犬の帰巣本能を描いた小説に胸が熱くなる−−『名犬ベラの650kmの帰宅』

帰巣本能とは、動物が遠く離れた場所からでも自分の巣に戻ることができる能力。犬の場合は優れた嗅覚により、風に乗って運ばれてくる匂いを感じ取り、方向を間違えることなく自分の巣、つまり飼い主の元に戻って来られるのだという。実際に愛犬が何か月も、何年もかけて長い長い旅をして戻ってきたという例は世界各地から報告されている。

 

今日紹介する『名犬ベラの650kmの帰宅』(W・ブルース・キャメロン・著、青木多香子・訳/新潮社・刊)も犬の帰巣本能を扱った小説だ。W・ブルース・キャメロンは犬好きの作家で、デビュー作は『野良犬トビーの愛すべき転生』。主人公の犬が輪廻転生を繰り返す話で、『僕のワンダフル・ライフ』として映画化もされ大ヒットした。また、本作も映画になり『ベラのワンダフル・ホーム』というタイトルで公開され、犬好きの人々を感動させてくれたのだ。

 

ピットブルは危険な犬なのか?

本書の主人公である子犬・ベラは雑種だが、ピットブルの血が混ざった危険な犬と見なされ、飼い主と離れ離れになってしまう物語だ。

 

ピットブルは闘うために生み出された犬で、世界最強とも言われている。最近の映画でピットブルが登場した作品があったのを覚えている方も多いだろう。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』がそれ。ブラッド・ピット扮するクリフの愛犬がピットブルだった。飼い主にとても忠実な犬として描かれていて、クライマックスシーンではクリフの合図で進入した犯人に噛みつきヒーロー犬となった。演じたピットブルは名優犬としてカンヌ映画祭でパルム・ドックも受賞した。

 

しかし、実際にはピットブルによる咬傷事故も多く報告され、国や地域によっては飼育を禁止しているところもある。ピットブルの他には、ロットワイラーやマスティフ、ブルテリアなども危険な犬とされている。でも、どんな犬も飼い主のしつけ次第なのかもしれない。わが愛犬ラブラドールの友だち犬にマスティフがいた。強面で歩く姿は猛獣みたいだったが、飼い主のおばあちゃんがとてもよくしつけていて、やさしくとてもいい子だった。要は飼う前に犬種をよく知った上でしつけていくことが大事ということかもしれない。

 

野良猫に育てられた子犬

さて、ベラの物語は解体間近の廃屋の床下からはじまる。そこには野良猫の群れがいて、その中に雑種の子犬が一頭混ざっていた。親犬を失い母猫に育てられていたのだ。床下にまだ生き物がいるにもかかわらず、業者は乱暴に建物を壊そうとしていたが、それを救ったのがやさしい青年ルーカスで、彼は子犬を保護し、ベラと名付け家族の一員とした。ルーカスの母親はアフガニスタンでの兵役により心に傷を負っていたが、ベラにはそれを癒す能力があった。そればかりかルーカスの職場である退役軍人病院に連れていくとべラはたちまち患者たちに愛される存在となる。そう、感情支援動物の素質がべラにはあったのだ。

 

しかし、動物管理局の見方は違った。ルーカスやべラが暮らすアメリカ、デンバー市では、子どもがピットブルに殺された事件をきっかけに市議会はピットブルの飼育禁止令を可決していたのだ。

 

問題はべラがピットブルかどうかではなく、動物管理局がべラはピットブルだと言っていることなんだ。管理官のひとりがそう言うだけで、彼女は捕まえられるんだよ。さらにふたりの管理官がべラはピットブルだと同意すれば、彼女はピットブルだと法律で規程される。無茶苦茶な制度だが、そうなっているんだよ。

(『名犬べラの650kmの帰宅』から引用)

 

愛犬家の作者は本作を通じてピットブルなど犬種を巡る問題提起をしているのだ。

 

650kmの彼方へ

ルーカスはべラを守るために、デンバー市外への引越しを決意するが、一刻の猶予もないため、一旦はデュランゴ(コロラド州南西部)に避難させる。そこには没収されることが決まったピットブルを始終引き取ってくれる里親がいたのだ。

 

「なるべく早くに迎えに行くから」。ルーカスはべラにそう告げるが、当然、犬には伝わらない。べラは車に乗せられ故郷から遠ざかっていく。が、遠ざかるにつれ、べラの嗅覚はするどくなっていった。

 

車で進むにつれて、こういった背景の匂いが徐々に合体してまったく異なる存在感を風に乗って放ち、私にとって故郷の特徴である強力な匂いの集まりになったのだ。他の似たような匂いの集まりも通り過ぎていったけれど、私が暮らした場所の強力な香りの取り合わせはたやすく嗅ぎ分けられた。

(『名犬べラの650kmの帰宅』から引用)

 

こうして安全な里親の元へ着いたのにもかかわらず、べラはルーカスから教わった「家へ帰れ」を実行に移すことになる。

 

ピューマの子どもと大自然を行く

べラは猫に助けられ育てられた犬だが、帰宅途中ではなんとピューマの子どもを助けることになるのだ。二頭は助け合いながら共に旅を続けるが、ピューマはどんどん成長し大きくなる。

 

ビッグキトゥンは今では私より大きくて重かったが、私と取っ組み合いをしにくると、変わらず私に敬意を払った。私が群れのリーダーなのだ。(中略)私は時々彼女にイラついて、彼女が仰向けになっている間に喉に歯をあてることがあった。嚙むのではなく、彼女のほうが大きくても私が群れの中の犬なのだと思い知らせるためだった。

(『名犬べラの650kmの帰宅』から引用)

 

こんな風に本作には動物の習性がよく描かれている。ネタバレになってしまうので詳しくは書けないが、ピューマは街には入れないから、やがて二頭は別れることになるのだが、そのシーンはとても感動的だった。

 

そして、べラはさまざまな苦難の末、二年間をかけて故郷のデンバーに戻ってくるが、そこには再び動物管理局が待ち構えていた。最後までハラハラ、ドキドキの冒険物語。動物好き、犬好きの人にはたまらない一冊となるだろう。

 

【書籍紹介】

名犬べラの650kmの帰宅

著者:W・ブルース・キャメロン
発行:新潮社

野良猫の群れの中で育った子犬のベラ。拾ってくれたルーカスの家で幸せに暮し始めたのもつかの間、動物管理官に捕獲され処分されそうになる。危険を避けるためにルーカスはベラを里親に預けたが、そこは650キロも離れた田舎町だった。ルーカスに会いたい。強い思いに駆られたベラは匂いを頼りにひとり歩き出す。野を越え山を越え、二年に及ぶ苦難の旅の結末はー胸熱くする子犬の冒険物語。

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「浮世絵師列伝」から「最後の秘境 東京藝大」まで歴史小説家が選ぶ「芸術を深く知るための」5冊

毎日Twitterで読んだ本の短評をあげ続け、読書量は年間1000冊を超える、新進の歴史小説家・谷津矢車さん。今回のテーマは「芸術を読む」。デビュー作より絵師小説の新境地を開拓してきた(新作『絵ことば又兵衛』も発売中)谷津さんが選ぶ「芸術を深く知るための5冊」とは?

 

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芸術の秋がやってきた。作家になってからというもの、諸般の事情でこの時期は色々と忙しい。諸般の事情とは何か。

 

この選書でわたしのことを知った人は「本をむやみに読んでいるおじさん」と思っておいでであろうが(そしてわたし自身、そうした称号がほしいクチである)、 わたしこと谷津矢車はデビュー作(『洛中洛外画狂伝 狩野永徳』)で絵師の狩野永徳を書いて以来、芸術家を主人公にした歴史小説を数多く書いており、秋になると、美術館の展示に合わせて旧作の紹介に勤しんでいる次第である。

 

そして今年は、戦国から江戸期にかけての絵師・岩佐又兵衛を主人公にした『絵ことば又兵衛』を単行本で、2017年に単行本で刊行した『おもちゃ絵芳藤』を文庫で刊行する運びになっており、さらにそうした地道な活動に拍車がかかっているのである……。

 

と、思い切りダイマをかましてしまったが、今回の選書も芸術の秋に関わっている。というわけで、今回は芸術家小説そのもの、あるいは芸術家小説を読むに当たって参考になる書籍が選書テーマである。

 

まさに「知識ゼロ」からの入門書

まずご紹介したいのは『知識ゼロからの日本絵画入門』(安河内眞美 幻冬舎)である。

 

『開運! なんでも鑑定団』でもおなじみの著者による日本絵画の入門書である。本書に謳われた『知識ゼロからの』の看板に偽りはない。美術や歴史の教科書に出てくる有名な絵師・日本画家たちの人生や画風、後世への影響などが要領よくまとまっている。実を言うと、わたしも美術館に行くときに必ず持って行き、「ふむふむ、この人はこの絵師さんの弟子なのか」などと確認しながら絵を拝見しているくらいである。日本画は様々な流派や流れが存在するため、とっかかりがないと親しむのも難しいのではないだろうか。そうした意味では本書は間口の広さ、平易さ、どれを取っても最初の一冊に持ってこいである。なお、このシリーズには『西洋絵画入門』も存在し、こちらも興味がある方はチェックしてみていただきたい。

 

浮世絵を知るための水先案内人

お次に紹介するのはこちら。『浮世絵師列伝』(小林 忠・監修/平凡社・刊)である。本書は先に日本画家のうちの浮世絵師にフォーカスを当て、ややマニアックな人物までも網羅した一冊である。

 

菱川師宣から明治期の浮世絵までを一望でき、浮世絵の作業工程や鑑賞法のコラムも充実している。また、全ページカラーで、図版も数多く収録されている。もし、あなたが浮世絵師に興味があり、『知識ゼロから~』を読んでさらに深く知りたいと思われたなら、手に取って損のない書籍である。むしろ積極的に手に取っていただきたい。ただ、本書はいわゆる大判本であり、美術展などに持って行くにはやや重い点、古い本なので入手に難があるなどの点での問題はあるが、どこかでお見かけの際には是非手に取っていただきたい。また、美術を飛び出して、ある種のポップアートとしての浮世絵が取り上げられるようになってしばらく経った。もしかすると、現代のわたしたちに必要な教養の一つに浮世絵があるのかも知れない。その水先案内にもってこいの一冊とも言えよう。

 

古代から近世までの日本の「音楽史」をさらう

お次は少し趣向を変える。『図解 日本音楽史 増補改訂版』(田中健次・著/東京堂出版・刊)である。

 

本書は古代から培われ、多様な展開を見せた日本の音楽史を俯瞰した本である。東アジアで育った音楽が日本に流入、受容されたのち様々な展開を見せ、時に混交や交流、新楽器との出会いを経て変化し続けた近世までの日本音楽史が一冊にまとまっている。

 

恥ずかしながらわたしは流派としての「○○節」「××節」といったものがよく分かっていなかったのだが、本書と出会ったことで、どういう経緯でさまざまな「節」が成立し、分派していったのか、大まかな図を描くことができるようになった。

 

本書は日本の音楽を巡る歴史を浚った本であるため、もちろん芸術家小説を読む際の参考書籍となりえるが、それ以前に、歴史小説、時代小説を読む際にもヒントになる一冊かも知れない。歴史・時代小説を読んでいると、音楽を扱う場面が存外に多い。歴史・時代小説の奥行きを味わいたいあなたにも。

 

東京藝大という秘境

お次にご紹介するのはノンフィクションから。『最後の秘境 東京藝大』(二宮敦人・著/新潮社・刊)である。執筆当時奥様が現役藝大生だった人気作家の著者が、奥様の背中の向こうに見える謎の芸術家空間・東京藝術大学のリアルを描いた本である。

 

東京藝術大学という大学が存在することはご存じの方も多いだろう。東京の上野の近辺にあることも、なんかすごそうな芸術を爆発させていそうなのも、イメージとしてご存じな方もいらっしゃることだろう。だが、実態を何も知らない。そんな思考の間隙を埋めてくれる書籍が本書である。

 

本書に登場する人々はやはり想像の通りのエキセントリックぶりを誇っている。本書の美点は、ただそれを列挙するだけにとどまらず、彼/彼女が一般の尺を当てはめてしまえば変人というレッテルを貼らざるを得ないその行動の根源にあるものに迫ろうとしているところである。

 

多くの方は、自分を枠にはめて生きている。それはそうだ。枠はわたしたちを守る鎧でもあるからだ。だが、彼/彼女らは自らその鎧を脱ぎ捨て、一本独鈷で戦っている。一体彼/彼女が何と戦っているのか。そしてどこに行こうというのか。それは是非、本書をめくって見届けていただきたい。

 

水墨画×青春=芸術家小説の新境地!

最後は昨年の芸術家小説の成果作をご紹介しよう。『線は、僕を描く』(砥上裕將・著/講談社・刊)である。本書は2020年本屋大賞にもノミネートしており、作品の力は折り紙付きであるが、あえてここで紹介したい。

 

本書は大学生である主人公の青山霜介がたまたま入った展覧会で日本画の巨匠である篠田湖山に見初められ、内弟子となるところから始まる。そして霜介はそれから水墨画を学ぶことになり、兄弟子、姉弟子にもまれて筆を握るようになるのだが――。

 

取り合わせが清新である。本書の基底には青春小説が根を張っている。青春小説と言えば動的なもの(たとえばスポーツとか)と掛け合わせるのが常道なのだが、本書は一見すると静的である水墨画をそのモチーフに選んだわけだ。だが、本書を読むと、静的であるはずの水墨画のシーンが、驚くほどの熱気と緊張感に満ちていることにお気づきになるだろう。心の動きや有り様を描くのに秀でた小説というメディアならではの演出により、花を描く、姉弟子と絵を競う、ただそれだけのシーンが息詰まるほどの迫真に満ちているのである。

 

本書は是非、水墨画をご覧になってから手に取っていただきたい。優れた青春小説にして、水墨画という芸術家小説の新境地を開いた一冊である。

 

 

この稿を書きながら、芸術家の良さとはなにか、という問いに襲われた。

 

いろいろあるかも知れない。数百年にわたって残るものを作り上げた才能に惹かれているのだろうか。それとも、エキセントリックな人物像にキャラクター的な楽しみを見いだしているのだろうか。否、どちらも違うと思う。皆さんがご存じないだけで、芸術作品とラベリングされたものの多くは誰の目にもとまらず消えていき、作者も忘れ去られる。また、芸術家とされる人たちの中にも常識人はたくさんいる。

 

思うに、芸術家の魅力とは、「なんか作っちまったこと」、それに尽きるのだとわたしは思う。

 

評価されるかどうかは分からない。

正解なんてない。

己を突き詰めたとて、それが受け入れられるわけではない。

 

だが、それでも、芸術家たちは現在進行形で「作っちまう」ものであり、彼/彼女らの後ろには「作っちまった」ものが山をなしているのである。その名状しがたき謎のパワーにこそ、わたしたち一般人の頭を垂れさせる秘密が隠されているのかもしれない。

 

それはそうと、戦国から江戸を生きた奇想の絵師・岩佐又兵衛を描いた『絵ことば又兵衛』、江戸から明治にかけての浮世絵師事情を描いた『おもちゃ絵芳藤』文庫版、発売中ですのでなにとぞ。

 

 

【プロフィール】

谷津矢車(やつ・やぐるま)

1986年東京都生まれ。2012年「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞受賞。2013年『洛中洛外画狂伝狩野永徳』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』にて歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。最新作は『絵ことば又兵衛』(文藝春秋)

登場人物全員が同姓同名! 前代未聞の難解ミステリー「同姓同名」を秋の夜長にぜひ。

インターネットを使うようになって早い時期に、おそらく誰もが一度は試すであろう検索ワードがある。自分の名前だ。

 

いや、自分の名だけではない。小学生の授業でパソコンがある今日日、親の名前を調べる子どもも多かろう。先日、息子の友達に「○○くん(息子)のお母さんの記事、見つけたよ」と言われ、こりゃ下手な記事は書けないぞと内心震えた。当然、息子も検索しているに違いない。

 

ちなみに私は、本記事のようなコラムはペンネームで、取材記事などは本名で書いているのだが、ペンネームは私以外ヒットしない。一方、本名の方は著名なソプラノ歌手の方がいらっしゃるようで、「○○○○ ソプラノリサイタルのご案内」などというページが多数ヒットする。

 

さら旧姓で検索すると、舞台女優の方やら起業家の方やら、結構な数の(かつての)同姓同名が出てきて驚いた。

 

私にとってこの名前は唯一無二だけれど、同じ名前でまったく別の人生を送っている人がいる。なんとも不思議な感覚である。

もしも、同姓同名の人物が悪事に手を染めたら……

先日読了した小説『同姓同名』(下村敦史・著/幻冬舎・刊)は、そんな自分の名前を検索した経験がある人ならば、誰でもハマってしまう一冊だ。

 

物語の登場人物は、大山正紀(おおやま まさのり)。といっても、主人公だけではなく、物語に関わってくるほぼ全員が大山正紀なのだ。

 

ある日、女児惨殺事件の犯人として捕まった「大山正紀」。日本全国、それぞれの場所でそれぞれの生活を送っていた大山正紀たちは、一夜にして「殺人犯と同じ名を持つ者」という十字架を背負うことになった。

 

7年後、刑期を終えた大山正紀が帰ってきたことで、同姓同名の大山正紀たちの人生はさらに狂い出す。そして、『”大山正紀”同姓同名被害者の会』を発足、本物の大山正紀を探し出そうとするが……というストーリー。

 

あらすじを読むだけで、すでに鳥肌モノである。なんせ、どのページを開いても大山正紀だらけなのだ。その数、10名以上。いま語られている大山正紀は、どの大山正紀!? と多少混乱しつつも、ストーリーは確実に、明確に進んでいく。なんでも下村氏のインタビューによると、着想から3年半の勝負作とのこと! その言葉にも納得の超大作である。

 

SNSの闇。自分という存在とは。これは単なる小説ではない!

『同姓同名』は、ストーリー自体の秀逸さは言わずもがな、ふと現代社会や自分自身の人生に置き換えて、うーむと考えさせられるトピックがいくつも盛り込まれているから面白い。

 

たとえば、SNSに潜む闇。誰かの発言に噛みつき、集団で一気に攻め立て、「私刑」と称して個人情報を特定、拡散する「正義の皮をかぶった暴挙」。さらには、少年法や実名報道にも鋭く切り込んでいる。

 

名前というものは、早い者勝ちの争奪戦なのだ。

(『同姓同名』より引用)

 

という一文は、なかなかどうして、奥が深い。なぜならば、「先に有名になった者が、その名前を我がものにできる」のだ。つまり、「美人のアイドルと同姓同名なら、他人はその名前を聞いただけで期待感を持つ。ハードルは上がるだろう。差があればあるほど、人は落差でがっかりする。そして――所詮は名前が同じだけの偽者だと断じるのだ」と下村氏。

 

一見ただの記号であり、同時に一人ひとりのアイデンティティを示す側面もあわせ持つ名前というものの、不確かさと恐ろしさを思い知らされ、ゾクリとした。

 

秋の夜長にぜひ読んでほしい一冊。きっと寝不足になるに違いない。

 

【書籍紹介】

同姓同名

著者:下村敦史
発行:幻冬舎

大山正紀はプロサッカー選手を目指す高校生。いつかスタジアムに自分の名が轟くのを夢見て練習に励んでいた。そんな中、日本中が悲しみと怒りに駆られた女児惨殺事件の犯人が捕まった。週刊誌が暴露した名は「大山正紀」。報道後、サッカー推薦の枠から外れた高校生の大山正紀を始め、不幸にも殺人犯と同姓同名となってしまった“名もなき”大山正紀たちの人生に影が落ちる。そして7年後、刑期を終え大山正紀が世に放たれた。過熱する犯人批判、暴走する正義、炎上するSNS。犯人に名前を奪われ人生を穢された大山正紀たちは、『“大山正紀”同姓同名被害者の会』に集い、犯人を探し出そうとするが−−。大山正紀たちには、それぞれの秘密があった。どんでん返しどころじゃない! 前代未聞のノンストップミステリ。

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「トイレでシュークリームを食べているような」? 読んでいると匂ってくる気がする……『くさいはうまい』

食欲の秋ですね〜! 松茸やフルーツはいい香りがして美味しくて、鼻と口からたっぷりと秋を感じられます。スーパーに行っても「今年は贅沢できなかったから!」なんて自分に言い訳して、ちょっといいブドウを買ってみたり秋を楽しんでいる今日このごろです。

 

世の中には、「いい匂いでうまいもの」がいっぱいありますが、実は「くさいのにうまい」ものもいっぱいあるんです!

 

発酵学の第一人者である小泉武夫さんの食エッセイ『くさいはうまい』(小泉 武夫・著/KADOKAWA・刊)は、ページをめくるたびに「くさいっ!」と思ってしまうほど、驚くような食材が紹介されています。今回は、食欲の秋に読みたい『くさいはうまい』をご紹介します。

 

美味しくて体にもうれしい発酵食品とくっさい食品

『くさいはうまい』には、最近ブームとなっている甘酒などの発酵ドリンクや、漬物、ピクルス、チーズなどの私たちにも馴染み深い発酵食品から、山羊や虫、ドリアンといった強烈な臭みがあるうまい食べ物を、著者である小泉さんが実際に食べて、どんな味だったのか、そしてどんなニオイだったのかがこと細かに書かれてあります。

 

発酵食品については、どうして発酵するのかなど詳しい背景が書かれてあり、いつも使っている味噌やキムチ、お茶などについても詳しく知ることができるので、読んでいるだけでも楽しい一冊。

 

さらに、最新の文庫版ではノンフィクション作家である高野秀行さんとの対談も収録されており、ナイジェリアにある世界一臭い納豆「オギリ」の話や、「口噛み酒」という今ではアマゾンにいる一部の先住民だけが造っているお酒の話も掲載されています。この「口噛み酒」はその名の通り、潰したマッシュポテトのようなものを、大量に口の中に入れて、ベェ〜っと出して大鍋で発酵させるお酒のこと。考えただけでも「おえっ」となってしまうのですが、発酵するとヨーグルトドリンクのような味になるそうです……。

 

世界にはまだまだ知らないことがたくさんあるな〜と刺激されるのと同時に、読んでいるうちにニオイがしてくるような気がするのです(笑)。

 

「トイレでシュークリームを食べているようなフルーツ」とは?

トゲトゲしていて、「誰が最初に食べようって言ったのよ!」と言いたくなってしまうフルーツ、ドリアン。著者の小泉さんが、学生に食べさせたところ言われたのが「トイレでシュークリームを食べている感じ」という感想だったそう。わかる!!

 

私も新卒で入った会社の集会で「罰ゲームでドリアン食べよう!」みたいな企画を実施してしまい、借りた会場にめちゃくちゃ迷惑をかけた記憶があります。事前に「ドリアンを使ってもいいですか?」と聞いていたものの、私たちも会場の方も思っていた以上にニオイが充満してしまいました。改めてその節は申し訳ございませんでした! まだ食べたことがないという方のために、ドリアンがどんなものかお伝えしましょう。

 

目的の果肉の方は、とてもクリーミーで舌触りがよく、アイスクリームのようです。上品な甘みはありますが酸味はなく、熟しすぎたものは生クリームのような感じとなって、少し粘質さを増してきます。

 (『くさいはうまい』より引用)

 

これだけみるとめちゃくちゃ美味しそうに思いますよね? でも、強烈なうんちのニオイがするんです(笑)。小泉さんは、沖縄で食べたドリアンを学生たちにも食べさせようと果肉部分だけを袋に入れ、機内に持ち込み、帰宅したそうなのですが、なんと機内でその袋が破れてしまったそう。同乗していた方々辛かっただろうな〜(笑)。帰宅してからも奥さんと娘さんに「ちゃんとお風呂入っていたの!?」なんて叱られたそうです。

 

もしこれから、遊び心だけでドリアンを食べようと思っているのなら、食べる場所も考えてくださいね! お家で……なんて安易な気持ちで買ってしまったらドえらいことになりますよ!

 

好きな人は好きな、「くさや」

小泉さんが「食の世界遺産」があったら文句なく推薦するのがこの「くさや」なんだとか。

 

私も一度食べたことがあります。一瞬「あっ!」と美味しい時間が流れるのですが、焼いている時のニオイやふとした時に「くさっ!!」となるのが辛くて、結局それっきり食べていません。においが強烈で近所迷惑になってしまうと懸念して、なかなか自宅で焼いて食べるのが難しい時代になってしまいましたが、焼き方のポイントが紹介されていました。

 

火は必ず背面(皮のついている方)から入れることが鉄則で、遠火の強火が良いですが、焼き過ぎますとアッという間にパサパサになってしまうので注意してください。表面にうっすらと焼き色が付いたところで引っくり返して身の側に火を入れて、ほんの三◯秒ぐらいで仕上げます。熱いうちにむしって喰うのが一等賞の味。余って冷めたものは、細切りにしてお茶漬けでもうれしいですよ。

 (『くさいはうまい』より引用)

 

この「くさや」は、伊豆七島にある新島の400年以上続く名産なのですが、市場が縮小したことで衰退しているそうなのです。これだけ長い歴史がある食べ物なので、しっかり後世にも残してあげたい! とは思いつつ、「もう食べたくない……」と思っている私もいます(笑)。

 

これ以外にも『くさいはうまい』には、死んだアザラシの腹の中で鳥を発酵させた「キビャック」や、トルコでチーズの中から出てきた虫など想像しただけでもクラクラしてしまうような食べ物が紹介されています。食欲の秋にぜひ、『くさいはうまい』も読んで食を楽しみましょう!

 

【書籍紹介】

くさいはうまい

著者:小泉武夫
発行:KADOKAWA

納豆、熟鮓、ホンオ・フェ、キビャック、シュール・ストレンミング…この世界には、強烈なにおいを発する食べ物がある。未知なる発酵食品を求めて東奔西奔する著者が、くさい食べ物に、失神寸前になりながらも、かぶりつく。異国の激烈臭食品から身近な食べ物に至るまで、知られざる歴史と効能を明らかにし、抱腹絶倒の顛末記を収めた代表的エッセイ集。さらにノンフィクション作家・高野秀行との対談を新たに収録する。

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「感謝」とか「前向き」とか本当はクソだと思ってませんか? −−『私の嫌いな10の人びと』

どうしても苦手なタイプの人は、誰にもいるものだ。なぜ苦手なのか。具体的な理由はすぐに思い当たるだろうし、自分の尺度を基にパターン化することもできるだろう。

 

嫌いな人のパターン見本

私の嫌いな10の人びと』(中島義道・著/新潮社・刊)では、著者の中島義道さんが嫌いな人びとの10パターンが紹介される。ただ、最初に目次を見た時は「え? なんで?」という気持ちを抱く人が多いと思う。

 

1. 笑顔の絶えない人

2. 常に感謝の気持ちを忘れない人

3. みんなの喜ぶ顔が見たい人

4. いつも前向きに生きている人

5. 自分の仕事に「誇り」を持っている人

6. 「けじめ」を大切にする人

7. けんかが起こるとすぐ止めようとする人

8. 物事をはっきり言わない人

9. 「おれ、バカだから」と言う人

10.「わが人生に悔いはない」と思っている人

 

どれも致命的な嫌われ要素には感じられない。でも、違うのだ。表面的にはむしろ無邪気で性善的な人こそ、実は受け入れがたい毒を抱いているのかもしれない。詳しく見ていこう。

 

感情をコントロールしながら浮かべる笑顔

中島さんが世の中を見る視点は独特だ。いかにも世間に歓迎されそうなタイプの人たちは、どのような理由で、どのような毒を原因に「嫌いな人々」として中島さんの目に映るのか。哲学者である中島さんの言葉は的確で、そして辛らつだ。

 

たとえば「笑顔の絶えない人」。中島さんは「自分の感情とは完全に切り離し、笑うべきだから、それと知って笑おうとしている」から笑っているのだという。そして、若く美しい女性が浮かべるこの種の笑いが特に歓迎される理由を以下のように語っている。

 

それがたとえけなげで美しいとしても、彼女はなぜそういう笑いをまとうのか。周りの人間が望んでいるからです。そうすると、好かれるからであり、そのことを知って彼女は自分の感情をコントロールしているのです。

                        『私の嫌いな10の人々』より引用

 

“彼女”がそうする理由について、中島さんは「この国では個人のむき出しの感情が嫌われるから」と指摘する。悲しい時に涙を流したり、暗い気持ちのときに暗い表情を見せたりすることは、少なくとも日本では事実上禁じられているのだ。そうすべきだと考えている人が大多数を占めている、と言ったほうが現実に近いだろうか。だから、「自分のマイナスの感情をそのまま表現するのは、失礼なのであり、社会的に未熟な」行いと映ることになる。

 

感謝の気持ちと“人間性指数”

常に感謝の気持ちを忘れない。ごく普通に考えれば、これも決して後ろ向きな姿勢ではないはずだ。でも、中島さんは一歩踏み込む。

 

感謝の気持ちを忘れないことはもちろん大切なことです。でも、おうおうにして現代日本では、これを知能指数ならぬ「人間性指数」とみなし、すべての人に高飛車に強制し、これが欠如している者、希薄な者を欠陥人間とみなす風潮がある。

                        『私の嫌いな10の人々』より引用

 

言い過ぎだと感じる人。その通りだと思う人。どちらが多いだろうか。この本の本質は中島さんの独自の極論の羅列と、その定義や解説かもしれない。ただ、中島さんの視線を通して浮かび上がる“嫌い”という感情の理由づけをしっかり咀嚼しながら読み進めると、核となる正論が誰の目にも映り始める。

 

理想論がもたらす息苦しさ

誰かの「こうあるべきだろう」という勝手な思い込みによって押し付けられる理想論の息苦しさみたいなものを感じることはないだろうか。これについて、筆者には具体的な思い出がある。“みんなの喜ぶ顔が見たい人”の項を読んだ時、小学校高学年の頃に体験したとあるシーンを思い浮かべた。

 

叔父の家で祖母の誕生日会をした時だ。母たちからのプレゼントに、祖母は涙を流して喜んでいた。それを見た母は、即座に「ほら、大丈夫だよって言ってあげないと」と筆者に耳打ちした。祖母を思いやる心優しい孫息子による微笑ましいシーンを演出したかったのかもしれない。ちょっと違うなと感じつつも、子どもながらにその場の空気を壊さないほうがいいと判断した筆者は、精一杯の優しさを込めて「大丈夫だよ」と祖母に言った。ただその響きは、自分でもびっくりするほど無機質で事務的だった。

 

あとがきにも、中島さんが嫌いなタイプの人に関する説明が示されている。

 

感受性において、思考において怠惰であって、勤勉でない人、「そんなこと考えたこともない」とか「そういう感じ方もあるんですねえ」と言って平然としている人、他人の感受性を漠然と自分と同じようなものと決め込んで、それに何の疑いももっていない人、他人が何を望んでいるか正確に見きわめずに、「こうだ」と思い込んでしまう人です。

                        『私の嫌いな10の人々』より引用

 

さらに最後の最後に、中島さんが嫌いな100の言葉がずらっと並べられている。10個だけ紹介しておく。

 

希望、如才ない、和気あいあい、平穏無事、らしさ、家族、誇り、協調性、みんな、堅実……。

 

やはり、いかにも無毒に感じられるものこそ、救いようがない毒をはらんでいるのだろう。

 

 

【書籍紹介】

私の嫌いな10の人々

著者:中島義道
発行:新潮社

「笑顔の絶えない人」「みんなの喜ぶ顔が見たい人」…そんな「いい人」に出会うと、不愉快でたまらない!共通するのは、自分の頭で考えず、世間の考え方に無批判に従う怠惰な姿勢だ。多数派の価値観を振りかざし、少数派の感受性を踏みにじる鈍感さだ。そんなすべてが嫌なのだ!「戦う哲学者」中島義道が10のタイプの「善人」をバッサリと斬る。日本的常識への勇気ある抗議の書。

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コンビニにある小さな買い物かごって何のためにあるんだろう?

世の中をじっくり眺めてみると、いろいろな不思議に出会う。「なんで?」と思っては見るものの、特に深く考えずにスルーしてしまっていることが多いが、よく考えてみるとやはり「なんで?」と思ってしまう。

 

最近僕が「なんで?」と思っているのが、コンビニにある小さな買い物かごだ。

子ども用だと思っていたが……

我が家の近くにあるコンビニに、いつごろからか普通の買い物かごのほかに小さな買い物かごが置かれるようになった。正直、大人が持つにはちょっと小さい。子ども用のかごに見えた。たしかに、ファミリー層も多いので子ども用のかごがあってもおかしくないが、どこにも子ども用ということは書かれていない。よく見れば、大人もその小さなかごを使っている。

 

最初は違和感があったが、何度も目にしている内に別に気にならなくなり、今では普通にその小さなかごを使っている自分がいる。「子ども用のかごなんだろう」ぐらいにしか思っていなかったのだが、実はその小さなかごには秘密があったようだ。

 

小さなかごは買いすぎ防止からの買い控えを防ぐためのもの

なぜ崎陽軒のシウマイは冷たいのに売れるのか?』(中山マコト・著/みらいパブリッシング・刊)は、タイトルにあるとおり、ヒット商品がなぜ売れているのかについて考察した書だ。

 

温かいものがおいしいとされているシウマイを、冷たくてもおいしくした崎陽軒。「冷たくてもおいしいシウマイを作る!!」というアイデアと強い想いがあってこそ、今の成功につながっている。本書には、同じような事例がいくつも紹介されているが、そのなかにコンビニの小さなかごについても記されていた。

 

通常サイズの買い物かごは、スーパーマーケットで使われているものと同じ。普通に考えたら、買い物かごが大きいほうがついつい目に付いたものを入れてしまい、思わず買い過ぎちゃった、なんてことになるので、店側としてはありがたいはずだ。

 

しかし、この方程式はコンビニでは当てはまらない場合がある。それはコンビニは客単価が低いからだ。コンビニは定価販売の商品がほとんど。それをあれもこれもをかごに入れていると、最終的に「買いすぎだ!」と思って、本当に買おうとしていたものまで買わなくなる可能性が生まれてしまうからだ。極端な場合、「コンビニは高いからスーパーに行こう」となり、何も買わずに帰ってしまうかもしれない。

 

そういうことを避けるために導入されたのが、小さな買い物かごなのだ。

 

小さいサイズのバスケットだと、買いすぎてしまう心配がなくなります。一定以上は入らないわけですから、お客さんは安心していつも通りの買い物ができます。

(『なぜ崎陽軒のシウマイは冷たいのに売れるのか?』より引用)

 

小売店などは、お客さんにたくさん買い物をしてもらうためにいろいろアイデアを出したりするものだが、小さな買い物かごに関してはまったく逆の発想なのだ。

 

身近なところにビジネスチャンスの種が転がっているかも?

著者は、このようなちょっと違う角度から物事を考えることを「Think Different」と呼んでいる。あのスティーブ・ジョブズがよく口にしていた言葉だ。そして、それを実現するためには「工夫」が必要となる。その「工夫」について、著者は以下のように記している。

 

工夫は大事です。そして、工夫とは真似ではありません。
少し面倒な言葉を使うとすれば、本当の工夫とは、「カスタマイズ」であり、「アレンジ」です。

(『なぜ崎陽軒のシウマイは冷たいのに売れるのか?』より引用)

 

何も突拍子もないことを考えろ、というわけではない。かといって、ただ真似をすればいいとうものでもない。既存のアイデアにヒントをもらい、それを自分なりに「カスタマイズ」して「アレンジ」していくこと。それが「Think Different」なのだ。

 

「Think Different」の種は身近に転がっている。あとは、それに気づけるかどうか。もしかしたら、僕たちの周りにはビジネスチャンスになるものがゴロゴロ転がっているのかもしれない。ちょっとでも疑問に思ったら、「なぜ?」と思い考えてみると、何かおもしろいアイデアが浮かんでくるだろう。まず考えてみること。それが重要なようだ。

 

【書籍紹介】

なぜ崎陽軒のシウマイは冷たいのに売れるのか?

著者:中山マコト
発行:みらいパブリッシング

他と同じことをしても売れない時代。特にビジネスの世界で常識や慣習を意識していてはどうしても他と同じになってしまう。しかし、崎陽軒のシウマイのように、他と違ったことをやって大ヒットした商品・サービスはたくさんある。今ある商品も、角度を変えてみるだけでまったく別の価値が生まれたり、世の中に受け入れられるものになる可能性を秘めているのだ。普通にしていたらなかなか気づかない発想の転換について、マーケター中山マコトが数々の成功事例をひも解き、指南する。

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成人の3人に1人が愛着障害!?–その譲れないこだわりには理由があった

コロナ禍で、デートをいつまで自粛するかで揉める恋人同士がかなり出ました。一刻も早く逢いたい女性と、安心できるようになってからと考える慎重な男性との間でケンカになるということもしばしば。お互いの考えが食い違う時、どうやってすりあわせていけばいいのでしょうか。

どちらの都合を優先したらいい?

人にはそれぞれのこだわりがあります。たとえば恋愛において「毎晩寝る前に恋人から『お休み』のLINEが来ないと心配で眠れない」という女性も多くいます。けれど彼氏が「忙しい時は連絡しなくてもいいや」という人だった場合、ケンカになってしまうのです。

 

彼女の「連絡が来ないと安心できない」という危機感に寄り添うと、彼氏は「毎日連絡しなくてはならない」というルールを背負うことになり、疲れてしまいます。けれど彼氏の「仕事に集中したい」という希望を優先すると、今後は彼女のほうが「連絡が来なくてもガマンしなくては」ならなくなり、苦しい思いをしてしまうのです。

 

譲れないこだわりには理由がある!?

マンガでわかる 愛着障害』(松本耳子 ・漫画、岡田尊司・監修/光文社・刊)にも同様のエピソードが描かれています。交際が始まったばかりのカップルですが、お互いの愛情表現に違いがあり、トラブルになってしまうのです。彼女のほうは「付き合った途端、彼が冷たくなった」と悩んでいましたが、彼は「感情的になるのは好きじゃないので気持ちを抑え」ることに必死だったのです。

 

恋人ができたら人前でもイチャイチャしたいタイプと、交際を秘密にしたいタイプとがいます。恋のスタンスが違うふたりが交際すると衝突が起きやすくなってしまいます。どちらも自分が望む恋愛を貫きたくて譲れない場合、そのことがきっかけで別れに至ることもあるのです。これは単に恋愛観の不一致で片付けられるのでしょうか。

 

成人の3人に1人が愛着障害!?

本書によると、喜怒哀楽などの感情を作る土台を「愛着」というそうです。乳幼児期の家庭環境の問題(たとえば虐待されたり両親の仲が悪かったりなど)が原因で、この土台に何らかのダメージを受けてしまった場合、この愛着が不安定になり、生きづらさを抱えてしまうこともあるとのこと。なんと成人の3分の1もが愛着不安定なのだとか。

 

愛着には幾つかのタイプがあり、マンガでは「彼の顔色を気にして一喜一憂しがち」な女性は「不安型」、そして「好きという愛情を素直に出せず抑えてしまう」男性は「回避型」に分類されました。愛着の型が違うと、望む愛情表現や交際パターンも違ってきます。今まで性格の違いで片付けられてきたことは、愛着の型の差だったのかもしれません。

 

自分のルールに縛られない

人は恋愛にマイルールを持ち込みがちです。そのため、「どうしても電話してほしい」「どうしても電話は面倒」という不毛の争いを延々繰り返し、疲れ果ててしまうこともあります。「なぜ自分は電話をしてもらえないと不安なのか」「なぜ自分は電話することを面倒に思うのか」と、自問自答すると何かに気づけそうな気がします。

 

マイルールだけを押し付けず、相手の希望を把握し、お互いに丁度いい状態にするにはどうしたらいいか、すり合わせを行う。たったそれだけの配慮で、ケンカは激減するのではないでしょうか。自分の愛着や執着を手放すことは簡単なことではありませんが、恋愛は相手あってのもの。

 

もしかして自分のワガママばかり押し付けてないだろうか、相手の迷惑になっていないだろうか。デートや電話の頻度で揉めた時は、自分の都合だけをゴリ押ししていないか、一度立ち止まって考えてみたいものです。

 

【書籍紹介】

マンガでわかる 愛着障害

著者:岡田尊司(監)、松本耳子(漫画)
発行:光文社

「いつも不安な人」も「人嫌いの寂しがりや」も生きづらさの原因と克服法がわかる!

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いま、新型コロナウイルスについて「わかっていること」、そして私たちが「するべきこと」とは?

9月末の連休、繁華街に人出が戻りました。飛行機や新幹線にも乗客が戻ったとのことで、普段の生活を取り戻そうとする心が伝わってきます。一方では「2週間後には、感染者数が爆発的に増えるだろう」という専門家の意見もあり、不安にはなりました。

 

それでも、5月の連休のときに比べると落ち着いて過ごしています。『新型コロナウイルスを制圧する』(河岡義裕・著、河合香織・聞き手/文藝春秋・刊)を読んだからです。

 

 

コロナへの対処、私の場合

コロナウイルスに気をつけようと思いながら暮らしてはいますが、何をどう気をつけたらよいのかよくわかりません。インフルエンザに比べると死者の数も少なく、あまり神経質になってはいけないという意見もあります。そうなのかもしれません。

 

けれども、我が家の夫は、現在、放射線治療を経て神戸の自宅で療養中です。元気は元気ですが、やはり免疫力は落ちているでしょう。1か月に1度の割合で、東京に会いに行っている義母は、89才になり持病も抱えています。

 

そう考えると、やはり私は二人に感染させないよう注意を払うべきで、外出するときは、必ずマスクをして手を洗い、うがいをするを繰り返しています。それでも「私は感染しない」と言い切る自信はまったくありません。

 

そのためなのか、最近は朝起きるとすぐにネットのニュースを読みたくなります。いちばん新しい情報を得て現状を把握したいからです。けれども、情報はあまりにも膨大で、内容も錯綜しており、いったい何を信じたらいいのかよくわかりません。人類が初めて遭遇するウイルスなのですから、誰にもよくわからない、これが本当のところではないでしょうか。

 

最近は、いったい何が不安なのかさえ、自分でもよくわからなくなっています。コロナが不安なのか、これから先の毎日が不安なのか、家族の健康問題が心配なのか……。

 

ところが、『新型コロナウイルスを制圧する』を読んで混乱から解放されました。私にとってこの本は救いの書です。

 

まだ、わかっていないのは何か?

『新型コロナウイルスを制圧する』の著者・河岡義裕は、ウイルス学の世界的な権威として知られています。東京大学医科学研究所に勤務する研究者で、世界で初めてインフルエンザの人工合成に成功した学者として知られています。現在は、新型コロナウイルスの研究を最前線で行い、ワクチン開発のためのチームを率いて、ぐいぐいと前進中です。

 

ところが、『新型コロナウイルスを制圧する』には、河岡教授でさえまだわからないことがあると、はっきり書いてあります。

 

世間では、ウィズ・コロナ、挙げ句の果てにはポスト・コロナという言葉も目にするが、流行はまだ始まったばかりで、この冬の大きな波に飲み込まれてしまうかもしれず、ウィズ・コロナで済むのかさえわからない。私たち人類は、このウイルスについて知らないことばかりなのだ。

(『新型コロナウイルスを制圧する』より抜粋)

 

この一文に触れ、不安を募らせる人もいるかもしれません。河岡教授でさえ知らないことばかりというのですから、素人はお手あげだと思う人もいるでしょう。けれども、私はこの文章を読み、心底、ほっとし、力を得ました。わからないことをわからないというのは、大変、勇気がいることでしょう。けれども、わからないならわからないまま、今できることをするしかありません。

 

わかってきたこと

『新型コロナウイルスを制圧する』は、わからないことを率直に示す一方で、わかっていること、わかってきたことも書いてあります。

 

新型コロナウイルスの感染経路として今わかっていることは、飛沫感染と接触感染、そして近距離でのエアロゾル感染です。

(『新型コロナウイルスを制圧する』より抜粋)

 

ということは、感染者とすれ違っただけで感染する可能性があるわけです。けれども、一方でマスクをすれば防ぐことができるはずです。たとえウイルスに手を触れてしまっても、皮膚からは感染しないそうです。つまり、手洗いが有効ということでしょう。

 

もし、ウイルスが付着した手で顔を触ってしまったとしても、焦る必要はありません。粘膜から感染しないようにうがいを念入りにすればよいのです。つまり、マスク・手洗い・うがいの3つを大事にしてきた私たちの方法は、間違いではなかったことになります。

 

これからすべきこと

『新型コロナウイルスを制圧する』には、私たちがこれから何をすべきかについても、きちんと書いてあります。

 

新型コロナウイルスに罹らないために私たちができることは、実はすごく簡単です。病原体に触らなければいいのです。ウイルスは人が運ぶものですから、感染対策だけを考えれば、人と会わないで、家の中に閉じこもっていればいいのです。

(『新型コロナウイルスを制圧する』より抜粋)

 

けれども、現実問題としてまったく人に会わずに暮らすことはできません。そのため、治療薬とワクチンが開発されるまでの間、なるべく病原体に触らないようにしながら、個人個人がそれぞれの事情に鑑みて暮らすよりほかに手はないということになります。

 

もう一人の著者

『新型コロナウイルスを制圧する』は共著であり、河岡義裕と河合香織の二人の著者がいます。 河岡教授にインタビューし、わかりやすい言葉でまとめたのが、ノンフィクション作家の河合香織。2019年、『選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子』で、大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞したノンフィクション作家です。 彼女は現在、東京大学で医療倫理や生命倫理を学んでいるそうです。

 

それは事象の表層を拾うだけではなく、人類が積み重ねてきた知に敬意を払った上で、文章を書いていきたいと思ったからだ

(『新型コロナウイルスを制圧する』より抜粋)

 

一流の研究者に質問を投げかけ、私たちが知りたい情報をまとめるためには、こうした地道な努力が必要だということなのでしょう。

冬に向かって

この冬、新型コロナウイルスがますます蔓延していくのか、それとも収束するのか、私にはよくわかりません。ただ、人は誰でも新型コロナウイルスに罹る可能性があります。会社にいても、夜の町でも、家庭でも、学校でも、私たちは新型コロナウイルスに感染します。もちろん、罹った人が悪いわけではありません。気が緩んでいたわけでも、根性がなかったせいでもありません。

 

コロナへの対処法は、人それぞれ。置かれている立場や、仕事、体調など、自分で判断し、細かく対処するしかないと思います。結局、なるべくウイルスに接しないように注意しながら、私は私の毎日を過ごそうと、一人で決心したところです。

 

この本のタイトルは『新型コロナウイルスを制圧する』ですが、実は「こうしたら制圧できるぞ」という方法が書いてあるわけではありません。第一線の研究者をもってしても、わからないことがたくさんあるからです。

 

ですから、新型コロナ肺炎の感染を防ぐためには「ウイズ・コロナ」というより、「マイ・コロナ」な態度で接していこうと、個人的には思っています。

 

【書籍紹介】

新型コロナウイルスを制圧する

著者:河岡義裕(著)、河合香織(聞き手)
発行:文藝春秋

冬に来る第2波はさらに強毒化するのか? ワクチンはいつ開発されるのか? 終息はいつなのか?…国際ウイルス学会会長、東大医科研ウイルス感染分野教授など要職を歴任。“世界的権威”による正しい新型コロナウイルス情報ー。

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もうコリアンタウンだけじゃない? 変化し続ける街・新大久保の今を切り取った『ルポ新大久保』

「え、新大久保ってコリアンタウンじゃないの?」

 

ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』(室橋 裕和・著/辰巳出版・刊)を読んで最初に思った感想がこれでした。10年以上前、上京してきたばかりの私が母親を連れて、韓国人俳優のチョン・ウソンのグッズを買いに行った以来、縁のなかった街・新大久保。

 

情報番組でタピオカだ〜、ヤンニョムチキンだ〜、チーズダッカルビだ〜と聞いていたので「第二の原宿みたいな感じでしょ?」なんて思っていましたが、それはあくまで表面の新大久保だと思い知りました。今回は「新大久保ってコリアンタウンでしょ?」と思っている人にも知ってもらいたい、人口の35%が外国人の街・新大久保の「今」をお伝えします。

 

もちろんコリアンタウンだけど、それだけじゃない!

最初にお断りしておくと、新大久保はもちろんコリアンタウンです。注目を集めたところで言うとヨン様ブームに始まりますが、それだけじゃなくなっている……というのが2020年現在の新大久保。『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』によると、東京メトロの東新宿駅からJR山手線・新大久保駅までのあたりに韓流が密集しているのですが、山手線の高架をくぐって西側に行くと、世界が変わってくるのだとか。

 

同じ大久保通りでも、こちらに並んでいるのはネパール人やバングラディッシュ人の経営する雑貨屋や、ぜんぜん日本語表記のないあやしげな中華料理、ハラル食材店、国際送金の店、外国人向けの不動産屋……そこに広がっているのは、アジアの人たちの「生活の街」だった。なんだ、観光地よりもこっちのほうが面白いじゃないか。

 (『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』より引用)

 

しかも、2020年7月時点で大久保1・2丁目における人口の35%が外国人だというから驚き。小学校も様々な言語に翻訳された学級通信が掲示板に張り出され、インターナショナルスクール状態なんだとか!

 

著者の室橋裕和さんは、こんな多国籍化している新大久保で一体何が起きているのか? を体感したいと考え、お引越ししたという方。元々タイで10年ほど暮らしていたそうですが、その時の雰囲気とも似ているのだとか。

 

外食に出かけても同席しているのは外国人ばかり、近所を元気に走り回るのはベトナム人の女の子、日本食が食べたくてもお店がほとんどない、家具を買いに行って「14時に持っていくよ!」と言われたけど、連絡があったのは15時過ぎだったとか、とにかくエピソードが濃い。「新大久保は韓流好きの若い子たちが集まる場所だから」とどこかで決め付けていた自分もいたのですが、こんな話を読んだら行きたくなってきてしまった……!

 

でも、どうしてこんなことになったの?

コリアンタウンだけじゃなくなった背景には、2011年の東日本大震災があったといいます。震災を受け、母国に帰る中国人と韓国人が増えたそうなのですが、その穴を埋めるかのように、ベトナム人、ネパール人が増えていったのだとか。

 

東南アジア、南アジア系の人々に対し、留学ビザが下りやすくなったのだ。そして新宿区は日本語学校が乱立する地域だ。留学生はしぜんと外国人の多い新大久保に集まってくるようになる。人が増えれば店も増え、店がさかんに人を呼ぶ。震災後の10年足らずで、新大久保は一気に多国籍化していった……のではないかというのが、マッラさんの推測である。

 (『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』より引用)

 

このマッラさんは、1999年から発行されている『ネパリ・サマチャー』の編集長。新大久保にオフィスを構え、日々取材しながら在日ネパール人のためにネパール語の新聞を発行しています。元々、品川区の西小山で飲食店を経営する傍ら『ネパリ・サマチャー』を発行してきたそうですが、現在は『ネパリ・サマチャー』一本で、ウェブ版まで作っているというから驚き! ウェブ版をのぞいてみると、新聞には「03」から始まる電話番号のネパール料理のお店やカフェが広告を出していたり、資格取得について書かれている記事も発見。ネパール語なので読めませんが、母国から日本に移り住んでいる人にはどんなにかうれしい新聞だろう……としみじみしてしまいました。

 

日本人も住む街、新大久保

これだけ国際色豊かな街ですが、もちろん日本人も住んでいます。著者の室橋さんだって住んでいるし、ここで生まれ育った方もいらっしゃいます。100年近く代々この土地で商売をしてきた人だっていらっしゃいました。『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』には、2020年3月でお店を閉めてしまった靴屋のオーナーさんの声も掲載されています。

 

「100年、続きましたからね。そりゃあ残したいと思いましたよ」

街の観光地化、多国籍化にどうにか対応しようと苦心してきたが、ここ数年の韓流ブームの主役は10代の女の子たちだ。ヨンさまの頃にはお金のある40代から60代の女性が多かったが、いまは違う。まだ学生の若い韓流ファンにとって、例えば3000円の靴でも大きな買い物なのだ。日本人の住民は高齢化し、靴の需要はあまりない。東日本大震災以降に増えた東南アジア、南アジア系の外国人もときおり来店するが、どうしても客単価は低く、売り上げは年々下がるばかりだった。

 (『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』より引用)

 

わかってはいることですが、どこか悲しく感じてしまう部分もありますよね。

 

私はまだ自分の目で新大久保の街を確かめていないので、あくまで本を読んだ感想になってしまいますが、この変化し続ける新大久保の街から、未来の東京そして日本を知れるような気がしました。今年のうちに、この目でしっかり新大久保を確かめたい! そんな気持ちになっている、今日このごろです。

 

『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』には、新型コロナウイルスと戦う新大久保の姿も描かれています。また変わりゆく街の中で暮らす日本人はどんな気持ちなのだろう、未知の国である日本で暮らしながらコミュニティを築いていく人々にはどんな苦労があるのだろう、ブームを生み出す消費者は「ブーム」だけで終わらせていいのだろうか、など一冊読むだけで頭がパンクしそうなくらい考えることがたくさんありました。

 

ボリュームもたっぷりなので、秋の夜長にもおすすめです! 2〜3年後の新大久保は全く違う街になっているかもしれない……そんなことも考えながら、今いる日本、そして自分の住む街にも目を向けてみたくなる一冊になると思いますよ。

 

 

【書籍紹介】

ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く

著者:室橋裕和
発行:辰巳出版

“よそもの”によって作られ、常に変貌し続ける街・新大久保。気鋭のノンフィクションライターが活写した、多文化都市1年間の記録。

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辻 仁成が描く父と子の物語−−外国で生きること、子育てすること、その葛藤

最近、頻繁に訪問するサイトがある。それはパリ在住の作家・辻 仁成氏が主宰するDesign Storiesだ。海外で暮らす日本人たちが発信するライフスタイルマガジンで、フランスだけでなく世界各地の衣食住をはじめ、さまざまな文化を私たちに伝えてくれている。特に、このコロナ禍においては日本で流れるニュースだけでは決してわからない現地の様子を知ることもできるのだ。

 

加えておすすめしたい一冊が『父 Mon Père』(辻 仁成・著/集英社・刊)だ。パリを舞台に、そこで生きる父子の物語。2017年の刊行で、この7月には文庫本化された。辻氏はパリでシングルファーザーとして奮闘しているが、この作品は自身を投影した小説といえるだろう。

 

30歳の息子と72歳の父親の物語

実際の辻氏は60歳、息子さんは高校生だから、本作はリアルな辻家の話ではない。十数年先の未来を想像して描かれたのであろうフィクションだ。

 

タイトルは「父」だが、主人公の「ぼく」は息子の方だ。日本人の両親の元、パリで生まれ育ったひとり息子の充路(ジュール)は30歳、日本人にフランス語を教える語学学校の教師をしつつ、ひそかに小説を書いている。母親は幼いころに事故死したため、父・澤凪泰治はひとりで息子を育ててきた。泰治は小説家、そして書道家としてパリで活躍してきたが、70歳を過ぎたころから健忘症の症状が出始めたという設定だ。父が迷子になるたびに、息子は深夜でも昼間の仕事中でも父親を保護するためにパリの街を駆け回ることになる。異国で生きる日本人家族の愛と絆の物語なのだ。

 

子どもの永遠の相棒「Doudou」(ドゥドゥ)について

本作は美しいパリの街並みがとてもよく描写されているのに加え、日本とは違う、さまざまな文化や習慣も散りばめられている。その最たるものが、この物語に終始登場するクマのぬいぐるみ「ノノ」だろう。

 

赤ちゃんや幼児がぬいぐるみをかわいがるのは日仏同じでも、たったひとつのぬいぐるみを自分の相棒として共に成長し、大人になってもずっと大事にし続けるのはフランスならではかもしれない。フランスではそれらを総称して「ドゥドゥ」と呼ぶ。充路にも赤ちゃん時代から大切にしている「ノノ」と名付けた小熊のドゥドゥがいる。ノノは実家のベッドの枕の横にいつもいる。

 

「ノノ、元気(Ça va)?」

と声をかける。昔は彼が話す甲高い声がぼくには聞こえていた。誰にも言えない心の内側をこの小熊にだけ白状することが出来た。パパにさえ決して見せたことがない涙をノノのお腹で幾度となく拭って、何かの欠落を埋めるような感じでぎゅっと抱きしめては眠った。

(『父 Mon Père』から引用)

 

物語の後半ではノノが突然、姿を消して充路が慌ててその姿を探す展開も興味深く読めるだろう。

 

まわりに親族が誰もいない孤独

フランス人は家族と過ごす時間をとても大切にする。クリスマス、誕生日、そして長期のバカンスなどは家族が集まって過ごすのがあたり前になっている。だから、日本から来たひとり暮らしの学生や駐在員などは、時として寂しい思いをすることがあると聞く。

 

主人公の充路がその不安を語る場面がある。

 

パパ以外、この国には血の繋がった人間はいない。だから、いつも、もしもパパに何かあったらぼくは天涯孤独になってしまう、と思って生きていた。(中略)フランスに血縁者はいない。日本にはいるけど、でも、頻繁に会っているわけじゃないから、みんな遠い親戚みたいな薄い関係。小学生の頃、ぼくはパパが死んだ後の孤独を思っては毎晩のように悪夢に魘されていた。だからこそ、ぼくは家族を早く持ちたかった。自分の子孫を作れば孤独になることもない、と考えた。血は大事だ、と思うようになる。

(『父 Mon Père』から引用)

 

日本の地元で生まれ育った若者がこのように”血”を意識することはあまりないのではないだろうか? 外国暮らしはかっこいいと憧れる人は多いが、日本にいたら感じることのない不安が多くあることも本書を読むと理解できるだろう。

 

パリの移民、不法滞在者たち

フランスは移民国家だ。ひとくちにフランス人といっても、アジア系、アラブ系、アフリカ系などさまざまだ。特にパリは生粋のパリジャン、パリジェンヌのほうが少ないくらいだろう。

 

充路には、リリーというフランス国籍の恋人がいる。リリーの母は中国人、そして父親はフランス人だが彼女が幼いころに亡くなっており、なんと充路の母親と不倫関係にあったというフィクションならではの人間関係が複雑に絡み合っている。日本に対して複雑な思いを抱える中国人の母親だが、物語の後半では充路の父親と”漢字”による筆談、さらに”書”で打ち解けていく展開がとてもいい。

 

また、澤凪家で掃除のために働く若い家政婦が南米から来た不法滞在者だったという設定も、実際にはよくある話で、移民国家フランスの一面を垣間見ることもできる。

 

パパが作るのは決まって和食で、あの頃、アパルトマン中に香る味噌汁の匂いがぼくにとって朝のはじまりを告げる狼煙のような役割を担っていた。

(『父 Mon Père』から引用)

 

家の中は日本と何ら変わらない。しかし、玄関を一歩出たら、そこは異国という暮らしを疑似体験できる小説でもある。ぜひご一読を。

 

【書籍紹介】

父 Mon Père

著者:辻 仁成
発行:集英社

パリで生まれ育った「ぼく」は、ママを事故で亡くして以来、この街でパパと二人きりで生きてきた。だが、七十歳を過ぎたパパに、健忘症の症状が出始める。彼が迷子になるたびに、仕事中であろうと、真夜中だろうと、街を駆けずり回ることに。一方で、結婚を迫ってくる恋人との関係にも頭を悩ませていた。実はぼくらの始まりには、両親の過去が深く関わっていてー。家族と愛を巡る運命の物語。

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ルームシェアってぶっちゃけどうなの? 「オタク女子が、4人で暮らしてみたら。」で広がる妄想の世界

小説やドラマなどでよく見る、ルームシェア。私的伝説のドラマ『ブザー・ビート~崖っぷちのヒーロー~』でも、北川景子演じる莉子と貫地谷しほり演じる麻衣が一緒に暮らしていたっけ。

 

実際、ルームシェアをしていたという友人も何人かいる。男1人・女2人でシェアハウスに住んでいたケースもあった。結局一度も遊びに行けなかったが、なんだかとても楽しそうな毎日を送っていたと記憶している。

 

子どもが3人いる今は絶対に無理だが、若いときに一度くらい経験しておきたかったな~などと思う今日このごろ。というのも、「オタク女子が、4人で暮らしてみたら。」(藤谷千明・著/幻冬舎・刊)を読んだのだ。オタク女子が共に暮らす。嗚呼、なんて魅力的な響きだろう。

アラフォーの夜泣き、からのルームシェア

著者の藤谷さんは、フリーランスのライター。ある夜、一人さめざめと泣いてしまったのだそう(ご本人いわく「夜泣き」)。

 

37歳(当時)独身女子、長く付き合っていたパートナーと別れ、ふとしたケガから体調不良に陥り、将来のお金の不安をはじめメンタルがだだ下がりになってしまったようだ。

 

何よりも「何かあったとき、一人だと不安」。この想いが大きく、同居人を探しはじめる。ここで集まったのが(しかも、結構簡単に!)、オタク仲間だったということで、本タイトルに至るわけだ。

 

ちなみに、4人はそれぞれハマっているジャンルや推しが違うということは、最初に情報としてお伝えしておく。

 

さて、オタク女子4人の共同生活、どんなメリットが、そして注意点があるのだろうか。藤谷さんの経験談より、いくつかピックアップしていこう。

 

オタク女子4人共同生活、ここが最高!

ルームシェアのメリット(1)生活コストの低下

少ない家賃で、広い部屋に住める。これこそ、最大のメリットだろう。藤谷さんの場合は、6万円の負担で5LDKの一軒家に住んでいる。光熱費だって、住んでいる人数で割れる。一人暮らしをするよりも、はるかにコストパフォーマンスが良い。いや、良すぎる。これならば、将来のための貯蓄も難くない!

 

ルームシェアのメリット(2)推しグッズであふれるヤバい物量&投資に対する許容

オタクは往々にして物が多い。私もかつてオタクだったので、わかりみが深い。推しのグッズは増える一方。同じCDやDVDでも限定版と通常版があったり、写真集が出ても、普通の表紙のほかに「Amazon限定表紙」なんかが出たりもする。同じツアーでも、一度参戦して終了なんてよほどのことがない限りありえない。チケットが入手できるのならば、遠征上等。いや、遠征こそツアーの醍醐味だ。

 

当然、物は増えるし金も消えていく。そして、その事実に対してオタク以外の人からは、「なんで同じものをいくつも買うの?」「同じ公演を何度も見る意味は?」などと言われることが少なくない(これが苦痛!)

 

その点、オタク同士の理解は早いし深い。しかも、ルームシェアによって一人暮らしよりも広い部屋に住めるから、結構な物量でも無問題なのだ!

 

ルームシェアのメリット(3)弱っているとき、誰かの存在がいることが心強い

藤谷さんが住む「推しハウス」には4人の住人がいるが、誰かが体調不良に陥ったときなど、他の誰かがフォローできる点。藤谷さんの表現でいうと、「残機は常に3」(言い得て妙!)。これも大きなメリットだ。

 

たとえば、風邪で寝込んでいる人の部屋のドアノブに、食べ物など必要な買い物をしてかけておく。なんとありがたいことか。

 

かといって、恋人や家族が病に伏したときのような「手厚いケア=愛」みたいな義務がないのが、ルームシェアのほどよい距離感による恩恵だと藤谷さん。

 

さらに、悲しい出来事があったとき、「悲しい」を共有できる相手がいることのありがたみを藤谷さんは切々と語っている。うれしいだけじゃなく、悲しいを分かち合えるっていいよね。

 

良いことばかりでもない。オタク女子4人共同生活の注意点

ルームシェアの注意点(1)物件がなかなか見つからない

意外だったのだが、ルームシェア可の物件がそもそも少ないらしい。「2人入居OK」はたくさんあるが、その場合の2人入居=「結婚を前提とした同棲」という意味らしい!

 

その理由として、友人同士のルームシェアは、喧嘩別れしたときに家賃が未払いになるリスクがあるのだそうな。なるほど……(でもそれって、結婚を前提にしていても、相手はきょうだいであっても、同じリスクがあるような)。

 

また、間取り面でも、ルームシェアに適したものが少ないとのこと。確かに、部屋数が多い物件は基本ファミリー向けにつくられているので、致し方ないのかもしれない。

 

ルームシェアの注意点(2)生活習慣や価値観の違いからぶつかることもある

家事の解釈の違い。家具や家電で欲しいもの、デザイン、ここだけは譲れないというこだわり。このあたりをしっかり話し合っておかないと、トラブルになりかねない。

 

藤谷さん宅でも、はじめのころはホウ・レン・ソウが破綻していたがゆえに、さまざまな問題が起こっていたそうだ。その後、基本ルールを決め、アプリで家事タスクの管理をはじめたところ、うまくまわっているらしい。

 

あなたもぜひ、Let’s ルームシェア!?

あれ、注意点が2つしかないじゃないか、とお思いの皆様、そうなのだ。女4人の共同生活、さぞやトラブルが起こりまくっているかと思いきや、

 

この生活で、揉めごとらしい揉めごとは起きていない。せっかく書籍にするのだし、ドラマチックなバトルがあったほうが盛り上がりそうだけど、本当になにもない。

(『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』より引用)

 

と語る。それもこれも、共に暮すメンバー次第ということだろう。

 

『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』には、メンバー選びのポイント、一人暮らしと比べてどれくらい節約できたか、そして目立った揉めごとがないとはいえ、やはり些細な問題は起こっているわけで、そんなリアルな生活を赤裸々に開示してくれている。これから同じようなルームシェアを検討する人は、ぜひ参考にしていただきたい。

 

そして、私のように「もはや我が人生で、ルームシェアは無理!」という者も、「これが、同じ推しグループのオタク同士で暮らしていたらどうなるかな~」「一緒に住むとしたら、あの子とあの子かな~」などと、いろいろ妄想しながら楽しませていただいた。

 

藤谷さん家を舞台としためくるめくルームシェアの沼に、あなたもぜひ。

 

【書籍紹介】

オタク女子が、4人で暮らしてみたら。

著者:藤谷千明
発行:幻冬舎

お金がない、推しのグッズは増える、孤独死は嫌だ!そんなわけでアラフォー女子がはじめた快適ルームシェアの日々。

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『マンガ 認知症』書評──「相手の見ている世界を想像してみる」という、普遍的なアプローチ

日本が世界トップの超高齢社会になったいま、認知症と介護は誰にとってもヒトゴトでは済まされない大問題。切実に助けを求めている人も少なくなく、大きな本屋さんに行くと関連書籍が棚いっぱいに並んでいます。なかでも最近注目され、発売直後から版を重ねているのが、マンガ家のニコ・ニコルソンと佐藤眞一・大阪大学大学院教授の共著『マンガ 認知症』(ちくま新書)。実体験に基づいたマンガと平易な語り口で書かれた(ただし最新の研究成果はふんだんに盛り込んだ)解説テキストを通じて、「認知症の人の不思議な行動」についてゼロから学べる一冊です。

 

 

「わからない」と「知りたい」が生み出す切実なリアリティ

ニコさんは、数年前に大好きなお婆ちゃんが認知症になり、母親と二人三脚で介護に取り組んできました。二人が抱えた悩みに笑顔で寄り添うサトー先生は、「老年行動学」の専門家。認知症がまだ「痴呆」と呼ばれていた1980年代から高齢者施設に通って、現場の人たちとケアのあり方を考え続けてきた人です。そんなコンビが出会って生まれた本だから、とにかく質問と答えの両方にリアリティがある。

 

そもそも認知症とはどういう状態なのか? 穏やかだった人が突然怒りっぽくなったり、強固な「物盗られ妄想」に囚われがちなのはなぜなのか? 家にいるのに「帰りたい」と訴える理由は? そんなとき、一体どう接すれば本人も家族も楽になるんだろう?

 

認知症に関心を持った人ならきっと突き当たる諸問題が、ここでは祖母(婆ルソン)、母(母ルソン)、孫(ニコルソン)という“女三代・三人家族”の日常を通すことで、ぐっと身近に迫ってきます。読み進めていくうちに、なんなら自分もお茶の間に座って、サトー先生に愚痴をこぼしている気すらしてくる。だから本の内容が単なる知識ではなくて、いわば実感としてお腹に落ちます。マンガという表現の持つ力、キャラクターの魅力を最大限生かしたこの敷居の低さが、まずは本書の大きな特徴。

 

でも『マンガ 認知症』が読者を惹き付ける理由は、それだけではありません。筆者は、読みはじめてすぐ「あ、この本は信用できる」と感じました。それは本書の作りが「わかりやすい」からではなかった。むしろ文章の行間やコマの一つひとつから、「わからない」という戸惑いや、ためらいが滲んでいるように思えたからです。たとえば次のページを見てください。

 

↑『マンガ 認知症』21ページより (C)ニコ・ニコルソン、佐藤眞一/筑摩書房

 

序章「認知症ってなんですか?」の一場面。婆ルソンから「私のおサイフ盗ったでしょう!」と疑われた母ルソンが、諦めきった顔で「慣れてるしいいわよ。病気なんだから仕方ないの」と口にするシーンです。筆者は最後のコマの、どこか寂しげなサトー先生の表情にハッとしました。誰よりも豊富な知識と経験を持った専門家なはずなのに、ちっとも自信ありげじゃない。「もしかするとこの人は、同じしんどさを抱えて疲れきってしまった家族をたくさん見てきたんじゃないだろうか」と、読み手に想像させる“何か”を感じさせる。

 

作者のニコさんが、どういう意識でこのコマを描いたのかはわかりません。でも「自分にできることは限られているかもしれない」という感覚は、ある種の通奏低音として、本書全体に響いています。直接セリフには出てこなくても、ユーモラスな表情、効果音、描線のところどころに作り手のそんなスタンスが滲み出ている。おそらくそれが絶妙な隠し味となって、多くの人の心に響いているのではないでしょうか。

 

マンガを使って困難な問題を「わかりやすく」解説した本は、あらゆる分野で星の数ほど出版されています。でも「わかりやすさ」には罠もある。たしかにマンガという表現は、あるストーリーに沿って、読者を効率よく結論まで連れていくのが得意です。見方を変えると、それ以外の雑多な可能性――言葉にしづらい側面や、割りきれない感情をばっさり捨象することで成り立っている。たとえば政府や企業の広報マンガに漂う、あの我田引水のいかがわしさを思い出してもらうといいかもしれません。

 

ニコ・ニコルソンのタッチは、それとは真逆と言っていい。だからこそ本書を貫いている「介護は知ることで楽になります!」というサトー先生の信念も説得力を持ってきます。「わからない」という気持ちが切実であるほど、「知る」という行為もまた、ポジティブな力を持ちうるからです。

 

経験に基づく信念「認知症の人の心を知ることで介護は楽になる」

本書のガイド役であるサトー先生は、徹頭徹尾「とにかく認知症の人の身になって考えてみる」という姿勢を崩しません。「どうすれば家族のつらさを軽減できるのか」より、まず「なぜ認知症の人はそういう奇妙な行動を取るのか」を想像する。豊富な事例研究と学問的な知見を駆使して、その理由を探していく。この“思想的バックボーン”もまた、『マンガ 認知症』が読む人に希望を与えてくれる理由だと思います。

 

これは、介護以外に置き換えてみるとよくわかる。たとえば対人関係でトラブルに陥ったとき、人はどうしても自分の気持ちに囚われてしまいがちですね。つらさのあまり相手の言動を変えようと努力を重ねて、よけいに事態をこじらせてしまうことも多い。だけど本当に状況を改善するには、なぜ相手がそういう行動をとっているのか、その人の気持ちになって想像してみることが不可欠。どんなに回り道に思えても(多くの人が体験的にわかっているように)ほかに根本的な解決方法はありません。

 

サトー先生のアプローチも、これに似ています。そもそも認知症には、「なんらかの脳の疾患によって」「認知機能が障害され」「それによって生活機能が障害されている」という三つの条件がある。言い換えると、たとえ認知機能が低下していても、日々の生活に支障が出ていなければ認知症とは診断されません。先生の言葉を借りるなら「介護や家族の支えというものを前提とした診断基準になっているという、珍しい病気」。つまり、当人の症状だけで診断がくだせる他の病気と違って、最初から対人関係の不具合込みの病気と言っていい。

 

残念ながら現時点では、アルツハイマー型認知症などの脳疾患を根治する医学的方法は確立されていません。だからこそ認知症の人と介護する人の関係性が大事になってきます。「それを含めてケアしないと本当の治療にはならない」と、サトー先生は熱く語ります。そしてそこで有効なツールとなるのが「人はなぜそういう行動に出るのか」という心の仕組みを理解する学問、心理学だというわけです。そう、まさに「介護は知ることで楽になる」。

 

第一章で取り上げられている「物盗られ妄想」について見てみましょう。これは認知症の代表的なBPSD(行動・心理症状)で、本書で描かれる婆ルソンも、身近で介護をしてくれている娘(母ルソン)が財布を盗んだと思い込んで非難したり、親戚に被害を訴えたりしていました。口では慣れっこだという母親も、もちろん、内心では深く傷付いています。

 

やさしかった婆ルソンの不可解な言動について、サトー先生はまず、脳の萎縮による記憶障害を直接的原因として挙げます。そして「自分がお金を置いた場所を忘れてしまう」「でも、自分のせいだとは認めたくない」「その結果、自分を納得させるための虚記憶を作ってしまう」という婆ルソンの心の流れを丁寧に推測していく。そして最後にこう言い添えます。「認知症の人は基本的に孤独のなかで生きているんです」。

 

↑『マンガ 認知症』45ページより (C)ニコ・ニコルソン、佐藤眞一/筑摩書房

 

脳の機能が低下すれば、家族や友だちと心を通わせるのも難しくなっていく。当然、心は不安と恐怖でいっぱいになる。それでもなんとかプライドを保ち、自分自身であり続けようとするから、認知症の人は「自己防衛」に走ってしまうのではないか。「妄想の背景には、その人が心の奥底に抱えてきた恐怖があるのかもしれません」と、サトー先生は言います。だから「認知症の人の言葉には、その人の人生が現れる」。たくさんの事例に接してきた専門家ならではの、シンプルだけど重みのある言葉です。

 

このようにサトー先生の語り口には、つねに「人生の先輩」への敬意がある。認知症患者の自尊心をなるべく損なわず、その人が直面している不安や孤独を取り除いてあげるにはどう接すればいいのか。あらゆる局面でその視点が一貫している。そのうえで、婆ルソンの「物盗られ妄想」に日々悩まされている母ルソンとニコルソンに対して、

 

①「お金は大事だよね」と同意しつつ、探すように促す

②介護者が疑われないよう、本人に見つけてもらう

③あまりに興奮しているときは声をかけず、静まるまで距離をとる

 

と具体的なアドバイスを示してくれます。「同じことを何度も聞いてくる」「何度注意してもお米を大量に炊いてしまう」「突然怒り出す」「家にいるのに『帰りたい』と言う」など、残りの章で取り上げられている問題についても、この姿勢はまったく変わりません。

本書に登場する母ルソンとニコルソンは、そんなサトー先生と一緒に認知症についての理解を少しずつ深めていく。その過程で二人は、しっかり者の苦労人だった婆ルソン(祖母)の人生とあらためて向き合うことになります。このように、認知症の介護に関する優れたガイド本でありながら、ある家族の記憶にまつわる物語にもなっているところが、単なるノウハウ本とは違う『マンガ 認知症』の面白さだと思います。

 

 

介護の実践的ノウハウの向こうに浮かび上がってくる、“女三代”の家族の記憶

宮城県出身のニコ・ニコルソンは、実はこれまでにも、自分の家族をテーマにしたエッセイマンガをいくつか発表しています。2013年に出た『ナガサレール イエタテール』は東日本大震災の津波で流されてしまった実家を、母ルソンとニコルソンが再建するまでの体験記でした。でもその後に、震災による環境の激変もあって婆ルソンの認知症が急速に進んでしまう。その一部始終の顛末を孫娘の視点から描いたのが、2018年の『わたしのお婆ちゃん』です。ここでは作者独特の自虐ギャグやユーモラスな作風を基調にしつつ、かつて自分を守り、育ててくれたお婆ちゃんが“なにか別の存在”に変わっていくことへの戸惑い、怖さ、切なさが赤裸々に綴られていました。

 

じゃあ救いのない作品かというと、決してそんなことはない。『わたしのお婆ちゃん』が感動的だったのは、著者の分身である主人公が途中から「お婆ちゃんの見ている世界」を覗いてみようと模索しはじめるところです。なかでも鮮烈だったのが、次のページ。真夜中に起き出した婆ルソンが、ふらりと家から迷い出てしまうシーンです。

 

↑『わたしのお婆ちゃん』40ページより (C)ニコ・ニコルソン/講談社

 

 

婆ルソンが直面しているであろう不安や恐怖に満ちた世界が、ここではマンガ的な手法を通じてありありと表現されています。もちろんそれは作者の想像にすぎない。でもお婆ちゃん子だった孫娘にとって、祖母をテーマにしたマンガを描くこと自体が、そのまま「認知症の人の身になって考える」スタンスへとつながっていったことは間違いありません。そして、このコマから滲んでくる「一人ポツンと取り残された感覚」は、たとえば『マンガ 認知症』第七章で述べられている「場所の見当識障害」と見事に重なっていたりもする。軽妙なやりとりの裏側にそういう血の通ったストーリーが存在していることもまた、『マンガ 認知症』という本に説得力を与えている要因だと思います。

 

ちなみにニコルソン一家に家族の物語があるように、サトー先生にもまた、なぜ認知症の研究者を志したかという物語がある。本書の後半、それまでガイドに徹していたサトー先生が静かに自らの過去を語り始める箇所は、とても重要です。そこでは認知症介護の問題だけにとどまらない、「ケアとコントロール」という普遍的なテーマが示されているからです。

 

↑『マンガ 認知症』220ページより (C)ニコ・ニコルソン、佐藤眞一/筑摩書房

 

ここでサトー先生は、自分の家族にまつわる体験談を引き合いに出しながら、相手を気遣う「ケア」だったはずの行為がいつの間にか「コントロール」に変わってしまう怖さについて言葉を選びつつ語っている。これは介護だけでなく、子育てや恋愛など、すべての人間関係に付きまとう難問です。

 

もちろん、ケアする側とされる側のできることに差がある以上、完璧に対等な関係を保つことはむずかしい。だけど小さな工夫を積み重ねることで、相手を無意識にコントロールしてしまう罠は避けられるかもしれません。介護という問題を通じて、本書はそのヒントも示してくれる。内容と語り口に信頼が置けるだけでなく、見かけよりずっと長い射程を持った一冊だと思います。

 

【書籍紹介】

 

著者:ニコ・ニコルソン/佐藤眞一

発行:筑摩書房

 

大好きな祖母が認知症になってしまい、母と二人で介護に取り組むマンガ家、ニコ・ニコルソン。人が変わってしまったかのような祖母との生活に疲れ果てたニコたちの前に、認知症の心理学の専門家、サトー先生が現れて…? 「お金を盗られた」と言うのはなぜ? 突然怒りだすのはどうして? 認知症の人の心のなかを、マンガでわかりやすく解説します。認知症の人が既に500万人を超え、誰もが認知症になり得て、認知症介護をする時代。読めば心がラクになる、現代人の必読書!

 

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使い終わったカイロは燃える or 燃えない? クイズ形式でごみの分別を学べる『ごみ育』

7月からレジ袋が有料化され、プラスチックごみや『3R(スリーアール)』のリデュース・リユース・リサイクルが注目されるようになりました。みなさんのご家庭では、「毎日のごみを減らそう」など意識が変わったことはありましたか?

 

実は、我が家では7〜8月はしっかりカバンにマイバックを入れて買い物していたのですが、最近は「ま、3円くらいならいいか」と袋をつけてもらうことが多くなっています。いやぁ〜緩んでますね。反省!

 

ということで今回は、反省するためにも『ごみ育 日本一楽しいごみ分別の本』(滝沢秀一・著/太田出版・刊)を読んで勉強することにしました! この本は、お笑いコンビ・マシンガンズで活動をしながら、ごみ清掃員としても活躍されている滝沢秀一さんが、小学生でもわかるようにと楽しくごみの分別を教えてくれる一冊。50問のクイズが掲載されており、子どもと一緒に読むのはもちろん、大人でも「え。そうだったの!?」と驚く内容が満載です。新しい日常に慣れ始めてきた今、少し気を引き締めるためにもご家庭での『ごみ育』を始めてみましょう!

 

一人当たりが年間に排出するごみの量はどれくらい?

無意識にポイポイとごみ箱に捨てていますが、毎日平均でどれくらいの量のごみを排出しているかご存知ですか? そして日本全体で年間どれくらいのごみを排出しているか把握できているでしょうか? 環境省のホームページで『一般廃棄物の排出及び処理状況等(平成30年度)について』を調べてみると、

 

・ごみ総排出量:4272万トン(前年度 4289 万トン )

・1人1日当たりのごみ排出量:918 グラム(前年度 920 グラム )

 

とのこと。

 

イメージがつきにくいですが、年間の量を東京ドームに例えると115杯分のゴミが出ているんだとか!! もっと分かりにくくなっちゃったかもしれませんが(笑)、めちゃくちゃ多いですよね。なんでもかんでもごみにしてしまうよりも、使い捨てではなく長く使えるものを買ったり、可燃ごみにまとめず分別して資源に活用したり、なるべくごみを出さないように心がけたりしたいもの。例えば1人1日あたりのごみ排出量が500グラムまで減らせたら、年間の総排出量も減らせるので、ちょっとの努力の積み重ねは大きい! その時は「たかがレジ袋1枚」と思うかもしれませんが、年間で考えると大きな変化になることでしょう。

 

家庭でも使う機会が増えた「シュレッダーの紙ごみ」は何ごみ?

ここからは『ごみ育 日本一楽しいごみ分別の本』に掲載されているクイズをご紹介していきましょう。

 

最近リモートワークが増えて、家庭用のシュレッダーを使うようになった人も多いと思います。そんな「シュレッダーの紙ごみ」は、何ごみになるかご存知ですか?

 

ほとんどの地域では可燃ごみで扱っているよ。繊維が細かすぎて再生できないんだって。でも地域によってはシュレッダーごみも古紙で集めているところがあるから、確認してみて!

 (『ごみ育 日本一楽しいごみ分別の本』より引用)

 

紙なので、古紙として出すのが正解なのかな? と思っていたのですが、可燃ごみなんですね! ちなみに投函されているチラシや、シュレッダーしなくてもいい資料、ダンボール・新聞・雑誌・紙パック以外の「雑がみ」については、古紙の日に出すのが正解です。

 

あと、一見「古紙」として出したくなる「ピザの箱」も可燃ごみ。ピザの油がついているものはリサイクルに適さないなのだとか。汚れがあるものや、細かすぎる紙は「古紙」ではなく可燃ごみと覚えておきましょう!

 

これからの季節でマストアイテムになる「カイロ」は何ごみ?

ちょっとずつ秋の気配を感じるようになってきましたね。これからの季節、マスクに加えて必須アイテムとなるのが「カイロ」です。これ、可燃ごみと不燃ごみのどちらに捨てるのが正解でしょうか?

 

一見、可燃ごみっぽいけど、中身は何か知ってる? 実は鉄なんだ。鉄は何ごみ? そう、不燃ごみだね! わざわざ袋を破って中身をださくてもいいよ。

 (『ごみ育 日本一楽しいごみ分別の本』より引用)

 

今まで、可燃ごみで出していた……!

 

ちなみに自治体によっては「可燃ごみでもOK」としているところもあるようなので、詳しくはお住まいのごみ分別をご確認ください。

 

あと、お家にあるCDやDVDをそろそろ捨てようかなーなんて思っているあなた! リサイクルショップなどに買い取ってもらえばごみにはなりませんが、捨てるときは「可燃ごみ」なんだとか。「あれが燃えるの?」と思ってしまったのですが、可燃ごみなんですね〜。

 

『ごみ育』では、他にも「乾燥剤」「ソースの空きボトル」「シャンプーやリンスの空きボトル」などなど一瞬ではパッ! とわからない分別がニコ・ニコルソンさんの可愛いイラストと共にクイズ形式で紹介されています。大人から子どもまで毎日出てくる「ごみ」について考えられる一冊になること間違いなし! 一家に一冊、おすすめです!

 

【書籍紹介】

ごみ育 日本一楽しいごみ分別の本

著者:滝沢秀一
発行:太田出版

使い終わったカイロは、何ごみ? TV出演多数!話題の“ごみ清掃芸人”が贈る、未来への“ごみ”とのつきあい方。

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ポップで怖い令和の新・心霊スタイル−−『ヤバい生き霊』

35年前、『オールナイトフジ』という土曜日深夜OAの生放送番組があった。ある夏の夜、この番組で稲川淳二さんが『生き人形』というものすごく怖い怪談を披露したことがある。生放送で見る稲川さんの怪談は、真夜中過ぎという放送時間もあって、それまでの人生で経験したことがないほど怖かった。

 

ポップな心霊論

以来、稲川さんプロデュース兼語りの2時間枠の怪談特番がさかんに放送されるようになり、怪談ライブの映像もよく見た。ドラマ仕立てで怪談を映像化したものもあったが、一番怖かったのはやはり稲川さん自身が語るパターンだ。聞き手の脳内に恐怖を増幅させていくような独特の語り口は、他の人に真似はできない。

 

そして今、稲川さんとは違う種類のインパクトを感じさせる語り手が現れた。心霊現象や霊能力についてポップな感覚で語るシークエンスはやともさんだ。この原稿では、吉本興業所属の“霊がよく見える”ピンの芸人さんであり、最近テレビでもよく見るようになったはやともさんの著書『ヤバい生き霊』(シークエンスはやとも・著/光文社・刊)を紹介したい。

 

殺されたはずの人が部屋にいた

つかみとなる“はじめに”で、いきなり衝撃体験が炸裂する。

 

実は、僕にはちょっと特殊な能力があるんです。それは、霊が見えてしまうこと。小学3年生のとき、たまたま殺人事件を目撃してしまったんですが、気付いたら、殺されたはずの人が僕の部屋にいて。そのとき初めて、自分に霊感があることを自覚しました。

  『ヤバい生き霊』より引用

 

スゴイことをしれっと言ってくれる。“たまたま”殺人事件を目撃したって、それは小学校3年生にとって一生のトラウマとなるはずだ。しかも、殺されたはずの人が部屋にいる……。こんなに壮絶な体験を淡々と語ることができるのだから、はやともさんは選ばれし人なのだろう。ちなみにこの時は、やはり霊能力があるお父さんに徐霊してもらったという。

 

生き霊チェック

幽霊だけではなく、生きている人の霊体や生き霊も見えるはやともさんによれば、霊体というのはその人が宿しているエネルギーのようなもの、そして生き霊は誰かに対する思いが強すぎると飛ばしてしまう念のようなものであるという。はやともさんは、人についている生き霊や霊体の様子を霊視する「生き霊チェック」をきっかけにテレビで活躍するようになった。ただ、感じ取ることができるものはそれだけではない。人の本当の感情もわかってしまうのだ。

 

正直、人の本心がわかってしまうのって、そんなにいいことじゃありません。友達だと思っていた相手が、実は自分を嫌っていると知ってしまったり、信頼していた人から、裏切られていることに気づいてしまったり…。嫌な思いをしたこともたくさんあります。

                             『ヤバい生き霊』より引用

 

いいことなんてひとつもないように聞こえる。でも、そこはお笑い芸人さん。見えちゃうものは仕方ないとすべてを受け容れ、持って生まれた特殊能力を誰かの役に立てようと思い立った。はやとも流ポップ心霊論は、ここから形になっていった。

 

“見える”人

章立てを見てみよう。

 

PART1 霊が見えるって案外、楽しい!

PART2 幽霊よりも、生き霊が怖い!

PART3 たまにマジで怖いこともある!

PART4 霊能力をポップに使いこなす!

 

吉本興業に入ったころは、劇場で視界に入る人全員に挨拶して回っていたはやともさん。ところがしばらくすると、社員さんたちから距離を置かれるようになってしまった。なぜか。はやともさんにしか見えない人たちが混じっていたからだ。

 

僕にはたしかにそこに“いる”人が見えていたんですけどね(笑)。けっこうな割合で相手は死んでいる人だったみたいです。事情を説明したら「じゃあもう、誰にも挨拶しなくていいよ…」と、ちょっと怖がらせてしまいました。

                             『ヤバい生き霊』より引用

 

これじゃ日常生活にも支障をきたすだろう。しかし今はスイッチを切り替えられるようになり、霊体が見えっぱなしという状態ではないという。

 

百物語的な読み方

どの話も見開きのスペースに収められているので、ぽんぽん読める。ポップな内容はこの“ぽんぽん”なペースが特によい。そして、たまにちりばめられる本当に怖い話は、このボリュームで語られるとさらに怖さが増す。

 

はやともさんのお父さんが霊能力に目覚めたばかりのころの話。坂の上にある友達の家によく行っていたのだが、その坂道の左右がお墓で囲まれていた。自転車をこいで坂を上り切ったところで女性の幽霊が後ろに乗ってきて、ものすごく怖い思いをしたという。

 

それから何年か経って、偶然その坂の近くを通りかかった親父。あの日のできごとを思い出して、「もう二度とあんな怖い思いはしたくないな」とつぶやくと…。「まだいるよ」と後ろから女の声が聞こえたそうです。

                            『ヤバい生き霊』より引用

 

百物語的な感覚で読み進めていくのがいいかもしれない。ポップな心霊論とすごく怖い実体験のバランスが良く、各パートの終わりには芸能人のオーラカルテ的なイラストもちりばめられていて、メリハリの利いたエンターテインメントとして楽しめる。

 

でも、はやともさん。テレビじゃ言えないことや本で書けないこと、まだまだありますよね。

 

【書籍紹介】

 

ヤバい生き霊

著者:シークエンスはやとも
発行:光文社

「幽霊や生き霊が見える」という特殊な能力が話題を呼んでいる、吉本興業所属のピン芸人・シークエンスはやともの心霊エッセイ集。『女性自身』連載中の人気連載「ポップな心霊論」から、傑作ショート怪談を93話収録した本書。「幼いころから霊を見すぎて霊が全然怖くない」という著者が、これまでの人生、霊視して見えた芸能人たちの素顔、そして自身の経験から覆す世の“心霊常識”の数々、たま~に本気で怖かった心霊体験まで、“おもしろ怖~く”語りつくす1冊です。

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SNSの炎上はなぜ多発する? ――「許せない」がやめられない SNSで蔓延する「#怒りの快楽」依存症

ネット配信が普及して「見逃し配信」が当たり前になり、全チャンネル1週間以上録画保存できる「全録レコーダー」も増えてきた。

 

これまでだったら「あー見逃したー!(涙)」で終わっていたのに、今は何らかの方法で、見逃したものを見ることができる。素晴らしい時代である。

なんでも知っている気分になれる現代

見逃し配信だけではない。すでに放送されたテレビ番組やラジオ、イベントでの出来事などを要約してネットニュースの記事になっていることも多い。

 

それらの何本かに目を通しているだけで、話題のドラマも、バラエティも、芸能人のスキャンダルも、ざっくりとは把握できる。さらに、その記事についているコメントを読めば、世の中の反応も大方理解できる。

 

だから、本当は一度も見たことがないドラマの批評ができてしまうし、120分間の記者会見をあたかも通しで見たような錯覚に陥る。世のトレンドを、すべて知った気になれるのだ。

 

けれども、実際には原稿を書いた記者が切り取ったある一部分だけを読んでいるのであり、書き手のバイアスを通して情報が伝わってきている。故に、本来の事実とは異なる、誤った解釈をしてしまうことも往々にしてある。便利だが、少々危うい時代である。

 

炎上が起こる理由とは?

いずれにしろ、ひと昔前よりも私たちは「知りたがり」「欲しがり」になってきたといえるのではないだろうか。

 

その欲求を満たす最たるものがTwitterをはじめとするSNSであろう。24時間いつでもアクセスでき、リアルタイムで話題になっているニュースを知ることができる。興味があるワードで検索すれば、そのワードを使った投稿だけがピックアップできるので、過去のトレンドも瞬時に理解できる。

 

純粋に情報収集の手段として使っている分にはいいのだが、SNSは時としてさまざまな炎上を起こすから厄介だ。

 

たとえば、ほんの些細な失言や小さな失態、世の中に異を唱えた思想を見つけたとき、それらに反発する人々の怒りが増幅し、あっという間に大きな「憎悪のかたまり」になって攻撃がはじまる。SNS、特にTwitterでよく起こる現象だ。

 

なぜこうも炎上するのか。その理由として、「怒り」は人間が抱く感情の中で、最も中毒性の強いもののひとつだからだと述べるのが、坂爪真吾氏。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事で、新しい「性の公共」をつくるという理念のもと、さまざまな性問題の解決に取り組んでいる、著書『「許せない」がやめられない SNSで蔓延する「#怒りの快楽」依存症』(徳間書店・刊)が話題の人物だ。

 

他人の発言や考えが「許せない」4つの視点

坂爪氏によると、それらの怒りは「ジェンダー」が発端になっていることが多いとのこと。女性らしさの押しつけ、女性差別・女性蔑視、無自覚な男性中心主義、LGBTへの配慮不足などがそれだ。

 

そして坂爪氏は本書の中で、こう指摘する。「SNS上におけるジェンダーをめぐる炎上は、4つの『許せない』が複雑に絡み合うことで発生する」。

 

その4つとは、

 

1.女が許せない

2.男が許せない

3.LGBTが許せない

4.性表現(規制)が許せない

 

である。

 

たとえば、ナインティナイン岡村隆史氏のコロナと風俗に関する発言の炎上。たとえば、女性専用車両に反対する主張を繰り返す人たち。たとえば、人気アニメの献血キャラクター擁護 VS 否認問題。

 

なぜ、これらの炎上が起こったのか、その背景には、どのようなジェンダー意識の差異があるのか。

 

フェミニズム、ミソジニスト、ツイフェミ……なんとなく知っているようで、じつはよく理解していなかったジェンダーに関わる事柄について、本書は具体的な事例を用いながら解説してくれている。「女だから○○」という言われ方に幼いころから違和感をおぼえつつも、「ミソジニストって、もうすぐ三十路の人のこと? アラサー的な?」というお粗末な知識しかなかった私にとって、思っていたよりもずっと難解な書であったが、現代のSNSにまつわる問題を理解するのに偉大なる手引であったことは間違いない。

 

情報であふれた現代だからこそ、必要なこと

話は戻るが、知りたがり、欲しがりな私たちにとって、情報で溢れかえっている現代は快適だ。けれども、その情報を正しく読み取る力が低下しているようにも感じる。そして、すきあらば誰もが何かに対して怒りたい風潮も。

 

高級車がパトカーとして寄贈されたニュースを見て、「税金のむだ遣いだ! けしからん!(購入じゃないよ、寄贈だよ?)」と怒れる人々。会見のほんの一部分だけを見て、「そんなことを言っちゃうの? 信じられない!(まとめサイトを読んだだけでしょ? 前後では違った意味のことを言ってるよ?)」と正義を振りかざして怒り狂う人々。

 

いま私たちに必要なのは、ジェンダーをはじめ、あらゆる物事の正しい知識を持つことはもちろん、冷静に文章を読み解く力、そして自分と異なる意見を許容することではないだろうか。

 

言葉は狂気的な凶器であり、人を容赦なく傷つけるものだからこそ。これ以上、理不尽な炎上が起こらないことを切に願う。

 

【書籍紹介】

「許せない」がやめられない SNSで蔓延する「#怒りの快楽」依存症

著者:坂爪真吾
発行:徳間書店

スマホの画面の向こうには、匿名の歪んだ正義が渦を巻く。ジェンダーをめぐる炎上、ナイナイ岡村「風俗発言」、「テラスハウス」出演者攻撃…。24時間「許せない対象」を探して怒りを求める。これがサイバー空間の異常実態だ。

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あなたには「B面」がありますか? 今よりワクワク仕事ができる一冊『仕事に「好き」を、混ぜていく。』

働き方や、意識が大きく変わった(変えられた?)2020年。

 

自分と向き合うことも増えて、本当にやりたいことが見つかった! とか、今までと違うことに挑戦してみたい! とか、新たな自分を発見したなんて方もいるのではないでしょうか?

 

一方で、「自分って本当は何がしたいんだろう?」とか「このままでいいのかな?」と、これからの仕事について考える人も増えたかもしれません。仕事に対して不安が募ってきたのなら、『仕事に「好き」を、混ぜていく。』(電通Bチーム・著/翔泳社・刊)がおすすめ! 好きなことは仕事になんてならないよ、と半ば諦めモードな人にこそ読んでいただきたい一冊です。

 

電通Bチームって何?

この本の著者は、「電通Bチーム」。6年ほど活動していて、現在までに56名のメンバーがいるそうですが、名前だけ聞いても「何をしているか分からないなぁ〜」と思いますよね。

 

電通Bチームについてまずは簡単に、さわりだけ説明しておきたい。電通Bチームとは株式会社電通に実在する特殊クリエーティブ部隊で、

①本業(A面)以外に、個人的側面(B面=私的活動、すごい趣味、前職、大学の特殊な専攻 etc.)を持っている社員が集まり、

②メンバーの多彩な特技と情報収集力を最大活用し、世の中に今までと違う方法(=プランB、オルタナティブアプローチ)を提案する

というBについての2つの由来があり、「Bチーム」と呼んでいる。

 (『仕事に「好き」を、混ぜていく。』より引用)

 

B面と言っても同じ趣味や嗜好を持った人が集まったわけではなく、DJや小説家、金融に詳しい人、美容好き、釣り、ファッションやeスポーツとバラバラ。電通Bチームのホームページ(https://bbbbb.team/)では、過去のプロジェクトが見られるのですが、社内外から年間300件近くの問い合せが来るそうで、中には「どうやったらBチームに入れますか?」なんて相談もあるんだとか。

 

キラキラしていて楽しそうに見えますが、今までの働き方の価値観で考えると、本業の他にもうひとつの仕事を持つなんて、大変じゃない? Bチームの活動が仕事になるの? って思うのが正直なところ。具体的にどんなことをして、どんな働き方をしているのかご紹介します。

 

本業とは別で「3時間」のミニマム稼働からスタートする

電通Bチームがこれまでやってきたことを大きく分けると4つになるそうです。

 

①コンセプト提案

②受注案件実施

③自主プロジェクト

④公演・ワークショップ・イベント・取材や寄稿

 (『仕事に「好き」を、混ぜていく。』より引用)

 

みんなでイベントしようぜ〜♪ くらいのノリかな? と正直思っていたのですが、意外としっかりしている(笑)。好きとはいえ、ちゃんと仕事としてやるのだから、やっぱり本業とは別にBチームの活動もしたらめっちゃ大変になるんじゃない? と感じますが、56名のメンバーがいるので、月3時間ほどの稼働から始めるんだとか。この人の力を借りたい! と思ったら、「最低月3時間貸してもらえるだけで大丈夫です」と上司に掛け合い交渉するそうです。3時間の内訳は、すでに持っているB面の知識を共有してもらうだけなのでリサーチは0時間、オンラインに情報をアップしてもらうのに1時間、会議に出て対面で情報共有してもらう2時間だけ!

 

たった3時間だけ! ということではないので、詳しくは『仕事に「好き」を、混ぜていく。』を読んでもらいたいのですが、「お、これなら我が社にもBチーム作れそうだな」なんて思ってきませんか? すでにB面を持っている人たちがいるなら今日から集まるだけでも新しいビジネスが生まれるかもしれませんよね。

 

とはいえ、自分にはB面がないんだよなぁ

すでに好きなことや、B面があって「私もやるぞ!」となっている人はそのまま突き進んでもらいたいのですが、中には「そんなものないよ……」と思ってしまう人もいるでしょう。B面をどうやって見つけたらいいかは、Bチームのメンバーが一番よくわかっているはず! ということで『仕事に「好き」を、混ぜていく。』で紹介されている「B面の見つけ方アドバイス」から個人的にお気に入りな見つけ方を抜粋してみました。

 

食べたり寝たりすることよりも好きなことがあれば、それがB面だと思います。

「はぁ、疲れたな」って思った時、自分は何にワクワクを感じるか。疲れた自分をキラキラさせてくれる存在は何か、を考えてみるのが自分のB面を見つけるコツかな、と思います。

本当に好きなものがない、という人はこの世にいません。自分のルーツだとか、ここまで歩いてきた道すがらを、忘れ物でも探す気持ちで隅々まで目をこらして遡ってみる、でしょうか。

 (『仕事に「好き」を、混ぜていく。』より引用)

 

『仕事に「好き」を、混ぜていく。』を読んでみて、必ずB面がなければいけないということではなく、B面があることでもっと仕事は楽しくなる! と私自身も感じました。もちろん大好きなA面を仕事にできている! というのが幸せなことだと思いますが、人間って一面だけじゃないからいろんな面を持って楽しんだ方が得な気がするんですよね〜。

 

『仕事に「好き」を、混ぜていく。』では、Bチームの作り方はもちろん、自分が電通Bチームの57人目のメンバーとして迎えられたような形で本を読み進めることができるので、章の間にあるミッションをこなしながら、少しずつBチームに近づけるような感覚を味わえます。なんだか最近パッとしないな〜という人は、解決のヒントになると思うので、ぜひ一度読んでみてください!

 

【書籍紹介】

仕事に「好き」を、混ぜていく。

著者:電通Bチーム
発行:翔泳社

釣り×営業/旅×事業企画/食×マーケ/美容×広報/北海道×プランナー/eスポーツ×コピーライターetc.超適材適所な「電通Bチーム」の働き方を疑似体験できる、新感覚のビジネス書。今の仕事を続けながらオフィスに縛られない働き方を実現するための6章。

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がんばらなくていいし、逃げてもいい。ストレスを抱えず穏やかに生きよ!

人間にはストレスの許容量に限界があるらしい。限度を超えると堪忍袋の緒が切れて激怒したり、気分が鬱々としてしまったりと行動や気持ちに変化が現れるのではないだろうか。

 

ストレスは数値化できる!?

ストレスをわかりやすく数値化したのは心理学者のホームズとレイである。彼らは1968年に、人生上に起きるストレスがかかる出来事にそれぞれ点数を付けた。これらの合計が300点を超えた人の79%が翌年に何らかの不調を訴えたという。

 

それらを、日本人向けに大阪樟蔭女子大学の夏目 誠さんらが改善したものが「ライフイベントストレスチェック」と言われるものだ。最も高い点数は「配偶者の死」(83点)、その次が「会社の倒産」(74点)、「親族の死」(73点)「離婚」(72点)と並んでいる。こちらの場合は600点を超えると高ストレス状態だと見なされる。

 

【参照】
ストレス点数の夏目

 

一度にストレスを抱え込むと苦しくなる

私自身、子どもを出産した直後、気持ちがひどく落ち込み、とにかく寝ているしかない時があった。当時の状況を点数化してみると「出産(家族メンバーの変化)」(41点)、「引越」(47点)、「妊娠」(44点)、「結婚」(50点)などなど、合計するとかなりの高得点に。さらに「夫婦げんか」(48点)なども重なった。

 

授かり婚は離婚しやすく、5組に2組、つまり40%は離婚するのではとも言われている。私自身もそのひとりになってしまったけれど、これはいくつものストレスが一気に襲いかかり、限界に達してしまうからなのかもしれない。

 

人生の大きな変化がストレスに

がんばらなくても死なない』(KADOKAWA・刊)は、ストレスを抱え込んだ女性漫画家・竹内絢香さんのコミックエッセイだ。彼女は漫画家になりたいという夢を実現するため、会社を退職し、海外留学し、フリーランスとなって仕事を始めたがなかなか仕事を得られず、強いストレスを感じた時期があったという。

 

漫画を読むだけでも「転職」(61点)、「仕事の減少」(44点)、「住宅環境の大きな変化」(42点)など、彼女に得点が次々積み重なっていくのがわかる。変化が一気に起きると、それだけストレスがかかってしまうのだ。彼女が深い落ち込みから立ち直り、毎日を楽しく過ごせるようになったポイントを描いたのがこの本である。

 

がんばりすぎたら、消耗する

竹内さんの場合、仕事が全くなくなってしまった際に強い焦りを感じ、みずから過酷なスケジュールを組んで活動し続け、体を壊してしまったという。点数にすると「多忙による心身の過労」(62点)と「自分の病気やケガ」(62点)がドーンと重なってしまった状態だ。

 

人間は、「なんとかしなくちゃ」と感じた時に、やみくもに頑張りすぎて、かえって消耗してしまうことがある。けれど、気持ちが落ち気味の時に無理をすると、かえって疲れが増し、気持ちがさらに上がりにくくなってしまうかもしれないのだ。

 

ストレスに立ち向かわない方法

現代に生きる私たちは、SNSなどで友人知人の喜怒哀楽に触れる機会が非常に増えた。多くの人が自分の人生に大きな出来事があると、それをSNSにアップする。誰かが結婚する一方で、誰かの親族が亡くなっているという書き込みを日々目にしている。それは少なからずこちらにもストレスになってしまうのだ。

 

竹内さんも「多様な情報を日々消化していくにはけっこうな気力と体力が必要」だと感じ「無理しないでSNSを避けてもよかった」と考えるに至った。なので元気が出るまではSNSを離れ、ひたすら自分の好きな本を読むようになったという。心の調子がいまいちな時は、体調がいまいちな時と同じく、しばしの休息が必要なのだろう。

 

この本には、ストレス状態になった際に、そうっとそこから遠ざかるコツがあれこれ紹介されている。戦わなくてもいいんだ、逃げてもいいんだ、無理してSNSで「おめでとう」などと書き込まなくてもいいんだ、と自分を許してあげられる自分になるための、大切なきっかけが生まれるかもしれない。

 

【書籍紹介】

がんばらなくても死なない

著者:竹内絢香
発行:KADOKAWA

“無理してがんばる”のを諦めたら、生きるのがラクになった。心が軽くなる30の考え方。疲れた心に寄り添う、無理しない生き方コミックエッセイ。

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あり得ないことを「ある」ように見せる描写力と疾走感に酔い痴れる。行成 薫の最新刊『KILLTASK』

2021年の新春、映画『名も無き世界のエンドロール』が全国ロードショーとの発表がありました。主演は、岩田剛典、新田真剣佑、山田杏奈の3人です。今から楽しみにしている方も多いでしょう。

 

原作は行成 薫。彼のデビュー作品です。衝撃の結末が待っている映画だといいますので、このコラムでは行成 薫の最近作『KILLTASK』(KADOKAWA・刊)を取り上げることにします。

 

行成 薫の最新作

行成 薫は、1979年に生まれ、2012年、映画の原作となった『名も無き世界のエンドロール』(最初の原題は『マチルダ』だったそうです)で、第25回すばる新人賞に選ばれました。自ら語っているように、受賞は思いがけないものでした。働きながら書いた小説を応募したところ、新人賞を受賞し、そのまま小説家デビューを果たします。

 

受賞後も次々と作品を発表し、最新作であるこの『KILLTASK』では、著者特有のテンポの良さと台詞回しで物語をぐいぐい進めていきます。

 

殺し屋とのお食事会

冒頭から、読者は激しいシーンに巻き込まれます。いきなり死刑執行の場面から始まるのです。唖然としつつも、「何? どうなってるの?」と引き込まれ、気づいたときは「殺人」という行為がごく普通に行われていると感じている自分に驚きます。殺人を職業とする若者がいることについても、「こういうこともあるかもしれない」と妙に納得してしまうのです。

 

小説の中とはいえ、普段の生活では考えられないことを現実に起こっていることとして認めてしまうのが不思議です。小説の醍醐味とはこういうところにあるのでしょう。あり得ないことを「ある」ことに、ねじ伏せるように変えてしまうのですから。

 

主人公の「僕」は殺し屋の見習いです。辰巳という名の「殺し屋」に従いながら、殺しの修行をしています。辰巳は30代半ば、鍛えられた体を黒づくめの服で包み、白昼でも堂々と人を殺すことができます。高価そうな時計をはめ、手首には蛇のタトゥーと、殺し屋にしては目立ちすぎるのではないかと言いたくなるような外見をしています。

 

殺人の後、辰巳は「僕」を伴い、食事に行きます。行く先は、雑居ビルの地下にあるレストラン「ノーバディ・ノウズ」。

 

ところで、人を殺したことがある人に会った人は少ないでしょう。私も多分、ないと思います。それなのに、辰巳の人物設定には深く頷いていました。殺し屋だったら、きっと、仕事が終わった後にしゃれた隠れ家的なレストランでこんな風に肉を食べるに違いないと思います。殺しの度にいちいち吐きそうになっていては、生きていけないでしょう。

 

もっとも、「僕」は違います。まだ見習いで、人を殺すという行為に慣れていません。派手に肉をほおばる辰巳の傍らで、ちょびちょびとビールを飲むのがやっとです。

 

もう一人の登場人物

行成 薫は、妙に細かい描写を重ねながら、食事前に片付けてきた殺人にリアリティを持たせていきます。そのため、読者は殺し屋と一緒に食事をしているような錯覚に陥り、同時に殺人の興奮にまきこまれていくのです。

 

辰巳の他にもう一人殺し屋が登場します。「伊野尾」という人物で、辰巳とは真逆の人間です。白に近い色に染めた金髪に、ゆったりとした白のカットソーとカーキ色のパンツを身にまとった姿で登場します。美しい肌に、ギリシャ彫刻のような彫りの深い顔立ちの美男子。

 

普段の私なら「そんなヒト、いるわけないでしょ?」と疑うところです。けれども、『KILLTASK』の中でなら、それは十分にあり得ることです。対照的な二人の殺し屋、黒い辰巳と白い伊野尾が確かにそこにいると感じるのです。二人の真ん中には殺し屋見習いの「僕」がいて、3人が私の目の前でしっかりと像を結びます。

 

主人公の「僕」

殺し屋見習いになる前、「僕」は平凡な生活を送る一人の青年でした。ところが、家族を皆殺しにされ、その罪を着せられそうになるという惨憺たる経験をします。そんな「僕」を救ってくれたのが、二人の殺し屋でした。

 

まるでゲームのように淡々と殺人をこなしていく彼らのもとで、「僕」は狙撃手としての才能を開花させていきます。

 

「僕」はヒトを殺したいと思って生きているわけではありません。しかし、そうするしか生きていけないのです。さらには、殺された家族にも秘密があったことを偶然に知ってしまいます。その時から、物語は思いがけない展開を見せ始めます。

 

もっとも、秘密のない家族などないでしょう。誰もがふとしたきっかけで、家族もろとも奈落の底に落ちていきます。「僕」も気づいたときは、家族を失い、殺し屋として腕を磨くしか生き残る術がない、そんな状態に陥っていたのです。それがいいことか悪いことか考えるより先に、体に叩き込まれた教えが「僕」を動かします。

 

〜〜〜狙うのは、脳天か、心臓。
〜〜〜必ず、一発で仕留めろ。

 

生きるか死ぬかの戦いの最中にあって、善悪の判断をしている余裕はありません。

 

結末まで気が抜けない!

結末に向かってぐいぐい進む物語。それも人がバタバタと死んでいく状況に、時に「ちょっと、待って。お願いだから、もう少し穏やかに、ゆっくり進んでよ」と、すがりつきたくなるときもありました。けれども、著者は静かに言い放ちます。

 

生きるか死ぬか、どっちがいい?

(『KILLTASK』より抜粋)

 

こう聞かれたら、ほとんどの人が「生きる方がいい。たとえ顔を変えてでも、どこの誰かわからなくなろうとも、生きていたい」と、答えるのではないでしょうか?

 

この小説もエンディングまで引っ張られる物語なので、ネタバレしないようにこれ以上書くことは遠慮します。この物語も映画化して欲しいと願いつつ、私のタスクはここで終わりといたしましょう。

 

【書籍紹介】

KILLTASK

著者:行成 薫
発行:KADOKAWA

殺し屋見習いとして生きることになった「僕」。平凡な人生を送っていたが、家族を皆殺しにされ、その罪を着せられそうになったところを2人の殺し屋「天使」と「悪魔」に拾われたのだ。淡々と殺人案件をこなしていく2人の下、狙撃手としての技能を磨く僕は、偶然ある事実を知る。殺された家族に残された、犯人の刻印。それは「天使」がターゲットに残す図形と全く同じものだったー。

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コロナ禍の今こそ”ひとりで食べる”楽しさを知ろう−−『dancyu食いしん坊編集長の極上ひとりメシ』

気の置けない仲間との会食が何よりの楽しみという人にとって、長引くこのコロナ禍は辛いと思う。が、こういう時こそ発想の転換が必要だ。「ひとりで外食したって、寂しく味気ないだけ……」そう呟いている方に是非読んでほしい一冊を紹介しよう。

 

dancyu食いしん坊編集長の極上ひとりメシ』(植野広生・著/ポプラ社・刊)がそれ。dancyu(ダンチュウ)は、おいしい食べ歩きや料理づくりなど食を楽しみたい人のための月刊誌。その編集長の植野氏は食いしん坊として一番楽しいのは「ひとりメシ」だと断言しているのだ。

人生にもっと”ひとりメシ”を

植野流ひとりメシの極意を紹介した本書だが、まずは、どうして一人がいいのかを記しておこう。

 

一人なら、好きなものを好きなように、好きなペースで食べられます。

一人なら、料理や酒の組み立てが自由自在です。

一人なら、店の人が気をつかってくれます。

一人なら、カウンターで料理人としっかり話ができます。

一人なら、常連とすぐに仲良くなれます。

一人なら、厨房で料理をつくっている様子を眺めることができます。

一人なら、隣の人より美味しくなる食べ方を実践できます。

一人なら、料理やサービスや設えなど細かい点に気付きやすくなります。

一人なら、ちょっとだけわがままも言えます。

一人なら、料理の感想や気付いた点などを店に伝えやすくなります。

一人なら、好きなときに帰れます。

(『dancyu食いしん坊編集長の極上ひとりメシ』から引用)

 

誰に気兼ねすることなく、ひたすら食を楽しんでみたい。そう思ったら、さぁ勇気を出して一人で外食に出掛けてみよう!

 

隣の人より美味しく食べる方法とは?

植野氏は常に「隣の人より美味しく食べたい!」と考えているそうだ。同じ料理でも食べ方によって味わいはまったく違ってくるともいう。

 

1 舌を意識する

2 犬歯を喜ばせる

3 間接風味づけ

4 温度差をつくる

5 フィニッシュを決めておく

(『dancyu食いしん坊編集長の極上ひとりメシ』から引用)

 

この5大ルールを守れば、今まで食べていた料理がもっともっと美味しく感じるそうだ。では、その具体例をいくつかあげてみよう。

 

かつカレーは「右から2番目」から食べる

いつも食べているかつカレーをより美味しく食べるには、右から2番目のパーツから左へと食べ進めるのがいいという。多くのかつカレーはとんかつの手前の半分くらいにカレーがかかっている。ロースかつの場合は、奥側が脂身、手前が肉になるよう置かれていて、カレーは肉部分にかかってるスタイルがほとんど。

 

これが単体のとんかつなら、肉と脂身のバランスが最適な右から3番目から食べるのが王道だそうだが、かつカレーの場合はこの部分は旨味が濃厚で、最初のひと口としてはインパクトが強すぎるのだそうだ。

 

脂身の少ない右側から脂身の多い左側へと食べ進むことで「淡→濃」という味わいのグラデーションを楽しむのです。なぜ、「右から2番目」なのか。「一番右側」は衣に覆われていて(店によってはほぼ衣状態)、とんかつとしてはバランスが悪いので、最初にカレーをかけて皿の端に置いておき、最後に食べます。

(『dancyu食いしん坊編集長の極上ひとりメシ』から引用)

 

この端によけた衣たっぷりのカレーづけを、最後に食べることでかつカレーの本格的な旨さを堪能できるという。隣の人と同じかつカレーをもっと美味しく味わいたい方は、さっそくお試しを!

 

立ち食いそばをもっと美味しく

植野氏は立ち食いそば屋でかき揚げそばを注文するとき、「たてかけ」でお願いするそうだ。かき揚げを丼の縁にたてかけるように置いてもらう。こうすると、つゆがしみていない上側はサクサクのまま食べられ、徐々につゆがしみてくる下に向かって食べ進めば、つゆに浸っていく食感と味わいをグラデーションで楽しめるというわけだ。まず、かき揚げをサクッとかじり、そばをすする。次につゆがしみてきたあたりのかき揚げをかじって、また、そばをすする。最後につゆでふやけたかき揚げとそばを一緒に食べる。これが正しい食べ方だそうだ。

 

ラーメンは麺から食べる

植野氏の調査によるとラーメン屋では98%の人が最初にスープを飲んでいるとのこと。しかし、この食べ方だと麺の味がわからなくなってしまうという。

 

僕はラーメンが運ばれてくると、まず麺を食べます。麺を噛み締めてふわりと広がる小麦の香り(麺の香りではなく軽やかな粉の香り)を感じたり、食感や喉越しなどを味わいます。それからスープを飲む。これで、麺とスープの両方の味をしっかり楽しむことができるのです。

(『dancyu食いしん坊編集長の極上ひとりメシ』から引用)

 

さらに、最初から胡椒をふることもしないそうだ。食べている途中で味や香りの変化をしたくなったら、レンゲに胡椒をふって、そこにスープや麺を入れて味わう。酢やラー油を入れる場合も同様に。こうすれば一口ごとの味わいの変化を楽しめるのだ。

 

この他にも、いつも皆が食べている、スパゲティナポリタン、牛丼、餃子、寿司、うな重などのおいしい食べ方も紹介されている。

 

さらに、いいお店の選び方や注文の仕方など、300円の立ち食いから、3万円のフレンチまで、詳しくレクチャーしている。「孤食」ではなく「ひとりメシ」の醍醐味を今こそ知っておきたい。

 

【書籍紹介】

dancyu食いしん坊編集長の極上ひとりメシ

著者:植野広生
発行:ポプラ社

ランチでも酒を飲むときでも、ひとりメシの醍醐味は誰にも気をつかわず、思う存分食を楽しめること。美味しさの基準は、星の数や行列・予約待ちの程度ではない。あなた自身がいかに居心地よく、楽しむことができるかだ。雑誌『dancyu』編集長が驚きの食べ方、店との付き合い方を惜しみなく伝授。

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あなたは白地図が読めますか? 大人もハマる『1日10分でちずをおぼえる絵本』

人には誰しも苦手ジャンルがあり、いつかはなんとかしてマスターしたい……という課題がひとつやふたつはあるだろう。私の場合、そのひとつが「日本地図を読めるようになる」である。

 

自分の故郷である岐阜県はさすがにわかるが、その岐阜がどのように他の県と隣接しているかも、関東地方や九州地方の県の並びも、かなり怪しい。これは大人としてどうなのだろうか。

嘘だろ? たった3日で47都道府県を覚えただって!?

小4の息子が社会の授業で日本地図の勉強を始めたらしく、白地図の課題を持ち帰ってきた。マズイ。質問されたとき答えられないなんて、親の沽券に関わる問題だ。早めになんとかしなくては。そんなとき、奇しくも実家の母からこんなメールが届いた。

 

「日本地図の都道府県47個の形と場所を、たった3日間ですべて覚えました♪ 66歳にもなってそんな小学生でもわかることをいまさら……と思われそうだけど。書店である絵本を買ったところ、47都道府県のシルエットと場所までしっかり頭の中に入ってしまったのです。たまたまその数日後、テレビでシルエットクイズがあり、どれもこれもパッと見ただけで答えを口にし、ジージ(父)は驚きを隠せませんでした。エッヘン!」

 

なんというタイミング! そして、なんという気になるメール! ちょ、その絵本のタイトルは何! すぐさま母に連絡し、その絵本を購入した。建前は「子どもたちが覚えられるから」、本音は「私自身が覚えるため」に。

 

リピートアフターミー。「えびのかたちは あおもりけん」!

その絵本こそ、『1日10分でちずをおぼえる絵本』(あきやまかぜさぶろう・作/白泉社・刊)。なんでも、巷では「子ども地図の大発明」とかなり話題になっていて、すでに20万部超えの大ヒット絵本らしい。

 

47都道府県をそれぞれユニークなモノの形として捉え、楽しく覚えるというのが特徴だ。たとえば、北海道は「えい」、青森県は「えび」といった具合。そして、こう唱えるのだ。

 

「えいのかたちは ほっかいどう」「えびのかたちは あおもりけん」

 

この、なんともいえないリズミカルな感じ、不思議と頭に残る。気づくと私も頭の中で「ぼうしのかたちは かがわけん♪」と唱えている今日このごろだ。

 

「1日10分」の看板に偽りなし。親も勉強になる一冊!

3歳~小学生対象とあるが、我が家では長女(小1)と次女(5歳)にスマッシュヒット。毎日眺めて、唱えては、楽しみながら覚えている。

 

明日、私が奈良県に取材に行くと伝えると、「ぺんぎんのかたちは ならけん!」と即座に返ってきた(笑)。どうやら、「1日10分」は誇張ではなかったようだ。いや、66歳が3日で丸暗記したのだから、タイトル以上の効果ありか。

 

さらに、ページ下部には各都道府県の特産物や有名なものがピックアップされているので、形と場所を覚える以上の収穫がある。

 

ただ、すべてひらがなで書かれているためか、一番覚えさせたかった長男には「読みにくい!」といささか不評。残念。しかし、調べてみると『小学生版 1日10分日本地図をおぼえる本』もあるらしい。さすがは、あきやま先生。近々こちらも購入しようと目論んでいる。

 

脳が若い子どもたちには敵わないが、私自身もずいぶん都道府県の形や位置関係が頭に入ってきた。最近は、気象予報のニュースや地震速報などを目にすると、「あのあたりか!」とすぐさま見当がつくようになったのだから、私史上かなりすごいことである。

 

お子さんがいる方は、嘘だと思ってぜひ一緒に覚えてみてほしい。きっと「○○のかたちは ○○けん♪」というリズムの中毒性にハマること請け合いである。

 

【書籍紹介】

1日10分でちずをおぼえる絵本

著者:あきやまかぜさぶろう
発行:白泉社

子ども日本地図が大進化! みんなの県が動物や乗り物などゆかいに大変身! 改訂で鳥取県・島根県などが、さらに覚えやすく!! 3歳~小学生対象。

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残暑が厳しいこの季節……体ガチガチになっていませんか? 「背中握手」でチェックしよう!

9月に入っても、まだまだ夏と変わらず暑くて、残暑疲れしている人も多いのではないでしょうか? 在宅ワークが増えて合わない机でのデスクワークに肩こりや腰痛が出てきてしまった人、運動もできなくて全身の疲れが取れない人、なかなか体の不調が治らない……なんて人も多いでしょう。

 

そこで今回は、『その不調、背中ストレッチが解決します。』(吉田佳代・著 、川本 徹・監/アスコム・刊)をご紹介。セルフチェックから簡単にできる背中ストレッチの方法までお伝えします!

 

あなたの体はガチガチ? やわやわ?

「私は健康よ!」という方はぜひ健康街道を引き続き歩んでいただければと思いますが、なんかだるいな〜なんて人はもしかすると「背中」が硬くなってしまっているのが原因かも。自分ではわかりにくい背中の硬さですが、簡単なセルフチェックで確認することが可能です。

 

写真のように「背中握手」をあなたはできますか?

 

左右両方の手で、背中側で握手できるか試してみてください。

両方できなかった人

左右どちらかだけできた人

そんなあなたは要注意。

 (『その不調、背中ストレッチが解決します。』より引用)

 

私も「できるだろう」と思ってやってみたのですが、

 

全然できませんでした!(笑)思っていた以上に左右でバラツキが……。しかも背中の写真って普段あまり見ないので「えー思っていたよりやばい!」というのを実感できますよね。美しくない!(笑)

 

このセルフチェックは3秒でできちゃうので、気になる方はサクッとチェックして、可能なら写真を撮影して自分の後ろ姿をチェックしちゃいましょう。

 

壁を使ったストレッチで血流が復活!

どうしてこんなに背中が重要かというと、背中は、全身の血液のめぐりの中継点なので、硬いままにしておくと老廃物などが滞り、筋肉もかたまり、体に不調が起こりやすくなってしまうんです! セルフチェックで「硬い」と感じた方は全身の血のめぐりをよくするためにも背中ストレッチを行いましょう。

 

『その不調、背中ストレッチが解決します。』には様々な背中ストレッチが紹介されています。その中でも家の中で静かに、しかも簡単にできる「ダブルハンド壁押し」をご紹介します。

 

壁のコーナーに立ち両手をつく。てのひらを壁につける位置が肩のラインより上にいかないようにし、脇をしめる。胸を突き出して壁に近づけるようにして肩甲骨を寄せ、背中側で両方の肘を近づけるイメージで行う。

 (『その不調、背中ストレッチが解決します。』より引用)

 

詳しいやり方については、ぜひ『その不調、背中ストレッチが解決します。』でチェックいただきたいのですが、本の表紙のような感じになります。壁に向かっていると反省させられているようで、暗い気持ちになってくるのですが(笑)、じわじわと背中全体に血が通うのがわかって、めちゃくちゃ気持ちいいんです!

 

とは言え、そんな簡単に改善されないでしょ? と思った人! 実際に背中ストレッチを続けた人の声を紹介します。

 

「毎日疲れていた体が、子どもの頃のように元気になっている」

「健康診断で血圧が正常に戻った」

「ずっと苦しんでいた頭痛がうそのように治った」

「冷え性が良くなって、長年の便秘も改善された」

「夜、ぐっすり眠れるようになった」

 (『その不調、背中ストレッチが解決します。』より引用)

 

めちゃくちゃ健康な声! 子どものころのようになんて言われたら、やりたくなってきますよね。『その不調、背中ストレッチが解決します。』で、詳しいやり方は紹介されていますが、背中ストレッチを3週間続けると、背中握手ができるようになるということなので、私もできるようになるまでしっかり続けてみようと思います!

 

背中ストレッチは「腸」にもいい?

夏、冷たいものを食べ過ぎたと思っている人の中には、食欲の秋なのに「美味しいものを食べられないくらい内臓が弱ってしまって……」という症状を抱えている人もいるかもしれません。そんなときにも実は背中ストレッチはいいみたい。

 

肩甲骨まわりがやわらかくなると血流が改善し、腸内の老廃物の排出がスムーズになります。また、肩甲骨を動かして背中を丸めた姿勢が改善されると、内臓が正しい位置に戻り、圧迫されることもなくなり、腸の活動が制限されることがなくなります。

 (『その不調、背中ストレッチが解決します。』より引用)

 

免疫力を高めるために「腸内環境」を整えよう! なんてことも最近はよく言われますが、背中も大事なんですね。

 

私もまだこの背中ストレッチを始めて数日ですが、初日で右腕を上にした時だけですが、人差し指と中指同士がガッと掴めるようになりました。1日だけで効果を実感できるので、これを続けたら3週間後にはしっかり握手できるようになるはず!

 

夏バテや、残暑疲れをしている人、デスクワークで疲れ気味、ジムに行きたいけどなかなか行けない、家で激しい運動はできないけれど体を動かしたい! と感じている人は、ぜひ『その不調、背中ストレッチが解決します。』を読んで背中ストレッチをしてみてください。これから秋の味覚が美味しくなる時期ですので、元気な体と心で秋を楽しみましょう!

 

【書籍紹介】

 

その不調、背中ストレッチが解決します。

著者:吉田佳代(著)川本 徹(監)
発行:アスコム

背中をゆるめるのが、いちばん健康にいい! 1日たった3分の「背中ストレッチ」で、ガチガチだった背中がほぐれると、全身に血液がたっぷり行きわたり病気知らずのカラダが手に入ります! 気持ちよくて、爽快なストレッチだから、継続するのが楽しくなります。

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テレビでおなじみ「ブラックガイ」五箇公一先生が生物学から語るアフターコロナの生き方とは?

「肉食系女子」って、一時期は知らない人がいないほどのパワーワードだったはずだ。ただ、ここ半年間のものごとの移ろいの中、急速にリアリティが失われた。そもそも男子との物理的接触を前提にして成立するワードだからだ。

 

セックスバブル

いまだ勢いが衰えないコロナ禍のさなか、感染リスクを意識すれば、物理的接触は可能な限り避けるべき行いだろう。ただ、触れ合いが介在しない恋愛は想像しにくい。惹かれ合っている以上、物理的接触は必然以外の何物でもない。ごく最近、オランダ国立公衆衛生環境研究所が「セックスバブル」という概念を発表した。

 

身体的・性的接触は特定の一人の相手と行うべきである。ただしこれは、自分が病気にかかっていない場合に限る。加えて、パートナー以外の人間(家族や友人、職場の同僚など)と会う時は、必要性を十分吟味し、実行する前にパートナー同士でよく話し合って決定するべきである。

 

今、マスコミでさかんに取り上げられているのはマスク着用とかソーシャルディスタンスといった言葉だ。しかし実は、われわれが今突き付けられているのはそんなことよりもはるかにプリミティブな、人間の生物的存在にかかわる問題なのかもしれない。この原稿では、こうしたリアルな問題と対峙する本を紹介したい。

 

企画のスタートは生物学の「エロい」話

これからの時代を生き抜くための生物学入門』(五箇公一・著/辰巳出版・刊)のスタートは、比較的ライトなコンセプトだったようだ。

 

最初は、「大人向けに」生物学のエロい話を作ろうというコンセプトでスタートして、生物における性の進化の神秘や、多様でキテレツな交尾形態をメインに書くつもりが、インタビューを重ねるうちに、次第に人間という生物の「異質性」「特異性」に話題の中心が移り、そもそも「人間とは何なのか」といったやや哲学めいた話にまで話の風呂敷が広がってしまいました。

            『これからの時代を生き抜くための 生物学入門』より引用

 

主流派科学の一部である生物学の枠組みの中で考えれば“変化球的”なアプローチでスタートした本書は、その通り学際的なテイストの一冊に仕上がった。

 

進化学的妄想

章立てを見てみよう。

 

●性のしくみ

●生物学から見る人間社会

●遺伝

●遺伝子優生論

●生物の多様性

●生物学と未来

●私と生物学

 

高校の生物の授業で習った進化の過程に含まれる種の保存という概念が、生殖行為を切り口にして語られることから始まる。かなり長い時間をかけて起こり続けてきた過程が、著者の五箇さんなりの解釈である「進化学的妄想」を軸にしてつまびらかにされていく。ただ、出発点のコンセプトはあくまでもエロい話。とっつきやすいかとっつきにくいかで言ったら、間違いなくとっつきやすい。

 

生物学的見地から考える不倫

第2章の「生物学から見る人間社会」は、身近で現代的なトピックを生物学の文脈に乗せて述べていく方法論が心地よい。不倫については、こんな文章が記されている。

 

結局、人間は古い野生動物の祖先から受け継いだ乱交・浮気・不倫の遺伝子と、人間ホモ・サピエンスとして進化する過程で選択された「一夫一婦制」という形質の両方を抱えて生きているということになります。

            『これからの時代を生き抜くための 生物学入門』より引用

 

これをきっかけに話はLGBTをはじめとするさまざまな方向に広がっていくのだが、しっかりと据えられた生物学という主軸にそれぞれの話題が落とし込まれがら進んでいく文章はとても呑み込みやすい。

 

たとえの巧妙さ

もうひとつ言うなら、この本の読みやすさは各章のマクラと、たとえの巧妙さにある気がする。だからこそ、哲学的な話までが座りよくひとつの流れにまとまるのだろう。第7章で語られる五箇さんのプロフィールを読んで、この本が書かれた必然性を感じるのは筆者だけではないはずだ。こうした必然性は、出版のタイミングにも関与したようだ。

 

また、折しも出版を迎える直前に新型コロナが人間社会を襲い、世界中の人々が行動変容と生活変容を求められている今この時期に、本書の出版を迎えたことはタイムリーだった気もします。本書に記した人間社会の未来についての考察が、私たちが今後、どのようにwithコロナ時代を乗り越え、どのようなポストコロナ時代を作り上げていけばいいのかを考える上でのヒントになれば幸いです。

            『これからの時代を生き抜くための生物学入門』より引用

 

人間の生物としての長い営みは、もちろんこれから先もずっと続いていく。その過程にはエロさも不可欠にちがいない。しかしその背景に、人間を人間たらしめる無数の哲学的要素が存在している事実も忘れてはならないはずだ。われわれがこれからの時代を生きていく上で、一見何の接点もない哲学的要素と生物学的要素が思いがけない形で結びついた瞬間、ひときわ明るいきらめきが放たれるのだろう。

 

【書籍紹介】

これからの時代を生き抜くための生物学入門

著者:五箇公一
発行:辰巳出版

本書は、『全力! 脱力タイムズ』『クローズアップ現代』などさまざまなメディアに出演し、黒ずくめの服装とサングラスという風貌でダニやヒアリなどの危険生物について語る姿が話題となった、異色の生物学者・五箇公一による “人生に活かせる”生物学の入門書になります。堅苦しい生物学の講義ではなく、コロナが人間社会を襲っているいま、withコロナ時代、そしてポストコロナ時代という新しい時代を生き抜くためのヒントを、生物学を通して学んでいく一冊です。

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ニューヨークで明太子を売るためには、どうしたらいい?

コピーライターという職業がある。広告などに印象的なフレーズが付いているが、あれを考えるのがコピーライターだ。

 

一方、僕はライターだ。コピーライターと同じ「言葉」を使って仕事をしているが、その内容はまったく違っている(と思っている)。

 

コピーライターとライターの違いって?

たとえば、ここにひとつの商品があるとする。コピーライターは、その商品についてほんの数文字で印象づけるようなフレーズを考える。ライターは、その商品がどんな機能を持っていて何が魅力的かを文章にする。

 

一見似ているような2つの職業だが、実は結構違うものだと思う。かくいう僕は、コピーライティングが苦手。たとえば原稿のタイトルや見出しを付けるのは、あまり得意なほうではない。どうも、一言二言でそのものズバリを言い表すようなことができないようだ。なので、コピーライターの方々には尊敬の念を抱いている。

 

「I Love You.」をどう訳すか。それがコピーライティング

コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術』(阿部広太郎・著/ダイヤモンド社・刊)は、人気コピーライターである著者が魅力的で心をつかむ言葉の作り方について解説している一冊だ。

 

著者によれば、コピーライティングとは「言葉の企画」とのこと。伝えたいものがある場合に、どんな言葉を使えば伝わるのか、それを考え抜くのがコピーライティングなのだ。

 

冒頭には、夏目漱石が「I Love You.」を「月が綺麗ですね」とでも訳しておけ、といった都市伝説が書かれているが、「I Love You.」を自分ならどう訳すか、それがコピーライティングということだ。

 

僕なら、「今度いつ会える?」かな。

 

ニューヨークで明太子が大人気に。その秘密は「名前」

本書で、福岡出身のレストランオーナーであるヒミ*オカジマ氏のエピソードが載っている。ニューヨークで明太子を「Cod roe」、つまり「タラの卵」と直訳して出したところ、まったく人気が出なかったようだ。アメリカでは魚卵を食べる習慣がないため、気味悪がられたとのこと。

 

しかし、その後明太子は大人気となる。その要因が「名前」。「Cod rore」ではなく、「HAKATA Spicy Caviar」(博多スパイシーキャビア)としたのだ。

 

たったこれだけのことで、明太子はニューヨークで爆発的な人気となった。明太子そのものはなにひとつ変えずに、だ。著者はこのことを以下のように記している。

 

それは「人は言葉を食べている」ということ。
明太子そのもの自体は何も変えていない。
変えたのは言葉だけ。言葉を変えることで、人の行動が変わる。

(『コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術』より引用)

 

不人気だった商品が、名前を変えただけで大ヒットした、という例はそのほかにもある。つまり、人というのは言葉から受け取るイメージに大きく左右されるものだということ。だからこそ、コピーライティングの技術、コピーライターという職業は偉大なのだ。

 

自分なりの「I Love You.」を見つけよう

本書は、コピーライターを目指している人だけではなく、僕のような職業ライターはもちろん、言葉を使って生活しているすべての人に役立つ内容となっている。いわゆる文章講座とは違うが、「言葉」というものはどういう効果があるのか、そしてどうしたらその効果を最大限に引き出せるのか、そういうことがわかるだろう。

 

手始めに、「I Love You.」を自分なりに訳してみてはどうだろうか。「愛してる」なんて100万回も聞いたセリフよりも、自分で考えた「I Love You.」のほうが、何倍も魅力的に聞こえるはずだ。

 

【書籍紹介】

コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術

著者:阿部広太郎
発行:ダイヤモンド社

人気コピーライター・阿部広太郎の講座「言葉の企画」をベースに、コピーライターじゃなくても知っておきたい心をつかむ言葉のつくり方を掘り下げる。コピーライターでなくても、本屋の店員でも、ウェブショップの店長でも、ブロガーでも、営業マンでも、広報マンでも、企画屋でも、編集者でも、現代において「言葉」にかかわる仕事をしている人はたくさんいる。多くの人の心を動かす言葉は、どのようにして生み出せばよいのか? そのヒントは、小手先のテクニックではなく、物事の考え方、日々の生活習慣そのものにある! 著者が実際にビジネスで使った「愛と熱」があふれる企画書も公開!

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「日本語ってなんか難しい」が「日本語ってなんてオモシロイ!」に変わる一冊!『すばらしき日本語』

悲しいかな、私は英語が得意ではない。

 

学生時代あれほどぎゅうぎゅうに詰め込んだ英単語も、独身時代ふらふらと旅した海外で使った英会話のフレーズも、最近の生活ではめっきり登場する機会がなく、いつしか記憶の彼方に消え去った。

 

では、母国語である日本語は完璧に操れるのか? と尋ねられたら、答えに言い淀む。日本生まれ日本育ちの完全なる日本語ネイティブであり、国語が大の得意であり、曲がりなりにも文章を書く仕事をしているけれども。

 

たとえば、初めて日本に来た外国人に正しく日本語を教えられるかというと、まったくもって自信がない。

 

だって、日本語って、非常に難解ではないか。日本語ほど難しい言語はない、なんてよく言うし、なんだか曖昧で感覚的な言語って感じだし、でもどこが難しいのかはうまく説明できないし(ごにょごにょと言い訳)。

 

そこへ、こんな天の声が降りてきた。

 

「日本語という言語は、奇跡のように整理整頓が行き届いたとても美しいことばなのです」

 

こう主張するのは、『すばらしき日本語』(ポプラ社・刊)の著者である清水由美さん。今回は、清水さんの著書を手引に、日本語のオモシロさに改めて着目してみた。

 

とにかく、日本語ってすごいんだってば!

遡れば、遠い昔のご先祖様たちも、日本語を話してコミュニケーションをはかっていたはず。けれど、それらを書き記す術がなかった。発するだけ、耳にするだけで消えていってしまう、儚いものだった。

 

それが、異国の地から「漢字」という文字が伝来した。消えゆくばかりだった会話を後世まで残しておく手段を手に入れたのである。けれど、漢字はあくまで中国語を記すためのもの。そこで、日本語を書き記す万葉仮名が登場する。

 

さらに、漢字は画数が多いので、早く書くために字体を崩した平仮名、片仮名が開発された。

 

……とまあ、ここまでは、私でもなんとなく把握していた歴史の流れだ。けれど、以降の清水さんの解説が興味深い。

 

が、いったん漢字という表意文字(意味を持つ文字)を知ってしまった日本人は、それだけでは満足できなかったものと見えます。(中略)そうして、自分たちが作り上げた仮名と、舶来の漢字をいっしょに使うという、摩訶不思議な「漢字仮名まじり文」を、標準の書記システムにしたのです。

(『すばらしき日本語』より引用)

 

外国語用の文字を日本語と混ぜて表記するとは、仮にアルファベットで表すと次のようなことになる。

 

Tableに、redいwineのglassが、twoつ。

(食卓に、赤いワインのグラスが、二つ。)

 

これは……ルー大柴もビックリの英語まじりな文章! あまり意識せず使っていたが、言われてみればものすごいことを編み出したものだ、漢字仮名まじり文ってやつは。

 

さらには、もともとの中国語の発音に近い音で読む「音読み(たとえば食卓)」と、日本語にもとからあった単語に合わせて読む「訓読み(たとえば食べる)」まで作っちゃったものだから、先人たちの柔軟な発想には「スゴイ」の一言である。

 

清水さんいわく「漢字と、漢字仮名まじり文のハイブリッドな魅力」は、はかりしれない。

 

「あーあ」さて、どんなシーンでの台詞?

『すばらしき日本語』では、これまでなんとなーく使ってきた日本語にじつは明確なルールがあり、文法が存在することがわかりやすく述べられている。こちらは、ぜひ本書を手にとって感動していただくとして、個人的に「なるほど!」と刺さったのは、後半の「遊べる日本語」や、清水さん的「愛せない日本語」の章。

 

たとえば、「声の表記」について。日本語は、文字を重ねたり、音引き(長音符)を使ったり、読点を入れたりすることで、書き手の心情を細かに区別できる。

 

「あーあ」「あー」「ああ」「あ、あ、あ」「あぁ」「あぁー」

 

同じア音の連続だけれども、書き方次第で、そこに乗る感情がまるで違ってくる。がっかりしているのか、何かを見つけたのか、相槌を打っているのか、非難めいた言葉をかけているのか、はたまた感嘆した瞬間なのか。いやはや、まったくもってオモシロイ。

 

結論、日本語ってすばらしい!

このほかにも、「むむ!」と唸り、「そうそう!」と膝を打ち、いろんな感情で忙しい一冊だった『すばらしき日本語』。

 

これまで持っていた「日本語の文法とか、ルールとか、なんだかよくわからないけど難しい」という誤った印象を、「日本語って、なんとなく使ってきたけどちゃんとルールがあって、でも時々イレギュラーな使い方もして、確かに難しい側面もあるけど、かなりオモシロイよね!」に変わった。

 

普段使っている日本語の奥深い魅力や仕組みがハッキリわかり、なんだか爽快感すらある。

 

清水さんのユーモアたっぷりでウィットに富んだ表現にも注目しながら、ぜひ日本語を読み書きするすべての人に読んでいただきたい一冊だ。

 

【書籍紹介】

 

すばらしき日本語

著者:清水由美
発行:ポプラ社

日本語という言葉は、奇跡のように整理整頓が行き届いたとても美しいことばなのです−−。三十数年にわたり、海外からの留学生に日本語を教えてきた日本語教師が、ユーモアあふれる文章でその魅力を語ります。日本で生まれ育った日本語ネイティブ(=大多数の日本人)が「えっ、そうだったの!?」と驚く日本語のヒミツがたっぷり詰まった一冊!

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祝! 生誕50年!! ドラえもんを愛して止まない歴史小説家が選ぶ「大長編ドラえもん」シリーズ珠玉の5冊

毎日Twitterで読んだ本の短評をあげ続け、読書量は年間1000冊を超える、新進の歴史小説家・谷津矢車さん。今回のテーマは谷津さんが偏愛してやまない『ドラえもん』です。今年は生誕50周年の記念すべき年。そして最新作『ドラえもん のび太の新恐竜』も公開中。40作ある「大長編」シリーズの中から谷津さんが選んだ珠玉の5冊とは?

 

【関連記事】
『死役所』から『絶滅できない動物たち』まで−−年1000冊の読書量を誇る作家が薦める「生と死」について考える5冊

 


 

諸君、わたしはドラえもんが好きだ。

ドラえもんが好きだ。

のび太君が好きだ。

しずかちゃんのお風呂シーンが好きだ。

スネ夫が好きだ。

ジャイアンが好きだ。

出木杉君が好きだ。

この地上で紡がれたすべてのドラえもん作品が大好きだ。

よろしい、ならばドラえもんだ。

そしてドラえもんは、今年誕生五十周年である。

 

かくいうわたしは何を隠そうドラえもんファンであり、居ても立ってもいられず「大長編ドラえもん」で選書させてくれないかと編集部に頼み込み、こうして選書が成った次第である。

 

というわけで、今回はコロコロコミックに掲載され、後に「大長編ドラえもん」作品として単行本化されている映画原作作品を五作紹介しよう。

 

出来杉くんの活躍がうれしいシリーズ第3弾!

まずご紹介するのは、ドラえもん のび太の大魔境である。

 

本作は、春休みにペコという犬を拾ったのび太たちが、ひょんなことからアフリカ奥地を探検する(余談だが、大長編ドラえもんの良さは、日常の風景から一気に大スペクタクルへと飛び出すその跳躍力にもあると考えている)お話なのだが、本作は大長編ドラえもんとしては少し特殊な特徴を有している。「ドラえもん映画から締め出されている」とネタにされる出木杉君が登場するのである!

 

出木杉君はのび太たちが冒険することになる魔境をのび太たちや読者に紹介する役割を有しているのだが、そこでの説明が実におどろおどろしく、読者をわくわくさせてくること請け合いである。「ヘビー・スモーカーズ・フォレスト」といういかにもなネーミングセンスも併せ、ここでの出木杉君の熱弁は一ドラえもんファンとして、なかなか忘れることのできない、渋い名シーンとなっているのである。

 

藤子・F・不二雄先生のクリエイターとしての外連味を味わえる一冊といえるだろう。

 

東西冷戦をベースにしたシリーズ第4弾!

お次にご紹介したいのは、『ドラえもん のび太の海底鬼岩城』である。

 

夏休み、のび太たちがキャンプの行き先で紛糾する中、海も山もあるというドラえもんの提案で海底にキャンプすることに決まる(繰り返しだが、この跳躍力が大長編ドラえもんの良さなのである)のだが、やがて、のび太たちが海底に住む人々の事情に巻き込まれることになり……という作品である。

 

当時話題であった人気オカルトネタ「バミューダトライアングル」(バミューダ海域で海難事故が多発しているというフェイクニュースを前提としたオカルトネタで、バミューダ海一帯に霊的な力が働いているとか、海底に何かがあって船を沈没させているのではないかなどという“議論”がなされていた)と海底への興味を織り交ぜることで独特の雰囲気が漂っている。

 

そして何より、本書は東西冷戦の雰囲気を色濃く描き出している点において、お勧めしておきたい。

 

ややネタバレだが、作中で出会う海底人たちの抱える事情は、互いの国土に核ミサイルを向けていた東西冷戦下の世界情勢をモチーフにしている。

 

だが、世界の存亡を人質に取った超大国の対立はもはや過去のものとなってしまった。1986年生まれのわたしとて、東西冷戦の空気感をほとんど知らずに育った世代であるから、わたしより下の世代にとっては、もはや歴史の教科書に記された出来事であろう。

 

だからこそ、本書はわたしたち人類のバカげた歴史を後世に伝える一冊になりえるのではなかろうか。

 

作者に「失敗作」と言わせた異色のシリーズ第14弾!

お次にご紹介するのは『ドラえもん のび太の夢幻三剣士』である。

 

あっ、ドラえもんファンの皆さん、石を投げないで!

 

実は本作、藤子・F・不二雄先生自身が「一種の失敗作」と述懐しておられる珍しい作品である。確かに、大長編ドラえもん作品としてはお約束のいくつかが崩壊している上、ややプロット(ストーリーの構造)にも乱れが見受けられる。

 

あえて言おう。そこがいい。

 

カセットを差すことで任意に夢を見、その夢の登場人物として活躍できる「気ままに夢見る機」をドラえもんに出してもらったのび太の前に奇妙な老人が現れ、「夢幻三剣士」のカセットを示唆し去っていき、結局その老人の勧めるがままに「夢幻三剣士」で遊ぶことから始まる本作なのだが――。

 

とにかく不気味なのである。そもそも本作は「夢」がメインモチーフになっており、「夢」が現実に滲出してくる怖さや、フィクション側の物事が現実にまで影響を及ぼす不条理が提示されている。さらに、藤子・F先生の言う「一種の失敗作」――いつもの藤子・F先生らしからぬストーリー運びが、読者を「ドラえもん」という予定調和の世界から引き剥がす。本作はいつもの藤子・F作品と比べると、随所に破調が見られる。だがそれゆえに、妙にリアルな「夢幻」の世界が広がっているのである。

 

作者絶筆! シリーズ最大の危機を乗り越えた第17弾!!

お次に紹介するのは『ドラえもん のび太のねじ巻き都市冒険記』である。

 

本書はひみつ道具「生命のねじ」で馬のぬいぐるみ「パカポコ」に命を与えたのび太たちが、色々あって他の地球型惑星にぬいぐるみたちの国を作り、発展させていく……というストーリーなのだが、本作もまた、これまでの大長編ドラえもんにはない特徴を有している。大長編ドラえもんにおける敵役は他種族であったり、宇宙人であったりと「のび太たちから遠い存在」に設定されることがしばしばである。しかし本作における敵役は、のび太たちの世界における悪党、熊虎鬼五郎なのである。また、のび太たちと熊虎鬼五郎の対立に割って入るように「種まく者」なる第三勢力が現れる点なども、本書に独特の光彩を投げかけている。

 

なぜ異色作なのか――。本作は、藤子・F・不二雄先生の絶筆作品である。正確には本作の執筆途中でお亡くなりとなり、それ以降は藤子プロが藤子・F先生の覚書や構想ノートなどを参考に最後まで書き継いだ経緯がある。

 

やや大げさな話になるかもしれないが、恐らく本作は大長編ドラえもん、そして映画ドラえもん最大の危機であったことだろう。それまで藤子・F先生が体調不良で連載を全うできなかったことはあったが、『ねじ巻き都市冒険記』の危機はまるでレベルの違う出来事である。だが、藤子プロの皆さんがこの作品を完成させてくれたおかげで、本作は完結し、映画も無事公開されたのである。本作はドラえもん最大の危機を救った作品であったといっても過言ではないのではなかろうか。

 

原作者の絶筆という目で眺めると、本作はかなり意味深な描写も存在する。藤子・F先生の遺書であると同時に、藤子・F先生の思いを継ぐ、新たなるドラえもんの到来を告げた記念碑的一作であると言える。

 

「ひみつ道具」使いまくり! 新たな地平へと進むシリーズ第19弾!!

最後にご紹介するのは『ドラえもん のび太の宇宙漂流記』である。

 

藤子・F・不二雄先生の死後に制作された大長編ドラえもんの一作であるが、ある意味で、ドラえもんのメディアミックスの在り方を示す、一つの好例といえるだろう。

 

広大な宇宙での対立をモチーフとした本作のありようは『宇宙開拓史』(1980-81)、『小宇宙戦争』(1984-85)、『アニマル惑星』(1989-90)、『銀河超特急』(1995-96)などで描かれてきた光景の延長であり、オカルト要素を作品のモチーフとして利用する態度は先にご紹介した『海底鬼岩城』を思わせる。

 

しかしながら、本書は旧来の大長編ドラえもんにはあまり見られなかった要素も存在する。あえて一つ挙げるなら、「ひみつ道具」のふんだんな使用である。

 

これまでの大長編ドラえもんは、四次元ポケットをなくしたり、ドラえもんが行方不明になったり、あるいは故障したりしてひみつ道具が使えない状況に追いやられることが多かった。だが本作においては敵方を強大なものとすることで、作劇上、ひみつ道具を湯水のごとく使う状況を作り上げたのである。かくして本作では、複数のひみつ道具を組み合わせて使用して切り抜けるシーンが出てきたのである。

 

藤子・F先生の遺産を大事にしながら、挑戦も欠かさない。ドラえもんが愛される裏には藤子・F作品へのリスペクトと、その時々で作品に係わったクリエイターの創意工夫が隠されているのである。

 

 

【プロフィール】

谷津矢車(やつ・やぐるま)

1986年東京都生まれ。2012年「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞受賞。2013年『洛中洛外画狂伝狩野永徳』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』にて歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。最新作は「桔梗の旗」(潮出版社)。

明智光秀の息子、十五郎(光慶)と女婿・左馬助(秀満)から見た、知られざる光秀の大義とは。明智家二代の父子の物語。

祝! 生誕50年!! ドラえもんを愛して止まない歴史小説家が選ぶ「大長編ドラえもん」シリーズ珠玉の5冊

毎日Twitterで読んだ本の短評をあげ続け、読書量は年間1000冊を超える、新進の歴史小説家・谷津矢車さん。今回のテーマは谷津さんが偏愛してやまない『ドラえもん』です。今年は生誕50周年の記念すべき年。そして最新作『ドラえもん のび太の新恐竜』も公開中。40作ある「大長編」シリーズの中から谷津さんが選んだ珠玉の5冊とは?

 

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『死役所』から『絶滅できない動物たち』まで−−年1000冊の読書量を誇る作家が薦める「生と死」について考える5冊

 


 

諸君、わたしはドラえもんが好きだ。

ドラえもんが好きだ。

のび太君が好きだ。

しずかちゃんのお風呂シーンが好きだ。

スネ夫が好きだ。

ジャイアンが好きだ。

出木杉君が好きだ。

この地上で紡がれたすべてのドラえもん作品が大好きだ。

よろしい、ならばドラえもんだ。

そしてドラえもんは、今年誕生五十周年である。

 

かくいうわたしは何を隠そうドラえもんファンであり、居ても立ってもいられず「大長編ドラえもん」で選書させてくれないかと編集部に頼み込み、こうして選書が成った次第である。

 

というわけで、今回はコロコロコミックに掲載され、後に「大長編ドラえもん」作品として単行本化されている映画原作作品を五作紹介しよう。

 

出来杉くんの活躍がうれしいシリーズ第3弾!

まずご紹介するのは、ドラえもん のび太の大魔境である。

 

本作は、春休みにペコという犬を拾ったのび太たちが、ひょんなことからアフリカ奥地を探検する(余談だが、大長編ドラえもんの良さは、日常の風景から一気に大スペクタクルへと飛び出すその跳躍力にもあると考えている)お話なのだが、本作は大長編ドラえもんとしては少し特殊な特徴を有している。「ドラえもん映画から締め出されている」とネタにされる出木杉君が登場するのである!

 

出木杉君はのび太たちが冒険することになる魔境をのび太たちや読者に紹介する役割を有しているのだが、そこでの説明が実におどろおどろしく、読者をわくわくさせてくること請け合いである。「ヘビー・スモーカーズ・フォレスト」といういかにもなネーミングセンスも併せ、ここでの出木杉君の熱弁は一ドラえもんファンとして、なかなか忘れることのできない、渋い名シーンとなっているのである。

 

藤子・F・不二雄先生のクリエイターとしての外連味を味わえる一冊といえるだろう。

 

東西冷戦をベースにしたシリーズ第4弾!

お次にご紹介したいのは、『ドラえもん のび太の海底鬼岩城』である。

 

夏休み、のび太たちがキャンプの行き先で紛糾する中、海も山もあるというドラえもんの提案で海底にキャンプすることに決まる(繰り返しだが、この跳躍力が大長編ドラえもんの良さなのである)のだが、やがて、のび太たちが海底に住む人々の事情に巻き込まれることになり……という作品である。

 

当時話題であった人気オカルトネタ「バミューダトライアングル」(バミューダ海域で海難事故が多発しているというフェイクニュースを前提としたオカルトネタで、バミューダ海一帯に霊的な力が働いているとか、海底に何かがあって船を沈没させているのではないかなどという“議論”がなされていた)と海底への興味を織り交ぜることで独特の雰囲気が漂っている。

 

そして何より、本書は東西冷戦の雰囲気を色濃く描き出している点において、お勧めしておきたい。

 

ややネタバレだが、作中で出会う海底人たちの抱える事情は、互いの国土に核ミサイルを向けていた東西冷戦下の世界情勢をモチーフにしている。

 

だが、世界の存亡を人質に取った超大国の対立はもはや過去のものとなってしまった。1986年生まれのわたしとて、東西冷戦の空気感をほとんど知らずに育った世代であるから、わたしより下の世代にとっては、もはや歴史の教科書に記された出来事であろう。

 

だからこそ、本書はわたしたち人類のバカげた歴史を後世に伝える一冊になりえるのではなかろうか。

 

作者に「失敗作」と言わせた異色のシリーズ第14弾!

お次にご紹介するのは『ドラえもん のび太の夢幻三剣士』である。

 

あっ、ドラえもんファンの皆さん、石を投げないで!

 

実は本作、藤子・F・不二雄先生自身が「一種の失敗作」と述懐しておられる珍しい作品である。確かに、大長編ドラえもん作品としてはお約束のいくつかが崩壊している上、ややプロット(ストーリーの構造)にも乱れが見受けられる。

 

あえて言おう。そこがいい。

 

カセットを差すことで任意に夢を見、その夢の登場人物として活躍できる「気ままに夢見る機」をドラえもんに出してもらったのび太の前に奇妙な老人が現れ、「夢幻三剣士」のカセットを示唆し去っていき、結局その老人の勧めるがままに「夢幻三剣士」で遊ぶことから始まる本作なのだが――。

 

とにかく不気味なのである。そもそも本作は「夢」がメインモチーフになっており、「夢」が現実に滲出してくる怖さや、フィクション側の物事が現実にまで影響を及ぼす不条理が提示されている。さらに、藤子・F先生の言う「一種の失敗作」――いつもの藤子・F先生らしからぬストーリー運びが、読者を「ドラえもん」という予定調和の世界から引き剥がす。本作はいつもの藤子・F作品と比べると、随所に破調が見られる。だがそれゆえに、妙にリアルな「夢幻」の世界が広がっているのである。

 

作者絶筆! シリーズ最大の危機を乗り越えた第17弾!!

お次に紹介するのは『ドラえもん のび太のねじ巻き都市冒険記』である。

 

本書はひみつ道具「生命のねじ」で馬のぬいぐるみ「パカポコ」に命を与えたのび太たちが、色々あって他の地球型惑星にぬいぐるみたちの国を作り、発展させていく……というストーリーなのだが、本作もまた、これまでの大長編ドラえもんにはない特徴を有している。大長編ドラえもんにおける敵役は他種族であったり、宇宙人であったりと「のび太たちから遠い存在」に設定されることがしばしばである。しかし本作における敵役は、のび太たちの世界における悪党、熊虎鬼五郎なのである。また、のび太たちと熊虎鬼五郎の対立に割って入るように「種まく者」なる第三勢力が現れる点なども、本書に独特の光彩を投げかけている。

 

なぜ異色作なのか――。本作は、藤子・F・不二雄先生の絶筆作品である。正確には本作の執筆途中でお亡くなりとなり、それ以降は藤子プロが藤子・F先生の覚書や構想ノートなどを参考に最後まで書き継いだ経緯がある。

 

やや大げさな話になるかもしれないが、恐らく本作は大長編ドラえもん、そして映画ドラえもん最大の危機であったことだろう。それまで藤子・F先生が体調不良で連載を全うできなかったことはあったが、『ねじ巻き都市冒険記』の危機はまるでレベルの違う出来事である。だが、藤子プロの皆さんがこの作品を完成させてくれたおかげで、本作は完結し、映画も無事公開されたのである。本作はドラえもん最大の危機を救った作品であったといっても過言ではないのではなかろうか。

 

原作者の絶筆という目で眺めると、本作はかなり意味深な描写も存在する。藤子・F先生の遺書であると同時に、藤子・F先生の思いを継ぐ、新たなるドラえもんの到来を告げた記念碑的一作であると言える。

 

「ひみつ道具」使いまくり! 新たな地平へと進むシリーズ第19弾!!

最後にご紹介するのは『ドラえもん のび太の宇宙漂流記』である。

 

藤子・F・不二雄先生の死後に制作された大長編ドラえもんの一作であるが、ある意味で、ドラえもんのメディアミックスの在り方を示す、一つの好例といえるだろう。

 

広大な宇宙での対立をモチーフとした本作のありようは『宇宙開拓史』(1980-81)、『小宇宙戦争』(1984-85)、『アニマル惑星』(1989-90)、『銀河超特急』(1995-96)などで描かれてきた光景の延長であり、オカルト要素を作品のモチーフとして利用する態度は先にご紹介した『海底鬼岩城』を思わせる。

 

しかしながら、本書は旧来の大長編ドラえもんにはあまり見られなかった要素も存在する。あえて一つ挙げるなら、「ひみつ道具」のふんだんな使用である。

 

これまでの大長編ドラえもんは、四次元ポケットをなくしたり、ドラえもんが行方不明になったり、あるいは故障したりしてひみつ道具が使えない状況に追いやられることが多かった。だが本作においては敵方を強大なものとすることで、作劇上、ひみつ道具を湯水のごとく使う状況を作り上げたのである。かくして本作では、複数のひみつ道具を組み合わせて使用して切り抜けるシーンが出てきたのである。

 

藤子・F先生の遺産を大事にしながら、挑戦も欠かさない。ドラえもんが愛される裏には藤子・F作品へのリスペクトと、その時々で作品に係わったクリエイターの創意工夫が隠されているのである。

 

 

【プロフィール】

谷津矢車(やつ・やぐるま)

1986年東京都生まれ。2012年「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞受賞。2013年『洛中洛外画狂伝狩野永徳』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』にて歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。最新作は「桔梗の旗」(潮出版社)。

明智光秀の息子、十五郎(光慶)と女婿・左馬助(秀満)から見た、知られざる光秀の大義とは。明智家二代の父子の物語。

面倒くさいときこそ「食べ比べ」で夕飯を盛り上げる!−−『とにかく盛り上がる夜ごはん』

今年は自宅で過ごす時間が長いという人が大勢います。家のなかでの楽しみは、やはり食事。家庭料理に飽きが来た時には、食べ比べ企画でアレンジし、食卓を盛り上げてみるのはいかがでしょう。

 

自粛生活のため、家族3人顔を突き合わせて暮らしている我が家も、マンネリ打破の一環として、食べ比べ企画を行うことがあります。たとえば、家にある3種類のツナ缶を少しずつお皿に盛り付け、どれが塩気が強い、どの油が美味しいなどと家族で感想を言い合うのです。子どもたちは食レポをしているみたいで楽しいようです。

 

飲み比べもやります。3つの炭酸水を飲み比べ、どの炭酸が強いか、どれがのどごし爽やかかなどと語るのです。今度やってみたいと思っているのは、水の飲み比べです。何種類かのミネラルウォーターを比べ、味の違いを舌が感じるかどうかを試してみたいのです。こうした飲み比べや食べ比べをすることで、自分の好みをしっかり把握できるようにもなったと思います。

 

やってみると楽しい食べ比べ

食べ比べをすると、食卓が華やかで楽しくなります。感染症対策のため、家族といえども大皿での取り分けは控え、我が家は各自のプレートに食べ比べのものを盛り付けていますが、同じものが数種類並んでいるだけで好奇心も食欲もそそられるし、どれから手をつけようかと楽しいひとときとなります。

 

子どもたちも食べ比べには真剣に挑みます。まるで食品会社の研究員であるかのように、ここのは甘みがあるねなどと話している姿は可愛いものです。次はリンゴの食べ比べをしようなどと提案してくることもあります。何かを比べ、その違いを考えるという行為は、子どもの探究心を育てることにもつながるはずです。

 

食べる楽しみが広がる食べ比べ

こうした食べ比べの応用アイデアが『とにかく盛り上がる夜ごはん』(小田真規子・著/文響社・刊)にもいくつも出ていてうれしくなりました。たとえばレトルトカレーをそのまま食べるのではなく、3種類のものを食べ比べたら、ちょっとしたビュッフェ気分になるかもしれません。本ではチーズや卵やアボガドなどのトッピングも並べて楽しげなテーブルになっていました。

 

また、ソーセージを何種類か並べて食べ比べているページもありましたが、これもソーセージ盛り合わせのように見えて壮観です。お肉が好きな人だったらたまらない光景です。いろいろな形のトマトやプチトマトを食べ比べたり、梅干しやバジルなど多彩な具を載せたカナッペのような冷奴を食べ比べたりと、我が家でもぜひやってみたいと思えるアイデアが並んでいました。

 

食べ比べをするメリットとは

本書では、食べ比べは「今日は何も作りたくない」という時に行うことを勧めています。準備をあまりしなくていいのでラクだからでしょう。そしてコツは、値段に幅を持たせるということ。すごく高い品と安い品との違いを考えてみるのも面白いかもしれません。我が家では安いパスタソースと高級スーパーのパスタソースを比べたこともあります。

 

「スーパーで視野を広げて、いつもは買わないものもかごに入れてみましょう」とも書かれていました。自宅生活が長く、外食を控えめにしている時期に、普段以上にスーパーにお世話になった人も多かったかと思います。スーパーで、今まで買ったことがない味を仕入れてみるだけで、日常はちょっとした冒険となるのです。

 

食べものは、ついついいつも同じメーカーの同じ品を選んでしまいがちですが、たまにはいつもと違う味にチャレンジしてみると、新しい美味しさを発見できます。いつも同じ料理ばかり、と子どもに文句を言われた時は「じゃあ今日は食べ比べしてみようか!」と切り出してみれば、いつもと違う体験ができることは、間違いありません。

 

【書籍紹介】

とにかく盛り上がる夜ごはん

著者:小田真規子
発行:文響社

夜ごはん、パーティーにするとめっちゃラク! 平日も休日も、夜ごはんが革命的に楽しくなる! 「献立」じゃない、新しい夜ごはんスタイルを提案します。

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面倒くさいときこそ「食べ比べ」で夕飯を盛り上げる!−−『とにかく盛り上がる夜ごはん』

今年は自宅で過ごす時間が長いという人が大勢います。家のなかでの楽しみは、やはり食事。家庭料理に飽きが来た時には、食べ比べ企画でアレンジし、食卓を盛り上げてみるのはいかがでしょう。

 

自粛生活のため、家族3人顔を突き合わせて暮らしている我が家も、マンネリ打破の一環として、食べ比べ企画を行うことがあります。たとえば、家にある3種類のツナ缶を少しずつお皿に盛り付け、どれが塩気が強い、どの油が美味しいなどと家族で感想を言い合うのです。子どもたちは食レポをしているみたいで楽しいようです。

 

飲み比べもやります。3つの炭酸水を飲み比べ、どの炭酸が強いか、どれがのどごし爽やかかなどと語るのです。今度やってみたいと思っているのは、水の飲み比べです。何種類かのミネラルウォーターを比べ、味の違いを舌が感じるかどうかを試してみたいのです。こうした飲み比べや食べ比べをすることで、自分の好みをしっかり把握できるようにもなったと思います。

 

やってみると楽しい食べ比べ

食べ比べをすると、食卓が華やかで楽しくなります。感染症対策のため、家族といえども大皿での取り分けは控え、我が家は各自のプレートに食べ比べのものを盛り付けていますが、同じものが数種類並んでいるだけで好奇心も食欲もそそられるし、どれから手をつけようかと楽しいひとときとなります。

 

子どもたちも食べ比べには真剣に挑みます。まるで食品会社の研究員であるかのように、ここのは甘みがあるねなどと話している姿は可愛いものです。次はリンゴの食べ比べをしようなどと提案してくることもあります。何かを比べ、その違いを考えるという行為は、子どもの探究心を育てることにもつながるはずです。

 

食べる楽しみが広がる食べ比べ

こうした食べ比べの応用アイデアが『とにかく盛り上がる夜ごはん』(小田真規子・著/文響社・刊)にもいくつも出ていてうれしくなりました。たとえばレトルトカレーをそのまま食べるのではなく、3種類のものを食べ比べたら、ちょっとしたビュッフェ気分になるかもしれません。本ではチーズや卵やアボガドなどのトッピングも並べて楽しげなテーブルになっていました。

 

また、ソーセージを何種類か並べて食べ比べているページもありましたが、これもソーセージ盛り合わせのように見えて壮観です。お肉が好きな人だったらたまらない光景です。いろいろな形のトマトやプチトマトを食べ比べたり、梅干しやバジルなど多彩な具を載せたカナッペのような冷奴を食べ比べたりと、我が家でもぜひやってみたいと思えるアイデアが並んでいました。

 

食べ比べをするメリットとは

本書では、食べ比べは「今日は何も作りたくない」という時に行うことを勧めています。準備をあまりしなくていいのでラクだからでしょう。そしてコツは、値段に幅を持たせるということ。すごく高い品と安い品との違いを考えてみるのも面白いかもしれません。我が家では安いパスタソースと高級スーパーのパスタソースを比べたこともあります。

 

「スーパーで視野を広げて、いつもは買わないものもかごに入れてみましょう」とも書かれていました。自宅生活が長く、外食を控えめにしている時期に、普段以上にスーパーにお世話になった人も多かったかと思います。スーパーで、今まで買ったことがない味を仕入れてみるだけで、日常はちょっとした冒険となるのです。

 

食べものは、ついついいつも同じメーカーの同じ品を選んでしまいがちですが、たまにはいつもと違う味にチャレンジしてみると、新しい美味しさを発見できます。いつも同じ料理ばかり、と子どもに文句を言われた時は「じゃあ今日は食べ比べしてみようか!」と切り出してみれば、いつもと違う体験ができることは、間違いありません。

 

【書籍紹介】

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著者:小田真規子
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今年は自宅で過ごす時間が長いという人が大勢います。家のなかでの楽しみは、やはり食事。家庭料理に飽きが来た時には、食べ比べ企画でアレンジし、食卓を盛り上げてみるのはいかがでしょう。

 

自粛生活のため、家族3人顔を突き合わせて暮らしている我が家も、マンネリ打破の一環として、食べ比べ企画を行うことがあります。たとえば、家にある3種類のツナ缶を少しずつお皿に盛り付け、どれが塩気が強い、どの油が美味しいなどと家族で感想を言い合うのです。子どもたちは食レポをしているみたいで楽しいようです。

 

飲み比べもやります。3つの炭酸水を飲み比べ、どの炭酸が強いか、どれがのどごし爽やかかなどと語るのです。今度やってみたいと思っているのは、水の飲み比べです。何種類かのミネラルウォーターを比べ、味の違いを舌が感じるかどうかを試してみたいのです。こうした飲み比べや食べ比べをすることで、自分の好みをしっかり把握できるようにもなったと思います。

 

やってみると楽しい食べ比べ

食べ比べをすると、食卓が華やかで楽しくなります。感染症対策のため、家族といえども大皿での取り分けは控え、我が家は各自のプレートに食べ比べのものを盛り付けていますが、同じものが数種類並んでいるだけで好奇心も食欲もそそられるし、どれから手をつけようかと楽しいひとときとなります。

 

子どもたちも食べ比べには真剣に挑みます。まるで食品会社の研究員であるかのように、ここのは甘みがあるねなどと話している姿は可愛いものです。次はリンゴの食べ比べをしようなどと提案してくることもあります。何かを比べ、その違いを考えるという行為は、子どもの探究心を育てることにもつながるはずです。

 

食べる楽しみが広がる食べ比べ

こうした食べ比べの応用アイデアが『とにかく盛り上がる夜ごはん』(小田真規子・著/文響社・刊)にもいくつも出ていてうれしくなりました。たとえばレトルトカレーをそのまま食べるのではなく、3種類のものを食べ比べたら、ちょっとしたビュッフェ気分になるかもしれません。本ではチーズや卵やアボガドなどのトッピングも並べて楽しげなテーブルになっていました。

 

また、ソーセージを何種類か並べて食べ比べているページもありましたが、これもソーセージ盛り合わせのように見えて壮観です。お肉が好きな人だったらたまらない光景です。いろいろな形のトマトやプチトマトを食べ比べたり、梅干しやバジルなど多彩な具を載せたカナッペのような冷奴を食べ比べたりと、我が家でもぜひやってみたいと思えるアイデアが並んでいました。

 

食べ比べをするメリットとは

本書では、食べ比べは「今日は何も作りたくない」という時に行うことを勧めています。準備をあまりしなくていいのでラクだからでしょう。そしてコツは、値段に幅を持たせるということ。すごく高い品と安い品との違いを考えてみるのも面白いかもしれません。我が家では安いパスタソースと高級スーパーのパスタソースを比べたこともあります。

 

「スーパーで視野を広げて、いつもは買わないものもかごに入れてみましょう」とも書かれていました。自宅生活が長く、外食を控えめにしている時期に、普段以上にスーパーにお世話になった人も多かったかと思います。スーパーで、今まで買ったことがない味を仕入れてみるだけで、日常はちょっとした冒険となるのです。

 

食べものは、ついついいつも同じメーカーの同じ品を選んでしまいがちですが、たまにはいつもと違う味にチャレンジしてみると、新しい美味しさを発見できます。いつも同じ料理ばかり、と子どもに文句を言われた時は「じゃあ今日は食べ比べしてみようか!」と切り出してみれば、いつもと違う体験ができることは、間違いありません。

 

【書籍紹介】

とにかく盛り上がる夜ごはん

著者:小田真規子
発行:文響社

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「日本一当たらない予想屋」が語る競馬の悲喜こもごも−−『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』

新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、多くのスポーツ開催が中止、あるいは、無観客で行われるという事態になっています。残念なことではありますが、困難を乗り切るためです。仕方がありません。

 

無観客開催の競馬観戦

我が家は、35年近く、ほとんどの週末を競馬場で過ごしてきました。夫婦共通の趣味が競馬だからです。20年ほど前に競馬のコラムを書くようになってからは、競馬は趣味から仕事となり、競馬場に行くのは半ば義務となりました。

 

ところが、日本中央競馬会(JRA)も2月29日から無観客競馬の開催を決定し、私たち夫婦もテレビでの観戦となりました。最初はライブじゃないと物足りない気持ちがしていましたが、やがて、それはそれで楽しく、懐かしいと思うようになりました。競馬を始めたころはもっぱらテレビで観ていたので、過ぎ去った日々を思い出すのでしょう。

 

今まで何度も読んだ『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』(乗峯栄一・著/あおぞら書房・刊)をもう一度手にとり読み直したのも、競馬場での思い出が蘇ってくる一冊だからです。

 

著者の乗峯栄一は、筋金入りの競馬ファンで、『いつかバラの花咲く馬券を』など何冊かの競馬関係の著書があります。なかでもこの『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』は、競馬の魅力に取り憑かれた著者の思いが満ちたものとなっています。

 

本当の姿は繊細な少年

『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』は、著者が長年連載したものから60本のコラムを選び、そこにスポーツ新聞やウェブサイトなどに書いた原稿、さらに、新しい書き下ろしを加えたものです。結果として77の選び抜いたコラムが並び、渾身の一冊となっています。著者もその覚悟で出版したようで、自らこう述べています。

 

ちょっと大げさに言えば、競馬ライター乗峯栄一の集大成だと思っている

(『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』より抜粋)

 

ところで、著者は自分を面白おかしく語ろうとします。

 

読者からは「日本一当たらない予想屋」と言われ、調教師からは「あんたに本命にされたら勝てへん」とからかわれた

(『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』より抜粋)

 

こうして、自虐的に自らを紹介し「酔っ払いのおっさん」として周囲をなごませたりします。けれども、実は恥ずかしがり屋で、繊細で、傷つきやすく、「おっさん」どころか、少年のようなヒトだと私は思っています。この世を生き抜くために、もう少し図太くなってほしいと、願うほどです。

 

生まれながらの先生

『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』には、面白いエピソードがたくさんあります。有名人も登場します。誰だかわからないままに出た電話の相手が、武豊ジョッキーだなんて、普通はあり得ない話です。

 

「すごいな〜〜」と感心しながらも、私が一番面白いと思うのは、競馬のことを知らない人に競馬のなんたるかを教えようと必死になる乗峯栄一の態度です。「何もそんなに頑張らなくてもいいのに」と言いたくなるほど、彼は頑張ります。頑張って頑張って頑張り抜きます。そして、頑張っているうちに、「はて、競馬とは何なのだ? 俺、何、考えていたんだっけ?」と、自問自答したりしています。その姿が、たまらなく面白く、そして、哀しいのです。

 

だってそうでしょう? 誰かに頼まれたわけでもないのに、お給料をもらえるわけでもないのに、競馬の魅力について語ろうとするのですから。彼はきっと生まれながらの「先生」なのでしょう。教えたいと願うのは、もちろん「競馬」という特別科目です。

 

すべりにすべる二人の競馬場

例えば、「歓迎される客はどっちだ?」というタイトルのコラムがあります。競馬ライターの「おっさん」が、競馬を知らない女の子を競馬場に伴ったときのエピソードです。女の子の設定は「時々行くスナックに女子大を出たばかりの愛想のいい子が入ったとする」となっています。

 

ある日、二人は連れだって京都の淀競馬場に向かいます。淀は、豊臣秀吉の側室である淀殿のゆかりの地であり、歴史上、大変意味があるところです。当然、彼は女の子に歴史学的な講義をしたくなります。京都競馬場で淀殿を語るなんて、時を越えて今も続く愛を教えるようで、素晴らしい講義ではありませんか!

 

ところが、しかし……。女の子は、淀殿にも、壮大な歴史にも、肝心の競馬にも興味を持とうとしないのです。若いということは、時に残酷なものです。彼女にとって大事なことは、「目の前にある池の白鳥が可愛いね」だったり、「騎手は1日に何度も馬に乗るのに、なぜ馬は1日に1回しか走らないの〜〜」です。

 

当然、二人の話はかみ合わず、彼の話はすべりにすべります。そこがたまらなく面白いのです。

 

一緒に笑うしかない。誰も聞かない熱烈講義というのは大きな疲労を呼ぶ

( 『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』より抜粋)

 

ずれていく感覚

『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』には、長年にわたる乗峯栄一の競馬人生が詰まっています。まるでバウム・クーヘンのように、77のエピソードが層になっています。ある層は面白く、ある層はちょっと怖かったり、悲しかったりするのですから、とても不思議な本だと思います。

 

タイトルに「言いたいのはそこじゃない」と、あるのも不思議です。「では、あなたは何を言いたかったの? そこじゃないとしたら、どこなの?」と聞きたくなりますが、すぐには答えが出ません。著者の言いたいことを探しているうちに、つい笑ってしまい、自分が何を探していたのかわからなくなるからです。

 

そして、ふと気づくと、少しずつズレてしまっている自分自身に気づきます。この奇妙なズレ感こそが、『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』の魅力だと、私は考えています。

 

【書籍紹介】

競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない

著者:乗峯栄一
発行:あおぞら書房

読者からは「日本一当たらない予想屋」と言われ、調教師からは「あんたに本命にされたら勝てへん」とからかわれた。それでも明るく競馬を愛し続けた競馬コラムニストが、地の底・宇宙の果てからレース結果を左右する究極の競馬原理を追究。歴史、文学、生物学、物理学、心理学……怪しい知識を駆使したユーモア・コラム77 本。年季の入った競馬ファンから初心者まで、たっぷりお楽しみいただけます。

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「日本一当たらない予想屋」が語る競馬の悲喜こもごも−−『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』

新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、多くのスポーツ開催が中止、あるいは、無観客で行われるという事態になっています。残念なことではありますが、困難を乗り切るためです。仕方がありません。

 

無観客開催の競馬観戦

我が家は、35年近く、ほとんどの週末を競馬場で過ごしてきました。夫婦共通の趣味が競馬だからです。20年ほど前に競馬のコラムを書くようになってからは、競馬は趣味から仕事となり、競馬場に行くのは半ば義務となりました。

 

ところが、日本中央競馬会(JRA)も2月29日から無観客競馬の開催を決定し、私たち夫婦もテレビでの観戦となりました。最初はライブじゃないと物足りない気持ちがしていましたが、やがて、それはそれで楽しく、懐かしいと思うようになりました。競馬を始めたころはもっぱらテレビで観ていたので、過ぎ去った日々を思い出すのでしょう。

 

今まで何度も読んだ『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』(乗峯栄一・著/あおぞら書房・刊)をもう一度手にとり読み直したのも、競馬場での思い出が蘇ってくる一冊だからです。

 

著者の乗峯栄一は、筋金入りの競馬ファンで、『いつかバラの花咲く馬券を』など何冊かの競馬関係の著書があります。なかでもこの『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』は、競馬の魅力に取り憑かれた著者の思いが満ちたものとなっています。

 

本当の姿は繊細な少年

『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』は、著者が長年連載したものから60本のコラムを選び、そこにスポーツ新聞やウェブサイトなどに書いた原稿、さらに、新しい書き下ろしを加えたものです。結果として77の選び抜いたコラムが並び、渾身の一冊となっています。著者もその覚悟で出版したようで、自らこう述べています。

 

ちょっと大げさに言えば、競馬ライター乗峯栄一の集大成だと思っている

(『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』より抜粋)

 

ところで、著者は自分を面白おかしく語ろうとします。

 

読者からは「日本一当たらない予想屋」と言われ、調教師からは「あんたに本命にされたら勝てへん」とからかわれた

(『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』より抜粋)

 

こうして、自虐的に自らを紹介し「酔っ払いのおっさん」として周囲をなごませたりします。けれども、実は恥ずかしがり屋で、繊細で、傷つきやすく、「おっさん」どころか、少年のようなヒトだと私は思っています。この世を生き抜くために、もう少し図太くなってほしいと、願うほどです。

 

生まれながらの先生

『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』には、面白いエピソードがたくさんあります。有名人も登場します。誰だかわからないままに出た電話の相手が、武豊ジョッキーだなんて、普通はあり得ない話です。

 

「すごいな〜〜」と感心しながらも、私が一番面白いと思うのは、競馬のことを知らない人に競馬のなんたるかを教えようと必死になる乗峯栄一の態度です。「何もそんなに頑張らなくてもいいのに」と言いたくなるほど、彼は頑張ります。頑張って頑張って頑張り抜きます。そして、頑張っているうちに、「はて、競馬とは何なのだ? 俺、何、考えていたんだっけ?」と、自問自答したりしています。その姿が、たまらなく面白く、そして、哀しいのです。

 

だってそうでしょう? 誰かに頼まれたわけでもないのに、お給料をもらえるわけでもないのに、競馬の魅力について語ろうとするのですから。彼はきっと生まれながらの「先生」なのでしょう。教えたいと願うのは、もちろん「競馬」という特別科目です。

 

すべりにすべる二人の競馬場

例えば、「歓迎される客はどっちだ?」というタイトルのコラムがあります。競馬ライターの「おっさん」が、競馬を知らない女の子を競馬場に伴ったときのエピソードです。女の子の設定は「時々行くスナックに女子大を出たばかりの愛想のいい子が入ったとする」となっています。

 

ある日、二人は連れだって京都の淀競馬場に向かいます。淀は、豊臣秀吉の側室である淀殿のゆかりの地であり、歴史上、大変意味があるところです。当然、彼は女の子に歴史学的な講義をしたくなります。京都競馬場で淀殿を語るなんて、時を越えて今も続く愛を教えるようで、素晴らしい講義ではありませんか!

 

ところが、しかし……。女の子は、淀殿にも、壮大な歴史にも、肝心の競馬にも興味を持とうとしないのです。若いということは、時に残酷なものです。彼女にとって大事なことは、「目の前にある池の白鳥が可愛いね」だったり、「騎手は1日に何度も馬に乗るのに、なぜ馬は1日に1回しか走らないの〜〜」です。

 

当然、二人の話はかみ合わず、彼の話はすべりにすべります。そこがたまらなく面白いのです。

 

一緒に笑うしかない。誰も聞かない熱烈講義というのは大きな疲労を呼ぶ

( 『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』より抜粋)

 

ずれていく感覚

『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』には、長年にわたる乗峯栄一の競馬人生が詰まっています。まるでバウム・クーヘンのように、77のエピソードが層になっています。ある層は面白く、ある層はちょっと怖かったり、悲しかったりするのですから、とても不思議な本だと思います。

 

タイトルに「言いたいのはそこじゃない」と、あるのも不思議です。「では、あなたは何を言いたかったの? そこじゃないとしたら、どこなの?」と聞きたくなりますが、すぐには答えが出ません。著者の言いたいことを探しているうちに、つい笑ってしまい、自分が何を探していたのかわからなくなるからです。

 

そして、ふと気づくと、少しずつズレてしまっている自分自身に気づきます。この奇妙なズレ感こそが、『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』の魅力だと、私は考えています。

 

【書籍紹介】

競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない

著者:乗峯栄一
発行:あおぞら書房

読者からは「日本一当たらない予想屋」と言われ、調教師からは「あんたに本命にされたら勝てへん」とからかわれた。それでも明るく競馬を愛し続けた競馬コラムニストが、地の底・宇宙の果てからレース結果を左右する究極の競馬原理を追究。歴史、文学、生物学、物理学、心理学……怪しい知識を駆使したユーモア・コラム77 本。年季の入った競馬ファンから初心者まで、たっぷりお楽しみいただけます。

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「日本一当たらない予想屋」が語る競馬の悲喜こもごも−−『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』

新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、多くのスポーツ開催が中止、あるいは、無観客で行われるという事態になっています。残念なことではありますが、困難を乗り切るためです。仕方がありません。

 

無観客開催の競馬観戦

我が家は、35年近く、ほとんどの週末を競馬場で過ごしてきました。夫婦共通の趣味が競馬だからです。20年ほど前に競馬のコラムを書くようになってからは、競馬は趣味から仕事となり、競馬場に行くのは半ば義務となりました。

 

ところが、日本中央競馬会(JRA)も2月29日から無観客競馬の開催を決定し、私たち夫婦もテレビでの観戦となりました。最初はライブじゃないと物足りない気持ちがしていましたが、やがて、それはそれで楽しく、懐かしいと思うようになりました。競馬を始めたころはもっぱらテレビで観ていたので、過ぎ去った日々を思い出すのでしょう。

 

今まで何度も読んだ『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』(乗峯栄一・著/あおぞら書房・刊)をもう一度手にとり読み直したのも、競馬場での思い出が蘇ってくる一冊だからです。

 

著者の乗峯栄一は、筋金入りの競馬ファンで、『いつかバラの花咲く馬券を』など何冊かの競馬関係の著書があります。なかでもこの『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』は、競馬の魅力に取り憑かれた著者の思いが満ちたものとなっています。

 

本当の姿は繊細な少年

『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』は、著者が長年連載したものから60本のコラムを選び、そこにスポーツ新聞やウェブサイトなどに書いた原稿、さらに、新しい書き下ろしを加えたものです。結果として77の選び抜いたコラムが並び、渾身の一冊となっています。著者もその覚悟で出版したようで、自らこう述べています。

 

ちょっと大げさに言えば、競馬ライター乗峯栄一の集大成だと思っている

(『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』より抜粋)

 

ところで、著者は自分を面白おかしく語ろうとします。

 

読者からは「日本一当たらない予想屋」と言われ、調教師からは「あんたに本命にされたら勝てへん」とからかわれた

(『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』より抜粋)

 

こうして、自虐的に自らを紹介し「酔っ払いのおっさん」として周囲をなごませたりします。けれども、実は恥ずかしがり屋で、繊細で、傷つきやすく、「おっさん」どころか、少年のようなヒトだと私は思っています。この世を生き抜くために、もう少し図太くなってほしいと、願うほどです。

 

生まれながらの先生

『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』には、面白いエピソードがたくさんあります。有名人も登場します。誰だかわからないままに出た電話の相手が、武豊ジョッキーだなんて、普通はあり得ない話です。

 

「すごいな〜〜」と感心しながらも、私が一番面白いと思うのは、競馬のことを知らない人に競馬のなんたるかを教えようと必死になる乗峯栄一の態度です。「何もそんなに頑張らなくてもいいのに」と言いたくなるほど、彼は頑張ります。頑張って頑張って頑張り抜きます。そして、頑張っているうちに、「はて、競馬とは何なのだ? 俺、何、考えていたんだっけ?」と、自問自答したりしています。その姿が、たまらなく面白く、そして、哀しいのです。

 

だってそうでしょう? 誰かに頼まれたわけでもないのに、お給料をもらえるわけでもないのに、競馬の魅力について語ろうとするのですから。彼はきっと生まれながらの「先生」なのでしょう。教えたいと願うのは、もちろん「競馬」という特別科目です。

 

すべりにすべる二人の競馬場

例えば、「歓迎される客はどっちだ?」というタイトルのコラムがあります。競馬ライターの「おっさん」が、競馬を知らない女の子を競馬場に伴ったときのエピソードです。女の子の設定は「時々行くスナックに女子大を出たばかりの愛想のいい子が入ったとする」となっています。

 

ある日、二人は連れだって京都の淀競馬場に向かいます。淀は、豊臣秀吉の側室である淀殿のゆかりの地であり、歴史上、大変意味があるところです。当然、彼は女の子に歴史学的な講義をしたくなります。京都競馬場で淀殿を語るなんて、時を越えて今も続く愛を教えるようで、素晴らしい講義ではありませんか!

 

ところが、しかし……。女の子は、淀殿にも、壮大な歴史にも、肝心の競馬にも興味を持とうとしないのです。若いということは、時に残酷なものです。彼女にとって大事なことは、「目の前にある池の白鳥が可愛いね」だったり、「騎手は1日に何度も馬に乗るのに、なぜ馬は1日に1回しか走らないの〜〜」です。

 

当然、二人の話はかみ合わず、彼の話はすべりにすべります。そこがたまらなく面白いのです。

 

一緒に笑うしかない。誰も聞かない熱烈講義というのは大きな疲労を呼ぶ

( 『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』より抜粋)

 

ずれていく感覚

『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』には、長年にわたる乗峯栄一の競馬人生が詰まっています。まるでバウム・クーヘンのように、77のエピソードが層になっています。ある層は面白く、ある層はちょっと怖かったり、悲しかったりするのですから、とても不思議な本だと思います。

 

タイトルに「言いたいのはそこじゃない」と、あるのも不思議です。「では、あなたは何を言いたかったの? そこじゃないとしたら、どこなの?」と聞きたくなりますが、すぐには答えが出ません。著者の言いたいことを探しているうちに、つい笑ってしまい、自分が何を探していたのかわからなくなるからです。

 

そして、ふと気づくと、少しずつズレてしまっている自分自身に気づきます。この奇妙なズレ感こそが、『競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない』の魅力だと、私は考えています。

 

【書籍紹介】

競馬妄想辞典 言いたいのはそこじゃない

著者:乗峯栄一
発行:あおぞら書房

読者からは「日本一当たらない予想屋」と言われ、調教師からは「あんたに本命にされたら勝てへん」とからかわれた。それでも明るく競馬を愛し続けた競馬コラムニストが、地の底・宇宙の果てからレース結果を左右する究極の競馬原理を追究。歴史、文学、生物学、物理学、心理学……怪しい知識を駆使したユーモア・コラム77 本。年季の入った競馬ファンから初心者まで、たっぷりお楽しみいただけます。

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心がカラカラに乾いているあなたにおすすめ! 文豪たちのラブレターを集めた『愛の手紙の決めゼリフ』

最近、キュンキュンしてますか??

 

もう恋愛話が大好きな私は、友人の恋愛トークを聞いたり、ド直球な恋愛ドラマを見たり、定期的に恋愛チャージしないと生きていけないのですが、最近チャージにちょうどよいものを見つけました。

 

それが文豪たちのラブレターを集めた『愛の手紙の決めゼリフ』(中川 越・著/海竜社・刊)です。「え〜昔の人の言葉なんて」と思う人も多いでしょうが、考えてみてください。今のように、新幹線や飛行機はなく、電話はそんなに普及していないし、もちろんLINEやZoomもない! 会いたくても会えない時にその思いを伝えるのは“手紙”だったわけです。そりゃもう、キュンキュンの宝庫に決まってます!(笑)

 

ということで、今回は「最近キュンキュンしてねーなぁ〜」と心がカラカラに渇いていても「秋の夜長に、ラブレターでも書こうかしら?」なんて思ってもらえるような文豪たちの愛の言葉をご紹介していきます。

 

 

芥川龍之介の手紙、最強! 受け取ったら毎日読みたくなるやつ!!

『愛の手紙の決めゼリフ』は、恋愛・夫婦愛・友愛・家族愛・師弟愛・別離と全6章で構成され、41の決めゼリフが紹介されています。その手紙がどういう背景で書かれたのか、また書いた人物はどんな生涯を送ったのかなどが丁寧に説明されながら、手紙の内容が紹介されています。

 

またベートヴェンやダーウィンなども登場するので、誰もが知っているあんな人やこんな人が「え! こんな手紙を書いていたの〜!」と楽しむこともできます。個人的に大好きなのは、芥川龍之介。彼は、生前かなりたくさんの手紙を書いていたことでも有名なのですが、妻・文さんへのプロポーズも手紙だったそう。

 

文ちゃん。

……僕のやっている商売は 今の日本で 一番金にならない商売です。その上僕自身も 碌に金はありません。ですから 生活の程度から云えば 何時までたっても知れたものです。それから 僕は からだも あたまもあまり上等に出来上っていません。(あたまの方は それでも まだ少しは自信があります。)うちには 父、母、伯母と、としよりが三人います。それでよければ来て下さい。僕には 文ちゃん自身の口から かざり気のない返事を聞きたいと思っています。繰返して書きますが、理由は一つしかありません。僕は 文ちゃんが好きです。それだけでよければ 来て下さい。(大正5年8月25日付)

 (『愛の手紙の決めゼリフ』より引用)

 

にゃ〜!!! こんなピュアな表現しちゃうの!? 『羅生門』を書いた人と同一人物だとは思えないくらいの明瞭さ!(笑)

 

しかも文さんには、「どちらが先に逝くことがあっても、お互いの手紙を棺の中にいれる約束をした」とも語っていたそうで、実際に先に逝ってしまった芥川龍之介の棺にはふたりの手紙を入れたそうです……! なんてロマンチックなんでしょうか。あぁ〜私も大正時代に生まれたかったなぁ。

 

こんなこと言われたらたまらんな! 帰省先での国木田独歩の手紙

『武蔵野』で有名な国木田独歩ですが、実は二度結婚をしています。最初の結婚は1年と持たず、離婚。この出来事については、有島武郎が『或る女』という小説にしているのでご存知の方も多いかも知れません。そんな波乱万丈な独歩ですが、今回紹介する手紙は、帰省中に二度目の妻へ宛てた手紙です。

 

酒一合でさしみ、おわん、かきの田楽やきの三品で飯を喰ったがウマクなかった、ごろりと寝ころんで見たが面白くも可笑しくもない、そこで紅茶を入れて二杯飲んで見たが、これも内(うち)で飲ましてもらう程うまくない、寝るには早い寝る前に一風呂はいる積りだが其もまだ早い、それで此手紙を書きだした。(明治38年4月24日付)

 (『愛の手紙の決めゼリフ』より引用)

 

もちろんこの後にも手紙は続くわけですが、手紙の結びは、「何だか悲しいような気がして来た」となっているそうです。「も〜寂しいって最初から言えばいいじゃない!」と突っ込みたくなるこの感じもたまりません(笑)。

 

プライベートな手紙に対して、芥川龍之介と比べるのも失礼な話ですが、超ひねくれていて、素直じゃないところも愛おしく感じてしまいますよね。どちらがタイプか? と言われると、私は独歩かもなーなんて思ってしまいました。

 

プライベートも寅さんだった? 渥美清が母に宛てた手紙

最後にご紹介するのは昭和の大スター渥美 清さん。映画『男はつらいよ』シリーズの寅さん役の人と言えば若い方でもわかるでしょう。

 

彼は役者さんですが、『愛の手紙の決めゼリフ』に掲載されていた手紙が「もう、寅さんそのままじゃん!」と思ったので紹介させて下さい。これは永 六輔さんの証言によるものだそうですが、渥美 清さんは映画で訪れたロケ地からいつも母親に同じ文章を書いた絵はがきを送っていたそうです。その文章がこちら。

 

お袋 俺 元気

 (『愛の手紙の決めゼリフ』より引用)

 

気軽に電話やLINEができる時代ではないので、この一言だけでもお母さんはうれしかっただろうな〜としみじみ感じてしまう一文ですよね。いつの間にか息子は人気俳優になり、なかなか顔を見ることもできないまま、テレビで活躍を見守るばかり。そんな時にこんな手紙が届いたらもうれしくてたまらなくなりますよね。愛が詰まっているわ〜と感じます。

 

『愛の手紙の決めゼリフ』には、夏目漱石や太宰治、与謝野晶子に野口英世の母親までたくさんの人の手紙を読むことができます。恋愛の手紙はもちろん、家族や友人への愛がこもった手紙も読めるので、幅広いラブレターで心を潤してもらって、あなたも愛するひとへこんな時期だからこそ手紙を書いてみるのはいかがでしょうか。便利な世の中にはなりましたが、手紙のあたたかさ、文章の優しさは忘れたくないなーと感じます。

 

【書籍紹介】

愛の手紙の決めゼリフ

著者:中川 越
発行:海竜社

心を動かす愛の言葉。あったかくて奥深い41のラブレター!

愛の手紙の決めゼリフ 文豪はこうして心をつかんだ
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介護では優しい人間が負けるというのは本当か?−−『我らがパラダイス』

我らがパラダイス』(林真理子・著/集英社・刊)は、毎日新聞の朝刊で連載されていた小説で、2017年に単行本化された。その帯に書かれた一文に衝撃を受けた人は多かった。

 

「介護では優しい人間が、負けるのだ」

そんな……、優しく、愛ある人間が最後には勝つのが道理なのに、高齢の親の介護では違うというのだろうか?

 

親の介護に奮闘する3人の中年女性を主人公にした本作は、今年の3月には文庫化もされ、介護で苦悩する世代の共感を集めている。

 

富める者の老後は優雅で安らか

物語の舞台は日本一とも言える介護付きの超高級マンション、セブンスター・タウン。もちろん架空の施設だが、叶うことなら年をとったらこんなホームに入りたいと思わずにはいられない。が、入居金はなんと8600万円! そこは、大企業の役員、医者、元スター、弁護士、外交官など富める者たちの終の棲家だ。マンションの中には、クリニック、トレーニングルーム、プール、ビリヤード室、大浴場、シアタールームまで完備されている。毎日の食事も高級レストランさながら。そして、音楽会やパーティーなどのイベントも楽しめる。もちろん居室は高級ホテル並。自立して生活できる間は、リッチなお年寄りたちは優雅な日々を送っている。

 

認知症が進んだり、身体が思うように動かなくなってもセブンスター・タウンでは安心。マンションの上階にある24時間体制の介護付き居室に移動するだけだ。そこにはベテランの看護師たちがいて手厚い介護を受けられる。最新の機器も備えられていて、寝たまま入浴できるベッドもあるという。

 

小説の中とはいえ、自分の親をこんなところに入居させてあげられたらどんなにか安心することだろう。

 

しかし、格差は人生の最後までつきまとってくるものなのだ。本書のテーマは介護の格差。セブンスター・タウンで働く、それぞれに介護が必要な親を抱え、追い詰められた邦子、朝子、さつき、という3人の女性が主人公だ。彼女たちは大胆な発想でこの格差に挑んでいく。介護の話は暗くなりがちだが、本作は、現代の介護問題をリアルに映しつつも、時にユーモラスにストーリーが展開する介護コメディといえるだろう。

 

邦子の場合

セブンスター・タウンの受付で働く細川邦子(48歳)は、ぼけが始まった父親を抱え、右往左往する。そもそもは父親の面倒をみるという約束で兄夫婦に実家を明け渡していたのだが、兄嫁がそれを放棄して家出をしてしまう。兄も嫁には何も言えない。

 

介護は優しい人間が負けるのだ。

親を思いやる心を持ち、常識や気配りがある方が負ける。こういう人間は、争うことを放棄してしまうからだ。親のことできょうだいといがみ合うのはイヤだ、とあたり前のことを考えた方が損をするのである。

(『我らがパラダイス』から引用)

 

ある日、邦子はセブンスター・タウンの一室に父親を数日だけ潜り込ませることを考え、仲間の協力のもとにこれを実行。購入はしたものの、オーナーがまだ入居していない部屋があるのだからそこで父親をゆっくり寝かせてあげたいと思ったのだ。しかし、父親は粗相をし、なんと緊急ボタンまでを押してしまったため、さあ大変! 激怒するマネージャーに対する、彼女たちの言い分には共感する読者が多いと思う。

 

朝子の場合

田代朝子(54歳)は、セブンスター・タウンで働く看護師。家では寝たきりになった母親の介護もしている。リストラにあって実家に戻ってきた弟に介護を手伝わせるが、時にこの弟はそれを放棄して出かけてしまう。やむなく朝子は母親を介護施設に入居させることを決断。しかし、見つけたホームはなんと高齢者への虐待がニュースになったところが名前を変えただけだったことが判明したり、朝子の東奔西走は続いた。

 

ある日、朝子はセブンスター・タウンの入居者でまったく意識がなく、また、たった一人の親族も遠く海外にいるというおばあさんと、自分の母親をすり替えることを思いつく。ところが、地方に送り出してしまったおばあさんが突然亡くなってしまい、大慌てで遺体をセブンスター・タウンに人知れず戻さなくてはならない事態に! フィクションならではのブラックな展開だが、親の介護で悩む世代には朝子の心情は理解できるはずだ。

 

さつきの場合

セブンスター・タウンのダイニングでサービスを担当する丹羽さつき(52歳)は、独身で高齢の両親と自宅で穏やかに暮らしていた。ところが、父親が急死。さらに実家は借地だったため、立ち退かなくてはならない事態に。そんな折、セブンスター・タウンの入居者でリッチだが、アルツハイマーの症状がではじめた男性の世話をしているうちに意気投合し、なんと玉の輿の結婚話が持ち上がる。小説の中でしかありえないと思う展開だが、記憶が薄れていく人の心情とそこに寄り添う人の気持ちはとても丁寧に描かれている。

 

林真理子さんの作品は『ルンルンを買っておうちに帰ろう』以来、たくさん読んできた。林さんの書く文章はとにかくスイスイと読みやすい。この老人介護という大問題を扱った長編小説も、時には笑いながら、一気に読めてしまう。親の老後の幸せを願うすべての人におすすめの一冊だ。

 

【書籍紹介】

 

我らがパラダイス

著者:林真理子
発行:集英社

入居時8600万円!介護付き高級マンションに勤める三人の女性たち。受付係の邦子はぼけが始まった父を、看護師の朝子は寝たきりになった母を、ダイニング係のさつきは父の死後、急激に老いはじめた母を抱え困窮していた。次第に追い詰められていく三人は、ついにその格差に敢然と立ち向かうー。富める者しか安らかな老後は過ごせないのか!? 現代を映すリアルでブラックな介護コメディ。

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いろんな葛藤、いろんな事情。自分ならどうする? を考える新書『AV女優の家族』

「もし、自分の家族がAV業界にいたら」なんて考えたことはありますか?

 

今でこそリスペクトされ職業としても認められているものの、まだまだ偏見も多い業界ではありますよね。私自身、縁遠い業界なので「一体どんな世界なのだろう?」とわからないことがたくさんあります。ほとんどの方がどんな世界なのか想像がつきにくいお仕事なのではないでしょうか。

 

2020年6月に刊行された『AV女優の家族』(寺井広樹・著/光文社・刊)は、そんな「家族はどう思っているんだろう」「どうしてAV女優という道を選んだのだろう」「どんな気持ちで仕事をしているだろう」と、AV業界の見えていなかった部分を浮き彫りにしてくれる一冊でした。

 

「芸能 整形」で検索したことがきっかけで、AV女優に

『AV女優の家族』では、様々な経緯でAV業界に入ってきた方が6組紹介されています。今でも家族には内緒にしている人、AV女優の母親と娘の対談など、著者である寺井さんが取材した会話が丁寧に紡がれ、一言にAV女優と言ってもいろんな葛藤や事情を抱えながら頑張っているんだな〜と感じることができる内容です。

 

この中に登場する江上しほさんは、3歳から習っていた器械体操でインターハイに出場するほどの実力がある人。仕事で東京に来た際にスカウトされたことがきっかけで、芸能界へ憧れを抱くようになったそうですが、どうしても「整形」をしたかったのだとか。そこで見つけたのがAV業界だったと語ります。

 

__自分で気にされているところがあったんですか?

 

「そりゃありますよ。右目と左目の大きさが違うから直したいな、とか。あと頬周りが丸々しているのとか。親にバレない程度に自分の気になるところだけやりたいと思ってて。でも、それもお金がかかるし。それで色々検索していた時に、「芸能 整形」でヒットしたのがAVだったんですよ。事務所の方で整形させてくれるって書いてあって。あ、そうなんだ、AVの事務所って無料で整形もできて最高じゃん! って思って(笑)」

 (『AV女優の家族』より引用)

 

すごいキッカケ!(笑)

 

芸能界への憧れもあったため、AV業界にも抵抗がなく足を踏み入れた江上さん。しかし、事務所からは「整形顔じゃない」という理由で結局整形はしなかったんだとか。また、AV出演も「バレない」と思っていたそうですが、実際に作品が世の中に出始めると2〜3か月で親にもバレてしまい、『今の仕事を辞めなさい』と反対されたと語っていました。ここに至るまでの背景には、器械体操をしていたころのエピソードも絡んできたり、詳しくは『AV女優の家族』を読んでいただきたいのですが、ひょんなキッカケから人生って動き出すんだなぁと感じるエピソードが満載でした。

 

そんな江上さんは、2015年から2年間の間に200本以上の作品に出演しましたが、現在は引退し、フリーでタレント活動やヨガ・器械体操講師の活動をされているとのこと。また、AV女優や風俗で働いていた人たちのセカンドライフになるような「場」も作っていきたいと考えているそうです。インタビュー全体が明るくて元気いっぱいだったので、「これからの江上さんも、きっと大丈夫よ!」と応援したい気持ちになり、SNSやYouTubeを検索し、フォローしてしまいました(笑)。

 

芸人からAV男優へ。家族からは笑って応援された

この本は『AV女優の家族』というタイトルですが、ひとりだけAV男優さんのインタビューも掲載されています。出てこい中平くん2号という男優さんで、大阪でお笑い芸人をしたあと、声優を目指し状況しますが、元々興味のあったAV男優のオーディションに参加し、見事合格。2018年から活動されています。

 

本人曰く「生まれ変わってもまたAV男優になりたい」と語っているほどこのお仕事が大好きと言うことですが、家族(父親・母親・弟)へ打ち明けた時の反応がとてもユニークだったのでご紹介します。

 

__その時のご家族のリアクションはどうでした?

 

「それぞれ三人に個別で電話したんですけど、もうみんな見事におんなじリアクションでした。まず『AV男優やっている』って言ったら、『なんてぇ?』って言って笑っているんですよ(笑)。三人ともみんなおんなじリアクション」

 

__へぇー。びっくりするとか、怒るとかでもなく?

 

「なく。ま、びっくりはしていました。「えーっ!?』って。でも、笑ってました。で、最終的には『頑張れよ』って言ってくれて。でも、親父とお袋でちょっとだけ反応が違ってて。親父には『それは給料大丈夫なのか? 食べていけるんか?』みたいなリアクションで、お袋の方には『給料はいいだろうからねぇ』みたいな。男女の違いですかね」

 (『AV女優の家族』より引用)

 

男女だけでもこんなに差があるのか? と驚いてしまったのですが、もしかすると出てこい中平くん2号さんの家庭がとてもオープンだからということもあるかもしれませんね。結婚観についてもインタビューでは語っているのですが、本人はもうAV男優になる時に結婚は諦めたと言っていました。仕事との向き合い方、これからの未来のこと、本当にいろんなことを考えながらお仕事しているのだと感じたし、これだけプライドを持って仕事ができる天職を見つけられた出てこい中平くん2号さんが輝いて見えるインタビューでした。

 

みんな前向き! 考えるキッカケをもらいつつ、元気ももらえる一冊

この本を読む前は、「離婚した」とか「家族と縁を切った」とか「もう仕事が大変で……」など暗い話が多いのではないか? と思っていたのですが、読み終わったあとに感じたのは、私ももっとお仕事がんばろー! という前向きな気持ちでした。インタビューをしてきた寺井さんも「おわりに」で以下のように語っています。

 

インタビュー全般を通して感じられたのは、自分の人生を納得のいく充実したものにしたいという前向きな姿勢。そして他人にどう思われようと、何を言われようとプライドを持ってこの仕事をやっているというブレない信念と同時に、「家族からは認められたい」という切実な思いでした。

 

 (『AV女優の家族』より引用)

 

AV女優・男優という仕事に対して偏見を持っている方はもちろん、普段お世話になっているという方にもぜひ読んでいただきたい一冊です!

 

また、AV業界だけでなく、どんな仕事でも「プライド」と「信念」を持って仕事と向き合うことは必要なことだと感じました。そしてどんな仕事であれ、家族には認めてもらいたいという気持ちは一緒なんだと思いました。内容はエロくないので、知らない世界を知りたい方、最近仕事でやる気が出ない方、家族と仲直りしたいのにキッカケが掴めないという方、などなど、男女ともに気軽に手にとって読んでいただきたい一冊です。

 

 

【書籍紹介】

AV女優の家族

著者:寺井広樹 
発行:光文社

アイドル視され、今や憧れの職業にすらなりつつある一方、いまだに偏見も残るAV女優という生き方。そんなAV業界で最大のタブーが「家族」の話である。親にAV出演をどう伝えたのか、家族関係に変化は生じたのか、親戚にはいつ「身バレ」したのか、兄弟姉妹はどう思っているのか、子供には将来、自分の仕事を明かすのか―?これまで誰も足を踏み入れてこなかった「家族」にまつわるエピソードを、様々な立場の女優たちが赤裸々に語る。そこにあるのは、他人に何と言われようとブレない信念と同時に「家族からは認められたい」という切実な思いだった。

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詐欺だと気づいているのにやめられない「最も甘い地獄」とは?−−『ダーリンは戦場詐欺師』

ここ半年で、仕事の打ち合わせもPCやスマホでこなすことが圧倒的に多くなった。SNSにも必然的に触れる機会も多くなった中、気づいたことがある。以前にも増して、国際ロマンス詐欺の入り口となりえるFacebookの友達申請が多い。朝起きて見ると、20件も来ていることがある。

 

キャラ設定も英語も雑

かつて、この手の友達申請は、プロフィールで細かいキャラ設定が行われていた。でも、最近はものすごく雑。渋滞している申請を一応ひとつひとつ開いて確認するのだが、あまりにも雑なのですぐに削除する。

 

6月ぐらいまでは、申請があるとアトランダムにレスを返し、メッセンジャーでしばらくやりとりしてさんざんツッコミを入れ、バカにしきった文章で煽り、最終的にFBIの「国際ロマンス詐欺に関する注意喚起」のページのURLを送ってからブロックしていた。でも最近は、騙しの文章のバリエーションのなさに呆れる。それに、どこの国の人間か知らないが、あまりに稚拙な英語にも呆れる。こっちがさんざんディスったら、キレて“Go to hear!”と書いてきたことがある。おそらく“Go to hell”と言いたかったのだろう。「聞きに行け」って、何を?

 

今回紹介する一冊は、筆者のように国際ロマンス詐欺に興味を抱く人間なら誰にとっても見逃せないはずだ。当事者と詐欺師との1か月にわたるリアルなやりとりが詳細に紹介されているのだから。

 

 

友達リクエストを“つい”受け入れてしまうと……

ダーリンは戦場詐欺師』(オオイソノサザエ・著/KUNパブリッシング・刊)のように当事者本人が自ら語るパターンは、ありそうでなかった企画だ。それだけで一読に値する。オオイソノさんの体験は、こんなふうに始まった。

 

出会いというものはある日突然やってきます。嬉しい出会いもあれば災難も…。ある日突然私のFacebookページに来た「友達リクエスト」。共通の友人もいない、知らない人である上に顔写真が無い。しかもメッセージもなく黙ってリクエストしてきたものについてはお断りしていた…はずなのに、しばらくの間無視していても取り下げられることのないリクエスト、気になってつい受け入れてしまった。

                         『ダーリンは戦場詐欺師』より引用

 

共通の友人もなく、知らない人であり、しかも顔写真がないとなれば、「これは詐欺の入り口ですよ」と言っているようなものだ。しかし、魔が差すということもある。オオイソノさんが「The Sweetest Hell」(最も甘い地獄)と形容する1か月は、申請を受け入れたその瞬間から始まった。

 

詐欺師のプロフィール

最初に送られてきたのは、つたない日本語のメッセージだった。

 

「こんにちは。ありがとうございました。私の要求を受け入れ、あなたのために。私は幸せです。私の名前はカールです。お会いできて光栄です。」

                         『ダーリンは戦場詐欺師』より引用

 

日本語でメッセージを書かなくてよい旨を英語で返信し、しばらくやりとりした後、カールは「シングルファーザーで10歳になる一人息子がいる」と知らせてきた。シングルファーザーで一人息子がいるというプロフィールは詐欺師が好んで使うことで知られている。

 

怪しいと感じたオオイソノさんはカールのFacebookページをチェックしてみた。そして投稿への「いいね」の数が極端に少なく、コメントしている人に至ってはゼロである事実を確認する。

 

甘い言葉のメッセージを連投

詐欺師は、Facebookで友達申請してくるくせに「Facebookはあまり使わない」などと言って、他の種類のSNSやフリーメールを使いたがる。オオイソノさんもLINEのIDを訊ねられたので「英語の勉強になればいいか」程度のノリで教えると、カールはすぐに友だち追加した。ここから、連絡はほとんどがLINE経由になる。「ハニー」とか「スイートハート」とか、「ベイビー」という単語も連発するようになった。

 

やがて決定的な事件が起きる。ある日傭兵部隊と行動を共にしていたカールは、待ち伏せ攻撃を受けて脚に銃弾を受け、切断しなければならないほどのけがを負ってしまったというのだ。そしてなぜかカンボジアに移送されたという彼は、ここで初めて「お金を送ってほしい」と頼んできた。オオイソノさんも詐欺であることを確信し、カールをブロックして関係を断った。しかし、である。オオイソノさんの中で、自分でも想像さえしていなかったことが起こる。なんと、カールロスに陥ってしまったのだ。

 

事態の進展が日数で記されているので、『24』シリーズを見ているような緊張感に包まれる。オオイソノさんは情にほだされ、会ったこともない自称戦場カメラマン――いや、ほぼ詐欺師に決定だ――に心ときめかせ、お金を送ってしまうのか。それとも……。ここは、あとがきに記された文章を紹介して終わることにしよう。

 

「振り込め詐欺」の被害者の方々も、自分だけは引っかからないと思っていた、と、誰もが言うように彼と出会ったときは私自身もまさか自分がこんなことに巻き込まれるなんて夢にも思いませんでした。

                         『ダーリンは戦場詐欺師』より引用

 

どうやら、この世に“絶対”なんていうものはないようだ。

 

 

【書籍紹介】

ダーリンは戦場詐欺師

著者:オオイソノサザエ
発行:KUNパブリッシング

出会いというものはある日突然やってきます。嬉しい出会いもあれば災難も……ある日突然私のFacebookページに来た「友達リクエスト」。共通の友人もいない、知らない人である上に顔写真が無い、しかもメッセージもなく黙ってリクエストしてきたものについてはお断りしていた……はずなのに、しばらくの間無視していても取り下げられることのないリクエスト、気になってつい受け入れてしまった。そこから始まる私自身が名付けた「The Sweetest Hell(最も甘い地獄)」。

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デジカメの画像をフィルムのような雰囲気にする方法

僕は長いこと写真撮影を趣味にしていたり、仕事にしていたりする。写真を始めたころはフィルムだったが、今はほぼデジタルカメラでの撮影だ。若い人たちには、フィルムで撮影したことがないという人も多い。

 

デジタルカメラ全盛期だが、SNSなどを見ているとフィルムっぽい雰囲気の写真が人気を集めていることがある。デジタルカメラとは違う、なんとなく色味が転んでいてノスタルジックな感じがいいのだろう。

 

僕も一時期、デジタルカメラで撮影した写真をフィルムのように編集していたことがある。世の中には、フィルムっぽくしてくれるフィルターなどもあるので、そういうものを使ってフィルム調にして楽しんでいた。

 

しかし、根本的にフィルム、特にネガフィルムとデジタルカメラの写真がどう違うのかということはあまり考えたことがなかった。

 

フィルム調にする5つのプロセス

デジタルでフィルムを再現したい』(嵐田大志・著/玄光社・刊)は、デジタルカメラの写真を、RAW現像ソフト「Adobe Lightroom Classic」を使ってフィルム調に仕上げる方法を解説している。本書によると、そのプロセスは5段階ある。

 

Step 0 仕上がりをイメージする
Step 1 写真を整える
Step 2 基本補正を行う
Step 3 カラーを調整する
Step 4 効果を調整する

(『デジタルでフィルムを再現したい』より引用)

 

もともとネガフィルムは、フィルムの現像時に人の手、または機械により調整されているので、その作業を自分でやろうという感じだ。

 

ポイントはコントラスト、色味、ホワイトバランス

それぞれの作業のポイントは本書を読んでいただくとして、どうしたらフィルムらしいと感じられる写真になるのかについて、かいつまんで解説する。

 

まずはコントラストの調整。ネガフィルムはコントラストが弱めという特徴がある。デジタルの写真に見慣れていると、全体的にメリハリのない写真に見えるが、これがノスタルジックな雰囲気を醸し出すひとつめのポイントだ。

 

次は、色味。デジタルカメラの写真は、どちらかというと派手目で現実の色をちょっと強めにした感じがある。一方フィルムは銘柄によっても異なるが、やや暖色系または寒色系に色転びしていることが多い。なので、青い空がちょっと緑がかっていたりするのだが、それを再現するとフィルムらしさがアップする。

 

最後にホワイトバランス。先ほどの色味と似ているが、こちらは全体的な色合いの調整。もともとホワイトバランスは、白いものを白く表現するためのものだが、フィルム風に仕上げるにはホワイトバランスをわざと変えて、写真全体の色味を変えるのだ。

 

これに、場合によりノイズ(粒状感)を加えたりすることでフィルムらしいデジタル写真になるというわけだ。

 

■あえてデジタルでアナログな雰囲気を楽しむ

本書を参考にしながら、昨年夏に鎌倉で撮影した写真をフィルム調にしてみた。

↑調整前

 

↑調整後

 

もともとちょっと古いコンパクトデジタルカメラで撮影していたので、どことなくノスタルジックな雰囲気だったが、調整をしてさらにフィルムっぽい感じにしてみた。「写ルンです」で撮ったような写真を目指したのだが、どうだろうか。

 

デジタルカメラの写真は見栄えがよく万人受けする感じだが、気に入った写真をフィルム調に仕上げていくと、自分の好みが反映されておもしろい。デジタルカメラの撮影にちょっと飽きてしまったという人は、フィルム調にチャレンジしてみてはいかがだろうか?

 

【書籍紹介】

デジタルでフィルムを再現したい

著者:嵐田大志
発行:玄光社

Instagramで人気の著者がフィルムルックの写真に編集するためのノウハウを公開したガイドブックです。Adobe Lightroom Classicを使って個性的でノスタルジックな雰囲気に仕上げる方法をさまざまなシチュエーションでの実例で解説していきます。第1章で解説しているフィルムルックに編集するための「ベースプリセット」を無料ダウンロードできるサービス付きです。

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日本が生き残る道は? 米中が先行する「アフターデジタル」時代との向き合い方

日常のさまざまなシーンでインターネットとつながり、音楽・映画といったエンタメから買い物、さらに教育の分野でも、オンライン化が加速しています。ITに詳しくない人も日々の暮らしを通じて、物理的な接点のある社会「オフライン」の中に、付加価値としてデジタル社会、つまり「オンライン」が浸透していることを実感しているでしょう。

 

世界では、中国やアメリカを中心に、個人が常時スマホを携帯して、街のいたるところにカメラやセンサーが設置され、私たちの行動はすべてオンラインデータ化されて、“データを集める”という点においてビジネスの世界では、オフラインの必要性がなくなろうとしています。一方、日本の“オフラインを軸にオンラインを活かす”方法は、「ビフォアデジタル」といわれる古い概念。オンとオフの主従が逆転した、“オフラインがデジタルの世界に内包された世界”=「アフターデジタル」がいま、世界のビジネスの主役に躍り出ているのです。

 

この新たなるデジタルの世界を、事例とともに1冊にまとめたのが、『アフターデジタル-オフラインのない時代に生き残る-』です。@Livingでおなじみのブックセラピスト・元木忍さんが、著者のひとりである藤井保文さんを訪ね、この本が生まれたきっかけや、アフターデジタルの現在と今後の見通しなどを伺いました。


『アフターデジタル -オフラインのない時代に生き残る-』
藤井保文・尾原和啓 / 日経BP

ITを使って生活をより良い方向へ変革させる「デジタルトランスフォーメーション」。この言葉は知っていても、実際に「何をしたらよいのか分からない」と嘆くビジネスパーソンに向け、すべてがオンライン化された世界「アフターデジタル」の本質を解説しながら、その方法論を教えてくれるのが本書。驚くべき進化を遂げた世界のビジネス事例も、たっぷり紹介されています。

 

日本は妄想力を具現化した世界観で勝負せよ!

元木忍さん(以下、元木):コロナ禍の在宅勤務で、Zoomなどを活用したオンライン会議が浸透しましたが、私の周囲ではデジタルを使うことにストレスを感じている知人も多くいて、こうしたデジタルに不安を訴える人に最適な本がないかと、あれこれ読みあさっていた時に手に取ったのが、この本でした。ビジネス書ですが、ビジネスパーソン以外にも広く、そしてとても多くの方に読まれているそうですね。

 

藤井保文さん(以下、藤井):昨年の3月に刊行され、現在までに8万5000部を発行しています。自分でもここまで読んでいただけるとは思ってもみなかったですね。

 

元木:おもに中国の新しいビジネスが紹介されていますね。注文から30分以内に配送してくれるアリババのOMO(オンラインとオフラインの融合)型スーパー「フーマー」や無人コンビニ「Jian24」など、先進的な事例に驚きつつ、一方で、デジタルに対して日本が遅れをとっている現状に、ある種の“恐怖”も感じました。

 

藤井: 読まれた方のレビューも拝見しましたが、「ためになった」という意見のほか、「怖い」とか「こうなってはいけない」というご意見も多くいただきましたね。

↑『アフターデジタル』の著者、藤井保文さん

 

元木:本題に入る前に、藤井さんのプロフィールを伺ってもいいでしょうか? 26歳で就職と、少し遅れて社会に出たのは、まだ好きなことをやっていたいとか、今は就職するタイミングじゃないといった迷いがあったからですか?

 

藤井:それはありましたね。大学卒業後にいったん、フリーターとして音楽や映像制作をしていました。仕事にしたいというより、音楽や映像で自己表現を続けたいと考えていたんです。翌年に大学院へ進み、そろそろ社会に出ないとな、と感じ、修了と同時にUX(ユーザーエクスペリエンス)デザインコンサルティングなどの事業を展開するビービットに就職しました。入社後はずっとUXの仕事に就きまして、2014年に台湾、2017年に中国へ赴任して中華圏の仕事に携わりました。

 

元木:ご苦労されたことはありましたか?

 

藤井:26歳まで仕事をしていないので、当初は接客時の言葉遣いのマナーから教わり、ビジネスの世界に慣れるまでに1〜2年はかかりましたね。台湾に赴任した際も、英語の読み書きはできても、会話ができないのでコミュニケーションに苦慮しました。「どうやったら周囲から信頼され、効率よく一緒に仕事ができるか」を問い続けながらやってきて、何とか乗り越えた時、任される仕事が急に増えていきました。私は社内にある仕事を頼まれるより、やりたいプロジェクトを自分で営業して取ってくるというスタイルで仕事を広げていきましたが、中華圏での仕事で評価され、ビジネスマンとしてだいぶ成長したと思います。

 

元木:それが土壌にあって『アフターデジタル』を書くきっかけとなったのですか?

 

藤井:ビービットでは、さまざまな日本企業の幹部の方に、中国の新しいビジネスの仕組みなどを説明する、「チャイナトリップ」と称した「中国デジタル環境視察合宿」を行っていました。2018年に『アフターデジタル』の共著者となる、IT評論家の尾原和啓さんをこのチャイナトリップに招待をしたら、視察を終えた後に「藤井さん、これはめちゃくちゃ面白いから本にしませんか」と声掛けいただいたのがきっかけですね。

 

元木:共著者の尾原さんもびっくりされたんでしょうね。中国ではIDカードでタクシーに乗り、キャッシュレスで支払うのが当たり前ですから。私も含め、昔を知りすぎている人にとって現在の中国は別世界ですよね。この現状を伝える本を出版したいという気持ちはわかります。

 

藤井:ただ忙しかったので、最初はほかの方にインタビューをまとめてもらって、私が推敲する形で進めていきました。しかし、話をまとめていただくだけでは伝わりにくいことが多々あり、中国に住んでいるから書ける肌感みたいなものもあって、結局自分で執筆することに。結果として、本書の9割は私が書くことになりました(笑)。

 

元木:この本を読むと、日本人経営者のあるあるとか、中国人経営者らしさとか散りばめられていますよね。この驚くべき状況を、日本のビジネスパーソンに伝えたいという思いもあったのですか?

 

藤井:はい、それも理由のひとつです。当時の日本では、デジタル化は不可欠とか、デジタルで生活を豊かにする「デジタルトランスフォーメーション」が必要だとか言われる本当の意味や、海外で実際に起きているアクションの本質がまったく理解されていない、とは感じていました。バズワードとしては認識していても、視点や視野の意味合いではまだ見えていない状況でした。日本の有名な経営者の方が「チャイナトリップ」にいらっしゃっても、みなさん一様に驚かれていましたから、本書を出版することで、ビジネスパーソンだけではなく、日本企業にもバリューがあるかもしれないという思いもありました。

 

元木:私自身も、日本はまだ最先端だと思い込んでいましたが、中国に追い抜かれたことを、まだ認めたくない人も多いかもしれませんね。ちょっと答えにくい質問かもしれませんが、先進度合いではアメリカと中国のどっちが上だとお考えですか?

 

藤井:2国を比べるのは難しいですね。例えばGAFA(編集部注:ガーファ。Google、Apple、Facebook、Amazonという、米国発のITプラットフォーマーの総称。)は全部アメリカベースの企業ですし、時価総額ランキングの上位10社のうち7社はアメリカ企業が占めています(※)から、この点にスポットをあてれば、アメリカの方が進んでいるといえます。しかし、14億人という人口があって、個人のあらゆる情報が社会に行き交っている状況は、世界でも中国でしか生まれていません。ものづくりやブランドづくりは、アメリカの方がうまいとは思いますが、AIやデータ、デジタルテクノロジーを活用し、オンラインとオフラインの双方を使う、という意味合いでは、中国の方が先行しています。総合力で考えるとどっちもどっちだと思いますね。

※World Stock Market Capitalization Ranking 2020(2020年7月末時点)

 

元木:ユーザーから集めたビッグデータといわれる情報を、きちんと活用できている実例ですね。たしかにビッグデータに関しては、中国の方がうまく使っている印象が強いです。

 

藤井:以前、アリババの国際UXの責任者に聞いた話ですが、彼は欧米系半分、アジア系半分で自分のチームを作ると教えてくれました。新しいアイデアを生み出すのはアメリカ人が得意で、アジア人はそれを組み合わせたり、深めていくことが得意なので、欧米人が企画をたて、アジアの人材がそれを突き詰めていく構造がチームとして最適だとおっしゃっていました。

 

元木:世界のビジネスでは、日本はどんなポジションにいるんでしょうか?

 

藤井:いろいろな角度から言えますが、得意分野でいうと“プロセス主義”的なところがかなりあるので、トヨタ自動車の“かんばん方式”のような、プロセスを磨き上げさせたら一番凄いと思います。ただ、どうしても手段が目的化しやすいところがあって、例えば、実際にせっせとユーザーデータを集めている企業の方が、何のために集めているかを答えられないというケースも多いのです。

 

元木:私も経験がありますが、集めたデータをどう活用するかを社内で議論しても答えが出ないんですよ。データで何をするかより、データを持っていることに胸を張っている企業が多いことを実感しました。まさに手段が目的化している実例ですね(笑)。

 

藤井:ここは一番に変えていかなくてはいけないのですが、日本人の性質なので簡単には変わらないでしょうね。言い続けるしかない(笑)。

 

元木:日本人特有の概念みたいなものですかね。変えられない企業体質とか……。

 

藤井:『シン・ニホン -AI×データ時代における日本の再生と人材育成-』(ニューズピックス)の著者である安宅和人さんは、何でも創れる時代になり、自分が思い描いた妄想を具現化することがどんどん容易になっていくので、今後本当に必要なものは“妄想力”である、とおっしゃっています。独特の世界観を作らせたら日本人は強いですから、妄想を妄想に留めず具現化までいければ、世界のトップに立てると思っています。アニメでも漫画でもゲームでも、さまざまな物語を細部まで作り込みつくっているのは日本人だと思うので、素養は十分ありますね。

 

以前、星野リゾート代表の星野佳路さんが、日本人がよく使うおもてなしについて「おもてなしとは相手のことを慮って先回りすることではない」とおっしゃっています。私も同感で、先回りすることは、西洋でいう相手に仕えるサーブの概念であり、日本のいうおもてなしは、小物の配置、所作やルールが徹底された世界観を提供することで相手に「なんて完成されて行き届いた世界なんだ」と感じてもらうことだと考えています。

 

これも、まさに“妄想力の具現化”なんですね。また、小山薫堂さんがプロデュースをした「くまもとサプライズ」も、県外の人を誘致するのではなく、くまもんを使い、熊本県民が熊本のいいところを発見することをメインの目的に置いていたので、県民の参加度がまったく違いますし、結果的にくまもんも有名なキャラクターに育ちました。これも妄想力を使って世界観をつくるという図式に近く、日本の得意な部分を活かすことで成功に導いた好例だといえます。これをデジタルで実現できたら今後はグローバルで強みになると思います。

 

────『アフターデジタル』に続き、藤井さんは続編となる『アフターデジタル2 UXと自由』を2020年7月に上梓。世界がコロナ禍にあえぐ今、アフターデジタルの世界にどのような変化が起きているのでしょうか?

 

アフターコロナ時代に向けて「アフターデジタル」を再定義

元木:『アフターデジタル』に続き、『アフターデジタル2』が7月に刊行されましたが、これはどういうことが契機になっていますか?

 

藤井:『アフターデジタル』を読まれた方の意見を読んで、誤解されていると感じることがいくつかありました。特に、中国の先進的なビジネスやサービスの事例を多く取り上げたこともあり、「中国を礼賛しているのではないか」というご意見は多くいただきました。私としては礼賛したつもりもないし、日本が中国のようになるべきとは一言も書いていないんですが、明確なビジョンを提示できていないことを顧みて、日本の将来の洞察なども入れて、急いで続編を書いたというわけです。

 


『アフターデジタル2 UXと自由』
藤井保文 / 日経BP
『アフターデジタル』に関する誤解などを解きながら、コロナ禍によって世界でさらに加速するアフターデジタルの最新事例と世界の変化を解説。日本企業が向かうべきビジョンも提示されており、国内で進む変革を知りたい方も必読です。

 

元木:中国や海外のアフターデジタルの事例を拝見しましたが、集めたデータの活用はすごく進んでいますね。

 

藤井:モバイル端末が出て、関連サービスが充実したこともあり、ユーザーの行動データが細かくわかるようになりました。製品を売るだけでよかった時代から、データをもってお客さんにずっと使ってもらう体験提供型時代に、競争原理が変わってきてしまっています。データの有無で提供する価値に大きな差が出てしまいますから、追いつかないと本当に負けてしまう。

 

実際、コロナ禍では、SNSやECでユーザーとの恒常的な接点を作ってこなかった企業は、淘汰される時代になってきています。一例をあげるとすれば「平安保険グループ」という企業は、保険商品を売りながら、ユーザーが病気になったタイミングやどんな病気にかかりやすいか、さらに家族構成やどんなものに興味があるかのデータを集め、医療や娯楽、住宅など、ユーザーにとって必要な商品を欲するタイミングで提供して、業績を伸ばしています。

 

元木:個人のデータを見られるのは嫌だなって日本人も多いですよね。取られる側からするとセキュリティ的な不安もあります。

 

藤井:そもそも中国は土地やデータもすべて国が管理しているので、日本は中国のようにはならないだろうとは思っています。それに、中国でも、小売りの購買データと健康データなどが全部つながっているわけじゃないんですよ。中国の国民も勝手に自分のデータが使われることはひどく嫌がりますから。例えば、大ヒットした顔交換アプリ「ZAO」の、「ユーザーの顔の所有権は自社にあり勝手に使用できる」という規約が問題になり、SNSで大炎上したことがありました。中国でもユーザーが便利だと思っているサービスや、信用している企業以外にはデータの提供をしていないんです。

 

日本では集めたデータを、売り上げアップを目的としたクロスセル・アップセル(客単価を上げるための営業施策)に使ったりプロモーションに活用したり、他の企業に提供してお金を得ることもあります。中国では集めたデータを、いかにユーザーエクスペリエンスや製品づくりに還元するかを大事にしていて、還元するスピードが早いほど競争力になると考えています。「平安保険グループ」のユーザーも、ここ1社だけにしかデータを提供していません。

 

以前、日本企業のデータの使い方について、中国企業の方と話していた時、「その目的はユーザーに不義理だ」と言われました。ユーザーは信用してデータを提供しているわけで、ベネフィットで返さなければ取引関係が成立しない。信用を失えば、結果として企業もサービスも潰れていくので、絶対にやってはいけない、とも言っていました。また中国礼賛ととられるかもしれませんが、日本の「アフターデジタル」を妨げているのは、時代遅れの日本企業の体質にあることも『アフターデジタル2』のメインメッセージになっています。切り替えないと、社会の発展が止まるのではないかと懸念しています。

 

元木:日本の企業でもそれに気が付いて、「アフターデジタル」を意識したビジネスをスタートしているところはありますか?

 

藤井:昨年ぐらいから第2フェーズに入っていますね。先日、知人から「新宿を歩いていたら近くにあるデパートからスマホに通知が来たんだけど、これってOMOなんですか?」と聞かれました。「便利だと思いました?」とその方に尋ねたところ、「単なるキャンペーン告知ですよね」というので「じゃあOMOじゃないですね」と答えました。

 

私たちはビジネスパーソンであると同時に、サービスを利用するユーザーでもあります。大事なのはデータを活用し、ユーザーにとってベネフィットや誠意ある行動をしてくれているかどうかです。通知がきてうれしいと思った方にとってはサービスであり不快に思ったらそうじゃないということで、これはユーザーが判断するしかないことです。

 

AIに人間の仕事を奪われる!? コロナ禍で加速するアフターデジタル

元木:やや話は変わりますが、AIの時代になったら人の仕事が奪われると思ったんですけど、本書を読んだら仕事がどんどん増えると書いてありましたね。

 

藤井:みなさんの生活でも、デジタルだけでは提供できない感動とか信頼が当然あって、それをAIが提供できるようにはしばらくならないだろうし、不可能といっても過言ではないと思います。人が目の前でサーブしてくれる安心感だったり、細かい機微に気づいてくれる思いやりを提供する仕事はなくなりません。

 

この構造は、2018年に話題となった「カスタマーサクセス理論」がわかりやすいですね。この理論では、アフターデジタル後の顧客との接点を“ハイタッチ”“ロータッチ”“テックタッチ”の3つに分けています。ハイタッチは1対1の個別接点、ロータッチは1対複数の接点、テックタッチとは人が介在しない接点です。ハイタッチは感動とか信頼を生むのが得意で、医者とかコンサルタントサービスが挙げられます。ロータッチは楽しみとか心地よさ、学びになるなど心地よさの提供が得意で、イベントやセミナーなどがその代表。AIだけでできる接点はデジタルタッチとなります。

 

例えば今後、健康診断はAIでできるかもしれませんが、病気の方に言葉をかけたり、そばに寄り添うケアリーバーの仕事は逆に増えていくでしょう。アパレルでも、コーディネートはAIでもできますが、別のモノを勧めるといった接客は、人でないとうまくできないと思います。AIとの役割分担が明確になり、細かいプロセスに関する仕事は減っていくかもしれませんが、分野によってより人を必要とする職種もあるので、AIに人の仕事がすべて奪われることはないのです。

↑対談でもテーマとなった「カスタマーサクセス理論」。アフターデジタルでは、3つの階層に分かれたユーザーと接する機会を組み合わせることで、ユーザーの満足度を高め、より深い関係を築き上げていく。これによって、オンラインとつながる日常生活自体も変化していくという理論です

 

元木:例えば「アフターデジタル」で紹介されていた無人コンビニは、未来的であると同時に、人の必要性を感じさせないことに不安も覚えました。

 

藤井:執筆した2018年は、新しいビジネス事例として紹介しましたが、無人にするとどうしても店内が冷たい雰囲気になって人が来なくなるんです。現在、中国で成功している無人コンビニは、完全無人ではなく、必ず人が1人常駐しているものなんですよ。スタッフは来店客に挨拶をしたり顔見知りになったり、買い物の仕方を教えたりしています。人を全部排除すると無機質な倉庫みたいになり、商品の新鮮味も薄れます。人がいると店と縁ができますから、結局ユーザーは完全無人ではない店を選んで通うわけです。ここも続編を書いた動機ですね。

 

あと、データをメインにしたデジタル技術によって管理社会のディストピアになるのではないかという恐怖に対しても、テクノロジーを使った、ディストピアにならない社会の方向性はあることを伝えたかったですね。

 

元木:『アフターデジタル2』の原稿がGoogle ドキュメントで無料公開されていることも、藤井さんらしいと感じました。私は本が好きなので、書籍で拝読しましたが。

 

藤井:世界の変化が速く、執筆時は目新しい事例が出版した時にはすでに古くなっていることも多いので、本自体も更新性や即時性のライブ感がある方がいいなと思って、今回誰でも読めるように公開しました。

 

元木:まさに「アフターデジタル」ですね(笑)。2でも触れられていますが、コロナによって今後のアフターデジタルはどのように変わっていきそうですか?

 

藤井:イデオロギーと社会、2つの側面でとらえています。まずイデオロギーでは、中国、台湾、韓国でコロナの抑え込みがうまくいったことを受け、EUのGDPR(一般データ保護規則)が考え直されようとしています。有事の時の国民の健康状態や居場所は一定一括で管理できた方が、国も国民もいいんじゃないかというもので、今後は個人データをどう使うかが議論されるようになると思いますね。IDを統合し国が管理する動きがもう少しポジティブになるかもしれません。2つめは、社会の変化として、コロナを契機に、ウーバーイーツやZoomといったすでにあったサービスを、みんなが使うようになったことが挙げられます。

 

元木:コロナでアフターデジタル化がより進んだということですね。

 

藤井:人手が余った企業が、人手の足りない企業に人材を提供する、場と人の流動性を高めた共有という方法も新しい流れでしたね。デリバリー予約が簡単にできるプラットフォームがあれば、飲食業など本当に困っている人たちが助けを求めやすくなることもわかってきました。企業としては、課題が噴出する社会に貢献するための準備をすることも重要になるため、アフターデジタルへの社内的な取り組みもまとめやすくなり、舵を切りやすくなっているはず。これをきっかけに変革が進むことを期待しています。

 

元木:ビジネスもガラリと変わっていきそうですね。となりますと、今後の私たちはアフターデジタルとどう向き合っていけばいいですか?

 

藤井:オンラインとオフラインが融合し、今より便利になるし今までよりデジタルの価値もより高まっていきます。不安だとかデジタルはよくわからないと構えるより、自分がいいなとか好きだなとか、便利だなと思うことに敏感でいればいいのだと思います。

 

【プロフィール】

株式会社ビービット 東アジア営業責任者 / 藤井保文

東京大学大学院 情報学環・学際情報学府修士課程修了。2011年ビービット入社。2017年から上海支社に勤務。2019年3月に「アフターデジタル−オフラインのない時代に生き残る」を出版し、世耕元経済産業大臣をはじめ各界著名人からの推薦を頂いている。続編となる「アフターデジタル2 UXと自由」は2020年7月29日の発売直後からシリーズ累計13万部を突破するベストセラーとなっている。

認知症患者を訪問するドッグセラピーが起こした奇跡の物語

認知症患者の表情が豊かになり、会話が弾み、リハビリにも積極的に取り組むようになる。セラピードッグが訪問するようになったことで、目に見えてこのような効果が出てきているという。

 

犬は人を癒してくれる

私は先日、ドッグカフェに久しぶりに向かった。突然悲しいことが起き、気持ちがどうしても回復しなかったので、癒されたかったからだ。カフェでは10匹以上が大喜びで出迎えてくれた。最近は犬どころか家族以外の人間とも直接関わらずに過ごす日々だったので、この歓迎がうれしくて自然と笑顔になっていた。

 

犬は会話ができない。けれど、一匹の柴犬が、私の前に「さあ、どうぞ」とばかりに寝そべった。私が近づき、背中を撫でると目を細め、こっちも撫でて、とアゴを上げ、首元を出してくる。促されるままに私は長いこと犬を撫で続け、犬は撫でられるままになっていた。手のひらに犬の体温が伝わる。触れ合いのなかで、私の深い悲しみが薄れ始めているのを感じていた。

 

犬は人を気づかってくれる

犬は思いやりの心を持っている。『セラピードッグの子守歌 認知症患者と犬たちの3500日』(真並恭介・著/講談社・刊)でも、犬に近づかれ見つめられることで、生きる気力を取り戻す認知症患者たちの姿が綴られている。感動的だったのは、体調を崩して横になっていた顔見知りの認知症患者のもとにセラピードッグが駆け寄り、心配げにそばを離れなかったという場面だ。

 

犬たちは、定期的に認知症患者のいる家やグループホームを訪問する。ベッドに寝たままのおばあさんが犬の手を握って見つめ合っている写真がある。その時の犬の表情は、なんともいえない慈愛に満ちていた。手を握らせたまま、温かい目でおばあさんを見守っていて、犬というよりはお見舞いに来た親しい友人であるかのようだった。

 

犬が高齢者を元気にさせる

この本は岡山の医師・生長豊長氏が認知症の緩和のためにドッグセラピーに取り組んだ10年間を追っている。著効例や有効例が79もあったというのだからすごいことだ。そして犬が果たしている役割は単なる癒しだけではなく、治療であり、それは「動物介在療法」と言われているという。

 

本書には、寝たきりとなっていた人が、犬と散歩をしたいからと歩けるようになった事例や、言葉がうまく出なくなっていた人が、犬をきっかけに多くのことを思い出し、話せるようになった事例など、奇跡的な話がいくつも出てくる。そして彼らは次に犬がやってくる日を心待ちにするようになるという。

 

「逆介護」という言葉

本書には「逆セラピー」という言葉が出てくる。犬は高齢者の介護のためにそこにいるのではない。もちろん、リハビリでゆっくりゆっくり進む高齢者に優しく寄り添うようなこともするけれど、高齢者に「この犬の世話をしたい」「この犬のためにも元気にならなければ」とも思わせるのだ。そして要介護の認知症患者たちは、犬を抱っこしたり寝かしつけたりと、自分から犬に積極的に関わり、犬を癒してあげようとするのだ。

 

遠い昔に自分の子どもや孫にしたのと同じように犬に子守唄を聞かせたり、姉妹のように寄り添う2匹の犬を見て、自分にも妹がいたということを語り出したりと、犬とのコミュニケーションが記憶の掘り起こしにつながっていく様子は感動的だ。そしてこのセラピードッグ事業には保護犬も起用されている。人と人との触れ合いが薄くなりがちなwithコロナの時代に、犬の存在感はさらに大きくなるのかもしれない。

 

【書籍紹介】

セラピードッグの子守歌 認知症患者と犬たちの3500日

著者:真並恭介
発行:講談社

犬たちがいれば、失われたはずの記憶が、言葉が、そして笑顔がよみがえるー認知症を癒やす「ドッグセラピー」。その現場を4年にわたり密着取材した感動の書きおろしドキュメント。

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ダンスは脳にいい? −−脳を大切にするために必要なこと

暑い日が続いています。

 

「暑い〜〜。もう駄目。こんな暑い夏は記憶にない〜〜」と、ぶつぶつ言いながら、ふと、去年も一昨年も、同じ言葉を繰り返していたことに気づきました。現に、昨年の日記を見てみると「脳が溶けそうに暑い」などと、書いてあります。結局のところ、記憶が怪しくなっているのかもしれません。

 

 

脳が夏バテしてる?

私は元々、暑いのは好きで、かつ強いはずでした。以前、中国のトルファンという町に旅行に行ったときも、40度の暑さをものともせず、観光に精を出しました。それなのに、今年は冷房をがんがんにかけた部屋で「ステイ・ホーム」しているというのに、暑さで頭がぼーーっとして、「夕飯、何を作るんだっけ?」などと思っています。

 

私の場合、夏バテしているのは、体より脳だといえそうです。「暑さで脳がやられたに違いない」と、心配になった私は、前から読もうと思っていた『ブレイン・ルール 健康な脳が最強の資産である』(ジョン・メディナ・著/東洋経済新報社・刊)を手に取りました。

 

脳を大切にするために必要な5つの提言

『ブレイン・ルール 健康な脳が最強の資産である』の著者であるジョン・メディナ博士は、分子発生生物学者であり、人間の脳の発達や精神障害の遺伝学的研究を専門とする研究者です。

 

何やら難しそうな学問ですが、内容は単純で、素人の私でも悩むことなく読了しました。おそらく博士は万人が理解できるように、一般向けの書籍は広く浅くをモットーとしているのでしょう。

 

彼のもうひとつの著書『ブレイン・ルール 脳の力を100パーセント活用する』は31もの言語に翻訳され、世界累計で100万部を突破しているといいます。世界中の人々が、脳を若々しく保つために何かしなくてはと考えていることがよくわかります。

 

博士は次の5つの提言をしています。

 

1 社交には驚きのプラス効果がある
2 脳の劣化を抑えるための具体的方法
3 体と脳の深いつながりを意識しよう
4 脳に良いライフスタイルですごそう
5 決して引退してはいけない

 

コロナに対処するためにも脳の力は大切だ

現在、世界中を震撼させている新型コロナウイルスに賢く対処するためにも、脳の力が大切だと私は思います。

 

「コロナにかからないためには一体どうすればいいのだろう?」と、毎日、皆が頭をしぼっていますが、人類が初めて遭遇したウイルスです。賢く対処する方法など、わかるはずがありません。脳をフル回転し、自分と家族を守る方法を自分で考えるしかありません。

 

『ブレイン・ルール 健康な脳が最強の資産である』では、健康な脳が最強の資産であることをくり返し強調しています。億万長者でも、早死にしてしまってはそれを使うことはできません。たとえ長生きできたとしても、脳にダメージを受けると、楽しい人生を送ることが困難になるでしょう。

 

メディナ博士は、人生を楽しむため、脳を若々しく保つ方法を具体的に教えてくれます。その方法は「えっ、そんなことでいいの?」と聞きたくなるほど、簡単で、日常的なことです。

 

ダンスが脳活に?

まず、「ダンスを始めよう」と博士は勧めます。人間は孤独のうちに生きていると、認知症になる確率が高いというのです。その理由は過度の孤独でミエリンが破壊されてしまうからだそうです。

 

ミエリン? 何、それ? 辞書を引いてみると、「神経繊維の有髄神経繊維の髄鞘を構成する物質」と、あります。何のことやら、私にはさっぱりわかりません。けれども、私は学者ではないので、ミエリンのなんたるかを理解する必要はありません。早い話が、ミエリンなるものを失わないようにすればいいのです。

 

では、そのために、何をしたらいいのでしょう。

 

メディナ博士によれば、ダンスがいいというのです。ダンスをすることによって社交が生まれ、体の触れあいによって脳に良い結果がもたらされるからです。

 

踊って、踊って、踊りまくろう。ダンスは運動になり、社会的交流を増やし、認知機能を高める

(『ブレイン・ルール 健康な脳が最強の資産である』より抜粋)

 

「え〜〜!! 本当?」と、いぶかしく思いつつも、現在、私の生活にダンスや社交や人との触れあいが欠けているのは事実だという思い至りました。たとえダンスを始めることができなくても、それに気づいただけでも儲けものです。

 

大切なのは楽観的な態度

メディナ博士の提案は続きます。次に示されるのは「感謝する習慣を身につけよう」ということです。年を取ると、がんこになり、思い混みが激しくなります。それは仕方のない、年を取るとはそういうことだと、私は思ってきました。けれども、次の言葉に私は励まされ、考え直しているところです。

 

楽観主義が脳に及ぼす影響は、目で見てもわかる。彼らの海馬は、悲観的な人の海馬ほどには縮小しないのだ。これは重大な発見である。

『ブレイン・ルール 健康な脳が最強の資産である』より抜粋)

 

若者も年を取るのがこわいはずです。次第に頑迷になっていく祖父母や両親を見ているうち、いつかは自分もあんな風になるのではないかとふさぎこみたくなる人もいるでしょう。けれども、「年を取るのはそんなに悪いことじゃない。楽しいことだってある」と思うことで、自分を救うことができるような気がします。

 

もちろん、それは簡単なことではないでしょう。しかし、誰もが年を取るのです。体は衰え、忘れっぽくもなります。それを「ま、いいか」と、楽観的に受け止めることで、自分を救うことができるのだとしたら、悪くはないなと思います。

 

『ブレイン・ルール 健康な脳が最強の資産である』で勧める方法には、私にもできると思うものと、現実問題できないと思うものが混在しています。けれども、すべてを実行しなくてはいけないわけではありません。広く浅く「少々、取っ散らかっている」と言いたくなるほど数多くの提言の中から、自分でできそうなものを取り入れて、やってみればいいのだと思います。

 

何より大切なのは、これから先まだまだ良いことが待っている、新しい知識を得てワクワクできる、そう思うことによって人生を豊かにできるはずです。せっかくこの世に生まれてきたのだもの。いつか必ず死ぬ日が来るとわかっていても、そのときまで、驚いたり好奇心を満たしたりしながら生きていきたいと思います。

 

人は皆、それぞれのブレイン・ルールを持っています。社交が苦手な人は無理をして社交することはないように思います。ダンスが苦手な人はしなくてもいいでしょう。要は、自分のブレイン・ルールが何かを確かめ、楽しく生きることが大事なのだということを、この『ブレイン・ルール 健康な脳が最強の資産である』に教えてもらったような気がしています。

 

【書籍紹介】

ブレイン・ルール 健康な脳が最強の資産である

著者:ジョン・メディナ
発行:東洋経済新報社

友だちづくり、マインドフルネス、ソーシャルな活動、感謝する、テレビゲームで脳トレ、学び教える、カロリー制限、有酸素運動、ずっと現役、ほか。脳科学が教える、効果が実証ずみの10のルール。

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このスーパーポジティブさ、突き抜けてて爽快! 手越祐也のフォトエッセイ『AVALANCHE~雪崩~』を読んでみた。

長男がお腹にいるとき、NEWSの曲をよく聴いていた。安定期のころには、ライブにも行った。ちょうどチケットがとれたということもあったが、彼らの曲とハーモニーはとても美しく、なかなか胎教に良かったからだ。

 

なかでも手越くんの伸びやかな歌声は、不安定な妊婦の心を穏やかに落ち着かせてくれる魅力があった。

 

あれから10年ほどの月日が過ぎ、まさか、彼がこんなにもお騒がせBoyになろうとは。

 

良い意味でも悪い意味でも話題沸騰中の『AVALANCHE~雪崩~』(手越祐也・著/双葉社・刊)を恐る恐る手にとって、読んでみた。

真っ直ぐにしか生きられない男・手越祐也 

発売前から「暴露本」と随分騒がれていたが、実際に読んでみると若干拍子抜けというか、想像していたほどアケスケな暴露話はなかったというのが率直な感想だ。

 

いや、もちろん、彼と関わってきた数多のタレントの名前やエピソードは描かれている。そしてそのことが、この本の評価を二分している所以のひとつではないかと思う。

 

たとえば、あるタレントのファンは「手越くん、○○くんのことをそんなふうに思っていてくれてありがとう!」と感謝して高評価。はたまた「ちょっと手越くん! ○○くんの本心はそうじゃないと思う!」と反発する別のタレントのファンもいる。

 

ことNEWSファンにしてみれば、ちょっと複雑な内容もあったに違いない。過去の出来事一つひとつの真相(あくまでも、手越くんサイドの見方だが)を、まるで答え合わせするように解説されると、裏話が聞けてうれしい反面、そんな確執があったなんて知りたくなかった……とショックを受ける人もいるものだ。

 

スーパーボジティブ男・手越祐也

そんなマイナス面も多々あることは否めないが、やはり彼がジャニーズ事務所に入所してからの物語はおもしろい。ジャニーズJr.として長い下積み時代を経験したアイドルたちが多い中、手越くんは事務所入所からわずか9か月でNEWSとしてデビューという華々しい経歴を持つ。おそらくV6の岡田准一くんに次ぐ、最短デビューだろう。

 

そのため、準備期間もままならない中で表舞台に立ったことで、場数が少ないからこその悔しい想いもしたようだ。なぜ、自分がセンターじゃないんだという憤りも。

 

けれど、そのままでは終わらないのが手越祐也という男。「どうやったらNEWSのセンターを取れるか?」ばかりを毎日考え、行き着いたのが自分の得意とする歌で勝負することだった。日々ボイストレーニングを重ねて、歌に関しては誰にも負けないというレベルまで追求し、ついには「星をめざして」という曲で山Pとのダブルセンターの座を獲得したのだ。

 

ほかにも、彼のスーパーボジティブ思考は、本書の至るところからビシバシと伝わってくる。チャラいというレッテルすらも最強の武器と捉える。フラフラしているようで、影では努力を欠かさない。そんな意外な一面が垣間見られた。

 

これからもなにかやらかしてくれる男・手越祐也

手越くんといえば、かつてレギュラーで出演していた『世界の果てまでイッテQ!』だろう。うちの娘たちもイッテQが大好きで、一時期「きゃー! 手越くん♡」とテレビに映るたびに騒いでいたので、「まさか手越くんがタイプとは……先行き不安……」と苦笑していたものだ。それくらい影響力が大きく、彼の名を一躍世間に広めたきっかけとなった番組であった。

 

残念ながら現在はイッテQレギュラーではなくなってしまったが、YouTubeの手越祐也チャンネルを覗いてみると、「チャラ男の無人島生活」といったユニークな企画が進んでいた。ちょっとイッテQを彷彿とさせる。多くの視聴者を楽しませていた独特なことばのチョイスと間合いは健在であった。

 

やいのやいの言われ、なにかとバッシングを受けがちな彼だが、チャンネル登録数152万人という数字を見るに、やはりスターなのだなと認めざるを得ないだろう。

 

目立つ存在であるがゆえ批判的な声も多かろうが、「想定内! ティ!」と余裕で受け止めて、我が道を突き進んでほしい。

 

なお、購入者全員サービスの「プレミアム特典動画」も拝見したが、手越くんファンの子猫ちゃんたちにとって鼻血もののサービス特典であったに違いない。ぜひ、私の推しでも見てみたい。今後、アイドルやアーティストのフォトブック特典のデフォルトになれば良いのに! と切に願う。

 

【書籍紹介】

AVALANCHE 〜雪崩〜

著者:手越祐也
発行:双葉社

アイドルグループNEWSを電撃脱退したメンバー・手越祐也の初となるファンブックの決定版「フォトエッセイ」。「NEWSメンバーへの直筆の言葉」入り。

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対面での会話が減った今、見直される「話すチカラ」。あなたには備わっていますか?

たまに、「えっもう読み終わっちゃった!?」と驚くようなスピードでのめり込んで読んでしまうことがあるのですが、先日読んだ『話すチカラ』(齋藤 孝、安住 紳一郎 ・著/ダイヤモンド社・刊)がまさにそれでした。

 

この『話すチカラ』は、明治大学の先生である齋藤 孝さんと、教え子だったTBSアナウンサー安住紳一郎さんの対談で構成され、明治大学で実際に行われた講義の様子も掲載されています。この本は、まるで会話を聞いているようなテンポで読み進めることができ、若い方はもちろん「仕事はリアルが大事なんだ」と思っているようなTHE日本のビジネスマンまで、多くの方が共感できるポイントが書かれてありました。今回は『話すチカラ』から、リモートワークでも欠かすことのできない会話のスキルについてお伝えしていきます!

 

画面越しでも「ちゃんと伝える」ことは大切

リモートでの仕事が増えましたよね。私もZoomを使った取材や会議の機会が増え、移動時間がなくなり、資料の共有も楽になり、たくさんの恩恵を受けているのですが、話を「ちゃんと伝える」というのは、Zoomだろうが対面だろうが変わらずに大切なことだと実感するようにもなりました。また画面越しだと、顔が見えない人がいたり、全体の雰囲気も感じにくくなるため、もしかしたら対面以上に「伝え方」は気をつかわなければいけない状況かもしれませんね。

 

では、わかりやすく伝えるために必要なスキルとは一体どんなことなのでしょうか? 安住さんは冒頭でこんなことを語っています。

 

人の集中力は15秒も持たない。このルールから、15秒をすぎて同じ話を続けてはいけないことがわかります。

私が放送で30秒の時間を与えられたときには、15秒が2セットあると考えて話題を展開します。

 (『話すチカラ』より引用)

 

また45秒であれば「序破急」の3分割で、60秒なら「起承転結」の4分割で組み立てて話していると言います。

 

画面越しだからしっかり伝えなきゃ! と熱がこもってしまい熱く長く語りすぎてしまいがちな人は、15秒を意識してみるとすんなり伝わるかもしれません。自分が話している「時間」を意識しない人がほとんどだと思うので、近くにタイマーをおいてみて、初めましての挨拶や自社の説明を何秒で説明しているか測ってみるのがおすすめですよ!

 

良いアウトプットのためには、他人の3倍インプットする

好きな男性アナウンサーランキングでは、殿堂入りを果たしている安住さん。今でこそテレビにラジオに大忙しですが、ここまでたどり着くまでに相当な努力をされています。なんと入社して最初にもらったボーナスで14型のブラウン管テレビを8台購入し、自分の部屋に置いたのだとか(笑)。

 

今は、たくさんのチャンネルを同時録画できるようになり、とても便利になりました。もう同時にたくさんのテレビを見ることはなくなりましたが、ああいうやりすぎな感じの20代の一時期があってよかったと思っています。

どんな業界でも、仕事でいいアプトプットをしたかったら、その3倍くらいのインプットをしておく必要があります。

 (『話すチカラ』より引用)

 

純粋に「すごいなー」と思ってしまうのですが、齋藤先生も大学時代「本棚を1年に1本ずつ増やす」という目標を立て、1年に300冊以上の本を読んだと言います。また、インプットした情報は自分のものだけにせず、誰かに喋ったり、SNSなどで発信するということも大切なんだとか。

 

「自粛だからインプットなんてできないよ〜」と何もしないで過ごすのではなく、こんな時期だからこそできるインプットもたくさんあると思います。『話すチカラ』では、これ以外にも簡単にできるインプット方法についても書かれてあるので、何をしたらいいかわからない! という方にも是非読んでいただきたいです。

 

会話のテンポに必要なのは「段どり」

一緒に話をしていて、テンポがいいな〜と感じる人がいますよね。私も安住さんのラジオをよく聞いているのですが、とにかく心地よく会話が入ってくるんです。齋藤先生も“テンポよく話を展開していくと、「段どりがいい」という印象につながります。”と、本書でも紹介していました。では、この「段どり」とは一体どんなことなのでしょうか?

 

実は、世の中の知識のほとんどは段どりでできています。

たとえば、歴史的な事象は「〇〇があって、××が起きることによって、第二次世界大戦へとつながった」というように段取りで説明できます。つまり、段どりを説明する能力があれば、ものごとを理解できるようになるのです。

もちろん社会科だけでなく、国語も数学も理科も、基本はすべて同じで、求められている能力は一緒です。

数学ができない人は、計算ができないというより、数字を解いていく段どりを説明できないということが大きな原因です。

 (『話すチカラ』より引用)

 

これは私自身も経験したことですが、自分が納得している企画をプレゼンする時と、「なんだかなー」と思いながらプレゼンした時では相手のリアクションは変わってくるんですよね(笑)。上手に相手に伝えられるかどうかは、話の段どりが組めているかの違いということ。ついつい「上手に話そう!」と思いがちですが、それ以前に伝えることの段どりが組めているかを意識するのが良いのかもしれません。

 

『話すチカラ』をあっという間に読めてしまったのも、この段どりがしっかり整った内容だったからのかもしれません。生きている限り、言葉は必要不可欠なもの。様々なチカラが大切になっている時代ですが、基礎である「話すチカラ」が備わっていれば、他のチカラも鍛えられるのではないか? と思いました。新入社員さんから、リモートに迷いながら仕事している管理職の方、学生さんから、主婦の方まで、人生の教科書として読んでもらいたい一冊です!

 

【書籍紹介】

話すチカラ

著者:齋藤 孝、安住 紳一郎  
発行:ダイヤモンド社

齋藤 孝先生と安住紳一郎TBSアナウンサーは、明治大学時代の先生と教え子という師弟関係。いまや日本屈指の話し手となったふたりが、「話すチカラ」について縦横無尽に語り尽くす。安住アナが後輩の現役明大生たちを前に白熱講義した内容も紹介!

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沢木耕太郎『旅のつばくろ』で自宅で国内旅行を楽しむ

今からおよそ30年前、夢中で読んでいた本がある。それは沢木耕太郎氏の『深夜特急』。香港をスタート地点に、インド、ネパールからシルクロードを辿って、トルコ、ギリシャへ、そして欧州を横断して最終目的地のイギリスのロンドンまで、基本バスだけを乗り継いで一人旅をした沢木氏の紀行小説だ。このシリーズはベストセラーとなり、バックパッカーの若者たちの手引書にもなった。臆病な私には絶対に真似できない旅だから、せめて疑似体験がしたくてページをめくりつつ、乗り合いバスに揺られていたのだ。

 

その沢木氏の最新刊『旅のつばくろ』(沢木耕太郎・著/新潮社・刊)は、世界各地を縦横無尽に歩いた彼の、初の国内旅エッセイ集となった。

 

初めての一人旅は東北一周

本書は、JR東日本が発行している車内誌「トランヴェール」の連載エッセイを単行本化したものだ。これからは、もう少し日本国内を旅してみようかと沢木氏が考えていたところに、エッセイの依頼があり、それを絶好の機会と見なし受けたのだそうだ。

 

思い起こせば、私が初めてひとりだけの「大旅行」をしたのが、十六歳のときの東北一周旅行だった。小さな登山用のザックを背に、夜行列車を宿に、十二日間の旅をしたのだ。このときの経験が、その後の私の旅の仕方の基本的な性格を決定したのではないかと思われる。いや、もしかしたら、それは単に旅の仕方だけでなく、生きていくスタイルにも深く影響するものだったかもしれないと、いまになって思わないでもない。

(『旅のつばくろ』から引用)

 

ここ数年の北への旅は、自身の16歳の旅を確かめ直すものであり、また、日本を旅することの新しい驚きの発見にもなったと沢木氏は語っている。

 

龍飛崎への思い

あの沢木氏が怖気づいて行くことができなかった場所があるという。それが津軽半島の「龍飛崎」。

 

高校一年が終わった春休み、沢木氏は、当時の国鉄が発行していた均一周遊券を使って一人旅を計画。行き先は東北。手にした東北周遊券は急行、準急など乗り放題だったので、所持金はわずか3千円くらいだったそうだ。

 

ガイドブックを買う余裕がなかったので、小さな時刻表と簡単な地図だけを見て、気に行った土地の名前を選んでそこに向かうというスタイルの旅をすることになった。津軽半島の龍飛崎もそうやって決めた目的地だった。が、しかし、16歳だった沢木少年は列車内で不安に襲われる。

 

列車には行商のおばあさんたちが大勢乗っていた。リュックひとつで旅をしている少年の姿が珍しかったのか、盛んに話しかけてきてくれるが、何を言っているのかわからない。本当にひとこともわからないのだ。(中略)心細くなってきた私は、自分はどんなところに連れて行かれてしまうのだろうという不安に苛まれるようになった。そして、ついに、怖気づいた十六歳の私は、途中の駅で飛び降り、青森行きの列車を待って逆戻りしてしまったのだ。

(『旅のつばくろ』から引用)

 

沢木氏が怖気づいて行けなかったのは、後にも先にも、龍飛崎だけだそうだ。本書では、当時を取り戻すべく50年ぶりに龍飛崎に向かった話を「風の岬」というタイトルで記している。

 

山形県「遊佐」への旅

沢木氏はある日偶然つけたテレビで、日本地図にダーツを投げ、突き刺さったところに取材に向かうという番組を観た。そのとき彼は、これぞ私にとって「夢の旅」と思ったという。

 

ダーツこそ投げていないものの、これに近い旅をしたことがあるそうだ。地図を見ながら、ふっと眼に留った地名、そこは山形県の日本海に面した町「遊佐」。小説の主人公の出身地をどこにしようか地図を眺めているとき見つけた場所だ。

 

私の目に留った理由は二つある。ひとつは、何と言ってもその字が美しいことである。軽やかで楽しげでスマートだ。もうひとつは、かつて私が一九三六年のベルリン・オリンピックについて調べたとき、日本選手団の中に、この珍しい字を姓に持った人が二人もいて強く印象に残っていたということがあった。水泳選手の遊佐正憲と馬術監督だった遊佐幸平の二人である。人の姓ではユサであるのに対し、山形の町はユザと発音するらしい。

(『旅のつばくろ』から引用)

 

その後、沢木氏は、その遊佐に行ってみることにした。風光明媚なところで、ホテルの窓からはきらめく日本海が見え、反対側には雪を頂く鳥海山がそびえていた。沢木氏の初の「夢の旅」は予想以上にすばらしいものになったそうだ。ガイドブックなどに頼らず、こんな旅先の決め方も一度はやってみたい気がする。

 

山手線の旅

今のコロナ禍で遠くには行かれない人も多いだろう。けれども遠くに行くだけが旅ではない。近場にも新しい発見があるものだ。

 

本書では「初めての駅、初めての酒場」と題した、山手線の旅が紹介されている。東京の城南地区で育った沢木氏にとって城北地区や城東地区は馴染みが薄いそうだ。山手線で考えてみると、渋谷を中心にして内回りは上野まで、外回りは池袋まではどの駅でもかなりの頻度で乗り降りしたことがあるものの、上野から池袋までの駅はあまり利用したことがないという。

 

とりわけ、日暮里となると、ひょっとしたら一度も駅の外に出たことはないのではないかという気がするくらいである。そこで、いや、なにが「そこで」なのか自分でもよくわからないが、春の盛りの、好天のある日、日暮里に行ってみることにした。

(『旅のつばくろ』から引用)

 

ただ駅で乗り降りするだけではもったいないので、日暮里出身の作家、吉村 昭の記念文学館を訪ねたそうだ。そして、帰りには日が傾きはじめたので、居酒屋と小料理屋の中間のような店に入ると、常連客らしき人々も、店のおかみも、見かけない客の登場が気になってしかたない風だったと記している。そして、何者に思われているのか想像すると、内心なんとなく楽しくなったとも。都内の一日、いや半日のこんな旅も、意外と楽しいかもしれない。

 

この他、東日本各地を列車で旅した話はどれもとてもいい。やはり沢木耕太郎の紀行文は最高だとページを閉じたとき、そう思った。

 

【書籍紹介】

旅のつばくろ

著者:沢木耕太郎
発行:新潮社

つばめのように軽やかに。人生も旅も−−。沢木耕太郎、初の国内旅エッセイ。旅のバイブル『深夜特急』で世界を縦横無尽に歩いた沢木耕太郎。そのはじめての旅は16歳の時、行き先は東北だった。あの頃のようにもっと自由に、気ままに日本を歩いてみたい。この国を、この土地を、ただ歩きたいから歩いてみようか……。JR東日本の新幹線車内誌「トランヴェール」で好評を博した連載が遂に単行本化!

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疲れた頭に心地よい。絵本作家・ヨシタケシンスケ氏のゆるくて深いエッセイ『欲が出ました』

子どもと書店の絵本コーナーに行くと、必ず目にする名前がある。その人の名は、ヨシタケシンスケ。数々の賞を受賞している絵本作家さんだ。

 

『りんごかもしれない』で鮮烈デビュー、その後も『もうぬげない』『りゆうがあります』『おしっこちょっぴりもれたろう』『わたしのわごむはわたさない』など、おそらく子を持つ親であれば一度は目にしたことがあるタイトルがあるだろう。

 

思わずクスリと笑ってしまうほのぼのしたイラストと、「あるあるあるある~!」と首を縦に振りまくってしまうエピソードの数々に、虜となる人続出。

 

そんなヨシタケ氏、エッセイも出されているという。今回手にしたのは『欲が出ました』(新潮社・刊)。

 

心の中にある、相反する気持ち。

ゆる~いイラストに、ちょうどいい余白。絵本同様のヨシタケ氏らしさ満載でありながら、おお!と心に刺さる言葉が散りばめられている。

 

「サァ! 今日も元気に顔色をうかがっていこうっ!」

(中略)

社会人がやってることって、ほぼこれだけじゃないかとも思います。

(『欲が出ました』より引用)

 

本当は、そうありたくないけれど。自分の機嫌は自分でとりながら、毎日を快適に過ごしたいけれど。でも実際は、上司の、得意先の、恋人の、夫の、嫁の、姑の、子どもの顔色をうかがいながら、生きているんだよね、私たちって。はい、賛同しかない。

 

これに通じるのが、

 

よろこぶ顔が見たい、というよりは

おこった顔が見たくないだけなのです。

(『欲が出ました』より引用)

 

だろう。誰かの、特に大切な人の喜ぶ顔が見たい、とよく言うけれど、それって相手の怒った顔を見たくないことにつながってないかな? とヨシタケ氏は語る。それはヨシタケ氏自身が幼いころ、母親から褒められたいという気持ちと、どうすれば叱られないかと思う気持ちがどこかで混同してしまっていた……という体験によるものらしい。とりたてて、母親が怖い人ではないにもかかわらず、だ。

 

これってなんだか、とてもよくわかる。

 

大好きな人にはいつも笑っていてほしい。楽しい気持ちでいてほしい。それを突き詰めると、真逆にある「怒らせたくない、不快にさせたくない」という気持ちに通じている。だから、掛ける言葉に気を遣うし、臆病になったりもする。言われてみれば、ちょっと不思議。

 

何かを人に伝えるときの心得というか教訓というか。

ヨシタケ氏は、こんなことも語っている。

 

知らないからこそできることもたくさんあるんじゃないか。だから、知らないからこそできることをやればいいんじゃないのか、ってことなんですよね。

(『欲が出ました』より引用)

 

私も何か新しい仕事に携わるとき、そのジャンルに詳しい方が突っ込んだ意見も出せるし、良いまとめができそうな気がする。だから、下調べを欠かさない。

 

けれど、知らないからこそ湧き出る素朴な疑問が、実はその物事の本質を突いていることも多々あって、なんでもかんでも経験していれば良し、というものじゃないなと。

 

よく、新人は無知だからこそ、皆が目をそらしてきた一番の問題点をズバリと指摘できる、なんてこともあるから。

 

そしてもうひとつ。

 

「その問題に一番興味の無い人々の視点」を保ち続ける

これこそ、僕は大事にしなきゃいけないし、したいなって思ってる点ですね。

(『欲が出ました』より引用)

 

これって、記事を書くときも、会社でプレゼンするときも、なんなら友人とランチする店を決めるときだって、結構大切なことではないだろうか。

 

すぐに自分に共感してくれる人への言葉は、たやすく浮かぶ。けれど、こちら(の提案)に一切興味を持っていない人へ言葉を届けることこそ、難解であり、一番の課題であり、結果的に強烈なファンを作るきっかけになる。きっと。うむ、深い。

 

頭を使いすぎてちょっと疲れているときこそ、ゆるりと読みたい一冊。

ここまで、個人的に気になった言葉をピックアップしてきたが、『欲が出ました』にはもっと他愛のないエピソードや、なかにはスケッチだけを載せていて解説がないページも設けられている。

 

トイレットペーパーのふくろって、やぶくよねー

(『欲が出ました』より引用)

 

とか。そうそう、むにーってビニールを伸ばしながら破くよねー。

 

最近疲れている人こそ、このお盆休みに気負いせず、ゆるーく手に取ってほしい。そんな一冊だ。

 

 

【書籍紹介】

欲が出ました

著者:ヨシタケシンスケ
発行:新潮社

大人も子どもも、欲の出やすいすべての人へ−−。「しいていうなら、くらしの知恵に!」。お菓子をもう一個取っていいんじゃない? もうちょっと寝ててもいいんじゃない? 人間って、プチ欲が出たとき、何とも言えなーい顔をする。そんな一瞬を、絵本作家ヨシタケシンスケが、「深く浅く」切り取ってみると……欲が出るから失敗するけど、欲が出るから人間って面白い!? 人気絵本作家の、大好評イラストエッセイ集、第二弾!

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「麺匠」「瞬乾」−−辞書には載らない「変な」日本語を探してみよう!

街の看板や、駅の広告やポスターで「何これ?」と思った言葉を見かけたことはありませんか? 例えば「お昼のランチ」。日本語にすると「お昼の昼食」になるから同じことを言っているんですよね。「今日のお昼のランチ、どこにする?」なんて当たり前に使っていましたが、改めて考えてみると重言している!

 

そんな日常では当たり前に馴染んでしまったけど、辞書には載せるほどでもない日本語を、いい意味で「変な日本語」とし、国語辞典編集者である飯間浩明さんが『知っておくと役立つ街の変な日本語』(飯間浩明・著/朝日新聞出版・刊)にまとめています。この本は元々新聞の連載だったそうですが、読み終わると「辞書には掲載されない変な日本語だけど、時代を切り取る大事な言葉だなー」と感じることができるのです。今回は、そんな『知っておくと役立つ街の変な日本語』をご紹介していきます!

 

 

ラーメン屋さんで見かける「麺匠」

ラーメン屋さんの看板で筆っぽい文字で「麺匠」なんて書かれてあると、「うまそう!」と直感するというか、こだわりのラーメン屋さんなのかな? と思いますよね。でもこの「麺匠」は辞書にはまだ載っていない言葉なんだとか。

 

「匠」という漢字は、人を表す場合にはふたとおりの意味で使われます。ひとつは「師匠」「鷹匠(たかじょう)」など、専門の技術を持っていて、人に教えることのできる人。もうひとつは、「巨匠」「名匠」など、学問・芸術にすぐれた人です。

「菓匠」というのもあります。和菓子を扱う伝統的な店です。「お菓子の専門技術のある店」と説明すればいいでしょうか。『三国』では、第7版で項目を立てました。

 (『知っておくと役立つ街の変な日本語』より引用)

 

「菓匠」も「麺匠」もいつから使われ始めた言葉なのかは明確ではないそうですが、すっかり私たちの生活に馴染んでいますよね。また、不思議と「あの麺匠がいるラーメン屋に行こうぜ!」と言葉には出さず、目で見ることの多い言葉というのも面白い部分です。

 

またラーメンだけでなく、うどんやおそば屋さんでも使われているというので、辞書に掲載される時には、どんな意味が付けられるのかちょっと楽しみにでもありますね。

 

英語では違う意味? 文房具などで使われる「ファンシー」

昔ながらの文房具屋さんの屋根看板などで見かける「ファンシー」。私も小学生くらいのころ、「ファンシーショップ」というかわいい文房具を売っているお店に行きたくて、駄々をこねたことを思い出しました(笑)。

 

でもこの「ファンシー」、英語[fancy]では「想像。空想」「新奇な趣向を凝らしたさま」などの意味で使われているんだとか。国語辞典ではどのように紹介されているのでしょうか?

 

現代日本語では、「ファンシー」を「想像」「空想」の意味ではまず使いません。『三国』第7版では、〈女の子向けでかわいらしいようす〉〈かわいらしい小物・商品〉と説明し、「ファンシーなぬいぐるみ」「ファンシーコーナー」の例を添えました。

外来語の実際の用途と、辞書での説明がずれることはよくあります。

 (『知っておくと役立つ街の変な日本語』より引用)

 

つまり、海外でかわいいグッズを見つけて「Oh! Fancy!!」なんて言っても通じないわけです。実際に誰が最初に日本で「ファンシー」を使い始めたのかめっちゃ気になりますよね! これは完全に私の意見ですが、最近ではこの「ファンシー」が「ゆめかわ」に吸収されてしまいそうな印象もあるので、せっかく独自の進化をしてきた日本の「ファンシー」を日本語としても残しておきたいな〜と思ってしまいます。

 

地元のファンシーショップはなくなってしまいましたが、原宿には女子なら一度は通る道「サン宝石」の直営店『ファンシーポケット』があるそうなので、近々ファンシーを求めて35歳のおばさんがお邪魔してみたいと思っています(笑)。

 

速乾よりもすぐ乾く? 「瞬乾」

速乾よりもはやく、アッという間にすぐ乾くイメージが湧いてくる「瞬乾」ですが、まだ辞書には掲載されていない言葉だそうです。瞬乾以外にも、秒殺と同じように使われる「瞬殺」や、ビールのCMなどでも見かける「瞬冷」辛口! などの「瞬○」という言葉が近年増えてきているのだとか。その背景にはどんなことがあるのでしょうか?

 

「瞬」という漢字は、本来、そんなに新語を作りはしませんでした。それが最近、急に生産力を上げています。現代人が、何事も待ち切れなくなっているからでしょうか。

 (『知っておくと役立つ街の変な日本語』より引用)

 

確かに! 携帯の通信回線も5Gが登場しているし、ピザの宅配なんかも昔と比べるとめっちゃはやいし、スピードが求められる時代になっているのは間違いないですよね。今後どんな「瞬」が出てくるか私も楽しみにしておきたいと思います。

 

最後にひとつご紹介したいのが、お蕎麦屋さんの看板で見かけるこのぐちゃぐちゃな文字、どう読むのかわかりますか?

 

 

著者である飯間さんのTwitterの画像なのですが、このぐにゃにゃな文字は「変体仮名」という昔のひらがななんですって! 馴染みすぎていて見れば蕎麦屋さんの看板とわかりますが、「じゃあなんて読むかわかる?」と聞かれるとわからないですよね。こういう看板などでも新たな発見がたくさんあるので、ぜひ近所を散歩する時など注目してみてください。毎日の景色がちょっと変わって楽しめる景色に変わってきますよ!

 

【書籍紹介】

知っておくと役立つ街の変な日本語

著者:飯間浩明
発行:朝日新聞出版

街を歩いて絶えずチェックしている「ことばハンター」は国語辞典編纂者。やがて「辞書に入る」ことになるかどうか、街の中の奇妙、面妖、不思議なことばを見つめながら考える。「生きたことば」の調理人の手さばきを味わってほしい。朝日新聞「be」で大人気連載「街のB級言葉図鑑」をまとめた。

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著者:

出版社:

「鎖国」ってもう言わないの?−−あなたの「語彙力」をアップデートする1冊

テレビを見ていて、司会者やコメンテーターのちょっとした言葉遣いにいちいちツッコミを入れてしまう自分に気づき、はっとすることがある。これは老化の指標なのか? ツッコミを入れた後、それが老化の指標である可能性を自覚していることを知らせるため「はい出た!言葉ポリス」と自分で言ってその場の空気を鎮める。

 

言葉ポリスの日本語運用力

その言葉ポリスである自分自身の言葉遣いはどうなのか? 自分が書く記事の言葉遣いにはものすごく気を付けている。気を付けすぎるため逆に抜けた感じになってしまうことがあるくらいだ。でも、無意識に交わしている日常会話やメールでの言葉遣いについては全く自信がない。と言うか、気にしたこともない。

 

仕事で書く文章も日常での何気ない会話やメールの言葉遣いも、結局はその人の日本語運用力――語彙力という言い方もできるだろう――がもろに反映されるものにほかならない。筆者自身の日本語運用力はリアルにどの程度のレベルにあるのか。本当に細かいところまでわかっているのか。もうそこそこの年齢なので、人がたくさんいる場で変な空気を生んだり、恥ずかしい思いをしたりするのは嫌だ。そう考え始めたら、確かめずにはいられなくなった。そのプロセスの中で出会った本を紹介したい。

 

語彙について考える

使える「語彙力」2726』(西東社編集部・編/西東社・刊)のまえがきに次のような文章が綴られている。

 

「語彙」の「彙」には「一つのところに集める」という意味があります。「語彙」は一つの国語や方言、作品などを表す単語の総体のことです。つまり、たった一つの言葉を知っていたからといって、「その語彙」を知っているとはいいません。さまざまな言葉を知り、それを使いこなせることで、「語彙が豊富」といえるのではないでしょうか。

                         『使える「語彙力」2726』より引用

 

定義は明らかだ。あとはどの部分をどのくらい知っていて、それをどのように運用していくことを心がければいいのだろうか。

 

どこから始めても役に立ちそう

章立てを見てみよう。

 

第1章 敬語をマスターしよう

第2章 お付き合いの敬語を美しく

第3章 ビジネスで「できる!」人の印象を

第4章 失礼にならないビジネスレターの書き方

第5章 相手が一目置く、得する言葉

第6章 呼び方が変わった言葉

第7章 間違えやすい漢字

第8章 知っておきたい四字熟語

第9章 カタカナ語を攻略しよう

第10章 慣用表現は奥が深い

第11章 比喩として使いたいことわざ

第12章 季節・自然・暮らしを表す言葉

第13章 大和言葉で品格アップ!

 

実にもりだくさん。項目数にすると71もある。筆者が特に気になったのは「敬語をマスターしよう」「失礼にならないビジネスレターの書き方」といったところ。どこから読み始めても役立ちそうだし、章立てと項目をガイドに逆引き辞典のような使い方もできるはずだ。

 

ご存じの通り、「お越しになられました」はNGですよ

第1章「敬語をマスターしよう」には落とし穴がいっぱい。思わず口走ってしまいそうな「お越しになられました」はNG表現。正解は「お越しになりました」だ。

 

「ご~になる」で尊敬語なので、さらに「られる」をつけるのは間違い。「お話しになられました」も「お話しになりました」にする。

                         『使える「語彙力」2726』より引用

 

この間、うちのマンションの理事会でこのまま言っていた人がいた。注意しているつもりでも、ふとした瞬間に「こうに違いない」「これ以外の言い方であるはずがない」という思い込みが大きな間違いとなって現れてしまう。こんなのはどうだろう?

 

△ご案内申し上げます。

△ご案内致します。

謙譲語の「ご」と謙譲語の「申し上げる」が重なる二重敬語だが、「致す」や「申し上げる」による二重敬語は一般的に許容されている。正しくは「ご案内します」。

                         『使える「語彙力」2726』より引用

 

これは、特に下の方を言っちゃう人多いんじゃないでしょうか。筆者は何の疑いもなく言っちゃいます。

 

今日的変化にも対応

第6章「呼び方が変わった言葉」でも意外なところを突かれるだろう。かつては当たり前すぎた言葉とその意味が、思いもつかない形に変換されている例は少なくない。筆者にとっての常識がぴしゃっと否定される項目が目立つ。

 

鎖国 → 幕府の対外政策

江戸時代、外国との交流を断絶したわけではなく、実際には長崎や津島などを窓口としてオランダや中国と交易を続けていたため変更された。

                         『使える「語彙力」2726』より引用

 

完全にシャットアウトしていたわけではないから、鎖国という言い方はポリティカリー・コレクトではないということなのだろう。「鎖国」っていう比喩はもう使わないほうがいいな。

 

ユーゴスラビア → 6共和国

1991年に分離独立が始まり、ユーゴスラビアは2006年に消滅。セルビア、モンテネグロ、スロベニア、クロアチア、ボスニア=ヘルツェゴビナ、マケドニアに。

                         『使える「語彙力」2726』より引用

 

ワールドカップのヨーロッパ予選の組分けでなんとなくもやもやしていた部分があったが、これで少しすっきりした。

 

敬語の使い方から始まって、ビジネスレターの書き方、さらには歴史用語や国名の変化までカバーしてくれる本書を読んでいると、現代日本のコモンセンスが浮かび上がってくる。大学入試や就職試験対策としてもお勧めしたい一冊。

 

 

【書籍紹介】

 

使える「語彙力」2726

著者:西東社編集部
発行:西東社

社会人として使える「語彙力」を384ページの大ボリュームで紹介! 「相手を褒める言葉」「慣用表現」「大和言葉」「敬語」など、ただの教養だけではなく、本当に「使える」言葉を身に付ける!

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超高齢化社会にむけて、「自分の身体は自分で管理する」−−『高城式健康術55』

高城 剛は、多くの人にとって驚きの存在でしょう。『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』という著書があるように、世界中の津々浦々に住み、多彩な活動を続けています。

 

移動しながら、健康でいられるのか?

ドラえもんの「どこでもドア」を持っているのではと思うほど、彼は素早くあちらこちらに移動します。
担当編集者によると、アマゾンの奥地で生活したり、電気や水道もないアフリカで暮らしているかと思うと、いったんヨーロッパに戻り、それでいながら、いつのまにか日本に帰国しているというのです。

 

そんな暮らしのなか、高城 剛はいったいどうやって健康を保っているのでしょう? そこが一番の謎でした。
私は移動するのが、大の苦手なのです。

 

旅行自体は好きなのですが、遠出すると決まると、一か月くらい前から緊張してよく眠れません。行き先が海外となると、心身共にもうめちゃくちゃです。

 

忘れ物がないか、いざというときの薬は持ったか、靴は何足必要か? などなど心配事が重なりドギマギします。とくにここ数年は、飛行機に乗ると激しい耳鳴りと腰痛に悩まされます。

 

 

自分で自分を管理する

そんな私にとって『高城式健康術55』(高城 剛・著/光文社・刊)は驚きの本でした。彼がここまで医療に詳しいとは! まさに、びっくり仰天です。

 

けれども、よく考えてみるとそれも当然のことでしょう。彼は世界中を動き回る毎日を送っています。移動に次ぐ移動を続けていれば、どんな超人でも体調を崩すに違いありません。時差と戦い、天候の変化や慣れない食事に、耐えなくてはなりません。

 

分刻みのスケジュールが組まれる状態にありながら、仕事の質を落としてはならぬと、自分に命じてきたといいます。当然、忙しさに負けない体を保たなければなりません。

 

そのために彼がしたこと……。それは自分を知ることでした。どんなに医療が発達しても、素晴らしい医師に巡り会うことができても、結局、自分の体を管理するのは自分です。自分の主治医は自分しかつとめられないのかもしれません。

 

まずは、どんな医師、病院・クリニックも教えてくれない、「本当の自分」を知る検査からはじめたい。

(『高城式健康術55』より抜粋)

 

この信念のもと、研究を重ねてきたのです。

 

 

高齢化社会は目の前です

日本は、これまでにない超高齢化社会を迎えようとしています。『高城式健康術55』が書かれた理由も、そこにあります。どんなに抗おうとも、2025年には国民の3人にひとりが65歳以上となり、5人にひとりが75歳以上になります。

 

では、自分がその日に備えて生きているかというと、私はまったく自信がありません。

 

私の母は、若年性のアルツハイマー病で亡くなりました。自分もいつかは母の道をたどるのだろうと思いながらも、何の手立てもせぬままに、母が亡くなった年齢に達しようとしています。たまらない不安を感じながらも、「ま、何とかなるわ。いざとなったら、息子夫婦がなんとかしてくれるっしょ」と、勝手に決めています。

 

しかし、何とかなるのでしょうか?
本当にどうにかなるのでしょうか?

 

このままでは、きっと息子に迷惑をかけるに違いありません。高城 剛も息子としての悩みを抱えていることを、今回初めて知り胸を打たれました。

 

実は、元気だった僕の母(80代後半)も、ボケがはじまり、医師によれば「アルツハイマー型認知症」と診断が下され、数種の薬を処方された。

(『高城式健康術55』より抜粋)

 

けれども、彼はうろたえたりはせず、お母さまに数種のサプリメントと点滴、そして食事を変えるようにアドバイスしたといいます。その結果、ボケが始まる以前より、お母さまはお元気になり、白髪が黒髪になるほどの効果を得たというのです。

 

すごい。高城 剛は、やっぱり、すごすぎる。それもこれも、彼の研究の賜でしょう。もちろん、お母さまへの愛が一番の力になったのは言うまでもありません。

 

55の療法のうち、どれを選ぶかは、あなた次第

『高城式健康術55』には、55の健康に関するトピックが詳しく書かれています。私が既に知っていた療法もあれば、名前すら聞いたこともない療法もありました。

 

腸内リセット、アーユルヴェーダ、環境毒検査、玄米食、Bスポットクリーニング、ファスティング(断食)については、知っていました。けれども、マイコトキシン検査やアシュワガンダ・レーヒムは、聞いたこともありませんでした。そもそも名前さえ覚えられず、本を見ながら写す有様です。

 

55の方法から、私はどの療法を選ぶべきなのでしょうか。その答えも、自分を知ることにつきます。どんなに素晴らしく、効き目があるとされる点滴や薬も、全員に効果があるわけではありません。

 

『高城式健康術55』で一番最初に挙げられているのは、SNPs(スニップス)検査についてでした。SNPsという遺伝子検査を受けると、自分の祖先や、自分が罹る可能性の高い病気までわかるといいます。

 

まずは、正しい自分を知ること。どこへ出かけるのにも、自分の場所がわからなければ、目的地どころか、はじめの数歩で、道に迷ってしまうのは間違いない

(『高城式健康術55』より抜粋)

 

 

自分の主治医になりましょう

自分の体はどうなっているのか。これから起こる不調はどういうものか。今までの私は知るのがこわいと思ってきました。気づかないでいれば、のんきなままでいられるのだから、それにこしたことはないと、信じていたのです。

 

けれども、心の中は不安でいっぱいでした。そして、その不安こそが私の心身を蝕んでいたような気がします。自分の体をしっかり把握すれば、自分に適合する療法を選ぶことができるはず……。

 

これまでは、体の調子が悪いとインターネットでサプリメントを探していました。そして、呆然とします。これほど膨大な情報を整理するのは不可能だと思い知るからです。そもそも、いったい何と戦えばいいのかさえわかっていません。せめて自分の体の傾向がわかれば、次の手を打つことができるでしょう。

 

とりあえず、今日からは自分の主治医は自分と言い聞かせながら、生きていこうと思います。もちろん、お医者さんのアドバイスや助けは必要です。けれども、医師に頼り切ったまま「なんとなく不調」な状態を続けるのも、医師に対して失礼だと思うようになりました。

 

今もなお世界中を震撼させている新型コロナウイルスの感染拡大から自分を守り、生き抜くためにも、自分をよく知ることが必要です。そのことを『高城式健康術55』に教わったような気がしています。

 

【書籍紹介】

高城式健康術55

著者:高城 剛
発行:光文社

絶えず世界各地を行き来しながらクリエイターとして活躍を続ける高城剛、55歳。時差・気候や標高の変化、撮影のための長距離移動、不衛生な土地、分刻みのスケジュールの中でも常にパフォーマンスの質を保つために、あらゆる最先端の医療の知識を取り入れ、また自らも身体にいいアイテムを開発・使用しながら活動を行なっている。そんな高城氏が注目・実践する、現在、そして次世代の最新医療とは。医師ではない、健康マニアを“こじらせた”クリエイターが、変わってしまった「食事と環境」を是正することによって健康を取り戻した経験、さらに家族や友人たちの経験をもとにしてマニアックに書いた一冊。

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世界を旅した気分になれる郷土料理のレシピ本! 世界の300レシピを自宅で味わおう!!

せっかくの夏休み。「あぁ〜今ごろオリンピックだったなー」とか「オリンピックを避けるために旅行する予定だったのに」と思っている人、多いのではないでしょうか?

 

えぇ、私もです! 今ごろ、武道館で空手(形)を観ていたはずだったのに……。悔しい気持ちはありますが、嘆いても仕方ないので、自宅でできる楽しいことを考えましょう!

 

ということで、今回ご紹介する『世界の郷土料理事典』(青木ゆり子・著/誠文堂新光社・刊)は、なんと世界300地域のレシピ本! 「シガ」「イカ・マタ」「ツェペリナイ」と、名前すら聞いたこともないような料理がページをめくるたびに出てきて、見ているだけでも飽きません。しかも、日本のスーパーで購入できるような身近な素材で作れる料理も多いので、手軽で簡単! 実際に作ってみながらご紹介していきます。

 

 

分厚いし、情報も満載!

この本、驚くほど分厚いんです! フルカラーで303ページもあって、レシピの他にも宗教に関することや、各地域の食文化についても丁寧に解説されています。このレシピはすべて「https://e-food.jp/」サイト監修で作られているので、どれも本格的で魅力的。あと地味にうれしいのが本の見開きがパタンと固定される体裁になっているところ! 台所でレシピ本を広げながら作れるのでめっちゃおすすめです(笑)。

 

著者で、各国・郷土料理研究家の青山ゆり子さんも「はじめに」で、紙面の許す限りレシピを紹介したいと書かれており、ひとつひとつのレシピを読めば読むほど、その知識の幅広さと奥深さを体験できます。

 

もちろん日本の郷土料理も丁寧に紹介されていて、沖縄の「ヒラヤーチー」というチヂミのような食べ物や、見た目も綺麗な京都の「京手まり寿司」、北海道でアイヌの人々が食べていたと言われる「オハウ」、意外と知られていない西洋と中国と和食がミックスされた長崎の「ぱすてぃ」という鳥もも肉や長芋を使ったパイ料理の4つが掲載されています。アジア、中東、ヨーロッパ、アフリカ、北・中央アメリカ&カリブ、南アメリカ、オセアニアと7つのエリアに分けて300のレシピが紹介されています。

 

今回は夏にぴったりな2品を作ってみたのでご紹介します!

 

 

インド洋に浮かぶモーリシャスの「タコのカレー」を作ってみた!

 

タコでカレー!? って思いますでしょ? これがめちゃくちゃ美味しいんですよ〜!

 

このカレーは、東アフリカ地域にあるモーリシャスの郷土料理なのですが、「神はモーリシャスを最初に創り、そしてモーリシャスを真似て天国を創った」なんて『トム・ソーヤーの冒険』の作家マーク・トゥエインも語ったと言われ、セレブにも大人気の国なんです!

 

材料(4人分)

ゆでダコ……500g

A】玉ねぎ(みじん切り)……1/2

A】にんにく(つぶす)……1かけ

A】しょうが(つぶす)……1かけ

A】タイム(粉でもよい)……小さじ1

トマト缶……1/2

カレー粉……大さじ1

B】コリアンダーの葉(みじん切り)……1

B】カレーリーフ(あれば)……10

B】塩……大さじ1

植物油……適量

ごはん……適量

チャツネ(好みで)……少々

(『世界の郷土料理事典』より引用)

 

作り方は、最初に【A】を弱火でじっくり20分炒めて、トマト缶を足して20分煮込み、カレー粉とタコと【B】を足し、水を少しだけ加えて弱火で20分煮込んで出来上がり。

 

我が家にはタイムくらいしかスパイスがなかったので、ないものは入れずカレールー作ってしまったのですが、めっちゃ美味しかったです!

 

タコってどうなの? と思いましたが、ありがとうモーリシャス!!! 我が家の夏の味に加わりました(笑)。

 

 

さっぱりうまい! フィリピンの「アドボ」も作ってみた!

 

茶色ばっかりで渋いチョイスになってしまったのですが(笑)、こちらはフィリピンの人気料理「アドボ」。酢を使った煮込み料理で材料もシンプルで、大量に作ってほぼほったらかしでできる&つくりおきにもぴったりな夏に嬉しいレシピでもあります。

 

材料(4人分)

豚バラ肉(かたまり)……400g

【A】しょうゆ……1/4カップ

【A】にんにく(つぶす)……1かけ分

【A】はちみつ……大さじ1

【B】月桂樹の葉……2枚

【B】こしょう……大さじ1/2

酢……大さじ1〜2(好みで加減)

塩……少々

(『世界の郷土料理事典』より引用)

 

こちらの作り方も時間はかかりますが簡単です! 豚肉を食べやすい大きさに切ってAと絡ませ、冷蔵庫で1時間。水1/2カップと一緒に弱火で40分煮込み、最後に酢と塩で味を整えたら完成!

 

これがニンニクと豚肉のガツーン! としたスタミナだけじゃなく、酢がさっぱりとさせてくれるので、ご飯に汁ごと乗っけて食べるとうまいんです〜! この煮汁も美味しいので、私はゆで卵も入れてしまえー! と2日目はゆで卵をインしちゃいました。

 

今回は夏におすすめのレシピを紹介しましたが、『世界の郷土料理事典』には本当にたくさんの国の知らない味が掲載されています。なかなか旅行のできない今だからこそ、世界を料理で旅してみてはいかがでしょうか。

 

【書籍紹介】

世界の郷土料理事典

著者:青木ゆり子
発行:誠文堂新光社

食を通して、世界を知ろう!「世界の料理総合情報サイトe-food.jp」は、2000年のオープン以来、世界各地のさまざまな料理情報を発信し続けてきた。その代表であり、郷土料理研究家の青木ゆり子による待望のレシピ集。多数の現地取材、ていねいなリサーチにより、料理の背景にある歴史や文化、今考えたい食の国際儀礼や宗教の食規定などもわかりやすく解説。

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本の中で19世紀末のパリを歩くと、そこにゴッホがいた−−『たゆたえども沈まず』

たゆたえども沈まず』(原田マハ・著/幻冬舎・刊)文庫版の帯には女優・北川景子さんの言葉が書かれていた。

 

この本と旅をしました。そこには会えるはずのないゴッホがいました。

 

表紙カバーはフィンセント・ファン・ゴッホの「星月夜」。ゴッホのファンの私はすぐさま本書を手にし、夢中で読み始めた。コロナ禍で海外旅行が叶わない今だが、本を開くと瞬く間に19世紀末のパリにタイムスリップできる。そして本当にあのゴッホ兄弟に会えたような感覚を覚え、いい旅が出来たなという気分浸れる一冊だったのだ。

 

 

パリでの空白の2年間が生んだフィクション

フィンセントは弟のテオにたくさんの手紙を書いていたので、アルルやサン・レミでの出来事は克明にわかっている。が、その前、パリでの2年間はゴッホ兄弟は同居していたので、どんな暮らしぶりだったのか、どんな出来事があったのかは記録に残されていない。そこを突いて生まれのが、このアート・フィクションだ。

 

著者の原田さんは作家であると共に、美術史を学んだキュレーターでもあり、描かれた絵画や歴史的事実を検証した上でストーリーを組み立てているので、フィクションとはいえ、話には真実味があるのだ。

 

読み進めるたびに「ありえる」、「きっとそうだったはず」と呟いてしまい、登場するゴッホや印象派の画家たち、そして絵の中の人物でしかなかったタンギー爺さんまでもが、鮮やかにイキイキと蘇ってくるのだ。

 

 

もうひとりの主人公は画商・林 忠正

19世紀末のパリの美術界で活躍していた日本人がいたのをご存じだろうか? その人の名は、林 忠正、富山県高岡市出身の美術商だ。林は流暢なフランス語を操り、パリを本拠地として日本美術を売り捌いていた。

 

また、フランスの作家エドモン・ド・ゴングールとも親しく、彼の晩年の著作である『歌麿』『北斎』は林の協力によって刊行された。また、林は当時はまだ酷評されていた印象派の画家たちとも親しくし、援助などもしていたという。そのころのパリは空前の浮世絵ブーム。印象派の画家たちも浮世絵に魅了され、コレクターになっていった。しかし彼らはまだ売れない画家で貧しかったため、林 忠正の手元には浮世絵の代金代わりに受け取った彼らの作品がたまっていったのだそうだ。

 

ゴッホと林に交流があったという記録は残されていない。が、ゴッホも浮世絵に魅せられた一人で、ジャポネズリーの「花魁」「梅の開花」「雨の橋」など模写作品を残しているから、知り合いだった可能性は高い。

 

本書では、林とゴッホ兄弟の奇跡の出会いが、のちにフィンセントが世界を変える一枚の絵を生むという展開で進んでいく。

 

 

パリの画材屋 ジュリアン・タンギー

この物語で私が個人的にいちばん好きなのが、フィンセントが「タンギー爺さん」を描くシーンだ。現在、パリのロダン美術館に所蔵されているこの名画は、きっとこんな風にして生まれたに違いないと思えてくるのだ。

 

ジュリアン・フランソワ・タンギーはパリで画材屋を営んでいて、絵の具代を支払えない若い画家たちを理解し、絵画での支払いを認めていた。そのため、店内は絵画でいっぱいだったそうだ。

 

フィンセントも画材代金として、タンギーの肖像画を描くことになる、本書では林 忠正が背景の絵として浮世絵を貸し出したことになっている。

 

「さあ、どうぞ親父さん。その浮世絵の壁の前にある椅子へ」

テオに促されて、タンギーは粗末なスツールに腰掛けた。その背景には六点の浮世絵が貼り出されていた。歌川豊国、歌川広重、そして渓斎英泉。風景画と美人画。はっきりと明瞭な色面、大胆な構図。どれもが一級品の浮世絵である。

「まるで日本のミカドのようだな」

浮世絵に囲まれて鎮座するタンギーを眺めて、ひと言、フィンセントが言った。タンギーもテオも楽しげに笑った。

(『たゆたえども沈まず』から引用)

 

 

「たゆたえども沈まず」とは?

作者の原田さんは、そもそもこの小説は林 忠正にスポットを当てて書き始めたのだそうだ。世界中から富と人と文化が集まってくるパリで闘う日本人の姿を描こうとしたのだ。小説には架空の人物としてやはりパリに憧れ、パリを目指した重吉という日本人を挿入している。

 

題名の「たゆたえども沈まず」がどうしてつけられたのかも冒頭に出てくる。東京でまだ学生だった林と重吉の会話だ。

 

「たゆたえども沈まず−−って、知ってるか?」

突然のことで、今度は重吉が目を輝かせた。忠正は、ふっと笑みを口もとに浮かべた。

「パリのことだよ」

「……パリ?」

「そう。……たゆたえども、パリは沈まず」

花の都、パリ。

(『たゆたえども沈まず』から引用)

 

パリの中心を流れるセーヌ川は、何度も氾濫し、住む人々を苦しめてきた。けれども、流れに逆らわず、激流に身を委ね、決して沈まず、やがて立ち上がる。パリはそのような街なのだ。

 

 

ゴッホが描きたかったのはセーヌ川?

ゴッホは2年間もパリに暮らしながらセーヌ川を描いていない。そこをこのアート・フィクションでは突いている。林とゴッホのやりとりを引用しておこう。

 

−−いちばん描きたいものを、私は、永遠に描くことができません。

不思議に思った忠正は、それは何かと尋ねた。フィンセントは、すぐには答えようとしなかったが、やがて打ち明けた。

−−セーヌです。

(『たゆたえども沈まず』から引用)

 

忠正はフィンセントにアドバイスする。あなたは舟になって嵐が過ぎるのを待てばいい、たゆたえども沈まずに。そして、いつか私をはっとさせる一枚を描き上げてほしいとフィンセントに言うのだ。

 

物語では、この一枚がのちにゴッホの代表作となり、現在はニューヨーク近代美術館の永久コレクションとなっている「星月夜」だったと結んでいる。

 

サン・レミの病院で療養中に描かれた風景画だが、実際の風景ではなくゴッホのインスピレーションで描かれたものだ。よくよく眺めていると、ブルーの夜空は、渦巻くセーヌの流れのようにも見えはしないか……?

 

本書は、ゴッホが好きな人、美術に興味のある人、パリが好きな人、そして何より19世紀末に異国で闘っていた日本人のビジネスマンがいたことを知るためにも、是非読んでほしい一冊だ。

 

 

【書籍紹介】

 

たゆたえども沈まず

著者:原田マハ
発行:幻冬舎

19世紀後半、栄華を極めるパリの美術界。画商・林 忠正は助手の重吉と共に流暢な仏語で浮世絵を売り込んでいた。野心溢れる彼らの前に現れたのは日本に憧れる無名画家ゴッホと、兄を献身的に支える画商のテオ。その奇跡の出会いが“世界を変える一枚”を生んだ。読み始めたら止まらない、孤高の男たちの矜持と愛が深く胸を打つアート・フィクション。

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1800年前も今も、人間関係の法則は同じ! −−『三国志に学ぶ人間関係の法則120』

「三国志」は、お恥ずかしながらゲームで知っていたレベル。自宅にいることが増えて115時間以上もNintendo Switchで『無双OROCHI3 Ultimate』をプレイしてきたのですが(笑)、このゲームでは、神々や妖怪、戦国武将と三国志で活躍した武将たちが総勢170名出てきます。115時間でやっと戦国武将たちのレベル上げの目処が立ち、これから三国志に取り掛かろうとしているのですが、ふと「そういえば三国志って映画『レッドクリフ』くらいの知識しかないなー」と思い、『三国志に学ぶ人間関係の法則120』(文・ペズル/絵・田中チズコ/プレジデント社・刊)を読み始めました。

 

ざっくり言うと三国志は、劉備、曹操、孫権の3人が国取り合戦する話なのですが、どの登場人物もキャラが濃い! 今回はそんな三国志を知らないという人でも楽しめる、キャラが濃い中国のおじさんたちの苦悩と、現代にも通じる人間関係の法則をご紹介していきたいと思います。

 

 

偶然が歴史を動かした? 桃園の誓い

「三国志」には大きく分けると、実際の歴史にそった様子が記された歴史書の『三国志』と、『三国志演義』という中国の明の時代に書かれた歴史小説の2つが存在しています。

 

この『三国志に学ぶ人間関係の法則120』は、歴史小説『三国志演義』の時系列に沿って、その時にどんな人間関係があったのかに注目し、解説されている一冊なのですが、大ヒットした映画『レッドクリフ』もこの『三国志演義』をもとにしているので、馴染みがある人も多いでしょう。

 

また『三国志に学ぶ人間関係の法則120』は、三国志の知識がほとんどなくてもイラストで登場人物が描かれながら紹介されていくので、初心者にもおすすめ! 物語を読みながら、人間関係の極意を学べます。

 

まず最初に紹介されているのが、「桃園の誓い」。184年に民衆の反乱が起こり、草鞋を売っていた劉備(りゅうび)に張飛(ちょうひ)が声をかけ、2人で居酒屋に行った際、今度は劉備が関羽(かんう)に声をかけ、3人が義兄弟の契りを結ぶという話なのですが、ここでの学びはこんな感じ。

 

《劉備》

「なんかこの人、気になるな」と感じたら、

直感を信じ、思い切って声をかけてみたらいいと思うよ。

一声かける勇気が、一生の出会いにつながるかも。

 (『三国志に学ぶ人間関係の法則120』より引用)

 

そんな偶然の出会いから契るなんてことある!? と思っちゃう始まりなのですが、劉備さんが言うように友達になるのってこんなことなのかなーと思ったりもしました。その後、この3人は本当に死ぬまでお互いを信じ、戦い続けます。また、軍師である諸葛孔明も、劉備らしい方法で味方につけます。詳しくは『三国志に学ぶ人間関係の法則120』でチェックしてみてくださいね。

 

劉備について知れば知るほど、「劉備さんはちょっとあざといけど、いいやつだよなぁ。友達になりたいわ〜!」と人間らしさを感じてしまうのですが、色々と劉備について調べていたら2020年12月に『新解釈 三國志』という映画が公開されるのを発見。監督はコメディ撮らせたら日本一の福田雄一さんで、なんと主演の劉備を演じるのは大泉洋さんではありませんかっ! 面白くないわけない……! ぜひファンの方は予め三国志で劉備について知っておくとより楽しめること間違いなし。公開が楽しみです。

 

 

「赤壁の戦い」は曹操の油断で大敗した?

有名な208年の「赤壁の戦い」は、火攻めにより軍船を燃やされた曹操(そうそう)が大敗してしまった出来事。曹操は配下である程昱(ていいく)から度々、「ちゃんと防備を考えた方がいい」と説得されていたそうです。しかし、軍師として有名だった龐統(ほうとう)から「舟を繋いでおけば大丈夫」と言われ、曹操は「あの龐統さんが言うなら!」と、程昱の助言を無視。

 

じつは、この龐統、曹操の敵側の人間で、舟を繋ぐのは曹操を倒すための策だったのです! そんなことも知らない曹操は、敵陣から火を放たれ、あっという間に大敗。「大丈夫、大丈夫」と油断していた曹操はこんな反省をしたのではないでしょうか?

 

《曹操》

程昱は何度もオレに忠告してくれていたんだよな……。

何度も指摘するってことは、すごく不安だってことだから、聞く耳を持って再考すべきだった……反省。

 (『三国志に学ぶ人間関係の法則120』より引用)

 

また当時の曹操は、ちょうどグイグイと勢力を伸ばしていたころでした。勢いがあるから大丈夫、あの人が言うから大丈夫と、ちょっとの油断で大ごとになるのは現代でもよくあることですよね。

 

勢いがある会社の経営陣やトップに立つ人には、是非この曹操の反省を生かして、現場の声をしっかりと聞けるような人であって欲しいと願います(笑)。同じような境遇にいる人は、そっとこのページを開いて上司の見えるところに置いておくのがおすすめです!

 

 

リーダーのミスを指摘できるチーム?

「赤壁の戦い」で曹操に勝利した孫権(そんけん)。その後も、曹操と戦い続けていくのですが、ある戦でちょっと調子に乗ってしまい、自ら戦場に赴いたことで、多くの配下が犠牲になり、大敗してしまいます。そんな孫権は、大泣きしながら「私が悪かった」と謝ったのだとか。

 

《孫権》

歳をとればとるほど、失敗を素直に認めるのって難しい。

でも、リーダーは変なプライドを持っちゃダメだ。

ちゃんと謝って、意見しやすい雰囲気作りをしないとね。

 (『三国志に学ぶ人間関係の法則120』より引用)

 

『三国志に学ぶ人間関係の法則120』には、まだまだ数多くの人間関係が紹介されています。これを読んで、好きな人物を見つけるもよし、三国志の入門編や復習として楽しむのもよしと、幅広く活用できるでしょう。私もこの本を片手にゲームを進めながら、三国志に登場する人物たちをレベル上げして、引き続き「おうちじかん」を楽しみたいと思います。

 

【書籍紹介】

 

三国志に学ぶ人間関係の法則120

著者:ペズル(文)、田中チズコ(絵)
発行:プレジデント社

1800年前も、人の悩みは「人間関係」。『三国志演義』全120回から学ぶ昔から変わらない人づきあいの極意。

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10年前に新型コロナ騒動を予見していた!? 今が読み時!な一冊『首都感染』

不思議なもので、読むタイミングによってその本の面白さや価値が変わることがある。

 

たとえば、若いころに読んだときは、難解すぎて作品の奥深さを理解できなかったけれど、数年後に読み直すと、こんなにも深い話だったのか! と驚くことは少なくない。

 

作者はまったく同じ作品を提供している。にもかかわらず、読み手側の環境や心境、経験値によって、傑作とも駄作ともなりえてしまうのだ(作者としては、理不尽な話かもしれないが)。

 

さらに、そのとき話題になっている時事問題や時代背景によっても、作品の満足度は変化する。

 

そういった「読み時」という意味で、今ぜひおすすめしたい一冊がある。すでにご存じの方も多かろう、『首都感染』(高嶋哲夫・著/講談社・刊)だ。

 

2010年、今から10年前に発表された作品だが、現在の日本を予見したかのような内容なのである。

 

もしかしたら、昨年までに本作に接した人は、「こんな大げさな事態、ありえない」と笑みを浮かべながら読破していたかもしれない。そして今あらためて、本棚から引っ張り出し、読み返し、その予見性に恐れおののいているのではないだろうか。

 

 

世にも恐ろしい強毒性ウイルス、出現!

物語は20××年。中国の雲南省で致死率60%の強毒性インフルエンザウイルスが出現したところから始まる。世にも恐ろしいウイルスは、同じく中国で開催されたサッカーのワールドカップを観戦するために集まった観客たちを経て、世界中に拡大する。

 

日本の検閲も破られ、都内に感染者が発生。ここから、日本全国に拡大させないためにどうすればいいのか。出した答えは、「東京を封鎖する」前代未聞の作戦であった。

 

現在、第二波が来ているとも言われている新型コロナウイルスは、作中のインフルエンザウイルスほどの強毒性はない。けれども、未知のウイルスであり、日本だけでなく世界中が混沌たる状況に陥っているという意味では、同様の恐ろしさを孕んでいると思う。

 

ひとたび針の穴が開いてしまうと、その穴は瞬く間に大きくなり、もはやウイルスをせき止めることは不可能な状態になってしまう。だからこそ、限られたエリア内でウイルスを封じ込める。ライフラインを含めさまざまな機能は停止してしまうが、封鎖エリア外の地方都市が一致団結して、東京を支える……という施策が、『首都感染』では描かれている。

 

 

これは夢か現実か。驚くべきリアリティ

もちろん、フィクションであるがゆえ、「そううまくいくかな……?」「いやいや、そこはちょっとおかしくない?」などというツッコミどころがなくはない。

 

けれども、医療現場の崩壊、ウイルス防止に関わる医療用品の欠如、静まり返った街、ガタガタの経済。学校はもちろん休校、テレビをつければ感染者数のニュースか再放送の番組ばかり。作中で描かれる東京の街は、先日の緊急事態宣言時の日本の姿を彷彿とさせる。

 

事実、この本を数日かけて読み終えたのだが、朝起き抜けに「昨日の感染者数は……」というニュースを耳にすると、はたしてこれは小説内の話か現実か、わからなくなる瞬間があったほどだ。

 

『首都感染』では、極めて優秀な医師と、決断力、行動力に長けた官僚たちが空前絶後の殺人ウイルスを阻止するために画策する。

 

さて、2020年の日本は今後どうなっていくのか。『首都感染』のような結末を迎えることができるだろうか。

 

おそらく人類は、今後も幾多のウイルスとの戦いに接するだろう。いつか訪れるかもしれない強毒性ウイルスとの攻防戦のためにも、今ぜひ読んでおきたい一冊だ。

 

【書籍紹介】

首都感染

著者:高嶋哲夫
発行:講談社

二〇××年、中国でサッカー・ワールドカップが開催された。しかし、スタジアムから遠く離れた雲南省で致死率六〇%の強毒性インフルエンザが出現! 中国当局の封じ込めも破綻し、恐怖のウイルスがついに日本へと向かった。検疫が破られ都内にも患者が発生。生き残りを賭け、空前絶後の“東京封鎖”作戦が始まった。

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彼らは「ふつうに」何を食べているのか?−−食事から見る多国籍社会・日本

高校2年の夏、同級生のいとこがカリフォルニアから遊びに来た。日系アメリカ人の男子だ。同じ年ごろなので毎日のようにひたすら遊び、同級生の部屋にざこ寝する生活の中でそれは起きた。

 

 

炊き立てジャムかけバタートッピングごはん

ある朝の食卓。ブライアン・サクライは、あろうことか炊き立てのご飯にイチゴジャムをたっぷりかけ、それに大さじ1杯のバターをトッピングしてまぜまぜし、うまそうに食べ始めた。しかもスプーンで。ありえない。そう伝えると、彼はおもむろに切り返してきた。「いや、俺から言わせればお前らだってありえない食べ方をしている。特に、ピザのトッピングとしてイカやコーンはちょっと考えられない」

 

彼にとって、炊き立てのご飯とイチゴジャムとバターというコンビネーションは経験則が生み出した絶妙なカスタマイゼーションだったのだろう。ピザのトッピングで切り返された筆者は、セロリの溝の部分にチャンクタイプのピーナツバターをびっしり詰めたやつを持ち出して対抗した。アメリカの子どもにとっては当たり前すぎるおやつだが、自分的には絶対にない。

 

 

ホノルルのホットなローカルフード

一方、誰が食べてもおいしいと感じるに違いないものもある。こんな例はどうだろう。日本で超有名なうどんチェーンのホノルル店が、フランチャイズ全店舗で売り上げ世界一を達成した。観光客の流れが絶えない通りにある好立地も一因だろうが、それはあくまで付帯的な要素だ。長い時は入店まで1時間近く待つお客さんたちが目当てにしているのは揚げたての唐揚げ、そしてかき揚げやちくわからマッシュルームまで、バラエティ豊かな天ぷらだ。

 

実際に何回か行ってみたが、お客さんほぼ全員が野菜のかき揚げを食べる。唐揚げを山のように盛りつける人もいる。唐揚げと天ぷら。「大嫌いだ」なんて言う人はいるだろうか。このうどん店は、スタイルもメニューも含めて日本の食文化が現地のニーズと合致したパターンの好例だろう。

 

この逆パターン、日本に定住している外国生まれの人たちは、日本という異国でどのように食と関わっているのか。何にこだわって、どのあたりで折り合いをつけるのか。あるいは、あくまで自分のアイデンティティを押し通すのか。

 

 

食べるものを通して理解できること

筆者の疑問をピンポイントな形でつまびらかにしてくれるのが『移民の宴』(高野秀行・著/講談社・刊)だ。出入国在留管理庁がまとめた2019年6月末のデータによれば、在留外国人の数は282万9416人。しかも、10年20年という長いスパンで住んでいる人たちも決して少なくない。

 

なのに、私たち一般の日本人は意外なほどそういう外国人の「ふつうの姿」を知らない。例えば、彼らは日本で日々どんなものを食べているだろうか。母国の料理なのか、日本の料理も食べるのか、両方食べるのか。母国の料理なら食材はどこで買うのか。調理の仕方はどうなのか。

                             『移民の宴』より引用

 

筆者が知りたいと思っていたのは、まさにこういうことなのだ。食べるものを通して得られる知識は、想像以上に多いに違いない。

 

 

メルティング・ポット化した日本

目次を見てみよう。

 

・成田のタイ寺院
・イラン人のベリーダンサー
・震災下の在日外国人
・南三陸町のフィリピン女性
・神楽坂のフランス人
・中華学校のお弁当
・群馬県館林市のモスク
・鶴見の沖縄系ブラジル人
・西葛西のインド人
・ロシアン・クリスマスの誘惑
・朝鮮族中国人の手作りキムチ
・震災直後に生まれたスーダンの女の子、満一歳のお誕生日会

 

巻頭のカラーページが各章の前ふりの役割を果たしている。タイの「ラーブ」、イランの「ゴルメ・サブジ」、そしてスーダンの「サラダ・アスワド」。質の高いビジュアルのおかげで、どの料理も味見したくなる。

 

目次と巻頭カラーページだけを見ても、日本が決して単一民族の島国ではないことが実感できる。国土としては決して広くはない日本にこれだけ多くの外国から来た人々が住んでいるのだから、ひと昔前は特にアメリカを意味した“メルティング・ポット”という言葉も、今の時点での実感としては日本のほうがしっくりくるのではないだろうか。

 

 

食育の新しい形

著者である高野秀行氏のスタンスは明確だ。

 

いろいろな国の民族の人たち、それも特に裕福な人や特に困窮している人でなく、ふつうの人たちが何をどう食べているのか。そこから日本で暮らす外国人のリアルな姿を見てみたい。

                          『移民の宴』より引用

 

そして高野さんは、“ふつう”というキーワードにこだわりながら、1年にわたってさまざまな国からやってきた人たちの食卓を見て回り、さまざまな国の料理を口にしてきた。文章が映像的で、まるでVTRを見ているような感覚で読み進んでしまう。

 

それぞれの料理の向こう側に、作った人の人生が透けて見える。そして不思議なことに、今の日本の現状も浮かび上がってくる。各国の人々と数々の料理を盛り込みながら進むコースは、次のような文章で締めくくられる。

 

これから日本が外国の人たちにとっても、もっともっと住みやすい国になることを祈って止まない。なぜなら、そういう国は明るく気さくであるはずで、日本人にとっても住みやすいはずだからだ。

                           『移民の宴』より引用

 

食育と呼ばれるものに、この本のコンセプトが加えられていいはずだ。いや、そうなるべきだ。

 

【書籍紹介】

移民の宴

著者:高野秀行
発行:講談社

日本に住む二百万を超える外国人たちは、日頃いったい何を食べているのか?「誰も行かない所に行き、誰も書かない事を書く」がモットーの著者は、伝手をたどり食卓に潜入していく。ベリーダンサーのイラン人、南三陸町のフィリピン女性、盲目のスーダン人一家…。国内の「秘境」で著者が見たものとは?

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『消えたママ友』で描かれる「母親」の苦悩と闇の深さ

子どもを父親や姑に託し、家出をしてしまう母親がいます。彼女はなぜ、ひとりで逃げてしまったのでしょう。逃げるほどつらいことがあったのでしょうか。そして、逃げる以外に方法はなかったのでしょうか。

 

 

「母親なのに」という非難

先日、コンビニでポテトサラダを買おうとした母親が、「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」と知らない高齢男性に叱られたという話がSNSを駆け巡りました。だいぶ少なくなったとはいえ、母親は子どもに手作りの愛情を注ぐべきだと考える人は、まだ存在するようです。

 

もし、父親がポテトサラダを買いに来ていたら、この男性は「父親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」と言ったでしょうか。おそらく言わないでしょう。逆に以前、子どもとコンビニにいた男性を見て「父親に買い物をさせるなんて。母親は何やってるんだ」と言っていた人がいました。お使いする父親の姿は、母親の手抜きを連想させるもののようです。

 

 

母親同士の打ち明け合う姿

公園や保育園や幼稚園の近くで立ち話をしているママ達は、当たりさわりのない和やかな会話をしているように見えるかもしれません。けれど、実はそうでもないのです。姑のグチや夫への不満を打ち明けてくる人もいれば、昨日子どもに手をあげてしまったとうつむく人もいます。母親達の社交場は、母親以外の人にはなかなか分かってもらえないストレスの発散場にもなっているのです。

 

けれど、そうした場では明かせないほど深い悩みを抱えている人もいます。夫から暴力を受けていたり、不倫の恋をしていたり、または離婚問題を抱えていたとしても、そうしたヘビーすぎることは、話せません。皆の噂になるのもイヤだし、奇異の目で見られるのもみじめだからです。

 

 

母親が母親を非難する時

コミック『消えたママ友』(野原広子・著/KADOKAWA・刊)では、母親達が抱えている闇の部分を垣間見ることができます。どの母親にだってそれぞれ抱えている悩みがあり、その重さもさまざまです。なかにはきつい現実に耐えかねて家出をしてしまう母親もいます。令和元年に家族関係の悩みで家出をした人は1万4335人もいました(警察庁調べ)。そのうち小さな子を持つ母親は何人いるのでしょうか。

 

マンガでは、母親達が、逃げた母親のことを口々に非難します。子どもを置いていくってことが許せないと。今まで親しかったのに、子どもを置いていくような女だと知った途端、牙を剥くのです。それこそが母性というものなのかもしれないし、もしかしたら自由になった彼女への嫉妬もあるのかもしれません。

 

 

子どもを置いていく理由とは

日々子どもに愛情を注いでいる母親達にとって、子どもを置いていく行為は受け入れがたいものです。けれど、家出した彼女には彼女なりの事情があり、そうでもしないと自分自身が壊れてしまいかねなかったのかもしれません。

 

「母親なら子どもを置いていかず、ちゃんと育てたらどうだ」。そんな声が聞こえてきそうですが、本書ではそれぞれの母親の事情も含め、淡々と、でもとてもせつなく綴られていきます。

 

それぞれの母親の子どもたちも、決してニコニコ遊んでばかりではなく、なにか大変なことが起きたようだと気づき、彼らなりに考えて行動していて、とてもけなげなのです。そしてママが出ていってしまったおうちの男の子の強がる表情は、涙なくしては見ることができません。

 

母親の心身のケアが、最近やっと取り上げられるようになってきました。子どもを全力で可愛がって当たり前と言われ、自分自身のケアさえままならない母親が大勢います。限界を超え、家出を決行してしまう前に、どこか相談できるところを知っていれば、早めに問題に手を打てれば、もしかしたら追い詰められる母親は少し減るのかもしれません。

 

【書籍紹介】

消えたママ友

著者:野原広子
発行:KADOKAWA

ある日、仲良しのママ友・有紀ちゃんが姿を消した。有紀ちゃんとは仲良しだったはずなのに、何も知らなかった春香、ヨリコ、友子。しかし、みんなそれぞれ思い当たることがあった…。雑誌『レタスクラブ』連載で大反響を呼んだ話題作、描き下ろしを加えついに単行本化!!

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科学とは「絶対に真実にたどり着けないもの」−−『天才科学者はこう考える』

天才科学者はこう考える――読むだけで頭がよくなる151の視点』(ジョン・ブロックマン・編、夏目大、花塚恵・訳/ダイヤモンド社・刊)という書籍がある。

 

この書籍は、一流の研究者や思想家などだけが入会することができるオンラインサロン「エッジ」の会員である151人が、あるテーマに沿って書いたコラムが収録されている。そのテーマは

 

人々の認知能力を向上させうる科学的な概念は何か?

(『天才科学者はこう考える――読むだけで頭がよくなる151の視点』より引用)

 

というもの。簡単に言えば、「世の中のことを理解するために使える、信頼できる考え方やものの見方」という感じだ。これについて、151人が論じているのが本書だ。

 

 

天才科学者が世の中をどうやって見ているのかがわかる

「科学的な概念」と謳われているが、実際には科学だけではなく、経済学や哲学、倫理学、法律学など、あらゆる分野を分析した活動から生まれる考え方も含まれている。読んでいくと「ああ、そういう考え方もあるのか」と思うものも多い。

 

さすがに151人がどんなことを書いているのかをここで列挙するのは難しいので、できれば実際に読んでもらいたい。この世界をどうやって見るのか、そして未来はどうなっていくのかということについて、立ち止まって考える機会が得られるはずだ。

 

 

科学はいずれ否定されるものである

本書に出てくる151人の多くは、科学者だ。そして、その多くが同じことを語っている。それは、「科学はいずれ否定されるものである」と認識している点だ。たとえば、ジャーナリストであるキャサリン・シュルツは以下のように記している。

「過去の時代の科学理論の多くは、のちの時代に誤っているとわかった。だから、私たちが正しいと信じている科学理論も、多くがいずれ否定されるのではないか」

(『天才科学者はこう考える――読むだけで頭がよくなる151の視点』より引用)

 

実践神経学者のジェラルド・スモールバーグはこう書いている。

科学においては例外はひとつも許されない。どの理論も容赦なく訂正されていく。誤りが見つかればそこから学ぶ。どれほど神聖とされた理論であっても、いつ訂正されるか、無効になるかわからない。その状態が永久に続くのである。

(『天才科学者はこう考える――読むだけで頭がよくなる151の視点』より引用)

 

物理学者のローレンス・クラウスはこう記している。

だが本当は、不確実性は科学にとって「核」と言ってもいいほど大切な要素である。

(『天才科学者はこう考える――読むだけで頭がよくなる151の視点』より引用)

 

これらをまとめると、我々が今信じているさまざまな科学的な理論や法則というものは、実は正解ではなく、もしかしたら間違っているかもしれないということ。そして、それを認めて新しい事実で上書きしていくことこそ、科学者の役目なのだということだ。

 

 

過去には地動説や地球平面説が信じられていた

我々は、学校などでさまざまなことを学ぶ。しかし、それらをそのまま信じてしまうのは危険だ。せいぜい「今の時点ではそういうことになっている」という認識が正しい。

 

たとえば、500年くらい前までは地球が宇宙の中心で太陽やその他の惑星が地球を中心に回っているという「天動説」が信じられてきた。また、地球は球状ではなく平面であるという「地球平面説」というものも信じられていた時代がある。

 

もちろん、現在は衛星写真などによりそれらは否定され、地球は球状で、太陽の周りを回っているということが解明されている。しかし、それですらもしかしたら違うのかもしれない。現時点ではそういうことになっているだけで、本当はもっと違う可能性だってある。

 

 

絶対にたどり着けない真実に近づく努力をするのが優れた科学者

先に登場したキャサリン・シュルツは、優れた科学者についてこう述べている。

絶えず真実に近づく努力をしながらも、絶対的な真実にたどり着くことは永遠にないと理解している。

(『天才科学者はこう考える――読むだけで頭がよくなる151の視点』より引用)

 

我々は、自分が見聞きしたものをとりあえず自分の中の真実として認識する。そして、それ以外のものは信じない。一方、科学者は、目の前に自分の認識と異なるものが提示されたら、それを分析して確認する。その結果が、これまでの理論と矛盾していてもそれを受け入れていかなければならない。

 

我々もそのような視点を持つことで、現在、そして未来を認知する能力が高まるのではないだろうか。

 

【書籍紹介】

 

天才科学者はこう考える――読むだけで頭がよくなる151の視点

著者:ジョン・ブロックマン(編)
発行:ダイヤモンド社

「制約があると創造性が向上する」「意見をいくら集めても事実にはならない」「クモに噛まれて死ぬ人は1億人に1人もいない」…。日常生活にも応用できる天才たちの思考回路!各分野の英知がつまった最高の知的興奮の書!

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椎名林檎も絶賛!! 『1ミリの後悔もない、はずがない』を読めば、きっと誰もが「ひりひり」したあの日のことを思い出す。

本の帯にはかなりの購買促進効果があると常々思っていたが、今回購入した本は、ほぼ帯のみで選んだと言っても過言ではない。作品名は、『1ミリの後悔もない、はずがない』(一木けい・著/新潮社・刊)。

 

同学年ながらも神だと崇める椎名林檎さんが、推薦コメントを書いていたのだ。

 

私が50分の円盤や90分の舞台で描きたかった全てが入っている。

(『1ミリの後悔もない、はずがない』帯より引用)

 

あの椎名林檎からこんな絶賛を受けた作品を、見過ごせる、はずがない。

 

忘れかけていた感情が蘇る

『1ミリの後悔もない、はずがない』は、2016年「女による女のためのR-18文学賞」読者賞受賞作である『西国疾走少女』を含む、全5篇の短編集だ。一話完結でありながら、各話が少しずつ絡み合って構成されている。

 

R-18文学賞というだけあって、性的な描写が少なくない。ともすると嫌悪感を抱きかねないこの類の小説は、私の中で好き・嫌いがハッキリするため、どちらに出るだろうかと探りながら読み進めた。

 

そして、読了後に思ったのが、「この小説は、本棚に大切に保管しておこう」であり、「作者の他の作品も探してみよう」だった。

 

つまり、私は一木けいという作家に、とても興味を持ったのだ。

 

本書の魅力を一言であらわすことは難しい。強いて言うならば、若いころの、無知で、自分勝手で、広いと思っていた世界は実はとても狭くて、今考えると恥ずかしくてたまらないような日々。恋することに一生懸命だったあのころ−−そんな時代のむき出しの感情を、ありありと描いているところだ。

 

おそらく、もっともしっくりくる形容詞は「ひりひり」だろう。それでいて、「みずみずしい」。主人公・由井と、由井が好きになった相手・桐原の関係を、二人の湿度が肌で感じ取れるほど近くで覗き見ているような、そんな錯覚に陥った。

 

 

次回作を読みたくない、はずがない。

きっと誰もが、これまで生きてきた人生の中で「あの日決断したことが本当に正しかったのか」「もうひとつの道を選択していたらどうなっていたか」を思い返した経験があるだろう。それが恋愛であれ、はたまた別のなにかであったとしても。

 

あの日の選択に後悔がなかったと、100%は言い切れないかもしれない。でも、私たちは今日を生きている。

 

『1ミリの後悔もない、はずがない』は、圧倒的に女性に受ける物語だろうと思う。とりわけ、ある程度酸いも甘いも噛み分けてきた年齢の女性に。

 

よくよく調べてみると、一木けいさんも私と同じ1979年生まれだった。この人も、いろいろなことを背負って、経験して、生きてきたのだ。

 

主人公の由井のフルネームが、何度読み返してもわからなかったこと。一番読みたい人の目線での話が収められていないこと。きっとどれもが、作者の思惑通りなのだろう。

 

こんなにもひりひりして、みずみずしい物語が描ける一木けいさんの作品を、今後も読みたくない、はずがない。ぜひ、男性の感想も聞いてみたい一冊だ。

 

【書籍紹介】

1ミリの後悔もない、はずがない

著者:一木けい
発行:新潮社

「俺いま、すごくやましい気持」。ふとした瞬間にフラッシュバックしたのは、あの頃の恋。できたての喉仏が美しい桐原との時間は、わたしにとって生きる実感そのものだった。逃げだせない家庭、理不尽な学校、非力な子どもの自分。誰にも言えない絶望を乗り越えられたのは、あの日々があったから。桐原、今、あなたはどうしてる? ──忘れられない恋が閃光のように突き抜ける、究極の恋愛小説。

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山村美紗とふたりの男−−「ミステリーの女王」謎の私生活の真実

京都に女王と呼ばれた作家がいた』(花房観音・著/西日本出版社・刊)は、作家・山村美紗の半生を活写した作品です。

 

山村美紗といったら、ミステリ界の女王と呼ばれ、日本のアガサ・クリスティとしてたたえられた人気作家です。

 

京都を舞台にした作品は、次々とテレビ化されています。本も売れに売れ、長者番付の上位にランクインされ続けました。独特な髪型や華やかなファッションも注目の的でした。

 

まさにレジェンドと呼ぶべき存在感を放つ作家だったといえましょう。

 

 

花房観音、山村美紗に迫る

『京都に女王と呼ばれた作家がいた』の著者は花房観音。京都に住み、京都の女を描き続けている作家です。

 

それだけではありません。自身のプロフィールにあるように、「京都観光文化検定2級を所持する現役のバスガイドでもある」というのですから、京都への愛は半端ではありません。

 

そんな彼女が、山村美紗に迫り、その半生をガイドしてくれるのです。つまらないはずがありません。どんな作品だろうと楽しみでたまらず、私は本が届くのを待ちかねていました。

 

そして、読み終わった今、なんだか呆然としています。あまりにも意外な山村美紗の素顔に触れて、ぼんやりしてしまったのです。

 

私は山村美紗について、何もわかっていませんでした。華やかさのかげで、これほどつらい思いをしていたとは……。

 

山村美紗が大変な苦労を重ねて作家になったことも知りませんでした。才能の赴くがままに、書きたいことを書きたいように書き、それがどんどんドラマ化されていると、勝手に思っていたのです。けれども、それは大きな間違いでした。

 

ベストセラー作家になった後でさえ、売れなくなったらどうしよう、もっと書かなきゃ、もっと頑張らなくてはと、自分を追い込んでいたといいます。

 

 

驚きの連続

山村美紗が年齢を偽っていたことにも、驚きました。公式プロフィールによると、1934年に京都で出生となっていますが、実際は、1931年生まれだというのです。

 

作家が年を偽る必要があるのでしょうか。そもそも3歳だけさば読んだところで、意味があるとは思えません。同級生もいるのですから、すぐにばれてしまうはずです。それなのに、亡くなるまで、山村美紗は1934年生まれだと言い続けました。

 

さらに、驚きは続きます。幼いころから体が弱く、ほぼ寝たきりの少女時代を過ごしたのだそうです。作家になってからも、喘息や慢性盲腸炎に悩まされ、苦しみながらの執筆だったといいます。
満身創痍の体を華やかなドレスで包み、お姫様のようなヘアスタイルをウィッグで保ちながら、締め切りに次ぐ締め切りをこなしていたなんて……。夢にも思いませんでした。

 

山村美紗が、帝国ホテルのスイートルームで心臓発作のため急死したこともよく覚えていませんでした。まして、ずっと体調が悪く、東京まで移動する体力がないので、ベンツのキャンピングカーで横になったまま上京し、それでもなお書き続けていたとは……。

 

九月五日、美紗はいつものように、スイートルームのテーブルに原稿用紙を広げ、執筆していた。連載している小説が二本あった。

午後二時三十分、具合が悪くなり、主治医を呼ぶ。痛みなのか、お手伝いさんが美沙の叫び声を聞いている。

主治医が急いで訪れるが、美沙は午後四時十五分に息を引き取り、心不全と診断された。

( 『京都に女王と呼ばれた作家がいた』より抜粋)

 

あまりにも突然に、女王はこの世を去ったのです。仕事をしながら……。叫び声と書きかけの原稿を残して……。

 

 

二人の男性

山村美紗の死は、周囲にとてつもない悲しみをもたらしました。二人の娘はもちろんのこと、二人の男性が魂をもぎとられたような状態で、この世に取り残されます。

 

一人は作家の西村京太郎。山村美紗をしのぐベストセラー作家ですが、彼は美紗の隣の家に住み、パートナーとして暮らし、作品を書き続けたといいます。

 

『京都に女王と呼ばれた作家がいた』には、二人の出会いから、共に励まし合って作家として成長していく姿が詳しく描かれています。

 

そういえば、以前、京都に行ったとき、タクシーの運転手さんが「お客さん、ここは山村美紗の家で、隣が、ほら、なんというのか、西村京太郎の家や」と、教えてくれたときのことを思い出しました。

 

驚く私に運転手さんは、「そんなことも知らないの? 常識や〜」と、逆に驚いていました。西村京太郎は後に「山村美紗さんはボクの女王だった」という追悼文を残し、彼女への思いを吐露しています。

 

もう一人、山村美紗の死後、ひっそりと悲しみに沈んだままとなっていた男性がいます。その名は山村巍。他でもない、美紗の夫です。

 

周囲からは、まるで存在しないかのように扱われていましたが、実は作家になる前から、彼は美紗の夫であり、二人の娘の父親なのです。

 

巍は彼女を愛するが故に、日陰の存在に甘んじ、ひたすらに美沙を助け、闘病につき合い、必死に支えていたといいます。彼がいたから、山村美紗は数々の名作を生み出すことができたのです。

 

二人の男性は、美紗の死後に新しい伴侶を得て穏やかな生活を送っています。けれども、彼女の思い出を捨てることはありません。ミステリー界の女王は、周囲の男性をとらえて離さない、猛烈にモテる女性でもあったことを思い知ります。

 

山村美紗がとろかしたのは、男性の心だけではありません。この本の著者・花房観音も、山村美紗に取り憑かれたひとりだと感じます。

 

山村美紗という人の熱量に、呑み込まれてしまうのだ。そうして話を聞くたびに、疲労が蓄積しながらも、また山村美紗のことが頭から離れられなくなる。

(『京都に女王と呼ばれた作家がいた』より抜粋)

 

花房観音は周囲には「出版は無理だろう」と言われながら、どうしてもあきらめることができず、紆余曲折を経て、ついに『京都に女王と呼ばれた作家がいた』を上梓しました。

 

しつこいまでのその情熱……。なんとかして、本にしたいという狂気のような願い……。私はそこに打たれます。

 

ものを書くというのは、これほど魅惑的でつらいものなのかと思い知らされ、再び呆然とするしかありません。

 

【書籍紹介】

京都に女王と呼ばれた作家がいた

著者:花房観音
発行:西日本出版社

京都に住み、京都の女を描き続ける花房観音が迫る、京都に住み、京都を描き続けた山村美紗の生涯。歴史と情念、ミステリアスな京都の横顔は、美紗の小説とドラマ化された作品からきていると言っても過言ではない。

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オンライン会議でも使える! ちょっとした「雑談」が嫌にならない方法

テレワークにも慣れてきて、オンラインでの会議が当たり前になってきました。またオンライン上での「初めまして」も増えましたよね。今までなら「外は暑かったですか?」なんて天気の話をしたり、「電車がこの時間なのに混んでましてね〜」とか近況を話せるネタがありましたが、オンラインだと「あ、何を聞いたらいいんだ……」ってこと多くないですか?

 

頑張るものでもないのに、雑談をしなきゃ! と張り切るあまり「え〜〜っと」と沈黙してしまったり、「最近どうですか?」と聞かれても「いやぁコロナでね〜」なんて同じような話が多くてギクシャクしてしまったり(笑)。

 

そこで今回は、『超雑談力』(五百田 達成・著/ディスカヴァー・トゥエンティワン・刊)よりオンライン会議でも使える雑談のコツをご紹介していきます。

 

 

雑談は「普通の会話とは違うもの」と心得るべし!

こんなコツを聞かなくても、雑談なんだから適当に会話していればいいのよ! と思っていませんか? 雑談は友達や家族と会話するようなオフの状態でもなく、上司や先輩などとオンの状態でもない「第三の会話」とも言われているそうです。そもそも雑談とはどういうものなのでしょうか? 改めて確認しておきましょう!

 

雑談とは、「微妙な間柄の人と、適当に話をしながら、なんとなく仲良くなる」という、とても繊細な会話の方式です。

 (『超雑談力』より引用)

 

友達と会話するようにしてもいけないし、相手との距離が遠すぎてもいけない……こうやって考えると雑談ってめちゃくちゃ難しい!!

 

すでに仲良くなっている間柄や、仕事上で付き合いがある人となら雑談も会話が成立させられますが、「週に一度だけ会議をする上司と二人きりになってしまった時」、「オンラインで初めましてをしたクライアントさんと2回目の商談」、「友達の友達もいるBBQ」、「結婚2年目での親戚の集まり」などは微妙な間柄の人たちと適当に会話をしなければならないシチュエーションですよね。

 

結局ヘラヘラするだけで仲良くなれなかったら、いつまでも「絶妙な間柄」からは抜け出せないので、やはり雑談を制しておいた方がのちのち自分のためになるのではないでしょうか?(笑)

 

では、どうしたら雑談を上手にできるのか、ご紹介しましょう!

 

 

雑談にはルールがある?

雑談には「基本の7ルール」があるんだとか。ここでは基本中の基本である「雑談の目的」のルールをご紹介します。ちなみに、あなたが「雑談」をしている時、

 

A:がんばっておもしろい話をしようとする

B:ただ会話のラリーを続ける

 

どちらを意識していますか? 芸人さんでもないのに「すべらない話」のようなネタを持っておいて、初めましての時にしてくれるような人もいますが、雑談の目的はそこではないようです。

 

「The show must go on」(直訳で「ショーは続けなければいけない」)という意味がありますが、雑談も、とにかく続きさえすればいい。大切なのは「内容」ではなく「ラリー」です。

 (『超雑談力』より引用)

 

つまり、先ほどのAとBでいうと、雑談をする時に意識すべきは「B:ただ会話のラリーを続ける」ということ。私もついつい、雑談を頑張ろう! としてしまう人間なのですが、内容よりもラリーを意識するとちゃんと相手の話を聞けるようになりますよね。一方通行な会話になりがちだなと思っている人は、「ラリー」することを意識するだけでも大きく変わってきそうですよね。

 

 

とはいえ、恐ろしいのが……沈黙!

『超雑談力』を読んで基本ルールを理解しても、実践でこわいのが「沈黙」です。オンライン上だと「あれ? 固まっているのかな? ミュートかな?」と思ったら、ただ沈黙だった……! なんて、まるで一人語りをしているようでとっても悲しくなりますよね。とはいえ、沈黙はつらい! そんな時の対処方法を、例文を使ってご紹介しましょう。

 

「オリンピック、近いですね」

「うまくいくんですかね……」

「消費税にも困ったもんですね」

「ほんとに……」

「……(会話が途切れた)」

「……(沈黙がつらい)」

「えーと、実は昨日、うちで飼っている犬が、体調を崩しまして」

「あ、犬飼ってるんですか?」

「そうなんです。結構な老犬なんですけどね」

「いいな〜。うちもほんとは飼いたいんですよ」

 (『超雑談力 人づきあいがラクになる 誰とでも信頼関係が築ける』より引用)

 

雑談において大切なのは内容よりも「ラリー」なので、沈黙が訪れたら身近な話に話題を変えて、ラリーできる状態にすることがポイントです。

 

『超雑談力』には、あなたの今の雑談力がチェックできるチェックシートや、7つの基本ルールの解説、初対面やビジネスなどざまざまなシーンで活用できるコツが36個も紹介されています。オンライン上での付き合いが中心になるであろうwithコロナ時代だからこそこれまで以上に「雑談」のコツを把握し、オンラインでもオフラインでも変わらないコミュニケーションを楽しめるようになりましょう!

 

【書籍紹介】

超雑談力

著者:五百田 達成
発行:ディスカヴァー・トゥエンティワン

「どうして?」より「どうやって?」と聞く。「あいうえお」でリアクションする。天気の話や時事ネタはNG。超カンタンな話し方のコツ満載!

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直木賞にふさわしい1作! 『少年と犬』は馳 星周の犬小説の最高傑作!!

少年と犬』(馳 星周・著/文藝春秋・刊)は東日本大震災で野犬となってしまった犬が、ソウルメイト(魂の伴侶)と再会するために、日本列島を横断する壮大な物語だ。

 

自然災害の多い日本で犬を家族に迎えるには覚悟がいると思う。それでも人は癒しを求めて犬を飼う。今、このコロナ禍で再びペットブームだそうだ。家にいる時間が増え、そばにかわいい犬がいてほしいと安易に飼い始めたものの、子犬のいたずらや粗相に耐えられずあっさりと捨てられてしまう頭数も増えていると聞く。

 

本書の帯にはこうある。

 

−−人という愚かな種のために、神が遣わした贈り物

 

犬は本当に素晴らしい生き物だ。だから犬を飼う前に、そして今、犬を飼っている人も、本書は是非読んでおくべき一冊だと思う。

 

その犬は5年間をかけて東北から九州を目指した

本書は、飼い主不明のシェパードの血が混ざった雑種「多門」の旅にかかわる人間を描いた連作短編集だ。構成を記しておこう。

 

男と犬

東日本大震災から半年が経った仙台。家族のために犯罪に手を染めた男がコンビ二の駐車場で犬を拾う。犬の首輪のタグには「多門」と書かれていた。

 

泥棒と犬 

仲間割れを起こした窃盗団の外国人の男が故国を目指すべく、「多門」を連れ、仙台から新潟へと逃走する。

 

夫婦と犬

富山市に暮らす壊れかけた夫婦は保護した犬を別々の名で呼んでいた。首輪に書き込まれていた名は、汚れて薄れ読み取れなくなっていたからだ。

 

娼婦と犬 

滋賀県大津市で体を売って男に貢ぐ女が、猪と戦い瀕死の状態で倒れていた犬を助け、動物病院へ駆け込む。助けた犬はやがて女の癒しとなる。

 

老人と犬 

島根県の山中、老猟師の前に痩せた犬が現れる。賢いその犬は、まるで老人の死を看取るためやって来たようだった。

 

少年と犬

釜石から熊本に移り住んだ一家。幼い少年は震災のショックで心を閉ざしたままだったが、その犬を見ると微笑み、また犬も勢いよく尻尾を揺らす。

 

この最終章になって、はじめて多門の素性と旅の目的が明かされることになるのだ。「多門」は約5年間をかけて仙台から熊本に移動するのだが、その賢さ、逞しさには感動を覚える。

 

 

「多門」は西南の方角に行きたがっている

「多門」と出会った人物は、共通して気づくことがあった。それは犬が常に南(西南)を向いていたこと。各章から引用してみよう。

 

和正は気づいた。多門が進もうとしているのは南だ。「おい。南になにかあるのか? 前の飼い主がいるとか、おまえが昔住んでたところとか……」

(男と犬から引用)

 

「南にだれがいる?」犬に訊いても仕方ないのはわかっていたが、訊かずにはいられなかった。

(泥棒と犬から引用)

 

いつの頃からか、クリントが常に西の方に顔を向けるのに気づいた。正確には西南の方角だ。西の方になにかあるの? ━何度かクリントに訊ねたが、当然、答えは返ってこない。

(夫婦と犬から引用)

 

レオは西へ向かいたがっている。美羽はそう確信した。

(娼婦と犬から引用)

 

ノリツネが顔を向ける方角はいつも決まっている。西南だ。(中略)「おれが死んだら、こいつを九州に連れて行ってやって欲しい」(中略)「どこでもいい。九州の山の中でこいつを放してやってくれ。そうすりゃ、こいつは自分で勝手に目的へ向かうはずだ」

(老人と犬から引用)

 

旅の途中で担ぎ込まれた動物病院で「多門」は岩手県で飼われていたこと、飼い主も判明する。マイクロチップの情報のおかげだ。しかし飼い主とは連絡が取れない。しかも「多門」は東北ではなく、西南を目指している様子。なぜ? 読者はその疑問を抱きながらグイグイと物語に引き込まれていくのだ。

 

 

犬は神が遣わした贈り物

登場人物たちは犬を拾い、餌を与え、世話をし、一時生活を共にする。が、やがて皆気づくのだ。自分が犬を助けたのではない、犬に守られ、癒され、助けられていることに。苦しいとき、辛い時、犬は人間にそっと寄り添い、無償の愛を与えてくれるのだ。

 

人にとって犬は特別な存在なのだということを理解していた。人という愚かな種のために、神様だか仏様だかが遣わしてくれた生き物なのだ。人の心を理解し、人に寄り添ってくれる。こんな動物他にはいない。

(老人と犬から引用)

 

この一文には愛犬家である作者の馳氏の気持ちが込められていると思う。バーニーズ・マウンテン・ドッグという犬種に魅せられ共に暮らし始めて25年になるそうだ。現在は4代目、5代目の二頭と一緒だ。初代の犬のために東京から軽井沢に引っ越し、ここ数年は生まれ故郷の北海道で夏の間を過ごしているという。

 

本書には、犬をよりよく育てるヒントを教えてくれる一文もある。

 

「おまえは本当に賢いな。どんな飼い主に躾られたんだ?」弥一は訊いた。もちろん、答えは返ってこない。それでも、犬に話しかけ続けるのが弥一の流儀だった。犬は言葉はわからなくても、人の意思を見極めようとする。話しかけることで、コミュニケーションが密になり、絆が深まっていく。いざというとき、なにより役立つのは人と犬の絆の強さなのだ。

(老人と犬から引用)

 

 

ソウルメイトを求めて

そうして物語は感動の最終章「少年と犬」へと進む。「多門」はなぜ飼い主ではないひとりの少年を追って、長い長い旅をしてきたのかが明かされるのだ。

 

人は、犬は人間が選ぶものと思っている。が、本当にそうだろうか? もしかしたら、犬のほうが人間を選んでいるのかもしれない。本書を読み終えるとますますそう思えるようになった。

 

『少年と犬』は半グレ、泥棒、娼婦などが登場し、ノワール小説の旗手である馳氏にしか書けないテンポのいい作品に仕上がっている。『ソウルメイト』や『雨降る森の犬』など、馳氏の犬小説はすべて読んでいるが、本書はその中でも最高、まさに直木賞にふさわしい一作と言える。

 

【書籍紹介】

少年と犬

著者:馳 星周
発行:文藝春秋

家族のために犯罪に手を染めた男。拾った犬は男の守り神になった−−男と犬。仲間割れを起こした窃盗団の男は、守り神の犬を連れて故国を目指す−−泥棒と犬。壊れかけた夫婦は、その犬をそれぞれ別の名前で呼んでいた−−夫婦と犬。体を売って男に貢ぐ女。どん底の人生で女に温もりを与えたのは犬だった−−娼婦と犬。老猟師の死期を知っていたかのように、その犬はやってきた−−老人と犬。震災のショックで心を閉ざした少年は、その犬を見て微笑んだ−−少年と犬。犬を愛する人に贈る感涙作。

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これからのブランディングキーワードは「勝手に」。テレビプロデューサーが考える弱みも強みに変える演出法とは?

世の中はモノであふれ、流行は一瞬! そんな中で、新商品開発やブランディングをしていくことって、本当大変ですよね。上司からは「今度発売するうちの商品をバズらせたい!」と謎な目標を掲げられて、いやいや「誰にですか?」と聞けば、「SNSとかでドーンとさ〜」なんて曖昧な回答……。一体、誰のためのなんの仕事なんだよ! と思っちゃいますよね。そんな鬱憤を抱えるあなたに、ぜひ読んでいただきたいのが、『チバテレ売れっ子プロデューサーが教える 言ったもの勝ち! 「勝手に」演出術』(大林 健太郎・著/秀和システム・刊)です。

 

この本の著者、大林健太郎さんは、チバテレビで働きながら、年間60本以上の講演をされているという売れっ子テレビプロデューサー。プロデューサーといえば、肩からカーディガンをかけて(って古い!)、ブイブイ言わせているイメージですが、大林さんは戦略家のような、小さな会社を大きく変える『下町ロケット』の阿部寛さんのような、地に足がついているような方なんだろうな〜というのを読んでいて感じました。今回は、ブランディングにお困りのあなたを救う方法をお伝えしていきます。

 

 

チバテレビのプロデューサーは何しているの?

いきなり本書の内容に入る前に、著者の大林さんがどんなお仕事をしているかご紹介しましょう。

 

千葉県や、その近隣にお住まいの方で「チバテレビ」と聞けば、「あぁ〜3チャンネルね」と思い浮かぶ人もいると思いますが、それ以外の人は電波が入らないので、なかなか見られないチャンネルです。私も以前、江戸川区に住んでいた時には「東京MX」よりも「チバテレビ」をみていたのですが、現在は残念ながら受信できず、5年以上チバテレビを見れていません。悔しい!(笑)

 

そんなローカル局のプロデューサーさんは、一体どんなお仕事をされているのでしょうか?

 

テレビ局の社員と言っても、実際はまさに「なんでも屋」。ときには漁師町で釣り糸を売りましたし、着ぐるみの中にも入りました(笑)。

そんな職場ですから、プロデューサーになってからも、一般的なキー局のプロデューサーでは考えられないような、ちょっと変わった仕事の仕方をしています。

 (『チバテレ売れっ子プロデューサーが教える 言ったもの勝ち! 「勝手に」演出術』より引用)

 

というのも、地元企業と良好な関係を築いていかないと地方テレビ局としての存続が大変になってくるため、キー局以上に企業との関係を強固にしつつ、視聴者の方にも楽しんでもらえるような番組を作る必要があるのだとか。ただ、番組で企業を紹介して終わりではなく、次にも繋がる&視聴者も喜ぶ企画を考えているのがプロデューサーのお仕事だというのです。そんなことどうやったら可能になるのでしょうか?

 

そんなわけで、私は今でも毎日、喫茶店で4〜5社の会社の社長や広報の人と話をしています。そして、そのとき聞いたことの中から、演出のネタを瞬時に見つけて磨いていく、という仕事を10年以上続けています。

 (『チバテレ売れっ子プロデューサーが教える 言ったもの勝ち! 「勝手に」演出術』より引用)

 

すごい……。もう「なんでも屋」を通り越して、大林さんじゃなきゃできない仕事に変わっている! そんな大林さんの演出のネタとなるもののキーワードが「勝手に」なのです。一体どんな「勝手に」があるのかいくつかご紹介していきましょう!

 

 

勝手に「大谷翔平」になる

『チバテレ売れっ子プロデューサーが教える 言ったもの勝ち! 「勝手に」演出術』では、これまで1200社以上の企業を演出してきた大林さんの勝手な演出術がいくつも紹介されています。

 

その中でも面白かったのが、勝手に「大谷翔平」になる、という演出方法。そんな簡単に大谷翔平にはなれないよ! と思ってしまいますが、大谷翔平選手のような二刀流を武器にして、演出した企業があったそうです。

 

その企業は「オレンジ歯科」という歯医者さん。なんとここの村上院長は家庭教師もお仕事としてやられているというのです。一見ミスマッチな仕事をそれぞれやっているだけでは「ふ〜ん」で終わってしまうのですが、視聴者が「なるほど!」と思える部分はどこにあったのでしょうか?

 

このときポイントとなるのが、単に二刀流というだけでなく、「二刀流だからこそ〇〇できる」というセールスポイントにまで結びつけること。

例えば村上院長の場合は、オレンジ歯科というクリニックでの診療も行いつつ、訪問歯科にも精力的に取り組んでいました。訪問歯科というのは、患者さんのご自宅や、入院している施設などに出向いて歯のケアや治療を行うというものです。自宅に出向くという点では、何となく家庭教師の仕事と共通点がありますね。

実際、村上院長のお話では、家庭教師でものを教えたり、相談に乗ったりしている経験が、訪問歯科でもとても役立っているとのことでした。

番組ではそうしたお話もしていただけたので、歯科医と家庭教師の二刀流という特徴が存分に発揮された内容になったと思います。

 (『チバテレ売れっ子プロデューサーが教える 言ったもの勝ち! 「勝手に」演出術』より引用)

 

最近は、副業やダブルワークなんてことも言われていて、多様な働き方ができるようになっていますが、似たような仕事や自分の仕事のスキルを生かした方が多いように思います。もちろん一刀流で攻めていくのも良いですが、ちょっと視点を変えてみることで、あなたの才能も二刀流だからこそできることに進化するかもしれませんよ!

 

 

勝手に「〇〇採用」をする

採用がどんどん厳しくなってきている昨今ですが、大林さんの元にも集客に加えて採用をプロデュースして欲しいという相談も来るそうです。商品をPRするためにテレビに出演するだけでなく、採用までとは幅広い……! そこで紹介したいのが、勝手に「〇〇採用」をするという演出方法です。

 

そんなとき、直球勝負で採用そのものを演出してしまうというのも一つの手です。

この手法の代表例としてご紹介したいのが、東京の港区にある「株式会社ココト」さん。システム開発などを行っている会社さんです。

この会社はとても遊び心のある会社で、もともと「小林採用」なるものを実施していました。これは、小林さんという苗字の人間を率先して採用するというものです。

 (『チバテレ売れっ子プロデューサーが教える 言ったもの勝ち! 「勝手に」演出術』より引用)

 

嘘でしょ!?  と思い「小林採用」で検索してみると、一番上にこの会社の採用ページが出てきました(笑)。思わず笑ってしまいましたが、真面目にこの採用方法を取り組まれているようです。

 

さらに大林さんプロデュースのチバテレビ『ナイツのHIT商品会議室』に出演したことがきっかけで、「ナイツ採用」も追加したそうです(笑)。

https://www.cocoto.co.jp/recruit/knights/

 

この「ナイツ採用」は、お笑いコンビ・ナイツの考えた応募資格に当てはまる人は、書類選考を優遇するというもの! 一見ふざけているように見えるかもしれませんが、これで応募が増えているというのですから、驚きです。「面白い」と思う演出ができれば、それが広がっていくというのは本当にすごいことですよね。大きなお金がかかってしまう採用も、演出ひとつで応募が増えるきっかけを作ることができるかもしれません。

 

勝手な演出方法は全部で38例も紹介されています。あなたの悩みを解決できる勝手な演出方法やヒントがあるはずです。日々の仕事に鬱憤を抱えているのなら、ぜひ読んでみてください!

 

【書籍紹介】

チバテレ売れっ子プロデューサーが教える 言ったもの勝ち! 「勝手に」演出術

著者:大林健太郎
発行:秀和システム

どんな会社・商品でもセールスポイントはつくれる! 地方独立局でビジネス番組を10年間作り続けたからこそ編み出せた、ユニークだけど効果抜群の方法を教えます。ブランディングに悩む企業の経営者・広報担当者は必読の一冊です。

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これからのブランディングキーワードは「勝手に」。テレビプロデューサーが考える弱みも強みに変える演出法とは?

世の中はモノであふれ、流行は一瞬! そんな中で、新商品開発やブランディングをしていくことって、本当大変ですよね。上司からは「今度発売するうちの商品をバズらせたい!」と謎な目標を掲げられて、いやいや「誰にですか?」と聞けば、「SNSとかでドーンとさ〜」なんて曖昧な回答……。一体、誰のためのなんの仕事なんだよ! と思っちゃいますよね。そんな鬱憤を抱えるあなたに、ぜひ読んでいただきたいのが、『チバテレ売れっ子プロデューサーが教える 言ったもの勝ち! 「勝手に」演出術』(大林 健太郎・著/秀和システム・刊)です。

 

この本の著者、大林健太郎さんは、チバテレビで働きながら、年間60本以上の講演をされているという売れっ子テレビプロデューサー。プロデューサーといえば、肩からカーディガンをかけて(って古い!)、ブイブイ言わせているイメージですが、大林さんは戦略家のような、小さな会社を大きく変える『下町ロケット』の阿部寛さんのような、地に足がついているような方なんだろうな〜というのを読んでいて感じました。今回は、ブランディングにお困りのあなたを救う方法をお伝えしていきます。

 

 

チバテレビのプロデューサーは何しているの?

いきなり本書の内容に入る前に、著者の大林さんがどんなお仕事をしているかご紹介しましょう。

 

千葉県や、その近隣にお住まいの方で「チバテレビ」と聞けば、「あぁ〜3チャンネルね」と思い浮かぶ人もいると思いますが、それ以外の人は電波が入らないので、なかなか見られないチャンネルです。私も以前、江戸川区に住んでいた時には「東京MX」よりも「チバテレビ」をみていたのですが、現在は残念ながら受信できず、5年以上チバテレビを見れていません。悔しい!(笑)

 

そんなローカル局のプロデューサーさんは、一体どんなお仕事をされているのでしょうか?

 

テレビ局の社員と言っても、実際はまさに「なんでも屋」。ときには漁師町で釣り糸を売りましたし、着ぐるみの中にも入りました(笑)。

そんな職場ですから、プロデューサーになってからも、一般的なキー局のプロデューサーでは考えられないような、ちょっと変わった仕事の仕方をしています。

 (『チバテレ売れっ子プロデューサーが教える 言ったもの勝ち! 「勝手に」演出術』より引用)

 

というのも、地元企業と良好な関係を築いていかないと地方テレビ局としての存続が大変になってくるため、キー局以上に企業との関係を強固にしつつ、視聴者の方にも楽しんでもらえるような番組を作る必要があるのだとか。ただ、番組で企業を紹介して終わりではなく、次にも繋がる&視聴者も喜ぶ企画を考えているのがプロデューサーのお仕事だというのです。そんなことどうやったら可能になるのでしょうか?

 

そんなわけで、私は今でも毎日、喫茶店で4〜5社の会社の社長や広報の人と話をしています。そして、そのとき聞いたことの中から、演出のネタを瞬時に見つけて磨いていく、という仕事を10年以上続けています。

 (『チバテレ売れっ子プロデューサーが教える 言ったもの勝ち! 「勝手に」演出術』より引用)

 

すごい……。もう「なんでも屋」を通り越して、大林さんじゃなきゃできない仕事に変わっている! そんな大林さんの演出のネタとなるもののキーワードが「勝手に」なのです。一体どんな「勝手に」があるのかいくつかご紹介していきましょう!

 

 

勝手に「大谷翔平」になる

『チバテレ売れっ子プロデューサーが教える 言ったもの勝ち! 「勝手に」演出術』では、これまで1200社以上の企業を演出してきた大林さんの勝手な演出術がいくつも紹介されています。

 

その中でも面白かったのが、勝手に「大谷翔平」になる、という演出方法。そんな簡単に大谷翔平にはなれないよ! と思ってしまいますが、大谷翔平選手のような二刀流を武器にして、演出した企業があったそうです。

 

その企業は「オレンジ歯科」という歯医者さん。なんとここの村上院長は家庭教師もお仕事としてやられているというのです。一見ミスマッチな仕事をそれぞれやっているだけでは「ふ〜ん」で終わってしまうのですが、視聴者が「なるほど!」と思える部分はどこにあったのでしょうか?

 

このときポイントとなるのが、単に二刀流というだけでなく、「二刀流だからこそ〇〇できる」というセールスポイントにまで結びつけること。

例えば村上院長の場合は、オレンジ歯科というクリニックでの診療も行いつつ、訪問歯科にも精力的に取り組んでいました。訪問歯科というのは、患者さんのご自宅や、入院している施設などに出向いて歯のケアや治療を行うというものです。自宅に出向くという点では、何となく家庭教師の仕事と共通点がありますね。

実際、村上院長のお話では、家庭教師でものを教えたり、相談に乗ったりしている経験が、訪問歯科でもとても役立っているとのことでした。

番組ではそうしたお話もしていただけたので、歯科医と家庭教師の二刀流という特徴が存分に発揮された内容になったと思います。

 (『チバテレ売れっ子プロデューサーが教える 言ったもの勝ち! 「勝手に」演出術』より引用)

 

最近は、副業やダブルワークなんてことも言われていて、多様な働き方ができるようになっていますが、似たような仕事や自分の仕事のスキルを生かした方が多いように思います。もちろん一刀流で攻めていくのも良いですが、ちょっと視点を変えてみることで、あなたの才能も二刀流だからこそできることに進化するかもしれませんよ!

 

 

勝手に「〇〇採用」をする

採用がどんどん厳しくなってきている昨今ですが、大林さんの元にも集客に加えて採用をプロデュースして欲しいという相談も来るそうです。商品をPRするためにテレビに出演するだけでなく、採用までとは幅広い……! そこで紹介したいのが、勝手に「〇〇採用」をするという演出方法です。

 

そんなとき、直球勝負で採用そのものを演出してしまうというのも一つの手です。

この手法の代表例としてご紹介したいのが、東京の港区にある「株式会社ココト」さん。システム開発などを行っている会社さんです。

この会社はとても遊び心のある会社で、もともと「小林採用」なるものを実施していました。これは、小林さんという苗字の人間を率先して採用するというものです。

 (『チバテレ売れっ子プロデューサーが教える 言ったもの勝ち! 「勝手に」演出術』より引用)

 

嘘でしょ!?  と思い「小林採用」で検索してみると、一番上にこの会社の採用ページが出てきました(笑)。思わず笑ってしまいましたが、真面目にこの採用方法を取り組まれているようです。

 

さらに大林さんプロデュースのチバテレビ『ナイツのHIT商品会議室』に出演したことがきっかけで、「ナイツ採用」も追加したそうです(笑)。

https://www.cocoto.co.jp/recruit/knights/

 

この「ナイツ採用」は、お笑いコンビ・ナイツの考えた応募資格に当てはまる人は、書類選考を優遇するというもの! 一見ふざけているように見えるかもしれませんが、これで応募が増えているというのですから、驚きです。「面白い」と思う演出ができれば、それが広がっていくというのは本当にすごいことですよね。大きなお金がかかってしまう採用も、演出ひとつで応募が増えるきっかけを作ることができるかもしれません。

 

勝手な演出方法は全部で38例も紹介されています。あなたの悩みを解決できる勝手な演出方法やヒントがあるはずです。日々の仕事に鬱憤を抱えているのなら、ぜひ読んでみてください!

 

【書籍紹介】

チバテレ売れっ子プロデューサーが教える 言ったもの勝ち! 「勝手に」演出術

著者:大林健太郎
発行:秀和システム

どんな会社・商品でもセールスポイントはつくれる! 地方独立局でビジネス番組を10年間作り続けたからこそ編み出せた、ユニークだけど効果抜群の方法を教えます。ブランディングに悩む企業の経営者・広報担当者は必読の一冊です。

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これからのブランディングキーワードは「勝手に」。テレビプロデューサーが考える弱みも強みに変える演出法とは?

世の中はモノであふれ、流行は一瞬! そんな中で、新商品開発やブランディングをしていくことって、本当大変ですよね。上司からは「今度発売するうちの商品をバズらせたい!」と謎な目標を掲げられて、いやいや「誰にですか?」と聞けば、「SNSとかでドーンとさ〜」なんて曖昧な回答……。一体、誰のためのなんの仕事なんだよ! と思っちゃいますよね。そんな鬱憤を抱えるあなたに、ぜひ読んでいただきたいのが、『チバテレ売れっ子プロデューサーが教える 言ったもの勝ち! 「勝手に」演出術』(大林 健太郎・著/秀和システム・刊)です。

 

この本の著者、大林健太郎さんは、チバテレビで働きながら、年間60本以上の講演をされているという売れっ子テレビプロデューサー。プロデューサーといえば、肩からカーディガンをかけて(って古い!)、ブイブイ言わせているイメージですが、大林さんは戦略家のような、小さな会社を大きく変える『下町ロケット』の阿部寛さんのような、地に足がついているような方なんだろうな〜というのを読んでいて感じました。今回は、ブランディングにお困りのあなたを救う方法をお伝えしていきます。

 

 

チバテレビのプロデューサーは何しているの?

いきなり本書の内容に入る前に、著者の大林さんがどんなお仕事をしているかご紹介しましょう。

 

千葉県や、その近隣にお住まいの方で「チバテレビ」と聞けば、「あぁ〜3チャンネルね」と思い浮かぶ人もいると思いますが、それ以外の人は電波が入らないので、なかなか見られないチャンネルです。私も以前、江戸川区に住んでいた時には「東京MX」よりも「チバテレビ」をみていたのですが、現在は残念ながら受信できず、5年以上チバテレビを見れていません。悔しい!(笑)

 

そんなローカル局のプロデューサーさんは、一体どんなお仕事をされているのでしょうか?

 

テレビ局の社員と言っても、実際はまさに「なんでも屋」。ときには漁師町で釣り糸を売りましたし、着ぐるみの中にも入りました(笑)。

そんな職場ですから、プロデューサーになってからも、一般的なキー局のプロデューサーでは考えられないような、ちょっと変わった仕事の仕方をしています。

 (『チバテレ売れっ子プロデューサーが教える 言ったもの勝ち! 「勝手に」演出術』より引用)

 

というのも、地元企業と良好な関係を築いていかないと地方テレビ局としての存続が大変になってくるため、キー局以上に企業との関係を強固にしつつ、視聴者の方にも楽しんでもらえるような番組を作る必要があるのだとか。ただ、番組で企業を紹介して終わりではなく、次にも繋がる&視聴者も喜ぶ企画を考えているのがプロデューサーのお仕事だというのです。そんなことどうやったら可能になるのでしょうか?

 

そんなわけで、私は今でも毎日、喫茶店で4〜5社の会社の社長や広報の人と話をしています。そして、そのとき聞いたことの中から、演出のネタを瞬時に見つけて磨いていく、という仕事を10年以上続けています。

 (『チバテレ売れっ子プロデューサーが教える 言ったもの勝ち! 「勝手に」演出術』より引用)

 

すごい……。もう「なんでも屋」を通り越して、大林さんじゃなきゃできない仕事に変わっている! そんな大林さんの演出のネタとなるもののキーワードが「勝手に」なのです。一体どんな「勝手に」があるのかいくつかご紹介していきましょう!

 

 

勝手に「大谷翔平」になる

『チバテレ売れっ子プロデューサーが教える 言ったもの勝ち! 「勝手に」演出術』では、これまで1200社以上の企業を演出してきた大林さんの勝手な演出術がいくつも紹介されています。

 

その中でも面白かったのが、勝手に「大谷翔平」になる、という演出方法。そんな簡単に大谷翔平にはなれないよ! と思ってしまいますが、大谷翔平選手のような二刀流を武器にして、演出した企業があったそうです。

 

その企業は「オレンジ歯科」という歯医者さん。なんとここの村上院長は家庭教師もお仕事としてやられているというのです。一見ミスマッチな仕事をそれぞれやっているだけでは「ふ〜ん」で終わってしまうのですが、視聴者が「なるほど!」と思える部分はどこにあったのでしょうか?

 

このときポイントとなるのが、単に二刀流というだけでなく、「二刀流だからこそ〇〇できる」というセールスポイントにまで結びつけること。

例えば村上院長の場合は、オレンジ歯科というクリニックでの診療も行いつつ、訪問歯科にも精力的に取り組んでいました。訪問歯科というのは、患者さんのご自宅や、入院している施設などに出向いて歯のケアや治療を行うというものです。自宅に出向くという点では、何となく家庭教師の仕事と共通点がありますね。

実際、村上院長のお話では、家庭教師でものを教えたり、相談に乗ったりしている経験が、訪問歯科でもとても役立っているとのことでした。

番組ではそうしたお話もしていただけたので、歯科医と家庭教師の二刀流という特徴が存分に発揮された内容になったと思います。

 (『チバテレ売れっ子プロデューサーが教える 言ったもの勝ち! 「勝手に」演出術』より引用)

 

最近は、副業やダブルワークなんてことも言われていて、多様な働き方ができるようになっていますが、似たような仕事や自分の仕事のスキルを生かした方が多いように思います。もちろん一刀流で攻めていくのも良いですが、ちょっと視点を変えてみることで、あなたの才能も二刀流だからこそできることに進化するかもしれませんよ!

 

 

勝手に「〇〇採用」をする

採用がどんどん厳しくなってきている昨今ですが、大林さんの元にも集客に加えて採用をプロデュースして欲しいという相談も来るそうです。商品をPRするためにテレビに出演するだけでなく、採用までとは幅広い……! そこで紹介したいのが、勝手に「〇〇採用」をするという演出方法です。

 

そんなとき、直球勝負で採用そのものを演出してしまうというのも一つの手です。

この手法の代表例としてご紹介したいのが、東京の港区にある「株式会社ココト」さん。システム開発などを行っている会社さんです。

この会社はとても遊び心のある会社で、もともと「小林採用」なるものを実施していました。これは、小林さんという苗字の人間を率先して採用するというものです。

 (『チバテレ売れっ子プロデューサーが教える 言ったもの勝ち! 「勝手に」演出術』より引用)

 

嘘でしょ!?  と思い「小林採用」で検索してみると、一番上にこの会社の採用ページが出てきました(笑)。思わず笑ってしまいましたが、真面目にこの採用方法を取り組まれているようです。

 

さらに大林さんプロデュースのチバテレビ『ナイツのHIT商品会議室』に出演したことがきっかけで、「ナイツ採用」も追加したそうです(笑)。

https://www.cocoto.co.jp/recruit/knights/

 

この「ナイツ採用」は、お笑いコンビ・ナイツの考えた応募資格に当てはまる人は、書類選考を優遇するというもの! 一見ふざけているように見えるかもしれませんが、これで応募が増えているというのですから、驚きです。「面白い」と思う演出ができれば、それが広がっていくというのは本当にすごいことですよね。大きなお金がかかってしまう採用も、演出ひとつで応募が増えるきっかけを作ることができるかもしれません。

 

勝手な演出方法は全部で38例も紹介されています。あなたの悩みを解決できる勝手な演出方法やヒントがあるはずです。日々の仕事に鬱憤を抱えているのなら、ぜひ読んでみてください!

 

【書籍紹介】

チバテレ売れっ子プロデューサーが教える 言ったもの勝ち! 「勝手に」演出術

著者:大林健太郎
発行:秀和システム

どんな会社・商品でもセールスポイントはつくれる! 地方独立局でビジネス番組を10年間作り続けたからこそ編み出せた、ユニークだけど効果抜群の方法を教えます。ブランディングに悩む企業の経営者・広報担当者は必読の一冊です。

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2020年本屋大賞受賞作『アーモンド』を読んで思ったのは、「とどのつまり、この世で大切なのは愛だろ、愛!」ってこと。

人は、とりわけ女子という生き物は、「共感」が命、みたいなところがある。

 

話の内容が自慢でも悩みでも取るに足らない出来事でも、まずは「わかる!」とか「そうなの? すごいじゃん!」などと共感を示すことで、相手との距離はぐっと縮まるものだ。

 

これはあらゆるシーンで活かせるテクニックで、どんなに反りが合わない相手との会話でも、共感する言葉や表現、仕草を交えると、不思議と角が立たない。「共感」は、おそらくコミュニケーションにおいて、1、2を争う重要度だと思う。

 

以前読んだ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』でも、カギとなるのはエンパシー(empathy/共感・感情移入・自己移入の意)だった。

 

いま話題の小説『アーモンド』(ソン・ウォンピョン・著、矢島暁子・訳/祥伝社・刊)は、そんな「共感力」を生まれつき持たない少年が主人公の物語だ。

 

 

感情を持たない少年と、感情が激しすぎる少年の出会い

扁桃体(アーモンド)が生まれつき人よりも小さく、喜怒哀楽をはじめとした「感情」がわからないユンジェ。

 

どんな出来事が目の前で起こっても、喜んだり悲しんだりするどころか、怒り、恐れなどの感情も湧いてこない。自らの感情がわからないのだから、他人の感情も当然わかるはずもない。

 

一度も笑ったことのない、いわばロボットや怪物のようなユンジェを、人は気味悪がり、コソコソと嘲笑う。

 

その無表情さ、(いわゆる普通の感情を持ち合わせている人にとっての)異質さは、本書の表紙を見れば一目瞭然だ。一切の感情を持たない、黒く暗い瞳。その視線の先にあるのは色を持った世界なのか、はたまた仄暗い世界なのかを思わず問うてしまう。イラストでありながら、こちらの心をわしづかみにする、インパクトが大きすぎる表紙。

 

物語は、ユンジェがもうひとりの怪物・ゴニと出会って一気に進んでいく。ゴニは、感情の起伏が激しすぎる、他人から見たら「扱いづらい」少年だ。まさに、ユンジェの対局に位置する存在。

 

ゼロの感情と、針が振り切るほどの感情がぶつかり合うと、どのような化学反応が起こるのか。『アーモンド』ひとつめの読みどころは、この点にある。

 

 

綺麗事かもしれないけれど、この世は愛がすべてだということ

もうひとつの読みどころは、感情を持たないユンジェが語り手であるがゆえに、起こった出来事が淡々と、事実だけで述べられている点だろう。

 

語り手の感情が盛り込まれていないからこそ、わかりやすく、読みやすく、読み手の心を大きく揺さぶる。読み進めていくにつれて、ユンジェ自身も気づいていない細かな心の機微が浮き出てくるような感覚だった。

 

そして、本書で強く感じたのが、やっぱり、結局は、愛が大切だということ。

 

ユンジェを心から愛し、他人とうまく生きていけるようにあらゆる力を注いでくれたのが、彼の祖母と母だった。

 

肉親でも、友人でも、偶然出会った他人でもいい。誰か一人でも自分の存在を愛おしく想い、愛を持って接してくれる存在がいるのであれば、この世のあらゆる事件は解決してしまうのではないか。

 

でも私は、人間を人間にするのも、怪物にするのも愛だと思うようになった。そんな話を書いてみたかった。

(『アーモンド』作者の言葉より引用)

 

著者がこの『アーモンド』を、出産直後から子育てをしながら3年間かけて完成させたという背景もまた興味深く、作品により深みをもたせているように感じる。

 

本書の挿絵の色合い(濃淡)などにも注目しながら、ぜひ読んでほしい一冊だ。

 

【書籍紹介】

アーモンド

著者:ソン・ウォンピョン
発行:祥伝社

扁桃体が人より小さく、怒りや恐怖を感じることができない十六歳の高校生、ユンジェ。そんな彼は、十五歳の誕生日に、目の前で祖母と母が通り魔に襲われたときも、ただ黙ってその光景を見つめているだけだった。母は、感情がわからない息子に「喜」「怒」「哀」「楽」「愛」「悪」「欲」を丸暗記されることで、なんとか“普通の子”に見えるようにと訓練してきた。だが、母は事件によって植物状態になり、ユンジェはひとりぼっちになってしまう。そんなとき現れたのが、もう一人の“怪物”、ゴニだった。激しい感情を持つその少年との出会いは、ユンジェの人生を大きく変えていく—。怪物と呼ばれた少年が愛によって変わるまで。

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レノボ・ジャパン社長の日本語愛に満ちた1冊ーー『外資系社長が出合った 不思議すぎる日本語』

文章を書くことが仕事なので、伝わりやすい形容や比喩、あるいは例えツッコミ的な表現のバリエーションは数多く持っておきたい。意識的に探してはいないけれど、目につくものは記録しているなかで、死語に近い言い回しがいまだに使われているのに気づくことがある。

 

 

アウト・オブ・デイトな表現

この間、少し上の年代の方とお話ししていた時「そりゃあ、六日のあやめだね!」とおっしゃった。その瞬間は中途半端な微笑みを返すだけで済ませ、相手がトイレに行った隙にスマホで調べて意味を確認した。“時機に遅れて役に立たないものごとのたとえ”らしい。

 

「クモの子を散らす」は、かつてはビジュアルな表現の代表格だったのだろう。でも、1962年生まれの筆者でさえ、実際にクモの子が散るところは見たことがない。比喩表現というのは、聞く人の大多数がすぐに思い浮かべることができる集合的無意識に近いイメージに基づくはずだ。そしてそれは、時代と共に変化して当然だろう。

 

 

日本語愛に満ちた本

日本で生まれて日本で育ち、ずっと日本語を使ってきた人間でさえ意味や使うシチュエーションについて不確かな表現があるのだから、外国生まれの人にとってはかなり難しいに違いない。

 

日本語を学ぶ人なら誰もが一度は感じたことがあるはずの疑問に答えてくれるのが『外資系社長が出合った 不思議すぎる日本語』(デビッド・ベネット・著/株式会社KADOKAWA・刊)だ。この本の最大の特徴を訊ねられたら、筆者は即座に「日本語愛」と答える。

 

著者のベネットさんはカナダのトロントで育ち、高校1年生で交換留学生として初来日。一度カナダに帰り、大学3年生の時に再来日して早稲田大学日本語教育センターで学んだ。カナダに帰って大学院を卒業した後、もう一度日本へ。この時は文部科学省の国費外国人留学生制度を利用し、学習院女子大学大学院で平安時代の古典文学を学んだ。ベネットさん自身も“日本語の虜”になっていったと語っている。

 

 

「日本語お上手ですね」なんていうレベルじゃない

現在レノボ・ジャパンの代表取締役を務めるベネットさんは、面白いと感じた表現や微妙な言葉遣い、そして文法に関する知識を学生のころから書き溜めてきた。

 

当時は将来日本語研究者になることを密かに夢見ていたのですが、守らなければならない家族ができていたので、もう一つの得意分野であったITの世界に身を置くようになります。

しかしそれ以降もこのメモだけはコツコツと更新を続け、気がつくと膨大な量になっていました。

                『外資系社長が出合った不思議すぎる日本語』より引用

 

日本語ネイティブではない人が流れのよい言葉遣いで文章を綴るのを目の当たりにすると、ちょっと焦りを感じる。「日本語、お上手ですね」なんていうレベルの話じゃない。

 

 

不思議で理不尽だからこその愛情

心から愛しているからこそ、疑問が生まれると徹底的に解明したくなる。その姿勢は、章立てにも垣間見える。

 

PART 1 これって何!? 直訳できない変な日本語

PART 2 ウサギは一羽、パンツは一丁? 日本語の数え方

PART 3 なんでそうなる!? 矛盾した日本語

PART 4 何が違うの? 似ている日本語

PART 5 謎がいっぱい! 漢字の秘密

PART 6 頼む、教えてくれ! 考えると眠れなくなる日本語

PART 7 外資系社長もびっくり! 仕事の日本語

 

漢字の勉強の難しさはある程度わかるような気がするが、次のような例はどうだろう。筆者が冒頭で紹介した表現を思い出していただきたい。

 

ヤニ下がる(脂下がる)。最近の人はあまり使わない言葉ですね。しかし日本語を習っている外国人には、その言葉を今の日本人が実際に使っているかどうかを知るすべはありませんので、時にはこうした珍しい日本語について、日本人以上の知識を身につけてしまうことがあります。

『外資系社長が出合った不思議すぎる日本語』より引用

 

日本人にとってはあまりにも当たり前―慣用的すぎる―であるがゆえに、どうやって説明したらよいのか悩むものもある。

 

日本人の皆さんは、「グリーンシグナル」と「青信号」が同じものであることはごく自然に受け止められると思います。しかし、例えばですよ、茶色の犬を見て「ピンク色の犬」と言われたらかなり混乱しますよね。これが私たち外国人の感覚なんです。

                『外資系社長が出合った不思議すぎる日本語』より引用

 

確かに、緑(グリーン)は青(ブルー)じゃない。色つながりでもうひとつ。「紅白歌合戦」なのに、対決構造は“紅組”ではなく“赤組”対白組であることの不思議さについて記された文章には、考えさせられた。

 

 

参加意識が高まる一冊

長年書き溜めたネタから厳選された全52項目は、「やっぱりね」「ああ、そういう風に受け取る?」「確かに理不尽だな」なんて、いちいちリアクションを取りながら読んでしまう。参加意識が高まる一冊だ。シチュエーション説明のイラストと本文の組み合わせという体裁も読みやすい。

 

各章の終わりにある6つのコラムは発音や英語と日本語の構造的特徴について、日本語英語の聞こえ方についてなど、実践的な内容だ。ネルソン・マンデラ氏が残した印象的な言葉も紹介されている。

 

「相手が理解できる言葉で話せば、あなたの言いたいことは伝わるだろう。相手の母国語で話せば、あなたの言いたいことは相手の心にまで届くだろう」

                『外資系社長が出合った不思議すぎる日本語』より引用

 

この言葉を心に刻んでいるからこそ、そこまで日本語を愛してくれるのですね。

 

 

【書籍紹介】

外資系社長が出合った不思議すぎる日本語

著者:デビット・ベネット
発行:KADOKAWA

日本の古典文学とコンピュータ工学を専攻したカナダ人社長が15年にわたり書き留めてきた「外国人が気になる日本語」

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レノボ・ジャパン社長の日本語愛に満ちた1冊ーー『外資系社長が出合った 不思議すぎる日本語』

文章を書くことが仕事なので、伝わりやすい形容や比喩、あるいは例えツッコミ的な表現のバリエーションは数多く持っておきたい。意識的に探してはいないけれど、目につくものは記録しているなかで、死語に近い言い回しがいまだに使われているのに気づくことがある。

 

 

アウト・オブ・デイトな表現

この間、少し上の年代の方とお話ししていた時「そりゃあ、六日のあやめだね!」とおっしゃった。その瞬間は中途半端な微笑みを返すだけで済ませ、相手がトイレに行った隙にスマホで調べて意味を確認した。“時機に遅れて役に立たないものごとのたとえ”らしい。

 

「クモの子を散らす」は、かつてはビジュアルな表現の代表格だったのだろう。でも、1962年生まれの筆者でさえ、実際にクモの子が散るところは見たことがない。比喩表現というのは、聞く人の大多数がすぐに思い浮かべることができる集合的無意識に近いイメージに基づくはずだ。そしてそれは、時代と共に変化して当然だろう。

 

 

日本語愛に満ちた本

日本で生まれて日本で育ち、ずっと日本語を使ってきた人間でさえ意味や使うシチュエーションについて不確かな表現があるのだから、外国生まれの人にとってはかなり難しいに違いない。

 

日本語を学ぶ人なら誰もが一度は感じたことがあるはずの疑問に答えてくれるのが『外資系社長が出合った 不思議すぎる日本語』(デビッド・ベネット・著/株式会社KADOKAWA・刊)だ。この本の最大の特徴を訊ねられたら、筆者は即座に「日本語愛」と答える。

 

著者のベネットさんはカナダのトロントで育ち、高校1年生で交換留学生として初来日。一度カナダに帰り、大学3年生の時に再来日して早稲田大学日本語教育センターで学んだ。カナダに帰って大学院を卒業した後、もう一度日本へ。この時は文部科学省の国費外国人留学生制度を利用し、学習院女子大学大学院で平安時代の古典文学を学んだ。ベネットさん自身も“日本語の虜”になっていったと語っている。

 

 

「日本語お上手ですね」なんていうレベルじゃない

現在レノボ・ジャパンの代表取締役を務めるベネットさんは、面白いと感じた表現や微妙な言葉遣い、そして文法に関する知識を学生のころから書き溜めてきた。

 

当時は将来日本語研究者になることを密かに夢見ていたのですが、守らなければならない家族ができていたので、もう一つの得意分野であったITの世界に身を置くようになります。

しかしそれ以降もこのメモだけはコツコツと更新を続け、気がつくと膨大な量になっていました。

                『外資系社長が出合った不思議すぎる日本語』より引用

 

日本語ネイティブではない人が流れのよい言葉遣いで文章を綴るのを目の当たりにすると、ちょっと焦りを感じる。「日本語、お上手ですね」なんていうレベルの話じゃない。

 

 

不思議で理不尽だからこその愛情

心から愛しているからこそ、疑問が生まれると徹底的に解明したくなる。その姿勢は、章立てにも垣間見える。

 

PART 1 これって何!? 直訳できない変な日本語

PART 2 ウサギは一羽、パンツは一丁? 日本語の数え方

PART 3 なんでそうなる!? 矛盾した日本語

PART 4 何が違うの? 似ている日本語

PART 5 謎がいっぱい! 漢字の秘密

PART 6 頼む、教えてくれ! 考えると眠れなくなる日本語

PART 7 外資系社長もびっくり! 仕事の日本語

 

漢字の勉強の難しさはある程度わかるような気がするが、次のような例はどうだろう。筆者が冒頭で紹介した表現を思い出していただきたい。

 

ヤニ下がる(脂下がる)。最近の人はあまり使わない言葉ですね。しかし日本語を習っている外国人には、その言葉を今の日本人が実際に使っているかどうかを知るすべはありませんので、時にはこうした珍しい日本語について、日本人以上の知識を身につけてしまうことがあります。

『外資系社長が出合った不思議すぎる日本語』より引用

 

日本人にとってはあまりにも当たり前―慣用的すぎる―であるがゆえに、どうやって説明したらよいのか悩むものもある。

 

日本人の皆さんは、「グリーンシグナル」と「青信号」が同じものであることはごく自然に受け止められると思います。しかし、例えばですよ、茶色の犬を見て「ピンク色の犬」と言われたらかなり混乱しますよね。これが私たち外国人の感覚なんです。

                『外資系社長が出合った不思議すぎる日本語』より引用

 

確かに、緑(グリーン)は青(ブルー)じゃない。色つながりでもうひとつ。「紅白歌合戦」なのに、対決構造は“紅組”ではなく“赤組”対白組であることの不思議さについて記された文章には、考えさせられた。

 

 

参加意識が高まる一冊

長年書き溜めたネタから厳選された全52項目は、「やっぱりね」「ああ、そういう風に受け取る?」「確かに理不尽だな」なんて、いちいちリアクションを取りながら読んでしまう。参加意識が高まる一冊だ。シチュエーション説明のイラストと本文の組み合わせという体裁も読みやすい。

 

各章の終わりにある6つのコラムは発音や英語と日本語の構造的特徴について、日本語英語の聞こえ方についてなど、実践的な内容だ。ネルソン・マンデラ氏が残した印象的な言葉も紹介されている。

 

「相手が理解できる言葉で話せば、あなたの言いたいことは伝わるだろう。相手の母国語で話せば、あなたの言いたいことは相手の心にまで届くだろう」

                『外資系社長が出合った不思議すぎる日本語』より引用

 

この言葉を心に刻んでいるからこそ、そこまで日本語を愛してくれるのですね。

 

 

【書籍紹介】

外資系社長が出合った不思議すぎる日本語

著者:デビット・ベネット
発行:KADOKAWA

日本の古典文学とコンピュータ工学を専攻したカナダ人社長が15年にわたり書き留めてきた「外国人が気になる日本語」

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レノボ・ジャパン社長の日本語愛に満ちた1冊ーー『外資系社長が出合った 不思議すぎる日本語』

文章を書くことが仕事なので、伝わりやすい形容や比喩、あるいは例えツッコミ的な表現のバリエーションは数多く持っておきたい。意識的に探してはいないけれど、目につくものは記録しているなかで、死語に近い言い回しがいまだに使われているのに気づくことがある。

 

 

アウト・オブ・デイトな表現

この間、少し上の年代の方とお話ししていた時「そりゃあ、六日のあやめだね!」とおっしゃった。その瞬間は中途半端な微笑みを返すだけで済ませ、相手がトイレに行った隙にスマホで調べて意味を確認した。“時機に遅れて役に立たないものごとのたとえ”らしい。

 

「クモの子を散らす」は、かつてはビジュアルな表現の代表格だったのだろう。でも、1962年生まれの筆者でさえ、実際にクモの子が散るところは見たことがない。比喩表現というのは、聞く人の大多数がすぐに思い浮かべることができる集合的無意識に近いイメージに基づくはずだ。そしてそれは、時代と共に変化して当然だろう。

 

 

日本語愛に満ちた本

日本で生まれて日本で育ち、ずっと日本語を使ってきた人間でさえ意味や使うシチュエーションについて不確かな表現があるのだから、外国生まれの人にとってはかなり難しいに違いない。

 

日本語を学ぶ人なら誰もが一度は感じたことがあるはずの疑問に答えてくれるのが『外資系社長が出合った 不思議すぎる日本語』(デビッド・ベネット・著/株式会社KADOKAWA・刊)だ。この本の最大の特徴を訊ねられたら、筆者は即座に「日本語愛」と答える。

 

著者のベネットさんはカナダのトロントで育ち、高校1年生で交換留学生として初来日。一度カナダに帰り、大学3年生の時に再来日して早稲田大学日本語教育センターで学んだ。カナダに帰って大学院を卒業した後、もう一度日本へ。この時は文部科学省の国費外国人留学生制度を利用し、学習院女子大学大学院で平安時代の古典文学を学んだ。ベネットさん自身も“日本語の虜”になっていったと語っている。

 

 

「日本語お上手ですね」なんていうレベルじゃない

現在レノボ・ジャパンの代表取締役を務めるベネットさんは、面白いと感じた表現や微妙な言葉遣い、そして文法に関する知識を学生のころから書き溜めてきた。

 

当時は将来日本語研究者になることを密かに夢見ていたのですが、守らなければならない家族ができていたので、もう一つの得意分野であったITの世界に身を置くようになります。

しかしそれ以降もこのメモだけはコツコツと更新を続け、気がつくと膨大な量になっていました。

                『外資系社長が出合った不思議すぎる日本語』より引用

 

日本語ネイティブではない人が流れのよい言葉遣いで文章を綴るのを目の当たりにすると、ちょっと焦りを感じる。「日本語、お上手ですね」なんていうレベルの話じゃない。

 

 

不思議で理不尽だからこその愛情

心から愛しているからこそ、疑問が生まれると徹底的に解明したくなる。その姿勢は、章立てにも垣間見える。

 

PART 1 これって何!? 直訳できない変な日本語

PART 2 ウサギは一羽、パンツは一丁? 日本語の数え方

PART 3 なんでそうなる!? 矛盾した日本語

PART 4 何が違うの? 似ている日本語

PART 5 謎がいっぱい! 漢字の秘密

PART 6 頼む、教えてくれ! 考えると眠れなくなる日本語

PART 7 外資系社長もびっくり! 仕事の日本語

 

漢字の勉強の難しさはある程度わかるような気がするが、次のような例はどうだろう。筆者が冒頭で紹介した表現を思い出していただきたい。

 

ヤニ下がる(脂下がる)。最近の人はあまり使わない言葉ですね。しかし日本語を習っている外国人には、その言葉を今の日本人が実際に使っているかどうかを知るすべはありませんので、時にはこうした珍しい日本語について、日本人以上の知識を身につけてしまうことがあります。

『外資系社長が出合った不思議すぎる日本語』より引用

 

日本人にとってはあまりにも当たり前―慣用的すぎる―であるがゆえに、どうやって説明したらよいのか悩むものもある。

 

日本人の皆さんは、「グリーンシグナル」と「青信号」が同じものであることはごく自然に受け止められると思います。しかし、例えばですよ、茶色の犬を見て「ピンク色の犬」と言われたらかなり混乱しますよね。これが私たち外国人の感覚なんです。

                『外資系社長が出合った不思議すぎる日本語』より引用

 

確かに、緑(グリーン)は青(ブルー)じゃない。色つながりでもうひとつ。「紅白歌合戦」なのに、対決構造は“紅組”ではなく“赤組”対白組であることの不思議さについて記された文章には、考えさせられた。

 

 

参加意識が高まる一冊

長年書き溜めたネタから厳選された全52項目は、「やっぱりね」「ああ、そういう風に受け取る?」「確かに理不尽だな」なんて、いちいちリアクションを取りながら読んでしまう。参加意識が高まる一冊だ。シチュエーション説明のイラストと本文の組み合わせという体裁も読みやすい。

 

各章の終わりにある6つのコラムは発音や英語と日本語の構造的特徴について、日本語英語の聞こえ方についてなど、実践的な内容だ。ネルソン・マンデラ氏が残した印象的な言葉も紹介されている。

 

「相手が理解できる言葉で話せば、あなたの言いたいことは伝わるだろう。相手の母国語で話せば、あなたの言いたいことは相手の心にまで届くだろう」

                『外資系社長が出合った不思議すぎる日本語』より引用

 

この言葉を心に刻んでいるからこそ、そこまで日本語を愛してくれるのですね。

 

 

【書籍紹介】

外資系社長が出合った不思議すぎる日本語

著者:デビット・ベネット
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家族全員の力を合わせてドラクエの世界で算数を学ぼう!ーー『ドラゴンクエストゆうしゃドリル』

学校の教科書というものは、それほどおもしろいものではない。勉強嫌いの子どもにとっては、教科書を開くということが苦痛に感じることもある。だっておもしろくないもんね。

 

最近では、マンガで解説する参考書や、うんこが出てくるドリルなど、勉強にエンターテイメントの手法を取り入れたものが増えてきている。文字だらけの教科書に比べれば、はるかにとっつきやすいだろう。

 

 

ドラクエの世界を算数の力で冒険

そんなエンタメ系学習教材のひとつが『ドラゴンクエストゆうしゃドリル 小学校低学年向け算数編 』(スクウェア・エニックス・編集/刊)だ。推奨学年は小学校2年生となっている。超有名なRPG『ドラゴンクエスト』の世界を、算数の力を使って進んでいき、ラスボスのりゅうおうを倒すというストーリーになっている。

 

主人公はドリルガルド王国の勇者。この世界を支配するりゅうおうを倒すために冒険に旅立つ。相棒は人間が大好きなモンスター、はてなスライムだ。

 

タシザーン、ヒキザーン、サンスーラという町や村で数々の算数の問題を解くだけでなく、武器屋や道具屋で買い物をするときにも算数問題が登場。もちろん、森や洞窟などを抜ける際にもさまざまな算数問題を解いていく必要がある。

 

ストーリーを進めていくと、徐々に問題も難しくなっていく。単純な足し算引き算だけではなく、つるかめ算や図形問題、単位問題なども出てくる。ここ最近算数などに触れていない大人の筆者は、途中からかなり考え込んでしまうこともあった。頭が固くなっているようだ……。

 

 

家族の力を合わせて解く問題もある

本書は、クリアしたマップにシールを貼っていくなどの仕掛けがあるため、子どもならばゲームをクリアしていく感覚で進められる。また、ところどころに「家族でちょうせん!」というコーナーがある。これは少々ハイレベルな問題となっているため、子どもだけではなく保護者や兄弟などと一緒に考えるようになっている。たとえばこんな問題だ。

 

1Lの オケを 持った人が 4人、1dLの オケを 持った人が 6人、1mLの オケを 持った人が 30人います。みんなが 2回ずつ オケで 水を くんだとき、水は どれだけ くめるでしょう?

『ドラゴンクエストゆうしゃドリル 小学校低学年向け算数編 』より引用

 

このような問題が随所に登場するため、子どもだけではなく家族全員で取り組めるというのも本書の特徴と言える。ドラクエでいえばパーティ攻撃のようなものだ。

 

 

まるでドラクエの世界を歩いている気分

ドラクエの開発メーカーであるスクウェア・エニックスが監修しているとあって、ドラキーやぐんたいガニ、ゴーレム、スノードラゴンなどなど、実在(?)するモンスターがそのまま登場する。呪文もドラクエそのままだ。実際にドラクエをやったことがある子どもならば、まるでドラクエの世界を歩いているような感覚になるのではないだろうか。

 

筆者の子どものころは、こんな楽しいドリルはなかった。もしこんなドリルがあったら、もっと算数を勉強していただろう。確定申告だって喜んでやる大人になっていたかもしれない。

 

子どもの勉強嫌いは、無理強いしても治るものではない。怒ったりしても逆効果。それならこのドリルのほうが高い効果が得られるだろう。

 

ちなみに、大人がやってもなかなか骨がある問題が多い。お子さんと一緒にやってみるのもいいだろう。

 

 

【書籍紹介】

ドラゴンクエストゆうしゃドリル

著者:スクウェア・エニックス(編)
発行:スクウェ・エニックス

『ドラゴンクエスト』の世界を題材にした算数の問題を解きながら冒険する、楽しく学ぶ学習ドリル!

ドラゴンクエストゆうしゃドリル 小学校低学年向け算数編
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『銭形平次』から『人体冷凍 不死販売財団の恐怖』まで−−年1000冊の読書量を誇る作家が薦める「お金の使い方」についての5冊

毎日Twitterで読んだ本の短評をあげ続け、読書量は年間1000冊を超える、新進の歴史小説家・谷津矢車さん。今回のテーマは「お金の使い方」です。特別給付金の10万円を何に使うか考えている方も多いかと思いますが、今回紹介する5冊の中にそのヒントがあるかもしれません。

 

【関連記事】
『BLUE GIANT』から『ハーレクイン・ロマンス』まで――年1000冊の読書量を誇る作家が薦める「対話」についての5冊

 


 

この選書連載を追ってくださっている方は薄々勘づいておられるだろうが、わたしは本を買いまくっている。いや、仕方ないのである。そもそも小説家は小説界の動向にアンテナを張っておかなくてはならないし、歴史小説家はさらに歴史的なトピックスに興味を持っておく必要がある。それゆえ、気になった本は片っ端から手に入れ、読むのである。かくしてわたしの家の本棚(金属製)は地震の度に軋み、わたしの後ろで妙な存在感を放っているのである。

 

買い物は個性の発露である。その人の仕事や嗜好、生き方とも連動している。その人の買い物レシートを見れば、その人の心象風景を復元することだって可能なのだ。

 

というわけで、今回の選書テーマは「お金の使い道」である。

 

 

コミュニケーションとしてのお金の使い方

まずご紹介したいのはこちら。『お金さま、いらっしゃい!』(高田かや・著/文藝春秋・刊)である。諸般の事情で大量消費文化に接してこなかった著者(その辺の事情は同著者『カルト村で生まれました。』『さよなら、カルト村。』に詳しい)が、少しずつお金との付き合い方を覚えてきた道程を描いたコミックエッセイである。

 

本書の主人公である著者は大人になるまでまとまったお金を持ったことがほとんどないという変わった経歴の持ち主ゆえに、大人になってから大量消費文化の洗礼を受けるという得難い体験をしている。多くの方が子供のうちに当たり前のこととして受け入れてきた様々な当たり前が、著者にとっては新鮮な体験なのである。

 

彼女は、堅実でありながら、お金を使うこと、お金を通じて人と繋がることを楽しんでらっしゃる風がある。これは、お金のやり取りが当たり前であるわたしたちにはあまり持ちえない視点かもしれない。コミュニケーションのかすがいとしてのお金の使い道を教えてくれる一冊である。

 

 

中世日本のお金の使い方

次にご紹介するのはこちら。『買い物の日本史』(本郷恵子・著/KADOKAWA・刊)である。

 

本書は中世に的を絞り、貨幣経済が浸透しつつある日本列島でどのような消費行動がなされていたかを追う人文書である。しかし、本書を読んでいただくと、中世の人々の「買い物」は、わたしたちの思うそれとはずいぶん意を異にすることに気づいていただけるはずである。

 

日本史に詳しい方だと、成功(じょうごう)をご存じかもしれない。平たく言うと、朝廷から金で官位を買う行為であるが、本書はこの成功の様々なありようについて詳述している。また、寺社への寄進というお金の使い道についても紙幅を割き、彼らの(広義での)消費活動に目を向けている。

 

本書を読んで、形のないものを買うなんて中世人はおかしな人々だ、と考える方もいるかもしれない。だが、ちょっと待ってほしい。我々現代人だって、形なきものを買ってはいないだろうか。例えば、保険はどうだろう。保険は形あるモノを売買しているわけではない。保険の契約によってわたしたちが得るのは、安心という無形のものなのである。わたしたちは今も昔もそんなに変わっていないのかもしれない。そんな気づきが得られる一冊と言えよう。

 

 

「モノ」の価値とはいったい何なのか?

お次に紹介するのは、『世界一高価な切手の物語  なぜ1セントの切手は950万ドルになったのか』(ジェームズ・バロン・著、髙山祥子・訳/東京創元社・刊)である。

 

皆さんの中には切手収集趣味をお持ちの方もいらっしゃると思う。プリントミスやかすれが見逃されて世に出た切手がファンの間で珍重され、時に高値で取引されることは広く知られているだろう。では、世界最高額で取引された切手にどれほどの価値がついたか、ご存じの方はいらっしゃるだろうか。

 

驚くなかれ、なんと、948万ドルである。

 

本書は日本円にして約十億円の値がついた一枚の切手(英国領ギアナ一セント・マゼンタ)を巡るノンフィクション作品である。

 

それにつけても、たった一枚の(しかも一セントの価値を保証するための)紙ぺら一枚に付加価値がつけられ、持ち主が変わるごとに値が吊り上がってゆくなりゆきは奇々怪々の一言である。本書の後ろの方には切手蒐集家の心理について考察がなされているが、それでも読者の多くはなおも疑問に苛まれることだろう。かくいうわたしもそうである。

 

だが、本書は、価値の本質を浮かび上がらせている。商品があり、そしてそれを欲しがる買い手がいる。市場での希少性や需要の高まりにより値段が上がってゆく。需要の高まりを決めるのは、商品を欲しがる買い手の数と、買い手の懐具合である。そして、売り手、買い手が共に納得した上で成立したならば、その商品の価値は目に見える形で確定すると、価値が価値を呼び、うなぎ上りに価値が高まってゆく。

 

英国領ギアナ一セント・マゼンタ。それが売買行為のバグといえるのかもしれない。今回の選書テーマで紹介する所以である。

 

 

唯一無二の「お金の使い方」

お次は『銭形平次捕物控 傑作集(1)陰謀・仇討篇』 (野村胡堂・著/双葉社・刊)はどうだろう。言わずと知れた時代劇のヒーロー銭形平次を主人公にした捕物帖であるが、案外、原作をお読みになったことのない方も結構おられるのではないだろうか。

 

それもそのはず、野村胡堂が銭形平次シリーズを書き始めたのは昭和六年のことである。もはや古典作品といって差し支えあるまい。

 

しかし、現代の目で本書を読んでみると、新鮮な驚きに包まれることだろう。まず気づくのが、時代小説なのに外来語を多用していることだ。これは講談のように地の文の語り手を著者と重ね合わせているからこそ可能なのであるが、要所要所で使われた外来語が軽やかさを演出しているのである。そして何より気が付くことは、銭形平次とその手下八五郎をはじめとする面々のキャラ立ちである。若く才気のある平次とちょっと間抜けた八五郎の掛け合いはまるで現代のライトミステリのような趣さえある。

 

本書を読むうち、現代の時代小説は格調を追い求めるあまり、何か大事なものを失っているのかもしれない、そんなことを思わされる一冊である。

 

えっ? 今回の選書テーマとの整合性? 決まっているじゃないですか。銭形平次といえば銭投げですよ。ユニークなお金の使い道として、これ以上のものはありますまい。

 

 

人類普遍のお金の使い方

最後はノンフィクションから。『人体冷凍 不死販売財団の恐怖』(ラリー・ジョンソン、スコット・バルディガ・著、渡会圭子・訳/講談社/刊)である。

 

皆さんは、人体を冷凍保存している団体が存在することをご存じだろうか。医療目的ではない。未来の技術が発展し、難病治療や不死が実現するのを期待して人体を冷凍保存することで対価を得て運営されている組織が存在するのである。本書は“業界”最大手の人体冷凍保存財団に勤めていた著者がその内実を明かす暴露本である。本書によれば、この財団の遺体の扱いは途轍もなくぞんざいで、遺体に係わるであろう医学などの専門家もほとんどいないらしい。それこそ、未来にここで冷凍保存されている人々が蘇生することなどないと高をくくっているがごとく……。

 

わたしとしては、蘇生目的の人体冷凍保存については「自分はやらない、知り合いがやると言ったら止めない、友人や家族がやると言ったら再考を促す」程度のスタンスである。そんなわたしがなぜ本書を紹介するのかといえば、「未来の技術に期待して自らの遺体を冷凍保存する」というお金の使い道に人間臭さを感じてならないからだ。

 

エジプトの人々は永遠の生命を願いミイラを作り、秦の始皇帝は不老不死の薬を求めて徐福を蓬莱の地に遣わした。人体冷凍保存は、より洗練され(ているように見え)、資本主義的なフレーバーが振りかけられた“不死”に値札をつけている。やや逆説的かもしれないが、“不死”が見果てぬ夢であるために、今も昔もお金の使い道なりうるのである。

 

 

作家の山内マリコは『買い物とわたし お伊勢丹より愛を込めて』(文春文庫)でこう書いている。

 

買い物へのスタンスは、そのまま生き方に直結する。

 

と。お金の使い道はその人の心象風景やライフサイクルを如実に映す鏡なのである。だからこそ、そこには悲喜こもごもがあり、ドラマがあるのだと、今のわたしは考えている。

 

 

【プロフィール】

谷津矢車(やつ・やぐるま)

1986年東京都生まれ。2012年「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞受賞。2013年『洛中洛外画狂伝狩野永徳』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』にて歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。最新作は「桔梗の旗」(潮出版社)。

明智光秀の息子、十五郎(光慶)と女婿・左馬助(秀満)から見た、知られざる光秀の大義とは。明智家二代の父子の物語。

ネットでの行き過ぎた正義感は「中毒症状」なのかもしれない−−『人は、なぜ他人を許せないのか?』

不倫が発覚した芸能人がネットで一斉に叩かれるという傾向が、最近強まっている気がします。なかには批判だけでなく、仕事が降板になり、活動自粛に追い込まれる人も。不倫は決して許されるものではありませんが、ネットで激しく非難する人が大勢いるのはなぜなのでしょうか。

 

 

なぜ不倫した芸能人にイラつくのか

不倫は法的にNGとされている行為です。けれどさまざまな理由から多くの既婚者が不貞をし、そして各地の裁判所ではその慰謝料を求めての闘いが繰り広げられています。裁判で結果が出たら、判決以上の償いを相手に求めることはできません。判決に納得ができなかったら上告し、高等裁判所などで争うしかないのです。

 

けれど、有名人の場合、法で定められた罪以上に重い制裁を受けることがあります。ネットで四方八方から罵声を浴びてしまい、活動に支障が出るケースが増えているのです。このように一斉にネットで誰かを叩く行為はネット私刑(リンチ)とも言われます。

 

不倫が報じられた芸能人のなかで、最も叩かれるのは、反省の色が見えない、と視聴者が感じるケースです。既婚者を略奪しようとしたり、SNSで匂わせ行為をしたことが発覚すると、大炎上してしまうことがあります。全く関係ない他人のはずの芸能人の態度に、なぜ、イラッとしてしまうのでしょうか。

 

 

正義感は中毒になる

脳科学者の中野信子さんが書かれた『人は、なぜ他人を許せないのか?』(アスコム・刊)では、芸能人の不倫スキャンダルに熱くなる人の心理が解説されていました。人はイメージの一貫性を求めるため、清純派として売っていた人に不倫報道が起きると、だまされた、裏切られたと感じてしまうのだそうです。確かに「この人が!?」という衝撃が大きければ大きいほど、怒りの書き込みも激しい気がします。

 

相手が悪いことをしたのだから何を言ってもいいのだとばかり、ネットで思う存分叩いている人がいます。中野さんによると、人を罰する時には、快楽物質であるドーパミンが放出されるのだとか。ひとたびその快感の虜になると、次に非難する対象を常に探しているような状態、「正義中毒」に陥ってしまうそうです。

 

 

一度の失言が刻まれる

情報化社会は、テレビ番組の録画やラジオ番組の録音を可能にし、その録画をインターネットに拡散するという、かつてはできなかった「証拠の突き付け」を可能にしました。有名人がラジオでぽろっと発した言葉が、一晩のうちにネットを駆け巡ることもあります。そんなつもりで言ったわけではなくても、一部分だけ取り上げられ、大きな誤解を生むこともあるでしょう。

 

昔は「人の噂も七十五日」と言われ、ある程度時が経てば不祥事も忘れられていくものでした。けれど、今は何かの拍子にすぐ「あの人は過去にこんなことをしていた」などと誰かが書き込んでしまい、また世間が思い出してしまうということがあります。そのため、発言には今まで以上に細心の注意がなされるようになりました。これはいいことでもありますが、一度の発言が命取りになってしまうという窮屈さも生んでいる気がします。

 

老子に「天網恢恢(てんもうかいかい)疎にして漏らさず」という言葉があります。これは、天の網の目は悪人を決して逃さないというような意味です。自分がわざわざ鉄拳を下さなくても、いずれは自然と天罰が下る、そんな風に考えられるようになれば、誰かを責めてどこまでも追い詰めたいという感情にかられずに済むのではないでしょうか。

 

【書籍紹介】

人は、なぜ他人を許せないのか?

著者:中野信子
発行:アスコム

世の中に渦巻く「許せない」感情は、なぜ生まれるのか? 歪んだ正義感の裏に潜む、驚くべき脳の構造に迫る!

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人は、なぜ他人を許せないのか?
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入手困難だった伝説の学習マンガがついに復活! ──『できるできないのひみつ』

長いあいだ入手困難だった「学研ひみつシリーズ」の伝説級タイトルが、このたび復刊しました!

ブウドン ヤメレ食っちまうぞシーン

復刻版「できるできないのひみつ」が絶好調! 学習まんがのカリスマ・内山安二を知っているか?

SNSで話題になった「ブウドン」が登場しているシーンを中心に、本書の見どころを紹介します。

 

 

ガラスを溶かす薬品は、何に入れておくのか?

ふつうの薬品はガラスに入れておくけど、このフッ化水素は、ガラスびんには入れられない。

(『できるできないのひみつ』から引用)

 

一般的には、フッ化水素に耐性があるポリエチレン容器に入れて保管します。液体のフッ化水素(フッ酸)は、ガラスを侵すからです。フッ酸の性質を利用して、ガラスをくもらせたり目盛りを刻んだりする用途に使われます。


(出典:『できるできないのひみつ』)

ところで、何でも溶かしてしまう液体をご存じですか? それは「水」です。水は、肉眼では溶けているように見えなくても、地球上のさまざまな物質を溶かす性質があります。

 

 

何千度、何万度という温度をどうやってはかるのか?

色ではかることもできます。(中略)赤い色のときは約千度、黄色なら三千度、白い色は六千度、青白い色は一万八千度、といったぐあいです。

(『できるできないのひみつ』から引用)

 

鉄を溶かすためには約1500℃が必要です。そのために製鉄所では「光高温計」を使います。ちなみに超高温である太陽コロナは100万℃以上なので、光の色だけでなく科学計算によって温度を算出します。

 

(出典:『できるできないのひみつ』)

 

つぎに紹介するのは「人体の神秘」にまつわるお話です。

髪の毛でダンプカーをつり上げられるか?

かみの毛一本で、百グラムのおもりをつり下げられる。同じ太さのアサのせんいでは、二十グラムです。

(『できるできないのひみつ』から引用)

 

ヒトの髪の毛は、銅線に負けないほど強いものです。その性質は昔からよく知られており、京都にある東本願寺の太い柱を持ち上げるために、女性の髪と繊維をより合わせた毛綱を使いました。

(出典:『できるできないのひみつ』)

 

ヒトの頭髪は約8万本。1本あたりの耐荷重100グラム。つまり8トンに耐えられるので、理論値では小型ダンプカー(約8トン)の重さにも耐えられます。驚きの結果です。

 

 

人間は鳥のように飛ぶことができるか?

鳥のむねのきん肉は体重の約二十五パーセントもあります。このすごいきん肉の力で、はねを動かして飛ぶのです。

(『できるできないのひみつ』から引用)

ちなみに人間の「むね肉」は全体重の約1パーセントです。もしもヒトの大胸筋を全体重の25%になるまで鍛えたら ──

(出典:『できるできないのひみつ』)

 

イラストでわかりやすく解説している『学研まんが ひみつシリーズ できるできないのひみつ』は、読み返すたびに新たな発見がある一冊です。お試しください。

 

【書籍紹介】

学研まんがひみつシリーズ できるできないのひみつ

著者:内山安二
発行:学研プラス

1972年に創刊され、今でも根強い人気の「初代ひみつシリーズ」が、40年振りに電子書籍で復活!第一弾は内山安二先生の「できるできないのひみつ」。まんが本文のほか、この話のもととなった「5年の科学」連載のまんがも「特別ふろく」として収録。

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自衛隊に入るきっかけは会社の倒産!?――「自衛隊入隊日記 完全版」著者による“入隊ヒストリーマンガ”

全国の書店で絶賛発売中の書籍「自衛隊入隊日記 完全版」。Amazonのレビューでも「面白い」「感動した!」と5つ星の評価を得ています。書籍では自衛隊入隊前のエピソードはほとんどありませんが、今回は特別に著者の大仏見 富士(おおふみ・とし)氏が描き下した“入隊ヒストリーマンガ”を紹介。自衛隊入隊のきっかけはがいま明かされる!

 

▼著者のインタビュー記事はこちら
自衛隊の訓練中は脳内で「ガメラ2」を再生? ――激レアさんの自衛隊での日常がレアすぎる。
https://getnavi.jp/life/289460/

 

 

【書籍紹介】

自衛隊入隊日記 完全版

著者:ロボットマナブ、大仏見富士
発行:学研プラス

電子版のベストセラーに新エピソード&描き下ろし4コマ漫画を加筆して再編集した完全版。読みやすくどこかやさしい文章が大好評! 工場勤務の22歳の若者が突如自衛隊に入隊、厳しくも愛にあふれる自衛官のリアルが感じられる自伝的青春小説。

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大仏見富士(おおふみ とし)
1978年、神奈川県生まれ。アメリカ留学資金を貯めるために、2000年に自衛隊に入隊。2002年除隊後、フランスの外国人部隊に入隊。2003年帰国。2016年に「自衛隊入隊日記」を上梓し、Amazon Kindle版で販売。「フランス人は自分たちで争わない」「オレは何しにアメリカへ?」など著作多数。「激レアさんをつれてきた。」(テレビ朝日)に“ただムッキムキになりたいという薄い理由でフランス外国人部隊に入っちゃった人”として出演し、話題に。

▼著者のTwitterはこちら
https://twitter.com/studiochogokin

殺害された7人の修道士たちから受け継がねばならないもの――『証言者たち』

1996年3月26日から27日の夜にかけて、アルジェリアのアトラス聖母修道院で陰惨な事件が起きました。

 

7人の修道士が拉致され、2か月間、監禁された後、殺害されたのです。誰が何の目的で彼らを連れ去り、どのように命を奪ったのか、今もはっきりしません。そして、2か月後の5月30日、修道士たちの切り落とされた首が見つかりました。

 

一時停止しながら観た映画「神々と男たち」

2010年、この悲劇をもとに「神々と男たち」という映画が製作されました。公開されるや数々の映画賞にノミネートされ、カンヌ国際映画祭の審査員特別賞を受賞しました。
話題になっていましたし私も観たいと思っていましたが、映画館に足を運ぶことはできませんでした。重く深い内容だということはわかっていたので、恐ろしくてつい避けていたのです。

 

けれども、今頃になってようやくDVDを借りて観ました。予想通り、なんとも言えない苦しみと悲しさに満ちた作品でした。途中、息が苦しくなり何度も一時停止しながら、ようやく全部を観ました。

 

7人の犠牲者

そんなにしてまで映画「神々と男たち」を観ようと思ったのは、この事件を取り扱った「証言者たち」(ベルナルド・オリベラ・著、 木鎌安雄・訳/ドン・ボスコ社・刊)という本を読んだからです。今年の7月に翻訳が出版されたばかりのこの本は、事件が起きて間もなく、殺害された修道士たちの証言や、その後、彼らに寄せられたメッセージから成っています。

 

「証言者たち」を読み終わった今思うことは、修道士達が修道院の中で暮らしてはいても、決して世間知らずな人々だったわけではないということです。村人たちとも頻繁に接触していましたし診察も行っていました。

 

彼らは、自分たちが拉致され殺される可能性が高いとわかっていながら、アルジェリアにとどまりたいと願ったのです。

 

修道院のすぐ近くでクロアチア人が殺される事件が起き、危険が自分たちに迫っていると感じていながら帰国しようとはせず、修道院での生活を守り続けました。何が起ころうとも人々のために命をささげようと決心したからです。

 

「証言者たち」を読むことによって、映画「神々と男たち」に登場する修道士たちが拉致されるまでの日々をどう生きたか、さらに殺害後、周囲の人々が何を思ったかについて知ることができます。

 

 

心の花束となった7人

事件の犠牲者となったのは、次の7人です。著者であるベルナルド・オリベラは彼らを「7人の証し人」と、呼んでいます。彼らは自分の個性を声高に主張したりはしません。けれども、にじみ出る強さを隠すこともできません。

 

クリスティアン・ド・シェルジェ神父

アトラス修道院の院長を務め、皆のまとめ役でもありました。めがねをかけた温和な表情に触れると、その後の運命の残酷さに叫び出したくなります。彼は誘拐される3週間前に、死を覚悟していたかのような説教をしたといいます。

 

リュック・ドシエ修道士

50年以上もアルジェリアで生活し、医師として働いた人です。キリスト教徒だけではなく、修道院にやっている人々をわけへだてなく診察したといいます。

 

クリストフ・ルブルトン神父

修道院の修練長と副院長をつとめていました。著作家であり、情熱的なギター奏者でもあるなど、多くの才能を持っている人でした。

 

ミッシェル・フルーリー修道士

沈黙のうちに人々のために精を出して働いていた方として知られています。アルジェリアに生涯を捧げた人でした。

 

ブルノ・ラマルシャン神父

たまたまモロッコの別院からやって来て、アトラス修道院に滞在中、事件に遭遇したそうです。

 

セレスタン・ランギール神父

神父になる前は、アルジェリアで軍役についていました。売春婦や同性愛者などの宣教にも従事し、とりわけ深い思いやりに満ちた人物でした。

 

ポール・ファーヴル・ミヴィーユ修道士

修道院の庭園の水回りの責任者でした。誘拐される数時間前にフランスから戻ったばかりでした。

 

 

心の花束となった7人

7人が、誰にどのように拉致され殺害されたのか、いまだ知ることができません。けれども、それぞれがそれぞれの思いを胸に最期の時を迎えたのは確かです。著者・ベルナルド・オリベラは7人について、こう述べています。

 

忘れることはできません。なにごとも起きなかったかのようにページをめくり、生活を続けていくことはできません。彼らは無駄に死んだのではありません。

( 『証言者たち』より抜粋)

 

「証言者たち」は、7人への思いを新たにするために書かれたもので、いわば心の花束というべきものだと、私は思います。

 

アルジェリアは遠い場所か? それともあなたのすぐそばにあるのか?

私はアルジェリアに行ったことはありません。おそらく一生行くこともないでしょう。けれども、彼らの死を自分に無関係だと思うことはできません。どこにいても、何をしていても、私は私なりに彼らが遺した心の花束を胸に抱いて生きていきたいと思うからです。だからこそ、「神々と男たち」という映画ができたのでしょうし、「証言者たち」という本が編み出されたと信じています。

 

最後になりますが、「証言者たち」を翻訳した木鎌安雄の思いも忘れることはできません。彼はホスピスに入院中の妻とともに、この本を完成させたといいます。彼女は彼に寄り添いながら、いつも原稿の校正をしてくれた大事な大事な存在でした。

 

訳者あとがきにこんな言葉があります。

 

妻は、生前、私の著作の最初から、文章の校正をしてくれました。その意味で、私の本の共著者であり、共訳者であり、最初の読者でした。妻は、ホスピスに入院する前に、できあがった原稿を校正したいと言いましたので、お願いしました。しかし、「はじめに」の校正を終わると、力がなくなりました。それでも、妻は、本書の共訳者です。

 

翻訳者ご夫妻も「証言者たち」の一人であり、花束に寄り添った存在であると、私は思います。重く暗い内容ではありますが、そこにひとつの救いを見いだすのは私だけではないでしょう。

 

「力がなくなる」その日まで、とにかく生きて行かなくては…。今、私はそう思っています。

 

 

【書籍紹介】

 

証言者たち

著者: ベルナルド・オリベラ(著)、 木鎌安雄(訳)
発行:ドン・ボスコ社

映画「神々と男たち」のモデルとなった7人の修道者は、1996年テロリストたちによって連れ去られ、殺された。なぜ彼らは命の危険を顧みず、最後まで人びとの中にとどまる道を選んだのか。修道者たちの手紙や日記などからたどる。

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雷を指揮する? 杖で指揮して死亡? 意外すぎる指揮者のハナシ――『指揮者の知恵 なぜ指揮棒ひとつでオーケストラはまとまるのか?』

今年12月より取り壊されてしまう、吹奏楽の甲子園とも呼ばれる「普門館」。中学時代、吹奏楽部だった私も「いつかあの黒い床の舞台で演奏してみたい!」と夢見ていました。中学3年生では岩手県大会金賞を受賞したものの、東北大会へは出場できず、夢は叶わず。大人になってからもなんとなく普門館は気になっていて、「いつかそのうち行ってみよ〜」なんて軽い気持ちで過ごしていました。しかし、2011年の東日本大震災をきっかけに耐震調査を行ったところ、震度6以上でホールの天井が崩落する恐れがあるとして、今年11月のホール開放を最後に、12月から取り壊すことが決定しました。

(参考:http://www.kosei-kai.or.jp/fumonkan/

 

いつまでもあると思うな、親と金と普門館。

 

ということで、今回は『指揮者の知恵 なぜ指揮棒ひとつでオーケストラはまとまるのか?』(藤野栄介・著/学研プラス・刊)より、吹奏楽やオーケストラには欠かせない指揮者について色々と探っていこうと思います。

 

 

指揮者のはじまりはバロック時代!

みなさんは、指揮者っていつ頃からいたのかご存知ですか?

 

管弦楽という、管楽器、弦楽器、打楽器を組み合わせたジャンルが登場したバロック時代に、「せーの」と合図を出したのが指揮の始まりと言われています。また当時は、作曲家が演奏者と指揮者を兼ねていたため、演奏しながらヴァイオリンの弓を動かしたりする人もいたそうです。そんな中に驚くようなエピソードがあったのでご紹介します。

 

ジャン・バティスト・リュリという作曲家は、演奏中に杖で床を叩いている際に誤って自分の足を叩いてしまい、破傷風で死んだというエピソードなどがよくクラシック史の中で語られていますが、この「杖で床を叩く」という行為が「指揮」のはしりとも言われます。

(『指揮者の知恵 なぜ指揮棒ひとつでオーケストラはまとまるのか?』より引用)

 

え??  杖で指揮??  死ぬ??

 

このリュリさん、ルイ14世の病気快癒を祝した演奏会で指揮をしている最中だったそうですが、今のような軽い指揮棒ではなく、金属の重く長い指揮棒で床を叩くという方法で指揮をしていたそうです。快気祝いでテンションが上がっていたんでしょうね。

 

「ルイ14世おめでと〜〜! ドンドンドン……痛っ!」

 

と自分のつま先を叩いてしまいます。後日その傷が膿み、命を落としたそうなのですが、悲しすぎるよ!!  けれど、何かのコントか映画にでもなりそうなくらいなエピソードとも思ってしまいました。リュリさんに幸あれ!

 

 

指揮者に必要な4つの能力

現代において指揮棒で命を落とす……ということはなくなりましたが、あの軽い棒で指揮者はなにをやっているのか? と聞かれるといまいちピンとこない人が多いと思います。一般的に「右手で拍を刻んで、左手で表情を示す」とも言われますが、プロの指揮者も「指揮は教えられない」というほど、明確な定義や手法が固まっておらず、「朗読」に近いものだと「指揮者の知恵 なぜ指揮棒ひとつでオーケストラはまとまるのか?」では語られています。また同じ楽曲でも、指揮者が変わると演奏が変わる理由を以下のように語っています。

 

・基礎的能力や指揮法などのアンサンブルを合わせる能力
・楽曲を読み取る力(スコアリーディング)
・オーケストラをエンロールする(巻き込む)力
・何がなんでも目指すレベルに導いていくという意思の強さ、実行力

(『指揮者の知恵 なぜ指揮棒ひとつでオーケストラはまとまるのか?』より引用)

 

とは言ってもよくわからないなーという方のために、わかりやすい例を以下でご紹介します。

 

 

同じベートーベンの「運命」でも指揮者によって演奏時間が変わる

みなさんにお馴染みベートーベンの「運命」ですが、同じ「ンタタタ ターン」というフレーズのテンポによって、曲全体の印象を大きく変えてしまうそうなんです。

 

軽快に「タタターン!」とやると30分11秒で、重厚感がある「ダッ、ダッ、ダッ、ダーン!」と演奏すると38分38秒と、全部で4楽章ある演奏時間が8分も変わってくるというのです。

 

もちろん、「タタターン!」だけ早くしているわけではないのですが、指揮者がどんな「運命」と感じたかによって、同じ楽譜でも表現が変わるということなんですよね。自分なりの表現をしなければいけないので、プロが言う指揮は教えられないというのも納得! 演奏会で運命を聞く機会があったら、ぜひ指揮者にも注目してみましょう。

 

 

演奏も人生も止まれない! やり直せない

また、オーケストラだけでなく観客を巻き込む力をもっている指揮者のエピソードもご紹介します。

 

野外で演奏会をしていた時、突如雷が鳴り出し、観客は演奏に耳を傾けるどころではなくなっていたそうです。その際、指揮者(マエストロ)が行った行動で観客の雰囲気がほぐれたのですが、一体どんな指揮をしたのでしょうか?

 

そのとき、なんとマエストロは、突然、オーケストラではなく、雷に向かって指揮をし始めたのです。ステージ右側から雷が落ちる音が聞こえれば右に、左側から雷の落ちる音が聞こえればすぐさま左にタクトを振ります。観衆は彼のその滑稽な指揮姿にびっくりした様子でしたが、しばらくすると笑い声も聞こえてくるようになりました。

(『指揮者の知恵 なぜ指揮棒ひとつでオーケストラはまとまるのか?』より引用)

 

 

演奏中に雷は鳴り止み、無事に演奏会は終了。終了後、指揮者のもとには喜びと感謝を伝えたい観客で列ができたそうです。なんだか心温まる〜♪

 

もう普門館で指揮者の姿を見ることはできませんが、これまでに普門館で演奏された楽曲の音源は聞くことができます。音源だけでは姿の見えない指揮者ですが、想像力を豊かにして、「この指揮者の性格は頑固そうだな」「こっちの指揮者はせっかちだな」などと、同じ楽曲で聴き比べてみるのも楽しいかもしれません。あぁ〜普門館言って見たかったなぁ。

 

【書籍紹介】

指揮者の知恵 なぜ指揮棒ひとつでオーケストラはまとまるのか?

著者:藤野栄介
発行:学研プラス

指揮者って、いったい何をやっているの? あの指揮棒で何を指示しているの? オーケストラは、個性あふれる専門家集団。その集団を、指揮棒ひとつでまとめ、美しい音楽を奏でるための方法を、現役指揮者が公開する。

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秋の夜長を愉しむクラフトビールのいろはを学べる!――「GetNavi 2018年11月号」

この前までの猛暑日は、ウソのように一気に秋の装いになった9月末。

 

あんなに嫌だったセミの鳴き声も、聞こえなくなるとそれはそれで寂しい気持ちになりますよね(とか言いつつ、来年も夏になれば「暑い…」と愚痴ると思います)。

 

秋といえば、実りの秋、食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋と、なんでもかんでも秋と結びつけちゃいそうになりますが、今年の秋はちょっぴり大人に「クラフトビールでほろ酔いの秋」にしてみませんか?

 

 

秋は「クラフトビール」にぴったりな季節?

「ビールといえば、夏でしょ〜!」

 

と思った方も多いかもしれませんが、実は美味しいビールを味わうなら秋がオススメなんだとか。ビアジャーナリスト佐藤翔平さんの解説を「GetNavi 2018年11月号」よりご紹介します。

 

「秋は鮮烈なホップの香りを楽しめるフレッシュホップビール(その年の夏に収穫したホップで造ったビール)の季節です。新米や新そばのように注目が集まります。またのど越しの良さを重視した夏に比べ、止渇需要の少ない秋はビールをゆっくり味わうのに適した季節でもあります。アルコール度数が高いビールや、色の濃いビールがオススメですよ」

(『GetNavi 2018年11月号』より引用)

 

なるほど〜!

 

新米や新そばのように注目度が集まるというのは、納得です。他にも、ビアスタイル・目的・食事に合わせて楽しむクラフトビールが紹介されていたので、詳しくは「GetNavi 2018年11月号」をチェックください!

 

紹介されているなかでも、つるた個人的おすすめビールは、コエドブルワリーの「COEDO-Beniaka-」。瓶ビールってだけでもちょっとテンションが上がっちゃうのですが、原料にサツマイモを使っているので、秋らしい特別感が抜群! 普段ビールよりも焼酎派という方でも、いも焼酎のような味わいも感じられるため「これはイケるなぁ〜」と唸っていただけるはずです。

 

そもそもクラフトビールって?

クラフトビールって普通のビールと何が違うの?と思う方も多いと思いますが、簡単にいうと、小規模な工場で伝統的な手法で作っているビールのこと。

 

日本では、大手メーカーさんが大規模な工場で「ピルスナータイプ」を主に生産しています。スッキリとして、飲んだ後に思わず「ぷは〜っ」と言いたくなるような味わいというと、わかりやすいかもしれませんね。

 

しかし世界には100種類以上のビールが存在しており、日本人が言う「ビールが好き」というのは、「ピルスナータイプのビールが好き」ということで、世界にはまだまだたくさんのビールが存在しているのです。クラフトビールはピルスナータイプ以外のビールを作っている工場もたくさんあるため、まだまだ深掘りできる魅力がいっぱいあるんですよ〜!

 

 

プロが教える美味しいクラフトビールとは?

「GetNavi 2018年11月号」では、クラフトビールのワークショップで講師をしているキリンビールの吉田純さんによるクラフトビールを楽しむヒントが紹介されています。

 

ビールは、喉越しや泡のきめ細やかさに注目しがちだが、実は香りも魅力のひとつ。なかでも様々なビアスタイルを楽しめるクラフトビールは、よりその違いを感じられる。

(『GetNavi 2018年11月号』より引用)

 

他にも、ビールといえば「枝豆」が一番合う食べ物でしょ〜と思う方も多いかもしれませんが、食事に合わせて飲むビールを変えるなんて楽しみ方もできます。例えば、「インディア・ペールエール」ならフルーティーな味わいが楽しめるので、ローストビーフやピザなど味がしっかりしているものと一緒に食べるとさらに美味しく味わえたり、「ホワイトエール」なら華やかな香りと柔らかい口当たりを楽しめるので、カルパッチョなどさっぱりとした食事との相性が良いんだとか。

 

ビールが変わると食事もなんだかオシャレになって、毎日何気なく飲んでいるビールがワンランクアップしちゃうような気がしてきますね♪

 

 

一人もいいけど、一緒にお酒を楽しめる人がいるともっといい

zinbeiさんのマンガ連載『ほろ酔い道草学概論 第二話・東京都「新橋」』では、日本酒の飲み比べができるKURANDで、主人公の秋川千穂ちゃんとその先輩がお酒を愉しむ様子が描かれています。

 

このマンガを読んでいて、普段はコンビニで買って来たクラフト缶ビールで、海外のコメディドラマ等を見ながら「はっ! いつの間にか寝てしまった!」と慌てている時に幸せだなぁ〜と感じてしまうのですが、たまには誰かを誘ってお酒を愉しむのもいいかもな、と思ったのでした。

 

「GetNavi 2018年11月号」には、この他にも秋をさらに盛り上げる最新家電情報もたんぷりと掲載されています。

 

 

【書籍紹介】

GetNavi 2018年11月号

著者:GetNavi編集部
発行:学研プラス

読者の「賢い買い物」をサポートする新製品情報誌。話題のスマートフォンから薄型テレビ、パソコン、デジタルカメラまでベストバイを断言!

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お金持ちになるために切り捨てるべき人間関係を見分ける4つのテクニック ──『人生を変える、お金の使い方。』

人生を変える、お金の使い方。』(千田琢哉・著/学研プラス・刊)は、3千人以上の成功者たちによる「お金の使い方」を分析して、51項目にまとめたものです。そのうち4項目を厳選して、金銭トラブルから学べること、時間をムダにしない方法、最高の投資とは何か、ブーメラン理論を紹介します。

 

 

金銭トラブルから学べること

金銭トラブルを起こしたから絶縁するのではない。もともと絶縁すべき相手だから、必然的にその相手と金銭トラブルになったのだ。
(中略)
金銭トラブルを起こした相手とダラダラ付き合っている人たちは、例外なく悲惨な人生を歩んでいる。

(『人生を変える、お金の使い方。』から引用)

 

金銭トラブルが発生したら、回収するよりも「トラブル相手と縁を切る」ことを優先しましょう。貸し倒れコストよりも回収コストのほうが高くつくからです。たとえば、失踪したトラブル相手に貸した10万円を取り戻すためには、興信所に依頼したり回収できるか不安になったりして物心両面で10万円以上のコストを負担することになる、という感覚です。

 

金銭トラブルにおいては因果が逆転します。不誠実な借り手は、利子の支払いを重ねていくうちに、お金を貸してくれた人のことを憎むようになります。やがて返済不能に陥ると、貸してくれた恩人のことを守銭奴呼ばわりします。絶縁するのにふさわしい相手です。

 

 

時間をムダにしない方法

「このラインを超えたら断る」と決めておくと、無駄な時間が削減できる。
(中略)「時間は命の断片であり、その時間を一緒に共有したくない相手とは関わりたくない」

(『人生を変える、お金の使い方。』から引用)

 

「不快」や「気に入らない」という感情を見逃してはいけません。好き嫌いこそが、あなたの人生を左右します。嫌いな相手には、こちらの情報をなるべく与えたくありません。悪用されたくないからです。情報を隠しながらやりとりするのでコミュニケーションに膨大な時間を要します。つまり、嫌いな相手との関係を続けることは、多くの「機会損失」を生み出します。

 

損害をもたらす相手を見分けるために、独自の基準を定めておきましょう。遅刻するときに連絡をしてこない人。ノー・サンキュー。初対面なのにタメぐちの人。グッドバイ。「キライだな」と感じるのは、あなたと価値観が離れているからです。ビジネスでも結婚でも「価値観のすり合わせ」は手間がかかります。価値観が近い人(スキな人)と付き合ったほうが時間はムダになりません。

 

生きていればトラブルや損失はつきもの。ふて腐らずに「勉強代を支払った」と納得するためには、ちょっとした考え方のコツがあります。

最高の投資とは何か

一度も損しなくて済む人生なんて、この世に存在しない。
(中略)
人生には、実際に痛い目に遭って初めて、「なるほど、こういうことだったのか!」と気づかされることも多い。それも含めてすべてが「勉強」だと思うからだ。

(『人生を変える、お金の使い方。』から引用)

 

小さいリスクで大きなリターンを得るための投資方法があります。それは「勉強」です。投資には失敗がつきもの。株や債券の投資信託、仮想通貨、マンション購入などで失敗すれば数百万〜数千万円の損失です。しかし、大量の本を買って読んだり学校に通ったりセミナーに参加したりすることによる失敗なんて、たかが知れています。「恐れるべき失敗」と「恐れるほどではない失敗」。うまく見分けて、上手な失敗ができるようになりましょう。

 

 

ブーメラン理論

お金に限らず「損をした」と悔しい気持ちになった経験は誰でもあるだろう。しかし、「損をした」と何かを恨んでいるだけでは、いつまで経ってもあなたの人生は好転しない。
(中略)
結局、すべての原因は、ブーメランを投げたあなた自身にあるのだ。

(『人生を変える、お金の使い方。』から引用)

 

本書『人生を変える、お金の使い方。』の著者は、お金を使うことはブーメランを投げるのと同じであると述べています。ブーメランを放り投げると、空中で旋回したあと、投げた人間のもとに戻ってきます。つまりブーメラン理論とは、お金を使えばその結果があなたに必ず影響を与えるというものです。

 

あなたは1日のあいだに何度もブーメランを投げている。その自覚はありますか? 感謝を込めてブーメランを投げれば、当然のように感謝が戻ってきます。見返りを求めずにブーメランをたくさん投げていれば、忘れたころに嬉しいブーメランとして戻ってきます。不幸を呼び寄せるようなブーメランを投げるべきではありません。

 

お金の使い方、発言、行動、すべてがブーメランであることを心がければ、きっと人生はうまくいきます。お試しください。

 

【書籍紹介】

人生を変える、お金の使い方。

著者:千田琢哉
発行:学研プラス

貯蓄よりも投資。これは現代ビジネスパーソンにとっていまや常識である。20代がやっておくべき”投資”について著者・千田琢哉は断言する。「お金は勉強と環境に投資せよ!」使えば使うほど人生が最大化する、本当のお金の使い方を大胆かつ実践的にコーチ!

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あなたにとっての思い出の「野球マンガ」は何ですか?――『キャプテン&プレイボール パーフェクトBOOK』

一昔前。スポーツといえば「野球」だった。僕は昭和46年生まれ。へそ曲がりな父親の影響で子どもの頃から阪神タイガースのファンになっており、1985年の日本一を中学2年のときに体験した。

 

 

僕が一番好きな野球マンガは「キャプテン」

僕と同じくらいの年代の男子は、7〜8割くらいが野球をやっていたか、野球が好きだったように思う。というか、当時はテレビで巨人戦が毎日放送されており、野球に触れる機会が多かったのだ。

 

もちろん少年野球チームでプレイしている子どももいたし、そうでなくても学校の休み時間や家に帰ってからみんなで野球をするというのも割と普通だった。

 

そして、1970年代から1980年代にかけては、野球マンガが大ブームだったと思う。当時の野球マンガ御三家といえば、「巨人の星」「ドカベン」「キャプテン」だろう。そのなかでも、僕が一番好きだったのが「キャプテン」だ。

 

谷口キャプテンが21世紀に蘇る

「キャプテン」は、1972年から1979年まで月刊少年ジャンプ(連載当時は別冊少年ジャンプ)で連載されていた中学野球のマンガだ。名門中学の野球部で補欠だった谷口タカオが、勘違いで墨谷二中のキャプテンに指名され、そこから猛特訓して成長していくという物語だ。

 

ただそれだけではない。「キャプテン」の特徴は、谷口卒業後もストーリーが続き、丸井、イガラシ、近藤という歴代キャプテンを描いている点だ。

 

同時期、卒業した谷口の高校入学後を描く「プレイボール」という作品もある。僕は数ある野球マンガのなかでも、「キャプテン」と「プレイボール」をバイブルとして、年に1回くらい読み返している。

 

「キャプテン」「プレイボール」とも、作者のちばあきおの急逝により途中で終わっている感じになっている(連載上は終わっているが物語は終わっていない)。そこで現在、「おれはキャプテン」の作画や「グラゼニ」の原作者(森高夕次名義)であるコージィ城倉が、プレイボールの続編となる「プレイボール2」を執筆。その後の谷口をはじめ、丸井やイガラシなども登場している。

 

 

「キャプテン」は本当は複数の運動部が出てくるはずだった

そんな「キャプテン」「プレイボール」のガイドブックが『キャプテン&プレイボール パーフェクトBOOK』(アニメ事業室・編/学研プラス・刊)だ。コージィ城倉のインタビューをはじめ、実兄であるちばてつや氏や、ゆかりのあるマンガ家などのインタビューを掲載。また、秘蔵のカラー原画や扉絵の解説などもあり、読み応え十分の一冊となっている。

 

そのなかに、キャプテンである谷口のモデルとなった担当編集者、谷口忠夫氏のインタビューが掲載されている。なぜ「キャプテン」が一人のキャプテンを描かず、歴代キャプテンを追っていくストーリーになったのか、その理由が語られていた。

 

あきおさん、当初は、様々な運動部の色々なキャプテン像を描きたいという構想があったようです。しかし、谷口くんが人気だったこともあり、舞台となるクラブは変えずに野球部ひとつに絞ってキャプテンを変えていくことにしたんです。

(『キャプテン&プレイボール パーフェクトBOOK』より引用)

 

結果、「キャプテン」では墨谷二中を舞台に4人のキャプテンを描くストーリーに。また「プレイボール」では谷口を主人公にした、王道の野球マンガの体裁となった。

 

ちなみに、墨谷二中の歴代キャプテンでは、イガラシが好きだ。谷口が3年生のときに1年として入部。結果、3年間フルに描かれたのはイガラシのみ。非常にクールな性格ながら、ここぞというときには力を発揮し、問題児であった近藤をなんとかコントロールしてエースにしていくという指導者としての才にも長けており、子どもながら「イガラシはすごいやつだ」と感じていた。

 

 

今おもしろい野球マンガは「おおきく振りかぶって」

「キャプテン」「プレーボール」より後の世代になると、「メジャー」や「ダイヤのA」などが人気だろう。プロ野球選手になかにもこれらのマンガに影響されたという人も多い。

 

最近の野球マンガでおもしろいなと思っているのが「おおきく振りかぶって」だ。とにかく細かい。試合の描写では1球ごとに打者、投手、捕手、ベンチといったそれぞれの思惑が入り乱れ、細かい心理描写などが行われるため、単行本は29巻発売されているがまだマンガ内では1年経っていない。いつ終わるのやら……。

 

40代の男性ならば、一度は野球マンガにはまったのではないだろうか。いったい、どの野球マンガにはまっただろうか。飲み会などでそんな話をすると、あっという間に終電の時間になってしまうと思うので、気をつけよう。

 

 

【書籍紹介】

キャプテン&プレイボール パーフェクトBOOK

著者:アニメ事業室
発行:学研プラス

ちばあきお原作の伝説の野球漫画「キャプテン」「プレイボール」ガイドブック。奇跡の復活をとげた「プレイボール2」を手掛けるコージィ城倉氏のインタビューのほか、秘蔵カラー原画、ピンナップ、「墨谷二中×青葉学院」の伝説の再試合なども収録!

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元メジャーリーガー・新庄剛志、20億円だまし取られた「しくじり」に続く第3の人生は?

今から12年前の2006年に流行語大賞にノミネートされていた『新庄劇場』。

 

当時メジャーリーグから、日ハムに舞い戻ってきた新庄剛志選手が、スパイダーマンの被り物をしたり、イリュージョンショーを披露したり、小さい新庄選手の顔をちょっと大きい新庄選手が食べている『5人のツヨシ』という謎な被り物をしていたり、試合前にファンサービスしていたことを通称し、『新庄劇場』と呼んでいたのです。私も当時、朝のニュースで「昨日の新庄は?」と楽しみだった記憶があります。

 

そんな新庄選手、今ってどこにいるのかな〜と思っていたらなんとバリ島!!

 

現役で稼いだお金で優雅に暮らしていると思ったら、バリ島移住前に20億円を騙し取られていたって、なにソレ!!!?

 

今回は、壮絶な人生が語られた話題の新刊『わいたこら。――人生を超ポジティブに生きる僕の方法』(新庄剛志・著/学研プラス・刊)より、愛すべきスーパースター新庄剛志さんの人生論をご紹介します。

 

 

現役引退後の新庄は何をしていたのか?

メジャーで活躍し、日ハムを日本一に輝かせたのち、華麗に引退した新庄さんは、なんと奥さんとも別れ、単身で一目惚れしたバリ島へ移り住んだというのです。

 

しかし、移り住む際に自分の全財産を預けていた人に「バリ島に移住するから、お金を引き出して〜」と伝えたら、「残金は2200万円」と思ってもいなかった金額を言われたそうです。メジャー行って、テレビもCMも出まくって、好きなもの買ってエンジョイしてたのに、どういうこと??

 

 

僕は、信用していた人にお金を使い込まれていた。

それも、100万円とか200万円のレベルじゃない。

20億円だ。

(『わいたこら。――人生を超ポジティブに生きる僕の方法』より引用)

 

どうやったら20億円も使えるの!?  って話ぃ〜!!

 

その全財産を預けていた人は、自身でも会社を経営していたそうで、その会社の経営を補うために新庄さんのお金を使っていたというのです。全て自分でやっていなかったことを反省していた新庄さんですが、20億円て……。私だったらゼッタイに許さん!!  だって20億円ですよ? 2200万円も見たことないですが(笑)、どうやったらそんなお金を稼げるのでしょうか??  現役時代の新庄さんの稼ぎっぷりを振り返ってみましょう。

契約金2200万円でメジャーへ『日本の恥』と言われたが……。

高校生の時に、ドラフト5位で阪神タイガースに入った新庄さん。「ドラフト5位」の肩書きが悔しくて必死でトレーニングを重ね、大活躍をしたというのは皆さんも承知の事実。

 

その後、メジャーリーグへ挑戦するわけですが、日本人がメジャーに挑戦するなんて、当時は夢のまた夢。しかも契約金は、2200万円と格安。メディアでは『日本の恥』なんて言われていたそうです。私も当時「無理っしょ」と思っていたのですが、当時の新庄さんはどんな気持ちだったのでしょうか?

 

漫画のヒーローだって、マイナスの状況を乗り越えて活躍すると昔から決まっている。僕は、メジャー入りして成功すると信じていた。いや信じていたんじゃなくて、決めていた。

(『わいたこら。――人生を超ポジティブに生きる僕の方法』より引用)

 

ハート強すぎ!!

 

今では数多くの日本人選手がメジャーでも活躍していますが、新庄選手がメジャーリーグへの道を切り開いてくれたと言っても過言ではないかもしれません。日本の恥どころか、メジャーリーグの歴史においても忘れられない日本人スーパースターになっちゃったわけですね。

 

 

ポーズを取るだけで、8000万円が手に入る

メジャーで活躍するほど、日本での知名度も上がっていき、メディアに引っ張りだこな日々が訪れます。オフに日本へ戻ってきた時、テレビ番組に出て800万円、CM1本1億5000万円と「野球なんてマジバイト」と言いたくなる気持ちもわからなくない状態に。その時のことを、このように語っています。

 

命をかけて、ギリギリのプレッシャーに耐えて1年間プレーして2200万円を手に入れる一方で、僕はただポーズを取っただけなのに8000万円が入ってくる……。

僕はこのお金の価値のギャップを埋められなかった。

(『わいたこら。――人生を超ポジティブに生きる僕の方法』より引用)

 

確かに、何のためにメジャーで頑張っているんだって思っちゃいますよね。

 

スターに憧れて、スターになったはずなのに、自分の得意分野とは違うところで思っている以上のお金が支払われる。単純に羨ましいな〜では片付けられないような感覚なんだと感じました。しかもその貯めてたお金は、だまし取られちゃうとか、ちょっとかわいそうに思えてきちゃったよぉ〜!

 

 

ポジティブすぎて、逆にかっこいい!

20億円だまし取られても、残った2200万円と、取り戻した8000万円でバリ島に家を建て、10年ほど暮らしている新庄さん。ペット(犬)のラナと一緒にいる時が幸せで楽しいんですって。

 

スーパースター・新庄剛志の物語は、まだプロ野球選手として成功したエピソード1と、金銭トラブルでしくじったエピソード2が終わっただけ。

今、僕はエピソード3の途中を生きている。

本当に面白いのは、これからだ。

(『わいたこら。――人生を超ポジティブに生きる僕の方法』より引用)

 

こんなにズタボロになって、財産のほとんど全てを失っても前向きになれるこの精神力。ポジティブすぎて逆にカッコよく思えてきます。

 

 

次なる新庄劇場は、『歌手』としてデビュー!?

バリ島に移住してからは、モトクロスにはまっているとのことなのですが、エピソード3ではどんな新庄劇場を見せてくれるのでしょうか? なんと今気になっているのは「歌」なんだとか。

 

僕だって、いいことも悪いこともいっぱい経験したから、今なら歌に気持ちを込められるんじゃないか。

(『わいたこら。――人生を超ポジティブに生きる僕の方法』より引用)

 

確かにすごい歌は歌えそうだけどもっっ! 掲げている目標が高いというか、規格外というか(笑)。

 

とにかくまだまだ目が離せない、新庄剛志! 今後も私たちを驚かせて、楽しませて、元気にしてくれる人でい続けてくれることは間違いないだろうと感じます。

 

 

【書籍紹介】

わいたこら。――人生を超ポジティブに生きる僕の方法

著者:新庄剛志
発行:学研プラス

「わいたこら。」その事実を知ったとき、とっさに僕の口から出た言葉だ。標準語でいえば「なんじゃこりゃ?」。僕は、信用していた人にお金を使い込まれていた。100万円とか200万円のレベルじゃない。20億円だ――。「スター新庄」が今、すべてを語る、前代未聞の「しくじり」体験!読めば間違いなく元気になれる、超ポジティブな「人生の立ちあがり方」が満載の本です。

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頭が良いのに出世できない人の特徴。知的な人が陥りやすい4つの罠 ──『ハマトンの知的生活のすすめ』

渡部昇一さんが著した『知的生活の方法』は有名なロングセラーです。渡部昇一さんの知的生活に影響を与えた『The Intellectual Life』という本を知っていますか?

 

ハマトンの知的生活のすすめ』(P.G.ハマトン ・著、三輪裕範 ・編訳/ディスカヴァー・トゥエンティワン・刊)は、原典のエッセンスをまとめて、わかりやすく超訳したものです。紹介します。

 

 

健康は最高の投資である

重要な知的労働を成し遂げるためには、長年にわたって健康を維持しなければならない。だからこそ、知的生活者にとっては、健康を維持するために払う犠牲は最高の投資なのである。

(『ハマトンの知的生活のすすめ』から引用)

 

現代の知的生活=頭脳労働にとってコンピューターは必須です。仕事に追われるあまり、長いあいだパソコンのモニタ画面に向かうことによって、眼精疲労・肩こり・腰痛を積み重ねてしまえば、やがて健康を損ないます。

 

ハマトンは「机に向かいづめからくる悪影響」を防ぐために、なによりも肉体の健康を守ることをもっとも優先すべきであると述べています。作業するときのチェアー、気軽に通えるフィットネスジム、快眠するためのベッドにはこだわるべきです。

 

ぶっちゃけて言えば、長生きをしたもの勝ちです。たとえ天才に生まれなかったとしても、長寿の努力家であることを心がけましょう。

 

 

知的な人ほど好奇心に溺れる

自分の持てる力を浪費するのは愚かなことだ。(中略)十年もそんな生活をしていれば、意志の力はほとんどなくなり、心に秘めていた情熱もなくなってしまうものだ。

(『ハマトンの知的生活のすすめ』から引用)

 

「いろいろなことを知りたい」という興味や好奇心は、知性の証明です。しかしながら、知識を得るために労力を費やしすぎると、せっかくの知性を活かすためのエネルギーが足りなくなります。

 

ハマトンは、「知的な人ほど、知的な勉強によって浪費しやすい」と述べています。好奇心の罠です。取り組むべき学習や仕事を取捨選択することを心がけましょう。

 

読書=知的生活というイメージがあります。でも、本をたくさん読んだからといって賢くなれるわけではありません。

積読という幻想

私の友人の一人は読書について途方もない幻想を抱き、何千冊もの本を集めて読もうとしたが、結局その一部しか読めないうちに亡くなってしまった。このように、人は読書について大いなる幻想を抱きがちである。

(『ハマトンの知的生活のすすめ』から引用)

 

難解な文学書や学術書を買うのは快感です。所有しているだけで賢くなった気分になれるからです。計画性のない人は、理解できもしない本を買い続けて、知的訓練を先送りして、読みあぐねているうちに亡くなります。

 

ハマトンは、「読書は計画性がなければできない」と述べています。たしかに、読書好きならば「名作文学と言われているものを読破したい」と思うものです。たとえば、プルースト『失われた時を求めて』は岩波文庫版で全14巻もありますが、まともに完走できる確率はきわめて低いです。計画性を発揮するならば、とりあえず『失われた時を求めて ─まんがで読破─ 』を読み終えましょう。

 

 

貧しさは知的生活を妨げる

かろうじて毎日暮らしていける程度の経済力しかないと、遠大な研究計画も実現することができないばかりでなく、ときには健康を害したり、人間性に悪影響が出たりして人生を破壊してしまうことがある。

(『ハマトンの知的生活のすすめ』から引用)

 

貧すれば鈍する。衣食足りて礼節を知る。腹が減っては戦はできぬ。先人たちは「貧しさの弊害」をよく知っていました。

 

ハマトンは、「貧しさは知的生活を妨げる」と述べています。なぜなら、家計が貧しすぎると「心身の健康」を損なうからです。先述した「健康は最高の投資である」という考え方にも通じます。知的生活を全うしたければ、お金儲けを嫌うべきではありません。

 

本書『ハマトンの知的生活のすすめ』を読み終えたら、原典の日本語訳である『知的生活』(渡部 昇一・訳/講談社・刊)にも手を伸ばすことをオススメします。お試しください。

 

 

【書籍紹介】

ハマトンの知的生活のすすめ

著者:P.G.ハマトン
発行:ディスカヴァー・トゥエンティワン

本書は英国の著述家であり美術雑誌の編集者であったP・G・ハマトンが1873年に刊行した知的生活論、自己啓発論の世界的名著である『知的生活』から現代人に必要な部分を精選して編訳したものです。

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彼女はファッションで武装する――『時代を切り開いた世界の10人 5巻 マーガレット・サッチャー』

幸か不幸か、私は会社勤めをしたことがありません。大学を卒業する前に結婚し、専業主婦になったからです。当然のことながら、通勤のための洋服についてまったく知識がありません。就職活動もしなかったので、今で言うところのリクルート・スーツを着たこともないのです。

 

大学を卒業した後、周囲の友だちは就職し、スーツを身にまといバリバリ働いていました。私はそんな彼女たちを「かっこいいな~~」と思って、ただ見ていたのです。

 

 

エッセイストは何を着るべきか

私はといえば、ジーパンにトレーナーで過ごす毎日…。念願の息子も生まれ、それはそれで幸福だったのですが、一方で自分がどんどんくすんでいくようで、「なんとかしなくちゃ」と焦っていたのは確かです。

 

子育てが一段落した頃、私は自分のしたいことを見つけました。エッセイを書くようになったのです。最初は投稿するだけで満足でしたが、やがて原稿料をもらうようになりました。もっとも、服装は相変わらずで、ほとんどパジャマのような姿で一日を過ごしていました。エッセイストは在宅勤務ですから、通勤とは無縁です。むしろ、専業主婦の頃より、家にいる時間が増え、お出かけ着はさらに必要なくなりました。

 

しばらくすると、講演会や審議会などの仕事が転がり込むようになり、突如、服を買う必要に迫られました。急なことで何を着ていいかわからず、とりあえず紺や黒のパンツスーツを揃えました。そんなとき、紺のパンツスーツは鉄壁に思えました。とりあえず文句は言われません。

 

 

「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」

私自身は満足したまま、年月が過ぎていたのですが、7年ほど前のこと、大先輩の女性に「あなた、いつも紺色の上下ばかり着てるわね。エッセイストという職業は、華がないと駄目よ。それじゃ、まるで制服じゃないの」と、注意されました。

 

そして、「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」という映画を観るよう、アドバイスされました。メリル・ストリープが英国首相を演じ、アカデミー主演女優賞を獲得した作品です。

 

政治家のドラマにはそれほど興味はない私ですが、すぐに観ることにしました。「彼女が身にまとう服は、女が社会で働くとき自分を守る鎧のように機能的で美しいから、参考になるわ」という彼女の言葉を信じたのです。

 

 

サッチャーのファッション

映画を観て納得しました。メリル・ストリープ演じる鉄の女・サッチャーは、側近のアドバイスを受け入れ、見事な金髪をセットし、綺麗な色のスーツを着ています。首には夫に贈られたパールのネックレスを忘れません。

 

私のように、背広のような服装などしません。ふーん、なるほど。私は感心しました。紺色のパンツ・スーツは変わらず好きでしたが、明るい色のスーツも着るようにしました。
パールのネックレスも、それまではお葬式用だと思っていましたが、仕事に行くときにしてみると、なかなかに上品に見えると知りました。

 

だからというわけでもないでしょうが、苦手だった会議や講演も、少しはましに発言できるようになったような気がします。スーツという名の鎧に守られていたのかもしれません。

 

 

誰もがレジェンドになり得る!!

映画でマーガレット・サッチャーのファッションを学んだことがきっかけで、私はサッチャーその人について、もっと知りたくなりました。そこで、“時代を切り開いた世界の10人シリーズ”から『時代を切り開いた世界の10人 5巻 マーガレット・サッチャー』(高木まさき、茅野政徳・監修、弦川琢司・文、黒曜燐・絵/学研プラス・刊)を選び、読んでみました。

 

このシリーズはレジェンドと呼ばれるようになった主人公を取り上げています。物語は、彼らが何かを成しとげた場面から始まります。なぜ偉業を成し遂げることができたのかという謎に迫るために、効果的な手法だからでしょう。レジェンドの一生をひもとくのは本当にワクワクする体験です。

 

前書きにも書いてあります。

“私たちはだれもがレジェンドとなり得る。本シリーズはそんな思いもいだかせてくれる”と。

(『時代を切り開いた世界の10人 5巻 マーガレット・サッチャー』より抜粋)

 

 

マーガレット・サッチャーという人生

マーガレット・サッチャーは、イギリスの田舎町で食料品店を営むアルフレッド・ロバーツの娘として生まれました。勤勉な両親のもとで、きびしく育てられた彼女は、お店を手伝いながら、勉学に励み、オックスフォード大学に進学します。そして、弁護士となって活躍を始めます。

 

それだけでも素晴らしいことなのに、彼女は政界入りを模索するようになりました。イギリスをもっと良い国にしたいという熱意を持っていたのです。夫となったデニスが会社を経営し、経済的に安定したことも助けとなりました。結婚生活は順調でマークとキャロルという双子の子どもも授かります。

 

けれども、彼女は貪欲でした。新人議員として活躍した後、その仕事ぶりが皆に認められ、ついに保守党の党首まで上りつめたのです。イギリスで初めての女性首相として行った政策は男性顔負けの徹底的なもので、やがて「鉄の女」と呼ばれるようになります。

 

 

鉄の女の政策

マーガレット・サッチャーは、当時、ストが続き経済的に破綻をきたしていたイギリスを誇りある国に立ち直らせようと、必死にたちむかいます。

 

さらには、アルゼンチン軍が領海侵犯を犯すと、迷うことなくフォークランドに軍隊を送ることを決断して宣戦布告しています。開戦から1か月の間、アメリカをはじめとする国々から、話し合いで解決しては」どうかという調停案を受けても、耳を貸さずに雄々しく攻撃を断行。とうとう敵を降伏に追い込んだのです。

 

彼女が戦いを挑んだのはアルゼンチンだけではありません。ストライキばかりする労働組合にも強硬な対策を断行したり、国営企業を民営化して競争力を高めたりしました。
今まで誰もがなしえなかった方法で、イギリスの内部に対しても容赦のない戦いを繰り広げたのです。

 

辞任は夫のアドバイスで

11年半もの間、首相をつとめてきた彼女でしたが、とうとう身を引くときがきました。党内に意見の不一致があることには気づいていたものの、腹心と信じていた副首相のハウが辞表を出すに至り、「見捨てられた」と感じたといいます。さらに、夫・デニスの「ぼくは君の屈辱的な姿を見たくないよ」の言葉が決定打となり、彼女は首相の座をおりたのです。

 

私は彼女の物語を軽い気持ちで読み始めました。服装の参考にしようと考えてのことでした。けれども、結果的には悩みながらも雄々しく挑む彼女の姿に感動しました。マーガレット・サッチャーは、ぶれない強さを持つと同時に、妻として母としての役割を果たしているのだろうかという苦しみを抱えた女性だとわかったからです。

 

男性にも女性にも何かを訴えかける本、それが『時代を切り開いた世界の10人 5巻 マーガレット・サッチャー』だと、思います。

 

【書籍紹介】

時代を切り開いた世界の10人  5巻 マーガレット・サッチャー

著者:高木まさき(監修)、茅野政徳(監修)、弦川琢司(文)、黒曜燐(絵)
発行:学研プラス

どん底のイギリス経済を立て直し、フォークランド紛争に勝利し、国民の自信と誇りを取り戻したイギリス初の女性首相。中流家庭に育つも、強いリーダーシップで「鉄の女」と呼ばれるに至るその素地は、父の教育によるものだった。リーダー教育に格好の教材。

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復刻版「できるできないのひみつ」が絶好調! 学習まんがのカリスマ・内山安二を知っているか?

学研の学年誌「科学と学習」に連載されていたまんがや、70〜80年代に多くの小学生を虜にした学習まんが「ひみつシリーズ」。

 

これらを電子復刻するプロジェクト「もう一度見たい! あのころの学研」シリーズが2018年6月から刊行されている。ラインナップの第1弾を飾った「できるできないのひみつ」は、初版が40年以上前の本であるにも関わらず、復刻から2か月経った 2018年8月4日の「Amazon売れ筋ランキング」電子書籍の学習まんが部門において1位を獲得するなど話題を呼んでいる。

 

↑『できるできないのひみつ』の初版は1976年。42年前の本が話題になった!

 

この「できるできないのひみつ」の作者は、60年代から80年代にかけて、とくに学習まんがのジャンルで活躍した漫画家・内山安二氏。

 

その名前にピンとこなくても、内山氏の描く元気いっぱいの少年キャラや、にぎやかな動物キャラたちが、ドタバタと活躍する学習まんがの数々をよく覚えているという方も多いのではないだろうか。

 

それもそのはず、学年誌「科学と学習」が12誌合算で670万部発行という最盛期を迎えた1980年前後、内山氏は「科学」において全学年連載、並行して「学習」でも数々の作品を執筆。また、小学校の図書室などにはたいてい置かれていた「ひみつシリーズ」などにも多くの作品を残している。当時の小学生が日常で内山氏の絵を目にしている機会はたいへん多かったはずだからだ。

 

↑当時、内山キャラたちを目にしたことのある人は多いだろう

 

〝学習まんがの大看板作家〟内山氏ではあるが、週刊や月刊の少年まんが誌ではなく、小学生が読む学習まんがという限られたジャンルで活躍していたため、その略歴については、あまりふれられることはなかった(本人もあまり表には出していない)。そこで、簡単にではあるが、ここで見てみよう。

 

内山氏は1935年、熊本県に生まれた。中学生のころからまんがの楽しさに目覚め、当時のまんが好きの少年たちから作品を公募していた雑誌『漫画少年』に投稿、たびたび入賞を果たす(なお、「漫画少年」公募の入賞常連には、石ノ森章太郎氏ら「トキワ荘」の漫画家たちもいる。つまり内山氏も彼らと同世代の漫画家だ)。

 

1954年、毎日新聞西部本社(福岡県)に入社。毎日小学生新聞編集部でイラストや、ニュースを小学生にもわかりやすく伝える学習まんがの執筆を担当した。ここから氏の漫画家人生、そして学習まんがが始まった。

 

ちなみにこのころ、同新聞で連載をもっていた3歳年下の松本零士氏と出会い、その友情は生涯続く。

 

その後、毎日新聞社を退社すると、プロ漫画家として、「毎日小学生新聞」のほかに、学研の「科学と学習」などの児童書に活躍の場を広げていった。

 

また、1981年には、学習まんがの質の向上をはかる「LAC(Learn Assistance Cartoon)の会」を結成。これは、学習まんがの創始者とされる秋玲二氏の発案で内山氏が中心となった、学習まんがを描く漫画家たちの集まりだ。80年代に学習まんがのシリーズ単行本が各出版社から発行され、名作も多く生まれたが、その背景には「LACの会」の影響もあっただろう。

 

内山氏は〝学習まんがの立役者〟とも呼ばれるのだが、それはこうした活動の実績によるものだ。

 

↑LACの会結成時の会員名簿

 

その後、財団法人経済調査会の「土木工事の積算」など、大人向けの専門性の高い学習まんがの分野でも執筆。また、闘病をきっかけに日本オストミー協会からまんが集「ストーマ人生を歩き出して」を発行するなど、児童向け学習まんが以外でも作品を残した。
もちろん、2002年に亡くなるまで、児童向け学習まんがの執筆も継続。子どもたちの成長に寄り添うあたたかい作風は、生涯を通じて変わることはなかった。

 

↑専門性の高い大人向け学習まんが

 

内山氏は学習誌を主戦場にしていたこともあり、週刊誌と比べればその認知度が低いことを認めていた。「一度くらいは週刊少年誌なんかでメジャーなキャラを世に出したかった」と、息子でありイラストレーターのうちやまだいすけ氏に本音を語ったこともあった。

 

しかし、日のあたりにくい学習まんがにあっても、内山氏の残したキャラたちは、読者の心にまちがいなく残っている。冒頭でも触れた「できるできないのひみつ」の復刻が好調なセールスを記録し、また、学研のアカウントから発信された「デキッコナイス」「ヤメレ食っちまうぞ」などの内山ギャグが、SNS上で飛び交ったことは、その証左ではないだろうか。

 

↑内山ギャグの定番のひとつ、「ヤメレ食っちまうぞ」

 

「もう一度見たい! あのころの学研」シリーズでは、内山氏の作品のうち、「できるできないのひみつ」と「コロ助の科学質問箱」が刊行済みで、9/27に「科学物知り百科」が刊行予定。さらに「ひみつシリーズ」作品だけでなく、「科学と学習」連載作品も「内山安二コレクション」として随時、刊行される予定だ。あのころ出会った作品に、あなたももう一度再会していただきたい。

 

もう一度見たい!あのころの学研シリーズ購入ページ

https://amzn.to/2CM6O0T

 

 

↑既に刊行されている「コロ助の科学質問箱」「内山安二コレクション」1巻と2巻

 

そして内山ファンは、今後の刊行予定に「チューいせよ!」

 

文=こざきゆう 監修=内山大助

どんな専門書よりも犬と生きることが理解できる――馳星周『ソウルメイト』は犬を飼いたいと思う人の必読書だ

“犬の十戒”をご存じだろうか? インターネット上で広く世界に伝わっている有名な詩で、原文は英語で作者は不明、犬を愛する人々が何度も何度も読み返しては、飼い主のあるべき姿を模索しているのだ。

 

馳星周氏といえばノワール小説の旗手だが、犬のために東京から軽井沢へ引っ越してしまうほどの愛犬家としても知られている。『ソウルメイト』(馳星周・著/集英社・刊)は、犬と生きる意味を私たちに教えてくれる家族小説だ。7つの犬種と7つの家族の心温まる物語が収められているが、そのイントロに出てくるのが“犬の十戒”だ。

 

 

馳星周・訳“犬の十戒”

1 ぼくは10年から15年ぐらいしか生きられないんだよ。だから、ちょっとでも家族と離れているのは辛くてしょうがないんだ。ぼくを飼う前に、そのこと、考えてみてよね。

2 父ちゃんがなにをして欲しがってるのか、ぼくがわかるようになるまでは忍耐が必要だよ。

3 ぼくのこと信頼してよ。ぼくが幸せでいるためには、みんなの信頼が必要なんだから。

4 長い時間怒られたり、罰だっていって閉じ込められたりするのはごめんだよ。みんなには仕事だとか遊びだとか友達がいるでしょ? でも、ぼくには家族しかいないんだよ。

5 いっぱい話しかけてよ。人間の言葉はわからないけど、話しかけられてるんだってことはわかるんだ。

6 ぼくにどんなことをしたか、ぼくはずっと覚えてるからね。

7 ぼくをぶつ前に思い出してよ。ぼくはみんなの骨を簡単に噛み砕けるんだよ。でも、ぼく、絶対にそんなことしないでしょ?

8 言うことを聞かないとか、頑固になったとか、最近怠けてばかりだとか言って叱る前に、ちょっと考えてよ。食事が合ってなかったのかも。暑い中ずっと外にいて体調が悪くなったのかも。年をとって心臓が弱くなってるのかも。ぼくの変化にはなにかしら意味があるんだから。

9 ぼくが年をとってもちゃんと面倒見てね。みんなもいつか年をとるんだからさ。

10 ぼくの嫌なところに行くときは、お願いだから一緒にいてよ。見てるのが辛いとか、見えないところでやってとか、そういうことは言わないでよ。そばにいてくれるだけでいろんなこと、頑張れるようになるんだ。愛してるよ。それを忘れないでね。

(『ソウルメイト』から引用)

 

犬を飼いたいと思ったら、まず、この犬の十戒を守れるのか、家族でよく話し合う必要があるだろう。

 

 

最高のソウルメイトと出会うために

犬の十戒を守ると誓ったら、次は犬種選びだ。本書には、チワワ、ボルゾイ、柴、ウェルシュ・コーギー・ペンブローク、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ジャック・ラッセル・テリア、バーニーズ・マウンテン・ドッグという7種の犬が登場する。

 

犬を扱った小説を私はこれまで何冊も読んだが、犬種の特徴、性格がそれぞれのストーリーの中で、さりげなく、しかし的確に描かれていると感じたのは、この本がはじめてだった。七種の犬と、彼らと暮らす人間たちが織り成す物語を読んでいると、この犬種を飼ったらこんな生活になるかもと疑似体験ができてしまうのだ。

 

犬種選びはとても重要だと思う。住んでいる環境、家族構成などによってベストな犬は違ってくるからだ。

 

 

ダルメシアンか、ラブラドールか?

わが家の場合はラブラドール・レトリバーを選んだ。が、そもそもは『101匹わんちゃん』が大好きだった当時6歳の娘は、ダルメシアンを飼いたいと言い張っていた。しかし犬にとても詳しい知人が「ダルメシアンは猟犬だから全速力で走るのが好きな犬。映画の中でも走るシーンが多かったでしょ? 都会で飼うのは犬のストレスがたまるし、しかも子どもにひとりで散歩させるのは難しいと思う。妹として犬を飼うならラブラドールの雌にしなさい、きっといい相棒になれるから」とアドバイスしてくれたのだ。

 

それで娘を説得してラブラドールを家族の一員として迎えたが、これは大正解だった。社交的で温厚で、ぼんやりとした妹犬はどんなときも、一人っ子の娘を姉として慕い、寄り添い、支え続けて十数年を共に過ごし、共に成長してこられたのだ。

 

いっぽう、もしも私たち家族が大自然の中で暮らしていて、ノーリードで自由に散歩ができる環境だったならば、ダルメシアンは最高の家族の一員になっていたに違いないとも思うのだ。

 

 

人間を癒してくれる愛すべき犬たち

本書を読んでいると、言葉を発しない犬が、家族の心情をとてもよく理解し、必要なときにそっと寄り添ってくれることがわかる。

 

「チワワ」は不治の病に冒された妻が、ワンマンな夫に遺していく唯一の家族。大型犬しか犬と思っていなかった夫が、小さなチワワのつぶらな瞳に救われていく。

 

「ボルゾイ」は継父の犬で、息子の言うことはまったく聞かずにときには牙をむいていた。が、ある日、大切な家族を犬が自らの意思で勇敢に救い出すことになる。

 

「柴」は震災で命を落とした母の犬。警戒区域で野犬となったことを知った息子がボランティアに参加して大切な家族の一員を捜しに行く。

 

「ウェルシュ・コーギー・ペンブローク」は前飼い主に虐待を受け、捨てられた犬で人間を恐れていた。新しい家族に迎えられてもなかなかケージから出てくることはできずにいた。

 

「ジャーマン・シェパード・ドッグ」は引退した警察犬。その飼い主が、ある日、登山で犬が怖くてたまらない女性と出会い、恋がはじまる。

 

「ジャック・ラッセル・テリア」のしつけが出来ず、困り果てた都会暮らしの母子が、軽井沢に住む別れた夫に助けを求める。

 

「バーニーズ・マウンテン・ドッグ」は病に冒され余命がわずかだと宣告された夫婦の愛犬。友人の別荘を借り、残された日々を大自然の中で過ごすことになる。

 

どの物語も、心にじんわりと響き、「ああ、犬と一緒に生きるってなんて素敵なんだろう」と思わせてくれる。愛犬家はもちろん、犬を飼ったことのない人にも、ぜひ読んでほしい一冊だ。

 

【書籍紹介】

ソウルメイト

著者:馳星周
発行:集英社

人間は犬と言葉を交わせない。けれど、人は犬をよく理解し、犬も人をよく理解する。本当の家族以上に心を交わし合うことができるのだ。余命わずかだと知らされ、その最期の時間を大切に過ごす「バーニーズ・マウンテン・ドッグ」、母の遺した犬を被災地福島まで捜しに行く「柴」など。じんわりと心に響く、犬と人間を巡る7つの物語。愛犬と生きる喜びも、失う哀しさも包み込む著者渾身の家族小説。

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“シミが濃くなる”美容サプリ!? 痛恨の印刷事故はなぜ起きた?――『いとしの印刷ボーイズ』

かれこれ10年ほど前まで、私は出版社の広告部に在籍していた。

 

雑誌の表紙裏や雑誌の中面に載せる広告を取ってくるだけでなく、クライアント(広告主)から広告料をいただき、編集部が商品の記事を作るタイアップ広告も多く担当していた。

 

そのため、見本誌(一般に書店に並ぶよりも前に、関係者用に届けられるもの)が出来上がるとすぐに、自分の担当しているクライアントのページを念入りに確認する。印刷にズレがないか、色は綺麗に指示通り出ているか、タイアップ広告の場合は内容に間違いがないか。

 

部内に見本誌が届くと、広告部員は一様に、担当しているページを細かい部分までチェックしていたものだ。

 

 

化粧品業界は、色味に特に厳しい!

化粧品など美容系のクライアントの場合は、モデルの肌の色や商品の色味を細かくチェックされるので、見本誌の中でもより美しく印刷されているものを選んで、広告代理店やクライアントに届ける。

 

過去に一度、「見本誌をすぐに20冊届けて!」と広告代理店のお姉さまから連絡を受け、言われた通り、綺麗に印刷されている物を厳選して宅急便の手配をし、ホッと一息ついていたところ、「まだ届かないんだけど!」との電話が。

 

もう手配しましたけど…と思っていたら、「宅急便? 何言ってるの、それじゃあ遅いわ、バイク便よ!!」とお叱りを受け、大慌てで再度見本誌を手配した記憶が。業界でも有名な、美しくて仕事がデキる、なおかつ恐ろしいお姉さまだったので、それ以来、連絡をするだけでも戦々恐々としていたものだ。

 

 

我が人生最大のトラブル!「シミが濃くなる」サプリって…

毎回、印刷ミスがないかを隈なくチェックしていたが、ある日、信じられないような大事件が起こった。

 

あれは大阪に出張しているとき、打ち合わせ中にかかってきた一本の電話から始まった。「○○の掲載誌、見ましたか? 今すぐ確認して折返しください!」と早口で残された留守電。相手は広告代理店の担当者。嫌な予感がする。

 

あわてて本屋に駆け込んで、その雑誌を購入、該当ページを開くがパッと見たところはどこにトラブルがあったのかわからない。見本誌が届いた段階でも、取り立てて間違いは見つけられなかった。

 

多くの人が行き交う阪急三番街の片隅で、雑誌を片手に急いで電話をすると…「”シミが濃くなる”ってどういうことですか!」という、担当者の怒鳴り声を通り越した怯えた声。

 

実は、このときタイアップで紹介していた商品は、飲むだけでシミに効果があると人気のサプリメント(正確には医薬品)。それを高らかにアピールしたつもりが、なななんと、タイアップページの見出し部分に「シミが濃くなる」と書かれていたのだ。

 

初校(最初に印刷会社から出てくる校正紙)から再校(修正指示が反映された校正紙)、校了(これで印刷に進めてOK!という状態)に至るまで、「シミが濃くなる」などという表記は一度も目にしていない。まったくもって、ありえない。でも、現実に起こってしまった。

 

もう、その後のことはあまりよく覚えていないが、上司に電話して事の次第を伝え、担当者には平謝り、東京に戻ってからはクライアントにも謝罪に向かった。いま思い出しても、ゾッとするトラブルだった。

 

そして、人間の目は細かい文字は注意してチェックするが、大きめの文字の方が、意外に間違いに気づきにくいということを実感した次第だ。

 

 

印刷事故はなぜ起こる? 「先祖返り」の

結局、印刷会社から事の経緯を説明した文書が届き、お互いの会社の偉い人同士でなんとか話をおさめたようだが、なぜ、よりによって、「シミが薄くなる」を「濃くなる」に間違えたのか。いまだに腑に落ちていない。

 

だが、ある本を読んで、その理由が少しわかった気がした。GetNavi webの連載マンガ「今日も下版はできません!」をまとめた『いとしの印刷ボーイズ』(奈良裕己・漫画・文/学研プラス・刊)がそれだ。

 

筆者の奈良さんは、元印刷会社営業マン。印刷、出版、広告、宣伝など、紙もの業界に関わる人なら必ず「あるある!」と笑って泣けるリアルな体験が描かれた人気の一冊だ。

 

この漫画に、修正の指示がないのに画像が入れ替わっているトラブルの話があった。クリスマスケーキのカタログ印刷を進行中、正しい写真に差し替え指示を出したはずなのに、最後の最後、念校の段階で、なぜか初校時の古いケーキの画像データに差し替えられていた、という内容。これを、通称「先祖返り」というらしい。

 

先に紹介した私が経験した印刷トラブルは、なんでもデザイナーさんがはじめ「シミが濃くなる」と仮で入力していて、その後「シミが薄くなる」に修正していたものが、なぜか印刷段階になって、最初のデータに戻ってしまっていたようだ。そうか、あれも先祖返りだったのか…。世の中は、本当に予期せぬことが起こるものだな…。南無阿弥陀仏。

 

 

雑誌の印刷ミスであろう箇所を見つけると、なぜか楽しい!

ここまで極端な間違いは稀だとしても、私たちが普段手にしている雑誌を見ていると、時に「あれ?」と思う印刷ミスを見つけることはないだろうか。

 

たとえば、ストライプなどの規則正しい柄が、なんだか目がチカチカするようなモワ―っとした模様になっていたり、見開きページの中心部分がズレていたり、ページ番号が切れていたり、カラーページに何かが垂れたようなシミができていたり、テレビで見るのと明らかに頬のラインやウエストの細さが違うアイドルのグラビアページがあったり…。

 

これらがなぜ起こるのかは、『いとしの印刷ボーイズ』を読めばスッキリ謎が解ける。自分が担当するクライアントのページでなければ、印刷ミスは逆にレアなケースとして面白く受け止められるものだな。

 

というわけで、いろいろ痛い目にもあったが、今となってはいい想い出だ。日夜奮闘する印刷会社の方々に敬意を評して、この本をおすすめしたいと思う。印刷業界や出版業界、広告業界を志す若者にもぜひ読んでほしい一冊である。

 

【書籍紹介】

いとしの印刷ボーイズ

著者:奈良裕己(BOMANGA)
発行:学研プラス

ゲットナビウェブで大人気のウェブ漫画がコミック化! 中堅の印刷会社「ナビ印刷」を舞台に、毎回起こる印刷事故に現場はてんやわんや。印刷業界のみならず、デザイナー、チラシ制作会社、メーカーのカタログ担当と幅広い層から絶賛の声が出ています。

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「子ども食堂」「Reduce Go」など日本で広がり始めた「食」のシェアリングエコノミー――『シェアリング・エコノミー』

「子ども食堂」と呼ばれる場所が始まってから数年が経つ。おもに子どもやその親などに食事を無料、もしくは安価で提供するところのことで、全国的にその動きは広がり、全国で2000か所を超える規模になっているともいう。福祉的な意味合い以外にも、国内外で食事が安く提供される例はどんどん増えている。

 

 

格安すぎる新サービス続々

4月に日本でリリースされた「Reduce Go」というアプリは画期的だ。月額1980円を支払えば、飲食店が余らせた食材を1日2回まで無料で受け取りに行くことができる。まだ始まったばかりのサービスで地域も食品も限られているけれど、もしこのアプリが拡がれば、うまく使えば食費を月額1980円で済ませることができるかもしれないのだ。

 

さらにすごいのは3月に始まった「フリーランチ」というシステムも目を疑うような格安っぷりだ。なんと月額500円で平日のランチを食べることができる。月曜日定休なので、ランチが食べられるのは月に約16回。毎回食べたら1回のランチ代はたったの33円で済んでしまう。

 

 

お金で測れない価値観

「Reduce Go」を活用すれば、お店での廃棄食材を少しでも減らすことができる。いわゆるフードロス対策なのだ。廃棄するよりは少しでもお金になったほうがいい。それはヤフオクで1円(送料別)で大型家財を出品する人も同じ気持ちだろう。大型家財は廃棄する時に粗大ゴミ料金がかかる。それよりはタダに近い料金でも誰かに引き取ってもらえたほうが助かるのだ。

 

「フリーランチ」のほうは飲食店が宣伝のためにどこかに払う広告料をやめて、安いランチを提供することを提案している。やめた広告料でランチの食材費はまかなえるだろうということだ。ランチを格安で食べ、店の味が気に入った客は、通常価格で営業している夜にもやって来るという期待もあるだろう。今までは儲け重視だったサービスが、金銭以外の価値観で動き始めているのを感じている。

 

 

海外は進んでいる

シェアリング・エコノミー』(アルン・スンドララジャン・著/日経BP社・刊)は、2年前(2016年10月)に出版された本で、海外でのこうした格安化の動きをレポートしている本だ。これを読むとお金を介さないやりとりや格安での提供方法は、海外のほうがかなり進んでいる。何しろ家と家を交換するマッチングサイトまであるというから驚いてしまう。今後日本にもこうした新しい流れが入ってくるのではないだろうか。

 

日本も2033年には2000万戸もの空き家が生まれると予測されていて、すでに地方自治体では空き家を無料もしくは格安で移住者に提供する動きも出てきている。よりごのみさえしなければ、家さえもタダで手に入る時代になってきているのだ。洋服も今後3Dプリンターが普及すると、自宅で服をプリントすることができるようになるため、衣服費も格安になる可能性があるという。

 

 

進むシェアリングエコノミー

シェアリング・エコノミーとは、空いている時間や資産をシェアする経済活動だ。最近話題の「民泊」や「おっさんレンタル」もそのひとつだ。格安に利用できる反面、相手は企業ではないので心配もある。そこで役立つのが信用だ。利用者のレビュー点数によってそのひとの信頼度が可視化できることが多い。

 

この本では、一歩進んだ食のシェアリングも紹介されている。「ソーシャル・ダイニング・プラットフォーム」というものだ。人に料理を食べてもらいたい人と、誰かの家に寄って食事をしたいという人のマッチングサイトである。無料ではないかもしれないけれど格安で食事ができ、しかも誰かの家に寄って会話を楽しむことができる。日本でも、孤食に飽きた人が誰かとのつながりを求めてこうしたシステムを利用する日が近づいているのだろう。

 

 

【書籍紹介】

シェアリングエコノミー

著者:アルン・スンドララジャン
発行:日経BP社

社会、ビジネス、雇用のすべてが変わる!シェアリングエコノミーの第一人者が緊急提言。今注目を集めているシェアリングエコノミーとは、いったい何か?世界中の最新実例をもとに急激にシフトするビジネスモデル、雇用制度などすべてを解説。

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一発屋芸人が一発屋芸人について掘り下げる――髭男爵・山田ルイ53世の『一発屋芸人列伝』正統派ルポルタージュだった!

芸能界には「一発屋芸人」と呼ばれる人たちがいます。かれらは何処からやって来て、脚光を浴びたあと、何処へ去ったのでしょうか。

 

はじめて明かされる、一発屋業界の知られざる舞台裏とは? 元・一発屋芸人による渾身のノンフィクション本『一発屋芸人列伝』(山田ルイ53世・著/新潮社・刊)を紹介します。

 

 

白塗りの怪人「コウメ太夫」

コウメ太夫。鬘(かつら)、着物、白塗りメイク ── ゲイシャガールに扮した男性が、まるで壊れたからくり人形のような動きをしながら、喉からしぼり出した甲高い声で「チャン・チャカ・チャン・チャン〜♪」 という三味線のメロディを口ずさみ、コウメ日記と称する「ツキがなかったエピソード」を朗唱したあと、怒りをあらわにした表情で「チクショー!」と絶叫する。

出オチ、ウケねらい、バカ殿もどき、意味がわからない、支離滅裂であると思われがちなコウメ太夫の芸風ですが……


大学中退後、幾つかの芸能事務所を転々とした後、梅沢富美男が主宰する劇団のオーディションに合格する。22歳の時であった。

(『一発屋芸人列伝』から引用)

梅沢富美男さんは、大衆演劇の舞台にて「女形」を演じているスターです。

コウメ太夫の奇妙な扮装は、梅沢富美男の艶姿が元ネタ。意外すぎて、びっくりしました!

 

 

コウメ太夫にまつわる誤解

本書『一発屋芸人列伝』によれば、マイケル・ジャクソンに憧れていた→ジャニーズ事務所をあきらめる→梅沢劇団に入門する→2年在籍したあと辞める→お笑いコンビ結成→解散→という流れで「コウメ太夫」が誕生したそうです。

 

社会的成功はキャリアの積み重ねによる必然ということが、よくわかる事例です。

 

ところで、コウメ太夫の代名詞といえば「チクショー!」です。一見すると、「ゲッツ!」や「○○ですから〜残念!」などのワンフレーズ型の一発屋と見なされがち。しかしながら、コウメ太夫における面白さの核(コア)は、前フリのエピソード部分にあります。

 

「露天風呂かと思って入ってみたら、ただの池でした」
「偏差値が低い学校に行ってみたら、先生がチンパンジーでした」

 

つまらないのに、なぜか笑いがこみ上げてくる。「完成度が低いネタ」の完成度が高い。ハズすことをハズさない。虚実皮膜のトートロジーを自在にあやつる。それこそがコウメ太夫の芸です。

 

ちなみに、一発屋芸人だからといって「芸がひとつ」とは限りません。現在のコウメ太夫さんは芸能活動をしながらアパート経営をおこなっています。

 

これまで紹介してきた『一発屋芸人列伝』を書いているのも、一発屋芸人と見なされているお笑いコンビ「髭男爵」の山田ルイ53世さんです。

再ブレイクを果たした「ルネッサ〜ンス」

髭男爵。黒いシルクハットをかぶったヒゲづらの男が、ワイングラスを掲げて「ルネッサ〜ンス」と挨拶をする。そのあと「貴族のお漫才」と称するコント形式のネタが始まる。相方のひぐち君がボケると、山田ルイ53世がツッコミながら、2人は息を合わせてワイングラスをカチンと重ねる。革新的なスタイルです。

 

2018年にあらためて鑑賞してもオンリーワンの内容であり、面白さの完成度も高い。それなのに漫才の内容よりも「ルネッサ〜ンス」のほうが爆発的に流行ってしまったので、ワンフレーズ型の「まぐれ」で売れたにすぎないと勘違いされがちです。


一発屋は、本当に消えてしまった人間なのだろうか。否である。彼らは今この瞬間も、もがき、苦しみ、精一杯足掻きながら、生き続けている。

(『一発屋芸人列伝』から引用)

 

敗残者の代名詞になっていますが、それは誤った認識です。一発屋=成功するまで続けた人。そして多くの一発屋が、困難である二発目(再ブレイク)にチャレンジしています。

 

山田ルイ53世さんは一発屋のレッテルを乗り越えるために、取材と執筆をコツコツ積み重ねて、本書『一発屋芸人列伝』の上梓にこぎつけました。その結果、第24回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞の作品賞を受賞しています。

 

本書は、一発屋芸人の著者が一発屋芸人について掘り下げた正統派ルポルタージュであり、平均的なタレント本とは一線を画するものです。著者である山田ルイ53世は、文武両道ならぬ…… 文「笑」両道を達成しています。

 

そのまんま東『ビートたけし殺人事件』から又吉直樹『火花』に至って、芥川賞受賞という絶頂期を迎えたお笑い芸人が小説を書くムーブメントに隣接するかたちで、本書『一発屋芸人列伝』を位置づけることができます。

 

 

文笑両道ムーブメントの旗手たち

文笑両道ムーブメントを考えるにあたっては、浅草キッドの水道橋博士による『藝人春秋』(文藝春秋・刊/2012年)を抜きにしては語れません。本書『一発屋芸人列伝』は、芸人が芸人について語ることを試みた『藝人春秋』の流れを汲んでいるからです。

 

さらに言えば『藝人春秋』は、俳優・山城新伍さんによる『おこりんぼさびしんぼ』(廣済堂出版・刊)の精神を色濃く受け継いでいます。この本は、役者を広義の芸人と見なした「若山富三郎・勝新太郎兄弟についての語り」です。そのほか、噺家にも文笑両道の人は多いですが ── それはまた別の話。

 

『藝人春秋』の文庫版には、追加コンテンツ(ボーナストラック)として「2013年の有吉弘行」が掲載されています。まさに『一発屋芸人列伝』を先取りした「番外編」と言えるものです。ご存知のとおり、水道橋博士も「文笑両道」の代表的人物です。

 

さらに付け加えるならば、『藝人春秋』文庫版の解説文を担当しているのは、お笑いコンビ・オードリーの若林正恭さんです。現役かつ売れっ子のお笑い芸人にしか書けない見事なセルフポートレイトに仕上がっています。若林さんは名文家として知られており、上梓したキューバ旅行記『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』が第3回「斎藤茂太賞」に選ばれました。

 

オードリー若林さんは、話題作である『天才はあきらめた』(山里亮太・著/朝日新聞出版・刊)という自伝の解説文も担当しています。南海キャンディーズ・山ちゃんが思いの丈を綴った『天才はあきらめた』も、通常のタレント本とは一線を画した「文笑両道」ムーブメントのなかに位置づけられる著書です。お試しください。

 

 

【書籍紹介】

一発屋芸人列伝

著者:山田ルイ53世
発行:新潮社

誰も書かなかった今の彼らは、ブレイクしたあの時より面白い!? レイザーラモンHG、テツandトモ、ジョイマン、波田陽区……世間から「消えた」芸人のその後を、自らも髭男爵として“一発を風靡した”著者が追跡取材。波乱万丈な人生に泣ける(でもそれ以上に笑える)、不器用で不屈の人間たちに捧げるノンフィクション!

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我が子とのスキンシップ不足に悩むパパ必見! 子どもが“ちゅー”してくれる最強のふれあい絵本――『おかしなおつかい』

この世の中にある子ども向け絵本には、2種類ある。

 

ひとつは、THE定番! コレさえ買っておけばOK! というような、テッパン絵本。世代も国境も越えて愛される、いわゆるロングセラーものだ。

 

たとえば、『はらぺこあおむし』や『いないいないばあ』、『ぐりとぐら』などがそのひとつ。特に、新米パパママや知人の子どもへの出産祝いに人気がある。

 

もうひとつが、一風変わったユニークな視点の絵本。ともすると、古き良き名作だけが生き残りがちな絵本界のなかに、新しい風を吹き込んでくれるタイプのものだ。開くと鏡の仕掛けが施されている『きょうのおやつは』や、コミカルな関西弁とシュールな内容が話題になった『ちくわのわーさん』をはじめ、数え上げればキリがない。

 

絵本はなかなか値が張る。1冊平均1000円前後はするので、そうたやすくホイホイと買えないのが一般家庭の常ではないだろうか。だからこそ失敗したくないわけで、図書館などで吟味しつつ、納得できるものだけを購入するという親は多いのでは。

 

そんな時間がなかなか捻出できない場合は、口コミが高い、そしてみんなが持っている、確実なロングセラー絵本を選ぶというわけだ。

 

だが、3人の子どもを持つ身としては、ロングセラーと言われる絵本は大方揃っている。そこで最近は、できれば「お!」と目を見張るような新作絵本に出会いたいと思い、日々リサーチを重ねている次第だ。

 

そしてつい先日、子どもたちは大ウケ、私自身も読み聞かせしていて楽しい、でもちょっと疲れる、そしてパパにすすめたい、そんな1冊を見つけた。『おかしなおつかい』(ささがわいさむ・作/萩原ゆか・絵/学研プラス・刊)である。

 

『おかしなおつかい』の魅力(1) ただの読み聞かせと侮るなかれ、全身運動で汗をかく!

『おかしなおつかい』のストーリーをざっくり説明すると、ある日おつかいにでかけた男の子が、不安を抱きつつも初めてのお店に足を踏み入れた。そこで待っていたのは、ひっつめ頭にチェーン付きメガネのおばちゃん店員。おつかいを頼まれた商品があるかを確認すると、奇想天外な物が次々出てきた! というもの。

 

たとえば、「パンありますか?」と聞くと、「はい、パーン! どういい音が出るでしょ?」と手のひらを大きく鳴らされたり…

 

「シャンプーありますか?」と言うと、「はい、ジャンプー!」と思いっきりジャンプしたり…

 

「じゃあ、コロッケは?」と言えば、「はい、コロコロコロッケ!」とゴロゴロ体を転がしたり…

 

読みながら一緒に同じ動作をしていると、それはもう、汗をかく。子どもたちも大喜びで真似をする。親子で笑いながら汗だくだ。

 

 

『おかしなおつかい』の魅力(2) イラスト&色使いが可愛い!

『おかしなおつかい』の絵を担当しているのが、企画会社「シンガタ」のCMプランナー・萩原ゆかさん。学習塾のキャラクター「サボロー」や「YDK(やればできる子)」などのキャラクターの生みの親でもある。

 

彼女が描くイラストは、素朴であり、でも表情豊かで、色合いも含めてこの上なく可愛い。男の子がどんどんと摩訶不思議なおつかいに惹き込まれていく様子、そして、おばちゃん店員が楽しみながらも汗だくで疲れていく様子にクスっとさせられる。

 

『おかしなおつかい』の魅力(3) 子どもとのスキンシップが楽しめる!(“ちゅー”してくれるよ!)

このコラムを読んでくれているパパたちのなかには、忙しくてなかなか子どもと触れ合う時間がない、どうやってスキンシップをはかったらいいのかわからないという人もいるのではないだろうか。

 

うちの夫の場合、娘2人とのスキンシップ不足に悩んでいる。「パパ大好き!」と気が向いたら言ってくれるが、基本は娘からくっついていったり、ぎゅっとハグしたりすることは稀だ。私には有り余るくらいのハグや“ちゅー”が振ってくるのに。いや、本人的には悩んではいないかもしれないが、どこか寂しそうなのは事実。

 

それがだ。『おかしなおつかい』を夫が子どもたちに読んであげたところ、娘たちから競うようにして“ちゅー”のプレゼントが! 実は、「シュークリームありますか?」「はいはい、チュークリームですね」といって顔中に“ちゅー”をしまくる場面がある。これを実演してくれたというわけだ。

 

他にも、「チョコレートありますか?」「はいはい、コチョレートですね」と体中をこちょこちょしたり、娘2人と夫、自然に密なスキンシップがはかれている! これには、見ていた私も目頭が熱くなった…(涙)。

 

 

クセになる!「ヘンテコことばあそび」を楽しもう!

繰り返し読むほどにツボにハマるような中毒性がある『おかしなおつかい』。自分でも同じようなヘンテコことばあそびを考えようとしたのだが、これがまったく思いつかない。「ソーッスね~(ソース)」くらいか。これではスキンシップにならない。

 

絵本に挟み込まれていたチラシには「かぶください」「はい、カプっ!」(腕に噛み付く)が例に挙げられていた。なるほど…! もう少し頭を柔らかくしなくては。

 

ちなみに、『おかしなおつかい』の作者は笹川勇さん。Eテレの人気番組「みいつけた!」のオフロスキーコーナーなど、数々の番組で放送作家・脚本家としても活躍されている方だ。

 

放送作家×CMプランナーによる、新感覚絵本。もっと子どもとイチャイチャしたい! と熱望するパパたちは、ぜひお土産がわりに『おかしなおつかい』を買って帰って、ヘンテコことばあそびを親子で楽しんでみてはいかがだろうか。

 

 

【書籍紹介】

おかしな おつかい

著者:ささがわいさむ・作/萩原ゆか・絵
発行:学研プラス

チョコを頼んだら、コチョコチョされる! シュークリームを頼んだら、チューされる! 出てくるものが奇想天外なお店におつかいでやってきた男の子と、おばちゃん店員とのやりとりは思わず真似したくなる! ヘンテコことばあそびが楽しい新感覚絵本。

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生き物の擬態能力は半端ないって!――『さがせ!かくれる生き物』

小動物や昆虫のなかには、外敵から身を守る手段のひとつとして「擬態」を使うものがいる。自然界にあるいろいろなものに体を似せて変化させたり、色を変えたり、ほかの強い生き物に見せかけているものもいる。

 

それらを収めた書籍が『さがせ!かくれる生き物』(木村義志・著/学研プラス・刊)だ。写真のなかに隠れている生き物を探すという、お子様向けの書籍。大人な僕は、すぐに見つけられるはずだと手に取ってみた。

 

しかし、やはり生き物たちの擬態能力はかなりのもの。一見して見つけられないものもいた。そこで、僕が「これはすごい!」と思った生き物をいくつか紹介しよう。

 

 

葉の枯れている様子まで再現している「コノハムシ」

本書ではレベル1、つまり一番簡単とされているのだが、なかなか見つけられなかったのが「コノハムシ」だ。

コノハムシはまわりの木の葉の色にあわせて、自分のからだの色を変えます。緑や茶色になり、敵の目からはまわりの木の葉と同じようにしか見えません。

(『さがせ!かくれる生き物』より引用)

写真内に3匹いるのだが、2匹しか気づかなかった。枯れ葉の緑と茶色をうまく再現しており、なかなかの枯れ葉っぷりだ。

 

 

海岸の石に紛れる「オウギガニ」

レベル3になってくると、かなり難易度は上がる。石の多い海岸に住む「オウギガニ」も、なかなか見つけることができなかった。

甲はでこぼこで、灰褐色のまだらもようがあり、海岸の石の中では目立ちません。

(『さがせ!かくれる生き物』より引用)

オウギガニの石っぷりは見事。写真内に6匹いるのだが、がんばっても5匹しか見つけられなかった。

 

もう枯れ葉にしか見えない「ムラサキシャチホコ」

本書内で、もっとも擬態能力が高いなと思ったのが「ムラサキシャチホコ」という蛾だ。落ちている枯れ葉に似た体をしているのだが、丸まった枯れ葉の形で、まったく見分けが付かない。

じつは、まるまって見えるのは目の錯覚で、実際ははねのもようそのものは平面なのですが、トリックアートのようにまるまって見えるのです。自然がつくったすごい芸術ですね。

(『さがせ!かくれる生き物』より引用)

へ、平面だったのか……。この解説を読むまで、羽根が丸まっているのだと思い込んでいた。これはなかなか見応えがあるので、ぜひ本書を読んでほしい。

 

 

ほかのものに体を似せるのが生存戦略

小さな生き物が、自然界で生き残るために手に入れたのが、擬態。外敵の目を欺き、長きにわたり生き残ってきたのだから、その能力には感服する。

 

小さな生き物だけではない。シマウマの模様も草原でのカモフラージュのためのもの。自分とは違うものに似せるというのは、生き物にとってはかなり有効な防衛手段なのだろう。

 

人間も、ときには擬態することがある。服装を変えるいわゆる「変装」もそうだし、知らない人の前では本性を隠すのも、社会で身を守るための擬態といえば擬態なのかもしれない。

 

 

【書籍紹介】

さがせ!かくれる生き物

著者:木村義志
発行:学研プラス

忍者のように自然の中に隠れたり、敵に化けたりといった擬態する生き物のビジュアル満載なクイズが楽しめる、新感覚のクイズ図鑑!実際の写真を使ったクイズで生き物の本当の生態が目で見てわかる!生き物の基本データもついて、遊ぶだけで知識が深まる。

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「赤ちゃんだから何もわかんないでしょ」は大間違い! 0歳児が泣き止んでじっと見つめる魔法の絵本――『まるまる ぽぽぽん』

昨年結婚した弟夫婦に、待望のベイビーが生まれた。お盆に帰省した際会わせてもらったのだが、それはもう、小さくて、可愛くて、愛しくて、たまらなかった。

 

彼と同じ目線までかがみ、「抱っこしてもいい?」と尋ねたうえで、しばし抱っこさせてもらった。誰に尋ねたかって? もちろん、赤ちゃん本人に、である。

 

「どんなに小さな赤ちゃんでも、ちゃんと意思があって、こちらの言っていることがわかる」

 

これは、私自身3人の子どもを育てている最中であり、さらにはいろいろな子育て講座などにも参加し、各界の先生方を取材してきた中で、ハッキリと確信を持って気づいたことだ。

 

 

0歳だって一人の人間! 意思がある! 

よく、「まだ赤ちゃんだから、言ってることなんてわかんないでしょ」と言う人がいるが、「そっちこそ何言ってるの、赤ちゃんは全部お見通しだぞ!」と全否定したい。

 

赤ちゃんをよーく観察していると、何かしらのリアクション返してくれていることに気づくはずだ。たとえ言葉のキャッチボールはできなくても、声で、表情で、仕草で、ちゃんと赤ちゃんは想いを伝えようとしているのだ。

 

たとえば、赤ちゃんに何の断りもなくいきなり抱っこするのと、先程述べたように、赤ちゃんにOKをもらうように話しかけてから抱っこするのでは、赤ちゃんの反応が違う。前者は泣いて嫌がることが多々あるが、後者の場合は受け入れてくれることが多い。

 

また、おむつ替えのとき、「おしっこでおむつが濡れちゃったね、気持ち悪かったね~」「さあ、おむつを替えたよ、スッキリしたね!」などと声がけを続けていると、赤ちゃんは、「このお尻の違和感=おむつが濡れた、気持ち悪い」、「おむつを替えてもらう=スッキリ、気持ちが良い」…と快や不快を学んでいくのだと保育士さんに聞いたことがある。

 

そんなこんなで、赤ちゃんの発達のためにも、より密なコミュニケーションをはかるためにも、一人の人として、たくさん話しかけることが大切なのだ。

 

 

6か月未満の赤ちゃんも、ちゃんと「見て」「聞いて」「反応してる」!

 同じように、「絵本を0歳児に読んだって、理解できないからムダじゃない?」などという声を耳にすることがあるが、こちらも「大馬鹿者!」と喝を入れたい。赤ちゃんだって、ちゃんと物を見て、色や形に反応するのだ。

 

人気の赤ちゃん向け絵本『しましまぐるぐる』シリーズが、発売10年で累計180万部を突破したことが、それを証明してくれているだろう。

 

ご存知の方も多いかと思うが、生後6か月未満の視力が未発達の赤ちゃんでも、黒・白・赤などを生かしたコントラストの強い配色の絵に注目し、ちゃんと対象物を目で追っかけると言われている。

 

さて、この度『しましまぐるぐる』シリーズから最新作が発売されたとの情報を入手した。その名も『まるまる ぽぽぽん』(かしわらあきお・絵/学研プラス・刊)。

リズミカルなタイトルと、青い地球のような半円から赤い太陽?が顔をのぞかせている表紙が印象的だ。

 

 

「まる」は赤ちゃんの大好物!

今回のテーマは、「まる」。

 

なんでも、赤ちゃんは「顔」に見える形も、「まる」の絵も好むと言われているとのこと。泣く子も黙る「アンパンマン」は、その良い例かもしれない。

 

 

ページをめくると、「あかまるちゃん」がぽん!と飛び出して、本の中を所狭しところころころころ。楕円になったり卵型になったり、てんとう虫やおにぎり、いぬ、かたつむりに姿を変えながら、ぽんぽんぽん!とはじけていく。

 

ちなみに、シリーズ代表作の『しましまぐるぐる』は我が家にもあり、子どもたちが小さい頃よく見て楽しんでいたので、その威力は証明済み。しかしながら、今回の『まるまるぽぽぽん』にどれほどのパワーがあるのかは、なんとも半信半疑だった。

 

このコラムで取り上げるからには、効果が実証できなくては。

 

そこで、下の娘が通っている保育園でお願いをして『まるまる ぽぽぽん』を預け、0歳・1歳・2歳の子どもたちにそれぞれ読み聞かせしてもらった。

 

【0歳児の反応】泣いていた子が泣き止んだ!

まずは、一番興味深い0歳児の赤ちゃんたちの反応からご報告しよう。

 

「椅子や膝の上に座らせて『まるまる ぽぽぽん』を読んでみせたところ、泣いていた子が泣き止んで、じーっと絵本の中のあかまるちゃんを見つめていました! 最後までずっと見つめていて、途中「あっ!」と声を出したり、指差しをしていたので驚きました」(保育士談)

 

ちなみに、保育士が読み終わった後も、自分の手でページをつんつんと触ったりめくったりして楽しんでいたらしい。0歳児のハートを確実に掴んだようだ。

 

 

【1歳児&2歳児の反応】みんなじーっと集中!ニコニコで言葉を繰り返す子も

続いて、1歳児&2歳児の反応はというと、

 

「みんな集中してページを見ていました。とてもカラフルなので、色に惹かれている感じでしょうか。2歳児になると、「あ! ありさんがいる!」「おにぎり!」など、ページの中に描かれている細かい部分にも気づき、声を出して教えてくれました。また、読み方にも工夫してみたのですが、「まるまる ぷかぷか~」と読むと「ぷかぷか~」と全員で繰り返して楽しんでいました」(保育士談)

 

少し年齢が上がってくると、色や形はもちろん、リズミカルな言葉にも大きく反応した様子。「いないいないばあ」や穴あきの仕掛けがあるページもあり、成長と共に刺さる部分が違っていて、長く楽しめる1冊だと感じた。

 

ちなみに、我が家の5歳児&3歳児にも読み聞かせしたところ、3歳の娘は、私の言葉に続いて「ころころ~」「まるまるぽん!」と上機嫌で繰り返し、5歳の娘も「卵、割れてるやん!」などと突っ込みながら、ニコニコと最後まで聞いていた。

 

絵本選びというと“ママの役目”なんていう家庭は多いかもしれないが、もしもパパが絵本を買って帰ってきてくれたら、子どもはもちろんママも大喜びするに違いない。

 

絵本を読み聞かせて、子どもがうれしそうに反応している姿こそ、親にとって大きな喜び。愛する我が子へのファーストブックに、『まるまる ぽぽぽん』はいかがだろうか? パパの株急上昇間違いなしだ。

 

 

【書籍紹介】

まるまる ぽぽぽん

著者:柏原晃夫
発行:学研プラス

あかちゃんに大人気の絵本『しましまぐるぐる』のシリーズ最新刊! 今度は「まる」! あかちゃんが注目する黒を中心にコントラストの強い配色でデザインした、ぽんぽん元気な「まる」がいっぱいのベイビーブック。あかちゃんが大好きな「顔」もいっぱい!

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あなたの知らないごみ収集の世界。新宿の清掃作業員をやってみた ──『ごみ収集という仕事』

学術研究者によるフィールドワーク報告書が売れています。たとえば、バッタと対決するためにアフリカへ行った昆虫学者が書いた本が話題になりました(新書大賞2018)。

 

地方自治や行政学を専門としている研究者(准教授)が、9か月のあいだ労働着を身にまとい、ケガにそなえて破傷風の予防接種をして、実際に「清掃作業員」として働いた記録があります。『ごみ収集という仕事』(藤井誠一郎・著/コモンズ・刊)という本です。あなたの知らない「ごみ収集の世界」を紹介します。

 

 

清掃作業員の1日

肉の塊が入ったビニール袋が出てきた。回転盤が作動した瞬間、こちらも破裂。今度は肉の塊や汁を浴びてしまった。(中略)道路に肉片が散乱し、独特の臭いが蔓延した。

(『ごみ収集という仕事』から引用)

 

著者の藤井誠一郎さんは、大東文化大学法学部政治学科の准教授です。現場作業員としてごみ収集にたずさわることで「3つの改善点」を見出しました。

 

(1)水気を少なくする
収集車の回転盤にごみ袋を放り込むと、袋がやぶれて生ごみの汁が飛び散ります。作業者たちはプロフェッショナルなので耐え忍びますが……じつは、清掃職員がもっとも恐れているのは「飛沫が通行人にかかる」という事態です。それを気にしながらの重労働であり、心身ともに疲れ果てます。

 

(2) きつく結ぶ
時間に追われているため、片手で2〜3つのごみ袋をつかんで投げ入れます。そのとき、袋の結び目がユルユルであればごみ袋の中身をぶちまけることに。収集作業の妨げになるので、しっかり結びましょう。

 

(3)分別して出す
燃えるごみの収集日なのに、容器包装プラスチックやアルミ缶などが混ざっていれば、回収せずに置いていく決まりになっています。厄介なことに、収集所に違反ごみ袋を置いていくと、住民から「回収を忘れている!」というクレーム電話が寄せられるそうです。苦労がしのばれます。

 

ごみ収集は重労働ですが、市民の心がけによって清掃職員の負担は減ります。

 

 

軽小型のごみ収集車とは?

新宿区には小型プレス車や小型特殊車の車幅では通行できない狭小路地が多い。(中略)その対策として考え出されたのが軽小型車である。

軽小型車は、狭小路地の可燃ごみや不燃ごみの収集はもちろん、臨時ごみへの対応、機動性を活かした新宿二丁目や回収し忘れへの対応、クレーム処理と、あらゆる収集業務を担う。

(『ごみ収集という仕事』から引用)

 

ごみ収集車といえば、モーターの轟音が鳴りひびく「回転盤プレス式」を連想します。じつは、東京都新宿区のような狭小路地の多いところでは、軽トラックを改造した「軽小型車」が欠かせないそうです。

 

軽小型車の乗務は、歴戦のベテラン職員たちが務めています。なぜなら、軽トラックを改造した収集車にはプレス機能がないので、たくさん回収できるよう荷台に積み上げていくテクニック求められるからです。ごみ袋が崩れ落ちないよう「微妙にジグザクに運転する」という技術は、まさに職人芸です。

 

本書『ごみ収集という仕事』では、清掃職員の1日のスケジュールをくわしく紹介しています。

作業着が汚れたらどうするのか?

清掃職員は、作業によってはごみまみれになったり、臭いが染みついたりする。(中略)したがって、清潔な格好で帰宅できるように、洗身が必要となる。そのための施設が清掃事務所や清掃センターには整備されている。

(『ごみ収集という仕事』から引用)

 

1日の作業は、「回収」と「運搬」に分けることができます。前半は、ごみ収集所を巡回する。1時間の休憩。後半は、収集のつづき、不燃ごみの破袋(はたい)という仕分けをおこなったり、焼却場へ運んだりします。

 

本書『ごみ収集という仕事』を読めば、役所のパンフレットには書いていない生々しい実態を知ることができます。たとえば、「清掃職員にまつわる複雑な雇用システム」や「休憩時間の過ごしかた」や「洗身」についての記述です。

 

夏場は、大量の汗や飛沫によって作業着がずぶ濡れになります。そのため、お湯を使える洗身施設洗濯機を利用できることになっていますが……はたして運用実態は!?  現場で働いている人たちが「匿名」で証言しています。

 

 

動物死体の引き取り

死んだ犬や猫をそのままビニール袋に入れて渡されたり、タオルに巻いただけで渡されたりする場合もある。引き取る際は、ごみ収集時に着用する手袋をしていては配慮に欠けるので、素手でおこなう。

(『ごみ収集という仕事』から引用)

 

新宿区は、亡くなったペットを有料(3000円)で引き取っています。
ご遺体は冷凍保管したのち、まとめて火葬するそうです。荼毘に付したあとの「骨」を引き取りたい飼い主には、専門業者を紹介してくれます。

 

ごみ収集に関わっている人は、運転手や作業員だけではありません。
たとえば、回転盤付きの小型プレス車をメンテナンスする専任の自動車整備士がいます。収集中に、ごみ袋のなかに混ざったライターやスプレー缶のせいで火災が発生することが珍しくなく、破損したプレス機構を修理するためです。

 

本書『ごみ収集という仕事』には、最近増えてきた清掃車の女性運転手にまつわるドキュメントも収録されています。現場第一主義の研究者による画期的なフィールドワークの記録です。お試しください。

 

【書籍紹介】

ごみ収集という仕事: 清掃車に乗って考えた地方自治

著者:藤井 誠一郎 
発行:コモンズ

若手研究者が新宿区内で9か月間にわたって、ごみの収集を中心に清掃指導や環境学習などを体験。それに基づいて、過酷な清掃という仕事の奥深さ、日があたらない場所で真摯に働く職員の姿、歌舞伎町や新宿二丁目のごみ事情、民間委託の問題点、そして本来の地方自治のあり方について論じる。

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夏の怪談ラストスパート! 背筋も凍る「怪談」「怪奇」を集めた4冊

8月も終わりに近づき、暦の上ではすでに秋。にもかかわらず暑く寝苦しい夜が続いています。そこで、そんな寝苦しい夜を涼しくする「怪異・怪談」を集めた4冊を紹介します。

 

 

懐かしい「昭和」オカルトの香り

読者のみなさんは、夏の風物詩という言葉から何を連想しますか? 昭和生まれの筆者は、夏休み限定で放送されていた情報バラエティ番組の心霊現象コーナーを真っ先に思い浮かべてしまいます。

 

真・怪奇心霊事件FILE』(並木伸一郎・著/学研プラス・刊)は、そういう昭和の情報バラエティ番組の心霊コーナーのテイストを思い出させてくれる一冊。トラディショナルな心霊写真の画質を上げたもの、そしてポルターガイスト現象発生の瞬間をとらえた写真など、ビジュアルにこだわった作りという姿勢が強く感じられます。そして、著者・並木伸一郎さんの徹底的なフィールドワークに裏打ちされた姿勢が前面に出ています。

 

地上波のテレビ番組ではまったくと言っていいほど見なくなった心霊現象関連番組。昭和の夏特有のカルチャーを懐かしく思い出す人も、まったく新しい感覚で受け容れる人たちも、同じ目線で楽しめて、そして怖い思いができる一冊です。

 

【書籍紹介】

真・怪奇心霊事件FILE

著者:並木伸一郎
発行:学研プラス

 

■【深夜の1冊】あなたは昭和の心霊番組を知っていますか?――『真・怪奇心霊事件FILE』

 

 

世の中には、入ってはいけないタブー地帯がある

日本全国、心霊スポットは無数に存在します。行ってはいけない、足を踏み入れてはいけないといわれるほど、なぜだか惹かれてしまうもの。怖いけれど覗いてみたい。恐ろしいけれどどんなことが起こるのか知りたい。でも、自分で行く勇気はない。そんな【禁足】の地ばかりを巡ったルポ『禁足地帯の歩き方』(吉田悠軌・著/学研プラス・刊)を紹介しています。

 

よく、なぜこんなところに? という場所に、一本だけ木が残されていることがありませんか。明らかに、道路が木を避けて作られているような……。このような場合、伐採を試みると何か悪いことが起こるなどの祟りがある「神木」である可能性が高いと著者の吉田氏は言います。

 

あなたの家の近くにも、そんな【禁足】の地があるかもしれません。

 

【著書紹介】

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禁足地帯の歩き方

著者:吉田悠軌
出版社:学研プラス

 

道にぽつんと残る1本の「木」……それは人が踏み入ると祟られる「禁足」の地なのかもしれない

 

 

 

35年分の実話怪談

「月刊ムー」。言わずと知れた世界の謎と不思議に挑戦する月刊誌です。35年間「月刊ムー」に投稿された実話怪談をまとめたのが『ムー実話怪談「恐」選集』(吉田悠軌・著/学研プラス・刊)。

 

「月刊ムー」創刊から現在にいたる30余年のあいだ、「ミステリー体験」投稿コーナーを担当している人物がいます。ライターの「T氏」です。T氏によれば、投稿者の所在地は、なぜか北海道や東北地方に偏りがあるそうです。

 

そのほか、1980年代の投稿は、連続神隠しについて語った「5歳の子供は」。魂が抜けた人の表情にまつわる「笑っているんですね」。ダンプカーに轢かれたくなる呪い「道路で横に」……などが収録されています。

 

夏の終わりに、35年分の恐怖を味わってみてはいかがでしょうか。

 

【書籍紹介】

ムー実話怪談「恐」選集

著者:吉田悠軌
発行:学研プラス

 

【深夜の1冊】「月刊ムー」に届けられた35年分の恐怖を一気に体験!!――『ムー実話怪談「恐」選集』

 

 

信じるか信じないかは、あなた次第

 

怪異そのものを目撃したことがなくても、怪異にまつわる「語り」を見たり聞いたりしてしまえば、「いる」かもしれない……という不安が生じます。「存在しない」ことを確信できなくなります。怪異とは、わたしたちの「認知システムの脆弱性」が生み出すゴーストなのかもしれません。

 

そんな「語り」や「都市伝説」をまとめた話題の本、『日本現代怪異事典』(朝里 樹・著/笠倉出版・刊)。こっくりさん、カシマさん、口裂け女、トイレの花子さんといった古典的なものから、鮫島事件、禁后、八尺様、遺言ビデオといったネット怪談までを、約300冊の底本、約30箇所の怪異アーカイブス、怪異を扱っている学術論文などを基礎資料とし、発生の経緯、派生や類型、初出や出典をまとめた全500ページの大著です。

 

そのほかにも、「五十音順」「類似怪異」「都道府県別」「使用凶器」「出没場所」ごとに索引があるので、うろおぼえの怪異も探しやすい。1000例を超える項目、およそ400点の出典リストが明示されています。民俗学や考現学や文化人類学の研究において「怪異にまつわるエビデンス」を検証するための一助となるはずです。お試しください。

 

【書籍紹介】

日本現代怪異事典

著者:朝里 樹
発行:笠倉出版

 

【夜の1冊】走るババア、ついに光速に達する! あなたが知らない怪談最新事情――『日本現代怪異事典』

「片づけにおいて自己嫌悪はNGです」汚部屋を8時間でキレイにする極意とは?――『マンガでわかる!片付け+収納術』

私の父親は製薬会社の営業マンで、転勤の多い人生を送っていました。

 

ざっと数えてみると、私は子どもの頃から結婚するまで10か所の土地を住み歩いたことになります。転校する度に友だちと涙の別れを繰り返さなければならず、それが嫌で嫌でたまりませんでした。もっとも、我が家の転勤は日本国内に限られていて環境の激変に苦しんだわけではありません。

 

それでも、長くても5年、短いときは1年ほどで引っ越しをする生活にはうんざりしていました。

 

 

引っ越しのない暮らし

結婚すると、私は引っ越しのない暮らしを手に入れることができました。名古屋に5年ほど住んだあと神戸に引っ越しましたが、その後はずっと同じマンションに住んでいます。

 

息子も転校させることなく育てることができました。夢にまでみた引っ越しのない生活。大満足のはずでした。ところが…。引っ越しのない暮らしは、やってみると案外退屈でした。新陳代謝がないとでも言ったらいいでしょうか。

 

引っ越しこそ、最高の大掃除

これまでは気づきませんでしたが、引っ越しのない毎日を送っていると、家の中が掃除しても掃除しても汚れていきます。じわじわとものが増え続け、最初はけっこうスッキリしていたはずの部屋は、どこもかしこも本やDVDで埋まっています。

 

これではいけない、何とかしなくてはと思うものの、どうすることもできません。そして、私は気づきました。引っ越しこそ、何ものにも代えがたい大掃除だったことに……。

 

シンプルな部屋を目指すものの

マンガでわかる!片付け+収納術』は、祖母の代から同じ家に住み続けた家族の物語です。主人公は、イラストレーターであり、漫画家でもある“宙花こより”。資料や、材料や、紙など、細々としたものが必要とされる仕事です。

 

彼女が理想とする暮らしは、シンプルで機能的に片付いた部屋で過ごすことなのですが、現実はシンプルにはほど遠く、カオスというべき状態です。古くからの日本家屋に暮らす彼女の仕事場は、物が堆積し、窓さえ開かない状態になっています。汚部屋と呼んでもいいでしょう。

 

おまけに、同居している母も片付け下手、父にいたっては片付けというものをしたことがないというのですから徹底しています。

 

 

救世主、登場!

そこへ訪ねてきたのが、女性編集者のT澤さん。こよりの原稿の進み具合が遅いのを心配して東京から上田市へ来てくれたのです。「旅行のついでに立ち寄った」と説明してはいますが、うすうす感じていたのでしょう。宙花こよりの仕事場の惨憺たる状況を。

 

T澤さんは「他の仕事がつまっていて大変なら、締め切りを延ばします」と提案してくれました。しかし、実はこよりのイラストが遅れているのはタブレットのペンがどこかへいってしまったからだったのです。そう、要するに部屋がごちゃごちゃで探し物をしているうちに時間ばかりが過ぎていたのです。

 

私もしょっちゅう「えーーと、あれ、あの本、どこ行ったかな」と言いながらあちこち掘り返しているのでよくわかります。イライラして原稿を放り出したくなります。

 

 

T澤さんの作戦

「こよりさんの部屋は、迷いこんだら戻れない樹海みたいなものです」

 

T澤さんは、立つことすらままならない部屋の真ん中に、かろうじて場所を確保して仁王立ちとなり叫びました。そして、さっさと回収業者に連絡するや「8時間以内に、捨てて捨てて捨てまくるのです」と決めてしまったのでした。片付け&インテリア誌の副編集長でもある彼女にとって、汚部屋からの脱却こそが我が使命だと考えたのでしょう。

 

名案の数々

T澤さんは数々の名案を示します。だからこそ、たった8時間でこよりの家全体を見違えるように綺麗にすることができたのです。そのいくつかを紹介しましょう。

 

「捨てて捨てて捨てて極限までそぎ落として、モノでメタボ化したこの部屋を人の住む場に変えましょう!!」
「今使っているか、今つかってないか これのみで判断することが処分の基本であり、大切なポイントなんです!」

「片づけにおいて自己嫌悪はNGです」

「片付け…それは「分け」て「捨て」れば9割は終わったも同然!!」

(『マンガでわかる!片付け+収納術 電子版』より抜粋)

 

数々の名言の中で、一番、私の胸に迫ったのは、

 

「いわば片付けは引っ越さないお引っ越し!!」でした。

 

私はずっとこう考えていたのです。引っ越しすれば片付くのに…。新しく自分専用の仕事場を持てば、資料がどこかにいったりしないのに…。けれども、それは言い訳だったようです。

 

ちゃんと片付ければ、引っ越ししなくても引っ越したかのように新しい毎日を手に入れることができるのです。うかつでした…。

 

そんな大事なことも気づかないままに、「私が悪いんじゃないわ、夫がDVDを捨てないからだわ。本をつみあげておくからだわ」とか「引っ越しさえすれば」、「仕事場さえあれば」と、呪文のように唱えていたのです。

 

T澤さんの言葉に従ったこより一家は、2トントラックにも入りきらないほどのゴミを処分し、すっきりした家を手に入れることができました。

 

そして、最後に明かされるT澤さんの過去…。

 

『マンガでわかる!片付け+収納術』は、単なるお片付けの本ではありません。暮らしを大切にするヒントが満載された、生きるための指南書です。

 

 

【書籍紹介】

マンガでわかる!片づけ+収納術

著者:宙花こより
発行:学研プラス

片付けられない女必読!一家そろって片付けられない著者。どこから手をつけたらいいのか、ものがありすぎる部屋をすっきり部屋にするためのノウハウとコミカルなエッセイ。タイプ別のチェックや片付けの手順シートもあって、読めばやる気がでる!

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手あらいで助かる子どもたちが世界で100万人もいる――『手あらいでつなごう 世界のえがお』

日本ではトイレの後や、食事の前には手を洗うのが当たり前の習慣になっているが、広い世界を見ると、手を洗うのがめずらしい国もあり、そのため多くの子どもが病気になり、命を落とすという現状がまだまだある。

 

手あらいでつなごう 世界のえがお』(佐藤宏史・文/学研プラス・刊)は石鹸や洗剤を製造する化学メーカーのサラヤが、アフリカのウガンダからはじめた「100万人の手あらいプロジェクト」のルポルタージュだ。子どもでも読みやすく理解しやすい構成になっており、また巻末には手洗いの重要性を知るためも、手のばい菌を調べる自由研究のやり方が紹介されている。

 

 

100万人手あらいプロジェクト

今、世界では1日に、約1万6000人もの5才未満の子どもたちがなくなっています。その原いんとなる病気のほとんどが、石けんを使って手をあらえばふせげるかのうせいがあるのです。正しい手あらいでたすかる子どもたちは100万人もいると考えられています。

(『手あらいでつなごう 世界のえがお』から引用)

 

アフリカのウガンダでは2007年の調査によると、トイレの後に石けんで手を洗う人はなんと100人のうち14人だったのだそうだ。戦争による混乱、水道の不備もあったが、それ以上に、ウガンダの人々は手あらいの大切さを知らなかったのだという。そのために、ばい菌が身体の中に入ってしまい、たくさんの人々が下痢をしたり、息苦しくなるなどの病気にかかっていった。コレラやチフスといった感染症が発症すると、体が弱い子どもたちが命を落としてしまうのだ。

 

この現状を変えるべく、サラヤが2010年からスタートさせたのが「100万人の手あらいプロジェクト」。対象となる石けんを買うと、その代金の一部が寄付金となりユニセフに渡り、正しい手洗いを広める活動費となるというものだ。

 

 

ティッピータップと呼ばれる手あらい場

とはいえ、ウガンダはあまり裕福な国ではないので、水道の完備はなかなか進まない。そこで登場したのが「ティッピータップ」と呼ばれる手洗い場だ。

 

プラスチックのタンクをかたむければ水がでてくるという、かんたんなしくみの水道です。タンクのとなりには、石けんもあります。(中略)くふうをすればこのようなすてきな手あらい場がかんたんにできるのです。ユニセフとウガンダのボランティアのスタッフたちは、この「ティッピータップ」をたくさんの学校や家やトイレの前にできるようにざい料を用意したり、つくり方を広めていきました。

(『手あらいでつなごう 世界のえがお』から引用)

 

また、手洗い場の設置と同時に行われたのが、手洗いの重要性を伝える教育。トイレの後や食事の前に石けんを使って手に付いたばい菌を正しく洗い流せば、皆が恐れている病気を防げることを教えていったのだ。特に学校では、わかりやすい教材を配るなどして、子どもたちに手洗い習慣を広めていった。

 

その効果、下痢や病気で学校を休む子どもたちが減り、子どもたちから親やまわりの大人たちも手洗いに取り組むようになっていったのだそうだ。本書では現地の写真でこの様子をわかりやすく伝えている。

 

 

手のばい菌を調べてみよう!

さて、この本では手を洗う場合と洗わない場合では、どんな違いがあるのかを、家庭にあるもので簡単に実験する方法が紹介されている。

 

用意するもの

  • 食パン4まい
  • チャック付きポリぶくろ4まい
  • ハンドソープ
  • キッチンペーパー
  • 使いすてビニール手ぶくろ(ビニールぶくろでもいい)
  • 電子レンジ
  • カメラ

(『手あらいでつなごう 世界のえがお』から引用)

 

実験方法は、まず、手袋をして食パンを一枚ずつチャック付きのビニール袋に入れ、菌を減らすためにそれぞれ電子レンジで1分加熱する。その後で、パンに4通りの手で触ってみるのだ。外出帰りの汚れた手、水洗いだけをした手、石けんで丁寧にあらった手、もうひとつはまったく触らない状態も試してみる。

 

これを写真に撮って毎日観察をする。パンの消費期限にもよるが1週間以上すると違いが現れてくるはずだ。手洗いの大切さも再確認してみてはどうだろう?

 

 

【書籍紹介】

手あらいでつなごう 世界のえがお

著者:サラヤ株式会社 Taketani(写真)、佐藤宏史(文)
発行:学研プラス

ウガンダで実際に行われた「100万人の手あらいプロジェクト」。巻末にはこのお話を読むとできる、自由研究と読書感想文のやり方つき!
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夏の汚れ、 疲れ、心の乱れをまるっと解決、5連発!!――『GetNavi 2018年10月号』

なーつのおぉ〜わーりぃー♪

 

を歌いたいところですが、まだまだ暑い! お盆を過ぎたのに真夏日なんて「もぉ〜どうにかしてぇ!」という気持ちになりますよね。

 

きっとお疲れの方、心が乱れている方、お部屋もカバンの中も汚くなってしまっている人も多いと思います。そこで今回は、『GetNavi 2018年10月号』(GetNavi編集部・編/学研プラス・刊)よりそんな夏の汚れ! 疲れ! 心の乱れ! をまるっと解決する方法をお伝えします。

 

 

 

夏、オサボリした洗濯機の汚れは『実力派洗剤』で解決!

最近、洗濯機が臭い……。

 

我が家ではこの夏、ほぼ毎日洗濯機を回していたので、汚れもびっしりなはず! ここは秋を迎える前にしっかりお掃除してあげたいですよね。そんな悩みを解決してくれるのが、宮崎化学の「根こそぎ革命」(実売価格860円)なんだとか。

 

高濃度酵素を利用した発泡パワーで、みるみるカビ汚れをはがし取る洗浄剤。約20分の洗浄で洗濯槽や風呂釜を除菌・消臭する。効果は約4ヶ月持続。

(『GetNavi 2018年10月号』より引用)

 

洗浄時間が20分でOKというのも嬉しいですよね。某通販サイトでも好評だったので、早速我が家でも注文した次第です(笑)。洗濯機に顔を突っ込むと「くさっ!」となるので、どれくらい消臭してくれるか今から楽しみです。

 

 

エアコン掃除をお願いしたい、『家事代行サービス』で解決!

今年の夏は、酷暑の影響もあり、7月のエアコン出荷台数が過去最高だったそうです。あなたのお家のエアコンもたっぷり使ったのではないでしょうか? まだまだ暑い日が続くので、掃除するのもなんだか億劫だなぁという方は、『家事代行サービス』がオススメです。

 

共働きで平日に家事ができないと、休日が家事で潰れることも多い。家事代行を利用すれば、空いた時間を家族サービスや趣味に使える。

(『GetNavi 2018年10月号』より引用)

 

確かに!

 

ちなみに、エアコン掃除のような手間のかかるものだけでなく、日常の洗濯や片付けなどの家事手伝いもしてくれるんですって。さらにシニア向けのサービスを提供している会社もあるそうなので、一度「家事代行サービス」で検索してみてみると、思ったよりお安い価格でお願いできますよ。

 

私も「エアコン掃除はどれくらいかかるかしら?」と「エアコン 家事代行サービス」で検索してみたところ、1万円前後でできるようなので、今のうちにお願いしちゃおうと思っています!

 

 

暑くて眠れない……『就寝時の室温は一定』で解決!

夜中暑くて目がさめる。逆に冷房が寒くて眠れない。そんな夜を過ごしているあなた! どんな室温にしていますか? 室温は一定に保つことがポイントだそうですよ。

 

就寝時に冷房をタイマー設定にしたり、ドライにして冷房機能を止めたりすると、室温が上がって睡眠が中断されることも。睡眠の質が下がって睡眠不足になると疲れの原因にもなるので、寝室の温度を一定に保って快適な睡眠環境を作ることが大切だ。

(『GetNavi 2018年10月号』より引用)

 

先日、私もタイマーをつけて寝ていたのですが、3時に「…暑い」と目が覚めてしまい、結果そこから眠れなくなり、気がついたら5時。その日は6時に起きなければならなかったので、これぞ夏バテの睡眠不足だ。と痛感した次第です。

 

まだまだ暑い日が続いていくので、当分は室温を一定にするためにエアコンはつけっぱなしにしておこうと思いますっ! その際にはしっかりお布団をかけましょうね♪

 

あれこれ詰まったカバンの中は『スマートインナーバッグ』で解決!

今年の夏ゲットした、無印良品の『肩の負担を軽くするPCポケット付リュック』のおかげでとても快適に過ごせたのですが、肩の負担が減った分、ものをポンポン入れてしまうように(苦笑)。あれこれ詰まってしまったカバンは残念な感じになってしまったのですが、なんと「GetNavi 2018年10月号」に別冊付録として人気ブランド・ナノユニバースとコラボレーションしたスマートインナーバッグがついてくるんです。このバッグは一見、こんなに入るの? と思うのですが、スマホやイヤホン、ペンも入れられて、なんと裏面ポケットにはiPadまで入るっ! バッグの中で使うのはもちろんのこと、以下のような使い方もおすすめ。

 

社内の会議などで、スマホやノート、ペンなどを持って移動するときにも重宝する。

(『GetNavi 2018年10月号』より引用)

 

実際に私も入れてみました。

裏面:Kindle
表面:2色ペン、付箋、iPhoneのUSBコード、イヤホン、ICレコーダー

 

いつもこれらは、そのままカバンにポイ! としていたのですが、これだけまとまってくれていると、ノートと筆記用具、スマホ、PC、お財布、飲み物、カメラくらいで十分なのでカバンはスッキリ収まります。ゲットナビの価格(780円)で買えちゃうので、お試しにもおすすめですよ♪

 

 

疲れ過ぎて、料理を作る気力も無くなった……『冷凍食品』で解決!

夏バテでどうにもパワーが出ないけど、料理を作る気力もない。という方におすすめなのが冷凍食品。最近では味のクオリティもアップしているので、こっそり夕食に出しても「冷凍食品?」とは言われなくなったくらい!  『GetNavi 2018年10月号』には、ラーメンやチャーハン、餃子におつまみなど47種類の冷凍食品が解説付きでたっぷりと紹介されているので、今夜の夕飯はどれにしようかなーと選び放題。

 

我が家の冷凍庫にはいつもいる「イートアンド 大阪王将 ぷるもち水餃子」も紹介されていたのですが、これが本当に美味しいぃ〜。どの季節でも美味しくいただけますので、まだ食べたことがない! という方は是非っ!

 

他にも、はかどり文房具もたくさん紹介されておりますので、夏の疲れ解消に『GetNavi 2018年10月号』を参考にしていただければと思います。

 

 

【書籍紹介】

GetNavi 2018年10月号

著者:GetNavi編集部
発行:学研プラス

読者の「賢い買い物」をサポートする新製品情報誌。話題のスマートフォンから薄型テレビ、パソコン、デジタルカメラまでベストバイを断言!

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EXILEを総力特集!『Pen』“らしくない”雑誌作りの背景に何があったのか!?

アート・ファッション・旅など、あらゆるカルチャーを対象に、毎号まったく異なるテーマにスポットを当てるライフスタイル誌『Pen(ペン)』。1998年の創刊以来、この出版不況といわれるなかでも根強く支持され続ける雑誌です。

 

ブックセラピスト・元木 忍さんが、その編集長を約13年間にわたって務める、安藤貴之さんを直撃。取り上げるテーマへのこだわりなど制作の舞台裏や、読者へ情報を届けるツールの多様化など、支持され続ける理由を探りました。

左から『Pen+』1080円、『Pen』700円、『Pen Books』1620円 /すべてCCCメディアハウス

毎月1日・15日に発売されるカルチャー・ライフスタイル誌。デザインやアートだけでなく、食やファッション、旅など取り上げるテーマは多彩だ。根幹をなす定期誌『Pen』に加え、その人気特集をムックにまとめた『Pen+』、サイズダウンし書籍化した『Pen Books』をラインナップし、紙媒体として長く読まれる仕組みを作っている

 

さまざまに広がっていくメディアの発信の行く手

元木忍さん(以下、元木):『Pen』はとても特集が“濃い”雑誌なので、取材なども大変そうですが、まずは制作現場のことから聞かせてください。現在『Pen』は、何人で制作しているのですか?

 

安藤貴之さん(以下、安藤):本誌(雑誌)、オンライン(ウェブ)、国際版の雑誌とウェブ、と展開しているのですが、オンラインをメインで担当しながら、本誌の一部を担当している編集者もいたりして、複雑なチーム編成ではあるんですが……。全部で21人ですね。

 

元木:へえー! 海外にも発信されているんですね、知らなかったです! 国際版は、いつぐらいからあるんですか?

 

安藤:3年前からです。パリで、フランス人向けに作っています。当社には女性誌『フィガロジャポン』がありますが、ライセンス元の『Le Figaro(ル・フィガロ)』という高級紙に同梱されて、フリーマガジンとして宅配されています。フランス人は日本のカルチャーに関心が高いですし、インバウンドの需要も見据えながら。

 

元木:では、雑誌の取材に行くたびに「これは国際版にも載せよう!」と考えながら取材するわけですか?

 

安藤:そうですね。「これは国際版でも使えるね」なんて想定しながらやっています。本誌だけじゃなくオンラインも、国際版も、というように設計しながら作っているので、これまた複雑なんですよね。テーマと発信の仕方によって、取材の方法も変えていますし。

↑編集部は、雑誌を核として、ウェブ、国際版を手がけるほか、『Pen+(ペン・プラス)』などのムックでは別冊編集部と、単行本の『Pen Books』では書籍編集部と連携しながら、複合的に活動している

 

↑「動画班も、一緒に取材に行くことが増えました」と安藤編集長。従来の紙媒体・静止画に加えて、ウェブ・動画などと、取材の手法も発信方法も、時代とともに変わってきている

 

元木:『Pen』は、昔からインパクトがある雑誌として認識をしていましたが、常に変化していくメディアの先駆けとも言えるのではないでしょうか?

 

安藤:先駆け、というほどではないんですけど、たしかにずいぶんとメディアの形や手法は広がってきてはいますよね。『Pen』は、もともと表現するのが好きな編集者が多いから、そういう部分に積極的だとは思います。ただ、月に2回発行していますけど、基本的に特集は1号につき1本、多くて2本しかない。そうすると年間23本+αくらいしか、特集が組めないんですよね。

 

元木:なるほど。編集部での1回の企画会議で、どれぐらいの企画案が出されるわけですか?

 

安藤:1人当たりが約10本くらい持ち寄るので、200本近くになりますかね。でも採用されるのは数本。つまり、ほとんどがボツなんですよ。だから編集者たちは、僕に対してすごいフラストレーションを溜めていると思う(笑)。そのフラストレーションが、オンラインや国際版を作るモチベーションにつながっている、という面があるかもしれません。雑誌だと限られたページ数のなかでは載せられない、ということがあるけれど、オンラインならもっとスペースがあるので。

↑左がウェブ版「PenOnline」、右がその国際版である「Pen Magazine International」だ。ひとつの情報が、形を変えてさまざまに発信されていく

 

“旬”をキャッチし最高のタイミングで発信する

元木:企画は、どれくらいのスパンで考えられているのですか? 3年先、5年先を見越したりすることも?

 

安藤:5年後、というのは長いかもしれないですけど……。企画会議は、1年に3回くらいしかやらないんですよ。だから1回の会議で、半年ぐらい先のことを決めていきます。そういう意味では常に企画は半年先のことを考えていますね。先のことをある意味“予見”していくのも、編集者の仕事かなと思います。

 

元木:では、今流行っていることを、今書くのではないんですね。

 

安藤:流行っていることを特集するのではなく、過去に流行ったもの、あるいはすでに流行っていることの中の見過ごされてきたところに、スポットライトを当てることもあります。“再発見する”というようなことです。『Pen』っていうのは、そういう雑誌なのかなと思っていて。

 

元木:では、安藤さんは“『Pen』らしさ”を、どういう風に捉えていますか?

 

安藤:そうですね……では、『Pen』という媒体のスタンスから説明しますね。そもそもライフスタイル誌だから「新しいライフスタイルを提案する」、カルチャーという部分もあるから「今、面白いカルチャーは何か」、「今、クリエイティビティを感じるものは何か」など、そういったところを雑誌にして発信していくのが、『Pen』らしさだと思っています。

 

元木:今のご説明にあった“クリエイティビティ”って、具体的に言うと?

 

安藤:いろいろな形がありますよね。新しい力でものづくりをしているクリエイターや、新しい組織を実現している人も、クリエイティビティのひとつだと思います。それってつまり、“世の中を進化させてきたもの”だと思うんですね。単に日常を普通に生きているのではなく、新しい視点で新しい価値観を見いだすことが、クリエイティビティではないかと思います。

 

媒体の“らしさ”をどうやって作っていくのか

元木:『Pen』でEXILEの特集をやるって聞いたときに、まずは驚きました。でも「『Pen』でやるのなら、そろそろ私もEXILEを知っておかないと!」とあらためて思いました(笑)。取り残されてしまうー、と感じちゃって。

 

安藤:それはうれしいですね! 『Pen』の真骨頂というか、さきほどお話しした“『Pen』らしさ”って何かというと、僕は実はこのEXILE特集だと思っているんですよ。

 

元木:え? ……と、おっしゃいますと?

 

安藤:『Pen』でEXILE特集と聞いて、最初にどう思いました? 違和感を感じませんでしたか?

 

元木:……ええ、かなり。

 

安藤:2年間温めてきたEXILE特集を、ついにやると発表したとき、最初に「え!?」って言ったのは、実は編集者たちなんですよ。どちらかというと、ネガティブな印象を持っている人さえいました。でも僕は、それをやっていくのが『Pen』の役割だと。世の中に何らかの“違和感”を与えていくこと。良い意味での“裏切り”、みたいのをやっていきたいと思っています。

↑EXILE特集号では、チャレンジングな表紙に。「これこそ編集長の仕事だと思います」と力を込めた

 

↑特集内には、観音開きの体裁を採用し、EXILEファミリーを網羅したページも

 

元木:その「違和感を与えるのが大事」ということを、編集部員さんにも教えられたりもするんですか?

 

安藤:もう四百数十冊も出しているので、作っている側が“『Pen』らしいもの”を作ろうとすると、ある種のマンネリになるんです。ベテランもベテランで、自分が作ってきたものに自信を持っているし、「こうなったらこうだよね」っていう方法論を持つ。若い子も若い子で、まだ慣れていないからバックナンバーを見て構成案を作るんですよ、「これだったらこういう風に作ればいいんだな」という風に。

そうなると、“『Pen』らしいもの”はできるかもしれないけれども、“新しいもの”は絶対にできない。『Pen』らしいものを作るということは、良いことだと思うんだけど、そうなるとメディアは死んでいきます。だから僕は、みんなに「マジですか!?」って言われ続ける編集長でありたいなと思う。

メディアは生き物だから、常に更新していかなくてはならない。バージョンアップしていかないといけない。僕は船長みたいなものだから、「どっちの方向に向いていくか」という時に、常に生まれ変わっていかないといけない……。そういう時に“違和感”を持たれるくらいのもので、変えていかなければならないと思います。

 

発する言葉に熱を帯びてきた安藤編集長。話題は続いて、自身のもっとも重大な仕事とは何か、について。ここでもEXILE号表紙制作秘話が飛び出しました。Penアーカイブからの、編集長おすすめの5冊も注目です。

編集長として最大の仕事はいかに“いい表紙”を作るか

元木:編集長としての最大の仕事は何だと思われますか?

 

安藤:編集長としての仕事、っていろいろあるんですけど、最大の仕事は何かというと「いかにいい表紙を作るか」だと思っています。

僕の好きな「The Rolling Stones」のアルバムに『Exile on Main St.』という名盤があるんですね。そのジャケットが、有名なスイス出身のフォトグラファー、ロバート・フランクが撮ったモノクロのスナップ写真をコラージュしているんです。今回の特集はEXILEだし(笑)、そういう風にしたいなと思ってアートディレクターに相談して……最終的に上がってきたのが、これです。いい表紙になったと思います。

 

元木:モノクロのネガフィルムのような……素敵ですね。カッコいい!

 

安藤:雑誌って、人と人がコラボレーションしながら作っていける、すごく面白いメディアなんだなって、あらためて感じました。良い表紙を作ることが、自分の一番大事な仕事なんだけど、そこにもやっぱり、いろんな人の“クリエイティビティ”が詰まっているんですよ。

 

元木:ありがとうございました。これからも『Pen』らしく新しい誌面と、編集長が力を注ぐ表紙に、期待しています!

 

安藤編集長が選ぶ、思い出の5冊

・「1冊まるごと佐藤可士和。」2006年6/15号

「現役のクリエイティブ・ディレクターをまるごと大特集したのは、『Pen』として初めての試みでした。佐藤可士和さんは、まだ一般的には、知名度は高くなかったのですが、予想を覆して発売後に即完売した号に。以来、吉岡徳仁、森本千絵、nendo、チームラボといった日本のクリエイターを1冊まるごと総力を挙げて特集するのが、『Pen』の十八番となりました」(安藤さん、以下同)

 

・「茶の湯デザイン」2007年1/1・1/15合併号

「怖そうな和装の先生が教える女性の習い事のイメージが強かった茶の湯を、当時、30代前半だった気鋭の茶人・木村宗慎氏を監修に迎え、“日本が誇るべき伝統文化”として再発見しました。『お茶のイメージが完全に変わった』と、アートやカルチャーに対して意識の高い男性たちの間で、ふたたび茶の湯ブームが巻き起こりました」

 

・「キリスト教とは何か。」2010年3/1号

「日本人にとって知っているようで知らないキリスト教にまつわる基礎知識を、アート作品や建築を通して解説。意味がよくわからない宗教画や教会建築、旧約聖書と新約聖書の違いなど、人物相関図等を駆使して徹底解説。『こんな特集が読みたかった』という多くの読者からの反響とともに数日で完売したため、大幅増補版ムックを緊急出版したほどの売れ行きでした」

 

・「1冊まるごと、コム デ ギャルソン」2012年2/15号

「1973年のデビュー以来、いまも世界中から注目を浴びるコム デ ギャルソン。男性誌で大きく取り上げられた例がほとんどないこともあって、すぐに評判に。当時のPen副編集長=現フィガロジャポン編集長・上野留美が担当した川久保玲へのインタビュー記事が特筆すべき出来栄えです。書籍化されていないので、古書店等でしか手に入らないのが残念!」

 

・「写真家ヨシダナギが案内する、美しいアフリカ」2017年5/15号

「辺境に住む少数民族をまるでファッションモデルのように鮮やかに写し取る、フォトグラファーのヨシダナギ。彼女をアフリカ・ニジェールへ派遣して、少数民族のひとつであるボロロ族の撮り下ろし写真が話題に。特集はテレビ等でも取り上げられ、ヨシダナギ人気を決定づけました。8/1に発売された『最後の秘境、アマゾンへ。』特集でも、色鮮やかな衣装を纏ったアマゾン少数民族の写真を撮影しています」

『ヨシダナギの拾われる力』(CCCメディアハウス)。「ヨシダナギさん初のエッセイも発売され、大きな反響を呼んでいます」

 

【プロフィール】

Pen 編集長 / 安藤貴之(左)
1965年、東京生まれ。明治大学政治経済学部を卒業したのち、新聞記者などを経て、1995年にTBSブリタニカ入社。当時、同社が版元だった『Pen』に創刊から携わり、副編集長を経て2005年に編集長就任。プライベートではブリティッシュロックを愛し、ギブソンのアコースティックギターをかき鳴らす。
Pen Online https://www.pen-online.jp/
Pen Magazine International https://pen-online.com/

 

ブックセラピスト / 元木 忍(右)
ココロとカラダを整えることをコンセプトにした「brisa libreria」代表取締役。大学卒業後、学研ホールディングス、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)とつねに出版に関わり、現在はブックセラピストとして活躍。「brisa libreria」は書店、エステサロン、ヘアサロンを複合した“癒し”の場所として注目されている。

 

聞き手=三宅 隆 撮影=泉山 美代子

 

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自らの賞味期限を知る…元プロ野球選手に学ぶ「勝者」への道とは?――『勝者になるための84の提言』

毎年、第一生命が発表している小学生を対象とした「大人になったらなりたいもの ベスト10」ですが、最新の2017年男の子のトップ3をご存知ですか?

 

1位:学者・博士
2位:野球選手
3位:サッカー選手

参考(http://event.dai-ichi-life.co.jp/campaign/minisaku/otona.html)

 

1位の結果にはちょっとびっくりしましたが(笑)、実は調査を始めた1989年からず〜っとトップ10内にランクインしているのが「野球選手」です。

 

その野球選手の夢を叶えた、いや夢を超えた方で、徳島県の鳴門工業高校から帝京大学に進学し、千葉ロッテマリーンズへ入団。WBC(ワールド・ベースボール・クラッシック)でも大活躍し、世界一の捕手(ベストナイン)として選ばれた選手といえば……里崎智也さん! ですよね。

 

今では「ビックリマン」といえばこの人というくらい、野球界以外でも活躍の場を広げられ、野球解説だけでなくバラエティ番組も出演されたりと大忙しな里崎さんですが、新刊『勝者になるための84の提言』(里崎智也・著/学研プラス・刊)をこの度出版されました。

 

本の中には、いくつもの成功を掴んできた裏で、どんな想いで、どんな努力をしてきたかがわかりやすく綴られています。今回はその中から疲労困憊なビジネスマンでもやる気になる4つの提言をご紹介させていただきます。

 

↑ページを開くと大迫力の里崎さんの提言が!!

 

 

「自分の賞味期限を見極めろ!」

野球選手になりたい! と自分の息子が言ってきた時、応援するのが親の役目だとは思うのですが、あなたはプロ野球選手としての賞味期限がどれくらいかご存知でしょうか?

 

プロ野球でいえば、見極める時期は、ポジションにもよりますが、だいたい高卒で10年、大卒で5年までですね。

(中略)

何年後に活躍するかどうかは、誰にもわかりません。宝くじみたいなものです。プロ野球選手はドラフトで入団しても、10年後にチームの主力になっている選手は平均で11〜12%です。

(『勝者になるための84の提言』より引用)

 

わかってはいたけど、厳しい世界!! 安定志向な現代において「よーし、頑張れ!」とは小さい子どもに言いにくくなっちゃいますよね(笑)。

 

でも私たち一般人だって、「自分の賞味期限を知る」というのは大事なこと。チャレンジすることに遅い早いはないかもしれませんが、チャレンジして成功しやすい年齢は必ずあるはず。今の働いているところで結果を出したいなら、何歳までに何をするのか、しっかり自分で見極められる力を養っていきたいですし、自分の子どもが将来どんな職業につくのか考えた時に、先に伝えてあげられることは伝授しておきたいですね!

 

 

「モノマネ上手になれ。」

野球がうまい選手は「他の選手のモノマネ」も上手だったという里崎さん。里崎さん自身も、現役時代は「幕張の安打製造機」の異名を持つ福浦和也さんのモノマネをしていたそうです。

 

見本になる誰かのモノマネを採り入れて、自分の中でオリジナルに変えて、成長するときに強くなるんです。それを最初から、すべてオリジナルでやろうなんて、無理なんです。

(『勝者になるための84の提言』より引用)

 

ただ人を楽しませるだけのモノマネをしていればいいということではなくて、モノマネを採り入れて、オリジナルに変えることで成長できるということなんですね。

 

「この上司みたいになりたいなー」という人がいたら、服装からでもいいのでモノマネしてみるのも良いそうです。「毎日仕事で疲れちゃったなー」という人は、元気な社員さんの生活スタイルモノマネをやってみると見えてくるものもあるかもしれません!

 

 

「アピールしないバカはいらない。」

里崎さんのように、成功している人のお話を読んでいくと「運がいいんだよ。私なんて日陰人生だからさ」と思う人もいるでしょう。もちろん、運も実力のうちなのですが、運を引き寄せる努力をしっかりされています。

 

「誰も見てくれていない」ってグチる人もいますが、当たり前です。上の人もそんなに暇じゃない。見てほしかったら自分でアピールするしかない。

(『勝者になるための84の提言』より引用)

 

あなたは、実力があってもなかなか日の目を見ないのを周りのせいにしていたりしませんか? そんな時には思い切って自分をアピールしましょう! 里崎さん曰く『選ぶほうは、活躍してくれるなら誰でもいい』とのことなので、あなたの特技をしっかり披露する場を確保しなければ、もったいないっ!

 

仕事での特技はもちろん、趣味の話なども周りにちゃんとアピールしていくことで、思わぬところからお誘いが出てくることもあるでしょう。自分の実力は出し惜しみせず、アピールしまくる! それくらいじゃないと相手には届かないということですね。

 

 

「3つの目線で自分を見ろ。」

こうやってご紹介していくと、どんどん意識高い系な人になるのがいいのかな? と考えが偏ってしまいがち。でも意識を高くするのがいいのではなく、しっかり「3つの目線で自分を見る」ことが重要なんだとか。

 

3つの目線とは、

 

・自分という個を成り立たせるために、甘い目線

・客観的に自分をみた、厳しい目線

・周りからどうみられているかという、客観的な自分からの能力値の目線

 

のこと。

 

自身を甘やかし過ぎると周りから評価されにくかったり、他人からの目線ばかりを気にしていると自分のメンタルがやられてしまったり、意識高くなり過ぎると他人からの目線に気がつかず、イタい人になっちゃったりするので、この3つがバランス良く保たれているのがとても重要。疲労困憊なビジネスマンの中には「甘い目線」が足りない人が多いかもしれません。「自分はよくやっているよな〜」とたまには自分を褒めてあげましょう!

 

 

『勝者になるための84の提言』には、これ以外にも変化の激しいビジネスマンの心の支えになるような提言が、「提言+詳しい説明」のセットで多数紹介されています。パッと開いたそのページでも、里崎さんの元気になる言葉がたっぷり詰まっているので、自宅の書棚に入れておいて、なんだか元気がないな……という時に、好きなページを開いて言葉を受け取ってみるのもおすすめです!

 

 

【書籍紹介】

勝者になるための84の提言

著者:里崎智也
発行:学研プラス

働き方改革が叫ばれる昨今、ビジネスパーソンが成功するにはどんな心構え、どんな行動が必要なのか? 千葉ロッテマリーンズで2度の日本一、WBCで世界一&ベストナインを経験した“下剋上オトコ”、里崎智也が84の提言で綴る!

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楽天Koboで詳しく見る

自らの賞味期限を知る…元プロ野球選手に学ぶ「勝者」への道とは?――『勝者になるための84の提言』

毎年、第一生命が発表している小学生を対象とした「大人になったらなりたいもの ベスト10」ですが、最新の2017年男の子のトップ3をご存知ですか?

 

1位:学者・博士
2位:野球選手
3位:サッカー選手

参考(http://event.dai-ichi-life.co.jp/campaign/minisaku/otona.html)

 

1位の結果にはちょっとびっくりしましたが(笑)、実は調査を始めた1989年からず〜っとトップ10内にランクインしているのが「野球選手」です。

 

その野球選手の夢を叶えた、いや夢を超えた方で、徳島県の鳴門工業高校から帝京大学に進学し、千葉ロッテマリーンズへ入団。WBC(ワールド・ベースボール・クラッシック)でも大活躍し、世界一の捕手(ベストナイン)として選ばれた選手といえば……里崎智也さん! ですよね。

 

今では「ビックリマン」といえばこの人というくらい、野球界以外でも活躍の場を広げられ、野球解説だけでなくバラエティ番組も出演されたりと大忙しな里崎さんですが、新刊『勝者になるための84の提言』(里崎智也・著/学研プラス・刊)をこの度出版されました。

 

本の中には、いくつもの成功を掴んできた裏で、どんな想いで、どんな努力をしてきたかがわかりやすく綴られています。今回はその中から疲労困憊なビジネスマンでもやる気になる4つの提言をご紹介させていただきます。

 

↑ページを開くと大迫力の里崎さんの提言が!!

 

 

「自分の賞味期限を見極めろ!」

野球選手になりたい! と自分の息子が言ってきた時、応援するのが親の役目だとは思うのですが、あなたはプロ野球選手としての賞味期限がどれくらいかご存知でしょうか?

 

プロ野球でいえば、見極める時期は、ポジションにもよりますが、だいたい高卒で10年、大卒で5年までですね。

(中略)

何年後に活躍するかどうかは、誰にもわかりません。宝くじみたいなものです。プロ野球選手はドラフトで入団しても、10年後にチームの主力になっている選手は平均で11〜12%です。

(『勝者になるための84の提言』より引用)

 

わかってはいたけど、厳しい世界!! 安定志向な現代において「よーし、頑張れ!」とは小さい子どもに言いにくくなっちゃいますよね(笑)。

 

でも私たち一般人だって、「自分の賞味期限を知る」というのは大事なこと。チャレンジすることに遅い早いはないかもしれませんが、チャレンジして成功しやすい年齢は必ずあるはず。今の働いているところで結果を出したいなら、何歳までに何をするのか、しっかり自分で見極められる力を養っていきたいですし、自分の子どもが将来どんな職業につくのか考えた時に、先に伝えてあげられることは伝授しておきたいですね!

 

 

「モノマネ上手になれ。」

野球がうまい選手は「他の選手のモノマネ」も上手だったという里崎さん。里崎さん自身も、現役時代は「幕張の安打製造機」の異名を持つ福浦和也さんのモノマネをしていたそうです。

 

見本になる誰かのモノマネを採り入れて、自分の中でオリジナルに変えて、成長するときに強くなるんです。それを最初から、すべてオリジナルでやろうなんて、無理なんです。

(『勝者になるための84の提言』より引用)

 

ただ人を楽しませるだけのモノマネをしていればいいということではなくて、モノマネを採り入れて、オリジナルに変えることで成長できるということなんですね。

 

「この上司みたいになりたいなー」という人がいたら、服装からでもいいのでモノマネしてみるのも良いそうです。「毎日仕事で疲れちゃったなー」という人は、元気な社員さんの生活スタイルモノマネをやってみると見えてくるものもあるかもしれません!

 

 

「アピールしないバカはいらない。」

里崎さんのように、成功している人のお話を読んでいくと「運がいいんだよ。私なんて日陰人生だからさ」と思う人もいるでしょう。もちろん、運も実力のうちなのですが、運を引き寄せる努力をしっかりされています。

 

「誰も見てくれていない」ってグチる人もいますが、当たり前です。上の人もそんなに暇じゃない。見てほしかったら自分でアピールするしかない。

(『勝者になるための84の提言』より引用)

 

あなたは、実力があってもなかなか日の目を見ないのを周りのせいにしていたりしませんか? そんな時には思い切って自分をアピールしましょう! 里崎さん曰く『選ぶほうは、活躍してくれるなら誰でもいい』とのことなので、あなたの特技をしっかり披露する場を確保しなければ、もったいないっ!

 

仕事での特技はもちろん、趣味の話なども周りにちゃんとアピールしていくことで、思わぬところからお誘いが出てくることもあるでしょう。自分の実力は出し惜しみせず、アピールしまくる! それくらいじゃないと相手には届かないということですね。

 

 

「3つの目線で自分を見ろ。」

こうやってご紹介していくと、どんどん意識高い系な人になるのがいいのかな? と考えが偏ってしまいがち。でも意識を高くするのがいいのではなく、しっかり「3つの目線で自分を見る」ことが重要なんだとか。

 

3つの目線とは、

 

・自分という個を成り立たせるために、甘い目線

・客観的に自分をみた、厳しい目線

・周りからどうみられているかという、客観的な自分からの能力値の目線

 

のこと。

 

自身を甘やかし過ぎると周りから評価されにくかったり、他人からの目線ばかりを気にしていると自分のメンタルがやられてしまったり、意識高くなり過ぎると他人からの目線に気がつかず、イタい人になっちゃったりするので、この3つがバランス良く保たれているのがとても重要。疲労困憊なビジネスマンの中には「甘い目線」が足りない人が多いかもしれません。「自分はよくやっているよな〜」とたまには自分を褒めてあげましょう!

 

 

『勝者になるための84の提言』には、これ以外にも変化の激しいビジネスマンの心の支えになるような提言が、「提言+詳しい説明」のセットで多数紹介されています。パッと開いたそのページでも、里崎さんの元気になる言葉がたっぷり詰まっているので、自宅の書棚に入れておいて、なんだか元気がないな……という時に、好きなページを開いて言葉を受け取ってみるのもおすすめです!

 

 

【書籍紹介】

勝者になるための84の提言

著者:里崎智也
発行:学研プラス

働き方改革が叫ばれる昨今、ビジネスパーソンが成功するにはどんな心構え、どんな行動が必要なのか? 千葉ロッテマリーンズで2度の日本一、WBCで世界一&ベストナインを経験した“下剋上オトコ”、里崎智也が84の提言で綴る!

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ボードゲーム、リアル謎解きゲームの次に来るのは「演劇」かもしれない――『劇団6年2組』

時間に余裕がある人が増えてきたからか、最近はボードゲームやリアル謎解きゲームなど、頭を使って何時間か楽しむという遊びが流行っている。そして、私の周りでは「次に流行るのは演劇作りではないか」という声がちらほらある。なぜ演劇なのかを考えてみた。

 

 

劇は時間がかかる集団遊び

ボードゲームやリアル謎解きゲームを楽しむ層が、ここ数年でかなり増えたと感じている。お店でゲームを楽しめるボードゲームカフェも一気に増え、都内に87店舗ある(情報サイト「ボドゲーマ」登録軒数)。2人からでも遊べ、数時間滞在する人も少なくない。

 

かつて、社会がもっとせわしなかった頃は、若者たちはこんなにのんびりとテーブルを囲んではいなかった。昭和の頃には麻雀というコミュニケーション手段があったけれど、ゲーム機が流行するようになってからは、友達の家に集まったらテレビゲーム、という流れが多くなったと思う。

 

ボードゲームはアナログ感があり、遊んでいる最中はスマートフォンは使わない。このスマホをオフにして遊ぶ時間に脳がリフレッシュされた感じがする。このリフレッシュ感こそが、常時ネット接続している現代人が求めているものなのではないだろうか。

 

さらに長時間遊べる演劇

しかしボードゲームは長くても2〜3時間ほどで終わるものがほとんどだ。今後、AIが人間の仕事を代行し、余裕時間はさらに増えると推測されているので、さらなる時間をかけて誰かと一緒に何かを作りあげる活動が必要になると考えられる。皆で農産物を育てるという動きもある。それも収穫の楽しみもあるし、今後も広がりそうな気がしている。

 

個人的には、これからは演劇作りが流行するのではないかと考えている。皆でストーリーを考えたり、役作りや演出について意見を言いだしたり、舞台美術を考えたりと、演劇はエンタメを手作りする感覚があり、楽しいのだ。

 

 

演劇が友情を生む

劇団6年2組』(吉野万理子・著/学研プラス・刊)は、小学6年生のクラス全員で、約2か月ほどかけて卒業記念のイベントとして演劇を作り上げていく物語である。クラスのなかには前向きに頑張る子もいれば、サボって逃げ出す子もいるのも、現代社会の縮図を見ているようでとても興味深い。

 

彼らは『シンデレラ』のストーリーを自分たちなりにアレンジし、作りこんでいく。その作業にはクラスの全員は加わらない。衣装に気を取られている女子もいれば、大道具作りに汗を流している男子もいる。主役じゃなくちゃ嫌だという妬みもなく、それぞれがそれぞれの持ち場に誇りを持ち、生き生きとしているのが印象的だった。

 

 

集団での新しい居場所感

少し前だったら、少しでも目立つ役を、と前に出たがる子が大勢いたけれど、今どきの子どもたちには目立ちたいという欲はそれほどないのかもしれない。自分の仕事を全うするほうにエネルギーを燃やしているようだ。そのほうが争いもないし、作業もはかどる。演技をしたい人は演技にのめり込み、大道具を作りたい人は、大工仕事に精を出し、それぞれの力を合わせて本番を迎えることができるのだ。

 

演劇の醍醐味はその本番にある。演出・脚本・役者・衣装・音響・照明・大小道具のパワーを集め、物語の世界観がステージに現れた瞬間、あたりに感動や興奮が満ちるのだ。どの役割も必要で、力を合わせたからこそ素晴らしいものができる。この楽しみを体感できるのが演劇だ。お互いの能力を持ち寄り交流するというところが、新しい時代の集団活動のありかたと、とても近い気がしている。

 

演劇を作るには時間がかかる。準備期間に何か月、場合によっては1年以上もかける。けれど、人間の時間に余裕ができてきたら、こうした長期戦の楽しみを人々は求めるようになるだろう。お互いの頑張りを褒め合い、素敵な作品が完成したことを喜び合える体験は貴重だ。そう遠くない未来に、新たな演劇サークルがたくさん立ち上がるのではないか、と私は思っている。

 

 

【書籍紹介】

劇団6年2組

著者:吉野万理子
発行:学研プラス

卒業前の発表会で、芝居をすることになった6年2組。四苦八苦する立樹たちに意地悪をいう慶司。実は、慶司は小さいころ子役でいやな思いをしたのだった。「シンデレラ」の台本に決まるが、演じていくうちにセリフを変え、自分たちの芝居を目指すことになる。

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「ソシャゲ課金をやめさせるには?」 蛭子さんの回答が斜め上過ぎる !──『蛭子能収のゆるゆる人生相談』

俳優・小日向文世さんは、蛭子さんとおなじ芸能事務所に所属している。

 

漫画家やバラエティタレントに思われがちですが、蛭子さんには個性派俳優の一面もあります。デビュー公演は劇団東京乾電池。2時間ドラマシリーズ「おばさんデカ 桜乙女の事件帖」では市原悦子さんの相手役を好演していました。

 

1980年代のTVデビュー以来、30年以上も芸能界で生き残っている御年70歳の賢人からは、たくさん学ぶことがありそうです。『蛭子能収のゆるゆる人生相談』(蛭子能収・著/光文社・刊)という本をオススメします。

 

 

夫がソシャゲ課金をやめてくれない

【相談者】47歳女性・農業手伝い
夫が、スマホゲームにはまっている。食事中も、運転中も、いつもいつも。毎月の課金額も多い。やめてほしいと言ったらケンカになる。どうすれば?

 

パートナーの不満に対する、蛭子さんの回答は──


オレの女房は一時期、パソコンでやるゲームにはまって(中略)「まったくバカなことをしている」と思ったけど、注意はしませんでしたね。
だって、ゲームをしていないときは、オレのことを怒るからね。だから、その間は、叱られずにすむと思って熱中させていました。

(『蛭子能収のゆるゆる人生相談』から引用)

理由はともかく、奥さまのことを尊重する。ジェントル!
蛭子さんといえば「マイペース」のイメージがあります。それは自己を確立するだけにとどまらず、相手の考えかたも尊重しています。蛭子さんのような人こそ「自立した大人」です。

 

 

夫の母親がイヤなやつで困っている

【相談者】43歳女性・主婦
同居している夫の母と、うまくいかない。夫に相談しても、うやむやにされる。もう耐えられない。どうすれば?

 

嫁姑問題の悩みごとに対する、蛭子さんの回答は──


どうせ先に死ぬんだからと諦める。そして心の中で優位に立っていればいいんですよ。
小言を言われても「あーすみませんね、お義母さん……もうすぐ死んじゃうけど」と適当に流せるんじゃないですか。

(『蛭子能収のゆるゆる人生相談』から引用)

 

もうすぐ死んじゃうけど! 消極的な呪い!
蛭子さんは、熱湯風呂に突き落とされたり、ドッキリを仕掛けられたり、クズ呼ばわりされたり、バラエティ番組でさんざん笑いものにされて、あらゆる恥辱を受け流して生きてきました。その結果、いまでは1億円の邸宅(4LDK)に住んでいます。年収が数千万円というウワサも。蛭子さんのアドバイス=成功者の金言です。

 

本書『蛭子能収のゆるゆる人生相談』は、人生の辛酸をなめてきた苦労人だからこそのアドバイスが収録されています。でも、やはり蛭子さんの回答だけあって、やたらと「競艇」のたとえ話になります。

ギャンブラーならではの珍回答

【相談者】65歳女性・主婦
定年退職した夫と、長崎旅行に行くつもり。長崎出身の蛭子さんに「長崎ならではのオススメ観光スポット」を教えてほしい。

 

蛭子さんの回答は──


大村競艇場がいいですね。長崎空港から車で15分くらいと近いので、真っ先に行くべきですね。この競艇場の特徴は、なんといっても、インコースが強いことです。インコースを軸に舟券を買えばいいんです。

(『蛭子能収のゆるゆる人生相談』から引用)

ザ・ベスト・オブ・蛭子さんのお悩み回答!
公営ギャンブルのなかでは、競馬よりも競艇(きょうてい)が好きなようです。理由は、1レースあたりの出走数が6人(6コース)なので、競馬よりも選択肢が少ないから。

 

じつは、この人生相談は「競艇場」でおこなわれることが多かったようです。お昼ごはんを食べながらだったり、レースとレースの合間だったり、多忙にもかかわらず蛭子さんがわざわざ時間を作って、読者からの人生相談ハガキに目を通しています。

 

 

制約のなかで生きる覚悟をもて!

【相談者】18歳・高校生
通っている高校の校則が厳しい。いまどき、スマホや携帯電話が見つかると没収されてしまうほど。やってられない。こんな校則は間違っている。そう思いませんか?

 

管理教育への反抗に対する、蛭子さんの回答は──


オレは、こう見えて、ルールをしっかり守ります。自分でも恥ずかしいくらい、基本的には世の中の規則に従いますね。
(中略)
高校生は店に入ってはいけないルールがあるので、卒業式の帰りにまっすぐパチンコ店に行きました。競艇も、無性に行きたかったけど、法律で認められている20歳の誕生日を迎えた、その日に行きました。

(『蛭子能収のゆるゆる人生相談』から引用)

品行方正ギャンブラー。それが蛭子能収!
1998年に賭け麻雀をおこなって警察沙汰になったときは、連載マンガに「ギャンブルの収支報告を載せていた」ことが決定的証拠でした。いまでは反省して「健康マージャン」を楽しんでいます。本人いわく、テレビ収録に遅刻したこともなければ、マンガ原稿の締め切りを破ったこともないそうです。

 

人生相談に答えることは、おのずと自分の人生経験を語ることになります。
本書『蛭子能収のゆるゆる人生相談』では、長崎から上京するきっかけになったエピソードや、ダスキン練馬で8年勤めていたこと、つげ義春や横尾忠則への憧れ、麻雀や競艇にまつわる哲学などを大いに語っています。読みごたえのある1冊です。お試しください。

 

【書籍紹介】

蛭子能収のゆるゆる人生相談

著者:蛭子能収
発行:光文社

「回答がおかしすぎるwww」(ネットの誰か)/「蛭子さんなのにいいこと言ってる!」(ネットの誰か)/……などなど、良くも悪くも大反響の「女性自身」ゆるゆる連載コラムが、まさかの単行本化。“世間体”などおかまいなし、どんなときも本音で生きる蛭子さんだからこその名(迷?)回答の数々に、悩んでいるのがバカバカしくなること間違いなし。他人にどう思われようと、楽しく自由に生きるヒントが、ここにある!

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日本人が英語を話せないのは「批評グセ」のせいだ!――『成功する英語勉強法』

最近、Facebookに英会話学習関連の広告が特に多くなった気がする。

 

「1年で確実に英語をマスター!!」 「ゲームだけやっていればネイティブなみの英語力」「1日たった1フレーズでペラペラに!」 「1か月後英語でビジネスができるようになります」

 

英語の授業といえば、中学・高校と6年間“リーダー”と“グラマー”の2極構造しかなかったと筆者は思う。英語って、いつからそんなに簡単になったの?!

 

 

超速メソッドの違和感

メソッドはよりどりみどりだし、ばっちり効果が出るものもあるんだろう。ただ、それなりに苦労した英語の勉強を「こんなに簡単にできちゃいます」みたいな勢いで言われると、セールストークであることは十分わかっていても、どうしても違和感を否定できない。いまだに残っている苦労のプロセスを全否定されたみたいな気になって、納得できないのだ。

 

10年後のワークフォースの中心層を成しているだろう小中学生世代の英語力の底上げは、2020年から始まる小学校の英語正規科目化という目に見える形で進んでいる。でも、現在の中心世代に対してはどうだろう。

 

超速英語みたいなメソッドが次から次へと生まれているのは、現時点で納得できる対応策がない不安の裏返しだ。そんな言い方はあまりにも単純で乱暴だろうか。

 

 

“これまで”は無駄になるのか

ゆとり世代だってその前の世代だって、英語の学習法の基盤部分は変わらなかったはずだ。筆者の世代と同じ“リーダー”と“グラマー”の2極構造か、それに準じたものから脱却できていたとは言い難い。もちろん例外的なケースもあるだろうが、大部分の人々は昔ながらの絶対的なパラダイムに縛られていたと思う。

 

一番煽られているのは、今30~40代の人たちだろう。旬な学習メソッドは、中高で慣れ親しんだもの――あるいは押し付けられたもの――とは大きく乖離している。読み書きの重要さに則って英語を教わっていたのに、いきなり「すみません。やっぱり、聞く・話すも同じくらい大切でした。これからはこのやり方が正しいってことで…」と、まったく異なる方針を一方的に言い渡された感じだ。

 

じゃあ、どうやって対応していけばいいのか。超速学習には追いつかないとしても、自分のこれまでの知識を少しでも活かせる方法を探っていきたくなる。

 

 

英語学習は不自然な行いである

この原稿では、現時点で煽られているのを実感している人たちにとって英語を勉強し直すよいきっかけになるだろう一冊を紹介させていただく。タイトルは『成功する英語勉強法』(安河内哲也・著/学研プラス・刊)。著者の安河内哲也さんは、ご存じのとおり、超有名予備校の英語講師だ。

 

数ある英語学習書・英語学習メソッドの中から、この一冊を強く勧めようと思った理由は、第1章に記されている次のようなひと言が刺さったからだ。

 

英語学習は「不自然なこと」であり、努力と覚悟を必要とする。

 

うん。そういうもんだと思う。

 

 

評論グセが日本人の英語にブレーキをかける

本書の構成は英語を全体としてとらえる総論部分、そして4技能のそれぞれと今や英語検定のスタンダードになった感があるTOEICの勉強法の各論部分に分かれている。総論部分でひとつ紹介しておきたいのは、「他人の目を気にするのはやめる」という項目に記されている一文だ。

 

日本人が英語を話せない理由は、すばり「評論グセ」です。この評論グセをやめないかぎり、日本人は英語を話せるようにはならないでしょう。

『成功する英語勉強法』より引用

 

そしてこの続きを読むと、英語学習に関して萎縮している部分が少しでもあるなら、その何パーセントかは確実に解決することができると思う。

 

正しい発音やイントネーションを身につける努力は常に必要ですが、私は、そんなことばかり気にしていては、いつまでたっても話せるようにはならないと思います。あなたが一生懸命英語で話しているのに、「きみのLとRの発音はイマイチだね」などという外国人はいません。彼らに興味があるのは話の内容であり、メッセージです。

『成功する英語勉強法』より引用

 

日本人が英語を話せない理由のひとつは、日本人の評論グセなのだ。

 

 

英語なんて、誰だってできるようになる!

ひとつ思うことがある。著名人が何らかの発言を英語で行ったことを伝えるニュースで、キャスターが「~と英語でスピーチを行いました(語りました)」とコメントするシーンをよく見る。

 

こういうの、もういいんじゃないだろうか。英語で発言することが特別な行いであるかのようなニュアンスで伝えるのは、文科省が目指している方向性と逆行しているような気がしてならない。安河内先生も、とあるCMでおっしゃっていた。「英語なんて言葉なんだ! こんなものやれば誰だってできるようになる!」

 

そんな安河内先生が提案するメソッドの数々。英語を勉強し直そうと思っている人には、刺さるものが必ずあるはずだ。そして、安河内先生がおっしゃる通り、英語なんて誰だってできるようになるのかもしれない。自分にぴったりの方法を探す過程を、この一冊から始めることを強くお勧めしたい。

 

【書籍紹介】

成功する英語勉強法 あなたの努力をカタチにする!

著者:安河内哲也
発行:学研プラス

カリスマ英語講師安河内哲也氏が説く英語勉強法の決定版。自分に合った学習法を探している人や、勉強に行き詰まりを感じている人は必読。具体的なアドバイスを読んでいるうちに、やる気がかき立てられ、楽しんで勉強が続けられる。TOEIC受験にも役立つ。

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【本日発売】野球だけでなく「ビジネス」でも必ず結果が出る84の「里崎理論」で成功をつかめ!

元千葉ロッテマリーンズ捕手・里崎智也さんが考え、実践している「成功するための理論」をまとめた「勝者になるための84の提言」が8月22日発売されました。

 

働き方改革が叫ばれる昨今、ビジネスパーソンが成功するにはどんな心構え、どんな行動が必要なのか? 千葉ロッテマリーンズで2度の日本一、WBCで世界一&ベストナインを経験した”下剋上オトコ”、里崎智也さんが現役時代、解説者時代のエピソードを交えながら、同氏の野球解説同様にわかりやすく綴られています。

 

 

84の提言は、どこから読んでもいい構成になっています。リーダーになれていない人や、若手リーダー層にぴったりの提言がずらり。

 

 

日本シリーズやワールド・ベースボール・クラシックなどのエピソードを交えた内容は、野球ファンも必見です!

 

 

[著者プロフィール]
里崎智也
1976年生まれ。鳴門工業高校から帝京大学を経て、1998年に逆指名で千葉ロッテマリーンズに入団。2005年、2010年には日本一を経験。2006年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)では正捕手として8試合で1本塁打、5打点、打率.409 の活躍で世界一に輝き、ベストナインに選ばれる。2014年に現役引退し、2015年1月より、千葉ロッテマリーンズのスペシャルアドバイザーに就任。テレビ番組「球辞苑~プロ野球が100倍楽しくなるキーワードたち~」(NHK-BS1)のゲスト、「グッド!モーニング」(テレビ朝日)のスポーツコメンテーターなどを務める。著書に『非常識のすすめ』(KADOKAWA)、『エリートの倒し方――天才じゃなくても世界一になれた僕の思考術50』(飛鳥新社)がある。

 

 

[商品概要]


「勝者になるための84の提言」
本体1,400円+税
発売日:2018年8月22日(水)
判型:四六判/234ページ
電子版:あり(同時配信)
発行所:(株)学研プラス

 

【本書のご購入はコチラ】
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学研出版サイト https://hon.gakken.jp/book/1340666900

【自由研究業界の救世主】「まんがでよくわかる ひみつシリーズ」は無料で読めて使える

学研プラスの「まんがでよくわかる ひみつシリーズ」。食品や工業製品に職業、果ては自治体まで、様々な「ひみつ」についてまんがでわかりやすく解説したこのシリーズ、じつはインターネットがあれば無料で読めることを知っていますか? 2学期開始直前、まだ自由研究に手がついていないという方々のために、いくつか紹介していきましょう。

 

 

トンネルのひみつ

日本のトンネル技術は世界一ィィィ! あなたの知らないトンネルの世界――『トンネルのひみつ』>では「トンネルのひみつ」の中から、世界のトップレベルにある日本のシールド工法について紹介しています。

 

トンネルには大きく分けると、地中に掘るトンネルと、山の中に穴を開けるトンネルがある。日本は、地盤が柔らかいために地中のトンネルを掘るのが難しく、大きな事故も起きている。

しかし、現在の日本のトンネルの技術は世界でもトップレベルと言われている。特に、地中トンネルを掘るための「シールド工法」は、海外でも採用され、世界一の長さを誇る海底トンネル「英仏海峡トンネル」にも、日本のシールド工法およびシールドマシンが用いられている。

 

そのほかにも、いろいろな工法の紹介など「トンネルのひみつ」を読めば、いままで気になっていたトンネルについての疑問が解決するはずです。

 

トンネルのひみつ」 https://bpub.jp/bookbeyond/item/000405916936/

 

 

お化粧のひみつ

そもそも人間はなぜ化粧をするようになったのでしょうか?

 

古代エジプト人は目のまわりに黒いふちを描いていましたが、これには2つの意味があったといいます。1つ目は太陽の光の反射を少しでも防ぐためで、現在、スポーツ選手が目のしたに“アイブラック”を入れているのと同じ。

 

そして、もうひとつの理由は信仰のため。古代エジプト人は「太陽は神さまのシンボル」と考えていて、その太陽が人の体の中では「目」にあたり、目には神さまが宿っていると信じていたのです。だから目を大切にし、まわりを黒くぬっていたようです。

 

ビジネスシーンでは男性も化粧が不可欠? 歴史からひも解くメイクの意味>で紹介した「お化粧のひみつ」ではこのような歴史から、化粧品はどうやって作られるのか? メイクアップ・アーティストの仕事とは? そして、どうしたらメーキャップアップアーティストになれるのか? まで興味深い内容が満載です。

 

「お化粧のひみつ」https://bpub.jp/bookbeyond/item/000405914958/

 

 

歯ブラシづくりのひみつ

歯ブラシは決まったものを使っているよ! という方も多いかもしれませんが、選ぶ基準は人それぞれ。では、「やわらかめ」「ふつう」「かため」は、どういう基準で決められているかってご存知ですか? <歯ブラシが一番売れるのは12月! あなたの歯ブラシは、かため? ふつう? やわらかめ?>で紹介した「歯ブラシづくりのひみつ」によると

 

歯ブラシのヘッド部分の穴の大きさは「かため」も「やわらかめ」も同じ。毛のかたさは、穴に植える毛の太さを変えて調節しています。小さな力でも曲がりやすい細い毛を植えるとやわらかめに、曲がりにくい太い毛を植えると「かため」になるとのこと。

 

知っているようで知らない歯ブラシについて「歯ブラシづくりのひみつ」を読んで調べてみてはどうでしょう。

 

「歯ブラシづくりのひみつ」https://bpub.jp/bookbeyond/item/000405915805/

 

 

いなり寿司のひみつ

なぜ「いなり」が、油揚げのことを指すのでしょうか? いなり寿司の語源は、稲荷信仰に関わりがあると言われています。稲荷神社は、日本全国の神社のうち3割以上を占めており、まつられているのは「五穀豊穣の神さま」です。その使いであるキツネの好きなものが「油揚げ」だと信じられているから……という説があります。

 

いなり寿司がすぐできる! キミは「味付けいなり揚げ」の存在を知っているか?――『いなり寿司のひみつ』>で紹介している「いなり寿司のひみつ」には、いなり寿司の由来から、地方ごとのいなり寿司の形や具材の違いなども解説されています。

 

たとえば、酢飯の味付け。関東は「白い酢飯」ですが、関西は「五目ちらし酢飯」を詰めます。東北地方の青森県では、紅しょうがで味付けした飯を詰める「ピンクいなり寿司」が有名です。地域によっては、米飯を詰めるとは限りません。代わりに「おから」を詰めるところもあれば、お蕎麦やソーメンを詰めるところもあります。

 

歴史や地方ごとの特色を調べつつ、自分で作ってみると幅の広い研究になるかもしれません。

 

「いなり寿司のひみつ」https://bpub.jp/bookbeyond/item/000405916999/

 

 

「学研のまんがでよくわかる! ひみつシリーズ」

「こだわり」か「便利さ」か。一眼レフとミラーレスどちらを選ぶ?――『CAPA 2018年9月号』

レンズ交換式のデジタルカメラには、大別すると2種類存在する。「一眼レフ」と「ミラーレス」だ。

 

いずれも写真を撮る道具という点においては、それほど違いはない。操作性についても、大きな差異はない。カメラにそれほど詳しくない人にとっては、その違いはあまり気にならないだろう。

 

しかし、撮影する上で明らかに異なる点がある。それは「ファインダー」だ。近年では、ボディ背面にある液晶ディスプレイを使って撮影する人も増えている。いわゆる「ライブビュー」を使った撮影だ。

 

その撮影方法では、一眼レフもミラーレスもそれほど違いはない。しかし、ファインダー撮影の場合には、大きな違いがある。

 

 

 

一眼レフとミラーレスのファインダーの違い

CAPA 2018年9月号』(CAPA編集部・編/学研プラス・刊)の「劇的露出を目指すイチガン使いこなし術」という特集の冒頭に、一眼レフとミラーレスのファインダーの違いについての記述がある。

一眼レフの光学ファインダーは、非常に被写体が鮮明に見え、リアルな光を感じられるが、仕上がり結果は一切反映されないので、露出補正やWB(ホワイトバランス)調整が必要かどうかは、撮影画像をチェックして判断する。一方、ミラーレスのEVF(ライブビュー表示)は、露出レベルやWBなどの仕上がり結果が反映され、ほぼ見えているままに撮影できるので、撮影時に適切な露出補正操作が簡単に行えるのが特徴だ。

(『CAPA 2018年9月号』より引用)

 

この記述を見ると、ミラーレスのEVFのほうがとても優れているように感じるだろう。確かに、撮影後の仕上がりを確認しながら撮影できるのは、わかりやすくてよい。ただ、僕はどちらかというと一眼レフの光学ファインダーのほうが好きだ。

 

 

EVFが好きになれない理由

ミラーレスのEVFがあまり好きになれない理由は、タイムラグだ。レンズから取り込んだ光を一度画像に変換してEVF上に表示するため、若干のタイムラグ生じるのだ。最近では、かなり性能が上がっているためそれほど気にならない機種もある。それでも、テレビ画面越しに被写体を見ているような気分になるため、なんとなく気分が上がらないのだ。

 

もうひとつ気になるのは、撮影後にEVFで撮影画像のプレビューが表示されること。これは設定でオフにすることができるので、ミラーレスカメラを使う場合は必ずオフにしている。

 

EVFは便利だけど光学ファインダーが好きだ

とはいえ、これからのレンズ交換式カメラは、ミラーレスがメインになる流れになっている。いずれはミラーレスが主流になり、一眼レフは趣味性の高いもの、もしくはプロ向けのみになるかもしれない。

 

EVFの見え方問題は、EVFに露出やホワイトバランスの設定を反映させないようにできる機種もあるので、ある程度は解決可能。表示のタイムラグも技術が進めば、気にならなくなるだろう。

 

でも僕は、一眼レフの光学ファインダーが好きだ。ファインダーを覗いたときに見える被写体から、仕上がりを想像して露出を変更するというのは、撮影の醍醐味だとも感じているからだ。また、RAWで撮影して、撮影後にパソコンで現像処理をする際に調整するのも、楽しいと感じている。

 

車で言えば、オートマチック車が手軽で便利だけど、マニュアル車のほうが運転している気がするよね、という感じだ。決してミラーレスカメラを否定しているわけでもないし、おそらく数年後にはミラーレスカメラをメインに使っていることだろう。

 

でも、今は一眼レフを使いたい。古いヤツだとお思いでしょうが、長年親しんだ光学ファインダーからは、まだ離れられそうもない。

 

【書籍紹介】

CAPA 2018年9月号

著者:CAPA編集部
発行:学研プラス

写真の良し悪しを左右し、思いどおりの一枚を撮るために必要不可欠なのが「露出機能」です。巻頭特集ではミラーレス&一眼レフの、測光から露出補正、そして仕上げのRAW現像まで、“光と影”で自在な表現をするための最新の露出機能をチェックします。さらに、3人の露出マイスターが極上の露出術を伝授! 「露出補正」の知っておきたい5つのキーポイントも必見です。

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