【西田宗千佳連載】ハイエンドMacが値上げなのにお得感が出ている理由とは?

Vol.160-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は9万9800円(税込)から購入できる「MacBook Neo」の話題。教育市場での普及を目指す狙いと、他のMacBookとの違いを解説する。

今月の注目アイテム

アップル

MacBook Neo

9万9800円~

13インチのLiquid RetinaディスプレイとA18 Proプロセッサーを搭載し、高度なAI性能を実現。アルミ製ボディは軽量で、最大16時間の駆動が可能だ。カラーはブラッシュ、インディゴ、シルバー、シトラスの4色が揃う。

↑驚くほどの低価格で登場した「MacBook Neo」。

3月第1週には、MacBook Neoだけでなく複数のアップル製品が発表された。他のMacについても、「MacBook Air(M5版)」と「MacBook Pro(M5 Pro/M5 Max版)」が発表されている。

MacBook Neoは低価格製品だが、MacBook AirやMacBook Proは違う。MacBook AirはM5版になって、最も安価なモデルが2万円値上げ、M5 Pro版も4万円の値上げとなっている。

これは単純な値上げではない。ストレージが倍増しているからだ。MacBook Airでは最低容量が256GBから512GBに、MacBook Pro(M5 Pro版)では512GBから1TBへ、そしてM5 Max版では1TBから2TBへと変わった。この増量を考えると、実質据え置きもしくはやや値上げという水準に落ち着く。

とにかく安く買いたかった人にはマイナスかもしれないが、ストレージ増量は基本的にはお得だ。そういう意味では、MacBook Neoとそれ以上の製品の間が広く設定され、上を選ぶか下を選ぶかが明確に分かれたと考えるべきかもしれない。

こうした選択の理由は、メモリーやSSDに使うフラッシュメモリーの価格が高騰しているためでもある。容量が増えることは価格高騰と逆行するように見える。だがこれは、商品在庫の観点で言えば、容量の少ない製品を作らないということになり、それだけ在庫を減らせる。小容量製品のためのパーツを用意しなくてよくなるので、製造効率が上がるのだ。パーツ単価上昇で値上がりを防げない以上、“値上げをしつつお得感を出す”といううまいやり方だ。

その一方、公式サイトのラインナップではある変化が起きている。超大容量製品や低価格オプションがひっそりと姿を消したのだ。

Mac Studioの「メインメモリー512GB構成」が選べなくなっているほか、MacBook Pro(M5 Pro/Maxモデル)においては、かつて存在した小容量の「256GB/512GBストレージ構成」が廃止され、最低でも1TBからのスタートとなっている。

これはおそらく、大容量メモリーの調達が難しいことと、調達したとしても顕著な値上げになることから選択された可能性が高い。

アップルとしては一般向けの製品は大幅値上げを避けつつ、大量のメインメモリーやストレージを搭載した製品では調達の事情を考えた上で提供可能な範囲で価格を定め、販売していることになる。

昨今はAIのローカル活用を目指し、128GB以上のメモリーを搭載したMacを求める開発者も増えている。しかし現在、Mac Studioの最大構成は256GBに制限され、かつて存在した512GBという圧倒的な選択肢は提供できなくなっていることはある種の機会損失である。

だが、事情はWindowsにおいても同様だ。むしろ高性能GPUの調達も難しい分、ハイエンドWindows PCの購入には逆風が吹いている部分もある。 メモリー高騰は最短でも2027年後半まで続く可能性が高い。アップルを含めたメーカーは、マスに売れる製品では価格を維持していくだろうが、上位機種にはどうしてもしわ寄せが出る可能性が高い。


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【西田宗千佳連載】想像以上に快適!「iPhone用プロセッサー」で動くMacBook Neo

Vol.160-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は9万9800円(税込)から購入できる「MacBook Neo」の話題。教育市場での普及を目指す狙いと、他のMacBookとの違いを解説する。

今月の注目アイテム

アップル

MacBook Neo

9万9800円~

13インチのLiquid RetinaディスプレイとA18 Proプロセッサーを搭載し、高度なAI性能を実現。アルミ製ボディは軽量で、最大16時間の駆動が可能だ。カラーはブラッシュ、インディゴ、シルバー、シトラスの4色が揃う。

↑驚くほどの低価格で登場した「MacBook Neo」。

MacBook Neoは、プロセッサーに「A18 Pro」を採用している。これは2024年秋発売の「iPhone 16 Pro」シリーズに使われたもの。これまで、Macには「M1」「M5」などの「Mシリーズ」プロセッサーが使われてきたが、ここではより性能の低いものが選択された。

その理由は、量産されていてよりコストが安いプロセッサーだからだ。メモリーもiPhone用のものと同じ8GBで、他のMacよりも少ない。現在他のMacのメモリーは16GBからで、半分になっている。

iPhone用でメモリーが8GBしかないということで、発表直後には「性能は大丈夫なのか?」という声も多く出た。しかし実際に試してみると、性能面での懸念は杞憂に終わった。

もちろん、上位機種ほどは速くない。価格が2倍であるMacBook Air(M5版)は、MacBook Neoに比べ2.5倍以上の性能を持つ。価格以上の差があるといってもいい。だが、MacBook Neoは意外なほど快適だ。web閲覧や文書作成などで性能不足を感じることはないし、4Kの動画編集などもこなせる。

ただし、動画編集や写真加工後に書き出したり、ソフト開発のために巨大なデータを使ったりすると、上位機種に比べてかなり待たされる。それらの作業をする人々はなんらかの仕事のプロであることが多く、1分1秒を短縮することが、仕事の効率化につながる。それらの人々は、上位機種に投資して時間を買うほうが良い。

だが、学生なら“まず何でもできること”を求めるだろう。作業時間はかかっても価格が安く、自分で買えることが最優先だ。またビジネスパーソンの中にも、そこまでヘビーな作業をしないという人は多いはず。その場合、いままでは“最も安価な機種”としてMacBook Airを選んでいたかもしれないが、それがMacBook Neoに切り替わる可能性もあるだろう。

低価格機種がここまで快適な製品になるのはうれしい誤算だった。日本での「10万円以下」という価格はインパクトがあるが、アメリカでの「600ドル以下」という価格は、もっとインパクトを持っている。

このことはMacユーザーだけでなくWindowsユーザーにも影響を持つ。現状、Windowsには快適な低価格機種があまりない。メモリーを16GB搭載していないと快適にならないこと、コスト重視のx86系プロセッサーでは求める性能が出づらいことが理由だ。ミドルクラス以上ならMacとWindowsの差は大きなものではなく、ハードウェア構成によってはWindowsのほうが高性能。しかし、低価格機種での差は、MacBook Neoの登場で目立ってきてしまった。

マイクロソフトは「2026年中にWindowsの使用メモリー量を削減する」とのコメントを出しているが、その結果として8GBで快適な低価格機になるかはまだわからない。

仕事環境などの影響もあるので、低価格機種があるからWindowsからMacへの移行者が増えるというほど簡単なものではない。

とはいえ、PC市場に新しいインパクトをもたらす存在だったのは間違いない。2026年後半に向けてどのような変化が現れるか、楽しみではある。

では、同じMacの中で、上位機種にはどう影響が出たのだろうか? この点は次回解説する。


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【西田宗千佳連載】ゴム足の色まで徹底!MacBook Neoがカラバリにこだわった理由

Vol.160-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は9万9800円(税込)から購入できる「MacBook Neo」の話題。教育市場での普及を目指す狙いと、他のMacBookとの違いを解説する。

今月の注目アイテム

アップル

MacBook Neo

9万9800円~

13インチのLiquid RetinaディスプレイとA18 Proプロセッサーを搭載し、高度なAI性能を実現。アルミ製ボディは軽量で、最大16時間の駆動が可能だ。カラーはブラッシュ、インディゴ、シルバー、シトラスの4色が揃う。

↑驚くほどの低価格で登場した「MacBook Neo」。

アップルの新製品である「MacBook Neo」が好調だ。10万円を切る価格に加え、4色のカラーバリエーションも人気の理由だろう。

カラーバリエーションは、低価格製品で展開されやすい施策ではある。だが、一般的なカラーバリエーションより、MacBook Neoのものは徹底している。

例えばキーボード。同じMacでも、他機種ではキーの色は共通が基本だ。同じカラーバリエーションがあるiMacやMacBook Airも、キートップの色は製品で共通になっている。iMacは全モデル白だし、MacBook Airは黒。サイズが違っても同じキーを使っている。

しかし、MacBook Neoではカラーごとにキーの色を変えている。ここまでやる製品は意外と少ないし、アップル製品の中でも破格な扱いだ。

さらに、本体底面の「ゴム足」の色も凝っている。MacBook AirもMacBook Proも黒なのに、MacBook Neoは本体色に合わせた色になっている。ここまで凝った製品はほとんど例がない。

多くの製品では、部品はできるだけ共通化を目指す。大量に同じパーツを使ったほうがコストは下がるし、管理も楽になるためだ。プロセッサーやバッテリーなど、どうしても変えなくてはいけない部品はともかく、キーやゴム足のように共通化可能なものは共通化してしまうことが多い。

しかしアップルは、リスクの高い低価格機種でカラバリを徹底した。コストを下げたい機種であえてコストがかかるやり方を選んだのは、この製品にとって「カラバリの徹底が大きな価値を持つ」と考えたからだろう。

低価格なMacBook Neoは、若年層にとって初めてのPCであり、初めてのMacになる可能性が高い。そこでは無味乾燥なデザインのものよりも、個性を演出できるカラーが望ましい。

他方で、製品に付属する電源ケーブルとACアダプターは白。どちらも過去にiPhone用・iPad用などで大量に作られたものが使われている。ここまではカラバリを徹底せず、量産でコストが下がりきったものを選んだ……ということなのだろう。

こだわるところはこだわって質感を維持する一方で、量産でコストを下げたものを採用して全体の価格を下げるというやり方は、非常にアップルらしいやり方だ。MacBook NeoがプロセッサーとしてiPhone用の「A18 Pro」を使っており、メインメモリーも8GBに制限しているのも、iPhoneという「年間に数千万台製造される製品の量産力」を徹底的に生かしたやり方といっていいだろう。

では、iPhoneのプロセッサーをMacに使うという選択は、製品にどのような影響を与えたのだろうか? その辺は次回解説する。


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【西田宗千佳連載】「MacBook Neo」、教育市場でChromebookと真っ向勝負!

Vol.160-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は9万9800円(税込)から購入できる「MacBook Neo」の話題。教育市場での普及を目指す狙いと、他のMacBookとの違いを解説する。

今月の注目アイテム

アップル

MacBook Neo

9万9800円~

13インチのLiquid RetinaディスプレイとA18 Proプロセッサーを搭載し、高度なAI性能を実現。アルミ製ボディは軽量で、最大16時間の駆動が可能だ。カラーはブラッシュ、インディゴ、シルバー、シトラスの4色が揃う。

↑驚くほどの低価格で登場した「MacBook Neo」。

アップルにとって重要な教育市場向けモデル

3月5日、アップルはMacの新ラインとして「MacBook Neo」を発表した。日本での価格は9万9800円からだ。

サイズは「MacBook Air」からあまり変化していないが、価格は9万円以上安い。若年層が狙いなのは明らかだ。キーボードの色も白をベースに、ボディカラーに合わせてそれぞれ調色されている。

こうした低価格製品が必要な理由は、それだけアップルにとって教育市場が大切である、という話でもある。

MacBook Neoはアメリカだと599ドルから。それが教育機関・学生向けにはさらに100ドル値引きされ、499ドルになる。日本向けだと8万4800円からでこれでも十分安いのだが、アメリカの感覚に合わせていえば「6万円の製品が5万円で買える」のに近い。

教育現場でもPCは必須の存在。この市場では、グーグルのChromebookとの競合が激しい。ウィンドウズPCは低価格製品で快適な製品が少ないので対抗し得るのだが、Chromebookは低価格でもそれなりに快適に使えて、教育現場での管理も容易。そのこともあって、Chromebookの勢いは大きい。

アップルはiPadを教育市場向けに提供している。これはこれで好評だが、キーボードよりもカメラ・タッチなどが重視されており、比較的低い年齢層に向けたものになっている。しかし高校生・大学生世代となると、キーボードを軸に据えた製品であることが求められるようになってくるのだ。

そうすると、やっぱりMacに対するニーズは大きかった。近年は低価格MacとしてMacBook Airの低価格モデルが充てられていたのだが、それでも価格は1000ドル程度。教育市場では500ドルくらいであることが求められ、Chromebookはその市場にマッチしており、一定の評価を得ている。

アップルとしては教育市場への対応が急務だったので、今回MacBook Neoを作って対抗することにしたわけだ。

プロセッサーは「Aシリーズ」を採用

他のMacとの違いは、プロセッサー性能とメモリー量、ストレージ量だ。Mac向けは「Mシリーズ」が採用されてきたが、今回は初めてiPhoneに使われる「Aシリーズ」になった。具体的には、iPhone 16 Proに使われている「A18 Pro」のMacBook Neo版を採用した。

面白いことに、プロセッサー自体の性能では、iPhone 16 Pro向けのほうが、MacBook Neo向けより性能が良い。GPUコアが1つ少ないのだ。メモリー量は8GBで同じ。iPhoneとしては多めだが、Macとしてはギリギリの容量でもある。細かく仕様を選び、とにかく価格を重視したことが見えてくる。

一方で、今回同時期に発表された「MacBook Air」や「MacBook Pro」は、プロセッサーを進化させただけでなく、メインメモリーは最低16GB。ストレージも、MacBook Proは最低1TBからと増量されている。その分最低価格は若干上がったが、同容量のストレージで比較すると、前のモデルより安くなった。

こうした選択には昨今問題となるメモリー価格の高騰も影響している。どういうことかは次回以降で解説したい。


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【西田宗千佳連載】アップルはまだ勝てる? 見えてきた「スマホAI競争」の焦点

Vol.159-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はアップルがグーグルの生成AI「Gemini」の技術を「Apple Intelligence」に活用する話題。他社の技術を用いる必要性が生まれた要因は何か。

今月の注目AI

アップル

Apple Intelligence

iPhoneやiPad、Macで利用できる“アシスタント”的なAI。情報はデバイス内で処理されるため、セキュリティ面での安全性が高い。ただしChatGPTやGeminiなどの生成AIと比較して、その立ち遅れが指摘されている。

↑AIレースで遅れを挽回できない「Apple Intelligence」。

スマートフォンでAIを使う上で重要な要素はどんなものになるのか?

どの企業も方向性は同じであるようだ。それは「プロアクティブ(自発的)に動作する」ことと考えていいだろう。

現在、多くのAIサービスではまず、プロンプトの形で情報や命令を与える。検索や会話に使うならこれでいいだろう。

一方で、人間は意外とやってほしいことを正確に伝えるのが苦手な生き物だ。「あれ、よろしく」みたいな形で家族や友人にお願いして、「あれ」の解釈が間違っていて大変なことになった記憶はないだろうか。やってほしいことを正しく順番にAIに伝えるには、自分自身が「やってほしいことの中身とは何か」を明確に理解しておく必要がある。

常に素早く、正確に命令できる人は意外と少なく、その点がプロンプト(命令)を活用するAIサービスの抱える課題の1つになっている。

だからこそ、多くの人が使うスマホ向けのAIサービスでは、「シンプル」と「プロアクティブ」が重要になる。画像から自動的に日時を読み取って予定を登録するボタンを出す、といった機能は、シンプルかつプロアクティブなAIの好例だ。

ただそれだけでは、「AIで新しいスマホがほしくなる」ところまではいかないだろう。もっと便利な機能が必要になる。

現状、それが何かはまだ見えていない。だが、必要なことはいくつかわかっている。

1つ目は、利用者がスマホの中で取った行動を理解することだ。誰とどんなメッセージをやりとりしたのか、いまどこへ向かっているのか、次の予定はどんなものかといった、その人の行動に関わる情報をAIが理解し、それに合わせて動く必要が出てくる。オンデバイスAIや、プライベートなクラウドを使ったAIが必要と言われるのはそのためだ。

2つ目は、多様な情報を賢く把握し、やるべきことを順番にこなしていけること。これは「AIエージェント」として注目されているものだが、複数のAIモデルが動く必要があるし、1つひとつのAIモデルが賢いものである必要も出てくる。

実のところ、アップルが2024年にApple Intelligenceを発表した段階では、「シンプルでプロアクティブなAI」の姿が提示されていた。しかし、アップルが現状持っているAIモデルでは理想を実現できず、中核となる「改良したSiri」の提供は2026年に延期されている。Geminiをアップルが導入するのも、AIモデルに関する課題を解決するためなのだ。

逆に言えば、Geminiを持っているGoogleは同じことが可能という話にもなる。サムスンが2月末に発表した「Galaxy S26」シリーズでは、シンプルでプロアクティブなAIをアピールしている。

持っている技術が横並びになっている今日の状況は、利用者にわかりやすくて実効性の高い機能をいかに搭載するかの競争になっている、と考えればいいだろう。

そして、その勝ち負けは2026年中にある程度見えてくることになりそうだ。


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【西田宗千佳連載】スマホ向けAIの“第3の道”。プライベートなクラウドAIとは?

Vol.159-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はアップルがグーグルの生成AI「Gemini」の技術を「Apple Intelligence」に活用する話題。他社の技術を用いる必要性が生まれた要因は何か。

今月の注目AI

アップル

Apple Intelligence

iPhoneやiPad、Macで利用できる“アシスタント”的なAI。情報はデバイス内で処理されるため、セキュリティ面での安全性が高い。ただしChatGPTやGeminiなどの生成AIと比較して、その立ち遅れが指摘されている。

↑AIレースで遅れを挽回できない「Apple Intelligence」。

スマートフォン上で動くAI向けには、クラウドで動く最新の大型AIモデルだけでは成り立たない。コストを抑えたり、プライバシーを守ったり、反応速度を上げたりするには、オンデバイスAIを組み合わせることが必須となる。

一方で、オンデバイスAIはモデルが小さいがゆえに、賢さの面ではどうしてもクラウド上のAIに劣る。

では、どうしたらいいのか?

アップルやグーグルが考えているのは、「プライベートなクラウドAIを併用すること」。この技術は、アップルでは「Private Cloud Compute」、Googleでは「Private AI Compute」という名前で呼ばれている。細かな仕組みやハードウェアの構成は異なるものの、考え方自体は似ている。

AIの処理内容によっては、デバイス内の処理能力だけでは追いつかないことがある。そのときには処理する先をクラウドに変える。しかし、このクラウドは一般的なものではない。一時的に「その人専用のAI処理クラウド」を用意し、処理が終わったら速やかにデータも記録も捨てる。正確に言えば「記録しない」。こうすることでプライベートな状態を維持しつつ、処理能力が必要なときにはクラウドを使うことができる。

メーカーにとってクラウドの運用コストは負担だが、スマホのAI処理性能が上がる、もしくはAIモデルの改善によって必要な処理負荷が減ると、クラウドへの依存度を減らしていくことも可能になってくる。

グーグルでAndroidのプラットフォームエンジニアリング担当バイスプレジデントを務めるエリック・カイ氏は、「こうした3つのAIの使い分けは、我々にとって最先端の悩みであり、明確な答えが出ているわけではない」と語る。しかし、「すでに必須の考え方である」とも話す。

スマホの中で賢くAIを使うには、AIモデルの使い分けが必須になる。グーグルやアップルはOSの中でそれを積極的に行い、サムスンなどはその上で自社AIを使って差別化要素を追加していくことになる。

そして、なによりも大きな課題になるのは「AIで実際に何をするのか」ということだ。そこはAIモデルの賢さだけでなく、ソフトやサービスをどう設計するか、という部分が大きい。少なくとも現行製品において、どのスマホメーカーも「AIがあるからスマホを買いたい」という機能を実現してはいない。

では、そんな「スマホが買いたくなるAI」はどういう形で生まれてくるのだろうか? それは次回説明したい。


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【西田宗千佳連載】スマホに求められるAIはクラウド型でもオンデバイス型でもない?

Vol.159-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はアップルがグーグルの生成AI「Gemini」の技術を「Apple Intelligence」に活用する話題。他社の技術を用いる必要性が生まれた要因は何か。

今月の注目AI

アップル

Apple Intelligence

iPhoneやiPad、Macで利用できる“アシスタント”的なAI。情報はデバイス内で処理されるため、セキュリティ面での安全性が高い。ただしChatGPTやGeminiなどの生成AIと比較して、その立ち遅れが指摘されている。

↑AIレースで遅れを挽回できない「Apple Intelligence」。

AIには、学習の結果作られた「AIモデル」の存在が必須だ。同じ名前のAIであっても、用途によって異なるAIモデルを併用していることは珍しくない。名前が出ていなくても、すでにスマートフォンの中では「画像認識用AIモデル」「音声認識用AIモデル」「翻訳用AIモデル」など、複数のAIモデルが搭載され、併用されている。

では、スマホにこれから必要とされるAIモデルとは、どんなものなのだろうか?

「賢いもの」と言ってしまえばそれまでだが、万能性の高いAIモデルを組み込もうとしても、性能・実用性の限界が存在する。

「ChatGPT」のような最新のAIサービスは、クラウド上のAIデータセンターで動いている。高性能なGPUと、それを動かすために必要な冷却機構、電力を供給するためのインフラなどの組み合わせで動作しており、とてもスマホのCPU・GPUで動かせる規模のものではない。

クラウドですべてを処理し、その結果を受け取るだけであれば、スマホの上でも問題ない。ChatGPTやGeminiのアプリで動くAIは、ほとんどがこの仕組み。アプリはサービスを使いやすくするためのインターフェースということになる。多くの人にとっては可能な限り賢いAIであることが望ましいだろうから、クラウドで処理されること自体は悪いことではない。

ただし、クラウドで処理される巨大なAIモデルを使う場合には3つのリスクがある。

1つ目はコスト。大量の設備投資を経た最新のクラウドインフラの運営コストは大きく、電力だけでも供給は簡単ではない。多くのサービスでは、無料プランでは最新でも、最も賢いものではないAIモデルが提供され、高価な会員サービスから良いものを提供するパターンになっている。スマホ代のほかにAIサービス利用料の支払いが必須、となると、多くの人には厳しい負担だ。だがオンデバイスAIなら、スマホの電気代くらい。負担はほとんど増えない。

この問題に対処するため、OpenAIは自社のサービスに広告モデルを導入するとしているが、そうなると次の問題が出てくる。

2つ目の問題はプライバシー。クラウドにデータを預けて処理するとなると、そのデータはクラウドに蓄積されるのが一般的。しかし、通話内容のようにプライベート性が高い内容について、すべてをクラウドに預けるのは不安と感じる人もいそうだ。すでにメールやファイル、AIとのチャット履歴はクラウドにあり、それを技術と契約の双方で縛っている状況だ。だから“いまさら”という話でもあるが、広告モデルが導入される可能性の前では、少し慎重にならざるを得ない部分がある。

3つ目は処理速度。クラウドを介すると、反応速度はどうしても遅くなる。検索のように「質問して回答を待つ」なら多少時間がかかってもいいが、スマホの中での動作のように素早く答えてほしい場合、クラウドでの処理は不利になる。

そんなこともあり、スマホの中でのAIモデルは「コンパクトで、スマホの中で処理が完結する」、俗にいうオンデバイスAIであることが望ましい……という話になる。

だが、オンデバイスAIでは処理能力が足りないのも事実。これまでのスマホ向けAIがイマイチだったのも、AIの能力が足りなかった部分が大きい。Apple IntelligenceがGeminiを導入することになったのも、賢いオンデバイスAIを求めてのことだ。

とはいえ、実際にはクラウド上のAIとオンデバイスAI、さらには「第3のAI」とのセットが使われることになると予想される。第3のAIとは何か、その組み合わせとはどんなものなのか。

その点は次回解説したい。


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【西田宗千佳連載】Siri改善のための時間稼ぎ? アップルが「Gemini」を採用した理由

Vol.159-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はアップルがグーグルの生成AI「Gemini」の技術を「Apple Intelligence」に活用する話題。他社の技術を用いる必要性が生まれた要因は何か。

今月の注目AI

アップル

Apple Intelligence

iPhoneやiPad、Macで利用できる“アシスタント”的なAI。情報はデバイス内で処理されるため、セキュリティ面での安全性が高い。ただしChatGPTやGeminiなどの生成AIと比較して、その立ち遅れが指摘されている。

↑AIレースで遅れを挽回できない「Apple Intelligence」。

「Siri」が改善せずAIで立ち遅れる

アップルは同社のAIサービスである「Apple Intelligence」の基盤について、大きな決断を下した。グーグルから同社のAI技術「Gemini」の提供を受け、カスタマイズして搭載することにしたのだ。

発表は1月12日、グーグルから両社の提携という形で発表された。ただし、発表内容は簡潔なもので、技術の詳細が語られたわけではない。また、アップル側からは明確な発表はない。

これはどういうことなのか?

アップルは2024年6月にApple Intelligenceを発表したが、発表した通りの機能はいまだ実現されていない。主な理由は、AIアシスタントである「Siri」の改善が進んでいないためだ。メッセージやアプリの利用履歴、いま行っている作業を画面から把握し、より利用者の意図にあった形で作業を助けてくれる機能の実装が予定されていたのだが、その実現は「2026年まで延期」とされている。現状使用しているAIモデルでは、能力が不足しているためだ。

そのためアップルは、Apple Intelligenceで使うAIモデルの改良に取り組んできた。しかし、アップルが独自開発していたものでは機能提供に時間がかかると判断された。2025年に「改良版Siriの提供を延期する」と発表された段階で、他社からの提供を含めた選択肢の検討が始まっていたと考えられており、その提供元が今回決まったということだろう。

改良版のSiriは段階的に提供され、早ければ第1弾はこの春にもOSのアップデートとともに使えるようになる可能性がある。実際のApple Intelligenceの改良は、おそらく、2026年秋公開の「iOS 27」などの新バージョンOSから実施されていくと見られる。

AI開発に立ちはだかる時間とコスト

アップルがGeminiを採用するといっても、グーグルがスマホに搭載しているGeminiと同じ機能がiPhoneなどに搭載されるわけではない。アップルがカスタマイズしたうえで、OSの中の機能として使われる。そのため、Geminiという名前がアップル製品の中で使われることもないだろう。あくまで「AIモデルのベースとしてGeminiが使われる」に過ぎない。

アップルがこうした選択をしたのは、優秀なAIモデルを自社だけで短期間で作るのが難しいからだろう。より高性能なAIを作ることは可能だが、時間もコストも必要となる。そこで、他社から優秀なAIモデルの提供を受けることで、学習にかかる時間をお金で買ったわけだ。

逆に言えば、アップルはこれ以上、Apple Intelligenceの提供を遅らせることはできなかった。だからこそ、機能提供を最優先に戦略を立てている、ということでもある。

すなわち「アップルがAIで遅れている」ということにほかならないのだが、「スマホ上のAI機能の競争」では他社との勝負がついていない、という話でもある。良い機能を提供できれば、他社との競争には勝てる……という想定なのかもしれない。

では、スマホ上のAIに必要なAIモデルとはどんなものなのか? そして、そこで各社の差はどう生まれるのだろうか? その辺は次回以降で解説する。


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【西田宗千佳連載】新車や代車でも自分の乗り味はそのまま? AFEELAの“スマホ化”に必要なこと

Vol.158-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は2026年のCESで発表されたソニー・ホンダモビリティが手掛けるEV(電気自動車)「AFEELA(アフィーラ)」の話題。これまでのEVと異なる点と課題は何か。

 

今月の注目アイテム

ソニー・ホンダモビリティ

AFEELA 1(アフィーラ ワン)

8万9900ドル~(約1400万円※)

※1ドル=約154.7円で換算(2026年1月30日現在)

↑2023年のCESで初披露されて以降、毎年改良型のプロトタイプを展示。40基のセンサー搭載により安全運転を支援するほか、ソニーの立体音響技術を生かした、理想の没入空間を実現する。第1弾は2026年内に出荷予定だ。

ソニー・ホンダモビリティが2026年後半に米国西海岸で出荷を予定している「AFEELA 1」は、乗る人に合わせて挙動や内部環境が変わることを1つの特徴としている。シートの位置が自動的に調整されるのはもちろん、走り味なども、乗ったドライバーに合わせたものに変わるという。

こうした要素自体は、高級車を中心に他社も取り組んでいる要素ではある。とはいえ、AFEELAという新しい自動車を作るとき、“乗る人に合わせて変わっていく”ことを徹底するのが自動車としての差別化要因である……と考えていたのは間違いないだろう。ソニー・ホンダはAFEELAを開発する中で“スマホのようなクルマ”と称している。それはアプリが動くという要素だけでなく、スマホが“持ち主に合わせた中身になる”ことを意識した発言でもある。

そのときに大切になるのは、“自動車の走行・駆動情報をクラウドに蓄積して利用する”ことだ。

スマホではアカウントで利用者を区別する。Amazonのようなショッピングサービスでも同様だ。自分がどのようなことをしたのか、どのような使い方を好むかが蓄積され、それに応じた情報をサービスやハードウェアが使うことで、“自分のためのサービス”になっていく。いまのスマホなら、インストールしたアプリの情報やメッセージの履歴などがクラウドに記録されており、新機種に乗り換えたり、故障などでスマホの本体を交換したりした場合などでも、元通りの環境にするのは難しくない。

これが自動車でも起こるわけだ。

新車に乗り換えても、故障で代車が来たときでも、自分の“乗り味”はそのまま引き継がれる。走行時に蓄積されたデータはAIとのコミュニケーションの際に使われ、対応するAIは、新車からも同じように対応する。自動車に乗っていないときに、スマホから自動車に紐づいたAIと対話することもできるだろう。

こうした要素を考えていくと、“ソフトウェアで価値が変わるクルマ”の根幹が“自動車とそれに紐づくユーザーの管理”にあることが見えてくる。

いまも高級車では、自動車のメンテナンスについて、車内に蓄積されたデータなどから“いつディーラーにメンテナンスを依頼すべきか”を判別するようになっている。その流れが、ソフトで変化するEVではさらに加速し、自動車と人の関係を変える要素になっていく。サブスクリプションモデルなどで、購入の際にどうお金を払うのか、という部分への変化にもつながるだろう。

同じようなことはどの自動車メーカーも考えている。そのなかで、ソニー・ホンダは“日本車として、ソフト+クラウド前提の製品を作る”ことありきでスタートする。

その内実がどこまでうまくいっているのか、そして、消費者に対しての価値としてどうわかりやすく反映されているかは、まだまだ未知数な部分が多い。日本では2027年前半の出荷を予定しているが、それまでにどうわかりやすく、既存の自動車との違いを示すかが、同社にとっての大きなテーマになるだろう。


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【西田宗千佳連載】全貌はまだ見えないが…AFEELAの売りはカスタマイズ性能?

Vol.158-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は2026年のCESで発表されたソニー・ホンダモビリティが手掛けるEV(電気自動車)「AFEELA(アフィーラ)」の話題。これまでのEVと異なる点と課題は何か。

 

今月の注目アイテム

ソニー・ホンダモビリティ

AFEELA 1(アフィーラ ワン)

8万9900ドル~(約1400万円※)

※1ドル=約154.7円で換算(2026年1月30日現在)

↑2023年のCESで初披露されて以降、毎年改良型のプロトタイプを展示。40基のセンサー搭載により安全運転を支援するほか、ソニーの立体音響技術を生かした、理想の没入空間を実現する。第1弾は2026年内に出荷予定だ。

これからの自動車は、ソフトで進化するクルマになっていく。自動運転・先進安全性などの機能アップはもちろん、ほかにも多数の機能が進化していく。自動車内のディスプレイ類は、Androidなどのスマホ・PCに近いOSで独立して動くようになっている。そのため、映像や音楽の配信、ゲームなどといった、従来は自動車内ではあまり重視されなかった要素が、自動車内でより簡単に楽しめるようになる。

自動車の“走る・曲がる・止まる”に関係する部分のソフトウェアと、自動車内での“居住性”に関するソフトウェアの両方が変化しつつある。その先端にいるのがテスラであり、ソニー・ホンダモビリティのAFEELAであるといえる。

一方、AFEELAは2026年1月の段階では、走る・曲がる・止まるがどう進化するのかを明らかにしていない。自動運転について、レベル2からスタートしてレベル4を目指すことは公開されているものの、“乗るとどう快適なのか”“乗るとどう楽しいか”はわからない。そうした部分での情報提供にはもう少し時間がかかりそうだ。

その理由は、ソニー・ホンダが新規事業者なので、販売前に自動車を公道で走らせる許可とナンバーの交付に手間取っているから……だという。製造はホンダが主導しており、許認可の流れもよく知っていそうなものだが、そう簡単なものでもないらしい。

とはいえ、そもそもAFEELAは、高速走行や長距離走行などの、シンプルな要素をウリにした自動車ではない。ソニー・ホンダの開発陣自身が、過去の自動車と同じように、走行性能を強くアピールするクルマではないとコメントしている。そのうえでどんな走りになるのかは、そろそろ知りたいところではある。

ただし、実現できそうな要素はわかってきている。

例えば、カスタマイズ。同じ自動車であっても、運転がうまい人とそうでない人では、曲がり方などの好みが異なる。駐車時になどにどう動くべきか、加速や小回りをどこまで効かせるかなども、運転者の技量や好みで変わる。車高についても、その人の利用環境ではどのくらいが良いのかは変わるはずだ。そこでAFEELAでは、そうした情報をクラウドに蓄積しておき、ドライバーが誰かを判別して、走る際の設定を切り替えられるようにしている。

同じようなことは別の自動車でも可能であり、AFEELA自体にしかない特徴とはいえない。しかし、“乗る人に合わせて設定や走り味を変えていく”という要素がAFEELAの特徴の1つであり、ソニー・ホンダとしても先進性として推していきたい要素であるのは間違いない。

そしてこのことは、“ソフトで価値が変わる自動車”とは、自動車の中で動くソフトによって価値が変わるだけでなく、クラウドの側にあるソフトウェアも大きく関わっている……という話でもある。

それがどういうことなのかは次回説明する。


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【西田宗千佳連載】AFEELAの理想はテスラ?「ソフトで価値が決まるクルマ」とは

Vol.158-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は2026年のCESで発表されたソニー・ホンダモビリティが手掛けるEV(電気自動車)「AFEELA(アフィーラ)」の話題。これまでのEVと異なる点と課題は何か。

 

今月の注目アイテム

ソニー・ホンダモビリティ

AFEELA 1(アフィーラ ワン)

8万9900ドル~(約1400万円※)

※1ドル=約154.7円で換算(2026年1月30日現在)

↑2023年のCESで初披露されて以降、毎年改良型のプロトタイプを展示。40基のセンサー搭載により安全運転を支援するほか、ソニーの立体音響技術を生かした、理想の没入空間を実現する。第1弾は2026年内に出荷予定だ。

これからの自動車では「ソフトウェアが重要になる」と言われて久しい。

EV(電気自動車)になると、動力はモーター。消費電力の最適化でも、快適な乗り心地のうえでも、制御は重要な要素だ。また、自動運転とまでは言わなくとも、ブレーキの補助など、安心・安全に関わる領域でも、ソフトによる制御は必須だ。

ただし、ここで誤解が多いのだが、ソフトの制御が重要という意味では、既存のガソリンエンジン車も変わらない。いわゆるハイブリッド車はもちろんだが、そうでない自動車であっても、大量のコンピューターが車内でさまざまな部分を制御しており、自動車メーカーにおける半導体とそこで動作するソフトの価値は非常に高い。

コロナ禍で自動車の供給が滞ったことがあるが、あれは“自動車で使う半導体が不足した”ことが原因だ。九州・熊本に、TSMCと日本企業が合弁で「JASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)」という半導体製造工場が2024年に稼働した。ここでは現状、スマホやPCで使うような最先端半導体は作っておらず、自動車やイメージセンサーに使う「少し古い技術の半導体」を主に製造している。それらの半導体が不足すると、日本の基幹産業である自動車やカメラに大きな影響が出るからだ。

自動車とソフトは、もう30年も前から切っても切り離せない存在になっていた。だが、利用者がソフトのことを意識する場面は少なかった。あくまで“自動車のなかに組み込まれていて、書き換えられることは少ない存在”であり、意識することは稀だった。

だがEVが増えてきて、自動車に搭載される安心・安全系機能も重要になってくると、自動車のソフトが定期的に書き換えられていく必要が出てくる。

その流れをうまく生かしたのがテスラだ。スマホがOSアップデートで機能アップしていくように、自動車でもアップデートで機能アップさせることで、「これまでの自動車」とは異なることをアピールした。現在は、アップデートや機能追加自体をビジネスモデルに取り込んだ。FSD(Full Self-Driving)と呼ばれる自動運転機能をサブスクで料金を徴収するモデルで提供しているのだ。こうすることで、自動車からの収益源を多角化し、ソフト開発にかかるコストを吸収することを目指している。

日本メーカーも、開発スピードの面でも米国・中国などとの競争が激化しており、自動車の中でのソフト開発負荷が高まっている。開発環境は既存の仕組みから離れ、よりスマホやPC、クラウドで使われている技術に近い方法論へと移りつつある。テスラや新興の中国系自動車メーカーはすでにそうした手法を採用しているが、日本の自動車メーカーは2027年から2030年頃に、そうした“新しいソフト基盤の自動車”が増えてくる段階にいる。

ソニー・ホンダモビリティの「AFEELA」は、旧来の自動車を引きずっていないので、他の日本メーカーよりは先に新しいソフト基盤の自動車として世に出ることになる。

では、そこでどういう部分が変わるのか? それは次回解説したい。


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【西田宗千佳連載】ソニー・ホンダのEVはどうなった?「クルマのスマホ化」の現状と課題

Vol.158-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は2026年のCESで発表されたソニー・ホンダモビリティが手掛けるEV(電気自動車)「AFEELA(アフィーラ)」の話題。これまでのEVと異なる点と課題は何か。

 

今月の注目アイテム

ソニー・ホンダモビリティ

AFEELA 1(アフィーラ ワン)

8万9900ドル~(約1400万円※)

※1ドル=約154.7円で換算(2026年1月30日現在)

↑2023年のCESで初披露されて以降、毎年改良型のプロトタイプを展示。40基のセンサー搭載により安全運転を支援するほか、ソニーの立体音響技術を生かした、理想の没入空間を実現する。第1弾は2026年内に出荷予定だ。

初登場から4年を経ていよいよ出荷開始を発表

ソニーグループと本田技研工業の合弁会社であるソニー・ホンダモビリティは、1月に米ラスベガスで開催されたテクノロジーイベント「CES 2026」に出展。2026年下半期にカリフォルニア州で、電気自動車(EV)である「AFEELA 1」の出荷を開始すると発表した。価格は8万9900ドル(約1400万円)からで、日本向けは2027年上半期より出荷される予定だ。

ソニー・ホンダモビリティは2022年に設立。センサーやロボティクス技術を自動車に生かし、いままでにない製品を作れるのでは……というソニー側と、EV開発への出遅れ感に課題を感じ、既存の自動車開発とは別の形での展開を模索していたホンダの思惑が合致して生まれたプロジェクトでもある。

自動車の生産と販売には独自のノウハウが必要であるため、生産の主体はホンダのオハイオ州イーストリバティ工場で行われるものの、EVをコントロールする制御系や安全運転・自動運転系はホンダとソニーが共同開発、車内エンターテイメントやアプリ制御、クラウド連携といった部分は主にソニー側が担当している。

EVと従来の自動車の違いは「モーターで走ること」ではない。現在は走行やサスペンション制御はコンピュータ次第。ソフトの価値が重要であることに変わりはない。

一方で、中国のEVと米国、特にテスラのEVはそれぞれ別の進化をしており、日本の自動車とも違う進化を遂げている。特に、ソニー・ホンダが意識していたのはテスラだ。

テスラの特徴は、購入後もソフトの改良で自動車が進化し続けることだ。スマホがOSのアップデートで機能アップしていくように、自動運転や車内エンターテイメントが進化し、価値を高めていく。

走行性能や乗り味はいまだ未知数

AFEELA 1も同様の考え方を採る。自動車内のユーザーインターフェースはAndroidをベースとしたOSで作られていて、多数のアプリが動く。音楽や動画配信が使えるのはもちろん、Zoomでビデオ会議もできる。コンソールの表示や位置はタッチ操作でカスタマイズできるし、車内で聞こえる“走行音”も変更可能だ。本来はもちろんモーター音だが、あえて1965年にホンダにF1初優勝をもたらした「RA272」のエンジン音に変えられる。

利用者やドライバーの行動・好みはクラウドに記録され、アプリの提供や音声アシスタント連携、ナビなどの提供に使える。自動車単体では完結せず、クラウド上のサービスも含めてAFEELAを構成するのが特徴だ。こうした発想はテスラや海外高級EVの一部では導入されているもの。ソニー・ホンダはさらに発想を推し進め、“スマホ化したクルマ”路線で勝負する。

一方、同社はまだ“AFEELAの乗り味”についてほとんど言及しておらず、プレスや購入予約者にも試乗会を行っていない。自動車メーカーとしては異例のことで、その点に一抹の不安を感じる。ソフトとクラウドでどう自動車が変わるのか、本質的なところがまだ不透明だ。その狙いがどこかは、次回以降でさらに詳しく考察する。


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【西田宗千佳連載】スマートウォッチと衛星の直接通信で「安否確認」が付加価値要素に

Vol.157-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はApple Watchに新たに備わった「高血圧のパターン通知」機能。あらゆる病気の要因ともなる高血圧にアップルが注目した要因とは何か。

 

今月の注目アイテム

アップル

Apple Watch Series 11

6万4800円~(税込)

↑高血圧パターンの通知のほかに、心電図アプリやバイタルアプリも搭載し、健康状態を理解して最新の情報を受け取れる。睡眠の質を理解して回復力を高めるために毎晩の睡眠データを分析する「睡眠スコア」も利用可能だ。

スマートウォッチにおいて、健康以外の大きな差別化点はどこになるのだろうか?

大きな要素として挙げられるのが「現在位置把握」だ。以前より一部の製品にはGPSが搭載されており、いま自分がどこにいるかを把握しやすくなっている。

これは都市部で使うというよりも、アウトドアなどで使うニーズが多いように思う。通信環境が良くない領域で「自分がどこにいるか」を把握するのは重要だ。スポーツ向けで人気のあるガーミンや、アップルのApple Watch UltraシリーズがGPSに力を入れるのはそのためでもある。

携帯電話網での通信機能を備えた製品もあるが、こちらはむしろ都市部向けだろう。必須というほど人気がある機能ではないが、ジョギングや軽い外出の際、スマホを持たずに出られるという点には価値がある。

また、スマートウォッチでの緊急通報も重要だろう。スマホを含む荷物が手元にないときに事故や災害にあった場合には、スマートウォッチでの通報がライフラインになる。その観点で考えるならば、衛星通信とスマートウォッチの直接接続に注目すべきだ。

Starlinkをはじめとした、スマホと衛星の直接通信はかなり一般化している。だが次に来るのは、スマートウォッチでの直接通信だ。

2025年12月には日本でもApple Watchが衛星通信に対応。従来は緊急通報のみ対応していたが、iMessageでのテキストメッセージ送受信が追加されたうえ、安否確認などにも使いやすくなった。KDDIのStarlink Directに契約している場合、Starlinkでの衛星通信も可能になっている。

現状ここは、Apple Watchが他社を大きく先行している。だが、2026年には他社も追随してくる可能性は高い。

こうした機能は、健康維持向けのものに比べると、スマートウォッチの中では付加価値要素であり、安価な機種には搭載されづらい。携帯電話網での通信を求めた場合、その分通信料金もかかる。この点が急に改善され、お手軽なものになるとは考えづらい。しかし、自分や周囲の安全を意識してコストを払うという発想はあって良いし、おそらくは当面、そこを付加価値として、ハイエンドなスマートウォッチは販売されていくことになる。スマートフォン自体も、より多くの製品・携帯電話事業者が衛星との直接通信を実現してくるものと思われるが、スマートウォッチでの安否確認も拡大していくだろう。


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【西田宗千佳連載】医療機器の計測には及ばないが…医師から見たスマートウォッチの価値

Vol.157-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はApple Watchに新たに備わった「高血圧のパターン通知」機能。あらゆる病気の要因ともなる高血圧にアップルが注目した要因とは何か。

 

今月の注目アイテム

アップル

Apple Watch Series 11

6万4800円~(税込)

↑高血圧パターンの通知のほかに、心電図アプリやバイタルアプリも搭載し、健康状態を理解して最新の情報を受け取れる。睡眠の質を理解して回復力を高めるために毎晩の睡眠データを分析する「睡眠スコア」も利用可能だ。

心拍の変化や運動量、高血圧パターンの通知などによって、スマートウォッチは、健康管理にとって大切な機器に変わってきた。

ただ、これらの情報が実際に「病気への対策」にどう使われるかは、意外と知られていない。

筆者は複数の医師に、スマートウォッチでの計測データについて、その価値を取材したことがある。全員が口を揃えて言うのは「情報はないよりもあったほうがずっといい」という点だ。

計測データの正確性・緻密さだけで言えば、どんなスマートウォッチのデータも、病院で使われる医療機器での計測には及ばない。だが、スマートウォッチの情報には「常に計り続けている」「すぐに測れる」という要素があって、それが重要な価値になっている。

Apple Watchを含め、スマートウォッチの上位モデルには「心電図(ECG)」を測る機能がある。これも、精度自体は高くない。だが、病院の計測機器と異なり、「すぐにその場で計測できる」ことには大きな意味がある。

心臓に関する異常は、あるタイミングでは体感できても、すぐにその傾向が消えてしまうことが少なくない。異常を感じても病院に移動して検査を予約して……という工程を踏んでいる間に、医師が知りたい傾向が失われてしまうことも多いらしい。

そこで、スマートウォッチで簡易的にでも「いつでも」「すぐに」計測しておき、そのデータを医師に見せることで、病気につながる傾向を把握できる可能性が高まるのだという。数値の精度が低くても、医師ならば変化の傾向を見れば状況は判断できるため、「診断の情報はあるほどありがたい」ということになるのだ。

ただし、そうしたデータも、一定の医学的な裏付けがある形で記録されていなければならない。心電図機能や「高血圧パターンの通知」は、効果や精度を検証したうえで「医療機器認定」を受けないと、それらの価値を訴求できない。

安価なスマートウォッチの中には、そうした機能についてきちんとした認定を受けずに販売しているものもある。他国では認証を受けているが日本では違う、というパターンもあるので注意したい。

特に「血糖値の把握」については注意が必要だ。ニーズも高いので「血糖値が測れる」と謳うスマートウォッチやスマートリングも存在するものの、技術的課題が多く、結果の妥当性は検証されていない。日本糖尿病学会も、それらを「付けるだけで血糖値がわかる」とするスマートウォッチについて、「不正確であり、それらの機器は糖尿病の治療に使うべきではない」と警告している。

これらの事情も考えると、価格は高くなるかもしれないが、健康維持を目的にスマートウォッチを買うのであれば、どの機能がどういう形で提供されているかが明確になっている、定評のある大手メーカーのものを選ぶべきだ……という結論になるのである。そのなかでは、各社がデザインや機能を競っている。

ではそんななかで、健康以外の側面での付加価値はどうなっているのだろうか? その点は次回解説する。


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【西田宗千佳連載】どうやってスマートウォッチは市場に定着したのか?

Vol.157-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はApple Watchに新たに備わった「高血圧のパターン通知」機能。あらゆる病気の要因ともなる高血圧にアップルが注目した要因とは何か。

 

今月の注目アイテム

アップル

Apple Watch Series 11

6万4800円~(税込)

↑高血圧パターンの通知のほかに、心電図アプリやバイタルアプリも搭載し、健康状態を理解して最新の情報を受け取れる。睡眠の質を理解して回復力を高めるために毎晩の睡眠データを分析する「睡眠スコア」も利用可能だ。

現在のスマートウォッチにおいて「健康」「安全」が重要なテーマであるのは疑いない。ただ、スマートウォッチが登場したばかりのころは、市場の状況はかなり違った。

Apple Watchを含め、当初の製品で重視されていたのは「スマートフォンの通知を表示する機能」であり、「スマートウォッチの上で動作するアプリ」だった。スマホの持つ一部の機能を腕時計に持たせることで、ある種ポストスマホとしての役割を担わせたかったのだろう。実際、報道などでもそのような流れのものが多かった。

しかしその後、スマートウォッチをポストスマホに位置付ける人はいなくなる。通知がわかっても、小さな画面でできることには限りがあるからだ。スマートウォッチ向けアプリ市場はスマホアプリのようには盛り上がることはなく、一時、スマートウォッチ市場は伸び悩む状況になった。

それが変わってきたのが、フィットネス向けのニーズにシフトしてからだ。フィットネス向けに歩数や走行距離、カロリーなどを検出する「スマートバンド」は、スマートウォッチ登場以前から存在した。振動センサーなどを内蔵すれば作れることはわかっており、スマートウォッチにもその種のセンサーは内蔵される傾向にあった。

ポストスマホ的なニーズが小さくなる一方で、スマートウォッチの「常に付け続ける」という要素から、その情報で運動状況を把握しようという流れが生まれる。アップルで言えば、2014年に「HealthKit」が作られ、iPhoneのなかで持続的にヘルスケアデータが蓄積される仕組みができあがってから、ということになる。もう10年以上が経過しようとしているが、実際にヘルスケアで売り上げが上向いたのは、2017年頃からと言っていい。

その間にセンサーも進化し、活用は容易になってきた。当初は振動検知による歩数計測が中心だったが、その後光学式の心拍センサーが搭載されるようになり、皮膚温や心電図などの計測も可能になっている。

どれも医療用機器に使われるものとは異なるセンサーを使っており、単純な精度という意味では、医療機器に劣る。しかし、長期的に使うこと、それらデータから統計的価値を計測することで、各種計測値を「生活のなかでの傾向」として捉えるようになっているのが特徴だ。

例えば、皮膚温センサーは体温計ではなく、皮膚温が睡眠中などにどう変化するかで、特に女性の体調を把握するために使われている。Apple Watchで2025年年末から可能になった「高血圧パターンの通知」も、あくまで、30日にわたる各種情報から「高血圧になっている可能性がある」ことを通知するもの。血圧そのものを測るわけではない。

このような形になっているのは、「手につけるだけ」「低コスト」という条件で測れるデータには制限があるからだ。だが、そのような制限があっても、体調悪化の事前把握や健康状態の把握には有用と判断されている。 では、そうした情報は医療の現場でどう捉えられているのか? その点は次回解説していく。


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【西田宗千佳連載】Apple Watchが「高血圧傾向の通知」に対応した意義

Vol.157-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はApple Watchに新たに備わった「高血圧のパターン通知」機能。あらゆる病気の要因ともなる高血圧にアップルが注目した要因とは何か。

 

今月の注目アイテム

アップル

Apple Watch Series 11

6万4800円~(税込)

↑高血圧パターンの通知のほかに、心電図アプリやバイタルアプリも搭載し、健康状態を理解して最新の情報を受け取れる。睡眠の質を理解して回復力を高めるために毎晩の睡眠データを分析する「睡眠スコア」も利用可能だ。

高血圧の兆候を検出したデータから通知

2025年12月4日より、「Apple Watch」で「高血圧パターンの通知」機能が日本で使えるようになった。この機能は、iOS 26とwatch OS 26の新機能として同年の秋から多くの国で利用可能なものだったが、日本では、医療関連機器の有効性や安全性を確認する「薬機法」への対応準備に時間が必要となり、3か月遅れでの対応となった。

「高血圧パターンの通知」機能は、30日間にわたってデータを解析し、高血圧パターンの兆候が一貫して検出された場合、利用者に通知するもの。すでに高血圧と診断された人の状況を把握するのが目的ではなく、高血圧である可能性を把握していない人に通知し、医師への相談や生活習慣の変更を促すものだ。

実は高血圧パターンの認識に専用のセンサーが搭載されているわけではない。心拍数を把握するセンサーから得られる情報をさらに解析し、その結果から推測する。だから「高血圧の検出」ではなく「高血圧パターンの認識」と表現されるのだ。普段心拍を計るための仕組みを応用するので、バッテリー動作時間などにも大きな影響は出ない。「高血圧パターンの認識を使う」と設定を変えるだけで、誰もが使える。前出のように、高血圧だとわかっていない人が状況を把握するには適切な仕組みだ。

新しいセンサーを必要としないため、最新機種だけでなく、2023年9月発売の「Apple Watch Series 9」や「Apple Watch Ultra 2」以降の機種でも利用できる。それ以前のモデルで対応していないのは、データの処理に十分な性能のプロセッサーが必要であり、それはSeries 9以降で使われている新しいものでないといけないという事情がある。

「健康と安全」において他と差別化を図る

Apple Watchはすっかり「健康や安全」に寄り添う方向性のデバイスに変わった。初期には“iPhoneからの通知”“Apple Watch専用アプリ”にフォーカスしていた部分があるが、多くの人に本当に刺さったのは「健康や安全」のためのデバイスになったということだ。

特に現在は2つの点で大きな変化が現れている。

1つ目は、シンプルに脈拍や体温などの数値を取得して使うのではないということ。ずっと付けていてもらうことを前提に、“その人の生活のなかで健康上考慮しておくべき情報”を提示する。そのためには高度なデータ解析が必要であり、スマートウォッチ自体の高性能化とスマホ連携が必須である。

2つ目は緊急通報。スマホ連動して、いざというときに通報という仕組みもあるが、それに加え、最新機種では衛星通信と連動した。auのスターリンク・ダイレクトがApple Watchでも使えるようになり、山間部などの携帯電話網が使えない場所での緊急事態に対応できる。

これらはみな、低価格なスマートウォッチに対する差別化であり、対抗策と言える。そして、「健康と安全」は誰もが求めるものであり、お金を払うに値するものということだ。

こうした動きはアップルだけのものではないし、スマートリングもある。その辺の動きは次回解説していく。


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【西田宗千佳連載】据え置き機の発売に動いたValve。その重要な意味とは?

Vol.156-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はマイクロソフトとASUSが共同開発したポータブルゲーミングPCの話題。携帯ゲーム機ではなくゲーミングPCを選んだ理由とは何か。

 

今月の注目アイテム

ASUS・マイクロソフト

ROG Xbox Ally

8万9800円(税込)

↑Windowsをゲーム向けに最適化した「ROG Xbox Ally」シリーズ。

前回の連載で解説したように、マイクロソフトは“プラットフォーム上でのゲーマー同士の連携”を重視している。要は“プレーしている人々の友人関係”と“それをベースとしたゲーム提供基盤”をプラットフォームと定義し、PCでも家庭用ゲーム機の上でも同じ「Xbox」というプラットフォームを展開する……という考え方だ。

その背景にあるのは、家庭用ゲーム機とPCで同じゲームが出るようになってきたことにある。

マイクロソフトはその考え方をさらに広げ、ゲームをライバルであるPlayStation 5にも提供するようになってきた。ゲーム販売機会を拡大するためだ。

この辺はソニーも似ている。PlayStation 5というプラットフォームはそのままに、いくつかのタイトルはPCにも出すようになった。ネットワークゲームではPCも大きな市場であること、コストをかけて作った大型作品を“PS5での発売から1〜2年後”にPCで展開することで販売量を確保する戦略を採っている。

マイクロソフトのように“PCも主体”とするほど軸足を変えているわけではない、というのが両社の違いだろうか。

任天堂はPC展開を行わない。任天堂はNintendo Switch 2のような独自性の高いハードウェアでのゲーム提供を軸にしており、中でも自社提供ゲームによる差別化がポイントだ。だからPC市場を取り込む必然性が薄く、“自分たちとは別の市場”という形で共存を狙う。利用年齢層が低めであること、ファミリー層が多いことなども、他社に比べPC市場を意識する必然性の薄さにつながっていると考えられる。

ではPC市場は?

最も大きな動きは、PC向け配信の最大手Valveが、テレビなどの大画面に接続して使う専用機「Steam Machine」を2026年初頭に発売することだろう。これはWindowsを搭載しない「Steam Deck」と同じような構造の製品である。独自の「SteamOS」を搭載した機器で、Steamで購入したPC用ゲームがそのまま動く。

形状・サイズ的にも家庭用ゲーム機に近く、テレビなどで気楽にPC用ゲームを遊ぶことを想定している。

では、これが家庭用ゲーム機そのものであり、XboxやPS5とシンプルに競合する製品かというと、そうでもない。

Valveは家庭用ゲーム機のように大々的にマーケティングをし、大量に販売することを想定していない。本記事を執筆している2025年11月の段階ではSteam Machineの価格は公表されていないが、家庭用ゲーム機より高くなると想定されている。理由は生産数が少ないこと、ソフトやサービスの利益でハードウェアの販売価格を引き下げるビジネスモデルを採らないことなどだ。

Valveの狙いは“Steamでゲームを買っている人が家庭用ゲーム機に移らない”ことであり、無理をして家庭用ゲーム機から市場を奪う必要はない、ということなのだろう。

どちらにしろ、コアなゲーマー向けの市場では“PCとの共存”がテーマであり、その中でゲームプラットフォームをどう位置付けるのか、という各社各様の戦略が重要になってきているということなのである。


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【西田宗千佳連載】「PCでもXbox」推しのマイクロソフトはゲーム専用機ビジネスをやめる?

Vol.156-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はマイクロソフトとASUSが共同開発したポータブルゲーミングPCの話題。携帯ゲーム機ではなくゲーミングPCを選んだ理由とは何か。

 

今月の注目アイテム

ASUS・マイクロソフト

ROG Xbox Ally

8万9800円(税込)

↑Windowsをゲーム向けに最適化した「ROG Xbox Ally」シリーズ。

マイクロソフトがASUSと共同開発した「ROG Xbox Ally」は、あくまでWindows  11搭載PCである。ゲームをすることを中心に作られた製品ではあるが、ゲーム専用機ではない。家庭用ゲーム機であるXbox向けのタイトルは動作せず、あくまでPC向けのゲームを動かすための製品だ。

マイクロソフトは家庭用ゲーム機であるXboxを提供してきたが、近年はPC上でのゲームでも「Xbox」ブランドをアピールし、さらにはXboxの名を冠したPCを売るようになっている。

では、マイクロソフトはゲーム専用機ビジネスをやめ、PC上のビジネスだけをする存在になるのだろうか?

どうやらそういうわけではないらしい。

この点は、PCと家庭用ゲーム機の競合状況が単純ではないことを理解する必要がある。

現状、ほとんどすべてのゲームはまずPCで開発される。それが最終的に、販売対象である家庭用ゲーム機やスマートフォンで動くように調整され、世の中に出ていく。ということは、PC用ゲームを作るのは難しくない、ということだ。

ただ問題なのは、世の中には多様なスペックのPCがあり、そのすべてで動かすのは大変という点である。開発用のPCで動いているからといって、ゲーミングPCでもノートPCでも確実に動くかというと、そういうわけではない。大量の組み合わせがあり、スマホ以上に動作検証が大変だ。

家庭用ゲーム機の存在価値は、極論すれば“スペックが決まっていて動作検証しやすい”ことにある。最近は複数の機種へと同時対応する必要が出てきて複雑化しているが、それでもPCやスマホより桁違いにシンプルだ。

使う側も性能の違いや設定をあまり考える必要がない。昔のように“カセットを入れて電源を入れればスタート”というほどシンプルではなくなったが、それでも、多くの人にとって家庭用ゲーム機は“ゲームだけを遊べるシンプルな存在”であり、開発する側にとっても“市場が固まっていてソフトを出しやすい”場所でもある。

一方で、PCの市場は次第に大きくなってきた。ゲームファンの中でも毎日ゲームをするような熱心な層の場合、ゲームのためのPCへの投資も厭わない。規模の小さなインディーゲームはPCで開発され、まずそのままPCで発売される。それが最もリスクの低い形だからだ。それらの市場が広がったいま、家庭用ゲーム機を持っていてもPCでもゲームをする人は増えた。

ゲームメーカー側も、PC市場が一定以上の規模になったので、検証負荷が大きいとはいえ、PCでも同じゲームを同時に出したほうが“購入してくれる可能性がある人々の母数”が増え、ビジネスが拡大できる。

というわけで、家庭用ゲーム機とPCの市場は拡大している。その上ではValveが運営するプラットフォーム「Steam」が圧倒的シェアを持つが、マイクロソフトとしては「Xbox」をプラットフォームとして推したい。

それは販売をどこで行うかという話だけでなく、“ネット上でゲームをともに遊ぶ友人がどこにいるか”という話にもつながる。“友人がやっているゲーム”の存在はゲームの認知に高く影響しており、ゲームプラットフォームの本質の1つである。

家庭用ゲーム機に存在するプレイヤー同士のエコシステムをPCにも持ち込み、“エコシステムこそXbox”という形にビジネスシフトしたい……というのがマイクロソフトの狙いなのだ。

では、それに対して他社はどう対処するのか? その辺は次回解説する。


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【西田宗千佳連載】「ROG Xbox Ally」が強く意識するライバルとは?

Vol.156-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はマイクロソフトとASUSが共同開発したポータブルゲーミングPCの話題。携帯ゲーム機ではなくゲーミングPCを選んだ理由とは何か。

 

今月の注目アイテム

ASUS・マイクロソフト

ROG Xbox Ally

8万9800円(税込)

↑Windowsをゲーム向けに最適化した「ROG Xbox Ally」シリーズ。

ASUSとマイクロソフトが共同開発して発売した「ROG Xbox Ally」シリーズは、いわゆるポータブルゲーミングPCだ。昨今のPC向けプロセッサーの性能向上を受け、“デスクトップPCほどの性能はないが、画面解像度を下げればグラフィック性能を求めるゲームでも遊べる”という建て付けの製品だが、ライバルは数多い。

もともとこの種の製品は、AMDのプロセッサーである「Ryzen」シリーズの内蔵GPU高性能化によって実現された部分がある。

PlayStation 5やXbox Series Xのようなゲーム専用機も、AMDのRyzenをベースとしたプロセッサーを使っている。こちらは使える電力や放熱設計の意味でポータブル機とは一線を画した性能を持っているが、技術的には、一般のノートPC向けやポータブルゲーミングPC向けも同じ系統である。

結果として、ポータブルゲーミングPCが作りやすくなり、じわじわとニーズが上がってきた……という部分が大きい。

そのなかでも、今回発売された製品のうち、上位モデルに当たる「ROG Xbox Ally X」は、性能面で一歩先に出た印象が強い。下位機種のROG Xbox Allyに比べ倍近い性能を持ち、「モンスターハンターワイルズ」のようなグラフィック処理が重いゲームでも楽しめる。

ROG Xbox Ally Xは「Ryzen AI Z2 Extreme」というプロセッサーを使っており、これがCPU・GPUともに最新の世代であるから性能が高い、ということでもある。AMDには「Ryzen AI Max」という、よりGPU性能が高いプロセッサーも存在する。そして、それを使ったゲーミングPCも出てきてはいるが、バッテリー動作を前提とした消費電力の面を考えると、現状ではRyzen AI Z2 Extremeがベストな選択肢だ。

この種の製品では、PCゲームプラットフォーム「Steam」を運営するValveが販売する「Steam Deck」が強い。OSとしてWindowsを搭載していないためそのライセンス料がカットできること、同一仕様の製品を量産することなどから価格が他製品より安い(有機ELを搭載した現行製品で8万4800円〜)ことが理由だろう。

ROG Xbox Ally Xは高性能な分13万9800円と高くなるが、下位モデルのROG Xbox Allyは8万9800円と価格を下げている。理由は、プロセッサーに使われている技術が古いため。「それなら上位機種を」と考えたくなる。確かに筆者としても上位機種がおすすめだ。

だが、ROG Xbox Allyの性能はライバルのSteam Deckとほぼ同じであり、価格差は5000円しかない。Windowsのアプリが確実に動いて、いざというときには普通のPCとしても使えるのでSteam Deckよりこちらを……という戦略なのだろう。

これらのことからおわかりのように、マイクロソフトはSteamを強く意識している。PCの上ではマイクロソフトのストアもSteamも使えて共存している形だが、同社の戦略がゲーム専用機だけでなく、いかに“PCでもXbox”をアピールするか、という状況になっているのは間違いない。

それはどういうことなのか? その点は次回解説する。


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【西田宗千佳連載】マイクロソフトが「ポータブルゲーミングPC」を発売した理由

Vol.156-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はマイクロソフトとASUSが共同開発したポータブルゲーミングPCの話題。携帯ゲーム機ではなくゲーミングPCを選んだ理由とは何か。

 

今月の注目アイテム

ASUS・マイクロソフト

ROG Xbox Ally

8万9800円(税込)

↑Windowsをゲーム向けに最適化した「ROG Xbox Ally」シリーズ。

小型PCメーカーと手を組んだ理由とは

10月にASUSとマイクロソフトは共同で「ROG Xbox Ally」シリーズを発売した。

Xboxというと家庭用ゲーム機というイメージがあるが、ROG Xbox AllyはあくまでPCだ。OSはWindows 11であり、マウスやキーボードをつなぎ、普通にPCとしても利用できる。

こうした「ポータブルゲーミングPC」は数年前から広がり始めた。ASUSは2023年に「ROG Ally」シリーズを発売してこの市場に参入。PCメーカーとしては最後発での参入と言ってもよい。だが同社はPC自体では大きなシェアを持っていて、小型機器の開発ノウハウもある。そのため製品の完成度に対する評価も高い。

そんななか、今回はマイクロソフトと組んで、Xboxという大きなブランドを冠した製品を作ることになった。

ここにはもちろん、マイクロソフトの思惑も関わっている。

マイクロソフトはXboxを「プラットフォームのブランド」にしている。ゲーム専用機自体を指すのではなく、PC上で動くゲームプラットフォームも「Xbox」だ。両者で完全に同じゲームが動くわけではないが、ゲーム機もPC上のXboxプラットフォームも、同じ“Xboxというアカウントで楽しむゲーム”として扱われている。

そこで“携帯型のデバイスを使ってどこでもゲームを楽しむ”と考えた場合、ゲーム機として携帯型の専用機を作るよりも、すでに広がっている“PCとしてのポータブルゲーム機”を用意したほうが開発しやすいと考えたことが予想できる。

Windowsをゲーム向けに最適化する

さらにそこで重要になるのは、PCゲームの世界ではXboxプラットフォームだけが使われているわけではないという点だ。もっともシェアが高いのはValveの「Steam」であり、ほかにもEPIC GAMESのストアなど、複数のゲームストアが併用されている。

マイクロソフトはPCとしてのポータブルゲーム機を選んだ段階で、自社のゲームストアだけでなく、PCゲーマーが使うこれらのストアの併用が必然のものになる。ただすでにポータブルゲーミングPCは多数あり、Xboxブランドだけでは競争力があるとは言えない。

そこでマイクロソフトは、“ゲーム向けにWindowsを最適化する”ことで差別化を図った。

ROG Xbox AllyのWindows 11には、「全画面表示エクスペリエンス」という、ゲームに特化したモードが先行搭載されている。ゲームに必要ないモジュールを読み込まないことで、起動時間とメモリー容量、動作負荷を若干減らす。結果として、ほんの少しだがゲームの動作が軽くなる。

また、Xboxアプリも改良し、Steamなどのゲームも同時管理可能になっている。

Windowsのデスクトップを使う必然性を減らし、PCだがゲーム機っぽく使えるように工夫することで商品性を高めているのである。

では性能はどうなのか? マイクロソフトが“自社ゲーム機だけ”にこだわらなくなったのはなぜか? それらの疑問には次回以降で答えていこう。


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【西田宗千佳連載】実はファンが多い! メタが「メタバース」に注力し続ける理由

Vol.155-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はメタのスマートグラスについて触れる。過去何度か登場しては普及せずに消えたスマートグラスが多いなか、メタの取る普及への戦略は何か。

 

今月の注目アイテム

メタ

Meta Ray-Ban Display

799ドル(約12万3000円※。日本での発売は未定)

※1ドル=約154円で換算(2025年10月31日現在)

↑右レンズには透過型の高解像度ディスプレイを内蔵し、メッセージを読んだりすることも可能。1200万画素のカメラを搭載し、写真や動画の撮影もできる。リストバンドでの操作が行え、ジェスチャーや手の動きを感知する。

メタは2025年の開発者会議「Meta Connect 2025」の基調講演で、AIグラスの「Meta Ray-Ban Display」や「Ray-Ban Meta」を中心に発表した。HMD型の「Meta Quest」の最新モデルが発表されなかったこと、その上で使われるサービスであるメタバースについての発表がなかったことから、“AIグラスにシフト”という報道も多かったようだ。

だが実際はそうではない。翌日の開発者向け発表を含め、メタバースに関する発表も結構あったのだ。

例えば、メタのメタバースサービスである「Meta Horizon Worlds」は、基盤となるエンジンをUnityから自社製に変えている。要はサービスの中身をまるっと入れ替えたわけで、けっして小さな発表ではない。数年前から準備を進めていたもので、同社としても相当に大きな計画だ。

入れ替えの結果、人々が過ごす「ワールド」の読み込みが4倍位以上早くなり、同じワールド内に100人以上が同時に入れるようになっている。要は、多くの人が過ごす基盤としての完成度が大きく上がったのだ。

さらに、ワールドの構築に「AI」も導入した。

Horizon Worldsでは人々が過ごすワールドの自作が可能なのだが、3Dモデルや効果音、動作スクリプトの作成など、ゲームを1本作るような技術と労力が必要になる。

そこにAIを導入した結果、プロンプトでワールドを作れるようになった。例えば“ファンタジー風の世界にして”と言えば、それっぽい風景・建物・効果音が自動生成される。修正も簡単になり、誰でもワールド構築ができるようになっている。

あまり目立たないが、「Fortnite」「Roblox」「VRChat」などのメタバース系サービスには濃い顧客が定着しており、特にRobloxは若い層の人気が高い。それらではワールド構築のニーズが高く、メタとしては基盤刷新とワールド構築技術でそれらのサービスと差別化を進めたい……という狙いがあるのだ。

いまはAIグラスとメタバースは別々の存在だ。しかしメタバースの本質は「コミュニケーション」であり、最近はスマホでの利用も増えている。そこにつながるAIグラスでも使えるようになってくると、別れていた技術が1つの形で使えるようになる。それまでは、前回説明したようにヘッドマウントディスプレイ(HMD)型のデバイスも必要であり、現在の技術開発の先に、さらに進化したAIグラスが存在することになる。

メタはこの種のことを短期勝負では見ておらず、数年単位で開発を進めている。そうした視点に立てば、メタにとってメタバースは“終わったこと”でも“方向転換”でもなく、“先を見て、いまも続ける事業”そのものなのだ。


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【西田宗千佳連載】メタのAIグラスがヒットしても「HMD」が終わらない理由

Vol.155-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はメタのスマートグラスについて触れる。過去何度か登場しては普及せずに消えたスマートグラスが多いなか、メタの取る普及への戦略は何か。

 

今月の注目アイテム

メタ

Meta Ray-Ban Display

799ドル(約12万3000円※。日本での発売は未定)

※1ドル=約154円で換算(2025年10月31日現在)

↑右レンズには透過型の高解像度ディスプレイを内蔵し、メッセージを読んだりすることも可能。1200万画素のカメラを搭載し、写真や動画の撮影もできる。リストバンドでの操作が行え、ジェスチャーや手の動きを感知する。

多数の企業がAIに関連する機器を作り始めている。スマートフォンが定着したいま、その次に来る製品を皆が探している……という事情はあるだろう。

スマートグラスなどの製品がスマホを代替するものになるか、というと正直難しい部分はある。全員が使うスマホに対し、スマートグラスは“メガネをかけていない人”に使ってもらうのが難しい。その上でどこまで役に立つものを作れるか、というのがポイントになってくる。

それでも、メタのAIグラス群は、現状でヒットしているスマートグラスの最有力候補ではある。

同じような製品として「ヘッドマウントディスプレイ(HMD)」タイプのものがある。各社はAIグラス・スマートグラスに注力しており、没入的な体験に強いHMDタイプに及び腰になっている印象を受ける人は多そうだ。

メタの「Meta Quest」やアップルの「Apple Vision Pro」があり、先日グーグルも、サムスンと組んで「Galaxy XR」をアメリカと韓国で発売した。だが、この種の製品は後ろ向きな報道が目立つ。メタは今年Questシリーズを発売しなかった。Vision ProはM5版が発売されたものの、デザインや価格に変更はなかった。Galaxy XRについても、Vision Proより安価ではあるが、1800ドル(約28万円※)と高価であり、出荷台数自体も多くはないようだ。

※1ドル=約154円で換算(2025年10月31日現在)

では、本当にスマートグラスへと方針を変えたのか?

これは少し違うように思う。

本来、理想的なスマートグラスを作るなら、Meta Quest 3・Vision Pro・Galaxy XRのように「視界全部に情報を表示できる」のが理想だ。だが、そのためのディスプレイやレンズなどの機構をメガネのサイズにするのは難しい。将来的に、画質はいまのHMDほどではないが視野を覆う技術ができる目処は立ってきたが、それが実現するのは数年先。商品として気軽に手に取れるようになるのは2030年頃かもしれない。

それまではHMDタイプが有望だが、「いろいろな場所で使う」にはやはりメガネ型が望ましい。AIグラスが注目される中ではまずメガネ型を作ろう……という流れが強くなっているのだろう。メガネ型でディスプレイを搭載した製品は、視野の一部、狭い範囲に情報が表示されるというものが多い。Meta Ray-Ban Displayもその例に漏れず、右目のみ・視野は20度程度とかなり狭い。

HMD型は、将来のために開発継続が必要だ。また、AIグラス向けのソフト開発にも、HMD型でのテストが必要になる。そうしたことを考えれば、しばらくは双方が並走しつつ開発・製品化が進むのではないか……と予想できる。 では、メタバースというサービス自体はどうなるのだろうか。その点は次回の次回解説する。


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【西田宗千佳連載】実はカメラがメインである「メタのAIグラス」

Vol.155-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はメタのスマートグラスについて触れる。過去何度か登場しては普及せずに消えたスマートグラスが多いなか、メタの取る普及への戦略は何か。

 

今月の注目アイテム

メタ

Meta Ray-Ban Display

799ドル(約12万3000円※。日本での発売は未定)

※1ドル=約154円で換算(2025年10月31日現在)

↑右レンズには透過型の高解像度ディスプレイを内蔵し、メッセージを読んだりすることも可能。1200万画素のカメラを搭載し、写真や動画の撮影もできる。リストバンドでの操作が行え、ジェスチャーや手の動きを感知する。

メタは2023年秋から「Ray-Ban Mata」を発売している。日本では未発売なのであまり認識されていないが、世界的にはかなりのヒット商品だ。

現在メタは、Ray-Banとコラボレーションした「Ray-Ban Meta Gen 2」と、ディスプレイ搭載の「Meta Ray-Ban Display」、そしてオークリーとのコラボモデルである「Oakley Meta HSTN」「Oakley Meta Vanguard」の4モデルに広げ、積極展開している。

メタはこれらの製品とスマホ上で動作するアプリでのAIサービスを連携させ、「AIグラス」という呼称を使っている。ただ、メタがAIグラスという呼称を積極的に使い始めたのは最近のことだ。

というのは、Ray-Ban Metaを発売した当初は、AI機能よりも「カメラ」をウリにしていたからだ。目に近いサングラスの右端(Oakley Meta Vanguardの場合には眉間の部分)にカメラが付いていて、主観視点で写真・動画が撮れるのは楽しいものだ。

実際、AI機能は後付けに近く、AI機能自体の実用性もそこまで高くない。AIに風景を教えてもらう、という機能がメインなのだが、それを頻繁に使う人は正直少ない。今も昔も、メタのスマートグラスにとって主軸の機能はカメラと言っていい。

ただし、AI機能にまったく価値がないか、というとそんなことはない。マイクと音声出力を生かした「翻訳機能」は、日本語こそ使えないが実用的なものだ。画像を認識する機能も、単なる画像検索なら使い道は少ないかもしれないが、今後はもっとスピードも回答の内容の質も上り、価値を持ってくる。

AIが人間の役に立つには、人間が見ているものを理解する必要がある。それをスマホのカメラにやらせるのは、操作の面で大変だ。だがメガネなら、スマホから手を離し、自然に使える。音声による対話も、今なら難しいものではない。ただ、音での会話だけでなく、内容を表示してくれたほうが便利なのは間違いない。

本誌版でも述べたが、ディスプレイ付きのMeta Ray-Ban Displayが登場したひとつの理由には、“撮影した写真をすぐに見たい”というニーズがあった。筆者も体験したが、撮影した写真が目の前に浮かんで表示され、指先の動きでズームできるのはたしかに便利で面白い。

スマートグラスのような製品には“手堅いニーズ”が必要だ。そのニーズがカメラであり、そこから徐々に拡大していく形でAIの価値が広がる。AIグラスというのは多少誇張も入った表現だが、正しい表現ではあるのだ。

では、メタも手掛けていて、他社も開発してきた「ヘッドマウントディスプレイ(HMD)型」はどうなるのだろうか? その点は次回解説する。


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【西田宗千佳連載】メタが「AIグラス」に賭ける理由

Vol.155-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はメタのスマートグラスについて触れる。過去何度か登場しては普及せずに消えたスマートグラスが多いなか、メタの取る普及への戦略は何か。

 

今月の注目アイテム

メタ

Meta Ray-Ban Display

799ドル(約12万3000円※。日本での発売は未定)

※1ドル=約154円で換算(2025年10月31日現在)

↑右レンズには透過型の高解像度ディスプレイを内蔵し、メッセージを読んだりすることも可能。1200万画素のカメラを搭載し、写真や動画の撮影もできる。リストバンドでの操作が行え、ジェスチャーや手の動きを感知する。

ディスプレイ内蔵ですぐに確認できる

メタは新しいスマートグラス「Meta Ray-Ban Display」(以下MRD)を、アメリカ市場で発売した。

発表は同社の開発者会議「メタ・コネクト2025」で行われた。同社は2023年秋より、アメリカ市場を中心に「Ray-Ban Meta」というスマートグラスを販売している。日本で売られていないので知名度は低いが、この製品は、かなりのヒット商品となっている。2025年2月までに200万台以上を出荷し、今も勢いは衰えていない。

Ray-Ban Metaはマイクとカメラ、スピーカーを備えており、外見はレイバンのサングラスそのもの。カメラで主観視点の映像を自然に撮影できることがヒットの要因だ。

好調な販売を記録しているRay-Ban Metaだが、マーク・ザッカーバーグCEOによれば、これまでに購入者が感じる最大の不満は「撮影した写真や動画をすぐに見れないこと」だったという。

そこでMRDにはディスプレイを内蔵した。デザインはRay-Ban Metaのまま、右目だけにカラーディプレイを組み込んだ。解像度は600×600ドット・視野20度くらいの小さな領域だが、そこに画質の高いカラー映像を表示できる。撮影した写真を見られるのはもちろん、スマホの通知や音楽再生なども確認できる。

カメラをフックにしたAIグラスは重要

それに加え、メタはこれらの製品を、正式に「AIグラス」と呼ぶようになったのも大きい。マイクとカメラが「メガネの位置にある」ことは、AIを使う上で非常に重要な要素だからだ。

Ray-Ban Metaはスマホ上で動くアプリと連動する。スマホアプリではメタが開発したAIが動作しており、画像や音声でAIと連携する。命令は音声でやりとりし、指示の一部は画像から得る。例えば「目の前にあるものはなに?」「(ホテルの部屋の前で)部屋番号を覚えておいて」といった形でAIに仕事をしてもらう……という形になっている。

MRDでディスプレイがつくとさらに便利になる。通訳機能やネット検索などの情報が、文字で目の前に見えるからだ。

これらのAI機能はスマホで処理され、表示や音声だけがAIグラスに反映される。だから、できることはスマホ上のAIアプリと大差ない。

しかし、いちいちスマホを取り出し、その画面を見ながら操作するのは面倒なものだ。スマホのカメラを対象に向けるなら、さらに手間がかかる。

しかし、AIグラスを介して操作する場合、スマホはカバンやポケットの中にしまっておけばいいわけで非常に都合がいい。

メタはスマホを持っていない。AIで新しいビジネスを構築したい立場でもあり、そこでは「カメラをフックにして売れるAIグラス」は、非常に重要な戦略商品なのである。 では、メタはこれまでやってきたVRデバイスやメタバース事業をやめてしまうのか……というとそうではない。また、他社もスマートグラスに積極的に関わろうとしている。この辺の戦略判断はどのようなものなのか? その点は次回以降で解説していこう。


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【西田宗千佳連載】GoogleがPixelでゲームよりAI機能を優先する深い理由

Vol.154-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はGoogleの新たなスマホ「Pixel 10」の話題。AIを用いた機能を大幅に強化したというが、便利に使える点、そして他社スマホとの差を探る。

 

今月の注目アイテム

Google

Google Pixel 10シリーズ

12万8900円~(Google Storeでの価格)

↑AI機能を強化したGoogleの「Pixel 10」シリーズ。

スマホでAI機能が注目されるようになって、すでに2年ほどが経過している。そのなかでも価値と利用の双方が定着しているのは「カメラ関係」だろう。デジタルズームの画質向上や不要な部分を消す機能(Googleの場合「消しゴムマジック」)は、誰にとっても価値がわかりやすい。

また、翻訳系もわかりやすい。特にスマホ向けでは、オンデバイスAIを使い、会話からの遅れを減らして翻訳するものが増えた。Appleが公開した「ライブ翻訳」もこの1つ。クラウドのAIを使うと翻訳結果が返ってくるまでに時間がかかるが、オンデバイスAIだと時間が短くなる。

Googleの場合、Pixel 10シリーズに搭載した「マイボイス通訳」は、他のスマホにない独自の機能だ。これは「電話での通話時」に限った機能ではあるが、お互いの会話を翻訳するだけでなく、“自分の声色を使い、相手の言語で伝える”ことができる。翻訳と声色の合成双方をオンデバイスAIで行っているわけで、かなりの処理能力が必要だ。

これらの機能について重要な要素は、“オンデバイスAIだと費用がかからない”ということだ。

クラウドAIは一定のコストがかかる。スマホメーカーやアプリメーカーが負担していて消費者に見えづらい部分があるが、「翻訳は月に何分まで」という制約をつけているところも少なくないし、それを超える場合には費用負担がある場合もある。

AIサービスを単独で提供する企業は収益をAI自体から得る必要があり、費用負担が直接消費者に降りかかる。それは当然のことではあるが、消費者目線で見れば、追加費用はないに越したことはない。AIで便利な機能が追加されるといっても、月額負担や追加費用が増えていくことを許容できる人は限られる。

Googleのようなプラットフォーマーの強みは、コストの低いオンデバイスAIに機能を任せつつ、まだ難しい部分をクラウドにやらせる、という判断ができることだ。Pixelというハードウェアからの収益や広告収入でクラウドのコストを圧縮しやすい。

複雑な動画生成や大規模なデータ処理など、クラウドのAIでないとできないことはたくさんある。一方で、個人個人がAIにお願いしたいことは、必ずしもクラウド上のAIに依存する必要はない。現在はクラウドで作るほうが楽だからクラウドを使っている部分も多い。

プライバシーの面でも答えが返ってくるまでの速度(遅延)の点でも、オンデバイスAIには意味がある。利用がさらに増えるなら、コストの面でもクラウドに頼らないほうが良い……という部分が増えていく。

写真や翻訳を超える「AIのキラーアプリ」はまだ見えてきていない。AI検索はそのひとつになりそうだが、こちらはその性質上、クラウドが必須だ。ただ、スマホにおける「次のAIキラーアプリ」は、コストの面でも差別化の面でも、オンデバイスAIを使っていくことになると予想される。

そう考えると、GoogleがPixel向けのプロセッサーで一貫して“AI処理拡大”、“ゲームよりAI”という選択をしているのも、スマホが数年使われ続けることを想定してのもの……と考えられるわけだ。


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【西田宗千佳連載】GPU性能で独自路線を突き進むGoogleの謎

Vol.154-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はGoogleの新たなスマホ「Pixel 10」の話題。AIを用いた機能を大幅に強化したというが、便利に使える点、そして他社スマホとの差を探る。

 

今月の注目アイテム

Google

Google Pixel 10シリーズ

12万8900円~(Google Storeでの価格)

↑AI機能を強化したGoogleの「Pixel 10」シリーズ。

Googleは自社のスマーフォン「Pixel」向けに自社設計プロセッサー「Tensor G」シリーズを採用している。今年のハイエンドモデルである「Tensor G5」では、製造委託先をTSMCに変えた。

最大の狙いは消費電力低減だ。

スマホへの不満点はバッテリー動作時間に集中している。AIの利用が増えると、単純なアプリ動作とは異なる「目に見えない処理」が増え、消費電力は増していく。現状はまだ、特定の仕事をさせた時に負荷が高まる程度だが、今後は“AIが利用者のためにデータを解析し続ける”ような処理も増えていくだろう。そのなかで不満が高まらないようにするには、これまで以上に消費電力を減らす必要が出てくる。

Googleが公開しているスペックでは、Pixel 9ではバッテリー動作時間を「24時間以上」としていた。だがPixel 10では、それが「30時間以上」になった。実使用ではここまでの差にならないかもしれないが、大きな進化であるのは間違いない。処理性能を上げた上でバッテリー動作時間を伸ばしているのは、バッテリー搭載量の改善に加え、消費電力低減の効果が大きい。

一方で、課題はGPUだ。

Tensor G5では採用しているGPUコアは、G4までで採用していたARM製の「Mali」をベースとしたものから、Imagination Technologies製の「PowerVR」ベースに変わった。そもそもPixelは、ゲーム向けのGPU性能にはこだわらない設計であり、他社ハイエンドスマホに比べて性能が劣る。それがPixel 10では、さらに差が開いた。これはGPUの性能が低いからというより、OSを含めたソフトウェアの最適化が進んでいないため……とも考えられる。

どちらにしろ、AppleやQualcommのプロセッサーがGPU性能を上げているなかで、Googleは明確に違う路線を継続している。少なくとも、グラフィックに凝ったゲームを多くプレイする人に、Pixelは向いていない。

プロセッサーの中で強化されたのもAI処理を行うTPU。こちらは最大6割の強化とされており、Appleなどのプロセッサーより強化の幅が広い。Googleはこれを生かしてAI機能を作っていると主張しており、事実、多数の機能が新たに搭載された。

ただしGoogleの場合、AI機能は“クラウドとオンデバイスの組み合わせ”で実現している。すべての処理をPixel内のプロセッサーに依存しているわけではない。そのため、Pixel 10用の機能として発表されたものであっても、後日、これまでのPixelシリーズでも、ソフトウェアアップデートで利用可能になる場合が少なくない。“新機種でしか使えない”ものが明確でないことは、Pixelを選ぶ上で戸惑う点だ。

Pixel 10シリーズだけに限定されるであろう機能としては、カメラ関係の機能がある。Pixel 10 Proシリーズで採用された「100倍Pro Resズーム」は、AIとカメラ用の処理系であるISP強化のセットで実現されており、過去機種への搭載は難しい。

では、他のAI機能はどう考えればいいのだろうか? その点は次回のウェブ版で解説する。


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【西田宗千佳連載】「Tensor G5」がTSMC製になった意外な理由とは?

Vol.154-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はGoogleの新たなスマホ「Pixel 10」の話題。AIを用いた機能を大幅に強化したというが、便利に使える点、そして他社スマホとの差を探る。

 

今月の注目アイテム

Google

Google Pixel 10シリーズ

12万8900円~(Google Storeでの価格)

↑AI機能を強化したGoogleの「Pixel 10」シリーズ。

Googleは自社スマートフォンである「Pixel 10」シリーズのために、自社設計のプロセッサー「Tensor G」シリーズを使っている。今年のPixel 10シリーズでは「Tensor G5」になった。

Tensor Gシリーズはこれまで、製造パートナーがサムスンであり、設計もサムスンのExynosをベースにしている部分が多い……とされてきた。しかしTensor G5は、製造パートナーを台湾に本社を置く、半導体専業受託メーカーのTSMCに変更し、最新の3nmプロセスを使って作られていると見られている。

消費者から見れば、製造パートナーの変更はさほど大きな意味を持たない。プロセッサーそのものではなく、プロセッサーがもたらす結果である「処理能力」「消費電力」などが重要になってくる。

Tensor G5が複数の特徴を持っているが、もっとも大きいのは“消費電力の低減”だろう。「Tensor G4」まではサムスンで半導体を製造しており、サムスン開発の「4nmプロセス」が採用されていた。それがTensor G5からは、TSMCの3nmプロセスになる。

半導体の製造プロセスルールは「3nm」のような数字で表される。だが、実は各社基準がまちまちで、“サムスンの4nmがTSMCの3nmより1nm劣っている”という単純な話ではない。ただ実際の性能として、サムスンの4nmプロセスは、TSMCの3nmプロセスよりも、処理性能と消費電力の面で不利である。

サムスンも3nmプロセス導入にあたり、大幅な電力利用効率アップを図ろうとしたものの、生産性でも性能で、TSMCの3nmプロセスには敵わなかったようだ。今回は性能よりも生産量の安定の面でTSMCが有利であり、GoogleもTSMCで半導体を作るグループに入ることになった。特に生産安定性は、コスト低減以上に調達の安定につながる。Pixelの流通安定と利益率改善を目指すには重要な要素と言える。

現状、Appleの「Aシリーズ」はTSMCの3nmプロセスを使っている。多くのハイエンドスマホで採用されているQualcommの「Snapdragonシリーズ」も、さらにはMediaTekの「Dimensityシリーズ」も、ハイエンド製品はTSMCの3nmプロセスで生産されている。

ここにGoogleのTensor G5が加わることで、ハイエンドスマホ向けプロセッサーの多くがTSMCで作られる状況となっている。TSMCへの依存度は高まる傾向にあり、この状況は当面続くだろう。

同じところで生産するとプロセッサーの傾向は似てくる。だからこそ、その中でより良いスマホ用プロセッサーを作るには、プロセッサー自体の設計で差別化をする必要があるわけだ。

Googleはそこで、プロセッサーの処理性能と消費電力の最適化を「日常的なAI処理」に強くフォーカスしている。

それは具体的にどういうことなのか? それ以外の価値はどこにあるのか? その辺は次回のウェブ版で解説する。


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【西田宗千佳連載】「カラーコミック」「子ども向け」などのニッチを押さえて市場を確保するKindleの戦略

Vol.153-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はAmazonの電子ペーパー端末「Kindle」のカラー化について考察。これまで向かないとされた電子ペーパーをカラー化する狙いとは何か。

 

今月の注目アイテム

Amazon

Kindle Colorsoft

3万9980円

↑16GBのストレージ、素早いページめくり、色調調節ライトや白黒を反転させる「ページの色」機能などを搭載。32GBのストレージと画面の明るさ自動調整機能を備えるシグニチャーエディション(4万4980円)も発売されている。

他社は数年前からカラーの電子ペーパーを採用し始めていたにも関わらず、Amazonは最近になってようやくカラー版のKindleを発売した。

Amazonはその理由をコメントしていないが、予想はつく。

カラーの電子ペーパーは液晶や有機ELのように、鮮やかで忠実な発色が難しい。発売された「Kindle Colorsoft」も、“ソフトな発色”と言いつつ、実のところ色がかなり浅い。品質的にはベストと言い難く、この点がAmazonに二の足を踏ませていた可能性は高いだろう。液晶を使ったタブレットである「Fireタブレット」もあり、カラーを重視するならそちらでもいい。

一方で、Kindleのニーズも大きく変わってきている。それは、世界的に「子ども向けコンテンツ」と「カラー版コミック」のニーズが増えているためだ。

カラー版コミックの増加は、スマホ上で読まれるコミックが増えているからでもある。ただ、長時間読みたい層はKindleのカラー版を求めていた。近年、カラーのコミックは単価も高く、売上も伸びている。

子ども向けコンテンツについては、AmazonによるKidsプランの存在が大きい。サブスクによる読み放題サービスだが、この加入者が増えればAmazonにとっては有利になる。子ども向けの本は大人向けに比べカラーが多いので、カラー版Kindleとの相性が良い。

ここで問題になるのは、Fireタブレットとの棲み分けだ。前出のように、カラーの品質では液晶を使うFireタブレットの方が良い。しかし読書家はKindleを好むので、そこは選択肢がある方がプラスである……という考え方なのだろう。特に子ども向けについては、年齢層が低い場合Fireタブレットを推奨し、小学校高学年以上の「文字をたくさん読むべき年齢層」になったらKindleを、という狙いもあるようだ。

手書きメモ機能を備え、大画面の「Kindle Scribe」も、比較的ニッチな存在だが単価が高く、他社に流れるニーズをカバーする存在である。カラー版Kindleも同じように、隙間を埋める存在である。

Kindleについては販売量がどんどん増えるというより、安定的なファン向けの市場になっている部分がある。その中で単価を上げることを目指しつつ、子ども向けという新しい市場を開拓する、というのが全体戦略と考えられそうだ。

ただ、カラー版Kindleは、わずかであるがモノクロの表示品質がモノクロ専用製品より落ちている。その点を考えると、本当に文字ものの本だけを読むなら、カラー版よりモノクロ版をお勧めしたい。


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【西田宗千佳連載】「Pixel 10」、AI機能強化の意外な結果とは?

Vol.154-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はGoogleの新たなスマホ「Pixel 10」の話題。AIを用いた機能を大幅に強化したというが、便利に使える点、そして他社スマホとの差を探る。

 

今月の注目アイテム

Google

Google Pixel 10シリーズ

12万8900円~(Google Storeでの価格)

↑AI機能を強化したGoogleの「Pixel 10」シリーズ。

外見はほぼ同じも中身は大きく進化

8月28日、Googleは、日本で同社製スマホ「Pixel 10」シリーズを発売した。Pixel 10には4モデルあるが、今回発売されたのは二つ折り型の「Pixel 10 Pro Fold」を除く3種で、主軸製品は出揃ったことになる。

昨年モデルと異なり、今年のPixel 10はデザイン面での変化がほとんどない。若干カメラまわりのサイズが変わっていて、Pixel 9向けのケースがすべて使えるわけではない点に留意は必要だが、ざっくりと言えば「カラバリ以外はほぼ同じ形」と思って良い。

外見こそほぼ同じだが、Pixel 10は前モデルから大きく進化している。それも、単純に「CPUが速くなった」「カメラの画素数が上がった」という話とは違う。AIを軸にした機能が多数追加された点が大きな変化である。

例えば通話。英語などの言語を話す人と通話するために、通話音声の自動翻訳機能が搭載されている。Pixel 10に搭載される機能は単なる翻訳ではなく、自分の声を再現した音声で相手に伝える「マイボイス通訳」になっている。実際聞いてみると、自分の声で英語やスペイン語で話しているのが聞こえて面白い。

通話中に役立つもうひとつの機能が「マジックサジェスト」。こちらは、通話中の電話番号に関係するメールやメッセージをスマホ内から検索し、画面に表示してくれる機能。ホテルに予約情報を確認する場合、メールで予約内容を受信していると、そのメールや関連情報が「通話している画面」に表示されるようになっている。

どちらも、Pixel 10が使っている新しいプロセッサーである「Tensor G5」によるAI処理性能を活用したものだ。“AI処理を強化することで、クラウドに依存せず、プライバシーを守りながら素早く処理が行えるから実現できている”と同社は説明する。

機能で先行して差別化を図る戦略

AIの強化はカメラにも表れている。Pixel 9では8倍、9 Proでは30倍までだったデジタルズームが、Pixel 10では20倍に、Pixel 10 Proでは100倍に性能アップしている。どちらも、新たに生成AIで使う「拡散モデル」を使い、Tensor G5で画像処理をするため可能になったものだ。

ただ、結果としてPixel 10シリーズは“他のスマホと比べづらい製品”になっている。

まず、Tensor G5は“性能がアップした”とGoogleは言うものの、Qualcommなどのライバル製品に比べ、速度のベンチマークは遅い。特にグラフィックについては、他社のハイエンド機に比べると半分以下の性能しかない。同社が言うAI性能も、現状ベンチマークソフトではチェックが難しく、差が明確でない。

だが、Pixel 10シリーズが「良いAI機能を持つ」のは間違いない。Googleは機能で先行し、それを差別化の要因にしようとしているのだ。

Googleの狙いはどこにあるのか? AI機能に課題はないのか? そうした部分は次回以降で解説していく。


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【西田宗千佳連載】実はKindle以外にもたくさんある電子ペーパー端末

Vol.153-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はAmazonの電子ペーパー端末「Kindle」のカラー化について考察。これまで向かないとされた電子ペーパーをカラー化する狙いとは何か。

 

今月の注目アイテム

Amazon

Kindle Colorsoft

3万9980円

↑16GBのストレージ、素早いページめくり、色調調節ライトや白黒を反転させる「ページの色」機能などを搭載。32GBのストレージと画面の明るさ自動調整機能を備えるシグニチャーエディション(4万4980円)も発売されている。

Kindleのカラーモデルである「Kindle Colorsoft」は、Amazonとしては初めてのカラー電子ペーパー採用端末だ。だが、カラー電子ペーパーの採用自体は他社でずいぶん前から定着している。

電子ペーパー自体はE Ink社が製造しており、どのメーカーでも発注すれば製品に使える。電子ペーパーを作っているのはE Ink社だけではないのだが、ことコンシューマ向けの製品に使われているものとなると、ほとんどがE Ink社のものと考えていい。

逆に言えば、どの製品でも同じ世代の電子ペーパーを使っていれば画質の差は小さい。例えばカラー版電子ペーパーとしては「Kaleido 3」という世代のものが提供されており、多くのメーカーが採用している。Kindle Colorsoftが採用しているのもこのパネルだ。

個人向けの電子ペーパーを採用している企業は主に3つに分かれる。タブレットを作っている企業、メモ端末を作っている企業、そして電子書籍専用端末を作っている企業だ。

もっとも熱心なのは、ニッチなタブレットを作るメーカーである。中国の家電メーカー「Onyx Internationals」のブランドである「BOOX」は、AndroidをOSとして使いつつ、ディスプレイにE Inkの電子ペーパーを使った端末を作っている。

Androidアプリを自由に使えるので、メモを取りたい人やKindle以外の電子書籍ストアを使いたい人が選んでいる。もちろんカラーの製品もある。サイズも機能も多彩で、バリエーションはKindleの比ではない。日本にも販売代理店はあって入手は難しくないが、製品バリエーションが多いせいもあってか、ひとつの製品サイクルが短いので、欲しいものがあってもすでに在庫がない……ということもあるのが欠点だ。

メモ端末としては、富士通クライアントコンピューティングが販売している「クアデルノ」がある。電子書籍を読む機能はないが、手書きでメモをとることに特化している。ビジネスや学習だけでなく、楽譜にメモを取りつつ演奏するためにも使われている。こちらも2024年末にカラー対応の「Gen. 3C」が発売され、主力製品になった。

さらに電子書籍専用端末としては、「楽天Kobo」シリーズが挙げられる。こちらも長く電子ペーパーを使った端末を販売しているが、現在は「Kobo Libra Colour」「Kobo Clara Colour」というサイズ違いのカラー端末も販売している。発売は2024年5月なので、Amazonに対してかなり先行しての発売、ということになる。

Amazonがゆっくりと動いたのは、それだけ危機感を感じていなかった、ということかもしれない。Kindleのシェアは高く、少々のことでは揺るがない。そのためかなり保守的なデバイスが多い印象なのだが、流石にカラーのデバイスが必要……ということになったのだろう。

では、そんなAmazonが危機感を抱いた状況とはどんなものか? その点は次回のウェブ版で解説していく。


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【西田宗千佳連載】電子ペーパーの利点と欠点とはなにか

Vol.153-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はAmazonの電子ペーパー端末「Kindle」のカラー化について考察。これまで向かないとされた電子ペーパーをカラー化する狙いとは何か。

 

今月の注目アイテム

Amazon

Kindle Colorsoft

3万9980円

↑16GBのストレージ、素早いページめくり、色調調節ライトや白黒を反転させる「ページの色」機能などを搭載。32GBのストレージと画面の明るさ自動調整機能を備えるシグニチャーエディション(4万4980円)も発売されている。

ディスプレイ技術といえば、液晶や有機ELを思い浮かべる人も多いだろう。一方で、電子書籍専用端末に使われることが多いのが「電子ペーパー」技術である。電子ペーパーとはいうものの、当然紙とはなんの関係もない。表示の特性が紙の印刷物に近い、という意味合いを持つ。

電子ペーパーを紙の印刷物に近づけるために重視されるのは、主に3点の要素だ。

ひとつは「反射型」であること。液晶にしろ有機ELにしろ、さらには過去のCRTにしろ、ディスプレイの大半はディスプレイから光が出て、それを我々が見る形式だ。一方で紙は、周囲の光を反射したものが目に入る。反射型ディスプレイは光を発せず、紙と同じように反射した光で表示を見る。だから、紙と同様に「光が目に入る」感じがなく、より見やすい印象になる。

もうひとつは「消費電力が低い」こと。発光するディスプレイはその分エネルギーを消費するが、反射型はエネルギー消費が減る。その分、バッテリーなどでも長く動作する。

3つ目は「表示が持続する」こと。液晶や有機ELは、電源を切ると表示が消える。しかし電子ペーパーの場合には、一旦表示されると、別の表示でリフレッシュされない限り、電源を切っても表示が続く。消費電力を下げるにも効果的だ。

こうした要素を実現する技術は複数あり、実は液晶でも似たことが可能だ。だが、特に現在“電子ペーパー”という場合には、E Ink社の使っている「マイクロカプセル」を使った方式を指す。

表が白、裏が黒になっている小さなカプセルが大量に並んでいて、そこに電気をかけることでカプセルの表裏が反転する。反射型であり、再度電気をかけなければ表示も変わらない。2000年代末には存在した技術で、歴史も意外と長い。電子書籍専用端末への利用がすぐに思い出されるが、消費電力の少なさから、店舗の値札やデジタルサイネージでの利用も多い。

課題ももちろんある。

1つは色だ。電子ペーパーは紙のように白黒のコントラストがはっきりしているわけでもなく、若干灰色っぽい色合いに見える。これはカラー版についても同様で、彩度の浅い表示になりやすい。E Ink社の電子ペーパー技術の特性と考えて良い。

表示の書き換えが遅いのも課題だ。本のようにページをめくるなら問題ないが、動画の表示には絶望的に向かないし、ウェブのようにスクロールさせるときも書き換えの遅さを感じる。過去にはページ送り時に残像のようなものが残ることもあったが、これはかなり改善された。

また、反射型であることは良し悪しもある。暗いところでは全く見えなくなってしまうのだ。そこで現在は、コントラスト向上と寝室などでの見やすさを考慮し、薄型のフロントライトを内蔵する場合が増えた。Kindleも、現在のものはフロントライト内蔵だ。

これらのことから、電子ペーパーは向き・不向きがはっきりしたディスプレイと言える。電子書籍専用端末は“向いた用途”のひとつだが、これまではカラー対応のデバイスは少なかったのが難点でもあった。

もっともメジャーな電子書籍端末であるKindleにカラー版が登場したことは、大きな転機とも言える。一方で、液晶のように鮮やかなカラー表示ではないので、それを良しとするか否かは、相当に好みが別れるだろう。

実のところ、カラーの電子ペーパーを採用したデバイスはKindleが初ではなく、むしろKindleは後発である。

Kindle以外のデバイスがどうなっているかは、次回のウェブ版で解説する。


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【西田宗千佳連載】カラーになったKindle、狙いは「カラーのコミック」

Vol.153-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はAmazonの電子ペーパー端末「Kindle」のカラー化について考察。これまで向かないとされた電子ペーパーをカラー化する狙いとは何か。

 

今月の注目アイテム

Amazon

Kindle Colorsoft

3万9980円

↑16GBのストレージ、素早いページめくり、色調調節ライトや白黒を反転させる「ページの色」機能などを搭載。32GBのストレージと画面の明るさ自動調整機能を備えるシグニチャーエディション(4万4980円)も発売されている。

読書などに適した電子ペーパーがカラー化

Amazonは7月末より、同社の電子書籍端末「Kindle」のカラー版となる「Kindle Colorsoft」を国内発売した。同製品はアメリカでは2024年末より発売しているもので、日本での発売は半年ほど遅れている。

最大の特徴は「カラー表示」が可能になったことだ。Kindleはタブレットとは異なり、ディスプレイに電子ペーパー技術を採用している。書き換え速度は遅く、発色にも限界があるものの、消費電力が低く、反射光で見る紙の質感に近い。そのため、長時間画面を見続ける「読書」には向いている。動画再生などには向かないのでタブレットとしてはあまり使われないが、電子書籍専用の端末には向いた技術と言える。

電子ペーパー技術は、その特質上カラーの製品を作りづらいのも欠点だった。現在はカラー版が登場しているものの、発色は浅く、液晶や有機ELには及ばない。

今回発売された「Colorsoft」も、電子ペーパーの欠点はそのままだ。カラーは4096色までの表示で、液晶などに比べると相当に見劣りする。解像度もカラー部分は150ppiで、モノクロ部分(300ppi)の半分しかない。

「ならば液晶などを使ったタブレットの方が良いのでは……」

そういう意見が出てくるのもわかる。だがそれでも、電子ペーパーの見やすさは十分なメリットだ。発色の問題はありつつも、ページ送りの速度などは改善が進み、モノクロは従来通りの見やすさのままで、カラーの要素を組み込んだ製品、というのが現状である。

コミックのカラー化が開発を推し進めた

Kindleのカラー化は以前よりユーザーからの要求が大きかったものだ。実際、他社商品にはカラーの電子ペーパーを用いた製品がすでにあった。そのなかで、これまでAmazonがカラー化に応じて来なかったのは、コストと品質の問題が大きいだろう。

現状でも、カラーの電子ペーパーには品質上の留意点が多い。過去の製品は書き換え速度や前ページの「残像」問題など、いくつもの課題があった。無理やりにカラー化を推し進めると消費者の満足度が下がるため、カラーのニーズにはFireタブレットで対応する……というのが従来の方針であったのだろう。

ではなぜその方針を変えたのか。同社は「いまKindleのカラー化に対応しなければユーザーニーズを失う」という判断をし、カラー化に取り組んだと思われる。

そう判断したのにはいくつかの理由がある。「表紙やマーカーなど、読みやすさを担保する要素をカラーで強化する」という目的もあるだろうが、もうひとつのより大きな原因は、電子コミック市場で急速に進むカラー化だ。

電子書籍の市場はコミックがリードしており、そこでは特にカラーのニーズが大きい。過去の作品でも、カラー化して販売するものが増えてきた。Kindleでもカラーコミックの販売数量が増えているので、そこへ対応する必要がある……というのがAmazonの狙いであるようだ。

カラー版電子ペーパーの仕組み、そしてなぜコミックのカラー化が重要になったかなどは、次回以降で解説する。


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【西田宗千佳連載】“修理のしやすさ”は消費者のためでもメーカーのためでもある

Vol.152-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はApple製品の信頼性を支える、同社の「堅牢性ラボ」の話題。iPhoneやMacの故障を減らすためにどんな試験が行われているのか。

 

今月の注目検査施設

Apple

堅牢性ラボ

↑Appleの「堅牢性ラボ」では、iPhoneの耐水性試験も行われる。あらゆる方向から大量かつ高圧で水をかけるという、現実では起こりにくい状況で試験が行われている。

スマホの故障対策は重要なことだ。同時に現在は“修理がしやすいこと”が重視されるようなっている。

例えば多くのスマホでは、バッテリーを両面テープで止めている。工程が簡単であり、安価でもあるからだ。一方で、修理にはマイナスである。両面テープを綺麗にはがし、痕跡をなめらかにしてから再度バッテリーを搭載するには、相応のテクニックが必要になってくる。

だがアップルは、「iPhone 16」と「iPhone 16e」の世代で新しい固定方式を採用した。それが「電気誘導接着剤剥離法」と呼ばれるものだ。

これも両面テープを使っていることに変わりはない。しかし新しい素材では、従来の両面テープと異なり、内部の電極に電流を流すと、1分30秒で“剥がれる”状態になる。

そのあとは吸盤でバッテリーをくっつけて持ち上げるだけで、バッテリーや本体が傷むことはなく、接着剤も残らずきれいに外れる。電流を流すと言っても、市販されている9Vの電池で良い。

この仕組みにより、修理時間は短縮され、修理後のデバイスも内部がきれいな状態に保たれる。すなわち“修理しやすくなる”のである。

修理しやすさが注目され、メーカーも積極的に取り組むには2つ理由がある。

ひとつは、欧米において“修理する権利”が強く主張されていること。法制化も進み、メーカーは“個人に対してもパーツなどを提供し、修理できる環境を整えなくてはならない”状況になっている。その場合には、修理の難易度も下げることが必要になる。

そしてもうひとつの要素が“スマホが長く使われるようになった”ことだ。5年以上同じ製品を使う人も増えているが、そうなるとどこかの修理は必須になってくる。

例えばAppleの場合「Apple Care+」という有料の製品サポートサービスにより、修理コストを下げられる。iPhoneだと、画面が割れると最大で5万円を超える修理代がかかるが、AppleCare+に入っていれば3700円で済む。

利用者にとっては“低価格で修理できる”というメリットがある一方で、Appleにとっては“使っていた期間が明確で、故障に至った経緯の情報もしっかりした故障個体”を手に入れるきっかけが増えるというメリットもある。そうした情報を「堅牢性ラボ」で得られた検証結果を合わせることで、より良い製品作りに生かせる。

そして“長く使える”とは、ひとりの購入者がそのまま同じ製品を使うことだけを指していない。最初の購入者がその製品を中古として売り、さらに新しい製品を買う例も増えているためだ。そうなると、気軽な修理を含め、“状態が良いスマホ”の方が買い取り価格は高くなる。そのことは、結局はスマホの新品購入量増加につながり、メーカーにとっての収益拡大につながる。

そんな流れからも、“壊れにくい製品づくり”と“修理しやすい製品づくり”は連動していて、戦略的に重要な存在なのだ。


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【西田宗千佳連載】iPhoneへの過酷なテストからわかった“故障の原因になるもの”とはなにか

Vol.152-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はApple製品の信頼性を支える、同社の「堅牢性ラボ」の話題。iPhoneやMacの故障を減らすためにどんな試験が行われているのか。

 

今月の注目検査施設

Apple

堅牢性ラボ

↑Appleの「堅牢性ラボ」では、iPhoneの耐水性試験も行われる。あらゆる方向から大量かつ高圧で水をかけるという、現実では起こりにくい状況で試験が行われている。

Appleは、iPhoneやMacなど、同社製品の堅牢性を確認するための「堅牢性ラボ(Durability Lab)」という設備を、世界各地に設置している。製品に過酷なテストを課して、どこまで堅牢で、どんな時に壊れるのかを確認するための設備である。

限界をチェックするためのものなので、なかなかに痛々しいテストも多い。iPhoneに猛烈な水圧でホースから水をかけたり、高い場所から落としたりといったテストを、筆者は実際に見学している。見学の範囲で製品が壊れることはなかったが、見ているとなかなかに心が痛む。

しかし、こうしたテストを日々繰り返しているからこそ“ちょっとした不注意でスマホをお風呂の中に落とした”ような時でも、壊れることは少なくなっているのだ。もちろん、絶対に壊れないことを保証するものではなく、“故障する確率を減らすもの”という性質なのだが。

取材中に聞いた面白い話がいくつかあるので、参考までに紹介する。

1つ目はスマホの画面割れの話。スマホを落としてガラスを割る……という故障はよくあるものだが、この故障、“床などに落ちた時より、そこから跳ねて2度目に落ちた時に壊れることが多い”ことが、検証によって明らかになっているそうだ。だからといって“1回目で拾えば壊れない”という話ではないのだが、どこから落ちると壊れやすいのか、どんな落ち方をすると壊れやすいのか、といった情報を分析し、落下に強い製品を作るには重要なものだ。

2つ目が防水の話。iPhoneには防水機能があるが、すべてのシーンで問題がないわけではない。お湯の中に長時間浸けたりすることは対象外。同時に、石鹸などの物質が付着した場合には速やかに拭くことが推奨されている。

実は石鹸よりも苦手なのが「サンオイル」や「濃い香水」だそうだ。こうしたものは水というよりは油に近いもので、使っている素材によっては、スマホの防水に使われている封止用パッキンを侵す可能性がある。過去に比べて改善はされているようだが、サポート対象ではないので、やはりこちらも速やかに拭き取ることが望ましいだろう。

我々の日常には様々な条件がある。ポケットの中の埃や手に付着した水ですら、本来は機械にとっては苦手なものだ。iPhoneに限らず、どこのスマホもそうした問題に対処するために様々な工夫をしている。不運にもそうした努力を潜り抜けるようなトラブルがあったとき、スマホは故障してしまうことになる。

では、故障対策や長期的な利用について、現在のスマホメーカーはどのように取り組もうとしているのだろうか。そうした部分については、次回のウェブ版で解説する。


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【西田宗千佳連載】リチウムイオン充電池の「発火事故」に備えるスマホメーカーの努力

Vol.152-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はApple製品の信頼性を支える、同社の「堅牢性ラボ」の話題。iPhoneやMacの故障を減らすためにどんな試験が行われているのか。

 

今月の注目検査施設

Apple

堅牢性ラボ

↑Appleの「堅牢性ラボ」では、iPhoneの耐水性試験も行われる。あらゆる方向から大量かつ高圧で水をかけるという、現実では起こりにくい状況で試験が行われている。

近年、リチウムイオン充電池を使った機器からの発火による火災が増えている。

主な発火原因はモバイルバッテリーとなっているが、スマホも例外ではない。東京消防庁の調べによれば、2024年に起きた火災のうち、リチウムイオン充電池が原因と思われるものは106件(速報値)あったが、モバイルバッテリーが原因のものは35件。携帯電話(含むスマホ)が原因のものは10件だった。

リチウムイオン充電池は内部に可燃性の有機溶剤を使っている関係上、加熱に伴う発火事故が起きやすい。様々な事故防止の仕組みが組み込まれているものの、これだけリチウムイオン充電池が搭載された製品が世の中にあふれていると、事故の数も増えてきてしまう。

モバイルバッテリーなどの発火原因のトップは“充電中の異常加熱”だが、さらにその原因となる項目は多彩だ。バッテリー製造時の不良から生まれるものもあるが、モバイルバッテリーやスマホが落下した時に受けたダメージが内部でショートを誘発する場合が多い。だからこそ、“リチウムイオン充電池を搭載した製品に強い衝撃を与えるべきではない”ということになる。

とはいえ間違いがあって、落としてしまうこともあるだろう。そんな不注意からの事故を防止するため、スマホメーカーは、安全性確保の努力を続けている。

先日取材したAppleの「堅牢性ラボ(Durability Lab)」では、同社製品に対する“あらゆる外的要因”の影響が検証されていた。落下や振動の影響をチェックする施設もあったが、ここでは“落ちてガラスが割れる”といった基本的な部分の他に、“落ちた時にバッテリーにどのような影響があるか”のチェックも行われている。

バッテリー自体に対するダメージや周囲の温度、充電時の状況などの条件を変えつつ、大量のバッテリーでの充電・発熱状況をチェックし続けている施設もあった。そこではiPhoneなどの製品に“組み込まれる前”のバッテリー自体をチェックし、発売される製品にトラブルが起きないように確認が続けられているという。

こうした努力は、Appleだけが行っているものではない。程度の差はあれ、どのスマホメーカーも行っているものだ。そういう仕組みがあること、製造時のチェックがさらに厳密なことなどから、スマホはモバイルバッテリーに比べると事故が少なくなっている部分がある。やはり、安全性もコストに紐づいているのだ。

では、他にはどのようなテストが行われているのだろうか? そして、そこからはどんなことがわかっているのだろうか? その点は次回のウェブ版で解説していく。


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【西田宗千佳連載】リチウムイオン充電池の「発火事故」に備えるスマホメーカーの努力

Vol.152-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はApple製品の信頼性を支える、同社の「堅牢性ラボ」の話題。iPhoneやMacの故障を減らすためにどんな試験が行われているのか。

 

今月の注目検査施設

Apple

堅牢性ラボ

↑Appleの「堅牢性ラボ」では、iPhoneの耐水性試験も行われる。あらゆる方向から大量かつ高圧で水をかけるという、現実では起こりにくい状況で試験が行われている。

近年、リチウムイオン充電池を使った機器からの発火による火災が増えている。

主な発火原因はモバイルバッテリーとなっているが、スマホも例外ではない。東京消防庁の調べによれば、2024年に起きた火災のうち、リチウムイオン充電池が原因と思われるものは106件(速報値)あったが、モバイルバッテリーが原因のものは35件。携帯電話(含むスマホ)が原因のものは10件だった。

リチウムイオン充電池は内部に可燃性の有機溶剤を使っている関係上、加熱に伴う発火事故が起きやすい。様々な事故防止の仕組みが組み込まれているものの、これだけリチウムイオン充電池が搭載された製品が世の中にあふれていると、事故の数も増えてきてしまう。

モバイルバッテリーなどの発火原因のトップは“充電中の異常加熱”だが、さらにその原因となる項目は多彩だ。バッテリー製造時の不良から生まれるものもあるが、モバイルバッテリーやスマホが落下した時に受けたダメージが内部でショートを誘発する場合が多い。だからこそ、“リチウムイオン充電池を搭載した製品に強い衝撃を与えるべきではない”ということになる。

とはいえ間違いがあって、落としてしまうこともあるだろう。そんな不注意からの事故を防止するため、スマホメーカーは、安全性確保の努力を続けている。

先日取材したAppleの「堅牢性ラボ(Durability Lab)」では、同社製品に対する“あらゆる外的要因”の影響が検証されていた。落下や振動の影響をチェックする施設もあったが、ここでは“落ちてガラスが割れる”といった基本的な部分の他に、“落ちた時にバッテリーにどのような影響があるか”のチェックも行われている。

バッテリー自体に対するダメージや周囲の温度、充電時の状況などの条件を変えつつ、大量のバッテリーでの充電・発熱状況をチェックし続けている施設もあった。そこではiPhoneなどの製品に“組み込まれる前”のバッテリー自体をチェックし、発売される製品にトラブルが起きないように確認が続けられているという。

こうした努力は、Appleだけが行っているものではない。程度の差はあれ、どのスマホメーカーも行っているものだ。そういう仕組みがあること、製造時のチェックがさらに厳密なことなどから、スマホはモバイルバッテリーに比べると事故が少なくなっている部分がある。やはり、安全性もコストに紐づいているのだ。

では、他にはどのようなテストが行われているのだろうか? そして、そこからはどんなことがわかっているのだろうか? その点は次回のウェブ版で解説していく。


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【西田宗千佳連載】Apple製品を支える「堅牢性ラボ」の実情

Vol.152-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はApple製品の信頼性を支える、同社の「堅牢性ラボ」の話題。iPhoneやMacの故障を減らすためにどんな試験が行われているのか。

 

今月の注目検査施設

Apple

堅牢性ラボ

↑Appleの「堅牢性ラボ」では、iPhoneの耐水性試験も行われる。あらゆる方向から大量かつ高圧で水をかけるという、現実では起こりにくい状況で試験が行われている。

 痛々しいほどの試験が高い信頼性を生む

先日筆者は、米・カリフォルニア州クパティーノのApple本社の近くにある、同社の「堅牢性ラボ」を取材してきた。

堅牢性(デュラビリティ)ラボとは、iPhoneやMacなどのApple製品の堅牢性を検査し、故障発生の可能性をできるだけ減らしていくことを目的とした設備である。Apple社内でのテストは多岐に渡るが、今回は主に「落下試験」「耐水性試験」「対環境試験」「振動試験」「バッテリー試験」の5つを取材することができた。

どれも名前から、どんなテストかはなんとなくわかるだろう。

落下試験は1mの高さから製品を落としてその結果を見るもの。耐水性試験では大量かつ高圧の水をかける。振動試験では、様々な周波数での振動を再現できる機械に製品をくくりつけ、振動の結果で故障しないかをチェックする。対環境試験では、高い気温・湿度の中や強い紫外線のもとで何日・何週間と動かし続ける。

その様はまるで機械に対する拷問のようで、痛々しいほどだ。だが今回取材中に見たテストでは、故障・破損は起きなかった。製品によってテスト内容や基準は異なるものの、AppleはiPhoneやiPad、Apple Watchなど、販売するあらゆる同社製品で堅牢性テストを行っている。

もちろん、堅牢性ラボでの検証中には壊れることもある。一方で、ユーザーから寄せられた故障情報を元に検証のための条件が設定され、「どのような状況になると壊れるのか」、ギリギリの条件を検証するために使われることも多い。堅牢性ラボは「設計で定めた条件の中で壊れないことの証明」だけでなく、「どのような条件が重なると壊れるのか」を把握することにも使われているわけだ。

それらの情報は、ユーザーへの警告やサポート情報に使われることもある一方で、今後の製品の堅牢性を高めていくための情報としても使われる一面も持ち合わせている。

メーカーにとってラボは「必然」であり「必須」

この施設を取材できたのは大きなプラスだった。Apple が製品開発の裏で行っている努力の一端がよく理解できた。Appleは堅牢性ラボを世界中に設置しており、様々な地域でのトラブルに素早く対処する体制を整えている。

もちろん、それでも「絶対に壊れないスマホ」が作れることはない。しかし、日常的なトラブルを幅広く想定し「故障に結びつくリスク」をできる限り排除することで、長く使い続けられる製品を開発することが可能になるのである。

一方で誤解してほしくないこともある。こうした検査施設は多くのメーカーが持っており、Appleだけのものではない。各社が行っている検査の内容自体も似ている。トップメーカーにとって、堅牢性対策のラボを持つことは「必然」であり「必須」のことなのだ。

では、スマホメーカーはどこで苦労しており、検査を続けつつ製品作りをしているのだろうか? そして、Appleを含め、各社の特徴はどのように生まれるのだろうか? それらの点は次回以降で解説しよう。


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【西田宗千佳連載】「GoogleのAndroidであること」を最大限に生かすAndroid XR

Vol.151-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はGoogleが公開したAIを活用したスマートグラス「Android XR」の話題。これまでのスマートグラスと異なる点と新たな可能性を探る。

 

今月の注目アイテム

Google

AI活用型スマートグラス

価格未定

↑Google I/Oで公開された試作スマートグラス。カメラやマイク、スピーカー、右目のみ表示されるディスプレイが搭載されるが、見た目は普通のメガネと変わらない。

 

Android XR対応のデバイスとして、最初に世の中に出てくるのは「Project Moohan」だ。

前回の本連載で説明したように、Project MoohanはApple Vision ProやMeta Questの対抗製品という位置付けに近い。Google Playストア経由でAndroidアプリが使えて、Googleのサービス群がXR空間の中に最適化された形で用意されるのが大きな特徴。Vision ProとMeta Questそれぞれの要素をうまく取り入れた製品、という印象だ。

ただ、Android XRは複数形態のデバイスを開発できるプラットフォームとして作られており、Project Moohanのような「ヘッドセット型」はひとつの形でしかない。

このほかにGoogleは、「光学シースルー型ヘッドセット」「ARグラス」「AIグラス」を典型的なデバイスとして挙げている。

光学シースルー型は、Project Moohanに違いがビデオシースルーでない分、より簡易でコンパクトな製品になる。近い存在として、中国のXREALは「Project Aura」を開発中と公表している。グラス型のデバイスとなんらかの“本体”をケーブルでつないで使うもので、20206年以降の発売を目指している。

AIグラス・ARグラスは、今回のGoogle I/Oでプロトタイプが発表されている。Androidスマホと連動し、AIで周囲の状況や利用者の命令を受けながら、アシスタントとして働くメガネ型デバイスである。ディスプレイが内蔵されたものがARグラスで、ないものがAIグラスと考えればいい。まだプロトタイプの段階で、2026年以降に製品化の目処が見えてくる、というところだろうか。

実のところ、ここに挙げた4形態はかなり異なる特徴を持っている。Project MoohanとディスプレイのないAIグラスでは、必要なインターフェースも処理に必要な性能も大きく異なってくるし、全く同じアプリケーションを動かすのは難しい。開発手法自体も異なるだろう。開発者からは“それをひとつのプラットフォームでくくるのはある意味強引な話”という意見も聞こえてくる。

ただ、Googleは“開発の一貫性に配慮している”と説明しており、まったく違う開発環境が用意されるわけではないという。そのため、4つの形態それぞれに向いたアプリを、ひとつのサービスやコンセプトから作っていける。そして、同じ“Google Playストアから配信してビジネスができる”のが大きなことになるだろう。

特にProject Moohanのような製品の場合、スマホやタブレット向けの「Androidアプリ」をAndroid XRでも動かせるので、ビジネスチャンスが広がる。

Android XRは、“Googleであること”“Androidであること”を大きく生かしたプラットフォームであることを武器にして、他社と戦っていくことになるわけだ。

 

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【西田宗千佳連載】「GoogleのAndroidであること」を最大限に生かすAndroid XR

Vol.151-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はGoogleが公開したAIを活用したスマートグラス「Android XR」の話題。これまでのスマートグラスと異なる点と新たな可能性を探る。

 

今月の注目アイテム

Google

AI活用型スマートグラス

価格未定

↑Google I/Oで公開された試作スマートグラス。カメラやマイク、スピーカー、右目のみ表示されるディスプレイが搭載されるが、見た目は普通のメガネと変わらない。

 

Android XR対応のデバイスとして、最初に世の中に出てくるのは「Project Moohan」だ。

前回の本連載で説明したように、Project MoohanはApple Vision ProやMeta Questの対抗製品という位置付けに近い。Google Playストア経由でAndroidアプリが使えて、Googleのサービス群がXR空間の中に最適化された形で用意されるのが大きな特徴。Vision ProとMeta Questそれぞれの要素をうまく取り入れた製品、という印象だ。

ただ、Android XRは複数形態のデバイスを開発できるプラットフォームとして作られており、Project Moohanのような「ヘッドセット型」はひとつの形でしかない。

このほかにGoogleは、「光学シースルー型ヘッドセット」「ARグラス」「AIグラス」を典型的なデバイスとして挙げている。

光学シースルー型は、Project Moohanに違いがビデオシースルーでない分、より簡易でコンパクトな製品になる。近い存在として、中国のXREALは「Project Aura」を開発中と公表している。グラス型のデバイスとなんらかの“本体”をケーブルでつないで使うもので、20206年以降の発売を目指している。

AIグラス・ARグラスは、今回のGoogle I/Oでプロトタイプが発表されている。Androidスマホと連動し、AIで周囲の状況や利用者の命令を受けながら、アシスタントとして働くメガネ型デバイスである。ディスプレイが内蔵されたものがARグラスで、ないものがAIグラスと考えればいい。まだプロトタイプの段階で、2026年以降に製品化の目処が見えてくる、というところだろうか。

実のところ、ここに挙げた4形態はかなり異なる特徴を持っている。Project MoohanとディスプレイのないAIグラスでは、必要なインターフェースも処理に必要な性能も大きく異なってくるし、全く同じアプリケーションを動かすのは難しい。開発手法自体も異なるだろう。開発者からは“それをひとつのプラットフォームでくくるのはある意味強引な話”という意見も聞こえてくる。

ただ、Googleは“開発の一貫性に配慮している”と説明しており、まったく違う開発環境が用意されるわけではないという。そのため、4つの形態それぞれに向いたアプリを、ひとつのサービスやコンセプトから作っていける。そして、同じ“Google Playストアから配信してビジネスができる”のが大きなことになるだろう。

特にProject Moohanのような製品の場合、スマホやタブレット向けの「Androidアプリ」をAndroid XRでも動かせるので、ビジネスチャンスが広がる。

Android XRは、“Googleであること”“Androidであること”を大きく生かしたプラットフォームであることを武器にして、他社と戦っていくことになるわけだ。

 

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【西田宗千佳連載】数々の終わったプロジェクト。Googleの「XR計画」のこれまで

Vol.151-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はGoogleが公開したAIを活用したスマートグラス「Android XR」の話題。これまでのスマートグラスと異なる点と新たな可能性を探る。

 

今月の注目アイテム

Google

AI活用型スマートグラス

価格未定

↑Google I/Oで公開された試作スマートグラス。カメラやマイク、スピーカー、右目のみ表示されるディスプレイが搭載されるが、見た目は普通のメガネと変わらない。

 

Googleは、XR関連プラットフォーム「Android XR」の立ち上げを進めている。

 

実のところ、当初この動きは関連業界からは冷ややかに見られていた部分がある。GoogleはXR関連・スマートグラス関連で複数のプロジェクトを展開しつつ、止めてきた経緯があるからだ。

 

一番有名なのは「Google Glass」だろう。スマホからの情報を目の前に表示する「情報系スマートグラス」の先駆けであり、2012年に発表され、大きな話題となった。テスト版が1500ドルで発売されて製品化が近いと言われていたが、実際には技術的な課題やプライバシー上の課題、用途の開拓などで苦戦。2017年には業務用デバイスに舵を切り直すもうまくいかず、2023年に販売も終了している。

 

ダンボール製の簡易VRビューワーである「Google Cardboard」は2014年にスタートしたものの2021年に販売を終了、Cardboardよりも本格的なVR機器として企画された「Google Daydream」(2016年発表)は、2019年には早々に販売を終了した。他にも、空間を3DでキャプチャするAR技術である「Project Tango」(2014年発表)も、2018年にサポートを終了している。

 

ビジネスがうまくいかなかった、といえばそれだけの話ではあるのだが、Metaは2014年にOculusを買収以降、10年以上に渡ってXR関連技術の開発を進めている。それに比べると“堪え性がない”と見られてもしょうがない。

 

とはいえ、これまでのプロジェクトに比べるとAndroid XRはかなり規模が大きく、打ち出し方も目立つ。Googleが将来を見据えた大きなプロジェクトとしてスタートしている。

 

だが筆者が知る限り、Android XRというプロジェクト自身も、幾度かの変更を経つつ、時間をかけて現在の形へと生まれ変わっている。

 

3年以上前から、GoogleはXR機器を作る計画を持っていた。ここでの主なライバルはMetaだ。Meta Questシリーズのライバルとなる機器を、サムスンをパートナーに開発していた。これは本来、2023年には発売される予定だったと聞いている。

 

そこからさらに、より本格的なハイエンド製品へと方向転換したようだ。少なくとも2023年のうちにお披露目するという計画は変更され、2024年をターゲットに、より高画質なデバイスを目指して変更が行われた。ターゲットはApple Vision Proだ。OSの構造自体には大きな変更はないが、画質や操作感をよりブラッシュアップした製品の姿が見えてくる。これが、本年末までに海外で発売を予定している「Project Moohan」となる。

 

そしてさらに、スマートグラスの盛り上がりと生成AIの急速な進化をベースに、同じOSやソフトウェア・コンポーネントを使いつつ“スマートグラスまでを想定したプラットフォーム”として準備されたのが、現在のAndroid XR……ということになる。

 

ではどんな製品になりそうなのか? その点は次回のウェブ版で解説する。

 

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【西田宗千佳連載】AIとセットでスマートグラスを攻めるGoogle

Vol.151-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はGoogleが公開したAIを活用したスマートグラス「Android XR」の話題。これまでのスマートグラスと異なる点と新たな可能性を探る。

 

今月の注目アイテム

Google

AI活用型スマートグラス

価格未定

↑Google I/Oで公開された試作スマートグラス。カメラやマイク、スピーカー、右目のみ表示されるディスプレイが搭載されるが、見た目は普通のメガネと変わらない。

 

スマートグラスが新たなフェーズに入る

Googleは5月に開催した開発者会議「Google I/O」にて、新しいプラットフォームである「Android XR」をお披露目した。昨年12月に開発者に対して情報公開をしていたものが、今回はより一般向けの情報公開となった。

 

Android XRは、Androidを核としてXR(仮想現実・拡張現実など)を体験するプラットフォームだ。

 

第1弾の製品となるのは、Apple Vision Proの対抗とも言われるサムスン製の「Project Moohan(プロジェクト・ムーハン)」で、海外では年末までに発売される。日本では未定。価格やスペックなどの詳細も未公開だ。

 

ただし、Google I/Oで大きな話題を呼んだのはProject Moohanではない。初めて一般公開された、「AI活用型スマートグラス」のプロトタイプだ。外観は一般的なメガネのようにしか見えない。だが内部にはカメラとマイク、スピーカー、それにディスプレイ(右目にのみ表示)が内蔵されており、スマホと連動して動く。

 

スマートグラスでできることは多彩だ。カメラを使って目の前のものが何かを認識したり、メニューや看板を翻訳したりもできる。Google Mapを使ってナビゲーションも表示できる。そして基調講演では、スマートグラスをかけた人同士での会話をリアルタイムで翻訳するデモも行われた。

 

同じAndroid XRを使っているものの、両者の体験は大きく異なる。Project Moohanは、リッチなビジュアルによる没入体験やPCなどの巨大な画面を表示して作業環境を整えるものだ。それに対してスマートグラスは、街中でスマホやAIからの情報を生かすためのもの、といっていい。

 

自分に見えるものから情報を引き出す

スマートグラスというとAR(拡張現実)、と考える人も多いだろう。しかしAndroid XRのスマートグラスは、情報は表示されるがARではない。情報は表示するが、現実の場所にCGが固定され、現実にある風景がCGで“拡張”されるわけではない。だが、その場所で必要な情報を活用できるだけでも価値は大きい。

 

例えばGoogle Mapのナビの場合、正面を向いていると次にどちらへ曲がるかの「ターン・バイ・ターン」ナビを表示する。だが、立ち止まって下を見るとそこには、スマホでお馴染みのマップ全体図が見える。スマホを持ったりスマートウォッチに目を落としたりすることなく、自然にナビを体験できる。

 

もちろん、スマホからの通知を確認したり、声で返答したりもできる。看板に書かれた他国の文字を自国語に変換したりもできる。どれもスマホでできることではあるが、それを自分の視界に置き換え、さらに「自分に見えるもの」から情報を取り出す……という流れになる。

 

AIの力を使い、周囲の状況を把握することは十分可能になってきた。Googleは同社のAIである「Gemini」を活用、差別化するものとしてスマートグラスを使う。ではその計画はなぜ生まれたのか? XRの名前を冠する理由はなぜなのか。そこは次回以降で解説していく。

 

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【西田宗千佳連載】AIとセットでスマートグラスを攻めるGoogle

Vol.151-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はGoogleが公開したAIを活用したスマートグラス「Android XR」の話題。これまでのスマートグラスと異なる点と新たな可能性を探る。

 

今月の注目アイテム

Google

AI活用型スマートグラス

価格未定

↑Google I/Oで公開された試作スマートグラス。カメラやマイク、スピーカー、右目のみ表示されるディスプレイが搭載されるが、見た目は普通のメガネと変わらない。

 

スマートグラスが新たなフェーズに入る

Googleは5月に開催した開発者会議「Google I/O」にて、新しいプラットフォームである「Android XR」をお披露目した。昨年12月に開発者に対して情報公開をしていたものが、今回はより一般向けの情報公開となった。

 

Android XRは、Androidを核としてXR(仮想現実・拡張現実など)を体験するプラットフォームだ。

 

第1弾の製品となるのは、Apple Vision Proの対抗とも言われるサムスン製の「Project Moohan(プロジェクト・ムーハン)」で、海外では年末までに発売される。日本では未定。価格やスペックなどの詳細も未公開だ。

 

ただし、Google I/Oで大きな話題を呼んだのはProject Moohanではない。初めて一般公開された、「AI活用型スマートグラス」のプロトタイプだ。外観は一般的なメガネのようにしか見えない。だが内部にはカメラとマイク、スピーカー、それにディスプレイ(右目にのみ表示)が内蔵されており、スマホと連動して動く。

 

スマートグラスでできることは多彩だ。カメラを使って目の前のものが何かを認識したり、メニューや看板を翻訳したりもできる。Google Mapを使ってナビゲーションも表示できる。そして基調講演では、スマートグラスをかけた人同士での会話をリアルタイムで翻訳するデモも行われた。

 

同じAndroid XRを使っているものの、両者の体験は大きく異なる。Project Moohanは、リッチなビジュアルによる没入体験やPCなどの巨大な画面を表示して作業環境を整えるものだ。それに対してスマートグラスは、街中でスマホやAIからの情報を生かすためのもの、といっていい。

 

自分に見えるものから情報を引き出す

スマートグラスというとAR(拡張現実)、と考える人も多いだろう。しかしAndroid XRのスマートグラスは、情報は表示されるがARではない。情報は表示するが、現実の場所にCGが固定され、現実にある風景がCGで“拡張”されるわけではない。だが、その場所で必要な情報を活用できるだけでも価値は大きい。

 

例えばGoogle Mapのナビの場合、正面を向いていると次にどちらへ曲がるかの「ターン・バイ・ターン」ナビを表示する。だが、立ち止まって下を見るとそこには、スマホでお馴染みのマップ全体図が見える。スマホを持ったりスマートウォッチに目を落としたりすることなく、自然にナビを体験できる。

 

もちろん、スマホからの通知を確認したり、声で返答したりもできる。看板に書かれた他国の文字を自国語に変換したりもできる。どれもスマホでできることではあるが、それを自分の視界に置き換え、さらに「自分に見えるもの」から情報を取り出す……という流れになる。

 

AIの力を使い、周囲の状況を把握することは十分可能になってきた。Googleは同社のAIである「Gemini」を活用、差別化するものとしてスマートグラスを使う。ではその計画はなぜ生まれたのか? XRの名前を冠する理由はなぜなのか。そこは次回以降で解説していく。

 

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【西田宗千佳連載】Windows 10の移行でPC需要は拡大。ハイエンドに生まれた「AI開発PC」のニーズ

Vol.150-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はマイクロソフトのPC、新Surfaceの話題。同社はSnapdragonプロセッサーモデルの普及を目指しているが、その理由は何かを探る。

 

今月の注目アイテム

マイクロソフト

Surface

米国価格799ドル~(Surface Pro 12インチ)

↑タブレットとしても利用できるSurface Proと軽量ボディが特徴のSurface Laptopがラインナップ。どちらもCPUにはSnapdragon Xを採用している。AIにより高速化されたCopilot+PCの性能を活用できるのも魅力だ。

 

ここ数年、個人向けのPC市場はマイナス成長だった。コロナ禍でPCの需要が伸びたものの、それがある種の需要の先食いとなり、市場が停滞する結果となっていた。他方で2025年はかなり調子が良い。今年の頭から売れ行きはよく、年率10%の成長が見込めるのではないか……との予測もある。

 

2025年のPC市場が伸びると予測されているのは、Windows 10のサポート期間が10月14日で終了するためだ。その時期に合わせてPCを買い替えるのは企業が中心ではあるが、個人市場にももちろん買い替え需要は存在するため、市場全体は成長するものと予測されている。

 

そこでCopilot+ PCのような新しいプラットフォームが前向きに支持を受けてヒットする……と断言するのは難しい。前回の連載でも触れたが、Copilot+ PCの価値がまだ周知されていないためだ。特に個人向けとなると、Copilot+ PCによるAIの価値や、Snapdragon採用による省電力性の評価はまだ定着しておらず、今年の後半に向けてようやく認知が高まるのではないか……と予想している。そのなかで、比較的低価格な「廉価版Surface」と言える13インチ版Surface Laptopと12インチ版Surface Proは、かなり重要な製品になりそうな予感がする。

 

一方、大量に売れる製品ではないものの、“AI処理を重視した超ハイエンドPC”も出てくる。この領域は、デスクトップPCにNVIDIA GeForce RTX 5090のようなハイエンドGPUを搭載したものか、メインメモリーを128GB搭載したMacBook Proなどが人気だった。クラウドではなくローカルなPCで生成AIを動かすには、超高性能なGPUと圧倒的に大容量な高速メインメモリーが重要で、ハイエンドのMacはそうした領域での人気も高まりつつある。

 

そんな中、AMDが「Ryzen AI Max+ PRO」の提供を開始した。こちらはノートPC向けであり、GPUとしては“プロセッサー内蔵としては高性能”と言うレベルであるものの、メインメモリーを最大128GB搭載し、その帯域も256bit幅のLPDDR5x-8000と、一般的なノートPCの倍になる。M4 Pro/Maxを採用したMacBook Proと十分競合しうるレベルであり、AI向けとして選択肢が増えた……と言っていいだろう。

 

繰り返しになるが、こうした製品は価格が高い(メモリー128GB搭載となると70万円以上)ため、マスに売れることはない。しかし、AIを活用したい・アプリを作りたいという人は増えており、ハイエンドなゲーミングPCと並ぶ重要な市場になってきている。

 

高性能なPCといえばゲーム、という時代が長かったが、AIの時代になり、個人開発のために“AIに向いた高性能なPC”というニーズが出始めているのは、今年の傾向と言えるのではないだろうか。

 

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【西田宗千佳連載】Windows 10の移行でPC需要は拡大。ハイエンドに生まれた「AI開発PC」のニーズ

Vol.150-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はマイクロソフトのPC、新Surfaceの話題。同社はSnapdragonプロセッサーモデルの普及を目指しているが、その理由は何かを探る。

 

今月の注目アイテム

マイクロソフト

Surface

米国価格799ドル~(Surface Pro 12インチ)

↑タブレットとしても利用できるSurface Proと軽量ボディが特徴のSurface Laptopがラインナップ。どちらもCPUにはSnapdragon Xを採用している。AIにより高速化されたCopilot+PCの性能を活用できるのも魅力だ。

 

ここ数年、個人向けのPC市場はマイナス成長だった。コロナ禍でPCの需要が伸びたものの、それがある種の需要の先食いとなり、市場が停滞する結果となっていた。他方で2025年はかなり調子が良い。今年の頭から売れ行きはよく、年率10%の成長が見込めるのではないか……との予測もある。

 

2025年のPC市場が伸びると予測されているのは、Windows 10のサポート期間が10月14日で終了するためだ。その時期に合わせてPCを買い替えるのは企業が中心ではあるが、個人市場にももちろん買い替え需要は存在するため、市場全体は成長するものと予測されている。

 

そこでCopilot+ PCのような新しいプラットフォームが前向きに支持を受けてヒットする……と断言するのは難しい。前回の連載でも触れたが、Copilot+ PCの価値がまだ周知されていないためだ。特に個人向けとなると、Copilot+ PCによるAIの価値や、Snapdragon採用による省電力性の評価はまだ定着しておらず、今年の後半に向けてようやく認知が高まるのではないか……と予想している。そのなかで、比較的低価格な「廉価版Surface」と言える13インチ版Surface Laptopと12インチ版Surface Proは、かなり重要な製品になりそうな予感がする。

 

一方、大量に売れる製品ではないものの、“AI処理を重視した超ハイエンドPC”も出てくる。この領域は、デスクトップPCにNVIDIA GeForce RTX 5090のようなハイエンドGPUを搭載したものか、メインメモリーを128GB搭載したMacBook Proなどが人気だった。クラウドではなくローカルなPCで生成AIを動かすには、超高性能なGPUと圧倒的に大容量な高速メインメモリーが重要で、ハイエンドのMacはそうした領域での人気も高まりつつある。

 

そんな中、AMDが「Ryzen AI Max+ PRO」の提供を開始した。こちらはノートPC向けであり、GPUとしては“プロセッサー内蔵としては高性能”と言うレベルであるものの、メインメモリーを最大128GB搭載し、その帯域も256bit幅のLPDDR5x-8000と、一般的なノートPCの倍になる。M4 Pro/Maxを採用したMacBook Proと十分競合しうるレベルであり、AI向けとして選択肢が増えた……と言っていいだろう。

 

繰り返しになるが、こうした製品は価格が高い(メモリー128GB搭載となると70万円以上)ため、マスに売れることはない。しかし、AIを活用したい・アプリを作りたいという人は増えており、ハイエンドなゲーミングPCと並ぶ重要な市場になってきている。

 

高性能なPCといえばゲーム、という時代が長かったが、AIの時代になり、個人開発のために“AIに向いた高性能なPC”というニーズが出始めているのは、今年の傾向と言えるのではないだろうか。

 

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【西田宗千佳連載】なかなか伸びない「Copilot+ PC」の需要

Vol.150-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はマイクロソフトのPC、新Surfaceの話題。同社はSnapdragonプロセッサーモデルの普及を目指しているが、その理由は何かを探る。

 

今月の注目アイテム

マイクロソフト

Surface

米国価格799ドル~(Surface Pro 12インチ)

↑タブレットとしても利用できるSurface Proと軽量ボディが特徴のSurface Laptopがラインナップ。どちらもCPUにはSnapdragon Xを採用している。AIにより高速化されたCopilot+PCの性能を活用できるのも魅力だ。

 

マイクロソフトは現在、主にノートPC向けのソリューションとして「Copilot+ PC」を推進している。Windows 11にAI機能を組み込み、PCのプロセッサーが搭載したAI推論機能を使う「オンデバイスAI」で処理し、Windows PCの価値を高めようというものだ。

 

Copilot+ PCは昨年5月に発表され、対応製品は6月から発売されていた。しかしこれまではヒットに結びついていない。それも当然の話で、Copilot+ PCを生かす機能がWindows 11に正式搭載されたのはこの春のこと。それまではテスト版という扱いであり、幅広く使える状況にはなかった。結果としてCopilot+ PCでどんなことができるかの周知も進まず、ニーズは拡大してこなかったわけだ。

 

だが今後は少し状況が変わる可能性は高い。Intel・AMD・Qualcommといった主要プロセッサーメーカーの製品は、Copilot+ PCが必要とする「40TOPS以上のNPU」を搭載するようになっている。最新のPCを買ったらCopilot+ PCの機能が使えた……という形を目指すことになるだろう。

 

背景のひとつとして考慮すべきなのは、Windows 10のサポート期間が2025年10月14日に終了する、ということだ。セキュリティ修正は提供されなくなり、利用に大きなリスクが生まれる。長期間使われてきたPCの置き換えニーズが生まれており、そこでCopilot+ PCが選ばれる可能性は高い。

 

ただ問題は、Copilot+ PCを積極的に選ぶ人がどれだけいるか、ということだ。最新のPCを選ぶとCopilot+ PC対応である可能性が高いとはいえ、「できるだけコストを下げたい」と考えると、機能に対する認知度が低いCopilot+ PCが選択されない……という可能性は否定できない。

 

そこで大きな変化になる可能性が高いのが、「Microsoft 365」(いわゆるオフィスソフト)のAI機能である「Microsoft 365 Copilot」のオンデバイスAI対応である。現在はすべてクラウドで処理されているが、Copilot+ PCのオンデバイスAIで処理可能になると、通信がないところでも安心して、AIの力を使って作業ができるようになる。昨年11月、「Microsoft 365 Copilot」のオンデバイスAI対応が勧められているというアナウンスがあったものの、2025年5月末現在、利用可能にはなっていない。計画が遅れているのではないか、という懸念は大きいが、新しいPCの価値を高めるものとして期待したいところだ。

 

ではその辺も含め、今年のPC市場がどうなるのかは次回のウェブ版で解説していきたい。

 

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【西田宗千佳連載】マイクロソフトのSurfaceはなぜ「ARM推し」なのか

Vol.150-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はマイクロソフトのPC、新Surfaceの話題。同社はSnapdragonプロセッサーモデルの普及を目指しているが、その理由は何かを探る。

 

今月の注目アイテム

マイクロソフト

Surface

米国価格799ドル~(Surface Pro 12インチ)

↑タブレットとしても利用できるSurface Proと軽量ボディが特徴のSurface Laptopがラインナップ。どちらもCPUにはSnapdragon Xを採用している。AIにより高速化されたCopilot+PCの性能を活用できるのも魅力だ。

 

マイクロソフトはここ数年、個人向けには「ARM版Windows搭載PC」、正確には「Qualcommと協業したSnapdragon系プロセッサーを搭載したPC」を強く推している。特に2022年以降はその傾向が明確だ。昨年登場した「Surface Pro」「Surface Laptop」シリーズも、6月から日本での発売が決定した新製品も、個人市場向けはSnapdragon搭載のARM版Windows 11搭載製品だ。企業向けにはIntel製プロセッサー搭載品もあり、個人がそちらを買うことも不可能ではないものの、基本はARM版だ。

 

ARM版は、過去のアプリケーションやゲームとの互換性が完全ではない。ビジネスアプリケーションは意外と問題ないものの、ゲームは不正対策モジュールの問題で動作しない場合が多く、周辺機器のドライバーにも対応していないものが多い。個人としてはリスクを避けたい、という気持ちになる人がいるのも理解できる。

 

では、なぜマイクロソフトはARM版を推しているのか? それは、Macとの競合の問題だ。

 

Appleは2020年に、Intel製プロセッサーからApple自社設計のARM版プロセッサーである「Appleシリコン」に移行した。その判断は大成功し、Macのバッテリー動作時間・発熱の少なさ・コストあたりの処理能力は劇的に改善している。

 

では、IntelやAMDの最新プロセッサーが大きく見劣りするのか、といえばそうでもない。それでも、動作時間の長さや発熱の少なさではx86系に比べ優位だと感じる。マイクロソフトとしては、Windows PCの進化のあり方として、Mac、特にMacBook Airの性能と消費電力のバランスに“競合できる製品”を求めていたのだろう。x86系は安心だが、消費電力の面でなかなか同レベルにならない。

 

マイクロソフトは、自社のPCとしてSurfaceを大量に売らねばならないのと同時に、“今後のWindows PCはどうあるべきか”を示す必要もある。そう考えると、MacBook Airを意識し“市場でトップクラスの製品を作らねば”と言う意識になるのもわかる。

 

互換性の問題はニワトリとタマゴのようなところがあり、多数の製品が市場に出れば解決していく部分がある。これまでは価格の問題もあってなかなか数が増えなかったが、ここからは変わってくる、とマイクロソフトは期待している。

 

一方でそのためには、現在のSurfaceの価値の核にある「Copilot+ PC」の価値をしっかりと訴求し、新しいプラットフォームとしての認知を高めていく必要がある。ただそれは現状、道なかばという印象が否めない。その点がどう変わっていく可能性があるのかは、次回のウェブ版で解説していきたい。

 

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【西田宗千佳連載】新Surfaceでマイクロソフトは何を狙うのか

Vol.150-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はマイクロソフトのPC、新Surfaceの話題。同社はSnapdragonプロセッサーモデルの普及を目指しているが、その理由は何かを探る。

 

今月の注目アイテム

マイクロソフト

Surface

米国価格799ドル~(Surface Pro 12インチ)

↑タブレットとしても利用できるSurface Proと軽量ボディが特徴のSurface Laptopがラインナップ。どちらもCPUにはSnapdragon Xを採用している。AIにより高速化されたCopilot+PCの性能を活用できるのも魅力だ。

 

価格の高騰で普及がなかなか進まない

5月6日(アメリカ時間)、マイクロソフトは、同社のPC「Surface」の新型を発表した。日本でも一部モデルは販売がスタートしている。

 

マイクロソフトはSurfaceで、昨年より「Snapdragonシフト」を敷いている。企業向けではインテルのx86系プロセッサーを採用しているものの、個人市場向けでは、クアルコムのARM系プロセッサーである「Snapdragon X」シリーズ採用モデルだけを提供している。

 

Windows 11のARM版には、x86系プロセッサー向けに作られたソフトを動かすための機構が組み込まれている。いわゆるエミュレーションであるため、互換性に不安を持つ人も多いだろう。

 

筆者は日常的にSnapdragon版のSurfaceを使っているが、“そこまで心配するほどではない”という実感がある。「ATOKのようなサードパーティー製日本語入力ソフト」「ドライバーソフト」「ゲームソフトの一部」が動かないという制約はあるが、ARM版のソフトも増えているし、理解して使う分には問題はない。発熱の小ささ・バッテリー稼働時間の長さは大きな魅力である。

 

一方、Snapdragon版の製品があまり売れない理由もよくわかる。要は価格が高いのだ。

 

最新のPCはどうしてもハイエンドかつ最新のプロセッサーになりがちで、しかもここ2年ほどは円安傾向。日本での販売価格が特に高く見える……という課題もあっただろう。だがそれだけでなく、同じ最新プロセッサー同士だと、Snapdragon版とx86版の価格差は小さい。だとすれば、互換性のリスクがないx86版を選ぶのもわかるところだ。

 

価格を大幅に下げて普及促進を狙う

ここで、新Surfaceの話に戻ろう。

 

今回マイクロソフトは、新製品の価格を下げてきた。新製品ではミドルクラスの「Snapdragon X Plus」を採用、サイズもタブレットタイプの「Surface Pro」が12インチ(既存モデルは13インチ)、クラムシェルタイプの「Surface Laptop」が13インチ(既存モデルは13.8インチ)と少し小さくなっている。

 

結果として、価格は昨年モデルが20万7680円からだったところを、799ドル(約11万5000円)からと、大幅に下げている。

 

Surfaceには低価格モデルの「Go」シリーズがあるのだが、新製品はそれに近い位置付けだ。元々はいわゆる学生向けという側面が強いのだが、スペック的にはかなり充実しており、コストパフォーマンスが上がっている。サイズが小さいという不満を持つ人もいるだろうが、逆に軽くなったことを魅力と思う人もいそうだ。

 

要はマイクロソフトの狙いは、価格を下げてSnapdragon搭載モデルを普及させることにあるのだ。

 

マイクロソフトはなぜそこまでSnapdragonにこだわるのか。そして、その結果今年のPC市場はどうなるのか? その辺の予測については、次回以降じっくりと解説していくこととしたい。

 

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【西田宗千佳連載】トランプ関税に揺れる今後のスマホ商戦

Vol.149-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は廉価版として登場したiPhone 16eの話題。これまでのiPhone SEではなくiPhone 16シリーズとして登場させた狙いを探る。

 

今月の注目アイテム

Apple

iPhone 16e

9万9800円~(SIMフリー・128GB)

↑他のiPhone 16シリーズと同様、6.1インチのSuperRetina XRディスプレイを採用。よく使う機能に素早くアクセスできる「アクションボタン」も搭載されている。一方で「Dynamic Island」などは割愛された。

 

日本だと“スマホの春商戦”というと、誰もがその背景をすぐに理解できるだろう。新入学・就職など、新たにスマホを買う・切り替えやすい季節だからだ。だが世界的にいえば、この話は通じない。アメリカなどは新入学シーズンが「秋」であるので、4月までに学生向けの商戦を……という話にはならないのだ。

 

昔は携帯電話事業者が携帯電話端末の商品企画をし、メーカーに製造を委託していた。だから「日本の商戦期」に向けた展開が行われていた。だがいまは、グローバルなメーカーから端末を仕入れて販売するものになっているので、日本だけの事情に合わせて作られる例は少ない。

 

実際、iPhone 16eにしてもPixel 9aにしても“春商戦”というには少し遅いタイミングであり、特に日本を意識したものではない。アメリカ的にいえば、この時期に発売して初夏の“新入学シーズン”に備えるのがベストということになる。

 

Pixel 9aについては例年よりもさらに遅れたし、アメリカと日本では発売時期が少しズレた。この辺は、カメラ周りを含め、新しい部分が多かったからかもしれない。

 

一方iPhone 16eは潤沢な数量が提供されているものの、大人気とはいかないようだ。価格が高くなり、シンプルに“低価格モデル”と言いづらい部分があるからだろう。携帯電話事業者は割引などを積極的に行ったが、それでも、円安による価格上昇をカバーできる状況にはない。

 

その間で、シャオミは「Xiaomi 15 Ultra」などの製品を、価格を抑える形で販売している。携帯電話事業者での扱いが少ないため、マスにはまだなかなか売れていきづらい状況にはあるものの、スマホファンの心を掴みつつある。

 

トランプ政権が打ち出す「相互関税」のゴタゴタにより、スマートフォン市場も大きな影響を受けている。現在販売されている製品はともかく、今後販売される製品の価格がどうなるか、現状では予断を許さない。

 

関税はアメリカに輸入されるものに影響するので日本は大丈夫……と思うかもしれないが、そうはいかない。企業は世界全体で価格をコントロールしている。特にアメリカ企業にとって、“アメリカだけ高くする”選択を簡単に選べるものではない。“各国の関税によって製品価格が全く異なる”時代がやってくる可能性もあるし、結局トランプ関税が施行されず、大した影響がない可能性もある。

 

ドル安誘導もあり、円安傾向は多少是正されてきている。その結果、今秋の製品がいまよりも割安になる可能性はある。ただそれも、トランプ関税の行方次第だ。

 

いまはスマホが高い時代だが、それが秋に変わるのか、そうではないのか。変な話だが、その結果として、今年はスマホ選びが面倒な年になるかもしれない。

 

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【西田宗千佳連載】AppleとGoogle、似て非なる春モデル戦略

Vol.149-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は廉価版として登場したiPhone 16eの話題。これまでのiPhone SEではなくiPhone 16シリーズとして登場させた狙いを探る。

 

今月の注目アイテム

Apple

iPhone 16e

9万9800円~(SIMフリー・128GB)

↑他のiPhone 16シリーズと同様、6.1インチのSuperRetina XRディスプレイを採用。よく使う機能に素早くアクセスできる「アクションボタン」も搭載されている。一方で「Dynamic Island」などは割愛された。

 

スマホはいろいろな時期に発売される。過去には明確な商戦期があったが、発売時期だけで言うなら、もう季節要因は減っている。

 

ただそれでも、シェアが大きな大手に影響は強い。特に、AppleとGoogleが新製品を発売する「春と秋」は、スマホ新製品の季節というイメージを感じさせやすい要因と言える。

 

Googleは毎年この時期に廉価版の「a」シリーズを発売している。その年の基本設計を定め、プロセッサーも同じ世代の同じものにした上で、コストとスペックのバランスを取りなおしたモデルがaシリーズ、と言える。

 

Appleは数年に一度しか出さない。来年どうなるかはわからないので確実ではないのだが、少なくとも「SE」シリーズはそうだったし、iPhone 16eもそうだろう。

 

これは、毎年デザインを変えるGoogleのPixelと、基本デザインは数年に一度しか変えないAppleの違い、ということもできる。

 

Appleの場合、今年は廉価モデルを大きくデザインチェンジしてきた。連載の前回で解説したように、モデムチップである「C1」の導入を軸に、設計を現在のiPhoneに寄せている。特にAppleの場合には、低価格モデルを“長期的に調達可能なパーツで作り、数年単位で見るとコストが低くなる”という作り方をする。その関係で、モデルチェンジは数年おきとなりやすい。

 

今年は製品名に「16」と番号を入れてきたので、毎年モデルチェンジする戦略に変えてきた可能性もある。とはいえ、秋に発売されるメインモデルを性能で追いかけることはしないだろうから、モデルチェンジによる性能の幅は小さいのではないか、と筆者は予想している。だとすれば、さほど大きな変化ではない、とも言える。

 

GoogleはPixel 9aを、例年よりも大きく変えてきた印象がある。カメラ部の突起を完全に無くしてきたのだ。カメラモジュールの変更によるものだが、結果として、昨今のスマホにはあまりない、非常にすっきりしたデザインになった。

 

こうした形状を今後も続けられるかはわからない。特に上位機種では、カメラの性能から来る物理的な制約もあり、かなり難しいだろうと考えられる。しかし、無難でコストパフォーマンス重視、という印象が強かったaシリーズに独自の魅力とデザインを加えていく流れなのだとすれば面白い。

 

Pixelは昨年以降シェアを落としている。Pixel 9aの企画はシェア低下が見える前のものだと思うが、結果的に、シェア回復をどう考えるかという意味では重要な製品になった。

 

スマホのシェアにおけるこれら製品の意味はどこにあるのだろうか? その点は次回のウェブ版で解説していく。

 

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【西田宗千佳連載】AppleがiPhone 16eで搭載した「C1」とは何か

Vol.149-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は廉価版として登場したiPhone 16eの話題。これまでのiPhone SEではなくiPhone 16シリーズとして登場させた狙いを探る。

 

今月の注目アイテム

Apple

iPhone 16e

9万9800円~(SIMフリー・128GB)

↑他のiPhone 16シリーズと同様、6.1インチのSuperRetina XRディスプレイを採用。よく使う機能に素早くアクセスできる「アクションボタン」も搭載されている。一方で「Dynamic Island」などは割愛された。

 

iPhone 16eは、外見だけを見ればシンプルな製品に見える。外観を最新のiPhoneに近くし、各種デバイスもより新しくしたもの。おそらく、購入するほとんどの人がそう考えるはずだ。実際、そう捉えて購入しても問題ないだろう。

 

しかし、中身を見てみれば、いろいろと戦略的な要素が目立つことが分かる。

 

ひとつはプロセッサー。アップルのAI機能である「Apple Intelligence」を動かすため、プロセッサーを最新の「A18」にした。コストは高くなるが、今後長く使える製品にする場合、Appleが今後の基盤と位置付けているApple Intelligenceを動かせるようにすることは必須だ。

 

そしてもうひとつはワイヤレスモデムチップである「C1」を採用したことだ。スマホにしろタブレットにしろ、携帯電話網に接続して通信をするにはワイヤレスモデムチップが必要になる。これまで、iPhoneではクアルコム製のものが使われてきた。クアルコムはこのジャンルで幅広い通信会社との接続検証を行っており、長い実績がある。

 

ただ、Appleはワイヤレスモデムチップについて、以前から自社設計品への切り替えを計画していた。クアルコムとの間にはライセンス価格での係争もあり、中核パーツを他社に依存したくないという考えがあったからだ。

 

こうした発想はAppleだけが持っているものではない。すでにサムスンやファーウェイが採用している手法だ。とはいえ設計が大変であることに違いはなく、Appleは2019年にIntelからモデムチップ事業を買収し、設計を続けてきた。

 

モデムチップの性能はスマホの快適さを左右する。そのため、新チップの搭載はリスクがあり、「最初に使うのはiPadのような、通話機能を持たないものではないか」との予測があった。しかし今回、予想を裏切ってiPhone 16eというコアな製品への投入となった。

 

Appleがモデムチップを求めた理由は複数ある。まず、生産時期や機能を自社で決めたい、ということ。性能を決める中核部品の1つを他社に依存していると、どうしてもコントロールが効かないところが出てくる。主に消費電力のコントロールについて、モデムチップは大きな影響がある。iPhone 16eも動作時間の長さをひとつのウリにしているが、その理由はC1の採用にあると言っていい。

 

次にコストコントロール。自社開発になれば生産数量のコントロールがしやすくなり、コスト的に有利になるわけだ。

 

一方で、もちろんリスクもある。現状C1はミリ波に対応しておらず、アメリカ市場向けハイエンド機には向かない。完全新規設計のiPhone 16eならともかく、メインストリームの製品にいきなり採用するかどうかは怪しいだろう。

 

だが、ここで新モデムチップを作れたことの意味は大きい。より幅広い製品へと5Gを搭載することも可能になってくるからだ。現在Macには5Gは搭載されていないが、将来的にはC1もしくはその後継チップを使い、搭載することも可能になってくる。

 

もう少しiPhone 16eにフォーカスして考えると、この製品はどんな特徴を持っているのだろうか? 他社製品とはどう違うのだろうか? この点は次回のウェブ版で考えることとしよう。

 

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【西田宗千佳連載】iPhone 16eは何を目指したスマホか

Vol.149-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は廉価版として登場したiPhone 16eの話題。これまでのiPhone SEではなくiPhone 16シリーズとして登場させた狙いを探る。

 

今月の注目アイテム

Apple

iPhone 16e

9万9800円~(SIMフリー・128GB)

↑他のiPhone 16シリーズと同様、6.1インチのSuperRetina XRディスプレイを採用。よく使う機能に素早くアクセスできる「アクションボタン」も搭載されている。一方で「Dynamic Island」などは割愛された。

 

他のモデルと同様にして製造・開発効率を高める

iPhoneの新型である「iPhone 16e」が発売になった。この時期に出るiPhoneはいわゆる廉価版に当たるもので、2022年に発売された「iPhone SE(第三世代)」以来、3年ぶりの新モデルだ。

 

今回はデザインなどが大きく変更になっているが、理由はおそらく2つある。ただし、どちらも“これからの世代に合わせた設計変更”という言い方でまとめることはできるだろう。

 

1つ目は、「Apple Intelligence」に対応するためだ。Apple Intelligenceは、この4月から日本でも使えるようになったAppleのAI機能。それ自体が魅力であるが、Appleとしては「Apple Intelligenceが搭載されていること」を基本路線とし、iPhone自体の性能の底上げをしておきたい、という考えがあるだろう。

 

2つ目は、iPhone SE の設計が古くなっており、ここから製造効率を上げるには、できるだけ他のiPhoneとの共通性を高めておく必要がある、ということだ。

 

実はApple Intelligence搭載にも同じような意味合いがある。ソフトを進化させていくうえで、“多くのiPhoneが同じ機能を使える”方がソフト開発効率も上がる。

 

ハードウエアも同様で、基本的な設計が同じである方が部材の一括調達がしやすくなり、生産性は上がる。iPhone SEは“そのモデルの発表時に安価なモデルの部材を大量調達して生産に備える”ことでコストダウンをしていると想定されるのだが、Touch IDのついたiPhoneはiPhone SEだけになってしまったので、これまでの設計を継続する方がコスト効率は悪くなっていると考えられる。

 

細かな機能を割愛して価格の上昇を抑える

新たな要素として投入されたのが、Appleオリジナル通信チップ「C1」の採用だ。使っている分にはこれまでと大きな差を感じないだろうが、Appleとしては、クアルコム製通信チップへの依存度を減らして、消費電力やコスト面での最適化を進める「戦略的技術」でもある。

 

一方で、Apple Intelligence向けに「A18」プロセッサーを搭載したことは、コスト面ではまだ不利だ。そのためか、カメラセンサーを減らしただけでなく、ディスプレイの輝度を落としたりMagSafeを搭載しなかったりと、非常に細かい機能カットがなされており、これらは価格を下げるための方策と見られる。

 

その割に安くない……という評判も聞かれるのだが、これは特に米ドルと円の為替相場の問題。3年前に比べずっと円安になってしまったので、日本での販売価格はどうしても高くならざるを得ない。

 

そのうえで、各携帯電話事業者は様々な施策を用意し、毎月の支払い金額を下げて入手できるよう努力している。それだけ、「春の新iPhone」はビジネス上重要である、ということだ。

 

では、同じく他社から出る春向けスマホと比較するとどう見えるのか? 前出の新チップ「C1」の特徴はどこにあるのか? それは次回以降で解説していくことにしよう。

 

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【西田宗千佳連載】Amazonには「Alexaを生成AIで作り直す技術基盤」があった

Vol.148-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はAmazonが発表した新たな音声アシスタント「Alexa+」の話題。生成AI時代に生まれ変わるサービスにはどんな変化があるのかを探る。

 

今月の注目アイテム

Amazon

Echo Show 15(第2世代)

実売価格4万7980円

↑音声での対話による情報の提供には欠かせない、ディスプレイ付きのスマートスピーカー。Echo Show 15は15インチの画面で文字などの視覚情報により、スムーズな対話が可能になるデバイスと期待されている。

 

Amazonは「Alexa」を生み出したが、音声アシスタントを運営する企業としては少々特殊だ。

 

音声アシスタントをリードしているのは、スマートフォン・プラットフォームを持つAppleとGoogleと言っていい。生成AIの時代になり、アップルは「Siri」をApple Intelligenceで進化させ、GoogleはGoogleアシスタントから「Gemini」に切り換えて、より使い勝手の良い音声アシスタントを実現しようとしている。

 

Amazonはスマホを持っておらず、スマホ向けの生成AIも作ってはいない。生成AI自体でも「競争の最前線で戦っている」印象を持つ人は少ないだろう。そんな状況もあって、Alexa+を発表するまでは「Amazonは生成AI時代に遅れをとっている」と言われることが多かった。

 

だが、その認識は必ずしも正しくない。

 

AmazonはOpenAIやGoogleのように“生成AIの賢さを最前線で競っている”わけではない。だがAmazonのウェブサービス部門である「AWS」は、複数の生成AIモデルを動作させられる「Amazon Bedrock」というサービスを持っている。多くの生成AIサービスは、実際にBedrockの上で動作しているし、AWSの持つNVIDIAのGPUサーバーを借りている企業も多い。生成AIの賢さでトップを競っているAnthropicもAWSと提携し、AIの学習とサービス提供に使っている。

 

Alexaの改良版である「Alexa+」は、Amazon Bedrockの上で動く複数の生成AIを使っている。主に使われるのは、Amazonが昨年末に発表した「Amazon Nova」と、Anthropicの「Claude」を活用する。

 

GeminiにしろSiriにしろ、音声で「賢く便利に使える」状態には至っていない。まだまだ改善途上だ。Amazonは生成AIを使ったサービスを構築する基盤を持っており、その上で一気にサービス立ち上げを進めたわけだ。短期間でサービス構築をするのは大変なことだが、Amazonは「人とコストを集中的に投下する」ことで、より良いサービスを構築できたのだろう。

 

生成AIで“誰もが便利だと感じるサービス”を作るのはまだ難しい。GeminiもSiriも、OpenAIのChatGPTも課題を抱えている。Amazonだって、何の問題もなく便利かどうかを断言できる状況にはない。

 

しかし少なくともデモを見る限りは、“声で人と対話するように日常求められる作業をやってもらう”ことを実現しているように見える。そもそもAlexa+の場合、用途が“家庭内で求められること”“買い物が関わること”に限定される……という点は、他社より有利なところなのかもしれない。“生成AIで便利なサービスを作る”という意味では、Amazonは相当に有利な立場に立てた、と言えそうだ。

 

もう1つ重要なのは、生成AIをベースにしているため、“多言語対応が容易である”点だろう。おそらくだが、単に日本語で対話するだけなら、そこまで難しいことではないはずだ。

 

ただし実際には「連動するサービス」の面でもローカライズが必須だ。買い物などAmazon社内のサービスはもちろん、タクシー配車など、国内のパートナーとの連携は必須と言える。そうした部分まで考えると、日本でAlexa+が使えるようになるには、もうしばらく時間がかかるだろう。

 

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【西田宗千佳連載】ゼロから作り直して「生成AI世代らしく」なった次世代Alexa

Vol.148-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はAmazonが発表した新たな音声アシスタント「Alexa+」の話題。生成AI時代に生まれ変わるサービスにはどんな変化があるのかを探る。

 

今月の注目アイテム

Amazon

Echo Show 15(第2世代)

実売価格4万7980円

↑音声での対話による情報の提供には欠かせない、ディスプレイ付きのスマートスピーカー。Echo Show 15は15インチの画面で文字などの視覚情報により、スムーズな対話が可能になるデバイスと期待されている。

 

Amazonが2月に発表した「Alexa+」は、同社の音声アシスタント「Alexa」を、生成AI技術を使ってゼロから作り直したものだ。

 

その結果としてAlexa+は、「自然な対話」「対話の中での複数の作業」といった、人間になにかをお願いした時と同じような挙動を実現している。現時点では英語デモの様子しか確認できていないため、どこまで人間に近い、理想的な挙動になっているかは判然としない部分もある。しかし、いままでのAlexaに比べ、自然で“会話しながらなにかをする”イメージに近いサービスへと近づいているのは間違いない。

 

Alexa+の特性は、生成AIを使ったAIエージェントそのものだ。

 

ご存じのように、生成AIは文章での問いかけに対し、自然な文章で応対する。音声認識を軸にしたAIから生成AIに切り換えたことで、Alexa+の応対は、当然自然なものになる。

 

また、現在生成AIの世界では、複数の作業を連続して行う機能が注目されている。人間の代わりに色々なことを行う……という要素から、そうしたシステムを「AIエージェント」と呼ぶことが多い。

 

声や文書など、言語でコンピュータに命令を与えることには利点と欠点がある。利点はいうまでもなく「簡単」であること。欠点は「ボタンをクリックするのに比べるとまどろっこしいこと」だ。ボタンを1つ押せば済むことではなく、もっと複雑なことをお願いするか、対話すること自体を楽しめるようにするなどの副次的要素を加えるかといった形にしないと、生成AIによるアシスタントは便利な存在にならない。単純に生成AIとチャットしても便利なサービスと言えないのは、もう皆さんも体験しているのではないだろうか。

 

だからこそ各社は、生成AIを“複数のことを人間の代わりに行う”“多少曖昧だったり複雑だったりする命令も読み解いて、結果的に目的を果たす”ものにすることを目指している。それがすなわち「AIエージェント」だ。

 

実はAmazonは、Alexaで複数の命令を自然な会話の中で聴き取り、作業を進める仕組みをずっと開発していた。筆者が最初にデモを見たのは2019年のことだが、結局オリジナルのAlexaでは、正式に実装されることは無かった。作っていたのはいまでいうAIエージェントそのものだが、他のサービスとの連携などに課題があったため……と言われている。

 

しかし、生成AIをベースとして全体を作り直した結果として、音声アシスタントに求められる「AIエージェント的挙動」を実現できたことになる。処理はすべてクラウドで行われるため、すでにあるAlexaデバイスでそのまま使えるのも重要な点だ。

 

Amazonは生成AIへの取り組みで遅れている……と言われていたのだが、ここに来て他社を一気に追い越してきた印象も強い。では、それはなぜできたのか? 他のプラットフォーマーはどう対抗してくると考えられルのか? その点は次回解説する。

 

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【西田宗千佳連載】音楽からセキュリティに移った「スマートホーム」。そろそろ「音声の価値」を見直す時期に

Vol.148-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はAmazonが発表した新たな音声アシスタント「Alexa+」の話題。生成AI時代に生まれ変わるサービスにはどんな変化があるのかを探る。

 

今月の注目アイテム

Amazon

Echo Show 15(第2世代)

実売価格4万7980円

↑音声での対話による情報の提供には欠かせない、ディスプレイ付きのスマートスピーカー。Echo Show 15は15インチの画面で文字などの視覚情報により、スムーズな対話が可能になるデバイスと期待されている。

 

音声アシスタントの草分けであるAmazonの「Alexa」は、2014年にアメリカで生まれた。同時に登場した「Amazon Echo」の存在もあり、そこから数年間、スマートスピーカーのブームが起きたことを記憶している方も多いだろう。Googleは「Google Home(現 Google Nest)」、Appleは「HomePod」を製品化し、日本ではLINEが「Clova」を販売した。

 

そのブームも3年ほどで落ち着いたが、その後に市場で存在感がある形を残せたのは、AmazonのEchoシリーズとGoogleのNestくらいではないだろうか。製品供給という意味ではAmazonはいまだ積極的だが、Googleは鈍く、スマートスピーカーというジャンル自体が停滞しているのは間違いない。

 

音声アシスタント自体は、そのままスマホの中に定着した。現在はテレビでも、スマホ由来の技術を使って「音声検索」するのがあたりまえになっている。

 

スマートスピーカーの登場時期は、音楽でストリーミング・サービスが定着し始めた時期と重なる。日本ではまだまだだったが、アメリカではまさに普及期。しかし、家庭にはすでにCDプレーヤーやホームオーディオが減っており、「部屋で気軽に音楽を聴く方法」が求められていた。スマートスピーカーの存在感もそこにあった。

 

だが、その需要が一回りすると、そこからは別の要素が必要になる。そこで重視されたのが「スマートホーム」だ。日本では「家電を声で操作する」要素が注目されがちだが、アメリカで中心となった要素は、監視カメラと組み合わせた「セキュリティ」である。アメリカでは切実なニーズがあり、監視カメラをハードと管理サービスのセットで販売できるため、収益性も高まる。

 

音声アシスタント自体では大きな収益は生まれていないものの、セキュリティを軸にしたスマートホームは収益につながっている。結果として、自宅内に置くスマートスピーカーも、スピーカーだけを備えたものからディスプレイ付きの「スマートディスプレイ」が増えてきている印象だ。

 

ただし、その流れは「音声アシスタント自体の価値を高める」ものではない。Amazonが目指していたのは、「スタートレック」などのSFの中に出てくる、「話しかけると作業をしてくれるコンピュータ」を実現することだったからだ。音声認識ができるサービスを作ることはできたが、理想には遠い完成度だったと言える。

 

だからこそAmazonは、Alexaをゼロから作り直し「Alexa+」をスタートすることになったのだ。

 

では、その作り直しにはどのような流れがあったのか? その点は次回のウェブ版で解説しよう。

 

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【西田宗千佳連載】生成AI時代の「Alexa+」が登場

Vol.148-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はAmazonが発表した新たな音声アシスタント「Alexa+」の話題。生成AI時代に生まれ変わるサービスにはどんな変化があるのかを探る。

 

今月の注目アイテム

Amazon

Echo Show 15(第2世代)

実売価格4万7980円

↑音声での対話による情報の提供には欠かせない、ディスプレイ付きのスマートスピーカー。Echo Show 15は15インチの画面で文字などの視覚情報により、スムーズな対話が可能になるデバイスと期待されている。

 

Alexaにより“音声で命令”が定着

2月26日、米Amazonは音声アシスタント「Alexa」を刷新すると発表した。ゼロから作り直した「Alexa+」の導入だ。3月からアメリカ市場のユーザー向けに提供が開始された。時期は公開されていないが他の言語・地域への提供も予定されており、その中には日本語も含まれる。

 

Alexaは2014年にアメリカでスタートした。精度の高い音声認識を組み込んだ「スマートスピーカー」を実現し、部屋のどこにいても、好きな音楽をかけることができるようになった。その後、Alexaと連携するスマートホーム機器は増加し、GoogleやAppleもその市場を追いかけた。音声アシスタントはスマホにも搭載され、“音声で命令”することは珍しいものではなくなっている。

 

一方、“音声で命令すること”が便利なものとして定着したかというと、そうでもないのが難しいところだ。AIによって音声認識は可能になったが、AIがユーザーのしたいことをきちんと理解してくれるには至らなかったからだ。結局、Alexaをはじめとした音声アシスタントは、“声を使ったリモコン”的な使い方に落ち着き、ある種の停滞感があった。

 

そこで登場したのが「Alexa+」だ。名前こそ似ているが、背後にあるソフトウエアはまったく異なる。Amazonは生成AI技術をベースに、Alexaを新たに作り直した。その結果生まれたのがAlexa+、ということになる。

 

より自然で複雑な会話を生成AIで実現する

いちばんの違いは「対話性の向上」だ。従来のAlexaは“定まったことに答える”という性質が強かったが、生成AIをベースとするAlexa+は人間と自然な会話ができる。しかも、会話しながらレシピを見つけたり買い物をしたり、野球のチケットを予約したりと、複数の作業ができる。

 

例えば、野球の話題でAlexa+と盛り上がりつつ、試合のチケットが1人200ドルに値下がりしたタイミングで教えてもらうことも可能になるという。これは以前のAlexaではかなり難しかったことだ。レシピにしても、教えてもらったものから“調味料が足りないので別のソースのものにカスタマイズしてもらう”ことだってできる。この辺はいかにも生成AIらしい機能だ。

 

Amazonは以前から、Alexaに高度な対話機能を搭載しようとしてきた。技術的には、現在生成AIで行っていることにつながるものだが、既存のAlexaにそれを実装することは、結局成功しなかった。2023年には生成AIを使ったチャット機能を搭載する計画が公開されていたが、消費者が望んだのは単なるチャットではない。代わりに買い物をしてくれることであり、家電と便利に連携してくれることだ。

 

生成AIでAlexaを根幹から作り直す、というAmazonの決断は大胆なものだ。だが筆者がデモから判断する限りでは、それだけの価値があったように思える。

 

生成AIはAlexaになにをもたらそうとしているのだろうか? そして他社はどうするのか? そこは次回以降で解説していきたい。

 

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【西田宗千佳連載】テレビも生成AIで進化する!?

Vol.147-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はCESで発表された新規格「HDMI2.2」とテレビの超大型化の話題。価格面だけでなく設置の課題もあるが、今後も大型化は進むのか。

 

今月の注目アイテム

TVS REGZA

REGZA 85E350N

実売価格28万6000円

↑85V型の4K液晶エントリーモデル。全面直下型LEDモジュールを採用し、鮮やかかつ高精細な映像表現を可能にする。好きなタレントの出演番組もすぐに見つかる「ざんまいスマートアクセス」などで快適に視聴できる。

 

テレビは過去、新規格と放送規格の変化によって進化してきた部分がある。放送のデジタル化に合わせて薄型で高解像度のテレビが産まれ、伝送のデジタル化でHDMIが産まれた。新しい環境に適応するために“新しい価値のあるテレビ”への買い替えが発生してきた、とも言える。

 

日本で次の地上波規格が導入される時期は決まっていないが、2030年頃には始まっている可能性が高い。だが解像度は現在の4Kまでで、テレビを買い替えずに対応する方法もある。コンテンツも映像配信から供給される割合が増えている。地上波がなくなることはないが、放送への依存度が減る可能性は高い。

 

過去、テレビは画質・音質向上を軸に進化してきた。今後も重要であることに変わりはないが、どこまでも画質が上がり続けるわけではなく、新しい付加価値は必要になってくる。

 

そこで各社が模索しているのが「コンテンツ発見機能の強化」だ。いまはリモコンを操作してサムネイルから探しているが、面倒であることは間違いない。理想は、“テレビの前に来たら自分にあったもの、いま観たいものを提示してくれる”形だろう。

 

そうした理想の実現のためには2つ重要な点がある。

 

まず、コンテンツをより多彩な観点で分析し、自分が見たいものを勧めてくれる機能。これには生成AIの導入が有望と見られている。TVS REGZAは「今後発売を予定しているテレビを想定した機能」として、音声で生成AIに「おすすめの番組をたずねる」機能を開発した。またGoogleも、同社の生成AI「Gemini」をGoogle TVに搭載し、コンテンツのおすすめに使う計画を立てている。

 

次が個人認識。番組のレコメンド機能はいまもあるが、テレビの場合、機器に登録されたアカウントと「見ている人」がイコールであるとは限らない。テレビではアカウントを手動で切り換えることは少ないし、家族など複数人で見ることも多いからだ。

 

テレビにカメラを組み込めば、“見ている人が誰か”“何人で見ているのか”を判別することはできる。しかし、カメラを搭載するのは“リビングが監視されている”ように感じられて落ち着かない……という人もいる。

 

そこで現在、TVS REGZAが検討しているのは「ミリ波」を使う手法だ。微弱な電波を当てて帰って来る波を検知するのだが、これの場合、顔までは分からない。しかし、“大人か子どもか”“男性か女性か”くらいは分かる。結果として、家族の誰かを判別することは可能で、「テレビでのレコメンド精度アップ」と「プライバシー配慮の両立」が可能になる。

 

これらの要素は、テレビでの「広告」価値を高めるためにも有効だ。過去の放送のように流しっぱなしの広告ではなく、見ている人や世帯に応じて広告を差し替え、より高い広告効果を目指すこともできるだろう。もちろんその時には、プライバシーへの強い配慮が必要だ。

 

こうした新しいテクノロジーがコンテンツの見方を変えることが、テレビの進化に必要な時代になってきているのである。

 

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【西田宗千佳連載】テレビではなく「産業用途」を目指すHDMI 2.2

Vol.147-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はCESで発表された新規格「HDMI2.2」とテレビの超大型化の話題。価格面だけでなく設置の課題もあるが、今後も大型化は進むのか。

 

今月の注目アイテム

TVS REGZA

REGZA 85E350N

実売価格28万6000円

↑85V型の4K液晶エントリーモデル。全面直下型LEDモジュールを採用し、鮮やかかつ高精細な映像表現を可能にする。好きなタレントの出演番組もすぐに見つかる「ざんまいスマートアクセス」などで快適に視聴できる。

 

今年1月のCESで、テレビなどで使われる新しい接続規格である「HDMI 2.2」が発表された。製品化は今年後半からの予定で、家電などで使われていくのは今年末から2026年はじめにかけて、ということになりそうだ。

 

HDMIはもう、多くの人がご存じかと思う。最初の「HDMI 1.0」が策定されたのは2002年12月のことなので、もう20年以上も使われている。ディスプレイと機器の間をつなぐデジタル接続用の規格だ。

 

コネクターやケーブルは一見変わっていないように見える。ただケーブルの方は規格に合わせて「より広い帯域のデータ」を扱えるものを使うことが定められており、対応のものでないと正常に使えない場合がある。現行の規格は「HDMI 2.1」であり、最大48Gbpsのデータを流せるケーブルであることが求められる。

 

新規格の「HDMI 2.2」ではこれが「最大96Gbps」に拡張され、より良い品質のケーブルが必要になる。認証を受けたケーブルには、パッケージに規格名と伝送帯域(96Gbps)が明記される予定なので、2025年後半以降に発売された場合には、それを目印にしてほしい。

 

一方正直なところ、HDMI 2.2は一般消費者向けにはかなりオーバースペックではある。

 

この先のテレビのトレンドを見ても、解像度は4Kが中心。8Kは放送を含めたコンテンツ供給が増える目処が立っておらず、ゲームも4Kまでが主軸になるだろう。ゲームではフレームレートが増えていくが、240Hzまでいけば十分だろうと想定される。ゲームでの高フレームレート以外は“現在のテレビでもカバーできている範囲”であり、HDMI 2.2でないとできない、ということは少ない。

 

ではHDMI 2.2はなんのために作られたかというと、“テレビ以外に新しい用途がある”ためだ。

 

現在、市街地のビルなどに大きなサイネージ・ディスプレイが置かれることは当たり前になってきている。イベントなどの背景に使われるのも、同じく大型のディスプレイだ。これらは4Kよりもはるかに高い解像度であり、5K・10Kといったレベルになる。

 

また、CTスキャンのデータなどを見る医療用ディスプレイも、4Kを超える解像度のものが求められている。

 

裸眼で立体を見るディスプレイは、どこから見ても立体に見える「ライトフィールド記録」を採用するものもある。そうしたディスプレイでは「32視点分」のような大量の視点の映像を同時に表示するので、解像度を高めるには「1視点の解像度×視点の量」だけの映像を表示可能なデバイスが必要になる。

 

どれも基本的には個人向けではなく産業向けで、いままではDisplayPort規格が使われてきた。そこにHDMIが割って入るには、規格の大幅アップデートが必要になる。すなわちHDMI 2.2については、家電メーカーの要請ではなく「産業機器メーカー」の意向が強く働いている、ということだ。

 

だから“HDMI 2.2がテレビの未来を示している”わけではなく、機能の一部が未来のテレビにも使われていく……と考えるべきだろう。

 

では未来のテレビはどちらに向かうのか? それは次回のウェブ版で解説してみたい。

 

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【西田宗千佳連載】ゲームに向けて、テレビのフレームレートも「240Hz」「480Hz」へと増える

Vol.147-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はCESで発表された新規格「HDMI2.2」とテレビの超大型化の話題。価格面だけでなく設置の課題もあるが、今後も大型化は進むのか。

 

今月の注目アイテム

TVS REGZA

REGZA 85E350N

実売価格28万6000円

↑85V型の4K液晶エントリーモデル。全面直下型LEDモジュールを採用し、鮮やかかつ高精細な映像表現を可能にする。好きなタレントの出演番組もすぐに見つかる「ざんまいスマートアクセス」などで快適に視聴できる。

 

前回の連載で、「テレビは100インチクラスの超大型のニーズが増える」という話をした。それは間違いではなく、確実に増えていくだろう。

 

ただ、すべての家庭に75インチオーバーの巨大テレビがやってくるか、というとそうではない。安くなってきたといっても最低数十万円の買い物であり、“壁面がテレビに覆われている形を許容する”人のためのものでもある。住居にそこまで大きいサイズのものを“置けない”人もいるだろうし、同じくらい“搬入できない”人もいるだろう。

 

一方で、より多くのテレビに関係してくるトレンドもある。それは「ゲーム向けの高フレームレート対応」だ。

 

一般的に、テレビは「毎秒60Hz」を前提に作られている。Hzとは1秒に表示されるコマの値を示し、1Hzなら秒1コマ、60Hzなら毎秒60コマを指す。

 

ざっくりいえば、テレビ放送がインタレース方式の30Hz=実質60Hz(1080i)であり、他の映像はプログレッシブ方式の60Hz(1080p)というのが2025年現在の基本だ。現在の4Kテレビでは、1920×1080ドットの縦横2倍、3840×2160ドット・60Hzまでの映像を見ている。

 

しかしゲームでは、60Hzよりもコマ数を増やし、なめらかな映像とすることが求められるようになってきた。

 

1コマを認識する能力でいえば、ハードウエアとしての人間は60Hz(1コマ約0.0167秒)であってもギリギリ。だからテレビの規格を定める際には30Hz・60Hzをひとつの軸にしたのだ。映像を見る分には60Hzでも十分である。

 

しかし、「一連の動きの中で変化を認識する」能力は、60Hzよりさらに高い。

 

こうした認識力が重要になるのが、格闘ゲームやファーストパーソン・シューターなどの「eスポーツ」的ゲームだ。ある時間の中に入るコマ数が増えると動きをより正確に把握しやすくなっていく。

 

これは考えてみれば当たり前の話。自然界には「コマ」はない。自然界の連続的な動きに近づけていくのが「コマ数を増やす」ということなのだ。

 

ゲーム用を意識したPCディスプレイでは、解像度こそ1920×1080ドットだが、フレームレートは120Hzだったり240Hzだったりする製品も一般的になってきた。

 

テレビもこれを追いかけ、「120Hz」もしくは「144Hz」対応の製品は増えてきた。だが、ゲーマーはさらなる高フレームレートを望んでいる。テレビの用途として「ゲーム」は非常に大きな要素なので無視できない。

 

現在の「HDMI 2.1」では、フレームレートは大きな数字としては規定されていない。120Hz・144Hz対応のテレビは登場しているが、4K/240Hzなどは想定していない。フレームレートが上がると、ケーブルで伝送しなくてはならないデータ量も増え、HDMI 2.1で規定している帯域(最大48Gbps)を超えてしまうのだ。

 

そこで「HDMI 2.2」では帯域を「最大96Gbps」に拡大。4Kで最大「480Hz」までの対応が可能になる。8Kの場合でも240Hzだ。

 

現状のゲーム機やPCにとってはオーバースペックだが、長く規格が使われることを想定し、大きい値が設定されている。対応製品の発売は「早くても2025年末」とされているが、来年にはテレビでも、ゲーム向けに「240Hz対応」が増え、さらにその先で480Hzなどの姿を目にすることも出てきそうだ。

 

では解像度の方はどうか? それは次回のウェブ版で解説する。

 

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【西田宗千佳連載】「超大型」に注目が集まる現在のテレビ

Vol.147-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はCESで発表された新規格「HDMI2.2」とテレビの超大型化の話題。価格面だけでなく設置の課題もあるが、今後も大型化は進むのか。

 

今月の注目アイテム

TVS REGZA

REGZA 85E350N

実売価格28万6000円

↑85V型の4K液晶エントリーモデル。全面直下型LEDモジュールを採用し、鮮やかかつ高精細な映像表現を可能にする。好きなタレントの出演番組もすぐに見つかる「ざんまいスマートアクセス」などで快適に視聴できる。

 

CESの会場でも超大型モデルが目立つ

テレビに、久々に世界的に大きなトレンドが出始めている。そのトレンドは「超大型化」だ。

 

テレビなどでおなじみのインターフェイスであるHDMIを管理する「HDMI LA」は、今年1月に米国・ラスベガスで開催されたテクノロジーイベント「CES 2025」で、新規格「HDMI2.2」を発表した。

 

その発表のなかでは「2024年以降、85インチから100インチのテレビの販売量が増えている」との報告があった。

 

これは事実で、多くのテレビメーカーは“昨年超大型の出荷が伸びた”こと、“今年は超大型に力を入れる”ことをアピールしていた。CESの会場では85インチ以上のテレビを展示するところが増え、TCLなどの中国メーカーは、163インチのマイクロLEDテレビなども展示していた。

 

「そんなこと言っても、大きなテレビは自宅では厳しい」

 

そう思う人は多いと思う。これはたしかにそうだ。ただここで問題になるのは“置けない”以上に“入るのか”という点だ。アメリカや中国では大型のテレビが好まれる傾向にある。一方で都市部では小型が、地方では大型が好まれる傾向は、日本でもヨーロッパでも、そしてアメリカや中国でも変わらない。

 

過去、超大型は非常に高価で、超富裕層が買うものという印象が強かっただろう。価格が100万円オーバーで手が届かないということに加え、巨大かつ重いモノなので、搬入コストや設置コストが大変なものになるという部分があった。

 

だが、現在は価格も“高いが、超富裕層しか買えない”ものばかりではなくなった。たとえば「REGZA 85 E350N」は、85インチだが約29万円で買える。画質にこだわった「85 Z770N」でも48万円程度だ。

 

“低価格で大型化”が日本での普及のポイント

搬入はいまだ問題で、場合によっては専門の業者への発注が必要になる。しかし最大かつ最後の壁はその点であり、販売拡大に伴い、家電量販などは整備を進めるだろう。

 

だからといって、“テレビの主流は100インチ時代”が来るとは思わない。しかし“いままでより大きなサイズを選ぶ人が増えていく”のも間違いない。

 

実のところ、こうしたトレンドは国内ではまだ顕著ではない。ハイセンスと調達を共通化しているTVS REGZAが前のめりで進めている状況である。あとは、シャオミがチューナーレスで低価格の超大型製品を推しているくらいだろうか。他社が日本国内で追随するかは読みづらいが、「世界的にテレビを販売するためにパネルを調達する企業」が低価格大型化をリードしていくだろう。それが支持されるかどうかが、日本での普及に影響してくる。

 

とはいうものの、先ほども述べたように、超大型化は“それを求める人”向けの新しいトレンド。皆が一斉に大型に向かうわけでもない。実は、冒頭で紹介したHDMI2.2にしても、狙いはもはやテレビではなかったりする。

 

大型化以上に見えてきたトレンドとは何か? HDMI2.2は何を目指すのか? そして日本のテレビメーカーはどこへ向かうのか。その辺は次回以降で詳しく解説していく。

 

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【西田宗千佳連載】Android XRにMeta・Appleはどう対抗するのか

Vol.146-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はGoogleが発表したXRデバイス向けの技術「Android XR」。AppleやMetaが先行する分野で、Googleが目指す方向性を探る。

 

今月の注目アイテム

Samsung

Project Moohan XRヘッドセット

価格未定

↑「Android XR」対応として初のデバイスとなり、2025年に発売予定。アイトラッキング機能やハンドトラッキング機能を搭載するほか、GeminiベースのAIエージェントが実装され、自然なマルチモーダル機能を実現する。

 

空間コンピューティングOSであるAndroid XRを搭載したデバイスは、遅くとも今年の後半には登場する。最初の製品となるのは、サムスンと共同開発中の「Project Moohan」だろう。これはVision ProのGoogle版、といえるような製品。筆者もまだ実機を体験したことはないものの、Vision Proよりも軽く安価な製品を目指しているという。

 

また、Android XRは“ハードウエアパートナーを広げやすいだろう”という予想もある。スマートフォンやタブレットに多数のメーカーがあるように、Android XRの供給を受ければデバイスの開発は容易になる可能性が高いからだ。

 

では他社はどう対応するのだろうか?

 

Metaは2024年春、Meta Quest向けOSである「Horizon OS」を他社に供給する戦略を発表した。アプリストアも再構築し、Androidスマホで動いているアプリをそのまま、Meta QuestをはじめとしたHorizon OS対応機器で動かせるようにもしている。“Androidアプリがそのまま動き、複数の企業からデバイス製品が出る”という意味では、完全に競合する存在だと言える。

 

他方で、Metaのパートナー戦略は、Googleほどオープンではない。現状は、特定少数のパートナーと組んで製品バリエーションを広げる形を採っている。なぜかと言えば、XR機器はスマホやタブレットに比べ開発難易度が高く、良い製品を作るのが難しいからである。デバイスを作る時、OSだけでなく多数のノウハウが共有されなければいい製品はできない。

 

Googleとの競合があるから……という面は否めないものの、当面GoogleとMetaは「似て非なる道」を歩くことになる。

 

一方で、Appleのやり方はもう少しシンプルだ。内部では次世代製品とOSアップデートの開発が粛々と進められている。プラットフォーマーは増えても市場の変化がまだ先である以上、製品改良を続けるのが最優先課題だ。Vision Proに続く製品がいつ出るか多数の噂はあるが、どれも根拠には欠けている。はっきり言えるのは、「すぐにVision Proのプロジェクトがなくなったり、後続製品が出なくなったりはしない」ということくらいだろう。

 

どちらにしろ、動きが活発になるのは2025年後半になってからだ。おそらくは今年5月の「Google I/O」、6月に開催されるAppleの「WWDC」、9月に開催されるMetaの「Connect」という3つの開発者会議での情報公開から色々なことが一気に動き出すだろう。

 

なお、GoogleとMetaに共通しているのは、どちらもパートナーとしてQualcommが重要であるという点だ。XR機器向けのプロセッサーはほぼQualcommの独壇場。メジャーな企業でQualcommを使っていないのはAppleくらいのものだ。MetaとGoogleの競争で市場が拡大した場合、まず利益を得るのは両者以上にQualcomm……ということになる。

 

また高画質ディスプレイデバイスも必須なのだが、そこではソニーがまず支持を得ている。ただし、生産量の面で中国BOEが追いかけており、サムスンも自社デバイスで自社が開発したディスプレイデバイスを使う、と予想されている。スマホのディスプレイ競争のように、ソニー対BOE対サムスンの戦いがはじまる可能性があるので、ここにも注目しておきたいところだ。

 

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【西田宗千佳連載】Android XRは「1つの環境で開発」を重視する

Vol.146-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はGoogleが発表したXRデバイス向けの技術「Android XR」。AppleやMetaが先行する分野で、Googleが目指す方向性を探る。

 

今月の注目アイテム

Samsung

Project Moohan XRヘッドセット

価格未定

↑「Android XR」対応として初のデバイスとなり、2025年に発売予定。アイトラッキング機能やハンドトラッキング機能を搭載するほか、GeminiベースのAIエージェントが実装され、自然なマルチモーダル機能を実現する。

 

Googleが開発する空間コンピューティングOSである「Android XR」は、2024年12月、開発者向けに公開された。ただし、動作する機器はまだ販売されていない。最初の1つとなる製品はサムスンが開発しているが、その発売は2025年後半になる。

 

そのため、Android XRがどんなOSかを理解している人は非常に少ない。筆者もすべての情報を持っているわけではないが、開発者向けに公開されている情報と取材で得られた情報から、わかっていることをお伝えしたい。

 

Android XRは、その名の通りAndroidをベースにしている。開発の基本は同じであり、アプリについても、通常のAndroidスマホやタブレット向けに作られたものがそのまま動くようになっている。XR機器の中から見れば、Androidアプリを空間に配置して使えるような感覚である。このことは、Vision Pro用のOSである「visionOS」がiPadOSをベースにしていることと似ている。XR専用のアプリだけでなく通常のAndroidアプリが使えることで“アプリ不足”という状況を回避しやすくなる。

 

また現状、Android XR搭載製品には2つの方向性があることがわかっている。

 

ひとつは、Vision ProやMeta Quest 3のような「ビデオシースルー型XR機器」。本格的空間コンピューティングデバイスであり、サムスンが開発中である「Project Moohan」が最初の製品となる。もうひとつは「スマートグラス」。アプリを使うというよりは、屋外などで通知を受けたり、経路を確認したりするための軽量なデバイスだ。こちらはまだ具体的な機器の情報は出てきていない。

 

一般的にこれらの2つのデバイスは、別々のOSや別々の開発環境で作られている。なぜなら、用途やユーザーインターフェースが大きく違うためだ。Metaはスマートグラスとして「Orion」というスマートグラスを開発中だが、こちらはMeta Questとは別のOS・UIになることが分かっている。

 

各社の言う“用途が異なる”という意見はよく分かる。一方似たような要素を持つアプリを複数の環境に対応させるのは大変コストがかかるものだ。開発者目線でいえば、“まだ数が少なく、ビジネス価値も定まっていない市場で複数の環境向けにアプリを作る”のはかなり厳しい。

 

GoogleはAndroid XRを複数の用途にあわせたひとつの環境とし、既存のAndroidアプリから空間コンピューティング用アプリをできるだけ簡単に作れるように配慮することで、開発者の負担軽減を狙っている。同社は遅れてやってくる立場なので、開発者を引き入れる要素を特に重視している。その結果が、OSの構造や開発姿勢にも現れているわけだ。

 

一方、こうした動きに冷ややかな目を向ける人々も少なくない。GoogleはXR機器に関し、何度も参入・撤退を繰り返しているからだ。「Google Glass」(2013年)に「Project Tango」(2014年)、「Daydream」(2016年)と、複数のXR関連プラットフォームを手がけつつ、どれも早期に開発を終了している。他のサービスにしても、クラウドゲーミングの「Stadia」(2019年)なども短命で終わった。

 

新しいプラットフォームが産まれるのはいいが、じっくり長くやってくれるのか……という疑念があるわけだ。この点、Metaは黙々とビジネスに邁進しているし、Appleも「はじめたらなかなか止めない会社」という信頼がある。

 

Googleが支持を受けるには、まず「Android XRには本気で長く取り組む」という姿勢のアピールが重要だ。まあそれは、デバイスが発売される時期に向けて本格化していくのかもしれない。

 

では、Android XRに対しライバルはどう対抗するのだろうか? そしてどう違うのだろうか? その点は次回のウェブ版で解説する。

 

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【西田宗千佳連載】Googleの参入でようやく役者が揃う「空間コンピューティングデバイス」

Vol.146-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はGoogleが発表したXRデバイス向けの技術「Android XR」。AppleやMetaが先行する分野で、Googleが目指す方向性を探る。

 

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Samsung

Project Moohan XRヘッドセット

価格未定

↑「Android XR」対応として初のデバイスとなり、2025年に発売予定。アイトラッキング機能やハンドトラッキング機能を搭載するほか、GeminiベースのAIエージェントが実装され、自然なマルチモーダル機能を実現する。

 

現在、いわゆるXR機器の世界はMetaによる寡占状態である。

 

調査会社IDCのデータでは、2024年第3四半期においては、市場の70.8%を「Meta Quest」シリーズが占めており、ソニー・インタラクティブエンタテインメントやAppleがそのあとに続く。

 

一方で、シェアが寡占状態になっている理由の1つは「まだ出荷量が少ない」からでもある。現状は年間数百万台規模に過ぎず、スマホには遠く及ばない。PCはもちろん、ゲーム専用機やタブレットに比べても少ない規模でしかない。

 

XR機器は長い間期待されている領域だが、ヒットには結びついておらず、参入企業数が増えない。積極展開する数社だけがなんとかビジネスをできている状況だ。ただ、トップ数社が「本気でこの領域に取り組んでいる」のは間違いない。Metaが独走しているのも、それだけ本気で技術を磨き、製品を売っているからだ。

 

そして昨年、そこにAppleが「Apple Vision Pro」で参入した。出荷量は数十万台というところではあるが、その存在が他社に大きな影響を与えているのは明白だ。Metaは2024年に入り、Meta Questシリーズ向けのOSである「Horizon OS」(2024年春より正式呼称を変更)のアップデートを加速した。機能や画質向上が続いており、2025年1月現在に搭載されている機能は、2023年秋のものとはかなり変わってきている。

 

2023年にMetaは「Meta Quest 3」を発売している。そして、AppleがVision Proを公開したのも2023年6月だ。どちらもビデオカメラの映像をXR機器内に合成し、実空間の中にCGを合成する「ビデオシースルー型Mixed Reality(MR)」を軸にした機器だ。

 

機器やOSの開発には長い時間が必要になる。だから実際には2023年から動き出していたわけではなく、2020年代に入るとすぐに「ビデオシースルーMRの時代が来る」と予見していたのだろう。その上で、Appleの参入がMetaに刺激を与え、市場が活性化しようとしている。まだ販売数量に顕著な変化が出る時期ではないが、Appleが名付けた「空間コンピューティング」の方向へと向かいはじめているのは間違いない。

 

その中で、Googleはなかなか動けずにいた。先を走る2社と競合するには、戦えるだけの基盤=プラットフォームが必要になる。そのプラットフォームこそ「Android XR」だ。Googleの中でも開発の方向性は何度か変わったものと思われる。2023年には発表されるはずだったものが、結局は2024年にようやく“開発者向けにアナウンス”された。製品の姿は2025年後半に見えてくると予想されている。

 

すなわち、今年からようやく役者が揃い、「空間コンピューティングデバイス」が競い合う時代がやってくる……ということになり、市場が動きだしそうだ。

 

では、Googleが開発しているAndroid XRはどんなものなのか? その辺は次回のウェブ版で解説する。

 

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【西田宗千佳連載】Googleが新OSでMetaやAppleを猛追。「Android XR」とは何なのか

Vol.146-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はGoogleが発表したXRデバイス向けの技術「Android XR」。AppleやMetaが先行する分野で、Googleが目指す方向性を探る。

 

今月の注目アイテム

Samsung

Project Moohan XRヘッドセット

価格未定

↑「Android XR」対応として初のデバイスとなり、2025年に発売予定。アイトラッキング機能やハンドトラッキング機能を搭載するほか、GeminiベースのAIエージェントが実装され、自然なマルチモーダル機能を実現する。

 

方向性は見えているが開発はまだ道半ばの状態

Googleは2024年12月、新しいプラットフォームである「Android XR」を発表した。Androidをベースとした、XRデバイスを開発するための技術である。XRとはVRやARなど、空間を活用する技術の総称だ。

 

同社はかねてより本格的なXR向け機器をサムスンとともに開発中とされていた。当初は2023年にも発表と見込まれていたが、予定からは1年以上遅れ、ようやく発表になった。

 

ただし、公開されたのはあくまでOSのみで、製品はまだ出ていない。サムスンが開発しているデバイスについて、プロトタイプデザインが公開されているが、価格や詳細スペックは未公表。市場に出てくるのは2025年になってからということになる。サムスンの製品が最初に世に出てくると予測されているが、その他にもソニーやXREAL、Lynxが対応デバイスを開発することがアナウンスされている。2024年末の段階では、OSを含めた開発環境が公開されている状況。消費者向けの発表というよりは、開発者に向けた情報公開がスタートしたという段階だ。

 

Android XRはどんな使い勝手のものになるのか? 前述のように、具体的な製品のスペックや機能、価格は未公表であり、価値を正確に判断するのは難しい状況だ。ただ、開発環境やGoogleが公開した動画などから、どんな機能を備えた機器になるのか、ある程度の方向性は見えてきている。

 

プラットフォーマーの2025年の動きに注目

コアな目標は、AppleのVision ProやMetaのMeta Questと同じような機器を作ることだ。サムスンが発売するデバイスはそのような特質の製品になる。実際、ユーザーインターフェースの画面もVision Proのものに似ている。仮想空間を使ったゲームや動画などのアプリが体験できるほか、スマホなどで使われているAndroidアプリも動作する。この辺は、他社で進むトレンドを追いかけるもの、と考えても良い。

 

同時に、サングラス型で軽量の「スマートグラス」デバイスも開発できる。ただしこちらは大規模なアプリを動かすものというよりは、移動中に必要とされる情報を表示して利用するもの……と考えた方が良いだろう。

 

Googleらしいのが、同社のAI機能である「Gemini」を活用することだ。カメラで得た外部の情報をGeminiが理解し、“目の前に何があるか”などを利用者に説明することができる。音声で対話しつつ、Geminiをアシスタントとして活用することを目指す点では、スマホでやろうとしていることに近い。しかし、スマホを掲げて使うのではなくスマートグラスの形になるなら、もっと使いやすくなる可能性が高い。

 

2025年にはApple、Meta、Googleと、大手プラットフォーマーが揃ってXR機器を出し、そのことは市場に競争を促す。実のところ、2024年の間から競争は始まっており、各社の製品に影響を与え始めている。

 

GoogleはなぜここでXR機器に取り組むのか ?他社はどう対応するのか? そうした点は次回以降で解説していく。

 

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【西田宗千佳連載】スマホAIでの「日本ならでは」要素をどう組み立てていくのか

Vol.145-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はシャープから登場した「AQUOS R9 pro」。ライカ社との協業でカメラ性能をアップさせた、シャープの開発意図を探る。

 

今月の注目アイテム

シャープ

AQUOS R9 pro

実売価格19万4600円〜

↑ライカカメラ社が監修した高精細な5030万画素の標準・広角・望遠カメラを搭載するSIMフリースマホ。カメラが3眼となり、標準カメラには1インチを超える1/0.98インチのセンサーを搭載する。美しい写真を撮影可能だ。

 

2024年のスマートフォンに現れた大きな傾向のひとつに「AIの搭載」がある。

 

正確に言えば、スマホへのAI搭載は以前から行われていた。カメラの画質向上や音声認識は、AIの力がなければ実現出来ない。ただそこに「生成AI」を中心とした様々な新しいAIも登場し、それらをスマホの中に組み込むことが差別化要因になり始めている。

 

こうした傾向は、GoogleやAppleといった大手プラットフォーマーが中心になったものだ。生成AIなどの開発には大きなコストが必要であり、プラットフォーマーとして広く様々な機器に組み込んでいく前提がないと、なかなか元が取りづらい。

 

一方、大手の言うがままに生成AIを搭載しても、機能自身は「同じプラットフォームを採用する他社」も提供可能なので、差別化が難しくなる。Androidの場合、GoogleのPixelもライバルになるのが悩ましいところである。プラットフォーマーを除くと、総花的な機能を開発して自社製品に実装するだけの量を出荷できるのはサムスンくらいのもの……という部分もある。

 

では他はどうするのか?

 

シャープはかなり特徴的な取り組みをしている。生成AIとして「留守番電話」に特化した機能を搭載しているのだ。

 

文字による留守番電話の書き起こしや確認といった機能は珍しいものではない。

 

なぜシャープが重視するのかといえば、“携帯電話での留守番電話の仕組みが、日本と他国では異なる”からだ。携帯電話事業者側に留守番電話の機能があるのは日本型であり、海外はあくまでスマホ側で行うことになっている。海外のプラットフォーマーは日本に合わせたものを作ってはくれないので、シャープは日本向けにAIを作って対応することになったわけだ。

 

これは、今後の日本メーカーにとって大きな教訓を含んでいる。

 

グローバルな企業の日本最適化が、今後も綿密なままだと期待するのは難しい。人口が減って購買力が下がるとすれば、日本語を重視してもらえるとは限らないし、ご存じの通り、すでにその傾向は出ている。

 

だとすれば、彼らがサポートできないところは日本メーカーが作って差別化要素としつつ、コアな機能はグローバルなプラットフォーマーのものを使ってコストと機能の最適化を行う……というのは有用な方法論であり、今後増えていってほしい形ではある。

 

シャープはそこに「留守録」という切り口を見つけているわけだが、他にはどんな切り口があるのだろうか? そこでなにをするかが、2025年以降、メーカーにとって知恵の絞りどころになっていくのだろう。

 

ただ、それができるのは「日本メーカー」とは限らない。日本市場を重視する中国メーカーが手がける可能性もある……というのが、いまのメーカーの力関係を考えると現実的な路線なのかもしれない。

 

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【西田宗千佳連載】老舗カメラメーカーの「写真への価値観」を求めるスマホメーカー

Vol.145-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はシャープから登場した「AQUOS R9 pro」。ライカ社との協業でカメラ性能をアップさせた、シャープの開発意図を探る。

 

今月の注目アイテム

シャープ

AQUOS R9 pro

実売価格19万4600円〜

↑ライカカメラ社が監修した高精細な5030万画素の標準・広角・望遠カメラを搭載するSIMフリースマホ。カメラが3眼となり、標準カメラには1インチを超える1/0.98インチのセンサーを搭載する。美しい写真を撮影可能だ。

 

スマホにとって、カメラは大きな差別化要因だ。特にハイエンドスマホにとっては、高価な先端イメージセンサーを使った“カメラ特化”が重要な方向性といえる。そこで得た差別化要因は、次第にマス向けの製品にも活用され、裾野へと広がっている。

 

そんな中、カメラメーカーとコラボレーションするスマホも増えてきた。

 

シャープやシャオミはライカと組み、Oppo(オウガ・ジャパン)はハッセルブラッドと提携している。特に2024年は、これらのメーカーのスマホが目立った年でもあった。

 

カメラメーカーのお墨付きがあるスマホ、というのは昔からあった。だが5年ほど前までは、その市場価値はいまほど大きくなかったように思う。

 

理由は、画質やカメラとしての機能がまだ未熟だったからだと考える。スマホのカメラ機能が未熟な時期には、センサーの性能や基本的な画質補正などの進化の幅がまだ大きい。そうすると、カメラメーカーと組んだからということより、わかりやすいスペックの方が有効になる。

 

しかしいまは、スマホのカメラもかなり画質が上がってきた。ハイエンドなセンサーを搭載した製品ならなおさらだ。

 

一定の水準を超えたカメラを作る場合、重要になるのは“写る”ことではない。写った画像・映像で“どのような色・写りにするのが良いのか”ということだ。シンプルな言い方をすれば、同じような映像がデータとして得られたとして、どの色にすることを選ぶのか……という話でもある。

 

写真の写りは、レンズの選び方や特性によって変わるところもあるし、その後の処理によって変わる部分もある。カメラメーカーとして長い経験があるところは、その判断基準を持っている。デジタルカメラでの知見に限ったことではない。カメラブランドとして長くビジネスできているということは、“このカメラであればこういう写真が撮れる”ということを消費者・ファンが支持し、判断して購入しているということでもある。

 

単にブランドを貸すだけでは、そうしたファンを失う可能性にもつながる。だからこそ現在は、“高画質になったカメラでどんな色の写真を残すのか”という判断基準の決定について、カメラメーカーとスマホメーカーが協力して臨むようになってきているわけだ。

 

ただ、ライカがシャープやシャオミと提携しているからといって、シャープとシャオミのカメラが同じ写りになるわけではない。色などの選び方の傾向として「ライカっぽさ」が双方にあるものの、どこを重視するかは同じにはならない。筆者の見るところ、2社製品の間にはズームやコントラストに関する考え方の違いがあるように感じる。この辺まで見ていこうとすると、製品選びはなかなか難しいものだ。

 

他方で、現在スマホメーカーと組んでいるのは「日本のカメラメーカー以外」と言える。日本メーカーは一眼において競争を繰り広げている最中で、まだまだスマホメーカーとの深い協業には至りづらいのだろう。日本で元気なスマホメーカーが減った、という影響も否定できない。この辺、2025年にも変化はないと予想しているが、どうなるかはまだ見えてこない。

 

では、カメラ以外の差別化点はどこか? 今はAIに注目が集まっている。そこでどんな点に着目すべきかは、次回のウェブ版で解説しよう。

 

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【西田宗千佳連載】メーカーはなぜ「ハイエンドカメラスマホ」を作るのか

Vol.145-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はシャープから登場した「AQUOS R9 pro」。ライカ社との協業でカメラ性能をアップさせた、シャープの開発意図を探る。

 

今月の注目アイテム

シャープ

AQUOS R9 pro

実売価格19万4600円〜

↑ライカカメラ社が監修した高精細な5030万画素の標準・広角・望遠カメラを搭載するSIMフリースマホ。カメラが3眼となり、標準カメラには1インチを超える1/0.98インチのセンサーを搭載する。美しい写真を撮影可能だ。

 

現在のスマホにとって、カメラは最大の差別化要素になっている。理由は主に2つある。

 

ひとつは言うまでもなく、カメラがスマホのなかでももっとも使われる機能のひとつであるからだ。誰もが毎日使う機能であるからこそ、“画質が良くなった”という点は大きなアピール力を持つ。

 

ふたつ目は“まだ進化しており、差がつく領域である”ということだ。

 

“スマホのカメラ性能はもう十分”と言われるが、実際にはそうでもない。かなり高画質になったのは事実だが、十分に明るいところでしっかりとホールドして撮影した時には綺麗……というのが正しい。

 

スマホは一眼カメラなどに比べ、使うシーンも使う人のスキルもバリエーションが広い。手ブレしにくく、暗いところでもしっかり写るカメラが求められている。望遠倍率ももっと高い方がいい。

 

どれも「カメラ」としては非常に厳しい条件であるが、スマホという商品特性を考えると改善すべき部分だ。特に動画画質については伸びしろが大きいし、ニーズも大きい。

 

プロセッサーやディスプレイも進化しているが、多くの人にとっては、カメラに比べると差がわかりづらいだろう。スマホの平均買い替えサイクルは4年強と言われている。年齢が低いと3年以内、高齢になると4年以上と差があり、実は一律に語るのは難しい。しかしどちらにしろ、買い替えサイクルが長くなっている一因は“性能への不満が小さくなっている”ことにある。そのなかでメーカーとしてカメラへの注力を続けるのは合理的だ。

 

カメラは光を取り込んで映像にするもの。だからレンズやセンサーのサイズは大きいに越したことはない。

 

一方で、スマホ向けのイメージセンサーは、もはや“ひとつのパーツを高性能化すれば画質があがる”ようなシンプルな存在ではない。イメージセンサーとレンズ、さらにはその背後にあるソフトウエア処理の組み合わせで決まる。

 

センサーは複数搭載されるようになったが、広角や望遠といった画角で使い分けているだけではない。複数のセンサーで撮影されたデータを処理の過程で併用し、適切な一枚を作り上げる場合も多い。

 

そうなると、カメラ画質を重視するには「複数のセンサー」があって、それぞれが“できるだけ大判のもの”であることが望ましい。すっかり定着したセオリーだが、パーツコストを考えると、両方を満たせるのは高価なハイエンド製品のみ……ということにもなる。

 

ただ、ハイエンド製品で磨いたノウハウやソフトウエアは、一定のタイムラグがあった後、コストが低いモデルにも展開されていく。前出のように、ひとつパーツをつければ高画質になるような、シンプルな時代ではない。イメージセンサーメーカーはパーツとともに一定のノウハウも提供するし、Qualcommなどのプロセッサーメーカーもカメラ関連ソフトウエアを提供してはいるが、どのスマホでも同じように働くわけではないし、他社の価値に乗っかるだけでは差別化もできない。

 

結果、“自社でハイエンドなカメラを搭載したスマホを作って世に出す”ことができていない場合、その後の普及型スマホを差別化していく要素を失うことになるわけだ。

 

ハイエンドのスマホは売れる量が限られる。高付加価値だがビジネス的にはリスクがある。シャープはカメラで差別化した「AQUOS R9 pro」を発売したが、その狙いはハイエンドというビジネスだけでなく、今後のスマホを差別化するために必須のものであるから……という事情もあるのだ。

 

ではそのノウハウは、どのように構築されていくのか? そこは次回のウェブ版で解説する。

 

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【西田宗千佳連載】遅れてきた「シャープのライカスマホ」

Vol.145-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はシャープから登場した「AQUOS R9 pro」。ライカ社との協業でカメラ性能をアップさせた、シャープの開発意図を探る。

 

今月の注目アイテム

シャープ

AQUOS R9 pro

実売価格19万4600円〜

↑ライカカメラ社が監修した高精細な5030万画素の標準・広角・望遠カメラを搭載するSIMフリースマホ。カメラが3眼となり、標準カメラには1インチを超える1/0.98インチのセンサーを搭載する。美しい写真を撮影可能だ。

 

じっくりと開発してカメラ機能に注力する

シャープは12月に同社のフラッグシップスマホ「AQUOS R9 pro」を発売した。カメラを主軸としたフラッグシップスマホであり、著名カメラメーカーのライカとの協業モデルでもある。

 

12月にカメラに力を入れたフラッグシップモデルを提供するのは、同社の商品化サイクルを外れた部分がある。いままでは春ごろに出ている製品だったが、今回は年末の登場になった。

 

理由はじっくりと開発を進めてきたためだ。

 

スマホにもいろいろな種類がある。雑誌やウェブではハイエンド機種が取り上げられがちだが、実際に売れるのは安価なモデルやお買い得なモデルである。今年のシャープは、ミドルハイクラスと言える「AQUOS R9」を初夏に出して主軸とし、さらに低価格な機種などを用意した。AQUOS R9ではあえてミドルクラスのプロセッサーである「Snapdragon 7+ Gen3」を使い、コストを下げつつ実パフォーマンスは維持する……というパターンを採用している。

 

ただ、そうなるとトップレベルのパーツを使った製品がなくなってしまう。それでは問題なので、カメラにとことんこだわった「R9 pro」を開発し、発売したのだ。

 

シャープのスマホ事業を統括する、同社・ユニバーサルネットワークビジネスグループ長兼通信事業本部の小林 繁本部長は、「自社技術を含めた世の中の技術をすべて投入できるため、ブランド全体に対し効果が大きい。世界のトップ集団にとどまるには必要な商品だ」と説明する。

 

20万円近くの製品なので、販売数量はR9や他のAQUOSシリーズほど多くはならない。しかし、ブランド価値の維持や最新技術に対するキャッチアップを考えると、ハイエンドスマホを作ることには意味がある…ということなのだろう。

 

そこで「カメラ」にフォーカスするのも、現在のスマホ市場を見据えたやり方と言える。

 

ライカの知名度を生かし市場で優位な地位を築く

ハイエンドスマホと言っても、性能差はなかなかわかりづらい。ゲームなどの用途でも高性能は求められるが、より多くのニーズがあるのは“カメラの高画質化”だ。

 

センサーを大型化し、複数搭載する“大型化・複眼化”は既定路線で、それだけでは差別化が難しくなった。そこで、カメラのセンサーをどう使ってどんな写真を撮るのか、そこではどんな画質チューニングを行うのか、という点が大切になってくる。

 

シャープがライカと提携しているのも、画質や“ライカらしい写り”にこだわりのあるライカと組むことで、一定の差別化が行えるためだ。単に写るカメラを作るのは難しくない。だが、“どう写るべきか”“どういう写りが好ましいのか”といったノウハウはカメラメーカーにある。彼らの知名度を生かすことはマーケティング上も優位であり、だから提携が続いているのだ。

 

一方で、ライカはシャオミとも提携しており、市場に「ライカ搭載スマホ」が複数並ぶ。そこでの差別化はどうなるのだろうか? また、進化してくるAIの取り込みはどうなるのか? そこは次回以降で解説していく。

 

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【西田宗千佳連載】新機種の中でも特に完成度の高い「Mac mini」に注目

Vol.144-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はAppleの「新型iPad mini」の話題。Apple独自の生成AI「Apple Intelligence」の展開において、iPad miniが狙う立ち位置とは何なのかを探る。

 

今月の注目アイテム

Apple

iPad mini

7万8800円~

iPad miniに加えてもう1つ、10月末にアップルが発表したMac新製品のなかで注目を集めた製品がある。新型の「Mac mini」だ。

 

Mac miniは小型のデスクトップ型Mac。2010年に初代モデルが登場以来14年間、「薄くて小さなMac」として親しまれてきたのだが、今回の新モデルはさらに小さくなった。本体は手のひらに乗るほどのサイズしかない上に、従来のデザインに比べて設置面積は半分以下になった。

 

それでいて、性能は非常に高い。最新の「M4」は、M1からM2、M2からM3への進化に対して伸びしろが大きい。さらにGPUの性能を求める場合には、M4でなく「M4 Pro」も選べる。

 

しかも安い。ディスプレイやキーボードなどを別途用意する必要があるとはいえ、もっとも廉価なモデルは9万4800円(税込)。性能を考えると、Macのなかはもちろん、Windows PCと比較しても安価である。

 

こうした小型のPCは、Appleだけが開発しているものではない。ノートPC向けのプロセッサーを使い、手のひらサイズの「ミニPC」を作るメーカーは増えてきている。NVIDIAやAMDのハイエンドGPUを使うPCはともかく、そうでないなら、もはや「デスクトップ型」といえども大柄にする理由は減ってきた。

 

ただ、Windows系のミニPCと比べてもMac miniは小さい。そして、動作音も静かだ。筆者はWindowsのミニPCと新しいMac miniを両方持っているが、動作音の静かさや消費電力の点で、Mac miniの完成度は頭一つ抜け出している印象だ。Windows系のミニPCもコスパの良い製品が多く、注目のジャンルではなるのだが、電源が外付けであったり動作音が大きかったりと、Mac miniほど洗練された製品は見当たらない。

 

Mac miniが小さなボディかつ静かな製品になっている理由は、AppleシリコンがスマホやノートPC向けの技術から生まれたもので、省電力性能が高いためだ。プロが使うにしろ一般の人が使うにしろ、Mac上での処理の多くはさほど性能を必要としない。用途によっては、時々高い性能を必要とすることもあり、ピーク性能は重要な要素だ。だが同時に、性能負荷が下がったら速やかに消費電力を下げ、プロセッサーを冷やして動作することも必要になってくる。その結果として、ファンや電源が小さくなってボディも小さく、静かなPCになる。

 

Macも他のPCと同じく、より多く売れるのはノート型(MacBook Air)ではある。だがMac miniも、人気があって長く使われる製品であり、Appleが力を入れている商品であることに違いはない。AppleはApple Intelligenceに合わせてプロセッサーを刷新し、自社製品の性能向上をしてきた。Mac miniはそのタイミングに合わせて出てきた意欲作といえそうだ。

 

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【西田宗千佳連載】Apple Intelligenceは発展途上。本質は2025年になってから花開く

Vol.144-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はAppleの「新型iPad mini」の話題。Apple独自の生成AI「Apple Intelligence」の展開において、iPad miniが狙う立ち位置とは何なのかを探る。

 

今月の注目アイテム

Apple

iPad mini

7万8800円~

「Apple Intelligence」とは、生成AIなどを使ったAIモデルをOSに複数搭載し、いろいろな機能をより便利に使えるようにするフレームワークである。Appleの場合、同じ機能をiPhone・Mac・iPadの主要3製品にすべて搭載し、基盤技術として利用していく。

 

10月末に各種OSのアップデートがあり、アメリカ英語ではApple Intelligenceが使えるようになっている。日本語での対応は2025年4月以降だ。だが日本で売られているApple製品でも、言語の設定を「英語」にすれば、そのままでApple Intelligenceが使える。

 

Apple Intelligenceの有効化により一番目立つのは「Siriの変化」だ。従来は丸いボールが表示されていたが、Apple Intelligence後には「画面の周囲が虹色」で表されるエフェクトになる。以前は“音楽を流す”“なにかを検索する”といったことに使う場合が多かったと思うが、Apple Intelligenceの導入により、個人の行動やアプリの利用履歴を活用し、「パーソナルなコンテクスト」に合わせて回答するようになる。

 

また、会話はよりなめらかなものになる。単に言い回しが自然になるだけではない。人間の側が、言い淀んだり言い間違ったりしても、その内容を汲み取って会話を続けようとする。これまでは「どういう命令を与えるとSiriがきちんと動くか」を理解した上で一定の命令を与える、という使い方が馴染んだが、人に話しかけるのに近い対話で、「おすすめのレストランまでの道筋を示して、カレンダーに予定をメモとして組み込む」といったことが可能になる。

 

メールやウェブの要約もできる。特にメールについては、たくさんの返信が続いた長いものでも、“これまでの会話はどんなものだったか”という感じの内容で要約を作ってくれて、かなり便利だと感じる。

 

画像や動画も、「海の近くにあるヨット」のような自然文で検索可能になる。Apple Intelligenceが画像になにが映っているかを把握し、検索のための情報を作る仕組みが導入される。結果として、より人間的な発想で画像検索が可能になるわけだ。

 

ただ、これらの機能があっても、“Apple製品が劇的に賢くなった”とまでは言えない。結局のところ、ちょっと検索や要約が便利になっても、それは付加的な要素に過ぎない。AIでスマホが大きく変わる……というところまでは進化していない。

 

Apple Intelligenceは段階的に機能が投入される。10月末のアップデートは「第一弾」に過ぎず、年内に第二弾、年明けにさらに機能が少しずつ追加されていく。そんなこともあって、まだまだ本命と言えるほどの機能向上ができていない、というのが筆者の見立てだ。日本語でのサービスは2025年以降なのだが、その時期であっても、Apple Intelligenceはまだ“進化途上”である。そういう意味では慌てる必要もなく、単純に「お買い得なタイミングだから買う」という考え方で十分だ。

 

実のところ、AI関連機能の“産みの苦しみ”は、Appleだけの課題ではない。GoogleにしろMicrosoftにしろ、同じように付加価値を出しきれてはいない。2025年に向けて機能が模索され、価値を高めていく……と考えれば良いだろう。

 

そんな中、1機種だけ大きく価値を変えた「新Mac」がある。そのMacの話は次回のウェブ版で解説することとしたい。

 

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【西田宗千佳連載】「Apple Intelligence」シフトで“お買い得”になった今年のアップル製品

Vol.144-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はAppleの「新型iPad mini」の話題。Apple独自の生成AI「Apple Intelligence」の展開において、iPad miniが狙う立ち位置とは何なのかを探る。

 

今月の注目アイテム

Apple

iPad mini

7万8800円~

Appleは例年、9月にiPhoneを発売する。そして10月・11月にはMacやiPadなど、残る主要製品を発売することが多い。今年もそうした部分に変化はなかった。10月なかばに「iPad mini」を、10月末に「iMac」「Mac mini」「MacBook Pro」を発売し、ラインナップ全体を刷新している。

 

基本的にはどれもプロセッサーの刷新が中心の内容だ。ここでプロセッサーを刷新するのは、その年の新技術を導入するため……という部分もあるのだが、特に今年については、「Apple Intelligence」の準備という部分が大きい。

 

Apple Intelligenceは生成AIをベースとした機能だ。複数のAIモデルを、クラウドに頼らない「オンデバイスAI」として動かす。そのためには、AIの推論を担当する「Neural Engine」と、より大きなメインメモリーを必要とする。

 

特にiPhoneとiPadについては、対応のハードルが少々高い。Macは2020年発売の「Appleシリコン搭載Mac」であれば条件を満たすが、iPhoneは2023年発売の「iPhone 15 Pro」シリーズか、今年発売の「iPhone 16/16 Pro」シリーズでないと対応できない。iPadについても、Appleシリコンである「Mシリーズ」搭載の製品のみが対象。iPad miniについては、今年発売の新機種でプロセッサーをiPhone 15 Proシリーズと同じ「A17 Pro」に切り替えて対応することとなった。

 

Appleとしては、販売する主要製品のほとんどをApple Intelligence対応とし、今後のソフトウエア基盤とする必要性がある。だから、ここで一気に各製品を刷新しておきたかったわけだ。現状、Apple Intelligenceに対応しないのは「iPad」と「iPhone SE」くらい。特別な価格重視モデル以外では使われる基本機能になってきた。

 

また面白いことに、Macについてはメインメモリーの拡充も行われた。新製品ではないものの、MacBook Air(M2もしくはM3搭載製品)の場合、価格据え置きのまま、最小メモリー容量を8GBから16GBに変更する措置が取られた。Apple Intelligenceは8GBでも動作するものの、十分な余力を生み出すには16GBの方が望ましい……と判断されたわけだ。

 

そんなことから、今年のApple製品は全体に“ちょっとお買い得”になっている。プロセッサーが高性能になったのは当然として、メインメモリーは増量され、ストレージ容量も増えた。Apple製品自体が全体的には少し高めの価格設定ではあるし、円安の影響を受けてはいるものの、“今年がお買い得”であるのは間違いない。特にメモリーについては、容量の増加だけでなくアクセス速度の向上もあり、実パフォーマンスの向上にも寄与している。

 

Apple Intelligenceは、日本では2025年4月以降に提供予定となっている。だから、Apple Intelligence自体を目的にApple製品を買い替えるのはまだ時期尚早と言っても良い。一方でメモリーや性能のことを考えると、Apple Intelligenceがなくてもお買い得であり、買い替えなどには良いタイミングと言って良さそうだ。

 

では、Apple Intelligence自体の評価はどうだろうか? その点は次回のウェブ版で解説する。

 

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【西田宗千佳連載】性能アップの新iPad miniから見えるAppleの戦略

Vol.144-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はAppleの「新型iPad mini」の話題。Apple独自の生成AI「Apple Intelligence」の展開において、iPad miniが狙う立ち位置とは何なのかを探る。

 

今月の注目アイテム

Apple

iPad mini

7万8800円~

性能を大きく進化させ生成AIに対応させる

Appleは10月23日から新型の「iPad mini」を発売した。刷新は3年ぶりだが、新型には大きな特徴がある。といっても、製品の外観はまったくと言っていいほど変わっていない。電子書籍を読んだり動画を見たりするだけなら、差は分かりづらいかもしれない。

 

今回の刷新の主軸は“中身の変化”だ。プロセッサーが昨年のフラッグシップiPhoneに搭載された「A17 Pro」に変更され、CPU・GPUともに強化されている。それ以上に大きいのは、AIの推論能力が倍近くになり、メインメモリーも4GBから8GBまで増えた。

 

これはなんのためかと言うと、Appleがアメリカで10月から導入したAI機能「Apple Intelligence」に対応するためだ。

 

Apple Intelligenceは要約や画像生成など、多数の機能を備えている。大量の返信が連なったメール全体の内容を理解し、短い要約を読むだけで内容を把握する機能や、周囲に書かれた文章の内容からそれに合った画像を生成する機能がある。音声アシスタントのSiriとの対話はよりなめらかなものになり、やり取りしたメールやメッセージの文脈を読んだ対応もするようになる。

 

ただ、プライバシーに配慮してほぼすべての処理をクラウドではなく端末内で行うため、プロセッサーには一定以上の性能が必要になる。その基準が「A17 Pro」搭載なのだ。iPhoneの場合も、Apple Intelligenceが動作するのは、A17 Proを搭載した2023年のフラッグシップであるiPhone 15 Proからとなっている。

 

残るモデルのうちminiを先行させる

Appleは今後、Mac、iPhone、iPadのすべてでApple Intelligenceを共通のコア機能として活用していくが、そのためには製品の刷新が必須となる。Macはすでに全機種がApple Intelligence対応だし、iPhoneも安価な「SE」を除けば、現行モデルのほとんどが対応している。

 

そうなると、iPadシリーズのなかでも残されたもっとも安い「iPad」と「mini」のうちminiから刷新を……ということなのである。時期がいつかはわからないが、「iPhone SE」や「iPad」も、性能を底上げした新機種が出てくる可能性は高くなった。

 

Appleにとっては、Apple Intelligenceはそれだけ重要な存在である……という証でもあるのだが、日本で使えるようになる時期は「2025年内」とされている。

 

すでにApple Intelligenceが搭載された新OSは正式公開されているが、現状はアメリカ英語のみの対応で、日本ではほとんどの機能が使えない。写真からワンタッチで気になる部分を消す「クリーンアップ」のみ、言語を問わず利用可能になっている。これだけでは、まだ恩恵は感じづらいだろう。

 

しかしiPhoneを含め、それでも製品をすぐに買う意味はあるのか? 他社はどのように対抗してくるのか? その点は次回以降で解説する。

 

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【西田宗千佳連載】Metaが「ARグラス」を発表。それでもVRを置き換えるわけではない事情とは

Vol.143-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はMetaが発売した廉価版Quest の「Quest 3S」の話題。Quest 3とそん色ない性能を有しながら価格を下げて販売する狙いを探る。

 

今月の注目アイテム

Meta

Meta Quest 3S

4万8400円~

Metaは9月26日、かねてから開発していたARグラスのプロトタイプである「Orion」を公開した。Orionの最大の特徴は、“ゴツいメガネ”くらいの形でありながら、視野角が70度と広く、視界の中に自然にCGを重ねられることだ。既存のAR(Augmented Reality)に対応する機器はどれも視野角が狭い。40から50度くらいしかないため、「目の前の風景の中央だけに、窓枠の中のようにCGが重なる」のがせいぜいだ。だから自然さは……ない。

↑Metaが発表したARグラスのプロトタイプ「Orion」

 

だがOrionは違う。視界全体とは言いづらいが、視野の端に近いところまでCGが表示されるので、ずっと自然な体験になる。筆者も発表後に体験したが、いままでにあったARグラスとは異なるレベルの体験だと感じた。

 

Orionはすぐに市販されるものではなく、あくまでプロトタイプだ。市場に出てくるにはまだ数年かかるだろう。だが、見た目がかなり“メガネっぽい”ことから、発表後には“これが本命”“Meta Quest 3やApple Vision Proはいらない”という反応も見られた。VR機器はどうしても頭に大きなゴーグルをつけている様子が目立つし、重さも感じる。メガネ型で同じことができるならOrionでいいのでは……と感じる人もいるのだろう。

 

ただ、Metaの考え方は違う。“Meta QuestとOrionは別の路線”とはっきり語っている。

 

理由はシンプル。目的や操作の考え方が全く違うからだ。

 

Orionはコントローラーを使わず、視界に重なるCGは原理上半透明になる。文字やSNSの情報、メッセージの着信通知など、“スマホで見ているような情報”を空間の中で使うことを前提とした機器、と言って良いだろう。

 

それに対して、VR機器はもう少し“世界に没入する”ような用途と言っていい。Meta Quest 3にもMR(Mixed Reality)機能はあるが、カメラからの映像に対してさらにCGを重ねる「ビデオシースルー」なので、“現実とCGが混ざっているリアリティ”はより高い。この辺はApple Vision Proも同じであるが、あちらは価格のぶんだけさらに画質が高い。

 

ただ、VR機器がマスに一気に浸透し、スマホのような存在になることは考えづらい。用途に合った、比較的コアなニーズを満たす製品として使い続けられるだろう。そのなかには、PCディスプレイの代替や工業デザインの確認など、業務用に近い用途も存在する。

 

一方でOrionのようなARグラスは、よりマスに向いたニーズが存在する。要はスマホの代替であったり、スマホを補完するツールだったりという使い方だ。コストや機能を考えるとすぐにスマホを置き換えることはないだろうが、VR機器とは違うものとして広がっていく可能性が高い。

 

コアな技術で考えた場合、VRとARの差は“どのくらい現実世界が透けて見えるか”くらいの差しかない。だが、それを実現するためのハードウエア開発にはまだまだ差が大きく、両者の一体化には10年単位の時間を必要とするだろう。似たものではあるが、VR機器とARグラスは“PCとスマホ”くらい用途や向き・不向きが異なっており、当面共存するものと思われる。

 

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【西田宗千佳連載】日本でVR市場を支える「VRChat」の存在感

Vol.143-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はMetaが発売した廉価版Quest の「Quest 3S」の話題。Quest 3とそん色ない性能を有しながら価格を下げて販売する狙いを探る。

 

今月の注目アイテム

Meta

Meta Quest 3S

4万8400円~

前回のウェブ版で、アメリカではまず10代にVRの市場が立ち上がっている、という話をした。では日本を含む他国ではどうなっているかというと、アメリカほどに明確な現象は起きていない。ブームに近いニーズ拡大は起きていない、という言い方もできる。

 

とはいえ、日本はVRにとってかなり大きな市場だ。Meta自身の市場調査によると、アメリカよりも年齢層は幅広く、使っている人々の指向も幅広い、という。

 

なかでも急速に利用が進んでいて、VR自体の認知にも大きな影響を与えているのが「VRChat」だ。その名の通りVR向けのコミュニケーションサービスで、VRの勃興期である2014年からサービスを続けている。長く使っている人も多く、「メタバースに住む、過ごす」サービスとして紹介されることが多い。

 

この5年で世界的にも利用が広がり、アクセス数は約7倍に拡大。いわゆる「メタバースブーム」が落ち着いた後で利用者が伸びている。VRChatはコアな利用者が多いことから、新しいVR機器や周辺機器ニーズの牽引役という側面もある。コアな利用者にとっては、もうひとつの生活の場として毎日使うサービスであるからだ。

 

そんなVRChatだが、日本での利用が増えているのも特徴だ。サービス自体はアメリカのもので同国内の利用者が多い(全体の3割強)が、日本も利用者数比率で第2位(十数%)となっている。人口比やVR機器の普及率を考えると相当に大きな勢力であるのは間違いない。

 

特に今年に入ってからは、いままでVRやVRChatをよく知らなかった人々にも急速に認知を高めた。背景にあるのは動画配信者の利用で、特に大きな影響があったと言われているのが、人気配信者である「スタンミ」が取り上げたことだ。登録者数十万人規模の配信者がコミュニケーションを楽しむ様が配信されたことで、それまではVRやVRChatのことを知らなかった人々へ認知が高まった。

 

動画配信は“幅は狭いが深く刺さる”世界である。年齢や趣味趣向が違うと、「有名」と言われる配信者の名前も知らないことは多い。一方で、その配信者がマッチする層には深く刺さり、認知・理解を高めるきっかけになる。VRChatを楽しんでいる人々の間では、今年の変化は相当に大きいものだったという。

 

VRChatは多くのVR機器で楽しめる。没入感は減るが、普通のPCでも大丈夫だ。Meta Questはもっとも利用者が多いデバイスであるが、画質や快適な装着性を求めて、より高い機器を選ぶファンもいる。

 

2025年初頭に発売が予定されている「MeganeX superlight 8K」(Shiftall)もそのひとつ。本体は24万9900円であり、動作には別途ゲーミングPCが必要でかなり高価だが、重量が185g以下(本体のみ、ベルト部除く)と軽く、片目4Kで画質も良い。Meta Quest 3のように大量に売れるわけではないが、そうした商品が成立するくらい、幅広い市場が見込めているということでもある。

 

では、よりカジュアルで、いまのVR機器に興味がない人をひきつけるような市場はどうなるのだろうか? その辺は次回のウェブ版で解説していく。

 

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【西田宗千佳連載】Quest 3S登場の背景にある「アメリカ・10代向けVR市場」の大きさ

Vol.143-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はMetaが発売した廉価版Quest の「Quest 3S」の話題。Quest 3とそん色ない性能を有しながら価格を下げて販売する狙いを探る。

 

今月の注目アイテム

Meta

Meta Quest 3S

4万8400円~

VRが注目されるようになり、そろそろ10年以上が経過した。“いつまで経っても一般化しない”と思う人もいるだろうが、実は世代や地域によってかなり浸透の仕方が異なっている。

 

Metaが主戦場としているのはアメリカであり、特に10代・20代の若い層だ。

 

Meta Questシリーズの累計販売台数は、2203年第1四半期の段階で2000万台を超えている。この時点ではMeta Quest 3は出荷されておらず、Meta Quest 1・2・Proの3モデルでの統計だ。その後の出荷台数は公表されていないが、Meta Quest 3が数百万台出荷され、そのぶんが追加されている。

 

そして、実質的にアメリカ市場では、Meta Questの普及=ティーンへのVRへの浸透と言っても良い。前述の2000万台のうち1800万台はMeta Quest 2。2022年から同社はMeta Quest 2の最廉価モデルを299ドルで販売しヒットにつなげた。

 

アメリカの投資銀行Piper Sandlerは、2024年春に、アメリカのティーン層を対象とした調査を行った。その中で「ティーンのうち30%以上がVR機器を持っている」という結果をレポートしている。299ドルという価格で低年齢層に浸透したことが、普及率を押し上げているのだ。

 

この辺は、実際にいくつかのサービスに入ってみるとよくわかる。

 

アメリカで大ヒットしたVR系ゲームに「Gorilla Tag」がある。これは上半身だけのゴリラになりきり、両腕を漕ぐような動きをしながら鬼ごっこをする……というシンプルなもの。だが、これがアメリカではティーン層にウケた。2024年1月には総収入が1億ドル(約150億円)に達し、月のアクティブユーザーは300万人を超えているという。

 

また利用者数はまだ判然としないが、Metaが提供しているコミュニケーションサービスである「Horizon World」も、アメリカでティーン層の利用が拡大している。

 

どちらのサービスも入ってみると、“明らかに若い10代の声(英語)”でコミュニケーションしあっている様子が聞こえてくる。たまたま聞こえる……とかそういう話ではなく、いつサービスに入ってもそんな感じだ。若い層の遊び場としてアメリカで定着していることを感じさせる。

 

ただ、こうした層へのアピールを強化するには、なにより価格が重要だ。2023年に発売された「Meta Quest 3」は499ドルからで、Quest 2に比べ200ドル高かった。その分機能・性能は高かったが、若年層に200ドルの差は大きい。

 

また、Meta Quest 2は2020年発売であり、性能面で厳しくなっていた。Meta的にはソフト開発の基盤を刷新するためにも「Quest 3ベース」に変える必要に迫られていた。

 

そんなビジネス的な事情もあって、Metaとしては“もっとも売れているアメリカ市場を盤石なものにする必要がある”ということから生まれたのが、Meta Quest 2の安価なレンズやディスプレイ構造を活かしつつ、そこにMeta Quest 3の処理系とMixed Reality機能を搭載し、価格を299ドルから(日本だと4万8400円から)に下げた「Meta Quest 3S」、ということなのだ。

 

Quest 3Sの画質はQuest 3より若干下がっているが、使い勝手自体はほとんど変わっていない。ゲームなどが中心ならば差はさらに小さくなる。こうした製品を用意した背景にあるのは、世界的に価格を下げる必要がある、ということ以上に“アメリカでの10代向け”というはっきりとしたニーズがあるからなのである。

 

では日本などはどうなっているのか? その点は次回のウェブ版で解説していく。

 

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【西田宗千佳連載】同性能で低価格、Metaの「Quest 3S」発売理由

Vol.143-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はMetaが発売した廉価版Quest の「Quest 3S」の話題。Quest 3とそん色ない性能を有しながら価格を下げて販売する狙いを探る。

 

今月の注目アイテム

Meta

Meta Quest 3S

4万8400円~

多くの機能を引き継ぎ安価に提供する狙いは

Metaは10月15日から、新しいVR機器である「Meta Quest 3S」を発売した。

 

同社は昨年「Meta Quest 3」を発売しており、一昨年は「Meta Quest Pro」を発売した。3年連続での新製品発売となるのだが、今年の製品は過去とは位置付けが異なる。というのは、Quest 3Sは、Quest 3の明確な廉価版だからだ。新製品は“機能アップして買い替えを促すもの”というイメージがあるが、Quest 3SQは違う方向性だ。

 

簡単に言えば、3Sは2020年発売の「Meta Quest 2」よりも2倍のパフォーマンスを実現しつつ、Quest 3のカメラやプロセッサーやソフトウエアを使い、「多くの機能をQuest 3から引き継いで、できる限り低価格に提供できるようにした製品」だ。価格は299ドル(日本では4万8400円)からで、7万4800円からだったQuest 3よりかなり安くなった。

 

では安くなったぶん機能や画質が大幅に劣るのか、というとそんなことはない。筆者も実機を体験してみたが、VR向けのゲームや周囲の状況を確認しながらVRを体験したりするぶんには、Quest 3と3Sの差は非常に小さい。ソフトウエアの互換性も完全に保たれている。

 

このタイミングでMetaはラインナップの整理も図った。Quest 2とQuest Proは在庫限りで販売を終了、Quest 3も512GBの最上位モデルを8万1400円に価格改定し、それ以外のモデルはQuest 3Sになる。

 

すなわちMetaは、一気に価格を下げつつラインナップを整理し、販売管理費もスリム化してきたということなのだ。

 

アメリカ市場を見据え販売ライン整理を図る

Metaが在庫を「3」ベースの製品に絞った理由は2つある。

 

ひとつは、ゲーム開発環境としてより高性能なものを基盤としたかったこと。そのほうが開発効率は上がるし、高度なゲームも提供しやすくなる。

 

2つ目は、価格を下げていくことがビジネス上必須になってきたからだ。

 

Quest 3とQuest 3Sは性能面ではほぼ同等。解像度が下がっている関係から、ウェブの文字表示や映画視聴などでは"若干画質が下がったかな……"と感じるくらいだ。現状はゲームを中心に売れているので、この違いよりも価格の違いの方が影響は大きい。Quest 3の利用者が3Sに買い替える必要はないが、より多くのユーザーを惹きつけるには、高価なモデルよりも低価格なモデルが必要……ということなのだ。

 

日本ではVRというとマニア市場が中心なのでハイスペックなものから売れていくが、アメリカではそうではない。Quest 3発売後も、299ドルで販売されていたQuest 2が、年末商戦などに向けてヒットすることが多かった。

 

そう考えると、Quest 2と同じ値段でより高い性能の製品に"ラインを揃える"ことが必要になってきたのだ。

 

Metaはなぜ価格を下げることに注力したのか? そして、同時発表されたプロトタイプ「Orion」との関係は?

 

その点は次回以降で解説する。

 

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【西田宗千佳連載】三者三様で生き残りをかけるゲームプラットフォーマー

Vol.142-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は大幅に値上げとなったPlayStation 5 の話題。過去数回価格が上昇したが、今回の価格改定にはどんな背景があるのかを探る。

 

今月の注目アイテム

ソニー・インタラクティブエンタテインメント

PlayStation 5

7万9980円~

↑PlayStation 5のテクノロジーや機能はそのままに、小型化を実現した新モデルのPS5(Ultra-HD Blu-ray ディスクドライブ搭載版)。Ultra HD Blu-rayディスクドライブは着脱可能で、本体内蔵のSSDストレージは1TBになる。

 

その昔、日本で「ゲームをする」といえば、家庭用ゲーム機で遊ぶことを指していた。ゲームファンから見れば“いや色々あって”と言いたくなるところだろうが、そこはちょっと我慢してほしい。1980年代にファミコンなどの家庭用ゲーム機が定着して以降、ずっとゲーム市場=ゲーム機の市場だと思われてきた。

 

それが少し変わってきたのが2000年代。携帯電話向けのゲームが増え、市場としては今もスマートフォン向けが最大のパイを持つ。とはいうものの、モバイルゲームとコアなゲームは別の市場であり、しかも共存可能だった。だからPlayStation 4は歴史的なヒットを記録し、Nintendo Switchも幅広い世代に使われるゲーム機に成長した。

 

ただ同時に、スマホ・PCでのゲーム市場も成長した。ネットワークゲームはスマホとPCを主軸に拡大し、家庭用ゲーム機の側がそこに同居しているような部分もある。

 

「ゲーム」という言葉が指すものは多様化・拡大し、いろいろな遊び方が許容されるようになっている。その昔「スマホゲームにゲーム機が食われる」と思われたのとはまた違う形で、“ゲーム機がスマホやPCに市場をとられる”時代がやってきた、とも言えるだろう。

 

では、ゲーム機は無くなってしまうのだろうか?

 

少なくとも当面それはあり得ない。前回のウェブ版でも解説したが、専用機のコストパフォーマンスはまだ高い。ゲームとPCを分けておきたい人もいるし、ゲーミングPCの抱える宿命的な“複雑さ”を避けたい人もいるだろう。よくまとまったパッケージとしての“ゲーム機”の価値は当面失われそうにない。

 

ゲームを開発する側としても、ゲーム機は有難い存在だ。ゲームはPCで開発しているといっても、ゲーミングPCの“スペックの多様さ”は動作検証を困難にする要因の1つ。ゲーム機はスペックが固定されているので、そこに向けて開発することは大きな工期とコストの削減になる。だから、“PCでゲーム機を想定して開発し、その後に多様なゲーミングPCに合わせてチューニング”する作り方は続くだろう。

 

とはいえ、ゲーム開発のコストが上がっている現在、できるだけ多くのパイへとゲームを提供する必然性も出てくる。だから“複数のゲーム機とゲーミングPCにゲームを供給する”のは必然でもある。熱心なファンほどゲーミングPCへの投資が視野に入ってくる中でゲーム機を売るには、いかにその“ゲーム機を持っていることが重要か”という意識を持ってもらうかが重要な話になる。

 

本記事を書いている9月中旬現在、任天堂は「Switch後継機」の詳細を発表していない。任天堂は低コストで“自社ゲーム機にしかない要素”で戦うと想定されるので、発表されていない要素がPCとの差別化要因になるだろう。

 

SIEは“PCよりもコスパよく、安定してゲームを楽しめる環境”を推す。PlayStation 5 Proはそういう製品になっている。まだ見ぬ「PlayStation 6」までは時間があるので、また別の戦略を考えるかもしれない。

 

Xboxも基本的なありかたはPlayStationに近い。しかしマイクロソフトの場合、「PCでも同じゲームができる」ことを売りの要素にできる。「Xbox GamePass」という有料サービスで、XboxとPCの両方をカバーするからだ。仮にゲーミングPCを使っている人でも、Xbox GamePassに加入してくれれば同社の顧客になる。そもそも、Windowsを使っている時点でマイクロソフトには収益が入ってきてもいる。

 

三社が三様の戦略で生き残れると想定できるが、その中で“想定通りの大きな収益”を維持できるかは予測できない。そこは結局、どんなゲームがヒットするかに依存する部分が多く、水物であることに変わりはない。

 

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【西田宗千佳連載】PS5と同じ価格で「同じことができるゲーミングPC」は作れるか

Vol.142-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は大幅に値上げとなったPlayStation 5 の話題。過去数回価格が上昇したが、今回の価格改定にはどんな背景があるのかを探る。

 

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ソニー・インタラクティブエンタテインメント

PlayStation 5

7万9980円~

↑PlayStation 5のテクノロジーや機能はそのままに、小型化を実現した新モデルのPS5(Ultra-HD Blu-ray ディスクドライブ搭載版)。Ultra HD Blu-rayディスクドライブは着脱可能で、本体内蔵のSSDストレージは1TBになる。

 

PlayStation 5(PS5)が8万円弱に値上げされると、「高い」という反応を多く耳にした。中には“それならゲーミングPCを買う方がいいのでは”という声もあった。

 

たしかに、ゲーム機の価格が10万円近くなると「高い」と感じる人がいるのはわかる。10万円あればPCも購入できる価格ではあるし、“ゲームはもうPCにしようか”と考える人が出てくるのもわかる。

 

事実、家庭用ゲーム機にとってゲーミングPCは強力なライバルだ。現在のゲーム開発はPCで行われるので、家庭用ゲーム機向けとPC向けを同時に開発する例も増えている。特に構造がPCに近いPS5とXbox Series X/Sは、ゲーミングPCと比較されやすい宿命も背負っている。

 

では現実問題として、8万円でPS5と同じ体験ができるPCを入手できるだろうか? 正直なところ、これはかなり難しい。

 

自作PCでパーツの価格を積み上げるといけそうな気になってくるが、PCは汎用機でありゲーム機は「専用機」だ。ゲームにおけるフレームレートや画質を安定させる処理は、専用機である方が有利になる。画質をフルHDで妥協する、読み込み速度がPS5やXboxと同じにならなくても我慢する、ファンの音はそこまで小さくなくてもいい……といった妥協をすれば近い価格のPCでもゲームはできるが、“ゲームをする上でのコスパ”でいうと、基本的にはPCよりゲーム専用機の方が良好なのは間違いない。

 

11月にSIEは高性能版である「PlayStation 5 Pro」を販売する。こちらは約12万円で、スタンダードモデルより高い。それこそゲーミングPCでカバーしたいと思う人も出てきそうだが、12万円かけたとしても、PS5 Proと同等以上のパフォーマンスを得るのはやはり難しいだろう。

 

一方で、“画質などで妥協しても、1台のハードウエアで済ませたい”という人もいるはずだ。その場合、多少コストを積み増してPCにしたとしても、それはそれで満足感を得られるだろう。ゲーム機とPCの両方を買うなら片方のコストで……と考えると、選択肢も増えてくる。

 

逆に、現在得られる最高の画質でゲームをしたい、予算には糸目をつけない、ということであるならば、そこはゲーミングPCが有利な世界になってくる。40万円近いコストを投下し、定期的にパーツを入れ替えていくことで“常に最高に近い状況”を維持できるのはゲーミングPCの特徴だ。ゲームを趣味とするなら、そういうお金の使い方をしてもいい。

 

一方で、誰もが“PCとゲーム機を1つにしたい”わけではないだろう。仕事用にノートPCを……という人は、それでゲームをすることを求めていない場合も多い。だとすると、PCはノート型でゲームはゲーム機で……という判断をする人も当然いるはずだ。

 

市場は多様であり、“ゲームをしたい”人のニーズもやはり多様である。家庭用ゲーム機だけでなくPCでもニーズを満たせるようになったのは大きなことだが、かといって、すべてがPCだけで満たせるほどシンプルな話でもない、ということになる。

 

では、家庭用ゲーム機というビジネスは今後どうなると考えられるのだろうか? その点は次回のウェブ版で考察する。

 

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【西田宗千佳連載】ゲーム機の価格は「待っても下がらない」時代になった

Vol.142-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は大幅に値上げとなったPlayStation 5 の話題。過去数回価格が上昇したが、今回の価格改定にはどんな背景があるのかを探る。

 

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PlayStation 5

7万9980円~

↑PlayStation 5のテクノロジーや機能はそのままに、小型化を実現した新モデルのPS5(Ultra-HD Blu-ray ディスクドライブ搭載版)。Ultra HD Blu-rayディスクドライブは着脱可能で、本体内蔵のSSDストレージは1TBになる。

 

10年前まで、ゲーム機は“最初の発売から時間が経てば価格が下がるもの”だった。

 

しかし現在はそうではない。その傾向は2013年に発売された「PlayStation 4(PS4)」や「Xbox One」世代から見え始めた。

 

その前の世代のハードウェアであるPlayStation 3は発売当初6万2790円からだったが、2014年には2万5980円まで値下げされた。しかしPS4は発売当初4万1979円で、最終的な価格は3万4980円。1万円も下がってはいない。

 

PS4やXboxの後に出た「Nintendo Switch」も同様だ。標準モデルの価格は2万9980円のまま。その後発売されたコントローラー脱着機構のない「Lite」は1万9980円で、実質的な値下げという側面もあるものの、ハードウエアの価格は基本変更していない。

 

同時にこの世代では、「PlayStation 4 Pro」「Xbox One X」といった、性能アップした上位機種が出るようにもなっている。これは通常モデルとハイエンドモデルとを天秤にかけるユーザーを引き込む施策であると同時に、値下げはせずに性能アップでバリューを上げる施策でもある。

 

ゲーム機の値下げが難しくなったのは、半導体製造コストが上がり、技術進化による“同一性能部品のドラスティックな値下げ”も難しくなってきたためだ。

 

一般に信じられているのとは異なり、ゲームプラットフォーマーは“ゲーム機を赤字で売ってソフトで儲けている”わけではない。販売初期、マーケティング費のかかる時期に“トータルコストでは収益が出ない”状態で売ることはあるが、そこから台数を早期に積み増し、“利幅は薄いがきちんとハードからも儲ける”のが鉄則だ。ハード販売の後期に安くなっているのは“それでも利益が得られるので、価格の魅力でユーザーを惹きつけたいから”に他ならない。

 

だが現在はもうハードを安価に作れないので、価格も収益も維持してビジネスを進めるのが一般的になっている。どのメーカーもこの10年同じ戦略を採っており、今後も“ゲーム機は待っても値段が下がらない“と考えて良い。例外があるとすれば、ここから大幅な円高がやってきて1ドル数十円単位で価格変動する可能性が出たときだろう。

 

その中で、各社のゲームハードは価格が違う。

 

任天堂は為替想定もあえて円高設定のまま据え置き、日本国内販売への価格影響を小さなものにする。同社は他社以上に日本市場の比率が大きく、低年齢層への普及も目指すので他社より安価な値付けをする。そのために為替リスクを飲み込んでいるわけだ。

 

マイクロソフトは今世代(Xbox Series X/S)にて、為替の影響による価格改定をしている。値付けは異なるが、考え方としてはソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)に近い。

 

特にSIEの場合には、販売の海外比率が非常に高いこと、為替と連動しない内外価格差を大きくすると“海外への転売”が増えて品不足への影響も出やすくなることなどから、国内ビジネスで不利になったとしても“為替に合わせて価格を改定する”ことにしたのだろうと推測できる。

 

ではその中で、ゲーム機ビジネスはどうなっていくのか。その点は次回のウェブ版で解説する。

 

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【西田宗千佳連載】ゲーム機の価格は「待っても下がらない」時代になった

Vol.142-2

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PlayStation 5

7万9980円~

↑PlayStation 5のテクノロジーや機能はそのままに、小型化を実現した新モデルのPS5(Ultra-HD Blu-ray ディスクドライブ搭載版)。Ultra HD Blu-rayディスクドライブは着脱可能で、本体内蔵のSSDストレージは1TBになる。

 

10年前まで、ゲーム機は“最初の発売から時間が経てば価格が下がるもの”だった。

 

しかし現在はそうではない。その傾向は2013年に発売された「PlayStation 4(PS4)」や「Xbox One」世代から見え始めた。

 

その前の世代のハードウェアであるPlayStation 3は発売当初6万2790円からだったが、2014年には2万5980円まで値下げされた。しかしPS4は発売当初4万1979円で、最終的な価格は3万4980円。1万円も下がってはいない。

 

PS4やXboxの後に出た「Nintendo Switch」も同様だ。標準モデルの価格は2万9980円のまま。その後発売されたコントローラー脱着機構のない「Lite」は1万9980円で、実質的な値下げという側面もあるものの、ハードウエアの価格は基本変更していない。

 

同時にこの世代では、「PlayStation 4 Pro」「Xbox One X」といった、性能アップした上位機種が出るようにもなっている。これは通常モデルとハイエンドモデルとを天秤にかけるユーザーを引き込む施策であると同時に、値下げはせずに性能アップでバリューを上げる施策でもある。

 

ゲーム機の値下げが難しくなったのは、半導体製造コストが上がり、技術進化による“同一性能部品のドラスティックな値下げ”も難しくなってきたためだ。

 

一般に信じられているのとは異なり、ゲームプラットフォーマーは“ゲーム機を赤字で売ってソフトで儲けている”わけではない。販売初期、マーケティング費のかかる時期に“トータルコストでは収益が出ない”状態で売ることはあるが、そこから台数を早期に積み増し、“利幅は薄いがきちんとハードからも儲ける”のが鉄則だ。ハード販売の後期に安くなっているのは“それでも利益が得られるので、価格の魅力でユーザーを惹きつけたいから”に他ならない。

 

だが現在はもうハードを安価に作れないので、価格も収益も維持してビジネスを進めるのが一般的になっている。どのメーカーもこの10年同じ戦略を採っており、今後も“ゲーム機は待っても値段が下がらない“と考えて良い。例外があるとすれば、ここから大幅な円高がやってきて1ドル数十円単位で価格変動する可能性が出たときだろう。

 

その中で、各社のゲームハードは価格が違う。

 

任天堂は為替想定もあえて円高設定のまま据え置き、日本国内販売への価格影響を小さなものにする。同社は他社以上に日本市場の比率が大きく、低年齢層への普及も目指すので他社より安価な値付けをする。そのために為替リスクを飲み込んでいるわけだ。

 

マイクロソフトは今世代(Xbox Series X/S)にて、為替の影響による価格改定をしている。値付けは異なるが、考え方としてはソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)に近い。

 

特にSIEの場合には、販売の海外比率が非常に高いこと、為替と連動しない内外価格差を大きくすると“海外への転売”が増えて品不足への影響も出やすくなることなどから、国内ビジネスで不利になったとしても“為替に合わせて価格を改定する”ことにしたのだろうと推測できる。

 

ではその中で、ゲーム機ビジネスはどうなっていくのか。その点は次回のウェブ版で解説する。

 

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【西田宗千佳連載】なぜPS5は「約8万円」に値上げされたのか

Vol.142-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は大幅に値上げとなったPlayStation 5 の話題。過去数回価格が上昇したが、今回の価格改定にはどんな背景があるのかを探る。

 

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ソニー・インタラクティブエンタテインメント

PlayStation 5

7万9980円~

↑PlayStation 5のテクノロジーや機能はそのままに、小型化を実現した新モデルのPS5(Ultra-HD Blu-ray ディスクドライブ搭載版)。Ultra HD Blu-rayディスクドライブは着脱可能で、本体内蔵のSSDストレージは1TBになる。

 

“待てば価格が下がる”は過去の話になった

ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、9月2日より、同社のゲーム専用機「PlayStation 5(PS5)」とその周辺機器を値上げした。PS5のディスクドライブ付き本体は7万9980円(税込)になり、1万3000円程度高くなった。

 

PS5はこれまでにも複数回の“値上げ”をしている。2020年11月の発売当初は5万4978円(税込)だったが、8万円近くにまでなった。その間にストレージ容量やサイズが変化しており、まったく同じハードウェア同士の比較とはならないが、「PlayStationというゲーム機を買うためのハードルが上がってしまった」ことは事実だろう。

 

過去、ゲーム機は“待てば価格が下がるもの”だった。しかし現在はそうではない。別にいまに始まった話ではなく、2010年代半ば以降、PlayStation 4(PS4)やNintendo Switchは、ずっと“値段がさほど変わらないゲーム機”になっていた。

 

理由は、半導体技術の進化の仕方にある。半導体技術の進化が遅くなったことに加え、進化してもコストへの影響力が小さくなり、値下げするには至らないレベルになったためだ。

 

2000年代まで半導体は、製造技術が進化すると、“同じ面積に搭載できるトランジスタの量が劇的に上がる”特徴があった。例えば初代PlayStationは、1994年12月の発売当初は3万9800円だったものが、2001年9月には9800円にまでなった。半導体の製造コストが下がっていった結果だが、最終的には9800円でも十分な収益が出るほどのコストダウンが行えていたという。

 

収益重視と為替の影響で値上げに踏み切った

一方、PS4は3万9980円でスタートしたものが2016年に2万9980円まで下がり、そこで値下げが止まった。現行のPS5は、米ドルではずっと「499ドル」で、価格が変わっていない。

 

国内に限って言えば、為替の影響も大きい。

 

2020年、1ドルは100円から105円の間だったが、2024年6月には一時160円まで上がっている。今回の価格改定まで、SIEは実際の為替レートよりも低く見積もって日本向け製品を値付けしてきたが、今回より為替事情に合わせた価格へと改定した……というのが正しい。前出のように、米ドルでのPS5の価格は499ドルで変化なく、今回の値上げも日本だけで行われたものだ。

 

為替の影響による値上がり傾向は、スマホやPCも事情は同じと言える。SIEは普及のために価格を安く抑えてきたが、収益性を重視して“日本を特別扱いしない”方針に切り替えたのだろう。これほど円安が定着すると想定していなかったところもありそうだが。

 

実のところ、こうした事情は任天堂やマイクロソフトにも影響している。彼らは今後どのような戦略を採るのだろうか?

 

また、ゲーム機が高価になったことで「ゲーミングPC」との比較論も出てくる。これは単純に価格だけで比較できる話ではないのだが、どう考えれば良いのだろうか? ゲーム機よりもPCを買う方がオトクな時代はやってくるのだろうか?

 

これらの疑問については次回以降で解説していく。

 

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【西田宗千佳連載】Copilot+ PCで「AMD・インテル・クアルコム」の競争が激化

Vol.141-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はマイクロソフト が進めるAI 向けに強化された機構を持つPC の普及。「Copilot+PC」と銘打ったモデルの狙いと普及に向けた課題を探る。

 

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ASUS

Vivobook S 15 S5507QA

直販価格24万4820円~

↑ASUS初となる次世代AI機能搭載のCPU「クアルコム Snapdragon X Eliteプロセッサー」を採用。ASUSをはじめレノボ、HP、エイサーやマイクロソフトなど、大手PCメーカーから「Copilot+PC」が続々と登場している

 

マイクロソフトとプロセッサーメーカーが共同で仕掛ける「Copilot+ PC」には、これまでにない特徴がある。

 

それは「x86系とARM系が並列に扱われる」「x86系よりもARM系が先に出た」ことだ。CPUが違えばソフトウェアの互換性は失われる。しかし現在はエミュレーション技術の進化により、「x86系CPU用アプリをARM系で使う」ことも可能になった。Appleは「Appleシリコン」をMacに導入する際、CPUアーキテクチャの切り替えに成功した。マイクロソフトも以前よりARM系とx86系の共存を試み、今回はさらにアクセルを踏んだ。はっきりとMacを意識し、「Appleシリコン採用Mac」並みにパフォーマンスとバッテリー動作時間の両立を目指したのである。

 

今回、Copilot+ PCではAMD・インテル・クアルコムのプロセッサー開発タイミングもあり、クアルコムが先行することでCopilot+ PC=ARM系というところからスタートしている。マイクロソフトとしても「本番は3社が揃ってから」という感覚はあったようだが、やはり「Snapdragon Xシリーズ」のパフォーマンスに期待するイメージを受けた人もいるだろう。

 

実際、Snapdragon X+Windows 11のパフォーマンスはかなり良い。筆者も搭載PCを評価中だが、バッテリー動作時間は圧倒的に長くなったし、性能もビジネス向けには十分以上だ。x86系との差を感じることは少ない。ARM版のソフトも増えており、それらを使う場合、はっきり言って想像以上に速く快適だ。

 

ただもちろん、日本語入力ソフトやドライバーソフト、ビデオゲームなど、すべてのソフトが動くわけではない。特にゲームについてはまだARM版がほとんどなく、オススメできる状況にない。そのことを認識せずに使える製品ではなく、“要注意”の製品ではあると言える。

 

だが、ここから出てくるAMDやインテルのCopilot+ PC準拠プロセッサーは、さらに性能が高く、もちろん互換性の問題を気にする必要はない。発熱やバッテリー動作時間を厳密に評価するとSnapdragon Xに劣る部分はあるかもしれないが、「互換性問題がほとんどない」ことと天秤にかけると、安心できるx86系を選びたい……という人も多いだろう。

 

Copilot+ PCがもっと“AI価値がすぐわかる”形で提供されていたら、6月段階からRecallが提供されていたら、イメージはもっと違ったかもしれない。だが、実際問題として“Copilot+ PCの価値はこれから高まってくる”段階なので、AMDやインテルの製品が搭載されたPCを待ってもいい、というのが実情だ。逆に言えば、ここからのPC市場では大手が三つ巴で「PCプロセッサー競争」を進めていくことになるので、競争がプラスに働き、商品性はどんどん上がっていくと期待できる。そこはうれしいところだ。

 

課題は、AMD(Ryzen AI 300)・インテル(Lunar Lake・原稿執筆時には製品名未公開)・クアルコム(Snapdragon X)がそれぞれ別の特徴を持っており、どれを選ぶべきかを判断するための情報が少ない点だ。搭載製品とその情報が出揃うまで、選択は控えた方がいいかもしれない。その頃には、Recallを含めたCopilot+ PCを構成する機能も揃い始めるだろう。

 

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【西田宗千佳連載】「Copilot+ PC」提供を急ぎすぎたマイクロソフト

Vol.141-3

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ASUS

Vivobook S 15 S5507QA

直販価格24万4820円~

↑ASUS初となる次世代AI機能搭載のCPU「クアルコム Snapdragon X Eliteプロセッサー」を採用。ASUSをはじめレノボ、HP、エイサーやマイクロソフトなど、大手PCメーカーから「Copilot+PC」が続々と登場している

 

マイクロソフトは、AIをPC内で活用することを前提に策定した新規格である「Copilot+ PC」をアピール中だ。発売自体は今年6月にスタートしているが、売れ行きはさほど良くない。悪いわけではないようだが、「新機種が出たら売れる」いつもの水準に近く、「まったく新しいPCの誕生」で期待される量には達していない。

 

理由は複数あるが、そのひとつは「マイクロソフトが急ぎすぎた」からだろう。

 

この2年に起きたAIに関する大きなうねりから考えると、その変化がクラウドだけにとどまると考えるのは難しい。そうすると、「個人が使うデバイス」でいつ、どのくらい有用なものとして扱えるようになるかに注目が集まるのも、また必然である。AI活用をリードするマイクロソフトとしては、他社よりも早く、インパクトのある形でWindows PCにAIを持ち込みたいと考えていた。PC自体の需要を伸ばすにも必須のものだ。

 

その結果として、まず2023年末から「AI PC」という緩やかなマーケティングキャンペーンをうち、各社が開発中の新プロセッサーを使う形で2024年中に「新世代のPC=Copilot+ PC」をアピールする……という計画になったのは想像に難くない。

 

ただ問題は、6月の発表の時点では、Windows 11に組み込むべき「AIがないと実現できないこと」がそこまで突き詰められていなかった、ということだ。画像生成などはすでにクラウド型AIにもあり、それだけでPCの購入動機にはなりづらい。

 

画期的な機能として用意されたのが「Recall(リコール)」だ。AIがPC内での行動履歴を「検索可能な情報」としてまとめ直すことで、PCを使う際の物忘れを防止する機能である。要は「あれ、どうだったっけ?」をなくすことを目指したのだ。

 

だが、「行動履歴をスクリーンショットの形で記録し続ける」ことそのものが、重大なプライバシー侵害につながる懸念を持たれた。プライバシー侵害を防ぐためのオンデバイスAI利用であり、記録データの暗号化ではあるのだが、PCがハッキングされたときの対策や、そもそもの不安感の払拭といった点で、特に欧米の人々の期待に応えられなかった。

 

そのため、テスト版の提供開始は6月から10月に遅れている。正式版を多くの人が使えるのは、さらに先のことになるだろう。

 

最も特徴的な機能がないことは、やはりアピールする上でマイナス要因に違いない。6月に予定されていた公開もテスト版であるし、Copilot+ PC自体の企業への販売は今年後半からだったので、そもそも起爆剤に欠けていた部分はある。しかし、マイクロソフトとしては「いち早く」という強い思いがあったのだろう。結果的には裏目に出てしまったが。

 

同じようなことはどのメーカーも考えている。Googleは8月末から販売を開始した「Pixel 9」に「Pixel Screenshots」という機能を搭載した。現在は英語での提供のみだが、利用者が撮影したスクリーンショットをAIが解析し、「スマホの中での行動のデータベース」にして物忘れを防止するものだ。

 

趣旨としてはRecallとほぼ同じであり、違いは「自動記録ではなく、自分でスクショを撮る」こと。自分のアクションで覚えておきたいことを記録するので、Recallのようなプライバシーに対する懸念は出にくい……という立て付けなのである。

 

発想としてはどの企業も似たものを持っているが、それをいつどのような形で提供するかが重要になってくる。マイクロソフトは少し急ぎすぎ、Googleは状況を見ながら「ブレーキを踏んだ機能」を提供した、と考えることができる。

 

そして、Copilot+ PCにはもうひとつの懸念がある。「ARMなのかx86なのか」という点だ。ここは次回のウェブ版で解説する。

 

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【西田宗千佳連載】機能提供の遅れでつまずく「Copilot+ PC」

Vol.141-2

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ASUS

Vivobook S 15 S5507QA

直販価格24万4820円~

↑ASUS初となる次世代AI機能搭載のCPU「クアルコム Snapdragon X Eliteプロセッサー」を採用。ASUSをはじめレノボ、HP、エイサーやマイクロソフトなど、大手PCメーカーから「Copilot+PC」が続々と登場している

 

マイクロソフトとプロセッサーメーカーは、2023年末から「AI PC」というブランドでのマーケティングキャンペーンを展開してきた。そして現在は、マイクロソフトがさらに積極的に旗を振る形で「Copilot+ PC」を展開し始めている。

 

どちらもAIを使えるのがポイントだが、定義の「ゆるさ」が違いと言える。AI PCは、メインプロセッサーにAI推論用のNPUが搭載されている、もしくは比較的性能の高いGPUを搭載していることが条件だが、厳密に性能を定義したものではない。一定価格以上の最新のPCならみな条件を満たしている、といってもいいだろう。

 

それに対してCopilot+ PCは、より厳密な定義がある。ハードウェアとしては現状、メインプロセッサー搭載のNPUが「40TOPS以上」の性能を備えていること、とされている。それ以上に大きいのが、「Windows 11でのAI関連機能に対応していること」でもある。2024年後半(おそらくは近々)に正式アップデートが予定されている「Windows 11 24H2」ではNPUを使う機能が複数追加され、それを使えるのがCopilot+ PC……ということになる。OS自体の動作条件は変わらないが、新機能の一部がCopilot+ PCでないと使えない、ということだ。

 

あくまで「AI関連の新機能を使える条件」と考えるべきなので、今後は位置付けが変わる可能性がある。現状はAMD・インテル・クアルコムが提供する最新のNPU搭載プロセッサー向けとなっているが、強力なGPUを搭載したPCではそちらを使って対応することも十分に可能だ。新プロセッサーを使ったPCの拡販、という側面が大きいので現在は「NPU」推しだが、条件が変わってくるとの噂は根強い。

 

一方で、Copilot+ PC向けの機能の価値については、少なくとも8月末現在、さほど大きなものにはなっていない。絵を描く機能などがあるが、クラウドで行なえることと大差ないからだ。

 

課題は、最大のウリである「Recall(リコール)」が、テスト公開すら頓挫した状況にあることだ。

 

Recallは、PCの中での作業を全て自動的に「スクリーンショットを撮る」という形で記録し、そのスクリーンショットをAIが解析、検索可能にすることで、「PCで対応した作業のすべてを思い出して活用する」ことを狙ったもの。当初は6月の発表後すぐに、Windows Insiderを経由してテスト公開……との話だったのだが、それが「数週間のうちに」と変わり、さらに現在は「10月にWindows Insiderでテスト公開を開始」と、徐々に後ろへズレている。

 

せっかくのCopilot+ PCだが、コアで従来のPCとの差別化を狙う機能の提供が遅れたことは、認知に大きな影響を与えている。急いで買う必然性を奪い、マーケティングキャンペーンとしての効果が疑問視される結果になっているわけだ。

 

これに限らず、今回マイクロソフトはちょっと慌てて展開しすぎたのではないか、と思える部分が多々ある。Recallの提供が延期された理由も含め、マイクロソフトが慌てた理由などについては次回のウェブ版で解説する。

 

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【西田宗千佳連載】「Copilot+PC」でPCを刷新するマイクロソフト

Vol.141-1

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Vivobook S 15 S5507QA

直販価格24万4820円~

↑ASUS初となる次世代AI機能搭載のCPU「クアルコム Snapdragon X Eliteプロセッサー」を採用。ASUSをはじめレノボ、HP、エイサーやマイクロソフトなど、大手PCメーカーから「Copilot+PC」が続々と登場している

 

AI機能の強化はこれからのPCに必須

Windows PCに、大きな変化が訪れている。AIを効率的に処理する仕組みがプロセッサーに搭載された「Copilot+PC」の登場だ。

 

マイクロソフトは今年5月からの1年間で5000万台のCopilot+PCが販売される、と予測している。PCは年間に2億5000万台以上が出荷されるため、全体の5分の1が“AI向けに強化された機構を持つPCになる”としているわけだ。

 

今年5月、マイクロソフトは同社の開発者会議「Build2024」に合わせてCopilot+PCを発表し、同社製PCである「Surface」シリーズもリニューアルして発売した。それに合わせるように、PC大手も続々とCopilot+PCを発売している。

 

Copilot+PCとは、マイクロソフトがスペックを規定し、Windows 11でAIを活用するフレームワークに沿ったPCを指す。AIの使われ方が変化していくという予測に基づいた規格と言っていい。

 

OpenAIの「ChatGPT」にしろGoogleの「Gemini」にしろ、処理はクラウドの中で行われている。マイクロソフトの「Copilot」もそうだ。最新の生成AIを使うには、クラウドにある強力なサーバーにより処理する方が有利なので、多くの生成AIサービスはクラウドで動作する。

 

PCだけである程度のAI処理完結を目指す

しかし、PCの中にあるプライベートな情報を扱う「個人のためのアシスタント」を目指すには、それらのセンシティブな情報をアップロードせず、PC内で処理するのが望ましい。そのために、AIによる推論処理を高速に実行するための「NPU」を高度化し、PC単体である程度のAI処理を完結させられる必要が出てきた。十分に高性能なNPUを搭載したPCと、NPUの存在を前提としたWindows 11の組み合わせを「Copilot+PC」と呼ぶ。

 

本記事は8月上旬に執筆している。発表から2か月が経過したが、Copilot+PCが好調に売れているか……というとそうではないように思う。

 

理由は主に3つある。

 

ひとつは、「まだ高価であること」。Copilot+PCの中心価格帯は20万円前後で、数が売れる安価なPCの領域ではない。

 

次に「ARM版が先行していること」。高性能なNPUを備え、Copilot+PC準拠のプロセッサーはまずクアルコムから発売された。PCとして一般的な「x86系」ではない。動作速度やx86系ソフトを動かす機構も進化し、過去に比べ不利は減った。だが、まだ購入に二の足を踏む人は多い。AMDやインテルのプロセッサーを使った製品は、今夏から秋にかけて登場する予定だ。

 

最後が「コア機能が欠けていること」。Copilot+PCでないと価値が出ない機能がまだ少なく、あえて選ぶ人が少ないのだ。計画よりも機能搭載が遅れ気味で、すぐにCopilot+PCを選ぶ必然性は薄い。

 

だが、こうした部分は当然解決に向かう。なぜ遅れていて、どう解決されていくのか? 結果としてCopilot+PCは普及するのか? そうした部分は次回以降で解説していく。

 

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【西田宗千佳連載】テレビのトップブランド「REGZA」の戦略から透けて見える、したたかなメーカー心理

Vol.140-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、国内メーカーから登場するテレビの違いについて。トップブランドになったREGZAは「ミニLEDも有機ELも」「大型化」を狙っている。その背景事情とは。

 

今月の注目アイテム

パナソニック

ビエラ Z95Aシリーズ

実売価格36万6300円(55V型)

↑新世代有機EL「マイクロレンズ有機EL」の採用で、高コントラストかつ美しい映像を実現。Amazon「Fire TV」の機能を内包し、ネット動画もテレビ番組も同じ画面で表示することができ、簡単に見たい番組を探せる

 

TVS REGZA(以下REGZA)は好調だ。日本のテレビはトップ数社による寡占状態が続く。その中で長くトップにいたのはシャープなのだが、調査会社BCNのデータによると、2022年・2023年のテレビシェア(台数別)は連続してシャープが2位になり、トップがREGZAになった。4K以上のテレビでも、2023年にはトップとなっている。東芝時代からREGZAは“3位もしくは4位”が定位置と言われてきたのだが、明確に状況は変化した。

 

理由は「モデルのバリエーション」と「基本機能」だろう。今年のモデルでも、REGZAは他社に比べ偏りが少ない。ミニLED液晶と有機ELの両方をラインナップして、「どちらも本気」と、他社との違いを意識したアピールを行なっている。

 

有機ELでは、輝度を高める「マイクロレンズアレイ」技術はパナソニックしか導入していなかった。しかし今年はREGZAもフラッグシップの「X9900N」シリーズで導入、ピーク輝度を前モデルの2倍にあたる2000nitsまで高めている。ミニLEDモデルの「Z970N」も、ピーク輝度を2000nitsから3000nitsへと向上させている。

 

さらに、見ている映像のシーンの種類を「夜景」「花火/星空」「リング競技」「ゴルフ/サッカー」とAIが判別し、最適なコントロールをすることでより良い画質を実現する「AIシーン高画質PRO」も搭載している。REGZAは半導体+ソフトウェア処理への注力を長く続けているメーカーだが、そうした部分への信頼度やバランスの良い製品展開などが、結果的にシェアを押し上げる要因になっているのだろう。

 

そんなREGZAも、ことフラッグシップモデルについては、やはり「大型化」をかなり意識している。具体的には55型から75型にフォーカスし、“リビングでより迫力のあるサイズ”を訴求しようとしている。

 

その昔、テレビは「一部屋に一台」だった。だが2011年の地デジ移行から、スマートフォンやPCとの関係もあり、個室のテレビは売れづらくなった。だがリビング向けは一定のサイクルで売れている。劇的に増える要因もないが、同時に減る要因もない。

 

テレビを買い替える際、ほとんどの場合“前よりも大きなサイズ”がチョイスされる。そうすると、大型のテレビをいかに売っていくかが消費者のニーズにも合う……ということになるわけだ。

 

もちろん、そこにはメーカーの世知辛い事情もある。単価の低い小型の製品を売っても利益が上がりづらいのだ。市場が一定以上のサイズを求めるのであれば、満足度が高い大型を製品化し、単価アップも狙う。

 

REGZAの「全方位だが大型シフト」という戦略からは、そんな、ある部分でしたたかなメーカー心理も透けて見えてくる。

 

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【西田宗千佳連載】ソニーだからできるテレビ戦略「映画推し」

Vol.140-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、国内メーカーから登場するテレビの違いについて。ソニーのテレビは「映像配信が生んだ映画需要」に賭ける姿勢が見えてくる。

 

今月の注目アイテム

パナソニック

ビエラ Z95Aシリーズ

実売価格36万6300円(55V型)

↑新世代有機EL「マイクロレンズ有機EL」の採用で、高コントラストかつ美しい映像を実現。Amazon「Fire TV」の機能を内包し、ネット動画もテレビ番組も同じ画面で表示することができ、簡単に見たい番組を探せる

 

映像配信の普及により、パナソニックはテレビで使っているOSを、AmazonのFire OSに変更した。同じような「配信による変化」は、もちろん他社にも大きな影響を与えている。

 

実は今年のソニーの戦略も、映像配信の普及を受けてのものであったりする。ソニーは今年のBRAVIAにおいて、製品自体も大型・高輝度の製品を軸にしている。日本も含めリビング向けのテレビは世界的に大型化傾向が進んでいるのだが、それを受けての選択である。

 

そこで全世界共通のキャッチフレーズとしたのが「CINEMA IS COMING HOME(映画が家にやってきた)」。読んで字の如く、映画推しだ。発色をはじめとして、映画のクリエイター達が劇場のために作り上げた表現を忠実に再現する機能を搭載した。

 

配信が普及したことで、高画質な映画を楽しむハードルは著しく下がった。ディスクの売り上げは下がってきており、画質的にも体験的にも、「劇場+配信」という形が映画の基本となりつつある状況だ。

 

そして、テレビの大型製品で特に見られているのはなにか……と考えたときに、それは「映画である」ということになり、映画むけの機能強化が中心になっている。単に大型のテレビを作るのではなく、機能的にもプロモーション的にも“大型テレビで映画を楽しむには”という軸が徹底されている。

 

中でもわかりやすいのが、いわゆるフラッグシップモデルを「有機EL」ではなく「ミニLED搭載液晶」としたことだ。一般的な印象として、「もっとも高画質なディスプレイ技術は有機EL」と考えている人が多いのではないだろうか。それは必ずしも間違いではなく、多くのメーカーがフラッグシップを有機ELとしている。

 

だがソニーは方向性を変えた。有機EL採用の「BRAVIA 8」シリーズは、画質と薄型デザインを求める層に向けたものとし、今年モデル向けの最新技術にはミニLEDを採用して「BRAVIA 9」に搭載した。

 

実は、今年モデルの「BRAVIA 7」シリーズは、昨年のミニLED採用フラッグシップ機とほぼ同等の性能を持っている。昨年モデルを少しお買い得にしたうえで、さらに新しい技術を、あえて有機ELではなくミニLEDの方に入れた。

 

BRAVIA 9には、ソニーセミコンダクタと共同開発した新しい「LEDドライバー」が搭載されている。その結果、発色をコントロールできるゾーン数が劇的に増加し、明るさも昨年モデルに比べ50%アップしている。映像編集業務に使うマスターモニター「BVM-HX3110」のノウハウを注ぎ込み、発色もマスターモニターに合わせた。すなわち、「映画制作の環境に近いもの」を目指したわけだ。ソニーが映画制作向けの機器を多数作っており、それらを使う制作現場からのフィードバックを受けやすい環境であるためにできることだ。

 

こうした変化は、技術だけだと消費者にはわかりづらい。そこで「CINEMA IS COMING HOME」という、「映画に絞る」大胆なプロモーションに打って出た……ということでもある。

 

では他はどうなっているのだろう? 次回のウェブ版ではREGZAの動きを説明してみたい。

 

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【西田宗千佳連載】パナソニックのテレビ事業が、Amazonに白羽の矢を立てたワケとは

Vol.140-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、国内メーカーから登場するテレビの違いについて。Amazonとの協業に賭ける、パナソニックのテレビ事業戦略を紐解いていく。

 

今月の注目アイテム

パナソニック

ビエラ Z95Aシリーズ

実売価格36万6300円(55V型)

↑新世代有機EL「マイクロレンズ有機EL」の採用で、高コントラストかつ美しい映像を実現。Amazon「Fire TV」の機能を内包し、ネット動画もテレビ番組も同じ画面で表示することができ、簡単に見たい番組を探せる

 

今年の日本国内テレビ大手の中でも、もっとも大きく変化したのはパナソニック。と言っても、画質や音質面の変化ではない。進化はしているが、今年の変化軸はそこではないからだ。

 

ポイントはOSだ。

 

パナソニックの場合、2015年から昨年まではMozilla.orgと協業で開発した「Firefox OS」のテレビ版を採用してきた。当時は他社のテレビも含め、採用が広がっていくOSと想定されたもの。しかし、2016年にMozilla.orgの方針転換に伴い、同OSを採用するのはパナソニックだけとなった。結果、メンテナンスもパナソニックが主軸に行なわざるを得なくなって、開発工数や進化の面で厳しい状態もあった。

 

特に課題だったのはアプリの対応だ。元々はWebブラウザーベースで開発が容易、という発想だったのだが、他社がAndroidベースになっていった結果、「違うやり方では流用が難しくて対応に時間がかかる」という問題が生まれた。現状、テレビ向けアプリ=映像配信対応、という部分が大きいため、アプリ対応が遅れやすい=映像配信対応が遅れやすい、ということになり、顧客満足度に直結する。

 

現在のテレビにとって、映像配信は重要な存在だ。コロナ前はまだ、映像配信が特別な存在だったかもしれないが、いまやそんなことはない。勝手に番組が流れてくる放送と異なり、配信は見たいものを自分で選ぶ必要がある。「いまなにが見られるのか」「その中で自分はなにを見たいのか」を判断するには、番組・作品を発見しやすくする工夫が必要だ。

 

現在のテレビは、そんな「見つけやすさ」でも競争し始めている。「見つけやすさ」の観点では、対応サービスの量だけでなく、レコメンデーションのエンジンや、番組の付加情報も大切。そしてUIの細かな改善も必須になる。

 

それらの条件を備えており、パナソニックが自社で培った画質・音質や家電連携などの独自要素を組み込む協力体制が採れるところはどこか……ということになり、結果としてAmazonに白羽の矢が立った、という流れである。

 

ただ実際には、パナソニックとして「Amazon」「Fire TV」というブランドを求めたところもある。日本では一定のシェアを持つパナソニックだが、世界的に見ればもうあまり大きなシェアも認知度も持っていない。その中でテレビの認知度を高めていくには、「パナソニックの(なかば独自の)OS」ではなく、「AmazonのFire TV」ブランドが大きな意味を持ってくる。コストパフォーマンスよく認知を得るには、重要な戦略変更だったのである。

 

パナソニックがいつから開発を始めたかは不明だが、「通常の製品の倍の時間をかけた」という。ここで基盤整備をするのは、長期的にテレビビジネスを展開していくのには必須の判断だった……ということなのだろう。

 

では他社はどうか? その辺は次回解説していく。

 

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【西田宗千佳連載】今年のテレビはどう変わる? パナソニック、ソニー、レグザ三者三様の行く先

Vol.140-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、国内メーカーから登場するテレビの違いについて。製品の方向性を変えることで、利益減少に悩む各メーカーの打開策となるのだろうか。

 

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パナソニック

ビエラ Z95Aシリーズ

実売価格36万6300円(55V型)

↑新世代有機EL「マイクロレンズ有機EL」の採用で、高コントラストかつ美しい映像を実現。Amazon「Fire TV」の機能を内包し、ネット動画もテレビ番組も同じ画面で表示することができ、簡単に見たい番組を探せる

 

方向性が異なってきた国内大手メーカー

今年もテレビの新製品が市場に出揃う時期になってきた。

 

テレビというハードウェアを見たとき、性能や価格はディスプレイパネルで決まる部分が多い。ディスプレイパネルは韓国・中国などの専業メーカーが製造しており、テレビメーカーはそれを購入して製品を作るからだ。

 

10年以上前とは異なり、現在はテレビメーカー側がパネルの一部を購入し、バックライトなどについては工夫して独自の価値を追求するようにはなっている。そのため“同じパネルを使っていれば同じテレビになる”ようなシンプルな話ではない。とはいえ、大まかなトレンドはパネルメーカーの動向に左右されるため、“今年はどこもこんな方向性、そのうえで各社の個性はこう”という風に語ることができた。

 

だが今年、特に日本国内大手については、それぞれの向かう先がかなりはっきりと違ってきている。特に異なっているのが、パナソニック、レグザ、ソニーの3社である。

 

着実に売れるモデルで状況の打開を狙う

パナソニックは今年、テレビに使うOSを変えている。これまではWebブラウザー「firefox」の開発で知られるMozzila・orgと共同開発し、パナソニック自身がメンテナンスを続けていた独自OSを使っていた。それが今年からはAmazonと提携、Amazonが開発する「Fire OS」を採用。動画配信への対応を加速し、コンテンツをより見つけやすくするためだ。

 

ソニーはテレビ事業の方向性を変え、はっきりと“大型で画質が良く、映画視聴に向いたテレビ”にフォーカスする戦略を採った。

 

結果として、今年の製品の中心は、バックライトにミニLEDを採用した液晶モデルとなっている。特に上位機種では、独自のLEDコントローラーを採用し、バックライト制御を微細化して対応している。有機ELも販売するものの、“液晶よりも有機EL”という序列は取らず、最上位をミニLEDモデルにする。従来とは違う考え方で製品を作っている。

 

それに対してレグザは、“液晶も有機ELも注力”とはっきり言う。OSを変えたり製品の方向性を変えたり、といった見せ方はしないが、55V型以上の大型製品にフォーカスし、ハイエンドかつ大型の高付加価値製品をアピールする戦略である。

 

各社の方向性はまちまちなのだが、そうした戦略を選ぶことになった背景自体は似ている。理由は、テレビ自体の販売が停滞しているためだ。

 

販売が落ちているのでもなく、増えているのでもない。毎年同じように売れはするものの、劇的に数が増える要素も減る要素もなくなってきた。ただ、だからといってなにもしないと、価格の安い中国勢に市場を取られるばかりになる。円安や部材価格上昇の傾向から、利益率自体も圧縮されてきている。ビジネス的には不利な状況だ。

 

日本国内だけでなく海外も見据え、“着実に売れるテレビを作るにはどうすべきか”を考え、各社は戦略の再構築をした。だから今年の製品は“各社の戦略が異なる”ように見えるのだ。各社がそれぞれの戦略を選んだ理由や、その結果としてのテレビ市場の行方は、次回以降で解説する。

 

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【西田宗千佳連載】iPad Proの高価な価値が見えるのはパーソナルなAIが使えるようになってから?

Vol.139-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは新たに登場したiPad Pro。搭載されるM4が真価を発揮するであろう、「パーソナルなAI」について解説する。

 

今月の注目アイテム

アップル

iPad Pro

16万8800円~(11インチ) 21万8800円~(13インチ)(※)

※ いずれもWi-Fiモデル

↑13インチモデルは最薄部で5.1mmの驚異的な薄さを実現。次世代プロセッサーとなるM4プロセッサーと強力なGPUでM2プロセッサーよりも4倍の高性能なレンダリング性能、同様にCPUは約1.5倍高速化している

 

生成AIを活用するサービスは日々増えている。だが、その多くはクラウド上で動くもので、どちらかというと“業務のための大きなAI”という印象だろう。

 

ただ、個人がAIを活用する場合、それだけでは不足だ。文書の要約や画像生成も重要だし有用だが、もっと生活に密着したものが使いたい……というのが本音ではないだろうか。スケジュール管理やわからないことの検索、操作の簡便化といった形で助けてもらいたい。

 

それをいまのAIでやるにはいくつかの課題がある。もっとも重要になってくるのが“いかに利用者のことを知るか”という点だ。

 

人間のアシスタントやサポートスタッフのことを考えても、自分の事情やこれまでの活動などを知っていてくれないと、自分に合ったサポートをしてもらうのは難しい。だから人にお願いするときには、契約や信頼関係を結んだうえで“自分のことを知ってもらう”ことになる。実は企業で生成AIを使う場合にも、その企業の情報やルール、部署が持つ情報を覚えさせて、“その企業を知ったAI”を使って運用する場合が多い。個人のアシスタントにする場合にも、同様のことを“個人単位”で行なう必要が出てくる。

 

だが、AIに自分のことを知ってもらうにはどうすれば良いのだろうか? 単純にデータを提供してしまうと、プライバシー侵害につながってしまう。

 

そうすると、個人が持っている情報はクラウド上のAIには提供せず、自分が使っている機器の中で処理を完結する「オンデバイスAI」が重要になってくる。

 

OSを持つ企業、すなわちアップル・グーグル・マイクロソフトは、各種デバイスのOSにオンデバイスAIを取り込み、機器の操作方法と利便性を大きく変えることを目指している。

 

ただ、オンデバイスAIを活用することになると、問題がひとつ出てくる。プロセッサーにより高い性能が求められるようになるのだ。AIの処理はCPUだと向いておらず、一般的にはGPUもしくは「NPU」と呼ばれるAI処理向けの機能で処理される。GPUはPCにもあるが、AI処理に使うほどの性能となると、消費電力の面でノートPCへの搭載が厳しくなってくるし、価格も上がってしまう。そこで、GPU以上にAI処理に特化したNPUを搭載していく必要性が生まれてきた。特に生成AIを使う場合、NPUの性能もグッと高いものが必要になってくる。

 

AIの処理能力は、一般に「TOPS」という単位で示される。マイクロソフトの「Copilot+ PC」では40TOPS以上が求められている。これは今までのPCやハイエンドスマホが搭載しているNPUが20TOPS未満であることを思うと、かなり大規模なものだ。

 

ここでアップルは、iPhone 15 Pro用の「A17 Pro」で35TOPS、iPad Pro用の「M4」で38TOPSのNPUを搭載する形を採った。他社に比べ処理をかなり上積みしているのだ。M3はスペック上18TOPSと、M4に比べかなり小さく、1世代で大幅に数字を上げてきてはいる。

 

実のところ、スペックで示されたTOPS数はあくまで数字に過ぎない。実際に使ったときの価値は機能の側で判断すべきだろう。今日の段階では、Copilot+ PCにしろM4搭載のiPad Proにしろ、AI性能の高さを体感できるタイミングは少ない。

 

アップルがM4を投入したのは、今年秋にアメリカでテストが始まる「Apple Intelligence」で活用するためだろう。Apple Intelligence自体はM1でも使えるのだが、デバイスの持つ処理性能が高いほど有利であるのは変わりない。日本で使えるようになるのは最短でも2025年とかなり先だが、そのときには、M4やA17 Proクラスのプロセッサーを積んだ製品も増えている可能性が高い。そういう意味では、iPad Proの高価さの価値が見えるのも“もうちょっと先”ではあるのだ。

 

Apple IntelligenceではSiriの高度化や写真の内容を理解しての検索など、かなりおもしろい要素が多数ある。2023年6月の段階では実際にデモが行なわれたわけではなく、どれくらい便利なのかは、まだ検証されていない。とはいえ、機器に新しい価値をもたらすものとしては期待できる。

 

当然、同じような要素はAndroidでも模索されていくだろう。“賢いパーソナルAIによって、どれだけ便利さを追求できるのか”が、ここからの競争軸になっていく。

 

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【西田宗千佳連載】非常に珍しい、iPad ProからM4を搭載したアップルの事情とは

Vol.139-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは新たに登場したiPad Pro。最新のプロセッサー「M4」が搭載された理由を探る。

 

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アップル

iPad Pro

16万8800円~(11インチ) 21万8800円~(13インチ)(※)

※ いずれもWi-Fiモデル

↑13インチモデルは最薄部で5.1mmの驚異的な薄さを実現。次世代プロセッサーとなるM4プロセッサーと強力なGPUでM2プロセッサーよりも4倍の高性能なレンダリング性能、同様にCPUは約1.5倍高速化している

 

5月に発売されたiPad Proには、アップルの最新プロセッサーである「M4」が搭載されている。

 

アップルは自社設計のプロセッサーとして、主にiPhoneに使われる「Aシリーズ」と、主にMac・iPadに使われる「Mシリーズ」を持っている。前者はiPhoneから導入されるが、後者はこれまでMacから導入されてきた。

 

しかしM4についてはMacにはまだ使われていない。iPad Proで導入され、iPad Proでだけ使われている、というのは非常に珍しいことだ。

 

ここにはアップルならではの事情も影響している。

 

他社の場合、プロセッサーは、クアルコムやMediaTekなどの専業メーカーから仕入れる。プロセッサーメーカーが対象製品を定めて開発し、本体メーカーがプロセッサーのラインナップから選んで採用する形だ。

 

一方でアップルは、自社でプロセッサーを設計して選択する。開発と生産にコストと手間がかかるが、制約条件は緩くなる。だからこそ、アップルは「プロセッサーがその時期にあったから」ではなく、このタイミングに合わせて意識的にM4を作った……ということになる。

 

ただ、同じMシリーズではあっても、Macに使われるものとiPadに使われるものは同じではない。基本設計は共通ではあるものの、製品に組み込まれるものは最適化されている。だから、仮に今後M4を搭載したMacが出てきたとしても、Mac用のM4とiPad用のM4はまったく同じではない点に留意しておきたい。

 

iPad Pro用のM4には、タンデムOLEDを効率的に使う機構が搭載されている。これはiPad Proでの採用を前提にしたものであり、いまのMacには不要だ。そのへんもあってM4がiPad Proから……という部分もありそうだ。

 

それ以外の要素を見たとき、M4はどんなプロセッサーなのだろうか?

 

現在Macに使われている「M3」は、CPUが高効率4+高性能4の8コア、GPUが10コアで、トータルのトランジスタ数が250億となっている。対してM4は、CPUコアが高効率6+高性能4の10に増えた。GPUの世代はM3に近く、機能も近くて若干の性能アップが図られている。トランジスタ数は280億なので、性能アップぶんはCPUの高効率コアが中心、ということになる。

 

GPUはM3世代で大幅に強化され、ゲームなどでの性能・表現力が上がっている。それがiPad Proに入ったというのは、クリエイティブ向けの価値だけでなく、ゲームを志向したものと言えるだろう。アップルは今秋公開の新OSで、Windows用ゲームの移植を容易にする技術を強化する。以前はMacだけに対応していたが、新世代では、Windows用ゲームをiPadやiPhoneに移植しやすくなる。iPad ProでのGPU強化は、この路線で考えるとわかりやすい。

 

スペック上の数字が劇的に大きくなっている部分もある。それが、AI処理用のNeural Engineだ。AI処理速度の指針である「TOPS」という値で言えば、M3は18TOPS。それに対してM4は38TOPSと劇的に向上している。AIのピーク性能を拡大させているわけだ。この部分をどう使うかが、今後差別化に重要な要素となってくる。

 

それはどういうことなのか? そこは次回解説していこう。

 

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【西田宗千佳連載】iPad Proがここまで高価になった理由とは

Vol.139-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは新たに登場したiPad Pro。高価な製品となった理由を解説する。

 

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アップル

iPad Pro

16万8800円~(11インチ) 21万8800円~(13インチ)(※)

※ いずれもWi-Fiモデル

↑13インチモデルは最薄部で5.1mmの驚異的な薄さを実現。次世代プロセッサーとなるM4プロセッサーと強力なGPUでM2プロセッサーよりも4倍の高性能なレンダリング性能、同様にCPUは約1.5倍高速化している

 

IT機器の価格は上がる傾向にある。理由はいくつもある。

 

日本にとって一番大きな影響があるのはもちろん円安の影響だ。ただ、値上がり傾向は世界的なものでもある。技術的にも価格が下がりづらくなる要素もあるわけだ。

 

タブレットにしろスマートフォンにしろ、価格を決める大きな要素は、ディスプレイパネルとプロセッサーだ。iPad Proの場合、ディスプレイパネルは有機EL、プロセッサーも最新のものなので当然価格は高くなる。

 

タブレットの場合、コンテンツを見ることが中心の要素となるので、差別化要素はディスプレイになる場合が多い。

 

昨今は有機ELが採用されることも増えてはきた。有機ELは液晶に比べ輝度を高めにくいが、テレビではなくタブレットであれば大きな問題にはなりにくい。しかしiPad Proの場合には、過去の機種よりも輝度を下げるわけにはいかないので、発光層が2枚ある「タンデムOLED」というパネルを採用している。

 

タンデムOLEDはLGディスプレイが製造しているもので2019年ごろに開発されたものだが、価格が上がっても高輝度を実現したい……という製品がテレビくらいしかないことから、広く使われては来なかった。アップルがハイエンド製品に使ったことから、今後は差別化のために採用するメーカーも増えてくるかもしれない。

 

プロセッサーについては、過去に比べ価格を下げられる要因が減りつつある。半導体自体の製造技術が減速し、省電力化・低コスト化しづらくなっているからだ。差別化については、半導体を組み合わせてひとつのプロセッサーにまとめる「パッケージング」に依存する部分も大きくなってもおり、複雑化し、結果として価格は下がりづらくなっている。

 

iPad Proの場合はアップルのフラッグシップ・タブレットであり、そのタイミングで最高の機能を備えたものであることが望ましい。今回は特に高価なものとなったが、一方でコストパフォーマンスの良い「iPad Air」を同時に出すことで、“ディスプレイとプロセッサーのスペックを抑えて同じサイズの製品”を求めることができるようになっていた。

 

タブレット市場はPCやスマホに比べても価格重視の側面が強いが、ここまでコストをかけて、高い製品を作っても“売れる”のはアップルだけだ。iPad Proは高価な製品になったが、良くも悪くもアップルだから許容される価格帯である……といえる。ただ、タブレットの価格としては上限に近いだろう。今後もこの価格帯で行くのかどうかは、世界的に今回のiPad Proが支持されるかどうかにかかっている。

 

前述のように、高価格の一端はプロセッサーの価格が担っている。特に今回は、アップルの最新プロセッサーである「M4」が導入されたのが大きい。

 

では、アップルはなぜ最新のプロセッサーをiPad Proから導入したのだろうか? M4の差別化点はどこになるのだろうか?次回解説する。

 

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【西田宗千佳連載】大幅改善のiPad Proに見える「価格のジレンマ」

Vol.139-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは新たに登場したiPad Pro。性能が大幅に向上した一方、円安の影響もあり価格が上昇した。新モデルの価値はどこにあるのか。

 

今月の注目アイテム

アップル

iPad Pro

16万8800円~(11インチ) 21万8800円~(13インチ)(※)

※ いずれもWi-Fiモデル

↑13インチモデルは最薄部で5.1mmの驚異的な薄さを実現。次世代プロセッサーとなるM4プロセッサーと強力なGPUでM2プロセッサーよりも4倍の高性能なレンダリング性能、同様にCPUは約1.5倍高速化している

 

有機ELを用いることで軽さと薄さを実現

アップルが5月に発売した「iPad Pro」は、同社としては久々に大幅なハードウェア変更となった。

 

特に大きな変化があったのは13インチモデルだ。面積はほとんど変わっていないが、厚みは6.4mmから5.1mmと一気に薄くなり、重量も684gから582g(ともにWi-Fi+セルラーモデル)へと軽くなった。手にしてみると差は歴然としており、過去のモデルに戻るのが難しく感じるほどだ。

 

新しいiPad Proが薄く・軽くなったのは、ディスプレイが有機ELになったためだ。

 

一般論として、有機ELは液晶に比べ構造がシンプルで、薄くて軽い製品を作りやすい。スマホで有機ELが主軸になってきたのはそのためでもある。ただ、液晶に比べ輝度を上げづらい、という難点はある。

 

先代の12.9インチ版iPad Proは小さなLEDを並べてバックライトにする「ミニLED」を採用していた。ミニLEDは明るさとコントラストを向上させやすい一方、構造的に厚くなりやすい。有機EL採用によって最新の13インチモデルが劇的に薄く・軽くなったのは、「明るさをミニLED以上にしつつ、有機ELを採用する」ことができたからでもある。

 

この新型iPad Proでは一般的な有機ELではなく、「タンデムOLED」というディスプレイパネルが採用されている。これは通常1枚である発光層を2枚とし、組み合わせて光り方をコントロールすることで、平均的な輝度を上げつつ、軽くて薄い製品を作れたわけだ。

 

画質的にももちろん有利になる。なお11インチ版iPad Proも有機ELを採用しているが、こちらは過去のモデルでもミニLEDを使っていなかったので、そこまで薄く・軽くはなっていない。そのぶん画質については、13インチ版以上に進化を感じられる。

 

ハイエンド化と円安で価格もかなり上昇

一方で、ハイエンドかつ高価なパーツを使った製品になったこと、昨年以降続く円安の影響が重なり、もっとも安価な製品でも16万8800円から、と価格はかなり高くなった。

 

「タブレットにそこまでの費用は払えない」という声も聞こえてくる。

 

そこで大きなジレンマとなるのは、アップルの最新プロセッサーである「M4」が、Mac ではなくiPad Proから採用されたことにも表れている。タブレットはコンテンツ視聴が中心であり、そこまで高性能なプロセッサーは必要ないのでは……という意見も聞かれる。

 

アップルとしては異論のあるところだろう。イラストレーターや動画クリエイターの中には、iPadを日々使っている人々も多い。そうした「プロ」のための道具としては、性能はあればあっただけありがたいものだ。

 

一方、多くの消費者には性能の違いがわかりにくいのも事実。そこで効いてくるのが「AI」を処理するための性能となってくる。

 

いまはM4の持つ高いAI処理性能の価値がわかりにくい。しかし、これからはそこが重要になるのは間違いない。それはなぜなのか? いつからどう効いてくるのか? そこは次回以降で解説する。

 

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【西田宗千佳連載】ハイエンドスマホは「オンデバイスAI」の活用が差別化になる

Vol.138-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはイギリスに拠点を置く「Nothing」が日本市場に投入するスマホ。ハイエンドスマホがたどる今後の進化を解説する。

 

今月の注目アイテム

Nothing

Phone(2a)

実売価格4万9800円~

↑ロンドンを拠点とするNothingが日本市場に投入するスマホ。画面は6.7インチのAMOLEDディスプレイを採用。OSは「Nothing OS 2.5 Powered by Android 14」を採用し、多彩なNothingウィジェットを利用できる

 

どんな機器でも“性能の陳腐化”はついて回る。必要とする機能に機器の性能が追いついてきて、ハイエンドとそれ以下の差が目立ちづらくなってくる。PCでは顕著だし、スマートフォンでも目立つようになってきた。性能の陳腐化は価格競争につながる。消費者にとってはプラスもあるが、業界全体で見ると停滞にもつながり、良いことばかりではない。

 

では、このままスマホも停滞するのだろうか?

 

ひとつ大きな変化として見えてきているのは「AIによる価値向上」だ。それも、クラウドでのAIではなく「オンデバイスAI」の活用である。

 

長年、AIをアシスタントのように使ってもっと生活を楽にしたい……という試みは続けられてきた。実のところなかなかうまくいってはいないのだが、大きな変革になりそうな技術として脚光を浴びているのが「生成AI」だ。OpenAIのGPT-4やGoogleのGeminiに代表されるものだが、かなり“人間に近い知的な反応”だと感じられるようになってきたことで、実用的な“アシスタントとしてのAI”の実現が見えてきた。

 

そこで重要になるのが、クラウドではなく機器の中で処理が完結するオンデバイスAIだ。スマホ内でアシスタントのように働かせると、プライベートな情報を多数扱うことになる。だからクラウドには情報を上げず、自分の機器内ですべてが完結することが望ましい。

 

ここで先行するのがGoogleだ。同社はAndroidに生成AI「Gemini」を統合していく方針。現在もPixelやGalaxyでは、オンデバイス版のGeminiを使ってリアルタイム翻訳などを実現しているが、今後はもっと多彩なことが可能になっていく。

 

今年の後半には、英語だけではあるが、Pixelでは“通話内容から、電話が詐欺的なものである場合、その旨を警告として出す”機能が搭載される。音声通話をAIが判断して危険を耳打ちしてくれるようなもので、まさに、オンデバイスAIがなければ実現できない機能だ。

 

ただし、オンデバイスAIを使うには性能の高いプロセッサーが必要だ。正確には、プロセッサー内のCPUやGPUだけではなく「NPU」と呼ばれるAI処理に特化した機能が重要になってくる。

 

ハイエンドスマホ向けのプロセッサーは、アップルもQualcommも、そしてGoogleも、すべてがすでに「強力なNPU」を搭載するようになっている。これまでは音声認識や写真加工などに使われてきたが、今後はオンデバイスAI処理への活用がさらに進むと見られているので、NPUはさらに強化が進む。今年の後半に出てくるハイエンドスマホでは、“オンデバイスAIでなにができるのか”が強くアピールされることになるだろう。

 

ミドルクラス以下の製品向けのプロセッサーでもNPUの活用は進むが、Googleも「まずはハイエンドが中心であり、徐々に安価な機種へも拡大していく」と予測している。すなわち、ハイエンドスマホの差別化点は、当面“オンデバイスAIの活用”になりそうだ。

 

逆にいえば、オンデバイスAIでなにができるかを、機能としてわかりやすく示すことが重要になってくるわけだが、開発には相当のコストもかかる。それができるメーカーは、アップルやGoogle、サムスンなどの大手が中心になってくるだろう。

 

そうでないメーカーは、デザインやUIなど、ミドルクラスでもアピールしやすい要素で勝負することになるのではないだろうか。

 

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【西田宗千佳連載】体感での差が縮まる「ハイエンドスマホ」と「ミドルクラススマホ」

Vol.138-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはイギリスに拠点を置く「Nothing」が日本市場に投入するスマホ。ここではスマホ性能、特にハイエンドとミドルクラスの違いを解説する。

 

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ハイエンドスマホとミドルクラス以下を分ける条件はなんだろう? 端的にいえば“使っているパーツ”ということになるが、昨今は見た目ではそれとわかりにくくなっている。

 

たとえばディスプレイの解像度は、もはやミドルクラスでも十分。ハイエンドの方が良いのは事実だが、購入の大きな要因にはならない。

 

そうなるとカメラの品質、ということになるが、こちらも、過去に比べミドルクラスの品質も上がっている。ただ、センサーとソフトウェアでのチューニングの差が大きく、確かに“ハイエンドとそれ以下で大きく品質が変わる”部分でもある。だからハイエンドスマホの多くはカメラに注力する。

 

では、プロセッサーはどうだろう? CPUやGPUの性能は確かに違う。

 

そしてPCに比べるとわかりづらいが、メインメモリーの容量も、ハイエンドとミドルクラスでは結構違う領域である。安価な機種は4GB程度だが、昨今のハイエンドでは12GBクラスになる。

 

これによって生まれる違いについて、「複数のアプリを使わなければ大丈夫」と説明している記事なども見かけるが、それはかなり認識が甘い。スマホの場合、PCに比べて“複数のアプリを自然と使っている”場合が多く、スペックが劣っているからと言って“気を遣いながら使えば大丈夫”というものでもない。メモリーの差は、アプリ自体の動作にも影響するものの、「アプリの切り替えをしたときの動作が遅い」とか「アプリの起動が遅い」という形で見えてくる場合が多いだろう。

 

スマホの場合、もちろんハイエンドであればアプリの動作が速くなる。ゲームの画質も上がることが多い。しかし、そこに重きを置かない場合、ミドルクラスでも十分と考える人は多くなってくる。

 

こうしたことはハイテク機器では常に繰り返されてきた道だ。スマホの場合、iPhoneやPixelなど一定の機種に人気が集中すること、割引や分割払いなどの施策が充実していることなどから、意外なほどハイエンド製品を手にする人が多い。

 

とはいえ、価格を下げるためにハイエンド向けプロセッサーを選ばない、という選択肢は増えてくる。シャープの「AQUOS R9」は、コストを考えて、あえてQualcommの「Snapdragon 7+ Gen3」を採用した。昨年モデルはハイエンドにあたる「Snapdragon 8 Gen2」だったから、グレードは下がったことになる。しかし、R9の目指す用途では7+ Gen3でも大丈夫と判断し、価格上昇を抑えるために決断したわけだ。

 

そもそもGoogleのPixelも、プロセッサーの性能としてはアップルやQualcommのものに比べれば劣る。性能はトップクラスとせず、コストパフォーマンスを重視した設計に近い。だから、秋にその年のハイエンドPixelを出しつつも、半年後の春にはコスパ重視の「a」シリーズが出せる。先日発売されたばかりの「Pixel 8a」も、昨年発売の「Pixel 8」も、同じプロセッサー・同じメインメモリー量(8GB)であり、違いはカメラとディスプレイくらいだ。

 

だとすると、カメラに興味がなければハイエンドの意味は薄いのか……という話になってくる。しかし、現在登場した「AI」というトレンドが、新たな差別化点としてフォーカスされてくる可能性が見えてきた。

 

ではそれはどういうことなのか? その点は次回解説したい。

 

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【西田宗千佳連載】なぜ日本のスマホ市場は「トップ6社」に偏るのか

Vol.138-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはイギリスに拠点を置く「Nothing」が日本市場に投入するスマホ。ここでは日本のスマホ市場が偏っている理由を解説する。

 

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現状、日本のスマホ市場は寡占状態が続いている。

 

調査会社MM総研の調べによれば、2023年度のスマートフォン国内出荷台数は約2547万台。そのうち52.5%がアップルで、Google・シャープ・サムスン・ソニーと続き、このトップ6社でシェアの89%を占めている。

 

なぜこのような状況が生まれているのか? 日本人の趣向や機能の問題などもあるが、ひとつ明確な理由として挙げられるのが、「携帯電話事業者が扱う端末は、トップ6社に集中している」という点だ。

 

総務省が今年3月に公開した「令和5年度第3四半期(12月末)の電気通信サービス契約数及びシェアに関する四半期データ」によると、NTTドコモ・KDDI・ソフトバンク・楽天の大手携帯電話4社のシェア累計は84.7%。そして、これらと契約する人のほとんどが自分の契約する携帯電話事業者からスマホを購入しており、結果として、「携帯電話事業者の扱う端末のシェアが高くなる」傾向が出てくる。トップ6社の端末は、どれも携帯電話事業者で販売しているものだ。

 

フィーチャーフォンの時代、携帯電話端末の商品企画は、携帯電話事業者とメーカーが共同で行なっていた。通信をどう使うか、という部分は携帯電話事業者の領域であり、携帯電話端末もまず携帯電話事業者がメーカーから仕入れ、「携帯電話事業者の製品」として販売していた。

 

だが現在は、端末の企画と販売の主体はメーカー側。携帯電話事業者は「自社の回線で問題が出ないかを確認」したうえで、携帯電話回線を契約している人々への利便性を考えて販売する。本音として「回線契約維持の目的に使いたい」とは思っているだろうが、総務省の定めたルールによって「端末販売と回線契約の分離」が必須とされているので、昔のように大幅な割引は少なくなっている。それでも、分割払い+下取りの併用で、ハイエンドスマホも入手しやすくなるよう工夫されている。

 

過去からの経緯や事業者の努力もあり、“携帯電話は携帯電話事業者から買うもの”というイメージが広く定着している。良くも悪くも、スマホ市場寡占にはこのことが強く影響しているのは間違いない。

 

一方で、ハイエンドスマホの価格上昇は続いている。理由は円安に加え、ハイエンドスマホを構成するプロセッサーやイメージセンサー・メモリーなどの半導体コストが上がっており、機能アップに伴う価値の維持にかかるコストも上昇しているからだ。

 

景気の問題を抱える日本だけでなく、世界的にもスマホの価格上昇は課題となっている。スマホの進化ペースが落ち着いてきたこともあって、スマホの買い替えペースも長くなる傾向にある。

 

GoogleはPixel 8において「OSのアップデートを、ハードの提供開始以降7年間保証する」としている。他社も5年のサポートをうたうところが多い。アップルは明示していないものの、6年程度はOSのアップデートが続く。

 

この長さは“ひとりのユーザーが5年から7年同じ端末を使い続ける”という話ではない。仮に途中で中古として売られても、中古端末でも数年間、OSのアップデートを受けられるということになり、端末流通が安定するためだ。買う人が多ければ、それだけ“手持ちの端末を売って新しいものを買う”という人が増える。

 

ただ、このサイクルが通じるのは人気も高く、企業体力も旺盛な「大手が売るスマホ」に限られる。スマホのリセールバリューはメーカーによって大きく違う。アップルが圧倒的に高く、そのほかの大手が続く。それ以外は短期で下がってしまう……という世知辛い状況だ。

 

だとすると、“それ以外”の企業としては、リセールバリューに依存しない、強いファンを持つ端末を作って売っていく必要に迫られる。そう考えると、Nothingのように「ミドルクラスだがデザインや手触りで差別化する」のはひとつの手法だ。コストパフォーマンスを重視し、“他人と違うスマホ”をアピールするのは、良い販売戦略だと感じる。

 

では、今後のスマホの「性能」はどう変わっていくのだろうか? そのあたりは次回解説しよう。

 

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【西田宗千佳連載】デザイン重視の「Nothing」は日本市場に本気

Vol.138-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはイギリスに拠点を置く「Nothing」が日本市場に投入するスマホ。上位メーカー数社が大きなシェアを占める日本での商機はあるか。

 

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FeliCaを搭載し、日本向けに販売体制も強化

イギリスに本拠を置くデジタル機器メーカーである「Nothing」が日本に本格進出した。同社はスマホの「Nothing Phone」やイヤホンなど、特徴的なデザインを採用した製品で知られるメーカー。日本でも2年ほど前から製品を展開しているが、海外で売っているものをそのまま導入する形だった。

 

だが今年からは変わる。同社CEO(最高経営責任者)のカール・ペイ氏は「いままでは日本市場に合わせた製品も用意していなかった、お試しのようなもの。ここから本格的に展開する」と語る。

 

その一例が、同社製最新スマホである「Nothing Phone(2a)」だ。2024年4月から流通を開始した製品だが、過去と異なり、日本市場向けは他国向けと機能が異なる。いわゆる「おサイフケータイ」に対応するために、NFCだけでなくFeliCaも搭載した。日本でより多く売るには必須と判断したためだ。

 

さらに、マーケティング・販売・サポートなどのチームを本格的に立ち上げる。日本チームのトップとなるのは黒住吉郎氏。黒住氏はソニーモバイルでXperiaに関わり、その後楽天モバイル・ソフトバンクと携帯電話事業者でも勤務し、さらにAppleでも経験を重ねたという、日本のスマホ業界全体を見た経験を持つ、稀有な人物だ。十数年に渡り取材してきた、筆者にとっても顔なじみのひとり。そうした人物を雇用したことからも、同社の本気度が伝わってくる。

 

消費者側から見ると、長年にわたって不景気な日本のどこに魅力があるのか……と感じるが、Nothingは、それだけ日本市場に可能性を感じているのだろう。

 

コスパの高さを武器に選ばれるスマホを目指す

理由は複数ある。

 

ひとつ目は、“大手以外があまり定着していない”こと。ご存知のように、日本はiPhoneのシェアが高い。それ以外となると、GoogleのPixelにサムスンのGalaxy、シャープのAQUOSやソニーのXperiaといったところだろうか。

 

それ以外のメーカーはシェアが小さい。携帯電話事業者以外で流通する「オープン市場」(俗にいうSIMフリー製品。現在は携帯電話事業者もSIMロックをかけていないので、呼称としては正しくない)の規模も大きくない。メーカーそれぞれにファンもいるのだが、大手に食い込めるほどの存在感になっていないのが実情だ。

 

体制という意味ではNothingもまだまだなのだが、数年かけてブランド認知を高めれば、“指名買いされるスマホ”のひとつになり得る……と分析したのだろう。

 

特に同社が商機と感じているのは、おそらく「コスパ」だ。ハイエンドスマホがどんどん価格を上げていくなかで、デザインとコストパフォーマンスで目立つことができれば、十分商機があると見込んだのだろう。

 

では、高コスパで売れるスマホの条件とはなにか? ハイエンドと高コスパスマホはどう棲み分け、結果としてスマホ各社はどう生き残っていくのか? そのあたりは次回以降に解説していくことにしよう。

 

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【西田宗千佳連載】生成AIを「誰もが使う」にはツールの進化が必要

Vol.137-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは開発が進む「画像生成AI」。ビジネスにおいて、個人レベルで生成AIを活用するための課題を探る。

 

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月額無料(毎月25点までの生成クレジットを利用可能)

↑シンプルなテキスト入力で画像の生成やオブジェクトの追加、削除、テキストの変形などができる画像生成AI。無料プランのほか、毎月100点までの生成クレジットを利用できるプレミアムプラン(月額680円)も用意される

 

生成AIがどんなものか、そろそろ説明する必要はなくなってきただろう。だが「報道などで話は聞いている」人は多く、無料のサービスでちょっと使ってみたという人は多くても、「実際にビジネスなどでガンガン使っている」という人は意外と少ないものだ。

 

転職サイトを運営するエン・ジャパンが35歳以上の人々を対象として実施し、2024年1月に公開した調査によると、生成AIを業務に使っている人の割合は全体で18%。28%が使用を検討中で、なかなか高くなってきたように見える。

 

だが実際には、使用の予定がない人は54%もいる。業種別に見ると、マーケティングやコンサルタント業務では47%が使っているものの、より一般的な業種になると10%に近づいていき、「使う人々と使っていない人々」の差が大きくなっている……というのが実情ではあるようだ。

 

すなわち“生成AIがどんなものか可能性を探ることが仕事につながっている人”か、“文章や画像を大量に作る必要がある人”が生成AIを使っており、それ以外はまだなかなか厳しいのだろう。このあたりは、生成AIの便利な使い方が浸透しておらず、明確な利用拡大には結びついていない、と判断できる。アドビの例にしろ、デジタルマーケティングやコンテンツ制作に特化した部分があり、現状の分析とも合致する。

 

ただ、読まなければいけない文章を要約して確認したいとか、必要な文書を簡単に作りたいといったニーズは、ビジネスの中ではかなり普遍的なものかと思う。それがきちんと定着していないのは、生成AIの使い方がまだ誤解されている、ということかもしれない。要は、検索エンジンに似たものとして使われたり、ゼロから画像生成をするために使われたりするもの、と思われているのではないだろうか。

 

そうした誤解が解けるには、ツールの一般化が重要だ。アドビが手がけているのも、結局のところそういう流れなのだ。

 

Photoshopは4月にアップデートが行なわれ、背景を簡単に入れ替えたり、画像を生成する際に「モチーフとなる画像」を読み込んでテイストを合わせたりする、といった機能が搭載された。

 

ほかのツールもそうだが、最初は「白紙の上にプロンプトから何かを作る」ような実装がなされる。しかし人間、白紙からいきなりなにかを作れる人の方が少ない。日常的な作業のほとんどは「ベースとなる何かがあって、それを修正して別のものにする」ことだったりする。

 

生成AIを道具にするには、結局のところ、そういう“ちょっと変える”“前例を踏まえて新しいものを作る”といった作業に使えることが重要で、そのためにはツールが進化しないといけない。

 

生成AIが広まり始めて2年が経過しようとしているが、これからはそういう進化がまず目立つようになっていくだろう。

 

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【西田宗千佳連載】アドビは複雑化するデジタルマーケティングに向けて生成AIを提供する

Vol.137-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは開発が進む「画像生成AI」。ビジネスで使う生成AIコンテンツにおける課題とアドビの解決策を解説する。

 

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生成AIを使ううえで課題になるのは、「生成されたものが問題なく使えるものなのか」ということだ。

 

著作権上の問題がないか、ということに注目が集まりがちだが、課題はそれだけではない。絵が不自然だと使いづらいし、デザイン的に求めるものである必要もある。

 

広告などのために必要なコンテンツの量は増えており、すべてを人の手で作るのは難しくなっている。昔はシンプルな広告用GIFくらいで済んだが、現在はWebの形やSNSの種類、メールとフォーマットも多彩。さらに、消費者を細分化してそれぞれに合わせたコンテンツを用意する必要も出てきている。

 

そうなると、基礎となる部分はアーティストが作り、そこからのフォーマット変更やちょっとした加工はAIを使って効率化する……というパターンが必須になってくる。

 

だとすれば、目的に合ったデータができあがりやすいツールと、作ったものを簡単に管理するツールの両方が必要になる。

 

これは、Photoshopでアーティストがひとつずつ作品を作ることとは少し異なる。

 

ベースとなる部分はやはり人が作るのが基本だ。だが、その過程で作業を楽にするには、生成AIなどを活用したツールが必要になる。これは「絵筆や鋏としての生成AI」と言える。生成AIであるFirefly自体が進化し、リアルで緻密な画像を作れるようになっているのはもちろんだが、それを使い、写真の背景や一部を簡単に入れ替えられるようになってきた。従来なら時間がかかったような処理も、短時間で作業できるようになった。

 

それに対して、マーケティング向けの生成AIは“管理ツールとしての生成AI”に近い。

 

最新のFireflyでは、企業のロゴや商品などを学習させて、自社の目的に合ったものを生成する「カスタムモデル」機能が搭載された。同じことは生成AI技術を開発する企業の中で盛んに研究されており、特にアドビの発明というわけではない。だが、複雑なカスタムモデル構築作業をせずとも、シンプルに「必要な画像類をアップロードするだけ」で処理できるのはアドビの強みだ。

 

そして、カスタムモデルの構築も広告用生成AIコンテンツの管理についても、アドビは同社のデジタルマーケティングツールと一体化して供給する。自社内でコンテンツ生成に使う素材はどうするのか、どんなルールで使うのか、できあがったものはどこに保存されているのか。さらには、それを使ってデジタルマーケティングを行なった場合の効果がどうなっているのか……。

 

そうした効率的なマーケティングプランの構築と管理、という以前からのビジネスに生成AIを組み込んで、全体としての価値を向上させることで企業の利用を拡大したい……と考えているわけだ。

 

こうしたツールの導入は、仕事のためのツールとしての生成AIの可能性を拡大する。ただ、アドビのツールはどうしても「大企業でのデジタルマーケティング担当者」向けであり、すべてのビジネスパーソンが使うもの、とは言えないかもしれない。

 

では、一般的なビジネスパーソンへの生成AIの浸透はどうなるのか? そのあたりは次回解説したい。

 

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【西田宗千佳連載】生成AIを「ビジネスで使う」基盤整備で先行するアドビ

Vol.137-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは開発が進む「画像生成AI」。Photoshopで有名なアドビもビジネス化に取り組んでいるが、ほかと比べて先行している部分を解説する。

 

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IT大手は競うようにして生成AI技術の開発を進めている。

 

実のところ、生成AI技術「そのもの」の最先端は、研究者やエンジニアが日々公開しており、OpenAIやGoogleだけが開拓しているわけではない。だが、そうしたものは「技術」であるがゆえに一般には見えづらい。サービスやソフトウェアとして実装され、“なにができるか”が明確になる必要がある。

 

アドビがやっていることは、「画像などを生成するAIがあるが、それはどういう点に気をつけながらビジネスに使うべきか」ということの可視化、と言える。

 

アドビの生成AIである「Firefly」は、2023年3月にスタートした。画像生成AIが注目され始めたのがさらに1年ほど前なので、大手の動きとしてはかなり素早いものだと思う。

 

Fireflyの特徴は、学習するデータとして、古くて自由に使えるようになった作品に加え、同社のフォトストックサービスである「Adobe Stock」の中で、学習して問題ないと許諾がされたものや、特定の著作物と関係しないものを選んでいるという点にある。

 

生成AIは学習するものによって出てくる結果が変わる。ビジネスで使う場合、意図せず他者の著作物に近いものを使ってしまうというリスクは確かに存在する。そこで一定の防止策として、学習ソースを限定し、より安心して使えるように配慮したのがアドビの施策だ。

 

もちろん完璧ではない。海賊版も含め、他者が権利を持つ著作物が学習内容にひとつたりとも含まれていないと保証することは難しく、実際、漏れはあるようだ。

 

だが、そうした処理がない生成AIよりはずっと安心して使える。

 

またポイントとして、いわゆる著作権侵害については、生成するという行為ではなく“生成したものを公開すること”が起点になる、ということも重要だ。公開するものを作るなら、そもそも他人のものを真似るような命令を与えるのは避けるべきだし、できあがったものが“他人の著作物に似ていないか”“間違いがないか”は確認しておく必要がある。

 

実のところ、企業向けの生成AIでは、「正統なルールの中で出力したもので訴訟になった場合、その費用はサービス側が負担する」というルールを持つものが多い。マイクロソフトやGoogleもそうだし、アドビもそうだ。「企業向けのサービス」で「ルール通りに使った場合」だけである点に留意する必要はあるが。

 

だとすれば、「より安心できる学習基盤で」「精査したうえで公開」が基本となり、それがしやすい環境を提供するサービスが求められるわけで、アドビが狙っているのはそういう路線なわけだ。さらにPhotoshopやAdobe Expressのような「作りやすいツール」とFireflyを組み合わせることで、ビジネスで使いやすい基盤を作ることが収益につながる、という話になる。

 

生成AIそのもの以上に、そうした「ビジネスのためのツールの整備」という部分が、アドビが他社に先んじている部分である、ということもできるだろう。

 

では、そのうえでどのようにツールを整備しているのだろうか? その点は次回解説したい。

 

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【西田宗千佳連載】広告の画像もAI生成、アドビが目指すビジネスとは

Vol.137-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは開発が進む「画像生成AI」。Photoshopで有名なアドビもビジネス化に取り組んでいるが、現段階での課題と運用法について探る。

 

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ビジネス化へのカギは目的に合う画像の生成

2023年は生成AIの年だった。検索や翻訳で生成AIを使うのは一気に当たり前のことになり、各社のサービス開発競争も続いている。

 

文章と同様に一般化したのが「画像生成AI」だ。2022年には専用サービスが立ち上がって注目されたが、現在はChatGPTやMicrosoft Copilot、Geminiなど主要なサービスには画像生成も組み込まれるようになっている。

 

IT大手のなかでも、画像生成AIのビジネス活用に積極的なのがアドビだ。アドビといえば、多くの人がPhotoshopなどを思い出すだろう。2023年3月に画像生成AI「Firefly」を発表、同5月にはPhotoshopへの統合も果たした。

 

アドビによれば、Fireflyは1年で65億枚の画像を生成したという。ただ、世の中に生成AIで描かれた画像があふれているかと聞かれれば、「まだ限定的」というところだろう。

 

画像生成AIは大きな可能性を持っているが、その是非について議論が続いている。

 

そのためアドビはいち早く「学習コンテンツの権利処理」に着目。Fireflyの学習に使う画像を「権利処理されたもの」に限定することで、ビジネスにおいても使いやすい画像を作れることを打ち出していた。

 

それだけではまだ使いづらい。

 

課題のひとつとなるのが「目的にあった画像だけを出す」という点だ。たとえば広告で使うなら、商品やロゴを正確に扱う必要がある。また、その背景となる画像についても、広告キャンペーンの目的や、自社で定めるルールに合わせる必要がある。

 

そこでアドビは、Fireflyに「カスタムモデル」と「構成参照」という機能を搭載した。

 

技術の進化だけでなく使われ方が重要になる

カスタムモデルは、企業のロゴや商品デザイン、画像の運用ルールなどを定め、できるだけその企業の目的に合った画像だけを生成する機能。構成参照は、与えた画像のデザインに近い画像だけを生成する機能だ。これらの機能を組み合わせると、「自社のロゴや製品画像を軸に、紙にペンで描いたラフから、広告に使う画像を何枚も自動生成」といったことが可能になる。

 

ただ、こうした新技術があったとしても、生成AIが作るコンテンツをビジネスに使うには、かなりの注意が必要だ。正しいものか、不適切な内容が含まれないかを人間側が精査する必要がある。そのためアドビは制作ツールの「GenStudio」も同時に発表している。

 

生成AIもそろそろ、技術だけでなく「ビジネスにおいてどう使うか」が注目されるタイミングだ。生成AIの運用にはコストがかかるので、収益化も進めないと厳しい。アドビのようにサービスを提供する側も、そしてそれを使ってビジネスをする側も、悠長に構えてはいられない。いかに仕事で使うかを考え、そのためのサービス提供を競うフェーズに入ったと考えるべきだろう。

 

では生成AI、なかでも画像をビジネスに使うにはどんな点に注意する必要があるのだろうか? ビジネスにおける活用にはどんな技術やルールが必要になってくるのだろうか? そのあたりは次回以降で解説していくことにしよう。

 

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