なぜパナソニックの配線器具がベトナムで売れるのか? “現地の相棒”が「躍進の理由」と「中国メーカーの真の武器」を語る

コンセントなどの配線器具の国内市場で、8割以上のシェアを誇っているパナソニック エレクトリックワークス社。同社の配線器具は、その信頼性を武器に、世界でも支持を伸ばしている。世界シェアはフランスのルグラン社に次ぐ2位だが、アジアでは1位。特にベトナム・インド・トルコを重点国に位置付け、大きな生産拠点を築いている。

↑ロングセラー商品のフルカラーシリーズ。

 

だが、同社には近年大きなライバルが現れている。中国のメーカーだ。不動産バブルが崩壊した同国では、配線器具の需要が低下し、数多くのメーカーが東南アジアでのビジネス拡大に注力しているという。これからの国際競争をどう勝ち抜いていくのか。今回は、同社の重要拠点であるベトナム・ホーチミンを訪れ、同国内で配線器具の製造・販売を手がけるパナソニック エレクトリックワークスベトナム社の坂部正司社長、同社製品の販売代理店・Nanocoグループのルーン・リュク・ヴァンCEOに話を聞いた。

 

パナソニックのベトナム国内シェア1位を陰で支える販売代理店

1994年、パナソニック(当時は松下エレクトリックワークス)の配線器具がベトナムに進出した。海路輸送における地理的な優位性、人件費の安さ、安定した社会情勢に加え、将来の経済成長を見込んでのことだった。

 

「パナソニックは、1994年のベトナム進出以降、同国内で着々と販売網を広げてきました。当初は他国で製造した製品をベトナムに輸入して販売する形式をとっていましたが、2014年にはホーチミン近郊のビンズオンに大規模な工場を建設し、生産体制を強化。2017年にベトナム国内のシェア1位を獲得しました。現在ではそのシェアをさらに伸ばし、5割程度を占めています」(坂部さん)

↑パナソニックがベトナムで展開しているコンセントなどの配線器具。

 

その成長を陰で支えてきたのが、販売代理店のNanocoグループだ。同グループは、1994年に松下エレクトリックワークスとパートナー契約を締結。30年以上の時を経たいまでも、パナソニックの代理店として、配線器具などの販売を続けている。

 

「Nanocoグループは、1991年、私の父によって設立されました。当時はベトナムの経済政策が変わって民間の会社がようやく認められるようになった時代で、Nanocoグループは国内で33社目の民間企業でした」(ルーンさん)

↑ホーチミンにあるNanocoグループの本社ビル。筆者が訪問したときには、旧正月の飾りが出ていた。

 

Nanocoグループは、パナソニックのベトナム事業拡大と足並みをそろえる形で大きく成長。現在の同グループの売り上げの8割を、パナソニック製品が占めている。

↑パナソニック エレクトリックワークスベトナム社の坂部社長(左)とNanocoグループのルーン・リュク・ヴァンCEO(右)。

 

「かつて、パナソニックの製品は、ベトナム人にとっては高価でプレミアムなものでした。しかし、国の経済が発展したいまでは、高収入を得る人も増えてきました。現在、ベトナム国内におけるパナソニックの知名度は高く、同社の高品質な製品を使うことが一種のステータスのようになっています。また、幅広い価格帯・様々な特徴を持った製品が開発されたことでラインナップが広がり、ユーザー層が増えました。私たちはそんな製品をユーザーに届けられることを幸せに思っています」(ルーンさん)

 

Nanocoグループはベトナム全土に広いネットワークを構築している。現在では国内に21の営業所を有し、隣のカンボジアにも拠点を持つ。各営業所からトラックを2時間ほど走らせれば、ベトナムのどこへでも製品を届けられるという。

↑Nanocoグループがベトナム各所に構えている拠点のマップ。文字が緑になっている箇所は、営業所の設立に向けて調査中のエリアだという。

 

「全ての営業所が、販売・倉庫・配達・アフターサービスの4つの役割を持っています。これらのなかでも特に力を入れているのがアフターサービスです。ベトナムの施工業者は作業の質が低いことも多く、優秀な製品を使っていても取り付け方の悪さからトラブルが起こってしまうことがあります。ですから、そのトラブルをいち早く解決するためのアフターサービスが大切なのです」(ルーンさん)

 

坂部さんは、パナソニックの武器は「安定した品質とサプライチェーンの強さ」だと語る。その供給網の一端を担っているのが、Nanocoグループなのだ。

↑Nanocoグループは、配線器具以外にも幅広いジャンルのパナソニック製品を取り扱っている。写真は同グループのショウルームにあった空気清浄機。

 

中国メーカーの真の武器は「順応の速さ」

坂部さんもルーンさんも、中国のメーカーを大きなライバルと位置付けている。実際、アジアの他国ではパナソニックが中国メーカーにシェアを奪われることもあった。

 

「フィリピンでは、2022年までシェア1位でしたが、2023年には3位まで転落してしまいました。当時は中国の不動産バブルが崩壊したタイミングで、中国国内向けの製品が、フィリピンを含む近隣国に流入してきた影響です。この影響は、中東エリアまで波及しました」(坂部さん)

 

ルーンさんも、中国メーカーの進出に強い危機感を抱いている。北の国境が中国に接しているベトナムは、中国企業にとっては進出しやすい国なのだ。

 

「中国からベトナムには、入ってこようと思えばすぐに進出できる距離にあります。ですから、いまのうちに製品の価値を構築しておかないと、将来的に勝ち残れません。中国メーカーの特徴について、コストが低い、あるいは品質が良いと言う人もいますが、私の考えは違います。彼らの真の強みは、順応するスピードの速さです。中国企業は、現地で流通している製品を凄まじいスピードで学び、コピーし、アレンジしてきます。だから、顧客が欲しい製品を素早く提供できるのです。Nanocoグループはカンボジアにも拠点を持っていますが、メインの市場はあくまでベトナム国内。だから、まずはここを守り抜かなければなりません。製品開発のスピードで中国勢に負けないよう、我々が顧客から直接拾った声をパナソニックに届けて、製品開発の参考にしてもらっています」(ルーンさん)

 

パナソニックも、製品開発のスピードを上げるよう取り組んでいる。これまではベトナムで販売する製品の企画を国外で行うこともあったが、2025年には企画開発から生産までを一気通貫でできる体制をベトナムのビンズオン工場で整えた。これにより、企画からリリースまでの時間が40%も削減されたという。

↑パナソニック・ビンズオン工場。新棟も竣工し、増産体制を整えている。

 

米中の貿易摩擦の影響で中国勢の進出が強まる

取材中、ルーンさんが中国メーカーのことを「北からの侵略者」と呼ぶ一幕もあった。それだけ、中国勢への意識が強いのだ。

 

「トランプ政権の誕生で、米中の貿易摩擦は再び加速するでしょう。そうなると、中国企業は米国を避けるようになるので、東南アジアへ進出する傾向が強まります。簡単な状況ではありませんが、パナソニックとの信頼関係を活かして、勝ち残っていきたいと考えています」(ルーンさん)

↑ルーンさんは終始、非常に流暢な英語を話していた。

 

一方の坂部さんは、高い目標を掲げている。ベトナム国内でも、日本と同レベルのシェアを獲得するという目標だ。

 

「パナソニックの当面の目標は、2030年までに、ベトナム国内で70〜80%のシェアを獲得することです。現状の50%という数字からすると高い目標ですが、可能な数字だと考えています」(坂部さん)

 

昨今、日本国内においても、中国メーカーの躍進は著しいものがある。彼らとの厳しい争いのなかで、日本企業が勝ち残るにはどうすればよいのか。ベトナムの地で続く、パナソニックとNanocoグループによる挑戦は、そのヒントを示唆するものになりそうだ。

ベトナムで“日本品質”を再現せよ!「配線器具シェア5割」パナソニックの躍進を支える「3つの道場」

私たちが日々暮らしているなかで、何気なく使っているコンセントなどの配線器具。普段の生活においては特に意識を向けない製品ですが、これらがない暮らしはもはや考えられません。

 

配線器具の世界トップシェアを目指してベトナムに注力

その配線器具の市場で、日本国内8割以上のシェアを獲得しているメーカーが、パナソニック(パナソニック エレクトリックワークス社)です。国内では向かうところ敵なしといっても過言ではない地位を築いている同社は、海外にも手を広げています。

↑パナソニック製配線器具のなかでも、次世代の標準モデルにあたるアドバンスシリーズ。

 

パナソニックの配線器具の世界シェアは、フランスのルグラン社に次ぐ2位。同社がトップの座を目指すにあたって、特に注力している国のひとつがベトナムです。人口が1億人を突破し、経済成長が著しいベトナム。1994年に同国へ進出したパナソニックの配線器具事業は着々と販路を広げ、現在では同国内のシェア5割を獲得しています。

↑ベトナムの大都市・ホーチミンの市街。高いビルも多く建ち、都会化が進んでいる。

 

パナソニックの製品がベトナムで支持を集めている要因は、日本で培った品質の高さです。急成長を遂げる国のなかで確かな存在感を放つ日本のものづくりと、ベトナムならではのユニークな特徴を、現地工場で取材しました。

 

「3つの道場」による手厚い研修で、高い生産性と品質を実現

パナソニックのベトナム事業の中核となっているのが、ビンズオンにある工場です。ビンズオンは、同国の首都ホーチミンから北に約30km離れたところにある工業都市。多数の企業の工場が同所に集まり、工業団地を形成しています。

↑パナソニック ビンズオン工場。

 

この工場が生産を開始したのは2014年のこと。タイのアユタヤ工場が2011年の洪水で水没してしまったことを受け、すでに販売網の構築が済んでいたベトナムに生産拠点を築こうとしたのが設立のきっかけでした。ビンズオン工場の創業開始から3年後の2017年には、パナソニックの配線器具は、ベトナム国内のシェア1位を獲得。ビンズオン工場は、同国におけるパナソニックの躍進を支える力の源になっています。

↑ビンズオン工場で製造されているコンセントやスイッチ。ベトナムのコンセントは、日本で使われているAタイプに加え、Cタイプも普及している。

 

ビンズオン工場の特徴は、日本の津工場から移植した信頼性の高いものづくりです。津工場から派遣された技術者が現地で指導を行うことで、日本と変わらない品質の維持を可能にしています。

↑パナソニック津工場で行われている金型のメンテナンス。高い技術力が要求される。

 

ビンズオン工場の工場長を務める内藤吉洋さんも、津工場でキャリアを積んできました。内藤さんによると「新しく入った従業員をいきなり製造ラインに入れることはない」といいます。この工場の新入社員は、1週間のOJT研修を経ることで、ようやく製品の製造に携われるようになります。

↑ビンズオン工場・工場長の内藤吉洋さん。

 

その研修の舞台となるのが「ものづくり道場」です。新入社員は入社後の1週間、この道場で製品や工程についての知識を学んでから、製造ラインに入ります。以前は安全関連の講習のみを行なって製造の現場に配属する仕組みでしたが、それでは生産性が上がらなかったため、新たにこの道場を設立したそうです。

↑ものづくり道場の内部。動画に加え、実技での学習を行う。左手に見えるテーブルでは、組み立てを実践しながら学ぶ。

 

ものづくり道場の設立による効果はてきめんで、従来では新入社員が現場で独り立ちできるまで12週間ほどかかっていましたが、6週間に短縮できたそうです。また、複雑な製品の組み立てにおいても、高い品質を保つことができるようになりました。

↑ブレーカーの組み立ての様子。ブレーカーは構造が複雑なため、ビンズオン工場のなかでも特に高い技能を要求される作業だという。片足をバーに置いて作業するのはベトナム人の特徴で、多くの従業員が同じ姿勢をとっていた。

 

ビンズオン工場で生産される製品の品質を支えているのは、ものづくり道場だけではありません。組み立て機の構造や過去の改善事例を学ぶ「技術道場」、安全の重要性を体感しながら学ぶ「安全道場」も設置されています。これらの道場が、パナソニックの信頼性を支えているというわけです。

↑各道場の看板には、ベトナム語、日本語、英語が併記されていた。ちなみに、安全道場は日本の津工場にも設置されている。

 

↑現場で起きた課題を付箋に書いてホワイトボードに貼り、改善策を検討する「大部屋」も部門ごとに設けられている。「工程が複雑すぎて組み立てづらい」「部品の欠品が多い」など寄せられる課題は様々で、月に85件程度の課題が可視化されているという。

 

働き者のベトナム人は、「もっと働きたい」と離職する人も多い

手厚い研修が求められるのには、ベトナムならではの事情があります。というのも、同国では全体的に離職率が高い傾向にあり、国全体の平均で2〜3%ほどの水準になっています。ビンズオン工場の従業員の離職率はそれよりも低い1.5%ではありますが、毎月20人程度の新入社員が入るため、十分な教育体制が欠かせないのです。

↑製品の梱包作業の様子。職場に響くのは機械の音のみで、従業員は黙々と作業していた。

 

離職率が高いと聞くと、ベトナム人は働くのを嫌がっている……と思われるかもしれませんが、実は全く逆というのも興味深いポイントです。離職の理由の上位には、なんと「労働時間が短くて稼げない」というものがあるのだそう。1日に12時間以上働きたいという人が多く、実際にビンズオン工場では2交代制の24時間操業を行なっているとのこと。

↑配線器具の組み立てと高電圧に耐えられるか否かの検査を行う機械。ビンズオン工場の自動化率は2022年には42%だったが、2025年には90%にすることを目標にしている。

 

ベトナム人が働き者であることを象徴するエピソードがもうひとつあります。それは、コロナ禍で街がロックダウン状態になったときのこと。そのときはビンズオン工場の生産も一時止まってしまいましたが、7割近い従業員が外部と隔離して工場に寝泊まりし、缶詰状態になってまで生産を再開したといいます。工場に寝泊まりするかどうかの判断は、従業員個々の自由。そこまでしての操業維持、しかも多くの従業員の意思による参加は、日本ではなかなか想像できないでしょう。

↑コロナ禍のころの写真。左には、工場内に布団を敷いて寝ている様子が写っている。

 

従業員は社員食堂にこだわりを持ち、サッカーに夢中

社員食堂に関するこだわりが強いのも、ベトナム人ワーカーの特徴です。内藤さんによると「食事への関心が高く、労働組合との折衝では食堂のメニューについての要望が出ることが多い」といいます。ベトナム国内では社員食堂を無料にしている企業が多いそうで、ビンズオン工場でも無料となっています。

↑社員食堂。4つのメニューから好みのものを選んで、事前予約するシステムになっている。工場が24時間操業であるため、食堂も1日中開いている。

 

また、ベトナムではいまサッカーが大人気。ビンズオン工場の従業員のサッカー熱も相当なもので、工場の敷地内にはサッカーコートが整備されています。従業員で構成されたチームが工場内に20もあり、社内だけでなく、他社のチームも含めた大会が開催されているそうです。内藤さんもこの大会に出たことがあるといい、「現地スタッフはサッカーになると本気で、ボールを持っていると工場長であろうが厳しく削ってくる」のだとか。

↑工場敷地内にあるサッカーコート。

 

現地ならではの光景をもうひとつ。ベトナムの街を歩いていると、道を行き交うバイクの数に圧倒されますが、それはこの工場でも同じです。敷地内のバイク駐輪場の光景は圧巻の一言。これも、日本ではなかなかお目にかかれないものでしょう。

↑多数のバイクが並ぶ駐輪場。道についているタイヤ痕は、安全の啓蒙もかねて社内で開催したバイクコンテストの際のものだ。ビンズオン工場では963人が働いているが、そのうちクルマで通勤しているのはわずか7名。近くに公共交通機関もないため、ほとんどの従業員がバイクで通っている。

 

2030年に80%のシェア獲得へ。生産力と技術力でライバルとの争いを制する

東南アジアに展開するパナソニックの配線器具の製造を長く担ってきたのは、タイのアユタヤ工場でした。アユタヤ工場では東南アジア向けにローカライズされた製品の開発を古くから行なってきたため、多くのノウハウが蓄積されています。

 

対するビンズオン工場は、これからの未来を担う存在です。現時点でもアユタヤ工場を凌ぐ生産力を誇るうえ、2024年1月には新棟が竣工し、増産体制が整っています。おまけに、敷地内にはまだ空き地があるので、さらなる規模の拡大も可能です。

↑竣工後1年あまりが経過した新棟。建物内には、まだ空きスペースがあり、増産の余地は大きい。

 

製品の開発についても、2025年にはビンズオン工場内で企画からリリースまで全てを行える体制が整う予定です。これにより、国外で企画した製品をビンズオンで生産する場合に比べて、リードタイムを約40%も削減できるといいます。

↑躍進するビンズオン工場だが、課題もある。ベトナム国内のサプライヤーの原材料品質が低いのだ。写真はコンセントの部品だが、この原材料である難燃性樹脂の品質には、特に問題があるという。そのため一部の原材料は、近隣国からの輸入に頼っている。

 

ビンズオン工場では、従業員の技術力も確実に向上しており、パナソニックの全世界の技術者を対象に行う社内の技能競技会では、工場設立から約7年でアユタヤ工場に並ぶ成績になりました。いまでは、全世界の工場のなかでも上位に入る水準になっているそうです。

↑技術道場で学ぶベトナム人従業員。バグが起きてしまった機械を修理する実践を行っていた。

 

ベトナムでパナソニックの配線器具を展開するパナソニック エレクトリックワークスベトナム社の坂部正司社長は、「ベトナムの需要にあった新製品の開発によって、2030年には同国内でのシェアを70〜80%まで伸ばしたい」と野心的な目標を語ります。同国でのパナソニックの配線器具事業が、2012年から2017年の間に3倍の成長を遂げてシェア1位を獲得するに至った過去を考えれば、それも不可能な数字ではないでしょう。

↑パナソニック エレクトリックワークスベトナム社の坂部正司社長。

 

東南アジアの配線器具市場にはライバルも多く、特に、不動産バブルが崩壊した中国のメーカーが数多く参入してきています。パナソニックがこれらのライバルを圧倒できれば、日本の製造業に勇気を与えることができそうです。

つくり手が語りかけてくる!? “神泡”体験だけじゃない、サントリー京都ビール工場見学ツアーの独自性

ユーミンの名曲「中央フリーウェイ」に登場する“ビール工場”といえば、「サントリー〈天然水のビール工場〉東京・武蔵野」のこと。この武蔵野のビール工場のほか、同社では京都と熊本・阿蘇でも工場見学を実施しています。うち京都工場はしばらくの間、リニューアルに向けて工事中でしたが、いよいよ改装を終え、4月15日から一般公開を再開しました。そこで筆者は京都工場を訪問。今回は見学内容の一部を紹介するとともに、東京や熊本の工場にはない、ここだけの体験もお伝えします。

↑「サントリー〈天然水のビール工場〉京都」。写真左手前のモニュメントは、1970年の大阪万博で、サントリー館のシンボルとして設置されていた「御酒口(みきぐち)」。なお、工場見学ツアーは要予約となっており、詳細を知りたい方は公式サイトをチェック。

 

 

所要時間約90分の工場見学ツアーに参加

京都工場へのアクセスは、阪急京都線「西山天王山駅」から徒歩で約10分。またはJR京都線「長岡京駅」からの無料シャトルバスに乗っても約10分で着きます。

↑「長岡京駅」西口バスターミナルの1番乗り場が、無料シャトルバスの停留所。ビール工場のラッピングが施されたバスなので、すぐにわかるはず。

 

工場見学の名称は、「ザ・プレミアム・モルツ おいしさ発見ツアー」。所要時間は約90分となります。到着したら、まずは見学受付の建物で10分弱のウェルカムムービーを視聴。こちらも今回リニューアルされたポイントで、“仕込”に使われる天然水を育む地元のロケーションや、工場でビールづくりに励むつくり手の思いなどが映像のメインテーマとなっています。

↑「ザ・プレミアム・モルツ おいしさ発見ツアー」は、ここからスタート。

 

「つくり手等身大モニター」は京都だけのコンテンツ

次は実際の仕込みなどが行われている巨大な工場へ移動し、ビールの素材についてパネルとモニターの映像を見ながら学んでいきます。全行程には案内係のガイドが付き添い、質問などにも答えてくれます。

↑ビールの主原料はそれぞれ、天然水、麦芽、ホップ(と酵母)。上部のモニターでは、「きょうと西山」の天然水がどのように育まれ、ビールの“仕込”に使われるのかなどを映像で紹介。

 

パネルには実際に醸造で使われている麦芽とホップも展示され、ホップは香りをかぐことができます。ちなみに、「ザ・プレミアム・モルツ」で使われているのは、欧州産の希少で硬い「ダイヤモンド麦芽」と、チェコ・ザーツ産の香り高い「ファインアロマホップ」です。

↑乾燥させてペレット状になったホップ(左)の香りを体感できます。

 

次はパネルのすぐ先にある、横幅約7.5メートルの大型モニターの前へ移動。これも新設されたものとなっており、“仕込”工程についてのムービーを視聴します。なお、製造工程の説明に加えて、つくり手が映像で登場するのもポイント。こちらは京都工場だけの見どころのひとつとなっています。これは「つくり手等身大モニター」と呼ばれ、ビールづくり細部へのこだわりを、つくり手の等身大映像を使ってリアルに伝えるもの。

↑大型モニターでは、「ザ・プレミアム・モルツ」に欠かせない麦芽を2回煮出す「ダブルデコクション製法」や、段階にわけてホップを投入する「アロマリッチホッピング製法」などを紹介。

 

「つくり手等身大モニター」は、工程別で6か所に設置。つくり手は各所3名、合計18名からランダムで登場するので、参加するたびに異なる話を聞くことができます。

↑この「つくり手等身大モニター」に登場しているつくり手は、「仕込担当者」。

 

“仕込”からパッケージングまで、工場ならではの臨場感を体験

大型モニターのすぐ後ろには巨大なガラス張りの仕込室があり、ここで実際の仕込に使われるタンクを見学。天然水と麦芽を混ぜ合わせ、でんぷんから糖へ分解して麦汁の素をつくる「仕込層(マッシュタン)」、麦汁のもとを煮出してビールの味に厚みをつける「仕込釜(マッシュケトル)」、麦芽の殻を取り除く「濾(ろ)過槽(ロイタータン)」、煮沸してホップ由来の香りや苦みを付与する「煮沸釜(ワートケトル)」、煮沸が終わった麦汁のなかの不要物を取り除く「沈殿槽(ワールプール)」がそれぞれ配置されています。

↑“仕込”工程を、「仕込槽」「濾過槽」「煮沸槽」「沈殿槽」で行っている。釜であるため、室内の温度はやや高め。

「仕込」の次は、「発酵」と「貯酒」。この大きな建物に隣接するようにそびえ立つ巨大な筒は、実は発酵タンクとなっており、そのサイズは1本直径6メートル、高さ20メートル。3階建てのビルが約12メートルなので、そのスケールの大きさに驚かされます。

↑発酵と貯酒は、通路の壁に仕込まれたグラフィカルなパネルと、「つくり手等身大モニター」などで解説。

 

ろ過はその名の通りですが、発酵と貯酒を経て熟成を終えたビールから、オリ(沈殿物)を取り除き、役目を終えた酵母を除去する工程。こちらは窓から室内をのぞく見学となりますが、タンクがたくさんのパイプでつながれている様子は、「いかにも工場」といった光景で、心が躍ります。

↑ろ過工程の部屋。

 

その後は新しく加わった品質管理についての紹介を見学。醸造されたビールは缶と業務用の樽に詰められ、缶は箱へと梱包されていきます(パッケージング)。ここでは三面からなる横長の大型スクリーンで流れを詳しく学び、その後は実際にフィラー(充填機)などが稼働している部屋を見学できます。

↑パッケージングラインを映した3面スクリーン。まるで参加者が缶になったかのような目線で製造ラインを体感できます。

 

↑中央右に見える機械がフィラーです。

 

お待ちかねの試飲! 注ぎたての“神泡”プレモルを3杯まで

製造現場の見学終了後は、受付をした建物内のゲストルームへ。そう、お待ちかねの試飲です! ここでは「ザ・プレミアム・モルツ」自慢の“神泡”をじっくり体験できるのがポイント。

↑ゲストルームのサービスカウンターには、新しくなった「ザ・プレミアム・モルツ」のロゴがキラリ。ここで注ぎのスペシャリストがサーブしてくれます。ちなみに、この日はCMでもおなじみ、ジャズ風にアレンジされたタッタタラリラでポンポコリンな曲も流れていました!

 

飲める銘柄は「ザ・プレミアム・モルツ」「同 〈ジャパニーズエール〉香るエール」「同 マスターズドリーム」が計3杯まで。なお、20歳未満の人には「サントリー緑茶 伊右衛門」や「なっちゃん」などのソフトドリンクが用意されています。

↑おつまみが2種付いてくるのもうれしいところ。

 

京都工場ならではのおもてなしとしては、オリジナルデザインが描かれたグラスや、京野菜を使ったおつまみ「京都 堀川ごぼうチップス」などを用意しているのがポイント。また、特別な機械で泡の表面に描かれる「神泡アート」も、独自のデザインが用意されています。

↑2杯目は「ザ・プレミアム・モルツ 〈ジャパニーズエール〉香るエール」。「神泡アート」のデザインは10種から選べます。今回は、工場外観のイラストをセレクト。

 

試飲に加え、ぜひ体験しておきたいのが「神泡セルフサーブ」。こちらはスタッフのレクチャーを受けながら、実際にサーバーからビールを注がせてもらえるコンテンツです。“神泡”品質でつくられたビール、それを丁寧にメンテナンスされたサーバーで注ぐとあって失敗の可能性は少ないですが、やはり極上の一杯が注げたときの感動はひとしおです。

↑自分で注いだビールは、おいしさもまた格別!

 

受付やゲストルームがある建物には、入口すぐの場所に「ブルワリーショップ」が併設されているので、お土産はここでゲットしましょう。京都工場にしかないロゴグラスや、タオル、アパレルなど、限定品もたくさんあります。

↑京都工場限定のお土産が買えるブルワリーショップ。

 

ちなみに、同工場と「サントリー山崎蒸溜所」の距離は近いので(JR「長岡京駅」の隣が「山崎駅」)、運よく両方が予約できればハシゴで見学も可能です。キンキンに冷えたビールがおいしい季節も到来し、万博で関西が激アツないま、サントリーの工場見学は要チェックですよ。

 

【DATA】

サントリー〈天然水のビール工場〉京都

住所:京都府長岡京市調子3-1-1
アクセス:阪急京都線「西山天王山駅」徒歩約10分、JR京都線「長岡京駅」西口より無料シャトルバスで約10分
営業時間:9:30~17:00(ショップは11:00~16:45)
定休日:年末年始、工場休業日(臨時休業あり)

 

「ザ・プレミアム・モルツ」おいしさ発見ツアー(要予約)

所要時間:90分
参加費:1000円 ※ファミリー向けコースを選択した場合、20歳未満は無料
※ツアー詳細は、ホームページをご確認ください。

 

パナソニックが恒例の保護犬猫譲渡会を開催。きっかけは空間除菌脱臭機「ジアイーノ」から

パナソニックは、4月12日と13日の2日間、東京・有明のTFTホールで「パナソニック保護犬猫譲渡会2025」を開催しました。今回で6回目となるこのイベントには14の犬猫保護団体が参加し、2日間で1794人が来場。202頭の保護犬猫たちが新しい家族との出会いを求めました。

 

今回筆者は、4月12日午後の保護犬譲渡会の模様を取材。さまざまな背景を背負った一頭一頭の物語や、参加している保護団体の思い、パナソニックならではの企画についてレポートします。

 

一頭一頭の物語に心を動かされる

一口に保護犬といっても、譲渡会に集まる犬たちにはそれぞれ異なる背景があります。野犬として生きてきた子、ブリーダーの飼育放棄により保護された子、猟犬として活躍していた子など、一頭一頭に物語があるのです。

↑譲渡会に参加した犬たちのプロフィール。保護に至った経緯はさまざまです。

 

茨城県で野犬を中心に保護活動をしている「いぬ助け」のブースにいた、ののちゃんという犬は、2024年10月31日に保護されました。10月20日頃に5頭の子犬を出産しており、その子犬たちとともに保護されたのです。子犬のうち3頭には里親が見つかりましたが、残りの2頭とののちゃんは、新しい家族を探しています。

 

ののちゃんは過去に罠にかかってしまったことから、左前足の指が欠けています。それでもがんばって歩こうとする姿には、胸を打たれるものがあります。

 

野犬は通常、動きが素早く、身体の大きな男性を苦手とする傾向があるそうですが、ののちゃんは近所の男性に餌付けをされて育ったため、警戒心が低いそうです。筆者がカメラを向けたときも、怖がることなく写真を撮らせてくれました。

↑ののちゃん。人懐っこくて吠えることもなく、かわいらしいです。

 

野犬が保護されてから、里親のもとに向かうまでの期間はさまざまです。早い子なら1か月程度で新たな家族のもとへ行けるようになりますが、野犬時代のトラウマを抱える子のなかには、3年もの間保護され続けているケースもあるといいます。いぬ助けでは、どうすれば犬たちにストレスをかけずに捕獲できるか、日々試行錯誤を続けているのだそうです

↑譲渡会場で犬を撫でるGetNavi webスタッフ。撫で続けていると、気づいた頃には長い時間が経っていました。

 

また譲渡会場のエントランス壁面では、新たな家族に出会い、幸せな日々を送る元保護犬猫たちの写真展が開催されていました。写真とともに語られるそれぞれのストーリーには、心を動かされるものがあります。

↑元保護犬猫の写真展。昨年まではパネルで展示されていましたが、今回はディスプレイに表示される形式に変わりました。

 

犬もチャリティーマーケットも全国から集まる

譲渡会場の一角に、元気よく走り回る犬が多くいるブースがありました。千葉県市川市を拠点に活動する「GUNDOG RESCUE CACI」です。この団体は、鳥猟犬に特化した保護活動を展開しています。積極的な性格な犬は、猟犬ゆえのものです。

 

ブースに近寄ると、ファンキーくんという犬が筆者に寄ってきました。ファンキーくんが千葉の動物愛護センターから保護されたのは2025年1月。猟犬である彼らを里親のもとに送り届けるには、家庭犬としての訓練をする必要があり、半年ほどのトレーニングを要するケースが多いそうです。ファンキーくんのように3か月で里親探しに移ることができる犬は稀有だといいます。

↑ファンキーくん。柵の外にいた筆者の足に、鼻をこすりつけてきました。

 

GUNDOG RESCUE CACIの特徴は、全国から広く犬を保護していること。というのも、猟犬を保護できる団体が少ないため、さまざまな場所から保護の要請がくるといいます。今回の譲渡会にも、福島県いわき市や、より遠くの秋田県で保護された犬が参加していました。過去には、九州から保護したというケースもあるそうです。

↑GUNDOG RESCUE CACIから参加した保護犬のプロフィール。右端のグルーヴくんはいわきで保護されました。

 

譲渡会と並行して開催されたチャリティーマーケットにも、全国からの出店がありました。能登や北海道など幅広い場所から店が集まり、犬猫に関するグッズが販売。またマーケットの近くには、前回まではなかったカフェスペースが新設され、猫を模したドーナツなどのスイーツが売られており、来場者の憩いの場所となっていました。

↑チャリティーマーケットで売られていた奥能登の塩。売り上げの一部が地震に被災した猫たちの医療費に充てられます。

 

セミナーブースでは、犬猫に関するさまざまな講演が開催されました。筆者が訪れたときには、ロイヤルカナンジャポン合同会社の高村悟史さんによる「知らなきゃ損!? ペットフードの栄養学について」が開催中でした。ロイヤルカナンジャポンは、犬と猫の”真の健康”を実現するプレミアムペットフードメーカーとして知られています。

↑セミナー会場では、多くの人が講演に聞き入っていました。

 

パナソニックならではの家電展示コーナーも

会場には、パナソニックならではの家電展示コーナーも設けられていました。その中心となっていたのは、空間除菌脱臭機「ジアイーノ」の展示。実はこの製品こそ、パナソニックが保護犬猫譲渡会を開催するきっかけでした。

 

パナソニックでは2021年から、社会貢献事業として動物保護団体にジアイーノを寄贈する活動を開始しました。そのなかで、保護団体からの「譲渡会を主催してほしい」という要望を受け、2022年から譲渡会を始めたのです。

 

今回展示されていたジアイーノ ペットエディションは、1時間風量を上げて運転するスピード脱臭モードを搭載。また、風量切り替え時には急に音量が大きくなってペットを驚かさないよう、ゆっくりと風量を増す工夫がされています。

↑ジアイーノの実力を体験できるコーナー。ペットフードの強い匂いも、ジアイーノを使えばまるで感じなくなります。

 

また、コンパクトモデルは通常モデルと同等の18畳の適用面積を持ち、排水は月1回のみでOKという利点があります。従来機種では週1回排水する必要がありましたが、電極の耐久性を向上させることで、メンテナンス頻度を大幅に減らすことに成功したそうです。

↑ジアイーノペットエディション(左)とコンパクトモデル。サイズの違いは歴然ですが、適用面積はともに18畳です。

 

掃除機コーナーには、マイクロミストにより目に見えない床の窪みにはまった細かな埃をしっかり吸い上げるMC-NX810KMがありました。本機は8万9100円(税込)という高価格ながらも売れ行きは好調で、特にごみ収集ドック付きモデルが人気とのこと。そのほか、根強い人気のペット用バリカンや、ミラーレス一眼のLUMIXも展示されていました。

↑MC-NX810KM。本機のマイクロミストは、フローリング以外にも、カーペットや畳など、あらゆる床面に対応します。本ブースでは、床面に散ったごみを吸い上げる体験も可能でした。

 

パナソニックのこうした活動は、年間1万2000頭以上の犬や猫が殺処分されている日本の現状を少しでも改善したいという思いから続けられています。今回の譲渡会に集った202頭の保護犬猫は、参加団体が保護している子たちのあくまで一部。すべての保護犬猫が、一日も早く新しい家族と出会い、幸せな生活を始められることを願ってやみません。