切手代が大幅値上げ!郵便料金110円でも出したい「手紙」の書き方とマナーとは?

2024年10月1日、日本の郵便料金が30年ぶりの大幅値上げ。例えば25グラム以下の定形郵便物の料金が84円から110円に、はがきも1枚63円から85円へ。「手紙」が高級なたしなみになりつつある今こそ、知っておきたい手紙の書き方とマナーとは? 手紙文化振興協会の代表理事であるむらかみかずこさんにうかがいました。

 

心を伝えるために。
デジタル時代に「手紙」を選ぶ意味

 

SNSやメール、チャットなどのデジタルツールが浸透する現代。自分の言葉を伝えるツールとして、“あえて、手紙を選ぶとよい理由”とは?

 

「手紙は、スピード重視のやり取りをするチャットと比べると、ゆっくりとしたツールなんです。それは届くスピードがゆっくりというだけではなく、『なんて書こうかな……』と相手のことを自然に想像する、という点でもゆっくりなんですね。例えば、手紙を書こうと思っている相手と先日会ったときに交わした会話を振り返って、『体調を崩し気味だと言っていたな……』と思えば、『その後のご体調はいかがですか?』という言葉が浮かぶかもしれません。
スピード重視のチャットだと、自分で送るときに誤解されるような伝え方をして冷たい印象を感じさせてしまったり、連絡が来たらすぐに返信しなければいけないと考えて、気持ちが焦ったりすることもありますね。
その点、手紙なら、じっくりと相手のことを考えられます。相手を思いながら手紙を書く過程で、頭の中が整理されたり、思考力が磨かれたり、さまざまな言葉が蓄積されたりするメリットがあるんです」(手紙文化振興協会・むらかみかずこさん、以下同)

 

手紙を書くときは、前向きなよい言葉を綴ることが多いため自己肯定感も高まります、とむらかみさんは言います。

 

「手紙に綴る言葉は、例えば『先日はありがとうございました』『ご発展を願っています』『お体をお大事に』など、自然と相手への感謝や成長、幸せを願うものが多いですよね。書くことで『よいことをした』という気持ちも生まれますし、きちんと心を伝えられるのが、手紙のよさだと思います」

 

そして受け取る側にとって「本当にうれしい」と感じさせてくれるのが手紙だといいます。

 

「『字が下手』『文章を書くのが苦手』といった苦手意識から、書くことをためらう人も非常に多いのですが、それはもったいないと思います。というのは、手紙には受け取る側の気持ちを弾ませる内容が数多く盛り込まれているからです。わざわざ送ってくれたこともうれしいし、じつは文章だけではなく、見た目のデザインもうれしさに含まれるんですね。
私たちの脳は、先に文字よりビジュアルに反応します。例えばInstagramであれば、まず写真に目が留まりますね。手紙でも、そこに綴られている言葉以上に『この便箋は、季節にぴったりのデザインだな』『この切手、初めて見た』など、ビジュアルの要素が記憶に残ることもあります。
美文字の教科書にあるような美しい字でなくても、小説のように流暢な文章でなくとも、受け手の心を動かすことはできるのです」

 

送り手にとってよいこと

・思考が整理される、思考力が上がる
・忘れていた感情を思い出せる
・さまざまな言葉が蓄積される
・前向きなよい言葉を綴るため、自己肯定感が上がる
・「よいことをした」という気持ちが生まれる
・きちんと心を伝えられるため、自分のことを理解してもらえる

 

受け手にとってよいこと

・手書きの文字により、あたたかい気持ちが感じられる
・たった1行の文章でも、言葉の重みが伝わる
・“言葉の力”が持続する
・相手のことを思い出せるし、1年後でも読み返せる
・カードでもらうと、部屋に飾っておける

 

「手紙」を書く前に、心に留めたいこと

 

「メールを書くように、手紙を書きましょう」と、むらかみさんは言います。「わざわざ手紙を書いている時点で、十分に礼儀正しく、ていねいな人です。相手も喜んでくれます」

 

便箋やカードを選ぶときの、3つのポイント

“手紙を書いて送ることは、それだけで素晴らしい”。その前提のうえで、基本の紙の選び方や、読みやすい字の書き方をおさえてみましょう。

 

1.季節にちなんだ絵柄

「日本には四季がありますね。例えば、春には桜の花が、夏にはアジサイが咲きます。夏なら海や風鈴、花火などが思い浮かびますし、秋になると紅葉が始まります。冬になれば、クリスマスがありますし、椿が咲いたりもします。そういった季節にちなんだ絵柄を選ぶと、相手の共感を誘うことができます」

 

2.縁起物

「縁起物には、例えば、幸せの四つ葉のクローバーや青い鳥、富士山や招き猫などが挙げられます。縁起のよいものは、受け取る側からすると捨てられないものになるのです。送り手も、まさしく幸運を運ぶ絵柄なので気持ちよく書くことができます」

 

3.趣味にちなんだ絵柄

「受け取る方の趣味をご存じであれば、例えば猫が好きな方には猫の絵柄で、音楽をたしなんでいる方には音符マークの絵柄で送ってみるとよいでしょう。ビジネスシーンでは、相手の趣味を知らない場合もありますが、それでも男性か女性か、企業の偉い方か若い方かを想像すれば、おのずと見合う紙が思い浮かぶのではないでしょうか」

 

紙を選ぶときは、紙質にも気を配ってみましょう。むらかみさんは、同じビジネスの相手でも、社会的地位が高い社長さんには高級かつ上質な紙を選び、気心知れた方にはもう少しカジュアルな紙を選んだりするそうです。

 

紙との相性を考えて、切手を選びましょう

「切手は、紙との相性を考えると、より選びやすくなります。上質な和紙を使う場合は、切手も和テイストが合うし、ポップな印象の便箋を使う場合は、切手も同様のテイストに合わせてみましょう。紙選びと同じように、季節にちなんだ柄、縁起物、趣味に関する柄は使いやすいと思いますが、さまざまな切手があるので、気に入ったものを選ぶとよいでしょう」

 

封書を選ぶと、礼儀正しい印象につながります

「はがきより封書を選ぶと、相手により深い敬意を表すことができます。より丁寧に接した方がよい相手や、送り手が受け手より遥かに目下である場合は、封書で送るとよいでしょう。またビジネスシーンであれば、社用封筒に入れて郵送すると、会社の一員としてのやり取りにふさわしいものになります。

 

はがきは紙面が小さいので、短い文章を書くだけでも格好がつきやすくなります。ただし個人情報を書くと、配達の過程で第三者に読まれる可能性があるので注意してください」

 

手紙でも、遊び心を伝えられます

「手紙は、難しい勉強のように思われる方もいるのですが、じつは遊び心を発揮できる要素がたくさんあります。例えば、シールを貼ったり、イラストを添えたり、ハンコを押したり。インクも、季節を想起させる色を選ぶこともできます。手紙に香りをつけることもできるし、工夫できるポイントが幅広くあります。まずは気に入ったペンを1本買うことから、手紙を書く習慣を始めてもよいと思います」

 

文字は、「大きく、太く、青で書く」

「字を書くことに苦手意識がある人ほど、『大きく、太く、青で書く』ことをふまえると、読みやすい字が書けます。大きな字は、相手にとっての読みやすさにつながります。大きな字で書くために、太字のペンを選びましょう。すると字が潰れないように、自然と大きな字が書けます。手紙は“気持ちを伝えるツール”なので、太い字の方が、元気のよさや若々しさ、爽やかさなどのポジティブな印象につながりやすいですね。
青で書くのも大きなポイントになります。よく『黒ではないのですか?』と聞かれますが、手書きの手紙は、書類とは違うので……気持ちを伝えるという意味では、黒色より明るい青色の方が、元気な印象を残すことにつなげられます。
青にもいろいろありますね。例えばすごく鮮やかな青もあれば、シックな紺もありますので、自分が気に入る青色のインクを選んで書くとよいでしょう」

 

多少の誤字脱字は、気にしなくてもかまわないそう。

 

「気の置けない人に手紙を送るのであれば、多少の誤字脱字は気にしなくてもよいでしょう。相手の名前や社名を間違えるのは完全にNGですが、漢字の送り仮名を一文字間違えたくらいなら気にしなくもかまいません。字を書くときに罫線からはみだしたり、多少曲がったりしても問題ありません。それも愛嬌だし、他との違いがついたりしますね。多少の間違いがあっても、もらってうれしいのが手紙です」

 

ビジネスとプライベートの手紙実例

「手紙の書き方は、ビジネスでもプライベートでも相手との関係が変わるだけで、基本的に同じです」と、むらかみさん。さっそく手紙の文例を見てみましょう。

 

ビジネスの手紙文例(契約後のお礼)

 

「相手に貢献したいときや、自分や自社を信頼して欲しいと考えているときに、手書きの手紙は効いてきます。例えば、契約後にお礼の手紙を送ると『契約してよかった』『自分の決断は正解だった』という安心感につながり、その後の関係がよりよくなる効果が期待できます」

 

【ポイント】
・お礼とともに、“やる気や抱負が伝わるひと言”を添えると、ビジネスパーソンとして信頼される人に近づきます。
・文中の「ご期待に添えるよう、最大限、努めてまいります」のほかに、「励みます」「取り組みます」「努力します」「精進します」「がんばります」などの言葉があります。

 

プライベートの手紙文例(出産祝い)

「手紙をカードで送ると形に残り、受け取った相手はお部屋に飾ることもできます。大切な言葉であればあるほど、伝えたい“言葉の力”が持続します。例えば、出産祝いなどで大きな喜びを伝えたい際は、手書きのカード(手紙)をおすすめします。より多くの予算をかけると、それだけで贈り物になる豪華で美しいカードを手に入れられます」

 


【ポイント】
・普段、相手とやり取りしている言葉で書きましょう。手書きであれば、「おめでとう」と大きく書くだけでも、言葉の重みが感じられます。
・手間をかけてカードを選んだり、字を綴ったりする分、伝わる気持ちが大きくなります。

 

「手紙」で心を伝える、3つのポイント

最後に、手紙に込めたい3つの心遣いを教えていただきました。

 

1.相手のことを想像しながら書く

「相手のこととは、相手の顔でもよいし、過去に交わした会話の内容でもよいし、一緒に出かけた場所や、そのときの思い出でもよいです。相手のことを思い浮かべながら書けば、必ず的外れの手紙にはなりません。気持ちが伝わる手紙の、第一歩です」

 

2.等身大の言葉で書く

「等身大の言葉とは、言いかえると“私らしい言葉”ですね。あまり書き慣れない『時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます』のような時候の挨拶を書いてはいけない訳ではありませんが、『いつも大変お世話になっております』で十分だと思います。
学生時代からの友達に書くのであれば、いわゆる敬語ではなく、お互いの話し方と同じ普段通りの言葉を使ってよいと思うんですね。手紙だからといってかしこまる必要はありません」

 

3.思いやりの気持ちを添える

「思いやりという言葉には広い意味がありますが、具体的に言うと、感謝や健康を気遣うこと、相手の幸せやビジネスの発展を願うことが思いやりだと私は思います。思いやりの気持ちを添える箇所は、書き出しの冒頭でも、本文中でも文末でもかまいません」

 

 

「手紙を書くことを難しく考えず、気楽にとらえてください」とむらかみさんは、終始お話されました。普段から相手の好みやエピソードを心に留めておき、手紙の中で、心のこもった言葉やさりげないアイテムで表現してみると、ますますご縁が深まりそうです。ぜひメールを出すように、手書きの手紙を送ってみましょう。

 

 

Profile


手紙文化振興協会 代表理事 / むらかみかずこ

2013年に(社)手紙文化振興協会を設立。手紙の書き方講師の育成に尽力するとともに、自宅で学べる通信講座を開発・販売。企業研修・セミナー、講演、メディアを通して、心が通じる手紙の書き方や、仕事で成果につなげる文章術を広く社会に発信している。著書・監修書多数。
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“美文字”研究第一人者・青山浩之先生が解説する、美文字に効く文房具11選

「文章を書く」となるとスマホやPCでの文字入力がメインとなり、手書きする機会が減った人は多いはず。そこへいざ手書きしてみると、思い通りに書けずに、自分の字が嫌いになって、やがて手書きしたくなくなる……という負のスパイラルに。でも心配はいりません。美しい文字は、いくつかのルールと手書きをサポートする文房具によって手に入れることができるのです。

 

書家であり、「美文字」研究の第一人者である青山浩之先生に、美文字を書く方法を教えていただくとともに、誰でも美文字に近づく文房具を紹介していただきました。この後編では、“自分らしい字”を美しく伸ばすために活用したい文房具を11点リストアップ。

 

“美文字”研究第一人者・青山浩之先生が解説!手書きするときに意識したい美文字ロジックとは?

 

1.サラサラした書き心地が支持される人気ゲルボールペン

ZEBRA 「サラサグランド0.5」
1320円(税込)

「さらさらとしたなめらかな書き心地がクセになります。濃い発色でにじむこともないので手帳にも最適。インクの色にもこだわりがあり、単色の黒ではなく『ブルーブラック』や『ブラウングレー』など、ニュアンスのある色味がシックな印象です」(横浜国立大学教育学部教授・青山浩之さん、以下同)

 

2.線の太さをコントロールしやすい水性サインペン

PILOT「スーパープチ細字」
各110円(税込)

「サインペンは筆圧をコントロールしやすい筆記具です。私がとくに気に入っているのがこの細字タイプ。ペン先がプラスチックでできているのでつぶれにくく、使い始めの書き心地をキープできます。線の強弱をつけやすいのもメリットです」

 

3.軽やかな書き心地と速乾性をもつゲルボールペン

ぺんてる「エナージェル」
253円(税込)

「速乾性があるので、汚れを気にせずに書き進めることができます。濃く、クリアで鮮明な文字もポイントで、一般的な油性ボールペンで気になる文字のかすれも少なく、線の最後までしっかりと筆跡が残ります。色や芯のサイズの選択肢も豊富です」

 

4.トメ・ハネ・ハライを表現できる「ファインライター」

コクヨ「KOKUYO WP ファインライター」
4400円(税込)

「樹脂製のペン先からは微細なスリットを通ってインクが出てくるため、軽く滑らかな書き心地を味わえます。また、チップがわずかにしなるので文字の線の幅を調節しやすく、トメ・ハネ・ハライの表現がしやすいのが魅力です」

 

5.くっきり滑らかな書き心地の水性ボールペン

三菱鉛筆「ユニボール アイ」
165円(税込)

「一定の濃さでくっきりと書けるのが特徴の水性ボールペンです。ペン先にステンレス製のチップを用いており、軽く書いてもしっかりとした筆跡を残せます。軸の部分に透明な窓があり、インクの残量が確認できる点も安心です」

 

6.万年筆で美文字を目指す人にとって手に取りやすい万年筆

PILOT「カクノ」
1100円(税込)

「初めての万年筆におすすめの一本。1000円と手に取りやすい価格でありながら書き味もほどよく、バランスの取れたアイテムです」

 

7.ずっとトガった芯で書き続けられるシャープペンシル

三菱鉛筆「クルトガ メタル 0.5mm ファントムグレー」
2750円(税込)

「書くたびに芯が少しずつ回転するので、細くくっきりとした文字を書き続けることがでできます。ペンを握る部分には細やかな引き目が多く施されており、とても握りやすいです。安定した書き心地で一定の太さの線を書くことができるのも、ポイントですね」

 

8.クッションで筆圧をコントロールする下敷き

共栄プラスチック「硬筆用ソフト透明下敷A4判」
407円(税込)

「筆圧をコントロールするには、受けとめる側の環境を整えることも大事です。厚手でありながら柔らかなオレフィン系樹脂素材でできているこちらの下敷きは、紙とペンの相性を選ぶことなく美文字を実現してくれます」

 

9.2種類の硬さでペン先を受けとめる下敷き

テリュー「至高の書き心地を、どこでも。ソフト/ハードを選んで使えるデスクマット付き下敷き」
A5:2200円、B6:1870円(ともに税込)

「“デスクマットの柔らかさ”と“下敷きの硬さ”を両面で備えた下敷きです。ペンの種類に合わせて硬さを選んで、心地よく書くことができます。デスクマットの内側にはポケットがついており、吸い取り紙リフィルを挟んだり、ハガキやシール等の収納に利用することも」

 

10.人気ブランドによる左利きユーザーのための万年筆

LAMY「公式オンライン限定 LAMY safari 左利きのための万年筆 」
5500円(税込)

「一般的な万年筆は右利きを基準に作られているので、これまで、左利きの人は万年筆を諦めがちでした。満を持して登場したのが、ラミー社の左利き用の万年筆です。左利きの方にもぜひ万年筆の書き心地を体験していただきたいですね」

 

11.青山先生監修の練習帳とセットで美文字を叶えるボールペン

ZEBRA「bimore」
1100円(税込)

「しなるペン先を搭載したビモアボールペンと、ビモア練習帳がセットになっています。ビモア練習帳には、わたしが直接指南する動画のQRコードがついており、スマホで簡単に筆圧コントロールの感覚を学べます。1日3分、7日間の練習をするだけで見違えるほどあなたらしい美しい文字になっていきますよ」

 

「ピタカクピト」や隙間均等法などのルールを意識すること、筆圧をコントロールできる文房具選びをすることが、美文字への第一歩。自分らしい美文字を叶えられれば、書くことが今一度身近に、そして楽しくなるはず。まずはお気に入りの文房具を手に入れて、紙と向き合ってみませんか。

 

Profile

美文字研究家 / 青山 浩之
横浜国立大学教育学部教授。書家。全国大学書写書道教育学会常任理事。美文字を提唱する第一人者として、手書き文字の表現方法やスキルをわかりやすく解説し、書写や書道の魅力を広げている。メディアに数多く出演するほか、『“きれいな字”の絶対ルール』(日経BP)や『万年筆で極める美文字』(実務教育出版)など著書多数。
Instagram

『“きれいな字”の絶対ルール』青山浩之 著(日経BP)

“美文字”研究第一人者・青山浩之先生が解説!手書きするときに意識したい美文字ロジックとは?

「文章を書く」となるとスマホやPCでの文字入力がメインとなり、手書きする機会が減った人は多いはず。そこへいざ手書きしてみると、思い通りに書けずに、自分の字が嫌いになって、やがて手書きしたくなくなる……という負のスパイラルに。でも心配はいりません。美しい文字は、いくつかのルールと手書きをサポートする文房具によって手に入れることができるのです。

 

書家であり、「美文字」研究の第一人者である青山浩之先生に、美文字を書く基本的なロジックを教えていただきました。また後編では、誰でも美文字に近づく文房具を紹介していただきます。

 

“美文字”研究第一人者・青山浩之先生が解説する、美文字に効く文房具11選

 

デジタル社会を生きる現代人は
今どんな手書き文字を書いている?

はじめに、デジタル機器を活用するシーンが増えている現代人の手書き文字にはどのような特徴がありますか?

 

「子どもの頃、私たちは紙と鉛筆を使った学習を通して文字を習ってきました。しかし社会人になるとパソコンなどデジタルを用いた仕事が多くなります。そうなってくると、手で書くという行為自体が習慣として減り、書く動作がぎこちなくなっていきます」(横浜国立大学教育学部教授・青山浩之さん、以下同)

 

例えば、下記のようなもの。いわゆる“雑な字”と言われているものです。

 

・書くときに線を止めるべきところで止めていない
・しっかりと止まってから折るべきところでも丸く書いてしまう
・線と線がくっついていないといけない箇所がちゃんとついていない

 

「このように、文字を書くための具体的な知識と意識がデジタル化の進んだ現代では薄らいでいっていますし、ペンの持ち方などもどこか不慣れな様子になりがちです」

 

また、デジタル文字に影響を受けてしまうこともあるそう。

 

「手書き文字というのは、止めたり、はねたり、はらったりして次の画にいく動作を繰り返し行う一連の流れで文字を表記します。一方、活字というのはさまざまな書体がありますが、書くことよりも読むことを重視した形となっています。
デジタルの文字になぞらえて手書きの文字を書こうとすれば、書きやすさベースと読みやすさベースの違いから矛盾が生じてしまい、余計に「雑な字」になりやすいのです。
文字の進化は書きやすさと読みやすさ両方の側面から進み、文字を扱う人間の経験と習慣の中で変容してきました。デジタル文字が多くなった現代では、書きやすさを大切にする意識が減ってきています」

 

美文字研究の第一人者が考える美しい字の定義とは?

では、青山先生の考える“美しい文字”とは、どのような文字なのでしょうか?

 

「美文字と言うと、みなさんはお手本のようにきれいな字を想像するのではないでしょうか? しかし、私の考える美文字とは、まず『その人らしい文字であること』。そして、その文字が読む人にとって読みやすいことも大切であると考えます。読みやすいということは読み手にとって心地よい文字であるということです。
文字というのは、その人のもともと備わっている感覚だけで書くものではなく、理屈で書くものです。美しい文字を書くためのルールに従って理屈で書く文字は、おのずと読みやすい文字になります」(美文字研究家・書家 青山浩之先生、以下同)

 

「ピタカクピト」を意識!
青山先生の美文字メソッド

自分の字を好きになり、手書きに臆さないようになるためにはどのような点に気をつけて文字を書けばいいのでしょうか?

 

「美文字になるということはつまり、自分の字をよい意味で自覚できることです。理屈を知れば、ていねいで形の整った文字を書くことは誰でもできるようになります。私はとくに次の2つを意識することをお伝えしています」

 

1.ピタカクピトを意識する

・「ピタ」
横画の終筆をピタッと止める。横画の最後を書き流すと乱雑な字に見えてしまいます。

横画の終筆をしっかりと止めて終わる。

 

・「カク」
線を折るところではカクッと折る。角が丸くなっている文字は幼く見えてしまいます。

折れ曲がる線は一度止めてから曲げる。

 

・「ピト」
他の線とくっつくところはピトッとつける。バラバラに見える文字は落ち着きが感じられません。

線と線が接する箇所は意識してつける。

 

2.隙間均等法を意識する

「線と線の間にできる隙間を均等にするように意識します。隣り合う隙間が均等であれば格段に読みやすくなります。人は文字を見るときに線を見ていると思いがちですが、実はその間の空間も見て判断しています。それらがバラバラであると読みにくさを感じてしまいます」

線と線との間のスペースは均等な間隔になるように意識する。

 

「これらを意識するだけでも、読みやすくていねいに見える文字となります。人から自分の書いた文字を褒めてもらえれば成功体験となり、さらに書いてみようという好循環が生まれます」

 

また「美文字には文房具選びもとても大切」と青山先生は語ります。

 

「筆圧をコントロールすることも美文字には欠かせません。そこで『しなるペン先』を搭載したボールペンを監修しました。筆圧をかける部分と抜く部分は従来のボールペンでは難しいのですが、こちらのしなるボールペン『ビモアボールペン』であれば、メリハリのある美しい文字を書くことができます。
自分の字に自信がつき、文字を書くことが好きになるきっかけにしてもらえたらうれしいです」

ZEBRA 「bimore」1100円(税込)

青山先生監修の練習帳とセットで美文字を叶えるボールペン。

 

「しなるペン先を搭載したビモアボールペンと、ビモア練習帳がセットになっています。ビモア練習帳には、わたしが直接指南する動画のQRコードがついており、スマホで簡単に筆圧コントロールの感覚を学ぶことができます。1日3分、7日間の練習をするだけで見違えるほどあなたらしい美しい文字になっていきます」

 

スマホとbimoreボールペンと専用練習帳があればどこでも簡単に練習ができます。(※写真提供=ゼブラ株式会社)

 

bimoreユーザーの文字を青山先生が添削。(※写真提供=ゼブラ株式会社)

 

このほか、後編では青山先生がお勧めする“美文字に効く”文房具を紹介します。

 

“美文字”研究第一人者・青山浩之先生が解説する、美文字に効く文房具11選

 

 

Profile

美文字研究家 / 青山 浩之

横浜国立大学教育学部教授。書家。全国大学書写書道教育学会常任理事。美文字を提唱する第一人者として、手書き文字の表現方法やスキルをわかりやすく解説し、書写や書道の魅力を広げている。メディアに数多く出演するほか、『“きれいな字”の絶対ルール』(日経BP)や『万年筆で極める美文字』(実務教育出版)など著書多数。
Instagram

『“きれいな字”の絶対ルール』青山浩之 著(日経BP)

 

美文字はビジネスマナー! 書道家が教える美文字の三原則とは?

デジタルガジェットの普及によって、手書きの機会が減った人は多いでしょう。仕事のやりとりはメールやSNS、チャットで済ませる人が大半のはず。ところがコロナ禍をきっかけに、再び「手書き」が見直されているといいます。「美文字」の書き方を著書やメディア出演で伝えている書道家の涼風花さんに、その第一歩となる基本的なコツを教えていただきました。

 

コロナ禍で手書きの需要が増した理由

書道家で、美文字の書き方を教えることもある涼風花さん。コロナ禍以降、「上手な字を書きたい」という声が増えていることを感じるといいます。

 

「理由の一つは、人と会う機会が減ったせいで、手紙のやりとりをすることが増えたことです。年賀状の需要も増えていますよね」(書道家・涼 風花さん、以下同)

書道家の涼 風花さん。

 

ところが、ビジネスパーソンが手書きを学ぶべき理由はそれだけではありません。ビジネスシーンでも手書きのメリットは少なくないとか。

 

「付箋やメモを使って、手書きで連絡をすることがありますよね。手書きの文字は頭に入りやすく、強い印象を与えるんです。PCで打った資料でも、一言だけ『がんばりましょう』と手書きのメッセージがあると、受ける印象がずいぶん変わります」

 

会えない人とのつながりを保つだけではなく、頭にすっと入り、相手に強い印象を与えられる。そんな手書き文字ですが、苦手意識がある人も多いはず。いったいどうすれば字は上達するのでしょうか?

 

まずは自分に合ったペン選びから! 涼風花さん愛用のペン4選

まずはペン選び。とくに「文字が綺麗に書ける」ペンがあるわけではないといいます。でもやっぱり、ペンにこだわることは大事です。

 

「好きなペン、気に入ったペンを使うことが大切です。というのも、ペンが合っていないと、字が上手に書けないことをペンのせいにしがちだからです。それでは上達しません」

その上であえて付け加えると、にじみにくい油性ボールペンかゲルインクボールペンで、太さは0.5mm~0.8mm程度がおすすめだそう。

 

「あまり細いとペン先がカリカリしてしまいますが、太すぎると字が真っ黒になり、読みづらい。ほどほどの太さがいいと思います」

 

肘を支点にすれば美しい線が引ける

続いてペンの持ち方。綺麗な線を引くコツは、「肘(ひじ)を支点にする」ことだといいます。

 

「手首を支点にしてペンを動かすと、まっすぐな線が引けません。肘を支点にして、腕を大胆に動かしてみてください」

↑ペンを自然な姿勢で握ります。親指と人差し指でペンを挟み、中指でしっかりと支えます。右は指が巻き込まれ不安定な状態。

 

↑手首ではなく肘を支点に前後に動かすイメージで筆記を。右のように手首を細かく動かしてしまうのはNGで、線が安定せず、綺麗な字にはならないのだそう。

 

コツは3つだけ!「美文字」の基本構造

実は、美文字のコツは大きく分けると3つだけ! それが、「線を等間隔に引くこと」と、「全体として右上がるにすること」そして「右下に重心を置くこと」です。

 

1.並ぶ線は“等間隔”にする

「複数の線がある字なら、字の間の間隔を等しくするだけで美しく見えます」。たしかに、等間隔で線が並んでいると、ぱっと見でも綺麗に見えます。「山」のように横線が並ぶ字も、「間」のように多くの横線がある字でも同じです。

↑縦線が3本並んだ「川」の字。線の間にある2つのスペースを等間隔にするだけで綺麗に見えます。

 

2.横線も横に並ぶ縦線も“右上がり”に

二つ目のコツは、文字を全体として右上がりにすること。横線はもちろん、「川」の字のように縦線が並ぶ字でも、右に位置する線ほど、始点の位置を少しずつ上げていきます。

↑水平な線は、右上がりが基本。これだけで美しい印象になります。

 

↑縦線が並ぶ「川」ですが、始点の位置が右に行くほど高くなっています。

 

3.字は右下に「重み」を加える

「等間隔」と「右上がり」に加え、右下に重心を置くことが美文字のポイント。たとえば水平の線なら、右上がりに引いた後、最後を少しだけ水平に「伏せる」ことで右下に重みが加わり、落ち着きが出ます。

↑線は基本通り右上がりになっているが、右下に行くほど、線を強く伏せていることがわかります。また、右下の払いも長め。すると、字の右下に重さが加わり字全体のバランスがとれるのです。

 

+αのコツ 文字の中に余白を作る

「等間隔」と「右上がり」「右下に重心」が美文字の三原則ですが、細かいコツは他にも。たとえば、文字を一つのボックスとして見たときに、一部にあえて余白を作ると、すっきりと美しく見えるのだそう。

↑等間隔・右上がりの原則を守っているのはもちろんですが、真ん中の横線が微妙に途切れている点に注目。ここに余白を設けることで、字が重ったるくならないのです。

 

↑線を右上がりにしつつ、二か所に余白を作ることで、全体として右下に重心が来るようにしています。

 

個性こそが手書き文字の魅力!

細かい技法は無数にありますが、紹介した3つのコツを抑えるだけで、字は驚くほど綺麗になると涼さんは話します。

 

「手書きの文字の魅力は、個性でもあります。活字のように皆が同じ字を書いても面白くありません。それよりは、お伝えした3つのコツを抑えた上で、好きな筆記具で、好きなように字を書いてみてください」

 

【プロフィール】

書道家 / 涼 風花(りょう・ふうか)

栃木県日光市生まれ。7歳から書道を始め、14歳で書道師範、硬筆資格も取得。2017年のNHK大河ドラマ『直虎』や翌年の『西郷どん』で書道指導を行う。著書に『手紙・はがき美文字練習帖』(マイナビ出版)がある。大王製紙「elis」や日本ゲートウェイ「レヴール」、栃木県参議院選挙など自身もCM出演多数。

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書き味はペンと紙の組み合わせ次第! コクヨ「ペルパネプ」で「手書き」の妙味を体感できる

【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】

文房具をこよなく愛す、放送作家の古川耕氏による連載。「手書き」をテーマとし、デジタル時代の今だからこそ見直される“手書きツール”を、1点ずつピックアップしている。第11回となる今回は?

 

第11話

コクヨ
ペルパネプ
ペン:143円〜440円(税込)、ノートブック:各990円(税込)

ツルツル、サラサラ、ザラザラの3種類の手触りのノートと、書き心地の異なる3タイプのペンを揃えるシリーズ。ノートはA5サイズだが、開いたときに中央に段差ができにくいフラット製本のため、A4サイズの面としても使える。罫線は3mm方眼や4mm方眼ドットなど全5種類。

 

ペンと紙の相性を趣旨に、デザイン性も妥協なし

ペン好きなら一度は必ず通る「ノート道」。お気に入りのペンに出会ったとき、ではそのポテンシャルを最も引き出せるのはどの紙なのか? それを知りたくなるのは当然の心情と言えましょう。結果、家には書きかけのノートが山積みに。あるいは良い感じのノートや手帳と出会ったとき、その紙にいちばん相応しい筆記具を見つけるべく手元のペンを取っかえ引っかえ、なんて人も多いと思います。

 

そうしたペンと紙の相性に焦点を当てたのが、コクヨの新ブランド「ペルパネプ」。同社が誇る製紙技術で作った質感の異なる3種類のノートと、ゼブラのゲルボールペン「サラサ」、プラチナ万年筆の簡易万年筆「プレピー」、そして自社の極細サインペン「ファインライター」という3本を、白を基調にリデザインしてトータルコーディネート。これは言わば、モノ単体を売っているのではなく、「紙とペンの組み合わせを考えるのって楽しいよね」という概念を売っている、もしくは筆記という行為の解像度を高めるための学習キットとでも言えるでしょう。

 

さらに思わぬ副産物も。それは白いボディで統一された各ペンの見栄えの良さ。どうにも安っぽさが否めない(これは決して悪いことではない)サラサやプレピーのシルエットが、こんなに美しいだなんて、透明軸のときには気づかなかった。コンセプトありきで終わらない、見た目にも使い心地にも配慮が行き届いた、極めて“地肩”の強いプロダクトです。

 

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