茶道、海獣学から思春期のじれじれのラブコメ漫画まで—— 歴史小説家が2023年にオススメする「スタート」の5冊

毎日Twitterで読んだ本の短評をあげ続け、読書量は年間1000冊を超える、新進の歴史小説家・谷津矢車さん。今回のテーマは2023年の1本目として「スタート。紹介した5冊を参考にして、あなたも何か「スタート」してみませんか?

 

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なんということでしょう、新年がスタートしてしまいました。

 

と、妙に不穏な書き出しになってしまったのは、去年の仕事がまったく終わっていないからである。ほかの業界におられる方にお話しするとかなり驚かれるのだが、小説家の仕事のスパンは非常に長い。編集者と打ち合わせてお話の方向を決め、作品の設計図を作って第一稿を書き上げたのち手直しをして……とやっているうち数年が経過しているなどざらで、「その年の内に何かを終える」「仕事納め」の感覚が希薄になりがちだったりするのである。……というのは頭でこそ理解しているものの、情緒面で落ち着かないところがあるのもまた事実。今日も昨年から引き続き当たっている仕事を前にため息をついているところである。

 

が、世間は新年である。心機一転、頑張っていきたいなあという気持ちもあるっちゃある。というわけで、今回の選書テーマは「スタート」である。しばしお付き合い願いたい。

 

「茶道」を知るための最初の一歩

まずご紹介するのは、『茶の湯をはじめる本 改訂版 茶道文化検定公式テキスト4級』 (一般財団法人 今日庵 茶道資料館・監修/淡交社・刊)である。その名のとおり、茶道文化検定の公式テキストである。本稿をお読みの方の中には茶道を嗜んでおられる方もあるだろうが、圧倒的多数の方は茶道に触れたことすらないだろう(歴史小説家の肩書きを持っているにもかかわらず、わたしもそのクチである)。

 

本書はそういった初学者に向けたテキストで、茶道の成り立ちや歴史、基礎的な道具類、茶室や茶会の進行など、茶にまつわる知識が平易に紹介されている。本来の茶道文化検定の対策本として用いることができるのはもちろん、急に茶会に呼ばれた際の予習や、教養を深めたい、時代小説や歴史小説の副読本としても用いることもできる本である。

 

なお、本書には姉妹編(『茶の湯がわかる本 改訂版 茶道文化検定公式テキスト3級』『茶の湯をまなぶ本 改訂版 茶道文化検定公式テキスト 1級・2級』)が存在し、姉妹編を手に取ることでシームレスに知識を深めることができるというのも一押しポイントである。これから茶道を始めてみたい方にはマストバイな一冊である。

 

あなたの知らない海獣学の世界

次にご紹介するのは『海獣学者、クジラを解剖する。海の哺乳類の死体が教えてくれること』(田島木綿子・著/ 山と渓谷社・刊)。2023年1月9日、大阪湾の淀川河口付近で迷い鯨が発見され、結局死亡、その後紀伊水道沖に運ばれ沈められた一件は、皆さんもご存知だろう。

 

この一連のニュースで様々なメディアで情報発信をしていた研究者の一人が本書の著者であり、本書は著者の研究分野である海獣学と、その研究に欠かせない解剖について平易に紹介したエッセイである。それにしても、本書には驚きの事実が色々書かれている。鯨類の座礁、漂着に「ストランディング」という名前がついていること、日本ではこうしたストランディングが年に300件も起こっていること、海獣学者が関係各所と協議しつつそういったストランディング個体の調査がなされていること。そして、海獣学者たちが体力勝負で鯨の死体と格闘していること……。まったく想像だにしていなかった海獣学者たちの生活がそこに描かれている。

 

また、本書は「学術調査の意義」について自覚的に語っている節もあり、「なぜ漂着したクジラに学術調査が必要なのか」についても所々で見解が述べられている。普段あまり触れることのない海獣学の大切さを知ることができる一冊とも言えよう。

 

イメージとしての「江戸」を作り上げた男の戦いとは?

次にご紹介するのは小説から。『元の黙阿弥』(奥山景布子・著/エイチアンドアイ・刊)である。皆さんは河竹黙阿弥(1816-1893)をご存知だろうか。ご存知のあなたは歌舞伎ファン確定である。黙阿弥は幕末から明治にかけて活躍した歌舞伎狂言作者(脚本家)で、「日本の沙翁(シェイクスピア)」の異名で知られる当時の第一人者だ。

 

本書はその黙阿弥の戦いを描いた歴史小説。今、「戦い」と書いたが、まさに黙阿弥の歩みは「戦い」そのものだったのである。若いころは役者の引き立て役でしかなかった狂言作者の地位向上、壮年から老年に至っては近代化の波に端を発する劇界の変化と戦うことになる。そんな二つの戦いを背景に置くことで、若年期は先進的な仕事を果たし、老年期には円熟した仕事を遺した黙阿弥の像を描き出すことに成功しつつ、決して斯界にとって幸せとは言えなかった劇界の近代化の有様を描き出すことに成功している。

 

さて、そんな本書がどのように選書テーマに繋がるのかといえば……。河竹黙阿弥は、わたしたちの思い描く「江戸」の姿を作り上げた作家と言える。近代の中でもがき生きる黙阿弥の夢見た江戸の風景が、のちにあまたの時代小説家たちに引き継がれ、最終的にはテレビ時代劇の雛形となっていく。そう、黙阿弥の物語とは、「イメージとしての江戸」の始まりを描く物語でもあるのだ。

 

歴史学の“歴史”がよくわかる

次にご紹介するのは、『歴史学のトリセツ』(小田中直樹・著/筑摩書房・刊)。本書は現役の歴史学者である著者が、学校の歴史の授業がつまらないのはなぜか、という疑問から、教科書の歴史叙述、現代の歴史学の模索、過去に歴史家たちがどのように歴史学を構築してきたのかを丁寧に紹介している書籍である。

 

本書を読むと、わたしたちが自明のものとして受け止めている「国の歴史」という叙述法が歴史へのアプローチの一つに過ぎないこと、ある特定の叙述法の不自由性・限界から自由になるために歴史家たちが様々なアプローチを模索し続けていた様子が窺える。また、様々な時代の歴史家たちが、「歴史とは何か」という問いにぶつかり続け、自分なりの答えを出していった様子もまた本書から読み取ることができるだろう。

 

本書は、歴史学科への進学を考えておられる学生さんや、歴史学科の学部生にお勧めしたい。歴史学科の学生生活でスタートダッシュを切るために、是非とも読んでいただきたい一冊である(本書を読んだ際、「なんでわたしが学生だった時分に本書が刊行されていなかったんだ!」と憤慨したのはここだけの話)。

 

じれじれの恋愛漫画を堪能する

最後は漫画から。『好きな子がめがねを忘れた』(藤近小梅・著/スクウェア・エニックス・刊)。極度のど近眼……なのにめがねを忘れて学校にやってきがちな三重さんと、その三重さんに恋をしてしまった中学生・小村君が主人公のラブコメである。

 

当初こそ自分の恋に自覚している小村君との物理的距離を(ド近眼ゆえに)詰めてしまう三重さん、という図のおかしみを狙ったギャグ漫画の側面が強かったのだが、やがて二人の関係性が少しずつ変化していき、三重さんもまた小村君を意識するに至っていく。けれど、小村君は自信のなさをこじらせている厄介男子の側面を持っていて、新たな一歩を前にするたびに立ちすくんでしまう。読者としては「そんな卑屈にならなくていいんだよ! お前最高だよ!」と小村君の背中を押したくなってしまう、じれじれの恋愛漫画へと変貌を遂げていくのである。

 

本書は恋愛漫画であると同時に、小村君、三重さんが精神的な意味で大人になっていく様子をも描いていて、親戚の子の成長を見ているようなホッコリ感も同時に得られる。最新刊で二人の関係に変化が訪れ、新たな旅立ちの予感が膨らんでいるところである。是非この機会に手に取っていただきたい。

 

 

年の初め、皆さんも新たな年を前に気合い十分であろう。この選書がそのお手伝いになればなによりである。

以下私信。――いや、あの、はい。原稿が遅れて申し訳ありません……。とりあえず、2022年にお約束していた原稿は今年の3月には上げますので……。

 

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【プロフィール】

谷津矢車(やつ・やぐるま)

1986年東京都生まれ。2012年「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞受賞。2013年『洛中洛外画狂伝狩野永徳』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』にて歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。最新刊は『ええじゃないか』(中央公論新社)

片付けても片付けても汚部屋になってしまう人必見! 整理整頓のコツは「ちゃんとしない」だった!!

昨年の暮れ、大掃除をしないまま夫の実家に帰省してしまいました。何だかやたらと忙しく、それどころではなかったのです。実は今までも、大掃除が途中のままで帰省したことは何度もありました。けれども、まったく何もしないまま年を越してしまったのは、結婚して初めてのことです。新年にまとめてやるからと言い訳したくせに、実はまだ果たしていないのです。

 

何とかしなくちゃ

ふと気づけば、もう2月、部屋の中は魔窟と化しています。こうなると、どこから手をつけたらいいのかわかりません。おまけに、寒いし、忙しいし、肩やら腰やらあちこち痛いしで、荒れていく部屋を見て見ぬふりの毎日を送っています。

 

これはまずいとわかってはいます。魔窟状態に慣れると、これはこれでいいかとなっていきます。のんびりできて快適だとさえ思います。毎日、毎日、ものを片付けるのはストレスになります。料理と洗濯はさぼると健康にかかわりますが、部屋は汚くても死にはしません。

 

開き直って、散らかったままで暮らしていたら、生活に悪影響が出始めました。やたらとモノがなくなるのです。先日も、暖房を消そうとしたら、リモコンがありません。「どこにいったんだよ」と、夫はイライラしますが、そんなことリモコンに聞いてほしいものです。以前、忘れ物をして遺失物係に行くと「どこでなくしましたか?」と、聞かれました。答えたいとは思いますが、どこでなくしたかわからないからここに来たのです。

 

もっとも、我が家のリモコンは家の中でなくしたに違いありません。家のどこかにあるはずです。ところが、探しても探しても出てきません。もしかしたら、間違えてゴミとして捨ててしまったのではないかさえ思ったりもしました。必死で大捜索する私を見ていた夫は、「もう待ってはいられない」と、ネットで新しいリモコンを買ってしまいました。翌日、リモコンが届き、ほどなくして元のリモコンも見つかりました。DVDのホルダーの中に入っていたのです。

 

ではこれで安心かというと、そうではありません。もう一つ予備があるという甘えがあるせいでしょうか。新旧2個のリモコンがしょっちゅうなくなってしまうのです。これは何とかしなくてはと、『「ちゃんとしなきゃ!」をやめたら二度と散らからない部屋になりました』(なぎまゆ・著/KADOKAWA・刊)を読みました。二度と散らからない部屋が欲しかったからです。

 

ゆるゆるできる片付け本

この本は、漫画家のなぎまゆが、足の踏み場もないほど散らかっている友人の部屋の片付けを手伝った顛末を描いたものです。著者自身、元・片付けられない人だったそうです。子どものころから親に「いい加減片付けなさい」と、叱られて育ち、大人になっても片付け下手でした。来客があるとあわてて片付け、一応は綺麗な部屋に通しましたが、そうした片付けは所詮は付け焼き刃であり、すぐに元の状態に戻ってしまいます。彼女はそれをリバウンドと呼んでいますが、確かに、一瞬で綺麗になった部屋は一瞬で散らかるものです。床の上にあったものを大急ぎで押し入れに押し込め、すっきりしたように思えても、夜になれば、布団と一緒に洋服や本がドドドと崩れ落ちてくるというわけです。

 

悩んだ彼女は、自分なりの片付け方を模索します。そして、一つの結論に達しました。

 

何度トライしても「大雑把」である自分が「几帳面」な人と同じにはなれませんでした。それならば必要なのは几帳面な人と同じになる「努力」ではなく、大雑把な私でも片づいていられる「工夫」ではないか

(  『「ちゃんとしなきゃ!」をやめたら二度と散らからない部屋になりました』より抜粋)

 

つまり、自分なりのゆるゆるな片付け方を会得すれば、友達を助けてあげるまでに成長できるということでしょう。魔窟状態の部屋に住む友人に対して、著者は優しい視線を注いでいます。頑張って片付けても、いつの間にか元通り散らかってしまう部屋を前にしたときの情けなさをよく知っているからです。だからこそ、片付けられない友人の元へ駆けつけることをいとわないのでしょう。

 

片付けお助け人

まずは友人Aさんのケース。彼女の部屋は、部屋に入れないくらい、ものがいっぱいです。おまけに謎の物体が散らばっていました。飼い猫がいるので、糞かと思ったら、なんとそれはそれはマタタビでした。片付けを手伝いに行きマタタビに悩むというのも、そうはない体験でしょう。

 

さらには、無限に出てくる封筒にも悩まされたといいます。書類などを封筒に入れて片付けるといいというアドバイスに従い、それを守っていたら、わけのわからないことになってしまったというのです。この時、処分した紙の量は軽く100kgを越えたというのですから、めまいがします。

 

他にも限りなく出てくる文房具の話も参考になりました。なくしたと思って新しく買っているうちに、ホチキスが12個、ボールペンの替芯が50本という風に、無限にたまっていたといいます。手軽にネットで買えるだけに、探すより買ったほうが早いという考えに至るのでしょう。

 

さて、次にもう一人の友人Mさんのケースを見てみましょう。著者は漫画家ですから、天井から見たMさんの部屋の間取り図を描いています。それを見て思い切り笑ってしまいました。物がぎっしりいっぱいで、床が描いてありません。描きたくても見えなかったのでしょう。しゃれたロフトベッドがついていますが、そこで眠ることは不可能です。物置場と化しているからです。

 

衣類だけを集めたくても物がミルフィーユ状に積み重なっていて、集めることが困難

 (『「ちゃんとしなきゃ!」をやめたら二度と散らからない部屋になりました』より抜粋)

 

こんな状態の部屋を前にしても著者はひるみません。捨てて捨てて捨てまくるのです。ここにあるのは、友への愛と共感です。

 

私もトライします

『「ちゃんとしなきゃ!」をやめたら二度と散らからない部屋になりました』は、私を励ましてくれました。リモコンをなくしてしょんぼりしていた日々から、救い出してくれました。自分の性格にあった収納環境とルール作りができれば、部屋を片付け、その後も綺麗な状態を維持できるはずです。

 

著者が片付けを手伝ったAさんもMさんもいまだリバウンドすることなく、片付いた部屋で暮らしているというのですから。

 

『「ちゃんとしなきゃ!」をやめたら二度と散らからない部屋になりました』には、ものの捨て方や、片付け方のヒントがわかりやすく示されています。是非、参考にしてみてください。私もこの締め切りが終わったら、本来は年末にするべきだった大掃除にとりかかります。そして、リバウンドしないようにするつもりです。リモコンを買い直す必要がない部屋を取り戻すため、頑張らなくては。そう思わせてくれる本でした。

 

【書籍紹介】

「ちゃんとしなきゃ!」をやめたら 二度と散らからない部屋になりました

足の踏み場もないほど物が溢れすぎている友人宅のお片付けレポを通して、整理整頓ができない理由、キレイな状態を続ける方法を解説! 元・片付けられない人だった著者がおくる、お片付け系実録コミックエッセイ。

著者:なぎまゆ
発行:KADOKAWA

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白か黒かハッキリ答えを求められる時代に苦しむ人必読! 人間の心は“あいまい”でいい『「知らんがな」の心のつくり方』

「〜〜すべき!」や「絶対〇〇が正しい!」など、最近の世の中では白か黒かハッキリとした正解が求められている気がして、なんだか息苦しいと思っている人はいませんか? いろんなテンプレがありすぎて、ちょっとでもはみ出そうものなら炎上……。私自身「楽しい冗談が通じないなー」と思うことも増えてきたと感じる今日このごろです。

 

そんなちょっぴり息苦しい現代に効く魔法の言葉があるのだとか。それが関西ではよく聞く「知らんがな」。今回は心をラク〜にしてくれる一冊『「知らんがな」の心のつくり方』(中島輝・著/KADOKAWA・刊)をご紹介します。

 

時代とともに変化してきた「自己肯定感」

そもそもどうしてこんなに窮屈な世の中になってしまったのでしょうか? 「いやいや現代はのびのびしているよ!」という方は本のタイトルのとおり「知らんがな」ってことで(笑)、引き続き楽しく生きていただければと思います。

 

窮屈にしている原因のひとつに、世代ごとによる価値観のギャップ、自己肯定感の感じ方に違いが生じていることがあるそうです。自己肯定感とは、他人と比較したりせず「私はわたし」と自分を認めて存在意義を肯定できる人のこと。世代ごとにどのようなギャップがあるのでしょうか?

 

昭和 承認欲求満足時代(自己肯定感の忘却)

平成 自己実現時代(自己肯定感の喪失)

令和 利他的な共存共栄時代(自己肯定感の復活)

(『「知らんがな」の心のつくり方』より引用)

 

少し補足すると、昭和は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれ、自己肯定感なんかなくても全ての日本人が認められていた時代でした。そこからバブルが崩壊した平成は自分らしさが重視され「何者かになりたい人」が増え、自己実現することで心を満たした時代に。誰もがなりたいものになれる世の中になりましたが、自分の好きなことだけをしていていいのだろうか? 自分は人の役に立てているのだろうか? と考えるようになり、自分のため&誰かのためにも貢献しようとなったのが令和です。

 

この時代の移り変わりを知らずに、これまでの世代ごとの固定概念で話をすると気持ちはすれ違ってしまいます。なんだか息苦しいなぁ〜と思っている人は「そうか時代がもう変わっているのか」と考えることが第一歩になるかもしれません。

「わからない」でもいい

このように世代ごと違いを書くと、「じゃあどうしたらいいの?」と正解を聞きたくなるかもしれませんが、正解はありません。常に正解を求めていることが、自分を窮屈にしているかもしれませんよ。

 

一つの面は数字、その逆の面は無地のコインがあったとして、どちらが表でどちらが裏なのかは、人それぞれの判断によって変わります。自分が表だと思っていても、それを裏だと思う人が世の中にはたくさんいる。このあたりまえの事実を自然に受け入れられるのが、「あいまい」な心の力です。

自分にはわからないことが起きてもそれは当然であり、そのとき「ゼロかイチか」で答えを求めるのではなく、「わからない」が答えでいいということです。

(『「知らんがな」の心のつくり方』より引用)

 

もちろんひとつの答えを出さないといけない時もありますよ! でも、全ての行為に答えは必要ないということです。こういった“あいまいさ”があることで、多様性を認められる心の広い社会にも自然となっていくだろうと感じました。

 

そもそも人間はあいまいな生き物

頭ではわかっていても、答えを出したくなってしまう、決めつけたくなってしまうこともありますよね。著者の中島さん曰く、人間は「あいまいな生き物」であり、その「あいまいさ」を身につけられるようになるのが「知らんがな」という言葉なのだとか。

 

「知らんがな、わたしはわたし」
「あの人は〇〇といっていたよ。でも私は知らんけどな」

このように、ものごとに「ゼロかイチか」「正しいか、正しくないか」などの結果を無理に出さずに、「あいまいさ」を身につけられるようになると、とらわれもこだわりもなくなり、心を楽にして生きていくことができます。自由自在に考えて行動もしやすくなるので、人生がどんどん面白くなっていきます。

(『「知らんがな」の心のつくり方』より引用)

 

「知らんがな」とか「わからない」と言われると、突き放されたように感じるかもしれません。けれど、受け取る側も説得して答えを導こうとせず、まずは受け入れてあげることが大切なのかもしれないな〜と感じました。

 

全員が「右にならえ!」 でもなく、「自分らしさがないとダメ!」でもなく、ちょっと力を緩めて「そんな考えもあるよね〜」くらいの気持ちで過ごせるようになれば、誰もがのびのびできるのかもしれません。毎日をドキドキワクワクな冒険の旅をするのもいいですが、移り行く毎日を眺めてぼ〜っとしているのも最高。人生に正解がないからこそ、あいまいな部分も楽しめるようになりたいな〜と感じました。

 

少し窮屈だな、息苦しい社会だなと思ったらぜひ「知らんがな」とか「知らんけど」とか「わからないな〜」とあいまいにする言葉を使ってみてください。ちょっぴり心が軽くなりますよ!

 

【書籍紹介】

「知らんがな」の心のつくり方 あいまいさを身に付けるレッスン

著者:中島輝
発行:KADOKAWA

「白か黒か」でなく「あいまい」こそが人間らしい!この言葉を口癖にするだけで人生はラクになる!「あいまいさ」を認めて、もっと自分らしく生きる。
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林真理子が『成熟スイッチ』で指南、慕われる老人になるためにすべきこと

「老害」、あるいは「暴走老人」という言葉を聞くたびに、自分はそうはなりたくないと皆思っている。ただ、今はまだまだバリバリ仕事をしていて、同僚や後輩から慕われていたとしても、年齢を重ねたときそのままでいられるかどうかはわからない。人は自然と成熟に向かっていけるわけではないのだ。

 

成熟スイッチ』(林真理子・著/講談社・刊)は日本大学理事長に就任された作家の林真理子さんが9年ぶりに書いた人生論。成熟したよい人間になるための指南書なのだ。

 

四つの成熟スイッチとは?

年をとって成熟の素晴らしさを教えてくれる人と、老いの醜さを見せつける人とがいる。若いころはさほど違いがなかった人たちも歳月を経ると二つに振り分けられてしまうというのだ。では、まず本書の章立てから見ていこう。

 

序章 四つの成熟

第一章 人間関係の心得

第二章 世間を渡る作法

第三章 面白がって生きる

第四章 人生を俯瞰する

 

年をとった心のからくり

人から必要とされる人でありたい、という思いは人生の後半になるとさらに強まるものだ。林さんもそう願う一人だそうだが、一方で「自分は必要とされているとカン違いしているのではないか」という恐れと常に向き合っているともいう。例えば、はた迷惑なのにしゃしゃり出てくる人、文句ばかり言う人、昔の自慢話だけをする人などは、実はいなくても誰も困らない人かもしれない。

 

では、どうすればよいか。「人から必要とされる」ではなく「人を幸せにしたい」、あるいは「人のために何か役に立ちたい」と能動的に考えればいい。(中略)人を幸せにすることで自分も充足出来る人。その上で、本当に自分が人のために役立っているのか、人をちゃんと幸せに出来ているのか、繊細に気を配り続けることが出来る人。まったく簡単ではないけれど、それはまさに成熟した人の姿と重なります。

(『成熟スイッチ』から引用)

 

では、各章から、気になる内容の一部を抜粋してみよう。

 

60歳を過ぎると人間関係で悩まなくなる?

人は年をとって、人づき合いの新陳代謝を繰り返していくうちに、人間関係では悩まなくなっていくそうだ。林さんの場合は先輩の作家である、渡辺淳一さん、瀬戸内寂聴さん、田辺聖子さんなどから学んだことが多いという。たとえば、田辺さんからは、こう教えられたそうだ。

 

「女は六十歳過ぎてから、すごく自由になってくる。体力は落ちるけど、『こんな可能性もある』『こんな考え方もある』と、視野が広がるから生きやすくなるのよ」と教えてくださいました。この言葉のおかげで、還暦を迎えた時もどんなにか心強かったことでしょう。

(『成熟スイッチ』から引用)

 

また、渡辺淳一さんからは「編集者を大切にしなさい」と教わったそうだ。たとえいいものを書いてもあんなジジババのところに行きたくないと若い編集者が思ったら作家はおしまい。七十、八十を過ぎても仕事の依頼が次々とあるのは人間力の高い証なのだ、と。

 

現在、あなたのいる職場で、頼れる先輩、若手に慕われている先輩を見つけ、その人の言動を真似てみるといいかもしれない。

 

世間を上手に渡る作法とは?

とりわけ大切な作法といえば、感謝の気持ちを忘れないこと、そして常に相手の気持ちに立って考えること。マナー本には載っていないマナーでこそ、人との差がつくのです。

(『成熟スイッチ』から引用)

 

林さんは時間厳守の人だそうだ。それは大事な会議などに時間ギリギリで焦って到着するとロクなことがなく、また、万一遅刻をしてしまったら、それだけで見えないペナルティを取られるからだという。林さんは編集者との約束の場所にも二十分前には着くそうで、これには編集者側に迷惑がられているとも打ち明けている。が、年を重ねると、早めに行くより、ちょっと遅めに最後に堂々と登場したいと考えてしまう人が実は多いように思う。しかしそんな見栄が実はマイナス要因になることも心しておきたい。

 

さらに、林さんは、時間を制する者が世を制す、とも記している。

 

仕事で大活躍している人や、各方面からお声がひっきりなしに掛かる人気者の人ほど例外なく時間の使い方が上手だと感じます。まず優先順位を決めて、やるべきことをきちっとこなすことが出来る。その上で、自分が楽しいと思うことにはたっぷりと時間とお金を費やす。彼らは「忙しいから」などという言い訳は絶対に口にしません。

(『成熟スイッチ』から引用)

 

時間を使いこなすためには「頭の切り替え」が欠かせない能力の一つであることも覚えておきたい。

 

面白がって生きる

最初からフリーランスより、会社勤めをした人のほうが確実に人間力を育てると林さんはいう。

 

毎日毎日が修行のような勤め仕事をして身につけた基礎仕事力は、その後の人生の中でも、とても大きな拠り所となります。作家でも、会社員の経験のある人はとても多い。個性とは、基礎仕事力の上に花開く能力でもあるからです。(中略)仕事をしている人は「自分は真面目に働いているんだ」という事実に、無条件にもっと自信を持っていい。私は心からそう思います。

(『成熟スイッチ』から引用)

 

面白く、楽しく生きるには相応のお金が必要だから働かなければならない。だから嫌々働くのではなく、今の仕事を出来るだけ面白がれるよう自分の気持ちを持っていくことも大切だ。

 

さらに、林さんは面白く生きるために”読書”は欠かせないという。本を読むことは、自分とは違う人生を見るための格好の材料。読書は必ず人生を面白く豊かにしてくれる。ジャンルを問わずたくさんの本を読みたいものだ。また、最近の若者の活字離れに対し、林さんはこんなアドバイスをしている。

 

「いっぱい本を読んだからって、立派な大人になって、いい会社に入れるとはかぎらない。でも本を読むと、大人になった時に一人でいることを恐れずに済む人間になれます」若い人は一人でいることを恐れ、もっぱらスマホで「つながり」を求めますが、読書の習慣があれば、一人でもカッコよく見えるし、退屈もしません。

(『成熟スイッチ』から引用)

 

人生を俯瞰してみる

定年後に素敵に生きていくのはなかなか難しいものだ。いつまでも昔の名刺を出してきたり、権力にしがみついている人は嫌われるだけで、決して幸せにはなれない。定年後、どんな生き方をするかは人それぞれだが、大切なのは「いつも楽しそう」ということ。自分自身が楽しいと思うことをしていれば、家族や周囲の人も幸せにしてくれると林さんはいう。

 

人生という長い時間軸の中で現在を俯瞰して考えると、見えてくるものがあります。(中略)俯瞰力とは、つらい時や悲しい時に自分を慰めてくれたり、笑いに変えてくれたりもしますから、人生の味方につけておくと心強いですよ。

(『成熟スイッチ』から引用)

 

この他にも、よりよく年を重ねるヒントがいっぱいの本書。昨日とは違う自分になりたい人は是非読んでおきたい。

 

【書籍紹介】

 

成熟スイッチ

著者:林真理子
発行:講談社

「昨日とは少し違う自分」へ。日大理事長就任、「老い」との近づき方…人気作家による9年ぶり待望の人生論新書!

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時間との付き合いかたのコツは、日本の水行にあった!?『限りある時間の使い方』

近ごろはコスパだけでなくタイパが重要視されるようになりました。タイパとはタイムパフォーマンスの略語で、かけた時間に対する効果のことを意味します。このタイパを良くするには、どうしたらいいのでしょうか。

 

時間をトクするということ

格差社会と言われているなか、時間は平等です。たとえば4分かかる遊園地のジェットコースターに乗る際、お金持ちもそうでない人も、同じように4分間を消費します。3時間待ちの行列であった場合も、公平に3時間を消費して並んで待つしかありません。

 

しかし、3000円を払えば行列の先頭に行けるという優先チケットが売り出されたらどうでしょう。お金持ちや、時間に余裕のない人は、その優先チケットを購入し、待ち時間を省略することができます。その場合彼らはお金の力で3時間をトクしたことになります。

 

時間には限りがある

最近はできるだけ時間を短縮することが重要視されています。「時短」というワードもしばしば使われています。「働きかた改革」でも労働時間の短縮が呼びかけられていました。確かに、何かにかける時間が短くなれば、その分、浮いた時間で他のことができて有意義です。

 

限りある時間の使い方』(オリバー・バークマン・著/かんき出版・刊)は時間について、さらに深く向かいあっている本です。人間に与えられた時間は80歳まで生きたとしたら約4000週しかないので、その限られた時間をどう生きるかという「人生と時間」について、先人の知恵も交えて考察しているのです。

 

スマホをモノクロにする

本には、小さなことに気を散らさずに快適に暮らす方法が紹介されています。なかでもスマートフォンを白黒モードにするというのには驚かされました。実際に試してみたのですが、さまざまな色で主張していたアイコンたちが、モノクロの世界になった途端一気に静まりかえったように感じたのです。

 

モノクロにしただけで、スマートフォンにはとても落ち着いた雰囲気が漂い、それと同時に私の心のざわつきも少なくなった気がしました。これからも、作業に集中したい時はモノクロモードにしようと思います(iPhoneの場合、「設定→アクセシビリティ→画面表示→カラーフィルタ」でモノクロになります)。

 

時間を詰め込まない生きかた

時間を有意義に使うことと、タスクや作業を詰め込むこととはまた別のことなのだと、本の中では繰り返し述べられています。確かに、浮いた時間でまた仕事を増やしてしまったら、休むことはできません。

 

この本の著者は、イギリスの新聞記者であるオリバー・バークマンさんですが、エピソードのひとつとして日本の高野山での出来事を取り上げています。かつて真言宗の僧侶を目指し、ここで修行をしたアメリカ人男性がいたそうです。

 

現実に集中するということ

彼は冷水を浴びるという水行に耐え続けていたのですが、ある日、精神を集中させれば苦痛が減るということに気づいたそうです。現実をしっかり受け入れたうえで水を浴びることが大切だったのです。

 

著者は、この水行のように私たちは現実に向き合い、やるべきことに集中するべきだと主張しています。私たちの周りにはネットやテレビやゲームなど、気を逸らすことができるものがたくさんありますが、そちらに逃げてはいけないのだと。

 

逃げないことこそタイパ

確かに私たちはやらなくてはならないことに気づかないフリをして、ダラダラとスマートフォンをいじってしまうことがありますが、それは、時間を無駄遣いをしているようなものです。やるべきことをさっさと終わらせることこそ、タイパが良くなる最も効果的な方法なのかもしれません。

 

本の中では、自分が本当にやらなくてはならないこととはなんだろう、という深い問いかけまでもがされています。自分が時間を浪費していないか、そして時間を大切に使うにはどうしたらいいか、改めて考えてみるには、この本はとてもいい機会になるはずです。

 

【書籍紹介】

 

限りある時間の使い方

著者: オリバー・バークマン
発行:かんき出版

アダム・グラント、ダニエル・ピンク、カル・ニューポート他、NYタイムズ、WSJ絶賛の全米ベストセラー! 人生は「4000週間」限られた時間をどう過ごすか!?

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管理会社がマンションを見捨てる!? 老朽化と高齢化、マンションの“老い”は限界に来ているのか?~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。家を選ぶとき、「賃貸か、持ち家か」というのは永遠の難題ですが、住むなら「マンションか、戸建てか」というのもそれに匹敵する悩みどころだと思います。

 

私は以前マンションに住んでいましたが、ペット禁止だったため古い戸建てを買って猫を飼い始めました。一軒家はドタドタ歩いても、物を落としても(しょっちゅうやっちゃいます(笑))、階下の住民に迷惑をかけないというのが気楽な反面、防犯や建物の管理は自分でしなくてはならず、思わぬトラブルにあたふた。一長一短ありますね。

 

マンションが「限界集落」化!?

さて、今回紹介するのは朽ちるマンション 老いる住民』(朝日新聞取材班・著/朝日新書)。2021年から2022年にかけて、朝日新聞デジタルや朝日新聞紙面で連載された記事をもとにした新書です。「はじめに」では、まるで「限界集落」のようにコミュニティーの維持が立ちゆかないマンションが出始めていると書かれています。マンションの老朽化とスラム化は切実な問題。連載時も毎回、読者からたくさんの反響が届いていたそうです。

突然のマンション管理契約解除

第1章は「管理会社『拒否』の衝撃」。マンションの管理は管理会社が請け負うのが当たり前……そんな時代が過ぎつつあるのが第1章を読むとわかります。

 

最近、都市部のマンションでは管理会社から更新を拒否されるケースが増えてきているそうです。その大きな理由がお金の問題。人件費を中心に管理コストは増大しているのに、各住民が払う管理費の値上げが難しく、管理会社が手を引かざるを得ない……。

 

川崎市のとあるマンションでは、数社に打診し、なんとか別の管理会社を見つけ、自主管理を免れたとか。また、自主管理アプリを導入してコストを抑えているという横浜市のマンションのケースも紹介されていました。

 

マンションの未来を憂う話題が続くなか、明るい光を感じたのが第4章「コミュニティー再生」。マンション内での交流の見直しを進める京都市内の古い分譲マンションのケースが取り上げられています。

 

このマンションでは、入居時に管理組合の役員との面談があり、自己紹介のあと敷地を一緒に歩いて共有部分の説明を受けることになります。お互いに顔見知りになるのが目的です。

 

さらに、子育て支援を打ち出し、店舗スペースを買い取ってそこを住民たちの交流室に作り変える試みも。コロナ禍前はカフェが開催される月1イベントが行われ、子どもとお年寄りが集まる場となったそうです。ほかにも送迎に使える40台以上のシェア自転車を備えるなど、住民のアイデアによる取り組みが実を結び、現在では空室はほとんどないとか。近隣との付き合いがわずらわしくないのもマンションの良さですが、今後はそれぞれの“コミュニティーカラー”でマンションを選ぶ時代がくるかもしれないと感じました。

 

リノベvs静かに暮らす権利、認知症となった高齢者への対応、持て余される立体機械式駐車場……マンションが抱える問題は多種多様です。しかし本書は、各章の最後に専門家への取材を通じ解決策を示すという構成で、単に警鐘を鳴らすだけに留まっていないのも前向きな点。

 

デジタル機動報道部とくらし報道部という2つの部署が協力した分厚い取材で多くの事例が集められていて、そこが本書の面白さかつ誠実さにつながっています。

 

マンションはある種、現代社会の縮図。マンション問題を解決するヒントが、未来の日本社会の処方箋となる……と言えるのではないでしょうか。

 

【書籍紹介】

朽ちるマンション 老いる住民

著:朝日新聞取材班
発行:朝日新聞出版

加速する二つの「高齢化」再生を目指し模索する住民の姿を追う!マンションは壮大な社会実験だ。正確な耐久年数がわからないまま分譲は進み、その帰趨は住む人に押し付けられた。だがもう限界状態で、日本のあちこちで歪みが生じている。集合住宅の“老い”をどう乗り越えていけばいいのか。「朝日新聞」大人気連載を書籍化。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

『身近な人が亡くなった後の手続きのすべて』は”いざ”という時の「お守り」になる1冊

筆者は、すでに両親を亡くしている。まず父親が亡くなり、その2年後に後長く入院していた母親が亡くなった。

 

 

ゆっくり悲しむ時間なんてない

筆者は両親と同居していなかった。なので母親の入院後、父親は行政用語で形容するなら独居老人状態だった。比較的頻繁に電話連絡はしていたのだが、死亡時の取り扱いはいわゆる孤独死だったので、警察からも話を聞かれることになった。母親は数年間意識がない状態のまま入院していて、たまたま建て替えを間近に控えていた病院に遺体安置設備がなかったため、すぐに葬儀社の手配をしなければならなかった。

 

年老いた父母が亡くなる時はゆっくり悲しむ時間がないとよく言われるが、あれは本当だ。まずは遺体安置と葬儀社の手配をして、それと同時にお通夜から告別式の段取りをして、その直後に死亡届をはじめとする公共機関への届け出をこなし、同時進行で金融機関まわりの手続きを進めなければならない。ありとあらゆる種類の手続きが押し寄せてくる。

 

すべきことが淡々と示されている本

前もって知識があれば何のことはないのかもしれない。しかし、いつ来るわからない事態のために万全の備えを整えておける人はほとんどいないだろう。リアルな感覚でとらえることができない状態に対する知識を蓄積しておくにはどうしたらいいのか。この原稿では、持っているだけで安心できる感じがする『身近な人が亡くなった後の手続きのすべて』(ワン・パブリッシング刊)を紹介したい。目につくところに置いておいて「いざとなったらこれを読めばいい」というお守りのような役割を果たしてくれるにちがいない一冊だ。

 

 

父親の時はまったく意外で、心の準備なんて全くできていない状態だった。母親の時はなんとなく覚悟もできていたし、変な言い方になるが父親の時にリハーサルができていたはずなんだけれど、それでもかなり慌てた。この本は、誰もが迎える身近な人—やはり親ということになるのだろう—の死に際してしなければならないことを淡々とリストし、具体的に説明してくれる。

 

「しなければならないこと」と「実際にしたこと」

目次を見てみよう。

 

1章 葬儀と法要
2章 届け出と手続き
3章 遺産相続の手続き
4章 お墓の手続き

 

体験者—しかも2度—である筆者はまず、章タイトルだけ見ながら「実際にしたこと」のリストを作り、答え合わせのようにして各章の項目を追うという読み方をしてみた。正解率は8割。2回経験しているのに、細かいところを忘れていた。しなければならないことは本当に多いのだ。知らないことがありすぎたという事実も、実体験として特に強調しておきたい。この本は、そういう部分をかなり助けてくれるはずだ。

 

とても役立つリアルVOICE集

冒頭の見開きページにタイムスケジュールが示されている。まずこれを見てなんとなく全体の流れをつかむのがいいだろう。ここに収録されている情報だけでも、知ると知らないとでは大違いだ。思い出したのは、3か月以内にこなさなければならない手続きが特に多かったことだ。冒頭でも書いたのでくどくなるかもしれないが、ゆっくり悲しむ時間なんてまったくない。すぐに手続きに忙殺される。

 

「リアルVOICE集」もとても役だつコラムだ。いくつか紹介しておこう。

 

父に認知症の気配を感じた時点で、講座や印鑑の場所などを教えてもらい、一緒に管理していた。そのため、死後は慌てることなく、各種書類等を届け出ることができた。遠慮せず、生前に父の財産についても聞いておけたのもよかったと思う(北海道・61歳女性)

 

健康保険や年金など、手続きごとにいちいち役所に足を運んだ。窓口はいつも混雑しており、場合によっては何時間も待たされることも……。役所での手続きに精神的にも身体的にも疲れてしまった。(神奈川県・50歳女性)

 

父が亡くなった後の手続きが忙しく、相続放棄の手続きをし忘れてしまい、多額の借金を引き継がなければならなくなった。相続放棄ができる期間は意外と短いので、もっと前から調べて、弁護士などに相談しておけばよかった。(神奈川県・70歳男性)

 

『身近な人が亡くなった後の手続きのすべて』より引用

 

淡々とあるための準備を整える

各章の終わりに示されている素朴な疑問もリアルで実用的だ。トラディショナルなものから、いかにも今日的なものまでが網羅されている。

 

・「香典返し」の品はどのくらいの金額のものを用意すればよいですか?

・両親が亡くなり空き家になってしまった実家。モノであふれて整理できないのですが…

・父が亡くなり、母が財産のすべてを相続すると後々大変だと聞きました。本当ですか?

・夫の先祖代々のお墓ではなく、自分の実家のお墓に入りたいのですが…

『身近な人が亡くなった後の手続きのすべて』より引用

 

今日的といえば、とじ込みBookとして収録されている「おひとりさまの終活と死後の備えガイド」も超実用的。子どもがいない筆者夫婦にはかなり役立ちそうだ。人生100年時代という現代であっても、いざという時にあるようでないのが時間。すべての人に確実に訪れる瞬間を迎えても淡々としていられるよう、この本をながめながらなんとなく蓄えておく知識がものすごく役に立つことはまちがいない。

 

子育てに悩むパパ・ママにもぜひ読んで欲しい! お笑い芸人・小籔さん初の書籍『ゲーム反対派の僕が2年で4000時間もゲームをするようになった理由』

個人的に「いつか本を出して欲しい」と思っていた芸人さんの書籍が、やっと出版されました! すべらない話やバラエティ番組でも大人気の小籔千豊さんです。バンド活動をしたり、俳優業をしたり、本業の芸人さん以外にも幅広く活動されているので、「エッセイとか出版しないのかなぁ〜」と期待していたのです。やっと出た〜! と思ったらなんとゲーム本。しかも若者に人気の「フォートナイト」とのこと……。タイトルも『ゲーム反対派の僕が2年で4000時間もゲームをするようになった理由』(小籔千豊・著/辰巳出版・刊)と長いし(笑)、ページを開くまでは「ゲームの楽しみ方を紹介している本なのかな?」としか思えませんでした。

 

しかし読み進めていくうちに、芸人そして父親としての小籔さんの生き様がズシズシと伝わってきて、「人ってこうして成長していくんだ!」と心に響く内容ばかりだったのです。私のようにゲーム本か……と表紙だけで判断していたらもったいない! ゲームだけではない、親子関係や仕事の作り方まで小籔さんの良さが濃縮された一冊になっていますよ!

 

【関連記事】
2年で4000時間! 小籔千豊が語る「フォートナイト」愛とゲームで変わった親子関係

 

「ゲームは1日1時間まで」がルールだった小籔家

今では「フォートナイト下手くそおじさん」としてYouTube配信を行うまでになった小籔さんですが、もともと小籔家では、子どもたちにゲームをやらせたくないと考える「ゲーム反対派」の家庭でした。しかし、あることをきっかけに家庭用ゲーム機を購入。ただ、やるとしてもゲームは1日1時間までのルールで、なんかわからないけれど子どもが熱中しているな〜くらいに思っているお父さんだったそうです。

 

休みの日に息子がゲームをしようものなら「晴れてんねんから公園行っといで」と嫁が言い、僕もその光景を当然のものとして見守っていました。パソコンはOKだけど、ゲームは反対。この姿勢を崩さないことが、子供の将来のためになる。そう信じて疑わなかったのです。

僕自身がフォートナイトにハマるまでは。

(『ゲーム反対派の僕が2年で4000時間もゲームをするようになった理由』より引用)

 

同じようなルールがあるご家庭も多いかもしれませんよね。ゲームは子どもがするもので、大人がやってもわからない。親と子の間に共通点がないので、大人は制することしかできない気持ちもよくわかります。

 

しかし、息子さんから「めっちゃおもろいからパパもやってみい」と誘われた「フォートナイト」を渋々始めた小籔さん。初回は面白さもわからないままでしたが、何度か息子さんの誘いに乗っているうちに「フォートナイト」をやりたい気持ちが芽生えてきたのだとか。お子さんが熱中しているゲームが何かわからない親御さんは「どうせ子どものゲーム」と思わず、小籔さんのように子どもに教えてもらうのがいいかも。何か気が付くことがあるはず!

 

正体を明かさずにYouTube配信をスタート

自分用のNintendo Switchも購入し、「フォートナイト」三昧になってきた小籔さん。息子さんとは「フォートナイト」を通じて会話も増えて、親子を超えて友達や師弟のような関係になっていったそうです。そんな時、信頼している総合演出さんからYouTube配信のお誘いをもらい「『フォートナイト』ならやります」と答えますが、ある厳しい条件を自らに課します。

 

「とりあえず、小籔がやっているというのは伏せます。『小籔』とか『新喜劇』とか『芸人』で検索しても、出てこないようにしたい」

その瞬間、部屋の中が無重力状態になりました。激しいロックバンドの曲でサビに行く前に一回無音になる、あの感覚。

(『ゲーム反対派の僕が2年で4000時間もゲームをするようになった理由』より引用)

 

一緒に配信するスタッフさんたちは、当然のことながら「小籔さんが名前を出して配信する」と思っていたので、必死に説得します(笑)。しかし、こうなった小籔さんは止められない……。今でこそ名前をしっかり出したタイトルに変わっていますが、2020年2月から「フォートナイト下手くそおじさん」として芸人・小籔千豊の名前を伏せて配信をスタートさせたのでした。

 

最初に小籔さんに気がついたのは、小学生!

YouTubeの配信をスタートさせて数本動画をあげても、チャンネル登録者は1桁。生配信をしたり、更新頻度を上げたりしても身内以上に増やすことが難しい時期が続いたそうです。それでもコツコツと配信を続け、登録者数も増えてくると視聴者と一緒にゲームを楽しむ「参加型配信」を始めます。まだ正体は明かしていませんでしたが、ゲーム内でのプレイヤー名はちょっと匂わす新喜劇にしていたそうです。

 

その中に、TAKEさん(確か鹿児島の小学生)という子がいました。ちゃんとした受け答えができる子で、フォートナイトも上手。ある日、TAKEさんと一緒にプレイしていたら、

「【テセウスの船】っていうドラマを見ていたら、すごい悪そうな刑事さんがいて。その人の声と新喜劇さんの声が似てるなぁ、と思って」

と言ってきました。

(『ゲーム反対派の僕が2年で4000時間もゲームをするようになった理由』より引用)

 

この時の動画は、YouTubeで【テセウスビクロイ】と検索すればすぐ出てくるので、ぜひご覧ください。もう大爆笑だし、ちょっと感動もします(笑)。こんなやり取りを繰り返していくうちに、有名なゲーム配信者さんが遊びにきてくれたり、小籔さんと息子さんが一緒に配信したり、現在の登録者数は12万人を超えました。さらには、「フォートナイト」の親子大会を実施するまでに至り、息子さんに誘われて渋々始めたゲームが小籔さんの人生までをも動かしたのです。

 

ここだけ読むと「そりゃ小籔さんだからでしょ」と思う人もいるかもしれませんが、本を読むとそうは思いませんでした。誰にでもきっかけはあるんだなと感じられるはずです。親子関係に悩んでいるパパやママ、仕事で成果を出せないと嘆くサラリーマン、挑戦したいけれど一歩を踏み出せない人が読めば、刺さる言葉が必ずあるはずです。ゲームを通じて人生を楽しむ、とても素敵な本でした!

 

ちなみに、かわいい挿絵もある芸人さんが描かれています。これは本を読み終わってからのお楽しみ。お笑い好きな方も、「フォートナイト」好きな方も、これから「フォートナイト」を始めたい人にもおすすめできる一冊です。

 

【書籍紹介】

ゲーム反対派の僕が2年で4000時間もゲームをするようになった理由

著者:小籔千豊
発行:辰巳出版

ゲーム禁止だったはずの小籔家が一変。フォートナイトがキッカケでできた予期せぬ親子関係とは!?おっさんとして、そして親として、フォートナイトに出会って驚かされた。たくさんのことを伝えるべく、小籔千豊がペンを執った!
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「大胸筋が歩いてる」!? 「切れてます!」だけじゃないボディビルのかけ声がすばらしすぎる!『ボディビルのかけ声辞典』

「切れてます!」

 

これは、ボディビルの大会で観客からボディビルダーに向けて発せられるかけ声だ。テレビなどでこのかけ声を耳にしたことがある人も多いのではないだろうか。

なかなかユニークなボディビルのかけ声

僕は実際にボディビルの大会を観戦したことはないが、友人が観戦したところ、客席からは「切れてます!」「切れてるよ!」のほかにも、さまざまなかけ声があるようだ。しかも、それが結構おもしろいらしいのだ。まるで大喜利のようだとも。

 

そこで『ボディビルのかけ声辞典』(公益社団法人 日本ボディビル・フィットネス連盟・監修/スモール出版・刊)を手に取ってみた。

 

大胸筋が歩いてる!

この本には、実際に大会の会場で発せられたかけ声を集めたもの。これがなかなか味わい深い。もちろん「切れてるよ!」がド定番なのだが、そのほかにもいろいろなものがある。

 

「ほめる系」は、ポーズを決めているボディビルダーをほめるかけ声。「キレイ」や「美しい」などのシンプルなものから、「詰まってる」「出ました! キマリ!」といったちょっと変わったものまでがある。

 

「例える系」は、鍛え上げれらた筋肉をいろいろなものに例えたかけ声。「肩メロン!」「大胸筋が歩いている」「腹筋がカニの裏!」というように、ちょっと大喜利要素が入ってきている。

 

超上級編は言葉のボディビル

超上級編になると、かなりひねったかけ声になってくる。

 

「新時代の幕開けだ!」
今まで見たことがないくらいにすごい身体を表します。その肉体は、新時代を築くのです。

「石油王!」
褐色に染め上げた肉体は、まさに世界を席巻する石油王のよう。圧倒的な肉体を意味します。

「肩にちっちゃいジープのせてんのかい」
肩や大胸筋上部が、4WDのゴツゴツとした車体のように盛り上がっていることを意味します。

「そこまで仕上げるために眠れない夜もあっただろうに」
肉体を作る苦しさ、絞る辛さを知っているからこそ、選手にかけられる言葉なのです。

(『ボディビルのかけ声辞典』より引用)

 

ここまで来ると、かけ声をかけるほうのセンスがかなり問われるだろう。とっさにこんなかけ声を思いつくようになるには、ボディビルダーが肉体を鍛える以上にボキャブラリーを鍛えておく必要があるだろう。

 

誰かを褒めるときに使えそう

この本を読んでみて、人をほめる言葉にはさまざまなバリエーションがあるのだなと感じた。

 

そして、これらのかけ声はボディビルダーだけにではなく、日常的にも使えるのではないかと思う。もちろんそのままではないが、ちょっとアレンジを加えたり、考え方を拝借すれば、より相手にささる褒め言葉が生まれそうだ。

 

例えば、100点を取った小学生の子どもを褒めるとき。「よく頑張ったね」ではなく、「才能が開花した音が聞こえてきたぞ!」とでも言ってあげれば、楽しいのではないだろうか。

 

この本を読んでいたら、なんだかボディビルの大会を観戦したくなってきた。今度、友人に連れて行ってもらおう。

 

【書籍紹介】

ボディビルのかけ声辞典

著者:公益社団法人 日本ボディビル・フィットネス連盟
発行:スモール出版

“肩にちっちゃいジープのせてんのかい”ボディビルコンテストで飛び交う「かけ声」は、鍛え抜かれた肉体美への称賛メッセージだ! かけ声から紐解く、ボディビルの世界。

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「東京」が「トーキョー」の変わるとき。外国人から見た東京とは?『異国トーキョー漂流記』

筆者が住んでいるのは、新宿・渋谷から電車で30分圏内の私鉄沿線のとある町。THEを付けたいくらい典型的な郊外なのだが、数年前から徐々に、そして目に見えて起きている変化がある。

 

 

筆者の生活圏にも国際化の波

外国から来て住んでいると思われる人たちの人口の増加が止まらない。急速に国際化が進んでいるのだ。わんこの散歩で近くの公園を通りかかると5歳くらいのブロンドの女の子が『アンパンマンのマーチ』を大声で歌っているし、スーパーではイスラム圏出身と思われる女性がレジ前に並んだ和菓子を楽しそうに選んでいる。公共料金を支払うためにコンビニに行くと、中国の方と思われる店員さんが丁寧な言葉遣いで親切に対応してくれる。そしてしばらく前から、向かいのアパートに住んでいるネパール人の家族と会釈を交わす仲になった。

 

こういう状況は六本木とか麻布、あるいは渋谷あたりに限られたものだと思っていた。しかし、国際化はTHE郊外である筆者の生活圏にもおよんでいる。

 

東京とトーキョーの境界線

異国トーキョー漂流記』(高野秀行・著/集英社・刊)は、著者高野氏が皮膚感覚で接したさまざまな場面を切り取ったエッセイ集だ。という言い方でコンセプトだけ紹介しておいて、まずは章立てを見てみよう。

 

第一章 日本をインド化するフランス人
第二章 コンゴより愛をこめて
第三章 スペイン人は「恋愛の自然消滅」を救えるか⁉
第四章 開戦! 異国人バトルロワイヤル
第五章 百一人のウエキ系ペルー人
第六章 大連からやってきたドラえもん
第七章 アリー・マイ大富豪
第八章 トーキョー・ドームの熱い夜

 

皮膚感覚という言葉には、物理的にも心理的にも近い関係に身を置いた人たちが共有した時間や空間という意味合いを込めたつもりだ。「同じ釜の飯を食う」という表現がある。そこまで距離が詰まっていないとしても、筆者は向かいのアパートに住んでいるネパール人家族と空気を共有しているのを実感している。場や空気を共有する人々の間で生まれるケミストリーの面白さ。それがこの本のテーマにほかならない。

 

外国生まれの人の眼を通して再認識できるもの

著者の高野氏は、高校生だったころにアメリカから来た女の子を連れて街歩きをしたことがあった。会話もぎこちなく、昼ご飯のチョイス—定食屋のカツ丼—も失敗に終わったが、ひとつだけ忘れられない印象が残った。

 

そのアメリカ娘と一緒にいると、見慣れた東京の街が外国のように見えるのだ。漢字と仮名とアルファベットがごっちゃになった猥雑な看板群。くもの巣のように空を覆う電線。機械のような正確さと素早さで切符を切る改札の駅員…。

『異国トーキョー漂流記』より引用

代り映えしない日常風景のひとつひとつが、“アメリカ娘”の眼に写る映像として高野氏の脳裏に投影されたのだろう。その感覚を、高野氏はこんな言い方で表している。

 

これまで毎日のように目にしていたもの、だけど何とも思わなかったものが、ことごとく違和感と新鮮味を伴って、強烈に迫ってくるのだ。

『異国トーキョー漂流記』より引用

 

 

受け手によって変わる表情

『ブラック・レイン』とか『ロスト・イン・トランスレーション』で見た映像といったニュアンスだろうか。いや、心象的には『ブレードランナー』に寄っていたかもしれない。日本に住む外国出身の人たちを通した東京はどう感じられ、どう見えるか。そういう一定した視点を通した文章が綴られていく。透過する人物のありようによって、東京はさまざまな表情を見せる。

 

「自分探し」の旅で日本に流れ着いた黄金の国ジパングを求めていたフランス人、「日本のマイケル・ジャクソン」になろうとしていたザイール人、親子三代にわたって日本と中国の間で翻弄されてきた中国人、亡命同然に流れ着いたイラク人……。彼らを通して見えるトーキョーはときに笑いが止まらないほど面白く、ときに途方もなく寂しく、ときに意味もなくいじらしい。

『異国トーキョー漂流記』より引用

 

 

生活の場がシュールな感覚で満たされるとき

そして、高野氏が“東京がトーキョーに変わる瞬間のときめき”と表現するものがちりばめられた8つの物語が綴られていく。筆者にとっては生活の場である東京を舞台にして語られるのに、シュールな場面ばかりだ。

 

私の前でシルヴィがほっそりした体をくねらせていた。身につけているのは小さなパンツ一枚である。頬は紅潮しているかもしれないが、顔も体も白一色に塗りたくっているのでわからない。

『異国トーキョー漂流記』より引用

 

え? どんな場面だよ? ああ、そうか。これが東京からトーキョーに変わる瞬間のときめきなんだ。ここで紹介したのは第一章の冒頭部分だ。どの章も魅力的な書き出しで、後の展開が全く読めない。だからこそ異国漂流というフレーズがぴたりとはまる。

 

本書に綴られている話の主人公8人は、明日乗る電車で隣の席に座っているかもしれない。東京のどこかで外国から来た人を見かけたら、本書の主人公の誰かを思い出すかもしれない。あとがきの文章はあまりにも素敵すぎて、あえてここでは紹介したくない。噛みしめるように読んで、“彼ら”を通して伝わってくるトーキョーを自分に投影していただきたいと思う。

 

 

【書籍紹介】

 

異国トーキョー漂流記

著者:高野秀行
発行:集英社

「私」には様々な国籍のユニークな外国人の友だちがいる。日本に「自分探し」に来たフランス人。大連からやってきた回転寿司好きの中国人。故国を追われたイラク人etc…。彼らと彷徨う著者の眼に映る東京は、とてつもなく面白く、途方もなく寂しく、限りなく新鮮なガイコクだ。愉快でカルチャー・ショックに満ち、少しせつない8つの友情物語。

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完全菜食を貫く「ヴィーガン」のなぜ? 定義は? 哲学は? ビジネスの可能性は? 健康面は?~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。「ベジタリアン」の最新の呼び方が「ヴィーガン」かなと、なんとなく思っていましたが、そこには定義として違いがあるようです。

 

ベジタリアンは菜食主義だけど卵や牛乳を摂る場合があり、ヴィーガンは卵や牛乳も含め、動物由来の食べ物は一切摂らないスタンスだとか。グルテンフリーもそうですが、“何かを食べない”という選択が、ライフスタイルと結びついているのが今の時代といえるのではないでしょうか。

ヴィーガンとはどのような生き方なのか?

さて、今回紹介する新書は『ヴィーガン探訪 肉も魚もハチミツも食べない生き方』(森 映子・著/角川新書)。ヴィーガンに興味がある人はもちろん、「なぜお肉を食べないんだろう?」と素朴な疑問を持つ人にとっても、なるほどと思える一冊です。

 

著者の森 映子さんは時事通信文化特信部記者。社会部、名古屋支社などを経て、1998年から文化特信部、2021年からデスク、編集委員を務めています。エシカル消費、動物福祉などをメインに取材を行い、著書に『犬が殺される 動物実験の闇を探る』(同時代社)があります。

なぜ彼らはヴィーガンになったのか

アニマルウェルフェア(動物福祉)について取材を行っていた際にヴィーガンの人々と知り合って興味を抱き、約2年にわたって取材したという森さん。第1章「ヴィーガンとは?」では、ヴィーガンの定義やヴィーガン人口などをわかりやすくまとめています。

 

衣類や化粧品まで植物性にこだわる「エシカルヴィーガン」、植物が収穫後に死滅しないように果物やナッツ類だけを食べる「フルータリアン」など、一口にヴィーガンといってもさまざまなタイプがあることを知りました。

 

第2章「ヴィーガン食の開発で世界を狙え」では、ビジネスの視点が盛り込まれ、代替肉を開発するスタートアップ企業やヴィーガンレストランが取り上げられています。

 

取材の強みが活かされている、本書の柱とも言えるのが第3章「なぜヴィーガンになったのか」。NPO代表、起業家、官僚、アスリート、それぞれの立場で活躍するヴィーガン4人の率直な想いが伝わってきます。

 

ヴィーガン投稿レシピサイトを開設したという若手起業家の場合は、高校3年の秋、路上で車にひかれた猫の死がいを見たことがきっかけ。人間の行動によって動物たちにしわ寄せが行くのは嫌だと感じ、その日のうちにネットで動物の殺処分や、工場畜産の実態を調べ、動物性食品をやめようと決意したそうです。バイタリティのある若い人たちがヴィーガンという生き方を選択し、社会のなかで活躍しているのが印象的でした。

 

本書中盤は浸透が遅れる日本でのアニマルウェルフェアの現状がレポートされ、最後の第7章は「ヴィーガンは健康的なのか」。ベジタリアンの栄養士、日本栄養士会会長、国立健康・栄養研究所所長の3人の専門家が、それぞれヴィーガン食について健康面での見解を述べています。不足しがちな栄養分とは? ヴィーガン食のリスクは? そして取材を終えて森さんが考えたこととは……。

 

単に時事ネタの取材まとめではなく、新しい生き方ともいえるヴィーガンに著者が強い関心を持ち、深く知りたいという熱意が伝わってくる本書。ヴィーガンの是非に寄らず、“ヴィーガンとは何か”に、ビジネス、哲学、動物福祉、健康とさまざまな角度から光を当てています。読者が興味を持てる切り口が多く、読みやすいのが特徴です。

 

人間は知らないことに関して拒絶しがちな生き物。観光庁の資料によれば、主要100か国・地域におけるヴィーガンを含むベジタリアン等の人口は、2018年には約6.3億人に達したそうです。食べるという行為について考えることは、自分の生き方を見つめ直すことでもある気がします。

 

【書籍紹介】

ヴィーガン探訪 肉も魚もハチミツも食べない生き方

著者:森 映子
発行:KADOKAWA

肉や魚、卵やハチミツまで、動物性食品を食べない人々「ヴィーガン」。一見、極端な行動の背景とは?実験動物や畜産動物の問題を追い続けてきた非ヴィーガンの著者が、多くの当事者や企業、研究者に直接取材。知られざる生き方を明らかにする。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

なんかダルい、モヤモヤするなら3秒でととのう「プチリセット」で気分スッキリしちゃおう!『もやだるさんのリセットスイッチ』

1月がスタートしたというのに、なんだか毎日ダラダラしてしまう、スッキリしないという人はいませんか? 本当は頑張りたいのに、心が疲れてしまっているというときは『もやだるさんのリセットスイッチ』(伊藤東凌・著/ディスカヴァー・トゥエンティワン・刊)にあるリセット方法を試してみるのがいいかも。

 

この本の著者は、京都にあるお寺・両足院で副住職を務めている伊藤東凌さん。どうしてモヤモヤしてしまうのか? 現代人が抱えがちな心の動きから、解決法までをやさしい言葉で解説してくれています。なんだかやる気がでない人、気持ちが落ち着かない人におすすめですよ。

 

「もやだる」の原因は、無意識なネガティブ志向

伊藤さんのお寺には、毎日いろんな悩みを抱えた方が訪れ、相談されていくそうです。恋愛や仕事、家族や人生など悩みの種類は違っても、みんなにはある共通点があるのだとか。それがネガティブな感情を断ち切れず、引きずっていること。その感情は一生続いていくわけではないのに、ネガティブがず〜っと心に棲みついて「もやだる」になってしまうのだとか。そもそもなんで「もやだる」になってしまうのでしょうか? その原因は、人間の脳に秘密があるそうです。

 

人間は、厳しい環境を生き抜くために、生存本能から、もともとポジティブな情報よりもネガティブな情報に注意を向けやすい認知システムを備えているそうです。そのため、特に何も意識していないと、イヤなことや不安なことが目についてしまったり、記憶に残ってしまったりするのだそうです。

(『もやだるさんのリセットスイッチ』より引用)

 

自分の「もやだる」を振り返ってみても、24時間ずっと続いているわけではないはずです。ちょっとした瞬間に「おいしい」とか「うれしい」、「たのしい」という感情が動いたはずなのに、なぜか不安なことのほうが強烈に記憶に残ってしまっていることってありませんか? これらは脳が無意識にやっていることなので、「こらこら、ネガティブはいかんぞ」とリセットすることが大切になってくるそうです。

 

ごきげんな人は、切り替え上手

無意識にネガティブになりやすいのが人間ですが、全員が「もやだる」さんというわけではありません。ごきげんに過ごしている人間もたくさんいます。落ち込むことがあっても「いつもごきげんだな〜」という人は切り替えが上手。ネガティブなことがあっても、引きずらないんです!…… と、簡単に書けますが、一体どうやって日々をごきげんに過ごしているのでしょうか? 切り替え方は、本のタイトルにもなっている「リセットスイッチ」なのだとか。

 

リセットスイッチは、もやだるの原因となる出来事が起きたときに、ネガティブに触れた感情がだらだらと続かないように、スパッと断ち切って「今」に戻れるスイッチです。

スイッチのポイントは、体を動かして五感を刺激すること。

(『もやだるさんのリセットスイッチ』より引用)

 

五感とは、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚のどれか。ひとつでもふたつでもいいそうですよ。さらに、刺激するのは3秒くらいでもいいとのこと! 『もやだるさんのリセットスイッチ』には、手拍子パチンや指ろうそく、足そろえてトントンなどかわいいネーミングがついた3秒でできるリセットスイッチが紹介されています。読んでいるだけだと、「本当にこんなので効果があるの?」と思ってしまうのですが、実際にやると気持ちが驚くほど切り替わります。

 

私も年始から「あぁ〜なんで私ばっかり!」とイライラすることがあったのですが、眉間伸ばしをやったら心が落ち着きました。小さなことですが、やるとやらないとでは大違い。道具も使わず、気持ちを切り替えられるので気になる方は『もやだるさんのリセットスイッチ』を読んで実践してみましょう。

 

スイッチを習慣にして、ごきげんな日々を

人間は無意識にネガティブになってしまう生き物なので、いつの間にかスイッチが切り替わってイライラしたり、もやもやしたりしてしまうことがあります。いつネガティブがやってくるかわからないので、客観的に自分の状態を把握できるようスイッチを習慣化しておくのもおすすめなのだとか。

 

リセットスイッチが習慣になって、いつもと違う自分に気づけるようになると、もやだるを遠ざけられるようになります。それは、次にとるべき行動の準備ができるだけでなく、自分のことを客観的に見ることができるようになるからです。

このことを、心理学の専門用語で「メタ認知」といいます。

(『もやだるさんのリセットスイッチ』より引用)

 

『もやだるさんのリセットスイッチ』はちょっとした習慣や、ごきげんな毎日を過ごすために必要なノウハウがたくさん掲載されています。2023年が始まったばかりなのに元気が出ない、いつもイライラしている、心の疲れが溜まっていると感じている人は、ぜひゆっくりと読み進めてみてください。きっと「もやだる」を解決してくれる言葉があるはずです。

 

【書籍情報】

もやだるさんのリセットスイッチ

著者:伊藤東凌
発行:ディスカヴァー・トゥエンティワン

禅僧が教える、3秒でできるプチリセット法。かんたん・スッキリ・すぐできる。気分を瞬間に切り替える3秒リセット。心のざわつきをすーっと整えるプチ瞑想。イライラもやもや撃退メソッド一挙紹介。

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『大奥』でも話題沸騰! トップモデル・冨永愛の壮絶な半生『Ai愛なんて 大っ嫌い』

NHKのドラマ10で『大奥』が放送されると知り、早速、観ました。私は時代劇がとても好きなのです。第1回目は八代将軍吉宗と水野祐之進が主人公です。吉宗を冨永愛、祐之進を中島裕翔が演じます。放映前はパリコレのトップモデルである冨永愛の吉宗がどういうことになるのか想像もできませんでした。

圧巻のランウェイ

『大奥』というドラマは、男女の役割が逆転した奇想天外な物語です。将軍職を女性が受け継ぎ、多くのイケメンの中から自分で契りを結ぶ相手を選ぶのです。それというのも、若い男だけが感染する奇病により命を失う男子が続出し、生き残った男子は種馬として、女性の将軍に仕える役目を引き受けるしかないからです。

 

設定もユニークで面白いドラマでしたが、圧巻だったのは冨永愛の存在感でした。冒頭、馬を疾走させるシーンで早くも度肝を抜かれました。さらにすごいのは、夜とぎの相手を選ぶために鈴の廊下を歩く場面です。冨永愛は世界中のファッションショーのランウェイを歩いてきたトップモデルですから、歩くのがうまいのは当たり前かもしれません。しかし、洋服ではなく打ち掛けを纏い、ハイヒールではなく足袋で畳の上を歩く姿は、世界をぶっ飛ばす勢いがありました。

 

私は感動し、「いったいこの人はどういう人なのだろう」と、思いました。有名なモデルであることはもちろん知っていました。息子さんを大切に育てるお母さんであることも週刊誌などで報じられているとおりなのでしょう。けれども、それだけではない何かがあるに違いありません。そこで、彼女が自らを語った『Ai愛なんて 大っ嫌い』(冨永愛・著/ディスカヴァー・トゥエンティワン・刊)を読みました。

 

そして、心底驚きました。これまで、冨永愛という人は、天から与えられたスタイルの良さを武器に着々と成功への階段をのぼったと、勝手に思い込んでいたからです。それは浅はかな考えでした。

 

冨永愛のつらさ

『Ai愛なんて 大っ嫌い』には、冨永愛の半生が、叫ぶような文章で書かれています。そこには、スポットライトを浴び続けた華やかなモデルの姿は存在しません。美しくゴージャスな日々もありません。むしろ正反対の惨めで貧しい毎日が描かれています。彼女がこれほどつらい思いに耐えていたとは、誰が想像できたでしょう。

 

冨永愛には実の父の記憶がほとんどないといいます。彼女が幼いころ、父は姿を消してしまったからです。6歳の時に母が再婚し、新しい父を得ますが、やがて二人は離婚し、再び母子家庭となります。母は奔放な人だったようで恋愛遍歴を続け、三人姉妹の父親はそれぞれ違う人でした。姉妹の真ん中である愛は自分の気持ちを隠して暮らします。けれども、心の中では悲痛な思いがありました。

 

わたしには父がいる。そしていない。
わたしは母を憎んでいる。そして愛している。

(『Ai愛なんて 大っ嫌い』より抜粋)

 

家計は火の車で、バラックのような家に住んでいました。食べるのにもことかく有様で、彼女がどうしてあれほどの見事なボディを持てたのか不思議なほどです。今では誰もがうらやむその身体を彼女は呪いながら成長します。小さいころから背がぬきんでて高かったため、学校で徹底的にいじめられたのです。

 

学校は毎日、地獄のようだった。
身長を止めるためならなんでもやってやろう!
そう思って、十四歳からタバコを吸った。高校に入るころには、ショートホープをくわえた立派なヘビースモーカーになった。
それでも、身長の伸びは止まらなかった。

(『Ai愛なんて 大っ嫌い』より抜粋)

 

背が高いという自分ではなおしようもない理由でいじめ抜かれ、彼女は荒れていき、高校生のときは、学年で一番悪い生徒になっていました。貧乏から抜け出すためにモデルになり、一人でニューヨークへ渡った後も、アジア人への偏見に苦しみます。何より悲惨なのは、自分に富をもたらすファッション業界を好きになれなかったことでした。

 

くだらない。
ファッションなんて、人が生きる死ぬに、全然関係ない

(『Ai愛なんて 大っ嫌い』より抜粋)

 

息子という宝物

愛という名を持ちながら、彼女は愛に縁遠い生活を送ってきました。だからこそ愛を求め続けないではいられなかったのでしょう。

 

愛を知らず、愛を信じることができずにいた彼女でしたが、22歳のとき、一人の男性と出会います。パリでパティシエの修行をしていたその人に、彼女は恋をし、結婚し、男の子を授かります。

 

ようやく夢見ていた普通の家庭を築くことができる……はずでした。ところが、現実はそう甘くはありませんでした。トップモデルとして世界中を飛び回る彼女と、自分の夢を犠牲にして支えてくれた夫との間に大きな溝ができてしまったのです。

 

結局、幸福になるはずの結婚は離婚という結論に行き着き、母と子は日本に帰ってきます。子どもを抱えてモデルの仕事を続けることは難しく、彼女は息子を保育園や母親に預けて働くしかありませんでした。母子家庭で育ったことを呪い続けていたはずなのに。息子と一緒にいたいのに、息子を育てるためには働かなければならない、そのジレンマたるや相当なものだったでしょう。

 

周囲には「仕事と子育てを両立させるかっこいいシングルマザー」として受け止められていましたが、冨永愛は苦しみます。不安を抱え、闇雲に仕事を入れる日々。そんなある日、息子の言葉に衝撃を受けます。

 

彼は泣きながら言ったのです。「……ぼくはきっと、生まれてこなければよかったんだと思う。……ぼくが生まれてこなければ。お母さんだって……」

 

その瞬間、彼女は覚悟を決めました。「もう、この子を離さない」と。そして、実行に移すのです。その姿は、ファッションショーでターンを決めるときのように格好良いわけではありません。きらびやかなライトも浴びていません。悩みおののきながら、方向転換したのです。それでもきっと彼女の人生で、一番輝いた瞬間だったと思います。

 

『Ai愛なんて 大っ嫌い』には冨永愛の多くの顔が描かれています。周囲を憎む少女の姿、荒れたJK時代、モデルとして成功をおさめた華麗な日々、息子に向き合おうとする悩み多き母親の顔などです。実の父に会いに行く娘の顔も胸に迫ります。

 

どんなに多くの顔を持とうとも、冨永愛は自分の足で歩ききっていることに驚嘆しないではいられません。

 

やはり彼女はウォーキングの女王なのでしょう。これから先、いつ、どこで、どのように彼女がターンするのか、目を離さずにいたいと思います。

 

【書籍紹介】

Ai 愛なんて 大っ嫌い

幼児期のたったひとつの父親の思い出から、奔放な母親に翻弄された幼少期、身長がゆえにいじめられた思春期、すさんだ反抗期のなかで見つけたモデルへの道。アジア人への偏見の中、怒りだけをバネにのし上がっていった二十代。恋愛、結婚、出産、離婚。引退宣言と母としての葛藤…。二〇〇〇年代、世界のランウェイを闊歩したトップモデル冨永愛がはじめて語る、不安と孤独の中で「居場所」を求め続けた半生。

著者:冨永愛
発行:ディスカヴァー・トゥエンティワン

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会話と空気で美術を鑑賞する?−−『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』

目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』(川内有緒・著/集英社・刊)は2022年のノンフィクション本大賞を受賞した作品だ。著者の川内さんが、友人から「白鳥さんと作品を見るとほんとに楽しいよ!」と言われたことから始まった全盲の美術鑑賞者と一緒にアートを巡る旅。現代美術や仏像を前にし、言葉で見えているものを白鳥さんに伝えていると、伝えている本人にも、それまで見えていなかったことが見えてきたのだという。

 

全盲の美術鑑賞者、白鳥さんのこと

白鳥建二さんは、51歳で全盲だ。両親は晴眼者だったが、彼は2歳のころに弱視と診断された。幼少期はいくらかの視力があったため、公立小学校に入学したものの、視力は徐々に弱まり、小学校3年で盲学校に転校。20歳くらいまでは光は見えていたらしいが、やがて全盲になった。

 

美術との出会いは白鳥さんが大学生のときだった。目の見える女性Sさんと知り合い、彼女が当時、愛知県美術館で開催中だった「エリザベス二世女王陛下コレクション レオナルド・ダ・ヴィンチ人体解剖図展」を見たいと言い、一緒に見に出かけたのだ。

 

その日、Sさんは言葉を使って展示内容を説明した。初めて足を踏み入れた美術館に、初めて見たアート作品。また、それを見るために集まったたくさんの人々。こんな世界があったのか、と白鳥さんは胸を躍らせた。(中略)「それまで絵とか全然興味なかったんだけど、全盲の自分でも絵を楽しんだりできるのかなって思って。それに、盲人が美術館に行くなんて、なんか盲人らしくない行動で、面白いなって」

(『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』から引用)

 

こうして白鳥さんの美術館巡りがはじまったのだ。

 

年に何十回も美術館に通う

白鳥さんは気になる美術展を見つけると、まず美術館に電話を入れるようになった。しかし……、

 

「自分は全盲だけど、作品を見たい。誰かにアテンドしてもらいながら作品のことを言葉で教えてほしい。短い時間でもいいからお願いします」 しかし、電話の向こうにいるひとは戸惑った声になり、「そういったサービスはしていません」と答えるばかりだった。

(『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』から引用)

 

今から20年前の90年代半ばは、全盲の人が美術鑑賞することは想定外だったのだ。そんな中、すんなりと受け入れてくれたのが茨城県の水戸芸術館で、1997年春に開催されていた「水戸アニュアル’97 しなやかな共生」という展覧会だった。それまでは名画を中心に見てきた白鳥さんは、ここで初めて現代美術に触れた。キューバの現代美術家、フェリックス・ゴンザレス=トレスの作品では、展示室の中央に銀色の包み紙のキャンディが敷き詰められていて、食べられますよと言われ、拾って口に入れるとフルーツ味だった。キャンディを食べる意味はわからなかったというが、作品が向こうから語りかけてくる感じだったそうだ。これが、きっかけで白鳥さんは各地で現代美術を積極的に見にいくようになった。

 

対話型鑑賞メソッドとは?

ところで、当時、水戸芸術館が白鳥さんをすんなりと受け入れたのには理由があった。そこでは以前から対話型鑑賞ツアーを行っていたのだ。ニューヨーク近代美術館(MoMA)が提唱する対話型鑑賞メソッドを取り入れ、MoMAから教育スタッフを招いて研修もしていた。

 

「驚いたのは、白鳥さんが自然に行っていた鑑賞方法がそのMoMAのメソッドに酷似していたことでした。作品の簡単な描写の積み重ねから鑑賞に入っていくこと。参加者による解釈や意見をひとつにまとめることはせず、答えが出ないもの、矛盾があるものについても、その場でシェアしつつも、無理に答えをひとつに統一しないという自由な鑑賞スタイルであることです」

(『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』から引用)

 

こうして白鳥さんと水戸芸術館の関係は深まっていった。今では、白鳥さんは当館で、定期的にボランティアや博物館実習生の研修を担当するようにもなっているそうだ。

 

なぜ全盲者といっしょに美術鑑賞すると楽しいのか?

さて、著者の川内さんにとって、白鳥さんと共に美術館にいくことはどんな利点があるのだろう? 隣にいる人が見えていると、互いに「面白かったね」、「そうだね」くらいの会話しかしないが、白鳥さんがいると、とにかく喋りまくる。美術館にいる他の鑑賞者にうるさいと叱られるくらいに。

 

目の見えないひとが傍にいることで、わたしたちの目の解像度が上がり、たくさんの話をしていた。しかも、ごく自然にそうなる感じがあった。(中略)だから、本当の意味で絵を見せてもらっているのは、実はわたしたちのほうかもしれなかった。

(『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』から引用)

 

つまり、見える人が、美術館に足を運び、長い列に並び、入場料を払い、やっとのことで見た作品でも実は見えていないもののほうが圧倒的に多いのかもしれないと川内さんは言う。その点、白鳥さんのように目の見えない人が隣にいることで、普段使っている脳の取拾選択センサーがオフになると、視点は作品を自由にさまよい、細やかなディテールにまで目が留まるようになる。すると、今まで見えていなかったものが急に見えてくるのだそうだ。しかし、山内さんは2年間にわたり、白鳥さんとさまざまな作品見続けた感想をこう記している。

 

一緒に作品を見る行為の先にあるものは、作品がよく見えるとか、発見があるとか、目の見えないひとの感覚や頭の中を想像したいからではなかった。ただ一緒にいて、笑っていられればそれでよかった。ものすごく突き詰めれば、それだけに集約された。

(『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』から引用)

 

本書は、白鳥さんという美術館通いが大好きな全盲者を通して、障害者たちの本音に迫り、また健常者は彼らとどう関わっていくべきなのかを教えてくれる。障害を持つ人の話はともすると暗くなりがちだが、この本は白鳥さんの人柄や意欲もあってか、ユーモアに満ちていて、読んでいてポジティブな気分になれるのがとてもいい。

 

【書籍紹介】

 

目の見えない白鳥さんとアートを見にいく

著者:川内有緒
発行:集英社インターナショナル

全盲の白鳥建二さんは、年に何十回も美術館に通う。「白鳥さんと作品を見るとほんとに楽しいよ!」という友人マイティの一言で、アートを巡る旅が始まった。絵画や仏像、現代美術を前にして会話をしていると、新しい世界の扉がどんどん開き、それまで見えていなかったことが見えてきた。アートの意味、生きること、障害を持つこと、一緒に笑うこと。白鳥さんとアートを旅して、見えてきたことの物語。

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格闘技ドクター・二重作拓也が解き明かす「真の強さ」とは?−−『強さの磨き方』

筆者が2023年最初にアップするこの原稿は、新年の誓い的な内容にしたい。実は、自覚している性格がある。承認欲求がすごく高いのに自己肯定感がきわめて低いのだ。去年はこういうアンバランスな状態に陥っているのに気づくことが多かった。

 

弱いからこそ強くなれる?

常にバランスの良い自分であり続けるには、どうしたらいいのか。簡単に言ってしまうなら、打たれ強かったり忍耐強かったり、さまざまなものに対して強くあれればいいと思う。そこで新しい年が明けた今のタイミングで手にしたのが、『強さの磨き方』(二重作拓也・著/アチーブメント出版・刊)という本だ。

 

著者の二重作氏は医師であり格闘家でもあり、「格闘技医学」という新しいコンセプトの提唱者だ。こう書くと、ほとんどの人がまさに文武両道を絵に描いたような“強い”人を思い浮かべるに違いない。筆者もそうだった。しかし二重作氏は、意外にもまえがきであっさりカムアウトしてしまう。

 

もともと病弱で運動音痴、ボールに遊ばれるような子どもでした。8歳の時、体育の授業で行われた相撲で、自分より小柄な同級生に投げ飛ばされ、顔中が砂だらけになりました。「強くなりたい!」。そう思ってカラテを始めました。

『強さの磨き方』より引用

 

そこから快進撃が始まる。中学からは試合に出場すれば入賞という状況が続き、17歳で高校生代表選手になった。ただ、アメリカで行われた試合で、アフリカ系アメリカ人の選手が繰り出した“見たこともない蹴り”で倒されてしまう。こうして「強さを追究する旅」が本格的に始まった。レベルの差はもちろんあるだろうが、まず自分は弱いとはっきりと認識することが強くなるための条件なのかもしれない。

 

格闘技医学というコンセプト

医師を目指すことを決心したのも、人間が宿す本当の強さを知りたかったからだ。研修医をしながら極真カラテの全日本ウェイト別出場を目指し、成功と挫折を重ねる過程で「格闘技医学」にたどり着く。スポーツにおける強さの根拠をレントゲンやCTと共に解析する方法論だ。

 

強さを求めるなかで気づいたこと、それは、己の弱さです。「少しは強くなれたかもしれないな」と思える瞬間もあります。しかし、次なるハードシップの前では、その感覚も露と消えてしまいます。現在も弱さと格闘する毎日です。

『強さの磨き方』より引用

 

二重作氏は、自分が弱いことを認めているからこそ強くなれる余地がよりよく見えるのだと思う。中学生時代も研修医時代も、そのスタンスは変わらなかった。

 

求道者のアリーナ

人はなぜ強くなろうとするのか。二重作氏によれば、今の自分を超えることでしかたどり着けない場所があるからだ。こうした思いからスタートする本書で試みられているのは「答えの提示」ではなく、「問いの共有」にほかならない。筆者なりにたとえるなら、求道者同士が思いをぶつけあうアリーナといった趣の一冊に仕上がっている。

 

章立てを見てみよう。

 

第1章 強さと人間理解

第2章 弱さの見つけ方

第3章 強さの磨き方

第4章 強さのロールモデル

 

人間を理解することで強さを定義し、自分の弱さを見つけ、さまざまな方法で強さを磨き、さらにロールモデルから具体的な要素を抽出して身につける。この一連の流れは、誰にとっても自分ごととして投影しやすいはずだ。

 

生きるという選択

筆者が激しく惹かれたのは、第4章で紹介されているプリンスの言葉だ。本書の装丁が紫のトーンで整えられているのも、そのあたりが理由なのかもなんて考えてしまう。1994年にプリンスの生誕地ミネソタ州ミネアポリスで聖地巡りをした筆者は、この本で『レッツ・ゴー・クレイジー』という曲が紹介されていることがひたすら嬉しい。

 

この曲の“better live now, before grim reaper come knocking on your door”というフレーズが一番好きだ。あえて訳すなら、「死神が玄関のドアをノックしに来る前に、今を生きるべきだ」という意味になるだろうか。

 

「おわりに」に次のような一文が記されている。

 

強さというテーマを中心にしながらも、実践的人間学としての「生きる」について書いてみたい。どうせいつかは終わるのだから。たとえどんなことがあっても「生きる」を選択する人をひとりでも増やしたい。私もそうするから。

『強さの磨き方』より引用

 

強さを磨いていくという過程は、自分の弱さを知り、ときとして抗いときとして迎合しながら、とにかく生きることを選ぶという行いの積み重ねなのだと思う。

 

私の考える強さは、あなたの考える強さとおそらく違うはずです。その違いを心から尊重し、共通性を全身で尊び合い、強さを磨き続ける。本書が小さなセコンドになれば幸いです。

『強さの磨き方』より引用

 

本当の強さというのは、マチズモという感覚だけで表現しきれるものではない。もっとしなやかな質感のものかもしれないし、ひょっとしたら想像よりはるかに柔らかいものかもしれない。本書を読んだ後、人はそれぞれ「強さの向こう側にあるもの」を見つけるだろう。人と違う部分があるのは当然だが、同じ部分もあるはずだ。形はいろいろだろうが、ひとつだけ共通するのは、二重作氏が言う通り「生きる」を選択することだ。だから、筆者もそうすることにした。

 

【書籍紹介】

強さの磨き方

著者:二重作拓也
発行:アチーブメント出版

格闘技×現役医師が解き明かす「強さ」の根拠。「強さ」とは何か? 人はどうしたら、本当に強くなれるのか?「強さ」の向こう側にあるものとは?

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『どうする家康』がさらに楽しくなる一冊! 家康の生涯がわかりやすく解説された『家康日記』

いよいよ始まった2023年の大河ドラマ『どうする家康』。松本潤さんが徳川家康を演じるということで、始まる前から注目されていましたよね。教科書レベルの徳川家康のイメージは、狸親父やホトトギスは鳴くまで待っている印象があるので、個人的には「松潤でいいの!?」なんて思ってしまいました(笑)。始まってみれば、ぴったりな配役で今から次回が楽しみです!

 

大河ドラマは歴史に基づいてお話が進んでいくので、ネタバレ上等! 大枠の流れを知っておけば、より楽しむことができるのも魅力でしょう。今回は、歴史が苦手という人でも読みやすい『家康日記』(ミスター武士道・著/エクシア出版・刊)をご紹介します。家康の生涯を知っておくと、ドラマのタイトルになぜ「どうする?」がついているか、松本潤さんが配役されたのかも知ることができますよ。

 

瀬名と結婚したのは、16歳

大河ドラマでは、初回から積み木遊びやかくれんぼをするちょっぴり幼い家康が出てきましたが、当時の年齢は14歳。8歳から今川家の人質として駿府にいた家康は、人質という身ではありましたが、不自由なく幸せに暮らせていたのかな? と感じましたよね。

 

実際はどうだったのか? というところはぜひ『家康日記』で確認してみましょう。この本では、幼少期から亡くなるまで家康が日記を書いていたというテイで年代と日付、そして当時の家康の年齢とともに、日記が綴られていきます。例えば、16歳で瀬名と結婚した日にはこんなことが書かれてありました。

 

彼女は義元様の姪にあたる。つまり、今後は私も今川一門に準ずる扱いを受けるということになる。義元様にはずいぶんと気に入られてしまったな。瀬名は気の強い女子と聞いている。うまくやっていけると良いが……。

(『家康日記』より引用)

 

ドラマでは、瀬名の役を有村架純さんが演じていますが、気の強さはドラマの中でも発揮されていましたよね(笑)。『家康日記』は、YouTubeでも人気のミスター武士道さんが、実存する家康の書状や研究を元に作ったもの。上記のようにわかりやすい言葉で綴られているので、有名人の日記を読んでいる感覚で歴史について知ることができます。中学生でも楽しく読めると思いますよ!

 

三河軍を率いて、大高城に米を届けたのは19歳

大河ドラマの初回では、金の鎧で米を届けていた家康。三河のものたちからは「殿! 殿!」と呼ばれていましたが、なんと当時は19歳でした。当時の日記にもこんなことが書かれてありました。

 

ヤバい、ヤバい、かなりヤバい。

義元様が討たれた。

嘘だろ。こっちは丸根砦も攻略して、全て順調にいっていたのに。

二万を超える大軍だぞ、どうしてこうなった?

(『家康日記』より引用)

 

今まで大事に育ててもらった親代わりのような今川義元が、織田信長に討たれてしまったのです。大河ドラマの中では、信長に必要以上に怯えていた家康ですが、実は幼少期の出来事が由来しています。ご存知の方も多いかもしれませんが、今川家の人質として仕える前は、織田家の人質として過ごしていたのです。当時の家康は6歳で、信長は14歳。大河ドラマでは、次回以降この辺りも描かれそうですよね! 詳しくは『家康日記』にも書かれてあるので、気になる方は先読みしちゃいましょう。

 

大河ドラマではどこまで描かれるのかも楽しみ!

『家康日記』を読んでいくと家康の生涯が丸っとわかるので、大河ドラマでどんな出来事がどこまで描かれるのか想像できるのも楽しみのひとつになるでしょう。

 

家康は、75歳でその生涯を終えます。戦乱の世を終わらせ、戦いのない江戸時代を作り、死後は「東照宮」で祀られるようになるまでどんな人生を歩んだのかは『家康日記』そして、大河ドラマで学んでいきましょう! 戦国時代に登場する武将の中では、どことなく地味な人と思われがちな家康ですが、その人生はまさに“どうする?”の連続でした。現代の中間管理職にも通じるような苦しみも抱えていた家康の生涯を知り、知識を深めていくことで、自分の人生にもプラスになることがたくさんあるはずです。大河ドラマを楽しみにしている人は、『家康日記』を読んでより知識を深めていきましょう。きっと家康への印象がガラリとかわるはずですよ!

 

【書籍情報】

家康日記

著者:ミスター武士道
発行:エクシア出版

鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギスー徳川家康の性格をあらわした言葉といわれています。とにかく忍耐強くて、信長、秀吉が死んだから天下人になれた人という印象ですが、はたして本当にそうだったのか?実は、独立を果たすために凄いがんばった人だった!家康の年齢をたどりながら、その生涯を語る日記物語。

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シベリアのワラビにマカオのフクロウ。英国貴族の館ではすき焼き作り!? 食で世界一周!~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。一見なんだかわからない食べ物ってありますよね。お正月のおせちで言えばカズノコ。私の友達は子どものころ、親戚のおじさんのホラを真に受けて、カズノコを果物の一種だと思っていたそうです。確かにあの色とプチプチ感は南国の果物っぽさがありますよね。その後、魚の卵と知って大ショックだったとか(笑)。イメージって大切かもしれません。

 

70か国を回った紀行作家の食レポ

さて、今回の新書は世界食味紀行 美味、珍味から民族料理まで』(芦原伸・著/平凡社新書)。著者の芦原伸さんは紀行作家、ノンフィクションライター。鉄道ジャーナル社編集部を経てフリーランスとなり、新聞、雑誌を中心に世界70か国以上を取材しています。雑誌「旅と鉄道」「SINRA」の発行人・編集長を歴任。著書に『ラストカムイ』(白水社)、『北海道廃線紀行』(筑摩選書)、『旅は終わらない』(毎日新聞出版)などがあります。

バイカル湖畔で振る舞われたワラビの味は?

旅行記事の取材のため、世界の五大陸、7つの海を股にかけたという芦原さん。本書では、第1章「ヨーロッパ、ロシア」、第2章「アメリカ、オセアニア」、第3章「中国、アジア」、第4章「中東、アフリカ」と世界を4章に分けて、各国の食体験をまとめています。珍しい民族料理がその土地の思い出とともに語られていて、風の匂いや石壁の手触りも伝わってきます。

 

私が読んでいて印象に残ったのは、バイカル湖畔で振る舞われたシベリア料理。リストビヤンカという小さな村を訪れた芦原さん。村を流れる川では洗濯をする農婦の姿があり、井戸端会議のさなか。「ニッポンから来たのかね。お茶でもどうだい」とニーナというおばあさんの家に招かれます。

 

ペチカが燃え、大きな犬が見守る家で「お昼でも食べていくかね」と振る舞われたのがニジマスに似た魚・オムリと、なんとワラビ! ワラビは日本のものと同じで、塩を振りかけ、炒めたものが食卓に出されたそうです。実はかつてシベリアでは、日本市場へ輸出するワラビを巡って中ソの貿易戦「ワラビ戦争」があったとか……。旅先での交流と食の歴史的背景が混ざり合い、心がほっこりし、知的好奇心もそそられるのが本書のいいところ。

 

芦原さんが日本の味を振る舞うケースもありました。イギリス・ロンドンの南、バース近郊で古城ホテルを経営する名門貴族のジョンさんと仲良くなった芦原さん。手作り料理をいただいたお返しに、すき焼きを作ることに。

 

春菊はないため、スーパーでチンゲンサイのような中国野菜と、なぜか輸入されていた大分県産のしいたけを購入。肉屋ではすき焼き用の薄切り肉はなし。しかたなく肩ロースの塊を「薄く切って」と頼むも理解してもらえず……。さて、このすき焼きパーティはうまくいくのでしょうか?

 

オリエント急行ではフレンチシェフのフルコース料理を食べつつ正装の紳士淑女と会話を交わし、ニュージーランドではマオリ族のハンギという民族料理でウナギの旨味を堪能、マカオでは正統派の「野味レストラン(野生動物を食べさせるレストラン)」でフクロウの煮込みを味わう……。

 

新書ゆえに地図や写真はほとんどありませんが、熟練の文章で味や風景が臨場感をもって浮かび上がってきます。気になった料理があったら、ネットで検索してみるのも今風の本の楽しみ方。食べることは土地を愛すること。一冊読み終えて、プチ世界一周旅行をしたかのような満足感がありました。

 

【書籍紹介】

世界食味紀行 美味、珍味から民族料理まで

著:芦原 伸
発行:平凡社

70か国以上を股にして歩いた紀行作家が、世界の都市から辺境に至るまで、食を通してその土地に根差した文化や歴史を紹介する。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

『自分を「平気で盛る」人の正体』−−SNS時代のゆがみを精神科医が読み解く!

この間お昼の情報バラエティ番組を見ていて、詐欺容疑で逮捕寸前の通称「キラキラトレーダー」という男性の存在を知った。

 

 

セルフプロデュースとしての手法

タワマンのベランダから1万円札を撒く動画。高級時計がびっしりかけられたホルダーを4本並べた写真。札束をタワマンみたいに積み上げた写真。派手な映像や画像を次々とアップし、クセが強い口調で「最初の一歩を踏み出す勇気を持とう」と煽ってセミナーへの参加をすすめる。わかりやすいセルフプロデュースだ。

 

こんなベタな手法でも成果があるのだろう。だからこそ多くの被害者が出て、集団訴訟的なものが検討される流れになっている。キラキラトレーダーほどではないにしろ、見せたい自分と現実の自分のギャップを埋めるためにありとあらゆるものを“盛る”人たちは歴然として存在する。

 

SNSでの演出程度の盛りなら全く問題ない。ただ、キラキラトレーダーのように盛りを詐欺事件の道具として使ったり、学歴や経歴を詐称したりというレベルになると、いずれは本人もどこまでが本当の自分なのかわからなくなってしまうのではないだろうか。

 

あの盛り人は今

自分を「平気で盛る」人の正体』(和田秀樹・著/SBクリエイティブ・刊)は、少し前の日本を大騒ぎさせた懐かしい“盛り人”たちに触れながら、ケーススタディ的にさまざまなタイプを紹介していく。こうした人たちが出てきた理由は何か。著者の和田氏は、背景について次のように語る。

 

ここ数年は、自分を“偽装”したり、自分を“盛る”ことで良く見せようとする自己アピールの強い人たちが問題を起こす傾向が強まっていることは事実だと思います。その一方で、日本人の多くは、これまで「能ある鷹は爪を隠す」が美徳だったのに、自己アピール力がないと、選挙に勝てない、出世できない、それどころかリストラの対象にされかねないという事態に直面しています。

『自分を「平気で盛る」人の正体』より引用

 

いや、そんなことはない—自信を持ってそう言い切れる人はどのくらいいるだろうか。自己アピール力は今や絶対に必要なライフハックの一部なのだ。でも、それはとても暴走しやすく、一度暴走が始まったらとどまるところを知らない。本書で紹介されている通り、そういう例はいくらでもある。

 

演技性パーソナリティ

和田氏によれば、あまたいる盛り人たちは演技性パーソナリティという言葉で形容できるらしい。これはあくまで個性の一種であり、心の病である演技性パーソナリティ障害とは根本的に違う。SNSの進化によって、自分をよりよく見せる機会は格段に多くなった。

 

そういう背景もあって、今後、演技性パーソナリティの人は増えていくだろうと私は考えています。現実にSNSの世界では、自分を“盛る”ことが恒常化しています。もちろん、自分をよく見せたい心理は誰にでもありますし、私自身もそれが強い人間だと自覚しています。ただ、これまでよりそのレベルが高くなっているように思います。

『自分を「平気で盛る」人たちの正体』より引用

 

筆者には、行間に込められた和田氏の「それも程度問題ですよ」とおっしゃる声が聞こえるような気がしてならない。

 

“盛り”に惑わされないために

章立てを見てみよう。

 

プロローグ ショーンK騒動で浮き彫りとなった「盛りたがる」人の存在
第一章  「演技性・自己愛性」人間がはびこる時代
第二章  あなたの周りの「演技性人間」の正体
第三章  あなたの周りの「自己愛性人間」の正体
第四章  大人もマスコミも簡単に騙される心理
第五章  多様化しますます増殖する「盛りたがる」人たち

 

ご自分のFBやツイッターのページを見ていただきたい。一人や二人は演技性人間や自己愛性人間めいた人がいるはずだ。だからこそ、本書における和田氏の立脚点が際立つ。

 

そうなってくると、自己アピール力を磨くだけでなく、自分を“盛る”ことに抵抗のない人たちへのある種の免疫力(医学用語なのでしょうが、日常的な意味で使わせてください)を持つ必要もあるし、“盛った”情報に惑わされないリテラシーも必要です。

『自分を「平気で盛る」人たちの正体』より引用

 

そうなのだ。こうしたものを意識することによってキラキラトレーダーに騙されたり、国際ロマンス詐欺の被害者になったりすることも防げるはずだ。

 

中身と見せ方

ジョン・F・ケネディはスピーチが弱点だった。そこで、選挙戦を勝ち抜くためにスピーチライターを雇い入れ、必死に練習したという。

 

立派な中身があるのに見せ方が下手な人は、見せ方を工夫すればいいということです。しかし、中身がない人がいくら見せ方を工夫しても、中身がないので勝負にはなりません。

『自分を「平気で盛る」人たちの正体』より引用

 

あとがきに記されているこの一文が本書のエッセンスであり、SNSが絶対的な存在感を示す時代における必要不可欠な認識であり、盛り人たちにアドバンテージを握られないための心得に違いないのだ。誰もが自分ごととしてとらえておくほうがいいだろう。

 

【書籍紹介】

自分を「平気で盛る」人の正体

著者:和田秀樹
発行:SBクリエイティブ

いま、テレビやSNS、職場等では、平気でウソをついたり、演技や経歴詐称まで行ったりして、自分を過度に良く見せたがる人が増えており、「演技性・自己愛性パーソナリティ」の時代が到来している。最近マスコミを騒がした野々村元県議、小保方氏、舛添氏らの事例を考察しつつ、そういう人に魅了され、簡単に騙されてしまうマスコミや私たちの問題にも鋭く迫り、どういうリテラシーを持つべきかを精神科医である著者が教える。

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国民健康保険が高すぎる!そろそろ「文美国保」に切り替えませんか?

会社を辞めてフリーランスになったら、「国民年金」と「国民健康保険」の加入手続きをする必要がある。どちらも市区町村の役所か、年金の場合は年金事務所でも手続き可能だ。

 

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会社を辞めたら年金と健康保険の手続きを

年金も健康保険も、会社員時代は給料から天引きされるかたちで保険料を納付していた。そしていずれも、会社が保険料を半額負担してくれていた。そのため会社員は、保険料がフリーランスに比べて安かったり、将来もらえる年金額が多くなったりするのである。各種公的保険は、会社員に優しく、フリーランスに厳しいのが現状なのだ

 

国民年金と国民健康保険に加入したフリーランスは、自ら保険料を支払うようになると、そのことを痛感することだろう。そこで本項では、『フリーランスのお金のこと、マンガでぜんぶ教えてください!』(田口智隆・著/ワン・パブリッシング・刊)を参考に、フリーランスが少しでも年金や健康保険で得をする方法がないのかチェックしていこう。

 

国民健康保険か任意継続か?

まず、国民年金について。結論を言うと、得する方法はない。2022年の保険料は月額1万6590円で、収入や居住地にかかわらず一律である。収入が安定していない新人の頃は、この金額がもったいないかもしれないが、国民の義務として納付するしかない。

 

ただし、公的年金は65歳以上がもらえる「老齢年金」だけでなく、病気やケガで障害が残ったときに年齢に関係なくもらえる「障害年金」もある。障害年金は、うつ病などの精神疾患で働けなくなった人が受給できるケースもある。「老齢年金」という最低限の老後資金を確保するためにも、また「障害年金」というセーフティーネットの受給資格を有しておくためにも、国民年金はしっかり納付しておこう。

 

次に、国民健康保険(国保)について。国保は、前年度の所得に応じて保険料が算出される。自治体によっても金額は異なる。保険料の上限が定められており、現在は年間85万円だが、2023年度からは87万円に変わる予定だ。月額換算で上限は7万2500円だ。

 

厚生労働省によると、上限額を支払うことになるのは、単身世帯だと年収がおよそ1150万円以上の人が対象になるそう。また、国保には扶養制度がないため、家族がいれば、さらに人数分払わなければならない。所得が400万円の人なら、全国平均で月2万3518円の保険料がかかる。年金と合わせると4万円近くの出費になり、収入が安定しないフリーランスは正直苦しい。

 

フリーランスのお金のことぜんぶ教えてください!

 

国保の金額を下げる方法はあるのだろうか? 新人フリーランスならば、「任意継続」がまずは候補だ。任意継続とは、会社員のときに加入していた健康保険を2年間継続できる制度だ。ただし任意継続は、会社が半分払っていた保険料を、全額自己負担しなければならない。つまり、会社員時代の2倍の保険料だ。その金額が国保の保険料よりも安いなら、任意継続を選ぶのが得策となる。どちらが安くなるかは、それまでの収入によって人それぞれなので、任意継続と国保の金額を、それぞれ調べて判断しよう

 

また、会社員の家族や配偶者の「扶養」に入る手も考えられる。その場合は、年収130万円未満、かつ扶養に入れてくれる人の年収の2分の1であるのが条件。フリーランスとして自立したい人には難しい条件だ。

 

しかし、まだ保険料を下げる策は残されている。

 

「文美国保」という選択肢も

「国民健康保険組合」に加入すれば、フリーランスは保険料を下げられる可能性があるのだ。国民健康保険組合とは、同じ職種や業種の人たちが集まる保険で、保険料は所得に関係なく一律だ。そのため、通常の国保に比べて保険料が安くなる可能性があるのだ。

 

一例として、さまざまなクリエーターを対象としている国民健康保険組合に、「文芸美術国民健康保険組合」がある。通称「文美国保」と呼ばれている。文美国保の保険料は、月額1万9600円(2022年度)の定額。どんなに収入がよくても、この金額は変わらない

 

文美国保に加入するには、下記のいずれかの加盟団体に加入しなければならない。さまざま条件があり、新人フリーランスが条件をクリアするのは難しい場合もある。今のうちから加盟団体の加入条件を確認しておき、その条件をクリアするのを目標としていこう。

 

国民健康保険と文美国保、安いのはどっち?

実際、国民健康保険と文美国保、どちらが安いのか計算してみた。

 

自治体や家族構成によって異なるが、所得が多ければ多いほど、文美国保のほうが保険料が安くなる可能性が高そうだ。フリーランス生活が軌道に乗って、国保の負担が大きくなってきたら、文美国保など国民健康保険組合への加入を検討してみてはどうだろうか。

 

 

【書籍紹介】

マンガでわかる フリーランスのお金のことぜんぶ教えてください!

著:田口智隆
発行:ワン・パブリッシング

多忙かつお金に苦手意識のあるフリーランスに向け、フリーランスのお金にまつわるあれこれをマンガでわかりやすく解説! 開業する前の準備、確定申告や税金・控除のあれこれ、フリーランスこそやっておくべき資産運用の話、お金で損をしない節約術など、本書を読めば何が必要で何が必要でないのかがすぐに理解できます。

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(文:堀田孝之)

退職金がない!フリーランスを救う「最強の制度」とは!?

フリーランスは自由で魅力的な働き方だが、その一方で、組織に守られていないことから生じるデメリットもある。たとえば、それまで会社が半額負担してくれていた年金や健康保険料を、自分で全額支払わなければならないし、老後に受け取れる年金額も会社員より少ない。さらに盲点は、「退職金がない」という点だ。

 

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会社員ならば、1つ企業に勤めれば、将来1000万円〜2000万円程度の退職金を得ることができることが多い。仮に転職を繰り返したとしても、そのたびに数百万円の退職金をもらっていれば、合計すればそれ相応の金額を手にすることができるだろう。

 

一方で、フリーランスには退職金がない。20代~30代だと退職金は遠い将来のことに思えるかもしれないが、今から考えておかないと、いざ引退したとき「老後資金が足りない!」という事態に陥りかねない。

 

そこで本項では、『マンガでわかる フリーランスのお金のことぜんぶ教えてください!』(田口智隆・著/ワン・パブリッシング・刊)から、フリーランスに絶対オススメの「退職金の作り方」についてお伝えする。

 

フリーランスのお金のことぜんぶ教えてください!

 

「小規模企業共済」で退職金の準備を

田口智隆さんによると、フリーランスが退職金を準備するなら、「小規模企業共済」以上の制度はないという。小規模企業共済とは、独立行政法人「中小企業基盤整備機構」が提供している制度で、フリーランスや小規模企業の経営者たちが、働いている間にお金を積み立てていき、事業を辞めたときや65歳以上になったときなどに、掛金に応じて退職金(共済金)を受け取れる制度だ。

 

掛金と納付年数によって、下記の金額を受け取れることができる。

 

小規模企業共済の利回りは約1〜1.5%と決められている。今の時代、都市銀行の利回りは0.001%程度と超低金利であることを考えると、かなり優秀な利回りだ。たとえば、掛金の上限7万円を30年にわたって積み立てれば、利息だけで480万円になり、受け取れる金額は約3000万円にのぼる。

 

銀行に預けていてもお金はほとんど増えないのだから、貯金がわりに小規模企業共済を利用すると考えれば、大変利用価値の高い制度なのだ。掛金の額はいつでも自由に変更できるので、稼ぎがいい月は7万円、稼ぎが悪い月は数千円、といったように柔軟に利用すれば、継続もしやすいだろう。

 

小規模企業共済のすごいメリット

小規模企業共済のメリットは他にもある。小規模企業共済は、病気やケガで働けなくなったときやフリーランスを辞めるときにも、事業廃止届を出せば共済金を受け取ることができる。つまり、積み立てておけば、いざというときのための保険にもなるのだ。

 

さらに、掛金は「全額控除」になる特典付き。所得税を算出するための所得は、「所得=売上−経費−控除」によって決められる。つまり、掛金が全額控除になれば、所得が減り、それに伴って所得税も減ることになるのだ。

 

所得税をもとに住民税は決められるので、住民税の節税効果を見込める。たとえば、課税所得400万円の人が小規模企業共済に毎月3万円積み立てると、所得税と住民税は約11万円少なくなる。毎月7万円積み立てると、約24万円も節税になる。

 

このように、小規模企業共済は、フリーランスにとってメリットしかないと言っても過言ではないのである。まだ銀行での貯金を続けている人は、今すぐ小規模企業共済を始めよう。

 

資金に余裕があれば「iDeCo」も始めよう

小規模企業共済を利用しても、まだ資金に余裕がある人は、「iDeCo」の利用も検討していくのが望ましいと田口さんは言う。iDeCoとは、個人型確定拠出年金の略称。「自分で作る年金」だ。

 

iDeCoを利用するには、銀行や証券会社などで「iDeCo口座」を開設し、そこで投資信託などの金融商品を購入する。毎月掛金を積み立てていき、購入した金融商品の利回りによってお金を増やし、将来的にまとまった額の年金を手にすることを目指す。ただし、やっていることは「投資」なので、必ずしもお金が増えるとは限らない。また、年金なので60歳までお金を引き出すこともできない。

 

このように書くと、iDeCoに魅力が感じられないかもしれないが、投資に興味があるけれどまだ始めていないフリーランスは、iDeCoを利用しない手はない。

フリーランスのお金のことぜんぶ教えてください!

 

1つ目の理由は、iDeCoも小規模企業共済と同じように、掛金が全額控除になるからだ。たとえば、課税所得400万円の人が掛金の上限6万8000円(月額)を積み立てると、所得税と住民税は年間24万4800円の節税になる。2つ目の理由は、投資による運用利益が非課税になるからだ。通常の証券口座で利益が出ると、利益の20%に税金がかかる。しかし、iDeCo口座での利益は税金がかからない。

 

これらの理由で、これから投資を始めようと考えているフリーランスは、まずは「iDeCo」からスタートするのが賢い選択だといえるだろう。もちろん、新人のフリーランスが、すぐに小規模企業共済とiDeCoの両方を満額で始めるのは、資金的に厳しいだろう。

 

まずは小規模企業共済に加入して退職金を積み立てながら、所得が増えてさらに節税をしたいと思ったとき、iDeCoの利用を検討してみてはどうだろうか。あるいは、資金を分割して少額から両方を利用してみるのもありだ。

 

コツコツと貯金感覚でお金を増やす「小規模企業共済」1本でいくか、多少のギャンブル要素と夢もあるiDeCoにも参入するか、どれくらいお金を増やしたく、どんな人生を歩んでいきたいのか、自分で判断していくことが大切だろう。

 

【書籍紹介】

マンガでわかる フリーランスのお金のことぜんぶ教えてください!

著:田口智隆
発行:ワン・パブリッシング

多忙かつお金に苦手意識のあるフリーランスに向け、フリーランスのお金にまつわるあれこれをマンガでわかりやすく解説! 開業する前の準備、確定申告や税金・控除のあれこれ、フリーランスこそやっておくべき資産運用の話、お金で損をしない節約術など、本書を読めば何が必要で何が必要でないのかがすぐに理解できます。

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(文:堀田孝之)

埼玉県のマスコット「コバトン」は天然記念物って知ってた?−−『となりのハト 身近な生きものの知られざる世界』

日本には47の都道府県が存在するのは誰でも知っていることだろう。そして、その各県に公式マスコットキャラクターがいるのも、なんとなく知っているのではないだろうか。

 

有名なところでは、千葉県のチーバくん、奈良県のせんとくん、鳥取県のトリピー、熊本県のくまモンなどがいる。ちなみに、千葉県のふなっしーは非公式キャラクターなのでご注意を。

 

埼玉県の公式キャラクターは?

埼玉県の公式キャラクターは「コバトン」(もうひとり「さいたまっち」もいるが今回は割愛させていただく)。埼玉県の県鳥かつ越谷市の市の鳥である、シラコバトがモチーフとなっている。

 

実はこのシラコバト、結構貴重な鳩なのだ。なんせ、天然記念物に指定されているくらいだ。

 

ほぼ埼玉県にしかいないシラコバト

となりのハト 身近な生きものの知られざる世界』(柴田 佳秀・著/山と溪谷社・刊)によれば、シラコバトは以下のような鳩だ。

 

シラコバトは、尾羽が長くすらっとしたスタイルのエレガントなハトで、ドバトよりも一回りは小さく見える。

(『となりのハト 身近な生きものの知られざる世界』より引用)

 

実際に画像を見てみると、いわゆるその辺で見る鳩(ドバト)に比べると淡いクリーム色でスリムな印象。エレガントさは確かにあるなぁという感じだ。

 

実はこのシラコバト、日本では埼玉県を中心とした関東のごく一部にしか生息していない。しかも第二次世界大戦後の乱獲が原因で、絶滅寸前となったことで1956年に国の天然記念物に指定されている。結構希少な鳩なのだ。

 

江戸時代にやってきた外来種

国の天然記念物という希少な鳩なのだが、実は日本固有の種ではなく、外来種。元々はインド、ミャンマー、中国西部に分布している。では、なぜ日本にやってきたのだろうか。

 

じつはシラコバト、江戸時代に人為的に放されたという説が有力である。(中略)江戸時代にシラコバトを放した一番の目的は、鷹狩り用の獲物といわれている。

(『となりのハト 身近な生きものの知られざる世界』より引用)

 

江戸時代は鷹狩りがブームで、徳川将軍家や紀伊徳川家の御猟場が埼玉県東部から千葉県にかけてあった。そこに輸入したシラコバトを放したため、関東のごく一部にしか生息していないのだろう。

 

江戸時代は将軍家に寵愛されていたシラコバトだが、明治時代になると庶民にも狩猟が解禁され、シラコバトが乱獲されたため、その生息数は激減。1948年には60羽まで減った。そこで国の天然記念物に指定されたという経緯がある。

 

外来種だけど天然記念物

外来種は、基本的には日本の生態系を崩すために駆除対象であったりするが、なぜシラコバトは天然記念物に指定されたのだろうか。

 

天然記念物の指定基準には、「家畜以外の動物で海外より我が国に移植され現時野生の状態にある著名なもの」というのがあり、まさにシラコバトはその要件を満たしているのである。

(『となりのハト 身近な生きものの知られざる世界』より引用)

 

つまり、当時は外国の珍しい生きものが日本に定着したので大事にしようという風潮があったのだ。そのおかげで1982年には推定1万羽まで増え、2002年にはJRの駅構内に7つも巣が確認できるくらいになっていた。しかし、2019年にはたった38羽まで減ってしまった。

 

コバトンはシラコバトの未来を背負っている(?)

その原因は鳥インフルエンザ。シラコバトは養鶏場のニワトリの飼料を主な餌としていたのだが、鳥インフルエンザの流行で鶏舎を完全に外界からブロックしたために、シラコバトが餌を充分に採れなくなったのだ。そのほか、鶏舎の地方への移転や、天敵であるオオタカが市街地で増えたことも要因とされている。

 

もしかしたら、コバトンは日本で最後のシラコバトになる可能性もある。そう考えるとコバトンを大事にしなければならない。日本におけるシラコバトの象徴として、末永く頑張っていただきたい。

 

ちなみに、シラコバトはヨーロッパや北米にもいるので、地球上から今すぐ絶滅するということはなさそうなのでご安心を。

 

 

【書籍紹介】

となりのハト 身近な生きものの知られざる世界

著者:柴田佳秀
発行:山と溪谷社

ハトの世に知られていない豆知識がたくさんつまった、身近な生きものの世界を見る目が変わる一冊! 馬鹿っぽい、汚い、何考えているのかわからない……など、マイナスイメージも多く、時には害鳥として駆除もされる身近な鳥、ハト。そんなハトには、知られざる驚きの能力と、人との深いつながりがあった。

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空港で働くグランドスタッフの秘密の話! フライトキャンセルでてんてこ舞い!? 空港をヒールで大爆走!?~注目の新書紹介~

年末年始、帰省や家族旅行などで久々に飛行機を利用したという人も多いのではないでしょうか。私はいまだに飛行機に乗るというだけでもワクワクします。車で行ったらおよそ20時間かかる東京・札幌間が飛行機なら1時間半! まさに時空を歪めるワープ装置。そして、そのワープ装置が並んでいる空港についた時点でテンションアップ。空港って近未来の秘密基地みたいと思うのは私だけ……!?

 

 

羽田の元グランドスタッフが仕事を語る

 

さて、今回の新書は空港のカウンターやゲートで働くグランドスタッフの裏側を紹介する知られざる空港のプロフェッショナル グランドスタッフの舞台裏』(佐野倫子・著/交通新聞社新書)。著者の佐野 倫子さんは、JALの元グランドスタッフ(羽田空港勤務)。その後、空港業界就職誌『月刊エアステージ』の編集を経てフリーとなり、現在は小説家&エディターとして活躍しています。著作に小説『天現寺ウォーズ』などがあります。

グランドスタッフが震え上がる言葉とは?

第1章「宿命の対決!? キャビンアテンダントVSグランドスタッフ」では、乗客が接する機会が多いキャビンアテンダントとグランドスタッフを比較していきます。制服&ヘアメイクはどう違う? 給与はどうなっている? それぞれの特徴がよくわかります。

 

本書のメインディッシュとも言えるのは、グランドスタッフの実体験が盛り込まれた第2章「実録! グランドスタッフ現場別レポート」と第3章「ここだけのお客さま&グランドスタッフ(秘)エピソード」。グランドスタッフの4つのメイン業務「カウンター業務」「ゲート業務」「アライバル業務」「コントロール業務」で起きがちなトラブルが明かされていきます。

 

いかにも大変そうなのは、悪天候や整備の不具合などで飛行機が運行しなくなったフライトキャンセル時のカウンター業務。“フライトキャンセル”という言葉ほどグランドスタッフを震え上がらせるものはない、と佐野さんは言います。

 

当日フライトキャンセルになってしまった場合、そのことを知らずに窓口に来た人やなんとかしてほしいと訴える人に対応するのが仕事。他社便も含めて代替案を検討し、長時間に及ぶ場合はミールクーポンやホテルの予約なども提案します。大雪で欠航が長引き、イライラが募ったお客様が騒動を起こす……なんて事態も。

 

全員分のホテルは確保できるのか? 上役である責任者に聞いてからアナウンスすべきか? はじめのころは目の前の状況に必死だった佐野さんですが、何度か経験するうちに、もっとも大切なのは「迅速に、何度も最新情報をお客様と共有すること」だと気づいたとか。

 

ほかにも、遅刻してしまったお客様の荷物を担いで一緒にダッシュしたり、「飛行機の遅れで損失が出た」と補填を迫るお客様に対応したりと細かいトラブルは日常茶飯事。今何が起きているのかを推理して、機転を利かせて迅速にサポートする……。名探偵と現場の刑事をかけ合わせたような働きぶりです。

 

第4章「空港で働くプロフェッショナルたち」では、グランドスタッフ以外の、運航を支援する「グランドハンドリングスタッフ」や飛行ルートを決定する「ディスパッチャー」などの職業にも触れられています。多くの人々のチームプレイによって、安全に飛行機が運航されていることがわかります。

 

空港での恋愛事情も含めて、ざっくばらんに明かされる仕事の裏側は、まるで友達の打ち明け話を聞いているかのよう。読み味は軽めですが、安全第一と臨機応変が求められるグランドスタッフの矜持は、多くのビジネスパーソンにとって共感できるはず。いつかお仕事ものとしてドラマ化されそうなエピソードも多数。空港であれこれ想像が膨らむ一冊です。

 

【書籍紹介】

知られざる空港のプロフェッショナル グランドスタッフの舞台裏

著:佐野 倫子
発行:交通新聞社

世界のすばらしい空港ランキング世界2位(2022年)、定時出発率世界1位(2021年)など、安全性・快適性で世界的に高く評価されている羽田空港。その裏には、空港を支える多くのプロフェッショナルがいます。本書は乗客にとって空港でもっとも身近な職種、グランドスタッフを中心に、空港のさまざまな職種を元グランドスタッフが執筆。仕事のリアルな舞台裏や驚きの接客術はもちろん、アフターコロナで需要が高まる航空業界を目指す人へのアドバイスやマル秘プライベートなど、経験豊富な著者ならではのリアルな視点で紹介します。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

AKB48選抜総選挙の原点は戦前のカフェにあった!?−−『カフェと日本人』

近年、日本で話題になっているのが、コンセプトカフェ(コンカフェ)。メイド系を皮切りに、コスプレ系、ナース系、男装系などさまざまなバリエーションがあり、女性向けのコンカフェも人気です。そしてこうした形態は、実は戦前の日本にもあったのです。

 

コンカフェという営業形態

筆者も女性向けコンカフェに何度も足を踏み入れたことがあるひとりです。江戸時代や学園など、統一された世界観の中、制服を身にまとったスタイルのいい男性スタッフが料理を運んできてくれるお店の楽しさは、彼らと会話を交わすことができるところ。

 

ホストクラブと大きく違うのは、席について接客はしないということと、指名料がないということ。また、メニューもオムライスやジュースなど、見かけも値段も可愛いものがほとんどなので、気軽に訪れることができます。

 

カフェと女給

カフェと日本人』(高井尚之・著/講談社・刊)によると、明治のころから若い女性スタッフが飲み物を運んでくることを売りにしていた店があり、それを目当てに通う男性客もいたそうです。そこで働く女性は「女給」と呼ばれていました。

 

有名なのは大正時代に銀座にあった「カフェー・ライオン」や「カフェー・タイガー」などです。和服に白いエプロンを付けた女性たちのお給仕が話題になり、永井荷風ら文人も多く通っていたことでも知られています。

 

昭和初期には新宿にもカフェが出来、「容姿端麗なウェイトレスを揃えて学生に人気の店もあった」と書かれています。お目当ての女性と少しでもやり取りしたくて足繁く通う男性の気持ちは、コンカフェのスタッフとお話をしたい令和の客と通じるところがある気がします。

 

人気投票を行う店も

本書には、銀座の「カフェー・タイガー」の営業形態について詳しく書かれていますが、それがどこかで見たようなもので、驚きました。女給を赤組・紫組・青組の3チームに分け、チームごとに売上を競わせていたというのです。そして女給の人気投票があり、その投票券はビールを1瓶飲むと得ることができたのだとか。

 

なんと作家の菊池寛もひいきの女給のために「150票を投じて、見事タイガーのナンバーワンにした」のだとか。現代のお金の価値に換算すると13万5000円になるそうです。このチーム制にして人気投票を行うというやり方は、現代のアイドル商法とそっくりです。

 

色分けの商法

面白いのは、この時代にも色分けがされていたことです。現代のアイドルや地下アイドルも、ひとりひとりにテーマカラーが設定されていることが多く、ファンは自分が応援するタレントのカラーをペンライトで灯して振っています(今どきのペンライトは何色も切り替えることができてとても便利なのです)。

 

また、ビール1瓶で投票券1枚というのも、CD1枚買うと投票券1枚が得られるという今どきのアイドル総選挙のシステムと良く似ています。ただし、この総選挙、本家とも言われるAKB48では2018年を最後に行われなくなりました。10年連続で行い、一区切りついたと言うのが理由とのことです。

 

アイドルとカフェ

人気投票があったということですから、大正時代のカフェは、会いに行けるアイドルに近い感覚があったのかもしれません。現代のコンカフェはどうかというと、カフェスタッフがライブを行ったり、一緒にチェキを撮影してくれるお店もあるので、やはりアイドル的な部分があると感じます。

 

近年、AKB48は、配信のポイントで選抜メンバーを決める「SHOWROOM選抜」を導入しています。アイドルもネットでの発信力が必要な状況になったようです。未来のカフェも、ネットと絡んでいく可能性はあるのでしょうか。アニメ風の絵柄のヴァーチャル店員さんが登場する日も、近いのかもしれません。

 

 

【書籍紹介】

カフェと日本人

著者:高井尚之
発行:講談社

“日本初”の喫茶店から、欲望に応えてきた「特殊喫茶」、スタバ、いま話題の「サードウェーブ」までの変遷をたどった、日本のカフェ文化論。

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DIYで暮らしに火を取り入れよう!1/7発売の『dopa(ドゥーパ!)』152号の中身はちょろっと公開!

DIYライフマガジン『dopa(ドゥーパ!)』2023年2月号が、1月7日(土)に発売!

特集は「ストーブ・囲炉裏・焚き火」「チェンソーワークガイド」の2本立てです。

 

 

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特集は「DIYで愉しむ ストーブ・囲炉裏・焚き火」

今号のdopaでは、DIY的ファイヤーライフを実現する3種の神器「ストーブ、囲炉裏、焚き火場」をフィーチャー。それぞれの魅力を掘り下げつつ、火のある暮らしの住、食、遊を発信。自身のシチュエーションやニーズに合わせ、ぜひ暮らしに炎を取り入れてください。

Section 1 蓄熱ストーブがアツい!

特集の冒頭を飾るのは手作りストーブ。それもメイスンリーヒーター、ペチカ、ロケットマスヒーターといった“蓄熱ストーブ”を徹底解剖。高い燃焼効率とその巨大な質量で、エネルギーをロスすることなくキープ。そんなクリーンで高燃費な蓄熱式暖房の構造と魅力に迫る!

Section 2 囲炉裏の真価を発揮せよ!

東屋の床を切ったセミオープンな囲炉裏小屋、土間囲炉裏、ガレージの囲炉裏テーブルなどバラエティあふれる囲炉裏実例を皮切りに、達人が教える囲炉裏使いこなし術やコラムなど、囲炉裏と火遊びの情報が満載! 編集部の作るユニークな“土囲炉裏”作りのリポートも。これを読めば、あなたもイロリストの仲間入り。

Section 3 十人十色の焚き火場作り

焚き火の持つ解放的で野性的な炎は、ストーブや囲炉裏では味わえない。庭やプライベートフィールドで、思い立ったときに裸火と戯れる自由と快感を、魅力的な7つの常設型ファイヤーピットから紹介する。

第2特集 薪作りのためのチェンソーワークガイド

ストーブや焚き火といった火遊びはもちろん、開拓遊びを楽しむためにチェンソーを使いこなしたい。でも、なんだか危険そうだし、ちょっとハードルが高い……。本特集は、そんなビギナーでも思う存分、チェンソーが楽しめる知識やテクニックが満載! チェンソーの仕組みや選び方をはじめ、始動の準備、エンジンのかけかた、丸太の玉切りから斧を使った薪割りなど、基本のテクニックをていねいに解説。これを読めば、チェンソーなんてこわくない! 特別編として、チェンソーを使った伐木の方法も収録。

バラエティあふれる連載にも注目!

車中泊や旅を楽しむための軽バンカスタム、トリマー&ルーター木工、さらにはレザーソーイングやグリーンウッドワークなど、さまざまなジャンルのもの作りの魅力を個性あふれる作家とともにお届けします。その他、自給自足の田舎暮らしエッセイなど読み物も充実。

ディグる楽しさが満載! 開いたページから聴くだけでも楽しい『日本語ラップ名盤100』

私が高校生のころから20代半ばまでどハマりしていた「日本語ラップ」。ちょうどRIP SLYMEが『FIVE』というアルバムをリリースした2001年のことです。ラップ自体がそんなにメジャーではなかったころに「なんじゃこりゃ!」と衝撃を受けて、日本語ラップを聴き漁り、雑誌を読み漁り、ハマっておりました。

 

それから20年近く経ち、スマホと電波があれば好きな音楽が聴けるようになりました。30代になってから、音楽そのものを聴く機会が減ってしまい、ライブに行く機会もどんどん減少……。そんな時、手に取ったのが『日本語ラップ名盤100』(韻踏み夫・著/イースト・プレス・刊)。懐かしい気持ちと共に、私が音楽から離れていた間、日本語ラップはこんなに進化していたのか! と感慨深い気持ちになったのでした。

日本語ラップって何?

「日本語ラップ」と聞いてどんな音楽が思い浮かぶでしょうか? アラフォー世代なら、ポンキッキーズのBOSEくんが所属していたスチャダラパーとか、「DA.YO.NE」あたりを思い浮かべるかもしれません。20代なら結婚発表でも話題のR-指定さんが所属するCreepy NutsやMCバトルでしょうか? 日本語ラップと聞くと最近の音楽のように感じるかもしれませんが、日本では35年近く前から発売されていた音楽なんです。

 

アメリカのヒップホップについての歴史書ならば、すでに多くの優れた本が出版されている。しかしながら、日本のヒップホップ、すなわち「日本語ラップ」についての言葉はいまだにまったく足りていないというのが現状である。そこで、日本語ラップとはなにかを知りたい新しいリスナーたちのために、入門書として書かれたのが本書だ。

(『日本語ラップ名盤100』より引用)

 

『日本語ラップ名盤100』では、1987〜1999年、2000〜2004年、2005〜2009年、2010年以降と4つのブロックにわかれて、日本語ラップの名盤が100枚紹介されています。さらに関連するアルバムが各2枚ずつ紹介されているので、1冊で300枚もの日本語ラップの楽曲を知ることができます。

 

「日本語ラップってイマイチよくわかっていないんだよな〜」という人は、これを読めばOK! もちろん、昔は聴いていたという人、最近聴き始めたなんて人にもぴったりな内容になっています。

 

個人的に一番アツかった2000〜2004年

個人的におすすめな『日本語ラップ名盤100』の使い方は2つあります。

 

1つは自分の知っている楽曲のレビューを読み、懐かしく感じながら聴き直すこと。もう1つは知らない楽曲をサブスクやレコード店で探して聴いてみること。いずれも、韻踏み夫さんの解説文と一緒に楽曲を楽しむのがおすすめです。

 

300枚紹介されているとはいえ、日本語ラップすべてのアルバムが掲載されているわけではありません。この300枚をきっかけに、日本語ラップの世界にどっぷりハマっていきましょう。

 

ちなみに、個人的に一番アツい時代は2000〜2004年なのですが、この年代でめっちゃ聴いたアルバムも紹介させてください!

 

今や国民的アーティストとして人気のAIさんですが、実はゴリゴリのヒップホップシンガーとしてデビューしていました。当時、日本のDefJamレコードから登場したAIさんは上下adidasのジャージに身を包み、日本版のミッシー・エリオットじゃん! なんて大興奮(笑)。ラップよりもR&Bに近い楽曲が多いですが、DABOやZEEBRAの弟ことSPHERE of INFLUENCEともコラボしている『ORIGINAL A.I.』(2003年)は、めっちゃ聴いていました。いきなり、日本語ラップだけ聴くのは……と敷居が高いと感じているのなら、知っているアーティストの昔のアルバムからさかのぼってみると、新たな魅力に気づけるかもしれませんよ!

 

100枚目に紹介されているAwich

この本は、2022年9月に発売されているため、本が出版される直前までのレビューが掲載されています。ラスト100枚目に紹介されているのが、Awichでした。

 

沖縄出身の彼女は、留学のためアトランタへわたり、その地で結婚する。夫は、ファイブ・パーセンターズ(ヒップヒップにもその教義が大きな影響を与えている団体)に属していたストリートの人間だったそうだが、殺害されてしまう。そののち娘とともに日本に帰国。Chaki ZuluやJNKMNらが所属する、YENTOWNに入った。

(『日本語ラップ名盤100』より引用)

 

そんなAwichですが、2022年には初となる日本武道館でのライブも成功させ、2023年も大注目なラッパーのひとり。まだ楽曲を聴いたことがない人は、ぜひ『日本語ラップ名盤100』と共にチェックしてみてくださいね!

 

今後、101枚目となる名盤はどんなアーティストが作っていくのか、未来が楽しみになりますよね。私も知らない名盤を聴き直しつつ、高校生のころの情熱を思い出して、また日本語ラップをいっぱい聴いてみよう! そんな気持ちになることができました。「何聴こうかな〜」と音楽に迷っている人にもおすすめの一冊ですよ。

 

【書籍情報】

日本語ラップ名盤100

著者:韻踏み夫
発行:イースト・プレス

気鋭の批評家が未来のヘッズに向け、日本語ラップの名盤100枚(+関連盤200枚)をレビュー。

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疲労のもとはカラダではなく「脳」だった! 真に有効な疲労対策がわかる『すべての疲労は脳が原因』

高校のとき、何かというと、「だるいな〜」と、ぼやく男の子がいました。授業が始まるときや終わったとき、お弁当の時間ですら、彼は「だるいな〜」と言うのです。その声を聞くと、だるさが伝染してきて、私まで「本当、なんかだるいよね」と、相づちを打ちながら、椅子の背にもたれかかりたくなるのでした。

 

疲れとは何か?

だるいとはいったい何なのでしょう。疲れているとはどんな状態を指すのでしょうか? 改めて考えてみると、自分でもよくわかっていないことに気づきます。それが知りたくて『すべての疲労は脳が原因』(梶本修身/集英社・刊)を読みました。著者の梶本修身は、大阪市立大学大学院の疲労医学講座の特任教授をつとめる疲労の専門家です。現在は、「東京疲労・睡眠クリニック」を開設し、疲労に悩む患者さんの治療にあたっています。

 

日本は「疲労大国」と言われています。日本人の約60パーセントの人が何らかの疲れを感じ、悩んでいるそうです。それなのに、疲労の原因や科学的なメカニズムについては、よくわかりません。私も「あぁ、疲れた」と、年がら年中、呟くくせに、どこかどう疲れているのか、よくわかっていないのです。

 

さらに、疲労を回復するために何をしたらよいのかはっきりしません。私の場合は、せいぜいで栄養ドリンクを飲むくらいです。『すべての疲労は脳が原因』のなかに、次のような記述があります。

 

あなたは次のような疲労回復説を耳にしたことはありませんか。

・運動でストレスを発散すると疲れもすっきりとれる
・ニンニク料理、ウナギ、焼き肉、栄養ドリンクで疲れは軽減する
・休日に人気の温泉地でたっぷりお風呂に入って、疲れをとる
・残業の疲れは、楽しくお酒を飲めばリセットできる

(『すべての疲労は脳が原因』より抜粋)

 

4つとも、私が疲労回復に役立つと、今の今まで信じていたことでした。ところが……。

 

これらは科学的な根拠に裏打ちされているものではないといいます。それどころか、疲労を悪化させるリスクのほうが高いというのです。だとすると、疲れを何とかしようと、無理に運動したり、うなぎを奮発したりしていたのは、意味がなかったことになります。確かに、どんなに運動しても、精のつくものを食べても、疲労困憊の状態のままでいた日が多かったような気がしてなりません。

 

過労死するのは人間だけ

『すべての疲労は脳が原因』によって、私がこれまで思っていた疲労についての知識は、どれも間違いだったと知りました。これまでの私は、疲労とは体全体に疲労物質となる乳酸がたまり、体を重くしているのだと理解していました。ところが、疲労が起こるのはおもに自律神経の中枢であり、その疲労を自覚するのは眼窩前頭野と呼ばれる部分だといいます。つまり、疲労とは脳が疲れている状態をいうのだと自覚しなければなりません。

 

それだけでも目からウロコでしたが、もうひとつ、驚いたことがあります。それは「過労死するのは人間だけ」ということです。人間は他の動物にはみられないほど前頭葉が発達しています。それはそれで、人間を人間たらしめる要素となっていますが、あまりにも大きくなりすぎたため、眼窩前頭野が疲労感を消してしまうというのです。つまり、疲れているのに、疲れを感じることなく働き続け、結果的に、死ぬまで働き、過労死につながるというのですから、恐ろしい話です。

 

確かに、過労死する動物はいません。動物はくたびれると休みます。うちの猫にしても、食べるとすぐに寝てしまいます。おそらく疲労のサインを見逃すことがないのでしょう。疲れたら寝て、起きたら、食べ、また寝るを繰り返しています。それなのに、私たちは疲れていても、「もう1軒行こう!」の言葉に抗うことなくついて行き、けっこう楽しく過ごしたりします。残業続きでも、仕事をこなす達成感を快いとさえ感じて、働き続けます。そして、時には重篤な疲れのサインを見逃してしまうのです。

 

インターネットも脳を疲れさせる

さらには、インターネットの普及も、ヒトの脳を疲労させます。

 

デスクでパソコンを使い続けるなどの作業を長時間行っていると、脳のある一定の神経回路に負荷が集中することになります。(中略)脳のひとつの神経回路をくり返し使っているとその部分の神経細胞が「酸化ストレス」により疲弊することがわかっています

(『すべての疲労は脳が原因』より抜粋)

 

なるほど、確かに。原稿がうまく進んでいるときは、長時間、パソコンに向かっていても、脳が活性化しているような気分になり、快感を覚えます。時には、やめたくてもやめられないといった状態になることもあります。ところが度を超すと、いわく言いがたい疲労感を覚え、挙げ句の果てに夜眠れなくなったりします。それもこれも、脳が疲労したからこそ起きることだったのでしょう。

 

『すべての疲労は脳が原因』は、疲労回復についての間違った情報を検証し、最新科学で解き明かされる疲労の原因と実態、そして正しい回復法について、詳しく説明してくれます。もし、あなたが「あぁ、疲れた」とげっそりしていたら、この本を思い出して、適切な対処をしていただけたらと思います。

 

私たち日本人は、疲労していながら疲労について知識のない国民です。ましてや、長引くコロナ禍のもとでの毎日。くたびれて当然です。過労死する前に、今一度、自分の生活を見直し、脳疲労を抑えなくてはなりません。時には猫を見習って、ひたすらゴロゴロする一日を送ってもいいはずです。私たちは幸福になるために生まれてきたのですから。

 

【書籍紹介】

すべての疲労は脳が原因

疲労回復物質の存在が明らかになって以来、疲労に関する科学的調査が進んでいる。その結果、私たちが日常的に使う「体が疲れている」とは、実は「脳の疲労」にほかならないことがわかった。疲労のメカニズムとは何か、最新のエビデンスをもとに解説する。また、真に有効な疲労対策や乳酸、活性酸素、紫外線、睡眠との関係なども明らかにし、疲労解消の実践術を提示する。

著者:梶本修身
発行:集英社

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伊集院静が書いた愛犬との出逢いと別れ−−『君のいた時間』

君のいた時間 大人の流儀Special』(伊集院静・著/講談社・刊)は、累計228万部の国民的ベストセラー『大人の流儀』シリーズの最新刊。伊集院氏と彼の愛犬ノボとの出逢い、共に過ごしたかけがえのない日々、そして別離までを綴った珠玉のエッセイだ。家族の一員だったペットとの別れはとても辛い、私自身も愛犬を見送って5年も経ったが、今でも時々ふっと思い出しては目頭が熱くなってしまうのだ。本書は、そんなペットロスに苦しむ人に向けて書かれたものだ。

ペットのことを書くのは辛い作業

伊集院氏を以ってしても愛犬のことを書くのはかなり辛い作業だったようだ。たとえば前書きだけでも十回以上書き直したという。

 

あれほど好きだった犬のことをスラスラ書けるわけがない。担当者にも尋ねたが、犬のことを書いて欲しいという人は、まず犬も猫も飼っていないし、飼った経験がない。書きはじめたが、まったくうまくいかない。−−ほらみろ、日々、共に暮らし、無言で自分に愛情を示してくれていた存在をた易く書けるはずがない。書ける者がいたら、詐欺師である。

(『君のいた時間』から引用)

 

筆が進まず、腹が立ち、出版社の申し出を受けたことを後悔し、そして何度も投げ出したくなったと記している。それでも自身を奮い立たせ書き上げたのは、奥様のひと言があったからだそうだ。

 

「どれだけあの子たちが、けなげで、頑張って生きたか、あなたの筆で書いて下さい」そう言われて応えようがなかった。

(『君のいた時間』から引用)

 

伊集院氏によくなついていたノボ、そして兄貴犬のアイスとも看取ったのは奥様で、「息を引き取りました」と両手に愛犬を抱えて報告に来たのだという。その胸中はいかばかりだったのであろう? その彼女が本を書き上げることを望んでいたのだ。

 

東北一のバカ犬、ノボのこと

伊集院氏が「東北一のバカ犬」と愛情を込めて呼ぶ犬は、ペットショップで最後まで売れ残っていたブサイクなミニチュアダックスだった。伊集院家には、すでに同種のアイスと名付けた犬がいたが、奥様がその一匹にかまい過ぎるので、いつか来る別れを心配し、もう一匹を飼うよう命じたのだそうだ。

 

最後まで売れ残っている犬が一匹いると言われた。「それがいい。そいつを連れて来なさい」それがノボで、今や東北一のバカ犬である。この犬がある時から異様に私になつきはじめた。何のことはない家人に内緒で何度か餌をやったためだ。

(『君のいた時間』から引用)

 

犬の本名はノボル、正岡子規の幼名から取ったのだという。ちなみに子規に似ているところはひとつのことに夢中になると、そればっかりやり続けるところ、だそうだ。

 

ノボが彼らの元にやってきて6か月目にはパラボウィルスに感染し、大量の血を吐き、一時は医師からはほぼダメと言われたものの、自力で生き延びたという過去もある。さらりと文章にしているが、飼い主としてどれほど心配したことだろう。

 

ミニチュアダックスたちとのかけがえのない時間

アイスとノボ、そして彼らの家のお手伝いさんの飼い犬で同種のラルクもいた。3匹はいつも一緒に散歩をし、幸せな日々を送っていた。大病を克服したノボも、以後は元気でさまざまなダメぶりを発揮しつつ、家族を笑顔にしていた様子が読んでいると伝わってくる。

 

が、しかし犬が飼い主と過ごせる時間はあまりにも短い。彼らは人間の6倍のスピードで老いていってしまうのだから。やがてアイスが先に天に召されていった。奥様のあまりの悲しみに伊集院氏はもう一匹飼ったらどうかと提案したが、彼女は決して首をたてに振らなかったという。

 

その理由が、夜半ロウソクの灯りの中で揺れているアイスの写真でわかる。家人は今でも、早朝、アイスの夢を見て涙目で目覚めるらしい。どんな家にも、どんな暮らしにも、かけがえのない時間というものがある。今は記憶の中にしか存在しないように思えても、それは生あるものが懸命に生きていた証である。

(『君のいた時間』から引用)

 

そうしてラルクも旅立ち、老犬となったノボ一匹が残った。

 

悲しみは、ふいにやって来る

やんちゃだったノボも年をとり、ちょっとした段差を登れなくなったり、昼も夜も寝ている時間が増える。老犬とはそういうものだ。そして、ノボも天命をまっとうする日が来た。17歳半だったそうだ。子犬の時に致死率95%の病を克服し、さらには東日本大震災をも生き抜いたのだから、長生きしたといえる。伊集院氏は冷たくなってしまったノボと一晩いっしょに寝たそうだ。

 

どんなに愛犬が長生きしたとはいえ、いなくなってしまった悲しみはふいにやって来るものだ。

 

不思議なことだが、悲しみ、もしくは悲しみの記憶は、ふいに、その当人に近づき、背後から全身を抱擁するかのようにやって来る。この一文が意味するものが、何のことかよくわからない、とおっしゃる人はしあわせな人である。

(『君のいた時間』から引用)

 

悲しみを癒してくれるのは時間の経過でしかないが、それでも、いつまでも悲しみを忘れられない人のほうが多い。伊集院氏は、人間とはそういう生きものであり、人生とは悲しみと、必ず遭遇するものである、と結んでいる。

 

現在、伊集院家には、アルボという美しい猫がいる。アイス、ラルク、ノボから一文字ずつとって名付けたのだそうだ。

 

いやはやアルボの美人なこと……。

(『君のいた時間』から引用)

 

家族の一員として、新たなペットを迎えること。それが悲しみを乗り越え、笑顔を取り戻す唯一の方法なのかもしれない。

 

新しい年を迎え、今年こそ犬や猫を飼おうと思っている人、現在、愛犬や愛猫と暮らしている人、そして愛した犬や猫を見送った悲しみから立ち直れない人……など、ペットを愛するすべての人に読んでほしい一冊だ。

 

【書籍紹介】

君のいた時間 大人の流儀Special

著者:伊集院静
発行:講談社

愛するペットを失ったすべての人へ送る珠玉のエッセイ集。

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よだれが出るほど中華料理を堪能できる1冊『中華一筋のべっぴん絶品料理』

2022年は、町中華やガチ中華など中華料理にフォーカスされた1年でしたよね。コロナ禍によって自宅でも本格的な中華料理を楽しんでいる人もいるかもしれません。

 

今回は『中華一筋のべっぴん絶品料理』(鈴木邦彦・著/大和書房・刊)をご紹介します。この本は、従来のレシピ本のように「家庭でも簡単に作れます」という感じでなく、お店じゃないと食べられないような中華料理も紹介されています。今まであるようでなかった、読んでいるだけでも楽しめる料理本です。

 

読んだだけでウマい本とは?

一般的なレシピ本や料理本は、誰もがご家庭で簡単に作ることができる……そんな内容になっているかと思います。しかしこの『中華一筋のべっぴん絶品料理』はちょっと違います。自分では作れないけれど、読んでいるだけで満足! そんな気持ちにさせられてしまう本なのです。

 

せっかく本書を開いていただいたのに早々申し訳ありませんが、無理して作ることはおすすめしません(とはいえ、ご家庭で作れるレシピもあります!)。ぜひ「文章の飯テロ」としてお読みいただき、「読んだだけでウマい!」を感じていただき、「読んだだけでお腹が空いて困ったじゃないか!」と叱っていただけたら本望でございます。

(『中華一筋のべっぴん絶品料理』より引用)

 

そう、この本、読んでいるとお腹が空いてくるんです。

 

私も初めて手にしたあと、仕事帰りの電車の中で読んでしまい、めちゃくちゃお腹が空きました。夕飯は中華料理になったのは言うまでもありません(笑)。『中華一筋のべっぴん絶品料理』には、50種類のレシピが紹介されているのですが、どれもまぁ〜美味しそうなものばかり! どのページを開いても、よだれが出てきちゃいますよ!

 

中華料理の人気メニュー「回鍋肉」のトリビア

本の中には、中華料理の人気メニュー「回鍋肉」も登場するのですが、ソーセージで作ってみたり、チャーハンにしてみたり、知らなかった回鍋肉の魅力を深掘りできます。実はこの回鍋肉、ガチ中華から言わせるとちょっと違う食べ物なのだとか。

 

日本で一般的に食べられている回鍋肉は、故陳建民氏が日本で手に入る食材で、日本人でも美味しく食べられるようにとアレンジを施した回鍋肉なんです。

(『中華一筋のべっぴん絶品料理』より引用)

 

陳建民さんは、料理の鉄人こと陳建一さんのお父さん! 日本では当たり前にピーマンやキャベツが入っていますが、本場の回鍋肉は見た目も味も違うそう。日本人からするとあの回鍋肉以外の回鍋肉を想像するのが難しいですが(笑)、豆知識として知っておけると、中華料理屋さんでトリビア披露できるかもしれせんね。

 

また読みたくなる、記憶に残る料理本

レシピ本って、一度レシピを覚えてしまえば「また本を開く」という行為がなくなってしまうのですが、この『中華一筋のべっぴん絶品料理』は何度も読みたくなる、読み返したくなる文章なのも魅力です。例えば、小籠包の「つくり方」はこんな一文から始まります。

 

「小籠包のつくり方を493文字以内でお願いします」と編集の方に言われました。嘘でしょ。料理工程多いのに……。そんなことを言っているうちにもう70文字を越えてしまいました。ヤバい。

(『中華一筋のべっぴん絶品料理』より引用)

 

今までこんな料理本あったでしょうか?(笑) とてもカジュアルに本格料理のレシピを知ることができるので、記憶の中にも残りやすく、また読みたいと思えるんですよね。

 

他にも、セクシーな豚足の蒸し煮込みや、まかないガールズこと女性スタッフのゆったんが作る大根漬け、読むだけでよだれが止まらなくなるよだれ鶏など、魅力的な料理が紹介されています。

 

普段料理をする人は参考になる知識が満載ですし、食べる専門の人もその一口に辿り着くまでにどんな工程があるのか面白おかしく知ることができます。ぜひ文字からおいしさを体感してみてくださいね!

 

【書籍情報】

中華一筋のべっぴん絶品料理

著者:鈴木邦彦
発行:大和書房

本書は、時に面白く、時にわかりやすく、ちょっぴりキモい、中華料理のプロ集団『中華一筋』によるマジウマい「文章の飯テロ」。読むだけで、腹が減り、読むだけで、腕が上がる、画期的な中華料理本です。

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異世界転生の極北から国民的作家の評論まで—— 歴史小説家が今年紹介しそびれた「面白本」5冊

毎日Twitterで読んだ本の短評をあげ続け、読書量は年間1000冊を超える、新進の歴史小説家・谷津矢車さん。今回は「選書しそびれていた面白本」。新書から、小説、マンガ、異世界転生ものまで、気になった一冊とともに正月休みを過ごしてはいかがでしょう?

 

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2022年も残すところ20日といったところである(執筆当時)。皆さんはいかがお過ごしだろうか。かくいうわたしは仕事がしっちゃかめっちゃかである。関係各所が正月休みに稼働できない分、そのしわ寄せが年末に来るのは作家も同じこと、特に年をまたぐ仕事の場合、なんとなく「年末までに提出してくださいね」と指定が入る場合が多い。わたしもこの原稿に当たりつつ、今年は年越しそばをのんびり食べる時間はあるかしらと心配している今日この頃である。師走の寒空の下、必死で働いている皆様にエールを送りたい。

 

年末といえば、「ベスト」企画が目白押しである。各小説系雑誌でもそうした企画が打たれているのをご覧になった方も多かろうと思う。というわけで、今月は2022年のベスト本をご紹介……といくのが正しい姿勢なのだが、残念なことにわたしはへそ曲がりである(そもそも作家であるわたしに素直さなんて期待しないでいただきたい)。

 

というわけで今回の選書テーマは、「谷津が選書しそびれていた面白本」である。選書の仕事をしていると、選書テーマの兼ね合いで、紹介したいのだけどできない本が出てくるものなのだ。というわけで、お付き合い願いたい。

 

「弔う」という行為を想う

まずご紹介するのはエッセイから。『親父の納棺』(柳瀬博一・著/幻冬舎・刊)である。東京の幹線道路である国道16号線を主軸にした首都圏の都市論、文明論『国道16号線「日本」を創った道』(新潮社・刊)で知られる著者の第2作目としてはやや意外の感があるエッセイで、著者の父親がコロナ禍の真っ只中で死に、その最中、派遣されてやってきた納棺師との対話の中で、父親のエンゼルケア(死化粧や湯灌、遺体の身だしなみといったケア全般のこと)に向かい合うことになる体験記である。

 

本書のキーワードは何と言ってもコロナ禍である。コロナ禍によって、一般的な会葬形式での弔いが難しくなっている中、むしろそのような特異な状況だからこそ、故人と著者、家族が向き合い、静謐な時間の中での弔いになったように感じる。また、本書を読むと、納棺師という生業がわたしたちのイメージと乖離している部分があることを教えてくれるし、家族の弔いの意味、そもそも、「弔う」という行ないについて思いを致すきっかけになるだろう。

 

普段、歴史時代小説を読まない人にこそ読んで欲しい

次は小説から『しろがねの葉』(千早茜・著/新潮社・刊)をご紹介。戦国時代末期から江戸時代初期にかけての石見銀山を舞台にした歴史時代小説であるが、本作はよい意味で歴史時代小説の〝磁場〟から自由である。本作において、時代小説的な人情や、歴史小説的な〝大文字の歴史〟は前面に出されることはない。本書が描き出すものは、主人公ウメの偏狭で過酷な生であり、そのように生きるように強いられる女という性の苦しみである。

 

才があるのに山に入ることができず男の帰りを待ち、女であるがゆえの理不尽に際することになるウメが、時代のうねりに押し流されそうになりながらも何を掴むのかが、本書の白眉であろう。そこに甘いフィクションは存在しない。ただ、力強くうねり、理不尽に立ち向かう人間の力が描かれる。もしかすると、コロナ禍で苦しむ中、それでも強かに生きているわたしたちにも必要な力なのかもしれない。本書は歴史時代小説が好きな方はもちろん、普段女性を主人公にした文芸小説をお読みの方にもお勧めできる懐を有している。普段歴史時代小説を読まない方にこそお読みいただきたい一冊である。

 

大正ロマン漂うラブコメ四コマ漫画

次は漫画から。『ベルと紫太郎』(伊田チヨ子・著/KADOKAWA・刊)である。時は大正、浅草の芝居小屋女優、大沢ベルと、ベルの第一のファンであり恋人でもある財閥三男坊の紫太郎の同棲生活を描いたラブコメ四コマ漫画である。

 

本書の特徴の第一に挙げるべきは、何と言っても大正風俗描写の細やかさだろう。当時の演劇作品や文学作品、大正風俗研究の成果を取り入れつつ、それをネタにした日常系の笑いを提供している。そのことによって、「年頃の男女(しかも社会階級の異なる二人)が同棲している」という大正時代にあっては成立させ難い嘘を読者に呑み込ませることに成功している。また、本作はなんといっても主人公格二人、大沢ベルと紫太郎の人物像がいい。貧乏生活が長かったからか食べ物に対する執着が強く、ズバズバとものを言う江戸っ子的な描写が随所にされているベル。お坊ちゃん育ちのためか紳士が板についていて、ベルと対等な関係を望む紫太郎。これが実にお似合いで、傍から見ていて応援したくなるような二人なのである。大正風俗に乗せて繰り広げられるベルと紫太郎の賑やかな恋路に、皆さんもようこそ。

 

司馬遼太郎は我々に何を与えたのか?

次は新書から、『司馬遼太郎の時代-歴史と大衆教養主義』(福間良明・著/中央公論新社)をご紹介。司馬遼太郎といえば昭和期を代表する小説家であり、現代においても本邦における代表的な小説家の一人として君臨している大作家である。その影響は小説界は元より言論空間にも及ぶ、小説家の枠を遙かに超えた文化人と言えよう。そんな司馬遼太郎を論じているのが本書だが、司馬を論じることで、司馬作品を受容した大衆をこそ描いており、そここそが本書の眼目といっていい。

 

大衆が司馬遼太郎というアイコンに見、彼の作品から受け取ったものを追ううちに、大衆は司馬の小説に含まれていたある要素については見て見ぬ振りをし、ある要素を拡大、前面に出して受容していたと本書は言う。司馬を通じて、昭和期の大衆の知的ニーズの在り方を浮かび上がらせているのである。また本書は、小説家としてはアウトサイダーだった(と規定される)司馬の作家としての在り方や、歴史学からの批判が司馬のイメージをどのように変えたのかにも紙幅を割いている。司馬遼太郎という不世出の小説家、そして一つの時代を創ってしまったアイコンを描き出した、優れた作家評論であるとも言える。

 

異世界転生/異世界転移ものの極北!?

最後にご紹介するのは、『プロレス棚橋弘至と! ビジネス木谷高明の!! 異世界タッグ無双!!!』(津田彷徨・著/星海社・刊)である。もはや説明をしなくても構わなくなったほど、異世界転生/転移ものは様々なメディアで採り上げられるモチーフとなった。それだけに、異世界転生/転移ものは新機軸が次々に発明、実験され、とてつもないスピード感で深化している感もある。そんな状況下で登場した本作は、名前の通り、プロレスラーの棚橋弘至と、ブシロード社長の木谷高明の二人が異世界に転移する物語、という相当攻めたアウトラインを有した一作である。

 

本作の良さは、プロレスラーの棚橋とビジネスマンの木谷の二人が転移することで、本作が魔王討伐の物語と、内政チート(転生、転移者が政治や経済、技術革新に寄与することで、転移先の文明レベルを上げる異世界転生/転移もののサブジャンル)の物語を同時展開していることだろう。しかし何より本書の面白さを支えるのは、作品全体に横溢するプロレス愛だ。実在のプロレスラーを登場させる以上、どうしても本作にはプロレスへの言及が必須になる。本書は異世界に棚橋を持ち込むのと同時に、プロレスのサーガを持ち込み、それが棚橋のファイトスタイルや矜持となって現れ、その熱い魂が他の登場人物に伝播している。プロレス愛によって、本作のコンセプトは貫徹されているのである。

 

 

2022年もお終いである。

皆さんは、今年もよい本に出会えただろうか。本は生活必需品ではない。だが、よい本はあなたの生活にちょっとした潤いを与えてくれるはずである。あるいは、来るべき2023年への活力になる本に出会うことだってあるかもしれない。年末年始は色々と忙しいことだろうが、是非、本のページを繰ってみていただきたい。もしかしたら、2023年のあなたを輝かせる何かが見つかるかもしれない。

皆さんの充実した読書ライフをご祈念して、よいお年を。

 

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【プロフィール】

谷津矢車(やつ・やぐるま)

1986年東京都生まれ。2012年「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞受賞。2013年『洛中洛外画狂伝狩野永徳』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』にて歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。最新刊は『ええじゃないか』(中央公論新社)

野沢直子流・老いてもファッションを楽しむコツ『老いてきたけど、まぁ〜いっか。』

年齢を重ねてくると、どんな服を着たらいいかと迷う人も少なくありません。白髪やシワやシミが増え、老いを感じると、今までと同じようなファッションをすることに抵抗を感じる人もいます。どのようにしたら老いを受け入れ、自分らしくファッションを楽しめるようになれるのでしょうか。

 

老いを明るく受け止める

老いてきたけど、まぁ〜いっか。』(野沢直子・著/ダイヤモンド社・刊)は、もうすぐ還暦を迎える野沢直子さんのエッセイです。そこにはお笑いタレントとして人々を楽しませている彼女が、老いをあるがままに受け入れていく様子が描かれています。

 

といっても、彼女はまだ59歳ですからまだまだお若いとは思うのですが、人生を100年と考えれば、すでに折り返していると感じたそうです。そして、平均寿命的にはあと30年ほどは「見た目も中身も劣化してきた自分」と付き合わなくてはならないという現実を痛感されます。

 

年齢を重ねると、体のあちこちに不調が出てきます。けれど野沢さんは聞いたことがないような病名の症状に見舞われても「ネーミングセンスが酷すぎる」などと突っ込んだりして、明るく受け止めています。普段と変わらぬノリで自分の状態を受け入れていこうとされているところがとても素敵です。

 

服装や髪型を明るくする

エッセイには、野沢さん流の老いを味わいつつ暮らす様子が書かれています。なかでも「なるほど」を連発したのが、ファッションに対する考えかた。以前からビタミンカラーの髪色や個性的なデザインの服が多い印象でしたが、老いを迎えた際にそれが役に立っているようです。

 

野沢さんは髪をブリーチして、オレンジなどの色を入れていますが、これで白髪もカバーできるそうです。さらに洋服にも明るい色を使うことで、相手はそちらに目を奪われ「私の老いに目が行かなくなる」ことを狙っているのだとか。これを「明るい色で老いごまかし作戦」と作戦名までつけているところが可愛らしいのです。

 

自分が着たい服を着る

何歳になっても自分が着たい服を着ると決めている野沢さん。英語のメッセージが入ったロックなTシャツを着ていたり、カウボーイ風ハットをかぶっていたりと生き生きした格好をしていることもあります。現在アメリカに居住中ということもあり、その姿がとてもカッコ良く見えます。

 

ポイントは、流行に合わせるのではなく、自分が着たいという感覚を優先していること。「『若い子が着ているから着ている』というのと、『この洋服が着たいから着ている』というのとでは心意気が全然違う」というのは、とても素敵な考えかたです。

 

上質かどうかにとらわれない

ファッション誌などで「年齢を重ねてきたら上質なものを」という表現をよく見かけます。そこには高価な品をまとって微笑む熟年モデルの姿があることもしばしば。しかし野沢さんは「申し訳ないが高価なものを売りたいファッション業界の戦略なのではないかと思っている」とバッサリ斬っています。

 

野沢さん自身は高価な品に興味を持てず、安い、おもちゃみたいなアクセサリーをつけているのだとか。「自分の胸元や手元を見た時に心が躍る」ものを選んでいるそうです。自分がワクワクするかどうかは、おしゃれをするうえで大切な指標かもしれません。

 

自分の「好き」を見失わない

野沢さんのInstagramには、日本とアメリカを行き来しつつ、日々を楽しむ姿が投稿されています。そこに出てくる彼女はさまざまなファッションをしていて、そしてどれも、とても楽しそうで、フォロワーが数万人もついているのも頷けます。

 

このInstagramを見ると、老いにひるんで着る服に遠慮をするようになるのはもったいないことだと痛感します。野沢さんが実践する「自分が着たい服を着る」ことこそが、ファッションの真髄なのではないでしょうか。これからは、服を選ぶ際に「これを着たいかどうか」と心に問いかけるようにすれば、自分なりの答が出てくるかもしれません。

 

【書籍紹介】

老いてきたけど、まぁ~いっか。

著者:野沢直子
発行:ダイヤモンド社

もう、良性のわがままになろう。人生の最終章を思いきり楽しむための、野沢直子流「老いとの向き合い方」。

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お笑い界の“ほっこり”代表(!?)、ぼる塾リーダーが綴るメンバーの日常がやっぱりほっこり

僕はお笑いが好きで、生まれ変わったらお笑い芸人になりたいなとすらうっすらと思っているくらい好きだ。

 

今はお笑いの内容もかなり多様化している。先日開催されたM-1グランプリでは、世の中のことに不平不満を言う、いわゆる毒舌漫才(または悪口漫才)のウエストランドが優勝。もちろんリアルタイムで大会を見ていたが、非常におもしろかった。

 

その対極とも言えるのが、女性4人組のグループ「ぼる塾」だ。

しんぼる+猫塾=ぼる塾

ぼる塾について簡単に説明すると、しんぼると猫塾という2つのコンビが合体して4人組になったグループ。テレビに出るときは3人であることが多いが、実は一人は育休中。ぼる塾は、誰が結婚・出産をしても休める育休制度と取り入れた日本初のお笑いグループらしい。

 

その育休中の酒寄さん(一応リーダーらしい)が、メンバーの日常をおもしろエピソードを綴っているのが『酒寄さんのぼる塾日記』(酒寄希望・著/ワニブックス・刊)だ。

 

しゃぶしゃぶは一期一会

たとえばこんなエピソードがある。メンバーのあんりと田辺さんが、週5日でしゃぶしゃぶ食べ放題に行っているという。なんでそんなにしゃぶしゃぶ食べ放題に行くのか疑問に思った酒寄さんは、あんりに「しゃぶしゃぶ飽きないの?」と尋ねる。その返事は以下の通り。

 

あんりちゃん「飽きないですねー。しゃぶしゃぶって味変自在なんですよ。スープも変えられる、具材も変えられる、薬味も変えられる、同じしゃぶしゃぶは存在しないので」

(『酒寄さんのぼる塾日記』より引用)

 

同じしゃぶしゃぶは存在しない。なるほど。僕もたまにしゃぶしゃぶ食べ放題に行くが、確かに毎回スープを変えたり、タレをアレンジしたり、野菜のバリエーションを変えたりする。しゃぶしゃぶって一期一会なんだな。

 

うどん屋がだめならカレーがあるじゃない

メンバーそれぞれのエピソードが載っているが、ボリューム的に一番おなかいっぱいなのが、やっぱり猫塾時代から付き合いのある田辺さん(「まあねー」という決め台詞がある)だ。

 

田辺さんは27歳で渋谷でギャルデビューしたり、食べ物全般やファッション、コスメなどにも詳しいが、基本的にめちゃくちゃ天然で変わっている人だ。

 

そんな田辺さんのエピソード。昔酒寄さんと新宿を歩いているときに外国人の女性に話しかけられた。どうやら韓国語で話しかけられたらしい。しかし田辺さんは流暢な韓国語で受け答えし、その家族を見送った。

 

田辺さんが韓国語が話せることに驚きつつも、酒寄さんはことの顛末を尋ねた。なんでも、その家族はつるとんたん(うどん屋さん)に行く道を聞いてきたということ。

 

しかし、その場所からは少々遠かったということで、その家族から「あなたのオススメの店に連れてってほしい」とお願いされた。そこで田辺さんが案内したのが……。

 

「だから、ゴーゴーカレーに連れてったわ」

(『酒寄さんのぼる塾日記』より引用)

 

韓国から来て日本食を食べたいであろう人たちに、田辺さんは自分の本当にオススメのお店を紹介。それが田辺さんだ。

 

ぼる塾がどんなグループなのかがわかる一冊

僕はぼる塾に数年前からハマり、YouTubeチャンネルなども結構見ている。なんとなくほのぼのした感じ+少々の毒+女性特有の華やかさみたいなものが融合した、なかなか似ているお笑いグループがいないなと思っている。

 

ぼる塾のことを知っている人も、あまり知らないという人も、この本を読むとなんだか楽しい気分になれるのではないだろうか。酒寄さんの小気味よい文章力で綴られる選りすぐりのエピソードは、ぼる塾がどんなグループなのか、そしてメンバーがそれぞれどんな人間なのかがよくわかるだろう。

 

これからもその独特なほのぼの感で、お笑い界で独自のポジションを築いていってほしいなと思う。そして、おばあちゃんになっても4人で漫才やコントをしていてほしいなと願っている。

 

 

【書籍紹介】

酒寄さんのぼる塾日記

著者:酒寄希望
発行:ワニブックス

大人気の女性お笑いグループ「ぼる塾」の育休中メンバーが描く笑いと友情エッセイ。

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少しでもやりたいと思うことはとりあえずやってみる–まずはそこから始めよう!『夢の叶え方を知っていますか?』

早いもので、この原稿が2022年度最後のアップとなる。今回は「夢」をテーマに、ロマンティックでポジティブな内容になるよう進めたいと思う。

 

絵馬はアファメーションなのかもしれない

筆者は毎日近くの神社にお参りに行っている。たくさん飾られている絵馬の中、合格祈願に混じって「夢が叶いますように」的な言葉がしたためられたものも多い。昔から思っていたのだが、絵馬は一種のアファメーション(肯定的な自己宣言)に違いない。夢や願望を明らかな形で見える化して既成事実としてとらえ、自分の中で培っていくのだ。

 

小学校の卒業文集に記される作文もアファメーションの一種といえるだろう。もちろん、すべての人が書いた通りに夢を実現させるわけではないが、驚くべき精度でものごとを実現させていく人がいるのも事実だ。「有名人 小学校 卒業文集」というキーワードで検索をかけると、単に面白いものから実現しすぎていてちょっと怖くなるようなものまで、さまざまな作文がヒットする。

 

夢のきっかけ

「夢は思い描くものではなく、実現させるもの」—そんな言葉もある。思い描くだけではなく、夢を実現させるにはどうしたらいいのか。そのプロセスのヒントというより、かなり実践的な方法論について詳しく触れられた『夢の叶え方を知っていますか?』(森博嗣・著/朝日新聞出版・刊)という本を紹介したい。作家であり工学博士である森氏の著書はこれまでにも何冊か取り上げさせていただいているが、この本はホリデーシーズン真っ只中の今の時期にまさにふさわしい一冊だと思う。

 

自分の庭に小さな鉄道を建設することが小学生の頃から夢だった。何故その夢を持ったのかは今でもはっきりと覚えている。鉄道模型雑誌を初めて書店で見つけ、その中にある白黒の写真が目に飛び込んできたときだった。アメリカの公園のような場所で、大人たちがミニチュアの機関車に乗って遊んでいるシーンだった。

『夢の叶え方を知っていますか?』より引用

 

森氏にとって相当インパクトがある写真だったのだろう。子どものころに抱いた夢を実現させるために国立大学の講師になり、人気作家になり、結果的には家を建てて広い庭にミニチュアの鉄道を敷設するきっかけになってしまったのだから。

 

夢を実現させるための手段

「まえがき」に記されているとても印象的な一文を紹介しておく。

 

少なくとも確かなことは、僕は作家になる夢を持っていたわけではない、という点だ。夢にも思わなかった。だから、作家になれたことを少しも嬉しく思っていない。これは、僕の夢を実現させるための単なる一手段だったのである。

『夢の叶え方を知っていますか?』より引用

 

作家になることを夢に思い描く人も少なくないと思う。しかし森氏の場合、そういう立場はあくまで子どものころの夢を実現させるためのプロセスにすぎず、心から嬉しさを実感したのは庭に敷設した線路の上で機関車にまたがり、それが動き出した瞬間だった。そこに至るまでに何をしたのか。章立てを見てみよう。

 

第1章 憧れの人生 憧れの生活

第2章 抽象的な夢と具体的な夢

第3章 夢の価値

第4章 夢を実現させるためには

第5章 周囲を気にしない夢

第6章 夢の楽しさを教えよう

第7章 作る夢のすすめ

 

「夢実現の方法論」「もう遅いという諦め」「夢を実現するプログラム」「出来なのではなく、時間がかかるだけ」「自分の評価眼を持つ」「なにもない毎日に耐えられる?」「楽しければ優しくなれる」といった現実的で実践的なキーワードが目立つ。

 

力まない文章で淡々と語られる夢の実現までのロードマップは、抵抗なく入ってくる。筆者が一番強く感じたのは、少しでもやりたいと思うことはとりあえずやってみるという心構えだ。夢の実現は、こういう瞬間の積み重ねで早まる気がする。いや、むしろそれが必須条件なのだろう。

  

何かを感じるものは、何でもやってみる

以前は当たり前だったことが当たり前ではなくなったこの3年間、筆者は少しでもやりたいと感じたことはすべてとりあえずやってみることをテーマにして生きてきた。ブログも音声配信もライブ配信も、YouTubeもみんなそうだ。すべてが続いているわけではないけれども、先に続いていく確かな感覚もある。残念ながら、今の筆者には子どものころのような具体的な夢はない。強いていうなら、「いろいろな理由を付けてやりたいことをしない姿勢を完全になくすこと」だろうか。

 

ネットで見つけたこちらの記事によれば、将来なりたい職業や夢がある子どもがコロナ前よりも3割増え、全体の8割が将来に関する具体的なビジョンなり夢なりを持っているようだ。ほっこりするし、ちょっとうらやましくもある。


今年も1年間読んでいただき、ありがとうございました。2023年がみなさまにとって夢に満ちた素晴らしい年になりますように。

 

【書籍紹介】

夢の叶え方を知っていますか?

著者:森博嗣
発行:朝日新聞出版

何故、あなたの夢は実現しないのか?「自分の庭に小さな鉄道を建設することが小学生の頃から夢だった」。あなたの夢は「見たい夢」か「見せたい夢」か? もし後者であるなら、願いは永遠に実現しない。小説家として億単位を稼ぎ、あこがれの隠遁生活で日々夢に邁進する。それを可能にした画期的方法論。

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今年紹介した新書からお気に入りの5冊をピックアップ!“卯月鮎が選ぶ目からウロコの新書アワード2022”~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。2022年もあと1週間。本でたとえるなら、巻末の参考文献ページといったところでしょうか(笑)。あちこちで1年の振り返りが行われていますが、当コーナーでも2022年に紹介した計50冊の新書のなかから部門別に5冊をピックアップ! “卯月鮎が選ぶ目からウロコの新書アワード2022”なんて、大げさなコピーを掲げて今年を締めくくろうと思います。

 

新書には時事問題にスポットを当てて、ズバッと切るスタイルの本もありますが、このコラムでは新しい発見に溢れ、未知の扉を開いてくれる新書を選んできました。1冊との出会いが、人生を鮮やかにしてくれるかもしれない。それが本の力です。

 

■インタビュー・対談部門

 

少女漫画家「家」の履歴書』(週刊文春・編/文春新書)

人生の紆余曲折が語られたり、それぞれの考え方がぶつかりあったり、“人間”の内側が見えるのがインタビュー・対談部門。この『少女漫画家「家」の履歴書』は、「家」を中心に著名人の半生を聞く週刊文春の名物連載から少女マンガ家12人を選りすぐったもの。いわゆる連載のまとめではありますが、住居と仕事場を兼ねていることが多い少女マンガ家にテーマを絞ったのが本書の狙い。

 

仕事観や恋愛観まで赤裸々に語られ、作品と人生の関係性も見えてきます。一条ゆかりさん、美内すずえさん、山岸凉子さん、魔夜峰央さん……。あのころ、夢中になっていた少女マンガを読み返してしまいました。

 

■食文化部門

焼酎の科学 発酵、蒸留に秘められた日本人の知恵と技』(鮫島吉廣、髙峯和則・著/講談社ブルーバックス)

新書といえば、食べ物や飲み物をテーマにした“食”も人気のジャンルです。この『焼酎の科学』は、私たちに身近な焼酎の秘密をブルーバックスらしい分かりやすいテキストで科学的に解説した一冊。

 

芋焼酎はサツマイモの中心部のみで造るとスッキリ、表皮部のみで造ると華やかな味わいになる……といった雑学も豊富で焼酎を飲むのが楽しくなります。晩酌のつまみになる新書です。

 

■お仕事部門

リーゼント刑事 42年間の警察人生全記録』(秋山 博康・著/小学館新書)

世の中には数え切れないほどの職業が存在し、その道のプロによって世界は回っている……。そんなことが実感できるのが“お仕事もの”。この『リーゼント刑事 42年間の警察人生全記録』は、「警察24時」などテレビ特番にも出演し、「リーゼント刑事」として親しまれた秋山 博康さんの警察人生回顧録。

 

破天荒ながら人情味たっぷりのエピソード満載で、笑いあり涙あり、まるで熱血ドラマを見ているような感覚です。

 

■科学部門

昆虫学者、奇跡の図鑑を作る』(丸山 宗利・著/幻冬舎新書)

生物学、脳科学、宇宙科学、気象……。専門家が自分の研究分野を魅力たっぷりに紹介してくれるのが自然科学系新書のいいところ。『昆虫学者、奇跡の図鑑を作る』は、イラストや標本ばかりの昆虫図鑑に納得がいかず、すべて生きたままで撮影しようと決意した昆虫学者の奮闘記。許された制作期間は1年。果たして間に合うのか? というのも読みどころです。

 

正月にあちこちの神社を巡り、榊(さかき)の葉っぱにつく蛾「サカキツヤコガ」の幼虫を探す……。苦労話と昆虫の生態がセットとなっていて、これまで知らなかった昆虫にも自然と興味がわいてきます。お仕事ものと昆虫本のハイブリッド!

 

■趣味が広がる部門

ショパンコンクール見聞録 革命を起こした若きピアニストたち』(青柳 いづみこ・著/集英社新書)

何か新しい趣味を始めようと思ったら、本屋で新書の棚をザーッと眺めて、ピンときた本を手に取るのもオススメ。新書はまだ見ぬ世界を道案内してくれる有能なガイドです。

 

『ショパンコンクール見聞録 革命を起こした若きピアニストたち』は、2021年10月に開催され、日本人ピアニストが2位と4位に入賞して話題になった「第18回ショパン国際コンクール」のレポート。ピアニストでもあり、文筆家でもある青柳さんならではの鋭くも温かい眼差しで、若きピアニストたちの素顔に迫っています。日本人として51年ぶりに2位入賞した反田恭平さんの章も読みごたえがありました。

 

ショパンコンクールの予選・本選の様子は、公式動画がYouTubeにアップされています。本書を読んでから演奏を聴くと、各ピアニストたちの個性的なきらめきに気づけます。私もすっかりコンクールの動画鑑賞にハマってしまいました。

 

以上、とっておきの5冊でした。来年も毎週日曜日アップで、目からウロコが落ちるような旬の新書を紹介していきたいと思います。ぜひチェックしてみて下さい。

一生懸命生きて、そして死んでいった作家・山本文緒の最後の日記『無人島のふたり』

作家の山本文緒が亡くなったと知ったとき、「うそ」と声に出して叫んでしまった。つい最近まで大活躍していて、出版されたばかりの『自転しながら公転する』を読みたいと思っていたところだった。しかし、うそではなかった。彼女は2021年10月13日に自宅で死去した。享年58歳。膵臓癌を患っていたという。

 

無人島のふたり』(新潮社・刊)は、2021年4月、診断を受けてから、亡くなる9日前までの日々を綴った日記をまとめたものだ。

 

膵臓癌、ステージ4b

膵臓癌が判明したとき、既にステージ4bだったという。部位が悪いため手術はできず、抗癌剤で進行を遅らせるしか、方途はなかった。さぞや悔しかっただろう。苦しかっただろう。まだまだこれからという時である。新作の準備も怠りなく、健康にも気を配り、人間ドックを欠かさなかった。それなのに、いきなり、余命120日と知らされたのだ。「うそ」と叫びたかったのは、彼女自身であったろう。

 

余命宣告を受けても、山本文緒の作家魂は、へこたれることはなかった。むしろ、短い余命の間にできることを選択し、仕事を続けている。まずは次の新刊『ばにらさま』の校正刷りに目を通し、出版に向けて懸命に努力している。ただし、その一方で、次に書こうとしていた連作短編集のための資料を処分している。その様子を読むと、痛々しさに涙が出る。

 

余命を宣告された時、もうこれで勉強のための読書をしないでいいのだと思ったことは事実で、実際に家にあった未読本をたくさん手放した。

次の長編で、今の日本の中にいる無国籍の女性の話を書こうと思っていたので戸籍の本をだいぶ集めた。戸籍がなくても力強くいきている人もいるし、戸籍でがんじがらめになって生きている人もいる、そういう対比や彼らの未来を書きたかった。

でももう書けないので誰か書いてくださってOKです。

(『無人島のふたり』より抜粋)

 

この文章を読みながら、私は傍らにある資料がぎっしりつまった本箱を見上げた。もし自分だったら、そんなに潔く断捨離できるだろうか。きっと私は「いや、まだ読むかもしれない。死ぬまでに少しくらいは書くかも」などと、往生際悪く思い、資料を残したまま死ぬだろう。山本文緒のように、潔く「誰か書いてくださってOKです」などと、言えるはずがない。

 

それにしても、山本文緒が書く無国籍の女性を主人公にした小説、読んでみたかったと残念でならない。いくらOKが出ても、他の人には書けない作品だったはずだ。

 

一生懸命、死んでいった山本文緒

山本文緒は骨の髄まで作家だった。余命宣告にも負けなかった。それどころか、『120日後に死ぬフミオ』って本を出したらパクリと言われるかなと、考えたりいている。余命4か月と宣告されてもなお、自分に書くことができるのは何かを模索していた。

 

痛みと吐き気と高熱に苦しみながらも日記を書き続け、『無人島のふたり』としてまとめあげた。それも思いをただぶつけるのではなく、読み物として耐えうるかを自問自答しながら書き進み、まとめている。だからこそ、『無人島のふたり』は、単なる闘病記ではなく、一生懸命、生きて、そして死んでいった作家の言葉が満ちた作品となったのだろう。

 

『無人島のふたり』の冒頭、5月25日の日記を彼女は「うまく死ねますように」という言葉で終えている。その日。彼女は、たった1度の化学療法で、ごっそり抜けた毛髪をかきむしった後、カフェに行き、壊れてしまった電子レンジを買い換え、緩和ケアのクリニックに行った。そう綴りながら、「うまく死ねますように」と願っているのだから、本を持つ手が震えてしまう。こんなに悲しい願いがあるだろうか。人は必ず死ななければならないが、その日がいつ来るかわからないからのんきな顔でいられる。そう思い知った一文だ。

 

その後、彼女は何度も書いている。5月26日の日記にも「私、うまく死ねそうです」と書き、それでいながら、6月1日には「死ぬことを忘れるほど面白い」と書く。この日、彼女は金原ひとみの『アンソーシャルディスタンス』を読んだのだ。続く、6月6日には「あー、体がだるい。これいつ治るんだろう」と、思い、「あ、そういえばもう治らないんだった。悪くなる一方で終わるんだった」と気づき、泣いている。

 

一日、一日、癌は着実に病人の体を蝕んでいき、腹水がたまるなど、末期的な症状を見せる。それでも、少し気分が良い日は、友人に会ったり、家族にお別れを言ったりと、すべきことをこなしている。何よりも、日記の原稿を活字にするため、編集者に草稿を読むよう依頼している。どんなに体調が悪くても、書かないでは生きていられなかったのだろう。

 

そして、9月27日、中締めとして「明日また書けましたら、明日」と、呟くように書いた後、何度か日記を更新したものの、10月4日の日記が最後となった。4日の日記も同じ言葉「明日また書けましたら。明日」と、結びながらも、結局、書くことができないまま10月13日に亡くなった。それでも、きっと書ける明日がくると信じていただろう。最後まで書こうとしていただろう。そう思うと、やるせない気持ちになる。

 

『無人島のふたり』は、人はいつかは必ず死んでいくことを教えてくれる作品だ。同時に、どんなに仲が良い夫婦でも、ふたり一緒に亡くなるのは難しいことも思い知る。夫に見送られて亡くなった妻・山本文緒が最後の瞬間に思ったことは何か、私などにわかるはずもないが、夫に向けてこう言いたかったのではないだろうか。
「明日、書けたらまた書くね。きっと書くね。だって書きたいから」と。

 

【書籍紹介】

無人島のふたり

ある日突然がんと診断され、夫とふたり、無人島に流されてしまったかのような日々が始まった。お別れの言葉は、言っても言っても言い足りないー。余命宣告を受け、それでも書くことを手放さなかった作家が、最期まで綴った日記。

著者:山本文緒
発行:新潮社

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大掃除前に読んで欲しい! おいでやす小田さんのエッセイ『僕はどうしても捨てられない。』

大掃除の時期になると、去年も捨てられなかったなぁ〜と思うモノが顔をのぞかせます。私にも、大学生時代から着ている穴あきのジャージ、私が生まれた時に母親が買ったラック、手紙や写真など多くのアイテムが、毎年大掃除の時期をかい潜り生き残っています。

 

今回ご紹介する一冊は、2022年も大活躍だったおいでやす小田さんのエッセイ『僕はどうしても捨てられない。』(おいでやす小田・著/ワニブックス・刊)。ひたすら捨てられないモノが紹介されているだけの本なのですが(笑)、愛おしくなってしまう一冊でした。

「物持ちがいい」の次元を超えているモノたち

『僕はどうしても捨てられない。』には、40種類の捨てられないモノたちが紹介されています。目次だけみていると、キングオブコントのTシャツやファンレター、ネタ帳など、さすが芸人さんな逸品も。しかし、読んでいくうちに「これって捨てていいやつでは?」と思うようなモノが登場してきます。最初に登場するのが、ガス式の炊飯器なのですが、20年以上使い続けているモノなのだとか。

 

テレビで有吉(弘行)さんと櫻井(翔)くんにこの炊飯器を見せたら、ドン引きされたんですよ。僕は「すげえ〜! 年代ものだね」とか、「こんなのまだ使ってるのかよ〜(笑)」っていうリアクションを期待してたんですけど、「いや、これはダメだよ……」って冷静に言われまして。それで「あっ、これはさすがに見た目的にあかんねや。普通にこんなん、使えへんねや……」って気づきました。けっこうショックでしたよ。

(『僕はどうしても捨てられない。』より引用)

 

本書には、この炊飯器の写真も掲載されているので、ぜひご覧ください! 私も正直、引きました(笑)。でも、ガスで炊くご飯は絶品なのだとか。おいしく食べているなら、せめて見た目を綺麗にしたり、大事に使ったりすればいいのに……。小田さんの優しさも伝わりますが、ちょっと抜けているところも小田さんらしいと感じてしまうのでした。

 

インクのなくなったペンも、捨てられない?

いろんなモノに愛情を込めて捨てずにいる小田さんですが、さすがに「これは捨てていいよ」と思ってしまったのが、書けなくなったペン。小田さん的には、いつか奇跡が起こって書けると、残しているそうです。

 

太いマジックも同じです。カスカスになってインクが出そうにないんですけど、天気によってはにじみ出てくるかもしれないし、奇跡的に1年に1日だけ復活するかもしれない。オカルトみたいな話になってますけど(笑)。

(『僕はどうしても捨てられない。』より引用)

 

いや、捨ててぇぇ〜〜〜〜〜!! と、小田さんを超える大声で叫んでしまった一文でした。奇跡的に1年に1日だけ復活するペンがあったら逆に欲しいですけどね(笑)。正直、ペンって100円程度で買えるじゃないですか。小田さん的には、新しいペンがあれば便利という気持ちより、捨てるのがかわいそうな気持ちが優っているのかもしれません。捨てるのは一瞬ですが、とっておくのは一生。この葛藤を胸の中でずっと抱えているのが小田さんなのかな? と思いました。

 

自分の家の中のモノたちも振り返りたくなる

帯には、ダウンタウンの浜田さんが『アホちゃうか、この本まず捨てろ!』と書かれてありますが、40種類ものモノに対して、「まだ捨てられないな〜」「もしかしたら〇〇するかも」と書き続けられていくと、そんな気持ちになるのもわかります(笑)。

 

しかし、どれもちゃんと捨てない理由があるんですよね。ペンみたいにとっぴな理由もありますが、小田さんなりのポリシーで取ってあることがわかります。

 

大掃除前に『僕はどうしても捨てられない。』を読むと、2つのタイプに分かれるかもしれません。1つが、私も捨てられないと大掃除しない人。もう1つが、浜田さんのようにイライラしてしまい、大掃除に拍車がかかってしまう人。ある種、踏み絵のような一冊かもしれません!

 

小田さんのエッセイは語りかけるように優しい言葉が多く、脳内で小田さんの声が勝手に再生されるような文体です。師走の疲れ切った体でもすんなり読めますので、ぜひ一読いただき、心の大掃除もしちゃいましょう!

 

【書籍情報】

 

僕はどうしても捨てられない。

著者:おいでやす小田
発行:ワニブックス

苦節20年、長かった下積み時代。モノも人生も捨てたもんじゃないーモノを捨てられない男の愛着と哀愁の半世紀。

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人気の食堂おばちゃんシリーズで、心も体も芯から温まろう!–『聖夜のおでん』

美味しい食べ物がたくさん出てくる小説が好きだ。しかも、それが全国のどこの町にもありそうな定食屋を思わせる話ならなおさら心と体に染みる。今日、紹介するのは山口恵以子さんの『食堂おばちゃん』(山口恵以子・著/角川春樹事務所・刊)。現在12巻が刊行されていて累計45万部を突破している大人気のシリーズで、年明けには13巻目も発行されるそうだ。

 

どの巻からも読めるが、私が『聖夜のおでん 食堂のおばちゃん12』を選んだのは、そのタイトルが私たち家族の思い出と重なったからだ。おでんは日本に住んでいたらいつでもどこでも食べられる冬の鍋物だが、異国に暮らしていたらそうはいかない。フランスに長く暮らした私たちのクリスマスのごちそうは”おでん”だった。日本食材店で売っている日本から輸入された練り製品はとても高く、しょっちゅう買えるものではなかったからだ。いっぽう、彼の地ではローストチキンはいつでも食べられたから、聖夜だからこそのおでんだった。

 

作者の山口さんが食堂おばちゃんだった

さて、本シリーズに出てくる料理はすべて作者の山口さんの発案で、しかも巻末にはいくつかのレシピもついている。それもそのはず、山口さんはご本人が”食堂おばちゃん”だったのだ。彼女は44歳の時、新聞の求人欄で見つけた丸の内新聞事業協同組合の社員食堂(現在は閉鎖されている)のパート募集に応募、採用された。食堂で勤務しつつ、執筆活動をしていたそうだ。『食堂のおばちゃん』シリーズの他、『婚活食堂』シリーズも人気で、美味しい料理と食堂に集まる人々の人間模様が誰の心にも染みわたってきて、読み始めたらクセになる小説といえるだろう。

 

姑と嫁が仲良く営む庶民的な食堂

物語の舞台は、東京は佃にある「はじめ食堂」。そもそもは主人公である一子が亡き夫とはじめた洋食の名店だった。しかし夫が急死し、一子は息子と共に家庭料理店として再出発した「はじめ食堂」。やがてその息子まで他界してしまい、そこからはもうひとりの主人公である嫁の二三と二人三脚で仲良くやってきているという設定だ。本書を読んでいてとても心地いいのが、姑と嫁が互いを思いやり、支えあって日々を営んでいるところ。世間では嫁姑の争いばかりが多く語られるが、この二人のような関係だったらどんなに素敵だろうと読者に思わせてくれるのだ。

 

シリーズ前半では、もうひとり万里という料理人が登場していたが、彼は料理人としての腕を上げるために名店へ移った。そして本作では、ジェンダーレスの時代にふさわしい皐という性同一性障害のスタッフを加えて展開していくところもとてもいい。

 

昼の定食はいろいろ選べてリーズナブル

さて、「はじめ食堂」は昼は定食屋で、夜は居酒屋としてやっている。このシリーズの楽しいところはとにかくたくさんの家庭料理が詳細に書かれているところだ。昼の定食屋のメニューを引用してみよう。たとえば秋のある日のメニューは、

 

今日のランチは日替わり定食が麻婆ナスと豆腐ハンバーグ、焼き魚が鮭の西京味噌漬け、煮魚が鰯の梅煮。ワンコインは親子丼。味噌汁はこれも名残の冬瓜と茗荷、漬物は一子手製のキュウリとナスの糠漬け。これに小鉢二品とドレッシング三種類かけ放題のサラダが付き、ご飯と味噌汁はお代わり自由で、一人前七百円。

(『聖夜のおでん 食堂のおばちゃん12』から引用)

 

また、冬のある日のメニューは、

 

本日のはじめ食堂のランチは、日替わりが豚汁と豆腐ハンバーグ、焼き魚はホッケの干物、煮魚はカラスガレイ、ワンコインは豚汁うどん。豚汁にうどんを入れただけとバカにしてはいけない。内容は具沢山の味噌うどんで、美味しさも食べ応えも充分だ。小鉢は小松菜と油揚げの炒め物、新海苔の煮物の二品。味噌汁はサービスで全員豚汁、漬物は一子手製の京菜の糠漬け。

(『聖夜のおでん 食堂のおばちゃん12』から引用)

 

昼定食700円、そしてワンコインのメニューもある、この安さについては「はじめ食堂」が自宅兼店舗だから実現できているとも記されている。もしも、実際に近所にこんな定食屋があったら、きっと私を含めた読者は誰でも毎日でも通ってしまうだろうと思わせてくれるメニューが続々と登場するのだ。

 

居酒屋メニューも真似したいものばかり

作者の山口さんが考案するユニークな料理が登場するのは夜のメニュー。本作の中で寒い冬にぴったりだったので私がさっそく真似して作ってみたのが”焼きネギ鍋”だ。

 

二三は太めの長ネギを半分に切ってグリルの火にかけた。六~七分でこんがりと焼ける。焼ける間にだし汁を小鍋で煮立て、油揚げを細めに切った。焼いた長ネギは香ばしいだけでなく、旨味が凝縮して味も浸みやすくなる。出汁で煮ればトロリと甘くなり、ネギの甘みを吸った油揚げも更に美味しくなる。「熱いから、気をつけてね」皐がカウンターに鍋敷きを置き、グラグラと煮立つ小鍋を載せた、取り皿とレンゲ、そして七味唐辛子も添える。

(『聖夜のおでん 食堂のおばちゃん12』から引用)

 

余計なものが入らずシンプルだが、素材のおいしさが引き立つ絶品の味だった。このよに本書は小説なのに、作り方を丁寧に書いてくれてあるのでレシピ本としても活用できてしまうのだ。

 

巻末には簡単レシピ集も

上記のように本文を読みつつ真似できる料理も次々と登場するが、これとは別に巻末には、材料と作り方がきっちりと書かれた、”食堂のおばちゃんの簡単レシピ集”として、以下の12品が紹介されている。

 

①四川風コブサラダ
②チョップドサラダ
③タコとトマトのカッペリー二
④鰻素麺
⑤オクラのロールカツ
⑥豚肉とピーマンの醤油炒め(とんピー)
⑦キノコのオムレツ
⑧キノコのみぞれ鍋
⑨明太じゃがバター
⑩焼きうどん
⑪鶏つくねのパクチー鍋
⑫めぐみ食堂のおでん

 

ちなみに本書のタイトルになっている「聖夜のおでん」は、「はじめ食堂」のものではない。これについては山口さんが最後にひと言、としてこう書いている。

 

本書『聖夜のおでん』には、私のもう一つのシリーズ『婚活食堂』の主人公も登場します。どちらのシリーズも酒と食を扱っていますので、これから先も、本文のどこかに別シリーズのお店やキャラクター、名物料理が出てくるかも知れません。皆さん、楽しみにしていて下さいね。

(『聖夜のおでん 食堂のおばちゃん12』から引用)

 

身も心もあたたまる”おいしい小説”シリーズ、あなたも是非ページを開いてみては?

 

【書籍紹介】

 

聖夜のおでん 食堂のおばちゃん12

著者:山口恵以子
発行:角川春樹事務所

焼き魚定食、ニラ玉豆腐、牛丼、新じゃがのお味噌汁ー姑の一子、嫁の二三が仲良く営む東京は佃の「はじめ食堂」は、昼間は定食屋、夜は居酒屋。定番メニューも豊富。二三たちは、鰻素麺、月見うどんなど新メニュー開発にも余念がないが、常連の瑠美、康平カップルの仲が、どうも気になってー累計四十五万部突破、続々重版の大人気シリーズ、熱望の最新刊。初めての方も大歓迎です。どの巻からでもお読み頂けます。

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定年間近の商社マンがエルサルバドル大使に抜擢!? 知られざる大使の仕事の裏側~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。この間、関西から首都圏へ営業エリアが変更され転勤になった知り合いは、取引先との距離間やちょっとした挨拶の仕方の違いに、戸惑っているとぼやいていました。逆に10年ほど前に東京から京都に転勤になった友人は、未だによそ者という引け目を感じているとか。

 

思えば私は生まれも育ちも仕事場もずっと東京。カルチャーショックを受けることなく、ぬくぬくと過ごしてきました。もし、仕事の関係で海外移住という状況になったら、休みの日はカーテンを閉めて引きこもること間違いなしです(今も大して変わりませんが(笑))。新しい世界に飛び込んでいける人はそれだけで尊敬です。

 

中米のエキスパートでも大使は勝手が違う!?

さて、今回紹介する新書は商社マン、エルサルバドル大使になる』(樋口和喜・著/インターナショナル新書)。著者の樋口和喜さんは、住友商事入社後に中南米、アメリカ、欧州、アジアでの自動車製造設備・部品ビジネス、製造投資に従事し、メキシコ住友商事会社社長も務めました。そして、2017年6月から2020年11月まで外務省特別職・特命全権大使としてエルサルバドル共和国に駐在していました。

外交の要は公邸での日本食会席

商社では中米のエキスパートだったとはいえ、突如民間人から大使となった樋口さんが目の当たりにした外交の現場は驚きの連続。第1章「定年後の再就職先は『特命全権大使』」では、白羽の矢が立った直後の気持ちと準備のドタバタが明かされています。皇居での認証式は「人生最大の緊張感に満ちた5分」だったそう。

 

第4章「大使の仕事――恒例行事やセミナー、イベント」と第5章「『公邸会食』と『大使の一日』『大使の休日』」では、大使としての業務がレポートされています。

 

日本の大使は海外でどのような仕事をしているのか? 私もぼんやりとイメージはありましたが、はっきりとは知りませんでした。大使の大きな仕事は、独立記念日などその国の公式行事に参加すること。

 

エルサルバドルの独立記念日は9月15日。炎天下に2時間立ちっぱなしで後ろにいた英国大使が熱中症で倒れ、介護したのが思い出だとか。そのほか、政府や各種シンクタンク、民間団体などが開催するセミナーにも招待されれば積極的に顔を出し、VIPへ挨拶をして人脈を作ります。

 

そして、赴任前の研修でも「外交の要」と説明されたのが公邸会食。会食を通じて政治経済の情報を収集するのが目的と樋口さんなりに解釈し、公邸では月間8回の開催を目標にしていたそうです。日本人の公邸料理人が腕をふるい、日本料理、日本酒、日本産ウイスキーなどが提供されます。デザートタイムは甘いものを食べながらビジネスに関するやりとり。デザートは基本的にケーキ類やフルーツですが、抹茶、あんこを使った日本的な品も好評だったとか。

 

読んでいて、エルサルバドル独自の事情として印象的だったのが第6章「新政権誕生で難題続発」。2019年、大統領選でサンサルバドル市長を務めていた37歳のナジブ・ブケレ氏が当選し、中南米で最年少の大統領となりました。自分の意見を明確に発信する魅力的な人物でノーネクタイを貫くのがスタイルというブケレ大統領。しかし、就任直後に樋口さんをやきもきさせる事態が……。

 

政府開発援助(ODA)案件のすりあわせ、日本企業のビジネス支援、空手大会での優勝杯授与……など、一冊を通して大使が行う多彩な仕事の数々が紹介されていきます。想像以上に地道な外交の連続。大使ゆえに自由に動けないストレスもあるようで、大使とはやり甲斐と気苦労の板挟みなのかもしれないと感じました。

 

面白おかしい内容というよりは、誠実な人柄をうかがわせる丁寧な語り口。知らない世界を覗くことができ、大使の役割や日常で行われている外交がどのようなものか勉強になりました。ドラマチックな政権交代にも直面した3年3か月の貴重なレポート。エルサルバドルという国にも親しみが湧きます。

 

【書籍紹介】

商社マン、エルサルバドル大使になる

著:樋口 和喜
発行:集英社インターナショナル

「大使になりませんか?」-退職間近の商社マンに思いもよらぬ第二の人生が!中米の小国エルサルバドルに赴任するや、前例踏襲を固守する大使館スタッフや巨費を投じたODA案件に頭を悩ませる日々。さらに37歳の新大統領登場で問題続発!他国間の外交問題にも巻きこまれ、てんやわんやの日々。外交とはなにか、大使と大使館はどんな仕事をしているのか、公邸会食の現実は、大使の休日とは?…。知られざる情報が満載の「お仕事本」!!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

流行語で終わらせないぞっ! 紅茶の歴史と作法を知ってもっと「ヌン活」を楽しもう

2022年の流行語にもノミネートされていた「ヌン活」。アフタヌーンティー活動を略した言葉で、日常で贅沢気分を味わえる、スイーツが美味しい、映えると若い女性に人気になっています。でも、ちょっと待った〜! せっかくなら紅茶についての知識や歴史を知ったうえで、楽しみませんか?

 

今回は、紅茶について全く知らなくても、読み始めたら止まらなくなってしまう一冊『仕事と人生に効く教養としての紅茶』(藤枝理子・著/PHP研究所・刊)をご紹介します。

ヌン活は女性のものだけじゃない?

「ヌン活」で検索してみると、女性のキラキラした写真がたくさん出てくるので、女性だけが楽しむものと考えている人も多いかもしれません。本場イギリスでは、ビジネスマンもヌン活しているそう。そもそもアフタヌーンティーとはどんな文化なのでしょうか?

 

アフタヌーンティーは、まさに五感で楽しむ「生活芸術」です。

単に美味しい紅茶とお菓子を味わうグルメではなく、建築様式やインテリア、陶磁器や銀器、カトラリーやリネン、絵画、庭園、音楽などをトータルで味わう「暮らしの中に息づくアート」なのです。

日本では特に女性が親しむイメージがありますが、イギリスではビジネスマンも「午後の紅茶」をスマートに嗜みます。

(『仕事と人生に効く教養としての紅茶』より引用)

 

「ヌン活」という言葉だけ見て、自分には関係ない〜とスルーしてしまうのは勿体ない! ただのブームで終わらせず、これをきっかけに本来の文化が広がっていくといいですよね。

 

千利休の「茶の湯」も、いわばヌン活ですよね! あの松下幸之助も「昭和の大茶人」としても知られていたので、「令和のヌン活達人」として後世に語り継がれる経営者がこれから出てくるかもしれません。

 

紅茶・緑茶・烏龍茶は全て同じ茶葉!

これを読んでいる人の中には「緑茶は飲むけど、紅茶は苦手〜」なんて人もいるかもしれません。しかし、みなさんが想像している「お茶」はすべて同じ葉っぱからできているんです!

 

現在、世界中で飲まれている茶は、チャの木「カメリア・シネンシス」の生葉を原料とした総称で、紅茶・緑茶・烏龍茶の3種類に大別できます。

これは製茶法による分類で、まずは「生葉を発酵させるか、させないか」そして「発酵させる場合、どの程度の発酵度なのか」という加工の違いによるものです。

(『仕事と人生に効く教養としての紅茶』より引用)

 

つまり、茶葉は一緒で、加工方法によって呼び名が変わっているだけ。

 

日本人がよく飲んでいる緑茶は「不発酵茶」といって、発酵させていないお茶。烏龍茶は「半発酵茶」で、少し発酵させたお茶。ヌン活で嗜まれている紅茶は「発酵茶」で、しっかり発酵させたお茶と分けられます。

 

そう思うとなんだか「お茶」自体がとっても身近に感じられませんか? 『仕事と人生に効く教養としての紅茶』には、お茶の歴史や知識がたくさん掲載されています。3cmほどの分厚さがあるので、最初は敷居が高く感じるかもしれませんが、入門から上級者まで楽しめる一冊になっています。私自身も読み始めたらあまりの面白さに読む手が止まりませんでした。「紅茶なんて私には縁遠いから」と思っている人にこそ読んでもらいたいです。きっと本を読みながら、紅茶が飲みたくなるはずです!

 

知っておきたい「スマートな紅茶の飲み方」

最後に『仕事と人生に効く教養としての紅茶』に掲載されている「スマートな紅茶の飲み方」を紹介します。

 

POINT1 ハイテーブルの場合は、右手でカップを持ち上げる。

POINT2 ローテーブルの場合は、ソーサーごと胸の高さまで持ち上げ、左手でソーサー、右手でカップを持つ。

POINT3 ミルクや砂糖を入れる際は、スプーンを軽く浮かせた状態で、手前から奥へとNの文字を往復しながら描くようなイメージで静かに混ぜる。

(『仕事と人生に効く教養としての紅茶』より引用)

 

イギリスでは、「紅茶を飲む姿には、品位と教養が表れる」と言われているとのこと。ぜひこれからヌン活してみようと思っている方は、『仕事と人生に効く教養としての紅茶』を読んでから楽しんでみてください。

 

『仕事と人生に効く教養としての紅茶』には、お茶の歴史や銘柄の違い、フランスやモロッコ、トルコなどのお茶文化から美味しいお茶の飲み方まで、この一冊で十分くらいの情報が掲載されています。紅茶の歴史と知識を知って、ヌン活を楽しんじゃいましょう!

 

【書籍情報】

仕事と人生に効く教養としての紅茶

著者:藤枝 理子
発行:PHP研究所

紅茶ブーム到来! 元ソニーの紅茶研究家が「ビジネス視点で役立つ」お茶の歴史や文化、種類、作法などを余すことなく伝える。

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バンド運営ってたいへんなんだよね。ぼっち女子高生のバンド物語『ぼっち・ざ・ろっく!』を読んでみた

最近気になっていたアニメ(マンガ)がある。『ぼっち・ざ・ろっく!』(はまじあき・著/芳文社・刊)だ。

 

僕は日常系のマンガやアニメが好きで、女子高生バンドが出てくる『けいおん!』も好きだった。最近は忙しくてマンガやアニメを観ることもあまりなくなっていたのだが、仕事仲間のライターが「『ぼっち・ざ・ろっく!』おもしろいですよ。「まんがタイムきらら」ですし」と言っていたので、それはおもしろいかもと思い、マンガを読んでみた(『けいおん!』も「まんがタイムきらら」連載のマンガだった)。

コミュ症女子高生、バンドを始める

知らない方のためにざっと『ぼっち・ざ・ろっく!』の内容をお知らせしておくと、主人公の後藤ひとり(名前がもう……)は友達が一人もいない中学1年生。それがテレビで見たバンドに触発され、父親のレスポール(父親は音楽好き)を弾き始める。夢はバンドを組むこと。

 

ただし、中学の3年間友達が一人もできず、高校に進学。極度のコミュ症で、家で一人押し入れの中でギターを弾き、動画投稿サイトに「ギターヒーロー」の名前で投稿。一人でギターを弾きまくっていたおかげでギターの腕は確かで、そこそこ認知されている(チャンネル登録者数3万人超え)。

 

そんなひとりが、ひょんなことから町で知り合った女子高生とバンドを組むことになるという話だ。

 

作者は音楽経験ゼロで連載開始

アニメを見る前に原作を読んだのだが、「まんがタイムきらら」らしく、4コママンガをベースとした展開。「まんがタイムきらら」好きとしては馴染みやすい。

 

友達のいないぼっち女子高生が主人公だが、日常系のコメディタッチで暗い感じは一切ない。気楽に読める。個人的には、おもしろいと感じた。まあ、実際にバンドをやっていた身としては、こんなにうまくことが運ぶはずはないとわかっているのだが、そこはもう、ファンタジーということで。

 

作者はバンド経験も音楽経験もなかったようで、この連載を始めるにあたり取材を始め、自分でもベースを始めたとのこと。そのためか、ライブハウスの仕組み(チケットノルマなど)の面も細かく描写されていて、懐かしく感じた(ライブハウスのチケットノルマの仕組みはほんと若いバンドマンを苦しめるのでなんとかしてほしい。まあライブハウスの経営はたいへんなのはわかるのだが)。

 

バンドの本質はメンバーとの調和

バンド未経験者の作者が書いている割には、バンドの本質をついたことを語っていたりする。最初のバンド練習の際、そこそこギターがうまくて自信があるひとりが、下手くそ認定されてしまう。そこでの説明は以下の通り。

 

バンドは生身の人間と呼吸を合わせることがとっても重要だけど
コミュ症のひとりは目すら合わせられないので一人で突っ走る演奏をするよ!
一人弾きは最強でもバンドになると
ひとりはミジンコ以下になるのだ!

(『ぼっち・ざ・ろっく!』より引用)

 

そうそう。いくらギターがうまくても、ドラムやベースとしっかりと合わせられないと、意味がない。それがバンド。

 

大学のときバンドサークルにいたのだが、新しく入ってきた後輩のギタリストが、バンド練習時にまったく周囲の音を聞かず、一人だけ先に演奏を終えて満足そうにしていたのを見て、僕は「倍速ダビング」というあだ名を付けていたことを思い出した。

 

バンド運営のたいへんさを思い出した

『ぼっち・ざ・ろっく!』は、音楽に詳しくなくてもバンドをやっていなくても楽しめるほのぼの日常系マンガなので、日常系好きなら楽しめるだろう。また、バンド経験者ならバンド運営のあれこれについて「ああ、そうそう」という思うところが多く出てくるので、さらに楽しめるはずだ。

 

ただ、学生時代に一人で音楽をやっていたライター仲間に言わせれば、「ほんとのぼっちで音楽をやっていた自分からすれば、あんなの『ぼっち・ざ・ろっく!』とは言えない」とのこと。まあ、そこはファンタジーなので。

 

まだ1巻しか読んでいないが、これは続きも買うしアニメも見る(1話だけ見た)。

 

なんだかバンドやりたくなってきたなぁ。でも、おじさんバンドはもう『ぼっち・ざ・ろっく!』みたいなキラキラした感じにはならないのはわかってるので、家で一人で80年代のジャパニーズロックでも弾き語りしようかなと思った。

 

【書籍紹介】

ぼっち・ざ・ろっく!

著者:はまじあき
発行:芳文社

「ぼっちちゃん」こと後藤ひとりは、ギターを愛する孤独な少女。 家で一人寂しく弾くだけの毎日でしたが、ひょんなことから伊地知虹夏が率いる「結束バンド」に加入することに。 人前での演奏に不慣れな後藤は、立派なバンドマンになれるのか――!?全国のぼっちな少年少女に届ける、いま最高にアツい音楽漫画!!  陰キャならロックをやれ!!!

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約2万種類、18億枚! 50周年を迎えた「カルビープロ野球カード」は日本の文化遺産である!!

「カルビープロ野球チップス」が、誕生から50年の節目を迎えた。昭和、平成、そして令和の子どもたち、さらには大人たちをも夢中にさせた「プロ野球カード」もまた、記念すべきメモリアルイヤーを迎えることになった。それを記念して刊行されたのが『カルビー野球カード50YEARS ANNIVERSARY BOOK』である。

 

「カルビープロ野球カード」は歴史を映す「子ども文化遺産」である!

「今度は誰のカードが出るのかな?」と、期待と不安とともに袋を開封する喜びと興奮。友だちと交換したり、コレクションしたり、元号が変わり、時代が変わっても、その快感は不変だ。それが、半世紀にわたって、子どもも大人も魅了する僕らの「プロ野球チップスカード」なのだ。

 

元々は1971(昭和46)年発売の「仮面ライダースナック」のオマケとしてカードをつけたことがキッカケとなり、73年に「プロ野球スナック(当時)」にもカードをつけるようになったのだという。73年と言えば巨人V9達成の年であり、長嶋茂雄の現役最晩年でもある。当然、記念すべき「カード第一号」は、本書表紙の右上に掲載されている満面の笑みの長嶋さんだ。

 

当時はジャイアンツ人気が最高潮のころだったため、カードも巨人中心だった。今では信じられないことだが、最初期に発売された「1973年バット版カード」のカードリストを見ると、全91枚のうち、実に50枚がジャイアンツ選手で占められているのだ! さらに、セ・リーグではヤクルトは1枚もない。ヤクルトは「飲食メーカー」のライバル企業として除外されたのであろうか?

 

さらにさらに、パ・リーグにいたっては、阪急ブレーブス、南海ホークス以外の4球団のカードが、そもそも存在していないことにも驚かされる。その内訳は、全91枚中、セ・リーグ76枚(ヤクルト0枚)、パ・リーグは15枚(南海10枚、阪急5枚)! 当時の子どもたちのジャイアンツ愛、ON人気の絶大さはもとより、野球界全体の「セ・リーグ偏重ぶり」がこんなところにも表れているのだろう。まさに、「カルビープロ野球カード」は歴史を映す貴重な「子ども文化遺産」なのである。

 

すでに「国民食」となった「カルビープロ野球チップス」

本書には、誕生した1970年代から、80年代、90年代、さらには2000年代、10年代以降のクロニクル形式で懐かしいカードがたくさん並んでいる。選手の雄姿が躍るカラー写真の表面だけではなく、裏面の解説文も併せて掲載されているのが嬉しい。また、手に取るだけで、自分が子どもだったころに一瞬でタイムスリップできるのも楽しい。

 

本書の巻頭には「私とプロ野球チップス」と題して、カルビーマーケティング本部のポテトチップスチームで、2009年から現在にいたるまでカード開発を担当している三井剛さんのインタビューが掲載されているが、それによると「巨人が強い年はプロ野球チップスも売れる」のだという。これまでの販売記録によると「76年、87年の売り上げがすごくいい」そうだ。

 

76年と言えば、長嶋茂雄監督が前年最下位の屈辱から一気に初優勝を果たしたシーズンであり、87年は、王貞治監督が就任4年目で初優勝を実現した一年だ。長嶋さん、王さんの記念すべき初優勝時は「プロ野球チップス」も売れるし、カードも大量に世間に出回ることになるのである。巨人人気と「プロ野球チップス」とは、切っても切れない一蓮托生の間柄にあったのだということの証明だろう。

 

しかし、75年に広島東洋カープが待望の初優勝を実現し、78年にはヤクルトスワローズ、79年には近鉄バファローズが悲願のリーグ制覇を果たすなど、それまで「弱小球団」と称されていたチームが台頭すると、高度経済成長期以降のプロ野球ファン事情は一変する。85年には阪神タイガースが初の日本一に輝き「猛虎フィーバー」を巻き起こし、79年に誕生した西武ライオンズが広岡達朗、森祇晶監督の下で黄金時代を築き上げる昭和後期、さらには平成期が訪れると「巨人一辺倒時代」は終焉を迎えることになる。ページをめくるたびに、当時の野球界の事情が鮮やかによみがえる。

 

存亡の危機を乗り越えて、次代へ続く定番商品に

93年にJリーグが誕生したことにより、同じくカルビーから「Jリーグチップス」が誕生。すぐに大ヒットを記録し、「プロ野球チップス」は存亡の危機を迎えたという。

 

95年から96年までの2年間は、カルビーの関連会社である東京スナックに移管されることにもなった。それでも、「Jリーグチップス」の人気が落ち着いてきた97年に「プロ野球チップス」はカルビーに復帰。現在に続くカードブームを牽引することになるのだ。この間、野茂英雄、イチローなど、日本人メジャーリーガーが続々と誕生。04年には球界再編騒動にも見舞われた。それでも、子どもたちはポテトチップスを食べ、プロ野球カードに夢中になっていた。プロ野球界にさまざまな激変が訪れても、「カルビープロ野球チップス」は不滅なのである。

 

……滔々と、偉そうに述べているけれど、もちろんすべては本書の受け売りである(笑)。「人に歴史あり」「プロ野球カードに歴史あり」である。さて、1973年の発売以来、一体これまでにどれくらいのカードが発行されたのだろう? 前述の三井さんによれば、「これまでに約2万種類、18億枚が発行された」という。単純計算で日本国民全員が一人10枚以上持っていることになる。もはや「カルビープロ野球チップス」は「国民食」と言っても差し支えないのである!

 

カルビー社内では「かっぱえびせん」「サッポロポテト」に次ぐ歴史を誇るのが、この商品だという。同社の看板商品であり、不滅のロングセラーである「プロ野球ポテトチップス」にはこれからも、これまで同様に多くの子どもを、そして大人たちを虜にする「国民食」として、さらなる発展を遂げてほしいと、切に願っているのは僕だけではないだろう。おめでとう、「カルビープロ野球チップス」、ありがとう「カルビープロ野球カード」!

 

(執筆:長谷川晶一)

やはり英語学習は「話す・聞く」が重要? 本当に使える英語が身につく『「耳コピ」日常英会話』

先日、とあるアメリカ人UFOリサチャーにオンラインのインタビューを受けた。こういう機会は本当に久しぶりで、収録最中はまあまあいい感じだったのだが、後でアップされた動画を見て愕然とした。発音がダメだ。

 

発音矯正のキーポイントは耳コピ英会話?

合の手や間の取り方はそこそこいいんだけれど、慌てるととにかく発音がダメ。言い直しても納得いかないと、そればかりが気になって泥沼にはまっていくだけ。

 

筆者は英語学習に関してかなり多くの時間を費やし、多くの資料に目を通して、自分なりの方法論をアップデートし続けている。弱点を見せつけられた感覚が拭えないままでいる今の筆者の最新アップデート要素として紹介したいのが、『「耳コピ」日常英会話』(竹内薫・著/PHP研究所・刊)という本だ。著者の竹内薫氏は8歳から10歳までニューヨークの現地校に通い、東大教養学部、理学部卒業からカナダのマギル大学で博士課程を修了したサイエンス作家/翻訳者だ。

 

聞く・話す>読む・書く

大学3年の時にオレゴン州に留学した筆者は、かなり時間をかけて勉強した英語とアメリカでごく普通に使われている英語のギャップが想像以上に大きいことに愕然とした。だから、8歳の時に父親の海外赴任によって“いきなり”現地校で学び始めた竹内氏の体験のハードさは皮膚感覚レベルで理解できる。泣きながら勉強してバイリンガルになり、子どものために、自分ほど苦労せずに日本語/英語双方に堪能になれる方法を考えようと思った。これが本書のスタートだ。「はじめに」に記されている本書の命題的な部分を示しておく。

 

この本は、そんな私の教育奮闘記でもあるのですが、とにかく実践的な内容になるよう工夫を凝らしました。母国語を習得するのと同じ状況を疑似的に作り出し、とにかくリスニング(「聞く」)とスピーキング(「話す」)を鍛える。決して、リーディング(「読み」)とライティング(「書き」)からは入らない。

『耳コピ日常英会話』から引用

 

言い古されていることは十分わかっているのだが、あえて言っておきたい。読み書きに重きを置いてスタートするこれまでの日本の英語教育は、やはり方法論として間違っていた部分が多いのかもしれない。読む・書く・話す・聞くという4つの軸のうち、ふたつに対して費やす労力と時間を圧倒的に多くした結果、理論的にはきれいなひし形になるべきものが、いびつな形に仕上がってしまうのだろう。

 

ズームイン/アウト自由自在な章立てと項目

章立てを見てみよう。

 

主章  竹内式英語習得絶対法則

副章1 「読み」「書き」の上達は教材選びで決まる!
副章2 絶対に続く! モチベーションを保つ方法
副章3 ネイティブの英語感覚を身につける
副章4  英語力を飛躍的に高める3つの魔法

 

これだけ見ると本当にざっくりした感じだが、それぞれの章にきめ細かい設定が行われている。「日本語脳の呪縛」「日本人が英語を使えるようになるために必要なこと」といった大き目のスコープの話題から「本や雑誌の選び方のコツ」「脳科学でモチベーションを保つ」「会話の文法間違いはむしろ自然」といった自分ごと視線のトピックまでバラエティ豊かなアプローチで展開してくれる。

 

聞く・話すのテンポをデフォルト化しよう

今の筆者に最も響いたのは、主章と副章1の間に設けられている発音の良化を意識したフレーズ集だ。この本に繰り返し出てくる耳コピを通した“英語勘”を得るプロセスが凝縮された部分だと思う。「Feet on the floor!」(足を床につけて!)「Tuck in your chair!」(イスを机の下に入れて!)「Make a line!」(一列に並んで!)といった子どもがごく普通に学校で使う短いフレーズ—竹内氏は“コドモ英語”と表現する—がダウンロード可能な形でデータ化され、イントネーションや発音を繰り返し練習できるようになっている。文章も徐々に長くなるので、反復練習を通してデータ通りに再現できる確率が高くなる。

 

聞く/話すから成るコミュニケーションには即応性が求められる。そのテンポをデフォルトにしておけば、読む・書くへの応用性は自然に身につくはずだ。

 

学び直しの理由を再認識する

学び直す理由を再認識するための指標としても役立ってくれる本書をきっかけにする人も少なくないだろう。特に筆者のように、弱点が明瞭な形でわかっている場合は、より高い効果が期待できるに違いない。

 

FBの海外の友だちに気の利いたメッセージを送りたい。読み手にもっとインパクトを与えるような英文メールを書きたい。目的はそれぞれあるはずだ。筆者はこの本で発音を特訓して、次のインタビューを誰よりも自分が一番納得できる仕上がりにすることを目指す。

 

【書籍紹介】

「耳コピ」日常英会話

著者:竹内薫
発行:PHP研究所

“日本人は英語力を「50%」持っている”“「音を聞く」-発音記号は勉強しなくていい!?”“「コドモ英語」で耳コピに挑戦!”“「読み」「書き」の上達は教材選びで決まる!”“絶対に続く!モチベーションを保つ方法”海外経験ゼロでも、普通の大人でも、短期間で、「本当に使える英語」が身につく!

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先生! 私もモテたいです! 31歳女子のモテ奮闘記が愛しすぎる!!『失われたモテを求めて』

モテることはうらやましいことなのでしょうか?

 

モテてみたい。それは多くの人が抱く願いではないでしょうか。とはいえ、四六時中モテるのもめんどくさそうです。「一度モテを体験してみたい」程度が庶民的願望かと思われます。けれどモテるということは、うらやましいことなのでしょうか。

 

モテすぎると困る

学生時代、私の友人に、たいそうモテる女子がいました。彼女は透き通るような色白の肌のむっちりとした体型の子で、いつも愛想良くニコニコ笑っていました。親しみやすさがある彼女のところには、毎週のようにいろいろな男性からのデートのお誘いが来ていたものです。

 

彼女は誘われるがままにコンサートや船上ディナーに出かけて楽しんでいましたが、デート帰りに「付き合ってください」とか「結婚してください」などと言われることも多く、「困ったな、なんて断ればいいんだろう」とよく悩んでいました。

 

いくらモテても、結婚できる男性はひとりだけです。それ以上の男性はお断りするしかありません。愛し愛されるたったひとりの人がいればそれで十分なのだとしたら、モテるということは実はあまり効率が良くないものなのかもしれません。

 

モテてみたい願望

失われたモテを求めて』(草思社・刊)は、モテてみたい、という願望を持った31歳、年収300万円の黒川アンネさんが、モテに挑戦しながら色々な考察を重ねるという、読みごたえのあるエッセイです。

 

黒川さんは文章から映画や古典にかなり知識のあるかただということがわかり、思慮深く控えめな感じも素敵です。そのままでも十分魅力的だと思うのですが、彼女はモテを目指して奮闘します。

 

大事にされたい

文中の「どうして私には好きと言ってくれる人がいないのだろう」「誰かに選ばれた、好きになってもらったという経験がない」という心の叫びなどから推測するに、黒川さんのいうモテの定義とは、複数の男性からちやほやされることではなく、誰かに特別な存在として扱ってもらうことのように感じました。

 

筆者の場合、受け身派ではなく行動派なので、誰かに選ばれたいとは思いません。その代わり誰かを選び出したいという気持ちがとても強いのです。なので、選んでもらえないのなら、こちらから選びに行こう! と励ましたくなりました。

 

身近な男性を誘う

実際、彼女もその後、身近な男性やSNSでつながっている知人の男性に、自ら声をかけていきます。そして本当はとても魅力的なのでしょう、誘えば男性たちは会ってくれるのです。ただ、彼女が望む特別扱いの展開にならなかったため「モテない」と感じてしまったのかもしれません。

 

ファーストデートでいきなり特別感までは出てこないことも多いでしょう。デートを重ね、少しずつ関係を深める過程も楽しんでいただきたかったですが、それだとモテという主目的からは外れてしまうのかもしれません。

 

海外の男性と交流

印象深かったのは、彼女が始めた海外の男性とつながることができるマッチングアプリでの出来事。彼女ほど知的で英語も使える女性は、外国人男性のほうがその魅力をわかってくれそうな気がしましたし、実際、インド在住の男性から「可愛い」とモテたのです。

 

そこからはとても感動的で、彼女は自分への自信を取り戻し、ポジティブにもなれたのです。外国人男性のほうが褒め上手だと言われているし、これはとてもいい気分転換方法に思えました。しかも国際交流なので、視野も広がりそうです。

 

こうしたアプリには日本人女性のお金目当ての男性もいるらしいので、行動は慎重にする必要はありますが、肯定的な言葉を浴びるだけなら、外国人男性とのメッセージ交換はそう悪いことではないのかもしれません。そして、前を向いて歩き出した黒川さんが幸せに満ちた日々を送ることを願わずにはいられません。

 

【書籍紹介】

 

失われたモテを求めて

著者:黒川アンネ
発行:草思社

31歳、年収300万円、小さい頃からずっと「学年で一番太った子」。Tinder、Go To、パイパン、卵子凍結…コロナ禍でのモテ奮闘記。

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「咳をしても一人」放哉の句をピース・又吉直樹さんが厳選! 放浪の俳人が人間の弱さを露わにする~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。昔、英語の授業で「くしゃみをした人がいたら欧米では、“Bless you”と声をかけるのが決まり」と聞いて、「花粉症だったら大変だな、ずっと声をかけられっぱなしだ」と人見知りの私はおびえた覚えがあります(笑)。その一方で、同じころ「咳をしても一人」という尾崎放哉の自由律俳句を知り、図書室というシェルターでひとり読書していた私の心に刺さりました。やたらに声をかけられても困るけど、ひとりぼっちでは寂しい。人間ってわがままですね。

 

よりすぐりの自由律俳句110選

 

さて、今回紹介する新書は『孤独の俳句 「山頭火と放哉」名句110選』(金子 兜太、又吉 直樹・著/小学館新書)。2013年に刊行されたムック『人間 種田山頭火と尾崎放哉』(徳間書店)を底本とし、加筆・再編集されたものとなっています。

 

山頭火の選者は俳人の金子兜太さん。戦後、日銀勤務のかたわら俳句活動に入り、現代俳句協会会長などを歴任。テレビの俳句番組でもおなじみでした。

 

そして、今回の新書で新たに放哉の選者となったのは又吉直樹さん。お笑いコンビ「ピース」として活動しつつ、2015年に小説デビュー作『火花』(文藝春秋)で芥川賞を受賞。俳人のせきしろさんと共著で『カキフライが無いなら来なかった』(幻冬舎)も上梓しています。

 

「酔うてこほろぎと寝てゐたよ」

俳句界の重鎮だった金子さんと文学に造詣が深い又吉さん、それぞれがどこに着目し、どのような句を選んだのか。句を読んだだけではわからなかった発見や、解釈の余韻、余白も見えてきます。これが選者を立てている本書のいいところ。

 

さて、55句選ばれている山頭火の句のなかで私がもっとも気に入ったのは、「酔うてこほろぎと寝てゐたよ」。酒好きの放浪者だった山頭火らしい、情景が見えてくるような句。きっと、鳴いているコオロギも気にせず、地べたにゴロリと寝たのでしょう。心地よさもありながら、ひとりで酔いつぶれた秋の夜長という寂しさも漂ってきます。

 

選者の金子さんによると、2日前に詠んだ「酔うてこほろぎといつしょに寝てゐたよ」の訂正句だそう。「いつしょに」は気持ちを込めすぎているように感じ、さらっと書くほうが逆に印象が強いのではないかと金子さん。確かに短くなった分、「寝てゐたよ」がより効いている気がします。

 

続いて、放哉の句から一句選ぶなら、「漬物桶に塩ふれと母は産んだか」。東京帝国大学法学部を卒業しながら酒に溺れ、仕事も家族も捨てて各地を転々とした放哉が、神戸・須磨寺で寺男をしていたときの句です。

 

この句は又吉さんの選評とセットになることで味わいが増します。漫才師を目指していたはずがコンビを解散し、新しいコンビはコント中心で活動するように。劇場でコント衣装の大きなツノをつけた姿を鏡で見たとき、不安になったと明かす又吉さん。自分は何をしているのだろう?  この句の放哉と同じ気持ちだったのかもしれません。

 

金子さんの選評は山頭火の当時の状況や文学的背景に基づいた解説。一方、又吉さんはこれまでの人生や経験を切り取ったショートエッセイともいえる内容で、句の奥に見える人間の本質を汲み取っています。ふたりのアプローチの違いもよく出ています。

 

山頭火と放哉の略年譜、どこを放浪したかわかる日本地図、ゆかりある場所のガイドなどもまとめられ、自由律俳句の二大俳人の軌跡が一冊でつかめる構成。山頭火も放哉も人間の弱さ、だらしなさ、鬱屈、可笑しさを短い言葉でポンと提示しています。それはある種、表現することでの肯定。少し心が疲れたら手に取ってみるのもいいかもしれません。

 

【書籍紹介】


孤独の俳句 「山頭火と放哉」名句110選

著:金子 兜太、又吉 直樹
発行:小学館

「孤独」や「孤立」を感じる時代だからこそ、心に沁みる名句がある。漂泊・独居しながら句作を続け“放浪の俳人”と言われた種田山頭火と尾崎放哉の自由律俳句が今、再び脚光を浴びているという。厖大な作品群から、山頭火の句は現代俳句の泰斗・金子兜太が、放哉の句は芸人・芥川賞作家の又吉直樹が厳選・解説。名句を再発見する“奇跡の共著”。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

あなたは大丈夫ですか? セカンドハラスメントで訴えられないための注意点

先日、東京都で、ハラスメント防止対策推進事業を立ち上げたとのニュースがありました。

 

令和4年4月1日より、いわゆるパワハラ防止法(正確には、労働施策総合推進法)が中小企業にも適用され、すべての事業主に対して、パワハラ、セクハラ等のハラスメントの防止措置を講じることが義務付けられました。

 

このような流れの中で、東京都は新たな事業を立ち上げたのでしょう。確かに、弊所でのハラスメントに関する相談件数や研修依頼も、今年度に入ってからは前年比1.5倍くらい増加しています。

 

ハラスメント被害の相談でおこる二次的ハラスメント

今回は、ハラスメント問題の中でも、ハラスメント被害を受けた労働者が、さらなるハラスメントを受ける「セカンドハラスメント」について説明し、窓口担当者がセカンドハラスメントと言われないための相談対応について解説します。

 

セカンドハラスメントとは、パワハラやセクハラを受けた人が、被害について相談したことによっておこる二次的なハラスメントのことです。

 

例えば、職場の相談窓口にパワハラ被害を相談したところ、担当者から、「あなたの方に問題があったのではないですか」と傷口に塩を塗る対応をされるような場合です。「私もそんなことあったけど、耐えてきたんだよ」と自らの価値観で話をされる、等も該当します。

 

会社に課されているパワハラ防止対策の中でも、相談窓口の設置は義務とされています。また、この相談窓口は、パワハラをはじめ、セクハラ、妊娠・出産・育児休業・介護休業の取得に関する嫌がらせ等を含めた横断的ものがが望ましいとされています。

 

このようにハラスメント対策の中では、相談窓口は最も基本的で労働者には身近なものと位置づけられ、そうであるからこそ窓口担当者の対応や力量がハラスメント撲滅には肝となります

ハラスメントを解決するための窓口でセカンドハラスメントが起きないよう、窓口担当者の方は次の点に留意して相談対応を行いましょう。

 

<相談対応の心得>

①しっかり話を聴く

尋問の「訊く」ではありません。窓口には相談に来ています。相手の話を遮ったりせずに寄り添う姿勢で傾聴しましょう。

 

②個人的な関心事に引っ張られない

話を聴いていると、担当者の個人的な関心事に意識が引っ張られることがあります。そうなると、質問を挟んだり、意見を言い過ぎる傾向にあります。関心事は後回しにしてまずは聴く姿勢に徹します。

 

③プライバシーに最大限配慮する

被害者は、加害者からの報復への恐怖心を持っていることもあります。今後ハラスメントの事実の調査を進める際、社内でどこまで情報を共有してよいのか等、相談者のプライバシーへの最大限の配慮を行います。

 

④ジャッジしない

担当者はあくまで窓口です。その後、その行為がハラスメントかどうかは別に判断することになります。そのため、窓口担当者は「事実」を確認することに集中します。相談の冒頭に、「ここでは事実を確認させていただきます。ハラスメントかどうかの判断は私ではできません。」としっかりと相談者に伝えることも大切です。

 

⑤1回の相談時間は最長50分にする

しっかり話を聴いていると50分では終わらないかもしれません。その場合は、次回に回しましょう。相談者にとってみると、気持ちを切り替えられる、冷静になれる、という時間にもなります。また、窓口担当者も長時間話を聴くことはかなり消耗しますので、50分程度がよいと考えます。

 

ここで、担当者がジャッジしてしまい、うまくいかなかった相談事例をご紹介します。

 

ある日、ハラスメント相談窓口に男性従業員より匿名で相談の電話がありました。この従業員は、女性上司が子どもの学校の成績、共働きの妻の年収、休日の過ごし方などのプライベートについて、根ほり葉ほり聞いてくることが苦痛であるということでした。
これを受けて、窓口担当者は、女性上司に悪気はなく、業務を指示するにあたり、部下のプライベートな事情や生活状況等を考慮することを目的で聞いているのだから、パワハラにはあたらないと話したところ、相談者は怒った様子で「じゃあ、もういいです。」と告げて、電話が切られてしまいました。

厚生労働省『パワーハラスメント社内相談窓口の設置と運用のポイント(第4版)

 

この事例は、窓口担当者が、勝手に「パワハラにはあたらない」と判断してしまったことで、相談者の相談にうまく乗れませんでした。

 

「ジャッジしない」ということは、いざやってみると難しいことです。普通に聞いていると、会話のように自分の考えを言いたくなってくるからです。そのため、会社は、窓口担当者には傾聴法を学んでもらう等の教育の機会を与えることも必要となってきます。

 

 

【書籍紹介】

労務管理の基本がぜんぶわかる本

著:三谷文夫
発行:ワン・パブリッシング

働き方改革、DXへの取り組み、新型コロナによるテレワークの進行…企業労務はここ数年で大きく様変わりしています。本書では、豊富な図解と事例で企業労務に関する問題をわかりやすく解説しました。経営者、労務担当者、必携の1冊です!

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(文:三谷文夫)

「時間が足りない」と嘆くそこのあなた!『YOUR TIME』を読んで、時間不足を解消しよう

あっという間に1年が終わってしまう! 私も毎日お仕事に追われて、時間が足りない……と嘆いております。嘆いて時間が増えるわけでもなければ、勝手に仕事が終わるわけでもない。「どうしたものか」と悩んでいたのですが、『YOUR TIME ユア・タイム』(鈴木 祐・著/河出書房新社・刊)を読んで、もう時間が足りないと言うのはやめよう、本当に好きなことに時間を使おう! とポジティブに考えられるようになりました。

 

今回は、読むだけで時間の捉え方が変わる『YOUR TIME ユア・タイム』をご紹介します。

 

時間術における3つの真実

1日24時間というのは、誰もが平等に与えられている時間です。夜更かししようが、働いていようが、ぐっすり寝ていようがこの地球上に暮らしているすべての人に同じ時間が与えられています。

 

しかし、「今週は早かったなぁ」とか「いつも時間が足りない」と嘆いてしまうのはなぜなのでしょうか? 『YOUR TIME ユア・タイム』の著者、鈴木祐さんによると、それは“時間感覚”が人によって変わってくるからだそう。また世の中にはさまざまな時間術やタイムマネジメントの常識がありますが、実は根拠がないなんてこともあるのだとか。

 

どれだけ最新の時間術を学んでみても、根拠が間違っていたら意味がありません。そこでまずは、世に出まわるタイムマネジメントの考え方から、特に誰もが間違いやすい3つの真実を押さえておきましょう。

 

真実①…時間術を駆使しても仕事のパフォーマンスはさほど上がらない

真実②…時間の効率を気にするほど作業の効率は下がってしまう

真実③…「時間をマネジメントする」という発想の根本に無理がある

(『YOUR TIME ユア・タイム』より引用)

 

『YOUR TIME ユア・タイム』では、世の中にある時間術についての研究結果をとことん紹介しています。これまで私たちが「これで生産性が上がる!」「効率的に働ける!」と思っていた常識や定番が、人によって全然効果が出ないという研究結果が実は結構あったんです。

 

いろんな本を読んで時間術を実践してみても続かない、自分だけ成果が出ないと悲しい気持ちになった人もいるでしょう。安心してください、それはあなたに合っていないだけだったんです!

 

自分に合う時間術を使おう

では、どうやって自分に合う時間術を見つけるか? というと、『YOUR TIME ユア・タイム』に掲載されている「時間感覚タイプテスト」を受けるだけ。これから読む人向けに「ウェブ診断」もあるので、気になる方はやってみましょう。20問の設問に答えるだけで、自分の時間感覚を知ることができますよ。

 

【ウェブ診断はこちら

 

テスト結果は、4×4の16タイプに分けられます。自分のタイプを把握するだけに終わらず、もし「しっかり計画を立てられる人になりたい!」と思ったら、『YOUR TIME ユア・タイム』にある時間術を実践することでタイプを変えていくことができます。あれこれライフハックや時間術を試して挫折を繰り返している人は、ぜひ一度診断してみてください!

 

ちなみに私は、目先のことばかりやってしまう「浪費家」&自分の能力を過信する「自信家」でした(笑)。当たっている……。タイプ診断をして、本書を読んでいるだけでも、グサグサ刺さる言葉のオンパレードなので、自分の日頃の時間の使い方について反省したい人にもおすすめです。

 

「生産性を上げれば上げるほど忙しくなる」って本当?

『YOUR TIME ユア・タイム』では、さまざまな研究結果と合わせて、本当の時間とは何か? を追求しているのですが、個人的に一番驚いたのが「生産性を上げれば上げるほど忙しくなる」というものでした。

 

組織心理学者のトニー・クラブは、生産性の追求がもたらす罠についてこうコメントしています。いかに生産性を上げようが、そのぶんだけやるべき作業の量も増えていき、あなたの忙しさは一向に改善しないという指摘です。

この言葉の正しさは複数のデータで認められており、たとえばリーダーシップIQ社が行った調査では、全米207社で働く従業員のエンゲージメントと業務実績評価データマッチングを実施。その結果、全体の42%の組織において、生産性が高い人ほどエンゲージメントが低い事実を明らかにしました。

(『YOUR TIME ユア・タイム』より引用)

 

これは今を生きる多くの人が抱えている課題ではないでしょうか?

 

生産性ばかり重視した結果、能力の高い人だけが忙しくなり、能力ある人のモチベーションが失われてく……。じゃあどうしたらいいのか? その答えは『YOUR TIME ユア・タイム』にたっぷりと書かれてあります。本を読む時間すらない、なんて言わずにぜひ自分のこれからの人生の時間を考えるためにも2〜3時間、ゆっくり本を読んでみてください。本を読んだことで気づくこと、発見することがたくさんあるはずです。来年こそ、自分の時間を取り戻しましょう!

 

 

【書籍情報】

YOUR TIME ユア・タイム

著者:鈴木 祐
発行:河出書房新社

4×4“時間感覚”タイプ別時間不足の根本解決。“時間の概念”をくつがえし人生の満足度を引き上げる究極メソッド。

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社会保険の観点からパターン別に解説! 副業をする際に注意したいこと

副業をする人が増えています。リクルート社の「兼業・副業に関する動向調査データ集2021」によると、現在副業をしている人は9.4%、今後実施の意向ありの人が46.5%という結果です。回答者のうち実に半数以上の方が、副業をしていたり、前向きに考えているということです。

 

国も副業を推進する立場をとっていますので、今後ますます副業をする労働者は増えてくることが予想できます。そこで、今回は副業をする際に注意することとして、主に社会保険の観点から、パターン別に解説します。

©富永三紗子『労務管理の基本がぜんぶわかる本

 

(1)正社員+正社員

正社員として働きつつ、別の会社でも正社員として働くパターン。あまり多くない働き方だと思いますが、最近は短時間正社員という雇用形態もあり、例えば、週3日の正社員という働き方もあるため、選択肢としては考えられます。

 

このパターンで注意する点は、大企業で副業する場合の社会保険のダブル加入の可能性です。社会保険(健康保険・厚生年金)は、通常の正社員の3/4以上の所定労働時間であれば加入する必要があります。そのため、通常の正社員が週40時間の所定労働時間の場合、30時間以上働くと社会保険に強制加入となります。

 

しかし、法改正により、今年10月から101人以上の会社では、所定労働時間が週20時間以上30時間未満の方も社会保険に加入する必要があります

 

そのため、A社で週3日正社員、B社で週3日正社員という働き方であっても、両会社が101人以上の大企業であれば、社会保険へダブル加入することも可能性としてあるのです。

 

ダブル加入した場合、健康保険証は1枚しか持てないため、A社かB社かどちらかを選択しなければなりません。また、保険料はA社とB社の給料を合算した額をベースに保険料が決定されます。その保険料をA社、B社の給料額を按分した割合で各社での保険料が算出され、その額が毎月の給料から控除される仕組みとなっています。

©富永三紗子『労務管理の基本がぜんぶわかる本

 

(2)正社員+パート

このパターンは比較的多いのではないでしょうか。このパターンで注意することは、(1)と同様、社会保険のダブル加入の可能性です。

 

パートやアルバイトといった雇用形態に関わらず、条件を満たした場合、社会保険には強制加入となります。そのため、「副業がパートだから」という理由で社会保険の加入を免れることはできません。パートでの副業でも労働時間が長くなれば社会保険の加入の可能性もありますのでご注意下さい。

 

(3)正社員+個人事業

これは業務委託型と言われるパターンです。副業先においては業務委託契約(請負契約)を結び、その契約に基づいて業務提供を行うという副業形態です。働き方の程度によって、フリーランス、ギグワーカー、個人事業主などと呼ばれます。

 

(1)や(2)のように雇用契約ではないため、このパターンでは、労働基準法などの労働関係諸法令が適用されません。そのため、副業として行っている業務については労働者としての保護は受けられないことになります。例えば、労働者であれば業務上の怪我は労災保険の対象となり国から保険給付を受けられますが、副業での作業中に怪我をしても何も補償はありません。

 

少し前に、フードデリバリーの配達員の配達中での事故についてのニュースもありましたが、まさに、雇用なのか業務委託なのか、という点が問題になったわけです。このパターンで副業をする場合には、副業先との契約内容を理解した上で、副業は全て自己責任、という認識をもつことが必要です。

©富永三紗子『労務管理の基本がぜんぶわかる本

 

(4)パート+パート

複数の会社でパートとして働いている方もいるでしょう。それがこのパターンです。このパターンの方は、「配偶者の扶養のまま働きたい」というニーズが多いと思われます。そのため、各会社では所得税や社会保険の関係で、年収103万円、年収130万円等の「壁」を意識して働いているのではないでしょうか。

 

ただ、このパターンで注意することは、やはり社会保険の加入です。繰り返しになりますが、パートであっても条件を満たすと自らが社会保険に強制加入となり、配偶者の扶養から外れることになります。

 

社会保険の場合、原則、年収130万円未満であれば扶養の範囲となりますが、複数社で働きつつ年収を130万円未満に抑えていても、ある会社での所定労働時間が週30時間や20時間を超えている場合等は、前述のとおり社会保険への加入する必要があります。そのため、収入面だけでなく労働時間の観点からも、働き方を選択する必要がありますのでご注意ください。

 

以上、4つのパターンについて主に社会保険の観点から注意すべきことを解説しました。副業をする際には参考にしてください。

 

 

【書籍紹介】

労務管理の基本がぜんぶわかる本

著:三谷文夫
発行:ワン・パブリッシング

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(文:三谷文夫)

100年の時を超えて映画化された芥川龍之介の隠れた傑作『報恩記』

ハイパーメディアクリエイターの高城剛が映画を作ったと知り、早速、観に行きました。タイトルは『ガヨとカルマンティスの日々』、アメリカが財政破綻した後の世界を描く近未来ものです。日本では一週間限定で上映され、その後は世界各国を巡演するとのこと。普段は神戸の自宅にひきこもって暮らしている私ですが、たまたま東京にいて、これも何かのお告げかと、汐留にある「ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場」まで出かけました。

 

出典:国立国会図書館「近代日本人の肖像」

 

原作は芥川龍之介の『報恩記』

『ガヨとカルマンティスの日々』は、たくさんの驚きが詰まった作品でした。まず、シネマカメラを使わず、ソニーのα1という一眼レフのカメラを使って撮影したというのです。それも8Kで。さらには、プロのカメラマンが撮影したのではなく、露出の意味さえ知らないスタッフによって作られたというではありませんか。カメラに搭載されたオートフォーカス機能が優れているため、すべてをカメラ任せにしても大丈夫だというのです。

 

さらには、キューバで撮影したことも驚きでした。ハリウッドの人たちが撮影できない場所はどこだろうと考えた末、舞台をキューバにしたというのです。つまりハリウッドに真っ向から挑んだということになります。使用言語を英語ではなく、スペイン語としたことも驚きました。

 

しかし、何よりも驚いたのは芥川龍之介の『報恩記』(青空文庫POD・刊)が映画の原作となっていることでした。『報恩記』は、1927年に出版された作品ですから、映画との時間差は100年以上となります。

 

高城剛は2028年にアメリカ経済が変革し、世界のOSが変わると述べています。映画にもその考えがしっかり織り込まれています。それなのに、『報恩記』をもとにしたとは驚愕しないではいられません。

 

初めて読んだ『報恩記』

芥川龍之介作品は学校の課題などで何度か読んだことがありました。けれども、『報恩記』はタイトルさえ知りませんでした。早速、ダウンロードしていそいそと読み始めるや、安土桃山時代を舞台とする歴史小説でした。作品は3部構成になっています。簡単にその内容を記すと、

 

最初は、盗賊である阿媽港甚内(あまかわじんない)の告白で始まります。甚内は盗みをはたらくため、廻船問屋である北条屋弥三右衛門の屋敷に忍び込みます。ところが、かつては栄華を極めたその家も今や破産寸前で、数日のうちに大金を用意しなければならない状態だと知ります。覚悟を決めた弥三右衛門はキリストに向かって祈り始めます。「おん主、『えす・きりすと』様」と。その顔を見て、阿媽港甚内は気づくのです。弥三右衛門は、20年前、自分の命を助けてくれた恩人だということを。そこで、かつてのご恩を返すため、金を都合しようと決心します。

 

次に、北条屋弥三衛門が神父に向かって告白する形で話が始まります。弥三衛門は阿媽港甚内を助けたことを覚えていました。けれども、大金を用意しようという甚内の申し出に対しては半信半疑でした。そんなことはあり得ない話です。ところが、本当に彼は大金を調達してきたのです。さらには、その時、家に忍び込もうとしたもう一人の男の存在に気づくのです。

 

2年後、阿媽港甚内がとうとう捕まり、さらし首になりました。弥三衛門は自分を助けてくれた阿媽港甚内の最後を見届けようと、首を見にいきます。しかし、そこにさらされていたのは、意外な人物の首でした。

 

最後に登場するのは、弥三郎です。彼は弥三衛門の息子です。大きな家に生まれながら、博打に凝り、勘当状態でした。ところが、偶然、阿媽港甚内に巡り会います。不肖の息子とはいえ、父を助けてくれた甚内に感謝の思いでいっぱいになります。そこで弟子入りを志願するのですが、甚内はその言葉を遮り、「貴様なぞの恩は受けぬ」と拒否します。本気で甚内のために身をささげようと考えていた弥三郎は、怒りにふるえ、やがて恨みの気持ちを抱きます。さらに、月日が流れ、余命いくばくもないと知った弥三郎は思い切った行動に出ます。それは……。

 

3人の話は、時にからまり、重なり合いながら進んでいきます。それぞれに別の話でありながら、見事に一つの結末へ束ねられ、驚愕の結末に向かうのです。

 

高城剛がたくさんの作品の中から『報恩記』を選んだのは、考えた末のことでしょう。舞台を日本からキューバに変えても、時代や台詞や主人公を高城流に書き換えても、原作として耐える物語が必要です。芥川龍之介作品は、これまでも何度か映画化されてきました。『羅生門』『藪の中』『蜘蛛の糸』など、ご覧になった方も多いでしょう。しかし、この『報恩記』は今までにない表現方法を用いて映画化されています。それでも、根底には芥川の物語が脈々と流れています。海外で上映された際の反応が楽しみでなりません。優れた作品は時間を越えて私たちにせまってくるものだからです。

 

『報恩記』を読んでから、私は芥川龍之介の作品をもっと読みたくなりました。その意味で、『ガヨとカルマンティスの日々』は、芥川作品に再会させてくれた映画となりました。

 

【書籍紹介】

報恩記

著者:芥川龍之介
発行:青空文庫POD

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ノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノーの妊娠・中絶を巡る衝撃的なオートフィクション『嫉妬/事件』

今年2022年、ノーベル文学賞を受賞したフランス人作家、アニー・エルノーの『事件』を原作とした映画『あのこと』が公開になった。

 

1960年代、中絶が違法だったフランスで妊娠してしまった大学生の葛藤を描いた作品で、ヴェネチア国際映画祭で金獅子を受賞している。今でこそフランスはフェミニズムの国となっているが、中絶が合法化されたのは1975年のこと。それ以前は多くの女性たちが望まない妊娠で苦悩し、闇中絶に頼るしか選択肢がなかった。そして、それらをひと昔前のことといえない状況なのがアメリカで、なんと現在13の州が中絶を禁止しているのだ。多くのアメリカの女性たちは、今、切実な思いでエルノーの本を手にして読んでいるという。

 

嫉妬/事件』(アニー・エルノー・著、堀茂樹、菊地よしみ・訳/早川書房・刊)の原著は、『事件』が2000年、『嫉妬』が2002年と別々に単行本として刊行された。この二作を収録し、ハヤカワepi文庫として発行されたのが本書だ。

オートフィクションとは?

アニー・エルノーはフランスを代表するオートフィクションの旗手だ。オートフィクションとは、フィクションでもノンフィクションでもない。『嫉妬』の訳者である堀茂樹氏はあとがきでこう記している。

 

一九八四年の初版の『場所』以降のA・エルノーのすべての主要作品と同様(中略)、著者自身が引き受ける一人称の「私」の名において記述された自伝的「文章」「テクスト」である。

(『嫉妬/事件』訳者あとがきから引用)

 

『嫉妬』では、若い恋人を他の熟年女性に奪われた熟年女性の「わたし」が語り手に、そして『事件』での「わたし」は20代前半で体験した堕胎という事件を振り返り、その一部始終を淡々と語っているのだ。

 

フランスでは中絶は犯罪だった

『事件』の本文中には、1948年版の新ラルース百科事典にある中絶に関する法律が記されているので引用しておこう。

 

法律 以下の者は懲役および罰金を科される。(一)何らかの中絶処置をほどこした者。(ニ)その種の処置を指示もしくは幇助した、医師、助産婦、薬剤師、およびその責任者。(三)みずからの身体に中絶処置をほどこした女性、もしくはそれに同意した女性。(四)中絶を教唆、避妊を奨励した者。

(『嫉妬/事件』から引用)

 

とはいえ、子を産めば人生が狂い変わってしまう若い女性たちはなんらかの方法を見つけていた。自ら膣に編み棒を突っ込み、命を危険にさらす女性もいたし、大金の施術料と引き換えに闇で中絶を行う者も大勢いたのだ。

 

中絶をする決心は固く

1963年の10月、「わたし」はルーアンで生理がやってくるのを1週間以上待っていた。しかし、いくら待てども生理はこない。そこで「わたし」は11月になって婦人科のN医師の診察を受けた。

 

婦人科医は、あなたが妊娠しているのは確実だと言い、妊娠証明書を送ると伝えてきた。証明書は翌日届いた。<マドモアゼル・アニー・デュシェーヌの分娩予定日 一九六四年七月八日>。わたしは夏を、太陽を目に想い浮かべた。そうして、妊娠証明書を引き裂いた。(中略)一週間後、ケネディ大統領がダラスで暗殺された。でも、それは、もはやわたしの興味を引く出来事ではなかった。

(『嫉妬/事件』から引用)

 

最初はひとりでやろうと心に決め、編み棒を性器に差し込んでみた。しかし激しい痛みを感じるばかりで、ひとりでは出来ないと悟り、そして泣いた。その後、絶望する中、知り合いがパリで闇で堕胎をしてくれるマダムP・Rを教えてくれた。マダムP・Rはある私立病院に勤めている年配の準看護婦だった。彼女は病院から膣鏡を持ち出せる水曜日にだけ、自宅で処置をしてくれるという。方法は膣鏡を使って子宮頸部にゾンデを挿入する。そうしてあとは流産するのを待つだけ。「わたし」はお金を借り、迷うことなく列車に乗って、ルーアンからパリへ向かったのだった。そのあたりはかなり詳細に書かれている。

 

大学の寮のトイレで出産

出産のシーンも克明に淡々と書かれている。大学の寮のトイレに駆け込み、力いっぱい何度も息む。

 

榴弾の炸裂のようにあれが飛び出してきて、羊水がほとばしり、ドアまで広がっていった。性器から、ちっちゃな胎児が赤っぽい臍の緒の先に垂れ下がっているのが見えた。

(『嫉妬/事件』から引用)

 

そして友人のOが臍の緒を切る。そして、「わたし」もOも3か月の胎児の生と死が同時に起こった瞬間、生贄の場面に涙を流すのだ。

 

書くことで罪悪感を消し去った

時を経て、この出来事を文章にしたことについてエルノーはこう記している。

 

わたしにとって人間経験の総体のように思えることを、こうして言葉にし終えたわけである。生と死の経験、時間の、道徳とタブーの、法律の、経験、この体を通して始めから終わりまで生きた経験を。(中略)さまざまなことがこの身に起こったのは、それを説明するためなのだということ。それと、わたしの人生の真の目的は、おそらくこういうことでしかないからだ。わたしの体、感覚、思考を、書く行為によって ━言い換えれば、一般的に理解できるものによって ━ほかの人たちの頭と人生のなかに完全に溶け込む、わたしの存在にするということ。

(『嫉妬/事件』から引用)

 

すべての女性が自由意志で産むか産まないかを選択できる権利の重要性を、『事件』は私たちに切々と伝えてくれているのだ。

 

『事件』があまりに衝撃的なのでそればかり書いてしまったが、本書の『嫉妬』に関してもエルノーは嫉妬に囚われた想像界を克明に見事に表現している。

 

ノーベル賞受賞作家の話題作2篇が収録された本書、バッグやコートのポケットに入れて持ち歩ける文庫なので、すき間時間の読書におすすめだ。

 

【書籍紹介】

嫉妬/事件

著者:アニー・エルノー
発行:早川書房

別れた男が他の女と暮らすと知り、私はそのことしか考えられなくなる。どこに住むどんな女なのか、あらゆる手段を使って狂ったように特定しようとしたがー。妄執に取り憑かれた自己を冷徹に描く「嫉妬」。1963年、中絶が違法だった時代のフランスで、妊娠してしまったものの、赤ん坊を堕ろして学業を続けたい大学生の苦悩と葛藤、闇で行われていた危険な堕胎の実態を克明に描く「事件」を合わせて収録。

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新人フリーランス必読!確定申告を最速で終わらせる方法

毎年3月15日が近づいてくると、「確定申告しなきゃ!」「何も準備してない。やばい!」といったような声が、フリーランス界隈でよく聞こえてくる。

 

企業に勤めている人は、「確定申告って大変なんだな」と思うばかりで、実際それがどれくらい手間のかかる作業なのかイメージしづらいかもしれない。しかし現在、会社に勤めながら副業をしている人は10%近くに及ぶ。副業での所得が20万円を超えると確定申告をする必要があるため、サラリーマンにとっても確定申告は他人事ではないはずだ。また、働き方の多様化によって、将来フリーランスとして働くことを選ぶ人は、今後ますます増えていくことだろう。

 

そこで本項では、『マンガでわかる フリーランスのお金のことぜんぶ教えてください!』(田口智隆・著、ワン・パブリッシング・刊)から、新人フリーランスが知っておくべき確定申告の知識についてお伝えする。

フリーランスが知っておくべき確定申告の知識はこれだけ!

そもそも「確定申告」で何を申告しているかというと、「所得税の金額」である。前年の1月1日から12月31日の間の所得を「確定」させて、所得に伴う「所得税」を申告することを、「確定申告」と呼ぶのだ。所得とは実際に入金された「売上」の金額ではない。

 

「売上」から、「経費」と「控除」を差し引いた金額が、「所得」である。

 

つまり、「所得=売上−経費−控除」で計算できる。確定申告をするにあたってフリーランスに求められることは、1年間の「売上」と「経費」と「控除」の金額を管理しておく、これだけである。

 

難しい簿記の知識などまったく必要ないし、複雑な計算をする必要もまったくない。とにかく、「売上」と「経費」と「控除」の金額だけ知っていればOKなのだ。

 

「売上」については、取引先に送った請求書と、実際に入金された額がわかる通帳(現物でもいいし電子でもいい)があればいい。「経費」については、仕事のために使ったお金の領収書やレシートを保管しておけばいい(クレジットカードの明細でもOK)。「控除」については、生命保険会社や年金機構などから送られてくる「控除証明書」を保管しておけばいい。

 

これだけアナログでやっておけば、あとは「Freee」「マネーフォワード」「やよいの青色申告」などの会計ソフトを利用しよう。

 

会計ソフトにはクラウド型とインストール型があるが、オススメはクラウド型の有料版。クラウド型の有料版は年間1万円程度の利用料金がかかるが、初心者でも使いやすいように設計されているソフトが多いのでオススメ。確定申告の書類をスマホ1台で作成できるソフトもある。それくらい今、会計ソフトは進化しているのである。

©大塚さやか『フリーランスのお金のことぜんぶ教えてください!』

 

会計ソフトに機械的に数字に打ち込むだけで終了

クラウド型の会計ソフトは、毎月の「売上」や「経費」、「控除」の金額を打ち込むだけで、確定申告に必要な書類を作成してくれる。簿記の知識が何もなくても問題ない。電卓をはじいて数字の計算をする必要もない。

 

フリーランスのお金の管理法として、理想は毎月その月の「売上」や「経費」を登録し、現金出納帳などの帳簿を作成しておくのがベスト。でも、それが面倒な人は、確定申告の際に1年分を一気に作成しても問題ない。

 

何度も繰り返すが、1年分の「売上」と「経費」と「控除」の金額だけわかっていれば、3月になってから確定申告書類の作成に入っても遅くないのである。

 

さらに、クラウド型の会計ソフトは、銀行口座やクレジットカードと同期することも可能だ。プライベートでは使用しない、仕事用の銀行口座やクレジットカードを会計ソフトに同期しておけば、自動的に「売上」や「経費」を計上してくれる優れた機能である。

 

また、レシートや領収書をカメラで撮るだけで、金額を読み取ってくれる機能まである。これらを使いこなすには慣れが必要だが、いったん慣れてしまえば、確定申告の手間はほとんど掛からなくなる。フリーランスになったら、できるだけ早くクラウド型の会計ソフトを導入して、使い方に慣れておこう。

 

確定申告は「還付金」がお楽しみ

確定申告を初めて行うフリーランスは、「納税のために時間をとるのか……」と気乗りしないかもしれない。でも、ほとんどのフリーランスは、確定申告によって「税金を払う」のではなく、すでに払っていた税金を「還付金として受け取る」ことになる。

 

フリーランスが企業と仕事するとき、多くの場合、請求金額よりも少ない金額しか入金されない。たとえば10万円を請求したら、8万9790円が入金されることになる。これは、「源泉徴収」といって、企業はあらかじめ、フリーランスの所得税を税務署に前納しているからだ。源泉徴収の金額は、「売上額(消費税込)」の10.21%である。

©大塚さやか『フリーランスのお金のことぜんぶ教えてください!』

 

そのため、確定申告によって算出した所得税の金額が、源泉徴収分よりも少ない場合、差額分が「還付金」として戻ってくるシステムなのである。

 

所得税が源泉徴収分より少なくなるのは、確定申告によって「経費」や「控除」を「売上」から差し引くからだ。すると、所得は少なくなり、連動して所得税も少なくなる。その結果、源泉徴収分と差額が生まれる寸法である。つまり、確定申告をしないことは、お金で損することを意味する。

 

「納税は国民の義務だから……」とイヤイヤするのではなく、「お金を取り戻すため」と考えれば、確定申告をするのが楽しみになってくるのではないだろうか。

 

事前に「マイナンバーカード」を取得することを忘れずに

最後に、新人フリーランスが確定申告前に必ず終わらせておきたいことをお伝えする。マイナンバーカードを持っていない人は、今すぐ作ってほしい。なぜなら、マイナンバーカードを持っているかいないかで、「控除」の金額が異なるからだ。

 

確定申告には、「白色申告」と「青色申告」の2種類がある。白色申告は、以前は「帳簿が不要」だった。だが現在は青色申告と同じように帳簿が必要になったため、青色と同じ手間がかかるようになった。だから白色申告をする理由はひとつもない。

 

青色申告の中にも、「簡易簿記」と「複式簿記」が選択できる。会計ソフトを利用すれば、両者の手間の差はほとんどない。簡易簿記だと10万円の控除が受けられるが、複式簿記だと55万円もしくは65万円の控除が受けられる。だから、複式簿記を選択しない理由はない。

 

フリーランスは開業時に税務署に「青色申告承認申請書」を提出するのが望ましい。その際は迷わず「複式簿記」を選択しよう(詳しくは『マンガでわかる フリーランスのお金のことぜんぶ教えてください!』(田口智隆・著、ワン・パブリッシング)を参考にしてください)。

 

青色申告の「複式簿記」で申告しても、控除額が55万円と65万円の2パターンがある。その差は、申告方法がアナログかデジタルかによる。申告方法がアナログ(税務署に持参・配達)の場合は55万円、国税庁のシステムであるe-Taxを利用して電子申告をすれば65万円の控除が受けられるのだ。

 

たとえば、課税所得400万円の人が、青色の65万円控除で申告した場合、白色申告に比べて、税金(所得税と住民税)の合計は、およそ20万円も安くなる。ちょっとの手間で20万円も変わるのだから、青色の65万円控除で申告しない手はない。そこで必要なのが、マイナンバーカードなのだ。

 

e-Taxを利用するためには、マイナンバーカードが必須。カードの現物を持っていなければ利用できない。マイナンバーカードの発行には数ヶ月かかることがあるため、確定申告の直前に慌てて申請しても間に合わない可能性があるので、注意が必要だ。

 

フリーランスで、もしまだマイナンバーカードを所持していない人は、早めに発行することをオススメする。ここまで準備できれば、あとは会計ソフトに数字を打ち込んでいくだけだ。簡単とはいえ、初めての確定申告でわからないことも出てくるかもしれない。提出日ギリギリになって焦らないように、年が開けたら少しずつ作業を進めていこう。

 

【書籍紹介】

マンガでわかる フリーランスのお金のことぜんぶ教えてください!

著:田口智隆
発行:ワン・パブリッシング

多忙かつお金に苦手意識のあるフリーランスに向け、フリーランスのお金にまつわるあれこれをマンガでわかりやすく解説! 開業する前の準備、確定申告や税金・控除のあれこれ、フリーランスこそやっておくべき資産運用の話、お金で損をしない節約術など、本書を読めば何が必要で何が必要でないのかがすぐに理解できます。

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(文:堀田孝之)

便器を展示したらアートになる!? 小学生でもわかる現代アートの楽しみ方はコレ!~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。あれは確か大学生のころ。駅前の輸入食品店に、キャンベルのスープ缶が売っていました。それを見た私は「おお、これがアンディ・ウォーホルの絵で有名な缶詰か!」と感動気味で買って帰り、缶を眺めながらスープを飲んだのを覚えています。

 

誰もが知っているありふれた缶をそのままアートにしたことで評価されている作品。ですが、私にとっては「アートになったありがたい缶」で、オシャレさすら感じていました。ウォーホルがこれを知ったら、「そういうことじゃないんだよなあ」とツッコミを入れたかもしれません(笑)。

 

現代アートは何がすごいのか?

 

さて、今回紹介する新書は『現代アートはすごい デュシャンから最果タヒまで』(布施 英利・著/ポプラ新書)。現代アートというと青一色の絵があったり、マンガの一コマが拡大されていたりと、何がすごいのかよくわからないという声も聞かれます。本書はそれぞれのアーティストのエピソードや代表的な作品を糸口にしたわかりやすい入門書。読み終えると現代アートへの興味が深まり、その正体が掴めた気分になります。

 

著者の布施 英利さんは芸術学者、批評家。東京大学医学部助手(養老孟司研究室)を経て、現在は東京藝術大学美術学部教授。著書に『脳の中の美術館』(ちくま学芸文庫)をはじめ、『構図がわかれば絵画がわかる』(光文社新書)、『人体 5億年の記憶 解剖学者・三木成夫の世界』(海鳴社)などがあります。オンラインで電脳アカデミア「美の教室」と「自然の教室」の講座にも取り組んでおり、本書はその講座内容をピックアップして文章化したものとなっています。

小学生ならデュシャンがわかる!?

まずは序章「現代アートのはじまりは、マルセル・デュシャン」。「現代アートの父」と呼ばれ、難解なイメージもあるデュシャンを読み解きます。代表作「泉」(1917年)は、署名と年号が書かれただけの男性用小便器。誰でも参加できる公募展「ニューヨーク・アンデパンダン」展に出そうとして拒否されました。

 

「現代アートは小学生でもわかる」。小学生的な目線で入って、そのあとにいろいろ考えてみるのが鑑賞法のひとつという布施さん。もし、小学校で「家にあるものでアートを作る」という授業があって、便器を持ってくる子がいたら、先生には叱られるかもしれないが同級生には大ウケするでしょう、と。布施さんは、つまり「泉」はそういう作品だといいます。

 

デュシャンが「モナ・リザ」の顔にひげを描き加えた「L.H.O.O.Q.」(1919年)は、政治家のポスターにいたずら書きしたと思えば、子どもならその衝動の魅力を理解できるだろうと布施さん。

 

確かに、小学生のような素直な眼差しでデュシャンの作品を見れば、驚きと茶目っ気あるいたずら心が伝わってきます。晩年、デュシャンはチェスでトップクラスのプレイヤーとなり、アートをやめたように見せかけた裏で作品を作り続けていたそうです。死後に公開された、穴を覗いて鑑賞するオブジェ作品「遺作」の、本書での解説もなるほどと納得できました。

 

ジャクソン・ポロック、アンディ・ウォーホル、ナム・ジュン・パイク、ダミアン・ハーストと、時代を追って代表的なアーティストが取り上げられていきます。そして第6章では「河原温 現代アートで、初めて世界に認められた日本人アーティスト」「最果タヒ 詩は現代アートになるのか」など、日本人の現代アーティストも紹介されています。

 

美術の難しい専門用語はほとんど使われておらず、読みやすい文章で解説されている本書。アーティストの個性的なエピソードにも触れられ、“人”にも“作品”にも興味が湧いてきます。新書だけに図版は少なめなので、興味を持った作品は、ネットで検索しながら読むとより楽しめるでしょう。

 

現代アートの魅力を多くの人に伝えたいという熱のこもった想いを感じ、アートの本質を理解するための補助線となる視点もしっかり入っている本書。単なる現代アートのガイドブックとは一線を画します。「アートってなんだろう?」。気楽に考えるきっかけと、深くまで潜り込める手助けとなる一冊です。

 

【書籍紹介】

現代アートはすごい デュシャンから最果タヒまで

著:布施 英利
発行:ポプラ社

ジャクソン・ポロック/アンディ・ウォーホル/河原温/クレス・オルデンバーグ/ルネ・マグリット/アルヴァ・アアルト/会田誠など美術館へ行く前に、行った後に、この一冊。現代アートの正体とは何か?

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

冬のボーナスの時季が到来!~賞与の「支給日在籍要件」にご注意を──

冬の賞与(ボーナス)の時季が近づいてきました。賞与が支給される会社、支給されない会社、それぞれあると思います。帝国データバンクの「2021年冬季賞与の動向調査」では、12%の会社で「賞与がない」との結果が出ています。ちなみに、私の関与先では、賞与の支給がない会社は約4割です。

 

支給される会社に勤ていても、支給日と近接する時期に退職される場合、注意しておかないと「賞与がもらえない」という事態になることがあります。賞与に関して「支給日在籍要件」を設けている会社が多いからです。

©富永三紗子『労務管理の基本がぜんぶわかる本』

支給日に在籍していないと賞与をもらえない!?

そもそも賞与制度を設けるかは、会社の裁量にまかされています。会社は必ずしも支給する必要はないのです。ただ、賞与制度を設けるのであれば、会社は賞与について就業規則に明記する必要があります(労基法89条)。

 

あなたは、会社の就業規則を見たことがありますか? この機会にぜひ見て下さい。賞与の条項に以下のような記載があるかもしれません。

 

「賞与は、支給対象期間に勤務し、支給日に在籍している者に支給する」

 

これが、支給日在籍要件です。文字どおり、賞与支給日に在籍している者にしか賞与を支給しない、ということです。

 

賞与の支給日前に自己都合や定年で退職する労働者であれば、「退職日までの期間分は働いたのだから、少なくともその分は支給してほしい」と考えるでしょう。

 

一方で、会社としては、「これからも一緒に働いてくれる労働者に感謝と期待を込めて賞与を支給したい」という想いもあるところです。会社の想いと労働者の意識が食い違ってくる場面です。

 

このような食い違いのため、賞与の支給日在籍要件そのものについて、過去に争いになったことがありますが、判例では有効とされています(大和銀行事件(最高裁昭和57年10月7日判決)。

 

会社が賞与支給日を故意に遅らせた場合どう対処するか?

そのため、あなたの会社に支給日在籍要件があるのか無いのか、無い場合にはどのような支給方法なのかを確認しておくようにしましょう。そうしないと、期間分は当たり前にもらえると思っていた賞与がもらえない、ということもでてきます。

 

仮に、支給日在籍要件があったとしても、会社が賞与の支給日をわざと遅らせ、賞与を支給しなかった場合、労働者としてどう対応するかです。

 

例えば、賞与の本来の支給日は12月10日であるけれども、12月15日に退職することが決まっている労働者に賞与を支給することを回避するためだけの目的で、支給日を12月25日に後ろ倒しにするような場合です。

 

この場合は、賞与を支給されるという期待が労働者にはありますし、嫌がらせ目的が明白なので、堂々と会社に賞与の支給を訴えてもよいでしょう。このような目的での支給日の後ろ倒しは、争いになった場合、会社の民法上の不法行為が認定される可能性が高いからです。

 

他方、会社の業績や資金確保の都合などから支給日が延期になる場合は、これら会社の置かれている状況や会社からの説明の有無等にはよりますが、賞与の不支給あるいは支給額の減額措置などは受け入れざるを得ないと考えます。

 

賞与は、支給するかどうか、支給額をどうするか等、会社の裁量が大きく発揮される場面です。

 

とはいえ、労働者サイドからすると、賞与は生活設計の中で大きな意味を持っていることが多く、支給基準などが不明確な場合、不安を感じることもあるでしょう。 そのため、労働者としても、就業規則等で賞与の支給基準を確認しておくことは自己防衛として必要なことなのです。

 

【書籍紹介】

労務管理の基本がぜんぶわかる本

著:三谷文夫
発行:ワン・パブリッシング

働き方改革、DXへの取り組み、新型コロナによるテレワークの進行…企業労務はここ数年で大きく様変わりしています。本書では、豊富な図解と事例で企業労務に関する問題をわかりやすく解説しました。経営者、労務担当者、必携の1冊です!

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(文:三谷文夫)

小屋作りの実用的バイブル最新刊『小屋を作る本2023』が好評発売中!

本気で小屋を作りたい人に向けた小屋DIY本『小屋を作る本2023』が、11月29日(火)より発売!本書では、バラエティー豊かな小屋、リアルなノウハウ、小屋作りの面白さを紹介しています。

 

 

<記事内ギャラリー>

 

巻頭企画は約60ページの特大ボリュームでお届けする「小屋作り完全リポート」。

コンセプトは“DIY未経験者が小屋を建てるためのガイド”です。

 

 

そろえるべき材料と道具の紹介から、床・壁・屋根の下地の作り方/屋根・外壁の仕上げ方/建具の作り方といった小屋作りの要所はもちろん、作りつけ家具を含む内装の仕上げ方まで、たくさんの写真とともに詳しく紹介しています。

 

 

モデル小屋のデザインコンセプトは「庭の小さなブックカフェ」。

すぐに楽しい小屋ライフが始められる状態に仕上げるまでをリポートするので、DIY未経験者だけでなく、幅広いDIYerにとって役立つ情報が満載です。

 

巻頭企画に続く「手作り小屋がある暮らし」では、全国各地に建つ9棟の手作り小屋と、その楽しみ方を紹介。

 

仲間と飲み食いを楽しむ三角屋根の焚き火小屋/こだわり工法とシンプルデザインのホームオフィス小屋/奥様の趣味部屋として作った和風小屋/自給自足暮らしの核となる小屋/二拠点居住の宿泊小屋/ガーデンパーティー開催時にカウンターとなる小屋など、さまざまなタイプの小屋が登場します。

続々と手作り小屋が並ぶページの中には、マネしたくなるデザインや、思わず唸るアイデアが頻出し、創作意欲を刺激されること請け合いです。

 

巻末では、初めての小屋作りのテーマとしてふさわしい、いちばん身近な小屋「物置」にスポットをあてています。

 

6棟の手作り物置実例集と、DIYライターが実践した物置製作リポートを掲載し、物置ならではのアイデア、そして、物置といえども感じられる小屋作りの楽しさを届けます。

 

[商品概要]
小屋を作る本2023
著者: dopa編集部
定価: 2145円(税込)
発売日:11月29日
判型: A4変形判

【本書のご購入はコチラ】
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秋元康はなぜ犬のうんちを踏んでも感動できたのか?−−ものの見方を180度変える1冊

人間、生きているとついているときもあればついていないときもある。たとえば、道を歩いていて犬のうんちを踏んでしまったとしよう。そのとき、「ついてないなぁ」と思うことだろう。

 

しかし、犬のうんちを踏んで「俺はラッキーだ!」と思う人もいる。その人は、秋元康。そう、あの秋元康だ。

なぜ、秋元康は犬のうんちを踏んで感動したのか

犬のうんちを踏んでも感動できる人の考え方 ものの見方クイズ』(ひすいこうたろう・著/祥伝社・刊)は、物事をポジティブにとらえることで、日々の生活を前向きにしようという主旨の本。そのなかのひとつの例として、タイトルにもある「犬のうんちを踏んで感動する秋元康」の話が出てくる。

 

秋元康が犬のうんちを踏んで感動したシチュエーションは以下の通り。ロサンゼルスでタクシーから降りた瞬間の一歩目で犬のうんちを踏んだ秋元氏。普通なら「ついてないな」と思うところ、感動のあまり一歩も動けなかったそう。いったいどういう考え方をすれば、犬のうんちを踏んで感動できるのか。

 

ロサンゼルスでタクシーを降りた一歩目にウンコがある確率。
そしてそれを見事に踏む確率。
もしロサンゼルスの友達に電話をして迎えにきてもらっていたら、タクシーに乗ることはなかったのでウンコは風化していた。犬がここを通る前だったらそもそもウンコはなかった。すべてが重なったから、このウンコを踏める確率にドンピシャで行き当たることができた。

(『犬のうんちを踏んでも感動できる人の考え方 ものの見方クイズ』より引用)

 

偶然が重なって、低い確率の現象に行き当たったことがラッキーだと、秋元氏は考えたのだ。一見マイナスな現象も、見方を変えるとラッキーに変わる。本書のテーマはまさにこれなのだ。

 

自分を客観視して、自分事を他人事にする

自分の価値観だけで物を見ていると、どうしてもマイナスなものはマイナスのまま捉えてしまう。しかし、客観的に自分を見ると、そのマイナスの現象もプラスに見えることがある。

 

自分の身に降りかかったツラいことを他人事にしてしまえばいいのです。
他人事にする方法は、自分の境遇をネタにして、できるだけ明るく話すことです。「話す」ことで、それを自分から「放す」ことにつながります。

(『犬のうんちを踏んでも感動できる人の考え方 ものの見方クイズ』より引用)

 

よく、お笑い芸人が自分の不幸話をおもしろおかしく話したりしているのを見かける。自分に降りかかったマイナスの要素を、他人に披露することでプラスにしている例と言えるだろう。

 

自分の欠点も、他人から見れば長所になり得る。マイナスの要素をどれだけ自分で受け入れ、それを他人に見せていくか。それができれば、もう自分からマイナス要素がなくなって、常にハッピーな状態になれるのではないだろうか。

 

人生を楽しくするためのヒントが得られるかもしれない

本書を読んでいると、マイナスをプラスに変える考え方が目白押しなので、なんとなくポジティブな気分になれる。

 

僕は最近、プライベートな人間関係で悩んでいて、あまり相談できる人もいないので、なんとか自分で切り抜けなければといろいろ試行錯誤していたのだが、本書を読んで「俺は今、人知れず世界(僕の周りの人たち)を救おうとしているヒーローなんだ」とちょっと思ったりもした。まあ、そんな大げさなものでもないのだが。

 

ただ、世間の常識がすべてというわけでもないし、自分の価値観が他人の価値観と一致するとも限らない。そう考えると、自分の考え方だけがすべてではないし、他人の考え方がすべてではない。

 

だったら、未来が楽しくなるような思考回路にして、なんとなく毎日が楽しいと感じるようにするのがいいのでは、と本書を読んで感じた。

 

もし、あなたが今何かで悩んでいたり困っていたら、本書を読んでみるといいだろう。おそらく気分が軽くなるし、何か解決策につながるヒントが見つかるかもしれない。

 

人生のヒントなんて、ほんとにどこに転がっているかわからない。もしかしたら、この本があなたにとってのヒントになる可能性は充分あるだろう。

 

【書籍紹介】

犬のうんちを踏んでも感動できる人の考え方 ものの見方クイズ

著者:ひすいこたろう
発行:祥伝社

最悪を0.1秒で最高に。だから、今日が人生で一番面白い日。

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鉄道がもっと身近な存在になる1冊。人と鉄道の記憶を綴るアンソロジー『鉄道小説』がめっちゃいい!

鉄道開業150年を記念し、『JR時刻表』や『散歩の達人』などを発行する交通新聞社が、鉄道にまつわる短編集を発売しました。その名も『鉄道小説』! 小窓が付いているようなブックケースから本を取り出すと、鮮やかな色の表紙が広がります。それはまるで、知らない駅のホームに降り立った時のようなドキドキ・ワクワク感。ページをめくりながら、個性豊かな5名の作家さんの物語に、時を忘れて引き込まれてしまいます。どのお話も知らない街なはずなのに、その場に行ったかのような気持ちになって、これまたいい旅気分。

 

ということで、めっちゃいい! と語彙力ゼロなタイトルをつけちゃうほど、隅々まで愛が詰まった短編集『鉄道小説』をご紹介します。今回は、このプロジェクトに関わった4人の編集者にお話を伺いました。

 

交通新聞社が、文芸ジャンルに新たに取り組む理由

今回お話を伺ったのは、交通新聞社で働く4人の編集者。西日本支社の上野山さん、月刊誌『散歩の達人』編集部の中村さん、会員誌『ジパング倶楽部』編集部の吉野さん、そして時刻表編集部に所属する渡邉さんです。みなさんは、本業のお仕事もしながら「鉄道開業150年に向けて、文芸作品を作ろう!」と『鉄道小説』の制作に取り組まれていました。社内で有志が集まって新規プロジェクトが立ち上がるって素敵ですよね!

 

ちなみにこの4人が「文芸ジャンル」に取り組むのは初めて。普段は、雑誌や時刻表など、同じ本でも全く違うジャンルに関わっていたため、戸惑いも多かったとか。どんな思いでプロジェクトに参加したのでしょうか?

 

渡邉さん「有志のブレストで、フィクションや漫画、文芸を取り扱っていない当社でも、そういった作品に挑戦したいって話が出たんです。情報は役に立つけど常に更新され、流れていくもの。長く愛される文芸作品を作れればと提案したのが始まりです」

 

吉野さん「もともと販売部にいたので、直接お客さまの声を聞く機会が多かったんです。好きな仕事だったのですが、異動後はなかなかその機会も少なくなっていました。このプロジェクトに関わることで、またお客さまと近い距離で関われるのでは? と期待を込めて参加しました」

 

中村さん「これまで当社の雑誌・ウェブなどさまざまなコンテンツに携わってきましたが、一次コンテンツとしてゼロから新しいものを生み出したことがありませんでした。そういった作品づくりを素直にやってみたいと、参加しました」

 

上野山さん「小説が好き、っていうのが一番の動機ですかね。自分の行動を振り返ってみても、何年も大事にしている本ってやっぱり小説なんですよ。誰かに大事にされる本を作りたい、という思いで参加を決めました」

 

2021年の鉄道の日(10月14日)に、正式に「鉄道開業150年 交通新聞社 鉄道文芸プロジェクト」が始動し、「ご期待ください」の動画をリリース。

 

一体何が起こるのか見ている私たちには謎でしたが、裏では『鉄道小説』発売に向けててんやわんやだったそうです!著者に依頼を開始し、急ピッチで書籍の制作と文学賞の詳細を決めていったそうです。

【プロジェクトページはこちら

 

5人の作家への思い

『鉄道小説』には、個性豊かな作家5人の短編小説が掲載されています。

 

「犬馬と鎌ケ谷大仏」 著・乗代雄介
「ぼくと母の国々」 著・温又柔
「行かなかった遊園地と非心霊写真」 著・澤村伊智
「反対方向行き」 著・滝口悠生
「青森トラム」 著・能町みね子

 

もともと文芸作品が好きだった4人は、打ち合わせを重ね「この人にお願いしたら、面白そう」という人にアプローチし、この5人に絞っていったそう。実は、本プロジェクトにはリーダーが不在。本業もしっかりこなしながら、ひとりひとりの「文芸作品を生み出したい」という熱い想いでたくさんのハードルを乗り越えていったのだとか。痺れる〜!

 

そんなみなさんが、思いを込めて企画し進めていった『鉄道小説』。進めていく中での思い出話を伺いました。

 

吉野さん「私は澤村伊智さんの『行かなかった遊園地と非心霊写真』を担当しました。澤村さんにお願いしたことは『怪談だけれど、150年企画の本なので人が死なないように』ということ。もともと怪談作品が好きで、澤村さんの大ファンだったので初めて目を通した時の喜びは忘れられません。何度も読んで、いろいろ質問して、原稿を仕上げていく工程を振り返るだけでも楽しい思い出です。最高でした」

 

中村さん「滝口悠生さんの『反対方向行き』を担当しました。私自身、初めての文芸編集だったので最初から最後まで緊張しっぱなし。すごく個人的な話になるのですが、滝口さん作品のファン。過去に鉄道のお話も書かれているし、記憶について印象的に書ける著者さんだからお願いしましょうとチームメンバーには伝えていましたが、『絶対お願いしたい!』とかなり熱を込めていました(笑)。初稿が上がってきた時は、コレコレ〜! と本当にうれしかったのを覚えています」

 

上野山さん「全体を通して言えることなのですが、企画軸と作家軸をどこまで守るか? というのは編集で心がけたところです。短編集なので、テーマにどれだけ沿っているかは重要なポイントですが、作家さんの個性を消してまで優先することではありません。いろんな読み手を想定しながら、話し合ったのが思い出ですね」

 

渡邉さん5人の作家さんには社会の歴史と個人の歴史が交わるような小説をテーマに執筆をお願いしたのですが、それぞれの作風・個性でそれを表現してくださって、いい本になったなぁと感じました。また、初めてつくる文芸の書籍ということもあり、装丁にもこだわりました。ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』のハードカバー版のように、紙の本ならではの読書体験ができるような本……そんなコンセプトです。本としての存在感を出していくためにいろいろ工夫いたので、発売してSNSなどで装丁についてコメントいただけているのを見ると、ちゃんと伝わったんだなぁとしみじみしますね」

 

実際に内容についてもお伝えしたいのですが、ぜひ『鉄道小説』でお確かめください。ネタバレないようにお伝えすると……5作品ともめっちゃいい! です(笑)。

 

日常の何気ない風景に「鉄道」がある

最後に、これから『鉄道小説』を読まれる読者に向けてみなさんからメッセージをいただきました。

 

上野山さん「共感ポイントがいっぱいある短編集。『人と鉄道の記憶』という割と日常的なテーマを扱っているので、多くの方にお楽しみいただける内容になっています。日常の何気ないところで“あっ、鉄道って身近にあったんだな〜”と感じていただけるはずです」

 

吉野さん「150年を記念して作られた本ですが、なんとなく“今”を切り取った身近な一冊になっています。どの作品も心地よい読後感を味わってもらえると思います。この記事を読んでいただいたのも何かのご縁ですから、ぜひ読んでみてください」

 

中村さん「ただただ自画自賛になっちゃうんですけど、 私自身が、最初の読者として感じた感動を、これから読んでいただくみなさんにも感じてもらえたらうれしいですね」

 

渡邉さん「20代の若手社員から『交通新聞社からこういう本が出てうれしい』って言われたこともうれしかったです。幅広い世代の方に楽しんでいただけると思うので、手に取って読む体験も含めて『鉄道小説』を味わってもらいたいです」

 

取材前につるたも読ませてもらったのですが、鉄道に乗りながら読みたい! そんなことを思った1冊でもありました。旅先に向かう車内、仕事帰りの車内、週末のちょっと浮かれた車内など、いろんなシチュエーションにも、寄り添ってくれるはずです。

 

改めて考えると鉄道ってすごく身近な乗り物ですよね! 撮り鉄さんや乗り鉄さんなどの鉄道好きな方だけでなく、普段の生活の中に鉄道があることを『鉄道小説』を読みながら実感しました。

 

また、鉄道開業150年を記念したプロジェクト内で進められていた「鉄文(てつぶん)」文学賞については、大賞と『旅の手帖』編集長賞受賞作が『旅の手帖1月号』(12月9日発売予定)にて、『散歩の達人』編集長賞受賞作が『散歩の達人1月号』(12月21日発売予定)にて、『鉄道ダイヤ情報』編集長賞受賞作が『鉄道ダイヤ情報1月号』(12月15日発売予定)にて、全文掲載される予定。『鉄道小説』と併せて、鉄道の文学作品を楽しんでみましょう。

 

【書籍情報】

鉄道小説

著:乗代雄介、温又柔、澤村伊智、滝口悠生、能町みね子
発行:交通新聞社

『JR時刻表』や『散歩の達人』でおなじみの交通新聞社が、鉄道開業150年の特別な年にお届けする、新しい『鉄道小説』です。5人の作家が描く“人と鉄道の記憶”についてのアンソロジー!

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全世界を席巻した経済学の名著がざっくりわかる!『1分間ピケティ「21世紀の資本」を理解する77の理論』

『不確実性の時代』『貧乏父さん金持ち父さん』『ヤバい経済学』。何年かに一度、世界的ベストセラーとなる経済学書がある。

 

経済学関連本:次の1冊

トマ・ピケティの『21世紀の資本』もそういう種類の本だ。ダン・アリエリー著の『予想どおりに不合理』を読んで行動経済学に興味を持ち始めた筆者は、もう少しスコープを広げて経済学の知識を深めたいと思っていた。そして『21世紀の資本』を買って読み始めたのだが、基礎を学んだのは40年も前だし、それほど得意ではない分野だったので、読むスピードが遅すぎることに気づいた。

 

これではいけないと思って関連書を調べたところ、『1分間ピケティ「21世紀の資本」を理解する77の理論』(西村克己・著/SBクリエイティブ株式会社・刊)という本を見つけた。『21世紀の資本』のコンパニオンブック、もっとかみ砕いて言うならトリセツという趣の一冊だ。

 

圧を感じない学び直し

「はじめに」に次のような文章がある。

 

かつて、カール・マルクスは『資本論』で歴史を変えるほどの反響を得ました。ピケティの『21世紀の資本』もそうなるのでしょうか。世界中の多くの学者が、賛成、批判、反対、展開をしています。あなた自身はどう思うでしょう。そのヒントになるように、難しい経済用語や数式をほとんど使わずにピケティの主張の根幹を解き明かしたのが、本書です。

『1分間ピケティ「21世紀の資本」を理解する77の理論』より引用

 

確かに、難しい経済用語や数式が目立つことはない。ピケティ理論の要点が、かみ砕いた言葉でテンポよく綴られていく。筆者の個人的体験から言わせてもらえば、「学び直し」的な体の本は、すべての読者が専門用語を知っていることを大前提としている感が否めない。最初は用語の意味を確認しながら読み進めるのだが、半分を過ぎたころで確認作業自体がおっくうになってしまう。ある程度の専門用語の知識があってこそ学び直しも意味がある、と言われてしまえばそれまでなのだが。

 

この本はそういう行間の圧みたいなものがまったくなく、エッセンスの部分だけが抽出されて示されるので、自分の知識のインベントリーを行いながら新しい情報を入れるという作業が効率よくできることが感じられる。

 

知識の蓄積の度合い

章立てを見てみよう。

 

第1章 働けば豊かになれるか[所得]
第2章 税金がおかしくないか[格差]
第3章 公平さは取り戻せるか[富の集中]
第4章 敗者は復活できるか[r>g]
第5章 日本への助言は何か[金融政策]
第6章 欧米をどう再建するか[富の世襲]
第7章 富に法則はあるか[資本収益率]
第8章 経済学はなぜ間違うのか[トリクルダウン]

 

8章に分けられた77の項目はどれも1ページ半程度の分量でまとめられている。確かに1分間で十分に反芻できる分量だ。項目についても詳しく見てみよう。「技能が技術革新を上回れば所得は増える」「世襲資本主義が格差を広げている」「投資の自由度は、資本所得を増大させる」「富の集中のメカニズムはr>gで解明できる」「日本は移民を受け入れ難いだろう」「アメリカンドリームはもはや妄想だ」「貯蓄率が高まれば、格差が拡大する」「1人ひとりが知識化された市民として行動すべきだ」

 

どの程度の知識まで吸収するべきか。それには個人差があるだろう。知らなくても日常生活に不便はないかもしれないが、知っていれば絶対的な違いが生まれる知識もある。この本を読み進めるうちに、そんなことを考えた。

 

r>gが意味するもの

大学時代に使っていた専門書が手元にないので詳細は示すことができないが、現在の経済学的概念が著しくアップデートされていることは実感している。ピケティ経済学のトレードマーク的な概念であるr>g理論もそのうちのひとつだ。ピケティは、現代資本主義の問題点として資本所得が労働所得を上回り続けているだけでなく、資本収益率(r)も経済成長率(g)を上回り続けている事実を指摘している。これがピケティ経済学を包括的に理解する出発点となる。

 

ピケティは歴史的データを分析し、世界的に100年以上、資本収益率の平均は4~5%、経済成長率の平均は1~1.5%だという数値を導き出しています。「r>g」が世界中で1世紀以上続いているのです。富の格差が拡大し、金持ちと貧乏人が紛争状態になるのも当然でしょう。

『1分間ピケティ「21世紀の資本」を理解する77の理論』より引用

 

知っていれば絶対的な違いが生まれる知識

日用品であれ食料品であれ、何でも値上がりするのがごく普通の世の中になってしまった。消費者は、徐々に温度が上がっていくお湯の中に入れられているゆでガエルそのものなのかもしれない。そして本書で大きく取り上げられている富の格差だけではなく、さまざまな種類の格差が広がっていく。

 

こうしたものをつまびらかにして、一つひとつを根本的に解決していく過程の核となり鍵となるものは、アップデートされた経済学なのかもしれない。ならばピケティ経済学は、絶対的な違いが生まれる知識にほかならないと思うのだ。

 

 

【書籍紹介】

1分間ピケティ「21世紀の資本」を理解する77の理論

著者:西村克己
発行:SBクリエイティブ

本書は、ビジネス界の巨人のメッセージを紹介する「語録集」シリーズです。世界のカリスマたちのメッセージを通して、一流の働き方や生き方、考え方のノウハウを学ぶことができます。ほんの1分で、1つのメッセージとその解説を読み終えることができ、毎日の仕事に活かせるようまとめられています。本書では、ピケティのやや難解な言葉を抽出し、噛み砕いてわかりやすく解説していきます。通勤電車の中や待ち合わせのときなど、いわゆるスキマ時間の1分を活用して、ビジネスや人生に気付きをくれるピケティの資本論をザックリとマスターすることができます。

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『鬼滅の刃』の設定も!? 柳田国男が考察する『妹の力』ってなに?

大ヒットアニメ『鬼滅の刃』では、鬼になった妹を助けようと必死に戦う兄の姿が人々の胸を打ちました。自分より幼くかよわい妹という存在が、兄のパワーとなったのです。実はこの「妹が鬼になる」という設定の伝説が、東北地方にもあるそうです。

妹が鬼になる話

妹の力』(柳田国男・著/・KADOKAWA・刊)では、妹だけでなく、姉や母や巫女など、女性にまつわる日本各地の言い伝えや伝説を考察した本です。戦前に書かれた本なのですが、多くのストーリーがそこに納められていて、読み応えがあります。

 

本書によれば、兄が妹に食べられてしまったり、食べられる前に逃げ出したり、話の内容には多少の違いがありますが、妹が鬼になるという話が奥羽地方に点在しているそうです。ちなみに、『鬼滅の刃』の主人公・炭治郎の出身は奥多摩に実在する雲取山だそうなので関東であり、伝説が存在する東北とは異なります。

 

兄が鬼になる話

『妹の力』には兄が鬼になる沖縄の民話『鬼餅(ムーチー)』についても触れられています。こちらは兄が鬼になり、村の子ども達を食べてしまうというものです。それを知った妹は、兄はもう今までの兄ではないと嘆き悲しみ、崖から兄を突き落として殺してしまいます。

 

『鬼滅の刃』でも、妹の禰豆子は人を食べたい気持ちを必死にこらえています。鬼になると人を食べるようになりますが、この行為が人と鬼を分ける境界線なのかもしれません。

 

なぜ兄と妹という設定なのか

著者である民俗学者の柳田国男は、こうした民話になぜ兄と妹という設定があるのかを考察しています。たとえば日本各地にはオナリ神というものがあり、これには姉妹が時に霊力を使って兄弟を守るという説もあるようです。

 

また、妹(または兄)が鬼になり、今までとまるで違う存在と化す。こうした物語には、兄妹関係の絶縁という意図があるのではないかということも書かれています。兄妹の強い精神的結びつきを断ち切らせたのではないかというのです。自立の儀式のようなものなのかもしれません。

 

兄妹の絆の深さ

柳田国男は、昔は現代よりもずっと兄弟の関係が深かったのではないだろうかと推察しました。しかし、本書が書かれたのは昭和12年、今から80年以上も昔なのです。令和の時代では、それよりさらに家族関係は薄くなっているでしょうから、なおのこと、家や村でこうした民話が語られることも少なくなったのではないでしょうか。

 

人々が忘れかけていたかもしれない兄妹の絆。それが『鬼滅の刃』では、はっきりと描かれました。オナリ神では妹に霊的な力が宿り、呪文などで兄を保護する場合があるとも考えられていました。アニメでも妹が主人公を懸命に守ろうとするシーンが出てきます。兄弟の絆が希薄な現代だからこそ、私たちは作品にそれを見て深く感動したのかもしれません。

【書籍紹介】

 

妹の力

著者: 柳田国男
発行:KADOKAWA

かつて女性は神秘の力を持つとされ、祭祀を取り仕切っていた。予言者となった妻、鬼になった妹、生贄にされた美女…女性たちは人々から何を託されていたのか。多くの民間伝承や神話などを検証。シャーマニズムの構造を明らかにし、日本人固有の心理を探る。

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バイト感覚でヤバい仕事に手を出す若者たち……。身近で深刻な犯罪「特殊詐欺」のリアル~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。「だまされるほうが悪い」なんていう人もいますが、一昔前の「オレオレ詐欺」に代表される特殊詐欺は、最近ますます巧妙かつ大胆になってきているそうです。想定していないことが起こると頭が真っ白になって、次々と連鎖的にミスをしてしまう私は、本当に気をつけないとすぐに詐欺に引っかかってしまうかもしれないなと、ニュースを見ていて思います。

 

直接の被害者はお金をだまし取られる側。しかし、実行犯である末端の若者もまた、だまされたり、脅されたりして加担しているケースがほとんどのようで、「だまされるほうが悪い」で済まない複雑さが特殊詐欺のたちの悪いところかもしれません。

末端メンバーから見た特殊詐欺の実像

さて、今回紹介するのは新書『ルポ 特殊詐欺』(田崎 基・著/ちくま新書)。特殊詐欺というと「どうしてだまされたか?」など被害者側の事情を追うことが多いですが、本書は「犯人の側から事件を見たルポルタージュ」になっています。どういう組織で犯罪が行われているか、末端のメンバーはどのような人たちか、そして、そこにどのような動機があるのか。特殊詐欺の裏に隠れている社会問題までも透けて見えてきます。

 

著者の田崎 基さんは神奈川新聞記者。デジタル編集部、報道部遊軍記者、経済部キャップ、報道部(司法担当)を経て、現在報道部デスク。著書に『令和日本の敗戦』(ちくま新書)があります。本書は神奈川新聞の連載に加筆修正、追加取材してまとめられたものとなっています。

SNSで拡散される危ない仕事とは?

まずは、「はじめに」で特殊詐欺の被害額などのデータが示されています。警察庁が特殊詐欺を類型化して捕捉したのが2004年。以来、年間200~300億円の被害が続き、ピークの2014年は年間565億円に! 摘発の強化で多少減ってきてはいるものの、昨年も282億円といまだ多額の被害が発生しています。認知件数も年間およそ1万5000~2万件。単純計算で1日40~50件発生していると考えると恐ろしいですね。

 

第1章「暗躍する捨て駒たち」では、特殊詐欺グループのメンバーそれぞれの事例が、取材や裁判資料、供述から掘り下げられています。まずはATMから現金を引き出す役割の「出し子」だった川上博(仮名、逮捕当時28歳)のケース。

 

借金がかさんで紹介された危険な「仕事」は、引き出し額のたった1.5%という報酬。あるとき、ATMから通帳が戻ってこず、焦って繰り返し操作をしていたところ、背後から通帳を持った警察官に声をかけられ、とっさに「拾いました」と嘘をつきます。その場はなんとか乗り切ったものの、指示役の男に報告した数日後、その男から失敗の損害の合算として「1000万円出せ」と脅され、追い詰められた川上は……。

 

詐欺の実行犯として電話をかける「かけ子」、被害者から現金やカードを受け取る「受け子」、特殊詐欺グループを率いる「主導役」。さらにその上の人物もいるようで、まるで会社組織のように役割分担がなされ、数人を逮捕しただけでは、全容が解明されないことがよくわかります。

 

グループ上層部からの過激化する指示に末端が暴走し、凶悪犯罪を起こしてしまったケースに焦点を当てた第2章「粗暴化する特殊詐欺」、特殊詐欺グループの上がりを持ち逃げする「飛び」専門の犯罪者を追った第3章「より巧妙に、より複雑に」……。第5章では神奈川県内で高齢者からキャッシュカードや現金をだまし取った実行犯2人の生い立ちにも迫っています。

 

読んでいて見えてくるのは、生活苦などを理由に、SNSを通して「稼げるバイト」に応募し、深みにハマってしまう若者たちの姿。これは匿名で簡単に人を集められるSNS社会の負の側面でしょう。

 

取材に裏打ちされたルポは厚みがあり、事件の裏側に潜む社会問題にもしっかり触れられています。ことさら読者の興味をかき立てるようなスキャンダラスな描き方は抑えめで、新聞連載らしい誠実さを感じます。

 

自分が被害者になる可能性はもちろん、うっかり加害者側に加担してしまう場合もあるかもしれない。他人事ではない、身近な闇がそこにありました。

 

【書籍紹介】

ルポ 特殊詐欺

著:田崎 基
発行:筑摩書房

強盗まがいの凶行で数百万円だまし取られる被害者。「家族を殺すぞ」と脅され、犯行から抜け出せない末端従事の若者。今最も身近で凶悪な犯罪のリアルに迫る。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

遠藤周作が若き日に執筆した知られざる貴重な作品集−−『遠藤周作初期童話 稔と仔犬 青いお城』

2021年の9月、作家の遠藤周作が没後25年を迎えたと知ったとき、亡くなってからもうそんなに経つのかと感無量になりました。そして、2023年の3月には生誕100年という記念の年を迎えるといいます。それがひとつの区切りとなったのでしょう。長い間、長崎の遠藤文学館に保管されていた新聞掲載小説や、単行本には収録されいなかった雑誌の掲載作品が、次々と刊行されました。この『遠藤周作初期童話 稔と仔犬 青いお城』(河出書房新社・刊)もその中の1冊です。

 

幅広い活躍を見せた遠藤周作

遠藤周作といえば、カトリック作家として名高く、『沈黙』や『海と毒薬』など数多くの名作を残しています。キリスト教の信仰に裏打ちされたそれらの作品は、海外でも高い評価を受けています。とりわけ『沈黙』は、世界中で翻訳され、日本人にとってキリスト教とは何なのかについて問いかけてきます。1971年には、篠田正浩監督によって『沈黙ーSILENCE』として映画化され、大きな反響を呼びました。さらに、2016年には、マーティン・スコセッシ監督によって、『沈黙ーサイレンス』として再び映画化され、私たちに深い感動を与えてくれました。

 

私は『沈黙』を何度も読み返しましたが、扱っている内容が深いため、時に疲れることもありました。そんなときは、遠藤周作の著したユーモア小説や「狐狸庵」シリーズを読みました。考えてみると、遠藤周作は軽妙なエッセイから、殉教を扱った小説まで、実に幅広い分野で活躍した作家だったと、今さらながら驚かないではいられません。心衰えたとき、遠藤周作のエッセイに助けられた読者は多いこおでしょう。私も「大丈夫だよ、笑って生きてりゃ、何とかなるよ」と、励まされたような気持ちになりました。

 

遠藤周作は亡くなった後もなお、読者を魅了する作家です。それどころか、時を経るごとに、その神秘性を強めているようさえ感じます。

 

不思議さに満ちた物語

『遠藤周作初期童話 稔と仔犬 青いお城』は、発見された経緯からいっても、不思議さに満ちています。遠藤文学館で資料整理が行われた際、長い間保管されていた資料の中に新聞小説の切り抜きが見つかりました。それが『稔と仔犬』だったのです。この小説は、少年と仔犬の交流を描いた心温まる物語です。しかし、その一方で少年の家庭環境や神父との出会いなど、複雑な様相を見せるものでもありました。

 

『稔と仔犬』の発見は、遠藤文学の研究者にとってはもちろん、多くの愛読者にとって飛び上がりたくなるほど嬉しかったことでしょう。ところが、ここでひとつ問題が生じます。いくら調べても、掲載紙がはっきりしないのです。それどころか、発表された年月日さえよくわかりません。切り抜かれた資料が、小説の部分だけを丁寧に切り取ってあったため、どんな媒体に載っていたのかわからなくなってしまったのです。

 

しかし、調査チームはあきらめませんでした。多くの協力者を得て、努力に努力を重ねた末、「新世界」という新聞に掲載されていたことをつきとめました。驚くべき情熱だと言えましょう。しかし、驚くのはそれだけではありません。『稔と仔犬』は13回までの連載小説と思われていたのですが、それがそうではなかったとことが、発覚したのです。

 

新聞のお知らせに

 

「お断り/都合により「稔と仔犬」今回休みましたのであしからずご了承下さいますようおねがいいたします」

(『遠藤周作初期童話 稔と仔犬 青いお城』より抜粋)

 

と、あるからです。つまり、最終回を前に物語は一旦、休止し、それ以降、発表された痕跡がないといいます。その理由が作者の都合によるものなのか、掲載誌の事情なのか、いまだはっきりしません。それでも、とにかく「稔と仔犬」が中断したのは確かです。

 

「そんな、馬鹿な」と言いたくなります。けれども、作品を読んでみると「そう言われればそうかもしれない」と思います。余韻が残ると言うにはあまりにも結末があいまいだからです。では、作品が尻切れトンボかというと、それがそうでもないのです。むしろ「人生は複雑で、そう簡単に答えは出ないんだよ」と教えられているように感じます。

 

結局、未完なのか、どこかに結末があるのか、わからないままに物語は存在しています。そんな不思議なことがあるのかと驚かないではいられません。

 

今日一日を乗り切るための力

物語の結末を書いてしまうのは興ざめですし、許されないことだと思うので、ここには記さないでおきましょう。できることなら、手にとって読んでいただきたいと思います。新しい遠藤周作に会えるかもしれません。いえ、もしかしたら、童話でも、純文学でも、面白いエッセイでも、遠藤周作はいつも遠藤周作だと思うかもしれません。

 

ここでは、『遠藤周作初期童話 稔と仔犬 青いお城』のうち、私の一番好きな部分を紹介したいと思います。

 

稔はしぶしぶ立ち上がった。生きていくことには諦めねばならぬことがあまりに多いのを稔は既に知っていた。空が青く、花々がみだれ咲き、夏休みがはじまった翌朝のあまい、やさしい人生の匂いはただ夢の中でしかみることができない。それでなければ、父さんは兵隊で死に、母さんが病院で働くということはないのである。

(『遠藤周作初期童話 稔と仔犬 青いお城』より抜粋)

 

「はあっ」とため息をつきたくなるような描写です。けれども、そこは遠藤周作。どこかに救いを残しておいてくれます。それを頼りに、今日一日をなんとか乗り切ろう、そんな気持ちにしてくれるのです。

 

最後になりましたが、1955年から1956年に連載された当時に描かれた、江副隆愛による挿し絵も掲載されており、それが物語にさらに力を与えていることを申し添えたいと思います。

 

【書籍紹介】

遠藤周作初期童話 稔と仔犬 青いお城

著者:遠藤周作
発行:河出書房新社

暗く貧しき日々に、光を与えてくれた一匹の仔犬。少年に迫りくる残酷な運命の足音ー『沈黙』の原点とも言える衝撃作、初の単行本化!人生の「同伴者」を描く知られざる名篇。

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ピカソ、セザンヌ、フェルメールなど巨匠たちの描いた絵画の裏を読み解く−−『名画は嘘をつく』

上野の国立西洋美術館で開催されている「ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展」に行ってきた。コロナ禍による自粛生活で、しばらく名画は画集など本で楽しむだけの日々が続いていたので、ひさしぶりに本物を鑑賞でき、感動し、また心が洗われた。とはいえ、私は美術に造詣が深いわけではなく、絵画をいつも素人の目で観ているだけ。「この色が好き」とか、「このモデルの表情が好き」とか、「この風景がいい」というようなシンプルな感想しか述べられないレベルなのだ。

 

そんな私に巨匠たちが描いた名画の知られざる真実を教えてくれる一冊があった。『名画は嘘をつく』(木村泰司・著/大和書房・刊)がそれ。さっそくページを開いてみよう。

 

絵画鑑賞は恋愛に似ている

前書きで著者の西洋美術史家の木村氏はこう記している。

 

この本では、それぞれの作品に描かれている「嘘」を読み解いてみました。その結果、表面的な世界とは違う「現実」が、皆さんの前に露になっています。絵画鑑賞は恋愛とよく似ています。一目惚れだけでは長続きしません。その人物の内面を知ることによって、愛情も深くなったり冷めたりもします。

(『名画は嘘をつく』から引用)

 

では、章立てから見ていこう。

 

第1章 タイトルの嘘 ~題名からは想像もできない絵の世界
第2章 モデルの嘘 ~モデルは真実を語らない
第3章 景観の嘘 ~名画家の頭の中の景色
第4章 王室の嘘 ~尽き果てぬ虚栄心と自尊心
第5章 設定の嘘 ~史実とは異なる「絵筆のアレンジ」
第6章 見栄の嘘 ~栄光の輝きは飾り物か
第7章 画家の嘘 ~巨匠にまつわる逸話は本当なのか
第8章 天界の嘘 ~試行錯誤を重ねた「神々の具現化」
第9章 見方の嘘 ~鑑賞者や批評家の思い違い
第10章 ジャンルの嘘 ~肖像画? 風景画? 静物画?

 

レオナルド・ダ・ヴィンチ、レンブラント、フェルメール、ドラクロワ、マネ、モネ、ミレー、セザンヌ、ゴッホ、ピカソなどなど、誰もが知っている名画の秘密が本書で明らかになる。では、ほんの一部だけ、紹介してみよう。

 

実は仮面夫婦だったセザンヌ夫妻

「ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展」の順路の一番目に飾られていたのが《セザンヌ夫人の肖像》だった。セザンヌが夫人をモデルに何枚も肖像画を描いたのは有名な話。きっと愛妻家だったのだろうなと鑑賞者は思いがちだが、どうやらそれは妄想らしい。

 

完全に仮面夫婦だった二人でしたが、なぜセザンヌは夫人をモデルにしたのでしょうかというと、モデルが少しでも動いたら激怒したセザンヌの相手を務めることができるほど、忍耐力があり、我慢強い女性だったからです。

(『名画は嘘をつく』から引用)

 

そう言われてこの絵を観ると、セザンヌ夫人は無表情だし、あまり幸せそうな表情ではない。セザンヌが絵画で追求したものは造形性で、形態と構図を重んじていたので、主題性に人々の注目が集まるのを好まなかったのだそうだ。また、長時間にわたって対象を理解しようとし、制作にも時間をかけたので、静物画では腐りにくいリンゴ、風景画では動かない山を好んで描いた。描かれている人物や風景に対し、セザンヌが何を思っていたのかなどという郷愁を、彼は鑑賞者にまったく求めていなかった、と木村氏は解説している。

 

《モナリザ》の美しさはモデルへの称賛ではない

世界で最も美しい肖像画として有名な《モナリザ》。が、モデルであるフィレンツェの裕福な商人の夫人、リザ・デル・ジョコンドの美しさが称えられているわけではのだそうだ。

 

レオナルドは、スフマートというボカシの技法を生み出しました。彼は「自然のものに輪郭などない」と考えていたからです。それは当時、驚愕すべき技法でした。(中略)そのスフマートの技法が完璧に美しいことが、《モナリザ》の美しさなのです。

(『名画は嘘をつく』から引用)

 

当時、フィレンツェではデッサンを重視していたので、輪郭線のないこの絵画は革新的だったのだ。

 

実はタイトルを変えた《アヴィニョンの娘たち》

ピカソの代表作であり、キュービズムの原点となった《アヴィニョンの娘たち》。しかし、この絵は童謡のようにアヴィニョンの橋の上で踊る娘たちを描いたものではない。しかも地名も違うというのだから驚きだ。ピカソがこの絵で描いたのはバルセロナの売春街にあるアビニョ通りで働く売春婦たちだったのだ。

 

1916年に最初に展示した際のタイトルは《アヴィニョンの売春宿》でした。しかし、あまりにもスキャンダラスなタイトルだったため、キュビズムの支持者だった美術評論家アンドレ・サルモンの助言によって、現在のタイトルとなりました。

(『名画は嘘をつく』から引用)

 

そもそも地名をを変えたのは童謡『アヴィニョンの橋』が世界的に有名で知られた場所だったからのようだ。ちなみにピカソ自身は新タイトルがまったく気に入っていなかったそうだが、サルモンによって改題されたタイトルが美術史でも定着することになったのだという。

 

《真珠の首飾りの少女》は肖像画ではない

フェルメールの作品で最も人気の高い《真珠の首飾りの少女》。モデルとなった女性とフェルメールをテーマにした映画まで制作され、私ももちろん観た。しかし、実は最初からモデルなどいなかったのだそうだ。

 

これは肖像画ではなく「トローニー」と呼ばれるものだからです。トローニーは、歴史画など大作を描くために描かれた、いわばキャラクター研究のためのものでした。絵画の投機ブームに沸いた17世紀のオランダ社会で、トローニーまでもが絵画市場で流通するようになったのです。

(『名画は嘘をつく』から引用)

 

肖像画ならモデルに似せる必要があるが、トローニーは目的自体が違うので誰かに似せて描く必要はまったくなかったわけだ。つまり、この少女が誰だったのかを詮索すること自体が無意味なのだそうだ。

 

この他にも知っているあの絵、この絵の嘘が暴かれていく本書、美術ファンも、そうでない人もじゅうぶんに楽しめるのでおすすめだ。

 

【書籍紹介】

名画は嘘をつく

著者:木村泰司
発行:大和書房

「夜警」「モナリザ」「最後の審判」「ラス・メニーナス」「叫び」など、西洋絵画に秘められた嘘を解き明かす斜め上からの芸術鑑賞!

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「心が弱ってる」ってどういう現象? 心の問題は脳の問題? 脳科学から見えてくる心の正体~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。「病は気から」なんていいますが、知り合いの息子さんは運動神経は悪くないものの、人と競うのが苦手。運動会やマラソン大会、プールの記録会のときは、必ずといっていいほど器用に熱を出してお休みになるそうです。「この特殊な能力を何かに活かせないかしら」とお母さんは言っていましたが(笑)、人間の体って不思議ですね。

脳神経科学者がひもとく心と脳の関係性

 

さて、今回紹介するのは、心とは何か、脳と心はどういう関係なのかをひもといていく新書『気の持ちよう」の脳科学』(毛内 拡・著/ちくまプリマー新書)。著者の毛内 拡さんは脳神経科学者。お茶の水女子大学 基幹研究院自然科学系助教で、同大学で生体組織機能学研究室を主宰しています。専門は神経生理学と生物物理学。著書に講談社科学出版賞を受賞した『脳を司る「脳」』(講談社ブルーバックス)、『脳研究者の脳の中』(ワニブックスPLUS新書)などがあります。

心を走らせるハードウエアとしての脳

「はじめに」で、「心の病は、心の弱さのせいではない」という毛内さん。この本では、脳のなかの化学物質の相互作用が生み出す複雑な“心のはたらき”を取り上げています。

 

重要なのは脳に対する科学的理解ということで、第1章「心ってどんなもの?」では脳の研究の歴史、第2章「脳ってどんなもの?」では一般的な脳の働き、第3章「心を生み出す脳のはたらき」では心を生み出す脳のしくみが解説されていきます。

 

「脳は心というソフトウエアを走らせるためのハードウエア」といった具合にイメージしやすい表現が並び、脳というブラックボックスの中身が次第に見えてくるのが本書の面白さ。「ちくまプリマー新書」らしい、学生にも大人にも開かれた脳の入門書となっています。

 

私が感心したのは、「触った」などの知覚を脳に伝える神経細胞について。その伝達速度は毎秒100m(時速360km)と最新鋭の新幹線と同じなのだそう。電気信号が一気に伝わる「跳躍伝導」と呼ばれる神経のはたらきにより、私たちは瞬時に物事を考えたり判断したりできる……。こうした体と脳のしくみを知れば知るほど、その優れた機能に驚かされます。

 

個人的に参考になったのは第5章「心を守る心のはたらき」。ポジティブな情動を生み出す「報酬系」のメカニズムがテーマです。高揚感とさらなる報酬への期待をもたらす脳内物質「ドーパミン」によって、人間は冒険心をかき立てられ、長期的な計画を立てるなど、ある意味人間らしさの源となっているとか。しかし、ドーパミンの強い作用により、一定の行動をせずにいられない状態が引き起こされ、ゲームのガチャを何回も回すなど理性のたがが外れてしまうことも……。

 

このあとの章では、傷ついた心を癒やし、未来に向けて前向きな行動をするにはどのような工夫をすればいいのか、脳研究者の見地からのアドバイスがあり、心がもやもやしている人にも役立ちそう。重要なのは「自己肯定感」よりも、自分が意図した通りに影響を及ぼしている実感「自己効力感」と毛内さん。「自己効力感」という言葉、覚えておくと良さそうです。

 

最新の脳科学の内容を交えつつも、ソフトな文章で丁寧に解説されているのも本書の長所。「心ってなんだろう?」。そんな疑問を持つあなたにとって、目からウロコの一冊になるかもしれません。

 

【書籍紹介】

「気の持ちよう」の脳科学

著:毛内 拡
発行:筑摩書房

調子が悪いとき、「気の持ちよう」などと言われることがある。だけど心のはたらきは、実は脳が生み出す生理現象に過ぎない。あいまいで実体のなさそうな心を「脳科学」から捉えなおして、悩みにとらわれすぎない自分になろう。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

切り裂きジャックから宇宙開発、古書店経営まで—— 歴史小説家が独自の視点で選ぶ「経済」を知るための5冊

毎日Twitterで読んだ本の短評をあげ続け、読書量は年間1000冊を超える、新進の歴史小説家・谷津矢車さん。今回のテーマは「経済」。新書から、世界的名作、マンガまで独自の視点で選んだ5冊を読んで、あたなも「経済」を身近に感じてみませんか?

 

【過去の記事はコチラ


最近の物価高には驚かされっぱなしで、「えっ、牛乳1リットル、200円を超えるの?」と思わずスーパーの店先で悲鳴を上げてしまった。コーヒー豆もステルス値上げをしているし、カップ麺も「だったら安い弁当を買うわ」レベルにまで値が上がっている。余談までに、我が家では牛乳を低脂肪乳に切り替えるべきか、というみみっちい議論が発生しているところであることをここに報告しておきたい。

 

というわけで、今回の選書テーマは「経済」である。しばしお付き合い願いたい。

 

サラ金の歴史から見る「裏」日本経済史

まずご紹介するのは新書から、『サラ金の歴史 消費者金融と日本社会』 (小島庸平・著/中央公論新社・刊)である。皆さんはサラリーマン金融にどういうイメージを持っているだろうか。わたしは昭和61年生まれなので、平成期、ゴールデンタイムに多数CMが打たれていた様を見かけていたし、様々な事件によってどんどんサラリーマン金融に規制がかかっていく様もリアルタイムで見てきた。

 

一般には、少し後ろ暗いイメージと共に語られる存在だろう。本書はそうしたサラリーマン金融の黎明期から爛熟期、退潮期までを 一筆書きにした書籍である。ある時代には給料制の帳尻合わせに、またある時代にはサラリーマンの「資金」を前借りする金融機関としての側面もあった。こうしてサラリーマン金融の歴史を概観していく内に、サラリーマン金融という存在が、日本が現代化していく過程において一般庶民たちのニーズに合わせて立ち回り、裏で経済活動を支えていた金融業者であったという事実が明らかになっていくのだ。サラ金を描くことにより、本書は結果的に戦後日本の家計経済史を概観する一冊になっているのである。

 

世界的名作を「経済」から読んでみる

次は小説から、『朗読者』 (ベルンハルト・シュリンク・著、松永美穂 ・訳/新潮社・刊) である。戦後まもなくのドイツ、15歳のミヒャエルは出先で体調を崩し、たまたま介抱してくれた女性、ヒルダと知り合う。そして程なくして二人は体の関係を持つようになり、爛れた日々を過ごすようになるのだが、実はヒルダには隠された罪があり……。というのが、本書の序盤のストーリーである。ここから先については大いにネタバレを含んでしまうために内容は伏せさせて貰うが、ヒルダという人物の罪、そして彼女が抱える秘密には、本作においては示唆されるに留まる彼女の偏狭な人生遍歴が関係している気がしてならない。

 

なぜ、ヒルダはあのような生き方しか選べなかったのか、そして、なぜああしたことになってしまったのか。その背後には、ヒルダの生きた、戦前、戦中、戦後ドイツ社会が密接に関係している。そして彼女は、彼女がひた隠しにする秘密ゆえに、社会から取りこぼされたのだろう。彼女の遍歴を見ていると、資本主義社会の帰結である格差が尾を引いていることがわかるだろう。この上記の感想は本書のものとしてはやや穿った(というか脇道の)感想となる。本書が提示するものはあまりにショッキングであり、また、色々と考えさせるものがある。そして本書の問いは、日本人にとっても重大な意味を持つものだろう。ヒルダの罪を目の当たりにしたミヒャエルの動揺は、わたしたちにとっても他人事ではない。

 

殺人鬼の被害者女性の人生から見えてくるあたらしい経済とは?

次はノンフィクションから『切り裂きジャックに殺されたのは誰か: 5人の女性たちの語られざる人生』(ハリー・ルーベンホールド・著、篠儀直子・訳/青土社・刊)をご紹介。

 

切り裂きジャック。シリアルキラーの祖と目される人物であり、現代でいう劇場型犯罪の走りともされる連続殺人鬼である。そのあまりに鮮烈なイメージや謎だらけの人物像ゆえに、ノンフィクション、フィクション問わず、様々な媒体で紹介され、現代においても「切り裂きジャック犯人捜しもの」とでも言うべき謎解きものは欧米では人気のジャンルとなっている。しかし、本書はそういった書籍とは一線を画している。

 

本書は切り裂きジャックに殺されたとされている5名の女性に焦点を当て、彼女らの人生遍歴を追っている。一般に、切り裂きジャックの被害者たちは「娼婦」だとされてきた。しかし本書は5人の女性に迫る内、彼女らが今日的な意味での「娼婦」ではなかったことを明らかにしていく。本書は、切り裂きジャック被害者の女性たちに迫ることで、彼女たちに貼り付けられたレッテルを剥がすのと同時に、ビクトリア朝時代のロンドンという新しい都市空間、新しい経済圏に登場した分類不能な女性たちの存在を剔抉した書籍なのである。

 

絵空事ではないリアルな「宇宙開発」の真実

お次は『宇宙開発の不都合な真実』(寺薗淳也・著/彩図社・刊)をご紹介。元JAXA職員である著者による、宇宙開発の真実を巡る書籍である。宇宙開発というと、どうしてもバラ色のイメージで語られがちである。宇宙開発が進めばイノベーションが進む、といった期待論や、「宇宙にはロマンがあるよね」式のほんわかとした憧れでもって修飾されがちで、わたしもそうした牧歌的な目で宇宙開発を見ていたところがある。しかし、本書はそうした思い込みを丁寧にほぐし、宇宙開発最前線で危惧されている問題や今後起こるかもしれない、あるいは現在進行形で起こっている宇宙開発の問題に触れている。

 

本書の中にはスペースデブリ(宇宙開発の際に発生するごみ)の問題や、宇宙開発技術の軍事利用に関わる問題などといったポピュラーな話題も大きく扱われているが、それと同時に指摘されているのが経済的な問題であったことにわたしは少し驚いた。詳しくは本書に譲りたいところだが、確かに、宇宙開発が進展すれば、経済的な問題は避けて通れない。来るべき宇宙時代にも、わたしたちは経済の輪から逃げ出すことはできないのだと思い知らされる一冊でもあるのである。

 

経済という行ないの原初の形–それが古書店経営

最後は漫画からご紹介。『百木田家の古書暮らし』(冬目景・著/集英社・刊)である。祖父の経営していた古書店を引き継ぐことになった三姉妹の物語である。本書は大人の恋愛ものであると同時に三姉妹の家族ものであり、かつ古本屋を舞台にしたお仕事漫画の側面もある。

 

今回の選書テーマに合わせてお話しするなら、次女の二実(つぐみ)の働きぶりがいい。彼女が古書店経営の核を担っているのだが、彼女の目から見た古書店の世界は、ギスギスした経済とは距離がある気がしてならず、作品のそこかしこで描かれる売り手と買い手の信頼や、商品であるはずの本への愛着に引き込まれていく。大量販売、大量消費から背を向け、静かに心を動かしながら本を売り買いしていく二実の在り方には、本来は三方よしであったはずの、経済という行ないの原初の形を見せつけられる心地がする。前述したとおり、本書には様々な読み筋が存在し、そのどれもが豊穣な味わいを備えている。現在2巻、今からでも追いやすい。神田古書店の片隅にいる三姉妹の日々を、皆さんも覗いてみてはいかがだろうか。

 

 

正直なところ、わたしは経済がよくわからない。

わたしもまた、ものの値上がりを目にして初めて経済の在り方を知る、市井の人間である。

だからこそ、もう少し、報酬が上がるか、物価が下がってくれると嬉しいのだけどなー、と素朴な感想を抱いている今日このごろである。物価高そのものは決して悪いわけではない。物価高以上にわたしたちの賃金・報酬が上がれば、物価高も経済成長と表現すべき事態となるのだし、何の問題にもならないのである。この物価高が日本の経済成長とは無関係な処で発生していることに問題があるのだから。

 

【過去の記事はコチラ

 

【プロフィール】

谷津矢車(やつ・やぐるま)

1986年東京都生まれ。2012年「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞受賞。2013年『洛中洛外画狂伝狩野永徳』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』にて歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。最新刊は『ええじゃないか』(中央公論新社)

 

 

 

 

主役は大仁田厚以外!伝説のインディー団体FMWを関係者視線で語る1冊『FMWをつくった男たち』

1989年10月10日、後楽園ホールで産声を上げたプロレス団体がFMWだ。大仁田厚が5万円で立ち上げた、テレビ放映のないインディー団体。スター選手は大仁田のみ。とはいえ、一度膝を壊して全日本プロレスを引退し、タレント業やほかの職業をしていた、「元」プロレスラー。体格はジュニアヘビー級だし、ファイトスタイルも派手なほうではない。

 

でも、このFMWがインディープロレスブームに火を点けた。異種格闘技戦(しかもプロレスvsテコンドーとかプロレスvsサンボとか)があったり、女子プロレスがあったり、まさになんでもあり。しかも試合のレベルは、かなり低い。客席からは終始ゆるい笑い声が起きているような感じだったのだが、大仁田が自分が弱いことを逆手に取り、泣きながらファンに「僕はプロレスが好きなんです!」と訴えかける涙のカリスマとなってから人気が上がり、電流爆破デスマッチで過激なデスマッチ路線をひた走る。当時大学生だった僕は、どハマりした。メジャー団体にはない泥臭さといかがわしさ、うさんくささがたまらなかったのだ。

大仁田抜きのFMW本

そのFMWの創設から伝説の川崎球場までの軌跡を追ったのが、『FMWをつくった男たち』(小島和宏・著/彩図社・刊)だ。

 

著者は、週刊プロレスの元記者。大仁田番としてFMW旗揚げ時から大仁田の(2回目の)引退まで、常に大仁田のそばにいて記事を書いていた。そんな著者が書くFMW本だからおもしろくないわけないのだが、この本のある1点が、さらにこの本をおもしろくさせている。

 

FMWの本は書くけれど、大仁田厚が主役の本にはしたくない

(『FMWをつくった男たち』より引用)

 

著者が、出版社からの依頼に対する要望のひとつがこれ。そして、本当に大仁田抜きのFMW本となっている。取材対象者は、すべて大仁田以外の元FMW関係者なのだ。

 

栗栖正伸の強さが際立っていた初期FMW

FMWの歴史をある程度知っている人にとっては、大まかな内容は想像できることだろう。ジャパン女子プロレスの話から始まり、TPGや格闘技の祭典、パイオニア戦士などなどを経て、FMWの旗揚げとなる(FMWに詳しくない人には何が何やらわからないかもしれませんね…)。

 

個人的にグッときたのが、初期FMWに参戦していた栗栖正伸のインタビュー。僕は栗栖正伸が大好きで、大仁田・ターザン後藤 vs 栗栖正伸・ドラゴンマスターのストリートファイトマッチが、プロレスの試合の中で5本の指に入るくらい好きだ。

 

また、大仁田とは有刺鉄線バリケードデスマッチ(リングの外に有刺鉄線が巻かれた板が置かれている。そこに落ちるたびに客席から悲鳴が起こる)で対戦。そのときのことを栗栖はこう語る。

 

当たり前じゃない! 誰があんなところに落ちたいのよ? ドーンと落ちていく大仁田がどうかしているんだよ(笑)。1回、顔から突っ込んでいったもんね。だから、大仁田は人気が出たんじゃない? そこは俺も認めているよ。政治家になったあとの大仁田厚はまったく認めてないし、バカだな、と思ったけれども、あのころのプロレスラー・大仁田厚は本当にすごかったよ!

(『FMWをつくった男たち』より引用)

 

確かにあの試合は、今ビデオで見ても興奮する。とにかく栗栖がリングに上がっていたころのFMWは、栗栖だけがイスをぶん回して強さを発揮していたような、そんなイメージがある。

 

FMWをつくった女

もう一人、おもしろいなと思ったインタビューが、FMWで広報を担当していた樋口香織だ。彼女が入社してから、FMWはきちんとした会社の体裁になっていく。彼女は選手たちの肖像権の管理や芸能の仕事を取り仕切るFMWクリエイティブに所属となった。

 

新しく会社を作るにあたって、本当にちゃんとしたんですよ。社会保険完備、とか。それに合わせてFMW本体も同じように仕組みを変えて、会社としてしっかりとしたものにしたんです。まぁ、普通のことではあるんですけれど(笑)。

(『FMWをつくった男たち』より引用)

 

本書では、彼女は「FMWをつくった女」と評されている。こういう人が一人いるだけで、会社というのは変わるものなのだなと感じた。男性メインの会社だったから、女性の目線でいろいろ仕事をしたというのもあるのかもしれない。

 

話を聞きたかったあの人たちはもういない

初期FMWのレスラーや関係者は、すでに鬼籍に入っている人も多い。もし、その人たちの話も聞けていたら、もっと濃い内容のものになったのだろうと思うと、ちょっと残念でならない。

 

FMWという団体は、道なき道をかきわけながらその歴史を作ってきた希有な存在。その生々しい歴史が垣間見える良書なので、ファンなら(元ファンも)一読する価値はあるだろう。

 

 

【書籍紹介】

FMWをつくった男たち

著者: 小島和宏
発行:彩図社

営業、広報、渉外担当、リングアナ…誰も知らなかった初期FMWの本当の物語。涙のカリスマ誕生前夜ー、主役は名もなき勇者たちだった!

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この世に満ちている「落とし穴」に落ちないための自衛の書『邪悪な世界の落とし穴』

「政府あるいは特定の政治団体が、大衆の社会的な態度や行動に影響を及ぼす過程」を意味する“ソーシャルエンジニアリング”という言葉をよく聞くようになった。

この世は罠と落とし穴に満ちている

邪悪な世界の落とし穴』(鈴木傾城・著)は、ディストピア的な視点からソーシャルエンジニアリングを俯瞰する一冊だ。とは言え、単に厭世的な文章が綴られているだけでは決してない。誰でも知っている事実を論拠として積み上げていくアプローチに強く惹かれる。

 

基本的には著者の人気ブログ『ダークネス』から編集・構成されたエッセイ集という趣の一冊だ。冷徹で論理的なトーンの文章を通して、知りたくなかった、あるいはうっすら知っているがあえて確認したくはなかったことが次々と明らかにされていく。まえがきに、本書の絶対的な立脚点を示す次のような一文記されている。

 

もう社会は私たちを守ってくれないのだ。国も企業も資本主義の論理で私たちを突き放す。あなたは、金融の罠や落とし穴に落ちる前に、どんな罠や落とし穴があるかを知っておかなければならない。

『邪悪な世界の落とし穴』より引用

 

日本で暮らしているということは、果たして本当に幸福なのか。読み進めるうちに、そんな思いが生まれる。

 

われわれを待つのはディストピアでしかないのか

章立てを見てみよう。

 

社会がワナを仕掛けてくる

夢が首を絞めてくる

企業が裏切ってくる

グローバル化が牙を剥いてくる

経済が襲いかかってくる

未来が絶望を運んでくる

 

この本が刊行されたのは2017年12月だ。ブログの内容をまとめたものなので、文章が書かれたのはさらに前になる。2022年11月時点で筆者の周囲を見回してみると、ソ連のウクライナ侵攻や歴史的円安、爆上げが止まらない物価と、ディストピア的要素に満ちている。

 

帯にこんな文章が記されている。

 

邪悪な世界が私たちにワナを仕掛ける。それは1つ2つのワナではない。いくつものワナが同時並行に多重に連なりながら続く。

『邪悪な世界の落とし穴』より引用

 

鈴木氏は訴える。ワナとか落とし穴といったネガティブで攻撃的なものは、多層的に重なりながら逃げ場を断つように覆いかぶさってくる。日本の社会情勢そのものが、こういう状態になっている。

 

貯金は危ない?

競争、夢、能力給、グローバル化、リボ払い、格差遺伝…。次々と繰り出される落とし穴の実例は、ごく身近なものから世界経済規模の話まで、大小さまざまなスコープで展開されていく。こんなのはどうだろう。「コツコツ貯金という落とし穴」だ。

 

グローバル化によって賃金は抑制され、貯金は目減りし、金利はほぼゼロに近いパーセントで、国家財政の逼迫から年金や福祉も削減されるとなれば、日本人が次々と貧困に落ちていっても誰も驚かないはずだ。

『邪悪な世界の落とし穴』より引用

 

なのに「ひとつの会社で一生懸命に働いて、コツコツと貯金する」という生き方に、一定以上の価値観あるいは潜在的な正しさみたいなものを見出そうとするメンタリティーはいまだに生き残っている。マジョリティであるとは言わないが、こうしたやり方のほうがより安心な人も一定数存在しているはずだ。

 

パートナーシップ意識の変化

もうひとつ紹介しておこう。「結婚という落とし穴」だ。

 

結婚しないと孤独にさいなまれ、結婚しても束縛を感じ、どちらにしろ現代人はうまくいかない。これは、現代人が模範的な人生の姿を見失ってしまったことを意味する。どちらにしても、今の社会構造のままではうまく生きられない体質になったということだ。

『邪悪な世界の落とし穴』より引用

 

最近は、結婚以前に付き合うという概念が消えつつある。内閣府の2022年版「男女共同参画白書」では、20代男性のおよそ7割、女性のおよそ5割が「配偶者・恋人はいない」という回答を寄せている。また、20代男性のおよそ4割が「これまでデートした人数はゼロ」と答えている。彼女がいないどころか、デートさえしない男子が4割いる。

 

結婚によって生じる束縛感を否定したい気持ちとか、趣味との関わりのプライオリティーを重視する感覚とか、理由はいろいろあるだろう。ただ、結婚に限らずパートナーシップに対する姿勢や価値観も確実に変化しているのだ。

 

さまざまな問いかけ

たとえ明らかに不快であっても、直視しなければならないものがある。そして今の時代には、そうしたものが世の中にあふれかえっている。

 

知らないと勘は働かない。知ると勘が働く。だから、それは憂鬱で気が滅入るような現実であっても、知らなければならないのである。

『邪悪な世界の落とし穴』より引用

 

それでも、きわめて限られた部分しか見ようとしないのか。一歩踏み込んで、毎日見聞きするニュースの裏側を知ろうとはしないのか。今の自分のあり方は当たり前であり、今のままの生き方をずっと続けていくことにまったく疑念はないのか。「こんなもんだろう」という思いを理由に何もしないのはもうやめて、自分から行動したほうがいい。

 

【書籍紹介】

邪悪な世界の落とし穴

著者:鈴木傾城

邪悪な世界が私たちにワナを仕掛ける。それは1つ2つのワナではない。いくつものワナが同時並行に多重に連なりながら続く。競争という落とし穴、時間という落とし穴、夢を持つという落とし穴、楽観的という落とし穴、宝くじという落とし穴、可能性という落とし穴、孤立化という落とし穴……。社会が仕掛けてくる無数の落とし穴を私たちは回避することができるのか。鈴木傾城の人気ブログ『ダークネス』のから抜粋・編集・構成された鋭利な文章集。

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1歳1ページ。100年の人生を描く絵本で味わう自分の「未来」ーー『100年の旅』

人生が100年だとすると途方もなく長く感じます。長い老後に不安を感じ、若いうちから老後資金が足りるか心配する人も少なくありません。けれど老後には楽しいこともたくさん待っているようです。

 

その年にならないとわからない

多様化の時代になってきたとはいえ、年齢を節目として考える人はまだまだいます。例えば「30歳までに結婚したい」という人や、「40歳までに自宅を購入したい」という人、それから「50歳までに早期リタイアしたい」という人もいます。

 

でも、彼らはその年齢を実体験しているわけではありません。あくまでも目安として考えているだけなのです。人生は後戻りはできません。なので、私たちは過去に何があったかは知っていても、これから何が起きるかは全く知らないのです。

 

先輩の経験に学ぶ

未来の体や心の状態を知るには、先人の体験談が参考になります。筆者も以前、50代の先輩に「40代のうちにしておいたほうがいいことはありますか?」と尋ねたところ「筋トレ」と即答されました。50代近くになると想像以上に筋肉が衰えてくるので鍛えておきなさいと言うのです。

 

その時は意味がよくわからなかったのですが、サイクリングをまめにするなどして体力づくりをするようになりました。そして迎えた50代の今、駅までダッシュしても息切れしないくらいの健康体です。先輩の教えを意識して生活していたおかげだと思っています。

 

人の一生を描いた絵本

100年の旅』(ハイケ・フォーラ・著/かんき出版・刊)は、とても壮大な絵本です。人の一生を一冊の絵本で表現されています。絵本の1ページが1年と設定されていて、ページをめくるごとに少しずつ年齢を重ねて成長していき、本の半分を過ぎると少しずつ老いていく仕組みとなっています。

 

人生の後半を読む時はつらい気持ちになってしまうのではとビクビクしていたのですが、全くそんなことはありませんでした。それどころか絵本が辿ってきた今までの歩みを振り返ることで胸が熱くなったのです。

 

未来の人生を想像する

読むだけで、老後について想像し、これからの人生にどんな状況が訪れるのかを味わうことができる。『100年の旅』はそんな素敵な絵本です。そして今後の人生への不安が少し薄れるかもしれません。なぜなら絵本では人生の後半を迎えた人が生き生きと行動し、人生を楽しんでいるからです。

 

この絵本のすごいところは、想像ではなく、実際にそれぞれの年齢の人に話を聞き、その時に発せられた言葉も散りばめているところです。なので、絵本の言葉ひとつひとつから不思議な重みや深みが放たれているのです。ページをめくると嬉しいこととつらいことが交互に起きているかのようで、まさに人生山あり谷ありだなと感心してしまいます。

 

過去と未来はつながっている

とても励まされたのは、筆者に来年訪れる52歳のページ。いまだに夢を追いかけているというようなことが書かれているのです。何歳になっても夢を持ち、そしてそれを追いかけてもいいのだと嬉しくなりました。絵本では70代で新しいチャレンジをしている人も登場しています。

 

コンパクトに1冊にまとめられた一生を眺めていると、年齢というのは突然現れるものではなく、今までの自分や未来の自分ともつながっているのだということに気づかされます。絵本では同じアイテムが何度も登場するなどして、読む側に気づきを促してくれてもいました。

 

遠く感じる80代や90代も、今の自分が変化していったものなのです。未来が今までの自分の積み重ねなのだとしたら、現実を変えることで未来も変えることができるのではないでしょうか。未来を楽しく生きたいのなら、今、この場所で精一杯楽しく生きるべきなのかもしれません。

 

 

【書籍紹介】

100年の旅

著者: ハイケ・フォーラ、ヴァレリオ・ヴィダリ
発行:かんき出版

1歳1ページ、あなたの年齢はどんな世界が見える? 大切なひとといっしょに読みたい、人生で学ぶすべてのこと。

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若きピアニストはみな個性的! 日本人が2位と4位に輝いたショパンコンクールの舞台裏~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。カボチャタルトに和栗のモンブラン、キノコの炊き込みご飯に焼きサンマ……。食欲の秋をいいわけに暴飲暴食が過ぎてしまったら、芸術の秋の出番です(笑)。

 

ピアノの演奏を聴くのが好きな友人に勧められたのが、ショパン国際ピアノコンクール(ショパンコンクール)。5年に一度ワルシャワで開催される、16歳以上30歳以下のピアニストたちが腕を競う世界最高峰のコンクールです。

 

オンライン配信にも積極的で、昨年2021年に開催された第18回の模様もYouTubeで視聴することができます。弾き方も音色もそれぞれ個性的。順位に関係なく、あなたの心をつかむピアニストに出会えること間違いなしです。

ピアニスト&文筆家が見たショパンコンクール

そのショパンコンクールをさらに楽しむための新書が「ショパンコンクール見聞録 革命を起こした若きピアニストたち」(青柳 いづみこ・著/集英社新書)。著者の青柳 いづみこさんはピアニストで文筆家。1990年に文化庁芸術祭賞を受賞し、1999年には評伝『翼のはえた指』で吉田秀和賞を受賞するなど、ピアノ演奏と執筆を両立させる希有な存在として注目を集めています。

 

「ショパンコンクール見聞録 革命を起こした若きピアニストたち」(青柳 いづみこ・著/集英社新書)

 

若きピアニストたちがコンクールを変える!?

2021年10月に開催され、日本人ピアニストが2位と4位に入賞して大きく報じられた第18回ショパン国際コンクール。本書はこのコンクールの本戦を現地で聴いた青柳さんによるレポートとなっています。

 

個性派揃いで、既存の価値観をくつがえすような演奏が相次いだと青柳さん。2章から5章までは、本戦ファイナリストたちの横顔や演奏スタイル、実際に本戦ではどのような演奏だったかが語られていきます。

 

やはり読みどころは日本人として内田光子さん以来51年ぶりに2位入賞した反田恭平さんの章。反田さんはショパンコンクールのために6年かけて「傾向と対策」を練ったとか。ワルシャワのショパン音楽大学に留学し、肉体改造を行って筋肉と脂肪をつける。「サムライ」風に後ろで結んだ長い髪も、強い印象を与えるための作戦のひとつだったそうです。

 

本戦では「ピアノ協奏曲第1番」を演奏した反田さん。私も動画で視聴しましたが、豊かな音が心に響いてきました。言外にさまざまなふくみをもたせた巧みな歌いまわし、という青柳さんの評もまさにぴったり。客席からスタンディングオベーションも起きていました。

 

個人的に本書で知り、気になってすぐに演奏を聴いてみたのが、3位となったスペインのマルティン・ガルシア・ガルシアさん。自由なコンクールの象徴となったという彼は、鼻歌を歌いながらピアノを歌わせるように弾いていくスタイルが特徴。予選の動画では、口を動かしながらものすごく楽しそうにピアノを弾いている姿が印象に残りました。そんな彼が歌いながらピアノを弾く理由も書かれていて、なるほどと納得しました。

 

かねてから天才少女として名を馳せ、今回4位に入賞した小林愛実さん、東大で音声処理について研究していた経歴を持ちピアノ系YouTuberとしても知られる角野隼斗さん(第三次予選まで進出)……。読めば読むほど魅力的なピアニストばかり。このレベルになると、演奏技術だけでなく、その人のすべてが音となって表現されるのでしょう。

 

ピアノ演奏を聴くのが好きな人はもちろん、私のような門外漢にもフレッシュなピアニストたちの人物像がわかりやすく伝わってくる一冊。プロのピアニストが演奏のどこに着目しているかも知ることができました。青柳さんの鋭くも愛にあふれた演奏評を読みながら、ショパンコンクールの動画を楽しむ、これぞ芸術の秋を満喫する夜長の過ごし方でしょう。

 

【書籍紹介】

ショパンコンクール見聞録 革命を起こした若きピアニストたち

著:青柳 いづみこ
発行:集英社

5年に一度行われ、世界三大音楽コンクールで最も権威があるショパン・コンクール。若きピアニストの登竜門として有名なその第18回大会は、日本そして世界中でかつてない注目を集めた。デビュー以来“一番チケットが取れないピアニスト”反田恭平が日本人として51年ぶりに2位、前回大会も活躍した小林愛実が4位とW入賞。彼らと予選・本選を戦ったピアニストたちは、皆レベルが高く個性的で、コンクールの既存の価値観を覆すような演奏を見せつけた。これまでと大きく変わった今大会の現場では何が起こっていたのか? 音と言葉を自在に操る著者が検証する。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

「はじめまして」は好印象でも、2度目以降何を話したらいいかわからない! と悩む人におすすめの一冊『2度目の会話が続きません』

対面で人と会う機会も増えてきた今日このごろ。ここ数年、オンラインが当たり前だったので「知り合いなのに、直接会うとなんだか会話が弾まない……」そんな場面に遭遇することが増えてきました。はじめましてはオンライン、二度目以降がオフラインで顔を合わせるとなると、なんとなくギクシャクしてしまうことってありますよね?

 

今回はそんな方におすすめしたい一冊『2度目の会話が続きません』(野口 敏・著/サンクチュアリ出版・刊)をご紹介します。

「はじめまして」と2度目以降の会話では、気を付けることが違う?

初対面での会話は、テンプレート化されていることも多いので自然と「盛り上がった感」を出すことができます。しかし、2度目以降で話題が尽きて、無の時間が流れるなんてことも。お互いの距離感がつかめていないと「あれ? 思っていた人と違う……」と感じてしまうかもしれません。

 

もっと相手のことを知りたい! 自分のことを知ってもらって、仲良くなりたい! と思ったら、2度目以降はどんなことに気をつけたら良いのでしょうか?

 

会話とは、情報交換ではないのです。

1度目の会話では情報の質問でも乗り切れるかもしれませんが、2度目以降には「感激したこと」「後悔したこと」など、相手の気持ちや人間性に目を向けていきましょう。

これが、2度目以降の会話が弾む秘訣です。

(『2度目の会話が続きません』より引用)

 

ついついどうでもいい質問を投げかけたり、延々と自分の話をしちゃっている〜! 2度目の会話っていい塩梅が難しいんですよね。それは、情報交換しようとしているからかもしれません。2度目以降は、相手の気持ちに目を向け、寄り添うことを心がけてみましょう。

 

聞かれて困る「趣味」の質問には、どう答える?

ある程度、情報交換的な会話が終わった後に出てくるのが、「趣味」の話。「趣味はなんですか?」「おやすみの日は何をしてますか?」なんて聞かれて、答えられない人も多いはず。まだ会ったばかりの人に趣味の話はしたくないって人もいますよね。でも、この「趣味はなんですか?」という質問、真剣に答えなくてもいいとのこと! その背景にはどんな意味があるのでしょうか?

 

まずこういう質問にうまく答えるセオリーを2つ紹介しましょう。

・相手はただ会話のきっかけとして質問をしているだけ。正確に答える必要はない
・会話が広がるように答えればOK

(『2度目の会話が続きません』より引用)

 

つまり「趣味はなんですか?」と問いかけてきた人は、この質問をきっかけに会話を広げたいだけなのです。趣味がなくて困ったなぁ〜という人は素直に「私って趣味と呼べるような趣味がないんですよね」と言えばいいし、色々あってひとつに絞れないなら「なんでもハマっちゃうんです。最近は〇〇が好きで〜」と返せばいいだけ。趣味の話をしたいわけじゃないと思っておくと、気持ちが楽になりますよね。

 

逆に自分から話しかけたい場合は、質問しよう! とするのではなく、自分語りから始めて、相手に問いかけるといいのだとか。『2度目の会話が続きません』には、さまざまなシチュエーションの会話例が掲載されているので、気になる方はチェックしてみてくださいね。

 

あいづちは、練習でうまくなる!?

会話の中で重要な「あいづち」は、やりすぎるとうざい人になりますが、上手に使えれば会話のテンポを良くし、共感力を高めてくれます。自分の話に共感してもらえている! と思えば、どんどん話したくなりますよね。

 

実際、「話しやすい人」を観察してみると、彼らは別に気のきいたことを言っているわけではありません。

話を聞きながら「ええ!?」とか「あらー!」とか、気持ちの乗ったあいづちを返します。すると、わずかな間のあと、また話し手が笑顔で話しはじめるのです。

(『2度目の会話が続きません』より引用)

 

ちなみに「あいづち」は練習で上手になるそう! 鏡で自分の顔を見ながら「いいですね」「困りましたね」「えーっ!」などと練習をすることで、ナチュラルなリアクションができるようになるそう。自分がどんな顔をしているのか、どんな声を出しているのか、無意識にしているあいづちを意識してやるだけで、「話しやすい人」になれちゃうかも。

 

『2度目の会話が続きません』は、全11章で構成されています。たくさんの会話例とともに、話し方やリアクションの取り方、話題選びなど仕事や恋愛でも役立つ会話術が掲載されています。会話例では、いい例と悪い例が掲載されているので、自分の会話のクセを見つけたい人にもおすすめ! 人と会う機会が増えてきた今、『2度目の会話が続きません』を読んで、こっそり会話力を高めちゃいましょう。

 

【書籍情報】

2度目の会話が続きません

著者:野口 敏
発行:サンクチュアリ出版

聞き上手で乗り切れるのははじめましてだけ! 人見知りの人も、初対面の会話はできるという人も「出会ってから2度目の会話が難しい」と感じたことはないでしょうか? この本では、2度見知りさんが持つ苦手をスキル、そして心理面から解きほぐす90の方法を集めました。仕事の場でも出会いの場でもプライベートでも、この本を読んで関係を深める力をつければ、2度目の会話だけでなく、初対面の会話も大きく変わっていきます。

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一気に読むか、1日1編と大事に読むか?ーー偉大なる文豪による珠玉の短編集『コスモポリタンズ』

活字を読んでいないと落ち着かないというヒトは、けっこう多いと思う。かくいう私もその一人で、どこへいくときも、バッグの中に本を入れる。重いし、やめようと思う日もあるのだが、一冊の本があれば、待ち合わせた相手が遅刻してきても気にならない。「お待たせしちゃって」の言葉に、にっこり笑って、余裕で応じることができる。時には、途中で本を閉じるのが残念で「もう少しゆっくりでも良かったのに」とこっそり思ったりしている。

サマセット・モームの素晴らしさ

そんな私が困るのが海外旅行だ。それでなくても、私は荷物が多く、スーツケースの中はぎっしりと物が詰まっている。荷物は最小限にと念じながら、文庫本を入れるのだが、行きの飛行機で早くも手持ちの本を読みあげてしまう。これではいくら本があっても足りない。海外では日本語の本は手に入りにくいし、あっても高い。仕方がないので、持ってきた鎮痛剤の効能書きを読んだりしながら時を稼ぐ。

 

おまけに、私は旅行中に長編小説は読みたくない。一度、ぶ厚い小説を持って出かけたことがあるのだが、あまり楽しむことができなかった。旅行中の時間は細切れで、読んでいる最中に飛行機の搭乗案内が聞こえてきたり、改札がきたりで忙しい。挙げ句の果てに、筋がこんがらかってしまい最初から読み直す羽目になる。

 

そんな私にとって、『コスモポリタンズ』(サマセット・モーム・著/筑摩書房・刊)は何にも優る旅の友だ。この本を携えるようになってから、イライラが減った。くり返し読んでも楽しむことができるからだ。

 

この作品は、英国人作家サマセット・モームが、雑誌「コスモポリタン」の編集長の依頼を受けて書いたものだ。サマセット・モームといったら、『人間の絆』や『剃刀の刃』などの長編小説で知られる著名な人物。私はスーツを買うために貯金していたお金で、モーム全集を買ってしまったモームファンだが、短編もさすがの出来映えである。

 

本の最後に小池滋による解説があるが、これも大変、面白く、わかりやすい。モームがどうして『コスモポリタンズ』を書くにいたったか、その経緯が紹介されている。

 

『コスモポリタン』の編集長は、当時売れっ子の大作家モーム先生にだけは、尻切れトンボにならない形で掲載するという特権を与えることにした。(中略)つまり、今日でいうところの「ショート・ショート(・ストーリー)」のはしりとでも言うべきものが、これらの短編小説集なのである。だが、口で言うのは簡単だが、実施にやってみれば、これがいかに難しい仕事かわかるだろう。

(『コスモポリタンズ』より抜粋)

 

高いスキルを持っているからこそ、読者を夢中にさせ、飽きさせず、何度読んでも面白い短編を書くことができる。モームがこれらの短編を雑誌に連載したのは、1924年から1929年の間である。つまり、彼が50歳から55歳までの、筆がさえわたる年齢のときであり、だからこそ、こうした粒選りの小説がそろったのだろう。

 

モーム自身もこの仕事を楽しんだようで、序文に極めて意味深い叙述を残している。

 

これらの物語を書くにあたって私の感じた困難というのは、私が語るべきことがらを、絶対に超過することを許されない語数以内に圧縮し、しかも読者にたいしては、語るべきものをすべて語ったという印象を残すことであった。だがこれは困難であったと同時に、ためにもなった。

(『コスモポリタンズ』より抜粋)

 

一番、好きな作品はというと

『コスモポリタンズ』には、29の物語が収められている。主人公は作家モームの分身であるような設定の者が多いが、登場する人物は様々だ。女性も男性も、お金持ちも貧乏人も、どうしていいかわからないほど多種多様な人々が、やりたい放題に暴れまくる。時には、読んでいて身がもたないと思うほどだ。

 

解説の小池滋は『社交意識』という短編を一番好きな作品として取り上げている。それを知り、私は「う、さすが」と、思った。最初の部分に仕込まれた伏線が、最後に地味に爆発する仕掛けが、なんとも言えない風合いを醸し出す。誰でも書けるようでいて、フランス小説に詳しいモームでなければ書けない短編だろう。

 

私も『社交意識』は好きだが、もっと好きな作品がある。それは『会堂守り』だ。主人公のアルバートエドワード゙・フォーアマンなる人物が魅力的で、彼が陥る窮地が自分のことのように思えてくる。

 

エドワードは16年もの間、教会で会堂守りとして働いていた。牧師を助け、洗礼式を行う手伝いをしたり、お茶を出したり、椅子を並べたりと、あらゆる雑用をしてきたのである。今までもそうであったように、これからも同じ毎日が続くだろう、エドワードはそう思っていた。ところが……。

 

穏やかな日常は、新任の牧師の言葉で危険にさらされる。牧師はエドワードが読み書きができないことを問題視し、これからでも遅くはないから、読み書きの勉強をするようにと命じるのだ。しかし、60近い彼にとって、それは無理な注文であった。それに、今まで読み書きなどできなくても、なんら不都合なく、会堂守りの仕事を続けてきたのだから、何をいまさらと思うのも当然だ。

 

困惑したエドワードは、とりあえず、教会を出て、外の通りを歩き出した。心を落ち着かせるため、煙草を吸いたくなったからだ。ただ、あいにく持ち合わせがなかったので、煙草屋を探して歩くのだが、通りの端まで行っても見つからない。普通なら万事休すとなることろだが、そこはモームの創りこむ人物。そんな簡単には終わらない。そして迎えるエンディングに、短編小説の見事さを感じないではいられない。

 

他にも『ランチ』『物識先生』『蟻とキリギリス』など、うむむとうなる物語が並ぶ。29編を一気に読むのもいいし、1日に1作品と決めて、大事に読むのも楽しい。読書の秋とはいうけれど、私にとって、『コスモポリタンズ』は、秋だけではなく、いつも持っていたい1冊だ。

 

【書籍紹介】

コスモポリタンズ

著者:サマセット・モーム
発行:筑摩書房

舞台は、ヨーロッパ、アジアの両大陸から南島、横浜、神戸までー。故国を去って異郷に住む“国際人”の日常にひそむ事件のかずかず。コスモポリタン誌に1924~29年に連載された珠玉の小品。

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保護したつもりの黒柴が人間に奇跡をもたらす痛快犬小説ーー『迷犬マジック2』

愛犬家の中には感動の犬小説はちょっと苦手……という人が少なくない。ハッピーエンドならいいけれど、最後には犬が天に召されてしまうストーリーが多いからだ。その点、今日紹介する犬小説は辛い別れがないので、涙を流さずに読め、しかも心が温まってくるのだ。

 

迷犬マジック2』(山本甲士・著/双葉社・刊)は、前作で大好評となった『迷犬マジック』の第2弾。迷い犬として突然現れる謎の黒柴を保護し、世話をしているうちに人々に幸せな奇跡が訪れるという物語だ。

 

犬が人間に教えてくれることはたくさんある

小説に出てくるスーパーわんこではなくても、純粋な生き物である犬が私たち人間に教えてくれることはとても多い。私は異国フランスで雌のラブラドールを飼っていたのだが、社交的で人懐っこい犬だったので、彼女のおかげで交友関係が広がり、フランス人の友人が増えていった。つたないフランス語でも関係ないよ、人とは心で付き合えばいい、わが愛犬はそんな眼差しで私に訴えかけていたような気がする。きっと、犬を飼っているみなさんも、うちの子はこんなことを教えてくれた、あんなことを気づかせてくれたと思っているのではないだろうか?

 

では、本題に戻り、迷犬マジックとはどんな犬なのかをざっと紹介しておこう。

 

突如として誰かの前に現れる”謎の黒柴”

中型犬がすぐ後ろにちょこんと座っていた。頭や背中は黒いが、腹や足の先は白い。白と黒の境目は茶色の層がある。黒柴のようにも見えるが、顔つきには少し洋犬の要素もあるように思えた。

(『迷犬マジック2』から引用)

 

見返されても逃げようとしないどころか、出会ったその人の後ろを勝手についてくるので、明らかに人馴れした飼い犬に違いない。しかし、周囲を見渡しても飼い主らしき人影はなく、交番や近所に聞きまわっても飼い主は現れないのだ。

 

赤い首輪をつまんでゆっくりと回した。小さく〔マジック〕と書いてあった。多分、細い油性ペンで書いたものだろう。「マジックって、このコの名前かな」

(『迷犬マジック2』から引用)

 

こうしてこの謎の黒柴・マジックと出会った人々は、保護のつもりでこの犬とひとときを過ごすことになる。すると、その人の悩みや心配ごとが不思議と消えていき、希望の光が見えてくるというほっとするストーリーなのだ。本書には春、夏、秋、冬と季節ごとにマジックとの出会いがあり、それぞれが短編かと思いきや、読み進めていくと、実は登場人物にはつながりがあることがわかる仕掛けになっている。

 

孤独な小学生の男の子との出会い

では、春夏秋冬の4つの物語を、ネタバレにならない程度にざっと紹介してみよう。

 

優秀な警察官だった父親を亡くした小学生の賢助。しばらくは母親と二人暮らしだったが、母親が同級生だったという気のいい男性、重さんと付き合うようになり、家で食卓を囲むようになった。重さんは元ボクシングの選手で、以前、路上でチンピラにいきなり殴られたが反撃せず、パンチをかわし続けていると見ていた通行人が警察に通報、その加害者を連行したのがなんと賢助の父親だったのだ。しかし多感な賢助はなかなか重さんを受け入れられず、会話もほとんどなく、ぎこちない日々を送っていた。そこに、ふいに現れたのがマジックだった。

 

背後に何かの気配を感じ、振り返って「おおっ」と後ずさりした。黒柴ふうの中型犬がすぐ後ろを歩いていた。赤い首輪はしているけれど、ロープにはつながれていない。(中略)「おい、俺は飼い主じゃないから、ついて来てもダメだぞ。そもそもアパートに住んでるんだから、飼えないし」そう言い置いて歩き出しても、やはり犬はついて来た。

(迷犬マジック2』から引用)

 

アパートに駆け込めば犬も諦めるだろうと思ったが、気になって見に行くと、マジックはそこにいて、ここにいるのがあたり前みたいな感じで賢助を見上げていたのだ。そうしてマジックの登場が、賢助と重さんの関係を変え、また交友関係も広がっていくという展開だ。

 

喧嘩っ早いの男との出会い

30を過ぎているのに、すぐにかっとなる性格が災いして冴えない日々をおくる隼。6年前には酔っ払って信号待ちで立ち止まっていた男とぶつかり、悪いのは自分のほうなのに、一発殴ってしまい、傷害罪で現行犯逮捕された経験もある。以来、人を殴ったことはなかったが、最近、職場の現場主任に対し、正当防衛として押し返したらそれが原因でクビになった。そんな隼の前にマジックが現れ、隼のあとをついて来た。

 

「おいおいおいおい、何でついて来るんだよ」隼はかがんで顔を近づけた。「俺は飼い主じゃないよな。さっきちょっと会っただけだろ。さっさと公園にもーどーれーっ」と、公園の方を指さす。すると犬は冷めた目つきで隼を見返し、それからあくびをした。

(『迷犬マジック2』から引用)

 

そのとき隼は、スマホで黒柴の値段を検索して「おっ」と声を漏らした。こういう犬を飼えるのは裕福な家に違いないから、自分が保護すれば謝礼がもらえるんじゃないか。そんな、邪な気持ちでマジックと暮らしはじめた隼だったが、小さな奇跡が次々と起こっていく。

 

警察官を引退した男との出会い

身体にガタが来る前に、徒歩旅行を友人と計画した労。警察官として鍛えていたので還暦を過ぎ、引退したとはいえ、体力にはまだ自信があった。が、直前になって友人が乗り気ではなくなり、労は一人でリュックを背負い、2泊して目的地まで歩く旅に出た。

 

出発して2時間程度だったが、早くも膝が痛み始めた。それでも頑張って一人で黙々と歩いていると、ふいにマジックが現れた。追い払おうとしてもマジックは労の後をついて来る。そして信号機がなく、見通しの悪い交差点を渡ろうとしたとき、急にマジックが前に回り込み、労が足を止めた瞬間に1台の車が猛然と走り抜けていった。危うくはねられるところだったのだ。

 

見上げている犬と目が合った。目を細くしたその表情は、大丈夫か? とでも言いたげだった。「お前、もしかして、危険を知らせてくれたのか?」

(迷犬マジック2』から引用)

 

こうして、マジックは労の旅の道連れとなり、目的地を目指していく。

 

一人暮らしの老女との出会い

最愛の娘、そして孫息子にも先立たれ、孤独に生きる高齢女性のチヨ。近隣の住人からも敬遠されるような、やや無愛想な老女だった。そんな彼女の家の前にマジックが現れた。

 

「どげんした? 飼い主とはぐれたとね?」すると犬は小首をかしげた。さあ、どうでしょう、とでも言いたげな仕草だった。(中略)外に出て前後を見渡したが、犬を探していると思われる人影はなかった。

(『迷犬マジック2』から引用)

 

犬が去ってくれないので、しぶしぶ、餌をやり、散歩させることとなった。すると、これまで声も掛けてくれなかった人々がマジックのおかげで近寄ってくるようになった。チヨの顔に笑顔が戻り、そしてやがては信じられないような奇跡がもたららされることになるのだ。

 

目的を達成するとニカッと笑うような表情を見せるマジックはどこからやってきたのか、次はどこへ行くのかはわからない。が、幸せを運ぶ魔法使いのようなワンコであることは間違いない。読者の気持ちもほぐし、いい気分にしてくれる本書を犬好き、そしてペット好きにおすすめしたい。

 

 

【書籍紹介】

迷犬マジック2

著者:山本甲士
発行:双葉社

謎の黒柴、マジックは“迷い犬”として突如誰かの前に現れる。保護のつもりでマジックと一緒にいると、これまではまったく接点のなかった人との会話が生まれて気持ちが変わったり、未来に少し光が差してきたりする。心配ごと、後悔…胸のつかえがとれずに日々を生きる人々に訪れた、小さな奇跡。読めば気分が一新する、大人気のスペシャルマジック小説、待望の書き下ろしシリーズ第2弾。

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自分で作る、理想の収納!11/8発売の『dopa(ドゥーパ!)』151号の中身はこんな感じ!

DIYライフマガジン『dopa(ドゥーパ!)』2022年12月号が、11月8日(火)に発売!

特集は「棚作りバイブル」「DIYで手に入れる理想の物置」の2本立て。

基本から裏ワザまで、収納棚作りのすべてを網羅した完全保存版です。

 

<記事内ギャラリー *画像をタップするとご覧いただけます>

 

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・特集は「棚作りバイブル」

「棚を作れれば、家を作れる」という金言があるように、棚作りはDIYのきっかけになり、その楽しさを知る入口となる一番身近なターゲットだ。本特集ではそんな「棚を作ること」に徹底フォーカス。棚作りにおける設計の基本から各種テクニック、使用金物からトラブル・失敗例を交え、機能的な棚の作り方を徹底解剖する。dopaだからこそできる、dopaしかできない、収納DIY辞典をご覧あれ!

 

プロに詳しい手順を教わる、収納棚の作り方

今回のdopaの収納特集はいつにも増して超実践的! 特集の冒頭を飾るのは「棚板の留め方 23種」。側板に棚板を留める、壁に棚板を留める、可動棚を作る、組み立て式の棚を作る、の4パートに分けて、さまざまな棚板の留め方を徹底解説。さらには引き出し作りに特化した企画や、収納扉のパターンと金具の組み合わせを紹介するガイドも。これを読めば、自分ぴったりの収納棚が作れること、間違いなし!

 

アイデアフルな収納実例集も必見!

単に物をしまうだけでなく、自身の環境や目的に合わせてデザインや構造にこだわった、アイデアフルな実例が大集合。既製品では絶対にあり得えない、ユニークかつシンデレラフィットなDIY収納棚の実例をドドッと紹介します。

 

第2特集 DIYで手に入れる、理想の物置!

雑多なガーデンツールの収納はもちろん、隣家の目隠しや庭のフォーカルポイントになる物置。そんな物置だから、サイズもデザインも自分好みに作るのが成功の秘訣。本特集では自身の環境に合わせて作られたユニークな物置作品の紹介に加え、DIY系ライターによる丸太と軸組工法で作る物置作りのリポートを掲載。我が家にぴったりの物置を手に入れるのはDIYが正解!

 

バラエティあふれる連載にも注目!

車中泊や旅を楽しむための軽バンカスタム、トリマー&ルーター木工、さらにはレザーソーイングやグリーンウッドワークなど、さまざまなジャンルのもの作りの魅力を個性あふれる作家とともにお届けします。その他、自給自足の田舎暮らしエッセイなど読み物も充実。

なぜ京都は湯豆腐が有名なのか? なぜ京都人はパンが好きなのか? 京都の食文化を農学者が語る~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。「そうだ 京都、行こう。」はコピーライターの太田恵美さんが生み出した、JR東海のCMでおなじみのキャッチコピー。まさに言い得て妙で、春でも秋でも冬でもふとしたときに「ああ、京都行きたいなあ」と思うことがよくあります。

 

清水寺や金閣寺といった歴史名所に加え、にしんそば、おばんざい、京野菜といったほかではなかなか食べられないグルメも魅力。私にとって京都は陸続きの場所というよりは、どこかにぽっかり浮かんだ異世界のようなイメージがあります。仕事に疲れて、ここではないどこかに行きたいとき浮かんでくるのが京都なのです。

 

京都の食文化を多彩な角度から分析

さて、今回紹介する新書は、京都の食文化について、風土、人柄、歴史、経済など多彩な切り口で迫る『京都の食文化-歴史と風土がはぐくんだ「美味しい街」』(佐藤 洋一郎・著/中公新書)

 

著者の佐藤 洋一郎さんは農学者で京都府立大学和食文化学科特任教授・京都和食文化研究センター副センター長。主な研究テーマは、日本人の米食史・稲作史、食の人類史、作物の起源と伝播、農耕と環境の関係史。『米の日本史-稲作伝来、軍事物資から和食文化まで』(中公新書)、『知っておきたい和食の文化』(勉誠出版)など著書も多数です。

和歌山県出身で京都大学を卒業し、現在京都府立大学に勤務する佐藤さん。現地で調査・聞き取りを行う“フィールドワーカー”として外側から京都を見つめる視点はもちろん、京都の住民として行きつけの店の話題がふとこぼれるなど、京都を中から語る臨場感も出ています。

 

膨大な地下水が京都の食を育む

第1章「京の風土」では、京都グルメのひとつ、湯豆腐が取り上げられています。個人的になぜ京都で湯豆腐が有名なのか、大豆の名産地というわけでもないだろうに……と、私はずっと気になっていました。

 

本書によると、京都盆地の地下には琵琶湖の8割ともいわれる量の地下水が蓄えられ、豆腐や酒など良い水が必要な食品が古くから発達したとのこと。また、京都の水はミネラルの含有率が低い軟水で昆布のうまみを引き出しやすいのだとか。

 

ちなみに西陣にある料亭のご主人が硬水のエビアンとお店の井戸水で昆布だしを取り比べる実験をしたところ、エビアンを使って引いただしは色もうまみも非常に弱かったそうです。確かに水によって育まれる京都の日本酒も美味しいですよね。

 

第2章「京都と京都人」では、京都人の特徴から生まれた京都の食文化を分析しています。実は京都市民はパン好きで、2012年から2016年頃までは政令市・県庁所在地のなかでパンの消費量1位だったそうです。京都といえば和食のイメージが強かっただけに、本書で紹介されているデータには私も驚きました。なぜ、京都でパン、特にサンドイッチをはじめとするおかずパンの人気が高いのかというと……。京都で地元に親しまれているパンを食べてみたくなりました。

 

京都で鱧(はも)が重用されている理由は? 京都で和菓子に与えられた使命とは? 京野菜が今の地位を獲得した背景は?

 

一般的なグルメ雑学本とはひと味違い、食文化の奥にある歴史的・地理的背景をひもとく一冊。それぞれの項目は短めで、文章も親しみやすく読み味は軽めですが、随所に「なるほど!」と納得させられる考察がちりばめられています。京都に遊びに行く際は、あらかじめ読んでいくとご飯がもっと美味しくなるはずです!

 

【書籍紹介】

京都の食文化-歴史と風土がはぐくんだ「美味しい街」

著:佐藤洋一郎
発行:中央公論新社

三方を山に囲まれ、水に恵まれた京都。米や酒は上質で、野菜や川魚も豊かだ。それだけではない。長年、都だった京都には、瀬戸内のハモ、日本海のニシンをはじめ、各地から食材が運び込まれ、ちりめん山椒やにしんそば等、奇跡の組み合わせが誕生した。近代以降も、個性あふれるコーヒー文化、ラーメンやパン、イタリアンなど、新たな食文化が生まれている。風土にはぐくまれ、人々が創り守ってきた食文化を探訪する。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

いつも「調子がいい」状態でいたいなら、まずこれ読んで! 『体を動かす習慣 休める習慣』

気がつけばもう年末! 仕事も慌ただしくなり、体調は崩せないと思いつつ頑張っちゃう人が増えてくる時期ではないでしょうか? 忙しい年末を元気に過ごしたいと考えているなら『体を動かす習慣 休める習慣』(鈴木知世・著/ディスカバー・トゥエンティワン・刊)を読むことをおすすめします。

 

この本は、延べ3万人以上の体をみてきた東洋医学研究科である著者の鈴木知世さんが、いつも「調子がいい」状態で過ごせるコツを季節ごと、週ごとにまとめたもの。それぞれの週で取り組むと良いことが書かれてあるので、この本通りに1年を過ごせれば、いつも調子がいい人になれる! 手に取ったその日から元気になれちゃう、そんな本なんです!

 

現代人が行うべき、体を「動かす」ことと「休める」こと

「健康にいいことをしたい」というのは、誰もが願っていることだと思います。質のいい睡眠、健康にいい食事、適度な運動などなどやるべきことはわかっていますよね。でも、いつやるのがいいかは案外わかっていないもの。今すぐできればいいですが、忙しい現代人にはなかなか簡単にできることじゃないと諦めてしまう人も多いのではないでしょうか?

 

『体を動かす習慣 休める習慣』では、季節ごとに変わる体の変化に合わせて、どうやって「動かす」か、そして「休める」かが丁寧に紹介されています。例えば、11月は動かす30%で、休める70%のバランスが良いとのこと。逆に5月は動かすが70%で、休めるが30%と、1年の中でもその割合は変わってくるのです。そもそも「動かす」と「休める」とはどのように定義されているのでしょうか?

 

動かす習慣 運動やストレッチ。さらには体を動かしやすくしたり、仕事や家事など日々の活動を元気にこなすための食事やツボ押し、過ごし方のコツ。

休める習慣 睡眠やリラックス。さらには心を落ち着けたり、体のトラブルを鎮めるための食事やツボ押し、過ごし方のコツ。

(『体を動かす習慣 休める習慣』より引用)

 

「動かす」と聞くと、運動すること。「休める」と聞くと、寝ること。の2択だと思っていましたが、それだけではないんですよね。同じ食事でも、食べるものによって、動かすことにも休めることにもなるとは新しい発見でした。

 

11月は「本格的な寒さに備えて体力を維持する」

では、具体的に「調子がいい」状態でいるために、何をしたら良いのでしょうか? 11月のポイントをご紹介します。

 

『体を動かす習慣 休める習慣』によると、11月は「本格的な寒さに備えて体力を維持する」ときなのだとか。そのため、動かすが30%、休めるが70%のバランスがおすすめ。休めるといってもなかなか休めないよ〜という人は、1日数分だけでも、お腹や腰まわりの冷えをとってあげるとほっとできるかもしれませんよ。

 

冬になると、お腹から腰まで冷えている人をよく見かけます。触るだけでお腹や腰が冷えているのがわかり、しかも11月初旬からこの症状があるのは相当な冷え性といえます。

「奇経帯脈」を温めて、お腹や腰の冷えをとりましょう。奇経帯脈は着物の帯のように、腰腹部をひとまわりする脈系です。温めることで、奇経帯脈を活性化することができます。

(『体を動かす習慣 休める習慣』より引用)

 

座っている時間が多い人も、ここを温めてあげると体が楽になってくるのだとか。冷えの取り方は、ホットタオルをあててあげるだけでOK! 濡らしたタオルを電子レンジ対応した保存袋に入れて温め、乾いたタオルで包むだけの簡単ホットタオルです。これが超きもちい〜! 湯たんぽだと、準備してお湯を沸かして、包んで……とちょっと面倒なのですが(笑)、このホットタオルならサッとできるので、パソコン作業で疲れた時や、目がしょぼしょぼするときによくやっています。5分ほどでほんわか全身があったまって、体が休まるような気がします。デスクワークが続く方も、ホットタオルで心と体が5分ほどでリフレッシュできるので、やってみてほしいです。

 

運動が苦手でも大丈夫。動かすことって意外と簡単!

『体を動かす習慣 休める習慣』には簡単なストレッチや運動も掲載されています。これが、どれも驚くほど簡単なものばかりなんです。本を読むだけだと簡単な動きそうに見えるので「本当に効果あるの?」と思っちゃうほどですが、やってみるとちょっとはぁはぁする程度で心地いい! しっかりツボを押さえた動きができるので、効果的なストレッチを知りたい人にもおすすめです。

 

ネットで調べればいろんな情報が手に入る現代ですが、情報がありすぎて「いつ」「何」をやるのがいいかわからない人も多いと思います。『体を動かす習慣 休める習慣』なら誰もが取り入れられるものを、季節の変化と合わせて紹介してくれているので、いつからでも始めやすく続けやすい。

 

毎日だるい、なんだかやる気が出ない、忙しい毎日で自分をケアする暇なんてない! と思っている人こそ『体を動かす習慣 休める習慣』を読んでみてほしいです。きっと諦めていた「いつも調子がいい人」になれるはず! 少しずつでも「動かす」「休む」のバランスを整えて、慌ただしい年末も元気に乗り越えていきましょう。

 

【書籍情報】

1週間に1つずつ。 いつも調子がいい人の 体を動かす習慣 休める習慣

著者:鈴木知世
発行:ディスカバー・トゥエンティワン

季節・月・週ごとの体にいいことがわかる!延べ3万人以上の体を診てきた東洋医学研究家がおしえる体のパワーの高め方。

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あなたは大丈夫ですか? 我が身を振り返りたくなる壮絶なダメ大人たち図鑑『恥ずかしい人たち』

SNSには、さまざまなものが映し出される。発信する側の見せたいものが、受信する側の見たいものと一致している限りは問題ない。でも、発信する側が自分の価値観を信じすぎてしまうと、本人がまったく気づかないまま、ものすごく恥ずかしいことになってしまうかもしれない。

 

恥ずかしいという概念

真夜中のラブレター現象がモロに出ている人生論。説得力がまったくない、イキった武勇伝。有名テーマパークのホテルで撮影した必要以上にゴージャスな写真20連投。自己満足という行い自体に問題があるとは思わないけれど、自分の価値観の汎用性を当たり前のように信じきってひたすら突っ走ってしまうのは、確実に恥ずかしい。

 

恥ずかしいという概念は本当に人それぞれで、笑いのツボにも似ている。絶対的なスタンダードがないので、他人と自分を比較して、あまりにもかけ離れていて愕然とすることも珍しくない。そのあたりの基準に関する具体的なヒントをもたらしてくれる図鑑的な本を見つけた。

 

羞恥心のスペクトラム

恥ずかしい人たち』(中川淳一郎・著/新潮社・刊)は、思わず神経を疑ってしまう人たちをカタログ化した一冊だ。まえがきで、中川氏自身の過去の恥のインベントリーがつまびらかにされる。

 

42歳、酔っぱらった勢いで義憤から書いてしまったあのツイート。29歳、相手にウケていると思ってやっていた一発屋芸人のギャグのパクリ。25歳、カッコつけてプレゼンで発した英語の発音。21歳、好きな女性に対してアプローチした時の寒々しい演出……。17歳、ジーンズの裾部分をかかとのところでキュッと締め、上にくるくると巻く穿き方。

『恥ずかしい人たち』より引用

 

頭の中で、羞恥心のスペクトラムみたいなものをイメージしてみる。中川氏の個人的体験は、おそらくほとんどの人が思い当たるはずだ。恥ずかしいことについて語る本のまえがきの文章として、きわめてフラットな視点を感じる。恥の感覚の本質を掘り下げていく上で重要となる次のような文章もある。

 

恥の概念というものは、その場にいる人々との関係性において生まれるものである。

『恥ずかしい人たち』より引用

 

イタいコメントや恥ずかしい写真に、どれだけ多くの人間が関わるのかという話になる。

 

ネットで増幅する恥ずかしさ

章立てを見てみよう。

 

第1章 誰がこんな「多様性」を望んだか
第2章 権力と胡散臭さは紙一重
第3章 つくづくメディアはマゾ気質
第4章 「IT社長」ってあまりに古すぎないか
第5章 だから貧乏国へまっしぐら!
第6章 ネットで文句つけ続ける人生って
第7章 IT小作農からの8つの提案

 

中川氏は2006年にネットニュースの編集者となり、2020年8月までウェブメディア・広告業界に身を置いていた人だ。週刊新潮の連載コラムをまとめた本書を作った最大の意図は、「もうちょっと人間世界から距離を置けば?」と伝えたい気持であるという。この言葉の背景には、ネットにのめり込んでしまうとどうしても恥ずかしい人を目にしてしまうという事実と、自分自身も恥ずかしい人になってしまう可能性がある。「恥ずかしい人が多いな」なんて上から目線で思っている筆者も、いつダークサイドに落ちてもおかしくはないのだ。

 

恥ずかしい人の見本市

著者が「恥ずかしい人の見本市」と形容するように、本書ではバラエティー豊かな恥ずかしさが次から次へと繰り出される。第1章の「他人の外見にいちいち文句を言う人」は、近頃問題になっているルッキズムに直結するもので、ひときわ刺さった。上司に指摘され、ヒゲを剃ることになった宅配便の男性とのやりとりをマクラに文章が進む。

 

ドレスコードの重要性は認めるものの、正直、きちんと仕事さえしてくれれば、背広は着ないでもかまいませんし、ヒゲだってあっていいと思うのです。どうもこの世の中は「この立場だったらこの格好でなくてはいけない」といった不文律があるようで、実に気持ち悪い。

『恥ずかしい人たち』より引用

 

こういう論旨をポジティブな感覚で受け入れられる人なら、この本はエンタテインメントとして十分に成立するはずだ。

 

楽しみながら深く考えてみる

これも気に入った。猛暑傾向が強くなったここ数年間の夏、いつでもどこでも見て、聞こえてくるあのセリフ。

 

この「水分補給を」と呼びかける人々ってのは、よっぽど人間をバカ扱いしているのかな、なんて思ってしまいます。「喉が渇いた」という状況になれば、そりゃ、誰からも指導されなくても水くらい飲むでしょうよ。

『恥ずかしい人たち』より引用

 

熱中症を防ぐためには、喉が渇いてからでは遅すぎる。そういう気持ちで言ってくださっているだろうことはわかっている。でもその程度の知識なら、ごく普通の日常生活を送っていれば自然に身に着く。知らないかもしれない人たち向けの注意喚起なの? もしそうなら、「より知らない人たち」に寄せてすべてを進めていくっていうこと?

 

自分と他人を比較する上でも、時代の変遷と重ねてみる上でも、恥という感覚の概念を根本から、楽しみながら深く考えていくのに最適な一冊だ。

 

【書籍紹介】

恥ずかしい人たち

著者:中川淳一郎
発行:新潮社

今日もまた「恥ずかしい人」が増殖中。態度がエラそう過ぎるオッサン、成功者なのに不満ばかりのコメンテーター、言い訳する能力も欠けた政治家、勝手な“義憤”に駆られた「リベラル」と「保守」。その醜態はネットで拡散され、一般市民は日々呆れ、タメ息をつく。それでも反省しない、恥ずかしさに気づけない者どもをどう考えればいいか。時に実名を挙げ、時に自らを省みながら綴った「壮絶にダメな大人」図鑑。

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秋の夜長にピッタリ! 「LINEマンガ」おすすめ長編マンガ7選

10月27日~11月9日は、読書を推進する行事が集中して行われる「読書週間」です。今回はそれにちなみ、「LINEマンガ」で100話以上続く長編マンガから、秋の夜長にぴったりの、オリジナル作品7作を紹介します。

 

外見至上主義

全404話(10月7日時点。連載中)。転校をきっかけに「イケメンの体」を手に入れた、いじめられっ子の主人公。イケメンな自分とブサイクな自分の奇妙な二重生活という、2つの視点から見えた人々や社会を通じて、様々なことを学んでいきます。11月4日Netflixシリーズにてアニメ配信開始。

 

文学処女 -遅咲きの恋のはなし-

全130話(完結済)。恋を知らない女と恋ができない男の、歪な関係から生まれる、遅咲きの恋の話。2018年に実写ドラマ化された、オリジナル作品です。

 

花びらとナイフ

全113話(完結済)。クラスでも目立たない、気弱ないじめられっ子の男子高校生が、クラスメイトに告白されたことで幸せな日々へ。2人でいるところをいじめっ子たちに見つかり、彼女に嫌われると思っていたとき、彼女が取った意外な行動とは? 9月に完結したばかりの、愛と血の純愛バイオレンスです。

 

マリーミー!

全107話(完結済)。「ニート保護法」の試験実施者として選ばれた国家公務員と、その「結婚相手」として選ばれたニートの、結婚の行方を描いた、ピュアな気持ちが溢れ出すフルカラーラブストーリー。2020年実写ドラマ化。

 

赤い瞳の廃皇子

全100話(10月7日時点。連載中)。悲しい過去を持つ「妖婦」と「恐ろしい廃皇子」が出会い、困難を乗り越えながら心を触れ合わせていく、現在も連載中のオリジナル作品。国内閲覧回数4300万回超え(2022年9月時点)のヒット作です。

 

先輩はおとこのこ

全100話(完結済)。女の子だと思って告白した先輩が「男の娘」だったことから始まるラブストーリー。2022年3月に開催された「AnimeJapan 2022」の「第5回アニメ化してほしいマンガランキング」にて、第1位を獲得しています。

 

チュートリアル塔の廃人

全124話(10月7日時点。連載中)。12年間チュートリアルに取り残されていた主人公の、「俺TUEEE系」気分爽快ぶっ飛びウェブトゥーン。LINEマンガ2022上半期ランキング(男性編)7位にランクインした、現在連載中の注目作品です。

「ゆるく」「うすく」つながり、居場所をいくつか持つ−−『人間関係を半分降りる』

学校に行かない、家族を作らない、会社に所属しない、という生きかたを選ぶ人が増えています。しかし集団に属さない場合、自分の居場所を見つけることができず孤独を感じがちです。居場所の大切さについて考えてみました。

 

学校以外の居場所がない

筆者の子どもは中学生の時に不登校になりました。学校に行こうとすると体調が悪くなり、行くことができないのです。1日のほぼすべてが自由時間となった彼ですが、すぐに困難に直面しました。平日の昼間に行くところがないのです。

 

最初のうちは図書館を利用していましたが、そこの机で勉強はできても、誰かとコミュニケーションできるわけではありません。家族以外との会話がない毎日は、かなり退屈そうでした。

 

そこで塾に通い始めたのですが、塾の先生が「自習室は午後1時から開いているからいらっしゃい」と声をかけてくださいました。自習室の休憩時間の会話で友人も増え、どうにか居場所を見出すことができたのです。もし塾がなかったら、かなり心細子寂しい思いをしたことでしょう。

 

負担が少ない人間関係を

鶴見済さんが書かれた『人間関係を半分降りる』(筑摩書房・刊)では、現代社会でどのように人と関わりを持って過ごしていくべきかということを、友人・家族・恋人などの関係ごとに、かなり具体的に言及されています。

 

この本は人間関係を減らすことについて推奨している内容ですが、減らすにあたって重要視されるのは、関わる人数よりは、関わる深さや関わる時間、そして関わることによって生まれる労力なのだと感じます。自分の負担にならない程度に社会とつながっていくことで、日々の暮らしはより快適になりそうです。

 

新たな居場所の必要性

鶴見さんは「戦後昭和の時代、人が家庭、会社、学校の三領域に閉じ込められていた」が、「90年代あたりから(中略)、三つの領域から人が降り始めた」と書いています。確かに2020年代の現代では、生涯未婚率が上昇し、フリーランスの割合も増え、不登校も過去最多となっています。

 

本ではこの三領域以外の居場所が作られてこなかったことを問題視しています。今までのごく一般的な日本人の生きかたから外れた途端、居場所が見当たらずに困ってしまう現象が起きているのです。著者の鶴見さんはこれを危惧し、自らも居場所を主宰するようになりました。

 

つながりを探す時代

確かに近年になってシェアハウスやコワーキングスペースやボードゲームカフェなどで見知らぬ人と生活や仕事や遊びを共有したり、オンラインサロンやオープンチャットなどで会ったことがない人と語り合ったりと、今まででは考えられなかったような新たな関わりが生まれています。

 

それは、今までの画一的な生きかたを選ばない人が増えていて、何らかの居場所をリアルや非リアルで探しているからだとしたら腑に落ちます。こうした新たな場では交流会も頻繁に行われていて、人と人とのつながりも生まれやすいからです。

 

居場所をふたつ持つこと

本では会社や学校や家庭以外のゆるい居場所をふたつ作ることを推奨されていました。居場所がひとつだけだとそこに頼りすぎてしまうため、ふたつがいいのだとか。居場所とは「人とのつながりがある場」のことで「他の客と話せるいきつけの居酒屋でもいいし、よく参加する読書会」でもよく、大切なのは「ありのままの自分でいられる」ことだと説かれています。

 

ひとりが気楽であっても、時には誰かと交わりを持ちたいものです。気分によって自室と居場所とを上手に使い分ける生きかたが今後広まっていきそうです。その集まりから偶然何かの商品やサービスが生まれることも増えるかもしれません。実際、人々が集まりアイデアを出し合うアイデアソンという試みも広まりつつあります。居場所という試みの発展に今後も注目したいところです。

 

【書籍紹介】

人間関係を半分降りる

著者:鶴見済
発行:筑摩書房

人間は醜い。だから少し離れてつながろう!友人、家族、恋人。大ベストセラー『完全自殺マニュアル』の著者が、悲痛な体験から生きづらさの最終的な解決法=優しい人間関係の作り方を伝授する。

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「九州のへそ」で老舗酒蔵が復活した切り札は刀とゲームだった!? 山奥の一流ビジネス7事例~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。打ち合わせや取材をオンラインでやることが普通になってきて、もともとインドア派の私にとっては天国だなあと実感しています(笑)。せっかく準備した資料を忘れることがない! グーグルマップで見ているのに目的のビルにたどり着かず迷子なんてこともない! 慣れない環境であたふたする場面も減りました。

 

これまでは住むとしたら交通の便がいいところ、というのが必須の条件でしたが、徐々にそうした制約もなくなりつつあるかもしれません。緑に囲まれている、海が近い、歴史的な街並みがある……など、交通網の“立地”よりもそこに住んでいる人の心を“リッチ”にしてくれる場所が重要になってきそうです。

経営エッセイストが分析する“山奥ビジネス”

 

さて、今回紹介する新書は『山奥ビジネス 一流の田舎を創造する』(藻谷 ゆかり・著/新潮新書)です。著者の藻谷 ゆかりさんは、東京大学経済学部卒、ハーバードビジネススクールでMBA取得。会社員、インド紅茶の輸入・ネット通販会社の起業を経て現在は経営エッセイストとして活躍しています。著書に『衰退産業でも稼げます』(新潮社)、『六方よし経営』(日経BP)などがあります。

 

人気ゲームと地元の縁を結びつけて成功

7つの自治体のケースから“山奥ビジネス”の可能性に光を当てる本書。「はじめに」では、本書のキーコンセプトのひとつとして「ハイバリュー・ローインパクト」が挙げられています。価値が高い財・サービスを生み出しながら(ハイバリュー)、環境やその土地の文化に悪影響を与えない(ローインパクト)という意味の言葉で、持続可能なビジネスを行うための指針だそう。取り上げられているビジネスは、いずれもこの「ハイバリュー・ローインパクト」を体現しています。

 

第1章は「熊本県山都町」。熊本市内から車で1時間ほど、九州のほぼ真ん中に位置する「九州のへそ」です。この章の主役は、250年以上の歴史を誇る老舗「通潤酒造」。現在12代目の山下泰雄さんはバブル期にエリート銀行員として猛烈に働いていましたが、廃業を言い出した祖父と口論になり、祖父が脳卒中を起こして亡くなったのを機にUターンを決意したそうです。

 

月々の資金繰りにも苦労していた酒蔵が好転したきっかけは、なんと人気ゲーム「刀剣乱舞」。ネット通販を軌道に乗せようと苦心するなか、2015年、地元・山都町にゆかりのある名刀「蛍丸」が「刀剣乱舞」に登場していることを知り、「純米吟醸酒 蛍丸」を発売。すると最初の300本は数秒で売り切れ! その後も年間1万本以上が売れるヒット商品となりました。

 

しかし、2016年に熊本地震で被災し……。一難去ってまた一難。それでもくじけないエピソードの連続に熱い魂を感じました。

 

第4章「島根県太田市大森町」のケースも波乱万丈でドラマチックでした。2007年に世界遺産に登録された日本最大の銀山・石見銀山がある太田市。この太田市大森町でアパレルを中心としたブランド「群言堂」を創業したのが、松場大吉さんと妻でデザイナーを務める松場登美さん。およそ40年前、引っ越してきた町を「まるで廃墟のようだった」と感じた登美さんが歩んだサクセスストーリーとは?「群言堂」で働くスタッフや家族が移住し、太田市の転入数と出生数が増えているというデータにも驚きました。

 

国際的なアートフェスティバルで町おこしを続ける元着物産業の町、「写真の町」プロジェクトを打ち出し人口増を達成している北海道の小さな町……。7つの章は、それぞれビジネスにも焦点が当たっていますが、主役となっているのは人間。

 

いくら優れたアイデアがあったとしてもそれを実行し、多くの人に協力してもらうには情熱と継続が必要ということが伝わってきます。2002年に家族5人で首都圏から長野に移住したという著者・藻谷さんならではの視点も入っていて、ビジネスドラマ的ノンフィクションとしても、ビジネス本としても読み応えがありました。

 

【書籍紹介】

山奥ビジネス 一流の田舎を創造する

著: 藻谷ゆかり
発行:新潮社

人口減? 地方消滅? 悲観する必要はない。日本には「山奥」という豊かなフロンティアがある。「なにもない田舎」も、地域資源を再発見し、角度を変えて眺めれば、宝の山に変わるのだ。ハイバリュー&ローインパクト(高付加価値で環境負荷が低い)なビジネスを山奥で営む事例や、明快なコンセプトで若い世代やユニークな事業を呼び込んでいる自治体事例を紹介し、「一流の田舎」を創るストラテジーを提示する。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

最近“だんまり”していますか? じっくり考えること、ことばの重みを実感できる講演録『だんまり、つぶやき、語らい』

わ〜かわいい表紙! と思って手に取った『だんまり、つぶやき、語らい』(鷲田清一・著/講談社・刊)ですが、本屋さんで時間を忘れて読み耽ってしまい「買おう」とレジに向かった1冊でした。

 

この本は、哲学者の鷲田清一さんが2020年10月に愛知県の高校生に向けて講演された内容がそのまま1冊の本になったものです。鷲田さんのやさしい言葉が心に沁みて、高校生だけでなく大人にも読んでもらいたい内容が綴られていました。

 

読み返すたびに「気になる」フレーズが変わる本

『だんまり、つぶやき、語らい』は、高校生に向けた講演の内容を再編集したもの。そのため、難しい言葉は出てこず、1時間もあれば読めてしまうほどのボリュームです。しかし、一言一言が濃い! 言葉のエスプレッソかな? と思うくらいガツン! とくる言葉たちが並んでいます。

 

大きく分けると、3分の2ページくらいが講演の内容で、残り3分の1が高校生からの質問に鷲田さんが回答する対話ページで構成されています。講演のテーマは、本のタイトル通り、だんまり・つぶやき・語らうことについて。一見すると「なんのこと?」と思いますが、読み進めていくことでその意味がわかり、パズルのように答えが導かれていく……そんな本でした。

 

『だんまり、つぶやき、語らい』は濃い言葉がいっぱいあるのですが、繰り返し読むことでどんどん自分の一部になるような感覚が味わえます。最初に読んだときには、だんまり、つぶやき、語らいの意味も理解しないままだったので全てが新鮮! 2度目は全体像を理解した上で読めるので新しい気づきが出てくる。3回目以降は、自分自身の行動を振り返りながら読める余裕が生まれるので、周りの人を思い付かべながら読めるんです。私も気がついたら5回ほど読んでいましたが、読むたびに好きだなぁ〜と思うフレーズが変わっていくので、定期的に読みたくなる本コーナーに置きました(笑)。

 

いま必要なのは「話しあい」より「黙りあい」

現代には、話し方の本や聞き方の本など、コミュニケーションに関する書籍がたくさん出ています。大きく分類したら『だんまり、つぶやき、語らい』もその部類に入りますが、書かれてあることはちょっと違っています。

 

一般的な話し方の本では、「間」をあけないように! とか「すぐ」返事をしよう! と相手を待たせないことが良しとされていますが、鷲田さんは、寺山修司さんの『歴史の上のサーカス』にある言葉を引用した後、以下のように伝えています。

 

いま必要なのは「話しあい」じゃなしに、「黙りあい」ではないか。おそらくいまのたとえばスマホとかSNSなんかでいえば、なにかこう、ことばをいったん呑みこむということがすごく少なくなって、ことばがじぶんに向けられるとそれに反射的にメッセージを返してしまう。

いったん呑み込んで、うーん、と口ごもってしまって、「だんまり」を決めこんで、じぶんなりにそのことばと折りあいをつけようとする、そんなプロセスを経てことばを返すということがない。この「だんまり」、ことばを呑みこむ部分がものすごく浅くなっているんじゃないか……。

(『だんまり、つぶやき、語らい』より引用)

 

自分の行動を振り返ってみても「だんまり」することってほとんどなかったんです。仕事柄、取材することも多いのですが、45分とか決められた時間でどれだけ言葉を引き出すか? そんなことに気を取られて、反射的に言葉を返してしまっていたなぁと反省しました。

 

ず〜っと「だんまり」するのはちょっと怪しい人ですが(笑)、心の中で決めつけてしまったり、「〇〇でしょ?」と話を先に進めてしまったり、言葉を交わすことばかりを考えていたような気がします。言葉を発することだけがコミュニケーションではないはず。たまには、言葉を呑みこんで「だんまり」してみたいと思います。

 

読書は「時空を超えた語らい」

誰かと常に会話しているのなら「だんまり」チャンスも巡ってくるかもしれませんが、なかなかそうもいかないですよね。『だんまり、つぶやき、語らい』でも、高校生からコロナ禍で人との接触ができにくい中でどうしたらいいの? なんて質問が出てきました。鷲田さんは、外に出られないなら、室内でできる読書で解決できるよ、と答えていました。

 

本のすごいところは、会ったこともない、世代もちがうし、生きている時代もちがう人と一対一で向き合える点。「時空を超えた語らい」の場です。ふだんいろんなおつきあいがむずかしくなっても別の出会いのチャンスが得られたと考えられたらいいんじゃないかな。実際の対話と、読書における対話は、そんなに区別しないほうがいいと思いますよ。

(『だんまり、つぶやき、語らい』より引用)

 

「時空を超えた語らい」ってなんて素敵な言葉なんだ! そう思うと、本を読むたのしさ、選ぶ方法も変わってきますよね。

 

友人、家族、仕事の同僚や上司・部下、いろんな人たちと言葉を交わしている今、本当に心地よい「語らい」とはどんなものなのか、たまには立ち止まって考えてみるのも良いかもしれません。

 

個人で情報発信することが当たり前になった今、自分を表現することに困っている人もたくさんいると思います。ちょっとでも悩んでいたら、『だんまり、つぶやき、語らい』で鷲田さんと語らいをしてみましょう。自分にとって気になる言葉は、あなただけのもの! 何度も読んでみることで、自分なりの答えが見つけられるはずですよ。

 

【書籍情報】

だんまり、つぶやき、語らい

著者:鷲田清一
発行:講談社

二〇二〇年十月十五日、コロナ禍のなか愛知県立一宮高校の生徒に向けておこなわれた講演の記録。碩学のあたたかい語りかけと生徒たちの真摯な応答に、読者もぜひ参加していただきたい。

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「結婚」てなんですか? その在り方を問う『愛という名の切り札』

結婚しない若者が増えているという。私の周囲にも、恋人同士でありながら、結婚しないでそれぞれの実家で暮らすカップルが多い。「どうして結婚しないの?」と、尋ねると、「どうしてって、ずっと好きでいる自信がないし、実家にいるほうが楽だし、結婚て損だし」という答えが返ってくる。まあ、そう言われればそうかもしれないが、昭和に生まれ、育ち、結婚し、子どもを産んだ私からすると、結婚というものがまったく異なるものになっていると思い知らされる。

 

結婚を営む二組の夫婦

愛という名の切り札』(谷川直子・著/朝日新聞出版・刊)は、異なる世代の夫婦を描くことによって、結婚の変化を描き出した小説だ。著者の谷川直子は、2012年に『おしかくさま』で文藝賞を受賞してから、次々と興味深い作品を発表してきた。この『愛という名の切り札』は7作目にあたるが、「結婚」をテーマとするのは、彼女にとって初めてのことで、生みの苦しみを感じながらの執筆だったのではないだろうか。結婚しない若者が増えているとはいえ、それでもやはり結婚している男女は多い。彼らは自分の結婚について、語り出したら止まらないウンチクをその身に隠しもっている。いわば膨大な数の「結婚評論家」たちを相手に切り込んでいくことになるのだから、勇気のいる挑戦であったことだろう。

 

しかし、谷川直子はやり遂げた。結婚という平凡なような、摩訶不思議なような、難しい題材を生き生きと描ききった。物語の中で、著者は二組の夫婦を登場させている。主人公である影山梓と影山一輝夫妻。そして、飯田百合子と飯田秀人夫妻だ。

 

この二組の夫婦は、世代も、職業も、置かれている立場も、愛に対する思いも、まったく異なる。当然、結婚生活も「これが同じ結婚という営みか」と、驚くほどそれぞれだ。そんな夫妻に、飯田家の一人娘や、百合子の姪など、若い世代も加わり、錯綜し、反発し、前進していく。当然のことながら、物語はこじれ、もつれ、不安感に満ちたものとなる。

 

時には「ちょっと大丈夫なの?」と、叫びたくなるほど、うねりながら物語は進んでいく。突如として起こる離婚話、弁護士を介しての調停、やめようと思ってもやめられないストーカーじみた行動などが、読者をさいなむかのように起こる。物語の途中、「結婚とは何か」についての問いかけが何度も繰り返されるが、その答えが出るのだか、出ないのだか、最後までわからない。それだけに、読者はいらだち、引きづられ、自分の結婚観ともあいまって、ごちゃごちゃな気分になる。そして迎える意外なエンディング……。

 

特殊な能力を持つ主人公

『愛という名の切り札』は小説であるが、実際に経験した者でなければわからないようなエピソードが盛り込まれている。実話だと確信する部分もある。だからこそ、心をむしられるような思いを登場人物達と共有することになるのだ。「私にもそういうときあったな」と、うなずくような、ぐちゃぐちゃな共感、これがこの物語の核となる。

 

もっとも、物語の主役となる影山夫婦は、どこにでもいる夫婦とはいえない。少なくとも私とは縁がない人種である。一輝は新進気鋭の作曲家であり、梓は特殊な耳を持つとされる音楽評論家だ。二人はどこにでもある職業でもなければ、どこにでもいるカップルでもない。それでいながら、結婚生活で起こることは、似たり寄ったりだ。

 

二人が出会ったとき、一輝は東京藝大を出て、世に打って出たばかりの作曲家だった。32歳になる彼は、「コンクリートの海」という交響曲を作曲し、新人としてコンサートにのぞんだばかり。一方、梓はまだ大学生で、たまたま出かけたコンサートでその曲を聞き、心をわしづかみにされる。彼女は、3年もの間、ただただその曲を思い続け、一輝を慕い続ける。そして、とうとう彼にインタビューすることに成功する。学生の頃から、音楽雑誌でアルバイトをしていたので、編集長に頼み込んでのおしかけ取材が可能となったのだ。

 

梓にしてみると、待ちに待った恋の始まりだったが、一輝にとっては、驚きの出会いとなった。「コンクリートの海」はCDにもなっておらず、たった一度の演奏だったからだ。それは、梓が持つ特殊な才能ゆえだった。彼女には、気に入った音楽なら一度聴いたら忘れない能力があった。当然、「コンクリートの海」も、耳に刻み込まれていた。

 

それだけではない。彼女にはもうひとつ、秀でた力があった。それは好きな音楽を文章として表現できることだ。「コンクリートの海」も、彼女にかかると、「朝が生まれるのよ。世の果てでね」から始まり、「すべての音がやがて夜明けに集約していくの」で、結ばれるまで、流れるような文章で表現される。この能力があったからこそ、梓は夫に愛され、信頼され、やがて、疎まれるようになる。二人の関係が変化していく様は、悲しくて心がさいなまれる。

 

『愛という名の切り札』は、既に結婚している人も、これから結婚しようと思っている人も、離婚しようかと迷っている人にも、読んでいただきたい小説である。結婚に破れた人には、重い内容が心の傷にしみて痛いかもしれない。しかし、その痛みこそが結婚の真実の姿なのかもしれない。結婚から学ぶことはあまりにも多い。多すぎて、疲れる。これが結婚して42年が経つ私の実感である。

 

【書籍紹介】

愛という名の切り札

著者:谷川直子
発行:朝日新聞出版

それがあたりまえだと結婚した主婦の百合子。心変わりを理由に離婚を迫られるライターの梓。結婚にメリットなしと非婚を選ぶ娘の香奈。制度にとらわれず事実婚で愛を貫く若い理比人。結婚、離婚、非婚、事実婚を問いかける本格小説。

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名だたる作家たちが偏愛するスイーツは何か?−−『おいしいアンソロジー おやつ』

甘いもののことを考えると幸せになる。デパ地下では、ズラリと並ぶスイーツたちを見てあれも買いたい、これも食べてみたいと迷いに迷うし、旅に出たらその土地の名物の甘味はぜったいに味わいたいと常に思う。

 

おいしいアンソロジー おやつ』(阿川佐和子 他・著/大和書房・刊)は日本を代表する43人の作家たちが好きなおやつ、思い出に残る甘味を綴った一冊。さて、どんなおやつが飛び出すか、さっそくページを開いてみよう。

 

村上春樹とドーナッツ

村上春樹氏は、アメリカ、ボストン郊外にあるタフツ大学にライター・イン・レジデンスとして在籍していたとき、大学に行く前によくドーナッツを買ったそうだ。

 

途中の道筋にあるサマーヴィルのダンキン・ドーナッツの駐車場に車を停め、「ホームカット」をふたつ買い求め、持参した小さな魔法瓶に熱いコーヒーを詰めてもらい、その紙袋を持って自分のオフィスに行った。

(『おいしいアンソロジー おやつ』から引用)

 

おなかが減っているときは、車の中でドーナッツをかじることもあったため、村上氏の愛車の床には、ドーナッツのかけらがいつもこぼれていたという。エッセイの中には、ドーナッツの穴はいつ誰が発明したのか? という話も盛り込まれていてとてもおもしろい。

 

揚げたてのドーナッツって、色といい匂いといい、かりっとした歯ごたえといい、何かしら人を励ます善意に満ちていますよね。どんどん食べて元気になりましょう。ダイエットなんて、そんなの明日からやればいいじゃないですか。

(『おいしいアンソロジー おやつ』から引用)

 

ああ、読んでいるだけでドーナッツが無性に食べたくなってきた!

 

向田邦子が食べていたおやつとは?

向田邦子さんが子ども時代だった昭和10年ごろの中流家庭のおやつを羅列すると、動物ビスケット、英字ビスケット、クリームサンド、カステラ、鈴カステラ、ミルクキャラメル、クリームキャラメル、新高キャラメル、グリコ、ドロップ、茶玉、梅干飴、きなこ飴、かつぶし飴、黒飴、さらし飴、変り玉、ゼリビンズ、金平糖、塩せんべい、砂糖せんべい、おこし、チソパン、木の葉パン、芋せんべい、氷砂糖、落雁、切り餡、味噌パン、玉子パン、棒チョコ、板チョコ、かりんとう……と、こんなところだったそうだ。

 

思い出の中のお八つは、形も色も、そして大きさも匂いもハッキリとしている。英字ビスケットにかかっていた桃色やうす紫色の分厚い砂糖の具合や、袋の底に残った、さまざまな色のドロップのかけらの、半分もどったような砂糖の粉を掌に集めて、なめ取った感覚は、不意に記憶の底によみがえって、どこの何ちゃんか忘れてしまったけれど一緒にいた友達や、足をブラブラゆすりながら食べた陽当りのいい縁側の眺めもうすぼんやりと浮かんでくるのである。

(『おいしいアンソロジー おやつ』から引用)

 

この他、子ども達を火鉢のまわりに集め、父親がカルメ焼きをつくってくれた思い出なども綴られていて、昭和のほのぼのとしたホームドラマを観ているような気分になれるエッセイだ。

 

江國香織が静岡まで買いに行った”追分ようかん”

静岡出身の私にとって、ようかんは”竹の皮に包まれた平たい甘味”だった。が、それが静岡独特のものであり、よそのようかんは違っていたと知ったのは東京に出てきてからのこと。

 

本書には「静岡まで、ようかんを」というタイトルで江國香織さんがこのようかんが大好物だと綴っていて嬉しくなってしまった。

 

追分ようかんは竹の皮に包まれた平べったい蒸しようかんで、私の大好物だけれど静岡に行かなくては買えない。(中略)なにしろ追分ようかんは特別なのだ。えもいわれぬ風味があり、噛んだときのくちっとした歯ごたえは、一口ごとにため息をついてしまうおいしさだ。

(『おいしいアンソロジー おやつ』から引用)

 

似たようなようかんはあっても、江國さんによれば本物の追分ようかんは別格だという。エッセイには彼女が中学3年生のとき、家族に内緒で、学校を休み、ひとりで新幹線に乗って静岡までようかんを買いに行ったエピソードも綴られていて、おやつに対しての偏愛ぶりがひしひしと伝わってくるのだ。

 

開高健が驚愕したベルギーのショコラ

ベルギーはショコラ(チョコレート)の国だ。名だたるブランドもあり、かの地のショコラがおいしいことは今や誰もが知っている。が、開高健氏は、その中でも絶品のショコラに出会い、そのおいしさに言葉を失った経験を綴っている。場所は、ブリュッセルのはずれの森の中にあるレストラン『ラ・ロレーヌ』。その旅で同行した安岡章太郎氏と共に、辛口白ワインのプイィ・フュイッセをすすりながら、カキのシャンパン蒸煮、フォア・グラのトリュフ添えなどを味わい、そしてデザートとなった。

 

《ダーム・ブランシュ》(白い貴婦人)といってアイスクリームに熱いときたてのチョコレートをかけたのがでた。それをスプーンでなにげなく一口しゃくってみて、ほとんど”驚愕”と書きたくなるショックをおぼえた。思わず「……?……」(中略)ほんとのチョコレートは子供の菓子ではないんだ。それは成熟した年齢の、厚い胸をした、辛酸をくぐりぬけてきた大の男のためのものなんだ。お菓子というより最高の料理の一つなんだ。

(『おいしいアンソロジー おやつ』から引用)

 

開高氏は、その店のショコラを知ってから、なぜ19世紀のフランス文学などにしばしばショコラが登場して大事にされているかがわかった気がしたそうだ。美食家の開高健氏が驚愕し言葉を失ったショコラを、いつかブリュッセルまで絶対に食べに行きたい! そう思っている。

 

この他にも、プリン、シュークリーム、白玉、おはぎ、メロンパン…などなど、甘くておいしい話がいっぱい。”美味なエッセイの詰め合わせ”をあなたもお試しあれ。

 

【書籍紹介】

おいしいアンソロジー おやつ

著者:阿川佐和子 他
発行:大和書房

美味なエッセイ、詰め合わせ。どうしても止められない、ちょっと値の張るチョコレートへの衝動、遠出してでも買いたいようかん、徴兵中の兄が夢中で食べたおはぎ、鍋に浮かぶつるりとした白玉、照れつつお店で頬ばるクリームドーナツ…。読んでいて思わず顔がほころぶ、そして無性に食べたくなる、おやつについての43篇のアンソロジー。古今東西の作家たちが、それぞれの偏愛をつづりました。

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すべて生きた虫を撮影する! 最高の昆虫図鑑が完成するまでのマル秘舞台裏……~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。私は子どもの頃に図書室で図鑑を読むのが好きでした。昆虫図鑑、鳥類図鑑、海の生き物図鑑……きっと大人になったらここに載っているいろいろな生き物と出会えるんだろうなとワクワクしていたのですが、結局大人になってもそれほど自然と戯れるようなことはなく……(笑)。でも、図鑑は子どもにとって最初の大冒険。「自分の想像以上に世界は広い!」と感じさせてくれる貴重な存在です。

 

昆虫博士が理想の図鑑を作ったら?

さて、今回紹介する新書は、今年6月に刊行された『学研の図鑑 LIVE 昆虫 新版』の制作秘話をつづった昆虫学者、奇跡の図鑑を作る』(丸山 宗利・著/幻冬舎新書)

 

著者の丸山 宗利さんは、昆虫学者で九州大学総合研究博物館准教授。専門分野はアリと共生する昆虫の多様性解明で、アジアにおける第一人者です。ベストセラー『昆虫はすごい』(光文社新書)など、昆虫に関する著書も多数あります。

生きた虫の美しさを子どもたちに見せたい!

幼いころから昆虫が好きだったという丸山さん。都会に住んでいたため図鑑を読んでは憧れの昆虫に思いを巡らせていたそうで、「昆虫少年」よりは「図鑑少年」だったとか。

 

第1章「一切妥協なしの図鑑を作ろう」では、『学研の図鑑 LIVE 昆虫 新版』の監修を依頼された丸山さんの想いが語られます。一般的な昆虫図鑑は虫の絵や標本を掲載しています。でも、絵は特徴をつかんではいても実物と同じ印象にはならず、標本だと色が変わってしまうことも……。

 

確かに本書にも「ウンモンテントウ」という虫の標本と実物の比較写真が載っていますが、色味がまったく異なり、生きた個体は赤と白い輪に囲まれた黒の斑点が宝石のように鮮やか!

 

子どもたちにその美しさを伝えたいと生きたままの虫の写真を使うことを決意した丸山さん。しかし、制作期間は1年で、2000種類以上の昆虫を生きたまま撮影するには人手が必要。ツテとTwitterを駆使して、昆虫の写真が上手い人に声をかけたそうです。

 

このときの心境を、映画『七人の侍』で島田勘兵衛が困難を承知しつつ浪人たちを仲間に引き入れようとする時のそれに似ていた、と丸山さん。幸い、学研の図鑑に思い入れがある昆虫好きが多く、最終的には30人を超える撮影隊が組織されたそうです。

 

虫を捕まえ、撮影する。そこには数々の苦労と工夫がありました。このあたりのエピソードはまるで『プロジェクトX』のように引き込まれます。榊(さかき)の葉によくつく3ミリほどの微小な蛾「サカキツヤコガ」は、正月に10か所ほど神社巡りをして幼虫を見つけ羽化させて撮影。スズメバチなど他の昆虫に寄生し、羽化して数時間で死んでしまうオスの「ネジレバネ」を撮影しようと寄生されている虫を必死に探す……。昆虫の生態を活かした撮影エピソードも多く、苦労話とともに昆虫の知識も学べます。

 

図鑑のページ数は決まっているため、新たな写真を次々と送ってくる撮影隊に対して、丸山さんがキレ気味になるといった図鑑制作の裏話も披露されています。

 

熱量があって、昆虫好きが集まって“最高の図鑑”を作ろうと奮闘する様子がありありと伝わってくるノンフィクションルポのような読み味。実際に図鑑で使用された写真がカラーで掲載されていて見応えもたっぷりです。図鑑が大好きだった子どものころを思い出して、久々に学研の図鑑を開いてみようと思いました。

 

【書籍紹介】

昆虫学者、奇跡の図鑑を作る

著:丸山 宗利
発行:幻冬舎

「図鑑御三家」の一角をなす有名昆虫図鑑の監修を任され、著者は理想に燃えた。「子供たちのために死んだ虫(標本)ではなく生きたままの虫を撮って載せたい!」そんな学習図鑑は前代未聞だ。目標2千種、期限は1年、撮影はプロではなく全国の昆虫愛好家ー最高難度のプロジェクトが始まった。相次ぐ問題、積み重なる疲労、ピリつく人間関係…、だがついに日本全国7千種の生体を撮影、学習図鑑史上最多となる2800種掲載の奇跡の図鑑ができてしまった。これは無謀な挑戦に命を燃やした虫好きたちの、全記録だ。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

何千万という大金をホストに使う女のコたちの心の闇はどこにある!?『ホス狂い』著者に直撃取材!

ホストに狂い、巨額のお金を貢いでしまう女性を追ったノンフィクション『ホス狂い』(鉄人社)を上肢した作家・大泉りか氏。本書には、5000万円以上の売り掛け(お店への借金)を抱える女、デリヘル、ソープ、パパ活で稼いだ金をホストに注ぎ込んでエースと呼ばれる地位にいる女性などが登場する。今回は、著者の大泉りか氏に、ホストクラブのシステムから、ハマってしまった女性の心の闇までを語ってもらった。

 

(撮影・校正:丸山剛史/執筆:松本祐貴)

 

現在のホストクラブは飲み屋ではなく課金の場

ーーまず、ホストクラブを知らない読者もいると思います。ホストクラブとは、どんなお店で、いつごろできたんでしょうか?

 

大泉りか(以下、大泉)もともとホストクラブは、裕福なマダムの社交ダンスの相手をする場所だったそうです。歴史的には1970年代に愛田武の「クラブ愛」が歌舞伎町にオープンしています。その流れで、現在のホストクラブは女性客を相手にお酒を飲む接客業となっています。ブームは何度かあり、最近では、2000年代にスジ盛りやギャル男などを中心にした第2次ホストブームがありました。有名ホストでいえば城咲仁さんですね。そして、2022年現在、第3次ホストブームがきていると思います。

 

ーーホストクラブのシステムはどうなっていますか?

 

大泉 ホストクラブは、わかりやすくいえばキャバクラと似ていると思いますが、少し違います。その違いのひとつは、ホストの永久指名制にあります。キャバクラなら、ひとつのお店でどんな女のコを指名しても問題ありません。でも、ホストクラブは、一人の担当(指名するホスト)は変えられません。ホスト同士が揉めないようにと取り入れられたルールです。

また、初回(初めてお店に行く料金)はとても安いです。1000円から5000円程度で60分~90分飲み放題になっています。初回は、顔見せの場で、5分〜10分ぐらいで次々とホストが入れ替わり、名刺が渡されます。お客は初回の最後に「送り指名」をしなければいけません。エレベーターの前まで指名した人に送ってもらい、連絡先を交換します。その「送り指名」は担当(指名ホスト)に一番近い存在となります。担当が決まらなければ、2回目にも、初回で入っても問題はありません。

その後、指名をして飲みに行くと指名料、ドリンク料、サービス料、税などが入り、最低でも2~3万円ほどかかります。別にクイックというシステムもあり、これは1日1回限定でドリンクが付き60分1万円です。

時間制を採用している店と、フリータイムの店があり、フリータイム制の店に指名で入ると何時間いてもいいんですが、お目当てのホストが自分の席に来るかどうかはわかりません。誰のテーブルに何分間付くかは、ホスト自身の裁量に任されています。指名してくれたお客をほったらかしにもできるし、ずっと付くこともできます。「何時間いても5分しかついてくれない」と嘆くお客もいます。それも客同士の闘争心を煽るホストの戦略なんです。

 

ーーなるほど。最近のホストクラブは戦略まであるんですね。

 

大泉 2000年代のホストクラブはお酒を飲む場所でしたが、近年は、お客さんが担当(ホスト)に会いに行く場所です。

ホストとの付き合い方も変わってきています。昔は、同伴、アフター、お店だけがホストとお客が交わる場でしたが、今は一日中LINEでお客のフォローをしています。私も何人かホストとLINEをしていますが、特に営業をしてこなくて、日常会話なんですよ。もはやホストクラブは、飲み屋ではなく、課金しに行く場です。課金した分だけ担当がかまってくれます。

 

ーーちなみによく聞く「シャンパンタワー」はいくらするんですか?

 

大泉 シャンパンタワーは100万円からで上は青天井、500万、1000万もあると思います。今はホストブームなので、シャンパンタワーの値段もどんどん高騰しています。

ホストクラブは、ホスト側が目標を提示するんです。例えば「ランク10位以内に入りたいから、オレは2か月後に売上500万を稼ぎたい。一緒に協力してよ」と、担当ホストは、毎月数百万を使うエースと呼ばれるお客に頼みます。そこでふたりで打ち合わせをして、女のコは出稼ぎにいったりします。出稼ぎとは地方風俗に期間を決めていくことです。1日10万稼げる女のコなら10日間で100万円になります。風俗嬢でもトップクラスのコでないと、稼げないのでホストのエースにはなれないですね。若くて、カワイイ、稼げる女性だけが、ホストを推すエースになれるんです。

 

ーーこれだけお金を使えるお客さんは基本的に風俗嬢なんですか?

 

大泉 そうですね。メインのお客は風俗嬢、AV嬢、あとはキャバ嬢、パパ活。もちろん、風俗の裏引き(※お店を通さずに客から直接お金を受け取る行為)とパパ活などの掛け持ちのコもいます。

普通のお仕事は9時~17時とか時間が決まっていますよね。でも、風俗は勤務時間も決まってないし、当日欠勤もできる。要するに、働くことに後ろ向きになるんです。目標がないと働く気にならないじゃないですか。そうすると300万円稼げるポテンシャルがあるのに、100万しか稼げなくなり、風俗嬢自身が凹むらしいです。

彼女たちは、そのやる気を出す起爆剤のように、ホストを使っているんです。ホストに目標金額を立ててもらうことで、やる気が上がるそうです。

 

ーーそういった女性は、風俗とホストクラブ、どちらを最初に始めるんですか?

 

大泉 最初に風俗業に足を踏み入れているコが多かったですね。例えば、ある女のコは、学費を返すという目的で、週1、2回の風俗勤めを始めました。学費を貯め終わってからはお金を使う目的をなくし、ホストクラブにハマって……。結局、風俗に鬼出勤するようになってしまいました。

OLさんや学生は、普通はホストクラブで飲みませんよね。もちろん、好奇心で足を踏み入れることはありますが。けど夜職の女性たちは、もう少し身近にホストクラブがある。ホストクラブに通っているという共通点で、親しくなったりもするし、そうなると「今度、ホストクラブに一緒に行こう」となりやすい。

 

ーー本書にありましたが、SNSでホストが新規客に営業をしているようですね。

 

大泉 マッチングアプリ『Tinder』にはホストがまぎれていて「ホストやってます」と連絡が来たりします。女のコもホストクラブに行くのは怖いけど、ホストと話してみたいとかはあるみたいですね。

ホストはそういうコに「ご飯食べよう」と誘って「先輩からどうしても店に来いと言われて、タダでいいからいかない?」と持ちかける作戦をしています。それを何回かデートをして、付き合ってるという状態でやるのもホストの手段ですね。

TwitterのDMにも誘いはきますよ。ホスト側は100人にDMするのも簡単だから、1人でもひっかかってくれればいいんでしょう。

 

今のホストクラブは、お客もホストも「陰キャ」

ーー大泉さんも本書のあとがきで触れていましたが、個人的にも「取材がつらそう」と感じました。なぜなら金銭感覚が狂い、大金をホストに注ぎ込んでしまう取材相手だと、自分の常識が通じないからです。その辺にやりづらさはありましたか?

 

大泉 そうですね。最初は女のコたちの言っている意味が全然わかりませんでした。ホストクラブの永久指名制や本営(本命の彼女と思わせる営業)といった、システムも難しいですしね。だからこそ、この本はホストクラブに行ったことのない人にもわかるように仕上がったと思います。

 

ーー今の時代のホストは、40代の大泉さんから見てどうですか?

 

大泉 30代のホストには、さすがに手練手管を感じました。私の年代とギャップがあるのは、20代、Z世代のホストですよね。

2000年代の第2次ホストブームのときは、お客さんもギャルっぽいキャバ嬢が中心でした。だからお客さんもホストも今でいう「陽キャ」だったんです。当時はオラオラ系のホストも多かったですし。

でも、今のホストクラブは、ホストもお客も「陰キャ」なんですよ。女のコたちも「友達がいない。彼氏がいない」と言ってます。先日1億稼いでいるホストと会いましたが、めちゃくちゃ陰キャでした。顔はカワイイんですけど、全然目を合わせてくれない(笑)。ホストになった理由も「家庭教師をやってたら女子高生と鬼枕(女性と寝ること)になっちゃって。ホストに向いてるかなって」とのことでした。

ほかにも、目の下をピンクっぽくする病みメイクをしているホストがいて、名刺を見ると●●キラーという漫画『HUNTER×HUNTER』みたいな名前でした。そのホストもアニメが大好きらしいですよ。ウェイウェイしているよりは、そういう陰キャホストが多い印象ですね。

 

ーー意外ですね。ホストクラブといえば、スーツ姿の男が一気飲みをして、盛り上がっているのかとイメージしていました。

 

大泉 いえいえ、逆です。お酒を飲めないホストも増えて、アイスペール一気などはなくなっているんですね。お客に飲ませて売り上げを作るのではなく、お客に「高いお酒を入れてほしい」とぶっちゃけて頼むのが合理的と気づいたんじゃないですかね。

今のホストはスーツではなく私服です。みんなわかりやすいブランド物のTシャツを着ていたりします。ただ、そのブランド物がほしいという物欲はそれほど伝わってこないです。これも時代なのか、彼らには、野心というより承認欲求を感じました。承認欲求は、ナンバー10位以内のランカー、5位以内に入ればアドトラックに掲載されるなどの目標に置かれているみたいですね。

 

ーーそれだけ稼いだホストは、なににお金を使うんですか?

 

大泉 ブランド物を買ったり、あとはインターネットの裏カジノに消えたりするそうです。そして意外なことにホストの収入の3割ぐらいはお客さんに還元されます。

キャバクラの同伴などは、お客さんがキャバ嬢に食事代を払いますね。でも、ホストクラブの店外デートでは、ホストが食事代やデート代をお客のために払います。そのほうが、大事にされている感じが女のコに伝わりますよね。ホストとしては「この50万円のボトル入れてくれたら、ディズニーランド行こう。熱海一泊旅行に行こう」と営業もできます。

 

現在のホストクラブでの出来事は「Z世代の青春物語」

ーーホストに狂っている取材対象者の女のコはどう集めましたか?

 

大泉 そんなに大変じゃなかったです。私は知り合いに元AV女優や風俗で働いているコがいたので、聞いてみるとホス狂いのコが見つかりました。また、鉄人社の編集者も歌舞伎町にコネがありました。Twitterで募集したら、全然違うコミュニティの女のコが来たのも面白かったです。

 

ーー本書ではそのホス狂いの女のコたちの心情が取材を通して描かれています。もちろん女のコたちは、金銭感覚が狂っているんですが、どこかで冷静というかドライな目線があるように感じました。実際に取材をしてみて、どうですか?

 

大泉 女のコもわきまえているというか、わかって行動をしている感じはありました。ただ、ホストの方も、そんなにガッツリ管理はしていないんです。わりと男のコも自分の欲に溺れたりしています。

本書に書いた通り、現在のホストクラブでの物語は、Z世代の青春なんですよね。だから私のような氷河期世代はホストクラブをそんなに楽しめないですね。そんなに稼げないから、貯金を使い果たしたらゲームオーバーだってわかっていますし。

ホストクラブは飲むことよりもお金を使うことが主目的です。女のコも席でゲームをしてたり、イベントの日の担当の売上のためにお金だけ払って帰ったり、と課金だけする場所なんですね。

 

ーースマホゲームなどと同じ感覚ですね。

 

大泉 スマホゲーム自体を楽しむのではなくて、課金によるレベルアップや自分の課金ランクを楽しんでいるんじゃないですかね。

 

ーー大泉さん自身は、これだけ取材をして「ホス狂う」気持ちは理解できましたか?

 

大泉 頭では理解できるんですけど、自分が狂えるかというとできる気がしない。現実的に、自分の子どもにかかるお金を考えると無理ですよ。ウチには子どもという「推し」がいて、これから先、教育費に1000万円とかかかるんですよ。とても余裕がありません(笑)。

 

ーーたしかに、その推しは強いですね。この世界では、男女ともになにかを推したり、狂ったりして生きているように思えます。誰しもが「ホス狂い」になる可能性はありますか?

 

大泉 どうですかね。ホストクラブのホストのルックスは幅が狭いんです。今だと韓流アイドル風、ジャニーズ風の細身のシュッとした感じです。そこにハマらない人はダメなんじゃないでしょうか。例えば、私はプロレスラーみたいなタイプが好きなので、どこの店にいっても「全然好みがいないな」って、さみしい思いをしています(笑)。

キレイな男のコがタイプの女のコは、ホス狂う可能性が高いと思います。バンギャ、ジャニオタ、メンズ地下アイドルやヴィジュアル系バンドの追っかけは、ハマりやすいんですよ。

 

ーーアイドルには課金要素がありますもんね。

 

大泉 それに去年より、今年のほうがホストクラブの総売上があがっているらしいです。数年前まで1億円プレイヤーは数人でしたが、今年は数十人になっています。その話をしていたホストも去年は7000万円の売り上げでしたが、今年は9月の時点で1億円が見えているとのことでした。女のコの来店者数、女のコが使うお金も増えていて、ホストクラブはバブル状態です。

パパ活も流行していて、風俗系の女のコも儲かってるんですよね。私も、知り合いの30代後半の素人女性が、食事するだけでお金をもらったと聞いて、パパ活の流行を肌で感じました。きっと、人に課金をするという抵抗感が取っ払われているんですよ。

 

ーー眼の前にいる人に課金することに抵抗がない社会になってきたんですね。

 

大泉 本に書いたものでは、メンズ地下アイドルの前戯物販ですね。お金を払うと、手つなぎやバックハグ、壁ドン、顎クイなどの接触をしてくれます。ホストは究極に課金するとセックスもできるし、同棲までできます。なんなら、実家についてきて親にあいさつもしてくれます(笑)。本当に太い客だと入籍もあるそうです。

 

ーー最後にどういう人にこの本を読んでもらいたいですか。

 

大泉 ホストクラブを知らない人に読んでもらいたいです。みんながイメージしているホストクラブとは全然違う出来事が起こっています。想像だと「ウェーイ」なんて楽しくワイワイシャンパンタワーをして、浴びるように飲んでいるみたいなイメージだと思うんです。それはまったく違います。主役の女のコもホストの男のコも20代前半です。「こういう世界もあるんだ」という物語を楽しめると思います。

 

ーーそうですね。ホス狂う物語は、悲劇的でありながらキラキラしていて、儚くて、女の人は好きかもしれません。

 

大泉 先日、実家に帰ったときに母親と中学生の姪っ子がいて「新刊は『ホス狂い』なんでしょう。どうなの? イケメンいるの? 何百万かかるの?」とふたりともホストクラブのことをスゴく質問してくるんです。70代も10代も、怖いけど興味があるんだと思いました。ホストクラブは、お金を使えば、イケメンたちがよってたかってチヤホヤしてくれる場所です。女性は宝塚歌劇団を見るように、ホストクラブをのぞいてみたいんだと思いますよ。ぜひ、どんな場所なのかを読んでもらいたいですね。

 

 

自分の体を売り、必死に稼いだお金を月に数百万円もホストに使う女のコ……。本書では、常識では考えられない取材対象者たちの言葉と行動を大泉りか氏が翻訳し、わかりやすく伝えてくれる。さらに、本の中では、本営(本命の彼女と思わせる営業)、売り掛け(飲食代の後払いシステム)などのホストクラブの詳しい解説やホストを巡る殺人未遂事件なども書かれている。

著者・大泉りか氏が語るようにホストクラブでは「Z世代の青春物語」が繰り広げられている。しかも絵空事ではなく、リアルな愛や欲望やお金が飛び交っている。その生々しさを『ホス狂い』(鉄人社)は味合わせてくれる。ホストクラブが気になる方は、ぜひ一度手にとってみてはどうだろうか。

 

大泉りか(おおいずみ・りか) 作家・ライター。1977年、東京都生まれ。SMショーのモデルやキャットファイターなど、アンダーグラウンドな世界にどっぷりと浸かった20代を過ごす。2004年『ファック・ミー・テンダー』(講談社)で作家デビュー。官能小説や女性向けポルノノベル、女性の生き方をテーマにしたエッセイなどの執筆を中心に活躍。著書は20冊以上。

 

【書籍情報】

ホス狂い

著者:大泉りか
発行:鉄人社

今日、300万でシャンパンタワーをやった。自分の身体を売っても貢ぎ続けたい。わたしは担当のエースだからー。ホストにハマるオンナの愛と性と心の闇。

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25以上の言語を学んだノンフィクション作家・高野秀行が語る「語学の魅力と学ぶ面白さ」とは?

新作『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)を刊行したノンフィクション作家・高野秀行氏。高野氏は辺境に行くことの多い作家だが、取材前にはその国、地域の言語を学ぶことにしているという。今まで学んで使った言語の数は、25以上!! 本書はその語学をテーマとしたエッセイとなっている。今回は、本人だけが語れる語学への思い、面白さを聞かせていただいた。

 

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:松本祐貴

●高野秀行(たかの・ひでゆき) ノンフィクション作家。1966年、東京都生まれ。ポリシーは「誰も行かないところに行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」。『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)でデビュー。アジア、アフリカなどの辺境地をテーマとしたノンフィクションを数多く発表している。Twitterはコチラ

 

語学での文法とは地図のようなもの

ーー今までさまざまな国、地域を探検し、取材してきた高野さんですが、本書で、語学をテーマにしぼった理由はありますか?

 

高野秀行(以下高野) 以前から読者、編集者の方に「語学の本を書いてほしい」とは言われていました。僕自身もやりたいと考えていましたが、語学の経験に関して、振り返ったことがありませんでした。

僕の作家活動はどこかに行って帰ってきて、それを書くことの繰り返しです。語学について深く考える時間がなかったんです。ところが新型コロナウイルスの流行があり、すべての海外取材が中断しました。

そのタイミングで編集者から声をかけられたので、語学体験について、振り返ってみることにしたのです。そもそもずっと自転車操業だったので、自分の人生で「立ち止まって振り返る」こと自体が初めてですね。

 

ーーたしかにそういう時間があったのはよかったですね。本書に書かれているように、高野さんは次から次へと言語を学んでいきます。もともと学ぶことは好きでしたか?

 

高野 好きというほどではなかったんですが、20代の途中からは語学により人生を切り開くという謎のパターンにハマっていました(笑)。切り開いているのか、ますます深みにハマっているのか定かではないですが……。

 

ーーその新しい語学を学ぶとき、文法や授業は必要だと思いますか?

 

高野 語学に関して、文法は知っているに越したことはありません。というのも、文法は地図のようなものです。地図なしでも街は歩けますが、あったほうが早く正確に動けます。ただ文法は、知ることはそれほど難しくないですが、覚えなければいけないのが面倒です。

僕はいくつも語学をやっているので、新しい語学のテキストをパーっと見ていくと、大体1時間ぐらいでどういう文法かわかります。ただ、その言語の文法を覚えたり、使いこなすのは難しいんです。だいたいわかるのと使えるのは違うんですよね。

 

ーーそこまでわかるだけでも、高野さんは天才とはいいませんが、一般人よりは語学に関する知識が豊富だと思います。本書の中でアマゾン川を旅したときの探検部の後輩・宮澤さんが出てきます。高野さんはこの宮澤さんを「語学の天才」と評しますが、どんな理由がありますか?

 

高野 天才=達人というわけではないですが、宮澤は記憶力が抜群によくて単語や表現を一回聞くと忘れないんです。また、微妙な音の違いに気づくことができます。これらは天性のものです。

ある意味、スポーツの運動神経や反射神経、筋力と同じで、語学に関して生まれながらに優れてる人がいるんですよね。ただ、本人がそれを伸ばしていくかは別問題です。

 

ーー海外の観光地には、日本語で話しかけてくるガイドや子どもがいたりしますね。ああいうのは、高野さんの中では、語学の天才ではないんですか?

 

高野 アンコールワットなどの観光地にいる子どもやガイドの人たちですね。あれは天才ではなくて、必要なものを覚えている人たちです。ガイドするのに必要な言葉、観光旅行者との会話は、大体決まっています。

僕がエピローグで書いている「ブリコラージュ(あり合わせの道具材料を用いて自分でものを作ること)学習法」は、それに近いことを提唱しています。語学を体系的に広く満遍なく学習するのではなく、目的に特化して覚えて使うことです。この方法なら、今必要としているところで役に立ちます。

 

現地でリアルに使用する現実の言葉を習いたい

ーー高野さんが海外の現地の言葉を覚えようと思ったのはいつですか?

 

高野 やはり大学時代にコンゴに行ったときですね。リンガラ語に出会ったことで、現地の言葉も覚えようとしたら覚えられるというのも知りました。

 

ーー高野さんは新しい語学は「RPGゲームの魔法の剣」であり、「探検」のようだとも言われています。もちろんその一面はありますが、私は高野さんが新しい語学を学ぶ目的は、新しい外国人と話し、親しくなること(ウケること)、大きな言葉で言えば「人類愛」のようなものにもあると感じました。そのあたりを高野さんはどう思われますか?

 

高野 新言語を学ぶ目的は、大げさにいうと、ファーストコンタクトですよね。自分にとって異文化の人は、異星人のようにも感じます。その人とどういう風にコミュニケーションをとって心を伝え合うかっていうのは、やっぱりすごく面白いことで、一番の方法が言語です。

その言語も、本には繰り返し書いてますが「情報を伝える言語」「親しくなるための言語」の2種類があります。これらも今回、頭の中を整理して、自分がそんな風に使い分けていることに気づいたんですけどね。

 

ーー今の話の続きで、この2種類の言語が使えれば最強である「語学の二刀流」となります。その事実を知ったことを本書で「語学ビッグバン」と名付けているんですね。

 

高野 そうです。その語学宇宙が広がり、ほかの語学も学ぶようになったら、語学の天才からはどんどん遠ざかっていくんです……。悲しい事態ですよ。

 

ーーいえいえ、たしかに悲しいですが、新しい発見もたくさんあるじゃないですか。この語学ビッグバン体験はさすがに一般読者には難しいかもしれませんが、高野さんは大学1年生のとき、インドを旅し、少しずつ英語が話せるようになっていったというエピソードも書かれています。そういう体験は、一般読者でもできますか?

 

高野 旅行をしている人はみんなやってることだと思いますよ。あのインドの安宿で培われたバックパッカー英語がヨーロッパ、アメリカで通じるかどうかは定かではないですけどね。

 

ーーどんな言語であれ、自分が発した言葉が相手に通じた時っていうのは、気持ちいいものですか?

 

高野 気持ちいいですね。脳内物質が出ると思います。スポーツでいい記録が出た、試合に勝ったとか、美味しい料理ができた、楽器が弾けるようになったなどに似ているんじゃないですかね。

 

ーー本書の中で、大学生時代の高野さんがフランス語を学ぶときに「二重録音学習法」を実践しています。これは「授業を丸ごと録音し、すべてを文字起こしする」という大変な手間がかかりますが……。

 

高野 うん、あの方法はすごくよかったと今でも思ってます。ただ、聞き取り、ディクテーションをかなり頑張らないといけない。気合いが必要ですよね。あの学習法をやってれば語学力は相当伸びます。

 

ーーたしかにめちゃくちゃ時間がかかりそうです。もう少しほかに方法はないんでしょうか。

 

高野 語学の先生が先生口調で話すことは、ウソっぽくて、信用できないんですね。だから、もし機会があれば、ネイティブ同士が話してるところに一緒にいて、僕も入って話すというのは学習法としていいんだろうと思います。

 

ーーそれもかなり濃密な学習方法ですね。

 

高野 思わず言ってしまうような言葉こそが、本当に使われている言葉なんですよね。僕はそれを知りたいんです。

日本語も公式だと「私はもう帰ります」と教えるんだけど、実際にはそんなこと言わないわけですよね。帰るときには「じゃあ、もう行くから」などと言います。この「から」はなにかというのは、日本人だって説明できないですが、「から」を使います。

ほかにも、「今日お昼にラーメンを食べました」といった例文を教えるんですけど、誰もそんなこと言わないんですよね。そういうとき「今日昼ラーメン食べたんですけど」と言うのが普通の日本語です。提示するとき「けど」や「ですけど」という言い方をするんですよね。

こういう本当の会話を習ってないと、なぜ「けど」という逆説がつくんだろうと考え込んで、学習が止まってしまうんですね。それはよくないですよね。だから、僕はリアルに使用する現実の言語を習いたいと思うんです。

 

ーー高野さんは、大学卒業後、タイのチェンマイ大学で日本語講師をなさっています。日本語を教えるときも、リアルな本当の言葉を意識していましたか?

 

高野 そうしようと思ってましたけど、テキストがないところから、毎回自分で例文を考えるのは、難しかったです。どうしても既存のテキストを使ってしまうので、教科書的であり、非現実的な日本語に傾きがちでした。

途中から漫画をテキストに使うようにして変わりました。漫画という表現は、言文一致度が高く、全然ほかの書き言葉とは違います。また、学生も漫画を読みたいという気持ちも強かったですね。漫画は絵があり、どういうシチュエーションでどういう言葉を使うかが、バッチリわかるのも重宝しました。

 

ーーそのようにリアルな、本物の言語を学んでいった先には、なにがあるんでしょうか?

 

高野 僕は途中ですぐ飽きてやめちゃいますからね(笑)。中国語も3〜4年間勉強しましたが、それ以後はほとんどやっていません。たまの旅行や取材で使うぐらいで、もったいないですよね。ときどき「中国語をもっと勉強したら、レベルが上がるのに」と思うんですが、必要に応じて勉強する習慣がついてしまっていて……。

昔ですが、ジョルジュ・シムノンの「メグレ警部」シリーズというフランス語ミステリが好きになったんですが、当時は翻訳されているものは何冊かしかなかったんです。読みたいと思ってフランス語の文庫を買って、原文で読んだこともありました。ただ、日本は翻訳の文化が発展していて、すぐに翻訳が出ちゃいます。その後は『シムノン全集』まで出版されました。エレベーターができたら階段はいらないように、翻訳があれば、原文を読む必要がなくなるわけです。いろんな言語の小説を日本語で読めるのは、いいことですけどね。

 

語学は、手や口を使った技術なので、体を使って覚えた方がいい

ーーこの本を書くことで高野さんなりの語学学習法は1度整理されましたか?

 

高野 無駄なことも含め、整理されました。ネイティブに習うことが大事だと思っていましたが、僕の場合は素人の先生が多かったです。その素人の先生にいかにやる気を出してもらうかが重要でした。ナチュラルな言語を学ぶには、生徒側の僕が、授業の準備をして、先生をのせて、やる気を出させていました。そんな技術やエネルギーが必要でしたね。

 

ーー25か国語以上を学んだことで、今だからわかる練習方法ってありますか?

 

高野 今は、新しい言語を練習するとき、ネイティブの話者に例文を話してもらった音声をリピートしています。それをスタンダードにするまでにかなり時間がかかりました。必ずそれをやるようになったのは40歳ぐらいです。もっと前からやっておけばよかったと思っています。

 

ーーどうして、その学習法がいいんでしょう?

 

高野 語学は、手や口を使った体の技術なので、いろんな部分を使って覚えたほうがいいと思います。

昔の歌を歌ってると、なんとなく歌詞を覚えていたりしますね。あんな感じです。ほかには、自転車の乗り方やクロールなど、覚えるまで大変ですが、体で覚えたことは、忘れにくいんですよね。

語学はなるべく体とセットで覚える。そのためには、ネイティブの発音通りに声を出して読むことです。リズムもあるし、歌に近く、忘れにくくなります。特に年を取ってくるとこの方法がいいと思います。若いころのように文字を見て覚えるのはますます難しくなるので。

 

ーーこれから語学を学ぶ人にはこの方法を推奨したいと思いますか?

 

高野 そうですね。語学が苦手な人、年配の人、なかなか覚えられない人には特におすすめしたいです。

 

ーー逆に、初めて英語を学ぶ、中学1年生の英語の授業とかにはどうでしょうか?

 

高野 それはちょっと考えてなかったですね。どちらかというと大人向けですよね。大人は、なにかしら目的がありますが、子どもの英語は義務教育でやらされていますからね。ただ、子どもにも本当に興味を持てる英語教育はしたほうがいいと思います。

例えば、アメリカのボストンやシンガポールなど、特定の地域を舞台に設定して、実践的な英語を教えたほうがいいと思うんですよね。

シンガポールの空港についたら、道を聞いて、地下鉄に乗って移動して、別の駅で降りてという、使える英会話を教える。できればですが、教えられた生徒は、いずれはシンガポールに行って、その通りやってみる。こんなことができれば面白いですね。もし行けなくても、今ならYoutubeやオンラインツアーなど、いろいろ体験はできますからね。

 

ーー本書のエピローグにもありましたが、スマホやPCでの自動翻訳や同時翻訳はどう思われますか?

 

高野 それで通じるなら越したことはないし、僕も必要なところでは使っています。でも自動翻訳があるから「語学をやらなくていい。やる意味がない」とはならないでしょう。その言葉を実際に話すことによる、親しみは確実にあると思います。

 

アマゾン流域の文明と接触していない先住民の言語を知ってみたい

ーー本作はコロナ禍による、高野さんの活動休止がなければ生まれなかった本ですね。

 

高野 ある友人には「高野、10年早かったんじゃないか。年をとってどこにも行けなくなったときに書けばよかったのに」と言われました。

 

ーー新型コロナウイルスによる、海外の渡航制限もとかれ始めていますが、高野さんはどこかに行く予定は?

 

高野 僕は、今年になってからは通常営業をしています。2022年、1月、2月はタイ、4月、5月はイラクに行っていました。来年はイラクの本を出す予定です。日本で半年過ごすと飽きてくるので、そろそろ出かけたいぐらいです。

 

ーーコロナ禍の間は旅ができなくてストレスもたまりましたか?

 

高野 コロナが始まる前は、旅して帰って書く、旅して帰って書くの繰り返しに正直少し飽きてきて、海外へ行くことにありがたみが感じられなくなっていました。だから、コロナになって、最初1年ぐらいはこのルーティーンから抜け出してほっとしてましたね。

ただ、その辺りが限界で「やってられない。シャバに出たい」という気持ちに変わってきました。今年の1月、タイに久しぶりに行ったら、「ああシャバに出た。空気がうまい」と思いましたよ。

日本は悪い国ではないんですが、最近は煮詰まりを感じます。同じ場所で同じことを考えていると思考はぐるぐると堂々巡りをして、空転しやすくなります。そんなとき、タイやイラクに行くと、全然違う人たちが違う思考で、行動しています。それを見ると、パァっと視野が開ける感じがします。

 

ーーやはり高野さんは海外に行かないではいられない人なんですね。逆に日本の生活で日本語以外の言語を使う機会はありますか?

 

高野 まったくないですね。ただ、SNSではいろんな国の人とはやりとりはしています。今日もソマリ人と、ソマリ語でチャットをしていました。そのソマリ人とは、一時期、日本のマクドナルドで毎週のようにおしゃべりをしていたんですよ。今日のチャットは「明大前のマックにいるよ」「懐かしいな〜」といったような、他愛ない内容でした。

 

ーー高野さんの魔法の剣であるいろんな言語は、日本では使い道があまりないですね。

 

高野 そうなんですよ。日本にいる外国出身の人は、日本語が上手いので、使う必要がないんですよね。

だから、例えば中国語しか話せない人やタイ語しか話せない人の手伝いをするボランティアがあれば、やりたいと思います。そういう人が、役場や病院に行く時には役に立ちますよ。実際にそんな時間はなかなか取れませんが。

 

ーーこれから高野さんが覚えてみたい言語はありますか?

 

高野 アマゾンやシベリア、ニューギニアの先住民の言語はやってみたいですね。系統がよくわからなくて文法も想像がつかないような言語です。それを習うシチュエーションを作るのが難しいですが……。

以前、NHKで放映された『イゾラド』というシリーズがありました。アマゾン流域の文明に接触していない先住民に取材するドキュメンタリーです。僕もスゴく興味を持ち、ディレクターの人に話を聞きにいきました。彼らの言語は、どこの言語とも関係性がないらしいです。そういう人たちの言語を知ってみたいですし、取材にいってみたいと思いますね。時間もお金もかかりそうですが。

 

ーー次に外国に行くならどこでしょうか?

 

高野 まだ決まってないんですよ。だから、最近は珍しく勉強していません。行き先が決まらないと、どの言語をやったらいいかわからないですね。

昔に比べたら、外国語を覚えるのはしんどいですよ。56歳になって記憶力が落ちてるどころか、記憶力ゼロからいかにして覚えるかです。次回はもう少し工夫して、自分でカッチリしたテキストを作ってやりたいなと思います。

 

ーー本書は読者層の設定に悩んだそうですね。著者としてはどの層にこの本が届けばいいと思いますか?

 

高野 結局、それはわからないまま、全方向を目指してます。語学を学んでいる人や言語学専門の人にも読んでほしいし、それから語学は苦手だけども、面白い話を聞きたい人も読めるように書いたつもりです。

こういう本はいままでなかったと思うので、言語や語学だけでなく、単に面白いエッセイと思ってもらってももちろんいいので、たくさんの人に届けばいいですね。

 

インタビューにもあったが、来年にはイラク取材を元にした本を刊行予定の高野秀行氏。もちろん語学もバッチリだ。

 

「イラクは5年前から取材を続け、アラビア語イラク方言を1年ほど学びました。標準アラビア語ではないから、辞書もないし、Google翻訳もなくて困る。でもそこが面白い」

 

高野氏の言語に対するポジティブな姿勢は変わらない。高野氏は、これからもずっと新しい言語と向き合い、勉強し、悩み続けるのだろう。高野氏は本人の言う通り、語学の天才ではないかもしれないが、本に書くエピソードはとてつもなく面白い。

 

インタビューで少しでも興味を持った人は、語学に対する愛と笑いが詰まった新刊『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル)を読んでほしい。語学の向こうに面白い外国の人たちとの出会いがあるはずだ。そして本書のエピソードは、あなた自身が人とつながるための魔法の剣になってくれるかもしれない。

 

【INFORMATION】

『語学の天才まで1億光年』公式サイト

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孤高のマンガ家つげ義春、82歳にして初の海外旅行へ行く

終始、らしさが出ている。日本のマンガ界において、生きる伝説となっているのがつげ義春。『ねじ式』『ゲンセンカン主人』『無能の人』『沼』『チーコ』などなど、マンガに文学、それも私小説のエッセンスを取り入れ、大衆娯楽だったマンガを芸術に高めたマンガ家だ。

 

貸本屋時代は大量のマンガを描いていたが、マンガ月刊誌『ガロ』に書くようになってから寡作になっていく。また、本人の性格からか、あまり人前に出ることもなく、他人との交流も必要最低限。そんなこんなでもう30年以上作品を描いていない。

つげ義春初の渡仏がメイン

そんなつげ義春が、フランスに行くという大事件(?)が起きるのは2020年のこと。フランスのアングレームという町で開催されている「アングレーム国際漫画祭」に出席するためだ。

 

実は数年前に、つげ義春のマンガが初めて英語とフランス語に翻訳され、海外で刊行された。これまで彼の作品は日本語版しかなく、海外のファンは自分たちの言語で読むことができなかったのだ。そんなこともあり、フランスではつげ義春が盛り上がっていたらしい。

 

この地で本人初の原画展を開催することになっており(日本でもしたことがないのに)、そのタイミングで渡仏ということになった。つげ義春、82歳。すっかり隠棲していたが、突如海外へ。その様子を記したのが『つげ義春 名作原画とフランス紀行』(つげ義春、つげ正助、浅川満寛・著/新潮社・刊)だ。

 

本書は、2019年に発行されたフランスの雑誌『ZOOM JAPON』に掲載されたインタビューと、渡仏の際の完全密着レポート、そしてつげ作品7作の原画が掲載されている。

 

つげ義春のインタビューというのはかなりレアなのに、フランスのメディアにインタビューを受けるというのはさらにレアだろう。また、渡仏記は同行した浅川氏の視点で書かれているが、つげは常に「帰りたい」「疲れた」「サンドウィッチのようなものが食べたい」としか言っていない印象。

 

それでも、漫画祭の授賞式に登壇し、数百人のファンの前で話し、笑顔で手を振っている。旅は人を変えるのか、日本では変えられないからやけになっているのかはわからない。

 

ファンにとっては充実している内容

つげ義春というマンガ家は、あまりメディアなどに出てくることはないため、本書はかなり貴重。あまり長くはないが海外向けの貴重なインタビューに、渡仏記。そして、代表作7編の原画が掲載されており、充実した内容だ(でもすぐ読み終わっちゃう分量)。

 

原画のほうも、写植が取れてしまっているところがあったりと、生々しくてよい。何度も読んでいる作品だが、原画で見るとさらに味わい深いものがある。僕の好きな「もっきり屋の少女」が載っていて、ちょっと喜んでしまった。

 

正直、つげ義春というマンガ家を知らない人にはオススメできる本ではないが、ファンならたいへん興味深いし、あまり詳しくないという人には「つげ義春ってこんな人なんだ」とわかる内容になっていると思う。

 

なお、本書は判型が大きいので、老眼が進んでいる僕でも読みやすかった。その点も高く評価したい。

 

【書籍紹介】

つげ義春 名作原画とフランス紀行

著者:つげ義春、つげ正助、浅川満寛
発行:新潮社

いま、世界がようやく、「つげ義春」を発見しつつある。その象徴が、2020年のアングレーム国際漫画祭での顕彰であり、人前に出ることを嫌う作家に、初の海外渡航をうながしもした。事前には、関係者でさえ半信半疑だった奇跡のフランス行きを、旅立ちから帰国まで、完全密着リポートでお届けする。さらに、「李さん一家」「海辺の叙景」「もっきり屋の少女」など、「ガロ」に発表した珠玉の7篇の原画を、初めて全頁まるごと掲載。筆触やベタ塗り、修正の跡といった“生”の質感を堪能されたい。あらたなる「つげ義春」の発見を、この一冊で−−。

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“いい夫婦”について改めて考えたくなる1冊『妻が怖くて仕方ない』

結婚したいと願う若者が減り、3組に1組が離婚する時代。これだけ便利でスマートな時代になっても、恋愛や結婚の悩みはなくならないのだな〜と痛感します。今回は、妻が読むと衝撃がいっぱいな『妻が怖くて仕方ない』(富岡悠希・著/ポプラ社・刊)を読んで、“いい夫婦”について改めて考えてみたいと思います。結婚したい人も、している人も、参考になる言葉が必ずある! そんな1冊ですよ。

 

冒頭でイラッとしてしまった(笑)『妻が怖くて仕方ない』

この本は、ジャーナリストである富岡悠希さん夫婦のエピソードがベースに展開されていくルポルタージュです。

 

ふたりは2010年に知り合い、翌年には結婚。3人の子宝に恵まれて、奥さんは公務員、旦那さんもジャーナリストとして働いている共働き夫婦です。しかし、2019年奥さんに800万円の借金が発覚。育児のストレスから買い物に走ったため「借金するくらいストレスを与えた旦那が悪い」と、奥さんの態度がガラリと変わってしまったそう。さらに2020年には、口喧嘩中に奥さんが払った手が富岡さんの腕に直撃! 左肩を脱臼する怪我を負い、警察と救急車を呼ぶ事態にまで発展しまったのです。本書では「救急車事件」としてユーモラスに描かれていますが、夫婦のよくある日常を超えた現実がありました。

 

いやはや、10年超の月日はなんとも劇的な変化をもたらしています。これだけのことがあったのだから、離婚を全く考えないわけではありません。それでも、沼地に足を取られながらも、僕はいまだ「なんとかできる」と考えています。

その根底には、妻への愛情があります。確かに救急車事件の強烈アタックからしばらくは、妻が「怖くて仕方ない」時期がありました。それでも、時間の経過と共に妻との関係修復を望む自分に気がつくのです。「不仲なままじゃイヤ!」となります。

(『妻が怖くて仕方ない』より引用)

 

本のタイトルもキャッチーなので、旦那さんが読むと「わかるよ〜」と共感できると思うのですが、私からするとイラッとした文章でした(笑)。もちろんDVや暴力は許されませんよ。でも、客観的にみると「夫婦の愛でなんとかできる」と思っている旦那さんと、「もう別れたいから、嫌いになってくれ!」と思っている奥さんの可能性もあるのでは? と考えてしまったのです。お互いが「不仲なままじゃイヤ!」と思っているのならいいのですが、そもそも奥さんの気持ちってどうなんだろう? と。

 

『妻が怖くて仕方ない』では、奥さんからのコメントがないので本心はわからないのですが、「おわりに」で「妻からすると異なる景色となることは認めざるを得ない」と書かれてあったので、ホッとしました。一方的に妻の怖いエピソードが描かれてあるわけではないので、これから読む方は安心してくださいね(笑)。

 

さまざまな専門家に聞く、夫婦像

『妻が怖くて仕方ない』では、なんとか関係を修復したいと考える富岡さんが、さまざまな専門家に話を聞いています。

 

借金をしてしまった奥さんとどう接したらよかったのかを教えてもらうために、家計再生コンサルタントの横山光昭さん。子どもの教育方針については、教育評論家の石田勝紀さん。DVなど暴力については、女性・人権センター主宰の栗原加代美さん。そして、口を聞いてくれない妻とのコミュニケーションを解決したいと、法華山示現寺住職である鈴木泰堂さんのところにも行かれています。また、メディアでなにかと話題の三浦瑠璃さんとの対談も収録されており、夫婦像についてさまざまな視点から考えるきっかけをもらえます。

 

その中でも、鈴木さんが語っていたある夫婦の『絆』についてのお話が素敵だったので引用します。

 

「このおふたりは、今生の縁を大事にする夫婦でした。『絆』の字は、糸が半分と書く。人の半分と半分を結んでいる。夫婦のかすがいと言われる子どもがいなくとも、この老人夫婦は絆を結んでいました。僕はその姿を見て、見習いたいと思いました」

(『妻が怖くて仕方ない』より引用)

 

これは老夫婦のお葬式の話だったのですが、自分の老後を想像して「こんな夫婦が“いい夫婦”なのかも〜」なんてしみじみしてしまいました。この話を受けて、富岡さんも奥さんとの老後についての夢を語っているのですが、もう半分の糸を持つ奥さんも同じように考えていてくれ〜! と、勝手ながら祈ってしまいました。

 

他にも、専門家たちのアドバイスはどれも的確。富岡さんと同じような悩みを抱えている方なら読んで損はないはずです。

 

現在、「妻が怖い」と感じているなら絶対読んでほしい!

『妻が怖くて仕方ない』は、女性目線で読んでいくと多少納得できないところもありましたが、富岡さんの「なんとかしたい!」気持ちの強さは、理解できるようになりました。ただ、家に帰ってこの本がダイニングテーブルに置いてあったら、絶対怒っちゃうな……と思います(まだまだ心の狭い人間だなぁ〜)。これから購入されて読んでみようと思っている旦那さんたちは、念のためカバーをつけて、こっそり読むことをおすすめします。

 

また読んでみたいと思った妻のみなさんも、多少イラっとすることも出てくるかもしれませんが、ぜひ最後まで読んでみてください。そして、自分の旦那さんや富岡さんを責めないでください。自分自身を顧みて、反省することがポロポロと出てくるはずです。

 

これは「妻あるある」かもしれませんが、家族だからという謎の安心感に頼って、大事なことを伝えなかったり、無視したり、思いやりをなくしちゃうことってありませんか? それが積み重なって「怖い」と感じさせているかもしれません。長い人生を楽しく過ごしたいなら、家族の安心感に頼りすぎないことも大切です。どんなことを「怖い」と感じるのか、本から学んでみましょう。

 

11月22日の『いい夫婦の日』も近づいてきましたが、一概にこれが“いい夫婦”とは言えません。けれど、お互いにもっといい夫婦になりたいと考えているのであれば、今より良い関係性を築くことはできるはずです。夫婦の関係性を見直すきっかけに、同じように怯えている人の解決のヒントに、ぜひ『妻が怖くて仕方ない』を参考にしてみてください!

 

【書籍情報】

妻が怖くて仕方ない

著者:富岡悠希
発行:ポプラ社

科学技術は発展しても、結婚技術はさほど向上していない。合コンで一目惚れ、僕の猛烈アタックでゴールイン。子宝にも恵まれた幸せな夫婦関係は、しかしいつしか大きく対立するようになった。金銭感覚、教育方針、圧倒的なコミュニケーション不全…、ジャーナリストとして自らの破綻をさらけ出し、各分野のスペシャリストに徹底取材。令和型の結婚像、夫婦像を考える渾身ルポ。

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「英語が通じる」のその先へ! クールな日常表現をクイズ形式で学ぶ!『ネイティブならそうは言わない』

毎日使っているブラウザに、“これがわかったらスゴい英会話クイズ”みたいなのがポップアップされるので、ついクリックしてしまう。星占いチェックと併せ、毎日のルーティーンになっている。

 

“キュウリみたいに冷たい”とか“魚みたいに飲む”とか

そんな筆者がぜひおすすめしたいのが、『ネイティブならそうは言わない』(デビッド・セイン&小池信孝・著/ディスカヴァー・トウェンティワン・刊)という本。「as cool as a cucumber=キュウリみたいに冷たい(冷静沈着)」とか「drink like a fish=魚みたいに飲む(大酒飲み)」とか、「put two and two together=2と2を一緒に置く(正しい結論を導き出す)」といった慣用句的な表現の意味は、非英語圏の人間にとってイメージしにくい。この本は、こうした言語分野脳内イメージのギャップみたいなものを埋めていくプロセスに確実に役立ってくれるだろう。さっそく章立てを見てみよう。

 

PART1 ネイティブならこう言う It’s COOL ENGLISH!

Chapter1 日常でさらっと使えるCOOL ENGLISH!
Chapter2 ショッピングや食事で役立つCOOL ENGLISH!
Chapter3 道を訊くにもCOOL ENGLISH!
Chapter4 小さな違い、どっちがCOOL ENGLISH!
Chapter5 ちょっとした言い回しでCOOL ENGLISH!

PART2 日本人が知らない英語の常識

Chapter1 日常会話の常識
Chapter2 単語の常識
Chapter3 熟語の常識
Chapter4 日常生活の常識
Chapter5 英語文化の常識

 

クイズ形式の超実用的フォーマット

シチュエーション別にフレーズを分けて紹介するというのは英会話本によくあるフォーマットなんだけれど、PART1では2択クイズで、いかにも日本人が言いそうな表現とネイティブっぽい響きの表現を併記し、わかりやすく区別できるように工夫してある。

 

そうか、わかった

(a)I got it. (b)I understood

1月に大阪に行きました。

(a)I made a trip to Osaka in January. (b)I traveled to Osaka in January.

昨夜、飛行機できました。

(a)I flew in last night. (b)I came here by plane last night.

『ネイティブならそうは言わない』より引用

 

文法的には正しいけど、実際にそうは言わないという表現は想像以上にたくさんある。この本は、読んで楽しく全く無駄がない方法で、文法的な正確性と口語的な実用性の間にある境界線をつまびらかにしてくれる。

 

英語を効果的なコミュニケーションツール化する

「はじめに」に次のような文章がある。

 

英語を使ってコミュニケーションをするには、まず、相手の母国の文化や考え方を知る必要があります。そして、より深いコミュニケーションをとるには、ネイティブが日常会話で使っているようなカジュアルなフレーズなどを知ることです。

『ネイティブならそうは言わない』より引用

 

単なる“英会話”は、コミュニケーションではない。この本は、単語の羅列の会話を紹介するのではなく、その先にあるものも含めたコミュニケーションすべてのプロセスを俯瞰していく意識が明確に示されている。PART2は次のような3択クイズで進む。

 

It’s on meは、どんな場所で聞かれることが多い表現ですか?

(1)フィットネスクラブ (2)レストラン (3)学校

plastic milkってどんなもの?

(1)製品を作るために溶かしたプラスティック (2)カクテルの名前 (3)粉ミルク

Bill needs professional help というとき、ビルは誰の助けを求めているのでしょう?

(1)警官 (2)精神科医 (3)弁護士

『ネイティブならそうは言わない』より引用

 

PART1とPART2を合わせると問題数は全部で100問。質の高い情報がこれだけあれば、知る人と知らない人の間に生じる差は必然的に大きくなるはずだ。

 

積極的に発信しない姿勢はもったいない

セイン氏が英語教育者という立場から読者に向けた言葉も紹介しておく。

 

中学から英語を習い始め、最低でも6年は英語を学んでいるだけあって、基礎的な文法やボキャブラリーはン地上レベルの会話をするのには十分すぎるくらいに知っています。それなのに、「英語を話す」「使いこなす」「ネイティブとコミュニケーションをとる」となると苦手意識を持ち、人前で話したがらない人がほとんどで、いつも「もったいない」と思います。

『ネイティブならそうは言わない』より引用

 

本書を貫くアイデアを体現していけば、セイン氏が感じる“もったいない”ことを少しでも減らせるんじゃないだろうか。

 

 

【書籍紹介】

ネイティブならそうは言わない

著者:デビッド・セイン、小池信孝
発行:ディスカヴァー・トゥエンティワン

ネイティブが日常的によく使うクールな表現や文化的な常識を100問のクイズにして紹介。すべてに答えたとき、あなたの英語力は飛躍的にアップしているはず。「英語力診断&アドバイス」で、今後どう学習していったらよいかもわかる。

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2175年。ヒューマノイドとヒトが共存する世界を描くヒューマンSFドラマ『AIの遺電子 Blue Age』

2175年。今から百数十年後の未来では、技術はどのくらい進歩して、人々はどのような暮らしをしているのでしょうか。漫画『AIの遺電子 Blue Age』(山田胡瓜・著/秋田書店・刊)では、2175年の日常が描かれています。どのような暮らしが想定されているのか覗いてみました。

2022年の現状

2022年の現代では、多くの文化が「配信」という形でまとめられ始めています。映画も音楽も書籍もすべてネットで配信され、聴き放題、見放題、読み放題などというサブスクリプションスタイルも増加しており、人々は以前に比べるとかなり格安に文化を楽しめるようになっています。

 

また、メタバースやオンライン会議システムが活用され、家にいながらにして多くの人と交流できるようになりました。医療の現場でもオンライン診療や再生医療を活用した施術が行われるようになり、人々はより快適に暮らせるようになっています。

 

2175年はどんな世界?

『AIの遺電子 Blue Age』の舞台は、2175年の病院です。この世界ではヒューマノイドという、人間にかなり近いロボットがヒトと共に暮らしています。病院にはヒューマノイド科というロボット専用の窓口もあるほどです。

 

この世界では、ヒューマノイドもヒトは、一見するだけでは判別できないくらい似ています。ヒューマノイドもヒトと同じように老化する肉体で暮らしていて、寿命もあるからです。とはいえ、ヒューマノイドは体調が悪化したら新しい体に脳を入れ替えることができるので、ヒトよりも少し便利そうです。

 

ヒトがロボットに恋をする

『AIの遺電子 Blue Age』の世界では、ヒトがロボットに恋をすることがあります。ヒューマノイドには人間に近い喜怒哀楽の表現も存在するため、ヒトは恋愛感情を抱きやすいのでしょう。現代でもボーカロイドとの結婚を真剣に考えるヒトが出始めていますが、今後さらにそうした傾向が強まるのかもしれません。

 

スティーブン・スピルバーグ監督の映画『A.I.』も、ロボットとヒトの共生社会を描いたものでした。そこでは、ヒトとヒューマノイドが一緒に生活しています。本書でもヒトの赤ちゃんと共に育てられるヒューマノイドの赤ちゃんが出てきます。ヒューマノイドの出現によって、社会や家族の人間関係はより複雑になっているのです。

 

電子書籍にも絶版が出る

作中に、電子書籍で絶版になった本を紙の書籍で見つけるというシーンがあります。2175年の世界にも紙の書籍は存在しているのがうれしかったのですが、電子書籍のほうは絶版になり、読めなくなってしまう場合があるようです。

 

2022年の現代では、電子書籍が絶版になるというような表現は聞いたことがありません。しかし、ある日突然販売が中止になっている本は時々見かけます(諸事情で配信が停止されているのか、それとも絶版なのかはわかりません)。未来では絶版がもっとはっきり頻繁に行われ、絶版電子書籍にプレミア価格が付くかもしれません。

 

未来の感染症はネット経由

2175年にもウイルスによる感染症の流行はあります。しかしウイルスとは、コンピューターウイルスのことです。PCがウイルス感染するように、ヒトもヒューマノイドも違法サイトなどにアクセスした際にウイルス感染をしてしまうのです。ひとたび感染すると自分の意思とかけ離れた行動をして迷惑をかけることがあるため、ウイルスが駆除された後も周囲からは冷酷な差別を受けてしまいます。

 

漫画に描かれた2175年では、意外なほどに人々はリアルに対面し、交流していました。むしろ2022年のほうが自宅からオンライン会議に参加していて未来的かもしれません。けれど、現代にはヒトとデートするヒューマノイドはまだいません。孤独を感じながらひとり暮らしをしている人も多いので、登場が待たれます。

 

【書籍紹介】

AIの遺電子 Blue Age

著者:山田胡瓜
発行:秋田書店

2175年、ヒューマノイドも治す研修医・須堂光は、AIを診て、ヒトを見る。子供を授かり喜ぶ母親、電脳ウイルスに感染されたとされる少年、医療用ユニットに入り生き長らえるAIを嫌う頑固な老人…。様々な患者と向き合う至極のストーリー5篇を収録。超大型アップデートを遂げた、『AIの遺電子』シリーズ最新作!

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大人よりも小学生のほうが簡単!? あなたも考えれば解ける東大の入試問題に挑戦!~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。日本での東大ブランドはすごいですね。「東大クイズ王」と言われればそれだけで間違いでも正解に思いますし、「東大式○○」や「東大生が教える○○」といった謳い文句も世の中にあふれています。

 

ただ、冷静に考えると東大には毎年およそ3000人が合格しているわけで、東大生は言うほどレアではなさそうです。しかも東大生であることよりも、東大で何を勉強してその後どう活躍するかが重要……なんて真面目なことを言うと、学歴コンプレックスによる負け惜しみと思われてしまいそうですけど(笑)。

 

さて、今回紹介する新書はタイトルが衝撃的。小学生でも解ける東大入試問題」(西岡 壱誠・著/SB新書)

 

著者の西岡 壱誠さんは現役東大4年生。偏差値35から東大を目指し2浪した後、勉強法を見直し東大合格を果たしました。東大入学後、マンガ・ドラマ「ドラゴン桜2」の編集や監修に参加するほか、著書「「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書」(東洋経済新報社)がベストセラーとなっています。

実はシンプルに考えれば解きやすい東大問題

難解と思われがちな東大の入試問題。しかし、「東大の入試問題の過去問マニア」を自認する西岡さんによると、小学生の知識レベルで解ける問題もあるのだとか。実際、本書で紹介されている問題1問を小学生30人に出題したところ、半数近くの12人が正解したそうです。

 

東大のウェブサイトにあるアドミッション・ポリシー(入学者の受け入れ方針)には、「知識を詰めこむことよりも、持っている知識を関連づけて解を導く能力の高さを重視します」とあり、東大入試は小学生でも解くことができる一方で、頭がかたい人ほど解けないようになっていると、西岡さんは述べています。確かに大人になると、先入観に凝り固まって見えるものも見えなくなってしまいがち。子どものほうがあっさり解けるのかもしれません。

 

「数学」「理科」「社会」「英語」「国語」と各科目別に章立てされ、実際に出題された問題が西岡さんの解説とともに掲載されています(東大は模範解答を公開していないため、西岡さんが作成した解答例は巻末掲載)。

 

まあなんといいますか、私は数字にめっぽう弱く、請求書も必ず2回は書き直すはめになるほど……(笑)。そこでなるほどと思ったのが、数学の章の1問目に取り上げられている1952年の東大入試。「何人かがある距離を自動車で行くとき、大型なら2台、小型なら3台いる。大型の料金は1台につき最初の1kmまでが100円、その後320mごとに20円を加える……」といった、距離と料金の相関関係を導き出す問題です。

 

解説で、西岡さんはこの問題は数学に対して根強くある「数学の知識は、日常生活とは無縁」という思い込みの裏を突いていると分析しています。日頃から交通手段を比較してどちらのほうが安いか検討している人にとっては取り組みやすい問題。関数や公式ではなく、料金表を作って整理するのが糸口となっています。「大事なのは、難しく考えず、シンプルに考えること」と西岡さん。東大でもかつてはこうした問題があったのですね!

 

理科や社会の問題も身近な日常の知識と結びつければ意外とさらっと解けて驚き。最後の章は私の得意(?)な国語。「日本文学史上における価値高き作品、もしくは作家を10選び、その理由を簡単に述べよ」。これは非常にざっくりした設問に思えますが、実はこの問いには隠された意図があると西岡さんはいいます。その真意とは?

 

問題のセレクトも絶妙で、解説で語られる思考法は仕事や日常生活にも役に立ちそう。いかにも頭が柔らかい人が書いている文章という印象で、しっくりくる例えで難しい内容もスッと伝わってきます。親子で一緒に頭のストレッチとして挑戦してみてはいかがでしょうか。

 

【書籍紹介】

小学生でも解ける東大入試問題

著:西岡 壱誠
発行:SBクリエイティブ

なぜ、この問題が大人になるほど難問に変わるのか? じつは東大は、国語、数学、英語、理科、社会などの科目を問わず、解こうと思えば小学生でも解けてしまうような入試問題をこれまでに数多く出題しています。なぜ、小学生でも解ける問題が難問になってしまうかといえば、知らず知らずのうちに身につけてしまった「思い込み」や「知っているつもり」「わかっているつもり」の落とし穴にはまり、小学生のようにシンプルに考えることができなくなってしまうから。頭のカタイ人ほど解くのに手こずってしまうこれらの問題をはたして、あなたはいくつ解くことができるか!?  大人から子供まで、考えることの楽しさが味わえる! 親子でもぜひ一緒に挑戦してほしい1冊です!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

切ないのに笑える! 生きることが美しくさえ思えてしまう、芸人チャンス大城さんのエッセイ『僕の心臓は右にある』

『水曜日のダウンタウン』(TBS系)などのお笑い番組で、たびたび登場するチャンス大城さん。どこか憎めない人柄が面白く、チャンネルを合わせると最後まで見続けてしまいますよね。そんなチャンスさんですが『僕の心臓は右にある』(大城文章・著/朝日新聞社・刊)というエッセイを出版されています。

 

正直、どんなことが書かれてあるんだろう……ネタ本かな? なんて軽い気持ちでページをめくっていたのですが、途中泣いちゃうくらい心を揺さぶられるエッセイでした。今回は「え〜最近よくドッキリ仕掛けられている、チャンス大城でしょ?」と思っている人にもぜひ読んで欲しい、泣けて笑えるエッセイをご紹介します。

 

右に心臓があることで経験したさまざまなこと

タイトル『僕の心臓は右にある』は、チャンスさんの身体に由来するものです。吉本興業のプロフィールにも「右心臓の持ち主。心臓以外の臓器も全て左右反転であり、内臓逆位と経穴(ツボ)も左右反転。」と書かれてあり、テレビでもその話をされていることもあったので、知っている方も多いかもしれませんね。

 

そんなチャンスさんですが、小学生の健康診断でお医者さんに聴診器を当てられた際のエピソードをテンポよく紹介しています。

 

「いったん中断してええか」
お医者さんはそう言うと、興奮した表情で左右にいるお医者さんを集めました。
「みんな、来てくれー」
「どないしたんや」
「あのな、この子、心臓、右にあんねん。聴いてみて」
たくさんのお医者さんが、まるでタワレコの試聴みたいに、かわるがわる僕の胸に聴診器を当てていきます。
「ほんま、右にあるわ」
「ほんまやろ」
「ほんま、右や」
「そやろ」
「噂には聞いたことあるけど、本物は初めてや」
これが、僕の右心臓史の始まりでした。

(『僕の心臓は右にある』より引用)

 

ここだけ読むと笑ってしまうのですが、実はこのエピソードがきっかけでいじめられ、中学生になっても『北斗の拳』キャラクターで、心臓の位置が逆にある「サウザー」とあだ名を付けられ、いじめが続いたそうです。「いじめ」と聞くと、本当に心が辛くなってしまうのですが、チャンスさんの文章は不思議で読んでいくうちに元気になってくるのです。切ないのに笑えちゃう、悲しいのに元気になれる、どこか落語の滑稽話を読んでいるような、そんなおかしさが詰まっているエッセイになっています。

 

チャンスさんをお笑いの道へ導いたのは……

チャンスさんは、吉本興業のNSCに二度入学しているそう。一度目はなんと14歳だというから驚きです。そのきっかけとなったのが、ダウンタウンが出演していたテレビ番組『4時ですよ〜だ』(毎日放送)の素人参加コーナー。

 

当時のチャンスさんは、学校に行けばいじめられ、家にいても親に怒られ、どこにも居場所がない状態だったそうです。そんな中、「俺にはお笑いがある!」と一念発起し、番組オーディションに参加。見事合格し、優勝までしてしまうのです。

 

しかし、これで学校でのいじめが止むことはありませんでした。優勝した翌日には優勝賞品を不良グループに取られてしまったり、「図書館の本を盗んで、ギネス記録になるか確認しろ」と不良グループに言われたり、散々です。そんなこんなで、一度目のNSCはやめてしまうのですが、高校に入学してもここには書けないほど窃盗事件や警察にお世話になるような出来事に巻き込まれていきます。自ら事件を起こすのではなく、不思議なくらい巻き込まれるんです。

 

ちなみに14歳でNSCに入学した時の同期には、FUJIWARAや千原兄弟もいたそう。もしそのまま芸人になっていたら……、いじめのない場所だったら……、と読みながら想像してみましたが、きっと今のチャンス大城にはなっていなかったと感じました。振り返ってみれば、すべての出来事が今のチャンスさんにつながっているんですよね。よく「生きてればいいことあるよ!」なんて言葉も聞きますが、エッセイを読んでいくと、良くも悪くも人生って本当に何が起こるかわからないんだなぁとしみじみしてしまいました。

 

失敗の連続……マントル芸人と言われても、這い上がれた理由

高校を卒業して、二度目のNSCに入学しお笑い芸人となったチャンスさん。コンビ結成、解散、結婚、出産、鬱病の発症、酒に溺れて離婚などなど大人になってからも壮絶な人生が続きます。地下芸人どころか、マントル芸人とまで呼ばれるほど、日の目を浴びることなく30年以上お笑いを続けられた理由はどこにあったのでしょうか?

 

一度目のNSC入学で同期だった千原せいじさんの家に泊まった際、せいじさんに隠れてエッチな本を読みふけっている時(笑)、こんな言葉をかけられたそう。

 

「おまえ、その執念、忘れるなよ!」

(『僕の心臓は右にある』より引用)

 

この言葉がチャンスさんの座右の銘。どうしてこの言葉が大切なのか、なぜ救いになったかは、ここでは書ききれないほどのエピソードがエッセイに綴られていますので、ぜひ読んでください!(笑)

 

お笑いが好きな人も、今どん底にいると感じている人も、夢に向かって頑張っている人もみんなの胸にグッとくるお話が必ずあるはず。私はページをめくる手が止められず一気に読んでしまいましたが、どこから読んでも、1つのお話だけ読んでも楽しめるエッセイなので、秋の夜長におすすめです。

 

 

【書籍情報】

僕の心臓は右にある

著者:大城文章
発行:朝日新聞社

チャンス大城、いじめられっ子だった尼崎時代、東京での地下芸人時代をはじめて語る。あなたの想像を超えてくる実話。

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秋の行楽にオススメ! 建築と庭の交響曲「三渓園」を10倍楽しむための『三溪園の建築と原三溪』

横浜の本牧に「三溪園」という庭園があるのをご存じでしょうか? 広大な敷地に、見事な庭や建物が配された場所です。「三溪園」という命名は、創設者である原富太郎の号「三渓」にちなんだものだといいます。一個人がここまで立派な庭を有していたとは、にわかには信じられないほどです。かつての日本には、イギリスの荘園領主のような存在があったのだと、驚かないではいられません。『三溪園の建築と原三溪』(西和夫・著/有隣堂・刊)は、こうした希有な存在である「三溪園」について、丁寧に解説し、導いてくれる書です。

 

原三溪が作った広大な庭園

原三溪こと、原富太郎は、 絹の貿易によって、豊かな富を蓄えた実業家です。ただし、お金儲けだけに奔走した人ではありません。美術品の収集家としても有名で、個人所蔵とは思えないほど見事な美術品を集めました。「三溪園」はそんな三溪が、自邸として住むために作られたものです。ただし、原三溪はこの庭を独占しませんでした。1906年に、市民に公開し、一般の人が楽しむことができるようにしたのです。

 

私もこの夏、出かけました。緑まぶしい丘に抱かれるように大きな蓮池があり、心を潤してくれます。庭園には四季折々、美しい花が咲き乱れますので、一年を通じて、様々に面影を変える庭を楽しむことができます。春には桜が咲き、夏には蓮の花を楽しむことができます。さらに、秋は見事な紅葉にうっとりし、冬は冬で趣のある庭に静寂な時を感じることができるようなど、工夫が凝らされています。

 

「三溪園」の見事さは、庭だけに限ったことではありません。庭を歩いていると、様々な建物に出会うことができます。出会うと言うより、出くわすと言いたくなるほどです。樹木の間から、住宅や茶室、お寺の本堂などが、ふと姿を表すのです。「まるで建築博物館のようだ」と言われるのはもっともなことだと、納得します。こうした多種多様な建物が、周囲の花や木々と呼応しあうかのように、その美しさを競うのですから、その魅力の多面性にため息が出ます。

 

「三溪園」の建物には、大きな特徴があります。それは、建物が新しく建てられたものではなく、あちらこちらから移築されたものだということです。乱暴な言い方をすれば中古なわけですが、ただの中古ではありません。今にも朽ち果てそうな建物をわざわざ移築し、気が遠くなるような煩雑さに耐え、手をかけてなおし、新しく再生させるのです。移築する前には、今にも崩壊しそうな建物もあったといいます。新しく建てたほうが、手間もかからず、経費も輸送費も不要で、経済的であったはずです。しかし、原三溪はそれをしませんでした。一気に引き倒す代わりに、崩壊しかけた建物を新しく蘇らせることに専念したのです。実業家でありながら、同時に、優れた美術家であることを感じさせるエピソードだと思います。

 

建築と庭の交響曲

三溪園の見所は? と問われると、あまりにもたくさんあり、どれから紹介したらいいのか迷います。『三溪園の建築と原三溪』には、最初に建物の配置が掲載されていますので、それを参考にしながら、観て歩いてはいかがでしょう。おすすめのコースは以下のようになります。

 

まず正門を入り、左に大池、右に蓮池を見ながら進みます。大池の水際に藤棚があり、蓮池の奥が睡蓮池になっています。睡蓮池の右には、三溪が自邸として建てた茅葺きの大きな建物があります。後に鶴翔閣と名付けられたものです。

 

さらに進むと、管理事務所と三溪記念館があり、事務所の右手に御門と呼ばれる立派な門があります。記念館は三溪を理解するために、是非、立ち寄って頂きたい場所です。御門の右手には白雲邸と呼ばれる建物があります。三溪が隠居所として建てたものだそうです。

 

白雲邸の塀に沿って行くと、正面に臨春閣があり、さらに進むと旧天瑞寺寿塔覆堂があります。三溪園で最も早く移築された建物です。他にも、月華殿、春草蘆、旧燈明寺三重塔などなど、様々な建築が考え抜かれた配置で建てられています。

 

こうした建物を取り囲む庭が四季折々、違う姿を見せるので、行く度に違う景色を楽しむことができます。もし、順列組み合わせをしたなら、その数は無限大となるでしょう。

 

『三溪園の建築と原三溪』はこうした三溪園の姿を「建築と庭の交響曲」と、表現しています。まさにぴったりの言葉だと思います。交響曲を構成する一つ一つの建物に、大変、詳しい説明があるので、それを参考にしながら、三溪園を堪能していただきたいと思います。

 

コロナ禍のもと、どこかギスギスしてしまう心と運動不足の体に息を吹き込むことができるに違いありません。そして、改めて思うのではないでしょうか。日本人に生まれて良かった、と。私はそう思いました。また出かけてみるつもりです。

 

【書籍紹介】

三溪園の建築と原三溪

著者:西和夫
発行:有隣堂

横浜市中区本牧にある三溪園は、生糸貿易で財を成した原三溪(富太郎)が、自邸を開放した庭園である。園内には、各地から移築された多種多様な建築物が散りばめられ、「建築の博物館」とも評されている。原三溪は、古美術の収集や近代日本画家の育成に重要な役割を果たしたことはよく知られているが、建築に対しても高い見識をもっていた。本書は、明治三十九年(一九〇六)の開園以来一〇〇年を過ぎた今、忘れかけられた三溪園の建築物の、歴史と価値や移築の経緯などを紹介し、園内を散策しながら、それぞれの建築の鑑賞へと誘う。
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「夜の闇に浮かぶ路上の宇宙船」を撮影して15年…「デコトラ」だけを集めた秦 淳司の写真集「DEKOTORA」

フォトグラファー秦 淳司さんの写真集「DEKOTORA(デコトラ)」が10月4日に発売されました。

 

ボディにペインティングや電飾を施した、世界に1台の唯一無二なクルマ、デコトラ。1970年代に映画「トラック野郎」で一大ブームを巻き起こし、近年では日本のポップアートとして世界から注目されていますが、絶滅の危機に瀕しています。

 

雑誌や広告などで活躍するフォトグラファーの秦さんは、15年前にデコトラを撮影したときに、その魅力に引きこまれて以来、その姿を撮り続けてきました。秦さんがデコトラを撮影するのは、いつも夜。夜の闇に浮かび上がる電飾を点灯したデコトラたちは、あたかも路上の宇宙船のようです。

 

今回発売となる写真集は絵本などに使われる厚紙を使用した分厚い仕上がりで、厚さは5cm、重さは2.4kg。各ページを飾る写真ともども重量感あふれる一冊となっています。同封されている別冊には、編集者の都築響一さん、鈴木正文さん、安藤夏樹さんが寄稿。デコトラや秦さんのことを語っています。

 

税込価格は8800円。写真集の発行にあわせ、メタバースのギャラリーで作品展示も企画されており、作品はNFTでの販売も計画中です。12月9日~25日には、東京・神楽坂「Roll」で写真展も開催予定です。

 

【「DEKOTORA」概要】

2022年10月1日 初版第1刷発行
著者:秦 淳司
写真著作権:秦 淳司
発行者:Cyaan
発行所:株式会社 ダイアモンドヘッズ
アートディレクション&デザイン:株式会社 ダイアモンドヘッズ
スーパーバイザー:安藤夏樹(プレコグ・スタヂオ)
テキスト:都築響一 / 鈴木正文 / 安藤夏樹 / 渡辺悦男
翻訳:ワーズワース
校正:山田洋子
スペシャルサンクス:黒潮船団 / 宮内龍二、宮内美紀 / 全国哥麿会 / 関野和也
プリンティングディレクション:北川大輔(カラン株式会社)
印刷:東京リスマチック株式会社
製本:株式会社 博勝堂
ISBN:978-4-9912780-0-6

 

「DEKOTORA」公式サイト

https://www.heads.co.jp/dekotora/

もっとも危険な場所にある国宝は? 国宝にまつわる意外なエピソード100連発~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。人様のおうちにお呼ばれし、趣味で作ったという茶碗なんかが出てきたら、「いや~、これは国宝級ですね~」なんて持ち上げることがありますが、よくよく考えると国宝ってなんなのでしょうか(笑)。重要文化財とはどう違うのか、いったい誰が決めているのか、国宝になったら国が買い取ってくれるのか……。国宝ということは国の宝で、つまり私も日本国民なので私の宝でもあるわけです、たぶん。

 

馴染みがなかった国宝を知るための本

そんないろいろな疑問も解決してくれるのが、このカラー版 物語で読む国宝の謎100』(かみゆ歴史編集部・著/イースト新書Q)

 

著者のかみゆ歴史編集部は、「歴史はエンターテイメント」をモットーに、雑誌・ウェブから専門書までの編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。主な著書に『日本の神様と神社の謎100』、『日本の仏像とお寺の謎100』(イースト・プレス)、『日本刀ビジュアル名鑑』(廣済堂出版)などがあります。本書は2021年に発売された『物語で読む国宝の謎100』のカラー版です。

カビだらけになってしまった国宝とは?

100個のQ&A方式で国宝が見開き2ページほどで紹介され、パラパラ気軽に読める構成。「Q1 そもそも『国宝』とはどんな制度か?」「Q3 『国宝』『重要文化財』『重要芸術品』一体何が違うの?」など、第1章には基本的な知識が並んでいます。

 

国宝を審議するのは文化庁の「文化審議会(文化財分科会)」。1年に複数件登録されることもあれば、ゼロの年もあるとか。そもそも、文化財保護法に基づき、希少性が高い文化財を「重要文化財」と呼び、そのなかでもさらに価値があるものが「国宝」に指定されるのだそうです。

 

そして第2章以降は「絵画」「彫刻」「工芸品」「考古・古文書」「建造物」と、国宝が分野別にセレクトされています。たとえば第2章「絵画」の最初は「高松塚古墳壁画」。「Q11 世紀の大発見なのにどうしてカビだらけになっちゃったの?」という質問をフックに、その謎を解いていきます。

 

1972年に発見された古墳内の壁画は鮮やかな彩色が残り、特に西壁の女子群像は「飛鳥美人」と称されるほどでした。しかし、石室に短時間人が入るだけで温度や湿度が変化し、1980年にはカビが大量発生してしまったとか。

 

その後、薬品でカビが取り除かれ、今は古墳全体を覆う断熱覆屋と空調設備で温度と湿度が一定に管理されるようになっているそうです。ほかにも厳島神社、犬山城など国宝を維持管理するのも大変だなと思えるエピソードが多く、貴重な宝を次代につなぐのも国宝制度の役割なのでしょう。

 

紹介されているなかで、私ができれば直接現地に行って見てみたいと思ったのは、「Q76 世界一危険な場所にある国宝とは?」で紹介されている鳥取県の「投入堂」こと「三仏寺奥院」。

 

断崖絶壁に無理に押し込まれたかのような建築物で、修験道の創始者・役行者(えんのぎょうじゃ)が、法力で建物を手のひらに乗るほど小さくして岩壁のくぼみに投げ入れたという伝承があるそうです。なんと実際の建築方法はいまだ解明されておらず……。荒々しい自然と神秘の技術が一体になった貴重な遺物です。

 

カラー写真が掲載されているので、色味もはっきりとわかり、馴染みがなかった国宝にも興味がわいてきます。単なる羅列ではなく、人に教えたくなるような話題のタネがQ&A方式で連なっているのが本書の面白さ。カジュアルに国宝を学ぶならこの1冊です。

 

【書籍紹介】

カラー版 物語で読む国宝の謎100

著:かみゆ歴史編集部
発行:イースト・プレス

国宝はいったい誰が、なぜ、どのような基準で決めているのか。博物館や美術展で「国宝」と記載されている作品を見たことがあると思うが、国宝が指定されるようになった背景を説明できる人はあまり多くないだろう。本書では、「この文化財がなぜ国宝となったのか」「どこが貴重なのか」など、国宝にまつわる100の謎を厳選し、カラービジュアル・図解つきでわかりやすく解説。国宝一点一点の美術・資料的価値が、物語・エピソードとして読み解ける一冊。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

秋の行楽シーズン、古都を歩いてついでに健康になろう!−−『健康さんぽ 京都』

「京都に行きたい、京都を知らないなんて異国に住む日本人として恥ずかしい」と、フランスから帰省した娘が言うので、この夏、娘ははじめて、私としても数十年ぶりに京都に出かけた。猛暑の中だったが、古都の魅力を満喫。やはり京都は何度でも行きたい街だと思った。そして今、季節は移り、秋になった。これからの京都は紅葉に染まり一年で最も美しい姿をみせることだろう。そこで紹介したいのがこのガイド本、『健康さんぽ 京都』(朝日新聞出版・刊)。

 

歩いて街を楽しむという主旨の観光ガイドで、4000歩、6000歩、8000歩、10000歩という歩数から選ぶ34のコースが紹介されていると共に、足が痛くならず、また疲れにくい歩き方も教えてくれるありがたい一冊なのだ。

歩数と距離と時間の関係

本書には、さんぽデータ早見表があり、それによると1000歩で歩ける距離は0.7kmで所要時間は10分だそうだ。京都のどこを、どういうルートで歩くかをこの本では歩数で分けている。

 

さくっと4000歩コース”では、約3000~4500歩、歩行時間は約30~45分、歩行距離は約2~3kmの7つのコース。

ほどよく6000歩コース”では、約5000~7000歩以内で、歩行時間は1時間前後、歩行距離は約4~5kmの9つのコース。

しっかり8000歩コース”では、約7000~9000歩以内で、歩行時間は1時間半以内、歩行距離は約5~6kmの11のコース。

がんばる10000歩コース”では、約9000~13000歩、歩行時間は2時間前後、歩行距離は約6.5~9kmの7つのコース。

 

また、各コースには消費カロリーも明記されている。そしてガイド本に欠かせない、地図はもちろんスマホでコースと現在地がわかるGoogleマップ付きのQRコードもそれぞれのページにあるので迷わずに散歩が楽しめるはずだ。

 

まずは体に負担をかけない歩き方を身につける

巻頭には動作学研究家の木寺英史先生による正しい歩き方の解説が詳しく書かれている。まず、歩くことで関節の痛みや疲れにつながる3大動作を知り、これを修正する必要があるそうだ。

 

現代人に多くなっていると感じるのが、足首やひざの関節を伸ばして歩く人。これは自分の体を持ち上げながら歩いているのと同じこと。それだけ筋力を使う歩きになるのです。蹴る動作、体をひねる動作も体への負担になります。こうした体に負担がかかる歩行を「伸ばす歩き」としておきましょう。

(『健康さんぽ 京都』から引用)

 

木寺先生による歩行メソッドは筋力に頼らない「曲げる歩き」だ。胸を張った姿勢で立ち、上半身をやや前に傾け、ひざを曲げて足を前に送る。このとき、つま先とひざはやや外に向けていると負担軽減になるそうだ。これを基本に、長時間歩くときのリズム、階段の上がり方、ダイエット効果のある歩き方など、それぞれがイラスト付きでわかりやすく解説されている。さらに、ひざや腰に痛みを抱えている場合はこれを改善する方法も記されている。

 

新撰組の聖地巡礼、壬生を3748歩

では、京都を楽しむ散歩コースの一部を紹介してみよう。まずは、さくっと4000歩コースのひとつで、幕末ファンならぜひ歩いてみたいのが壬生。スタート地点は市バス、壬生寺道停留所。ここから徒歩2分で新撰組結成の地である八木邸に着く。そこから、さらに2分歩くと近藤勇の銅像がある壬生寺に。さらに8分歩いて光縁寺で当時を偲ぶ。そこからは17分かけて飲食店の並ぶ通りを抜けて、坂本竜馬ゆかりの武信稲荷神社を訪ねる。最後に昔ながらの商店が残る三条会商店街を歩き、人気のカフェもあるので休憩しならがゆっくり見て回りたい。そして終点は市バス、堀川三条の停留所。このコースの歩行距離は約2.6km、歩行時間は約37分、消費カロリーは約107kcalとなる。

 

源氏物語の舞台、宇治を6709歩

雄大な宇治川の清流を眺めつつ歩くコース。スタートは京阪・宇治駅で、ここから4分歩くと紫式部像のある夢浮橋之古蹟に着く。さらに5分歩くと、10円硬貨でおなじみの平等院、ここの鳳凰堂は息をのむ美しさだ。次は8分歩いて、宇治市営茶室・対鳳庵で抹茶文化に触れる。その後は2分歩いて十三重石塔、13分歩いて茶筅塚、そこからすぐの興聖寺は紅葉の名所なのでこれからの季節は見逃せない。さらに13分歩いて宇治神社、2分歩いて世界遺産の宇治上神社を訪ねる。そして徒歩17分、このコースの最後は抹茶の老舗、中村藤吉本店。ここで抹茶スイーツを味わうのもいい。そして2分歩いてゴールJR・宇治駅に着く。歩行距離は4.7km、歩行時間は約1時間7分、消費カロリーは約193kcalだ。

 

嵐山の王道観光コースを7185歩

何度訪れても心を奪われる京都随一の景勝地をしっかりと歩くコース。スタートは阪急・嵐山駅。ここから徒歩11分で法輪寺へ。ここの舞台からは嵯峨野が一望できる。さらに11分歩いて渡月橋に向かう。橋の上からは桂川の流れ、そして嵐山の景色を堪能する。次は9分歩いて世界遺産の天龍寺を訪ねる。そしてそこから5分歩くとインスタ映えする竹林の小径に着く。そのあとは、徒歩4分で大河内山荘庭園、徒歩9分で御髪神社、徒歩4分で常寂光寺、徒歩11分で野宮神社などの見どころを回り、ゴールは嵐電・嵐山駅となる。観光名所をたっぷりと楽しめるこのコースの歩行距離は約5km 、歩行時間は約1時間12分、消費カロリーは約208kcalとなる。

 

幻の都・長岡京をがんばって1万1317歩

平城京から平安京へ遷都されるまで10年間だけ存在した長岡京は四季折々の美しさにあふれた町、ここを1万歩以上歩くコースを紹介しよう。スタートは阪急・長岡天神駅、ここの西出口を出て徒歩14分で菅原道真を祀る長岡天満宮に着く。ここは春になると樹齢170年のキリシマツツジが真紅に色づく。そこから28分歩くと泉の清流水が涌き出る長法寺へ、冬には寒椿、早春にはヤマブキが境内を彩りとても美しい。さらに20分歩くと、紅葉の隠れ名所・光明寺だ。これからの季節、数百本のもみじが赤く染まり、参道は散りもみじで赤い絨毯を敷き詰めたようになり幻想的な美しさを見せる。そして27分歩くと乙訓寺に、ここは別名牡丹寺とも呼ばれ4月下旬には2000株の牡丹が見頃となる。最後は徒歩24分でゴールの阪急・長岡天神駅に戻ってくる。四季折々の花を愛でる本コースの歩行距離は約7.9km、歩行時間は約1時間53分、消費カロリーは約326kcalだ。

 

 

その他のコースもどれもこれも魅力的で迷ってしまうほど。「ああ、また京都に行きたい!」誰もがそう思う一冊で、しかも健康づくりのウォーキングを古都で楽しめるのだからこんなにいいことはない。さあ、本書を片手に紅葉の京都へ出掛けてみては?

 

【書籍紹介】

 

健康さんぽ 京都

著者:朝日新聞出版
発行:朝日新聞出版

楽しく街を歩いて健康に! 詳細地図で歩きやすい、手のひらサイズのおさんぽガイド。京都版が登場! 4千歩、6千歩、8千歩、1万歩の歩数切りで、ユニークな34コースを設定。歩数、歩行時間、歩行距離、高低差までひと目でわかるコースチャート付き。

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夜鳴きそばにサウナ! 読んだらドーミーインに泊まりたくなる本『Have a nice ドーミーイン』

旅行や出張などもできるようになってきましたが、旅先で大切なのが宿選び! 温泉が付いていて、サウナもあって、朝食も美味しくて、ぐっすり眠れる広い部屋がないかなぁ〜と思ったら、ドーミーインに行きましょう!

 

「え〜旅行でビジネスホテル?」と思ったそこのあなた!! ぜひ『Have a nice ドーミーイン』(ワニブックスNewsCrunch編集部・著/ワニブックスPLUS新書・刊)を読んでみてください。この本は、ドーミーインが大好きすぎるワニブックスNewsCrunchの編集部員さんたちが、自分たちの経験を書き残した一冊。これまでに行ったドーミーインの思い出や、非公認ガイドブックといいつつ共立リゾートの担当者さんにも取材している「愛」に満ちた内容になっています。

 

私と夜鳴きそばとの出逢い

『Have a nice ドーミーイン』をご紹介する前に、私のドーミーイン小噺を聞いてください(笑)。

 

約3年前、家族旅行で草津に行った時のことです。何も知らずにとった宿が、ドーミーインを運営する共立リゾート関連の施設でした。枕や浴衣が選べたり、夕食にはハーゲンダッツが出てきたり、温泉ももちろん最高で、テンションがどんどん上がっていきました。そして、21時頃ふらりとフロント近くへいくと「夜鳴きそば」の文字が! そう、ラーメンが無料で振る舞われていたのです!! 一夜にしてラーメンの“あの味”の虜になってしまいました。

 

ドーミーインの「夜鳴きそば」。海苔・めんま・ネギとシンプルなトッピングですが、あっさりで夜に食べると本当おいしいーーー!

 

『Have a nice ドーミーイン』を読んでいたら、どうしても夜鳴きそばが食べたくなってしまい、上京してきた妹を誘ってドーミーインへ(笑)。もう泊まりに行くというより、夜鳴きそばのために行っても価値があると感じるほど美味しかったです。

 

とにかくサービスが過剰! 多くの人が「また泊まりたい」と感じるビジネスホテル

ドーミーインはビジネスホテルなので、出張で使う人も多いでしょう。現時点で、国内外に83棟のビジネスホテルがあるのだとか。ほぼ全国を網羅しているドーミーインですが、その特徴はなんといっても「大浴場があること」です。 今では、大浴場付きのビジネスホテルも増えてきましたが、そのブームを作ったとも言える存在でしょう。

 

大きな湯船にゆったりと足を伸ばして浸かって「あぁ〜」と声が漏れてしまうだけで、もう疲れが頭のてっぺんから湯気と一緒に抜けていく感覚。ドーミーインでしか味わえない、この疲れが抜けていく感じがいいのだ。

(『Have a nice ドーミーイン』より引用)

 

わかる……! 露天風呂に、サウナ、水風呂もあるので、サウナ好きにもドーミーインにハマる人が増えているのだとか。さらにすごいのが大浴場を出た先にある高級マッサージチェア。なんと無料で使えます。他にもアイスや乳酸菌飲料の無料サービスもあるし、ホテルによってはシャンプーバーや高級ドライヤーが使えるなど至れり尽くせり!

 

ちなみにお部屋にはシャワーブースが付いているので、大浴場に行かずともさっぱりすることもできますよ。

 

ドーミーインは朝食もうまい!

「ホテルは素泊まりでいいや〜」という人も多いと思いますが、ドーミーインに泊まるなら朝食はぜひつけていただきたい! めちゃくちゃおいしいです。朝食はバイキング形式なので、和洋折衷のグルメがずらりと並びます。それだけでも十分楽しめますが、おすすめはご当地ごとに考案されている「ご当地逸品料理」です。

 

有名なところでは、すべて自分で盛り付けできる札幌の「選べる海鮮丼」(イクラ盛り放題!)、4店舗が軒を連ねる仙台では「牛たんカレー」や「牛たんシチュー」が朝から満喫できるし(しかも各ホテルによってメニューは変わってくる)、名古屋では「ひつまぶし」が、神戸では兵庫県産はりま牛を使っての「牛丼」、そして博多では本格的な「もつ鍋」や「水炊き」が提供されている(同じエリアでも、ドーミーイン、ドーミーインANNEX、ドーミーインPREMIUMによってメニューは異なる場合がある)。

(『Have a nice ドーミーイン』より引用)

 

朝からこれが食べられるって最高ですよね。旅行であれば、ご当地食材を堪能できる時間がありますが、出張だとなかなかゆっくりもできないので、ビジネスマンにも嬉しい朝食です。しかも全館11時チェックアウトが基本なので、ごろごろする時間もある! 朝食後、急いで支度する必要もありません。

 

もし、まだドーミーインに泊まったことがない人がいたら、騙されたと思って泊まってみてほしいです。きっとその旅行や出張が何倍もいい思い出になるはず! 私も夜鳴きそばを食べるために、またドーミーインを利用したいと思います。

 

 

【書籍情報】

Have a nice ドーミーイン

著者:ワニブックスNewsCrunch編集部
発行:ワニブックスPLUS新書

大浴場、サウナ、水風呂、夜鳴きそば、ご当地逸品料理…「ただ寝るだけ」から「住むホテル」へ。女性ひとりでも家族一緒でも安心、安全!令和のオアシスの快適さの秘密を探る“ドミニスタ”のためのドーミーイン非公認ガイドブック!

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アントニオ猪木は潔いプロレスラーだった−−の引退の言葉にプロレスの重みを感じた『さよなら、プロレス』

2022年10月1日、元プロレスラーのアントニオ猪木が心不全のために死去した。79歳だった。

 

猪木については、プロレスにあまり明るくない人でも顔や名前は知っていることだろう。プロレスファンにとっては、ジャイアント馬場と並び、プロレス界の象徴とっていもいい存在だ。

 

長い間闘病生活をしており、その様子をYouTubeで公開するなど、最後まで猪木らしい生き方をしていたと思う。ご冥福をお祈りします。

 

猪木は復帰をしなかった潔いプロレスラー

アントニオ猪木がプロレスラーを引退したのは1998年4月4日。東京ドームにおける対ドン・フライ戦が引退試合となった。それ以降、プロレスラーとしてリングに上がってはいない。プロレスの世界では、引退をした後にリングに復帰するということがよくあるのだが(引退とはなんぞや…)、猪木にはそれがなかった。そういうところも猪木らしい。

 

猪木にまつわる引退エピソードはそれほど書かれていない

先ほど、「プロレスの世界では、引退をした後にリングに復帰するということがよくある」と書いたが、それでもやはり「引退」という言葉は、プロレスラーにとっては重いものだ。その決断に至るには、いろいろな葛藤があったことだろう。

 

さよなら、プロレス』(瑞 佐富郎・著/standards・刊)は、23人のプロレスラーが引退を決意するまでの思いを記したノンフィクション作品。蒼々たるレスラーが並んでいる。そのなかにはもちろん、アントニオ猪木の章もある。

 

ただし、猪木のプロレスラー時代のエピソードや、元アナウンサーの古舘伊知郎とのエピソードなどが書かれているだけで、実際に引退に関しての話はない。それでも充分興味深い話ではあるのだが、ちょっと残念だ。

 

一番印象に残った言葉は「ラッキーだったな」

23人の引退したレスラーのさまざまなエピソードが読め、たいへん充実した内容なのだが、なぜか僕が一番印象に残ったのが、「はじめに」で書かれているマサ斉藤の言葉だ。

 

マサ斉藤は、自分の引退試合に自分が発掘してきた外国人レスラー、スコット・ノートンを選んだ。そして試合後にこう言っている。

 

「こうして今、喋ってられるし、水も飲める。ラッキーだったな」

(『さよなら、プロレス』より引用)

 

なんとも深い言葉だ。八百長だろうとか出来レースだとか、いろいろと言われることの多いプロレスだが、戦っているレスラーたちはそれこそ命がけで毎日リングの上に立っている。引退試合の後に、ちゃんと生きていられること。それを「ラッキー」と言うマサ斉藤は、本当に命がけでプロレスをしていたんだなと感じた。いいセリフだと思いませんか?

 

フリーランスに引退はあるのか?

僕のようなフリーランスにとっては「引退」という言葉はピンとこない。体を壊して業界から離れてしまったり、仕事がなくなって別な職業についたりという人はいるが、わざわざ「俺は●月●日でライターやめます」という同業者を聞いたことがないし、自分もどうやってこの仕事から退くのかなんて考えたこともない。

 

でも、引退の際になんか名ゼリフを吐いてみたいという気持ちはちょっとだけある。まあ、それほどの功績を世の中に残せてきたかどうかはわからないが、何か引退の際のフレーズを考えておこう。ただ、発表する場はないのかもしれないが…。

 

【書籍紹介】

さよなら、プロレス

著者:瑞佐富郎
発行:スタンダーズ

「人は歩みを止めた時に、そして挑戦を諦めた時に、年老いて行くのだと思います」ーーアントニオ猪木

なぜリングを去ったのか。数々の伝説を残し、そして現役人生に幕を下ろした23人のレスラー。引退を決意するまでの彼らの思いはいかなるものだったのか。その舞台裏の真実を熱く描く、渾身のプロレス・ノンフィクション。

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「こだわり」は「固執」を生み人生を束縛する–自分の心を自由にするための指南書『なにものにもこだわらない』

昔からネットでものを買うのは大好きだったんだけれど、コロナ禍の2年半でネット購買欲がさらにパワーアップしてしまった。そんななか気づいたのは、「こだわりの」というキャッチフレーズのグッズを買っていることが多いという事実だ。

 

こだわりって何だろう?

筆者は、何に関しても何のこだわりもないつもりで生きている。それなのに、なんで? 深層心理的なところでこだわりの品々にこだわり続けているから、こういうことになるのだろうか。

 

「こだわり」という言葉に明確な基準はない。それに、シチュエーションによっては良い意味にも悪い意味にもなる。ポジティブなかかわり方をしている限りは問題ないのだろうが、一度関係をこじらせてしまうと、さまざまなことがうまく回らなくなっていくみたいだ。ネガティブな意味でのこだわりとは何なのか。

 

自分で自分に縛りをかけるのはやめよう

なにものにもこだわらない』(森博嗣・著/株式会社PHP研究所・刊)は、ごく端的に言うなら、ネガティブな意味でのこだわりとの関係の断ち方を教えてくれる本だ。常識とかその場の空気、前例、他人の目。自宅でも学校でも職場でも、一人でいても集団の中にあっても、人間は何らかにこだわり、とらわれているのかもしれない。こうしたものはしがらみとか規範とか、場合によってはコモンセンスという言葉で表されることもあるだろう。

 

森氏は言う。何か一つに拘るよりも、あらゆることを試した結果成功を手に入れた人のほうが多いはずだ。だから、臨機応変に考えて自由に生きよう。ネガティブな意味でのこだわりとは、必要以上に固執することにほかならない。自分の手で自分から自由を奪ってしまうことだ。森氏は、こういう方向性の思考は、次のような言葉で綴られている。

 

なにものにも拘らないから、仕事や家庭にも拘りはない。こうしなければならない、というものを全部取り払って、僕は以前に比べてますます自由になった。そう、拘らないことで目指すものは、「自由」なのだ。

『なにものにもこだわらない』より引用

 

こだわりという言葉で自分に不必要な縛りをかけてしまっている人があまりに多い。森氏の眼には、そんな世界が映っているのかもしれない。

 

死生観まで含む哲学書的な内容

章立てを見てみよう。

 

第1章 「拘り」は悪い意味だった。

第2章 「拘る」のは感情であり、理性ではない。

第3章 「拘らない」なら、その場で考えるしかない。

第4章 生きるとは、生に拘っている状態のことだ。

第5章 新しい思いつきにブレーキをかけない。

第6章 自由を維持するためにはエネルギィが必要だ。

第7章 死ぬとは、死に拘るのをやめることだ。

第8章 拘らなければ、他者を許容することができる。

第9章 優しさとは、拘らないことである。

第10章 拘らなければ、臨機応変になる。

 

日々の生活での思いから死生観まで網羅した内容は、哲学書のような印象を受ける。目次を見ただけで、何かに拘ることは自分に縛りをかけ、自らの手で可能性を奪ってしまうことなのかもしれないという思いが強まる。

 

ルールを決めない

ただ、森氏は何にもこだわらないという姿勢にそこまで固執しているわけではない。そのあたりのスタンスがまた心地よいのだ。

 

「ルールを決めない」という方針は、それ自体がルールになりかねない。「なんでも」とか「絶対に」というものを排除する方針なのだから、すべてに例外なく当てはめる姿勢が間違っている、と考える。「だいたい、こうありたい」という方向性を維持していく。そんな姿勢というか生き方が、僕が望んでいることだ。

『なにものにもこだわらない』

 

そう。一番大切なのは「だいたい、こうありたい」というくらいの方向性なのかもしれない。確かに、こだわらないことを意識しすぎるあまり、それにとらわれてしまう人もいるはずだ。それでは意味がないし、少なくとも自由な状態ではなくなってしまう。

 

“だいたい”という感覚で生きる

筆者は、作家という職業とこだわりの関係を記した次の文章にさまざまな意味での本質を感じ取ることができた気がした。

 

拘らないことについて書くのは、けっこう難しい。何故かをいうと、そもそも拘るから文章が書ける。作家は、なにかに注目し、じっと見据えて考える。その対象に感情移入して、言葉を絞り出す。その一時は、つまり、書いている最中は、それに拘りつくすことになる。

『なにものにもこだわらない』より引用

 

だからこそ、文章を書くことを仕事にしている人間は特に「だいたい、こうありたい」というくらいの意識が大切なのだと強く思う。コモンセンスと呼ばれるものと自分とのバランスを取り、距離感を保っていく上でも、不可欠な感覚に違いない。だからこそ、何事に対してもフレキシブルでいたい。あ、それも拘っていることになっちゃうから、だいたいのことに対してだいたいフレキシブルでありたい、と言わせていただいておくことにする。

 

【書籍紹介】

 

なにものにもこだわらない

著者:森博嗣
発行:PHP研究所

「拘る」とは「自分はこれだと決め込む」「一度決めたことに固執する」という意味である。趣味、健康、社会のしがらみ、生き甲斐など、人間は生きているとさまざまなものに拘りたがる。否、拘らないと生きていけないと思い込んでいる。しかし、拘ることは生を不自由にし、新しい発想を妨げる要因になる。座右の銘を「なにものにも拘らない」と決めてから20年以上経つ人気小説家・工学博士の珠玉の名作、待望の文庫化!

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あなたは、ひとりでも大丈夫ですか? 老後婚活ブームがやってくる!?『50歳母が婚活して結婚しました』

婚活を始めるアラフィフ年代が周囲に増えています。人生の折り返し地点を過ぎ、強い老後不安からパートナーを探し始めるケースが多いのです。けれどアラフィフの婚活には、さまざまな苦労があるようです。

 

 

アラフィフが婚活をする理由

50代前後になって婚活を始める理由として「老後がひとりでは不安」を挙げる人が少なくありません。特に女性は「私ひとりの稼ぎでは年金も少ないし、経済的な自信がない」と語る人がいます。「パートナーを見つけて一緒に暮らせば、ひとりで暮らすよりも生活に余裕ができるから」と言うのです。

 

対して男性は「介護」を大きな理由にする人がいます。老いていく自分自身の介護のために若い女性と結婚したいと考える人もいます。さらには「自分の親の介護をお願いしたい」と希望する人もいます。そして稼ぎ手や介護者といった労働力を求めているように見える一方で、老後を共に過ごすパートナーが欲しいという気持ちも切実に持っているのです。

 

高齢者を紹介する相談所

50歳母が婚活して結婚しました』(竹書房・刊)は、漫画家である 星島ジュンさんが、自身の母親の4年に及ぶ婚活騒動を描いたコミックエッセイです。母親であるめぐ子さんは50代のシングルマザー。終わっていない住宅ローンと低年収が不安で、老後に少しでも余裕をと婚活を始めました。再婚して共働きとなればかなり楽になれるし、寂しいこともありません。

 

しかし、結婚相談所に登録した彼女は、衝撃を受けます。いきなり70代の男性を紹介されたからです。彼女の希望は同年代なのですが、相談所はなかなかそうした男性に会わせてはくれません。筆者の周辺でも「おじいちゃんを紹介された!」と激怒する女性が何人もいます。なぜこのようなことが起きるのでしょう。

 

男性が求める女性像とは

答えは単純で、自分よりも若い女性を求める男性が多いからなのです。この漫画のめぐ子さんも当初から同年代の男性を希望していましたが、同世代の男性は「子どもが産める女性を探しています」などと冷酷なことを言って断ってくる人もいるほど。逆に、70代の男性からすれば50代のめぐ子さんはとても若いので交際を申し込まれるのです。

 

女性が特に希望を出さない限り、結婚相談所が年上の男性を紹介してくるのは、男性側のニーズに合わせてのことなのでしょう。「同年代の男性を紹介してください」と強く主張してやっと紹介してくれたという話を聞きます。この漫画にもそうしたシーンが出てきます。

 

何歳でも自分磨きを

めぐ子さんのすごいところは、婚活を始める前に数十万円もかけて美容整形までして、若く美しく見られるよう自分を整えたところです。その甲斐もあってか何人もの男性からデートのお誘いが来てモテていましたし、男性からも外見を褒められています。やはり何歳であっても自分磨きは大事なのです。

 

そして気になるアラフィフ女性の婚活デート模様ですが、本では食事やカラオケや映画と、実は若い男女と大して違わない光景が描かれていました。ただ、少し違うのは、別荘や畑を所有する男性もいて、若い人よりもゆったりと時間をとって過ごすところがある点です。結婚をすごく急いでいるわけではないからか、交際期間も若い人より長めの印象です。

 

今後も婚活は高齢化か

アラフィフ世代となると、自分達だけの意思で結婚するのはなかなか難しくなります。高齢になったとはいえ親もいれば、ひとり親の場合、子どもの賛同も得る必要があるのです。また、籍を入れるとなると財産分与の権利などで揉めることもあります。老後を共に過ごすパートナーとして同棲や事実婚という形を選択するのもいいのかもしれません。

 

じわじわと高齢化している婚活市場、いまや婚活アプリを60代や70代も登録している時代。連れ合いと死別して新たなパートナーを探している人もいます。今後はアラフォーやアラカン専門の結婚相談所や婚活パーティーがさらに増え、新たなカップルが大勢誕生しそうです。恋愛や結婚を楽しむことは、若さや活気にも繋がるのではないでしょうか。

 

【書籍紹介】

50歳母が婚活して結婚しました

著者:星島ジュン
発行:竹書房

娘が独り立ちした今、私が抱えるのは老後の不安、貧乏と孤独。そんな50歳母・めぐ子が選んだ第二の人生準備はまさかの「婚活」?
アラフィフシンママに降りかかる熟年たちのリアル恋愛サバイバル!

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「あ゛」は進化した日本語なのか? 文献を紐解いて日本語の謎に迫る~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。言葉の表記って難しいですよね。今はどうかわかりませんが、昔紙媒体がメインだったころは出版社や雑誌ごとに表記統一のルールがありました。さらっと軽く「バイオリン」と書きたいのに「ヴァイオリン」と直されて、まるでベートーヴェンの重厚なソナタのようになってしまったり……(笑)。「バイオリン」と「ヴァイオリン」では感じ方もかなり変わりますよね。

 

濁点でいえば、ネットでは俳優の藤原竜也さんのセリフに「゛」をつけるのがお約束のようで、「な゛ん゛て゛た゛よ゛お゛」と表記されているのを見ると笑ってしまいます。自分では発音できないですが、のどをつまらせて苦しそうな雰囲気がありありと伝わってきて大発明だなと。濁点にはまだ発掘されていない力があるのかもしれません。

 

文献学者が考える、日本語の可能性とは?

 

さて、今回紹介するあ゛ 教科書が教えない日本語』(山口 謠司・著/中公新書ラクレ)は、濁点を出発点に日本語の変遷と可能性に迫る一冊。著者の山口 謠司さんは、文献学者で大東文化大学文学部中国文学科教授。専門は文献学、書誌学、日本語史など。『ん: 日本語最後の謎に挑む』『日本語の奇跡―〈アイウエオ〉と〈いろは〉の発明―』『日本語通』(いずれも新潮新書)など、日本語に関する著書もヒットしています。

「あ゛」の衝撃の裏にある歴史

第1章は「あ゛い゛う゛え゛お゛の誕生」。1980年代後半、日本語の「表記」と「発音」に強い興味を持っていた著者の山口さんはマンガ『らんま1/2』で「あ゛」という表記を見て衝撃を受けたそうです。主人公の早乙女乱馬が水をかけられそうになると「あ゛」や「あ゛~~~~~ん゛」と叫ぶ。その表記には「複雑で微妙な語感が響いていたのでした」と山口さん。

 

そもそも濁点は、単語の最初の文字につくと不潔感や不快感を感じさせるとのこと。江戸時代の国学者・本居宣長の指摘によれば、「古事記」「日本書紀」には濁点で始まる和語はひとつもないとか。

 

ただ「万葉集」では、山上憶良の「貧窮問答歌」に唯一「鼻、毘之毘之(びしびし)に」という表現が使われ、鼻がビチョビチョになっている様子を表しています。敢えて汚さや貧しさを連想させ、和歌の格調を破っていると山口さん。「書き言葉の可能性を大きく開いたものだったかもしれない」という考察にはなるほどと思いました。その精神は現代のマンガに受け継がれているのかもしれません。

 

第5章「五十音図の功罪」も、日本語の歴史をさかのぼって、現代の日本語が失ってしまったものを解き明かすミステリー的な読み味があり、引き込まれました。

 

小学校で習う「五十音図」。もともと五十音図の原型とされるものは平安時代の経典辞書「金光明最勝王経音義(こんこうみょうさいしょうおうきょうおんぎ)」に掲載されているそうです。ここには最古の「いろは歌」も記されていて、山口さんはこの2つについて、日本で最初にサンスクリット語を本格的に学び、使いこなすことができた僧侶・空海の思想を汲んで作られたと分析しています。

 

言葉を「情」と「論理」の2面に分類した空海。「情」はいろは歌に、「論理」は五十音図に受け継がれた。その五十音図だけを日本語の基礎とすることで、もたらされる弊害とは……。五十音図を当たり前のように受け入れてきた身としては刺激的でした。

 

言語がテーマということもあって、抽象的で高度な内容ですが、読みやすい文章でさらっと頭に入ってくるのが本書の良さ。歴史上の文献も数多く引用され、読後の納得感も高くなっています。なにより著者の山口さんの日本語に対する熱い愛が伝わってくるのがいいところ。

 

近い将来、五十音図や濁点がつけられる仮名(かな)の常識も変わっていくかもしれません。人間が生きているということは、言葉も生きているということですね。

 

【書籍紹介】

あ゛ 教科書が教えない日本語

著:山口 謠司
発行:中央公論新社

「あ゛」「ま゛」といったマンガやネットに溢れる「ありえない日本語」。現代は感情を的確に表現するうえで、発音と表記の間にズレが生じており、それを埋め合わせるべく今日もどこかで前衛的な表現が生まれている。それは「五十音図」が誕生した平安時代さながらの状況であり、一〇〇〇年に一度の転換期なのかもしれない。本書は、古代の万葉仮名、「いろは歌」、江戸~明治の文学、学校の国語教育、現代のマンガにいたるまで史実にもとづいて日本語の進化の謎に迫る。この歴史の旅を通じて、「お」と「を」、「は」と「わ」、「じ」と「ぢ」の違いなど、日本語理解が深まる一冊。学校が教えてくれない「あいうえお」の世界へようこそ!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

「地球の歩き方 JOJO ジョジョの奇妙な冒険」片手に仙台を歩いたら新しい発見がいっぱいだった!

『地球の歩き方』の進化が止まりません。7月にはなんとあの『ジョジョと奇妙な冒険』とのコラボを発売ッ! 一体、なぜ??(笑)。

 

お恥ずかしながら、ジョジョを通らずに生きてしまった私。「今から読み始めても追いつかないかな」「読み始めたら、ハマりそうで怖い」と避けてきたのですが、大好きな地球の歩き方とのコラボ……避けて通るわけにはいきません。

 

今回は、東北出身! 仙台は大学時代のデートスポットだったライターが、ジョジョの世界観を体験するために杜王町の舞台、仙台に行ってきたぜー!! グレートな内容かどうかは、この記事でチェックしてくれッ!!!!!

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

 

これが『地球の歩き方 JOJO ジョジョの奇妙な冒険』だッ!

『地球の歩き方』といえば、海外旅行のガイドブック。ハワイやフランスといった人気スポットだけでなく、現地情報が少ない中東エリアやアラスカまで幅広く紹介されています。

 

コロナ禍で「旅行」の価値観も変わっていく中で、地球の歩き方も「次の旅行に備えた旅の楽しみ」をたくさん提供しています。そこで生まれたのが『地球の歩き方  ジョジョの奇妙な冒険』、どんな内容なのか想像できません!!(笑)

 

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

 

地球の歩き方 JOJO ジョジョの奇妙な冒険

地球の歩き方 JOJO ジョジョの奇妙な冒険

2,178円(09/30 20:01時点)
発売日: 2022/07/12
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そもそも『ジョジョの奇妙な冒険』は、1987年から続く荒木飛呂彦先生の大人気シリーズ。漫画はシリーズ累計発行部数1億2000万部を突破し、アニメ化、実写化、ゲーム化とあらゆるコンテンツを通じてファンを魅了し続けています。登場するキャラクターやスタンド、独特なポージング、「だが断る」などのフレーズについてご存じな方も多いはず。

 

ここで『ジョジョの奇妙な冒険』について語り始めてしまうと、なかなか本題に入れないので、サックリお伝えしますね(ジョジョ好きな方、すみません!)。『ジョジョの奇妙な冒険』に出てくる冒険の舞台は、現実世界ともリンクしている場所多数。そのため、行こうと思えば行けちゃう場所もあるんです。

 

本書は、『ジョジョの奇妙な冒険』の世界を旅するためのガイドブックです。地球を半周する長旅から一都市滞在型まで、さまざまな冒険に役立つよう、一般的な情報だけでなく、原作エピソードを交えながら、各都市と各スポットの魅力を紹介していきます。

(『地球の歩き方 JOJO ジョジョの奇妙な冒険』より引用)

 

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

 

本書の中身も『地球の歩き方』そのまま! ジョジョの世界を『地球の歩き方』目線から深掘りすることができちゃいます。ジョジョ好きな方は「このシーンあったなぁ〜」「この時のセリフが好きなのよ〜」と楽しめますし、私のようにジョジョを通らずに生きてきた人でも、この本を入口としてジョジョの世界観を知ることができるでしょう。

 

また、原作者である荒木飛呂彦先生へのインタビューも! 荒木先生の旅の流儀から奇妙な旅のエピソードまで見開き4ページでたっぷりで語られています。

 

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

 

他にも、高橋一生さん主演でドラマ化もされたスピンオフ作品『岸辺露伴は動かない』の主人公・岸辺露伴と歩くルーヴル美術館や、世界各国オススメ記念撮影スポット、コラム、主人公たちの冒険も再現! どこを開いてもジョジョがいっぱいなので、読みながら、ジョジョの世界観を堪能することができますよ。

 

付録の「JOJO WORLD MAP」では、キャラクターたちが、どの話でどれくらい移動し、何年滞在していたのかもまとめられています。世界地図からジョジョを考察してみるとまた新しい考察も生まれてくるかも! 可能なら『地球の歩き方 JOJO ジョジョの奇妙な冒険』を片手に世界中を駆け回りたいところですが(笑)、なかなかそれも難しいですよね。

 

でも、ジョジョには日本を舞台にしたお話もあるんです! その舞台は、宮城県仙台市をモデルにした町・杜王町。なぜ仙台がモデルなのか? というと、作者である荒木先生の出身地だからッ。本書では、ジョジョの世界観を感じながら仙台を巡ることができる「杜の都1泊2日モデルコース」が紹介されています!

 

『ダイヤモンドは砕けない』『ジョジョリオン』の舞台となっている杜王町。そのモデルは宮城県仙台市。市内を散策してみると、杜王町を彷彿とさせる建造物や地名がそこかしこに見つけられる。『ジョジョ』ファンならば一度は訪れてみたい土地だ!

(『地球の歩き方 JOJO ジョジョの奇妙な冒険』より引用)

 

これは行くしかない! ということで、第4部『ダイヤモンドは砕けない』をガッツリ読み込み『地球の歩き方 JOJO ジョジョの奇妙な冒険』と、仙台に冒険してきた様子をお伝えさせていただきます。

地球の歩き方 JOJO ジョジョの奇妙な冒険

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新しい仙台の魅力を発見できる「仙台の歩き方」

仙台へは東京から東北新幹線で、1.5時間。思ったより近い場所にあるので、思い立った勢いで行けちゃう距離! 地球の歩き方を片手に、仙台市内を冒険してみましょう。

この日は雨だったので、アンジェロが出てくるのでは……と不安を抱えながら下車

 

まず向かったのは、広瀬康一くんの苗字と同じ、広瀬川! 仙台駅から八木山方面に向かうバスに乗り、霊屋橋・瑞鳳殿入口の停留所で降りるとこんな景色がッ!

 

夏の花火大会や秋の芋煮会など、季節ごとのイベントの会場にもなる広瀬川

 

さらに、バス停から10分ほど歩くと、『地球の歩き方 JOJO ジョジョの奇妙な冒険』で紹介されている「縛り地蔵尊」というぐるぐる巻きの縄に縛られたお地蔵さんをみることができます。

 

「人間のあらゆる苦しみや悩みを取り除いてくれる」お地蔵さんとのこと。たっぷりお願いしてきました(笑)

 

この周辺から仙台市内へ向かっていくと、いろんなジョジョスポットに出会えます。例えば、国道286号線に出た交差点で振り返るとミヤテレタワーがッ!

 

閉じ込められてしまいそうな鉄塔! この日はあいにくのお天気でしたが、夜間にはライトアップされます。

 

さらに、ジョジョ好きなら外せないスポット、ローソン柳町通店も発見!

 

実はこの店舗、過去に数度「ジョジョ」とコラボし、作中の架空のコンビニエンスストア「OWSON」に扮した店舗です。中にも入りましたが、ちゃんとローソンでした!

 

観光地ではついついバスや交通機関を使ってしまいますが、街中にジョジョスポットが点在しているので、歩いていると自分もジョジョの世界に入り込んだような気持ちに。体力が許すのであれば歩くことをおすすめします。

 

そして、仙台といえば屋根付きのアーケード!! ファッションやグルメなど堪能できますが、この中に最強のジョジョスポットがあるんです。

 

ドーーーーン!! 『むかでや』さんです。

 

 

『むかでや』さんは、1934年に創業した履物店。ジョジョでも、吉良吉影が上着のボタンつけをしたお店として登場します。お店には連日のようにジョジョファンがやってくるそうで、店員さんとも楽しくお話しできました。

 

続いて向かったのは杜王グランドホテル! ではなく『江陽グランドホテル』です。

 

杜王町を訪れた空条承太郎が宿泊していたホテルのモデルです。

 

のんびり時間を過ごすならホテル内のレストラン『ロンシャン』でティータイムも

 

ホテル内の装飾品は何もかもエレガント。彫刻やステンドグラスの照明を眺めているだけでも優雅な気持ちになれるので、承太郎のホテル生活妄想も広がってしまいました。

 

ホテルから歩いてすぐのところには、定禅寺通があります。約700メートルのケヤキ並木が圧巻! 杜の都のシンボルとも言えますね。

 

12月は「SENDAI光のページェント」のイルミネーションでキラキラになります。東北人なら一度は訪れるであろうデートスポット!

 

散策していると、ジョジョに出てきそうなポージングの銅像を発見ッ! せっかくなので……と、さまざまな角度から撮影してみました。

 

イタリアの彫刻家エミリオ・グレコの作、作品名は「夏の思い出」。後ろ姿もかっこいい!!

 

何気ない銅像ですが、ジョジョフィルターを通すと「作者がイタリア? 何か関係あるのでは?」と思えてくるから不思議です(笑)。

 

この日は日帰りで杜王町……いや、仙台市をあとにしました。最後に立ち寄ったのは、駅ビル内にある牛たん通り!

 

 

ジョジョでは杜王町の名物として「味噌味の牛たん焼き」が出てきます。この日は「牛たん焼き助」さんで、塩味と味噌味のミックスを頼んで食べ比べすることにしました。

 

左側3枚が塩味、右側3枚が味噌味。どちらも分厚くてうんまぁーーい!

 

初めて食べた「味噌味」は、コクも深くて噛めば噛むほどじゅわっと旨味が飛び出してくるぅ〜〜〜。さっぱりとした塩味も美味しいですが、味噌味を一度食べちゃうと戻れないかも……。まだ未経験の方は、ぜひ味噌味にチャレンジしてみてくださいね。

 

お土産を購入し、新幹線で東京へと戻りました。ジョジョ好きにおすすめのお土産を2つご紹介します。1つめがふじや千舟 本店の「支倉(はせくら)焼」。白餡の和菓子……かと思いきや、バターが香るコーヒーとも相性ばっちりな洋菓子テイスト。

 

もう1つが岩手銘菓の「ごま摺り団子」。ジョジョのように「ブッチュウン! ボドボドボドボド!」と、ならないように気をつけて食べましょうね。

 

今回は10時間ほどの滞在でしたが、た〜〜〜っぷりジョジョの世界を楽しむことができました。私のジョジョ歴も浅いので、しっかり漫画を読んでから、改めて『地球の歩き方 JOJO ジョジョの奇妙な冒険』を片手に、江陽グランドホテルに泊まって満喫したいです(笑)。

 

そして叶うことなら、『地球の歩き方 JOJO ジョジョの奇妙な冒険』に掲載されている他の国にも行ってみたい!  巻末には『地球の歩き方』ではおなじみの旅の準備と技術もジョジョバージョンが掲載されています。「旅で使えるジョジョ語」や「一緒に旅したいキャラクター&スタンド」など個性豊かな情報もあるので、来るべき日に備えてしっかり勉強しないと!

 

実際に足を運んでみることで、よりジョジョの魅力を堪能できるガイド本でした。気になる方はぜひ、『地球の歩き方 JOJO ジョジョの奇妙な冒険』をゲットしてみてくださいね。そして杜王町にもぜひ遊びに出かけてみてください! 今までにはない冒険を楽しめるはずです。

 

地球の歩き方 JOJO ジョジョの奇妙な冒険

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肌はぜったいにこすらない! 目からうろこのスキンケア法とは? 『一週間であなたの肌は変わります』

コロナ禍のもと、仕事の打ち合わせはネットを利用する毎日が続いています。そのため化粧品をほとんど使っていません。毎日、家にいるので、メイクする必要がないのです。外出先から帰り、クレンジングで化粧落としをするという習慣も今や昔という感じです。

 

元々、私の洗顔は、いい加減でした。朝はパシャシャと水で洗うだけ。夜は入浴時に石けんで顔を洗うものの、すすぎはシャワーをじかに当てしておしまいです。「これが一番、楽ちんだわ」と思っていたのですが、最近、なんだか顔がくすんでいるような気がしてなりません。晴れてコロナが収束し、外出するようになったとき、果たして社会復帰できるだろうかと不安になり、『1週間であなたの肌は変わります』を読みました。

 

今までのスキンケアをみなおす

そして、驚きました。私が今までしてきたスキンケアは、間違いだったと知ったからです。振り返ってみれば、コロナ禍に関係なく、メイクを始めたころから、私のスキンケアは間違っていたようです。自分の肌に合うかどうか頓着せず、なんとなく買ってきた化粧品を使っていました。おまけに「何もしない方が肌にはいい」と、勝手に決めつけていました。ニキビなどの肌トラブルがなかったので、安心していたのです。ところが、年を重ねるにつれ、シミやシワに悩むようになり、突如として、「これは大変。手遅れになる」と焦るようになりました。

 

私のズボラぶりを見るに見かねたのでしょう。知り合いがアメリカの基礎化粧品をすすめてくれました。使ってみたところ、肌に合ったので、定期的に購入するようになりました。ようやく安定したスキンケアができるようになったとほっとした矢先、日本での販売が打ちきりとなってしまい、私は窮地に立たされました。ネットで購入しようと思うものの、商品があまりにも多く、どれを買ったらいいのかわからないのです。

 

そんな私にとって『一週間であなたの肌は変わります』は、美の手引き書となりました。スキンケアには実に色々な方法や意見があります。けれども、これこそが正解、私の方法が一番最適と自信を持って言い切ることができる人は少ないのではないでしょうか。肌は生きものです。おまけに、それぞれの人がそれぞれの肌を持ち、様々な事情を抱えて生活しているのですから、多くの人が迷い、悩むのも当然です。

 

中には「私にはこれでいい」と、勝手に決めつけ、正しいかどうか検証することなく、自己流のスキンケアを続けている人もいます。私もその一人でした。

 

著者のスキンケア・ヒストリー

『一週間であなたの肌は変わります』の著者・石井美保は、今や多くの雑誌でひっぱりだこの美容家です。主宰する美肌サロンで彼女を指名しようと思ったら、かなり待たなければなりません。『1週間であなたの肌は変わります』の写真を見ると、「あぁ、こうなりたい」と思うような美肌の持ち主。私などもう手遅れかと、絶望しそうになりました。

 

けれども、彼女もかつては、肌のトラブルに悩んだいたというではありませんか。トラブルを解決しようと熱心にケアすればするほど症状が悪化していったといいます。いわゆる負のスパイラルにはまっていたのです。どちらかといえば色黒で、肌に自信を持てず、カメラを向けられるのも好まなかったといいます。

 

その頃の著者は、欠点を隠すためにファンデーションを厚塗りしていました。当然、落とすときは洗浄力の強いものを使わなければなりません。綺麗に落とそうと、ゴシゴシこすり、また翌日には厚化粧、そんな生活を続けていたそうです。『1週間であなたの肌は変わります』の中で、著者は隠すことなく、自分の肌ヒストリーを公開しています。

 

まずは20代後半は、肌にコンプレックスがあったため、それを隠すため、メイクでカバーしようと必死でした。それなのに、肌の状態は悪くなる一方。とくに毛穴が目立つのが、コンプレックスでした。ところが、とあるきっかけで、洗顔方法を変えたところ、みるみる効果が出てきて、30代になると、毛穴も目立たなくなり、次第に乾燥もやわらぎ、たるみも改善されたといいます。

 

そして、40代になった今、毛穴レスと言うべき美肌を手に入れ、「自分史上、もっともキレイな肌を更新中」と、高らかに宣言するまでになるのです。あきらめるのはまだ早いと、勇気づけられる言葉です。

 

間違っていた私のスキンケア

さて、美肌を手にいれるために、一番、大事なのは何でしょう? それは、「肌をこすらない」ことだといいます。

 

「私はこすってないわ」という方がいたら、あなたの肌はきっと美しく輝いているでしょう。けれども、私はといえば、こすっていました。それも、思いっきり。とくに朝が問題でした。水でパシャパシャ洗った後、洗ったばかりのタオルでゴシゴシと拭いていたのです。そうすると「よし、今日も頑張ろう」という気持ちになれるからです。しかも、我が家では洗濯するとき、柔軟剤を使いません。前日が快晴だったりすると、タオルはパリパリのゴワゴワです。今思えば、凶器のようなタオルを使っていたことになり、肌には小さな傷がついていたことでしょう。

 

さらに私には悪い癖がありました。猫が顔を洗うように、両手のひらで乾いた顔をスリスリと、こするのが大好きだったのです。特に、嫌なことがあると、この顔スリスリ動作を繰り返してしまいます。なぜか心が落ち着くからです。もしかしたら、小さな自傷行為だったのかもしれないと思うほど、私は顔をこすり続けてきました。

 

こすることで肌は刺激を感じて炎症を起こし、シミ、シワ、たるみなどのエイジングサインが現れます

(『一週間であなたの肌は変わります』より抜粋)

 

ま、まずい。自分で自分をエイジングさせていただなんて、情けないったらありゃしない。私はまいりました。

 

「徹底的にこすらない」をモットーとする石井式メソッドを知った今、それとは真逆の「こすりまくる」を繰り返してきた自分を叱りたい気持ちです。もう手遅れかもしれませんが、悔やんでいては、何も始まりません。大事なのは、これから先、こすらない毎日を始めることだ。私は決心しました。

 

乳液も大事です

心を入れ替えた私は、全行程20分かかる「石井式メソッド」をとりあえず1週間、試してみました。詳しいことは、『一週間であなたの肌は変わります』を参考にしていただきたいのですが、大事なのは「こすらない洗顔」をすることです。朝と夜、摩擦ゼロの洗顔をするように努力しました。その後、柔らかいタオルでそっと拭き、次にローションをたっぷり塗ります。いえ、塗るというより、押しむようにするといいのだそうです。そして、次に美容液、そして、乳液へとすすみます。

 

実は今まで、私は乳液が苦手でした。油分が多く、気持ちが悪かったからです。美容液を塗ればそれでOKと思っていました。ところが、乳液は「肌の水分・油分バランスを整えるため、省いてはいけない工程」だそうです。そして、その後、クリームを塗ります。私は朝はべたつくので、夜、たっぷり塗ればいいと思っていたのですが、石井式によるとこれはNG。朝こそ、うるおいを逃さず、感想や紫外線などから肌を守るクリームが必要なのだそうです。そして、仕上げに日焼け止めをぺたぺたと塗ります。

 

朝は忙しく、20分のスキンケアは無理と思う方もいるでしょう。だったら、せめて洗顔だけは手を抜かずに丁寧に行ってください。肌の状態が安定してくることでしょう。

 

私は朝の洗顔が嫌いでした。洗面所で顔を洗うと、そこらじゅうがびしょ濡れになります。髪の生え際にいつまでも石けんが残るのも、面倒でした。けれども心を入れ替えて、20分のコースにトライしたところ、結果が出てきているように思います。自分で言うのもなんですが、少しキレイになったような気がするのです。これからの私の課題は、この習慣をコロナ後も続けることと、メイクをする日がきても、こすらずにメイクを洗い流すことができるかどうかです。

 

『一週間であなたの肌は変わります』には、他にもたくさんのヒントが載っています。楽しみながら自分のスキンケアを振り返り、間違っているところがないか検証し、新しい自分に生まれ変わりたいものです。

 

【書籍紹介】

一週間であなたの肌は変わります

著者:石井美保
発行:講談社

あの田中みな実さん、絶賛!「私も美保さんに救われたひとりです」43歳にしてシワなし、たるみなし。透明感あふれる美肌と美貌を保ち続ける美容家・石井美保さんは、そのスキンケアメソッドの確かさと美しすぎるビジュアルで、女性誌読者の憧れの的。美容誌『VOCE』でのスキンケア連載「美肌塾」をはじめ、20代から50代まで幅広い各誌読者層に支持され、主宰するサロンには予約が殺到しています。そんな彼女も、実は30代前半まで「肌を褒められたことはなかった」といいます。現在の美肌にたどり着くきっかけとなったのが、徹底してこすらない「摩擦ゼロ洗顔」。その洗顔法を中心に毛穴悩み、シワ・たるみ・ほうれい線悩みを改善するスキンケア法や田中みな実さんも実践する「肌アイロン」まで、“石井メソッド”を単純明快に伝えます。いくつからでも美肌は目指せる!誰でもできる、毎日できる、一生モノのスキンケアメソッドです。

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普段の行動をちょっと変えるだけでいい? 今日からできる開運習慣『無意識に運気を引き寄せる習慣100』

あなたは家の中に塩をまいたことがありますか? 私はあります!!!

 

何をしてもうまく行かず、力士にようにバァ〜っとひとまき。散らかった塩を掃除機で吸っている時に「このままじゃいかん……」と悲しくなったことを思い出します(笑)。運気が悪い、何をしてもうまく行かないと悩む人は塩をまく前に『無意識に運気を引き寄せる習慣100』(開運のプロ・著/KADOKAWA・刊)を読んでみてください。今日から実践できるような幸運を引き寄せられる方法が100個も紹介されています。

 

開運のプロとは一体……?

『無意識に運気を引き寄せる習慣100』は2022年8月に出版された本なのですが、著者名には「開運のプロ」と書かれてあります。怪しい名前だけど、一体どんな人なのだろう? と調べてみると、TikTokのフォロワーがもうすぐ50万人と大人気の方でした。

 

『無意識に運気を引き寄せる習慣100』は、開運のプロさんが実践している「開運習慣」が100個掲載されています。金運を急上昇させる開運習慣/人間関係を良好にする開運習慣/仕事が成功する開運習慣の3つに分けられているのですが、パワーストーンはつけない、怒らない、“今”に集中するなど「本当にこれで開運するの?」と思うようなことばかり。開運と聞くと、欲にまみれているイメージがありますが、開運のプロさんが伝える開運習慣は、毎日の生活の中でできることがほとんどです。読み終わって、開運っていうのはコツコツ習慣としてやっていくことが大事なんだなぁ〜としみじみ感じました。

 

お金はなくなるのではなく、移動する?

開運と聞いて思い浮かぶのが「金運」です。ついつい「お金がない!」と言ってしまうこともありますが、開運のプロさん曰く、お金はなくなるのではないとのこと。一体どういうことなのでしょうか?

 

お金というのは、なくなるものではありません。移動するだけです。

これを読んだあなたは、もう今日から「お金がない」と口にするのはやめましょう。

(『無意識に運気を引き寄せる習慣100』より引用)

 

なるほど〜。お金は使えばなくなるもの、と考えていましたが、移動しているとも考えられますよね。金運をあげたいのなら、「ない」と言わず「今月はたくさんお金が移動したな〜」と考えるのがよいとのことでした。

 

また、開運のプロさんの本には「周波数」とか「波動」なんてフレーズも度々登場します。「波動」って最近よく聞きますよね。目には見えないので、私自身も「これが波動か!」と実感したことはないのですが、お金持ちのいい波動を持つ人といる時間を増やすと不思議と金運もUPするそう。他にも、「見栄を張ると金運は下がる」「破れた服を着ない」「ブランド物は身につけない」などが紹介されています。

 

誰でもできる開運習慣「1日1つ、徳を積む」

私も実践していることが『無意識に運気を引き寄せる習慣100』にも書かれてありました! それは「1日1つ、徳を積む」ということです。私自身も「そんなことでぇ〜」と馬鹿にしていたのですが、外出先のトイレが汚れていたら掃除する、落ちているゴミを拾う、席を譲るなどなど小さな徳を積むようにしたところ、ラッキーが巡ってきたことが何度もありました。それ以降、なるべく徳を積むような生活を心がけています(笑)。

 

私・開運のプロは、必ず毎日1つ、徳を積むことを心がけています。小さなことですが、ゴミ置き場がカラスに荒らされていたら片づけたり、世の中の幸せを祈ったりしています。仕事が不調だった時も、徳を積むことを続けていたら運気がぐんぐん上昇していきました。

(『無意識に運気を引き寄せる習慣100』より引用)

 

これは私自身の実感ですが、「はい、神様、仏様! 見ていますか〜! 私、今、徳を積んでいますよ!!」と下心丸出しにしているとラッキーはやってこない気がします(笑)。開運のプロさんのようにナチュラルに徳が積めるようになりたいなと、本を読みながら反省しました。

 

世の中にはさまざまな開運方法がありますが、お金がかかるものだったり、心を乱されるものだったり、のめり込んでしまったり、いいものばかりではありません。『無意識に運気を引き寄せる習慣100』を読んで感じたのは、どれも自分自身の心と体で開運できるものばかりだなぁ〜ということでした。

 

結局は自分次第になるのですが、誰かに開運してもらうのではなく、運は自分で切り開くことが大切なのだと教えてもらった気がします。もしこれを読んでいる方の中に、「毎日うまく行かない」「なんだか運気が下がっている」と感じた人がいれば、自分以外の何かに頼るのではなく、どうしたら自分の環境が変化するか考えてみるのが良いかもしれません。『無意識に運気を引き寄せる習慣100』にはそのヒントもたくさん掲載されています。気になる方はぜひ手に取って読んでみてください! よ〜し、今日も徳を積むぞー!!(笑)

 

【書籍情報】

無意識に運気を引き寄せる習慣100

著者:開運のプロ
発行:KADOKAWA

宝くじ当選、家内安全、ビジネス成功、恋愛成就、縁切り、借金返済ー夢が叶った人続出!8万人を幸せへ導くYoutTuberの開運術を大公開!普段の行いを変えるだけで、幸運が集まる人になれる!開運習慣を行うことで、自然と幸運を引き寄せる体質“人間パワースポット”に変わる!

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最初のCAは看護師だった!? 空の旅を楽しむために知っておきたい真実とは?━『飛行機に乗るのがおもしろくなる本』

2022年10月11日から水際対策が緩和され、海外からの個人旅行の受け入れも解禁されることになった。日本好きの外国人は想像以上に多いので、これから観光地は再び賑うことだろう。また、日本入国時に必須だった新型コロナ陰性証明もすでになくなっており、秋からはコロナ前のように私たち日本人も自由に海外旅行を楽しめそうだ。時間に余裕がある人は船旅もあるが、大半の人は海外に行くためには飛行機を利用する。そこで今日は空の旅が大好きという人も、実は飛行機に乗るのは怖いと思っている人にもおすすめの一冊を紹介しよう。

 

最新版 飛行機に乗るのがおもしろくなる本』(エアライン研究会・編/扶桑社・刊)には、その帯のキャッチコピーにもあるように、日本人の1割知らない飛行機の真実が103項目も書かれているのだ。

飛行機事故に遭う確率は438年に1回!

海外旅行は大好きだけれども、毎回飛行機に乗るのは怖いと感じている人は少なくない。かくいう私も、あんなに大きな金属の塊が空を飛ぶのだから、いつ落ちても不思議じゃないと思っているし、離着陸の時は毎回手に汗握っているのだ。が、本書によると、飛行機事故に遭う確率はとても低く、たとえば階段から足を踏み外して命を落とす人の数のほうが多く、比較した場合では旅客機よりも階段のほうが危険ということになるらしい。

 

ICAO(国際民間航空機関)が発表した「世界の定期航空の事故発生状況」によると、定期航空で1億キロメートル飛行するごとに、0.03人が致死事故に遭遇する。(中略)飛行時間あたりの死亡事故率を見てみると、10万時間あたり0.02人である。これは、約500万時間飛んで、1人死亡する事故が起きるということである。また、たとえ毎日飛行機に乗ったとしても、事故に遭遇する確率は438年に1回程度だという。

(『最新版 飛行機に乗るのがおもしろくなる本』から引用)

 

つまり、飛行機はそれだけ安全な乗り物なのだが、ひとたび事故が起きると被害が大きく、報道も大きな扱いになるので、”飛行機は怖い!”という印象が私たちの頭にインプットされてしまうというわけだ。

 

政府専用機は必ず2機一緒に飛ぶ

つい先日、天皇皇后両陛下がエリザベス女王の葬儀に出席のため、日本政府専用機に搭乗されるお姿をテレビで観た方が多いだろう。画面に映っていたのは1機だけだが、実は専用機は必ず2機一緒に飛ぶのだそうだ。これは万が一の故障などが発生した場合も日程が狂ったりしないよう、代用機としてずっと同じ航路を並んで飛ぶ。もちろんそこには整備士も同行しているのだ。現在使われている機体は、ボーイング777-300。内装はもちろん特別仕様で、首相執務室や随行員のための事務室や会議室、同行記者団との記者会見のための部屋もあるそうだ。また、使われる空港は羽田空港と決まっていて、これは皇居や首相官邸からの移動に便利で警備も固めやすいのが理由だ。

 

さらに、政府専用機のパイロットも機内サービスを担当する客室乗務員も航空会社の人間ではない。航空自衛隊の自衛官で、千歳基地に所属する特別航空輸送隊が担当している。

(『最新版 飛行機にのるのがおもしろくなる本』から引用)

 

専用機は普段は千歳基地に駐機しており、海外フライトが決まると彼らが乗務して、まずは羽田に飛んで行き、そこから海外へと向かうのだ。

 

最初のキャビンアテンダントは看護師だった

かつてはスチュワーデスと呼ばれ、現在はキャビンアテンダントと呼ばれている客室乗務員は今も女性の憧れの職業だ。では、世界ではじめてこの職業に就いた女性はどこの誰なのか? それは現在のユナイテッド航空の前身であるボーイング航空輸送が1930年に8名の女性を採用したのがはじまりだという。

 

当時は客室乗務員は男性が常識で、ボーイング航空輸送も男性のスチュワードを乗務させていた。あるとき、サンフランシスコの病院に勤務していた看護婦のエレン・チャーチが、看護婦の資格をもった若い女性のほうが細やかなサービスができると売り込んだのだ。彼女は同僚看護婦7人とともに採用されて、1930年に世界初のスチュワーデスが誕生した。ただし、このときの彼女たちの名前はスチュワーデスではなく、「クーリエ(旅の世話人という意味)」であった。

(『最新版 飛行機に乗るのがおもしろくなる本』から引用)

 

当時、制服はあったものの機内でサービスするときは、白衣の看護婦スタイルだったそうだ。

 

飛行機の窓が小さく丸いのはなぜ?

飛行機の窓がもっと大きく四角くかったら、外の景色を見やすいのにと思っている人は意外と多いのでは? 飛行機の窓が小さくて四隅が丸いのは安全のためなのだ。

 

高度1万メートルの気圧は約0.2気圧だ。このとき機内は0.8気圧で、その差は0.6気圧。つまり、飛行機の胴体は0.6気圧の力で外側に膨らもうとしているのだ。これは、1平方メートルあたり6トンの力が加えられている計算になり、客室の窓1枚にも何百キロもの力が加わることになる。

(『最新版 飛行機に乗るのがおもしろくなる本』から引用)

 

窓が四角いと圧力を受けたとき、角に力が集中し亀裂が生じやすくなるが、丸ければ力が全体に分散され割れにくくなるのだ。ちなみに飛行機の窓は三重構造になっていて、素材は透明のアクリル樹脂。これはガラスよりも軽くて柔軟性があるため、万が一ヒビが入っても広がりにくいので飛行機には適しているのだそうだ。

 

この他、「飛行機の機体は接着剤でくっつけていた」、「旅客機の乗り降りがいつも左側のドアからなのはなぜ?」、「パイロットの黒いフライトバックというカバンの中身は?」などなど、飛行機に関する雑学が満載。本書を読めば、飛行機に乗るのが怖くなくなり、また、空の旅がますます楽しくなりそうだ。

 

【書籍紹介】

 

最新版 飛行機に乗るのがおもしろくなる本

著者:エアライン研究会
発行:扶桑社

ワクワクとドキドキに満ちた空の旅。その主役となるのが飛行機だ。何度も乗っていると、つい見過ごしがちになるが、一歩踏み込んで観察すると、飛行機が謎や不思議の宝庫だということに気づくだろう。なぜ飛行機はいつも1万メートルの高さで飛んでいるのか?出発時の燃料をあえて満タンにしない理由は?LCCが激安運賃を実現できる秘密は何か?あの大きな機体には、数々の疑問が詰め込まれているのである。本書は、飛行機にまつわる謎や不思議を網羅した。本書を読んで、飛行機のおもしろさ、すごさを味わっていただければ幸いである。

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