売り場で目が合う、その一瞬でいかに興味・関心を惹きつけるか。発売初年度にSNS上で驚異的なUGCを生んだ『ミルクの束縛』の仕掛け人に聞く、ネーミングの極意とは?

古谷乳業
ミルクの束縛ミルクコーヒー
オープン価格(実勢248円前後)
「牛乳好きに届けたい。」という思いのもと、2023年にブランドを設立。75%の生乳と砂糖、コーヒーのみを原料とする。『ミルクティー』(実勢254円前後)もラインナップ。
【名付け親】
面白法人カヤック
コピーライター/クリエイティブディレクター
合田ピエール陽太郎さん
NSC東京28期卒業。飲食業を経て、全くの未経験から広告業界へ飛び込み宣伝会議賞を受賞。面白法人カヤックで「もしも、令和ギャルがカヤックの決算説明資料をつくったら」等を手掛ける。芸人はすでに引退済。
広告の代わりにネーミングとパッケージそのものを“話題になる装置”に
どこか背徳感漂うネーミングに、タイポグラフィで埋め尽くした異様なパッケージ。パッと見で気になるこのミルクコーヒーの名付け親が、元芸人&バリスタという異例の経歴を持つコピーライター、合田ピエール陽太郎さんだ。
「千葉県の古谷乳業さんで作っている、生乳を75%も使用したミルクコーヒーです。自然な味わいでとてもおいしいのですが、どうすれば売れるかというのが最初のご相談でした。先に結果を言ってしまうと、広告展開ゼロで1年間に430万本の売り上げを達成しています。また、ファミリーマートさんのその年の顔となる商品を選定する『ファミマ大賞2025』では、大変光栄なことに10位にランクインしました」
生乳を使用したミルクコーヒーという、特別珍しくもない商品の一体何がバズったのか? 原動力のひとつは、SNS上で爆発的に生まれたUGC(ユーザー生成コンテンツ)。年間で1万件以上の投稿がなされ、約4500万回のインプレッションがついたという。
「店頭でかなり目立っているけれど、どんな味がするのかは全然わからない。あえてそのような名前とパッケージにすることで、受け手の中に『束縛とは?』という引っ掛かり、違和感が生まれたんだと思います」
人が日常的に触れるメディアが細分化し、広告効果が波及しにくくなっているといわれる昨今。『ミルクの束縛』のような広告予算ゼロの商品企画において、ネーミングやパッケージは消費者とのほぼ唯一にして最大の接点となる。合田さんはその一点に、あることを仕掛けた。

飲んだ人自身が意味を発見したくなる“問いのネーミング”を選択
「そもそもネーミングには、“答え”を渡すネーミングと、“問い”を渡すネーミングの2種類があると思っています。どちらが良い悪いということではなく、広告の有無や、どう展開するかで使い分けるものです」
今回のケースでは、当初提案した『純ミルクコーヒー』というネーミング案は、牛乳業界のレギュレーションをクリアしていると認められなかった。締切が迫り、『生乳75%ミルクコーヒー』という無難な名前に決まりかけた場面もあったという。
「そもそも生乳とコーヒー、砂糖だけのシンプルな原材料にこだわった商品なので、それはストレートに“答え”を渡すネーミングだったといえます。ただ広告が打てないという難条件の中で、“生乳75%”にどんな価値があるのか、店頭でパッケージを一瞬見るだけのお客様に伝えるのは難しいだろうなと思ったんです」
訴求したかったのは、生乳ならではのおいしさ。その本当の体感をどう伝えるか。来る日も来る日もコンビニで飲料のパッケージ裏を眺めていた時、ふと降りてきた言葉が“束縛”だった。ほぼデッドラインだった翌朝、満場一致で採用が決定したという。
「まるでミルクに束縛されているみたい。そう思ったことがきっかけです。僕は牛乳好きなので、“生乳50%以上”の表記がある商品を特においしいと感じていました。広告でそれを伝える機会がないなら、まずは店頭で目立つしかないと思っていました。“束縛”というエッジの強い言葉を選んだのはそういう理由。パッケージのシズル表現もある意味“答え”になってしまうので、コーヒーやミルクの絵もあえて省くことにしました。結果として『ミルクの束縛』というネーミングは、飲んだ人が自分なりに味を定義して、SNSで発信したくなるような“問い”を渡せたのだと思います」
会話するパッケージ

正面には丁寧語、開け口周辺にはフランクな言葉、側面には「この出会いは運命なんだね」といった“心の声”を薄〜く印刷。消費者との出会いから別れの物語を表現したという。
ネーミングは消費者にどんな行動を起こさせるかまで含めて設計する
逆に潤沢な広告予算があるなら、“答え”を渡すネーミングが強いケースもある。
「テレビCMなどで繰り返し商品の価値を伝えて記憶してもらい、店頭で間違えずに手にしてもらう。そういった売り方をする商品なら、『果汁100%ジュース』のような“答え”を渡すネーミングの方が安心感がありますし、強いでしょう。どちらのタイプを選ぶかは、その商品の戦い方、広告予算の有無、店頭でどう見られるかまですべて設計した上で検討すべきだと思っています」
特に“問い”を投げかける上で大事なのは、ネーミングやパッケージで目立つことはあくまでフックにすぎないという点だ。
「名前でインパクトを出している分、実際に食べたり使ったりしてみた感覚と問いの内容がズレないことはとても大事。ネーミングの印象と実際の体感にギャップがあると、あえて感想を言おうという気持ちまではならない。その先のアクションには繋がらないと思います」
「答えを渡すネーミング」と「問いを渡すネーミング」
| 広告あり | 広告なし | |
|---|---|---|
| 答え | 特徴・メリットを明確に伝える王道型 | 価格で対抗するPB商品など |
| 問い | 広告で興味を喚起し、名前で余白を残す | 商品を話題化装置にしUGC(※)を促す |
※ユーザー生成コンテンツの略。消費者が自発的に作成・発信したコンテンツ全般を指す。
「何を言ってもいい」環境がアイデアを生む
商品の品質は良いのにバズらない、良さがなかなか伝わらない。モノやサービスを売る上でよくある悩みだが、肝心のネーミングが足枷になっているケースは少なくない。『生乳75%ミルクコーヒー』のような、正しくとも良さが伝わりにくい名前は典型例といえるだろう。
「多くのメーカーさんは、最初のプレゼンで商品の良い面だけを一生懸命に伝えようとしますが、僕はそこであえて“残念なところ”を聞くんです。そうすると、『当初はこうしたかった』『本当ならもっとできたはず』といった作り手の本音が少しずつ出てくる。上下関係などに関係なく、そうやって『何を言っても良い』場を整えてブレストを促していくことが、僕らの仕事の最初の一歩だと思っています。不思議なもので、物事の良い面ってなかなか言葉にしにくいのですが、逆にダメな面って言語化しやすい傾向がありますから」
良いネーミングには、むしろ理由などない。それが合田さんの、今のところの答えだ。
「名前が決まるときって、みんなが迷いなく『これしかない!』と感じるとき。でも、それは決して直感で思いついているわけではありません。商品にまつわる良い面も悪い面もできるだけ洗い出し、実際に触れた時の身体感覚と照らし合わせて考え尽くした先に、ある日アイデアがふっと降りてくる。そういうものなんだと思っています」
「日本ネーミング大賞 2026」応募概要
■応募対象
2025年10月1日〜2026年9月30日の間に、日本国内で販売または提供されている「商品名」「サービス名」「社名」「ブランド名」等で、商標登録がされているもの(※20年前に発売されたロングセラー製品でも、期間内に販売されていれば対象となる)
■応募期間
2026年9月1日(火)〜10月10日(土)
■応募方法
公式ホームページのエントリーフォームより
【エントリーフォームはコチラ】
■応募費用
ネーミング1件(1部門)につき5500円
■2026年度地域フォーカスエリア
「広島県」
※地域ソウルブランド部門において、広島県の企業・団体等が商標を持つネーミングの応募費用は無料。
日本ネーミング大賞2026
https://j-naming-award.jp
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