人間の脳は「最短ルート」を選ぶのが苦手だった! 米大学の研究

スマートフォンのナビゲーションアプリは、出発地から目的地まで効率的に行く最短経路を表示してくれるもの。経路を外れてしまっても、すぐにその地点から目的地にたどり着ける最短ルートを即座に計算し直してくれます。しかし最近の研究で、そもそも私たちの脳は最短ルートで進むという行為が苦手であることが判明。一体どういうことなのでしょうか?

↑目的地から遠ざかっているようなのに、本当にこれが最短ルート?

 

米国・マサチューセッツ工科大学の都市研究計画を専門とするチームは、ボストンとケンブリッジの1万4000人の携帯電話から、匿名化したGPS情報を取得。このデータをもとに、人が都市をどのように歩いているかを分析しました。

 

その結果、人はある地点から別の地点まで歩くとき、最短ルートを選んでいないことが判明。むしろ多くの人は、多少長い道のりになっても、目的地にできるだけシンプルかつ「ダイレクト」に行くことができるルートを選んでいました。都会では、直線の最短ルートで目的地まで辿りつけないことが多いですが、直線ルートからそれて進まなければならないとき、人は最短ルートを計算するより、「目的地の方角との差ができるだけ少ないルート」を選ぶ傾向があることが判明したのです。

 

同研究チームはこの経路のことを「pointiest path(狙いを定めたルート)」と表現していますが、この行動パターンは道路が複雑に入りくんだボストンやケンブリッジのほか、碁盤の目のように街が作られているサンフランシスコでも見られました。それと同時に、出発地と目的地を往復する場合、人は行きと帰りは違うルートを選ぶ傾向があることも明らかにされ、人間がいつも合理的な選択をしないことが浮き彫りにされました。

 

目的地からそれないほうがいい

このような人間の行動には、「ベクトルベース・ナビゲーション」と呼ばれる能力が働いているようです。最短経路を考える際には頭を使うことが多いですが、ベクトルベース・ナビゲーションはそこに使う労力を減らす代わりに、ほかのタスクにエネルギーを分散させることが特徴。

 

これは霊長類や昆虫などの動物でも見られます。動物の場合、移動するときは、ライオンといった危険な獣から自分自身や家族を守ることが大切なので、頭で最短ルートを「計算」する代わりに、周囲の安全に気をつけながら、あまり頭を使わずに、できるだけシンプルかつ割と速く目的地に辿り着くルートを選ぶようになっていったのではないかと考えられています。同研究チームの教授によれば、人間についても「ヒトの脳は『トレードオフ(必要な妥協)』や『ほどほどで良い』という考えに行きつくことが多い」とのこと。

 

カーナビやGoogleマップといったコンピューターは、コードで指示されたとおりに実行し、最短ルートを計算して人間に提示します。でも今回の研究で明らかになったように、人間の脳は機械と違って、非合理的なことがたくさんあります。大事なことは、両者の違いについて理解を深めること。今回の発見は人工知能の開発に何らかの示唆を与えると見られます。

ロシアの「通信料金」はコスパが最強だった!

ロシアの通信料金は、世界的に見ても信じられないほど安いことをご存知でしょうか? ヨーロッパの平均通信料金の4分の1とも言われています。近年では銀行が通信サービスに参入し、さらに安いサービスが登場。各社の携帯電話通信費や家の通信費を比較しながら、ロシアの破格な通信料金の背景を解説します。

↑ロシアの通信料金はありがたいほど安い

 

まずは、ロシアの通信料金(※)を見てみましょう。モバイル通信分野でロシア国内最大手のエムテーエスは、下記のような月額プランを打ち出しています(2021年11月3日現在)。

※1ルーブル=約1.6円で換算(2021年11月1日時点)

 

携帯電話の通信費(5GBの通信費付):470ルーブル/月(約757円)

自宅のインターネット回線(200mbps):500ルーブル/月(約806円)

 

通信費はアプリで手軽にいつでも変更可能。新しいプランはすぐに適用されるなど、日本と違い、プラン変更の容易さはロシアの特徴の1つです。

 

ロシアのインターネット環境は街の至る所で整備されており、レストランやショッピングモールはもちろん、地下鉄をはじめとする公共交通機関、さらに路上の多くの場所でフリーWi-Fiが使えます。このWi-Fiは自宅の中からでも繋がるので、端末のモバイルネットワークを使用する機会はそれほど多くありません。よって、携帯電話の通信費が安いプランでも問題がないのです。このような理由で、ロシアは「Wi-Fi天国」といえるかもしれません。

↑ロシアの地下鉄のフリーWi-Fi

 

なぜそれほど通信料金が安いのでしょうか? その理由を明らかにするため、筆者はヤンデックス社のプログラマー数人にインタビューを行いました。ヤンデックス社はロシア最大のインターネット企業で、「ロシアのGoogle」とも言われています。

 

彼らによると、主に3つの理由が挙げられるとのこと。

 

その1: ロシアの平均収入が低い

ある法律系情報誌の調査によると、ロシアの平均月給は5万1344ルーブル(約8万2680円)と、日本や欧米と比べると低い水準。それに合わせる形で通信料金の価格が設定されたといいます。

 

その2: ロシアにはインターネットプロバイダーが多数ある

国家通信情報管理庁によると、ロシアでライセンス登録されているプロバイダーは18万4810社(2021年11月2日時点)。消費者は数多くあるプロバイダーから自由に選ぶことができるので、自然と価格競争が起きた。また、プレーヤーが多いからこそ吸収や合併も頻繁に起こり、その結果として1社の経営規模が大きくなり、価格を抑えることができる。これは価格を下げることでユーザー数を増やし、一人当たりの費用を少なくするという仕組みです。

 

その3: ネット普及率がとても高く、需要が大きい

Digital 2020によると、ロシアのインターネット普及率は81%。ヤンデックス社のプログラマーによれば、ロシアは通信回線の速度、質、金額において世界で最もコストパフォーマンスが良い国の1つであるそう。ロシアはインターネットを普及させる際、アメリカから最新技術を輸入しました。しかし、価格はロシアの生活水準に合わせたので、質が最新であるにもかかわらず、価格はユーザーにとって「ありがたいほど安かった」とのこと。これにより需要は増え、上で述べたように供給側で競争が起こり、価格が低いままであるそうです。

 

銀行も参入

ロシアのプロバイダーは増え続けており、近年では銀行も参入し、口座を持っている顧客には携帯電話通信サービスを安く提供するシステムが登場しました。ガスプロムバンクはロシア最大の非国有銀行であり、同国三大銀行の1つですが、2020年12月に次のようなサービスを始めました。

 

携帯電話通信費(4GBの通信費付):250ルーブル/月 (約403円)

口座を持っており規定を満たす場合:75ルーブル/月 (約121円)

 

銀行口座保有者に提供されるこの価格は、特に低所得者層や年金受給者層の間で人気です。年金受給者である筆者の義父もこのサービスに変えましたが、問題なく使えるそうで、とても満足しています。

 

昨今のコロナ禍でネット需要はますます高まっており、今後もロシアではプロバイダーが増え続けることでしょう。そうなったとしても吸収・合併が起こり、通信サービスは低価のまま提供され続けることが予想されます。ロシアの安くて速い通信回線は今後も国の成長を助ける大きな力となるでしょう。

ステンレスより23倍も硬い「木製ナイフ」が誕生!

テーブルナイフは、ステーキを切ったり魚を切り分けたり、安全でありつつも切れ味が良いことが求められます。一般的なテーブルナイフには、鉄にクロムなどを含有した合金「ステンレス鋼」が使われていますが、最近、木製のステーキナイフが米国で開発されました。しかも、ステンレス鋼より23倍も硬いというのです。

 

木材の欠点を補う新プロセスとは?

↑木製なのにステンレスより硬くてよく切れるって!?(画像提供/Cell Press)

 

木材は、自然にある木を原料としており、リサイクル率が高いことから、サステナブルな素材のひとつとして捉えられています。しかし、木材は軽量で耐久性や強度がある一方、成形しにくいという難点があります。金属やコンクリートなどは液状にして型に流し込んで冷やし固めれば、さまざまな形のモノを形作ることができますが、木材ではそれができません。

 

そんな木材の問題を解決するため、米国・メリーランド大学で材料工学を専門とする研究チームが、新しい木材の開発に挑みました。このチームが取り入れたのは「ウォーター・ショック・プロセス」という工程。木材にはリグニンと呼ばれる成分が含まれており、このリグニンは木材の繊維を強く結びつける、接着剤のような役割を果たしています。しかし、リグニンは木材を硬化させるため、ウォーター・ショック・プロセスでは、最初にこのリグニンを木材から除去。さらに圧縮して木材の繊維や気孔をつぶして、水分をしっかり蒸発させてから、再び水分を吸収させて膨潤させます。こうすることで自由に成形できるような素材ができあがったと同時に、このプロセスを経た木材の硬度は、当初の23倍にも増したそうです。

 

また、硬さとは別の強度については、できあがった素材は従来の木材の6倍も強くなり、アルミニウム合金などの軽量素材に匹敵するとか。さらに、従来のテーブルナイフの3倍も切れ味が鋭いと言われています。電子顕微鏡で内部を確認すると、木材に多くある空洞がなくなっていたことから、「ウォーター・ショック・プロセス」の工程で天然の木材の欠陥をカバーし、強度を上げることに成功したと考えられます。

 

木材は水に濡れて腐りやすいという欠点もありますが、オイルでコーティングすることで、洗って繰り返し使えるよう耐久性をアップ。使い捨てカトラリーに替わるものとして、この木製素材が注目されるのではないかと、この研究チームは期待を寄せています。

 

ナイフなど従来の合金製のカトラリーは、製造時に高温にする工程があり大きなエネルギーが必要となります。しかし今回の木製素材ではそのような高エネルギーは不要という点でも、サステナブルな素材として注目されることになりそうです。

 

【出典】Chen, B., et al. (2021). “Hardened wood as a renewable alternative to steel and plastic”. Matter. https://doi.org/10.1016/j.matt.2021.09.020

日本が4年連続で首位!「2021年世界パスポートランキング」

新型コロナウイルスの影響で、自由に海外旅行ができない期間が続いていますが、10月に2021年版世界のパスポートランキングが発表されました。

↑ワクチンパスポートは?

 

ビザを取得せずに海外旅行に行ける国や地域の数を、国別に比較しているのが、イギリスのヘンリー・アンド・パートナーズが2006年からまとめている「パスポートランキング」です。これはIATA(国際航空運送協会)のデータにもとづき、同社が四半期ごとに集計しているもの。2021年10月に発表された第4四半期のランキングは以下の通りです。

 

1位 日本、シンガポール(192)

2位 ドイツ、韓国(190)

3位 フィンランド、イタリア、ルクセンブルグ、スペイン(189)

4位 オーストリア、デンマーク(188)

5位 フランス、アイルランド、オランダ、ポルトガル、スウェーデン(187)

6位 ベルギー、ニュージーランド、スイス(186)

7位 チェコ、ギリシャ、マルタ、ノルウェー、イギリス、アメリカ(185)

8位 オーストラリア、カナダ(184)

9位 ハンガリー(183)

10位 リトアニア、ポーランド、スロバキア(182)

( )はスコア。

 

ある国・地域に入国する際、ビザが必要な場合は0点、パスポートのみで入国できる場合は1点のスコアが換算され、総合スコアでランキングを算出しています。例えば、日本はスコアが192なので、日本人がビザなしで入国できる国と地域は192あるということになります。

 

日本は2018年から4年連続で首位を維持。1位から3位に日本、シンガポール、韓国のアジア勢が並んだほか、トップ10はヨーロッパの国々で占められていることがわかります。

 

ところで、このパスポートランキングは一時的な入国制限などを考慮していません。パスポートランキングで上位だからといって、コロナ禍のもとではパスポートだけで渡航できる国はほとんどないでしょう。

 

例えば、アメリカ合衆国は2021年11月8日から、18歳以上のすべての外国人の入国に新型コロナウイルスのワクチン接種完了と陰性証明を義務付けています。イギリス(イングランドのみ)は同年10月4日から、対象国の感染状況によって「レッドリスト」または「レッドリスト以外」に分類するシステムを採用していると同時に、ワクチン接種の有無によっても渡航手続きが変わります。フランスは渡航者の出発地を感染状況に応じて3つのカテゴリー(緑・オレンジ・赤)に分類し、異なる規制を実施しています(※)。

 

日本のパスポートは“世界最強”ですが、個人のワクチンパスポートはまた別の話。しばらく注意が必要そうです。

 

※各国の入国規制は2021年11月8日時点での情報です。

あっという間に手続きが完了! イギリスのモバイル料金事情

日本では2021年10月からキャリアがSIMロックをかけることが原則禁止になりましたが、イギリスでは以前からSIMフリーの端末が普及しています。どのような料金プランがあるのでしょうか? イギリスの通信料金を概説します。

↑イギリスの携帯電話事業者の1つボーダフォン

 

現在、イギリスには携帯電話事業者が4社、プロバイダーが12社ほどあります。申し込みはスーパーの店頭や電話、Webサイトなどで行います。サービス内容と料金プランがとてもシンプルで、登録には煩雑な手続きがないため、手続きはあっという間に終わります。筆者の経験では10分程度が最短です。電話やWebサイトでスマートフォンを購入した場合、契約翌日から1週間ほどでSIMカードとデバイスが自宅に届き、自分で設定した後すぐに使い始めることができます。

 

日本では2021年10月からキャリアがSIMロックをかけることが禁止になりましたが、イギリスではSIMフリーの端末が普及しています。イギリスの大手通信会社の1つ「Three」の料金プラン(SIMカードのみ)を見てみると、一般的な8GBが11ポンド(約1650円)ですが、ほかにもさまざまなプランがあります(以下の図を参照。1ポンド=約155円換算〔2021年11月2日時点〕)。

 

【Threeの契約プラン(12か月)】

通信容量 通話※ 月額料金
アンリミテッド(無制限) 無制限 20ポンド

(約3100円)

30GB 無制限 15ポンド

(約2320円)

12GB 無制限 13ポンド

(約2010円)

8GB 無制限 11ポンド

(約1700円)

4GB 無制限 10ポンド

(約1550円)

2GB 200分 7ポンド

(約1080円)

1GB 無制限 7ポンド

(約1080円)

 

また、イギリスには日本の交通ICカードのように、使いたい分だけチャージして使うことができる「PAY AS YOU GO」というプリペイド式の支払い方法があります。信用調査がないので、イギリスに来たばかりの人でもすぐに使い始めることができ、アプリやオンラインでチャージすることが可能。以下の表はThreeのPAY AS YOU GOプランです。

 

【ThreeのPAY AS YOU GOプラン】

通信容量 通話※ 料金
アンリミテッド 無制限 35ポンド

(約5420円)

50GB 無制限 20ポンド

(約3100円)

30GB 無制限 15ポンド

(約2320円)

12GB 無制限 10ポンド

(約1550円)

※通話はショートメッセージを含む。出典: http://www.three.co.uk

 

なお、自宅のインターネットとあわせたお得な契約プランもありますが、イギリスでは、まだ電話線として使われている銅線をインターネット配線として使用しているエリアがあり、同じ通信会社でもユーザーが住むエリアによって通信速度が変わることがあります。配線工事は常に行われており、各社が通信速度の高速化に取り組んでいますが、自宅の通信環境やWi-Fiの有無によって、スマートフォンの料金プランの選び方が変わるかもしれません。

 

以前、筆者が日本で携帯電話を購入したとき、手続きに丸一日かかった記憶がありますが、これは今日のイギリスではほとんど見られません。手続きの簡略化や、PAY AS YOU GOを含めた幅広い契約プランの存在がイギリスと日本の主な違いといえそうです。

 

筆者/ukihaddy

生物進化論が示す「男性より女性のほうが寒がり」なワケ

冷房や暖房の温度設定で夫婦ゲンカが勃発……。家庭の事情や性格の違いはさておき、その一因として、女性は寒がりで男性は暑がりということが挙げられます。実は、この性別による温度の感じ方の違いは人間に限った話ではありません。鳥類にも同じ傾向があり、メスは進化上の理由で寒がりになったようです。

↑進化して寒がりになった?

 

メスは寒がりで、オスは暑がり。人間と同じように、鳥類のそんな傾向を突き止めたのは、イスラエルのテルアビブ大学でコウモリの研究を行っているレビン博士です。博士は、コウモリが繁殖期になるとメスとオスが別れ、メスは温暖な地域で出産し子育てを行う一方、オスは涼しい場所に生息することを発見しました。

 

このことに興味を持ったレビン博士は同じような研究論文を探したところ、コウモリ以外でも、多くの鳥類や哺乳類で同じような傾向が観察されていることがわかったのです。

 

そこで今度は、1981年から2018年の約40年間でイスラエルで収集した情報を参考に、13種類の渡り鳥と18種類のコウモリ、合計1万1000羽以上について個体調査を実施しました。

 

その結果、観察を行った鳥類とコウモリの全般で、オスがメスより低い温度の場所を好んでいることが明らかとなったのです。しかも繁殖期にメスとオスが別で生活するのは、この気温の好みの違いが原因だといいます。

 

女性が寒がりなのは、人間に特有のことではなく、鳥類でも同じような傾向が見られるとわかった今回の研究。この結果を発表した研究チームは、メスが寒がりになった理由について次のように推測しています。

 

「メスとオスで好む温度が異なることで、繁殖期に別々に行動するようになります。オスは弱い子どもを攻撃する可能性がありますが、子育て中のメスがオスと分離されれば、そのようなリスクが軽減され、さらに食べ物などをめぐった争いが少なくなるでしょう。また哺乳類のメスは、体温調節機能が不十分な子どもを自分の体温で守らなければならないため、温暖な気候を好むようになったのではないかと考えられます」

 

つまり、進化の過程でメスは子どもを守るために、オスと異なる温度を好むようになっていったのではないかということ。エアコンの温度設定で見られるような人間の男女間の温度感覚の違いには、このような理由もあるのかもしれません。

 

【出典】Magory Cohen, T.,  Kiat, Y.,  Sharon, H., &  Levin, E. (2021).  An alternative hypothesis for the evolution of sexual segregation in endotherms. Global Ecology and Biogeography,  00,  1– 11. https://doi.org/10.1111/geb.13393

まるで弓だ!「タツノオトシゴ」の瞬殺技のメカニズムが明らかに

タツノオトシゴといえば、水族館などで水の中にプカプカと浮いている姿をイメージする人が多いのではないでしょうか? ほとんど前に進まないその泳ぎはとても遅く、泳ぎ下手な魚として知られています。しかし、そんなタツノオトシゴが、目にも止まらぬ速さのスゴ技を持っていることがわかりました。

↑身体の使い方が独特なタツノオトシゴ

 

タツノオトシゴを調査しているイスラエルのテルアビブ大学の研究チームによると、タツノオトシゴは一日のほとんどの時間を、海藻やサンゴの近くで過ごすとのこと。尾を海藻やサンゴに絡みつけて固定させ、頭を下方向に向けた状態にし、自分の頭上を獲物が通ると、それを素早く捕まえるのです。このとき、タツノオトシゴは頭を素早く起こしますが、その動作は、動きの遅いタツノオトシゴのものとは考えられないほど、目にも止まらぬ速さなのです。

 

そこで、先行研究では詳しく解明されてこなかった、タツノオトシゴがどのように獲物を捕まえて食べているのかを、同研究チームは詳しく調べることにしました。

 

研究チームが使ったのは、1秒間に4000コマを撮影できるハイスピードカメラと、水の流れをレーザーで画像化するシステムです。これらを使い、タツノオトシゴが獲物を捕まえる様子を撮影し、その動きを定量的に分析しました。

 

その結果、タツノオトシゴは捕食するとき、身体がバネのようになることが判明。彼らは背中の筋肉を使って柔らかい腱を伸ばし、首の骨を「引き金」にして頭を動かしていたのです。そのスピードはわずか0.002秒。この一連の動きはクロスボウ(弓の一種)のようだ、と同研究チームは述べています。

 

しかも、この素早い動きに伴い、強い水の流れが発生していました。同じ大きさの魚に比べると10倍の速さの水流が生じ、それによって獲物がタツノオトシゴの口元に流れ込みやすくなっていることも判明。さらに、頭を動かす速さと水流の強さは、タツノオトシゴの鼻の長さによって決まることもわかりました。次の通りです。

 

・鼻が短ければ、強い水流は強くなるが、頭を動かす早さは中程度になる。

・鼻が長ければ、水流の強さは中程度になるが、頭を素早く起こせる。

 

タツノオトシゴは種類によって鼻の長さが異なりますが、進化の過程で、よく捕まえる獲物の大きさや特徴に合わせて鼻の長さが変化していったのではないかと考えられます。

 

普段はのんびり海の中で過ごしているように見えるタツノオトシゴですが、いざとなれば弓のように俊敏に身体を動かしていることがわかりました。能ある鷹は爪を隠すとは、このことでしょう。

 

【出典】Corrine Avidan, Roi Holzman; Elastic energy storage in seahorses leads to a unique suction flow dynamics compared with other actinopterygians. J Exp Biol 1 September 2021; 224 (17): jeb236430. doi: https://doi.org/10.1242/jeb.236430

なぜ「プリペイド」が人気? ドイツのモバイル料金事情

日本では、2021年10月1日からSIMロックが原則廃止されました。海外に目を向けると、SIMロックの適用や規制は国によって異なるようですが、ドイツでは以前からSIMフリーが一般的。1つのキャリアに縛られず、自分の携帯電話の使用状況に合わせてプランを探せるのは、節約好きなドイツ人の国民性にピッタリですが、実際には、どのような料金プランがあるのでしょうか?

 

スーパー独自のプリペが安い

↑スマホの契約はシンプルに

 

ドイツでは、携帯電話料金のプランは「契約」と「プリペイド」に分けられ、日本と異なり、プリペイド式携帯の使用率が高いことが特徴です。ある調査によると、2020年時点で携帯電話会社との契約の割合が75.9%、プリペイドの使用が24.1%とのこと。日本でプリペイド式は普及していませんが、ドイツではプリペイドカードがリーズナブルなうえ、スーパーなどで手軽に購入できます。

 

ドイツでもSIMロックのスマートフォンは販売されており、2年契約の縛りがありますが、プリペイドの利点は自分が必要なときに必要な分だけカードを購入することができること。Wi-Fiが普及した今日、SIMフリーの携帯電話が一般的に使われているドイツでは、プリペイド式のほうがお得になることがあります。

 

ドイツでは、携帯プリペイドカードが至るところで購入可能。携帯ショップや家電量販店ではもちろん、スーパーやドラックストア、郵便局、キオスク(コンビニ)などでも簡単に購入することができます。MVNO(仮想移動体通信事業者)が提供する格安SIMプリペイドについては、大手スーパーなどが自社ブランドのカードを販売していることが注目すべき点。各スーパーが価格やスペックを競い合っており、店内の冷蔵コーナーの横などにプリペイドカードが陳列されているのは、日本ではほとんど見ない光景です。

 

ドイツの大手携帯電話事業者は、ドイツ・テレコム、ボーダフォン、オーツーの3社で、日本のNTTドコモやソフトバンク、auにあたります。大手キャリアでは携帯電話契約プランとプリペイドプランの両方が販売されている一方、それ以外では格安SIM料金が特徴のMVNOがプリペイドプランで人気を集めています。

 

ドイツの携帯契約料金形態は、基本的に「通話し放題」と「インターネット通信容量」によって価格が変わります。この点はプリペイドプランでも同様。例として、大手ドイツ・テレコムと、ドイツ国内スーパーのカウフランドが提供する格安SIMの料金プランを挙げてみます(1ユーロ=約133円で換算〔2021年10月21日時点〕)。

 

ドイツ・テレコムの場合

契約プラン

6GB 12GB 24GB
39.95ユーロ

(約5300円)

49.95ユーロ

(約6630円)

59.95ユーロ

(約7960円)

 

プリペイドプラン

2GB 3GB 5GB
9.95ユーロ

(約1320円)

14.95ユーロ

(約1985円)

24.95ユーロ

(約3310円)

(出典:ドイツ・テレコムサイト)

 

カウフランドの格安SIMの場合

プリペイドプランのみ

3GB 6GB 12GB
7.99ユーロ

(約1060円)

12.99ユーロ

(約1725円)

19.99ユーロ※

(約2650円)

※利用データ量が12GBを超えた場合、請求月末まで通信速度が低速化する

 

プリペイドがお得なユーザーは?

↑ドイツのスーパーでは、さまざまなプリペイドカードが陳列されている

 

上記の料金一例を見ると、データ容量の少ないプランの場合、月々の料金はプリペイドのほうが割安になることがわかります。どのようなタイプのユーザーにプリペイドが好まれるのかといえば、ドイツでは次の2つが挙げられます。

 

・ビジネス用の携帯とは別にプライベートで携帯を使用する場合
・在宅ワークやWi-Fi環境にいることが多い場合

 

一般的にプリペイドにも無制限の通話が付帯されているので、インターネットをあまり使用しなければ、費用とデータ量が少ないプリペイドで十分といえます。出張や外出が少ないユーザーの場合、自宅のWi-Fiを使えば、プリペイドの制限を気にすることなく、スマートフォンを使用できるでしょう。

 

ドイツで携帯電話を新規購入する人や現在の契約から変更しようとする人は、何を基準にプリペイドを選ぶのでしょうか? プリペイドのメリットとデメリットを挙げてみます。

 

【プリペイドのメリット】
・月々のインターネット料金を節約できる

・年間契約がない

・子どもに持たせる携帯電話の使用を制限できる

 

【プリペイドのデメリット】
・事前払いでしか購入できない

・翌月分のチャージを忘れてしまいがち(一般的にプリペイドはチャージ式です)

・海外での通話料金(EU圏外の場合)やローミングが高い(契約プランの場合、海外でもEU圏内同様に使用できるオプションがある)

 

3つ目のデメリットで「海外での通話料金」を「EU圏外の場合」と補足していますが、そこにはヨーロッパならではの理由があります。

 

EU圏内ならローミング料金が不要

2017年6月、EU圏内であれば、ローミング料金を追加することなく携帯電話を使うことができるようになりました。この法案はプリペイドにも適用されており、ヨーロッパの通信事情に大きな変化をもたらしました。

 

他国と陸続きで隣り合わせのヨーロッパでは、旅行や仕事ではもちろん、国境近くに住んでいる人の中には、隣国にちょっと買い物に出かけたり、学校に通ったりしている人がいます。しかし、ローミングがオンのままになっていることに気づかずに、自国以外で携帯電話を使用してしまうと、帰国後に多額の料金を請求されてしまうことがありました。これが2017年の法案によって廃止されたうえ、EU圏外でも料金を気にすることなく使用できるようになったのです。

 

もともとこの法案では、ローミング料金が2022年までに段階的に引き下げられる計画でしたが、2021年2月、EUはさらに10年間延長する意向を発表。この制度はさらなる改善が期待されていますが、ドイツ人を含め、EU圏内を行き来する人にとっては目の離せないテーマです。

 

日本と異なり、プリペイドプランが普及しているドイツ。EU圏内だけでなく圏外でもローミング料金がかからなくなるなど、スマートフォンの使用料金は今後さらに節約できそうです。

海外で話題沸騰中の「Profee(プロフィー)」とは?

コーヒーにココナッツオイルを加えた「ココナッツオイルコーヒー」、グラスフェッドバターを加えた「バターコーヒー」など、コーヒーにはさまざまな飲み方がありますが、最近、海外で注目を集めているのが「プロフィー」です。「朝食や運動前に最適」と話題を集めていますが、どんなものなのでしょうか?

↑TikTokに投稿された「Proffee」投稿の一例

 

プロフィーとは、「プロテイン」と「コーヒー」を組み合わせた言葉で、プロテイン入りコーヒーのこと。TikTokの海外ユーザーを中心に2021年春頃から口コミで広がり、2021年10月19日時点で「#proffee」のハッシュタグの視聴回数は450万回、「#proteincoffee」は3000万回以上にもなっているのです。

 

プロフィーの作り方は、ブラックコーヒーにドリンクタイプまたは粉末のプロテインを混ぜるだけ。最もベーシックなプロフィーはアイスコーヒーを使うようですが、エスプレッソにしたり、お好みでシロップなどを使って甘味を足したりしてもいいでしょう。

 

このプロフィー人気の秘密はもちろん、身体に必要な栄養を簡単に取れること。日本語で「タンパク質」を指す英語のプロテイン(protein)は、筋肉を増やしたり健康を維持したりするために必要不可欠な栄養素で、その摂取は一日の始まりである朝が一番良いと言われています。だから、コーヒーのカフェインで眠気を覚まし集中力を高めながら、同時にプロテインでタンパク質を取ることができるとあって、プロフィーは朝の1杯にピッタリというわけです。

 

また、プロフィーは運動前に飲むドリンクとしても最適とか。学術誌『Nutrients』に掲載された研究によると、活動的な人がカフェインとタンパク質を摂取すると、高強度の運動でパフォーマンスが上がることが報告されたとのこと(※)。運動前にカフェインを摂取すると、身体が疲れにくくなったり、脂肪燃焼効果が高まったりするとされる一方、プロテインは運動前に飲むと筋肉が分解されるのを防ぐため、筋肉アップにつながるそう。そこで、カフェインとプロテインの2つを同時に摂取できるプロフィーは、運動前の1杯として勧められているのです。

 

普段コーヒーにミルクや砂糖を入れて飲む方は、それらをプロテインに変えると、ミルクと砂糖の摂取量を減らせるメリットがあるでしょう。朝食にタンパク質を摂取すると、体重管理や減量に役立つという見方もあります。

 

一長一短

その反面、プロテイン(特に人工的なもの)の過剰摂取は腎臓を悪くすると指摘されています。消化不良や頭痛、吐き気などを引き起こすリスクも無視できません。さらに、糖分がプラスされたプロテインは避けるべきでしょう。大豆や乳製品由来の天然の糖分が含まれているプロテイン製品がありますが、これに糖分が添加されていると、不必要なカロリー摂取につながります。適切な摂取量は体重などによって異なるため、プロテイン製品のパッケージに記載されている目安量を守ることが大切です。

 

爆発的に増えたプロフィーのSNS投稿は、たくましい筋肉の象徴になっているようですが、流行に乗る前にプロテインの長所と短所を客観的に評価することをお忘れなく。

 

※Forbes, S. C., Candow, D. G., Smith-Ryan, A. E., Hirsch, K. R., Roberts, M. D., VanDusseldorp, T. A., Stratton, M. T., Kaviani, M., & Little, J. P. (2020). Supplements and Nutritional Interventions to Augment High-Intensity Interval Training Physiological and Performance Adaptations-A Narrative Review. Nutrients, 12(2), 390. https://doi.org/10.3390/nu12020390 

日中に屋外で過ごすほど健康になる! オーストラリアの大学の研究

運動の秋が到来しました。公園で散歩したり、スポーツをしたり、ヨガをしたり。秋は外で身体を動かしやすい季節ですが、最近行われた大規模な定量調査で、日中に屋外で過ごす時間は、睡眠の改善やうつ病のリスクの低下につながることがわかりました。

↑さあ、日光を全身で浴びよう!

 

日中は明るく、夜は暗くなることで、私たちは自然と昼夜の区別をしています。しかし現代の生活では、夜眠る直前までPCやスマホのブルーライトを浴びている人が多く、そのような夜間における光の照射が身体に悪影響を及ぼすことは近年よく知られるようになりました。しかし、日中に光を浴びることの効果は科学的に明らかにされていないことが多くあります。

 

そこで、オーストラリアのモナッシュ大学で睡眠の研究を行っている心理学者のチームが、日光が人間の健康に与える影響について調査を行うことにしました。

 

この研究チームでは、イギリスの調査機関「UKバイオバンク」と協力して、40万人以上の成年のイギリス人を対象に、屋外での過ごし方、そのときの気分や服用している薬などについて質問を行いました。

 

やっぱり外は気持ちがいい

その結果、イギリスの成人は屋外で1日平均2.5時間を過ごし、朝型の人は夜型の人よりも、屋外で過ごす時間が長いことがわかりました。さらに日中に屋外で過ごす時間が1時間増えるごとに、うつ病の発生率と抗うつ剤使用量が下がり、幸福感が増し、朝の目覚めやすさや疲れにくさが改善されていることもわかったのです。

 

日中に屋外で日光を浴びることは、心身に良い影響を与える。このことは多くの人が実感していることですが、今回の大規模調査の意義は、日中に屋外で過ごす時間が増えるごとに、うつ病にかかるリスクが下がり、幸福感や睡眠の質が上がるということが客観的にわかったことでしょう。

 

この論文で、「現代の生活では、昼夜の区別が曖昧になっている」と書かれているように、太陽の光を浴びる時間が減り、起きている時間のほとんどを人工的な照明のもとで過ごしている人が多いかもしれません。しかし、光は睡眠を促すメラトニンを抑制する働きがあるため、本来なら暗くなる夜間に多くの光を浴びると、睡眠が乱れることになってしまいます。このような睡眠サイクルの乱れが、幸福感の減少やうつ病発症のリスクなどにつながるのでしょう。

 

もしも「最近気分が落ち込みがち」「よく眠れない」と感じたら、それは日中に太陽の光を十分浴びていないことが関係しているのかも……。夜は強い光をできるだけ避け、仕事をしている平日であっても、昼休みには積極的に外に出るなど、意識して外出することがいいのかもしれません。

 

【出典】Angus C. Burns, Richa Saxena, et al. (2021). Time spent in outdoor light is associated with mood, sleep, and circadian rhythm-related outcomes: A cross-sectional and longitudinal study in over 400,000 UK Biobank participants, Journal of Affective Disorders, 295, 347-352. https://doi.org/10.1016/j.jad.2021.08.056 

 

 

50mプール4億杯分の岩石とガス! 40億年前の火星で「スーパー噴火」が起きていた

遠い昔、火星では火山の噴火が起きていましたが、最近のNASAの調査で、そこでは「スーパー噴火」が数千回も起きていたことが明らかになりました。一体これはどのような噴火なのでしょうか?

↑火星の「アラビア大陸」に残されたクレーター(画像提供/NASA・JPL-Caltech・University of Arizona)

 

火星には多くの火山があり、その中には太陽系で最大規模のオリンポス火山があります。ハワイ島にあるマウナロアは地球上で最も大きな火山で、標高4000m以上、基底での直径は100kmほど。それに対して、火星のオリンポス火山は標高25000m、直径は約700kmに及びます。ただし火星には多くの火山がありますが、いずれも10億年以上前に活動をやめた死火山です。

 

NASAのゴダード宇宙飛行センターに所属する地質学者たちが、そんな火星の北部にあるアラビア大陸の地形や鉱物の組成を調べたところ、過去にスーパー噴火が何千回も起きていたことがわかりました。

 

スーパー噴火(英語で「supereruption」)は、日本語では「破局噴火」とも呼ばれています。スーパー噴火は、大気中に大量の塵、二酸化硫黄などの有毒ガスを放出。それらの塵やガスによって太陽光が遮られて寒くなるなど、この規模の噴火はその後の惑星の気候を変化させるほど大きな影響を及ぼします。

 

もともとこの地帯には、クレーターのような窪みがあり、当初この窪みは小惑星が火星に衝突したことで生まれたと考えられていました。しかし2013年の研究で、この窪みは火山によるカルデラ(火山活動でできる円形または楕円形の凹地)である可能性が指摘されたのです。

 

そこで、この地質学者のチームは、火星探査機「マーズ・リコネッサンス・オービター」(MRO)が撮影した画像とアラビア大陸の3D地図を使って、火山灰を調査。画像から地表にある鉱物を特定し、そのデータをアラビア大陸の3D地図に重ね合わせていきました。彼らはこうして、およそ40億年前にスーパー噴火が何千回も繰り返し起きていたことを突き止めたのです。

 

このスーパー噴火では、50mプール4億杯分もの量の溶解した岩石とガスが地表に吹き出したそう。火星でのスーパー噴火はアラビア大陸に集中していたようですが、なぜそうなったのかなど、まだ火星の噴火に関する疑問は数多く残されています。

 

【出典】Whelley, P., Matiella Novak, A., Richardson, J., Bleacher, J., Mach, K., & Smith, R. N. (2021). Stratigraphic evidence for early martian explosive volcanism in Arabia Terra. Geophysical Research Letters, 48, e2021GL094109. https://doi.org/10.1029/2021GL094109

「ロックダウン優秀国」ニュージーランドをさらに魅力的にする2つの家具

在宅勤務が広がり、自宅の家具を見直す人が世界中で増えています。「ロックダウン(都市封鎖)優秀国」と呼ばれるニュージーランドでは、組み立て式移動型デスクとマットレスが大人気とか。一体どんなアイテムなのでしょうか?

 

ノマドワーカーに人気の組み立て式移動型デスク

組み立て式移動型デスクの「Work From Home Desks」は、もともとニュージーランドでイベント事業を手掛けていた企業が開発しました。新型コロナウイルスの影響で従来の事業の先行きが危ぶまれ、新たなプロジェクトを始める必要に迫られた同社は、リモートワーカーをターゲットにしたデスクを開発しました。コロナ禍で「家の中で場所を問わず、快適な仕事環境を整えたい」というニーズが高まっていたからです。

 

また、一般的にニュージーランド人はワークライフバランスを重視し、スポーツやアウトドア活動が好きです。この組み立て式移動型デスクは、キャンピングカーなどの中でも使えることもあり、リモートワーカーだけでなく、ノマドワーカーからも注目されています。

↑「Work From Home Desks」を使って、こんなふうに働けたら

 

Work From Home Desksは、機能性や利便性の高さが特徴。人間工学に基づきながら、立ち作業と座り作業がすぐに切り替えられるように設計されています。コンパクトに折り畳めるうえ、持ち運びも簡単。それだけでなく、多くのユーザーは「耐久性も良い!」と評価しています。また、自然を連想させるために、素材にはニュージーランドの天然白樺を使っています。

 

価格はスタンダードタイプが902NZドル(約7万3000円※)、イスやバンドル付きのアッパータイプが1422 NZドル(約11万4000円)。家具なので値が張りますが、その価値は十分ありそうです。

※1NZドル=約80円(2021年10月15日時点)で換算

 

睡眠の質を高めるマットレス

↑ニュージーランドで人気沸騰中の「Ecosa Topper」(画像提供/Ecosa)

 

ロックダウンという未曽有の出来事は、世界各国で多くの人に精神的なストレスを与え、その影響は睡眠にも及んでいます。ニュージーランドも例外ではなく、「睡眠の質が低下している」と感じている人が少なくない模様。当然ながら「睡眠環境を改善したい」というニーズが高まっています。

 

そんな中で人気を集めているのが、隣国オーストラリアのEcosa社が製造するシートマットの「Ecosa Topper」。高い通気性と冷たい感触のジェルが組み込まれた素材をマットに用いていることが特徴。「ジェル・メモリーフォーム」と呼ばれる素材が柔らかい感触を与えると同時に、マットがユーザーの身体にフィットするようになっています。

 

同製品のユーザーによるレビューを見てみると、「ベッドを新たに買うよりも遥かにコストを抑えられる」という声が目立ちます。価格は384NZドル(約3万1000円)〜と確かに経済的です。

 

また、寝具の良さを体感するためには、3か月程度の期間が必要だと一般的に言われています。同社はそのようなニーズに応えるために、購入から3か月以内であれば無料で返品することが可能。ロックダウン中はベッドの寝心地を直接店舗で試せないこともあり、ユーザー視点に立ったこのような対応も好評な理由と言えるでしょう。

 

「コロナリスクの低い国」として注目を集めているニュージーランドでは、欧州各国やオーストラリアなどから帰国する人や、投資目的で海外から移住する人が増加しています。本稿で取り上げたようなデスクやマットレスが、コロナ禍でも彼らの生産性と幸福感を高めているかもしれません。

若い世代の4割は「気候変動のために子どもを持ちたくない」ことが判明

9月中旬、英デイリーメール紙が、気候変動に関する研究についての記事を掲載しました。10か国で計1万人の若者を対象に調査を行なったこの論文によると、うち4割が「気候変動を理由に、子どもを持ちたくない」と答えたとのこと。気候変動が若い世代に暗い影響を及ぼしているようです。

↑「THERE IS NO PLANET B」(プランBもプラネットBもない)というプラカードを持って、政府に迅速な行動を求める若者たち。「PLANET」は「PLAN」(計画)と「PLANET」(惑星〔地球を指す〕)の掛け詞

 

サステナビリティをテーマにしたオープンアクセスジャーナル『Lancet Planetary Health』での掲載に向けて査読が行われているこの研究は、気候変動をテーマに、心理学・児童メンタルヘルス、気候不安といった分野の専門家11人が行いました。イギリス、フィンランド、フランス、アメリカ、オーストラリア、ポルトガル、ブラジル、インド、フィリピン、ナイジェリアの各国で、16~25歳の若者各1000人(計1万人)にアンケート調査を実施。

 

その結果、全体の約6割が、気候変動に対して「極度に心配している」「非常に心配している」と答えていました。「そこそこ心配している」と答えた人も含めると、全体の84%が「気候変動が心配である」と考えているのです。

 

また、気候変動を理由に「未来は恐ろしい」と考える人の割合が75%に上りました。国別にみると、フィリピンが最も高く、92%が「恐ろしい」と回答。ほかにはブラジルで86%、ポルトガルで81%が同様に述べていました。

 

さらに「将来、子どもを持つことをためらう」と答えた人は全体の39%。ブラジルでは48%、フィリピンでは47%と、半数近くがそのように思っていました。気候変動のため未来に希望を持てない若者が多い模様です。

 

このままでは、お先真っ暗

気候変動における政府の対応について、回答者の65%が「若者を裏切っている」と述べており、さらに「取り組みの影響について嘘をついている」と答えた人が64%いました。否定的な考えが多数を占める結果。

 

「自分、地球、未来の子どもたちを守ってくれると思う」という意見は33%にとどまり、「政府は信用できる」という意見も31%という低い結果に終わりました。今回調査の対象となった国には、イギリス、フィンランド、フランスなど、地球環境への意識が高い国が含まれていますが、それらの国でも若者の間では、政府の対応に不満を持っている人が多数を占めているようです。

 

これらの結果は、若い世代で気候変動に対する恐怖や危機感が広がっており、その不安は政府の対応に結びついている可能性があるということを示しています。政府の対応が不十分であったり不誠実であったりすると、若者は自分たちが裏切られたと感じることがあり、それに対するストレスや不安が増大しているようです。

 

この調査を行った専門家たちは、このようなストレスは健康にも影響を及ぼしかねないため、研究を進めると同時に、政府の誠実な対応も必要だと指摘しています。

 

【出典】Marks, Elizabeth and Hickman, Caroline and Pihkala, Panu and Clayton, Susan and Lewandowski, Eric R. and Mayall, Elouise E. and Wray, Britt and Mellor, Catriona and van Susteren, Lise, Young People’s Voices on Climate Anxiety, Government Betrayal and Moral Injury: A Global Phenomenon. Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3918955 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.3918955

実に紳士的! キリンが「フェアプレー精神」を持っていることが判明

キリン同士が戦うとき、彼らは長い首を強くぶつけ合います。イギリスの研究チームが、そんなキリンの行動を観察したところ、キリンの若いオス同士が行う「スパーリング」と呼ばれる戦いでフェアプレーが見られることを発見しました。

↑スパーリングをするならフェアプレーで

 

キリン同士は、長い首を大きく振って、頭を激しく相手に打ちつけて戦います。これは、群れのヒエラルキーを決めたり、メスを巡って争ったりするときに、主に若いオス同士が行いますが、その中には、専門家の間で「スパーリング」と呼ばれる行為もあります。

 

このスパーリングは1958年に初めて報告されましたが、定量的な調査はまだほとんど行われていません。「これは真剣勝負なのか? それとも練習や遊びなのか?」 という区別も明確ではないそう。

 

そこで、英国・マンチェスター大学の研究チームが、南アフリカのモガラクエナ川保護区で、2016年11月から2017年5月までの約半年間にわたりキリンの観察を行い、スパーリングの頻度、時間、強度、その後の影響などについて記録しました。その結果、スパーリングには興味深い特徴が3つ見られたのです。

 

1: 体格と年齢が近い相手とスパーリングする

身体の大きさが違うキリン同士の戦いでは、小さいほうが不利になるもの。しかしキリンのスパーリングでは、体格と年齢が近い相手を選んで行っていることがわかりました。

 

2: 右利き・左利きを考慮する

キリンには首を左右のどちらに振るか好みがあるようで、右利きと左利きのキリンがいることがわかりました。スパーリングでは、2頭が頭と頭で向き合う体勢をとるか、一方の頭ともう一方の尾が向き合う体勢のどちらかを取りますが、体勢を選ぶ際、2頭は相手の利き手を考慮しているようです。つまり、キリンは相手に取って不利となるサイド(利き手でない側)を攻撃しないように、お互いの体勢を取っていたのです。

 

3: 相手にケガをさせない

キリン同士による本気の戦いでは、頭上にあるコブのような角を相手に刺すこともあり、激しい闘いで角が折れたり身体にダメージを負ったりする場合があります。しかし、若いオス同士のスパーリングでは、ケガをするキリンはいませんでした。

 

これらの特徴から、同研究チームは、スパーリングの目的は真剣勝負ではなく、フェアプレーの精神で自分の戦闘能力を試すことにあると述べています。練習や遊びに近いと言えるでしょう。

 

キリンのスパーリングについては、明らかにされていない部分がまだありますが、今回の研究結果は、キリンの間にはマナーがあり、キリンは実にスマートな動物であることを示しています。

 

【出典】Granweiler, J.,  Thorley, J., &  Rotics, S.  Sparring dynamics and individual laterality in male South African giraffes. Ethology.  2021: 127;  651– 660. https://doi.org/10.1111/eth.13199

電気自動車へのシフトにジレンマ! 増えすぎているクルマに英国民がウンザリ

2020年11月、イギリス政府は、ガソリン車とディーゼル車の新車販売を終わらせ、ゼロエミッションカー(二酸化炭素や排気ガス、環境汚染物質を排出しないクルマ)に切り替える計画を発表しました。充電スポットの拡充や、多くの人がより安く購入できるような多額の投資を行っていくとのことでしたが、その発表から1年が経とうとしている現在、「この政策では環境問題を解決できないのではないか?」という懐疑的な意見が出てきています。コロナ禍で自動車産業が直面した予想外の問題も合わせて、ゼロエミッションカーへの移行の難しさについて現地からレポートします。

↑街中の通りにも目立つ路上駐車(イギリスの地方都市郊外)

 

イギリス政府の考え

まずは、イギリス政府が念頭に置いているロードマップを見てみましょう。これは2段階に分けられます。

 

【ステップ①】2030年までにガソリン車とディーゼル車の新車販売を終了する。

【ステップ②】2035年までにすべての新車をゼロエミッションカーにする。2030年から2035年の間は、ゼロエミッションかつ長距離の走行が可能なプラグインハイブリッド車やフルハイブリッド車の販売は認められるようですが、具体的には政府と自動車業界との今後の協議で決められるとのこと。

 

計画の一部では、電気自動車の充電スポットを増やすために約13億ポンドを投入し、家庭をはじめ、主要道路や高速道路でより簡便に充電できることを目指しています。すでにイギリス政府は、14万以上の住宅用充電ポイントと、9000以上の企業スタッフ向け充電スポットの設置を援助しました。現在では、自治体や民間と協力した1万9000を超える公共充電スポットのネットワーク開発も支援しています。

 

さらに、イギリス政府はゼロまたは超低排出ガス車の購入を援助するために、約5億8200万ポンドの助成金を投じ、購入促進につなげる考え。2020年12月からはゼロエミッションカー専用のグリーンナンバープレートを導入しており、ゼロエミッションカーの社会的認知度を高めています。なお、グリーンナンバー車には安価な料金で駐車場を利用できるなどのメリットがあります。

↑イギリス政府は莫大な資金を投入して、充電スポットの拡大を図るが……

 

まさかの半導体不足

しかし、自動車業界はコロナ禍で予想外の事態に直面しました。それは現代のクルマに必須の部品である半導体の不足です。

 

コロナ禍で新車製造の工場を一時ストップし、売り上げの落ち込みを見込んだ自動車各社は、部品のオーダーを減らしました。半導体の工場は、リモートワークの普及などでIT機器の需要が急速に拡大したため、オーダーが減った自動車向け部品製造部門をIT機器部品製造に切り替えました。

 

一方で、ロックダウン(都市封鎖)といった各国の感染対策はサプライチェーンにも大きく影響。中国から北米向けの海上輸出が激増する一方で、港や工場などの現場で働く人々の動きが制限されたため、コンテナが北米の大陸内で停滞。その結果、慢性的なコンテナ不足が起こり、世界中を結ぶロジスティクスは長期的な混乱状態に陥りました。

 

半導体は、開発から資源調達、製造、納品まで、円滑なサプライチェーンが欠かせません。しかし、コロナ禍によりヒトの動きが制限されているため、自動車業界は先の見通しを立てることが難しく、IT業界と部品供給を巡り争うという状況になりました。そこに、日本国内の半導体工場で火災が起きるなどの事故が重なり、結果的に自動車業界は半導体不足になり、各自動車メーカーで新車販売が遅れることになってしまったのです。

 

半導体の工場が再開してからも、急激な需要回復に部品の調達が追い付かず、例えば、ジャガー・ランドローバーは新車の納車が1年ほど遅れる見込みだと発表しています。今回の半導体不足は、電気自動車に必要な電池やバッテリーと同じように、IT部品の安定的な調達も不可欠であることを改めて浮き彫りにしました。

 

さらに、影響は中古車市場にも及んでいます。ロックダウンで工場が閉鎖され、部品の供給も不足したことで新車の生産が滞ったため、多くの人が新車を購入できなくなりました。それでも、コロナ感染への不安からパーソナルスペースを求める人たちが増え続けているため、新車の代わりに中古車のニーズが急速に高まりました。しかし、これまで中古車を下取りして新車を購入していた人たちによる売り出しが減ったことから、中古車の供給量も不足。結果的に、中古車価格が急上昇しましたが、ディーラーは新車だけでなく、中古車の確保にも苦戦しているようです。

 

路駐がこれ以上増えていいのか?

↑増えすぎたクルマは家の前にも路上駐車している(ロンドン郊外)

 

このような暗い状況において、ゼロエミッションカーは自動車業界に明るい希望を与えているかもしれませんが、良いことばかりではありません。

 

最近のイギリスでは、「ゼロエミッションカーの購入補助などの販売促進政策は、単にクルマの数を増やすだけで、道路をさらに混雑させるのではないか?」という意見が出ています。中古車を含め、街中のクルマの数は増え続けており、路上駐車の増加が懸念されているのです。

 

イギリスには歴史のある家がたくさん残っており、クルマ社会が到来する前に建てられた古い家には駐車スペースがないため、家の前の道沿いに駐車します。路上駐車ができる場所が多いうえ、路上駐車は自動車購入時に車庫証明が不要。そのため、イギリスでは路上駐車がよく見られます。ところが、電気自動車の中には、従来のクルマより大きい車種があります。そこで「そんな電気自動車はこれまでと同じように路上駐車できるのか?」「そもそも駐車できるスペースはまだ残っているか?」と、 さまざまな議論がされていますが、ゼロエミッションカーの普及と合わせて、クルマの台数自体を減らしていく努力が必要なのは明らかです。

 

ゼロエミッションカーへの移行を加速させたら、イギリスはこのようなジレンマに陥りました。この問題は他国にも当てはまるでしょう。電気自動車にシフトするための道のりは、決して平坦ではなさそうです。

 

執筆/ukihaddy

電気自動車へのシフトにジレンマ! 増えすぎているクルマに英国民がウンザリ

2020年11月、イギリス政府は、ガソリン車とディーゼル車の新車販売を終わらせ、ゼロエミッションカー(二酸化炭素や排気ガス、環境汚染物質を排出しないクルマ)に切り替える計画を発表しました。充電スポットの拡充や、多くの人がより安く購入できるような多額の投資を行っていくとのことでしたが、その発表から1年が経とうとしている現在、「この政策では環境問題を解決できないのではないか?」という懐疑的な意見が出てきています。コロナ禍で自動車産業が直面した予想外の問題も合わせて、ゼロエミッションカーへの移行の難しさについて現地からレポートします。

↑街中の通りにも目立つ路上駐車(イギリスの地方都市郊外)

 

イギリス政府の考え

まずは、イギリス政府が念頭に置いているロードマップを見てみましょう。これは2段階に分けられます。

 

【ステップ①】2030年までにガソリン車とディーゼル車の新車販売を終了する。

【ステップ②】2035年までにすべての新車をゼロエミッションカーにする。2030年から2035年の間は、ゼロエミッションかつ長距離の走行が可能なプラグインハイブリッド車やフルハイブリッド車の販売は認められるようですが、具体的には政府と自動車業界との今後の協議で決められるとのこと。

 

計画の一部では、電気自動車の充電スポットを増やすために約13億ポンドを投入し、家庭をはじめ、主要道路や高速道路でより簡便に充電できることを目指しています。すでにイギリス政府は、14万以上の住宅用充電ポイントと、9000以上の企業スタッフ向け充電スポットの設置を援助しました。現在では、自治体や民間と協力した1万9000を超える公共充電スポットのネットワーク開発も支援しています。

 

さらに、イギリス政府はゼロまたは超低排出ガス車の購入を援助するために、約5億8200万ポンドの助成金を投じ、購入促進につなげる考え。2020年12月からはゼロエミッションカー専用のグリーンナンバープレートを導入しており、ゼロエミッションカーの社会的認知度を高めています。なお、グリーンナンバー車には安価な料金で駐車場を利用できるなどのメリットがあります。

↑イギリス政府は莫大な資金を投入して、充電スポットの拡大を図るが……

 

まさかの半導体不足

しかし、自動車業界はコロナ禍で予想外の事態に直面しました。それは現代のクルマに必須の部品である半導体の不足です。

 

コロナ禍で新車製造の工場を一時ストップし、売り上げの落ち込みを見込んだ自動車各社は、部品のオーダーを減らしました。半導体の工場は、リモートワークの普及などでIT機器の需要が急速に拡大したため、オーダーが減った自動車向け部品製造部門をIT機器部品製造に切り替えました。

 

一方で、ロックダウン(都市封鎖)といった各国の感染対策はサプライチェーンにも大きく影響。中国から北米向けの海上輸出が激増する一方で、港や工場などの現場で働く人々の動きが制限されたため、コンテナが北米の大陸内で停滞。その結果、慢性的なコンテナ不足が起こり、世界中を結ぶロジスティクスは長期的な混乱状態に陥りました。

 

半導体は、開発から資源調達、製造、納品まで、円滑なサプライチェーンが欠かせません。しかし、コロナ禍によりヒトの動きが制限されているため、自動車業界は先の見通しを立てることが難しく、IT業界と部品供給を巡り争うという状況になりました。そこに、日本国内の半導体工場で火災が起きるなどの事故が重なり、結果的に自動車業界は半導体不足になり、各自動車メーカーで新車販売が遅れることになってしまったのです。

 

半導体の工場が再開してからも、急激な需要回復に部品の調達が追い付かず、例えば、ジャガー・ランドローバーは新車の納車が1年ほど遅れる見込みだと発表しています。今回の半導体不足は、電気自動車に必要な電池やバッテリーと同じように、IT部品の安定的な調達も不可欠であることを改めて浮き彫りにしました。

 

さらに、影響は中古車市場にも及んでいます。ロックダウンで工場が閉鎖され、部品の供給も不足したことで新車の生産が滞ったため、多くの人が新車を購入できなくなりました。それでも、コロナ感染への不安からパーソナルスペースを求める人たちが増え続けているため、新車の代わりに中古車のニーズが急速に高まりました。しかし、これまで中古車を下取りして新車を購入していた人たちによる売り出しが減ったことから、中古車の供給量も不足。結果的に、中古車価格が急上昇しましたが、ディーラーは新車だけでなく、中古車の確保にも苦戦しているようです。

 

路駐がこれ以上増えていいのか?

↑増えすぎたクルマは家の前にも路上駐車している(ロンドン郊外)

 

このような暗い状況において、ゼロエミッションカーは自動車業界に明るい希望を与えているかもしれませんが、良いことばかりではありません。

 

最近のイギリスでは、「ゼロエミッションカーの購入補助などの販売促進政策は、単にクルマの数を増やすだけで、道路をさらに混雑させるのではないか?」という意見が出ています。中古車を含め、街中のクルマの数は増え続けており、路上駐車の増加が懸念されているのです。

 

イギリスには歴史のある家がたくさん残っており、クルマ社会が到来する前に建てられた古い家には駐車スペースがないため、家の前の道沿いに駐車します。路上駐車ができる場所が多いうえ、路上駐車は自動車購入時に車庫証明が不要。そのため、イギリスでは路上駐車がよく見られます。ところが、電気自動車の中には、従来のクルマより大きい車種があります。そこで「そんな電気自動車はこれまでと同じように路上駐車できるのか?」「そもそも駐車できるスペースはまだ残っているか?」と、 さまざまな議論がされていますが、ゼロエミッションカーの普及と合わせて、クルマの台数自体を減らしていく努力が必要なのは明らかです。

 

ゼロエミッションカーへの移行を加速させたら、イギリスはこのようなジレンマに陥りました。この問題は他国にも当てはまるでしょう。電気自動車にシフトするための道のりは、決して平坦ではなさそうです。

 

執筆/ukihaddy

「住宅ブーム」に乗れない若い世代に立ちはだかる「ニンビー」の壁

昨今、世界中で住宅価格が高騰しています。イギリスでも家を購入する人がこの1年間で著しく増え、住宅価格はロンドンだけでなく、地方都市でも高騰し、国中で値上がりを続けています。その原因と影響は?

↑憧れのロンドンに住む日はいつになるやら……

 

免税政策が住宅購入を後押し

イギリス政府は、コロナ禍による不動産マーケットの縮小を抑えるために免税政策を行いました。イギリスでは通常、住宅購入時にかかる税金として印紙税というものがあります。これは、国が家の売買契約を認めた証として購入者が納税するものですが、政府はこの免税制度を導入し、2020年7月から2021年6月末までの期間、50万ポンド(約7540万円※)までの住宅購入が免税の対象になりました。それ以前は、住宅購入価格が12万5001ポンド(約1880万円)から25万ポンド(約3765万円)までは2%、25万1ポンドから92万5000ポンド(約1億4000万円)までは5%の印紙税がかかっていました。

※1ポンド=約150円で換算(2021年10月4日時点)。以下同様

 

もともとイギリスには、初めて住宅を購入する人に対して、 30万ポンド(約4520万円)までを上限とした印紙税免税の制度がありました。ただし、ロンドンの過去12か月間の平均住宅価格はマンションでも、およそ52万6000ポンド(約7900万円)にまで高騰。そのため、「最初の住宅はロンドンで買いたい」と思っていた人が、この免税制度に飛びついたのです。

 

一方、ロックダウン(都市封鎖)中にイギリス人のライフスタイルは大きく変化しました。日本でも同様の動きが見られますが、イギリスでも、ロンドンのように狭くて高額な都市部よりも、広くて安い地方都市に移住する人が急増。この1年間でイギリス全体の住宅価格は10%上昇しましたが、ロンドンが5.2%増にとどまったのに対して、北西部では15.2%増と驚異的な上昇率を記録しました。

 

このような現象が起きた背景には、リモートワークが普及し、より広いパーソナルスペースを求める人たちの存在があった模様。広い家を欲する人が急増したことによって、3~4室の寝室を持つ家の供給が足りなくなるという事態も起こりました。

 

イギリスでは、ライフステージに合わせて住宅を売買し、小さな家から徐々に大きな家に移り住むという考え方が定着しています。これは「プロパティーラダー」と呼ばれていますが、だからこそ歴史のある家は、住む人が入れ替わりながら、長い年月をかけて大事にされてきたと、世代を問わず人気を集めているのです。しかし、近年では住宅の供給が足りていないこともあり、新築の購入を視野に入れる人も出てきているようです。新築住宅の価格は中古物件より22%程度高いといわれていますが、2020年に購入された住宅の8分の1が新築でした。

 

Office for National Statisticsによると、2020年4月時点のイギリスにおける年収の中央値は3万1461ポンド(約472万円)で、前年比3.6%増でした。イギリスの住宅価格はコロナ前から上昇していましたが、コロナ禍で住宅価格はさらに10%増加。同国でも住宅を購入する際にローンを組むことは一般的ですが、この状況ではプロパティーラダーどころか、多くの人——特に若い世代——は最初の家さえ買うことができません。

 

住まいを必要とする人のために、イングランド北西部のマンチェスターでは、新型コロナウイルスが流行する前から「Places for Everyone」と呼ばれるプロジェクトが計画されていました。同都市では、直近12か月間ですべての物件タイプの平均価格が23万2404ポンド(約3486万円)です。同プロジェクトでは、16万5000戸もの新築住居の建設が検討されており、そのうちの5万戸は手ごろな価格の住宅として割り当てられ、3万戸は福祉を受けている人のために貸し出されるとのこと。なお、手ごろな価格とは、住宅ローンの費用が、マンチェスター居住者の平均総世帯年収2万7000ポンド(約400万円)の30%を超えない程度(頭金を除く)を指します。

 

他所でやってよ

↑地方都市でもたくさんの家が売れているが……

 

ただし、現地の住民の中には、自分の家の近くに多くの新築住宅や、政府が支援している低価格な住宅が建つことを嫌がる人もいます。このような考えは「NIMBY(ニンビー。Not In My Back Yard〔うちの裏庭ではお断り〕の略)」と呼ばれており、昨今イギリスで盛んに議論されています。

 

日本と同様に、イギリスで家を買う際の重要な要素として周辺の治安の良し悪しが挙げられ、治安が良いエリアのほうが住宅価格は高い傾向にあります。新築住宅が建つことによって、「どのような人が引っ越してくるかわからない」という不安や「自宅周辺の治安が悪化してしまうのではないか」といった心配が生じます。

 

一般的に、NIMBYはゴミ焼却場や風力発電設備、墓地霊園、刑務所といった施設の建設に対する住民の否定的な反応ですが、一般の新築住宅についても同じような不安を持つ人が増えているようです。

 

イギリスの住宅価格を押し上げた要因は、免税だけではなく、リモートワークの普及など、働き方やライフスタイルが大きく変化したことも挙げられます。その影響は複雑であり、長く続きそうです。

 

執筆/ukihaddy

まずは少しで十分! 在宅勤務で座りっぱなしの人に適した運動とは?

コロナ禍により自宅で長時間過ごす人が増えた昨今、在宅勤務はデスクワークが多いため、座っている時間がどうしても長くなってしまいます。座ったまま過ごす時間が長いと、死亡リスクが増加することがすでに研究でわかっていますが、日常生活ではどれくらいの運動を取り入れるべきなのでしょうか?

↑日常生活で身体を動かすことが大事

 

座りっぱなしで死亡リスクが増加

欧米諸国から集まった共同研究チームは、2001年〜2011年の間に行われた、運動や生活習慣に関する9つの先行研究をもとに、イギリス、アメリカ、スウェーデン、ノルウェーの男女4万4370人のデータを収集。集めたデータは方法論などが異なるため、彼らは、バラバラな情報を一貫性のあるデータのセットにすべく、それぞれの研究データを再処理したり、統一的な基準を使って分析し直したりして調整しました。そこから今度は4年〜14年半の追跡調査を行い、座っている時間、行っている運動量、死亡率の関係を調べたのです。

 

その結果、座りっぱなしの生活を送る人の死亡リスクは、中~高強度の運動を行う時間が短いほど上昇することが判明。また、中~高強度の運動を1日30分~40分程度行っている人の死亡リスクは、座っている時間が短い人の死亡リスクとほとんど差がないことも明らかとなりました。つまり、デスクワークのように座っている時間が長いと死亡リスクは高まるけれど、1日30~40分程度、中~高強度の運動を行うことで、そのマイナスの影響を帳消しにできるということです。

 

WHO「ちょっとした身体活動にも意味がある」

この研究結果が初めて掲載された2020年11月には、奇しくもWHO(世界保健機関)が「身体活動・座位行動ガイドライン」を発表。その中でも「座りすぎは心臓病、がん、2型糖尿病のリスクを高める。座りっぱなしの時間を減らし、身体活動を行うことは健康に良い」と運動が推奨されています。より具体的には、成人なら中強度の運動を週に150〜300分、高強度なら週に75〜150分行うことが勧められており、上述した研究内容と一致しています。

 

なお、中強度の運動とは、心拍数が上がり呼吸が速くなるような運動であり、高強度のほうは呼吸が荒くなる運動のことを指します。どちらにもスポーツや武道、ジムで行うエクササイズのほか、自宅で手軽にできる運動も含まれています。

 

毎日8~10時間働いている人にとって、1日30分でも運動する習慣をつけることは簡単でないかもしれません。しかし、WHOは「少しの身体活動でも、何もしないよりは良い」と述べ、たとえ軽強度の運動であっても、できることから始めようと呼びかけています。エレベーターの代わりに階段をのぼったり、バスやタクシーを使わずに歩いたり、座った状態のスクリーンタイムを減らして掃除をしたり。「千里の道も一歩から」とよく言いますが、健康管理においてもこの考え方を実践したいですね。

 

【出典】Ekelund U, Tarp J, Fagerland MW, et al. (2020). Joint associations of accelerometer-measured physical activity and sedentary time with all-cause mortality: a harmonised meta-analysis in more than 44000 middle-aged and older individuals. British Journal of Sports Medicine, 54(1499-1506). http://dx.doi.org/10.1136/bjsports-2020-103270

3000年前の頭蓋骨が語る「格差社会と暴力」のゾッとする関係

農耕や牧畜が始まった新石器時代。それまでの狩猟採集の生活から、人々の暮らしは大きく変わりましたが、そんな過渡期でも人間は協力し合いながら平和に暮らしていた……と思われるかもしれません。しかし実際には、ときには相手を死に至らしめるほどの暴力的な行為が行われていたことが、最近判明しました。

↑美しい景色を誇るアタカマ砂漠の裏には残虐な歴史があった

 

新石器時代に移行する激動の時代に、どのような社会が形成されていたのか? この問題を調べるため、チリのタラパカ大学の人類学者たちは、同国北部のアタカマ砂漠にあるアザパ渓谷から採取された194人の成人の人骨を調査しました。この人骨は紀元前1000年から紀元後600年までの新石器時代への移行期に暮らしていた人々のもの。アタカマ砂漠は地球上、最も乾燥している砂漠地帯と言われており、そのためか、採取された人骨の保存状態はとてもよく、およそ3000年前のものなのに、骨以外の軟部組織や髪の毛が残っているものもあったそうです。

 

残された頭蓋骨や身体の骨を丹念に調査した結果、194人のうち40人から、対人による暴力の外傷が見つかり、そのうち20人は致命的な外傷だったことがわかりました。また、死の直前に頭蓋骨骨折があった人は14人にものぼり、頭蓋骨の一部に穴が開いたものなども見つかりました。

 

研究チームによると、これらの外傷は人による意図的な暴力行為によって起きたものであり、木の棒や吹き矢などの武器が使われたと考えられるとのこと。正面から攻撃されたケースと、背後から襲われたケースの両方があるようです。

↑丸と三角の部分が傷の痕跡(画像提供/Vivien Standenなど)

 

さらに、同研究チームは人骨中の「ストロンチウム」と呼ばれる元素の同位体組成を解析。その地域の土地にあるストロンチウム同位体組成と比べることで、この暴力がコミュニティー内で起きたものなのか、それとも外部の人間によるものなのかがわかります。その結果、これらの暴力は外部の人間によるものではなく、同じ地域で暮らすコミュニティー内で起きた可能性が高いことが明らかになりました。

 

資源を巡る仁義なき戦い

今回の人骨が採取されたアザパ渓谷は、かつて肥沃な土地だった場所。しかし農業のスキルや道具を持っていない3000年前の人々にとって、乾燥した砂漠地帯という過酷な環境下で農業を始めるということは、かなり困難な挑戦だったでしょう。

 

さらに、農耕や牧畜が始まるとそれらの技術に優れた人とそうでない人が現れ、水や土地などの資源と食料を得ることに格差や社会的不平等が生まれていった可能性がある、と同研究チームは推測しています。そのような中で、人々は大きなストレスを抱え、争いが生じ、ときには残酷な暴力行為が行われるケースもあったと考えられるのです。

 

研究チームのリーダーは「海や水辺から離れ、砂漠に移動することは、生きるために必要な水や資源のない不毛な地に直面するということ。その中で農耕を始めようとする新しい生活は、社会的緊張を高め、当時の人々の間で紛争や暴力を引き起こすきっかけになった可能性がある」と指摘しています。

 

【出典】Vivien G. Standen, et al. (2021). Violence among the first horticulturists in the atacama desert (1000 BCE – 600 CE), Journal of Anthropological Archaeology, 63(101324). https://doi.org/10.1016/j.jaa.2021.101324

 

生まれる前から周りの世界を夢で見ている? 哺乳類の不思議な視覚の仕組み

哺乳類の赤ちゃんは、まだ目が見えないときから周囲の世界の夢を見ている——。そんな可能性を示唆する研究内容が先日、米国で発表されました。

↑ネズミなどの哺乳類は、生まれる前から周りの環境を夢で見ている可能性がある

 

哺乳類は初めて目を開けた瞬間から、周囲にある物体やその動きを認識することができます。それまで「見る」という感覚を体験したことがないはずなのに、なぜ哺乳類の赤ちゃんは、そのような高度な行動をとれるのでしょうか? 目が見えるようになる前から、周囲の世界を違う方法で見ているのでしょうか? このような疑問を解決するために、米国・イエール大学の研究チームが、哺乳類の代表としてネズミを使って調査に乗り出しました。

 

まず彼らは、生まれた直後の、まだ目が開く前のネズミの脳をスキャンしました。すると、網膜の活動を示す部分に、ネズミが直進するときに生じるのと同じ脳波が現れることが判明(以下の動画を参照)。しかもこの脳波は、出産からしばらく時間が経過すると消え、代わりに視覚刺激を脳に伝える、より複雑な神経ネットワークが形成されていきました。

↑生まれた直後のネズミに現れる網膜の脳波

 

同研究チームは、さらにこの網膜部分に関する脳波や回路について調査。「スターバースト・アマクリン細胞」という神経伝達物質を放出する細胞の機能を遮断させてみると、脳波の動きが、ネズミが直進するときのような流れを見せないことが判明。しかも、この細胞の機能をブロックしたネズミは、視覚的な刺激への反応が鈍くなりました。さらに、大人のネズミでは、この細胞が周囲の動きを感知する能力に関与していることもわかったのです。

 

つまり、目を開ける前のネズミの脳に見られた脳波は、周囲の動きを感じ取る働きがあるスターバスト・アマクリン細胞と関連があるということが示唆されたのです。しかも、ネズミの視覚に関する回路は、まだ目が見えない時点から動きはじめていた可能性があるとのこと。

 

夢の中で現実に備える

これらのことから、同研究チームは、ネズミは目が見えるようになる前から、人間が夢を見るように、周囲の環境について夢を見ており、それによって目を開けたときに周囲の環境にすぐに対応できるのではないかと推測しています。

 

哺乳類は、生まれたばかりの赤ちゃんであっても、外敵から身を守るために、目を開けてすぐに周囲の状況を把握する能力が必要です。だからこそ、生まれる前から、まわりの世界のことを把握しようとしているのかもしれません。

 

【出典】Crair C. Michael, et al. (2021). Retinal waves prime visual motion detection by simulating future optic flow. Science, 373(6553). DOI: 10.1126/science.abd0830 

なぜ小さくならない?「動物の大きさと都市化」の新たな関係が判明

動物の身体の大きさは環境に影響されます。例えば、気温が高い地域で生きる動物は、身体が小さくなり、この関係は「ベルクマンの法則」として知られています。しかし最近、フロリダ自然史博物館の研究者が発表した論文で、都市部で生きる哺乳類はこの法則に反することが報告されました。

↑動物にとっても都会は暮らしやすい?

 

ベルクマンの法則とは

19世紀にドイツの生物学者クリスティアン・ベルクマンは、同じ種の動物の場合、温暖な地域に生息するものは、寒冷な地域に生息するものに比べて、身体が小さくなることを発見しました。逆に、寒冷地の動物の身体は大きくなりますが、その理由は身体のサイズと熱の放出量に関係があります。身体が大きくなると、体重や体表面積(身体の表面の総面積)も大きくなりますが、体重1kgあたりの体表面積は小さくなります。そのため、身体が大きいほど熱の放出が抑えられ、寒さに強くなるのです。

 

この法則の一例として、クマを取り上げましょう。東南アジアに生息するマレーグマは、体長1~1.4mほど。日本の本州や四国に生息するツキノワグマは、体長1.1~1.5mです。しかし、北海道に生息するヒグマは、体長が2.2~2.3m。北極圏にいるホッキョクグマは、大きいもので体長2.5mにもなります。このように、温暖な地域のクマは小柄で、寒い地域に行けば行くほど大型になるのです。

 

都市部は食べ物が豊富で安全

都市部はアスファルトの道路やコンクリートの建物で囲まれており、ヒートアイランド現象により気温が高くなります。そのため、ベルクマンの法則に則ると、都市部に暮らす動物は小さくなるはず。しかし、フロリダ自然史博物館の研究チームは、この法則が当てはまらないことを明らかにしました。

 

この研究チームでは、オオカミ、オジロジカ、コヨーテ、ネズミなど、北米にいる100種以上の哺乳類の体長と体重のデータを、80年以上にわたり収集し、解析しました。その結果、都市部に生息する哺乳類は、農村部に生息する動物よりも体長が大きいうえ、体重も重い傾向があることが判明。しかも、都市部に生息する動物の身体の大きさと気温はほとんど関係なく、むしろ都市化の程度が、動物の身体の大きさを決定づける大きな要因になっていることが示唆されたのです。

 

都市部には、食料や水が豊富にあり、動物が住処とできる場所も数多くあります。さらに、ほかの動物に狙われる危険性が少ないことも、動物の身体を大きくする要因として挙げられています。

 

今回の結果にはフロリダ自然史博物館の研究者たちも驚いたとか。科学者の間では地球温暖化による動物の小型化が10年ほど前から問題視されるようになったそうですが、今回の研究により、この問題を調べるうえでは、都市化の影響も考慮しなければならなくなるでしょう。

「Apple」が多くは語らない4つの難問

2021年、ティム・クック氏が、故スティーブ・ジョブズ氏の後を継ぎ、AppleのCEOに就任してから10年を迎えました。当初の期待を良い意味で裏切り、クックCEOはこれまでの10年で素晴らしい業績を達成。同社は2018年に民間企業として世界で初めて時価総額が1兆ドル(約110兆円※)を超え、2021年8月には2兆5000億ドル(約275兆円)を突破。クックCEOはAppleを時価総額世界一の企業に成長させました。しかし、その裏で同社がさまざまな問題を抱えていることも事実。先日のApple EventでクックCEOが言わなかったことは?

※1ドル=約110円で換算(2021年9月17日時点)

↑さまざまな問題が顕在化してきたApple

 

1: Apple Payは使ってる?

9月上旬に発表された、金融やフィンテックなどの専門メディアPYMNTSの調査で、Apple Payのユーザー数が伸び悩んでいることが明らかになりました。アメリカの消費者3671人に行われた調査から、iPhoneでApple Payを設定している人のうち93.9%が店頭での買い物にApple Payを使用していないとのことです。

 

アメリカでApple Payがリリースされたのは、2014年10月。それから1年後、スマホ決済におけるApple Pay利用率は5.1%でしたが、2021年の利用率は6.1%と、わずかな上昇にとどまっています。

 

PYMNTSでは、アメリカの金融機関が非接触型のクレジットカードやデビットカードの普及を始めたことが、Apple Payの利用率が伸びていない原因と分析。コロナ禍で非接触の決済方法の需要が高まりましたが、消費者にとっては普段から使っているクレジットカードやデビットカードが、そのまま非接触システムになったので、そちらを利用するほうが便利なようです。

 

2: 競争を抑制している?

最近Appleは、人気ゲーム『フォートナイト』の開発元であるEpic Gamesとの訴訟問題でヘッドラインを賑わせています。アプリのディベロッパーはiPhoneやiPadでアプリを配信する際、30%の手数料をとるApp Storeを経由しなければならず、そのうえ、アプリ内の課金についても30%の手数料がかかります。同社はこの仕組みが競争を制限しているとして、反トラスト法(独占禁止法)違反で訴えたのです。

 

これに対してカリフォルニア州の裁判所は先日、App Storeは独占禁止法に違反していないと判断し、Epic Games側の訴えを退ける判決を下しました。しかしEpic Gamesはこれを不服とし、上訴しています。

 

Epic Gamesは、アプリ配信やアプリ内課金でAppleが徴収する30%の手数料を「Apple税」と呼び、業界内でも共感を呼んでいるそう。世界で3億5000万人を超えるプレーヤー数を誇る超人気ゲームとAppleの裁判の行方は、これからも注目を集めることは間違いないでしょう。

 

3: 従業員による「#AppleToo」運動

Apple社内でも新たな問題が起きています。それが、従業員が労働環境について抗議する活動です。上司からハラスメントを受けた従業員が声を上げ、それによって全米労働関係委員会が調査を行う事態に発展しています。さらにAppleに対して労働環境の変化を求める従業員の声を集める「#AppleToo」サイトが立ち上げられ、人種などの差別、賃金格差、秘密主義などの問題が浮き彫りになっています。

 

4: まだ成長できる?

アメリカでは、企業が訴訟問題を抱えることは決して珍しいことではありません。ただし、現在のAppleは行き詰まっている感もあり、そのような状況で、このような問題が顕在化しています。

 

先日のApple Eventに対して、Apple最大の魅力である「革新性」がなくなりつつあるという見方があります。このような指摘は「これからAppleは、どうやって成長していくのか?」という本質的な問題につながります。Apple製品は漸進的な発展を遂げていますが、スマートグラスや自動運転車といった「次の大きな開発」は難航している模様。同社がこれからも業界のトップでいるためには、将来iPhoneみたいなイノベーションを再び生み出す必要があると言われています。

 

また、Appleは地政学的な問題も抱えています。設計を除けば、Apple製品の多くは中国で作られています。2000年〜2010年代のグローバリゼーションが全盛の時代に、Appleは中国でサプライチェーンを構築しましたが、現在、同社はそれを本国アメリカに戻すことを進めています。それでも中国はAppleにとって非常に重要な国。米中の対立が深まれば、同社と中国の関係にも影響を及ぼすと考えられます。

 

これまでクックCEOは、故ジョブス氏が生み出したiPhoneなどの事業を維持しつつ、見事に発展させてきましたが、上記4つの問題は、Appleが今後、本格的に直面する問題と言えます。故ジョブス氏が1997年に倒産直前だったAppleに復帰し、同社が再生してから24年が経過。会社の寿命30年説で考えれば、これらの問題は差し迫っていると言えるかもしれません。英経済誌The Economistは、クックCEOはこれまでの10年間、大きな成功を収め、故ジョブス氏の「偉大な後継者」になったと誉めつつ、「次の10年は難しいだろう」と予測しています。「創業は易く、守成は難し」と言いますが、クックCEOの真価が問われるのは、これからかもしれません。

デジタル・ネイティブ世代には当たり前! 英国で大人気の「グリーン・フィンテック」とは?

金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた「フィンテック(FinTech)」が世界中で発展しています。近年ではスマートフォン決済や仮想通貨、投資ツールなど、さまざまなものが生み出されてきましたが、最近、英国ではフィンテックに「環境保護への貢献」という要素を加えた「グリーン・フィンテック」が登場し、デジタル・ネイティブ世代を中心に支持を集めています。どのような特徴があるのでしょうか?

↑サステナブル時代のマネー管理術

 

英国はサステナビリティーや環境保護活動、関連するチャリティ活動がとても盛んな国です。マイ容器を持ち寄って食品や日用品を量り売りする「ゼロ・プラスチック・ショップ」が人気を集めていたり、20~30代ではヴィーガンやプラントベースなどのライフスタイルが定着しつつあったり。このようなトレンドは単なるファッションやダイエットのためだけではなく、その根底には環境保護の精神があります。

 

当然そこには、2015年に国連サミットで採択されたSDGs(=持続可能な開発目標)の影響が見られます。これにより、気候変動は企業や工場だけに責任があるのではなく、肉食やプラスチック製品の利用など、消費者のライフスタイルもCO2排出量や温暖化につながっていることが、より広く知られるようになりました。SDGsは学校のカリキュラムにも導入され、「お金を使うなら、エコにつながるものを無理なく自然に」という考え方は若い世代を中心に浸透しています。

 

1990年代以降に生まれたデジタル・ネイティブ世代は、経済的に見ると、実店舗を持たないデジタル銀行やフィンテック・サービスに早くから親しみ、スマホを使った手軽で便利な取り引きを好むのが特徴です。2016年にクラウドファンディングを通じて、わずか96秒で100万ポンド(約1億5200万円※)を調達したオンライン銀行のモンゾ(Monzo)は、デジタル・ネイティブを取り込んだ典型的なビジネスケースで、住所証明なしで口座開設できる手軽さやアプリで完結できる仕組みが人気。この世代では、エコ感覚を重視しながら、スマホを軸としたフィンテックを活用するという生活様式が主流になりつつあります。

※1ポンド=約152円で換算(2021年9月13日時点)

 

このような背景から注目を集めているのが、環境保護への貢献とスマホ機能の利便性を併せ持つグリーン・フィンテックです。この分野には、個人ユーザーが企業の環境ガス排出量を比較し、より環境に配慮した投資ができる英国初のグリーン投資アプリ「スギ(SUGI)」や、2017年にペーパーレスのモバイル専用当座預金口座を導入し、2021年に再生プラスチックを75%使用したデビットカードの配布を始めた「スターリング銀行(Starling Bank)」が存在します。

 

なかでも注目は、2021年4月に本格始動したアプリ連動型のデビットカード・サービス「トレッド」(Tred)。株式投資型クラウドファンディング「クラウドキューブ」で数多くの人から支持を得ることに成功した同社は、モンゾに及ばないものの、わずか90分で目標額の40万ポンド(約6100万円)を獲得し、計100万ポンド以上を調達するなど、好調なスタートを切ったのです。

 

消費活動をCO2排出量に換算

↑このパイナップルの二酸化炭素排出量は……

 

デビットカードとアプリが連動したトレッドは、ユーザーの消費活動をCO2排出量に置き換えて、アプリで表示してくれる英国初のサービスです。トレッドは「自分の買い物=CO2排出量」とし、消費行動を「食料品」や「移動費」などにカテゴリー化。買い物データを分析し、自分のライフスタイルの何が気候変動に最も影響を与えているかを、わかりやすい形で見える化してくれる仕組みです。

 

例えば、ユーザーがレストランでの食事代や交通費、スポーツジム会費などの支払いをすると、アプリ上にそれぞれのCO2排出量が表示されます。電車とタクシーではCO2排出量に大きな差が出ることや、牛乳とオートミルク(植物由来のミルク)におけるCO2排出量の違いなどがひと目でわかります。また、毎月の消費傾向とエコ度もカラフルなグラフで表示されるので、それをもとに買い物の内容を変えて、CO2排出量を減らすということも可能。

 

さらにトレッドでは、炭素回収プロジェクトを行う他社のサブスクリプションにアプリ経由で参加すれば、植林を通じて自分のCO2排出量を相殺できるようになっています。このプログラムは手数料がかかりますが、固定制ではありません。自分が相殺したCO2排出量によって手数料が月々変動するため、この仕組みはユーザーにとって、より一層エコなライフスタイルを目指すためのインセンティブになっているようです。

 

トレッドのデビットカード自体もリサイクルされた海洋プラスチックで作られているなど、創業者の思いがあちこちで感じられます。トレッドは、2021年4月22日の世界アースデイにロンドン夕刊紙のイブニング・スタンダードで「アースデイに取り入れたいおすすめ12選」に選ばれました。

↑トレッド創業者の2人は名門ダラム大学時代からのビジネスパートナー

 

集団で行われる自然保護活動に参加しなくても、個人がグリーン・フィンテックを活用し、日常生活における小さな選択や行動を変えることで、環境に与える影響を軽減する。サステナビリティに対する取り組み方には、このような選択肢もあります。デジタル・ネイティブ世代以外の人にとっても、やってみる価値はあるでしょう。

 

執筆者/ネモ・ロバーツ

66万人が「いいね」していた!「Apple新製品」で海外が誉めた3つのこと

9月15日に行われたApple Eventに対して、海外メディアでは「残念」という反応が見られました。だからといって、良い反応がまったくなかったわけではありません。Apple Eventや新製品に対して海外が誉めていることをまとめてみます。

↑大げさかもしれないけど、目を見張るものは確かにあった

 

1: iPhone 13の新機能が最高!

「iPhone12と比べて大きなアップデートはなかった」と言われるiPhone13ですが、目玉となったのが「シネマティックモード」です。AIがピントとボケを自動で調整することが大きな特徴で、「動画を撮る人には最高の機能だ!」「TikTokの下手なダンスや演技もレベルアップできる」など、普段から動画撮影を行う人たちを中心に、話題をよんでいます。

 

2: iPad miniの大進歩!

もうひとつ話題に上がっているのが、約2年半ぶりのモデルチェンジとなった、第6世代となる新型iPad Mini。オールスクリーンとなってディスプレイが大型化されるなど、見た目が大きく変わりました。Lightning端子は廃止され、代わりにUSB-Cを搭載。指紋認証も採用されています。また、内蔵チップが新しくなったことで、これまで以上に快適なパフォーマンスが期待されています。テクノロジー分野で最も高い影響力を持つ米国人YouTuberの1人であるマルケス・ブラウンリーは「今回Appleが発表した新製品の中で、iPad miniが一番大きく進歩した」と高く評価しています。

【動画】マルケス・ブラウンリーのiPhone 13やApple Eventに対する評価(英語)

 

3: プロモ動画に感動

今回発表された新製品について、「マイナーチェンジが多かった」という意見が全体的に多く見られました。しかしブラウンリーさん曰く、「Apple Eventでは、小さなアップデートしかないけれど、Appleはそれをいつも大げさにして伝えている」とのこと。

 

そんな彼が絶賛したのが、イベントの冒頭でお披露目されたプロモーション動画です。今年の動画では大量のドローンが撮影に使われたようで、映画さながらのダイナミックな映像に仕上げられていました。Apple Eventから3日足らずで、すでに580万回以上再生されているブラウンリーさんの動画には「製品よりドローン撮影のほうに感動した」というコメントも寄せられています。

 

ちなみに、YouTubeではApple Eventの動画再生回数が1700万回を超えています(9月17日時点)。高く評価している人が66万人いるのに対して、低く評価している人は1.6万人(約2.4%)。スタイリッシュな映像で世界中のファンやユーザーを楽しませることも、Apple Eventの大切な目的の1つなのかもしれませんね。

iPhone 13&Apple新製品、海外メディアが残念に思った4つのこと

9月15日に開かれた2021年のApple Event。毎年イベント前になると、多くのユーザーの間でその年に発表される新作について噂が飛び交い、Appleへの期待が膨らみます。しかし今回は、米ワシントン・ポストが「わくわくするような内容ではなかった」と述べているように、「残念!」という声が多いようです。どの点がガッカリだったのか、欧米メディアの報道を中心に集めてみました。

↑Appleに対する期待は大きいだけに、失望も大きい

 

1: USB-Cがない

今回発表されたiPhone 13シリーズでは、全4モデルに映画のような奥行き感のある映像を撮影できる「シネマティックモード」が搭載されます。カメラ機能が強化されたほか、1TBのストレージを備えるモデルが出るなど、さまざまな変化がありますが、外部接続端子はLightningのまま。USB-Cは、Androidのスマートフォンやタブレット、PCなどに幅広く採用されているため、これまでにもiPhoneにUSB-Cを望む声がありましたが、結局、今回もUSB-Cは採用されず。それにがっかりするユーザーが多かったようです。

 

2: 衛星通信は噂でしかなかった

今回のイベント前に、「iPhone 13では衛星通信での緊急通報ができるようになるらしい」という噂が流れていました。従来の4Gや5Gではなく、衛星通信ができるようになれば、圏外にいても救急や警察などへの緊急通報が可能になるとか。これまでにもAppleは衛星通信機能の搭載を目指していることが報じられており、今回の発表前には米ブルームバーグが、Appleアナリストの情報をもとに「iPhone 13には衛星通信が搭載される」と予測していたほど。しかし、ふたを開けてみると、衛星通信機能は搭載されなかったため、「噂は、ただの噂でしかなかった」という声がネットに溢れています。

 

3: 指紋認証がない

衛星通信と同じように、iPhone 13に期待される機能としてあったのが指紋認証です。iPhoneでは2017年に発表されたiPhone Xから顔認証機能が採用されているのですが、コロナ禍でのマスク生活が長期化し、指紋認証機能を望む人は多くいた模様。しかし、iPhone 13には指紋認証機能は搭載されず、これまた「やっぱりないのね……」と残念な声がネットで多く見られます。

 

4: ストリーミングサービスは?

「California Streaming(カリフォルニア・ストリーミング)」と名付けられていた今回のApple Event。ただし、ストリーミングサービスに関する発表内容は、サブスクリプション型オンライン・トレーニングサービス「Apple Fitness+」が2021年中に15か国で開始されるものぐらいでした。

 

コロナ禍ということで、今回のイベントは、Apple公式サイト内の特設ページやAppleのYouTubeチャンネルなどでライブストリーミング配信されました。そのためAppleは、ストリーミングサービスを目玉に紹介するのではなく、「このイベントをストリーミング配信する」という意図で、「California Streaming」というタイトルにしたのかもしれません。しかし、ストリーミングサービスへの期待が高まっていただけに、それほど多くのサービスが発表されたなかったことで、多くの人が落胆。米ワシントン・ポストは「Lots of dreaming, not much streaming(夢は多いが、ストリーミングはあまりない)」と皮肉って報じていました。

 

このような点を理由に、Appleファンたちからは「大したアップデートではなかった」などの声が多く上がっています。英BBCニュースは「今回アップデートされた内容は保守的で無難な内容だった」と述べつつ、同ニュースのテクノロジー担当記者は「Appleの評判といえば、革新的であることだが、今回のイベントから考えると、その評判はもはや古い」とやや辛辣に評しています。Apple製品は漸進的な変化を遂げていますが、人々の期待が大きい分だけ、失望も大きいようです。

6年連続で2ケタ成長中! 米国で「ペット保険」がアツい理由

世界各国でコロナ禍によるペットブームが起きていますが、アメリカも例外ではありません。しかし、同国ではそれと同時にペット保険の需要も急増しています。一体なぜでしょうか? 現地からレポートします。

↑アメリカではペット保険に加入するのがもはや普通になっている

 

アメリカでは、コロナ禍により在宅勤務が増えたことで、これまで「時間的な余裕がなくて、ペットを飼うことができない」と思っていた人の間でペットを飼い始める動きが広がりました。その影響はペット市場にも及んでいます。アメリカ・ペット製品協会によると、国内のペット市場規模は2020年に1036億ドル(約11.4兆円※)と、前年に比べ6.7%増加。2021年には同5.8%増の1096億ドル(約12兆円※)に達するだろうと予測しています。

※1ドル=約109円で換算(2021年9月10日現在。以下同様)

 

ペット関連の支出としては、ペットフードやおやつなどが全体の約半分を占めていますが、注目すべきはペットに関する医療費の増加。2020年の動物病院への支出は前年と比べて7.2%増の314億ドルに上っており、2020年のペット市場規模の3分の1近くに相当します。

 

アメリカでは、人間だけでなくペットにかかる医療費も非常に高いことを考慮すると、動物病院への支出額が増えているのは、ペットの増加に伴う必然的な現象といえるでしょう。その一方で、医療費の自己負担額を抑えるために、昨今では新しくペットを飼う際、ペット保険への加入がスタンダードになりつつあります。

 

2021年5月、北米ペット健康保険協会は、北米のペット健康保険分野の販売高規模が6年連続で2桁成長を記録したと報告。同協会のレポートによれば、2020年に販売された保険料総額は、前年に比べ26%以上増加して、過去最高の21億7400万ドル(約2387億円)となり、北米全体の被保険者であるペット数は前年比22.5%増の345万頭以上になったとのことです。

 

アメリカではペット保険に入っていない場合、診察や検査、手術などを含む治療費は100%飼い主の自己負担になります。大きな手術や大病で医療費が高額になりそうな場合は、選択肢として安楽死を勧められる場合もあることから、ペット数の増加に伴いペット保険の需要は右肩上がりで伸びているのです。

 

日本のペット保険との違い

アメリカと日本のペット保険で大きく違うのは、一般的にアメリカでは、定期検診や歯の手入れ、ノミ対策、予防接種などもペット保険の対象になるという点。日本では保険料を払っていても、その対象になるのは病気やケガ、手術など高度な治療だけということが一般的で、多くのペット保険で歯やノミなどの定期的なケア費用は補償の対象外です。しかし、このような費用が意外とばかになりません。犬の場合は犬種によって異なりますが、一般的なアメリカのペット医療費やケア費用は下記の通りです。

 

定期検診 45~55ドル(約4900〜6000円)
予防接種(犬猫) 10~100ドル(約1100〜11000円)
歯の掃除(犬) 50~300ドル(約5500〜33000円)
ガンの専門医による診察(犬猫) 3282〜4137ドル(約36万〜45万円)
ガン治療(犬猫) 4000ドル(約44万円)
糖尿病(犬猫) 1634~2892ドル(約18万〜32万円)

(※犬または猫、ブリード、年齢、持病など個々の条件によって価格が異なります)

出典:https://www.carecredit.com/vetmed/costs/

 

上の表を相場とすれば、犬種や年齢で違いはあるものの、アメリカの平均的な月額ペット保険料は犬が約50ドル(5500円)、猫が約30ドル(3300円)なので、ペット保険に加入したほうがお得でしょう。さらに、アメリカでは犬猫だけでなく、爬虫類や小動物、鳥、ヤギなど、ほかのペットに対応している保険もあります。コロナ禍においてペット業界全体の裾野が広がったことや、需要に合わせて大手保険会社がペット用に新プランを発売したことなどが、ペット保険の売り上げをここまで押し上げたといえるでしょう。

 

アメリカでは「ペットがほしい」と思ったとき、保護施設から動物を引き取ることが一般的ですが、その際に予防接種の支払いと、かかりつけ医の登録をしなければならず、最近ではそれに加えて、ペット保険の加入を引き取り条件にしている施設もあるようです。コロナ禍により在宅時間が増え、ペットを迎え入れる人が多くなりましたが、ペットはかわいいだけではなく、人間と同じようにお金がかかるという現実を知っておくことが必要です。人とペットとの幸せな生活のために、ペット保険の需要はさらに高まっていくでしょう。

緑の木が1本あれば、熱帯夜は1.4度も涼しくなる! 米大学の研究

「木はたくさんあればあるほど、より涼しくなる」と思う人は少なくないかもしれません。確かに森林は暑さを和らげますよね。しかし、先日アメリカで発表された論文によると、1本だけで植えられている木でも、夜間の熱を抑えるのに役立つことがわかりました。

アメリカン大学の研究チームは、米国の首都ワシントンD.C.の異なる地域で、2018年夏のある1日の気温データを7万点以上収集し、分析しました。その中には、木に覆われている舗装された道や未舗装道路、木が植えられている公園などで測定された気温が含まれています。

 

その結果、独立した木が天蓋のようになり、測定地点の半分以上を覆っている場合、木がまったくない地点に比べて、夜間の気温が1.4℃低いことがわかりました。また、木で覆われている部分が測定地点の約20%という場所でも、木がない地点と比べて気温が低いうえ、夜明け前の時間帯でも比較的に涼しいことが判明。平均すると、単体で植えられている木の冷却効果は日没後か午後6時〜7時頃に現れ、夜間まで続く模様です。

 

木陰の冷却効果は以前から知られており、例えば、日本の環境省にその仕組みを説明しているサイトがあります。それによれば、日向と木陰では、後者のほうが気温が低いと思われがちですが、実際には両者の気温はほぼ同じ。それがなぜ、木陰のほうが涼しく感じられるかといえば、その原因は路面から放出される熱にあるといいます。日向で気温が30℃の場合、木陰でも気温は同じく30℃ですが、日向にあるアスファルトの路面の温度は約50℃になるのに対して、木陰の路面はおよそ32℃と低いのです。また、気温30℃の晴れた日でも、日向の体感温度は40℃ほどになりますが、木陰なら太陽の光が遮られ、しかも路面からの照り返しが大幅に減ることで、日向に比べて体感温度は7℃ほど低くなることもあるとのことです。

 

しかし、上記のように体感温度と気温は別のもの。なぜ葉が茂った木が1本あるだけで夜間の気温が1.4℃も下がるのかを説明するためには、別の理由が必要かもしれません。

 

いずれにしても、近年、日本だけでなく世界中で夏の暑さが厳しくなり、都市部ではヒートアイランド現象が起きています。大きな都市では広い公園が少なく、1本だけで(または周りにある木から離れて)植えられている木も多いでしょう。だからこそ、今回明らかになった木の冷却効果がヒートアイランド減少対策に役立つ、と同研究チームの助教授は述べています。

 

【出典】Michael Alonzo et al. 2021. Spatial configuration and time of day impact the magnitude of urban tree canopy cooling. Environmental Research Letters. 16 084028. 

欧州選手権で現れた「多様性」の壁。サッカーが映す「揺れる英国社会」

2021年7月のサッカー欧州選手権では、イングランドが初めて決勝進出を果たし、英国は熱狂の渦に包まれました。しかし、決勝戦でペナルティーキック(PK)を外したイングランドの黒人選手3人が、試合終了後にSNS上で人種差別を受ける事件が起こり、大問題に発展。どうしてこのようなことが起きるのでしょうか? 現地在住のライターがサッカーを通して、英国における人種差別や多様性について説明します。

↑人種差別問題は英国サッカーの負の面(写真はウェンブリー・スタジアム)

 

新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、イギリス人は以前のように活動的になっています。サッカーなどの国際スポーツ大会や国内のリーグ戦などが再開し、国民も盛り上がっている様子。コロナ前のように友人や家族と久しぶりにパブに集まり、マスクも外してグラスを傾けつつ、おしゃべりやスポーツ観戦を楽しむ人たちの姿もよく目にするようになりました。

 

中でもサッカー欧州選手権ではイングランドが決勝進出を果たし、「55年ぶりの優勝か?」とファンの期待も最高潮に達しました。イングランド代表は地元で開催された1966年のW杯で優勝したのを最後に、主要国際大会のタイトルから遠ざかっていたのですが、結局、PK戦の末に決勝戦を制したのはイタリア。しかし、重要な問題はその後に起こりました。

 

決勝戦でPKを外したイングランド代表の黒人選手3人が、国内外からSNS上で人種差別的な誹謗中傷を受けたのです。フットボール協会(FA)は事件後ただちに人種差別を厳しく非難する会見を行い、英国政府や英王室をはじめ各界の要人たちも人種差別を非難するコメントを次々に発表しました。

 

英国サッカーにおいて黒人選手に対する人種差別が起きたのは、これが初めてではありませんが、今回は、黒人への暴力と差別の撤廃を訴える「ブラック・ライブズ・マター」(BLM)運動が高まっている中で起きました。2020年に米国でジョージ・フロイド氏が白人警官によって殺害されたことをきっかけに、黒人に対する暴力と差別の撤廃を訴えるBLM運動が世界的に広まりました。奴隷制度の歴史があり移民を広く受け入れてきた多民族国家の英国にも、この影響は及んでいます。同国のサッカー・プレミアリーグでは、試合のキックオフ前に選手や審判が片膝をつくポーズをとり、人種差別の撤廃を訴えています。

 

この「片膝ポーズ」は、2016年に米国でアメリカン・フットボールのコリン・キャパニック選手が取った行動から来ています。「有色人種への差別がまかり通る国に敬意は払えない」と、試合前の国歌斉唱の場で起立を拒否し、片膝をついて抗議の意を示して以来、人種差別反対のポーズとして知られるようになりました。

↑片膝ポーズは人種差別反対の意思

 

しかし、選手たちのこの行為は一部のファンや政界に複雑な影響を及ぼしている模様。スタジアムでは、一部の観客から「スポーツに政治を持ち込むな 」とブーイングが起こることもあります。英国のプリティ・パテル内務大臣は、プレミアリーグの試合で選手たちが行う片膝ポーズに対して、これまでは「政治的ジェスチャーだ」と批判的な姿勢をとっていましたが、イングランド代表選手が欧州選手権の決勝戦後に人種差別を受けたとたんに「人種差別は許されない」とコメント。この手のひらを返したような態度に多くの国民が「あまりに偽善的」と怒り、「なぜ政府は人種差別を容認し続けるのか?」と大きな波紋が広がっています。

 

人種差別はスポーツ界に限らず、英国で多くの人々が職場や学校で日々接している問題です。普段は穏やかな社会に見えても、英国では生活への不安や社会への不満をきっかけに、人種差別問題が表面化することがあります。2005年のロンドン同時爆破テロ事件では、イスラム系市民への差別が強くなりました。最近では、新型コロナウイルスの発生源が中国であるという説を受けて、東洋系住民に対するヘイトクライムが起こるなど、人種に関する差別や偏見は枚挙にいとまがありません。

 

現在の英国人は、幼い頃から「人種差別は決して許されない行為」であることを学校で叩き込まれて育ちますが、特定の人々への偏見や差別、暴力が存在するのが現実です。過去と比べると状況は改善しているとはいえ、今回のようにスポーツの主要国際大会で自国が負けた腹いせに人種差別的な発言が聞こえてくることも少なくありません。SNSは、極端な意見や偏った情報を広げやすいため、このような状況を悪化させている側面もあります。

 

最近よく耳にするようになった「多様性」という言葉は、人種、宗教、性的指向、年齢、障害の有無など、個人の特徴の違いを認めようという概念を持っています。英国のような多民族国家では、多様性を認めて内包(インクルージョン)していくことにより、それぞれの個性が共存共栄して、ダイナミックな社会が形成されるという考え方が主流ですが、多様性を認めることができない人たちも存在し、見方によっては社会が分断しているとも言えるでしょう。

 

若者よ、立ち上がれ

↑欧州選手権の決勝戦でPKを外し、人種差別の被害に遭ったイングランド代表のマーカス・ラッシュフォード選手の壁画には、たくさんの励ましのメッセージが貼り付けられた

 

BLM運動や今回の事件を機に、英国では「もうこんな悲しい出来事や差別は本当に終わりにしよう」という気運が高まっています。英語では「woke」(ウォーク)という言葉があり、意識が高い人や政治的な発言を積極的にする人を指します。こういう人は揶揄されることもありますが、最近では若い世代の間で、批判されることを恐れず、傍観者であることをやめて、積極的に発言しようとする人が増えています。

 

スポーツには今回の事件のような暴力的な側面がある一方、人種や民族の違いを超えて人々を融和する力があります。今回、英国で起こった人種差別事件は日本にとっても対岸の火事ではありませんが、多様性のある社会を実現するためには、偏見にとらわれることのない知性と器量が重要でしょう。それらを涵養するうえで、スポーツが果たす役割は大きいと思います。

 

執筆者/ネモ・ロバーツ

SF映画が現実に? 米国防省が「未来を予測するAI」を開発へ

さまざまな分野でAI(人工知能)の活用が進む中、先日、アメリカ国防総省がAIの開発に乗り出すことが明らかになりました。開発するのは、未来を予測するAI。SF映画のようなことが現実の世界で起こりつつあるようです。

↑素晴らしい未来が見える?

 

アメリカ北方軍(NORTHCOM)と北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD)の司令官を務めるグレン・ヴァンヘルク氏は、7月末の記者会見で、「GIDE(Global Information Dominance Experiment)」と呼ばれる未来予測システムについて説明を行いました。

 

GIDEは、軍事用センサーや世界で入手可能なさまざまなセンサーを集め、AIや機械学習を利用して、数日単位で未来を予測するそう。例えば、駐車場にとまるクルマの台数が急激に増えたり減ったり、駐車場で何らかの変化が起きたりしたら、GIDEはアラートを米国防総省に送り、駐車場の衛星画像を注視する仕組みです。

 

記者会見では多くのことが明らかにされませんでしたが、ヴァンヘルク氏が強調していたのは、GIDEのポイントが最新テクノロジーの活用ではなく、大量の情報を処理するための新しいアプローチであるということ。同氏によると、これまで米軍は大量のデータに対して迅速に反応することができず、受け身にならざるを得なかったとのことです。しかしGIDEの導入により、それが能動的に変わり、日単位で未来を予測することができるようになると言います。

 

また、GIDEが重要なことに関して決断を下すことはなく、このシステムはあくまでも人間に選択肢の1つを提供するに過ぎない、とヴァンヘルク氏は述べています。

 

『マイノリティ・リポート』は予言していた

このAI開発のニュースと共に話題になっているのが、スティーブン・スピルバーグ監督と俳優のトム・クルーズ氏がタッグを組んだ、2002年公開のSF映画『マイノリティ・リポート』。そこで描かれているのは、予知能力者が未来を予測し、刑事がそれに基づき、事件が起きる前に犯罪者を逮捕するという監視・治安制度。この物語で登場する予知能力者が、GIDEというわけです。

 

20年近く前に作られた映画のストーリーが、形を変えて現実のものになっているように見えますが、このような取り組みが行われている背景には、アメリカで銃乱射事件やテロなどの凶悪事件が多いことがあるでしょう。もしかしたら米国防総省は国際的な安全保障を視野に入れているのかもしれません。

 

近くても遠くても、未来を予測するのは難しいことですが、AIがビッグデータ(膨大な量の情報)を解析すると、人間が気付かない、わずかな変化をいち早く察知し、何かが起きる可能性を警告することができるかもしれません。確率や精度は技術の進歩と共に高まっていくと考えられますが、はたして、このようなテクノロジーを使って、人間はより安全な社会を作ることができるのでしょうか?

 

コロナ禍でカナダの「ペット業界」が大忙し!「助け合いの精神」が今こそ大切

「各家庭に必ず1匹はペットがいるのではないか?」と思うほど、カナダ人はペットが大好きです。他国と同様に、カナダではパンデミック以降、ペットを飼ったり、動物の里親になったりする人が増えましたが、その影響で同国のペット業界は多忙を極めています。コロナ禍で収入が減った飼い主を支援する取り組みを含め、カナダの最新ペット事情をレポートします。

 

予約殺到の動物病院とドッグトレーニング

↑カナダでは獣医などが大忙し

 

2019年、カナダでは7万8000匹の猫と2万8000匹の犬が国内のシェルターで保護されていました。ところが、新型コロナウイルスのパンデミックが起きた後は、アダプト(里親になること)により、そのうち65%の猫と73%の犬が新しい飼い主を見つけることができました。

 

しかし、新しい飼い主が増えたことにより、カナダの獣医は多忙を極めています。アルバータ州カルガリーのクリニックによると、ペット患者が明らかに増えていて、以前は予約から診察まで2~3日だったのが、現在では申込日から7~10日後でないと予約を取れないとか。手術も3~4週間か、それ以上待たないと予約が取れないこともあるそうです。

 

一般的な動物病院は診察予約が入っていても、緊急搬送されるかもしれないペットのために、ある程度の時間を空けています。それにもかかわらず、朝9時前にはその時間すら予約で埋まってしまうことに病院関係者は頭を抱えています。動物病院では獣医だけでなく、看護士や医療従事者なども深刻な人員不足に悩まされているようで、「診察を断わらざるを得ない」というスタッフの辛さは想像に難くないでしょう。

 

一方、トロントの子犬のトレーニングスクールでは現在、子犬指導の依頼が毎週100件もあるそうですが、クラスの数やインストラクターの人数が足りないため、毎週多くの客を断らなくてはならない状況のようです。事業をすぐに拡大したくても、インストラクターを育てるにはプロとしての適切な指導や教育が必要で、多くの時間がかかります。それでも、このスクールの経営者は来年までにはクラスの数を増やしたいと話しています。

 

カナダらしいチャリティーも

ある調査によると、カナダの家庭の58%が犬か猫を最低でも1匹飼っているそうです。しかし、筆者が住むオンタリオ州のトロントはロックダウンが比較的に長引いた都市であり、仕事を一時的に解雇された人が少なくありません。

 

収入減によって、ペット用品を購入する経済的余裕がなくなってしまった飼い主のために、それを肩代わりする活動を始めた慈善団体があります。それが「トロント・アニマルサービス」で、国内のペットスマートという企業から提供される資金とトロント市民からの寄付金を基にしながら、この活動を行なっています。

 

飼い主がメールか電話、オンラインのアンケート調査のいずれかの方法で申請すれば、数日後にペットショップのギフトカードが申請者にメールで送られてくる仕組み。この取り組みはペットフレンドリーなカナダならではのようにも思います。

 

ユーザーは多く、トロント・アニマルサービスはこれまでに1200枚以上のギフトカードを提供したとのこと。ある利用者は「とてもありがたい活動です。お礼に寄付をしたいので、この苦しい状況が長く続かないことを願います」と述べています。

 

コロナ禍でペットを飼う家庭が増えたカナダ。動物病院やドッグスクールなどでは、人材不足が深刻化していますが、カナダらしいチャリティー活動もあるうえ、イギリス人やイタリア人と同じように、カナダ人も在宅時間が長くなったことで、ペットフードやペット用おもちゃなどに、より多くのお金を費やす傾向にあります。動物病院やペット関連施設の体制が早く整うことが期待されます。

 

執筆者/ちゃんげん

 

【関連記事】

コロナ禍で際立つイタリア人とペットの甘い関係

日本ではまだ知られていない、東南アジア諸国が熱狂する「SEA GAMES」とは?

東南アジア諸国が参加する「Southeast Asian Games」というスポーツイベントをご存知ですか? 日本では「東南アジア競技大会」と呼ばれており、英語では「SEA GAMES」としばしば省略されます。日本では知らない人も多いかもしれませんが、同大会は東南アジア諸国で熱狂的な人気を誇ります。2021年は第31回大会が11月下旬から12月上旬までベトナムの首都ハノイで開催される予定。熱戦を待つ現地からSEA GAMESについてレポートしましょう。

 

東南アジア版のスポーツの祭典

↑ベトナム・ホーチミンの街並み

 

SEA GAMESは、東南アジアで2年に1度開催されます。ベトナム、タイ、マレーシア、ミャンマー、ラオス、 シンガポール、フィリピン、インドネシア、ブルネイ、カンボジア、東ティモールの11か国が参加し、サッカーをはじめ、水泳、ゴルフ、バドミントン、ボクシング、空手、柔道、ボウリングなど計40種目の競技で争います。このSEA GAMESは「東南アジアのオリンピック」とも言われていますが、ベトナムではオリンピックよりも高い関心を集めます。

 

コロナ禍のため2022年に延期する可能性も出てきていますが、そんな中でもベトナムの代表選手たちは着々と準備を進めています。昨今、ベトナムでは健康意識の向上により、スポーツを始める人が増えており、近隣のライバル諸国を相手にどこまで結果を残せるか多くの人が興味を持っています。

 

ベトナムは経済同様にスポーツでも新興国であり、オリンピックで表彰台に上がれるほどの実力を持つ選手はほとんどいません。逆にSEA GAMESには自国の選手が多く出場するだけでなく、表彰台にも手が届くとあって、ベトナム人の関心はとても高まるのです。

 

経済成長と共に強くなる

SEA GAMESにおいて、ベトナムは強豪国として知られていますが、以前はそうではありませんでした。経済的に貧しかったベトナムではスポーツ選手を取り巻く環境の整備が遅れ、サポートや教育体制も十分ではなかったのです。

 

しかし、近年のベトナムは経済成長と共に、スポーツの国際大会でも良い成績を収めるようになっています。代表選手が国際大会で活躍することは、国民を結束させるだけでなく、世界に向けたベトナムのアピールにもなるため、政府や企業がスポーツに注目し、力を注ぐようになりました。具体的には、ベトナム政府が外国人監督やコーチの招集を手掛け、才能ある選手を発掘し、若いうちからエリート教育を実施しています。大手企業は優れた選手に報奨金を提供するなど、官民が協力してベトナムのスポーツ界を底上げしているのです。

 

2019年にフィリピンで開催された前回のSEA GAMESで、ベトナムは合計288個のメダルを獲得し、総合順位2位に輝きました。総合順位1位は計387個のフィリピンで、3位はタイ、4位はインドネシアと続きます。ベトナムは2011年大会から4大会連続で総合順位3位でしたが、ついにその壁を破りました。今大会ではホーム・アドバンテージを生かして、より多くのメダルを取り、総合順位で1位になることが期待されています。

 

前回大会でベトナムは男女ともにサッカー競技で優勝しました。サッカーはSEA GAMESで最も人気がある競技。ベトナムの優勝は60年ぶりの快挙であり、試合後には国旗を掲げて優勝を祝うサポーターによるパレードが起こりました。筆者は当時もハノイにいましたが、有名観光地のハノイ旧市街周辺は過激なサポーターであふれており、迂闊に近寄ってはいけないと注意されたものです。

↑サッカーの試合後に国旗を掲げながらバイクで街を走るサポーター

 

SEA GAMESで注目のベトナム代表選手

ベトナムはサッカーだけでなく、水泳や空手、体操、ボート競技でも優れた成績を収めています。ベトナムで大きな注目を集める選手を3人を紹介しましょう。

 

【サッカー】ダン・ヴァン・ラム

現在27歳で、2021年1月よりセレッソ大阪に所属しているベトナム代表の正ゴールキーパーです。ベトナム人の父とロシア人の母を持ち、身長188cmの大柄な選手です。6月10日にはJリーグデビューも果たし、今後の活躍が期待されています。

 

【競泳】グエン・フイホアン

21歳の男子競泳選手で、2019年のSEA GAMESでは400mと1500mの自由形で優勝しています。東京オリンピックにも出場しました。

 

【ボート】ルオン・ティ・タオ

22歳の女性ボート選手。ベトナムには川や入り江が多くあり、小舟を日常生活で使う人も多いことから、ボートは人気が高い競技の1つ。東京オリンピックにも出場した彼女はまだ年齢も若く、ベトナムのボート界を引っ張っていくことが期待されています。

↑熱戦を待つ開催国ベトナム

 

コロナ禍で試合が延期されたり、練習の時間や場所が制限されたり、どの競技の選手もコンディション調整に苦労しているようですが、ベトナム国民はSEA GAMESで代表選手が活躍するのを楽しみに待っています。

 

米国で人気沸騰中! 三拍子揃った「ピックルボール」とは?

スポーツの祭典の真っ只中で、連日素晴らしいプレーが生まれています。GetNavi webでは参加する海外選手にフォーカスした記事をお届けしていますが、本日はスポーツの祭典にはまだ採用されていない、いまアメリカで急速に人気を高めている「ピックルボール」にフォーカスを当ててみます。さて、どのようなゲームなのでしょうか?

 

テニス×バドミントン×卓球

↑ピックルボールのラケットと球

 

ピックルボールとは、老若男女が楽しめる、テニスとバドミントンと卓球が混ざったような競技です。まだ歴史は浅いですが、アメリカ国内での競技人口は2020年に420万人を超えました。

 

ピックルボールの起源は1965年まで遡ります。シアトル州のある家庭で、退屈した子どもが父親に「何かおもしろい遊びはない?」と尋ね、父親が試行錯誤の末に道具やルールを考案。こうしてピックルボールは1967年に誕生しましたが、名称は考案者の愛犬にちなんでつけられたそう。アメリカのスポーツ&フィットネス産業協会(SFIA)が2021年2月に発表したレポートによると、2020年の競技人口は前年と比べて21.3%増と大きく成長しています。

 

ピックルボールは、バトミントンと同じサイズのコート(縦6.1m×横13.4m)で、卓球の約2倍のサイズのラケットと穴が空いたカラフルな樹脂製のボールを使ってプレーします。テニスのように、ネットの高さは一般的に90cmとされており、木製ラケットはラバーを張っていないため、ボールを打つたびに「カーン」と気持ちのよい音がコートに響き渡ります。

 

プレー形式はシングルスとダブルス。ルールもテニスと似ていますが、サーブはアンダーサーブのみです。レシーブ側はボールをワンバウンドで打ち返し、サーブ側も最初のリターンボールはワンバウンドさせて打たなくてはなりません。得点はサーブ権を持っている側のみに入り、1セット11点で行いますが、10対10になった場合は2点差がつくまで延長。3セットか5セットマッチで行なわれることが一般的です。

 

【動画】ビックルボールとは?(英語)

 

人気の秘密は3つの「ちょうどいい」

 なぜピックルボールの人気は高まっているのでしょうか? その理由として3つの「ちょうどいい」が考えられます。

 

1: 始めるのにちょうどいい

ピックルボールのラケットとボールは、約20〜50ドルで販売されています。あとはスポーツシューズさえあればプレーできるので、道具をたくさんそろえる必要がありません。アメリカでは公共の施設であれば、数時間5ドル程度で借りることができます。初期費用やプレー費用が安く抑えられるため、手軽に始めることができます。

 

また、テニスコート1面を4つに分けると、ピックルボールのコートを4面作ることができるので、最近ではテニス場をピックルボールコートにつくり替えているところもあります。ピックルボールは基本的に屋外でプレーしますが、室内でもできるため、天候に左右されません。上述のようにルールもわかりやすくて簡単。ピックルボールは気楽にスポーツをするのに、ちょうどいいのです。

 

2: ちょうどいい運動強度

↑若者もハマる

 

コートが小さいので、走り回り続けなくてもプレーできることもピックルボールの特徴。ボールには穴が空いているため、風の抵抗を受けやすく、強い打球でも速度が弱まり、打ち返しやすい設計になっています。このように、程よい運動強度(運動をするときに身体にかかる負担)でケガをする可能性も少ないので、ピックルボールは老若男女が楽しめるスポーツなのです。アメリカでは、リタイヤしたシニア層に圧倒的な人気を集めています。

 

その一方、近年では、ケガのためにテニスからピックルボールへ転向するプレイヤーも現れており、ゲームのレベルが向上するとともに、プロ競技人口も増えてきています。2019年には賞金総額が約1500万円の大会も行われ、テレビでも放映されるなど、アメリカで競技人口は着実に増えています。

 

3: ちょうどいい距離感

ピックルボールは野球のように道具が少なく、ルールが簡単であるものの、楽しむためには技術や作戦、連携が必要です。ダブルスであれば、プレー中の雑談を含めてコミュニケーションを取りやすく、「ペアの人と手が届くか届かないか」という距離感が、物理的にも精神的にもちょうどいいと評判です。

↑試合の様子

 

このような理由で競技人口を増やしているピックルボールですが、まだまだそこで終わらないのがアメリカ人。仲間とスポーツをもっと楽しむために考え出されたのが「チキン・アンド・ピックル」。レストランとバーを兼ね備えた、この屋内外のピックルボール用レジャー施設は、事前予約をすれば手ぶらで行ってプレーすることができるほか、定期的にレッスンや大会も行われています。2016年にミズーリ州に1号店がオープンし、テレビで取り上げられるほどの大盛況となり、2021年中には6店舗目を開く予定とのこと。

 

経済的にも、身体的にも、心理的にも「ちょうどいい」ピックルボール。三拍子揃ったこのスポーツの人気は、すでに日本にも及んでいます。東京には日本ピックルボール協会があり、レッスンや大会が行われています。日本の競技人口はまだ数千人のようですが、老若男女に愛される手軽な「米国製スポーツ」として、今後は日本でも普及するかもしれません。

 

ハエの分析でわかった「社会的隔離」で人間の行動が変わる理由

コロナ禍での隔離生活は、人と会えない寂しさと外出できないストレスをもたらすもの。その結果、よく眠れなくなったり、食べる量が増えたり、いろいろな影響が出ていますが、私たちの身体は社会的隔離に対してどのように反応しているのでしょうか? 米国の研究チームがハエを使って、そのメカニズムを解明しようとしています。

↑ヤバい、ひとりぼっちだ! 寝ている場合じゃない! できるだけ食べておかないと……

 

隔離生活が、動物の行動や遺伝子の発現、神経の活動にどのような変化をもたらすかを調べるため、米国・ロックフェラー大学で遺伝子を研究するチームがショウジョウバエを使って実験を行いました。ショウジョウバエは集団で行動しており、同研究チームの1人によると「その遺伝子システムを深掘りすると、哺乳類や人間と同じような原基を見つけることがよくある」とか。

 

実験では、最初にショウジョウバエの集まりが、ロックダウン(都市封鎖)のような条件下でどのような行動を取るのかを7日間、観察します。その後、これらのハエを「集団のまま観察を続けるグループ」と「1匹だけで隔離されたもの」「2匹で隔離したグループ」に分け、それぞれの行動の変化を観察しました。

 

その結果、集団の大きさが変わっても集団で行動し続けたハエや、2匹だけで隔離されたハエには大きな変化が見られなかった一方、1匹で隔離されたハエだけは食事量が増え、睡眠時間が短くなったのです。

 

さらに研究を進めたところ、ハエの食事と睡眠の変化には「P2ニューロン」という脳細胞が関連していることが判明しました。P2ニューロンは受容体(細胞の表面や内部に存在し、外界や細胞外の物質や光を受容して情報に変換する物質の総称)の一種と考えられています。そこで、1匹だけで隔離されたハエのP2ニューロンの働きを止めると、食べる量が正常に戻り、睡眠が回復しました。また、1日だけ集団から隔離されたハエのP2ニューロンを刺激すると、1週間隔離されていたハエと同じように食事量が増え、睡眠時間が減少したのです。

 

また、ハエを不眠症にさせるだけでは過食は引き起こさないことが確認されたことから、ハエの睡眠時間減少と過食は、P2ニューロンの働きと社会的な孤立によって引き起こされた模様。「P2ニューロンは社会的隔離の時間的長さや孤独感の認識の仕方と関連しているようだ」と同研究チームは述べています。

 

身体はアラート状態

コロナ禍で体重が増加した人が多いと言われていますが、その原因がP2ニューロンの働きにあると断言することはできません。社会的隔離で睡眠が減り、体重が増える理由を特定するには、より多くの研究が必要ですが、「人間は困難な状況になると警戒心が高くなり、できるだけ起きていようとしたり、食べられるときに、できるだけ食べようとしたりするので、社会的に隔離された身体は、そのような『不確実な状況』にいることを脳に信号で送っているのではないか」と研究チームは推測しています。

 

【出典】Li, W., Wang, Z., Syed, S. et al. Chronic social isolation signals starvation and reduces sleep in Drosophila. Nature (2021). https://doi.org/10.1038/s41586-021-03837-0

なぜ「ひまわり」は東を向いて咲くのか? 納得の理由があった

ひまわりは漢字で「向日葵」と書くように、太陽の方角を向いて咲くことがよく知られています。でも実際には、太陽に向かって咲くのは一部のひまわりだけで、多くのひまわりは東の方角を向いて咲きます。これは一体なぜでしょうか? 最近、明らかにされたその合理的な理由を説明します。

↑東を向くとハチが来る

 

太陽は一日の中で時間帯によって位置を変え、その動きと合わせるように、ひまわりは花の向きを変えます。ところが、花が成熟し茎が硬くなってくると、太陽の方角に合わせて花の向きを変える動きが減り、やがて東の方角しか向かなくなります。

 

7月下旬、米国・カリフォルニア大学デービス校の植物生物学の研究チームは、ひまわりのこの性質について論文を発表しました。この研究チームは長年ひまわりを研究しており、以前に「ひまわりが太陽の方角に合わせて動くのは、体内時計でコントロールされているから」という説を発表しています。

 

そんな研究チームの一員があるとき、ひまわりの鉢植えの向きを変えたところ、東の方角を向いたひまわりには、西を向いたものと比べて、特に朝の時間帯により多くのハチが集まっていることに気づいたのです。

 

東を向いて子孫を残す

そこで、東向きのひまわりの秘密を探ってみると、東向きのひまわりのほうが大きくて重い種を作る傾向があり、早朝から花粉を放出していることがわかりました。その時間はハチがひまわりに集まる時間帯と合致しています。この性質は花の温度の影響を受けているようで、西向きのひまわりでも花の部分をヒーターで温めると、東向きのひまわりと同じような結果が見られたそうです。

 

さらに、この研究チームは「種は作れるけど、花粉は作れない」という実験用ひまわりを作りました。それを東向きと西向きのひまわりの近くに置き、この実験用ひまわりが、どちらのひまわりの花粉をより多く授粉するのかをジェノタイピング(遺伝子型判定)を使って観察。その結果、西向きのひまわりより、東向きのひまわりの花粉がより多く授粉されていたことが判明したのです。

 

これらの実験結果から導かれるのは、ひまわりは東を向いて咲くことで、ハチが集まる時間帯により多くの花粉を放出し、ハチが花粉を媒介しやすくなっているということ。つまり、ひまわりが東向きに咲くのは子孫をたくさん残すことができるから、と結論づけられるのです。

 

元気いっぱいに花を咲かせるひまわりにとっても、子孫を残せるかどうかは重要な問題。少しでも多くの花粉がハチによって運ばれて授粉するように、ひまわりは進化したのでしょう。ひまわりを見かけたときは、どの方角を向いているかチェックしてみると面白いかもしれませんね。

 

【出典】Creux, N.M., Brown, E.A., Garner, A.G., Saeed, S., Scher, C.L., Holalu, S.V., Yang, D., Maloof, J.N., Blackman, B.K. and Harmer, S.L. (2021), Flower orientation influences floral temperature, pollinator visits and plant fitness. New Phytol. https://doi.org/10.1111/nph.17627

コロナ禍で際立つイタリア人とペットの甘い関係

イタリアでは、コロナ禍における2度目のバカンスがそろそろ終わりますが、同国では、ペットを滞在先に連れて行く人が少なくありません。コロナ禍で際立つイタリア人とペットの関係を見てみましょう。

 

ロックダウン中でも犬の散歩はOK

↑キミは特別だ

 

イタリアはペットに寛容な国で、飼っている動物を同伴して入店できるレストランやバールがたくさんあります。食料品店など、衛生的な観点から犬を連れ込めない店にも、お店の外にドッグパーキングが設置されていることが一般的。また、ほとんどのペットが公共の場できちんと振る舞えるようにしつけられています。「イタリアではペットと共に移動することを前提に日常生活が成り立っている」といっても過言ではないかもしれません。

 

それを裏付ける別の事例があります。2020年3月、イタリア政府が全土ロックダウン(都市封鎖)を宣言し、ジョギングなど1人でする運動さえも規制されました。しかしそんな中でも、自宅の周辺だけという条件付きではありましたが、犬の散歩だけは許可されていたのです。「小さな子どもでさえも外で遊べないのに犬は問題ないのか?」という意見があったものの、冗談が好きなイタリア人だけあって、「外出したい方に犬を貸します」というジョークがすぐにSNS上に溢れました。

 

そんなイタリアでは、現在もリモートワークを続ける人が少なくありませんが、この新しいライフスタイルは、これまで「ペットを飼いたい」と思いながらも、時間的余裕がないために諦めていた人にとって、その願いを叶える絶好の機会になっているようです。

 

価格比較サービスIdealo社の調査によれば、イタリアにおける2020年のペットフードのオンラインでの売り上げは前年比80%増を記録し、犬は同145.7%増、猫は同115.6%増という伸びを見せました。また、イタリア社会の動向を調査するEurispes社が2020年に実施したアンケートで、ペットを保有していると答えた人は、前年の33.6%から39.5%に増えています。

 

政府中央統計局によると、2020年前半のイタリア人の国内旅行は前年比39%減、外食は同38.9%減、衣料品は同23.3%減、映画などの娯楽費は同26.4%減となりましたが、その分だけお金がペット市場に流れたとも考えられそうです。

 

また、ペットショップで動物を購入するだけではなく、殺処分を待つ動物を引き取るという動きも活発です。イタリア動物保護協会は2020年に8100匹の犬と9500匹の猫が引き取られたと報告しており、引き取り件数は前年に比べ15%以上も増えました。

 

高齢者向けのペット用品デリバリー支援

↑誇らしいボランティア活動だわん

 

高齢者にとってもペットは心の友。ただし、ロックダウン中は数日分の食料を1回の買い物で備蓄する必要があったため、ペットフードまで手が回らないという高齢者が多かったようです。スマートフォンやパソコンなどを使うことができず、オンラインでの買い物ができない高齢者も少なくありません。

 

それを受けて、ミラノでは非営利団体のバルズーが70歳以上の高齢者を対象に、エサや医薬品を含むペット向けの必需品をボランティアで配送する活動を始めました。ペット商品の大手チェーンも提携しており、配送料金は無料。バルズー会長のルイジ・グリッフィーニ氏は「ペットがいる家庭の支援を目的とした我々の取り組みは、非常事態にこそ機能しなくてはなりません」と語っています。

 

日本と同様にイタリアも高齢化社会ですが、このようなボランティアが存在することは、「ペットを飼いたい」と願う高齢者の背中を押しているでしょう。

 

何があっても離れない

↑アフターコロナでも重要な存在

 

ペットの数が増えると飼育放棄が問題になる国もありますが、イタリアはそうではないようです。これは、イタリア政府が義務付けているペット飼育に関する施策が功を奏しているのかもしれません。

 

イタリアではペットを飼うにあたり、オーナーは保険省の管轄にある動物の戸籍簿に登録する必要があります。さらにペットはマイクロチップで管理されるうえ、飼い主は首輪に付けた小さなメダルに自分の名前や電話番号を彫る義務があり、ペットの飼育を放棄したとしても、マイクロチップや首輪の登録情報をたどって、飼い主に連絡が来る仕組みになっているのです。

 

ペットセラピーの専門家によれば、ロックダウンという未曾有の恐怖と不安の中でも、人間はペットと触れあうことでストレスを解消できるそう。コロナ禍がある程度収束しても、未来に対して不安を抱く人も多いことから、これからもペットは人間の精神状態を回復したり維持したりするために重要だと言われています。

 

夏のバカンスは終わりますが、すでに多くのイタリア人は「次のバカンスをペットとどう過ごそうかな?」と考えていることでしょう。

固定概念が影響する?「無観客試合」の影響はジェンダーで異なることが判明

最近、無観客試合に関する研究が世界各国で行われていますが、先日発表された論文によると、観客の有無だけでなくジェンダーによっても、アスリートのパフォーマンスに違いがあるそうです。観客不在の試合では、男性と女性の選手にどのような変化が起きるのでしょうか?

↑観客不在は複雑な影響を及ぼす

 

有観客と無観客で、アスリートのパフォーマンスにどのような違いがあるのか? 独マルティン・ルター大学ハレ・ウィッテンベルク・スポーツ科学研究所のチームがこの問題に挑みました。

 

彼らは、クロスカントリースキーと射撃を組み合わせた「バイアスロン」の、ワールドカップの結果を分析に使用。その中から比較的短距離コースをスキーで走行し射撃を行う「スプリント」の種目と、スキーの距離がスプリントよりやや長く、射撃を行う回数も多く、男女の選手が一斉にスタートする「マススタート」の2種目を取り上げました。そしてスキーのタイムと射撃の成功率について、新型コロナウイルスが発生する前で有観客だった2018年〜2019年とコロナ禍で無観客だった2020年を、男女別に比較しました。

 

その結果、有観客の場合、男性選手はスキーのタイムが早くなった一方、射撃の成績は悪くなりました。女性選手は有観客でスキーのタイムが遅くなりましたが、射撃の得点率は5%高くなり、男女で異なる結果が出たのです。

 

クロスカントリースキーは主にスタミナが求められる一方、射撃は並外れた集中力と精神力が必要で、2つはまったく異なる競技です。アスリートのパフォーマンスが観客の有無で大きな影響を受けることは納得できますが、競技の種類によっても、その結果はまた違うものになるようです。

 

特にクロスカントリースキーのタイムに観客の有無で差が出たことについて、この研究チームはジェンダーに基づいた固定概念が働いている可能性があると推測しています。例えば、観客に見られることで男性選手は「(自分は男だから)体力があるのだ」という意識が強くなり、それがパフォーマンスに影響しているのではないか、というのです。

 

無観客試合がアスリートに与える心理的な影響については、すでにさまざまな研究が行われていますが、その多くはジェンダーの視点が欠けているとか。無観客試合の影響を調べるなら、ジェンダーの区別も考慮したほうがいいかもしれません。

 

【出典】Amelie Heinrich, Florian Muller(※1), Oliver Stoll, Rouwen Canal(※2)-Bruland. Selection bias in social facilitation theory? Audience effects on elite biathletes’ performance are gender-specific. Psychology of Sport and Exercise, 2021; 55: 101943 DOI: 10.1016/j.psychsport.2021.101943

(※1)Mullerのuは、ウムラウト付きが正式な表記です。

(※2)Canalのnは、ティルデ付きが正式な表記です。

 

【関連記事】

スタジアムには魔力が宿る!「無観客試合」でもホームチームが有利と判明

 

「パラアスリート」を支える最新テクノロジーが凄かった

スポーツをするために、義足や義手、車いすなどを必要とするパラアスリートにとって、テクノロジーの進化はパフォーマンスやコンディションの向上につながります。東京パラリンピックに向けて、どのようなイノベーションが生まれているのでしょうか?  障がい者スポーツにおける技術革新に関する議論とあわせて見てみましょう。

↑テクノロジーの進歩と共に、パラアスリートはさらに限界を突破する!

 

F1と同じシートを採用した車いす

試合中は選手たちがコート内を激しく走りまわる車いすバスケ。スピードや俊敏な動きなどが求められる、この激しい競技において、車いすは選手の「脚」となる大事な存在。車いすバスケのオーストラリア代表は、オーストラリア国立スポーツ研究所のエンジニアと協力して、一部の選手がカーボンファイバーを使ったカスタムメイドのいすを利用しています。

↑F1と同じシートを使う車いすバスケットボールのオーストラリア代表(画像提供/Paralympics Australia)

 

この素材は、なんとF1マシンに使われるものと同じ素材。同研究所のエンジニアは、このカーボンファイバーは強度がありながら軽量で、スピードと俊敏さを求める車いすバスケには最適なのだと言います。しかも、選手が車いすに座った状態で3Dスキャンを行い、各個人の体型にあわせてシートを成形するため、ターンや切り返しなど、選手のさまざまな動きにも対応するそうです。軽量化しながら、俊敏性やフィット感が向上すれば、選手のパフォーマンスも上がるでしょう。F1マシンと同じ上質な素材が使われているということも、選手の自信やモチベーションを高めるかもしれません。

 

ラルフローレンの冷却テクノロジー

東京オリンピックとパラリンピックの開会式で、アメリカ代表団の旗手は最新テクノロジーを採用したユニフォームを着用しています。それが、ラルフローレンが独自に開発した、自動で温度を調整する冷却システム。ウェアに組み込まれた「RL COOLING」と呼ばれる冷却システムが、温度を監視しながら、着る人の肌から熱を分散させるそう。最先端コンピューターの冷却装置と同じと言われるこの技術は、東京の真夏の暑さを考慮して作られたのだとか。

 

さらに、ラルフローレンが手掛けるアメリカ代表選手団のウエアは、ベルトにペットボトルから再生したリサイクルポリエステルを使ったり、合成樹脂を使わずに作られた革の代替素材をデニムパンツに取り入れたり、サステナビリティにもこだわっています。

↑自動冷却システムを採用した米国代表団のウエア(画像提供/ラルフローレン)

 

ちなみに、この「2020チームUSAコレクション」は、アメリカのラルフローレンの店舗やオンラインストアなどで購入することができます。

 

でも本当にスゴいのはアスリート

技術革新が進む一方、「テクノロジーの活用はどこまで許されるのか?」という議論が以前から行われています。国際パラリンピック委員会は、選手が使う装具の基本原則として「安全性・公平性・普遍性・身体能力」を挙げており、例えば、外部から電源を供給して筋力をサポートしたり、ジャンプ力のある大きなバネを使用したりすることは禁止。選手の能力を超えるようなパフォーマンスを生み出すモノは使用できないのです。

 

確かにパラリンピックや障がい者スポーツにおいてテクノロジーは重要ですが、それがすべてではありません。いくら素晴らしい用具を使っても、パラアスリート自身の能力が高くなければ、結果は出ないもの。選手自身のたゆまない努力や工夫、才能があって初めて、テクノロジーの力を最大限に引き出すことができると論じている専門家もいます。

 

世界各国から集まったパラアスリートの熱戦は、見る人の心を揺さぶり、熱くさせるもの。パラリンピックでは、最先端テクノロジーだけに目を奪われるのではなく、パラアスリートの身体と精神がいかに科学技術と融合しているのかにも注目してみましょう。きっと多くのインスピレーションが湧いてくるはずです。

青年前期に「数学」を勉強しないと損をする! 英オックスフォード大の研究

サイン・コサイン・タンジェント——。中学や高校の数学で習う内容には「大人になったとき、本当に必要なの?」と疑問に思わずにはいられないものがあるかもしれません。しかし英国・オックスフォード大学の研究チームが最近発表した論文によると、青年前期に数学の勉強をやめた人と続けた人では、脳の働きに大きな違いがあるそうです。一体どういうことでしょうか?

↑GABAが少ない……新たな難問だ

 

イギリスでは16歳から数学の授業は選択制になります。そこで、この研究チームは14歳から18歳の133人の生徒を、数学を受講しているグループと受講していないグループに分け、それぞれの脳について調べました。

 

その結果、数学の勉強をやめた生徒では、「GABA(ギャバ)」と呼ばれる神経伝達物質の分泌量が、脳の認知機能に関わる部位で少ないことがわかりました。今回の調査でGABAが少ないと判明した部位は、数学の問題を解いたり推論したり、記憶・学習したりするときに関わる領域。数学の受講について選択する前の段階では、GABAの分泌量に違いは見られなかったので、「数学の勉強を続けるかどうかによってGABAの分泌量に違いが生じる」と考えられるのです。

 

GABAは「γ-アミノ酪酸」(ガンマ-アミノらくさん)のことで、脳の血流を活発にして脳細胞の代謝を高める働きがあります。そのほか、リラックス効果やストレスを軽減させる効果があることから、チョコレートや玄米にGABA入りの食品が発売されるなど、医療や食品などの分野でも注目されている成分です。

 

16歳は人間の発達段階で青年前期(12〜18歳)にあたります。このステージは、脳の発達や認知機能の変化が伴う大切な時期ですが、数学の勉強を継続するかどうかの違いが、認知機能に対して長期的にどのような影響を与えるかは明らかになっていません。

 

数学以外の解決策は?

数学を苦手とする生徒や学生は多いため、数学の勉強を行う代わりに、同じ脳の領域に働きかけるトレーニングなどを探る必要があると同研究チームは述べています。

 

数学の授業で習った難しい数式を、一般の人が社会に出てから使う場面は確かに多くないでしょう。しかし、学生時代に数学の勉強をやめると、認知的に損をしているのかもしれません。

オフィスに戻る必要はほぼナシ! 米国「アフターコロナの働き方」調査

米国では新型コロナウイルス関連の規制が撤廃された州があるなど、新型コロナウイルスが収束した後の生活に目を向ける人が増えています。周辺機器メーカーのPlugable社は2021年4月に、同国の企業経営者と幹部クラス2000名を対象にコロナ後の働き方に関するアンケート調査を行いました。その結果が公開されているので、アフターコロナの働き方がどうなっていくかを探ってみましょう。

↑リモートワークも一長一短

 

日本でもコロナ禍でリモートワークが推奨され、実際に自宅で仕事をしている人からは、問題点はあるものの、この新しい働き方を肯定的に評価する声が多く報じられています。そんなリモートワークを歓迎するのは米国も同じ。TwitterやGoogleなど大手IT企業は恒久的なリモートワークやハイブリット型ワークを導入していますが、それらの動きを受けて、ほかの企業でも同じような取り組みが見られます。

 

しかし、このトレンドは経営者や幹部にとって脅威でもあります。Plugable社のアンケートで「柔軟な働き方を提供する他企業がいないかどうかプレッシャーを感じている」と答えた人の割合は87%に上りました。競合他社が新しい働き方を提供すれば、そちらに良い人材が集まる可能性があり、経営陣は他社の新しい働き方の動向に敏感になっている様子。良い人材を確保するために、セキュリティソフトやパソコンといった従業員のハード面への投資は今後、一層強化されていくと見られます。

 

週5日も出社する必要なし

リモートワークが進むと、社員同士のコミュニケーションや協調性が薄れることが懸念されています。そんなリモートワークの短所を補うため、社員はどのくらいの頻度で出社するべきでしょうか?「社内のコミュニケ―ションや協調性を健全に維持するために、必要な出社日数は?」という質問に対する答えは以下のようになりました。

 

週2~3日:46%

週1日:30%

月2~3日:15%

週5日:5%

月1日:2%

出社の必要はない:1%

 

従来の典型的な働き方である「週5日」と答えた人はわずか5%で、大半が「週に1〜3日程度」で良いと考えているようです。また「出社の必要はない」と答えた人は1%だったことから、リモートワークを採用しつつも、ある程度の頻度で社員が出社する必要があると考えている人がほとんどであることがわかります。

 

リモートワークが継続されると、オフィスの形も変わるでしょう。例えば、「リモートの社員と出社する社員の協業のために、導入予定のものは?」という質問では、回答者の50%が「ホットデスク」を挙げています。ホットデスクは、社員が共用で使えるデスクのことで、社員1人ひとりに特定のデスクスペースを決めず、その日に出社した人が自由に使えるシステムのこと。毎日全社員が出社することがないなら、企業側は全員分のデスクスペースを確保する必要はありません。米国ではテクノロジー企業の多くがサンフランシスコ周辺に集まっていますが、そこから離れる動きが加速するだろうという見方もあります。

 

社長と社員の心配事

↑リモートワークでお金持ちになれるかしら?

 

経営者や幹部から見ると、リモートワークの社員がきちんと仕事をしているかどうか心配になるかもしれません。在宅勤務の社員に対する心配事として経営者は次のようなことを挙げています。

 

テレビ:64%

ゲーム:52%

昼寝:43%

就業開始時間に仕事を始めない:33%

不必要な外出:30%

オンラインショッピング:26%

友達や家族との長電話:26%

飲酒:24%

 

育児や家事がありませんが、この結果は概ねその通りかもしれません。しかし別の見方をすれば、この問題は在宅で働く人が自分自身にどの程度「完璧」を求めるのかという問題にもつながります。仕事も家庭も常に完璧を目指すことは悪いことではありませんが、精神的にツラい部分もあるでしょう。そういうときにテレビを見たり、ゲームや昼寝をしたりするのは良い気晴らしです。

 

リモートワークの普及により、完璧主義を見直して、仕事や生活にゆとりを持つ人は増えたそうですが、結局それは「一時的な現象だった」と論じている精神分析家もいます。むしろ、リモートで働く人の中には「これまで以上に結果が求められる」と考えている人もいるかもしれませんが、自分を追い込み過ぎるのは危険。経営者にはこの辺のマネジメントが求められるでしょう。

 

【関連記事】

オフィスには(あんまり)戻りたくない!「ポストコロナの日常生活」をIBMが調査

 

コアラから犬、熊まで——。動物にも応用される「顔認証技術」

空港の出入国管理やオフィスの入退場などのセキュリティ、無人店舗での決済時に使われるなど、顔認証技術の活用分野が広がっています。その動きは動物にも及んでおり、なんとコアラや犬、熊への応用が進められているといいますが、それぞれどんな目的があるのでしょうか?

 

1: 機械学習がコアラを救う

↑コアラに要注意

 

オーストラリアでは、顔認証技術をコアラのために使用する試みが行われています。同国では1997年から2018年までの間に毎年356頭のコアラがクルマと衝突し、死傷したそう。この悲痛な交通事故を予防するためには、コアラが道路を横断する行動習性の理解を深め、横断の予測を行うことが望ましいという見方があります。そこでオーストラリアのグリフィス大学では、コアラの外見と動きから個体識別する顔認証技術を開発しました。

 

道路を横断するコアラをカメラが捉えると、その画像が同大学のサーバーに転送され、コンピューターと機械学習システムがコアラの個体を識別します。この方法により、どのコアラが動物用に設けられた地下道や橋を渡るかを観測するとか。

 

この顔認証技術が使われる前は、道路を横断したコアラが以前カメラで撮影されたコアラと合致するか、人が確認していました。顔認証技術の導入によって、関係者はこの作業から解放され、より正確なデータを得ることができると見られます。

 

2: 犬の識別というより監視社会の拡大?

↑だ〜れだ?

 

中国の都市部では、ペットの糞を道路にそのまま残した場合、飼い主に罰金が科されるそう。そんな公共衛生の取り締まりに利用されているのが、犬の顔認証技術です。

 

犬の鼻にあるシワは「鼻紋」と呼ばれ、犬によりその形や長さが異なるため、人間の指紋と同じように個体識別に使うことができます。そこで、中国のスタートアップが、異なるアングルから撮影した犬の鼻の画像をもとに、AIが個体識別する技術を開発。これまでに登録されている鼻紋を95%の高い精度で識別することができると言われています。

 

この技術を開発したスタートアップは、中国でECの最大手アリババの傘下にある企業。中国政府は監視社会を構築していますが、その体制は人間以外の動物にまで及んでいるのかもしれません。

 

3: ディープラーニングで熊を識別

↑熊を調査するために顔認証技術デバイスを設置する研究者(画像提供/Moira Le Patourel)

 

野生動物の生活や行動パターンを観察するためには、個体の識別が欠かせないのはこれまで説明したとおり。しかし斑点や縞のような模様がない動物では、人間の目視での識別に限界があります。そんな動物の個体識別のために、カナダのビクトリア大学は熊専用の顔認証技術「BearID」を開発。熊の画像数千枚を使って深層学習を行うことで、84%の精度でクマの個体識別ができるようになったそうです。熊は、成長したり季節が変わったりすると顔が変化しますが、この顔認証技術はそんな変化にも対応できるように進化していく計画です。

 

このように、人間の目を頼りに行われてきた動物の個体識別の世界にも顔認証技術が使われ始めています。監視社会の拡大は気になりますが、このテクノロジーが動物の保全活動などの役に立つといいですよね。

プラスチックをジェット燃料に1時間で変換! 飛行機でもエネルギー革命が進行中

現在、世界中でエネルギー革命が起きています。このトピックでは自動車業界が大きな注目を集めていますが、ほかの産業に目を向けると、航空業界ではプラスチックごみなどを原料にしたジェット燃料の開発が進められています。空の燃料はこれからどうなるのでしょうか?

 

より効率的な触媒作用

↑目的地は脱炭素社会

 

ゴミ袋やシャンプーの容器などで使用されているポリエチレンは、プラスチックの中で最も多く使われている化合物です。米国・ワシントン州立大学の研究チームは、ルテニウム(白金族元素の一種で、銀白色の硬くて、もろい金属)と溶媒を使って、ポリエチレンをジェット燃料などに変えるための触媒を発明しました。これにより、実験で使用したプラスチックの約90%を220度の温度でジェット燃料の成分に変えることに成功。しかも所要時間はわずか1時間。従来の触媒では温度を430度まで上げる必要があるそうですが、彼らの方法ではそれが200度以上も低いうえ、触媒作用もより効率的であると言われています。

 

新たに開発された技術はニーズに合わせて、反応の温度や時間、触媒の量などの諸条件を調整することもできるそう。ほかの種類のプラスチックにも応用できる可能性があるそうで、同チームは商業化に向けて、さらに研究を進めていきたいと話しています。

 

プラスチックごみの問題に対処するため、世界各地でそのリサイクルが行われていますが、品質やコストに関して問題があるため、そう簡単ではありません。同研究チームによると、米国でリサイクルされるプラスチックは9%ほどしかないと言われていますが、今回の研究はそんな現状を変えることにつながるかもしれません。

 

ANAとJALも環境に優しい燃料へ

日本でも、環境を考えた燃料の開発が行われています。日本航空(JAL)では、2030年には「SAF(持続可能な航空燃料)」の利用を全燃料の10%まで利用する目標を設定。さらに丸紅やENEOSなどと共同で、廃棄されたプラスチックを原料にした代替航空燃料の製造や販売について調査を行っており、2026年以降の活用を目指すと報じられています。一方、全日本空輸(ANA)は、日本の航空会社として初めてSAFを2020年10月下旬に同社の定期便に導入しました。

 

日本政府は、2050年までに脱炭素社会の実現を目指す「2050年カーボンニュートラル宣言」を2020年に発表していますが、これに準じて、ANAとJALは2050年の二酸化炭素排出量実質ゼロの目標を掲げています。廃棄プラスチックを原料とする燃料や、環境に優しい新たなエネルギーの開発は、ますます加速していきそうですね。

人が食べ物を噛む音が気になる? あまり知られていない「ミソフォニア」の脳科学的な特徴が判明

誰にでも不快な音があるもの。ガラス窓や黒板を爪で引っ掻く「キーキー」した音には、多くの人が嫌悪感を覚えるでしょう。しかし、他人が咀嚼する音や呼吸する音などに対して過敏に反応してしまう場合、それは「ミソフォニア」かもしれません。

 

ミソフォニアとは?

↑他人の食べ物を噛む音が不快で堪らない

 

私たちは、人が呼吸する音やあくびの音、ごはんを噛む音など、さまざまな音に囲まれながら暮らしています。そんな日常生活の特定の音に過敏に反応する症状をミソフォニアと呼びますが、よく知られた症状ではないことから、患者がミソフォニアについて医師に相談することも、医療者側が尋ねることも少ないそうです。

 

以前に英国で行われたミソフォニアに関する実験を見てみましょう。ミソフォニアの症状がある20人と症状のない22人が3種類の音を聞き、不快レベルを評価しました。3種類の音は、食事の音や呼吸音などの「トリガー音(引き金となる音)」、赤ちゃんの泣き声や人の叫び声などの「雑音」、そして雨音などの「ニュートラルな音」です。

 

その結果、雑音とニュートラルな音については、ミソフォニアの症状の有無を問わず、不快レベルの評価は同程度でした。しかしトリガー音は、ミソフォニアの症状がない人は不快度が低かったのに対して、症状がある人は高い不快度を示しました。この種類の音は主に他人によって発せられる音であり、ミソフォニアの症状がある人はトリガー音に大きく反応する傾向があるようなのです。

 

また、音の不快感が感情面に影響を与えることもミソフォニアの特徴の1つ。例えば、人の咀嚼音を聞いた途端に腹が立ったり、子どものあくびを見て、「闘争・逃走反応」(不安、恐怖、興奮などのストレス反応)が生じたりするなら、ミソフォニアの可能性があるかもしれません。

 

脳科学的には?

一方、2021年6月に英国・ニューカッスル大学の研究チームが発表した論文で、ミソフォニアの症状には脳科学的特徴があることがわかったのです。

 

この研究チームはfMRI(磁気共鳴機能画像法)を使い、ミソフォニアの症状がある人とない人の脳の反応を比較しました。すると、ミソフォニアの症状がある人はトリガー音を聞くと、脳の聴覚野と前運動皮質の信号が増加したことが判明。音を聞く中枢と、顔や口、喉などの運動に関わる領域で、一般にはない異常な信号のやりとりが行われているようなのです。

 

さらに、ミソフォニアの症状がある人の脳では、視覚領域と運動領域の間でも同じような信号の増加が観察されました。同研究チームによると、これは他人の行動を見て、自分も同じ行動を取っているかのような反応をする「ミラーニューロン」が働いていることを示唆しているとか。例えば、ミソフォニアの症状がある人は、他人が咀嚼する様子を見たうえで、その音を聞くと、自分の身体の中でも同じ咀嚼音が発生しているような感覚に陥り、強烈な不快感を感じている可能性があるそうです。

 

今回の研究結果を受けて、ニューカッスル大学は、ミソフォニアを治療するためには脳の音に関する領域だけでなく、視覚や運動の領域についても考慮する必要があると考えています。まだまだ研究が少ないと言われるミソフォニアですが、より多くのリサーチが求められています。

 

【出典】Sukhbinder Kumar, Pradeep Dheerendra, Mercede Erfanian, Ester Benzaquén, William Sedley, Phillip E. Gander, Meher Lad, Doris E. Bamiou, Timothy D. Griffiths. Journal of Neuroscience. 30 June 2021, 41 (26) 5762-5770; DOI: 10.1523/JNEUROSCI.0261-21.2021

木そのものが建物になる? 驚きの「未来の高層ビル」予測

通称「ねじれタワー」で知られ、立方体をひねったようなデザインが印象的な、ドバイのカヤンタワー(高さ307メートル)。下階より上階の方が幅広で逆三角形のシルエットが印象的なバンクーバーハウス(高さ151メートル)——。

 

世界には、建築技術の発展を背景に斬新なアイデアで生まれた、度肝を抜くようなデザインの高層ビルがあります。これから建設される高層ビルはどんな形になっていくのでしょうか? 米国の建築雑誌「eVolo Magazine」が主催する超高層ビルのデザインコンテスト「2021 Skyscraper Competition」で、492の応募作品の中から入賞した上位3つのデザインを見ながら、未来の建物について考えてみましょう。

 

1位: 木と融合した「生きた高層ビル」

↑生きた高層ビル(画像提供/eVolo Magazine)

 

灰色に見える高層ビル群の中で、木製でひときわ目立つのが、1位に選ばれたこちらの作品。ウクライナのチームのデザインで、生きている樹木を取り入れたアイデアです。使用するのは、成長が早く背の高い広葉樹に遺伝子組み換えを行ったもの。木は根から水分や養分を吸収し、成長途中に接ぎ木が行われ、立方体のように建物の構造を形成するようになります。成長とともに木は太くなり、建物の強度が増していくそう。さらに建築完成図には、飛び交う鳥が描かれ、生物たちも共存する場所になっていくことをイメージさせます。

 

一般的な住宅やビルの建設に使われる建材は、伐採した木を加工して作られます。しかしこの高層ビルでは、生きた木をそのまま使っているため、まさにこれは「生きた高層ビル」。これからの時代は近代世界を彷彿させるデザインではなく、環境に寄り添ったサステナブルな建物がますます増えていくのかもしれません。

 

2位: 沈むメキシコ市で水を守る

↑雨水をためるための斬新なアイデア(画像提供/eVolo Magazine)

 

もともと湖の上に建てられたことに加え、地下水の汲み上げなどによって地盤沈下が進むメキシコ市。そこで地下水補充のために雨水を貯める機能をビルに持たせたのが、2位に選ばれた作品です。

 

この作品はメキシコ市の洪水危険地域に建設する構想で、高さは400メートル。建物の外壁は10枚のウイングで覆われ、花のつぼみが開くように、このウイングが開きます。パラボラアンテナのように放物曲線を描いた大型のお椀状の傘が、高さ100メートルの地点で開き、雨水を貯めることができるのです。集められた雨水は、一部は地中の帯水層(地下水が貯えられる地層)に送られ、そのほかは家庭用の貯水タンクに送られていきます。これによって洪水のような被害を防ぐ狙いがあります。

 

【関連記事】

毎年最大50cmも沈んでいるメキシコ市。水が危ない

 

3位: 未来版の「長屋」

↑長屋が縦に積み重なっているようだ(画像提供/eVolo Magazine)

 

中国の雲南省には、独自の言葉やライフスタイルを持つモン族がいます。しかし、その文化は現代文明に飲み込まれ、さらに中国政府が、少数民族が暮らす都市への移住を支援していることで多数民族・漢族の流入が続き、モン族の住居の多くが取り壊されてきているそう。コンテストの3位に選ばれたのは、そんなモン族のライフスタイルに沿ったビルの構想です。

 

高層ビルの木の骨格部分に、クレーンで高床式住居を繋げ、いくつもの家を増やしていくアイデア。ビル1棟の中に公園、店舗、ジムのスペースなどが作られ、まるで1つの村ができるようなイメージです。また、ビル内の移動にはエレベーターではなく、モン族が制作を得意とする鳥かごの形をモチーフにした乗り物が作られるとか。

 

無機質な雰囲気が漂う現代的な住居ではなく、モン族の昔ながらのライフスタイルを尊重しながら造られるこのビルでは、江戸時代の日本にあった集合住宅の長屋を彷彿させる暮らしが生まれるかもしれません。

 

コンテストの上位作品はどれも、単に建物の高さを追い求めたビルや、見た目が優れただけのビルではなく、プラスアルファの価値が付いたものばかり。未来には、従来の概念を覆す新しい高層ビルができるのかもしれません。

毎年最大50cmも沈んでいるメキシコ市。水が危ない

近年、世界各地の都市で地盤沈下が起きています。その1つがメキシコの首都、メキシコ市。しかし、同市の地盤沈下はほかの都市と性質が異なるようです。メキシコ市の地下で何が起きており、そこはどのくらい危機的な状況なのでしょうか?

↑沈むメキシコ市

 

世界のさまざまな都市で起きている地盤沈下の主な原因とされているのが、地球温暖化による海面上昇や地下水の汲み上げ、石油の掘削です。例えば、中国の上海では1年に最大2.5cmのペースで地盤沈下が進んでおり、これは高層ビルや地下鉄などの建設に伴う地下水の排水が引き起こしていると言われています。また、米国・ルイジアナ州ニューオーリンズでは、石油やガスの掘削の結果、地盤沈下が起きており、街のおよそ半分が海面よりも低くなっています。この地域は2005年にハリケーン「カトリーナ」によって大きな被害を受けましたが、地盤沈下が起きていなければ、被害はもっと小さかっただろうと専門家は指摘しています。

 

しかしメキシコ市の場合、話が少し異なる模様。2021年に発表された論文によれば、同都市の地盤沈下は、地下水の汲み上げや石油の掘削ではなく、都市の基盤部分が圧縮したことによって起きている可能性があるそうです。

 

これはメキシコ市の成り立ちに関係します。アステカ族が15世紀、テスココ湖と呼ばれる湖の上にある島に湖上都市を建設し、これをアステカ大国の首府としました。その後スペイン軍の侵攻でアステカ王国は滅亡しましたが、この湖が埋め立てられて植民地都市となったのです。これが現在のメキシコ市で、ここは湖にできた都市だったのですね。この基盤部分の粘土層がすでに17%ほど圧縮しており、これが現在の地盤沈下の大きな要因となっているのです。

 

メキシコ市の地盤沈下が初めて確認されたのは1900年代初頭で、当時の沈むペースは年間8cmでした。それが1958年までに年間29cmに加速。1950年代には地下水の汲み上げを停止し、沈下のペースは緩やかになったこともありました。しかしメキシコとアメリカの共同研究チームが、115年間蓄積してきたデータや高解像度のGPSデータを分析したところ、同市は年間最大40cmのペースで沈下している一方、都市化が進んでいない北東部では、年間50cmもの速度で沈んでいる地域があることも明らかとなったのです。

 

メキシコ市の基盤となる粘土層は今後150年間、圧縮を続けると見られ、地盤はさらに30%沈下すると予測されています。それに伴い水質汚染が懸念されており、雨水や排水を集めるためのインフラ整備が必要とも言われています。

 

一度沈下した地盤が元に戻ることはありません。その影響を最小限に食い止めるための取り組みが求められています。

 

【出典】O’Hanlon, L. (2021), The looming crisis of sinking ground in Mexico City, Eos, 102, https://doi.org/10.1029/2021EO157412. Published on 22 April 2021.

ペットと一緒に寝ると睡眠の質は上がる? カナダの大学が調査

現代では、動物を飼っている人の多くはそのペットを家族の一員と捉えています。ペットと寝ている人も少なくありません。ところが、ペットは人間のストレスを軽減するなど、その医学的な効果が明らかにされつつありますが、人間がペットと一緒に寝ることが人間に及ぼす影響について調べた研究はほとんどありません。そこで、カナダのコンコルディア大学の研究チームが、ペットとの睡眠にどのようなメリットがあるのか調査を始めました。

↑よく眠れるに決まってる?

 

研究チームは、「ペットと一緒によく寝ている子ども」「ペットと時々寝ている子ども」「ペットとまったく寝ない子ども」の3グループの睡眠を、主観的な方法と客観的なメソッドを使って比較することにしました。実験には11~17歳の子ども188人が参加。客観的なデータを得るために、子どもたちは、睡眠の状態を調べるための睡眠ポリグラフ検査を一晩行ったうえ、睡眠時間や覚醒時間を記録するためにアンチグラフを2週間装着しました。

 

さらに、子どもたちと親には、子どもの睡眠時間や目を覚ます時間、睡眠の質などについてアンケート調査に回答してもらいました。これは主観的なデータとして扱われます。

 

子どもがペットと一緒に寝ている頻度について聞いてみると、「よく寝ている」は18.1%、「時々寝ている」は16.5%、「まったく寝ない」が65.4%でした。これらのデータを分析した結果、「ペットとよく寝ているグループ」と「時々寝ているグループ」では、主観的な方法と客観的なメソッドで得られた睡眠時間や覚醒時間などのデータが一致することが判明。

 

ペットとよく寝ている子どもが、アンケート調査で最も質の良い睡眠を得ていると回答したり、入眠までの時間が一番長かったり、確かに両グループの間では異なる部分もあります。しかし頻度に関係なく、ペットと一緒に寝る人は、同じような睡眠を得られている可能性がある模様。

 

夜行性の動物の場合は人間の睡眠を阻害する可能性があるという指摘もありますが、ペットを飼っている人の多くは「リラックスして安心できる」と思っているようです。実際、今回の実験でも、ペットと寝ている子どもたちはそうでない子どもと比べて、夜中に起きてしまったり、眠れなかったりしたことはありませんでした。

 

ペットが人間の睡眠に良い効果を与えていることを科学的に証明するためには、さらなる研究が必要ですが、ペットを飼っている子育て中のご家庭は、自分たちで実験して、効果を検証してみるといいかもしれません。

 

【出典】Hillary Rowe, Denise C. Jarrin, Neressa A.O. Noel, Joanne Ramil, Jennifer J. McGrath, The curious incident of the dog in the nighttime: The effects of pet-human co-sleeping and bedsharing on sleep dimensions of children and adolescents, Sleep Health, Volume 7, Issue 3, 2021, Pages 324-331, https://doi.org/10.1016/j.sleh.2021.02.007.

まるでクルマみたい! 視覚障がい者向け「靴用センサー」が歩行を変える

現代では、物をスマート化する取り組みがさまざまな業界で行われていますが、障がい者の生活をサポートするテクノロジーも例外ではありません。最近では視覚障がい者が靴に取り付けるインテリジェントなデバイスがヨーロッパで注目を集めています。このテクノロジーは、ユーザーの歩行先にある障害物を検知し、それを音や振動などを通してユーザーに伝達できるのだとか。どんなものなのでしょうか?

↑小さくても、大きな一歩(画像提供/InnoMake)

 

視覚障がい者が1人で外を歩くとき、人や物などさまざまな障害物に衝突する恐れがあります。それを防ぐために、白い杖を使って歩くほか、街中には点字ブロックや音声式の信号が設けられたり、電車のホームには転落防止用のホームドアの設置が進められたりしています。しかし、それでも視覚障がい者が事故に巻き込まれてしまうケースが報じられるなど、危険から守るための新たな対策が求められています。

 

そんな中、オーストリアのInnoMake社が、歩く人の数メートル先の障害物を検知するAI搭載ツールを開発しました。靴のつま先部分に装着して使う超音波センサー「InnoMakeセンサー」です。これを使うと、最大4m先までの範囲にある障害物——段差や縁石、人など——を検知することができて、なんらかの障害物を検出すると、装着している人にそれを伝えます。アプリを使えば、障害物を検知する範囲を0.5m~4mの範囲で、0.5m刻みで自由に設定することが可能。

↑靴の先端に付いているのがInnoMake(画像提供/InnoMake)

 

このツールを設計するために、同社の研究チームは、実際に視覚障がい者の歩行を20台のカメラを使って、さまざまな角度から撮影して解析しました。その平均的な歩幅を測定するなどして、このツールに求められる機能や、最も適切な靴の装着位置などを検討したそう。

 

障害物を知らせる方法は、振動・LEDライト・音の3種類があり、あらかじめ選択しておくことができます。振動を設定すれば靴に装着したデバイスが振動し、LEDライトを選べば夜間などの暗闇でも点灯します。スマートフォンの専用アプリを使えば、音を鳴らして障害物の存在を知らせてくれるのですが、ユーザーの周囲が雑音や騒音でうるさくても、聞き取りやすいように骨伝導ヘッドフォンを使用することもできます(この機能はアプリを起動しなくても使うことが可能)。

 

InnoMakeセンサーにはクルマとの相似点があります。このデバイスにはインテリジェントモードが搭載されており、この機能を使えば、ユーザーが椅子に腰かけているときに、InnoMakeセンサーが自動的に一時停止します。まるでクルマのアイドリングストップのようですが、それだけでなく、このセンサーは足の動き(例えば、ユーザーが歩き始める)だけで、周囲の環境を「スキャン」して、情報を取得することもできるのです。これはクルマの安全運転支援システムを想起させますよね。

 

InnoMakeセンサーは、防水性と防塵性を兼ね備えているため、雨の日も晴れの日も使うことが可能。バッテリーは付属のUSBケーブルで充電して繰り返し使えます。InnoMakeセンサーを市販の靴で使用するためには、専用アタッチメントを取り付ける必要があるそう。

 

InnoMakeの創業者のマーカス・ラファー氏は、自身も視覚障がいを持っており、視覚障がい者がより安全に日常生活を送ることができるようにするためのツールを開発してきました。ラファー氏はInnoMakeセンサーを実際に使っており、「個人的にとても助かっている」と話しているそう。同社はAIを搭載したデバイスの開発も行っていると報じられています。InnoMakeセンサーは小さなデバイスですが、このようなアイテムが世界に登場したことは、人類にとって大きな一歩かもしれません。

ほとばしる民族主義! バスケットボールが映す「米中関係」とスポーツの意味

スポーツには民族を融和させる働きがあります。近年の研究では、アフリカの国々がサッカーのワールドカップなどの重要な国際大会の試合で勝利すると、勝った国の異なる民族間でお互いの信頼度が高くなり、その後ある程度の期間、民族紛争が起きる可能性が低くなることが判明しています。

 

しかし、いつもスポーツがそのような平和的な機能を発揮するわけではありません。その一例として、バスケットボールを見てみましょう。このスポーツは中国の若者の間で抜群の人気を誇ります。もともと日本の漫画がその人気に火をつけたとも言われていますが、バスケットボールは同国の国民的スポーツの一つになりました。しかしそれゆえに、バスケットボールは昨年まで米国と中国の覇権争いに巻き込まれていたのです。本稿では中国のバスケットボール文化と併せて、その事件を振り返り、スポーツと政治の関係について別の視点から考えてみます。

 

日本の影響を受けた中国のバスケ愛

↑米中の対立はバスケにも現れる

 

中国におけるバスケットボールの人気の高さは、さまざまなことから見ることができます。例えば、オリンピックの入場式では、男子バスケットボールチームの選手が中国の旗を掲げるのが慣例。地域ごとにクラブチームもありますが、デパートの前や公園、会社の敷地内など、町中に設置されたコートでは、子どもから大人まで多くの人がストリート・バスケットボールを楽しんでいます。

 

中国でバスケットボールの人気に火が付いた理由の一つには、一説によると日本で最も人気があるバスケットボール漫画の一つ『スラムダンク』の影響が大きいといわれています。中国ではバスケットボール好きかどうかにかかわらず、また年齢や男女を問わず、スラムダンクが大人気となりました。ヤンキーあがりの主人公・桜木花道の成長物語に感動したり、クールな天才プレーヤー・流川楓にも人気が集まったり。日本同様に、中国でも個性豊かなキャラクターや彼らのストーリーがウケたのです。

 

日本では1993年から同アニメがテレビで放送されましたが、中国では1995年に放映が開始。これによってNBAの試合を視聴する人も増え、折しもスター選手マイケル・ジョーダンの全盛期も重なって、バスケットボール人気に拍車がかかるようになったのです。さらに、スラムダンクで育った世代から、NBAプレーヤーにまで上り詰める選手が現われました。このような現象もあって、2009年に中国図書商報と中国出版科学研究所が共同で評定した『新中国60年中国で最も影響力のある600冊の本』にスラムダンクが選ばれました。

 

中国は多くのNBA選手を輩出しています。ヤオ・ミンはヒューストン・ロケッツに2002年に入団して活躍し、イー・ジャンリャンは2007年にミルウォーキー・バックスに入団後、ニュージャージー・ネッツ、ワシントン・ウィザーズ、ダラス・マーベリックスで活躍しました。そのほかにも、ワン・ジジーやメンケ・バータル、スン・ユエ、ジョウ・チーと多くのNBA選手がいます。彼らの存在が国内選手の実力を引き上げ、新たなスター選手を生み出し、さらにそれがバスケ人気に拍車をかけて、新しい才能がどんどん出てくる、というサイクルになっているようです。中国のバスケットボールはアジア地域でトップクラスの実力を有しており、スラムダンクを生んだ日本は後塵を拝しています。

 

国民的スポーツゆえに……

↑中国では普通の光景

 

中国にとって国民的スポーツともいえるバスケットボールは、当然メディアでも人気コンテンツの一つ。数年前には約8億人がテレビなどでNBAの試合を観戦しました。中国の大手IT企業・テンセントはNBA観戦専用のアプリを提供しています。また、CBAのクラブには、NBAで活躍していた選手も数多く在籍しており、中国の国営放送(中国中央電視台)はNBAと併せてCBAの試合も連日放送しています。

 

NBAの放送が中国で始まったのは30年ほど前。それからバスケットボールの人気に火が付くまで10年ほどかかりましたが、NBAと中国の関係は近年まで概ね良好でした。しかし、2019年10月に事件が起こります。

 

民主主義を求める香港で起きた大規模なデモを受けて、NBAの人気チームの一つ「ヒューストン・ロケッツ」の幹部が「香港と共に立ち上がろう」と書かれた画像をツイート。この行為に対して中国が反発し、中国国営放送がNBAの放送を中止しました。

 

その結果、二つのことが浮き彫りに。一つ目は中国におけるNBAビジネスの大きさです。中国の放送中止や中国企業のスポンサー撤退により、NBAには最大4億ドル(約420億円)の損失が生じたとされています。

 

二つ目は、バスケットボールが愛国心を刺激する装置であること。コアなバスケットボールファンは中国国内で1.5億人にのぼるといわれています。放映中止の決定は中国政府が主導しましたが、多くの一般市民が問題のツイートに対してネット上にコメントを投稿し、ヒューストン・ロケットの幹部を非難。外交の観点から見れば、ソフトパワーの一つであるNBAが中国人のナショナリズムを煽ってしまったのです。

 

この事件が終わるまで1年かかりました。中国国内でNBAの放送再開を望むが多かったことに加え、NBAがコロナ禍の中国に医薬品提供などを行ったことにより、中国国営放送は2020年10月、NBAの試合の中継放送を再開しました。

 

卓球は違う?

バスケットボールを舞台にした米中の衝突は2011年8月にも起きています。米国のジョージタウンの学生チームが中国のプロチームと北京で親善試合を行いましたが、途中で乱闘騒ぎに。事の発端は定かではありませんが、その試合には、中国の次期大統領(当時)の習近平氏と会談するために中国を訪問していた米国のジョー・バイデン副大統領(当時)がスタジアムで観戦していました。その後、両チームは和解しましたが、米国のシンクタンク・外交問題評議会は「バスケの乱闘が米中関係の、よろしくない象徴に」という見出しの記事を掲載しています。

 

その逆に、アメリカと中国はスポーツを通じて両国の緊張関係を緩和したこともあります。それが、1971年のピンポン外交です。名古屋市で開催された第31回世界卓球選手権を舞台にしたこの出来事は、その後の米中関係でなく日中関係にも影響を与えたと言われています。米中が対立しているときはバスケットボールでも喧嘩が起きるようですが、両国の間で卓球の話が出てきたら、緊張緩和のサインかもしれません。

 

 

英国「ペットブーム」の思わぬ反動! ロックダウン解除で犬が情緒不安定に

長期間にわたってロックダウン(都市封鎖)が続いた英国では、触れ合いと安らぎを求めて犬を飼う人が急増しました。しかし学校や職場への復帰が進み、生活が正常に戻りつつある中、今度は犬たちが飼い主の不在に戸惑い、精神的に不安定になっています。このようなペットブームの思わぬ反動に、英国の愛犬家やペット業界はどのように対応しているのでしょうか?

 

飼い主の不在がストレス

↑ずっとリモートワークにしてくれたらいいのに……

 

ロックダウンによるペットブームで、多くの英国人は犬を飼うようになりました。その結果、多くのお店でドッグフードが売り切れて在庫不足になったり、人気犬種を狙うペット泥棒が急増したり、ネガティブなニュースも報じられています。

 

しかし、ワクチン接種の普及とロックダウンの緩和で以前の生活が少しずつ戻ってくると、今度はペットの犬がこの生活の変化に付いていけず、精神的に混乱し、分離不安障害に陥っているのです。この障害は、愛着を持つ人から離れることで持続的に強い不安が生じる病気で、よく吠える、身震いをする、食欲をなくす、物陰に隠れてしまうなど、さまざまな症状が現われ、ときには愛犬を手放さなくてはならないほど悪化するケースもあると言われています。

 

ロックダウンが段階的に解除されていったことで、いままで1日中そばにいた飼い主が不在がちとなり、一緒に遊ぶ相手がいなくなったことが、犬にとって大きなストレスになっているのです。

 

ロックダウンの緩和が始まった2021年4月ごろから、ペットのメンタルヘルスを保つための呼びかけが、専門家によって子ども番組やニュースなどのメディアを通じて行われており、飼い主の職場復帰に合わせて、ペットを新しいライフスタイルに適応させるためのコツやサービスに関する情報が提供されています。

 

愛犬向けデイケアセンターが人気

↑友達との散歩は楽しいワン

 

犬のメンタルケアをするために最も人気がある方法は、散歩代行をしてくれるドッグウォーカーに愛犬を散歩に連れて行ってもらったり、ほかの犬と一緒に遊んだりすること。また、託児所のように犬を預かって遊ばせてくれるデイケアセンターもあります。ロックダウンが段階的に緩和されるようになってからは、それ以前と比べて利用者が40〜50%も増えているそう。

 

これらは、ただ犬を一定時間預かるだけではありません。アプリやSNSを利用して散歩ルートをマッピングしたり、トイレの報告をはじめ、日中の様子を撮った写真などを飼い主に提供したり、さまざまなサービスを提供することが、この業界のスタンダードになっています。

 

例えば、ブルース・ドギーケア(Bruce’s Doggy Care)社は飼い主と愛犬の多様なニーズに応えるために、プロのシッターが広々とした敷地内で子犬のしつけからグルーミング、お泊まりまで、幅広いサービスを提供しています。アプリ上で予約や来店時間の変更を簡単に行うことができ、愛犬の様子もこまめに報告してくれるなど、充実したサービスが評判を呼んでいます。

 

ロックダウン中に新たに飼われた子犬の中には、ソーシャルディスタンスが主な原因で、他者との接触が少なく、社会に適応できない犬もいますが、このようなサービスを利用することで、飼い主の不在に慣れたり、ほかの犬との付き合い方を学んだりすることができるのです。その一方、リモートワークを経験したことで、より柔軟な働き方を導入する職場も増えており、犬と一緒に出社できるペット・フレンドリーなオフィスも登場しています。

 

狂おしいペット愛

↑職場にも連れていって

 

他方で、ペット用スマート家電の導入も盛んになってきました。例えば、ペットキューブ(Petcube)はスマートフォン経由でAmazonのスマートスピーカー・Alexaと連動し、外出中でもペットに話しかけることができます。留守番しているペットをできるだけ安心させるために、部屋が暗くてもペットの居場所がわかる暗視カメラが搭載されていたり、不審な動きや音を検知すれば警告してくれたり、さまざまな機能が付いています。

 

また、高品質でヘルシーなおやつや、ペット用オーガニックシャンプーなどの需要も増えています。出前・宅配アプリのUber Eatsはロンドンの人気ペット用品店と提携。ユーザーは、ペットフードやペット用おもちゃを同アプリで簡単に注文して、家まで届けてもらうことができるようになりました。

 

さらにホテル業界では、愛犬を連れて旅行する人が今後増えていくことを見越して、ペット向けのラグジュアリーなサービスも登場しています。ヒルトンホテルの一部は、犬連れの宿泊客のために、ペット栄養学の専門家と共同開発した4種類の犬用メニューの提供を2021年5月に開始。ビーフブリスケット(牛胸肉)の煮込みやグルテンフリーのトマトパスタなど、ペット用とは思えないほど手の込んだ料理です。それに加えて、長旅の疲れを癒すドリンクとして、ラベンダーやバラをブレンドしたペット用ドリンクや、ライムの花や高麗人参などをブレンドしたノンアルコール・ワインも用意されています。

 

このようなモノやサービスをどの程度取り入れるかは飼い主によって異なりますが、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために外食や旅行が制限されていた分、犬に時間やお金をかける余裕が生まれたことも今回のペットブームに拍車をかけたといえるでしょう。ロックダウン期間中にペットが人間を癒してくれたように、今度は人間が愛犬を救う番です。

 

執筆者/ネモ・ロバーツ

プラセボだっていいじゃない!「ピンク色の飲料水」で運動がもっと楽しくなる

スポーツや運動をするとき、どんなドリンクを飲んでいますか? スポーツドリンク、水素水、経口補水液など、さまざまな選択肢がありますが、もし運動のパフォーマンスを上げたいと考えているなら、飲み物の色に着目するといいかもしれません。

↑飲み物もウエアのコーディネートも全部ピンク系にしたら、運動は最高に楽しい?

 

運動パフォーマンスと飲み物の色の関係を調べるため、英国・ウエストミンスター大学の栄養補助食品センターの研究チームは被験者を使って、ある実験を行いました。

 

被験者にはランニングマシンを使って、自分の好きな速度で30分間ランニングをしてもらい、その最中にドリンクを飲んでもらいました。用意されたのは、人工甘味料を使った低カロリーのドリンク2種類で、1つはピンク色、もう1つは透明です。2つのドリンクの中身はまったく一緒ですが、ピンク色のほうだけ着色料を使って色を付けており、見た目の色だけが異なっています。

 

その結果、ピンク色のドリンクを飲むと、透明のドリンクを飲んだときに比べて走行距離が平均で212m長くなったと同時に、ランニング速度が4.4%上がったことが判明しました。しかもピンク色のドリンクを飲むと、透明の飲料水と比べて、被験者は運動をより楽しいと感じた模様です。

 

プラセボ効果?

先行研究では、糖分入りのドリンクを飲むことによって、運動の負荷が軽減し、パフォーマンスが上がることがわかっていました。今回の実験で研究者がピンク色を選んだ理由は、ピンクが糖分を連想させる色であるため、糖分摂取の期待を高める効果があるだろうと考えたから。実際にピンク色のドリンクを飲むとパフォーマンスが上がったのは、被験者自身が「エネルギーを補給して元気になった」と錯覚している可能性があります。

 

この研究チームでは、糖分の入っていないドリンクでもピンク色であれば、飲んでいる人は糖分を接種していると思い込み、パフォーマンスが上がるのではないかと推測しています。しかし、ピンク色のドリンクにこのようなプラセボ効果(有効成分が含まれていない偽薬でも身体に効果が現れること)があるかどうかは、さらなる研究を行う必要があるとのこと。考えられる理由の1つとしては、スポーツや運動の場面でピンク色のドリンクを飲むことは、日本を含め他国では一般的であるとは限らないということが挙げられるでしょう。

 

しかしながら、かっこいいウエアやシューズを身に着けると、なんだかプロのアスリート並みに身体が軽快に動きそうな気がしてくるもの。格好から入るのと同じように、もしかしたら私たちはエネルギーをしっかり補給できそうな色のドリンクを飲むと、身体に力がみなぎってくるように感じるのかもしれません。スポーツをするときや、子どもの運動会などに参加するときは、試しにピンク色のドリンクを飲んでみてはいかがでしょうか?

 

【出典】Brown DR, Cappozzo F, De Roeck D, Zariwala MG and Deb SK (2021) Mouth Rinsing With a Pink Non-caloric, Artificially-Sweetened Solution Improves Self-Paced Running Performance and Feelings of Pleasure in Habitually Active Individuals. Frontiers in Nutrition. 8:678105. doi: 10.3389/fnut.2021.678105 

人間だけが「遊ぶ存在」ではない!「笑う動物」が65種類もいた

犬や猫などのペットを飼っている人は、動物も人間と同じように笑っていると思う瞬間に遭遇したことがあるはず。以前は「笑う」という行為は人間特有のものと思われていたようですが、動物の笑いに関する最新の研究によると、人間と同じように笑う動物は65種類もいるとのこと。その中には意外な動物も含まれていたのです。

↑楽しいから、こっちにおいでよ!

 

人の笑いは、遊びの一環であるほかに、協調性や親しみを示す役割がありますが、このような行為は本当に人間だけに見られるものなのでしょうか? 米国・カリフォルニア大学の研究チームが、 人間以外でも笑う行為をしている動物がいるという前提に立ち、どれくらいの種類の動物が笑うのかを調査しました。

 

この研究チームは動物の遊びに関する先行研究を調べるのに際して、その中でも、笑いと見られる「声」を使った遊びに焦点を絞りました。録音された動物の笑い声の大きさや長さ、音の高さだけでなく、それが1度だけ起きるのか、それともリズミカルに続くのかなどを分析。それに加えて、これまでに判明している動物の遊ぶときに発する声の特徴と一致するかどうかを調べていったのです。

 

その結果、笑う行為をしていると考えられる動物は、少なくとも65種類に及ぶことが明らかになりました。その中には、ニホンザルなどの霊長類、犬、猫などペットとしておなじみの動物のほか、イルカ、アシカなどの水生哺乳類、インコやカササギなど、3種類の鳥類も含まれているのです。この研究を行った1人が、笑う動物のリストをTwitterに公開しています(英語)。

 

この結果を受けて、研究チームは新たな仮説を立てています。人間の笑いは自分が楽しんでいることを周囲に伝え、「一緒に楽しもうよ」という意味を伝達していますが、動物の遊びの多くは激しく、けんかと似ているときもあります。しかし、そのときに動物が笑い声を発することによって、「相手や周囲に攻撃を加えることはない」というメッセージが強調されているのではないだろうか——?

 

野生動物では、このような遊びの音を観察することは困難な模様ですが、研究が進むことで、動物社会における笑いの機能や、人間の社会行動の進化との関わりについて新たな発見があるだろうと研究チームは語っています。

 

人間は遊ぶ存在である、と歴史家のヨハン・ホイジンガは述べていますが、人間は動物から進化しました。人類の起源とされる動物が遊んで、笑うのであれば、人間がそうするのも当然と言えます。この意味で、今回の研究結果はこの説を裏付けるものと言えるでしょう。今後の進展が楽しみですね。

 

【出典】Sasha L. Winkler & Gregory A. Bryant (2021) Play vocalisations and human laughter: a comparative review, Bioacoustics, DOI: 10.1080/09524622.2021.1905065

 

何曜日に生まれたか覚えてる? タイで「帝王切開出産」が当たり前なワケ

出産を控えたパパ・ママや子育て中の親は、どうやって不安や心配に対処しているのでしょうか? 本稿では、国民のおよそ94%が仏教徒で、信仰心のあつい人が多いタイに注目し、その知られざる出産事情を紹介します。

 

帝王切開で運勢アップ

↑産まれた日の曜日と色は……

 

日本の外務省によると、タイでは国民の95%が仏教徒で、残りの5%がイスラム教徒とされています。しかし、実際にはヒンドゥー教やアニミズム信仰など、さまざまな神仏を尊重する風習がこの国にはあり、そのような信仰心が出産や命名、誕生後の儀式にも深くかかわっています。

 

一般的に日本では、好んで帝王切開を選ぶ人は少ないでしょう。しかし、タイでは赤ちゃん10人のうち7~8人が帝王切開で生まれており、その半数は医学的な理由ではなく、主に宗教的な理由で帝王切開が選ばれているのです。

 

大多数のタイ人が信仰する上座部(じょうざぶ)仏教では、例えば月曜日なら黄色、火曜日なら桃色、水曜日なら緑色というように、生まれた曜日によって仏様や色などが決まっています。月曜日には黄色を身に着けている人を数多く見かけるほど、曜日ごとの色の違いはタイ人の生活に浸透しているのです。

 

自分の生まれた曜日を覚えている日本人はあまりいないでしょうが、多くのタイ人は自分が何曜日に生まれたかを知っています。筆者もタイ人の友人から「何曜日生まれ?」と質問されたことがあり、当然ながら答えられませんでした。

 

「どの曜日に生まれたから優れている」ということではありませんが、タイでは、生まれた曜日によって運勢を占う「曜日占い」に左右される人がたくさんいる、というほうが事実に近いでしょう。つまり、同国の女性の多くは子どもの幸運や成功を願うがゆえに、生みたい曜日に合わせて帝王切開を行うのです。

 

このような慣習を持つタイ人の間では、子どもに付けた名前を成長過程で変えることも珍しくありません。タイでは改名が簡単に行えるため、占いの結果によって子どもの名前だけでなく、産んだ自分自身や夫の名前まで変えることすらあるのです。

 

名前に関して驚くべき点はこれだけではありません。仏教以外の宗教や信仰にも寛容なタイ人の国民性は、子どもの命名にも影響しています。

 

タイには元来アニミズム信仰が存在し、森林や巨樹、土地、家屋などに「ピー」と呼ばれる精霊が住んでいると考えられてきました。「それらの精霊を供養すれば庇護を、悪い行いをすれば罰を受ける」という考え方は、現在もタイ人に強く根付いています。

 

中には「子どもをさらう悪い精霊も存在する」という考えに基づき、子どもにあえて動物や人間の身体的特徴などにちなんだニックネームを付けることで、我が子を守る人も存在します。「レック」(タイ語で小さいという意味)や「ムー」(豚)など、日本にはない発想から生まれるニックネームもありますが、タイ人にとっては「子どもの幸福を願う」という意味があるのです。

 

なお、タイ人の名前はとても長く、友人はもちろん同僚や上司であってもニックネームで呼び合うのが一般的です。タイでは名字の歴史が比較的に浅く、1913年に姓氏令が出されたことで一般市民も名字を持つようになりました。当時の人々は周囲と同じ名字を避けるために、ユニークで長い名字を作ったそう。現在でも「同じ名字を持つ人は全員親戚だ」と言われていますが、友人同士で本名を知らないことは、タイでは日常茶飯事です。

 

非合理的でもスピリチュアル

↑生後1か月の赤ちゃんの髪の毛を剃る儀式

 

信仰心に由来する文化は他にもあります。「3日目まではピー(精霊)の子、4日目からは人間の子」と言われているタイでは、生後3日でお寺に行き、僧侶から祈祷を受け、生後1か月で赤ちゃんの髪の毛を剃るという儀式が行われています。

 

この儀式については諸説あるようですが、その中でも「母親の子宮にいたときから生えている髪の毛は汚らわしいものとされるため、それを剃ることで、赤ちゃんは強く、賢く育っていく」という説が昔から有力なようです。現在この伝統は田舎や由緒ある家柄でしか行われていませんが、筆者がタイ人の友人にこの話を聞くと、祖父母の代まではこの儀式を行っていたとのことでした。

 

タイの出産や育児に関する風習は日本と大きく異なりますが、日本でもお宮参りやお食い初めなど、赤ちゃんの健やかな成長を祈るための宗教的な儀式は現在も広く行われています。国が発展し、世俗化が進んでも、このような文化は残っており、むしろ絶え間なく変化する世の中だからこそ、人々の精神的な支えとなっているのかもしれません。

 

執筆者/加藤明日香

いまこそ進化のとき! 新時代の「形」を求めるイタリアのパスタ事情

イタリア人は食に関して保守的とよく言われますが、パスタも例外ではありません。それぞれ好みの形状のパスタがあり、その嗜好にはとても忠実です。日常的に食するパスタは家庭や個人で定番があり、それ以外のタイプにはあまり手を出さない傾向が強いのです。しかしそんな文化に、イタリアのある大手パスタメーカーが挑戦状を叩きつけました。同国のパスタに何が起きているのでしょうか?

 

コロナでパスタの嗜好があらわに

↑このパスタの形は何と言ったっけ……?

 

日本でパスタと言えば、一般的にはスパゲティを指しますが、イタリアではショートパスタを好む人が多くいます。イタリア人にその理由を尋ねると、「ショートパスタの穴にソースがよく絡むから」という答えが返ってきます。

 

2020年の春から始まったロックダウン中、イタリアではスーパーでパスタを買いだめする動きが目立ちました。小麦粉や砂糖が軒並み品切れしたことはよく知られていますが、パスタの棚も空になるという現象が各地で見られたのです。ところが、表面に溝がなくソースが絡みにくいタイプのショートパスタだけは売れ残り、イタリア人のパスタに対する嗜好があらわになりました。

 

バリラやディ・チェコなど大手パスタメーカーの商品には、パスタの形状によって番号が付与されています。もちろんリガトーニやペンネといったパスタの名称も記載してあるのですが、太さやサイズの種類が多いため、番号で識別しないとわかりにくく、ゆで時間を間違えてしまう可能性があるのです。同じ形でも1番違いで調理時間や食感が微妙に異なり、夫婦げんかの原因になることもあると言われています。

 

リガトーニやマカロニ、ペンネといったおなじみのパスタの形状や名称は、日本でもよく知られていますが、イタリア人が国内を旅行して、馴染みのない土地のレストランに入ると、イタリア人でさえも「それはどういうパスタ?」と従業員に尋ねなくてはならない状況は珍しくありません。それほどパスタの種類が多いのです。

 

地方によって独自の形状や名称のパスタが存在し、場合によっては方言で名づけられていることもあります。そのため、外から来た人間には「名前を聞いただけではパスタの形が想像もできない」ということが頻繁に起きます。また、同じ名前でも場所が変わると異なる形状のパスタを指していることもあり、パスタのあらゆる形をすべて知るのは、かなり困難とされています。

 

長い歴史があっても分類はない

↑歴史が長過ぎて分類できない

 

小麦の生産で有名な南イタリアは典型的な地中海式気候であり、さんさんと降り注ぐ太陽と乾いた空気によって乾燥パスタが広がりました。一方で、南イタリアほどは日照時間に恵まれない北イタリアでは、卵を使った生パスタが主流となって発展してきたという経緯があります。

 

ただ、イタリア全土にわたりパスタはとても種類が豊富ですが、パスタの形状や名称については特に正式な分類が存在していません。

 

そもそもパスタの歴史は大変古く、古代ローマ時代には美食家のアピシウスが、ラザニアの先祖と思われるメニュー「laganum」の記述を残しています。1154年にシチリア王に仕えていたアラブ人の地理学者イドリースィーは、スパゲティに関して世界初の著述を残しているそう。マカロニについては、13世紀初めにジェノヴァの公証人が初めてその名を文書に残しました。

 

しかし、こうした知名度の高いパスタについては名称も形状も定着はしているものの、厳密な分類ルールがあるわけではないのです。

 

では実際に、イタリア国内にはどのくらいのパスタの形状が存在するのでしょうか? パスタ関連のサイトによってもその数字はまちまちであり、だいたい250~300種類というのが一般的な見解です。イタリアの大手パスタメーカーであるバリラ社は、公式サイトをざっと見るだけでも、乾燥、生、ロング、ショート、ミニなどさまざまなタイプのパスタを120種程度は生産しています。その点を考慮すれば、およそ300種類という数字はあながち誇張ではないのかもしれません。

 

新時代の新しいパスタの形は?

↑新しい形を募るバリラ社のパスタ

 

2021年春、そのバリラ社が「バリラ・ニュー・パスタ・シェイプ」というキャンペーンのもと、新しいパスタの形状を一般から募集しました。応募条件は成人していて「創造力があること」のみで、今回は乾燥パスタに限られています。パスタ100gに対して、水1リットルと塩7mgで茹でた場合に食用可能になる、という条件をクリアすること。調理後もその形状が崩れないことや、あらゆるソースとよく絡むことも条件のひとつになっています。

 

形状だけでなく原料についても、肥満ぎみのイタリア人向けにヘルシー志向にマッチするようなアイデアを求めています。セモリナ粉やデュラム小麦を使用した従来のパスタにとどまらず、スペルト小麦やそば粉、トウモロコシや豆類の粉などを使用したものが特に推奨されています。当然ながら添加物の使用は禁止。

 

賞金として4000ユーロ(約52万円※)が支給されるだけに、バリラ社も真剣。「消費者の興味を引き、創造性を喚起するような革新的な形」であることが応募条件の一つとして挙げられていました。募集は2021年6月4日で締め切られ、コンテストの勝者は2021年7月の終わりに発表される予定です。

※1ユーロ=約131円(2021年7月4日現在)

 

パスタの好みが保守的なイタリア人に、ひと目見ただけで「このパスタはぜひ試したい!」と思わせるような新たな形状が誕生することを、バリラ社は待ち望んでいるようです。果たして、イタリア国民に長く愛されるようなパスタの新しい形は生まれるのでしょうか?

「ゲルマン魂」の新たな象徴! ドイツで若年層に大人気の「キャンピングカー」を詳しく解説

これまでドイツでは、キャンピングカーの旅は、時間に余裕がある高齢者や年金生活者向けのレジャーだと考えられていました。しかし、2019年に同国最大の市場調査機関が行なった調査で、「5年以内にキャンピングカーでの旅行をしてみたい」と答えた人の約56%が18~44歳であることが判明。最近では、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、若い世代の間でキャンピングカーの購入意欲が高まり続けています。

 

新型コロナで加速

↑ミニキッチン装備のVW「カリフォルニア6.1・ビーチ・キャンパー」(写真提供/フォルクスワーゲン)

 

世界各国で、他人と接触することなく屋外を安全に旅する方法としてキャンピングカーが人気を集めていますが、ドイツも例外ではありません。

 

キャラバン産業協会の統計によると、2020年のキャンピングカーやトレーラーハウスの新車販売台数は10万7203台と、2019年と比べて32.6%も増加。特にキャンピングカーは前年比44.8%増の7万8055台と大躍進を果たしています。

 

コロナ禍が続く2021年もこの人気は衰えを知らず、4月の新車販売台数はキャンピングカーが前年同月比92.7%増の8510台、トレーラーハウスは同50.6%増の2588台と、それぞれ驚異的な伸びを見せました。

 

ドイツ人はもともと旅行やアウトドア活動が大好きな国民で、リフレッシュすることがその後の仕事の生産性にもつながると考えています。「旅行のために仕事をするのではなく、仕事を精力的にこなすために旅行に行く」という考え方です。

↑筆者の家の近くにあるキャンプ場にはキャンピングカーが押し寄せている

 

ドイツでは有給休暇の次年度繰越ができないこともあり、ほとんどの人が有給休暇を使い切ります。取得時期は職場で調整し事前に決めるので、予定が変わることはほとんどありませんが、コロナ禍では感染状況が変われば、予約をキャンセルしなくてはなりません。そのため、最近では事前予約が必要な海外旅行などを敬遠し、自由な国内旅行を選ぶ動きが増えています。

 

ドイツは言わずと知れた自動車大国。市場調査会社スタティスタが2020年に発表した調査結果によると、マイカー所有率は69%、通勤通学の自家用車使用率は63%、旅行にクルマやキャンピングカーを使用する人の割合は61%と、クルマは社会に深く浸透しています。そのうえ、通行料無料の高速道路アウトバーンが国内をくまなく結んでいるので、長距離ドライブも苦になりません。

 

2021年のキャンピングカートレンド

↑ポップアップルーフが付いたメルセデスベンツ「マルコポーロ・ホライゾン」(写真提供/ダイムラー)

 

このような背景があり、ドイツの若い世代はコロナ禍でも比較的安全なうえ、確実に旅行できる方法としてキャンプを選び、キャンピングカーを購入しているのです。また、2020年7月から12月まで景気対策として消費税が19%から16%に減税されたので、その恩恵にあやかろうとキャンピングカー購入に踏み切った人も少なくなかった模様。この動向は現在も続いており、若い世代向けの小型バンが2021年のトレンドになっています。

 

若年層には家を購入している人が少なく、都会に住む傾向がありますが、大都市ではアパートやショッピングモールの駐車場に高さ制限があり、駐車スペースも限られます。しかし、開閉可能なポップアップルーフ付き小型バンなら、車高制限をクリアすることができるうえ、特別な駐車場の確保が不要。日常的な使い勝手も良いなど、実用性を兼ね備えているのが人気のポイントです。

 

また、キャンピングカーの関連商品として、クルマの屋根に設置できるルーフテントも人気を集めています。これならクルマにポップアップルーフが付いていなくても、追加の就寝スペースを車上に確保することができます。ドイツのアパートには大抵「ケラー」と呼ばれる各部屋専用の地下収納室があるので、使わないときはコンパクトに折りたためば収納場所に困る心配もありません。

 

人気が高いキャンピング小型バンの車内

↑VWのカリフォルニア6.1・ビーチ・キャンパーに搭載されているミニキッチン(写真提供/フォルクスワーゲン)

 

ドイツの若い世代で人気が高いキャンピング小型バンを具体的に見てみると、フォルクスワーゲン(VW)の「カリフォルニア6.1」というモデルの「ビーチ・ツアー」と「ビーチ・キャンパー」、メルセデスベンツの「マルコポーロ」というモデルの「アクティビティ」と「ホライゾン」の4車種が挙げられます。

 

若年層にとってのキーポイントは、充実した装備よりも日常的な使いやすさ。「キャンプに行くときは、車内スペースに必要な道具を積めばよい」という合理的な考え方が重視されているため、この4車種には本格的なキッチンが付いていません。フルキッチンを搭載した場合、車内が狭くなるため、中で移動しにくかったり容量が減ったりするうえ、重量が増すので燃費も悪くなります。

↑カリフォルニア6.1・ビーチ・キャンパーの広々とした車内(写真提供/フォルクスワーゲン)

 

VWのビーチ・ツアーとビーチ・キャンパーの共通点は、縦200cm×横120cmのマットレス付きポップアップルーフや、車外で使える折りたたみ式のテーブルと椅子2脚(バックドアに収納可能)、回転式の運転席と助手席などが標準装備されています。両者の違いは、ビーチ・ツアーはスライドドアが左右両側に付いているため、人の出入りや荷物の出し入れがスムーズにできるのがポイント。それに対して、ビーチ・キャンパーは折りたたみ式のステンレス製作業台と1口ガスコンロのミニキッチンが搭載されており、折りたためば側面に収納することができます。

 

その一方、メルセデスベンツのアクティビティとホライゾンには、縦205cm×横113cmのマットレス付きポップアップルーフや、回転式の運転席と助手席などが標準装備されています。前者は商用車バンを、後者はミニバンのVクラスをベースとしていますが、両者ともキッチンがありません。必要最低限の装備で車内スペースを広くとっているのが、この2台の特徴です。

↑メルセデスベンツのマルコポーロ・アクティビティのポップアップルーフ内部(写真提供/ダイムラー)

 

この4車種の中ではマルコポーロ・アクティビティが最も価格が低いのですが、それでも税込価格4万9990ユーロ(約661万円※)と、若い世代にはとても高額です。それでもドイツ人には「長く使うことを前提に多少高くても納得できるものを購入する」という傾向があり、特にクルマに関しては頑丈で長持ちすることが絶対条件。「高価でも修理しながら何十年と使えば、長い目で見ると経済的」という考え方が強いとされています。この意味で、キャンピング小型バンは“ゲルマン魂”の新たな象徴と言えるかもしれません。

※1ユーロ=約131円(2021年7月2日時点)

 

↑マルコポーロ・アクティビティの車内は少しシック(写真提供/ダイムラー)

 

筆者が住むノルトライン・ベストファレン州では、2021年5月半ばに条件付きでキャンプ場が解禁されました。自宅に近い川岸のキャンプ場は、すでに多くのキャンピングカーで溢れています。今後はドイツの若い世代でも「バン・ライフ」という価値観が広く定着するかもしれません。

 

【画像ギャラリー】

 

 

子どもが道で転んだら道路のせい?「日本の育児」はベトナムを変えるか?

ベトナムでは、祖父母などの高齢者が子どもの面倒を見ている風景をよく目にします。微笑ましい光景ですが、その背景にはベトナムの女性就業率の高さがあります。そんなベトナムでは最近、日本の育児に注目が集まっていますが、一体なぜでしょうか? 同国の育児・子育て事情と併せて見てみましょう。

 

女性は働き、男性は怠ける

↑“おばあちゃん子”が多いベトナム

 

ベトナムの非政府・非営利組織である開発統合センターによると、全ベトナム人口の中で女性の労働参加率は、世界平均値の42%と比べて遥かに高い72%となっています。また、ベトナム全労働者の中で女性が占める割合は48%とされており、男性と女性の割合はほとんど変わりませんが、その中には幼い子どもを遠い田舎に残し、親だけ都会に出稼ぎに行ったり、日本などの海外で働いたりする人もいます。

 

ベトナムでは「男性は働き、女性は家事労働をする」という伝統的な家族生活が、1986年に始まった「ドイモイ政策」によって根本的に変わることになりました。自由市場の仕組みなどを取り入れたことで、以降のベトナムでは女性も働きに出る傾向が高くなりました。

 

しかし、女性が働くには子育てというハードルがあり、この問題の解決策が祖父母になっています。田園調布学園大学の柴原君江教授の調査によれば、子育てしながら働くための必要な条件についてベトナム在住の男女にアンケートを行った結果、「祖母の子育て協力」との回答が81.3%にのぼりました。

 

最近のベトナムでは、女子を厳しく育てることで自立を促す一方、男子は比較的甘やかして育てる風潮があります。その結果、女性の多くは働きに出ますが、一般的に男性は怠け者になった様子。国際労働機関(ILO)のレポートによると、家事に女性が週平均20.2時間を費やしているのに対し、男性は10.7時間にとどまっているとのこと。さらに、男性の2割はまったく家事をしていないことも明らかになりました。女性の労働率が高いからといって、男女平等ということではありません。

 

ベトナム人に大切なものは何かと聞くと、異口同音に「家族」と答えます。なけなしの給料から毎月親のために仕送りする若い人たちも少なくありません。親や家族を大切にするという儒教の教えがあるからで、親を敬うよう小さなころから教えられています。

 

ベトナムが家族を大切にするもう1つの理由に、ベトナム戦争の影響があります。日本人にとって戦後が1945年以降を指すのとは違い、ベトナム人にとっての戦後は1975年以後であり、この戦争を経験した多くの人は現在も生きています。戦時中の混乱の中でベトナム人は他人を信頼できず、信じられるのは自分の家族や親族だけだったため、この価値観がいまでも続いているのです。

 

このような背景があるベトナムは、子育てや育児の考え方において日本人と大きく異なる部分があります。

 

その一つは、ベトナム人の家庭では、子どもが失敗や問題の責任を自分以外の人や物に転嫁するように教育すること。例えば、多くの親(もしくは祖父母)は自分の子どもが道で転ぶと「道路」を責めます。子どもの心を傷つけたくないと思う親心のからですが、そのためベトナム人は大人になってからも謝らず、何か問題が起きると他人や周りのせいにする傾向があります。

 

また、食事についてはマナーよりも全部食べることのほうが重要で、マナーを厳しく教えることによって子どもが食べなくなることを心配しています。まだベトナム戦争の記憶が新しい世代にとって「痩せた子は貧しい」というイメージが強く、「太った子は元気だ」と思っているからです。

 

学習面でも、ベトナムの親や学校の教師は子どもの想像力を培わせるよりも、手っ取り早く正解を暗記するように教育するのが特徴。例えば、絵を描く際、ベトナムの子供たちはお手本の絵を真似して、そのまま描くように教えられるのです。

 

日本に追いつけ

↑日本式子育てのおかげで将来有望?

 

このような特徴を持つベトナムですが、最近では日本の子育て方法に注目が集まっています。例えば、井深大(ソニー創業者)著『幼稚園では遅すぎる』や木村久一(教育学者)著『早教育と天才』といった本とか、教育研究家の七田眞氏が7歳未満の子どもの知性と才能の育成方法についてまとめた本のベトナム語版が、同国の中流階級以上の人々に読まれるようになりました。

 

日本人の専門家や著名人の本が人気を集めている要因の一つには、観光があります。日本は経済的に成功している国というイメージが以前からありましたが、近年では仕事や観光で日本を訪れるベトナム人の数が増加傾向にあります。日本政府観光局の訪日ベトナム人観光客数の推移を見ると、2014年は約12万4000人でしたが、19年には約49万5000人に増えました。2020年以降は新型コロナウイルスの影響のため、その数は大幅に減少していますが、日本を観光したベトナム人は、日本人のマナーやしつけを目の当たりにし、感銘を受けることが多いようです。

 

例えば、日本では多くのクルマが運転マナーを守っています。お店では、客はレジの前できちんと並び、他の人を抜かしません。災害時でも日本人は冷静に対応することが世界的に知られています。このような日本人の行動や慣習を日本で体験することが、ベトナム人の日本式子育てや教育に対する関心を高めているようです。

 

また逆に、筆者はベトナム在住の日本人ですが、このような現象を目の当たりにすると、異論はあるかもしれませんが、日本人は子どもに社会マナーをしっかり教える文化をまだ持っており、それは国によって当たり前のことでないのだと気付かされます。

 

ベトナムは2030年までに上位中所得国に、2045年までに先進国になるという目標を掲げています。ベトナム人は近代化を果たす前に、アジアの先進国の先輩である日本から子育てを学び、子どもの将来や国の発展に生かしたいと思っているようにも見えますが、近代化は「代償」を伴います。日本人に失われつつある「親や年長者に対する敬意」は、ベトナムでは現在も美徳として根付いていますが、このような伝統的な価値観をベトナムはこの先も守ることができるのでしょうか? それができるとすれば、今度は日本がベトナムから学ぶ番かもしれません。

オンラインvsリアル。コロナ禍で明暗を分けた「米国フィットネス産業」インサイドレポート

米国のフィットネス産業は大変革の最中にあります。以前から存在している対面型の大手ジムは、新型コロナウイルスの感染拡大によって軒並み大打撃を受けました。しかしその一方で、かつてないほど好調なのが、高価な器具とストリーミングサービスを導入した、オンライン主体の新しいフィットネス企業。ロックダウンが解除された後でも「リアルの」ジムに客足は戻らず、自宅での運動が定着している中、フィットネス産業の間で明暗が分かれています。実際に米国のフィットネス産業に身を置く筆者が、業界のトレンドやコロナ収束後の展望についてレポートします。

 

急成長するストリーミング系フィットネス企業

↑米国のストリーミング系フィットネス業界をリードするPeloton

 

78歳と米国史上最高齢で就任した大統領であるジョー・バイデン氏は、健康にとても気を使っており、タバコはもちろんアルコールもまったく摂取せず、週5回以上の運動を続けていると言われています。そんなバイデン大統領がホワイトハウスに引っ越す際、国家機密防衛上の理由から、どうしても持ち込むことができなかったのが、愛用しているPeloton(ペロトン)社の自宅用フィットネス固定自転車でした。

 

このPeloton社は2019年に上場したばかりの若い企業です。2019年9月の上場時株価は25ドル24セントでしたが、コロナ禍によるロックダウンが実施された2020年3月ごろから上昇を続け、同年のクリスマスイブには162ドル72セントに達したのです。ワクチン接種が始まりコロナ収束が見え始めた2021年2月になるとやや下降に転じ、5月14日の終値は96ドル58セントでしたが、2021年6月中旬には時価総額が337.43億米ドル(約3兆7000億円※)になりました。

 

※1ドル=約109円で計算(2021年6月14日時点)

 

従来のジムにかかる費用と比較すると、ストリーミング系のフィットネス企業の製品とサービスはかなり高額です。Peloton社の固定自転車は約30万円。毎月定額制で無制限にストリーミングできるオンライン・クラスは月額で約5000円です。壁掛け液晶パネルとストリーミングによるヨガやピラティスなどを組み合わせたサービスで急成長しているMirror社でも、初期費用に約15万円、毎月のレッスン料に約4000円はかかります。

 

対照的に、筆者が利用するリアルのジムである全国チェーンのLA Fitnessでは、初期費用がまったくかからず、会費は月額にすると約2000円。従来のスポーツジムの中には、さらに安い費用を売りにしているチェーン店もあるため、それらと比べるとPeloton社やMirror社は高額といえるでしょう。

↑試練のときを迎えた対面式の大手ジム(写真はLA Fitness)

 

ロックダウン期間中は多くのジムが閉鎖を余儀なくされました。ジムが再開した後も、以前のように大勢で一か所に集まって運動することに不安を覚える人は少なくありません。そのせいか、ダンベルやケトルベルといった自宅で使える筋トレ器具や一般の自転車までもが一時は極端な品薄状態になりました。

 

その点、ストリーミング系フィットネスサービスは、高額であっても自宅で好きな時間に運動することができるうえ、オンラインでコーチングを受け、さらに仮想コミュニティでトレーニング仲間と繋がることもできます。新型コロナウイルスのパンデミックまでは予想していなかったでしょうが、Peloton社やMirror社は時代の一歩先を読んでいたともいえます。

 

リアルジムの行方

↑あのころが懐かしい……

 

ストリーミング系フィットネス産業が成長する一方、大手の実店舗ジムは苦戦を強いられています。Gold’s Gymや24 Hours Fitnessなど、いくつかの全米チェーンジムは破産宣告をしました。

 

さらに深刻な問題は、ジムの会員数の減少がコロナ禍による一時的な現象ではなく、コロナ収束後も続くように思われることです。生き残ったジムは最近になって営業を再開し、会員も徐々に戻りつつありますが、コロナ禍以前の状態にまで戻ったとは言えません。大手チェーンのPlanet Fitness社のクリス・ロンデューCEOは、ワクチン摂取による効果を考慮しても、2021年の会員数は前年の70%程度になるだろうと述べています。

 

筆者の正業の一つは、クロスフィットと呼ばれるジムのトレーナー。クロスフィットの多くは個人経営によるもので、規模は小さく、会員が支払う会費だけで成り立っています。コロナ禍による打撃は大手チェーンと同等かそれ以上で、どのクロスフィットでも存続への懸命な努力が続けられてきました。

 

ジムを閉鎖せざるを得なかったロックダウン時期には、私たちのジムも含め、多くのクロスフィットが新たにオンラインクラスを開講しました。ジムを再開できるようになった後も、リアルまたはオンラインクラスを選択できるハイブリッド式での運営が続いています。

 

そうなると運営側の手間は以前の2倍かかるわけですが、だからといってその分、会費を高くするわけにはいきません。また、リアルのクラスが再開されたといっても、ソーシャル・ディスダンスを守ったり、マスクの着用をお願いしたりするなど、以前とまったく同じ形で活動しているわけでもありません。

 

クロスフィットに限らず、小規模なフィットネスジムの特徴の一つが、会員同士のコミュニティが緊密なこと。ときにはカルトと揶揄されるくらい、皆が仲良く、同じ場所で同じ時間に汗を流します。健康のためというよりも、ジムに通うことが生き甲斐になっている人も少なくありませんでした。

 

しかしながら、フィットネスの主流がリアルジムからオンラインへ、グループから個人へと移っていくことは避けられない模様です。コロナ禍のせいかもしれませんし、以前からあった流れがコロナ禍によってさらに強くなったのかもしれません。しかしながら、伝統的なフィットネスジムが持つコミュニティーのような価値観は、そう簡単に消えないでしょう。オンラインでは難しい仲間づくりや、大手チェーンでは限界がある個人指導など、人とのつながりを大切にしていけば、小規模フィットネスジムは今後も存続できると信じています。

↑筆者(中列の左から4番目)が従事するCrossfit Tribe Functional Fitnessの集合写真

 

執筆者/角谷 剛(かくたに ごう)

米国カリフォルニア州在住。IT関連企業で会社員生活を25年送った後、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、コーチング及びスポーツ経営学修士(コンコルディア大学)、Crossfit Tribe Functional Fitnessコーチ、Laguna Hills High School野球部コーチ、TVT Community Day School高等部クロスカントリー走部監督。

育児は大事な「渋滞期間」。世界一幸福な国の子育ては意外と平凡だった

2021年3月に発表された国連の世界幸福度ランキングにおいて、4年連続で1位になったフィンランド。幸福度だけでなく、治安や教育レベルも高い国として知られていますが、家庭に目を向けると共働き夫婦が多く、父親も子育てに参加するのが一般的。2022年からはパパ・ママどちらも最大160日の育児休暇を取得できるようになる予定ですが、そんなフィンランドで育児と教育は実際にどのように行われているのでしょうか? 現地で4歳と7歳の男の子を育てているフィンランド人パパのヨニさんにインタビューしてみました。

↑物事が滞る分、幸せは増える

 

義母のプレッシャー

――フィンランドは世界一幸福な国と言われていますが、子育てでも何か特別なことがあるのでしょうか?

 

ヨニさん いやいや、私たちは特別なことをしているわけではないと思いますよ。ただ何よりも子どもたちの幸福が大切で、憂鬱や不安を感じることなく、ありのままでいられる環境が必要だと思います。そのため、ゲームや宿題をしたり、動物園に連れて行ったり、キャンプをしたり、さまざまなことを一緒にするようにしています。

 

――なるほど。夫婦では子育てについて、どのようなことを話していますか?

 

ヨニさん 妻とは1日の終わりに、その日の子どもたちの様子について話すことが多いです。小学校や幼稚園の先生から聞いた話だったり、今日一日の健康状態だったり。送り迎えのときに子どもたちはどんなことを話していたかとか。ときには疲れ果てて、子どもと一緒に寝てしまうこともありますが(笑)。

 

子育ての役割分担について話し合うことも当然あります。妻の仕事が終わるのは私より遅いので、子どもたちが小学校や幼稚園から帰ってきた後に面倒を見るのは私の役割。子どもたちの予定と自分の仕事の予定に合わせ、互いが協力して子育てができるように話し合います。

 

――夫婦の協力は不可欠ですよね。家庭教育はどのような感じですか?

 

ヨニさん 学校教育が総合的な学びを集団で行う場所だとしたら、家庭教育は家庭により内容や形式が異なります。しかし我が家を含め、子どもを積極的に外で遊ばせる家庭が多いですね。身体を動かすことは大切ですし、私たちも子どもたちには、いろいろな友達と交流してほしいと思っています。

 

また、子どもが友達と外で遊んでいる間は家の中が静かになるので、親は昼寝をしたり、好きなことをしたりして時間を過ごすことができます。やはり仕事をしながらの子育ては大変な部分も多く、この時期をフィンランド語では「Ruuhkavuodet(直訳すると「渋滞期間」)」と呼ぶのですが、子どもが小学校を卒業するまで親は多忙な日々が続きます。だからこそ、子どもが少しでも自分たちで外遊びをしてくれると助かります。

 

――父親ならではの大変さはありますか?

 

ヨニさん もちろん家庭にもよりますが、フィンランドでは結婚したときに、夫が妻の両親から「この男で大丈夫なのか?」と厳しくチェックをされる場合があります。結婚後も、育児を含め日常の生活について義父母が娘の夫に対して強めな態度をとることが多いようです。女性の権利が保障されているからこそとは思いますが、私も結婚当初は義母から、ちょっとしたプレッシャーを感じたこともありました(笑)。

↑ラッペーンランタにあるキャンプ場の湖。フィンランドは4月から8月にかけて日照時間が長く、夜8時を過ぎても明るいため、子どもがひとりで出歩いてもあまり危険ではない

 

いつでも学び直せる国

――少し話を変えますが、フィンランドの教育の特徴は何ですか?

 

ヨニさん 教員のレベルが高いのではないでしょうか。小学校から高校までの教師は大学院で修士号を取得しなければならないため、教育レベルが高い教師から教育を受けることができます。

 

また、小学校から高校までは学費、教材費、給食費はかからず、大学も学費はかかりません。大学進学において経済的な障壁がないため、どの家庭の子どもにも等しく学ぶ機会が与えられています。

 

2021年からは小学校から高校(または職業訓練学校)までが義務教育として定められました。12年間しっかり学んだほうが仕事を得るチャンスも増えるので、これは良いことだと思います。

 

――子どもたちには、どのような教育を受けてほしいですか?

 

ヨニさん それは子どもたち自身が決めることです。ただし、基本的な礼儀や優しさは必要なので、よく言い聞かせています。フィンランドの社会では、時間に遅れたり、嘘をついたりするような不誠実な対応をすると信頼を失ってしまいます。そのため、子どもには日々の生活の中で挨拶や他人への配慮を忘れないように言い聞かせています。

 

また、幼少期のうちに自信をつけさせることが大切だと考えています。どれだけ容姿が整っていても、成績がよくても、自分に自信がなければ生きづらくなってしまいます。そのため、アイスホッケーやサッカーといった、社交性を育みながら自信をつけることができるチームスポーツに積極的に参加させています。

 

――現在、子どもたちが学校外で受けている教育はありますか?

 

ヨニさん 公立の学校教育を信頼しているので特にはありません。この国では就職後でも大学や大学院などで学び直しができるため、機会さえあればキャリアはいつからでもスタートできます。だからこそ、いまから親が子どもたちの将来を決めることはしません。このような公立の教育機関に対する信用や子どもの自主性の尊重が、フィンランド人の幸福度の高さに貢献しているのかもしれませんね。

 

パーフェクトではない

ヨニさんからフィンランドの育児や教育に関するお話を伺いました。どうやら同国と日本の間には共通点と相違点があるようですが、それらに詳しく立ち入ることは別の機会に譲り、ここでは公平な見方をするために、フィンランドが移民や離婚の多さに関係した問題を抱えていることを指摘しておきましょう。

 

まず親が移民で、フィンランド語や英語で会話をすることができない場合、さまざまな苦労があるようです。学校と家庭での教育方針について先生と円滑にコミュニケーションが取れなかったり、親や子ども同士で人間関係を築きづらかったり。いじめの問題もあるようです。

 

また、フィンランドではシングルマザーやシングルファザー向けの経済的なサポートが充実している反面、2019年には離婚率が42%まで上昇しました。しかも、離婚後に子どもと親の関係がうまく行かなくなったり、親がアルコール依存に陥ってしまったりするなど、深刻なケースも多く見られます。このような問題は今後、日本でも現れる可能性があるので、フィンランドでの対策に注目すべきかもしれません。

 

このような問題を内包しながらも、4年連続で世界一幸福な国に選ばれているフィンランド。ヨニさんの話を聞く限り、同国での子育ては意外と平凡に思われるかもしれませんが、私たちはよく「幸せは平凡な暮らしにある」と言います。日本のパパ・ママも育児を「渋滞期間」と捉え、どっしりと構えることで、忙しい生活に少し余裕が生まれるかもしれません。

「木のおなら」が臭い!ゴーストフォレストと温暖化のストローみたいな関係

海洋環境保全はサステナビリティの重要な課題の一つですが、米国では近年、海面の上昇を原因とする「ゴーストフォレスト」(幽霊化した森)が大きな問題になっています。最近では枯れたマツやヒノキから「木のおなら」と呼ばれる温室効果ガスが出ていることも判明しました。ゴーストフォレストで一体何が起きているのでしょうか?

↑ニュージャージー州のマリカ川流域にあるゴーストフォレストの様子。写真提供/ジェニファー・ウォーカー

 

まず、ゴーストフォレストについて簡単に説明します。地球温暖化が進み海面が上昇したことで、海水が陸地に侵入していく現象が起きています。沿岸や河口地帯にある森林でこのような現象が起きると、塩分を含んだ海水は樹木をゆっくりと時間をかけて蝕み、やがて枯れさせていくのです。畑に海水が侵入すると農作物が育たなくなってしまうのが塩害ですが、それと同じようなことが起きているのが、ゴーストフォレストなのです。

 

青々しい緑の葉を失い、弱々しく朽ち果てた木々が並ぶゴーストフォレストは、米国のバージニア州からマサチューセッツ州までの沿岸地域やミシシッピ川沿いの地域、ノースカロライナ州の海岸林などで発生しています。

 

植物の根は呼吸したり、微生物が二酸化炭素を排出したりするため、土壌は温室効果ガスを排出しています。それだけでなく、枯れた木々は分解されるときに温室効果ガスを空気中に送り出しているとも考えられています。しかし、ゴーストフォレストで見られる、このような温室効果ガス——通称「木のおなら」——については、まだ多くのことが明らかにされていません。

 

そこで、ノースカロライナ州立大学の研究チームが、ゴーストフォレストから排出される温室効果ガス(二酸化炭素やメタン、亜酸化窒素など)について調査を行いました。彼らは枯れた木々と温室効果ガスの関係を長年調べています。今回の研究テーマはズバリ、枯れた木々はコルクみたいに温室効果ガスを内側に封じ込めているのか、それとも逆にストローみたいに排出しているのか?

 

彼らは2018年と2019年に、ノースカロライナ州にある5つのゴーストフォレストで、土壌と枯れた木々のそれぞれから排出された温室効果ガスの量を測り、土壌と枯れた木々のどちらのほうが、より多くの温室効果ガスを空気中に送り出しているのかを比べてみました。

 

その結果、どちらの年でも、土壌から排出された温室効果ガスの量は、枯れた木々からの排出量の約4倍多いことが判明したのです。しかも、土壌に比べて排出量は少ないものの、枯れた木々も全体としては温室効果ガスの排出量に大きく貢献していると研究者は指摘しています。

 

では、枯れた木々はコルクかストローのどちらなのでしょうか? 「それらは『フィルターとしてのストロー』だと思われる。温室効果ガスが枯れた木々を通じて空気中に移動しているからだ」と同研究チームのマルセロ・アードン准教授は述べています。

 

気候変動が進んで海面がさらに上昇すれば、このゴーストフォレストはさらに増えていくと予測されています。本来なら地球温暖化の防止に役立つ森林なのに、枯れてしまったら逆に温暖化を促進する原因になる……。海や沿岸のエコロジーを守るための行動が私たちに求められています。

 

【出典】

Martinez, M., Ardón, M. (2021). Drivers of greenhouse gas emissions from standing dead trees in ghost forests. Biogeochemistry. https://doi.org/10.1007/s10533-021-00797-5 

Sacatelli, R., Lathrop, R.G., and Kaplan, M. (2020). Impacts of Climate Change on Coastal Forests in the Northeast US. Rutgers Climate Institute, Rutgers University. https://doi.org/doi:10.7282/t3-n4tn-ah53 

 

温室効果ガスを減らしていた? 雷に「空気浄化作用」の可能性

夏が近づいてくると、雷が増えます。気象庁の発表によると、2005年〜2017年の間に日本で報告された落雷は1540件。月別にみると7月と8月に集中していて、8月には全体の約3割の落雷が起きています。そんな雷は人や住宅などに被害をもたらすことがありますが、その反面、空気を浄化する働きがあるかもしれないことが判明しました。

↑見た目は怖いけど、大気をきれいにしています

 

米国・ペンシルベニア州立大学で気象学を研究するウィリアム・H・ブルーン特別栄誉教授は、雷や稲妻が大気にどのような化学変化を及ぼすのかを調べるため、2012年にコロラド州とオクラホマ州上空を飛行した航空機からデータを回収し、調査しました。データを見ると、雲の中に大量の「OH(ヒドロキシラジカル)」と「HO2(ヒドロペルオキシルラジカル)」の存在を示すシグナルがありましたが、ブルーン氏は当初これらを回収機器のノイズだと思い、いったんすべて除去していました。

 

しかし、いまから数年前、ブルーン氏が再びそのデータを確認したところ、機械のノイズではなく、確かに「OH」と「HO2」であることが判明。改めて、これらが稲妻や肉眼で見えない放電によって生まれた物質であるかどうかを大学院生らと調べたところ、雷の中で生成されていることが明らかとなったのです。データを回収した雲には肉眼で見える雷はなかったのですが、目に見えない稲妻でも、これらの物質が生成されていることが確認されました。

 

雷の電圧は、200万ボルトから2億ボルトにもなると言われています。一般家庭の電圧は100ボルトですから、最大でその200万倍以上になります。その巨大なエネルギーは、大気中にある窒素や酸素の分子を分解させ、OHとHO2などのラジカル(不安定で反応しやすい性質の分子や原子のこと)を生成します。これまでにも、雷が水を分解してOHとHO2 を生成することはわかっていましたが、雲の中でこの生成プロセスが観察されたことはありませんでした。

 

OHには大気中の成分を変化させる力があり、メタンのような温室効果ガスの除去に役立つことが知られています。HO2も大気の酸化力を調整する物質の一つであるため、これらは温室効果ガスにもなんらかの影響を与えているのかもしれません。しかし、雷の多くは熱帯地域で発生しており、今回使用したアメリカ上空の航空機のデータとは物質の構成が地域によって異なると考えられます。そのような理由で、雷によるOHとHO2の生成と温室効果ガスへの影響についてはさらなる研究が必要だ、とブルーン氏は述べています。

 

古代では霊力があるなどと、人々に恐れられていた雷の存在。その中でさまざまな化学反応が起きているとわかると、自然の偉大さや目に見えない力をさらに感じますが、雷の空気浄化作用は今後どのように解明されていくのでしょうか? 目が離せません。

 

【出典】W. H. Brune., et al. (2021). Extreme oxidant amounts produced by lightning in storm clouds. Science, 372(6543), 711-715. DOI: 10.1126/science.abg0492

ミカンを使って透明になっただと!? 知らぬ間に「木材」が大進化していた

建築や家具、工作など幅広く使われる木材。この材料は私たちにとって身近な存在ですが、その中には、まだ広く知られていない種類もあります。アクリルのように向こう側が透けて見える木材はその一つかもしれません。驚くべきことにスウェーデンでは最近、ミカンを原料に使用した透明な木材が開発されたのです。一体どんなものなのでしょうか?

↑スウェーデン王立工科大学の研究チームが開発したミカン由来の透明木材。写真提供/Celine Montanari(※)

 

透明な木材の開発は真新しいことではありません。例えば、日本では木材から、透明で軽くて強度のある「セルロースナノファイバー」を作る研究が、10年以上前から行われてきました。

 

海外では、スウェーデン王立工科大学の研究チームが、2016年に透明の木材を開発しています。そのきっかけは窓ガラスだったそう。窓ガラスは光を通して建物の内部を明るくしますが、太陽光のエネルギーを蓄えることはありません。同研究チームは「ソーラーパネルみたいに、日中に吸収した熱を夜間に放出することで、部屋を温かくする材料はないだろうか?」と考え、透明な木材を作り始めました。

 

その工程で大切なのは、木材の主成分の一つであるリグニンを取り除くこと。リグニンは植物の体内で作られる成分で、空気中の酸素と反応して、黄色から茶色に変色する性質があります。そのため、白い高級紙を作るときなどは化学処理によって木材からリグニンが取り除かれますが、透明な木材を作る場合にも、同じようにリグニンを除去しなければなりません。しかしリグニンを取り除くと、小さな空洞が生じてしまいます。そこを埋めるためには、木材の強度を保ちつつ、光を透過させるものが必要です。

 

当初、同研究チームは化石由来のポリマーを使って、その問題を解決していました。しかし、より環境に配慮する必要があるため、彼らはミカンの皮から抽出したリモネン・アクリレートを使って、透明な木材の開発に取り組むようになり、最近その実験に成功したと発表したのです。

 

リモネン・アクリレートは、オレンジジュースの製造工程で廃棄されるミカンの皮などから抽出することができるため、石油由来の成分を使うよりも環境への負荷がとても少ないことが特徴。それを使った同研究チームの新しい木材は溶剤なしで作られており、使用している化学薬品はすべてバイオ由来のものと発表されています。

 

また、化石由来のポリマーを使用した木材では光の透過率が85%でしたが、ミカン由来の透明な木材では90%にアップ。強度も高いと同研究チームは述べています。

 

ミカンを取り入れることで環境面にこだわった透明な木材は、スマートウィンドウへの応用を含め、さまざまな可能性を秘めているとのこと。進化する木材から目が離せません。

 

【出典】Montanari, C., Ogawa, Y., Olsen, P(※)., Berglund, L. A., High Performance, Fully Bio-Based, and Optically Transparent Wood Biocomposites. Adv. Sci. 2021, 2100559. https://doi.org/10.1002/advs.202100559

 

(※)Celine MontanariとPeter Olsenのeは、アキュートアクセント付きが正式な表記です

コロナ禍のトイレは「水しぶき」にご用心!ふたを閉めて流さないと危ないワケ

公衆トイレの中には、ふたがないものがあります。そんなトイレに出くわすと、水を流したときに飛び散る水しぶきが気になるかもしれません。「心配し過ぎでは?」と思う人もいるかもしれませんが、実際にはそうとも言えないようです。最近の研究で、トイレの飛沫は高さ1.5メートル以上に達することがわかりました。この研究結果は、新型コロナウイルス感染対策にも影響するかもしれません。

↑ふたを閉めて流しましょう

 

人の尿や便、トイレの水には、エボラウイルス、ノロウイルス、新型コロナウイルスなど、さまざまな病原体が含まれていることがあります。新型コロナは、主にくしゃみや咳などの呼吸器系の飛沫を介して感染すると言われていますが、感染者の尿や便からウイルスが発見されたとも伝えられています。公衆トイレは換気が悪いことも少なくなく、不特定多数の人が使うことから、新型コロナに感染する可能性はゼロではないと指摘されているのです。

 

そんな公衆トイレで起きる感染の一因として疑われているのが、エアロゾル(空気中を漂う微細な粒子)。便器の形や流れる水の強さと量にもよりますが、トイレの水を流すと大量のエアロゾルが発生します。

 

では、トイレで水を流したとき、その周囲にどれくらい水しぶきが飛んでいるのでしょうか? 米国のフロリダ・アトランティック大学がふたのない公衆トイレで実験を行い、4月下旬に研究結果を発表しました。

 

実験では、約3時間で100回以上水を流したところ、エアロゾルが大量に発生。水を流すたびにその量は増えていき、その数は数万個に達することがわかりました。トイレ周辺の空気中にあるエアロゾルの量が実験前後でどれくらい変化したのかを大きさ別に見てみると、0.3~0.5マイクロメートルのエアロゾルでは、実験前の数値(5分間の平均量)が2537でしたが、実験後は4301になり、69.5%増加。ほかの大きさも同様に計算すると、0.5~1マイクロメートルのものは209%、1~3マイクロメートルは50%、それぞれ増えたことが判明したのです。

 

この中でも比較的に大きい1~3マイクロメートルのエアロゾルについては特に注意が必要な模様。「(ふたなしの)水洗トイレと男性用小便器からは3マイクロメートル以下の飛沫が生じており、その中に病原体が含まれていた場合は飛沫感染のリスクがある。しかも、その大きさから空気中に長時間漂うこともあるだろう」と、実験を行った研究者は述べています。

↑水洗トイレ(右)と男性用小便器では、飛沫がそれぞれ最大で1.22mと1.52mの高さまで飛んでいた。写真提供/フロリダ・アトランティック大学

 

実験で確認された飛沫は、最大で高さ1.52メートルに達し、20秒近く浮遊していたこともわかりました。「このように発生したエアロゾルは換気システムや人の流れによって、トイレ内に充満する可能性が考えられる」と同研究者は指摘。公衆トイレで水を流すとき、私たちは知らないうちにエアロゾルを浴びているのかもしれません。

 

安全に公衆トイレを使うにはどうすればよいのでしょうか? 実験では、トイレのふたを閉めて水を流したところ、多くはないものの、多少のエアロゾルが確認されました。便座とふたの隙間からエアロゾルが漏れている可能性があるようですが、それでもふたを閉めてから水を流すほうが、安全性が高まる模様。また、公衆トイレの換気システムを適切に設計し稼働することで、エアロゾルの蓄積は防ぐことができるそうです。

 

ウイルス感染症でなくても、トイレの水が飛び散るとニオイの原因になったり、掃除が大変になったりするもの。自宅でもトイレのふたを閉めてから水を流す習慣をつけ、外出先でトイレを使うなら、できればふたがあるトイレを選び、ふたを閉めてから水を流したほうがよさそうですね。

 

【出典】Jesse H. Schreck, Masoud Jahandar Lashaki, Javad Hashemi, Manhar Dhanak, and Siddhartha Verma, “Aerosol generation in public restrooms”, Physics of Fluids 33, 033320 (2021) https://doi.org/10.1063/5.0040310

“元祖”育成型ゲームがさらに進化! 新型「たまごっち」が2021年夏に米国で発売

1990年代に大流行したバンダイの「たまごっち」。“地球外生命体”という設定の可愛らしいキャラクターを本物のペットのように育てるこのゲームは、これまでにブーム、没落、そして復活を経験してきました。最近では大ヒットアニメ『鬼滅の刃』とコラボした「きめつたまごっち」を発売するなど進化を続けていますが、日本と同様に、その人気は現在アメリカでも再燃しているようです。

↑2021年夏に米国で新発売される「たまごっちPix」。写真提供/www.tamagotchi.com(Bandai America)

 

たまごっちブームはアメリカでも起こりました。米紙「ロサンゼルス・タイムズ」や「ニューヨーク・タイムズ」の記事によると、1997年5月にアメリカで初めてたまごっちが発売されると、瞬く間に話題をさらい、アメリカ国内の同年5月と6月の「最も売れたおもちゃランキング」で1位を獲得。1個15〜18ドルで販売されていましたが、店舗で品切れになると、闇市場で100ドル近くで取引されたこともあったとか。アメリカ国内の販売個数は300万個とも言われ、当時の大ヒット商品になったのです。

 

この人気の理由は日本と同様に、いつでも気軽に持ち運びできるサイズ、数千円程度という低価格に加えて、ペットの飼育を疑似体験できることが挙げられます。たまごっちが登場してから数年以内に、ディズニーのリトル・マーメイドやポケモンなどの人気キャラクターを使ったバーチャルペット型ゲームがアメリカでも数多く生まれました。まさに「たまごっちエフェクト」と言えるでしょう。

 

ついにソーシャル化

そんなアメリカで「90年代のブームが再び!」と話題になっている理由は、2021年夏に北米で新製品「たまごっちPix」が発売されるからです。25年前のアナログ式で遊べる初代たまごっちと最新版で大きく異なるのは、初めてカメラが内蔵されたこと。手のひらサイズのたまご型と3つのボタン配置は変わることなく、キャラクターと一緒に写真を撮る機能が加わり、撮影した写真はデバイス内に保存できます。

 

SNSのような機能も搭載されました。友だちのたまごっちがポップアップ画面で現れる「探検モード」が組み込まれ、「Tama Code(タマ・コード)」を通して一緒に遊ぶこともできます。

 

たまごっちPixの色はピンク・紫・青・緑の4色。言語は英語・スペイン語・フランス語・ドイツ語・イタリア語・ポルトガル語を使用できます。対象年齢は6〜12歳。価格は59.99ドル(約6570円)です。

 

北米では2年前の2019年に、モバイルアプリと連動し、カラフルなパッケージに入った「たまごっちオン」が発売されています。バンダイアメリカではこの販売個数を発表していませんが、この売れ行きが好調だったことから、たまごっちPixを販売することになったのかもしれません。育成型デジタルゲームの“元祖”は、20年以上の時と国を超えて愛され続けているようです。

 

※1ドル=約109円(2021年6月6日時点)

「サンゴ礁」は沿岸洪水を防ぐ! 想像以上にかけがえのない存在だった

世界にあるサンゴ礁の面積は60万平方キロメートルと、地球全体の表面積約5.1億平方キロメートルから見ると、わずか0.1%にすぎません。しかし、サンゴ礁には9万種以上の生物が住んでいると言われています。最近の研究では、そんなサンゴ礁に沿岸地域での洪水を防ぐ働きがあることがわかりました。

↑サンゴ礁には、かけがえのない価値があった!

 

サンゴ礁がもつ沿岸洪水(沿岸域での洪水事象)を防止する機能の価値を調べるため、米国・カリフォルニア大学サンタクルーズ校とアメリカ地質調査所は、海上の波や嵐のコンピュータモデルを地質学や生態学などと組み合わせながら、フロリダ、ハワイ、グアム、プエルトリコ、バージン諸島らにおける沿岸洪水のリスクを分析し、サンゴ礁の沿岸における洪水防止機能の価値を評価しました。

 

その結果、サンゴ礁が沿岸地域を沿岸洪水から守る効果を価値に換算すると、年間18億ドル(約1970億円)以上に上ることが判明。さらにサンゴ礁が1m低くなると、沿岸洪水の発生確率が1%の地域が23%増え、その被害者数は62%、住宅や建物などへの被害は90%以上増加し、被害総額は53億ドル(約5800億円)になると予測しました。

 

また、フロリダとハワイでは、沿岸洪水を予防する効果が特に高いサンゴ礁が距離にして325kmも確認され、その予防価値は1kmあたり100万ドル(約1億円)以上になるそうです。ハワイのオアフ島を例に挙げると、島の周りを取り囲むようにサンゴ礁があり、その価値は島全体で約5億7800万ドル(約633億円)。多くの住民が暮らし、ハワイの政治やビジネスの中心地となっているホノルルや、主要観光スポットのひとつであるワイキキ沿岸にもサンゴ礁が存在しており、沿岸地域を洪水から守っているのです。

 

今度は人間がサンゴ礁を守る番

サンゴ礁がある海では、しばしばラグーン(環礁に囲まれた浅い海)が見られます。サンゴ礁が防波堤のような役割を担い、外海からの強い波を弱め、沿岸地域への洪水を軽減すると考えられています。

 

しかし近年、温暖化のために海面が上昇し、その影響でサンゴ礁がもつ沿岸洪水を防ぐ力が弱まる可能性が考えらえます。それと同時に、サンゴの白化現象が進んでおり、サンゴの壊滅も懸念されます。

 

海の生態系だけでなく、人間自身を沿岸洪水から守るためにも、サンゴ礁が担う役割とその価値は、計り知れないほど大きいのかもしれません。

 

※1ドル=約109円(2021年5月31日時点)

 

【出典】Reguero, B.G., Storlazzi, C.D., Gibbs, A.E. et al. The value of US coral reefs for flood risk reduction. Nature Sustainability (2021). https://doi.org/10.1038/s41893-021-00706-6

 

人脈の限界は本当に150人?「ダンバー数」の反証が示すこと

いくら顔が広くても、円滑な人間関係を維持できる人数には限りがありそうですよね。そんな人間の能力の“壁”を説明したのが「ダンバー数」と呼ばれる理論。経営の世界でも広く知られている考えですが、最近その理論に異を唱えた論文が発表されました。一体人間は何人くらいと長い付き合いを築けるのでしょうか?

↑人の縁はダンバー数より、はるかに複雑

 

ダンバー数とは、1990年代にイギリスの人類学者ロビン・ダンバーが提唱した理論。人がスムーズかつ安定的に関係を維持することができる人数を指します。ダンバー氏によると、この数は霊長類の脳の大きさと関係があり、人間の限度は150人程度とされています。ものを知覚したり未来について考えたり、脳の中でも特に高度な機能を持つ大脳新皮質が大きい生物は、行動を共にする群れのサイズも大きいため、大脳新皮質と群れは相関関係があるそう。そのため、ダンバー数は組織の構成やマネジメントにも影響を与えてきました。

 

これまでにダンバー数については、これまでにさまざまな研究が行われており、その中にはこの理論の正しさを裏付けるものもありますが、より注目すべきは、ダンバー数を否定する研究です。そのひとつが、最近ストックホルム大学の動物生態学の専門家などが発表した論文。ベイズ統計と呼ばれる現代の統計法や、霊長類の脳に関する最新データなどを用いながら繰り返し解析を行った結果、人間ひとりが関係を築ける人数は2~520人と、かなり幅のあることが明らかとなりました。

 

確かにダンバー数は「人が関係を築ける人数を150人」としたことで、わかりやすい指標のひとつになりました。例えば、スウェーデンの税務局では、オフィスの収容人数が150人になるように編成したこともあるそうです。

 

しかし実際には、そんなに大勢の人と付き合いをすることが難しい人もいる一方、もっと多くの人と良好な関係を維持することができる人もいるでしょう。特にSNSが発達した現代では、一度連絡が途絶えた友人ともインターネットを通じて簡単に繋がることができるようになり、150人どころか数百人、もしくは1000人近くと簡単に付き合いを継続できる人もいるかもしれません。

 

ダンバー数のほかにも、人間関係の量に関する理論には「5-15-50-150-500の法則」があります。これは、自分に最も近い存在で精神的な支えになってくれる家族や親友の存在が5人、家族ではないけれど相手が亡くなったら大きな悲しみを感じる存在が15人、さらに頻繁にコミュニケーションを取る相手が50人、というように人間関係を捉えています。

 

この法則でもダンバー数と共通の数字が出てきますが、ストックホルム大学の研究が示すように、このような理論で説明できないことが現実にはたくさんあります。しかし科学の観点から見れば、反証可能性があることは決して悪いことではないでしょう。今回の研究で、ダンバー数はさらに一歩、真理に近づいたのかもしれません。

 

【出典】Lindenfors Patrik, Wartel Andreas and Lind Johan. 2021. Dunbar’s number’ deconstructed. Biology Letters.172021015820210158. http://doi.org/10.1098/rsbl.2021.0158

気候変動が新たな道を拓いた?「アカウミガメ大移動」の謎が解明

数十年をかけて、数千~1万km以上の距離を移動するアカウミガメ。その長い年月と壮大な距離から、アカウミガメの移動は「失われた歳月」とも呼ばれますが、その行程や寒い海域での移動方法はほとんど明らかにされていませんでした。しかし、最近ついにアメリカの研究チームがその謎を解明しました。

↑アカウミガメには道が見える

 

日本沿岸の海域には3種類のウミガメが生息していますが、アカウミガメはそのひとつ。アメリカ、ブラジル、オーストラリアなど、日本の主に南側の太平洋沿岸を産卵地としています。日本の砂浜で生まれた場合、アカウミガメの子ガメは黒潮にのって太平洋を横断しながら、東へ向かい、メキシコ西部にあるバハ・カリフォルニア半島の沖合に辿り着きます。エサが豊富なこのエリアで十分に成長すると、再び太平洋を横断して日本を目指し、一生をかけて大移動を繰り返します。

 

しかし、太平洋には「イースタン・パシフィック・バリア」と呼ばれる冷たい海域が存在し、アカウミガメはそこを超えるものとそうでないものに大きく分かれます。研究者が長年知りたかったのが、この海域を、温度に敏感なアカウミガメがどうやって横断するのか? ということ。米国・スタンフォード大学などの研究チームは、衛星追跡デバイスをつけたアカウミガメ231頭を15年間に渡って追跡しており、収集したデータをさまざまな角度から分析することにしました。

 

日本を出発して、バハ・カリフォルニア半島まで辿り着いたのは6頭のみ。研究チームはこのカメについて調べたところ、初春に移動を行い、ほかのカメより温かい海の中を泳いでいたことが判明しました。さらに研究チームは、バハ・カリフォルニア半島に到着したアカウミガメの骨を観察。人間と同じように、カメの骨も食べ物の影響を受けるため、骨の特徴からアカウミガメがいつ頃、外洋から沿岸に辿り着いたのかを調べることができるのです。この分析を行なった結果、多くのアカウミガメが、海が温かい時期にこの半島に到着していたことがわかりました。

↑231頭のアカウミガメの追跡データ。うち6頭が日本からバハ・カリフォルニア半島に辿り着いたことを示している。写真提供/Dana Briscoeなど

 

研究チームによると、この要因として考えられるのは、エルニーニョなどの温暖化で海面温度が上昇して「熱の道」ができたこと。この道は春後半から夏にかけて存在しており、それが現れる前にも、海面気温が数か月間暖かくなっていました。このような条件が重なり、アカウミガメやほかの生物はイースタン・パシフィック・バリアを通過できるようになったのではないか、と研究チームは見ています。

 

今回の研究では、バハ・カリフォルニア半島まで到達したアカウミガメはわずか6頭と数が少なかったことから、さらなる研究が必要となるですが、気候変動がアカウミガメなどの海の生物に、さまざまな影響を及ぼしていることが明らかとなりました。また、研究チームは、アカウミガメが、人間が意図しない別の種を漁獲する「混穫」に巻き込まれる可能性も指摘しています。海に浮かぶプラスチックゴミなども海洋生物存続の脅威になり得るでしょう。

 

現在、世界にいる7種のウミガメのうち、アカウミガメを含む6種が絶滅危惧種に指定されています。カメは長寿や金融の象徴と言われていますが、その存在は私たちの地球環境や気候変動への取り組みにかかっているのかもしれません。

 

【出典】Briscoe DK, Turner Tomaszewicz CN, Seminoff JA, Parker DM, Balazs GH, Polovina JJ, Kurita M, Okamoto H, Saito T, Rice MR and Crowder LB (2021) Dynamic Thermal Corridor May Connect Endangered Loggerhead Sea Turtles Across the Pacific Ocean. Frontiers in Marine Science. 8:630590. doi: 10.3389/fmars.2021.630590

瞑想すると利己的になる!「マインドフルネス」の意外な落とし穴

「マインドフルネス」といえば、瞑想です。集中力が高まり、不安を軽減し、ポジティブ思考になるなど、瞑想は良いことだらけです。しかし最近の研究で、瞑想には意外なデメリットがあることがわかりました。

↑瞑想したらジコチュウになる? 修行が足りぬ……

 

瞑想は人の内面にさまざまなメリットをもたらしますが、社会的な行動に与える影響はあまり明らかになっていません。瞑想は人間を自立的にするのか、それとも人に依存しやすくするのか? この問題を明らかにするため、ニューヨーク州立大学バッファロー校の心理学部の准教授らが2つの実験を行いました。

 

1つ目の実験では、まず研究チームが被験者366名を自立的か相互依存的かどうかを判定します。次に被験者を2つのグループに分け、実験群は瞑想を、統制群はマインド・ワンダリング(心がふらふらとさまよった状態のことで、瞑想と相反する行動)を行いました。その後、慈善団体に送る封書の封入作業があることを両者に伝え、それにボランティアで参加するかどうかを聞きました。その結果、自立性が高いと判断された人が瞑想を行うと、ボランティアに参加する割合が減少することが判明したのです。

 

2つ目の実験では、研究チームは、325名の被験者が簡単なエクササイズを通して、自分の性格が自立的か相互依存的か、どちらの傾向が強いかを考えるように促しました。1つ目の実験と同様に、瞑想またはマインド・ワンダリングを行った後、被験者はチャリティー団体の募金に協力してくれそうな人とオンラインチャットを行う活動に参加するかどうか聞かれました。すると、自立的な性格に傾いた人ではボランティアに参加する割合が33%減少したのに対して、相互依存的な考えを好む人では参加の割合が40%も増えたのです。

 

この2つの結果から、瞑想は相互依存的な人の行動をより社会的にする一方、自立的な人は、人に頼らない傾向が強まることが示唆されたのです。前者は「集団主義」とも解釈できるのに対して、後者は、よく言えば「個人主義」、悪く言えば「利己主義」でしょう。いずれにしても、瞑想にはこのような側面があるようです。

 

あなたはどっち?

考え方や行動が瞑想によって利己的になったら、社会で生きていくうえでは損することもあるでしょう。瞑想によるデメリットを回避するためには、自分の性格が自立的か相互依存的かを知っておくことが大事です。

 

その指標のひとつが、自分自身の行動を表すときの言葉遣い。自立的な人は「私は〇〇をする」というように、1人称単数の主語を使う傾向があり、相互依存的な人は「私たちは△△する」のように、複数形の主語を用いることが多いそうです。

 

研究チームは文化的な考察も行っています。一般的に、欧米人は自分を自立した人間(個人主義的)と捉えるのに対し、アジア人は相互依存的(集団主義的)な人が多いと指摘しています。このような通説には異論もありますが、瞑想の作用は西洋人と東洋人の間でも異なる部分があるのかもしれません。

 

瞑想を客観的に分析し、そのデメリットを明らかにした今回の研究。「欧米のセレブやCEOの間で流行っているから自分もやる」という発想で、瞑想を無批判に取り入れることの危険性を指摘しているようにも思われます。

 

富裕層の怠慢が「地球環境」を破壊する! 英国の研究者らが警鐘

現在、世界中で貧富の格差が広がっています。資産10億ドル以上を持つ「ビリオネア」の上位26人が所有する約150兆円の資産は、貧困層38億人の総資産とほぼ同じであると言われるほど、グローバル社会では二極化が進行中。この現象は環境問題でも見られ、最近では「気候変動の原因は富裕層だ」と論じたレポートが欧米で話題を呼んでいます。

↑「LISTEN TO THE PEOPLE NOT THE POLLUTERS(汚染者ではなく、庶民の声を聞け)」や「PEOPLE OVER PROFIT(利益よりも人を優先しろ)」というメッセージが示すように、環境を汚す富裕層に対する世間の風当たりは強い

 

気候変動における富裕層の問題を指摘したのが、ケンブリッジ・サステナビリティ・コミッション(CSC)による「Changing our ways? Behaviour change and the climate crisis」というレポート。英国のケンブリッジ大学出版局が立ち上げたCSCは、環境問題をさまざまな角度からグローバルに研究しています。このレポートでは英国・サセックス大学の教授らが所得レベルに着目して、人間行動学の観点から気候変動に関する政策を提言しています。

 

早速、主な論点を見ていきましょう。本レポートは、地球温暖化を1.5℃以内に抑えるための対策は相対的に捉えるべきだと論じています。根拠のひとつとして、著者らは国連環境計画の「排出ギャップ報告書2020年」のデータに言及。同報告書は、2015年の世界の人口を所得で4つに分け、各グループの一人当たりの平均二酸化炭素排出量を計算し、所得レベルが高ければ高いほど、1人あたりの二酸化炭素排出量が増大することを示しています。

 

では、各グループはどれくらいの量を排出しているのでしょうか? 排出ギャップ報告書2020年では、2030年までに設定されている二酸化炭素排出量の目標は、1人あたり2.1tです。これを下回っていたのは、所得レベルが最も低い貧困層のみ。所得レベルが2番目に高い層(富裕層の上位10%)の二酸化炭素排出量は20t以上、所得レベルが最も高い超富裕層(富裕層の上位1%)は70tを上回っていました。

 

CSCは、この議論を別のデータで裏付けています。2018年の「Civil Society Equity Review」によると、二酸化炭素排出量の増加の半分程度は富裕層の上位10%に起因し、同37%は富裕層の上位5%に原因があるそう。残りの半分は、所得層の40%を構成する中間層によるものなので、所得層の50%を占める貧困層の影響は事実上ゼロになります。

 

また、欧州連合(EU)加盟国では、富裕層が排出する二酸化炭素の量が増加傾向にある模様。1990年~2015年の二酸化炭素排出量の変化を見ると、EUの人口の50%に相当する低所得層は24%、中間層(EUの40%)は13%削減したのに対して、富裕層(10%)は3%増加したうえ、超富裕層(1%)は5%も増えているのです。EUを離脱したイギリスでは、高所得層の4割以上が1年に3回以上、飛行機を利用している一方、低所得層ではこの割合が4%ほどに下がります。このパターンはフランスやドイツなどでも同じ。

 

したがって、世界中で二酸化炭素排出量を削減するために重要なことは、このような実態に即した排出削減量の「公平な配分」となります。「所得に関係なく、みんなが平等に二酸化炭素を減らせばいい」というわけではないのですね。

↑もっと公平な気候変動への取り組みを提言するCSCのレポート

 

しかし、ここまで来ると、庶民としては「お金持ちは何をやっているんだ?」と思ってしまいますよね。「自分さえ良ければいい」という考えを持ち、化石燃料に依存した生活を送る超富裕層は「環境を汚すエリート(Polluter elite)」と呼ばれており、悪者と見られています。「富裕層が役割を十分に果たしていない」という認識は、ほかの人たちの行動を変える妨げとなるかもしれません。「富裕層だけルールが特別」という考えが広まれば、気候変動対策の公平さに悪影響を及ぼすでしょう。

 

ただし、一概に富裕層が悪いとは言えません。富裕層はお財布を気にせず、ソーラーパネルや環境に優しい乗り物などを購入することできるのも事実です。少し大袈裟な例を挙げると、世界トップクラスの富豪のひとりであるAmazonのジェフ・ベゾスCEOは、気候変動問題に取り組む科学者や活動家を支援する基金「ベゾス・アースファンド」を2020年2月に立ち上げ、私財から100億ドル(約1.1兆円)を投じました。富裕層には富裕層の言い分があるかもしれませんが、感情的になって富裕層だけを責めるのは偏った見方となってしまうでしょう。

 

むしろ問題は、地球を汚すエリートのライフスタイルや行動をどのようにして変えるのか? 富裕層は政治的な影響力が大きいため、変化を起こすのは容易ではありません。このレポートは人間の行動を変えるための方法を多面的に検討していますが、まだまだ研究が必要な様子。それでも、富裕層に責任ある行動を促すための動きは起こっています。例えば、英国の政界では、頻繁に飛行機に乗る人に対して累進税率で課税する仕組みが議論されており、賛否両論がありますが、このような取り組みは今後の政策づくりに役立つかもしれない、とCSCは注目しています。

 

気候変動に対する取り組みについて「公平性」という観点から論じたCSCのレポート。富裕層が二酸化炭素排出量を劇的に減らさなければ、温暖化を食い止めることはおろか、気候変動への取り組み自体が破綻しかねません。富裕層の責任は重大です。

スタジアムには魔力が宿る!「無観客試合」でもホームチームが有利と判明

スポーツ競技では、ホームチームのほうがアウェーチームよりも勝率が高くなる傾向があります。これは「ホームアドバンテージ」と呼ばれており、サポーターの声援が重要な役割を担っているとされていますが、無観客試合の場合はどうでしょうか? 最新の研究で意外な事実が明らかとなりました。

↑観客の代わりに“見えない力”がホームチームを後押し

 

無観客試合とホームアドバンテージの関係を調べるために、ドイツ体育大学ケルンの研究チームは、ヨーロッパ6か国の10リーグを研究対象として、2020年3月に宣言された新型コロナウイルスのパンデミックの前後に行われた4万試合以上を分析しました。その中の1000試合以上は無観客で行われています。

 

すべての試合でホームチームとアウェーチームのどちらが勝利したかを調べ、「ホームチームの勝利」「引き分け」「アウェーチームの勝利」の割合を100試合毎に計算しました。その結果、観客がいる場合は、ホームチームの勝利:引き分け:アウェーチームの勝利=45:27:28となりました。この数値はホームチームが100試合中に45回勝つことを意味しています。

 

では、無観客試合はどうでしょうか? 同じように割合を求めると、43:25:32という結果が出ました。つまり、無観客試合と観客ありの試合では大きな変化がなかったのです。例えばイングランドのプレミアリーグを見てみると、観客ありの試合では、この割合が46:25:30だったのに対して、無観客試合は47:22:32と、ほとんど同じです。

 

この傾向はプロリーグに限りません。ドイツのアマチュアリーグのひとつクライスリーガAの6000試合を同様に分析したところ、観客の有無に関わらず、ホームチームは勝つ傾向が強いという結果になりました。

 

観客がいる試合では、審判がファンの声援や存在感に心理的な影響を受けて、ホームチームにとって有利な判定をする傾向があることが指摘されています。無観客試合では、そのような影響が少なくなり、試合はよりフェアになると考えられますが、スタジアムにおける実際の“力学”はそれ以上に複雑な模様。観客の有無に関係なく、ホームチームが無観客試合でも勝つ傾向が高いという結果に、研究者自身も驚いたようです。

 

しかしその一方で、今回の研究には例外もありました。ドイツのブンデスリーガは観客の有無で結果が大きく異なったのです。観客ありの試合では、この割合が46:24:30である一方、無観客試合は33:23:45と、アウェーチームの勝利が多くなり、ホームとアウェーが逆転する結果となっています。さらなる研究が必要でしょう。

 

ホーム試合が有利になるのは、慣れた環境でプレーすることや縄張り意識が芽生えることなど、サポーターの存在以外にもさまざまな要因が関係していると考えられます。今回の研究結果は、そのような力が作用していることを示していると言えるでしょう。サッカーの無観客試合では選手同士の口論が減り、イエローカードやレッドカードの数が減ることがわかっていますが、ピッチ上で選手たちがより冷静になるとしても、地の利を得やすいのはホームチームのようです。

 

【関連記事】

イエロー&レッドカードが13.5%も減!「無観客試合」が選手におよぼす意外な影響

 

 

ライオンもやっていた!「あくびは不謹慎」とばかり言えないワケ

他人のあくびを見ると、自分にもあくびがうつることがよくありますよね。同じことはライオンでも見られますが、なぜあくびの伝染現象がライオンにも起きるのでしょうか? 最新の研究によると、そこには社会的に重要な機能があるようです。

↑こっちにもあくびがうつりそうだ……

 

イタリア・ピサ大学の動物行動学者の研究チームは、南アフリカのブチハイエナの行動について研究を行っているときに、たまたまライオンが短い時間にあくびを繰り返していることに気付きました。

 

あくびには頭部への血流や脳の冷却を促進し、注意力を高める効果があるとされる一方、ヒトやサルなどの哺乳類、鳥類などの動物の場合は、社会的な目的であくびを行っている可能性もあります。そこで、集団で行動するライオンのあくびにも社会的な機能があるのではないか、と同研究チームは仮説を立てました。

 

彼らは2019年に19頭のライオンを4か月にわたり観察しました。その結果、あるライオンがあくびをすると、それを見た同じ群れの別のライオンが、あくびを見なかったライオンの約139倍の確率で3分以内にあくびをすることがわかりました。しかも、あくびが伝染したライオンは、最初にあくびをしたライオンが立ったり横になったりすると、あくびを見なかったライオンの約11倍の確率で同じ行動を取ることも判明したのです。

 

ライオンはオス1~2頭とメス5~6頭で群れを形成し、ともに狩りをしたり、子どもを育てたりします。そのため、仲間同士の繋がりはとても重要であり、あくびの伝染で社会的な結束力を維持しているのではないか、と研究チームは述べています。あくびによって生まれる同調行動によって、ライオンの絆は強くなっているのかもしれません。

 

この説は人間にも当てはまりそうです。あくびは心理的距離感が遠い人より、家族や友人などからのほうがうつりやすいという見方があるうえ、同調行動は相手との心理的距離を縮め、好感を与えやすいと言われています。このような機能は人間とライオンのあくびに共通していると考えられますが、このような観点から考えると、人類を含め動物はあくびを通して大事なサインを送っているのかもしれません。「あくびは不謹慎」とばかり言えませんね。

 

【出典】Grazia Casetta, Andrea Paolo Nolfo, Elisabetta Palagi, Yawn contagion promotes motor synchrony in wild lions, Panthera leo, Animal Behaviour, Volume 174, 2021, Pages 149-159, https://doi.org/10.1016/j.anbehav.2021.02.010

これぞ市民科学の力! 海中に漂う「謎の塊」の正体がついに判明

水深60〜70mの海の中を浮遊する、直径1mほどのゼラチン状の丸い塊。この物体は20年以上もの間、ノルウェー近海で度々報告されてきたのですが、この塊が何なのか誰も説明できずにいました。しかし最近、研究者と市民ダイバーがこの謎の解明に乗り出し、ついにその正体が明らかとなったのです。

↑これは何なんだ? 写真提供/Robert Fiksdal

 

この謎の塊は、ノルウェー近海と地中海などで1985年から2019年の間に、およそ200人のダイバーから90回ほど報告されていました。ノルウェー、アイルランド、アメリカなどの共同研究チームが調査に乗り出し、市民ダイバーたちにこのような塊と遭遇したらサンプルを取るように呼びかけたところ、4つの塊から球体の外側と内側の両方のサンプルを収集することに成功。

 

これらのサンプルを分析し、DNA解析を行った結果、塊の中には粘り気のあるものと一緒に、イカの胎児が含まれていることが判明しました。

 

イカの種類は、ノルウェー近海と地中海に広く生息するヨーロッパイレックスです。興味深いのは、ひとつの塊の中に異なる成長段階の胎児が含まれていたこと。産卵されたばかりだったり、器官が形成されていたり、胚が発生していたり。市民ダイバーたちの目撃情報を考えると、1つの塊の中には何十万個もの胎児がいる模様で、十分に成長すると塊が破裂して、内側から赤ちゃんのイカが海中に放出されるそうです。

 

これまでに報告された90の塊のうち、イカの胎児だと明らかになったのはわずか4つですが、球体の様子や大きさなどから考えて、残りの86の塊も同様にヨーロッパイレックスの胎児が含まれているのではないか、と同研究チームは予測しています。

↑イカの卵塊だった! 写真提供/(A) Franc Jourdan、(B) Thomas Brelet。コラージュ/Halldis Ringvold (Sea Snack Norway)

 

イカは、卵嚢(らんのう)と呼ばれる寒天質の袋状に包まれた卵を海底の木の枝などに産みつけますが、スルメイカのように沖合に住むタイプは、卵を産みつける場所がないため、海中を浮遊する直径60〜80cmほどの寒天質の丸い球体の中に卵を産みつけます。これは卵塊と呼ばれますが、過去にアメリカのカリフォルニア沖で直径3mもの卵塊が見つかったことがあるものの、卵塊が見つかること自体が稀です。

 

今後、ノルウェー近海や地中海で目撃されている塊からイカの産卵について新しいことがわかるかもしれませんが、今回の調査は市民ダイバーの協力なしでは難しかったでしょう。これぞ、市民科学の力です。

 

【出典】Ringvold, H., Taite, M., Allcock, A.L. et al. In situ recordings of large gelatinous spheres from NE Atlantic, and the first genetic confirmation of egg mass of Illex coindetii (Vérany, 1839) (Cephalopoda, Mollusca). Scientific Reports 11, 7168 (2021). https://doi.org/10.1038/s41598-021-86164-8

役割分担すら不要! 遊ぶように育児をする「キウイDAD」とは?

ニュージーランドでは、妊娠や出産で大きな負担を受けた女性をねぎらうため、自ら育休を取って積極的に育児参加する男性が増えています。そんな父親たちは国鳥のキウイになぞらえ、「キウイDAD」と呼ばれることもしばしば。そんなパパがいるニュージーランドの文化や社会保障制度はどうなっているのでしょうか? キウイDADのストレス解消方法と合わせて見てみましょう。

 

さすが、世界一早く男女同権を実現した国

↑キウイDADは背中で語るだけではない

 

ニュージーランドでの子育ては、夫婦共同作業が基本です。日本のように専業主婦だけが家事や育児を担当するワンオペはもちろん、夫婦間での役割分担という考え方さえ、そもそもありません。産前産後の女性に代わって、買い物をしたり、料理を作ったり、積極的に家事をするのがニュージーランドの男性の特徴です。

 

意外と知られていないかもしれませんが、ニュージーランドは1893年に世界でもっとも早く男女同権を成し遂げた国です。政治の分野を見れば、現職のジャシンダ・アーダーン首相を含め、3人の女性が首相に選出されてきました。かいがいしく子育てに参加するキウイDADには、このような歴史的背景もあります。

 

それは言葉にも反映されており、ニュージーランドの産休や育休は「Parental Leave(ペアレンタルリーブ)」と呼ばれ、父親も母親同様に取得する権利があるなど“父権”が守られています。また、マタニティクラス(母親学級)という言葉も、ニュージーランドでは父親もそのような勉強会に参加するのが当然なので、「Parental class(ペアレンタルクラス)」と呼ばれています。

 

男性の育児休暇取得率が低い日本と異なり、ニュージーランドでは、仕事より家族を優先する同僚や、育児に理解のある上司も多いため、育休を取りやすい職場環境が父権の後押しをしているように見えます。

 

産休や育休など子育てを支えるニュージーランドの社会保障制度も見逃せないポイント。例えば、妊娠期間中は「ミッドワイフ」という専属の助産師によるサポートが得られます。ミッドワイフは単なる分娩の助産師ではなく、妊娠中の健診から出産までトータルに伴走してくれる頼もしい存在です。また、産後は「プランケット」という育児支援団体から派遣される看護師が家庭を訪問し、新生児の育児に関するノウハウを教えてくれます。妊娠・出産にかかる費用は無料で、一定の条件を満たせば日本人でも受けることが可能です。

 

さらにニュージーランドでは、子どもが3歳になると、幼稚園や保育園から無料で育児を支援してもらうこともできます。それまでの期間、父親は保育所を活用しながら、母親の職場復帰をサポートしたり、育休を活用しながら子どもと遊んだり、夫婦二人三脚で子育てに励みます。ニュージーランドの義務教育は6歳の誕生日から16歳の誕生日までとなっており、その間の公立学校での授業料は無料。また、5歳になった子どもには小学校に行く権利が発生し、希望すれば5歳から授業料なしで小学校に通うことができます。しかも日本と異なり、ニュージーランドの公立小学校は一斉入学ではないので、親は子どもの成長に合わせて入学時期を決めます。

 

親心より遊び心

↑育児も楽しんだ者勝ち

 

ニュージーランドは豊かな自然に恵まれたスポーツ王国で、バイク、ラグビー、釣り、キャンピング、山歩きなど、さまざまなアウトドアライフを満喫できます。赤ちゃんをマウンテンバイクに乗せてジョギングしたり、子どもを乗せたトレイラーをバイクに連結して走ったりと、アウトドアスポーツで気分を発散。普段から身体を動かすことが好きなキウイDADたちは、一人で気分転換やストレス解消をするのではなく、子どもと一緒にスポーツを楽しみたいと思っているようです。

 

筆者もある日、子ども用スケートリンクで自転車の練習をさせていたキウイDADを見かけました。わずか5分の間に慣れた手つきで娘の顔に日除けクリームを塗り、怪我しないように長いスパッツをはかせ、膝とひじにサポーターを装着して、ヘルメットを被せていました。とても手際よく、常日頃から子どもと遊び慣れている様子。「子育てで大切なことは?」と声をかけると、「Take it easy!(あまり深刻に考えないことさ)」と笑顔で答えてくれました。

 

アウトドアスポーツに限らず、就学前の3歳から5歳ぐらいまでの、活発になってきた子どもとの遊びは、父親が本領を発揮する場面かもしれません。自分でツリーハウスを作ったり、庭でガーデニングを教えたり、ギターを弾いたり。自由奔放に好きなことをやらせてくれるキウイDADの育児参加は、幼稚園でも家庭でも大いに歓迎されているようです。

 

また、パブも赤ちゃんや子連れOKなところが多いため、スナックを片手に美味しい地ビールを楽しむこともストレス解消法のひとつ。父親仲間のサークルで歓談するのもよいでしょう。

 

コミュニティに必ず存在する「プレイセンター」では、母親同様に父親も、子ども同伴で楽しんでいます。学び合う親たちの自主運営活動なので、各プレイセンターによって違いはありますが、遊具などを使った外遊びをメインに、工作やお絵描き、知育遊びなどを子どもたちが自由に選んで楽しみます。

 

キウイDADには、ユーモア好きで遊びの達人が多い傾向にありますが、どうやって子どもと遊んでよいかわからないという父親には、ニュージーランド発の育児オンラインチャンネル「How to DAD」がおすすめ。 これを立ち上げたJordan Watson氏は、チャンネル登録者数 104万人の人気YouTuberで、ビーチサンダルに短パン・Tシャツといった典型的キウイDADスタイルで、ユーモアたっぷりに子育てアイデアを紹介してくれます。赤ちゃんの抱き方や寝かせ方はもちろん、幼児に野菜を食べさせたり、ダンスを踊ったりするほか、キャンプやお出かけ編も必見。パパ目線で育児をするとこんなに遊べるのか、とパパだけでなくママも開眼するかもしれません。

 

コロナ対策をうまく成功させたニュージーランドは、学校や幼稚園などで子どもたちが社会参加する機会をいち早く再開しました。コロナ禍でのオンライン学習も便利でしたが、人と接したり自然のなかで遊んだり、のびのび育ってほしいと願うのは親だけではありません。ニュージーランド政府もコマーシャルなどを通して、海外の観光客がいないときこそ、国民に子どもとのキャンプやネイチャーツアーといった国内旅行をしてほしい、と訴えています。

 

ニュージーランド在住の筆者も、この国は社会制度が充実し、子育てしやすい国だ、とつくづく感じてきました。子育ては夫婦でやるのが当たり前というニュージーランドの文化や、家事・育児を楽しむキウイDADの存在は、結婚生活や出産に伴う女性の大きなストレスを軽減してくれる心強い味方と言えそうです。

 

執筆/ハドソン知子

米国で大人気の「STEM教育おもちゃ」が子どものスマホ時間をチャンスに変える!

育児をする多くの親にとって最大の関心事のひとつが、子どもの教育。近年の日本では、英語の早期教育が盛り上がっていますが、同様に大きな注目を集めているのが「STEM(ステム)教育」です。「論理的思考やプログラミングなどを子どもが早いうちから身につけるためには、どうすればよいのか?」と頭を悩ませているママ・パパも少なくないでしょう。そこでオススメは、最近アメリカで大人気の「Osmo(オズモ)」です。

↑ロボット作りだって、余裕しゃくしゃくになるかも

 

オズモは、スタンフォード大学出身の元Googleのエンジニアたちによって開発された、まったく新しい「STEM教育」ツールです。学習者がアプリの画面の中だけでなく、タイルやペン、紙、ブロック、おもちゃなども使って、STEM教育を楽しく身体で覚えるのが特徴。すでに全米では3万以上のクラスと250万以上の家庭で使用されています。

 

アメリカでは2009年ごろから、科学技術に優れた人材を育成するための取り組みとして、「STEM教育」が本格的に学校教育へ取り入れられてきました。STEM教育とは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字からなり、子どものうちからパソコンやタブレットを使って学習したり、プログラミングやコーディングについて学んだりとIT社会を生き抜く人材を育てることに注力しています。

 

研究チームによると、オズモはこのSTEM教育を軸に据え、「子どもは体験型学習を通じて、より多く学ぶことができる」という長年の独自研究結果をもとに、ブロックなどリアルな玩具とデジタルを融合させて作られました。STEM教育を反映した新たなデジタル技術を盛り込んでおり、「Reflective Artificial Intelligence」と呼ばれる独自のAI技術を活用した体験型学習ができるようになっています。

 

オズモの基本スターターキット「ジーニアスキット」は1万2980円(税込/iPad別売)で販売中。日本でも購入可能で、日本語にも対応しています。英単語や算数、パズル、お絵描きなどを学ぶことができるうえ、プログラミングなどの専用キットを追加で購入すれば、さらに学びの幅が広がります。

 

「ジーニアスキット」には、ナンバーズ(算数)、マスターピース(お絵描き)、ニュートン(理科)、ワード(英単語)、タングラム(パズル)の5つのアプリが搭載されており、小学生(6歳〜10歳)向けのラインナップになっています。例えば、ワードは、デバイスから聞こえてくる音と写真をもとにして、ABCのパネルを選ぶというゲームで、1000以上の英単語を学ぶことができます。複数人数での対戦モードなどもあり、1つのアプリでさまざまな楽しみ方ができます。

 

これに加えて、オズモにはプログラミングの基礎を学ぶ「コーディング」(税込1万2980円/iPad別売)や、経営の基礎を学ぶ「ピザカンパニー」(税込6050円/iPad別売)などもあります。前者では、実際にコーディングブロックをくっつけたり並べたりしながら、コードの書き方を学ぶ一方、後者では、トッピングやお金のタイルを使って、ピザを作ったり、お釣りを素早く計算したりします。

 

これらは一問一答形式ではなく、「自分には何が必要か?」とか「売上目標を達成するためには何をすればよいか?」のような論理的思考力や問題解決能力を養うように設計されているうえ、協力性や根気を育てる要素も含まれています。

↑ピザカンパニーで遊ぶ子ども

 

コロナ禍により、ステイホームを余儀なくされた子どもたちは、スマートフォンやiPadなどのタブレットの画面を見るスクリーンタイムが格段に増えました。あるアンケートの調査結果によると、そのような時間は通常時に比べて5倍も増大したそう。このような背景から、オズモは学習の遅れやスクリーンタイムの増加を懸念した親たちからも注目されるようになり、最先端の知育玩具として人気を集めています。

 

オズモを採用した学校の教師によれば、アプリと物理的な要素を組み合わせることで、子どもたちは課題に取り組む際、より忍耐強く考えることができるようになったそう。一般的なアプリでは、最初は集中していても次第に当てずっぽうになり、最後はできるだけ速くタップするだけになってしまう傾向が多く見られますが、オズモの場合はパネルやブロックなど、実際に手を使って問題を解くため、より深く考えるようです。

 

また、ブロックを使えば、複数人で学習することができるので、コミュニケーション能力やチームでの問題解決能力も促進されます。プログラミングを学ぶコーディングでは、回答が1つではないため、子どもたちが一緒に模索しながら、いくつもの答えを考え出します。このプロセスが論理的思考の構築に役立っている模様。

 

筆者の6歳になる息子の場合、学校のリーディングのトレーニングがワードアプリと合っているようで、意欲的に取り組んでいます。しかし、2歳の娘をもつ友人は、親が手伝っても、子どもが自主的に遊ぶようになるのは少し難しいと思ったとのこと。オズモに適しているのは、ある程度タブレットを使いこなせるようになる3歳以降の子どもかもしれません。なお、保護者は親専用のアプリを使うと、子どもが夢中になっているアプリに加えて、プレー時間や問題解答数などを確認することができます。

 

実際に手を動かすことによって、デジタルの世界がリアルに体験できることが、オズモの最大の魅力。コロナ禍で子どものスクリーンタイムは確実に伸びていますが、一様に利用を制限するよりも、それを逆手に取り、子どもの興味を学びにつなげてみてはいかがでしょうか?

米国で大人気の「STEM教育おもちゃ」が子どものスマホ時間をチャンスに変える!

育児をする多くの親にとって最大の関心事のひとつが、子どもの教育。近年の日本では、英語の早期教育が盛り上がっていますが、同様に大きな注目を集めているのが「STEM(ステム)教育」です。「論理的思考やプログラミングなどを子どもが早いうちから身につけるためには、どうすればよいのか?」と頭を悩ませているママ・パパも少なくないでしょう。そこでオススメは、最近アメリカで大人気の「Osmo(オズモ)」です。

↑ロボット作りだって、余裕しゃくしゃくになるかも

 

オズモは、スタンフォード大学出身の元Googleのエンジニアたちによって開発された、まったく新しい「STEM教育」ツールです。学習者がアプリの画面の中だけでなく、タイルやペン、紙、ブロック、おもちゃなども使って、STEM教育を楽しく身体で覚えるのが特徴。すでに全米では3万以上のクラスと250万以上の家庭で使用されています。

 

アメリカでは2009年ごろから、科学技術に優れた人材を育成するための取り組みとして、「STEM教育」が本格的に学校教育へ取り入れられてきました。STEM教育とは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字からなり、子どものうちからパソコンやタブレットを使って学習したり、プログラミングやコーディングについて学んだりとIT社会を生き抜く人材を育てることに注力しています。

 

研究チームによると、オズモはこのSTEM教育を軸に据え、「子どもは体験型学習を通じて、より多く学ぶことができる」という長年の独自研究結果をもとに、ブロックなどリアルな玩具とデジタルを融合させて作られました。STEM教育を反映した新たなデジタル技術を盛り込んでおり、「Reflective Artificial Intelligence」と呼ばれる独自のAI技術を活用した体験型学習ができるようになっています。

 

オズモの基本スターターキット「ジーニアスキット」は1万2980円(税込/iPad別売)で販売中。日本でも購入可能で、日本語にも対応しています。英単語や算数、パズル、お絵描きなどを学ぶことができるうえ、プログラミングなどの専用キットを追加で購入すれば、さらに学びの幅が広がります。

 

「ジーニアスキット」には、ナンバーズ(算数)、マスターピース(お絵描き)、ニュートン(理科)、ワード(英単語)、タングラム(パズル)の5つのアプリが搭載されており、小学生(6歳〜10歳)向けのラインナップになっています。例えば、ワードは、デバイスから聞こえてくる音と写真をもとにして、ABCのパネルを選ぶというゲームで、1000以上の英単語を学ぶことができます。複数人数での対戦モードなどもあり、1つのアプリでさまざまな楽しみ方ができます。

 

これに加えて、オズモにはプログラミングの基礎を学ぶ「コーディング」(税込1万2980円/iPad別売)や、経営の基礎を学ぶ「ピザカンパニー」(税込6050円/iPad別売)などもあります。前者では、実際にコーディングブロックをくっつけたり並べたりしながら、コードの書き方を学ぶ一方、後者では、トッピングやお金のタイルを使って、ピザを作ったり、お釣りを素早く計算したりします。

 

これらは一問一答形式ではなく、「自分には何が必要か?」とか「売上目標を達成するためには何をすればよいか?」のような論理的思考力や問題解決能力を養うように設計されているうえ、協力性や根気を育てる要素も含まれています。

↑ピザカンパニーで遊ぶ子ども

 

コロナ禍により、ステイホームを余儀なくされた子どもたちは、スマートフォンやiPadなどのタブレットの画面を見るスクリーンタイムが格段に増えました。あるアンケートの調査結果によると、そのような時間は通常時に比べて5倍も増大したそう。このような背景から、オズモは学習の遅れやスクリーンタイムの増加を懸念した親たちからも注目されるようになり、最先端の知育玩具として人気を集めています。

 

オズモを採用した学校の教師によれば、アプリと物理的な要素を組み合わせることで、子どもたちは課題に取り組む際、より忍耐強く考えることができるようになったそう。一般的なアプリでは、最初は集中していても次第に当てずっぽうになり、最後はできるだけ速くタップするだけになってしまう傾向が多く見られますが、オズモの場合はパネルやブロックなど、実際に手を使って問題を解くため、より深く考えるようです。

 

また、ブロックを使えば、複数人で学習することができるので、コミュニケーション能力やチームでの問題解決能力も促進されます。プログラミングを学ぶコーディングでは、回答が1つではないため、子どもたちが一緒に模索しながら、いくつもの答えを考え出します。このプロセスが論理的思考の構築に役立っている模様。

 

筆者の6歳になる息子の場合、学校のリーディングのトレーニングがワードアプリと合っているようで、意欲的に取り組んでいます。しかし、2歳の娘をもつ友人は、親が手伝っても、子どもが自主的に遊ぶようになるのは少し難しいと思ったとのこと。オズモに適しているのは、ある程度タブレットを使いこなせるようになる3歳以降の子どもかもしれません。なお、保護者は親専用のアプリを使うと、子どもが夢中になっているアプリに加えて、プレー時間や問題解答数などを確認することができます。

 

実際に手を動かすことによって、デジタルの世界がリアルに体験できることが、オズモの最大の魅力。コロナ禍で子どものスクリーンタイムは確実に伸びていますが、一様に利用を制限するよりも、それを逆手に取り、子どもの興味を学びにつなげてみてはいかがでしょうか?

言語は電気信号!「ハエトリグサ」との会話が世界を救う

アサリやハマグリのような二枚貝が口を閉じるように、トゲがついた2枚の葉で虫を挟み込み捕食するハエトリグサ。この食虫植物と人間がスマートフォンを通して「会話」する技術が、最近シンガポールで開発されて話題となっています。一体どんな仕組みなのでしょうか?

↑人間とも少し話せます

 

植物は、周囲の環境を感知したり、それに対応したりする際、電気信号を発しています。この働きを研究する分野は植物電気生理学と呼ばれていますが、植物の電気信号はとても微弱で、植物の表面に電極をしっかり設置できないと検知することができません。

 

この問題に取り組んだのが、シンガポールの南洋理工大学の研究チーム。心房や心室に伝わる電気信号を波形として書き出す心電図検査にヒントを得た彼らは、伸縮性に優れた直径3mmのハイドロゲル状のデバイスをハエトリグサの茎の部分に装着したところ、光合成に影響を与えないまま、ハエトリグサの電気信号を読み取ることに成功したのです。

 

次に同研究チームは、以下の動画でわかるように、この装置をハエトリグサの葉につけて、スマホ経由で電気パルスを送信してみたところ、1.3秒で葉を閉じるように誘導することができました。さらに、彼らはハエトリグサの2枚の葉をロボットアームにつけて、同様の装置で電気パルスを送ったところ、ロボットアームの先端についたハエトリグサの葉は、直径0.5mmの針を「食べる」こともできました。

 

また、南洋理工大学の研究チームは、シンガポール科学技術研究庁との共同研究で、室温で液体からゲル状に変化する「サーモゲル」と呼ばれる物質が、植物のさまざまな形や質感に対して有効であるうえ、一般的なヒドロゲル(水を媒介とするゲル)の4〜5倍も強力に接着させることができると発表しています。このサーモゲルを電気信号読み取り装置と組み合わせれば、ハエトリグサ以外の植物でも、電気信号を使ったコミュニケーションができるようになるかもしれません。

 

同研究チームによると、この技術は農業分野に応用できるとか。植物の異常な電気信号をいち早く検知できると、農作物の病気などに早期に対応し、農作物の収穫量を増やすことに繋がるかもしれません。食糧不足や気候変動の農作物への影響を考慮すると、その意味は大きいでしょう。

 

言語は電気信号!「ハエトリグサ」との会話が世界を救う

アサリやハマグリのような二枚貝が口を閉じるように、トゲがついた2枚の葉で虫を挟み込み捕食するハエトリグサ。この食虫植物と人間がスマートフォンを通して「会話」する技術が、最近シンガポールで開発されて話題となっています。一体どんな仕組みなのでしょうか?

↑人間とも少し話せます

 

植物は、周囲の環境を感知したり、それに対応したりする際、電気信号を発しています。この働きを研究する分野は植物電気生理学と呼ばれていますが、植物の電気信号はとても微弱で、植物の表面に電極をしっかり設置できないと検知することができません。

 

この問題に取り組んだのが、シンガポールの南洋理工大学の研究チーム。心房や心室に伝わる電気信号を波形として書き出す心電図検査にヒントを得た彼らは、伸縮性に優れた直径3mmのハイドロゲル状のデバイスをハエトリグサの茎の部分に装着したところ、光合成に影響を与えないまま、ハエトリグサの電気信号を読み取ることに成功したのです。

 

次に同研究チームは、以下の動画でわかるように、この装置をハエトリグサの葉につけて、スマホ経由で電気パルスを送信してみたところ、1.3秒で葉を閉じるように誘導することができました。さらに、彼らはハエトリグサの2枚の葉をロボットアームにつけて、同様の装置で電気パルスを送ったところ、ロボットアームの先端についたハエトリグサの葉は、直径0.5mmの針を「食べる」こともできました。

 

また、南洋理工大学の研究チームは、シンガポール科学技術研究庁との共同研究で、室温で液体からゲル状に変化する「サーモゲル」と呼ばれる物質が、植物のさまざまな形や質感に対して有効であるうえ、一般的なヒドロゲル(水を媒介とするゲル)の4〜5倍も強力に接着させることができると発表しています。このサーモゲルを電気信号読み取り装置と組み合わせれば、ハエトリグサ以外の植物でも、電気信号を使ったコミュニケーションができるようになるかもしれません。

 

同研究チームによると、この技術は農業分野に応用できるとか。植物の異常な電気信号をいち早く検知できると、農作物の病気などに早期に対応し、農作物の収穫量を増やすことに繋がるかもしれません。食糧不足や気候変動の農作物への影響を考慮すると、その意味は大きいでしょう。

 

「使用済みマスク」はコンクリートに再利用されるべき! と豪大学研究チームが提案

新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界中で大量消費されるようになったマスク。しかし、それと同時にマスクの廃棄量も膨れ上がり、それをどうやって処分するのかがグローバルな課題になっています。そこで現在、解決策の1つとして注目されているのが、使用済みマスクを道路の素材に利用する研究です。

↑健康だけでなく、地球の環境も守りたい

 

オーストラリアのロイヤルメルボルン工科大学(RMIT大学)の研究チームによると、世界中で使われる使い捨てマスクは現在、1日あたりおよそ68億枚にも上るとのこと。そのすべてがきちんと廃棄処分されればいいのですが、最近よく道端に落ちているのを見かけるように、適切に廃棄されないマスクも少なくありません。

 

海洋保護団体オーシャンズアジアの試算では、2020年は1年間に世界でおよそ15億6000万枚のマスクが適切に処分されず、最終的に海に流れついたそうです。ただでさえ海洋プラスチックの問題があるのに、これだけ大量のゴミが海に流入すれば、漁業や観光産業にも影響を与えかねません。

 

世界で膨れ上がる廃棄物の問題に対処するため、同研究チームは、使用済みマスクを道路作りに利用する可能性について研究を始めました。

 

一般的にアスファルトの道路は、下から順に「路床」「路盤」「基層」「表層(アスファルト)」の4層でできています。それぞれの層がクルマの重量に耐え、ひび割れを防ぐための強度と柔軟性を併せ持つ必要がありますが、表面のアスファルト部分以外の3層には、再生コンクリート(RCA)が利用可能であることが知られています。

 

この研究チームが実験したところ、この再生コンクリートに使用済みのマスクを細断して加えると強度が増すことがわかりました。再生コンクリートと細断したマスクの最適な割合は、再生コンクリート99%に対してマスク1%。このようにマスクを混合した素材は、強度のほかに耐水性や耐変形性、耐酸性など、アスファルト製品に必要とされるすべての工業規格を満たすこともわかりました。これを実際の道路建設に利用する場合、2車線の道路1kmを作るのに、使用済みマスクを300万枚も使用することになり、93tの廃棄物の削減に繋がるそうです。

 

なお、RMIT大学の別の研究チームでは、細断したマスクからコンクリートを作る可能性について調査を行い、建築素材として利用できる可能性が高いと見ています。使用済みマスクの再利用に関する研究は始まったばかり。今後の動向に注目です。

 

【出典】Mohammad Saberian, Jie Li, Shannon Kilmartin-Lynch, Mahdi Boroujeni. (2021). Repurposing of COVID-19 single-use face masks for pavements base/subbase, Science of The Total Environment, Volume 769, 145527. https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2021.145527

「使用済みマスク」はコンクリートに再利用されるべき! と豪大学研究チームが提案

新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界中で大量消費されるようになったマスク。しかし、それと同時にマスクの廃棄量も膨れ上がり、それをどうやって処分するのかがグローバルな課題になっています。そこで現在、解決策の1つとして注目されているのが、使用済みマスクを道路の素材に利用する研究です。

↑健康だけでなく、地球の環境も守りたい

 

オーストラリアのロイヤルメルボルン工科大学(RMIT大学)の研究チームによると、世界中で使われる使い捨てマスクは現在、1日あたりおよそ68億枚にも上るとのこと。そのすべてがきちんと廃棄処分されればいいのですが、最近よく道端に落ちているのを見かけるように、適切に廃棄されないマスクも少なくありません。

 

海洋保護団体オーシャンズアジアの試算では、2020年は1年間に世界でおよそ15億6000万枚のマスクが適切に処分されず、最終的に海に流れついたそうです。ただでさえ海洋プラスチックの問題があるのに、これだけ大量のゴミが海に流入すれば、漁業や観光産業にも影響を与えかねません。

 

世界で膨れ上がる廃棄物の問題に対処するため、同研究チームは、使用済みマスクを道路作りに利用する可能性について研究を始めました。

 

一般的にアスファルトの道路は、下から順に「路床」「路盤」「基層」「表層(アスファルト)」の4層でできています。それぞれの層がクルマの重量に耐え、ひび割れを防ぐための強度と柔軟性を併せ持つ必要がありますが、表面のアスファルト部分以外の3層には、再生コンクリート(RCA)が利用可能であることが知られています。

 

この研究チームが実験したところ、この再生コンクリートに使用済みのマスクを細断して加えると強度が増すことがわかりました。再生コンクリートと細断したマスクの最適な割合は、再生コンクリート99%に対してマスク1%。このようにマスクを混合した素材は、強度のほかに耐水性や耐変形性、耐酸性など、アスファルト製品に必要とされるすべての工業規格を満たすこともわかりました。これを実際の道路建設に利用する場合、2車線の道路1kmを作るのに、使用済みマスクを300万枚も使用することになり、93tの廃棄物の削減に繋がるそうです。

 

なお、RMIT大学の別の研究チームでは、細断したマスクからコンクリートを作る可能性について調査を行い、建築素材として利用できる可能性が高いと見ています。使用済みマスクの再利用に関する研究は始まったばかり。今後の動向に注目です。

 

【出典】Mohammad Saberian, Jie Li, Shannon Kilmartin-Lynch, Mahdi Boroujeni. (2021). Repurposing of COVID-19 single-use face masks for pavements base/subbase, Science of The Total Environment, Volume 769, 145527. https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2021.145527

やっぱり賢い! 今度は「タコ」が睡眠中に夢を見ている可能性が浮上

犬や猫を飼っている人は、ペットが寝ながら身体を動かしたり、口を動かしたりする姿を目撃したことがあるかもしれません。一般的には犬と猫も、人間と同じように夢を見ていると考えられていますが、夢を見ている生き物は、どうやらほかにもいるようです。最近の研究で、タコも夢を見る可能性があることが明らかになりました。

↑夢の内容は秘密にしておいて

 

そもそもタコの睡眠が注目されたのは、タコは身体の色を変えることができるから。タコはエサを捕まえるときや、敵から襲われているときは、身体の色を変化させます。しかし、そのような場面だけでなく、タコは寝ているときでも白やあずき色、まだら色など、身体の色をさまざまに変えるのです。

 

人間の睡眠に、脳が活発に動いている状態の「レム睡眠」と、脳が休息している状態の「ノンレム睡眠」の2種類があることは、よく知られています。以前までは、この2つの睡眠状態になるのは哺乳類と鳥類だけだと考えられていましたが、近年、爬虫類にもレム睡眠とノンレム睡眠があることが明らかになり、イカにも同様の睡眠状態があることがわかってきました。それなら、イカと同じ頭足類であるタコにもレム睡眠とノンレム睡眠があるのではないか。そこで、この仮説を調べるために、ブラジルのリオグランデドノルテ連邦大学の研究チームが、実験室で睡眠中のタコの様子を観察しました。

 

すると、身体の色は薄く、瞳孔があまり開いていない「静かな睡眠」の状態と、身体の色をどんどん変え、目や吸盤、身体を大きく動かす「活動的な睡眠」の状態があると判明しました。しかも、活動的な睡眠は、6分以上の長い静かな睡眠の後に訪れ、この2つの状態は30~40分のサイクルで起きていることも判明したのです。

 

静かな睡眠は人間のノンレム睡眠に、活動的な睡眠は人間のレム睡眠にとても似ていますが、タコの場合は、この2つの睡眠状態によって身体の色を変化させていることが示唆されたことになります。タコは言葉を話せないため、この説を確認する方法がありませんが、人間がレム睡眠のときに夢を見るように、タコも活動的な睡眠の間に夢を見ている可能性が考えられるのです。

 

この研究を発表した科学者によると、もしタコが本当に夢を見ているとすれば、タコのレム睡眠は数秒から1分程度と非常に短い時間のため、人間が見る夢のように複雑なストーリーではなく、数秒程度の短い夢ではないか、と考えられるとのこと。タコが劇的に身体の色を変化させながら、大きく身体を動かしていたら、この軟体動物は楽しい夢や悪夢を見ている最中なのかもしれません。

 

タコに関する最近の記事でも述べたように、タコは私たちが考えている以上に賢い生き物です。今後もタコの研究から目が離せません。

 

【出典】Sylvia Lima de Souza Medeiros et al. (2021). Cyclic alternation of quiet and active sleep states in the octopus. iScience. https://doi.org/10.1016/j.isci.2021.102223

 

【関連記事】

意外と研究が進んでいなかったタコが「とても嫌うもの」が2つ判明

 

国際宇宙ステーション(ISS)で発見された「未知の細菌」の重要な意味とは?

2021年3月、国際宇宙ステーション(ISS)で未知の細菌が3種類、発見されたという論文が発表されました。ISSで新たな微生物が見つかるのは、これが初めてではありませんが、今回の発見にはどのような意味があるのでしょうか?

↑一体これは何だ……?

 

NASAと共同で調査を行っている研究者たちは、2015年にISS内の8か所から採取したサンプルを解析した結果、4種類の細菌を発見しました。このうち1種類はメチロバクテリウム属と判明したのですが、残りの3種類はメチロバクテリウム属ではあるものの、これまでに発見されたことのない細菌だったのです。

 

未知の3種類は天井パネル、観測用モジュール「キューポラ」、ダイニングテーブルで採取されました。メチロバクテリウム属の細菌は、植物の成長の促進や、病原菌に対する防除に関わることがわかっており、宇宙環境での植物栽培の鍵となる可能性があると言われています。

 

水や太陽光などの資源が限られた宇宙空間での植物栽培には、強いストレス下でも植物の成長を促す新種の細菌の存在が欠かせない模様。さらなる検証が必要ですが、今回発見された細菌は、火星などの地球外での植物栽培を可能にするかもしれないと期待されているのです。

 

このように、ISSで新しい細菌が見つかるのは、実は珍しいことではありません。ISS内にある実験室や植物栽培装置など全8か所では、6年にわたって細菌の繁殖を観察し続けており、これまでに約1000ものサンプルが集められ、地球上に持ち帰って分析が行われてきました。

 

今回も発見に寄与したNASAジェット推進研究所のカスツーリ・ヴェンカテーシュワラン博士らは、2019年にもISSにさまざまな細菌が存在することを発表しています。これらの細菌の多くが人の体内外に存在する細菌であり、ISSにはこれまでに200名以上の宇宙飛行士が滞在してきたことを考えると、当然の結果かもしれません。

 

しかし、そもそも細菌は宇宙で存在できるのでしょうか? 東京薬科大学のチームは、微生物が宇宙空間でどのくらい生き残れるかを調査したことがあります。同チームが2020年8月に発表した研究によると、2015年にISSで実施された「たんぽぽ計画」において、微生物を宇宙空間の太陽紫外線照射環境下で3年間、曝露したところ、生存し続けた微生物がいたとのこと。この結果から同チームは、微生物が地球から火星まで移動する間、生存することは可能である、と結論づけました。

 

未知の細菌の発見は、さまざまな影響を及ぼすかもしれません。現在、宇宙開発が進み、月に人類が住める都市を作る構想も持ち上がっていますが、そこでも細菌類は重要な役割を担うかもしれません。また、宇宙で微生物が生存可能であることは、生命の起源が宇宙からもたらされたものという「パンスペルミア仮説」を支持する根拠のひとつになるとも言われています。

 

【出典】Bijlani S, Singh NK, Eedara VVR, Podile AR, Mason CE, Wang CCC and Venkateswaran K (2021) Methylobacterium ajmalii sp. nov., Isolated From the International Space Station. Frontiers in Microbiology. 12:639396. doi: 10.3389/fmicb.2021.639396

まず自分を大事にしなきゃパパ失格! 世界で最も子育てしやすいアイスランドの育児論

男性も育児に参加するのが当たり前な社会を目指している日本。父親になる人は「パパスイッチ」をできるだけ早くオンにすることが期待されていますが、海外の男性はどんな意識や価値観を持って、父親として生きているのでしょうか? 主に、パパが育児や仕事をもっと楽しむためのヒントを探るため、本稿では、OECD(経済協力開発機構)の「子育てしやすい国ランキング2020」で1位に選ばれているアイスランドを、社会と文化の観点から見てみます。

 

世界一子育てしやすい社会

↑息子よ、自分が好きなことをやりなさい

 

アイスランドが子育てしやすい国として評価される大きな理由には、金銭面での負担が一切ないことが挙げられます。子どもを産むために発生する通院費や出産費、入院費は無料で、出産トラブルなどで延長した場合の入院費も0円。国内に6か月以上住んでいれば自動的に社会保険制度のメンバーになれるため、出産後も、0歳から18歳までの子どもは歯科治療を含む医療を、原則無料で受けることができます。

 

その分、国民一人一人が納める税率は高く、消費税は24%ですが、多く納められた税金は出産や子育て、学費などの費用としても運用されています。大学までの授業料は基本的にすべて税金で賄われ、無料で通うことができます。教育機関の98%は地方自治体運営のため、国の支援を受けやすい環境になっており、誰もが平等に教育を受けることができるのです。

 

唯一、未就学児などの保育料は月に約4万円かかりますが、アイスランドの物価は日本の2〜3倍で、給料の平均値がおよそ50万円ということを考えれば妥当な相場といえるでしょう。

 

アイスランドの育児のしやすさは、国が推進する働き方改革も関係しています。1975年に男女平等を求めて女性市民の9割以上が大規模なストライキとデモを行ったことが、国を挙げて女性の社会進出を進めるきっかけになりました。2010年には男女平等社会を実践するためにクォーター制度が導入され、職場では男女比率が同じになるように人数などが設定されています。

 

男性も女性も平等に3か月ずつ育休が取得できるうえ、それとは別にもう3か月間、父親か母親のどちらかが育休を取得することができます。育休を取得しても、それがブランクになることはなく、男性の育休取得率も80%を超えるなど、パパ・ママにとって育休の取得は当たり前。育休は親が子どもと過ごす権利として保障されているため、勤務先との間にトラブルが生じることもありません。また、男性も育児を当然のことだと思っているので、あまりストレスは感じないようです。

 

雇用では正社員と非正社員の区別がなく、さらに経験年数や学歴ではなく、仕事の内容や労働時間に応じて給料が決まるため、転職にもデメリットがありません。また、労働時間や休日を自由に選べるので、自分の時間を多く作れるなど、働きやすい環境が整っています。

 

同性婚を認めているアイスランドは、世界初の同性婚首相が生まれた国でもありますが、家事についても「男だから、女だから」という理由で押し付けることはなく、一人の人間として、それぞれが得意なことをしています。日本と同じように役割分担は存在し、夫婦で話し合って決めています。

 

ほとんどの男性は料理ができますが、やはり女性のほうが料理を好きな人が多い傾向にあるため、ママが料理をつくり、パパは洗濯や掃除、保育園の送り迎えなどをするのが一般的なパターンといえるでしょう。しかし、男性でも育休取得がしやすく、家事や育児に携わるのが当たり前だからこそ、男性も「家事が特別大変なもの」とは感じていないようです。

 

仕事よりも自分が大事

↑自分の道を突き進め!

 

アイスランドの父親たちは子どものための時間や責任感は持ちつつも、自分のことも大切にしています。仕事にはほどほどの時間を割いて従事し、辞めたいときには躊躇なく転職する。このような人が多く存在し、社会もそれを認めています。

 

その背景には、アイスランドでは性別や年齢の違いで行動を制限されることがなく、みんながお互いを“一人の人間”として尊重することが挙げられるでしょう。この国は個人の自由を重視するため、国民一人ひとりが自分の人生を自由に生きることができるのです。他人の人生を否定する風潮はありません。

 

例えば、自分の興味がある分野を学び続けるために、大学に在籍する期間を延長し、30歳過ぎまで学生でいる人は少なくありません。学費はある程度税金で賄われるのですが、それでも余裕のない人は、学費が不足したら休学したり、いったん退学して学費を稼いで大学に戻ったりしています。

 

また、労働時間や休日を自由に選べることから、趣味や遊ぶための時間をたくさん作ることもできます。庭に小屋を建てたり、ジャグジー風呂を近所の人と協力して作ったり。アイスランドは土地が広く、大自然が広がるため、SUVや馬に乗って、大草原を駆け回るパパたちの姿も多く見られます。アイスランドの父親は自分が楽しんだり、リフレッシュしたりできる環境を自ら作り、家族も自ずと一緒に楽しんでいます。

 

このように、アイスランドでは国の援助や方針のおかげで、人生の選択肢が多く、人々が生きやすい社会となっています。しかも、個人主義を尊重しているとはいえ、困ったら助けてもらえる社会制度があるからこそ心に余裕が生まれ、仕事にも子育てにも責任を持って取り組める環境が生み出されているのです。

↑ジャグジー風呂だって近所の住民や知人と一緒にDIY

 

一方、アイスランドには、市の認可を受けた「ダグマンマ」と呼ばれるデイケアセンターがあり、母親たちはそこに子どもを預けて自分の時間を過ごしたり、仕事をしたりしています。父親が率先して育児に携わる社会でもあるため、母親も自分の時間を確保しやすく、ジムに通ったり、趣味のお菓子作りをしたりして、自分の時間を楽しんでいます。

 

アイスランドには、日本で一番人口が少ない鳥取県の半分にも満たない約35万人しか住んでいません。人口密度が非常に低く、手つかずの自然が多く残っています。また、火山活動が活発なため、温泉が多く、これは古くから人々の生活の一部となっていました。夏は真夜中でも太陽が沈まない白夜となり、冬には夜空をオーロラが舞います。

 

こういった豊富な大自然に囲まれ、アイスランドの人たちには自然とハイキングやキャンプ、ドライブなどのアウトドアを好む傾向があります。アイスランド人にとって、自然とは日常的に楽しめて心を癒してくれる憩いの場なのです。子育てにおいても、家族でハイキングしたり、岩肌でかくれんぼしたり、温泉に浸かったりして過ごしています。

 

アイスランドの人たちは一般的に、2週間から1か月間の長期休暇を取り、ヨーロッパを旅行したり、日焼けをするためにアフリカの島でバカンスを楽しんだりしています。学費が大学まで無料なので、その分、アイスランド人は金銭的に余裕があるうえ、養育費を家族旅行などの娯楽に費やす傾向があるようです。しかし、常に親が子どもと一緒に時間を過ごすわけではなく、学校が長い休みに入るときには子どもだけで祖父母の家に行って休暇を過ごすこともあり、その間、親は仕事をしながら自分たちのやりたいことをして時間を過ごしています。

 

まとめ

本稿では、先進国で最も子育てがしやすい国に選ばれたアイスランドの社会と文化を見てきました。日本とアイスランドでは国家の規模も制度的にも異なる部分がいろいろとありますが、アイスランドの子育て事情を考えるうえで、「自分のことを大切にする」という価値観は特に重要でしょう。自分を大事にすることが、育児や家庭を疎かにすることにはなっておらず、むしろ、それができなきゃパパとして失格、のようにも見えます。日本のパパも、このような個人主義の良い面を自分なりに取り入れたら、日常生活がもっと楽しくなるかもしれません。

 

夫婦の前にカップルである!「個人主義」を愛するフランスのリアルな育児事情

少子化を克服した先進国として知られるフランス。2021年7月には、同国のエマニュエル・マクロン大統領が公約として掲げてきた「父親の育児休暇の延長」が、いよいよ実現します。男性がより積極的に育児をすることで、フランスはますます出産や子育てがしやすい国になりそうですが、この国は出産・育児に関して、どのような制度や文化を持っているのでしょうか?

↑板に付いたパパぶり

 

フランスの婚姻・育児制度の特徴のひとつは、婚姻関係がないカップルにも手厚いサポートが提供されることです。フランスでは1994年に、すべての労働者が育児休暇を取得できるように法改正が行われました。1999年には同性・異性を問わず、共同生活を営もうとするカップルを対象とした、非婚カップル保護制度の「民事連帯契約」が誕生し、婚姻関係にある人たちとほぼ同等の権利が受けられるようになりました。

 

未婚の場合でも、妊娠発覚時に市役所で胎児認知を行えば、出産後には、両親の名前が記載された出生届を行政に届け出ることが可能。また、日本の戸籍謄本と同等の出生証明書のほかに家族手帳も作成され、そこにも子どもや親の名前が記載されます。

 

このようにフランスでは、婚姻関係を結ばずに出産し、子育てをしているカップルも、社会保障制度においては国から多くのサポートを受けることができます。出生祝い金や月々の子ども手当、税金の免除なども同様で、筆者の場合、未婚ですが、妊婦検診や出産時の病院費用もすべて保険で賄われ、出産後には祝い金や子ども手当が支給されました。私のパートナーは税金が免除され、パートナーの会社で加入している保険に子どもと合わせて加入することができたうえ、その保険からも出産祝い金をいただきました。

 

一方、フランスの男性の育児休暇については、父親は子どもが生まれる前後に誕生日休暇として3日間、その後にも11日間を取得することができます(土日祝日も含む)。これは婚姻関係のないカップルにも適用されており、約7割のフランス人男性が取得しています。

 

この制度は2021年7月から28日間へと延長され、最短でも7日間の育児休暇取得が義務化されます。違反した企業には罰金が科されるとのことですが、その背景には「父親は子どもが新生児の時期から育児に参加し、父親としての自覚を持つべきである」という考えがあると同時に、男女平等を推進するためにも重要視されています。

 

フランスでは多くの男性が出産に立ち会いますが、2020年はコロナ禍で立ち会い出産ができず、入院中はパパでも面会できないという状況が国中で見られました。しかし、立ち会い出産を限定的な条件で許可する病院もあり、筆者も出産予定日が外出禁止令発動期間に当たっていたものの、パートナーは出産後2時間まで立ち会ってよいとの許可が降りました。結果的には外出禁止令解除後の出産になったため、私のパートナーには陣痛が始まる前から出産後まで制限なく付き添ってもらうことができたのですが。

 

通常では、プレパパも産院などが開催する出産前の両親学級に参加するのですが、現在はコロナ禍にあることから、そのようなイベントは行われていません。フランスでは、公立の病院に出産入院しても母子同室の個室で過ごすことが一般的ですが、筆者の場合、出産後はそんな病室で助産師さんが父親にも沐浴指導を行ってくれました。

 

里帰り出産をしないフランス人

↑2人ともお疲れさまです

 

フランス人は、日本のような里帰り出産を基本的に行いません。赤ちゃんが生まれた後に家族が離れる期間があることを、あまり良いとは思っていない風潮があるようです。そのため、産後はママとパパが協力して育児に励むことになります。もちろん、祖父母が協力する場合もありますが、基本的に育児は夫婦2人で行うものだとされています。

 

産後約28日間は地域の助産師さんが自宅を訪問し、育児指導などの支援をしてくれます。パパがミルクをあげたり、オムツを替えたりすることは当たり前であり、むしろ「パパがオムツを替えなさい」と親戚などから突っ込まれることも。これが示すように、パパは「母乳をあげること以外は父親もやるべきだ」という周囲からのプレッシャーをひしひしと感じるようです。

 

そんな文化はメディアでも見られ、オムツや赤ちゃん用クリームのCMなどでは、母親と赤ちゃんだけではなく、父親がオムツを替えているシーンを流したりしています。平日の午前中には、妊娠中や子育て中のパパ・ママ向けに妊娠出産や育児の情報番組がテレビで放映されるなど、メディアを通して社会全体が男性の育児をサポートしています。

 

女性の育児休暇は10週間と短いうえ、女性の社会進出も進んでいることから、ママが職場復帰した際には、パパが保育園の送り迎えなども積極的に行っています。子どもの通院や外出などでも父親による送迎が街中で多く見られ、男性が育児をすることへの偏見はまったくありません。この点は近年の日本もほぼ同じでしょう。

 

子どもは世界で2番目に好き

↑何が一番大事?

 

フランスでは、妊娠がわかってから出産までの間に子ども部屋を用意します。パパ・ママは産後から数か月間、寝室にベビーベッドを置いて、赤ちゃんと一緒に寝ることもありますが、一般的には、赤ちゃんは子ども部屋で乳児期から一人で寝かせます。川の字で寝る日本人とは異なりますが、フランス人のそんな行動は「親になっても、夫婦やカップルとして自分たち2人の時間を大切にしたい」という考えの表れ。実際、ママが産後の身体を回復させて、パートナーとの性生活に早く戻れるように、産婦人科医はペリネという骨盤底筋ケアの処方箋を書いてくれます。

 

親である前にカップルである。これがフランスのライフスタイルの大前提になっているため、カップルは子どもとの時間を大切にするのと同じくらい、大人だけの時間やパートナーへの気遣いを大事にしています。ですから、多くのカップルは週末になると、子どもを祖父母へ預けて、旅行に行ったり、数時間だけベビーシッターに子どもを預けて、映画やレストランへ出かけたりして、気分転換をしているのです。

 

このように、フランスと日本で大きく違うのは、パートナーとの関係が、親になっても、パパ・ママだけにならないこと。女性が自分の時間を作り、魅力的であり続けられるように、男性は積極的に育児や子育てをするという一面がフランスにはあります。逆に、カップルがお互いのことを見ていなかったり、お互いに魅力を感じなくなったりすれば、離婚や別居に至ることも珍しくありません。これらの背景には、女性が自由を勝ち取ってきたという歴史がありますが、それだけではなく、個人を大切にする国民性もあるのではないか、と著者は見ています。

 

このような文化的背景を知れば、フランスの父親は育児休暇が取りやすいうえ、仕事も定時で終わり、日本のように残業や仕事後の飲み会がない理由もわかりますよね。近年、フランスが少子化対策に成功したことも、決して不思議ではありません。

 

もちろん、課題がないわけではありません。日本と同様に、フランスでも保育園や託児所が都市部では見つけにくいという問題があります。また、仕事への復帰を諦めて、新型コロナウイルスの失業手当を受けながら、保育園の空きを待ったり、子どもを祖父母に預けて時短で働いたりという人も多くいます。これらは出生率の増加が一因とも考えられますが、今後フランスはこのような問題をどのように解決していくのでしょうか?

 

とはいえいまは、父親の育児休暇の延長が、どのような結果をもたらすのか注目しておきましょう。

 

地球史上最も頑丈なタイヤ? 「自転車」がNASAの技術を取り込んで進化中

自転車に乗ろうとしたとき、タイヤがパンクしているのを見つけて困ることがありますよね。これまで「パンクしないタイヤ」とか「ノーパンク自転車」が開発されてきましたが、最近ではアメリカ航空宇宙局(NASA)の技術を応用した自転車用タイヤの製品化が進められています。

 

宇宙から”逆輸入”

↑NASAの技術を応用した開発中の自転車「METL」

 

自転車のタイヤがパンクすると厄介なもの。火星や月の上を走る探査車のタイヤなら、なおさらです。修理や取り換えを簡単に行うことができないうえ、火星や月の表面は、舗装された道路を走るのと違って、ゴツゴツした大きな岩や石がたくさんあり、外傷を受けやすい環境です。

 

さらに、通常のタイヤに使われるようなゴムは、高温だと柔らかくなり、低温では硬くてもろくなりますが、月は地球よりも外気温の温度差が大き過ぎるため、このようなゴムは向いていません。しかも、月面では宇宙線と呼ばれる高エネルギーの粒子が降り注ぎゴムの劣化を早めるため、タイヤの材料にゴムは使えないそうです。

 

このような過酷な環境でも利用できるタイヤは世界中で開発されてきました。日本では数年前にブリヂストンが月面探査車向けに「オール金属製タイヤ」を作っていましたが、アメリカではNASAグレン研究センターが、形状記憶合金を使って「Superelastic tires(超弾性タイヤ)」を生み出しています。

 

後者のタイヤは内部に空気を入れない代わりに、形状記憶合金を編みこんだ構造となっており、それが衝撃吸収材のような役割を担っています。これにより、岩場のような地形でも破損することなく前進できるそう。現在、NASAグレン研究センターでは、このタイヤを火星で使用できるように、さらに性能向上に取り組んでいます。

 

その一方、ロサンゼルスを拠点とするスタートアップのSMARTタイヤカンパニーが、NASAと起業家を結ぶ「NASAスタートアップスタジオ」を通して、superelastic tiresの技術を活用した自転車の製品化を進めています。

 

SMARTタイヤカンパニーによると、使っている形状記憶合金は、ニッケルとチタンを組み合わせた「ニチノール」と呼ばれるもの。同社はこれを空気不要のタイヤに編み込むことで、ゴムのような弾力性とチタンのような強度を兼ね備えた、パンクしないタイヤを実現しようとしているのです。しかも、形状記憶合金のため、このタイヤは大きく変形しても元の形状に戻るとのこと。

↑宇宙環境にも耐える頑丈なMETLのタイヤ

 

この開発中のタイヤは、最終的にどんな天候でも使えるように、ポリラバー素材をコーティングする予定です。同社は、このタイヤを使った自転車「METL」を2022年までに発売する計画で、METLは通勤・通学やオフロードなどのシーンで使える自転車になるそうですが、一方でスポーツには向いていないと言われています。

 

パンクしないタイヤは、廃棄物を減らす点でも環境に優しい製品になります。製品化までは課題や改善点はあるかもしれませんが、NASA品質の自転車が発売されたら、世界中で注目を集めることは間違いないでしょう。地球史上最も頑丈な自転車用タイヤは生まれるのでしょうか?

 

そして人類は月に辿り着いた……。「現代版ノアの方舟」に新計画が浮上!

もし地球が滅亡するとしたら、あなたはどうする? そんな話題は昔から事欠きません。「地球上に誕生した生命を絶やすことは避けたい」と考える人がいても不思議ではないでしょう。しかし、万が一の事態に備えて、地球上にある生物の種子を月の地下に保存しようという計画が、いまアメリカで持ち上がっています。

 

現代のグローバル保険

↑地球の生命を託されるかもしれない

 

人類滅亡をテーマにした古い物語に、旧約聖書に登場する「ノアの方舟(はこぶね)」があります。人の悪が増大したことに神が怒り、この世を滅ぼすために大洪水を起こしたのですが、ノアという人物だけは神の心にかなう人物で、神に言われたとおり箱形の舟を作ったため、人類も生物も生き残ったというストーリーです。

 

そんなノアの方舟にインスパイアされたのが、米アリゾナ大学の研究チーム。航空宇宙と機械工学が専門のJekan Thanga助教授率いる同チームは、このプロジェクトを「現代のグローバル保険」と称して、今年3月に発表しました。

 

この計画のポイントは月の地下空洞。2013年、月で溶岩チューブのような地下空洞が200も発見されましたが、この空洞は何十億年も前に、溶岩が地下の岩を溶かして形成していったものと考えられ、30~40億年もの間手つかずの状態だったと言われています。この地下空洞の気温はマイナス25℃~15℃で、水や空気はありませんが、研究チームはこの地下空洞が、太陽光や流星塵(宇宙空間から降ってくる微粒子)、地表温度の変化を避けながら種子を保存する場所として最適である、と提案しているのです。

 

月の方舟の概要は次のようになります。まず、月の表面にソーラーパネルを設置し、ここから電力を供給します。そして、地下につながるエレベーターを2機以上作り、1機は種子を超低温で保存する施設まで繋がり、別のエレベーターは建設資材運搬用として使い、月の方舟の施設を拡張します。

↑月の方舟の設計図

 

凍結保存の温度は種子ならマイナス180℃、幹細胞はマイナス196℃で保存する必要がありますが、そのような低温化では、地下の構造に使う金属が凍結したり、冷間圧接が起きる可能性が。しかし、その一方で、そんな超低温下だと、2つの物質が一定の距離を保ちながら浮遊する「量子浮揚」が起きます。月の方舟計画は、この量子浮揚を利用して、精子や卵子のシャーレを金属面から浮かせて貯蔵するのを描いているのです。なお、施設内でのシャーレの運搬などはロボットを使うとか。

 

月の方舟に保存するのは、地球上の生命670万種の精子、卵子、種子、胞子。これを各種50サンプル用意し、月に運びます。研究チームの試算によると、このためにはロケットを250回打ち上げる必要があるそう。

 

このプロジェクトには課題もあります。無重力状態で種子を保存すると、種子にどんな影響が生じるのか不明です。また、地球との通信についても、きちんと検討する必要があるそう。しかし、人類は以前にも似たようなノアの方舟計画の「スヴァールバル世界種子貯蔵庫」を実現させています。科学者が本気になったら、月の方舟計画も実現するかもしれません。

 

生の演劇は心の糧! コロナ禍で始まった「シアター・デリバリー」

イタリアでは、約1年前からコロナ禍によるロックダウンが始まり、その後も一進一退の日々が続いています。国民は、ときにはユーモアも交えながら相次ぐ困難を乗り越えてきたものの、変異種の拡大もあり感染の脅威は現在も続いています。そのような状況下で飲食業界はテイクアウトやデリバリーに力を入れていますが、芸術愛が強いイタリアだけにカルチャー業界からも「シアター・デリバリー」なるものが登場しました。

↑演劇デリバリーを行っているロベルタとマリカ

 

美術館や博物館、歴史的建造物、劇場などいたる所にカルチャー施設があるイタリア。これまでは思い立ったらその日に見学や鑑賞が可能でした。昨年春のロックダウン後、政府から最初に開店許可が出た業種のひとつが書店だったことからも、イタリアがカルチャーを大切にしていることがわかります。しかし、コロナに右往左往させられたこの1年、こうしたカルチャー施設も開館や閉館を繰り返してきました。

 

イタリアでは感染状況に応じて各州をレッド、オレンジ、イエローの3種類にゾーン分けしており、飲食業界だけでなく、カルチャー業界も人々を満足させるサービスを提供できない状態が続いています。多くの美術館ではオンラインでアートを鑑賞できるプロジェクトを推進していましたが、人気はいまひとつ。その場の空気に直接触れることができない鑑賞方法では、醍醐味を味わいにくいというのがイタリア人の本音なのでしょう。

 

劇団の女性2人がどこでも「生の演劇」

そのようななか、ミラノの劇団に所属するロベルタとマリカという俳優2人がシアター・デリバリーを開始したのです。彼女たちは当初、経済的に苦しい家庭に食材を届けるボランティアをしていました。生きるために必要な食材を届けるという行為から始まり、その後“心の糧”となる演劇をデリバリーしようという考えが生まれました。

 

背中に背負うリュックに入っているのは劇の扮装のための小道具で、自転車を使いミラノ市内を移動します。一見すると食品や食事の配達員のようですが、2人が届けるのは食べ物ではなく演劇というカルチャーなのです。

 

彼女たちのシアター・デリバリーは、新型コロナの感染対策さえしていればあらゆる場所にデリバリーできます。「劇場はどこでも再現できる」という信念のもと、子どもたちが駆け回るアパートの中庭や公園、落書きだらけの高架線の下など、ミラノのあちこちで演劇鑑賞が可能となりました。オンラインではなく、“生”で演劇の素晴らしさや感動を届けたいというのが2人の願いです。

↑中庭や公演でも上演

 

フェイスブックやインスタグラムなどのSNSには、彼女たちがデリバリーできる演目と価格が記載されていて、注文もそれらを通じて行われます。演目メニューを見てみると、ロベルタとマリカの本気度が伝わってきます。必ずしも人々に笑顔を運ぶだけが目的ではない、という本格的な演劇メニューがずらりと並んでいるからです。

 

今年700年忌を迎えるために各地でイベントが予定されている大御所ダンテの作品や、ノーベル文学賞を受賞したダーリオ・フォの代表作のほか、子どもたちに大人気の児童文学作家ジャンニ・ロダーリの演目もお届け可能。いずれもイタリア語の美しさが十分堪能できる演劇であることが特徴です。

 

また、メニューはピッツァのように「ロッソ(トマトソースをベースにしたもの)」と「ビアンコ(トマトソースがないもの)」に分けられています。ロッソのほうが、内容がより喜劇性のある構成になっているのだとか。

 

価格は7ユーロ(約900円)から35ユーロ(約4500円)までありますが、基本的には20ユーロ(約2500円)からのオーダーとなっています。ただし、経済的に苦しい家庭の場合はこの限りではない、という気の利いた文言も記されており、ロベルタとマリカはその理由について、「演劇はあらゆる人が楽しむべきものだから」と語っています。

 

ステイホームが続くイタリアでは、子どもだけでなく大人までパソコンやスマートフォンに触れる時間が大幅に増え、社会問題化している部分もあります。そのような状況で本格的な演劇を生で目にすることは、魂に栄養を与えることになるでしょう。

 

シアター・デリバリーは同じアパートに住む複数家族からのオーダーにより、住まいの中庭や公園で活動することが多いそう。ロベルタとマリカは、親しい人や離れている家族へのサプライズとしてもぜひ活用して欲しいと語っています。心の糧として届けられる文化の香り高いプレゼントは、忘れられない思い出になるでしょう。

 

あれ、何しに来たんだっけ? ドアを開けた瞬間にド忘れする本当の理由

何かをしようと思って違う部屋に行ったはずなのに、途端にその目的を忘れてしまうことって、よくありますよね。そんなド忘れの現象には「ドアウェイ効果」という名前が付けられているのですが、オーストラリアの心理学者が最近この効果を検証したところ、従来とは異なる意外な結果が出ました。

↑あー忘れた

 

ついさっきまで覚えていたのに、部屋を移動した瞬間に忘れてしまう現象について、米国・ノートルダム大学の心理学教授が2011年に「ドアウェイ効果」と名付けて脚光を浴びました。この心理学者は「別の部屋のドアを通り抜けることで、最初にいた部屋での記憶が古くなり、脳がリフレッシュされる」と説明しました。

 

オーストラリアのボンド大学の心理学者は、このドアウェイ効果が起きているときの脳の状態を調べようと、その現象について4つの実験を行いました。まず実験1ではVRを利用し、被験者は仮想空間のなかで複数の部屋を移動して、各部屋のテーブルに置かれた青いコーンや黄色の十字架の物体を記憶し、それを別のテーブルに移動するタスクを行います。この結果、ほとんどドアウェイ効果は見られず、別の部屋に移動しても記憶に影響を受けることはありませんでした。

 

そこで実験2では、ランダムに表示される数字を6つ覚える記憶力テストを行ってから同様のタスクを課し、記憶力に負荷をかけた状態で行いました。この結果は、実験1に比べると別の部屋に移動することで被験者の記憶力の低下が見られましたが、それでもドアウェイ効果と言えるほどの目立った変化は観察されませんでした。

 

実験を行った研究者は、このような結果になったのは、実験1と2で使われた部屋がどれも見た目が同じように作られたものだったことが関係すると考え、もっとリアルに近いシチュエーションで実験を行うことにしました。例えばデパートのなかでの移動を考えると、似たような作りの別のフロアをエレベーターで移動するより、デパートの売り場と駐車場のように、見た目がまったく異なる空間へ移動することで、ドアウェイ効果が現れるのではないかと考えたのです。

 

そこで、実験3では廊下にカーテンを設置して、被験者にはVRでなく、別の人がその廊下を歩いているビデオを見ながらテストを行い、実験4ではカーテンが設置された廊下を被験者が実際に歩き、記憶力がどのように影響を受けるのかを観察しました。その結果、実験3と4でも、カーテンをくぐることで記憶力が薄れるようなドアウェイ効果は見られなかったのです。

 

先行研究では、さまざまな状況でドアウェイ効果が観察されたことが報告されていましたが、今回の実験では記憶に明らかな影響を与えるようなドアウェイ効果は観察されないという結果になったのです。

 

このことから、記憶についてさまざまなことが考えられます。人間は1つのことに集中していると忘れにくいが、たくさんのことをしていたり考えていたりすると、忘れやすくなる。また、記憶は背景とも関連しており、部屋の環境がガラッと異なる場所へ移動したときは、記憶が影響を受けやすい様子。これらの点に気をつければ、ドアを開けた瞬間にド忘れすることも少なくなるかもしれません。

 

【出典】McFadyen, J., Nolan, C., Pinocy, E. et al. Doorways do not always cause forgetting: a multimodal investigation. BMC Psychology 9, 41 (2021). https://doi.org/10.1186/s40359-021-00536-3

 

「生命の起源」に新説! すべては「落雷」から始まった?

これまでにさまざまな説が唱えられてきた生命の起源。約40億年前に落ちた隕石によって、生命に必要な有機物などの材料が地球上にもたらされ、それが生命の誕生に繋がったと考える説が有力です。しかし最近、生命の起源には、落雷が重要な役割を果たしていたことが示唆されました。

 

閃電岩にヒント

↑すべての始まりはこんな感じだった?

 

米国・イエール大学の研究者は、生命の誕生に欠かせない成分「リン」に着目しました。リンはDNAを構成する成分で、生命体の成長や生殖など生命活動には不可欠な存在です。そこで、リンなどから構成される鉱物「シュライバーサイト」を含む隕石が地球に落ち、それによって生命が誕生したのではないかと考えました。しかし生命が誕生したと考えられる35億~45億年前の地球には、それほど多くの隕石が落下していないことが判明したのです。

 

一方、2016年に米国イリノイ州グレンエリンで落雷が起きたときにできた巨大な「フルグライト(閃電岩・せんでんこう)」について調べていた英国・リーズ大学の研究者は、このフルグライトには異常なほど高濃度のシュライバーサイトが含まれていることを発見しました。フルグライトとは、数億ボルトになるとされる雷の高熱によって砂が溶け、その後すぐに冷えて固まってできる管状の岩石のこと。しかも初期の地球上に存在していたリンは、水には溶けない鉱物の中に含まれていたと考えれますが、シュライバーサイトは水に溶ける性質があり、これが生命誕生の鍵となっていたのではないかと考えることができるわけです。

↑フルグライトのサンプル(撮影/Benjamin Hess)

 

次に、同リーズ大学の研究者はコンピューターモデルを用いて、初期の地球でどのくらい落雷が起きていたかを推測しました。すると、現在は1年間に5億6000万回の雷が発生しているのに対し、10~50億年前の地球では1年間に50億回と現在の9倍近くの回数の雷が発生し、このうち1~10億回は直接地面に落雷していたと推測しました。これにより、かなりの量のリンが地球上に存在し、その量は隕石の落下によるものより多かったと考えられるのです。

 

この2つの研究チームはこれらの結果から、「生命誕生のきっかけは隕石ではなく、落雷によるもの」という説を唱えました。しかも、落雷は気候条件さえ揃えば起きる自然現象のため、隕石の落下より頻繁に発生するうえ、地球へのダメージも少ないことから、生命の進化を妨げた可能性も低いと考えられます。

 

今回の論文で明らかになったように、雷が生命の起源だったとすれば、落雷が頻繁に起きていた地球以外の惑星でも同じように生命が生まれていた可能性が出てきます。ひょっとしたら、落雷説が地球外生命体の発見に繋がっていくかもしれません。

 

【出典】Hess, B.L., Piazolo, S. & Harvey, J. Lightning strikes as a major facilitator of prebiotic phosphorus reduction on early Earth. Nature Communications 12, 1535 (2021). https://doi.org/10.1038/s41467-021-21849-2 

瞳は騙せない!「ディープフェイク」を見破るツールがついに誕生!!

AIの「ディープラーニング(深層学習)」技術と、「フェイク(偽物)」を組み合わせた造語「ディープフェイク」。実在しない人物の画像を合成したり、本物そっくりの画像を作ったりすることができるこの技術は、いまや人間には見分けがつかないほど精巧になっていますが、人権侵害やプライバシー侵害、著作権侵害にも繋がるため、ディープフェイクを検出する技術の開発が求められています。そんななか、人間の瞳に着目してディープフェイクを見破るツールがアメリカで開発されました。

 

両目に写る光の形や色を分析

↑瞳は嘘をつかない

 

角膜は黒目の部分を覆っているもので、半球型で光を反射します。そして左右2つの目の角膜に映る光は、同じものを見ているため、似たような形と色になりますが、ディープフェイクの画像は大量の画像を組み合わせて作っているため、両目の角膜に写る光に一貫性がないという特徴があります。

 

私たちが人の顔を見て会話をするとき、角膜に写る光を意識したり気づいたりすることはほとんどありませんが、ニューヨーク州立大学バッファロー校のコンピューターサイエンティストたちはそこに着目。実在する人物の画像とAIが生成したフェイク画像のそれぞれで人がカメラを見ている画像を用意し、ディープフェイク画像を自動検出するツールを開発しました。

 

このツールは、人の顔から目と眼球、角膜に反射する光を検出し、左右の目の光の形や強さなどを分析します。ディープラーニングなどの評価指標として使われるIoU(Intersection over Union)スコアを使ったところ、実在する人物の画像のスコアは0.5〜1.0になるのに対して、ディープフェイクの画像のスコアは0.1~0.5と低いことが明らかとなりました。このツールを使うとディープフェイクかそうでないかを判断するのに、94%の有効性があると結論づけられたのです。

 

ただし、このツールは画像の人物がカメラを直視していて、しかも両目が写っている写真でないとうまく機能しません。しかしそれでも、ディープフェイクを見破るツールとして今後さらに改良を重ね、実際に活用されることが期待されています。

 

ディープフェイクが問題視されるのは、人権侵害などに大きく関わる事例がすでに起きているからです。例えば、ディープフェイクの問題に注目を集めるため、アメリカのニュースサイト「バズフィード」とジョーダン・ピール映画監督が、オバマ元大統領が演説するディープフェイクの動画を2018年に公開しました。動画のなかの人物はオバマ元大統領そのもので、話し方や声も本物そっくり。しかしこれでは、実際には言っていないことでも、本人の発言として信じる人が出てきてしまいます。

 

また、ポルノ動画にハリウッド女優の顔が使用されてインターネット上に出回る事件も起きています。このようなディープフェイクの悪用による被害は、有名人に限らず一般の人にも起こり得ることで、誰もが人権を脅かされ、プライバシーを侵害される可能性があるのです。

 

ディープフェイクを検出するツールの開発と発展は、ディープフェイクを生成する技術発展とのいたちごっこになるかもしれませんが、ディープフェイクによる事件をできるだけ防ぐために必要なのは明らかです。

離婚後の子育てをストレスフリーに。英国で大注目の「共同養育アプリ」とは?

イギリスでデジタル離婚サービスを手がける企業が、世界初とされる”共同養育アプリ”を開発しました。離婚した2人が、子育てに関するスケジュールやイベント内容をそれぞれ管理・調整できるうえ、専門家への相談機能も搭載。お互いの合意を得ながら、トラブルなく冷静に養育の協力関係を続けるためのアプリとして、大きな注目を集めています。

↑パパ、あのアプリ使ってる?

 

アジア諸国に比べ離婚率が高いとされる欧米圏ですが、イギリスの国家統計局調査の資料によれば1964年から2019年までの離婚率平均は33.3%となります。最も離婚率が高いのが1987年に結婚したカップルで、43.6%が2017年までに離婚しています。結婚という形式にとらわれずに同居や子育てを行う事実婚カップルも多いため、実質的な子持ち世帯の別離率は50%に届くのでは、ともいわれています。

 

さらに、コロナ禍によるロックダウン生活で夫婦間の問題が表面化した家庭も多いようで、その結果、世界的に離婚申請の数が増加しました。イギリスでも同様の現象が起こり、2020年12月にはオンライン上で「迅速な離婚」というキーワード検索数が前年比235%と増え、「離婚届」や「最寄りの離婚弁護士」の検索数も2倍に跳ね上がりました。

 

離婚がそれほど珍しくなくなったとはいえ、伴って生じるストレスが減るわけではありません。離婚には裁判が必要で、日本より煩雑なステップを踏まなくてはならないイギリスでは、精神面に加え費用面での負担も大きくなります。また宗教的な理由で離婚できない場合でも、法的手続きを経て別居という形で実質的な別離を成立させるなど、複雑でさまざまなケースが見られます。

 

円満離婚のためのデジタル・サービスを提供するアミカブル社は、離婚や別居手続きに伴う、財産分与などのアドバイスや合意をサポートするスタートアップ企業です。弁護士では対応しきれない細やかな相談について専門家のアドバイスが得られ、離婚にかかわる出費も軽減できるアプリを開発し、注目を集めてきました。そんな会社が今年ローンチしたのが、離婚後の子育てや意見の相違に伴うトラブルを解消してくれる共同養育アプリ「アミカブル・コー・ペアレンティング(amicable co-parenting app)」です。

 

スケジュールなどをアプリで共有

↑共同子育てに特化しており、スケジュール調整やメッセージ交換がアプリ1つで完結

 

子どもがいると、離婚後も元パートナーと連絡を取り合う機会が多くあります。このため、相手との関係があまり良好でない場合は、神経がすり減ってしまうことも珍しくありません。しかし、アミカブル・コー・ペアレンティングを介せば、お互いのコミュニケーションにワンクッション置くことで感情的になるのを防ぐことができ、必要な情報だけを共有できるため、精神的に大きな助けになります。

 

イギリスでは治安面などから、小学5年生ぐらいになるまで保護者が子どもを学校に送り迎えをするのが一般的。このため同居・別居にかかわらず、朝夕2回の送迎スケジュール調整は親の毎日の義務となります。しかし養育パートナー間でコミュニケーションがうまくいかず、さらなるトラブルを招いたり、相手への不信感が募ったりするケースも多いのです。

 

このアプリでは、まず個人プロフィールを作成したうえでパートナーを招待し、アプリ上でコミュニケーションをとることに合意します。ここでは学校の送迎や行事参加、食事内容、誕生日パーティーのプラン、スクリーンタイムや就寝時間などについて共同の子育てゴールを設定し、必要な情報やスケジュールを共有します。困った時はカウンセラーなどの専門家に相談できるコーチングセッションの予約も可能。

 

細かい話し合いはアプリ上で相手と直接メッセージ交換ができるようになっていて、送信時間がわかるタイムスタンプが装備されています。メッセージ内容が削除できない仕組みを取り入れ、お互いが「言った・言わない」のトラブルを防げるなど、細やかな工夫がされています。

 

アミカブル社ではロックダウンの影響で離婚件数が増えたことを受け、この共同養育アプリの30日間無料トライアルを始めました。トライアル後は月額9.99ポンド(約1500円)か、年間99.99ポンド(約1万5000円)のサブスクリプション契約でサービスを利用できるようになっています。

 

↑アプリ創業者は、自身もトラウマ的離婚を経験したというカウンセラーとIT起業家のコンビ

 

子どものストレスも軽減

これまで、電話やメッセージアプリやカレンダーアプリなどを総動員させて奮闘してきた共同子育てが、アプリ1つで済むようになるのは、多くの離婚者にとって朗報です。ユーザーからは「わかりやすくて使いやすい」「スケジュール調整と話し合いに苦労してきたが、お互い別の視点から物事を見ることができるようになった」といったコメントが寄せられています。不要なストレスに振り回されず、新生活への一歩を踏み出す手助けをしてくれる、心強いアプリといえるでしょう。

 

個人としては互いに別々の道を進むことになっても、子育ては一生もの。感情的にならずに協力関係を結び、子どもの希望やニーズを満たすことで、自分たちだけでなく子どものストレスも軽減することができます。ライフスタイルの多様化が進めば進むほど、このようなデジタル・コミュニケーションツールの需要も増えていくかもしれません。

 

執筆者/ネモ・ロバーツ

 

2100年には「1年の半分」が夏になる!? 中国が衝撃の予測

最高気温が35度以上になる日を「猛暑日」と気象庁が2007年に定義してから、毎年当たり前に使われているこの言葉。年々、夏の厳しさが増し、春や秋も温暖になっていると感じられますが、最近発表された論文によると、北半球では2100年までに1年の半分が夏になるかもしれません。これから季節はどうなってしまうのでしょうか?

 

約60年間で夏が2週間以上増加

↑冷や汗ものの論文

 

中国の科学技術の最高研究機関・中国科学院の海洋物理学者たちのチームが、1952年から2011年の北半球の日別の気候データを使い、春夏秋冬のそれぞれの長さと季節の変化について調べました。1年のうち最も高かった気温を基準に、その気温から25%以内の気温だった日を「夏」に、1年のうち最も低かった気温を基準にそこから25%以内の気温だった日を「冬」と定義し、北半球で過去の四季の長さについて導きだしました。

 

すると、1950年代は4つの季節の長さがほぼ均等で、季節の移り変わりは予測しやすいものだったとわかったのですが、1952年と2011年で平均的な四季の期間を見ると、次のような結果になるとわかったのです。

 

・春:124日→115日に短縮

・夏:78日→95日に延長

・秋:87日→82日に短縮

・冬:76日→73日に短縮

 

つまり4つの季節のうち、夏だけが17日と2週間以上長くなり、春、秋、冬は短くなっているのです。おまけに春と夏は季節の始まりが早まり、秋と冬の始まりは遅くなっていることもわかりました。

 

このまま夏が長くなり、それ以外の季節は短くなる傾向が続くと仮定した場合、研究チームが予測した2100年までの四季は次のようになります。

 

2100年までの春夏秋冬

・春:1月18日~5月5日(約108日)

・夏:5月6日~10月19日(約167日)

・秋:10月20日~12月17日(約59日)

・冬:12月18日~1月17日(約31日)

 

夏が6か月近くの長さになり、冬は12月中旬から1月中旬までのわずか1か月だけに短縮されることになります。

 

もしこの四季が現実となったら、植物の生育サイクルが変わり、農業や生態系などに大きな影響を及ぼし、花粉が長い期間飛んで人々を苦しめたり、病気を媒介する蚊が生育エリアを拡大したりする可能性も考えられます。

 

【出典】 Jiamin Wang et al, Changing Lengths of the Four Seasons by Global Warming, Geophysical Research Letters (2021). DOI: 10.1029/2020GL091753

意外と研究が進んでいなかったタコが「とても嫌うもの」が2つ判明

日本でタコといえば、たこ焼き。お刺身やタコワサもいけますね。私たちにとってタコはあまりにも身近な食材ですが、タコ自体が持つ感覚や身体の機能についてもよく知っている人はあまり多くないかもしれません。そこで最近、この吸盤つき8本足の軟体動物に関する興味深い研究が2つ発表されたので、タコについての知識を少し深めてみましょう。

↑見た目以上に敏感

 

タコだって痛いのはヤダ

痛みは、苦しみをともなう複雑な感情が生まれる状態のこと。生物が痛みを感じるためには非常に複雑な神経システムが必要であるため、魚介類は痛みを感じられないと従来では考えられていました。しかし、特定の種類の魚介類を使った実験で、魚介類が痛みを感じる可能性が示唆され、「魚は痛みを感じるか? 感じないか?」という議論が研究者の間で広がってきています。

 

そこで、サンフランシスコ州立大学の研究者がタコの痛覚について実験を行うことにしました。タコは5億個もの神経細胞を持っており、ほかの無脊椎動物より神経細胞の数がはるかに多いという特徴があるため、痛みを感じる可能性が考えられます。

 

この研究者は動物の痛みの受容とそれに伴う行動について調べる一般的な方法を用いました。3つの部屋に分かれた水槽のなかにタコを入れて、1本の足に酢酸を注射し痛みを与え、どのような反応を示すか観察。するとタコは注射された部屋を避けて、別の部屋に移動するようになったのです。

 

タコに痛みを感じない生理食塩水を注射した場合、その部屋を回避するような動きは観察されなかったのですが、痛みを感じる酢酸の注射を打った後に麻酔薬を注射すると、タコは麻酔薬を打つ部屋を好むような行動を示したのです。しかも、痛みを感じない生理食塩水を注射したタコは、麻酔薬の注射を行う部屋に興味を示すことがありませんでした。

 

これらの結果から、タコは痛みを感じ、それを避ける行動をとると研究者たちは結論づけたわけです。しかも酢酸の注射で痛みをもたらされたタコは、注射された部分を20分も口で噛みついていたことが観察されていますから、タコには痛覚があると言えるようです。

 

強い光もヤダ

↑まぶしいな

 

もう一つ、タコに関する面白い研究結果が先日発表されました。それは、暗闇のように目が見えない環境であっても、タコは足だけで光を感じとれるというもの。タコの足は光を受けると色が変わる色素細胞で覆われており、それによって周囲の模様とあわせてカモフラージュする能力があります。

 

イスラエルのルッピンアカデミックセンターの研究チームは、光に反応するタコの色素細胞について研究していたとき、タコの足に光をあてても色が変化しない場合があることに気づいたそう。また、強力なライトを足先にあてると、いつもタコが足をひっこめることに気づき、タコのこのような行動を調べることにしたのです。

 

まず、黒いシートで覆った暗い水槽のなかにタコを入れ、水槽の上部に開けた穴に足を伸ばすと魚を捕まえられるように訓練しました。そしてタコは目が見えない暗闇のなか、穴に足を伸ばしたときにランダムに強いライトを当てたところ、84%の確率で足をすぐに引っ込めたことが判明。温度変化によって光を検知していることも考えられましたが、温度変化を確認したところ、そのような影響はなかったそうです。

 

またライトを当てる部位を変えてみると足の先端が最も敏感に反応し、麻酔をかけたタコや切断した足では、反応を示さないこともわかりました。

 

これらの結果から、タコの足は光を感じ、この情報が筋肉のなかにある神経を通って脳に伝わり、足を引っ込めるように脳が指令を出していると推測できるのです。この研究チームでは、捕食者から自身を守るための手段としてこのような反応を示すようになったと推測しており、さらに研究を続ける予定です。

 

最初に取り上げた研究でタコは痛みを感じることができるとわかったので、ひょっとしたらタコにとっては強い光も痛いのではないか……? ほかにも仮説は立てられますが、タコは私たちが普通に考えているよりもずっと面白い魚介類のようです。

 

【出典】

Crook, R. J., et al. (2021). Behavioral and neurophysiological evidence suggests affective pain experience in octopus.
iScience 24, 102229. https://doi.org/10.1016/ j.isci.2021.102229

Katz, I., et al. (2021). Feel the light: sight-independent negative phototactic response in octopus arms. Journal of Experimental Biology 2021 224: jeb237529 doi: 10.1242/jeb.237529

 

科学者が1人だけで挑む「レーザー蚊取りマシン」開発プロジェクト

暖かくなると出現してくる蚊。世の中には蚊取り線香や虫よけスプレーなどさまざまな製品がありますが、もっと劇的に蚊を追い払うことはできないものか? ロシアではコンピューターサイエンティストがレーザーで蚊を仕留める機械を制作しています。

↑開発中のレーザー蚊取りマシン

 

南ウラル国立大学の科学者は、Raspberry Pi(ARMプロセッサ搭載のシングルボードコンピューター)を使って、蚊をレーザーで殺すマシンの開発に取り組んでいます。この人はRaspberry Piと一緒に使えるPiカメラとか電流を検知する検流計、さらに人の皮膚に影響を与えない450ナノメーターの波長を持つ市販のレーザーポインターを用意して、それらを組み合わせました。

 

現段階ではまだプロトタイプを制作していませんが、開発は行われています。例えば、このマシンは蚊の大画像を使って、色、音、体温などから蚊を検出するディープラーニングに挑戦。また今後は望遠レンズを取り付けて、蚊の動きを追跡する機能を実験する予定でいるそうです。開発者の計画では1秒間に2匹の蚊を撃退し、将来的にはドローンにレーザーガンを取り付けて、空中を飛ぶ蚊をやつけるマシンを構想しているそうです。

 

このプロジェクトが始まったのは、ちょうど蚊がいない冬の時期だったため、一度中断していたそうですが、今後蚊が増える季節になれば、実際の蚊を使いながら実践に近い形で改良が行われるでしょう。

 

蚊はさまざまな感染症を媒介するという点で厄介な害虫です。蚊が媒介する感染症にはデング熱、チクングニア熱、日本脳炎、ウエストナイル熱、マラリアなどがあり、これらは特に東南アジアや中南米地域などで流行しています。蚊を媒介した感染症で亡くなる人の総数は年間70万人以上にのぼると言われ、蚊が「世界で最も多くの人を殺す危険な生物」とされているのには、そんな現実があるからなのです。

 

この科学者は、大学の仕事とは関係なく個人的にこのレーザー蚊取りマシンを制作しているそう。このような自主的な活動で救われる命が増えたら本当に素晴らしいことですね。

 

【参考】Rakhmatulin, I. (2021). Raspberry PI for Kill Mosquitoes by Laser. Preprints, 2021010412. doi: 10.20944/preprints202101.0412.v1

ロックダウン後に500%増加! 英国男性が「美容整形」に積極的になった当たり前の理屈

コロナ禍のイギリスで流行している物事のひとつに美容整形があります。自分の容姿に疑問を抱き少しでも良く見せたいと願う人たちが急増しているのですが、驚くのは男性も積極的だということ。なぜイギリスでは美容整形が男性にまで広がっているのでしょうか?

↑悩みは薄毛だけじゃない

 

イギリスでは、新型コロナウイルスの蔓延と同時に美容整形の人気が高まりました。美容整形といえば一般的に女性の希望者が多いと思われがちですが、ロックダウン期間中には多くの男性も興味を示すようになったのです。

 

イギリスの美容整形にはボトックスのような注射からメスを使った手術に至るまで、幅広い種類があります。高級紙タイムズによると、美容整形に興味を持っている人たちの数はロックダウンが始まった2020年3月以降に500%以上も増えているとのこと。

 

なかでも、最も人気のある美容整形は体重を減らしてスリム化するための施術です。例えば、余分な皮膚や脂肪、乳腺などを切除する乳房縮小手術の件数は昨年6月以降で520%も増加。また、乳腺の増殖により乳房が肥大した状態となる女性化乳房の除去についての男性からの問い合わせは115%も増加しています。

 

さらに、お腹のうえのシワを除去して皮膚を引き締める腹部の美容整形や脂肪吸引法も人気があり、昨年3月以降は問い合わせが40%も上昇しています。こうした需要の高まりから美容整形機関への予約も殺到していて、数か月先まで予約で埋まっていることも珍しくはないそうです。

 

ではなぜ、体重を減らすための美容整形が人気なのでしょうか?

 

理由の1つとして考えられるのは、ロックダウン期間に増えた体重を落としたいと願う人たちが増えていること。昨年5月にタイムズ紙に掲載された調査によれば、イギリスの全人口の3分の1が3キロ以上も体重が増えたと回答しています。ただ、イギリスでは体重増加や肥満の問題は新型コロナの蔓延前から問題視されており、以前から美容整形を考えていた人も多いのではないかと思われます。

 

それ以外に大きな理由として挙げられるのが、テレワークという勤務形態。お腹のうえのシワを除去して皮膚を引き締める腹部の美容整形や乳房縮小手術の場合、回復までに要する期間は4週間から6週間といわれています。そのため、希望者は通常では長期休暇を利用しますが、コロナ禍で自宅勤務が当り前になった現在はその必要がありません。長期休暇を取る必要がなく、誰にも知られずに手術を受けることができるのです。この点が男性にも女性にも大きな魅力となっているのでしょう。

 

自分の顔を見る時間が増えた

↑カメラはオフで参加したい……

 

減量のための施術と同様に、顔に関する美容整形にも人気が集まっています。バーチャル会議が当然になった今日、Zoomなどの画面に映る自分の顔を見つめる時間も必然的に増えてきました。画面を通じて他人の顔と自分を比較する機会や時間が十分あることも、美容整形をしようと考えるきっかけになったといえるでしょう。

 

イギリス政府公認の美容整形機関・Save Faceは、コンサルテーションの際に「眉間の皺に気づいた」「唇を何とかしたい」「鼻が曲がっている」といった顔に関する不満がロックダウン以降に増えていると語っています。

 

さらに男性の場合は頭髪に関する不満が多く、植毛に関心が集中しているそう。ロンドンのある美容整形医はこの現象について、「ロックダウンで床屋が一時閉鎖されて散髪が不可能になり、多少長めの髪で画面に頭が映ると照明や角度の影響で髪が薄っぺらに見える。それを実際の頭髪と勘違いされてしまうケースが多いようだ」と語っています。

 

さらにイギリス心理学会のジル・オーエン博士は、照明や角度により見え方が変わってくることや、バーチャル会議で顔を見る時間が長くなるにつれて自分の顔の欠点に気づくため、こだわりを持ちやすくなると指摘しています。

 

そのほかにも、美容整形によって美しく変わったセレブとの比較や、現実的ではない美への追求による自信喪失、さらに、ロックダウンを起因とする悲観的思考の頻発などが美容整形の需要に影響していると考えられるようです。

 

イギリス国民保健サービス(NHS)のホームページには、さまざまな美容整形の標準的価格が記載されています。例えば、顔の筋肉を柔らかくしてシワを減らすボトックス注射の場合は約1万3500円〜4万7200円。

 

お腹のうえのシワを除去して皮膚を引き締める腹部の美容整形の場合は約60万7500円〜81万円ですが、手術後のコンサルテーションにも別途費用がかかります。脂肪吸引法は約27万円〜81万円。植毛は約13万5000円から405万円と、頭髪の長さや美容整形機関によって金額がかなり変わります。男性の女性化乳房除去は約47万2500円から74万2500円で、手術後のコンサルテーションにも別途費用がかかります。

 

価格はボトックス注射が一番安いのですが、効果は3か月〜4か月といわれ、繰り返して受けるとなると負担も多くなるでしょう。いずれにしても、イギリスで美容整形を受けるには金銭的な余裕が必要です。

 

美容整形ブームはイギリスの男性だけに見られるわけではなく、この現象はコロナ禍により世界的に起きていますが、その裏には副作用というトラブルもあることを忘れてはならないでしょう。例えば、ボトックス注射の後に顔の腫れが取れない、腹部の美容整形の後に血栓が肺に飛んでしまう等の症状が報告されています。後悔先に立たずです。

 

執筆者/ラッド順子

英国で1980~90年代がブーム! やっぱり古い物が好きな国民

現在、イギリスでは1980年代や1990年代のモノを楽しむ人々が急増しています。最新テクノロジーやAIが脚光を浴びる一方、懐かしい製品が次々にカムバックしており、現在の便利な生活にどこか物足りなさを感じているイギリス人にウケています。どのような”アンティーク”アイテムが人気を集めており、そこにはどんな背景があるのでしょうか?

↑昔のデバイスがビンテージ化

 

懐かしのビンテージ・コンピューター

革命的な新製品が次々と発売されるテクノロジー業界で現在、密かなブームとなっているのがビンテージ・コンピューターです。なかでも特に注目されているのは1980年代と1990年代の製品。当時のコンピュータは徐々に人気が高まり、今日では3年前の約5倍もの価格が付くほどになりました。

 

eBayなどのオークションサイトによれば、昨年12月にはこういったコンピューターが3分間に1台売れる勢いだったとのこと。また、ビンテージ・コンピューター購入のための検索数は今年1月上旬だけでも前年度の25%も増え、オークションサイトに掲載されるコンピューターの台数は2019年1月と比べて28%も増えています。

 

人気がある機種は80年代に販売されたイギリス製の「Sinclair ZX Spectrum」や「Acron BBC Micro」。これらは以前にイギリスの学校で幅広く使われていたため、多くのコレクターを惹きつけているのでしょう。

 

さらに「Apple-I」の人気も見逃せません。これはAppleの共同設立者であるスティーブ・ウォズニアック氏が組み立て、スティーブ・ジョブズ氏 が販売したApple初の製品で、2020年には4000万円以上という破格値が付いたほど人気があります。

 

ビンテージ・コンピューターは20代〜30代の若者にも人気があります。彼らの親の世代が使っていたコンピューターということもあり、身近に感じるのかもしれません。その当時の生活や雰囲気を実際に感じられる点が魅力となっています。

↑いまだに価値あり

 

さらに、この時代のコンピューターは基本的なコンポーネント(部品)で構成されおり、電子機器の基本学習に最適であると言われています。そのため、機器を実際にいじりながら基本を学びたいという人々にも魅力的。イギリスでは当時の部品がいまも販売されており、故障したコンピューターを修理する楽しみも提供しています。修理マニアにとっても絶対に欲しい機器であるに違いありません。

 

人気の理由はこのようにさまざまですが、誰もがノスタルジックな気分を味わうことできることも大きな魅力でしょう。ビンテージ・コンピューターの価格は需要とともに上がってきています。なかには予算内で獲得するために、ビンテージ・コンピューター専門のコミュニティに加入するコレクターも少なくありません。

 

レコードやカセットで音楽を満喫

コンピュータと同様に、レコードとカセットテープの人気も無視できません。イギリス・レコード産業協会(BPI)によれば、この国におけるレコードの売り上げは、国内で販売される全アルバム収入の18%を占めるとのこと。アーティストやレコード会社にとって、この収入はYouTubeなどのプラットフォームで得る収入の2倍にもなっているそうです。

 

新型コロナウィルスの蔓延により多くのレコード店が一時閉鎖に追い込まれるなか、レコード(1枚の平均価格2900円)の需要はコロナ前の2007年から次第に高まっており、2020年には1991年以降で初めて最高売上を記録しました。

 

それと同時にカセットテープ(1個の平均価格950円)の人気も高まる一方です。2012年以降は需要が継続的に広がり、2020年には前年の約2倍にあたる15万7000個という売り上げを達成しました。

 

こういった人気の理由についてBPIのジェフ・テーラー氏は「物として個人で所有できるレコードは時代を超えた価値を提供してくれる。だからこそ音楽にこだわるコレクターにアピールしているのではないか」と語っています。高級紙タイムズによると、2020年12月時点で最高売り上げが予想されたヒットアルバムは、1977年に発売されたフリートウッド・マックの「Rumour」、1995年のオアシスの「Morning Glory」、1991年のニルヴァーナの「Nevermind」といずれも90年代のものでした。

 

古くても愛着がある物は誰にとっても捨てがたいもの。イギリス人には家具や食器、宝飾品、家など“古き日の良いもの”をリスペクトする国民性がありますが、現在の80~90年代ブームもその象徴と見ることができるかもしれません。ときにはイギリス人のように、自分だけのノスタルジックな品物に触れることでタイムトラベルしてみてはいかがでしょうか?

 

執筆者/ラッド順子

換気性能は4倍、なのに騒音は1/4! 最新「スマートウィンドウ」が相反する機能を両立

新型コロナウイルスの感染を防止するために換気の重要性が高まっていますが、窓を長時間開けたままだと周囲の音をうるさく感じることがあるかもしれません。そこで役に立ちそうなのが、シンガポールで開発された換気をしっかり行いながら室内を静かに保つ窓。未来の建物に多用されるかもしれないスマートウィンドウに迫ってみましょう。

↑暑くないし、うるさくない

 

都心部のほか、幹線道路の近くや線路沿いの場所では騒音が気になるでしょう。そのような建物では窓に防音ガラスが使われたり、防音シートを貼ったりして、騒音対策が行われています。でも、それらの対策が有効なのは窓を閉めているときだけ。換気のために窓を開けると、周囲のうるさい音が気になってしまいます。

 

長いこと騒音問題が持ち上がっているシンガポールは、防音性と換気性の機能を兼ね備えた新しい窓の研究に取り組んできました。シンガポール国立大学の研究チームが開発したのは、「AFVW(Acoustic Friendly Ventilation Window)」と名付けられたシステム。

 

このAFVWは、2枚の窓ガラスを15センチの間隔を開けて重ねており、2枚の窓ガラスの間には換気システムを設けています。さらに窓の上下2か所に格子状の通気口を設置。これによって下の通気口から外部の空気が入りこみ、窓ガラス内部にある換気システムを通って上部の通気口から室内に流れこみます。さらに遮音性を高めるために、窓ガラスには吸音材が付けられました。

 

空気の流れなどの検出テストで使われるトレーサーガスを用いた実験を行ったところ、窓を開放した換気法に比べて、AFVWでは汚染物質が4倍の速さで減少したことが確認されました。さらに、このAFVWにエアコンで使用されているものと同じようなフィルターを付ければ、ホコリや汚染物質の除去も可能なのだそうです。

 

また防音性能については、外部のクルマなどの騒音を26db下げることがわかりました。クルマの音、掃除機をかける音、トイレの水を流す音、換気扇の音などはおよそ50~60dbに相当し、人と会話するためには少し大きな声を出さないといけない状況です。一方、騒音はほとんど聞こえないか気にならない程度なのは20~30db。人は10db減少するごとに、音のうるささが半分程度に低減したと感じると言われるので、26dbを減らせるこの窓は人の感覚で騒音を1/4程度抑えられたということになります。

 

新型コロナに加え、環境汚染や花粉の問題もあって、部屋の換気について悩んでいる方も多いのではないでしょうか。将来はこんな高機能の窓が問題解決に役立つかもしれません。

 

「宇宙初のホテル」が2027年以降に完成予定、米スタートアップ

民間人が自由に宇宙旅行を楽しめる時代が近づきつつありますが、宇宙が私たちの新たな旅行先となれば、問題となるのは「どこに泊まるか?」。そんな考えから現在、宇宙に初めてホテルを作る計画が始まっています。「宇宙ホテル」とは一体どんなものなのでしょうか?

↑日帰りなんて言わず、宇宙ホテルでごゆっくり

 

宇宙ホテルの建設に取り組むのは、米スタートアップのオービタル・アッセンブリー・コーポレーション。同社が先日発表した内容によると、宇宙ホテルは「ボイジャー・スペース・ステーション」と呼ばれ、24個のモジュールが直径200メートルのリング状に並ぶ形をしています。リング状というのがポイントで、巨大なリングを回転させることで重力を人工的に作りだし、宇宙にいても無重力状態にならない設計になっています。このホテルは地球を周回する人工衛星などと同じように、約90分で地球1周をまわり続けます。

 

ホテルの内部には宿泊スペースのほか、娯楽スペース、ジムスペース、緊急医療ルームなどの施設が設けられ、収容人数はゲスト300人と従業員100人の合計400人。宇宙研究機関の職員のほか、宇宙での滞在を楽しみたい一般人の利用も想定しています。またエネルギー源には太陽光を利用し、緊急帰還用の乗り物44機が用意されるそう。

 

ボイジャー・スペース・ステーションは2025年に建設を開始し、27年には完成予定。現在、スペースXは23年以降を目処に民間の月旅行を開始する計画を進めている一方、25年までに火星へ有人飛行することも目指していますが、オービタル・アッセンブリー・コーポレーションも民間人の宇宙旅行が開始してから数年以内(2027年〜30年)を目安に宇宙ホテルを建設する計画です。

 

宇宙空間では建設に使える道具や資材などが限られることから、建設時にはロボットの利用が考えられます。しかしロボット技術は進歩しているとはいえ、ロボットと人間では依然として能力に大きな差があることが宇宙ホテル建設の懸念事項である、とオービタル・アッセンブリー・コーポレーションはウェブサイトで述べています。

 

宿泊料金はまだ発表されていませんが、宇宙にホテルが本当に建設されたら、ロマンあふれる滞在になることは間違いないでしょう。お金持ちだけとは言わず、私たちもいまからお金を貯めておいたほうがいいかもしれませんね。

 

世界初「宇宙のハリケーン」の観測に成功! プラズマが渦巻いていた

ハリケーンは北太平洋東部や北大西洋で発生する熱帯低気圧のことを指しますが、最近このハリケーンが地球上ではなく宇宙でも起きていることが世界で初めて観測されました。一体どんな現象なのでしょうか?

↑はじめまして、宇宙ハリケーン

 

ハリケーンは、熱帯や亜熱帯の温暖な地域で温められた空気が上昇気流となって上空にのぼり、そこに周囲の空気が流れ込んで、地球の自転で渦を巻くような積乱雲が作られることで生まれます。雲は低いところなら上空数キロ程度、高いものなら13キロほどにありますが、積乱雲の高さは最大で上空10~15キロメートルほどです。

 

しかし今回観測された宇宙ハリケーンは、積乱雲よりもっと高い位置、北極の上空110~860キロメートルの上層大気で発生しました。観測に成功したのはイギリスのレディング大学や中国の山東大学などの共同研究チーム。彼らが米国軍事気象衛星DMSPの観測データを分析した結果、2014年8月に宇宙ハリケーンが発生していたことが明らかとなったのです。観測された宇宙ハリケーンでは、1キロ近くの直径の渦が形成され、この状態がおよそ8時間継続していました。

 

一般的なハリケーンは積乱雲が渦巻いているのに対して、この宇宙ハリケーンで渦を形成していたのはプラズマです。プラズマとは、個体、液体、気体に次ぐ「物質の第4の状態」のこと。物質は温度が上昇すると、個体から液体、さらに気体に変化します。そして気体に熱や電気エネルギーが加わると、気体の分子が原子となり、原子核のまわりを動いていたマイナスの電子が原子から離れます。

 

このときに中性分子、プラスイオン、マイナスイオンという非常に小さな粒子が自由に動きまわっている状態を「プラズマ」と言います。プラズマを観察できる自然界の現象にはオーロラや稲妻があり、どちらもプラズマで満たされた状態になっているのです。

 

宇宙ハリケーンでは、このプラズマが最大で秒速2.1キロメートルの速さで反時計回りに流れを作り、雨の代わりに電子の雨を降らせていました。また、渦巻きの中心部となるハリケーンの目は雲がなく穏やかな状態となるように、この宇宙ハリケーンの中心部でも同じような穏やかな状態が観測されました。

 

研究チームでは、宇宙ハリケーンが発生したのは太陽風エネルギーと荷電粒子が急速に上層部に伝わったことが原因であると考えており、宇宙ハリケーンは気象衛星などにも影響を及ぼす可能性があると見ています。2019年には、約11年の周期がある太陽活動のサイクルに、プラズマが引き起こす津波のような現象が関連していることが判明していますが、宇宙でもハリケーンや津波のような現象が起きているとは自然は本当に不思議ですね。

 

人は「夢」を見ていても会話できることが4か国の共同研究で判明

眠って夢を見ている人に話しかけたら、反応がないか、目を覚ましてしまうだろうと思いますよね。しかし、レム睡眠中の人は夢を見ながら質問に答えたり、簡単な計算問題まで解いたりできることが最近の研究で明らかとなりました。夢や意識の研究に影響を与えそうなこの実験について見てみましょう。

↑夢のなかでもコミュニケーションはとれる!

 

人の眠りにはノンレム睡眠とレム睡眠の2種類の睡眠があり、それらは夜寝ている間に交互に訪れます。ノンレム睡眠は大脳が休息して心身が深く眠りについている時間。それに対して、レム睡眠では脳が活発に動き記憶の整理や定着が行われ、眼球が活発に動くという特徴があり、私たちは多くの夢をレム睡眠中に見ると言われています。

 

夢の記憶や睡眠中の記憶の保存に関する調査は以前から行われており、過去の研究では、外の世界の出来事はレム睡眠中の人に影響を与えることがわかっています。とすると、ひょっとしたら、レム睡眠中の人は外の誰かと会話できるのではないだろうか? そんな可能性について調査したのが、フランス、ドイツ、オランダ、アメリカの4か国の科学者からなる共同研究グループです。

 

この研究グループは「明晰夢(めいせきむ)」を見ている人とコミュニケーションをとる実験を行いました。明晰夢とは、自分で夢を見ていると自覚しながら見る夢のことで、レム睡眠中によく起きることが知られています。この実験には、これまでに明晰夢を見た経験がある人、明晰夢を見る訓練を行った人、さらに頻繁に明晰夢を見るナルコレプシー患者1人を含む、合計36人が被験者として参加。

 

寝ている間でも自分がどのような状態にあるのかを意識したり、分析したりすることができるように、被験者たちは事前に訓練を受けました。脳波や眼球運動などから被験者が明晰夢を見始めたと確認されたら、実験者は音で合図を送って質問開始。被験者は眼球の動きのほか、腕をポンとたたいたり、言葉を発したりして質問に答えます。

 

その結果、被験者の一部の人と睡眠中にコミュニケーションをとることが可能だったとわかったのです。しかも実験はフランス、ドイツ、オランダ、アメリカの4か所で行われ、それぞれで同様の結果となりました。4か所の結果をまとめると、明晰夢を見た人に質問を行って、18.4%の人から正しい返事があり、60.8%の人には反応が見られず、17.7%の人は不明瞭な回答となりました。

 

正しい返事をした人のなかには、「8-6は?」という計算問題に対して、3秒以内に眼球を動かして「2」と正しく答えたアメリカ人や同じような簡単な計算問題に正確に答えたドイツ人などがいました。

 

この結果から、研究チームは明晰夢を見ている人は双方向のコミュニケーションが可能でであると結論づけたのです。4か国で別の場所で行われた実験で同じ結果が得られたという点も説得力を持ちます。しかも被験者たちは目覚めた後も、夢のなかで投げかけられた質問だけでなく、その質問がどのように自分に届いたのかも覚えていました。

 

人はなぜ夢を見るのか? 夢を見ている間に人の脳はどんな動きをしているのか? 夢にまつわる疑問はつきませんが、今回の実験は夢だけでなく意識の研究にも影響を与えそうです。

 

【出典/参考】

Konkoly, K. R., Appel, K., et al. (2021). Real-time dialogue between experimenters and dreamers during REM sleep. Current Biology. https://doi.org/10.1016/j.cub.2021.01.026

The Economist. (2021, February 20). The Interpretation of dreams.

 

宇宙人も笑ってる? 火星探査車に暗号を仕掛けたNASAが示す「科学の原点」

日本時間の2月19日、NASAが手がける5台目の火星探査車「パーサヴィアランス(Perseverance)」が火星に着陸しました。着陸成功のニュースは瞬く間に世界中を駆け巡りましたが、それと同時に話題になったのが、この探査車のパラシュートに暗号が隠されていること。

 

地球外生命体へ呼びかけるメッセージを発表するなど、NASAはこれまでにもウィットに富んだ仕掛けや取り組をが行ってきましたが、今回の暗号に隠されたメッセージとは?

↑暗号化されたパラシュート

 

2020年7月30日、フロリダ州のケネディ宇宙センターから打ち上げられたパーサヴィアランスは、約6か月にわたる4億8000万kmの長い旅を経て火星にたどり着きました。着陸システムを担当したエンジニアのアル・チェン氏はその後の会見で、探査車が着陸時に使った大型パラシュートの映像を示しながら「あるメッセージを隠した」と発表。すぐに、この暗号の解読に世界中が盛り上がったのです。

 

その暗号とは、パラシュートに使われたオレンジ色、クリーム色、白色の3色のうち、オレンジ色を「1」に、クリーム色を「0」とみなして2進法にするというもの。こうすると、パラシュートの内側には「4、1、18、5」の数字が浮かび上がり、これをアルファベットの順にあてはめると「d、a、r、e」と読めるのです。同様に、ほかの数字も解読すると、「dare mighty things」というフレーズが読めるのです。これは「困難に挑戦する」という意味。ルーズベルト大統領のスピーチに使われた言葉で、NASAのジェット推進研究所(JPL)のモットーなのだそうです。

 

さらにパラシュートの外側に隠された「34、11、58、N、118、10、31、W」は、JPLの緯度と軽度である「北緯34度11分58秒、西経118度10分31秒」のこと。ネット上では、この暗号をわずか6時間ほどで解読した人が現れ、おおいに盛り上がりました。この仕掛けを把握していたのは、NASAのなかでもごく一部の人だけだったそうで、もしかしたらNASAの関係者もこの謎解きにハマった人がいたかもしれません。

 

科学の源泉

ちなみに、2012年に火星に着陸した探査車「キュリオシティ(Curiosity)」には、探査車のタイヤの跡にモールス信号が仕掛けられていました。探査車のタイヤの跡は、探査車が進んだ距離を正確に把握するために必要なもので、あえてある一定のパターンの跡がつくように設計されています。これにモールス信号が仕掛けられていて、「JPL」と読み解くことができたんです。

 

ほかにも、真面目だけど遊び心あふれるNASAの取り組みをさらに象徴するものに「ゴールデンレコード」があります。これは1977年に打ち上げられた宇宙探査機ボイジャー1号、2号に搭載されたもの。地球外生命体や未知の人類が見つかったときに備えて彼らと交信できるように、さまざまな言語や音声、自然音、画像などを収録しているのです。ゴールデンレコードの表面にはレコードの読み方が書かれているのですが、英語などの文字ではなく、高度な知識を持った地球外生命体なら解読できると思われる、数学的な表現が用いられています。

 

このゴールデンレコードの一部はウェブサイト上で公開されており、誰でも自由に閲覧できるようになっています。ウェブサイトにアクセスすると、まず宇宙空間のような画像が画面いっぱに現れます。白く点滅するマーク部分をクリックしていくと、やがてボイジャーに到達し、収録された音声や画像など31のコンテンツを見たり聞いたりすることができます。

 

壮大なプロジェクトであっても、遊び心やエスプリの効いた仕掛けを施すとはなんとも粋。宇宙探査という大きな野望には人間の知的好奇心という原点があったと、改めて気づかせてくれるようです。

一人じゃ無理! NASAが進める「電気飛行機計画」とは?

電気自動車や「空飛ぶタクシー」など、電気を動力とした乗り物へのシフトが進む今日、その波は飛行機の世界にも押し寄せています。しかし、大型の飛行機を電気の力で飛ばすプロジェクトにNASAが取り組んでいることをご存知ですか?

 

開発目標は2035年

↑電気だけで飛行機は飛ばせる?

 

2015年に発表された今後20年のロードマップによると、NASAは温室効果ガスの排出量を抑え、より安全で静音な航空輸送機の開発を目的としながら2035年までに電気飛行機の実用化を目指しています。

 

現在、飛行機はジェット燃料と呼ばれる化石燃料を燃焼させて推力を得て飛行していますが、この燃料は飛行機が数多く飛べば飛ぶほど温室効果ガスを排出しています。

 

日本では経済産業省が2017年から2036年の20年間で、世界の航空需要は年平均約5%で成長すると見込んでおり、この航空需要の増加に伴い温室効果ガスの排出量も増大するという見通しから、航空業界でも地球温暖化対策が議論されるようになっているのです。そこで電気自動車の開発と同じように持ち上がっているのが、環境にやさしい電気飛行機開発の構想です。

 

このような背景のなかでNASAは電気飛行機プロジェクトを進めているのですが、具体的にNASAでは「X-57」の開発が進められています。

 

「Maxwell」の愛称を持つ完全電動式の飛行機「X-57」計画が2016年に発表されました。それによると、X-57  Maxwellは左右に細長く伸びた翼を持っており、各翼に6個ずつ電気モーターと翼の先端に大きめの電気モーターが各1個ずつ、計14個の電気モーターが付いた構造となっています。

↑X-57 Maxwellは本当に空を飛ぶか?

 

この設計にもとづき作られたX-57 Maxwellが2019年、カリフォルニア州エドワーズにあるアームストロング飛行研究センターでお披露目されました。しかし、飛行機は大型の乗り物であるため、電気自動車や空飛ぶタクシーのような垂直離着陸機と比べて、ずっと高出力の電気モーターが必要になります。バッテリーを大きくすれば出力は高くなりますが、飛行機が効率よく飛行するためには軽量化が必須。そのため、電気飛行機では小型で軽量かつ高出力なモーターが求められるという大きな課題があるのです。

 

そこで2020年2月、NASAは動力を推進力に伝えるためのパワートレインシステムの開発を行う企業をアメリカ国内から広く募ることを発表。メガワットクラスと桁違いの出力を必要とする飛行機で、効率的にエネルギーを伝えるシステムの開発が求められているのです。

 

ちなみに、日本でもJAXA(宇宙航空研究開発機構)が電気飛行機の開発に着手しており、電動航空機「エミッションフリー航空機」を2030~50年代までに実用化するという目標を掲げています。ただし、NASAがパワートレインシステムの開発企業を募集したように、電動飛行機の実現には数々の技術開発が必要となり、複数の分野の技術力が必要。そのためNASAもJAXAも、官民一体となった共同開発が電気飛行機の実現には鍵となってくるようです。

 

自販機の設置が2倍に! コロナ禍で加速するバンコクの「非接触化」ブーム

コロナ禍のタイの首都バンコクでは人との接触をできるだけ避けるため、日々新たなテクノロジーが生まれています。例えば、ショッピングモールなど建物への出入りを記録する「タイチャナ」というアプリは、コロナウイルスが流行り始めて間もない昨年5月にいち早く開発されました。日々刻々と変わる状況に対応すべく生まれたテクノロジーは人々に新しい体験をもたらしています。

↑非接触化するバンコク

 

一時閉店を余儀なくされていたショッピングモールの再開に合わせて、いち早く開発されたのが「タイチャナ」です。これはタイ政府が提供する入退店管理アプリで、ユーザーはショッピングモールやレストランなどへの入退店時、設置されたQRコードを読み込んで、チェックイン・チェックアウトをします。そうすることで、万が一コロナ感染者が発生したとき、感染者の行動ルートにいた人を特定できる仕組みです。

 

下着やサンダルも買える

またコロナの流行によって、バンコクでよく見かけるようになったのが自動販売機。現在は閉店した日本の大丸百貨店が40年以上前にタイで初めて自動販売機を導入しましたが、安全面などの観点から日本ほどの普及には至りませんでした。

 

ところがこの1年間で設置台数が以前のおよそ2倍に増えています。人との接触を避けられる自動販売機は、売り手と買い手の両方にとって好都合。従来は飲み物がメインでしたが、コロナ拡大後はマスクやアルコール消毒ジェルなどはもちろん、対面型店舗やオンラインでの購入が主だった下着や観葉植物なども並ぶようになりました。

↑マスクとスマートフォンの充電器が購入できる自動販売機

 

タイのビーチサンダルメーカーNanyang社でも、昨年バンコク郊外にあるショッピングモールに自動販売機を設置。ビーチサンダルは生活必需品でないにもかかわらず、週に100足も購入されています。対面型店舗の営業時間はコロナ禍において制限される可能性がありますが、24時間販売できる自動販売機は顧客との新たなコミュニケーションツールとして躍進しています。

 

自動販売機メーカーのSun 108社は2020年に1万4000台の自動販売機を稼働させました。前年と比べると、2888台の増加ですが、日本では約1億2500万人の人口に対し自動販売機は250万台ありますが、タイは6700万人に対し2万5000台と市場はまだまだ成長段階。タイの英字紙バンコクポストによると、将来的にタイの自動販売機市場は年間30億バーツ(約105億円)の市場になると推定されています。

 

自動販売機市場が成長した背景には、タイ政府主導で進められているキャッシュレス化の拡大もありました。非対面型の販売チャネルである自動販売機はキャッシュレスと相性がよいため、キャッシュレスで支払える自動販売機の導入が今後の鍵になっていくと考えられます。

 

ショッピングモールはテクノロジーサービスの“展示会”

コロナ禍で活躍しているテクノロジーサービスは、ほかにも数多くあります。例えば、バンコク最大級のショッピングモール「セントラルワールド」は、さまざまなロボットの存在により営業が成り立っていると言っても過言ではありません。

 

セントラルワールドでは、昨年5月のモール再開後「K9」というロボット犬を導入。背中にアルコールジェルを搭載し、ジェルを使いたがらない子どもでも楽しく使える仕組みを作りました。K9を仕掛けたのは大手携帯電話キャリアのAIS。まだ普及段階にある5Gを使ってコントロールすることで、自社のプロモーションになるのはもちろん、アルコールジェルを使う煩わしさを一種の「体験」に転換した好事例と言えるでしょう。

 

そのほかにも、除菌効果のある紫外線UVCを使用し買い物袋を消毒する機械や、エスカレーターに取り付けたセンサーが人の存在を感知して信号のように赤と青のライトで買い物客に知らせ、エスカレーター上でのソーシャルディスタンスを保つ機械などが設置されました。もはやセントラルワールドはコロナ禍期間中に開発されたテクノロジーの展示会のようになっています。

↑セントラルワールドのエスカレーターに設置された「信号」

 

一方、アメリカ発祥のチェーンレストラン「シズラー」では、ウェイターロボットの導入により非接触型の接客を実現させました。このロボットは来店客をテーブルまで案内して食事を提供するうえ、なんと誕生日の客のためにバースデーソングまで歌ってくれるという頼もしい存在です。

 

ソーシャルディスタンスや清潔さを保つためにスタッフの仕事が増えがちなコロナ禍のレストラン営業において、ロボットの導入は生産性を上げられるうえ、ロボット接客は来店客にとっても新たな珍しい体験につながります。実際にロボット導入後のシズラーの売上高は、コロナ拡大前の80%にまで回復しました。

 

このように、コロナ対策において比較的動きが速いタイは、日常の暮らしに数々のテクノロジーサービスを導入しています。新しい科学技術が支えるニューノーマルの日々は消費者にとっても一種の新しい体験。コロナ対策であることに変わりはありませんが、物事や生活をできるだけ前向きに楽しもうとするタイ人らしい考え方なのかもしれません。

 

執筆者/加藤明日香

 

休業店舗を「アート」に。ロックダウンのロンドンにコロナ時代の街作りのヒントが

イギリスではロックダウンで多くの店舗がシャッターを閉ざしており、映画館や劇場といったエンターテインメント施設もすべて閉店しています。企業や各自治体はコロナ禍を乗る切るためにさまざまな工夫を行っていますが、ロンドンのケンジントン・アンド・チェルシー王立区では閑散とした街全体をギャラリーに見立て、パブリック・アートで彩っています。

 

休業中の店が美しく変身

↑公共心のシンボル(レオン・シーシックスの作品)

 

閑散とした街をアートで彩ろうというプロジェクトを立ち上げたのが、ロンドンの芸術振興団体ケンジントン・アンド・チェルシー・アートウィーク(KCAW)です。ケンジントン&チェルシー王立区からの委託により、毎年ユニークな彫刻や、映像や光、デジタル技術を駆使して生み出すインスタレーション・アートで話題を呼ぶ芸術祭を行っているKCAWは、同地区にある休業中の店舗を美しいパブリック・アートに変身させました。

 

ケンジントン地区は、世界の美術工芸品を数多く所蔵するビクトリア&アルバート博物館や、国内外からの観光客にも大人気の自然史博物館、子どもたちの大好きなサイエンス・ミュージアムなどが密集する高感度エリアです。イギリスのデザインを語るうえで欠かせないデザイン・ミュージアムや王立芸術大学を擁するなど、この国の文化とアートを牽引する地区の1つといえるでしょう。

↑シーシックスの作品はライトアップされると幻想的だが……

 

↑近くで見るとシニカル

 

ミュージアムが密集するサウス・ケンジントン駅の近くでは、閉鎖中の店舗のショーウィンドウが不思議なライトインスタレーションに変身しました。これはアーティストのレオン・シーシックスの手によるもので(上の写真3枚)、暗くなると建物全体が巨大なライトボックスに変わる様子はとても幻想的。近くには写真家でビジュアルアーティストのアレグザンダー・アイクハイドの力強い作品群も展示されています(下の写真)。

 

お洒落な買物エリアとして人気のあるハイストリート・ケンジントン駅周辺も、アートエリアに変身しました。イアン・カークパトリックによる失われた遺物や神話の物語を組み合わせたカラフル&ポップなストリートアートや、ステンドガラス風のディスプレイが登場しています。

 

一方、ノッティングヒル地区では、前述のKCAWとロイヤル・カレッジ・オブ・アート、そしてデザインオフィスのコラボによるミューラル(壁画)プロジェクトが進行中です。これは建設工事中の仮囲いの壁一面をすべて地元アーティストの作品で埋め尽くし、通り一帯をストリートギャラリーに変えてしまうという試み。空が薄暗く日照時間も短い冬のロンドンで、カラフルかつポップなグラフィックが鮮やかに映えて街行く人の気分を盛り上げてくれます。

 

若手からベテランまでの作品を広く紹介し、ロンドン市民の士気を高めようとするこれらの取り組みは、ワクチンが普及し、街が再び活気を取り戻すための布石になっています。昨年は多くのイベントが中止またはオンライン開催になりました。しかし、今年は日本でも昨年展覧会が行われた有名アーティスト「バンクシー」の大規模な「リアル」ストリートアート展など、さまざまなアートやカルチャーイベントが屋外スペースを中心に予定されており、期待が高まっています。

 

芸術やユーモアの価値

↑鮮やかな色合いがグレーの街並に映えるアレグザンダー・アイクハイドの作品

 

アートは美しさで人の目を楽しませるだけでなく、新しい視点で物事を考える力を与えたり、精神状態にもプラスに働いたりといった影響も与えます。イタリアなどで行われた研究では芸術鑑賞によって血圧や心拍数が低下し、不安やうつの兆候を改善させる作用が見られることも分かっています*。

 

また、ゴーストタウンと化していたテムズ川南岸地区が2000年ミレニアル事業のアート誘致でロンドン有数の観光地に生まれ変わるなど、芸術は人の流れ、ひいてはビジネスの流れを変える大きな可能性も秘めています。

 

芸術だけで人は食べていけないという意見も確かにありますが、生活の一部として子どものころからアートに親しむ機会が多いロンドン市民は創造性こそが困難な時に新しい発想を生み、問題解決の原動力となることを肌で知っているのかもしれません。

 

執筆者/ネモ・ロバーツ

 

*Stefano Mastandrea, Fridanna Maricchiolo, Giuseppe Carrus, Ilaria Giovannelli, Valentina Giuliani & Daniele Berardi(2019) Visits to figurative art museums may lower blood pressure and stress, Arts & Health, 11:2, 123-132, DOI: 1080/17533015.2018.1443953