「日本は最後の空白地帯」TCLの中国本社とディスプレイ製造工場で取材した日本市場攻略の狙いと驚きの技術力

日本のテレビ市場には「レグザ」「アクオス」「ブラビア」「ビエラ」などの著名ブランドがひしめく。そのなかでいま着実に存在感を増しているのが、ハイセンスやTCLといった中国メーカーだ。今回GetNavi webは、TCLの本拠地を訪れる機会を得た。5月に発売された新製品「C8K」の企画と製造の両現場で見た、同社の技術力と日本におけるマーケティング戦略、そして次の一手とは?

↑TCLの本拠地、中国・深圳の本社を訪ねた。

 

日本市場は「攻略できていない最後の空白地帯」

現在の日本のテレビ市場は、いわば“群雄割拠”の状態といっていい。2024年における販売台数シェアはTVS レグザが約25%で首位、続いてシャープ(約20%)、ハイセンス(約16%)までで過半を占め、10%を下回ったソニーとパナソニックを、TCLが約10%で上回る結果となった。冒頭でも触れたように、この市場を席巻するのは中国メーカーだ。特にTCLは、近年のMini LEDテレビの投入などで“プレミアムゾーン”への進出も進めており、従来の中国ブランドに想起しがちな“低価格帯ブランド”の枠を超えつつある。

 

とはいえ、いまだ10%程度にとどまっている、ともいえる上、金額ベースとなると状況は異なる。

 

「日本市場は、TCLにとっていまだ攻略しきれていない最後の“空白地帯”です」──そう語ったのは、TCLの製品全体を統括する宦 吉鋒(カン・キチホウ)氏だ。

↑TCL BU プロダクトマネジメントセンターの宦 吉鋒氏。プロダクトの全体的な責任者を務める。

 

TCLはこれまで、北米・欧州・東南アジアなど多くの地域で高いシェアを獲得してきたが、日本市場では“ブランド”という壁が厚い。だが、同社はそれを「挑戦すべき特異な市場」と捉えており、戦略的に大きな意義を見出しているようだ。

 

「日本が非常に大きな市場であることは間違いありません。しかも、LEDが生まれた国(※編集部注:中村修二氏が1993年に高輝度青色発光ダイオードを発明し、白色LED化を可能にした。2014年にノーベル物理学賞を受賞。)であり、技術革新の最前線でもあります。長年にわたり、ソニーやパナソニックといった世界的に著名なブランドをはじめ、カラーテレビ以外でも、ダイキンや三菱電機など、家電業界全体において常に業界の技術の最前線に位置してきました。
ですから、東南アジア市場に代表されるように、日本ブランドに対して非常に強い好意と信頼を寄せている地域は多いのです。その日本市場において消費者に認めてもらうことができれば、TCLのグローバルブランドとしての信頼性はさらに高まるでしょう」(張 国栄氏)

↑TCLでアジア・ロシア・オセアニア地域のマーケティング責任者を務める、張 国栄(チョウ・コクエイ)氏。

 

TCLが掲げる日本市場での中期目標は、「トップ3ブランドの一角を担う」こと。具体的には「シャープの位置を狙いたい」という発言も飛び出したが、その実現には、製品の性能だけでなく、“ブランド”と“サービス”の信頼性を積み上げることが不可欠だという。

 

「日本の消費者は製品だけでなく、サポート体制やローカライズにも厳しい目を持っています。我々はアフターサービスにも注力し、地域に根ざした信頼獲得を目指しています」(宦 吉鋒氏)

 

↑2025年2月に、オリンピックのオフィシャルパートナーとしての契約締結を発表したTCL。そこかしこにオリンピックのロゴマークが。

 

日本市場に投入した新製品「C8K」に込められたもの

「C8Kは、従来の液晶テレビの常識を再定義するモデルです」と、製品責任者である宦 吉鋒氏は語る。TCLが2025年5月に日本市場で投入した新製品群のうち、同モデルは同社の次世代技術とデザイン哲学を象徴するモデルで、TCLが得意とするMini LED技術を中心に、画質・音質・デザインのすべてにおいて飛躍的な進化を遂げている。3つのポイントに絞って確認していこう。

 

1.画質へのこだわり──“Mini LEDのパイオニア”としての画づくり

Mini LEDとは、従来のLEDよりも小型(約0.1mm)のLEDを多数使用したバックライト技術で、高密度配置により画面の明暗を細かく制御でき、高コントラスト・高輝度・色再現性に優れた映像表現が可能になる。現在、各社のプレミアムモデルに採用されているが、TCLは、このMini LED搭載テレビ(「X10」シリーズ)を2019年に世界で初めて発売したパイオニアだ。

 

「Mini LEDの核心技術は、より高い分割数と輝度で、コントラストを劇的に向上させることにあります。『C8K』では、3600分割に迫るローカルディミングと5000ニトのピーク輝度によって、これまでにないリアルな映像体験が可能になりました」と宦氏は語る。

↑「C8K」(写真提供/TCLジャパン)

 

とはいえ単に分割数を増やすだけではなく、効率的なバックライト制御技術が重要だという。

 

「通常、超高コントラストの映像表現には1万分割以上の制御が必要とされますが、当社のMini LED技術では、5000分割でも同等の画質が得られる制御アルゴリズムを開発しています。これは、Mini LEDの本質を理解し、それをいかに精密に操るかにかかっているんです」(宦 吉鋒氏)

 

また、TCLはMini LEDを単なる高画質技術にとどまらず、「持続可能な映像体験のコア」と位置付けている。省エネ性能や長寿命設計との両立も進めており、「パフォーマンスと環境配慮の両立は、今後のディスプレイ開発において避けて通れないテーマ」と宦氏は強調する。

 

「C8K」は、こうしたTCLのMini LED開発思想の集大成であり、最新のWHVAパネルや量子ドットフィルム、ハロ現象の制御システム等との組み合わせによって、明暗差の豊かな映像と映り込みの少なさ、視野角の広さを両立させている。

 

「消費者が映像に求める“深み”と“鮮やかさ”を両立すること。これが『C8K』の画づくりの根本思想なんです」(宦 吉鋒氏)

 

2.音質へのこだわり──Bang & Olufsenとの共同設計

この没入感は、音響面でも補強されている。デンマークの高級オーディオブランド「Bang & Olufsen(バング&オルフセン)」とのコラボレーションは、話題性もじゅうぶんだ。

 

「音は、映像と同じくらい重要な要素です。リビングという空間において、没入感のある体験を生み出すには、テレビからの“音の出し方”まで徹底して設計しなければなりません」(宦 吉鋒氏)

↑「C8K」に搭載されたBang & Olufsenの音響システム。スピーカーはテレビの裏側に位置している。(写真提供/TCLジャパン)

 

「C8K」では、筐体内のスピーカー配置や振動制御をBang & Olufsenの設計思想に基づいて最適化。さらに、TCL独自のオーディオアルゴリズムによって、低音の厚みと中高音の明瞭感を両立させることに成功している。特に注目すべきは、映像と音の一体感である。

 

「『C8K』では“音が画面から聞こえてくる”ような定位感を大事にしました。そのために、視聴距離・角度・反響特性などのデータを取り込み、AIで自動補正する技術も盛り込んでいます」(宦 吉鋒氏)

 

また、テレビスピーカーにありがちな“こもった音”を回避するために、スピーカーボックスの内部形状にも工夫を加え、クリアな音像と響きを実現。これにより、別体のサウンドバーがなくてもじゅうぶんな音響体験を提供できる仕上がりとなっている。

 

「テレビはもはや“見る”だけの機械ではなく、“空間を演出する道具”です。だからこそ、音にまで責任を持つ必要があるのです。Bang & Olufsenとの提携は、その哲学の現れです」(宦 吉鋒氏)

 

↑本社ロビーに展示されていた、日本でも発売され話題となった「A300」。

 

↑展示されていたのは、Bang & Olufsenと共同開発したサウンドバーが付属する「A300 Pro」。日本未発売。

 

3.デザインへのこだわり──極限まで削ぎ落とした“黒縁”処理

↑「C8K」のベゼル部分。

 

テレビは“空間を演出する道具” ──それを体現するもうひとつの特長に“黒縁”の処理がある。「ベゼルレスデザイン」を徹底的に追求しており、液晶パネルの表示エリアと物理枠の間に残されていた“表示されない黒”の領域──黒縁部分すらも排除した設計となっているのだ。

 

「多くのテレビは“ベゼルレス”と謳ってはいても、実際には6〜10mm程度の非表示領域が存在しており、それが視覚的な没入感を損なう原因となっているんです。『C8K』ではその固定観念を壊し、“画面が浮いて見える”ような視覚体験を目指しました」(宦 吉鋒氏)

 

TCLは、過去10年以上にわたり液晶テレビのベゼル縮小に取り組んできたが、「C8K」では従来の“狭額縁設計”からさらに進化し、表示エリアのすぐ外側にある黒いマージン領域(非表示領域)を、22もの特許を駆使してほぼゼロに抑える設計に成功している。

 

「第1世代の幅広ベゼルでは、30mmの物理フレームと10mmの黒縁がありました。第2世代では10mm+8mm、第3世代の“ベゼルレス”でも非表示領域が6〜10mmほど残っていました。『C8K』ではこれをほぼ0mmまで抑え、“視界の中に枠が存在しない”映像体験を実現。我々はこれを“第4世代液晶テレビ”と位置づけています」(宦 吉鋒氏)

↑左が「C8K」。黒縁部分の差は一目瞭然だ。(写真提供/TCLジャパン)

 

↑こちらは同じくベゼルレス技術を搭載した98インチのテレビ。

 

この設計には高度なパネル貼り合わせ技術と、表示エリアの精密な制御技術が不可欠。これを担い実現するのが、TCL Technologies傘下のTCL CSOT(TCL華星)だ。続いて、同社の深圳と恵州にある同社の工場も訪ねた。

 

日本ブランドをも支える、TCLのディスプレイ技術

TCLが世界市場で競争力を高めている背景には、傘下にあるディスプレイ製造会社、TCL CSOTの存在が大きい。「TCLはおよそ2700億元(約6兆円)超もの投資を行ってきた」(張氏)という同社は、Mini LEDやOLED(有機EL)、Micro LEDといった次世代パネル技術の研究開発・量産で世界をリードしている。

↑TCLの本社と同じく深圳にあるTCL CSOTの本社工場。

 

↑こちらは深圳から120km離れた恵州の同社工場。

 

TCLのディスプレイ製造部門として2009年に設立されたTCL CSOT。中国国内だけで11の製造ラインをもつ。現在では世界の主要テレビメーカーへのパネル供給も行っており、「シェア上位に位置する某日本メーカーのハイエンドMini LEDモデルは、その大部分にTCL CSOT製のパネルが使われています」(周 明忠氏)という事実が、同社の技術信頼性を物語っている。

 

↑取材に答えたTCL CSOT技術企画センターの周 明忠(シュウ・ミンチュウ)センター長。

 

↑TCL CSOT深圳工場の全景を模型で確認。今回は第8.5世代(約2500×2200mm ・40〜55インチのテレビに使われる)のパネルを月間16万枚生産する「T2」を見学した。

 

まず特徴的なのは、垂直統合的ビジネスモデルだという。TCL CSOTは、開発・設計・製造・供給までを一貫して担う体制を構築しており、パネル技術の上流から下流までを自社グループ内で完結させることで、スピードと柔軟性のある対応を実現している。

 

「例えばソニーのような外部ブランドに対しても、非常に細かい仕様変更に対応できる体制を構築しているのです」(周 明忠氏)

 

しかも、液晶ディスプレイと有機ELディスプレイそれぞれの多様な製造方式に対応できるコア技術を複数保有しているのも武器だ。

 

「あらゆる製品カテゴリに柔軟に対応できる“技術の全方位展開”がTCL CSOTの強みです。単に技術を持つだけでなく、常に“市場が何を求めているか”を重視しています」とも語る。

 

↑同じく深圳工場の模型。左手前は日本のガラスメーカー、AGC(旧・旭硝子)の工場。ここで液晶パネルのベースとなるガラスが製造され、隣接するディスプレイパネルの製造ラインへ自動で運ばれていく。

 

↑こちらは恵州の工場外観。内部の撮影は許されなかったが、製造ラインは完全自動化されており、人間が担うのはクオリティコントロールや製造機械の点検のみ。300mにも及ぶラインで、見学中に見かけた“人”はたった3人だった。

 

↑工場で使用する電力のうち年間で1900万kWh以上の電力は屋根に設置された自社製の太陽光パネルで賄われている。この太陽光パネル事業は今後、日本市場へも参入を予定しているという。

 

↑恵州の工場は、隣に工場で働くスタッフのための寮も用意されている。“寮”と表現するにはあまりに立派な建物だ。

 

さらに2024年4月、TCL CSOTはLGディスプレイの中国・広州工場を総額108億元(約2228億円)で買収。この買収によって、従来の液晶製造ラインに加え、WRGB OLEDなどの製造技術や大型CID(商業用ディスプレイ)製品への対応力が大きく広がったという。

 

「買収によって技術のラインナップが一段と充実し、航空用ディスプレイや屋外大型パネル、セキュリティ用途など、多様な製品カテゴリーに対応可能になりました」(Tony Kim氏)

↑TV・業務用ディスプレイKA部の副部長、Tony Kim(トニー・キム)氏。

 

このカバー範囲の広さは、工場内に設けられたショールームからもうかがい知れる。民生品を中心に一部を紹介しよう。

 

RGB独立駆動パネルにAIによる画質・音質最適化…
“次世代テレビ”への取り組み

2025年に入っても、日本のテレビ市場では新技術の話題が続く。3月にソニーは、RGBが独立発光するバックライトを採用したディスプレイシステムを発表、5月にはTVSレグザが、国内初採用となる“RGB4スタック有機ELパネル”を搭載するモデルを市場投入した。また同ブランドは、AIとセンシング技術を組み合わせた「レグザ インテリジェンス」を横断的に展開、生活に寄り添うAIテレビを標榜し、視聴体験を根底から変えようとしている。

 

こうした状況の中、もちろんTCLおよびパネル製造を担うTCL CSOTも、AIを重要な技術ドライバーと捉えており、「C8K」をはじめとするプレミアムモデルにはAI映像処理エンジン「AiPQ PRO エンジン」を搭載している。

 

「AIは今後のディスプレイにおいて不可欠な技術です。TCL CSOTではAIによる映像最適化処理や、視聴環境に応じたダイナミック制御の研究も進めています」(TCL CSOT/Tony氏)

 

さらにTCLの宦氏は、「TCLではAIを“画質向上のための道具”としてだけでなく、“使いやすさ”の文脈でも重視しており、音声制御やUX設計にも深く関わってきます」と、“体験価値の革新”を目指す姿勢は明確だ。

 

グローバルにおける圧倒的スケールを携えて日本進出を進めるTCLは、技術、そして開発思想によって今後どのように市場へインパクトを与えるのか? しばらく目を離せそうにない。

 

欧州ブランドの世界戦略は「日本製」だった!ドイツのツヴィリングが20年目に明かす、包丁「MIYABI」ブランドの裏側

眼鏡の里・鯖江。鞄の里・豊岡。金属加工の里・燕三条などと同様、刃物と言えば岐阜県の関市! ここに本拠を構えるツヴィリング関工場の包丁「MIYABI」が20周年を迎えた。切れ味はもとより、仕上げ、ヒストリーに至るまでJAPANにこだわる「MIYABI」の最高到達点「MIYABI 粋-IKI-」誕生の現場に潜入だ!

 

関鍛冶の歴史は700年超

「普段、一般の方へのファクトリーツアーなどは実施しておりませんが、今回はMIYABIがどのような環境、どのような職人によって生み出されているかご覧いただけます」。そう語るのはツヴィリング J.A. ヘンケルスジャパン株式会社の製造管理マネージャー、中村好氏。

 

岐阜県関市と言えば刃物のまちというイメージが定着しているが、それもそのはず、日本刀を手掛ける関鍛冶の歴史はもう700年を超える。鍛冶の歴史、伝統、技術があってこその、現在の「刃物のまち関市」なのだ。

↑古の、神事としての刀鍛冶を伝える展示。

 

↑見どころ満載! 700年に及ぶ関鍛冶の技を伝えるミュージアム「関鍛冶伝承館」

 

ツヴィリングが関で包丁を作ることに決めた理由

さて今回の主役、ツヴィリングの「MIYABI」が掲げる「MADE IN JAPAN」の背景にあるものはなにか? まずは「MIYABI」ブランドがスタート時(2005)から海外マーケットに狙いを定めていたこと。そして、時を同じくして北米・欧州で大きなうねりとなっていた日本食ブームに欠かせない“世界一の包丁を作る”という高い目標であり、それを実現しうるのは「MADE IN SEKI JAPAN」に他ならないという自負である。

↑「MIYABI」の刃にある「雅」と日の丸のアイコンがMADE IN JAPANの証。

 

刃物のまち関市で製造される刃物はもちろんツヴィリング製品だけではないが、ツヴィリング関工場のように、工程の多くを一貫して内製できるメーカーは多くない。関市はまち全体がひとつの工場のように機能し、工程ごとに職人が手を動かす刀鍛冶同様の事業構造をもっているためだ。その意味でツヴィリング関工場は関市全体の縮図と言えるし、逆説的には多くの工程を内製できる環境だからこそ「MIYABI」を生み出すことができたのだ。

 

包丁が生みだされる現場とは?

工場というイメージには、こだわるがゆえの気難しそうな職人たち、黙々と手を動かすベテランといった定型がつきまとう。しかしそれと異なるのがツヴィリング関工場だった。

↑ハンドル部の研磨工程。若手、男女を問わず職人が作業に集中する。

 

さすがに機械音こそ盛大だが、クリーンで、整然としている。刃物を扱うコワモテの職人集団……という取材陣の妄想とは異なるジオラマが展開されていた。気温35℃以上の日には自由に食べていいアイスクリームの冷蔵庫まであるくらいだ(記名式なのがちゃんとしてますね・笑)

 

「包丁作りの主工程は、熱処理~ブレード研磨~ハンドル加工に分類されます」。とは工場責任者の山田昌之氏 。

↑ちょっと「刃物の露天商」のような(失礼!)雰囲気をまとう工場責任者の山田昌之氏。

 

時にユーモアを混ぜながらツヴィリング関工場の価値を取材陣に話す同氏は、いわばツヴィリング関工場の語り部的存在だ。

 

「ツヴィリングは1731年にドイツ・ゾーリンゲンで創業した刃物メーカー『ツヴィリング・ヨハン・アブラハム・ヘンケルス』社が運営する主要ブランドですが、その中でももっとも手作業にこだわるプレミアムブランドこそが「MIYABI」です。というのも、たとえば刃物づくりにおいて魂を入れる作業に等しい「研ぎ工程」でも、ドイツでは普及品から高級品まですべて工作機械で自動化しています。日独はともにモノづくり大国ですが、モノづくりに対するドイツらしい合理性とも読めそうで興味深いですね。くくって言いますと、ツヴィリング関工場の手作業には本国からも大きな価値と期待が寄せられているわけです!」。山田氏の表情は、どこか誇らしげだ。

↑本国で使用している刃物研磨機械も稼働中。ツヴィリング関工場では普及ラインの商品に使用している。

 

「Meister  Workshop」だからできる「MIYABI 粋-IKI-」

ツヴィリング関工場の特色として第一に指を折るのが「Meister Workshop」の存在だろう。これ、つまりは「職人工房」。

↑選抜された匠たち9名が作業に没頭する「Meister Workshop」。

 

「『Meister Workshop』はツヴィリング関工場に勤める職人およそ200名から選び抜かれた匠たち9名の作業場です。彼らだけに着用が許される黒いキャップがその証で、この工房自体、床も、壁も、装飾も、作業場のレイアウトも、職人たちがDIYで作り上げたもの。どうです、かっこいいでしょ!」と山田氏。確かにF-1サーキットのピットよろしく、雰囲気も、色使いもメリハリがあって洒脱な印象だ。

 

「Meister Workshop」では20周年記念モデル「MIYABI 粋-IKI-」の量産を行っているが、近い将来にはテストサンプルの製作、オーダーメイド品の製造なども行っていく予定だという。

 

製造現場のリーダーであり関の卓越技能者である加藤伸一氏に「MIYABI 粋-IKI-」ならではの製造上の特長を尋ねた。

↑ツヴィリング関工場製造現場のリーダーの加藤伸一氏。「MIYABI」のほかツヴィリングの高級ライン「ボブクレーマー」も手掛ける刃物の匠だ。

 

「とことん手作業にこだわる点です。私が担当するハンドル加工でもっとも重視するのは握った時の微妙な感覚。左右対称は当然として、指掛かり、フィット感を仔細に検討しながら、太さや角度を研削していきます。どう仕上げるかというより“握った時の違和感を消す作業”と言えますね」。

↑「MIYABI 粋-IKI-」のハンドル研削工程。「「MIYABI 粋-IKI-」は直線、曲線のつながりが複雑なので他製品より精緻な作業が求められます」と加藤氏。

 

↑水研ぎ工程。

 

↑ブレードとハンドルのウッドブロックを接着する工程。

 

事実、「MIYABI 粋-IKI-」製造における手作業の割合は約8割、工程数はおよそ140にも及ぶというから驚きだ。これらの事実からも、普及品の数十倍に及ぶ手間、時間、工程をかけて生まれるのが「MIYABI 粋-IKI-」であることが判るだろう。

 

岐阜・関市・そして「MIYABI 粋-IKI-」 

↑「MIYABI 粋-IKI-」のインスピレーションの元となったのは岐阜の夜、景色、川面に映る月などの雅やかさだ。

 

「世界へ向けてMADE IN JAPANの包丁「MIYABI」を提案し、走り続けて20年。これを期にもう一皮むけたい、そんな思いを込めて生み出したのが記念モデル「MIYABI 粋-IKI-」です」と語るのは、長く「MIYABI」のプロダクトマネージャーを務める石井彦次氏。

 

「インスピレーションの元となったのはずばり岐阜の夜。自然、伝統、川面に映る月、そんな雅やかなシーンを包丁に表現したいと考えました。「MIYABI 粋-IKI-」のハンドルは直線と曲線を組み合わせた複雑な形状をしています。ハンドルは一本ごとに異なる木目をもつ天然のメープル瘤材を使用しており、ぬくもり、エージング等をお楽しみいただけるよう、職人が丁寧に仕上げています」と石井氏。

↑通常ハンドル材として使われることの少ないメープル瘤材を採用。独特の木目が使い手を魅了する。

 

「敢えて困難に挑む」のは職人の本能なのかも知れない。すでに世界のキッチンナイフ市場においてプレミアムブランドの地位を築いている「MIYABI」が周年とはいえなぜその上を、はっきり言えば、より困難な道を歩もうとするのだろうか?

 

「ドイツ本国では当初、トップ・オブ・トップに位置する「MIYABI 粋-IKI-」を“敢えて”製造しようとすることに懐疑的でした」と笑顔を見せるのは、ツヴィリング日本法人のアンドリュー・ハンキンソン代表だ。

↑ツヴィリング日本法人の代表アンドリュー・ハンキンソン代表。

 

「彼らがそう言う理由は明白です。「MIYABI」はすでに世界一の包丁だから。しかしようやく完成したサンプルを本国へ送ると、世界中のディーラーから注文が舞い込む事態になってしまいました! 嬉しい反面、とてもそんな需要に応えることはできません。そこで私は本国に伝えました。これを日本だけで売りたい、と」。

 

「MIYABI」が歩んだ20年。それはわれわれ日本人自身が気づけなかった包丁作りの価値を、ドイツ目線で世界標準化してきた歳月と言える。そしてその集大成こそが20周年記念モデル「MIYABI 粋-IKI-」なのだと知れば、6万円を超えるプライスタグが高いか否か、モノこだわり派の読者の皆さんには……もう、おわかりですね?

ツヴィリング
MIYABI 20周年記念ナイフコレクション「MIYABI 粋-IKI-」
「小刀(100㎜)」3万8500円/「牛刀(200㎜)」6万6000円/「三徳(180㎜)」6万500円 ※すべて税込

 

【現地取材】サムスンが実現した未来の家「ex-Home」に行ったら料理の自動調理も睡眠改善もスマホとAIで便利過ぎた

日本でスマホブランドとしての地位を確立しているサムスンですが、地元韓国はもちろん世界では、家電ブランドとしても知られています。しかも、さまざまなスマートデバイスを接続して管理できる「SmartThings」を使ったスマートホームも実現。一歩進んだ家電ライフを提供しています。

 

筆者は先日、サムスンの本拠地である韓国・水原(スオン)へ渡って取材。この記事では、サムスンが提案するスマートホームを体感するために、サムスンの本社ビルや関連施設が集まった「デジタルシティ」内にあるモデルハウス「ex-Home(イーエックスホーム)」を見学した際の様子をレポートしていきます。

 

SmartThingsとAIによる便利な生活を体験できるex-Home

ex-Homeは2023年3月にオープンした3階建てのモデルハウスです。サムスンの製品が10種、SmartThings対応製品が8種、通信規格の異なるスマートデバイスと接続してSmartThingsで管理できるようになる「Samsung SmartThings Hub」7種が設置されています。

↑ex-Homeの外観。367平方メートルの3階建て住宅です。

 

SmartThingsは、サムスンが提供するスマートホームのプラットフォーム。サムスンの製品はもちろん、ほかのメーカーのスマート家電でもSmartThingsに対応していればスマホアプリで管理できます。このとき、同じWi-FiにSmartThings対応の家電が接続されているのであれば管理に問題はありません。ですが、なかにはZigBeeやZ-Waveといった、日本ではなじみのない無線規格を使ったSmartThings対応の製品もあり、そんなときに活躍するのがSamsung SmartThings Hub。異なる無線をつなぐ橋渡しのような役割をしてくれて、ハブを経由させることでアプリでの管理が可能になります。

 

ex-Homeでは、SmartThingsに加えてAIを活用してどれだけ便利な生活ができるのかを体験できます。

 

アプリからリビングの環境を自在にコントロール

始めにデモで紹介されたのはリビング。たとえばエアコンを運転しているときに、SmartThingsのアプリ側で「カーテンを閉めると冷房効果が上がります」とオススメしてくれます。また、家族で映画を楽しむシーンでは、「もっと没入感を高めてはどうですか?」とオススメし、アプリからボタンのタップひとつで照明が暗くなるなど、リビングの環境を変えてくれました。これらのオススメはおそらくAIによるものでしょう。

↑スマホの画面をディスプレイに転送してデモを実施。アプリでは「エアコンが稼働しているときは、カーテンを閉めて日光を遮ると冷房効果が上がる」と提案されています。

 

さらに、テレビとスマホを連携させて、スマホをテレビのリモコン代わりとして使用するデモも披露されました。サブスクリプションの映像サービスをタップひとつで起動したり、2基のスピーカーの出力を切り替えたりといったことが可能。テレビのリモコンが見当たらないときに、スマホで代用するのは便利さを感じられます。

↑右側のディスプレイがスマホ画面。スマホがリモコンになり、各種サブスクリプションサービスのアイコンをタップするとサービスが立ち上がります。

 

↑テレビと接続しているホームシアターシステムの一覧がスマホから確認可能。出力の切り替えや音量の操作もできます。

 

自動で正確な量の水が出る。スタイリッシュで近未来なキッチン

デモの中で特におもしろかったのはキッチンでした。まず目を引いたのはディスプレイ付きの冷蔵庫。韓国や欧米で販売されている、AIが搭載された家電シリーズ「Bespoke AI」の製品です。この冷蔵庫をスマホと連携させ、スマホの画面をディスプレイに表示させてデモを進めていきます。

↑Bespoke AIの冷蔵庫。

 

アプリから市販のミールキットを撮影すると、調理工程などの情報が表示されます。工程を読み進めて下にスクロールしていくと、「クックトップに送信」「浄水器に送信」というボタンが出てきました。ここで浄水器のボタンを押すと、キッチンの浄水器から水が流れてきます。このとき、ミールキットの調理に必要な750mlの水が正確な量で出るそうです。

↑ミールキットのバーコードをアプリのスキャン画面から読み取ります。

 

↑レシピなどの下にオレンジのボタンが出てきました。浄水器アイコンのボタンを押すと……。

 

↑浄水器から水が自動で出てきました。鍋をセットしておかないと大変な目に遭っていたでしょう。

 

次にクックトップに送信すると、詳細な情報がIHクッキングヒーターに表示。同時に表示されたOKボタンを押すと自動調理がスタートします。火加減や加熱時間も自動で調整されるとのこと。

 

スマホのタップから水が流れるところはかなりスムーズで、スタイリッシュさを感じました。計量しながら水を出す手間がないため、実用性も高いです。自動調理は火加減の難しい料理などでは特に便利でしょう。デモはミールキットの場合だったので、ほかの料理をする場合だとどうなるのかが気になりますが、家庭での料理は格段にラクになると想像できます。

 

アプリからは食洗器の稼働も可能。最適な洗浄モードが自動で選ばれるそうです。

 

いまある住宅にBespoke AIの冷蔵庫を取り入れただけで、デモと同じことをできるようにするのはかなり困難でしょう。水道やIHクッキングヒーターにもなんらかのSmartThings対応製品が入っていると想像できるからです。ですが新築やキッチンの改築時に思い切ってまとめてSmartThingsの導入は可能なはず。近未来な調理シーンながら実現可能でもあると考えると魅力的なデモに見えました。

 

AIが起床から睡眠までサポートしてくれる寝室

場所を寝室に移動し、朝起きたときのシーンをデモで見せてもらいました。起床時間になるとAIが自動で認識して照明を点灯させ、カーテンが開き、ベッドの足元側にある大型スクリーンがせり上がり、好きなチャンネルが表示されます。なにがなんでも起こすという気概を感じますね。

↑寝室での起床時。

 

起きてスマホを手に取ると、今日の天気やスケジュールを確認できます。その画面を下にスクロールすると「エナジースコア」が表示。これは自分の体調を数値化したもので、睡眠の記録も見られます。睡眠時間のほか、睡眠の質を数値化した睡眠スコア、深い眠りや浅い眠りなどを把握する睡眠段階などが記録されています。

 

デモ時の睡眠スコアは77点で、悪くはないけど改善の余地があるとのこと。そんなときにアプリ内でAIによる睡眠の分析を見て、改善につなげられるそうです。デモでは室温と湿度を適切に維持するよう提案されました。

↑ここではスマホではなくタブレットでデモ。睡眠時間は7時間20分で、睡眠スコアは77点と表示されました。

 

↑AIの分析からアドバイスをもらえます。睡眠中は室内の湿度を40~50%に維持するよう記載されています。

 

ここからさらに、アプリ内でどのデバイスをどのようにコントロールすればよいかをAIがオススメしてくれます。提案に従ってデバイスの設定を変更すれば睡眠時の環境を改善できるわけです。

 

睡眠に入ると再びAIが自動で認識し、大型スクリーンを収納してカーテンを閉め照明を消してくれます。またエアコンや空気清浄器のライティングもオフになります。AIによる睡眠の認識や、睡眠中の記録については「Galaxy Ring」や「Galaxy Watch」を使用。睡眠においてはウェアラブルデバイスの方が、相性がいいことを改めて紹介されました。

 

サムスンのスマートホームは日本でいつ実現するの?

いずれのデモもスマートホームの理想形といえるものでした。ですが、ご存じのとおり日本ではサムスン製の家電は販売されておらず、ex-Homeと同じような家に暮らすのは現時点で不可能です。また、SmartThingsのアプリは日本でも利用できますが、対応する製品で日本でも購入できるものは照明デバイスやスマートリモコンなど限定的。一部製品とGalaxyスマホとの連携が可能という程度に留まっています。

 

もちろんスマホとタブレットを接続させて使うなど、Galaxy製品同士であればSmartThingsによるスムーズな連携を国内でも体感できます。

 

それでもデモを見せてもらって夢が膨らむのはスマートホームの実現。ひとつのプラットフォームで家中の家電を制御できたらなあと夢想せずにはいられません。そのためにもSmartThingsの国内における拡大と家電の再参入を期待したいところです。

 

【フォトギャラリー】(画像をタップすると閲覧できます)

「詰め放題」が太っ腹すぎてイナズマ級の衝撃!「ブラックサンダー ワク ザクファクトリー」は大人も楽しい工場見学施設だった

1994年に誕生し、今年で30周年を迎えるチョコレート菓子「ブラックサンダー」。その製造の裏側を初めて一般公開する工場見学施設「ブラックサンダー ワク ザクファクトリー(以下、ワク ザクファクトリー)」が、有楽製菓の豊橋夢工場内に5月27日にオープンします。

 

メディア向け先行内覧会が5月20日に開催されたので、一般公開に先駆けて取材してきました。同施設の目玉は大きく分けて二つ。全長約71.5メートルに及ぶ「工場見学通路」と、約80種類もの豊富な商品ラインナップをそろえる「ワクザクSHOP」です。単なる工場見学の枠を超えた、総合エンターテインメント施設としての完成度の高さにビックリしました!

↑ブラックサンダー発売30周年記念プロジェクト「30の楽雷(らくらい)」の目玉企画として注目を集める同施設。

 

超ビッグサイズ! ブラックサンダーの「門」がお出迎え

JR新所原駅から徒歩約24分、車では豊橋駅から約30分の立地にある「ワク ザクファクトリー」。施設に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは高さ3メートル超の巨大な門「スーパーブラックサンダー」です。通常サイズの300倍ということで、すさまじい存在感! ビスケットのザクザク感やチョコレートの質感も再現されていて、思わず触りたくなります。

↑写真左奥部分に4つの穴が開いており、顔を出せるようになっています。ブラックサンダーと一体化した写真を撮れます!

 

↑「スーパーブラックサンダー」の内部。チョコレートとクッキー部分とで、粒度の異なる素材を使う徹底ぶりです。

 

同社経営品質部の牧宏郎さんの案内で、工場見学通路から見て回ることに。「スーパーブラックサンダー」をくぐり抜けて進んでいきます。

↑同社経営品質部の牧宏郎さん。ユーモアにあふれた、ブラックサンダーらしい世界観をいかに表現するかにこだわってコンテンツを企画したそう。

 

工場見学通路の手前には開けた空間「ワクザクシアター」があり、湾曲した壁と床を使ったプロジェクションマッピングが楽しめます。「ブラックサンダーの具材」視点で、製造から出荷までの工程を約2分間で体験できます。運ばれ、砕かれ、熱され、冷やされ……没入感たっぷりの内容です。

↑砕かれた具材が、チョコレートの滝に飲み込まれていく様子。ぜひ現地で全貌を見届けてください!

 

リアルな製造現場が目前に!「あの味」が生まれる瞬間を見て、学びも深まる

ブラックサンダーの製造工程をCGで見て視覚的に理解した後は、工場見学通路でさらに学びを深められます。

↑製造ラインに並行して設けられた通路。壁には、機械や製造工程にまつわる説明が、図と文でわかりやすく書かれていました。※今回はメディア向け内覧会のため特別に許可をもらって撮影しています

 

通路に設けられた14か所の窓を通じ、実際のブラックサンダー製造工程を堪能! チョコレートのコーティングから包装まで、普段は決して見ることのできない「あの味」が生まれる瞬間を目の当たりにできます。

↑通路の壁に記されたブラックサンダーの歴史。そのほか、有楽製菓が取り組む「スマイルカカオプロジェクト」についても詳しく紹介されていました。

 

大きなカッターでカットされていく様子や、「裸」のブラックサンダーがチョコレートの滝をくぐってチョコをまとう様も興味深かったですが、特に印象に残ったのは包装工程に関わる「パラレルロボット」。並んで流れてくるブラックサンダーから、規則正しい動きで一つずつピックアップし、レーンに乗せていく動きはずっと眺めていても飽きないほど。ぜひ現地で確かめてみてください。

 

また、通路を進む際にあわせて楽しみたいのがスタンプラリー。6か所あるスタンプ台を順に回り、重ねて押すことで、一枚の絵が完成するようになっていますよ!

 

めちゃくちゃおトクでは⁉ 太っ腹ルールの「ブラックサンダー詰め放題」

工場見学通路を見終わったら施設入口横にある、リニューアルオープンした直営店「ワクザク SHOP」へ。定番のブラックサンダーシリーズ、地域限定シリーズなど各種おみやげが幅広く取りそろえられています。オープン記念商品として「ブラックサンダー車缶」「ブラックサンダーミニバー入りバケツ」「ブラックサンダーカップアイス」の3種類が新登場!

↑ここでしか買えない、「ブラックサンダー車缶」。ブラックサンダーミニバー4本と、ロゴステッカーが入っています。

 

↑ショップで購入できる注目アイテム。中央の「ブラックサンダー スカジャン」はなんと、2万1000円(税込)!

 

自分へのごほうびにはもちろん、誰かへのプレゼントとして買いたいものも“ザクザク”ですが、このショップに来たらぜひやってほしいのが「ブラックサンダー詰め放題」! 10時10分より30分に1回実施(各回定員12名)されるイベントで、チケットはレジで購入できます。1回1100円です。

↑ショップ内にあるブラックサンダーの山。見るだけで童心に返ってしまいます。

 

とにかくルールが太っ腹なのです。制限時間が3分で、なんと「袋からはみ出してもOK」!

↑詰め放題で使う袋。破れても交換はナシ!破けた部分はスタッフがテープで補修してくれますが、その間にも制限時間は過ぎていくので注意!

 

内覧会に集ったメディアはみんな「良い大人」なわけですが、誰も彼もが鬼気迫った表情で、袋の限界に挑んでいました。もちろん筆者もです。「一番下の段を隙間なく詰めるのがコツ」とのことなので、最初は焦らずじっくりと土台を固めました。3分経ったら袋を持ち上げて5秒間静止し、その間に落ちたものは没収となります。慎重に積み上げたブラックサンダーが崩れないように願う、緊張の一瞬です。

↑袋から大胆に飛び出ていますが、これでもOKなんです!

 

筆者の全力詰めの結果は写真のとおりです。数えたところ、全部で34本でした。2025年5月現在、ブラックサンダー1本あたりの価格は40円(税別)なので、じゅうぶん元が取れています。何より、詰めまくっているときの楽しさはプライスレス……! 次に遊びに来たときも、絶対に挑戦したいです。

 

アンバサダーじゃなくて「アンバサンダー」? 就任式も実施

内覧会では、「就任式」も行なわれました。ブラックサンダーがお菓子として初めて、豊橋市の観光アンバサダー「とよはしアンバサンダー」に就任し、豊橋市の島村喜一副市長から有楽製菓の代表取締役社長・河合辰信氏に「委嘱状」が手渡されました。

↑ブラックサンダーが豊橋市の観光大使として正式に認定されたことで、今後さらに地域との結びつきが強くなりそうです。

 

ブラックサンダーファンはもちろん、友人同士や家族連れでも楽しみつつ学んで回れる施設です。夏休みの自由研究のヒントにもなりそうですね。豊橋駅からは車で約30分の場所なので、愛知観光の候補に入れてみては!

 

なお入館料はかかりませんが、見学通路は予約ページからの「事前予約」が必要なので、ご注意を。

 

ブラックサンダー ワク ザクファクトリー
所在地:愛知県豊橋市原町蔵社88
営業時間:10時〜17時(SHOPのみ)
定休日:年末年始、お盆期間

なぜパナソニックの配線器具がベトナムで売れるのか? “現地の相棒”が「躍進の理由」と「中国メーカーの真の武器」を語る

コンセントなどの配線器具の国内市場で、8割以上のシェアを誇っているパナソニック エレクトリックワークス社。同社の配線器具は、その信頼性を武器に、世界でも支持を伸ばしている。世界シェアはフランスのルグラン社に次ぐ2位だが、アジアでは1位。特にベトナム・インド・トルコを重点国に位置付け、大きな生産拠点を築いている。

↑ロングセラー商品のフルカラーシリーズ。

 

だが、同社には近年大きなライバルが現れている。中国のメーカーだ。不動産バブルが崩壊した同国では、配線器具の需要が低下し、数多くのメーカーが東南アジアでのビジネス拡大に注力しているという。これからの国際競争をどう勝ち抜いていくのか。今回は、同社の重要拠点であるベトナム・ホーチミンを訪れ、同国内で配線器具の製造・販売を手がけるパナソニック エレクトリックワークスベトナム社の坂部正司社長、同社製品の販売代理店・Nanocoグループのルーン・リュク・ヴァンCEOに話を聞いた。

 

パナソニックのベトナム国内シェア1位を陰で支える販売代理店

1994年、パナソニック(当時は松下エレクトリックワークス)の配線器具がベトナムに進出した。海路輸送における地理的な優位性、人件費の安さ、安定した社会情勢に加え、将来の経済成長を見込んでのことだった。

 

「パナソニックは、1994年のベトナム進出以降、同国内で着々と販売網を広げてきました。当初は他国で製造した製品をベトナムに輸入して販売する形式をとっていましたが、2014年にはホーチミン近郊のビンズオンに大規模な工場を建設し、生産体制を強化。2017年にベトナム国内のシェア1位を獲得しました。現在ではそのシェアをさらに伸ばし、5割程度を占めています」(坂部さん)

↑パナソニックがベトナムで展開しているコンセントなどの配線器具。

 

その成長を陰で支えてきたのが、販売代理店のNanocoグループだ。同グループは、1994年に松下エレクトリックワークスとパートナー契約を締結。30年以上の時を経たいまでも、パナソニックの代理店として、配線器具などの販売を続けている。

 

「Nanocoグループは、1991年、私の父によって設立されました。当時はベトナムの経済政策が変わって民間の会社がようやく認められるようになった時代で、Nanocoグループは国内で33社目の民間企業でした」(ルーンさん)

↑ホーチミンにあるNanocoグループの本社ビル。筆者が訪問したときには、旧正月の飾りが出ていた。

 

Nanocoグループは、パナソニックのベトナム事業拡大と足並みをそろえる形で大きく成長。現在の同グループの売り上げの8割を、パナソニック製品が占めている。

↑パナソニック エレクトリックワークスベトナム社の坂部社長(左)とNanocoグループのルーン・リュク・ヴァンCEO(右)。

 

「かつて、パナソニックの製品は、ベトナム人にとっては高価でプレミアムなものでした。しかし、国の経済が発展したいまでは、高収入を得る人も増えてきました。現在、ベトナム国内におけるパナソニックの知名度は高く、同社の高品質な製品を使うことが一種のステータスのようになっています。また、幅広い価格帯・様々な特徴を持った製品が開発されたことでラインナップが広がり、ユーザー層が増えました。私たちはそんな製品をユーザーに届けられることを幸せに思っています」(ルーンさん)

 

Nanocoグループはベトナム全土に広いネットワークを構築している。現在では国内に21の営業所を有し、隣のカンボジアにも拠点を持つ。各営業所からトラックを2時間ほど走らせれば、ベトナムのどこへでも製品を届けられるという。

↑Nanocoグループがベトナム各所に構えている拠点のマップ。文字が緑になっている箇所は、営業所の設立に向けて調査中のエリアだという。

 

「全ての営業所が、販売・倉庫・配達・アフターサービスの4つの役割を持っています。これらのなかでも特に力を入れているのがアフターサービスです。ベトナムの施工業者は作業の質が低いことも多く、優秀な製品を使っていても取り付け方の悪さからトラブルが起こってしまうことがあります。ですから、そのトラブルをいち早く解決するためのアフターサービスが大切なのです」(ルーンさん)

 

坂部さんは、パナソニックの武器は「安定した品質とサプライチェーンの強さ」だと語る。その供給網の一端を担っているのが、Nanocoグループなのだ。

↑Nanocoグループは、配線器具以外にも幅広いジャンルのパナソニック製品を取り扱っている。写真は同グループのショウルームにあった空気清浄機。

 

中国メーカーの真の武器は「順応の速さ」

坂部さんもルーンさんも、中国のメーカーを大きなライバルと位置付けている。実際、アジアの他国ではパナソニックが中国メーカーにシェアを奪われることもあった。

 

「フィリピンでは、2022年までシェア1位でしたが、2023年には3位まで転落してしまいました。当時は中国の不動産バブルが崩壊したタイミングで、中国国内向けの製品が、フィリピンを含む近隣国に流入してきた影響です。この影響は、中東エリアまで波及しました」(坂部さん)

 

ルーンさんも、中国メーカーの進出に強い危機感を抱いている。北の国境が中国に接しているベトナムは、中国企業にとっては進出しやすい国なのだ。

 

「中国からベトナムには、入ってこようと思えばすぐに進出できる距離にあります。ですから、いまのうちに製品の価値を構築しておかないと、将来的に勝ち残れません。中国メーカーの特徴について、コストが低い、あるいは品質が良いと言う人もいますが、私の考えは違います。彼らの真の強みは、順応するスピードの速さです。中国企業は、現地で流通している製品を凄まじいスピードで学び、コピーし、アレンジしてきます。だから、顧客が欲しい製品を素早く提供できるのです。Nanocoグループはカンボジアにも拠点を持っていますが、メインの市場はあくまでベトナム国内。だから、まずはここを守り抜かなければなりません。製品開発のスピードで中国勢に負けないよう、我々が顧客から直接拾った声をパナソニックに届けて、製品開発の参考にしてもらっています」(ルーンさん)

 

パナソニックも、製品開発のスピードを上げるよう取り組んでいる。これまではベトナムで販売する製品の企画を国外で行うこともあったが、2025年には企画開発から生産までを一気通貫でできる体制をベトナムのビンズオン工場で整えた。これにより、企画からリリースまでの時間が40%も削減されたという。

↑パナソニック・ビンズオン工場。新棟も竣工し、増産体制を整えている。

 

米中の貿易摩擦の影響で中国勢の進出が強まる

取材中、ルーンさんが中国メーカーのことを「北からの侵略者」と呼ぶ一幕もあった。それだけ、中国勢への意識が強いのだ。

 

「トランプ政権の誕生で、米中の貿易摩擦は再び加速するでしょう。そうなると、中国企業は米国を避けるようになるので、東南アジアへ進出する傾向が強まります。簡単な状況ではありませんが、パナソニックとの信頼関係を活かして、勝ち残っていきたいと考えています」(ルーンさん)

↑ルーンさんは終始、非常に流暢な英語を話していた。

 

一方の坂部さんは、高い目標を掲げている。ベトナム国内でも、日本と同レベルのシェアを獲得するという目標だ。

 

「パナソニックの当面の目標は、2030年までに、ベトナム国内で70〜80%のシェアを獲得することです。現状の50%という数字からすると高い目標ですが、可能な数字だと考えています」(坂部さん)

 

昨今、日本国内においても、中国メーカーの躍進は著しいものがある。彼らとの厳しい争いのなかで、日本企業が勝ち残るにはどうすればよいのか。ベトナムの地で続く、パナソニックとNanocoグループによる挑戦は、そのヒントを示唆するものになりそうだ。

ベトナムで“日本品質”を再現せよ!「配線器具シェア5割」パナソニックの躍進を支える「3つの道場」

私たちが日々暮らしているなかで、何気なく使っているコンセントなどの配線器具。普段の生活においては特に意識を向けない製品ですが、これらがない暮らしはもはや考えられません。

 

配線器具の世界トップシェアを目指してベトナムに注力

その配線器具の市場で、日本国内8割以上のシェアを獲得しているメーカーが、パナソニック(パナソニック エレクトリックワークス社)です。国内では向かうところ敵なしといっても過言ではない地位を築いている同社は、海外にも手を広げています。

↑パナソニック製配線器具のなかでも、次世代の標準モデルにあたるアドバンスシリーズ。

 

パナソニックの配線器具の世界シェアは、フランスのルグラン社に次ぐ2位。同社がトップの座を目指すにあたって、特に注力している国のひとつがベトナムです。人口が1億人を突破し、経済成長が著しいベトナム。1994年に同国へ進出したパナソニックの配線器具事業は着々と販路を広げ、現在では同国内のシェア5割を獲得しています。

↑ベトナムの大都市・ホーチミンの市街。高いビルも多く建ち、都会化が進んでいる。

 

パナソニックの製品がベトナムで支持を集めている要因は、日本で培った品質の高さです。急成長を遂げる国のなかで確かな存在感を放つ日本のものづくりと、ベトナムならではのユニークな特徴を、現地工場で取材しました。

 

「3つの道場」による手厚い研修で、高い生産性と品質を実現

パナソニックのベトナム事業の中核となっているのが、ビンズオンにある工場です。ビンズオンは、同国の首都ホーチミンから北に約30km離れたところにある工業都市。多数の企業の工場が同所に集まり、工業団地を形成しています。

↑パナソニック ビンズオン工場。

 

この工場が生産を開始したのは2014年のこと。タイのアユタヤ工場が2011年の洪水で水没してしまったことを受け、すでに販売網の構築が済んでいたベトナムに生産拠点を築こうとしたのが設立のきっかけでした。ビンズオン工場の創業開始から3年後の2017年には、パナソニックの配線器具は、ベトナム国内のシェア1位を獲得。ビンズオン工場は、同国におけるパナソニックの躍進を支える力の源になっています。

↑ビンズオン工場で製造されているコンセントやスイッチ。ベトナムのコンセントは、日本で使われているAタイプに加え、Cタイプも普及している。

 

ビンズオン工場の特徴は、日本の津工場から移植した信頼性の高いものづくりです。津工場から派遣された技術者が現地で指導を行うことで、日本と変わらない品質の維持を可能にしています。

↑パナソニック津工場で行われている金型のメンテナンス。高い技術力が要求される。

 

ビンズオン工場の工場長を務める内藤吉洋さんも、津工場でキャリアを積んできました。内藤さんによると「新しく入った従業員をいきなり製造ラインに入れることはない」といいます。この工場の新入社員は、1週間のOJT研修を経ることで、ようやく製品の製造に携われるようになります。

↑ビンズオン工場・工場長の内藤吉洋さん。

 

その研修の舞台となるのが「ものづくり道場」です。新入社員は入社後の1週間、この道場で製品や工程についての知識を学んでから、製造ラインに入ります。以前は安全関連の講習のみを行なって製造の現場に配属する仕組みでしたが、それでは生産性が上がらなかったため、新たにこの道場を設立したそうです。

↑ものづくり道場の内部。動画に加え、実技での学習を行う。左手に見えるテーブルでは、組み立てを実践しながら学ぶ。

 

ものづくり道場の設立による効果はてきめんで、従来では新入社員が現場で独り立ちできるまで12週間ほどかかっていましたが、6週間に短縮できたそうです。また、複雑な製品の組み立てにおいても、高い品質を保つことができるようになりました。

↑ブレーカーの組み立ての様子。ブレーカーは構造が複雑なため、ビンズオン工場のなかでも特に高い技能を要求される作業だという。片足をバーに置いて作業するのはベトナム人の特徴で、多くの従業員が同じ姿勢をとっていた。

 

ビンズオン工場で生産される製品の品質を支えているのは、ものづくり道場だけではありません。組み立て機の構造や過去の改善事例を学ぶ「技術道場」、安全の重要性を体感しながら学ぶ「安全道場」も設置されています。これらの道場が、パナソニックの信頼性を支えているというわけです。

↑各道場の看板には、ベトナム語、日本語、英語が併記されていた。ちなみに、安全道場は日本の津工場にも設置されている。

 

↑現場で起きた課題を付箋に書いてホワイトボードに貼り、改善策を検討する「大部屋」も部門ごとに設けられている。「工程が複雑すぎて組み立てづらい」「部品の欠品が多い」など寄せられる課題は様々で、月に85件程度の課題が可視化されているという。

 

働き者のベトナム人は、「もっと働きたい」と離職する人も多い

手厚い研修が求められるのには、ベトナムならではの事情があります。というのも、同国では全体的に離職率が高い傾向にあり、国全体の平均で2〜3%ほどの水準になっています。ビンズオン工場の従業員の離職率はそれよりも低い1.5%ではありますが、毎月20人程度の新入社員が入るため、十分な教育体制が欠かせないのです。

↑製品の梱包作業の様子。職場に響くのは機械の音のみで、従業員は黙々と作業していた。

 

離職率が高いと聞くと、ベトナム人は働くのを嫌がっている……と思われるかもしれませんが、実は全く逆というのも興味深いポイントです。離職の理由の上位には、なんと「労働時間が短くて稼げない」というものがあるのだそう。1日に12時間以上働きたいという人が多く、実際にビンズオン工場では2交代制の24時間操業を行なっているとのこと。

↑配線器具の組み立てと高電圧に耐えられるか否かの検査を行う機械。ビンズオン工場の自動化率は2022年には42%だったが、2025年には90%にすることを目標にしている。

 

ベトナム人が働き者であることを象徴するエピソードがもうひとつあります。それは、コロナ禍で街がロックダウン状態になったときのこと。そのときはビンズオン工場の生産も一時止まってしまいましたが、7割近い従業員が外部と隔離して工場に寝泊まりし、缶詰状態になってまで生産を再開したといいます。工場に寝泊まりするかどうかの判断は、従業員個々の自由。そこまでしての操業維持、しかも多くの従業員の意思による参加は、日本ではなかなか想像できないでしょう。

↑コロナ禍のころの写真。左には、工場内に布団を敷いて寝ている様子が写っている。

 

従業員は社員食堂にこだわりを持ち、サッカーに夢中

社員食堂に関するこだわりが強いのも、ベトナム人ワーカーの特徴です。内藤さんによると「食事への関心が高く、労働組合との折衝では食堂のメニューについての要望が出ることが多い」といいます。ベトナム国内では社員食堂を無料にしている企業が多いそうで、ビンズオン工場でも無料となっています。

↑社員食堂。4つのメニューから好みのものを選んで、事前予約するシステムになっている。工場が24時間操業であるため、食堂も1日中開いている。

 

また、ベトナムではいまサッカーが大人気。ビンズオン工場の従業員のサッカー熱も相当なもので、工場の敷地内にはサッカーコートが整備されています。従業員で構成されたチームが工場内に20もあり、社内だけでなく、他社のチームも含めた大会が開催されているそうです。内藤さんもこの大会に出たことがあるといい、「現地スタッフはサッカーになると本気で、ボールを持っていると工場長であろうが厳しく削ってくる」のだとか。

↑工場敷地内にあるサッカーコート。

 

現地ならではの光景をもうひとつ。ベトナムの街を歩いていると、道を行き交うバイクの数に圧倒されますが、それはこの工場でも同じです。敷地内のバイク駐輪場の光景は圧巻の一言。これも、日本ではなかなかお目にかかれないものでしょう。

↑多数のバイクが並ぶ駐輪場。道についているタイヤ痕は、安全の啓蒙もかねて社内で開催したバイクコンテストの際のものだ。ビンズオン工場では963人が働いているが、そのうちクルマで通勤しているのはわずか7名。近くに公共交通機関もないため、ほとんどの従業員がバイクで通っている。

 

2030年に80%のシェア獲得へ。生産力と技術力でライバルとの争いを制する

東南アジアに展開するパナソニックの配線器具の製造を長く担ってきたのは、タイのアユタヤ工場でした。アユタヤ工場では東南アジア向けにローカライズされた製品の開発を古くから行なってきたため、多くのノウハウが蓄積されています。

 

対するビンズオン工場は、これからの未来を担う存在です。現時点でもアユタヤ工場を凌ぐ生産力を誇るうえ、2024年1月には新棟が竣工し、増産体制が整っています。おまけに、敷地内にはまだ空き地があるので、さらなる規模の拡大も可能です。

↑竣工後1年あまりが経過した新棟。建物内には、まだ空きスペースがあり、増産の余地は大きい。

 

製品の開発についても、2025年にはビンズオン工場内で企画からリリースまで全てを行える体制が整う予定です。これにより、国外で企画した製品をビンズオンで生産する場合に比べて、リードタイムを約40%も削減できるといいます。

↑躍進するビンズオン工場だが、課題もある。ベトナム国内のサプライヤーの原材料品質が低いのだ。写真はコンセントの部品だが、この原材料である難燃性樹脂の品質には、特に問題があるという。そのため一部の原材料は、近隣国からの輸入に頼っている。

 

ビンズオン工場では、従業員の技術力も確実に向上しており、パナソニックの全世界の技術者を対象に行う社内の技能競技会では、工場設立から約7年でアユタヤ工場に並ぶ成績になりました。いまでは、全世界の工場のなかでも上位に入る水準になっているそうです。

↑技術道場で学ぶベトナム人従業員。バグが起きてしまった機械を修理する実践を行っていた。

 

ベトナムでパナソニックの配線器具を展開するパナソニック エレクトリックワークスベトナム社の坂部正司社長は、「ベトナムの需要にあった新製品の開発によって、2030年には同国内でのシェアを70〜80%まで伸ばしたい」と野心的な目標を語ります。同国でのパナソニックの配線器具事業が、2012年から2017年の間に3倍の成長を遂げてシェア1位を獲得するに至った過去を考えれば、それも不可能な数字ではないでしょう。

↑パナソニック エレクトリックワークスベトナム社の坂部正司社長。

 

東南アジアの配線器具市場にはライバルも多く、特に、不動産バブルが崩壊した中国のメーカーが数多く参入してきています。パナソニックがこれらのライバルを圧倒できれば、日本の製造業に勇気を与えることができそうです。

つくり手が語りかけてくる!? “神泡”体験だけじゃない、サントリー京都ビール工場見学ツアーの独自性

ユーミンの名曲「中央フリーウェイ」に登場する“ビール工場”といえば、「サントリー〈天然水のビール工場〉東京・武蔵野」のこと。この武蔵野のビール工場のほか、同社では京都と熊本・阿蘇でも工場見学を実施しています。うち京都工場はしばらくの間、リニューアルに向けて工事中でしたが、いよいよ改装を終え、4月15日から一般公開を再開しました。そこで筆者は京都工場を訪問。今回は見学内容の一部を紹介するとともに、東京や熊本の工場にはない、ここだけの体験もお伝えします。

↑「サントリー〈天然水のビール工場〉京都」。写真左手前のモニュメントは、1970年の大阪万博で、サントリー館のシンボルとして設置されていた「御酒口(みきぐち)」。なお、工場見学ツアーは要予約となっており、詳細を知りたい方は公式サイトをチェック。

 

 

所要時間約90分の工場見学ツアーに参加

京都工場へのアクセスは、阪急京都線「西山天王山駅」から徒歩で約10分。またはJR京都線「長岡京駅」からの無料シャトルバスに乗っても約10分で着きます。

↑「長岡京駅」西口バスターミナルの1番乗り場が、無料シャトルバスの停留所。ビール工場のラッピングが施されたバスなので、すぐにわかるはず。

 

工場見学の名称は、「ザ・プレミアム・モルツ おいしさ発見ツアー」。所要時間は約90分となります。到着したら、まずは見学受付の建物で10分弱のウェルカムムービーを視聴。こちらも今回リニューアルされたポイントで、“仕込”に使われる天然水を育む地元のロケーションや、工場でビールづくりに励むつくり手の思いなどが映像のメインテーマとなっています。

↑「ザ・プレミアム・モルツ おいしさ発見ツアー」は、ここからスタート。

 

「つくり手等身大モニター」は京都だけのコンテンツ

次は実際の仕込みなどが行われている巨大な工場へ移動し、ビールの素材についてパネルとモニターの映像を見ながら学んでいきます。全行程には案内係のガイドが付き添い、質問などにも答えてくれます。

↑ビールの主原料はそれぞれ、天然水、麦芽、ホップ(と酵母)。上部のモニターでは、「きょうと西山」の天然水がどのように育まれ、ビールの“仕込”に使われるのかなどを映像で紹介。

 

パネルには実際に醸造で使われている麦芽とホップも展示され、ホップは香りをかぐことができます。ちなみに、「ザ・プレミアム・モルツ」で使われているのは、欧州産の希少で硬い「ダイヤモンド麦芽」と、チェコ・ザーツ産の香り高い「ファインアロマホップ」です。

↑乾燥させてペレット状になったホップ(左)の香りを体感できます。

 

次はパネルのすぐ先にある、横幅約7.5メートルの大型モニターの前へ移動。これも新設されたものとなっており、“仕込”工程についてのムービーを視聴します。なお、製造工程の説明に加えて、つくり手が映像で登場するのもポイント。こちらは京都工場だけの見どころのひとつとなっています。これは「つくり手等身大モニター」と呼ばれ、ビールづくり細部へのこだわりを、つくり手の等身大映像を使ってリアルに伝えるもの。

↑大型モニターでは、「ザ・プレミアム・モルツ」に欠かせない麦芽を2回煮出す「ダブルデコクション製法」や、段階にわけてホップを投入する「アロマリッチホッピング製法」などを紹介。

 

「つくり手等身大モニター」は、工程別で6か所に設置。つくり手は各所3名、合計18名からランダムで登場するので、参加するたびに異なる話を聞くことができます。

↑この「つくり手等身大モニター」に登場しているつくり手は、「仕込担当者」。

 

“仕込”からパッケージングまで、工場ならではの臨場感を体験

大型モニターのすぐ後ろには巨大なガラス張りの仕込室があり、ここで実際の仕込に使われるタンクを見学。天然水と麦芽を混ぜ合わせ、でんぷんから糖へ分解して麦汁の素をつくる「仕込層(マッシュタン)」、麦汁のもとを煮出してビールの味に厚みをつける「仕込釜(マッシュケトル)」、麦芽の殻を取り除く「濾(ろ)過槽(ロイタータン)」、煮沸してホップ由来の香りや苦みを付与する「煮沸釜(ワートケトル)」、煮沸が終わった麦汁のなかの不要物を取り除く「沈殿槽(ワールプール)」がそれぞれ配置されています。

↑“仕込”工程を、「仕込槽」「濾過槽」「煮沸槽」「沈殿槽」で行っている。釜であるため、室内の温度はやや高め。

「仕込」の次は、「発酵」と「貯酒」。この大きな建物に隣接するようにそびえ立つ巨大な筒は、実は発酵タンクとなっており、そのサイズは1本直径6メートル、高さ20メートル。3階建てのビルが約12メートルなので、そのスケールの大きさに驚かされます。

↑発酵と貯酒は、通路の壁に仕込まれたグラフィカルなパネルと、「つくり手等身大モニター」などで解説。

 

ろ過はその名の通りですが、発酵と貯酒を経て熟成を終えたビールから、オリ(沈殿物)を取り除き、役目を終えた酵母を除去する工程。こちらは窓から室内をのぞく見学となりますが、タンクがたくさんのパイプでつながれている様子は、「いかにも工場」といった光景で、心が躍ります。

↑ろ過工程の部屋。

 

その後は新しく加わった品質管理についての紹介を見学。醸造されたビールは缶と業務用の樽に詰められ、缶は箱へと梱包されていきます(パッケージング)。ここでは三面からなる横長の大型スクリーンで流れを詳しく学び、その後は実際にフィラー(充填機)などが稼働している部屋を見学できます。

↑パッケージングラインを映した3面スクリーン。まるで参加者が缶になったかのような目線で製造ラインを体感できます。

 

↑中央右に見える機械がフィラーです。

 

お待ちかねの試飲! 注ぎたての“神泡”プレモルを3杯まで

製造現場の見学終了後は、受付をした建物内のゲストルームへ。そう、お待ちかねの試飲です! ここでは「ザ・プレミアム・モルツ」自慢の“神泡”をじっくり体験できるのがポイント。

↑ゲストルームのサービスカウンターには、新しくなった「ザ・プレミアム・モルツ」のロゴがキラリ。ここで注ぎのスペシャリストがサーブしてくれます。ちなみに、この日はCMでもおなじみ、ジャズ風にアレンジされたタッタタラリラでポンポコリンな曲も流れていました!

 

飲める銘柄は「ザ・プレミアム・モルツ」「同 〈ジャパニーズエール〉香るエール」「同 マスターズドリーム」が計3杯まで。なお、20歳未満の人には「サントリー緑茶 伊右衛門」や「なっちゃん」などのソフトドリンクが用意されています。

↑おつまみが2種付いてくるのもうれしいところ。

 

京都工場ならではのおもてなしとしては、オリジナルデザインが描かれたグラスや、京野菜を使ったおつまみ「京都 堀川ごぼうチップス」などを用意しているのがポイント。また、特別な機械で泡の表面に描かれる「神泡アート」も、独自のデザインが用意されています。

↑2杯目は「ザ・プレミアム・モルツ 〈ジャパニーズエール〉香るエール」。「神泡アート」のデザインは10種から選べます。今回は、工場外観のイラストをセレクト。

 

試飲に加え、ぜひ体験しておきたいのが「神泡セルフサーブ」。こちらはスタッフのレクチャーを受けながら、実際にサーバーからビールを注がせてもらえるコンテンツです。“神泡”品質でつくられたビール、それを丁寧にメンテナンスされたサーバーで注ぐとあって失敗の可能性は少ないですが、やはり極上の一杯が注げたときの感動はひとしおです。

↑自分で注いだビールは、おいしさもまた格別!

 

受付やゲストルームがある建物には、入口すぐの場所に「ブルワリーショップ」が併設されているので、お土産はここでゲットしましょう。京都工場にしかないロゴグラスや、タオル、アパレルなど、限定品もたくさんあります。

↑京都工場限定のお土産が買えるブルワリーショップ。

 

ちなみに、同工場と「サントリー山崎蒸溜所」の距離は近いので(JR「長岡京駅」の隣が「山崎駅」)、運よく両方が予約できればハシゴで見学も可能です。キンキンに冷えたビールがおいしい季節も到来し、万博で関西が激アツないま、サントリーの工場見学は要チェックですよ。

 

【DATA】

サントリー〈天然水のビール工場〉京都

住所:京都府長岡京市調子3-1-1
アクセス:阪急京都線「西山天王山駅」徒歩約10分、JR京都線「長岡京駅」西口より無料シャトルバスで約10分
営業時間:9:30~17:00(ショップは11:00~16:45)
定休日:年末年始、工場休業日(臨時休業あり)

 

「ザ・プレミアム・モルツ」おいしさ発見ツアー(要予約)

所要時間:90分
参加費:1000円 ※ファミリー向けコースを選択した場合、20歳未満は無料
※ツアー詳細は、ホームページをご確認ください。

 

パナソニックが恒例の保護犬猫譲渡会を開催。きっかけは空間除菌脱臭機「ジアイーノ」から

パナソニックは、4月12日と13日の2日間、東京・有明のTFTホールで「パナソニック保護犬猫譲渡会2025」を開催しました。今回で6回目となるこのイベントには14の犬猫保護団体が参加し、2日間で1794人が来場。202頭の保護犬猫たちが新しい家族との出会いを求めました。

 

今回筆者は、4月12日午後の保護犬譲渡会の模様を取材。さまざまな背景を背負った一頭一頭の物語や、参加している保護団体の思い、パナソニックならではの企画についてレポートします。

 

一頭一頭の物語に心を動かされる

一口に保護犬といっても、譲渡会に集まる犬たちにはそれぞれ異なる背景があります。野犬として生きてきた子、ブリーダーの飼育放棄により保護された子、猟犬として活躍していた子など、一頭一頭に物語があるのです。

↑譲渡会に参加した犬たちのプロフィール。保護に至った経緯はさまざまです。

 

茨城県で野犬を中心に保護活動をしている「いぬ助け」のブースにいた、ののちゃんという犬は、2024年10月31日に保護されました。10月20日頃に5頭の子犬を出産しており、その子犬たちとともに保護されたのです。子犬のうち3頭には里親が見つかりましたが、残りの2頭とののちゃんは、新しい家族を探しています。

 

ののちゃんは過去に罠にかかってしまったことから、左前足の指が欠けています。それでもがんばって歩こうとする姿には、胸を打たれるものがあります。

 

野犬は通常、動きが素早く、身体の大きな男性を苦手とする傾向があるそうですが、ののちゃんは近所の男性に餌付けをされて育ったため、警戒心が低いそうです。筆者がカメラを向けたときも、怖がることなく写真を撮らせてくれました。

↑ののちゃん。人懐っこくて吠えることもなく、かわいらしいです。

 

野犬が保護されてから、里親のもとに向かうまでの期間はさまざまです。早い子なら1か月程度で新たな家族のもとへ行けるようになりますが、野犬時代のトラウマを抱える子のなかには、3年もの間保護され続けているケースもあるといいます。いぬ助けでは、どうすれば犬たちにストレスをかけずに捕獲できるか、日々試行錯誤を続けているのだそうです

↑譲渡会場で犬を撫でるGetNavi webスタッフ。撫で続けていると、気づいた頃には長い時間が経っていました。

 

また譲渡会場のエントランス壁面では、新たな家族に出会い、幸せな日々を送る元保護犬猫たちの写真展が開催されていました。写真とともに語られるそれぞれのストーリーには、心を動かされるものがあります。

↑元保護犬猫の写真展。昨年まではパネルで展示されていましたが、今回はディスプレイに表示される形式に変わりました。

 

犬もチャリティーマーケットも全国から集まる

譲渡会場の一角に、元気よく走り回る犬が多くいるブースがありました。千葉県市川市を拠点に活動する「GUNDOG RESCUE CACI」です。この団体は、鳥猟犬に特化した保護活動を展開しています。積極的な性格な犬は、猟犬ゆえのものです。

 

ブースに近寄ると、ファンキーくんという犬が筆者に寄ってきました。ファンキーくんが千葉の動物愛護センターから保護されたのは2025年1月。猟犬である彼らを里親のもとに送り届けるには、家庭犬としての訓練をする必要があり、半年ほどのトレーニングを要するケースが多いそうです。ファンキーくんのように3か月で里親探しに移ることができる犬は稀有だといいます。

↑ファンキーくん。柵の外にいた筆者の足に、鼻をこすりつけてきました。

 

GUNDOG RESCUE CACIの特徴は、全国から広く犬を保護していること。というのも、猟犬を保護できる団体が少ないため、さまざまな場所から保護の要請がくるといいます。今回の譲渡会にも、福島県いわき市や、より遠くの秋田県で保護された犬が参加していました。過去には、九州から保護したというケースもあるそうです。

↑GUNDOG RESCUE CACIから参加した保護犬のプロフィール。右端のグルーヴくんはいわきで保護されました。

 

譲渡会と並行して開催されたチャリティーマーケットにも、全国からの出店がありました。能登や北海道など幅広い場所から店が集まり、犬猫に関するグッズが販売。またマーケットの近くには、前回まではなかったカフェスペースが新設され、猫を模したドーナツなどのスイーツが売られており、来場者の憩いの場所となっていました。

↑チャリティーマーケットで売られていた奥能登の塩。売り上げの一部が地震に被災した猫たちの医療費に充てられます。

 

セミナーブースでは、犬猫に関するさまざまな講演が開催されました。筆者が訪れたときには、ロイヤルカナンジャポン合同会社の高村悟史さんによる「知らなきゃ損!? ペットフードの栄養学について」が開催中でした。ロイヤルカナンジャポンは、犬と猫の”真の健康”を実現するプレミアムペットフードメーカーとして知られています。

↑セミナー会場では、多くの人が講演に聞き入っていました。

 

パナソニックならではの家電展示コーナーも

会場には、パナソニックならではの家電展示コーナーも設けられていました。その中心となっていたのは、空間除菌脱臭機「ジアイーノ」の展示。実はこの製品こそ、パナソニックが保護犬猫譲渡会を開催するきっかけでした。

 

パナソニックでは2021年から、社会貢献事業として動物保護団体にジアイーノを寄贈する活動を開始しました。そのなかで、保護団体からの「譲渡会を主催してほしい」という要望を受け、2022年から譲渡会を始めたのです。

 

今回展示されていたジアイーノ ペットエディションは、1時間風量を上げて運転するスピード脱臭モードを搭載。また、風量切り替え時には急に音量が大きくなってペットを驚かさないよう、ゆっくりと風量を増す工夫がされています。

↑ジアイーノの実力を体験できるコーナー。ペットフードの強い匂いも、ジアイーノを使えばまるで感じなくなります。

 

また、コンパクトモデルは通常モデルと同等の18畳の適用面積を持ち、排水は月1回のみでOKという利点があります。従来機種では週1回排水する必要がありましたが、電極の耐久性を向上させることで、メンテナンス頻度を大幅に減らすことに成功したそうです。

↑ジアイーノペットエディション(左)とコンパクトモデル。サイズの違いは歴然ですが、適用面積はともに18畳です。

 

掃除機コーナーには、マイクロミストにより目に見えない床の窪みにはまった細かな埃をしっかり吸い上げるMC-NX810KMがありました。本機は8万9100円(税込)という高価格ながらも売れ行きは好調で、特にごみ収集ドック付きモデルが人気とのこと。そのほか、根強い人気のペット用バリカンや、ミラーレス一眼のLUMIXも展示されていました。

↑MC-NX810KM。本機のマイクロミストは、フローリング以外にも、カーペットや畳など、あらゆる床面に対応します。本ブースでは、床面に散ったごみを吸い上げる体験も可能でした。

 

パナソニックのこうした活動は、年間1万2000頭以上の犬や猫が殺処分されている日本の現状を少しでも改善したいという思いから続けられています。今回の譲渡会に集った202頭の保護犬猫は、参加団体が保護している子たちのあくまで一部。すべての保護犬猫が、一日も早く新しい家族と出会い、幸せな生活を始められることを願ってやみません。