【西田宗千佳連載】Android XRにMeta・Appleはどう対抗するのか

Vol.146-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はGoogleが発表したXRデバイス向けの技術「Android XR」。AppleやMetaが先行する分野で、Googleが目指す方向性を探る。

 

今月の注目アイテム

Samsung

Project Moohan XRヘッドセット

価格未定

↑「Android XR」対応として初のデバイスとなり、2025年に発売予定。アイトラッキング機能やハンドトラッキング機能を搭載するほか、GeminiベースのAIエージェントが実装され、自然なマルチモーダル機能を実現する。

 

空間コンピューティングOSであるAndroid XRを搭載したデバイスは、遅くとも今年の後半には登場する。最初の製品となるのは、サムスンと共同開発中の「Project Moohan」だろう。これはVision ProのGoogle版、といえるような製品。筆者もまだ実機を体験したことはないものの、Vision Proよりも軽く安価な製品を目指しているという。

 

また、Android XRは“ハードウエアパートナーを広げやすいだろう”という予想もある。スマートフォンやタブレットに多数のメーカーがあるように、Android XRの供給を受ければデバイスの開発は容易になる可能性が高いからだ。

 

では他社はどう対応するのだろうか?

 

Metaは2024年春、Meta Quest向けOSである「Horizon OS」を他社に供給する戦略を発表した。アプリストアも再構築し、Androidスマホで動いているアプリをそのまま、Meta QuestをはじめとしたHorizon OS対応機器で動かせるようにもしている。“Androidアプリがそのまま動き、複数の企業からデバイス製品が出る”という意味では、完全に競合する存在だと言える。

 

他方で、Metaのパートナー戦略は、Googleほどオープンではない。現状は、特定少数のパートナーと組んで製品バリエーションを広げる形を採っている。なぜかと言えば、XR機器はスマホやタブレットに比べ開発難易度が高く、良い製品を作るのが難しいからである。デバイスを作る時、OSだけでなく多数のノウハウが共有されなければいい製品はできない。

 

Googleとの競合があるから……という面は否めないものの、当面GoogleとMetaは「似て非なる道」を歩くことになる。

 

一方で、Appleのやり方はもう少しシンプルだ。内部では次世代製品とOSアップデートの開発が粛々と進められている。プラットフォーマーは増えても市場の変化がまだ先である以上、製品改良を続けるのが最優先課題だ。Vision Proに続く製品がいつ出るか多数の噂はあるが、どれも根拠には欠けている。はっきり言えるのは、「すぐにVision Proのプロジェクトがなくなったり、後続製品が出なくなったりはしない」ということくらいだろう。

 

どちらにしろ、動きが活発になるのは2025年後半になってからだ。おそらくは今年5月の「Google I/O」、6月に開催されるAppleの「WWDC」、9月に開催されるMetaの「Connect」という3つの開発者会議での情報公開から色々なことが一気に動き出すだろう。

 

なお、GoogleとMetaに共通しているのは、どちらもパートナーとしてQualcommが重要であるという点だ。XR機器向けのプロセッサーはほぼQualcommの独壇場。メジャーな企業でQualcommを使っていないのはAppleくらいのものだ。MetaとGoogleの競争で市場が拡大した場合、まず利益を得るのは両者以上にQualcomm……ということになる。

 

また高画質ディスプレイデバイスも必須なのだが、そこではソニーがまず支持を得ている。ただし、生産量の面で中国BOEが追いかけており、サムスンも自社デバイスで自社が開発したディスプレイデバイスを使う、と予想されている。スマホのディスプレイ競争のように、ソニー対BOE対サムスンの戦いがはじまる可能性があるので、ここにも注目しておきたいところだ。

 

週刊GetNavi、バックナンバーはこちら

【西田宗千佳連載】Android XRは「1つの環境で開発」を重視する

Vol.146-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はGoogleが発表したXRデバイス向けの技術「Android XR」。AppleやMetaが先行する分野で、Googleが目指す方向性を探る。

 

今月の注目アイテム

Samsung

Project Moohan XRヘッドセット

価格未定

↑「Android XR」対応として初のデバイスとなり、2025年に発売予定。アイトラッキング機能やハンドトラッキング機能を搭載するほか、GeminiベースのAIエージェントが実装され、自然なマルチモーダル機能を実現する。

 

Googleが開発する空間コンピューティングOSである「Android XR」は、2024年12月、開発者向けに公開された。ただし、動作する機器はまだ販売されていない。最初の1つとなる製品はサムスンが開発しているが、その発売は2025年後半になる。

 

そのため、Android XRがどんなOSかを理解している人は非常に少ない。筆者もすべての情報を持っているわけではないが、開発者向けに公開されている情報と取材で得られた情報から、わかっていることをお伝えしたい。

 

Android XRは、その名の通りAndroidをベースにしている。開発の基本は同じであり、アプリについても、通常のAndroidスマホやタブレット向けに作られたものがそのまま動くようになっている。XR機器の中から見れば、Androidアプリを空間に配置して使えるような感覚である。このことは、Vision Pro用のOSである「visionOS」がiPadOSをベースにしていることと似ている。XR専用のアプリだけでなく通常のAndroidアプリが使えることで“アプリ不足”という状況を回避しやすくなる。

 

また現状、Android XR搭載製品には2つの方向性があることがわかっている。

 

ひとつは、Vision ProやMeta Quest 3のような「ビデオシースルー型XR機器」。本格的空間コンピューティングデバイスであり、サムスンが開発中である「Project Moohan」が最初の製品となる。もうひとつは「スマートグラス」。アプリを使うというよりは、屋外などで通知を受けたり、経路を確認したりするための軽量なデバイスだ。こちらはまだ具体的な機器の情報は出てきていない。

 

一般的にこれらの2つのデバイスは、別々のOSや別々の開発環境で作られている。なぜなら、用途やユーザーインターフェースが大きく違うためだ。Metaはスマートグラスとして「Orion」というスマートグラスを開発中だが、こちらはMeta Questとは別のOS・UIになることが分かっている。

 

各社の言う“用途が異なる”という意見はよく分かる。一方似たような要素を持つアプリを複数の環境に対応させるのは大変コストがかかるものだ。開発者目線でいえば、“まだ数が少なく、ビジネス価値も定まっていない市場で複数の環境向けにアプリを作る”のはかなり厳しい。

 

GoogleはAndroid XRを複数の用途にあわせたひとつの環境とし、既存のAndroidアプリから空間コンピューティング用アプリをできるだけ簡単に作れるように配慮することで、開発者の負担軽減を狙っている。同社は遅れてやってくる立場なので、開発者を引き入れる要素を特に重視している。その結果が、OSの構造や開発姿勢にも現れているわけだ。

 

一方、こうした動きに冷ややかな目を向ける人々も少なくない。GoogleはXR機器に関し、何度も参入・撤退を繰り返しているからだ。「Google Glass」(2013年)に「Project Tango」(2014年)、「Daydream」(2016年)と、複数のXR関連プラットフォームを手がけつつ、どれも早期に開発を終了している。他のサービスにしても、クラウドゲーミングの「Stadia」(2019年)なども短命で終わった。

 

新しいプラットフォームが産まれるのはいいが、じっくり長くやってくれるのか……という疑念があるわけだ。この点、Metaは黙々とビジネスに邁進しているし、Appleも「はじめたらなかなか止めない会社」という信頼がある。

 

Googleが支持を受けるには、まず「Android XRには本気で長く取り組む」という姿勢のアピールが重要だ。まあそれは、デバイスが発売される時期に向けて本格化していくのかもしれない。

 

では、Android XRに対しライバルはどう対抗するのだろうか? そしてどう違うのだろうか? その点は次回のウェブ版で解説する。

 

週刊GetNavi、バックナンバーはこちら

【西田宗千佳連載】Googleの参入でようやく役者が揃う「空間コンピューティングデバイス」

Vol.146-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はGoogleが発表したXRデバイス向けの技術「Android XR」。AppleやMetaが先行する分野で、Googleが目指す方向性を探る。

 

今月の注目アイテム

Samsung

Project Moohan XRヘッドセット

価格未定

↑「Android XR」対応として初のデバイスとなり、2025年に発売予定。アイトラッキング機能やハンドトラッキング機能を搭載するほか、GeminiベースのAIエージェントが実装され、自然なマルチモーダル機能を実現する。

 

現在、いわゆるXR機器の世界はMetaによる寡占状態である。

 

調査会社IDCのデータでは、2024年第3四半期においては、市場の70.8%を「Meta Quest」シリーズが占めており、ソニー・インタラクティブエンタテインメントやAppleがそのあとに続く。

 

一方で、シェアが寡占状態になっている理由の1つは「まだ出荷量が少ない」からでもある。現状は年間数百万台規模に過ぎず、スマホには遠く及ばない。PCはもちろん、ゲーム専用機やタブレットに比べても少ない規模でしかない。

 

XR機器は長い間期待されている領域だが、ヒットには結びついておらず、参入企業数が増えない。積極展開する数社だけがなんとかビジネスをできている状況だ。ただ、トップ数社が「本気でこの領域に取り組んでいる」のは間違いない。Metaが独走しているのも、それだけ本気で技術を磨き、製品を売っているからだ。

 

そして昨年、そこにAppleが「Apple Vision Pro」で参入した。出荷量は数十万台というところではあるが、その存在が他社に大きな影響を与えているのは明白だ。Metaは2024年に入り、Meta Questシリーズ向けのOSである「Horizon OS」(2024年春より正式呼称を変更)のアップデートを加速した。機能や画質向上が続いており、2025年1月現在に搭載されている機能は、2023年秋のものとはかなり変わってきている。

 

2023年にMetaは「Meta Quest 3」を発売している。そして、AppleがVision Proを公開したのも2023年6月だ。どちらもビデオカメラの映像をXR機器内に合成し、実空間の中にCGを合成する「ビデオシースルー型Mixed Reality(MR)」を軸にした機器だ。

 

機器やOSの開発には長い時間が必要になる。だから実際には2023年から動き出していたわけではなく、2020年代に入るとすぐに「ビデオシースルーMRの時代が来る」と予見していたのだろう。その上で、Appleの参入がMetaに刺激を与え、市場が活性化しようとしている。まだ販売数量に顕著な変化が出る時期ではないが、Appleが名付けた「空間コンピューティング」の方向へと向かいはじめているのは間違いない。

 

その中で、Googleはなかなか動けずにいた。先を走る2社と競合するには、戦えるだけの基盤=プラットフォームが必要になる。そのプラットフォームこそ「Android XR」だ。Googleの中でも開発の方向性は何度か変わったものと思われる。2023年には発表されるはずだったものが、結局は2024年にようやく“開発者向けにアナウンス”された。製品の姿は2025年後半に見えてくると予想されている。

 

すなわち、今年からようやく役者が揃い、「空間コンピューティングデバイス」が競い合う時代がやってくる……ということになり、市場が動きだしそうだ。

 

では、Googleが開発しているAndroid XRはどんなものなのか? その辺は次回のウェブ版で解説する。

 

週刊GetNavi、バックナンバーはこちら

【西田宗千佳連載】Googleが新OSでMetaやAppleを猛追。「Android XR」とは何なのか

Vol.146-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はGoogleが発表したXRデバイス向けの技術「Android XR」。AppleやMetaが先行する分野で、Googleが目指す方向性を探る。

 

今月の注目アイテム

Samsung

Project Moohan XRヘッドセット

価格未定

↑「Android XR」対応として初のデバイスとなり、2025年に発売予定。アイトラッキング機能やハンドトラッキング機能を搭載するほか、GeminiベースのAIエージェントが実装され、自然なマルチモーダル機能を実現する。

 

方向性は見えているが開発はまだ道半ばの状態

Googleは2024年12月、新しいプラットフォームである「Android XR」を発表した。Androidをベースとした、XRデバイスを開発するための技術である。XRとはVRやARなど、空間を活用する技術の総称だ。

 

同社はかねてより本格的なXR向け機器をサムスンとともに開発中とされていた。当初は2023年にも発表と見込まれていたが、予定からは1年以上遅れ、ようやく発表になった。

 

ただし、公開されたのはあくまでOSのみで、製品はまだ出ていない。サムスンが開発しているデバイスについて、プロトタイプデザインが公開されているが、価格や詳細スペックは未公表。市場に出てくるのは2025年になってからということになる。サムスンの製品が最初に世に出てくると予測されているが、その他にもソニーやXREAL、Lynxが対応デバイスを開発することがアナウンスされている。2024年末の段階では、OSを含めた開発環境が公開されている状況。消費者向けの発表というよりは、開発者に向けた情報公開がスタートしたという段階だ。

 

Android XRはどんな使い勝手のものになるのか? 前述のように、具体的な製品のスペックや機能、価格は未公表であり、価値を正確に判断するのは難しい状況だ。ただ、開発環境やGoogleが公開した動画などから、どんな機能を備えた機器になるのか、ある程度の方向性は見えてきている。

 

プラットフォーマーの2025年の動きに注目

コアな目標は、AppleのVision ProやMetaのMeta Questと同じような機器を作ることだ。サムスンが発売するデバイスはそのような特質の製品になる。実際、ユーザーインターフェースの画面もVision Proのものに似ている。仮想空間を使ったゲームや動画などのアプリが体験できるほか、スマホなどで使われているAndroidアプリも動作する。この辺は、他社で進むトレンドを追いかけるもの、と考えても良い。

 

同時に、サングラス型で軽量の「スマートグラス」デバイスも開発できる。ただしこちらは大規模なアプリを動かすものというよりは、移動中に必要とされる情報を表示して利用するもの……と考えた方が良いだろう。

 

Googleらしいのが、同社のAI機能である「Gemini」を活用することだ。カメラで得た外部の情報をGeminiが理解し、“目の前に何があるか”などを利用者に説明することができる。音声で対話しつつ、Geminiをアシスタントとして活用することを目指す点では、スマホでやろうとしていることに近い。しかし、スマホを掲げて使うのではなくスマートグラスの形になるなら、もっと使いやすくなる可能性が高い。

 

2025年にはApple、Meta、Googleと、大手プラットフォーマーが揃ってXR機器を出し、そのことは市場に競争を促す。実のところ、2024年の間から競争は始まっており、各社の製品に影響を与え始めている。

 

GoogleはなぜここでXR機器に取り組むのか ?他社はどう対応するのか? そうした点は次回以降で解説していく。

 

週刊GetNavi、バックナンバーはこちら

重さわずか約125g! 世界初のSnapdragon AR2搭載XRグラス「MiRZA」

NTT QONOQ Devices(NTTコノキューデバイス)は、メガネ型XRグラス「MiRZA(ミルザ)」を発表しました。個人向けは全国のドコモショップやドコモオンラインショップ、各ECショッピングサイトなどで2024年秋より順次販売される予定で、実売価格は24万8000円(税込)。

 

記事のポイント

メガネのように軽い装着感ながら、高性能チップセットAR2搭載によりスマホとの連携性を高めたXRグラス。SF映画のように、目の前の空間にバーチャルディスプレイが表示される体験は話題を呼びそう。今後のコンテンツ拡充にも注目したい。

 

ミルザは、デバイス上の様々な情報を目前の空間にバーチャル表示させることができるXR(クロスリアリティ)グラス。世界で初めてクアルコムのチップセット「Snapdragon AR2 Gen1」を搭載し、スマートフォンとワイヤレス接続して機能を連携させられることが特徴。

 

約1000nitsの明るさとFHD(1920×1080)の高画質で画像を表示し、グラスを通して現実空間を実際に見ながら3D空間もクリアに視認可能。それにより、手軽に6DoFコンテンツ(現実空間の位置座標や物体を認識し、バーチャルなコンテンツをあたかも現実空間に存在するように配置できる)を体験・活用できるとしています。

 

活用例として、XRAI(エックスレイ)が提供する文字起こし・通訳機能アプリ「XRAI Glass」を利用することで、140以上の音声言語を即座に通訳して字幕に変換・表示し、円滑な外国語コミュニケーションが可能になることが挙げられています。このほかにもSnapdragon Spacesに対応したアプリの利用も可能です。

 

重量は電池搭載ながら約125gと軽量。メガネに近い重量バランスや厚みを抑えた光学レンズの採用により、長時間使用しても疲れにくい装着感を実現しています。また、パリミキ・アイジャパンとの協業により、視力補正用レンズを装着することも可能です。

 

NTTコノキューでは、XRグラスミルザの今後の利用シーンやソリューションの拡充を目的とし、法人パートナーを募集し新たなコンテンツ開発を行っていくとしています。

 

NTTコノキューデバイス
XRグラス「MiRZA(ミルザ)」
2024年秋発売予定
実売価格:24万8000円(税込)

空間ビデオを撮れるってどういうこと? XREALの新デバイス「Beam Pro」を体験

スマートグラスの「Air」シリーズを展開するXREALが、空間ビデオ・空間写真を撮れるデュアルカメラを内蔵するXRコンテンツプレーヤー「XREAL Beam Pro」を8月6日に発売します。3万円台から買える空間コンピューティング対応の注目ガジェットです。XREALが開催した新製品発表会で実機を体験してきました。

↑XREALの“スマホのようなXRコンテンツプレーヤー”「Beam Pro」を発売前に体験してきました

 

カメラ・ディスプレイを搭載する空間コンテンツプレーヤー

XREALの代表的な製品といえばスマートグラスのAirシリーズです。USB-C DisplayPort互換のスマホやタブレットなど、USB-Cケーブルで接続したデバイスの映像を透過型OLEDマイクロディスプレイに映して、実風景の前に浮かび上がる映像の視聴を楽しめます。

 

USB-C DisplayPortと互換性能を持たないデバイスもAirシリーズに接続して楽しめるように、XREALは媒介となる「Beam」というポケットサイズのアダプターを発売しています。その進化形である「Beam Pro」は、Android 14にベースとした“スマホのようなコンテンツプレーヤー”です。背面に搭載するデュアルレンズカメラで、Airシリーズによる立体視が楽しめるビデオや写真を撮り、Beam Proの本体ストレージに記録。USB-Cケーブルで直接つないだAirシリーズが大画面スクリーンになります。

↑背面にデュアルレンズカメラを搭載

 

↑ディスプレイのサイズは6.5インチ。Android 14を搭載しています。Google Playストアからアプリをダウンロードできます

 

Beam Proの画面は6.5インチのタッチディスプレイ。また、クアルコムのモバイル向けSoCである「Snapdragon 6 Gen 1」をベースにカスタマイズした「Snapdragon spatial companion processor」が、快適動作を実現しています。

 

データ通信はWi-Fi専用。スマホのような形をしていますが、eSIMも含めてSIMカードによるモバイル通信には対応しません。

↑ユーザーインターフェースのイメージ。空間にアプリのアイコンや大型スクリーンが浮かび上がるように見えます

 

スマホと変わらない操作感。ただし立体視のビデオ・写真はコツが必要

XREALが開催した新製品体験会では、Beam Proで撮影した動画・写真のほか、Netflixのビデオ作品、人気コミック「塩対応の佐藤さんが俺にだけ甘い@comic」のキャラクターが登場するXRコンテンツを視聴しました。

 

最初にカメラで空間ビデオ・空間写真を撮りました。Android 14の上に独自の「NebulaOS」を走らせて、NebulaOSに最適化された専用カメラアプリを使ってビデオと写真を撮影します。

↑NebulaOS上で立ち上がる専用カメラアプリで空間ビデオ・空間写真を撮ります

 

本機で撮れる空間ビデオ・空間写真は横画面のみで、ビデオの最大解像度はフルHD/60p・30p。3Dビデオの記録方式はAirシリーズが対応するSide by Side(SBS)、ファイルのコンテナ形式はMP4になります。Beam Proで撮影した空間ビデオは、同じファイル形式をサポートするヘッドセットでも視聴ができそうです。

 

Beam Pro本体のサイズやアプリの操作はまさしくスマホのカメラを構えるような感覚です。ただ、カメラにズーム撮影の機能がないので、カメラを構えたまま被写体に自ら近付いて撮ります。1〜2.5mの範囲で撮影した被写体が最も立体視に適していますが、遠くの風景はあまり立体視に向いていません。

 

デュアルレンズカメラは超広角14mm、F2.2。ユニットの配置間隔を人間の左右の目の距離に近い50mmとしており、空間ビデオ・空間写真のリアリティを高めています。

 

続いて撮影した空間ビデオ・空間写真をXREAL Air 2 Ultraで視聴しました。動かない被写体を撮影すると自然な立体感が得られます。一方、カメラの前で次々にポーズを変える人物を被写体にして、Beam Proを構えるユーザー側もゆっくりと動きながらビデオを撮ると、前後の奥行き感が時折崩れて不自然に見えることもありました。

↑カメラにズーム機能がないので、構えたまま被写体に近付いて立体感のあるビデオ・写真を撮影します

 

2つのカメラの画素数は5000万画素。空間ビデオ・写真は記録されるファイルのサイズが肥大しがちですが、XREALは128GB/256GBの内蔵ストレージのほかに、microSDカードを追加するとストレージを最大1TBまで拡張できます。身の回りのいろんな被写体を空間撮影しながら経験を積めば、XREAL Airシリーズで美しく立体視できるコンテンツを安定して記録できるようになると思います。

↑カメラは横向きが基本。タテ向きの立体コンテンツの撮影には対応していません

 

XRエンターテインメントを「現実的」に感じさせるデバイス

XREAL Air 2 Ultraのコンテンツプレーヤーとしての評価ですが、Netflixの2D動画コンテンツや、3DCGで制作された“しおあま”のコンテンツについては視聴感が安定していました。XREAL Airシリーズと一緒に、持ち運びも自由自在なコンテンツプレーヤーとしてBeam Proの魅力が実感できました。Netflixのコンテンツなどをストレージにダウンロードして、飛行機の中で快適にオフライン視聴が楽しめると思います。

↑XREAL Airと有線接続は必要になりますが、軽くてスリムなスマートグラスは「現実的」なXR対応デバイスであると言えそうです

 

さらにBeam ProにBluetoothヘッドホン・イヤホンをペアリングできるので、屋外でも「音もれ」を気にすることなくコンテンツを視聴できます。XREALは、Beam ProにBluetooth対応のキーボードやマウスをペアリングすれば「空間コンピュータ」としてマルチな使い方ができることもうたっています。本機に搭載するプロセッサーが音を上げることなく、どこまで重いタスクをこなせるのか試してみる価値がありそうです。

 

Beam Proは3万2980円(税込)から気軽に買える価格も現実的です。XREAL Airシリーズを所有するユーザー、またはこれから買うことを検討している方は、Beam Proを買えば自身で撮った空間ビデオ・空間写真のコンテンツも増えて、XRエンターテインメントの身近さに触れられるはずです。

 

Beam Proの主なスペック

OS:Android 14ベースのNebulaOS

チップセット:Snapdragon spatial companion processor

メモリー:6GB/8GB

ストレージ:128GB/256GB(microSDカードを利用して最大1TBまで拡張可能)

カメラ:50万画素リアカメラ×2、BMPフロントカメラ×1

バッテリー:4300mAh

サイズ:162.84mm×75.55mm×10mm

重量:約208g(バッテリー含む)

 

【フォトギャラリー】(画像をタップすると閲覧できます)

研修時間が大幅にダウン! 途上国のリカレント教育におけるメタバースの可能性

人間は社会人になっても、さまざまな形で学ぶことができる。そのような意味を広義に持つリカレント教育は、国際開発でも重要な概念の1つです。近年では、企業内教育を含めたリカレント教育にメタバースを導入する動きが活発になっていますが、このトレンドは途上国で急速に発展するかもしれません。

没入すれば、可能性は無限大

 

昨今、世界中で注目を集めているメタバース。この用語は「超〜」や「〜より包括的な」を意味する接頭辞の「メタ(meta-)」と、「宇宙」を表す「ユニバース(universe)」を組み合わせた造語で、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)などを含めたXR(クロスリアリティ)と現実が融合した世界を指します。カナダのリサーチ企業・Emergen Researchによると、2021年における世界のメタバースの市場規模は約630億ドル(9兆円以上※)で、2030年までに毎年43.3%のスピードで急成長していくとのこと。あらゆる業界が熱い視線を注いでいる分野ですが、別の資料によれば、VR教育の市場規模は2026年までに約1300万ドル(約18億7000万円)に達する見込み。

※1ドル=約143.6円で換算(2022年9月8日現在)

 

メタバースのような没入型テクノロジーの最も魅力的な用途は、教育やトレーニングにあると言われています。

 

メリーランド大学によると、ユーザーはコンピュータ画面上よりも仮想現実(VR)で提示されたほうが、より効果的に情報を保持することができるそうです。また、プライスウォーターハウスクーパースのレポートによると、従来の対面式教室やオンライントレーニングに比べ、VRを使用したソフトスキルのトレーニングは4倍の速さで従業員を訓練することができたと言います。

 

VRの中で被験者は対象物を、位置や自分との距離、周りのものとの関係を認識しながら、視覚的に覚えることができるようになります。例えば、「自分が立っている場所から15メートル程離れた所に建物があり、その2階の窓際に人の姿が見える。それは〇〇さんだった」という具合に、より細かく多くの情報を視覚から得られるのです。そのため、メリーランド大学の実験では、VRを使った被験者の記憶合致の率は8.8%上昇という結果が得られたそうです。

 

ビジネスの研修にもメタバースは良い効果を与えている様子。米国の小売大手・ウォルマートが2017年に、従業員の教育プログラム用に1万7000個のVRヘッドセットを導入した事例からも分かる通り、大規模な従業員を抱える企業の導入事例が増えています。世界最大の会計事務所の1つPWCが、企業研修におけるVRの機能について調べた結果、研修の参加者からは「VRに没入するため集中力が増すほか、学んだことをVRの中で気軽に練習することができるため、自信がつく」といった意見が多数挙がったそうです。さらに同社は、VRの研修は規模の経済性によって、参加者が増えれば増えるほど費用が下がるとも述べています。

 

インフラが十分でないからこそ

そんなメタバースは、まだ証拠は少ないものの、先進国以上に途上国で活用される可能性があります。

 

メタバースへの期待は途上国で最も高いことが調査で判明しており、教育への活用についても大きな需要がありそうです。JICAが行った調査によると、フィジーでは、デジタル技術を活用して業務プロセスを改革するデジタルトランスフォーメーション(DX)施策の中で、デジタル技術を有する人材の不足が課題の1つになっているという事例もあるそう。

 

デジタル技術に限らず、途上国では技術をもった人材の育成ニーズが大きいのですが、教育の品質における問題や、交通のインフラ整備が不十分であったり、教育機会にアクセスが難しいといった別の課題も存在します。そこで、時間・場所を問わずアクセスを可能とし、より高い習熟度が期待できるメタバースが活躍するのではないでしょうか。

 

つまり、教育分野の制度やインフラが十分に整っていない途上国だからこそ、メタバースを試しやすいと考えられるのです。もちろん課題がないわけではありません。途上国で「メタバース教育」を実現するためには、通信環境の整備が必要。フィジーの例では、DXの有用性が明らかになる一方、通信環境の整っている地域とそうでない地域での格差が浮き彫りになっています。しかし、途上国が企業の投資や国際機関の支援を受けて、通信環境を整えた場合、その他の教育インフラの発展が遅れていたとしても、メタバースの活用が、先進国が通ってきた段階的プロセスを飛び越えて進む「リープフロッグ現象」さえ起こり得るかもしれません。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

なお、当メディアへのご意見・ご感想は、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集部の問い合わせアドレス(nbi_info@icnet.co.jpや公式ソーシャルメディア(TwitterInstagramFacebook)にて受け付けています。『NEXT BUSINESS INSIGHTS』の記事を読んで海外事情に興味を持った方は、是非ご連絡ください。

「XR・メタバース」への期待値、日本の22%に対し途上国は倍以上

AR(拡張現実)やVR(仮想現実)などを含めたXR(クロスリアリティ)と現実世界が融合した世界を指す「メタバース」。2021年10月にFacebookが社名をMetaに変更したことで、世界中でメタバースの注目度が上がりましたが、2022年5月に発表された調査『How the World Sees the Metaverse and Extended Reality』で、メタバースへの関心は途上国・新興国で最も高いことがわかりました。

新興国・途上国で期待大

 

フランスの大手市場調査企業・イプソスは、世界経済フォーラムの依頼を受け、2022年4月〜5月に29か国で計2万1000人以上の成人を対象にXRとメタバースに対する意識を調査。XRを前向きに捉えている人の割合は中国で78%、インドで75%、ペルーで74%、サウジアラビアで71%となりました。対照的に先進国ではXRへの期待が低く、肯定的な意見を持っている人の割合は、日本が先進国で最低の22%、イギリスは26%、カナダは30%、ドイツとフランスは31%、アメリカは42%となり、新興国や途上国と顕著な差が見られます(下記のグラフ〔英語〕を参照。カーソルを合わせると各国の割合が表示される)。

 

 

メタバースへの関心についても同じような傾向が見られます。トルコやインド、中国、韓国といった新興国では3分の2以上の人がメタバースについてよく知っていると回答したのに対して、フランスやドイツ、ベルギー、オランダといった先進国では、その割合が3分の1以下になりました。

 

このような違いが現れた理由には、デジタル通貨が関係している模様。XRやメタバースはブロックチェーン技術によって支えられています。ブロックチェーンやフィンテックなどを専門とするメディアのCointelegraphによると、ブロックチェーンは、インフレーションや通貨価値の下落といった問題を抱える新興国・途上国で人気を高めており、このような国々では暗号通貨を購入する人が先進国より多いとのこと。この視点から考えれば、「経済的に苦しい生活をどうにかしたい」と願う人たちがXRやメタバースに大きな期待を寄せていると理解することができるでしょう。

 

教育やビジネス、エンタメ・ゲーム、ヘルスケア、デジタル資産の取引など、幅広い分野を劇的に変えるとされるXRやメタバース。世界の大手IT企業がこの分野で切磋琢磨しており、今後も市場規模は拡大していく見込みです。日本国内においても多くの企業が同分野に進出していますが、海外市場に目を向ける際は、XRやメタバースへの期待が高い新興国・途上国に注目すると良いかもしれません。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

なお、当メディアへのご意見・ご感想は、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集部の問い合わせアドレス(nbi_info@icnet.co.jpや公式ソーシャルメディア(TwitterInstagramFacebook)にて受け付けています。『NEXT BUSINESS INSIGHTS』の記事を読んで海外事情に興味を持った方は、是非ご連絡ください。