そのレシート捨てないで! と思わず引き止めたくなっちゃう一冊『レシート探訪』

物価高騰が止まりませんね。先日、東京駅に用事がありウロウロとしていたところ大好きな崎陽軒の「シウマイ弁当」を発見。しかし、その価格が950円だったんです。シウマイ弁当に罪はないものの、ここまで来たか……とショックを受けました。

 

毎月のように値上がり商品が増えていく今、お家の家計状況を把握するためにも、家計簿をつけようと思うのですが…なかなか手がつけられず2023年も残り100日を切りました。そんな時、見つけたのが『レシート探訪』(藤沢あかり・著/技術評論社・刊)という一冊。『北欧、暮らしの道具店』の連載をまとめた本なのですが、時間を忘れて読み耽ってしまうほど心が躍る内容でした。

レシートは生活の記録?

『レシート探訪』には、著者である藤沢あかりさんが取材した26人のレシートの話が掲載されています。編集者さんやイラストレーターさん、スタイリストさんなどさまざまな年代、業種の方々のレシートを覗き見することができます。

 

少しずつコンビニやスーパーで買い物する人、一度にまとめて買う人、立ち寄ったカフェ、購入した雑貨などなどレシートには、その人の“生活の記録”が詰まっていました。『レシート探訪』を読んでいくと、レシートは、いつ・どこで・何を買ったかだけじゃなく、その時の気持ちも思い出させるのか! と気づかせてくれます。

 

いつもなら「レシートいらないです」と断ってしまうこともあるのですが、なんだかもったいない気がしてくるんですよね(笑)。週に一度、レシートを見返す時間があると、生活がいつもよりちょっと楽しくなるかも! ついでに家計簿もつけられたら一石二鳥じゃない? そんなふうに思わせてくれます。

 

これは捨てられない……はじめてのおつかいのレシート

みなさんには思い出のレシートってありますか? 『レシート探訪』を読むまで、思い出の品としてレシートを取っておくなんてこと考えてもいなかったのですが、めっちゃ素敵なエピソードが掲載されていたのでご紹介します。

 

著者である藤沢あかりさんのコラムなのですが、セブン-イレブンで買われた「ハム」と「アイスコーヒー」のレシートのことが書かれてありました。これだけを聞くとなんてことないものですが、実は息子さんが「自分で取るから場所だけ教えて」と500円玉を握りしめて、はじめてのおつかいに出かけた時のレシートなのです。

 

シワシワになったコンビニのレシート。いつもならすぐに捨ててしまうその一枚を、この日は大事に財布にしまった。

(『レシート探訪』より引用)

 

映画の半券やテーマパークのチケットはたまぁ〜にノートや手帳に挟んでおくことがありますが、はじめてのおつかいのレシートって、もう宝物みたいになりますよね。最近は電子決済で、レシートすら発行されないこともありますが、思い出とともにレシートを保管しておきたいな、と感じました。

 

そう思うと、結局値上がりしていて買わなかった東京駅の「シウマイ弁当」も買っておけばよかったとすら思います(笑)。いろんな商品がちょっとずつ値上がりして、それが当たり前に感じてしまう昨今ですし、値上がりにショックを受けた気持ちをレシートに込めておけば、また価格が変わった時、いろんな気づきを感じられるだろうと思いました。

 

レシートから見えてくる「その人らしさ」

今まで見向きもしてこなかったレシートですが、レシートを通じていろんな人の生活や暮らしをのぞいてみると、自分の生活についても大切に考えられるようになりました。『レシート探訪』の最後には、こんな一文が掲載されています。

 

テレビやネットニュースに流れてくる大きなニュースに比べ、日々の買い物など、些細な出来事かもしれません。けれど、暮らしとはそんな「なんでもないようなこと」がほとんどです。
ところが、だんだんと気づくことになりました。その「なんでもない」ように見えた買い物は、その人の意思決定そのものであり、「なにを選ぶか」は、「どう生きるか」のはじまりでもあったのです。

(『レシート探訪』より引用)

 

何気なく選んでいるものでも、そこには自分の意思があるんですよね。疲れている時は辛いものを食べている、毎週キウイ買っているなど、数日だけでもレシートを残して振り返ってみると、その日の自分の気持ちも思い出せます。

 

家計簿をつけようとか、日記を書こうとか、年末が近づいてくると新しいことを始めたくなりますが、レシートを集めて振り返ってみる、これだけでも日々の暮らしがちょっと豊かになるかもしれません。

 

また『レシート探訪』を読むだけでも、毎日の「なんでもない」買い物に彩りを添えてくれます。普段なら捨ててしまっているレシートですが、思い出を振り返るように何枚か取っておいてみませんか? 今まで見えてこなかったナニカが見えてくるはずですよ!

 

【書籍紹介】

レシート探訪

著:藤沢あかり
発行:技術評論社

レシートには、暮らしが詰まっている。外出自粛のあのころ、そしていま。買い物の先にあった、変わりゆくなかの変わらないこと、新しく見えた景色ー。『北欧、暮らしの道具店』連載、“改稿+書き下ろし”待望の書籍化!

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レストランでひとり客は迷惑? 歓迎? 料理人・飲食店プロデューサーが語るひとり客の真実~注目の新書~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。飲食店で「お客様は神様です」なんて言葉をしばしば耳にしますが、神話やファンタジーが好きな私にはどんな神なのか気になります(笑)。「お客様は仏様です」とは言わないわけで、この”神様”には崇めるだけの神ではなく、人の意のままにならず、時に試練を与える存在、そんなニュアンスが含まれている気がします。神も祟り神、疫病神、貧乏神といろいろ。できれば福の神と思われたいですね(笑)。

南インド料理店総料理長の食エッセイ

さて、今回紹介する新書はお客さん物語 飲食店の舞台裏と料理人の本音』(稲田俊輔・著/新潮新書)。著者の稲田俊輔さんは料理人、飲食店プロデューサー。2011年、東京駅八重洲地下街に南インド料理店「エリックサウス」を開店。現在は全店のメニュー監修やレシピ開発を中心に、業態開発や店舗プロデュースを手掛けています。近年は食についての文章も多く発表。著書に『おいしいものでできている』(リトルモア)、『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分!本格インドカレー』(柴田書店)などがあります。

「客」は「お客様」と呼ぶべきか?

料理人であり、飲食店プロデューサーであり、食に関するエッセイストとしても注目される稲田さんが、食の現場で体験した印象的な出来事を考察していく、ウェブマガジンの連載をまとめたエッセイ。

 

第1章「お客さん論」の冒頭は、飲食店での”客”の呼び方についてです。25年以上前のこと、お店の裏では「客」と呼ぶのが当たり前だったなか、稲田さんが新しくバイトで入った創作居酒屋は違いました。常に「お客様」と呼ぶ、それが鉄の掟。入店した日、先輩たちが「ああいうお客様はマジ勘弁してほしいわ」と、グチすらも「お客様」を貫いていたため、稲田さんは「すごいところへ来てしまった」とたじろいだそう。

 

その店は新興の会社が運営しており、幹部は異業種のメンバーだったため、顧客目線の徹底した接客の大事さをわかっていたのではないか、と稲田さん。

 

ただ、現在はお店とお客さんの関係性はもっと対等で、かつ何にも縛られないほうがいいという思いが強まっているため、本書では「お客さん」という言い回しを用いているそうです。

 

個人的に私が勇気づけられたのは、「ひとり客のすゝめ①――店は歓迎してくれるのか?」。これもよく議論される話題です。お店側の立場からいうと、おいしい料理を目当てに来てくれるひとり客はむしろうれしい存在だとか。

 

しかも、ひとり客は料理をたくさん楽しんでくれるので客単価が高く、おしゃべりに夢中なグループ客よりも在店時間が短めで、ビジネス的にもありがたい、と稲田さん。今度気になったお店があったら、勇気を出してカウンターに座ってみたいと思います。

 

コース料理が受難の時代を迎えている理由とは? 代替わりをして味が落ちたという評判は本当か? 居酒屋で水だけしか頼まないのは是か非か? 稲田さんが自身の経験をもとに答えを見つけていきます。

 

普段はあまり知ることのできない、”中の人”の視点は新鮮。言い回しは柔らかく、それぞれのエッセイにはオチもついていて、ふわっと温かい読み味。そのあたりは稲田さんの人柄でしょう。飲食店という場をより楽しむための提案にもなっています。

 

食べ物を前にすると、お客さん、料理人、オーナーに限らず、誰でもその人の価値観が露わになる。これが食の力かもしれません。

 

【書籍紹介】

お客さん物語 飲食店の舞台裏と料理人の本音

著: 稲田俊輔
発行:新潮社

「客商売」にドラマあり! レストランは物語の宝庫だ。そこには様々な人々が集い、日夜濃厚なドラマを繰り広げている――。人気の南インド料理店「エリックサウス」総料理長が、楽しくも不思議なお客さんの生態や店の舞台裏を本音で綴り、サービスの本質を真摯に問う。また、レビューサイトの意外な活用術や「おひとり様」指南など、飲食店をより楽しむ方法も提案。食にまつわる心躍るエピソードが満載、人生の深遠を感じる「客商売」をめぐるドラマ!

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みんな青春だ! 王道から新書まで—— 歴史小説家がオススメする「青春」を堪能し尽くす5冊

毎日X(Twitter)で読んだ本の短評をあげ続け、読書量は年間1000冊を超える、新進の歴史小説家・谷津矢車さん。今回のテーマは「青春」。全力真っ只中か、はたまた遠い日の追憶か。それぞれに「青春」との距離感はありますが、谷津さんの選んだ5冊を読んで、「アオハル」な体験をしてみませんか?

 

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気づけば37歳になってしまい、慄然としている。

 

十年ほど前、40歳くらいの方が「大人になると、精神年齢は20くらいのままで止まる」と言っていたのを聞き、そんなわけあるかと鼻で笑っていた当時27のわたしだったが、いざ四十手前に至ってみると、確かに自分も20歳くらいの感覚で生きていることに気づく。とはいえ、最近白髪も増えてきたし、以前ほど無理も利かない体になってきた。人は体から老いていく生き物なのだなあとぼやく今日この頃である。

 

なぜかこの選書、いつも悲しい書き出しで始まっている気がするが、気にしないでほしい。

 

というわけで、もはやわたしにとっては遠い彼方になりつつある、「青春」が今回の選書テーマである。なにとぞお付き合いいただきたい。

 

主人公の成長と、その父のやり直しの物語で、2度美味しい王道青春小説

まずご紹介するのは、『14歳の水平線』(椰月美智子・著/双葉社・刊)である。親の離婚に伴い父、征人についていった加奈太だったが、親に相談せずサッカー部を辞め、反抗期まっしぐらの14歳となっていた。そんな加奈太は夏休み、征人の故郷の島へ帰省し、中二男子限定のキャンプに参加することになる。そして、この経験の中で、少しずつ加奈太は変化していく――、そんな枠組みを持った、王道青春小説である。

 

しかし、加奈太の青春小説という視座から眺めると、本作には異物が挿入されていることに気づく。父、征人の物語である。児童文学者の征人は、色々あって妻に愛想を尽かされ、息子との距離感を摑み損ねていたが、故郷に身を置く中で自らを省みるようになる。その過程で、征人の青春時代の光景も語られていくのである。加奈太の成長と、征人のやり直しの物語が同時に展開されることで、本書は「青春小説」という枠組みを有しながらそれ以上の広がりを持ち、異物の存在がまるでスイカにかける塩のように働き、青春小説の甘みを引き立てているのである。

 

加奈太の14歳の気づき、そして、征人の大人になってからの気づき。人はいつからでも変わることができる。読者の背中をぽんと押してくれる、優れた青春小説であると言えよう。

 

昭和初期を舞台にした、優しさが広がる青春物語

次にご紹介するのは漫画から。『うちのちいさな女中さん 』 (長田佳奈・著/コアミックス・刊) である。時は昭和初期、翻訳家として働く蓮実令子の元に、14歳の女の子、野中ハナが女中としてやってくる。女中としては完璧ながら四角四面なところがあるハナと、穏やかな性格で朗らかながら時に翳を背負った令子の心の交歓が主題となった昭和日常系漫画である。

 

本作の魅力で最初に挙げるべきは、なんといっても緻密な考証に裏打ちされた日常描写だろう。昭和初期のモダンな生活空間の中で働く女中の日常が、丁寧に切り取られている。また、ハナが田舎から出てきたという設定のために、東京の新しい文物にいちいち戸惑ったり驚いたりしているのもよい。

 

しかし、本書最大の魅力は、ハナの青春物語だということだろう。女中であるハナは、女中として完璧であるがために自分のために時間を使おうとしない。雇い主である令子はそれを汲み、ハナにできうる限りの青春を与えようとしている。そんなふたりの関係がじんわりと行間に滲み、優しい世界が読者の眼前に立ち現れている。少なくとも単行本掲載分では令子の過去がすべてつまびらかになっていない(この書き方をしているのはわたしが単行本派のため)のだが、もしかして令子にも過酷な青春があったのだろうか、そんなことを想像しながら読むのも楽しい。

 

「僕」から見えてくる、松下村塾の青春とは?

次にご紹介するのは新書から。『自称詞〈僕〉の歴史』 (友田健太郎・著/河出書房新社)である。皆さんは、「僕」という自称詞をお使いだろうか。わたしは書き言葉の場面での自称詞こそ「わたし」だが、日常の、やや改まった場では「僕」を用いている。男性にとっては割とポピュラーだろうし、一部の女性にとっても身近な自称詞といえる「僕」の歴史をつまびらかにしたのが本書である。

 

「僕」という自称詞がどこで生まれ、どのように日本語圏内で受け入れられ広がっていったのか。そしてその中で、どういう文脈を獲得、喪失しながら現代にまで至ったのかを総覧する本書には、かなりの読み応えがある。そんな本書の中でも特に紙幅が割かれているのは、自称詞「僕」を好んで使っていたとされる吉田松陰とその弟子たちについてである。吉田松陰が「僕」にある種の思想的な意味を付与し、弟子たちがその思想をどのように受け止めていったのかを「僕」の自称詞から描き出していくプロセスは、そのまま師匠と弟子の青春を描き出しているとも言えるのである。

 

大人世代と青春世代の調和/不調和を描く傑作漫画の新シリーズ

次にご紹介するのは漫画から。『るろうに剣心─明治剣客浪漫譚・北海道編』 (和月伸宏・著/集英社・刊)である。当時の子どもたちの人気をさらったジャンプ漫画の続編で、北海道の水面下で繰り広げられる〝大乱〟に、不殺を誓った伝説の人斬り緋村剣心を始めとした本作の人気キャラたちが挑むという筋書きの物語である。

 

わたしにとっては青春ど真ん中でぶち当たり、それこそ人生を変えてしまったとすら言える漫画(『るろうに剣心』のおかげで歴史小説を書いているといっても過言ではない)なのだが、これを理由に今回選書したわけではない。

 

本作は、主人公である剣心、人気キャラの斉藤一など、幕末をくぐり抜けた猛者たちが登場するのだが、彼らには意識的に「老い」の影が付与されている。本作の随所には、彼ら幕末組の思想や正義、あり方を相対化し、疑問符を投げかけるような展開がそこかしこで用意されている。

 

その一方で、旧時代の悪弊に引きずられながらも新しい時代を夢見る少年少女、長谷川明日郎、井上阿爛、久保田旭が剣心のパーティに加わっており、剣心たちの意のままにならない不安定な存在として、時に事態を打開し、ときに事態を混迷化させていく。実は本作は、大人世代と青春世代の調和/不調和を描いた作品であるとも言えるのである。

 

「青春との決別の仕方」を描く反青春小説

最後にご紹介するのは小説から。『青春をクビになって』 (額賀澪・著/文藝春秋・刊)である。35歳の若手万葉集研究ポストドクター、瀬川は、ある日、大学から非常勤講師の雇い止めを宣告される。そんな折、瀬川と似たような立場だった先輩研究者が、貴重な資料を持ったまま行方不明になる。先輩の足跡を探す瀬川は、自分の生活を立てるため、ひょんなことから紹介された人材派遣アルバイトに勤しむことになる……というのが本書の導入である。

 

既に降りている立場だからこそ言えるが、青春は呪いである。キラキラしなければならない。夢を持たねばならない。夢を叶えなくてはならない。あわよくば恋をしなければならない。誰でもない自分にならなければならない……そんな圧力に満ちている。いや、その真っ只中にいるときはなんだか凄く楽しい。だが、そんな楽しさに幻惑されてずっと青春という板の上に乗っているうちに、自分の大事にしていたはずのものが腐れ落ち、自分の足を縛る枷になっている……。

 

本書の著者は数々の青春小説を世に問うてきた青春小説家である。だからこそ、青春の持つ磁力をよくご存じなのだろう。本書は、「青春との決別の仕方」を描いた反青春小説でありつつ、青春の終わりを描いた青春小説なのである。

 

青春っていいよね、と思う。
あの、ハイウェイを時速百キロで飛ばしていくあの感じは、たぶん一生わたしの元にはやってこない。

 

わたしの目の前にあるのは、舗装すらされていない砂利道である。ゴトゴトと揺れながら、日々、少しずつ前進している。まあ別にそれはそれで楽しいから満足はしているのだけど、時折、ハイウェイを飛ばしていたころの自分を思い返したい日もある。

 

そういう日のために、きっと青春をモチーフにした本があるのだろう。というわけで、わたしは今の生活にちょっと疲れたら、青春の本を読むようにしている。

 

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【プロフィール】

谷津矢車(やつ・やぐるま)

1986年東京都生まれ。2012年「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞受賞。2013年『洛中洛外画狂伝狩野永徳』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』にて歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。最新刊は『ぼっけもん 最後の軍師 伊地知正治』(幻冬舎)

「日本左利き協会」発起人が語る左利きのすべて! 左利きの苦悩と未来~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。私は物心ついたときから右利きで、特に何も考えずに生きてきました。ある日、右ばかり使っているとバランスが悪いという話を聞き、左手で歯を磨こうとしましたが力加減がわからず、歯ブラシがほっぺたを突き破りそうになったことも(笑)。

 

左利きの友人も何人かいますが、「左利きって、なんかかっこいいよね」と言うと大概怒られます。「かっこいいとかどうでもいいの、結構大変なのよ」と。右利きが主流の世界で、左利きの苦労に気づき、まずは知ることが大事なのでしょう。

日本左利き協会の発起人が解説する左利き

今回紹介する新書は『左利きの言い分』(大路直哉・著/PHP新書)。著者の大路直哉さんは「日本左利き協会」発起人。英国滞在中に左利き専門店と出会い、利き手への探究心が開花。帰国後、関連記事や文献の発掘にいそしみ、左利きに関する著書を出版してきました。著書に『見えざる左手』(三五館)、『左ききでいこう!』(フェリシモ出版)などがあります。

自動改札機にATM、続く左利きの苦難

世界各国の左利き事情や、左利きの脳と体、左利き受難の歴史などが詰め込まれた一冊。序章「左利きはどのくらい存在し、なぜ生まれるのか」では、人類における左利きの割合が紹介されています。研究者が過去5000年の芸術的表現を調べた結果、左手を使って創作された作品は約8%だとか。

 

ただし、文字を左手で書く人の割合は地域差があり、大学生を対象にした研究では、カナダで文字を左手で書く人の割合は男性9.8%、女性7.7%に対し、日本では男性1.9%、女性0.9%。教育の影響が大きいのでしょうか。日本の特異性が見てとれます。

 

では、左利きの人はどのようなことにストレスを感じているのでしょうか? 第1章は「左利きの苦労」。「左利きは9年寿命が短い」という説が1990年代に一斉を風靡しましたが、左利きを巡る生活環境は20世紀末と比べて改善されたのでしょうか?

 

最初に例が挙がっているのは自動改札機。20世紀末は磁気切符の挿入口が進行方向右側にあったため、左利きは腕をクロスして切符を通していました。それがICカードのタッチになっても、かざすのは右側。利き手の矯正を経験せずに育つ左利きが増える一方で、鬼門ともいえる自動改札機への不満が絶えることはない、と大路さん。

 

銀行のATMも右側にボタンがある場合が多く、さらに指静脈の認証読み取り装置も大概右手側。これほど技術は進化しているのに……アンバランスさを感じますね。

 

2章以降は、俳句からわかる江戸時代の左利きに対する見方、左手を使えば右脳が発達するのかの検証、正岡子規やレオナルド・ダ・ヴィンチなど左利き・両手利きの偉人たちのエピソードなど、左利きに関するトピックが満載。左利きのあなたは「そうそう!」と共感しながら、右利きのあなたは友達や知り合いで左利きの人を思い出しながら読み進めるとより身近に感じられるはず。

 

左利きというひとつのテーマに特化しながら、ボリュームもあり、しかも読みやすく構成されているというのが本書のポイント。左利きひいては利き手への関心を高めるだけでも、右利きは「意識することすらないマジョリティ」であることを「実感」する機会が増える、と大路さん。“左利きの言い分”を知ることは、多様性社会を実現する身近な一歩かもしれません。

 

【書籍紹介】

左利きの言い分

著:大路直哉
発行:PHP研究所

「自動改札機を通過するとき、腕をクロスさせなければならない」「ハサミや定規、スープをすくうレードルが扱いにくい」など、左利きならではの不便は多々存在する。さらに、かつては左利きだと結婚に差し障りが生じたことすらあったという。中国の古典『礼記』に「食事をする手は右手」と記されているため、日本では長らく左手で箸を持つのは不作法と見なされ、左手で箸を持つ女性は「親の躾がなってない」と判断されることがあったのだ。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

南海キャンディーズのしずちゃんが“ほんわか”と半生を振り返る『5000グラムで生まれた女のちょっと気ままなお話』

コンプレックスをプラスに変える。言葉にすると簡単ですが、なかなかできることではありません。他人から「そんなこと気にしなくていいよ」と言われても、気になっちゃいますからね。南海キャンディーズのしずちゃんは、伸びたくないのに身長が伸びてしまい、思春期のころはコンプレックスを抱えていたそうです。

 

今回ご紹介する『5000グラムで生まれた女のちょっと気ままなお話』(南海キャンディーズしずちゃん・著/ヨシモトブックス・刊)は、しずちゃんが生まれてから今までの半生を振り返る自伝本です。ジェットコースターのような浮き沈みがあるのかなと思いましたが、しずちゃんの半生は湖畔の波のようにゆったり、穏やか。今の時代に必要な考え方がいっぱい詰まっているなぁと感じた一冊でした。

学生時代はアイドルを目指していたしずちゃん

夫婦漫才以外に男女の漫才コンビがほとんどいないなかで、彗星の如く現れた南海キャンディーズ。デビューからわずか1年ほどの2004年、M-1グランプリで準優勝します。それからの活躍は言わずもがなですが、しずちゃんは映画やドラマでの俳優業、さらにはボクシングでオリンピックを目指すなど、芸人の枠を飛び越えて活動されています。

 

そんなしずちゃん、昔からお笑い芸人を目指していたわけではなく、小さいころはアイドルを目指していたのだとか。しかし、小学6年生のころから自分の意思に反して身長がぐんぐん伸びてしまい、同級生男子から「岩石女」と呼ばれてしまいます。

 

そのころから、人前に出て自分を出したい気持ちと、誰にも見られなくない気持ち、矛盾した両方の気持ちを常に抱え始めた。今なら「大きい体を利用して目立とう」と思えるけど、その時はまだ繊細な乙女心を持っていたのよ。

そんな葛藤を続けているうちに、アイドルになりたいという夢はいつの間にか消えた。

(『5000グラムで生まれた女のちょっと気ままなお話』より引用)

 

自分の夢がいつの間にか消えていく感覚、私にもあったなぁ〜としみじみしてしまった一文でした。しずちゃんを通して自分の人生も振り返ることができるので、気が付かないうちに閉じていた心の扉がそっと開かれますよ。

 

しずちゃんは、色々あった青春期を過ぎると半ば思いつきで劇団ひまわりに入ります(笑)。いきなり、どうして? と思うのですが、この入団がきっかけで「人を笑かしたい」という気持ちに気付き、吉本の養成所であるNSCに通っていた中学の同級生に声をかけ、吉本のオーディションライブに参加。そこから芸人生活が始まります。

 

山ちゃんの著書と合わせるとさらに楽しい! 南海キャンディーズ結成秘話

劇団ひまわりから吉本芸人になったしずちゃん。「西中サーキット」という女性コンビでデビューし、少しずつお笑い芸人としての輪郭を作っていきます。残念ながらこのコンビは解散してしまうのですが、その後に出会うのが、山ちゃんこと山里亮太さん。ケーキバイキングに誘われ、南海キャンディーズが結成されます。山ちゃんの著書『天才はあきらめた』の中でもケーキバイキングに誘った様子が描かれているのですが、そのアンサーがしずちゃんの本にも書かれてありました。

 

山ちゃんはこの時、コンビが組める手ごたえを感じていたみたいだけど、何を話したか、あんまり記憶にない。覚えているのは、ケーキをたくさん食べたことと、「鼻の下にめっちゃ汗をかく人やなぁ」と思ったことだけだ……。

(『5000グラムで生まれた女のちょっと気ままなお話』より引用)

 

山ちゃんの努力やしずちゃんへの想いは、『天才はあきらめた』にたっぷり綴られているのですが、しずちゃんのほうは「こんなにあっさりだったの!?」と驚いてしまいました(笑)。この2冊を一緒に読み進めていくと、南海キャンディーズのいい意味での“すれ違い”が明確になります。紆余曲折あって今がある、そんな感覚を味わえますよ。

 

勇気を出して一歩踏みだす生き方

見た目にはおっとりとしているしずちゃんですが、その心の奥には情熱の炎がメラメラと燃えていることが『5000グラムで生まれた女のちょっと気ままなお話』を読むとわかります。けれど、自分の世界を揺るがすような大きなエピソードや出来事があるわけではない。そこがしずちゃんらしくていいな、と読み終わって感じました。しずちゃん自身も、本の最後にこんなことを書いています。

 

私は、「どうなるかわかんないけど、やってみようかな」と勇気を出して一歩踏み出す生き方をずっとしていきたい。面白く生きたいんだと思う。

(『5000グラムで生まれた女のちょっと気ままなお話』より引用)

 

しずちゃんのようにいろんな方面に一歩を踏みだして、チャレンジし続ける生き方ってとっても素敵だなと感じました。いろんな選択肢がある世の中で、どうなるかわからないけどやってみると、その先に新しい自分が見つけられるのではないでしょうか?

 

チャレンジした結果、コンプレックスがどんどん克服され、自分自身を好きになっていくしずちゃんの半生。コンプレックスに悩む人、将来がちょっぴり不安な人、自分のやりたいことが見つからない人、いろんな人が元気になれる、そんな一冊です。

 

【書籍紹介】

5000グラムで生まれた女のちょっと気ままなお話

著:南海キャンディーズ しずちゃん
発行:ヨシモトブックス

漫才したり、ボクシングしたり、お芝居したり、絵を描いたり…たくさん人との出会いに支えられながらチャレンジを続けてきた芸人・しずちゃんがその半生を赤裸々に綴る!

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「新NISA」「iDeCo」「ふるさと納税」、知っている人だけが得をする! 低金利のいま、すぐ始められる「お金をふやす・まもる」方法

「お金が貯まらない」

「物価は上昇しているのに給料は上がらず、家計が苦しい」

「住宅や教育にかかる資金が負担になっている」

「そろそろ老後の資金を考えないと……」

 

このようなお金の悩みは尽きません。特に40代前後になると、住宅購入や子どもの教育関連費などお金のかかるライフイベントが続きますし、そろそろ老後資金が心配になったりするものです。

 

しかし、そんなお金の不安とは裏腹に、実際に資産を増やす具体的な行動をとっている人は、意外なほど少ないのが現実です。なかには、毎月の家計の収支さえ把握していない人さえいます。

 

私はマネーセミナー講師として、これまで600回以上のセミナーに登壇し、3000世帯を超える個別相談を受けてきました。その中でよく聞くのが、こんな言葉です。

 

「もっと早く聞いていればよかった」

「なんでもっと早く始めなかったのだろう」

 

このように後悔する人が多いのも、“お金”ほど、効果的な貯め方・増やし方を知っている人と、知らない人とで圧倒的な差が生じるものはないからです。

 

意外と活用されていない「税金の優遇制度」

特に近年、相談を受けることが多いのが「NISA」「iDeCo(イデコ)」「ふるさと納税」の3つについてです。税金を納める人であれば、会社員、自営業者にかぎらず誰でもメリットを得られることから、私は「三大税制優遇制度」と呼んでいます。

『新NISA+iDeCo+ふるさと納税のはじめ方』より

 

実際に活用していない人でも、なんとなく「お得そうだなぁ」というイメージをもっている人は少なくありませんが、そのほとんどの人がその制度の中身については理解していません。とりあえずNISAの口座は開設したけれど、そのままほったらかしになっている人も多くいるはずです。

 

すでに制度のメリットを知っている人からすれば「もったいない」状況といえますが、今からでも決して遅くはありません。かくいう私も、実は40歳で金融業界に入るまでは、お金の使い方、貯め方を知らない「スーパー浪費家」だったからです。あなたの意思次第で、お金の流れはいつでも変えることができます。

 

まずは手始めに「三大優遇制度」について、興味をもってみてはいかがでしょうか。何事も「知る」ことが第一歩となります。

 

2024年1月から「新NISA」がスタート

「NISA」については、2024年1月から新しい制度(新NISA)がスタートすることが決まり、関心をもつ人が増えています。

 

NISAの最大の魅力は、投資によって得た利益に対する税金がゼロになること。通常、利益を得たら所得税15.315%と住民税5%、合わせて20.315%を納める必要があります。この非課税の部分はそのままに、新NISAでは年間投資限度額が最大360万円に拡充されたり、非課税保有期間が無期限化されたりと、大幅に使い勝手のよい制度に生まれ変わります。

 

今は貯金として銀行に預けていても金利は雀の涙ほどしかつきませんから、住宅購入や子どもの教育費といったライフイベントのために、コツコツと積立投資を始める人が増えています。投資によって資産を増やすことを考えている人にとっては、新NISAは大きなメリットがあるといえます。

 

投資による資産運用に興味のある人は、まずNISAの口座を開設することから始めてみることをおすすめします。

 

3段階で税制優遇がある「iDeCo」

「iDeCo」は、いわゆる「確定拠出年金」のひとつです。確定拠出年金には、大きく分けて「企業型」と「個人型」がありますが、iDeCoは個人型の私的年金制度です。

 

年金制度なので、原則として積み立てたお金は60歳まで引き出せませんが、着実に老後資金を増やすことができます。

 

そして、iDeCoの見逃せないメリットが、「積立期間中」「運用期間中」「受取時」の3段階における税制優遇です。

 

なかでも、すぐにメリットを実感できるのが「積立期間中」で、積み立てた掛け金が全額所得控除の対象になり、毎年の所得税や住民税の負担が軽減されます。

 

自営業者やフリーランスの人はもちろん、会社員でも利用できる制度なので、老後資金に不安をもっている人にとって、iDeCoは検討する価値の高い制度です。

 

返礼品が楽しみ! 「ふるさと納税」

最後に「ふるさと納税」。これは、全国の自治体に寄付を行うことで、税金面のメリットを受けられる制度です。年間寄付額のうち2000円を超える部分について、所得税と住民税から控除されるんです。

 

また、寄付した代わりに自治体からもらえる「返礼品」が用意されていて、その地域の名産品である海産物や果物、肉などさまざまなものから選ぶのも、ふるさと納税の楽しみのひとつになっています。

 

税金を納めている人であれば誰でも気軽に利用できるので、新NISAやiDeCoなどの投資に抵抗を感じる人であれば、ふるさと納税から始めてもよいかもしれません。

 

大切なのは、まずは小さなことから始めてみることです。お金は放っておいても、勝手に増えることはありません。資産を確実に増やしている人は、お金や税金、投資などについて学んだ上で、自分が許容できる範囲のリスクをとりながら行動に移しています。

 

現在発売中の『新NISA+iDeCo+ふるさと納税のはじめ方』(森本貴子著/ワン・パブリッシング)は、最初の一歩を踏み出すのに最適な一冊です。マンガと会話形式のスタイルをとっているので、初心者でもゼロから理解できます。

『新NISA+iDeCo+ふるさと納税のはじめ方』より

 

人生の悩みや不安の多くはお金で解消できます。お金や税金のことを知ることは、きっとあなたの将来の不安を払拭する一助となってくれるはずです。まずは簡単な手続きで税制メリットを得ることから始めてみてはいかがですか?

 

【書籍紹介】

新NISA+iDeCo+ふるさと納税のはじめ方

著:森本貴子
発行:ワン・パブリッシング

先生+3人の登場人物で投資と節税の初歩を解説。登場人物は、ファイナンシャルプランナーのMORITAKA先生と、30歳独身・イマイチ、35歳既婚子持ち・イケテル、38歳独身フリーランス・のんびりの4名。それぞれの将来のライフイベントにあわせたマネープランを先生が提案・指導します。

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【プロフィール】


●森本貴子(もりもと・たかこ)

ファイナンシャルプランナー、証券外務員二種、相続診断士、終活診断士。会社員生活を経て23歳で単身渡米。PwCクーパースの役員秘書、アメリカ人弁護士秘書を経て、世界三大レースでもある米インディカー、仏ル・マン24時間優勝チームのマネジメントに従事。2008年外資系保険会社に入社。2014年から独立系FP会社であるGift Your Life株式会社に勤務。企業向けセミナーを含む600回以上のセミナーに登壇、個別相談件数3000世帯以上の実績を持つ。

スチール製物置を改造した待合室がポツン!? その秘境駅はどうしてこうなった?~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。文明崩壊後の世界を舞台にした「ポストアポカリプスもの」は、SF小説でもゲームでも人気のジャンルです。

 

もともと緑豊かな自然を人間が切り拓いて建造物を作ったものの、それが再び植物に覆われていく……そうした、時の大きなうねりが私達の心を揺り動かすのでしょう。

 

秘境駅も似ているのかもしれません。鉄道が多くの人を運び、賑わっていた時代は終わり、名残として駅がそっと佇む……。秘境駅、寂しく誘惑的な響きです。

 

「空鉄」写真家が秘境駅を巡礼

今回紹介する新書は秘境駅への旅 そこは、どんな場所なのか』(吉永陽一・著/交通新聞社新書)。著者の吉永陽一さんは写真作家。10年ほど前から長年の憧れであった「空撮鉄道写真」に挑戦し、「空鉄(そらてつ)」と名付けて独自の空撮鉄道世界を作っています。著書に『空鉄の世界』(日本写真企画)、『空鉄 諸国鉄道空撮記』(天夢人)などがあります。

人気の物置待合室に秘められたエピソード

「秘境駅」とは、人里離れた自然のなかに存在し、立地的にも鉄道以外で向かうことが難しい駅。普段は空撮鉄道写真を手掛ける吉永さんですが、本書では陸から20以上の秘境駅を訪れています。

 

まず第1章「秘境中の秘境駅を訪れる」の冒頭は、旭川と稚内を結ぶJR北海道・宗谷本線の糠南(ぬかなん)駅。もともと入植者のための仮乗降場が正規の駅へと昇格したもので、車体の半分以上がはみ出る短い板張りホームに物置を改造した待合室だけが置かれる、秘境駅ファンにはおなじみの駅だそうです。

 

春を迎える道北の稚内空港へ飛び、翌朝の稚内駅始発列車に乗車した吉永さん。ディーゼルカーは朝靄をかき分けて南下し、やがて糠南駅に到着。吉永さんが降りて乗客がゼロとなった列車が去ると一帯に静寂が訪れます……。

 

糠南駅の象徴とも言えるのが、スライド式窓がつけられたスチール製物置を改造した待合室。帰りがけに、幌延町役場で職員に話を聞いたところ、この物置は1986年に受注生産されたもので、国鉄時代末期に幌延町が購入したとのこと。

 

秘境駅を紹介する番組でドアの立て付けが悪かったシーンが放映され、それをたまたま見た製造元の淀川製鋼所の社長が「社の名折れ」ということで社員を派遣し、無事修繕されたとのエピソードも紹介されています。

 

単に駅を訪れるだけでなく、なぜそこに物置があるのか、そんな疑問を掘り下げたり、地元の人との交流があったり、各秘境駅の特色と味わいを引き出しているのが本書の醍醐味です。

 

全体を通して落ち着いた語り口で、時がゆっくりと流れる秘境駅の情景がありありと浮かんできます。「駅を開業するときは、秘境にするために開業させたわけではない」と吉永さん。秘境駅が抱える矛盾、興味本位で足を運ぶことの罪悪感。それらが意識され、本書のペーソスにつながっています。

 

秘境駅は私達にどんなメッセージを残しているのでしょうか。

 

【書籍紹介】

秘境駅への旅

著:吉永陽一
発行:交通新聞社

人里から離れている駅、本数が少ないためなかなかたどり着けない駅、かつては賑わっていたのに過疎化で乗降者数が減った駅…一言で秘境駅といってもその在り方は様々。
20を超える秘境駅を訪ね歩いた筆者が、地域の方との語らいや駅周辺の撮影の中で見出した魅力を伝えます。「空鉄」写真家、吉永による空からの景色もお届け!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

温度と時間に正解ある? お風呂の知識が詰まった『入浴は究極の疲労回復術』

猛暑、酷暑と年々暑さが増していく、日本の夏! 9月に入り少しずつ秋の気配を感じていますが、まだまだ暑い……。季節の変わり目には体調を崩しやすいので、健康管理もしておきたいですよね。そこでおすすめなのが、お風呂! 最近はサウナブームも相まって、若者にもお風呂が人気になっています。しかし、正しいお風呂の入り方をご存知でしょうか?

 

今回は『入浴は究極の疲労回復術』(早坂信哉・著/山と渓谷社・刊)から、今より健康で元気になれる入浴方法をご紹介します。

入浴習慣がある人は「幸福度」が高い!

お風呂は健康にいい、そんなイメージを持っている人は多いでしょう。しかし、具体的に「何」に良いのかは、あまり知られていないかもしれません。『入浴は究極の疲労回復術』の著者である早坂信哉さんは、20年にわたって3万人以上の入浴を調査した温泉療法専門医。入浴による健康効果を日々、研究されています。これまでに入浴が健康寿命をのばすこと、脳卒中や心疾患、糖尿病を防ぐことが報告されているそうです。

 

また、心にとってもメリットが大きいそうで、毎日お風呂に入っている人のほうが、そうでない人より幸福度が高いという調査結果も報告されています。

 

私たちの研究グループで入浴時のホルモンの変化を調べたところ、湯船に入ると、ストレスを受けた時に分泌されるストレスホルモンの「コルチゾール」が減り、逆にストレスを緩和する幸せホルモンの「オキシトシン」が増えることがわかりました。

(『入浴は究極の疲労回復術』より引用)

 

早坂さんは銭湯での研究も行なっているのですが、銭湯のような広い湯船に浸かると、家庭用の湯船に浸かった時と比べて数倍も多い「アルファ波」が出たそうです。さらに、週に1回以上銭湯に通う人は、全く行かない人と比べて自分は健康で幸せだと感じている割合が高くなるという結果も出たそうです。

 

ストレス社会に疲れたら、自宅のお風呂で幸せホルモンを増やし、週に1度は銭湯でアルファ波を放出するのが良いかもしれません。暑い日はシャワーだけなんて人も、今夜は湯船に浸かってみるのはいかがでしょうか?

 

何度で何分、お風呂に入るのが正解なの?

何度のお湯に何分浸かるのがベストなのでしょうか? 早坂さん曰く「40度のお湯に10分、全身浴する」のがおすすめとのこと。10分は、5分ずつにわけてもいいそうです。長すぎると熱中症のような症状が出てくるそうなので、気をつけてくださいね。また、気分によって温度や入浴する時間を変えるのもいいそうですよ!

 

目安をいえば、38℃から40℃のお風呂に入ると副交感神経が刺激され、42℃以上の熱いお風呂では交感神経が刺激されます。

ですから、イライラしている時、不安や心配事があってリラックスしたいときには40℃までの「ぬる湯」で。

体調が悪いわけではないのになんとなくやる気が出ない、シャキッとしたいというときには42℃くらいの「あつ湯」を短時間(5分ほど)。

そんなふうに、気分に応じてうまく使い分けてください。

(『入浴は究極の疲労回復術』より引用)

 

朝風呂を習慣にしている方の場合は、交感神経を刺激する「あつ湯」がおすすめ。また銭湯やサウナに行く方は、しっかりとかけ湯をしてから、まずは「ぬる湯」に静かに入り、「あつ湯」やジェットバスなど刺激のあるお風呂やサウナを堪能してから、ゆったりと「ぬる湯」で締めるのがベストな流れだそうです。『入浴は究極の疲労回復術』には細かく入浴方法が記載されているので、気になるところから読んでみるのが良いでしょう。風邪を引いた時の入浴法や、高齢者が気を付けることなど細かく紹介されていますよ。

 

おうちのお風呂が楽しくなる「季節湯」

おうちでお風呂を楽しむ方の中には、入浴剤を入れている人も多いかもしれませんね。最近は、子ども向けからリッチな温泉気分を楽しめるものまで、さまざまな入浴剤が販売されています。ちなみに日本で初めて入浴剤が使われたのは、明治時代と言われています。そのころは、薬湯と言って、端午の節句に菖蒲湯にしたり、冬至に柚子湯にしたり、季節ごとのお湯を楽しんでいたそうです。

 

現代でもそんな「季節湯」は手軽に楽しめます。9月なら老廃物の代謝を良くする菊の花を浮かべた「菊湯」で夏の疲れをリフレッシュ。10月ならスライスした生姜を浮かべた「生姜湯」でポカポカに。『入浴は究極の疲労回復術』には1月〜12月までの季節湯が紹介されています。気になる方はぜひご覧ください。

 

毎日何気なく入っているお風呂も、効果的な入り方を実践すると今よりもっと健康になれちゃうかもしれませんよ。季節の変わり目を元気に乗り越えるためにも、毎晩のお風呂をちょっと工夫してみてくださいね。

 

【書籍紹介】

入浴は究極の疲労回復術

著:早坂信哉
発行:山と渓谷社

共同通信配信の人気連載が待望の書籍化!スタジオジブリの名プロデューサーが、手塚治虫、黒澤明、池澤夏樹、富野由悠季、スピルバーグ、米津玄師、あいみょん、ダライ・ラマ14世、そして宮崎駿ら、その人生の道ゆきで巡り合った人々との鮮烈な思い出を振り返る。闊達な筆致で胸に希望の灯がともる、86のエピソード。

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地図に魅せられ50年余、地図研究家の激レアコレクションを見よ!~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。私はファンタジー小説をメインに書評をしているので、ほかの人よりもちょっと変わった地図を目にする機会が多いかもしれません。

 

たとえば、J.R.R.トールキンの『指輪物語』。トールキンは自ら地図を描いて、それをもとに執筆をしていました。「トールキン財団」のウェブサイトにも公開されている「中つ国」の地図は、執念を感じさせるほどの緻密さ。これだけで空想が広がります。地図は命が注がれる器なのかもしれません。

地図マニアのお宝コレクション

さて、今回紹介する新書は、小説のなかの地図ではなく、リアルな、それでいて衝撃的な地図を集めた地図バカ 地図好きの地図好きによる地図好きのための本』(今尾恵介・著/中公新書ラクレ)

 

 

著者の今尾恵介さんは地図研究家。日本地図センター客員研究員、日本地図学会「地図と地名」専門部会主査を務めています。主な著書は、『地図マニア 空想の旅』(集英社インターナショナル)、『今尾恵介責任編集 地図と鉄道』(洋泉社)など。今年1月に刊行された『地図記号のひみつ』(中公新書ラクレ)は、当コラムで紹介させていただきました。

これは地図と言えるのか!? 衝撃の珍品

本書は「中央公論」に連載されたコラムをまとめたもの。中学1年のときに授業で国土地理院の2万5000分の1の地形図と出会い、学校のプールや細い通学路まで再現されているのを見て、「その精緻さにすっかり参ってしまった」という今尾さん。

 

第1章「余は如何にして『地図バカ』となりしか」では、今尾さんが中学生のころに描いたという架空都市・敏道市の地形図が披露されています。起伏ある山地、大きなカーブを描く線路、田んぼに団地、製本工場……。記号や等高線が細かく描き込まれた地形図は壮観。今尾さんのピュアな情熱が伝わってきます。

 

そんな今尾さんが集めた地図のなかでも屈指の珍品が、3章「お宝地図コレクション」の、とある「切図」。切図とは全体の一部分を区切った地図のこと。

 

海が大部分を占めている「室蘭」の切図を買った今尾さんは、地球岬の先に広がる海を紙上で実感できて爽やかな気分になったそう。

 

これをきっかけに、海ばかり広がる切図に魅せられた今尾さんは、伊豆諸島・神津島の沖合に浮かぶ岩礁だけを点々と載せた切図「銭洲」を発見して購入。すべてまとめても数平方ミリの陸地しかない地図を見てはニヤついていたとか。そして、さらにその上をいく切図が!? カラー写真で掲載されている、ほぼ水色の切図には地図の概念を覆されること間違いなし!

 

旧制中学生の書き込みがある戦前の地図帳、未完に終わった幻の高速鉄道「東京山手急行電鉄」の路線図、謎の数字が多数印刷された東ドイツの秘密地形図……。新書ということもあり、モノクロでややサイズも小さいのが残念ですが、これらレアものは地図マニアでなくても興味をそそられます。

 

今尾さんの言葉の端々から地図に対する敬意とこだわりが溢れ出し、まさにコレクターの家に伺い、愛蔵品を見せてもらっている気分。「読めば読むほど味が出るのが地図の世界」。今尾さんの言葉に納得です。

 

【書籍紹介】

地図バカ 地図好きの地図好きによる地図好きのための本

著:今尾 恵介
発行:中央公論新社

「東が上」の京都市街地図/鳥瞰図絵師・吉田初三郎/アイヌ語地名の宝庫/職人技のトーマス・クック時刻表/非常事態の地図……著者は小学校の先生が授業に持参してきてくれた国土地理院の一枚の地形図に魅せられて以降、半世紀をかけて古今東西の地図や時刻表、旅行ガイドブックなどを集めてきた。
その“お宝”から約100図版を厳選。ある時は超絶技巧に感嘆し、またある時はコレクターの熱意に共感する。身近な学校「地図帳」やグーグルマップを深読みするなど、「等高線が読めない」入門者も知って楽しい、めくるめく世界。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

たっぷり86エピソード! スタジオジブリの名プロデューサー鈴木敏夫さんの出逢いがつまった『歳月』。

スタジオジブリの最新作『君たちはどう生きるか』、みなさんはご覧になられましたか? テレビCMや特報などの宣伝もなく、物語・キャストの詳細も明かされないまま上映されましたが、今までに500万人近い観客動員数を記録し、大ヒットしています。また、考察なども盛り上がっていますよね。

 

そんな異例の映画をプロデュースしたのは、スタジオジブリのプロデューサー・鈴木敏夫さん。テレビやラジオなどさまざまなメディアで彼の声を聞くたびに「この人はず〜っと若いなぁ」と感動してしいたのですが、7月に発売された『歳月』(鈴木敏夫・著/岩波書店・刊)にその若さの秘訣があるように感じました。今回は、鈴木さんと80名以上の人々との出会いが綴られた『歳月』をご紹介します。

宮﨑駿監督は、スマホもPCも使わないし、使えない。

『歳月』は、2016年2023年3月までに共同通信配信で連載された記事をまとめたもの。なんと86のエピソードが紹介されています。どのエピソードも3ページほどと短くまとめられているため、「今日はどれにしようかな?」と好きなエピソードを選んで読むのがとても楽しい一冊でした。

 

その中には、永六輔さんや黒澤明監督、手塚治虫さんとの貴重なエピソードや、ジブリに縁のある夏木マリさん、滝沢カレンさん、久石譲さんなど豪華メンバーとのエピソードが、鈴木さんの目線から優しく深く語られています。個人的に一番好きだったのは、やっぱり宮﨑駿監督のエピソード。背中が丸まった日本人が増えたという話から、

 

宮さんは、スマホもPCも使わないし、使えない。昨日の朝も「死ぬまで使わない」と宣言した。従って、背筋はいつだってピンと伸びている。

彼の日課は、毎朝六時に起きて、二時間の散歩。晴れの日も雨の日も。その後、朝メシをちゃんと食べてからスタジオへ向かう。

(『歳月』より引用)

 

本書には、宮﨑監督と鈴木さんの後ろ姿の写真が掲載されているのですが、これがたまらなくいいんです! 自然に前を向いて、シャンとした姿に私も思わず「今日から姿勢良く歩こう」と思ってしまいました。ぜひ『歳月』でお確かめくださいね!

 

2018年にこの世を去った高畑勲監督とのお話

宮﨑監督と共にスタジオジブリを支えてきたのが、高畑勲監督です。高畑監督は、『平成狸合戦ぽんぽこ』や『かぐや姫の物語』など、数々の話題作を手掛けられてきました。宮﨑監督と高畑監督の仲良しエピソードはご存知の方も多いと思いますが、『歳月』では高畑監督との最期を次のように残していました。

 

宮さんは、常日頃、「パクさん(高畑さんの愛称)は、九十五歳まで生きる。俺と鈴木さんの弔辞を読むのはパクさんだよ」と言い続けた。ジブリは、三人でやってきた会社だった。
四月五日午前一時十九分、高畑さんは亡くなった。享年八十二歳。

(『歳月』より引用)

この文章を読んだだけでグッと胸が熱くなってしまうのはなぜでしょう。三人の普段など知るはずもないのに、まるで私も三人と共に生きてきたような気分になり、ウルウルしてしまいました。これは彼らの作品を観続け、追いかけてきたからなのかもしれません。「この三人と同じ時代を生きられてよかったぁ〜」と、幸せな気持ちも湧いてくるお話でした。

 

最新作『君たちはどう生きるか』の裏側で……

『歳月』は2016年からの連載なので、「『君たちはどう生きるか』を制作している」といった言葉もちらほら見受けられます。たくさんの人との出会いを通じて、鈴木さんがどんなことを思い、なぜ映画の宣伝活動を一切しないという決断をしたのか、読み終わるころにはなんとなくわかったような気もしたので、不思議です(笑)。

 

何かと正解を求めて、人と合わせながら生きている私たちですが、鈴木さんの『歳月』と映画『君たちはどう生きるか』を一緒に鑑賞することで、たくさんの気づきが得られるでしょう。映画をまだ観ていない方は、映画を! 映画を観終わった方は、鈴木さんの著書『歳月』も一緒に楽しんでみてくださいね。映画のこと、スタジオジブリのことがもっと好きになること間違いなしな一冊です!

 

【書籍紹介】

歳月

著:鈴木敏夫
発行:岩波書店

共同通信配信の人気連載が待望の書籍化!スタジオジブリの名プロデューサーが、手塚治虫、黒澤明、池澤夏樹、富野由悠季、スピルバーグ、米津玄師、あいみょん、ダライ・ラマ14世、そして宮崎駿ら、その人生の道ゆきで巡り合った人々との鮮烈な思い出を振り返る。闊達な筆致で胸に希望の灯がともる、86のエピソード。

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偉大な人類学者マリノフスキのトンデモ日記とは? 人類学者を知れば人間がわかる~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。私は大学では歴史学を専攻していましたが、ほかにも行きたい学科はいくつもありました。学問って名前を聞いてパッと研究内容が浮かぶものもあれば、いったい何をするんだろうという謎なものもありますよね。

 

そういった学問の真髄を1000円前後でさらっと掴めるのも新書の素晴らしさ。今回紹介する新書は、人類学に入門できる一冊です。

 

人類学者が解説する人類学100年の歩み

人類学というと、人里離れた村に滞在し、住民の文化を調査する学問というイメージが一般的かもしれません。しかし、今や研究対象によってその分野は、経済人類学、芸術人類学、観光人類学、医療人類学……と多岐にわたるとか。

 

それでも人類学が誕生して以来、追い続けてきた本質は何も変わらず、「人間とは何か」という問いである、と今回紹介する新書ははじめての人類学』(奥野克巳・著/講談社新書)の著者である奥野さんは言います。”人間がわかる”と聞けば、俄然興味が湧いてきますね。

 

著者の奥野克巳さんは、人類学者で立教大学異文化コミュニケーション学部教授。著書に『絡まり合う生命』(亜紀書房)、『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』(新潮文庫)などがあります。

 

赤裸々すぎるマリノフスキの日記とは?

「人類学の入門書」といっても、難しい人類学の講義が続くわけではありません。本書は人類学の巨人として名高い、マリノフスキ、レヴィ=ストロース、ボアズ、インゴルドの4人を取り上げ、それぞれの業績と人生を追うことで人類学の歩みを一掴みにするという試み。人間を見つめ続けた賢人は一体どんな人間なのか。興味深いエピソードの数々に、人物伝としても楽しめるのが特徴です。

 

人間らしいドロドロとした感情の塊が研究として昇華された、そんな風に読めるのが2章「マリノフスキ――「生の全体」」。マリノフスキは、フィールドに出て現地に住み込み調査を進める「参与観察」という、現代でも非常に重要視される手法を編み出したことで知られる、近代人類学を切り拓いた研究者です。

 

しかし、死後に発見されたフィールドワーク中の日記には、とんでもない記述の数々が……!?「死ぬほど殴りつけてやりたい」、現地人への罵詈雑言に、周囲の女性への赤裸々な欲望。読んでいて笑ってしまうほどですが、この日記は偉大なマリノフスキという偶像を破壊する衝撃を各方面に与えたそうです。

 

とはいえ、清濁併せつつ他者を理解しようとする姿勢は、生、人間、ひいては世界を理解することへとつながったのではないでしょうか。

 

決して優等生ではなく芸術家肌で遅咲きだったレヴィ=ストロース、著名な菌類学者の息子ながら科学に懐疑心を抱いて人類学に進んだインゴルドなど、私たちと同じ悩み多き人間として紹介されていることで、親近感を持って読み進めていけます。人間が人間を観察するとはどういうことか、その難しさと面白さも見えてきます。

 

人類学が見つけ出した答えは、今を生きる私たちのものの見方を変え、現実を生き抜くための「武器」ともなる、と奥野さん。人間とは? 社会とは? 生きるとは? そうしたことに少しでも興味があるなら、本書から得られるものは大きいと言えそうです。

 

【書籍紹介】

はじめての人類学

著:奥野 克巳
発行:講談社

「人間の生」とは一体何なのか。今から100年前、人類学者たちはその答えを知ろうとしてフィールドワークに飛び出した。マリノフスキ、レヴィ=ストロース、ボアズ、インゴルドという4人の最重要人物から浮かび上がる、人類学者たちの足跡とは。これを読めば人類学の真髄が掴める、いままでなかった新しい入門書!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

その用語、日本語じゃダメですか? 新感覚のビジネス用語集『新入社員、会議についていけません。』担当が語る制作秘話

「会議のアジェンダを共有します」「水曜日にフィックスで」などなど、日頃からカタカナのビジネス用語を口にしていませんか?

なんとなくわかったつもりで使っていても、実は相手に伝わっていなかった! なんてことも。今回はそんな誤解しやすい&されやすいビジネス用語をまとめた『新入社員、会議についていけません。』をご紹介します。イラストを担当したうのきさん、企画・編集担当をしたGakkenの浦上啓太さんに、制作秘話をたっぷり伺いました!

 

「これって日本語にできるよね?」が企画のタネに

ビジネス用語集と聞くと真面目に解説された辞書のような本を想像しますよね。しかし『新入社員、会議についていけません。』は、白目をむいた男性社員が表紙に描かれ、帯には“宇宙一しょうもないビジネス用語集、爆誕!”とのコメントが(笑)。新入社員の田中くんが、社長や取引先から放たれる70個のややこしいビジネス用語に翻弄される様子を楽しみながら、ビジネス用語を学べる新感覚の用語集になっています。

−−今回の企画はどのように立ち上がったのでしょうか?

 

浦上さん「私は社会人3年目で、普段は小中学生向けの参考書を編集しています。社会人生活を送るなかで、『アジェンダ』とか『フィックス』ってカタカナのビジネス用語に違和感を感じるようになってきまして……。アジェンダなら『議題』、フィックスなら『確定』と日本語で全部伝わるのに、あえてカタカナにする意味とは? と、思ったのがきっかけです。この感覚は自分だけなのかな? と思っていたのですが、SNSや社内でも同じ感覚の人がいたので、ユーモアを交えながらおもしろおかしくビジネス用語を解説できる本を作ろうと企画し、うのきさんにご相談しました」

 

うのきさん「僕も浦上さんと同じ違和感は感じていたので、お話をもらって楽しく描かせてもらいました。感覚としては、大喜利に近かったですね。ひとりで『ボキャブラ天国』をやっているみたいな(笑)。たまに筆が乗りすぎて『ボケの意味がわからないです』って浦上さんに注意されたことは何回もありました。とはいえ、なかなかいいアイデアが浮かんでこない時もあったので、楽しい半分、苦しい半分。制作中は、オンライン会議で浦上さんとどんなボケがいいかお互いに意見を出し合って、イラストを仕上げていきました」

 

浦上さん「本当うのきさんと一緒でなければできなかった一冊です。オンライン会議も楽しかったですね(笑)。『新入社員、会議についていけません。』の構成は、ページをまたいで用語の解説をしています。この用語ってどんな意味だろう? とか、田中くんはどんなボケをするかな? とか、ページをめくるワクワクを感じながら楽しく読んでもらいたいです」

 

定番のビジネス用語とおもしろおかしく向かい合う

当初、『新入社員、会議についていけません。』に掲載するビジネス用語の候補は150ほどあったそう。最終的にはどんな業界でも通じやすく、キャラクターたちをイキイキと描ける70用語に厳選されました。「本当は、VUCA(※1)やKPI(※2)といったアルファベット用語も掲載したかったのですが、流行り廃りも激しいので掲載は見送りました」と、浦上さん。

※1 変化[Volatility]・不確実[Uncertainty]・複雑[Complexity]・曖昧[Ambiguity]の頭文字をとった言葉で、将来の予測が困難な様子を示す
※2 Key Performance Indicatorの頭文字をとった言葉で、重要業績評価指標のこと

 

ここからは、『新入社員、会議についていけません。』に掲載されているイラストと共に制作秘話をご紹介していきます。

 

浦上さん「予約という意味の『アポ』のイラストは、この本の方向性、おもしろさが決まったものだったと思います」

 

うのきさん「アポとアッポーって割とベタベタな感じのほうが、田中くんのアホっぽさが際立っていいなぁと思ったんですよね。『エビデンス』で部長がエビダンスしているのも気に入っています(笑)。あと、ダジャレのように言葉を違うトーンとか切り口で描くのも楽しかった。『サマリー』は、完全にダジャレですからね!」

 

浦上さん「仕事をしていてよく聞くのは『フィックス』。締め切りが決まっている出版業界にいるからかもしれませんが、安心する言葉なんです。『〇〇がフィックスしたよ!』って聞くと心からホッとします(笑)。逆に新人社員では使わないと思ったのは、利害関係者という意味の『ステークホルダー』ですかね」

 

うのきさん「僕は普段でも『タスク』は、よく使っちゃいますね。日本語で作業っていうより、タスクって伝えたほうがわかりやすいなと思います。将来を見通す意味がある『ビジョナリー』とかは、唇が忙しくなるので使いたくない単語だな〜って思ってました(笑)」

 

ビジネス用語と共存していける未来を目指して

ページをめくる度に楽しさが増していき、楽しんでいるうちに言葉の意味も理解できる『新入社員、会議についていけません。』。最後に、どんな人に読んでもらいたいか伺いました。

 

浦上さん「社会人になる前の方、新人社員でビジネス用語の意味がわからない方、部下の言っていることがわからなくて困っている方に読んでいただきたいですね」

 

うのきさん「海外旅行に『地球の歩き方』みたいなガイド本を持っていきますよね? それと同じように、会社に入社したら『新入社員、会議についていけません。』を携えてもらって、社会の荒波を乗りこなしてほしいです!」

 

浦上さん「この本ではビジネス用語をゼロにしようとしているのではなくて、どうやったら向かい合えるか? そんなヒントを届けたかったんですよね。ビジネス用語って使い心地もいいので、つい使っている人も多いと思うのですが、正しい意味をお互いに理解しないまま共通言語かのように使われてしまうのは問題だと感じています。ビジネス用語を使いがちな方にも読んでもらって、場面に合わせて最適な言葉を使ってもらえたらうれしいです」

 

うのきさん「この本を通じて、ビジネス用語と上手に共存できるといいですよね。日本語のほうが伝わるなら日本語で、説明が長くなるものはビジネス用語で、と使い分けられると自分も相手も心地よい会話ができるようになりますよ」

 

 

『新入社員、会議についていけません。』は、新人社員はもちろん、幅広い年代の方が楽しめる一冊です。一度読むと「あ、この用語は日本語で伝えた方がわかりやすい」と発見できるので、ビジネス用語を“つい”使ってしまう方にも手に取っていただきたいと思います。また表紙カバーを取るとおもしろい仕掛けもあるので、こちらは手に取った方のお楽しみ! 会社の読書棚にもぜひ加えてみてくださいね。

 

【書籍紹介】

新入社員、会議についていけません。

著:Gakken
発行:Gakken

コミット?シナジー?バッファ?リソース?それ全部、日本語で言ってくれ!!ビジネス用語に振り回される全社会人の味方です。

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LED薄型信号機を任されたプロダクトデザイナーは何を考えた? 世の中の”かたち”が決まるまで~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。ここ最近気になっているのは猫のおもちゃ。猫の顔を模した飾りやハート型の穴など、人間が見たらかわいいと思う形があしらわれていますが、猫はあれをどう認識しているのでしょうか?

 

キャットフード、いわゆるカリカリも、魚型、お花型など凝ったものを見るにつけ、猫が「魚の形だ! おいしそうだニャ~」と思っているはずはないよな……と(笑)。

 

見た目の意味性、均等の取れた美しさ、使いやすさ……と形にはさまざまな意味があり、それが猫視点となるとより複雑ですね。

熟練のプロダクトデザイナーが語る”かたち”

 

さて、猫のことはひとまず置いといて、今回は人間界の話。かたちには理由がある』(秋田道夫・著/ハヤカワ新書)は、プロダクトデザイナーである秋田道夫さんの著書。トリオ(現JVCケンウッド)、ソニーを経て、1988年からフリーランスとして活動を続け、LED式薄型信号機や交通系カードチャージ機、身近な日用品まで幅広くプロダクトデザインを手がけてきました。著書に『自分に語りかけるときも敬語で』(夜間飛行)、『機嫌のデザイン』(ダイヤモンド社)があります。

信号機の背面に隠された秘密

第1章「デザインとは「素敵な妥協」をすること――「発想」と「制約」のはなし」では、プロダクトデザイナーの仕事内容と秋田さんの代名詞とも言えるLED薄型信号機の制作秘話が軸になっています。普段何気なく見上げているあの信号機にも、実はさまざまなデザイン上の工夫が施されていました。

 

仕事の意外なつながりをきっかけに、信号機メーカーからLED薄型信号機のデザインを依頼された秋田さん。信号機は規制が多い製品のため、全体の寸法もパネル部のサイズもあらかじめ決まっています。最初は「ほとんどやりようがない」と感じた秋田さんですが、逆に「やりようもないものをデザインする」のがプロダクトデザインの面白いところと切り替えて、難題を乗り越えたそうです。

 

LED薄型信号機のデザインのポイントは「要素を減らす」と「背面のデザイン」。まず旧来の信号機にあった、パネルを囲む歌舞伎の隈取りのような段差をなくし、かたちを複雑にする要素を減らしました。

 

見られることが多い背面は、カーブをつけて丸みをもたせることで、横から見て信号機が薄い印象を与えるようにしたそうです。さらにスーツケースのように強度を上げたい、見た目的にものっぺりさせたくないという理由から背面に5本の縦溝を入れました。「『なんでもない』、しかし『美しい』というその塩梅が大切」。秋田さんの言葉からは、”かたち”の真髄のようなものが伺えます。

 

棺の中に眠っていたワインが起き上がるというコンセプトから生まれた「一本用ワインセラー」、円筒形を意識した六本木ヒルズのセキュリティゲート、直径と高さがどちらも80mmの湯呑み「80mm」……。全3章立てで秋田さんが自らのデザインについて、そのとき何を考えたのかが語られていきます。口絵には製品のカラー写真もあり、見比べてなるほどと思うこと請け合い。本書には、謎解きの答えが明かされたときのような驚きと納得感があります。

 

「すでに飽きられているので、飽きられようがない」「やりきらないことが大事になる」「スケッチは美しき誤解」「素材のわがままに付き合うとこれが意外にうまくいく」……。秋田さんの言葉は柔らかくもキャッチーで、本質をすっと切り取って提示してくれます。それは哲学的。

 

デザインの秘密を解説する本ですが、読んでいるうちに世界のあるべき姿とは何か、私は世界をどんな風に見ているのか、そんなことがふつふつと頭に浮かんできます。”かたち”についての思考は、自らが立っている場所と人生への考察でもあるかもしれません。

 

【書籍紹介】

かたちには理由がある

著:秋田道夫
発行:早川書房

デザインは「素敵な妥協」。大量に使われる製品は「研ぎ澄まされたふつう」でなければならない――LED式薄型信号機、交通系ICカードチャージ機、トートバッグ、カトラリーなど、公共機器から生活用品に至るまでさまざまな「かたち」を手がけてきた人気プロダクトデザイナーがはじめて語る、「かたち」をめぐる思考。人が直感的に「いいな」と思うデザインの背後には、いったいどんな「理由」が隠されているのか? デザインに込められた意味や価値、そして観察を通して読み解くコツを語る。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

応援のその先へ!ラグビー観戦の質を高める入門書。フランスW杯の楽しみ方を元日本代表主将が伝授~注目の新書紹介~

こんにちは。書評家の卯月鮎です。9月8日に「ラグビーワールドカップ2023フランス大会」が開幕します。日本は1次リーグD組でチリ、イングランド、サモア、アルゼンチンと対戦。日本開催となった2019年の前回大会では初のベスト8入りを果たしましたが、今回はどうなるでしょう?

 

私は超のつくインドア派でスポーツをすることを避けてきた人間ですが(笑)、未経験者でも観戦して楽しめるのがスポーツの凄さ。プレイヤー同士の駆け引きとその背景にあるドラマには、勝敗を超えて引き込まれます。その競技をどれだけ深く理解しているかで見える景色が変わってくるというのも、多くの人がスポーツ観戦に夢中になる理由のひとつでしょう。

元日本代表主将が教えるラグビーの楽しみ方

今回紹介する新書はラグビー質的観戦入門』(廣瀬俊朗・著/角川新書)。著者の廣瀬俊朗さんは元ラグビー日本代表主将(2012~2013年)。2015年W杯では日本代表史上初の同一大会3勝に貢献。現在はラグビー日本代表応援サポーター2023を務めています。著書に『ラグビー知的観戦のすすめ』(角川新書)、『相談される力 誰もに居場所をつくる55の考え』(光文社)があります。

タックルは倒れ方で展開が決まる!?

直前に迫った2023年W杯をより一層楽しむためのガイドブックとなっている本書。ラグビーのわかりやすいルール説明はもちろん、選手目線で何を考え、どう判断してゲームを進めているか、表面には現れない部分まで丁寧に掘り下げているのがポイントです。

 

第1章「「意味」がわかればラグビー観戦の「質」が高まる!」では、試合の流れに沿って、各プレイがどのような意味を持つのか例を挙げつつ解説されていきます。

 

単純にボールを蹴っているように見えるキックオフですが、実はたくさんの意図や戦略が秘められていると廣瀬さん。キックオフを蹴る側は、再獲得する方法や意図をしっかり考え、何通りも想定して準備を重ねている。逆にレシーブ側は、ボールを確保して自分たちが準備したアタックにつなげたい……。

 

つまみとお酒を用意しているうちに試合が始まっているなんてよくあることですが(笑)、キックオフは双方の意思がまっさらな状態で最初にぶつかり合う大事な場面なのですね。

 

タックルで倒された際も、その倒れ方に注目。敵に背中を向けて、味方にボールが見えるように倒れればサポートする選手も次のプレイがスムーズに行なえます。一方、相手にボールを見せたり、仰向けに倒れたりするとジャッカル(ディフェンス側がボールをもぎ取るように襲いかかること)されるリスクが高まるとのこと。こうした積み重ねが大きな差になるのですね。

 

「キックオフの瞬間に注目してほしいのがウイングのタックル」「スクラムの攻防では、スクラムハーフが放りやすい形でボールが出てくるかがポイント」「80分間を6分割して見ると、試合の流れが読める」など、具体的なアドバイスが示され、達人が隣で丁寧に観戦のコツを教えてくれているかのよう。ラグビー初心者でも、ひとつひとつのプレイの意図が飲み込みやすくなっています。

 

第3章以降は、日本代表の戦術や各国代表のカラー、実際に試合が開催されるフランスの都市の紹介など、今回のW杯の見どころが詰まっています。

 

ラグビーは15人という特に多人数で行うスポーツ。それだけに「チームの文化が勝敗を分ける」「チームとして掲げる大義が大切」と廣瀬さん。これは一般的な組織論にも通じるところがあり、ビジネスのヒントにもなりそう。

 

2023年W杯、日本を応援するだけでなく、世界最高峰のプレイをじっくり観戦してみたいと思います。

 

【書籍紹介】

ラグビー質的観戦入門

著:廣瀬俊朗
発行:KADOKAWA

元日本代表主将が、ゲームの意味を理解する「コツ」を完全解説。一つひとつのプレーの「意味」を考えれば、ラグビー観戦がもっと面白くなる! 元日本代表主将がゲームの要点を一挙に紹介。「キックオフ後の一連のプレーは戦い方の意思表示」「80 分間を6分割して状況を分析」「ポジション別、選手の担うマルチタスク」ほか。ラグビー理解のレベルが各段にアップする、永久保存版入門書!

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「ヒーローとは何か?」をMCUやDC作品から読み解く『町山智浩のアメリカスーパーヒーロー徹底解剖』が面白い!

私ごとで恐縮ですが、最近MCU作品にどハマりしていまして……。MCUとは、マーベル・シネマティック・ユニバースのことで、スパイダーマンやアベンジャーズといったスーパーヒーロー映画を製作するレーベルのこと。

 

「いまさら!?」という声が聞こえてきそうですが、10年以上経った今は、ほぼ時系列順にまとめて見られるので、話も繋がるしわかりやすい! 関連作品もほぼ一気見できるので、今まで見ていなかった人こそ今見るのがおすすめなんです。

 

今回ご紹介する『町山智浩のアメリカスーパーヒーロー徹底解剖』(町山智浩・著/イースト・プレス・刊)は、そんなMCU作品やバットマンなどで知られるDCコミックスのヒーロー映画を解説した一冊です。監督の思いや作品に影響を与えた映画や文化を知りたい方におすすめの内容になっていますよ!

 

配信も開始された『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』

私が唯一追いかけていたMCU作品は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズでした。今年のGWに3部作最後の作品『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』が公開され、ウキウキで公開初日に出かけたところ、前日にシリーズ1・2を復習したにもかかわらず、全く話が通じなくて「わたしゃ何を見せられているんだ?」と約2.5時間ポカーン。そう。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』は単なる続編ではなく、いくつかのMCU作品が関わっていることを知らずに劇場へ行ってしまったのです。

 

それを知った当初は超イライラしたのですが(笑)、MCU作品を時系列順に見始めてみたら、まぁ〜面白い。たくさんの登場人物がリンクしながら『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』そして『アベンジャーズ/エンドゲーム』へと繋がっていくのは圧巻! 今からでも全然楽しめるじゃん! と、一気にハマってしまいました。

 

そんなきっかけをくれた『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズのジェームズ・ガン監督。実は1と2を撮影した後、過去のツイートを掘り起こされ3の監督から外されていたのだとか。

 

鬱々としていたジェームズ・ガンを拾ったのは、マーベルのライバル会社、DCでした。DCは『スーサイド・スクワッド』(2016年)の続編『ザ・スーサイド・スクワッド“極”悪党、集結』(2021年)の監督としてガンを抜擢します。これも実に面白い人選ですね。

(『町山智浩のアメリカスーパーヒーロー徹底解剖』より引用)

 

これが評価され、なんと『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』の監督に復活! 紆余曲折を経た監督の思いと共に見る作品は、物語以上の感動がありますよね。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』は、ディズニープラスでもすでに配信されていますので、これから見るという方は、MCUの過去作品、そして本書を読んでから見るとより楽しめますよ!

 

『スパイダーマン』が背負う十字架とは?

日本でも大人気の『スパイダーマン』シリーズですが、いくつもシリーズが出ていて「何からどう見たらいいかわからないよ〜」という人も多いですよね。初代のトビー・マグワイヤ版(3作品)、『アメイジングシリーズ』の2代目アンドリュー・ガーフィールド版(2作品)、3代目がアベンジャーズとも関わってくるトム・ホランド版(3作品)の3シリーズがありますが、それぞれ個性的なスパイダーマンで、物語も境遇も違うので、同じスパイダーマンでも趣が異なります。これから見る方は主演俳優ごとに見るのがオススメ。

 

しかし、全体を通じてなんとなく感じるのは、アゲアゲ感より主人公の孤独感。他のヒーローとも通じるかもしれませんが、何か十字架を背負っている……そんな雰囲気を感じます。町山さんもスパイダーマンのページでこんな言葉を残していました。

 

ヒーローとしての責任と、恋愛や友情は両立しにくい。ヒーローとして生きる以上、愛するものを危険にさらしてしまうから。ヒーローがマスクで顔を隠し、孤独な存在として生きることが多いのには、ちゃんと必然性があるんです。

(『町山智浩のアメリカスーパーヒーロー徹底解剖』より引用)

 

町山さんの解説と共に映画を楽しむと「なるほど」と思える部分がたくさん出てきます。ちなみに、本書には作品のネタバレがたくさん掲載されているので、まだスパイダーマンシリーズ見たことないという人は、ある程度作品を見てから読むのがおすすめですよ!

 

考察も含めて映画を楽しむ!

最近では、映画のレビューサイトやSNSの投稿で、映画を考察したり、感想をシェアするのが当たり前になってきました。もちろん、映画の感想を読むのも楽しいのですが、町山さんのように「映画評論家」として活動している方の言葉を読んだり、聞いたりすることで映画をより深く知れると感じています。

 

この本にはジェームズ・ガン監督に取材した時の話や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』で描かれている場面についても、細かく解説されています。また、他にもMCU作品の『キャプテン・マーベル』や『ブラック・ウィドウ』、DC作品の『シャザム!』を関連作品と共に紹介しているので、「今度はこれも見てみよう!」と積極的に映画に触れたくなること間違いなし。

 

ただ映画を見て「面白かった〜」でも十分ですが、もう一歩踏み込んで映画の魅力を知りたい方は『町山智浩のアメリカスーパーヒーロー徹底解剖』がおすすめです。そういう見方ができるのか、政治や時代背景も映し出していたのか、と二度目を絶対見たくなる言葉がたくさん綴られています。配信が充実している今だからこそ、好きな作品を何度も味わうきっかけとして、本書を活用してみてはいかがでしょうか? きっと今まで見えてこなかった作品の面白さを感じられるはずですよ!

 

 

【書籍紹介】

町山智浩のアメリカスーパーヒーロー映画徹底解剖

著:町山智浩
発行:イーストプレス

アメリカスーパーヒーロー映画がどのように社会を反映させながら変容してきたのか。町山智浩が徹底的に考察する!

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【NG写真も公開】ハンバーグが宙を舞う!話題の「くまのレシピ本」撮影に潜入したら、想像以上に壮絶で壮大な現場だった。

発売されるや否や、SNSや各メディアで話題となったレシピ本『ぼくはくま、特技はせん切りやねん!!!』。Instagramフォロワーは、本の企画時5万人からあっという間に16.7万人(8月19日時点)! 一体どうやってあの奇跡の1枚を撮影しているのか、今回はレシピ本の撮影現場に潜入してきました。

 

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1枚の撮影にかける時間は約1時間⁉

↑絵コンテを確認する、くまくん&ママさん

 

まずは、普段くまのママさんがどのように撮影しているのかをご本人に尋ねてみました。

ーー1枚のカットで大体どれくらいの時間がかかるのですか?

 

ママさん「写真によって違うんですけど、たとえば、一番皆さんが目にされているであろうキャベツのせん切りのような躍動感のあるものは、1時間くらいかかりますね。全部私一人でやってるので。

 

三脚も持ってへんから、家にあるクッションを積み重ねてカメラを置いて、連写の設定にして。で、素材を空中に舞い上げながら撮影です(笑)。動画の場合は、ちょっと動かして撮って、ちょっと動かして撮ってを延々繰り返しながら撮影します」

 

ーーすべてをお一人で! それは時間がかかりますね。とはいえ、1時間で撮影できてしまうんだ、という気もします。もっと時間がかかりそうなものですが、奇跡の一瞬をとらえるコツはありますか?

 

ママさん「カメラの知識も技術もなかったので、やりながら学んでいった感じです。どこから光が入るとどう写るかとかわからないので、とりあえず連写でたくさん撮って、その中から選べばええかなって。

 

そしたらね、だんだんとわかってきたんですよ。このタイミングでキャベツを舞わせるといい感じになるとか、この角度で狙うとこの子がより可愛く撮れるっていうのが」

 

ーーなるほど。まさに日々の撮影の賜物ですね。そのほかに、撮影時気をつけていることはありますか?

 

ママさん「やっぱり、この子の素材が可燃性なので火に注意することと、ケチャップなどを飛ばして汚さないこと。この2点はめちゃめちゃ気をつけてます。だから、揚げ物をするときは私が料理して、この子は横で見てるんですよ。

↑ママさんが揚げ物している様子をお利口に見ているくまくん

 

その様子がフォロワーさんたちに意外にウケていて、海外の方から『キミが燃えてしまわないように、ママが料理してくれてるんだね!』ってコメントが入ったこともありました」

 

プロの撮影スタッフ総出で挑んだ撮影は、1枚2時間!

さてここからは、普段のママさんの撮影ではなく、プロのカメラマンによる書籍用の撮影現場の様子をお伝えします。ママさんのご自宅にて撮影したのは、全部で5品。加えて、くまくんの1日の様子など日常のカットを撮影しました。編集担当の横山由佳さんから聞いた撮影隊の様子や裏話も交えてお伝えします。

 

横山「いつもママさんが愛情たっぷりに撮影しているくまくん。ですから、私たちもすごく丁寧に、時間をかけて撮影に向き合いました。

 

一番時間がかかったのは、『きのこたっぷりれんこんハンバーグ』の撮影です。くまくんがフライ返しでハンバーグをひっくり返している一瞬を収めたのですが、これが本当に難しくて。

 

というのも、物って放物線を描きながら飛び上がり、頂点で一瞬止まりますよね。その瞬間を抑えないといけないんですよね。ハンバーグの面がカメラ側を向いていないと美しくないし、側面だけではハンバーグだってわからない。さらには、フライ返しの位置とか、そのほかのバランスもとれていないといけなくて。

 

それはもう、何回ハンバーグを飛ばしたか……(笑)。しかも、1枚いいものが撮れても、もっと良いカットが撮れるかもしれないという欲が出てくるんです。そんなこんなで、1カットを撮影するのに2時間以上かかりました。ママさんがいつも1時間かからず撮影されているのが信じられません」

 

ちなみに、今回は特別にNGとなった写真も公開します!

 

【こちらが大成功!奇跡の1枚!】

 

【NGカット①:タイミングが合わなくて、ハンバーグが舞わず!】

 

【NGカット②:くまくんの顔にハンバーグが被ってしまった!】

 

【NGカット③:今度はフライパンとフライ返しが重なってしまった! ハンバーグもブレてる!】

 

【NGカット④:すごく惜しいけど、ハンバーグが飛びすぎ&くまくんの目線が追いつかなかった!】

 

そんな難易度の高い撮影現場では、スタッフ一同、特にカメラマンのプロ魂に火が付いてしまったようで、「ママさんの写真以上のクオリティのものが撮れなければ、自分が来た意味がない!」と、シャッターを切り続けていました。結果、2日間で撮影したデータは実に1000枚以上!

 

ーー確認ですが、レシピの数は5品ですよね?

 

横山「そうですね(笑)。撮影後も、カメラマンさんのこだわりがすごかったです。あがってきた色校に入る赤字は、くまくんの毛並みの微妙な色味だったりして。くまくんの可愛さを最大限伝えるために、最後まで厳しい目でチェックしてくださいました。もちろん、料理の写真も注意深く確認済です! デザイナーさんも、何パターンもデザインを上げてくださいましたし……プロ集団が皆本気で挑んで、こだわり抜いて出来上がった一冊です」

 

加工は一切なし!すべてアナログで撮影するこだわり

カメラマンさんの苦労がわかったところで、最後にもう一度、ママさんの撮影術を伺いましょう!

 

ママさん「野菜をせん切りしている写真を見て、上から野菜を降らせてると思っている方もいるようなんですが、違うんですよ。ちゃんと包丁で切ったときに舞い上がった様を撮影しています。もちろん加工は一切無しです。なかなか信じてもらえへんけど、フェイク動画を見破る専門家とかなら絶対わかってくれるはずです!

 

今の時代、きっと合成とか修正とかすれば、簡単にすごい写真が撮れるのかもしれないけど、自分の手でこの子を可愛く撮ることが私の信念ですね」

 

このママさんの信念に基づき、撮影隊が関わったカットもすべて加工一切なし。純粋に人の手だけで撮影した、まさに奇跡の一枚が凝縮されています。

↑アナログで撮影しているからこそ出る臨場感

 

ーーそういえば、海外の方からのコメントもたくさんありますね。

 

ママさん「コメントも問い合わせも、海外の方からめちゃめちゃ届きます。どこで買えるのか?っていう質問が多いですね。もしかしたら、パディントンとくまのプーさんに続くテディベアになれるかもしれへん!(笑)」

なんと大阪のラジオFM802にも出演!

 

日々人気がうなぎ上りのくまくん。本当に、世界を代表するテディベアになる日も近いかもしれません。ママさんとスタッフ一同が全力で作り上げた『ぼくはくま、特技はせん切りやねん!!!』、ぜひお手に取ってご覧ください!

 

▶くまくんのレシピ本について詳しく知りたい人はこちら!

https://one-publishing.co.jp/boku-ha-kuma/

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

カブトムシの幼虫たちはコミュニケーションを取っている!? 世界でも珍しいカブトムシ研究者が語る真の姿~注目の新書紹介~

こんにちは。書評家の卯月鮎です。私は子どものころ、昆虫が好きでよく空き地や山の公園で虫取りをしていました。物心ついたときから天邪鬼な性格だったため、ブランド品のようなカブトムシよりはトンボのほうがお気に入りで、池で捕ったヤゴを成虫になるまで育てたこともありました。カブトムシを見つけても大して喜ばなかった私に、きっとカブトムシのプライドは傷ついたことでしょう(笑)。

カブトムシ研究者が明かすその生態

さて、今回紹介する新書はカブトムシの謎をとく』(小島渉・著/ちくまプリマー新書)。著者の小島渉さんは山口大学理学部講師。専門は昆虫の進化生物学。特にカブトムシを研究し、著書に『わたしのカブトムシ研究』(さえら書房)、『不思議だらけカブトムシ図鑑』(彩図社)があります。

 

カブトムシの幼虫のすごい秘密

人気者のカブトムシ、さぞかし研究も進んでいるかと思いきや、「まえがき」によると意外にもカブトムシの研究者はほんのわずかしかいないのだとか。というのも、欧米ではカブトムシはほとんど生息しておらず、日本では害虫でも益虫でもないカブトムシは研究費があまりつかないそう……。

 

しかし、それだけに調べれば調べるほど新しいことが出てくる、と小島さん。図鑑の説明が間違っていることも珍しくないというから、数年後には世紀の発見もあるかもしれません。

 

第1章「カブトムシ研究者への道」では、小島さんがなぜカブトムシを研究対象にしようと思ったのかが語られます。冬の山で落ち葉の下にカブトムシの幼虫が大量に集まっているのを何度も目撃した小島さん。この疑問をきっかけにカブトムシに研究対象を絞り、幼虫とサナギたちが振動や化学物質で情報をやりとりしていることを発見しました。このエピソードは、不思議をそのままにしない研究者魂を感じさせます。

 

そして第2章以降では、カブトムシの素顔が次々と明かされていきます。カブトムシは意外と都会派、オスのツノと体が大きいのはケンカに勝つため、クヌギだけでなく庭木のシマトネリコにも集まる……など研究者目線で解説されるカブトムシの生態は新鮮でした。

 

ドラマチックなのは第5章「活動時間をめぐる謎」。埼玉県の小学生が「カブトムシは夜行性」というこれまでの常識を打ち破る大発見をし、アメリカの学術誌に論文が掲載されるまでを、サポートした小島さんが記しています。ページ数は短いながらドキュメンタリーとして引き込まれました。

 

単純にカブトムシの雑学を並べるのではなく、研究手法が明かされたり、実験の苦労話があったり、カブトムシバラバラ事件を解いてみたりと各章ごとに工夫されていて、カブトムシというワンテーマながら飽きさせない作り。

 

ちくまプリマー新書ということでわかりやすく噛み砕いて書かれているのはもちろん、研究とは何か、新しい知識を得るとはどういうことか、そうした学問の本質的な部分にも触れられています。小島さんの深い生き物愛にもあたたかさを感じました。

 

夏ももうすぐ終わり。大人の自由研究としてカブトムシについて学んでみてはいかがでしょうか。

 

【書籍紹介】

カブトムシの謎をとく

著:小島渉
発行:筑摩書房

ほんとに夜型? 天敵は何? 大きさはどうやって決まる? カブトムシの生態を解き明かし、仮説の立て方、調査方法なども解説。自然研究の魅力はここにある。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

暑い日でも作るのが楽しくなっちゃう! 見た目も味も最高な『THE 藤井定食』を作ってみた!

暑い日が続いて台所に立つのも大変! この時期は、サッと作れるものを大皿でドーン! となりがちですが、夏場を乗り切るためにも栄養バランスがいい食事が欲しいところ。

 

今回は、そんな夏場でも作るのが楽しくなっちゃうレシピが満載の『THE 藤井定食』(藤井恵・著/ワン・パブリッシング・刊)をご紹介します。著者は、テレビやInstagramでも大人気の料理研究家で管理栄養士の藤井恵さん。夏の定番のアレを使った定食も作ってみましたよ!

トレイの上に小皿がいっぱいな「藤井定食」

そもそもタイトルの「藤井定食」とはどんな定食なのでしょうか? 表紙の写真を見る限り、作るのが難しそう……と気が引けてしまう人もいるかもしれませんが、よ〜く見ると実はシンプル。トレイにお気に入りのお皿を並べておかずを盛るだけと、見た目以上に楽しくて、簡単な定食なんです!

 

特徴は、一目瞭然、トレイの中に小皿おかずがいくつも並んでいるところです。でもよく見ると、ごはんとみそ汁、シンプルなメイン、小皿の中は見慣れたおかず。中には納豆や切っただけのトマトもあります。それでもウキウキする、ワクワクする!食べる前に“記念”写真を撮りたくなる!作っているときも、食べているときも、「楽しい!」。それは、藤井定食、最大の魅力です。

(『THE 藤井定食』より引用)

 

私自身、今回初めてトレイを使ってみました。すると料理を作る前に、トレイの上に空のお皿を並べて「ここに〇〇を入れて〜」と考える時間が本当に楽しかったんです。それに、同じおかずでもいつもより豪華に見えたのも驚き! 小皿が多いので、ちょっと洗い物は増えちゃいますが(笑)、同じおかずが勝手に映えてくれるのもテンションが上がるポイントでした。

 

アレンジレシピにも飽きちゃった? 夏の定番「そうめん」も定食に!

夏の定番「そうめん」ですが、いろんなアレンジレシピがあるものの、やっぱり飽きちゃう……。そんな時におすすめなのが「なすと油揚げのそうめん定食」です! 一般的にそうめんを食べるときは、つけ汁とそうめんだけが食卓に並びますが、トレイに乗せて出すだけですごく豪華な定食に。私が作った定食をご覧くださいっ!

 

定食にするというアイデアはいいけど、作るのに時間がかかるでしょ? と思ったそこのあなた! つけ汁を作りながら(10分以内)、ちくわのあおさ天を作って、そうめんを茹でて、納豆混ぜて、冷やしたトマトを切るだけ! 合計で20分もかからずできてしまいましたよ!

 

普段、食事についてあまり感想を言わない旦那さんも、「そうめんって昼飯のイメージだったけど、これなら夕飯でもいいね」と一言(笑)。作ってよかった〜! いつもと違ったちょっとリッチなそうめん、楽しんでみてくださいね。

 

あれば助かる、野菜ストックのレシピも豊富!

『THE 藤井定食』でいいのは、ご飯を炊いて、お味噌汁を作って、メインを1〜2品作ったら、あとは冷蔵庫にあるものでなんとかなっちゃうところ。全部をイチから作らなくていいので助かりました。特に我が家で大活躍だった野菜ストック「薬味野菜ミックス」をご紹介します。

 

作り方は超簡単! 長ねぎや青じそ、みょうがといった薬味を細切りにして、水に浸してシャキッとさせたら、水気をきって容器に入れるだけ!

 

これは、ピリ辛に焼いた豚肉に添えてもいいし、みそ汁の具としても使えるし、冷奴やそうめんのトッピングにも◎。冷蔵庫での保存期間は3〜4日ですが、アレンジしやすいので、毎日食べて飽きませんでした。他にも、蒸しゆで野菜や塩きゅうりや塩にんじんなどもたくさんのストックレシピがあるので、食卓の彩りやアレンジレシピに活用できますよ。

 

『THE 藤井定食』は、料理が苦手な人も、毎日頑張ってご飯を作っている人も「こんなに料理って楽しかったんだ!」と思える一冊です。私も『THE 藤井定食』を読んでから、今日は何を作ろうかな? と積極的に料理できるようになりました。ぜひ一度手に取って読んでみてくださいね。

 

【書籍紹介】

THE 藤井定食

著:藤井恵
発行:ワン・パブリッシング

藤井恵さんのインスタグラムで大人気の「定食」のレシピを初公開。藤井さんの定食は美味しいだけでなく、海藻・きのこ・発酵食品・緑黄色野菜が必ず入るよう、栄養バランスを考えて作られており、この定食を1日1回食べれば1日元気に過ごせるというもの。量もしっかりあるので朝ごはんにも昼ごはんにも晩ごはんにもなります。また、いろいろな器に少しずつ盛って見た目にも楽しいのが特徴。ちょっとした野菜の下ごしらえなどを使って「楽しんで作れる藤井定食」を紹介します。

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1950年代のベストセラー『東京文学散歩』を今歩き直してみたら? 文学の聖地巡礼、昔と今~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。私は国立国会図書館のデジタルコレクションに収録された古い本を紹介するコラムを、かつて連載していました。

 

なかでも印象的だったのが昭和5年に出版された食べ歩きの本『東京名物食べある記』。銀座の資生堂パーラーや、今はなき喫茶レストランなどを新聞記者が食べ歩くという内容。お店を評価する基準の当時と現代の違いから、食文化の変遷が見えてきます。

 

ガイドブックは小説とは異なり情報の鮮度が重要になりますが、何十年もあとに読み返すとそれはそれでさまざまな発見があるものですね。

日本文学者が改めて歩く文学の聖地

今回紹介する新書は「東京文学散歩」を歩く』(藤井淑禎・著/ちくま新書)。著者の藤井淑禎さんは立教大学名誉教授で専門は近現代日本文学・文化です。『乱歩とモダン東京』(筑摩選書)、『純愛の精神誌』(新潮選書)、『清張 闘う作家』(ミネルヴァ書房)など著書が多数あります。

 

焼け野原の浅草寺はまるで羅生門!?

戦後の1950年代に「文学散歩」という言葉を作り出し、大ブームを巻き起こしたという野田宇太郎の『東京文学散歩』。当時はラジオやテレビの番組にもなり、貸切バスを仕立ててのツアーが企画されるほどだったとか。

 

本書は、加筆を重ねて20年にわたり改稿されていった『東京文学散歩』シリーズをもとに、著者の藤井さんが散歩コースを設定し、『東京文学散歩』の文章と比べながら歩くというもの。1950年代の東京と今の東京、果たして当時のような文学散歩は可能なのでしょうか?

 

第1章「浅草から向島へ」の出発点は、JR浅草橋駅近くの神田川にかかった柳橋。1950年代初頭の『東京文学散歩』では、この橋を渡って島崎藤村の旧居跡へ向かっています。この一帯は花街で、戦災で全滅したもののすでに復興している様子。野田宇太郎は細面で美人の芸者さんに道を訪ね、「もすこし向こうではなかったでしょうかしら」と教えてもらい、情に厚くて親切と感じ入っています。

 

しかし、この描写に対して藤井さんは、芸者さんとのやり取りはフィクションではないかと思っている、とコメント。最初の「日本読書新聞」の連載時にはこの描写はなかったことなどから、当時の東京人の冷たさを引き合いに出すため、後付けでこの芸者さんを出したのではないかと分析しています。こうした研究者ならではの鋭い視点も本書の読みどころです。

 

花街が復興しているのに対し、浅草は野田宇太郎が実際に歩いた1951年当時は荒廃したまま。雷門も仁王門(現在の宝蔵門)も跡形もなく、唯一残った二天門を見て、まるで『羅生門』のような鬼気を覚えた、という感想。今の浅草の賑わいから考えると信じられない光景ですね。

 

浅草を皮切りに、本書は全8章。永井荷風の偏奇館や文人たちが集った東京最古のフランス料理店・龍土軒を巡る「麻布を一周する」、森鴎外、夏目漱石、芥川龍之介らが住んだ本郷周辺を田端駅から日暮里駅まで歩く「王道の文学散歩」……など、どれも文学好きなら実際に回ってみたくなるコースの数々。

 

終戦後の復興もままならない状況を歯がゆく思いながら文学散歩する当時の野田宇太郎。さらに改稿を重ねて高度成長期に加筆された内容も解説され、現在のマンションや高層ビルに覆われた東京の景色が語られていく。文学という変わらないものを軸に、移りゆく時代を重層的にとらえているのが本書の真価でしょう。

 

散歩コースの地図や写真があればもっとイメージが湧きやすかったように思うのですが、次から次へと飛び出すこぼれ話からは知識の深さがにじみ出ており、まさに教授と一緒に文学散歩をしている気分になれます。

 

【書籍紹介】

「東京文学散歩」を歩く

著:藤井淑禎
発行:筑摩書房

戦前の作家の暮らしの跡や文学作品の舞台となった場所を訪ね歩き、往時を本の中に「復元」した野田宇太郎による『東京文学散歩』シリーズは、一九五〇~六〇年代に一大文学散歩ブームを引き起こした。本書は『東京文学散歩』から、往年と現在との比較が興味深い個所や、野田の主張が強く見て取れる個所などを紹介しつつ、実際にいまの東京を訪ね歩いて検証。さらに独自のコースも提唱し、新たな散歩の楽しみを提案する。昭和の文学散歩の時代を追体験できる文学ガイドブック。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

「ギターウルフ」も「タクシードライバー」も「ジョーカー」もみんな“オルタナ”!芸人・永野さんの人生論が詰まった一冊

青いシャツを着て奇妙な動きをしながら「ラッセンが好き〜♪」と歌うネタで一世を風靡した芸人・永野さん。個人的に、永野さんの思考が大好きでラジオやYouTubeをよく拝見しているのですが、『オルタナティブ』(永野・著/リットーミュージック・刊)も最高でした……!

 

2021年にも『僕はロックなんか聴いてきた』という、自身の青春時代である90年代のロック愛を語る一冊が発売されています。今回の『オルタナティブ』では、音楽だけでなく、永野さんの半生を支えてきた映画や人物も紹介しながら自身の「オルタナティブ論」を語る内容になっています。90年代のロックが好きな方、ちょっとマニアックな映画が好きな方、また「なんで俺だけキツい人生歩まないといけないんだ」「俺の気持ちは誰も理解できない」そんな葛藤を抱えている人には涙ものの内容になっていますよ!

オルタナティブとは?

一般的に「オルタナティブ」とは、主流に変わる考え方や代替案などの意味がある経済用語。今回、永野さんの語るオルタナティブとはどんな意味として使われているのでしょうか? 「はじめに」には、こんなことが書かれてあります。

 

90年代に自分がのめり込んだ音楽はオルタナティブロックと呼ばれ珍しがられていましたが、自分は外道こそが世界に彩りを与えていると信じていました。しかし今の世の中、そんな魅力ある外道はすっかり姿を消しました。一世を風靡したオルタナティブロックという言葉すら今の若者は知らないでしょう。

こんな今だからこそ自分の半生を振り返り、自分が愛おしいと感じた、グッとくる人や作品たちを集めてそれらを「オルタナティブ」と呼ばせてもらうことにしようと前回同様チームを組んだ有能な編集者に力説されまして、今回もタイトルは編集者のセンスにお任せしました。

(『オルタナティブ』より引用)

 

これを読んでハッとしました。最近、本来の意味でのオタクやサブカル人種がいなくなってしまった現象と似ているな……と。以前は「そんな趣味なの!?」と驚かれていたことが、「あっ、聞いたことある!」と受け入れられる世の中になっていますよね。これが多様性なのかな……とも感じますが、一方で「自分だけが知っている優越感」みたいなものは年々減っているように思いました。

 

「共感」がオルタナを消した?

『オルタナティブ』では、永野さんが好きなカルチャーを振り返りながら、永野さんの思うオルタナを伝えてくれています。例えば、バンドのギターウルフはオルタナだとか、映画『稲村ジェーン』や『タクシードライバー』もオルタナで、映画『バットマン』シリーズに登場するジョーカーもオルタナ。さらにラッパーのD.Oや50セントもオルタナとして登場します。共通項は、ぜひ本書でお確かめください(笑)。読み終わるころには社会の「オルタナ」を見つけやすくなりますから!

 

さまざまな視点から「オルタナティブ」を語っていくのですが、個人的に一番刺さったオルタナ論はこれでした。

 

今はみんなが共感を求めるじゃないですか。「理解してよ!」「理解しなきゃ!」のオンパレード。自分は昔の「別にわかんなくてもいい、そのかわり勝手にやりますよ」って雰囲気が好きでした。オルタナでした。

(『オルタナティブ』より引用)

 

そう! そうなんですよ!! この背景には、インターネットやSNSの登場も大きいかもしれませんが、昨今は“みんな”で共感する文化が昔より濃くなりましたよね。そりゃオルタナも生まれにくいわ……と納得した次第です。時代は繰り返すので、今後どんなオルタナが出てくるか期待したいところですが、現状ではなかなか出にくい時代なのだろうなと思いました。

 

文章に滲みでる永野さんの人柄が最高!

永野さんは2015年ごろ、テレビでのラッセンネタが流行りましたよね。もちろん、そのころも拝見していましたが、個人的に好きになったのは2022年6〜7月に放送されていた『デドコロ』というラジオ番組でした。ラッセンのネタは知っていましたが、ラジオで話す永野さんが言い方はアレですが、教祖様のように感じてしまい(笑)、なんでこんなに私の心のツボをついてくるの!? と毎週楽しみに聞くようになったのです。

 

『オルタナティブ』にも、ラジオで語るような永野さんらしい言葉がたくさん紡がれています。最後に、これぞ永野さんな一文を紹介させてください! さまざまな音楽や映画は、経済的にも心にも余裕があるほうがいいものって作れるよね、という話をしている「実は成功してからのアルバムだって面白い」の中の文章です。

 

表現としてのそういう余裕は好きな一方で、人としては苦手な奴が多いです。遊んでいる大学生とか、良い大学出ましたとか、ボンボンとか、そういう奴は大抵舐めた顔して接してきます。逆に輩の人たちの接し方で嫌な気持ちになったことはありません。それは輩の人たちは縦社会を生きて、高学歴系は横の繋がりで生きているからだと思います。

(『オルタナティブ』より引用)

 

この後にも文章は続くのですが、表現的に掲載が難しいと思ったので割愛しました(笑)。ぜひ本書でお楽しみください!

 

『オルタナティブ』はある種、踏み絵のような一冊かもしれません。永野さんの「オルタナ論」に共感できる人、まったく理解できない人と分かれる可能性があるな〜と感じたからです。個人的には、オルタナこそかっこよさだ! と思っていたのでウルウルしながら読んでしまったのですが、「いやいや、みんな一緒がいいじゃん」「みんなで面白いことしようよ」と思っている人にとっては、理解できなくて突き放すだろうな……と。

 

そう思うと、この『オルタナティブ』こそめちゃくちゃオルタナな一冊なのだと思うのです。なぞなぞみたいになってしまいましたが(笑)、共感が多い時代に一石を投じてくれた『オルタナティブ』、気になる方はぜひ読んでみてくださいね!

 

【書籍紹介】

オルタナティブ

著者:永野
発行:リットーミュージック

亜流すぎる芸人・永野が世に放つ“オルタナティブ論”。落ちこぼれ芸人・永野に寄り添った人、音楽、映画たち。

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どれも恐ろしい! 怪談から小説、ルポ、漫画まで—— 歴史小説家がオススメするこの夏の「ホラー」5冊

毎日X(Twitter)で読んだ本の短評をあげ続け、読書量は年間1000冊を超える、新進の歴史小説家・谷津矢車さん。今回のテーマは「ホラー」。谷津さんが選んだ5冊は怪談・オカルトだけではありません。あなたの日常に「恐怖」を体験してみませんか?

 

【過去の記事はコチラ


皆さんは、夏と聞いて何を連想するだろうか。

 

海。山。バーベキュー。川。スイカ。ひまわり。蝉……。人によって色々だろう。だが、小説家にとっての夏は、断然「ホラー」である。商売柄、書店さんに足を運ぶ機会も多く、その際、各社夏のフェアの横で展開されているのがホラーフェアだったりするので身近な存在としてインプットされちゃっている次第で、クーラーの効いた書店さんでホラーフェアを見かけると、「夏だなあ」と遠い目をしてしまう、それが小説家という生き物の生態なのである。

 

そんなわけで、今回の選書テーマは「ホラー」である。しばしお付き合い願いたい。

 

怪談の裏に潜む、東京の景色や心象風景

まずご紹介したいのは正当派の怪談ものから『中央線怪談』(吉田悠軌・著/竹書房・刊)である。本書は名前の通り、東京の中央線沿線で収集された怪談をまとめた一冊である。もちろん怪談集なので怖い話が収録されているのだが、本書の特徴として、著者が少し離れた視座から怪談を捉え直している風があることである。

 

この辺りの作りについて著者は自覚的で、「まえがき」において、「鉄道沿線怪談は、各地域のご当地怪談と比べ、個人史・郷土史のブレンド具合がひと味違うものになりそう」「全体として『中央線らしい』空気感もまた滲んでいる」と表明してもいる。

 

その結果、本作は、怪談集でありつつも、中央線沿線に対するある種の批評性を有した書籍になっているといえる。本書を読むことで、東京中央線沿線の歴史や今、町の様態やその下で暮らす人々の息づかい、町の構成員一人一人の現実が浮かび上がる仕組みになっているのである。おそらく、本書を読んで去来するものは、一人一人違うことだろう。怪談の裏に潜む、その人その人の東京の景色や心象風景を鏡映しにした本といえるのかもしれない。

 

「面白い」と「興味深い」と「怖い」が混在する迷宮

次に紹介するのは絶版本だが面白かったので。『定本 二笑亭綺譚』(式場隆三郎、式場隆成、岸武臣、赤瀬川原平、藤森照信・著/筑摩書房・刊)である。皆さんは二笑亭をご存じだろうか。昭和初期、東京深川に存在した家屋で、漫画家・藤田和日郎が『双亡亭壊すべし』の双亡亭のモデルとしたことでも知られる怪建築である。

 

取り壊し直前に調査に当たった式場隆三郎の記録『二笑亭綺譚』をはじめとした論考が掲載された本書は、二笑亭を知るための書籍としては最も内容のまとまった一冊となっている。是非皆さんも一度「二笑亭」でブラウザ検索をかけてみてほしい。周囲の町の風景に溶けることなくありつづける異様な姿、鉄骨と木造造りが混在する建物群、筋交いのようなものがかかっているせいで足を高く上げないと通ることも難しそうな裏門、暗い廊下に存在するガラスの嵌った覗き穴、和風洋風の風呂が並列された風呂場……と、なんとも不可解なのである。

 

実はこの特殊な作りについて、本書は説得力の高い建築意図を提示しているのだが、それに納得しつつも、いや、納得するがために、こんなおかしな建物を作った人物の心の迷宮に思いを致さざるを得なくなる。面白いと興味深いと怖いが混在する迷宮にあなたを誘う一冊。

 

地獄の門はいつでもあなたの側にある

次は小説から。『地獄の門』(モーリス・ルヴェル著、中川潤・訳/白水社・刊)である。モーリス・ルヴェルというと『夜鳥』などの代表作で知られるフランスの恐怖作家で、「フランスのポー」という渾名もある。その仕事ぶりは日本でも早くから紹介され、江戸川乱歩や夢野久作にも影響を与えたものの、死後、一時忘れられ、最近になって再評価が始まった作家である。

 

そんなルヴェルの掌編から短編を集めた本書は、ルヴェルの恐怖作家としての業前を楽しむことのできる一冊である。本書には、怪力乱心を語る場面はほとんどない。どのお話も、人間関係の間に潜むすれ違いや愛憎、不慮の事故により、登場人物が深い陥穽に落ちていく様が描かれている。

 

人間の力ではどうしようもない現実、そしてそれに翻弄される人々を眺めるうちに、読者は気づくことであろう。地獄の門は、わたしたちのすぐ側に佇んでいるのだと。そして、地獄の門を開いてしまうのは、常に、人の妄執や強い思いなのだと。読み終わった後、地獄の門が開いていないかと周囲を見回してしまいそうになる一冊である。

 

「父がネット右翼になっていた」どころではない根源的な問題とは?

次は新書から。『ネット右翼になった父』 (鈴木大介・著/講談社・刊) である。数年前から、「久々に田舎に帰ったら、自分の老親がYouTubeを見まくり、気づけばネット右翼になっていた」という体験談がある種の怪談として語られるようになった。本書の著者もその例に漏れず、父親のネット右翼的な変貌を目の当たりにし、ライターである著者はその様を記事に書いたのだが……。

 

後になり、著者は、自分の誤りに気づくことになる。著者が父親の周囲に取材を重ねる中で、父がネット右翼のような振る舞いをしていた理由、そして、著者の側のバイアスが明らかになっていく。そうして示された著者の答えは、「父がネット右翼になっていた」などというものより根深く、根源的な問題だったのであった……。

 

これは怖い。自分の認識していた現実が、実は別の形をしていたと知ったときのおぼつかなさは、これ以上ない恐怖だろう。本書は、読者に自省を促す本である。こうなる前に、手を打ってほしい――そんな著者の叫びが聞こえてきそうな本なのである。そろそろお盆休みも近い。実家に帰る前に、手に取ってみてはいかがだろうか。

 

青春ご飯もの微ラブコメ漫画の裏で進行している恐怖とは?

最後は漫画から。『裏の家の魔女先生』 (西川魯介・著/秋田書店・刊)である。男子高校生・石垣蛍太は、家の裏に引っ越してきた女性小説家の雨夜沙希子とひょんなことから往来を持つことになる。そしてそこに蛍太の幼なじみである深冬も加わり、手作りご飯を介したご近所付き合いの輪が広がっていく……というのが本作の大まかなあらすじである。

 

これだけ聞くと「どこがホラー?」となるのだが、実はこのあらすじ、間違ったことは書いていないが、大事な要素が抜け落ちてしまっている点に注意してもらいたい。本書は蛍太と深冬、沙希子を中心にした青春ご飯もの微ラブコメ漫画として読めるのだが、その一方、蛍太、深冬の見えないところで、もう一つのオカルティックな物語が進行しているのである。けれど、それらは危ういところで表出せず、蛍太たちの愉快な日常の奥底に沈殿している。危ういバランスを保ちながら、穏やかな世界が守られているのである。

 

刊を進めるごとに、本作は日常とオカルト世界がじりじりと広がりを見せ、新たな人間関係や緊張感を胚胎しながら展開され続けている。これから先の展開も楽しみである。

 

※本書の巻末には性描写を強く含んだ短編が掲載されている。そのため、同描写が苦手な方におかれては、手に取る際にはご留意いただきたい。

 

「ホラー」の選書は2回目らしい。だというのに、今回の選書も割とすっきりと挙げることができた。別にわたしがホラー読みというわけでもないのに……。

 

世にはホラーが溢れている。なぜかと言えば、みんな、怖い話が大好きだからである。しかし、怖い話がこうして楽しまれているということは、それだけこの社会が命の危険からほど遠いところにある平和な社会だという証左である。今は熱中症が怖い世の中になったけれども、少なくとも、熱中症がホラー人気を下火にすることはなさそうだ。

 

これからもホラーが隆盛を極めることを祈念して、筆を措くこととしよう。

 

【過去の記事はコチラ

 

【プロフィール】

谷津矢車(やつ・やぐるま)

1986年東京都生まれ。2012年「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞受賞。2013年『洛中洛外画狂伝狩野永徳』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』にて歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。最新刊は『ぼっけもん 最後の軍師 伊地知正治』(幻冬舎)

なぜ「スーパードライ」は奇跡的なヒットとなったのか? 日本のビール、その波乱万丈の歴史~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。夏といえばビールの季節。ビアガーデンも最高ですよね! ……と言っても、私はシロナガスクジラが海水を丸呑みするように、ビールをガブガブやるのはあまり好きではありません。

 

せっかくビールごとに味も違うのに、もう少し味わって飲みなさいよ(笑)と思ってしまいます。美味しいおつまみと一緒にゆっくりビールを味わいたいタイプです。

ビール業界を知り尽くしたジャーナリスト

今回紹介する新書は日本のビールは世界一うまい!―酒場で語れる麦酒の話』(永井隆・著/ちくま新書)。著者の永井隆さんは東京タイムス記者を経て、現在フリージャーナリスト。企業、組織と人、最新の技術から教育問題まで幅広く取材・執筆しています。『キリンを作った男』(プレジデント社)、『究極にうまいクラフトビールをつくる』(新潮社)、『サントリー対キリン』(日本経済新聞出版社)などビール業界に関する著書多数。

 

「スーパードライ」、ヒットの秘密

日本の大手ビール会社の変遷をたどっていくいく本書。第1章「日本『麦酒』事始め」は、日本のビール醸造発祥の地・横浜からスタートです。日本初のブルワリーは1869年に横浜・山手に設立された「ジャパン・ヨコハマ・ブルワリー」。ついで、1870年に同じ山手で産声を挙げた「スプリングバレー・ブルワリー」のビールが評判を呼び、日本のビール産業の礎を築いたそうです。

 

その後、内紛で倒産した「スプリングバレー・ブルワリー」の跡地を買い取ったのが、1885年設立の「ジャパン・ブルワリー」。当時の三菱社長・岩崎弥之助も出資したこのブルワリーが、キリンビールの前身なのだとか。

 

そういえば、「スプリングバレー」は現在キリンビールのクラフトビールブランドのネーミングですね。こうした歴史を知っていると、味わいがより深くなる気がします。

 

ビジネスドラマのように当時の現場の空気がひしひしと伝わってくるのが、第4章「ビール市場の転換点」。1987年に発売されて空前の大ヒットとなった「アサヒスーパードライ」。名門ながらも、市場シェア3位と不振に陥っていたアサヒビールの起死回生の一撃。従来のビールづくりとはガラリと路線を変えたその開発コンセプトとは、20代、30代が飽きない辛口のビールだったそうです。肉料理など洋食化が進んでいた80年代の食事にピッタリ合う味だったのです。

 

そして躍進の裏には、アサヒ営業部隊による泥臭い営業があったとか。キリンは豊富な資金により、消費者調査などから「スーパードライ」の大化けを予測していたにもかかわらず、繁栄に慣れていたためそれを黙殺してしまった、と永井さん。

 

アサヒ側だけではなく、いち早くヒットを察知したキリンのリサーチャーや営業マンの視点も入り、当時の熾烈なビール戦争の様子がいきいきと描かれています。

 

なぜ日本のビールはドイツタイプだったのか? ビールにかかる税金が高い理由。長年キリンが市場1位だった裏側……。ビールに関するうんちくも数多く挟まっています。

 

日本のビール市場を牽引する大手4社の動きが時代ごとにまとまっていて、網羅的に日本ビール史の流れをつかめるのが本書のいいところ。第3章以降は、取材から得られたであろう現場の声も挟まって、各メーカーごとの戦略が臨場感をもって伝わってきます。人気ビールの開発秘話も読みどころ。本書をつまみにビールを堪能するのはいかがでしょう。

 

【書籍紹介】

日本のビールは世界一うまい!――酒場で語れる麦酒の話

著:永井隆
発行:筑摩書房

西のアサヒ、東のサッポロと言われた理由とは。キリンはなぜ独立を保てたのか。サントリーはどのようにビール市場に参入したのか。バブル期にドライはなぜ売れたのか。20世紀末の日本を席巻した「ドライ戦争」とは、どのようなものだったのか。そもそもラガーとエールの違いとは。麦芽の割合で何が変わる? 世界一うまいと絶賛される日本のビール。商品開発、市場開拓、価格など、熾烈な競争の背後にある発展史を一望して見えてきた秘訣とは。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

超話題本『ぼくはくま、特技はせん切りやねん!!!』増刷決定! 著者「くま」のママが語る驚愕のエピソード

「くま」が著者という前代未聞のレシピ本『ぼくはくま、特技はせん切りやねん!!!』が、7月13日に発売されました。Instagramフォロワーは、本の企画時5万人だったのがいまや14万人(7月27日時点)と、その勢いはとどまるところを知りません。そこで今回は、くまの保護者である「ママさん」を直撃取材。企画の話を聞いたときの話をはじめ、くまと歩んできた5年間のエピソードを尋ねたところ、編集担当の横山由佳さんも知らなかった事実が次々と発覚しました!

断ったはずの企画がいつのまにか進んでいた!?

くまくんとママさんはいつも一緒

―始まりは、編集の横山さんからInstagramのダイレクトメッセージを受け取ったことだと聞きました。その時の心境はいかがでしたか?

 

ママさん ありがたい話やなとは思いましたが、自信のあるレシピもそんなに数がないしどうしよかなって……2日くらい悩んだんですけど、やっぱりやめとこうと思って、断りのお返事をしたんですよ。

 

横山 え!?

 

ママさん 私、お断りしたつもりやったんです(笑)。ただ、無下に断るのも申し訳ないから、「レシピ本って感じではなくて、くまの写真をたくさん使った写真集みたいな内容だったらやってもいいかなと思います」って最後に付け加えておいたんですね。レシピ本って言ってはるから、こんなの絶対却下されるやろって。そしたら意外にも「そんな感じでいいですよ!」ってお返事をいただいて。

 

横山 あれ……そうでした!? 冷や汗が出てきました(苦笑)。

 

ママさん 私、断ったはずやのに、これは受けなあかんよな……まあええかって思って(笑)。

実際のメッセージのやりとり。これは……確実に断られてますね?

横山 あのときはお返事いただけたことが嬉しくて。どうしても今回の本を実現させたいあまり、最後の部分だけをいいように解釈して受け取って話を進めちゃったんです。

 

ママさん ただ、その後2か月くらい連絡がなくて、やっぱりあかんかったんやなって思っていた頃に「くまくんの身元が判明しました!」ってメッセージが届きました。しかも、「くまくんと一緒に東京に来ていただけませんか?」って。

そのとき、ちょうどこの子(くま)を連れて、奈良の公園で写真を撮ってたんですよ。そのまま奈良でぼーっとどうしようかなって考えてたんですけど、行ってみよか!って、その足で近くにあった旅行会社に行って新幹線のチケットを買いました。

 

―なんだかものすごい展開ですね!

 

ママさん 私の性格的に、気になることはやってみよう!ってパッと飛びつくタイプなんですよ。もちろん失敗することもたくさんありますけど。今回は良い方向に進みました。

 

「夫はいまだに本が出たことを知らない」驚愕の事実が発覚!

―その上京が、いわゆる「くまの身元確認事件」というわけですね(笑)。決定的な証拠は、足の裏だったと聞いています。

 

ママさん そうです。あとは、この赤いリボン。何回も外そうと思ったんですけど、なんとなくつけたままにしてたことが、プラスに働きました。

肌身離さずつけている赤いリボン

―運命の赤い糸ならぬ、赤いリボン! ちなみに、どうしてこんなに見た目が変わったのでしょうか?

 

ママさん はじめは、洗濯機で洗ってたんですよ。ネットにも入れずに、そのままポーンと。そうしたら、首がまわるようになり、耳が動くようになり、手足もいい感じに柔らかくなり。いつのまにか、なんでもポーズがとれるようになりました(笑)。さすがに最近は怖くて洗濯機では洗えないので、アルコール消毒をする程度やけど。決して意図したわけではなくて、私の雑な扱いがこの仕上がりにつながりました(笑)。

 

左のこぐまと右のくまくん、サイズこそ違えど、もとは同じ種類のくまでした。毛並みも色も別人(くま)……!

横山 本当にこのくまくん、どんなポージングもできるんですよ! 撮影のときも「右手を上げられますか?」って聞くと、「なんでもできるで~」って。とにかく可動域がすごくて微妙なポージングの調整もしてくれるんです。こんな自立するくまのぬいぐるみ、他にはないですからね。

 

書店に自分の本を見に行くくまくん

―今回本を出版することになって、ご家族の反応はいかがでしたか?

 

ママさん 娘と息子がいるんですけど、いろいろ相談に乗ってくれてます。ただ、娘に薦められてInstagramを始めたんですけど、最近は私が夢中になってこの子の写真を撮ってると呆れた顔するんですよ! 自分が薦めたくせに!(笑) と言いつつ、友達に本が出ることを宣伝してくれてるみたいです。ちなみに、夫はこのことを知りません。

 

―え? 旦那さん、本が出たことを知らないんですか?

 

ママさん この子が家にいることは知ってるし、私がInstagramをやってることはなんとなく知ってる様子やけど、日中撮影してることも、本が出たことも知らないんです。年中無休のサービス業で、朝早くから夜遅くまで家にいないので。だから、東京に身元確認に行くときも、夫が家を出てから「よし!」ってサッと準備して、その日のうちに大阪に帰ってきました。

 

横山 もしかして、撮影隊が伺って本の撮影をしていたこともご存知ないんですか?

 

くまのママ そうなんですよ。いつ気づくんやろ?(笑)

 

カメラマンも嫉妬する「奇跡の1枚」の撮影裏話

―くまくんの代名詞にもなったキャベツのせん切りカットをはじめ、本当に奇跡の写真ばかりですが、もともと写真の勉強をされていたのですか?

 

ママさん 短大のときに写真の授業はあったんですけど、フィルムの現像方法を学んだくらいで、撮り方に関してはまったくでした。最初はね、スマホで撮ってたんです。そのうち、料理が綺麗に写るカメラが欲しいなと思うようになって、カメラ専門店に行って「料理がおいしく撮れるカメラちょうだい」って言って薦められたデジタル一眼カメラを買いました。実際に撮影してみたら、料理はもちろんやけど、「くまもめちゃめちゃ可愛く撮れるんや~」って感動して。以来、ずっとそのデジイチで撮影してます。

 

―その店員さんにも感謝ですね。

 

ママさん ほんまですね。ただ、最強のカメラを手に入れたものの、カメラの知識がないから、光の加減とかもわからへん。とにかくバシバシ撮りまくってたら、だんだんと「このタイミングで、この角度で撮れば可愛く撮れんねんや」って見えてきました。

三脚とかも使ってないんですよ。クッションを積み上げて、絶妙なバランスでカメラを置いて。落ちたらどないすんねん!って思いながらも、今日までやってきました(笑)。

 

横山 本の撮影でカメラマンさんとママさん宅にお邪魔したんですけど、本当に難しいんですよ。奇跡の一枚を撮るために、1カットで2時間以上かかりました。でも、「ママさんがInstagramで撮影した写真以上のものを、プロである自分が撮れないのはマズイ」ってカメラマンさんに火がついてしまって。ママさんの愛情には負けるけど、愛を超えるプロの技があるはずだ!って、一心不乱に撮影されてました(笑)。

 

ママさん プロの写真はさすがやなって感動しました。特に、総扉のページをめくってすぐの写真は、見るたびに泣けてきます。私には撮れない写真です。

可愛さの中にどこか凛々しさも感じる、カメラマン渾身の一枚

お断りの返信から、まさかの出版に至るまでのなんともユニークなお話が聞けました。次回はいよいよ、くまくんが料理をしている撮影現場に潜入した様子をお伝えします。

 

▶くまくんのレシピ本について詳しく知りたい人はこちら

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

実はソース焼きそばは戦前からあった!? 全国1000軒以上を食べ歩いた焼きそばマニアがそのルーツに迫る!~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。正直言って見た目は今ひとつ。高級な食材が入っているわけでもなく、食感もモグモグ。それでも夏祭りで無性に食べたくなるのが屋台の焼きそばでしょう。

 

プラスチック容器にギュウギュウに詰め込まれている焼きそばを見ると、自然とテンションが上がります。みんなで少しずつ分けて食べられるのもいいですね。長い間、姿形も変わらず、嫌いという人はほとんどいない。ソース焼きそばは国民食といえるかもしれません。

 

なぜソースで麺を炒めたのか?

今回紹介する新書はソース焼きそばの謎』(塩崎省吾・著/ハヤカワ新書)。なぜ麺を醤油ではなくソースで炒めるようになったのかを軸に、ソース焼きそばの歴史に迫ります。著者の塩崎省吾さんはブログ「焼きそば名店探訪録」の管理人。国内外1000軒以上の焼きそばを食べ歩き、テレビ、ラジオなどメディア出演も多数。本業は実名口コミグルメサービス「Retty」のITエンジニアで、「焼きそば」も担当しています。

 

 

最古のソース焼きそばは大正の浅草!?

本書は電子書籍『焼きそばの歴史』の上巻を加筆修正して新書版として改訂したもの。第1章は「ソース焼きそばの源流へ」。ソース焼きそばは長年、戦後の大阪・ヤミ市が発祥というのが通説でした。しかし、ここ10年ほどでその説に異が唱えられ、戦前にソース焼きそばが存在していたことが当時の小説や露天商売の指南本から明らかになったそうです。戦前から東京・浅草界隈ではソース焼きそばが食べられていたとは驚きですね。

 

焼きそばを食べ歩くのが趣味の塩崎さんは、その起源や伝播を解明するため、老舗を訪ねているそうです。戦前からソース焼きそばを提供しているという浅草周辺の老舗3軒「浅草染太郎」「大釜本店」「デンキヤホール」。当時から本当に”ソース焼きそば”は存在したのか? お店の方の証言と昔の文章、随筆などを検証していくと……。

 

実はお好み焼きから派生したというソース焼きそばの起源をたどる調査は、歴史ミステリーのような読み応えがあり、引き込まれます。さながら、塩崎さんは焼きそば探偵といったところでしょうか。

 

第2章は「ソース焼きそばの発祥に迫る」。浅草の老舗「デンキヤホール」では、大正初期からソース焼きそばのメニュー「オム焼き(ソース焼きそばを薄焼き玉子で巻いたもの)」を出していたという証言を得た塩崎さん。当時の中華麺の入手方法や仕入れ価格などを検証していると、明治時代以降の日本の近代化にまつわる裏側が見えてきました……。ソース焼きそばという切り口から話は意外な方向へ。

 

第3章は「戦後ヤミ市のソース焼きそば」、第4章は「全国に拡散するソースの香り」。小麦文化とソース文化の両面から日本のソース焼きそばを深掘りしていきます。

 

グルメガイドではなく、食文化史研究本の力作。新書としてはかなりの厚みで、屋台の大盛り焼きそばのような満足感がありました。戦前の資料にも丁寧に目を通していて、著者のソース焼きそばに対する熱々の愛情がよく伝わってきます。

 

「鉄板で焦げるソースにも似た、むせ返るほど濃密で刺激的な歴史探究の成果を、存分にご堪能いただきたい」と塩崎さん。ラーメンはすでに海外でも行列ができるほど人気ですが、ソース焼きそばも100年に及ぶ歴史がある日本のソウルフードなのですね。

 

【書籍紹介】

ソース焼きそばの謎

著:塩崎 省吾
発行:早川書房

焼きそばと聞いて誰もが思い浮かべる、ソースの香り。世代を超えて親しまれてきたソース焼きそばは、いつどこで生まれたのか? 本書は、近代の食文化史において詳述されてこなかった“ブラックホール”に光を当てる興奮の歴史ミステリー。ソース焼きそばの通説であった「戦後誕生説」よりさらに遡り、追究の対象は第二次大戦前、大正、明治期へと展開。そこでキーワードとして浮かび上がるのは、明治政府の悲願でもあった「関税自主権」の回復と、日清製粉の前身である館林製粉から消費地・東京への製品輸送に深く関わった「東武鉄道」の存在。
国内外の焼きそばを1000軒以上食べ歩いてきた著者が、多数の史料をひもとき、全国の名店を取材して焼きそばのルーツに迫る。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

夏バテ、ストレス、睡眠不足……ストレスフルな世の中を生きる全ての人へおすすめの一冊『科学の力で元気になる38のコツ』

とにもかくにも、元気がない。この3年ほどで、そんな状態に悩んでいる人も多いのではないでしょうか? 職場環境や家庭環境の変化、お金の悩みや健康の不安、SNSやメディアの情報に疲れるなど、ストレスフルな社会になっていますよね。今回は“科学の力”で立証されているストレスを減らし、元気に過ごせる方法が掲載された『科学の力で元気になる38のコツ』(堀田秀吾・著/アスコム・刊)をご紹介します。

 

姿勢を伸ばすだけでストレスホルモンが減少!?

コロンビア大学で「堂々とした姿勢の被験者」と「縮こまった姿勢の被験者」にわかれてギャンブルをする実験をしたところ、堂々とした姿勢の人のほうが、リスクの高い賭けに好んで挑戦するという結果が出たそうです。 「たまたまじゃないの?」と思うかもしれませんが、科学的にも面白い結果が出たのだとか。

 

さらに被験者の唾液を調べたところ、堂々とした姿勢−−つまり背筋を伸ばした姿勢の被験者には、「テストステロン」という決断力・積極性・攻撃性・負けず嫌いなどに関係するホルモンの増加が見られました。

(中略)

それだけでなく、堂々とした姿勢のグループの人は「コルチゾール」というストレスホルモンも低下していました。

(『科学の力で元気になる38のコツ』より引用)

 

姿勢をシャン! とするだけで、自信が出てくる感覚ってありますよね。その感覚は、しっかりホルモンにも影響していたんです。最近は移動中の電車の中や自宅でのんびりする時もスマホを見ることが増えて、無意識に縮こまった姿勢になっていることも。なるべく堂々とした姿勢を意識してみると、元気に過ごせるかもしれませんよ!

 

マッサージをしてもらうと、ストレスが減って元気になる!

疲れたらマッサージへ行く人も多いかもしれませんが、実はそれ大正解だったんです! マイアミ大学の研究によると、マッサージによって先ほどご紹介した「コルチゾール」というストレスホルモンが31%も低下し、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンが28%増加、ドーパミンも31%増加する結果が出たそうです。マッサージは整体でも、指圧でもなんでもOKなんだとか。

 

もしかすると「あんまりマッサージは得意じゃない」という人もいるかもしれません。そんな時には、動物と触れ合うだけでもいいそうですよ!

 

ミズーリ大学のジョンソンとメドーズの研究ですが、19〜73歳の被験者に、犬とロボット犬のAIBOをさわらせて、被験者(そして犬)の血液を採取して調べたところ、生きている犬にふれたときは、セロトニン(他にもオキシトシンなども!)の増加が見られたとのことです。

(『科学の力で元気になる38のコツ』より引用)

 

最近は、猫カフェだけでなく色々な動物と触れ合える施設が増えました。家でペットを飼うことができない人でも、手軽にアニマルセラピーの効果を得られますよ。コロナ禍以降、人と会うことが億劫になっているなんて人も増えているようなので、まずは動物に癒されてセロトニンを増やして、少しずつ元気になっていきましょう!

 

楽しくなくても「フェイク・スマイル」で元気に!

最後にご紹介する元気になる方法は、一番簡単。マスク生活が続いて「笑う」ことが減った人も多いかもしれませんね。むすっとした顔をしているより、嘘でも笑顔でいたほうが楽しい気分を増幅させてくれるそうです。

 

マンハイム大学で、①ストローを吸うように口を丸めた被験者、②上下の前歯でペンを挟みペンに唇が触れないようにくわえた被験者、③手にフェルトペンを持った被験者の3グループに同じ漫画を読んでもらう実験をしたそうです。すると、②の被験者たちが、漫画を一番面白く感じていたという結果が出たのだとか!

 

事実、「フェイク・スマイル」の習慣がある人とない人とでは、発する雰囲気……俗っぽくいえばオーラが違ってきます(「つくり笑顔」と表現すると、ネガティブな印象がしてしまうので、本書ではこれを「フェイク・スマイル」と表現させていただきます)。

(『科学の力で元気になる38のコツ』より引用)

 

なんだか元気がないなぁ〜という時には、ニコニコしているだけでもいいかもしれません。ちょっとイヤなことがあったら、マッサージに行って元気になって、姿勢をシャンとして、フェイク・スマイルで過ごせば不思議とストレスも減ってしまうかも!?

 

『科学の力で元気になる38のコツ』には、これ以外にも元気になる色やテンションUP法、リラックスできる呼吸法や幸福度を高める方法など幅広く元気になるコツが紹介されています。どれもちょっとした習慣を見直すだけでできることばかりなので、難しいことはしたくない! という人にもおすすめ。一度きりの人生です! ストレスを減らして、楽しく過ごしちゃいましょう!

 

【書籍紹介】

科学の力で元気になる38のコツ

著者:堀田秀吾
発行:アスコム

世界の科学論文などで紹介されている科学的根拠(エビデンス)のあるもの、誰でも、どんな環境でも実践できる簡単なものの中から厳選し、「毎日を元気にしてくれる科学的ノウハウ」を全38項目ご紹介します。「あ、これは良いかも!」と思ったものから、ぜひ試してみてください。人生を元気に楽しむヒントが見つけられるはずです。

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あなたはこの謎が解けるか? 古今東西、読者を唸らせた密室ミステリー大集結~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。私はファンタジーの書評をメインにしていますが、ミステリーの紹介を頼まれることもあり、話題のミステリーには目を通しています。

 

孤島だったり、雪山の山荘だったり、ゴシックな館だったり……。ミステリーの舞台はどこかファンタジーに近く、独特の空気感が漂っています。いつか孤島の別荘でも買って、ミステリーに耽る夏を過ごしたいものです。いや、この夢は危険ですね(笑)。

 

エラリー・クイーン研究の第一人者が解説

 

今回紹介する新書は密室ミステリガイド』(飯城勇三・著/星海社新書)。著者の飯城勇三さんはミステリ評論家・翻訳家。特にエラリー・クイーン研究の第一人者として知られています。『エラリー・クイーン論』(論創社)、『本格ミステリ戯作三昧』(南雲堂)、『数学者と哲学者の密室』(南雲堂)で本格ミステリ大賞・評論部門を三度受賞。星海社新書から『エラリー・クイーン完全ガイド』を刊行しています。

密室という小宇宙の魅力

本書は密室ミステリーの名作50作を歴史順に追うというブックガイド。そこに大きな工夫が加わえられています。

 

前半の第一部は「問題篇」として、密室の概要と見取り図、作品のあらすじと解説が見開き2ページにまとまっています。名探偵のあなたなら、これだけでトリックを見破ってしまう……というのはさすがに無理でしょうが、どのような仕掛けが施されているのか、あれこれ考えられる作りになっています。

 

密室ミステリーの幕開けは、元祖推理小説でもある『モルグ街の殺人』(エドガー・アラン・ポー)。パリのモルグ街で起きた母娘殺人事件。現場となったアパートメントの4階にある2室は施錠され、表側の窓からは誰も出ていないことが証言からわかっています。そして裏側の窓は内側から釘付けされていました……。果たして密室の真相は?

 

『ニッポン樫鳥の謎』(エラリー・クイーン)、『本陣殺人事件』(横溝正史)、『すべてがFになる』(森博嗣)……など、海外20作&国内30作の計50作は傑作揃いで、本好きならば読んでいる作品も多いでしょう。それでも改めて、その密室構造の秀逸さに注目させられます。思えば『姑獲鳥の夏』(京極夏彦)は登場人物たちのクセある存在感と妖怪談義に魅了されっぱなしでしたが、ある種の密室ものでもありました。

 

装置といえる大掛かりなものから、ごくシンプルなトリックまで、密室の歴史をたどりながら比べることで、また違った景色が見えてきます。

 

そして第2部は「解決篇」。なんとネタバレありで、その密室トリックがいかに優れているかが解説されていきます。

 

コラム「密室はどう作られる?」「密室はなぜ作られる?」も読み応えがあり、次点50作リストも短評付きでミニガイドとして役立ちます。何しろ、密室トリックを含む各作品の本質的な面白さが見開きにギュッと閉じ込められていて、パラパラめくれる気安さと中身の濃さには脱帽です。

 

現実世界には密室殺人はほとんどないでしょう。密室とは現実から切り離された異世界であり、部屋というほぼ最小単位で構成されたエレガントな小箱。それを作り出しているのが犯人であり、異世界というタブーを阻止するのが探偵である。密室ミステリーの犯人が魅力的に思えるのも、これが理由かもしれません。

 

【書籍紹介】

密室ミステリガイド

著:飯城勇三
発行:星海社

〈密室〉の独奏と変奏の歴史を辿る本格ミステリガイド!

密室ミステリ、それは本格ミステリというジャンルにおける最長・最大のテーマです。先行する作家が生み出した密室トリックをジャンピングボードとし、後続する作家が更なる斬新なトリックやバリエーションを追究するーーその連鎖により、古今東西で数多の密室ミステリの傑作が生み出されてきました。本書では、密室の独創と変奏の歴史を確かめるべく、『モルグ街の殺人』から始まる海外20作+『本陣殺人事件』から始まる国内30作の密室ミステリ・ベスト50をセレクト。問題篇ではネタバレなし・すべて図版付きで紹介し、解決篇ではネタバラシして考察します。新たな〈密室〉の可能性を切り拓くため、密室の歴史をこの本と共に駆け抜けましょう!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

 沼落ち確定!人を虜にする「くま」の料理レシピ本、担当編集に聞いた奇跡の出版ストーリー

7月13日、ちょっとユニークな本が発売されました。その名も『ぼくはくま、特技はせん切りやねん!!!』。著者は「くま」。くまが料理を作り、その手順を解説したレシピ本です。「くまが料理」って、一体どんな本なの? というわけで、発売前からSNSがざわついていた本書ですが、今回は編集担当の横山由佳さんを直撃取材。くまのレシピ本が誕生するまでのストーリーを教えてもらいました!

 

賛否両論、出席者が騒然となった販売部会議

―各方面で話題のくまくんのレシピ本が、ついに発売になりました。まずはどんな本かを教えてください。

↑7月13日発売の『ぼくはくま、特技はせん切りやねん!!!』

 

横山 一言でいうと、Instagramで絶大な人気を誇るくまくんが著者のレシピ本です。愛らしい動きとポージング、躍動感のある写真、おいしそうな料理、そしてしゃべると関西弁!というギャップに、沼入りする人続出なんです。

 

―横山さんは、何がきっかけでこのくまくんを知ったのですか?

 

横山 料理編集部アカウントでInstagramを見ていたら、おすすめに上がってきたんです。「ぬいぐるみのくまも料理するんだ……」と衝撃を受けました。ただ、意外性がありすぎて企画を出しても通せる気がしないし、無理かな~とそのままにしていたんですね。

 

それが去年の夏にくまくんがトウモロコシを食べている動画 を見て、もう可愛すぎてこれは我慢できないと!(笑) ダメ元で企画を出してみることにしたんです。

↑真っ先にくまの虜になった横山さん

 

―とは言え、くまのレシピ本なんて前代未聞かと……。会議での反応はいかがでしたか?

 

横山 それが、編集会議はすんなり通りまして。レシピもしっかりしていて誰でも挑戦しやすいし、他に類書がないし、いいんじゃないか。ただ、著者が人間じゃなくて「くま」だという点だけがネックでした。

 

次なる関門は販売部との会議。普段から全国の書店さんやネット書店さんとやりとりをして、本の売れ行きや動向をチェックしている販売チームの面々が参加する会議です。ここで「売れない」と判断されたら、企画はボツになってしまいます。

 

恐る恐る提案したところ、やはり賛成と反対で喧々諤々となりました。賛成意見としては、固くファンがついている属性の人(くま)を逃すのはもったいない、というもの。当時のくまくんのInstagramフォロワー数は約5万人でしたが、ぐんぐんフォロワー数を伸ばしていたんですね(7月14日現在で12.4万人!) 。しかも、いいねがつく率がフォロワー数の1割という驚異の数字で!

 

一方で、反対の意見は「くまが作るレシピ本」なんて他にないので、書店さんのどの棚に置いてもらうのか想像できない、読者に受け入れられるかも想定できない、賭けのような企画だから慎重に考えたいというものでした。

 

―賛否両論とは言いつつも、ハッキリとは反対されなかった?

 

横山 うーん……どうでしょうか(苦笑)。「くまも面白いけど、普通に人の企画を作ってほしい」という意見もありましたから。ただ、絶対にNG! という雰囲気ではなかったので、ホッとしました。

 

ひとまず、くまくんのライセンス元に確認しないと話が進まないということになり、次なるステップ「くまくんの身元捜し」へと駒を進めることになりました。

 

この子はどこのくま? 決死の身元探索

―くまくんのママさんに聞けば身元はすぐに判明しそうですが、これが難しかったと聞いています。

↑この子は一体どこのくま?

 

横山 もともとは某スーパーのキャンペーン賞品だったらしいのですが、かなり前のものなのでスーパーに当時の担当者がおらず。仕入れ元の会社名だけ教えてもらえました。ただその会社が、一般には連絡先を公開していなくて。しかも本社が海外で、サイトにアクセスすると、突然外国語のページに飛んでしまうという(苦笑)。

 

どうしたものかと一か月くらい足踏みをしていたところ、販売部のスタッフが「あのくまの企画は、いつになったら進められるんですか?」と突然プレッシャーをかけてきまして。通常、販売部からそのような催促が来ることってないんですよ。よくよく聞いてみると、その販売部の担当者は会議の時点でくまくんの大ファンになっていたようで、どうしても企画を進めたかったそうです(笑)。

 

そこで、私のスイッチが再度入りました。血眼になっていろいろなサイトを探していたら、一か所だけECサイトで販売しているところを発見。すぐに連絡をして、ライセンス元の会社と話したいと伝えたところ、連絡先を教えてくださいました。

 

―これでめでたく、身元判明!

 

横山 ……とはいかなかったんです! こちらの写真などを送り、Instagramのアカウントも伝えたのですが、「そのくま、本当にうちの子ですか?」って半信半疑のお返事をいただき(苦笑)。というのも、手に入れた当初と今とでは、見た目があまりにも変わってしまっていたんですね。

↑左が今から5年前のくま。右が最近のくま。確かに毛並みや色が違う……!

 

そこで、くまくんとママさんに東京まで来てもらって、身元確認のためにライセンス会社に出向きました。そこでくまくんの身体検査をした結果、「この子は、うちのくまで間違いありません」と言っていただけました。決定的な証拠となったのは、足の裏。肉球の形がちょっと特徴的だったので、これは間違いないですと。

↑証拠となった足の裏

 

こうして、ようやく身元確認が取れて、最終段階である役員会議まで進める運びとなりました。

 

ちなみに、このくまくんの足の裏エピソードが感慨深すぎて、総扉に足跡を載せちゃいました。

↑無事に書籍を発売できたのも、この足跡のおかげ

 

まさかの社長大絶賛!晴れて出版化が決定!

―最後の砦である役員会議はどうでしたか? なんとなくピリピリした雰囲気を想像してしまいますが……。

 

横山 ここまで苦労して進めてきたけれど、役員会議でNoと言われる可能性も十分あったので、ものすごく緊張して企画&プレゼンをしました。そうしたら、なんと大絶賛で! 社長から「横山さんからこういう企画が出てくるなんて喜ばしいです!」とコメントをいただいてしまいました(笑)。

 

―なんと! 満場一致という感じでした?

 

横山 そうですね、他の役員の方も「面白い企画だね!」と言ってくださって……混乱が起こるだろうと覚悟していたんですが、最後の最後でスルッと企画が通ってしまいました。

↑ミンナ オレノ トリコヤネン!!!

 

今回すごく思ったのが、このくまくんと関わった人はみんな夢中になってしまうということです。いまや料理編集部内はもちろん、販売部、社長や役員、他の編集部にもくまの大ファンがたくさんいるんですよ。しかも、若い女性スタッフだけじゃなくて、40代50代の男性にも熱狂的なサポーターがいます。そして、なんとかこのくま本を盛り上げようと、各方面で尽力してくださっています。なにか人を惹きつける不思議な力があるのかもしれません!

 

こうして、くまのぬいぐるみが著者という他に類を見ないレシピ本は、めでたく発売に向けて動き出したのでした。次回は、通った企画を持ってくまのママさんにアタックしたエピソードをお伝えします。

 

▶くまくんのレシピ本について詳しく知りたい人はこちら!

https://one-publishing.co.jp/boku-ha-kuma/

 

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

 

若者の読書離れは本当か? 実はV字回復していた10代の読書、その真相は?~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。「若者の○○離れ」は、もはや言われ過ぎてちょっとしたギャグみたいになっていますよね。「若者のお酒離れ」「若者のクルマ離れ」「若者の恋愛離れ」「若者の旅行離れ」……。なかには「若者のリンゴ離れ」「若者の若者離れ」なんていう文言も見かけました(笑)。

 

今の若者は仙人か、と思ったりもしますが(笑)、たいていの場合「だから今の若者はダメなんだ」という含みがあるのがこの「○○離れ」構文の嫌味なところ。よくリサーチをせずにイメージで言っているだけのケースも多いのではないでしょうか。

 

10代の読書を分析してわかったこと

 

さて、今回紹介する新書は「若者の読書離れ」というウソ 中高生はどのくらい、どんな本を読んでいるのか』(飯田一史・著/平凡社新書)。著者の飯田 一史さんはライター。マーケティング的視点と批評的観点から、ウェブカルチャー、出版産業、子どもの本、マンガ等について取材、調査、執筆を行っています。著書に『いま、子どもの本が売れる理由』『ウェブ小説の衝撃』(以上、筑摩書房)、『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』『ウェブ小説30年史』(以上、星海社新書)などがあります。

読書率がV字回復した理由とは?

まず第1章「10代の読書に関する調査」では、読書に関するさまざまなデータを分析していきます。すると浮かび上がってくるのは、意外な事実でした。

 

全国学校図書館協議会が毎年行っている「学校読書調査」の推移を見ると、1980年代から1990年代にかけて本離れが進み、1990年代末には平均読書冊数と不読率は過去最低レベルに……。しかしここで底打ちし、2010年代には小学生の平均読書冊数は過去最高を更新したというのです。つまり、若者はいったん読書離れしたあと、しばらくしてV字回復したことになります

 

その背景にあるのは、1990年代から官民連携した読書推進の動きが本格化したため、と飯田さん。小中高校で10分間程度読書する「朝の読書(朝読)」も浸透し、朝の読書推進協議会が発表した2020年の実施率は全国の小学校の80%、中学校の82%、高校の45%となっているそうです。

 

1章では、児童書の堅調ぶりと隆盛を誇ったライトノベルの不振……など現在の出版市場を解き明かす分析も読みどころ。Tiktokでの本紹介動画の影響力、いわゆる「Tiktok売れ」の真相を探る項も興味深いものがありました。

 

2章以降はこうした全体の傾向を踏まえて、10代に支持されている個別作品に迫っていきます。太宰治『人間失格』が根強く読まれる理由とは? 廣嶋玲子『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』の児童書としての異色性、20年を超えるロングセラー・時雨沢恵一『キノの旅』の特別な存在感……。これらの作品が満たす、10代が求める三大ニーズとは?

 

データや数字を的確にとらえる分析力と、作品の本質を掴む書評眼の双方が活かされている一冊。いわゆる“Z世代”を知る世代論としても、売れている本の理由がわかるビジネス本としても読み応えがある内容です。読書とは何か、物語とは何か、そんな深いテーマも隠れているように思います。

 

結局「若者の○○離れ」とは、その言葉を使う側が若者から離れているという証拠なんでしょうね。

 

【書籍紹介】

「若者の読書離れ」というウソ 中高生はどのくらい、どんな本を読んでいるのか

著:飯田 一史
発行:平凡社

この20年間で、小中学生の平均読書冊数はV字回復した。そんな中、なぜ「若者は本を読まない」という事実と異なる説が当たり前のように語られるのだろうか。各種データと10代が実際に読んでいる人気の本から、中高生が本に求める「三大ニーズ」とそれに応える「四つの型」を提示する。「TikTok売れ」の実情や、変わりゆくラノベの読者層、広がる短篇集の需要など、読書を通じZ世代のカルチャーにも迫る。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

成田空港をナウマンゾウが練り歩く!? 新レーベル・ハヤカワ新書で古生物が出現する日本を夢想する~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。新書好きには嬉しいニュースがありました。早川書房から「ハヤカワ新書」が創刊されたのです。同社の新書は2010年に終了した「ハヤカワ新書juice」以来13年ぶり。

 

新書は出版社ごとに、自然科学系が得意、時事ネタに強いなど少しずつカラーに違いがあります。版元の早川書房によれば、特色である「SFやミステリの視点も生かした新しい切り口によって、読書の楽しみを更に広げる書籍を企画していきます」とのこと。ハヤカワ新書がどういった新書レーベルに育っていくのか、今後のラインナップが楽しみです。

 

サイエンスライターが古生物大国・日本を空想!?

 

さて、今回紹介する新書は古生物出現! 空想トラベルガイド』(土屋 健・著/ハヤカワ新書)。著者の土屋 健さんはサイエンスライター。科学雑誌「Newton」の編集記者、部長代理を経て、現在はオフィス ジオパレオント代表。特に地質学、古生物に造詣が深く、著書に『リアルサイズ古生物図鑑 古生代編』(技術評論社)などがあります。

ナウマンゾウは現代日本でどう暮らす?

本書前半の「“あちら”の世界」では、今は化石でしか見られない古生物が、時空を歪める霧によって現代に出現したら……という、古生物が観光資源としても活かされている“ifの日本”のトラベルガイドになっています。

 

エピソード1は「千葉県――多様な古生物が出現する房総半島」。成田国際空港には「ゾウ注意灯」が設置されています。空港の滑走路に霧が現れると、ゾウ注意灯が点灯し、上空の航空機は待機状態に。歩いてきたのは肩の高さが2.7mほどもあるナウマンゾウの群れ。滑走路をゆっくりと30分ほど歩いて、再び霧のなかに消えていきます……。

 

こんなリアルな空想が披露されていくのです。成田国際空港ではその様子を中継し、「ナウマンゾウに会えるかもしれない国際空港」として観光客も微増しているとか!? 飛行機とナウマンゾウの組み合わせはロマンに満ちていますね。

 

ほかにも、群馬県では神流町の鯉のぼり祭りに恐竜スピノサウルスが顔を出し、福井県の苔寺として知られる白山平泉寺では境内をフクイサウルスやフクイティタンなど多くの恐竜がのし歩く。大阪・造幣局近くの大川には桜の季節に10m以上のナガスクジラが泳ぐ……。「観光地×古生物」という想像力を刺激する、ありえざるコラボの数々。マンガ風のイラストが小さくモノクロなのが少々惜しまれるところです。

 

後半の「“こちら”の世界」では、なぜそのような光景になったのか、各地の博物館の学芸員に取材して得られた情報を解説するパートになっています。たとえば成田国際空港の北方に位置する成田市猿山では、実際にナウマンゾウの化石が発見されているそうです。

 

古生物が“出現”した観光名所と、元ネタとなった化石がある博物館が地図入りで紹介され、実際に足を運んで空想の源を確認できる作りになっています。

 

それぞれの古生物を詳しく説明した「生き物本」というよりは、日本のあちこちで多様な古生物が暮らしていたという驚きの事実を鮮やかに伝える一冊。化石好きは旅先でこうした空想をするそうですが、なるほど、脳内ARともいえる、古生物が身近に生きる姿は心を強く惹きつけます。

 

化石に関するうんちくも豊富で、博物館に行って学芸員さんの話を聞いている気分。「時間とページの都合」で、取り上げられているのは神奈川県、北海道、福井県など9道府県。全国版も待たれるところです。

 

【書籍紹介】

古生物出現! 空想トラベルガイド

著:土屋 健
発行:早川書房

公園でナウマンゾウと散歩、潜水艇でアンモナイト見物。日本は古生物天国(パラダイス)だ! 今は化石でしか見ることのできない古生物が、もしも現代の日本に蘇ったとしたら、どこでどのように暮らしているだろうか? ナウマンゾウやカムイサウルスが街を闊歩し、翼竜が空を飛ぶ、そんな「もしもの世界」を旅してみよう。架空の旅のガイドブックを通して、北の古生物天国・北海道から、おなじみ恐竜王国・福井、さらには関東、中部、近畿まで、化石の発見が相次ぐ古生物天国・ニッポンの魅力を味わい尽くす。想像力をかき立て、早速本書を携えて古生物と“触れ合う”旅に出たくなる一冊。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

最高のコミュニケーション術は『京都人』が持っていた!?『エレガントな毒の吐き方』

筆者は独り言が多い。何かに対して毒づくときも、ほとんどの場合は言葉に出して言う。奥さんへのちょっとした文句もそうしてしまうので、思わぬタイミングでピックアップされ、決して要らなかったはずの言い合いに発展することもある。

 

アサーティブネスの形

筆者はアサーティブネス(自他を尊重した自己表現もしくは自己主張)を意識することが多いのだけれど、この概念を日々の暮らしの中で実践していくのはなかなか難しいことを知っている。ただ、言葉にできそうでできない思い—往々にしてネガティブな資質のものが多い—を抱え込みながら自分から折れることを繰り返していてよいわけがない。そういう思いは、きちんとした言葉として口にして、体の外に出さなければならないはずだ。

 

でも、独り言であれ目の前の誰かに向けるものであれ、ストレートな感情をそのまま言葉にしてぶつけるのも大人げないと感じてしまう。少しであっても弱毒化して、きれいに排出する方法はないだろうか。筆者と同じこんな思いを少しでも感じたことがある人に、ぜひとも読んでいただきたい本がある。

 

毒を吐くならエレガントに

エレガントな毒の吐き方』(中野信子・著/日経BP・刊)は、ひとこと言い返したい思いに応えてくれる一冊だ。しかも、ただ言い返すだけではない。関係性を壊したくない人を相手にしたシチュエーションに特化したノウハウを授けてくれるのだ。絶対的な軸として据えられているのは、京都(しかも洛中と呼ばれる中心部)に住む人々のコミュニケーション法にほかならない。それは、こういうことだ。

 

不快なことを見聞きすれば不愉快ですし、イヤなことをされたら気分が悪いのは当たり前のこと。その当たり前のことを、無視したり、抑圧したりして、なかったことにするのではなく、「エレガントな毒」として昇華しながら、自分の心も相手との関係性も大切にマイルドに扱っていこうという知恵が、京都人たちのイケズの中にはあるように思います。

『エレガントな毒の吐き方』より引用

 

そうそう。筆者が必要としているのはまさにこういうことなのだ。ならば、意識すべきは思いを弱毒化して排出するのではなく、昇華のプロセスを考えていく方法ということになる。

 

実践的な流れ

章立てを見てみよう。

 

1章 NOを言わずにNOを伝えるコミュニケーションが今こそ必要な理由
2章 [シチュエーション別] エレガントな毒の吐き方を京都人に聞きました
3章 「困った」「イヤだ」を賢く伝える7+3のレッスン
4章 科学の目でみる京都戦略
5章 ブラックマヨネーズに聞く! 京都人の驚異の言語センスと笑い

 

筆者はすぐに結論を知りたいタイプなので、まずは解決法と実践編である2章と3章を一気に読み切った。その後1章に戻ってから4章に進み、5章でまとめるという流れで読んでみた。筆者のようなちょっとクセのあるタイプの読者にも対応していただけている作りは、とても親切だ。

 

Q&Aでバーチャル体験

2章は例題演習といった趣で、さまざまなシチュエーションにおけるQ&Aで構成されている。

 

Q1 関係がそれほど深くない人から、無理な依頼をされて断りたい。どのように返す?

①「今、いそがしいのでごめんなさい」
②「いえ、うれしいですけどちょっと。もっと合っている人を探しましょうか?」
③「けったいな人やなぁ」

『エレガントな毒の吐き方』より引用

 

もうひとつ。

 

Q4 忙しいのに、訪問客が長居して帰ってくれない。どう伝える?

①「このあと、用事があるんですよ」
②「さ、長いこと付き合わせちゃってすみません。お忙しいのにありがとう」
③「あんた、今日はぶぶ漬け狙ってはるんか?」

『エレガントな毒の吐き方』より引用

 

それぞれのベストチョイスとその理由は本書で確かめていただきたい。また、第3章ではやんわりはっきり、そして賢くNOと伝える方法を教えてくれる。これって、まさに筆者が理想とするタイプのアサーティブネスじゃないか! 紹介されているレッスンは7つある。

 

①「褒めている」ようにみせかける

②「(遠回しな)質問」で相手自身に答えを出させる

③自分を下げる「枕詞」を入れて断る

④オウム返し質問で受け流す

⑤証拠のない第三者を引っ張り出す

⑥知っておくと便利な4つのキラーフレーズ

⑦褒められて居心地が悪いときは「受け入れて、流す」

 

上級編も準備されているが、それは7つの基本レッスンをしっかりこなしてから取り組みたい。

 

新しいロードマップ

東京と京都のコミュニケーションの質の違いを、「世界におけるアメリカ、日本における東京」というスケールに置き換えて見せてくれるのも興味深い。5章では、語られてきたすべての内容を京都人であるブラックマヨネーズに落とし込んで、お二人の実体験から検証できるようになっている。

 

この本は、アサーティブネスに関しての明確なロードマップとなってくれる。モヤモヤしているだけの自分にはさよならして、エレガントに毒を吐きまくろう。日常生活で、「自分がこの場さえ我慢すれば」と感じる場面も確実に減っていくはずだ。

 

【書籍紹介】

エレガントな毒の吐き方

著者:中野信子
発行:日経BP

脳は、「打ち負かしたい」「論破したい」ものー冷たくざらついた本音を言って、傷つけ合うコミュニケーションをとるのではなく、あたたかくやわらかな嘘で相手をしずかに見下し、思いやりながら距離をとる。そうすれば、事情が変化した、まさにその時、切らずに、あいまいな形で塩漬けにしておいた関係性を、コストもリスクも最小限に抑えた形で再構築できるはずー。NOを言わずにNOを伝える“大人の教養”を、一緒に身につけてみませんか。

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奇跡のゲーセン「ゲーセンミカド」の店長が語ったゲームセンターの歴史と人生~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。みなさんにとってゲームセンターはどのような場所ですか? 私はまだ不良が実在し、「カツアゲ」なんて言葉が現役だった時代にビクビクしながらゲームセンターの隅に座っていました。お化け屋敷と「狂ったお茶会」を足したようなイメージ。最近の、UFOキャッチャーがひしめき、音ゲーで賑わっている光景を見るとキラキラと眩しいですね。

「ゲーセンミカド」店長が語るゲーセン史

さて、今回紹介する新書は『ゲーセン戦記-ミカド店長が見たアーケードゲームの半世紀』(池田稔・著、ナカガワ ヒロユキ・聞き手・構成/中公新書ラクレ)。著者の池田稔さんは個性派ゲームセンター「ゲーセンミカド」の経営者兼店長。小学生のころからゲームセンターに通い、高校卒業後には店員として働き始め、2006年には自らが経営する「新宿ゲーセンミカド」を立ち上げました(現在同店は閉店)。2023年現在「高田馬場ゲーセンミカド IN オアシスプラザ」など3店舗を構えています。

 

聞き手・構成のナカガワヒロユキさんはライター。著書にバーチャファイターのプレイヤーレポ『TOKYOHEAD NONFIX』などがあります。『愛についての感じ』『キッズファイヤー・ドットコム』などで知られる小説家・海猫沢めろんさんの別名義でもあります。

「伝説のゲーセン」の興亡

ゲーセンミカドといえば「伝説のゲーセン」「ゲーセンの聖地」として、国内外問わずゲーマーに知られた存在。レトロゲームが並ぶマニアックなラインナップと、ゲーム大会やイベントを毎日開催し、配信を行うエネルギッシュな企画力で支持されています。

 

「まえがき」には「いま、個人経営のゲームセンターは存亡の危機にある」とあります。そんななか、独自路線を打ち出して異彩を放つ店を作り上げた池田さんが、自ら体験してきた“ゲーセン史”を語っていきます。

 

第1章は「始まりから成熟の時代 1974-1996」。ゲームセンターがもっとも熱かった時代です。「ゼビウス」(1983年)をきっかけに始まった池田さんのゲームセンター人生。1991年、対戦格闘ゲーム「ストリートファイターII」に強い衝撃を受けます。本物の格闘技のようなスピーディな展開と複雑で豊富な技にしびれ、地元以外の大会にも遠征したという池田さん。

 

「知らない人同士が対戦する風景は珍しいものでわざわざ見にいく価値があった」。こうした池田さんの述懐は、私も同感です。私は新宿の「ゲームスポット21」で、格ゲーに熱中する人たちを見るのが好きで、やりもしないのに通っていました。あのころのゲームセンターはローマのコロッセウムに通じる道でした。

 

ちなみに、2台の筐体を背中合わせに並べた「キャビネット型対戦台」という配置は、シャイな日本人のために相手が見えないようにして対戦のハードルを下げた工夫で、メーカーではなく福岡のゲームセンターが発明したのだそう。そんな知る人ぞ知る裏話も本書には数多く語られています。

 

第3章以降では、2006年に「ゲーセンミカド」を開店した池田さんの奮闘ぶりも披露されていきます。新規客を狙った最新ゲームがことごとく赤字、新宿店の立ち退きを強いられて土壇場で決まった高田馬場への移転、当初否定的だった大会の無料配信を続けたことで変わってきた空気……。泥臭くも熱いエピソードは、ドラマ化してもウケそうです。

 

「ゲーセンミカド」で一番稼いでいる意外なゲーム、メダルゲームの利益計算法、UFOキャッチャーの景品原価率の実態など、経営の内幕も明かされているのがゲーセン店長の本ならでは。

 

そして何よりも、レトロゲームの大会を日々配信し続けるという、リアルとネット、過去と現在を巻き込んだ「場」を作り出した「ゲーセンミカド」の稀有な生存戦略は読み応え抜群。個人史という小さな視点が広がって、ゲーセン史の全体像、さらにはその陰の部分も見えてくる、そんな構成も光ります。

 

ゲームセンターはつらい現実を忘れさせてくれるオアシスのような場所、と池田さん。明日、ゲーセンにふらっと行ってみようかと思います。

 

【書籍紹介】

ゲーセン戦記-ミカド店長が見たアーケードゲームの半世紀

著:池田 稔
聞き手・構成:ナカガワ ヒロユキ
発行:中央公論新社

「ゲーマーの聖地」として国内外で名を知られる「ゲーセンミカド」。中小店が苦境に立たされる中、多彩なラインナップと企画力で愛され続けている。同店の池田店長が、数々の名作を振り返りながら現場のリアルを語る。『ゼビウス』『グラディウス』などシューティングブームの流行から、『ストリートファイターⅡ』『バーチャファイター2』など格ゲーの隆盛、経営の試行錯誤や業界への提言まで、ゲーセンの歴史と未来を描いた一冊。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

すべての社会問題は野菜が解決!? 「野菜投資」を提唱する『野菜は最強のインベストメントである』とは?

はっきり言うけど、これまでの人生で野菜が特別に“大好き”だった時期はまったくない。ブロッコリーだって、違和感なく食べられるようになったのは40歳を過ぎてからだ。

 

「野菜を食べよう」のコンセプトをあらゆる手法でエンタメに仕上げた

結婚する前の筆者の食生活は、朝は食べないことがほとんどで、昼と夜はひたすら茶色。大学の学食でも、最初の会社の従業員食堂でも、転職して通うようになった町中華の店でも、いろどりなんていうものとは無縁の食生活を送っていた。大きな変化が訪れたのは、フリーランスになって、家でご飯を食べることが普通になったころだ。今は、食生活の中心とまでは言えないけれど、昔と比べれば野菜をはるかに多く食べるようになっている。

 

野菜は最強のインベストメントである』(岩崎真宏・著/フローラル出版・刊)は、工夫が尽くされた作りの本だ。計算し尽くされた、とは言わない。作り手が面白がっているだろうことが実感できるから、あえて工夫というワードを使いたい。“クラフツマンシップ”という言い方も遠くないだろう。「野菜を食べよう」という地味なコンセプトを、ここまでのエンターテインメントに仕上げたプロセスには、さまざまなものが必要なはずだ。

 

第1章 野菜は最強の投資である

第2章 さあ、野菜投資を始めよう!

第3章 もう食べずにはいられない! 野菜だけが持つスーパー栄養素

第4章 野菜投資にレバレッジをかける

最終章 俺の話を聞いてくれ!

 

Q&Aという体で進む第1章、対談調で進む第2章、逆引き辞典風の第3章、そして対談調に戻る第4章。書き口、そしてフォントの級数まで変わりながら展開していくので、違う本を並べて読んでいるみたいな気になるから、目線が常に変わって飽きることがない。

 

驚きの振れ幅で野菜不足に持ち込む様はまるで野菜パンク

最初の項目に、次のような文章が記されている。

 

昨今の日本はさまざまな問題に悩まされています。いじめ・自殺・少子高齢化、そして、コロナに経済停滞。これらの社会問題はメティアで頻繁に見かけることと思いますが、その裏で着実に未来をむしばむ深刻な問題があります。それが『野菜不足問題』です。

『野菜は最強のインベストメントである』より引用

 

なかなかの振れ幅で読者の視線を本書の命題である野菜不足に持っていくあたり、これはもう確信犯だ。野菜パンクだ。でも、惹かれる。それは、読む側の人間が信ぴょう性を感じるからにほかならない。かなりの熱量で走り出したところで、2ページ後にはきわめて冷静な口調で野菜不足問題に関する事実が示される。

 

①量不足
忙しさやダイエットによる1日1〜2食の欠食。肉のみ野菜なしな食事により、1日350gという推奨量まで達していない。

②質不足
野菜購入時、価格重視で外国産を選んでしまう。昼のコンビニ・夜の外食など、質が低い+保存料など、さまざまな化学物質を含んだ野菜を摂取している。

③彩不足
野菜料理のバリエーションが少なく、いつも同じ色味の野菜を食べてしまい、バランスよく栄養補給できていない。

『野菜は最強のインベストメントである』より引用

 

野菜を食べる習慣を手に入れるためにもっとも必要なのは「喜んで、美味しく、進んで」野菜を食べること。著者の岩崎氏はそう語る。そして、われわれが抱いている可能性が極めて高い「野菜なんて」という思いは、ページを追うごとに徐々に小さくなっていく。

 

野菜を食べて健康リテラシーを上げていく

超有名投資家バフェット氏をもじったウォーレン・ベジットというキャラもしれっと出てきたりして、野菜を食べるということを自分の体への投資にたとえながら話が進められていく。これだけ手を変え品を変えて野菜への意識づけを行っていくプロセスの究極の目的は何か。それは、第4章に記されている次の文章から読み取れる。

 

これまでに紹介した野菜投資を始めてレバレッジをかける。というのは、確実な健康を手に入れる間違いのない方法です。しかし、健康ということをもっと深く深く考えた場合、本書に書いていることは、まだほんの入り口にすぎません。

『野菜は最強のインベストメントである』より引用

 

え? まだ入り口なの? 筆者と同じ思いを抱く人の数は決して少なくないはずだ。やる気も野菜も全然足りていない。世の中には、なんだかんだと理由をつけて結局手を付けないまま終わってしまうことがたくさんある。積極的に野菜を食べないというのも、そういうものを集めたリストのかなり上位に位置するんじゃないだろうか。

 

あえて岩崎氏の言葉に乗っかって野菜を食べて、健康リテラシーを上げていくことを強く意識してみるのもありだと思う。体の調子もよくなって頭も冴えるなら、野菜はまさに誰にとっても最強のインベストメントにほかならない。「今のままで本当にいいんですか?」—岩崎氏から直接尋ねられている気になる。

 

【書籍紹介】

野菜は最強のインベストメントである

著者:岩崎真宏
発行:フローラル出版

富のすべてはあなたの体と脳が生み出す。その体と脳を作るのが野菜投資である!

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木工の超便利ツールのガイドブック『トリマー&ルーター 木工の教科書』が6月28日に発売!

木工のレベルがみるみるレベルアップする超便利ツール「トリマー&ルーター」のガイドブックが6月28日(水)に発売開始!

 

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DIYの教科書シリーズの第2弾は「トリマー&ルーター」のノウハウを完全網羅

トリマー&ルーターは超高速で作動するビット(刃)が材を薄くスピーディーに削りとっていくため、加工面を非常になめらかできれいに仕上げてくれるのが魅力です。本書ではそんなトリマー&ルーターの基本から応用ワザまでを余すことなく紹介しています。巻頭から順に読み進めて実践することで、トリマー&ルーターの扱い方がおのずとレベルアップ! 木工テクニックの上達に役立つこと間違いなしの1冊となっています。

 

面取り、直線&曲線削りといった加工テクニックがマスターできる

材の角を削る面取りは、トリマーがもっとも得意としている作業になります。種類豊富なビットを駆使することで加工面に装飾性をプラスすることができ、ワンランク上の作品が誰でも簡単に作れるようになります。さらにガイドを使えば真っすぐな溝から曲線デザインまで、板材を自由自在に削り出すことも可能です。ここで紹介するテクニックが習得できれば、頑丈な大型家具も難なく作れるようになります。

 

惚れぼれするような複雑な継ぎ手作りがマスターできる

熟練した技が必要な継ぎ手すら、トリマーを使えば精巧に美しく仕上げることができます。ていねいに手順を踏んでいけば、誰でも高精度に作ることが可能。木工マイスターのようなクギやビスを1本も使わない継ぎ手だけの家具作りも、もはや夢ではありません。

 

トリマーの上位互換ともいえるルーターの使いこなし術を徹底解説

ルーターテーブルを導入すれば、多くの作業において、より正確かつ迅速な切削を可能にしてくれ、手持ちでは難しい細材の加工も行なえるようになります。より複雑なデザインのモールディング、框組み(かまちぐみ)の扉作りなど、ルーターワークでしか味わえない木工の醍醐味をぜひ楽しんでみましょう。

 

トリマー&ルーターを駆使した本格家具レシピ集を収録

巻末にはリビングルームで活躍する定番の木工作例、ローテーブル、ダイニングチェア、テレビボードの作り方を収録しています。それぞれ各章で習得したテクニックを存分に取り入れているので、トリマー&ルーターワークの熟練を目指すのにうってつけです。

 

 

“世界四大文明”はもう古い!? これまでの文明観を覆すマヤ文明のすごさ~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。最近は「ChatGPT」に聞けば何でもわかる時代ですが(実はそうでもないという話も……笑)、私が子どものころは地球はもっと謎やオカルトに満ちていて、徳川埋蔵金やヒランヤ、UMAやオーパーツにも興味津々でした。

 

マヤ文明も、オーパーツの「水晶ドクロ」や世界の終末を予言しているという「マヤ暦」などオカルト方面が有名で、よく考えてみると、実際のマヤ文明がどのような文明だったのかはぼんやり。「マヤ文明、名前は知っているけど……」という人は、この本がピッタリでしょう。

 

古代メソアメリカ文明がわかりやすく一冊に

今回紹介する新書はカラー版 マヤと古代メキシコ文明のすべて』(青山和夫・監修/宝島社新書)。監修の青山和夫さんは考古学者で茨城大学人文社会科学部教授。専門はマヤ文明学。古代アメリカ学会会長。『マヤ文明 密林に栄えた石器文化』(岩波新書)、『マヤ文明の戦争 神聖な争いから大虐殺へ』(京都大学学術出版会)など、マヤ文明に関する著書も多数です。

マヤ文明から文明の本質とは何かを考える

本書はマヤ文明を筆頭にアステカ文明など、メキシコを中心にした中央アメリカで栄えた「メソアメリカ文明」を紹介していきます。最近の教科書では、世界四大文明(メソポタミア文明・エジプト文明・インダス文明・黄河文明)とはあまり言わなくなったそうです。それはメソアメリカ文明とアンデス文明(インカ文明)が加わって世界六大文明という考え方が出てきたからだとか。

 

メソアメリカ文明は私たちの文明観を大きく揺り動かす新たな発見に満ちている、と「はじめに」に書かれているように、メソアメリカ文明とアンデス文明は、大河と鉄器がなくとも大文明になったというから驚き。昔、私たちが学校で教わった、文明は“大河の治水”により誕生したという常識を覆し、“豊富な食料”が重要というのは確かに納得です。

 

第2章は「マヤ文明」。メキシコ南東部とユカタン半島、グアテマラやホンジュラスにまたがるマヤ地域で栄えた文明です。

 

2020年にメキシコ・タバスコ州で発見された「アグアダ・フェニックス」遺跡は、マヤ文明最大かつ最古の公共建造物(南北約1400m、東西約400m)です。神殿ピラミッドや舗装道路、貯水池まで備えていたとか! 建造が始まったのは紀元前1100年ごろで、日本でいえば弥生時代ですから、これだけの施設が揃っているのはとんでもないことです。

 

「戦士の女王もいたマヤ」「空から神が舞い降りる劇場国家だったマヤ王朝」「日本語に近いマヤ文字」など、知らなかったトピックも盛りだくさん。

 

第3章は「サポテカ文明とティオティワカン文明」、第4章は「アステカ文明」と続き、これらをまとめてメソアメリカ文明が1冊でわかる仕組みです。

 

なんといっても本書のいいところは、アグアダ・フェニックス遺跡の3D画像や、サン・バルトロ遺跡(グアテマラ)のカラフルな壁画、チチェン・イツァ(メキシコ)のククルカン・ピラミッドなどが、各項目にカラー図版で掲載されている点。文字だけでは伝わりにくい遺跡や遺物の様子がよくわかります。

 

各見出しには読者の興味を引くようなキャッチーな文句がつけられていますが、下世話にならず、文章はプレーンで読みやすいのも好感が持てます。私もそうでしたが、マヤ文明とアステカ文明の違いがはっきりわかる人はほとんどいないでしょう。各文明を網羅的に把握できるのも本書の長所です。

 

鉄器が使われずとも、トウモロコシと黒曜石製の石器で栄華を誇ったメソアメリカ文明。文明の本質とは何かが見えてきます。

 

【書籍紹介】

カラー版 マヤと古代メキシコ文明のすべて

監修:青山和夫
発行:宝島社

6月16日から東京国立博物館で『古代メキシコ展』が開かれます。内容は「マヤ」「アステカ」「テオティワカン」の古代文明展です。本書は、本展開催に合わせ、メキシコ文明の全貌を明らかにする新書です。展覧会では、マヤの赤の女王の遺構や、アステカの大神殿、テオティワカンの三大ピラミッドが紹介されます。しかし、多くの日本人は、各文明の名前は知っているけれども、どんな文明だったのか、どんな歴史だったのかを知りません。そこで本書では、マヤとメキシコ文明をわかりやすく、ビジュアルもたっぷりに紹介します。歴史にもスポットをあてた一からわかるカラー新書です。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

読んでもとくに得るものはない。だが、それが最高にいい!『掟ポルシェのくだらないやつ』

2020年に定期刊行を終了し、ウェブ版へと移行された「TV Bros.(テレビブロス)」。私も社会人になった2008年からほぼ毎号購入していた雑誌で、隔週ごとの発売を楽しみにしていました。そんな中でも特に大好きだったのが掟ポルシェさんのコラム。めちゃくちゃくだらなくて、正直1回読んだら満足なのですが(笑)、真っ先に読んでしまうコラムでした。

 

今回は、テレビブロスに掲載されていた掟ポルシェさんのコラムをまとめた『掟ポルシェのくだらないやつ』(掟ポルシェ・著/東京ニュース通信社・刊)をご紹介します。

「単行本化は、ちょっとないですね」

テレビブロスは1987年に創刊された雑誌で、いとうせいこうさんと泉麻人さんが監修として入っていたと言われています。2週間分のテレビ欄が載っている、いわゆるテレビ雑誌ですが、その中身は尖った特集や著名人たちのコラムで溢れていて超斬新! 「テレビ欄が見たいから買う」のではなく「コラムを読みたくて買う」そんな雑誌でした。

 

私が読んでいたころにコラムを書いていたのは、星野源さん、清水ミチコさん、爆笑問題に岡村靖幸さん……幅広いジャンルの著名人が寄稿していて豪華なラインナップでした。いくつかのコラムは単行本化さたのですが、22年も続く掟さんのコラムはなかなか単行本化されず……。

 

担当編集者は3人代わり、その都度単行本化の話を切り出すも「……そもそも東京ニュース通信社は単行本の部署がないんですよ」と目線を一切合わせないようにして言い切られるのみ。ムック形式で何冊も出てんじゃん! 知ってるぞこの野郎! しかも東京ニュースの公式ホームページによれば2016年からは書籍の出版も開始してるし! うわわわぁあああああんんん、出せったら出せよ俺の本!!!

(『掟ポルシェのくだらないやつ』より引用)

 

と、「あとがき」に掟さん書いてありますが、ファンとしても、本書は待望の一冊なのです!

 

タイトル通り「くだらない」けど、それがいい!

掟さんのコラムで好きなところは、一回読めば満足! なところです(褒めてます!)。昨今のコラムは、じわじわと胸に響いたり、日常に新たな視点を与えてくれたり、読み返す中でヒントがあるなど、何かしら“得るもの”を求めがちですが、掟さんのコラムは違います。読んでも得るものはないですが、「くだらないなぁ〜(笑)」と自然と口角が上がってしまうのです。例えばこんなコラム。

 

もう、立ち直れないかもしれない……。母ちゃん、俺もうダメだ。「人を信じなさい」と教えてくれたけど、何度も信用しようとして、結局は嘲笑うかのような仕打ちをされるの繰り返し……。もう我慢の限界! 怒ってもいいよね、母ちゃん! よし、俺ブチギレるわ!

おいコラ、エースコック〜!! スーパーカップのかやくとかスープとかの袋の開け方、全部違うのなんでだ!?

(『掟ポルシェのくだらないやつ』より引用)

 

これは2012年に書かれたコラムなのですが、「わかりにくいでしょ!」「なんでマジックカットに統一しないの!」「袋に住所とか書かなくていい!」と、ず〜っと袋への文句しか綴られていません。よくもまあこんなくだらないことを……と笑ってしまうのですが、こんな文章は他に読んだことがないのでついつい読み切ってしまうんです! この高いテンション&ちょっぴりお下品な言葉に、年代・性別問わず「くだらないなぁ〜(笑)」と微笑みつつハマってしまうのです。

 

「不変」と「可変」を楽しむコラムが満載

『掟ポルシェのくだらないやつ』は、2001年から現在までに執筆されたコラムを5つのテーマでまとめています。ページ数はなんと320ページ! 「ちょっと読んでみるか」では終わらない一冊です。

 

分厚いし、文字数も多いのでちょっとハードルが高いと感じる方も多いかもしれませんが、どうか安心して購入してみてください。「くだらないなぁ〜」と笑っているうちに、さらっと読めちゃいますから(笑)。今や懐かしのバイトテロの話や、紅白歌合戦の考察、2000年代後半の攻めたテレビ東京などなど、読めば時代が蘇るそんなコラムが充実しています。

 

この22年間の間に、元号も変わり時代も大きく変化しましたが、掟さん自身は一切進化していません(褒めてます!)。そのため長い年月を経ても斬新で、面白いコラムが満載なのです。テレビをつければ悲しいニュース、SNSにはトゲトゲしい言葉の数々、人との交流も減ってきた今、人間の心を満たしてくれるのは掟さんの言葉かもしれない……。と、ちょっといいこと書きましたが、本の内容は本当にくだらないですし、女友達に「これ読んでみて!」とはちょっと貸しにくい一冊なので(笑)、こっそりケタケタ笑いながら楽しみたいと思います。

 

【書籍紹介】

掟ポルシェのくだらないやつ

著者:掟ポルシェ
発行:東京ニュース通信社

「掟ポルシェのダスきん多摩」「掟ポルシェのちゃんこダイニングぽるしぇ」「大切な思い出がツバまみれ」など、時代とともにタイトルを変えながら現在まで続く、TV Bros.連載コラム(Since 2001)が書籍化! 勢いまかせで、くだらない……そーゆー本もたまには、ね? “無のコラム”の巨匠・掟ポルシェの臭大成! 頭すっからかんで読もー。

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国境を越えた愛は幻だった!? 国際ロマンス詐欺の犯人に直撃したら……~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。人は恋をすると冷静な判断ができなくなってしまうもの。周りから「あの人はやめときなよ」なんて言われると、余計に燃え上がってしまうから厄介です。

 

かつては「結婚詐欺」、現在はネットだけで恋愛感情を抱かせ、お金をだまし取る「ロマンス詐欺」……。そういえば北欧神話では、戦いの神トールが美の女神フレイヤに化けて、結婚式で巨人スリュムを退治するというエピソードがあります。いつの時代も、色恋沙汰には注意ですね。

ノンフィクションライターがロマンス詐欺を追う!

さて、今回紹介する新書はルポ 国際ロマンス詐欺』(水谷竹秀・著/小学館新書)。著者の水谷竹秀さんはノンフィクションライター。2011年『日本を捨てた男たち』(集英社)で開高健ノンフィクション賞を受賞。『だから、居場所が欲しかった。バンコク、コールセンターで働く日本人』(集英社文庫)、『脱出老人 フィリピン移住に最後の人生を賭ける日本人たち』(小学館文庫)などの著書があります。

 

刺激的な愛の言葉には裏がある!?

新型コロナウイルスの発生を機に被害者が急増した「国際ロマンス詐欺」。独立行政法人国民生活センターによると、国際ロマンス詐欺に関する相談件数は、2019年度の72件から2020年度には678件、2021年度には1701件へと跳ね上がったそうです。

 

第1章「会ってもいないのに騙された」は、まさにネット時代だからこそといえるでしょう。関東地方で夫と4歳の息子と一緒に暮らしていた宮本香奈さん(仮名・37歳)は、ある日、英語の「ハロー! ビューティフル!」というメッセージをインスタグラムで受け取ります。

 

プロフィール写真は欧米系のイケメン。「アズニー」と名乗るその男性と最初は興味本位でやり取りしていた香奈さんですが、ほどなくして頻繁にLINEをする仲に。

 

「息子は元気かい?」と家族のことをいつも気にかけてくれる優しい彼は、やがて「今日のあなたはとても美しい。まるで天使が地球に舞い降りてきたみたいだ」という情熱的なメッセージを送ってくる……。

 

実は香奈さんのケースには、国際ロマンス詐欺を象徴するいくつものキーワードが登場していた、と水谷さん。別のメッセージアプリに移行する、家族を気遣うなどは共通するパターンとのことですが、なかなか巧妙ですね。

 

本書後半の第4章以降は、フェイスブックにメッセージを送ってきた「ジェニファー」と名乗る女性に、水谷さんが騙されたふりをして関係を進める……というスリリングな展開。プロフィール写真は端整な顔立ちで米海軍所属というジェニファー。しかしその正体は……。

 

被害者と詐欺犯の双方に取材をし、両面からロマンス詐欺の実態を探るという構成はルポルタージュの真骨頂。「なぜ?」「どうして?」「誰が?」、そんな真実を追っていく読み味はミステリー的でもあり、引き込まれます。

 

スキャンダラスな事件簿という域を超え、絶えなき承認への渇き、デバイス越しに完結する人間関係、犯罪のボーダレス化など、加速する現代的な事象をもとらえた一冊。ロマンスという日常にぽっかり空いた落とし穴にお気をつけ下さい……。

 

【書籍紹介】

ルポ 国際ロマンス詐欺

著:水谷 竹秀
発行:小学館

SNSやマッチングアプリで恋愛感情を抱かせ、金銭を騙し取る「国際ロマンス詐欺」の被害が急増している。なぜ被害者は、会ったこともない犯人に騙されてしまうのか。「お金を払わないと、関係が途切れちゃうんじゃないか……」。被害者の悲痛な声に耳を傾けると、被害者の心理に漬け込む詐欺犯の「手口」が見えてきた。そして取材を進めると、国際ロマンス詐欺犯は、西アフリカを中心として世界中に広がっている実態が明らかになってきた。著者はナイジェリアに飛び、詐欺犯への直撃取材に成功。彼らが語った、驚きの手口と倫理観とは――。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

特殊設定ミステリから海外文学の名作まで—— 歴史小説家が「ある基準」でオススメする「歴史時代小説」の5冊

毎日Twitterで読んだ本の短評をあげ続け、読書量は年間1000冊を超える、新進の歴史小説家・谷津矢車さん。今回のテーマは「歴史小説」。ただし、①歴史時代小説家ではない作家による、②広義の歴史時代小説、という条件が。普段「歴史時代小説」を敬遠している人にもオススメできる5冊を参考にして、あなたも新しい読書の扉を開けてみませんか?

 

【過去の記事はコチラ


この書評に目を通してくださっている多くの方はご存じないでしょうが、と予防線を張りつつ申し上げるのだが、わたしは歴史時代小説家である。

 

歴史時代小説は、大衆文芸の母胎の一つとなった伝統ある小説ジャンルである。歴史小説は現代でこそ退潮傾向にあるものの、多くの書店さんに置かれている書き下ろし時代小説の棚は今でも隆盛を誇り、読書界を賑わしている。

 

とはいえ、よく他のジャンルの本をお読みの方から、「どの作品から歴史時代小説に手を出せばいいか分からない」というお問い合わせを頂くことがある。ジャンル小説の常で、なんとなく敷居が高そうに見えてしまうのだろう。

 

歴史時代小説の定義を煎じ詰めると「過去を舞台にした小説」でしかなく、インサイダーであるわたしなどはそんなに構えなくてもいいのに……と思ってしまうのだが、ジャンルの壁は分厚く高いのは間違いがなかろう。かくいうわたしだって、不案内なジャンルについては先達が欲しくなるところである。というわけで、今回はいつもと趣向を変え、①歴史時代小説家ではない作家による、②広義の歴史時代小説、を取り上げようと思う。

 

<昭和>と<現代>を往き来しながら紡がれる「女性」たちの物語

まず、ご紹介するのは『世はすべて美しい織物』(成田名璃子・著/新潮社・刊)である。桐生の養蚕農家の娘として生まれた芳乃と、東京でトリマーとして働く詩織、二人の一見すると無関係にも見える物語が並列されるこの物語は、昭和初期と現代を視点が行き来する中で、二つの時代それぞれの女性の戦い、二人の願いがやがて一つの糸に縒られていくところに読みどころがある。

 

過去パートで描かれる願いが現代パートにも影響を及ぼす仕掛けとなっていながら、本書は現代パートにすべてを背負わせることをしない。過去に過去の生活があったように、現代にも現代の生活がある。そんなシビアな現実を描きつつも、大事な何かが過去パートから現代パートに受け渡されていくラストは必見である。

 

かつて、E・H・カーという歴史家が歴史について「過去と現在の対話」と言った。本書もまた「過去と現在の対話」によって構成された、広義の歴史時代小説なのである。

 

ミステリファン必見! 江戸を舞台にした「特殊設定ミステリ」

次にご紹介するのは『煮売屋なびきの謎解き仕度』(汀こるもの・著/角川春樹事務所・刊)シリーズである。ミステリ作家を多数輩出しているメフィスト賞出身作家によるこの作品は、江戸の煮売り屋を切り盛りする十四歳の女将、なびきを主人公に据えた時代小説である。

 

そう書くと、時代小説にお詳しい方は、最近流行の「ごはんもの×人情小説」か、と早合点なさることだろう。2023年現在、食べ物をモチーフに、人と人の縁を描き出す人情作品が人気で、数多の人気シリーズがあるのである。しかし、本書はそういった作品とは一線を画している。なんと本作は、なびきやその周囲を探偵役にしたミステリーなのである。

 

本書で描かれる事件や謎はごくごく些細な、小首を傾げてしまうような性質のもので、謎の真相も江戸時代ならではの事象が深く絡んでいる。本作は、江戸を舞台にした特殊設定ミステリ(その名の通り、特殊な設定下で展開されるミステリのこと)として構築されている節があるのである。そのため、本書は普段ミステリを読んでおられる方が時代小説に手を出すに当たり、これ以上ない水先案内人を務めてくれるだろう作品なのである。現在二巻と書き下ろし時代小説としても手を出しやすい。その点においてもおすすめの一冊である。

 

男の供述から浮かび上がるファシスト政権下における時代の閉塞感

次にご紹介するのは、『供述によるとペレイラは…』 (アントニオ・タブッキ・著、 須賀敦子・訳/白水社・刊)である。ファシズムの嵐がじりじり近づくポルトガル、リスボンの小さな新聞社で働く中年記者ペレイラを主人公にした小説である。

 

本書は始終、ペレイラの供述により本文が形成された事実が示唆され続ける。しかし、読み始めの段階では、なぜペレイラが供述を受けるような立場に陥っているのか、読者には伏せられている。ペレイラは毒にも薬にもならないはずの文芸欄を担当している新聞記者だからであり、プライベートも寂しく、本書の記述によれば、心身共に健康そうではない。かつては社会部の記者だったようだが、劇中年間においてはのんびりと働いているように見受けられる人物なのである。

 

こんな人物がなぜ?−−この「なぜ」に突き動かされるようにページを繰るうちに、ペレイラの直面する人々、時代、そして閉塞感が浮き彫りになっていく。次々に失われていく日常の中で、ペレイラは何を選び取り、供述を取られる立場となってしまうのか。それは、本書を読んでご確認いただきたい。いつも海外文学、海外文芸をお読みの方に。

 

王妃と市井の女性、複眼的視点で描かれる日本の植民地支配

次にご紹介するのは 『李の花は散っても』(深沢潮・著/朝日新聞出版・刊)である。戦前期、朝鮮王家に嫁いだ梨本宮方子(のちの李方子王妃)を主人公に置いた歴史小説である。李王朝家の王太子妃、王妃としての視座から、日本の朝鮮併合史、戦後史を描き出し、日本の植民地支配という歴史を間近に描き出している。

 

また本書がユニークなのは、方子の視点の他に、諸般の事情から朝鮮に渡り、朝鮮人として生きねばならなかったマサという女性の視点が存在することである。このマサの視点によって、上流階級の物語である方子の物語を相対化し、当時の時代相を多面的に再構築し、読者に提示することに成功している。このまったく境遇の違う二人の人生がどのようにリンクしていくのか――。歴史小説においてもっとも大事な「歴史へのパース感」を損なうことなく、いや、それどころか増幅させつつ、小説としての雅趣、面白みに寄与する視点構築を果たしていると言えよう。

 

架空の町を舞台にしながらも歴史の趨勢を見事に描いた「歴史小説」

最後にご紹介するのは『地図と拳』(小川哲・著/集英社・刊)である。直木賞受賞作であるから既にお読みの方もおられるだろうが、この選書テーマにあっては是非とも紹介したい一冊であるため、あえて紹介する。

 

本作は中国東北部(当時の言葉に直せば満洲)の架空の町を舞台にした年代記である。寒村に過ぎなかった地が開け、帝国主義の波に巻き込まれ、急ピッチで姿を変えていく町を活写しつつ、その町に生きる人々の群像を描く本作は、「歴史時代小説」という軸から眺めた際、史実が物語に深く関わる「歴史小説」なのか、それとも過去を舞台にした架空の物語である「時代小説」なのか、判断に困る作品でもある。

 

わたしの見解を申し上げるなら、架空の町、架空の物語が展開されていつつも、本作の銃口はあくまで「帝国主義」ひいては「近代」に向いており、架空の存在を書くことで歴史の趨勢を描き出そうという野心に満ちていることから、歴史小説として紹介しておきたい。見事な歴史小説である。

 

わたしは、一応歴史時代小説のインサイダーである。インサイダーというのは往々にして厄介ファン、厄介作者になりがちである。そして「これは歴史時代小説ではない」とジャンルの純粋性を叫び、煙たがれるのである。もちろん、そういう風な老害ムーブをぶちかましたい時もなきにしもあらずだが、それでも、歴史時代小説というジャンルの外側から新たな書き手がやってくるということは、それだけ斯界に求心力があり、面白いジャンルなのだと思われているのだ、とも言える。

 

これだけ歴史時代小説のアウトサイダーたちが面白いものを書いておられるのだ。インサイダーの端くれであるわたしも、もっと面白いものを書かねば。今回ご紹介した書籍を拝読しつつ、わたしはそう決意を新たにしたのである。

 

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【プロフィール】

谷津矢車(やつ・やぐるま)

1986年東京都生まれ。2012年「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞受賞。2013年『洛中洛外画狂伝狩野永徳』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』にて歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。最新刊は『ええじゃないか』(中央公論新社)

深刻なペットロス、いざという日のために備えていますか?~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。猫を飼い始めてまだ1年の新参者ですが、絶大的なアイドル時代は過ぎ、最近は猫のいる幸せをじんわり堪能しています。よく「ペットは家族」といいますが、私にはあまりピンと来ず、人生という旅の“良き相棒”という感覚です。

 

まだ1歳なので大げさかもしれないですが、早くも将来のペットロスに怯えています。といっても、命あるものはいずれこの世から旅立つ定め。スタートからゴールまで、一緒に歩める感謝と覚悟が同居する不思議な気持ちですね。

 

ペットロスを経験した著者が語る「その日」

今回紹介する新書はペットロス いつか来る「その日」のために』(伊藤秀倫・著/文春新書)。著者の伊藤 秀倫さんはライター・編集者。文藝春秋入社後、「Sports Graphic Number」「文藝春秋」「週刊文春」編集部などを経て2019年フリーに。ヒグマ問題やペットロスなど動物と人間の関わりをテーマに取材しています。

4か月経っても立ち直れない人が約4割!?

本書は伊藤さんの実体験から始まります。2020年5月、愛犬のミントを亡くした伊藤さん。いざ「その日」を迎えてみると、心と身体の反応は激烈で、ほぼ何の備えもできていなかったことを思い知らされたそうです。ほとんど固形物を食べられなくなったミントのために、食欲を刺激するものはないかとスーパーに立ち寄ってしまったばかりに最期に立ち会えず……。2日後にそのとき買ったカブを見て反射的に涙が出てしまった、と伊藤さん。

 

このできごとをきっかけに、伊藤さんは「ペットロス」について取材を始めます。第1章「『ペットロス』とは何か?」では、その定義と識者への取材がわかりやすくまとめられています。ヤマザキ動物看護大学の木村祐哉准教授の推計によると、日本での犬猫の年間死亡数は計約88万頭。

 

また、木村氏が行ったペットロスをテーマにした調査によると、死別直後で59.5%、4か月後でも40.7%の人が「医師の介入を要する精神疾患」のリスク群と判定された、とのこと。4か月経ってもその痛みが抜けないというのが、ペットロスの深刻さを物語っていますね。

 

もっとこうした取り組みが広がればいいのにと私が感じたのが、第7章「アメリカにおける『ペットロス』最前線」の例。欧米ではペットの死とどのように向き合っているのか? アメリカ・オレゴン州ポートランド在住の中田さんの体験がレポートされています。

 

愛犬を亡くして食事も喉を通らない日々が続いていた中田さん。友人から、動物病院が提供する「サポートグループ」を勧められます。そこでは同じ境遇の人が集まり、ファシリテーター(進行役)のもと座談会が行われます。週に1回行われるこの集まりに参加した中田さんにある変化が訪れます……。

 

このほか、カウンセリングを行う獣医師や精神科医への取材、45人の元飼い主たちへのアンケート、芸能人として悲しみを乗り越えた上沼恵美子さん、壇蜜さんへのインタビュー……。綿密な取材と多彩な切り口でペットロスの現実と、喪失への備えが記されていきます。

 

著者の伊藤さん自身がペットロスで苦しんだこともあり、より多くの人に知識や対処法を“伝えたい”という思いが文章からあふれています。知ることは備えの第一歩。また、それぞれの体験談からは、ペットロスの裏側にある強い愛情が伺え、温かい気持ちにもなります。

 

ペットロスに限らず、人は悲しみの淵からどう立ち直るのか、本書は人生の深め方のヒントにもなっていると感じました。私も相棒との毎日を大切に暮らしていきたいと思います。

 

【書籍紹介】

ペットロス いつか来る「その日」のために

著:伊藤秀倫
発行:文藝春秋

年間約36万人もいる予備軍。ペットロスとは何か?重くなりやすい人とは? なったらどうすれば? 和らげる方法は? 著者自身の壮絶な体験と綿密な取材にもとづく、ペットロスになる前もなった後も、まず読むべき一冊。

 

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

「あなたは今、幸せ?」正しい技術で幸せになれると説く一冊「幸福の達人」

あなたは今、幸せですか?

 

今の時代、胸を張って「はいっ!」と答えられる人はどれほどいるのでしょうか。私も正直、幸せより不安が優っているので、自信を持って答えられないなぁ〜と感じています。しかし、世の中にはハッピーオーラ全開の方もいますよね? 将来に不安を抱える私と、今ハッピーな人の間にはどんな違いがあるのか知りたい! そして、今よりもっと幸せになりたい!

 

今回はSNSでも大人気のTestosterone(テストステロン)さんと幸福学の第一人者である前野隆司さんが監修した『幸福の達人』(Testosterone・著、前野隆司・監修/ユーキャン・刊)をご紹介します。

誰もが幸せになれるって本当?

追加: 毎年発表されている『世界幸福度報告』は、各国1000人に「今の生活にどれくらい満足しているか?」を聞き、ランキングにまとめています。2023年、日本はちょっとだけランクアップして47位でした。ちなみに6年連続1位に輝いているのはフィンランド。サウナに長期休暇に、残業なしと側から見ても「幸せそうな国」のイメージがありますよね。フィンランドに倣って、残業しないでサウナ三昧なんてことはなかなか難しいですが、まずは自分が「幸せだな〜」と思える日々を過ごしてみたいもの。『幸福の達人』によると、幸せとは「主観的に自分が幸せであると感じられる状態」なのだそうです。どうしたら主体的に「幸せだ」と感じることができるのでしょうか?

 

幸せになることは料理や運転と同じで「技術」に近い。正しい技術を学んだり、繰り返し練習したりする必要はあるが、誰でもマスターすることができる。本書を読み、実践し、一人でも多くの人が幸せになれるよう、心から願っている。

(『幸福の達人』より引用)

 

幸せは技術! 『幸福の達人』には、誰もが簡単に実践できるよう、幸せになるためにやることリストが50個も掲載されています。私も今すぐ実践しなければ!(笑)

 

めっちゃ幸せな気持ちになれた!「2か月後の旅行を予約し、前払いする」

幸せになるためにやることリストは、「7時間寝る」「朝方人間になる」「テレビを見る時間を減らす」といった今日からできそうなリストばかり。それぞれにTestosteroneさんの元気になるメッセージと、前野先生による「幸福学」のデータが記載されており、手軽に実践しやすいのも特徴です。その中でも、私が実践して効果的だったものを2つご紹介します。

 

1つ目が「2か月後の旅行を予約し、前払いする」です。最初、そんなことで? と思っていたのですが、たったこれだけで毎日がめっちゃ楽しくなりました(笑)。どうやら未来に楽しみを作るのが幸福度アップに関わってくるようなのです。

 

1530人のオランダ人を対象に行われた調査によると、旅行中、つまり旅行そのものによって上昇した幸福度は、旅行終了後に長くても2週間で消失してしまったのに対し、旅行前の幸福度の上昇は最大で8週間も持続したのだという。つまり、旅行による幸福度の上昇の大部分は、旅行の最中ではなく、ワクワクしながら旅行の計画を立て、それを楽しみに日々を過ごすことから生まれると言える。

(『幸福の達人』より引用)

 

ちなみになぜ前払いするかというと、人間はお金を払うことを苦痛に感じるからだとか。旅行中に「支払う」回数を少しでも減らすために、ホテル代や交通費などかかるものは払っておくほうがよいそうです。

 

実践してみて感じたのは、旅行のための情報収集をしたり、行く人と連絡を取り合ったりする時間が本当に楽しかったということ。今まで無意識で準備していましたが、旅行に行くまでもこんなに楽しかったのか! とワクワク度合いが増しました。個人的にはライブや観劇など、旅行じゃなくても同じように幸せは感じられたなぁ〜と思います。とにかく先に楽しい予定を入れる! これだけでも毎日幸せな時間は増やせるはずですよ。

 

3日目頃から自然と散歩に行きたくなる「毎日5000歩以上歩く」

運動が体にいいことは誰でもわかりますが、毎日筋トレをしたりストレッチをしたりはハードルが高く、続けられない私です……(笑)。そんなだらしない私でも実践できたのが、2つ目にご紹介する「毎日5000歩以上歩く」。目安としては毎日10〜15分お散歩する程度なのですが、これをするとしないとでは、体と心の調子が全然違いました。一体なぜなのでしょうか?

 

ミシシッピ大学のグループが18歳から35歳の成人26人を対象に1週間、運動をさせず、1日当たりの歩数を5000歩以下に抑えてもらう、という実験をしたところ、特に制限をしなかった比較対象グループと比べ、生活満足度が31%も低下してしまったという。さらに、毎日の平均歩数が5000歩を切ると、不安や気持ちの落ち込みなどの症状が表れることもわかった。要するに、人間はじっとしていることが不得意な生き物なのだ。

(『幸福の達人』より引用)

 

みなさんのスマホにも万歩計がついていると思うので、一度平均歩数を見てみてください。意外と5000歩ならできる数字と感じられるはずです。天気の都合で毎日できなかったこともありますが、意識して5000歩歩くようにしたところ、体よりも心が気持ちよくなり「また歩きたい」と思えるようになりました。5000歩のために近所の知らないお店に行くのも楽しかったですよ!

 

『幸福の達人』には、今日からできる幸せになるためにやることリストが掲載されています。1つずつでも一気にでも、自分のペースで実践することで「幸せですか?」の問いに、自信を持って「はい!」と答えられるようになれるはず。読むだけでも元気になれる本なので、幸せになりたい人もそうじゃない人も、ぜひ一度手に取ってみてくださいね。きっと今日よりも楽しい明日が迎えられますよ!

 

【書籍紹介】

幸福の達人

著者:Testosterone(著)、 前野隆司(監)
発行:ユーキャン
累計40万部突破!『筋トレが最強のソリューションである』シリーズ最新作! Twitterフォロワー128万人のインフルエンサーが脳科学、心理学、幸福学から導き出した「幸せになるアクション」ベスト50を大公開!「TO DOリスト」方式をとっているので、明日からの行動をほんの少し変えるだけですぐに幸福度がアップします。
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ナメクジとカタツムリ、どちらが進化してる?「冴えない」生き物の冴えた生存戦略~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。生き物の世界は、「ナマケモノ」とか「アホウドリ」とか、身も蓋もないネーミングが意外と多いですよね。言葉や呼び名は時代に合わせて変わるもの。ボーイがウェイターになったり、アベックがカップルになったり、コール天がコーデュロイになったり……(コール天なんて今では「なんの天ぷら?」と思われそう笑)。

 

言い換えの理由はさまざまですが、ナマケモノも「ノンビリモノ」や「いやしモノ」なんて名前にするのもありかもしれません。

 

研究者が生き物の個性と進化に迫る

さて、今回紹介する新書はナマケモノは、なぜ怠けるのか? 生き物の個性と進化のふしぎ』(稲垣栄洋・著/ちくまプリマー新書)です。著者の稲垣栄洋さんは植物学者で静岡大学大学院教授。専攻は雑草生態学。農業研究に携わる傍ら、雑草や昆虫など身近な生き物に関する著述や講演を行っています。『植物はなぜ動かないのか』『雑草はなぜそこに生えているのか』(ちくまプリマー新書)、『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)など著書も多数です。

ナメクジとカタツムリ、人気者はカタツムリだけど……

人間からちょっと蔑まれている生き物たちを取り上げ、その生存戦略のすごさを解説していく本書。第1章は「『みっともない』生き物」として、冒頭にナメクジが取り上げられています。

 

確かに、マスコットキャラにもなるカタツムリとは違い、ナメクジは嫌われ気味ですよね。私もどちらかというカタツムリのほうに親しみが湧きます……。でも、殻があるカタツムリと殻がないナメクジはどちらが進化しているのか?

 

恐竜時代の軟体動物はアンモナイトのように殻がありましたが、イカやタコは殻を脱ぐことで進化を遂げたと稲垣さん。ナメクジもまた殻を捨てたことで、殻を作る炭酸カルシウムが不要となりその分早く成長できるようになりました。さらに、狭い隙間にも入りやすく、身を守るのに適した体に! なるほどナメクジは、カタツムリをシェイプアップした形態だったんですね。

 

また、この章にはアホウドリも紹介されています。アホウドリは別名を「バカドリ」ともいうそうです。その命名の由来は、地面の上をうまく歩けずあまりにも簡単に人間に捕まってしまうから。ただ、実はその分特化した別の能力があるのです! その能力が気になったら、ぜひ本書を手にしてみてください。

 

中高生向けのちくまプリマー新書ですが、身近な生き物でも知らないことばかりで大人でも勉強になります。生き物を馬鹿にしたり、笑ったりする方向性ではなく、その裏側の見えない“すごさ”に焦点を当てているのが本書の特徴。

 

それぞれの項目の最後は「そのままでいいんだよ」という稲垣さんの言葉で締めくくられ、すべての生き物を肯定するスタンスに心が温かくなります。スローロリスがゆっくり動くのは? ハエはなぜうるさく飛ぶ? ハゲワシがはげているメリットは? その生存戦略には感心させられます。私も個性を活かしてしっかりと生きねば!

 

【書籍紹介】

ナマケモノは、なぜ怠けるのか? 生き物の個性と進化のふしぎ

著:稲垣 栄洋
発行:筑摩書房

イモムシやタヌキに雑草……。いつも脇役のつまらない生き物たち。しかしその裏に冴え渡る生存戦略があった!ふしぎでかけがえのない、個性と進化の話。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

江川卓・掛布雅之・福本豊・村田兆治……「昭和の野球人」37人の「一球」に込めた想いとは!?

新元号「令和」となって、早くも5年目を迎えた。「平成」もすでに過去のものとなり、「昭和」はますます遠くなった。2023年、新型コロナウイルス禍に揺れ続けた混乱の時期を経て、今シーズンからは入場制限も撤廃され、声出し応援も解禁となり、令和のプロ野球はようやく本来の姿を取り戻しつつある。

 

昭和のプロ野球に魅せられたすべての人たちに

海の向こうでは大谷翔平が異次元の活躍を見せ、吉田正尚が小さな身体でヒットを連発。国内では佐々木朗希が160キロを超える豪速球を披露し、今季は不調に苦しんでいるものの、昨シーズン「令和史上初の三冠王」に輝いた村上宗隆など、次代のスターは着実にファンの心をわしづかみにしている。

 

しかし、令和のプロ野球に魅了されつつも、無性に昭和のプロ野球が恋しくなるときがある。現在のような「アスリート」ではなく、「野球の上手なオジサン」たちが、ときには勝敗を度外視して自らの威信をかけて男と男、個と個の戦いに殉じていた時代が確かにあった。宇都宮ミゲルの新刊『一球の記憶』(朝日新聞出版・刊)には、そんな時代の男たちの生きざまがしっかりと活写されている。

 

460ページを超える大著には、昭和プロ野球選手たちの生々しい証言が記録されている。山田久志、東尾修、村田兆治といったパ・リーグ各球団のエースたち、数々の名勝負を繰り広げた掛布雅之と江川卓などなど、実に37名もの貴重な証言を集めた力作である。本書が秀逸なのは、それぞれの選手に「あなたにとって、記憶の中に残り続ける一球とは?」という共通の質問を投げかける点にある。

 

阪急のスラッガー・長池徳士のように「32試合連続安打の記録を作った試合ですね」と即答する者もいれば、同じく阪急OB、「世界の盗塁王」福本豊のように、自身のプレーではなく、敗れた試合における、味方投手の失投を挙げる者もいる。選手たちのプロ野球人生を振り返りつつ、「記憶に残る一球」というコンセプトがあるために、決して総花的にならず、個別のインタビュー集でありながら、一冊の本としての核が成立しているのである。

 

怪物・江川卓の「一球」とは?

本書において印象的だったのは「怪物」と称された江川卓だ。84年のオールスターゲームで、江夏豊以来となる「9連続奪三振」をあと一歩のところで逃したエピソードは有名だが、実は江川は9番目の打者・大石大二郎を振り逃げで出塁させた後に次の打者を三振に取り、史上初となる「10連続三振」を目論んでいたのだという。記録上、振り逃げも三振である。

 

さらに江川は、振り逃げを活用すれば、「1イニングで三振を6つ取れるから、既定の3イニングなら18個の三振が記録できるんじゃないか」とまで、考えていたということが明かされる。まさに、怪物らしい逸話であるが、江川の語る「記憶に残る一球」はこの場面ではない。

 

彼が口にしたのは81年、日本ハムと激突した日本シリーズ。3勝2敗で日本一に王手をかけた第6戦2アウトの場面だった。実はこの場面、江川は「誰もやったことのない形で日本一を決めたいと考えていた」という。事前に調べた結果、「投手が最後に球を捕って日本一を達成し、しかもこれまでなかった場面というのはピッチャーライナーだった」と知る。

 

ここまで言えば、もうお分かりだろう。日本一のかかった大事な場面で、江川は「ピッチャーライナーで終わりたい」と、野球の神様にお願いをしてマウンドに上がっていたのである。ご記憶の方も多いと思うが、結果はピッチャーフライとなり、この飛球を江川は自らキャッチ。見事、日本一に輝いた。ピッチャーライナーではなく、ピッチャーフライだったことについて、江川は言う。「ひょっとすると神様は野球にあまり詳しくなかったのかもしれません」、と。まさに怪物の面目躍如である。

 

この本には、このようなエピソードが山のように詰まっている。昭和の野球に魅せられた人たちにとって、本書を開くことは思い出の宝箱を開けることと同義なのかもしれない。男たちの誇りと矜持は、こんな時代だからこそ、何かを訴えかけてくるかのようだ。

 

担当編集者の隠れた想い

本稿の結びとして、「番外編」のささやかなエピソードを披露したい。本書刊行後、この本を担当した編集者と酒席を囲んだ。日本酒の心地いい酔いが全身に回り始めた頃、彼は高校球児だった自らの思い出を語り始めた。高校2年時の新チームにおいてエースを託された彼は、ある試合で四死球を連発する大乱調で大敗を喫したという。それ以来、エースの座は剥奪され、最後までその地位を取り戻すことはできなかった。

 

「あの試合、僕は逃げたんです。その後も、野球に対して本気になることは一度もなかった。もう、あんな思いは二度としたくない。そんな思いで、再び野球と向き合い、この本を作ったんです……」

 

40年も50年も昔のシーンを再現するために、スポーツ新聞の記録のエキスパートを訪ね、徹底的に事実検証にこだわった。この本に登場する37名、一人ひとりに手紙を書き、掲載の許可を得た。完成後にも丁寧な礼状とともに本書を贈り、元中日・宇野勝からは感謝を伝える手紙が届いた。あるいは、デザイナーとも、印刷所とも丁々発止のやり取りを続けた。こうして完成したのが本書だった。「自分は逃げた」という高校時代の悔恨を、この本を作ることで彼は払拭できたのだろうか? 読後、ふと、そんなことも頭をよぎった。

 

(執筆:長谷川晶一)

 

【書籍紹介】

一球の記憶

著者:宇都宮ミゲル
発行:朝日新聞出版

村田兆治、山田久志、東尾修、江川卓、掛布雅之、高橋慶彦、石毛宏典など、昭和のプロ野球で活躍したあの名選手37人が、絶対に忘れない1球を告白する。それは誰もが記憶するあの名場面だったり、球史にも残らない小さなワンプレーだったり……。スタジアムのカクテル光線に照らされた男たちが放った、まばゆい一瞬の輝きは、私たち野球ファンの目に灼きついて何十年経っても色あせることがないが、それは当事者である元プロ野球選手たちにとっても同じだった。永久保存版のベースボールドキュメント。

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「エリーゼのために」は、本当は「テレーゼ」だった!? ベートーヴェンの名曲の裏事情とは?~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。オリジナルソングを作って告白した、告白された経験はありますか? これ、思っているよりも多いようで、私はないものの、女性の友だち2人は告白されたと言ってました。

 

ひとりは「自分の名前が歌に入っていて気持ち悪かった」とのことですが(笑)、もうひとりは「私のために一生懸命作ってくれてうれしかった」と好印象だったので、両極端の一か八かの作戦かもしれません。いずれにせよ、今回紹介する本を読んでいると、好きな人のために曲を作るという行為は定番なんだなと思います。

 

名曲のスキャンダラスな舞台裏を解説

名曲の裏側 クラシック音楽家のヤバすぎる人生』(渋谷ゆう子・著/ ポプラ新書)の著者は、音楽プロデューサー、音楽ジャーナリストの渋谷ゆう子さん。音楽ジャーナリストとして国内外で取材活動を行い、音楽雑誌やオーディオメディアでの執筆多数。著書に『ウィーン・フィルの哲学 至高の楽団はなぜ経営母体を持たないのか』(NHK出版)があります。

ベートーヴェンの曲に隠された失恋

本書は少し堅苦しい印象のあるクラシックを、作曲家のエピソードを通じて親しみを持ってもらおうというアプローチ。スキャンダラスなゴシップたっぷりで、あの偉大な作曲家も私たちと同じように(もしくはそれ以上に)、恋に悩み苦しんでいたことがわかります。

 

そして“ヤバいエピソード”を並べて終わりではなく、そこから生まれた名曲を聴けるSpotifyのQRコードが掲載されているのが本書の工夫。興味が湧いたらすぐにスマホで楽しめます。

 

第1章は「名曲はフラれ続けたからこそ生まれた!? 生涯独身、恋愛不遇のベートーヴェン」。「楽聖」とあだ名されるベートーヴェンですが、その性格は気難しく変わり者。愛する女性にことごとく振られた生涯だったそうです。

 

ベートーヴェンは恋に落ちると相手に手紙や曲を贈りまくり、友人にも「もうめちゃくちゃ可愛い子がいるんだがww(著者の渋谷さんによる意訳)」という手紙を書きまくっていたとか。

 

ベートーヴェンのエピソードのなかでも私が驚きだったのが、「エリーゼのために」について。40歳を過ぎたベートーヴェンが恋したのは、友人の紹介で出会ったテレーゼという女性。それがなぜ「エリーゼのために」という曲になったのかというと、彼女に贈った楽譜に書かれていたタイトルの字が汚すぎて「エリーゼ」にしか読めなかったから……。美しい曲でも、贈られた女性の気持ちを考えると女心に響かなかったのだと思う、とは渋谷さんの厳しい指摘。私も字が汚いのでこの失敗は身につまされます。

 

43歳で初めて授かった娘のために作られたドビュッシーの「子供の領分」、社交界の華アルマへの想いを交響曲に無理やりねじ込んだマーラーの「愛の楽章」、大富豪未亡人の推し活に支えられたチャイコフスキーの「白鳥の湖」……。女性にだらしなかったり、借金まみれだったりと、美しい旋律の裏に隠れた赤裸々な事情が明かされます。

 

こうした切り口は好き嫌いが分かれるかもしれませんが、クラシックへの扉を開けるきっかけになることは確か。名曲に対する渋谷さんの解釈や熱のこもったオススメコメントも読みどころで、多くの人に聴いてほしいという音楽への愛を感じます。

 

私は、リヒャルト・シュトラウスが鬼嫁との騒々しい生活を曲にしたという「家庭交響曲」が気になって、QRコードを読み込んで聴いてみました。なるほど、そういうことなんですね(笑)。

 

【書籍紹介】

名曲の裏側: クラシック音楽家のヤバすぎる人生

著:渋谷ゆう子
発行:ポプラ社

音楽家の人生を知ると、あの名曲がもっと深まる。読みながら楽曲を聞いて楽しめる、プレイリスト付き! ある者は女性問題に頭を抱え、ある者はお金の工面に泣き、またある者は鬼嫁に責め立てられ……。クラシック音楽という高尚で優美なイメージから程遠い一面に注目することで、偉大な音楽家たちがのこした名曲を、より味わい深く楽しむことができます。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

ハーバード大卒芸人・パックンが教える「お金を育てる」3つの方法とは?

芸人さんには、フィナンシャル・リテラシーが高い人が多いように感じる。ひょっとしたら、お笑い脳と投資脳の間には謎のリンクが存在するのかもしれない。

 

Don’t Feel, Think!

中でも突出した存在が、ハーバード大卒でお笑い芸人、そして東京工業大学で教鞭も執っていらっしゃる「パックン」ことパトリック・ハーランさんではないだろうか。この原稿では、朝の経済ニュース番組でも顔を見ることが多い投資家としてのハーランさんの著書『無理なく貯めて賢く増やす パックン式お金の育て方』(パトリック・ハーラン・著/朝日新聞出版・刊)を紹介したい。まず、幸福をつかむための「お金の育て方」の基本となる3つのテーマを紹介しておく。

 

1 徹底的に節約する
2 一生懸命働く
3 投資でお金を増やす

 

そしてこの3つのテーマを下支えするのが、『燃えよドラゴン』のブルース・リーの名台詞をもじった「Don’t Feel, Think!」(感じるな、考えろ)というモットーだ。

 

僕が見つけた「お金の育て方」は、何も特別なことではありません。誰だって真似できるし、誰だって悩みから解放されるはず。

『無理なく貯めて賢く増やす パックン式お金の育て方』より引用

 

誰だって真似できる金の育て方。かなり心を惹かれませんか?

 

 

お金からの解放と将来の不安の解消

この本の着地点は、まえがきで明確に記されている。

 

「節約」から「投資」へと、経済的自由に向かう旅にぜひ出発してみてください! お金に縛られてしまう(文字どおり「金縛り」)の状態からの解放感、将来の不安の解消など、この旅の目的地では、今より余裕のある気持ちと生活が待っていると、僕は確信しています。

『無理なく貯めて賢く増やす パックン式お金の育て方』より引用


月末が来るたびに、収支のバランスとやりくりを考えなればならないことがある。こうした時間をより創造的な行いに使うことができるなら、人生が内側からも外側からも潤っていくことは、筆者も経験則的に知っている。

 

余裕のある気持ちと生活へのロードマップ

章立てを見てみよう。

 

第1章 自由に生きるためにお金を正しく知ろう
第2章 お金を守るために節約金を鍛えよう
第3章 収入を増やすためにお金にも働いてもらう
第4章 手堅く無理なく増やすパックン式投資法

 

結局投資の本なのか。そう思う人もいるだろう。しかし、ちょっと考えてみていただきたい。今の世の中、銀行貯金という言葉は単にお金の置き場というニュアンスでしかなくなった。置いておくだけではなく、増やす方法を考えていくほうが理に適っていることは言うまでもない。お金を正しく知った上で無駄な支出の量を減らし、収入を増やす努力をして、生み出した余裕の部分を手堅い方法で増やしていく。このプロセスが「お金に縛られてしまう状態からの解放感、将来の不安の解消」へのロードマップとなる。

 

自由に生きるためにお金を足かせにしない

この本は、全4章に分けて70以上の項目が綴られている。中でもインパクトを感じたものをいくつか紹介しておきたい。

良い節約というのは、無駄な支出を減らすことです。そもそも無駄なのだから、どんどんなくしたほうがいい。

『無理なく貯めて賢く増やす パックン式お金の育て方』より引用

 

節約というのは、何事にもケチケチしろというのではない。この言葉、至ってシンプルですぐにでも実行できそうなのだが、常に完全な形で遂行できるかと訊ねられたら、ちょっと難しい気がする。だからこそ、あえて紹介しておきたい。

 

さて、ハーランさんが投資を行って資産を増やす理由は何か。

 

行きたいところに行ける。会いたい人たちにある。やりたい仕事ができる…。そういう拘束されない、自由な人生を生きるために、お金を増やしたいと思っています。

『無理なく貯めて賢く増やす パックン式お金の育て方』より引用

 

これは絶妙な言い方だ。お金はあればあるだけいいのだろうけれど、とにかく大切なのは、好きなことをする上でお金というファクターを足かせにしない姿勢だ。

 

お金が持つネガティブな資質から解放される

ハーランさんが日本に来て驚いたのは、ジャッキー・チェンが日本人ではなかったことと、日本人の投資に対する姿勢だった。

 

そして、その後でもっと驚いたのは、「投資はギャンブルだ」という考え方でした。みんなも、この主張を聞いたことがあると思いますが、完全に誤解です。僕は、投資が大好きです。けれども、ギャンブルは大嫌い。

『無理なく貯めて賢く増やす パックン式お金の育て方』より引用

 

この文章を最後に紹介した理由は、われわれ日本人が抱きがちなステレオタイプ的妄信をもう一度認識しておくことが大切だと考えたからだ。ここまで紹介してきた引用文は基本的なアイデアに関するものばかりになってしまったが、「超リアルなアメリカの金融教育」「無駄な税金は納めないで」「僕がFIREを目指さない理由」「つみたてNISAとiDeCoのどっちを選ぶ?」といった現実的な項目も見逃せない。

 

この本を媒体にしてハーランさんが発するメッセージのエッセンスは、あとがきに記された次の一文に集約されている。

 

お金に悩まないで、お金に振り回されないで、ほとんどお金を気にしないで、幸せな暮らしができる。それができれば十分じゃない?

『無理なく貯めて賢く増やす パックン式お金の育て方』より引用

 

そうなんです。それができれば、もう十分なんです。

 

【書籍紹介】

無理なく貯めて賢く増やす パックン式お金の育て方

著者:パトリック・ハーラン
発行:朝日新聞出版

ハーバード大卒の人気お笑い芸人・パックンが金融教育の要点をわかりやすく解説。「投資で社会の一員になる」などの投資マインドから、「老後計算機」「5・3・2の法則」などのお金の基礎知識まで、ぎゅっと凝縮したマネー本の決定版!

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スズメの巣ってどこにある? 鳥の巣研究家が教える、鳥の巣の神秘的な秘密~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。私はかなりのくせ毛で、セットしてもセットしてもすぐに鳥の巣状態。雨の日はまるでアフロかと思うほどです(笑)。

 

でも、今回紹介する新書を読んで「鳥の巣状態なんて鳥に失礼だな」という気がしてきました。大して手入れもしないでボサボサの私と比べて、鳥は世代をつなぐために一生懸命巣をつくり、その形には自然の造形美が宿るのです。“鳥の巣”ではない、別の表現を考えたいところですね。

 

鳥の巣研究家がその造形美を紹介!

身近な鳥のすごい巣』(鈴木まもる・著/イースト新書Q)の著者は、画家、絵本作家、鳥の巣研究家の鈴木 まもるさん。山の中で偶然、空の鳥の巣を見つけ、その造形に魅かれて収集・研究を始めたそうです。『世界の鳥の巣の本』(岩崎書店)、『日本の鳥の巣図鑑 全259』『ぼくの鳥の巣絵日記』(偕成社)など鳥の巣関連の著作多数。各地で鳥の巣展覧会と絵本原画展も開催しています。

 

意外と知らないスズメの巣

まず、第1章「鳥の巣とはなにか?」では、なぜ鳥が巣をつくるようになったのかが紹介されています。

 

実は鳥が巣をつくるのはなんと恐竜時代の名残り(!)とのこと。1億数千万年前、小型恐竜は卵を産むとき転がっていかないように少し地面をひっかいてくぼみをつくったそうです。やがて小型恐竜は大きな恐竜が来ないよう茂みや樹上に卵を生むようになり、さらにそうした種が飛べるようになり、「鳥」となった……という流れだとか。巣のルーツが恐竜時代にあったとは驚きですね!

 

第2章以降は、人間の家、木の上、穴の中など巣がある場所ごとに章が分けられています。「そういえば見たことないな……」と私が思ったのがスズメの巣。スズメ自体は身近ですが、その巣はどこにあって、どんな形をしているのか、意識したことがありませんでした。

 

スズメの巣があるのは屋根瓦のすきまやひさしの下など人間が立てた家の周辺で、枯れ草や紙などを集めた巣は、いわゆるお椀型はしておらず、その空間により形が異なるそうです。著者の鈴木さんは水抜きパイプのなかに平たいお皿状のスズメの巣を見つけたこともあるとか。

 

しかし、最近では密閉性が高い家が増えて隙間がなくなってきているため、スズメが巣をつくる場所も減ってきているそうです。自然から切り離された家は人間には住みやすくても、鳥にとっては困りものといった感じでしょうか。

 

枝の二股部分にクモの糸でまとめる半球型のメジロの巣、水木しげる先生も魅せられたという美しい洋ナシ型のエナガの巣、大きなクチバシで土手に体当たりしてつくるカワセミの巣……。まさに「すごい巣」が満載。絵本作家でもある鈴木さんの鳥と巣のイラストもフルカラーで目に飛び込んできて、ほんのりコミカルなテイストもあって見ていて飽きません。

 

なんといっても、鳥ではなく“巣”に着目しているのが本書の素晴らしさ。何気なく生活していたら見過ごしてしまうマニアックなものに愛情を注ぐ専門家が、その知識を惜しげもなく披露している空間は、温かく知的な幸福感に満ちています。

 

多様な環境に適応して、個性的な巣をつくる鳥。鳥の巣から私たちが学べることはいろいろありそうです。

 

【書籍紹介】

身近な鳥のすごい巣

著:鈴木 まもる
発行:イースト・プレス

「巣づくりは誰にも教わることのない鳥の本能」「同じ巣は1つもない」「恐竜の進化の過程が鳥の巣からわかる?」。鳥たちの巣には、驚くべき生態の神秘と不思議が詰まっている。36種の鳥を豊富なイラストとともに鳥の巣の研究第一人者であり絵本作家でもある著者がユーモラスに解説した一冊。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

犬に読み聞かせをするプログラムとは? 動物と人の絆は社会をどう変えるのか~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。猫を飼い始めてまだ1年の新参者ですが、最近の悩みは仕事がなかなか進まないこと。なぜならうちの猫ちゃんがノートパソコンの画面の前にどっかりと寝そべって動かないから(笑)。まるで「ここが指定席ですけど」と言わんばかりの顔で、どけてもどけても座ってきます……。結局、諦めて画面上半分と首のスキマからのぞいているので、仕事効率は下がっていますが、常にかわいい姿が目に入り、幸せ度は高まっております。

 

フォトジャーナリストが語る動物と人間のかかわり

さて、今回紹介する新書は動物がくれる力 教育、福祉、そして人生』(大塚敦子・著/岩波新書)。著者の大塚 敦子さんはフォトジャーナリスト、ノンフィクション写真絵本作家。1986年からフォトジャーナリズムの世界に入り、写真絵本『さよなら エルマおばあさん』(小学館)で2001年講談社出版文化賞絵本賞、小学館児童出版文化賞受賞。『平和の種をまく ボスニアの少女エミナ』(岩崎書店)、『犬が来る病院 命に向き合う子どもたちが教えてくれたこと』(角川書店)など著書も多数です。

図書館でも導入された犬への読み聞かせ

1990年代前半、エイズ患者の女性と動物たちの絆に感銘を受けた大塚さんは、人と動物のポジティブなかかわりを30年にわたって取材してきました。

 

「アニマルセラピー」という言葉が思い浮かびますが、こちらは和製英語で、正式には「動物介在介入(Animal Assisted Interventions)」といい、「人の健康や教育や福祉などの分野で、治療や生活の質の向上などの目標達成のために動物の力を借りること」の意味だと本書を読んで知りました。

 

第1章「子どもの教育と動物」では、教育現場での「動物介在教育」について紹介されています。たとえば立教女学院小学校では、不登校の児童が犬と一緒なら放課後の学校に来られたことがきっかけに、2003年から「学校犬」制度を導入。子どもたちが日常的に犬とふれあえる環境を提供してているそうです。アレルギーのリスクが少ない犬種エアデール・テリアで穏やかな性格の子犬を迎え、子どもたちが世話してきました。「学校犬」制度は今も続いているそうです。

 

私がこの章で一番驚いたのは、犬に絵本を読み聞かせるプログラム。アメリカで1999年に始まった「R.E.A.D.プログラム」は、犬への読み聞かせを行うことで読書の動機づけにし、子どもたちの読解力を高めるというもの。日本の公共図書館では、著者の大塚さんの提案により2016年に東京の三鷹市立図書館で初めて行われました。自分で選んだ本を読書サポート犬に読み聞かせる「わん!だふる読書体験」は、今では図書館の人気プログラムとなっているそうです。本を通じて、ワンちゃんと心がつながった感覚になるのでしょうか。私も体験してみたくなりました。

 

子どもたちによる傷ついた野生の鳥のリハビリ、刑務所での盲導犬候補(パピー)の育成、小児病棟を訪問して長期入院する子どもとふれあうセラピー犬……。さまざまな事例やエピソードがやわらかい文章で紹介され、動物と人間の深いつながりが見えてきます。著者の大塚さんが関わっているものや、実際に取材を行ったプログラムが取り上げられているので、現場のあたたかい雰囲気がいきいきと伝わってきます。

 

本書の序章には、犬と人の結びつきが強いペアは「幸せホルモン」とも呼ばれるオキシトシンの尿中濃度がともに上昇する、という麻布大学の研究結果が紹介されています。幸せが増幅していく関係性。人間は他の動物とどう関わっていくのがベターか、考えさせられました。

 

 

【書籍紹介】

動物がくれる力 教育、福祉、そして人生

著:大塚 敦子
発行:岩波新書

犬への読み聞かせは子どもを読書へ誘い、生きづらさを抱える子どもは傷ついた動物をケアする中で学ぶ。保護犬を育て直して若者は生き直し、補助犬は障害のある人の人生を切り拓く。高齢者は犬や猫と共に充実した最期の日々を過ごす。人間にとっての動物の存在を国内外で30年近く取材した著者が、未来に向けて綴る。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

【5月20日】松井玲奈さんら出演! 読書がもっと好きになる無料オンラインイベント「学研キッズフェス みんなに伝えたい!わたしの推し本」

学研ホールディングスは、5月20日に、無料オンラインイベント「学研キッズフェス みんなに伝えたい!わたしの推し本 Supported by 博報堂教育財団」を開催。同イベント開催に伴い、特設サイトもオープンしています。

 

「学研キッズフェス」は、「遊んでたら、学んでた!」をコンセプトに、科学実験やクイズなど、親子で楽しみながら学べる内容で、これまで夏や秋に開催してきたオンラインイベント。

 

今回は、役者・作家として活躍中の松井玲奈さん、児童文学作家の久米絵美里さんなどをゲストに迎え、本を読むことがもっともっと好きなる、そしてそれを誰かに伝えたくなる、スペシャルな内容を予定しています。

↑松井玲奈さん

 

第1プログラム「本が好きになったきっかけは?忘れられない本の想い出トーク」では、本が好きなゲストのみなさんと、今でも忘れられない子どもの頃に読んでいた本についてトーク。本を読んだきっかけ、読んだことで興味を持ったことなどを語ってもらいます。また、本の選び方のコツもレクチャーします。

↑久米絵美里さん

 

第2プログラム「あなたの好きな本を誰かにおすすめしよう!みんなの推せん文紹介コーナー」では、3月に発表された「読書推せん文コンクール」の入賞作品のなかから、ゲストのみなさんが気になった作品を紹介。配信中に視聴者からおすすめ本をチャットで募集し、お気に入りの本を誰かにおすすめする楽しさをみんなで体験。読書推せん文の書き方のポイントも教えます。

 

また、イベント中に発表されるキーワードを応募フォームから入力すると、学研のおすすめの書籍などが当たるプレゼント企画もあります。

 

参加費は無料ですが、事前の申し込みが必要で、申し込み後にメールで視聴用URLが届きます(申し込み多数の場合は抽選)。開催時間は11時~12時の1時間。

【5月20日】松井玲奈さんら出演! 読書がもっと好きになる無料オンラインイベント「学研キッズフェス みんなに伝えたい!わたしの推し本」

学研ホールディングスは、5月20日に、無料オンラインイベント「学研キッズフェス みんなに伝えたい!わたしの推し本 Supported by 博報堂教育財団」を開催。同イベント開催に伴い、特設サイトもオープンしています。

 

「学研キッズフェス」は、「遊んでたら、学んでた!」をコンセプトに、科学実験やクイズなど、親子で楽しみながら学べる内容で、これまで夏や秋に開催してきたオンラインイベント。

 

今回は、役者・作家として活躍中の松井玲奈さん、児童文学作家の久米絵美里さんなどをゲストに迎え、本を読むことがもっともっと好きなる、そしてそれを誰かに伝えたくなる、スペシャルな内容を予定しています。

↑松井玲奈さん

 

第1プログラム「本が好きになったきっかけは?忘れられない本の想い出トーク」では、本が好きなゲストのみなさんと、今でも忘れられない子どもの頃に読んでいた本についてトーク。本を読んだきっかけ、読んだことで興味を持ったことなどを語ってもらいます。また、本の選び方のコツもレクチャーします。

↑久米絵美里さん

 

第2プログラム「あなたの好きな本を誰かにおすすめしよう!みんなの推せん文紹介コーナー」では、3月に発表された「読書推せん文コンクール」の入賞作品のなかから、ゲストのみなさんが気になった作品を紹介。配信中に視聴者からおすすめ本をチャットで募集し、お気に入りの本を誰かにおすすめする楽しさをみんなで体験。読書推せん文の書き方のポイントも教えます。

 

また、イベント中に発表されるキーワードを応募フォームから入力すると、学研のおすすめの書籍などが当たるプレゼント企画もあります。

 

参加費は無料ですが、事前の申し込みが必要で、申し込み後にメールで視聴用URLが届きます(申し込み多数の場合は抽選)。開催時間は11時~12時の1時間。

一家に一冊! 雑談やビジネスでも使える“ちょっとした話”が77話も掲載された『座右の寓話』

今回は、知っておけば役立つ77の寓話が掲載された『座右の寓話』(戸田智弘・著/ディスカバー・トゥエンティワン・刊)をご紹介します。寓話とは、イソップ物語のような教訓を教えてくれるたとえ話のこと。「そういえば、こんな話って知っています?」とちょっとした間を埋めてくれたり、子どもに大切な話をする時に使ったり、部下や上司を説得する時に使ったり、自分のモチベーションを上げてくれたり、さまざまなシーンで活用できる寓話を学ぶことができますよ。

それって本当にやるべきこと? を教えてくれる『がんばる木こり』

『座右の寓話』には、THE教訓と思えるようなお話から『太陽と北風』のように一度は聞いたことがあるお話もたくさん掲載されています。その中で私が一番ハッとした寓話は、『がんばる木こり』という話でした。

 

このお話は、やる気に満ちた木こりが初日に18本の木を倒し、親方にめちゃくちゃ褒められるところから始まります。次の日も早起きをして木を切り始めますが、疲労もあり切れたのは15本。そこから数日間いくら頑張っても初日の18本を超えることができず、最終日には2本も切れなくなってしまうというお話です。最後には、以下のように綴られています。

 

何といわれるだろうとびくびくしながらも、木こりは親方に正直に報告した。「これでも力のかぎりやっているのです」。親方は彼にこう尋ねた。「最後に斧を研いだのはいつだ?」

男は答えた。「斧を研ぐ? 研いでいる時間はありませんでした。何せ木を切るのに精一杯でしたから」

(『座右の寓話』より引用)

 

ここからどんなことを感じるでしょうか? 私もついつい目の前の仕事に躍起になって、パフォーマンスがどんどん下がっていくのを体験したことがあります。「この木こりさんと同じ状況だ!」と客観的に見ればわかりますが、頑張っている最中って余裕はなくなりますよね。『座右の寓話』には、解説文も掲載されています。寓話と解説文を読むことでより理解を深めることができますよ。

 

思わず「最低〜っ!」と声が出た『夫婦と三つの餅』

『がんばる木こり』のようなビジネスに使えるものだけでなく、もっと日常生活の教訓になる寓話もあります。

 

『夫婦と三つの餅』は、令和ならインスタでコミック化されそうなお話でした。とある夫婦がご近所さんから3つの餅をもらって、1つずつ食べるのですが、残りの1つは「一言でも先に喋ったほうが負け。黙り続けたほうが最後の餅を食べる」とルールを決めます。ある程度はこのゲームを楽しんでいましたが、その日の夜、家に盗賊が入ってきて、さぁ大変! 盗賊は奥さんに乱暴し、家の財をすべて持ち去ろうとしても旦那さんは黙ったままです。たまらずに「餅のために黙っているつもり!?」と叫ぶと、旦那さんは「餅は俺のもの〜」と言って喜んだというのです。

 

ただ単にこの話を聞いたら「この最低な夫めぇ〜」とか「なんで残り1つを半分にしないのよ!」と思ってしまいますが(笑)、この寓話の解説を読むと新たな視点をもらえます。

 

この寓話は、過去にしばられず、今ここで正しく決断することの大切さを解いているようにも思える。夫は過去の約束事にとらわれ、大事なものを失うところだった。

過去に決めたことにとらわれてはいけない。

(『座右の寓話』より引用)

 

この話を覚えておけば、きっと同じことは繰り返さないはず! 餅に限らず、過去に決めていたルールはその都度、その時、最適なものにできるようにしたいです。我が家でも、家事分担など決めているルールがありますが、お互いに守ろうと頑固になっている部分もあるので、これを機に見直してみようと思いました。

 

どれも2分程度で読める話なので、1日少しずつ読むのにもおすすめ

『座右の寓話』には、他にも『悪者ぞろいの家』や『三年寝太郎』、『子どもをしかる父親』などちょっとした話が77話掲載されています。順番に一気読みしても楽しいですが、2分ほどで読める簡単な寓話なので、1日1話ずつ読み進めるのにもおすすめです。また、寓話はすべて現代語訳されているので、寓話だけをお子さんに読み聞かせするのも◎。一家に一冊あれば、大人から子どもまで楽しめること間違いなしです。

 

今後、人と直接会う機会も増え、雑談やちょっとした小話のネタも必要になってくる人も多いかもしれません。そんな時には、ぜひ『座右の寓話』を活用してみてください。きっと役に立つ話があるはずですよ!

 

【書籍紹介】

ものの見方が変わる 座右の寓話

著者:戸田 智弘
発行:ディスカバー・トゥエンティワン

学べる、使える、寓話は大人の課題図書。古今東西語り継がれる人生の教え77。

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車中泊バン&手作りキャンパーのアイデア満載!『dopa(ドゥーパ!)』154号の内容を紹介!

DIYライフマガジン『dopa(ドゥーパ!)』2023年6月号が、5月8日(月)に発売!

特集は「車中泊バン&キャンパーDIY」「単管パイプで物置小屋作り」の2本立て!

 

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特集は「車中泊バン&キャンパーDIY アイデア130」

今やdopaの人気コンテンツとなった手作り旅車特集。154号では、dopaの持つ膨大なアーカイブを再編纂し、キャンピングカー作りのアイデアを13のカテゴリーに分けて徹底紹介。これぞ、まさに保存版! バラエティあふれる旅車作りのポイントを比較できる、唯一無二のDIYテクニックカタログをじっくりとご堪能ください。

 

バラエティ豊かな旅車が集合! 車中泊バン&手作りキャンパー最新実例集

ヴィンテージのトラックをベースにした移動酒場を筆頭に、幌馬車デザインのシェル、軽トラベースの動く寝室や喫茶空間、バンをカスタムした釣り仕様のキャンピングカーなど、バラエティあふれるDIY旅車事例を紹介。製作エピソードはもちろん、細かな製作ポイントまで迫った渾身の実例集。

 

第2特集は「単管パイプで物置小屋を作る」

単管パイプを使った物置小屋作りの実践リポートをメインコンテンツに、単管DIYの基礎知識と実例集がドッキング! 作業に役立つ実用情報から、知っておくとより製作が楽しくなる豆知識まで、単管パイプ活用術を20Pにギュッと詰め込みました。この特集を読めば、きっとこう思うはず。「タンカンDIYはカンタンだ!」。

 

バラエティあふれる連載にも注目!

車中泊や旅を楽しむための軽バンカスタム、レザーソーイングやグリーンウッドワークなど、さまざまなジャンルのもの作りの魅力を個性あふれる作家とともにお届けします。その他、自給自足の田舎暮らしエッセイなど読み物も充実。

湖池屋が一番最初に発売したポテトチップスの味は? 意外に知らない国民食・ポテトチップスの秘密~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。みなさんは何味のポテトチップスがお好きですか? 子どものころは、辛かったり、酸っぱかったり、ちょっと変わった味がお気に入りで、うすしおはなんとなく損な気がして敬遠していました。でも、大人になってうすしおの良さに気づいた感があります。

 

これと似たような例なのがアイスです。同じ値段なのにシンプルなバニラ味を買うのがもったいないと、チョコやストロベリーに目が行きがちでした。ところが、ある年齢からふとバニラが美味しいと思うように! といってもアイスクリームチェーンのサーティーワンに行って、バニラ味を頼む境地にはまだ至っていません(笑)。

 

ヒット本を連発する著者の新著

さて、今回の新書はポテトチップスと日本人 人生に寄り添う国民食の誕生』(稲田豊史・著/朝日新書)。著者の稲田豊史さんはライター、コラムニスト、編集者。映画配給会社、出版社を経て独立。『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)、『オトメゴコロスタディーズ』(サイゾー)、『「こち亀」社会論 超一級の文化史料を読み解く』(イースト・プレス)、『ぼくたちの離婚』(角川新書)など著書多数です。

日本独自の「のり塩」からすべては始まった!

スーパーのスナック菓子コーナーで一番いい場所に並び、日本人がこよなく愛するポテトチップス。本書では国産ポテトチップスの歴史を追っていきます。第1章は「ジャガイモを受け入れた戦後日本―日本食化するポテチ」。

 

そもそも国産ポテトチップスの元祖は1950年に発売されたアメリカンポテトチップ社(東京)の「フラ印アメリカンポテトチップ」。こちらは当時の価格で35g入りが36円。現在の物価に換算するとおよそ800円前後とか! 今で言う、フルーツタルトや高級チョコレートの立ち位置といったところでしょうか。しかし、ジャガイモは戦時中の代用食というイメージがあり、大苦戦を強いられたといいます。

 

それでも、ポテトチップスの可能性に目をつけたのが湖池屋の当時の社長・小池和夫さん。たまたま行った飲み屋でポテトチップスを食べてその美味しさに感動した小池さんは、もしお菓子ほどの値段で大量に作れたら売れるだろうと何年もかけて試行錯誤を始めたのだそうです。

 

その結果生まれたのが「ポテトチップス のり塩」(1962年発売)。なんと、湖池屋が最初に商品化したのは純和風ののり塩だったのです! しかも唐辛子を入れて味にキレを出し、日本人の舌に馴染み深い米油で揚げていたそうです。「日本におけるポテトチップスの運命はこの時点で決まっていた……最初から“和風”だったのだ」と著者の稲田さん。ポテトチップスが国民的おやつとなったのは、こののり塩味の開発が大きかったんですね。

 

ポテトチップスを切り口に、高度成長期から現在までの時代背景や、日本人の心の変遷までも映し出す一冊。社長をはじめ各メーカーへの取材も丁寧に行われ、裏話満載のポテトチップス史は読み応えたっぷり。それでいて読みやすい文章でうまくまとまっているのだから、ページはポテトチップスのように止まりません。アラフォー、アラフィフにはノスタルジーも隠し味。お好きなポテトチップスを用意してお楽しみ下さい。

 

【書籍紹介】

ポテトチップスと日本人 人生に寄り添う国民食の誕生

著:稲田豊史
発行:朝日新聞出版

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

この世界で生き残るため必要なものはすべて「地政学」にあった!ーー『地政学が最強の教養である』

終わりの見えないウクライナ戦争。台湾に対する中国の示威行動。北朝鮮から相次いで発射されるミサイル。そしてスーダンの内戦。今の世界は、薄い氷の上で絶妙なバランスを取りながら存在しているような状態なのかもしれない。

 

地政学が最強である4つの理由

地政学が最強の教養である』(田村耕太郎・著/SBクリエイティブ・刊)は、現代日本が置かれている状況のさまざまな位相の理解を助けてくれる一冊だ。ひとことで地政学と言っても、地理学的要素から始まって気象学、民族学、経済学、そしてもちろん政治学など含まれる要素はとても多い。

 

地政学が宿す包括性には、たとえば“学際的”なんていう言い方よりはるかに有機的な響きを感じる。著者の田村氏が「地政学が最強の教養である」と言う理由として、まず以下の4点を挙げておく。

 

*世界情勢の解像度が上がる

*長期未来予測の頼もしいツールとなる

*“教養”が身につく

*視座が変わる・相手の立場に立てる

 

自分なりのフィルターを作る

田村氏はまず、地政学を次のような言葉で位置付ける。

 

地政学は国際関係の背後にある中長期的な国の動きを読むアプローチといっていい。それに対して、「国際関係論」や「国際関係分析」は短期の国同士の動きに注目するアプローチと言える。

『地政学が最強の教養である』より引用

 

では、今の世の中で地政学的なアプローチが必要な理由とは何か。

 

国際情勢を常にフォローするニーズは高まり続ける一方だ。ただ、垂れ流されるニュースをフォローするだけでは情報に振り回されるばかりだ。その背景にある本質を理解すれば、今後の展開への解像度が上がり、主体的に準備ができる。

『地政学が最強の教養である』より引用

 

地政学とは、既存の情報に対する自分なりのフィルターをかけていく上でのきわめて有益な知識ということになるだろうか。

 

今の時代だからこその知見

章立てを見てみよう。

 

第1章 なぜ地政学が最強の教養なのか
第2章 「地政学の思考法」を授けよう
第3章 「島国」の地政学
第4章 「内陸×大国」の地政学
第5章 その他の地政学
第6章 未来の地政学
第7章 日本がやるべきことは

 

日本との関係性が高い国家から始まって、全世界がカバーされていく。読み進めて行くうちに、「日本はなぜこの国に援助をしているのか」「なぜこの国との関係が良くないのか」「この国と日本の過去と未来」といった疑問への的確な答えが浮き彫りになっていく。

 

リスクと変化

田村氏は、極東地域について以下のように述べている。

 

そして今後は我が国の隣国である、中国、台湾、朝鮮半島で地政学的リスクが高まる。わが国の輸入品の多くは台湾近辺を通過して届くが、台湾近辺で何かが起これば我が国は兵糧攻めにあうようなものだ。もし仮に台湾戦争となれば、台湾に近い先島諸島、米軍基地が集中する沖縄をはじめ、本土でも直接の戦争被害が起こる可能性がある。

『地政学が最強の教養である』より引用

 

今年に入ってから、日本のEEZに落下する北朝鮮のミサイルの数が驚異的レベルで増加している。ニュース番組でJアラートの精度が問題になったり、いざという時の避難場所となる地下鉄の入り口の場所が紹介されたりしているのを目の当たりにすると、極東地域の不安な状態を身近に感じざるを得ない。

 

この10年で、世界はものすごく変わった。特にこの3年はコロナ禍という100年に一度レベルのパンデミックが発生し、ChatGPTの開発によって社会のさまざまな側面に大きな変化が起きようとしている。おそらくほとんどの人が生まれて初めて体験する大きな変化の中を、どうやって生きて行けばいいのか。地政学の知識がある種の道標となるに違いない。

 

ロールプレイング感覚

田村氏が語る地政学の特徴を端的に示す一文を紹介しておく。

 

日本という島国を前提にロシアや中国やアメリカなど他国のことを考えるのではなく、相手の地理的条件の中に自分を置いてリーダーとして国家を運営するロールプレイングをやってみるのだ。

『地政学が最強の教養である』より引用

 

田村氏によれば、地政学の本質とは「自分がその国のトップだったらどう考えるか」さらに言うならは「その国の元首になる“ロールプレイングゲーム”」に他ならない。

 

プーチン氏/習氏/バイデン氏の立場で考える

ロールプレイングゲームでもある地政学の本質とは、こういうことだ。

 

「あなたがプーチン氏だったら、北方領土の領有権をどう考えるか?」「あなたが習近平氏だったら、台湾への対応をどう考えるか?」「あなたがバイデン大統領だったら、今後のウクライナ戦争や台湾有事への対応をどう考えるか?」。そのためには相手の環境に身を置いて、その上で相手の行きつくであろう考えを予測し、それらへの対応を準備することこそが「地政学の本質」なのである。

『地政学が最強の教養である』より引用

 

絶えることなく変化し続ける数えきれない要素で満ちた現代では、決まった視点から見ているだけでは本質が見えない。地政学なんて、自分ごとではない? いや、そうではないはずだ。“最強の教養”を通して、世界と自分との関係をリアルに感じ、解き明かそう。

 

【書籍紹介】

地政学が最強の教養である

著者:田村耕太郎
発行:SBクリエイティブ

経済学・哲学・歴史学・宗教学・文化人類学・政治学・地理学。地政学を知ることは、“全学問の制覇”である!

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大谷翔平とベーブ・ルース、偉業を達成したふたりの共通点は? メジャーリーグ100年史~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。ベーブ・ルースが偉大な人という認識はありますが、どのくらいすごかったのかはなかなか実感できないところ。ちなみに友だちはベーブ・ルースのことを、“ベイ・ブルース”と思い込んでいたそうで、「ブルースさんじゃなかった……」と言っていました(笑)。まあ、ドンキホーテも“ドンキ・ホーテ”ではなく「ドン・キホーテ」なので、そうした言葉の切り間違いは“あるある”でしょう。

 

何はともあれ、メジャーリーグを楽しみたいなら、ベーブ・ルースの偉業を知っておいて損はありません。

 

MLBジャーナリストが二刀流の2人を徹底解剖

 

さて、今回紹介する新書は大谷翔平とベーブ・ルース 2人の偉業とメジャーの変遷』(AKI猪瀬・著/角川新書)。著者のAKI猪瀬さんはMLBジャーナリスト。アメリカ留学時にメジャーリーグについて研究をはじめ、現在はメジャーリーグ中継の解説者としておなじみです。著書に『メジャーリーグスタジアム巡礼』(エクスナレッジ)があります。

 

大谷翔平とベーブ・ルースの軌跡

2022年のメジャーリーグで、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手が二桁勝利&二桁本塁打を記録しました。これは1918年に達成したベーブ・ルースから104年ぶりの快挙。著者のAKI猪瀬さんは「ルースと大谷の共通点、それは、『唯一無二の存在』」といいます。

 

第1章は、大谷選手の2022年シーズンの振り返り。先発した開幕のアストロズ戦から順を追って見ていきます。大谷選手が残したコメントなども入り、40ページほどと短いながら、偉業達成までの道のりが克明にまとまっています。野球本を読みながらお酒を飲む人にはたまらないでしょう。

 

第2章「1918年のベーブ・ルース」は、ベーブ・ルースの生い立ちと創立まもないメジャーリーグの背景、そして1918年シーズンが語られていきます。この章が本書にとっての肝。前年に第一次世界大戦に参戦したアメリカでは、メジャーリーグにも影響が出始め、それがベーブ・ルースの記録を後押しする結果に……。歴史の渦はもちろん、ボールの質が悪く「デッドボール時代」と呼ばれた当時のメジャーリーグの状況も紹介され、今との違いに驚くとともに引き込まれました。

 

本書の中盤以降は、「投」と「打」の変遷を追う、いわばメジャーリーグの100年史となっています。サイ・ヤング、タイ・カッブ、ルー・ゲーリッグといった、私でも名前は知っている伝説的な選手についても解説され、その偉大さが掴めます。細かいルールの改定、用具の進化、アメリカンドリーム……メジャーリーグ精神とは何か? アメリカらしさとは何か? そんなことも100年の歴史を通して見えてきます。

 

情報満載で読み応えたっぷりの本書。静かに並ぶ記録や数字の端々から、AKI猪瀬さんのメジャーリーグへの深い理解とリスペクトがあふれてくる、そんな一冊です。

 

【書籍紹介】

大谷翔平とベーブ・ルース 2人の偉業とメジャーの変遷

著:AKI猪瀬
発行:KADOKAWA

「野球の神様」ベーブ・ルース以来の二桁勝利&二桁本塁打を達成した大谷翔平。104年ぶりの快挙に世界中が沸いた。なぜ2人だけがこの偉業を成し遂げることができたのか。往年の名選手との比較により明らかにする。選手からの信頼も厚く、年間150試合を解説する日本屈指のMLBジャーナリストが徹底解剖。投打の変遷や最新トレンド、二刀流の未来を網羅した、今までにないメジャーリーグ史。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

パヴロフの犬ってどんな実験だったかご存知? 有名な心理学実験はどのように行われたのか~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。実験って面白いですよね。ただ家事をするだけだと面倒くさくて仕方ないので、掃除や洗濯などは日々実験と思ってこなしています(笑)。この汚れにはクエン酸がいいのか、重曹がいいのか。洗濯物をどう干せば生乾き臭が防げるのか……。

 

実験といっても毎回条件が違うので正確な答えは出ないですが、自分なりに仮説を立ててそれが実証されるとうれしいものです。小学生のころ、理科の科学実験が好きだったことを思い出します。

心理学者が紹介する有名実験

 

さて、今回紹介する新書は心理学をつくった実験30』(大芦治・著/ちくま新書)。著者の大芦治さんは心理学者で千葉大学教育学部教授。専門分野は心理学、教育心理学です。著書に『無気力なのにはワケがある―心理学が導く克服のヒント』(NHK出版新書)、『心理学史』(ナカニシヤ出版)などがあります。

“パヴロフの犬”はどんな実験?

19世紀末から20世紀末までに行われた重要な心理学実験の内容を解説していく本書。30の実験は名前としてはピンとこなくても、立証された説は小説や映画、自己啓発本などで見かけるものが多数あります。それらの実験が具体的にどのような手法で行われたのか、その実験をきっかけに心理学がどう発展していったのか。“人間の心”という目に見えないものを解き明かすための奮闘の歴史ともいえるでしょう。

 

第1章「行動主義と条件づけ」では、いわゆる“パヴロフの犬(「パヴロフの条件づけ」)”が取り上げられています。私ももちろん名前は知っていますが、そういえば実験手法は気にしたこともありませんでした。

 

条件づけされれば食べ物がなくても唾液が出ることを証明した、ロシアの生理学者イワン・パヴロフ(1849~1936)。まず、犬の口にチューブを差し込んで唾液が採取できるように固定します。そしてメトロノームを鳴らして、餌を与えることを何度か繰り返すうち、犬はメトロノームの音を聞いただけで唾液を出すようになる……。実験の様子を描いたイラストも掲載され、当時の状況がわかります。

 

そそっかしく忘れっぽい私が興味を引かれたのが、第4章「認知と記憶」で紹介されているドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウス(1850~1909)の「エビングハウスの忘却曲線」。人間の忘却と時間の関係を示したグラフを、学習法や記憶術の本などで見たことがある人も多いでしょう。

 

この実験の内容も面白く、被験者はエビングハウス本人だけ。ローマ字3つをランダムに並べた無意味な音節13個を作って1セットとし、それを暗記します。1セットを2回間違えずに言えれば記憶は成功。初回学習と一定の時間経過後に行った再学習で記憶にかかった時間の差を測り、記憶の保持率を出します。

 

結果としては、19分後の保持率はせいぜい60%、1日経つと30%近くまで落ち込みますが、その後はそれほど低下せず6日経っても3割弱だったそうです。「長期記憶の性質を実験によってとらえている」と大芦さん。忘却曲線の実験は、意味のない3文字を覚えるという行為だったんですね。

 

ほかにも、被験者が他人に電気ショックを与えるかを観察した「ミルグラムの服従実験」、子どもがマシュマロを我慢できる時間と将来の成功の相関関係を測った「マシュマロテストの追跡研究」、長期間ストレスにさらされると現状に対して無気力に陥る「セリグマンの学習性無力感」など、気になる実験が並んでいます。

 

文章は堅めなものの、30の実験が個別にまとまっているため読みやすく、それでいて心理学という学問の歴史に沿っているので俯瞰で見ることもできます。立証された説だけでなくその大元をたどっていく、知的好奇心を刺激する切り口も新書らしいところ。

 

心とは何か? どうしたら測れるのか? 人間の隠れた部分と尽きない探究心に触れられる一冊でした。

 

【書籍紹介】

心理学をつくった実験30

著:大芦治
発行:筑摩書房

パヴロフの犬、ミルグラムの服従実験、マシュマロテスト、セリグマンの学習性無力感……。心理学の魅力は、精緻に練り上げられた実験手法と、それがあぶり出す人間の知られざる一面にある。「心」とそれにまつわる人間の活動を科学的に解明することをめざした近代心理学は、その当初から実験研究を重視してきた。本書では、そのなかから広く知られ、大きな影響力を持った30の実験をセレクト。それぞれの実験を心理学の流れのなかに位置づけ、その内容と影響を紹介していくことで、心理学という学問の歴史とその広がりを一望する。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

お金を稼ぐのに必要なのは投資技術や情報分析ではない。マインドセットだ!! 『サイコロジー・オブ・マネー』

フリーランスという立場になって30年近くが経った今でも、夜中に目が覚めた時に脳裏をよぎる恐れがある。それは、青色申告会に開業届を出した日と変わらない。

ふとした瞬間に訪れる恐れ

フリーランスという働き方には何の保証もないし、前の年と全く同じレベルの収入があるかもわからない。毎年確定申告できっちりした数字を出すことになるので、ある程度は安心できるのだが、それでも漠然とした恐れにとらわれることがある。

 

いや、夜中だけじゃない。テレビを見ている時であれシャワーを浴びている時であれ、ふとした瞬間に訪れる思いに、しばらくの間とらわれたままになってしまうこともある。決してポジティブではないので、こうしたことは極力少なくしたい。そんな筆者にピンポイントに刺さった一冊を紹介する。

 

富のマインドセット

『サイコロジー・オブ・マネー』(モーガン・ハウセル・著、児島修・訳/ダイヤモンド社・刊)には“一生お金に困らない「富」のマインドセット”というサブタイトルが付けられている。筆者はこれまで、お金に関するさまざまな本を読んできた。その数は、世間一般のアベレージを軽く超えていると思う。

 

著者ハウセル氏がサイコロジー・オブ・マネーと呼ぶものは、「何を知っているか」よりも「どう振る舞うか」が重要になる“ソフトスキル”だ。投資テクニックや金融情報分析に代表されるハードスキルに対し、ソフトスキルという言葉で表されるのはずばり“人間心理”にほかならない。この本には、その人間心理を最大限に活かしながらお金との賢い付き合い方を探っていく方法が記されている。

 

異なるレンズを通した異なる見え方

全20章から成る本書には、お金とうまく付き合って大きな財産を残した人、間違って破産した人、成功した人も失敗した人もたくさん出てくる。お金に関する成功と失敗を決定づける要因は何なのか。

 

つまり私たちは、それぞれの体験に基づいた、異なるレンズを通して世界を見ているのだ。誰もが、世界の仕組みを理解していると思っている。しかし、一人ひとりは世界のほんのわずかな部分しか経験していないのである。

『サイコロジー・オブ・マネー』より引用

 

童話を読んでいるような寓意性

実在する/した人たちの生き方を通して投資や貯蓄といった経済行動を解き明かしていくフォーマットは、グリム童話とかイソップ童話を読んでいるようなイメージだ。たとえば、「お金持ちがとんでもないことをしでかすとき」というサブタイトルが付けられた第3章「決して満足できない人たち」に、次のような文章がある。

 

要するに、他人と収入を比較してもきりがないということだ。比較をしている限り、誰も頂上には到達できない。これは決して勝つことができない戦いだ。唯一、勝てる方法は、最初から戦わないことである。

『サイコロジー・オブ・マネー』より引用

 

「そんなこと考えたこともない」と言い切れる人はいないんじゃないだろうか。自分と比較すべき対象は、昔の姿であれ今の姿であれ、そして将来の姿であれ、あくまで自分でしかない。完全に異なる存在である誰かと自分を比べること自体がナンセンスなのだ。

 

究極の自由とは

さらに紹介していこう。第7章「自由」には、給料や収入と自分の関係にまつわる次のような一文がある。

 

どんなに高い給料よりも、どんなに大きな家よりも、どんなにステータスのある仕事よりも、「好きなときに、好きな人と、好きなことができる」生活を送れることのほうが、人を幸せにするのである。

『サイコロジー・オブ・マネー』より引用

 

今の筆者には特に刺さる言葉だ。こういう風に生きたいからあえてフリーランスという働き方を選んだのだから、時折脳裏をよぎる妙な雑音に心を折られるなんて、そもそも間違っている。

 

目に見えないものの金融的価値

第8章「高級車に乗る人のパラドックス」からは、次の一文を紹介したい。

 

真の富とは目に見えないものだ。富とは、購入しなかった高級車であり、買わなかったダイヤモンドである。身につけていない時計、着ていない服、乗らなかったファーストクラスの座席である。富とは、目に見えるものに変換されていない金融資産のことなのだ。

『サイコロジー・オブ・マネー』より引用

 

書くだけなら簡単だ。そう言う人もいるだろう。しかし、超有名ベンチャーキャピタルのパートナーであり、アメリカで最も利用者の多い投資アドバイスメディアおよび『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙でコラムニストを務め、『ニューヨークタイムズ』紙からの受賞歴がある人物が綴ると、リアリティとして完全に自分に投影することはできないものの、かなりの説得力が宿る言葉となる。

 

「何を知っているか」ではなく「どう振る舞うか」

この本の実用性の高さは、すべてのエッセンスが詰め込まれた第19章「お金の心理」に集約されている。著者ハウセル氏は語りかける。

 

私はあなたに具体的なアドバイスをするつもりはない。普遍的な真理を教えたいのだ。

『サイコロジー・オブ・マネー』より引用

 

著者ハウセル氏がサイコロジー・オブ・マネー=ソフトスキルと呼ぶものは、“お金に関する普遍的な真理”という言葉にも置き換えられる。重要なのは「何を知っているか」ではなく、「どう振る舞うか」だ。これだけ冷静なトーンで語りかけられると、耳を傾けないわけにはいかない。

 

【書籍紹介】

 

サイコロジー・オブ・マネー

著者:モーガン・ハウセル
発行:ダイヤモンド社

世界が絶賛! 超話題のマネー本がついに上陸。破産した大富豪と10億円もの資産を築いた地味な清掃員。2人にあった違いとは? 資産を築けない人の特徴、そしてお金を手にし続けるために大切なマインドセットを紹介する一冊。もうこれで、一生お金に困らない!

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K-POPも韓国ドラマもこれ一冊! 推しとオタクへの愛に満ちた語学本『世界が広がる 推し活韓国語』担当者に聞く!

2022年3月の発売直後から大反響を呼んだ『世界が広がる 推し活英語』の第2弾は、待望の韓国語! K-POPや韓国ドラマはもちろん、グルメやファッションまで、今やトレンドの最先端となった韓国カルチャーの推し活に使えるフレーズやワードが満載。早くもオタクのあいだで話題騒然となっています。企画・編集を担当したGakkenの澤田未来さんにお話を伺いました。

 

(取材・執筆:菊池昌彦)

 

企画の背景は世界的な韓国ブーム

――本書を企画されたのはどのような経緯からですか?

 

澤田 元々、前作の『世界が広がる 推し活英語』は、世界的なオタクカルチャーの盛り上がりと、私自身の体験を背景として企画したものです。昨今、SNSや動画サイトでは、あらゆる国の言葉で、好きなアイドルやアニメなどを応援するコメントが書き込まれています。これに着目し、手始めに多くの方が使用している英語にフォーカスしてオタク語彙を収集したら、ユニークな本ができるのではないかと思いました。また、私自身、海外の友人と互いの好きなものを語り合う際に、自分の語彙力が足りないせいで、十分にコミュニケーションが取れないもどかしさを感じることがよくありました。私と同じように感じている方がいるかもしれないと思い、海外の人々と推しへの愛情を語り合うための本をつくりたいと考えました。

約2年間の構想の末に、昨年3月に発売したのですが、大変ありがたいことに大きな反響をいただきました。本書の予約開始段階から「これの韓国語版も欲しい」という声が多く寄せられまして、『推し活英語』の発売前に企画を立ち上げました。

 

――ご自身でも韓国ブームのようなものは感じておられましたか?

 

澤田 もちろんです! 韓国エンタメの流行はこれまで幾度もありましたが、最近は特に盛り上がっていますよね。BTSなどのK-POPアーティストや「イカゲーム」などのドラマが世界的にヒットしたり、昨年のNHK「紅白歌合戦」には韓国のガールズグループが3組も出演したりと、全世代にわたって浸透しているように思います。私も近年沼落ちした一人です。また、コロナ禍が落ち着く中で、韓国への渡航制限が緩和され、日本人の韓国旅行需要が高まっています。このような背景から、日本人の韓国語学習者が増えていると感じます。

 

――韓国のアーティストや俳優のファンダムの印象はいかがでしたか?

 

澤田 ファン同士が連帯して、いっしょに推しのために活動する“行動力”がすごいなあと思います。例えば、推しのデビューや誕生日を祝うために駅や街頭スクリーンに広告を出したり、撮影現場にコーヒーカーを差し入れしたり、オリジナルカップホルダーを作って配布するイベントを実施したり……。最近は日本をはじめ、外国でも見られますが、韓国発のユニークな文化だと感じています。

 

韓国エンタメを愛するオタクから集めた「推し活」フレーズ

――この本には膨大な量のオタクワードが並んでいますが、制作はどのように進められましたか?

 

澤田 まず、読者の皆さんが韓国語でどんな言葉を言ってみたいのかを知るために、日本人の韓国エンタメを愛するオタクの方々を対象に、20問のウェブアンケートを実施しました。100人以上の方々から、「表情管理の天才」「口からCD音源」などといった回答が集まり、数百の単語・フレーズリストをつくることができましたが、これをそのまま直訳するだけでは、韓国人に通じない表現も出てくるだろうと考えました。

そこで、アイケーブリッジ外語学院で韓国語講師をされている、柳志英先生と南嘉英先生にご協力をお願いすることにしました。お二人は日本語がネイティブ並みにお上手で、韓国エンタメにも精通されているため、日本語のニュアンスを汲み取りながら、実際に韓国人のエンタメオタクがよく使う言葉に置き換えてくださったんです。

例えば、「表情管理の天才」は「表情演技の達人(표정 연기의 달인.)」、「口からCD音源」は「CD飲み込んだかと思った(CD 삼킨 줄.)」のほうが自然だよ、といった形で一つ一つご指摘いただきながら、リストの精度を高めていきました。

 

――韓国カルチャーといっても、アイドル、俳優に関するものから、グルメやファッションまで多岐に渡りますが、言葉の選定にあたっての苦労は?

 

澤田 基本的には、あまり特定の分野に偏らないように気をつけました。どうしてもK-POPファンの方々によるニーズが高いので、比重が大きくなってしまいますが、「すごく会いたかったです(너무 보고 싶었어요.)」や「まぶしくて見えません(눈이 부셔서 볼 수가 없어요.)」などは、推しが誰であっても使えるフレーズです。このように、ジャンルを問わず使える言葉を中心に扱うようにしました。

 

――カットした中で、印象に残っている言葉は?

 

澤田 韓国では、グルメやファッションなどのトレンドが目まぐるしく変わりますよね。読者の皆さんには、本書をできる限り長く使っていただきたいので、一過性のブームで終わりそうなものは避けて、なるべく普遍的なものに絞りました。

それから、韓国カルチャーの推し活をしていると「サセン(사생/スターの私生活まで追いかけ回す、マナーの悪いストーカー的なファン)」などのネガティブな言葉も目にしますが、本書ではあえて扱いませんでした。というのも、読者の中には、初めてこの本で韓国カルチャーに触れる方もいるかもしれません。そんな方々には、あまりネガティブなことを考えず、ハッピーな気持ちで読んでほしいと思ったんです。

 

――言葉の意訳で気をつけた点は?

 

澤田 “韓国語にはあるけど、日本語にはない概念”というものもあります。例えば、「トkトンサゴ(덕통사고/突然起こった事故のように、急にオタクになること)」や「カrグンム(칼군무/刀のようにキレのある群舞)」のようなものです。これらは日本人のオタクの皆さんも言いそうな「突然の沼落ち」や「キレッキレのダンス」といった造語に置き換えて掲載しました。

また、日本のファンのあいだで使われている韓国語が、実は現地ではあまり使われていないというケースもあります。日本では「男性アイドルグループ」を「ナムジャグル」、「女性アイドルグループ」を「ヨジャグル」と言ったりしますが、韓国では「ポイグルp(포이그룹/ボーイズグループ)」「コrグルp(걸그룹/ガールズグループ)」という言い方が一般的だそうです。このように、私を含め、多くの日本人が勘違いしていそうな箇所については、積極的に盛り込んで解説するようにしました。

 

――「オタクが使うフレーズ」だけでなく、CHAPTER 2として「推しが使うフレーズ」が載っているのもおもしろいですね。

 

澤田 こちらは『推し活英語』にはなかった章です。韓国エンタメのファンの中には、自分から何か発信したり、ファン同士で連帯したりまではしないけれど、推しの言葉は理解したいという方がたくさんいるのではないかと思いまして……。そこで、音楽番組やコンサート、SNSや配信などで、アーティストや俳優がよく使う言葉を入れました。

 

――書籍全体として、ハングルの発音表記も独特です。

 

澤田 これはアイケーブリッジの先生方にご提案いただいたものです。韓国語には、日本語にはない、子音で終わる音があります。すべてカタカナで表記している語学書もあるのですが、よりネイティブの発音に近づけるため、カタカナのルビにアルファベットのk、r、m、pを入れるなど、一瞬誤字脱字ととらえられかねない表記方法にチャレンジしてみました。例えば「キムチ」ではなく「キmチ」と表記しています。

 

制作陣全員が韓国カルチャーへの愛を持ってつくった本

――『推し活英語』から関わっている劇団雌猫さんや、イラストレーターのあわいさんも参加されています。

 

澤田 劇団雌猫さんは、国内外のいろいろなジャンルのオタクを取材することをライフワークにされており、オタクカルチャーにお詳しい方々です。「この言い回しは便利そう」「初心者にとっては解説がないとわかりづらい」などと、多角的な視点でご意見をいただけるため、今回も監修をお願いしました。

あわいさんには、韓国で人気の髪型や服装、アイテムをお伝えし、素敵なイラストにしていただきました。特定の誰かをモデルとするのではなく、普遍的なファン像・アーティスト像を追求したおかげで、読者の皆さんに共感していただきやすいイラストになったのではないかと思います。

 

――ダウンロードで聞ける音声にも、現役のアーティストが起用されていて豪華な顔ぶれです。

 

澤田 多くの語学書には標準装備として音声がついていますが、『推し活』シリーズに関して言えば、リスニング用の音声というより、ひとつの作品として楽しめるような音声にしたいと考えています。前作の『推し活英語』でも、オタク女子役の日本語ナレーションは声優の悠木碧さんにお願いし、読者の皆さんにご好評いただきました。

今作では、男性アーティスト役の日本語ナレーションをINIの許豊凡さんと田島将吾さんに、女性ファン役の日本語ナレーションを声優の首藤志奈さんにお願いしました。INIの皆さんは韓国でも活動されていて、中でも許さん・田島さんは韓国語を勉強していることで知られていますので、そのお二人にご出演いただくことは、読者の方々にとって大きな励みになると考えました。許さん・田島さんのフレッシュな演技、首藤さんの感情豊かな演技も、本書の魅力のひとつです。

↑日本語ナレーションに参加したINIの許豊凡さん(左)と田島将吾さん(右)

 

――流行語や若者言葉など、通常の語学書には出てこないような言葉も並びますが、韓国語のナレーションは苦労したのでは?

 

澤田 それは全くありませんでした。女性ファン役のキム・シニョンさんは韓国エンタメをお好きな方で、男性アーティスト役のシン・ウィスさんは音楽プロデューサーとしても活躍されています。若者言葉やオタク用語に日ごろから触れているお二人でしたので、「こんな言葉聞いたことがない」とおっしゃることはなく、収録を楽しんでいらっしゃいました。

 

――紙面のデザインも、韓国らしい色づかいなど、こだわりが感じられます。

 

澤田 前作に続いて、キタダデザインの北田信吾さんがご担当くださっています。『推し活英語』とのシリーズ感を出しながらも、韓国カルチャーを研究したうえでデザインを作り変えています。

単語やフレーズはもちろん、イラスト、音声、デザインと、本書にかかわった全員が、韓国カルチャーへの愛とリスペクトを持って作っているのが『推し活韓国語』です。読者の方々にその点を評価していただき、「中の人がわかってる」と言っていただけるのは、とても嬉しいです。

 

――今後第3弾などシリーズ化していく予定はありますか?

 

澤田 そうですね。最近は中国のゲームやアニメ、創作界隈が熱いですし、タイBLも相当深い沼だと聞いています。読者の方々からそういったニーズがあれば、改めて企画にしていきたいと思います。

 

【書籍紹介】

推し活韓国語

著者:柳志英、南嘉英
発行:Gakken

2022年3月に発売し大きな話題となった『世界が広がる 推し活英語』に続く姉妹編として、最も多くのご要望をいただいた『推し活韓国語』がついに登場! 韓国人のエンタメオタク全面協力のもと、「カムバック」「チッケム」などの367語と、「最強の愛されマンネ」「エンディング妖精、優勝してる」などの517フレーズを掲載しています。ひとつひとつの言葉の意味を丁寧に解説しているから、入門者も安心。ファンレターや運営へのメールの書き方など、コラムも充実しています。韓国のエンタメを愛するすべての方々に活用してもらいたい一冊です。

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哲学者ソクラテスはワインの水割りがお好き!? 歴史の陰にはワインあり~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。最近はジンにハマっていますが、以前は赤ワインに夢中な時期がありました。赤ワインは飲み慣れてくると、深みのある重さがクセになります。ワイナリーごとの特徴や、ブドウの品種・ブレンドによる味の違いもわかってきて、自分の味覚が研ぎ澄まされていくような感覚になるのが楽しいんですよね。「ワインで歴史が動いた」というのも頷けるものがあります。

 

ワインと歴史の関わりを解き明かす

さて、今回紹介するのはワインと歴史の関わりを解き明かしていく新書世界史を動かしたワイン』(内藤博文・著/青春新書インテリジェンス)。著者の内藤博文さんは歴史ライター。西洋史から東アジア史、芸術、宗教まで幅広い分野で活躍しています。著書に『「ヨーロッパ王室」から見た世界史』『世界史で深まるクラシックの名曲』(いずれも青春新書インテリジェンス)、『「半島」の地政学』(河出書房新社)などがあります。

優れた哲学者はワインによって生まれた!?

第1章「古代ギリシャの民主政治とキリスト教を育てたワイン」では、古代世界でワインが果たした役割がわかります。ギリシャは暑く乾燥した気候と石灰岩でできた水はけのいい土壌により、ブドウ栽培には絶好の条件が整っていました。

 

古代ギリシャ人のワインの飲み方にはふたつの特徴があったそうです。ひとつは食後に水割りでワインを飲むこと。ワインをそのまま飲むのは下品だったとか。私も今度試しにワインの水割りをやってみようかと思いました。

 

またもうひとつは、車座になって大きな杯で回し飲みをしていたこと。この酒宴はギリシャでは「symposion」と呼ばれ、英語で討論会を意味する「シンポジウム」のルーツとなったそうです。

 

「ワインは理性に何ら害を与えず、快い歓喜の世界に気持ちよくわれらを誘ってくれる」とは哲学者ソクラテスは語ったとか。ワインを飲む場は知的な会話の場にもなりやすく、だからギリシャでは優れた哲学者が現れた、と著者の内藤さん。水割りワインでほどよく酔うことで政治に関する討論が盛り上がったことでしょう。

 

ワインが歴史の大きな転換点を担ったことが見えてくるのが、第5章「フランス革命とナポレオンの暴風が産み落としたワインの『伝説』」。フランス革命は1789年7月14日のバスティーユ監獄襲撃に始まるとされますが、実はその前に伏線がありました。

 

パリ市民がバスティーユ監獄襲撃の3日前に、「3スーのワイン万歳! 12スーのワインを打倒せよ!」を合言葉に入市税門を襲撃したいきさつとは……?

 

ワインという私たちにも身近な飲み物に焦点を当てることで、ヨーロッパの複雑で激動の歴史がわかりやすく鮮やかに伝わってきます。各章ごとにゆかりある有名ワインが写真とともに紹介されるコラムも、ワイン好きには嬉しいところ。お酒のうんちく、歴史のうんちくが上手いバランスで混ざり合っています。

 

読みやすい文章でぐいぐいいけるのに歴史の深さにも触れられる、本書はたとえるなら質のいいカジュアルな赤ワインのよう。タンニンの苦みは人を知的に、あるいは瞑想的にさせると内藤さん。ワインを飲みながら歴史本を開く、そのマリアージュは格別でしょう。

 

【書籍紹介】

世界史を動かしたワイン

著:内藤博文
発行:青春出版社

世界史、とくに西洋の歴史はワインとともに発展してきた。古代ギリシャの民主政治と哲学を育んだのはワインであり、ローマ帝国の版図拡大にワインは欠かせないものだった。フランス革命の直接の起因はワインの高い税金への恨みでもあった。そんな世界史とワインの切っても切り離せない関係を明らかにした、読むほどに教養と味わいが深まる魅惑のヒストリー。現在でも手に入る歴史を動かした名ワインも写真付きで紹介。

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卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

心を壊してまでやることはない。「たかが仕事」である。 佐久間宣行が語る仕事術とは?

みなさん、仕事は楽しいですか? 好きな仕事をできていますか? 最近は、楽しいこと・好きなことを仕事にしないとダメだと言われているような風潮を感じます。確かに好きなことでお金が稼げたら最高ですが、選ばれた人しかできないと思ってしまいますよね。

 

今回は『佐久間宣行のずるい仕事術』(佐久間宣行・著/ダイヤモンド社・刊)を紹介します。佐久間さんは元テレビ東京の社員で、さまざまなバラエティ番組を手掛けてきました。テレビプロデューサー以外にもニッポン放送でパーソナリティを担当するなど幅広いキャリアを築いている方。本の中には佐久間さんらしい表現で今日よりちょっと前を向けるような言葉がたくさん書かれてありました。

 

メンタル第一、仕事は第二

20年以上社会人をしている佐久間さん。『佐久間宣行のずるい仕事術』は、新社会人必読な「仕事術編」、上司や部下の教育に悩んでいる人におすすめの「人間関係編」「チーム編」「マネジメント編」、仕事をワンランクアップしたい人に読んでほしい「企画術編」、誰もが知っておくべき「メンタル編」の6章で構成されています。本のタイトルにある「ずるい」は、佐久間さん自身が真正面から仕事をして心をすり減らした経験があったからこそ「ずるく仕事しよう」と考えるようになったのだとか。佐久間さんが大事にしている仕事のスタンスを、メンタル編からご紹介しましょう。

 

心を壊してまでやるべき仕事なんてどこにもない。

どんなに大きな仕事でも、どれだけ意義のある仕事でも、心を差し出すまでの価値はない。だって仕事なんて、「たかが仕事」なのだから。

死守すべきは仕事よりもメンタル。

「真剣」にはなっても、「深刻」になってはいけない。

(『佐久間宣行のずるい仕事術』より引用)

 

佐久間さんのように「好きな仕事」をしている人は、プライベートも仕事も一緒なのかな? と勝手に思っていたのですが、「たかが仕事」と考えているのはちょっと驚きでした。いい仕事は、心の健康があってこそ。メンタルが第一で、仕事が第二ということは誰もが忘れてはいけないことかもしれませんね。

 

人間関係の悩みは、コント化する

メンタルが大事とわかっていても、知らず知らずに心を蝕んでくることもありますよね。例えば、どうしても嫌いな人と仕事をしなければいけない……そんなシチュエーションも出てくるはず。そんな時は、佐久間さんのこんな仕事術を参考にしてみましょう。

 

どうしても嫌いな人と仕事をするとき、おすすめの方法がある。

僕が苦手な人と話さなければならないときに編み出した、相手とのやりとりを不毛なバトルに発展させないためのテクニックだ。

その人と対面した瞬間、心の中でこう唱える。「コント:嫌いな人」。

(『佐久間宣行のずるい仕事術』より引用)

 

これ、最高だ(笑)。コントにすると、自分自身も客観的にその状況を眺めることができ、真正面から現実を受け止めなくて良くなるのだとか。「また始まったよ〜」とうんざりすることも、「新しいネタでも作るか」と余裕を持って対応できるようになるかもしれませんよ! 私も今度やってみよう(笑)。

 

ずるさは、いかに工夫するかだ

「ずるい仕事術」と聞くと、どうやってコソコソするか? を考えてしまうかもしれませんが、佐久間さんの語る「ずるさ」は、いかに工夫するか? とも読み取れました。言われた通りに仕事をするのではなく、自分がやりやすいように視点を変えて仕事をする。それによって、自分の心を守り成果も出せる、そんな仕事術がたくさん掲載されています。

 

変化が激しい今、「〇〇さえしていれば大丈夫」なんてことはなくなりました。佐久間さんのように工夫しながら、日々を楽しく過ごせるようになれば、今やっている仕事も好きな仕事に変わるかもしれません。自分の働き方を見直したい人、転職したいと思っている人、毎日働くことがつまらなく感じている人は、『佐久間宣行のずるい仕事術』を読んでみてください。明日からの仕事への向き合い方がちょっぴり変わるかもしれませんよ!

 

【書籍紹介】

佐久間宣行のずるい仕事術

著者:佐久間宣行
発行:ダイヤモンド社

サラリーマンでありながら、「オールナイトニッポン0」のラジオパーソナリティをつとめ、ファンイベントを行えばリアルで5000人が集まってしまう、45歳のフツウのようでフツウじゃない、いま話題の佐久間宣行が教える、誰とも戦わず、好きなことで効率的に成果を出す62の仕事術。

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奈良にある正倉院で行われている仕事って何? どうすれば1200年前の宝物を守れるのか~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。私は動物園や水族館に行くと、まずバックヤードツアーが開催されていないか確認します。普段は立ち入ることのできない裏側を、ガイド付きで回れるのがなんとも楽しいんですよね。その後改めて表側を行くと、スタッフの方々の工夫もわかって面白さが倍増します。見えない仕事ほど重要なものです。

 

ちなみに私の仕事ぶりをバックヤードツアーで見せてくれと言われたら断固ノーです(笑)。散らかりすぎているので……。

正倉院のプロフェッショナルが語る宝物

今回紹介する新書は、奈良にある校倉造で有名な正倉院の“仕事”に焦点を当てた正倉院のしごと-宝物を守り伝える舞台裏』(西川明彦・著/中公新書)。著者の西川明彦さんは正倉院事務所前所長。1988年から正倉院事務所に勤務し、整理室長、調査室長、保存科学室長、保存課長などを歴任してきました。著書には『正倉院宝物の装飾技法』(中央公論美術出版)などがあります。

正倉院では何が行われているのか?

聖武天皇のゆかりの品を納めるため奈良時代に成立した正倉院は、今でも約9000件の宝物を納めています。本書では宝物そのものの説明ではなく、現在正倉院で行われている仕事を「保存」「修理」「調査」「模造」「公開」の5つの分野に分けて解説していきます。

 

正倉院のすごさがわかるのが、第2章「正倉院をまもる―保存」。およそ1200年もの長い年月、地中ではなく人の手によって守られてきた伝世の品は稀有、と西川さん。

 

壁である檜材にはそれ自体に高い吸放湿機能があり、さらに宝物を入れる杉製の容器「辛櫃(からびつ)」も優れた調湿性能を持ち、二重に過湿が防がれてきたのだそうです。

 

さらにカビ・害虫対策のため、正倉院では年に一度「曝涼(ばくりょう)」、いわゆる虫干しと点検を念入りに行っています。といってもカビの発生を完全にゼロにすることは不可能。現在は、カビが防ぎきれない宝物はポリエチレンフィルムのなかに入れて調湿剤とと防カビ剤を封入して保管しているのだとか。

 

第5章「宝物をつくる――模造」も驚きがありました。実は、正倉院では宝物の模造事業にも取り組んでいるのだそう。本家がわざわざ模造を作るには主に3つの理由があります。1つ目は展示するため。2つ目は破損したまま伝来した宝物を復元するため。そして私がなるほどと思ったのは、3つ目の危機管理のため。突然の災害に備えてデータを取っておくためだとか。

 

いずれにしろ宝物を模造することで古代技術の知見が得られ、長く途絶えていた技法の復元につながった例も多いと西川さん。宝物だけでなく、技法を未来につなげることも役割のひとつなんですね。

 

劣化していく宝物をいかにトリアージするか、科学調査のメリットと限界、正倉院展での職員の緊張感……。長年、保存と向き合ってきた著者ならではの深みのあるエピソードの数々。

 

時を超えるにはどうしたらいいのか。知恵と技術の試行錯誤は、現場での臨場感もあって読んでいてワクワクします。個人的には“静かなSF”、そんな感覚もありました。

 

正倉院のあり方は、「動物が生息する環境をまるごと保護区として守る方法に等しい」と西川さん。正倉院はタイムマシンといえるかもしれません。

 

【書籍紹介】

正倉院のしごと-宝物を守り伝える舞台裏

著:西川明彦
発行:中央公論新社

奈良時代、光明皇后が聖武天皇の遺品を東大寺大仏に献納したことに始まる正倉院宝物。落雷や台風、源平合戦や戦国時代の兵火、織田信長やGHQなど時の権力者による開扉要求といった数多くの危機を乗り越えてきた。古墳など土中から出土したのではなく、人々の手で保管されてきた伝世品は世界的にも珍しい。千三百年にわたり宝物を守り伝えてきた正倉院の営みを、保存・修理・調査・模造・公開に分けて紹介する。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

心はマッサージできないからジェーン・スーの『おつかれ、今日の私。』で心をほぐして、自分をちゃんと労わろう

身体のコリや疲れは、マッサージで揉みほぐすことができますが、心ってマッサージのように揉みほぐせませんよね。もちろん、マッサージやお風呂につかって「気持ちよかった〜」と心まで軽くなることもありますが、ふとした瞬間に嫌なことを思い出してしまって「ふぅ……」とため息。

 

そんな毎日がんばっているあなたにお届けしたいのが、『おつかれ、今日の私。』(ジェーン・スー・著/マガジンハウス・刊)です。帯には“自分を慈しむ セルフケア・エッセイ48篇”と書かれてあるのですが、まさにその通りな一冊でした。

 

頑張り過ぎていることに気づいている?

著者は、ラジオや雑誌、ウェブコラムでも大人気のジェーン・スーさん。私も大好きで、お昼はTBSラジオでスーさんの声に励まされ、もう何も考えたくない夜には、スーさんのPodcastを聴きながら風呂に浸かって大声で笑うと「いゃ〜今日もよく頑張ったな」と1日を終えることができます。

 

今回ご紹介する『おつかれ、今日の私。』には、48のコラムが掲載されています。タイトルを並べるだけでも「はっ」とする人は多いかも。例えば、「最近、なんにも報われない」「辻褄が合わなすぎる」「弱った自分からの脱却イニシエーション」などなど、毎日を頑張って生きる人間ならピンとくるものばかり。その中でも個人的に一番刺さったのは、「上手に休むのも能力だ」でした。

 

疲労はキャパオーバーの証しだ。もう休んでくれと、体が悲鳴を上げている。やりたくないことを続けて、心が過呼吸になっているのだ。やってほしいことをやってくれない人が視界に入るから、気持ちが削られてしまうのだ。私たちの頑張りパワーは有限で、できることにも限りがある。もちろんキャパを広げていくことは可能だが、急には無理。

(『おつかれ、今日の私。』より引用)

 

この一文を読んで、刺さった人は頑張り過ぎな証拠です(笑)。『おつかれ、今日の私。』は、「あ、私疲れていたんだ」とか「私って、毎日頑張っているよね」と認めさせてくれる一冊でもあります。もし、自分の疲れに気づけたら、それは大きな一歩! 身体と心をしっかり休ませましょう。きっと、本の中のスーさんが味方してくれますよ!

 

「なんのために生きてるの?」と思ったら……

もうひとつ私が大好きなコラムを紹介します。それは「つまんないのだ飽きているのだ、自分と日常に」です。もうタイトルに、やられちゃいましたね。私自身、基本的には毎日楽しいと思って生きているんですけど、ある時から急に「あれ? 私ってなんのために生きているのかわからなくなっちゃった」と思った瞬間があったんです。そこから、なんだかいろんなことが白黒に見えてしまって……。そんな時に読んだもんだから、電車の中で涙を浮かべながら読んでしまったコラムです(おつかれ、自分!)。

 

つい先日、すごいことに気づいてしまった。これは世紀の大発見かもしれない。みなさん心の準備はいいですか? それではいきますよ……。

「なんのために生きているか?」なんてことを考えるときは、自分の存在価値がわからなくなっているときに加えて……「つまらないとき」です!

(『おつかれ、今日の私。』より引用)

 

「私って、つまらなかったんだ」って妙に腑に落ちたんです。仕事もある、家族とも仲良し、友人もいる、なのになんだかモヤモヤする。スーさんはこのコラムのなかで「うぬぼれに近い期待が、自分の中にあるのだと思う」とも書いていました。自分の裁量で仕事や暮らしができるようになるアラフォー前後は、きっとこんな悩みを抱える人も多いはず。つまらないなら、楽しくするしかない! 新しいことを始めたり、行ったことのない場所に行ってみたり、自分のために、自分が楽しくなることをもっとやろうと誓ったのでした(笑)。

 

「おつかれさま」のパワー

『おつかれ、今日の私。』は、株式会社中村で連載されていたウェブコラムを再編集した一冊。順番に読んだり、気になるタイトルから読んだり、夜寝る前に1コラムずつ読んだり、好きに楽しむことができる本になっています。

 

個人的にすごく救われたと感じたのは、48篇あるコラムの最後の一言。隣に座っているスーさんに「今日もよく頑張ったね」と背中をポンッとしてもらえるような、そんな締めの言葉で終わっているのがとにかく最高でした。

 

中には「おつかれさま」で締められているものもあって、本の中の文字なのに、とっても嬉しく感じたんですよね。心のこもった「おつかれさま」ってこんなに響くものなのかと驚きました。リモートで仕事することも当たり前になり、コミュニケーションはどんどん手軽になっているけれど、お世話になった人にはちゃんと「おつかれさま」と、心を込めて伝えたいなと思いました。

 

頑張り過ぎと自覚できた人は、まず自分を労るために『おつかれ、今日の私。』を読みましょう(笑)。心に少し余裕ができたら、誰かに心を込めた「おつかれさま」を伝えられる人になれれば、もう少し世の中は優しくなれるのかも? そんなことを感じさせてくれる一冊でした。

 

【書籍紹介】

おつかれ、今日の私。

著者:ジェーン・スー
発行:マガジンハウス

誰にでもねぎらわれたい夜がある。自分を慈しむセルフケア・エッセイ48篇。

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昆虫、植物、貝……新種はどうやって発見されたのか? 気鋭の研究者たちが自ら語る苦労と喜び~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。こう見えても(?)子どものころの私は昆虫少女で、網を持ってはトンボやセミを捕まえていました。それが高じてか、今では『ポケモンGO』でポケモンをゲットする毎日……(笑)。

 

ただ、本書を読んでハッとしました。ゲームのなかでは、決められた図鑑の空白を埋めていきますが、昆虫のような生物はまだ新種が世界中にいる状態。今見かけた昆虫はどこにも分類されていない未知の生物の可能性があるのです。新種発見とは、地球の全貌がまだ明らかになっていないという証でもあります。

新種発見までの道のりを研究者たちが語る

 

そんな新種探しに魅せられた生物学者たちが、自らの発見とそこに至るまでの道筋を明かすのが今回紹介する新書新種発見物語 足元から深海まで11人の研究者が行く!』(島野智之、脇 司・編著/岩波ジュニア新書)。本書の1~9章では9人の気鋭の研究者が登場します。

 

岩波ジュニア新書なので中高生向けですが、夢を追いかけ続け、専門分野に全力を注ぐ人たちのドラマとして大人が読んでも面白く、忘れかけていた静かな情熱がよみがえってきます。

 

編著を担当した島野智之さんは法政大学国際文化学部/自然科学センター教授で、専門は動物分類学(ダニ類・昆虫類を含む陸上節足動物と原生生物)。『ダニが刺したら穴2つは本当か?』(風濤社)など著書多数です。

 

脇 司さんは東邦大学理学部准教授で、専門は寄生虫の分類、生態、保全など。著書に『カタツムリ・ナメクジの愛し方 日本の陸貝図鑑』(ベレ出版)があります。

情熱から生まれる発見のドラマ

第1章は愛媛大学大学院理工学研究科助教の今田弓女さん。少女時代から虫を眺めるのが大好きで昆虫学者を目指していたという今田さんは、京都大学に入学したての4月、教授にコケを食べる原始的な蛾「コバネガ」の研究を持ちかけられ、毎日研究室へ通うことに。

 

コバネガを観察するうちに、新種を発見して発表する「記載論文」を書きたいと考えた今田さん。狙いは今まで生息報告がない東北地方。地図に印をつけ、緯度と標高を定め、月山や白神など東北地方の山奥を進んだところ……!?

 

論文執筆の苦労や反響の喜びも語られ、フィールドワークとデスクワーク、両方の側面が見えてきます。新種を発見するだけでは終わらないんですね。

 

私が読んでいてワクワクしたのは、深海生物の調査。9章の渡部裕美さんは海洋研究開発機構(JAMSTEC)の准研究主任で、熱水噴出域(海底から噴き出す高温の温泉)の生物を研究しています。

 

有人潜水船「しんかい6500」での調査は、宇宙とは違って特別な訓練は必要ないものの、トイレなどはないため体調を整えて潜らなければならないそう。窓の外には発光生物の幻想的な風景が広がる……。深海の生物よりも、水のない陸上という極限環境にすむ人間のほうが奇妙かもしれない、という渡部さんの言葉には、考えさせられるものがあります。

 

9人のエピソードが並んでいるので、研究との向き合い方や新種に対する考え方も異なり、さまざまなアプローチが見えてくるのが本書の面白いところ。

 

自分の好きなことにまっすぐで情熱的な人たちが、今日も地球の謎を少しずつ解明している。大人も刺激を受ける一冊でした。

 

【書籍紹介】

新種発見物語 足元から深海まで11人の研究者が行く!

編著:島野智之、脇 司
発行:岩波書店

発見の裏には、たくさんのドラマがある! 子どもの頃から追い求めて、偶然見かけて――ちょっとした疑問が、深い探究へとつながっていく。舞台は身近な環境から遠く危険な未踏の地まで。虫、魚、貝、鳥、植物、菌など未知の生物との出会いにワクワクしながら、研究者たちの歩みを追体験。分類学の基礎も楽しく身につく、濃厚な入門書。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

天才は天才を知る。谷川浩司が考える藤井聡太と将棋の未来『藤井聡太はどこまで強くなるのか』

藤井聡太竜王の快進撃が続いている。まさにとどまるところを知らない勢いだ。将棋を知らない人でも、藤井聡太の名前は知っているだろう。まだ20歳だというのに、既に数々の記録を塗り替え、この原稿を書いている段階で、竜王、王位、叡王、棋王、王将、棋聖と6つのタイトルを勝ち取っている。さらに、4月からの名人戦七番勝負を制したら、史上最年少名人記録を打ち立てることになる。

史上最年少名人記録は塗り替えられるのか?

藤井竜王が藤井名人となる瞬間を見ることができるのだろうか。そう考えると、胸がドキドキしてくる。そして思う。彼はいったいどこまで強くなるのだろうと。

 

この疑問に答えてくれるのが『藤井聡太はどこまで強くなるのか』(谷川浩司・著/講談社・刊)である。著者は谷川浩司十七世名人。21歳2か月で名人となってから40年間、史上最年少名人記録を保持してきた方だ。まさに将棋界のレジェンドというべき人物だが、藤井聡太竜王はその記録に迫りつつある。もし、新名人となったら、20歳10か月から11か月の間に名人が誕生することになり、谷川十七世名人の記録は更新されることになる。

 

たとえレジェンドでも、自分の記録が更新されるのを残念に思うのではないか。私などついそう考えてしまうが、著者はあくまでも冷静に「名人戦」と「藤井聡太」を見つめその関係に迫っている。だが、それだけではない。

 

記念すべき第八十一期順位戦・名人戦は、将棋史において一つの画期をなすかもしれない。

(『藤井聡太はどこまで強くなるのか』より抜粋)

 

として、今この瞬間がどれだけ貴重なものかを示す。私はただ「若いのに強い」とか「高校を中退してまで将棋に打ち込むなんてすごい」などと思うだけだが、それでは足りないことをこの 『藤井聡太はどこまで強くなるのか』が、教えてくれる。

 

私たちは将棋の新しい地平が拓かれる瞬間に立ち会っているのかもしれない。ファンならずとも、われわれ棋士は藤井聡太と同時代に生まれたことを幸運だと思うこと。藤井聡太と対局できることをありがたく思うこと。そこから出発したい。

( 『藤井聡太はどこまで強くなるのか』より抜粋)

 

名人たち

どんなに天賦の才に恵まれていても、藤井竜王の行く手には、いくつかの障害が待ち構えているだろう。彼を倒すため棋士達は日々新しい手を考え、戦略を練り、必死の思いでくらいついてくる。そうしたライバルたちに、まだ20歳の若者が立ち向かわなくてはならないのだ。それも、たった一人で、誰の助けもかりずに、自分だけを信じて……。

 

『藤井聡太はどこまで強くなるのか』には、これまで多くの棋士達がしのぎを削った様子が描かれている。若くして名人となり、そのまま第一線で活躍してきた谷川十七世名人だからこそ描ける世界だ。とりわけ、一時代を築いた巨星たちの歴史には目をみはるものがある。

 

実力制名人戦になって永世名人資格を得たのは、前半四十年は木村義雄十四世名人、大山康晴十五世名人、中原誠十六世名人の三人。後半四十年は私と森内俊之九段(十八世名人資格)、羽生善治九段(十九世名人資格)の三人である。

(『藤井聡太はどこまで強くなるのか』より抜粋)

 

過去の名人たちがどうやって名人位を勝ち取り、守り、一時代を築いたかについて、淡々と、しかし、ぞくっとする筆致で書かれている。彗星のように現れた藤井聡太だが、彼の前には、それぞれの時代を築き上げた先輩たちが、火花を散らして対戦を繰り返していた。

 

ピークは二十五歳?

『藤井聡太はどこまで強くなるのか』には、著者自身が史上最年少で名人位にまで上り詰めるまでの様子や、順位戦や名人戦がいかに過酷で、棋士達をおいこんでいくものかについても描かれている。どれもが、上質のドキュメンタリーを見ているようだ。将棋とはこんなにも激しく、苦しく、そしておそらくは面白いものなのだろう。私が、一番、興味深く受け止めたのは、「棋士のピークは二十五歳か」についての考察だった。

 

藤井聡太は中学生のころから「棋士のピークは25歳」と、繰り返し話していたという。まずはそのことに驚かずにはいられない。中学生が、自分のピークがいつくるのか考えているなんて、ある意味では残酷だ。強い棋士でいられるのは、あと10年と思っていたことになるのだから。

 

もし、そうだとしたら、25歳を迎えたとき、彼はどこを目指して生きていけばいいのだろう。もし、それからは落ちる一方だとしたら、あまりにも悲しい人生ではないか。100歳まで生きる人が増えている今、25歳でピークを迎えたなら、残りの75年、棋士達はどうやって過ごしていればいいのだろう。

 

藤井聡太だけではない。著者も、棋士の全盛期は20代から30代だと考えているという。ただし、「それ以降はその人次第」という言葉に希望を感じる。もっとも、藤井聡太はこんな風にも言っている。

 

二十五歳が絶対的なピークかどうかは分かりません。現時点でそういうイメージで取り組んでいけたら。日々の対局で見つかる課題を少しずつ改善していって、引き続き強くなることを目指していきたいです

(『藤井聡太はどこまで強くなるのか』より抜粋)

 

たとえ25歳がピークだとしても、ただ上を目指して今を生きる彼にはピーク後の世界を考える必要はないのかもしれない。

 

私は、藤井聡太がいったいどこまで強くなるのかを知りたくて、この『藤井聡太はどこまで強くなるのか』を読んだ。もちろん未来のことは誰にもわからない。ただ、著者は既にある程度まで彼の未来を読み切っているのではないだろうか。そして、藤井聡太が自分の記録を更新するかどうか、わかっているのではないか。私にはそう思えてならない。

 

偉大な先達たちの前を走り続ける藤井聡太、彼から目を離すことはできないし、離してはならないとも思う。彼と同時代に生き、テレビで観戦できることを素直に喜びたい。

 

【書籍紹介】

藤井聡太はどこまで強くなるのか

最年少名人記録は破られるのか?それとも、彼に勝つ棋士が現れるのか?将棋の歴史とは400年を超える名人戦の歴史。その位にいよいよ挑む若き天才と立ちはだかるライバル達。棋界における名人位の意味、過酷さを増す戦い。そのすべてを知るレジェンドが解説。

著者:谷川浩司
発行:講談社

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かっこいい言葉のシャワーを浴びられる一冊。日本で働く全ての人に届けたい『師弟百景』

庭師や刀匠、茅葺き職人と聞いてどんな言葉をイメージしますか? 厳しい、辛いなどネガティブな印象を持つ人もいるかもしれません。私も『師弟百景』(井上理津子・著/辰巳出版・刊)を読むまでは、一般人にはほど遠い、厳しい世界のこと……と思っていました。

 

しかし『師弟百景』を読んで、日本の職人はなんてかっこいいんだ! 今からでもなりたい! と思ってしまうほど衝撃を受けました。技を伝える師匠、それを必死で受け継ごうとする弟子。今回は、上司と部下、親と子とは一味違う、職人ならではの美しい師弟関係をまとめた一冊をご紹介します。

 

一子相伝ではない、16職種の師弟関係が紹介された本

この『師弟百景』は、茶の湯文化を中心に紹介する月刊誌「なごみ(淡交社)」とGetNavi webで連載されていた原稿をまとめた一冊。2019年の秋に企画が立ち上がり、2020年から2022年までに取材した16の職業が紹介されています。

 

<紹介されている職人たち>

庭師/釜師/仏師/染織家/左官/刀匠/江戸切子職人/文化財修理装潢師/江戸小紋染職人/宮大工/江戸木版画彫師/洋傘職人/英国靴職人/硯職人/宮絵師/茅葺き職人

 

なんとなく想像できる職人からまったく想像がつかない職人まで幅広く、師弟の年齢もさまざま。唯一共通しているのが「一子相伝ではない、職人の師弟関係である」ということ。一子相伝とは、自分の子孫だけに奥義を伝えることで、代々血縁関係によって伝統が受け継がれていることを言います。

 

今回『師弟百景』で取り上げているのは、血縁関係のない師弟。全くの他人である二人が、どのようにして巡り合ったのかが丁寧に綴られています。どの方も「本当にこの仕事に憧れて、好きで続けているのだな」ということがしみじみと伝わり、どの職人もかっこよく感じてしまいました。

 

ちなみにGetNavi webでは、「洋傘職人」「英国靴職人」「宮絵師」「茅葺き職人」の4つをご覧いただけます。本書を読んだ後に、ウェブ記事を読むとさらに深く職業を知ることができるので、合わせてご覧いただくのがおすすめです。

文化財修理装潢師の師弟関係とは?

個人的に一番興味を持ったのが「文化財修理装潢師」という仕事でした。その名の通り、日本画や古文書などの文化財修理をおこなう職人のこと。さぞかし大変なお仕事だろうと読み進めていくと、師匠である半田昌規さんが以下のように語っていました。

 

半田さんは、修理する作品を「患者さん」と言い表す。「例えると、ここは総合病院です。患者さんが、放射線科、外科、内科などを回り、メスを筆や刷毛、ピンセットの道具に持ち替えた技術者が、失敗の許されない“手術”をおこなう場所です」と説明してくれ、「患者さんは、生まれも症状も一人ひとり違うので、どの工程もマニュアル化できないんですね」と続けた。

(『師弟百景』より引用)

 

すごい仕事だ……。そんな半田さんのもとで働いている下田純平さんは、この道16年。弟子というよりも、すっかり一人前の方なのでは? と思ってしまいますが、ご本人曰く「この仕事は、作品を次の世代にでしゃばらずに手渡すもの」とのこと。何年やっているからと奢ることなく真摯に向き合う姿勢に感動してしまいました。お二人の師弟関係はとっても穏やかですが、凛とした空気も流れているような雰囲気がありました。今後仕事でイライラしたりしたら、このページを読み返して、心を落ち着けようと思います(笑)。

 

修行中は無給が当たり前?

『師弟百景』を読んでいると、想像はしていましたが「修行中は無給」という人が何人か出てきました。釜師として静岡県の長野工房で働く江田朋さんは、修行2年目。江田さんのお父さんも長野工房で修行していたこともあり、幼いころから訪れていた場所だったそう。どのような修行生活を送っているのでしょうか?

 

「見て、覚えろ」形式ではあるが、基本的に師匠も兄弟子も優しい。休日には揃って美術館やギャラリーを巡ることも少なくないという。いいことづくめではないかと思いきや、「無給」と聞いて驚く。しかし、長野さんも江田さんも「当たり前」だときっぱり言う。

(『師弟百景』より引用)

 

修行期間中の生活費はアルバイトをしてまかなっているそう。大学では学ぶためにお金を払っていましたが、社会人になってからは働けばお金をもらうのが「当たり前」。そんな私たちにとっての当たり前も、職人となるとまた変わってくるのかもしれませんね。

 

『師弟百景』を読み終わって、一人前になるために、勉強する期間があってもいいかもしれないな、と思ってしまいました。「これだ」と思った仕事を極める職人たちの生き方が羨ましくもあり、生まれ変わったら職人を目指したいなと思ったり(笑)。そして、日本にはこんなに素晴らしい仕事があることも少し誇りに思えたりもしました。ぜひ『師弟百景』を読んでみてくださいね!

 

【書籍紹介】

 

師弟百景

著者:井上理津子
発行:辰巳出版

若き弟子はいかにして職人の世界に飛び込み、師匠はどのように“技術”と“伝統”を伝えたのか。俺の背中を見て覚えろ…ではない関係が紡ぐ16のライフストーリー。

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日々の食事があなたの成功を約束する!『10日間で劇的に人生を変える食事術』

仕事が忙しいときは、食事を簡単に手軽に済ませてしまいがち。しかし、食事を軽んじていたら最高の人生を手に入れることはできないらしい。『10日間で劇的に人生を変える食事術』(西山由美・著/ワニ・ブックス・刊)は、栄養医学専門外来で多くの人々を救ってきた医師による指南書だ。西山先生によると栄養が人生の質や幸福感を支配しているのだという。どんな食事をしたかで1日の質が決まり、その積み重ねがあなたの人生を決めてしまうというわけだ。

 

食事を変えれば、人生が変わる

まず章立てを見ていこう。

 

序章 人生の成功と幸福は、「食事」で決まる

第一章 栄養を制する者が、人生を制す

第二章 最高の自分を引き出す「ホルモン」の力

第三章 成功と幸せをつくる脳のコントロール法

第四章 「時計回りプレート」食事法で人生を変える

終章 人生はいつからだって変えられる

 

食事を見直し、変えていくとなぜ人生が変わっていくのかを医学的な根拠から詳しく解説しているのが本書だ。では、気になる内容を抜粋して紹介してみよう。

 

今の自分の能力は朝の目覚めに表れる

朝起きるのがつらい、どんなに眠っても疲労感がとれないという人は要注意。その原因は栄養不足にあるそうだ。

 

栄養不足と人の能力と朝の目覚めは、ダイレクトに結びついています。(中略)栄養が不足していると、生命にかかわる働きから優先的に栄養素が運ばれるため、直接、生命にかかわらない働きには、栄養素が満足に届けられなくなります。

(『10日間で劇的に人生を変える食事術』から引用)

 

つまり、栄養が足りないと脳は省エネモードになってしまい、思考を働きにくくしてしまうため、せっかく持っているすばらしい能力すらも発揮することができなくなってしまうのだ。そこで、栄養医学に基づいた食事療法が必要になる。西山先生によると効果は数日であらわれはじめ、10日目には目に見える変化を実感できるそうだ。

 

手軽すぎる食事が人生を狂わせる

毎食、栄養を考えながら食事を整えるなんて面倒でできない。そう思う人の脳はすでに省エネモードになっているらしい。「面倒」「できない」「無理」という後ろ向きの感情は栄養とエネルギーが不足している状態から起こってくるという。身体や脳を動かすエネルギー源になるのは「糖質」「たんぱく質」「脂質」そして「ビタミン」「ミネラル」を加えた5大栄養素。この5つが体内でしっかり働いてこそ人は健康を保てるのだ。それぞれの栄養素はバランスよく摂ることが大事で、特に注意すべきは「糖質」だ。例えば何かにつけてイライラするという人は糖質のとりすぎが原因だそうだ。

 

空腹時にいきなり主食から食べたり、糖質の多いお菓子やスイーツを食べたりする人は、ネガティブな思考に支配されやすく、人生を楽しめない生き方をしてしまうのです。(中略)糖質のとり方に注意が必要な理由は、もう1つあります。それは「糖化」です。糖化は今、人体を急速に老化させる現象として注目されています。糖化とは、血液中をめぐっているよぶんなブドウ糖が、体内のたんぱく質と結びつく現象のことです。

(『10日間で劇的に人生を変える食事術』から引用)

 

糖化の進行によって起こる病気の典型が糖尿病で、「病気のデパート」とも呼ばれている。例えば、脳で糖化が起これば脳細胞が老化して思考力が低下してしまい、成功や幸せが人生から遠ざかっていくことになってしまうのだ。

 

能力を高める「シナプス」を増やそう

脳の神経細胞は20才を過ぎると1秒間に1個ずつ死んでいく。これは避けられないことだが、神経細胞からは足がはえてていて、その足の先にはたくさんのアンテナが出ている。

 

神経細胞からはえる足の部分を「樹上突起」、樹上突起から何本か出ているアンテナの部分を「シナプス」と呼びます。このシナプスというアンテナは、隣りあう神経細胞のシナプスと結ぶように接し、情報交換をしています。シナプスが多い人ほど情報の伝達スピードが速くなります。それによって思考のスピードは速く、その力は強くなります。シナプスは、何歳になっても、いくらでも増やすことができます。

(『10日間で劇的に人生を変える食事術』から引用)

 

つまり、シナプスをいかに増やせるかが人生を決めるというわけだ。シナプスを増やすためには、ドーパミンの分泌量を増やす必要があり、それは日々の食事からとる栄養素が決め手になる。良質なたんぱく質、鉄、L-チロシン、ビタミンB6、この中の1つでも欠けるとドーパミンはつくれなくなるのだそうだ。

 

すべての栄養素がとれる「時計回りプレート」とは?

脳を活性化し、必ずあなたの人生をいい方向に導くと、西山先生が推奨しているのが「時計回りプレート」だ。直径25~30センチのお皿に1食にとる料理を順番に時計回りに並べる食事療法で、食べる順番も12時の場所から右回りで食べていくのが決まり。お皿は7つのポジションに分け、献立を並べて盛り付ける。1のポジションが12時の位置で、右回りに6までをのせ、最後に中央に7をおく。どのポジションにどんな料理を盛り付けるかは以下の通りだ。

 

1のポジション 酢のものやトマトなど酸っぱいもの

2のポジション 生野菜

3のポジション 温野菜

4のポジション たんぱく質が豊富な植物性食品

5のポジション 動物性たんぱく質のメインディッシュ

6のポジション 糖質の多い根菜など

7のポジション 果物

 

これは血糖値を乱高下させない食べ方なのだそう。この指針に基づいた食べ方をするとストレスホルモンのノルアドレナリンの分泌を防ぎ、「自分はダメだ」というようなネガティブな思考が起こらないようになる。するとポジティブな思考回路をつくり出しやすくなるのだ。また精神面ばかりではなく、肥満や老化、糖尿病などの病気を遠くざけていく効果もあるそうだ。

 

具体的な食品、料理、調理法から食べ方まで、本書では詳しく解説している。

 

たった今の現状に満足していないあなた、もっと上を目指したいあなたも、本書を読んで、食生活を見直してみてはどうだろう。

 

【書籍紹介】

10日間で劇的に人生を変える食事術

著者:西山由美
発行:ワニブックス

栄養医学専門外来で数多くの人々を救ってきたカリスマ女医が解説「人生の成功と幸福は日々の食事で決まる!」。

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我が子に依存しすぎていませんか? 正しい母娘関係の距離感とは?『娘が理解できません』

母と娘の関係は、身近な同性であるからこそ難しいものがあります。ついつい過干渉になり、娘の人生を制限してしまう母親もいるとのこと。どのように関われば、程よい距離を保つことができるのでしょうか。

 

娘のことはなんでもわかる!?

娘が理解できません』(岩井俊憲・著/小学館クリエイティブ・刊)は、とても意味深なタイトルです。そこには、娘のことをすべて理解できて当然、と思い込んでいる母親がいることが示唆されているように感じるからです。

 

筆者の周りにも、娘の就職先から結婚相手のことまで細かく口を出す母親がいます。そして、娘さんが母親の考えるベストな選択をしないと激怒することもあります。なかには結婚を反対され続けてアラフォーになってしまった娘さんもいて、深刻なケースもあると感じています。

 

娘には娘の人生がある

筆者にも美大生の娘がいます。子どものころから絵が上手だったので、母親としては画家になってくれたらうれしいなと考えていましたが、本人は広告系のデザインを大学で学ぶことを選択しました。その時は正直言って少しもったいなく感じましたが、進路を変えさせようとは全く思いませんでした。

 

私が娘の年齢だったころ、親に進路を反対され続け、願書提出当日まで手続きをしてもらえませんでした。その時の悲しさや不安は相当なものだったので、娘の進路に反対する気になれなかったのです。そんなことをしたらどれほど辛い思いをするかわかっていますから。

 

人生の主人公は誰?

当時私がよく聴いていたのは、さだまさしさんの『主人公』という曲でした。自分の人生では自分が主人公だと教えてくれる素晴らしい歌です。心底その通りだと思いましたし、たった一度の人生なのだから親の意見に左右されずに自分のやりたいように生きてみよう、と勇気をもらいました。

 

『娘が理解できません』によると、これと同じことがアドラー心理学にもあり、「自分が自分の人生の主人公として生きる」という自己決定論というのだそうです。子どもに依存しすぎず、母親が自分自身で社会とつながっていくことで、母娘の関係も安定に向かうのだとか。

 

母娘関係のスペシャリスト

本の著者・岩井俊憲さんは20万人以上に講演やカウンセリングで関わり、アドラー心理学を活かして母娘関係のサポートを続けて来られた方。そのため、難しい局面が訪れた母娘の事例も豊富に載っています。

 

読んでいて気になったのは、娘の人生をコントロールしようとして圧力をかけてしまう母親たちの様子です。子育てに真剣だからこそ、他のことが見えなくなるほど集中してしまい、娘に寄りかかりすぎてしまうのは、健全だとは到底思えません。

 

娘以外の生きがいを作る

子どもはいつか離れていく存在のはず。本のQ&Aコーナーでは結婚した娘に対し「早く離婚して帰ってくればいいのに」とまで考えている母親まで出現し、その行き過ぎた考えに心配になりました。親離れされるのは確かに寂しいですが、執拗に追いすがって娘の負担を増やすべきではないはずです。

 

しかし、本の中では娘との関係を無事立て直し、良い関係を築けるようになった行動的な母親の姿も何例も出てきます。筆者の周りでも推しタレントの応援に夢中になっているような母親は元気いっぱいです。子育てを終えた後の楽しみを早くからたくさん用意しておくことが、お互いの関係を重くしないコツなのかもしれません。

 

縁あって親子となった関係なので、できればこじれず穏やかに関わっていたいもの。本書は悩める母親に温かく「完璧な親などいません」と呼びかけ、完璧でない自分もまとめて受け容れることを推奨しています。さらに、注意すべき行動や、もし関係がこじれた場合の和解方法まで丁寧に示してくれています。成人した娘がいる母親は必携かもしれません。

 

【書籍紹介】

娘が理解できません

著者:岩井俊憲
発行:小学館クリエイティブ

アドラー心理学の第一人者が贈る、娘との関係に悩む母親必読の書。なぜかうまくいかない母娘関係の処方せん。

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40代の住職が「四国遍路」八十八ヶ所を自ら歩いてみたら! 自然、人情、美味との出会い~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。一時期、よく利用する路線の駅をひとつひとつ降りて、駅前で美味しいパン屋さんやカフェを見つけるという遊びを散歩がてらしていました。全駅制覇などの目標があると達成感もひとしおですよね。

 

私の行き当たりばったりな各駅散歩とは比べ物にならないほど、由緒正しいのが四国八十八ヶ所巡り。真言宗の開祖・空海(弘法大師)ゆかりの寺院八十八ヶ所を巡礼する約1200キロの「四国遍路」は、終えると八十八の煩悩が消えるとも言われています。気力と体力があるうちに一度は挑戦してみたいという人も多いのではないでしょうか。ついお菓子を食べてしまう、その煩悩だけでも消えるとありがたいです(笑)。

お坊さんがリアルに歩き遍路を体験

 

今回の新書はマイ遍路―札所住職が歩いた四国八十八ヶ所―』(白川 密成・著/新潮新書)。著者の白川密成さんは1977年生まれ。四国八十八ヶ所・第五十七番札所の栄福寺(愛媛県今治市)住職。大学卒業後、地元の書店に勤務したあと、2001年に24歳で実家である永福寺の住職を継ぎました。著書には映画化もされた、「ほぼ日刊イトイ新聞」連載エッセイ『ボクは坊さん。』(ミシマ社)や、『坊さん、ぼーっとする。』(ミシマ社)、『空海さんに聞いてみよう。』(徳間文庫カレッジ)があります。

心温まるお遍路さんの旅

本書は、「遍路を歩くことで、八十八ヶ所の“全体像”を肌で感じたい」と考えた白川さんが、月に数日ずつ、計68日間をかけて歩いてお参りした記録。寺の住職という鎧を一旦はずし、肩書を持たないひとりの人間として巡礼を経験したいという気持ちもあったそうです。

 

第1章「歩き遍路が始まる」は2019年4月18日~26日、一番霊山寺(徳島県鳴門市)から二十二番平等寺(徳島県阿南市)までの出来事。

 

まずはひどい方向音痴ということで、一日中地図アプリを使えるようにiPhoneの外付けバッテリーを購入する白川さん。お遍路さんといえば杖が定番ですが、今はスマホがサポートしてくれる時代なんですね。

 

最初の目的地・霊山寺の最寄り駅である徳島県「坂東駅」に電車で到着……と思ったら、少し手前の「板野駅」だった!? というハプニングから開幕。一時間ほど歩いて霊山寺にたどりつきます。

 

九番札所・法輪寺の門前にある茶屋では、アメリカ人とデンマーク人のお遍路さん2人と相席に。鳴門金時(いも)の天ぷらを「これは食べられるの?」と聞いてきた2人に、「スイート・ポテトだよ。美味いよ」と返す白川さん。七味唐辛子を「セブン・フレーバー・チリ」と教えると、アメリカ人はスナップを効かせて盛大に振りかけたとか(笑)。こうした心がふっと通う旅先の交流も本書の読みどころです。

 

お遍路さんの立場になって寺をまわることで、改めて札所の住職という自らの仕事を見直す“お仕事もの”的な側面も共感できる部分。

 

人口減の日本で寺院や僧侶はどう生き残っていけばいいのか、悩みつつ歩く……。住職の本というとありがたい話が満載というイメージがありますが、私たちと同様に迷いながら進む等身大の姿が、この本のもっとも大きな魅力でしょう。

 

四国の厳しくも美しい自然、宿や宿坊での温かいおもてなし、山海の素材を活かした名物料理……。白川さんは、四国遍路を「“行く”ようであり、“帰る”ようでもあり、またそのどちらでもないような不思議な道のりが貴重であるからこそ、世界から人々が集まる」と語っています。人生を詰め込んだようなこの円環が、四国遍路の引力なのかもしれません。

 

【書籍紹介】

マイ遍路―札所住職が歩いた四国八十八ヶ所―

著:白川 密成
発行:新潮社

四国にある八十八の霊場を巡礼するお遍路。本書は、そのひとつ第五十七番札所・栄福寺の住職が、六十八日をかけてじっくりと歩いた記録である。四万十川や石鎚山など美しくも厳しい大自然、深奥幽玄なる寺院、弘法大師の見た風景、巡礼者を温かく迎える人々……。それらは人生観を大きく揺さぶる経験として、多くの人々を魅了する。装備やルートまで、お坊さんが身をもって案内する、日本が誇る文化遺産「四国遍路」の世界。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

サトミツさんの言葉を読みながら、自分の生き方もじっくり考えられる一冊『スターにはなれませんでしたが』

春は、別れや出会い、いろんなことが起こる季節です。新しい環境に不安な人、楽しみな人、変わらない人、変えられない人もいるでしょう。夢や希望に向かってルンルンで進んでいる人は、そのまま楽しんでいただきたいのですが、ちょっとでも「このままでいいのかな?」「自分の価値が見出せない」と思っているなら、ぜひ『スターにはなれませんでしたが』(佐藤満春・著/KADOKAWA・刊)を読んでみてください。

 

著者のサトミツさんは、芸人だけでなく構成作家としても活躍している人。作家として関わっている番組はテレビ・ラジオ合わせて19本。『スッキリ』(日本テレビ)や『キョコロヒー』(テレビ朝日)、『オードリーのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)などなど一度は見聞きした番組を担当されています。芸人からどのようにして構成作家の仕事もするようになったのか? 働き方や生き方に悩む人にお届けしたい一冊をご紹介します。

芸人でてっぺんになれない=辞めるだけじゃない

サトミツさんは本の中で「消去法で芸人を選んだ」と書いていました。多くの場合、芸人になりたい! 夢を叶えたい! というイメージですが、「他にやりたいことがなかった」という理由で選んだそう。しかし、しばらく芸人生活を続けていく中で、思っていた以上に過酷な世界だと実感します。「このままじゃ芸人として生き残れない」そう感じたサトミツさんは、辞めるのではなく、あることを始めます。

 

そこで僕が始めたのは「自分で山を作ってそこで一番になる」作業です。

芸能生活でも私生活でも「パンチがない」「個性がない」と言われ続けた僕は、目の前の高い山を見上げ、たくさんの才能に圧倒されて絶望した後、希少性の獲得に踏み出します。つまり、「芸人界」というどでかい山を降り、「トイレ」「掃除」「放送作家」という掛け合わせで自分だけの山を勝手に作り、勝手にその山で一番になってみたのでした。

(『スターにはなれませんでしたが』より引用)

 

目の前の高い山を前にして「無理だ」と下山し、新たな山に登る人がほとんどですが、自ら山を作る人はあまりいませんよね。正攻法では登れないと思ったからこその作業だったのかもしれません。これは、ビジネスパーソンとして働く人にも言えることだなぁと感じました。営業でトップの成績を取るのは絶望的だ、と感じているのなら、その山の近くに自分にしかできないことを掛け合わせて、新たな価値を作ってみるのはどうでしょうか? 例えば、「営業」「Podcast」「料理」を組み合わせて、自社製品の魅力を伝える音声番組を配信してみる……とか(思いつきです!)。ちなみに、この作った山は誰かに認めてもらうことを前提としないほうが良さそうです。自分が自分を好きでいられる状態を作ってあげることが大事だと、サトミツさんの本を読んで感じました。

 

人は「向いている仕事」にたどり着く?

現在のサトミツさんが担当する番組は19本! どうしてこんなに仕事が増えたのか自分ではわからないとも書かれていました。本を読んでいると「とっても謙虚な人なんだなぁ」と伝わってくる部分もあるのですが、私としてはこの思想が、サトミツさんを今のポジションに導いたのでは? と感じました。

 

僕の経験だけで言うと、人は必ず「自分の向いている仕事」「環境」「縁のある場所」にたどり着くと思います。

自分の向き不向きなんて、自分でわかるまでには時間がかかるものですが、周りの人はそこがよく見えていて、僕に合った仕事がどんどん残っていく。逆に言うと向いていない仕事は減っていくので、僕に何が向いているかは、今の仕事を羅列するとよく見えてくるなと自分でも思います。

(『スターにはなれませんでしたが』より引用)

 

30代後半になってくると、この言葉は妙に腑に落ちる部分がありました。仕事の向き・不向きって、自分ではすぐにわからないんですよね。Aがしたくて新卒で入社するも、Bに興味が出て転職。Bの世界では活躍できず、再びAに戻ったが、前より楽しく仕事ができるようになった……なんてこともあるかもしれません。「自分に合う仕事ってないのかな?」とお悩みのあなた、きっとたどり着くから大丈夫!

 

7名との対談も最高!

『スターにはなれませんでしたが』は、サトミツさんのエッセイだけでなく、7名の方との特別対談も掲載されています。登場するのは、オードリーの若林さん、春日さん、日向坂46の松田好花さん、DJ松永さん、南海キャンディーズの山里さん、日本テレビの局員である安島隆さん、テレビ朝日の舟橋政宏さんです。どれも「お互いが信頼関係を持ってお仕事しているんだな〜」と羨ましくもあり、自分もサトミツさんのように生きてみたい、そんな風にも感じました。

 

個人的には、読むたびに響く言葉が変わる一生読み続けられる本だなと思います。仕事における悩みは尽きないし、生き方も「このままでいいのかな?」と常に考えてしまいますが、正解は自分で見つけるしかありません。サトミツさんのエッセイは、〇〇しなさいとか〇〇がいいとか自己啓発本のような感じがゼロなので(笑)、自分で「こうしようかな」と一歩踏み出すことができる本です。読むたびに刺さるポイントが変わってくると思うので、常に悩みがちな人は、一家に一冊置いておくのがおすすめです。私も、読むたびに使う付箋を変えて1年ごとに読み比べてみたいな、なんて思っています。

 

【書籍紹介】

スターにはなれませんでしたが

著者:佐藤満春
発行:KADOKAWA

超がつくほど凡人な僕が“芸能界”という特殊な世界で20年サバイブしてこれた理由。放送作家として「オードリーのオールナイトニッポン」「キョコロヒー」など人気番組19本を担当!芸人・ラジオパーソナリティ・トイレや掃除の専門家としても幅広く活躍。多くの人気芸人、タレント、アイドルたちが信頼を寄せるサトミツこと佐藤満春の自叙伝的初エッセイ

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教育者・工藤勇一氏が大人にも伝えたい「自律」の意味と日本が変わるための教育

「宿題や定期テストがない学校」と聞いてどんな学校を思い浮かべるでしょうか? そんなことできるはずがない、規律が乱れて教育上良くない、などなど……否定的に思う人もいるかもしれません。ところがこの学校の “当たり前” をなくしたことで、子どもたちの学ぶ意欲が向上し偏差値もアップしたのが、東京都の千代田区立麹町中学校。この前代未聞の学校改革は多くのメディアに取り上げられ、当時の校長だった工藤勇一さんにも注目が集まりました。

 

現在は、横浜創英中学・高等学校校長を務める工藤先生。ブックセラピストの元木忍さんが横浜創英中学・高等学校に足を運び、工藤先生の著書『きみを強くする50のことば』を通して、これからの教育に大切なことを聞きました。

 


きみを強くする50のことば 』(かんき出版)
「どうしたら、すてきな大人になれるだろう?」___やさしい絵と、心に響く50の言葉が並ぶ本書は、絵本のようでいて、大人でもハッとするような人生のヒントが満載。「自分をきたえるヒント」「人とつながるヒント」「学ぶときのヒント」「挑戦するためのヒント」「楽しく生きるヒント」の5つの切り口から紹介されている。

 

これまでの当たり前をくつがえす、学びの大転換

元木忍さん(以下、元木):私が初めて『きみを強くする50のことば』を読んだ時、子ども向けだけじゃもったいない! と感じたんです。大人にも響く言葉がたくさんありました。まず、どのような経緯で出版されたのか教えてください。

 

工藤勇一さん(以下、工藤):出版社さんから「一緒に絵本をつくりませんか?」という依頼がありました。せっかく取り組むなら子どもだけじゃなく、大人にも伝わるような、本質をつく絵本にしたいと制作したのが始まりです。50ある言葉をどのような順番で掲載するかは、とくに意識しました。コロナ禍の緊急事態宣言中に、編集担当者とオンラインだけで制作進行した思い出深い一冊でもあります。

 

↑著者で、横浜創英中学・高等学校校長の工藤勇一さん。教育現場に身を置きつつ、各界のオピニオンリーダーをも巻き込みながら日本の教育に大きな変革を果たそうと奮闘している。

 

元木:そうだったんですね! 実は『きみを強くする50のことば』で工藤先生のことを知って、ほかの著書もたくさん読ませてもらいました。そもそも、工藤先生はどうして学校の先生を目指されたのでしょうか?

 

工藤:子どもの頃は、人に指示されるとやる気を失う子だったんです(笑)。教員なら誰かの影響を受けずに仕事ができるだろうと、山形県で教員生活をスタートさせました。でも教育現場に関わっていくうちに、今の教育は「失敗させない」ことに気をつかいすぎて、人生で重要な機会を失っていると考えるようになりました。東京都での教員経験や教育委員会の経験を経て、「現場からじゃないと教育は変えられない」と、2014年から6年間千代田区立麹町中学校の校長を務めました。2020年からは横浜創英中学・高等学校の校長に就任し、学びそのものを大転換し、自律型の学校に改革しているところです。

 

元木:学びの大転換、ですか? 工藤先生は「宿題なし」「定期テストなし」など、麹町中学校でこれまでの学校教育の “当たり前” を大きく変えてきました。麹町中学校でのノウハウをさらにバージョンアップさせるようなイメージなのでしょうか?

 

↑インタビュアーは、ブックセラピストとして、大人が読みたい絵本の情報発信にも意欲的な元木忍さん。

 

工藤:僕が目指していることを100とすると、麹町中学校で実現してきたことは実は10程度。まだまだこれからです。神奈川県は公立を目指す子どもが多いので、私立の学校というのは生徒の半数以上が第二志望で入ってきている。そのなかで横浜創英高等学校はもともと部活動が盛んで、吹奏楽部は200名を超える名門校、サッカー部もインターハイに出場するなど全国クラスで、私立ならではのきめ細やかで丁寧に生徒をサポートするような学校だったんです。私が就任してからは、自分で考えて行動する「自律型」、さらに「多様性」を尊重する風土に180度入れ替えているところです。修学旅行を自分たちで企業に掛け合って計画したり、社会とつながる「リアルな教育」を実施したり、子どもたちが自律して学んでいける仕組みをどんどん取り入れています。いずれかは、学年・学級の概念も取っ払えるような仕組みも作りたいですね。また生徒が職員会議に参加してくれたらいいな、なんて思っています。

 

元木:それは斬新ですね! 今の日本にはなぜ教育の大転換、大きな改革が必要なのでしょうか?

 

工藤:世の中は大きく変化しているのに、日本の教育が変わらないからです。ご存知の通り、日本の生産性は年々減少傾向にあります。人口減少が進む中で稼いでいくためには、付加価値をつけて高く売るか、海外など市場を変えるか、労働生産性を高めるしかありません。それなのに、日本の教育は経済成長していた時と同じことを進めている……。それでは子どもたちが大人になった頃、従来のビジネスモデルは通用しないことがたくさん出てくるでしょう。世の中のせいにしたり、誰かのせいにしたりするのではなく、「自分で考えて行動できる大人」になるために、教育現場から変えていく必要があると考えています。

 

↑この人口グラフは世界でも稀。日本は1900年代からたった100年で人口が急激に増大。2010年をピークにこの先100年で明治時代の頃に戻ると言われています。戦後日本を支えた経済成長の裏には、急激な人口増加がありました。「モノは作れば作るだけ売れる、なぜなら買う人がたくさんいたから」という大量生産・対象消費の時代だったのです。

 

上位の目的に立ち返れば、多くの問題は解決できる

元木:これまで教育の「当たり前」を変えてきた工藤先生ですが、改革のなかで各関係者からの抵抗はなかったのでしょうか?

 

工藤:それはもちろんありましたよ。「変化させたい教員」 vs 「今のままでいい教員」のような対立構造もよく起こるんですが、対立を嫌う日本では、根回しのように人間関係で折り合いをつけようとしてしまうんです。でも、そもそもの目的って何だろう? とフラットに考えれば、おのずとやるべきことは見えてきます。つい対立構造で考えたくなりますが、どの教員も「いい教育をしたい」という上位目的は一緒です。教員が対立するのではなく対話ができるようになると、職員会議は10分で終わるんです。校長としても、上位の目的に対してOKなものに許可を出すだけ。先ほどお話にも出た、麹町中学校での「宿題・テストなし」も、実は教員からの発案だったんですよ。

 

元木:そうだったのですね。

 

工藤:僕は「宿題多いよな〜」「テストもいらないよな〜」とブツブツ言っていただけです(笑)。一緒に働く教員たちが対話していく中で、やめるという結論を出しました。ちなみにこの結論に、全校生徒と中3の保護者は大喜び! 塾や習い事をしている生徒もいましたし、いろいろな時間の使い方をしている子が多かったので、自分で時間を選べるのはうれしかったのでしょう。でも中1の保護者の一部からは反発もあり、「学校で宿題を出してくれないから、まったく勉強しなくなりました」と予想どおりのクレームも出てきました。

 

元木:あら……。どのように説得されたのでしょうか?

 

工藤:「宿題を出しても子どもはもともとわかるところしかやりませんから、そんなに成績に影響はありません。宿題がないから勉強しないなんて、人のせいにする子にしちゃいけません」って伝えたんです。そんな保護者の方々も1年も経たずに落ち着いてきました。宿題・テストなしでも成績を上がることがわかったからだと思います。子どもたちには “学び方” を伝えるため、さまざまな思考ツールを共有したことで、子どもたち同士でも学び方をシェアするようになりました。

 

元木:お子さんに自律が身につくことで、親御さんも変わっていくでしょうね。大人が学ぶこともたくさんあっただろうなと想像します。昨年出版された『子どもたちに民主主義を教えよう』も拝読しましたが、学校はもちろん企業でも「自律」と「対話」は必要なんだと感じました。

 

工藤:公益資本主義なんて言葉もありますが、企業は「誰のため」にやっている事業なのかを理解しないと潰れてしまいます。目的に向かって対話を深め上位で合意できる組織を作り、正しい民主主義を理解できれば、20年で世の中は変わるでしょう。多くのメディアが報道されるのは賛成・反対の結果だけで、より良くするための主張やアイデアは出てきません。日本では意見を言えば批判と捉えられ、腰を据えて対話できる体制が整っていないからです。この根本の原因は、学校教育にあると僕は思っています。だからこそ、子どもの頃から自分で答えを導く「自律」の考え方と、「対話して上位で合意する」ことを理解しておく必要があるんです。

 

↑2022年に発売され、各界の著名人からも共感の声が続々と挙がっている『子どもたちに民主主義を教えよう』(あさま社)。対立を乗り越え、合意形成に至るプロセスを経験することの重要性を説く。教育哲学者・苫野一徳さんとの共著。

 

日本では「心の教育」を重視しすぎ?

元木:ここからは『きみを強くする50のことば』についてお話を聞かせてください。私が気に入っているのが『心なんて、そもそもわからない。』なんです。「わかりましょう」じゃなく、「わからない」って言い切るのが素敵というか、その通りだなと思いました。どうしてこの言葉を入れられたのでしょうか?

 

 

 

工藤:学校で「心が大切だ」って教育をしすぎなんですよね。海外では、行動の積み重ねがその人であって、他人に心の中なんて見えないよね、って考え方が浸透しています。しかし見えない心を慮ろうとするのが日本の教育。みんなで心を合わせようとしすぎることで「心が通じていない」「俺たちと違う」「いい子ぶっている」と、残酷に他人をいじめてしまうんです。これだけ多様性が求められている時代でもいじめがなくならないのは、心を大事にしすぎているとも言えるかもしれませんね。

 

元木:なるほど、心を大事にしすぎているからなんですね。時代とともにいじめの背景も変わっていると思いますが、どうしたらいじめは少なくできるのでしょうか?

 

工藤:まず「みんな仲良くできるもんじゃない」って教えることでしょうか。『全員ちがってオーケー』ってことを伝えてあげると、「先生〜! 〇〇くんが変なことしてまーす」と茶化すようなこともなくなります。大人でも他人と仲良くするまでには時間がかかるし、全人類と仲良くなるのは難しいですから。性格の合う人・合わない人がいる、仲良くなるためには経験も訓練も必要なんだとわかれば、子どもたちも誰かを排除したり、嫌ったりすることもなくなると思いますよ。

 

 

従順な子どもじゃなく、自分で考えて自分の足で歩める子どもを

元木: 50のことばには、大人にも響くことばがたくさんありますよね。私もこんな先生のもとで勉強したかったって思いました。工藤先生から見て、今の子どもたちにはどんな特徴があると思いますか?

 

工藤:今の子どもたちって、従順な子たちが多いんですよ。大人もそうかもしれませんね。自分で答えを導けなくて、人に決めてもらおうとしちゃうんです。与えられることに慣れているとも言えるかもしれませんね。だから「もう先生の言うことを聞くな」、と(笑)。反抗するのではなく、これからの世の中はどうなるかわからないから、人のせいにするのではなく、君たちで決めなさいって。

 

元木:これは企業も一緒ですね。自分で考えて、決められない人が本当にたくさんいます。言われないと行動ができないとか、新しいチャレンジを拒んでしまう人も多くいますが、子どもの頃の教育が大切なのかもしれませんね。もっとたくさんお話を伺いたいんですが、最後に先生がこれからやっていきたいことを教えていただけますか?

 

工藤:10年以内に、日本中の学校を自律型の学校に変えていくことですね。そのために、日本中の教員に『子どもたちに民主主義を教えよう』の考え方を広めて、この学校で実践を重ねていく。そして、本当の学びを子どもたちに取り戻していきたいです。教育ってなんのためか? と考えたら、自分の足で歩んでいける人間を育むこと、より良く平和な社会をつくるためだと思うんです。日本では学校で問題が起こると「大人が悪い」と言われますよね? でも、問題を解決するのは当事者である「子ども」であって、大人たちはどうやったら解決できるか考えさせなければいけません。大人から正解を与えるのではなく、子どもたちが自力で考えて行動することが本当の学びにつながります。

 

元木:まさに「自律」ですよね。ついつい大人が「こうしなさい」と手助けしたくなりますが、ある程度放っておくことも教育にとって大切なのかもしれませんね。

 

工藤:2人の生徒が対立していた場合、教員は「2人の上位目的は〇〇なんだよね? 感情をいったん置いておいて、一番大事なことは何かを考えてごらん」と問いかけます。それだけで、子どもたちは自分で考え、行動し解決していきます。現代は、問題が起きないように防ぎすぎることで、子どもが考える機会を奪ってしまっているのです。わかりやすい例だと、公園で遊んでいる子どもがいても常にお母さんが横にいて「あら〜〇〇くんが■■を貸してくれたね、ありがとうは?」と、話したりします。これって、子どもが考えて行動する機会をすべて奪い取っているんですよ。

 

元木:日常でよく見ますね!

 

工藤:子どもだけなら「■■貸してよ!」「やだよっ!」って取り合いになるでしょう。大きなトラブルにならない限り、大人は見守っていればいいんです。次の日になれば「貸してもいいけど、返してくれるの?」「約束する!」と子ども同士でルールができるようになります。子ども同士で考え、解決できることを、先生や親が介入して機会を奪い取っていると自覚しなければいけません。まだまだ課題はありますが、確実に自律した子どもも増えていますから。そう遠くない未来で、教育はガラリと変わると思いますよ。

 

元木:「自分で考えることができる子どもたち」が大人になったら、社会全体も変わりそうですね。これからの新しい教育のあり方に期待しています! 今日は本当にありがとうございました。

 

プロフィール

横浜創英中学・高等学校校長 / 工藤 勇一

1960年山形県生まれ。山形県と東京都の公立中学校の教員を務め、東京都や目黒区、新宿区の教育委員会へ。2014年から千代田区立麹町中学校の校長になり、宿題なし・テストなしなど「学校の当たり前」を見直し、子どもたちの「自律」を育んでいくことに注力。これらの取り組みはさまざまなメディアでも紹介されている。2020年4月より横浜創英中学・高等学校校長に就任し、さらなる教育改革に取り組んでいる。

 

ブックセラピスト / 元木 忍

学研ホールディングス、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブに在籍し、常に本と向き合ってきたが、2011年3月11日の東日本大震災を契機に「ココロとカラダを整えることが今の自分がやりたいことだ」と一念発起。退社してLIBRERIA(リブレリア)代表となり、企業コンサルティングやブックセラピストとしてのほか、食やマインドに関するアドバイスなども届けている。本の選書は主に、ココロに訊く本や知の基盤になる本がモットー。


提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

「見えすぎる社会」のおかしさと生きにくさを改めて問う『過剰可視化社会』

ちかごろよく見聞きするようになったルッキズムという言葉。ごく簡単に定義するなら、人を外見で評価したり差別したりすることだ。

ルッキズムともやもや感

コンプライアンスとかポリティカル・コレクトネスにひもづけられる流れでよく使われるようになった感じがする。90年代半ばくらいまでは、アメリカのビジネス関連媒体の記事に「同じ能力ならば、背が高いなど外見のよい応募者が選ばれる傾向がある」といった文章があたかもコモンセンスであるかのごとく、ごく普通に綴られていた。こういう考え方は、当時の誰もが納得する世の中のスタンダードだったにちがいない。

 

しかし今の時代、見た目に関する発言はきわめてセンシティブなものとして認識されている。どういう過程を経て、いつからこうなったのか。うまく言葉にできないまま、筆者はしばらくの間もやもやしていた。しかしやっと、このもやもや感に答えを出してくれそうな本を見つけることができた。

 

SNSで急加速した「見えすぎ」状態

過剰可視化社会』(與那覇潤・著/PHP研究所・刊)は、世の中の様相がまったく異なる時代に人生のコアの部分を過ごした筆者にとって、今の時代の自分の立ち位置を確認するための一冊になりそうだ。

 

最初のフックとなるのは、コロナ禍だ。與那覇氏は、コロナ禍危機を長期化させた社会のあり方自体を根本から問い直すことに本書の立脚点を置く。まえがきに、命題的な響きの一文がはっきりと示されている。

 

ひとことでいえば、日本のコロナ禍をかくも深刻化させた最大の背景は、2010年代以降に本格化してきた「過剰可視化社会」の弊害である。それが本書を貫く、基本的な視点になります。

『過剰可視化社会』より引用

 

第一の要素として挙げられるのは、2010年代から利用者が爆発的に増えたSNSだ。與那覇氏は、こうした新媒体の発達によって特に親しいわけではない人にまつわる情報がプロフィール欄の記述だけでわかるようになったと語る。

 

過剰可視の定義

與那覇氏は、過剰可視という言葉をどのように定義しているのか。これもコロナ禍を軸にした話になる。

 

たとえばマスクをつける形で防疫への協力を「誰の目にも見えるように」表さなければ、社会から排除され、かつそうした風潮に誰も違和感を持たないという事態でした。マスクをしない理由を、「実は呼吸器に疾患があって、息が不自由だから」のように説明する形で、本来なら他人に知られることを望まない情報まで「見せなければ」ならなかった例も、少なくなかったでしょう。

『過剰可視化社会』より引用

 

極論と感じる人は多いはずだ。ただ、著書のニュアンスは十分に伝わると思う。冒頭で触れたルッキズムの台頭も、異常なペースで進んだ「見える化」によって、きわめて短い時間枠の中で起きたものではないだろうか。

 

基本を踏まえた上での実践的対談

章立てを見てみよう。

 

第1章 社会編—日本を壊した2010年代の「視覚偏重」
第2章 個人編—「視覚依存症」からはこうしてリハビリしよう
第3章 「見える化」された心と消えない孤独—心理学との対話
第4章 「新たなるノーマル—哲学/文学との対話」
第5章 健康な「不可視の信頼」—人類学との対話



第2章までで社会レベルおよび個人レベルでの「見えすぎ」な状態が語られ、3章以降は著者と各分野の専門家との対談という構成になっている。

 

「実体なきシュミラークル」「資本主義スターリニズム」「悪いローコンテクスト」といったちょっと読込みが必要そうなワードも頻出するが、その一方で「SNSで大学デビュー」「出会い系」「ファスト動画」などぐっと身近なもの挙げられている。人によってはかなり強いクセを感じるかもしれないが、それも静かな書き口で中和され、第2章までの概論部分をきっちり読んだ上で、第3章からの対談にすっと入って行くことができる。

 

「見える」と「良くなる」は比例しない

第3章のパートナーである東畑開人氏は臨床心理学と精神分析、そして医療人類学の専門家だ。第4章の千葉雅也氏は立命大学大学院先端総合学術研究科教授。第5章の磯野真穂氏は文化人類学と医療人類学の専門家だ。専門家3人がそれぞれのフィールドで「見えすぎ」の状態についての考察を展開する。

 

あとがきに記された與那覇氏の思いをシェアしておきたいと思う。

 

本文を読んでくださった方には自明と思うが、本書はファクトやデータを「可視化」さえすれば自ずと世の中がよくなるといった、ナイーブな発想には強く批判的だ。しかしそこから導かれる結論は、視覚以外の感覚を誰もが取り戻そうというものであって、決して物事をいたずらに「不可視化」し、世の庶民は由らしむべし知らむべからずで統治せよと主張する書物ではない。

『過剰可視化社会』より引用

 

「言わぬが花」とか「沈黙は金」なんていう言葉もある。可視化ということを根本から総合的に、俯瞰的に考える姿勢が整う一冊である。

 

 

【書籍紹介】

 

過剰可視化社会

著者:與那覇潤
発行:PHP研究所

目に見えないウイルスの感染者数が日々「可視化」されたコロナ禍の後に残ったのは、一人では安心感を得られず、周囲にも疑いの目を向けあう日本人の姿だった。SNSで自らプライバシーを発信し、政治信条や病気・障害までを社会に公開しても、最後は安易なルッキズム(見た目偏重)ばかりが横行する「すべてが見えてしまう社会」を、どう生き抜くのか? 歴史学者から評論家に転じた著者が、臨床心理士の東畑開人氏、哲学者/作家の千葉雅也氏、文化人類学者の磯野真穂氏と白熱した議論を交わし、人文学の方法論の壁を超えて「見えない信頼」を取り戻す方法を提言する!

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嘘と本当の狭間にあるリアリティ。『川口浩探検シリーズ』の真実に迫る『ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実』

1970年代後半から1980年代にかけて、テレビ朝日で放送されていた『川口浩探検シリーズ』という番組を知っているだろうか。おそらく、現在40代後半からそれ以上の年代の人ならば、知っていることだろう。

 

タイトルだけでワクワクする探検番組

『川口浩探検シリーズ』は、テレビ朝日が1976年から放送を開始した『水曜スペシャル』という90分枠の番組で放送されていたうちの、番組のひとつ。俳優の川口浩を隊長とし、世界中の謎の巨大生物や未知の動物を追うという内容だ。

 

当時の少年たちは、この番組に釘付けだった。かくいう僕もその一人。なんせタイトルがいい。

 

■ルソン島奥地の秘境に首狩り族は実在した!! 無数の頭蓋骨が語る今なお残る恐怖の奇習!・現地完全VTR取材

■恐怖! 双頭の巨大怪獣ゴーグ! 南部タイ秘境に蛇島カウングの魔神は実在した!!

■謎の原始猿人バーゴンは実在した! パラワン島奥地絶壁洞穴に黒い野人を追え!

■恐怖の巨大怪鳥ギャロン! ギアナ奥地落差1000メートルの大滝ツボ洞穴に原始怪獣を追え!

 

どうだろうか。タイトルだけでもうワクワク感が止まらない。

 

この『川口浩探検シリーズ』。秘境を探検するドキュメンタリー風な番組だが、ツッコミどころが満載のいわば「ドキュメンタリー風バラエティ」。ただ、当時はテレビの影響力が強く、すべて本当の出来事だと思って見ていた視聴者も多い。

 

よく考えてみると、未知の生物が番組内で確認されたのに、どのメディアも取り上げない時点でお察しなのだが。でも、当時のキッズたちはテレビにかぶりついて見ていた。

 

『川口浩探検隊』を探検する

ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実』(プチ鹿島・著/双葉社・刊)は、『川口浩探検シリーズ』が大好きという著者が、当時の関係者などに取材をして、『川口浩探検シリーズ』とは実際にはどんな風に作られていたのか、そして現在のテレビ番組にどんな影響を与えたのかを“探検”する内容となっている。

 

リアルタイムで番組を見ていた僕としては、懐かしいという思いとともに、当時の「おもしろければ何やってもいい」という、ある意味自由なテレビ業界のことを思い出し、懐かしい気持ちになった。

 

当時のプロデューサーにたどり着くことはできなかったが、当時の探検隊員(ADやディレクター)への取材では、興味深い話が続出。それぞれの立場で『川口浩探検シリーズ』を語っていて、当時のテレビマンたちの様子がよくわかる。僕が子どものころに思っていたテレビ業界そのものだった。

 

途中、当時マスコミを賑わせたテレビ朝日のやらせ問題やロス疑惑などの調査も行いつつ、最終的には、当時の構成作家への取材に成功。当時と現在のテレビ業界の違いなどもわかり、たいへん興味深い内容となっている。

 

視聴率なんて関係ない。面白さの探求がすべて

『川口浩探検シリーズ』は、ドキュメンタリーでもノンフィクションでもなく、あくまでもバラエティ番組というのが制作スタッフ側の共通認識だ。双頭の蛇なんていないし、15mもの巨大な身体を持つ未知の水棲生物もいない。でも、それを存在するように見せるエンターテインメントなのだ。

 

簡単に言えば「演出」「ヤラセ」なのだが、制作者側としては、視聴率が欲しいから過剰な演出に走ったりしていたわけではないという。とある当時のスタッフの証言がある。

 

現場はどんどん面白くなっちゃうんですよ。視聴率に関係なく、もっと何かできないかって探求してしまうんです。ある意味視野が狭くなっているんだけど、現場は夢中になってしまうんだよね。だってヘビに足を付けてるときに数字のことなんか考えてませんよ。このアイデアがあったか! っていう盛り上がりしかない」

(『ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実』より引用)

 

これは、メディア側の人間としては同意できる。コンテンツを作っていくうちに、「もっともっと」というハイな状態なり、いろいろやってみたくなってしまうものなのだ。それがギュッと凝縮されたものが『川口浩探検隊』なのだろう。

 

『川口浩探検シリーズ』と「プロレス」の類似性

『川口浩探検シリーズ』は、出来上がった番組を見ると大げさなエンターテイメントなのだが、その裏側は壮絶だったようだ。ホンモノの毒蛇を大量に用意したり、行くまでに2週間もかかる秘境に趣いたり、断崖絶壁をロープ1本で降りたりといった裏側は、それだけでドキュメンタリー作品になるレベルのものだ。

 

しかし、あくまでもエンターテイメント番組、バラエティ番組という意識で作られていたため、そういうシーンはほとんど使われていない。これは、プロレスと構造が似ている。

 

プロレスも真剣勝負かエンターテイメントかの論争がしばしば巻き起こっている(最近ではエンターテイメントであると認知されている)が、その裏側では、やはりレスラーたちはしっかりトレーニングを積んでいる。一歩間違えば試合中に死に至ってしまうこともある。

 

つまり、我々は完成形だけを見てあーだこーだと言っているわけだが、それを作り上げている人たちには、すべてがドキュメンタリー。「ヤラセ」だろうが「演出」だろうが、それを作っている側の想いは、「最高のものを作る」という一点なのだ。

 

さすがに報道番組で「ヤラセ」は御法度だが、エンターテイメントの範疇で行われるものは、ある程度は許されるべき。そして、その部分を楽しめるくらいの心の広さは持ち合わせておきたい。

 

【書籍紹介】

ヤラセと情熱 水曜スペシャル「川口浩探検隊」の真実

著者:プチ鹿島
発行:双葉社

70年代後半から80年代にかけ、世界を股にかけ未知の生物や未踏の秘境を求めたテレビ番組『川口浩探検隊シリーズ』。ヤラセだとのそしりを受け、一笑に付されてきた探検隊の「真実」を捜し求める冒険譚。ヤラセとは何か、演出とは何か。テレビの本質とは、何か。

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鉄道好きのあの人が忘れられない本とは? 石破 茂、泉 麻人……などが語る鉄道本の名著~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。よく「包容力のある人」という言い方をしますが、鉄道ほど包容力のある存在もなかなかないでしょう。乗り鉄、撮り鉄、スジ鉄、車両鉄……それぞれの思いを受け止めてくれますし、それほど“鉄道オタク”でなくとも、車窓に旅情をそそられたり、駅舎での人との触れ合いに心温まったり、轟音を立てて力強く走る姿に圧倒されたり。“鉄”はいかようにも人の心を動かします。

 

私はというと、このレールがどこか別の場所にずっとつながっているという空間の連結性と、何十年も前から地域の人々の足であるという時間の連続性、そうした時空の結びつきに惹かれ、ファンタジー的な妄想が止みません。鉄道はエモーションの塊ですね。

 

鉄道好きが熱く語る鉄道関連本

さて、今回紹介する新書は忘れられない鉄道の本』(『鉄道ダイヤ情報』編集部・編/交通新聞社新書)。泉 麻人さん、石破 茂さん、久野 知美さん、屋鋪 要さん、前原 誠司さん……。鉄道好きの著名人や鉄道メディアで活躍する書き手など20名が、鉄道愛と思い出の鉄道関連本を語っています。

 

創刊50周年を超えた、JRグループ協力の月刊誌『鉄道ダイヤ情報』の企画で、自分で原稿を書く人もいれば、インタビューで鉄道への思い入れを披露する人もいて、それぞれ個性が出ています。鉄道愛を深めてくれたバイブルとは? 大いに気になりませんか。

『阿房列車』『真鶴』……鉄道本の魅力

最初に登場するのはコラムニストの泉 麻人さん。泉さんが愛するのはかつて東京を走っていた路面電車・都電。小学5年生だった1967年の師走に、銀座通りの都電など9路線が一気に廃止されたのが、都電に興味を抱くきっかけだったそうです。

 

挙げられている本は都電関連が多め。中学生のときに熟読したという随筆集『都電春秋』(野尻 泰彦・著/1969年)は、読ませる文章に加えて、各路線のどこでナイスショット写真が撮れるかの略地図がついていて、泉さんは撮影ポイントの手引にしたとか。少年時代に消えゆく都電に心掴まれたというのは、何気ない日常にノスタルジーを感じ取る泉さんのセンスですね。

 

政界きっての鉄道好きとして知られ、「乗り鉄」兼「呑み鉄」を自称している石破茂さんが挙げる一冊のなかには『阿房列車』シリーズ(内田百閒・著)がありました。このシリーズは私も通学の電車で読んだのを覚えています。

 

「なんにも用事がないけれど、汽車に乗って大阪へ行って来ようと思う」というゆるい書き出しから、あっという間に内田百閒ワールドにハマってしまいます。同行する国鉄職員のあだ名「ヒマラヤ山系」君との噛み合わない掛け合いも、まったりとした時間が流れる旅情にマッチするのです。

 

紀行文ライターの蜂谷あす美さんが忘れられないのは『真鶴』(川上弘美・著/2006年)。この『真鶴』も“鉄旅”ファンにオススメしたい一冊です。日記に「真鶴」という単語を残して突然失踪した夫。その言葉に導かれるかのように、主人公の女性は電車で真鶴へ通う……。喪失感と再生の予感が漂う美しい幻想文学。蜂谷あす美さんが言う通り、日常とそうでない場所を結ぶ存在として鉄道がキーになる小説です。

 

登場する20名それぞれの鉄道への想いが明かされ、鉄道を透かして人となりも伝わってくるのが面白いところ。20の視点から多角的に鉄道の魅力にライトを当て、鉄道とは何かを浮かび上がらせる新書でもあります。もちろん紀行文、小説、写真集、マンガ……と鉄道関連の名著が満載。本書から気になった一冊を選んで、各駅停車に乗って読みふける、“読み鉄”の旅もいいかもしれません。

 

 

【書籍紹介】

忘れられない鉄道の本

編:鉄道ダイヤ情報編集部
発行:交通新聞社

やはり、みんな本を読んでいた!政治家やアナウンサーほか、鉄道好きの著名人や鉄道メディアで活躍する人などに、「忘れられない、鉄道の本」をテーマに、ご自身のエピソードをまとめた一冊。インターネットやSNSが全盛時代と言いながら、やはり本の存在は大きいもの。本書に書かれているのは、手で覚える紙の感触があったからこその、貴重な人生訓集でもある。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

大人も子どもも、ほっとしながら眠りにける絵本に魅せられる『りすとかえるのあめのたび』

息子が幼いころ、寝る前に絵本を読むのが日課でした。彼は幼いながら趣味がはっきりした子で、自分で選んだ本でないと眠れないと言い張ります。毎日、お風呂から出ると、本棚から「今日の僕の絵本」を持ち出して、布団にもぐりこみ、私を呼ぶのです。それは息子のお楽しみの時間だったのでしょう。ウキウキしながら絵本を選ぶ姿を見ていると、とても嫌とは言えません。こうして、就寝前に絵本を読む習慣は、自分で字が読めるようになるまで毎晩繰り返される「お約束」となりました。

 

物語と画、ふたつとも大事

私も寝かしつけに絵本を読むのが楽しみでした。けれども、そこはやはり大人です。息子のように夢中にはなれません。それに、早く寝かしつけて、洗濯物をたたんだり、テレビを観たいとこっそり思ったりしています。そのせいでしょうか。絵本を読むとき、どうしても早口になってしまうのでした。絵本は字の部分が少ないので、さっさと読んで次のページに進みたくなります。

 

すると、今にも眠りに落ちそうだった息子はぱっちりと目を開けて、「まだだよ、僕、読んでるんだから」と、不満を露わにするのでした。「読んでいるのは私だ、キミじゃない」と言い返しても、ブーイングは止まりません。それどころか、泣き出しそうになっています。これでは、寝かしつけにならないではありませんか。私は渋々、最初から読み直すことになりました。

 

やがて、私も気づきました。絵本は文章も大事ですが、画がものを言います。耳から物語を聞き、目で画を見る、そのふたつがしっかりと結びついてこそ、ひとつの作品となるのでしょう。穏やかな眠りに導くためには、急いで読んだりしてはいけないのです。息子が絵本をじぃっと見つめている間は次のページに移らない、これが私がたどりついた結論でした。

 

とはいえ、同じ本をくり返し、毎晩読んでいると飽きてきます。物語も暗記してしまい、目をつぶっていても読めるようになります。そして、気づいたときには、息子より先に寝てしまい、「ママ、グーっていった。いびきかいてた」と注意されるのです。これでは寝かしつけになりません。子どもを寝かしつけるはずが、自分が寝てしまってどうすると自分で自分につっこむ日々でした。

 

やはり、絵本は何冊か新しいものを用意する必要がありそうです。そして、大人も子供も楽しめる本でないと、うまくいきません。

 

『りすとかえるのあめのたび』の魅力

りすとかえるのあめのたび』(うえだまこと・著/BL出版)は、寝る前の1冊としてふさわしい絵本です。文章は簡潔ですが、ページを繰るごとに場面が変わっていくので、変化に富んでいて、読む者を飽きさせません。さらに、画そのものが物語る力を持っています。

 

主人公の「りす」と「かえる」が旅に出るお話なのですが、冒頭からドキドキさせられます。旅に出るまさにその日、ぽつん、ぽつんと雨が降ってきます。旅立ちの日として、ふさわしいとはいえず残念です。

 

りすは思います。

 

だけど こんな あめふりじゃ
たびには いけないやと

( 『りすとかえるのあめのたび』より抜粋)

 

けれども、かえるは違います。

 

あめのひって すてきだね。
こんな いいひに たびにいけるなんて!

( 『りすとかえるのあめのたび』より抜粋)

 

そう。「りす」と「かえる」では、雨に対する思いがまったく違うのです。

 

結局、「りす」と「かえる」は旅に出ます。雨の中を……。傘もささずに……。舟に乗って……。途中、霧が出てきますが、彼らは旅をやめず、果敢に前進します。やがて、もやもやした白い霧は舟ごとのみこんでしまいそうになります。

 

「りす」は不安を訴えるのですが、「かえる」は「りすくん。とにかくいってみよう」と促します。私は「りす」に似て怖がりなので、「かえるくん、勘弁してよ」と、言いたくなります。

 

物語は川の流れにのってなめらかに進んでいきます。ところが、霧の中で突如、舟が止まります。霧でよく見えないものの、どうやら岸辺にあたったようです。「かえる」は状況を確かめようと、偵察にでかけてしまいます。「りす」はひとり、舟の上で待っていることになります。このシーンは寂しそうな「りす」の姿が際立ちます。いったい「かえる」はどこに行ってしまったのでしょう。

 

けれども、旅とはそういうものかもしれません。ふたりで旅に出ても、孤独を感じる瞬間はあるものです。

 

『りすとかえるのあめのたび』は静かな旅の記録です。毒々しいモンスターが攻撃してきたり、意地悪な魔女が出てきたりもしません。その意味では、ゲームにあるような激しさはありません。色も淡く、消え入りそうで、派手な色彩に慣れている子ども達は、最初、少し物足りないと感じるかもしれません。

 

けれども、そこが大切だと私は思います。人生も旅も、本来はどこか寂しく、淡い色彩にいろどられているものに違いないからです。大人も子どもも、ほっとしながら眠りにつくためには、こういう本こそが必要なのではないでしょうか。

 

【書籍紹介】

りすとかえるのあめのたび

あめの日って、すてきだね こんないい日に、旅にいけるなんて! 雨の中おどる風、たちこめる霧、水面のきらめき…美しい自然の描写とともに、喜びあふれるひとときを描いた絵本です。

著者:うえだまこと
発行:BL出版

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『このミス』大賞受賞者・小西マサテル『ナインティナインのANN』の放送作家がミステリーへの愛を語る!!

賞金1200万円という『このミステリーがすごい!』大賞で大賞を獲得した小西マサテルさん。その受賞作が2023年1月に発売された『名探偵のままでいて』(宝島社)で、発売後には全国の書店で続々1位を獲得し、早くも7万部を突破しています。実は、小西マサテルさんは『ナインティナインのオールナイトニッポン』などを担当する売れっ子の放送作家でもあり、話題となっています。今回は、放送作家がミステリーに挑戦した理由、受賞作の内容、創作秘話などをうかがいました。

 

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:松本祐貴)

●小西マサテル(こにし まさてる)/放送作家、小説家。1965年生まれ。香川県高松市出身。明治大学在学中より放送作家として活躍。第21回『このミステリーがすごい!』大賞で大賞を受賞し『名探偵のままでいて』にて小説家デビュー。2023年現在、ラジオ番組『ナインティナインのオールナイトニッポン』『徳光和夫 とくモリ!歌謡サタデー』などを担当

 

「ミステリーを書こう、書こうと思って何十年もの歳月が過ぎていた」

まずは、小西マサテル著『名探偵のままでいて』(宝島社)のあらすじを紹介。

小学校の校長を務めた祖父は幻視、記憶障害などが起こる「レビー小体型認知症」を患っている。主人公である孫娘・楓が、身の回りの謎を話すと、祖父は探偵のように謎をつぎつぎと解くーー全6章の連作ミステリー。

このような作品はどんな人物から生まれるのでしょうか。

 

ーー小西マサテルさんといえば『ナインティナインのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)などを担当する放送作家としても有名です。そんな方がなぜミステリー小説を書こうと思ったのでしょうか?

 

小西マサテル(以下 小西) もともと、ミステリーは大好きでずっと書きたいと思っていました。実際高校生のときも、授業中にミステリーの真似ごとみたいなマンガを書いては、友達に見せていました。働き始めて『いつか書こう。書こうと思ったらいつでも書ける』と思っていたら、いつの間にか何十年かが過ぎてたんです。〝書ける書ける詐欺〟ですね(笑)。

背中を押してくれたのは、同じラジオの仕事の経験がある志駕晃さんです。志駕さんとは何度も飲んでくだらない話もする仲ですが、その志駕さんが『スマホを落としただけなのに』(宝島社)という傑作を書かれてこのミス大賞の隠し玉に選ばれたんです。この作品は、書籍だけではなく、映画化され、23年にはNETFLIXの韓国版リメイクが全世界配信されたという大ヒット作です。

志駕さん御本人に聞いてみたら、過去にプロとして漫画も描かれていたそうですよ。そんな志駕さんの会社員をやりながらでもやりたいことをやる、小説も書くという姿勢を見習わせてもらいました。

 

ーーとてもいい先達がいてよかったですね。とはいえ、放送作家の仕事をしながらどのように小説を書く時間を作っているのでしょうか?

 

小西 仕事場ではいつも通りの放送作家としての仕事をしています。朝ご飯あるいは昼ご飯を食べにファミレスに行ったときに切り替えて、ミステリーを書きます。ファミレスには、梅昆布茶からアールグレイティーまであって、安くつきます。なんの話でしたっけ(笑)。

今作『名探偵のままでいて』にはイタリアンバールや居酒屋などいろんな店の食事シーンがありますが、ファミレスで書いていると「目玉焼き乗せハンバーグ」とか、安そうなランチしか思い浮かばないんですよ(笑)。後からメニューを付け加えたりしましたね。

 

ーー書き始めてから完成まではどれぐらいの期間がかかっていますか?

 

小西 初稿は5か月ぐらいかかりました。もちろん書けない日もあります。誰にも小説を書くことを言ってなかったので、中学とか高校のとき、こっそり漫画や小説を描いていたような密やかな楽しみがありました。

 

ーー本になって発売されるまでは長かったですか?

 

小西 『このミステリーがすごい!』大賞の大賞をいただいてからも、最終選考委員の方々からのアドバイスや編集者さんの手直しの要請がありました。当たり前ですが直すとよくなるんですよ。それで半年近くはかかったでしょうか。

本作の名探偵である祖父は『刑事コロンボ』がモデルだった!?

ーー主人公の女性はミステリー好きですが、小西さんも、もちろんそうですよね? どんな作家が好きなのでしょうか?

 

小西 ミステリーにおいてはジェフリー・ディーヴァーの『リンカーン・ライム』シリーズ。ほかに多重解決では、コリン・デクスターの『ウッドストック行最終バス』『キドリントンから消えた娘』ほかに、アイザック・アシモフの『黒後家蜘蛛の会』などです。

祖父のキャラクターは、自分が見たもの、感じたもの、ドラマ・小説・映画などいろんなものから醸成されてきたと思います。最近気づいたんですが『刑事コロンボ』もそのひとつかと。

たしか『刑事コロンボ』は月に1回土曜日にNHKで放送されていました。小学生にしたら、土曜の夜のテレビは大変です。『全日本プロレス』の中継があり、なんといっても『8時だョ!全員集合』でしょ。迷いながらも選ぶのは、ほぼほぼ『全員集合』なわけです。それがオヤジの意見で「月に1回、うちは『コロンボ』」となりました。コロンボは、古畑任三郎の原型にもなった名探偵です。かっこよく葉巻を吸い、できなそうに見えて実は頭が切れる。

コロンボを演じたピーター・フォークさんは最後にアルツハイマーを患い、自分がコロンボをやっていたことさえ忘れてたらしいです。でも、最後に誇り高い亡くなり方をしたそうですよ。家族に手を握られながら、にっこり笑って……何を言ったかわからないですけど、とびきりの笑顔だったとのことです。認知症でありながら、素敵だったんでしょうね。

 

ーー本作の主人公の祖父は、「レビー小体型認知症」を患っています。これは物語でも大きな装置を担っています。小西さんの父親がこの病気を発症されていたそうですが、実際はどのような状態だったんでしょうか?

 

小西 ウチの父は病気の辛さを振り払うためもあったのか、面白かったです。実際に介護のときも笑いにしていました。誤解されないようにいうと、笑えないと介護は続いていかないんです。この病気には幻視という症状があるんですが、本人もいろんなものが見えてることを話すのは恥ずかしいんですよ。

これは父ではなく、ある患者さんの話ですけど、家族で食事をしているときにお皿の中に虫がいっぱい入ってるように見えるんです。本人は言いたくないんです。「虫が入ってる」「いや虫なんているわけないでしょ、おばあちゃん」とケンカしたくないわけですよ。だから我慢して虫が入っている(ように見える)食べ物をむりやり口に詰め込む……これは辛いと思います。一般的には小さい虫や猫などの幻視が多いらしいですね。

 

ーー介護の中に、笑いの要素が入ってくるのが小西さんらしいですね。

 

小西 ウチの父の場合はいいのか悪いのか、朝起きたら3メートルある虎が出てきていたそうです。それが毎朝なので、本人も無視できないですよね。そうなると笑いにするしかない。なんの因果か、父親は阪神タイガースファンなんです。「ワシはタイガースファンやから虎が見えるんかな。ジャイアンツファンやったらウサギやん。それならワシでも勝てるのに」と、調子のいいときは、ギャグとして言ってました。

だから、「レビー小体型認知症」は認知症というワンワードでくくられる病気じゃないなと思えるんです。まともなときは本当にまともです。自分の幻覚を振り返って、客観的に議論できて笑いが取れるぐらいのケースもあるんです。

レビー小体型認知症という病気があることを知ってもらいたいというのは、書いたことの大きなモチベーションの一つです。

 

ーーこの本でその病気を知った人も多いと思います。

 

小西 先日話した専門医の方がレビー小体型認知症はタイムトラベルができる病気とおっしゃってました。この病気の人は、夢の中で20年前、30年前の自分になることがあります。そのとき、過去の友達と一緒にいて、目覚めると幻視でその友達が現れるそうです。そんな風に過去に旅行し、幻視の人物と逢えれば、タイムトラベルが成立しますよね。

 

賞金1200万円の使い道はいかに!?

ーー小西さんは、もともと落語とか漫才の演者をして、放送作家へ転身されました。それらは今回のミステリー小説の構成などへはつながっていますか?

 

小西 それはおそらく逆じゃないですかね。学生時代のミステリーへの興味や創作から始まっています。ミステリーにおける「意外性のある発端、急展開、オチ」が好きでした。だから、同じような構成の漫才であり、落語が好きになったというのが正しい順番です。小学校の図書館にある、江戸川乱歩、名探偵ホームズ、ルパンなどのシリーズといったミステリーが原点ですね。

 

ーーその「意外性のある発端、急展開、オチ」を意識して、放送作家をしたり、ミステリー小説を書かれているんですか?

 

小西 放送作家としてはそれほど「序破急」や「起承転結」を要求されません。やはり会話の台本が多いですね。僕は、ラジオの自然な語りと小説の会話は別のものだと思っています。本作でも落語の影響は大きいですね。

 

ーーミステリーはずっと好きなものだったんですね。

 

小西 「放送作家をしていれば、ミステリー書ける。じゃ、僕も私も」といっぱい出てくるとうれしいんですが、やはり別物なのかな、とは思います。ミステリーの方法論とかは一朝一夕に身に付くものではないんじゃないかなぁと。なんだろ、歌舞伎のような古典芸能に近いと思いますよ。やっぱり本当に好きじゃないと楽しく書けないです。

 

ーー実際に『このミステリーがすごい!』大賞の大賞を受賞したときのお気持ちはどんなものでしたか?

 

小西 2週間ほど前に「最終選考会が●日にあるので大賞でも、落選でも電話をさしあげます」と知らされていました。これは家にいたらおかしくなる、待ってられないと考えて、当日まで家族でロサンゼルスへ旅行しました。成田に着いて荷物を運んだぐらいの時間に受賞を知らせる電話がかかってきて、家族みんなで狂喜乱舞しました。

 

ーー書き上がった時点で、大賞は獲れると思いましたか?

 

小西 いやいや、思わないですよ。最初のタイトルは『物語は紫煙の彼方に』ですよ。菊池寛じゃないんだから。内容も地味ですからね。

 

ーー『このミステリーがすごい!』大賞は大賞1200万円!! 文庫グランプリ賞金200万円ですよ。

 

小西 ますだおかだの増田(英彦)くんに賞金について「M-1グランプリみたいなもんやないですか」と突っ込まれたんで「いや、M-1より200万高いよ」と一応言っときました(笑)。

 

ーーちなみに賞金の使い道は?

 

小西 本当につまらない答えで恐縮ですが、以前からのマンションのローンが、この額だけぴったり残っていたんです。だから、テトリスの長いヤツのポーンで終わりです。一銭も残りませんでした(笑)。

 

ナインティナインの岡村は最初の読者で編集者!?

ーーナインティナインのお二方の反応はいかがでしたか?

 

小西 岡村(隆史)くんはほぼ初稿の段階で読んでくれました。「これは大賞やと思います。ただ、ここはこうして、あそこはこうしたほうがいいと思います」と感想を言われ、その通りに直しました。

普段のやりとりは、わりとLINEでひと言が多いです。「大賞をいただきました!」と打つと「やりましたね!」とすぐに返ってきました。本になるときは「帯を書いてくれませんか?」すると即座に「承知しました」でした。それが彼らしいですね。

矢部(浩之)くんの場合は、ミステリーを読むと屁が出て仕方ないというタイプなんで比較はできないですね(笑)。本人は「ただ(無料)で読むとか信じられない。僕の場合はいっぱい買って売り上げに貢献します」と言ってくれました。やはりナインティナインは、好対照な愛すべきコンビですね。

 

ーーナインティナインさんのコメントにも愛を感じますね。

 

小西 『ナインティナインのオールナイトニッポン』は、29年目なので、家族より長い付き合いです。20代、30代、40代、50代、週に1回必ず会って話す関係はほかにないですね。

 

ーーほかに、周りの反応はどうでしたか?

 

小西 仕事周りの人たちは、『このミス』大賞を知っているので「おめでとう」と言われましたね。一番面白いのは、親戚の反応でした。僕の地元は香川県ですが、高齢の親戚たちは『このミス』やミステリー小説などを知らないんですね。

一例としては、叔母から電話かかってきたんです。「マサテル、あんた、すごいやないの。小西家の誇りや。芥川賞おめでとう!!『芥川賞がすごい!』っていう賞とったんでしょ」

「そんな賞はないから」とかね。

違う叔母は10枚ぐらいの分厚い手紙を送ってよこしたんですよ。「読んだよ。スゴかった。別の親戚の彦三郎さんも面白いと言ってた」と書いてるんですけど、手紙は最初の1枚だけで、残りの9枚はレントゲン写真なんですよ。

見てみると、自分の腰のレントゲン写真にマジックで「ここが歪んでる」と書いてるんです。9枚も写真があると、だんだん歪んでいくんかなと思うじゃないですか。透かして見てみると、全部一緒!! 最後のレントゲン写真に「マサテルちゃん、頑張ってるな。私も腰の骨、頑張るわ。ほな」と書いてあったんです。ミステリーの執筆と腰の骨、あまり関係ないと思うんですけどね(笑)。

 

ーー次回作はいかがですか?

 

小西 はっきり言うのは初めてですが、本作のその後を書く予定です。発表はいつとは言えないですが、頑張ります。

 

ーー放送作家も、二刀流で続ける予定ですか?

 

小西 そうですね。ミステリーはやはり放送作家の仕事とは違います。ミステリーを書くことにもプロ意識を持つべきですが、やっぱり楽しいんです。今や、ゴルフの代わりにミステリーを書いているみたいなところもあります。

 

ーーその二刀流ができるモチベーションは小西さんのどこにありますか?

 

小西 いい意味でミステリーは趣味で、楽しくやれることが一番だと思ってます。もっと言うと放送作家も同じです。毎週2時間、ラジオ番組の生放送をワチャワチャとやっているのは、文化祭みたいなものです。両方とも生きがいです。

 

ーーミステリーを書いていて一番楽しいのはどんなときですか?

 

小西 うーん。例えば、古典的ミステリーのネタをこのように現代アレンジすると、物語にハマると思いついた時とかですね。そのわかった瞬間がうれしいですね。

 

ーーでは、放送作家としての楽しみはどこなんでしょう?

 

小西 自分の考えた構成がうまくハマるというのもうれしいですが、生放送の場合はちょっと違います。ズレていった話題をいかに戻すかと奮闘するときもあれば、話自体がぜんぜん違う方向に行ったけど、自分の考えの斜め上なので面白い時もあります。ミステリーでいうと多重解決に近いですね。

生放送の番組では、半分本音、半分コントが始まり、エンディングを迎えます。「さあどうだろう。今日は70点? 80点? 満点!?」と考えます。すべてが計算通りにいくとこの仕事はつまらない。もうむちゃくちゃで今日はもうアカンという日があるのも生放送ならでは。これはラジオ番組が持つミステリーとは違う魅力ですね。

 

ーー本書『名探偵のままでいて』はどんな方に読んでもらいたいですか?

 

小西 僕は少しマニアックではと思ってたんですけど、妻はもちろん、中学生と大学生の娘も、意外と楽しんで読んでくれたんです。ですから老若男女に読んでもらいたいのは当たり前ですが、本書の登場人物のセリフにこんなものがあります。「すべての出来事は物語で、すべてハッピーエンド」だと。これは、僕の信条です。なにか嫌なことがあってもいいように捉えたり、笑いにしたりする方がやっぱり人生楽しいと思います。だから、ちょっと落ち込んでることがある人に読んでいただきたい物語ですね。

 

インタビュー中もラジオパーソナリティのような軽妙なトークで取材者たちを爆笑させる小西さん。デビュー作の語り口も読みやすく、すぐに物語の世界にいざなってくれます。小西さんのミステリーへの愛と情熱が結実した『名探偵のままでいて』(宝島社)は、ハラハラ、ドキドキとさせて、それでいて心地よい読後感が味わえます。ミステリー初心者にも、もちろん『ナインティナインのオールナイトニッポン』のリスナーにもオススメ作品です。

 

名探偵のままでいて

著者:小西マサテル
発行:宝島社
価格:1540円(税込)

第21回『このミステリーがすごい!』大賞 大賞受賞作

「認知症の老人」が「名探偵」たりうるのか? 孫娘の持ち込む様々な「謎」に挑む老人。日々の出来事の果てにある真相とは――? 認知症の祖父が安楽椅子探偵となり、不可能犯罪に対する名推理を披露する連作ミステリー!

そろそろ旅に出たくなってきたら、『47都道府県 女ひとりで行ってみよう』を読んでみよう

すっかり春の陽気になり、街に賑わいが戻ってきた今日この頃。「そろそろ旅行に行きたいな」と考えている人も多いのではないでしょうか? コロナ禍でも旅行支援や割引などで旅行を楽しめていましたが、どこか遠慮していた人も多かったはず。

 

今回は2011年に初版が発売された『47都道府県 女ひとりで行ってみよう』(益田ミリ・著/幻冬舎文庫・刊)をご紹介。12年前の本で、実際に益田さんが旅をしていたのも2002年〜2006年のことですが、どの時代でも変わらない旅のソワソワ・ワクワク感を思い出させてくれる一冊でした。

 

4年かけて、47都道府県を好きな順に巡る旅

日本には47の都道府県がありますが、いくつ行ったことがありますか? 私は、通り過ぎただけの都道府県を除いて、目的を持って観光や宿泊に行った都道府県は29ほどでした。意外と行っていない! この『47都道府県 女ひとりで行ってみよう』は、ウェブ連載をまとめた書籍なのですが、益田さんのエッセイとともに当時の交通費と宿泊費、旅行で使ったお金などがざっくりとまとめられており、なんとなくこんな金額で楽しめるのね〜とイメージしやすくなっていました。また、冒頭にはこんなことも書かれてあります。

 

青森に行ったついでに秋田にも、なんてことはしないで、

毎月毎月、東京からフラッと行くことにしよう。

月に一度の旅で、47都道府県をまわると4年かかるが、

別に急ぐこともない。

何かを学ぶ、などにはこだわらない「だた行ってみるだけ」の旅。

(『47都道府県 女ひとりで行ってみよう』より引用)

 

フラッとどこかへ行くって、コロナ禍でできなかったことのひとつではないでしょうか。ここ2〜3年で、旅行は特別なもの! という印象がついてしまいましたが、そもそも旅行ってこんな感じだったわぁ〜、求めている感じはこれよ! と読みながら感じてしまいました。

 

ちなみに47都道府県制覇にかかった費用は、約220万円だったそう。金額だけ聞くと驚きますが、自分のタイミングで長い期間かけて楽しむ旅行なら「ちょっとやってみようかな?」と思える価格ですよね。もちろん贅沢な趣味ではありますが、本を読んだ後には、いいかも。と思ってしまった私もいます(笑)。

 

旅行にはつきもの? 名物の呪縛

『47都道府県 女ひとりで行ってみよう』は、旅の達人でも、一人旅のエキスパートでもない益田さんが、楽しみながら、戸惑いながら、ときには「飽きたなぁ」と思いながら(笑)、旅をする素直な様子が綴られています。その中でも特に印象的だったのが、2003年8か所目に行った石川県での文章でした。

 

ああ、いつになったらわたしは「名物」の呪縛から解放されるのだろうか。たいして好きでもないものを「名物」というだけで食べるのはやめよう。そう誓ったはずなのに、まだ「旅なんだから、食べないといけない」ような気持ちから逃れられない。

(『47都道府県 女ひとりで行ってみよう』より引用)

 

益田さんは魚貝類が苦手なのですが「海鮮丼」が名物と聞いて、つい有名なお店に入って「海鮮丼」を注文してしまったそう。結局、食べ切ることができず、ハンカチに包んでカバンに隠してしまったのだとか。旅先での失敗や後悔って、絶対ありますよね。楽しいだけじゃない旅の醍醐味も教えてもらったように思います。旅先だから、名物だからマジックにかからないよう(笑)、次の旅では気をつけたいと思いました。

 

住んでいる街も旅行先になる?

益田さんが『47都道府県 女ひとりで行ってみよう』で47都道府県目の旅行先に選んだのは、自分が住んでいる街「東京都」でした。どうやってひとり旅をするんだろう? と読み始めると、東京大学の学食でご飯を食べて、国会議事堂に行って、帝国ホテルでパンケーキを食べるという満喫旅でした。しかも移動はすべてタクシーで、宿泊はしなくても旅費は1.6万円ほど。都内でもフラッと観光気分って味わえるんですよね。

 

旅行と聞くとついつい遠くへ出かけよう、名物を食べよう、名所へ行こうと思いますが、身近なところでも旅行気分は味わえると、改めて感じられました。気温も上がり、好きなところへ好きなタイミングで堂々と行けるようになった今、あなたならどこへ行きたいですか? 旅の楽しさだけでなく、切なさや後悔なんかも感じさせてくれる『47都道府県 女ひとりで行ってみよう』を読んで、次の旅行先を考えてみましょう! 時代とともに情報や名所は変わっても、街の変わらぬ魅力がつまった一冊です。きっと行きたい街が見つかりますよ。

 

【書籍紹介】

47都道府県 女ひとりで行ってみよう

著者:益田ミリ
発行:幻冬舎

日本には47都道府県もあるのに、行ったことがない場所があるというのはもったいないなぁ。というわけで、全部行ってみることにした。33歳の終わりから37歳まで、毎月東京からフラッとひとり旅。名物料理を無理して食べるでもなく、観光スポットを制覇するでもなく。その時の自分にちょうどよいペースで、「ただ行ってみるだけ」の旅の記録。

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知っていると旅がさらに楽しくなる”道”にまつわるトリビア満載!『日本の道・道路がわかる雑学』

関東では今、梅の花が満開だ。そしてまもなく桜も咲き始める。日本がもっとも美しいこれからの季節、国内旅行を計画している方が多いだろう。そんな今、読んでおきたい一冊を紹介しよう。『日本の道・道路がわかる雑学』(浅井建爾・著/三笠書房・刊)は日本各地の道にまつわる、知っているようで知らなかった歴史や裏話を集めた雑学本だ。道はどのようにして生まれ、どう発展してきたのかがとてもよくかわる。

 

どの道にもドラマとストーリーが隠されている

まずは章立てから見ていこう。

 

1章 江戸時代より前、東海道は山陽道より格下だった!?
━道から歴史を読み解く!「古道・街道・幻の道」

2章 道路標識の「東京まで50km」、東京のどこまでの距離のこと?
━「現代道路」の知られざるトリビア

3章 国道にも欠番がある! その驚きの理由とは!?
━マニアもびっくり!「国道・高速道路」は謎だらけ

4章 これは目の錯覚? 高層ビルの中を貫通する道路!?
━一度は見ておきたい、日本全国の「絶景道、珍道路」

5章 「レンコン町」と称される、トンネルだらけの町がある!?
━世界一も目白押し!「橋とトンネル」おもしろ雑学

 

一項目2~3ページのネタが全部で84あり、すき間時間にさっと読めるのがいい。最初から読み進めなくても、目次を見て気になるページから開いていけばいいだろう。

 

徳川家康による「五街道」整備

では、数あるネタの中から、各章ひとつずつ抜粋してみよう。

 

まずは1章から。今年はNHKの大河ドラマ『どうする家康』の影響で、徳川家康に関心を寄せている人が多い。本書にも家康にまつわるネタがある。家康は江戸幕府を開くよりも早く五街道整備に着手していたそうだ。織田信長は道路の大改修を行い、その後を引き継いだ豊臣秀吉も道路整備に功績を残した。が、広域にわたって本格的な道路整備に着手したのは徳川家康だ。

 

秀吉によって関八州への国替えを命じられた家康は、江戸の街づくりと並行して江戸に通じる街道と宿場の整備に着手した。それが、東海道、中山道、日光街道(日光道中)、奥州街道(奥州道中)、甲州街道(甲州道中)からなる五街道である。

(『日本の道・道路がわかる雑学』から引用)

 

東海道や中山道は1590年前半からルート設計や宿場町の整備が始まり、東海道は1601年に、中山道はその翌年に宿駅伝馬制が敷かれた。朱印状により、各宿場に伝馬(公用に使わせた馬)の常備を義務付けたのだ。日光街道、奥州街道、甲州街道についても江戸幕府が開かれる前の1602年には整備が開設されていたそうだ。ちなみに、徳川幕府が300年近くも続いたのは、参勤交代の制度があったからで、それが宿場や街道筋を発展させ大きな経済効果をもたらしたのだ。そして五街道は庶民の寺社巡りや温泉旅行にも利用され、街道筋はますます栄えることとなった。

 

国道には欠番がある

現在、日本国内には国道は1号線から507号線まである。しかし、実際には459の路線しかないそうだ。欠番ができた最大の原因は1965年の改正道路法により、一級国道と二級国道が一般国道として統合されたこと。さらには市町村の合併のように国道においても統廃合が行われ、これによっても欠番が出ることになったという。

 

1965年の改正道路法で一級・二級が廃止されてからの新たな国道指定は、3桁の続きから番号を振ることした。こうして、残りの2桁番号は欠番となったのである。ただし、その後の1972年、沖縄本土復帰に伴い、特例的に58号線が指定された。(中略)まとめると、59~100号までの42路線、109~111号、214~216号の各3路線を合わせた48路線が欠番となっている。

(『日本の道・道路がわかる雑学』から引用)

 

太平洋と日本海を桜でつないだ人物とは?

3月後半から4月にかけ、日本各地で桜が見ごろとなる。美しい桜並木はそこかしこにあるが、ここでは1人の情熱が生んだ「さくら道」を紹介しよう。その人は、岐阜県出身のバスの車掌、佐藤良二さん。彼は太平洋と日本海を桜でつなぐという壮大な夢を抱いた。

 

名古屋と金沢を結ぶ長距離バス路線の名金線に乗務していた頃、この道を桜の木でつなぐことを思い立ち、1966年(昭和41年)から12年間かけて、たった1人でコツコツと約2000本の桜の苗木を植えていった。

(『日本の道・道路がわかる雑学』から引用)

 

しかし、佐藤さんは志半ばにして病に倒れ、47歳の若さでこの世を去った。それでも、彼が植えた苗木は育ち、毎年春になると見事な花を咲かせるようになった。彼の意思は地元の有志たちによって引き継がれ、今も桜の苗木が植え続けられているそうだ。この話は『さくら道』という本になり、映像化もされ、さらには教科書にも採り上げられた。

 

トンネルだらけのレンコン町はどこ?

トンネルの最も多い都道府県はどこかご存じだろうか? 広大な北海道、あるいは山岳地帯の長野県あたりを思い浮かべる人が多そうだが、実は以外にも1位は大分県だ。トンネル数ランキングトップ5は以下の通り。

 

1位 大分県 557本
2位 北海道 489本
3位 千葉県 461本
4位 高知県 413本
5位 広島県 385本

 

大分県には「レンコン町」とも称される竹田市がある。ここは周囲を山に囲まれた盆地に開けた城下町で、どこへ行くのにもトンネルを潜り抜けなければならないため、その異名があるそうだ。

 

ちなみに、上記のランキングはトンネルの数で、長さではない。長さは北海道が36万7670m、大分県が16万2098m、3位の千葉県は数は多いものの総延長は6万3366mしかなく、ほかの上位の県と比べて非常に短いのだ。

 

この他にも、あの道、この道の話が満載の本書、随所に地図や写真もあり、とてもわかりやすい構成になっている。行き先に合わせた旅行ガイド本とは別のもう一冊としておすすめしたい。

 

【書籍紹介】

日本の道・道路がわかる雑学

著者:浅井建爾
発行:三笠書房

道をたどれば、歴史と文化が見えてくる!写真・地図つきで、奥深い世界を楽しめる本!旅行や外出がもっと楽しみになるネタ満載!誰かに話したくなるスポットから、歴史の裏話まで、ワクワクがとまらない!

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アイデアは、クリエイターのためのものじゃない!? 本心に隠していたお悩みが消える本『1日1アイデア』

今なにか、悩みの種はありますか?

「ない!」と断言できる人はそうそういないのではないでしょうか。

仕事、家庭、学習、恋愛、人間関係、進路、健康、時間……。

 

それらの悩みの種を、驚くほどパッと片づけること。それが、「アイデア」というものの真の効力です。

 

1日1つのアイデアで、仕事も人生もどんどん変わる

アイデアという言葉にどんなイメージをお持ちですか? もしかしたら、アイデアとは特別な仕事の中で優れた成果を上げるためのクリエイティブなものであり、頭のいい人だけが正解を出せるものだ、などと思っていたりしないでしょうか。

 

アイデアは、特別な仕事のためのものではありません。頭の良さとも全く関係ありません。目の前にある、なんかモヤモヤする不満とか、不便とか、苦手なことを、「あれ? なんだ。こんなことで悩まなくなるんだ」と、あっさり解消する機転が、アイデアなのです。

 

アイデアは、「悩みの種片付け遊び」、そして「やりたいこと叶え遊び」です。日常で小さな機転をきかせることを、ゲーム、クイズ、スポーツなどと同じような遊びとして楽しむことができるようになれば、あとは勝手に、仕事の難しい問題解決も、新しい物事を生み出すクリエイティブも、どんどん進められる人に変身できます。

 

おもちゃクリエーターであり、アイデア発想の専門家でもある高橋晋平の2023年2月22日発売の新刊 『1日1アイデア 1分で読めて、悩みの種が片付いていく』 (KADOKAWA・刊)では、そのようなアイデアの効力を身につける方法がこれでもかと掲載されています。人生で起こる様々な悩みの解決法アイデア、ベスト365を、考え方と共に読んでいくと、「なんだ、機転をきかせるって、簡単なんだ!」ということが徐々にわかっていきます。

 

思いついたら、小さなアイデアを実験してみよう!

この本『1日1アイデア』に載っている365のアイデアには、カレンダーのように日付が振られています。この記事が掲載される3月13日、14日のお話を紹介します。

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【3月13日】
荷物を送るときのオシャレなアイデア

仕事仲間が、おもちゃのサンプルを宅配便で送ってくれたことがありました。段ボール箱を開けると、サンプルの周りに、キャラメルやマシュマロのようなお菓子が入っていました。そこに1枚、付箋が貼られていて、

 

「緩衝材です。」

 

と書かれていました。なんとしゃれた荷物の送り方(プレゼントの贈り方)だろうと思いました。

 

ちょっとしたギフトとしてお菓子は最適です。気を遣わせないし、食べるとなくなるので邪魔にならないし、もちろん嬉しいです。それを、わざわざ買って入れてくれたという見せ方ではなく、緩衝材だと言う。すぐにマネしたくなりました。

 

僕は人に本をあげることがよくあるのですが、わざわざ買ってあげたと思われると気を遣われるかもしれないので、「間違って 2 冊買っちゃったんだけど、めっちゃ面白いから読んでみて」と言って渡したりします。

 

ちょっとしたプレゼントを、偶然のようにしてあげることが、セレンディピティ(思いがけない幸運)を相手と自分にもたらすことがあります。いいタイミングがあったら、身近な人にさりげない贈り物をする練習をしてみましょう。

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上の話は、どうせ荷物を送るなら、メッセージでも、工夫でも、何でもいいからあとちょっとだけ相手を喜ばせられないかを考えてみる例です。こういうアイデアが何かないかな、と、数秒考えてみる姿勢があると、そのことでどんどん人に好かれていくことができ、仕事や人生が幸せなものになっていきます。

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【3月14日】
満員電車に乗っているムダ時間は、括約筋運動をせよ

電車に乗っているとき、混んでいなければ読書をしたりスマートフォンをいじったりして時間をつぶせますが、満員電車でギュウギュウだと何もできませんよね。狭いところだと、手はもちろん、脚や首を少し動かすだけでも人に迷惑がかかるかもしれません。

 

僕はそういうときに、腹筋に10秒力を入れることを繰り返す運動をしています。満員電車だけでなく、暇になったら腹筋に力を入れると決めています。腹筋に力を入れるのは、いかなる姿勢でも、他人に気付かれる体の動きがまったくない形で何回でもやれる運動です。電車内はもちろんのこと、行列待ちの間、皿洗い中、デスクワーク中……、いつでもできて道具もいりません。これをやっていると、健康のために筋力を蓄えている気になって、充実感を得られます。

 

また、エスカレーターの片側が空いていると、せっかちな人は駆け足で上りたくなったりしますよね。エスカレーターで急ぐのは危ないものです。焦らずに、腹筋運動をしながらゆっくり移動してはいかがでしょうか。

 

腹筋運動以上におすすめなのが、括約筋の運動です。お尻の穴を締める動きを、力を入れて何度も繰り返すのです。実はこの運動は、僕が過去にひどく体を壊して筋力が衰えてしまったときに、全身を良くする万能運動として治療師の先生に教わったものです。筋力、姿勢、血流、冷え、自律神経などが良くなっていき、健康寿命が伸びる効果があるらしいです。結構疲れますが、試してみてください。

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上の話は、ヒマ時間や、ながら時間に運動を組み合わせるだけで、どんどん健康になっていくアイデアです。人生で一番大切な健康は、実は、ほんの少しのマイルールで良くしていけるものです。

 

 

これらは一例ですが、皆さんも、まずは自分の悩みの種を、いくつか挙げてみて下さい。仕事の悩み、人間関係の悩み、家庭の悩み……。それらで何年も困っているかもしれませんが、ちょっとだけ見方を変えた行動アイデアを2、3個考えて、実験して、失敗したり成功したりしながら楽しんでいると、その悩みはあっさりと消え、楽しくなった気分が、人生で本当にやりたいことを後押ししてくれます。

 

試しにこの本のページをめくって参考にしながら、今日からあなたも、アイデアを趣味にしてみませんか?

 

 

1日1アイデア 1分で読めて、悩みの種が片付いていく

著者:高橋晋平
発行:KADOKAWA

アイデアとは、自分の心の中の願望が実現するきっかけです――
この本では、世界中の事例や著者の経験から厳選した「人生を楽しくラクにするアイデア」が1日1つずつ、日付入りで365個紹介されています。すぐに試せるストレスを取り除くアイデアから仕事のスキルを上げるアイデアまで、それぞれ1ページにやり方と考え方を凝縮。読めば読むほど、アイデア発想力が養われていく仕掛けの、これまでにない革新的発想本です。
ぜひ、自分の今のお悩み事を解決する1アイデアを探してみてください

1日1アイデア 1分で読めて、悩みの種が片付いていく (角川書店単行本)

1日1アイデア 1分で読めて、悩みの種が片付いていく (角川書店単行本)

高橋 晋平
2,178円(03/13 14:04時点)
発売日: 2023/02/22
Amazonの情報を掲載しています

 

【筆者プロフィール】

高橋 晋平(たかはし・しんぺい)/おもちゃクリエーター、アイデア発想ファシリテーター。秋田県生まれ。2004年に株式会社バンダイに入社。第1回 日本おもちゃ大賞を受賞し発売初年度に国内外累計335万個を販売した「∞(むげん)プチプチ」など、イノベイティブトイの開発に約10年間携わる。14年に株式会社ウサギを設立。玩具・ゲームの考え方を活かした事業を企業と共同開発し、企画アイデアの発想セミナーやワークショップを全国で実施している。得意なのは笑い・遊びのある企画を作り、話題にし、販売につなげること。TEDxTokyoでのスピーチは累計200万回再生。

Twitter:https://twitter.com/simpeiidea
HP:https://usagi-inc.com/

 

今からでも遅くはない! 正しく学べば問題なし!!『50歳から始める英語』

英語を使えるようになりたいと願う日本人中高年層は少なくありません。けれど「単語をおぼえるにはもう記憶力がなくて」と言い訳をして逃げ腰になる人がかなりいます。50代以上が英語力を伸ばすには、どうしたらいいのでしょうか。

50代でオンライン英語

先日、50代の私はオンライン英会話を無料体験しました。最近は、なんと1か月以上もの期間無料でお試し学習させてくれるサイトが複数あり、とてもありがたいのですが、私は少し試しては挫折することを繰り返していました。それは、うまく単語が出てこなくて恥ずかしいからです。

 

今回もかなり苦戦しました。私の単語力は中卒程度なので、先生に「ホラー映画は好き?」と尋ねられ、「心臓がドキドキするので苦手」と答えたいのにうまく言えません。しかたなくジェスチャーで胸のドキドキを表現してごまかしました。

 

単語をおぼえられない

中高年の英語学習者の悩みのひとつが、なかなか単語がおぼえられないということ。私も毎週10個と決めておぼえてみたのですが、翌週になるともう忘れています。忘却曲線に従って何度も復習を繰り返し、脳に刷り込んだつもりでも、すぐに消えてしまうのです。

 

単語ひとつまともにおぼえられないし、やはりこの年齢からの英語は無理なのかも、と気持ちが萎えてしまいがちだったのですが『50歳から始める英語』(清涼院流水・著/幻冬舎・刊)という本を見つけました。もしかしたら、まだ希望はあるのでしょうか。

 

50代男性学習者が多い理由

著者である清涼院流水さんの公開学習会にする参加する男性は、50代が圧倒的に多いのだそうです。女性の参加年代はバラけているのに男性だけこの傾向があるのは、グローバル化により、英語を仕事で使う必要性が出てきたからではないかと推測されています。

 

清涼院さんは、本の中で、何歳からでも英語学習は伸ばすことができると断言しています。ただし、それは、正しい勉強法で学習していることが必要なのだそうです。では、その正しい学習法とはどのようなものなのでしょうか。

 

本当の単語のおぼえかた

本書によると、単語を忘れてしまうのは「おぼえたつもり」であって、本当におぼえているわけではないからとのこと。私は英単語とその意味だけを機械的に繰り返し眺めて暗記していたのですが、このようなやりかたは「おぼえたつもり」なだけだったのです。

 

英単語をただ見るだけではなく、手を動かして紙に書き、口を動かして発音したほうが、より深く脳に記憶させることができるのだとか。試してみると、確かにそのほうがよく頭に入りました。中学生の時のように、一語一語丁寧に取り組む必要があったのですね。

 

毎日の積み重ね

英語は学習時間の積み重ねだと言う人がいますが本当にそうです。習得するには一朝一夕ではどうにもならないほどの膨大な時間がかかります。ということは逆に言えば、毎日少しでも時間を見つけて学習する習慣をつければじりじり前進できるのかもしれないのです。

 

本にも「英語学習において、一番難しいのは、”継続すること”」とありました。そこで私は毎日10分オンライン英会話を続け、英語学習系の5分ほどのYouTubeを鑑賞し、そこで新しく学んだ単語を書き出すということを1か月続けました。1日の総学習時間は20分未満でしたが、それでも効果は少しずつ出始めていて、英会話のラリーも続くようになったのです。

 

中学英語から一歩ずつ

毎日英語と接することで、何より英語への苦手意識が薄まってきました。先生の話がかなり聞き取れるようになり、憂鬱だった英会話の時間を楽しみに思えるようになってきたのです。50代でも遅くないかもしれない、と、希望と意欲が湧いてきました。

 

本書では英語がわからない場合は中学英語から再学習することも勧められていました。私もそれが必要なレベルだと思います。英語をさらに伸ばしたくなってきたので、本で推奨されている英文法の学習メニューも今後は少しずつ取り入れていくつもりです。

 

【書籍紹介】

50歳から始める英語

著者:清涼院流水
発行:幻冬舎

生まれてこの方ずっと身近にある外国語は英語。なのに字幕なしで映画鑑賞はおろか海外旅行での簡単な会話すらままならず、諦め続けている人は多い。しかし英語を習得するなら時間とお金に余裕があり経験豊富な50歳からがいい。この期に及んで同時通訳を目指したり欧米企業に勤めるわけじゃない今だからこそ、誰からも強制されない英語学習は楽しく、人生をも豊かにする。TOEICテストを活用すれば自らの成長を数値化できてさらに愉快。今すぐ無性に英語を始めたい! という人に贈る−人生100年時代−の正しい英語勉強法。

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羽柴秀吉は「ファシバフィデヨシ」!? 千年以上の時を経て日本語の発音はどう変わってきたか?~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。指先が冷え性の私は冬場キーボードを打つのが辛くて、どうにかできないかと悩んだ末にたどり着いた方法が音声入力。一昔前は音声入力というと目も当てられない怪文書が生まれていましたが、今は聞き取り能力もアップし、文脈に合わせて漢字への変換も上手にしてくれるので、そこまで崩れた文章にはなりません。

 

音声入力の利点は、手をこたつに入れたまま文章を書けること(笑)。あとは発音を意識するので、少しハキハキしゃべれるようになった気がすること。誰もいない部屋でひとりハキハキしゃべるのは、いまだに抵抗がありますが……。

古代語の真の発音とは?

さて、今回紹介する新書は日本語の発音はどう変わってきたか 「てふてふ」から「ちょうちょう」へ、音声史の旅』(釘貫 亨・著/中公新書)。著者の釘貫 亨さんは、国語学者で名古屋大学名誉教授。専門は日本語史です。『古代日本語の形態変化』(和泉書院)、『近世仮名遣い論の研究――五十音図と古代日本語音声の発見』(名古屋大学出版会)など著作多数です。

懐かしのCM「ちゃっぷい、ちゃっぷい」は古代日本語!?

日本語の発音の変化を歴史ごとに追っていく本書。当然、音声データなど残っていないため、各時代ごとにどのような資料を使って発音を推測していくか? という部分がポイントになっています。

 

第1章「奈良時代の音声を再建する」では、漢字の音読みを用いた万葉仮名と最後の遣唐使となった僧侶・円仁が記録した梵字の読みが手がかり。研究者たちが、奈良時代の発音をどう推測したかがわかります。

 

奈良時代のサ行は梵字の読みから、「ツァ」に近い音だったとか。万葉集の柿本人麻呂の句「小竹(ささ)の葉は~」は、「ツァツァノファファ」という発音だった可能性が高い、という説が挙げられています。なんだかフランス語のような響きですね(笑)。

 

また、ハ行の読みは「パピプペポ」だったという説も! 昭和のころ、金鳥の使い捨てカイロ「どんと」のCMで、「ちゃっぷい、ちゃっぷい。どんとぽっちい」というセリフがありましたが、CM制作スタッフが「学問的研究を踏まえている」と語っていたそうです。このセリフが流行したのは、太古の記憶が私たちに刷り込まれていたからかもしれません。

 

第4章「宣教師が記録した室町時代語」では、キリシタン資料による室町時代の発音研究に焦点が当たっています。帯にも大きく書かれていますが、「羽柴秀吉」は「ファシバフィデヨシ」と読まれていたそう。なぜわかったのかというと、そのカギは当時のなぞなぞの本に!? それにしてもファシバフィデヨシ、口に力が入らないですね(笑)。

 

本書はバラバラっとしたトピックスが並ぶ雑学本ではなく、日本語発音の変遷をたどっていく研究書寄りのテイストで歯ごたえは堅め。しかし、じっくり読んでいくと現在の日本語に覚えるちょっとした違和感の答えが歴史のなかから浮かび上がり、日本語の複雑さの源となっている重層性が見えてきます。専門的な学問の内容を気軽に知ることができるのも新書の真骨頂でしょう。

 

「銀行員の行雄は、修行のために全国行脚を行った」という、「行」の字が5つも入っている文章を例に挙げ、「日本漢字音の重層性」を説明する釘貫さん。漢字を母語とする中国人も驚くという複雑さ、その理由もわかります。

 

昔の人がどう発音していたか、読み解きはミステリー的な要素もあり、当時の会話が想像できるのも楽しいところ。わかっているつもりでも知らないことだらけの日本語の奥深さに心掴まれました。

 

【書籍紹介】

日本語の発音はどう変わってきたか 「てふてふ」から「ちょうちょう」へ、音声史の旅

著:釘貫 亨
発行:中央公論新社

問題「母とは二度会ったが父とは一度も会わないもの、なーんだ?」(答・くちびる)。この室町時代のなぞなぞから、当時「ハハ」は「ファファ」のように発音されていたことがわかる。では日本語の発音はどのように変化してきたのか。奈良時代には母音が8つあった? 「行」を「コウ」と読んだり「ギョウ」と読んだり、なぜ漢字には複数の音読みがあるのか? 和歌の字余りからわかる古代語の真実とは? 千三百年に及ぶ音声の歴史を辿る。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

たった一言の違いでチーム力に差が出る? 働きやすい職場になるヒントが満載! 『心理的安全性をつくる言葉55』

昨年からよく聞くようになった「心理的安全性」。新しい会社に入社する人も、これから新たな部下を迎える上司の皆さんも、お互いに働きやすい環境で過ごしたいですよね。今回は『心理的安全性をつくる言葉55』(原田将嗣・著、石井遼介・監修/飛鳥新社・刊)から、いつもの一言をちょっと変えるだけで、成長できる職場の雰囲気になれる言葉をご紹介します。「心理的安全性って何?」「コミュニケーションが破綻したうちの職場では無理だよ」と思っている人にもぜひ手に取っていただきたい一冊です!

そもそも「心理的安全性」とは?

よく聞くけれど、よくわかっていない……という人も多いかもしれません。文字の雰囲気から、性格も合う仲良しなメンバーが集まり、自分の好きなように働ける、そんな自由な職場をイメージする人もいるかもしれません。本来はどのような状態を示すのでしょうか? 定義を明確にしておきましょう!

 

心理的安全性が高いチームとは、仲が「悪すぎる」でも「良すぎる」でもなく、目指すゴールや成果のために「健全な意見の衝突(ヘルシーコンクリフト)」が起こせるチームです。

(『心理的安全性をつくる言葉55』より引用)

 

成果のために健全な意見の衝突が起こせる、というのがポイントですよね。仲の良さは別に関係ないのも、覚えておきたい部分かも。

 

さらに『心理的安全性をつくる言葉55』では、心理的安全性をつくる「4つの因子」として、①話しやすさ、②助け合い、③挑戦、④新奇歓迎が高いことが大切と書かれてありました。ただ単に、話しやすい環境を作り、仲良く助け合えるのが心理的安全性の高いチームではなく、その雰囲気はありつつも、成果のために挑戦できる環境、さらには多様性を認め、活用できる組織であることを目指していくことが求められているようでした。

 

無意識に「こんなこと言いたくないけどさ〜」なんて言っていませんか?

『心理的安全性をつくる言葉55』には、最初のページに心理的安全性を下げる10個の「NG言葉」が掲載されています。「前にも言ったよね?」「なんでできなかったの?」「誰の責任?」「会社のルールはこれだ」「何か意見ある?」など、私も言われたこと&言ったことのある言葉ばかりで、げんなりしてしまいました(笑)。

 

例えば、同じミスを繰り返す部下に対して「前にも言ったよね? こんなことは言いたくないんだけどさ、次からは〇〇のこと、気をつけてね」なんて言葉を使っている人は多いと思います。実はこれ、心理的安全性を下げてしまっているNG言葉。どのような言葉に変えてあげると良いのでしょうか?

 

このような「気をつける」「やる気を出す」「徹底する」という、アクションが具体的にはわからない「心の中」のキーワードは、行動変容や人材育成・スキルアップをする上で、あまり役に立たないのです。

では、どうすればいいのか? 行動を、一緒に確認することです。

(『心理的安全性をつくる言葉55』より引用)

 

例えば、報告が整理されていない部下に対して、「前にも言ったけど、もっと情報を整理してから報告して」というのではなく、「一緒に確認したいんだけど、報告する時は、何をどう考えているの?」と問いに変え、どこが整理できないところなのか一緒に考えるようにするとよいとのこと。つい、厳しく指導して「次からは気をつけて!」と言いたくなりますが、部下と一緒に取り組んでみましょう。『心理的安全性をつくる言葉55』には具体的な会話例とともに言葉が掲載されているので、自分ごとに落として考えやすいのも読みやすいポイントです。「あぁ〜よくこんな言葉使っているな」と思ったら、確認の意味も込めて読んでみてくださいね。

 

リモートでも心理的安全性はつくれる

こういった「会話本」は、オフラインでのみ適応されると考える人もいるかもしれません。しかし時代はオンラインが主流。リモートワークでも「心理的安全なチーム」をつくるにはどんなことを心がけたら良いのでしょうか?

 

いくつかのコツが紹介されているのですが、個人的に一番「わかる〜」と思ったのが「すぐ反応」すること。これにより発信者の心理的安全性を高められるのだとか。とくにチャットツール等でやり取りをしている場合、気合を入れて作った書類や気になっている質問を送っても、なかなか返事が来ないと「もしかして怒らせたかな?」「とんちんかんなこと聞いちゃったかな?」と不安になってしまうことってありませんか?

 

すでに心理的安全性が築かれている間柄であれば「いつものこと」と思えますが、そうじゃない場合は、相手に不安を与えてしまいます。リモートでは了解! ありがとう! など、一言でもいいので「すぐ反応」しましょう。話しかけやすさにも繋がるそうですよ!

 

『心理的安全性をつくる言葉55』は、これまでもよくあった「新人とどう接したらいいかわからない」とか「厳しい上司との1on1が怖いなぁ……」など悶々とした状況を脱せる一言が必ずみつかる一冊です。職場で働く人たちは、働きやすい環境で成果を出したいと誰もが望んでいるはず。 なんとか良い方向への改善策を見つけたい人はぜひチェックしてみてくださいね!

 

【書籍紹介】

心理的安全性をつくる言葉55

著者:原田将嗣 (著), 石井遼介 (監修) 
発行:飛鳥新社

いつものひと言を変えることで…会話が増える!チャレンジが始まる!チームが変わる!いま大注目の「心理的安全性」を取り入れるなら、本書の言葉から。

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目は口ほどにものを言う−−「しぐさ」から相手の本音を読み取る技術『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』

ボディー・ランゲージというのは、口から発する言葉よりもはるかに明らかな形で本質を表すものらしい。嘘をついているときは目が泳ぐ。相手の話がつまらないと思っている時には無意識に腕組みしてしまう。脚を組んで座っている時にはリラックスしている。ごく簡単な例を挙げるなら、そういうことになる。

 

捜査現場のノウハウと学術的事実のコラボレーション

無意識に出るしぐさは、行動心理学をフィルターにして深層心理を読み取る際の指標となる。しぐさを軸にしたアプローチはFBIの捜査手法の一部にも加えられ、積極的に活用されている。ふと思い出した。1991年のハリウッド映画『羊たちの沈黙』のヒロインもFBI行動科学班の女性捜査官で、深層心理的要素の解釈みたいなものがストーリーのあちこちに伏線的にちりばめられていた。

 

ここで紹介する『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』(河出書房新社・刊)という本の著者ジョー・ナヴァロ氏はキャリア25年のスパイ防止活動特別捜査官、マーヴィン・カーリンズ氏は心理学者だ。現場で培われたノウハウと学術的な知識をバランス盛り込みながら、想像よりはるかに雄弁なボディー・ランゲージについての考察が展開されていく。

 

ノンバーバルという形のコミュニケーション

章立てを見てみよう。

 

第1章 しぐさに秘められた意味を知る
第2章 辺縁系の遺産で生きる
第3章 ボディー・ランゲージへの第一歩を踏み出す—足と脚のメッセージ
第4章 胴体の語るヒント—腰、腹、胸、肩のメッセージ
第5章 手の届く範囲にある知識—腕のメッセージ
第6章 落ち着くために—手と指のメッセージ
第7章 心のキャンバス—顔のメッセージ
第8章 ウソを見抜く—慎重に判断すること!
第9章 最後に

 

ボディー・ランゲージがここまで細分化されるとは思わなかった。共著者マーヴィン・カーリンズによるまえがきには、次のような文章が記されている。

 

ジョーは捜査官として働きながら、ずっとノンバーバル(非言語)コミュニケーションの科学—顔の表情、身振り、体の動き(動作学)、互いの距離(近接学)、体の触れ方(触覚学)、姿勢、さらに服装まで—を研究し、練り上げ、応用しながら、人が何を考えているのか、何をしようとしているのか、本当のことを言っているのか、読み解く技を磨いてきた。

『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』より引用

 

言葉にならないものを読み取ろうというレベルの話ではない。あえて隠そうとしていることを、ボディー・ランゲージから明らかにしていこうというのだ。

 

本書が、同じようにノンバーバル行動を扱っているほかの多くの本と異なっているのは、単なる個人の意見や机上の空論ではなく、科学的事実と豊富な実績に基づいている点だ。

『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』より引用

 

本書は、“辺縁系”という聞きなれない言葉に代表される学術的理論と、捜査現場で培われた実践的なテクニックを両輪にして進められる立体的なボディー・ランゲージ論にほかならない。シンプルな響きのタイトルを見ただけではわからない、かなり踏み込んだ実用的な内容なのだ。

 

著者の原体験

共著者ナヴァロ氏は、8歳の時に家族と一緒にキューバからアメリカに亡命した。当然のことながら、英語はまったくわからない。しかし彼は、すぐに自分を取り囲む人たちが考えていることを、ボディー・ランゲージを通して正確に知ることができるようになった。

 

最初に気づいたのは、私を本音で好きな生徒や先生は、私が部屋に入っていくのが見えると眉を上げることだった。その逆に、あまり親しくない人たちは私の姿を見てちょっとだけ目を細めた。それに一度気付いたら、忘れられるものではない。

『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』より引用

 

ナヴァロ氏は、8歳の男の子が身につけ得るライフハックの最初のテクニックとして、周囲の人々が眉を上げることや目を細めることの意味を脳裏に刷り込んだ。理想的では決してない。しかし、これほど実践的で即効性のある方法はなかったはずだ。

 

じっくり腰を据えてページをめくろう

必死に言葉を取りつくろえば何とか切り抜けられる場面もあるかもしれない。しかし、思っていることや感じていることが条件反射的にそのまま出てしまうボディー・ランゲージを取り繕うことができる人はほとんどいないだろう。

 

人の心を正しく読むこと—ノンバーバル行動を知り、解読し、利用して、人間の行動を予測すること—は、やりがいのある、十分に報いられる努力だ。だからここでじっくり腰を据えてページをめくり、ジョーが語る重要なノンバーバル行動を、しっかり覚えて観察できるようになってやろうという心がまえをしてほしい。

『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』より引用

 

FBI特別捜査官が現場で培ったテクニックと心理学者による学術的知識の組み合わせは絶対に試したくなるし、確かめてみたくなる。共著者カーリンズ氏が言う通り、じっくり腰を据えてページをめくっていくべき一冊だ。

 

【書籍紹介】

FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学

著者: ジョー・ナヴァロ、マーヴィン・カーリンズ
発行:河出書房新社

言葉ではウソをつけても、しぐさではウソをつけない。自信のあるなしや、安心/不安なときのしぐさの違いを見分けられるようになれば、人とのつきあいがスムーズになる。「スパイキャッチャー」、「人間ウソ発見器」の異名をとる元FBI捜査官が、普段見落としがちなしぐさによるメッセージを、あますところなく明かす。

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狭小空間を120%活用する、等身大のガレージ作り『dopa(ドゥーパ!)』153号の内容をチラ見せ!

DIYライフマガジン『dopa(ドゥーパ!)』2023年4月号が、3月8日(水)に発売!

特集は「ガレージ工房」「DIYサウナ」の2本立てです。

 

 

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特集は「小さなガレージ工房の作り方」

映画や洋書に出てくるような大きなガレージは憧れだけど、日本の住宅事情を考えると実現はなかなか難しいもの。そこで本特集ではガレージの一角に作る小さな創作空間に注目。ビルトインガレージのコーナー、壁面の一部、2m四方の小屋……狭小ながらも創作熱が渦巻く作業場を舞台にした、等身大のリアルなガレージ工房特集をお届けします。

 

狭小空間を大活用!ガレージ工房実例集

ガレージの一部を工房として活用しているさまざまな事例を紹介。セルフビルド、ビルトインガレージ、キットガレージといったガレージの形態から、各設備の工夫・ポイント、そこで生まれる作品など、DIYerの創作空間とスタイルを徹底分析します。

 

木工、鉄工、革細工…小さなガレージの工房化マニュアル

小さなスペースを活かした工房作りのポイントを、各ジャンルにプロに直撃インタビュー。木工、溶接・金工加工、レザークラフト、これら3つの作業場を想定し、各ブースの作り方やポイントを紹介。工房作りの基本はもちろん、日々製作に励むプロ作家ならではの視点にもご注目ください。

編集部実践リポート ビックサイズのガレージを作る

2年前から始めた編集部のガレージビルドの完結編。ミキサー車をオーダーしたコンクリートフロア打設から、ガレージリビングとなる室内の木製の小上がり、大開口の折れ戸作りなど、素人集団のガレージビルドの様子を赤裸々に公開した、DIYドキュメンタリーをご覧ください。

 

第2特集 サウナタテタイ!DIYサウナビルド図鑑

本誌がDIYによるサウナの作り方を公開してから約1年半。手作りサウナは今や単なる小屋という形に留まらず、さまざまなバリエーションが生まれ、進化している真っ最中! そんな熱いサウナビルドのシーンから「これぞ!」と唸るユニークなサウナをピックアップ。Mook『Sauna Builder』で広めた世界から、さらに一歩踏み込んだ内容で手作りサウナの魅力をお届けします。

 

バラエティあふれる連載にも注目!

車中泊や旅を楽しむための軽バンカスタム、レザーソーイングやグリーンウッドワークなど、さまざまなジャンルのもの作りの魅力を個性あふれる作家とともにお届けします。その他、自給自足の田舎暮らしエッセイなど読み物も充実。

ダイエットしたいなら早起き、朝飯、12時間断食だ!『脂肪を落としたければ、食べる時間を変えなさい』

中年になってからというもの、運動をまったくしなくなり、お腹がやけに出てしまっている。基本的には痩せ型体型なので、お腹だけがやけに目立つ。立派なおじさんだ。

 

以前はそんなことを気にせず、食べたいものを食べたいときに食べる生活をしていたのだが、最近はちょっと気になりだして、野菜などを多く摂取するなど、ちょっとだけ食生活に気をつけたりしているが、特に効果は見られない。

 

そんなときに読んだのが『脂肪を落としたければ、食べる時間を変えなさい』(柴田重信・著/講談社・刊)だ。

体内時計と食事を研究する「時間栄養学」

著者は「時間栄養学」の研究者。時間栄養学とは、人間の体内に備わっている体内時計の仕組みを解明しつつ、体内時計をいかにリズムよく動かせるか、そしてそのリズムに合わせた食べ方を研究する学問だ。

 

この時間栄養学の観点から、痩せるための食事の摂り方をアドバイスしているのが本書だ。

 

ダイエットの基本3か条

本書で著者が提唱しているのは大きく3つになる。

 

「朝、光を浴びよう」
「朝食をしっかり食べよう」
「夕食から翌日の朝食まで、12時間以上の絶食時間をつくろう」

(『脂肪を落としたければ、食べる時間を変えなさい』より引用)

 

もちろん、これらを行えば身体にいいことはわかるのだが、なかなかできないものだ。僕の場合、起きるのはだいたい午前10時ごろで、カーテンなど開けないので日の光を浴びることもあまりないし、朝ご飯もほとんど食べない。お腹が空いたら食事をするという感じだ。

 

しかも、夜型人間なので夜中にとんかつを食べたりすることも多い。夜中の揚げ物はおいしい。これでは、いつ生活習慣病になってしまってもおかしくないだろう。

 

要は規則正しい生活をして、3食しっかり食べようという話なのだが、これがなかなか難しい。そう、僕は堕落した現代人なのだ。

 

12時間絶食のメリット

最近、「16時間断食ダイエット」や「14時間断食ダイエット」というキーワードを聞くことがある。これは、1日の間に一定時間食事を摂らない(=断食をする)食事法のこと。16時間断食ダイエットだったら、そのほかの8時間は何をどれだけ食べてもいいというものだ。

 

このダイエット法に関しても研究が進んでおり、本書では「12時間」が最適な断食の長さだという。

 

ダイエットをしたい、メタボを予防・改善したいという人は、まずは12時間断食で、食べる時間帯を朝から夕方に設定して実行することをおすすめしたいと思います。

(『脂肪を落としたければ、食べる時間を変えなさい』より引用)

 

12時間断食のメリットは、時間設定がわかりやすいところ。朝食を午前7時に設定したら、夕食は午後7時までとなる。これなら、面倒な計算をしなくてもわかりやすい。

 

朝食に重きを置く

3回の食事のうち、もっとも重要なのは朝食だ。朝食は、栄養摂取という目的のほか、体内時計を動かすという役割もある。身体にとっての目覚まし時計なのだ。朝食に適した時間は午前9時まで。そして、「インスリンの出やすい食べ物」がいいとのこと。

 

具体的には魚の脂、タンパク質、ビタミンKなど。これらを効率よく摂取する理想的なメニューは、ご飯と魚、そしてみそ汁や納豆など。つまり、日本古来からある和風な朝食メニューがいいのだ。旅館の朝ご飯なんて、理想的だろう。

 

「いつ食べるか」を意識しよう

本書を読むと、「何を食べるか」だけではなく「いつ食べるか」も重要だと気付く。

 

僕は、正午ごろに目覚め、いつも飲んでいる甜茶(花粉症に効くお茶)を飲みながら本書を読んでいた。この本に書いてあることを何一つ守っていない人間だ。

 

これではいけない。とりあえずできるだけ朝は午前8時くらいまでに起きて朝食を食べ、夜も早めに夕食を済ませて12時間断食ダイエットをするようにしよう。

 

一見簡単そうなんだけど、なかなかできないだろう。なんせ意思が弱い人間なのだ、僕は。

 

でも、これくらいならできるはず。早起きと朝食を食べること、そして12時間断食ダイエットを継続していけるくらいの意志の強い人間になるよう、明日から頑張りたい。

 

【書籍紹介】

脂肪を落としたければ、食べる時間を変えなさい

著者:柴田重信
発行:講談社

ダイエットやメタボ予防のために気を使い、毎日努力をしているはずなのに、なぜかあまり成果を得られない、と多くの人が感じています。健康的にやせられる方法、病気や老化を防ぐ方法など情報があふれているはずなのに、なぜなのでしょうか?その理由のひとつは、「時間」という視点が欠けているからだ、と私は思っています。たとえばダイエットのため、「何を」「どう」食べるか(食べないか)という情報はたくさんあっても、「いつ」食べたらいいのかということはあまり意識されていません。一日のなかで「いつ食べると太りにくく」「いつ運動するとやせやすいか」という時間の視点があれば、もっと方法も効果も違ってくるのです。

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夢はコントロールできるの? 1万人の夢を分析した専門家が教える夢と睡眠の真実~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。私はほとんど夢を見ないので、友だちから聞いた話です。友だちは事あるごとに誰かに追いかけられる夢を見て、うなされて起きることが多かったそう。あるとき夢のなかで、このままでは悔しいから追跡者の顔を見てやろうと思い立ち、意を決して振り返るとなんと追いかけていたのは自分だったとか!

 

不思議なことに、そのあとから追いかけられる夢は減り、逆に誰かを追いかける夢が増えたそうです。でも結局、追いかける相手を見失ってしまい、うなされて起きるのだとか……。自慢話と夢の話は盛り上がらないといいますが、他人の夢の話もなかなか面白いものです。

「夢の専門家」が分析する夢と睡眠

 

さて、今回紹介する新書は1万人の夢を分析した研究者が教える今すぐ眠りたくなる夢の話』(松田 英子・著/ワニブックスPLUS新書)。著者の松田 英子さんは、東洋大学社会学部社会心理学科教授。専門は臨床心理学、パーソナリティ心理学、健康心理学。

 

小学生から90代まで1万人以上の夢を収集・分析しており、「夢の専門家」としてメディアにも出演しています。『夢を読み解く心理学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『初めての明晰夢 夢をデザインする心理学』(朝日出版社)など著書多数。心理学的アプローチで30年以上夢の研究を続けています。

寝る前のイメージが夢に影響する!?

そんな専門家が夢の謎を多角的に紹介・分析していく本書。第1章「『夢』とは何か?」では、世界の最新研究を取り上げ、夢が科学的にどこまで解明されているかに迫ります。そもそも夢とは目覚めているときに入力された情報を記憶して整理する、記憶情報の処理過程とのこと。覚醒中と睡眠中の思考には連続性があり、夢だけが独立しているわけではないそうです。そのため、年代や成長によって夢にも個性が出るから面白い、と松田さん。

 

誰でも毎晩3つから5つほどの夢をみているそうですが、夢が記憶に残りにくい人と残りやすい人がいます。残りやすい人は「高想起者」といい、平均的に心配性で不安傾向の高い人。一方、記憶に残りにくい人は、情緒が安定していて、のんびり、穏やか、ストレスにも柔軟に対処できる傾向があるのだとか。私は子どものころからほとんど夢を覚えていないので、ストレスがないのでしょうかね……(笑)。

 

第2章「『夢』からわかること」、第3章「『夢』はこんなにおもしろい!」に続き、第4章は「『夢』はコントロールできるのか」。

 

誰もが一度は“夢見た”、夢をコントロールする具体的な方法を脳科学的に探っていきます。好きな夢をみるためには、入眠前にその夢をイメージすることを習慣にするといい、と松田さん。ほかにも、この章には実践してみたくなる、いい夢をみる工夫が紹介されています。まあ、私の場合は、起きたときにまず夢を覚えているという努力が必要ですが(笑)。

 

後半第4章以降では、不眠を改善する方法や夢によって心の調子をモニタリングする「夢日記」のつけ方、睡眠とアルコールの関係性など、睡眠の質を高める実用的な情報も多数。オカルト的な夢占いや夢判断ではなく、研究結果や科学的根拠に基づいて夢と睡眠の関係性を示しているのが本書のいいところ。

 

よくよく考えれば、夢だって人間に起こる現象のひとつ。今後さらに解明が進めば、夢が心と体のバロメーターとして医学的に活用できるようになるかもしれません。

 

1万人以上の夢を収集・分析している研究者の著作だけに、世界の研究データや実例も豊富で、読んでいて納得感があります。金縛りのメカニズム、年代別の悪夢の特徴、予知夢の真偽など、私たちが普段気になっているトピックも多く、硬軟織り交ぜながら最後まで飽きさせない作り。不思議な夢をみた……。そんなときは本書を開いてみてはいかがでしょうか。

 

【書籍紹介】

1万人の夢を分析した研究者が教える今すぐ眠りたくなる夢の話

著:松田 英子
発行:ワニブックス

誰でも毎晩3~5つは夢をみている、みる夢で自分の本心(思考・感情)がわかる、「飛ぶ夢」「追いかけられる夢」をみる理由、年代別によくみる夢とは?金縛りでみる夢、世界各国のちがい、8時間睡眠が一番健康によい→ウソ、もうすぐ夢がスキャンできるようになる!? 夢の内容をコントロールするには? いい夢をみる方法は就寝前に…ほか、おもしろ&役立ち情報満載ー。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

踏み出せば、その一足が道となる−−惑う人生の指針となる『道なき未知』

道なき未知』(森博嗣・著/ベストセラーズ・刊)を手に取ったのは、ブックデザインが素敵だったからだ。五色の絵の具がパレットに均等に広げられているような表紙にまず惹きつけられた。さらに、五つの色が中心で混じり合って曖昧模糊となっており、何かの入り口のように見え、誘われるように本を開くと、「道」と「未知」という二つの言葉に胸をつかまれた。

 

未知の「道」を見ると、前進したくなる

理由はよくわからないのだが、私は「道」を前にすると不安定になる。知らない道があると、まずは「行きたい、この道を進みたい」と願うが、同時に思う。「やめておこう、今度、誰かと一緒に来たときにしよう。一人じゃこわいし」と。それなのに、気づいたときには既に歩き出しており、止まることなく、ぐんぐんずんずん進んでしまう。ただし、横道には入らない。本当は入りたいのだが、道に迷うと困るので、右折も左折もせずに直進し、適当なところで突如、ユーターンして帰ってくる。そのくり返しだ。

 

知らない道を歩き終え、元いた場所まで戻ってくると、気分が高揚し、叫び出したくなる。さすがに行動には移さないが、「どんなところだろう」と思って歩き出した道の上に何があるのかをもう知っていることが嬉しくてたまらない。それでいながら、悲しく、寂しい気持ちも押し寄せてくる。知らないままで置いておくべきだったのではないか。いや、やはり謎を解き明かしたかったのだから、これでいいのだろうかと、一人煩悶する。そして、そんな自分をわけがわからないヤツだと気味悪く思う。

 

60半ばを越えた今も、私はどこに続くのかわからない道を前に「行ってみよう」と、反射的に思う。実行に移すときもあるし、やめておくときもある。何かを見たいわけではない。どこかに到達したいという気持ちもない。ただ、先にあるはずの何かを知りたいだけなのだ。しかし、こんな性癖は周囲にとっては迷惑でしかない。だから、誰にも悟られないように気をつけてきた。私の友人は心優しい人が多く「ここ、行ってみたい」と言えば、きっと一緒に行ってくれるだろう。しかし、それは迷惑だとよくわかっている。どこに行くのかも知らず、どこでやめるのかわからない前進なんて、付き合わされるほうはたまったものではない。

 

10年ほど前、キリシタンの取材に九州に行ったときも、どうしても進んでみたい道に遭遇した。一人だったこともあり、遠慮することなく、前進につぐ前進を試みた。携帯の電波を示すマークが途中で消え、蛇がでそうな山道を一人でただひたすらに前進するのは危ないとわかっていた。わかっていながら、やめることができなかった。道中、二、三度、「私はおかしいのだろうか」と、自分に問い、そして、多分、そうだという結論に達しながらも、道がなくなるところまで突き進み、無事に帰ってきた。

 

私はそういう自分が嫌いだ。どこかおかしいとわかっている。これまで自分を矯正しようと努力してきたつもりだ。普通のお母さんになりたいと願っていたし、良い奥さんになろうともした。これでも頑張っていたのだ。けれども、うまくいかず、時々ひどく落ち込む。そんな私にとって、この『道なき未知』は、救いの書となった。どこかおかしい自分ではあるが、「周囲に迷惑をかけずに生きていけるよ、もうこのままいくしかないよ」と、慰めてもらったような気がしたからだ。

 

森博嗣という作家

『道なき未知』の著者は、森博嗣。大学教授として建築を講じていたそうだ。ところが、40才のとき、突如、小説を書こうと思い立ったという。家族には不評だったが、出版社に送るととんとん拍子にデビューが決まり、『すべてがFになる』で第一回メフィスト賞を受賞した。その後も、順調に数々の作品を発表し、現在まで300冊以上の著書が出版されている売れっ子作家だ。しかし、その生活は謎に包まれており、どこに住んでいるのかさえ定かではない。わかっているのは、カーナビのディスプレイから消えてしまうような山奥にいて、庭に手作りの鉄道模型を走らせていることくらいだ。ほとんど人に会わず、そもそも日本国内に居住しているのかさえよくわからない。

 

隠遁生活を送る仙人のようだが、結婚もしており、お子さんもいるという。作家活動を経て暮らせるだけのお金も得たので、今は好きなことだけして生活しているという。すごい。こういう生活に憧れる人は多いだろう。

 

ときどき「恵まれていますね」と言われるけれど、誰かから恵んでもらったのではない。神様はいない。自分で自分に恵むしかないのである。宝くじに当たるよりは簡単だ

( 『道なき未知』より抜粋)

 

そうなのだ。「あなたは恵まれていますね」と、人は簡単に言う。それも非難をこめ、嫉妬深い視線を投げかけてくる。しかし、当人からしたら、そんなこと言われても答えようがない。その状態は自分で自分に恵んだものであって、他人にとやかく言われることではないはずだ。

 

私もたまに「恵まれてるよね」と言われる。確かに、私は恵まれている。食うには困らず、家族も元気だ。しかし、そう言われても返答のしようがないこともある。ましてや、そこに敵意を感じると、悲しくてたまらない。ところが、『道なき未知』を読んでいると、これが私に与えられた人生なのだから、恵まれていようが人には言えない不幸があろうが、この道をいくしかない、左折も右折もせずにぐんぐん進んでいこうと思えるのだ。

 

もちろん、著者は読者を励まそうと思って『道なき未知』を書いたわけではないだろう。書きたいことを書きたいように、しかし、それでいながら、読者の存在を強く意識しながら書いている。単なる独白に終わっていないところが、胸に響いてくる大きな理由だ。

 

最後にひとつ、私にとって、決定的な言葉となった一文を紹介したい。

 

道の先にあるものは未知だ。なにかがありそうな気がする。この予感が、人を心を温める。温かいことが、すなわち生きている証拠だ

(『道なき未知』より抜粋)

 

この言葉にぐっときた。少し出来損ないでも、このまま生きていこう、そう思わせる本、それが私にとっての『道なき未知』だ。もし、あなたが自分を見失いそうだと不安なら、この本を読んで欲しい。自分のキャンバスに画を描くのは自分しかないと気づくだろう。

 

【書籍紹介】

 

道なき未知

道の先にあるものは未知だ。なにかがありそうな気がする。この予感が、人を心を温める。温かいことが、すなわち生きている証拠だ。したがって、行き着くことよりも、今歩いている状態にこそ価値がある。知識を得たことに価値があるのではなく、知ろうとする運動が、その人の価値を作っている。たとえば、人生という道だって、行き着く先は「死」なのだ。死ぬことがこの道を歩く目的、価値ではないことくらい、きっと誰でもわかっているだろう。

著者:森博嗣
発行:ベストセラーズ

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読めないときは読まなくてもいい−−自分の心に寄り添う読書の在り方 『本を読めなくなった人のための読書論』

ネットで好きな本を好きな時に買えるようになりましたが、私は本屋さんが好きでよく足を運びます。特に大型書店が好きで、何気なく入ったコーナーに「へ〜こんな本があるんだ」と新しい出会いを楽しんでいます。

 

そんなある日、新宿の書店でたまたま出会ったのが『本を読めなくなった人のための読書論』(若松英輔・著/亜紀書房・刊)。綺麗な装丁と、はらりと開いたページの言葉に惹かれて、即レジへ(笑)。

 

子どものころから読書は好きでしたが、たまに「今日は文字を読みたくない……」と思ってしまう日もあり、その感情の理由がわからずにいました。今回は「本を読みたいのに、読めなくなる」そんなタイミングがある人におすすめしたい一冊をご紹介します。

食べ物は身体の糧に、言葉は心の糧になる?

本を読むこと=知識を増やすことと考えている人も多いと思います。多読や速読なんて言葉もあり、世の中にはさまざまな読書術も広がっています。しかし、本当にそれが本来の意味の読書、読むという行為なのでしょうか?

 

著者の若松さんは「本は、全部読まなくてもいい」と繰り返して伝えます。短編小説の1話だけでも、気になるページだけでも、一度に全部を読み切る必要はなく、今の自分に読める部分だけ読めばいいと言うのです。

 

食べ物が私たちの身体の糧であるように、言葉は私たちの心の糧です。

ほんのわずかな薬が崩していた体調を整えることがあるように、小さな言葉が、私たちの心に火を灯すこともあります。

しかし、食べ物と言葉がいちばん異なる点は、食べ物には「賞味期限」があるのに対し、言葉にはまったくといってよいほどないことです。

(『本を読めなくなった人のための読書論』より引用)

 

私がすぐさまレジへ行ったのも、この一文を読んだからでした。言葉には「賞味期限」がない。何年も読まれ続けているものも、新刊もいつ読んだっていいんですよね。

 

読書術に正解はありませんが、もし多読や速読が正しいと考えているのであれば、それだけが正解じゃないよ、と心に刻んでおけば、自分の読書との向き合い方が変わってくるかもしれません。「私に読書は無理」と思っている人も、少しずつつまみぐいするのも読書と思えれば、きっと読むことが楽しくなるのではないでしょうか?

 

図書館にいくのもおすすめ

「本を読みたくても、読めない」人の中には、どんな本を読んだらいいかわからなくなってしまった……という人もいるかもしれません。個人的には『本を読めなくなった人のための読書論』を読むのが一番のおすすめですが(笑)、本の中に紹介されていたことで「なるほど!」と思ったことがあったので紹介します。

 

読めない人の多くは、自分に合う本が何であるかが分からなくなっている状態です。こうしたとき、検索用の端末は、ほとんど役に立ちません。このとき私たちが頼りにしたいのが図書館司書です。

司書の皆さんは、本の専門家であるだけでなく、読書の専門家でもあります。そして、相談されるのを待っています。本を読めなくなったことを素直に伝え、自分の興味や関心、気分などを話しても良いかもしれません。

(『本を読めなくなった人のための読書論』より引用)

 

どこかで「本は自分で見つけるもの」「偶然の出会いを楽しむもの」と思っていたところもあるのですが、こうして司書さんに相談してみるのも本との出会いを結んでくれますよね。日本図書館協会が発表する2021年度「図書館の総数」は3316館とのこと。無料で本を探せる場所でもあるので、ちょっと時間がある時、本を探してみたり、司書さんに相談してみたり、お出かけしてみるのもおすすめです。

 

むやみに「本を読もう!」と気合を入れない

また『本を読めなくなった人のための読書論』にはこんなことも書かれてありました。

 

むやみに本を探さない。静かに出会いを「待つ」。

(『本を読めなくなった人のための読書論』より引用)

 

今はなんでもすぐに情報が手に入る時代です。SNSをひらけば「あれがいいよ!」「これがいいよ!」「読まなきゃ損!」など、波のように次々と情報が押し寄せてきます。全てを飲み込んでいては、結局自分に「何」が必要だったのかわからなくなってしまうでしょう。たくさん読む中で自分を見つける人もいれば、一冊の本から自分の心の糧を見つける人もいるし、誰かの紹介された言葉にピンとくる人もいるかもしれません。

 

焦らず、待つうちに、自分から読みたくなる本が出てくるかもしれませんよね。また無意識に「読んでみたい本」が見つかるかもしれません。本は絶対読まなければいけないものでもありません。ただ「読みたいのに読めない」と悩んでいるのであれば『本を読めなくなった人のための読書論』をぜひ読んでみてください。この記事が誰かのアンテナにヒットして、本を読む楽しさに触れてもらえればうれしいです。……って、静かに出会いを待つのがいいと言いつつ、おすすめしちゃいましたね(笑)。

 

【書籍紹介】

本を読めなくなった人のための読書論

著者:若松英輔
発行:亜紀書房

本が読めなくなったのは、内なる自分からのサイン。だから、読めないときは、無理をして読まなくていい。読めない本にも意味があるから、積読でもいい。知識を増やすためではなく、人生を深いところで導き、励ます言葉と出会うためにする読書。その方法を、あなたと一緒に考える。

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認知症になっても失われない脳の可能性とは?『脳科学者の母が、認知症になる』

ハリウッド・スターのブルース・ウィリスが認知症であることを彼の家族が公表した。このニュースにショックを受けたファンは多いだろう。が、年をとれば誰でも認知症になってしまうリスクはある。家族が、あるいは自分が認知症を発症したらどうなってしまうのか? 今日はその疑問に迫る一冊を紹介しよう。

 

脳科学者の母が、認知症になる』(恩蔵絢子・著/河出書房・刊)は、脳科学者である恩蔵さんの母親がアルツハイマー型認知症と診断され、その後2年半にわたってその様子を記録し、考察したものだ。認知症になっても最後まで失われることのない脳の可能性に迫った本書は、”認知症の見方を一変させる”と各メディアで話題になった。

 

65歳という若さで認知症を発症

恩蔵さんのお母様は65歳というまだまだ若い年齢でアルツハイマー型認知症を発症してしまった。認知症を治す薬は今のところない。しかし、恩蔵さんは治療はできなくても、やれることはたくさんあると気づく。彼女は、母親の様子を観察し、現れる行動とその原因を脳科学の見地から考えてみた。症例としてではなく、母親という個人に向き合うことによって、認知症という病の普遍に触れようと試みたのだ。

 

「記憶を失うと、その人は”その人”でなくなるのか?」という一文がこの本のサブタイトルにあるが、結論からいうと、その答えはNOのようだ。

 

認知症になっても、母の母らしさは損なわれることはなかった。認知症はその人らしさを失う病ではなかったのだ。

(『脳科学者の母が、認知症になる』から引用)

 

正常な脳でも記憶は編集されていく

人間の記憶とは実に曖昧なものらしい。認知症患者ではなく、正常な人であっても記憶は常に上書きされるのだそうだ。誰にでも「絶対に忘れない」と自信のある記憶があるだろう。が、鮮明に蘇る記憶でさえも、実は新しい経験と共に再び思い出すと、変化を受けるのだという。出来事の直後に語った内容と、一年後に語った内容を比べると食い違いが出ることがある。にもかかわらず、その記憶に対する自信や、記憶の鮮やかさは変わらないのだ。

 

内容はすっかり変わってしまっているのに、「これだけははっきり覚えている」と感じているし、事実でない状況を、ありありと思い出すことができるのである。なぜこのようなことが起こるのか? 全部覚えている方が良い、記憶は正確である方が良い、と思う人もいるかもしれない。しかし、脳のサイズが有限だからこそ、膨大な量の情報の中から少しでも有用なことを抽出しようと、脳は記憶を編集し続けるのだ。記憶内容が変わることは、脳が私たちがうまく暮らすために工夫した結果なのである。

(『脳科学者の母が、認知症になる』から引用)

 

つまり、私たちがずっと忘れていないと信じている古い記憶などは、鮮やかに蘇っているようでいて、実はかなり変化してしまっているというわけだ。

 

アルツハイマー型認知症とは?

さて、話を本題である認知症に戻そう。一口に認知症といってもいろいろな症状がある。認識に異常が起こるのは同じだが、最初に冒される脳の部位により症状も異なるのだ。最も多いのがアルツハイマー型認知症で、初期に記憶を司る”海馬”の萎縮が起こり、新しいことが覚えにくくなるのが特徴だ。

 

大脳皮質の後頭葉という視覚を司る部位に問題が起こるのがレビー小体型認知症で、症状としては幻覚が出る。脳血管性認知症は血管が詰まったり、破れたりすることにより酸素が送れなくなり脳の中の神経細胞が死んでしまうことから引き起こされ、その症状は部位によって変わってくるのだそうだ。

 

いずれの認知症も神経細胞の死滅が引き起こすもので、一度死んでしまった神経細胞は元には戻せないため、今のところは治療不可能な病気と言われている。患者の数が最も多いアルツハイマー型認知症は加齢により誰でもなる可能性があり、85歳以上ではなんと2人に1人がかかるリスクがあるという。アルツハイマー型の困った症状としては”攻撃性”と”徘徊”がある。これについて恩蔵さんは、こう解説している。

 

感情の抑制に関係している「前頭葉」がひどく損傷してしまえば、衝動を抑えられなくなり、緩和の難しい攻撃性が出る場合もあるのは事実である。しかし、実は、このような前頭葉の損傷によるよりは、海馬の損傷により「今ここ」のことを覚えられないせいで、何をやるにも助けを求めなくてはならず、自立した生活ができなくなり、患者の自尊心が保てなくなることから現れる攻撃性の方がずっと多いのだ。(中略)また「徘徊」も、様々な原因があるが、攻撃性と同じように、自分の役割、自分の居場所を感じられなくなることが大きな原因であると言われている。

(『脳科学者の母が、認知症になる』から引用)

 

周囲の人間も患者本人と同じように戸惑うので、それが悪循環となってしまうのだという。

 

感情面のケアができるかどうかが鍵

恩蔵さんの母親も、得意だった料理が作れなくなったり、また昔の思い出に支配されたりするなど症状は進んでいったという。もともとは家族のためにと動き回っていたのが、認知症になり、自分が何をしたいのか思い出せなくなったり、計画を立てたりすることも出来なくなってしまったのだ。最初は恩蔵さんも母が母でなくなってしまったと落ち込んだそうだが、今は違う気持ちになっていると記している。

 

「誰かのために動きたい」という感情は、今も変わらず残っていることに注目しなくてはならない。アルツハイマー病の人たちには感情が残っている。物事が正しく彼ら・彼女らに伝わったときには、彼ら・彼女らは以前と同じような感情的反応をする。そのようなとき、確かに私は「母はここに居る」と感じる。(中略)できなくなっていくことと同時に、生物として大事な「感情」というシステムを使って、その人がどう生きるか、私はそれを見守っていこうと思う。結局母は生涯、母なのだ。

(『脳科学者の母が、認知症になる』から引用)

 

認知機能が作る「その人らしさ」とは別に、感情が作る「その人らしさ」があるということを私たちは覚えておくべきなのだ。

 

本書には、家族を戸惑わせる認知症患者のさまざまな症状とその原因、対処法がくわしく解説されている。そして、認知症になったとしても最後まで失われることのない脳の可能性があることを私たちに教えてくれる。現在、認知症患者を抱えているご家族、あるいは将来、認知症になったらどうしようと不安に思っている人も、ぜひ読んでおきたい一冊だ。

 

【書籍紹介】

脳科学者の母が、認知症になる

著者:恩蔵絢子
発行:河出書房新社

六五歳の母が認知症になったー記憶を失っていく母親の日常を二年半にわたり記録し、脳科学から考察。得意料理が作れない、昔の思い出に支配されるなどの変化を、脳の仕組みから解明してみると!? アルツハイマー病になっても最後まで失われることのない脳の可能性に迫る。メディアでも反響を呼んだ「認知症の見方を一変させる」画期的な書。

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個人情報は破って生ゴミに、必要なチラシはスマホで撮影!『人生が変わる紙片付け』

部屋を片付ける際に困るのが書類の数々。しまう場所に迷うものが多々あります。こまめにさばかないと、すぐに部屋の中に行き場のない書類が溢れかえってしまいます。この悩ましき紙類をどうすべきかというと、そのコツは、電子化にありました。

 

日々生まれる書類ゴミ

私たちは書類に囲まれて暮らしています。少し気を抜くとすぐにチラシやカタログなどの紙類が増えてしまうのです。不要なものは捨ててしまえばいいのですが、出前のメニュー表やいつか行きたいと思っているお店や観光地のチラシはなかなか捨てられません。

 

人間は欲深い生き物なので、行きたいお店や観光地がどんどん増え続けます。なので、チラシを入れておく袋はすぐにパンパンになり、はみ出してきます。そこまでになって、初めて書類を整理し、どうしても行きたいと感じるところ以外は処分するようにしていますが、それもまた手間でストレスを感じてしまうのです。

 

個人情報書類の迷い

また、書類を捨てる際も分別に迷うことがあります。普通の紙類であれば、自治体の資源ゴミの日にまとめて出せばいいのですが、たとえば子どものテストの点数など、個人情報が書かれているけれど捨てたい書類も少なくありません。

 

我が家では家庭用シュレッダーを購入し、見られたくない書類は細かくカットしていました。シュレッダーした書類も袋に入れて資源ゴミの日に出すことができるので、環境にも優しい処分法だと思ってのこと。けれど大量に書類が出たときは作業がとても面倒なのが難点です。

 

究極の個人情報処理!?

人生が変わる紙片付け』(石阪京子・著/ダイヤモンド社・刊)には、シュレッダーせずに個人情報書類を処理する究極の方法が書かれていました。それは「びりびりに破いて生ゴミに混ぜる」というもの!

 

書類の処分を厳格に考えすぎて、破るという原始的な方法があることを忘れていたので、目からウロコでした。ただし生ゴミに混ぜてしまうとリサイクルができません。そのため私は名前など、本当に見られたくない部分だけ破って生ゴミに混ぜ、あとは資源ゴミにするという方法を取るようになりました。

 

電子化で紙ゴミ減

この本は、誰でもできるような簡単な書類の断捨離法を実例写真も交えてたくさん紹介してくれているので、とても読み応えがあります。そして、どんどん電子化していくことこそ紙のゴミを減らすコツだと思い知らされました。

 

たとえば、私がなかなか捨てられないお店やイベントのチラシは、スマホで画像を撮り、メモアプリに入れて電子化してしまえば、紙のほうを捨てることができます。紹介されていたGoogle Keepというメモアプリは、メモにタイトルをつけることができるので検索もしやすそうです。

 

大事な書類や写真の場合は、消えてしまうという万一の事態に備えて複数のメモアプリに保存しておけばなお安心なのだとか。こうしてさまざまな書類を電子化してしまえば部屋のスペースが一気に空きそうです。

 

電子化でペーパーレス社会に

読了後、改めて部屋を見回すと、すでに多くのものが電子で済むようになっていることに気付かされました。電化製品の取扱説明書は型番をウェブ検索すれば読むことができますし、料理のレシピもレシピサイトにかなりの量が入っています。

 

以前は部屋にあった地図帳も地図アプリを使うようになってからは使わなくなりましたし、銀行通帳も電子化されつつありますし、楽譜もダウンロードしてタブレットで見ながら演奏しています。今後書類の処分に迷った時には、電子で代用できるものかどうかをチェックすることが大切かもしれません。電子で代用できるものを、どんどん廃棄していくことで、スッキリしたお部屋が出来上がりそうです。

 

【書籍紹介】

人生が変わる紙片付け

著者:石阪京子
発行:ダイヤモンド社

きれい好きも大苦戦!勝手に押し寄せて次から次へと増殖する最強の敵「紙」。モノのように好き嫌いや使用頻度で、要・不要を判断できない。とりあえず取っておいても肝心の時に出てこない!しかも、なくすと「人生の大惨事」につながることも!誰も教えてくれなかった、家にあふれる「紙」の片づけ方が分かる本!

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2000年、コーヒー価格はなぜ暴落したのか? 持続可能なコーヒー生産のためにあなたができること~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。もはやその味が好きなのか、単に習慣になってしまったのか定かではないですが、私は何かにつけてコーヒーを飲むそこそこのコーヒー人間です。

 

コーヒーを美味しくするものは何か。ミルク、ウイスキー、ビスコッティなどが思い浮かびますが、一番は時間ではないでしょうか。何の予定もない食後、時空間に溶けるような心地でふんわりと飲むコーヒーは格別。また、時間をかけて丁寧に淹れたコーヒーも格別です。キザな言い方ですが、コーヒーの最高の相棒はゆったりとした時間だと最近思います。

 

サステイナブルな未来とコーヒー

さて、今回の新書はコーヒーで読み解くSDGs』(Jose.川島 良彰、池本 幸生、山下 加夏・著/ポプラ新書)。著者のひとり、Jose.川島 良彰さんはコーヒーハンター。エルサルバドルの国立コーヒー研究所に留学後、世界各地でコーヒー農園開発に携わってきました。現在は株式会社「ミカフェート」代表として、サステイナブルコーヒーで世界を変えることを目指しています。

 

池本 幸生さんは経済学博士で東京大学名誉教授。コーヒーに関しては「ベトナム中部高原におけるコーヒー生産と少数民族の暮らし」を研究しています。

 

山下 加夏さんは、国際NGOコンサベーション・インターナショナル勤務を経て、2015年より株式会社ミカフェートのサステイナブル・マネージメント・アドバイザーに。主にコーヒー生産農家がサステイナビリティを向上させるためのニーズを調査し、その支援に取り組んでいます。

2000年の「コーヒー危機」とは?

コーヒーハンター、大学教授、国際NGOの元職員の3人が、コーヒー産業において国連が掲げる「SDGs」(持続可能な開発目標)をいかに達成しうるかを考えていく本書。2021年に単行本として刊行され、今回大幅に加筆修正して新書化されました。

 

第1章「『コーヒー危機』と貧困」では、SDGsの1番目の目標「貧困をなくそう」について。実は2000年代の初めにコーヒー価格が暴落する「コーヒー危機」がありました。

 

もともとは投機資金の流入もあってか、1997年にコーヒー価格が高騰したのがきっかけ。ベトナムの農家は恩恵を受け、「コーヒー長者村」も出るほどだったとか。しかし、新規参入国がコーヒー樹の収穫期を迎えた3年後、供給過多も手伝って価格が大暴落。世界中の生産者が打撃を受けました……。

 

コーヒー生産者が貧困に陥るとコーヒー栽培へ投資する余裕がなくなり、品質も低下してしまう。私たち消費者ができることは、コーヒーの品質に気を配り、公正な価格を知って安さだけに流されないこと、と1章ではまとめられています。

 

1杯のコーヒーのために使われる水の量は?

コーヒー生産の現場について詳しく知れるのも本書のいいところ。第6章「コーヒー農園と安全な水」では、コーヒーの実の果肉とぬめりを取り除く作業「精選」について。精選は大量の水を使う「水洗式」が多くの国で採用されています。1杯のコーヒー約150ccを作るために、生産地ではその4倍近くの約580ccの水が使われ、汚水が発生することも……。SDGsの6番目「安全な水とトイレを世界中に」。水資源の問題もコーヒーと無関係ではないんですね。

 

豆の品種と適した産地、農園での作業工程、一杯のコーヒーができるまでの排出エネルギーなどなど、『SDGsから読み解くコーヒー』と言っても差し支えないほどの情報の濃さ。

 

社会派のトピックを扱っているため内容は堅めですが、文章がやわらかく読みやすいのも特長です。本書から溢れ出すコーヒー存在へのリスペクトは、コーヒー好きに強く響くはず。SDGsとコーヒー、どちらへの理解も深まる一粒で二度美味しい一冊です。

 

【書籍紹介】

コーヒーで読み解くSDGs

著:Jose.川島 良彰、池本 幸生、山下 加夏
発行:ポプラ社

私たちが、安全で美味しいコーヒーを飲み続けられるために。コーヒー農家が、安心して品質の高いコーヒーを生産するために。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

ミニマリストと違いは? 自分の価値観を問い直すSNSでも話題の『シンプリスト生活』

2015年ごろから話題になっているミニマリスト。自分にとって必要最小限のモノで暮らしていくという斬新さから、たくさんの書籍も発売され一気に広がっていきましたよね。きっと実践した人も多いはず。

 

でも、ミニマリストに憧れて効率を極めてモノを捨てたのはいいけれど……なんだかちょっぴり寂しい。そんな人にぜひ読んでもらいたいのが『シンプリスト生活』(Tommy・著/クロスメディア・パブリッシング・刊)です。著者のTommyさんは、会社員をしながらYouTubeでご自身のシンプリスト生活を紹介されています。春の新生活に向けてどんなお部屋にしたいか悩んでいる方、引っ越しのタイミングでシンプリスト生活に切り替えたい! と考えている方はぜひ読んでみてくださいね。

 

ミニマリストとシンプリストの違いとは?

「ミニマリスト」と「シンプリスト」は似ているようで実は考え方がちょっと違っているのだとか。ミニマリストの語源となっているミニマルは、数や量が少ないことを示しています。一方で、シンプリストの語源となっているシンプルは、簡素とか単純といったことを示します。両者には一体どんな違いがあるのでしょうか? まず、ミニマリストについてはこのように書かれてありました。

 

ミニマリストといった場合、所有物の量や数に焦点を当てて、いかに減らすかを第一命題としている人と解釈した方が、語源にも日本における実態とも合っているようです。

(『シンプリスト生活』より引用)

 

一方で「シンプリスト」は以下のように解説されています。

 

つまり、シンプリストとは、自分にとってのモノゴトの優先順位を整理し、自分に正直にいることを重視して行動する人と考えられます。

例えば、身の丈以上に背伸びしたり、人からの評価を気にするより、自分の価値観で判断することができるし、自分のことをよく分かっていて、自分らしくない選択肢はうまく手放します。

(『シンプリスト生活』より引用)

 

ミニマリストは、いかに少なくするか? いかに捨てるか? にフォーカスしていることに対し、シンプリストはモノの数ではなく自分の生活・考え方をいかに簡素にするか? に着目した考え方といえるでしょう。

 

自分の価値観を言語化してみる

「よし! 今日からシンプリスト生活をする」と、モノを捨て始める人もいるかもしれませんが、何もかも手放せばいいということでもありません。大切なのは、自分にとって何が大切で、何が大事なのか、そして何がいらないのか、自分の価値観を言語化することなのだとか。著者であるTommyさんの価値観をご紹介しましょう。

 

私の場合は「日々を心地よく、心豊かに過ごす」ことが一番大事です。そのために、以下のことを心がけています。

・大好きなインテリアを追求しながら、家を世界で最も心地よい空間に整える
・家事や仕事の「やらなければならない」は最小限に簡素化し、時間と心の余白を確保する
・大切な人との時間、大好きな自然や山での時間を味わう
・フットワーク軽く行動する、未来の可能性を広げるために身軽でいる
・何はともあれ健康

(『シンプリスト生活』より引用)

 

自分の中で「ポリシー」を作っておくと、頭の中もシンプルに考えられるようになりますよね。自分の場合はどうだろう? と考えてみましたが「楽しいことだけしたい」に行きつきました(笑)。自分のポリシーが決まれば、どうしたらポリシー通りに「楽しいことだけできる暮らし」ができるか自然と考えられるようになるんですよね。

 

人によって価値観は異なるので、これが正しいということもないし、〇〇すべきといったこともありません。自分のポリシーが決まってから、私は謎に本棚を整理したい衝動に駆られてしまい(笑)、楽しいことだけできる暮らしに必要のないと思った本と大切にしたい本を入れ替えることができました。

 

『シンプリスト生活』にはたくさんの事例が紹介されているので、これは自分に合いそう! と思うものからどんどんお試しすることもできますよ。

 

暮らしはシンプルにできても、仕事はできないでしょ?

『シンプリスト生活』は、5つの章で構成されており、シンプルに働くことについても書かれています。自分のお家や考え方がシンプルにできても、仕事ではそううまくいかないでしょ……と思ってしまいますが、著者のTommyさんは仕事でも自由にシンプルにできているそう。

 

仕事においても、暮らしにおいても、有限の時間やエネルギーを「大切なこと」にフォーカスし、それ以外はできるだけ排除することは、シンプルであるために必要な行動原理と言えます。

(『シンプリスト生活』より引用)

 

Tommyさんは「残業はしない」と決めて、定時にオフィスを出て帰宅後にYouTubeの動画制作や自分のやりたいことを副業にしています。これまでに色々な副業にチャレンジしたそうですが、ほとんど続かなかったそう。けれど、やってみないとどれが自分に合うかわからないので、やってみることが大切だと書かれてありました。

 

これもTommyさんの生活に「余白」があるからこそ実現できているチャレンジですよね。自分にとって何が大切なのか? そんな価値観を優先してシンプルに考えていくと、自分らしいシンプリスト生活ができるような気がしました。まだまだ日本では、〇〇さんがやっているから、みんな同じがいいからと「自分の価値観」を把握することが難しい文化があると思います。私も理想の「楽しいことだけできる暮らし」に向けて、シンプル思考で日々を取り組んでみたいと思います。

 

ミニマリストを目指してみたけどうまくいかなかった方、これから新生活を始める方など春から何かを始めてみたい人は、ぜひ読んでみてくださいね!

 

【書籍紹介】

シンプリスト生活

著者:Tommy
発行:クロスメディア・パブリッシング

好きなモノに囲まれて、小さく豊かに暮らす方法。時代はミニマリストからシンプリストへ。

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「あなたのため」に騙されるな! 身近に存在する厄介なモラハラの現状とは?『モラル・ハラスメントの心理構造』

パワハラやセクハラから始まってカスタマー・ハラスメント、アルコール・ハラスメント、そしてアカデミック・ハラスメント。日本は、いつからこれほど多くの階層のハラスメントにまみれてしまったのだろうか。それとも、そもそも存在していたものが最近になって激しく顕著化しているだけの話なのだろうか。

 

 

モラハラはオールマイティ

家庭やコミュニティ、そして会社や学校という、プライベートなシーンでもパブリックなシーンでも最も深刻なのがモラル・ハラスメントだと思う。他のハラスメントは、おかしな言い方かもしれないがTPOめいた場面の特徴みたいなものが当てはまる気がする。しかし、モラル(ここでは“自分基準の誤った道徳観”という意味)が基軸になると、これも変な言い方になってしまうのだが、オールマイティなハラスメントとなる。

 

そのモラル・ハラスメントをさまざまな角度と深度からつまびらかにしていく『モラル・ハラスメントの心理構造』(加藤諦三・著/大和書房・刊)という本を紹介したい。改めて思ったのだが、これはかなり根深く広く、きわめて目立ちにくい陰湿で厄介な問題なのだ。

 

「あなたのため」は相手を支配するための言葉

「はしがき」の冒頭には次のような文章が記されている。

 

最も望ましい親は子どもを愛している親である。次は子どもを愛していないが、そのことを知っている親である。最悪は子どもを愛していないのに、愛していると思っている親である。最悪よりもっと酷いのは、子どもを情緒的に虐待しながら、子どもを愛していると信じ込んでいる親である。

『モラル・ハラスメントの心理構造』より引用

 

加藤氏によれば、今の日本にはこういう親がたくさんいるという。もう少し読み進めてみよう。

 

そしてこれは親子関係ばかりでなく、夫婦関係でも同じことである。職場にもいる。公の場にもいる。それがこの本でいうモラル・ハラスメントである。彼らが持ち出してくる言葉は、つねに「あなたのため」というモラルである。

『モラル・ハラスメントの心理構造』より引用

 

騙されてはいけない。加藤氏によれば、「あなたのため」という言葉は相手の心を縛り、相手を支配するための言葉であり、“相手の心にかける手錠”にほかならない。

 

リアルで身近な問題

十分すぎるほど怖い響きで満ちた文章で綴られる「はしがき」の後は、以下のような章立てになっている。

 

序  章 モラル・ハラスメントの現実
第1章 モラル・ハラスメントによる悲劇
第2章 モラル・ハラスメントの特徴
第3章 モラル・ハラスメントの心理的罠
第4章 モラル・ハラスメントはなぜ危険なのか
第5章 モラル・ハラスメントとの戦い方

 

よく聞くようになったことは間違いないが、モラル・ハラスメントという言葉の定義を正確に理解している人はどのくらいいるだろうか。そのあたりから始まるこの本のページを繰るたびに、読む人が例外なく抱くだろう陰鬱な気持ちが深まっていく。リアルで身近な問題としてとらえるべき必要性が、これでもかと提示され続けるからだ。

 

「なぜ、わかりにくい人間関係なのか」「モラハラの被害者は欲求がなくなる」「モラハラで楽しむ能力を失う」「理解できない事件の裏に潜むもの」「見せかけの好意の正体」「他人の不幸を喜ぶ人」「モラハラはなぜ分かりにくいか」「感情的恐喝という手段」「ネチネチといじめて相手を放さない」……。ダークな響きの見出しが並ぶ。

 

フレネミー的資質とモラハラ

少し前に“フレネミー”という言葉が流行した。友達のふりをして近づいてきて、さまざまな実害を与える人を意味する。親身になって相談に乗る。常にいい人であり続ける。心を許せる相手であることを常に示し続ける。しかし圧倒的な善の仮面の裏側には、どんな形であれマウントを取り、そこをフックにしてすべてをコントロールしようという思いが渦巻いている。

 

モラル・ハラスメントをしかける側にいる人間のプロフィールは、フレネミー的資質と少なからずクロスオバーする。もう一度言うが、こうした人間は学校にも職場にも、コミュニティにも、そして家庭内にも存在する。フレネミー的資質を持った人間がモラル・ハラスメントという行いを通し、ありとあらゆるシーンで毒をまき散らし、増殖させるのだ。これが事実なら、自衛するしかない。

 

共に生きる上で接する相手を間違えないために

一番怖いのは、モラル・ハラスメント構造がいかなる形の人間関係にも当てはまるという事実だ。毒親とかヘリコプター・ペアレントとか、ママ友同士のマインドコントロールとか、さらにはあまたあるストーキングの事例まで、かなりの部分がこの本のコンセプトで説明できるだろう。ただ、そのエッセンスは筆者を含む大部分の人にとって意外なはずだ。

 

要するにモラル・ハラスメントの被害者と加害者の関係は、自己執着の強い人と強度の依存心を持った人の歪んだ関係である。すでに書いたように心に葛藤を持った人同士の共食いである。共に生きる上で接する相手を間違えている。

『モラル・ハラスメントの心理構造』より引用

 

知らず知らずのうちにモラル・ハラスメント的状況を自ら呼び込んでしまったり、共創してしまったりするケースもある。共に生きる上で接する相手を間違えたら、そこには悲劇しか生まれない。身近なシチュエーションで誰にでも起こり得る想像を超えた悲劇を避けるためにも、ぜひ目を通しておきたい一冊だ。

 

【書籍紹介】

 

モラル・ハラスメントの心理構造

著者:加藤諦三
発行:大和書房

「あなたのため」「仲良くしよう」「人間は皆同じ」は、すべて嘘!愛の言葉を持ち出し、相手を縛るモラル・ハラスメントは、人の心を弱くして、生きるエネルギーを奪うーその恐ろしい実態を解明する!

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手軽にダイエットを続けたいなら、食卓にこんにゃくを!

ダイエットにはさまざまな方法がある。そのなかでも手軽に行えるのが食事制限。炭水化物を減らす、甘いものを避ける、痩せやすいものを積極的に摂取するなどだ。

 

ただ、食事制限は長く続かないことが多い。同じものを頻繁に食べていると飽きてしまうし、栄養面で偏って結果的に不健康になってしまうこともある。難しいものだ。

こんにゃくはダイエット向きの食品

「お手軽に痩せられる食べ物ないかなー」なんて虫のいいことを考えていたとき見つけたのが『最近話題のこんにゃくダイエットとは?: 糖質もカロリーもほぼゼロだから痩せないわけがない』(ダイエットクラブ・著)だ。本書によれば、こんにゃくはダイエットに向いている食品とのこと。

 

こんにゃくは100gあたり5kcalのカロリーしかありません。6kg食べてやっとご飯一杯分のカロリーの300カロリーになります。加えて糖質はゼロ。

(『最近話題のこんにゃくダイエットとは?: 糖質もカロリーもほぼゼロだから痩せないわけがない』より引用)

 

まさにダイエット向け。しかもこんにゃくに含まれている食物繊維のグルコマンナンは、排泄を促して腸内のお掃除もしてくれるという。栄養こそそれほどないものの、ダイエットにはもってこいだ。

 

著者は、こんにゃくをメインにした食事にした結果、1週間で70kgの体重が5kg減、その後3週間かけて5kg減らし、1か月で10kg減のダイエットに成功したそうだ。

 

デメリットもある

一方、こんにゃくにもデメリットはある。それはこんにゃくの主成分グルコマンナンが消化に悪いということ。1日300g以上のこんにゃくを食べると、腸閉塞になる危険性があるということなので、食べ過ぎには注意したいところだ。

 

おすすめのダイエット方法

著者が勧めるこんにゃくダイエットは、

 

・こんにゃく麵を食べる
・おやつにこんにゃくゼリーを食べる
・丸こんにゃくを使って料理をする
・氷こんにゃく料理

 

の4つ。氷こんにゃくとは、一度こんにゃくを凍らしたもの。そうすることで食感が肉のようになるのだ。僕も食べたことがあるが、確かに肉のような食感だった。ただ、自分で作ったり、調理前に水で戻したりする手間があるので、少々面倒くさいのが難点だ。

 

おすすめレシピを作ってみた

本書を読んで、簡単にできるこんにゃく料理のレシピがあったので作ってみた。ピリ辛こんにゃく大根だ。

 

本書では丸こんにゃくを使うように書かれているが、今回は板こんにゃくをちぎったものを使用した。

 

煮込む(というか水分を飛ばす)のに少々時間はかかるものの、基本的には材料を切って調味料を入れて煮込むだけなので簡単。

 

そして、さっぱりしているのでいくらでも食べられる。今は副菜として常備しておき、食事のたびに食べている。これでダイエット効果が出てくれるといいのだが。

 

僕の好きなこんにゃく

少々話はそれるが、僕が大好きなこんにゃくがある。日本最大名瀑である、茨城県の袋田の滝近くにある「生芋こんにゃく」だ。

 

こちら、春先しか出回らないたいへん貴重なこんにゃく。食感がかなりザクザクでワイルド。食べ応えがあり、ついつい食べ過ぎてしまうくらいおいしい。

 

僕はこのこんにゃくを買うためだけに、自宅から4時間かけて行ったことがある。1個550円だが、日持ちがしないのであまり大量に買い込めないのが残念……。

 

シーズンになれば通販も行っているはずなので、気になる方は一度食べてみてほしい。こんにゃくの概念が変わるはずだ。

 

 

【書籍紹介】

最近話題のこんにゃくダイエットとは?
糖質もカロリーもほぼゼロだから痩せないわけがない

著者:ダイエットクラブ

実際にこんにゃくダイエットは効果があるのか、こんにゃくダイエットの方法やメリットデメリット、こんにゃく食品やこんにゃく料理をご紹介していきます。

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『ターミネーター2』の液体金属ロボットは造れるのか? SFの名作を技術者目線で分析すると……~注目の新書紹介~

21世紀も気づけばもう20年以上経ちました。子どものころに思い描いていた未来は、透明なチューブで家や建物がすべてつながり、空中に浮いたクルマでどこにでもスイスイ……そんな世界でした。

 

しかし、現実は大雪で靴下までビショビショになりながら、駅からトボトボ歩いて帰るわけで……。未来予想図というのは、当たらないから夢があるのかもしれません。

音声対話のプロが分析する名作SF

さて、今回の新書は、SF映画やSFアニメの描写にどれだけ現実が近づいたかを検証する『あのSFはどこまで実現できるのか テクノロジー名作劇場』(米持 幸寿・著/インターナショナル新書)。著者の米持 幸寿さんは、日本IBM、ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパンを経て、2020年2月にPandrbox(パンドラボックス)を創業。音声対話インターフェース・プロデューサーとして活躍しています。

 

もともと工作少年だったという米持さん。映画『2001年宇宙の旅』に登場するコンピュータ「HAL 9000」に大いに刺激を受け、その名の由来であるIBMに入社を果たしたのだとか。現在では起業したPandrboxで、「HAL 9000」のような音声対話型のシステムインターフェースに関する事業を立ち上げているそうです。

 

しゃべって自動運転する夢のスーパーカー

第1章はマンガ『バビル2世』。そして第2章では名作アメリカドラマ『ナイトライダー』が取り上げられています。『ナイトライダー』(1982~1986年放送)は、主人公のマイケル・ナイトが人間と会話する特別なスポーツカー「KNIGHT 2000」を乗りこなし、悪人と戦うという内容。「KNIGHT 2000」は搭載された人工知能「K.I.T.T.(キット)」によって、自動運転や武器の運用もしてくれる夢のようなマシンです。

 

これを現代の技術に当てはめると、役割的に人工知能「K.I.T.T.」は、搭乗者や外部の人間と対話する「音声対話技術」に当たると米持さん。

 

ただし、ドラマでは「声のトーンが危険なトーンに変わってきました」というシーンがあるそうですが、これは現代の音声認識では、人の声を検出してテキストデータに変換してから処理するため、声に含まれた感情を読み取るのは難しいとのこと。

 

もうひとつ、自動運転技術に関しても「K.I.T.T.」には及ばないそうです。「K.I.T.T.」はアンカーワイヤーを駆使して急旋回したり、ロケット砲の攻撃を避けたり……と周囲の状況を読み取って動いています。

 

しかし、現代の自動運転技術やロボット制御技術の多くは、あらかじめ状況を想定してあることが重要な開発要件だとか。コンピュータが想像を働かせて臨機応変に運転する時代は当分先のようです。専門家の目線による分析は明快で、子どもの頃の夢と比べることによって、現代の技術に何が足りないかよくわかります。

 

第8章は映画『ターミネーター』シリーズ。私が一番印象に残っているのは、『2』に出てきた液体金属製のターミネーター「T-1000」。檻の格子をすり抜けて主人公たちを追跡するシーンがインパクト大でした。この「T-1000」は実現可能なのか? すべてリキッドだとするとどこに処理装置が入るのか? 実は、あるものを使えば作れるかもしれない……と米持さん。実現のカギを握るのは!?

 

その他、『火の鳥 未来編・復活編』『ブレードランナー』『攻殻機動隊』と、40代以上だったらピンと来る作品が並びます。もともとウェブ連載だったため、本書も横書きでカジュアル。今の技術で何ができて、何が難しいのか、専門的な用語もソフトに解説されていて、科学好きでなくても興味を持ってついていける内容となっています。

 

SFの名作をテクノロジーという視点からもう一度見てみたくなる一冊。『攻殻機動隊』の「義体」が実現する日は来るのでしょうか?

 

【書籍紹介】

あのSFはどこまで実現できるのか テクノロジー名作劇場

著: 米持 幸寿
発行:集英社インターナショナル

昭和から平成の人気SF作品に描かれた心躍るテクノロジーの数々を、2023年の科学技術で検証。IT化、自動運転、AI、音声認識など、いまここにあるテクノロジーの現在地が名作とともにわかる一冊!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

並列的多読のススメ。新たな発想を生み出す読書術とは?『本は10冊同時に読め』

家の中ををきれいにしたいと思い立ち、奮闘努力を続けている。ゴミ袋を片手に家を歩き回り、不要品を探し出しては捨てるを繰り返していたら、少しはましになってきた。しかし、問題は本である。

 

本を捨てられない

私は本を捨てることができない。それでも、なんとかしなくてはと、捨てる本を入れる箱を用意してみた。そこにぽんぽんと本を放り込んでいけば、本棚はみるみるうちに整頓されていく。……はずなのだが、いざ捨てる段になると、本を取り出しては眺め、つい読みふけってしまい、別れの決心がつかない。これでは、箱を作る意味がない。

 

乱読なので、今まで様々なジャンルの本を買ってきた。書評の仕事をするようになってからは、とにかく手当たり次第読むようになった。加えて、書評欄に取り上げて欲しいという依頼と共に、新刊書が送られてくるので、もはや収集がつかない。

 

書評を生業としている方たちは、増え続ける本を一体どうやって整頓しているのだろう。私と同じように本に埋もれて生活しているのだろうか。

 

それを知りたくて、成毛眞の『本は10冊同時に読め』(三笠書房・刊)を読んだ。今さら言うまでもないが、彼は日本マイクロソフトの社長を経て、投資コンサルティングの会社を設立した実業家だ。読書量が多い方として知られており、私の胸には敏腕の実業家というよりも、「書評サイトHONZの代表」として刻印されている。

 

HONZは面白く、取り上げられるジャンルも幅広い。そのサイトの主催者なのだから、献本も大変な数だろう。当然、本の整頓には頭を悩ませてきたに違いない。私がどうしてもできない本の断捨離方法も会得しているのではないか。そう期待して『本は10冊同時に読め!ーーー本を読まない人はサルである』を読み始めた。

 

意外な展開

だが、しかし……。

 

私は「本は捨てない、借りない、貸さない」主義なので、小学生のころに買った本もすべてとってある。

(『本は10冊同時に読め!』より抜粋)

 

これはすごい。捨てるどころか、すべてとっておく人だったのか。自宅には手元に置いておきたい本と、資料として利用できる本を所蔵しているといが、その数、なんと約1万5000冊。別荘にはその倍の本があり、古本屋を開けるくらいだという。

 

『本は10冊同時に読め!』は2013年に出版された本だから、2023年現在も本は増え続ける一方だろう。新しく買った本を収蔵するためにすでに新しい別荘を購入しているかもしれない。本の断捨離方法を知りたくて、 『本は10冊同時に読め!』を読んだ私はかなり間抜けである。

 

自分独自の生き方を目指して

そう気づいた私は、新たな気持ちで読み始めた。この本は他の人とは違う読書をすることによって独自の生き方を目指すためには何をしたらよいのかを教えてくれる。

 

ところで、私は書評するために読んでいる本には、付箋をはさむ癖がある。あとで読み返すところを記しておいたほうが原稿が書きやすい。しかし、この本については付箋ががいくらあっても足りなかった。すべてのページに印象的な文言があるため、付箋だらけとなってしまう。

 

中でも、とくに心に響いたのは、もし、人とは違う生き方をしたいと願うなら、みんなと同じ本を読んでいてはいけないということだった。

 

驚きの提案

読書術について、驚きの提案がなされている。それは「本は10冊同時に読め」ということだ。それも、様々なジャンルのものを同時並行的に読みあさっていくべきだという。

 

私はといえば、今まで本は1冊ずつ読んできた。最初から最後まで通して読み、面白いと思った本を再読するを繰り返すのが好きだ。けれども、著者はリビングやトイレの中など、ありとあらゆる場所に本を置き、それぞれの場所でそれぞれの本を同時並行的に読んでいくほうがよいと述べる。実際、著者の家のリビングには50冊以上の本が置いてあり、寝室には2、3室、トイレにも3、4冊の本がある。

 

この読書法は私には無理だと、最初は思った。しかし、よく考えてみると自分も並列的に本を読んでいる。何しろ家中に本が散っていて、否が応でも並列的読書となってしまう。居間の本箱には旅行ガイドや中国関係の本が無秩序に並んでおり、寝室には小説が重なって置いてある。自分の部屋には、仕事に使う資料や本が置いてあり、トイレには漫画雑誌、台所にはレシピ本という風に、いつでもどこでも本に手が届く状態だ。

 

『本は10冊同時に読め!』には、著者独自の読書術が満載なので、是非、読んで確かめていただきたい。ただひたすらに本を読んできた人が持つ書物への愛と尊敬を垣間見ることができて面白い。子どものころから本に親しみ、大人になってからもなお、脇目も振らずにただ読み続け、もはや本なしでは生きていけなくなった「本の虫」の告白がそこにはある。

 

ところで、本を断捨離するヒントを会得したくて、『本は10冊同時に読め!』を読んだのだが、それは逆効果だったようだ。読後、私は著者が紹介している本が読みたくなり、次々と注文してしまったからだ。そして、今、家の中を見回しながら、届いた本をどこに置こうか思案中である。私には本を断捨離するのは無理だと思い知ったところである。

 

【書籍紹介】

本は10冊同時に読め!

本は最後まで読む必要はない、仕事とは直接関係のない本を読め、読書メモはとるなーこれまでの読書術の常識を覆す、画期的読書術!あらゆるジャンルの本からの情報を組み合わせることで、新しいアイデアが生まれる。「すき間時間」で本を読むことで、集中力が増す。どこを読み飛ばすのかを判断していくことで、決断力と情報収集力が身につく。本を10冊同時に読めば、10倍人生が面白くなる。

著者:成毛眞
発行:三笠書房

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「知らなかった」「自分は関係ない」じゃ済まされない……これが日本のリアル『年収443万円』

読み終わって呆然としてしまった本があります。『年収443万円』(小林美希・著/講談社・刊)という新書なのですが、頑張った分だけ幸せになれる、お金持ちになれる、望みが叶う、そんな日本はもうないのだと知ってしまったからです。

 

みなさんは、日本の平均年収が443万円と聞いてどんなイメージを抱くでしょうか? 普通に暮らせて、たまの贅沢もできる年収と思えるでしょうか? それとも、月々の支払いで手元に残るお金はゼロ、貯金もできない……と思うでしょうか? 今回は、日本に暮らしているなら読んでおきたい一冊『年収443万円』をご紹介します。

日本の“普通”は、普通じゃなくなった

郊外の一軒家&マイカーを持っていて、子どもは2人、旦那さんは都心に出社……と『クレヨンしんちゃん』の野原一家のようなファミリーが、「普通の家庭」だと考える人がいるかもしれません。しかし、もうそれは「普通」ではなくなっているようなのです。

 

『年収443万円』には、平均年収前後の世帯6家族、平均年収以下の世帯5家族に取材した様子が、ルポ形式で掲載されています。例えば、神奈川県に住む48歳の会社員、年収520万円で娘さんと3人暮らしをする家庭のリアルはこんな感じ。

 

同じ年収でも独身なのか、妻や子どもがいるかで当然、変わってくると思いますが、僕のように片働きで妻子がいると年収520万円ではつらいですね。

給与が入ったらまず20万円をおろして、自分の小遣い1万5000円を財布に入れます。残りが家賃などの生活費。娘の学資保険が月2万円くらい。10万円足りないくらいなので、貯金はできません。手取り40万円ないときついです。年収が700万円あればトントンかな。

(『年収443万円』より引用)

 

思い描く日本での普通の暮らしは、年収700万円でトントン。つまり、平均年収443万円では普通の家族の暮らしはできません。もちろん住むエリアや生活費によって同じ年収でも手元に残せるお金は変わりますが、これって努力とかの問題なの? と読んでいて感じました。

 

ちなみに、この会社員は、「もし自分に病気が見つかったらいけないから、健康診断は受けていない」と話します。政府からは「人生100年時代」なんて言葉も出てきていますが、誰もが安心して暮らせる世の中って本当に作れるのだろうか? と考えてしまいました。

 

世帯年収1000万円でも、贅沢はできない

じゃあいくらあったら、満足できる暮らしができるの? 共働きで、世帯年収1000万円あれば流石に余裕でしょ! と思う人もいるかもしれません。しかし日本では、まだまだ苦しいのが現実です。

 

東京都で会社員として働く女性(44歳)は、年収260万円の事務職。旦那さんの年収が700万円ほどで、小学生の娘さんと保育児の息子さんとの4人暮らし。世帯収入は1000万円前後ありますが、それでも不安は尽きないとのこと。

 

入るお金がそのまま出ていく。夫婦で月に50万〜55万円の収入になりますが、出産を機に買った一戸建てのローンは35年も続き、月15万円が消えていきます。食費が月に10万円、雑費や子どもとの娯楽費が月7〜8万円。子どもの学費や塾代も用意しないといけないから、学資保険にも入っています。これだけで月々ほぼ赤字。ボーナスで補填します。

(『年収443万円』より引用)

 

平均年収以上でもこの暮らしが現実です。安心して子育てできる日本はどこへ行ってしまったのでしょうか?

 

私自身はDINKs(共働きの子どもを持たない夫婦)ですが、ここに至った経緯のひとつに「世帯年収を下げたくなかった」という気持ちが強くありました。子育てによって女性の年収が下がることは目に見えています。子どもが嫌いなわけではなく、今の日本で女性が子を産み、育て、自分の仕事も変わらず、年収もそのままで普通の家族を作ることは、あまりに現実とかけ離れた理想像だと感じてしまいました。

 

子どもを持たないという選択は、老後も心配だし、親にも悪いなぁ〜という気持ちもあります。けれど、それ以上に「自分たちの暮らし」が心配だったんです。今の日本で、共働きで、子育てして豊かに暮らすなんて夢で、贅沢なこと。知らなかった、こんなはずじゃなかったと思ってからでは遅いのです。

 

この状況に、絶望するしかない?

暗い話が続くと「日本は終わった」と絶望してしまいますが、この状況を多くの人が知ることが何より大切だと感じました。確かに読み終わってすぐは、呆然としてしまうのですが、時間が経てば経つほど「私にできることは何かな?」と考えたくなってくるのです。

 

『年収443万円』には、リアルな日本の現状だけでなく、著者である小林さんがさまざまなデータから日本の現状を切り抜き、どうしてこうなってしまったのか? 今後どんな未来になるのか? ということにも触れています。ちょっとメンタルがやられてしまうところもありますが、このリアルな日本を知って欲しい! 「私には関係ない」とは思わず、一人でも知れば日本は変わるかも知れない……。そんな微かな光に希望を願って、私も自分にできることを模索していきたいと思います。

 

【書籍紹介】

年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活

著者:小林美希
発行:講談社

平均年収443万円ーーこれでは“普通”に暮らすことができない国になってしまった。ジャーナリストが取材してわかった「厳しすぎる現実」。昼食は必ず500円以内、スタバのフラペチーノを我慢、月1万5000円のお小遣いでやりくり、スマホの機種変で月5000円節約、ウーバーイーツの副業収入で成城石井に行ける、ラーメンが贅沢、サイゼリヤは神、子どもの教育費がとにかく心配……「中間層」が完全崩壊した日本社会の「本当の危機」とは?

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ことわざの裏にある各国の言語・歴史に迫る『おばあちゃんは猫でテーブルを拭きながら言った』

猫でテーブルを拭くおばあちゃんのイラストと、そのタイトルに惹きつけられて手にした『おばあちゃんは猫でテーブルを拭きながら言った』(金井真紀・著/岩波書店・刊)。電車に乗っていた30分間で全部読めてしまったが、とてもおもしろく、本棚の目立つ場所に入れ、ときどき読み返そうと思っている。

 

本書は、月刊誌『世界』で著者の金井さんが3年間連載した「ことわざの惑星」をベースに、世界ことわざ紀行として一冊にまとめたものだ。

 

おみやげより、ことわざを

イラストレーター兼文筆家の金井さんは、あらゆる場所で出会った人々の言葉や身振りを拾い集めた作品を生み出していて、著書には『世界はフムフムで満ちている』、『世界のおすもうさん』、『戦争とバスタオル』などがある。

 

この本を書くにあたり、彼女は自身のことを「闇ことわざ商」のようだったと記している。海外に出かければ必ずことわざを探すのはもちろんのこと、友だちが海外旅行と聞けば、お土産はいならいから、おもしろいことわざを見つけてきて、と頼んでいたそうだ。さらに、海外ルーツの人、翻訳家、人類学者、言語学者に会ったときも、知っていることわざを聞き出していたという。そうして採集し、まとめたのが本書で、フィンランド語、マオリ語、バスク語、ズールー語、アラビア語、台湾語などなど、36言語のことわざが収録されている。

 

ことわざ採集の過程で、いろんなことを知りました。宗主国が植民地の言語を力ずくで排除したこと、独裁者に禁じられた言語を亡命先で守った話、すでに消滅した言語について、小さな言語が消えないように奮闘している人のこと……。ことわざの向こうに、言語や文字をめぐるさまざまなドラマが見え隠れして、そのたびに胸を熱くしました。

(『おばあちゃんは猫でテーブルを拭きながら言った』から引用)

 

金井さんはそのように語っている。では、本の中からいくつかを紹介してみよう。

 

おばあちゃんは猫でテーブルを拭きながら言った

タイトルにもなっているフィンランド語のことわざだ。正確には、「やり方はいくらでもある」と、おばあちゃんは猫でテーブルを拭きながら言った。意味は、「意外なところに道がある、解決策はひとつではない」ということ。

 

おばあちゃんの大胆さに笑っちゃうけど、背景にはフィンランドに息づく「sisu(シス)」の精神がある。シスは困難な状況でも粘り強く進む勇敢さを言い、「フィンランド魂」と訳されることも。

(『おばあちゃんは猫でテーブルを拭きながら言った』から引用)

 

困ったときも、こんなユーモアのあることわざで乗り切ろうというフィンランドの人々の芯の強さを感じる。

 

チャペラをかぶって、世界を歩こう

バスク語のことわざで、チャペルとはベレー帽のことでバスク地方が発祥とされている。意味は、「自分のルーツを大事に世界に出ていこう」ということ。金井さんにこのことわざを教えたバスクの人は、マイノリティーならなおさらそれが大事です、と言ったそうだ。

 

バスク人はどんどん世界に出かけていった。船を操る技術を見込まれて探検家コロンブスの船員になった者もいる。日本にキリスト教をもたらしたフランシスコ・ザビエルも、フィリピンの初代総督も、ボリビアのポトシ銀山の開発者もバスク人だ。南米では今でもバスクにルーツをもつ人の割合が高い。

(『おばあちゃんは猫でテーブルを拭きながら言った』から引用)

 

ちなみにバスク語はほかのどの言語とも似ていないため、ヨーロッパでは一番ミステリアスな言語、と言われているそうだ。

 

タコのように死ぬな、シュモクザメのように死ね

マオリ語のことわざ。マオリはニュージーランドの先住民族だ。人に捕まったタコは歯向かうことなく死を受け入れ、シュモクザメは命が尽きるまで抵抗するという意味で勇敢さを尊ぶマオリらしいことわざだ

 

マオリといえば、ラグビーのニュージーランド代表「オールブラックス」が戦いの前に士気を高める”ハカ”が有名だ。これはマオリの舞踏歌で、力強く声を揃えて、大地を踏むのだ。

 

約1000年前に海を渡ってきたポリネシア人が定住し、マオリとなる。マオリ語には文字がなく、歴史や文化は話しことばで継承された。ハカもそのひとつ。19世紀半ばに大英帝国の植民地になると、マオリの土地は奪われ、人口も激減した。しかしマオリは根気強くデモや政府への働きかけを続けて、1987年マオリ語は公用語となった。

(『おばあちゃんは猫でテーブルを拭きながら言った』から引用)

 

良いことをしたら水に流せ

これはアルメニア語のことわざで、意味は、善行の見返りを求めるな、だそうだ。日本で「水に流す」のは過去のいざこざだから、まるで違う。アルメニアでは良い行いをしても、忘れることが大事と説いている。

 

一方で、アルメニア人は歴史を守ることには命がけだ。「ムーシュのトナカン」という1202年に完成した重さが28キロもある巨大な本がある。何人ものアルメニアの執筆者が宗教、哲学、歴史について書き、絵が添えられた美しい本で市民の宝物となった。

 

侵略してきたテュルク軍に本が奪われたときは、みんなでお金を出し合って買い戻した。20世紀、オスマン帝国が大量虐殺をおこなった際には、本を半分に分けて一方を地中に埋めて隠し、他方を人から人へ手渡しで避難させた。人々が命がけで守った本は現在、マテナダラン古文書館で大切に保存されている。

(『おばあちゃんは猫でテーブルを拭きながら言った』から引用)

 

この他にも世界のさまざまな民族の文化、そして歴史が垣間見れることわざが詰まったのが本書。素敵なイラストとともに絵本ような体裁なっているので、親子でページを開くのも楽しいだろう。

 

【書籍紹介】

おばあちゃんは猫でテーブルを拭きながら言った

著者:金井真紀
発行:岩波書店

好奇心とスケッチブックを手に、ことわざを集める旅に出発! マレーシアでは旅することを風を食べると言い、フィンランドではやり方はいくらでもあると猫を布巾に。エチオピアではヒョウの尻尾をつかんでサバイバル。発想にびっくり、教訓に納得。36言語の心が喜ぶことわざ、ステキな文字を、イラストとエッセイで紹介。

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おばあちゃんは猫でテーブルを拭きながら言った

一人だからこそ楽しめる。一人だからこそ癒やされる「温泉」−−『お一人さま逃亡温泉』

日本人は温泉が好きである。泊まった宿に温泉があると知ると、夕食前から入りたがり、さらに朝風呂にも浸かって堪能する。なぜこれほど温泉に入りたがるのか、その理由は、温泉への一人旅から透けて見えてくるかもしれない。

 

一人で温泉を目指す理由

先日、女一人で伊豆を旅した。一人で旅をする時は、素泊まりを選ぶ。駅周辺でお弁当やお菓子やドリンク、それから翌朝のパンを買い込んで部屋にこもるのが常である。

 

一人旅の理由は、同居している子どもと離れて一人になりたかったから。温泉付きの宿を選んだのは、疲れを癒したかったからだ。静かに過ごして、日頃のわちゃわちゃした暮らしから一歩離れたかったのだと思う。

 

人は、なぜ一人旅をするのだろう。なぜ一人になりたい時があるのだろう。その答のひとつが『お一人さま逃亡温泉』(みらいパブリッシング・刊)に書かれていた。この本の著者である加藤亜由子さんも疲れた時などに温泉に駆け込んでいる。

 

好きなことのために

本書では、加藤さんが単身で全国各地の温泉を訪れ、心ゆくまでその湯を堪能している。時には混浴や開放的な露天にも挑戦するなど、いい湯を味わうために突き進む様子は、読んでいて爽快ですらある。

 

彼女が心底温泉が好きなのだということは、本の熱量から伝わってくる。彼女が一人旅をするのは、温泉が好きだからなのだということがよくわかる。人は、好きなことのためなら一人で旅ができるのだ。

 

旅先での出会いも

一人旅といっても会話はある。宿の人や買い物での質問は楽しみのひとつだ。大浴場では湯船の中で話しかけられることもある。

 

本書でも、加藤さんが温泉について果敢に質問し、その知識を深めていく。この湯は飲んでも大丈夫か、顔にはたっぷりつけたほうがいいかなど、それぞれの湯でのリアルな聞き込みはとても参考になるし、読んでいると浸かってみたくてソワソワしてくる。

 

理想は連泊

伊豆に一泊した筆者が次に目指すのは、連泊である。子どもも成人したので、少し長いこと離れても大丈夫だろう。各地でワーケーションを楽しむ知人によると、旅先で仕事をしたいのなら3泊以上が適切だそうだ。1、2泊では移動時間ばかりがかかって集中しづらいという。

 

本書にも連泊に適した温泉宿の紹介があった。湯治に使われる宿などは、自炊設備も備えられていて、マイペースで過ごすことができそうだ。なかにはこたつが備えられている部屋もあり、実に落ち着けそうで魅力的だ。

 

忘れられない感覚

ひとたび湯に浸かると、その心地よさから、いつまでもそこで過ごしたくなる。本書では、朝風呂でうっとりしていたら帰りのバスに乗りそびれたエピソードも紹介されていた。それほどに去り難いのも、宿に温泉があるからなのだろう。

 

温泉の素晴らしさは、そこを離れてもじんわりと体が温かく、余韻が味わえることだ。それは大抵、帰宅後もしばらくは続いている。全身を癒してもらえた感覚、その心地良さが忘れがたく肌恋しいから、人は何度でも温泉を求めてしまうのだろう。

 

タイトルに「お一人さま」とあるように、カウンター席など、一人旅への心遣いがうれしい宿もいくつも紹介されているのがありがたい。一人で温泉を目指す人には助かる情報やレアスポットも紹介されていて、読んでおいて損はない一冊である。

 

【書籍紹介】

 

お一人さま逃亡温泉

著者:加藤亜由子
発行:みらいパブリッシング

仕事で、家で。空気と顔色を読みまくる。そんな気疲れ人間の皆サマ、温泉に逃亡しませんか。全方位に気を遣いまくる気疲れMAXの著者が、よどみもしがらみも洗い流す、心身スッキリ浄化の旅へとご案内!自由に、気取らず、お一人さま。「名湯こそ、心身を浄化してくれる。」をモットーに、ユニークな視点の11カテゴリで、33の温泉をドドーンとご紹介。

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石井東吾が初めて語る「步みを止めない」ジークンドーとの半生−−『陰と陽』

人生のすべてを捧げて打ち込むことができる何か。そういうものをすぐ、具体的に思い浮かべることができる人は幸せだと思う。この原稿では、人生のかなり早い時点でそういうものを見つけ、以来全くブレることなく突き進み続けている人を紹介したい。

陰と陽 歩み続けるジークンドー

陰と陽 歩み続けるジークンドー

石井 東吾
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必然以上のもの

陰と陽』(石井東吾・著/Gakken・刊)の著者石井東吾氏は、武術家である。ウィキペディアでは、「ブルース・リーが開発した武術である截拳道(ジークンドー)のインストラクター」と紹介されている。しかし、『陰と陽』を読んでからもう一度見ると、きわめてシンプルな文章の向こうに巨大なマトリックス—何かを生み出すもの—が広がっていることが実感できる。

 

僕が20年以上にわたり学び続けている武術、ジークンドーは、映画スターとしても有名なブルース・リーが創始した。「創始した」と簡単に書いてしまっているが、32歳という短い生涯で一つの武術を創り上げ、いまもなお多くの人々を魅了し、世の中にムーブメントを巻き起こしているということがどれほど凄いことか、とうてい語り切れない。

『陰と陽』より引用

 

そして筆者は、石井氏とジークンドーの出会いが偶然だったとは思えない。

 

『燃えよドラゴン』のあの場面

なにごとにも始まりがある。石井氏にとってのジークンドーとの関わり合いには、こんな触媒が介在していた。

 

それは敵のアジトの地下で、主人公のブルースがバッタバッタと敵をヌンチャクで倒した後、罠にかかり閉じ込められてしまうシーンだ。ブルースは眉一つ動かすことなく、手にした黒いヌンチャクを自分の首にかけ、姿勢よくそこに胡坐をかく。

『陰と陽』より引用

 

『燃えよドラゴン』の1シーンだ。ブルース・リー体験の強烈なイニシエーションとして記憶している筆者世代の人たちは多いにちがいない。瞑想と激しい格闘。静と動。そして、本書のタイトルでもある“陰と陽”という言葉の本質がビジュアル化されているシーンだと思う。50年近く経っても忘れないほどのインパクトがあるこのシーンを通したブルース・リーとの出会いが、石井氏にとって人生のターニングポイントとなったことは容易に想像できる。

 

“陰”と“陽”

ジークンドーとの出会いが石井氏の人生にどれほど影響を与えたか。本書では、このテーマが石井氏の自伝というフォーマットに乗せて語られていく。目次を見てみよう。

 

第一章 THINK
第二章 FEEL
第三章 MOVE
第四章 FLOW

 

“Don’t think, feel”という『燃えよドラゴン』での名セリフを思い出す。石井氏が考え、感じるままに動き、流れるように修行を積んだプロセスは、陽の部分だけではなかった。

 

本来「一つのもの」である「陰陽」を、あえて「陰と陽」とし、それを本書のタイトルとしたのは、これまで語ってこなかった「陰」の部分を抜きにして、僕のジークンドーはないからだ。

『陰と陽』より引用

 

ジークンドーのインストラクターとして有名な石井氏はメディアやYouTubeでの露出も多い。本書の目的のひとつは、こうした部分とは正反対の陰の部分をつまびらかにすることにほかならない。ブルース・リー始祖自身が定めたジークンドーのシンボルは、陰と陽の太極図だ。宇宙のすべての存在が陰と陽から成り立っていることを意味する。そして、陰陽が調和した理想の姿は水にたとえられた。

 

僕がこれまで学んできたジークンドーは、決して道場での稽古だけのものではない。ジークンドーとは、まさしく「水」になるための修行であり、行住坐臥、生き方そのものだということを、僕は恩師であるヒロ渡邊先生と、ヒロ先生の背中の向こうのテッド・ウォン先生、そしてブルース・リー始祖を通して学んだ。

『陰と陽』より引用

 

ならば、ジークンドーが単なる徒手空拳の武術だけであるわけがない。哲学とか思想、あるいは“ウェイ・オブ・ライフ”という言葉で表されるべきものなのだ。本書にちりばめられている多くの写真でさまざまな表情を見せる石井氏が、思索家に思えてくる。

 

止まらない歩み

ブルース・リーとジークンドーに出会う前の少年時代のエピソードから修行の過程、そして伝える立場へという流れが綴られていく本書の終わりに近い部分に、とても素敵な言葉を見つけた。

 

「いつまでたっても、同じところをぐるぐる回っているのではないか」と。自分の進歩を不安に思うこともあるが、そうではないということは永き修行で分かったことの一つだ。実は少しずつ少しずつ、それはらせん階段を上がるように上昇しているのだ。

『陰と陽』より引用

 

自分のアイデンティティとして挙げることができる具体的なものをすぐに思い浮かべられる人は、本当に幸せだ。そういう人が語る言葉は、独特な熱量と共に伝わる。歩みを決して止めない石井氏が綴った文章に触れる人たちは、行間にまで満ちたエネルギー流を必ず感じ取るだろう。

 

陰と陽 歩み続けるジークンドー

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日本最古の地図記号は何? あのマークはどうしてできたのか、地図記号の謎がわかる!~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。地図を見ながら歩くとなぜか道に迷ってしまう私ですが、部屋で地図を開いてあれこれ妄想するのは大の得意です(笑)。

 

もう20年ほど前、大航海時代を舞台にした「ネオアトラス」というゲームにハマっていました。航海して世界地図を完成させるという内容で、プレイヤーが何を信じるかによって地図も変わっていくのです。

 

地図を作るということは、この世界を定義すること。地図には奥深い魅力があります。

 

等高線に魅せられた地図研究家

さて、今回紹介する新書は地図記号のひみつ』(今尾 恵介・著/中公新書ラクレ)。著者の今尾 恵介さんは地図研究家! 日本地図センター客員研究員、日本地図学会「地図と地名」専門部会主査などを務めています。主な著書に『地図マニア 空想の旅』(集英社インターナショナル、第2回斎藤茂太賞受賞)、『今尾恵介責任編集 地図と鉄道』(洋泉社、第43回交通図書賞受賞)があります。

 

中学1年生の社会科で2万5千分の1の地形図の精緻さに魅せられたという今尾さん。買ってきた地図の等高線を眺めては、時間を忘れて現地の風景を想像していたのだとか。

ドイツにはホップ畑の記号がある!?

第1章「定番記号の学校で教わらない話」には、おなじみの地図記号に関するうんちくが満載。日本で初めて使われた地図記号は……「温泉」マーク! 江戸時代初期、土地争いに関する絵図に温泉を示す記号が2つ描かれていたのが始まりだそうです。湯壺から湯気が立っているデザインはほぼ今と同じ。江戸初期からあるんですね!

 

温泉マークを見ると、ほとんどの日本人がお風呂を思い浮かべるでしょう。ところが、国土地理院の調査によると海外の観光客からは「温かい料理を思わせる」という反応があった、と本書にはありました。なるほど、お皿に入った熱々のスープにも見えますね。山のなかにスープ屋さんがひしめく様子はちょっとシュールですが(笑)。

 

私の地元に桑畑が多かったこともあり、社会の授業で最初に私が教わったのがYの字に横棒を加えた「桑畑」でした。桑畑の地図記号は、日本の主要な輸出品だった絹を支える耕地ということで明治時代から地図に特別に記載されていたそうです。ただ、平成25年(2013年)に廃止になってしまいました。

 

ちなみにドイツにはホップ畑(×を並べたもの)、イタリアにはオリーブ畑(オリーブの木を図案化したもの)の記号があるとのこと。地図記号はその国の重要な構成要素を表しているんですね。

 

第4章「記号が映し出す歴史」では、軍事と深い関わりがある地図の歴史的背景が解説されていきます。なぜ病院のマークはワッペン形に十字なのか? なぜ大正時代に制作された橋の地図記号は8種類もあったのか? 単純に地図記号の解説を超えて、地図という存在を軸にした歴史の動きが見えてきます。

 

各節の頭には今尾さんが描いた味のある地図記号のイラストも掲載され、今尾さんの地図に対する愛と深い造詣が伺えます。ひとつひとつのトピックは短めですが、それが連なることで地図記号の本質、地図の存在意義が見えてくる一冊。廃れる地図記号あれば、新しく生まれる地図記号あり。瞬時に時空を超えていけるのが地図の面白さかもしれません。

 

【書籍紹介】

地図記号のひみつ

著:今尾 恵介
発行:中央公論新社

学校で習って、誰もが親しんでいる地図記号。だが、実はまだまだ知られていないことも多い。日本で初めての地図記号「温泉」、ナチス・ドイツを連想させるとして「卍」からの変更が検討された「寺院」、高齢化を反映して小中学生から公募した「老人ホーム」……。地図記号からは、明治から令和に至る日本社会の変貌が読み取れるのだ。中学生の頃から地形図に親しんできた地図研究家が、地図記号の奥深い世界を紹介する。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

14日間あれば、腸内環境は改善できる!?  何から腸活したらいいか迷っている人におすすめ! 『腸活14daysチャレンジ』

ストレス社会の中、誰もが「腸」を気にする時代になりました。ヤクルト1000が売り切れていたり、腸と脳はつながっているなんて言われたり、さまざまな腸活が出回っていて「一体何から始めたらいいの?」「やってみたけど効果が出なくて」とお困りの方も多いかもしれません。

 

これから腸活を始めてみたい人にオススメなのが、日本初の便秘外来を開設した小林弘幸教授の奥様で、腸と皮膚の開業医としてご活躍されている小林暁子先生の著書『腸活14daysチャレンジ』(小林暁子・著/宝島社・刊)。

 

たった2週間で? と思うかもしれませんが、段階的に腸を元気にするのが大切とのこと。まず腸に元気を取り戻し、健康になっちゃいましょう!

腸内環境の改善には、3つのステップが重要!

腸活といっても今の自分にとって「何」が必要なのかわからないまま「とりあえず流行っているから」と手を出している人もいるかもしれません。腸活で目指すことは、バランスのよい腸内環境をつくること。そのバランスを整えるために、14日間頑張ってみようというのが『腸活14daysチャレンジ』です。

 

14日間で腸内環境を改善するにはいくつかのSTEPが必要です。老廃物をしっかり出せる腸を作る→腸内細菌の善玉菌を増やす→増やした善玉菌を育てるというSTEPを行うための大切なPOINTを紹介します。

(『腸活14daysチャレンジ』より引用)

 

「腸にいい食べ物だから」と善玉菌を増やしている方もいるかもしれませんが、そもそも老廃物を「出せる腸」になっていないと、栄養は十分に吸収されず元気な腸にはなれないのだとか。『腸活14daysチャレンジ』では、最初の4日間で出せる腸を作り、次の5日間で善玉菌を増やし、最後の5日間で善玉菌を増やせるレシピと運動方法が紹介されています。レシピも運動も日常生活の延長でできるので、ラクラク。何か特別な食材を準備したり、手間暇かけたりするようなものはほとんどありません。どなたでもチャレンジしやすい内容です!

 

バランスのいい「腸内環境」とは?

「出せる腸」になったら、善玉菌をどんどん増やせばいいのね! と、乳酸菌飲料をたくさん飲む、ヨーグルトを食べるとやってしまいたくなりますが、それだけが正解ではありません。大切なのは「腸内環境のバランス」なのだとか。イメージ的に腸内環境がいい状態=善玉菌だけが多い状態と考えますが、実はそうじゃないんです!

 

腸内細菌は「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の3つのグループに分かれており、腸内環境は、この3つのグループのバランスで決まります。理想の比率は2:1:7です。日和見菌は勢力が強いグループに味方する特性があるため、善玉菌が優勢に働いていれば、「腸内環境がいい」または「腸内環境が整っている」ということになります。

(『腸活14daysチャレンジ』より引用)

 

勢力が強いグループに味方するって、なんだか人間社会みたいですよね(笑)。日和見菌が悪に加担しないよう、善玉菌を育てることが大切なようです。

 

ちなみに、善玉菌が優勢な人の腸内では、幸せホルモンと呼ばれる「セロトニン」も生成され、気持ちも穏やかに過ごせるのだとか。腸内環境のバランスを整えることは、便秘など健康面での改善だけでなく、メンタル面にも効果を発揮してくれるのですね! もし、イライラしやすい・気持ちが落ち込むと悩んでいるのであれば、腸内環境が乱れている可能性も。試しに『腸活14daysチャレンジ』をやってみるのもオススメです。

 

腸がよろこぶことを習慣にしよう!

14日間チャレンジの効果も気になりますよね。『腸活14daysチャレンジ』では、ぽっこり下腹からの卒業、免疫力アップ、自律神経が整う、ダイエットやむくみ解消とメリットがたくさん書かれてありました。一生のうち2週間だけ本気出してみるか! という方は、ぜひその勢いでお試ししちゃいましょう。

 

ただ、14日間のチャレンジが成功したら、終わりではありません。せっかくなら元気な腸をキープして、健康な毎日を過ごしましょう。日和見菌は勢力が強いほうに味方してしまうので、油断すると悪玉菌優勢な腸に戻ってしまうかもしれません。バランスのよい腸内環境に整えられたら、腸がよろこぶことを習慣にするのがポイントです。

 

『腸活14daysチャレンジ』には、「起床後に白湯を飲む」「適度に体を動かす」「湯船につかる」など腸がよろこぶ毎日の習慣も掲載されています。私自身もいくつかのレシピや運動を試しながら、腸活を習慣にしている最中です。自分の年齢とともに臓器が老化しているのは事実なので(笑)、労りながら人生100年時代を乗り越えていきたいと思います。たくさんの健康法がありますが、大切なのは続けること。『腸活14daysチャレンジ』で理想の腸内環境を作ってから、自分にあった腸活をしていきましょう!

 

【書籍紹介】

 

腸活14daysチャレンジ

著者:小林暁子
発行:宝島社

便秘、ぽっこりお腹、肌荒れはもちろん、アンチエイジング、不眠、自律神経など、ありとあらゆる不調を整えることができる『腸活』。本誌では、腸活の第一人者である小林暁子先生監修の「腸内環境を改善する14日間メソッド」をご紹介! 誰でも飽きることなく、簡単に長続きできるようなシンプルなプログラムで構成しています。

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なぜ「バカ」な行為がなくならないのか? 生物学的にアプローチする『バカの災厄』

1月の終わり、とある動画がネット上で公開された。金髪の男性が回転すし店のボックス席に座り、醤油のボトルの口の部分や未使用の湯飲みの縁を舐め回し、唾を付けた指先で目の前のレーンを通過するにぎりに直接触れる。

 

ウケを狙うか、大炎上した上に莫大な経済的損失の責任を問われるか

この行いをものすごく非難するわけではないし、抑えきれない怒りを覚えているわけでもない。ただ、どうしてもわからない。何なんだろう? 10年ほど前、後に「バカッター」と呼ばれることになる人たちがバイト先でのワイルドないたずら動画を続けてアップしたとき、こういうのはダメだという圧倒的コンセンサスが確立されたはずだ。

 

それなのに、おそらくは史上最悪の動画がアップされ、顔バレどころか本名と学校まですぐに特定された。民事で訴えられれば莫大な賠償金の少なくとも一部に責任を負うことになるだろうし、刑事事件になれば前科だってつく。リスクとメリットのバランスが圧倒的に悪いと思うのだ。

 

父親と一緒に謝罪に訪れた本人によれば、動画を有人の間で共有するつもりだったが手違いで外部に流出し、拡散してしまったという。被害を受けた企業の時価総額の下落額は170億円に達するとも報じられた。この原稿を書いている時点で、企業側は刑事・民事両面の訴えを取り下げる動きを一切見せていない。

 

「バカ」を生物学的アプローチで分類する

バカの災厄』(池田清彦・著/宝島社・刊)には、「頭が悪いとはどういうことか」という結構きつい響きのサブタイトルが付けられている。本書の主張もかなり強めだ。最初のページの9行で、「バカ」という言葉が5回出てくる。SNSなどで他人を誹謗中傷することに生きがいを感じる人たち。ネット上で陰謀論を振りまく人たち。あおり運転。あれこれ理由を付けて隣国に侵攻する大国……。世の中は、さまざまな災厄をもたらすさまざまなレベルのバカであふれている。

 

そこで、私には何ができるのかと考えたとき、世界に災いをもたらす「バカ」とはいったいどういう存在なのか、どうすれば「バカの災厄」を防ぐことができるのかという点についてわかりやすく解説し、心ある人々と理解を共有したいという結論に達した。

『バカの災厄』より引用

 

バカの種や属の特質を確認して分類し、それを周知させて共通の知識として蓄積していく。実に生物学者らしいアプローチではないか。

 

バカは自分以外を認めない

章立てを見てみよう。

 

第1章 バカとは何か
第2章 ますますバカになる日本人
第3章 バカを量産する日本の教育
第4章 バカにつけるクスリ

 

各章の項目も書き出しておこう。「バカはどうして攻撃的になるのか」「賢い人のコミュニケーション」「バカは複雑な問題を二元論でとらえる」「マスク警察はマウンティング」「型破りな人にしか到達できないイノベーションがある」「優秀な研究者ほど去っていく」「変わり者だと思わせ距離を置く」「多様性を欠いた生物は絶滅する」

 

池田氏は「バカ」を「概念が孕む同一性は一意に決まる」と思い込んでいる人々であると定義する。こういうことだ。

 

「この世界には最終的な真理があり、その認識を共有しない者は許せない」と思っている人のことである。別言すれば、「すべての概念は捏造されたものだ」ということに、まったく思い及ばない人のことだ。

『バカの災厄』より引用

 

もう少しかみ砕くと、こういうことになる。

 

いかに高学歴な人であっても、知識や教養のある人であっても、独善的で他人の意見に耳を傾けない場合、本書ではバカと呼ぶ。

『バカの災厄』より引用

 

筆者なりの表現をするなら、「自分が考える普通こそが、すなわち世の中全体の普通である」と考えている人ということになるだろうか。オープンかつリベラルな状態でいないと、人はバカに向かってまっしぐらに走っていってしまうように思える。

 

賢い人であるために

ならば、賢い人とはどういう人なのか。

 

わかりやすく言えば、「自分の考えと他人の考えは違っていて当たり前」ということをちゃんと理解している人のことだ。

『バカの災厄』より引用

 

これは、わりと当たり前のことだと思う。だが、どうしても「自分の正しさ」を主張せずにはいられない人たちがいる。だからこそ、LGBT関連でおよそ現実離れした発言を繰り返す政治家や、自分の笑いの感覚が「絶対に正しい」と信じて疑わないままホームレスの女性をいじめたり、飲食店での生理的な嫌悪感をもよおすいたずらをしたりという動画をアップする人たちがいなくならない。

 

でも、バカを図鑑的に文字化した本書を読んで、すべてのバカに真剣に怒るのは間違いなのかもしれないと思った。まず、絶対的に違うことを認めよう。バカに囲まれたバカにならないようにあるためには、そこから始めるべきだ。

 

 

【書籍紹介】

バカの災厄

著者:池田清彦
発行:宝島社

ネット炎上やあおり運転、陰謀論の流布やロシア叩きなど、「バカ」が引き起こすトラブルは絶えることがない。本書が「バカ」とするのは「概念が孕む同一性はひとつしかない」と思い込む人のこと。視野狭窄で他人の意見に耳を貸さない彼らは、自らの信じる「正義」や「真実」を周囲にも押しつけようとし、それを受け入れない相手を「敵」認定し攻撃する。しかし、こうした「バカ」化は、進化を遂げた人類にとって、一種の宿命でもあったー。暴走を続ける「バカ」につけるクスリはあるのか?

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なぜ和歌山の動物園ではパンダの繁殖が成功しているのか?『知らなかった! パンダ』

パンダが中国から日本にやってきたのは1972年。上野動物園のカンカンとランランが最初だ。

 

現在日本には、上野動物園に5頭、兵庫の神戸市立王子動物園に1頭、そして和歌山アドベンチャーワールドに7頭いる(2023年2月に永明、桜浜、桃浜の3頭が中国へ帰還)。

 

最近では上野動物園でも、パンダの繁殖が成功しているが、和歌山アドベンチャーワールドは1994年にパンダの飼育を始めてから、これまでに17頭の子どもが生まれている。上野動物園ではなかなか繁殖が成功しなかったのに、なぜ和歌山では成功しているのだろうか。

 

その理由を探るために『知らなかった! パンダ』(アドベンチャーワールド 「パンダチーム」・著/新潮社・刊)を読んでみた。

理由その1 偉大な父と母の存在

まず驚くのが、和歌山アドベンチャーワールドではこれまで17頭のパンダの子どもが生まれているが、そのうちの16頭が同じ父親なのだ。その父親は「永明(えいめい)」。1994年に2歳のときに中国から和歌山にやってきたパンダだ。

 

現在29歳。人間でいえば90歳くらいとのこと。この永明、人工飼育下ではなかなか発情しないとされているオスのパンダながら、次々と繁殖に成功。アドベンチャーワールドのパンダ繁殖は、永明なくしては語れないのだ。

 

いくら永明がすごくても、相手がいなければ繁殖はできない。実は永明と一緒に蓉浜(ようひん)というお嫁さんも来日していたのだが、繁殖前に亡くなってしまう。その後、2000年に2歳年下の梅梅(めいめい)が来日。実は梅梅、来日時にはすでに妊娠しており、日本で娘である良浜(らうひん)を出産した。

 

永明と梅梅との間には、4回の出産で6頭の子どもが生まれた。この2頭、かなり相性がよかったようだ。その後、梅梅はこの世を去ったが、永明にとっての義理の娘である良浜との相性もよく、7回の出産で10頭の子どもを生んでいる。永明、なかなかのゴッドファーザーだ。

 

理由その2 温暖な気候と豊富な竹

アドベンチャーワールドがある和歌山県の白浜は、一年を通して温暖な気候。また水や空気もきれいなため、動物たちにとってはいい環境であることも理由のひとつだ。

 

そして、パンダの主食である新鮮な竹が豊富なことも大きい。アドベンチャーワールドでは、大阪と京都から竹を仕入れているが、距離が近いために鮮度がよい。

 

パンダはとても個性豊かで、竹といっても好みがそれぞれ。食べる部位もパンダごとに違うだけでなく、その日によっても違うらしい。なんとも気分屋で贅沢だ。

 

近隣からいい竹をたくさん仕入れることができ、いつでもパンダたちは好きなだけ竹が食べられるため、健康に過ごせているのだ。なお、パンダが1日に食べる竹の量は1頭あたり15〜20kgだが、用意された竹のなかから気に入ったものだけを食べるため、毎日1頭あたり50〜70kgは用意するようだ。

 

理由その3 中国の研究所との連携

アドベンチャーワールドは、中国の成都ジャイアントパンダ繁殖研究基地と相互連携している。成都ジャイアントパンダ繁育研究基地は、パンダの保全活動を長年行っており、繁殖や出産についての豊富な経験とデータの蓄積がある。それをアドベンチャーワールドでも活用することで、安定した繁殖につながっているのだ。

 

実際にパンダの出産および育成に関して、中国からスタッフが支援にくることで、未熟なパンダの赤ちゃんの命を救ったこともある。以上が、和歌山のアドベンチャーワールドがパンダの繁殖に成功している主な理由だ。

 

自然と仲良く生きていきたい

ユーモラスでかわいらしいパンダだが、一時期は絶滅危惧種に指定されていたほど、自然界での個体は減っている(現在は危急種になっている)。

 

最近は、繁殖研究などが進み、動物園や研究所などで生まれたパンダを自然に還す取り組みなどが行われ、個体数は増加傾向にあるという。

 

パンダに限ったことではないが、人間が地球上で幅を利かせすぎると、ほかの動物たちの形見が狭くなってしまう。あまり図々しくせず、控え目に生きていきたいと思う。

 

【書籍紹介】

 

知らなかった! パンダ

著者: アドベンチャーワールド「パンダチーム」
発行:新潮社

実は肉食!? 先祖が、ですけど、なぜ白と黒? オシャレだから! じゃないよ、走ると30km/h!でもすぐガス欠。世界屈指のパンダファミリー飼育スタッフがかわいいだけじゃない魅力と謎を徹底解説!!

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