」という松﨑陸。約100年前に滅びた京藍復活のため900坪の畑を借りて、当時の栽培方法で京都原種の藍の栽培から取り組む。アート作品の販売、工房でのワークショップ、Tシャツなどの製品の制作・販売で生計を立て、2024年には大丸松坂屋百貨店が掲げる地域共栄活動「think LOCAL」の一環として、「ヴァレクストラ(VALEXTRA)」の京都祇園店開店に合わせてコラボレーションを行うなど、活動の場を広げている。

PROFILE: 松﨑陸/京藍染師・アーティスト

松﨑陸/京藍染師・アーティスト
PROFILE: (まつざき・りく)1990年京都市洛西生まれ。大学で経営学を専攻。22歳の時にニューヨークで“ジャパンブルー”に出合い藍染作家を目指すことを決意。2015年野村シルク博物館で養蚕、手織り、和装を学ぶ。17年染司よしおか五代当主吉岡幸雄氏に師事。18年正倉院宝物復元に携わる。20年約900坪の畑を借りて京藍の栽培を開始。21年染司よしおか独立。22年京都市西京区大原野に工房を開く。23年妙心寺桂春院で個展を開催し、作品「京藍壁観図」を奉納。24年「ヴァレクストラ」や「カンサイヤマモト」とのコラボレーション製品を発表

古い文献から「京都の藍染めが最も優れていた」ことを知る

WWD:京都独自の藍染め「京藍」に出合ったきっかけは。

松﨑:染色工房「染司よしおか」で修業中に先生(吉岡幸雄氏)が、歴史を知ることや本物を見ることが大切だと言い続けてくれたことが大きい。工房にある文献を調べ始めると藍の栽培は安土・桃山時代に京都から兵庫、そして淡路、徳島に伝えられたと書かれていた。自分が取り組みたいと思っていた藍染めのルーツが地元京都にあることを知り胸が高鳴った。別の江戸後期の文献では、京都が質の高い藍を作り続けていたと書かれていた。さらに調べると、1700年に松尾芭蕉の弟子である服部嵐雪が江戸中期に江戸から京都へ上がったときの句に出合った。「嶋原の外も染るや藍畠」。京都の嶋原(洛中)の外は染まるほどに藍畑だらけだったという内容で、1712年発行の日本百科事典には「日本の藍は京都の洛外のものが最も優れていて、次に兵庫県の播磨が良い。次に徳島と淡路産」と記されていた。京都の藍が高品質だったことが歴史から読み解くことができた。

WWD:「京藍」の復活に取り組むに至った経緯は。

松﨑:松﨑家の家紋のルーツが岐阜の土岐氏にあり、土岐氏は水色の旗に家紋を入れて戦に出ていた。当時水色の藍を作れるのは京都だけだったことを考えるともしかしたら先祖は京藍を使っていたのではないか?と考え始めると胸が高鳴った。

また、236年前(1789年)に「京藍」を再興しようと命がけで活動した阿波屋宇兵衛の存在を知り、熱くなった。彼は当時徳島でさかんな藍の栽培方法(肥料に魚を使っていたこと)を口外すると処刑されると知っていたのに、京都に持ち帰り再興を目指してのちに処刑された人。京藍にまつわるさまざまな歴史を知り、復活させたいと強く思うようになった。

WWD:種は残っていたのか。

松﨑:日本の藍には10の品種があり、種は徳島県が保護していた。京都の原種を譲ってもらった。

WWD:「京藍」は他の藍と何が違うのか。

松﨑:栽培方法と色が違う。京都の藍はかつて「水藍」と呼ばれ水田で栽培していて、色も淡い。今の藍染めは紺色が主流だけど、当時の藍染めは淡い色が上品とされていてランクが高かった。淡い藍は染めむらが出やすいため難しいとされていたからではないか。

WWD:職人ではなくアーティストと名乗る理由は。

松﨑:僕の目的は「京藍」を復活させて次世代に残すこと。職人として活動をして「京藍」を残すことができるのか?「京藍」が残る可能性の一つが美術館や博物館に永久保存されること。アートとして京藍の痕跡を残すことができないか考えた。もちろん僕はクラフトマンだけど、職人よりもアーティストと名乗る方が強気で世界と戦えるんじゃないかと。かつては日本の職人の高い技術が安く買われるということもあったと思うから。日本が誇れるものは伝統工芸であり分かりやすいアイデンティティ、これを武器に日本人は世界と戦うべきだと思うし、伝統工芸の職人がこうなったらいいなという成功例になりたい。「わからせますよ」という気持ちだ。

WWD:「ヴァレクストラ」とのコラボはどのようにして始まったか。

松﨑:祇園の新店舗開店の際に京都の伝統工芸職人と協業した製品を作るために、京都の丹後ちりめんや提灯など何軒かの職人の工房を訪ねたうちの1軒だったと聞く。デザインチームが工房に来たときは、活動の説明をしたり「染めた生地が買えるのか」といった質問を受けつつ、その場で結論は出せないのでいったんイタリアに持ち帰るとなった。その時に「ダブルネームならやるスタンスだ」と伝えた。せっかく訪ねてきてくれたのだからと徒歩20分のところにある春日大社の第一の分社で784年に建立された大原野神社に行こうと誘い、境内にあるそば屋「そば切りこごろ」でそばを食べた。「そば切りこごろ」からは出汁がら(魚節)をいただいて藍畑の肥料に使っている。その一カ月後に「ぜひやりたい」とメールが届いた。僕のインスタグラムに公開している作品の中から希望がいくつか上がり、方向性を決めていった。

WWD:コラボ製品は「KYOAI」と発信されていた。

松﨑:実は当初は“ジャパンブルー”“インディゴ”など別の言葉を入れたいと話があったけれど、「KYOAI」にして欲しいとこちらから依頼した。僕は「京藍」を残したくて活動しているからそれがとても重要だった。

WWD:工房開設から3年。活動に広がりが出てきた。

松﨑:計算してやっていない。市場がどうではなく、発表した作品が当たれば市場にマッチしたのかと理解しているところだ。

WWD:現在の課題は。

松﨑:僕自身、お金に興味を持つことが必要だと感じている。その時々で作りたいものを作れたら個人的にはいいと思っているところがあるから。一方で工房が手狭になってきたし、今はアーティストのシェアギャラリー「大原野スタジオギャラリー」を活動拠点にしているが、作品を展示して藍染めができる単独の工房を構えたいと考えている。それには少なくとも3000万円が必要になる。水にこだわりたいから井戸も掘りたい。900坪の藍畑も一人で取り組んでいる。年を取ると畑仕事は難しくなるだろうし、人を雇わなければいけない時期に来たとも感じている。

WWD:洛西地区は京都市内にあっても少し町中から離れて、わざわざ立地でもある。地域文化として「京藍」を打ち出すような取り組みにも力を入れるのか。

松﨑:少しずつ巻き込み始めている。例えば、洛西高校の先生が新聞で紹介された僕の記事に共感してくれ、高校の生徒が「京藍」の畑の手伝いに来てくれるようになった。近所のネギ農家は今年から京藍を育て始める。まずは300坪から始めると聞いた。工房の候補地は近くでいい場所を見つけた。工房ができれば人に来てもらいやすくなるし、知ってもらえる機会が増える。

WWD:今、妙心寺塔頭養徳院の奉納する戸帳の制作に取り組んでいるとか。

松﨑:現在改修工事をしていて来年2月に完成する予定だ。戸帳を作りたいという話をいただき、これまでの養徳院の戸帳について調べた。すると直近では化学染料を使っていたが、260年前のものは藍染めや茜染めを用いた赤黄藍緑白の5色の織物でできていた。この先何百年も色褪せずに残る戸帳になるよう、700年前の藍染めを含め太古の方法を模索しているところだ。

WWD:今後取り組んでいくことは?

松﨑:1300年前の職人と戦いたい。日本で最古の藍染めは正倉院宝物館に所蔵されている縹縷(はなだのる)で、752年の大仏開眼会で用いられたものだった。これが1300年前に染められたのに色褪せていないんですよ。この時代の染色技術が最もすばらしかったのではないかと考えるようになった。江戸時代の技法は試したが色が褪せるし、さらに染色法を掘り下げると、蒅(すくも、藍の葉を乾燥させ発酵・熟成させてたい肥化したもの)が登場したのは約700年前の室町時代で、当時の技法は色がキレイで堅牢度が高かった。今室町からさらに奈良まで遡ろうと取り組んでいる。すると奈良時代はまだ蒅がなかった時代だとわかった。奈良時代の染色方法について仮説を立てて検証を繰り返しているところだ。世界に目を向けると約6500年前の藍染工房の遺跡が見つかっていたり、4000年前のエジプトのミイラには藍染めした布が巻かれていた。藍染めの歴史はとても長くて面白い。

WWD:奈良時代に奈良で藍染めが行われていたということ?

松﨑:飛鳥時代に中国から日本へ藍が運ばれたようで、647年に制定された日本の官位「七色十三階冠」が664年に改定されたときに月草が藍に変わっていた。ということは、藍の国内栽培に成功したのがこの時期なのではないか。であれば厳密には飛鳥、奈良を経てるので日本の藍の始まりは奈良となるが、僕が調べた中では奈良には藍の文献や記述が見当たらない。もちろんこの頃の史料は焼失していることが多いから本当のところはわからないが。また「源氏物語」を読むに色彩豊かな感性と技術が成熟したのは平安時代と予測している。なので僕は"藍の産業としての始まりは京都"と考えている。

藍染めから「京藍」復活に至るまで

WWD:そもそも藍に着目したきっかけは?

松﨑:やりたいことを探しに訪れたニューヨークで“ジャパンブルー”と呼ばれる青い服を見た。帰国後にテレビで見た藍染め特集で、世界では藍染めがジャパンブルーと呼ばれていることを知り、やってみようと思い立った。やるなら日本一のところでやりたいと考えた。京都で200年続く染色工房「染司よしおか」の五代当主の吉岡幸雄氏に弟子入りを志願したけど断られた。何度も足を運んでいるとある日、『愛媛にある野村シルク博物館で2年間学んでくれば考える』と言われて、やるしかないと思い愛媛に向かった。夜間はコンビニでアルバイトをしながら、養蚕から手織り和裁、藍や紅花の栽培までを学び染色の基礎を身に付けた。京都に帰ってくるたびに忘れ去られないように「弟子入りはまだか」と工房を訪ねたが、「2年はがんばれ」と言われ、とにかくがんばった。

2年が経ち『よしおか』での修業が始まるわけだけど、染色技術だけではなく、原稿校正や公演準備など幅広い業務に携わった。けれど、藍染めだけは触らせてもらえなかった。藍染めは藍を発酵させてから染めるので、発酵に失敗すると染められなくなるという理由は理解できるけど、どうしても藍染めがしたかった。だから自宅の風呂場にバケツを突っ込んで始めた。工房の番頭さんに聞いたことを試してみるけどこれがなかなか発酵しない。バケツ1つ分の藍を買うと給料の半分が飛び、発酵しないと捨てるしかないただの茶色い水。半年くらい経った頃、表面が青くなり布を入れたら青く染まった。微生物が働き発酵したら布が染まるというプロセスを目の当たりにしてここからはまった。工房で最初から教えてもらっていたらここまで興味が深くならなかったと思う。生活を賭けて身銭を切り続けたからこそここまではまったんだと思う。

WWD:「染司よしおか」を3年10カ月で辞めて独立した。

松﨑:先生がされていることの歴史の深さを学ぶには5年はかかると思っていたが、3年目に先生が亡くなった。このペースでやっていたら到底先生に追いつくことができないと思い、飛び出すべきだと考えてその一年後に辞めた。その頃には京都の藍を復活させようと決めていた。

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京都独自の藍染め「京藍」の復活と継承に挑む松﨑陸 「ヴァレクストラ」と協業も

偶然ニューヨークで出合った藍染めに惹かれ、染色の修業先で見つけた文献から「歴史をさかのぼると日本で最も品質の高い藍を作っていたのは京都で、その産地が偶然にも地元の洛西であることを知った」という松﨑陸。約100年前に滅びた京藍復活のため900坪の畑を借りて、当時の栽培方法で京都原種の藍の栽培から取り組む。アート作品の販売、工房でのワークショップ、Tシャツなどの製品の制作・販売で生計を立て、2024年には大丸松坂屋百貨店が掲げる地域共栄活動「think LOCAL」の一環として、「ヴァレクストラ(VALEXTRA)」の京都祇園店開店に合わせてコラボレーションを行うなど、活動の場を広げている。

PROFILE: 松﨑陸/京藍染師・アーティスト

松﨑陸/京藍染師・アーティスト
PROFILE: (まつざき・りく)1990年京都市洛西生まれ。大学で経営学を専攻。22歳の時にニューヨークで“ジャパンブルー”に出合い藍染作家を目指すことを決意。2015年野村シルク博物館で養蚕、手織り、和装を学ぶ。17年染司よしおか五代当主吉岡幸雄氏に師事。18年正倉院宝物復元に携わる。20年約900坪の畑を借りて京藍の栽培を開始。21年染司よしおか独立。22年京都市西京区大原野に工房を開く。23年妙心寺桂春院で個展を開催し、作品「京藍壁観図」を奉納。24年「ヴァレクストラ」や「カンサイヤマモト」とのコラボレーション製品を発表

古い文献から「京都の藍染めが最も優れていた」ことを知る

WWD:京都独自の藍染め「京藍」に出合ったきっかけは。

松﨑:染色工房「染司よしおか」で修業中に先生(吉岡幸雄氏)が、歴史を知ることや本物を見ることが大切だと言い続けてくれたことが大きい。工房にある文献を調べ始めると藍の栽培は安土・桃山時代に京都から兵庫、そして淡路、徳島に伝えられたと書かれていた。自分が取り組みたいと思っていた藍染めのルーツが地元京都にあることを知り胸が高鳴った。別の江戸後期の文献では、京都が質の高い藍を作り続けていたと書かれていた。さらに調べると、1700年に松尾芭蕉の弟子である服部嵐雪が江戸中期に江戸から京都へ上がったときの句に出合った。「嶋原の外も染るや藍畠」。京都の嶋原(洛中)の外は染まるほどに藍畑だらけだったという内容で、1712年発行の日本百科事典には「日本の藍は京都の洛外のものが最も優れていて、次に兵庫県の播磨が良い。次に徳島と淡路産」と記されていた。京都の藍が高品質だったことが歴史から読み解くことができた。

WWD:「京藍」の復活に取り組むに至った経緯は。

松﨑:松﨑家の家紋のルーツが岐阜の土岐氏にあり、土岐氏は水色の旗に家紋を入れて戦に出ていた。当時水色の藍を作れるのは京都だけだったことを考えるともしかしたら先祖は京藍を使っていたのではないか?と考え始めると胸が高鳴った。

また、236年前(1789年)に「京藍」を再興しようと命がけで活動した阿波屋宇兵衛の存在を知り、熱くなった。彼は当時徳島でさかんな藍の栽培方法(肥料に魚を使っていたこと)を口外すると処刑されると知っていたのに、京都に持ち帰り再興を目指してのちに処刑された人。京藍にまつわるさまざまな歴史を知り、復活させたいと強く思うようになった。

WWD:種は残っていたのか。

松﨑:日本の藍には10の品種があり、種は徳島県が保護していた。京都の原種を譲ってもらった。

WWD:「京藍」は他の藍と何が違うのか。

松﨑:栽培方法と色が違う。京都の藍はかつて「水藍」と呼ばれ水田で栽培していて、色も淡い。今の藍染めは紺色が主流だけど、当時の藍染めは淡い色が上品とされていてランクが高かった。淡い藍は染めむらが出やすいため難しいとされていたからではないか。

WWD:職人ではなくアーティストと名乗る理由は。

松﨑:僕の目的は「京藍」を復活させて次世代に残すこと。職人として活動をして「京藍」を残すことができるのか?「京藍」が残る可能性の一つが美術館や博物館に永久保存されること。アートとして京藍の痕跡を残すことができないか考えた。もちろん僕はクラフトマンだけど、職人よりもアーティストと名乗る方が強気で世界と戦えるんじゃないかと。かつては日本の職人の高い技術が安く買われるということもあったと思うから。日本が誇れるものは伝統工芸であり分かりやすいアイデンティティ、これを武器に日本人は世界と戦うべきだと思うし、伝統工芸の職人がこうなったらいいなという成功例になりたい。「わからせますよ」という気持ちだ。

WWD:「ヴァレクストラ」とのコラボはどのようにして始まったか。

松﨑:祇園の新店舗開店の際に京都の伝統工芸職人と協業した製品を作るために、京都の丹後ちりめんや提灯など何軒かの職人の工房を訪ねたうちの1軒だったと聞く。デザインチームが工房に来たときは、活動の説明をしたり「染めた生地が買えるのか」といった質問を受けつつ、その場で結論は出せないのでいったんイタリアに持ち帰るとなった。その時に「ダブルネームならやるスタンスだ」と伝えた。せっかく訪ねてきてくれたのだからと徒歩20分のところにある春日大社の第一の分社で784年に建立された大原野神社に行こうと誘い、境内にあるそば屋「そば切りこごろ」でそばを食べた。「そば切りこごろ」からは出汁がら(魚節)をいただいて藍畑の肥料に使っている。その一カ月後に「ぜひやりたい」とメールが届いた。僕のインスタグラムに公開している作品の中から希望がいくつか上がり、方向性を決めていった。

WWD:コラボ製品は「KYOAI」と発信されていた。

松﨑:実は当初は“ジャパンブルー”“インディゴ”など別の言葉を入れたいと話があったけれど、「KYOAI」にして欲しいとこちらから依頼した。僕は「京藍」を残したくて活動しているからそれがとても重要だった。

WWD:工房開設から3年。活動に広がりが出てきた。

松﨑:計算してやっていない。市場がどうではなく、発表した作品が当たれば市場にマッチしたのかと理解しているところだ。

WWD:現在の課題は。

松﨑:僕自身、お金に興味を持つことが必要だと感じている。その時々で作りたいものを作れたら個人的にはいいと思っているところがあるから。一方で工房が手狭になってきたし、今はアーティストのシェアギャラリー「大原野スタジオギャラリー」を活動拠点にしているが、作品を展示して藍染めができる単独の工房を構えたいと考えている。それには少なくとも3000万円が必要になる。水にこだわりたいから井戸も掘りたい。900坪の藍畑も一人で取り組んでいる。年を取ると畑仕事は難しくなるだろうし、人を雇わなければいけない時期に来たとも感じている。

WWD:洛西地区は京都市内にあっても少し町中から離れて、わざわざ立地でもある。地域文化として「京藍」を打ち出すような取り組みにも力を入れるのか。

松﨑:少しずつ巻き込み始めている。例えば、洛西高校の先生が新聞で紹介された僕の記事に共感してくれ、高校の生徒が「京藍」の畑の手伝いに来てくれるようになった。近所のネギ農家は今年から京藍を育て始める。まずは300坪から始めると聞いた。工房の候補地は近くでいい場所を見つけた。工房ができれば人に来てもらいやすくなるし、知ってもらえる機会が増える。

WWD:今、妙心寺塔頭養徳院の奉納する戸帳の制作に取り組んでいるとか。

松﨑:現在改修工事をしていて来年2月に完成する予定だ。戸帳を作りたいという話をいただき、これまでの養徳院の戸帳について調べた。すると直近では化学染料を使っていたが、260年前のものは藍染めや茜染めを用いた赤黄藍緑白の5色の織物でできていた。この先何百年も色褪せずに残る戸帳になるよう、700年前の藍染めを含め太古の方法を模索しているところだ。

WWD:今後取り組んでいくことは?

松﨑:1300年前の職人と戦いたい。日本で最古の藍染めは正倉院宝物館に所蔵されている縹縷(はなだのる)で、752年の大仏開眼会で用いられたものだった。これが1300年前に染められたのに色褪せていないんですよ。この時代の染色技術が最もすばらしかったのではないかと考えるようになった。江戸時代の技法は試したが色が褪せるし、さらに染色法を掘り下げると、蒅(すくも、藍の葉を乾燥させ発酵・熟成させてたい肥化したもの)が登場したのは約700年前の室町時代で、当時の技法は色がキレイで堅牢度が高かった。今室町からさらに奈良まで遡ろうと取り組んでいる。すると奈良時代はまだ蒅がなかった時代だとわかった。奈良時代の染色方法について仮説を立てて検証を繰り返しているところだ。世界に目を向けると約6500年前の藍染工房の遺跡が見つかっていたり、4000年前のエジプトのミイラには藍染めした布が巻かれていた。藍染めの歴史はとても長くて面白い。

WWD:奈良時代に奈良で藍染めが行われていたということ?

松﨑:飛鳥時代に中国から日本へ藍が運ばれたようで、647年に制定された日本の官位「七色十三階冠」が664年に改定されたときに月草が藍に変わっていた。ということは、藍の国内栽培に成功したのがこの時期なのではないか。であれば厳密には飛鳥、奈良を経てるので日本の藍の始まりは奈良となるが、僕が調べた中では奈良には藍の文献や記述が見当たらない。もちろんこの頃の史料は焼失していることが多いから本当のところはわからないが。また「源氏物語」を読むに色彩豊かな感性と技術が成熟したのは平安時代と予測している。なので僕は"藍の産業としての始まりは京都"と考えている。

藍染めから「京藍」復活に至るまで

WWD:そもそも藍に着目したきっかけは?

松﨑:やりたいことを探しに訪れたニューヨークで“ジャパンブルー”と呼ばれる青い服を見た。帰国後にテレビで見た藍染め特集で、世界では藍染めがジャパンブルーと呼ばれていることを知り、やってみようと思い立った。やるなら日本一のところでやりたいと考えた。京都で200年続く染色工房「染司よしおか」の五代当主の吉岡幸雄氏に弟子入りを志願したけど断られた。何度も足を運んでいるとある日、『愛媛にある野村シルク博物館で2年間学んでくれば考える』と言われて、やるしかないと思い愛媛に向かった。夜間はコンビニでアルバイトをしながら、養蚕から手織り和裁、藍や紅花の栽培までを学び染色の基礎を身に付けた。京都に帰ってくるたびに忘れ去られないように「弟子入りはまだか」と工房を訪ねたが、「2年はがんばれ」と言われ、とにかくがんばった。

2年が経ち『よしおか』での修業が始まるわけだけど、染色技術だけではなく、原稿校正や公演準備など幅広い業務に携わった。けれど、藍染めだけは触らせてもらえなかった。藍染めは藍を発酵させてから染めるので、発酵に失敗すると染められなくなるという理由は理解できるけど、どうしても藍染めがしたかった。だから自宅の風呂場にバケツを突っ込んで始めた。工房の番頭さんに聞いたことを試してみるけどこれがなかなか発酵しない。バケツ1つ分の藍を買うと給料の半分が飛び、発酵しないと捨てるしかないただの茶色い水。半年くらい経った頃、表面が青くなり布を入れたら青く染まった。微生物が働き発酵したら布が染まるというプロセスを目の当たりにしてここからはまった。工房で最初から教えてもらっていたらここまで興味が深くならなかったと思う。生活を賭けて身銭を切り続けたからこそここまではまったんだと思う。

WWD:「染司よしおか」を3年10カ月で辞めて独立した。

松﨑:先生がされていることの歴史の深さを学ぶには5年はかかると思っていたが、3年目に先生が亡くなった。このペースでやっていたら到底先生に追いつくことができないと思い、飛び出すべきだと考えてその一年後に辞めた。その頃には京都の藍を復活させようと決めていた。

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「ファッションの評価指標が数値化されること」について考える  藤嶋陽子立命館大学准教授

「WWDJAPAN」ポッドキャストの「サステナブルファッション・トーク」は、ファッション業界のサステナビリティに関する最新ニュースやトレンドをざっくばらんにお話しする番組です。本番組では、サステナビリティ担当記者木村和花がホストを務め、「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクター向千鶴とともにお届けします。

今回のゲストは先週に引き続き藤嶋陽子立命館大学社会学部准教授。ファッション研究の視点からサステナビリティを語ってもらいます。後半のテーマは「ファッションのさまざまな評価指標が数値化されること」について。今後、LCAなど環境関連の指標は消費に影響を及ぼしてゆくのでしょうか?



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「ディーゼル」が「ファッションタスクフォース」に参加 産業のサステナビリティを支援

「ディーゼル(DIESEL)」はこのほど、英国王チャールズ三世が2020年に設立した「持続可能な市場のためのイニシアチブ ファッションタスクフォース(Sustainable Markets Initiative Fashion Taskforce)」に加盟した。OTBグループ会長兼ディーゼル創始者のレンツォ・ロッソ(Renzo Rosos)は、加盟ブランドのCEOらと連携しファッション産業のサステナビリティを推進する。

同タスクフォースは、ユークス ネッタポルテ グループ(YOOX NET-A-PORTER GROUP)創業者兼元会長のフェデリコ・マルケッティ(Federico Marchetti)が議長を務め、「プラダ(PRADA)」や「バーバリー(BURBERRY)」「ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)」「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」などが参加する。設立以来、再生型農業プロジェクト、デジタル・プロダクト・パスポート(DPP)、トレーサビリティーを注力領域として取り組んできた。

ロッソは、「ファッション業界全体においてサステナビリティは“考え方”として根付くべきものだ。ファッションタスクフォースは国王チャールズ三世の支援とフェデリコのリーダーシップのもと、この目標へ向かう重要なさらなる一歩となるだろう。私たちはこの取り組みに参加し、ビジョンや革新的なアプローチを他のメンバーと共有できることをうれしく思う。協力し合い、未来を見据えた行動を取ることこそが、業界を真に変革する唯一の方法だ」とコメントした。

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約100組のテキスタイルクリエイターが八王子に 「装いの庭EXPO’25」が開催

日本の繊維のものづくり・デザインを活かした企画・小売を行う装いの庭は2月23〜24日、約100組のテキスタイルデザイナーや繊維工場が集結するイベント「装いの庭EXPO’25」を東京たま未来メッセ・えきまえテラスで実施する。

八王子はかつて「桑都(そうと)」と呼ばれた繊維の街として栄え、現在も東京造形大学や多摩美術大学がキャンパスを構えるなど、テキスタイル教育とも縁深い地として知られる。

同イベントでは、日本の繊維技術やテキスタイル文化の隠れた魅力や文脈に焦点を当てる。屋内エリアの有料エリアには、全国各地から集まったテキスタイルクリエイター91組が出展。会場は日本のテキスタイルの現在地を知るための7テーマで構成されており、新進気鋭のブランド、伝統工芸と向き合う作家、高い技術を持った工場など多様なものづくりの現場に触れることができる。屋外の無料エリアでは、子ども向けのワークショップや、クラフト作家の作品販売、廃材を使ったアートの作品展示のほか、フードトラックやライブステージなども設置される。

チケットは前売り券が1000円、当日券が1500円(いずれも税込)。中学生以下は入場無料。また来場者特典として4名のクリエイターのインタビューをまとめた小冊子を配布する。

 会場を構成する7テーマと出展者は以下の通り。

・職人と向き合う
デザイナーと職人の協働により一枚の布が出来上がる。デザイナーは、職人たちから専門的な知識や技術を学び、対話を重ねながら、技術や生地の可能性を拡張させる。
<出展者>fuzoroito / CREOLE / OTTAIPNU / suha Fabric / woo textiles / admi / POTTENBURN TOHKII / JUBILEE / YURTAO / HANA LAB / イイダ傘店

・産地と向き合う
産地に移住した作家や繊維メーカーに就職した若手が立ち上げたブランド。工場の強みや特性をくみ取りながら、オリジナルな視点で産地の魅力を発信している。
<出展者>福田織物(24日) / 澤井織物(24日) / POLS / OTA KNIT / 000(トリプル・オゥ) / SILKKI / nitorito / HARAPPA / 大城戸織布 / IIYU TEXTILE / メゾン寿司 / 小倉縞縞 / Robert Hsu Textile

・工場を背負って時代・市場と向き合う
これからの会社のあり方を探す中で自社ブランドを始めた工場たち。工場が背負う歴史や得意なものに向き合いながら、新しい価値を見出す。
<出展者>レピヤンリボン / OLN / ao / 槇田商店 / OSOCU / muto / mergen / TENJIN Factory / HADACHU / 米織小紋 / 山元染工場・ケイコロール / 奥田染工場(24日) / 佐藤ニット(24日)

・素材と向き合う
テキスタイルを作るために必要な糸や染料、工場で発生する端材。そういった素材の特性や魅力を見出しながら、ものづくりを行う。
<出展者>ナカメリ工房(24日) / イノウエ(24日) / chocoshoe(24日) / Found & Made(24日) / みやこ染 / ツバメヤ / udu textil / KEETO / SATOKA ABE TEXTILE/ saredo / annita artworks / AND WOOL / busy fingers / motonaga / WOOLY

・理想と向き合う
アイデアから素材調達、制作まで全てを行い、自分のスピードに合わせた布や服作りを行う。お客様との対話も大切にしながら、自分という最小単位でのものづくりに挑む。
<出展者>birphin / YUI MATSUDA / かぜつち模様染工舎 / Kazuaki Takashima / 円造 / rumbe dobby / YOHN

・動植物と向き合う
山や木々、草花など身近な自然、動物などをテーマに、生命力のエネルギーを感じられるテキスタイルづくりを行う。
<出展者>okada mariko / 近藤実可子 / otsukiyumi / chihiro yasuhara / kata kata / 中澤楓/ルンルンテキスタイル / Ayuko Hazu / nocogou ノコゴウ / KAYO AOYAMA / soeru craft(24日) / HASHIMOTO NAOKO

・日常と向き合う
モチーフとなるのは日々の生活の中で感じる季節の移ろい、いつもの風景、記憶のかけらや空想の世界。使い手の日常をそっと明るくしてくれる模様や図案を生み出す。
<出展者>Canako Inoue / TANSAN TEXTILE / VRANA(24日) / いとい ゆき / Halka Mokkeroni / entwa / POSIPOSY / Kana Kawasaki / Natsuki CAMINO / 点と線模様製作所 / grasspool / minigara / mumea / MANAMI SAKURAI / beooomu(24日) / アラキケイ(24日) / KAKO MIYAMOTO / PORTRAIT LAB / 441 ヨンヨンイチ(24日) / gochisou(24日)

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帝国劇場 × カリモク家具 ×「ゾゾヴィラ」 廃棄となる客席などを活用したリメイク家具を販売予定

建築家・谷口吉郎の設計により1966年に竣工し、半世紀以上にわたって多くの人々に親しまれてきた“2代目”の現・帝国劇場は、2月末から一時休館となる。その帝国劇場は解体の際に生まれるさまざまなマテリアルを活用し、建物としての魅力を再発見するとともに新たなステージへ継承するプロジェクト「帝劇劇場 レガシー コレクション」を始動し、その第1弾アイテムを「ゾゾヴィラ(ZOZOVILLA)」で26年春ごろから販売する。

販売を予定しているのは、解体時に廃棄となる劇場の客席、ロビーを彩る照明、手すりの木部、柱の石などのマテリアルを活用するアイテム。製造はカリモク家具が担当し、帝国劇場の温もりを家庭でも感じられるようなリメイク家具や小物などの展開を予定している。今後の情報は、帝国劇場クロージング特設ページまたは「ゾゾヴィラ」の公式インスタグラムで要確認。

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ファッション研究者と考えるサステナビリティと消費  藤嶋陽子立命館大学准教授

「WWDJAPAN」ポッドキャストの「サステナブルファッション・トーク」は、ファッション業界のサステナビリティに関する最新ニュースやトレンドをざっくばらんにお話しする番組です。本番組では、サステナビリティ担当記者木村和花がホストを務め、「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクター向千鶴とともにお届けします。

今回のゲストは、藤嶋陽子立命館大学社会学部准教授です。ファッション研究の視点からサステナビリティを語ってもらいます。日頃、学生たちと対話をする中で「ファッション消費のあり方が変わってきた」と藤嶋さんが思う、その意味とは?



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「アニエスベー」も使った廃棄漁網のリサイクルナイロン「ミューロン」とは? 開発者に聞く課題や夢

「WWDJAPAN」ポッドキャストの「サステナブルファッション・トーク」は、ファッション業界のサステナビリティに関する最新ニュースやトレンドをざっくばらんにお話しする番組です。本番組では、サステナビリティ担当記者木村和花がホストを務め、「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクター向千鶴とともにお届けします。

前回に引き続きゲストには、アパレル資材を扱う商社モリトアパレルの船崎康洋サステナブルデザイン室室長代理です。モリトアパレルが開発した漁網を原料にしたリサイクルナイロン「ミューロン」とは。開発背景や「ミューロン」を通して実現したい夢を語ってもらいました。



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「ディーゼル」グレン・マーティンスとkemioが語る熱狂の生み出し方

グレン・マーティンス=クリエイティブ・ディレクターが率いる「ディーゼル(DIESEL)」は、若者を熱狂させるファッション性を維持しつつ、責任あるビジネスの転換をアグレッシブに進めている。例えば使用するデニムの50%以上は、オーガニックやリジェネラティブ、リサイクルに置き換え、化学薬品や水の使用量を削減した加工技術にも投資する。2024年9月にミラノで開催した24-25年秋冬コレクションでは、デニムの循環性をテーマに、「ディーゼル」が描く未来に対するステートメントを発信した。同ショーに込めた思いを出発点にマーティンス=クリエイティブ・ディレクターのサステナビリティに対する考え方を聞いた。セッションのパートナーには、若い世代の心を動かすという共通点を持つ、クリエイターのkemioを迎えた。(この対談は2024年12月13日に開催した「WWDJAPANサステナビリティ・サミット2024」から抜粋したものです)

“デニムの惑星“を表現したショーに込めた思い

木村和花「WWDJAPAN」記者(以下、WWD):9月にミラノで開催された「ディーゼル」の2025年春夏コレクションのショー動画をご覧いただきました。kemioさん、いかがでしたか?

kemio:衝撃的でしたね。「ディーゼル」と言えば、ファッションもそうですが、ステージのプロダクションや音楽、インビテーション、アフターパーティーなど、さまざまな角度からファッションショーの枠組みを越えるエネルギーをいつも感じます。今回は「ディーゼル」のDNAでもあるデニムを大量に敷き詰めたランウエイで、その上をモデルたちが力強く歩くという演出から未来に対しての強いステートメントを感じました。

WWD:グレンにあのショーに込めた思いを聞いてみましょう。

グレン・マーティンス:「ディーゼル」はファッションブランドであると同時にライフスタイルブランドでもあります。つまり、ファッションの美しさを追求する以上に、私たちが掲げる“サクセスフルリビング“、くだらないことは抜きにして人生を全力で楽しもうという精神性を体現しています。「ディーゼル」では、典型的なショーはしません。大事にしているのは、人々を巻き込むこと。例えば過去には、約1万人の一般客を招いたレイブパーティーをしたこともありますし、会場にコンドームの山を作って無料で配布したこともあります。

私が「ディーゼル」に加わって4年目を迎えた今回は、ブランドのコアであるデニムを中心に構成しました。デニムは、国やジェンダー、貧富の差を超えて多くの人々が触れているという意味で最も民主的な素材とも言えます。一方で生産工程では、多くの水や化学薬品を使用する負の側面もあります。実験的なアプローチでみんなが驚く魔法のようなデニム製品を生み出してきた「ディーゼル」は今、未来にあるべき美しいデニムの姿を考え、日々技術革新に取り組んでいます。今回のショーは、その新しいデニムの姿を表現しました。

会場は工場から集めた1万5000kgデニムの端切れを床に敷き詰め、“デニムの惑星“のようなものを誕生させました。その上をモデルが歩く光景を通して、デニムとは何か、循環の可能性などについてディスカッションするきっかけになってほしいという思いを込めたんです。

WWD:ショーの後には、観客がデニムの山に飛び込んだり、自撮りをしたりと、しばらく興奮冷めやらぬといった状態でしたね。サステナビリティの話題はともするとシリアスになりすぎて、楽しいものに変換することがすごく難しい。グレンがサステナビリティをテーマに据えながらあの規模で多く人を熱狂させていた点に感動しました。そうしたショー後の熱狂も予想していたのでしょうか?

マーティンス:全くしていませんでした。私たちのショー会場はいつも熱気に溢れていてさまざまな予想外のインタラクションが発生します。2年前はショー開始前、準備を終えてみんながバックステージでスタンバイしているにも関わらず、観客が会場で盛り上がってしまい開始予定時刻になってもなかなかショーが始められなかったんです。その時は、みんなを席に座らせるために仕方なく会場の照明を全て落としました。急に真っ暗になったのでみんな驚いて叫んでいましたよ(笑)。今回の“デニムの惑星“でもみんなが本当に楽しそうにしていた光景が美しかった。「ディーゼル」は人々が楽しむためのプラットフォームです。たとえランウエイショーであってもそうなのだということが理解いただけたと思います。

デニムの50%以上を環境配慮型に切り替え「楽しみながらより良い未来を考える」

WWD:「ディーゼル」はさまざまな角度からサステナビリティに取り組んでいます。素材面では、デニムに使用するコットンの半分以上をコンベンショナルコットンからオーガニックやリサイクル、リジェネラティブなどに切り替えています。kemioさんは、こうした取り組みを知っていましたか?

kemio:「ディーゼル」のブランドイメージは、セクシーでホット。広告を通して多様性を訴えるなど、社会に対する大事なメッセージを発信していることは知っていましたが、環境面でのサステナビリティにここまで力を入れていることは正直知りませんでした。いつも店に行くと、まずかっこいいデザインに引かれて商品を手に取り、あとから環境配慮素材で作られているんだと知ることが多い。サステナビリティに詳しくないカスタマーに対しても響く、すごく自然なアプローチだと思います。

マーティンス:サステナビリティはつまらないものである必要はありません。私が「ディーゼル」に入った4年前は、リジェネラティブやオーガニック、リサイクルコットンの割合は3%程度でしたが、現在は50%を超えています。半分がよりクリーンな素材に置き換わっているということ。もちろん今も完璧ではありませんが、毎シーズン改善を重ねています。

ファッションに限らず多くのブランドが、全ての製品において自分の子供や孫の世代のために、という視点を持つことが重要でこれが責任あるビジネス、または生き方の核だと思います。デニム以外にも「ディーゼル」の水着でも、同じことが言えます。水着はストレッチや速乾性が必要なので一般的にポリエステルが使われますが、現在は全てリサイクルポリエステルに切り替えました。定番のジャージー製品にはオーガニックコットンを採用しています。素材を未来のためにより良いものに切り替えていくことは、セクシーであること、自由奔放でロックンロールなライフスタイルを送ることを妨げることにはなりません。むしろ、楽しみながらも未来を考えることが私たちの根本的な価値観です。この価値観を毎シーズン、少しずつ実現していこうとしています。

kemio:グレンはクリエイティブ・ディレクターに就任する以前は「ディーゼル」にどんな印象を持っていましたか?

マーティンス:私は昔から「ディーゼル」の大ファンでした。故郷であるベルギーのブルージュという小さな街ですら、「ディーゼル」は人気でした。15〜16歳のころ、バーで皿洗いのアルバイトをしていたのですが、「ディーゼル」のパンツを買うことを目標にお金を貯めていました。当時の私にとっては決して安い買い物ではありませんでしたが、あれが私が人生で初めて意思を持ってした買い物でしたね。

20年に「ディーゼル」に入ると決めた理由の一つは、このようなグローバルブランドであれば、より多くの人と会話ができるだろうと思ったこと。環境の話はもちろん、マイノリティーやセクシャリティーといった社会のサステビリティについても、人々の世の中に対する見方をより良いものに変えるために多くの人に語りかけたかったんです。

「ディーゼル」に加わった時、すでに“レスポンシブル・リビング“と名付けられた環境戦略が走りはじめていました。私も比較的初期の段階から参加することができました。私がしたことはその戦略に“燃料“を加えたことでしょうか。試行錯誤しましたが結果的に、4年でここまでの成果を出せたことを誇りに思っています。

WWD:デザイン工程では具体的にどのようにサステナビリティを意識していますか?

マーティンス:さまざまなレベルがあると思います。例えばランウエイで見せるショーピースは、加工やペインティングなどの表現に重きを置きます。現実的にはリサイクルは難しいですが、生産量が少ないのでより柔軟性を持って考えるようにしています。一方で世界展開する商品については、ケミカルウォッシュや過度な加工をしないことを重要視しています。激しい加工表現はレーザーやオゾンウォッシュなどの技術を使うことで、強力な化学薬品を使わず、水もほとんど使用しない方法を取り入れています。この4年間で、低環境負荷でクリエイティブなデザインを実現するためのデータベースを構築することができました。私には最高のデニムチームがいます。私は基準を提示し、チームがそれを商品に落とし込みますが、多くの場合深く議論する必要もありません。というのも、低環境負荷を前提としてクリエイティブを探求することが私たちのアプローチに組み込まれているからです。

WWD:「ディーゼル」は製品製造以外でも、販売後の製品回収プログラムやリメイクプロジェクトなどさまざまな取り組みを通して循環型経済を推進しています。そうした「ディーゼル」のサステナビリティに対する包括的な考え方を知ることができるのが、動画シリーズ「Behind the Denim(デニムの裏側)」です。ここでリジェネラティブ・コットンを題材にした回をご覧ください。

WWD:kemioさんはご覧になっていかがですか?

kemio:サステナビリティの話題は、詳しくないと関わらない方がいいんじゃないかと距離を置いてしまうこともあると思います。そんな人にとっても優しく寄り添い、コミカルに楽しく学ぶことができる内容ですね。リジェネラティブ・コットンは最近よく耳にするワードですが、土からあれだけの工夫をして今僕が着用しているデニムができていることには驚きました。

WWD:「Behind the Denim」の第1話にはグレンも登場します。その中で印象的だったのがグレンが「サステナブルな商品なんていうものは存在しない」と話し、“レスポンシブル(責任ある)“という言葉に置き換えてインタビューに答えているシーンでした。その意図を説明してもらえますか?

マーティンス:私たちが20年1月にスタートしたサステナビリティ戦略のタイトルは、「レスポンシブル・リビング」です。ここでは素材の原材料のほか、工場やサプライヤー、輸送方法など事業に関わる全てについて触れています。服そのものだけでなく、それを取り巻く全ての項目において、責任ある選択をしていくことを目指しているからです。kemioさんは「ディーゼル」に対してどんな印象を持っていますか?

kemio:今の時代、買い物は投票であるという意識が広まっているように感じます。自分が信じているものと一貫性があるからその服を買う——そんな買い物の仕方が当たり前になってきている。その中で「ディーゼル」を選ぶ行為は、自分の内側から何か熱いエネルギーが込み上げてくるような気持ちになります。

マーティンス:いつもエンパワーリングなkemioさんにそのように感じてもらえていることは光栄です。

WWD:サステナビリティは多くの人の行動変容が必要です。そのためには、人の心を動かす何かを媒介して伝えることが必要だと思います。サステナビリティとクールでセクシーは両立するのでしょうか?

マーティンス:サステナビリティは、日々の言葉や行動に根付くべきもので自己表現を妨げるものではありません。みんなが心の中に持つべき大事な価値観の1つなんだと思います。

「人は情熱を持って取り組んでいる人を応援する」

WWD:最後にこのセッションのテーマである「熱狂の生み出し方」について、2人にお伺いします。多くの人が2人のクリエイションに熱狂してきました。その理由はなんだと思いますか?

kemio:事前にこの質問をいただいたんですが、正直自分じゃ分からなくてChatGPTに聞いちゃいました(笑)。いわく、自分のユニークなバックグラウンドがいろんな人に興味を持ってもらうきっかけになっていると。コピー&ペーストですが、人は情熱を持って取り組んでいる姿を見ると応援したくなるそうです。確かにそういう気持ちは皆さんあるのではないでしょうか。僕自身、どうやったらみんなが熱狂してくれるのか計算できるタイプではないので意図的に何かをやるというよりは、自分に対して誠実に信念を持って続けることで必ず誰かが耳を傾けてくれたり、協力してくれたりするのだと信じています。

マーティンス:おっしゃる通りだと思います。だからこんなに「ディーゼル」が似合うわけですね。大胆であること、偽らないこと、自分らしく生きること、だと思います。常に人生を楽しんで、他者を尊重すること。それが「ディーゼル」が熱狂を生み出すことができる理由だと思います。

来場者とのQ&Aセッション

WWD:まず、kemioさんからどうぞ。

kemio:最近、AI技術がどんどん進化しています。今後ファッションにおいてはどのような影響をもたらすと思うかグレンに聞いてみたいです。

マーティンス:個人的にはTikTokも使えないくらいデジタルにはうといんです。ただ、まずはこの進歩を受け入れ、クリエイションにも組み込んでいかなければいけないと思っています。

質問者:私は出版社で10代向けのコミュニティーメディアを運営していて、若者にどうサステナビリティを自分ごと化してもらうかに関心があります。ブランドとしてカスタマーをどう巻き込んでサステナビリティにアプローチしていきますか?デニムに関して言えば、カスタマーが製品を洗濯し過ぎてしまうといった問題があると思います。また、kemioさんには、実践してみたい“ファン“なサステナビリティアクションはありますか?

マーティンス:私はファッションを次世代に教える立場でもありますが、実は若い世代の方が、環境・社会的意識が高く生活の中で実践していることが多いように思います。「ディーゼル」がZ世代に人気の理由の1つは、透明性だと思います。取り組みや考え方をクリアに発信することが魅力になっています。サステナブルな商品についても、少しずつでも説明をしようと努力をする。長々としたスピーチにしてしまっては、クールさやエッジィさが失われてしまう。冒頭で話したように、日常会話のトピックとしてコミュニケーションをとることが大事なのではないでしょうか。

デニムの洗濯については、一人一人がベストなバランスを見つけると良いですね。デニムは年月を経過することでより美しくなるということをもっと若い世代に理解してほしい。自分でダメージ加工をしてもいいし、パッチをつけて楽しんでもいい。自分らしくデニムに命を吹き込んでいる人たちを見るとうれしくなりますよ。問題なのはむしろ、ファストファッションを楽しんできたミレニアル世代。意識の変化が必要なのは、僕らの世代の方だと思います。

kemio:僕はいろいろな社会問題に関心を持つ入り口はなんでもいいと思います。よく分からないから抵抗を感じる瞬間も多いと思いますが、まずは関心を持ってみる。僕はサステナビリティのエキスパートではないので今回、ここに参加させていただくことを悩みました。ただここに立つことで、自分をきっかけに興味を持ってくれる人がいるかもしれない。きっかけ作りには貢献できると思って参加を決めました。きっかけはなんでもいいからスタートしてみる、が大事だと思います。

WWD:お時間になりました。本日はありがとうございました。

PROFILE: グレン・マーティンス/「ディーゼル」クリエイティブ・ディレクター

グレン・マーティンス/「ディーゼル」クリエイティブ・ディレクター
PROFILE: 1983年ベルギー・ブルージュ生まれ。アントワープ王立芸術学院を首席で卒業後、「ジャンポール・ゴルティエ」でキャリアをスタート。2012年には自身の名を冠したウィメンズブランドをパリ・ファッション・ウイークで発表。13年には「Y/プロジェクト」のクリエイティブ・ディレクターに就任し、11年間同職を務める。17年には「ANDAMファッション・アワード」のグランプリを受賞した。「ディーゼル」とは18年にカプセルコレクション「ディーゼルレッドタグ」プロジェクトで協業。その後20年10月から「ディーゼル」のクリエイティブ・ディレクターを務める。英「ビジネス・オブ・ファッション(以下、BoF)」が、世界を代表するファッション業界人に送る「BoF500」2017年版にも選出された PHOTO:Arnaud Lajeunie @ Mini Title

PROFILE: kemio/クリエイター、モデル

kemio/クリエイター、モデル
PROFILE: (けみお)1995年10月16日生まれ。YouTube、Instagram、X(旧Twitter)などを含め、フォロワーは約600万人を超える。高校時代に動画アプリ・Vineで発信した投稿で注目を集め、2016年末に生活拠点をアメリカへ。女子中高生はもちろん、近年では大人からの支持も厚く、クリエイターとして大人気に。卓越したワードセンスで繰り出す「あげみざわ」などの独特な言葉も「けみお語」として親しまれ、若い世代に浸透中。2019年4月に発売した「ウチら棺桶まで永遠のランウェイ」は、発売から3ヶ月で15万部を超えるベストセラー、「GQ MEN OF THE YEAR 2019」では、Youth Infulencer of the Yearを受賞。22年4月28日には、新作エッセイ「ウチらメンタル衛生きちんと守ってかないと普通に土還りそう」が刊行。流行を生み出し続ける世界規模のスターとして、クリエイター、モデル、歌手などとして多岐の分野で活躍している PHOTO:TAMEKI OSHIRO

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バレンシアガのサステナビリティ戦略 デザインチームとの関係や注目の革新技術を語る

左:アニカ・モーア・ストーファルト/ バレンシアガ グローバル・サステナビリティ・ディレクター

スウェーデン出身。ヨーテボリ大学ビジネス・経済・法学部で経営学の修士号を取得。卒業後大手デジタルエージェンシーでキャリアをスタートさせ、さまざまな業界のアカウントを担当。その後、ファッションスクールのアンスティチュ・フランセ・ドゥ・ラ・モード(IFM)で、繊維・ファッションマネジメントの修士号を取得し、ファッション業界に転身。2004 年にケリングに入社し、06 年からバレンシアガで 勤務している。19 年にバレンシアガのグローバル・サステナビリティ・ディレクターに就任し、CEO 直属の新しい部署を立ち上げ、現在に至る。

右:ジェラルディン・ヴァレジョ /ケリング サステナビリティ プログラム ディレクター

フランスのエコール・ポリテクニーク卒業後、カリフォルニア・スタンフォード大学で、環境および土木工学の修士号を取得。建設およびコンセッション事業の世界的企業である VINCI グループで11年、世界的な主要インフラプロジェクトに携わり、その後VINCI SA と VINCI Concessionsで持続可能な開発と科学的パートナーシップのマネージャーを務める。2013 年にケリングに入社。グループ全体のサステナビリティ戦略とプログラムの実施をサポートする責務を担っている。国際的な専門家チームを監督し、持続可能な調達や生物多様性の保全、環境負荷の低い生産に関わる革新的なアプローチの創出と戦略的パートナーシップの構築に重点を置き、傘下のラグジュアリーブランドをサポートしている。Entreprises pour l'Environnement (EpE)の生物多様性委員会の委員長であり、Climate Fund For Nature の専門家委員会のメンバーも務める。PHOTO:TAMEKI OSHIRO

バレンシアガ(BALENCIAGA)の担当者が日本では初めて、同ブランドのサステナビリティ戦略について、グループ親会社であるケリングのグローバル・サステナビリティ・ディレクターとともに語った。いわずとしれたサステナビリティ先進企業である両社が描く未来、乗り越えてきた課題、注目している革新素材や技術、そしてデムナ「バレンシアガ」クリエイティブ・ディレクター率いるデザインチームとの対話とは?(この対談は2024年12月13日に開催した「WWDJAPANサステナビリティ・サミット2024」から抜粋したものです)

バレンシアガで18年、さまざまな部署を経験しサステナビリティの責任者に

向千鶴WWDJAPANサステナビリティ・ディレクター(以下、WWD):アニカさんのこれまでのキャリアを教えてください。

アニカ・モーア・ストーファルト=バレンシアガ グローバル・サステナビリティ・ディレクター(以下、アニカ):私はスウェーデン出身で約25年前にパリに来ました。デジタルエージェンシーで働いていましたが、20年前にファッションの世界で自分を“リサイクル”しようと考え、フランスのモード研究所でファッションマネジメントの修士号を取得しました。バレンシアガでは18年ほど働いています。最初はサステナビリティの担当ではなく、小売、リテール、Eコマース、マーチャンダイジング、購買などを歴任してきました。サステナビリティを担当するようになったのは、この5年ほどです。サステナビリティの実践的な知識を得たいと考え、ケンブリッジ大学でサステナビリティの修士課程の一部を修了しました。

WWD:バレンシアガでの役割とは?

アニカ:サステナビリティ戦略の定義、リーダーシップ、実行を担当しており、その戦略を世界中のバリューチェーン全体の中で行っています。ご存知のように、私たちはケリングの一員ですから、非常に野心的な目標を掲げ、同時に私たちが活動するための強力なフレームワークもあります。もちろん、今日一緒に登壇しているジェラルディンやケリングのサステナビリティチームがガイダンスやツール、専門知識を提供してくれます。ケリングの方法論のひとつにEP&L(環境損益計算)という、環境損益を測定する手法があります。私たちは正しい優先順位に焦点を当て、具体的な進捗と結果をモニターできるように、私たちが行うすべてのことを測定しています。

WWD:バレンシアガでのサステナビリティの位置付けは?

アニカ:組織全体にとって非常に重要な6つのブランドバリューがあり、そのひとつが「サステナブルであること」です。それはバレンシアガで働く人たち一人ひとりがサステナビリティのアンバサダーであることを意味します。同時に年次業績評価において、全員が持続可能性に関する具体的な業績目標を持つことも意味します。目標は、もちろん各部門に特化したもので非常に実用的なものです。

また、組織内に“サステナブル・カルチャー”を築いています。例えば、各チームが持続可能な目標を達成できるよう、多くのトレーニングを実施しています。社内コミュニケーションも盛んです。ポットキャストを配信したり、“アウェアネス・セッション”といって意識向上、啓蒙活動をしたりしています。

WWD:個々人の年次業績評価における目標はトップダウンですか?それとも個々人が設定するのですか?

アニカ:持続可能性の目標にはさまざまな種類がありますが、弊社では私たちが達成したいゴールの中からチームメンバーに対して達成してほしい目標を伝えます。私の場合は持続可能性に全面的に取り組んでいるため、業績目標はすべてサステナビリティに関連しています。

科学的根拠に基づきサステナビリティの最前線に立ち続ける

WWD:ジェラルディンさんのケリングにおける役割を教えてください。

ジェラルディン・ヴァレジョ =ケリング サステナビリティ プログラム ディレクター
(以下、ジェラルディン):
私はグループレベルで仕事をしています。私の役割は、すべてのブランドと協力し、誠実で科学的根拠に基づいたアプローチを通じて、サステナビリティの最前線に立ち続けるようガイド、サポートすることです。私のチームとともに、環境やイノベーションの多くの分野でブランドを支援しています。私はもともと機械工学を学び、素材を専門としてきました。その経験から、特に革新的な素材に情熱を持っています。また、過去11年間はイノベーションの仕事をしてきました。

WWD:11年間もイノベーションに携わるとは、常に最新に触れて刺激的ですね。

ジェラルディン:とてもエキサイティングです。なぜなら会う方、会う方、皆前向きでポジティブなエネルギーに満ちています。そしてバランスをとる必要もあります。結果を出すには時間がかかりますから忍耐も必要です。

ケリングのサステナビリティ戦略の優先事項は生物多様性と

WWD:ケリングのサステナビリティの優先事項は何ですか?

ジェラルディン:2025年までに達成すべき明確な目標を掲げた戦略を策定しています。特に、グループ全体でのEP&L(環境損益計算)を元にした削減目標を掲げ、全生産に必要な面積の6倍に相当する土地の再生と保護に関連した目標を設定しています。この目標に向けて懸命に取り組んでいますが、2025年以降の次なるサステナビリティ戦略も準備を進めています。新しい目標やトピックにも取り組んでいます。持続可能性とは固定された定義ではなく、進化する概念です。そのため、毎年新しい課題に取り組む必要があります。

2つ目は先ほど述べたように、イノベーション。それをどうスケールアップするか、です。私たちは日本に大変関心を持っており、「ケリング・ジェネレーション・アワード」を通じて、イノベーションをさらに拡大するイノベーターや方法を模索しています。最終選考に11名が残り、最終結果は3月に発表する予定です。この取り組みはファッションだけでなく、ビューティの分野にも広がっています。私たちは、明日のファッションと持続可能なファッションを生み出すイノベーターを探しています。

WWD:欧州規制とはどのような関係を築いているのか。

ジェラルディン:最優先事項は“進化”する規制に関することです。なぜなら、今後2年から4年の間に世界中で約35のファッションをよりサステナブルにするための重要な規制が施行される予定で、我々はそれに対応する必要があります。大半はヨーロッパ発です。私たちは長年にわたり持続可能性に取り組んできました。そのため、準備は十分に整っています。しかし、これからはトレーサビリティや消費者への情報提供をさらに充実させ、真の意味での循環型社会の実現に向けた新たな枠組みに深く踏み込む必要があります。

WWD:バレンシアガにとってのサステナビリティのポイントは?

アニカ:私たちはケリングの傘下にありますので、ケリングの戦略に沿っていますが、進め方はブランドそれぞれです。私たちはアプローチのポイントとなる3つの要素を選びました。それらはすべて、ケリングの3つの柱である「ケア(配慮)」「コラボレート(協働)」「クリエイト(創造)」を軸に展開されています。

1つ目は「インパクト」です。これは、サプライチェーンのあらゆるレベルにおいて、私たちの活動が環境に与える影響を低減し、ポジティブなインパクトを与えることを目指します。たとえば、再生可能な原料調達を選ぶことで、土壌の健全性を改善する“リジェネラティブ”も含まれます。また、私たちはEP&Lを活用し、自分たちの影響を測定することを重視しています。

2つ目は「製品」です。製品の原材料や製造工程における基準に合致するようにたえまなく改善し、持続可能な素材やプロセスを明確に定義するケリング・グループのガイドラインに基づいて行動します。ジェラルディンが指摘したように、今後の規制ではトレーサビリティがますます重要になります。誰がどこでどのように生産したものなのかを追跡することです。また、私たちは製品が良好な労働条件の下で製造されていることを監視する必要もあります。

最後の柱は「システムの変革」です。私たちは産業にたくさんのプレイヤーがいることを理解した上で自社の直接的な活動だけではなくより大きな産業や社会の一部として活動しています。この文脈で、イノベーションが重要なテーマとなります。私たちは、新興企業やイノベーターを含むエコシステム全体で、さまざまなイノベーションに取り組んでいます。これは、ブランドのDNAにおいてイノベーションが重要な価値観のひとつだからです。

コラボレーションもまた、システム変革の一部です。私たちだけでこの大変革を進めることはできません。そのため、ブランドやグループ内で共有するだけでなく、トレーサビリティのような非競争的なテーマについて、グループの外とのコラボレーションを広げています。また、これはサプライヤーへの圧力の軽減にもつながります。もちろん、製品、材料、プロセスなどを提供するあらゆるサプライヤーと協力する必要があるからです。また、ファッション協定やその他の組織的なプロジェクトや議論にも積極的に参加しています。

WWD:やるべきことがたくさんありますね。

アニカ:とても忙しくてエキサイティングです。退屈することはありません。

各ブランドとの目標や情報の共有の仕方

WWD:サステナビリティを推進するにあたり、バレンシアガを始め、各ブランドとの役割分担はどうなっているのでしょうか?目標や情報はどういった方法で共有していますか?

ジェラルディン:すべてのブランドには独自のDNAがあります。そのため、ケリング・グループ内の各ブランドが、自らにとって最も重要な要素にフォーカスすることが重要です。ケリングでは、国際的な枠組みであるサイエンス・ベース・ターゲット・ネットワークを活用し、科学的根拠に基づいて目標を設定しています。またパリ協定を基に、地球の気温上昇を摂氏1.5度以内に抑えるためにケリングとして何ができるかを検討しています。

各ブランドがこのターゲットに対して適応することが求められます。バレンシアガ、ブシュロン、ケリング アイウエア、ケリング ボーテなどそれぞれ異なる目標を設定します。重要なのは、これらの目標を早期に達成するための支援を提供することです。具体的には、専門知識やツールの提供が含まれます。その一例として、影響を計算しモニターするためのEP&Lが挙げられます。

ミラノにあるマテリアル・イノベーション・ラボでは、イタリアのサプライヤーや各ブランドの製品開発チームと協力し、より持続可能な素材を開発しています。このラボには、持続可能な素材を1,000種類以上集めた素晴らしいライブラリーもあります。しかし、クリエイティブチームにとっては、これだけでは十分ではありませんから、私たちは素材革新において、より革新的で持続可能な素材を活用することを目指しています。

WWD:改めて、EP&Lとは?

ジェラルディン:EP&Lは、自然が私たちに提供してくれる“サービス”、たとえばきれいな水や空気がかつては無限であったものの、現在では有限であるという認識から生まれた考え方です。この限られた資源の中で、経済システムに自然のサービスを組み込む必要性が強調されています。具体的には、自然が私たちに与えるすべてのサービスに価値を見出し、それをビジネスに反映させるという考え方が背景にあります。

EP&Lの目的は、金融のツールを使って自然を金融・経済システムの一部に組み込み、原材料の採取から製品の製造、店舗での販売、さらに製品の使用に至るまで、バリューチェーン全体を通じて環境への影響を計算することです。

このような取り組みが実現すれば、環境への影響が金銭的価値に直結するようになります。EP&Lの重要な点は、この活動が12年間継続されており、その過程で自然を大切にする文化が醸成され、自然には価値があるという意識が根付いたことです。その結果、ビジネスにおいても自然を保護し、再生する必要性が一層明確になりました。

自分のダッシュボードを活用して、たとえば異なるタイプの靴を比較し、それぞれの環境への影響や使用材料を可視化するツールがあります。このツールは、製品やブランドの共同デザインを支援するアプリケーションの一部でもあります。

バレンシアガとサステナビリティを理解する4つのポイント

WWD:バレンシアガがこれまで行ってきたサステナビリティに関わるアクション例を教えてください。

アニカ:4つ事例を挙げたいと思います。一つは、2022年冬コレクションで発表した「エッファ」と呼ばれるマッシュルームの菌糸(マイセリアム)から作られたコートです。レザーに似た質感を持つ代替素材で、バレンシアガのためだけに開発されたものです。バレンシアガとケリング、スタートアップのスクイム(SQIM)の共同開発の成果です。

2つ目は、2024年6月に発表したクチュール コレクションのルックナンバー2に取り入れました。モデルが着用しているパンツにスパイバーによる繊維が含まれています。最も格式の高いクチュールコレクションでも、「ブリュードプロテイン」のような革新的な素材が採用されています。

店舗からも事例を紹介します。バレンシアガでは、100以上の店舗がLEED認証を受けています。LEEDとは、エネルギーと環境デザインにおけるリーダーシップを意味するLeadership in Energy and Environmental Designの略称です。私たちは常にこの認証取得を目指しています。大規模な改装工事を行う際には、その対象となります。

最後に、拡張現実、ARの体験です。何が再生農業なのか、その認識を高めるための取り組みです。私たちは若い方と接することも多いのですが、彼らは特にゲームやゲーミフィケーションに高い関心を持っています。そのためインスタグラム、ティックトック、ウィチャットなどのソーシャルメディア・プラットフォームを活用し、ミニゲーム形式で再生農業について学べるビデオを提供しています。この中で、ユーザーはアバターを選び、種を植え、水を与え、堆肥化し、輪作などの技術を用いることで、再生農業の方法論を実践できます。これにより、少しでもそのプロセスを体感することができます。

デムナ率いるデザインチームとの緊密な関係

WWD:デムナ「バレンシアガ」クリエイティブ・ディレクターをはじめデザインチームとのコミュニケーションについて教えてください。具体的にどのような会議が社内で行われていますか?

アニカ:私たちは緊密に連携して仕事を進めています。特に私のチームは、デザインチームと密接に協力しています。デザインチームは車の運転席に座っているようなものです。彼らが行う選択は、製品のライフサイクル全体に大きな影響を及ぼします。しかし、会社には他にも非常に重要な役割があることを忘れてはなりません。製品のライフサイクルを決める、一つひとつの瞬間に関わる人たちです。開発、生産チーム、サプライヤーも重要な参加者であり、プロジェクトのドライバーとなることで、サステナビリティが実現するのです。

たとえば具体的なインスピレーションがスタジオのデザインチームから湧き上がってきたら、サステナビリティチームが開発チームやサプライヤーと協力してその解決策を模索します。また、サステナビリティチームでは、常に新しいスタートアップ、新しいイノベーション、新しいサプライチェーンを探してデザイナーたちに紹介をしています。

さらに、私たちはクリエイティブチームに対して、ケリング・スタンダードに従って具体的な調達基準について定期的にトレーニングを実施しています。このトレーニングにより、クリエイティブチームはサステナビリティを自分の業務範囲にどのように組み込むかを学んでいます。彼らはすでに高度な訓練を受けているといえるでしょう。

WWD:デムナのような傑出した才能と仕事をするのは面白そうですが大変そうでもあります。

アニカ:全然大変ではないですよ。私たちはデムナやクリエイティブチーム全体と、とても良い会話を交わしていますし、彼らも積極的に関わってくれています。

ケリングとバレンシアガが今必要としている技術や素材

WWD:ケリング、バレンシアガ、それぞれが今必要としている新しい技術や素材を教えてください。

ジェラルディン:私たちは、目標を達成し、サプライチェーンの透明性を向上させるために、環境負荷を軽減する技術革新を模索しています。なぜなら、原材料が環境負荷全体の約3分の2を占めているため、これが私たちの最初の焦点となったからです。バイオマスを原料とするもの、自然由来であること、バイオテクノロジーを駆使し、化学物質を一切使用しないもの、そしてデザインチームのエモーショナルなインパクトのあるものを探しています。心が刺激されないと新しいアイデアは生まれません。これらの基準を満たさない素材では、私たちのブランドの理念に合致しません。そのため、素材選びが優先事項です。

さらに、世界中で水に対する関心・懸念が高まっていることを背景に、私たちは水資源を適切に使用する必要があります。リテールや消費者とのエンゲージメントに関わるテクノロジーも常に探しています。これはファッションに限りません。1年半前、私たちはケリング ボーテを立ち上げ、美容分野も重点となっています。美容業界におけるサステナビリティは、私たちの新たな挑戦の一環です。

アニカが述べたように、イノベーションは競争以前の協調の場でもあります。最終的に私たちが望むのは、これらのイノベーションが業界全体のスタンダードとなることです。気候変動や生物多様性、水はすべての人が必要としているイノベーションですから。

WWD:サステナビリティは物づくりをする人にとってはある種の制約ですが、むしろそれをチャンスだととらえた方が良さそうですね。

ジェラルディン:そう思います。そのように見ることも必要ですし、チームにもそう伝えないといけません。制約としてチームに伝えるとうまくいきません。創造性の欠如は、私たちにとって致命的な問題と見なさなければなりません。それが私たちのアプローチそのものなのです。

最近、私たちのイノベーション・アワードにジュエリーの分野を設けました。そこでのトピックも廃棄物からいかにしてラグジュアリー生み出すか、です。ですから制約と見ることもできますが、素材の見方、廃棄してきたものの見方を変える、新しい意味でのクリエイティブになるということだと思います。

WWD:バレンシアガが今必要としている技術や素材とは?

アニカ:ジェラルディンが伝えたように、私たちは次の新しいプロジェクトに取り組んでいます。私たちは、環境への影響を削減することに非常に注力しています。そのため、即効性のある短期的なアプローチと、フットプリント(環境負荷)に関する現実的な分析を組み合わせています。同時に長期、次世代のイノベーションに焦点を当てています。なぜなら、私たちは「明日」を形作るための素材について議論しているからです。

スタジオでは、コレクションに使用される素材のリサーチやプレゼンテーションを行う際、従来の素材をより持続可能な素材に置き換える取り組みを続けています。この際、デザインや品質について妥協することはありません。おっしゃるように、サステナビリティは創造性を刺激する力を持っています。
そのため、例えばコットンやウールについては従来よりもインパクトの少ない素材を使用するよう努めています。たとえば、2021年にコンサベーション・インターナショナルと共に設立した「自然再生基金」からのサプライチェーンを活用するケースが増えています。

イノベーションは、バレンシアガのDNAの一部です。そのため、次世代素材だけでなく、革新的なプロセスにも焦点を当てています。ジェラルディンが述べたように、例えば、水をほとんど、あるいは全く使わずに染める技術を見つけることなどプロセスが、非常に重要な課題として注目されています。このような取り組みに、私たちは一層力を入れています。

冒頭でも述べたように、これらのプロジェクトには非常に時間がかかります。具体的な成果につながらないプロジェクトもたくさんあるでしょう。でも取り組まなければならないのです。たくさんのプロジェクトの一部が成功する。それを産業、商業規模に拡大し、より環境負荷の少ない明日の素材となることが期待されています。

WWD:お2人のそれぞれの次なるゴールとは?

ジェラルディン:このイノベーションをスケールアップさせ、さらにその実現を手助けできることが、私の個人的な目標であり、大きな希望でもあります。

アニカ:冒頭でも述べたように、まだやるべきことがたくさんあります。だからこそ、一番大きなポジティブなインパクトを残せるところにフォーカスして結果をもたらして具体的なアクションにつなげたいです。

イベント参加者とのQ&Aセッション

参加者:ヨーロッパではエコデザインに関する規制やルールの変更を踏まえてどのようにクリエイティブチームに伝えているのでしょうか、具体的に教えてください。

ジェラルディン:バリューチェーン全体におけるトレーサビリティの向上が規制の主眼です。そして、環境ラベリング形式で最終消費者へ伝えること、また廃棄物の削減と循環型経済の構築が規制の目標です。当局とも常にコミュニケーションをとり意見も出しています。これらの規制の本質は、「持続可能な製品」とは何かを定義することにあります。なぜなら、ファストファッションにおける持続可能な製品の定義と、ラグジュアリー製品におけるそれは同じではないからです。そのため、私たちは製品の物理的な耐久性だけでなく、情緒的な耐久性も考慮しています。これには、製品の価値を維持する方法や、製品を修理して再利用する取り組みも含まれます。

これを実現するため、グループレベルでは定期的なミーティングを行っています。3カ月に一度、各ブランドやその法務チームと会合を持ち、規制が私たちの業務にどのような影響を与えるかを共有し、ディスカッションしています。

現時点では、主にIT面での変更が主です。現時点では、法律が求める内容との整合性については問題ないのですが、細部に問題がある可能性があるから十分に注意する必要があります。私はこれらの法律を土台にして、さらに前進できると考えています。

アニカ:ジェラルディンが述べたように、私たちはこれをブランドに導入する際、トレーサビリティを重視しています。トレーサビリティは非常に複雑な作業ですが、ケリングの基準に沿った素材を使用することで、作業を効率化することができます。生産チームなどと部屋に集まり、資料やスクリーン、スライドを活用しながらトレーニングを進めます。もちろん規制や基準について詳しく議論します。

ただ規制は、それがあるから対応しているわけではありません。行うのは、それが「正しいこと」だからです。現在、規制が施行され始めています。私たちはまだ完璧ではありませんが、取り組みは組織全体に浸透しつつありすでにかなりの進展を遂げていると言えます。社内のすべての部署に理解してもらう必要があります。完璧とは言えませんが、私たちは懸命に努力し続けています。

参加者:「消費者の手に渡った後の流通」に関する質問です。リサイクルだけでなく、リセールプログラムが成功するための条件や、そこにある課題について教えてください。

ジェラルディン:リセールについて、私たちはテストと実践の段階ですが、興味深いモデルであると考えています。ケリングは、中古品プラットフォームであるヴェスティエール コレクティブに投資しています。これにより新しい顧客層へリーチできることがわかっています。つまり、従来のビジネスモデルとバッティングすることなく、新しい可能性を広げています。

完全に異なるロジスティクスですから、現時点では、独自のシステムよりもパートナーと協力する方が容易です。そして、次のステップとして何をすべきかを検討しています。

参加者:私はイノベーションが非常に重要なスポーツ業界の出身です。現在この業界では技術革新への投資はすべてサステナビリティを中心に行われています。この点は、ケリング・グループやバレンシアガにおいても同じでしょうか?

ジェラルディン:はい、そうです。サステナビリティとデジタル技術は、現在の技術革新と投資の原動力となる2つの重要な要素です。この2つの要素が組み合わさる例については、すでにお話ししましたが、その通りです。

参加者:イノベーションへの投資は、それが実際にポジティブな変化をもたらすものでない限り、基本的に価値を持ちません。また、ジェラルディンさんが先ほど述べたように、イノベーションへの投資のうち、10件中1件が成功すれば良いほうです。つまり、それは非常に大きな投資ですから、持続可能性に向けた大きな成果を目指しているということでしょうか?

ジェラルディン:はい、その通りです。特にラグジュアリー分野においては、すべてが完璧でなければならないため、なおさら難しいです。イノベーションには時間がかかり、うまくいかないこともあるため、そのフラストレーションを受け入れる必要があります。

参加者:トレーサビリティとは、すなわち透明性を意味します。すべて透明性を担保しないといけないのでしょうか?パーフェクトではない、ときにはよくない姿を見せないといけないと思いますが、ケリング、バレンシアガとしては100%透明性を担保しようとしていますか?

ジェラルディン:例えば、我々はEP&Lの結果をすべて公表しています。これにより、製品に関する完全な透明性、安定性、環境への影響などを理解していただけると思います。改善点も公開しています。持続可能性とは、終わりのない旅でもあります。そのため、現在地をしっかりと把握することが重要です。今日の世界では、何も隠すことはできません。

参加者:EUがグリーンウォッシングに対する規制を強化したことはよく知られています。このような法改正について、どのように捉えていますか?

アニカ:私たちは現在、この問題に気を配りながら、ガイドラインに基づいて精緻なコミュニケーションをしています。特に重要なのは、何をどのように伝えるべきか、どの単語を使うべきか、そして避けるべきか正確に伝えることが大切です。私たちが使う言葉も外部の専門家にその内容を確認してもらっています。バレンシアガにとってサステナビリティはマーケティングツールではありません。最善を尽くして行うものです。

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日本の繊維産地の可能性を各産地の新リーダーとデザイナー、識者が語る 

日本の繊維産地は世界から見ても多様で、その技術は海外から高い評価を受けている。しかし、後継者不足など深刻な課題を抱えて久しい。その繊維産地から今、新たなリーダーが誕生し始め、一企業の枠を超えて地域と連携した活動が生まれている。日本のものづくりと産地継続に向けて、産地に関わるリーダーやデザイナー、識者がその可能性を語った。(この対談は2024年12月13日に開催した「WWDJAPANサステナビリティ・サミット2024」から抜粋したものです。)

向千鶴WWDJAPANサステナビリティ・ディレクター(以下、WWD):2つ目のセッションは日本の繊維産地の可能性について5名の方をお招きしてディスカッションをいたします。日本には素晴らしいものづくりを行う産地がたくさんあります。そして多くの課題を抱え、同時に可能性を秘めています。ファッションの持続可能性はものづくりの現場の持続可能性があってこそ。本セッションでは現場の声と、識者の声を交えてその未来を語っていただきます。オープニング映像で見ていただいたのはZOZONEXTさんから提供いただいた篠原テキスタイルさんのムービーです。ZOZO NEXTさんのユーチューブでもご覧いただけます。

それでは登壇者をご紹介します。スズサン営業・各種プロジェクト担当の井上彩花さん、糸編代表の宮浦晋哉さん、「フェティコ」デザイナーの舟山瑛美さん、オンラインから篠原テキスタイル社長の篠原由起さん、そして本セッションのファシリテーターを努めていただくA.T. カーニー シニアパートナーの福田稔さんです。福田さんにマイクをお渡しします。福田さんよろしくお願いします!

PROFILE: 福田稔/A.T. カーニー シニアパートナー

福田稔/A.T. カーニー シニアパートナー
PROFILE: 1978年東京生まれ。慶應義塾大学卒、IESEビジネススクール経営学修士(MBA)。電通総研(旧電通国際情報サービス)、ローランド・ベルガーを経てA.T. カーニー入社。消費財・小売プラクティスのAPAC共同リーダーを務める。主にアパレル・繊維、ラグジュアリー、化粧品、小売、飲料、ネットサービスなどの領域を中心に、戦略策定、ブランドマネジメント、GX、DXなどのコンサルティングに従事。プライベートエイティやスタートアップへの支援経験も豊富。経済産業省 産業構造審議会委員、ファッション未来研究会副座長、大学院大学至善館にて特任教授(マーケティングの理論と実践)など政府やアカデミアでも活動。著書に『2040年アパレルの未来 「成長なき世界」で創る、循環型・再生型ビジネス』『2030年アパレルの未来 日本企業が半分になる日』(いずれも東洋経済新報社)など PHOTO:TAMEKI OSHIRO

世界から見ても珍しい、日本の多様な産地

福田稔A.T. カーニー シニアパートナー(以下福田):まず「産地」と一口に言っても日本の繊維産地は非常に多様です。具体的にどのような多様性や魅力があるのか、詳しくお話していきたいと思います。その点について産地に詳しい宮浦さんからお話をいただければと思います。

宮浦晋哉・糸編代表取締役兼キュレーター(以下、宮浦):日本には和装の産地から、ファッション、インテリアの産地などたくさんの繊維産地があります。私たちがワークショップやファッション学校で教える際にはこのうち代表的な20の産地を例として挙げています。

北から南まで日本にはさまざまな繊維産地があるので、皆さまの出身地も実は繊維の生産地だったりしますが意外と知られていません。例えばお母さんやお父さん世代が「機織りの音が聞こえていた」「染めをしていた」という話を聞いたことがある方もいるかもしれません。実は繊維産地は日本の日常生活に非常に近い存在なのです。

繊維産地には日本ならではの文化や風土が独特の文脈で進化を遂げ、現在に至った背景があります。この小さな島国でさまざまな特徴を持つ繊維産地が存在していることは世界的に見ても非常に珍しいことです。

歴史を遡ってみると、綿花を栽培して木綿を織っていた産地もあれば、養蚕が盛んで蚕を育てて生糸を生産し反物にして発展してきた産地もあります。これからご紹介するのはもともと養蚕業を行い、シルクの織物を生産していた産地についてです。これらの産地はシルクの織物産地として発展しつつ、その後ナイロンやポリエステルへと進化を遂げたものもあります。それぞれの産地が独自の進化を遂げています。

例えば日本最大規模を誇る北陸の繊維産地は、ポリエステルやナイロンのテキスタイルの生産が盛んです。東京から近い群馬では桐生を中心にジャカード織りの柄を追求する産地として知られています。山形の米沢は、現在も高密度で非常に美しいシルクのテキスタイルを主力とし独自の地位を築いています。このように各産地がそれぞれの強みを活かして進化し、世界中にファンを持つ存在になっています。

続いて、綿花栽培を背景に持つ産地をご紹介します。これらの地域は日照時間が長く水はけが良いといった土壌や気候条件が綿花栽培に適していました。

オレンジ色の地域の出身の方はおおらかな性格の方が多い印象があります。日照時間が長く、太陽に照らされる環境の中で育まれる文化が影響しているのかもしれません。この地域では5月頃に綿の種を蒔き11~12月頃にコットンボールが弾けるというサイクルで和綿の栽培がされていました。ここから発展してきた繊維産地と言えば、世界に誇るジャパンデニムの産地である岡山から広島、今治のタオル、和歌山の丸編み、そして世界三大毛織物の一つである尾州などがあり、さまざまな製品が生まれています。

一気にお話しすると少し情報が多いかもしれませんが、日本全国にはさまざまな繊維産地があり、それぞれ独自の形で進化を遂げてきました。この多様性と進化こそが、日本ならではの魅力として世界中から注目され、毎シーズン世界各国のデザイナーやバイヤーが訪れるなど、日本の繊維産地は他に例を見ない特別な存在となっています

各産地に新しいリーダーが登場、斜陽産業からの脱却を目指す

福田:このように日本の繊維産地は非常に多様です。そして現在、世界から大きな注目を集めています。その背景には日本の繊維産業が持つ長い歴史があります。日本の繊維産業は、戦前から高度経済成長期にかけて国の基幹産業として大きく成長しました。しかしその後、生産拠点がコストの安い中国や新興国へと次々と移転し、それに伴い斜陽産業とも言われるようになりました。

ところが潮目が変わり、繊維産業が輸出産業として再び成長を始めています。実際、日本のテキスタイルの輸出額は3000億円以上でその金額は年々増加しています。また、近年では日本製のブランド、完成品の輸出も急速に伸びており直近では輸出額が1000億円を超えるまでになっています。

歴史を経て日本の繊維産業は再び成長しようとしています。この新たな成長期を牽引する新しいリーダーたちが登場しています。ここからは、そうしたリーダーの方々をご紹介したいと思います。まず、先ほどオンラインでご参加いただいた篠原テキスタイルの篠原さんをご紹介します。

篠原さんは40代で家業を継ぎ現在事業を拡大されています。ぜひ篠原さんから、新しい繊維産地をリーダーとしてどのように考えていらっしゃるのかお伺いしたいと思います。特に現在取り組まれていることやコメントがあれば、自己紹介を兼ねてお話しいただければと思います。

PROFILE: 篠原由起/篠原テキスタイル代表取締役

篠原由起/篠原テキスタイル代表取締役
PROFILE: 1907年創業のデニム生地機屋「篠原テキスタイル」の5代目。大阪工業大学卒業後、大正紡績へ入社。紡績の製造現場、商品開発室、営業を経て、2012年に篠原テキスタイル入社。新規事業開発リーダーとしてデニム産地内同業他社、異業種、行政、教育機関との連携を深め、デニム産地の発展に取り組む。22年社長に就任。海外展示会への出展や、国内他産地とのコラボ素材の開発、デニム製造工程で発生する残糸や、BC反を活用したアップサイクルブランド「シノテックス(SHINOTEX)」の立ち上げを行ってきた。また、産地の魅力発信のため、デニム・ジーンズの製造工場を回る工場見学ツアーの企画や、若手デザイナーの支援も積極的に行う PHOTO:TAMEKI OSHIRO

篠原由起・篠原テキスタイル代表取締役(以下、篠原):私は広島県福山市を拠点にしています。この福山市と隣接する岡山県の井原市と倉敷市が日本国内でも特に有名なデニムの産地となっています。

現在、同業他社さんと連携してデニム産地全体を盛り上げる活動に取り組んでいます。具体的には日本のデニム生地をさらに広めるために勉強会を開催したり、一般の方向けにはワークショップを行ったりしています。2024年はBtoB向けの展示会を実施したり、マルシェに参加したりして地元住民にも「福山にはデニムがあるんだ」と知っていただく活動を進めています。地域の皆さんに地元への誇りを持っていただきたいという思いもあり、シビックプライドの醸成にも力を入れています。

また、バイヤーさんを対象とした工場見学ツアーも行っており24年は30~40回ほど実施しました。現場を見ていただくことでデニムをより深く知っていただけたらと思っています。

さらに、私たちからも積極的に学校へ赴き「こんな面白いことをやっているんですよ」と紹介する勉強会を開催したり、他の産地を訪問して連携を深めたりしています。例えば、「ひつじサミット尾州」で交流したり、先週は播州を訪問してお互いの産地の取り組みを紹介、素材開発したりとさまざまな活動を行っています。

福田:続きまして他の産地のリーダーについてご紹介します。若い世代が新たなリーダーとして登場しており、この点については産地をつなぐ活動をされている宮浦さんにお話しいただければと思います。

PROFILE: 宮浦 晋哉/糸編代表取締役 キュレーター

宮浦 晋哉/糸編代表取締役 キュレーター
PROFILE: 1987年千葉県生まれ。大学卒業後にキュレーターとして全国の繊維産地を回り始める。2013年東京・月島でコミュニティスペース「セコリ荘」を開設。16年名古屋芸術大学特別客員教授。創業から年間200以上の工場を訪れながら、学校や媒体や空間を通じて繊維産地の魅力の発信し、繋げている。17年に株式会社糸編を設立。主な著書は『Secori Book』(2013年) 『FASHION∞TEXTILE』(2017年)PHOTO:TAMEKI OSHIRO

宮浦:現在、篠原社長は5代目として活躍されていますが、他の産地でも代替わりが進んでいます。若い息子さんや娘さんが事業に参加するケースや外から移住してきた方が会社を経営する例も見られます。

例えば、世界三大毛織物の産地として知られる愛知県と岐阜県にまたぐ尾州産地でオープンファクトリーイベント「ひつじサミット尾州」を立ち上げたのが三星毛糸の岩田真吾さんです。尾州産地は大きい産地なのですが、岩田さんは旗振り役としてリーダーシップを発揮して、日々精力的に活躍されています。産地が自ら立ち上がり外に向けて楽しく開いていかなければならない、という強いメッセージを込めて活動をされています。このオープンファクトリーをはじめ、さまざまなインナーブランディングの取り組みも行っています。

遠州産地に目を向けると、綿の高級シャツ地を手掛ける古橋織布の4代目古橋佳織理さんがいらっしゃいます。男性だけでなく女性も社長や開発担当として活躍してそれぞれの産地で頑張っている時代になりました。和歌山産地ではエイガールズの山下智広社長など、各地で新しいリーダーが次々と現れ、それぞれの産地を盛り上げています。このように、日本全国で新しい世代が活躍している状況です。

福田:このように多くの新しいリーダーが登場している一方で、他の業界から繊維産地に飛び込む動きも見られるようになっています。そこで、経済産業省を経てMBAを取得し繊維産地に飛び込んだ井上さんにその経緯をお伺いしたいと思います。

PROFILE: 井上彩花/スズサン 営業担当

井上彩花/スズサン 営業担当
PROFILE: 慶應義塾大学経済学部卒業後、2016年に経済産業省に入省。通商政策局などを経て、19年4月からファッション政策室、クールジャパン政策課。22年8月からフランスのビジネススクールでラグジュアリーブランドマネジメントを学ぶ。24年8月から現職。 PHOTO:TAMEKI OSHIRO

井上彩花スズサン 営業担当(以下、井上):私は現在、株式会社スズサンで営業などを担当しています。大学卒業後、経済産業省に入省し、クールジャパン政策を担当する部署に在籍していました。その際、福田さんに副座長、向さんに委員として参加いただいた有識者研究会「ファッション未来研究会」の事務局を担当させていただいたことがきっかけで、ファッション産業が抱える課題や向き合うべきテーマ、そして産業が持つ大きなポテンシャルについて深く知ることができました。

特に職人技術といった独自性の高いものをどのように海外に伝え、市場を作り出すかに興味を持ちました。フランスを中心としたラグジュアリーブランドが世界中で人気を集めている様子を見て、クールジャパンで目指していたことの反対側にある成功例の一つではないかと考え、ラグジュアリーブランドビジネスを学びにパリに約2年間留学をしました。

留学中は、世界中からラグジュアリーブランドビジネスを学びに集まった同級生とともに、その領域に深く携わるさまざまな機会を得ました。その中で、特にフランスでは、職人技術が非常に高い価値を持つものとして業界内で認識されていることを実感しました。また、現地でLVMHメティエダールでのインターン経験を通じて、日本の繊維や工芸といった手仕事に大きなポテンシャルがあること、同時に課題も直接感じることができました。

これらの経験を経て、手仕事のビジネスのよりリアルな部分を体験したいと思い帰国後、名古屋・有松に拠点を置く株式会社スズサンに転職しました。スズサンでは、江戸時代初期から400年以上続く国指定の伝統工芸「有松鳴海絞り」の技術をブランドの核とし、ファッション製品や、クッションやブランケットといったホーム製品に「有松鳴海絞り」の絞り柄を取り入れるブランドビジネスを展開しています。

福田:新しい人材が集まりつつある繊維産業ですが、ここでぜひ日本の繊維産業が持つ「ものづくりの魅力」や「強み」についてお話を伺いたいと思います。「フェティコ」のデザイナーとしてご活躍されている舟山さんにお尋ねします。舟山さんは、特に産地との連携が上手だとうかがっています。産地の魅力やデザイナーの視点から見た日本の産地について教えていただければと思います。

PROFILE: 舟山瑛美/「フェティコ」デザイナー

舟山瑛美/「フェティコ」デザイナー
PROFILE: 高校卒業後に渡英、帰国後にエスモードジャポン東京校入学、2010年卒業。コレクションブランド等でデザイナーの経験を積み、20年に「フェティコ」を立ち上げる。22年に「JFW ネクストブランドアワード2023」と 「東京ファッションアワード 2023」を受賞 PHOTO:TAMEKI OSHIRO

舟山瑛美「フェティコ」デザイナー(以下、舟山):まず、私のブランドについて簡単にご紹介します。私が産地でのものづくりを始めたきっかけは新卒で入社したいわゆるDCブランドといわれるデザイナーズブランドの会社でした。その会社は産地との絆が非常に深く、新入社員も率先して産地や工場に連れて行き、現場を見せてくれるような投資を惜しまない会社でした。この経験が私にとって非常に大きな影響を与えました。それまで私は、服がどのような場所で作られているのかを全く知りませんでした。しかし、実際に現場で働く方々と話す機会を得たことで、彼らがいかに大変な仕事をしているかを知りました。「後継者がいない」「仕事が大変」といった話を若い私に気軽にしてくれる一方で、工場の方々がものづくりに誇りを持っている様子がとても印象的でした。その姿を見て「自分も真剣に向き合わなければ」と覚悟を決めることになりました。

「フェティコ」を立ち上げるにあたり「少しでも産地の力になりたい」という思いが強くありました。いろんなブランドで働く中で時には海外生産を含むOEMで日本の生地を使わない製品を手がけることもありました。ただ、そういったものづくりでは、細かい部分で自分が表現したいことを洋服に落とし込むのが難しく、ジレンマを感じることが多かったです。

その経験を経て「どんな人たちがどんな場所で作っているのか」を見極め、どの産地のどの生地を使いどの縫製工場に頼めばどんなふうに仕上がるまでが見えるものづくりに強い価値を感じるようになりました。今では、日本で作れないもの以外は約90%の生地と縫製を日本国内で行っています。

具体例を挙げると、前シーズンでは桐生でオリジナルの柄のジャカード生地を作りました。同色で派手さのない素材なので一見地味に見えますが、実際に手に取ってもらうと独特の風合いが感じられます。日本で作るメリットの一つにオリジナルの生地を作るのに多額のコストがかからないということ、小さなブランドであっても製作に協力的な機屋さんがいるという点があります。こうした環境は本当にありがたいと感じています。

継続しているところでいうと、尾州のスーツ地があります。ブランドを構成する要素は多々ありますが、細かい工夫や積み重ねがブランドのアイデンティティを形成し、強めてくれると実感しています。同じ梳毛でも、仕上げの加工方法やブランドらしさを求めてオリジナルの色に染めていただくなど自分の求める形にしてもらえるのが魅力です。小さなブランドでもこうしたことができるのは、日本でデザイナーをやる大きなメリットだと思います。

もちろん、海外の素材にも素晴らしいものがたくさんありますが、日本は顔が見える人たちと一緒に理想を追求できる環境が整っています。この環境を活かさないのはもったいないと感じ、産地でのものづくりを続けています。

福田:ちなみに私も今日着ているのは尾州のスーツ生地を使った服です。桐生産地も素晴らしいと思います。さて、日本の産地の魅力を横断的に発信し、さらに世界中のラグジュアリーブランドをアテンドされている宮浦さんにお伺いしたいと思います。

宮浦:舟山さんのお話にも通じるところからいくと、他の国にも繊維産業が存在しますが、いろんな国のデザイナーや学生、先生たちと話していると、小ロットでどのくらい商売になるかわからない前提でファッションブランドにコミットしてくれる工場がなかなかないという状況で、あるとしたら日本とイタリアだと聞きます。それ以外の多くの国では繊維産業として一定の規模があっても、ほとんどが工業的な大量生産で回っているというのが現状です。こうした背景があるからこそ、イタリアやフランス、ドイツといった国々から学生たちが日本に研修に来るのだと感じています。

世界は「信頼の歴史」「技術者」「糸の開発力」を評価

僕自身、日本のテキスタイルの国際競争力をテーマに研究しています。これまで世界中で日本のテキスタイルを使うデザイナーや経営者に話を聞く中で、いくつか共通して言われることがあります。

当たり前のことかもしれませんが「検品をしっかりしてくれる」「品質が安定しており、汚れや染色むらがないものが確実に納期通りに届けられる」という日本全体が積み重ねてきた信頼の歴史が挙げられます。この「当たり前」を守り続けている点が、皆さん口をそろえて評価している部分です。さらに、昔からある機械を大切にリペアしながら使い続けているのも特徴的です。例えば、シャトル織機や和歌山の吊り編み機など、旧式の織機があって、今も扱える技術者がいることも評価されています。

もう一つ挙げられるのは、東レ、旭化成、帝人を代表する原糸メーカーです。糸だけの輸出額でも800億円ほどに上ると考えられます。この糸の開発力に織る技術、編む技術、加工技術をあわせて日本ならではの唯一無二のテキスタイルが生まれてきています。

福田:日本の産地として海外でも特に有名なのが、岡山、広島の三備産地です。日本のデニムがなぜ世界から高い評価を受けているのか、また篠原テキスタイルのデニムがどのように評価され、取引されているのかについて、篠原さんにお伺いしたいと思います。

篠原:宮浦さんが言われた通りだと思いますが、デニムの場合、まず重要なのは“ブルーの色目”です。どのような色落ちをするのか、その“色の変化”が非常に大事なポイントになります。この色のバリエーションが豊かであること、色が美しく繊細であることが評価されています。さらに、紡績の技術も重要です。経糸の微妙なむら感によって経年変化が異なるバリエーションを生み出します。これに生地のクオリティや品質の高さといった要素が組み合わさり、デニムが世界から評価されているのだと思います。

また、三備産地のデニム企業は創業100年以上の歴史を持つ企業が多いのも特徴です。当社も創業117年目になります。当社は「備後絣」という絣織物から、井原市では「備中小倉」と呼ばれる藍染綿織物から始まり、それが続いてデニムの産地になったという歴史が評価につながっているのだと感じます。

当社の場合、さまざまな織機を活用してデニムを製作しています。例えばシャトル織機やエアージェット織機を用い、従来のアメカジスタイルの綿100%のデニムだけではなく、それ以外の新しいデニムを次々に開発しています。

具体的には、新たに反毛原料とヴァージン綿のブレンドで糸を紡績さんと開発したり、糸を加えたり、カシミヤを織り込んだ生地を特殊な加工によって独自の表情を生み出したりしています。その結果、“これはデニムなのか、それともデニムではないのか”という新しい概念の製品を生み出せることが私たちの強みだと思っています。

当社は、テンセル素材のデニムも得意としています。経糸に風合いの良いテンセル糸を用い、横糸に違う触感の素材を織り込むことで新たな手触りの生地に仕上げています。また、紡績さんと一緒にリサイクルポリエステルを原料を独自にブレンドし、デニム調のポリエステル100%の生地を作ったり、極細番手のナイロンを打ち込んで紙のような質感のデニムを作ったりもしています。こうした“これまでになかったデニム”を生み出す取り組みが、海外からの高い評価につながっているのだと思います。

福田:それでは「有松鳴海絞り」についてお伺いします。名古屋で伝統的に受け継がれている絞り染めの技法を「スズサン」というブランドに昇華させ、世界で高い評価を受けています。現在、売り上げの8割が海外市場からだと伺っていますが、なぜ「スズサン」がこれほど海外で評価されているのか、その理由についてお伺いします。

井上:「スズサン」はクリエイティブ・ディレクターでCEOの村瀬弘行が2008年に立ち上げたブランドです。村瀬は当時、ドイツのデュッセルドルフに留学しており、その地でブランドを創設しました。スズサンの拠点は現在2カ所あり、デザインはドイツのデュッセルドルフで、生産は名古屋の有松で行っています。この2拠点体制がブランドの大きな特徴です。

いくつかポイントを挙げたいと思います。1つ目は、デザインをドイツで行っているからこそ、伝統工芸としてではなく、別の見せ方で海外の市場にアプローチしている点です。例えばパリの展示会で、お客さまが最初に注目するのは素材の良さやデザイン、色の使い方であることが多いです。「素材がいいね」「デザインが素敵だね」という入り口からまず製品に興味を持っていただくことができれば、その後に、伝統工芸としての技術的な背景や産地のストーリーなどお伝えできることは豊富にあります。「スズサン」のデザインの特徴として、アートのように大胆な色や柄の組み合わせが挙げられますが、このように現地の視点を取り入れたデザインが受け入れられているのかと考えています。

2つ目のポイントは「有松鳴海絞り」の製品が全て手作業で作られていて、この手作業による温かみや独自性を感じていただいていることだと考えています。「有松鳴海絞り」は絞り染めの技法です。さまざまな方法で素材の一部を防染し、染めの工程の後に防染された部分を残すことで、素材にデザインを作り出す技術です。例えば、私が着ているニットはグレーの部分が元々の製品の色です。製品の一部を四角い板で挟んで防染し、黒の染料で染色することで、板で挟まれていた部分の元の色が柄として残ります。挟む以外にも、糸と針を使った縫いの技法など、100種類程度の技法があります。

絞り加工は一つひとつ全て手仕事で行うため、一度に生産できる量は限定的です。現在、シーズンに合わせてコレクションを発表していますが、生産量としては、1シーズンで約2500点、年間ではおよそ5000点を目安に調整を行っています。

また、技法によっては柄の出方に表情が生まれることもありますし、プリントのように全く同じ柄を繰り返し作ることはできません。たとえば、25年春夏コレクションのFaceの柄の場合、口の大きさが一つ一つ微妙に異なったり、目の位置がわずかにずれたりすることがあります。こうした一点一点の違いについて、お客さまとコミュニケーションを取りながらご理解いただき、手仕事から生まれる一点ものの製品に愛着を持ってご使用いただけるよう努めています。

最後に、ドイツにも拠点があることでヨーロッパでのビジネスをスムーズに行える体制が整っており、言語のギャップや時差の影響を受けにくい点が強みです。このような体制が海外市場での展開を後押ししていると感じています。

技術継承の鍵は「時代の流れを読み取りビジネスを柔軟に変化させる」こと

福田:皆さん、これで産地のポテンシャルについてよく理解いただけたかと思います。産地とデザイナーがコラボしたり、伝統技法とコラボしたり、さらにはテキスタイルそのものがブランドとして成立したりと、さまざまな角度で日本の産地が世界中から注目を集めています。そして、それがビジネスに繋がっている点が大きな魅力です。

しかしながら、当然ながら良い話ばかりではありません。産地にはいくつかの課題があります。ここからは、大きく2つの課題についてお話ししたいと思います。1つ目は事業承継について、2つ目は欧州の規制対応についてです。まず、事業承継についてですが、これは日本全体で大きな問題となっています。後継者がなかなか見つからず、そのために廃業を余儀なくされる会社も少なくありません。一方で、篠原テキスタイルさんのように、若い世代が積極的に事業を引き継ぎうまく次世代に繋げていくことで、何代も続いている会社も存在します。

篠原:当社は創業から117年が経過しており、私は5代目になります。元々はさきほどもお話ししたように「備後絣」の手織り物から始まり、アフリカ向けにエンブロイダーマフラーというターバンの生地のようなものを織っていた時代がありました。その後、学生服用の生地を織る時代を経て、現在はデニムの生産を行っています。このように、時代に合わせて織物を変化させながら続けてきた中での事業承継になります。

私たちは3兄弟で会社を運営しており、私が代表を務め次男が営業、三男が現場管理を担当しています。それぞれ役割を決めてこれから30年、50年先に何を織っていくのかを考えながら進めています。「事業承継で何が大変だったか」と聞かれると、特に大きな困難はなかったと言えます。現状を受け入れつつ、徐々に変化させていくことを常に考えながら進めてきました。ただし、これまでの117年も織る物が時代とともに変化しているため、現場の技術は日々進化、改善が必要になってきています。

例えば「今までの機械ではこんな糸織れない」というケースでは機械メーカーと相談して改造をする必要がありますし、シャトル織機も40年前の機械を使っていますが、そのメンテナンス方法など、ベテランの職人から若手へ引き継ぐ時期に差し掛かっています。そのため職人さんが感覚で行っていた作業を動画に記録し、マニュアルを作成することに取り組んでいます。また、メーカーに存在しない部品は地元の鋳造メーカーさんや、金属加工メーカーさんに依頼して作ってもらうなど、周りの企業さんに助けていただきながら体制を整えています。新たな素材開発に向けて、こうした取り組みに最も時間を取られているかもしれませんね。

福田:篠原さんのお話を伺っていると、時代の流れを読み取りニーズに合わせた事業を展開し、ビジネスを柔軟に変化させていくことが非常に重要なポイントだと感じました。一方で、産地を訪れると後継者がいないという問題が多く聞かれます。このような問題に直面する中で、産地にさまざまな人を呼び込むためにどのような具体的な取り組みが行われているのかも気になるところです。産地活性化のためにどのような活動がされているのかについて、宮浦さんの視点から効果的な事例や取り組みをぜひ共有いただければと思います。

宮浦:十数年、教壇に立ちながら教えてきましたが、自分の教え子が産地に入ったり、自分たちで運営しているスクールを通じて多くの若い世代が産地に携わるようになってきました。もちろん、若い人だけではなく年齢を問わず産地に入る方もいらっしゃいます。産地での仕事は良くも悪くもアナログで、手触り感があります。そのリアルさに魅了されて産地に飛び込む人が多いように感じています。都会で仕事をしていたけれど、見学に行った際に産地のポテンシャルを感じて信じ、そこに飛び込む。そしてその魅力に取り込まれ、夢中になっていく。そんな流れが多く見られます。

そして、そんなIターン勢の姿を見た継ぐ気がなかった社長のお子さんたちが自分の会社に未来を感じたり、若い世代が入ってきていることを目の当たりにしたりすると責任を感じて経営者として戻るといった事例も最近増えています。

ただ、産地の魅力は言葉だけでは伝わりにくい部分があるので、いかに現地に足を運んでもらい、体験してもらうかが大切だと感じています。例えば、学生であればどんどん現地に行ってほしいですし、今日この場にいる何百人もの方々の中で産地に興味を持った方がいれば、ぜひ僕と一緒に産地を訪れてほしいなと思っています。

福田:皆さんも最近始まった「オープンファクトリー」という取り組みをぜひ見に行っていただければと思います。産地が開かれた形で見学できる機会が増えていますので、実際に足を運んでその魅力を感じていただければと思います。

そして、同じく産地である有松に関わられている井上さんですが、長い歴史を持つスズサンの家業をご覧になって、事業承継の難しさについてどのように感じられているか、ぜひお話を伺いたいと思います。家業を受け継ぐという点で、具体的な課題やその捉え方について教えていただけるとありがたいです。

井上:宮浦さんのお話されていた、血の通った、リアルな仕事というところに共感します。昔の街並みの残る、東海道沿いの有松では朝や夕方に綺麗に陽が入り、とても美しい景色が広がります。そんな光景を思い浮かべながらお話を伺っていました。

入社してから感じているのは、産地に対してポジティブな影響を与えるということについて、ブランドだからこそ担える役割があるいうことです。2つの側面があります。まず1つ目は「有松鳴海絞り」の分業制についてです。「有松鳴海絞り」はもともと1つの技法を一つの家族が代々受け継ぎ、分業制で生産を続けてきました。分業制は大きな需要を背景に大量生産が求められた時代には効率的だったのですが、手ぬぐいや浴衣の需要が低迷し、職人を辞める家族が出てきました。その結果、失われた技法も多くあると聞きます。技術の喪失によって将来ものを作れないという状況が生じる恐れがありますし、需要をコントロールできないとビジネスも安定しません。この状況に対して、「スズサン」ではブランドであることを生かして、自律的に国内外に市場を作り出せるように努めています。また、技法の喪失によってものづくりができなくなるという状況を防ぐため、自社工房を設け、13人の職人によって「有松鳴海絞り」の工程を一貫して生産できるような体制を構築しました。

2つ目は、BtoCのブランドビジネスには、自分たちのブランドストーリーと組み合わせて、産地のストーリーを直接伝える力がある点です。有松は1608年、東海道が整備された頃にできた村で、農業が適さない土地でした。そこで東海道を行き交う旅人が多いことに目を付け、旅の必需品である手ぬぐいに絞り染めでデザインを施し、ユニークなお土産品として販売したことが「有松鳴海絞り」の始まりだそうです。このような産地のストーリーをブランド独自のストーリーと組み合わせ、再編集してお客さまに伝えていくことができます。

また、留学中にラグジュアリーブランドを考える際には、「比較」ではなく「絶対」の独自性を作り上げることが重要だということを学びました。背景にある地域のストーリーと組み合わされたブランドストーリーは、絶対的な独自性を説明しやすく、相互作用的にブランドの価値を高めることにもつながると思います。

欧州の規制への対応、分業制が課題のひとつ

福田:事業承継における変化や仕組みの必要性について、非常に貴重なお話をありがとうございました。事業承継は産地の課題の1つとして重要なテーマですが、最近ではもう1つ注目されている課題が欧州における規制対応の問題です。たとえば、環境負荷情報の開示が求められることや、欧州で指定の認証を取得しなければならないといった課題が、産地の企業からよく聞かれるようになっています。次に、この規制対応についてお話を伺いたいと思います。まずは舟山さんにお伺いしたいのですが、デザイナーや作り手の目線で、サステナビリティがますます制約条件として浮上している現状について、どのように向き合いどのように感じていらっしゃるか、その現実についてぜひお聞かせいただければと思います。

舟山:この質問を受けたときに率直に思ったのは「デザインの規制」とまではまだ感じていない、ということです。現在の日本のマーケットの状況だと、サステナブルな基準を満たしていなくても良い製品であれば売れてしまうという現状があるように感じています。

私たちのような小さなブランドでは環境に配慮された素材を新しく開発するような規模感はありません。今すぐできることとして、ブランドとしては約8割の素材を少しでも環境に配慮されたものにシフトする取り組みを行っています。たとえば、よく作るチュールの商品ではバージンポリエステルからリサイクルポリエステルに切り替えました。

生地屋さんと商談するときには、「環境に配慮されたこういう素材はありませんか?」と積極的に話をしています。小さなブランドでも需要があることを生地屋さんに伝えていければと思っています。まだ少しずつではありますが、取り組みを進めているところです。

福田:非常に現実的なお話で、状況がよく理解できました。他方で、産地ではさまざまな課題が浮上しているということで、このあたりについて詳しい宮浦さんに規制対応や認証の現状についてお伺いできればと思います。

宮浦:皆さんのお手元に「サステナビリティ用語」を特集した「WWDJAPAN」があると思います。これを開いていただくと、聞き慣れない言葉がたくさん並んでいるのがわかると思います。ここ数年、環境保護の観点などから認証の種類が急速に増えたため、産業全体がその変化についていけていないのが現状です。さらに産地の多くは分業制が基本で、家族単位で運営している小規模な事業者も多いです。そういった事業者がサプライチェーン全体で協力し、全ての情報を開示しなければならないような認証制度に対応するのは非常に難しい状況です。

特に、綿や麻、ウールといった短繊維を扱う産地は原料の種類が多岐にわたるうえ、農場や農業の問題にも関わりサプライチェーンが長く複雑です。このためどの認証を取得すべきか判断するだけでも産地全体が対応しきれていないのが現状です。

当社でもヨーロッパ、アメリカ、アジアなどに製品を輸出していますが、最近では輸出が厳しくなっていると感じています。

福田:ありがとうございます。輸出が厳しくなっているというお話がありましたが、デニムはご存じのとおり、多くが輸出されている産品です。そんなデニムの生産地として有名な岡山や広島を中心とした三備産地では、どのように認証対応を進めようとしているのか、ぜひ篠原さんに伺いたいと思います。

篠原:三備産地では一貫生産を行っているような大規模な工場ではすでに複数の認証、例えばGOTS認証や、OCSを取得している会社もあります。ただ、当社のようにリーダー系中小規模の工場の場合、認証を取ろうとするとサプライチェーン全体の協力が必要になりますし、それに伴う費用も大きな負担となります。この課題をどうにか解決しなければならないと産地内で勉強会を開催し、「GOTS認証を取るにはどうすればいいのか」「OCSを取得するための具体的な取り組みは何か」などを共有し協力を求めています。

先日も、ブルーサインのお話を伺う機会がありました。認証取得に向けて前向きに動いているものの、まだ取得に至っている企業は限られています。また、認証とは別にサプライチェーン全体をまとめるような生産管理システムを構築し、トレーサビリティを確立しようという動きも進めています。このシステムにより、製品のトレーサビリティを開示できる体制を整えようとしています。

さらに、認証の中で特に重要とされる「働く方の労働環境」の改善にも注力しています。職場環境の改善を目指す動きが三備産地でも大きく広がりつつあります。

「循環型・再生型」を目指す動きも 「デニムの循環」と「クラフトツーリズム」

福田:このように産地としてさまざまな課題を抱えていますが、前半でお話ししたとおり、大きなポテンシャルを秘めており、海外からも非常に注目されています。そして今後という観点では、繊維産業だけでなく地域全体の魅力を活かし、観光やインバウンド需要とも連携しながら、産地を成長産業へと押し上げていくことが重要ではないかと考えています。

もう1つお話ししたいトピックがあります。それは、このセッションのテーマでもある「循環型・再生型」についてです。グローバルでは、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の文脈の中で、いかに循環型の社会を実現していくか、そしてその先に地球を再生させる「リジェネレーション」(再生型)の仕組みへ移行していくか、といったテーマが非常に重要視されています。

今後、先ほど申し上げた「産地を盛り上げる」という観点から考えますと、この循環型や再生型といったコンセプトをどのように産地の取り組みに取り入れていくかが非常に重要なポイントになるのではないかと思います。このような新たな視点が産地の発展において鍵を握ると感じています。そこで、少しこの分野の取り組みについてお話を伺いたいと思います。井上さん、スズサンで行われている循環型の取り組みについてお伺いできればと思います。

井上:私たちスズサンは、ものづくりにおける透明性を高めることはもちろんですが、特に「技術を次世代に繋げていく」という視点を強く意識し、そこにフォーカスを置いています。その観点から私たちが考える「循環」についてご紹介させていただきます。

現在、私たちが力を入れている取り組みに「ツーリズム」と「まちづくり」があります。先ほども少し触れましたが、「有松鳴海絞り」は全て手作業で行われており、生産量には制限があります。年間で約5000点を生産しているため、ブランド設立直後の数年を除いたとしても、10年間で約5万人のお客さまに、有松から製品を届けてきたことになります。また、その約8割は海外のお客さまです。

このように、製品を媒介にして世界中のお客さまとコミュニケーションを行ってきたということを私たちはとてもポジティブに捉えています。そこで、これまで有松から世界に向けて製品を届けてきたことの反対に、次のステップとして有松の地にお客さまを招き入れる取り組みを進めています。有松で「有松鳴海絞り」の技術や歴史、その背景にあるストーリーを直接知っていただき、文化的な違いや言語の壁を越えた新たな「共感」を生み出していきたいと考えています。

このように、製品を媒介として地域の文化や伝統技術を伝えていくことは、有松に限らず、他の産地にも転用可能なアプローチであり、それぞれの地域の独自性を発揮しやすいフィールドだと考えています。

福田:すでにさまざまな取り組みをされているとのことで、素晴らしいと思います。この「循環型」「再生型」というコンセプトについて、ぜひ作り手のご意見も伺いたいと思っています。最近では、ステラ・マッカートニーのように再生型の視点まで踏み込んでものづくりを行っているブランドも登場しています。このような動きについて、舟山さんはどのようにお考えでしょうか。ぜひご意見をお聞かせいただければと思います。

舟山:少し話が逸れるかもしれませんが、ものづくりを始める際に「ゴミを作りたくない」という思いがありました。この世の中にはすでに多くのブランドや物が溢れている中で、自分が新たに何かを作るのであれば、価値のあるものを作らなければならないと感じたんです。価値のあるものであれば、お客さまに長く愛用していただけますし、その後ヴィンテージとして新たな価値を持つ可能性もあります。

ブランドとしては、個別でお客さまのお直しのご相談に出来る限り対応するようにもしています。新しいものを作り続けるだけでなく、既存の製品を長く愛用していただけるようにすることにもフォーカスしたいと考えています。

今後取り組みたいことは、古着のアップサイクルやデッドストック素材の活用があります。日本らしくて素敵な素材がたくさん眠っていると思います。それらは簡単に作られたものではなく、非常に多くの時間やコストがかけられて作られたものです。これらを無駄にせず、新たな形で活かしていきたいと考えています。ただ、現段階ではまだ手探りの状態ですので、ぜひ繋いでいただきたいです。

福田:おっしゃる通り、日本の産地を訪れるとデッドストックの素材が本当にたくさんあることに気づきますよね。こういった素材がより循環する仕組みができれば、循環型のモデルというものもさらに大きな広がりを持つ可能性があるのではないかと感じます。そこで、このテーマに関して産地のリアルな意見もぜひ伺いたいです。篠原さん、例えば端材の活用などについて、三備産地ではどのような循環型や再生型のモデルが試されているのかを教えていただけますでしょうか?

篠原:循環型や再生型という観点では、まず使用する素材をオーガニックやリジェネラティブコットンのような環境負荷の少ないものに切り替えた商品開発を進めています。しかしこういった素材を使用しても、生産過程でどうしても端材が出てしまいます。そこで、余った糸を活用して靴下に編立ててアップサイクル製品として販売したり、通常の流通ラインを活用した製品を地元の販売店さんで売ってもらうといった取り組みを行っています。

地域全体での取り組みとしては福山市と同業他社が協力し、福山市内の家庭から不要になったデニム製品を回収し、それを反毛(はんもう)して糸を作り新しい生地に生まれ変わらせ、地元企業の制服として活用いただくプロジェクトを行っています。こうした活動への参加企業も増えてきており、来年には回収拠点がさらに増えて福山市内での循環の輪が広がることを期待しています。

地域でものづくりを続けていくために、「これから何をすべきか」を常に考えながら活動しています。ただし、繊維産業やデニム産業だけに限定して考えるのではなく、家具や食品など他の製造業とも協力しながら、地域全体の在り方を再考して新しい形に編集し直して発信していくことが重要だと考えています。

そのために、私たちは「デニムのイトグチ」というデニム産業に携わる若手メンバーで構成された新しいグループを立ち上げ、情報発信や勉強会を開催しています。また、隣の府中市でHOTEL SMOKEという地域商社が新しく立ち上がりました。これは、2019年に始まったオープンファクトリー「瀬戸内ファクトリービュー」のメンバーが、地域文化の魅力を深堀し世界へ発信するという目的で設立したものです。こういった方々と連携し、この地域を再び編集し直して発信していく活動を今後も続けていきたいと思っています。

福田:循環型や再生型といったコンセプトは現在、世界中から求められており今後日本でもさらに広がっていくべき重要なテーマだと考えています。というのも、江戸時代の江戸は実は循環型社会の見本だったと言われています。

当時はさまざまなものが循環しており、繊維だけでなく食や農業など幅広い分野で資源を無駄なく活用し、環境負荷を抑えた社会が築かれていました。このように日本人は元来、循環型社会の概念に親和性が高く、この分野で世界をリードする素養を十分に持っているのではないかと個人的には感じています。

繊維産地を一つの起点として、日本が循環型社会の構築において国際的にリードを取る存在となることを夢見ています。そのような未来を思い描きながら、今回のセッションを締めくくらせていただきたいと思います。

来場者とのQ&Aセッション

質問者1:気づきが多く参考になることが多く、素晴らしい企画だと思いました。私の生まれは有松のすぐ近くの鳴海という町です。「有松鳴海絞り」の産地として有名な場所で、私も小さい頃からその文化に触れながら育ちました。お隣のおばちゃんや親戚のおばあちゃんが、一生懸命に手で絞っている姿を目の前で見ていたことが思い出され、とても懐かしい気持ちになりました。お話を伺って驚いたのは、ドイツ・デュッセルドルフを拠点にクリエイティブ活動をされ、海外の売上が8割にも及ぶということです。私が幼少期に見ていた風景と重ね合わせると、産地やものづくりがここまで変化し、発展していくことに感嘆しました。本当に素晴らしいことだと思います。

私が住んでいた鳴海の町も、江戸時代の東海道の名残が今でも所々に残っています。そうした風景を思い浮かべながら、伝統の大切さを改めて感じました。自分たちの持つ伝統や技術を大切にし、上手に活かしていくことで、それが世界と繋がりさらに広がっていく。お話を伺いながら、私自身そのように強く感じました。どうぞ、これからも素晴らしいお仕事を続けていただき、日本の産地の発展のためにますますご活躍されることを心より期待しております。ありがとうございます。

実は昨日、伊勢丹新宿店に伺った際に「フェティコ」のポップアップを拝見しました。一つひとつの製品をじっくりと見させていただきましたが、本当に素晴らしいセンスですね。私が言うのも何ですが、お店の担当者の方とお話した際にも「このデザイナーさんは本当に素晴らしい才能をお持ちです」と強調されていました。その担当者の方も深くうなずいておられ、本当にその通りだと思いました。

昨日の今日ですから、なおさら印象が強く心に残っています。舟山さん、ぜひこれからも素晴らしいデザイン活動を続けていただき、日本の産地の方々と力を合わせて、この素晴らしい文化をさらに盛り上げていってほしいと心から願っています。ありがとうございました。

質問者2:承継について。イタリアやドイツ、フランスの学生が日本で学んでいるという話でしたが、外国の方は日本の伝統を承継したいと技術を持ち帰りたいとやってくるのでしょうか。日本の伝統を続けていきたいという話は出ていますか?のれん分け的なことは可能なのでしょうか。

宮浦:承継しよう、技術を残したいという感覚よりもリスペクトして学びに来ている方が多い印象です。

篠原:当社は日本人だけですが、産地の中ではデニム好きでフランスから来て働いている方がいます。織物屋で「のれん分け」は今のところ見当たらないですが、縫製工場では独立して立ち上げる動きはあります。学生が興味を持ち工場見学や産地で働いてみたいという話もあります。「のれん分け」は可能性としてはなくはないと思います。

YouTube視聴はこちら


冒頭の篠原テキスタイルの映像はZOZONEXTから提供

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ゴールドウイン渡辺社長へ19歳の活動家から質問 「環境問題にどれくらい本気ですか?」

PROFILE:左:福代 美乃里(ふくしろ・みのり)/学生団体「やさしいせいふく」代表

都立高校に通う高校3年生。中学校の先生の影響で環境問題に関心を持つようになる。2021年11月に行われた第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)に、若者による気候変動の活動団体Fridays For Future Japanのメンバーとして参加する。学生団体「やさしいせいふく」は、人にも環境にもやさしい服づくりを目指して講演会の実施やGOTS認証のオーガニックコットンTシャツの販売などを行っている。24年夏には資金を集めて同シャツのコットンを生産するインドの農家や縫製工場を訪ねて、取材を行った。高校では陸上部に所属。

PROFILE:右:渡辺 貴生(わたなべ・たかお)/ゴールドウイン代表取締役社長

1960年生まれ。76年にザ・ノース・フェイスと出会い、「わたしたちはあらゆる機会を通じて地球環境保護の大切さを伝えていかなければならない」というブランドの思想に感銘し、82年、同ブランドを日本国内で展開するゴールドウインに入社。同ブランドの成長とともに国内のアウトドアファッションの定着にも貢献。05年より取締役執行役員ノースフェイス事業部長、17年より取締役副社長執行役員。20年4月1日より代表取締役社長に就任。27年には富山県内に体験型アウトドアフィールドを開設するプロジェクトを推進し、人と自然が共生する社会の実現と、地球環境再生を経営の最重要項目のひとつとして掲げるなど、サステナブルな経営を実践している。

ゴールドウインが支持集めている理由のひとつが人の心を捉える「デザイン」の力だ。その対象は、製品だけではなく地域創生など「社会」へと広がっている。イノベーションの力を借りてデザインの領域を広げているゴールドウインのデザインに対する考え方、その背景にあるサステナビリティの方針について、渡辺貴生ゴールドウイン代表取締役社長を招いて紐解く。聞き手は高校3年生の活動家、福代美乃里。「ファッションが好きだから、真実を知りたい」と言う彼女から飛び出す質問とは?

(この対談は2024年12月13日に開催した「WWDJAPANサステナビリティ・サミット2024」から抜粋したものです)

WWD :最初の質問は、私から渡辺さんにお伺いします。学校を卒業して最初に就職したのがゴールドウインだったと伺っています。なぜ、ゴールドウインを選んだのですか?

渡辺貴生ゴールドウイン代表取締役社長(以下、渡辺) :私は「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」というブランドが大好きで、その存在を初めて知ったのが1976年、高校2年生のときでした。当時、雑誌「メンズクラブ」で「ザ・ノース・フェイス」が紹介されていたんです。それまではアイビーファッションに憧れていましたが、その記事を読んで初めて「ヘビーデューティー」というスタイルに触れました。そして、「ザ・ノース・フェイス」がアメリカ・バークレーで行っているものづくりを知り、「自分のやりたいことに近い」と強く感じました。他の道も考えましたが、どうしても「ザ・ノース・フェイス」のような仕事に携わりたいと思い、最終的にゴールドウインへの入社を決めました。

WWD:写真はどこで撮ったものですか?

渡辺:これは、ゴールドウインに入社してしばらく経ち、「ザ・ノース・フェイス」のMD(マーチャンダイザー)になった頃の写真だと思います。おそらく1990年頃、ヨーロッパでの一枚ですね。2枚目はさらに前、1986年頃の写真です。私は現在、フライフィッシングが大好きですが、当時はまだ始めておらず、ルアーを使って芦ノ湖でブラックバスを釣っていました。これは、その頃、まだ釣りを始めたばかりのときの写真です。

このとき着ているのは、「ザ・ノース・フェイス」のアウトレットで購入したもので、軍の端材を利用して作られた服です。つまり、余った生地を使って生産され、バークレーのアウトレットで販売されていた商品ですね。今でも大切に使っています。「ザ・ノース・フェイス」のロゴが入っていません。代わりに「Windy Pass by The North Face」というブランド名がついており、これはアウトレット専用ブランドでした。

WWD:昔からあまり変わらないスタイルが、現在の成功の理由の一つかもしれませんね。2005年から取締役執行役員として「ザ・ノース・フェイス」の事業部長を務められました。まさに現在に繋がる「ザ・ノース・フェイス」の時代を築かれた期間だったと思います。自己分析すると、なぜ「ザ・ノース・フェイス」はここまで認知され、人気を得ることができたのでしょうか?

渡辺:これは、私が創業者から学んだことが大きいですね。「ザ・ノース・フェイス」は、2人の創業者によって成り立っています。1人は、「ザ・ノース・フェイス」という名前を作ったダグラス・トンプキンスです。彼は、世界的な自然保護活動家としても有名でした。もう1人は、ブランドを製造メーカーとして発展させたケネス・ハップ・クロップです。彼は、社会の仕組みを変えるために新しい事業を始めたいと考え、「ザ・ノース・フェイス」のブランドを買い取り、ものづくりの会社へと発展させました。

当時、アメリカはベトナム戦争の真っ只中でした。その時代、若者たちは従来の社会システムに疑問を抱き、「コーポレート・アメリカ」と呼ばれる大企業中心の社会に対し、異なる選択肢を求める動きが広がっていました。そうした若者たちを応援するために、クロップはものづくりを始めたのです。写真に写っているのはバックパックですが、これは当時「アウトバックスタイル」と呼ばれていました。当時、まだ「バックパッキング」という言葉すら存在していませんでしたが、若者たちは「本当の生き方とは何か」「社会とどう向き合うべきか」「自分たちはどんな社会を作るべきか」と、自然の中で深く考えるようになっていました。そのムーブメントを支えるために生まれたのが、このバックパックです。

もともと「ザ・ノース・フェイス」は、クライミングギアのメーカーではなく、ライフスタイルをサポートするブランドとしてスタートしました。私自身も、その理念に非常に共感しました。地球や自然環境と密接に関わりながら生きることが、人間らしさを見直す大きなチャンスになると考えたからです。「ザ・ノース・フェイス」を単なるアウトドアブランドではなく、ライフスタイルブランドとして確立することを目標に掲げて取り組んできた点が、他のブランドとは大きく異なる特徴だと考えています。

WWD:上の2枚目の写真はそれを象徴していますね。

渡辺:これは1970年代初期の写真だと思います。当時のアメリカには、先進的な考えを持つ人々もいましたが、同時にヒッピーカルチャーが広がっていました。その中でも、新しい価値観を築こうとする真剣な人々が多く、さまざまな経験を積み重ねながら新たな思想を生み出していました。Appleの共同創業者であるスティーブ・ジョブズも、おそらく同じような考え方を持っていた一人だったのではないかと思います。

WWD:なるほど、よく分かりました。そして、20年4月に代表取締役社長に就任されましたが、西田会長からは当時、どのような思いを託され、何を成し遂げようと考えて就任を決断されたのでしょうか?

渡辺 :そうですね。私の会社は、西田明男会長の前の社長、つまり西田会長のお父様が創業しました。私もその創業者から直接、多くのことを教えていただきました。お二人から常に言われていたのは「ものづくりの大切さを徹底的に貫いてほしい」ということでした。私たちの会社には「見えないものにこそ、『真実』の価値がある」という言葉があります。つまり、表面的なデザインにこだわるのではなく、本当に重要なのは、目には見えない緻密な作業であり、それを追求することで本当に価値のあるものが生まれる、という考え方です。

また「人生は100年ほどしかないのだから、自分の人生を燃えるように生きなさい」とも教えられました。その考え方を会社全体で共有し、社会に対して何か貢献できる企業でありたいと思っています。

WWD :「燃えるように生きる」と聞いた福代さんが良い笑顔を見せました。

福代 美乃里学生団体「やさしいせいふく」代表(以下、福代) :燃えるように生きたいと思っていますし、私も高校3年生で将来のこと、自分に与えられた人生をこれからどう使っていこうかとか、自分には何ができるんだろうかとこの一年考えてきていたので言葉が刺さりました。

WWD:ゴールドウインにとってサステナビリティは何どういう位置付けにありますか?

渡辺 :あらゆる人々に対して公正な未来を提供することこれが私が考えるサステナビリティですね。

高校3年生がサステナビリティに関心をもったきっかけ

WWD:ここから福代さんからの質問でその「サステナビリティ」について深めていきます。福代さん自己紹介をお願いします。

福代 :はじめまして、福代美乃里です。都立高校に通う高校3年生で現在、学生団体「やさしいせいふく」の代表を務めています。

WWD :そもそも、サステナビリティに関心を持ったきっかけは?

福代:もともと服が大好きで、買うのはもちろん、生地を購入して自分で服を作ることもありました。そんな中、中学3年生のときに、ちょうどコロナ禍で自宅にいる時間が増え、「ザ・トゥルー・コスト」というドキュメンタリー映画を観たんです。その映画を通して、それまで知らなかった ファッション業界の不都合な真実を知りました。

例えば、自分と同じくらいの年の子どもたちが、低賃金で長時間労働を強いられている こと。そして、私は自然が好きなのですが、服の生産が環境破壊につながっている という事実を知り、大きな衝撃を受けました。「おしゃれを楽しむことが、誰かを傷つけているかもしれない」。そのことがショックで、サステナビリティに強く関心を持つようになりました。

WWD :その映画を観てから服を買わなくなったのですか?

福代 :観た直後はまったく買えなくなりました。どの服を見ても、購入をためらってしまって。でも今は、サステナビリティに取り組んでいる企業を調べたり、古着を購入したりしながら、少しずつファッションを楽しめるようになっています。

WWD :福代さんの話を聞きながら、「そんな気持ちにさせてごめん…」という気持ちになりました。そんな福代さんですが、今年の夏、なんとインドのオーガニックコットン畑や縫製工場を訪ねました。

福代 :インドのコインバトールという地域にある工場やオーガニックコットンの畑や倉庫を現地の方に案内していただきながら、綿がどのように栽培・保管・管理されているのかを見学しました。一つひとつの工程を実際に見せてもらいながら学ぶことができました。

WWD :なぜインドへ行こうと思ったのですか?

福代 :今私が着ているTシャツは、私たちが企画した「やさしいTシャツ」というオーガニックコットンのTシャツです。この企画は、私と同じようにサステナビリティに関心を持つ学生たちが集まり、「普段売られている服がどのように作られているのか分からない。だったら、自分たちで作ってみよう!」という思いから始めました。けれど、ちょうどコロナ禍だったため、Tシャツの生産地であるインドに行くことができませんでした。オンラインでは工場と繋がっていたものの、やはり 現場を直接見てみたい、作ってくれた人たちに会いたい という気持ちが強くなり、今回の渡航を決意しました。

WWD :実際に現地を訪れて、どのようなことが見えましたか?

福代 :一つは「オーガニックコットンを選んで本当に良かった」という実感です。

現地の農家の方々に話を伺うと、以前は 農薬を使用した栽培を行っており、それによって健康被害が多発していたそうです。例えば、子どもたちががんを発症したり、亡くなったりするケースがあり、また農家の方々自身も視力障害や手足の痙攣などの深刻な影響を受けていたそうです。

しかし、化学農薬を使わないオーガニック栽培に切り替えたことで、こうした健康被害がなくなったと聞きました。実際にその話をしてくれた方々と直接対話したことで、自分の選択が遠い国の誰かの暮らしを少しでも良くしているかもしれない、と感動しましたね。

WWD :まさにサステナブルな選択の重要性を実感されたのではないでしょうか。

福代 :はい、オーガニックコットンの良さを実感すると同時に、普段私たちが購入する服がどこで、どのように作られているのかについて、消費者にはまだ見えにくい部分が多いとも感じました。

今回、最先端のサステナブルな取り組みを行っている工場も訪れましたが、こうした取り組みを行う工場で作られた服がもっと増えて、消費者が簡単にその背景を知ることができるようになればいいなと思いました。企業が積極的に情報を開示し、消費者も知ろうとする姿勢が大切だと改めて感じました。

WWD:貴重な経験ですね。実際に 現場を自分の目で見るということは非常に大切です。では、ここから本日のメインパートに移り福代さんから渡辺さんへ質問をしてもらいます。

「環境や人権への取り組みはどれくらい本気ですか?」

福代 :最初の質問ですが、御社のホームページを拝見した際、最初に目に入ったのが「人と自然の可能性を広げる」というメッセージでした。環境や人権を大切にされていることが強く伝わってきましたが、実際のところ渡辺さんご自身は、どのくらい本気で取り組まれているのかをお聞きしたいです。また、企業のビジョンとしてこの考えを中心に据えようと思った具体的なきっかけや思いがあれば、教えてください。

渡辺 :本気度については「かなり本気」です。社内では「パタゴニアくらいはやろう」と言っています。それくらいの覚悟でゴールドウインを日本におけるサステナブルな企業のリーダーとして確立したいと考えています。

実際に、私自身は1990年代から少しずつサステナブルな取り組みを始めてきました。ただ、会社として本格的に動き出したのは比較的最近です。それでも、この思いをしっかりと持ち続け、企業のビジョンの中心に据えるべきだと考えています。

その理由として、私たちの事業は スポーツやアウトドアに深く関わっています。私は米国のヨセミテ国立公園が大好きで、これまで何十回も訪れています。今年も6月に、役員の何人かを連れて一緒に訪問しました。

こうした かけがえのない自然を守ることは、人間の使命だと強く感じています。そもそも地球がなければビジネスは成り立たないわけです。アウトドアスポーツにせよ、その他のスポーツにせよ、環境が整っていなければ成り立たない。

私たちの仕事はある意味「遊びの延長」です。しかし「遊びこそが人間らしさを育み、多くの人とのつながりを生むもの」だと考えています。だからこそ、単に「地球環境を守る」だけではなく、再生(リジェネラティブ) していくことこそが、私たちの存在意義であり企業のビジョンとして掲げるべきものだと考えています。

WWD :「守る」から「再生する」へ。これは本気も本気 という答えですね。

そもそも、なぜ企業にとって事業成長が必要なのか?

福代 :2つ目の質問です。そもそも、なぜ企業にとって事業成長が必要なのでしょうか?環境保全と事業成長を両立させるには、どのような方法があると思いますか?

渡辺:よく聞かれる質問です。私が事業成長が必要だと考える理由は、「地球を再生していくため」です。私たちが本質的に必要とする環境を、自分たちの手で作り上げていくことができれば、もっと人間は地球に貢献できるはずです。つまり、私たちの産業や事業を通じて、環境問題を解決することが、事業成長の目的であるべきだと考えています。そのため単なる「経済的な成長」ではなく、「人間としての成長」とは何かを考えながら事業を発展させることが、本当の意味で持続可能な成長を生み出すのではないかと思います。私自身も、そのような考えのもとで仕事に取り組んでいきたいと考えています。

福代 :ゴールドウインさんは 2050年までに、サプライチェーン全体でのカーボンニュートラル達成と廃棄ゼロを掲げていますよね。これは非常に難しい挑戦だと思いますが、それを達成するために最も必要な変化は何だと考えますか? 最大の課題について教えてください。

渡辺 :カーボンニュートラルを実現するためには、スコープ3の削減を徹底することが重要だと考えています。現在、私たちのCO2排出量は、スコープ1から3を合わせて約26万トンありますが、その99%がスコープ3によるものです。つまり、直接の排出ではなく サプライチェーン全体での排出が圧倒的に多いのです。そのため最も重要なのは、サプライチェーン全体で環境への配慮を共有し、協力し合う仕組みを作ることだと考えています。

まずは「自分たちは何のために事業をしているのか?」を明確にし、「どのような変化がプラスになるのか?」をしっかり示すことが必要です。さらに、具体的なアクションとプロセスをどのように変えていくのかを明確にし、発信していくことも大切だと思います。確かに大きな課題ではありますが、誰かが始めなければ変革の第一歩は生まれません。私たちは、そうした一つひとつの取り組みを、責任を持って進めていきたいと考えています。

WWD :今のお話の内容は、ゴールドウインの統合報告書にも具体的な数値として記載されています。後ほど、裏付けとなるデータもご覧いただければと思います。そしてこの質問は、ここにいる全員が 「19歳から投げかけられている問い」だと受け止めるべきものですね。

福代 :服は、大量生産・大量消費の象徴的な存在だと思います。現在もその考え方は根強く残っており、先ほど話に出た環境と事業成長の両立についても、大量生産・大量消費のままでは難しいのではないかと感じています。そこで、ゴールドウインとしてどのようにこの考え方を変えていこうとしているのかをお聞きしたいです。

渡辺 :そうですね。実は、ゴールドウインには以前から 大量生産・大量消費という考え方はあまりありません。もちろん、ブランドの人気が高まると売り上げが伸び、それに伴い生産量も増えるという側面はあります。しかし、私たちはそうした背景の中でも製品を長く使い続けてもらう仕組みを重視してきました。

例えば、1992年頃から リペアサービスを本格的に導入しています。GORE-TEX製品のような高額なウェアは、アウトドア環境で使用すると傷んだり破れたりすることがあります。しかし、それを修理できなければ、すぐに廃棄されてしまう可能性がありますよね。そこで、工場内に専用のリペアチームを設け、現在では年間約2万4000点の製品を修理し、お客様にお返ししています。

また、最近では子ども服のリサイクルにも取り組んでいます。子ども服は成長とともにすぐにサイズアウトしてしまいます。そこで、不要になった服を店舗で回収し、新しいデザインにアップサイクルして再び販売する取り組みを行っています。単に洗浄して再販するのではなく、新たなデザインを加えることでより魅力的なアイテムとして生まれ変わらせることを大切にしています。

さらに、私たちは「ワンフォーワンシステム」 という特別なものづくりの仕組みも導入しています。これは、人気のある商品についてお客様自身がオリジナルのデザインを作れるサービスです。特定の店舗では、お客様の体のサイズを測定し、カラーやファスナーの種類、その他の細かいパーツまで自由にカスタマイズできるようになっています。このサービスを利用することで、既製品ではなく自分のライフスタイルに合った一着を作ることができ、長く愛用してもらえるのです。この仕組みは、大量生産とは異なるアプローチです。

「自分の人生の中で、どんな服をどのように使いたいのか?」そんなことを考えながら、お客様とともにゴールドウインや「ザ・ノース・フェイス」の製品を作り上げていくサービスとして展開しています。こうした取り組みを通じて、単に新しい服を作って売るだけがビジネスではない という考え方を広めていきたいと考えています。

WWD :「新しい服を作って売るだけのビジネス」からの脱却ですね。

渡辺 :そうですね。服というものは 単なる衣類ではなく、そこに込められた想いや、人と人とのつながり、愛を大切にするものだと考えています。それが循環し、次の誰かへと受け継がれていくこと。それこそが、本当に重要なのではないでしょうか。

1枚の服を見たときに、何を想像する?

福代 :抽象的な質問かもしれませんが、1枚の服を見たときに渡辺さんは何を想像しますか?

WWD :質問の背景とは?福代さんご自身は、1枚の服を見たときに何を想像しますか?

福代 :私は服の生産背景に強い関心を持っています。自分が着る服が児童労働や環境破壊の上に成り立っているのは、とても嫌です。そのため、1枚の服を見たときに「この服はどこで作られたのか?」「作った人は幸せだろうか?」「生産された土地の環境は守られているのか?」といったことを想像しながら、慎重に選ぶようにしています。

渡辺 :この写真は、1989年から1990年にかけて、220日間で6,040kmを犬ぞりで南極大陸を横断し探検隊のユニフォームです。デザインを手がけたのは、当時 「ザ・ノース・フェイス」に在籍していた マーク・エリクソンというデザイナーでした。この南極大陸横断隊には、アメリカ・ロシア・中国・フランス・イギリス・日本の6カ国が参加していました。つまり、資本主義の国も共産主義の国も関係なく、世界の枠を超えて協力し合ったプロジェクトだったんです。

では、なぜこの6カ国が南極大陸を横断したのか?その目的は、南極条約を改めて批准してもらうためのアクションでした。南極条約では「南極はどの国の領土でもない」「科学技術や教育の分野で国際協力を進める」といった原則が定められています。現在、この条約には50カ国以上が批准しており、世界平和のための重要な合意のひとつとなっています。当時、資本主義・共産主義の国々が対立する中で、この遠征は「世界平和のために協力する」という強いメッセージを発信するものでした。

この服は、単なる防寒着ではなく、世界平和を象徴するユニフォームなのです。私は、ものづくりにおいて「目的」や「価値」を持たせることが重要だと考えています。最新のテクノロジーと優れたデザインからこのユニフォームに支えられたこの挑戦は、結果として 今も南極条約が守られ続けていることに繋がっています。1枚の服が与えるインパクトは計り知れません。そして、この服を見るたびに、私は「未来のために、平和利用のために服があるのだ」ということ思いますね。

福代 :たくさんの服を開発されている中でも、1枚の服に込められたストーリーや熱量が伝わってきました。ものづくりに対する 「大切にしたい」という強い思いを感じます

考えを大きく変えたアウトドアアクティビティとは?

福代:私もスポーツやアウトドアアクティビティが好きなのですが、渡辺さんもアウトドアが好きですよね。これまでの経験の中で、アウトドアアクティビティが ご自身の考えを大きく変えた出来事 があれば、教えてください。

渡辺 :私はアウトドアスポーツが好きで、この会社に入ってからも続けています。今は毎年北海道でフライフィッシングを楽しんでいます。もう30年以上通い続けている場所ですね。30年前は、あるシーズンに行くと1投すれば必ず1匹釣れるほど魚が豊富でした。ところがここ2〜3年は、まったく釣れなくなっているんです。これは、水温や気温の変化による影響が大きいのではないかと感じています。実際、魚の数が減っているように思います。

釣りを通じて、川や海など自然環境の変化を肌で感じるようになりました。最近は、南の島のサンゴ礁エリアでもフライフィッシングをしていますが、白化したサンゴ礁では魚が少なくなり、釣るのが難しくなっていることも実感しています。こうした変化は、実際に現地に行き、アクティビティを通じて体験しなければ気づけないことです。私にとってアウトドアアクティビティは「今の環境をどうすれば改善できるのか?」を考えるきっかけになっています。

「世界を平和にしたい」。その言葉に打たれた

福代 :最新技術は、まだコストが高いことや、実用化できるか不確実性が高いため、普及には時間がかかると思います。ゴールドウインがスパイバーと服を作ろうと決断した理由は何だったのでしょうか?

渡辺:私は アウトドアスポーツが好きだったこともあり、これまで高機能な製品の開発に携わってきました。しかし、それらの製品はほとんどが化学繊維であり、化石燃料をベースとした素材を使っていたことは否めません。このような素材は、環境に大きな負荷を与えます。簡単に言えば、プラスチックは生分解しないため、長期的に環境に残り続けるという問題があります。そんなとき、私の知人である発酵技術の専門家から「発酵を利用して植物由来の新しい素材を開発している人がいる」と紹介を受けました。そこで実際に会いに行ったのが、スパイバーの代表である関山さんでした。関山さんに初めて会ったとき、彼が最初に言った言葉が「世界を平和にしたい」だったんです。その言葉に私は強く心を打たれました。

彼の話を聞く中で、スパイバーの技術は環境問題の解決だけでなく、貧困問題にもアプローチできる可能性があることを知りました。そのとき「自分がやるべき仕事はこれなんだ」と感じたんです。もちろん、ゴールドウインとしても環境負荷の低い素材を採用する取り組みは以前から進めていました。しかし、それは既存の素材の中で環境に配慮したものを選ぶという方法でした。スパイバーの技術は、それとはまったく異なるアプローチでした。つまり、従来の石油由来素材を完全に置き換える新たな選択肢だったんです。

この新たな選択肢があるのなら、誰かが最初に動かなければならない。正直、決断にはかなりの逡巡がありました。しかし最終的にゴールドウインとして創業以来最大規模の投資を行い、スパイバーとともに取り組むことを決断しました。このプロジェクトを進めることで、石油依存による環境問題を解決する一歩を踏み出せると確信したからです。

WWD :アウトドアの役割の一つは「命を守ること」です。そのために、機能が進化し、技術が発展し、そこに最適なデザインが追求されてきました。しかし、これまでの常識を覆しその根幹をまったく新しい選択肢に置き換えるという発想は、極めて画期的な取り組みだと思います。

「言葉のいらない遊び場。 未来に向けたデザイン

福代 :ゴールドウインさんは服の開発だけでなく、子どもたちの遊び場の創出やキャンプ事業など、さまざまなプロジェクトに取り組まれていますよね。その中で、渡辺さんご自身が特に印象に残っている取り組みは何でしょうか?

渡辺 :そうですね。一番印象に残っているのは、2022年に開催したイベントです。本来であれば、2020年の東京オリンピックに合わせて実施する予定でした。しかし、新型コロナウイルスの影響で無観客開催となり、私たちの計画も延期せざるを得ませんでした。

実はその年、ゴールドウインは創業70周年を迎えていました。そこで、世界中からオリンピックに来る人々に、ゴールドウインという会社を知ってもらうための記念事業を企画しました。当時、若いメンバーたちと話し合う中で「国や言語を超えて、みんなの気持ちが一つになるイベントは何か?」というテーマを考えました。

そこで私が提案したのが、「遊び」をテーマにしたデザインでした。私たちは、地球の五大要素である 水・火・土・空気をモチーフにした遊具を設計し、「地球を遊ぶ」体験を提供する空間を作ろうと考えたのです。言葉が通じなくても、そこに集まった人たちが 助け合いながら楽しめる場所を作ることが目的でした。

残念ながら、このイベントはオリンピック期間中には実施できませんでしたが、2年後の2022年に、六本木と富山で開催することができました。結果として、5万人以上の人々が遊びに訪れてくれました。このプロジェクトの背景には、ゴールドウインが掲げる「2050年にどんな会社でありたいか?」というビジョンがありました。その答えのひとつが「遊び」でした。スポーツの起源は「遊び」です。世界中の人々が「遊び」を通じてつながることができるのではないかという思いを込めて、このイベントを企画しました。

デザインは「社会の仕組み」を変える力を持つ

WWD:スポーツの起源は 遊びなんですね。今回のイベントのテーマのひとつに「デザインの力」があります。ゴールドウインは、単なる製品デザインだけでなく、地域創生や社会とのつながりをデザインするという視点も持っています。つまり、社会そのものをデザインすることも、ゴールドウインのデザインの範疇に含まれているのではないかと思うのですが、渡辺さんは 「デザインの力」についてどうお考えですか?

渡辺 :デザインには大きく二つの方向性があると考えています。一つは、これまでになかった機能や利便性を生み出すためのデザインです。新しい技術や素材を活かし、より快適で便利なものを作るという意味でのデザインですね。しかし、私が特に大切にしているのは「人の意識を変えるためのデザイン」です。これはアパレルやバックパックのデザインだけに限らず、空間デザインにも通じる考え方だと思います。

私はこれまでリテール(店舗)のデザインも手がけてきました。単なるショップの設計ではなく「今までにない空間」を生み出すことで、お客様の意識を変えるデザインを追求してきました。その結果、来店されたお客様の「ザ・ノース・フェイス」に対する考え方やデザインそのものへの価値観に変化が生まれてきたと感じています。

このように、デザインはあらゆる分野で応用できる考え方だと思います。デザインは単に「モノをつくる」ことに留まりません。それどころか、社会の大きな仕組みを変え、世界のシステムそのものを変える力を持っています。私自身、この考え方に大きな影響を受けたのが、ケネス・ハップ・クロップ です。彼のデザイン哲学に触れたことで、私は「デザインの本質とは、より良い社会を作ることだ」という考えを持つようになりました。私たちがデザインを通じてより良い社会を生み出すことができれば、私たちの考えや理念をより多くの人に伝えることができると思っています。これからも、私たちの事業の中でデザインの力を活かし、社会に貢献できる取り組みを進めていきたいと考えています。

WWD:これからゴールドウインとして成し遂げたいことについて教えてください。

渡辺 :ゴールドウインは、これまで 日本国内を中心にビジネスを展開してきました。ある意味「ローカルメジャー」と言える存在かもしれません。しかし、これからは海外市場にも積極的にアプローチしていきたい。特に、今後急速な成長が見込まれるアジア・インド・アフリカ などの地域において、スポーツや遊びを通じて、人々がより楽しく健やかに生きられる環境を提供することを目指しています。

「人と違うことをする」勇気を持つ

福代 :今の学生に向けて伝えておきたいことや、若いうちに知っておいてほしいことがあれば、教えてください。

渡辺 :若い学生の皆さんには、すでに素晴らしいビジョンを持っている方が多いと感じています。今日お話しした福代さんもそうですし、私がこれまで出会った若い世代の方々も、しっかりとした思いを持ち、真剣に考えている人が多い。ですから、特に何かを言う必要はないかもしれませんが、自分のやりたいことにしっかりと向き合い、責任を持って進んでいってほしい と思います。

世の中を変えていくことは、決して簡単なことではありません。しかし、「人と違うことをする」ことこそが、大切 だと思っています。ときには、自分が周りと違うことで 不安を感じたり、違和感を持ったり することもあるかもしれません。でも、その違いこそが、自分の魅力になるのです。だからこそ、「自分は人と違うから嫌だ」と思うのではなく、それを誇りに思って前に進んでいってほしいですね。

福代:お話を伺いながら、将来をとても深く見据えていると感じました。私自身も「こんな未来を作りたい」という思いはありますが、実際どう行動すればいいのか分からないことが多いです。特に、気候変動が進み、将来ご飯が食べられなくなるのではないか など、暗い未来ばかりを考えてしまいがちです。解決策を見つけたいと思っても、どの方向に進めばいいのか分からない ことが多いと感じています。しかし、スパイバーの取り組みや、公園のデザインに関するお話を聞いて、「未来に向けて具体的に行動し、決断し、自らの手で変えていこうとしている」姿勢がとても印象的でした。その姿勢から、強い意志と決断力 が伝わってきて、とてもかっこいいと感じましたし、私自身も 何か行動を起こしたいです。

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ゴールドウイン渡辺社長へ19歳の活動家から質問 「環境問題にどれくらい本気ですか?」

PROFILE:左:福代 美乃里(ふくしろ・みのり)/学生団体「やさしいせいふく」代表

都立高校に通う高校3年生。中学校の先生の影響で環境問題に関心を持つようになる。2021年11月に行われた第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)に、若者による気候変動の活動団体Fridays For Future Japanのメンバーとして参加する。学生団体「やさしいせいふく」は、人にも環境にもやさしい服づくりを目指して講演会の実施やGOTS認証のオーガニックコットンTシャツの販売などを行っている。24年夏には資金を集めて同シャツのコットンを生産するインドの農家や縫製工場を訪ねて、取材を行った。高校では陸上部に所属。

PROFILE:右:渡辺 貴生(わたなべ・たかお)/ゴールドウイン代表取締役社長

1960年生まれ。76年にザ・ノース・フェイスと出会い、「わたしたちはあらゆる機会を通じて地球環境保護の大切さを伝えていかなければならない」というブランドの思想に感銘し、82年、同ブランドを日本国内で展開するゴールドウインに入社。同ブランドの成長とともに国内のアウトドアファッションの定着にも貢献。05年より取締役執行役員ノースフェイス事業部長、17年より取締役副社長執行役員。20年4月1日より代表取締役社長に就任。27年には富山県内に体験型アウトドアフィールドを開設するプロジェクトを推進し、人と自然が共生する社会の実現と、地球環境再生を経営の最重要項目のひとつとして掲げるなど、サステナブルな経営を実践している。

ゴールドウインが支持集めている理由のひとつが人の心を捉える「デザイン」の力だ。その対象は、製品だけではなく地域創生など「社会」へと広がっている。イノベーションの力を借りてデザインの領域を広げているゴールドウインのデザインに対する考え方、その背景にあるサステナビリティの方針について、渡辺貴生ゴールドウイン代表取締役社長を招いて紐解く。聞き手は高校3年生の活動家、福代美乃里。「ファッションが好きだから、真実を知りたい」と言う彼女から飛び出す質問とは?

(この対談は2024年12月13日に開催した「WWDJAPANサステナビリティ・サミット2024」から抜粋したものです)

WWD :最初の質問は、私から渡辺さんにお伺いします。学校を卒業して最初に就職したのがゴールドウインだったと伺っています。なぜ、ゴールドウインを選んだのですか?

渡辺貴生ゴールドウイン代表取締役社長(以下、渡辺) :私は「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」というブランドが大好きで、その存在を初めて知ったのが1976年、高校2年生のときでした。当時、雑誌「メンズクラブ」で「ザ・ノース・フェイス」が紹介されていたんです。それまではアイビーファッションに憧れていましたが、その記事を読んで初めて「ヘビーデューティー」というスタイルに触れました。そして、「ザ・ノース・フェイス」がアメリカ・バークレーで行っているものづくりを知り、「自分のやりたいことに近い」と強く感じました。他の道も考えましたが、どうしても「ザ・ノース・フェイス」のような仕事に携わりたいと思い、最終的にゴールドウインへの入社を決めました。

WWD:写真はどこで撮ったものですか?

渡辺:これは、ゴールドウインに入社してしばらく経ち、「ザ・ノース・フェイス」のMD(マーチャンダイザー)になった頃の写真だと思います。おそらく1990年頃、ヨーロッパでの一枚ですね。2枚目はさらに前、1986年頃の写真です。私は現在、フライフィッシングが大好きですが、当時はまだ始めておらず、ルアーを使って芦ノ湖でブラックバスを釣っていました。これは、その頃、まだ釣りを始めたばかりのときの写真です。

このとき着ているのは、「ザ・ノース・フェイス」のアウトレットで購入したもので、軍の端材を利用して作られた服です。つまり、余った生地を使って生産され、バークレーのアウトレットで販売されていた商品ですね。今でも大切に使っています。「ザ・ノース・フェイス」のロゴが入っていません。代わりに「Windy Pass by The North Face」というブランド名がついており、これはアウトレット専用ブランドでした。

WWD:昔からあまり変わらないスタイルが、現在の成功の理由の一つかもしれませんね。2005年から取締役執行役員として「ザ・ノース・フェイス」の事業部長を務められました。まさに現在に繋がる「ザ・ノース・フェイス」の時代を築かれた期間だったと思います。自己分析すると、なぜ「ザ・ノース・フェイス」はここまで認知され、人気を得ることができたのでしょうか?

渡辺:これは、私が創業者から学んだことが大きいですね。「ザ・ノース・フェイス」は、2人の創業者によって成り立っています。1人は、「ザ・ノース・フェイス」という名前を作ったダグラス・トンプキンスです。彼は、世界的な自然保護活動家としても有名でした。もう1人は、ブランドを製造メーカーとして発展させたケネス・ハップ・クロップです。彼は、社会の仕組みを変えるために新しい事業を始めたいと考え、「ザ・ノース・フェイス」のブランドを買い取り、ものづくりの会社へと発展させました。

当時、アメリカはベトナム戦争の真っ只中でした。その時代、若者たちは従来の社会システムに疑問を抱き、「コーポレート・アメリカ」と呼ばれる大企業中心の社会に対し、異なる選択肢を求める動きが広がっていました。そうした若者たちを応援するために、クロップはものづくりを始めたのです。写真に写っているのはバックパックですが、これは当時「アウトバックスタイル」と呼ばれていました。当時、まだ「バックパッキング」という言葉すら存在していませんでしたが、若者たちは「本当の生き方とは何か」「社会とどう向き合うべきか」「自分たちはどんな社会を作るべきか」と、自然の中で深く考えるようになっていました。そのムーブメントを支えるために生まれたのが、このバックパックです。

もともと「ザ・ノース・フェイス」は、クライミングギアのメーカーではなく、ライフスタイルをサポートするブランドとしてスタートしました。私自身も、その理念に非常に共感しました。地球や自然環境と密接に関わりながら生きることが、人間らしさを見直す大きなチャンスになると考えたからです。「ザ・ノース・フェイス」を単なるアウトドアブランドではなく、ライフスタイルブランドとして確立することを目標に掲げて取り組んできた点が、他のブランドとは大きく異なる特徴だと考えています。

WWD:上の2枚目の写真はそれを象徴していますね。

渡辺:これは1970年代初期の写真だと思います。当時のアメリカには、先進的な考えを持つ人々もいましたが、同時にヒッピーカルチャーが広がっていました。その中でも、新しい価値観を築こうとする真剣な人々が多く、さまざまな経験を積み重ねながら新たな思想を生み出していました。Appleの共同創業者であるスティーブ・ジョブズも、おそらく同じような考え方を持っていた一人だったのではないかと思います。

WWD:なるほど、よく分かりました。そして、20年4月に代表取締役社長に就任されましたが、西田会長からは当時、どのような思いを託され、何を成し遂げようと考えて就任を決断されたのでしょうか?

渡辺 :そうですね。私の会社は、西田明男会長の前の社長、つまり西田会長のお父様が創業しました。私もその創業者から直接、多くのことを教えていただきました。お二人から常に言われていたのは「ものづくりの大切さを徹底的に貫いてほしい」ということでした。私たちの会社には「見えないものにこそ、『真実』の価値がある」という言葉があります。つまり、表面的なデザインにこだわるのではなく、本当に重要なのは、目には見えない緻密な作業であり、それを追求することで本当に価値のあるものが生まれる、という考え方です。

また「人生は100年ほどしかないのだから、自分の人生を燃えるように生きなさい」とも教えられました。その考え方を会社全体で共有し、社会に対して何か貢献できる企業でありたいと思っています。

WWD :「燃えるように生きる」と聞いた福代さんが良い笑顔を見せました。

福代 美乃里学生団体「やさしいせいふく」代表(以下、福代) :燃えるように生きたいと思っていますし、私も高校3年生で将来のこと、自分に与えられた人生をこれからどう使っていこうかとか、自分には何ができるんだろうかとこの一年考えてきていたので言葉が刺さりました。

WWD:ゴールドウインにとってサステナビリティは何どういう位置付けにありますか?

渡辺 :あらゆる人々に対して公正な未来を提供することこれが私が考えるサステナビリティですね。

高校3年生がサステナビリティに関心をもったきっかけ

WWD:ここから福代さんからの質問でその「サステナビリティ」について深めていきます。福代さん自己紹介をお願いします。

福代 :はじめまして、福代美乃里です。都立高校に通う高校3年生で現在、学生団体「やさしいせいふく」の代表を務めています。

WWD :そもそも、サステナビリティに関心を持ったきっかけは?

福代:もともと服が大好きで、買うのはもちろん、生地を購入して自分で服を作ることもありました。そんな中、中学3年生のときに、ちょうどコロナ禍で自宅にいる時間が増え、「ザ・トゥルー・コスト」というドキュメンタリー映画を観たんです。その映画を通して、それまで知らなかった ファッション業界の不都合な真実を知りました。

例えば、自分と同じくらいの年の子どもたちが、低賃金で長時間労働を強いられている こと。そして、私は自然が好きなのですが、服の生産が環境破壊につながっている という事実を知り、大きな衝撃を受けました。「おしゃれを楽しむことが、誰かを傷つけているかもしれない」。そのことがショックで、サステナビリティに強く関心を持つようになりました。

WWD :その映画を観てから服を買わなくなったのですか?

福代 :観た直後はまったく買えなくなりました。どの服を見ても、購入をためらってしまって。でも今は、サステナビリティに取り組んでいる企業を調べたり、古着を購入したりしながら、少しずつファッションを楽しめるようになっています。

WWD :福代さんの話を聞きながら、「そんな気持ちにさせてごめん…」という気持ちになりました。そんな福代さんですが、今年の夏、なんとインドのオーガニックコットン畑や縫製工場を訪ねました。

福代 :インドのコインバトールという地域にある工場やオーガニックコットンの畑や倉庫を現地の方に案内していただきながら、綿がどのように栽培・保管・管理されているのかを見学しました。一つひとつの工程を実際に見せてもらいながら学ぶことができました。

WWD :なぜインドへ行こうと思ったのですか?

福代 :今私が着ているTシャツは、私たちが企画した「やさしいTシャツ」というオーガニックコットンのTシャツです。この企画は、私と同じようにサステナビリティに関心を持つ学生たちが集まり、「普段売られている服がどのように作られているのか分からない。だったら、自分たちで作ってみよう!」という思いから始めました。けれど、ちょうどコロナ禍だったため、Tシャツの生産地であるインドに行くことができませんでした。オンラインでは工場と繋がっていたものの、やはり 現場を直接見てみたい、作ってくれた人たちに会いたい という気持ちが強くなり、今回の渡航を決意しました。

WWD :実際に現地を訪れて、どのようなことが見えましたか?

福代 :一つは「オーガニックコットンを選んで本当に良かった」という実感です。

現地の農家の方々に話を伺うと、以前は 農薬を使用した栽培を行っており、それによって健康被害が多発していたそうです。例えば、子どもたちががんを発症したり、亡くなったりするケースがあり、また農家の方々自身も視力障害や手足の痙攣などの深刻な影響を受けていたそうです。

しかし、化学農薬を使わないオーガニック栽培に切り替えたことで、こうした健康被害がなくなったと聞きました。実際にその話をしてくれた方々と直接対話したことで、自分の選択が遠い国の誰かの暮らしを少しでも良くしているかもしれない、と感動しましたね。

WWD :まさにサステナブルな選択の重要性を実感されたのではないでしょうか。

福代 :はい、オーガニックコットンの良さを実感すると同時に、普段私たちが購入する服がどこで、どのように作られているのかについて、消費者にはまだ見えにくい部分が多いとも感じました。

今回、最先端のサステナブルな取り組みを行っている工場も訪れましたが、こうした取り組みを行う工場で作られた服がもっと増えて、消費者が簡単にその背景を知ることができるようになればいいなと思いました。企業が積極的に情報を開示し、消費者も知ろうとする姿勢が大切だと改めて感じました。

WWD:貴重な経験ですね。実際に 現場を自分の目で見るということは非常に大切です。では、ここから本日のメインパートに移り福代さんから渡辺さんへ質問をしてもらいます。

「環境や人権への取り組みはどれくらい本気ですか?」

福代 :最初の質問ですが、御社のホームページを拝見した際、最初に目に入ったのが「人と自然の可能性を広げる」というメッセージでした。環境や人権を大切にされていることが強く伝わってきましたが、実際のところ渡辺さんご自身は、どのくらい本気で取り組まれているのかをお聞きしたいです。また、企業のビジョンとしてこの考えを中心に据えようと思った具体的なきっかけや思いがあれば、教えてください。

渡辺 :本気度については「かなり本気」です。社内では「パタゴニアくらいはやろう」と言っています。それくらいの覚悟でゴールドウインを日本におけるサステナブルな企業のリーダーとして確立したいと考えています。

実際に、私自身は1990年代から少しずつサステナブルな取り組みを始めてきました。ただ、会社として本格的に動き出したのは比較的最近です。それでも、この思いをしっかりと持ち続け、企業のビジョンの中心に据えるべきだと考えています。

その理由として、私たちの事業は スポーツやアウトドアに深く関わっています。私は米国のヨセミテ国立公園が大好きで、これまで何十回も訪れています。今年も6月に、役員の何人かを連れて一緒に訪問しました。

こうした かけがえのない自然を守ることは、人間の使命だと強く感じています。そもそも地球がなければビジネスは成り立たないわけです。アウトドアスポーツにせよ、その他のスポーツにせよ、環境が整っていなければ成り立たない。

私たちの仕事はある意味「遊びの延長」です。しかし「遊びこそが人間らしさを育み、多くの人とのつながりを生むもの」だと考えています。だからこそ、単に「地球環境を守る」だけではなく、再生(リジェネラティブ) していくことこそが、私たちの存在意義であり企業のビジョンとして掲げるべきものだと考えています。

WWD :「守る」から「再生する」へ。これは本気も本気 という答えですね。

そもそも、なぜ企業にとって事業成長が必要なのか?

福代 :2つ目の質問です。そもそも、なぜ企業にとって事業成長が必要なのでしょうか?環境保全と事業成長を両立させるには、どのような方法があると思いますか?

渡辺:よく聞かれる質問です。私が事業成長が必要だと考える理由は、「地球を再生していくため」です。私たちが本質的に必要とする環境を、自分たちの手で作り上げていくことができれば、もっと人間は地球に貢献できるはずです。つまり、私たちの産業や事業を通じて、環境問題を解決することが、事業成長の目的であるべきだと考えています。そのため単なる「経済的な成長」ではなく、「人間としての成長」とは何かを考えながら事業を発展させることが、本当の意味で持続可能な成長を生み出すのではないかと思います。私自身も、そのような考えのもとで仕事に取り組んでいきたいと考えています。

福代 :ゴールドウインさんは 2050年までに、サプライチェーン全体でのカーボンニュートラル達成と廃棄ゼロを掲げていますよね。これは非常に難しい挑戦だと思いますが、それを達成するために最も必要な変化は何だと考えますか? 最大の課題について教えてください。

渡辺 :カーボンニュートラルを実現するためには、スコープ3の削減を徹底することが重要だと考えています。現在、私たちのCO2排出量は、スコープ1から3を合わせて約26万トンありますが、その99%がスコープ3によるものです。つまり、直接の排出ではなく サプライチェーン全体での排出が圧倒的に多いのです。そのため最も重要なのは、サプライチェーン全体で環境への配慮を共有し、協力し合う仕組みを作ることだと考えています。

まずは「自分たちは何のために事業をしているのか?」を明確にし、「どのような変化がプラスになるのか?」をしっかり示すことが必要です。さらに、具体的なアクションとプロセスをどのように変えていくのかを明確にし、発信していくことも大切だと思います。確かに大きな課題ではありますが、誰かが始めなければ変革の第一歩は生まれません。私たちは、そうした一つひとつの取り組みを、責任を持って進めていきたいと考えています。

WWD :今のお話の内容は、ゴールドウインの統合報告書にも具体的な数値として記載されています。後ほど、裏付けとなるデータもご覧いただければと思います。そしてこの質問は、ここにいる全員が 「19歳から投げかけられている問い」だと受け止めるべきものですね。

福代 :服は、大量生産・大量消費の象徴的な存在だと思います。現在もその考え方は根強く残っており、先ほど話に出た環境と事業成長の両立についても、大量生産・大量消費のままでは難しいのではないかと感じています。そこで、ゴールドウインとしてどのようにこの考え方を変えていこうとしているのかをお聞きしたいです。

渡辺 :そうですね。実は、ゴールドウインには以前から 大量生産・大量消費という考え方はあまりありません。もちろん、ブランドの人気が高まると売り上げが伸び、それに伴い生産量も増えるという側面はあります。しかし、私たちはそうした背景の中でも製品を長く使い続けてもらう仕組みを重視してきました。

例えば、1992年頃から リペアサービスを本格的に導入しています。GORE-TEX製品のような高額なウェアは、アウトドア環境で使用すると傷んだり破れたりすることがあります。しかし、それを修理できなければ、すぐに廃棄されてしまう可能性がありますよね。そこで、工場内に専用のリペアチームを設け、現在では年間約2万4000点の製品を修理し、お客様にお返ししています。

また、最近では子ども服のリサイクルにも取り組んでいます。子ども服は成長とともにすぐにサイズアウトしてしまいます。そこで、不要になった服を店舗で回収し、新しいデザインにアップサイクルして再び販売する取り組みを行っています。単に洗浄して再販するのではなく、新たなデザインを加えることでより魅力的なアイテムとして生まれ変わらせることを大切にしています。

さらに、私たちは「ワンフォーワンシステム」 という特別なものづくりの仕組みも導入しています。これは、人気のある商品についてお客様自身がオリジナルのデザインを作れるサービスです。特定の店舗では、お客様の体のサイズを測定し、カラーやファスナーの種類、その他の細かいパーツまで自由にカスタマイズできるようになっています。このサービスを利用することで、既製品ではなく自分のライフスタイルに合った一着を作ることができ、長く愛用してもらえるのです。この仕組みは、大量生産とは異なるアプローチです。

「自分の人生の中で、どんな服をどのように使いたいのか?」そんなことを考えながら、お客様とともにゴールドウインや「ザ・ノース・フェイス」の製品を作り上げていくサービスとして展開しています。こうした取り組みを通じて、単に新しい服を作って売るだけがビジネスではない という考え方を広めていきたいと考えています。

WWD :「新しい服を作って売るだけのビジネス」からの脱却ですね。

渡辺 :そうですね。服というものは 単なる衣類ではなく、そこに込められた想いや、人と人とのつながり、愛を大切にするものだと考えています。それが循環し、次の誰かへと受け継がれていくこと。それこそが、本当に重要なのではないでしょうか。

1枚の服を見たときに、何を想像する?

福代 :抽象的な質問かもしれませんが、1枚の服を見たときに渡辺さんは何を想像しますか?

WWD :質問の背景とは?福代さんご自身は、1枚の服を見たときに何を想像しますか?

福代 :私は服の生産背景に強い関心を持っています。自分が着る服が児童労働や環境破壊の上に成り立っているのは、とても嫌です。そのため、1枚の服を見たときに「この服はどこで作られたのか?」「作った人は幸せだろうか?」「生産された土地の環境は守られているのか?」といったことを想像しながら、慎重に選ぶようにしています。

渡辺 :この写真は、1989年から1990年にかけて、220日間で6,040kmを犬ぞりで南極大陸を横断し探検隊のユニフォームです。デザインを手がけたのは、当時 「ザ・ノース・フェイス」に在籍していた マーク・エリクソンというデザイナーでした。この南極大陸横断隊には、アメリカ・ロシア・中国・フランス・イギリス・日本の6カ国が参加していました。つまり、資本主義の国も共産主義の国も関係なく、世界の枠を超えて協力し合ったプロジェクトだったんです。

では、なぜこの6カ国が南極大陸を横断したのか?その目的は、南極条約を改めて批准してもらうためのアクションでした。南極条約では「南極はどの国の領土でもない」「科学技術や教育の分野で国際協力を進める」といった原則が定められています。現在、この条約には50カ国以上が批准しており、世界平和のための重要な合意のひとつとなっています。当時、資本主義・共産主義の国々が対立する中で、この遠征は「世界平和のために協力する」という強いメッセージを発信するものでした。

この服は、単なる防寒着ではなく、世界平和を象徴するユニフォームなのです。私は、ものづくりにおいて「目的」や「価値」を持たせることが重要だと考えています。最新のテクノロジーと優れたデザインからこのユニフォームに支えられたこの挑戦は、結果として 今も南極条約が守られ続けていることに繋がっています。1枚の服が与えるインパクトは計り知れません。そして、この服を見るたびに、私は「未来のために、平和利用のために服があるのだ」ということ思いますね。

福代 :たくさんの服を開発されている中でも、1枚の服に込められたストーリーや熱量が伝わってきました。ものづくりに対する 「大切にしたい」という強い思いを感じます

考えを大きく変えたアウトドアアクティビティとは?

福代:私もスポーツやアウトドアアクティビティが好きなのですが、渡辺さんもアウトドアが好きですよね。これまでの経験の中で、アウトドアアクティビティが ご自身の考えを大きく変えた出来事 があれば、教えてください。

渡辺 :私はアウトドアスポーツが好きで、この会社に入ってからも続けています。今は毎年北海道でフライフィッシングを楽しんでいます。もう30年以上通い続けている場所ですね。30年前は、あるシーズンに行くと1投すれば必ず1匹釣れるほど魚が豊富でした。ところがここ2〜3年は、まったく釣れなくなっているんです。これは、水温や気温の変化による影響が大きいのではないかと感じています。実際、魚の数が減っているように思います。

釣りを通じて、川や海など自然環境の変化を肌で感じるようになりました。最近は、南の島のサンゴ礁エリアでもフライフィッシングをしていますが、白化したサンゴ礁では魚が少なくなり、釣るのが難しくなっていることも実感しています。こうした変化は、実際に現地に行き、アクティビティを通じて体験しなければ気づけないことです。私にとってアウトドアアクティビティは「今の環境をどうすれば改善できるのか?」を考えるきっかけになっています。

「世界を平和にしたい」。その言葉に打たれた

福代 :最新技術は、まだコストが高いことや、実用化できるか不確実性が高いため、普及には時間がかかると思います。ゴールドウインがスパイバーと服を作ろうと決断した理由は何だったのでしょうか?

渡辺:私は アウトドアスポーツが好きだったこともあり、これまで高機能な製品の開発に携わってきました。しかし、それらの製品はほとんどが化学繊維であり、化石燃料をベースとした素材を使っていたことは否めません。このような素材は、環境に大きな負荷を与えます。簡単に言えば、プラスチックは生分解しないため、長期的に環境に残り続けるという問題があります。そんなとき、私の知人である発酵技術の専門家から「発酵を利用して植物由来の新しい素材を開発している人がいる」と紹介を受けました。そこで実際に会いに行ったのが、スパイバーの代表である関山さんでした。関山さんに初めて会ったとき、彼が最初に言った言葉が「世界を平和にしたい」だったんです。その言葉に私は強く心を打たれました。

彼の話を聞く中で、スパイバーの技術は環境問題の解決だけでなく、貧困問題にもアプローチできる可能性があることを知りました。そのとき「自分がやるべき仕事はこれなんだ」と感じたんです。もちろん、ゴールドウインとしても環境負荷の低い素材を採用する取り組みは以前から進めていました。しかし、それは既存の素材の中で環境に配慮したものを選ぶという方法でした。スパイバーの技術は、それとはまったく異なるアプローチでした。つまり、従来の石油由来素材を完全に置き換える新たな選択肢だったんです。

この新たな選択肢があるのなら、誰かが最初に動かなければならない。正直、決断にはかなりの逡巡がありました。しかし最終的にゴールドウインとして創業以来最大規模の投資を行い、スパイバーとともに取り組むことを決断しました。このプロジェクトを進めることで、石油依存による環境問題を解決する一歩を踏み出せると確信したからです。

WWD :アウトドアの役割の一つは「命を守ること」です。そのために、機能が進化し、技術が発展し、そこに最適なデザインが追求されてきました。しかし、これまでの常識を覆しその根幹をまったく新しい選択肢に置き換えるという発想は、極めて画期的な取り組みだと思います。

「言葉のいらない遊び場。 未来に向けたデザイン

福代 :ゴールドウインさんは服の開発だけでなく、子どもたちの遊び場の創出やキャンプ事業など、さまざまなプロジェクトに取り組まれていますよね。その中で、渡辺さんご自身が特に印象に残っている取り組みは何でしょうか?

渡辺 :そうですね。一番印象に残っているのは、2022年に開催したイベントです。本来であれば、2020年の東京オリンピックに合わせて実施する予定でした。しかし、新型コロナウイルスの影響で無観客開催となり、私たちの計画も延期せざるを得ませんでした。

実はその年、ゴールドウインは創業70周年を迎えていました。そこで、世界中からオリンピックに来る人々に、ゴールドウインという会社を知ってもらうための記念事業を企画しました。当時、若いメンバーたちと話し合う中で「国や言語を超えて、みんなの気持ちが一つになるイベントは何か?」というテーマを考えました。

そこで私が提案したのが、「遊び」をテーマにしたデザインでした。私たちは、地球の五大要素である 水・火・土・空気をモチーフにした遊具を設計し、「地球を遊ぶ」体験を提供する空間を作ろうと考えたのです。言葉が通じなくても、そこに集まった人たちが 助け合いながら楽しめる場所を作ることが目的でした。

残念ながら、このイベントはオリンピック期間中には実施できませんでしたが、2年後の2022年に、六本木と富山で開催することができました。結果として、5万人以上の人々が遊びに訪れてくれました。このプロジェクトの背景には、ゴールドウインが掲げる「2050年にどんな会社でありたいか?」というビジョンがありました。その答えのひとつが「遊び」でした。スポーツの起源は「遊び」です。世界中の人々が「遊び」を通じてつながることができるのではないかという思いを込めて、このイベントを企画しました。

デザインは「社会の仕組み」を変える力を持つ

WWD:スポーツの起源は 遊びなんですね。今回のイベントのテーマのひとつに「デザインの力」があります。ゴールドウインは、単なる製品デザインだけでなく、地域創生や社会とのつながりをデザインするという視点も持っています。つまり、社会そのものをデザインすることも、ゴールドウインのデザインの範疇に含まれているのではないかと思うのですが、渡辺さんは 「デザインの力」についてどうお考えですか?

渡辺 :デザインには大きく二つの方向性があると考えています。一つは、これまでになかった機能や利便性を生み出すためのデザインです。新しい技術や素材を活かし、より快適で便利なものを作るという意味でのデザインですね。しかし、私が特に大切にしているのは「人の意識を変えるためのデザイン」です。これはアパレルやバックパックのデザインだけに限らず、空間デザインにも通じる考え方だと思います。

私はこれまでリテール(店舗)のデザインも手がけてきました。単なるショップの設計ではなく「今までにない空間」を生み出すことで、お客様の意識を変えるデザインを追求してきました。その結果、来店されたお客様の「ザ・ノース・フェイス」に対する考え方やデザインそのものへの価値観に変化が生まれてきたと感じています。

このように、デザインはあらゆる分野で応用できる考え方だと思います。デザインは単に「モノをつくる」ことに留まりません。それどころか、社会の大きな仕組みを変え、世界のシステムそのものを変える力を持っています。私自身、この考え方に大きな影響を受けたのが、ケネス・ハップ・クロップ です。彼のデザイン哲学に触れたことで、私は「デザインの本質とは、より良い社会を作ることだ」という考えを持つようになりました。私たちがデザインを通じてより良い社会を生み出すことができれば、私たちの考えや理念をより多くの人に伝えることができると思っています。これからも、私たちの事業の中でデザインの力を活かし、社会に貢献できる取り組みを進めていきたいと考えています。

WWD:これからゴールドウインとして成し遂げたいことについて教えてください。

渡辺 :ゴールドウインは、これまで 日本国内を中心にビジネスを展開してきました。ある意味「ローカルメジャー」と言える存在かもしれません。しかし、これからは海外市場にも積極的にアプローチしていきたい。特に、今後急速な成長が見込まれるアジア・インド・アフリカ などの地域において、スポーツや遊びを通じて、人々がより楽しく健やかに生きられる環境を提供することを目指しています。

「人と違うことをする」勇気を持つ

福代 :今の学生に向けて伝えておきたいことや、若いうちに知っておいてほしいことがあれば、教えてください。

渡辺 :若い学生の皆さんには、すでに素晴らしいビジョンを持っている方が多いと感じています。今日お話しした福代さんもそうですし、私がこれまで出会った若い世代の方々も、しっかりとした思いを持ち、真剣に考えている人が多い。ですから、特に何かを言う必要はないかもしれませんが、自分のやりたいことにしっかりと向き合い、責任を持って進んでいってほしい と思います。

世の中を変えていくことは、決して簡単なことではありません。しかし、「人と違うことをする」ことこそが、大切 だと思っています。ときには、自分が周りと違うことで 不安を感じたり、違和感を持ったり することもあるかもしれません。でも、その違いこそが、自分の魅力になるのです。だからこそ、「自分は人と違うから嫌だ」と思うのではなく、それを誇りに思って前に進んでいってほしいですね。

福代:お話を伺いながら、将来をとても深く見据えていると感じました。私自身も「こんな未来を作りたい」という思いはありますが、実際どう行動すればいいのか分からないことが多いです。特に、気候変動が進み、将来ご飯が食べられなくなるのではないか など、暗い未来ばかりを考えてしまいがちです。解決策を見つけたいと思っても、どの方向に進めばいいのか分からない ことが多いと感じています。しかし、スパイバーの取り組みや、公園のデザインに関するお話を聞いて、「未来に向けて具体的に行動し、決断し、自らの手で変えていこうとしている」姿勢がとても印象的でした。その姿勢から、強い意志と決断力 が伝わってきて、とてもかっこいいと感じましたし、私自身も 何か行動を起こしたいです。

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「エイチ・カツカワ」が「Bコープ」認証取得 靴製造・協業・修理・アートピース製作活動の先に見据える靴の未来

PROFILE: 勝川永一/エイチ・カツカワ代表取締役

勝川永一/エイチ・カツカワ代表取締役
PROFILE: 東京・渋谷生まれ。大学卒業後、国内の靴メーカー勤務を経て渡英。英国ノーザンプトンのトレシャム・インスティテュート フットウェアコースで靴のデザインと製作を学ぶ。卒業後「ポールハーデン」でインターン経験を積む。2004年帰国。靴修理職人として働きながら靴のデザインと製作を継続。07年春夏シーズンに独自の皮革にこだわったシューズコレクションを発表し、大手セレクトショップで取り扱われる。10年東京目黒区に靴の修理店「THE SHOE OF LIFE」を開店。同年新宿伊勢丹メンズ館シューズラボ、12年レクレルールとドーバーストリートマーケットギンザでの販売が始まる。16年2月にノーザンプトン博物館&美術館の美術館コレクションに収蔵される。20年3月国家資格クリーニング師資格取得

シューズブランド「エイチ・カツカワ(H.KATSUKAWA)」を手掛けるエイチ・カツカワがこのほど「Bコープ」認証を取得した。総合スコアは97.8点で内訳はガバナンス8.7、従業員29.3、コミュニティ24.2、環境31.3、顧客4。2006年に創業し、パリのレクレルール(L’Eclaireur)やドーバーストリートマーケットギンザ(DOVER STREET MARKET GINZA)といった有力店に並び、16年にはノーザンプトン博物館&美術館(Northampton Museum and Art Gallery)にコンセプチュアルシューズ作品「Return to the Soil」が美術館コレクションに収蔵されるなど、品質とデザイン、そしてコンセプトが評価されてきた。「ポーター(PORTER)」や「フレッドペリー(FRED PERRY)」などこれまでさまざまなブランドとコラボレーションを行っている。10年には靴の修理店「THE SHOE OF LIFE」を目黒に開き、これまで約6万足を修理。また、東京を中心に街のコインランドリーでもスニーカークリーニングができるように技術指導や協力を行うなど活動の幅広さが目を引く。勝川永一代表取締役が目指すこととは。

「愛し、使い続けていただける靴」を目指して

多岐にわたる活動の目的は一つだった。「『愛し、使い続けていただける靴』を愚直に、実現するための活動を続けてきた」。

一般的なデザイナーが目指すブランドビジネスといえば、有力店に卸し有力ブランドとコラボレーションしながら、毎シーズン新作を発表して生産量を増やし、直営店を開けることだろう。しかし、勝川代表取締役は実践しない。2020年以降、「エイチ・カツカワ」の新作を生産していない。「自社が実現したい製品の品質やデザインに研究開発に専念している。具体的には再生素材や循環システムの開発、動物福祉へのアプローチなどで、そのプロセスでサンプリングした製品見本を年に1回発表してはいるが、生産の条件が整わず結果的に生産に至っていない」。現在は修理店の運営と他社との協業のみを行っている。「もちろん経済的利益を出すことを前提にしているし、例えば開発中のリサイクルゴムを用いたソールが一般的なものよりも環境負荷を低減できれば、拡大したいと考えている。現状はそこに達していないので生産しない。経済性とサステナビリティを両立した完全な製品を生産することは現時点では難しく、それを追求すると矛盾をはらむとも感じている」。

勝川代表取締役は渋谷界隈で育ち、ファッションが好きでセレクトショップや古着屋に通っていた。「古着に興味を持ち、生産方法が合理化したことでスペックが変わっていることが面白かった。僕は合理化される前のプロダクトが好きだったが、ファッション産業のスピードは加速する一方。大量生産・大量消費・大量廃棄のビジネスモデルは理解できても違和感をぬぐえなかった」。そんなことを感じながら渡英しノーザンプトンで靴作りを学び、その後「ポールハーデン(PAUL HARNDEN)」で経験を積んだ。帰国後の2年間は靴修理店で働いた。「靴修理を行うことで合理化された時間軸が見えてきた。1970年代以前に天然由来の原材料で作られた靴やその製法に準じているものは長持ちする。80年代に入ると部分的にプラスチックが使われ、プラスチックが割れると使えなくなる。スニーカーの耐久年数は短く、消耗するからビジネスが回るとは理解しているが、僕はデザイン性があり修理しながら長く使うことができる品質の靴をブランドとして提案したいと考えた」。

通常は皮革に使われない皮の活用を始めたのも「エイチ・カツカワ」だった。「最も体に近い部位を皮革としてなめしている。不均一な表情は、機械やコンピュータなどとは大きく違い、それぞれが個性を持っていて美しいと感じた」。捨てられる部位は問屋にも並ばない。取り扱う企業を探し、スエードをなめすことができる職人と開発に着手し、06年に完成したレザーを「ニベレザー」と名付けた。

「Bコープ」認証取得で活動の意義を明文化

エイチ・カツカワは勝川代表取締役の他に正社員が1人とアルバイトが1人と事業規模は小さい。なぜ「Bコープ」を目指したのか。「切迫感があった。目標は環境・社会問題解決につながる靴のデザインを業界の主流にすること。その未来を切り開くにはいわゆるファッション的なイメージ訴求では伝えきれないことがある。表層的に同じようなことに取り組むブランドもある中で、結局はイメージの訴求合戦になる。靴修理で靴を長持ちさせることや捨てられる部位を皮革に昇華した『ニベレザー』などこれまで取り組んできたことを明文化したいと思った」。難易度の高い「Bコープ」取得に向けて伴走したのは「シーエフシーエル(CFCL)」や足立区でハンドバッグの製造や精密裁断加工を行うエヌ・ケーの「Bコープ」取得をサポートした岡田康介シソンズ社長だ。

評価されたポイントは「著名なブランド含め多くのブランドがスニーカーの修理を積極的に受け入れない、あるいはサービスとして全く受け付けていない中で、『原則として、いかなる修理依頼も積極的に受ける』ことをポリシーに業界に先駆けてスニーカーの修理やクリーニングを実践したこと。また、他ブランドへの技術教育も請け負ってきたことで、業界内にインパクトをもたらしたこと。加えて、東京を中心に街のコインランドリーでもスニーカークリーニングができるよう、技術指導や協力を行い、広めた実績。修理店が病院に近いこともあり、足の不自由な方への靴修理や調整サービスを積極的に行い、格差社会の是正に取り組んできた実績が評価された」。

一方、難易度が高かったこともあった。「靴修理が環境負荷低減に寄与していることを実証するのが難しかった。例えば素材。修理にはできる限り端材を使っているがエビデンスとして実証できない。第三者認証を得ているリサイクル素材であれば証明は簡単だが、そもそも日本国内に修理材にリサイクル材がない。業界全体との取り組みにより改善していく必要があると感じた。捨てられる部位を有効活用している『ニベレザー』に関しても皮革のサプライチェーンが複雑なため、動物福祉に関しても証明ができない。自社の調達により動物福祉慣行が広がったなどのインパクトを実証するに至っていないため、今後の更なる取り組みが必要だと感じた。動物福祉を当たり前にした上での動物皮革の利用と生物多様性が保全される社会を実現したい」。

今後は「現代の『靴の在り方』を進化させ、持続可能性をさらに強化した製品開発やサービス拡充を進める。当社が事業に必要だと考える主要な要素は企画、生産、ガバナンス、PR、財務。自社の不足するリソースはビジョンをともにできる企業と協業して、社会に資する事業として成長させたい。地域社会やグローバルなコミュニティとの連携を深め、循環型経済をリードする企業として多くの方々に持続可能な選択肢を提供し、業界全体の進化を支える存在であり続けたい」と意欲的だ。

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「アパレル中小企業の応援団に」 サステナビリティ対応の新ガイドツールが日本上陸

オーストラリアの非営利団体グッドオンユー(GOOD ON YOU)がアパレル企業向けに開発したサステナビリティ対応ツール「グッドメジャーズ(good measures)」がこのほど、日本に上陸した。「顔の見えるライフスタイルの実現」を掲げ、トレーサブルな再エネサービス「みんな電力」をはじめ、さまざまなSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)サービスを提供するUPDATERが、2023年に同団体と事業提携を締結し運営を担う。

900万人が利用する
「グッドオンユー」

世界最大級のエシカル評価機関グッドオンユーは、消費者向けにブランドの“エシカル度”を掲載するウェブサイトおよびアプリの「グッドオンユー」を運営している。「グッドオンユー」では、ブランド名を検索すると、グッドオンユーの専門家集団が算出したそのブランドの“エシカル度”や、具体的なサステナビリティの取り組みを知ることができ、「なるべくサステナブルな商品を買いたいけれど、どんな基準で選んだら良いか分からない」「自分が好きなブランドがどれくらいサステナビリティ対応しているのか知りたい」といった消費者の悩みに応える。ウェブサイトには、世界の6000以上ブランドの情報が掲載されており、アプリ・ウェブサイトほかを含む年間利用者数は、900万人に上る。

さまざまなブランドから信頼を集めるグッドオンユーのリソースを活用して、透明性向上のガイドツールになるよう開発されたのが企業向けサービス「グッドメジャーズ」だ。日本でこれを普及させようと意気込むのが、UPDATERの山浦誉史担当と浦田庸子担当だ。「グッドメジャーズ」事業を統括する山浦誉史担当は、グローバルSPA企業でサステナビリティ戦略の推進に携わった。「前職では日本のアパレル中小企業から、『私たちは何から始めたらよいのか』と相談を受けることもあった。しかし、正直大手の資本があるからできることも多くあった。世界では情報開示の規制が強まっているなか、もっと日本のアパレル企業の目線に立って現実的なサポートができないかと考えていた矢先に出合ったのが『グッドメジャーズ』だった」と山浦担当。一方、浦田担当は女性ファッション誌のエディター職からの転職だ。「“エシカル評価”というと警戒されがちだが、私たちは日本の中小企業の透明性向上の応援団だ」と語る。

約1000項目の評価詳細で
自社の透明性が分かる

「グッドメジャーズ」の仕組みはこうだ。まず、同団体の専門家集団がブランドの一般公開情報に基づいて、「地球」「人」「動物」の3つの観点から“エシカル度”を評価する。例えば「地球」では脱炭素や資源循環、「人」では労働条件やトレーサビリティー、「動物」では動物繊維にまつわる認証の取得状況などの取り組みが該当する。合計で約1000の項目を総合評価して、最終的な“エシカル度”を5段階で算出する。

「グッドメジャーズ」のサービスに登録したブランドは、専用のウェブサイトが割り当てられ自社の“エシカル度”の評価内訳を見ることができる。各項目の自社のスコアに加えて、同規模の他社の平均値も確認できる。なお、評価が掲載されていない場合には、「グッドオンユー」に評価を依頼した後、「グッドメジャーズ」の機能が使える。

さらに各項目ページでは、「製品レベルでの認証は取得できているか?」「それはどんな認証か?」「全製品のうち認証を取得している割合はどの程度か」といった具合に複数の質問が並び、ユーザーはアンケート形式で設問に回答する。その回答をグッドオンユーの担当者が精査し、再びスコア化してくれるという仕組み。併せて、優先的に取り組むべき項目の提案や、その項目を改善するために有益なサービス、団体情報などもあり、サステナビリティロードマップの作成に参考になる。

「健康診断のような感覚で活用してほしい」

山浦担当は「サステナビリティ対応は何から始めればいいのか分からないという声もよく聞くが、自分の状態を知ることが第一歩。ブランドにはこのサービスを健康診断のような感覚で活用してほしい」と言う。

グッドオンユーの調査によれば、日本ブランドは長期保証やリペアといった製品寿命を延ばす取り組みには積極的な一方で、水資源やマイクロプラスチック、森林伐採については情報開示が少なく、包装・パッケージの最小化の取り組みも消極的な傾向があるという。「グッドメジャーズ」を活用すると、こうした日本企業が見落としがちな視点に気付き包括的なサステナビリティ対応の解像度を上げることができる。

アパレル産業を
盛り上げていくことが裏ゴール

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情報開示で終わらず、次のアクションにつなげていくことが同サービスの本質だ。UPDATERでは日本独自の取り組みとして、サステナビリティにまつわる取り組みを生活者向けに発信するウェブサイト製作のサポートや、UPDATERが持つSX関連サービスの特別価格での提供といったユーザープランを用意してサステナビリティ対応を支援する。

また、「グッドオンユー」の日本版としてウェブサイト「シフトシー(Shift C)」も立ち上げた。ここでは、ブランドの“エシカル度”検索の機能のほか、サステナブルファッションについて学べるウェブコンテンツなどを掲載する。メディア事業を率いる浦田担当は、「私の役割は、サステナブルファッションのファンを増やすこと。スコア改善を目指す渦中の努力やブランドの『私たちはこんなことをしています』をどんどん紹介して、情報開示の文化を一緒に作っていきたい」と話す。

山浦担当は「国内のアパレル産業を盛り上げていくことが私たちの裏ゴールだ。『グッドメジャーズ』はいわば世界のサステナビリティ対応を知るための情報の宝庫。このツールをいかようにも活用して日本のファッションブランドの皆さんを応援していきたい」と思いを語る。

問い合わせ先
Shift C
https://shiftc.jp/contact/

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「212キッチンストア」がワールドの衣類在庫をエプロンの原料として再利用

ワールドグループ傘下のライフスタイルイノベーションが展開するキッチン用品専門店「212キッチンストア(212 KITCHEN STORE)」はこのほど、ワールドグループの素材ブランド「サーキュリック(CIRCRIC)」の生地を使用した「サーキュリック エプロン」を発売した。

同商品に使用した生地「サーキュリック・フォー・ワールドループ(CIRCRIC for WORLD LOOP)」はワールドグループの衣類の繊維を分解し、原料となる糸から製造した、いわゆるクローズドループと呼ばれる方法で作られている。残った在庫を廃棄せずに原料として再利用した同社初の取り組みとなり、約一年半の開発期間をかけて商品化された。

エプロンはロングタイプと、腰に巻いて使えるショートタイプの2種類。カラーバリエーションはそれぞれネイビー、イエロー、パープル、ストライプの計4種類を用意する。価格はロングタイプが5,940円、ショートタイプが3,190円(いずれも税込)。

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海を漂流するプラゴミの現状 漁網リサイクルのエキスパートに聞く

「WWDJAPAN」ポッドキャストの「サステナブルファッション・トーク」は、ファッション業界のサステナビリティに関する最新ニュースやトレンドをざっくばらんにお話しする番組です。本番組では、サステナビリティ担当記者木村和花がホストを務め、「WWDJAPAN」サステナビリティ・ディレクター向千鶴とともにお届けします。

今回のゲストは、アパレル資材を扱う商社モリトアパレルの船崎康洋サステナブルデザイン室室長代理です。船崎さんは日本国内の漁港から回収した漁網を原料にしたリサイクルナイロン「ミューロン」を開発しました。漁網のリサイクルのエキスパートである船崎さんに、海洋問題の現状について聞きました。



この配信は以下のアプリでもご利用いただけます。​
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「アニエスベー」×「ヘリーハンセン」 日本の漁港で発生した廃棄漁網由来の素材などを採用

ゴールドウインが展開するノルウェー発のマリンウエアブランド「ヘリーハンセン(HELLY HANSEN)」は、「アニエスベー(AGNES B.)」とコラボレーションし海洋問題をテーマに据えた日本限定コレクションを発売した。両ブランドがタッグを組むのは初。モリトアパレルが開発した廃棄漁網を原料にしたリサイクルナイロン「ミューロン(MURON)」や、東南アジア沿岸に漂着した廃棄ペットボトル由来のポリエステルなどを用いたユニセックスアイテム10型とキッズアイテム8型で、「アニエスベー」の一部直営店と公式オンラインストア、「ヘリーハンセン」の店舗および、公式オンラインストアで販売中だ。

コラボは「ヘリーハンセン」側からオファーした。企画を担当したゴールドウインの井上翔太・グローバルブランド事業本部・ヘリーハンセン事業部・企画グループMDは、「私たちは水資源を守る活動や海洋ゴミを原料とするリサイクル素材の採用などを進めてきたが、アウトドアブランドとしての立場からは届けられる人に限りがあると感じていた。より多くの人に海洋問題に関心を持ってもらうためには、ファッションの力が必要。アニエスほど、『海が好き』というメッセージをストレートに発信できるデザイナーはいない」とオファーに至った経緯を話す。デザイナーのアニエス・トゥルブレは海を愛し、2003年には海洋に特化した公益財団法人タラ オセアン財団を立ち上げ、海洋探査船タラ号とその活動をサポートしているという背景がある。

日本で回収した漁網素材を初めて製品化

注目は日本の漁港で回収された廃棄漁網を100%使用したリサイクルナイロン「ミューロン」を使ったアイテム群だ。同素材が製品化されるのは本コレクションが初。井上担当は、「トレーサビリティーの取れた素材で、お客さまによりストーリー性を感じてもらえると考えた」と話す。

「ミューロン」は廃棄漁網をケミカルリサイクルしバージンと同等の品質と安定性を持つ。コレクションに登場するウィンドブレーカーは、「ミューロン」と紡績工程で発生するナイロンの落ち綿を再生したリサイクルナイロンを高密度で打ち込んでハリ感のある風合いを実現した。内側には、アニエス自身が撮影した海の写真と“j’aime la mer! (海が好き!)”のメッセージを添えた特別ネームを配した。ウィンドブレーカーはキッズサイズも用意し「親子で着用していただき、一緒に海に出かけたり、次世代にこのテーマを伝えてもらえたりしたらうれしい」と井上担当。

「アニエスべー」らしいボーダーTシャツには、東南アジアに漂着したペットボトルを原料としたリサイクルポリエステルを使用している。これは「日本からでた海洋ゴミは東南アジアに漂着することが多いと知り、採用を決めた」という。

「ヘリーハンセン」渋谷店では、廃棄漁網を使ったディスプレーでもコレクションのストーリーを表現している。また「アニエスべー」渋谷店では1月30日まで、『j’aime la mer!(海が好き!)』をテーマにした写真展を開催中だ。

27日にはゴールドウイン本社で、モリトアパレルの担当者を招いて漁網のリサイクルを体験するワークショップを開催し社内理解を促した。井上担当は、「一度きりの発信では伝えきれない問題だ。継続的に取り組んでいきたい」と展望を語る。

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「アシックス」が自動車用レザーを再利用したシューズを発売 豊田合成と協業

「アシックス スポーツスタイル(ASICS SPORTSTYLE)」は、自動車部品メーカーの豊田合成と協業し、同社が自動車のハンドルに使用している自動車用レザーの端革を再利用したシューズ“スカイハンド オージー(SKYHAND OG)”(1万5400円)を、2月1日に発売する。サイズ展開は22.5〜29.5(0.5cm刻み)、30.5、31.0cmで、「アシックス」フラッグシップ原宿、大阪心斎橋、オンラインストアで販売する。

同シューズは、1990年代に販売していたハンドボールシューズ“スカイハンド”をベースに、当時のデザインDNAを受け継ぎながら、スリムなコートシルエットを現代的な履き心地にアップデートした。アッパーはブラックで、サイドとかかと部、ベロ部に豊田合成の端革で作ったスエードとスムースレザーを採用。これらの材料は、メインアッパーの50%以上を占めている。さらにステッチやミシン目など、自動車のハンドルからインスパイアしたディテールを各所に取り入れた。

「アシックス」が豊田合成と協業したシューズは、2023年1月発売の、廃棄を予定していたエアバッグの生地を再利用した“ゲルソノマ フィフティーンフィフティ(GEL-SONOMA 15-50)”に続く第2弾だ。

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