1億個が時速2万5千キロで浮遊…宇宙ゴミ(スペースデブリ)の脅威と地球規模の対策とは?

旧ソビエト連邦が1957年10月4日に人類初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げてからおよそ70年。人工衛星のおかげで日々の暮らしは便利で豊かになり、今では私たちの経済活動に欠かせない存在となっています。ところが今、人工衛星の打ち上げによる“宇宙ゴミ”(スペースデブリ)の数が増加していることが、世界的に問題になっています。

 

この問題について、長年スペースデブリを回収する研究に取り組み、技術開発も務める東京理科大学 創域理工学部 電気電子情報工学科 教授で、東京理科大学 スペースシステム創造研究センター センター長の木村真一さんに、現状や課題、解決方法などを教えていただきました。

 

小さな破片も衛星に穴を開けるほどの威力!
宇宙ゴミ(スペースデブリ)とは?

「スペースデブリとは、役目を終えた衛星や故障した衛星、衛星を打ち上げるために使われたロケットやその部品、破片など、コントロールされずに地球の周りを周回し続けている、不要になった人工物を指します。数mm程度の小さな破片から大型バスほどの大きなものまであります」(木村真一教授、以下同)

 

(イメージ)

 

スペースデブリはいったいどれくらいの数、浮遊しているのでしょうか?

 

「スペースデブリの数は、10cm以上のもので約2万個、1cm以上10cm未満は50〜70万個、1mm以上1cm未満は1億個を超えると言われ、宇宙空間を飛翔している人工物の約94%が、デブリです」

 

多くは1cm以下と微小ですが、その破壊力は凄まじいものです。

 

「広い宇宙、小さなデブリであれば問題ないだろうと思われるかもしれません。しかし、小さな破片でも致命的な打撃になる場合があります。
地球を周回するデブリは、秒速7〜8kmで飛翔しています。その速さは、ピストルの銃弾の約10倍。猛スピードで飛行する硬い塊が、もし稼働している衛星にぶつかってしまえば、太陽電池などの破損や、燃料タンクの爆発など、深刻な事態を引き起こす可能性があります。どんなに小さなデブリであっても、壊滅的なダメージをもたらす要因となってしまうのです」

 

地球を取り巻くスペースデブリのシミュレーション。デブリの分布を示している。©️NASA

 

衛星との衝突が原因?
スペースデブリが発生する原因

そもそもなぜ、デブリが発生するのでしょうか? その原因は主に2つあるといいます。

 

・衛星を打ち上げる一連の流れで発生するデブリ

衛星を打ち上げるためのロケットが宇宙空間で分離されたものや、ミッション遂行中に捨てられた部品、また、燃料が切れたり故障したなどの理由で役目を終えた本体も含みます。
近年は、民間が人工衛星を打ち上げるなど、宇宙開発が以前よりも身近なものになり、スターリンクを代表とする多数の衛星を活用した“コンステレーション”と呼ばれるサービスのように、人工衛星の利用の仕方が多様になることで、打ち上げられる衛星の数も増えています
衛星の寿命は、衛星の軌道や用途、設計などにより異なりますが、2年から10年ほどです。この寿命を終えた衛星は、近年では大気圏に突入させて軌道から取り除くように運用されていますが、不具合などで地球からのコントロールを失い、そのまま放置されるとスペースデブリと化します」

 

・衛星とスペースデブリの衝突

(イメージ)

 

「この衝突によって新たにできるデブリの発生は、広い範囲で軌道環境を汚染するという意味で深刻です。衛星同士がぶつかり合い爆発すると、破片が勢い良く飛び散ります。初速が加わることで、発生したデブリが元の衛星の軌道から大きく広がることになります。破片が広がれば新たな衝突を生み、さらに破片が増えるという悪循環に陥ります
2009年に、アメリカのイリジウム社の通信衛星イリジウム33号と、すでに使用されていなかったロシアの軍事用通信衛星コスモス2251号が衝突し問題になりました。この衝突によって、少なくとも数百個以上のスペースデブリが発生しました。
一方で、その衝突を故意に行う衛星破壊実験を中国が2007年に行い、飛躍的にデブリが増えた事例もあります」

 

もう衛星が打ち上げられない? 宇宙旅行も危険に?
スペースデブリが及ぼす影響

2021年には、実業家の前澤友作氏が日本の民間人で初めてISSに滞在するなど、一般人の“宇宙旅行”も夢ではなくなってきました。このままスペースデブリを放置するとどうなるでしょうか?

 

「スペースデブリが飛んでいる主な2つの軌道があります。『低軌道』と『静止軌道』です」

 

・低軌道

「地上から200kmから1000kmの範囲の軌道で、ISS(国際宇宙ステーション)や、インターネットを通信するための衛星コンステレーション、地球をさまざまな角度で観測する地球観測衛星などが打ち上げられる、もっとも多く使われている軌道です。
先ほど説明したように、低軌道には1億個以上ものデブリが周回しています。衛星とデブリが1km以内に接近するニアミスは、一日に数百回起きており、デブリを避けるための衛星の軌道修正も日に何度も行われている状態です。放置すれば猛スピードで周回するデブリの衝突により、さらにデブリが増え、地球を覆い、衛星の打ち上げもままならなくなるでしょう。持続的に宇宙開発を続けることが難しくなります」

 

・静止軌道

「これは地球から36,000km付近の軌道で、気象衛星や放送衛星などに使われています。地球の自転と同じ周期で公転する軌道です。同じスピードで動いているため衛星が止まっているように見えることから静止軌道と呼ばれます。広範囲で地球を定点観測でき、常に通信や放送を提供できることから、極めて有用性の高い軌道ですが、原理的静止軌道はたった1本しか存在しないので、このたった1本の“紐”を世界中で分け合って使っており、専門家の間ではすでにこの静止軌道の混雑も懸念されています。この静止軌道の近くで事故が起きると非常に深刻な事態が懸念されます。

 

また、低軌道であれば、デブリを大気圏に再突入させることで消滅させられますが、静止軌道から大気圏まで衛星を落下させるためには非常に大量の燃料が必要になるので、実際は困難です。そのため、役目を終えた衛星は、活動している衛星の邪魔にならないように静止軌道の外のいわゆる“墓場軌道”に移動させます。移動するだけなので処分されることなく、どんどんデブリが溜まっていきます。問題を先送りにしている状態のため、いずれは除去が必要になるでしょう」

 

宇宙旅行が現実化すれば、デブリ被害も増加?

最近ではアメリカの民家にデブリが直撃し、あと少しで人命に関わる事故になるところだった、というニュースが話題になりました。

 

「一般的に知られていないだけで、実はかなりの数のスペースデブリが落下しています。スペースデブリのほとんどは、大気圏に落ち燃え尽きるように設計されています。また近年では、運用されている衛星は、太平洋の真ん中など危険性の少ない場所に、軌道を制御することで落下させています
ただ、衛星によっては、一部燃えにくい部品を使用している場合もあり、また衛星が不具合などで制御を失うと、このように安全な場所に落下させることができなくなります。このように安全・確実に落下させることも、衛星の利用が盛んになるにつれて重要になってきます。これまでも、燃え残った衛星の残骸等が落下して損害を与えたという事故も発生しています」

 

(提供=東京理科大学スペースシステム創造研究センター)

 

宇宙旅行が実現する未来で、その影響に変化はあるでしょうか?

 

「人が搭乗する有人の宇宙船に対しても、デブリは人命に関わる深刻な問題です。すでにISSには小さなデブリが日々衝突し、機体にはでこぼこと穴が開いています。ISSは防護板で何重にも守られているため多少の穴は影響ありませんし、大きなデブリは追跡しているので事前に避けることもできます。しかし、数が増え制御できないほどになってしまえば、ISSで働く方々の命に関わってくるのです」

 

衛星の破壊によってインターネット通信が遮断?

(イメージ)

 

デブリによって衛星が破壊されると、どんな影響があるでしょうか?

 

「今や世界の経済は衛星によって支えられていると言っても過言ではありません。世界の大規模災害の予測や状況の把握にも衛星が使われています。通信や放送にも衛星が活用されています。それらの衛星がデブリによって次々と壊れることがあったらどうでしょうか。通信や気象、災害の監視など、さまざまな面で日常生活に関わっている宇宙技術が使用できなくなる可能性もあります
最近では、静止軌道に設置されている衛星の太陽電池パネルの出力が突然落ちたという事例も報告されています。詳細はわかっていませんが、恐らくデブリが衝突することによる影響ではないかと考えられています」

 

デブリを増やさず減らすために
世界と日本の取り組みとは?

 

地球環境の課題がなかなか解決しないように、国によってさまざまな考え方があるので、国際的な共通ルールを作ることは長い間、難しいと考えられていたといいます。

 

「しかし、2007年には、国際機関間スペースデブリ調整委員会(IADC)の提案に基づき、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)スペースデブリ低減のガイドラインが作成されました。運用中に放出されるデブリの制限や意図的破壊活動の回避、ミッション終了後に低軌道域に長期的に留まることの制限など、SDGsの目標のひとつである『つくる責任、つかう責任』が宇宙にも適用され、自主的に取り組むことが望ましい対策について制定されました。
また、2023年に広島で開催されたG7では、宇宙空間の安全で持続可能な利用を促進することについて首脳レベルでのコミットメントが表明されました。
スペースデブリの問題が世界共通の重要課題であると取り上げられることが増え、課題への意識が高まり、宇宙環境を改善する国際ルールが徐々に整いつつあります」

 

デブリを増やさない活動とは、具体的にどんなものなのでしょうか?

 

「デブリ対策には、これ以上数を増やさない取り組みと、現在あるデブリを減らす取り組みの2つの取り組みがあります」

 

・これ以上増やさない取り組み

「衛星打ち上げによるデブリ発生を減らすこと、また役目を終えた衛星をコントロールし、能動的に大気圏に落下させ消滅させる方法があります。
さらに、今ある衛星の寿命を伸ばしリユースする方法もあります。例えば、燃料が尽きデブリ化する衛星は、燃料がないだけで機体自体は問題なく使えることが多いです。ここで燃料をあらためて給油できるとしたらどうでしょう? 衛星の寿命を伸ばせます。打ち上げっぱなしだった衛星をメンテナンスし、再生できれば廃棄になる衛星の数も減ります」

 

・今あるデブリを除去する取り組み

(提供=アストロスケール)

 

「低軌道であれば、除去する方法は、デブリを大気圏で消滅させる方法でしょう。2021年に、日本の民間企業であるアストロスケールのデブリ除去技術実証衛星『ELSA-d』が、世界で初めて、デブリ除去の技術実証に成功しました。除去の際に必要となる高度な技術を実際に使って、デモンストレーションを行うもので、これまで世界に前例はありませんでした。

 

現在、同社は、商業デブリ除去実証衛星『ADRAS-J』のミッションを実施しており、デブリへの接近や周回観測等に成功しています」

 

もっと知っておくべき
スペースデブリのこと

ちなみに、私たち一般人でもスペースデブリ対策にできることはあるのでしょうか?

 

「ぜひ興味関心を持っていただきたいです。私がスペースデブリの研究を始めた20数年前は、まさか19時台のニュースで、スペースデブリ問題が取り上げられるとは思ってもいませんでした。しかし現在では宇宙の技術発展とともに、一般の方々の関心も高まりつつあります。
アストロスケール社を創業した岡田光信さんは、宇宙のホットトピックを調べているときにスペースデブリ問題を知り、軌道環境を保全していくことを決意し、現在の会社を立ち上げられました。そのとき、宇宙に関する知識も人脈もほとんどない状態だったそうです。今では、世界初の実証に成功し、除去分野での第一人者となっています。」

 

 

最初は自分には関係ないと考えていたスペースデブリのことも、何かのきっかけで急に関心が高まるかもしれません。皆さんが興味を持つことで、スペースデブリ問題を考えるきっかけになれば、同じように解決しようと思う方が増えるかもしれませんし、除去する支援をしてくださるかもしれません。ぜひみなさんには、宇宙をよりよい環境にしていくためにも興味関心を持って話題にしていただきたいと思います」

 

 

取材では、木村真一教授を初め、同席の関係者から口々に「スペースデブリについて興味を持っていただきありがとうございます」と、挨拶いただいたことが印象的でした。多くの人々に興味関心を持っていただくことが、将来の宇宙環境改善につながると話してくださった木村教授。わたしたちも、夜空の星を見上げながら「地球の外にはどんな世界が広がっているのかな?」を想像し、宇宙に考えをめぐらせてみませんか?

 

 

Profile

東京理科大学教授・東京理科大学 スペースシステム創造研究センター センター長 / 木村真一

1993 年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了、博士(薬学)。旧郵政省通信総合研究所(国立研究開発法人情報通信研究機構)をへて、2007 年から東京理科大学に勤務。スペースデブリの除去を実現する技術の研究にも従事し、技術試験衛星 VII 型や Manipulator Flight Demonstrationなどの多くの宇宙ロボット・小型衛星ミッションに参加するとともに、「IKAROS」や「はやぶさ 2」の監視カメラシステムなど様々な宇宙機器を開発。現在、宇宙居住について、地上技術と連携して進める、地上−宇宙 Dual 開発というコンセプトのもと、研究を展開している。
東京理科大学 スペースシステム創造研究センター

 

ばからしいからこそやれ! 防犯の常識を覆した実業家が語る、イノベーションの5つの秘訣

2023年2月、ものづくりに携わるプロたちが一堂に会するイベント「3DEXPERIENCE World 2023」が開催されました。そこで、一際大きな注目を集めたのが世界で活躍するイノベーターたちの講演。その中から今回は、世界初のwifi録画カメラ付きドアベルを開発し、ホームセキュリティのあり方を大きく変えたRing社のCEO、ジェイミー・シミノフ氏の講演を紹介します。現在そして未来のイノベーターたちに伝えたい、5つの成功の秘訣とは?

↑スピーチするRing社のジェイミー・シミノフCEO(画像提供/ダッソー・システムズ)

 

1: 他人に笑われることはイノベーターあるある

シミノフ氏が発明した録画カメラ付きドアベル誕生のきっかけは、自宅のガレージでした。

 

「我が家のガレージは裏手にあるため、来客があっても玄関のチャイムが聞こえません。いつも持ち歩いているスマートフォンで対応できたら便利だな、と思ったのがきっかけでした。そこで、自分で少々金属加工をしてカメラ付きのドアベルを開発したのです。妻にも好評でした」とシミノフ氏は語ります。

 

もともと家族のために作った発明品でしたが、そこから広がって2018年にはホームセキュリティ会社Ringを設立し、同年アマゾン社と提携。新進気鋭の起業家を紹介するテレビ番組Shark Tankでも紹介され、2023年にはスーパーボウルのCM進出も果たしました。しかし当初、周りの人は自分の研究にあきれた様子だったと言います。

 

「何かを真剣に開発している様子というのは、とてもばかげて見えるものです。他人に笑われるのは、イノベーターあるあるでしょう。僕も『君はドアベルなんて作っているのか?』と笑われたものです。当時ドアベルといえば、誰も気に留めない古ぼけた家の付属品でしたからね」(シミノフ氏)

 

2: 「誰もが知っている物を改良する」は成功率が高い

シミノフ氏は自分が成功した要因をどう分析しているのでしょうか?

 

「誰も気に留めないけれど、誰もが知っている物」を対象に選んだことが、成功した一因だとシミノフ氏は言います。「長く存在しているけれど注目されてこなかった物にイノベーションの光を充てるアプローチは、そうじゃないケースに比べて成功しやすいのです」

 

「台湾へ出張に行った際、多くの家で防犯用のスポットライトを設置していることに気づきました。そこで、ライトにカメラを追加したら防犯機能が格段にアップするだろうと思いついたのです。製造業者にデザインイメージがうまく伝わらず台湾に3~4回足を運ぶはめになりましたが、いまでは我が社の売れ筋商品です」と言うシミノフ氏。

 

「成功の秘訣は、『すでに世間に周知されている物・サービス』と『ばかげて見える発明』を掛け合わせること。僕は、誰でも知っているドアベルにテクノロジーをプラスしたことで大きな革命を起こすことができました」

↑「世間に周知されている物」と「ばかげた発明」を掛け合わせ生まれたRing(写真の製品は「Floodlight cam」。画像提供/ダッソー・システムズ)

 

3: ミッションを常に意識する

イノベーションを生み出すためには、発想法だけでは十分ではありません。

 

「イノベーターとして、自分のミッションはいつ何時でも忘れてはいけません。これは自分がRing開発に際して学んだことです。僕は自社製品が素晴らしいという自負がありますが、大事なのは商品じゃないのです。どんな世界を目指しているのか、というビジョンです」とシミノフ氏は熱を込めて話します。

 

「僕のミッションは、自宅近隣の犯罪率を下げることでした。単にカメラ付きドアベルを売りたかったのではなく、人々にとって意味のあるサービスを提供したかったのです。

 

大企業の役員たちを前に、プレゼンテーションを行った時のことです。僕は商品の性能は一切説明せず、この商品でどんな世界が実現するかを訴えました。『近隣の犯罪を減らし、ホームセキュリティの意義を変えられる』と。その結果、プレゼンが終わらないうちに『こんなプレゼンは初めてだ。君たちに投資しよう』と言ってもらえたのです。

 

我々の周りには常にあらゆる雑音があり、誘惑があります。売れるラインナップを増やすのは簡単ですが、それが本当に正しい判断なのか、いつも自身に問うべきです。売れる商品ではなく、消費者の生活クオリティを向上させるサービス・商品を提供する。そのミッションを貫くことで、長く愛されるブランドへと成長できるのだと思います」(シミノフ氏)

 

4: 高い目標と適度なストレス

情熱がほとばしるシミノフ氏ですが、ビジョンの描き方にはコツがあるようです。「僕が思うに、多くのイノベーターは目標が低過ぎます。絶対に達成できる目標なんて、つまらないでしょう。『不可能に見えるけど、必死にがんばれば何とか実現するかもしれない』くらいがちょうど良い。そうやって自分に負荷をかけて駆り立てることで、イノベーションへの道が開けるのです。

 

おいしいワインは、適度なストレスにさらされたブドウからできることをご存じでしょうか。水も肥料もたっぷり与えられ甘やかされると、ブドウは水っぽく味も薄くなります。もちろん枯れてしまうほど過度のストレスはいけませんが、適切なストレスをかけることで素晴らしい逸品ができるのです。

 

イノベーションやビジネスも同じことです。正しい方向に適切なストレスをかけることが、最高のイノベーションに繋がります」とシミノフ氏は力説します。

 

5: 顧客の声に全身全霊で向き合う

「商品開発にあたり、広く意見を聞くアンケートはおすすめしません。問題の核心がどこにあるのかがわかりにくく、方向性がぶれて収拾がつかなくなります。それよりも、実際に商品を使っている顧客の声にとことん向き合うべきだと思います。

 

Ringのパッケージには、僕のEメールアドレスが記載されています。顧客が何を求めているのか、真実の声を直接聞きたいからです。

 

例えば、今週(講演当時)販売開始となる車載カメラは、僕の発明ではなく、顧客の声から生まれた商品です。僕は車載カメラを商品化する予定は全くなかったのですが、『自宅の前で車上荒らしにあった』『近所で車の犯罪が多発している』といった意見に向き合う中で商品化に至りました。顧客の声は、商品開発において何よりも参考になる指標です」

↑情熱的なシミノフ氏の話に会場は盛り上がった(画像提供/ダッソー・システムズ)

 

近年のAIの台頭に、仕事を奪われるかもしれないと危機感を持つ人もいるでしょう。確かにAIはあらゆる業界において大きなインパクトを与え、イノベーションのスピードアップに貢献しています。しかし、シミノフ氏は以下のように力強く断言します。

 

「AIには、未来を形づくっていく力はありません。未来を変えるようなイノベーションを行えるのは、人間の、イノベーターの仕事なのです。僕たちが未来を創るのです。僕たちは、一緒に学び続けている仲間です。今日出会ったイノベーターから、プラットフォームから、たくさんのことを学んでほしい。同時に、あなたが世界の中心であること、あなたはユニークで素晴らしいことを絶対に忘れないでほしい。数年後、今度はあなたがこの舞台に立ち、どんなイノベーションで世界を変えたのかぜひ聞かせてください。それが私の願いです」

 

執筆者 / 長谷川サツキ

採用試験で学位は評価されなくなる!?「仕事」の近未来予測

現在、コロナ禍による社会の構造変化に伴い、ビジネスの世界は大きな変革期を迎えています。私たちの仕事はどう変わりつつあるのでしょうか? 官民協力の国際機関「世界経済フォーラム」の記事を参考にしながら、仕事の近未来について考えてみましょう。

↑私たちの仕事はこれからどうなる?

加速する大量退職と世界的IT企業のレイオフ

コロナ禍によるパンデミック終了後、労働者が職場に復帰することが難しくなっているといわれています。日々の生活が「通常」に戻った後、多くの人々が自分のキャリアを再評価し、仕事を辞める選択をするとの予測です。すでに米国では、テック業界とヘルスケア業界を中心に30~45歳のミドルキャリア世代で大量退職がトレンド化。企業にとって大きな痛手となっています。

 

その一方で、パンデミックに起因する景気減速により雇用が取り消されるなど、これまで成長分野とされていたテクノロジー企業のレイオフ(整理解雇)現象が加速しています。ここ2か月ほどで、世界的なIT企業であるツイッターやアマゾン、メタ(旧フェイスブック)も相次いで大量解雇を発表しました。業界構造やビジネスモデルの変化により、競争力や効率化を高めるために企業再編やビジネス再構築を目指すようになったのです。

 

新卒ではなく高スキル人材の採用へと舵切り

レイオフを行わない企業においても、従業員の生産性向上を求める動きが急速に高まりました。高度なデジタルスキルを持つ人材は世界的に不足しているため、人材獲得をめぐる競争も激化しています。

 

企業は競争力や効率化のために大規模な人員削減を実施した後、業界に関係なく、自社の収益に直接貢献できるデジタルスキルを持つ人材の採用を優先。短中期的な結果を出す必要性が増しているため、経験に裏打ちされたスキルがある人材の確保に積極的な姿勢を示しています。

 

こういった背景から目立ち始めたのが、新卒者の受け入れ減少。多くの企業が新卒者の未知のスキルや可能性に期待する姿勢をとらず、採用基準から学位を排除する動きが加速。熟練したデジタルスキルを持つ人材の評価を重視する採用へと、大きく舵を切りました。

 

そのため若者は社会に出る前に、現場でデジタルスキルの経験を積むことが必須となったのです。インターンシップや見習いプログラムなど、在学段階で仕事に直結した学習機会を受け入れることが求められています。

 

根底から変わる雇用形態や人材マネジメント手法

パンデミックによって仕事の形態は大きく変化し、リモートワークを活用すれば業界や国境を越えて働けるようになりました。デジタルテクノロジーの恩恵により、労働者が仕事を掛け持ちしたり、一度に複数の仕事に就いたりすることも可能になったのです。

 

米国労働統計局の調査によれば、現在点で最も若い労働者は生涯で12〜15の仕事をすると予測されるとのこと。そのため、企業も個人もより広くグローバルな視点で仕事を評価し、キャリアやスキルの流動性を見据えた働き方にシフトする必要があります。

 

また、ウーバーイーツなどデジタルプラットフォーム企業の台頭は、雇用のルールを根底から変えました。同社は世界中で約500万人のドライバーに仕事の機会を創出しており、同じ様に他社のデジタルプラットフォームを利用して生計を立てるフリーランサーも増加しています。

 

このように、企業と雇用関係を結ばず自らのスキルと知識で生計を立てる労働者は、今後も増える見込み。企業と労働者が共に支えてきたこれまでの雇用形態は、次第に弱体化していくでしょう。

 

企業が採用に取り組む手法についても、見直しが進むことが予想されます。従来のように人事部門が従業員を管理するのではなく、「人材」の戦略チームが人事ニーズを満たすといったマネジメント手法にシフトすると言われています。また、仕事のパフォーマンスを測定する分析ツールを活用し、職場が抱える人材の全体像を把握・評価するようになる可能性もあるそう。

 

もはや多くの企業は従業員がフルタイムでオフィスに戻る必要はないと考えています。パンデミック前の勤務形態が再現されることはなく、柔軟性がありバランスの取れた効率的な働き方が推奨されていきそうです。

 

デジタルスキルは雇用されるための必須能力に

デジタルテクノロジーの浸透は、仕事の世界に大きな変化をもたらしました。農業や製造、金融、さらにメディアまで、あらゆる分野でテクノロジー企業への転換が進んでいます。

 

こういった動きからもわかるように、より高い競争力を必要とする企業にとっては、優れたデジタルスキルを有する人材の確保が急務。国際的な流れとして、デジタルスキルは労働者に必須な「エンプロイアビリティ(雇用され得る能力)」になりつつあるのです。

 

これからの時代における「エンプロイアビリティ」は、コミュニケーション力など従来の「ソフトスキル」だけでは足りません。AIやロボット工学、デジタルトランスフォーメーションなどが職場に浸透するにつれて、熟練したデジタルスキルがますます求められるようになるでしょう。

 

執筆者/渡辺友絵

子どもと過ごす時間がAIで増える! 2023年以降のテクノロジーと世界予測

2023年以降、テクノロジーはさまざまな分野でどのように発展にするのでしょうか? 世界のエリートたちが出席するダボス会議を運営する世界経済フォーラムがまとめたレポート(※)を抜粋しながら、未来の姿を探ります。

※ Saemoon Yoon. 17 ways technology could change the world by 2027. World Economic Forum. 10 May 2022. https://www.weforum.org/agenda/2022/05/17-ways-technology-could-change-the-world-by-2027/

↑どんな未来が見える?

Web3.0の時代へ

1990年代、インターネットが普及し始めた初期にあたるWeb1.0は、発信する側と受信する側が固定された限られた人でした。それから、高速で通信できるようになり、2000年代半ばころから誰もが自分で発信できるようになっていったのが、Web2.0 と呼ばれる時代です。しかし、現在の主流のかたちであるWeb2.0は、利用するのに個人情報の入力の必要がありましたが、分散型インターネットと呼ばれるWeb3.0ではブロックチェーンなどの技術を活用して情報を分散管理するため、個人情報漏洩のリスクが低くなりセキュリティが向上すると考えられます。オンラインでの各種取引が一般的になってきた現代では、Web3.0がスタンダードになっていくと考えられます。

 

AIによって教育が劇的に変わる

インターネットの普及によって、遠方に暮らす子どもがオンラインで教師とつながることも可能になった現代。ここにAIの技術が加わることで、教育そのものに対する考えが一新されると言われています。例えば、子どもが学習している内容を基に、理解しているコンテンツや興味を持っている分野に合わせて、次の学習内容を提示。子どもたちはより効率的に学習できるようになるかもしれません。

 

また、教師や保護者にとってもAIは良い影響をもたらすと言われています。AIのアドバイスをもとに、子どもへ的確に学習のサポートを行い、煩雑なタスクを機械に任せることで、より子どもと向き合う時間を捻出することが可能になるでしょう。学校や家庭での教育のあり方も、これまでの常識とは変わっていくかもしれません。

 

アパレル製品の製造期間を劇的に短縮

イノベーションはアパレル業界にも大きな変革をもたらすと考えられます。これまでアパレル業界で課題だったのが、過剰な生産による大量の廃棄・返品が生まれていること。製品が余るとセールで値下げして、利益率が低下することになり、メーカーにとってうれしいことではありません。これを解決するためには、オンデマンドで必要な分だけを生産できれば良いのですが、現在の製造モデルでは、注文から実際に製品ができあがって販売するまでに数か月の時間がかかるうえ、近年ではサプライチェーンの混乱も問題に。しかし、これからは実際のサンプルを制作する必要がない3Dモデリングや、パターン(型紙)を作る工程が不要な3Dプリンターの導入など、アパレル製品の製造にデジタルテクノロジーを活用すれば、数か月かかっていた製造の期間を大幅に短縮できると考えられています。必要な分だけを短期間で製造することで、不要な廃棄を減らし、サプライチェーンでの温室効果ガス排出量の削減などにもつながると期待できます。

 

不妊治療にAIを活用

さまざまな分野で活用が始まっているAIは、不妊治療にも活用されていく模様。2030年までに不妊に悩まされいる人は、世界で10億人以上に上っていると予測されています。そして、不妊治療で一般的に行われる体外受精は、コストが高いうえ、何度も試みることになると、治療を受けるカップルにとって大きな負担となります。そんな体外受精へ進むときの意思決定が、医師の判断に依存しているなか、AIの力を借りようというのです。さまざまな条件から、どのような治療法が最適なのかをAIが判断しアドバイスすることで、より成功率が高まり、治療を受けるカップルの負担を減らせる可能性があるのです。

 

先進国はもちろん、途上国の経済発展にも欠かせないこれらのテクノロジー。ひと昔前にはインターネットが存在しなかったのに、今日ではスマートフォンを使って、誰もがいつでもネットにアクセスできるようになり、生活スタイルが一変しました。それと同じように、今後も各種のテクノロジーが私たちの生活を大きく変えていくことになるのは間違いないでしょう。

人の縁は匂いと関係する。2022年に科学でわかったこと

科学の世界では2022年もさまざまな発見がありました。私たちの身近な事柄に焦点を絞りながら、この1年間に取り上げた研究を振り返ります。

↑2022年も新しい知識が生まれた

「男性外科医×女性患者」の組み合わせは危険!?

患者と外科医の性別の組み合わせと手術結果の関係について、カナダのトロント大学の研究チームが調べました。手術後に合併症などの“異変”が起きた確率を調べると、「男性外科医×女性患者」の組み合わせが最も多いことが判明。この組み合わせの場合、手術後30日間に死亡する確率が32%に上がっているのです。もちろん、手術結果には医師と患者のコミュニケーションや前後のケアなど、さまざまな要因が関係するもの。とはいえ、この問題は今後も調査が必要かもしれません。

 

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手術後の死亡確率が32%も高い! 実は危険かもしれない「男性外科医×女性患者」の組み合わせ

 

「AIが作った顔」は本物より信頼しやすい

「GAN(敵対的生成ネットワーク、Generative adversarial networks)」と呼ばれる画像生成AIプログラムが、人には判別できないほど巧妙で本物に近い人の画像を作れるようになってきています。カリフォルニア大学バークレー校の研究チームは、400人分の顔写真を見せて、本物かGANが作った偽物の画像か判別できるかテストを行いました。その結果、正解率は48.2%と50%を下回る結果に。しかも顔写真を見て「信頼できる度合い」を7段階で評価したところ、実在する人物のほうが低く評価され、逆に最も信頼できると評価された人はすべてAIが生成した偽物の顔だったのです。AIは平均的な顔を作るため、信頼しやすく感じられるのかもしれません。

 

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されど8%。「AIが作った顔」は本物より信頼しやすいことが判明

 

スッキリ起きるために最適な「目覚まし音」

毎朝気持ちよく起きるためには、目覚ましにどんな音を設定すればいいのでしょうか? そんな疑問に答えるために、オーストラリアのロイヤルメルボルン工科大学の研究チームがさまざまなアラーム音で目覚めて、眠気レベルなどを評価する実験を行いました。その結果、楽曲などのメロディータイプで目覚めると眠気を感じにくく、逆に警告音で目覚めると脳の活動が混乱する可能性が判明。朝が苦手な人は、強い音で目覚ましを設定しがちかもしれませんが、それでは逆に眠気を増しているのかもしれません。

 

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1日のスタートが変わる! スッキリ起きるために最適な「目覚まし音」とは?

 

魚は計算できる生き物だった

簡単な計算をできるのは、ごく一部の動物に限られていると考えられていますが、魚にもそんな能力がありました。ドイツのボン大学の研究チームの実験で、対象となった魚は、これまでに物の数を見分けることがわかっていたアカエイと熱帯魚のシクリッド。青色と黄色の絵を見せて、青なら「1を足す」、黄色は「1を引く」というルールを覚えさせていくと、アカエイもシクリッドも、1を足したり引いたりすることができたのです。物のかたちや数を認識しながら計算するのは複雑な思考能力が必要。魚は高度な能力がないと過少評価されてきましたが、実は私たちが思っている以上に賢い生き物なのかもしれません。

 

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賢い生き物だった! 魚は計算できることが判明

 

「起業家」の顔のパターン

世界中の起業家の顔を解析したキプロス大学の研究チームによると、起業家の顔にはある特徴が見られることがわかりました。それは、頬骨が隆起して左右対称であること。これは、先日ツイッターを買収して話題になったイーロン・マスクにも当てはまります。ただし、この共通点とビジネスの成功には関連性がないことも判明。つまり、起業家に近い顔の持ち主だからといって、必ずしも起業して成功するとは限らないようです。

 

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イーロン・マスクにも共通点あり!起業家の「顔」にはパターンがあった

 

71%の確率で「同じ匂い」がしたら友達になる

人と初めて出会ったとき「すぐに打ち解けた」「なんだか仲良くなれる予感がした」なんて経験はありませんか。イスラエルにあるワイツマン科学研究所の大学院生は、「動物が相手の匂いを嗅ぐように、人は無意識のうちに他人の匂いを嗅いでいるのではないか」という仮説を立てました。そして、短期間で友人になった同性のペアを対象に、匂いのサンプルを集めて比較。このサンプルを機械と人で判定したところ、友人同士は同じような匂いを持つことがわかったのです。私たちは似たような匂いを持つ人と積極的に交流しており、その正確性は71%にもなるそう。人は動物のようにあからさまに匂いをくんくんと嗅ぎまわることはしませんが、無意識で匂いを嗅いで判断材料にしているのかもしれません。

 

【詳しく読む】

同じ「匂い」がしたら友達になる。当たる確率は71%!

 

2023年もビックリさせるほど面白い発見が生まれることを期待しましょう。

テクノロジーによる管理が浸透! 2022年のサステナビリティ

コロナ禍で3年目を迎えた2022年も、世界各国ではサステナビリティやSDGsの動きが進みました。この1年間取り上げてきたさまざまな記事の中から、北京冬季オリンピックをはじめ、都市再開発やカーシェアリング、フードマイレージの取り組みについて改めて振り返ります。

↑世界はサステナブルになった?

【中国】冬季“グリーン”オリンピックへの挑戦

近年のオリンピック・パラリンピックは環境への配慮だけでなく、大会を通じて持続可能な社会づくりを推進する場となっています。2022年2月に開催された北京冬季オリンピックも、「低炭素エネルギー・低炭素会場・低炭素交通」という三本柱の「グリーン・オリンピック」の実現に挑戦。会場のあちこちで、二酸化炭素排出を抑えるためのさまざまな工夫が見られました。

 

前年の東京オリンピックではメイン会場の国立競技場を建て替えましたが、北京冬季オリンピックでは2008年夏季大会のメイン会場だった「北京国家体育場(通称「鳥の巣」)」を再利用。改装を施しただけで使い、建物の周りに張り巡らされた発電ガラスはソーラーパネルの役割も果たしました。水泳会場も建て替えず、冬はカーリング、夏はプールとして使えるように工夫した改修を行っただけでした。

 

会場の低炭素化への取り組みで特に注目を集めたのが、排出された二酸化炭素を冷却材として再利用できる製氷技術。会場の氷上温度差を常に0.5℃以内にコントロールすることで、選手たちのパフォーマンス効果を上げるように設計されています。

 

敷地内の移動には電気自動車だけでなく1000台以上の水素自動車を投入。北京オリンピックにおける新エネルギー車の利用率は85%以上になるなど、「低炭素交通」の実現にも踏み出しました。

 

【詳しく読む】

中国の大奮闘! 北京冬季オリンピックに見る「低炭素化」への取り組み

 

【都市再開発】ミラノ市のゼロカーボン・ロジェクト

イタリアのミラノ市はサステナブルなまちづくりを目指し、3つの都市再開発プロジェクトに乗り出しました。同プロジェクトの「リネスト」は、旧鉄道の貨物ターミナルだった約7万平方メートルの敷地に約400戸の住宅と約300戸の学生住宅を建設。再生可能エネルギーで稼働させ、2050年までにゼロカーボン化を目指します。

 

注目を集めているのが「第4世代地域暖房(4GDH)」のシステム開発で、自然エネルギーや廃熱を利用した温水を建物の給湯や暖房に使うのが特徴。雨水を再利用してかんがい用水として使用するほか、CO2吸収に向けて周辺地域面積の60%を緑地化する方針です。

 

旧鉄道エリアに約90戸の集合住宅を建設する「ボスコナヴィリ」プロジェクトは、屋根を太陽光発電パネルで完全に覆い地熱エネルギーを利用するように設計。住民共有の電動自転車とスクーターを設置することでCO2の排出を抑え、 樹木や植物で敷地を囲みCO2を吸収します。雨水を再利用する自動かんがいシステムも導入される予定。

 

さらに、同地区の旧ポルタ・ロマーナ駅エリアには、2026年に開催される冬季オリンピックの選手村を建設し、大会終了後には学生用公営住宅に変える予定です。

 

イタリア最大の都市再開発プロジェクトとされる「ミラノセスト」は、150万平方メートルの広大な旧工業地帯を持続可能な都市へと再生させるもので、タワーオフィスや商業施設、ホテル、病院などが建設されます。サーキュラーエコノミー(循環型経済)の考え方をもとに建物用の資材や原材料を決めているほか、対象地域全体に1万本の木を植える予定。緑地化により年間48トンのCO2が吸収され、歩道橋の上に設置した太陽光発電パネルによって利用量の半分を再生可能エネルギーで賄います。

 

【詳しく読む】

冬季五輪の選手村は学生向け住宅に。ミラノが挑む3つの「サステナブル住宅プロジェクト」

 

【カーシェアリング】ドイツで進む「乗り捨て型」

ドイツでは都市部を中心にカーシェアリングが急速に広がっています。人気の理由は、出発したステーションに返却する必要がない「乗り捨て型システム」。駐車禁止の標識が置かれた場所以外は、市内路上の駐車エリアでの乗り捨てが可能なのです。

 

カーシェアリングのプロバイダーと各自治体が連携したため、路上でなく有料の駐車場に乗り捨てた場合でも料金は無料。環境や交通量の面から少しでも自家用車の保有を減らしたいと考えた自治体が、カーシェアリングを推奨するようになりました。

 

24時間年中無休で月額料金はなく、利用代金は1分あたり0.09ユーロ(約13円※)から。数分でも数日でも利用可能で、事前にアプリで予約すれば指定の場所まで届けてくれます。

※1ユーロ=約146.24円で換算(2022年12月16日現在)

 

一般的にドイツ人はエコ意識が高いため、プロバイダーはCO2を排出しないゼロエミッションカーの導入に積極的。これらのクルマはカーシェアリング市場の23.3%を占め、中でもバッテリー式電気自動車が多く利用されています。このように、乗り捨て型カーシェリングはユーザーの利便性を実現した環境負荷を低減できるものなのです。

 

【詳しく読む】

ドイツのカーシェアリングは「乗り捨て型」が75%! もはや都会暮らしには不可欠の存在に

 

【フードマイレージ】ロンドン発、未来の食料供給法

ロンドンでは、フードマイレージ(食料が生活者に届くまでの輸送距離)をとことんカットした都会育ちの野菜が注目を集めています。スタートアップ企業がロンドン市内で貨物コンテナを使った未来型の「垂直農園」に着手し、食品輸送で発生する排気ガスの大幅抑制につなげています。

 

「Vertical farming(バーティカル・ファーミング)」と呼ばれる垂直農園は、未来の食料供給法としても注目を浴びています。垂直に積み上げた階層構造の室内で、AIによって光・温度・養分などを細かくコントロールされた環境下で農産物を育てることが特徴。

 

従来の農業とは異なり、天候に左右されず、限られたスペースで、農薬を使わずに1年中効率よく栽培できるのが大きなメリットです。水の使用量も非常に少なく、照明などの電源も太陽光や風力といった自然エネルギーで賄うことができ、栽培にかかる資源を最小限に抑えることができます。レタスやバジルなどの葉野菜やハーブが中心で、収穫後24時間以内にEV車や自転車によって注文先に届けられます。

 

すでに老舗百貨店やミシュラン星レストラン、高級青果店など、多くの高感度ショップへの卸売りを展開。大手スーパーからの問い合わせも相次いでおり、宅配サービスを利用する個人のサブスクリプション契約も人気。新鮮かつサステナブル、そして配達方法もエコな無農薬野菜というアイデアは、ロンドン市民の関心を集めているようです。

 

【詳しく読む】

貨物コンテナの活用で都市を変える! ロンドンで拡大する「垂直農園」

 

各国における最近のサステナビリティ施策を見ると、新たなシステム運用やAIの活用など、デジタル技術が浸透していることがわかります。その一方で、人が重視する利便性やエコ意識を利用した取り組みも進んでおり、この両輪を活用することが持続可能な社会の実現につながるのだということを改めて感じます。

弁当こそ日本の芸術文化! 世界105か国に「ベントー」を届ける京都のフランス人

観光立国として日本が世界に誇れる物は何があるのか? 普段の日常生活に溶け込んでいる独自の文化や慣習の中に埋もれている物はまだまだ存在しているはずであり、日本各地で受け継がれている伝統文化の中から世界に羽ばたく商品が出現してくる可能性も秘められていることでしょう。日本人にはありふれた物であっても、外国人には新たな驚きや感動を与えることがあるからです。

↑取材に応じてくれたBento&coのフランス人スタッフの方

 

その一例が京都市にありました。2008年から弁当箱専門店「Bento&co」が、日本在住のフランス人らにより運営されています。現在までに世界105か国から注文を受けており、伝統的な曲げわっぱや、華やかな和柄が散りばめられた弁当箱など、日本独自の魅力に加えて、外国人の視点でどのようなデザインや形状が海外で喜ばれるかを思案した商品ラインナップが展開されています。日本人の視点からは当然のものと思われてきた弁当文化にビジネスチャンスを見出した外国人ならではの発想とも言えるでしょう。

 

数年前に筆者は、日本の観光業および文化に造詣が深い安田彰氏(※)と日本の弁当文化に関して議論したことがあります。欧米に在住経験もある安田氏は、日本が海外に誇れるユニークな物の中で弁当の右に出るものはないと大絶賛。筆者自身も過去に外資系企業に長年勤務し、外国人が日本の弁当に驚嘆する場面に幾度となく遭遇しました。多彩なレシピや盛り付けはもちろん、箱に詰められた日本人独自の感性や美意識、さらに器においても実用性や芸術性が追求されてきた弁当は、日本の盆栽や生け花にも通じる小空間におけるこだわりが散りばめられているのです。

※安田 彰(やすだ・あきら)氏:株式会社JTB取締役、アメリカ法人JTB Americas副社長、JNTO(現・日本政府観光局)理事、亜細亜大学経営学部教授を歴任

 

海外にもランチボックス文化は存在しており、会議の合間や旅の移動時間などの特別な状況でしばしば見られます。しかし、日本の弁当文化は日常生活の中により深く根ざしており、私たちは特別なイベントや旅行に加えて、日常生活でコンビニや弁当専門店などを利用するとき、創意工夫が凝らされた多彩なレシピや容器を選ぶことができます。日本に住んでいれば、さまざまな場面で遭遇する弁当や弁当箱に着目し、母国を含めて海外に紹介したいと考えるのは、日本のライフスタイルに感動した外国人の発想としては当然のことなのかもしれません。

↑外国人観光客の間で人気が高い弁当箱の一つ

 

日本の弁当には、現代に至るまで非常に長い歴史があり、平安時代前期に紀貫之が書いた『土佐日記』の中にも「破籠(わりご)」と呼ばれる、現在の弁当箱に相当する容器が登場しています。また、著名な十字仕切りのある松花堂弁当は、江戸初期の文人、寛永の三筆の一人である松花堂昭乗に由来しているとされており、日本の名料理店「吉兆」の創始者・湯木貞一によって現在の形に昇華されました。普段の生活の中で何気なく使っている弁当箱は、長い歴史を経て多種多様な形に発展してきましたが、その過程で実用性に加えて器に彩りを添える文化が育まれてきたのです。

 

はるか昔から日本の食文化の中で重要な位置を占め続けてきた弁当。観光立国を目指すこの国にとって、弁当は私たちの代表的かつ外国人にとって魅力的なライフスタイルであることを、京都の弁当箱専門店は示唆しているのです。

 

【12/11は国際山岳デー】世界で4000万人以上のユーザーを誇る「オールトレイルズ」とは?

12月11日は、「International Mountain Day(国際山岳デー)」です。山や森林でのトレッキングやハイキングは世界中で親しまれているアウトドアですが、知らない場所へ行くときの下調べが面倒という人もいるかもしれません。しかし、最近は便利なアプリが増え、簡単にさまざまな登山・散策ルートを検索できるようになりました。なかでも登山・ハイキング検索アプリ「AllTrails(オールトレイルズ)」は優れていると評判で、アメリカで大人気を博しています。一体どのようなアプリなのでしょうか?

↑登山やハイキングの相棒

 

アメリカ生まれのオールトレイルズは、アウトドアの初心者から上級者までが使えるオールラウンドなアプリです。まず驚かされるのが、網羅されているトレイル(登山やハイキングのルート)の数の多さ。2022年11月時点で240か国にもわたる35万か所以上のトレイルが検索可能で、近所の遊歩道から誰もが知っている国立公園まで幅広く掲載されています。だからこそ、世界中に4000万人を超えるユーザーがいるのですね。

 

アプリを開くと、トレイルの簡単な説明や写真、地図、距離や高低、難易度などの基本情報が表示され、その中から自分に合ったトレイルを探すことができます。現地の天気や気温、紫外線強度、日の出や日没の時間もチェックできるため、暑さ・寒さ対策やルートの時間配分などに役立ちます。

 

歩いているときはGPSをオンにすれば、トレイルの外に出てしまうこともありません。トレイルの入り口へ向かうためのクルマの運転ルートも表示されるので、不案内な場所でも迷わないでしょう。

 

特定条件を満たすデータを絞り込んで抽出するフィルター機能も充実しています。ハイキングやジョギング、サイクリングなどのアクティビティー別に加えて、ルートの距離や難易度でも検索できるので、自分がやってみたい内容や体力に合ったトレイル探しが可能。子ども向きか、犬を連れて行けるか、車椅子でも利用できるか、などの条件を絞り込んで検索することもできます。

 

現場の情報が充実

↑近くにあるトレイルや地図が表示される

 

アプリが示すトレイルを実際に試してみた人のレビューや写真が数多く掲載されていることも、オールトレイルズの魅力。例えば、休日は人が多いとか、雨上がりには道がぬかるんでいるなど、基本的なデータからではわからない現場の情報が入手できるのです。

 

お気に入りのトレイルの保存や、自分が歩いた距離・時間の記録も可能。フェイスブックやインスタグラムなどのSNSに写真を投稿したり、本アプリを利用している他のユーザーをフォローしたりして、登山やハイキングの体験を共有するのも楽しそうですね。

 

有料版はさらに心強い

オールトレイルズは無料でこれらの機能を使うことができるので、普通のハイキングを楽しむには十分です。ただ、いざというときなどのために有料のサブスクリプション版(月2.5ドル〔約340円※〕)の「オールトレイルズ・プロ」もあり、次のような機能がついています。

※1ドル=約135.9円で換算(2022年12月9日現在)

 

  • 地図をダウンロードしてインターネット接続がない地域で使える
  • 道を間違えるとオフルート通知が携帯の画面に現れる
  • 天気や空気の質、花粉の状況などトレイルのリアルタイムの情報が表示される
  • トレイルに出掛ける前にバックアップ用の地図を印刷できる
  • 「ライフライン」という機能を通じ、事前登録した連絡先に予定ルートの詳細地図や状況更新などの情報を提供できる

 

特にライフラインは、一人で出かけるときや山岳地帯などを歩くときに役立つ機能です。登録先の家族や友人と計画や場所を共有できるうえ、予定より到着が遅れた場合には知らせが届く設定になっています。万が一のためにダウンロードしておくと、単独で難易度の高い山などに挑戦する人は心強いでしょう。なお、サブスクリプション料金の1パーセントは環境保護のために使われます。

 

無料で手軽に使えるオールトレイルズは、このように便利な機能が満載。アウトドアを楽しみたいという人は試しにダウンロードして、近隣の公園や遊歩道などから試してみてはいかがでしょうか?

スマホみたいに一人一台所有する時代に!? 日本とアメリカのテレビ事情

若い世代を中心にテレビ離れが起きている今日、11月21日の「世界テレビ・デー」を知る人は少なかったかもしれません。この日は、現代におけるコミュニケーションとグローバリゼーションの象徴としてテレビを祝う日でしたが、現代ではNetflixやYouTubeなどの動画配信サービスのほうが、それらを象徴しているようにも思われます。

↑テレビはつけるけど、見るのはネトフリ

 

しかし、だからといって、テレビが消えるわけではありません。アメリカと日本を調べてみると、むしろテレビは、動画配信サービスと融合しながら今まで以上に大きくなり、一人一台所有する時代になりつつあるかもしれないのです。日米のテレビ事情を比較しながら見てみましょう。

 

動画配信サービスを視聴するためのテレビ

ある2021年度の調査によれば、アメリカ人のテレビ視聴時間は1日当たり2時間51分、日本人は2時間26分でした。これだけ見ると、日米間であまり差はないようにも思われます。

 

しかし、リサーチ会社・DataReportalによれば、パソコンやスマートフォンといったデバイスでの視聴時間を含めると、アメリカ人の視聴時間は7時間4分まで増えるとのこと。日本は4時間26分で、アメリカ人のほうが毎日約2.5時間も多くメディアを視聴していることになります。

 

一方、テレビ番組を毎日視聴しているアメリカ人の割合は約80%なのに対して、日本人は76%。どちらの国でも8割近くが毎日テレビを見ているものの、若い世代のテレビ離れの影響で、その数は徐々に減りつつあります。

 

アメリカにおけるテレビ視聴率の最盛期は1990年代で、2000年代に入るとデジタル社会化が進み、動画配信サービスやオンラインストリーミングが台頭。今日ではテレビ番組を毎日見ている人の半分以上が、55~64歳という比較的高齢の世代です。若い世代はNetflixやAmazon Primeなどの動画配信サービスを視聴するために、テレビをつけるようになりました。

 

より大きく

↑大画面に没入

 

「大きいことが正義」という価値観を持つ人が多いアメリカでは、テレビのサイズも例外ではありません。2018年時点では日本のテレビの平均サイズが37インチだったのに比べ、アメリカの平均サイズは47インチでした。その後、世界を襲ったコロナの影響で人々は自宅で過ごす時間が増加し、どちらの国でもより大きいサイズに買い替える動きが顕著になりました。

 

2022年の現在、アメリカ人が購入するテレビサイズの平均は53.6インチにアップ。売れ筋は65インチで、今後さらに大きなサイズへと移行していくことが予想されています。

 

日本でも2022年の買い替えで最も多く売れているのが55インチと、4年前に比べて18インチも拡大。特に動画配信サービスの視聴を目的に購入する人の60%が、50インチ以上のテレビを選んでいます。

 

内閣府が行った2022年度の消費動向調査によれば、日本の単身世帯では約1.5台、2人以上の世帯では2.16台のテレビが自宅にあるそう。一方、アメリカの1世帯当たりの平均は2.3台で、リビングルームに置かれているケースが最も多く、次いで親の寝室となります。

 

両国の1世帯あたりのテレビの保有台数は近いかもしれませんが、さらに見てみると、アメリカ人の31%が自宅に4つ以上のテレビがあります。しかし、日本では1世帯あたり4台所有している割合が4%、5台以上所有では2%と、アメリカとの違いが見られました。スマホやクルマと同様に、アメリカではテレビも一人一台の時代になりつつあるのかもしれません。

 

スポーツ vs ニュース

↑スポーツ観戦が好きなアメリカ人

 

映画やドラマには、ビール片手にテレビでスポーツ観戦するアメリカ人がよく登場しますが、実際、アメリカで最も多く視聴されているテレビ番組はアメリカンフットボールです。

 

なかでも、アメリカ最大のスポーツイベントであるNFLのチャンピオンを決める「スーパーボウル」の視聴率は、2012年以降10年にわたって年間1位を記録し続けています。マーケティングリサーチ会社Nielsen Holdingsによると、2022年2月の試合では平均視聴世帯数が4,500万世帯で、テレビのある家庭の72%がスーパーボウル番組にチャンネルを合わせていました。

 

一方、CCCマーケティング総合研究所のアンケート調査によれば、日本で最もよく視聴されているジャンルはニュースや報道番組、次いでバラエティ、情報番組とのこと。スポーツは9番目で、アメリカと日本で好まれるジャンルに違いがあることが見て取れます。

 

1993年に国連総会で世界テレビ・デーが決議されてから、もうすぐ30年が経ちます。その間にインターネットが目覚ましく台頭し、テレビを取り巻く環境が大きく変わりました。近年ではテレビの視聴スタイルも多様化していますが、今後もデジタル社会化や生活様式の変化に伴い、アメリカや日本だけでなく、世界各国でテレビとの付き合い方は変わっていくものと思われます。

 

執筆者/長谷川サツキ

10万人に対して8個だけ!? アメリカのお粗末な「公衆トイレ」事情

11月19日は「世界トイレの日」でしたが、トイレや公衆衛生に関して深刻な問題を抱えているのは途上国だけではありません。意外な先進国が長らく公衆トイレの問題に悩まされているのです。それは世界一の経済大国・アメリカ。あぜんとするような同国の公衆トイレ事情について現地からレポートします。

 

3K:「汚い」「危険」「故障」

↑アメリカの公衆トイレは“3K”

 

アメリカ人の多くが、「公衆トイレはできれば使いたくない」と言います。実際に入ってみると分かるのですが、アメリカの公衆トイレはとにかく汚いことが多いのです。

 

使用後に流していないのは序の口。便器の中にプラスチックなどのゴミが突っ込んであったり、床が水浸しだったり。悪臭も強く、掃除が行き届いていないと感じるトイレがほとんどです。

 

また、誰でも簡単に使えるので、薬物取引など犯罪シーンの温床になりやすいというリスクもあります。犯罪行為防止のためにトイレのドアは下の隙間が大きく開いていますが、どの程度抑制力があるかは明確ではありません。

 

さらに、水が流せないなどの故障トラブルが起きても、なかなか修理されずに放置されているケースが多々あります。故障しているがために、公衆トイレ全体を閉鎖してしまっていることも珍しくありません。

 

超”レア”な公衆トイレ

このように衛生上の問題を抱えるアメリカの公衆トイレですが、近年特に問題とされているのがその数の少なさです。アメリカでは、なんと10万人に対して公衆トイレが8個しかありません。ニューヨーカーの中には、公衆トイレが見つからず、最後には茂みで用を足すしかなかったと語る人もいます。

 

観光客やタクシードライバー、ホームレスたちにとってもトイレ問題は深刻です。都市部では公衆トイレを検索できるオンラインサービスがあり、公衆トイレの現状改善を訴えるデモも行われています。

↑公衆トイレ改善を訴えるデモ(画像提供/The Hustle*)

*Michael Waters, “The fight to build more bathrooms in America“, The Hustle, 2022 November 4th

 

頼みのカフェも「客以外の利用お断り」

アメリカの公衆トイレ不足解消を長期にわたって支えてきたのが、スターバックスをはじめとした飲食店の存在です。これら店舗はトイレを一般開放しており、地方自治体も公衆トイレとしての役割を担ってくれる存在として依存してきました。店舗側もトイレ利用者が顧客拡大に繋がるなど、お互いにメリットがあったのです。

 

ところが、2018年にフィラデルフィアのスターバックスで、商品を購入せずにトイレを利用しようとした黒人男性2人に対し、店員が不法侵入として通報する騒ぎがありました。スターバックスは謝罪し、改めて「トイレは誰でも使用可能」との店舗ポリシーを明確にしたのです。

 

しかし、スターバックスCEOのハワード・シュルツ氏は2022年6月、「今後、地域の公衆トイレとしての役割を制限する可能性がある」と発言。その理由としてトイレ利用をめぐって精神衛生上のトラブルが増えていることを挙げ、スタッフと顧客の安全のために一部トイレの閉鎖を検討しているとのことでした。

↑「公衆トイレはありません」と伝える飲食店

 

公衆トイレが少ない3つの理由

毎年大勢の観光客が訪れる先進国でありながら、なぜこんなにも公衆トイレが少ないのでしょうか。これには、いくつかの理由があるようです。

 

1: 安全性の問題

すでに述べた通り、公衆トイレは簡単にプライベートになれる半面、犯罪シーンの温床ともなっています。そのため、安易に増やしにくいということが挙げられます。

 

2: 公衆トイレの役割を担う飲食店の存在

これまではスターバックスなどの飲食店が、公衆トイレとしての役割を果たしてくれていました。そのため、地方自治体もわざわざ予算を割いてまで新たな公衆トイレを設置しようとはしなかったのです。

 

3: 維持管理費の問題

端的にいえば、市や町に公衆トイレの修理や管理にかけるお金がないのです。事実、故障しても修理まで手が回らず放置されているトイレが少なくありません。

 

4坪の公衆トイレの予算が約238億円!? 

2022年10月、カリフォルニア州サンフランシスコでは信じがたいニュースが話題となりました。公園に4坪の公衆トイレを設置するにあたり、予算が1.7億ドル(約238億円※)かかると市が発表したのです。しかも建設期間は3年にもわたるとのことでした。

※1ドル=約140円で換算(2022年11月21日現在)

 

当然ながら市民はコストがかかりすぎると反対し、「世界で最も高級な公衆トイレの誕生か?」と国内で大きな注目を集めました。幸い、ギャビン・ニューサムカリフォルニア州知事が「高過ぎる」としてトイレ建設にストップをかけ、公費をもっと有効に活用できるような計画にすべきだと市に差し戻したのです。

 

日本に住んでいると、あまり意識することのない公衆トイレの問題。アメリカと比べれば、日本は「トイレ天国」とも言えますが、アメリカへ旅行する予定がある人は、事前に公衆トイレの設置場所を調べておくと良いかもしれません。

 

執筆者/ 長谷川サツキ

イタリア版「祇園祭」が再開! 約400年続く「聖ロザリーアのフェスティーノ」は奇跡的だった

2022年7月、イタリア・シチリア島の都市パレルモで、疫病退散を願う「聖ロザリーアのフェスティーノ」祝祭が3年ぶりに開催されました。世界中から20万人もの人々が集まり、伝統の行列に連なりました。ペストの流行からパレルモを救った守護聖人・サンタロザリーアを崇拝するこのお祭りは、京都の祇園祭に通じるものがあります。コロナ禍の中断を経て再開したシチリアの伝統文化を紹介しましょう。

↑聖ロザリーアのフェスティーノに登場するシチリアの象徴「カッロ」

 

パレルモと聖ロザリーア万歳!

聖ロザリーアのフェスティーノは 、2022年で398回目を迎えたシチリアの伝統的祭礼。400年前のペスト大流行を一瞬で消滅させた奇跡を祝うもので、開催期間は7月1日から15日までおよそ半月に及びます。18世紀の貴族の館が立ち並ぶパレルモ旧市街では、宗教行事やパレード、演奏会、演劇などのさまざまな催し物が行われますが、祭りの熱気が最高潮に高まるクライマックスは14日の前夜祭。疫病終息の奇跡の行列を再現したパレードが、イルミネーションに彩られた市街を練り歩き、世界遺産のパレルモ大聖堂ではミサが行われます。

 

また、「カッロ」と呼ばれる豪華な山車の行進もこのお祭りの大切なイベント。シチリア文化を象徴するカッロは、ノルマンニ宮殿から海までの旧市街を一直線に結ぶヴィットーリオ・エマヌエーレ通り(Vittorio Emanuele)を進みます。2022年のお祭りでは、生演奏で盛り上がる雰囲気の中、カッロやパレードは次のように進みました。

 

第1停留所:ヌオーヴァ門より20時半カッロが出発

第2停留所:カトリック教会神学校にて、パレルモ教区最高位聖職者のコッラード・ロレフィチェ大司教がカッロに搭乗して聖ロザリーアの像を祝福

第3停留所:世界遺産のパレルモ大聖堂にて、名門マッシモ劇場の児童聖歌隊とユースオーケストラによるコンサート

第4停留所:旧市街にある代表的な交差点クアットロ・カンティにて、ロベルト・ラガッラ市長がカッロに登り「Viva Palermo e Santa Rosalia!(パレルモと聖ロザリーア万歳!)」と叫びました。

第5停留所のローマ通り、第6停留所のカッティーベの城壁、第7停留所のフェリーチェ門、第8停留所の音楽堂記念碑、第9停留所のギリシャ門と、名高い観光名所を次々に通過した行列は海に到着。深夜0時にフィナーレの花火があげられました。

 

聖ロザリーアの奇跡

↑聖ロザリーアのフェスティーノのポスター(右側に描かれているのが聖ロザリーア)

 

お祭りの“主人公”である聖ロザリーアは12世紀を生きた地元出身の聖女で、カトリック教会によりパレルモ守護聖人として認められています。ローマ皇帝だったカール大帝の末裔であるノルマン貴族の家系に生まれますが、神を愛し、祈りの生活を送るためペッレグリーノ山の洞窟で隠者として暮らし、若くして洞窟内で亡くなったと言い伝えられています。

 

しかし、それから約450年後、1624年にパレルモに疫病ペストが流行していたころ、ロザリーアはある病気の女性の夢枕に、続いて猟師の夢枕に現れ、自分の遺骸の在り処を啓示しました。そして、ペッレグリーノ山の洞窟からパレルモ市街までの間で行列を作り、遺骨を運ぶように言います。その猟師が洞窟でロザリーアの遺骨を見つけ、言われた通りにしたところ、たちまち病人は癒され、疫病の流行は終息したそうです。

 

ロザリーアはパレルモの守護聖人として地元で深く愛されるようになり、遺骸が発見された7月15日を記念して、行列を再現するようになりました。これが聖ロザリーアのフェスティーノの起源です。宗教的にも重要な行事として後世に受け継がれてきた一方、ペッレグリーノ山の洞窟には教会が建てられ、パレルモの街と海を見渡せる風光明媚な名所かつ癒しの祈りの場所として、世界中から多くの巡礼客が集って来ます。

 

祇園祭と類似

↑市民や観光客で賑わうヴィットーリオ・エマヌエーレ通り

 

新型コロナウイルスの蔓延によって2年間、開催中止を余儀なくされた聖ロザリーアのフェスティーノですが、再開にあたり、コッラード・ロレフィチェパレルモ大司教は次のように述べました。「パンデミックが引き起こした心理的、人間的、経済的、社会的な要因が、フェスティーノの衰退と人間疎外の原因になってはなりません。そうならないようにすることにこそ祝祭の真の目的があるのです。ロザリーアに愛された私たちの街の解放と再生をともに賛美しましょう」

 

ほぼ同時期に、遠く離れた日本の京都でも、コロナ禍で2年間中止されていた祇園祭の再開を巡り、門川大作市長から似たような言葉が発せられていました。疫病がまん延した平安時代初期に、疫神や怨霊を鎮める祈りを捧げる行事として生まれたのが祇園祭です。京都警察によると、2022年の祇園祭山鉾巡行の沿道にはおよそ14万人が見物に訪れたとのこと。「動く美術館」と称される祇園祭の山鉾は、日本各地の祭りに見られる山車の原型になったとされていますが、「動く劇場」とも言えるパレルモのカッロを連想せずにはいられません。

 

洋の東西を問わず、見えない疫病を鎮めるためのお祭りは、長い歴史の中で人類が魂を込めて営んできた一大伝統行事。太陽の恵み溢れるパレルモの聖ロザリーアのフェスティーノには、人々が抱える不安を鎮め、元気づけてくれる力があります。筆者も当時の景観が保全された旧市街を練り歩く群衆に加わってみましたが、実際に疫病退散の奇跡を目の当たりにしたかのような気持ちになりました。

 

コロナ禍は社会に深い影響を与えていますが、だからこそ、伝統的なお祭りが持つ「人々を精神的に癒しながら、結びつける」という目に見えない価値は、今後も継承されるだろうと思います。

オス犬は「匂いを嗅ぐ」とガンの危険が!? ケンブリッジ大学の研究

犬は家の中にいても、散歩中であっても、あらゆるものの匂いを嗅ぎまわる習性があります。これは、人間よりもずっと優れた嗅覚を持つ犬が、匂いからさまざまな情報を得るためとされています。でもそんな習性によって、オスの犬はある珍しいガンに罹患する確率が高いことがわかりました。

↑それでもやめられない

 

「CTVT」と呼ばれる犬のガン。正式名称を「可移植性性器腫瘍」といい、犬の外部性殖器に発生するガンで、珍しいタイプのガンです。感染性があり、犬同士が接触すると、生きているガン細胞が移りそれによってガンが感染ることがあるそう。そんなCTVTについて、イギリス・ケンブリッジ大学の博士が調べた、ある研究論文が発表されました。

 

その内容によると、世界中で報告されたCTVTのデータベースを詳しく解析したところ、通常は生殖器に発生するこのガンが、鼻や口に発生する例が見つかったそう。その数は、全部で約2000件報告されたCTVTのうち、わずか32件のみですが、うち27件はオス犬で発症していることがわかりました。オス犬は、メス犬に比べて、鼻や口にこのガンが発生する可能性が4~5倍も高いことになります。

 

オス犬とメス犬で鼻・口にCTVTを発症しやすい理由について、この調査を行った博士は、オス犬とメス犬の行動の違いを指摘しています。オス犬はメス犬より、他の犬の生殖器の匂いを嗅いだり舐めたりすることが多いそう。CTVTはガン細胞が感染するため、それによって鼻や口にガン細胞が移って感染する可能性があると見られています。

 

このCTVTは、そもそも数千年前に1匹の犬の細胞から発生したと考えられています。感染性のガンであるため、その犬が死んだ後も、ガン細胞は他の犬に感染を広げて、今日でも世界中の犬にそれが広がっています。国単位でみればまだ症例数は少なく、珍しいガンの一つではありますが、自然界で生まれた最も古い感染性ガンの一つとも言えます。

 

犬が他の犬の匂いを嗅いだり、周囲の物の匂いを確認したりする行為は、犬にとって必要不可欠。匂いを嗅ぎまわることを禁止すると、犬に大きなストレスを与えてしまうそうです。とはいえ、そんな行動によってガンのような病気にかかる可能性があるなら、飼い主は心配するもの。普段から飼い犬の様子をよく観察し、わずかな異変を感じたらできるだけ早く獣医に相談することが大切かもしれません。

 

【出典】Strakova, A, Baez-Ortega, A, Wang, J, Murchison, EP. Sex disparity in oronasal presentations of canine transmissible venereal tumour. Vet Rec. 2022;e1794. https://doi.org/10.1002/vetr.1794

お腹が空くとイライラするのはなぜ? 空腹と感情の関係が少しずつ明らかに

「お腹が空いているときは、イライラしたり怒りっぽくなったりしやすい」と、感じたことはありませんか? 実際に科学者による実験で、空腹感はイラ立ちや怒りを増幅させ、逆に喜びのようなポジティブな感情を減退させることがわかったのです。

↑腹が減った! イライラ……

 

英語には「Hangry(ハングリー)」という造語があります。これは、空腹を表す「Hungry(ハングリー)」と、怒るという意味の「Angry(アングリー)」を組み合わせた言葉。私たちは、お腹がすいた状態にあると怒りやすくなることを、経験で知っているわけです。ただし、空腹と感情の関係については、科学的にあまり研究されてきませんでした。

 

そこでイギリスのアングリア・ラスキン大学と、オーストリアのカール・ラントシュタイナー健康科学大学の研究者は、共同で研究を行うことにしたのです。研究チームは、ヨーロッパ中央部から64名を集め、21日間にわたる実験を行いました。実験期間中、参加者には普段と同じ生活を送りながら1日に5回、そのときの自分の感情と空腹レベルについてアプリで報告を行うよう指示。日常生活において、私たちの感情と空腹の関連について調べました。

 

その結果、分散(統計学ではデータのバラつき具合を表す指標)の値はイライラが37%、怒りが34%、喜びの喪失が38%でした。同研究チームによれば、これらの値は、空腹がネガティブな感情と強い関係があることを示しているとのこと。本研究は方法論などにおいて課題が残されていますが、年齢、性別、肥満度、食事、個人の性格などを考慮しても、空腹が感情に与える影響は顕著に見られるようです。

 

怒りの感情を分類してみよう

では、空腹になってイライラする気持ちを抑える方法はないでしょうか?

 

この研究を行ったアングリア・ラスキン大学の社会心理学教授は、自分のそのときの感情を分類することを提案しています。例えば、自分が怒りっぽくなっていて、しかもお腹が空いていると気づいたら、「空腹だから怒りを感じているのだ」と自分で認識して、その怒りの原因を「空腹」として他のイライラした気持ちと区別することができるわけです。そのように、自分で空腹であることを強く意識すると、怒りのようなネガティブな感情を抑えられる可能性があるそうです。

 

食欲は、人が生きていく上で重要な三大欲求のひとつ。生命の維持に関わる自然現象ですから、私たちは空腹を感じると身体が危機を感じて、そんな負の感情を抱くようにできているのかもしれません。次に「イライラしている!」と気づいたら、自分が空腹かどうかまずは考えてみては?

 

【出典】Swami V, Hochstöger S, Kargl E, Stieger S (2022) Hangry in the field: An experience sampling study on the impact of hunger on anger, irritability, and affect. PLoS ONE 17(7): e0269629. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0269629 

冬季五輪の選手村は学生向け住宅に。ミラノが挑む3つの「サステナブル住宅プロジェクト」

イタリアのミラノ市はサステナブルな町づくりを目指し、長く放置されていた旧鉄道エリアや旧工業地帯エリアの再開発を始めました。2026年2月に開催される「ミラノ・コルティナ冬季オリンピック大会」に向けて選手村も建てられており、大会終了後には住宅になる予定。ミラノ市が取り組む、3つのサステナブル住宅プロジェクトを紹介します。

サステナブルな巨大プロジェクトが進行中のミラノ

 

1: ゼロカーボン住宅に取り組む「リネスト」

 現在、イタリア初のゼロカーボン住宅を建設中の「リネスト」は、都市再開発に関する国際コンペティションで数年前に優勝したことがあるプロジェクトの1つです。旧鉄道の貨物ターミナルとして使われていたミラノ北東のスカログレコ ブレダ地区にある約7万平方メートルの敷地に、約400戸の住宅と約300戸の学生住宅を建設。これらは再生可能エネルギーにより稼働し、2050年までにゼロカーボン化を目指しています。

 

特に注目を集めているのは「第4世代地域暖房(4GDH)」のシステム開発で、自然エネルギーや廃熱を利用した温水を建物の給湯や暖房に使うのが特徴。雨水を再利用してかんがい用水として使用するほか、周辺地域はCO2を吸収するために、面積の60%を緑地化する方針です。リネストは専用アプリを開発し、住民は自宅のエネルギーと水の消費量をリアルタイムで確認することができます。

 

ミラノ市内の道路は平坦で自転車での移動が便利なことから、リネストは1200平方メートルの駐輪場を設置することで、自転車の利用を促進する予定。住戸ごとの駐車場は用意せず、自家用車の大幅削減を目指します。市内にはCO2を排出しない電気自動車のカーシェアリングサービスがあるため、10台分の充電エリアを用意する計画も。

 

このような取り組みを通して、リネストは温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させる「カーボンニュートラル」を30年以内に実現する予定です。

 

2: 選手村を建設予定の「ボスコナヴィリ 」

↑週末に賑わいをみせる、サン・クリストフォロ地区の運河沿いの飲食店舗

 

旧鉄道エリアのサン・クリストフォロ地区では、約90戸の集合住宅「ボスコナヴィリ」が建設中です。外壁に多くの植物が植えられ「垂直の森」と呼ばれる、ミラノで有名な高層建物「ボスコ・ヴェルティカーレ」を手がけた建築家ステファノ・ボエリ氏が設計。このエリアは運河沿いにレストランやバーが並ぶ観光地としても人気のエリアで、2024年までに運河に近い9000 平方メートル以上の敷地に「ボスコナヴィリ」をはじめ、3階建てヴィラなどを建設予定です。

 

ボスコナヴィリは住宅の屋根を太陽光発電パネルで完全に覆い、地熱エネルギーを使用することで、夏は涼しく、冬は暖かくなるように設計されているとのこと。スマートモビリティにも対応しており、住民共有の電動自転車とスクーターを設置することで、CO2の排出を抑えます。

 

敷地を囲む樹木や植物は、騒音や微粒子状物質(PM2.5)に対するバリアの役割を果たすと同時に、CO2を吸収することが期待されています。雨水を収集して再利用する自動かんがいシステムも導入されます。

 

さらに、旧ポルタ・ロマーナ駅エリアには、冬季オリンピックの選手村を建設予定です。この地域では都市化や公共緑地化の計画が進められており、大会終了後には選手村を学生たちが使える公営住宅にする計画です。

 

3: イタリア最大の都市再開発プロジェクト「ミラノセスト」

イタリア最大の都市再開発プロジェクトといわれている「ミラノセスト 」は、150万平方メートルの広大なセスト・サン・ジョバンニ旧工業地帯を持続可能な都市へと再生させる計画です。タワーオフィス、商業施設、ホテル、病院、大学、住宅など7つの建物が建設され、住民や在勤者、訪問者などの利用者数は1日約5万人を想定。第1フェーズとして、2025年までに住宅や商業施設がオープンします。

 

ミラノセストは、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の考え方に基づきながら、建物に使う資材や原材料を決めているほか、かつて工場があった場所を含めて、本計画の対象地域全体に1万本の木を植える予定。これにより、年間48トンのCO2が吸収されるそうです。さらに、周辺での車両使用を削減するために、10kmの歩行者専用道路と自転車専用道路が建設されるとのこと。

 

本プロジェクトでは、歩道橋の上には太陽光発電パネルを設置し、使用するエネルギーの50%を再生可能エネルギーから生み出します。緑地化とクリーンエネルギーの活用により、CO2の排出量を5500トン抑制することを目指しており、これは2万1000台のクルマが1年間に排出する量に当たるそうです。

↑歴史あるミラノのシンボル「ドゥオーモ」と「ガレリア」

 

町の中心には歴史を感じさせる古く美しい建物や景観をそのまま残し、その一方で持続可能な都市へと生まれ変わる再開発にも力を入れているミラノ。国や州、市の総力を結集した今回のサステナブルプロジェクトは、未来を見据えた挑戦としてイタリアの歴史に刻まれていきそうです。

 

執筆者/Shiho Yamaguchi

ドライブスルーを導入したら、コロナ禍の卒業式が一生の思い出になった

この数年間、世界中で多くの子どもたちが、学校に行きたくても行けないという経験をしました。コロナ禍のハワイでは、他の国や地域と同じように、小・中学校や高校、大学の卒業式が変化。2020年にはオンラインによる「バーチャル卒業式」が行われました。しかし翌年、この儀式は独特の変化を見せ、アメリカらしい「ドライブスルー卒業式」が誕生。最近では子どもたちが学校に戻るようになりましたが、ドライブスルー卒業式はハワイに浸透した模様。子どもたちの悔しさを晴らしたこの卒業式は、どのようなものなのでしょうか?

↑クルマを派手にしてお祝いモード

 

クルマなら安全に卒業式ができる!

ハワイの卒業式シーズンは5月で、大きなライフイベントの1つとして盛大にお祝いをします。伝統的なレイ(花輪)を顔が見えなくなるまで重ねる卒業生の写真は有名です。高校、大学の卒業式では、ダンスパーティーやアワードセレモニー(学生たちのさまざまな功績を表彰する式)など、多くの関連イベントも行われます。

 

コロナにより厳しい規制が始まった2020年5月は、学生の卒業式は中止になるか、またはオンラインで開催。卒業関連のイベントはほぼ全て中止を余儀なくされました。

 

そして翌年5月もコロナの状況は悪化していましたが、1年前と違って、感染予防をしながら行うというスタイルの導入に踏み切る学校が現れます。規制しながら実施するイベントが増えていた中、「ドライブスルー卒業式」が登場。2022年の卒業式でも多くの学校が前年と同じくドライブスルー式で行い、コロナが完全には収束していないハワイの卒業式の定番スタイルとなりました。

 

ドライブスルー卒業式は、デコレーションしたクルマに卒業生が1人ずつ乗って学校やその周辺を走り、学校の先生たちや近所の人たちにお祝いしてもらうというスタイルです。

 

そのスタイルは学校によって異なりますが、例えば、フェイスシールドをした校長先生たちが待つ校門までドライブをし、校長先生から卒業証書を受け取るという祝い方があります。また、学校の校庭に卒業生が乗るクルマを一斉に入れて、その中で先生のお祝いの言葉を聞くというスタイルも。

 

しかし、ドライブスルー卒業式の大きな特徴は、なるべく目立つようにクルマをデコレーションするということ。デコレーションしたクルマとすれ違うと、対向車がクラクションを鳴らしてくれたり、「おめでとう」と声を掛けてくれたりします。

↑校長先生が待つ学校に向けて列をなして走る卒業生を乗せたクルマ

 

クルマをデコレーションする方法としては、窓に専用のペンでペイントしたり文字を書いたりするのが一般的。水で簡単に消すことができるので、卒業式が終わればサッと拭いて帰宅できますが、そのままドライブして、帰り道で見知らぬ人に祝ってもらう人も少なくありません。先生に向けて「MAHALO」(ありがとうのハワイ語)と窓に書いているクルマも多く見かけます。

 

誕生日などでよく使われる文字のバルーンもよく使われており、「2022」や「CONGRATS」(おめでとう)といった卒業関連のバルーンがこの時期は多く出回ります。また、ハワイの各学校には必ず独自の「スクールカラー」があるので、その色でデコレーションするのも人気です。卒業式の時期は大型ディスカウントストアなどが「卒業コーナー」を設け、このようなグッズを販売しています。

 

ドライブスルー文化の派生

↑ドライブスルー卒業式を行う小学校

 

コロナ禍で開催できなかったイベントは卒業式以外にも多くありましたが、近頃は誕生日やベビーシャワーなどを卒業式と同じようなドライブスルースタイルで祝う人が増えました。

 

もともとアメリカには、巨大な駐車場に大きなスクリーンを配置してクルマに乗ったまま映画を鑑賞するドライブインシアターがあります。コロナ禍でも、このドライブインシアターはハワイのいたるところで開催されていました。窓を開けて夜風を感じながら見る映画は、閉ざされたコロナ禍の中で非日常的な空気を感じることができるため、人気が高まったようです。感染防止目的で始まったドライブスルー卒業式や誕生祝いは、ドライブインシアターのような文化があるハワイだからこそ比較的浸透しやすかったのかもしれません。

 

たくさんのレイを首にかけてお祝いし、家族や親戚、友達が大勢集まって祝うハワイの伝統的な卒業式スタイルは、コロナ禍が落ち着く頃にはまた復活すると思われます。ただし、コロナ禍により生み出された新しいスタイルのドライブスルー卒業式は、さまざまな規制を強いられた多くの学生たちにとって、一生忘れられない卒業式となることでしょう。

 

ハワイでサーフィンが大ブーム! 火付け役はコストコの「激安サーフボード」

コロナ禍の影響により、ハワイで競技人口が最も増えたスポーツは何だと思いますか? 答えはサーフィンです。当たり前のようにも思えますが、外出が制限され、ほぼ全てのスポーツやエクササイズが禁止された2020年の夏にサーフィンを始める人が急増。一体なぜなのか? 調べてみると、初心者でも手軽に始められるコストコのサーフボードが、そのブームに一役買っていたことがわかりました。

↑サンライズの時間ですでに混雑するハワイのビーチ

ロックダウンで許可されたジョギングとサーフィン

ハワイでは2020年初夏に外出禁止令が出され、必要最低限の買い物と、健康目的のエクササイズのみが許されていました。ジムも閉鎖されていたため、住宅地や市街地のどこもジョギングや散歩をする人で溢れ、一時は歩道に人が密集してニュースになることもあるほどでした。

 

ジョギング以外のエクササイズで唯一例外だったのが、海での水泳とサーフィン。ただし、海辺の駐車場は閉鎖され、「エクササイズ目的でビーチを横切るのは許可するが砂浜に座るのは不可」という厳しいルールが設けられていました。筆者も散歩の合間に写真を撮ろうと砂浜で数分立ち止まった際に、警官から注意されたことがあります。

↑観光客がいないハワイの海岸。写真中央にはハワイアンアザラシが寝そべる姿も

 

サーフィンが許可されていた理由は、まずはジョギングと同じように個人のエクササイズに分類されるということ。さらに、サーフィンはハワイの文化に根付いており、いかなる理由であってもその文化は制限できないからだと言われています。

 

その結果、スポーツといえばジョギングか海での水泳やサーフィンしかなかった2020年夏、ワイキキにサウススエルと呼ばれる夏の波が到来する頃には多くの人がサーフィンを始めたのです。

 

安価で乗りやすいサーフボード

↑カラフルなデザインのフォーム製サーフボード

 

ハワイといえども、誰もがサーフィンをしたことがあるというわけではありません。そもそもサーフボードは新品ならば最低でも500ドル(約7万2340円※)するうえ、当時はレンタルショップも閉鎖されていたので、未経験の人が簡単に始められるスポーツではありませんでした。

※1ドル=約144.7円で換算(2022年9月28日現在。以下同様)

 

しかし、この時期にコストコのみで販売されていた「Wavestorm」という8フィート(約2メートル44センチ)のフォーム製サーフボードが、そんな状況を激変させたのです。価格は114ドル(約1万6500円)と、一般的な物と比べて破格の安さ。発泡スチロールを使用した、軽くて安全なフォーム製で、一般的なボードより安くなりますが、当時爆発的に売れていた有名メーカーのフォームボードでさえ価格は最低でも350ドル(約5万660円)でした。

 

低価格であることに加えて、抜群の乗りやすさもWavestormの特徴。筆者も当時中古で購入しましたが、初めてサーフィンをする人でも初日から波に乗れるだろうと確信できるほど乗りやすくて驚きました。フォーム製のため、軽くて浮力が大きく、人と衝突した際の危険度も低いなど初心者にとってメリットが多く、人気が出るのも納得です。

 

Wavestormは爆発的に売れて、入荷してもすぐに売り切れとなり、ワイキキの海はこのサーフボードを持つ人で溢れました。中古を買い求める人も増え、一時は中古サイトで300ドル(約4万3400円)以上の値がついていました。当時、ワイキキの街を歩くいているのは、このボードを持ったサーファーかジョギング、もしくは散歩をする人のどれかと言われていました。

 

もともとワイキキ周辺のサーフスポットは波も穏やかなうえ、サーフィンにありがちなローカルルールがそれほど厳しくないエリアのため、観光客や初心者には最適の場所です。「外出禁止令により仕事や学校が休み」であることに加え、「唯一許可されているスポーツ」「手軽に購入できるサーフボード」「乗りやすい波が入ってくる夏の時期」「観光客がいない初心者に優しいエリア」という5つの好条件が重なり、ワイキキのサーフスポットは大人気となりました。

 

以前からサーフィンをしていた筆者にすれば、観光客がいないワイキキエリアは波乗りし放題になると思っていましたが、あっという間にサーフ人口が増加。観光客がいる頃と同じくらい混雑していた印象です。

 

コロナ禍が去っても波に乗り続ける

↑活気を取り戻しつつあるワイキキのビーチ

 

2022年は日本からの観光客はまだあまり見かけないものの、アメリカ本土や海外からの観光客は増え、ワイキキビーチにはコロナ禍以前の賑やかさが戻っています。閉鎖を強いられていたサーフショップやスクールが再開して多くの観光客がサーフィンを楽しみ、ローカルだけがサーフィンに興じていた2年前とは違った景色が見られます。

 

コストコはもう「Wavestorm」を販売していないようですが、ハワイのサーフィンブームの火付け役となったフォーム製ボードは耐久性も高いとみられ、現在のワイキキビーチでも2年前のボードを持っている人を多く見かけます。夏休みに入った6月のワイキキのサーフポイントはコロナ禍前より混んでおり、老若男女のサーファーで賑わっています。

 

サーフィンは地元の人たちが長く守り続けているハワイの大切な文化の1つ。コロナの外出禁止令をきっかけに、地元ではサーフィンの魅力が改めて再認識されたと言えるでしょう。この2年間でハワイにサーフィンが広く浸透したと感じます。

ドイツのカーシェアリングは「乗り捨て型」が75%! もはや都会暮らしには不可欠の存在に

カーシェアリングがクルマ大国のドイツで普及しています。同国の都市部の至る所でカーシェアが見られるようになり、2022年には過去最高のユーザー登録数を記録。いまやカーシェアリングはドイツの都市生活に不可欠と言えるほど広がっていますが、なぜこのような現象が起きているのでしょうか? その背景には「乗り捨て型システム」があるようです。

 

乗り捨てが75%

↑ドイツのカーシェアの主流は乗り捨て型

 

 日本のカーシェアリングでは、インターネットでクルマを予約し、サービス提供会社によって決められたステーションに行って乗り始め、利用後は出発したステーションに返却するのが一般的。いわゆる「乗り捨て」は原則できません。しかし、ドイツには主に「乗り捨て」を提供する業者が複数あります。このシステムは「フリーフローティング・カーシェアリング」と呼ばれており、ベルリンやミュンヘン、デュッセルドルフなどの大都市を含めて34都市で展開されています。

 

ドイツのカーシェリング市場には「ShareNow」「Miles」「Sixtshare」「WeShare」という主要プロバイダーがおり、この4社が国内市場の上位を占めていますが、今回はその中からShareNowを取り上げて、フリーフローティングカーシェアリングのサービス内容と利用方法を見てみましょう(以下)。

 

・24時間年中無休で利用可能

・月額料金はなく、利用代金は1分あたり0.09ユーロ(約12.4円※)から(※1ユーロ=約138円で換算)

・利用は数分でも数日でもOK

・事前に予約すれば指定の場所までお届け
・パソコンやスマートフォンのアプリを使用して好きな車種やクラスを選択

・アプリで希望の場所や現在位置から近くにあるクルマを探して乗車

(前の使用者が乗り捨てた場所に取りに行って使用することもあり)

・ガソリン代、保険料、メンテナンスは一切不要

・利用後は同じ市内であれば路上など駐車エリアに乗り捨て可能

(駐車禁止の標識がある場所以外は基本的に路上駐車が可能なうえ無料駐車スペースもあり)

・公営駐車場やデパート、空港の専用駐車場にも乗り捨て可能

・駐車料金は無料

 

ユーザーが駐車料金を支払わずに有料駐車場に停められるシステムが実現した理由は、プロバイダーが各自治体と直接連携したから。かつてはユーザーやプロバイダーが駐車料金を支払う必要があったのですが、環境や交通量の面から少しでも自家用車の保有を減らしたいと考えた自治体がカーシェアリングを推奨するようになったのです。その取り組みは、多くのユーザーを獲得することにつながりました。

 

2012年に導入されたフリーフローティングシステムは、当初こそ“乗り捨て不可”のステーションベースシステムの割合には及ばなかったものの、2014年頃から人気が急上昇。2021年にはカーシェアリング市場全体の約75%を占めるようになりました。

 

新たな通勤手段

↑クルマの所有は少なくなる

 

コロナ禍の影響について言えば、少なくとも最初の数か月はカーシェアリングプロバイダーも打撃を受けました。特に国を挙げて大規模なロックダウンを実施した時期は、外出自体に規制がかかり、ドイツカーシェアリング連邦協会の統計によると予約数と車両使用率が大幅に減少したそう。

 

しかし、規制が緩和されるのに伴って需要は回復し、2021年からカーシェリング市場は急速に伸びるようになりました。マスク着用規制や感染の可能性がある電車やバスの利用は現在でもやはり敬遠されがち。そのような状況もあって、乗り捨てできる便利なカーシェアリングが通勤手段として選ばれ、ユーザー急増につながったと見られています。

 

カーシェアリング連邦協会のデータによれば、2022年1月時点で前年比18%増の約340万人がカーシェアのサービスに登録しており、車両台数も同15.2%増とのこと。カーシェアが新たな交通手段になりつつあります。

 

エコなゼロミッションカーの導入も人気の理由

↑電気自動車に乗るならカーシェア

 

 ドイツのカーシェアリングプロバイダーは、CO2などを排出しないゼロエミッションカーの導入に積極的です。次世代エコカーと呼ばれるバッテリー式電気自動車とプラグインハイブリッド車は、2022年1月時点のカーリング市場において23.3%を占めました。その中でも、バッテリー式電気自動車がほぼ中心的に利用されています。

 

エコ意識が高いドイツでは、CO2を排出するという観点からクルマを運転すること自体に抵抗感を持つ人もいるほど。電気自動車は高額なので簡単に手が届きませんが、カーシェアリングならばゼロミッションカーを気軽に借りることが可能。この意味で、ドイツでカーシェアリングの人気が上昇していることは納得できます。

 

このように、乗り捨て型カーシェリングには、ユーザーの利便性だけでなく、環境負荷を低減できるという大きなメリットがあります。今後多くの国や地域でさらに普及していくことで、エネルギー不足や地球温暖化など世界が抱える重要な課題の改善につながる糸口になるかもしれません。

 

執筆者/ドレーゼン 志穂

50万人を救う可能性! ハーバード大医学部の「便バンク構想」

自分の精子や卵子を凍結保存する「精子バンク」や「卵子バンク」と同じように、近い将来には「便バンク」ができるかもしれない——。米国・ハーバード大学医学部の研究チームがそんな構想を練っているんです。一体その理由は?

↑便は流すだけなんて、もったいない

 

同研究チームの便バンク構想の目的は、「FMT」と呼ばれる「糞便移植」の可能性を広げるため。私たちの腸には1000種類にもおよぶ細菌が生息していると言われ、その細菌が腸の壁にびっしりと張り付いていることを「腸内フローラ」や「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」と呼びます。便には腸内細菌叢が含まれていますが、健康な人の糞便を生理食塩水で希釈して、腸内細菌が乱れてしまった人の消化器管内に注入・移植する糞便移植という治療方法があるのです。

 

「他人の便を自分の体内に移植する」と聞いて、驚く人もいるかもしれませんが、科学ジャーナルのCell Pressによれば、実際に米国ではクロストリジウム・ディフィシル腸炎と呼ばれる感染症に対して糞便移植が使われており、一定の効果が出ているそう。この感染症の患者数は年間約50万人にのぼり、約2.9万人が亡くなっていると言われています。

 

しかしこの移植は、ドナーと宿主の遺伝的環境などの違いが原因となって、うまく行かないことがあります。そこで、若くて健康なときに自分自身の便のサンプルを取っておき、それを保存しておけば、将来の便移植に利用する可能性が生まれるというわけです。自分の便を移植すれば、喘息、肥満、心臓病、糖尿病などの治療や、自己免疫を高める若返りなどに利用できる見込み。

 

すでに米国には便バンクがあります。マサチューセッツ州の「オープンバイオーム(OpenBiome)」は、クロストリジウム・ディフィシル腸炎の治療のために自分の便を保存できる非営利団体ですが、このような取り組みがもっと必要なのかもしれません。ハーバード大学の研究チームの便バンク構想では、最適な便の保存量や保存方法、再生方法など、研究するべきことは多くあるとされています。これから最適な保存方法などが確立されていけば、もっと幅広く便バンクを利用するシステムが整えられていくかもしれません。

 

【出典】Shanlin Ke, Scott T. Weiss, Yang-Yu Liu. Rejuvenating the human gut microbiome. Trends in Molecular Medicine, 2022; DOI: 10.1016/j.molmed.2022.05.005

同じ「匂い」がしたら友達になる。当たる確率は71%!

相手のことをそれほど知らないのに、出会ってからすぐに友人になったという経験はありませんか? そんな相手は自分と似た匂いの持ち主なのかもしれません。最近、世界を驚かせた研究によると、人は同じような匂いの人と引かれ合うようです。

↑同じ匂いがするぜ

 

動物は相手の匂いを嗅いで、味方か敵なのかを判断します。例えば、犬同士が初めて出会ったとき、お互いの匂いをくんくん嗅ぎまわりますよね。このように、社会的関係を構築するうえで匂いは重要な役割を担っていることが、人間以外の陸上に住む哺乳類では確認されていますが、なぜこれまで人間では確認されていないのでしょうか?

 

そこで、イスラエルにあるワイツマン科学研究所の大学院生が、「人は無意識のうちに自分や他人の匂いを嗅いで、自分と他人を比較し、自分の匂いと似ている人に引き寄せられるのではないか?」と仮説を立て、ある実験を行いました。

 

この実験では、短期間で友人になった同性のペアを被験者として募集。お互いの人となりを十分に知る前に友人関係が形成されるということは、身体の匂いといった生理的な特徴が何らかの影響を与えているのではないか? そう考えた同研究者は、被験者から匂いのサンプルを採取し、ランダムに選んだ別の人のサンプルと比較することで、友達同士の匂いに類似性があるかを調べました。

 

その結果、匂いの化学物質を特定する機械「eNose」を用いた判定と、人間による検査のどちらでも、友人同士は似た匂いを持つことがわかったのです。

 

匂いは友を呼ぶ

しかし、友人同士の匂いが似るようになったのは、友人関係ができた結果であるかもしれません。そこで同研究者は、この可能性を排除するため、別の実験も行いました。知らない人同士を会わせて、言葉を使わない交流の時間を持ってもらい、その後、相手のことを「どの程度好きか?」「どの程度の友人になれそうか?」と評価してもらいました。なお、被験者の匂いは事前にサンプルを取って分析してあります。

 

すると、積極的に交流していた人同士は、お互いに似た匂いを持つ傾向があることが判明。匂いの類似性から、それぞれのペアがどのくらい積極的に交流するかを予測したとき、その正確さは71%にもなりました。

 

これらの実験結果から、どうやら人は自分と同じような匂いを持つ人と仲よくなりやすいということが言えるようです。私たちは知らない人と初めて会ったとき、相手の性格や考え方、言動などを見て、相手に好感を抱いたりするものですが、そこでは無意識に相手の「匂い」も嗅いでいるのかもしれません。

 

【出典】Ravreby, I., et al. (2022). There is chemistry in social chemistry. Social Advances, 8(25). DOI: 10.1126/sciadv.abn0154

死亡リスクが2倍も違う!「片足立ち検査」を健康診断に取り入れるべきと英大学が提言

片足だけで10秒間まっすぐに立ち続けられるか? そんな簡単な検査で、将来の病気のリスクを知ることができるという研究が発表されました。この研究がうまく行けば、将来の健康診断に片足立ちが加わるかもしれません。

↑片足で立てないとヤバいかも

 

加齢などにより身体のバランス能力が衰えてくると、思わぬところで転んで、大きなケガや病気のきっかけになることがあります。しかし、人間のバランス能力に関する検査は健康診断であまり行われていません。その一因として、バランス能力の標準的な検査方法がないことが指摘されているほか、バランス能力の低下を原因とする転落事故以外に、確たる臨床的成果がほとんどないとも言われています。

 

そこで、英国のブリストル・メディカルスクール(ブリストル大学の一部)やブラジルのクリニメックス運動医学クリニックなどの国際共同研究チームは、バランス能力の検査が将来の死亡リスクの指標になり得るかどうかを調べることにしました。

 

この調査の対象になったのは、クリニメックス運動医学クリニックが研究のために行っている運動プログラムに2009年2月から2020年12月に参加したメンバー。同研究チームは、この中から51歳〜75歳の参加者1702名に身体測定を行いました。体重や皮下脂肪の厚み、ウエストサイズを計測し、病歴を確認。その後に以下のルールで10秒間、片足で立ってもらいました。

 

・左右どちらかの足で片足立ちする

・浮かせたほうの足裏を、立っている足のふくらはぎ部分につける

・両腕は横にまっすぐのばす

・目は開けた状態でまっすぐ前方を見る

・左右どちらの足でも3回までチャレンジOK

 

その結果、片足立ちで10秒間立てなかった人の割合が、51~55歳は約5%、56~60歳は8%、61~65歳は18%弱、66~70歳は37%弱、71~75歳は約54%と、年齢が上がるほど増える傾向にあることが判明。

 

死亡リスクが2倍増加

本調査では、被験者を平均7年間モニタリングし、その期間中にガンや循環器疾患、新型コロナウイルスで亡くなった人がいましたが、片足立ちができた人とできなかった人との間で、死亡時期や原因などに関して明確な傾向は見られませんでした。しかし、死亡率は両者の間ではっきり異なり、片足立ちできた人は4.5%に対して、片足立ちできなかった人は17.5%と、13%も違うことが判明。つまるところ、片足立ちができなかった人の中には、心臓病や高血圧、肥満になったり、血中脂肪が高かったりするなど、健康状態が悪い人が多かったのです。

 

これらの結果を受けて、研究チームは「中高年で10秒間片足立ちできないと、今後10年以内になんらかの原因で死亡するリスクがほぼ2倍に高まる」と述べています。

 

今回の研究で、医学的に有効かつ客観的なデータを提供する可能性を示した片足立ちの検査。中高年を対象にしたバランス能力と将来的な病気や死亡のリスクを予測する指標の1つにするために、同研究チームはさらなる調査を呼びかけています。

 

【出典】Araujo CG, de Souza e Silva CG, Laukkanen JA, et al Successful 10-second one-legged stance performance predicts survival in middle-aged and older individuals British Journal of Sports Medicine Published Online First: 21 June 2022. doi: 10.1136/bjsports-2021-105360

周りから取り残される恐怖! スマホ依存症対策の「通知オフ設定」は人によって逆効果

近年、「スマホ依存症」という言葉をしばしば耳にします。この病気は「スマートフォンの使用を続けることで昼夜逆転する、成績が著しく下がるなど様々な問題が起きているにも関わらず、使用がやめられず、スマートフォンが使用できない状況が続くと、イライラし落ち着かなくなるなど精神的に依存してしまう状態」(東邦大学医療センター)を指します。この“治療法”として、メールやSNSの通知機能をオフにすることが挙げられますが、この方法はかえって逆効果になる可能性があるようです。

↑通知をオフにしても、スマホから離れられないのはなぜ?

 

米国・ペンシルベニア州立大学の研究者は、平均年齢36歳の男女計138人のiPhoneユーザーを対象に、SNSの利用やスマホの使用状況を調べました。スマホの画面を見ている時間を確認できるツール「スクリーンタイム」を使って、スマホの使用時間や手にする頻度などを調査。スマホの通知音については、音が鳴る設定、バイブのみの設定、通知をオフにした消音モード(マナーモード)などを自由に設定してもらいました。

 

その結果、通知機能がオンになっている人より、消音モードにしている人のほうが、スマホを手にして画面を確認する頻度が高くなっていることが判明。通知機能をオフに設定しているほうが、「メッセージやメールなどを見逃していないか」という焦りが生じ、この心理的苦痛を減らすために、スマホの利用時間が減るどころか、かえって長くなってしまうようなのです。

 

複雑な社会心理

通知をオフにすると余計にスマホが気になってしまう人は、FOMO(フォーモ)タイプの人かもしれません。FOMOとは「Fear of Missing Out」の略で、自分が周囲から取り残されることに対する恐怖を表し、SNSなどの時代背景から生まれてきました(逆に、周囲から取り残されても平気な心理状態は「Joy of Missing Out(JOMO)」と呼ばれています)。FOMOの傾向が低い人は消音モードにすると、スマホの使用頻度が著しく低くなったのに対して、FOMO傾向が高い人は消音モードにすると、スマホを確認する頻度が高くなったことがわかりました。

 

それと同時に、どこかの集団の一員であるという「帰属意識」が強い人も、FOMOの人と同じようにスマホを手にする時間が多いことも明らかとなったそうです。

 

この結果を受けて、ペンシルベニア州立大学の研究者は「スマホ依存症の人に通知をOFFにすることを勧める考え方は見直したほうがいい」と提言。性格や生い立ち、働き方、人間関係など、より広い観点からスマホ依存症の治療法について考えるべきなのかもしれません。

 

【出典および参考】

Mengqi Liao, S. Shyam Sundar, Sound of silence: Does Muting Notifications Reduce Phone Use?, Computers in Human Behavior, Volume 134, 2022, 107338, ISSN 0747-5632, https://doi.org/10.1016/j.chb.2022.107338.

東邦大学医療センター 大森病院 メンタルヘルスセンター『スマホ依存について』

https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/mentalhealth/mental/smartphone_dependence/index.html

皮膚炎になる可能性は他の犬の38倍!「イングリッシュブルドッグ」の飼育を英国が警鐘

短い脚と顔の垂れた皮膚が特徴的なイングリッシュブルドッグ。“ブサかわ”犬として人気ですが、健康上の問題から、将来は飼育が禁止されるかもしれません。

イングリッシュブルドッグは交配によって生まれた犬種で、体高が低く短足。顔の皮膚は重く垂れ下がり、たくさんのシワができています。強面な見ためとは裏腹に、温和で飼い主に誠実な性格もあり、ここ10年ほどでイギリスを中心に人気が上がっています。

 

そんなイングリッシュブルドッグの健康状態について、イギリスの王立獣医学校(ロイヤル・ベタリナリー大学)の研究者が調べました。2016年にイギリスで獣医師から治療を受けた犬90万5544匹から、イングリッシュブルドッグ2662匹とイングリッシュブルドッグではない犬2万2039匹を無作為に選び、診療記録からそれぞれの犬の健康を調査。

 

その結果、イングリッシュブルドッグは他の犬種と比べて、約2倍病気にかかりやすいことが判明しました。次のように、さまざまな病気にかかるリスクがずっと高いのです。

 

  • 皮膚炎: 約38倍
  • チェリーアイ(目の病気): 約27倍
  • 突顎(下顎が突き出る): 約24倍
  • 呼吸障害を引き起こす閉塞性気道: 約20倍

 

さらに、今回の調査の対象となったイングリッシュブルドッグのうち、8歳以上だったのは9.7%。一方、他の犬種のうち8歳以上は25.4%でした。これはイングリッシュブルドッグは長生きしづらく、若いときから健康上の問題を抱えているものが多いことを示しています。イングリッシュブルドッグの平均寿命が8〜10年と短いこととも関係があるでしょう。

 

繁殖を制限する国も

この調査結果を受けて王立獣医学校の研究者は、イングリッシュブルドッグの健康状態は、他の犬種に比べてずっと悪いと指摘。特に皮膚炎や呼吸障害など、人間の交配によってできた身体的特徴が直接関連していることが問題だと警鐘を鳴らしました。

 

このような健康上の懸念から、オランダ、ノルウェーなど、イングリッシュブルドッグの繁殖を制限する国も出てきています。王立獣医科大学の研究者は、イングッシュブルドッグはもっと皮膚にしわがない健康的な身体になったほうが良いと考えており、「イングリッシュブルドッグを飼う前に一度立ち止まって考えてほしい」と呼びかけています。

 

【出典】O’Neill, D.G., Skipper, A., Packer, R.M.A. et al. English Bulldogs in the UK: a VetCompass study of their disorder predispositions and protections. Canine Med Genet 9, 5 (2022). https://doi.org/10.1186/s40575-022-00118-5

14時間は断食すべき!「朝食を11時以降に取る」というダイエット方法が欧米で話題に

「朝はしっかり食べるのが健康的」と考える人が多いかもしれません。しかし、英国ではキングス・カレッジ・ロンドンの教授がそれに異論を唱え、欧米のメディアで話題になっています。

同大学で遺伝疫学を教えるティム・スペクター教授が主張するのは「朝食は午前11時以降に取るべき」という説。その理由は、夕食から翌日の朝食まで14時間の「断食」時間を設けたほうが良く、現代社会では多くの人が午後9時頃に夕食を取っているからです。

 

スペクター教授によると、人の腸内にいる微生物も休息の時間が必要で、食べ物を摂取せず微生物を休ませる時間を14時間取ると、ダイエットに違いが出るとのこと。1週間のうち5日間は普通に食事を取り、残りの2日間だけはカロリー制限した食事をとる「5:2ダイエット」法がありますが、夕食から翌日の朝食まで14時間断食するほうが、この5:2ダイエットより効果があるとスペクター教授は論じています。

 

夕食から翌日の朝食までの時間をあけて“夜間断食”する効果については、別の研究でも示唆されています。例えば、英国のサラ・カヤット博士は、1日14時間以上の断食を行うことが、健康全般を改善することにつながると主張。これは狩猟採集を行っていた古代人の食生活とつながりがあり、午前6時から午後3時の間に1日の食事を終え、15時間断食すると血糖値の管理や体内時計に良いそうです。

 

また、マウスを使った別の実験では、絶食する時間を12時間設けて、概日リズム(生体の生理現象などにもとづいた周期)に合った時間に食事を取ることで、マウスの寿命が伸びたことがわかりました。これらのことから、食事を一切摂取せず空腹になる時間を適度につくるほうが人や動物の身体には良いようです。

 

もともと東洋医学の中には朝食を食べない、もしくは少なくするという考え方がありますが、近年では、内臓を休めることを目的とした「プチ断食」を勧める医師もいます。スペクター教授の主張はそれらと似ていますが、夕食の時間が遅くなりがちな人は、朝食の時間を遅くする、もしくは抜くことを考えても良いかもしれません。

 

【参考】

Joe Pinkstone. The time of day to eat breakfast if you want to lose weight. The Telegraph. June 10 2022. https://www.telegraph.co.uk/news/2022/06/10/timing-breakfast-can-help-lose-weight/ 

Greenhill, C. Timing of feeding for longevity in mice. Nat Rev Endocrinol 18, 457 (2022). https://doi.org/10.1038/s41574-022-00701-7

コロナ禍を経ても変わらない、ドイツ人の羨ましい「長期滞在型旅行」

コロナ禍で旅行を自粛せざるを得ない状況にあったこの2年間は、旅行好きなドイツ人にとってかなりの我慢が必要とされる時期でした。マスクを外すことが許可された2022年の春、ドイツではこれまで溜まっていた旅行熱が一気に溢れ出すかのように旅行ラッシュが始まりました。コロナ禍が収束したとは言い切れない状況で、以前と比べてドイツ人の旅行事情にどのような変化が見られるのでしょうか?

↑「暮らすように旅する」がドイツスタイル

 

ドイツでは新型コロナワクチンの3回目の接種を終えた証明書があれば、日常生活に制限がかかることはほぼなくなりました。市街地でもマスクを着用している人を見ることが少なくなり、「コロナ禍はほとんど終わったようだ」と思うことが増えています。日常会話にも「今年はどこでバカンスを過ごすの?」というような話が戻ってきましたが、旅行での必須アイテムに新型コロナワクチンの証明書が加わったことで、これまでワクチン接種をしていなかった人もバカンスに向けて急遽済ませるケースが増えています。

 

フライトや宿の予約スピードも勢いを増しています。統計データを提供するStatista社の調査では、2021年時点で82%の人が「翌年に旅行する計画がある」と答えていましたが、2022年4月になるとドイツ国民の約65%がすでにオンラインで旅行を予約していました。2年間に及ぶロックダウンの反動で、明らかに旅行意欲が強まっています。

 

じっくりと味わう

日本の旅行は週末や連休の数日間で名所を観光したり、贅沢な食事をしたりする「周遊型」が一般的ですが、ドイツなどのヨーロッパ諸国では、もともと1か所のリゾートエリアや宿泊先にとどまる「滞在型」が好まれています。食事付きの「オールインクルーシブ型」のホテルに1週間ほど宿泊したり、「フェーリエンハウス」と呼ばれる休暇用の一軒家やアパートメントを借りて1~3週間自炊しながら過ごしたりします。“暮らすように旅する”と言われるように、できるだけ旅行中の移動が少なく、予定を詰め込み過ぎない「リラックス型」がドイツ人の旅行スタイルといえます。

 

ドイツにあるルフトハンザ系列の旅行会社によれば、2022年は大きな都市部や観光名所を巡る旅行に比べて、やはり滞在型旅行の問い合わせが増えているとのこと。混雑するエリアを回るよりも1か所にとどまる旅行のほうが、コロナ感染のリスクを少しでも抑えられると考えている人が多いことも要因と見られます。

 

しかし、バカンス旅行の行き先や移動手段については、コロナ禍以前に比べると、さまざまな変化が見られます。陸地移動が可能なヨーロッパではこれまで海外旅行も気軽に行われていましたが、現時点ではまだ国境を越えた旅行に抵抗感を持つ人が多いのも事実。コロナ感染を恐れているというよりも、陰性証明の有無など頻繁に変わる各国のコロナ対策による入国条件を事前に把握し、準備することが面倒だという理由もあるようです。

↑鉄道の旅が人気

 

さらに、パンデミックで大打撃を受けたドイツ国内のホテルやレストランを支援する運動「#supportyourlocal」 の効果もあるでしょう。Statista社によれば、2022年は国内旅行を予定している旅行者は約31%と、コロナ禍前を上回りそうです。

 

ドイツ政府も国内旅行の需要を喚起するために、燃料費の値上げや環境問題への対策、さらにローカルサポートへの支援策として、2022年6月から3か月間限定で国内の公共交通機関が乗り放題になる通称「9ユーロチケット」を導入しました。このニュースは欧州内で大きな話題となり、5月時点で約50%の人がこのチケットを購入する予定と答えていました(Statista社)。

 

パンデミック以前は、ドイツ人の間でクルーズ旅行が大人気でした。一度乗船してしまえば乗っているだけで次の目的地に連れて行ってくれるので、リラックスしながら楽しむには最適と言えましたが、コロナ禍以降はクルーズ旅行が避けられるようになり、旅行熱が戻った現在でも予約状況は芳しくありません。船上の密室として新型コロナウイルスのホットスポットになってしまったことに加え、C02や排出物・廃棄物を多く吐き出し、環境に悪影響を及ぼすという観点からも、クルーズ離れが見られるようになったのです。

 

日本人には真似できない?

ゆったりした長期滞在型旅行を好むドイツ人ですが、そのワークスタイルは「休暇が多いのに生産性が高い」ということで、働き方の良いモデルになっています。日本企業と違って、ドイツの多くの企業では従業員が年度初めに1年間の有給休暇スケジュールを提出しなければならず、ドイツ人はその時に年間の旅行プランも立ててしまうなど、とても効率的なのです。

 

ドイツ人にとって人生で旅行の優先順位が高いことは、コロナ禍以前もコロナ禍以降も変わりません。昔から最も人気が高い滞在型旅行は、人との接触を極力減らしたい人に合った旅行スタイルとも言えそうで、さらに人気が高まりそうです。

イギリスはお祭りモード! 売り切れが続く「プラチナジュビリー記念グッズ」

イギリスは現在、エリザベス女王の即位70周年を盛大にお祝いしています。「プラチナジュビリー(Platinum Jubilee)」と呼ばれるこの祝典では、年間を通してさまざまなイベントが行われますが、6月初めには祝日が設けられ、パレードや礼拝が行われました。コロナ禍で落ち込み気味だった街も一気に華やぎ、記念グッズも大盛況。スキャンダルが後を絶たないイギリス王室ですが、国中にお祭りムードが漂っています。

↑バッキンガム宮殿には大勢の人が集まった(誰もマスクを付けていないような……)

 

エリザベス2世はイギリスで最も長く君臨し、プラチナジュビリーを祝う初の君主であり、最年長の現職国家元首です。そんな女王を盛大にお祝いしようと、パレードが行われたバッキンガム宮殿の周辺には多くの人が集まり、国旗を振っていました。1200人以上の将校と兵士が数百人のマーチングバンドと約240頭の馬とともに行進を披露し、宮殿周辺は熱気に包まれました。

 

また、6月の祝典では「ビーコン・チェーン(a beacon chain)」と呼ばれる伝統的な炎のリレーが、「プラチナジュビリー・ビーコン」として行われ、イギリス本国と海外領土全体で1500以上のビーコンが点灯。団結の象徴として多くの人の目に焼き付きました。

 

ロンドンまで出掛けずに、プラチナジュビリーを楽しむ人も多くいます。自宅の庭に家族や友人を招いてガーデンパーティーを開いたり、ユニオンジャックカラーの服装で職場に集まったり。また、数多くのプラチナジュビリー記念グッズが販売されており、人気を博しています。

 

老舗デパートの「SELFRIDGES」は、ショートブレッドビスケットやチョコレート、ジャムなど、「ハンパー」と呼ばれる詰め合わせのバスケットをお祝いパッケージ仕様で発売。王室御用達デパートの「フォートナム&メイソン」は、ジャムやビスケット、お皿やティータオルがセットになったギフトボックスを揃えました。高級スーパーの「マークス&スペンサー」は、イギリス人が大好きなソーセージロールやポークパイ、お菓子の詰め合わせなど、簡単にパーティーができるセットを販売。装飾用のユニオンジャックの旗や、ユニオンジャックが描かれたTシャツ、トートバッグなども売られています。

↑プラチナジュビリー版アフタヌーンティー

 

王室グッズ公式サイトでもさまざまな記念品を購入できますが、一時は混みすぎてアクセスできなくなるという事態も起きました。公式サイトのさまざまなグッズのなかでも数時間以内に売り切れたのは、プラチナジュビリーのエンブレムが刻印された120ユーロ(約1万6500円※)の限定版シャンパングラスのセットでした。プラチナジュビリー限定版の時計やコーヒーマグ、大型ジョッキ、ティーカップとソーサーも完売したとのこと。ティータオルも大人気で、売り切れが続いています。

※1ユーロ=約137.6円で換算(2022年7月12日現在)

 

また、パンデミックや環境問題に影響を受けて、ハンドサニタイザーやフェイスシールド、エコボトルなどの記念グッズも販売中。例えば、プラチナジュビリーの公式サイトにある特別テディベアには、リサイクルポリエステルが使用されています。

 

ロンドンの地下鉄では2022年5月、「エリザベスライン」と呼ばれる新しい路線が開通しました。ヒースロー空港とロンドン東部を結んでおり、これによってロンドンがもっと観光しやすくなると期待されています。コロナ禍がほぼ収束し、暖かくなってきたイギリスは、これからが観光やバカンスのベストシーズン。プラチナジュビリーのお祝いムードも手伝って、イギリス人はこれからお祭りモードが全開になりそうです。

Bluetoothを搭載した、オールインワンまな板「4T7」が米国で登場

近年、キッチンにあるさまざまな物がインターネットに接続され、相互にデータを交換するIoT化がどんどん進んでいます。外出先からアプリを通して冷蔵庫の中身を確認できる「スマート冷蔵庫」や、これまでの調理記録から好みの温度や調理時間をAIが学習する「スマートオーブン」など。そこに最近、新たに加わったのが、Bluetoothを搭載した「スマートまな板」です。

↑単なるまな板じゃない

 

最近、アメリカの「4T7」社が、社名と同じ名前を持つスマートまな板を開発しました。その最大の特徴は、まな板の上で食材をカットしながら、重さを測り、カロリー計算を自動で行うこと。見た目は一般的なウッド調のまな板ですが、竹でできた上部のカッティングボードの下にはBluetoothを内蔵したスケールが組み込まれています。それにより、食材をまな板の上にのせるだけで、専用アプリを通して、0.1g単位で最大3kgまで食材の重さを量る仕組みになっています。この無線通信技術を搭載している点が、従来の「スマートまな板」との大きな違いでしょう。

 

さらに、この計量機能を活かして、食材のカロリー計算もアプリで可能。例えば、まな板の上に肉などの食材を置くと、重さと併せて摂取カロリーがわかります。まな板にはタイマーも付いていて、調理時間を測るときに利用できます。

 

機能面に加えて、衛生面も4T7の魅力。肉類を切るときに使う竹製のボードと、野菜・果物のカットに最適なアクリルボードのどちらも、銀イオンの抗菌加工と防水・防カビ加工済み。また、冷凍した食材を素早く解凍できる、特殊な熱電動性素材を使った解凍トレイもセットになっています。

 

専用アプリは、先にご紹介した食材の計量とカロリー計算のほか、ダイエットや健康など、目的別のレシピ検索機能を搭載。できあがった料理を写真に撮って投稿することもできるので、料理の楽しみが広がりそうですね。

計量、カロリー計算、タイマー、解凍トレイなど、幅広い機能を集約した4T7。現時点で、購入と配送はアメリカ本土のみに限定されていますが、このようなスマートまな板は、これから世界中に現れるかもしれません。

否定的な言葉は不愉快! 動物は人の気持ちを解読していることが判明

動物は、人間の感情を、言葉を通して解読している。最近ヨーロッパで行われた実験で、一部の動物がそのような能力を持っていることが示唆されました。この結果は、動物福祉に良い影響を与えるかもしれません。

↑前向きな言葉を聞けば、動物もうれしい

 

デンマークのコペンハーゲン大学の行動生物学者は、動物が人間の言葉から、発話者がプラスの感情(幸せ・うれしい)とマイナスの感情(怖い・緊張)のどちらを抱いているのかを解読できるどうか調べました。

 

この実験で対象としたのは、豚、馬、イノシシ。実験対象の動物に対して、隠したスピーカーから人間の声や言葉のほか、さまざまな動物の鳴き声を流して、豚、馬、イノシシがどのような反応を見せたかを、耳の位置や尻尾の動きなどに注目しながらビデオに録画して検証しました。人間の言葉については、飼い主などがよく話している言葉などを覚えていることも考えられるため、プロの声優に依頼して録音した言葉を流すことにしました。

 

その結果、豚と馬は、人間の声や言葉がポジティブなときとネガティブなときで異なる反応を示し、ネガティブな言葉を聞かせたときは、ポジティブなものと比べて、より早くて強い反応を示すことがわかりました。イノシシだけは、そのような反応を示さなかったとのこと。つまり豚と馬は、人間の声や言葉にポジティブな意味があるのか、それともネガティブな感情が含まれているのかを区別できるようなのです。しかも、最初にネガティブな言葉を、次にポジティブな言葉を聞かせるときは、その逆と比べて、動物はより一層強い反応を示したとのこと。

 

この結果から、豚と馬はネガティブな感情を持っている人間や動物がそばにいると、声や言葉を通して相手の感情をいち早く察知している可能性が考えられます。馬と豚のこの行動について、同研究者たちはそれぞれ異なる仮説を立てており、馬の場合は系統発生(生物の種族がその出現当初から現在に至るまでの間、下等なものから高等な生物へと少しずつ変わってきた進化の過程〔精選版 日本国語大辞典〕)が、豚の場合は家畜化が最も当てはまると述べています。

 

今回の実験では、ある人の感情が他人の感情に影響を与える「感情の伝染(emotional contagion)」が働いていることは確認できませんでしたが、この点については今後の課題とされています。同研究者たちは「人間の言葉遣いは動物の福祉にとって重要である」と述べ、動物にも丁寧に話しかけるよう提言。今回の発見は世界中のペットオーナーに、動物への話しかけ方を考えさせることでしょう。

 

【出典】Maigrot, AL., Hillmann, E. & Briefer, E.F. Cross-species discrimination of vocal expression of emotional valence by Equidae and Suidae. BMC Biology 20, 106 (2022). https://doi.org/10.1186/s12915-022-01311-5

 

「レディース&ジェントルメン」の廃止が止まらない。死語になるのは確実?

乗り物の機内アナウンスやショーなどでよく耳にする「レディース・アンド・ジェントルメン」という呼びかけ。このお馴染みのフレーズの使用が、いま世界各国で廃止されています。この言葉はどうなるのでしょうか?

↑「乗客の皆様、こんにちは」

 

「レディース&ジェントルメン(ladies and gentlemen)」は、「皆さん」と人々に呼びかけるときに使われる礼儀正しい(正しかった?)言葉。でも直訳すれば「淑女と紳士の皆さん」となり、ジェンダーへの意識が高まるなか、「女性でも男性でもないと感じている人に疎外感を与えかねない」と、この言葉を敬遠する動きが出てきているのです。

 

先日、「レディース&ジェントルメン」という呼びかけの廃止を発表したのは、ドイツのTUI航空。すべてのお客様を歓迎するという意味をこめて、今後の機内アナウンスは「Good morning, passengers(乗客の皆様、おはようございます)」を使うよう、パイロットや客室常務員に指示しました。

 

この動きは、以前から航空会社の間で起きています。最初に「レディース&ジェントルメン」以外の挨拶を導入したのは、エア・カナダ。同社は2019年に「everyone(皆様)」の言葉の使用を発表しています。そのほかにも、イギリス最大の航空会社ブリティッシュ・エアウェイズ、ドイツのルフトハンザ、マルタのマルタ航空などが、この呼びかけを廃止。

 

同様に、日本航空は2020年9月に、空港や機内における英語アナウンスでの「レディース&ジェントルメン」の使用をやめ、同年10月から「Attention all passengers(乗客の皆様)」を使っているのです。ちなみに日本語でのアナウンスに使われる言葉は、もともとジェンダーニュートラルであることから、変更していないそう。

 

ディズニーランドも

航空会社以外でも、「レディース&ジェントルメン」をやめる動きが出ています。その一つが、世界的エンターテイメント企業のディズニー。世界各国にあるディズニーパークでは、「レディース&ジェントルメン、ボーイズ&ガールズ」の代わりに、「Hello everyone(皆さん、こんにちは)」や「Hello friends(親愛なる皆さん、こんにちは)」を使うことを表明しました。

 

東京ディズニーランドと東京ディズニーシーでも2021年3月より、パレードやショー、アトラクションなどのアナウンスで変更しています。

 

さらに、「ディズニープリンセスに変身できる」とうたい、子どもたちにドレスを用意してヘアメークも施すサービスを行うサロンでは、2016年から性別を問わず誰でも利用できるようになっています。

 

以前は礼儀正しかった言葉が今日では失礼になる。「レディース&ジェントルメン」の意味の逆転は、時代の変化を物語っています。「レディース&ジェントルメン」はこのまま死語になるのか、それとも新しい意味や用法を獲得することはあるのでしょうか? 

運動すると気持ち悪くなるのはなぜ? 解剖学者が仕組みと予防法を説明

運動した後に、なぜか気持ち悪くなることがあります。遊びや気分転換のために身体を動かしたのに、逆に気分が悪くなってしまっては台無しですよね。一体なぜこのようなことが起きるのでしょうか? 最近、イギリスの解剖学者が2つの説を述べました。身体が気持ち悪くなる仕組みを知れば、その予防ができるかもしれません。

↑こうなるはずじゃなかったのに……

 

イギリスのランカスター大学で解剖学を研究するアダム・テイラー教授によると、運動中や運動後に気持ち悪くなる原因として次の2つの説が考えられるとのこと。

 

1: 運動前の食事

食事をすると胃が広がり、消化のための酵素などが分泌され、胃の筋肉が活発に動いて消化活動を行います。このとき胃腸には、消化のために多くの酸素や血流が必要。しかし運動すると、身体の筋肉や肺、心臓が活発に動き、その部分の血流が増加。運動中は胃腸に向かう血管を最大で8割ほどまで狭くして、その分だけ多くの血流を筋肉や肺などの活動に使おうとするそうです。

 

つまり、運動の前に食事をすると、胃腸が酸素や血液を必要とするのに、胃腸以外の組織も酸素や血液を必要とする事態となり、それによって吐き気を催す可能性があるのです。ちなみに、マラソンランナーのような持久力が求められるスポーツを行っている人は、長時間胃腸にわたる酸素と血流が減ることから、胃腸が弱い可能性が高いのだとか。

 

2:  臓器の圧迫

運動前に食事をとっていない場合でも、運動によって気持ち悪くなることがあります。それは運動によって胃などの臓器が圧迫されることがあるから。例えばスクワットを行うとき、肺は大量の空気を取り込み、それによって横隔膜が強く押し下げられます。そして、呼吸のたびに腹部の臓器が圧迫されるため、気持ち悪さを感じることがあるのです。

 

予防法

運動しても気持ち悪くならないために注意することはあるでしょうか?一番にできる方法としては、やはり運動前に食事をとらないことです。食べ物が胃から小腸にたどりつくまでおよそ2時間かかるので、運動する前の2時間は食事をとらないほうが良さそう。

 

また、運動前にとる食事の内容にも注意が必要です。消化が遅いものは食べ物が長く胃にとどまるため、その分吐き気をもよおす可能性が高くなります。繊維量が多く、高脂肪・高たんぱくの食べ物は避けるべき。さらにエナジードリンクやソーダ、スポーツドリンクなども運動中の吐き気と関係があると言われています。

 

運動は強度の低いものからゆっくり高いものに上げたり、運動の前後に十分な水分を取ったりすることも大切。運動してスッキリと気分よく終われるように、これらのことに注意してみてはいかがでしょうか?

イーロン・マスクにも共通点あり!起業家の「顔」にはパターンがあった

「起業したい」「独立して成功したい」と考えているなら、その素質が自分にあるのかどうか知りたくありませんか? 欧州の研究者が男性の顔の特徴を分析した結果、起業家の顔に2つの特徴があることがわかりました。

↑顔と起業と成功の関係は?

 

キプロス大学の研究チームは、起業家になる可能性や成功するチャンスが、人の顔に表れているかを研究しました。そこで世界最大のスタートアップ企業のデータベースと言われる「クランチベース」に登録されている起業家と、起業家以外の人の顔写真のサンプルを用いて、顔分析ソフトで解析を行いました。解析は、主に以下の3つのポイントで行われました。

 

・顔の横幅と長さの比率

・頬骨の隆起度合

・顔の左右対称性

 

この結果、顔の横幅と長さの比率は起業家に共通する特徴とは言えませんでした。しかし頬骨が隆起していて左右対称であることは、起業家の特徴として多いことが明らかとなったのです。

 

今回の解析で使われたデータは、主にアメリカ在住の白人男性が中心。これは、テスラや宇宙開発企業スペースXの創設者で、世界長者番付1位に輝いたイーロン・マスクにも当てはまる特徴。確かにイーロン・マスクは頬骨が出ているところが特徴的で、左右対称性も高いです。同様に、イギリスの実業家でヴァージン・グループの創設者であるリチャード・ブランソンにも該当します。

 

顔と成功は別

しかし、もし自分の顔は頬骨が出ていて、左右対称であったとしても、「起業家に向いている!」と喜ぶのは早過ぎます。今回の研究で、上記の特徴とビジネスの業績に関連性はないことがわかりました。つまり、起業家に多く見られる顔だからといって、必ずしもビジネスで成功するとは限りません。この研究チームは「起業において顔の外見的特徴はリーダーの出現と関連しているが、その後のビジネスパフォーマンスとは関連性はない」と結論づけています。

 

【出典】Dimosthenis Stefanidis, Nicos Nicolaou, Sylvia P. Charitonos, George Pallis, Marios Dikaiakos, What’s in a face? Facial appearance associated with emergence but not success in entrepreneurship, The Leadership Quarterly, Volume 33, Issue 2, 2022, 101597, ISSN 1048-9843, https://doi.org/10.1016/j.leaqua.2021.101597.

ヤスデはテイラー・スウィフトに。生き物の意外な名付け方

最近、新たに発見されたヤスデにポップスターの名前が付けられ、海外で話題になりました。しかし、それは決して珍しいことではなく、世界には「セレブ」な名前を持つ生き物が少なくありません。いくつか紹介しましょう。

↑キミの名は……

1: 歌姫のおかげで見つかったヤスデ

グラミー賞を11回受賞している世界的シンガーソングライターの「テイラー・スウィフト」の名前が、米国・テネシー州のアパラチア山脈で発見された新種のヤスデに付けられています。この名前を付けた科学者は、命名の理由について「テイラーの音楽が、自分の研究に影響を与えたから」と語っているそう。大学院での研究を支えてくれたので、感謝の気持ちを込めて名付けたのだとか。ちなみに、このヤスデと同時に別の16の新種も発見しており、そのうちの1つには「自分の研究を支えてくれた」妻の名前を付けています。

 

2: 米国歴代大統領の名を持つ寄生虫

米国大統領の名前も人気がある模様。例えば、米国の第44代大統領である「バラク・オバマ」の名前は、7つ以上の生物に付けられています。しかも、そのうちの2つは寄生虫。2012年にケニアで発見された寄生虫と、2015年にマレーシアの淡水ガメの肺に寄生する寄生虫の2つに、バラク・オバマの名前が付けられています。そのほか、トカゲやクモなどの中にもバラク・オバマの名前が命名されているものも存在します。

 

また、第45代アメリカ大統領の「ドナルド・トランプ」の名前は、新種の蛾の名前になっています。この蛾の頭部に金色の断片のようなものが付いており、それがドナルド・トランプ元大統領のヘアスタイルに似ていることから、付けられたのだとか。

 

3: ロックンロールなクモ

中国の最高研究機関と言われる中国科学院の科学者が2021年、クモの4つの新種を発見。それに、ロックバンドの「ボン・ジョヴィ」の名前を付けています。残りの3つのクモには、16世紀の博物学者の名前や、俳優、映画監督の名前を付けたとか。

 

最高の栄誉?

科学者は新種の生き物を発見すると、「国際動物命名規約(ICZN)」という国際的な規約に則りながら、数か月から数年もの時間をかけて論文を書きます。この論文を発表して初めて、新種を世界に発表することができそう。科学者たちにとって自分で新種を発見し、自由に名前を付けることは憧れであり名誉あることですが、その新種に付けられた人物には、尊敬や感謝の意味合いが含まれていることが多いようです。

 

ただし、新種を発見した人が自由に命名できるとなると、例えば残虐な行為を行った歴史的人物の名前を生き物につけることも可能。しかも現状のシステムでは、人道的な理由でICZNが生物の名前を変更することはできないそうです。このことに異論を唱えている科学者もおり、生き物の命名プロセス自体が見直されるかもしれません。

イタリアで「豆類パスタ」がブーム! イタリア人が納得した食感とは?

最近のイタリアでは、パスタの主原料に豆類を使うことがブームになっています。豆類は地中海式食事(ダイエット)法の重要な一要素ですが、イタリアでは貧しかった時代の象徴として敬遠される傾向もありました。ところが、最近は健康ブームやロックダウンをきっかけに、豆類パスタの人気が急上昇。イタリアで豆類に何が起きているのでしょうか? 現地からレポートします。

 

植物性タンパク質のニーズが増加

↑豆類パスタがイタリアでブーム!

 

イタリアのスーパー大手「COOP」の調査報告によると、ここ数年、イタリアの人たちの買い物に顕著な変化が起きています。それは、タンパク質を有する食材に対する需要の増加。2019年と比較すると、2021年前半の植物性タンパク質の商品の需要は、17.4%も上昇したことが報告されています。

 

ヘルシーなイメージを持つ豆類の人気が高まっていることは、イタリア政府中央統計局(ISTAT)の報告でも明らか。統計では、豆類を少なくとも週に1回は食べていると答えたイタリア人は全体の53%にものぼりました。この数字は、10年前と比較すると15%も増えています。

 

なぜ、このような現象が起きているのでしょうか? その理由の一つとして、豆類を原材料とするパスタが人気を集めているからではないかという説があります。豆類を主力に販売するペドン社の社長マッテーオ・メルリン氏は、豆類の消費の増加は、人々の健康志向に加えて、新型コロナウイルスのパンデミックとも関係していると分析。つまり、ロックダウン中に食の多様化が進み、若い世代の間でも豆類への興味が広がったことが、豆類パスタの人気を支えているというわけです。

 

食感が良くなった!

↑タンパク質は豆で摂る

 

では、豆類を原料にしたパスタとは一体どのようなものなのでしょうか? パスタの原料となる豆類は、ヒヨコマメ、レンズマメ、インゲンマメ、グリーンピースが主流。また、飽食の時代には忘れられていたグラスピーやハウチワマメを使用するパスタもあります。

 

実は豆類パスタは以前から販売されていたのですが、最近まであまり普及しなかった理由は、単純においしくなかったから。従来の豆類パスタは、イタリア人がこだわるパスタのアルデンテ、つまり歯ごたえの良い食感を得ることがどうしてもできなかったのです。

 

ところが、この数年間で豆類パスタはその弱点を克服。通常のパスタと比較すれば歯ごたえという点ではわずかに劣るものの、豆類の粉特有のポロポロと崩れるような食感が、メーカーの技術の向上により軽減されたのです。

 

豆類パスタはイタリア人の舌を満足させる食感に辿り着いたことで、鮮やかな色やコクのある味わいも消費者に評価されるようになりました。その結果、かつてはオーガニック専門企業の独壇場といわれた豆類パスタは、2018年に大手パスタメーカーのバリッラ社が参入したこともあり、イタリアではごく身近なものになっていったのです。

 

とはいえ、豆類パスタは、従来のパスタのもちもちとした食感と異なることは否定しようがないため、大手メーカーは製品のホームページで「レンズマメのパスタはカリフラワーとの相性が良い」とか「ヒヨコマメのパスタは小エビとマッチする」などのアドバイスを提供することで、その価値を高めようとしています。

 

豆の意味が逆転

↑豆類パスタが売れています

 

豆類パスタには具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか? まずはグルテンフリーの食材であること。本来はアレルギー対策として考案されたグルテンフリー食材ですが、現在では健康や美容の面でも注目される存在になりました。しかし、小麦などの穀物のタンパク質を摂らないようにするからと言っても、タンパク質の摂取は必要。そこで、ちょうど良いのが豆類であり、豆類パスタが特に食べやすいのです。

 

また、小麦パスタと比べて、豆類パスタにはタンパク質や食物繊維が豊富に含まれています。バリッラ社の商品を参考に比較すると、豆類パスタのタンパク質量は小麦パスタの約2倍、食物繊維量は3~5倍にもなります。農業研究および農業経済調査委員会(CREA)は週に3食、豆類を摂ることを推奨していますが、日常的に食べるパスタで摂取できれば難しくありません。

 

豆類を使ったパスタの人気は、新商品開発への追い風にもなっています。豆類パスタの売れ行きに気をよくしたバリッラ社は豆類が原料のビスケットを発売し、ほかの企業も豆類を原料にしたプリンやスナック、ドリンクなどを商品化しています。

 

さらに、こうした豆類を使った各種商品開発は、ウクライナ戦争などによる小麦の供給危機を乗り越えるための一助にもなるかもしれません。もはやイタリアで豆類は貧しさの象徴ではなく、豊かさや健康のシンボルなのです。

バリスタはロボット! カナダで急増中の「無人店舗」の背景と反応

日本は自動販売機において世界トップクラスであると言われていますが、カナダでも新型コロナウイルスのパンデミックの影響で、自販機を含む小売店の無人化が急速に進んでいます。街中では、おいしい飲み物やスナックを提供する無人店舗があちこちに出現。完全自動化したコンビニエンスストアも登場し、人手不足に一役買っている模様です。カナダで拡大する無人店舗と人々の反応を現地からレポートします。

 

バリスタ自販機

↑カナダ初のロボカフェ

 

日本の自販機で販売されている商品の多くは飲み物ですが、カナダのトロントでは本格的なコーヒーやスライスケーキ、ピザなどを販売する自販機が増えてきました。実は、これまでカナダの自販機といえばホッケーアリーナや学校の庭に設置されているものが多く、コーヒーカップが汚い、古いデザートが販売されているなどあまりよいイメージはありませんでした。しかし、今回取り上げた自販機には従来の悪いイメージを変える力があるかもしれません。

 

2020年にオープンしたカナダ初の無人ロボットカフェ(通称「ロボカフェ」)は、ロボットが「バリスタ」というユニークさ。メニューもコーヒーだけでなく、エスプレッソやチャイラテなどさまざまで、カフェインフリーコーヒーや植物性オーツミルクへの変更も可能。注文は店頭のタッチパネルや専用アプリで行い、購入者は目の前のプレキシガラスを通して、実際にロボットが注文商品を作る過程を一通り見ることができます。

 

また、スライスケーキを販売する「ケーキATM」もカナダの無人店舗化を象徴する自販機の1つ。アメリカで有名な「カルロズベーカリー」の商品を取り扱うこのケーキATMは、キャロットケーキやクッキーアンドクリームなど6種類のケーキを販売しています。自販機内の温度と在庫量がきちんと管理されており、ケーキはいつも新鮮。このATMは現在のところショッピングモール内を中心に約30か所に存在しており、子ども連れの家族や若者の間で人気を博しています。

 

「スライスタイプでもサイズが大きいので、誰かとシェアするにはちょうどいい。知名度が高いケーキを自販機で手軽に買える体験は価値があるし、面白かった」と、ある利用者は述べています。

↑レンガ模様が目を引くケーキATM

 

一方、カナダにはピザの自販機も存在。トロントに拠点を置き、カナダで30軒以上の店舗を構えるPizza Forno社がこの自販機を運営しており、カナダ国内のみならずアメリカにも進出しています。キャッチコピーは「オーダーからわずか3分でフレッシュな焼きたてピザを味わえる」。シェフが作った生地をストックしておき、オーダーが入ったら自動的にマシンが調理して提供するという仕組みが特徴です。毎日24時間いつでも利用可能。ピザを購入した人の中には、「当初は味に期待していなかったが、実際に食べてみて、自販機ピザの概念が変わりました」と話す人もいます。

 

自営業者に時間の余裕を

トロントの自販機で売られているのは、飲料や食料品だけではありません。新型コロナウイルスの影響で、地下鉄駅構内にはマスクや消毒用ジェルなどを買える自販機も設置されています。

 

iPodやポータブル充電器、ヘッドフォンなど旅行に必要な電化製品の自販機も、トロントのピアソン空港などに置かれています。この自販機を展開しているSignifi Solution社のシャミラ・ジャファーCEOは、「自販機のあり方が変わり始めている」と語ります。自販機で扱う商品は次第に高級志向になっており、利用者の中には、1200カナダドル(約12万6600円※)の電化製品を空港で買う人もいるそうです。

※1カナダドル=約105.5円で換算(2022年6月7日現在)

 

消費者と無人店舗をつなぐ架け橋のような体験を提供したいと語るのは、完全キャッシュレス&スタッフレスのコンビニエンスストアを展開するAisle24社のジョン・ドゥアンCEO。

 

毎日14時間営業という個人経営の食料品店を営んでいたドゥアン氏の両親は従業員を雇う余裕もなく、休みを取りたい時は店を閉めなければならかったそうです。「自分のような店舗オーナーに時間の余裕を持ってもらうために最新技術を導入したい」と思ったのをきっかけに、完全自動化のコンビニエンスストア事業に乗り出しました。

 

来店者はアプリを利用してチェックインし、自動精算機を使ってチェックアウト。誰とも接することなく、食料品や調理された食品を購入できます。人手不足が深刻な小売業界において、完全自動化は労働力をカバーしワークライフバランスなどの課題を解決する重要な施策であると言えるでしょう。

 

このように、カナダではハイクオリティで便利な自販機や完全無人化店舗が増えており、自販機——ひいては無人化——のイメージは変わりつつあります。面白いものや新しいものが好きなカナダ人にとって、IT技術を活用した無人接客は、日常生活にワクワク感をもたらす新しい体験。これから自販機がカナダでどのように発展していくのか、期待しながら見守りたいと思います。

 

 

 

 

 

 

ドイツで大ブームの「貸し庭」、単なる趣味ではない魅力とは?

ガーデニング大国と言われるドイツでは、老若男女を問わず、太陽の下で土仕事をすることが自由時間の楽しみの1つとされています。また、自然を好む国民性ならではの文化として昔から「貸し庭」が愛されてきましたが、現在その大ブームが巻き起こっています。ドイツの貸し庭の魅力や現状、希望者が増え続ける背景とは?

 

プチ別荘のような存在

↑貸し庭に行きたい!

 

多くの人が庭付きの家に住むことに憧れると思いますが、都市部で庭付き一軒家を確保するのはなかなか難しいかもしれません。そのような人のために、自分の庭を持ちたいという願いを叶えてくれるのがドイツならではの文化といえる「貸し庭」。ドイツでは貸し庭が国内全域に存在し、人々に親しまれています。

 

ドイツの貸し庭は「クラインガルテン(小さな庭)」と呼ばれ、長い歴史とともに園芸好きのドイツ人に愛されてきました。日本の市民農園と同じように、貸し庭は利用料を払って使用できる集合型の市民農園ですが、日本と異なるのは野菜や花木の栽培だけではなく、敷地内にそれぞれ大小さまざまな小屋があることです。

 

小屋には電気や水道が整備され、家具も置けるので、いわばプチ別荘のような存在。ただ、別荘といっても貸し庭はあくまでも「自然の中でリラックスする」ことが目的のため、住居として使用することは禁止されています。それでも、庭で料理やバーベキューをして楽しんだり、小さい子どもがいる家族は遊具やプールを置いたり、さまざまな魅力が詰まった空間です。

 

社会的な重要性

↑貸し庭の小屋①

 

貸し庭の歴史は、200年ほど前に遡ります。ドイツで起きた人口増加による貧困や食糧難の拡大を抑制するために取られた措置の1つでした。

 

その後、各地の自治体や教会などの組織によって管理され、現在ではさまざまな社会的機能を果たしています。都市部の自然環境を確保することに加え、人々が農園として使えるエリア、さらに場所によっては避難所として利用されるなど、とても重要な存在なのです。

 

クラインガルテンの連邦協会によると、2022年時点でドイツ国内には90万区画以上の貸し庭があり、合計で4万4000ヘクタールもの敷地面積になります。区画によって大小はありますが、1区画の平均は約370平方メートルで、家族や友人などと休日を過ごすリラクゼーションの場としては十分な広さ。

 

ただし、この敷地では好き勝手なことをして良いというわけではありません。所属するクラインガルテン協会によって異なりますが、それぞれの貸し庭にはルールが設けられており、それを守る義務があるのです。クラインガルテンの規定の例は下記の通り。

 

  • Laube(ラウベ)と呼ばれる小屋は24平方メートルまでの広さであること
  • 環境、自然保護、景観を考慮する
  • 庭の敷地の3分の1以上を園芸に利用し、そこで果物、野菜、ハーブを自分で使用(販売用ではなく)するために栽培する必要がある
  • 一部の指定された針葉樹や落葉樹を植えてはいけない

 

このようなルールのもとでドイツの貸し庭は緑が保たれ、癒しの場となっています。

 

貸し庭で旅気分

↑貸し庭の小屋②

 

ドイツ人は「バカンスで旅行をするために仕事をしている」と言われており、自然の中でリラクゼーションを楽しむことが人生に必要不可欠と考えています。したがって、ロックダウン(都市封鎖)によって旅行が制限されたドイツ人の関心が貸し庭に向けられたのは驚くべきことではありません。ドイツの統計会社Statistaが、コロナ禍におけるドイツ人の休暇の過ごし方について調査したところ(複数回答可)、以下の結果が得られました。

 

  • バルコニーや庭で太陽を浴びる: 60%
  • 友達に会いに行く: 38%
  • ハイキングに出かける: 36%
  • サイクリングに出かける:  30%
  • そのほか: 12%
  • 代案なし: 11%

 

この結果からも、ドイツ人にとって太陽を浴びることがいかに大切なのかが伺えます。コロナ禍でドイツにも空前の園芸ブームが訪れ、トイレットペーパーの買い占めに続き、園芸グッズが次々に売り切れました。多くのドイツ人が貸し庭で日光浴をしたいのです。

 

何年も待つ価値はある

↑生き方が変わる

 

ベルリンやミュンヘンなどの大都市では、貸し庭に申請登録してから利用できるようになるまで4~8年かかるといわれています。郊外では早くて半年から2年ほどを要するようですが、植物を育てるのに自宅からあまり離れていては使いやすいといえません。また、大都市ではマンション建設や大型公園などの開発が進み、貸し庭の区画が取り壊されるなど、ドイツの伝統文化であるにもかかわらず、貸し庭は減少する一方です。このように、貸し庭の需要と供給が釣り合わないことが、待ち期間が長期化した理由と言えるでしょう。

 

それでも、多くのドイツ人が、都会で300平方メートル以上の土地を自由に使用できる貸し庭を求め続けます。水まきしながらビールを飲んだり、自家栽培の枝豆を庭の小屋で茹でて食べたり、休日は友達を呼んでバーベキューをしたり。貸し庭を手に入れた人は、自然に癒されながらリラクゼーション気分で野菜や果物を育てることに没頭。だからこそ、貸し庭は、園芸にまったく興味がなかった若者の生活を変える力があるとも言われているのです。コロナ禍が収束し、以前のような生活が戻ったとしても、貸し庭ブームは当分の間、消えそうにありません。

不満が爆発! ロサンゼルスの生活満足度が過去最低に

たくさんのハリウッドセレブが暮らす高級住宅街や、美しいビーチがあるロサンゼルス。アメリカではニューヨークに次ぐ大都市で、憧れの地というイメージを持つ人も少なくないかもしれません。しかし、実際にロサンゼルスに住んでいる人は、そこでの暮らしに不満だらけのようです。一体なぜでしょうか?

↑ロサンゼルスの生活も大変らしい

 

ロサンゼルスの生活満足度が低いことは、ロサンゼルスの住民1400人に行われた調査「QLI(クオリティー・オブ・ライフ・インデックス)」で判明。これは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)ラスキン公共政策大学院が2016年から行っており、住民への調査結果をもとに、生活費・教育・治安など9つの項目を10~100のスコアで評価し、暮らしの満足度を明らかにします。

 

2022年3月に行われた最新の結果で、ロサンゼルスは総合評価が53。前年の58から低下し、この調査を行っている7年間で過去最低のスコアになりました。9項目すべてでスコアが下がり、そのうち8項目は過去最低を記録。主な各項目の結果は以下のとおりです。

 

・生活費: 39(2021年: 45)

・治安: 56(2021年: 60)

・交通: 51(2021年: 56)

・雇用・経済: 56(2021年: 60)

・教育: 46(2021年: 48)

スコアの低下で気になるのは、生活費・治安・教育の3項目。現在、アメリカではインフレが進んでおり、スーパーで販売されている食料品はもちろん、ガソリン価格、公共料金など、あらゆるものの価格が上昇しています。しかもロシアのウクライナ侵攻により、ここ数か月でこの傾向が加速。これがロサンゼルスの生活費に影響したようです。

 

また、インフレによって暴力的な犯罪や財産を狙った犯罪が増加しており、それにより治安のスコア低下が見られたようです。

 

新型コロナウイルスの影響が最も長引いているのは教育分野。2022年の調査時点では、ほとんどの子どもたちは対面授業に戻っていますが、パンデミック期間にリモート授業が行われたことからその影響を心配する親が多くいるようです。特に仕事をしている親は、子どもがリモート授業になったことで負担が増し、「再びリモート授業になったら」という心配があるのかもしれません。

 

ロサンゼルスがあるカリフォルニア州では近年、気候変動が原因とみられる大規模な山火事や深刻な干ばつが起きています。しかも過去2年間はコロナ禍でしたが、それにも関わらず、これまでの調査の総合評価は56~59と安定していたそう。しかし2022年になって、まるでダムが決壊したようにスコアが下落。生活費の高騰や治安面や教育面の不安など、人々の生活を取り巻くさまざまなマイナス要因が重なり、人々の不満が積もってきているようです。

 

新型コロナウイルスやウクライナ侵攻などの予期せぬ大きな出来事が続いている中、ロサンゼルスに限らず、それは確実に人々の暮らしに影を落としているのかもしれません。

お腹が空くと非合理的な行動を取る理由をミミズが教えてくれた!

お腹が空いているとき、人間はイライラして怒りっぽくなったり、軽率に物事を決めたりします。空腹状態は私たちの思考や行動に影響を与えていることは間違いありませんが、そのメカニズムが解明されつつあります。

↑何としてでも食べたい!

 

人が空腹になったとき、その信号がどのように脳に伝わり、私たちの行動を変化させているのか、その詳細はほとんどわかっていません。そこで米国・ソーク研究所のチームは、ミミズを使って空腹が生き物にどのような変化をもたらすのかを研究することにしました。

 

研究チームは、ミミズを空腹状態にして、農薬や虫よけに使われる硫酸銅の壁をエサとミミズの間に設置。ミミズがどんな行動を示すのかを実験しました。また、エサを十分に与えたミミズでも同様の実験を行い、空腹状態のミミズとの行動の違いを観察したのです。

 

その結果、空腹状態になったミミズは、お腹が空いていないミミズに比べて、ミミズにとって危険な硫酸銅の壁を積極的に進んでエサを求めようとする行動が確認できました。

 

この行動の原因を突き止めるために、同研究チームが、脳に信号を送っている可能性のある腸内の分子について調べたところ、転写因子(DNAに結合し、遺伝子の活性を調節するタンパク質)のある動きを発見。通常、転写因子は細胞の細胞質内にあり、活性化したときだけ細胞核に移動します。しかしミミズが空腹になると、「MML-1」と「HLH-30」という2つの転写因子が、細胞質に戻っていることが確認されたのです。MML-1とHLH-30が動かないようにすると、ミミズは硫酸銅の壁を越えようとする行動は見せなくなったそう。

 

ここから、MML-1とHLH-30の2つの転写因子が、毒性のある壁を進もうとするミミズの行動に関わっているものと考えられます。また、この2つの転写因子が移動する際、腸からタンパク質が分泌されていることも判明。つまり、ミミズが空腹状態になると、MML-1とHLH-30の2つの転写因子の移動が引き起こされ、それによってタンパク質の分泌が促進されている可能性があるのです。さらに、そのタンパク質が空腹情報を脳に伝達して、目の前に危険があってもエサを求める行動を促しているものと考えられるのです。

 

生き物は、苦痛な状態を自ら求めることはせず、快適な状態を求めるもの。しかし、食欲という基本的欲求がある場合は、リスクや苦痛よりもお腹を満たすことを優先する仕組みが備わっているようです。今回のミミズの実験結果について、この研究チームはさらなる研究を進めるとしながらも、「同様の仕組みが人間でも起こる可能性がある」と話しています。

 

【出典】Matty MA, Lau HE, Haley JA, Singh A, Chakraborty A, Kono K, et al. (2022) Intestine-to-neuronal signaling alters risk-taking behaviors in food-deprived Caenorhabditis elegans. PLoS Genet 18(5): e1010178. https://doi.org/10.1371/journal.pgen.1010178

 

医者に転職できたら…。「AIに奪われる職業」の最新研究

「AIに奪われる職業」は以前から世界中で議論されていますが、最近ではスイスの共同研究チームが、この問題について新たに調査を行いました。

↑AIはどんな仕事を狙っている?

 

この研究を行ったのは、スイス連邦工科大学ローザンヌ校のロボット工学者とローザンヌ大学の経済学者による共同研究チーム。ロボット・AIに求められる能力や、将来それらに期待される能力がカテゴリーごとにまとめられた「ヨーロッパH2020ロボティック・マルチアニュアルロードマップ」をもとに、これまで発表されたロボットやAIに関する論文や特許などについて調べ、現在のロボットの能力がどのくらいのレベルに達しているかを判定しました。

 

さらに、アメリカ労働省が公開している職業情報データベース「O*net」から約1000種の職業について、それぞれの職種に必要なスキルを解析。これと上述のロボットの能力を照らし合わせ、それぞれの職種ごとにロボットが代替となる可能性があるかを調べました。結果は以下の通りです。

 

ロボットやAIによって消えるリスクが高い仕事

1位 食肉処理・加工業者

2位 プレス・繊維・衣服関連業者

3位 農産物の選別員

4位 清掃員

5位 用務員

 

ロボットやAIによって消えるリスクが低い仕事

1位 物理学者

2位 神経科医

3位 予防医学専門医

4位 神経心理学専門家

5位 病理医

 

研究チームによると、最もリスクの高い仕事は食肉処理や加工を行う仕事。一方で、リスクの低い仕事には物理学者や神経科医などの学者・医者のような仕事が並びました。多様な角度から物事を考えるクリティカルシンキングやクリエイティビティは、ロボットやAIにはまだあまりない能力のため、そのようなスキルを必要とする仕事はロボットに仕事を奪われるリスクは低いそうです。また教育やコミュニティに関する仕事も、リスクは低いとのこと。

 

この研究チームは、今回の研究で得たリスクのデータを一般公開しており、ここで自分の気になる職業を入力すると、ロボット化するリスクが表示されるようになっています。ウェブサイトへの入力は英語で行う必要がありますが、自分の仕事の将来がどうなるか気になった方は、サイトでチェックしてみてはいかがでしょうか?

 

【出典】Antonio Paolillo, Fabrizio Colella, Nicola Nosengo, Fabrizio Schiano, William Stewart, Davide Zambrano, Isabelle Chappuis, Rafael Lalive, Dario Floreano. (2022). How to compete with robots by assessing job automation risks and resilient alternatives. Journal Article. Science Robotics . 10.1126/scirobotics.abg5561

少しでいい。スマホに「人生の幸福」を奪われないための方法とは?

スマートフォンのおかげで、さまざまなことがとても便利になった現代。私たちはそこから多くのメリットを享受している反面、さまざまなデメリットがあることも広く知られています。最近の研究では、人生をもっと充実させて楽しむためには、スマホの利用を少し控えたほうがいいことが示されました。でも、「スマホがなかった時代」に戻る必要はありません。

↑スマホから少し離れると幸せがやってくる

 

これまでの研究では、SNSの利用を減らせば減らすほど、幸福度は上がることがわかっています。では、スマホ自体を使うことを減らすと、どんな効果が生まれるのでしょうか? ドイツのルール大学ボーフムの研究チームは、スマホの使用とそれによる心理的影響について調べるため、619人の被験者を対象にある実験を行いました。

 

実験では、被験者を無作為に次の3つのグループに分け、スマホを指示の通りに使いながら1週間を過ごしてもらいました。

 

① 1週間スマホを一切使わないグループ(200人)

② 1日の使用時間を1時間減らすグループ(226人)

③ これまでと同じようにスマホを使うグループ(193人)

 

そして、1か月後と4か月後に、運動の頻度、喫煙状況、不安やうつの兆候、生活満足度などについての質問に答えてもらい、スマホの使い方を変えることで生活にどんな変化をもたらすのか調べたのです。

 

その結果、スマホの使用時間を減らした①と②のグループはどちらも、うつ・不安の症状と喫煙量が減り、運動量と生活の満足度が向上。しかもこの効果の持続性は、完全にスマホを利用しなかった①のグループより、1日1時間だけ使用を減らした②のグループのほうが高かったのです。さらに②のグループは、4か月後でもスマホの使用時間が実験前より45分短くなり、その分運動する時間が増加。うつや不安の症状やタバコの喫煙量が減り、生活満足度が上がったことがわかりました。

 

今回の実験結果で特徴的なのは、スマホを完全に手放す必要はなく、利用を1日1時間減らすだけで生活に変化がもたらされたことにあります。スマホが生活に欠かせない存在になった現代では、スマホをまったく使わない生活だと、逆に「仕事のメールをチェックしないと」とか「SNSで取り残される」といったストレスや不安を感じる可能性があるでしょう。SNSと同様に、スマホの使用時間を意識的に減らせば、幸福度は上がりそうです。

 

【出典】Julia Brailovskaia, Jasmin Delveaux, Julia John, Vanessa Wicker, Alina Noveski, Seokyoung Kim, Holger Schillack, Jürgen Margraf: Finding the “sweet spot” of smartphone use: Reduction or abstinence to increase well-being and healthy lifestyle?! An experimental intervention study, in: Journal of Experimental Psychology: Applied, 2022, DOI: 10.1037/xap0000430

賢い生き物だった! 魚は計算できることが判明

数の概念は理解できても、足し算や引き算などの計算をできる能力は別の話。簡単な計算をできる動物は、ごく一部に限られていると言われていましたが、最近、魚は簡単な足し算と引き算ができることが判明しました。

↑シクリッドを過小評価するなかれ

 

今回の実験で使われたのは、アカエイと熱帯魚のシクリッド。これまでの研究で、これらの魚は、例えば「3個」と「4個」の違いを区別するなど、物の数を見分けることがわかっていました。そこでドイツのボン大学の研究チームは、これらの魚が算数の能力も持っているか実験することにしたのです。

 

ここで彼らは、ミツバチの算数の能力を確認するための実験で使われた方法を用いました。まず、実験の対象になる魚に正方形が描かれた絵を見せて、それが青色なら「1を足す」、黄色なら「1を引く」というルールをつくりました。例えば、青色の正方形が4つ描かれた絵を魚に見せます(4+1の意味)。次に正方形が5つ描かれた絵と3つ描かれた絵の2種類を用意して、魚が5つの絵の方に泳いでいったらエサをもらえて、3つの絵に泳いでいったら何ももらえないことになります。これを繰りかえし行い、青は「1を足す」、黄色は「1を引く」ということを覚えさせました。

 

その結果、アカエイもシクリッドも「1を加える足し算」と「1をマイナスする引き算」ができたのです。

 

とはいえ、魚が数の計算を行わずに、「青い絵は、最初の数より大きくなる」とだけ単純に覚えているのでは? これを確認するための実験も行いました。青色の正方形が3つ描かれた絵を見せた後に、正方形が4つ描かれた絵と5つ描かれた絵の2種類を用意するといった具合。それでも魚は、正方形4つの絵の方を選び、きちんと「3+1=4」と計算していることがわかりました。

 

しかも、絵に使われたのは正方形だけでなく、円や三角形など大きさも形も異なる幾何学模様を組み合わせたものです。そのため、魚は物の形を認識しながら、その色を見て計算ルールを把握していたということに。「魚はモノの数と色を同時に認識し、正しく計算した結果エサをもらえたら、その計算ルールを記憶しておかなければなりません。それには複雑な思考能力を必要とします」と同研究者は分析しています。

 

計算のような複雑な認知作業を行うのは、脳の「大脳皮質」と呼ばれる部分。魚にはこの大脳皮質がないため、高度な能力はないと過小評価されてきたようです。今回の実験結果は、そんな見方を覆すかもしれません。

 

【出典】Schluessel, V., Kreuter, N., Gosemann, I.M. et al. Cichlids and stingrays can add and subtract ‘one’ in the number space from one to five. Sci Rep 12, 3894 (2022). https://doi.org/10.1038/s41598-022-07552-2

虎のステーキにシマウマ寿司!? フードテックが作る「近未来の肉料理」

昨今、代替肉として培養肉の開発が進んでいます。そんななかイギリスから飛び込んできたのが、「虎肉のステーキ」や「シマウマ寿司」に関するニュース。嘘のようなメニュー名ですが、これらは実際にロンドンのフードテックが開発しているもの。一体どんな肉なのでしょうか?

 

もっとおいしい肉があるのでは?

↑シマウマ寿司。パッケージに「謹賀新年」とあり、おめでたさ満点?(画像提供/Primeval Foods)

 

虎肉やシマウマ肉の培養について発表したのは、ロンドンを拠点にするフードテック企業「プライメーバル・フーズ(Primeval Foods。以下、PF)」。この企業が開発しているのは、ライオン、虎、シマウマなど、ギョッとするような動物のお肉ばかりです。

 

彼らは、これらの動物からとった、わずかな組織のサンプルをビールの醸造に使われるようなステンレス製のタンクで培養。

 

PFは「私たちが牛、豚、鶏の肉を食べているのは、その肉が一番美味しくて栄養価が高いという理由ではなく、単に家畜として飼育しやすかったから」と考えています。つまり、世の中には、それらよりおいしい肉があるかもしれないということ。技術が発達すれば、飼育が難しい動物でも細胞を培養し、肉を作って食べることができるようになるかもしれません。

 

例えば、同社によると、ゾウは長距離を移動する草食動物のため、筋肉組織の脂肪分が旨味を引き出すとのこと。

 

培養肉は「従来食べられていた肉の代替となるもの」と捉えられることが多いかもしれません。しかしPFは、代替品というより、現在の肉をさらにアップグレードするものと考えているようです。

 

サステナブルな「味わい」

↑虎のステーキ。魅力はおいしさだけではない(画像提供/Primeval Foods)

 

培養肉には、味以外でも 多くのメリットがあります。その1つが食の安全性。細胞培養で添加されるのは、アミノ酸、炭水化物、脂質などの必須栄養素やビタミン、ミネラルなど。成長ホルモンや抗生物質は使用されておらず、遺伝子組み換えの心配もありません。

 

そもそも、培養肉は環境にも優しいのがメリット。オックスフォード大学の試算によると、従来の家畜肉と比べて、温室効果ガスの排出量は最大96%、消費エネルギーは45%、使用する土地は99%、使用する水の量は最大96%も抑えられるそうです。しかも骨や臓器がないため、廃棄物もあまり出ないとのこと。

 

イギリスやアメリカ当局の認可が下りれば、PFは同社のお肉料理の試食会をロンドンとNYのミシュラン星つきレストランで開催する計画とか。いつか「ライオン肉のバーガー」や「虎肉のハンバーグ」が私たちの食卓に並ぶ日が来るのでしょうか?

道に迷うのは育った環境のせい? 欧州の共同研究で示唆

道を覚えようと努力しているのに、なかなかそれができないと悩んでいる人は少なくないかもしれません。一体それはなぜ起きるのでしょうか?  最近、欧州の研究で「空間ナビゲーション能力(空間認知能力)」は、育った環境と関連性があることが明らかにされました。

↑なんで道に迷うのだろう?

 

これまでの研究で、環境が人間の認知機能やメンタルヘルスに深い影響を与えることがわかっていますが、生まれ育った環境が認知能力に与える影響については、あまり明らかにされていません。では、空間ナビゲーション能力は生まれ育った環境と何か関係があるのでしょうか? この疑問に対する答えを導くため、英国のユニバーシティ・カレッジ・ロンドンとイースト・アングリア大学、フランスのリヨン大学の共同研究チームが実験を行いました。

 

この実験で使用したのは、モバイルゲームの『シー・ヒーロー・クエスト(SEA HERO QUEST)』。このゲームはドイツテレコムや英国アルツハイマー研究所などが、アルツハイマーの研究のために共同で開発したもの。認知症によって父が喪失した記憶を取り戻すために息子が海を冒険するという内容の同ゲームで、プレイヤーはボートに乗って、地図上のチェックポイントを見つけながら進んでいきます。

 

これまでに400万人以上が遊んだとされる同ゲームのプレイヤーの中から、今回の実験では38か国・約40万人のデータを収集し、ゲームの成績とプレイヤーの出身地を比較したのです。

 

その結果、ニューヨークやシカゴのように碁盤の目状に道路が整備された大都会で育った人は同ゲームが苦手でした。また、プラハ(ニューヨークのように道路が整備されていないものの、統一された街並みを持つチェコの首都)で育った人たちのゲームの成績も、田舎育ちの人たちより少し悪かったとのこと。

 

この共同研究チームは、以前に空間ナビゲーション能力が年齢とともに低下し、その衰退は20歳前後から始まることを突き止めましたが、今回の研究では、碁盤の目のような都市で育った人の同能力は、5歳上の田舎育ちの人のそれと同等であることが判明。地域によって両者の差は変わるようですが、田舎育ちの人でもこの能力は年齢を重ねるほど衰えるとすると、ここからは、都会育ちの人の空間ナビゲーション能力が、田舎育ちの人より早く弱くなる、またはその発展が早く止まると考えることができます。

 

道路が複雑に入り乱れた地域で育つと、何度も道を曲がる必要があり、こまめに方角や現在地を把握する必要がありますが、だからこそ道路や目印を覚えるスキルが自然と身に付く可能性がある、とこの共同研究チームは考察しています。

 

便利さの代償

今日の社会では、場所や通信環境にもよりますが、知らない土地であってもスマートフォンなどの地図アプリで現在地を確認しながら移動できるもの。その代わり、現代人はだんだん道やその名前、景色などをだんだん覚えられなくなっていると言われます。規則的に整備された道路は美しく、カーナビなどの技術はとても便利ですが、私たちを取り巻く環境は、人間の認知能力の発達に思いもよらない影響を与えている模様。さらなる研究が待たれます。

 

【出典】Coutrot, A., Manley, E., Goodroe, S. et al. Entropy of city street networks linked to future spatial navigation ability. Nature 604, 104–110 (2022). https://doi.org/10.1038/s41586-022-04486-7

道に迷うのは育った環境のせい? 欧州の共同研究で示唆

道を覚えようと努力しているのに、なかなかそれができないと悩んでいる人は少なくないかもしれません。一体それはなぜ起きるのでしょうか?  最近、欧州の研究で「空間ナビゲーション能力(空間認知能力)」は、育った環境と関連性があることが明らかにされました。

↑なんで道に迷うのだろう?

 

これまでの研究で、環境が人間の認知機能やメンタルヘルスに深い影響を与えることがわかっていますが、生まれ育った環境が認知能力に与える影響については、あまり明らかにされていません。では、空間ナビゲーション能力は生まれ育った環境と何か関係があるのでしょうか? この疑問に対する答えを導くため、英国のユニバーシティ・カレッジ・ロンドンとイースト・アングリア大学、フランスのリヨン大学の共同研究チームが実験を行いました。

 

この実験で使用したのは、モバイルゲームの『シー・ヒーロー・クエスト(SEA HERO QUEST)』。このゲームはドイツテレコムや英国アルツハイマー研究所などが、アルツハイマーの研究のために共同で開発したもの。認知症によって父が喪失した記憶を取り戻すために息子が海を冒険するという内容の同ゲームで、プレイヤーはボートに乗って、地図上のチェックポイントを見つけながら進んでいきます。

 

これまでに400万人以上が遊んだとされる同ゲームのプレイヤーの中から、今回の実験では38か国・約40万人のデータを収集し、ゲームの成績とプレイヤーの出身地を比較したのです。

 

その結果、ニューヨークやシカゴのように碁盤の目状に道路が整備された大都会で育った人は同ゲームが苦手でした。また、プラハ(ニューヨークのように道路が整備されていないものの、統一された街並みを持つチェコの首都)で育った人たちのゲームの成績も、田舎育ちの人たちより少し悪かったとのこと。

 

この共同研究チームは、以前に空間ナビゲーション能力が年齢とともに低下し、その衰退は20歳前後から始まることを突き止めましたが、今回の研究では、碁盤の目のような都市で育った人の同能力は、5歳上の田舎育ちの人のそれと同等であることが判明。地域によって両者の差は変わるようですが、田舎育ちの人でもこの能力は年齢を重ねるほど衰えるとすると、ここからは、都会育ちの人の空間ナビゲーション能力が、田舎育ちの人より早く弱くなる、またはその発展が早く止まると考えることができます。

 

道路が複雑に入り乱れた地域で育つと、何度も道を曲がる必要があり、こまめに方角や現在地を把握する必要がありますが、だからこそ道路や目印を覚えるスキルが自然と身に付く可能性がある、とこの共同研究チームは考察しています。

 

便利さの代償

今日の社会では、場所や通信環境にもよりますが、知らない土地であってもスマートフォンなどの地図アプリで現在地を確認しながら移動できるもの。その代わり、現代人はだんだん道やその名前、景色などをだんだん覚えられなくなっていると言われます。規則的に整備された道路は美しく、カーナビなどの技術はとても便利ですが、私たちを取り巻く環境は、人間の認知能力の発達に思いもよらない影響を与えている模様。さらなる研究が待たれます。

 

【出典】Coutrot, A., Manley, E., Goodroe, S. et al. Entropy of city street networks linked to future spatial navigation ability. Nature 604, 104–110 (2022). https://doi.org/10.1038/s41586-022-04486-7

99%の人は不健康な空気を吸っている! WHOが発表

自然が豊かな場所では、都会に比べて空気がおいしく感じるもの。しかし、それは錯覚かもしれません。先日、WHO(世界保健機関)が「世界の人口の99%は不健康な空気を吸っている」と発表したのです。一体どういうことでしょうか?

↑きれいな空気を吸っていると思っていたけど、勘違いだった?

 

WHOは2011年から、日本を含む世界117か国6000以上の都市で、二酸化窒素(NO2)、PM10(直径10マイクロメートル以下の粒子状物質)、PM2.5(直径2.5マイクロメートル以下の微粒子状物質)の年平均濃度を観測し、大気の質に関するデータベース(『Air Quality Database』)を3年ごとに発表しています。最近、その2022年版が公開されました。

 

まず、二酸化窒素から見てみましょう。二酸化窒素とは、空気中の酸素と反応してオゾンを生成する物質で、PM10やPM2.5と同じように都市部で多く観測されている大気汚染物質。約4000の都市や地域がこのデータを収集していますが、WHOの大気質ガイドラインの数値(air quality guideline levels)を達成している国は全体のわずか23%しかありませんでした。国の所得によって大きな差は見られなかったとのこと。

 

次に、PM10とPM2.5に関しては、WHOの基準を下回る国が、特に所得の低い国で多数あることがわかりました。低・中所得国で基準を満たすのは全体のわずか1%未満。それに対して、日本、アメリカ、ヨーロッパなどの高所得の国では、83%が基準を満たしていました。低・中所得国のPM10とPM2.5の量は、高所得国の約3倍にもなります。

 

これらの結果から、WHOは世界の人口の約99%が「汚染された不健康な空気を吸っている」と警鐘を鳴らしたのです。「約99%」の算出方法は不明ですが、2020年の世界の人口を約77.6億人(出典:世界銀行)とすると、約76.8億人が該当。特に所得の低い国の人々は、大気汚染によりさらされているのが現状のようです。

 

WHOは、大気汚染によって亡くなる人が毎年世界で700万人にのぼると報告しています。大気汚染がさらに進むと、これまで以上に多くの人々が病気で苦しむことになりかねません。コロナ禍で世界中の人々が自宅にとどまった期間、クルマの排気ガスなどの量が減ったことで、空気がきれいになったことが複数の都市で報告されました。再び空気が汚れてしまわないように、各国が大気汚染のガイドラインを刷新し、それに合わせた対策を講じるべきだ、とWHOは述べています。

50語に達するボキャブラリー!「キノコ」は人間のように会話している

キノコは電気信号を送ることで会話している。そんな驚きのニュースがイギリスから飛び込んできました。しかも、キノコのコミュニケーション方法は人間のそれとよく似ているとか。どういうことでしょうか?

↑「あそこに良い場所を発見!」「ラジャー!」

 

これまでの研究で、さまざまな植物が電気信号を発していることがわかっています。これはキノコにも当てはまり、キノコの細胞は糸状に集まった「菌糸」と呼ばれる部分から電気信号を発していると見られています。では、キノコ同士が発信する電気信号は人間の会話と共通するところがあるのでしょうか? そんな疑問に対する答えを探るべく、西イングランド大学の研究チームが、キノコの会話のメカニズムを調べることにしたのです。

 

研究チームは4種のキノコを使い、菌糸部分に電極を挿入して電気信号を解析。電気信号が瞬時に上昇する「スパイク」の持続時間やそのパターンについて調べました。

 

その結果、スパイクの持続時間や振り幅に、キノコの種類ごとに異なるパターンが記録されたのです。さらに、そのスパイクの長さなどからグループ分けしていくと、キノコの語彙は最大で50語に達していることが判明。そのうち、よく使われるのは15~20個。長いボキャブラリーほど使われる回数は減っていることもわかりました。人間の言葉でも、長い言葉はあまり使われにくく、その傾向は人間の会話と共通するようなのです。

 

「キノコ語」の意味

では、なぜキノコはこのような会話をしているのでしょうか? この研究を行った教授は「オオカミの遠吠えのように、群れの和を保つ役割があるのではないか」と推測しています。実際、木に寄生するキノコでは、木に接触すると電気信号を強く発する現象が観察されているそう。つまり、菌糸を虫などから守る物質や誘引物質に関する情報を、電気信号で仲間たちに伝えている可能性があるのです。

 

動物は鳴き声で仲間に危険を知らせたりするものですが、キノコは言葉や声ではなく、電気信号を使って、仲間たちと会話しているのかもしれません。専門家の間では今回の発見を言語として解釈することに対して慎重な意見もあり、さらなる研究が必要。しかし、植物にはまだまだたくさんの不思議が隠されているようです。

 

【出典】Adamatzky Andrew. 2022. Language of fungi derived from their electrical spiking activity. Royal Society Open Science9211926211926. http://doi.org/10.1098/rsos.211926

 

新しいストレス解消法! ウェアラブル「足裏くすぐり」デバイスが登場

世の中にはさまざまなストレス解消法がありますが、その1つが“くすぐり”。現在、ニュージーランドの研究者たちがウェアラブルな「足裏くすぐりデバイス」を開発しており、ユニークな取り組みとして注目を集めています。

↑こんなことをしてくれるデバイスがあれば……

 

くすぐりや笑いによってストレスが緩和されることは、以前から知られていました。しかし機械のような人工的なものによるくすぐりでも人の笑いを誘うのか、またくすぐりの影響が男女で異なるかどうかといった詳細については、まだ明らかになっていません。そこで、オークランド大学の研究チームがこの問題を調査しました。

 

この研究チームはまず、ブラシを内蔵し、足裏の指の部分から中心部分など、足裏のさまざまな部分をくすぐるマシンを開発。このマシンを使って、足裏のどの部分がもっとも笑いを誘発し、どんな笑いのパターンがあるか調べる実験を行ったのです。

 

対象となったのは女性7人、男性6人の合計13人。マシンで足裏のさまざまな場所をくすぐり、それぞれのくすぐったいと感じる度合を7点満点の点数で評価してもらいました。その結果、女性は「土踏まず周辺が最もくすぐったい」と感じた一方、男性は「足指のほうがくすぐったい」と感じることが判明。また、くすぐったさの点数は、女性が平均5.57点だったのに対して、男性は平均で3.83点と、女性のほうが足裏が“弱い”ようです。

 

この結果をもとに、研究チームは自動で足裏をくすぐるバッテリー式インソール「TickleFoot」を3Dプリンターで制作。特にくすぐりに弱かった足裏の3つのスポットに、自動で動いてくすぐる仕掛けを施しました。靴の中に入れておけば、このインソールが自動で足裏をくすぐり、笑いを誘発してくれるのです。

 

このインソールによる成果は明らかになっていませんが、例えば、仕事の休憩時間にスイッチを入れて、自分で足裏をくすぐるという使用場面が考えられます。さらに、遠隔操作も可能なので、離れた場所にいる家族や友人と電話しながら、お互いにスイッチを入れて楽しんでみてもいいかもしれません。このウェアラブルデバイスは、とてもユニークなストレス対策になりそうです。

貨物コンテナの活用で都市を変える! ロンドンで拡大する「垂直農園」

2021年秋にスコットランドで開催されたCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)を経て、気候変動問題への関心や環境意識がより一層高まっている英国。その首都ロンドンでは、フードマイレージ(食料が生活者に届くまでの輸送距離)をとことんカットした都会育ちの野菜がグルメ界の注目を集めています。

↑ロンドンで話題の「CRATE TO PLATE」

 

英国ではプラスチック包装を使わない量り売りの店が急増し、スーパーやパブ、ファストフード店などあらゆるところでビーガンメニューが見られるようになりました。それと同時に、果物と野菜の7割を輸入に頼っている英国では、フードマイレージをカットすることも大きな課題です。輸入の通関手続きを省くことは、ブレグジット(英国のEU離脱)とパンデミックやウクライナ情勢による急激な物価上昇の抑制にもつながります。そのため、最近では国産の食材に注目が集まっています。

 

2020年の長期ロックダウン中に誕生したスタートアップ企業の「クレート・トゥ・プレート(CRATE TO PLATE)」は、ロンドン市内で貨物コンテナを使った垂直農園を展開しています。都会の隙間を使ったコンテナ農園を各地に設置することで、限られた土地を有効活用でき、地元産の新鮮な野菜を消費者に提供することができるようになります。

 

最初のコンテナ垂直農園ができたエレファント&キャッスル駅前は、現在再開発が進むロンドン南部の中心地。さらに最近では金融街アイルオブドッグズに3か所、そして北部ケンティッシュタウンに2か所と合計6農園に拡大しています。分散型にすることでフードマイレージ「ほぼゼロ」のデリバリー体制を実現しており、2022年はロンドンから飛び出してストラットフォードやマンチェスターといった地方都市へ拡大する計画が進んでいます。

 

最小限の資源で栽培

英語で「Vertical farming(バーティカル・ファーミング)」と呼ばれる垂直農園は、未来の食料供給法としても注目を浴びています。その名前の通り垂直に積み上げた階層構造の室内で、AIによって光・温度・養分などを細かくコントロールされた環境下で農産物を育てることが特徴。

 

従来の農業とは異なり、天候に左右されず、限られたスペースで、農薬を使わずに1年中効率よく栽培できるのが大きなメリットです。水の使用量も非常に少なく、照明などの電源も太陽光や風力といった自然エネルギーで賄うことができ、栽培にかかる資源を最小限に抑えることが可能。

 

このような垂直農園は狭い土地でも作れるため、都市部での食糧生産に向いています。クレート・トゥ・プレートのコンテナ農園も、駅前やビルの間のちょっとした空きスペースに設置されています。人口集中エリアに効率よく農園を設置することで、食品輸送によって発生する排気ガスを大幅にカットできるのです。

↑ロンドンのグルメ界でも注目を集める食材に

 

米国でも2022年1月に、チェーンストア最大手のウォルマートが国内スタートアップ企業と提携し、この手法で生産された野菜を広く取り扱うと発表しています。

 

クレート・トゥ・プレート社の野菜はレタスやバジルなどの葉野菜やハーブが中心で、収穫後24時間以内にEV車や自転車によって注文先に届けられます。

 

すでに老舗ラグジュアリー百貨店の「フォートナム&メイソン」やミシュラン星レストランの「ハイド」、チェルシーの高級八百屋「アンドレアス」など、多くの高感度ショップへの卸売りが行われています。新鮮かつサステナブル、そして配達方法もエコな無農薬野菜というアイデアは、パンデミック規制解除で活気を得たロンドン市民の関心を集めているようです。

 

大手スーパーマーケットからの問い合わせも相次いでおり、宅配サービスを利用する個人のサブスクリプション契約も人気です。

 

エコフード都市へ 

もともと英国ではスローライフを楽しむためのレンタル菜園や、室内でフレッシュなハーブが育てられる家庭用の水耕ハーブガーデンが人気でした。そこにクレート・トゥ・プレートのような商業用・マス向けのローカル農園が増えることで、自然エネルギーはもちろんのこと、都市部で生じる排熱や雨水、食料廃棄物を分解した肥料などを活用し循環させる「エコフード都市」の実現も夢ではないでしょう。

 

現在の英国では貨物コンテナを店舗やオフィス、研究所として利用することがトレンドになっていて、オフィス賃貸価格が高いロンドンでスモールビジネスが成長する足がかりとしての役割も担っています。将来的にはそこに住む人たち全体の食料を生産できる、垂直農園付きの集合住宅も登場してくるかもしれません。

 

執筆者/ネモ・ロバーツ

金融教育の注目株! お金の良識を養う「子ども向けデビットカード」

小さい頃からお金の価値や管理に関する意識を持つことを重視するアメリカでは最近、子ども向けのマネー教育サービス「Greenlight(グリーンライト)」が人気を集めています。子どもが使えるデビットカードと親子それぞれが管理できる専用アプリを組み合わせたもので、キャッシュレス拡大も追い風となり利用者が増加中。寄付や投資ができる機能も備えた最先端のサービス内容を、アメリカの社会背景も盛り込みながら紹介します。

↑欲しいものを買うためには、どれだけ家の手伝いをして稼げばいいだろう。貯金を運用するのもアリか……。

 

キャッシュレス化が進んでいるアメリカではクレジットカードやオンラインでの決済がほとんどで、現金がなくても基本的にどこでも買い物ができます。一方で、クレジットカードによる自己破産が大きな問題になるなど、子どもの頃からお金に対して正しい知識を持つことが求められています。

 

アメリカではその人の社会的信用を示す指標として、クレジットカードの利用履歴や返済額、借金の有無など個人資産の管理状況を示す「クレジットスコア」があります。この結果に応じて就職時の採用判断や、家やクルマのローン利息優遇措置なども変わりますが、クレジットスコアは、「クレジットカードの支払いが期日通りに行われているか」といった積み重ねによって上昇します。そのため一般的にアメリカでは18歳になるとクレジットカードを作り、多くの人は信用情報源となるスコアを上げるために、たとえ少額であってもクレジットカードで決済するのです。

 

ただ、そこで困るのが、18歳に満たない中高生の子どもたちのお金の管理。親のクレジットカードを持たせるのはリスクがあるのに加え、アメリカの多くの銀行では13歳以下の子ども名義で口座を開設することができず、デビットカードを作ることもできません。キャッスレス化が進んでいることから、親が自宅に余分な現金を置いておくという習慣も減っています。

 

このようなマネー事情があるアメリカで、子どもが自分でお金を管理できるうえ親もチェックが可能で、防犯性にも優れているというメリットを持っているサービスがGreenlightなのです。子どもに早期から実践的な金融リテラシーを学ばせたいというニーズに応えたものと言えるでしょう。

 

Greenlightは「親が管理できるアプリ」と「子ども用デビットカード」を合わせたもので、2017年のサービス開始以来、2022年現在でアメリカ国内の500万人以上が利用登録しています。料金は利用サービス別に3つに分かれていますが、基本使用料は月々4.99ドル(約632円※)で家族5人分までデビットカードを作ることができます。

※1ドル=約126.6円で換算(2022年4月18日現在。以下同様)

 

アプリでは親用の管理画面を通じ、デビットカードの残高や履歴など、登録した複数の子どもたちの利用状況をすべて確認することが可能であるのに対して、子ども用の画面では本人の情報のみを閲覧することができます。

 

アプリ内にはデビットカードを直接オンまたはオフにできる機能があり、最大25万ドル(約3160万円)のFDIC(連邦預金保険公社)保険やマスターカードの「Zero Liability Protection(カードが不正利用されても保有者が保護されるポリシー)」を付帯するなど、安全や防犯の面でも安心といえます。

 

主な機能5つ

↑金融教育を網羅

 

Greenlightでは、主に次の5つのことができます。

 

① お金を使う

親が自分の銀行口座と紐付ければ即座に送金でき、子どもは実際のデビットカードと同じように支払いに使えます。決済が行われるとアプリ経由でリアルタイムに通知が届くうえ、スーパーやガソリンスタンド、いつも利用する店舗のみなど利用先を指定することも可能です。

 

親が送金した以上の金額は使えず、残金がない場合は利用しようとしても「Decline(決済不能)」となります。このような経験を通じ、子どもは何にお金を使うか、自分はいくら使えるのかを考えるようになります。

 

② 稼ぐ

アメリカの家庭では、芝刈りや洗車、家事の手伝いなどを仕事として子どもに依頼します。料金や曜日などを細かく設定でき、親は子どもがその仕事をしたかどうかを確認後、仕事に応じた料金を送金。単にお金をもらう小遣いとは違い、自分の労働の対価としてお金を稼ぐということは、大人になるのに役立つ経験となります。

 

③ 貯める

自転車や携帯電話など欲しくてもすぐには買えないものを手に入れるために、目標設定して貯金することができます。自分が持っている残金を貯めておけば、利息がついてお金が増えます。毎年2%の利息が付くオプションプランもあり、目標に向けてコツコツ貯めることや複利の重要性などを学ぶことができます。

 

④ 寄付する

アメリカでは州により税制優遇が受けられることもあり、寄付は一般的な行為です。「他者のために寄付をすることが人生を豊かにする」ということを小さい頃から学ぶことができるのもGreenlightの大事な特徴の1つ。寄付先については、動物愛護団体や自然保護団体など子ども自身がアプリ上で選べるようになっています。

 

⑤ 投資する

オプションプランではありますが、投資先を選び、それを親が承認すると実際に株やファンドに投資することができます。自分が労働して稼ぐことだけでなく、お金を運用して稼ぐことをアプリで実際に経験できるのは、最先端のお金の教育といえるでしょう。

 

このように、Greenlightは単に支払い機能のあるアプリというだけでなく、金融教育をまんべんなく網羅したサービスとなっているのです。

 

プラグマティックな存在

「子どもにデビットカードを持たせるのは早過ぎる」と思っていた筆者。しかし、アメリカではマネーリテラシーやビジネスマインドを育てる教育が重要視され、小学校で金融教育が始まっています。そのため、小さな頃からお金に興味を持つ子どもが多く、7歳の息子も先日友人と初めてレモネードスタンド(玄関先でレモネードを売る)を経験し、ビジネスに興味を持ち始めているようです。

 

世界的に見ても、今後の主な決済方法がキャッシュレスから現金に戻るとは考えられません。次世代を生きる子どもたちにとって、彼らのライフスタイルに合わせた金融教育やサービスを家庭や学校に導入することは、プラグマティック(現実的かつ実用的)な選択と言えるでしょう。今後のマネー教育およびツールの進化・発展に注目していきたいと思います。

 

圧倒的に少ないCO2排出量! 国産「切り花」の逆襲を狙うイギリス

イギリスでは、花屋やスーパーマーケットで販売されている切り花のほとんどが輸入品です。しかし近年、同国内のスーパーマーケットが国産の切り花の取り扱いを増やしていくと宣言。イギリス王室でも国産が使われるなど、そのシェアが徐々に増えています。イギリスの取り組みは日本にとって参考になるかもしれません。

↑イギリスの花屋などで売られる花の多くが輸入品

 

イギリスでは、年間約8億6500万ポンド(約1430億円※)の売り上げがある切り花のほとんどが輸入品で、そのうち70%を占めるのがオランダ産。オランダは、国内にサッカー場規模の温室スペースを約500か所抱えています。

※1ポンド=約165円で換算(2022年4月15日現在)

 

それらの温室には栽培から販売、出荷まで自動化システムが導入されていますが、エネルギー集約型の加熱温室で栽培された切り花は、多くの二酸化炭素を排出します。

 

また、イギリスの切り花の約6%はケニア、約4%がコロンビアから輸入されていますが、このような暖かい国々での栽培は温室ほどエネルギーを使わないないものの、イギリスへの輸送の際に大量の二酸化炭素を排出します。さらに、どの国でも栽培から輸送の過程でプラスチックを使用するため、環境に負荷を与えているのです。

 

さらに、規制が比較的軽い国では、化学肥料や農薬を使う花農家も少なくありません。残留農薬は栽培から梱包、販売などに関わるすべての人に悪影響を及ぼし、土壌を汚染すると言われています。

 

イギリスも、こうした輸入花を取り巻く状況を無視しているわけではありません。労働環境や生物多様性保護などを考慮して作られたり、フェアトレード取引されたりした花束にはラベルが貼られ、購入する際にわかるような取り組みがされています。

 

気候変動を阻止するなら……

イギリスのランカスター大学では、イギリスをはじめオランダやケニアでさまざまな条件(屋外または温室)で栽培された7種類の切り花について、栽培と輸送に関連する二酸化炭素排出量を比較しました。その結果、茎あたりの排出量はオランダのユリが最も高く、ケニアのカスミソウバエ、オランダのバラ、ケニアのバラと続きました。

 

一方、イギリスの花の生産者が栽培したユリ、キンギョソウ、アルストロメリアの3種類は、二酸化炭素排出量がとても低いことが判明。輸送距離が短いという優位性もあるでしょうが、国内産の花束の二酸化炭素排出量は輸入花で作られた花束の10分の1となっています。

 

30年前、イギリス国内で栽培された花のシェアは45%でしたが、その後は大きく減少。しかし2016年には12%、2019年には14%と徐々に回復の傾向にあります。その背景には、国を挙げた環境への取り組みや国民のサステナブル意識の向上がありますが、最近ではコスト面での影響もある模様。

 

例えば、20224月からイギリスにはプラスチック包装税が導入されました。エネルギーや輸送コストの上昇もあり、輸入を取り巻く環境は日々厳しくなっていることも、輸入花の減少要因と考えられるでしょう。

↑ミツバチも国産の花や植物が大好きみたい

 

また、イギリスではスーパーマーケットで切り花を購入する人が多く、国内における全売上高の半分強を占めています。そこでは国内産切り花を奨励する動きが見られ始め、購入者も増えている様子。

スーパーマーケットの「コープ」と「アルディ」を例として挙げると、国内産の植物や花の割合を増やすことを目的とした国立農民組合の「植物と花の誓約」にそれぞれ署名し、消費者に国産の花をアピール。国産の花束にはユニオンジャックのラベルが貼られているため、店内ですぐに見つけることができます。

 

また、別のスーパーである「ウェイトローズ」によると、イギリス産のピオニー(牡丹)の2019年の売り上げが前年に比べて48%上昇したとのこと。国産ピオニーは近年、王室の結婚式で使われており、それが人気の原動力になっているようです。

 

イギリスの教訓

サステナビリティや生態系の維持、花農家へのサポートなど、国産の切り花の生産量が増えることには、さまざまなメリットがありますが、日本に目を転じれば、切り花の輸入の割合は2010年以降、数量ベースで20%台を推移(農林水産省「花きの現状について」令和元年12月)。国産に比べて燃料費や光熱費、人件費などのコストを抑制できるため、コロンビアなどからの輸入が増えています。イギリスの経験から学ぶとすれば、輸入花が増加傾向にあるときだからこそ、日本も国産の美点を忘れるべきではないでしょう。

日本は「ロボット製造」で世界一! でも強敵が隣に…

私たちを取り巻くあらゆることに、ロボット技術が使われている現代。そんなロボット業界で日本は“世界1位”であると先日、国際ロボット連盟が発表しました。

 

世界最大のロボット輸出国

↑世界最強のロボット国!

 

世界におけるロボット産業の研究や国際協力を促進している国際ロボット連盟は、世界のロボット市場や売上高などについて発表を行っています。そして2022年3月にリリースされた報告で、「日本は世界最大のロボット生産国である」と述べているのです。

 

その内容によると、世界で使われている産業ロボットの供給量のうち、実に45%を日本が製造。2020年には13万6069台の産業用ロボットが輸出され、輸出率が78%に達しました。しかも日本の企業が設備用として輸入した産業用ロボットはわずか2%。つまり、日本で使われている産業ロボットはほとんどが国内で製造されており、おまけに世界で使われる産業ロボットの半数近くも日本製であるということ。つまり「日本は世界を牽引するロボット産業国」なのです。

 

国際ロボット連盟の事務総長であるスザンヌ・ビラー博士は「日本は高度にロボット化された国。日常生活におけるロボットの使用で、世界的なパイオニア的存在だ」と述べています。

 

世界最大のロボット消費国

日本の産業ロボットの最大の輸出相手国の1つが中国。日本のロボットやオートメーション技術の輸出の36%が、この隣国に送られています。中国はロボット市場の規模が世界で最も大きく、産業ロボット分野は同国の経済成長を支えています。日本が世界最大のロボット輸出国であるならば、中国は世界最大の産業用ロボット消費国なのです。

 

中国政府は2021年末に「ロボット産業発展計画」を発表。今後5年間で、中国国内のロボットレベルを世界の先進水準まで上げ、年20%以上の成長率でロボット産業全体の売上高を増やす目標を掲げているのです。

 

実際、国際ロボット連盟が発表した、従業員1万人あたりのロボット数を表す「ロボット密度統計」を見てみると、中国は2015年に49台で世界25位だったのが、2020年は246台で世界9位まで躍進。世界平均が2015年の66台から、2020年の126台まで約2倍になり、世界全体で産業ロボットの活用が進んでいるとはいえ、中国の成長は世界平均よりも早いペースであることが伺えます。

 

2020年〜2021年は、新型コロナウイルスの感染拡大によって、中国にある日本の自動車工場などが稼働の一時停止などに追い込まれました。しかし、2022年は経済が再び活気を取り戻していくと期待されており、それに伴い中国の産業ロボットもさらに成長していくかもしれません。

 

産業ロボット界で世界のトップを走る日本。すでにGDPでは追い越されましたが、巨大な隣国にこの分野では負けたくないですね。

ビジネスで「絵文字」は使わないほうがいい理由とは? イスラエルの大学の研究

メールはもちろん、LINEやチャットツールもビジネスシーンで多用される現代。社内外の人と上手にコミュニケーションをとるために、絵文字を使うこともありますよね。でもビジネスパーソンとして成功したいのなら、絵文字は使わない方がいいかもしれません。イスラエルのテルアビブ大学が、絵文字の効果について調査しました。

↑絵文字を使うと軽んじられる

 

テルアビブ大学の研究チームは、人が文字だけを見た場合と、絵文字のようなマークを見た場合で、どのような印象を受けるのかを調べるため、複数の実験を行いました。最初は、メジャーリーグのボストン・レッドソックスのTシャツを着ている人を見るというもの。被験者の半分には、「RED SOX」という文字が書かれたTシャツを着た人を見てもらい、もう半分の人には、球団のロゴ入りTシャツを着た人を見てもらいました。

 

すると、「RED SOX」の文字だけが書かれたTシャツを見た被験者グループのほうが、ロゴ入りTシャツを見たグループより、レッドソックスのTシャツを着用した人を「強そうだ」と感じたことが判明。

 

次に、この研究チームは、「LOTUS」という言葉が書かれたTシャツを着ている人と、蓮の花の絵が描かれたTシャツを着ている人を見た場合を同様に調べました。すると、最初の実験と同じように、絵が描かれたTシャツを着ている人より、「LOTUS」と書かれたTシャツを着ている人のほうに被験者は「強そうだ」と感じていることが明らかになりました。

 

さらに、3つ目の実験では、被験者にZOOMでのビデオ通話を通じて、2人の候補者から自分たちの企業の代表に相応しいほうを選んでもらいました。2人の候補者のうち、1人はZOOMのプロフィールに絵文字を使っており、もう1人はプロフィールを文章だけで仕上げています。その結果、62%の被験者が、文字だけでプロフィールを書いた人を選んだのです。

 

絵文字はナメられる

この3つの実験結果から見えてくるのは、メッセージの受け手はイラストやマークではなく文字を見たとき、送り手の「力(地位や権力、権威など)」を感じやすいということ。先行研究では、イラストや絵文字を使った視覚的なメッセージは、送り手が受け手に対して「社会的に近づきたい」と思っているサインとして解釈されることがわかっています。別の関連した研究では、力の弱い人は、力のある人よりも、人との社会的な距離を縮めたいと望む傾向にあると示唆されています。

 

これらの結果を踏まえて、今回の研究を行った研究チームでは、「絵文字やイラストをビジネスの相手に送ることは、自分の力が弱いことを相手に示すことになる」と指摘。絵文字やイラストではなく、文字で自分の力を示す人が職場で昇格していく可能性が高いとも述べています。しかも、この絵文字の効果は、企業の代表でも新入社員でも、まったく同じなのだそう。

 

確かに文章だけのメッセージを受け取るより、イラストや絵文字がついているメッセージを受け取ると、私たちは相手に親しみが生まれ心理的に近づいたように感じるもの。しかし、今回の研究結果を考慮に入れると、私たちはイラストや絵文字を見ると、メッセージの送り手を無意識に過小評価しているのかもしれません。

 

社会人は、このような効果を与える文字と絵文字をうまく使い分けたほうが良いようです。

 

【出典】Elinor Amit, Shai Danziger, Pamela K. Smith, Medium is a powerful message: Pictures signal less power than words, Organizational Behavior and Human Decision Processes, Volume 169, 2022, 104132, ISSN 0749-5978, https://doi.org/10.1016/j.obhdp.2022.104132.

地球は俺が救う! 世界を変えたい実業家の考え方

実業家の中には「世界を変えてやろう!」という野心を持っている人が少なくありません。ダッソー・システムズの年次イベント「3DEXPERIENCE World 2022」で登壇したMisty West社(MW社)のレイ・クリスティ(Leigh Christie)はその1人。クモ型ロボットの『モンドスパイダー(Mondo Spider)』を発明するなど、世界的な注目を集めています。どうやって世の中を変えようとしているのでしょうか?

↑世界を救うためにはスマートなテクノロジーを開発するしかない!

 

まずはクリスティ氏を簡単に紹介しましょう。MW社の公式サイトによれば、彼のバックグラウンドは物理工学ですが、マサチューセッツ工科大学大学院で芸術・文化・テクノロジーの修士号を取得。肩書きは起業家・エンジニア・コミュニティービルダーとなっています。これだけでも面白そうな人物であることが伺えますが、彼はなぜ起業しようと思ったのでしょうか?

 

「私は工業デザイナーやエンジニア、発明家として、世の中に大きなインパクトを与えたいと思っていました。そこで起業を考えたとき、頭の中には2つの道がありました。1つは、地下室のガレージに一匹狼のようにこもり、世界を大きく変えられるようなすごい発明を自分ですること。もう1つは、会社を設立して、自分よりも頭のいい人材を雇うこと。意欲的で、情熱にあふれていて、テクノロジーによって世界を変えることに力を注げる人たちを集めることです」とクリスティ氏は言います。

 

同氏は2つ目の道を選び、優秀な人材を集めてMW社を立ち上げました。同社は、サステナブル社会の実現をもたらすテクノロジーの設計と開発を手がけており、その専門分野には光学やクラウドサービス、IoT、BluetoothやWi-Fiなどの通信デバイスが含まれています。「私たちは、国連のSDGsの達成に貢献することを重視しています。例えば、電気自動車メーカーのテスラのように、持続可能な経済への移行を加速させることをミッションにすれば、私たちだって世界最大規模の企業になれるはず。海洋や森林の生態系を守ったり、気候変動との闘いの力になるようなプロジェクトを実行していきます」とクリスティ氏は豪語します。

↑3DEXPERIENCE World 2022で熱く語るクリスティ氏

 

そんな彼を一躍有名にしたのが、モンドスパイダー。これは8本の鋼鉄脚を使って歩行運動をする機械です。「8年ほど前に作ったのですが、当初はボランティアチームによるアートプロジェクトとして始めました。自分たちができることをやっていたら、テレビやイベントなどで数多く紹介されることになり、『モンドスパイダー』はちょっとした名刺代わりになっていきました。カナダのバンクーバーやカルガリーの市長に会ったり、この製品を世界中に発送したり、モンドスパイダーによって私たちのビジネスが大きく変わりました」(クリスティ氏)

 

現在、MW社は面白い取り組みにもチャレンジしています。例えば、折りたたみ式スケートボードや任意の言語を瞬時に翻訳できる万能翻訳機、水中・水底の物体を探る水中音波探知装置など。この水中音波探知装置を使い、水中でホッキョクグマを追跡するなどのフィールドワークも行なっているとか。

 

子どもの歯磨きだって変えられる

その一方、近年、MW社はソフトウェアビジネスに注力しています。「当初、私たちの会社にはソフトウェアなどのエンジニアや電子設計者、次世代の電子製品設計用ソフトウェアを扱えるPCB(プリント基板)デザイナーなどがいませんでした。そのため、数年かけて技術開発スタッフを集め、現在ではソフトウェアはビジネスの重要部分を占めるようになりました」とクリスティ氏は述べます。

 

その背景にあるのは、当然ながらテクノロジーの進化。機械や道具などに情報処理機能を持たせ、コンピュータで最適な制御ができるようにする「インテリジェント化(スマート化)」が進み、それまでつながっていなかった物同士が連携できるようになりました。

 

「インテリジェント化が進めば、IoT端末などのデバイスや、近くに設置されたサーバーでデータ処理・分析を行うエッジコンピューティングの種類は増え、機械学習などはより高度になると言われています。これからのデバイスは私たちが何を望んでいるかを事前に察知し、製品開発を促進するための分析を行い、ユーザーがデバイスをどのように使用しているかを教えてくれることで、生活をよりスムーズにしてくれるのです」とクリスティ氏は言います。

 

インテリジェント化が世界を変える力になると信じているMW社。IoTなどのテクノロジーに懐疑的な人たちに対して、クリスティ氏は「例えば親の立場から言えば、子どもがきちんと歯を磨いているかどうかを教えてくれる子ども用スマート歯ブラシみたいな物はありがたいですよね?」と投げかけます。視点を変えれば、物事の見え方も変わりますが、何か大きなことを成し遂げようとするときは、彼のような柔軟性と信念が必要なのかもしれません。

睡眠中はわずかな光も健康に悪い! 米国の研究で判明

夜眠るときに部屋を真っ暗にすることには抵抗があり、少し光をともしておく人も少なくないはず。しかし、わずか100ルクスの人工光(電球や蛍光灯などの人工的な光源)でも健康な成人にとって睡眠中に良くない影響を及ぼす可能性があるという研究成果が発表されました。

↑明かりは消したほうがいいみたいですよ

 

この論文は、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載されたもの。シニアオーサー(研究発表全体を統括する責任者)のPhyllis Zee博士によると、100ルクスの光は「部屋の中を見渡すには十分ではあるが、快適に読書をするには不十分」だそうです。一般的に100ルクスは玄関の照明、あるいは雰囲気のある喫茶店(手元が見える程度)とも言われます。

 

研究対象となったのは20人。最初の夜は全員がほとんど真っ暗な部屋で眠らされ、2日目の夜は半数がより明るい部屋で眠りました。

 

その間に、被験者に対しては脳波の記録や心拍数の測定、数時間ごとの採血など、さまざまな検査が行われました。さらに朝に目が覚めたあと、全員に大量の砂糖が投与され、論文のタイトルにあるとおり、身体——特に心血管代謝機能——がどのような反応を示すかも調べられています。

 

実験の結果は、「光を浴びながら眠るのは身体に悪い」との仮説を裏付けるものでした。例えば、光のある部屋で寝ていた人は、一晩中ずっと心拍数が上がっていたことが判明。さらに、翌朝にはインスリンに対する抵抗性も高まっていました。つまり、起床後、身体が正常な血糖値に戻りにくくなっていたのです。

 

また光のある部屋で寝ていると、メラトニンレベルが下がることもわかりました。メラトニンは、体内の概日リズム(体内時計の周期)を整えるホルモン。これが適切に分泌されると、入眠が助けられ、夜通し眠り続けることができるのですが、メラトニンレベルの乱れは、糖尿病やがんを含むいくつかの病気と関連する可能性があることも知られています。

 

より厳密に言えば、100ルクス程度の光では、メラトニンの生成を抑制するには至らなかったようですが、闘争・逃走反応を司る身体の一部を活性化させるには十分だったとのこと。すなわち、睡眠中に落ち着くはずの交感神経系が、わずかな光でも警戒心の強い状態に移行させるのに十分であったようだ、と分析されています。

 

真っ暗であることは、命を狙いそうな存在も動きにくい可能性が高いということでしょう。最新の文明に囲まれた現代人の身体も、古代の記憶を忘れていないのかもしれません。

 

【出典】Mason, I. C. et al. (2022). Light exposure during sleep impairs cardiometabolic function. Proceedings of the National Academy of Sciences. https://doi.org/10.1073/pnas.2113290119

自分に全集中! 元NASAの宇宙科学教育リーダーが語る「自己実現論」

環境問題、コロナ禍、ウクライナ情勢と、現代社会は混沌の様相を呈しています。人によって生き方や考え方は異なりますが、「少しでも自分を高めたい」とか「夢や目標を実現したい」と思っている人は、こんな時代にどうすれば良いのでしょうか? ダッソー・システムズの年次イベント「3DEXPERIENCE World 2022」で処世術や自己啓発について語ったハキーム・オルセイ(Hakeem Oluseyi)氏のアドバイスが参考になるかもしれません。

↑自分に専念すれば世界は変わる

 

オルセイ氏はアメリカの天体物理学者です。フロリダ工科大学の物理学と宇宙科学科の教員を経て、NASA本部の科学ミッション本部で宇宙科学教育マネージャーを務めたこともあります。最近ではディスカバリーチャンネルの宇宙関連番組やNetflixのバラエティ番組など、メディアへの出演機会も増えており、北米を中心に認知度を広げています。

 

オルセイ氏の考え方の1つに、「人生にはインスピレーションが必要で、自分の話し方1つで相手にインスピレーションを与える側になれる」があります。つまり、自分の言葉には、生涯を通じて相手——特に若者——の心に響き、自分が思っている以上に大きな影響を与える可能性があるということ。

 

オルセイ氏は若かったころ、学校の先生や周りの大人たちから、さまざまな機会や正しい助言を与えてもらい、自分が活躍できる場に推薦してもらったそう。「同じようなことを自分も若者にすることで恩返しをしたい」という思いが彼にはあります。「世の中には信じられないほどの才能を持った人たちがいて、同じレベルの教育を受けながら社会に出る準備をしています。そういった人たちの才能や努力をつぶす権利は誰にもなく、そういった才能が花開くように応援することが社会貢献である」と考えるオルセイ氏。そのような信念で彼は自分の考えを世の中に伝えています。

↑3DEXPERIENCE Worldにオンラインで参加したハキーム・オルセイ氏

 

そんなオルセイ氏にとってコミュニケーションは重要です。コミュニケーションは話し手と聞き手がメッセージを交換する営みであり、両者によって大切なことが異なります。「話し手にとって重要なのは、聞き手が自分より若かったり、部下だったり、専門分野が異なる人だったりしても、相手と自分を対等に扱い、相手の反応を素直に受け入れることです。逆に、聞き手にとって大切なのは、話し手の言葉が自分にとって納得できるものであるかを考え、そうであれば取り入れること。つまり、聞き手は『自分が進歩するために意味のある内容かどうか』を聞き分けることが肝心です」(オルセイ氏)

 

この考え方はタイミングとも関係しています。歌手のセリーヌ・ディオンは夫から「すべての時間をオンにしておく必要はない。『自分がいまだ!』と思ったときにオンにすることが大事なのだ」というアドバイスを受けたそう。この話を例として挙げながら、オルセイ氏はコミュニケーションでもビジネスでも、メリハリを付けることが大切であると述べています。もっと言えば、それは余計なことに気を散乱させず、いますべきことに精神を集中するということでしょう。

 

オルセイ氏自身がそのように生きてきたそうです。彼は決して恵まれた環境で育ったわけではなく、有名高校を卒業したわけでもありませんが、卑屈にならず、常に情熱的な姿勢で人生を切り開いてきました。「幼いころ、私はミシシッピの森の中のトレーラーハウスに住み、高校を卒業しただけの両親に育てられましたが、小さいときから『僕は物理学者になるんだ』と話していました。どのような逆境に置かれていても、ほかの境遇の人たちと自分を比べるのではなく、自分のことだけに集中して努力する。ただ、それを実行してきただけです」と言うオルセイ氏。

 

「『完ぺきでありたい』『必ずヒットさせたい』『何をやってもうまくいかない』——。そんな思いがあるから物事が難しく見えるのです。何か1つのことに的を絞り、それを達成することに時間を費やしてください。誰もが自分だけのアイデアを持っており、それを評価してくれる人が必ずいるはずです」

 

やるべきことに専念すれば、道は開ける。これは日本人の「お天道様が見ている」という考え方に通じるところがありますが、洋の東西を問わず、大事なことであるようです。「自分の目標が何であれ、どういった分野であれ、何か1つのことをやり遂げるためには、時間をかけてじっくりと取り組むことが必要です。自分が選んだことを全力でやり遂げる、という気持ちを大事にしてください」とオルセイ氏は力を込めて言います。元NASAの宇宙科学教育マネージャーが言うだけに、これは宇宙の真理なのかもしれませんね。

 

執筆者/和多田 恵

 

日本はいまだに謎だらけ! 世界が気になる「殺生石」のニュースバリュー

2022年3月初旬、栃木県那須町に祀られていた「九尾の狐」に由来する「殺生石(せっしょうせき)」が割れました。この出来事はSNSを含めメディアを通じて全国で話題になりましたが、実は海外の一部メディアも取り上げていたのです。外国人にとって殺生石にはどんなニュースバリューがあるのでしょうか?

↑世界から注目を集める殺生石(画像は2020年に撮影したもの)

 

まず、九尾の狐と殺生石について簡単に説明しましょう。九尾の狐とは日本や中国などの伝説の1つで、現代では「多くの年を経て、尾が九つにわかれ、変幻自在で人をだますという狐」(広辞苑)とされています。日本では、平安時代後期の鳥羽天皇(在位: 1107-1123年)に寵愛された伝説の女性「玉藻前(たまものまえ)」が九尾の狐の化身で、陰陽師の安倍泰成に見破られて下野国那須野へ逃走し、武将の上総広常と三浦義純に追い詰められた結果、石に姿を変え、毒を発しながら生き物の命を奪い続けたと言い伝えられてきました。この石が殺生石です。

 

一説によれば、中国では九尾の狐の起源は古代王朝、殷の時代(紀元前17世紀頃)まで遡るそうですが、日本で九尾の狐は平安時代中期の法典である『延喜式』(927年)に「神獣」として登場しています。神獣と言われるように、この狐は「古くは、平和な世に出るめでたい獣」(精選版 日本国語大辞典)でした。

 

そんな殺生石が割れたことを、イギリスの高級紙『ガーディアン(The Guardian)』が2022年3月7日に報じたのです。同紙は創刊200年以上を誇る同国の有力紙の1つですが、他国の文化や伝承をニュース面に掲載することはあまり多くありません。殺生石のような歴史や文化、伝説は、他国の国民性を理解するために大切ですが、世界では日本に関する知識を持たない外国人が私たちが想像している以上に多く存在します。筆者は国際メディア戦略を専門としていますが、たとえ日本が世界3位の経済大国であったとしても、日本にまつわる文化や伝承などが海外の有力メディアで記事として取り上げられることは稀と言えます。

 

殺生石の伝説は、芸術的にも高い価値を持っています。殺生石は日本の芸術や文学に長い影響を与えてきました。例えば、俳句の松尾芭蕉や浮世絵師の葛飾北斎、歌川国芳、文学界では滝沢馬琴らが、それぞれの作品でこの伝説を描いています。また、ニューヨークのメトロポリタン美術館には、江戸時代の浮世絵師・屋島岳亭が1835年に制作した『Tamamo no Mae and the Archer Miura Kuranosuke』が保存されており、欧米諸国の一部の人たちは以前からその価値を知っていたと考えられます。

↑屋島岳亭作『Tamamo no Mae and the Archer Miura Kuranosuke』(画像提供/The MET Collection. Gift of Estate of Samuel Isham, 1914)

 

では、殺生石が割れたことにはどんな意味があるのでしょうか?  かつて玄翁が殺生石を杖で一打すると、石は2つに割れて、なかから石の霊が現れて成仏されたそう。また、上述した通り、狐には妖怪としての一面だけでなく神獣としての性格もあります。しかしメディアの観点から見れば、殺生石が割れたことは、世界に向けて日本文化を大きく飛躍させる時期の到来を告げるメッセージである、と読み解けるかもしれません。

 

実は遊んでいる!? 最前線を走る「工業デザイナー」の働き方

2022年2月、フランスのソフトウェア企業「ダッソー・システム」が、恒例の年次イベント「3DEXPERIENCE World」を開催しました。昨年に続きオンラインで行われましたが、今回もさまざまな分野の最前線を走る人たちが講演。彼らはどのような仕事観や人生観を持っているのでしょうか? 3回シリーズの第1弾では、スポーツ用の義足などを手掛ける工業デザイナーの働き方を紹介します。

↑働く意欲やひらめきはどうやって生まれるのか?

来る仕事は断らない

本稿で取り上げるのは、米国・Center for Advanced Design(CAD)社の共同オーナーであるMarc McCauley氏とJesse Hahne氏。彼らは、モトクロスバイクからスノーモービルへと変身するバイクなど、現在まで2500もの革新的な工業デザイン製品を開発してきたエンジニア兼工業デザイナーです。

 

2人は10年ほど前に同社を立ち上げたときから、「来る仕事は拒まずに全力で取り組む」というスタイルを貫いてきました。そんな真面目な姿勢は現在でも変わっていません。

 

「仕事を受託するには意欲と情熱が必要ですが、私たちはいつも中堅から大手まで多くの企業と仕事ができる素晴らしい機会に恵まれてきました。プロジェクトには、さまざまなアイデアを持った発明家みたいな人たちが参加しますが、そんな人たちと考えや意見を共有し、同じ目標に向かって協力することがこの仕事の醍醐味です」と彼らは言います。

↑3DEXPERIENCE World 2022で登壇したCAD社のJesse Hahne氏(左)とMarc McCauley氏

 

エンジニアは実際に製品がどのように機能するかを考えたうえで、3Dプリントしたプロトタイプを作り出します。しかし、2人は技術的なデザインだけでなく、市場に送り出すまでの工程や製品化するために必要なことを含めた、デザインだけにとらわれない包括的な提案も積極的に行ってきたそうです。

 

「仕事をするうえで私たちがまず意識しているのは、誰が提案したものであっても、果たしてそのプロジェクトが実現可能かどうかということ。もちろん、最大の問題といえるコストについても、常に気を配ることが必要です」と両氏は言います。

 

CAD社がある地域では冬はスノーモービル、夏はオフロードとモータースポーツが盛んなため、一輪車型のホバーボードのようなアクティビティに使える製品の依頼が多いとのこと。しかし同社は、ほかにもさまざまな製品を生み出しており、最近ではコロナ禍ならではの製品も作ったそうです。

 

「コロナ禍で生きる私たちにとってまさに必要だった発明品が『LID Boss』。これは私たちが数年間、環境のために取り組んでいたプロジェクトの1つでもありますが、カフェなどに置くと便利なマシンで、タッチレスディスペンサーの前で手を振ると飲み物用に清潔で新品のふたが1つだけ出てくる仕組みになっています」とMcCauley氏とHahne氏は説明します。

 

「飲み物のカップのふたは人が口をつける部分ですが、カウンターにいるバリスタでさえ、どうしてもふたを触らなくてはなりません。また、客が自分でカップのふたを付けるタイプの店の場合、1つだけ取るのが難しくて落としてしまったり、欲しい数よりも多く取ってしまったり、自分の前に誰が触れたかわからないふたを使ったりすることがあります。しかし、このマシンがあれば、ふたからのウイルス感染を防げるだけでなく、廃棄量を約30%削減することもできるのです」と両氏はその意義を語ります。

↑CAD社の「LID Boss」

 

もちろん良いことばかりではありません。彼らが発明した、波の上を自動で走るボード「Hydrofoil」を使ったプロジェクトでは、ちょっとした試練を味わったとか。

 

「これはCF-12ナイロン素材でできていて、私たちはこれを使ってマーケティング資料の作成に協力していました。私たちの仕事は30日以内に同ボードを3台作成して、ビデオ撮影するというもの。ところが、ビデオクルーが来る前夜に行ったテストで、ボード3台のうちの1台で技術的なトラブルが起きてしまいました。間一髪で大きな事故にならずに済みましたが、コントローラーが足元で吹っ飛んでしまうなど、ひどい事態に。スケジュールがギリギリだったのでハラハラしましたが、徹夜で原因を突きとめて復旧させ、さらに、ほかの2つのボードでも同じ問題の部分を改良して、翌日のビデオ撮影に間に合わせました」と両氏はそのときのことを振り返ります。

 

仕事で遊ぶ感覚

このように、一般的に仕事にはアクシデントが付きもの。真面目に働き過ぎるとストレスも溜まりますが、McCauley氏とHahne氏は創造的な仕事をするために、どのように時間やストレスを管理しているのでしょうか?

 

「実は、LID Boss やHydrofoilのような案件はとても楽しくて、常にワクワクしているので、仕事とは思っておらず、働いている感覚はないのです。その意味で、私たちがしていることは趣味や遊びに近いかもしれません。私たちはデザインや製品開発が好きなので、時間を費やすことは嫌ではありません。幸いなことに、それが仕事になっているということですね」と語る両氏。

 

「ストレスが溜まることも当然ありますが、そんなとき私たちはお互いに顔を見合わせます。そこで大事なのは『何にストレスを感じているのか?』を掘り下げること。ストレスの原因や問題点がわかれば、それを乗り越えていくように心がけています」

 

自分が本当に好きなことを仕事にしたMcCauley氏とHahne氏。ビジネス感覚と“遊び”感覚を混ぜた彼らのスタイルはうらやましい限りですが、創造力は「没入感覚」から生まれるのかもしれません。

実は危険!?「モップがけ」の知られざる欠点が判明

モップがけで部屋をきれいにするつもりが、実は自分自身の身体の内側を汚していた……。そんなギョッとする研究結果が最近、発表されました。ある成分を含む洗剤を使う結果、クルマの交通量が多い市街地と同じくらい室内の空気が汚れてしまうとか。一体どういうことでしょうか?

↑汚れた空気に要注意

 

室内空気に関するこれまでの研究では、洗剤の中に人間にとって危険な粒子を生み出すものがあることがわかっていましたが、まだまだ多くのことが明らかにされていません。そこで、アメリカのインディアナ大学、パデュー大学、フランスのリール大学などの共同研究チームは、モップを使った床清掃が室内空気にどんな反応をもたらすのかを調べることにしました。この実験では、家庭用洗剤を使って家の中を12〜14分間モップがけした後、空気中の分子と粒子を90分間観察し、空気のサンプルを採取しました。

 

モップをかけている人が掃除中に超微粒子をどれくらい吸い込んでいるのかを分析したところ、毎分10億から100億もの超微粒子を吸っていることが判明。これは交通量の多い欧米の市街地で吸い込むのと同程度であると言われています。

 

このとき発生したとみられる超微粒子が、「二次有機エアロゾル(SOA)」と呼ばれるもの。大気中に浮かぶ固体もしくは液体の微細な粒子(精選版 日本国語大辞典)は「エアロゾル」と呼ばれ、そのうち粒子の大きさが2.5μm以下のものを「PM2.5」と言います。PM2.5は肺の奥まで届くことから、私たちの健康に悪い影響を与えることが知られていますが、その主成分となるSOAは、主に野外を走るクルマの排気ガスから発生します。しかし今回の研究では、SOAが実は室内でも大量に生じていることがわかりました。

 

そこで、同研究チームは「家庭用洗剤からSOAが発生したのではないか」という仮説を立て、家庭用洗剤を調べることにしました。すると、洗剤の多くに、油汚れを落とすためにレモンのような香りを持つ「リモネン」という成分が含まれていることを突き止めます。リモネンを含んだ洗剤を使って室内をモップがけすると、空気中に放出されたリモネンや、それと似た「モノテルペン」という成分が、自然界に存在するオゾンと相互作用を起こし、結果的に高レベルのSOAが生み出されていたのです。

 

掃除用洗剤は、クリーンでフレッシュな香りがついているものが多いもの。でもそんな香りの成分が、空気中に存在するオゾンと反応してSOAを発生している可能性があったのです。

 

室内空気を清潔に保つためには

では、SOAが発生しないように防ぐ方法はないのでしょうか? 一番に思いつくのが、掃除している間や後に窓を開けて換気を行うこと。しかし同研究チームは、換気について「諸刃の剣」の可能性があると指摘しています。発生するSOAを取り除く効果が期待できますが、屋外から空気中のオゾンをより多く取り込んで、SOAがさらに発生しやすくなる可能性もあるというのです。

 

研究者たちはSOAを予防する方法として、リモネンやモノテルペンが含まれていない洗剤を使用するか、オゾンレベルが低くなる朝や夕方に掃除すること、さらに携帯用のエアフィルターを使用することを挙げています。

 

これまで知られていなかったモップがけのマイナス面を明らかにした本研究は、建物の設計や構造、管理にも影響を与えるかもしれません。

 

【出典】Colleen Marciel F. Rosales, Jinglin Jian, et al. (2022). Chemistry and human exposure implications of secondary organic aerosol production from indoor terpene ozonolysis. Science Advances, 8(8). DOI: 10.1126/sciadv.abj9156

食品ロスが約10万トンも減る! 包装と賞味期限をなくす効果を英国が調査

食べ物の食べ頃を見極めるとき、賞味期限のラベルがあればその日付を参考にするでしょう。しかし、実は果物や野菜は賞味期限以上に長持ちすることが、最近イギリスで行われた調査で明らかになりました。食品ロスを減らすためには、賞味期限ばかりに頼らず、自分の目で判断することが大切なようです。

↑この売り方が食品ロスの削減につながる

 

欧米では、プラスチック削減のため、果物や野菜のプラスチック包装を禁止する国が増えてきています。でも、果物や野菜が包装されずにバラ売りされたときに気になるのが、賞味期限がわからなくなること。これは食品ロスにどのような影響を与えるのでしょうか?

 

そこで、イギリスの環境保護団体「WRAP」が18か月にわたる調査を行い、レポートを発表しました。調査対象は、廃棄されることが多いリンゴ・バナナ・ブロッコリー・キュウリ・ジャガイモ。これらがカットされずに、包装と賞味期限の記載がない状態で販売された場合、家庭でどれくらいの期間保存される可能性があるのか、つまり、廃棄量をどれくらい減らすことができるのかを調べたのです。

 

その結果、この5つの食べ物は、包装と賞味期限の記載がない状態で販売すると、家庭から出る食品廃棄物が年間約10万トンも削減する可能性があることが判明。プラスチックも1万300トン(二酸化炭素に換算すると13万トン)も減らすことができるそうです。

 

さらに本レポートでは、カットされていないリンゴ・ブロッコリー・キュウリを5℃以下の冷蔵庫に入れると、室温で保管するよりはるかに長持ちすることも説明されています。例えば、リンゴは4℃の冷蔵庫に入れておけば、室温で保管していたものより70日以上も持つとのこと。冷蔵庫内の気温は5℃以下に設定すべきだ、とWRAPは主張していますが、ここでのポイントは、きちんと冷蔵庫で保管すれば、これらの野菜や果物はバラ売りされても、包装されたものとほぼ同じくらい持つということ。つまり、包装は必要ないということです。

 

賞味期限にとらわれるな

もし賞味期限が包装に明記されていて、それを過ぎてしまっていたら、見た目には変化がなかったとしても食べ物を廃棄する人がいるでしょう。このレポートは、それをやめようと呼びかけています。

 

確かに食べ物の包装には中身を保護する大切な役割があります。また、賞味期限とは「一定の条件下で保存された食品が、包装された時の品質を保つ期間」(精選版 日本国語大辞典)であり、食べ頃の目安を伝えてくれます。しかしその反面、包装や賞味期限にはデメリットもあるということをWRAPは伝えており、それらがなければ、野菜や果物の状態を消費者自身が自分の目で判断し、その結果、家庭から出る食品ロスやプラスチック、二酸化炭素を大幅に削減できるかもしれないのです。

 

消費者自身が自分の目で判断するためには、当然ながら賞味期限(英語では「Best Before」と言われ、品質に関わる概念)と消費期限(「Use By」。安全性に関わる)を区別することが大切ですが、賞味期限にとらわれることなく、各自が自分の考え方や嗜好に基づいて、安全なうちに食べるタイミングを決めるべきだとWRAPは考えています。

 

カットされていない果物や野菜には包装も賞味期限もいらないというWRAPの意見は、例えば、野菜や果物などを丸ごと買っても、すべて食べきれない高齢者のことを考えると極端かもしれませんが、結局、食品ロスやプラスチックを減らすためには「必要な分だけを買うこと」が最も大事なことなのかしれません。本レポートは、消費者だけでなく卸業者や小売業者にも考える材料を与えています。

つらい気持ちは同じ。犬も仲間の死を悲しむことが判明

ある動物は仲間が死んだとき、悲しい表情を見せたり、そのそばに寄り添ったりします。最近の調査では、人間にとって最も身近な動物の1つである犬も仲間の死を悲しむことがわかりました。そこには飼い主からの影響があるようです。

↑家族の旅立ちはつらいよね

 

これまでの研究では、鳥やゾウなどが仲間の死を悲しむことがわかっていました。しかし、ペットの犬については明らかになっていません。そこで、イタリアのミラノ大学獣医学部で獣医倫理や動物福祉について教えるフェデリカ・ピローネ博士は、犬が悲しみをどのように表現するのかを調べました。

 

調査に参加した426人は複数の犬を飼っており、そのうち少なくとも1匹が、同調査が始まるまでの1年間に息を引き取りました。同じ飼い主のもと、同じ家で過ごしていた仲間の犬が死んだとき、残った犬がどのような行動を示していたのかを飼い主にアンケートで聞きました。

 

426人のうち、1年以上前に「飼っていた犬が逝った」と答えたのは66%です。そのうち69%が犬同士が仲が良かったと答え、86%が「残った犬にネガティブな変化が見られた」と回答しました。具体的な行動は次の通り。

 

・飼い主の注意を引くような行動をとるようになった 67%

・遊ばなくなった 57%

・活動的でなくなった 46%

・眠ることが多く、怖がるようになった 35%

・食べる量が減った 32%

・鳴き声や吠える声が大きくなった 30%

 

悲しみは伝わる

ピローネ博士とその研究チームは、このような犬の行動変化について、飼い主がペットの犬の死を悲しむ姿を見ることと、仲間の犬が死んだことで、残った犬にはネガティブな感情や行動変化が生まれると見ています。また、ペットの犬が天寿をまっとうしたとき、飼い主が強く嘆き悲しむと、残された犬への影響も大きくなる可能性がある模様。人といつも一緒に生活しているからこそ、ペットの犬は飼い主の感情を表情や行動から敏感に感じ取っているのかもしれません。

 

【出典】Uccheddu, S., Ronconi, L., Albertini, M. et al. Domestic dogs (Canis familiaris) grieve over the loss of a conspecific. Sci Rep 12, 1920 (2022). https://doi.org/10.1038/s41598-022-05669-y 

タダだからこそ危険!「1つ買うと、もう1つは無料」が英国で禁止に

ファストフード店などでよくある「Buy One Get One Free(1つ買うと、もう1つは無料)」のサービス。お得感が満載でつい買いたくなるものですが、イギリスでは2022年4月から脂肪分や糖分の高い食品でのそのようなサービスが法律で禁止される予定なのです。なぜそんなルールができるのでしょうか?

↑ファストフードなどの「BOGOF」は禁止!

 

イギリスで4月から新しくできるルールは、「Buy One Get One Free」の頭文字をとった「BOGOF(ボゴフ)」と呼ばれるサービスの禁止。飲食店からアパレルまで、さまざまなお店でこの種のセールやキャンペーンが展開されていますが、イギリス政府は、脂肪分や糖分の高い食品においてBOGOFを禁止することに決めました。

 

その理由は、イギリスでは肥満の人が増えているから。最新の統計で、イギリスの成人の63%(およそ3分の2)が太りすぎや肥満に分類されています。同時に子どもの肥満も増加中。学齢期の子ども全体では27.7%が太りすぎ、または肥満であり、10~11歳に限ってみると、その割合が40.9%にまで拡大しているのです。

 

さらに追い打ちをかけるように、新型コロナのパンデミックが発生し、運動が少なく食事量が増える生活が広がり、肥満化が加速していると指摘されています。実際、イギリスではロックダウン(都市封鎖)中に家庭での食品の購入量が増加。しかもロックダウンが終わっても、その購入量は維持されたまま。ロックダウン中の食生活や運動が現在でも続いている可能性があります。

 

そこでイギリス保健省は、肥満対策の一環として「ニュー・ベター・ヘルス・キャンペーン(New Better Health Campaign)」を発表し、部分的にBOGOFを禁止する方針です。

 

広告も制限

同キャンペーンでは、子どもたちがテレビやインターネットをよく視聴する午後9時前までの時間帯で、脂肪分・糖分・塩分の多い食品の広告放映も禁止しています。

 

がんに関する研究機関「キャンサー・リサーチUK」の調査によると、テレビなどに放映された食品広告のおよそ半分(47.6%)は、脂肪分・糖分・塩分の多い食品で占められていたとのこと。しかも、子どもの視聴がピークになる午後6時から午後9時の時間帯に、この割合は60%に達していたのです。

 

そのため、イギリス政府は、ファストフードやジャンクフードなど肥満を助長するような食品の広告を、子どもたちの目に触れにくくすることで、子どもたちを健康的な食生活に誘導していきたい方針です。

 

イギリスなどの先進国における肥満はコロナ禍前から重要な問題であり、事態は悪化している模様。イギリスの取り組みがどのような効果を生むのか注目です。

名前だけはタダで行ける! NASAが新しい“宇宙旅行”を開始

民間人が宇宙に旅する時代が到来したとはいえ、その費用は100億円以上とも言われ、到底一般人が払えるような金額ではありません。しかし、私たちの名前だけは無料で宇宙に行くことができます。そんな面白いキャンペーンをアメリカ航空宇宙局(NASA)が始めました。

↑あなたの名前を宇宙に運びます(画像提供/NASAの公式サイト)

 

NASAでは半世紀ぶりの有人月面探査として、女性と有色人種の宇宙飛行士を初めて月面着陸させるアルテミス(ARTEMIS)計画を進めています。この第一段階のミッションが、2022年に予定されている「アルテミス1号」による無人飛行試験で、いわばそのバーチャルゲストとして名前だけ搭乗できるというのが今回のキャンペーンの趣旨です。

 

登録方法は簡単。アルテミスの『Fly your name around the Moon!(あなたの名前が月の周りを飛ぶ)』と書かれたキャンペーンサイトにアクセスしたら、「GET BOARDING PASS(搭乗券を手に入れる)」をクリック。あとは姓・名とPINコードを入力するだけ。PINコードは4~7桁の好きな数字を組み合わせて、自分の暗証番号として設定します。最後に「Submit(登録)」をクリックすると、搭乗券が画面に表示されます。この手続きを踏めば、NASAが正式なデータの一部として私たちの名前を宇宙に運んでくれるのです。

 

搭乗券には、先ほど入力した自分の名前のほかに、「Launch Site(発射場所)ケネディスペースセンター」や「Launch Destination(行き先)Lunar Orbit(月周回軌道)」と書かれているなど、本当にこのチケットで宇宙に飛んで行けるような気がしてきます。

 

お馴染みのキャラと一緒に

↑スヌーピーもアルテミス1号に搭乗予定

 

ちなみに、アルテミス1号にはスヌーピーのぬいぐるみも搭乗する予定。スヌーピーは1960年代のアポロ計画からNASAのポスターなどに登場してきました。世界中で愛されてきたスヌーピーは、宇宙飛行の安全性などを広く認知してもらうために一役買ってきたのです。

 

アルテミス1号の打ち上げ日時や本キャンペーンの終了時期は未定ですが、誰でも自分の名前だけなら宇宙に行くことが可能。このチャンスをぜひお見逃しなく。

サハラ砂漠で降雪! 驚くことではないのはなぜ?

アフリカ大陸北部にまたがる「サハラ砂漠」で2022年1月、降雪が観測されました。世界最大の砂漠であるこの地域で一体何が起きているのでしょうか?

 

サハラ砂漠で雪が降る仕組み

↑近年、サハラ砂漠では雪が降っている

 

アルジェリア、エジプト、モロッコなど、アフリカ北部の11の国にまたがるサハラ砂漠。面積はおよそ860万km2で、水が少なく乾燥した気候のうえ、地表面からの熱放射があるため、日中の気温は50℃以上に達します。そんな場所で2022年1月、雪が降り、世界各地で報道されました。

 

サハラ砂漠で雪が観測されたのは今回が初めてではありません。サハラ砂漠の気候や地形を考えると、実は雪が降る条件が整っているのです。まず、気候について見てみると、確かにサハラ砂漠は世界で最も気温が高い地域の1つですが、雲が少なく、夜間の放射冷却が激しいため、夜には厳しく冷え込みます。1日の寒暖差が20~30℃以上になり、2005年にはアルジェリアで最低気温-14℃を記録したことも。

 

地形については、アフリカ北西部には、標高4165mと富士山より高いアトラス山脈がそびえ立ち、冬になると大西洋や地中海からサハラに向かって冷たく湿った空気が流れこみます。そして、この空気が上昇して冷えると、空気中にあった水分が凍って雪に変化。つまり、気候と地形条件をみると、サハラ砂漠で雪が降ることは珍しいものの、降雪の条件は満たされているのです。

 

実際、「サハラ砂漠の入口」と呼ばれる、アルジェリアのアインセフラという町では、1979年、2016年、2017年、2018年、2021年に雪が観測されています。そして2022年1月に発生した降雪も、同じアインセフラでした。

 

気候変動との関係は?

サハラ砂漠で雪が降ったのが過去5~6年に集中していることから、地球全体で起きている異常気象や気候変動との関連を指摘する見方もあります。サハラ砂漠の中心部では今後さらに気温が高くなると予測されており、それによって砂漠化する地帯が拡大すると見られています。しかし、これからサハラ砂漠で降雪が頻繁に起きるようになるかどうかは、まだわかっていません。

されど8%。「AIが作った顔」は本物より信頼しやすいことが判明

AIが作る人の顔は、本物と見分けがつかないほど精巧かつリアルになってきています。しかも最近では、AIが作った顔は本物の人の顔より「信頼できる」ことが判明。何だかヤバいことになりつつあります。

↑AI製の顔は本物よりリアル

 

画像生成するAIプログラムとして有名なのが、「GAN(敵対的生成ネットワーク、Generative adversarial networks)」と呼ばれる技術。これは「Generator(生成)」と「Discriminator(判定)」の2つからできており、Generatorが画像を生成し、その画像に対してDiscriminatorが本物か偽物か判定するように機械学習させています。この学習を繰り返し行わせることで、GeneratorはDiscriminatorが本物か偽物か判別できないほど巧妙で本物に近い画像を生成できるようになるのです。

 

GANは発展を続け、実際にAIが作った人の顔は、本物か偽物か人が判別しようとしても難しい結果にまでなっています。カリフォルニア大学バークレー校と英国・ランカスター大学の研究者たちは、315人の被験者に対して400人分の人の顔写真を見せ、本物か偽物か判別できるか実験しました。その結果、本物か偽物か正解した割合は48.2%。答えは本物か偽物のどちらか1/2の確率であるのに、50%を下回る結果となったのです。

 

本物は信用できない

また、別の実験では、233人の被験者が複数の顔写真について「信頼できる度合」を1~7段階で評価しました。すると、参加者はAIが作った偽物の顔のほうが、実在する本物の人の顔より、平均で8%も「信頼できる」と評価したのです。しかも信頼度が最も低く評価された顔の4人はすべて実在する人の顔で、逆に最も信頼できると評価された顔の3人はすべてAIが合成した顔だったのです。

 

この実験を行った研究者たちは、8%という結果について「わずかな数値かもしれないが、有意な差だ」と注目。決して見過ごせる数値ではないと考えられるのでしょう。また、人がAIが作った画像の方を「信頼できる」と感じやすい理由については、AIは平均的な顔を作り出すが、私たちには典型的な顔を信頼する傾向があるのかもしれないと述べています。

 

今回の実験で改めて明らかになったのは、AIが作る人の顔は、実在しない顔なのに「信頼できる」と感じやすいこと。このような偽物の顔は、詐欺サイトやSNSの偽物アカウントなどに悪用されることが考えられます。専門家はこのような画像の利用について、倫理的なガイドラインを作るほか、法的な制度の必要性も指摘していますが、私たち自身もフェイク画像に騙されないように、できるだけ目を養うべきでしょう。

40歳で変えれば10年も違う! 食べ物で「寿命」はどれくらい変わるのか?

「脂っこい食事より、野菜中心の食事のほうが健康に良い」ことは常識ですが、実際に健康的な食べ物は寿命にどれくらいの影響を与えるのでしょうか? この問題を調べるノルウェーの大学が先日、論文を発表し、新しい計算機を開発したことが明らかになりました。

↑食べ物で寿命はどれくらい変わる?

 

ノルウェーのベルゲン大学の研究チームは「世界の疾病負荷研究(Global Burden of Disease Study: GBD)」を使って、食べ物がどのように寿命に影響を与えるかを簡単に試算できる計算機を開発しました。このデータは、152の国や地域にある1100以上の大学・研究所・政府機関に勤務する5600名以上の研究者たちで構成されたグローバルネットワークにより作成され、さまざまな国や地域における死因や疾病、傷害、リスク要因を分析しています(※)。ベルゲン大学の研究チームによれば、食事と健康に関する先行研究では、さまざまな食べ物や食事の仕方がばらばらに調べられており、有機的につながっていなかったそう。彼らはそんな課題を乗り越えようとしました。

※世界の疾病負荷研究については、保健指標評価研究所(IHME)の資料(以下リンク)を参考。

https://www.healthdata.org/sites/default/files/files/Projects/GBD/GBD-2019-News-Release_Japanese.pdf (2022年2月24日閲覧)

 

この計算機は、これまでの食事の内容とこれからの食事の内容を設定することで、どのくらい寿命が増減するかを調べます。例えば、最も寿命を延ばす食べ物の1つである豆類は、男性なら平均2.5年、女性は平均2.2年延びるとプログラムされています。寿命を延ばすほかの食材には、全粒穀物・ナッツ・果物・野菜・魚などがあるそう。逆に、寿命を縮める食べ物には肉類・加工肉・卵・砂糖入り飲料、精製された穀物などが挙げられています。この計算機では、豆類を摂取する量を多くすれば寿命が増え、加工肉を摂取する量が増えれば寿命がマイナスになり、それらをすべて差し引きして、寿命がどのくらい増減するかを弾き出すのです。

 

この計算機では場所を設定しますが、同研究チームはアメリカ、ヨーロッパ、中国を選んでリサーチしました。すると、肉や乳製品の摂取が多い欧米型の食生活だった人が、20歳から肉や加工肉の摂取量を減らして、豆類・ナッツ類・野菜・魚を食べる量を増やせば、男性は13年、女性なら10.7年も寿命が延びると算出されます。食生活を変える年齢が遅ければ遅いほど、寿命への影響は小さくなりますが、それでも60歳で食事を変えれば、男性は8.8年、女性は8.0年延びるそう。40歳で変えれば、約10年も長生きできるようです。この調査はヨーロッパや中国でも行われ、同様の結果が得られたとのこと。

 

もちろん、寿命には食事以外に運動や生活習慣など、さまざまな要因が関係するもの。今回の調査は食べ物の健康への効果を有機的につなげたものですが、食べ物の変化が寿命に与える効果について手軽に数値化できるのは、食生活を見直すうえで役に立つかもしれません。

 

【出典】Fadnes LT, Økland JM, Haaland ØA, Johansson KA (2022) Estimating impact of food choices on life expectancy: A modeling study. PLOS Medicine 19(2): e1003889.https://doi.org/10.1371/journal.pmed.1003889

イタリアが感激! 方言と標準語の「バイリンガル」は頭が良い

近年、イタリアでは方言に注目が集まっています。英国・ケンブリッジ大学が以前に行った調査によると、標準語と方言を使いこなす人は記憶力などに良い効果が見られるとのこと。このニュースに、方言の使用率が高いイタリアは敏感に反応しました。同国ではコロナ禍により地方への移住が進んでおり、その言語的な影響に関心が寄せられています。

↑外国語を覚えるより、方言と標準語の“バイリンガル”を目指したほうが頭が良くなるかも

 

キプロスの言語に関する調査

バイリンガル教育には賛否両論がありますが、ケンブリッジ大学で応用言語を研究する科学者たちはその良い面に着目し、研究を行いました(※)。バイリンガル教育の長所として、生まれた時から2つ以上の言語の中で育った子どもは、1つの言語で育った子どもと比べて思考や行動を制御する認知機能が発達していることがよく挙げられます。同大学の研究者たちは、そのような効能は方言を話す人にも当てはまるのではないかと考え、調べることにしました。

 

調査の舞台となったのは、地中海東部に位置する島国のキプロス。ギリシア系、トルコ系、アルメニア系と多民族が混在する国で、研究チームは「現代ギリシア語」と「キプロス方言のギリシア語」の両方を使いこなす子どもたちが多いことに注目しました。実験では、現代ギリシア語とキプロス方言のギリシア語を使う子ども64人、バイリンガルの子ども47人、単一の言語を使う子ども25人を対象に、言語能力や知力などの調査を実施。

 

その結果、記憶力・注意力・思考力において、現代ギリシア語とキプロス方言のギリシア語を使いこなす子どもたちには、単一言語を使う子どもより高いポイントを得ました。この傾向はバイリンガルの子どもたちと酷似していたのです。

 

この調査結果はイタリアでもすぐに話題になりました。イタリア語の方言はだいたい北部と中南部に大別でき、標準語はフランスやスペインなど周辺国の影響を受けていない中央イタリアの言葉や語彙を指すとされています。

 

イタリアの政府中央統計局(IATAT)が2017年に公表したデータによれば、6歳以上の国民のうち家庭内で標準語のみを話す人は45.9%にとどまりました。一方、32.2%が方言と標準語を併用しており、さらに14%は方言のみで生活していることが明らかにされています(ちなみに、外国語のみを使用しているのは6.9%)。

 

このデータが示す通り、イタリアでは幅広い方言が使われており、フランスやドイツと国境を接する北イタリアや、ギリシアやアラブの影響を受けた南イタリアでは、標準語と比べて理解するのが難しい方言が話されています。例を挙げれば、ラディン語に影響を受けたといわれるフリウリ方言や、ヴァンダル人やビザンチン帝国の影響を受けたといわれるサルデーニャ方言など。

 

方言の効用

このような言語的な状況は、都市が政治的に独立して小国家を形成する「都市国家」としての時代が長かったイタリアならではといった感じがありますが、およそ半数の国民が方言と共に生活しているということで、ケンブリッジ大学の調査結果に注目が集まりました。同調査では、「共通語と方言を併用する人」の脳の能力については、さらなる研究の余地があるとも記されていますが、方言はアイデンティティーでもあるので、過小評価すべきではないと提言しています。

 

近年、在宅ワークの推奨などで地方への移住が加速しているイタリアでは、移住先の方言を日常的に使いこなす子どもが増えていく可能性もありそうで、ケンブリッジ大学の調査に再び注目が集まっています。イタリアのように、日本も英語ばかりでなく、標準語と方言の“バイリンガル”にもっと目を向けるべきかもしれません。

 

※University of Cambridge. (2016, April 27). Speakers of two dialects may share cognitive advantage with speakers of two languages. ScienceDaily. Retrieved February 22, 2022 from www.sciencedaily.com/releases/2016/04/160427151051.htm

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アメリカ初! ハワイで「サメ漁」が禁止に

2022年1月、ハワイでサメ漁が禁止されました。なぜサメ漁がいけないのか? その背景にはどんな理由があるのか? サメを守るハワイの新たな取り組みについて、現地在住の筆者が概説します。

↑海の生態系だけでなく人間も守るサメ

 

2022年1月1日に施行された法律によって、ハワイ州の水域でサメを意図的に捕獲したり殺害したりすることが禁止されました。このような法律を制定した州はアメリカで初めてとなります。

 

違反すると、1回目は500ドル(約5万7400円※)、2回目なら2000ドル(約23万円)、3回目以降は1万ドル(約115万円)の罰金が科せられます。さらに捕獲したサメは没収され、船舶や船舶免許、漁具などが差し押さえられる可能性もあると、ハワイ州政府のウェブサイトには記載されています。

※1ドル=約114.8円換算(2022年2月21日時点)

 

サメの1/4が絶滅危機

なぜハワイでこれほど厳しい法律が定められたのか。それは海洋生体系のなかで、サメが重要な役割を担っているからにほかなりません。海の食物連鎖のなかで、サメは頂点に君臨する存在として海洋生態系全体のバランスを調整しています。残酷に聞こえるかもしれませんが、サメは弱ったり病気になったりした生物をエサにするからこそ、海の生態系を健全な状態に維持する役に立っているそうです。

 

しかし、高級食材であるフカヒレなどを目当てに、サメの乱獲が世界各地で発生。国際自然保護連合(IUCN)のサメ専門家部会によると、乱獲によって世界のサメとエイの4分の1が絶滅の危機にあると指摘されています。

 

このような状況を見て、ハワイはアメリカで最初の州として、2010年にフカヒレの所有・販売・取引を禁止しました。10年以上も前からサメの保護に取り組んでいるのです。

 

家族を守る目に見えない力

また、ハワイでサメは「aumakua(アウマクア)」と考えられています。アウマクアとは「守護神・守護霊」を意味し、「先祖の霊がサメとなって、家族を守っている」と信じる人も少なくありません。サメを守るハワイの取り組みの根源には、このような文化的な側面もあると考えられます。

 

ハワイの近海には約40種のサメが生息しており、サーファーがサメと遭遇したニュースを耳にすることも珍しくありません。そのため、ハワイ州の土地・天然資源局の許可をとれば、公共の安全のためにサメを捕獲することは認められるそうです。

 

アメリカで率先してサメを守り、海の生態系を保護する取り組みを行ってきたハワイ。地元の守護神も誇りに思いながら、見守っているかもしれません。

混沌とした時代の「救世主」! 英国に「キノコブーム」が到来

最近、英国ではキノコの人気が上昇中です。キノコは栽培時に排出される環境ガスも少なく、サステナビリティの面からも優秀な食材。ユニークな食品が登場したり、話題のビーガンレザーの原料に使われたり、その出番が増えています。ウェルネスとエシカルを象徴する存在になったキノコについて、英国からレポートします。

 

ファンタジーの世界へ

↑コロナ禍で不安定になった英国人の心を癒すキノコ

 

英国のキノコブームは初めてのことではなく、これまでもキノコはファッションモチーフや健康食品として大人気になったことがあります。今日のブームのきっかけは新型コロナウイルスのパンデミックで、2020年にはインテリア・アイテムとしてもキノコ型ランプがブームになりました。イギリス人にはキノコがかわいらしく幻想的に見えるようで、家にこもりがちな人々の心に癒しを与えてくれたのでしょう。

 

イギリス人を含むヨーロッパ人がキノコと聞いてよくイメージするのは、深い森や子どもの頃に聞いたおとぎ話です。森の中にひっそりと生えている不思議な様子から、妖精と関連づけて語られることもあります。「ピーターラビット」の生みの親、ビアトリクス・ポターもキノコに魅せられた人の1人。絵本を出版する前はキノコの研究に熱中していた彼女は、細部まで丁寧に描かれたキノコのイラストをたくさん残しています。

 

また、キノコ人気は、若い世代で広がっている「ロマンティックな田舎暮らしを楽しむ」というコンセプトを持つ「コテージコア(cottagecore)」の流行ともつながっています。英国ではロックダウン中でも楽しめる森林ウォークやキノコ狩り、自宅でできるキノコ栽培キットなどに注目が集まりました。

 

実利たっぷり

↑ヘルシーかつサステナブル

 

しかし、現在キノコが注目を浴びている大きな理由は、そのエコで万能な性質です。キノコの成分が解明されるにつれ、サステナブルの面から利用されるようになりました。

 

キノコは低カロリーで、さまざまな健康成分を含んでいますが、なかでも白い珊瑚のような形をしたライオンズ・メイン(和名:ヤマブシタケ)は、免疫力を上げるサプリメントの原料として認知度が一気に高まりました。

 

キノコは、学習能力や記憶ネットワークなど脳機能を活性化させるヘリセノン、免疫力の向上やアレルギー緩和に役立つベータグルカンを含んでいます。しかし、スーパーでは手に入りにくいため、キノコそのものではなく、大多数の人はライオンズ・メインが原料のサプリメントを利用しています。

 

一方、動物性素材を使わないビーガンブームの高まりによって生まれた、新素材の「マッシュルーム・レザー」も注目されています。

石油から作られる合成皮革と異なり、キノコを原料とする人工レザーは生分解性を持ち、環境に優しいうえ、上質な質感が特徴。ランウェイでの毛皮使用をいち早く中止し、サステナブルファッションにも積極的な英国ブランド「ステラ・マッカートニー」、高級ブランド「エルメス」、プラスチックゼロを目指す「アディダス」、ヨガファッションの人気ブランド「ルルレモン」などの新作に採用され、一躍脚光を浴びています。

英国ではキノコを使った飲み物も登場しました。クリスマス明けの1月に英国で行われる禁酒月間「ドライ・ジャニュアリー(Dry January)」に合わせて、2021年冬にリリースされた「Fungtn」は、ノンアルコールのクラフトビール。抗酸化に優れたチャーガ(カバノアナタケ)、生薬としても知られるレイシ、そして前述のライオンズ・メインの3種がブレンドされています。

↑キノコを原料とするノンアルビールの「Fungtn」

 

また、近年では、第5の味と言われる「旨み(Umami)」という日本語が英語圏で流行しており、2022年もそのトレンドは続いています。干し椎茸などのキノコの粉末をかくし味に加えるシェフや料理家が増え、スーパーでもキノコの粉末が「ウマミ・パウダー」として商品化されています。

 

そのほか、英国で古くから親しまれている、キノコのタンパク質を発酵させたマイコプロテインを使った代替肉ブランド「クオーン」も、キノコの再評価によって人気が拡大しています。

 

キノコブームは英国以外の国でも起きているようで、例えば、米国のニューヨークタイムズ紙は食用から産業利用、医薬品まで、キノコが2022年のトレンドになると予測しています。新型コロナウイルスや気候変動といった問題を抱える現代社会は混沌としていますが、だからこそキノコは一種の「救世主」として期待を集めているのかもしれません。

 

執筆/ネモ・ロバーツ

もうやめられない! ドイツに根付いた買い物の新常識

コロナ禍で消費者の食料品の購入方法は世界中で変化しています。ドイツでは長引く外出規制がきっかっけとなり、ネットスーパーの利用者が急増。オンライン注文だけを取り扱う「店舗を持たないお店」も広まるなど、ドイツ人の食料品の購買行動において、かつてないほどの変化が起きています。現地からレポートしましょう。

 

ロックダウンで拡大

↑スマホで注文して、すぐに自宅に届くなんて本当に便利だ!

 

パンデミックによって厳格なロックダウンが実施されたドイツでは、2020年からスーパーの買い物にも新しい規制が加わりました。外出は20時までで、店内でのマスクの着用はもちろん、営業時間の短縮や入店人数の制限、一人一台のショッピングカート使用などのルールが設けられました。

 

その結果、特に平日の仕事帰りの時間帯や土曜日にスーパーの混雑が激しくなり、入場規制により入口の外まで長蛇の列ができることも度々見かけるようになりました。このような現象は日本を含む他国でも起きましたが、コロナ禍の厳しい規制には、仕事を持つ女性をはじめ、多忙な人たちにウンザリするほどのストレスをもたらすという側面があるのです。

 

そのような状況で拡大しているのが、ネットスーパー。ドイツでは、大手スーパーのREWEが2010年にネットスーパーを始めたのを皮切りに、ほかのスーパーもオンラインサービスを開始していました。しかし、国内リサーチ会社のBitkomによれば、パンデミック以前ではオンライン注文率がわずか16%でしたが、現在では26%に拡大。多忙のためにスーパーの実店舗に並ぶことに躊躇する人たちだけでなく、自宅での隔離生活を強いられている人にとっても、スーパーのオンラインサービスは必要不可欠な存在となったのです。

 

ドイツのネットスーパーはアプリで支払い商品を購入した後、自身で店舗にピックアップに行くか、自宅まで宅配してもらうかを選びます。宅配サービスならば、指定した時間に待っているだけで、オンラインでショッピングカートに入れた食材が玄関まで届きます。

 

注文から十数分以内で玄関まで届けることがモットーの宅配サービスや、宅配料無料のサービス、そしてオーガニック食材を多数扱うショップなど、アメリカや中国などでも見られる、さまざまなスーパーが登場しています。

 

エコなネット宅配スーパーも

さらに、現在は既存の大手スーパーによる宅配サービスのみならず、「実店舗を持たないネットスーパー」にも人気が集まっています。

 

その中でも注目を集めているのが、実店舗を持たないネットスーパーの「Picnic(ピクニック)」。オランダの企業ですが、新型コロナウイルスが出現する前の2018年からドイツで新しいスタイルの宅配サービスを提供しています。

↑ドイツ人の新常識を象徴するような「Picnic」

 

Picnicのモットーは「環境にやさしい配達」。配送はすべて小型の電気自動車のみで行われています。2019年以降は、ドイツ西部の都市・デュッセルドルフを中心に同社のトレードマークがついた小型電気自動車を頻繁に見かけるようになりました。このクルマは騒音を出さず、二酸化炭素の排出もありません。コンパクトサイズのため、配送時に交通を妨げることもあまりないのです。

 

さらに、Picnicのビニール袋はすべてリサイクル可能な素材で作られています。不要な場合は次回に配送スタッフに渡して返却することができるため、プラスティックの削減にもつながります。また、Picnicは店舗を持たず、大手スーパーのEDEKAやパン屋のBüschから商品を仕入れています。毎日22時にアプリでのオーダーを締め切った後に必要な数だけの仕入れをするため、食材の無駄がなく、廃棄を抑えられるのも魅力。こういった環境保護への取り組みは、もはや現代では当たり前かもしれませんが、評価すべきでしょう。

 

あるリサーチによれば、ドイツ国内でネットスーパーを利用している人の36%が、コロナ禍の収束後も「間違いなく利用する」と回答した一方、51%が「多分利用する」と考えているとのこと。全体的には、9割近くの人が引き続き同サービスを利用するつもりのようです。ドイツでは、コロナ禍によりオンラインスーパーの利用が新しい常識になりましたが、このように便利なサービスがコロナ禍前にあまり浸透していなかったことが、いまでは不思議なくらいです。

465日も割れない「シャボン玉」が誕生! その正体は?

シャボン玉は空中をゆらゆらと漂っているかと思うと、儚く消えてしまうもの。しかし、最近の研究で、465日間も割れない「シャボン玉」が開発されました。手に持っても割れないそうですが、その正体は何なのでしょうか?

↑1年以上も割れないシャボン玉から、まったく新しい物質が生まれるかも

 

1年以上も割れない「シャボン玉」の泡を作り出したのは、フランスのリール大学の物理学者チーム。できるだけ長い間割れない気泡を作るために、この研究チームは「ガスマーブル」と呼ばれる種類の気泡について研究を行いました。ガスマーブルは、プラスチックビーズを含む液体溶液から作られた気泡で、プラスチックビーズが泡の表面に集まるため、手で持ったり床に転がしたりできるほど強度が高くなります。

 

今回の実験で研究チームは2種類のガスマーブルを用意し、どのくらい長持ちするかを検証しました。2種類のうち1つは水性のガスマーブル。もう1つは、水とグリセリンをもとにしたガスマーブルです。比較のために一般的なシャボン玉も作り、合計3つの泡を観察しました。

↑(左側の画像)左の列が一般的なシャボン玉。真ん中の列は水性のガスマーブル。右列が水とグリセロールを混ぜたガスマーブル。右の画像は、水とグリセロールを混ぜたガスマーブルを拡大したもの

 

すると、従来のシャボン玉は長くても1分ほどで破裂しましたが、水溶性ガスマーブルは6~60分ほど泡の状態をキープ。そして、最も長く持ったのが水とグリセロールのガスマーブルで、少なくとも101日間は持ち、最長で465日間も割れずにいたのです。

 

水とグリセロールを混ぜたガスマーブルが1年以上も割れずにいた理由は、グリセロールを加えたから。シャボン玉などの気泡がすぐに割れてしまうのは、重力によって気泡の上部の膜が薄くなったり、水分が蒸発したり、空気中に存在する非常に小さなホコリやチリが付着したりするから。しかし、グリセロールは水との親和性が高く、吸湿性があるため、大気中から水分を吸収して蒸発した水分を補うことが可能。しかも、ガスマーブルのプラスチックビーズが、気泡上部が重力によって薄くなるのを防いだのです。この2つの効果によって、ガスマーブルの寿命が驚くほど延びたのでした。

 

今回の研究によって、まったく新しい種類の物質を生み出すことができるかもしれない、と同研究チームは述べています。

 

【出典】Roux, A., Duchesne, A., & Baudoin. (2022). Everlasting bubbles and liquid films resisting drainage, evaporation, and nuclei-induced bursting. Physical Review Fluids, 7(1), L011601. https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevFluids.7.L011601

中国の大奮闘! 北京冬季オリンピックに見る「低炭素化」への取り組み

現在、中国の北京ではアスリートたちが熱戦を繰り広げていますが、ホスト国がこの祭典を舞台に挑んでいるのが環境問題です。2020年に同国は「2030年にカーボンピークアウト、2060年のカーボンニュートラルの実現に向けて努力する」と宣言しており、いわば今回のオリンピックは中国の低炭素社会実現の試金石。会場のあちこちでは、二酸化炭素の排出を抑えるために、さまざまな工夫が見られます。

↑「鳥の巣」は2022年冬季オリンピックのメイン会場として再利用されている

 

近年のオリンピック・パラリンピックは、環境に配慮することはもちろん、大会を通じて持続可能な社会づくりを推進する場となっています。2021年に開催された東京オリンピックは、環境負荷をできるだけ抑えるために既存施設を再利用しました。今回の北京オリンピックは「起向未来(Together for a Shared Future〔ともに未来へ〕)」というスローガンのもと、「低炭素エネルギー・低炭素会場・低炭素交通」の三本柱からなる「グリーン・オリンピック」の実現を目指しています。

 

「低炭素エネルギー」の利用については、東京オリンピックと同様に、北京の全会場でグリーンエネルギー(再生可能エネルギー)が採用。一方、「低炭素会場」に関しては東京オリンピックとやや異なります。東京オリンピックでは国立競技場が建て替えられたのに対して、北京オリンピックでは、2008年夏季大会のメイン会場「北京国家体育場(通称「鳥の巣」)」を再利用しています。この体育場は当時の建物を改装するとともに、建物の構造の周りに張り巡らされた発電ガラスは、ガラスでありながらソーラーパネルの役割も果たしています。

 

会場における低炭素化の取り組みの中で特に注目されているのは、二酸化炭素を利用した製氷技術。これは、二酸化炭素の排出を抑えると同時に、排出された二酸化炭素を冷却材として再利用することが特徴。この装置は大会の低炭素化に貢献するだけでなく、会場の氷上温度差を0.5℃以内にコントロールすることで、選手たちのパフォーマンスに良い効果を与えるように設計されています。

 

また、中国語で「水立方(ウォーターキューブ)」という愛称で親しまれている「国家遊泳中心(国家水泳センター)」は、改修工事によって「氷立方(アイスキューブ)」に生まれ変わり、カーリング種目の会場として再利用しています。この「変身」は、この施設にもともと備わっていたプールに、カーリングを行うための機能を加えただけなので、プールとしての機能は失われておらず、夏季にはプールに戻すことができます。

↑水から氷へ。水泳センターからカーリング種目の舞台に変身したアイスキューブ

 

水素燃料自動車が1000台以上

「低炭素交通」については、近年の中国では電気自動車が急速に普及していますが、冬季オリンピックではそれだけでなく、水素自動車も走っています。水素燃料車両の投入台数は1000台以上で、トヨタの車両が最も多くを占めていると報じられており、北京オリンピックにおける新エネルギー車の利用率は85%以上とのこと。

 

東京オリンピックと同様に、北京冬季オリンピックでも客席に観客の姿はほとんど見られませんが、中国の低炭素社会実現への取り組みには拍手を送るべきかもしれません。

 

執筆/加藤夕佳

満月はやっぱり危険?「サメの攻撃」が増えることが明らかに

満月は人類や動物に不思議な影響を与えますが、その力はサメにも及んでいるようです。最近の研究で、サメの攻撃頻度と月の満ち欠けに関係性があることが明らかにされました。

↑満月のときは、なぜかウズウズするぜ……

 

この満ち欠けとサメの攻撃の関係については、これまであまり研究されてきませんでした。しかし、フロリダ大学にあるフロリダ自然史博物館には、「インターナショナル・シャーク・アタック・ファイル(国際サメ攻撃ファイル)」と名付けられた記録があり、これには1960年から2015年までの56年間に世界で起きた、サメによる人間への攻撃の記録が保存されています。この豊富なデータをもとに、ルイジアナ州立大学とフロリダ大学の共同研究チームは、月の満ち欠けとの関連性を調査しました。

 

その結果、月の照度(明るさ)が高い時期はサメの攻撃が平均件数より多く発生し、逆に照度が低い時期は少なくなる傾向があることがわかりました。つまり、満月の日にピンポイントでサメの攻撃が増加するというわけではないですが、月が満ちている期間はサメの攻撃が多くなりやすいということです。

 

月が明るいときに攻撃が増える理由はわかっていません。しかし、サメの人間に対する攻撃は夜間ではなく、ほとんどが日中に起きているそう。したがって、月明かりの影響というよりは、地磁気や潮流など別の要素が影響している可能性があるのではないか、と同研究チームは見ています。

 

満月と暴力

満月の影響を受けている動物は、サメ以外にも報告されています。例えば、人間がライオンに襲われた回数と月の満ち欠けを調べた研究によると、満月の日から5日間はライオンが人を襲う傾向が高く、襲撃件数が増えていることが報告されています。

 

月の満ち欠けが動物に与える影響は明らかになっていないことが多くありますが、動物の暴力的な行動と満月の間には何かしらの関係がありそうです。海に出かけるときは、月の満ち欠けをチェックしておいたほうがいいかもしれません。

 

【出典】French LA, Midway SR, Evans DH and Burgess GH (2021) Shark Side of the Moon: Are Shark Attacks Related to Lunar Phase? Front. Mar. Sci. 8:745221. doi: 10.3389/fmars.2021.745221 

4000京個も!?「ブラックホール」は無数にあった

途方もなく高密度で強力な重力によって、あらゆる物質や光が逃げ出すことのできない「ブラックホール」。最近、このブラックホールが、私たちの想像を遥かに超えるほど大量に宇宙空間に存在することが明らかになりました。

↑ 「COSMOSフィールド」と呼ばれる銀河の画像。青い点は、高エネルギーのX線を放射する超巨大なブラックホールを含む銀河であるが、このようにブラックホールは無数にある(画像提供/NASA)

 

ブラックホールとは「中心部が光を吸収するほど超高密度、大重力になった天体」のこと(日本国語大辞典)。ブラックホールの謎の1つは、宇宙に一体いくつ存在するのか?宇宙にあるブラックホールを一つひとつ見つけ出して数えていくには、とてつもなく長い時間がかかり、天文学に携わる研究者の間では悩ましい問題の1つでした。

 

そこでイタリアの研究機関SISSAのチームが、この研究をスタート。ブラックホールは質量によって大きく3種類に分類されますが、同研究チームはその中で最も質量が小さい「恒星質量ブラックホール」に注目。それに関するデータなどを組み合わせながら、独自の新しい計算方法を生み出しました。

 

この計算方法でブラックホールの数を算出したところ、40,000,000,000,000,000,000個(4000京個。4のあとに「0」が19個並び、400億の10億倍の数)という、とんでもない数が導きだされたのです。想像すらできない量ですが、これだけの果てしない数のブラックホールが、現在観測できる宇宙(直径約900億光年の球体)に存在する可能性があるというのです。

 

さらに、この研究では、宇宙に存在する物質のおよそ1%が「恒星質量ブラックホール」に閉じ込められていることも示唆されました。

 

このブラックホールの数は理論上の推定値です。しかし、ブラックホールが途方もないほどたくさん存在し、その推定量が発表されたことには意義があるでしょう。

 

【出典】Sicilia, A., Lapi, A., et al. (2022). The Black Hole Mass Function Across Cosmic Times. I. Stellar Black Holes and Light Seed Distribution. The Astrophysical Journal, 924(2). https://doi.org/10.3847/1538-4357/ac34fb

手術後の死亡確率が32%も高い! 実は危険かもしれない「男性外科医×女性患者」の組み合わせ

もし女性の患者が外科手術を受けるなら、男性の医師ではなく女性の医師にお願いしたほうがいい? そんなことを考えざるを得ない研究が、最近発表されました。性別の組み合わせで、外科手術の結果が異なるというのです。

↑ひょっとして危険な組み合わせ?

 

カナダのトロント大学医学部の研究者たちは、患者と外科医の性別の組み合わせにより、手術の結果に違いがあるのかどうかを調べました。対象としたのは、同国のオンタリオ州で過去12年間に耳鼻咽喉科、形成外科、泌尿器科などの外科手術を受けたおよそ132万人。

 

まず、医師と患者の性別を調べると、患者と医師の性別が同じケースは約60万件(男性外科医×男性患者は約51万件、女性外科医×女性患者は約9万件)あった一方、患者と医師の性別が異なるケースは約72万件(男性外科医×女性患者は約67万件、女性外科医×男性患者は約5万件)ありました。

 

その中で、外科手術後に合併症などを発症したケースの数は、全体の14.9%となる約19万件。そして、この“異変”が起きた確率を医師と患者の性別で調べてみると、「男性外科医×女性患者」の組み合わせが多かったのです。

 

女性外科医が同じ手術を女性患者に行った場合と比べてみると、合併症が起きる確率は16%、再入院の可能性は11%高まっていました。しかも手術後30日間に死亡する確率は32%に上っていたのです。

 

女性外科医を増やせ

今回の結果を受けて、調査を行った研究チームは「あくまでも集団レベルの結果であり、特定の男性外科医を否定するものではない」と慎重にコメントしています。性別の組み合わせと手術結果の因果関係はそれほど単純ではありません。実際には複雑な要因が絡んでおり、例えば、医師と患者のコミュニケーションや手術前後のケアなど、多面的な分析が必要。

 

ただ、今回の研究成果は、多様性の観点からも意義があります。研究対象となった医師は計2937人で、そのうち82%が男性医師、18%が女性医師でした。外科医の8割が男性で占められており、今回の研究結果は女性医師を増やすことの重要性も示しています。

 

性別による違いが手術結果に影響を及ぼすことはあってはならないことだけに、医学界はこの事実から目をそらさずに研究を続けることが大切だ、と本調査を行ったトロント大学の助教授は述べています。

 

【出典】Wallis CJD, Jerath A, Coburn N, et al. Association of Surgeon-Patient Sex Concordance With Postoperative Outcomes. JAMA Surg. Published online December 08, 2021. doi:10.1001/jamasurg.2021.6339 

人生100年時代のはずが…。英米でコロナ禍前から「寿命」が低下

2021年12月、アメリカでは2020年の平均寿命が77歳となり、前年の78.8歳より1.8歳も短縮したことがわかりました。その大きな原因として新型コロナウイルスが挙げられていますが、実はアメリカ人の寿命はコロナ禍前から縮んでいたのです。この現象はイギリスでも起きており、調査が進められています。

 

地域間で大きく異なる寿命

↑誰もが100歳まで生きると思っていたのに……

 

イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンが2021年10月に発表した研究で、新型コロナウイルスのパンデミック前にあたる2014年から2019年の5年間で、寿命が短くなっている地域があることが判明しました。

 

同大学の研究チームは、2002年から2019年までの860万件以上におよぶイギリスの死亡記録から、死亡当時住んでいた地域を一件ずつ調査。そこから、6791か所の平均寿命の推移について調べていきました。

 

その結果、多くの地域で平均寿命が伸びているものの、一部の地域では平均寿命が短縮しており、近年その傾向が加速していることがわかったのです。2010年から2014年の間に平均寿命が低下したのは、全6791か所のうち、女性は351の地域、男性は1地域だけでした。しかし2014年から2019年にかけては、女性の場合、全体の18.7%にあたる1270地域で、男性は11.5%にあたる784地域で寿命が低下していたのです。2002年から2019年までの期間では平均寿命が約3年も短くなっていた地域もありました。

 

イギリスの統計局が発表するデータでも、コロナ禍を含む2018年から2020年までの3年間にかけて女性の平均寿命は横ばいですが、男性の平均寿命はパンデミックが原因で40年ぶりに減少しています。しかし、統計局のような一般的な平均寿命のデータが対象とするのは、人口が14万人ほどの広い地域。それに対して、インペリアル・カレッジ・ロンドンの調査は人口8000人ほどの小規模の地域ごとに追跡調査を行っています。その結果、パンデミック前から平均寿命が短くなっている地域があることがわかったわけです。

 

アメリカでも同じ現象が

この現象はアメリカでも起きています。1959年から2016年までは平均寿命が伸びていたのに、2014年から2016年にかけては3年連続で低下。平均寿命が伸びている州がある一方、ニューハンプシャー州、メイン州、ウエストバージニア州などでは平均寿命が短縮しているのです。そのような地域では薬物やアルコールの過剰摂取、自殺などが多く、所得格差や不安定な雇用などが、それらの根本的な原因ではないかと見られています。

 

イギリスでも平均寿命が低下する傾向がみられた地域では、失業者の多さや不安定な雇用、不十分な福祉支援などが見られ、それらが寿命を縮める原因になっているのではないかと考えられています。

 

100歳まで生きる確率は?

「人生100年時代」と言われるなか、先進国であるイギリスやアメリカでは、新型コロナウイルスとは関係なく平均寿命が短縮している地域がある。この事実を私たちはよく考えてみる必要があるでしょう。人生設計で自分が100歳まで生きることを想定しても、その前提が間違っているかもしれないからです。

 

人生100年時代でないとすると、自分は何歳まで生きられるのか? 一部地域で寿命が短くなっていることがわかったイギリスでは、簡単に自分の寿命がわかる「寿命計算機(Life expectancy calculator)」が注目を集めています。これは、イギリスの統計局が同国の平均寿命のデータをもとに作ったもので、自分の平均寿命を簡単に予測してくれます。

 

「Age」のところに自分の現在の年齢を入力し、「Sex」では「Male(男性)」または「Female(女性)」と性別を選び、「calculate your life expectancy(寿命を計算する)」のボタンをクリックするだけ。

 

35歳の男性と女性で試してみると、男性の場合、平均寿命は84歳で、6.5%の確率で100歳まで生きられるそう。女性の場合は平均寿命が88歳で、100歳まで生きられる可能性は10.4%。言い換えると、10人に1人が100歳まで生きるということです。

 

イギリスやアメリカで起きているこの現象は、世界的な長寿国として知られる日本でも起きる、あるいはもう起きているのでしょうか?

 

【主な出典】Rashid, T., Bennett, J. E., et al. (2021). Life expectancy and risk of death in 6791 communities in England from 2002 to 2019: high-resolution spatiotemporal analysis of civil registration data. The Lancet Public Health, 6(11), E805-E816. https://doi.org/10.1016/S2468-2667(21)00205-X

やはりそうか! ハーバード大の医師も勧めない「集中力を弱める」5種類の食べ物

夢や目標を実現するためには、それに向けて集中力を保つことが大事。そこで気をつけたいのが食事です。ハーバード大学医学大学院で栄養精神医学を教えるウマ・ナイドー医師が、2021年11月下旬に「集中力や記憶力を弱める5種類の食べ物・飲み物」というテーマの記事を米国メディア(※)に寄稿しているので、見てみましょう。

↑集中力は食事から

 

1: 砂糖が添加された物

脳細胞は、糖の一種であるグルコースをエネルギー源として活動していますが、糖分が多い食事は、脳にとって糖の過剰摂取となり、記憶力の低下につながります。特に気を付けたいのは、炭酸飲料などの飲み物やスイーツなど。製造過程でたくさんの糖が添加されているため、できるだけ摂取は控えたほうが良さそうです。

 

2: 揚げ物

脳の健康には揚げ物も大敵。約1万8000人を対象とした研究で、揚げ物を多く含む食事は、学習能力や記憶力の低下と関係性があることがわかっています。その原因として、脳に血液を送る血管が揚げ物によって損傷する可能性があるそう。

 

また別の研究では、揚げ物を多く食べる人はうつを発症する確率が高くなることもわかっています。揚げ物を週3日食べている人は週1日に減らすという具合に、揚げ物は控え目に摂取したほうが良いでしょう。

 

3: GI値の高い食べ物

「GI(グリセミック・インデックス)」とは、食べ物を食べたときに血糖値の上昇度を示す指標のこと。GI値が高い食べ物の代表例は炭水化物。ナイドー医師は、炭水化物を食べるなとは言っていませんが、その質と量に気をつけるべきだと忠告しています。例えば、精製された小麦粉を使って作られたパンやパスタなどは、スイーツのような甘味を感じなくても、体内では糖と同じように処理されるとか。GI値が低い食べ物には、緑黄色野菜や豆類、果物があり、質のいい炭水化物を摂取している人は、うつを発症する確率が30%低いという研究もあります。

 

4: アルコール

アルコールはストレス解消などのメリットがある一方で、飲み方によっては健康への懸念があることも事実です。フランス国立健康医学研究所が行ったアルコール摂取と認知症発症の関連についての調査で、アルコールの摂取量が多い人は認知症のリスクが高くなったことがわかりました。適度な飲酒なら、疲れを忘れて楽しい気分にさせるなどプラスの効果がありますが、飲みすぎは脳にとっても良くありません。

 

5: 硝酸塩を含んだ食べ物

硝酸塩とは、ハム、ソーセージ、ベーコンなどの加工肉に使われる発色剤。この硝酸塩が腸内細菌を変化させ、うつに関係している可能性が示唆されています。硝酸塩のひとつである亜硝酸ナトリウムは、発がん性物質の生成に関与していると言われており、できるだけ避けるべきとナイドー医師は述べています。

 

ナイドー医師のアドバイスは新しい説というわけではなく、普段から食べ物や栄養に気を遣っている人は「やっぱりそうだったか」と感じるかもしれませんが、大事なのは実践すること。最近では「マインドフルな食事」を提唱する人もいますが、人によってはマインドフルネスを取り入れると、上記の食べ物や飲み物を控えやすくなるかもしれません。

 

※ Naidoo, U. (2021, November 28). A Harvard nutritionist and brain expert says she avoids these 5 foods that ‘weaken memory and focus’. CNBC. https://www.cnbc.com/2021/11/28/a-harvard-nutritionist-and-brain-expert-avoids-these-5-foods-that-weaken-memory-and-focus.html

 

 

イチゴが1週間も鮮度を保つ! 袋の繊維から抗菌剤を放出する「食品保存バッグ」が誕生

フードロスやプラスチックの削減に挑む現代。そのどちらにも関わる課題が、食べ物の保存です。最近では、シンガポールの南洋理工大学でスマートな食品保存袋が開発されました。従来の製品と比べて、食べ物の保存期間を数日程度のばすことができるそう。どのようなものなのでしょうか?

↑新開発された食品保存袋(画像提供/南洋理工大学)

 

南洋理工大学は、アメリカのハーバード大学と共同で、食べ物の廃棄を減らすための方法の一つとして、新しい食品保存袋を開発しました。この研究の共同ディレクターを務めるハーバード大学のフィリップ・デモクリトウ教授は、「食べ物の安全性や廃棄は、公衆衛生や経済に大きな影響を与える」と指摘しており、このような考えのもと、本研究では、デンプンやトウモロコシのタンパク質「ゼイン」を含む天然由来の原料をもとにした素材を新開発しました。

 

そこに注入されるのは、ハーブのタイムから抽出したオイルや柑橘類に含まれるクエン酸などをベースにした抗菌剤。この抗菌剤が、食品保存袋内部の湿度の上昇や、食材・パッケージの表面に存在する細菌に反応すると、袋の繊維から放出され、食材を腐敗させる原因となる大腸菌などの菌類を殺菌する仕組みになっています。

 

イチゴを使った実験では、従来のプラスチック容器は4日間しか鮮度を保てなかったのに対して、新開発の食品保存袋に入れたイチゴは7日間も鮮度を保つことができました。しかも、抗菌剤は天然成分を使用しており、化学物質の使用は最小限にとどめられているため、袋の中の食材を安心して口にすることができるとのことです。

 

もちろん生分解性

環境にやさしいことも、この食品保存袋の大事な特徴。従来の食品保存袋の多くはプラスチックで作られているのに対して、新開発の食品保存袋は生分解性を持つため、万が一廃棄されても、微生物などの力によって自然にかえっていきます。世界的な脱プラスチック運動が起きているなか、食べ物の保存期間が長くなるうえ生分解性を持つ新しい食品保存袋は大きな需要を生みそうです。

 

この研究チームは、いずれ農産物の保存期間を現在の2倍にまでのばしたいと、さらなる改善に意欲を見せています。

 

【出典】Aytac, Z., Demokritou.P., et al. (2021). Enzyme- and Relative Humidity-Responsive Antimicrobial Fibers for Active Food Packaging. ACS Applied Materials & Interfaces, 13(42), 50298-50308. https://doi.org/10.1021/acsami.1c12319

平均89語! 犬の「ボキャブラリー」は1歳児並みだった

犬は人間の言葉をどれくらい認識できるのか? 長い間、世界中の科学者がこの問題に取り組んできました。しかし、従来の研究は体系的な手法で行われていなかったそう。そこで最近、カナダの大学がこれまでにない方法で犬のボキャブラリーに関する研究を行い、新たな知見を獲得しました。

↑旦那さまの言うことはよくわかるワン

 

カナダにあるダルハウジー大学の心理・神経科学部のソフィー・ジャック准教授と共同研究者のキャサリン・リーブ博士は、犬が必ず反応する人間(飼い主)の言葉がどれくらいあるのかを調べるために、先行研究を調査しました。ところが、先行研究には体系的な手法が存在していないことが判明。

 

そこで二人は、幼児心理学の手法を援用することにしました。ジャック准教授は幼児心理学を研究している一方、リーブ博士は幼児の発達を調べています。幼児は親が言ったことを理解したとき、しゃべる前に非言語的な「サイン」(表情や視線、しぐさ)をよく送ります。親はそのような子どもの反応に敏感ですが、ここから二人は研究手法の着想を得ました。

 

ジャック准教授とリーブ博士は、子どもの幼児期の言語形成や言語理解度を評価するための、親向けのチェックリストをモデルにした無記名の調査票を作り、ソーシャルメディアで実験の参加者を募集。さまざまな年齢や種類の犬が165頭の飼い主が集まりました。参加してくれた飼い主に172の単語のリスト(すべて英語)を渡し、自分の犬がどの言葉に一貫して反応するか試してもらい、犬がどの言葉を理解しているかを調べたのです。

 

その結果、被験者である犬が反応した語や語句の数は、最も少なくて15語、最も多くて215語でした。平均すると89語ですが、犬が反応を示した言葉には、例えば以下のような単語があります。

 

・犬自身の名前

・come (おいで)

・wait(待て)

・sit(座れ)

・leave it(そのまま)

・no(ダメ)

・OK

 

予想通りの結果かもしれませんが、日本語で「お座り」「待て」のような、指示を出す言葉と、犬自身の名前は大半の犬が理解していました。

 

また犬種によって反応する言葉の数に違いがあり、チワワのような小型犬と、牧羊犬としてよく飼われるボーダーコリー、ジャーマンシェパードは、反応する言葉が多く、平均で120語を理解したこともわかりました。なんらかの仕事を任されている犬は、人間の指示を的確に理解して動かなければならないため、より多くの単語を理解しているのでしょう。

 

人間の1歳児と同等?

今回の研究で、犬の受容語彙(話を聞いて理解できる単語)は1歳児と同程度である可能性が示唆されています。ただ、犬と幼児では相違点があり、犬は行動に関する言葉によく反応するのに対し、幼児はモノや人の名前に多く反応する傾向が見られるそう。

 

体系的な手法が導入されたことで、犬の語彙に関する研究は、新しい段階に入ったのかもしれません。今回の手法は幼児のコミュニケーション研究や犬の訓練にも活用できると期待されています。

 

【出典】Reeve, C., & Sophie Jacques, S. (2022). Responses to spoken words by domestic dogs: A new instrument for use with dog owners, Applied Animal Behaviour Science, 246.(105513), https://doi.org/10.1016/j.applanim.2021.105513.

ビッグデータで検証! 最も健康的な「入眠時刻」は何時?

健康と睡眠は密接に関係しています。一般的に「夜は早めに寝たほうが身体に良い」と言われていますが、この説は必ずしも客観的な方法で検証されたわけではありません。しかし最近、イギリスでは加速度計を利用した、より科学的な睡眠時間に関する調査が行われました。

↑何時に寝るのが一番良い?

 

睡眠に関する研究の中には、心臓発作や心筋梗塞、脳卒中といった心血管疾患のリスクと睡眠の間に関連性があると報告しているものがあります。しかし、このような調査では、対象者の記憶を頼りにして睡眠時間を把握することが多く、このような主観的な方法が問題となっていました。

 

そこで、イギリスのヘルスケアテクノロジー企業・Humaの研究チームは、睡眠と心疾患リスクの関連性について、より客観的に調査するため、加速度計(一定の時間内における速度の変化の割合を測定する器械で、スマートフォンなどのデバイスに応用されている)を利用して睡眠時間を測定する調査を実施することにしました。

 

イギリスには、50万人ほどのイギリス人の遺伝子および健康に関する情報を含めた生物医科学の巨大なデータベース、UKバイオバンクがありますが、Humaの研究チームは「UKバイオバンク」が保持する10万人以上のデータを利用。ここから、質の低いデータやプロフィール情報が不足しているものなどを除外し、合計8万8026人のデータから7日間の入眠時刻と起床時刻を導き出しました。このうちの約3.6%にあたる3172人が心臓発作、脳卒中などの心血管系の疾患を発症したことがあります。

 

また、同研究チームは、喫煙状況、糖尿病、高コレステロールなどの要因についても調査を行い、入眠時刻と心疾患系の病気との関連性について解析しました。

 

これらのデータを解析した結果、入眠時刻が午後10時から11時の間の人は心疾患の発症リスクが最も低いことが判明。午後10時から11時に寝た人と比べると、入眠時刻が午後10時前の人は24%、午前0時以降の人は25%も心疾患の発症リスクが上がっていることが明らかになりました。しかも、この傾向は男性より女性のほうが顕著だったのです。

 

早ければ早いほど良いものでもない?

正確な入眠時刻と起床時刻をもとにした今回の解析で、心臓病関連の病気には、入眠のタイミングが重要になることがわかりました。人間は約25時間の周期で睡眠と起床を繰り返していると言われており、このサイクルは「概日リズム」や「概日時計」と呼ばれています。この概日リズムは、私たちが考えている以上に健康全般に大きな影響を及ぼしている可能性がある模様。この結果を発表した研究者は、「私たちは昼間に生きる動物で、夜には生きられないように進化してきた」と指摘しています。

 

女性のほうが入眠時刻と心疾患の発症リスクに大きな関連性があるのは、更年期のホルモンの影響や、男女間で内分泌系に違いがあることと関係しているそう。

 

規則正しい生活が健康の基本と言われていますが、午後10時から11時の間に眠りにつくことが一番健康的なのかもしれません。

 

【出典】Shahram Nikbakhtian, Angus B Reed, Bernard Dillon Obika, Davide Morelli, Adam C Cunningham, Mert Aral, David Plans, Accelerometer-derived sleep onset timing and cardiovascular disease incidence: a UK Biobank cohort study, European Heart Journal – Digital Health, Volume 2, Issue 4, December 2021, Pages 658–666, https://doi.org/10.1093/ehjdh/ztab088 

半端なくリアル! 進化を続ける「人型ロボット」

科学技術の進化とともに、より人間らしくなっている人型ロボット。最近では、イギリス製の最新人型ロボットの動画がYouTubeで公開され、大きな話題になっています。

↑この男性は人間? それともロボット?( 画像提供/Engineered Arts)

 

動画とはいえ、目が合うとドキッとするほどリアル

先日、人型ロボットの開発を行うイギリスのEngineered Arts社が、「Mesmer(メスマー)」と名付けられた頭部だけの人型ロボットの動画をYouTubeに公開しました(以下の動画)。眠そうにあくびをする仕草をみせたり、視線をそらしたり笑ったりする表情は、ロボットとは思えないほど自然。頬や目のまわりの筋肉の動きと、皮膚にできるシワなどが、とても人間らしく、動画を見た人から「すばらしい!」「あくびしたときの鼻のしわがリアル」「人工の声帯と舌をつけたら、さらに完璧になりそう」などのコメントが寄せられています。

 

これだけリアリティあふれるロボットの開発を進められる理由は、どうやら本物の人間の表情を徹底的に調べて、それをもとに設計しているからでしょう。同社では、3Dモデルや3DCGをつくる際などに使われる「フォトグラメトリー」を活用。フォトグラメトリーとは、36台のカメラで取り囲むように設置された中央に人が座り、顔の動きを異なる角度から同時に撮影し、その動きを3Dモデルで再現するものです。メスマーは、この3Dスキャンのデータをもとに設計・成形し、最後にシリコンでできた皮膚に、手作業で髪の毛などの細部の塗料を手作業で塗って作られているそう。そのため、人間の骨格や表情などのリアルさが増しているそうです。

 

不自然な動きは過去のもの

↑世界が注目するアメカ(画像提供/Engineered Arts)

 

さらに同社は、メスマーと同時期に“最先端なロボット”として「Ameca(アメカ)」もYouTubeで公開しました。こちらは、現在ラスベガスで開催中の世界最大級の電子機器の展示会、CES2022(2022年1月5日〜8日)で披露されていることもあり、世界的に注目されています。

 

アメカは、頭部だけでなく上半身・下半身も備えたAI搭載型ロボット。動画では肩をまわしたり、手のひらを見つめたりする動きを見せており、どの動作もとてもなめらか。さらに、驚きや戸惑いなどの表情もリアリティあふれるものになっています。

 

まさに“ロボットダンス”のように、カクカクとした不自然な動きをするロボットは、もう昔の話。身体の動きも顔の表情も、本物の人間に限りなく近いロボットの開発は、私たちが考えている以上に進んでいるようです。

大注目は「ポテトミルク」! 2022年のサステナビリティ予測

コロナ禍でライフスタイルや価値観が変化するなか、2021年は世界各国でサステナビリティに対する取り組みが加速しました。2022年もその動きは活発化すると思われますが、具体的にはどのような動きが見られるようになるでしょうか? 英国・米国・ロシアにおける事例を取り上げながら、「フードロス」「ヴィーガン食&サステナブル食」「脱プラ・脱ゴミ」をテーマに世界のサステナビリティトレンドを予測してみます。

 

ロックダウンで発展する「フードロス」

↑「食べ物は粗末にしない」が常識

 

2021年秋に国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が開催されたばかりの英国では、官民挙げてフードロス削減活動が盛んです。同国政府は、すでに禁止されているプラスチック製の使い捨てストローなどに加え、ナイフやフォーク、プレートなども禁止する計画を11月に発表しました。

 

民間ではフードシェア・アプリの利用が広がり、最近はスーパーや飲食店の余剰食品を慈善団体や一般市民に無料配布する「オリオ」が人気です。スーパー最大手「テスコ」 やカフェチェーン「プレタマンジェ」と提携したこともあって急速に普及しました。

 

出品する店舗と食品を受け取る人をマッチングさせるほか、家庭で食べきれない食品を個人同士でシェアすることも可能。フードロスの解決だけでなく、ロックダウン(都市封鎖)で地域の助け合い意識が高まったことも拡大要因と思われます。このアプリには、ユーザーが環境保護にどの程度貢献できたかを知ることができるコンテンツも備わっています。

 

一方、米国の「スフィット・マーケット」は、いびつな形や不ぞろいなどの理由で市場に出荷できないオーガニック農産物を農家から引き取り、ネットを通じて契約者に約40%割引で提供しています。毎週または隔週、自宅に届くサブスクリプション形式で、量は家族の人数に合わせて選べ、量の変更や追加注文も可能です。

 

本来は廃棄される野菜を流通させることでフードロス問題を解消できるうえ、「オーガニック野菜は欲しいものの、高価で買い控えてしまう」という消費者にもメリットを提供できます。量や届く回数も調整可能なため、家庭でのフードロス防止にもつながると言えるでしょう。

 

フードロスを減らす動きはロシアでも見られ、この国ではレシピに必要な量を測った食材の宅配ミールキットサービス「ウージンドーマ」が人気です。レシピで使う肉や魚、スープ、シーフードなどが冷凍パッケージ化され、レストランのようなメニューをわずか30分程度で作ることができます。

 

家族の人数に合わせて量をきちんと測ってあるので、食材が余ったり、使いきれずに廃棄したりという心配がありません。また、配達に適さない規格外の野菜はその都度、孤児院などの慈善団体へ寄付され、その様子もSNSで配信されています。

 

ポテトミルクを生み出したヴィーガン料理

↑世界的なヒットになりそうなポテトミルク

 

以前から欧米では環境への悪影響が少ない植物性ミルクが注目されていましたが、最近の英国では、植物由来にありがちな水っぽさやクセがないポテトミルク「DUG」の人気が急上昇しています。多数の地元メディアが報じているように、2022年にはポテトミルクがビッグトレンドになるかもしれません。

 

原料となるジャガイモは牛乳と違ってアレルゲンの心配がなく、少ない水で育つために持続的に栽培することができるうえ、環境ガス排出量もほかの植物性ミルクより少ないとのこと。牛乳に匹敵する量のカルシウムを含み、食物繊維やカリウム、ビタミンCなども豊富です。

 

ロシアでもヴィーガン食は人気で、モスクワ市内だけで専門レストランが20店舗近くあり、年々増加中。ほとんどのカフェやレストラン、屋台などで肉なしボルシチなどのメニューがあり、コロナ禍でヴィーガン料理のデリバリーも活発化しました。宅配食材キットやスーパーの商品にも多くのヴィーガンメニューが取り入れられています。

 

最近は「ヴィーガン料理のほうがおいしいうえ、オリジナリティがある」という理由で、流行に敏感なモスクワっ子たちの間ではヴィーガンがファッションの一つとして定着しつつあるようです。

 

もはや「脱プラ・脱ゴミ」は常識

↑「ゼロウェイスト(ZERO WASTE)」は世界の合言葉

 

世界中で脱プラが進むなか、大手生活用品メーカーのユニリーバは2020年から、英国のサステナビリティストアで商品のリフィル(詰め替え用品)運用試験を開始。洗剤やバス用品などを再利用が可能なステンレス鋼ボトルに入れて販売しています。

 

これは消費者がボトルを購入し何度も補充できるシステムで、パッケージのQRコードを使うことでボトルのライフサイクルや使用回数を追跡することが可能。2025年までに非再生プラスチック使用量を半減し、販売量よりも多くのプラスチックパッケージを回収・再生することを目指します。

 

米国スタートアップ企業のネクスタイルズは、ミシガン州の自動車産業やアパレル産業で排出される繊維くずを原料としたリサイクル建築用断熱材「エコブロウ」を2020年に開発しました。無害なグリーンコーティングで処理するなど耐熱性や難燃性などの高性能を有しており、再生素材として繊維廃棄物の削減につながっています。

 

現在は古着やファブリックなど、企業の繊維廃棄物をピックアップするサービスも展開中。資源再生に向けた持続可能なソリューションを提供しています。

 

ロシアでは、サステナビリティを強く意識した商品が市民権を得る動きが見え始めました。2018年オープンの「ゼロウェイスト・ショップ」は店名どおり、廃棄物ゼロ活動を軸としています。店頭にはゴミを極力減らす商品が並び、若い世代のモスクワっ子に人気です。

 

持参容器に商品を入れる購入方法もあり、豆腐をタッパーで持ち帰ることも可能。地産地消に力を入れ、小さなベンチャー企業の商品でも「ゼロウェイスト意識」が高ければ、積極的に店頭に並べられます。例えば、食器洗い用スポンジに代わり、日本でも馴染深いヘチマが売られていますよ。

 

店頭にはアドバイザーがいて、ゴミを削減するための効率的な工夫や取り組みを教えてくれるなど、小さな学校のような役割も果たしているそう。SNSを使い、ゼロウェイストやサステナビリティを意識した生活のコツなども配信しています。

 

海外ではサステナビリティ関連の商品やサービスが驚くほど速く進化しており、日常生活では当たり前の存在になりました。若い世代を中心に今後はサステナブル意識がさらに高まり、消費行動に大きな影響を与えると見られます。サステナブル“革命”はまだまだ続くでしょう。

人生最高の贅沢をしてやる! アメリカ人が示す2022年の「旅行」トレンド

長いこと自粛モードが続き、「もう旅に出たくて仕方がない」と思う人が世界中にたくさんいます。新型コロナウイルスによって、さまざまな価値観が変わりつつあるなか、どんな旅のスタイルが生み出されているのでしょうか?

 

旅行予約サイトのエクスペディアが、12か国の1万2000人の旅行者(今後18か月以内に国内外で旅行を検討している成人)を対象に調査を行い、2022年の旅行スタイルの動向を発表しました。このレポートからアメリカ人の「旅のカタチ」を5つに分けて紹介しましょう。

↑これまでの人生で最高の旅がしたい

 

1: 国内旅行が主流

新型コロナウイルスの規制や入国制限などを考えると、国内旅行を楽しむというのが第一の選択肢になりそうです。これはアメリカの旅行者の間でも同様の傾向が見られ、アメリカの回答者の59%が「2022年の旅行は、国内旅行のみを計画している」と回答。しかし、国内だけでなく海外に行きたいと考える人も少ないわけではなく、37%は「国内旅行と海外旅行の両方を計画している」と答えています。

 

ちなみに、筆者が暮らすハワイはアメリカ人の間で人気の旅行先。2021年夏には、コロナ禍を忘れるほど、アメリカ本土から多くの観光客がハワイを訪れ、すでに街には賑わいが戻ってきています。

 

2: 柔軟さが鍵

新型コロナウイルスの影響で、各種の規制が突然厳しくなったり新しいルールができたりすることが考えられます。そのため綿密な旅行プランを立てても、計画通りに行かないことだってあり得るでしょう。今回のエクスペディアの調査でも、26%の人が「柔軟に流れに身を任せる」と回答しています。旅のプランが変わっても、それを受け入れてその中で旅行を楽しむ柔軟性が必要かもしれません。

 

3: より贅沢に

パンデミックが始まってからおよそ2年。自由に旅することも、離れて暮らす家族や友だちともなかなか会えず、十分な余暇を楽しめなかったと感じる人も多いでしょう。そのため、自分へのご褒美にお金をかけたいこととして旅行が筆頭にあがっている模様。旅行でお金をかける方法として、「贅沢な体験をする(15%)」「客室やフライトをアップグレードする(16%)」「憧れの土地を訪れる(32%)」などが挙がっています。そして、旅にお金をかけたいと考える人は、特に18~34歳に多くみられる傾向があります。

 

4: 未知の体験に没入

その一方、2022年は、未知の分野の体験を求める旅のスタイルも人気が出そうです。「食べたことのない料理にトライする(40%)」「郷土料理を試す(31%)」「人里離れた旅先を探す(23%)」というように、普段の生活では体験できないことを求める人が増えている模様。旅は、定番の観光地をまわるのではなく、自分が日々暮らしている世界や文化とまったく異なる空間に「没入する」スタイルに変わってきているのかもしれません。

 

5: スマホからマインドフルな旅へ

美しい景色を写真にとってSNSにアップしたり、現地からリアルな感想を家族や友人に届けたり。スマホを大いに活用するのが、これまでの旅のスタイルでした。でも多くの人は「何もせずにリラックスしたい」と考えているようで、回答者の24%が「デバイスを使う時間を減らして、マインドフルな時間を過ごしたい」と答えています。日常生活にスマホが欠かせないからこそ、旅行中はあえてスマホから離れる時間を作ることが大切になっていくのかもしれません。

↑ハワイのマウイ島は2022年の旅行先候補として一番人気

 

エクスペディアでは今回の調査結果をまとめて、「後悔しない旅」を計画していると分析。これを「Greatest of All Trips(GOAT)=人生最高の旅」と名付けています。決まりきった観光地をめぐるスタンダードな旅から、より個々の好みに沿った旅にシフトしているのは、アメリカだけでなく日本でも共通する傾向と見られています。私たちも「2022年に旅に出るなら、どこに行ってどんなことをしたいか?」を、そろそろ検討してもいいかもしれませんね。

2021年にわかった「動物・生き物」の新事実5選

私たちの身近にいる動物や生き物には、まだまだわからないことが多くあり、日夜、世界中で研究が行われています。そこで本稿では、この1年間に紹介した動物や生き物に関する新たな発見について振り返ってみましょう。

↑ライオンはあくびをして、キリンは紳士的……。動物や生き物の世界には、まだまだ謎が多い

 

1: 豚も「テレビゲーム」で遊べる

高度な頭脳を持つことで知られるチンパンジーは、テレビゲームで遊べることが知られていましたが、豚もテレビゲームをプレーすることがわかったのです。

 

米国・パデュー大学の研究チームが行った実験で、4頭の豚は鼻でレバーを前後左右に傾けて画面上のカーソルを動かし、3つある壁(太くて青い線)のどれかにカーソルをぶつけて餌をもらうゲームを行いました。最初に、模造品などを使って豚にこのゲームについて訓練させてから実験に挑んだところ、4頭すべてがゲームを行うことができたのです。人間やチンパンジーは親指を持つことから、親指は知能に大きな関わりがあると見られていたのですが、豚のように親指のない動物がこのように遊ぶことができたというのは、驚くべき発見だったそうです。

 

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豚も「テレビゲーム」で遊べることが判明!! 一体どうやって??

 

2: 海中に漂う「謎の塊」

ノルウェー近海や地中海で1985年頃から報告が相次いであったのが、水深60〜70mの海の中を浮遊する、直径1mほどのゼラチン状の丸い塊。長いこと、これが何なのかわからずにいたのです。そこで、ノルウェー、アイルランドなどの共同研究チームが調査に乗り出し、市民ダイバーにこの塊と遭遇したらサンプルを取るように呼びかけました。そのようにして収集されたサンプルをDNA解析したところ、イカの胎児が含まれていることが判明。

 

しかも、ダイバーたちの目撃情報を考えると、1つの塊には何十万という胎児が含まれており、十分に成長すると塊が破裂して、イカの赤ちゃんが海中に放出されると考えられるそう。あなたも、どこかの海でダイビングしていたら、こんな不思議な物体に出合う可能性だってゼロではないかもしれません。

 

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これぞ市民科学の力! 海中に漂う「謎の塊」の正体がついに判明

 

3: キリンの「フェアプレー精神」

キリン同士の戦いは、長い首を大きく振って相手に強くぶつけ合うもので、かなり狂暴な印象を与えます。その中に、主に若いオス同士が行う「スパーリング」と呼ばれる行為がありますが、これが真剣勝負で行われているのか、または練習や遊びなのか、はっきり区別されていませんでした。そこで、英国・マンチェスター大学の研究チームが南アフリカで約半年間にわたりキリンを観察した結果、スパーリングには「体格や年齢が近い相手と行うこと」「右利き・左利きを考慮すること」「相手にケガをさせないこと」という3つの特徴があることが判明。この研究チームは、スパーリングは練習や遊びに近いものだと結論づけたのですが、キリンはフェアプレー精神を持ち、実に紳士的な動物だったのです。

 

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実に紳士的! キリンが「フェアプレー精神」を持っていることが判明

 

4: タコが「とても嫌うもの」

食材としても身近なタコ。でもタコの身体機能や感覚については、まだあまり知られていませんが、GetNavi webでは2021年にタコにまつわる2つの研究結果を取り上げました。1つは、タコは痛みを感じ、それを嫌がるということ。タコは、ほかの無脊椎動物よりはるかに多い5億個もの神経細胞を持ってり、痛みを感じる可能性があると考えられたのです。また、タコは足だけで光を感じ、強い光をあてられると足を引っ込める行動を示すこともわかりました。足先まで敏感に反応するタコは、私たちが考えているより、ずっと面白い生物なのかもしれません。

 

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意外と研究が進んでいなかったタコが「とても嫌うもの」が2つ判明

 

5: ライオンの「あくび」

他人のあくびを見ると、自分もあくびしたくなることがありますが、人間と同じように、ライオンの社会でもあくびは伝染し、重要な意味を伝えているようです。イタリア・ピサ大学の研究チームが、19頭のライオンを4か月にわたり観察したところ、1頭のライオンがあくびをすると、同じ群れの別のライオンが約139倍の確率で3分以内にあくびをすることを発見。しかも、あくびが伝染したライオンには、立ち上がったり横になったりする行動まで移っていたのです。この研究チームは、あくびの伝染のような同調行動によって、心理的距離を縮め絆が強くなっている効果があると推測。人間と動物にとって、あくびは重要なコミュニケーションなのかもしれません。

 

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ライオンもやっていた!「あくびは不謹慎」とばかり言えないワケ

 

今日では、さまざまな最先端テクノロジーを活用しながら、動物や生き物に関する調査が行われています。それにより、従来では方法論などに限界があった研究が進み、新しい事実が明らかにされるかもしれません。2022年もこの分野の研究から目が離せません。

 

 

日常生活に浸透! 2021年「サステナビリティ」記事まとめ

サステナビリティ(またはSDGs)は時代のキーワードとして世界中に広がり、コロナ禍においても各国で積極的な取り組みが見られます。2021年にこの分野で起きたことを、買い物・モビリティ・食品・金融に分けて振り返ってみましょう。

↑この一年間でさらに進んだ世界のサステナブル化

 

【買い物】ブラックフライデーのサステナブル化

欧米では、11月末のブラックフライデーやサイバーマンデーにクリスマス向けの買い物をする人たちが大勢いますが、2021年のこの時期、英国では例年と少し違う動きが見られました。ある調査によれば、消費者の約7割がサステナビリティや気候変動への取り組みを意識した商品に注目しているとのことで、特に若い世代の間でこの意識が高まっています。同国が2021年秋に国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の開催国となったことも、サステナビリティの広がりに一役買った模様。

 

どの店舗もいつもはこの時期に大々的な割引で大量消費を促しますが、2021年は英国の独立系小売店が集結。ブラックフライデー割引は実施しない代わりに、当日の売り上げの一部を慈善団体に寄付して植樹を行うという「グリーンフライデー」活動のニュースも報じられました。

 

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クリスマスにも影響!? 英国で起きる「ブラックフライデー」のサステナブル化

 

また、英国ではクリスマスプレゼントもサステナブル商品が人気を集め、食品からファッションまで幅広い分野で持続可能性を意識した商品が取り揃えられました。使用済みのガラスをリサイクルして作られたワイングラス、くり返し使える蜜蝋ラップ、自然に優しいコスメなどが注目を集めています。再生紙を利用したラッピングペーパーも増えていて、ギフト包装にリサイクル素材を採用した高級ジュエリーブランドが現地メディアでも取り上げられていました。

 

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クリスマスツリーの代わりにサステナビリティ? 英国の最新クリスマス事情

 

【モビリティ】気候変動の影響が生み出す新たな商品

 欧米の比較的教育レベルが高い40代以下の層では、環境への影響が少ない生活スタイルを好む傾向があります。また、ここ数年、リチウム電池の小型化といったテクノロジーが進化していることもあり、ドイツでは「eバイク(電気自転車)」の人気が上昇。専用レーンの整備が進み、購入に補助金を出している自治体もあるほどです。

 

なかでも注目を集めているのが、スタートアップ企業が作るハイテクな「スマートeバイク」。各社が販売するスマートeバイクは外観がスタイリッシュというだけでなく、それぞれ違いはあるものの、機能性が高いことが特徴です。後輪の小さなボタンを蹴ればロックが完了するという、鍵いらずの施錠システムや、取り外しができるバッテリー、盗難防止用のアラームや追跡システムの完備など、利便性や安全性を備えた機能が搭載されています。さらに専用アプリを使えば、アシストの強弱、自動ギアシフト、スピード上限などが設定できるのに加え、走行距離や経路、時間、速度の自動記録、バッテリー残量などの確認もスマートフォンといったデバイスで可能に。

 

コロナ収束後もeバイクの人気は加速していくでしょう。既存自転車メーカーもスタートアップに負けまいと市場に乗り出しており、欧州はまさにeバイク戦国時代といった様相を呈しています。

 

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eバイク先進国で人気の「スマート電気自転車」3選。 日本で買えるものもピック

 

【食品】地産地消の促進と食品ロスを解決する代替肉

タイには「キンジェー」と呼ばれる菜食週間が存在しますが、最近、同国の首都・バンコクでトレンドになっているのがプラントベースフードです。これは植物由来の材料を使用した食べ物のことで、動物性の原材料をすべて排除するヴィーガンと異なり、あくまでも植物由来のものをできる限り摂取するという考え方に基づいています。

 

健康志向も追い風となり、肉の代替品となるプラントベースミートの人気は特に上昇中。原材料は大豆・米・ココナッツ・ビーツなどですが、なかでも繊維質の食感が米国南部の郷土料理「プルドポーク」に例えられる果物の「ジャックフルーツ」は、どんな調味料も吸収するため、消費者に人気のある代替肉の1つ。農園ではなく道端の植物として栽培されることが多く、これまではあまり食用として利用される機会はなかったのですが、現在はプラントベースミートとして加工や流通が拡大しました。地産地消を促進させるのに加え、食品ロスを減らすという観点からも注目されています。

 

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ブームを支える「道ばたの植物」ーー急速に広がるタイの「プラントベースフード」事情

 

【金融】若い世代で主流化する「グリーン・フィンテック」

英国では、デジタル・ネイティブ世代を中心に、エコ感覚を重視しながらスマートフォンを軸とした金融行動を実践する「グリーン・フィンテック」が主流になりつつあります。例えば、アプリ連動型のデビットカード・サービス「トレッド」は、ユーザーの消費活動をCO2排出量に置き換えてアプリに表示する英国初のサービス。トレッドはユーザーの行動を「CO2排出量」として計算し、消費行動を「食料品」や「移動費」などにカテゴリー化します。分類されたデータをさらに分析し、自分のライフスタイルの何が気候変動に最も影響を与えているかを、わかりやすい形で「見える化」してくれるのが大きな特徴。

 

毎月の消費傾向とエコ度が彩り豊かなグラフで表示されるので、それをもとに買い物の内容や移動の方法を変えれば、CO2の排出量を減らすことができるでしょう。炭素回収プロジェクトを行う他社のサブスクリプションにアプリ経由で参加すれば、植林を通じて自分のCO2排出量を相殺できるようになっています。

 

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デジタル・ネイティブ世代には当たり前! 英国で大人気の「グリーン・フィンテック」とは?

 

これら記事が示しているように、2021年は従来にも増してサステナブルな動きが目立ちました。気候変動の影響が厳しさを増す中、生活に密着したサステナブルな取り組みは今後さらに広がっていくと思われます。

 

お金より与えたいものとは? ミレニアルとZ世代が変える「ボランティア」の在り方

2021年の国際ボランティア・デー(12月5日)のテーマは「私たちの共通の未来のために今こそボランティアをしよう(Volunteer now for our common future)」でした。これからの社会を担う若い世代はボランティア活動や社会問題についてどのような意識を持っているのでしょうか? 最近、アメリカで発表されたチャリティーに関する調査結果などから探ってみましょう。

↑ボランティアを変えるミレニアルとZ世代

 

2021年12月、アメリカの金融機関であるウェルズ・ファーゴは、アメリカ人のチャリティー活動に関するアンケート調査の結果を発表しました。この調査は同年11月にオンラインで実施され、同国の成人811人が回答。若い世代が募金の方法を変えていることが明らかになりました。この調査によれば、回答者の46%が、社会的弱者の夢や目標を実現するためのクラウドファンディング・プラットフォーム「GoFundMe」やソーシャルメディア、インターネットを通して寄付をしているそう。この傾向は、1980年から1990年代前半に生まれた「ミレニアル世代」や、90年代後半から2000年代に生まれた「Z世代」に多くみられることが特徴です。

 

コロナ禍の影響も見られました。同調査によれば、回答者の46%がコロナ禍で寄付の量を増やしたとのこと。逆に寄付を減らした人は11%でした。ミレニアル世代(74%)とZ世代(76%)は寄付が足りないと考えていることも判明しています。しかも、ミレニアル世代とZ世代の回答者の約半分は、お金ではなく時間を与えたいと考えていました。「慈善活動とは必ずしも募金することとは限らず、単純に考え方であることが多い」とウェルズ・ファーゴの関係者は述べています。

 

ボランティアは自分のためにもなる

以前から、ミレニアルやZ世代はボランティアに対して意識が高いことが知られていました。イギリスのチャリティー団体「ブリティッシュ・ハート・ファウンデーション(British Heart Foundation)」が、2019年に同国の成人2001人を対象に行ったボランティアに関する調査によると、Z世代でボランティア活動に参加した経験がある人は46%、現在ボランティア活動に参加中の人は24%でした。それに対して、55歳以上の人はおよそ33%がボランティア活動の経験が一度もなく、「今後もボランティア活動をする予定はない」と回答していました。

 

世代によってボランティアへの関心が異なるのは、ボランティアに対する見方と関係がありそうです。この調査では、年齢が高い世代ではボランティアを、自分ではなく他人のために行う「利他的」なものと捉えているのに対して、Z世代はボランティア活動を「新しいスキルや経験を得るための手段」と見ていることがわかりました。Z世代は、ボランティア活動を通して新しい人や考え方に触れ、他人や社会のために良いことをしつつ自分の経験を豊かにしていきたいと考えているのかもしれません。

 

Z世代の考え方に注目すると、彼らには社会問題や環境問題に対する意識が高いという特徴があります。2017年にアメリカの13歳から19歳までの男女1003人を対象に行われた調査では、モノを買う場合、回答者の89%が「社会問題や環境問題に取り組んでいる企業から買いたい」と考えており、92%が「(2社で)価格と品質が同じなら、社会問題や環境問題で良い取り組みを行っている企業のほうを選ぶ」と答えていました。リサイクルの制度が普及し、多様性を重んじる教育を受けて育ってきたZ世代は、もともと社会問題や環境問題を自分事として捉える意識が根付いており、それがブランドやモノを選ぶ基準の一つになっているようです。

 

これらの調査からは、ミレニアル世代とZ世代は社会や環境に対する意識・関心が高く、ボランティア活動などを通して社会と積極的に繋がろうとしている姿が見えてきます。「より良い社会にしたい」という思いが強い若い世代が、21世紀のボランティアを変えていきそうです。

 

ブラジルには絶対に盛り上がる「クリスマスプレゼント交換ゲーム」があった!

ポルトガルの植民地になった歴史を持つブラジルは、カトリック教国として有名です。でも、同国のクリスマスについて知らない人が多いのではないでしょうか? そこで本稿では、ブラジルのクリスマスの祝い方や、大人気のプレゼント交換ゲームを紹介します。

 

さまざまな宗教、ほぼ同じクリスマス

↑リオデジャネイロのクリスマス

 

ブラジルには多様な宗教があります。2020年に行われた調査によると、国民が信仰する宗教はカトリックが50%、プロテスタントが31%とキリスト教系が大多数を占めていますが、キリスト教以外では無宗教が10%、心霊派(スピリチュアリズム)が3%、アフリカ系のウンバンダやカンドンブレが2%います。

 

ウンバンダやカンドンブレは、奴隷としてブラジルへ連れてこられたアフリカ系移民を中心に、先住民の精霊信仰やカトリックの教えが融合し、独自の民族宗教となった宗教。ウンバンダもクリスマスを祝いますが、太陽神オシャラを称えるためのお祝いであり、カンドンブレは人類の始まりの重要性を考える日となっています。

 

ただ、どの宗教も宗派や教義が違うというだけで、キリスト教やキリスト教がルーツの宗教を信仰している人が大多数であり、クリスマスの過ごし方にあまり大きな違いありません。

 

クリスマスの4週前の日曜日になると、カトリックの習慣である降誕節(こうたんせつ)のシンボルである「イエスの馬小屋」が教会や広場に飾られます。ドイツのクリスマスマーケットと似ていますが、街やショッピングモールには、大規模なクリスマスデコレーションが出現。大きなクリスマスツリーやサンタクロースと一緒に写真を撮影する場も設けられ、ブラジルの風物詩になっています。

↑降誕節のシンボルである「イエスの馬小屋」

 

ブラジルの多くの会社では、「セスタ・デ・ナタル(クリスマスの箱)」というクリスマスや年始用の食材を詰め合わせた箱を従業員に配ります。その箱の中には、「パネトーネ」というクリスマスに食べるクリスマスケーキが必ず入っていますが、この習慣はイタリア移民の影響を受けながら定着したようで、ブラジルではお世話になった人にもパネトーネを渡します。

↑セスタ・デ・ナタル(クリスマスの箱)の中身。右端の箱2つがパネトーネ

 

クリスマスの12月24日と25日は休日となり、商業施設が閉店します。ブラジル人にとってクリスマスは日本のお正月に相当する家族で過ごす大事な行事であり、家族や親戚と集まります。焼いた七面鳥、フレンチトースト、ポルトガル料理であるタラのフリットやパネトーネを食べたり、ワインを飲んだりしながら、賑やかに夕食を楽しみます。

 

欧米では25日にプレゼント交換をしますが、ブラジルでは24日のクリスマスイヴに行います。25日の午前0時になるとシャンパンを開けて乾杯し、みんなでクリスマスを祝うのです。

 

大人気のプレゼント交換ゲーム

しかし、ブラジルのクリスマスの最大の特徴は「アミーゴ・セクレット(秘密の友達)」という大人気のクリスマスプレゼント交換ゲームと言えるかもしれません。子どもたちの集まりだけでなく、クリスマス前の会社や友人同士の忘年会など、さまざまな場所でこのゲームを楽しむ人たちが増えていますが、このゲームをすれば、間違いなく場が盛り上がります。

 

アミーゴ・セクレットの準備と遊び方は次の通りです。

 

【準備】

1: ゲームに参加したい人を集めてグループを作り、プレゼントの種類や予算を決めます。

 

2: ゲームに参加しない人から一人選んで、誰が誰にプレゼントを渡すかを決めてもらい、各参加者にプレゼントを渡す相手の名前だけを伝えてもらいます(この抽選を請け負う無料専用サイトや携帯アプリもある)。

 

3: 参加者はクリスマス当日までにプレゼントを買っておきます。自分が誰にプレゼントを渡すのか、他の参加者へ口外してはいけません。

 

【プレゼント交換日の遊び方】

① 最初の発表者が「私の秘密の友達は男です」「ひげがあります」など、自分がプレゼントをあげる相手のヒントを一つ言い、参加者はプレゼントを受け取る人(秘密の友達)を誰か当てていきます。

 

② ある参加者が、ほかの参加者のプレゼントを渡す相手を当てたら、プレゼントをあげる人ともらう人は抱擁し、プレゼントを開封して一緒に記念撮影をします。

 

③ このときプレゼントをもらった人が次の発表者となります。参加者全員にプレゼントが行きわたるまで、①と②を繰り返します。

↑アミーゴ・セクレットの様子

 

アミーゴ・セクレットの起源については3つの説があります。

 

1つ目は、祝祭の期間中に市民が役人にランダムに贈り物をする習慣があり、受け取る役人を選ぶために抽選を行っていたという説。2つ目は、8世紀にノルマン人たちが神との協定儀式のために贈り物を交換していたことをアミーゴ・セクレットの始まりとする見方です。3つ目は、20世紀前半の世界恐慌下のアメリカが舞台。労働者たちは同僚全員にプレゼントを渡したいと思っていましたが、経済的に難しいうえ、同僚全員と親しいわけではありません。そのような条件の中で同僚全員がプレゼントを交換するにはどうすればよいかと考えた末、生み出されたのがこの方法だったそうです。

 

近年では、アミーゴ・セクレットの“変種”である「イニミーゴ・セクレット」というゲームも楽しまれています。「イニミーゴ」は「敵」の意味で、プレゼント交換法はアミーゴ・セクレットと同じですが、相手の嫌いなものをわざとプレセントして盛り上がるゲームです。例えば、ビールが好きな人に安くて不味いビールをプレゼントするなど、何をあげるかではなく、どれだけ盛り上がるかを楽しむゲームと言えるでしょう。

 

コロナ禍で2020年はアミーゴ・セクレットをする人が減ってしまいましたが、そんな中でも抽選代行サイトでは、相手の家へ直接プレゼントを送付するという新しいサービスが誕生しました。人と接触することなく、アミーゴ・セクレットを楽しむ人が現れたのです。

 

ブラジルはカトリック教国ですが、ヨーロッパ、アジア、アフリカ系移民を多く受け入れ、多様な移民文化や宗教の影響を受けたクリスマスの習慣が根付いています。ブラジル人がクリスマスで最も大切にしていることは、「神の愛や教えについて考えること」「家族で過ごすこと」「みんなで楽しむこと」。アミーゴ・セクレットでも、みんなでゲームを楽しむことが最も重要です。

コロナ禍でカタチを変える、ロシアの「クリスマス行事」

現在、欧米諸国はホリデーシーズンに入りつつありますが、新型コロナウイルスの感染が再拡大しており、クリスマスにも影響が及んでいる模様です。 ロシアでは、12月中旬から翌年1月末まで「ヨールカ」という子ども向けのクリスマスパーティーが開催されますが、他の物事と同じように、この伝統的なお祭りもコロナ禍で形を変えつつあります。

↑ロシアの子どもたちはヨールカでクリスマスを祝うが、コロナ禍でその形も変わりつつある

 

ヨールカは、主に子どもを対象にした年末年始のお祭り。ヨールカではクラシックコンサートや演劇、朗読劇、人形劇などが行われます。クリスマス一色の会場にはおもちゃの屋台やお菓子屋さんがあり、ショーが始まるまで、さまざまな遊びやコンテストが行われます。もともとヨールカ(yolka)というロシア語は「小さなモミの木」を指し、切り出して飾り付けたモミの木の周りに子どもたちが集まって、新年の幸福や豊作などを祈る風習があります。

 

2020年はコロナ禍により、ヨールカはリアルで開催されませんでしたが、その代わりに登場したのが、オンライン版ヨールカ。この伝統的なクリスマス行事はどのようにテクノロジーを取り入れているのでしょうか? 昨年、ロシア中で話題になったオンライン版ヨールカをご紹介しましょう。

 

1: 国内最大の映画撮影スタジオのヨールカ

ロシア最大の映画撮影スタジオ・モスフィルムのヨールカは、専属俳優たちの演技の質の高さと脚本に人気があります。今までは現地でしか見られなかった一流俳優たちの演劇もオンラインで視聴することができるようになりました。料金は1250ルーブル(約1940円※)。オンライン決済後に郵送で届くヨールカの箱には、家族で遊べるクリスマスのボードゲーム、スライム、シャボン玉、クリスマスのお菓子、そしてオンラインで劇を見るためのパスワードが書いてあるカードが入っています。

※1ルーブル=約1.5円で換算(2021年12月16日時点。以下同様)

 

2: 顔交換アプリを取り入れたヨールカ

2020年のオンライン版ヨールカの中でも一際注目を集めたのが、顔交換アプリを取り入れた、クロークスシティ・コンサートホールのヨールカ。子どもの写真をアップロードするとその顔が主人公の顔に反映され、子ども自身が物語の主人公となって、サンタクロースと謎を解く冒険ができます。料金は790ルーブル(約1225円)で、デバイスとインターネットさえあればどこからでも参加可能。

 

3: サンタと協力してプレゼントを取り返すヨールカ

オンラインヨールカドットコムが提供する限定公開のショーは、視聴者がサンタを含む登場人物と力を合わせて、盗まれたプレゼントを取り返すというストーリー。子どもたちは視聴中に起きるダンスバトルや歌バトルに参加することで、プレゼントを取り戻すための手がかりを得ることができます。430ルーブル(約667円)のチケット料金には、40分のクリスマスショービデオ、関連オンラインゲーム3つ、クリスマス工作のビデオ、ショーの中で行われるダンスと歌の歌詞指導、サンタさんから子どもへの個別ビデオメッセージが含まれています。

 

4: ロシアの子どもたちが憧れる「クレムリンのヨールカ」

モスクワのクレムリンにはロシア大統領府があり、大統領府がこのクレムリンヨールカのスポンサーになっています。チケットは、4300~6300ルーブル(約6670円~約9770円)と高め。豪華でパフォーマンスも一流とあって、このヨールカは多くの子どもが憧れる、まさにロシアで一番有名なヨールカです。2020年のクリスマスシーズンは新型コロナウイルスの影響で、このヨールカも開催の危機に立たされましたが、ロシア政府はこのヨールカをオンラインで販売するのではなく、全国民へのプレゼントとして12月31日にテレビで放映。それまでクレムリンのヨールカを夢でしか見ることができなかった地方の子どもたちにも、ショーの様子が届けられ、ロシア中の子どもたちが大喜びしました。

↑ヨールカの様子

 

会場でしか味わえない雰囲気はオンラインで伝わりませんが、オンライン版ヨールカにはメリットがたくさんあります。新型コロナウイルスの感染を気にせずに自宅から視聴できたり、ヨールカ会場への移動時間がなくなったり、現地周辺の駐車場が混雑しなかったり。また近年では、大企業がヨールカのスポンサーになる傾向があり、規模・予算・品質が上がっています。2021年もオンライン版ヨールカは、ロシア中の子どもたちに素敵な思い出を届けてくれるでしょう。

やっぱり「クリスマスマーケット」がないと始まらない! ドイツの最新クリスマス事情

ドイツでは紅葉が始まる10月ごろから気温が急激に下がり、年によっては3月や4月でも平均気温が5℃前後になります。さらに冬は日照時間も短くなるため、どうしても気持ちまでが沈みがち。そんな暗くて長い冬に訪れるクリスマスは、ドイツ人が一年で最も楽しみにしている大イベントです。その象徴ともいえるのがクリスマスマーケットですが、近年はネット通販やコロナ禍といった逆風にさらされており、先行きが不安に。いまクリスマスマーケットに何が起きているのでしょうか? 現地からレポートします。

 

クリスマスマーケットとは

↑2021年のデュッセルドルフのクリスマスマーケットには人出が戻ってきた

 

クリスマスの約4週間前になるとドイツ国内各地でクリスマスマーケットが始まり、アドベント(クリスマス4週間前の日曜日)を皮切りに、街中がクリスマス一色になります。中世の面影が残る街並みにきらびやかな照明で飾られたクリスマスマーケットは、まるでおとぎ話の世界のように人々を楽しませてくれます。

 

13世紀頃から始まったといわれるドイツのクリスマスマーケットは、クリスマスになるとカトリック教会に多くの礼拝者が訪れたため、当時は礼拝堂の近くに建てられました。17世紀には現在のような形のクリスマスマーケットが定着し、クリスマス行事の定番になった模様。家族や友人とマーケットにでかけ、クリスマスのキャンドルや飾りを購入したり、焦がしアーモンドやシナモンたっぷりのクッキーを食べたり、温かいワインを飲んだりして楽しみます。

 

そのような街の賑わいが約4週間続いた後、12月23日の夜にはすべてのクリスマスマーケットが撤去され、24日のクリスマスイブには前日までとは打って変わった静けさが街に戻ります。キリスト教ではクリスマスは家族全員で教会を訪れたり、家でお祈りをして食事をしたりする伝統があるからです。

 

時代の流れとともに観光化

そんな長い歴史があるクリスマスマーケットにも、近年では変化が起きています。クリスマスマーケットに約30年間出店しているというデュッセルドルフ在住のゲルマンさんが、以前と現在との違いを語ってくれました。アロマオイルやキャンドルなどを販売しているゲルマンさんは、市内でもひときわ目立つエリアに毎年店を出しています。

 

「昔はみんながクリスマスマーケットで年末の買い物をしていたけど、いまはクリスマスに必要なものはすべてスーパーや雑貨屋、そしてインターネットでも安く買えるからね。一緒にクリスマスマーケットを経営する仲間たちも、売り上げが毎年落ちていくと嘆いているよ」

 

どのような人が商品を買ってくれるのかと質問すると、「クリスマスマーケットで売られている商品のほとんどは手作りでクオリティが高く、金額は決して安くはない。だから、地元の人よりも遠方から訪れる観光客の方が、旅先のお土産としていろいろ買ってくれる。最近はオーガニックが人気だから、アロマオイルもオーガニックのものを売ってみようかと考えているんだ」とゲルマンさん。「でも、変わらない商品も多い。グリューワイン(温かいワイン)やソーセージ、焼き栗なんかは昔からずっとあるよ」と、グリューワインを飲む素振りをしながら話してくれました。

 

地域の親しまれるイベントであり、クリスマス支度の買い物の場であったはずのクリスマスマーケットは、このように時代の流れとともに変化し観光スポットへと変わりつつあります。その背景には、クリスマスがキリスト教徒だけのものではなくなり、国や宗教にかかわりなくイベントとして盛んになったことがあるようです。クリスマス当日は教会に行ったり家族で祝ったりする習慣も少しずつ薄れ、以前は12月23日には撤退していたクリスマスマーケットも数年前から各地で12月末まで開催されるようになりました。

 

2021年は一部地域でドタキャン

↑少しずつ例年の活気を取り戻しているドイツのクリスマスマーケット

 

ドイツでは11月からコロナ感染者が再び急増しています。南ドイツや一部の地域では感染者数が過去最多を記録したため、クリスマスマーケットが始まる直前の11月末に開催の中止が決定されました。

 

その他の地域でクリスマスマーケットは予定通り開催されていますが(12月13日時点)、2Gルール(ワクチン接種済み、もしくは感染から回復した人のみが訪問可)か、3Gルール(2Gに加え、24時間以内の陰性証明保持者)が適用されています。実際に近所のクリスマスマーケットを覗いてみると、始まったころは例年と比べて随分空いている印象を受けましたが、最近では夕方のピークの時間帯になると、かなり混雑しています。

 

かつてのクリスマスマーケットは、地元の人たちの冬の買い物の場でしたが、現在では家族や仲間と一緒に楽しむイベントとして、また、この時期にしか味わえない多種類の料理を楽しめる場所になっています。時代の流れで変化はあるものの、それでも多くの人が心待ちにするイベントであることは変わりません。国中でクリスマスマーケットの街並みが戻ってくるのをドイツの人たちは楽しみにしていると思います。

人は「笑い声」で国籍を見分けられる? オランダの大学の研究

欧米の人は日本人よりリアクションが大きく、「笑いのツボが違う」などと一般的に言われています。笑いは文化ということかもしれませんが、先月そのような見方と関連する研究が発表されました。どうやら人間は、笑い声を聞いただけで、笑っている人が聞き手と同胞であるかどうかわかるようです。

↑笑い声を聞けば、同胞を当てられる

 

人が笑うという行為は、言葉を使わないけれど、誰かと共感したり人との距離を縮めたりできる非言語コミュニケーションですが、文化的背景によって表現方法が異なることが指摘されています。では、人は笑い声を聞いて、笑っている人の国籍が自分と同じかどうかわかるのでしょうか?

 

この問題に取り組んだのが、オランダ・アムステルダム大学と日本の研究者たちです。彼らは、日本人131人とオランダ人273人に、前後の会話部分は排除して人の笑い声の音声だけを聞いてもらう実験を行いました。笑いは、面白いジョークを聞いたときに自然に生まれるような「自発的な笑い」と、上司とコミュニケーションするような場面で考えて行う「人為的な笑い」の2種類に分類し、この実験では両者から、笑っている人が自国の人かそうでないか被験者に判断してもらいました。

 

その結果、自発的な笑いの場合、自国の人か判断し正解率は、日本人が約77%、オランダ人が約76%。人為的な笑いの場合の正解率は、日本人が約77%、オランダ人が約71%でした。

 

笑いはアイデンティティを示す?

人為的な笑いは、本人が意図的に笑おうとするので、話し手本人の個人的な特徴が出やすいもの。先行研究では、人為的な笑いのほうが自発的な笑いより、笑っている人本人を識別しやすいことがわかっていました。そのため、今回の実験を行った研究チームは、人為的な笑いのほうが、国籍が同じ人を見抜きやすいと予想していたのです。

 

しかしそれに反して、オランダ人も日本人も、自発的か人為的かに関わらず、笑い声を聞いただけで、高い確率で自国の人かどうかを判断することができたのです。この2か国以外の人たちはどうなのかという問題はありますが、仮にこの結果が普遍的に妥当だとしたら、私たち人間は笑い声を聞いて、そこから民族や国籍といった情報を引き出していると考えることができます。

 

たとえ何について笑っているかわらかなくても、人間は、声の高さや発声方法など、あらゆる情報を瞬時に判断して、笑っている人物がどのような人なのかを推理しているようです。私たちは日常生活でさまざまな人の笑い声や笑い方を耳にしていますが、その経験が積み重なり、無意識のうちに「日本人の笑い方」だという認識を持つようになっているのかもしれません。

 

【出典】Kamiloğlu Roza G., Tanaka Akihiro, Scott Sophie K. and Sauter Disa A. 2022. Perception of group membership from spontaneous and volitional laughter. Philosophical Transactions of the Royal Society. http://doi.org/10.1098/rstb.2020.0404

なぜ人類はかくも面倒くさがり屋なのか…世界で最もよく使われている「パスワード」が判明

メールアドレスからSNSの設定まで、あらゆるものに必要なパスワード。「簡単なパスワードは避けましょう」と言われていても、つい覚えやすくシンプルなパスワードを設定したくなりますよね。そんな人々の心理は、どうやら世界共通のようです。先日発表された「世界パスワードランキング」と「日本のパスワードランキング」で興味深い傾向が見えてきました。

 

「世界パスワードランキング2021」の結果

↑パスワードには世界的な傾向があった

 

パスワード管理サービスのNordPassは、世界50か国から集めた4TBのデータを分析し、世界で最も多く使われているパスワードをランキング形式で発表しました。その結果は以下のとおりです。

 

1位 123456

2位 123456789

3位 12345

4位 qwerty

5位 password

6位 12345678

7位 111111

8位 123123

9位 1234567890

10位 1234567

11位 qwerty123

12位 000000

13位 1q2w3e

14位 aa12345678

15位 abc123

16位 password1

17位 1234

18位 qwertyuiop

19位 123321

20位 password123

21位 1q2w3e4r5t

22位 iloveyo

23位 654321

24位 666666

25位 987654321

26位 123

27位 123456a

28位 qwe123

29位 1q2w3e4r

30位 7777777

 

世界で最も多く使われていたパスワードは「123456」でした。上位30位を見ても、数字を規則的に並べたものばかりがランクインしていることがよくわかります。特にトップ10のうち8個が「1、2、3、4……」と並べたものばかり。世界の多くの人が、単純なパスワードを設定する傾向にあることを如実に示しています。

 

一方、パスワードにはお国柄を表すものがあり、イギリスでは名門サッカークラブにちなんだ「liverpool」が総合3位、アメリカではNBAプレイヤーのマイケル・ジョーダンにちなんだ「jordan」(総合32位)でした。

 

また、男女別にデータを見ると、女性のほうが「love」「sakura」のように情緒的な言葉を好む人が多いようです。

 

日本は?

次に日本でよく使われたパスワードランキング上位30位をご紹介しましょう。

 

1位 password

2位 123456

3位 123456789

4位 12345678

5位 1qaz2wsx

6位 member

7位 asdfghjk

8位 12345

9位 password1

10位 1234567890

11位 inuyasha

12位 password1

13位 qwertyuiop

14位 asd12345

15位 123qwe

16位 qwe123

17位 1234

18位 qwerty123

19位 lovelove

20位 chocolate

21位 qwer1234

22位 kagome

23位 xxx

24位 qwerty12

25位 1qaz2wsx

26位 9301967

27位 654321

28位 dragon

29位 london1

30位 joan123

 

日本でもっとも多く使われていたパスワードは「password」でした。しかし世界の傾向と同じように「1、2、3、4……」と数字を羅列したパスワードも上位に多くラインナップしています。また、日本独特のパスワードとしては「sakura」(総合15位、男性14位、女性7位)、「takahiro(総合21位)」「doraemon」(総合28位、男性43位、女性50位)、「hogehoge」(男性25 位、プログラムサンプルで使われる言葉)」、「inuyasha(女性11位、アニメ『犬夜叉』)などが挙がりました。

 

ランキング上位は数秒でハックされる

↑「123456」はやめておこう

 

今回のパスワードランキングでは、各パスワードがハッキングされるのにかかる時間も紹介されているのですが、世界の上位200位に入ったパスワードはすべて1〜2秒でハッキングされてしまうそう。これではパスワードの意味すら持たないかもしれません。パスワードを強くするためには、数字、文字、記号のすべてを組み合わせること。さらに自分や家族の名前のように、簡単に割り出せる単語は使わないことが基本です。もし今回紹介したランキングに自分の使っているパスワードが入っていたら、今すぐに別のパスワードに変更した方がいいかもしれませんね。

 

変わるクリスマス商戦! 超保守的なイタリアに「ブラックフライデー」が広がるワケ

アメリカ発祥の「ブラックフライデー」がイタリアで普及し始めたのは10年ほど前のこと。オンラインショッピングの拡大とともに知名度を上げてきたブラックフライデーですが、当初はイタリアで冷遇されていました。イタリア人から見たブラックフライデーを文化的な観点から説明しましょう。

↑ブラックフライデーに慎重なイタリアのビジネス

 

アメリカ文化への抵抗感

ブラックフライデーがアメリカで興ったのは1920年代といわれていますが、その風習がヨーロッパに到ったのは1980年代になってから。しかしイタリアでは、夏と冬のセール期間がその町によって厳格に決められているため、ブラックフライデーはなかなか浸透しませんでした。

 

実際に2016年までは、ブラックフライデーをうたって割引をした店舗には罰金が科せられていたのです。しかし、オンラインショッピングの拡大に危機感を抱いたミラノ市が罰則を止めたのを皮切りに、オンライン以外の店舗でも割引が可能となりました。

 

イタリアで「ブラックフライデー」という言葉を耳にするようになったのは10年ほど前で、まさにオンラインショッピングが破竹の勢いを見せ始めた時期と重なります。新聞や雑誌でも宣伝され、若い世代を中心によく知られるようになりました。あくまで在住者としての感触ですが、当初から服飾品などファッション系のカテゴリーよりも、電化製品や電子機器をこの日に購入しようとする動きが目立っていたような気がします。

 

イタリアのブラックフライデーを理解するためには、その文化的背景を理解することが大切です。長い歴史を誇るイタリアでは、「メイド・イン・USA」のものを軽く見る風潮があることは否めません。例えば、ハロウィーンは、古代ケルト人が起源とされていますが、ブラックフライデーと同様にアメリカから導入され、イタリアでも子どもたちを中心に仮装してお菓子をもらう光景が見られるようになりました。

 

しかし、高齢者を中心に一部のイタリア人には、「あれは所詮アメリカの風習」と軽んじる傾向があります。ハロウィーンと同じ仮装をする2月のカーニバルと比べると普及度が断然低いのも、このあたりの価値観の違いを反映していますが、ブラックフライデーの事情もそれと似ています。

 

しかも、ブラックフライデーが「感謝祭の翌日の金曜日」であることも、感謝祭を祝う風習がないイタリア人にとってブラックフライデーが異文化たる理由です。

 

伝統を守りきれない

↑伝統文化の破壊者?

 

そんな保守的な文化を持つイタリアでも、ブラックフライデーは徐々に広がりつつあります。

 

感謝祭には無関心のイタリア人も、クリスマスは1年の中で最大のイベント。人々の宗教心が薄れて久しいイタリアですが、家族が集まるクリスマスは日本のお正月のような趣があり、そこで欠かせないのがプレゼント。イタリアのクリスマスプレゼントは、子どもたちやパートナーだけに配られるものではありません。ほんのちょっとしたプレゼントを親戚や友人一人ひとりに渡す風習が現在も残っているのです。

 

イタリアのクリスマス商戦は本来、12月8日の「無原罪の御宿り(むげんざいのおんやどり)」という宗教的な祭日を境に本格化します。この日を過ぎないとプレゼントを購入する雰囲気もないといわれてきましたが、用意周到な人たちはブラックフライデーにプレゼントを購入し、節約につなげる動きを見せています。

 

ある調査によれば、2020年のブラックフライデー直前の調査での平均予算額は284ユーロ(約3万7000円)で、前年に比べ7%減少したそう。しかし、2021年の事前調査では、平均予算額は360ユーロ(約4万6000円)と前年比27%増になっています。さらに購入を予定している人の56%がその理由を「クリスマスプレゼント」と回答しており、クリスマス商戦は12月8日以降という伝統が崩れつつある様相が垣間見えます。

 

ブラックフライデーでイタリア人は何を買ったのでしょうか? 別のある調査では、最も多かった購入予定のアイテムは電子機器(回答者の47%)。また、「サステナビリティを意識して購入する」と答えた人は10人中9人にのぼります。「必需品しか購入しない」と答えた人が43%、「衝動買いは避ける」と答えた人が29%となりました。

 

ブラックフライデーはここ数年で知名度こそ上がってきましたが、昨今はコロナ禍で人々の財布の紐が固くなりました。インターネットを日常的に使用している世代の間で、ブラックフライデーはそれなりの盛り上がりを見せるものの、消費の動きには堅実さが見えます。

 

テクノロジーの発展や経済状況、宗教意識の低下の中で広がりつつあるイタリアのブラックフライデー。文化的に超保守的な国で、このアメリカの“買い物祭り”は、これからどのように変容していくのでしょうか? イタリアのアレンジ力に注目です。

 

 

 

 

醤油かけごはんとアイスクリームが同じ点数? 米大学の新開発「栄養評価システム」

醤油かけごはんとサンデーパフェは栄養価が同じくらい低い——。そんな身近な食べ物の栄養についてチェックできる新しい栄養評価システムが最近、誕生しました。8000以上の食べ物と飲み物を対象にしたこのシステムにはどのような特徴があるのでしょうか? 実際の評価結果と合わせて見てみましょう。

↑本当に栄養満点?

 

食べ物の栄養を評価する既存のシステムの多くが、食べ物のマイナス部分にのみフォーカスしていました。でも私たちが普段口にする食べ物には、悪い面もあれば良い面もあるもの。そこで8032の食べ物と飲み物をもとに、栄養面のプラスとマイナスの影響を総合的に判断するシステム「フードコンパス(Food Compass)」を作ったのが、米国・タフツ大学の研究チームです。

 

この研究チームでは、食材の栄養素のほか、加工方法や添加物などの情報も考慮。肥満や糖尿病、がんなどの健康に関する項目も含め、全部で54のチェック項目について、栄養比率、ビタミン、ミネラル、添加物、加工などの9つのカテゴリーに分類。それぞれにスコアをつけて総合スコアで評価するシステムを、約3年かけて開発しました。

 

最高スコア100点、最低スコア1点で評価されるこのシステム。主なメニューのスコアは以下の通りです。

 

ラズベリー:100

人参ジュース:100

アーモンド:91

ベジタブルカレー:90

アーモンドチョコレート:78

コーヒー・カプチーノ(低脂肪乳使用):73

チキン胸肉のグリル(皮なし):61

ターキーまたはチキンバーガー(全粒粉のバンズ):50

チェダーチーズサンドイッチ(全粒粉のパン):32

ピザ(薄い生地タイプ):25

シリアル:19

醤油かけご飯:10

アイスクリームサンデー:10

チーズバーガー(ファーストフード):8

カップ麺:1

チョコレートバー、エナジードリンク:1

 

平均スコアは43.2点。分類ごとの平均は、野菜が69.1点、果物は73.9点(生の果物はほぼすべて100点)、豆類・ナッツ類は78.6点、魚介類は67点、牛肉は24.9点、鶏肉は42.67点、菓子類は16.4点でした。

 

同じ飲み物でも、人参ジュースは100点なのにエナジードリンクは1点。同じお菓子でも、アーモンドチョコレートは78点に対して、チョコレートバーは1点という具合に、何を選ぶかによって、スコアが大きく変わることがわかります。

 

面白いのは、醤油をかけただけのご飯は、アイスクリームサンデーと同じく10点であること。これは、白米はアイスクリームの糖分と似た炭水化物だけの摂取となり、繊維質やほかの栄養分が少ないことが理由として考えられます。

 

身体に良いとされるシリアルでさえも19点、カップ麺はエナジードリンクと同じく最低スコアの1点でした。

 

このシステムを開発した研究チームは、奨励する食べ物と飲み物のスコアは70点以上として、31~69点の食品は適度の摂取にし、30点以下のものは最小限に抑えるよう勧めています。

 

【出典】Mozaffarian, D., El-Abbadi, N.H., O’Hearn, M. et al. Food Compass is a nutrient profiling system using expanded characteristics for assessing healthfulness of foods. Nat Food 2, 809–818 (2021). https://doi.org/10.1038/s43016-021-00381-y 

クリスマスマーケット中止の鬱憤を「ブラックフライデー」で晴らしているドイツ

アメリカ発祥で現在は世界的に認知度も上がった「ブラックフライデー」は、ドイツでもかなり浸透しているショッピングイベントのひとつです。現在ドイツは新型コロナウイルスの感染が急増していることもあり、昨年に続き街には例年のような賑わいは見られませんが、ドイツ人の購買意欲は高く、オンラインショッピングは活況。ドイツのブラックフライデーについて現地からレポートします。

↑ドイツでも拡大中のブラックフライデー

 

ブラックフライデーがドイツに伝播したきっかけは、2006年にApple社がアメリカのブラックフライデーで提示されているセール価格をドイツにも導入したこと。Appleストアやオンラインショップで商品が特別価格で販売されたことは国内で大きなニュースとなり、驚異的な成功に多くの小売企業が感嘆しました。

 

その流れに乗り、2010年にはAmazonドイツが、2013年にはほかのさまざまな小売企業がブラックフライデーを開始し、ドイツでもオンラインを中心に大規模開催されるようになったのです。

 

2021年のブラックフライデーも11月の第3金曜日でしたが、近年のドイツでは当日だけでなく翌週の月曜日である「サイバーマンデー」や、その前後の「Black Friday Week」に、多くの企業が1週間ほどのセール期間を設けています。

 

さらに、ドイツの大手家電販売店では「Black November」として11月いっぱいのセールも開催するなど、ブラックフライデーに便乗したショッピングイベントが増えています。また「Take Black Friday」という名称をつけ、ブラックフライデー当日を除いた11月中にセールを実施し、客が当日に殺到することを避けた化粧品会社もありました。このように、今年はそれぞれの企業が独自の方法でブラックフライデーに挑みました。

 

統計市場調査プラットフォームのスタティスタは11月初旬、2021年のブラックフライデー期間にドイツの消費者は約49億ユーロ(約6265億円※)を費やし、過去6年間で最高の売上高になるとの予想を発表しました。ドイツの成人のおよそ26%にあたる推定1810万人が、ブラックフライデー期間中に買い物すると見られていました。

※1ユーロ=約128円で換算(2021年12月3日時点)

 

↑ドイツの企業でブラックフライデーの売上高は年々増加している(出典:スタティスタ)

 

調査で意外だったのは「ブラックフライデー期間中に買い物をする」と答えた人のうち、男性が28%、女性が24%と、男性のほうが多かったこと。買い物をする理由として「お得だから」とか「退屈しのぎ」が挙げられていますが、ドイツ人がこれほど一斉に買い物する日はほかになく、この期間はクリスマス商戦も含んだ重要なシーズンと言えるでしょう。

 

ブラックフライデーのセール期間や内容については事前公開しない小売企業がほとんどです。しかし、ネット上には「ブラックフライデー情報サイト」が多数存在しており、どのショップがいつから、どの程度割引して、どんな商品を販売するのかなどの情報を集めて掲載しています。購入意欲が旺盛な人も、単に何かお得なものを探している人も、事前にインターネットで情報を得ることができるのです。

 

ブラックフライデーの1週間ほど前になると、各小売企業の広告が正式に出始めます。ただ、まだその時点ではセール対象商品や目玉商品などの情報は発表されず、2021年もセールが始まると同時に詳しい内容が公開されました。

↑「ブラックノベンバー」キャンペーンを行うドイツの家電量販店

クリスマスマーケットに行けない代わりに

ドイツの最大イベントであるクリスマスの買い物も、毎年ブラックフライデーと同じころから盛り上がりを見せます。その盛り上がりは、オンライン上だけではありません。街中のショップに張り出されるブラックフライデーのポスターや、きらびやかなクリスマスマーケットに、大勢の人々が引き寄せられるのです。

 

しかし、コロナ禍が落ち着きを見せている日本とは違い、ドイツでは11月に入ってからまたコロナ感染者が急増しています。感染拡大が一向に収まらないため、2021年の街の様子は昨年と同様にコロナ禍前とは異なりました。人々が2年ぶりの開催を心待ちにしていたクリスマスマーケットも、南ドイツなど一部の都市部では開催直前になってからの中止が決まったのです。

 

クリスマスマーケットの開催が叶った都市でも厳しい「2Gルール」規定が導入され、例年のような混雑は見られず少し寂しい光景です。2Gルールとはワクチン接種者、または感染からの回復者のみが訪問や入店できる規定で、ドイツではほとんどの都市のクリスマスマーケットやレストランで適用されています。ショッピング店舗にはまだ適用されていませんが、ブラックフライデー当日にも街の中は比較的閑散としていました。

 

12月に入り、オミクロン株の感染が世界中に拡大する中、ドイツはワクチン未接種の人を対象にしたロックダウン(都市封鎖)を発動。ブラックフライデーやクリスマス商戦時期であるにもかかわらず、街には以前のような賑わいが消えた一方、ドイツ人の多くはオンラインで買い物を楽しんでいると思われます。ブラックフライデーの売り上げは、来年さらに増えるかもしれません。

クリスマスにも影響!? 英国で起きる「ブラックフライデー」のサステナブル化

英国では、比較的新しいショッピングイベントであるブラックフライデー。この米国発の“お祭り”は英国人の間でも人気を広げつつありますが、環境問題や多様性が重視される現代では、割引率だけでなく、企業の価値観にも消費者は注目。本稿では、社会的なメッセージを展開して話題を集める2社を取り上げながら、英国でブラックフライデーがいかに変化しつつあるのかを見てみます。

↑ブラックフライデーでクリスマスムードが増す英国

 

英国では、クリスマスは家族や親戚が集まるビッグ・イベントで、一人一人にプレゼントを渡す習慣があります。そのためプレゼント選びはこの時期の大仕事で、予算も全国平均で国民1人当たり420ポンド(約6万3100円※)とかなりの額に達しますが、当然ながら小売業界も一年で最大の商戦を展開します。

1ポンド=約150円で換算(2021年12月3日時点)

ブラックフライデーは米国を起源としており、感謝祭の翌日の金曜日に行われる一斉セールですが、感謝祭の習慣がない英国において、このイベントの意味はクリスマスショッピングの開幕戦。小売店やブランドはセール開始をさらに前倒しにして11月初旬からプレセールを始め、購買ムードを盛り上げていきます。

特にコロナ禍とブレグジット(EU離脱)の影響が残る2021年は、ショッピング街の人出や配達遅れなどのトラブルを避けて、早めに買い物の準備を始める傾向が見られました。

 

そんな中、英国では2つのブランドが大きな注目を集めています。

 

1: ダイバーシティで勝負する「ジムシャーク」

↑多様性を全面的に打ち出すジムシャーク(画像提供/同社の公式サイト)

 

ブラックフライデーをスポーツ大会になぞらえて、スポ根風のコミカルなCMを公開したのが、英国のフィットネス・ファッションブランドの「ジムシャーク(GymShark)」です。ナイキ、アディダスの2大ブランドがマーケットを席巻する中、同ブランドは人気フィットネス・ブロガーを起用したインフルエンサー戦略で、一気に人気ブランドへと成長しました。

 

ブラックフライデーのCMコピーは「You know the Drill(やることは分かっているね)」。スポーツコーチがアスリートたちに「セール開始はいつか」「割引率は」「サイズ選びのコツは」「ウィッシュリストの新機能は」など、「勝つ」ための情報をチームに叩き込むという内容で、視聴者もセールにまつわるQ&Aが頭に入るという構成になっています。また、昨年のロックダウン中にはセール開催の24時間前にウェブサイトを故意にダウンさせ、サスペンス感を生み出す戦略でも話題を呼びました。

このCMは英国の多様性を反映して、さまざまな人種の俳優を起用しているのが特徴。同ブランドのファンはフィットネス好きなだけでなく環境・社会問題への感心が高い10代から20代前半のZ世代が多いため、同社では社内の男女比率や人種比率を公開したり、各商品のカーボンフットプリント(商品のライフサイクル全体を通して温室効果ガスの排出量をCO2に換算したもの)をアップデートしたりしてファンの心をつかんでいます。

 

2: 「買わないで」と訴える「パタゴニア」

一方、毎年「むやみに買わないで」という反ブラックフライデー・キャンペーンを繰り広げて人気を呼んでいるのが、米国アウトドア・ブランドのパタゴニアです。同ブランドはブラックフライデーセールを行わず、大量消費文化によって引き起こされる環境問題について訴える広告で支持を得ています。2016年にはブラックフライデー売上高の全額を環境保護団体に寄付すると発表し、大きな反響を呼びました。当初の予想を5倍も上回る1000万ドル(11億円以上※)の売り上げを記録したことは、多くの人たちが共感した結果といえるでしょう。

1ドル=約113円で換算(2021年12月3日時点)

 

2020年には、逆から読むと環境保護メッセージになる詩を使ったユニークな広告を発表し、米国だけでなく英国でも多くの支持を集めました。現在は世界の環境保全団体とブランドのファン・コミュニティを繋ぐ世界規模のプラットフォーム「パタゴニア・アクション・ワークス」の活動を加速させています。

 

“グリーン”フライデーへ

↑この自然こそが最大の贈り物

 

英国では2022年消費トレンド予測の一つとして「気候主義(climatarianism)」が挙げられました。これは地球環境や気候への影響を基準にして消費を行うライフスタイルを指します。ユーザーが自分の信念や価値観に沿ったブランドから商品を購入する傾向は、今後ますます高まっていくでしょう。

G7首脳会議と国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が開催されたばかりの英国では、環境意識がこれまでになく高まり、特に若い世代では「サステナブルでなければクールでない」という意識が強まっています。英国の独立系小売店が集結し、ブラックフライデー割引は行わない代わりに当日の売り上げの一部を慈善団体に寄付して植樹を行うという「グリーンフライデー」活動のニュースも報じられたばかりです。

企業の社会的な責任が強く問われるようになった今日の英国では、もはや商品のデザインや価格だけで消費者の支持を得ることはできません。ブラックフライデーに限らず、ブランドのサステナブルなビジョンを明確に打ち出すことでファンの信頼を得るという戦略こそが、これからより一層重要になっていきそうです。

執筆者/ネモ・ロバーツ

欧米に合わせる必要なし! ロシア独自の「ブラックフライデー&サイバーマンデー」とは?

毎年、11月の感謝祭翌日の金曜日に開催される大規模セール「ブラックフライデー」は、欧米(西ヨーロッパ諸国)だけでなく、いまやロシアでも大きなイベントとなっています。ただ、ロシアのブラックフライデーは店舗やサイトによって開催日や開催期間がそれぞれ異なり、フライデーの意味は完全に失われている模様。消費者にとっては情報収集にも一苦労ですが、ロシアのブラックフライデーはどういった仕組みになっているのでしょうか?

↑モスクワのショッピングセンターにおけるブラックフライデーの様子(2020年撮影)

 

ロシアのブラックフライデーは、2013年にオンラインイベントとして初めて導入されたようです。今日では欧米と同様に実店舗でも開催されていますが、国民の間ではオンラインイベントとしての認識が高い様子。それもあってか、ロシアのブラックフライデーではショッピングセンターなどの店先で行列を見かけることはありません。

 

ロシアのブラックフライデーの大きな特徴は、開催日が決まっていないこと。店舗やオンラインショップは10月から11月にかけて、それぞれ異なる日付に開催します。さらに、開催期間が長いこともロシア版ブラックフライデーの特徴。本来であれば感謝祭の翌日だけのはずですが、ロシアではその前後1週間から1か月間も開催されているのです。

 

2021年のブラックフライデーの場合、例えば、家電量販店のエムビデオは10月22日から11月29日、化粧品店のレトゥアーリは10月30日から11月30日、通信サービスのビーラインは11月2日から11月29日までを開催期間に設定しました。これらは一例ですが、各企業によって開催日や期間が異なっているのが見てとれます。

 

開催日がさまざまなロシアのブラックフライデーを攻略するためには、事前準備が必要です。最重要事項は、異なる開催日時と開催期間を把握すること。これらの情報は「ブラックフライデーセール・ドットル」というECサイトで一覧できるようになっており、比較的簡単に確認できます。また、メール購読の登録をすると会員専用のニュースレターが届き、参加店舗の最新セールリストをはじめ、販売される商品や割引のプレビューなど、役立つ情報を受け取ることができます。

 

ロシアにおけるブラックフライデーの落とし穴

欲しいものが安く買えるという消費者に有利であるはずのブラックフライデーですが、ロシアでは注意すべき点がいくつかあります。日刊メディアのコムソモリスカヤ・プラウダ新聞のブラックフライデーに関する記事によれば、一部の企業はブラックフライデー前に商品価格を上げておき、開催当日に元の価格に戻すことで、あたかもセールのように見せかけることがあるとのこと。消費者は夏の終わりから秋にかけて欲しい商品の通常価格を確認しておくことで「騙される」のを防ぐことができる、と同記事は述べています。

 

さらに、ブラックフライデーが在庫処理に使われることや、悪徳な企業の場合は不良品や賞味期限切れの商品を出していることもあるそう。購入後は、食品ならば賞味期限を、電化製品ならば作動状態を速やかに確認することが重要といえます。

 

また、セール時は返品規定も通常時とは異なる場合があるので、事前に確認しなくてはなりません。ロシアの消費者にとっては、購入前の事前情報収集から購入後の確認までがブラックフライデーと言っても過言ではないでしょう。

↑ブラックフライデーだからといって本当に安いとは限らない

 

ロシア版サイバーマンデーは1月末の開催

欧米ではブラックフライデーの後に来る月曜日が「サイバーマンデー」になっていますが、ロシアではこのイベントも1月末に開催されるうえ、3日間も続きます。

 

ロシアのサイバーマンデーが1月末に開催される理由は、ロシアの消費マーケットの動きに関係しています。ロシアではブラックフライデーが11月末に一通り終わると、年末年始のセールが始まります。そういったセールが終わり、消費需要が最も低くなるのが1月末以降なのです。同じような光景は日本の百貨店でも見られますね。

 

また、ロシアの正月休みは通常1月10日までで、年末年始の休暇が終わったころには事前に用意した食料品や飲み物も食べきり飲みきってしまいます。そこで「ちょうど冷蔵庫に何もなくなる1月下旬に消費需要を生み出そう!」とマーケターたちが閃いた結果、ロシアのサイバーマンデーは1月末に開催されるようになりました。この一見強引ながら現実的な考え方は、日本の小売業界にとっても参考になるかもしれません。

 

コロナ禍でオンラインショッピングの需要が高まり、2021年は選択肢がより一層広がりました。広告会社のクリテオロシアは、2021年のブラックフライデーと来年のサイバーマンデーは、コロナ禍で売上が落ちた企業にとって大きなチャンスなので、かつてないほど盛り上がるだろうと予測。ロシアの消費者は、長期間にわたってセールを楽しめそうです。

地震にもメリットが!? 木の成長を早めることが判明

地震はさまざまな被害をもたらしますが、最近ドイツの科学者が、地震にはポジティブな効果もあることを発見しました。それは木の成長を早めるということ。一体どういうことでしょうか?

↑地震で地盤が緩むと、地下水が渓谷に流れ込む

 

ドイツのポツダム大学で水文学(すいもんがく)を研究するクリスティアン・モーア氏は、2010年にチリで発生したマグニチュード8.8の地震を現地で体験しました。渓谷に流れる川の堆積物について調査していたモーア氏は、地震発生後にその調査地点を再び訪れ、川の流れが早くなっていることに気付きます。モーア氏は、これは地震によって地盤が緩んだことで、地下水が川に流れ込みやすくなったことが原因と考え、この仮説を証明するための調査を開始したのです。

 

調査では、海岸沿いの2つの植林地にある6本のモントレーパインと呼ばれる松から、ドリルを使って鉛筆より細くて長い木栓を24個採取。これをドイツの研究室に持ち帰り、それらを顕微鏡で観察し、地震の直後に水量が増えたことで、木の細胞の大きさや形がどのように変わったのかを調べました。

 

さらにモーア氏は、木の細胞の中にある炭素の同位体(原子番号が同じで原子量が異なるもの)の「炭素12」と「炭素13」の割合を求めます。光合成が盛んに行われると、炭素12の割合が多くなることに着目し、その観点からも木の成長の変化を明らかにしようとしました。

 

その結果、チリ地震の数週間から数か月後に、谷底の木はわずかながら成長が早まっていたのに対して、尾根に生育する木については成長が遅くなったことがわかりました。地震発生後の調査期間中に降雨パターンに大きな変化がなかったことから、この木の成長スピードの変化は、地震によるものと推測できるのです。つまりモーア氏が立てた仮説のように、地震によって地下水が尾根から渓谷に流れこみやすくなり、その影響で谷間にある木は成長が早まり、尾根にある木は成長スピードが緩くなったと考えられるのです。

 

過去の地震調査に新たな光

木の成長を調べるための一般的な方法は年輪調査です。年輪の幅はそのときの生育環境によって変化することがわかっており、年輪を調べることによって、木の年齢などを知ることができます。しかし、今回モーア氏が行った木栓の調査と炭素の同位体比率を組み合わせた調査方法は、従来の木の年輪の幅を調査する方法では発見できないような、短期間の木の変化を見つけ出すことに役立つとのこと。専門家の間では「数千年前に発生した地震による短期的な影響を調査することもできるかもしれない」と期待が寄せられています。

 

地震によって木の成長速度がわずかに早まることが判明した今回の研究。まるで“風が吹けば桶屋が儲かる”ということわざのような話ですが、この研究はまだ始まったばかり。モーア氏は、チリと同様に乾燥地帯でモントレーパインが植えられている、米国・カリフォルニア州ナパバレーで同じ調査を行い、今回と同じ結果が得られるかどうか検証する予定です。

 

【出典】Elise Cutts. Earthquakes boost tree growth: Short-term fertilizing effect leaves signatures in wood cells. Science. 21 October 2021. doi: 10.1126/science.acx9418

アイアンマンみたいな兵士が誕生!? 英国海軍が「空飛ぶジェットスーツ」の使用を検討

近い将来、兵士はジェットスーツを身につけて、アイロンマンみたいに空を自由に飛ぶかもしれない——。そんな未来が間近に迫っていることを感じさせるイベントが、先日イギリスで行われました。

↑イギリス海軍が使用を検討しているGravity Industriesのジェットスーツ(この写真は2019年に撮影)

 

2021年11月、イギリス軍の関係者が出席する「アーミー・ピープル・カンファレンス」で披露されたのが、イギリスのベンチャー企業「Gravity Industries」のジェットスーツです。重さ約25㎏のジェットスーツには、ガスタービンが左右の腕に2個ずつ、背中に1個搭載されており、灯油を燃料にして1000馬力以上の出力で空を飛ぶことが可能です。最高時速は時速80マイル(129㎞)以上になり、飛行高度は12000フィート(3658m)に達するそう。飛行時間は最大8分と限られていますが、ジェットスーツを着るだけで高速で空を自由に飛び回ることができます。

 

↑アーミー・ピープル・カンファレンスにおけるGravity Industriesのジェットスーツの実演(動画提供/デイリー・メール紙)

 

今回のイベントでは、Gravity Industries創業者のリチャード・ブラウニングが実際にジェットスーツを着用し、観客の前を飛行する様子が披露されました。ブラウニング氏はイギリス海兵隊の予備兵を6年間勤めていた経験があります。2021年の前半にはイギリス海軍が、同社のジェットスーツを使った海上パトロールのテストを行っていますが、陸軍も同様に軍事作戦の一環としてこのジェットスーツを使用することを検討していると報じられています。

 

航空工学にイノベーションを起こしているGravity Industriesのジェットスーツ。私たちは近い将来、アイアンマンのような兵士が誕生するのを目撃するかもしれません。

 

アイアンマンになれる日はそう遠くないかも!「空飛ぶジェットスーツの開発」から見える「経験」の大切さ

かわいいだけじゃない! 犬が首を傾けるのは賢いからだった

犬はキョトンとした顔で首をかしげるときがあります。その行動はかわいらしいものですが、最近、そんな首をかしげる行動は、モノの名前を覚えることができる犬に共通して見られることが判明しました。犬は首をかしげながら、何をしているのでしょうか?

↑こうしたほうが言葉を理解しやすいんだワン……

 

犬が首をかしげる動作は、左右非対称性の動作のひとつとして考えられています。人間が周囲の環境を認識するときの感覚は「右耳のほうが周囲の音を聞き取りやすい」「左目のほうがよく見える」というように、聴覚や視覚の信号を処理するときの認知は左右どちらかの耳や目が優先的に使われます。これは犬も同じで、例えば、物をつかむときに利き足がありますが、首をかしげる動作については研究されていませんでした。

 

そこで、この問題について調査をすることにしたのが、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学のチーム。あるとき彼らは、犬が首をかしげる動作は、犬が飼い主の言うことを聞いているときに多いことに気が付きました。このことから「認知と動作に関係性があるのではないか」と仮説を立てたのです。

 

それを証明するため、まず、この研究チームは、以前に犬の記憶力に関する実験を実施したときに撮影した動画を分析しました。この実験では、40匹の犬に複数のおもちゃの名前を覚えさせるトレーニングを3か月間実施。飼い主が犬に、別の部屋に置かれたおもちゃを取ってくるように指示し、犬がそれを実行できるかどうか観察しました。その結果、2つのおもちゃの名前を覚えられた犬は40匹中7匹のみで、大部分の犬はモノの名前を覚えることが苦手であることがわかったのです。

 

次に、同研究チームは、この実験で飼い主が犬におもちゃを持ってくるよう指示したとき、犬が首をかしげるかどうかを観察。すると、おもちゃの名前を覚えられなかった犬は、首をかしげることがほとんどなかったのに対して、おもちゃの名前を覚えられた7匹は首を頻繁にかしげていたことがわかりました。

 

そこで彼らは、おもちゃの名前を覚えることができる犬だけを使って、さらに2年間の追加実験を実施。これにより、犬によって首をかしげる方向が異なり、左右どちらか一定の方向に首を斜めにする傾向があることを突き止めました。

 

飼い主の言うことを理解するため?

この結果を受けて、同研究チームは、犬がおもちゃの名前を聞いたとき、犬が首をかしげる動作とおもちゃを持ってくることには、なんらかの関連性があると論じています。

 

モノの名前を覚えられる賢い犬は、首をかしげるという動作をしながら、脳をフル回転させているのかもしれないですね。

 

【出典】Sommese, A., Miklósi, Á., Pogány, Á. et al. An exploratory analysis of head-tilting in dogs. Anim Cogn (2021). https://doi.org/10.1007/s10071-021-01571-8 

 

もはや世界の買い物祭り! 2021年「ブラックフライデーとサイバーマンデー」のトレンド

まもなくやってくる「ブラックフライデー」と、オンラインショップで行われる「サイバーマンデー」。それぞれ11月の第4金曜日とその翌週月曜日に行われる買い物の「お祭り」は、一年で最もモノが売れる日とアメリカでは言われており、あちこちの店で大型セールが繰り広げられます。

↑世界中の消費者が買い物を楽しむブラックフライデーとサイバーマンデー

 

2020年は新型コロナの影響で、消費者の買い物スタイルがオフラインからオンラインに移行。アメリカでは実店舗への客足が前年の半分近くに減り、オンラインの支出は22%増えたと言われていますが、ワクチン接種が進んだ2021年のブラックフライデーとサイバーマンデーはどうなりそうでしょうか?

 

そこで、Shopifyが行ったブラックフライデーとサイバーマンデーに関する調査結果をもとに、2021年の世界のトレンドを探ってみましょう。この調査はアメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、オランダ、オーストラリア、ニュージーランド、日本の10か国の各1000人以上を対象に実施されました。

 

購買意欲がアップ

ブラックフライデーとサイバーマンデーは「一年で最も安く買い物ができる2日間」と知られており、店頭には70%OFFや80%OFFなど驚くような割引率のマークが並ぶことから、この日に狙いを定めてお目当ての商品を買うという人が多くいます。「2021年のブラックフライデーとサイバーマンデーに買い物する予定」と答えた人の割合は、イタリアで86%、アメリカ67%、ドイツ65%、カナダ61%などとなっており、いずれも前年より増加していました。

 

また買い物の予算も前年より増加。アメリカは前年の686ドル(約7万9100円※)から787ドル(約9万800円)に、カナダは481ドル(約4万4000円)から542ドル(約4万9000円)、ドイツは389ユーロ(約5万300円)から406ユーロ(約5万2500円)に増えています。

 

アメリカではコロナ禍の影響でサプライチェーンが崩壊し、商品配送や宅配サービスに遅れが出ています。そのため、店舗は早めに商品を仕入れ、消費者は早めに買い物を始める傾向が加速しました。この調査は10月初旬に行われましたが、その時点で「すでに買いたい物を探し始めている」と答えた人がアメリカは27%、カナダは25%、ドイツは23%、イギリスとニュージーランドでは22%いました。

 

ブラックフライデーは、もともとサンクスギビングデーの翌日の金曜日から週末にかけて行われるものでしたが、もはやシーズン型のイベントになりつつあるようです。

 

地元の店舗を応援

2020年はロックダウン(都市封鎖)のため、多くの消費者は買い物をオンラインで行いました。しかし2021年は、オンラインで商品をチェックしながら、実店舗でも買い物したいと考えている人が増えている様子。「実店舗とオンラインの両方で買い物する予定」と答えた人は、アメリカで59%と前年より11%増加しました。イタリアでも59%(前年より10%増)が同様に回答。カナダは50%(前年より5%増)となっています。

 

同時に、コロナ禍をきっかけに、地元の企業や経営者を応援しようという傾向が高まっています。このトレンドはブラックフライデーやサイバーマンデーでも同じで、「地元企業や個人経営者の商品を購入する予定」と答えた人は、アメリカでは59%、スペインでは57%、カナダでは53%となりました。

 

このほか、TikTok、InstagramなどのSNSを通じたショッピングも人気上昇中です。特に18~34歳の若い層の間で、SNSでの買い物がさらに増えていく模様。2021年のブラックフライデーとサイバーマンデーは、あらゆる空間で大いに盛り上がりそうです。

 

※各通貨の為替レートは次の通り(2021年11月25日時点)

1ドル=約115円換算

1カナダドル=約91円

1ユーロ=約129円

在宅ワーク普及の落とし穴?「燃え尽きる女性」が米国で増加中

新型コロナウイルスをきっかけに、多くの人のライフスタイルが変化しましたが、特にアメリカでは女性の間で仕事に対する考え方が大きく変わっているようです。パンデミックによる経済活動の一時休止から一転し、アメリカの就職市場では現在、記録的な求人数があると言われていますが、女性に限ってみると、新たな仕事に就く人の数はアナリストの予想を下回っている模様。アメリカの女性たちに何が起きているのでしょうか?

“音楽と国際協力の意外な相関関係”とは? 最前線で活動を続ける斉藤ノヴさん・夏木マリさんと語り合います

↑燃え尽きたわ……

 

米ABCニュースの記事で紹介されたのは、4人の子どもを持つシングルマザーのペーニャ(41歳)のケース。彼女はGoogleでエグゼクティブアシスタントとして勤務していました。給料や福利厚生など待遇面では申し分なさそうに見えますが、彼女は新型コロナウイルスのパンデミックをきっかけに「子どもか? それとも仕事か?」という選択を迫られたように感じたそうで、この夏に退職を決意。「新型コロナウイルスで子どもたちの日常生活が崩れ、仕事よりも家庭で自分がより必要とされていると感じた」とのことでした。

 

求人サイトのIndeedによると、13歳以下の子どもを持つ男性の2021年9月の就業率は、コロナ前より1%低いだけですが、女性の場合はコロナ前の水準を4%下回っています。ペーニャのように、子育てや家族の介護などを理由に女性が仕事から遠ざかるケースは珍しいことではないのかもしれません。

 

しかし、そこには別の理由もありそうです。コンサルティング業界の大手マッキンゼーが発表した最新の調査によると、女性がコロナ禍でバーンアウト(燃え尽きること、極度の疲労)していることが明らかになりました。同社が行ったアンケート調査で「バーンアウトを感じた」と答えた人の割合は、男性が35%に対して、女性は42%。2020年は前者が28%、後者が32%だったので、男女ともに前年から増えていますが、女性の増加が特に顕著です。在宅勤務へのシフトがその一因かもしれません。

 

在宅勤務の代償

在宅勤務には通勤時間が削減されたり、子どもや家族の世話をしながら仕事ができたり、多くのメリットがあります。その反面、ONとOFFの切り替えが難しいことや、長時間労働になりやすいことなどのデメリットもあり、一概に良いとはいえません。昇進や昇給などを考えると、在宅勤務の人は、会社で働く人に比べて不利になりやすいという見方もあり、在宅勤務をする人は男性より女性のほうが多いことから、女性がキャリアで遅れを取る可能性も指摘されています。

 

以前からスポーツ界でもバーンアウトする選手がいますが、回復するのは簡単ではありません。働き盛り世代の女性が燃え尽きて「引退」に追い込まれることがないように、在宅勤務をする人と出社している人が公平に評価される仕組みの構築や、女性のメンタル面をサポートする体制づくりが求められています。

クリスマスツリーの代わりにサステナビリティ? 英国の最新クリスマス事情

ブレグジット(EU離脱)の影響がじわじわと日常生活に現れている英国では、ガソリン不足やスーパーでの在庫不足などによりパニック買いが発生しています。待ちに待ったクリスマスに必要なモミの木や七面鳥の入手も難しく、価格の高騰も免れそうにありません。コロナ禍とブレグジットの影響に揺れる英国のクリスマスについて現地からレポートします。

 

今年の冬に不足する品物は……

↑ All I want for Christmas is……クリスマスツリー

 

コロナ禍のロックダウン中にブレグジットが完了してから、もうすぐ1年が経とうとしています。2021年夏にようやくロックダウンが解除され、コロナの新規感染者数は連日数万人と依然としてかなり多いものの、ワクチン普及のおかげで危機感が薄まり、日常生活が戻ってきたように思えます。しかし、ロックダウン解除と同じ時期から、全国でスーパーの商品棚が一部空になる現象が見られるようになりました。また、9月から10月にかけてイギリス各地でガソリン輸送が追いつかずにパニック買いが発生し、ガゾリンスタンドには長蛇の列ができました。

 

このような現象が頻発しているのは、ブレグジットによりEU出身の輸送ドライバー数が激減し、物流に混乱が起きていることが原因です。英国政府は運輸サポートのために軍を出動させ、EU籍のトラック運転手や食品加工業者に臨時の短期労働ビザを発給するなどの対応に追われています。配管工にもEU出身者が多く、ボイラーなど温水・暖房まわりの設置や修理の予約が取りづらくなりました。イギリス国民の生活は、EU労働者に支えられていたといえるでしょう。

 

メディアは「今冬に不足する品物リスト」について連日報じていますが、その代表格は、この時期に欠かせないクリスマスツリー用のモミの木と七面鳥。どちらも欧州からの輸入に頼っている割合が高く、品薄のために値上がりすると見られています。国産肉も働き手不足により品薄気味。さらに、ローストポテト用の国産じゃがいもが冷夏のせいで不作。輸送ドライバー不足が続けば、酒類も不足する可能性があります。

 

このような状況下で、長期間の我慢を強いられたうえ、再び「ないない尽くし」のクリスマスは避けたいという人々の焦りから、2021年は10月時点で冷凍七面鳥が売り切れになるスーパーが続出。また、買い物客がポッカリ空いた冷凍棚を見てパニックを起こさないように、店舗側はサラダオイルやソース、マヨネーズを代わりに並べるなど対応に追われています。

 

昨年のクリスマスはロックダウンが急に発令され、ガッカリした英国民ですが、「今年こそは家族団らんのクリスマス・ディナーを」と待ち望んでいます。しかし、物流量が増えるこの時期から年末は、コロナ感染による働き手の自主隔離とEUからの労働力不足のダブルパンチにより、混乱はなかなか収束しそうにありません。

 

プレゼントは「サステナブル」

↑英国定番のクリスマス柄セーターもサステナブルに

 

クリスマスプレゼントのトレンドに目を向けると、サステナビリティが人気です。英国では、11月末のブラックフライデーやサイバーマンデーに合わせてギフト・ショッピングをする人が多いのですが、ある調査によると、同国の消費者の約7割がサステナビリティや気候変動への取り組みを意識したものに注目しているとのこと。

 

2021年、G7首脳会議と国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の開催国となった英国では、特に若い世代で「サステナブルではないものはクールではない」という意識が、いままで以上に拡大しています。この流れを受け、食品からファッションまで、幅広い分野の小売業者が持続可能性を意識した商品を取り揃えており、リサイクルガラスから作られたワイングラス、くり返し使える蜜蝋ラップ、自然に優しいコスメなどが注目を集めています。

 

それと同時に、再生紙を利用したラッピングペーパーも増えており、高級ジュエリー分野では、ギフト包装にリサイクル素材を採用したブランドがメディアでも取り上げられています。

 

また、英国ではこの時期、サンタクロースやトナカイなど、あえて子どもっぽい柄や少しダサめのセーターを着るのが、英国の老若男女の「お約束」となっていますが、そんな定番のクリスマス柄セーターにも、サステナブル版が登場しました。老舗のニットメーカー「ジャック・マスターズ」は、リサイクル・コットンとペットボトル24本分を原材料にした2021年限定版クリスマスジャンパーを発売。このセーターは王冠や議会法、ウェストミンスター宮殿などのモチーフを“かわいらしく”あしらっており、ビッグベンがある国会議事堂と同社のオンラインショップで販売されています。

 

日本でいえばお正月に相当する英国のクリスマス。コロナ禍とブレグジットのダブルパンチにもめげず、「今年こそホリデーシーズンを目一杯楽しもう」と買い物やパーティーの企画に余念のない英国民の様子を見ていると、逆境の中でも楽しむことを忘れない英国人のしたたかさとクリスマスへの情熱を実感します。

 

執筆者/ネモ・ロバーツ(ジャーナリスト兼アーティスト)

イギリス人の燃え上がる「DIY愛」! 輸入資材不足でもへっちゃら?

コロナ禍のイギリスでは、自宅のDIYやリフォームをする人が急増し、工事の依頼が殺到した大工さんたちが大忙しとなりました。この現象は他国でも見られますが、もともとイギリス人は一般的にDIYが大好きなので、コロナ禍はそんなイギリス人の性格に拍車をかけた格好です。ホームセンターの売り上げも大幅に増えましたが、その一方で輸入資材が不足するという深刻な事態が起きています。

 

ホーム・スイート・ホーム

イギリスでは以前から歴史がある築年数の長い家を購入し、自分の好きなように改修や改装を行うことが一般的です。まるで一生終わることのないライフワークや趣味のように、家の改修や改装を楽しんでいる人が多く、近所を見渡すと大抵いつも誰かが家の工事をしています。中古で購入した自宅の壁をペンキで塗り直して印象を変えることは当たり前で、キッチンやバスルームなどの工事や増築も自分たちで行っているのです。

 

ただ、理想の状態に近づけるためにはお金だけでなく時間もかかるため、まだ在宅勤務が普及していなかった新型コロナウイルス前には思うようにはいきませんでした。

 

ところが時間に余裕ができたうえ、外出制限でイギリス人の日課であるパブにも通えなくなったことで、「せめて自宅では快適に過ごしたい」と思う人が増加。「そう来たら家をDIYして楽しもう!」と、自宅内にパブを作ったり小屋でビールを醸造したりする人が次々に現れ、テレビやWebサイトで注目を集めるようになりました。

 

もちろん大がかりな工事が必要なときは、近所で大工さんを探して仕事を依頼します。しかし、信頼できて相性もよい大工さんを見つけるのは、普段でも簡単なことではありません。特にリフォーム熱が高まっている今日は職人も大忙しで、たとえ依頼できても日程を組むのが大変です。このような理由で、できる範囲でDIYをするイギリス人は少なくないのです。

 

DIYやリフォームに必要な資材は、ホームセンターで購入できるものも数多くあり、例えば、トイレやバスタブが単体で販売されています。BBCニュースは、ロックダウン(都市封鎖)が始まった2020年5月から同年7月までの期間に、イギリスの大手ホームセンターにおけるペンキや壁紙などの売り上げが、前年同時期に比べて21.6%増加したと報じました。ロックダウンで店舗が一時閉鎖されるなか、オンラインでの購入が増えたことも売り上げ急増を後押しした要因のようです。

 

ロジスティクスの大混乱も……

しかし、このようなブームに水を差すような出来事が発生。昨年からロジスティクスの混乱状態が続いているのです。イギリスでは、中国からの輸入資材は、新型コロナウイルスのパンデミック前から3か月待ちが当たり前でしたが、現在は半年以上待つこともあるようで、リフォーム資材の調達に時間がかかっています。しかも、イギリスのブレグジット(EU離脱)の影響で、EU圏内の他国から来ていたドライバーが減り、一時はガソリンの供給も追いつかないなど国内配送も滞りました。このような状況は、家の改修・改装スケジュールにも大きな影響を及ぼしています。

 

しかし、そんな中でも気長に待つことに慣れているのがイギリス人。「家のリフォームはスケジュール通りに進まないものだ」と諦め、リフォーム後の生活を思い浮かべながら、状況が改善するのを気長に待っている様子です。手間と時間をかければかけるほど、良い家になるのでしょう。

 

執筆者/ukihaddy