アメリカのインディー・ミュージック・シーンでは近年、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(My Bloody Valentine)やスロウダイヴ(Slowdive)にルーツをさかのぼる「シューゲイザー」の新たな担い手たちが再び台頭を見せている。その筆頭にも挙げられるバンドがこのホットラインTNT(Hotline TNT)で、現在は元ザ・ホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトが運営するレーベル〈Third Man〉に所属するニューヨークの4人組だ。
フロントマンのウィル・アンダーソン(ボーカル/ギター)を中心につくり上げるサウンドは、ノイジーだがメロディアスでフックの効いた音響的没入感が魅力で、シューゲイザーはもちろん、ハードコアやエモ、フォークからアンビエントまで幅広い音楽的バックグラウンドをその内側にうかがわせる。2年前にリリースした2作目「Cartwheel」は多くのメディアでその年のベスト・アルバムの候補に選ばれるなど、批評的に大きな成功を収めたことも記憶に新しい。
そんなホットラインTNTが、3作目となるニュー・アルバム「Raspberry Moon」を完成させた。初の本格的なバンド・レコーディングとなった今作は、前作「Cartwheel」後に再編されたメンバーで練り上げた演奏に加えて、リズムのアプローチや音響的なプロダクションの面で大きな変化と前進をうかがわせるのが特徴だ。特にリッチな音像で奥行きを増したサウンドスケープは、「シューゲイザー」のテンプレートを超えて“録音芸術”とでも呼びたい洗練された感触を与えるに違いない。「初めて、本当の意味で“バンド”になったと思ってる」——そう語るウィル以下、ラッキー・ハンター(ギター)、ヘイリン・トランメル(ベース)、マイク・ラルストン(ドラム)のメンバー全員に、3月の来日公演のステージ直前、話を聞いた。
メンバーが影響を受けた音楽
——ホットラインTNTはどんな感じで始まったんですか。
ウィル・アンダーソン(以下、ウィル):正直なところ、最初から明確なビジョンがあったわけじゃないんだ。ただ、アートや音楽をつくり続けたいっていう気持ちだけはずっと強くあって。それにぴったりの仲間を見つけるのには時間がかかったけど、何年もかけて、1人また1人と、少しずつメンバーが揃っていった感じだね。今では、全員がしっかりと共通のビジョンを持って活動できていると感じているよ。確かに最初に動き出したのは僕だったかもしれないけど、でも、ホットラインTNTがバンドとして一つにまとまったと感じられたのは、昨年、今の4人が揃ってからだった。そこから初めて、本当の意味で“バンド”になったと思ってる。
——ウィルも含めてメンバーはそれぞれ、ホットラインTNTの前からさまざまなバンドで活動してきた経歴がありますが、音楽的なバックボーンという点ではどうでしょうか。
ラッキー・ハンター(以下、ラッキー):影響を受けた音楽はほんと幅広くて、ヒップホップやラップもあれば、パワーポップもある。よく「シューゲイザーっぽいね」って言われるけど、実際にはちょっと違ってて。影響としてはハードコア・パンクとか、僕たちが長年聴いて育ってきた音楽の方が近いと思う。そういう意味では、ダイナソーJr.やハスカー・ドゥなんかは、自分にとって特に大きな存在だったと思う。
ヘイリン・トランメル(以下、ヘイリン):僕とウィルは、1990年代のオルタナティブ・ロックっていう点で強く共通してるんだ。例えば、映画の「ジム・キャリーはMr.ダマー」(94年)のサウンドトラックみたいな感じとか(笑)。
マイク・ラルストン(以下、マイク):そういえば、僕がこのバンドに入るのを決めた理由の一つが、「Protocol」(前作「Cartwheel」収録)のミックス音源を聴いたことだった。あの曲の最後の方で「うわ、これティーンエイジ・ファンクラブっぽいな!」って思って、それをウィルに言ったら、彼も「……だよね?」って(笑)。
ウィル:あれは大きかったかも(笑)。でも実際のところ、僕たちが影響を受けてるのは、そういうバンドのサウンドそのものというよりも、むしろそのエートス(姿勢)やエネルギーなんだと思う。彼らが音楽を通じて世界に放っていたスピリット——僕たちはその“聖火”を受け継いで、自分たちなりのひねりを加えて表現していこうとしてるんだよ。
シューゲイザーとTikTok
——ホットラインTNTは“シューゲイザー・リバイバル”の文脈で語られることが多いと思いますが、そのことについては正直どう感じていますか。
ラッキー:正直なところ?(笑) まあ、僕たちとしては「シューゲイザー」と呼ばれること自体に特に否定的な感情はないよ。だって、その手の音楽には本当にいいものもあるし、実際、同じようにカテゴライズされている仲間たちの中にも素晴らしい音楽をつくっている人たちがいるからね。でも、テクニカルな意味で言えば、自分たちがいわゆる“シューゲイザー・バンド”だとはあまり思ってない。例えば、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインやスロウダイヴのような“パイオニア”と比べてみても、彼らのようには聴こえないと思うんだ。だから「シューゲイザー」という言葉が、僕たちを正確に表しているかというと……ちょっと違うかなって。
ウィル:今“パイオニア”って言葉が出たけど、もし人々が僕たちのことを「シューゲイザー」と呼ぶなら、それはそれでいい。でも僕たちは、そのジャンルの定義をもっと遠くまで押し広げたいと思ってる。つまり、従来のシューゲイザーの枠に収まらないような曲を書いていくってこと。それに……ちょっと変な話だけど、僕たちの音楽における指針の一つって、“耳に残る”ことなんだ。でもそれって、いわゆる“シューゲイザー像”とは真逆かもしれない。
マイク:僕たちのサウンドには確かに、“ラウドなギター”とか“ドリーミーな雰囲気”みたいな要素があると思う。でも同時に、ボーカルの音量がちょっと大きめにミックスされてるんだよね。いわゆるトラディショナルなシューゲイザーとはそこが違うと思う。というか、アルバムを出すたびに、ボーカルのミックスが少しずつ大きくなってきてる気がするよ(笑)。
——一方で、若い世代にとって「シューゲイザー」は、TikTokなどを通じてギター・ミュージックを発見する入り口にもなっていますよね。
ウィル:そうだね。とてもポジティブなことだと思う。僕たちは何でもウェルカムだよ。昔ながらの手づくりファンジンも好きだし、TikTokも好き。音楽やアートに夢中になってる人たちの熱が広がっていくなら、それがどんな形であれ素晴らしいことだと思うよ。
ラッキー:TikTokって、今の若い子たちが音楽に触れる大きなツールになってるよね。実際、僕の友だちのバンドがTikTokをきっかけにすごく注目されて、それまでの何倍もの大きなオーディエンスに届くようになったのを見てきた。だから、それはクールなことだと思うんだ。誰かが音楽と出会えるなら、それでいいじゃん、って。
ウィル:まあ、同時に、TikTokが日常生活とかメンタルに悪影響を及ぼすことがあるっていうのも、身近な人を見ていて感じる部分もあるけどね。でも、ギター・ミュージックに興味を持ってくれる人が増えているなら、それは間違いなく良い方向に進んでるってことだと思う。
マイブラとスマパン
——ところで、ウィルは交換留学生としてヒマラヤ山脈の麓にある学校に通っていたころ、通学の電車で聴いたマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの「Loveless」に衝撃を受けたことが自身の音楽的な基盤をつくった、と記事で読んだのですが。
ウィル:あのころは本当に孤独で、すごく不安だったんだ。15歳で、自分が何に足を踏み入れようとしているのかもよく分かってなくて。そんなとき、「Rolling Stone」誌で「死ぬまでに聴くべき100枚のアルバム」みたいな記事を読んだんだ。その中の1枚に――タイトルだったのか、アートワークだったのか――とにかくすごく惹かれて、「これ、聴いてみたい!」って思ったんだ。それでアマゾンでCDを注文して、インドの自分の家まで届いてさ(笑)。他のみんながどうだったかは分からないけど、自分にとっては、そのアルバムを初めて聴いた瞬間、頭の中で何かがぐにゃっと曲がったような感覚があって。「これが何なのか全然分かんないけど、でも好きだ。もっと聴きたい!」ってなった。自分にとっては、それが全ての始まりだった気がする。
マイク:僕が「Loveless」を初めて聴いたのは、実家で芝刈りしてたときだった。オーバーイヤーのヘッドホンを着けて、草を刈りながら聴いてたんだけど……正直、最初は全然理解できなかった。でも、なぜか惹かれるものがあって。繰り返し聴くうちに、少しずつ分かるようになって、どんどんのめり込んでいったんだよね。
——ええ。
ラッキー:僕が「Loveless」を初めて聴いたのは暑い車の中で、州外への旅行からの帰り道でCDを再生した瞬間、まるで毛布に包まれたみたいな感覚だった。安心感があって、心がふわっと落ち着いて。音はすごく大きくて、全身に音が降りかかってくるような力強さがあるのに、同時にすごく柔らかくて繊細でもあって。あの感覚は、今でも他のどんなレコードにもないと思うし、たぶん再現できるものでもない。
ヘイリン:アルバムの始まりも最高だよね。スネアの音が鳴って、全部が一気に始まるあの瞬間、思わず目を見開くようなインパクトがある。
ウィル:あの作品には、他のシューゲイザー・バンドが持っていないものがあると思う。このジャンルの最高の要素を全部詰め込んでるというか。それは強いリズムであったり、あの異様なまでのドリーム感だったり……まさに、僕たちが目指しているものなんだよね。世の中には「シューゲイザー」って名前を借りて、そこにいろんなものを放り込もうとするバンドがいるけど、ああいうふうにできる人たちは他にいない。ものすごくラウドで、とてもドリーミーで、でもキャッチーでもあって。今でもふとした瞬間に、あの音が頭の中で鳴ってるんだ。
マイク:たぶん、あの作品には“混沌の中に美しさを求める”っていう姿勢があるんだと思う。人生もそうだよね。美しいものって、常に目の前にあるわけじゃない。ちゃんと探さないと見つからない。
——ちなみに、最近のライブではスマッシング・パンプキンズの「Quiet」のカバーをよくやってますよね。スマパンも特別なバンドだったりしますか。
マイク:僕個人としては、同じドラマーとしてジミー・チェンバレンがすごく好きなんだ。ジャズが好きで、彼にはそういうバックグラウンドもあるからね。彼はロックとジャズのスタイルを見事に融合させたドラマーの一人だと思う。それに、90年代に子供だった僕たちにとって、スマッシング・パンプキンズの曲って避けて通れないものなんだよ。人生のどこかに必ず染みついているというか。
ウィル:正直に言うと、僕はあまり好きじゃないんだよね(笑)。4つか5つ、最高のリフはあると思うけど、それ以外はあんまり響かない。でも、「Quiet」を演奏すれば絶対に盛り上がるっていうのは、最初から分かってた。あれはオリヴィア(・ガーナー、元ギター/ベース)のアイデアだったんだ。「あなたの声のレンジに合ってるし、きっとバッチリはまると思う」って言ってくれて。その通りだったし、彼女は正しかったよ。演奏してて楽しいし、うん、すごくいい曲だと思うよ。
転機となった
セカンド・アルバム「Cartwheel」
——2年前にリリースされたセカンド・アルバム「Cartwheel」はブレイクスルーのきっかけとなった作品ですが、振り返っていかがですか。
ウィル:間違いなく、バンドにとって決定的な転機だったと思う。ちゃんとしたブッキング・エージェントがついて、初めてマネージャーも雇って、チーム体制が一気に整ったタイミングでもあった。それに、このメンバーたちがアルバムのリリース直前に加わってくれて、全部の歯車が一気に噛み合った感じだったんだ。今振り返っても、ちょっと信じられないというか、まさかこんな反響があるとは思ってなかったから、不思議な気分になるよ。制作してた当時は、それまでの作品と何か大きく違うことをやってる感覚は全然なかったから。「またつくろう。よし、今回もやろう」って、ほんとにいつも通りの気持ちだったんだよね。
——「Cartwheel」が転機となった背景には、ジャック・ホワイトの〈Third Man〉からリリースされたことも大きかったと思います。
ウィル:〈Third Man〉って、確かに豊かな歴史を持ってるレーベルなんだけど、ただ、「今、どれだけ新しいバンドを積極的に世に送り出しているか?」という意味では、そこまでアクティブじゃない印象もあったんだ。むしろジャック・ホワイト周辺の作品やリイシューに特化してるレーベル、というイメージが強かったから。もちろん僕たちもジャックの音楽にはすごくリスペクトがある。でも、その〈Third Man〉から新しいバンドとして出るっていうことが、世間的にどう受け取られるのか……それは少し読めなかったところがあるんだよね。クールだと思ってもらえるのか、それとも何かズレた選択に見えるのか。でも結果的には、クールなコミュニケーションだっていう反応が多くて、安心したよ。
——ジャック本人とやりとりはあったんですか。
ウィル:うん、ナッシュビルで会ったことがあるよ。でも、彼は僕たちのアルバム制作やプロモーションにはあまり深く関与してない。レーベルのトップとして全体を見てはいるけど、現場の細かいところにはあまり口を出さないスタンスなんだと思う。それでも、僕たち全員で〈Third Man〉に行ったときには、ちゃんと会ってあいさつできたし、とてもクールだった。僕たちの音楽を応援してくれてるっていうのは、そのときの雰囲気からも伝わってきた。実際、ライブにも来てくれたしね。彼はレーベルそのものをすごく誇りに思っているし、アーティストにも“自分の声”を持って、自分のやり方でプロジェクトを進めてほしいと思ってるタイプなんだと思う。あんまり干渉しすぎず、信頼して任せるっていうか。
ラッキー:僕は車の話をしたよ。彼、「フォード」の“ブロンコ”の、90年代の古いモデルを持ってるんだって。それを聞いてテンション上がっちゃってさ(笑)。僕は車が好きで、同じ色のブロンコを買ったんだ。2025年の新しいモデルをね。
ウィル:実はその時、僕の母もたまたまナッシュビルに来てて、〈Third Man〉の見学ツアーに行ってたんだ。僕たちが着く前に、母はジャックと15分くらいお喋りしてたらしくて。で、僕たちがスタジオに着いたら、ジャックが「ああ、君たちか。お母さんから話は聞いたよ」みたいな感じで(笑)。「お母さんに教えてもらえばいいよ。いろいろ知ってるから」って(笑)。
ニュー・アルバム「Raspberry Moon」での新たな試み
——ニュー・アルバムの「Raspberry Moon」ですが、音像がとてもリッチで、“録音芸術”とでも呼びたくなる没入感の深いサウンドスケープに驚かされました。
ラッキー:今回は、スタジオで曲を実験的に仕上げていく準備をして臨んだ。構成をあらかじめざっくり決めていた曲もあれば、スタジオでゼロから書いた曲もあって、その場でどんどんつくり上げていった。ウィル1人で完結していた以前の制作とは違って、今はバンド全体がしっかり機能していて、フル・バンド体制になった強みを活かそうっていう意識があったと思う。普段ならアコースティック・ギターを入れないような曲にも試してみたり、何時間もかけてシンセサイザーやパーカッションを掘り下げてみたりして、バンドのサウンドをどうやって広げていけるかをみんなで模索したんだ。コアな部分はブレさせずに、もっとダイナミックなバンドとしての側面を見せたいっていう意識もあったね。
マイク:サウンド面では、制作環境の影響もすごく大きかったと思う。今回レコーディングしたのは(プロデューサーの)エイモス・ピッチのスタジオなんだけど、彼はもう一生かけて集めてきたような機材や楽器を大量に持っていて、普通のスタジオじゃ絶対に見ないようなものもたくさんあった。そういう環境に身を置いて、曲を書きながらレコーディングもできる自由な空間の中で、目に入るものをどんどん使って曲をつくっていく。そんなオーガニックな流れの中で、自然に音楽が形になっていった感じがするよ。
——曲づくりやサウンド・プロダクションの上でヒントをくれたようなものはありましたか。
マイク:僕のドラムについて言うと、実はエイモスの存在がすごく影響してるんだよね。レコーディング前に、彼が「Cartwheel」のドラムの音について「ちょっとヒップホップっぽくて、ミッドレンジ寄りだね」ってコメントしてくれて、その会話がきっかけでドラムのチューニングを特別に調整したんだ。それに、ライブで使うよりも小さいスティックを使って、もっとナチュラルなトーンが出るように演奏方法も変えた。だから、このレコードにおける自分のプレイは、かなりエイモスの影響を受けてると思う。
ウィル:影響を受けたものを挙げ始めたらキリがないけど、アルバム・タイトルに込めたニュアンスだけでも、いろんな影響が入り交じってるんだ――全部を明かすつもりはないけどね。今回の楽曲に直接関係ないものも含めて、もっと大きな文脈の影響に対するオマージュ的な意味合いもある。
ラッキー:たぶん、メンバーそれぞれが全く違う影響源を持ってるんだと思う。マイクはエイモスやヒップホップ寄りのドラムのアプローチが大きいし、ウィルはティーンエイジ・ファンクラブやメロディックなものの影響を強く受けていると思う。みんな違った引き出しを持ち寄っていて、影響を挙げたら本当に無限に出てくるから、一つに絞るのは難しいね。
——ドラムの話が出ましたが、今回のアルバムでは初めてライブ・ドラムが使われているのもポイントですね。
ウィル:前作の「Cartwheel」やそれ以前の作品は全てプログラムされたコンピューター・ドラムだった。でも、今回は初めて生ドラムでレコーディングしたアルバムで、だからファンにとっても自然に感じられるようにどうスムーズに“移行”するか、すごく考えたよ。つまり、ホットラインTNTらしさは残しつつ、リアルな演奏としても成立するようにね。全く別のバンドに聴こえてしまうのは避けたかったから、そのバランスの“ちょうどいい落としどころ=スウィート・スポット”を見つけたかった。うまくそこにたどりつけていたらうれしいね。
ラッキー:今回のアルバムにはいろんなリズムがある。リズムはすごく重要で、今、同時代で活動してるアーティストたちの中には、すごく“真っすぐ”なリズム・アプローチをとってる人たちが多いと思うんだけど、今回のアルバムではもっとそのあたりを掘り下げてみたかった。楽曲によってはスウィング感があったり、他のシューゲイズ系のバンドとはちょっと違うリズム感が出せたんじゃないかなって思うよ。
——今回のリズムやビートに関して、具体的なリファレンスはありましたか。
マイク:特定のアーティストっていうより、“ドラムに対する考え方”そのものに影響を受けた感じかな。ロック・バンドって、「とにかくデカい音」「派手なフィル」「ソロ」「爆音」みたいなイメージがつきがちだけど、自分はもっとダイナミクスの幅を意識していて、フィルもあまり多用しないようにしてる。あくまで曲に溶け込ませるように叩くことを心がけたつもりんだよね。
それと、たぶんジャズっぽい感覚もどこかにあると思う。ジャズとヒップホップはつながってる部分があるし、そういう感覚も自然と反映されてるかもしれない。エイモスがレコード屋をやってて、彼からジャズのレコード——例えばブロッサム・ディアリーとか――を何枚か買ったことがあるんだけど、そういう会話の流れが演奏の感覚にも影響してる気がする。「これを意識しよう」とかじゃなくて、ただ“感じながら”演奏してたっていうかね。音と音の間の取り方とか、リズムの流れにあるフィーリング。要するに、シンプルに言うなら「グルーヴ」が核になっている。
——一方、ホットラインTNTの持ち味として、アメリカーナと呼ばれるような音楽にも通じるフォーキーでメロディアスなテイストが挙げられると思います。プロデューサーのエイモス・ピッチは、同じウィスコンシン出身のジャスティン・ヴァーノン(ボン・イヴェール)とも関わりがありますが、今回のアルバムではそうした趣向が色濃く増しているようにも感じられます。
ウィル:言われた通り、アメリカーナの影響がこのバンドの大きな部分を占めているのは間違いないと思う。実際、僕たちは全員、アメリカ中西部のウィスコンシン出身の“アメリカン・ボーイズ”だし(笑)、今回のアルバムもそのウィスコンシンで録ったしね。ジェイホークスみたいなバンドとか、クラシックなアメリカーナやオルタナ・カントリーの美学――そのあたりは参考にしたところがあったし、間違いなく反映されてると思うよ。
マイク:アメリカには多くの問題があるけれど、音楽は最良のものの一つだと思うんだ。ブルースやジャズから、ザ・バンドみたいなアーティストに至るまでね。そういう音楽はやっぱり素晴らしいし、誇りに思えるんだよね。で、そういう音楽は全部どこかでつながってる。例えばリヴォン・ヘルム(ザ・バンド)のドラムの叩き方なんて、あのスウィング感とかフィーリングは、今聴くと“ヒップホップっぽい”って言ってもいいくらいなんじゃないかな。
ラッキー:僕たちの国には、そうした豊かな音楽の財産がある。それを活かさないなんて、もったいないよね。テネシーの音楽も、〈Third Man〉も、ビッグ・スターも、全部が“物語”の一部なとしてつながっているんだよ。
アンビエント・ミュージックの影響
——併せて、今回のアルバムでも際立つホットラインTNTのサウンドスケープには、いわゆるアンビエントやニューエイジ系のエレクトロニック・ミュージックとのつながりや影響も感じられます。
ラッキー:自分にとって、アンビエント・ミュージックは日々の生活に欠かせない存在なんだよね。ブライアン・イーノやノース・アメリカンズ、ミック・ターナーとか、いろんなアンビエント系の音楽を聴いてるよ。それに「Music for Nine Post Cards」とか、ああいう日本のアンビエント/環境音楽も大好きで。特に吉村弘は自分にとって特別な存在だよ。
ウイル:そういうアンビエント・ミュージックって、僕にとってもほとんど“デフォルトの音楽”みたいなところがあるんだよね。仕事をしているときも自然とそうした音楽を流してるし、そういう日常がそのままレコーディングにもにじみ出てる部分もあるんじゃないかな。
ラッキー:僕はレコード屋でも働いてるんだけど、店でよくかけるのがharuka nakamuraなんだ。彼のレコードには、椅子のきしむ音や、誰かがピアノの蓋を開け閉めする音とかが録音されていて、そういう“部屋の音”が聴こえるのがすごくいいなって思う。実際に、今回のレコーディングでも、椅子のきしむ音が録れてるテイクがあって、「ああ、これって“空間の音”まで録れてるんだな」ってちょっとうれしくなったり(笑)。
ウィル:「Letter to Heaven」の最後のコードは、個人的にアルバムのハイライトの一つだと思ってる。あとは「Transition Lens」もそうだね。あの曲のシンセのレイヤーは制作中に何度も試行錯誤したポイントで、エレクトロニック・ミュージックやヒップホップからの影響が確実にあると思う。アルバム全体を通して聴いてもらえば、そうした音の層や構成の工夫がきっと感じられると思うよ。
PHOTOS:MICHI NAKANO
◾️Hotline TNT サードアルバム「Raspberry Moon」
2025年6月20日に輸入盤・配信リリース
Tracklist
1. Was I Wrong?
2. Transition Lens
3. The Scene
4. Julia’s War
5. Letter to Heaven
6. Break Right
7. If Time Flies
8. Candle
9. Dance the Night Away
10. Lawnmower
11. Where U Been?
https://ffm.to/hotlinetntraspberrymoon
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