丸ごと食べてプラ削減! 飲み物や食材の「包装」も食べられる時代に突入

ペットボトルや調味料の容器に使われるプラスチック量を削減するために、イギリスのスタートアップが「食べられる包装材」を開発しました。すでに同国ではいろいろな形で試用されており、プラスチックのごみ問題を解決する有力な手段として期待が高まっています。飲みものや調味料の包装にも使われるこのカプセル状の袋は、どうやってできているのでしょうか?

↑食べてみて!

 

ロンドンのNotpla社が開発したのが「Ooho」と名づけられた包装材。そのまま食べることができる一方、捨てた場合は4~6週間で自然に分解されるのが特徴です。

 

このOohoの原料となっているのは、フランス北部で養殖されている海藻。乾燥させた海藻を粉状にし、同社独自の方法で粘着性の液体に変化させ、これを乾燥させるとプラスチックに似た物質としてできあがるのだとか。そうすることで、なかにソース類などの調味料や飲み物を入れることができるのです。

↑びよ〜んと伸びる原材料

 

同社が使っている海藻は1日で最大1メートルも成長するうえ、養殖には肥料なども必要ないそう。原料が豊富にあることは、プラスチックに代わる材料として今後広まっていくために大きなアドバンテージとなることでしょう。

Notpla社はOohoの開発にイギリス政府から資金援助を受けており、これまでにもイギリス国内でOohoを使用する試みがいろいろ行われてきました。例えば、2019年に開催されたロンドン・マラソンでは、ランナーへ配布する飲料にこのOohoが使用され、3万個以上を配布。ランナーはカプセルごと口に入れれば水分を補給できて、廃棄する容器は一切出ません。普段なら、選手が捨てたペットボトルなどの容器が道に散乱しますが、ランナーに配布していたペットボトルを20万本も少なくすることができたそうです。

↑ロンドンマラソンで配られた飲料

 

さらに2020年には、サントリーの子会社であるルコゼード・ライビーナ・サントリーがNotplaと提携。ドリンクが入ったOohoの自動販売機を開発し、これをスポーツジムに設置して実証実験を行ったほか、さまざまなイベントでもOohoの利用を促進しているそうです。

 

Oohoを通してプラスチック使用量の削減に貢献するNotpla社では、2020年後半に生分解性の食品用容器を発表する予定。通常の段ボールなら3か月はかかるところ、新容器なら3~6週間で分解され、水と油にも強い素材でできているそうです。専門店などで調理された料理を持ち帰る中食産業などに活躍の場が広がりそうです。

 

新型コロナウイルスの影響でレストランのテイクアウトやオンラインショッピングの利用が増えるなか、使い捨て容器や包装材の需要が高まる一方で、プラスチック廃棄物も増えていることが報じられています。食べられる包装は、ごみ問題の救世主のひとつになっていくかもしれません。

 

【アフリカ現地リポート】withコロナで人々の生活はこう変わった――ガーナ、ルワンダ、コンゴ民主共和国

「ウイルスの感染拡大で自分たちの生活がこれほど変わってしまうとは……」

新型コロナウイルス(COVID-19)による緊急事態宣言からの外出自粛やマスク生活などを経験して、このように思った人は多いのではないでしょうか。現在も世界各国で感染を広げ続けている新型コロナウイルスは、日本だけでなく世界中の人々の生活を一変させています。

↑手洗い指導を受けるルワンダの小学生たち

 

たとえば、先進諸国と比べて報道される機会が少ない途上国。なかでも9月に入って感染者数が110万人を越えたアフリカ大陸では、どんな影響や生活の変化があるのでしょうか。コロナ禍以前から日本にあまり情報が入ってきていない分、想像できない面が多くあります。そこで今回は、ガーナ共和国、ルワンダ共和国、コンゴ民主共和国の3カ国で活動を行っているJICA(独立行政法人 国際協力機構)職員や現地ナショナルスタッフを取材。果たして現地の状況は? また人々の生活にどういう変化が起こっているのでしょうか。

 

【ガーナ共和国】コロナ対策への貢献で野口記念医学研究所が一躍有名に

 

↑ガーナの首都・アクラの風景

 

ガーナ共和国は大西洋に面した西アフリカの国で、面積は本州より少しだけ大きく、人口は2900万人弱。日本では「ガーナといえばチョコレート」を思い浮かべる人も多いでしょうが、実際、今でもカカオ豆は主要産品です。また、ダイヤモンドや金などの鉱物資源も豊富なうえ、近年は沖合の油田開発が始まり、経済成長も急速に進んでいます。

 

そんなガーナで初めて新型コロナウイルスの感染者が確認されたのは3月12日。その10日後に国境を封鎖し、さらに1週間後に大きな都市だけロックダウンするという迅速な対策が実施されました。ただし、日用品の買い物はOKで、不要不急の外出は禁止という程度の制限でした。ところが、結局3週間でロックダウンは解除。感染者が減ったからではなく、人々の生活が成り立たなくなってしまうという経済的な事情と、ロックダウン中に検査や治療の態勢がある程度、各地で整ったという背景があるようです。

 

その後も感染者は増え続け、6~7月は1日の確認数が千人を越えた日も。7月頭には累計2万人を越えました。それでもロックダウンはされることはなかったのですが、6月末をピークに現在はかなり減ってきています。この理由について、JICAガーナ事務所で日本人として現地に残っている小澤真紀次長は、「新規感染者が減っている理由はよくわかっておらず、私たちも研究結果を待っているところです」と言います。

 

コロナ以前にくらべ、人々の衛生意識に着実な変化が

JICA事務所で働くガーナ人スタッフに話を聞くと、「公共バスは混雑していてソーシャルディスタンスもとりづらい状況なので、自分は極力利用しないようにしています。街中を見ると、市場では売り手のほとんどがマスクを着用していますが、定期的に手を洗ったり、消毒剤を使用したりといった他の予防策はあまりとられていません」と、それほどコロナ対策が徹底されていないと感じているようです。

↑ガーナではもっとも安価な交通機関として人気の乗合バス「トロトロ」の車内。コロナ対策としてマスクの着用と席間を空けることが義務づけられている

 

一方、別のスタッフは、「多くのガーナ人は手洗いや消毒など衛生面の重要性を以前より意識するようになりました。天然ハーブを使って免疫力を高めようとしている人もいます。マスクについても、ほとんどの人が家を出るときにマスクを持っていますが、正しく着用している人は少ないです。呼吸がしづらいという理由で、アゴにかけたり、鼻を覆っていなかったりする人も多いです」と教えてくれました。日本と違ってやはりマスクに慣れている人が少ないことが窺えます。

 

生活面に関しては、「生活は日常に戻りつつありますが、ソーシャルディスタンスのルールを守っている人は少ないです。大きなスーパーマーケットやレストランではコロナ対策のルールをしっかりと守っていますが、小規模の店では徹底しきれていないと感じます。また、ほとんどの学校はオンライン教育を行なう手段を持っていないので、子供たちが学校に行けなくてストレスを感じています」と言います。そんななか、以前から行なわれていたJICAの取り組みが意外な形でコロナ対策に役立っています。

 

「JICAでは以前から現地の中小企業の製造プロセスにおける無駄をなくすため、カイゼン活動を紹介するなど、民間に対する協力をしていました。その中に布マスクを作っている縫製会社もあり、増産していただくことになったのです」(小澤さん)

 

ガーナ国内では、マスクの着用が義務付けられて以来、さまざまな業者や個人で仕立て屋を営む女性たちがマスクの製造を始め、街中でマスクを売る人も増えました。布マスクが100円しないぐらいで買える(紙マスクとあまり変わらない価格)ので、マスクの普及も一気に進んだそうです。小澤さんも「最近は服を仕立てるのと同じ布でマスクもセットで作ってくれたりします」と、コロナ禍でも新たな楽しみを見出していると言います。

↑アフリカならではのカラフルな色使いが特徴の布マスク

 

そして、コロナ禍でひと際クローズアップされるようになったのが日本の国際協力です。なぜなら、1979年に日本の協力で設立された「野口記念医学研究所(以降、野口研)」が、感染のピーク時には、ガーナ国内のPCR検査の8割程度を担ってきたからです。当研究所の貢献は毎日のように報道され、「今は知らない人が1人もいないぐらい有名になっています」(小澤さん)とのこと。ガーナでは「日本といえば野口研」というイメージになった模様です。もちろん「野口」というのは、黄熱病の研究中に自らも黄熱病に感染し、1928年にガーナで亡くなった野口英世博士のことです。

↑野口記念医学研究所のBSLラボでの検査の様子。PCR検査だけでなく、これまでも多くの研究成果をあげてきた

 

この野口研に対しては、以前からJICAが資金、人材、設備などさまざまな面で協力を続けています。コロナ前から長い時間をかけて積み上げてきた協力が、この災禍の中で大きな成果をあげているというのは、同じ日本人として誇らしいことですね。

 

【教えてくれた人】

JICAガーナ事務所・小澤真紀次長

大学時代に訪れた、南西アジアにおける村落開発に興味を覚え、2002年に旧国際協力事業団(現JICA)に入構。2017年に保健担当所員としてガーナ事務所に着任し、2018年秋より事業担当次長を務める。ガーナ駐在は2006年に続いて2度目。趣味のコーラスはガーナでも継続しているが、コロナ流行で中断中。代わりにパン焼きを始めた。山梨県出身。

 

【ルワンダ共和国】コロナ禍で若者や現地スタッフが大きな力に

 

次に紹介するのは、東アフリカの内陸国、ルワンダ共和国。面積は四国の1.4倍ほどで、人口は1230万人。アフリカでもっとも人口密度が高い国と言われています。1980~90年代には紛争や虐殺もありましたが、21世紀に入って近代化が進み、近年はIT産業の発展にも力を入れているそうです。

↑ルワンダの首都・キガリの街並み

 

「資源の少ない内陸の小国なので、教育を通じて人間力を高め、それを経済発展につなげていこうと考えているようです。そこは日本とも共通しますね」。こう話を切り出したのは、JICAルワンダ事務所の丸尾信所長です。

 

ルワンダで最初に新型コロナウイルスの感染者が確認されたのは3月14日で、その1週間後には強力なロックダウンが施行されました。国境はもちろん、州を越えた移動も物流以外は制限され、市内でも食料など生活必需品の買い物以外は基本的に外出禁止。もちろん外出中はマスクの着用が必須。街角には警官が立ち、ルールを守らない人を取り締まりました。ルワンダでは政府の力が強く、早い段階で強硬なコロナ対策が徹底されたのです。そうしたロックダウンが2カ月近く続き、解除された後も夜間の外出禁止や学校の休校は続いています。また感染者が多い地域やクラスターが発生した街は、その都度、部分的なロックダウンが行なわれているようです。

↑ソーシャルディスタンスを取って店頭に並ぶ人々。多くの人がマスクを着用している

 

感染予防対策に関して、行政の指導によってかなり浸透してきましたが、アフリカならではの共通した課題もあります。それは、地方では家の中まで水道管がつながっていない家庭のほうが多いこと。井戸や共同水洗まで水を汲みに行って生活用水にしているので、日本のように頻繁に手を洗う習慣はありません。そのためコロナ対策として、街中のあちこちに簡易な手洗い器が設置されるようになりました。

↑街中ではこのような簡易手洗い施設が各所に設置されるように。手の洗い方を写真入りで示したガイドが貼られ、石けんも置かれている

 

実際の生活について、JICA事務所のルワンダ人スタッフにも聞いてみました。

 

「COVID-19によって在宅勤務をする人はかなり増えました。 私も必要に応じて在宅勤務とオフィス勤務を使い分けていますが、ネットの接続が途切れることが多いため、在宅勤務はあまり効率的ではありません」

 

日本の家庭では光ファイバーなどの有線回線も普及していますが、ルワンダをはじめとするアフリカ諸国では携帯電話の電波を使った接続が主流です。そのため、回線状態が安定せずに苦労することも多いのだとか。

 

一方、「バスの駐車場、市場や公共の場所などでは、ベストを着たボランティアの若者の姿をよく見ます。彼らは、市民がマスクを適切に着用することや、公共の場所に入る前に石鹸あるいは液体消毒剤で手を洗うように促しています」と話してくれたスタッフも。

 

丸尾さんの印象では、ルワンダ国民はお互いに助け合う意識が強く、それを若い世代もしっかりと受け継いでいるようです。

 

IT立国を目指すルワンダならではのユニークな対策

ルワンダならではの特徴的な対策として、ドローンをはじめとする最先端IT技術の活用が挙げられます。たとえば、ドローンに拡声器を取りつけて市中に飛ばし、COVID-19の予防措置について住民に呼びかける活動などが行われています。また、アメリカ発の「Zipline」というスタートアップが実施する飛行機型ドローンで血液や医薬品を輸送するという事業は、コロナ禍以前から続けられています。ルワンダでの運用経験を生かして、COVID-19検体の輸送にも利用するようになった国もあるそうです。「ルワンダでドローンが積極的に利用されるのは、この国の道路事情も関わっている」のだと丸尾さん。

 

「山がちな国土のうえ、地方では道路整備が進んでおらず未舗装路が多いんです。しかも、雨が降ると坂道に水が流れてさらに凸凹になり、走行に支障をきたします。しかしドローンを使うことで、自動車だと3時間ぐらいかかっていた場所でも10分ぐらいで血液を届けられるようになったという話を聞きました」

 

他にも、1分間に何百人も非接触で検温をしたり、医療従事者の患者との接触を減らすために入院患者に食事を配膳したりするロボットが空港や病院で使われるなど、試験的にではなく実用として先端技術が生かされています。そこにも日本の技術が数多く生かされているのです。

↑空港で実際に使用されているロボット。「AKAZUBA(ルワンダのローカル言語でSunshineの意味)」と名付けられている

 

現在は、万一新型コロナウイルスに感染し、重症化した場合を懸念して、各国に駐在するJICA日本人スタッフや専門家はほとんど帰国しています。にも関わらず、ルワンダでは以前から進行中のプロジェクトが中断されている事例はひとつもないそうです。

 

「たしかに日本人の専門家が現場に行って直接指示を出せないのは大きな障害ですが、以前からプロジェクトに携わってきた現地スタッフに、日本からリモートで連絡をとりながら事業を進めてもらうというやり方が、試行錯誤しながら成果を挙げてきています。経験があって能力も高い現地スタッフが多く、彼らの活躍によって思った以上にプロジェクトが継続できています」(丸尾さん)

 

これも、日本やJICAが長年にわたって地道に支援を続けてきた成果と言えるかもしれません。

 

【教えてくれた人】

JICAルワンダ事務所・丸尾 信所長

2009~2013年にルワンダの隣国タンザニアのJICA事務所に在任中、ルワンダ・タンザニア国境の橋梁と国境施設建設案件を担当。以来ルワンダ事業に関わる。ルワンダ政府の方針に寄り沿い、周辺国との連結性強化の取り組みも支援している。赤道近くながらも、標高1000mを超える高原地帯にあるルワンダの冷涼な気候がお気に入り。2019年2月より現職。

 

【コンゴ民主共和国】「感染症の宝庫」ならではのコロナ事情とは

 

「コンゴ」という名が付く国が2つあることは、日本ではあまり知られていません。今回紹介する「コンゴ民主共和国」は1997年に「ザイール」から改称した国で(以下、コンゴと省略)、その西側に隣接するのが「コンゴ共和国」です。コンゴ民主共和国は、日本のおよそ6倍、西ヨーロッパ全体に相当する面積を持ち、人口は約8400万人。アフリカ大陸ではアルジェリアに次いで2番目に大きな国です。鉱物資源が豊富で、耕作可能面積も広大なので非常に大きな開発ポテンシャルを持っていますが、その一方で、国内紛争が長く続いていて、マラリアやエボラ出血熱などの感染症死亡者も多く、アフリカにおける最貧国のひとつとも言われています。

↑コンゴ民主共和国の首都・キンシャサは、人口1300万人以上というアフリカ最大の都市

 

今回、JICAコンゴ民主共和国事務所の柴田和直所長に同国の詳しい情報を伺ったのですが、中には日本に住む我々には想像できないような話もありました。たとえば、コンゴには26の州がありますが、国土の西端近くにある首都キンシャサから自動車だけで行ける州は3つ。全国的な道路整備が進んでおらず、その他の州に行くには、飛行機に乗るか船で川を進んでいくしかないとのこと。

 

「だから国全体を統治することが難しく、東部で続いている紛争を止めるのも困難な状況です。資源国でありながら、経済発展がなかなか進まないんです」(柴田さん)と、広大な国土を持つコンゴならではの難しさを指摘します。

 

そんなコンゴのもうひとつの特徴は、新型コロナウイルス以前から感染症が非常に多いことです。エボラ出血熱の発祥地でもあり、これまで10回にわたるエボラの封じ込めを行ってきました。感染症関連の死因でもっとも多いのはマラリアで、今年もすでに8千人以上(※見込み値)が亡くなっています。その他にもコレラ、黄熱病、麻疹(はしか)などでも死者が出ており、中には、日本では予防接種をすれば問題ないとされる、はしかで亡くなる子どもも。

 

コンゴで新型コロナウイルスの感染者が初めて確認されたのは3月10日で、2日後には国の対応組織が作られました。そして3月21日に国境が封鎖され、飛行機は国際線も国内線も運行停止に。3月26日には、首都キンシャサの中心部、政治・経済の中枢となっているゴンベ地区がロックダウンされ、他の国と同様のさまざまな制限が設けられました。こうした迅速な対応ができたのは、国として感染症の恐さもよくわかっていて、なおかつ専門家も多いからと言えます。一方で、「首都でこれだけ厳しい対策がしかれ、大きな影響が出ているのは、私の知るかぎりは初めて」(柴田さん)という言葉から、新型コロナウイルスの脅威の大きさが窺えます。

↑コロナ禍以前のキンシャサの市場。今は混雑もかなり緩和されているが、ソーシャルディスタンスを確保するのは難しいそうだ

 

JICA事務所のコンゴ人スタッフも「移動の制限が生活をとても困難にしています。それが商品不足の不安を引き起こして買いだめにもつながり、物価が高騰して国民の生活を非常に苦しくしています」と厳しい現状を伝えてくれました。

 

現在はロックダウンを解除しているコンゴ。小規模な小売店をはじめ、その日その日の収入で生活している人が多いため、外出禁止にすると食べ物を得る糧を失ってしまう人が多く、外国人や富裕層が多いゴンベ地区以外は制限を緩めて経済活動を継続せざるをえないという事情があるからです。他の感染症に比べて死亡率が低く、感染しても無症状で終わることが多い新型コロナウイルスで、これほどの経済的苦難を強いられるのは納得がいかないなどの理由から、コロナの存在自体を否定するフェイクニュースが出たりすることもあるようです。

 

日本の貢献が光る、コンゴでのコロナ対策

そんなコンゴでも、コロナ禍で日本の存在感が大きくなっています。ガーナでの野口記念医学研究所と同様の役割を持つ「国立生物医学研究所(INRB)」は日本が継続的に協力している機関で、コンゴではPCR検査の9割以上をINRBがまかなっています。また、日本が設立した看護師、助産師、歯科技工士などの人材を育成する学校「INPESS」は、国のコロナ対策委員会の本部や会議室として使用されています。

↑日本が建設したINRBの新施設

 

コンゴ医学界の要人との絆もより強固になっています。70年代にエボラウイルスを発見したチームの一員で、2019年に第3回野口英世アフリカ賞を受賞したジャン=ジャック・ムエンベ・タムフム博士は、INRBの所長を務め、JICAとの関係も深い人物。国民の信頼も厚く、現在はコロナ対策の専門家委員会の委員長も務めていて、日々国民の感染対策への意識を啓発しています。

↑ムエンベ博士(中央)と柴田所長(左)。右の女性は、JICAを通じて北海道大学へ留学した経験があるINRBスタッフ

 

「私たちが一緒に働いているコンゴの人たちは本当に真面目で、この国を良くしたいと毎日頑張っています。陽気で楽しい人たちでもあります。今回はお伝えできなかったですが、とても豊かで魅力的な文化や自然もあります」と柴田さん。最後にコンゴへの思いを熱く語ってくれました。

 

コンゴに限らず、アフリカの人たちはとても芯が強く、苦しい生活の中でも明るさを失っていないと、小澤さんも丸尾さんも柴田さんも口を揃えています。コロナ禍にあっても決して折れない心。それは日本の我々にとっても大きな希望となるように感じました。

 

【教えてくれた人】

JICAコンゴ民主共和国事務所・柴田和直所長

1994年よりJICA勤務。2018年3月より2度目のコンゴ駐在。過去2か国で4回のエボラ流行対策支援に関わり、コロナ対策支援も現地で奮闘中。趣味は旅行、音楽鑑賞・演奏などで、コロナ流行前は、コンゴ音楽のライブやキンシャサの観光名所巡りを楽しんでいた。

Facebook: facebook.com/jicardc

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YouTube:youtube.com/channel/UCSEj0HR2W0x8yDjkEFHT6dg

 

【関連リンク】

JICA(独立行政法人 国際協力機構)のHPはコチラ

 

【世界手洗いの日】日本発の「正しい手洗い漫画」が世界へ――途上国での感染症予防に新たなアプローチ、その制作背景に迫る!

毎年10月15日は「世界手洗いの日」。不衛生な環境や水道設備の不足により感染症にかかるリスクの高い途上国の子どもたちにも、予防のための「正しい手洗い」を普及したいと、2008年にUNICEF(国際連合児童基金)などによって定められました。

 

石鹸を使った正しい手洗いは、感染症から身を守る、最もシンプルな“ワクチン”ともいわれています。特に今年は新型コロナウイルス感染症の収束が見通せない状況のなか、「手洗い」への関心が世界的に高まっています。

 

この機会に途上国の子どもたちに広く手洗いについて知ってもらおうと、漫画を使った取り組みが行われています。これはJICA(独立行政法人国際協力機構)が世界手洗いの日にあわせて実施する「健康と命のための手洗い運動」キャンペーンの一環で、漫画は翻訳され、世界各国の関連施設や現地の小学校へ配布されるほか、漫画を動画化してテレビCMやYouTubeで配信するなど多角的に展開されます。

この「手洗い漫画」を描いたのは、国際協力やジェンダー問題などをテーマに取材漫画家として活動する井上きみどりさん。制作過程では、途上国特有の手洗い事情への配慮はもちろん、技術的な側面でも新しい発見が多かったとか。そうした裏話を含め、井上さんに制作の背景や国際協力に対する想いなどをうかがいました!

<この方に聞きました>

井上 きみどり(いのうえ きみどり)

仙台在住の取材漫画家。与えられたテーマで描くより、自身が本当に描きたい「震災」「ジェンダー問題」「国際協力」等に注力したいという思いから取材漫画家として活動をスタート。2020年4月には「「コロナを『災害』として見る場合の災害時に子どものメンタルを守るために気をつけたいこと」と題した漫画を自身のSNS上で発表し、JICAの協力で33言語に翻訳され世界中で話題となる。仙台での震災の経験から、【震災10年】の作品制作活動にも取り組んでいる。「自由な場で自由に描く」が方針。

https://kimidori-inoue.com/bookcafe/

 

きっかけはコロナ下で大きな話題となった子どものメンタルケア漫画

――今回の手洗い漫画は世界展開を前提にしたものですが、井上さんが4月に発表された漫画「【コロナを『災害』として見る場合の】災害時に子どものメンタルを守るために気をつけたいこと」も、翻訳されて世界的な広がりを見せるなど話題になっていましたよね。

↑井上さんが自身のブログに掲載した日本語版(左)。タイ語版(右)に翻訳された後、33言語に翻訳され世界的に広がった

 

井上きみどりさん(以下、井上):あの漫画は当初、個人的に自分のブログにアップしただけだったのですが、以前に別のプロジェクトでお世話になったJICAタイ事務所の職員の方が見つけてくれて、「タイ語版にさせてほしい!」と連絡をくださったんです。その後はもう、私の手を離れ、漫画がひとり歩きしていった感じでした。そういった縁もあって、今回JICAさんからお声がけいただいたのだと思います。

 

――そのほか、アフガニスタンの女性警察官支援に関する漫画など、国際協力をテーマにした作品も多く描かれています。こうした分野にはもともと興味があったのでしょうか?

 

井上:以前は出版社の商業誌で育児漫画を描いていたのですが、その頃から国際協力に興味があったんです。「育児」というのは編集長から与えられたテーマでしたが、次第にジェンダー問題や途上国の事情について自分自身で取材して描いてみたいという気持ちが大きくなりました。でも、どうアクションしたらよいかわからず……。

それでグローバルフェスタJAPAN(※)の会場に押しかけたんです、「私に描かせてください!」って。ザンビアのHIV予防プロジェクトに自費で同行取材したことも。押しかけ女房状態ですよ(笑)。

 

※国際協力にかかわる政府機関、NGO、企業などが一同に集まり、世界のことをもっと知ってもらうことを目的とした展示やステージを行うイベント。毎年、「国際協力の日」の10月6日前後の週末に行われている

 

――熱意がすごい! それがいつの間にか、JICAさんのほうから今回のような企画依頼がくるようになったんですね。

 

井上:本当にうれしく思っています。

 

日本とは異なる手洗い事情――途上国に向けて描くなかで得られた気づき

――制作にあたって苦労された点などはありますか?

 

井上:これまでは、例えば途上国での取り組みを日本の読者に紹介するなど、当事者の話を当事者ではない方に向けて描くことが多かったのですが、今回は届ける先が途上国の方自身だったので、そこはまた違った難しさもありました。

あとは、漫画は「会話劇」なので、伝えるべきことをどう会話に落とし込んでいくかは毎回山場になりますね。今回は「手洗い」とはっきりシーンが絞られていましたが、それでもいただいた資料や自分が蓄積してきた情報を会話と絵にしてラフを作るまでに1週間ほど温めました。

 

――途上国では、水道などの設備や手洗いに対する意識なども日本と異なると思います。その違いに配慮して、描くうえで意識されたことはありますか?

 

井上:まずは“正しい”手洗いの仕方を正確に描くことでしょうか。ウイルスやバイキンを落とすには、水でしっかり洗い流すことが重要なのですが、途上国では水道設備のない地域もあり、桶に水を溜めてすすいだりするそうです。でもそれだと、溜まった水が汚染されるので感染症対策にはならないと。ですから、少ない水でもきちんと洗い流すことができる「Tippy-Tap」などの方法や簡易な手洗い装置を紹介するコマを作りました。

↑漫画内では、少ない水でもきちんとバイキンやウイルスを洗い流せる手洗い方法も紹介

 

井上:JICA地球環境部のご担当者とやりとりをするなかでは、手洗いのシーンには「石鹸」というワードを必ず入れ込んでほしいともいわれましたね。いわれてみればなるほどですが、石鹸がない環境で育っていると、石鹸を使わずに水洗いだけで済ませてしまうことが習慣になっている子どもたちもいるんです。また、洗ったあとは「乾かす」ことも大事だと。清潔な手拭きタオルがない環境では、自然乾燥でもよいとうかがい、パッパと手をはらって乾かす絵柄を入れました。

それから、日本ですと「家に帰ってきたら」「食事をする前に」手を洗う習慣がありますが、途上国の場合は事情が違う。「家畜の世話をした後に」や「ゴミを触った後に」にという表現を加えるようにアドバイスしていただき、なるほどなぁと感じました。

↑手を洗うタイミングについても、途上国の生活スタイルを考慮したシーンを取り入れている

 

井上:水道から水が流れるシーンには、「ジャー」という擬音語の描き文字を何気なく入れていたのですが、「途上国では水道の蛇口があっても、ジャーというほどの水量が流れないことがありますし、水が足りなくて節約しながら大事に使っている人もいます」とアドバイスいただきました。指摘されるまではその不自然さに気がつきませんでしたね。

↑最初の下書き段階では、水が流れる「ジャー」という擬音語が入っている(左)。完成版ではその擬音語が外され、タオルを使わず手を乾かす描写も描かれている(右)

 

翻訳や動画などの二次展開は、巣立つ子どもを見送る母のきもち

――今回の漫画は翻訳されることを前提に描かれたと思うのですが、その点で意識されたことはありますか?

 

井上:いつもは日本語ですから右→左にコマが流れるように描きますが、今回は横書きの言語にも対応できるようにと、左→右に描くことになりました。吹き出しも、横文字が入りやすいように横長にしています。

↑井上さんの制作風景。吹き出し内のテキストや、描き文字は翻訳用に外せるようレイヤー分けされている

 

――この漫画は、動画化も予定されているそうですね。こうした展開・拡散についてはどう思われますか?

 

井上:もうどんどんやってください! という気持ちです(笑)。心のケア漫画のときもそうでしたが、私の手を離れて、後は皆さんの手によって新しく展開されていくことは、とてもうれしいです。動画化は初めてですし、漫画が動いたり、音がついていったり変化するのは楽しみ。後は巣立つ子どもを見送る母親の気持ちです。

↑モルディブの小学校で「心のケア漫画」が授業で使われている様子。今回の「手洗い漫画」も 小学校での利用のほか、ボリビアのコチャバンバ市ではCMで配信される予定(写真提供/JICA)

 

「手洗い」って、「教育」だったんだ! 日本の子どもたちにも読んでもらいたい

――手洗い漫画を描いてみて、「手洗い」に対する考え方に変化はありましたか?

 

井上:ありましたね! 手を洗うことは自然に身に着くものではなく、「教育」なんだ、と気が付いたのです。日本だと、家庭や学校で子どもに手の洗い方を教えてくれますから、自然と習慣化されている。でも、それは当たり前のことではないんですね。

以前、ベトナム取材に行った際に、「ベトナムでは多くの人が俯瞰地図を読めない」というお話をうかがって、とても驚いたんです。タクシーに乗った際、ドライバーに地図を指し示して「ココに行って」と場所を伝えても、確かに理解してもらえませんでした。地図の読み方を、日本だと小学校で教えますが、そうではない国もあるのだと知りました。私にとって、それが大きな発見だったんです。「手洗い」も同じ。今回は途上国向けの手洗いの方法を、途上国の子どもたちに向けて描いていますが、日本の子どもたちにこの漫画を読んでもらっても意味深いと思うのです。「日本とは手を洗う環境が違うんだ!」って。それもまた大きな学びですよね。

 

漫画の利点を生かして「声を上げられない方の声」を届けたい

――社会課題を漫画で伝えることのメリットは何でしょうか?

 

井上:私が初めて「漫画家になってよかった!」と思えたのは、女性の医療問題を取材して単行本を2冊出したときでした。声を上げることができなかった女性たちの声を、漫画で伝えることができた、ということがうれしく、やりがいを感じた瞬間でした。ようやく「人の役に立つものが描けた」と。漫画だと、人の感情や声にならない声を、顔の表情などの非言語でも伝えることができるんですよね。

また、「恐怖」もデフォルメして伝えられると思うんです。途上国の事情も写真や映像だと、つらすぎる場合がある。私は仙台に住んでいますが、震災時のニュース映像などはリアルすぎて恐怖を感じる方も多いと思います。そういうときに、漫画というツールが、緩和してくれるといいますか。漫画を媒介にすることで届けやすくなるのかもしれませんね。

 

――取材漫画家として、今度取り組みたいテーマはありますか?

 

井上:社会課題を漫画にすることは今後も続けていきたいです。また、2011 年の東日本大震災で被災した仙台や福島の「震災の10年」をまとめたいと考えています。石巻の防災教育施設からのご依頼で、子どもの視点で震災漫画を描く試みもしています。東北では今、震災を知らない子どもたちも増えきているので、震災当時には子どもだった方々に取材をさせていただき、企画を温めています。

 

――最後に、改めてこの漫画に込めたメッセージをいただけますか?

 

井上:今はコロナ対策として手洗いがフューチャーされていますが、「世界手洗いの日」はコロナ以外の感染症にも取り組んできた日です。衛生管理は、健康の基本中の基本で、それで防げることはかなりある。下痢等の感染症で亡くなる子どもの死亡率も、手洗いで減らしていけるとうかがったことがあります。読んだ人全員が手洗いを励行はできないかもしれませんが、10人のうち1人でも2人でも頭の中に入れてくれたらな、と。その子どもたちが大人になったときに、今度は自分の子どもに手洗いの大切さを伝えていく、そうやって繋げていっていただけたらと願っています。

 

<JICA 健康と命のための手洗い運動プラットフォームとは>

民間企業、業界団体、市民社会、大学、省庁、海外協力隊などの団体又は個人の方に協力の輪を広げ、情報や経験の共有、衛生啓発イベントの開催、共同活動の企画などを通じて、様々な連携事例、アイデア、ナレッジ、ツール等を生み出し、開発途上国の感染症予防、健康の増進、公衆衛生の向上に貢献することを目指します。

https://www.jica.go.jp/activities/issues/water/handwashing/index.html

「コロナ危機を転機に変える!」 途上国でオンライン学習の普及に取り組む日本企業の思いとは!?

「子どもたちの学びを止めてはならない」——新型コロナウイルスの影響を受け、世界中で休校が相次ぐなか、オンラインを介したデジタル教材の活用が注目を集めています。そんな中、日本の教育会社も国内外で学習支援を進めていますが、実は新型コロナの感染拡大以前から、国外でのデジタル教材の普及に取り組んでいる日本企業があります。

 

それがワンダーラボ社とすららネット社。JICA(独立行政法人 国際協力機構)の民間連携事業「中小企業・SDGsビジネス支援事業」として、途上国の学校に“デジタル教材”という新しい学びの機会を提供しています。コロナ禍の現在、アプリなどによるオンライン学習をはじめ、子どもたちの新たな学習形態や環境などが世界中で試行錯誤されるなか、いち早く開発途上国におけるデジタル教材の活用に取り組んだ両社から、将来あるべき「新しい学び」の可能性と、子どもたちに対する熱い思いを探りました。

↑インドネシアにおける、すららネット社のデジタル教材「Surala Ninja!」での授業風景

 

ワクワクする教材を世界中の子どもたちに普及させたい:ワンダーラボ社のデジタル教材「シンクシンク

↑授業で「シンクシンク」アプリを使うカンボジアの小学生

 

ワンダーラボ社は、算数を学べるデジタル教材「シンクシンク」の小学校への導入をカンボジアで進めています。開発途上国の抱える問題を、日本の中小企業の優れた技術やノウハウを用いて解決しようとする取り組みで、3ヵ月で児童約750人の偏差値が平均6ポイント上がったと言います。「シンクシンク」の特徴をワンダーラボ社の代表・川島慶さんは次のように語ってくれました。

↑「シンクシンク」のプレイ画面

 

 

「『シンクシンク』は、図形やパズル、迷路など、子どもたちがまずやってみたい! と思える楽しいミニゲーム形式のアプリです。文章を極力省いて、『これってどういう問題なんだろう?』と考える力を自然と引き出す設計で、学習意欲と思考力を刺激するつくりになっています。外部調査の結果、『シンクシンク』を使っていた子どもたちは、児童の性別や親の年収・学歴など、複数の要因に左右されることなく、あらゆる層で学力が上がっていたことが確認できました。これは、私たちの教材の利点を証明する何よりのデータだと思っています」

↑夢中で問題を解く様子が表情から伝わってくる

 

川島さんが「シンクシンク」を作ったきっかけは、2011年までさかのぼります。当時、学習塾で主に幼稚園児・小学生を教えながら、教材制作も手がけていた川島さん。子どもたちと接するなかで注目したのは、教材に取り組む以前に、学ぶ意欲を持てない子どもがたくさんいるということでした。子どもが何しろ「やってみたい!」と意欲を持てる教材を、と考えて作ったのが、「シンクシンク」の前身となる、紙版の問題集でした。

 

「それを、国内の児童養護施設の子どもたちや、個人的な繋がりでよく訪れていたフィリピンやカンボジアの子どもたちに解いてもらったんです。そこで目を輝かせながら楽しんでくれている姿を見て、『これは世界中に届けられるかもしれない』と感じました。ただ、紙教材は、国によっては現場での印刷が容易ではありませんし、先生や保護者による丸つけなども必要です。

 

そこで注目したのが、アプリ教材という形式でした。タブレット端末は当時まだあまり普及していませんでしたが、必ずコモディティ化し、長期的には公立小学校などにも普及すると考えました。また、アプリならわくわくするような問題の提示にも適していますし、専任の先生や保護者がいなくても、子どもひとりで楽しみながら学べます」

 

その後、タブレットやスマートフォンは世界に浸透し、現在「シンクシンク」は150ヵ国、延べ100万ユーザーに利用されるアプリとなっています。

↑ワンダーラボ社のスタッフと現地の子どもたち

 

ワンダーラボ社は、休校が相次いだ2020年3月には国内外で「シンクシンク」の全コンテンツを無料で開放。この取り組みは新聞やテレビなどのメディアでも数多く取り上げられるなど、話題となりました。アプリの無償提供には、どのような思いがあったのでしょうか。

 

「新型コロナの流行がなければ、各地で私たちの教材を知ってもらうイベントを開催する予定でした。それを軒並み中止にせざるを得なくなる中で、自分たちは何ができるだろうと。お子さまをどこにも預けられず大変な思いをしているご家庭に、少しでも有意義なコンテンツを提供できればいいな、と思ってのことでした」

 

「アプリは所詮”遊び”」の声をどう覆していくか

ただ、いくらデジタル化が進む世の中とはいえ、「アプリ」という教材の形式が浸透するには、まだまだ壁もあるようです。

 

「特に途上国においては、ゲームアプリが盛んなこともあり、『アプリは遊びだ』という認識が根強くあります。ただ、カンボジアでも3月の途中から小学校をすべて休校することになり、教育省が映像での授業配信とともに『シンクシンク』の活用を始めたのです。そのおかげもあり、教材としてのアプリの見られ方も多少は変わったのではないでしょうか」とは、JICAの民間連携事業部でワンダーラボ社を担当する、中上亜紀さんです。

 

スマートフォンやタブレット端末が自宅にあれば教材を使えることもあり、ワンダーラボ社はカンボジアでもアプリの無償提供を約3ヵ月にわたって実施しました。教育省が発信したアプリを活用した映像授業は、約2万ビューを記録するなど好評でしたが、オンラインによる映像授業を視聴可能な地域が、比較的ネット環境が整備された首都プノンペン周辺に偏ってしまうことなどもあり、「いきなり、すべての授業をオンラインに、とはなりません」(中上さん)と、普及の難しさや時間が必要な点を強調します。これを踏まえてワンダーラボ社では、10年単位の長いスパンで、より多くのカンボジアの小学校へ教材を導入できるよう目指しているそうです。

 

「ワクワクする学びを世界中の子どもたちに広げていきたい」

 

会社を立ち上げる前から、川島さんが長年抱いているこの夢に向かって、ワンダーラボ社は着実に前進しています。

 

学力は人生を切り開く武器になる:すららネット社のeラーニングプログラム「Surala Ninja!」

 

「一人ひとりが幸せな人生を送ろうとしたとき、学力は人生を切り開く武器となります。だからこそ、子どもたちの学習の機会を止めてはならないと考えています」

 

スリランカやインドネシア、エジプトなどの各国でデジタル教材「Surala Ninja!」の普及に取り組んでいるのが、すららネット社です。日本国内で展開する「すらら」のeラーニングプログラムは、アニメーションキャラクターによる授業を受ける「レクチャーパート」と問題を解く「演算パート」に分かれており、細分化したステップの授業が受けられるのが特徴です。国語・算数(数学)・英語・理科・社会の5科目を学ぶことができ、小学生から高校生の学習範囲まで対応。 「Surala Ninja!」 は、「すらら」の特徴を引き継いで海外向けに開発された計算力強化に特化した小学生向けの算数プログラムになります。一般向けではなく、学校や学習塾といった教育現場に提供し、利用されています。

↑「Surala Ninja!」の画面

 

「『学校に行けない子どもでも、自立的に学ぶことができる教材を作ろう』——これが、『すらら』を開発した当初からのコンセプトなんです」。こう語るのは、同社の海外事業担当の藤平朋子さん。スリランカへの事業進出の理由を次のように明かしてくれました。

↑株式会社すららネット・海外事業推進室の藤平朋子さん

 

「スリランカでは、2009年まで約四半世紀にわたって内戦が続いていました。内戦期に子供時代を過ごした人たちが、今、大人になり、教壇に立っています。つまり、十分な教育を受けることができなかった先生たち教えるわけですから上手くできなくて当前です。そこで『Surala Ninja!』が、先生たちのサポートとしての役割を果たせればと考えました」

↑「Surala Ninja!」導入校での教師向け研修風景

 

現在、「Surala Ninja!」はシンハラ語(スリランカの公用語の一つ)・英語・インドネシア語の3言語で展開しています。スリランカでは、まず、現地のマイクロファイナンス組織である「女性銀行」と組んで「Surala Ninja!」の導入実証活動を行いました。週2・3回、小学1年生から5年生までの子供たちに『Surala Ninja!』による算数の授業を行ったところ、計算力テストの点数や計算スピードが飛躍的に向上しました。

 

しかし、最初から事業が順調に進んでいたわけではありません。JICAの「中小企業・SDGsビジネス支援事業」には、2度落選。事業計画やプレゼンテーションのブラッシュアップを重ねて、3度目の正直での採用となりました。

 

「当時のすららネットは、従業員数が20名にも満たない上場前の本当に小さな会社でした。海外、それも教育分野となると、自分たちだけではなかなか信用してもらえないのです。だからこそ、現地で多くの人が知っている、日本の政府機関であるJICAのお墨付きをもらっていることが、学校関係者の信頼を得るために大きな要因になっていると肌身に感じました。海外進出にあたって、JICAの公認を得たことは非常に大きなメリットだったと感じています」

↑スリランカの幼稚園での体験授業の様子

 

また同社は、エジプトでもeラーニングプログラムの導入を進めています。エジプトの就学率は2014年の統計で97.1%と高水準を誇りますが、2015年のIEA国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)という、学力調査のランキングでは数学が34位、理科が38位(※中学2年生のデータ)という結果。数学は他の教科にも応用する基礎的な学力になるため、算数・数学の学習能力向上に向け、目下、国を挙げて取り組んでいるところです。

 

複数の国で事業活動する上で苦労しているのは、宗教に基づく生活風習だといいます。活動国すべての国の宗教が違うため、ものごとの考え方や生活習慣なども大きく変わります。インドネシアでは、多くの人がイスラム教なので、一日数度のお祈りが日課。しかし、当初は詳しいことが分からず、学校向けの1週間の研修プログラムのスケジュールを作るのにも、「いつ、どんなタイミングで、どの位の時間お祈りをすればいいのか」を把握するために、何回もやりとりを重ねたりしたそうです。また、研修を受ける学校の先生方も給与が安かったりと、必ずしもモチベーションが高いわけではありません。教えた授業オペレーションがすぐにいい加減になってしまったりと、きちんと運営してもらうように何度も学校へ足を運び苦労しましたが、それも子どもたちのためだと、藤平さんはきっぱり。

 

「緊急事態宣言による休校を受け、日本でも家庭学習にシフトせざるを得ない状況になったとき、私たちの教材の強みを再認識することができました。子どもたちの学力の底上げは、将来の国力をつくることでもあると思っています」

 

ビジネスモデルの開発やアプリの利用環境の整備など、海外での展開にはさまざまなハードルがあるのも事実。「世界中の子どもたちに十分な教育を」という熱い思いで、真っ向から課題に取り組み続けている両社。官民一体となった教育への情熱が、新しい時代の教育のカタチへの希望の灯となっているのです。

 

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「国際ガールズデー」を機に秋元才加さんと考える――フィリピン、そして、日本を通して見えた教育とお互いを尊重することの大切さ

10月11日は今年で9年目を迎える「国際ガールズデー」。児童婚、ジェンダー不平等、女性への暴力……女の子が直面している問題に国際レベルで取り組み解決していこうと、国連によって定められた啓発の日です。これまでも世界各地の女の子が自ら声を上げ、そんな彼女たちを支援する様々なアクションがとられてきました。

 

「性別」や「年齢」による生きにくさは、途上国だけではなく、身近な日本の社会においても感じることかもしれません。女優の秋元才加さんは、人権問題やジェンダー問題について自身のSNSで積極的に発信するなかで“元アイドルがよく知りもせず”“女のくせに”という色眼鏡で見られるなど、戸惑う時期もあったといいます。

↑今回対談に参加してくれた女優の秋元才加さん。フィリピン人でたくましく働く母親の背中を見て育ち、「フィリピン人女性=強い」というイメージをもっていたそうですが、今回の対談ではフィリピンの意外な側面を聞いて驚く場面も

 

今回は、社会課題や国際協力への関心が高く、フィリピンにルーツをもつ秋元さんと、26年に渡りフィリピンで活動するNPO法人アクション代表の横田 宗さんが、人として尊厳をもっていきるために必要なもの、そして、お互いを尊重することの重要性を語り合いました。コロナ対策に配慮したweb対談ながら、熱いトークのスタートです!

 

【対談するのはこの方】

秋元才加(あきもと さやか)

女性アイドルグループ・AKB48の元メンバーで「チームK」時代はリーダーも務めていた。日本人の父とフィリピン人の母をもつダブルで、フィリピン観光親善大使を務める国際派女優。LGBTQのイベントに参加したり、SNSで人権問題について発信したりするなど、社会課題にも強い関心をもっている。2020年夏にはハリウッドデビューを果たし、ますます活躍の場を広げている。

 

横田 宗(よこた はじめ)

NPO法人アクション代表。高校3年の時、ピナツボ火山噴火で被災したフィリピンの孤児院で修復作業をした経験から、1994年にアクションを設立。以降、フィリピン・ルーマニア・インド・ケニア等の孤児院や乳児院の支援、そして、福祉に関する国の仕組み作りまで協力を広げている。また、空手を通した青少年支援、美容師を育成するプロジェクト「ハサミノチカラ」、女性の収入向上を目指す「エコミスモ」開設、シングルマザーやLGBTの方々が働く日本食レストランを経営等、幅広く事業も展開。フィリピン国内外の企業・財団やJICAとの連携も進めている。

■NPO法人アクション http://actionman.jp/
■エコミスモ http://www.ecomismo.com/

 

母親に連れていかれたスラム街の記憶――フィリピンの子どもや女性をとりまく今の現実は?

秋元才加さん(以下、秋元):私の母がセブ島のカモテス諸島出身で、以前は毎年1回帰省していました。6歳の頃には、首都圏マニラにあるスモーキーマウンテン(※)に連れて行かれて、スラム街の現実を目のあたりにしたことも。「日本では義務教育が普通だけど、学ぶことさえ叶わない子どもがいる」と母に言われて衝撃を受けたことをよく覚えています。

横田さんがフィリピンで福祉活動を始めたきっかけは何ですか?

※マニラ北部に存在した巨大なゴミの山とその周辺のスラム街で、自然発火したゴミの山から燻る煙が昇るさまからこう呼ばれた。1995年に政府によって閉鎖された

 

横田 宗さん(以下、横田):私は東京生まれの東京育ちですが、活動を始めたのは高校3年の時。1991年のピナツボ火山噴火で被災したフィリピンの孤児院で、1か月ほど修復作業をしたのがきっかけでした。

↑対談は、JICA本部(東京)で実施。横田さんはマニラ首都圏の郊外マラゴンからリモートで対談に参加してくれた。コロナの影響で外を歩く際はマスク+フェイスシールドの着用が義務付けられていると話すが、声や表情は力強い。ファシリテーターはフィリピン事務所赴任経験のあるJICA広報室・見宮美早さん(右)

 

秋元:えっ!? 17歳のときにもう? それから26年も続けてこられて、現在はどのような活動をしていらっしゃるのですか?

 

横田:活動軸は大きくは2つ。1つ目は、国の福祉の仕組みづくりに協力することです。日本の児童養護施設は民間も含めて税金で運営されているのですが、フィリピンは国から運営費は出ません。子ども達の食事や教育費は削れないので、職員の給与に負担がいってしまう。働く側にやる気があっても、例えば性的虐待を受けた女の子にどう接していいかを学んでいないと、対応がわからず燃え尽きてしまうといったような問題もありました。

 

秋元:なるほど、指導する側の大人にも教育などの支援が必要ということなんですね。

 

横田:そうなんです。身体や精神的に問題を抱えた子どもの育成には知識やスキルも必要で。そこで、指導員用の教材や研修制度を作りたいと考えました。JICAの「草の根技術協力事業」に採択され、現地の社会福祉開発省と連携しながら、継続的な指導研修やフォローアップ研修を設置。昨年には、国の制度として正式に大臣が署名し、全国に研修を展開していく仕組みができました。

↑横田さんが17歳のときに訪れた孤児院。それから26年間、いまでも支援を続けている

 

2つ目は、子どもの職業訓練やクラブ活動、性教育などの事業です。ストリートチルドレンや貧困層の子どもが無料で参加できるダンススタジオや、空手道場の運営もしています。2018年には秋元さんとの関係も深いMNL48さん(※)と、7000人の子ども達を集めて歌とダンスのチャリティコンサートを実施しましたよ。

※女性アイドルグループ・AKB48の姉妹グループの1つで、フィリピンのマニラを拠点に2018年から活動している

↑アクションが運営するダンススタジオ(上)と空手教室(下)の様子

 

秋元:おぉ、AKB48の姉妹グループ! いい活動ですね(笑)フィリピンの人は歌と踊りが大好きですし。

 

横田:職業支援として美容師やマッサージセラピストの育成もしています。手に職を持つことで、学歴がなくて働けない子どもたちにもチャンスが広がります。

 

秋元:その職業は女性が多い職業なのですか?

 

横田:育成したのは女性が多めですが、これまで男女合わせて500人程が国家資格を取りました。トライシクル(三輪バイクタクシー)の運転手や屋台販売などインフォーマルセクターの仕事は賃金がとても低く、家庭を養っていくだけの収入を得ることは難しい現状があります。技術があれば頑張れば稼げます。

↑美容師を育成する「ハサミノチカラ」プロジェクトの様子

 

コロナ禍で増える人身売買や広がる経済格差――14歳以下で母になる女の子が毎週約70人いる現実

秋元:コロナで今は世界中が大変な思いをしていますよね。そんな時に最も被害を受けるのは、フィリピンでもやはり貧困層の方々なのでしょうか?

 

横田:ええ、経済困難が起きると、まず人身売買が増えるんです。コロナ禍の3-5月は子どもの虐待率が2.6倍に増えました。10-14歳で望まぬ出産をする女の子は毎週およそ70人にのぼります。

 

秋元:その数字は驚きです……。売春宿のような所が今もあるのですか?

 

横田:コロナ以前は、そういう風俗街はエリアが存在していましたが、今は封鎖されているので、ネット上の見えない環境でのやり取りが増え、むしろ性犯罪の被害が増えてしまっています。収入が途絶えたことで、母親が娘の裸の写真を撮ってネット上で売ることもありました。

↑貧困層の厳しい現実を横田さんから聞き、時折つらそうな表情を浮かべる秋元さん。コロナ禍でも個人レベルで可能な援助について考え、お母様とも話し合ったそう

 

秋元:現実として「美」や「性」を売る仕事はありますが、いつまでも続けていけることではないと、私は思っています。それまでに正しい知識を身につけられるのが「教育」なのかなと。私は、母が言うように基礎教育を受けることができた幸せな部類だと思うんです。25歳でアイドルを卒業して以降も、いろんなご縁が重なって今がある。今日も横田さんから学ばせていただていますし。

 

横田:その通りですね、「教育」は現状を変える第一歩。そこで今は、青少年の性教育にも力を入れています。受講生の中から希望者を募り、ユーストレーナー14人が当会のソーシャルワーカーと共に同世代への啓発を実施したりしていますよ。

 

日本よりも先進的!? フィリピンの女性と子どもを守る社会システム

横田:貧困問題は根深いですが、一方で子どもや女性を守る国の制度は、日本以上に充実しているんですよ。例えばセクシャルハラスメントは1-3年の懲役刑。未成年へのレイプは終身刑になりますから、法律的には日本の数倍厳しいです。

 

秋元:日本だと被害を声に出すこと自体がはばかられる雰囲気ですし、誰に相談すれば良いのかもわからない場合もありますよね。急場の時はどこに逃げ込めばいいの?とか。

 

横田:フィリピンには子どもの虐待や夫の暴力に関しても、すぐに通報できる窓口がバランガイ役場にあります。バランガイは日本の町内会にあたる地方自治団体なのですが、役場のスタッフは、きちんと選挙で選ばれます。夫婦喧嘩レベルでも、このバランガイ役場が仲裁に入ります。役場には留置所のような場所もあって、そこに入れられることも。

 

秋元:フィリピンって、昔の日本のように町内レベルのご近所同士・お隣同士の繋がりが今も強いですものね。そういう身近な駆け込み所が日本にもあったら、女性は声を上げやすくなりそう。むしろ日本がフィリピンから学ぶことも多いのかもしれない。

↑頻繁にメモを取りながら、真剣な表情で横田さんの話に耳を傾ける秋元さん

 

横田:フィリピンも以前は「家庭を守るのは女性」「外で働く男性を支えるのは女性」という風潮があったんです。それがここ20年で変わってきた。国の制度改革もありますが、生きやすい環境を女性自身が勝ち取ってきた成果だと感じています。そして、従来は働かない男性は後ろめたい思いをもっていたのが、そういう生き方(女性が働き、男性が家事を担う)も社会で認められるようになっています。

↑アクション25周年イベントでのスタッフ集合写真。多くの女性が活躍している

 

国際協力・支援活動……何から始めればよいのか教えて欲しい!

秋元:私も個人として、フィリピンにどんな支援ができるだろうって、ずっと考えているんです。NPOなど多くの支援団体や財団がありますよね。でも正直、どれを選択するのが最適かわからない。コロナでも「マスクをフィリピンに送ろう」と考えましたが、母に「マスクよりお金を送れ!」とたしなめられました。

 

横田:たしかに、金銭支援はストレートな方法。フィリピンではコロナ関連では政府から米支援はありましたが、物質的に足りないのはミルクや生理用品等の生活必需品でしたので、我々は粉ミルクに絞って支援をしています。

 

秋元:古着や人形を寄付したことはあるんですが、それが果たして本当の支援になっているのか。寄付の仕方とかってあまり教育現場で教えられてこないですよね。

↑以前、フィリピンでの感覚のまま、新宿歌舞伎町でホームレスの方にコンビニ弁当を買ってきて渡したところ、逆に怒られてしまった経験があると話す秋元さん。改めて文化の違いや支援の難しさを感じたそうです

 

横田:たしかに。あと、日本だと一部に見返りのない寄付を疑うような風潮もありますね。売名行為と言われたり。

 

秋元:海外では、セレブの方に対して、寄付する団体や支援活動をアドバイスしてくれたり、仲介役になってくれたりする方がいると聞いたことがあって。私が知らないだけかもしれませんが、日本にもあればいいなぁと。身近な、無理のない範囲で始めたいんです。

 

横田:秋元さんは発信力をお持ちなので、それを武器にもできますよ。アクションがこれから実施するクラウドファンドに賛同いただくとか(笑)。秋元さん自身が社会課題だと思っていること、解決したいと思っている分野を支援している団体を応援するのも良いと思います。

 

性別に関わらず「尊敬」できる関係づくりを目指したい

秋元:今日お話を伺っていて、「学び」って本当に大事だなって実感しました。学べる環境で力をつけることで、女性の人生の選択肢も増える、といいますか。

↑歳を重ねるごとに「教養」も積み重ねていきたいと、目を輝かせて語る秋元さん。目標は英国女優のエマ・ワトソンさんなんだとか!

 

横田:それは男性にも言えることですよね。私の妻と子どもは日本に住んでいて、私が日本にいる時は子育てを手伝うようになったんですが、妻の海外出張でワンオペをしてみて、本当に子育ての大変さを学びました。そうすると妻にリスペクトの気持ちが生まれて家庭が円満に(笑)

 

秋元:理想の形ですね。リスペクトし合える関係性。

 

横田:フィリピンでは私がいる福祉業界は女性が9割。NPOの経理課長も事務局長も女性ですし、なかにはLGBTのスタッフもいます。その環境で長く仕事をしてきて感じるのは、ジェンダーに違いがあろうと、貧富の差があろうと、何かしらお互い尊敬できる部分があれば人間関係は上手くということなんです。GetNavi webの男性読者にもぜひ、お薦めしたい、ワンオペトライ!

 

秋元:素晴らしいまとめのお言葉(笑)。でも本当にその通りですね。差別を完全になくすことは難しいけれど、お互いを尊重するために、いろいろ知ることから始めたいと私も思います。

 

今日は本当にありがとうございました!

 

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撮影/我妻慶一

SDGsの真の意味、理解してますか?――麹町中学校元校長・工藤勇一先生に聞く「学校教育とSDGs」【後編】

最近、すっかり定着した感のある「SDGs」というワード。ところで、2015年の国連サミットで採択された、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」であることは知っているけど、実際、具体的にはどういう意味? 自分たちにどう関係があるの? などなどイマイチSDGsについて分からないことが多いのではないでしょうか。そこで前編、後編の2回に分け、元麹町中学校の校長である工藤勇一さんにSDGsについて話をうかがいました。

↑現在は横浜創英中学校・高等学校の校長を勤める工藤勇一先生

 

「学校教育とSDGs」をテーマに、2回に分けてお届けする麹町中学校元校長の工藤勇一先生(横浜創英中学校・高等学校校長)のインタビュー。子育て世代も多いGetNavi web読者に向け、後編では、あるべき学校の姿とSDGsの本質についてお話しいただきます。

 

SDGsの真の意味、理解してますか?――麹町中学校元校長・工藤勇一先生に聞く「学校教育とSDGs」【前編】

 

学校は何のためにあるのか

前回、学校が抱えている真の課題と、麹町中学校での私の取り組みについて話をしました。実は、「よい学校をつくるためには」と、SDGsの「よい社会をつくるためには」は、同じことなんです。最上位の目標がきちんと決まり、目標を実現するための手段を選べば、その手段が次の目標に変わり、さらにその手段を選ぶことができます。そのときに気を付けなければいけないのが、「手段が目的化しない」こと。手段が目的化すると、上位の目標の実現を損ねてしまうことがあります。この一連のプロセスを確実に行うことさえできれば、学校や社会は必ずレベルアップすると考えます。

↑最上位の目標を明確にし、それを実現するために手段を考える

 

そしてこれを進めていくにあたって重要なことが、「全員を当事者にする」ということ。責任を明確にしたり、何か権限を与えたりすると、人は自分事として捉え、考えて行動するようになります。もちろん、合意・共有できる目標でなければいけません。それがなければ、自分の意見や価値観を押し付け合うだけになってしまいます。そして繰り返しになりますが、「目標と手段を明確する」ことが重要です。常に「何のため?」と目標に立ち返り、手段の目的化が起こらないようにします。しかし、残念ながら日本の学校の多くはこうした一連のプロセスのスタート地点にすら立っていないと言わざるを得ません。

 

麹町中学校が掲げる最上位の目標

麹町中学校で最上位の目標(教育目標)として掲げているのが、「自律」「尊重」「創造」ですが、これは、OECDが2030年という近未来をイメージし示した教育の目標ともよく似ていると感じています

↑OECDのLearning Framework 2030と麹町中学校の教育目標

 

そもそも学校とは、子どもたちが将来、社会の中できちんと生きていけるようにするための準備期間だと考えます。そして、学校のもう1つの役割がよりよい社会をつくっていくことだと考えます。誰一人取り残すことのない社会を創り上げることは、容易いことではありません。一人ひとりを尊重していこうとすることは、当然ですが利害関係の対立が生まれるからです。しかし、対立を乗り越え、学校の中の社会を長期的視野に立ち、全員が持続可能な方向でみんながOKと言えるものを見つけ出す。それこそが学校で学ぶべきことだと私は考えます。まさにSDGsの理念です。

↑本当の意味での教育の最上位目標はSDGsと同じ

 

それを実現していくために必要なことが対話です。「みんな違っていていい」と「全員がOK」(誰一人取り残すことのない)は相反する概念ですが、これを両立させることを目指していく対話です。

↑対話によって全員がOKなものを導き出すのが民主的な考え方

 

民主的なプロセスが必要

この対話のあるべき姿について例を挙げて考えてみましょう。わかりやすいのがスポーツの世界です。学校で行われる運動会や体育祭をイメージしてみましょう。例えば、「体育祭であなたにとって何がいちばん大事ですか?」と質問すると、日本の学校の多くの子どもたちからは、すぐに「団結」「チームワーク」「協力」などという答えが返ってきます。

↑みんな違っていてよい。全員がOKなものを探し出す

 

しかし、社会全体の価値観を共有するとき、自分の価値観を他者に押し付けてしまうことはできません。誰一人取り残すことのない価値観を共有することが大切です。人にはそれぞれ個性や発達特性があり、そもそも協力したりするのが苦手な子どもがいたりするからです。対話をするときに重要なのは、1人ひとり異なる価値観を認めつつ、全員にとって何が一番大事なのかを考えるということ。そうすると、自分の価値観では「団結が大事だと思うよ」と言う人も、「あいつは団結って言わないよな」「あいつは1人でいるのが好きだしな」「あいつは勝負にもこだわらないし」となるわけです。そうなると、「全員がOK」というものはめったにないとわかります。

 

「運動を楽しむ」ならどうでしょうか。これならみんな否定しないのではないでしょうか。スポーツは障がいがあってもなくても、運動が得意でも苦手でも楽しめるもの。生涯の友達みたいなもの。自分の人生を豊かにしてくれるもの。そんなことが粘り強く対話を続けていれば、必ず見つかってくるのだと私は思います。そして「運動を楽しむ」ことを、全員が共有する最上位の優先すべき目標だと合意ができれば、それを実現するための手段が的確に選択されていくのだと思います。

 

麹町中学校でのSDGsの教え方

麹町中学校では、SDGsという言葉こそ使っていませんが、SDGsの基本的な考え方を、体育祭と文化祭で教えています。体育祭の最上位の目標は「全員を楽しませよう」。生徒1人残らず楽しませるというミッションを与えるんです。生徒1人残らずというのは、足に障がいがあって走れない子、集団行動が嫌いな子、運動が嫌いな子、そういった子もすべてを含みます。逆に運動が得意だったり、目立ったりするのが好きな子もいます。「どんな生徒も楽しめる体育祭」というミッションを、子どもたちは対話をしながら解決していくわけです。

↑どんな体育祭にするか、みんなで話し合いを行う

 

ブレストやKJ法、マインドマップなど話し合いの技術や、プレゼンのコツなどは教えますが、あとは子どもたちが考え、自由に決めていきます。当日の運営もすべて子どもたち任せ。それを保護者も受け入れてくれています。

 

文化祭になるとさらに難しくなります。「次は社会を広げるぞ。見に来てくれる人がいてなんぼだから、観客の皆さんを全員で楽しませろ!」と。そうすると、地域のおじいちゃんおばあちゃん、小学生、家族、先生たち、全員を楽しませるわけですから、さらに多様な人を相手にしなければいけません。難題ですが、子どもたちは真剣に取り組みます。これらが、子どもたちがSDGsを学ぶための基盤になっています。

↑麹町中学校の文化祭の模様

 

みんなが違っていいけど誰1人取り残さない

このように、目標を定めるための対話こそが大切ですが、この対話が今の日本の教育ではほとんどなされていないように感じています。結局、あらゆるところで大人の価値観を押し付けてしまっています。相反することが起こった場合に、みんなが当事者となり、将来のことを考えて上位の目標で合意するには、痛みを分け合わなければいけません。スウェーデンでは、小学生のころから、学校で来年度の予算について対話で決めるそうです。子どもですから、当然、「あれ買いたい」「これ買いたい」となりますが、全員OKのものを見つけ出すことを目指し、安易に多数決をとることなく、話し合いを続けていくのです。誰1人取り残さないようにする方向で徹底して対話するこの経験が子どもたちの当事者意識を高めていくことにつながっていくのだと思います。

 

SDGsの本質を理解する企業とは

企業も同様かもしれません。SDGsを掲げている企業が多くありますが、SDGsの本質を理解している企業ばかりではないように思います。

 

以前、株式会社IHI(旧石川播磨島重工業株式会社)の元代表取締役だった斎藤保さんと対談をさせていただく機会がありました。同社は元々造船の会社でしたが、現在は資源・エネルギー、社会インフラ、産業機械、航空・宇宙の4つの事業分野を手掛ける総合重工業グループとなっています。企業が生き残れた理由について斎藤さんは、「企業の場合、最上位の目標は経営理念にあります。IHIの経営理念のひとつは『技術をもって社会の発展に貢献する』です。それを徹底していけば、組織を倫理的にきちんと進めていくことができます」と話していました。これこそがSDGsの考え方だと私は思います。

 

 

私の好きな経営者の一人に本田技研工業を創業者、本田宗一郎さんがいますが、彼の意志を継承した“ホンダイズム”という理念に「そこで働く人たちと共に社会貢献していく」ような考え方があります。ホンダは海外に工場を建設した際、現地の人たちと経営方法や仕組みを考えていくそうです。工場の排水が環境問題となった場合、排水を浄化するシステムまで開発し、それを地域の農作物用に利用するなど、現地の人たちを当事者にして課題解決に努めています。まさにSDGsそのものです。

 

先に民主的な考え方を学ぶべき

これからの日本、そして地球には解決していかねばならないさまざまな問題が待ち受けています。どの問題も人は自分のことを優先してしまうから、解決は容易くはありませんが、これを解決していく方法は粘り強い「対話」です。利害の対立を乗り越え、持続可能な社会を目指して合意する。このことを繰り返していくしかないのです。

 

最も大切な究極の目標は平和ですが、私は生徒たちにこう言います。「対話を通して持続可能な平和な世の中を作るという戦いに負けたら人類は滅びるんですよ」と。

 

先に、麹町中学校ではSDGsという言葉は使っていないと言いましたが、子どもたちは「あぁ、これがSDGsのことなんだ」と、たぶん本質的にわかっていると思います。「みんなが違う意見を言えば対立が起こるものだよ」「その対立が起こったときに対話をして、みんながOKのものを探し出すことが大事だよ」と教えているからです。

 

まさに民主主義の考え方なのですが、日本の教育は、民主的な考え方を学ぶ教育が浸透していません。それができてこそSDGsの本当の意味がで理解できるのではないでしょうか。

 

日常からSDGsの理念を体得

前編冒頭で「18歳意識調査」に触れましたが、子どもたちを含め、我々に最も足りないのは当事者意識です。SDGsを「どこか遠い国の話」だとか、「限られた優れた人たちの話」「意識の高い人たちの学問」みたいな捉え方をしていませんか。

 

国連がSDGsで示した、10年後の2030年。もしかすると日本社会は本当の意味で岐路にたっているかもしれません。そうならないために、学校は変わらなければならないと私は思います。

 

学校の中で起こる日常的な人間関係のトラブル全てが、実はSDGsを学ぶ場だと私は思います。生徒はもちろんですが、職員室、PTA活動の中で、まずは大人自身が対話を通して合意することができるようになる必要があります。SDGsという言葉は便利で、ひとつの切り口としては使いやすいかもしれません。でも、まずは自分たちの生活の場で、SDGsそのものの考え方、基本的な理念を体得することこそが大切だと思います。

 

【プロフィール】

学校法人堀井学園 理事/横浜創英中学校・高等学校 校長

工藤勇一(くどう・ゆういち)

1960年山形県鶴岡市生まれ。山形県の公立中で数学教諭として5年務めた後、東京都台東区の中学校に赴任。その後、東京都と目黒区の教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長などを経て、2014年4月から東京都千代田区立麹町中学校の校長を務める。大胆な教育改革を実行し、話題を呼んだ。2020年4月から、学校法人堀井学園 横浜創英中学校・高等学校の校長に就任。また、現在、内閣官房教育再生実行会議委員や経済産業省「EdTech」委員などの公職も務める。著書に、10万部のベストセラーになった『学校の「当たり前」をやめた。―生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革―』(時事通信社)ほか多数ある。

 

【JICA地球ひろば】

今回のインタビューは、独立行政法人 国際協力機構(JICA)が運営する「JICA地球ひろば」で行った。世界が直面する様々な課題や、開発途上国と私たちとのつながりを体感できる場、そして、国際協力を行う団体向けサービスを提供する拠点となることを目指して設立された。各種展示では、国連で採択された世界をより良くするための2030年までの目標「持続可能な開発目標 SDGs」などについて学ぶことができる。

〒162-8433 東京都新宿区市谷本村町10-5
電話 03-3269-2911
開館時間 平日10:30~21:00(体験ゾーンは18:00まで)
休館日 毎月第1・3日曜日ほか
詳細は次のホームページでご確認ください。
https://www.jica.go.jp/hiroba/index.html

 

 

 

SDGsの真の意味、理解してますか?――麹町中学校元校長・工藤勇一先生に聞く「学校教育とSDGs」【前編】

最近、すっかり定着した感のある「SDGs」というワード。ところで、2015年の国連サミットで採択された、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」であることは知っているけど、実際、具体的にはどういう意味? 自分たちにどう関係があるの? などなどイマイチSDGsについて分からないことが多いのではないでしょうか。そこで今回は前編、後編の2回に分け、元麹町中学校の校長である工藤勇一さんにSDGsについて話をうかがいました。

↑今年の4月から横浜創英中学校・高等学校の校長に就任した工藤勇一先生

 

東京都千代田区立麹町中学校の校長に2014年に就任後、宿題や固定担任制の廃止ほか“学校の当たり前”をやめ、子どもの自律を重視した教育改革に取り組んだ工藤勇一校長先生。先生の教育論はSDGsの考え方と共通する部分があります。前編では、学校教育が抱える真の課題について語っていただきました。

 

大人の自覚がない日本の高校生

まずは下記の図表をご覧ください。2019年11月に日本財団が発表した「18歳意識調査」です。世界9か国の17~19歳各1000人の若者を対象に、国や社会に対する意識を聞いたものです。

↑日本財団「18歳意識調査」(2019.11.30)より

 

結果を見ると、日本は他国と比べて尋常ではない数値であることがわかります。この数値が日本の高校生を象徴していると仮定するならば、日本の未来は非常に心配です。

 

どの項目も他国に比べて著しく低いことがわかります。最後の2項目、「自分の国に解決したい社会議題がある」「社会議題について、家族や友人など周りの人と積極的に議論している」はSDGsにも関係しますが、突出して低い数値になっています。そもそもSDGsについてほとんど関心を持っていない生徒が多いということを示しています。

 

しかし、この調査結果は若者たちの姿だけを示しているのもではなく、我々大人自身の姿であるのかもしれません。大人自身がすべてにおいて「他人事」だから、自分たちで国を変えようという意識が子どもたちに生まれないのだと考えます。だから、この度の新型コロナウイルスのような出来事のような、とんでもないことが起こっても、私たちはただただ受け身の姿勢で、誰かが何かをやってくれることばかりを期待してしまいます。そして思ったようにことが進まないと、やってくれないことを批判することに終始する、そんな社会になってしまったのかもしれません。

 

自律・主体性を失った子供たち

どうしてこのような社会になってしまったのか――。ある意味日本はサービス過剰の社会だからかもしれません。学校も行政も単なるサービス機関になってしまったように感じています。人はサービスを与えられ続けると、次第にそのサービスに慣れていきます。そしてもっとよいサービスをと、さらに高品質を求めるようになっていきます。そして不満を言うのです。

 

学校も行政も本当は、みんなが当事者でなければいけないはずです。しかし、みんながただただサービスを与えられる側になってしまっているのです。幼児期から手取り足取りモノを教え、壁にぶつかれば手を差しのべる。早期教育など、少しでもいいサービスを受けさせれば子どもの学力が上がると勘違いしています。そして、与えられることに慣れた子どもは、手をかけられればかけられるほど自律できなくなっていきます。そして、うまくいかないと人のせいにするようになる。例えば、勉強がわからなければ「先生の教え方が悪い」「塾が悪い」などという具合に。

 

リハビリの3つの言葉がけ

私が今年の3月までいた麹町中学校は、教育熱心な保護者が多く、子どもたちは、幼児期から手をかけられて育ってきました。そのためか、自律性と主体性を失った挙げ句、自分で考えて行動ができない子どもたちがたくさん入学してきます。劣等感でいっぱいで自己肯定化が低い。わずか12歳の子どもが「自分はダメですよ」などと言うんです。やる気は見られないし、先生を含め、そもそも大人を信用していません。

↑近くには皇居や最高裁判所もある、千代田区立麹町中学校

 

ずっと与えられ続けてきて、自分で考えて判断や行動ができなくなってしまった子どもたちは多くの問題を抱えています。授業中でも歩きまわるし、他人の邪魔をします。友達に嫌がらせはするし、いじめもする。破壊行為だって珍しくありません。ですから、麹町中学校では主体性を取り戻すためのリハビリが必要になってくるのです。

 

最初は現状把握をするために「どうしたの?」と聞きます。例えば、騒いで授業の邪魔をする子どもがいたら、「どうしたの?」「何か困っているの?」と。小学校時代、頭ごなしに叱られてきた子たちたちは、叱られないことにまず驚きます。

 

次に、「君はこれからどうしたいの?」と聞く。これまでの中学校では、「邪魔するならとっとと帰れ」「空いている教室に行け」など、先生がある意味高圧的な指導で行動を指示をするのが一般的だったかもしれません。でも、「君はどうしたいの?」と聞かれると、どうしたいか自分で考えざるを得ません。

 

そして3つ目の言葉は、「何を支援してほしいの?」です。トラブルを起こした子どもが、自己決定しなければならない状況に自然と導くのです。とはいえ、主体性がなく自律できない子どもは、最初は自己決定などできません。例えばそんなときは、「支援できるとすれば、別室ぐらいは用意してあげられるよ」「君が選択できるとすれば、教室に戻って我慢して1時間授業を聞くか、別室にいて何かやっているかだけど、どうする?」と助け船を出します。そうすると、「別室に行かせてください」と返ってくる。子ども自身に決定させるのです。「1時間でいいかい?」と、さらに考えさせ、自己決定させます。

↑子どもに自己決定させるための言葉がけ

 

ほんの些細な自己決定に過ぎませんが、この「自己決定をする」というプロセスはすごく大事な作業で、これを何度も繰り返すことが重要です。繰り返していくうちに、主体性が徐々に戻り、自己肯定感が高まってきます。さらに、自分が支えられているという安心感が生まれ、他者を尊重する気持ちが芽生えてくるのです。

 

リハビリにより子どもたちに変化が

麹町中学校では、第1学年を「リセット(リハビリ)する時期」と位置付けています。

 

↑リセットにかかる期間は子どもによりまちまち

 

中学1年生相手にリハビリを展開するのは、教員にとってすごく忍耐のいる作業です。「宿題は出しません」「勉強をしたくなければしなくていいですよ」と言われれば、授業中でも子どもたちは遊んでいます。はじめに教えるのは、「あなたに勉強しない権利はありますが、他の人の勉強の邪魔をする権利はありません」というルールぐらいです。とは言っても、授業中に遊び続けられていると、「何やっているんだ」「時間の無駄だぞ」と教員は注意したくなります。注意するのは簡単ですが、それでは元も子もない。前述した3つのセリフをどのタイミングでどのように使えばいいのか、教員たちは日々悩み試行錯誤しながら教育活動を行っています。

 

当初は、「どうしたの?」と聞くと、「いやぁ」とヘラヘラ笑うか、「別に」と素っ気なく答える子どもがほとんどでした。無気力なんです。ところが、粘り強く「どうしたいの?」「手伝うことある?」と教員が訊き続けると、1日過ぎ、2日過ぎ、1週間過ぎ、1カ月過ぎ、次第に無気力な子どもが減っていきます。

 

いろいろなトラブルが起こり、そのたびにこうしたアプローチを続けていくうちに、「先生は信頼できる存在なのかも」と、子どもたちも心を開き始めます。

 

ずっとやる気がなく、授業中ほとんど勉強しない子のリハビリに8カ月かかったこともありました。その子は数学の時間、毎時間遊び続け、教員はひたすら我慢し、待ち続けました。7カ月が過ぎた頃、何かのきっかけで、その子が、1問、問題を解いたんです。その瞬間に気付いた教員が声をかけたら、スイッチが突然入ったんですね。その子はそこからわずかひと月半で、1年生のカリキュラムを全部終わらせることができました。これは、教員たちにとっても改めて待つことの大切さを感じた出来事となりました。

 

麹町中学校が行ってきた取り組み

こうした麹町中学校の取り組みはマスコミでも話題になりました。定期テストと宿題、服装・頭髪指導、固定担任制の廃止などです。子どもは場面に応じてその都度、先生を逆指名します。例えば中3の進路面談では、1年生から3年生までの全教員の中から相談に乗ってもらう教員を選べます。自分で選んだ先生ですからもちろん文句を言うことはありません。教員間での妙な競争意識がなくなり、教員たちも子どもたちに対して過剰なサービスをしなくなります。ある意味、教員の働き方改革にもつながりました。

↑話題になった、麹町中学校での主な取り組み

 

私は元々、数学の教師ですが、麹町中では数学にAI(人工知能)教材を取り入れた全く新しい指導を行いました。教員は3年間、一斉指導を行うことをやめたのです。基本的に毎時間、子どもたちが自主的に好きなように学べるのです。自分で問題集を持ってきて1人で解いている子どももいれば、AI教材を使って勉強している子もいます。もちろん先生に質問することもできます。この授業スタイルを取ってから、落ちこぼれる子どもがいなくなりました。特にAI教材は効果的です。どの子がどの部分につまずいているかをAIが瞬時に判断し、わからない箇所は小学校1年生の基礎まで戻れます。逆に数学が得意な子どもは、どんどん進んで、高校の内容まで勉強できるなど、教員が教えない方が遥かに効率的だということがわかりました。

 

大切なのは手段が目的化しないこと

宿題の廃止にも大きな意味がありました。宿題の目的は「学力を高めるため」ですが、一律に課すことにより、先生に怒られるからと子どもたちは「宿題を提出する」ことに意識がいってしまいます。そのため、例えば20問ある宿題があった場合、わからない問題を飛ばし、提出するためだけに時間を使います。本当は、飛ばした「わからない問題」を勉強することこそが大切なのに、それでは学力は何も変わりません。また、すでに理解している子どもにとっては単なる時間の無駄でしかありません。日本の教育は全てこれです。目的を達成させるための“手段”である「宿題をやる・提出する」ことが、目的化してしまっているのです。

↑わからない「×」の部分を「〇」にする努力をしなければ学力は何も変わらない

 

現在の学校教育を振り返ってみると、意味のないことをたくさん行っているように感じます。誰も読まない作文を書いたり、宿泊行事では集団行動が重視されたり、挨拶運動をさせたり。手段そのものが目的化し、本当の目標がブレてしまっているのです。よくあるのが、「みんなでSDGsを研究しましょう」という課題。さんざん研究して、その成果を廊下などに掲示したりしていますが、誰も読んでいません。これは、SDGsを研究させて発表すること自体が目的になっているからです。これでは何のためにやっているかわかりません。学校にはこのような手段の目的化が多く存在します。

↑手段が目的化している例

 

画一的な教育から多様な教育へ

日本の学校では、いまだに「礼儀」「忍耐」「協力」が強調され続けています。日本古来の「いい」考え方だという捉え方をされていますが、これらを優先することで排除されてしまう子どもたちが少なからずいることを忘れてはいけないと私は感じています。自閉症スペクトラムのような特性を持った子どもたちの多くは挨拶やコミュニケーションを苦手としています。友達と協調することが苦手な子どももいます。本当に大切にすべきことを優先にできる教育を行うことができなければ、スティーブ・ジョブスやビル・ゲイツのような起業家は生まれてこないと私は思います。

 

日本の学校では、先生の言うことを聞く子どもがよしとして育てられ、自律できないまま大人になってしまう子どもたちが数多くいます。終身雇用制度の時代であれば、組織の歯車としてはいいのかもしれません。しかし時代は急激に変化しています。終身雇用制度は崩壊し、転職や企業を、自分で考えて決め、行動しなければなりません。となると、学校の最上位の目標は「自律性・主体性のある子どもを育てる」でなければなりません。

 

学習のやり方はいろいろあるのに、一つの方法を全員に強制するのも手段が目的化してしまった一例です。一人ひとりの可能性を伸ばしていくために、これからの学校は、学習者主体で考えていくことが大切です。子どもたちが「何を学んで(カリキュラム)」「どう学ぶか(学び方)」を決められるようにしていくことです。例えば、発達に特性があって、プログラミングにしか興味が子がいるとすれば、その子にそれをたっぷり勉強できる環境を作ってあげる。そんなことができたらと思います。多様な子どもたちに、個別最適化した教育を行うことによって、多様な人材が生まれる。そんな学校教育を実現したいものです。〜後編に続く

 

【プロフィール】

学校法人堀井学園 理事/横浜創英中学校・高等学校 校長

工藤勇一(くどう・ゆういち)

1960年山形県鶴岡市生まれ。山形県の公立中で数学教諭として5年務めた後、東京都台東区の中学校に赴任。その後、東京都と目黒区の教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長などを経て、2014年4月から東京都千代田区立麹町中学校の校長を務める。大胆な教育改革を実行し、話題を呼んだ。2020年4月から、学校法人堀井学園 横浜創英中学校・高等学校の校長に就任。また、現在、内閣官房教育再生実行会議委員や経済産業省「EdTech」委員などの公職も務める。著書に、10万部のベストセラーになった『学校の「当たり前」をやめた。―生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革―』(時事通信社)ほか多数ある。

 

【JICA地球ひろば】

今回のインタビューは、独立行政法人 国際協力機構(JICA)が運営する「JICA地球ひろば」で行った。世界が直面する様々な課題や、開発途上国と私たちとのつながりを体感できる場、そして、国際協力を行う団体向けサービスを提供する拠点となることを目指して設立された。各種展示では、国連で採択された世界をより良くするための2030年までの目標「持続可能な開発目標 SDGs」などについて学ぶことができる。

〒162-8433 東京都新宿区市谷本村町10-5
電話 03-3269-2911
開館時間 平日10:30~21:00(体験ゾーンは18:00まで)
休館日 毎月第1・3日曜日ほか
詳細は次のホームページでご確認ください。
https://www.jica.go.jp/hiroba/index.html

手帳の中身を一気見せ! コクヨ×スターバックスの2021年版「キャンパススケジュールブック」が登場

コクヨとスターバックス コーヒー ジャパンが共同開発した「2021 スターバックス キャンパススケジュールブック」が登場。10月7日(水)から、全国のスターバックス店舗(一部を除く)と、スターバックスオンラインストアで発売されます。

 

コクヨ×スタバのエコな手帳が誕生!

国内文房具メーカーの最大手、コクヨは、「限りある地球の資源を大切に使いたい」というスターバックス コーヒー ジャパンのポリシーに賛同し、全国のスターバックス店舗で出るミルクパックを、表紙としてリサイクルしたノート「スターバックス キャンパスリングノート」を発売していますが、今回新たに、2021年版の手帳をラインナップに追加し発売します。

コクヨ
2021 スターバックス キャンパススケジュールブック
各2100円(税別)

サイズはB6。カラーバリエーションは、ホワイトとピンクの2種類をラインナップ。

 

表紙はスタバのミルクパックをリサイクル、中紙はジブン手帳と同じ「MIO PAPER」

素材は、表紙には「スターバックス キャンパスリングノート」と同様、全国のスターバックス店舗で出る、年間約1000tに上る使用済みミルクパックを原料とした紙を使用。中紙には、なめらかな書き心地で、インクの乾きが早くにじみにくいコクヨのオリジナル原紙「MIO PAPER」(森林認証紙)を採用しています。

 

ミルクパックが表紙の紙に生まれ変わる工程を見てみましょう。

↑①全国のスターバックス店舗からミルクパックを回収

 

↑②水と攪拌し分離する工程

 

↑③古紙パルプが抽出され、新たな“紙”として生まれ変わります

 

手帳の表紙として生まれ変わった姿がこちら。

↑表面に微細なシボ加工が施され、光を反射して絶妙なニュアンスを生み出しています

 

↑リサイクルをイラストで示した表紙のデザイン

 

↑このリサイクル商品のコンセプトとメッセージが綴られた裏表紙

 

中紙に採用された「MIO PAPER」は、さらさらとしたなめらかな書き心地。コクヨの人気手帳ブランド「ジブン手帳」の「Bizシリーズ」とノーマル版の「LIFE」リフィルにも使用されています。

↑表面はさらさらとした触感で、書き味はなめらかなオリジナルペーパーを採用

 

フォーマットは、マンスリーと週間レフト式

スケジュールブックのフォーマットは、マンスリーページと、右ページに方眼のメモを備えた週間レフト式を収録。いずれも月曜始まりで、日本の曜日・祝日の表記にも対応しています。

↑ブロックタイプのマンスリーには、各月のモチーフから抽出したイラストがデザインされています

 

↑月曜から日曜まで、均等に配分されたスケジュール欄。右ページは方眼のメモページになっています

 

13か月分をチェック! スタバ自慢のコーヒー商品をイメージしたイラストとストーリー

各月の扉には、スターバックスが製造・販売しているコーヒー豆のパッケージデザインをモチーフとしたイラストが描かれ、その脇にはコーヒーストーリー、キーワードと味わいの特徴が記されています。2020年12月から2021年12月まで、一つずつ見ていきましょう。

 

2020年12月

↑スケジュールページは2020年12月からスタート。スターバックスの定番ブレンド「ハウスブレンド」のイメージとストーリーが施されています

 

2021年1月

↑2021年1月は、スターバックス発祥の地で、現在も第1号店が存在するPike Placeをイメージした「パイクプレイスロースト」のイラストとストーリー

 

2021年2月

↑2月は深煎り豆「カフェベロナ」のイメージとストーリー

 

2021年3月

↑3月はコーヒー発祥の地で収穫される豆「エチオピア」のイラストとストーリー

 

2021年4月

↑4月は、アンデスの高地で栽培された豆「コロンビア」のイラストとストーリー

 

2021年5月

↑5月は酸味が際立つ浅煎り「ブロンドロースト」に位置づけられる「ウィローブレンド」のイラストとストーリー

 

2021年6月

↑6月はミディアムブレンド「セイレーン」がモチーフ。セイレーンとはギリシア神話に登場する人魚の姿をした海の怪物で、ロゴにも使われるなどスターバックスのアイコンとなっています

 

2021年7月

↑7月は南米産の豆を使用した「ベランダブレンド」をイメージしたイラストとストーリー

 

2021年8月

↑8月はさわやかな後味が特徴の「ブレックファーストブレンド」のイラストとストーリー

 

2021年9月

↑9月はアフリカ・ケニアのシングルオリジン「ケニア」をイメージしたイラストとストーリー

 

2021年10月

↑10月は、南米のグアテマラ・アンティグア地方の農園で収穫された「グアテマラ アンティグア」をイメージしたイラストとストーリー

 

2021年11月

↑11月は、アジアの主要産地であるインドネシアのコーヒー豆「スマトラ」をイメージしたイラストとストーリー

 

2021年12月

↑締めとなる12月は、スターバックスを代表するダークローストコーヒー「イタリアンロースト」のイラストとストーリー

 

毎月ひとつずつ明かされるスターバックス・コーヒーのストーリーを楽しみながら、自身の記録をしたためられる、1冊で2度美味しい手帳です。

 

 

ブラジルで環境に優しいエアコンを:官民連携で省エネ基準改正を実現【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、ブラジルで進む環境に優しいエアコン普及のための取り組みについて取り上げます。

 

2020年7月、ブラジルで空調機向けの省エネ基準が改正されました。これは、ブラジルで日本のエアコンメーカー・ダイキン工業が、JICAの民間連携事業「中小企業・SDGsビジネス支援事業」を活用して現地の大学などと連携し、時代に対応できていなかった規制制度の改定をブラジル政府に働きかけてきた結果です。民間企業の取り組みによって国の規制改定に至ったのはブラジルでは初めてでした。これに伴い、今後、ブラジルのエアコン市場は、環境に優しい空調機が普及しやすくなり、エネルギーや環境保全の課題に貢献することが見込まれています。

↑ブラジルにあるダイキン工業の工場。JICAとダイキン工業はブラジルの省エネエアコン基準改正を後押ししました

 

空調機の性能評価の基準が改正された

ダイキン工業は、JICAの民間連携事業として「ブラジルでの環境配慮型省エネエアコンの普及促進事業」を2018年から実施しています。このブロジェクトが始まった頃のことを、当時の担当者だったJICA民間連携事業部の関智子職員は次のように振り返ります。

 

「ダイキン工業は、現地に法人と工場を持ち、すでにブラジル市場に参入していましたが、ブラジルの空調機の性能評価の基準が時代に適合していなかったため、同社製のエアコンの性能がどれほど高くとも、ブラジルの市場では評価されませんでした。しかし、単独の民間企業が国の評価制度や基準改正に向けて取り組むには限界があります。ダイキン工業によるJICA民間連携事業は、ブラジルのエネルギー課題への対応と日本企業の技術活用、その両方に貢献できる事業としてスタートしました」

 

ダイキンブラジルの三木知嗣社長は、「ブラジル政府も、エネルギー問題をどうしていくかということについて危機感を持っていました。そのタイミングで、JICAと連携することで『日本が国として動く』という姿勢をみせられたことは大きな力になりました」と語ります。

 

今回の改正では、空調機の性能評価方法について、国際的に広く用いられる評価基準のISO16358が適用されます。この改正基準は2020年7月に公布後、2023年と2026年には、段階的に時代に合わせた基準値の義務化が予定されています。

↑新制度の開始を告知するブラジル国家度量衡・規格・工業品質院(INMETRO)のwebサイト

 

時代遅れであったブラジルの省エネラベリング制度

ブラジルでは、エアコンの省エネ性能を表示するラベリング制度も機器の性能を適切に反映できるものに改善されます。この省エネラベリング制度については、省エネ性能に優れ世界の主流になっているインバーター機が正しく評価されておらず、問題が山積していました。

 

これまでは非インバーター機を対象とした基準になっており、約10年間も省エネ基準の見直しが行われていませんでした。そのため、インバーター機が非インバーター機に比べて最大で6割も消費電力が低いにもかかわらず同一カテゴリーに分類されており、省エネ品質表示としては実質的に機能していないものだったのです。

 

「ブラジルで売られているエアコンの多くが、省エネ性能に劣り、他国ではもはや売れなくなったような旧型製品です。しかし、従来のラベリング制度では市場に流通するこれらの製品の9割以上が最高グレードのAランクに分類されるため、ユーザーにとっては非常に分かりにくい制度になっていました」と、三木社長はブラジルの状況を振り返ります。

 

旧制度のままでは、インバーター機が正当に評価されず、その普及が遅れることは、ブラジルのエネルギー・環境問題にとって大きな課題でした。こうして、ダイキン工業とJICAは、これらの課題を解消するために、多くの施策に取り組んだのです。

「中南米ではインバーター機の普及が他地域に比べて遅れている」  世界の住宅用エアコンのインバーター機比率(2018年):住宅用エアコンとは、ウインド型、ポータブル型を除く住宅用ダクトレスエアコン(北米のみ住宅用ダクト式エアコンを含む)。日本冷凍空調工業会データを参考に作成(資料提供:ダイキン工業)

 

新しい基準設定のため産官学連携で働きかけ

消費者に省エネ意識が定着しておらず、国の省エネ政策もまだまだ弱いブラジルで、基準や制度の改定に向けた働きかけは簡単なものではありませんでした。ダイキン工業はJICAの支援を得て、現地の大学やNGO、国際機関などと連携し、共同実証試験の実施など、課題と対策について繰り返し話し合いの場を持ちました。

 

さらに、ブラジル政府関係者の日本への招聘、日・ブラジル政府次官級会合、ブラジル空調懇話会などを実施。ダイキン工業の工場見学など現場への訪問やWEB会議を重ね、理解を深めるための的確で正しい情報の提供と、改正案を整えるための懸命な働きかけを重ねることで、改正は進んでいったのです。

↑ブラジル政府関係者の日本来訪時の様子(2019年)。ダイキン工業滋賀工場の見学(上)や、家電量販店のエアコン売り場視察(下)

 

JICA民間連携事業部の担当者である山口・ダニエル・亮職員は「取り組みに対する、ダイキン工業の皆さんの熱量が高かった。それがブラジルの関係者に伝わったのだと感じます。さらに、ダイキン工業の高い技術力に裏付けされた実績と信頼、複数の専門分野の関係者を巻き込んだチーム運営、官民連携による対話の機会構築が今回の成果に繋がったのだと思います」と語ります。

 

また、ダイキン工業CSR・地球環境センター課長の小山師真さんは「日本にブラジルの関係者を招聘した際にも、先方の『なんとかしなきゃならない』『この機会を活かすんだ』という熱意を感じました。制度や規制を変えるのに必要なのは、日本とブラジル双方の熱意であると思います」と述べました。

 

ダイキン工業は今後、アフリカや中東でも環境に優しい製品を展開していく予定です。JICAは、長年築き上げてきた途上国との信頼関係や幅広いネットワークを活かし、日本の民間企業や研究機関が持つ新技術やノウハウを、途上国の課題解決につなげていきます。

↑現在、世界の主流はインバーター機。写真はブラジルのダイキンショールームに展示されているインバーターエアコン

 

【JICA(独立行政法人国際協力機構)のHPはコチラ

まるでSFの世界!? 世界最大の完全人工光型植物工場の内部に初潜入して分かったこと

人口爆発、気候変動、森林の砂漠化、疫病の蔓延……これらによって来たる時代、世界は深刻な食糧難を迎えるとは、クリストファー・ノーランの『インターステラー』など、ずいぶん前からさまざまな作品で描かれてきたが、けっしてSF的絵空事ではなさそうだ。

 

2020年は目下、コロナ禍に異常気象、赤道近くではサバクトビバッタが大襲来と、まさに踏んだり蹴ったり。食糧危機はすぐそこまで来ている、とうすら寒く感じた人も多いのではないだろうか。実際、記録的な長雨や日照不足などにより、葉物野菜をはじめとする野菜の価格が、今夏は高騰した。

 

2019年4月に、東京電力エナジーパートナーら3社による合弁会社、彩菜生活(さいさいせいかつ)が発足したことはGetNavi webで既報のとおりだが、この危機に一矢を報いる存在になるかもしれない。

【関連記事】
東電ら3社が出資した合弁会社、世界最大の完全人工光型植物工場の操業開始……静岡・藤枝
https://getnavi.jp/life/510179/

 

彩菜生活は、葉物野菜の生産・販売を目的とする、完全人工光型の植物工場事業を展開。静岡県藤枝市に2020年6月末に竣工し、7月からリーフレタスの生産を開始、8月中旬には初出荷を果たした。

 

延べ床面積は約9000平方メートルを誇る生産現場を、今回この目で確かめて来た。人の手によって完全にコントロールされているという、SFさながらの“植物工場”とは、いったいどんな仕組みになっているのか? また、この取り組みにかける生産者、そして事業者の思いとは?

↑静岡県藤枝市に完成した彩菜生活の植物工場を訪れた(8月下旬)

 

光にあふれる衛生的な空間で青々と野菜が茂る

↑“植物工場”とは環境制御型の生産システムで、太陽光あるいは人工光を光源とし、土を使わない“水耕栽培”が主だが、一部土を使う“土耕栽培”も存在する。彩菜生活では、人工光LEDを光源とした水耕栽培を採用している

 

工場内へ一歩足を踏み入れると、衛生管理の厳重さに驚く。植物を健康に育てるため、虫や菌は大敵。工場の随所に、それらを持ち込まない工夫が徹底されている。髪の毛1本も露出させない厳重な衛生服に、虫除けのエアカーテン、手洗いや消毒の徹底はもちろんのこと、工場内の時計にはカバーがなかった。

↑カバーとなるガラスが取り去られている。万が一外れて落下するとガラスが飛散し、工場内に持ち込まれるおそれがあるからだそうだ

 

1.【育苗室】一粒ずつ種を植え、育苗を行う

では、植物の成長過程にのっとって工場内を見ていこう。最初に訪れたのは「育苗室(いくびょうしつ)」と呼ばれる、種から発芽させ苗床で苗を育てる部屋。専用のベッドに一粒ずつ種を植え、4時間に1度の間隔で散水すると、2日間程度で発芽する。

↑ベッドはしっかり水分を吸収するウレタン製。ほかにロックウールが多く使われるが、発芽率が高いものの藻が生えやすいため、採用していないという

 

↑種から発芽した状態

 

訪れた際は育苗室のLEDが切られていたが、それは露地栽培のように昼と夜を創出しているため。光を当て続ければどんどん育つが、細長く伸びてしまうため、一定時間休ませることで茎を太らせしっかり茂らせるのだという。

 

発芽するとベッドごと、栄養分が加えられた水“養液”で満たされたプールに移される。

↑苗が育ち、根を下ろし始めた時期。生育環境は一定の条件下で管理されているが、種の個体差によって発芽や生育状態にわずかに差が生まれる。生育が芳しくない苗は、次の部屋へ移される際に取り除かれる

 

↑循環ポンプによって養液を行き渡らせたプール

 

育苗室で発芽して一定の大きさまで育った苗は、次の「栽培室」へと移される。その際、苗は発育をチェックされた上で、ひとつひとつパレットに移植される。

↑パレットに間隔を置いて移植される苗。茂ってもなるべく葉の多くの面積にLEDを照射するために、光を反射しやすい白のパレットを採用している

 

↑移植された苗は、レーンに乗って栽培棚へと運ばれていく。高い位置のベッドには、垂直リフトを使って自動で持ち上げられ、並べられていく

 

2.【栽培室】育った苗を出荷できるサイズにまで育てる

パレットに移された苗は、再びLEDの下で育てられることになる。

↑栽培室でLEDを照射されるリーフレタス。みずみずしい葉が奥まで続く様は、圧巻の眺めだ

 

成長させる要素は、LEDの照射と養液の2点。また、最適な室温にキープするための空調も重要だ。オペレーションは基本的にプログラムで自動化されている。

↑LEDは植物の栽培に適した特有のもの。真下の野菜に効率的に照射できるよう、周囲に広がりにくい設計となっている

 

↑空気の循環を良くして、フロアの温度を一定に保っている

 

栽培室では、より大きく育つよう、さらにもう一度移植する“定植”が行われ、その後収穫まで育てられる。

↑定植の作業。根が養液に浸るようパレットに差し込んでいく

 

3.【梱包室】収穫したレタスを梱包する

続く工程が、収穫、計量、梱包。スタッフの作業が順調なあまり、収穫・出荷には間に合わず、残念ながらその作業の様子は目撃できなかったのだが、設備を見せてもらった。

↑LEDの下で育ったリーフレタス。農薬を使わずとも虫食いなどもなく、青々としてみずみずしく育っている。見るからにおいしそうだ

 

刈り取られたレタスは、5kgずつ箱に入れられ、梱包室へ運ばれる。金属探知機をくぐって異物混入をチェックされ、再度計量されたのちに、箱詰めされていく。

↑レーンに乗って運ばれて来た収穫済のレタスは、この金属探知機をパスしたあと、スケールで計量される

 

4.【冷蔵庫】出荷まで保管する

彩菜生活のロゴ入り段ボールに詰められたリーフレタスは、出荷まで冷蔵庫で過ごす。

↑冷蔵庫で出荷を待つ、前日に収穫されたリーフレタス

 

初出荷以降、取材した8月下旬まで全量が買い取られているという。品質と味に期待と信頼が寄せられていることが窺い知れる。

 

ちなみに、収穫されたリーフレタスは日々、工場長以下スタッフによって、味覚・嗅覚・触覚などで確認する検査が行われているそう。お味はどうですか? と工場長にうかがったところ(売り切れ続きで取材陣は味見できなかったのだ)、「おいしいです! サラダでお使いいただいても、ほかの食材を邪魔しない味です」とのこと。また「植物工場の葉物野菜は柔らかすぎることもあるようなんですが、お客さまには『しっかりしていますね』と味も食感も評価いただいています」。

↑「生産はいたって順調です!」と安堵するのは、工場内を案内してくれた柳田淳子工場長。東京電力ではコールセンターなどの組織長を長年務め、さまざまな職種・属性のスタッフを束ねて来た実績から、新しい取り組みを前向きに推進できる人材として白羽の矢が立ったそうだ

 

彩菜生活で収穫されたリーフレタスは、スーパーやコンビニエンスストアに製品を卸す食品加工会社に出荷、サラダなどに加工され、店頭に並ぶ。関東と関西という大商業圏の中間地に立地したことで、広域の出荷先に対応できるという。

※イメージ

 

“サステナブルな社会”の実現に、いかに役立てるか

植物工場を見せてもらった上で、東京電力エナジーパートナー常務執行役員法人営業部長であり、彩菜生活の社長でもある水口明希さんに、なぜ今、同社が植物工場を作り、野菜栽培事業に乗り出したのか、また今後の展望などを聞いた。

 

───まず、野菜栽培事業に乗り出した今の意気込みを聞かせてください。

 

「東京電力エナジーパートナーの法人営業では従来、企業のお客さまに対して電化や省エネルギーの提案をしてきました。新たに“食”という分野で、企業や社会のお役に立てる機会をいただいたと考えています。彩菜生活を通じて、社会に新たな貢献をしていきたいと思っています」(水口さん、以下同)

 

───彩菜生活は、東京電力エナジーパートナーのほか、芙蓉総合リース、ファームシップの3社による合弁会社ですね。各社はそれぞれどのような強みを持ち寄ったのですか?

 

「東京電力エナジーパートナーは、省エネ技術をはじめとしたエネルギーコスト削減の設備運用ノウハウを持っています。さらに、食品加工工場等とのネットワークも、営業面で強みとなっています。また、芙蓉総合リースは金融事業を通じて蓄積したファイナンスソリューション力とマネジメント力を、ファームシップは流通・人材事業を含めた植物工場事業全般に関わるノウハウをもっている点が強みで、お互いを補完し合い、強力なパートナーシップを発揮できると考えています」

 

───あらためて、人工光型植物工場のメリットを教えてください。

 

「天候など外部環境に左右されることなく、安定的に生産が行える上、衛生的な環境下で栽培できることで、無農薬ながら作物の病気や害虫を防ぎ、野菜の形や味、含まれる栄養素も一定の品質に保てます。さらに、高い鮮度を通常より長く保持できるため、食品ロスを減らすことにもつながります」

 

───東京電力エナジーパートナーはこの事業に、電力会社としての知見や技術をどのように生かしているのでしょうか?

 

「実は、電力と農業は古くから関係が深く、東京電力では50年も前から、農業の電化技術の開発・普及に努めてきました。近年ではハウス栽培での最適環境と省エネ実現のため、従来の重油等を使った燃焼方式の空調から、電気を使ったヒートポンプ方式へと熱源の転換を提案しています。

そこへ今回、自ら生産する側の世界へ飛び込んだわけです。植物工場というのは照明と空調が重要で、それは電気の塊なんですね。生産性と省エネ性を両立させながら最適な制御を行えるよう、実稼働とともに研究も進めてノウハウを蓄積していけば、我々の今後に生かせるだけでなく、お客さまにも還元できると考えています」

 

───近年、企業には「SDGs」を意識した取り組みが求められていますね。この事業は、消費者や地元、さらに社会にどのように貢献できるのでしょうか?

 

「日本の農業を取り巻く環境としては、昨今の天候不順によって野菜の出荷量や販売価格が乱高下していること、食に対する消費者の安心安全意識が高まっていること、高齢化などによって農業従事者が減少していることなどが挙げられ、日本の農業や食に関する課題だと認識しています。植物工場は、それらの課題を解決する手段のひとつになるはずです。

また、現時点ですでに60〜70名のパートさんを採用していますが、みなさん地元の方です。地元に雇用を創出するという面でも、お役に立てていると感じています。これらによって、SDGsの理念である『持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現』に貢献していきます」

 

───今日時点(8月下旬に取材)で、稼働する栽培室は4室あるなかの1室でしたが、計画ではいずれどのような規模感になるのでしょう? また、国内の生産量のなかでどれくらいの影響力があるのでしょうか?

 

「現在、植物工場で収穫されるリーフレタスは、日本国内で収穫されるリーフレタスの約2%に留まります。彩菜生活は、2021年夏までに1日あたり約5t、1株100g換算で約5万株相当の生産を計画していますが、それを達成すれば世界最大の生産量を誇る植物工場となり、よりいっそう安定的な食の供給に貢献できるようになります。

また、栽培する野菜も現在はリーフレタスのみですが、ニーズがあればほかの野菜も視野に入れるかもしれません。野菜を購入してくださるお客さまのニーズや事業環境などを見定めながら、判断していきたいと思っています。

まずは、2021年夏までに目標の生産量を達成できるよう邁進していきます。ご期待ください!」

 

世界の食糧危機を救う……までにはもう少し時間がかかりそうだが、まずは国内の食糧事情を支える大きな一歩を、着実に踏み出したことは間違いない。

 

 

取材・文・撮影/和田史子(GetNavi web編集部)

 

コロナ禍にスポーツのチカラでできること:地球ひろばでオンラインイベントと企画展を開催【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、スポーツをテーマにJICA地球ひろばで開催された一般参加型のオンラインイベントについて取り上げます。

 

新型コロナウイルスの流行がスポーツにも大きな影響を与えるなか、JICA地球ひろば(東京・市ヶ谷)では、スポーツの力や役割を見直そうと、オンラインイベントや企画展を開催しています。地球ひろばとしては初の取り組みとなった一般参加型のオンラインイベントでは多様な参加者による意見が飛び交い、スポーツを通じた新たな交流の場として盛り上がりました。

↑さまざまな意見が発信され、スポーツファンの交流の場となったオンラインイベント。全国各地から45名が参加しました

 

「途上国でのスポーツ普及は、可能性や希望、夢を与えることであると再認識」といった感想も

JICA地球ひろばで開催されたのは、五輪応援企画「オンラインでワールドカフェ! ザンビア パラ陸上支援 野﨑雅貴さんと考える日本と世界の体育・スポーツの価値の違いとポストコロナのスポーツの役割」と題したオンラインイベントです。野﨑さんはアフリカのザンビアで、青年海外協力隊の体育隊員として活動していた経験を持ちます。

 

当日は、高校生や大学生から、海外経験豊富な社会人まで、さまざまな立場の男女45名がオンラインで参加。スポーツの持つ力やその未来になどについて、活発な議論を交わしました。

 

参加者からは「スポーツを通して、礼儀なども身につくのが日本の体育教育のよい点だと思う」「日本の体育には、取り組む種目が多いので誰もが輝ける時間があるのが素敵なのではないか」といった意見が出され、日本の体育文化への議論が高まります。また、「ポストコロナとスポーツ」というテーマについては、「これからは人に触れないような形でのスポーツが主流になっていくのではないか」「コロナ収束後は、現地に行かなくてもスポーツに関する国際協力ができるようになるのではないか」といった、未来に向けてのさまざまな声が聞かれました。

↑野﨑さんのザンビアでの体験をもとにテーマが提示され、参加者同士のグループディスカッションが繰り広げられます

 

イベント終了後には、「幅広い年齢の方が参加していたこともあり、ディスカッションを通して、新しい視点で物事を考えることができた」「ディスカッションで、途上国でのスポーツ普及は、可能性や希望、夢を与えることであると再認識した」といった感想が参加者から寄せられ、参加者が主役となるディスカッションイベントとなりました。

 

イベントを企画した、JICA青年海外協力隊事務局でスポーツと開発を担当する浦輝大職員は、「今はネット上で簡単に情報を得られる時代なので、野﨑さんの体験談だけであれば、You tubeにアップして好きな時間に視聴してもらうことでもきます。でも、せっかく参加者の方々に同じ時間に集まってもらうのであれば、みなさんそれぞれが考えていることを共有する場になることが重要。そのような場が提供できればと今回のオンラインイベントを開催しました」と話します。

 

現在、地球ひろばのガイド役(地球案内人)を務めている野﨑さんは、「参加者が皆、積極的に発言しているのに感動した」と期待を上回る反応の良さに驚きを隠せない様子でした。

↑青年海外協力隊での体育隊員としての経験をプレゼンテーションする野﨑雅貴さん

 

地球ひろば企画展「スポーツのチカラで世界を元気に」を開催中

現在、JICA地球ひろばでは、スポーツを通じてできることを考えていく企画展「スポーツのチカラで世界を元気に」が開催されています。

 

東京オリンピック・パラリンピックの時期にあわせて開催する予定でしたが、新型コロナウイルスが広まるなか、「こんな時期だからこそスポーツのチカラを考えてみたい」という趣旨で企画されました。

↑企画展の入り口。地球案内人(展示のガイド役)の本宮万記子さん(左)と笈川友希さん(右)

 

展示は、「スポーツと国際協力」、「スポーツ技術の向上・教育としてのスポーツ」、「スポーツをすべての人に」、「ジブンゴトで考えよう」の4つのゾーンに分かれています。それぞれ解説パネルや、競技用の義足やバスケットボール用の車いすなど実際に使われているスポーツ用具が置かれ、ボッチャや綱引きといった競技を疑似体験できるコーナーもあります。会場では、野﨑さんをはじめとした地球案内人がガイドし、案内人はフェイスシールドを着用して、手で触れる展示物はこまめに消毒をするなど、コロナ対策を万全に来場者に対応しています。

↑会場内の様子。ボッチャの体験コーナーと綱引きの体験コーナーなどがあります

 

地球ひろばの中村康子職員は「来館者の方から『ボッチャやバスケットボール用の車いすの試乗体験は、スポーツの楽しさを体験できたし、人間の体の大きな可能性を実感した』という声をいただいています。ぜひたくさんの人に来場いただきたいです」と話します。企画展は、今年10月29日まで開催されています。

 

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地球に優しいプラスチックはどっち?「バイオマス」と「生分解性」それぞれの真実

2020年7月1日より、レジ袋の有料化が始まりました。マイバックを片手に買い物に出かける習慣が、だんだんと馴染んできたのではないでしょうか。

 

一方でこれをきっかけに、“環境に配慮されている”として有料化の対象外となっているレジ袋の存在も知られるようになりました。例えば、「バイオマスプラスチック」配合のレジ袋。日本マクドナルドや松屋など、一部の外食チェーンで採用されており、無料配布が続いています。

 

今回は、レジ袋有料化を巡って話題となっている「バイオマスプラスチック」や、次世代のプラスチックとして期待されている「生分解性プラスチック」について、東京大学大学院農学生命科学研究科 教授・岩田忠久さんに話を伺いました。

 

そもそもレジ袋の削減に環境問題を解決する力はあるのか?

レジ袋にペットボトル、食品トレイなど、あらゆる場面で活用され、私たちの生活を支えているプラスチック。とても便利な素材ではありますが、海洋プラスチックごみ問題や地球温暖化といった環境問題に深く関わっていることも事実です。2050年には、海に流れ出たプラスチックごみが魚の量を上回ってしまうと試算されるなど、事態は深刻化しています。

 

そうした状況を踏まえ、レジ袋の有料化が始まりました。しかし、日本が毎年廃棄しているプラスチックごみのうち、レジ袋が占める割合は約2%とごく僅か。本当に環境問題を解決する力があるのか、と疑問の声もあがっています。これについて岩田さんは「消費者の意識改革としては有効」だと話します。

 

「レジ袋を有料化するからといって、直接的に地球温暖化や海洋プラスチックごみ問題が解決するということはないでしょう。しかし、より生活に身近な“レジ袋”を通して環境問題を意識し、プラスチック削減に対する意識を高めていくことができるのではないでしょうか」(東京大学大学院農学生命科学研究科 教授・岩田忠久さん、以下同)

 

環境に優しい、次世代のプラスチックとは?

今回のレジ袋有料化で、対象外となったのは以下の3つ。

1. 厚さが50マイクロメートル以上のもの
2. バイオマスプラスチックの配合率が25%以上のもの
3.海洋生分解性プラスチック100%で作られたもの

1の、厚みがあるレジ袋については、繰り返しの使用で「使い捨て」を抑えようという狙いがあります。今回注目したいのは、2と3の環境にやさしい2つの素材。基準の配合率を満たしていれば、有料化の対象外となります。では「バイオマスプラスチック」や「生分解性プラスチック」とは一体どのようなものなのか、詳しく説明していきます。

 

・温暖化防止に「バイオマスプラスチック」

「トウモロコシやサトウキビなど植物資源(バイオマス)を原料としたプラスチックのことを『バイオマスプラスチック』と言います。“プラスチック”とは本来、石油を原料として作られているのですが、そこには大きな課題があります。1つは石油資源が有限であるということ。そしてもう1つは、処分する際に二酸化炭素が発生し、温暖化を招いてしまうこと。これらの課題を解決するため、開発が進められているのが『バイオマスプラスチック』です」

 

もちろん、「バイオマスプラスチック」を燃やしても二酸化炭素は発生します。しかし、バイオマスを原料として用いていることから温暖化対策に有効だとされています。

 

「原料となるバイオマスは、成長段階で光合成によって二酸化炭素を吸収しています。そのため、バイオマスプラスチックを焼却した際に出る二酸化炭素は、実質的にプラスマイナスゼロ。この考え方を『カーボンニュートラル』と言い、地球上の二酸化酸素量を増大させることがないため、地球温暖化防止に有効とされています」

 

・プラスチックごみ問題に「生分解性プラスチック」

適切に処理されずに海や川、土壌などに捨てられた石油合成プラスチックはほとんど分解されず、環境中に悪影響をもたらしています。その解決策として期待されているのが「生分解性プラスチック」です。

 

「『生分解性プラスチック』とは、環境中で微生物によって水と二酸化炭素に分解されるプラスチックのこと海洋プラスチックごみ問題や、マイクロプラスチック問題の解決策の1つとして注目されています。最終的に二酸化炭素が発生しますので、『生分解性プラスチック』が温暖化防止になる、というのは間違い。あくまでも分解することに意義があるのです」

 

「バイオマス」と「生分解性」
しっかり理解すべき、2つのプラスチックの事実

どちらも環境に優しい次世代のプラスチック。しかし、「『バイオマスプラスチック』と『生分解性プラスチック』という名前のイメージで、勘違いされていることも多い」と話す岩田さん。一体どういうことなのでしょうか。

 

1.「バイオマスプラスチック」には、生分解しないものもある

「『バイオマスプラスチック』は植物から作られているので、落ち葉のようになくなっていくものだとイメージする人が多いかもしれません。しかし、『バイオマスプラスチック』はあくまでも植物資源(バイオマス)から作られたもののこと。分解するかしないかは関係ありません。むしろ、現在レジ袋に使われているバイオマスプラスチックの多くは自然環境中では分解しません。よって、勘違いして、捨てないでください」

 

2.「生分解性プラスチック」の原料は、石油由来のものもある

「逆に、土や海など環境中で分解する『生分解性プラスチック』は全てバイオマス由来なのかというと、そうではありません。もちろんバイオマス由来のものもありますが、石油から作られた『生分解性プラスチック』も存在しています。

 

3.「生分解性プラスチック」は、すぐに分解するわけじゃない

「環境中で分解すると聞くと、海に出た翌日にキレイに溶けてなくなってしまうようなイメージを持っている人も多いのですが、分解には時間がかかるということも、覚えておいてほしいのです」

 

4.「生分解性プラスチック」は、どこでも分解するわけじゃない

「『生分解性』だからといって、どこでも分解するというのも間違いです。一般的に『生分解性プラスチック』というと、土壌で分解するものを指すことが多いのですが、ポリ乳酸のようにコンポストでしか分解しないもの、土の中でしか分解しないもの海や川でも分解するものなど、さまざまあります。今回、レジ袋有料化の対象外となっている『海洋生分解性プラスチック』は、海でも分解するプラスチックのこと。海や川は、土に比べて圧倒的に微生物の数が少なく分解しにくいため、まだまだ開発段階であることも事実です。

もうひとつ、注意していただきたいことがあります。生分解性プラスチックを使うときは、100%生分解性プラスチックでなければ意味がありません。生分解性プラスチックと生分解しないプラスチックを混ぜて使うことは、けっしてやってはいけません」

 

「言葉だけにとらわれるのではなく、その中身まで正しく理解をしてほしい」と岩田さん。「こんなプラスチックがあったらいいな」という理想を抱いてしまうかもしれませんが、それぞれの特性について正しく知ることは、私たち消費者にとって重要なことではないでしょうか。

 

「バイオマスプラスチック」と「生分解性プラスチック」の違い、それぞれのメリット、誤解されやすい点を教えていただいた上で、では、私たちはこれから、これらをどのように選び、取り入れたらいいのでしょうか?

 

目指すのは、「生分解性」+「バイオマス」のプラスチック

政府は、2030年までに「バイオマスプラスチック」を約200万トン導入するという目標を掲げており、今後ますます注目が高まる新しいプラスチック。「何より大切なのは、それらを活用する意義や用途について、提供する事業者も、使用する消費者も、きちんと理解し使い分けること」と岩田さん。

 

「どういうプラスチックを、どういう用途で使っていくのか考えることが大切です。例えば、現在東京都では、プラスチックと他のごみを一緒に燃やしてしまっているのですが、これでは『生分解性』である意味がまるでありません。東京で『生分解性プラスチック』を流通させようと思ったら、ごみの回収システムにも目を向けなければなりません。そういった社会のインフラともリンクしているのです」

 

では、どのようなものが「生分解性プラスチック」に適しているのでしょうか?

 

「釣り糸や漁網、農業用のビニールなど、自然環境中で使われているものです。ゴルフのティーなどもいいかもしれません。外で使われているものは、切れたり、壊れたり、劣化したり、ロストしたりと環境中に放出され、すべてを回収することは難しいでしょう。そういったものを『生分解性プラスチック』に作り替えていけたら理想ですね」

では、「バイオマスプラスチック」の使用意義とは何でしょうか?

 

「とくに昨今は、コロナウイルスの影響もあり、プラスチックの需要はますます高まっています。例えば、病院で使われるマスクや医療用のエプロンや手袋。これらは、感染の問題がありますので、焼却処分する必要があります。そういった燃やしまうものこそ、二酸化炭素の排出量が増えない『バイオマスプラスチック』で作る意義があるのではないでしょうか。また、市中のマスクについてはポイ捨てされている現状もよく目にします。ポイ捨てされたものが土や海に流れ出てしまった場合、微生物によって分解される『生分解性プラスチック』であれば、環境問題の解決にもつながるかもしれません。つまり、一番の理想形は『生分解性のあるバイオマスプラスチック』なのです」

燃やしても二酸化炭素の排出量を増やさず、自然環境中に流れ出ても分解する……。二つのメリットを持ち合わせた「生分解性バイオマスプラスチック」は、現在も開発がすすめられており、今後活躍の場がどんどん広がっていくことが期待されています。

 

プラスチックと上手に付き合っていくために

「レジ袋有料化やコロナウイルスの状況もあり、プラスチックについて考えることが増えてきていると思います。プラスチックを完全に使わない生活をするのは難しいですが、意識して使用量を減らしていくことは重要だと思います」

 

プラスチックはけっして悪いものではなく、私たちの生活に欠かせないもの。現在、岩田さんは木材からとれるセルロース、ミドリムシが作るパラミロン、虫歯菌の酵素によって試験管で作る多糖類といった自然界に存在している「多糖類」を原料としたプラスチックの開発を進めており、これからもどんどん新しいプラスチックが生まれてきます。そうしたプラスチックを適切な用途で活用しながら、共存していくことが大切です。

 

【プロフィール】

東京大学大学院農学生命科学研究科 教授 / 岩田忠久

フランス国立科学研究センター・植物高分子研究所での留学を経て、京都大学大学院農学研究科林産工学専攻博士後期課程を修了(博士(農学))。2006年・繊維学会賞、2010年・ドイツ イノベーション・アワード ゴッドフリードワグネル賞、2019年・高分子学会 学会賞など受賞歴多数。現在は東京大学大学院農学生命科学研究科・教授として「バイオマスプラスチック」や「生分解性プラスチック」の創製に関する研究を続けている。

 

使い終わったカイロは燃える or 燃えない? クイズ形式でごみの分別を学べる『ごみ育』

7月からレジ袋が有料化され、プラスチックごみや『3R(スリーアール)』のリデュース・リユース・リサイクルが注目されるようになりました。みなさんのご家庭では、「毎日のごみを減らそう」など意識が変わったことはありましたか?

 

実は、我が家では7〜8月はしっかりカバンにマイバックを入れて買い物していたのですが、最近は「ま、3円くらいならいいか」と袋をつけてもらうことが多くなっています。いやぁ〜緩んでますね。反省!

 

ということで今回は、反省するためにも『ごみ育 日本一楽しいごみ分別の本』(滝沢秀一・著/太田出版・刊)を読んで勉強することにしました! この本は、お笑いコンビ・マシンガンズで活動をしながら、ごみ清掃員としても活躍されている滝沢秀一さんが、小学生でもわかるようにと楽しくごみの分別を教えてくれる一冊。50問のクイズが掲載されており、子どもと一緒に読むのはもちろん、大人でも「え。そうだったの!?」と驚く内容が満載です。新しい日常に慣れ始めてきた今、少し気を引き締めるためにもご家庭での『ごみ育』を始めてみましょう!

 

一人当たりが年間に排出するごみの量はどれくらい?

無意識にポイポイとごみ箱に捨てていますが、毎日平均でどれくらいの量のごみを排出しているかご存知ですか? そして日本全体で年間どれくらいのごみを排出しているか把握できているでしょうか? 環境省のホームページで『一般廃棄物の排出及び処理状況等(平成30年度)について』を調べてみると、

 

・ごみ総排出量:4272万トン(前年度 4289 万トン )

・1人1日当たりのごみ排出量:918 グラム(前年度 920 グラム )

 

とのこと。

 

イメージがつきにくいですが、年間の量を東京ドームに例えると115杯分のゴミが出ているんだとか!! もっと分かりにくくなっちゃったかもしれませんが(笑)、めちゃくちゃ多いですよね。なんでもかんでもごみにしてしまうよりも、使い捨てではなく長く使えるものを買ったり、可燃ごみにまとめず分別して資源に活用したり、なるべくごみを出さないように心がけたりしたいもの。例えば1人1日あたりのごみ排出量が500グラムまで減らせたら、年間の総排出量も減らせるので、ちょっとの努力の積み重ねは大きい! その時は「たかがレジ袋1枚」と思うかもしれませんが、年間で考えると大きな変化になることでしょう。

 

家庭でも使う機会が増えた「シュレッダーの紙ごみ」は何ごみ?

ここからは『ごみ育 日本一楽しいごみ分別の本』に掲載されているクイズをご紹介していきましょう。

 

最近リモートワークが増えて、家庭用のシュレッダーを使うようになった人も多いと思います。そんな「シュレッダーの紙ごみ」は、何ごみになるかご存知ですか?

 

ほとんどの地域では可燃ごみで扱っているよ。繊維が細かすぎて再生できないんだって。でも地域によってはシュレッダーごみも古紙で集めているところがあるから、確認してみて!

 (『ごみ育 日本一楽しいごみ分別の本』より引用)

 

紙なので、古紙として出すのが正解なのかな? と思っていたのですが、可燃ごみなんですね! ちなみに投函されているチラシや、シュレッダーしなくてもいい資料、ダンボール・新聞・雑誌・紙パック以外の「雑がみ」については、古紙の日に出すのが正解です。

 

あと、一見「古紙」として出したくなる「ピザの箱」も可燃ごみ。ピザの油がついているものはリサイクルに適さないなのだとか。汚れがあるものや、細かすぎる紙は「古紙」ではなく可燃ごみと覚えておきましょう!

 

これからの季節でマストアイテムになる「カイロ」は何ごみ?

ちょっとずつ秋の気配を感じるようになってきましたね。これからの季節、マスクに加えて必須アイテムとなるのが「カイロ」です。これ、可燃ごみと不燃ごみのどちらに捨てるのが正解でしょうか?

 

一見、可燃ごみっぽいけど、中身は何か知ってる? 実は鉄なんだ。鉄は何ごみ? そう、不燃ごみだね! わざわざ袋を破って中身をださくてもいいよ。

 (『ごみ育 日本一楽しいごみ分別の本』より引用)

 

今まで、可燃ごみで出していた……!

 

ちなみに自治体によっては「可燃ごみでもOK」としているところもあるようなので、詳しくはお住まいのごみ分別をご確認ください。

 

あと、お家にあるCDやDVDをそろそろ捨てようかなーなんて思っているあなた! リサイクルショップなどに買い取ってもらえばごみにはなりませんが、捨てるときは「可燃ごみ」なんだとか。「あれが燃えるの?」と思ってしまったのですが、可燃ごみなんですね〜。

 

『ごみ育』では、他にも「乾燥剤」「ソースの空きボトル」「シャンプーやリンスの空きボトル」などなど一瞬ではパッ! とわからない分別がニコ・ニコルソンさんの可愛いイラストと共にクイズ形式で紹介されています。大人から子どもまで毎日出てくる「ごみ」について考えられる一冊になること間違いなし! 一家に一冊、おすすめです!

 

【書籍紹介】

ごみ育 日本一楽しいごみ分別の本

著者:滝沢秀一
発行:太田出版

使い終わったカイロは、何ごみ? TV出演多数!話題の“ごみ清掃芸人”が贈る、未来への“ごみ”とのつきあい方。

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コロナ下の苦境を乗り切れ!――インドでマンゴー農家の窮地を救ったJICA主導の直販プロジェクト

「インドのマンゴーを守れ!」――新型コロナウイルス(以下新型コロナ)のパンデミックで人々やモノの動きが止まるなか、インドで農作物の流通を滞らせないための取り組みが注目を集めています。それはインターネットを介して生産者と消費者を結ぶ直販プロジェクト。同様のプロジェクトは、日本をはじめ世界でも始まっていますが、インドでの取り組みの背景には、旧態依然とした農業が抱えるさまざまな課題と、それらを解決しようと奮闘する人々の思いがありました。

 

今回、インドの水プロジェクトに長年携わってきた水ジャーナリスト・橋本淳司さんが現地からの声をリポートします。

 

【著者プロフィール】

橋本淳司

水ジャーナリスト、アクアスフィア・水教育研究所代表、武蔵野大学客員教授。水問題やその解決方法を調査研究し、さまざまなメディアで発信している。近著に『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『水がなくなる日』(産業編集センター)、『通読できてよくわかる水の科学』(ベレ出版)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)など。「Yahoo!ニュース 個人 オーサーアワード2019」受賞。

 

私は2015年頃から、インドの水に関するいくつかのプロジェクトに携わっています。インドは水不足が深刻になりつつあるため、それに対応する雨水貯留タンクの製作や実装、水質調査をはじめ、一般向けや学校向けの水教育などを行っています。水は「社会の血液」と言われるほどで、あらゆる生産活動に必要ですが、とくに農業は大量の水が不可欠。また、水があるからこそ、農作物を加工し販売することができると言えます。そして今回のインドにおけるコロナ禍は、ほかにもさまざまな問題を浮かび上がらせました。

 

日本では、3月上旬以降、学校の一斉休校が始まると給食が休止となり、さらに緊急事態宣言により飲食店や百貨店に休業要請が出されたため、収穫された野菜が行き場を失いました。収穫されないまま農地で廃棄される野菜の様子が報道されるなどし、「もったいない」と感じた人も多かったと思います。同様の問題はインドでも起きました。とりわけ農業技術や流通網の整備が不十分な地域では、事態はより深刻でした。

 

よく「バリューチェーン」という言葉を耳にしますが、農作物においては、生産の過程や加工することなどで食品としての価値を高めつつ、消費者の元に届けるプロセスのことだと個人的に考えています。このプロセスなくしてバリューチェーンは成り立ちません。実際、インドでもコロナ禍によるロックダウン(都市封鎖)が実施され、農作物を流通できず、農家が苦境に立たされました。現地からそうした情報を聞き大変心配しましたが、その救世主となったのが、JICA(独立行政法人 国際協力機構)による、生産者と消費者を直に結ぶ取り組みでした。

 

苦境に立たされたインドの農業

インドでの新型コロナの累計感染者数は、3月3日の時点では5人でしたが、同月24日には492人と急増(9月7日時点での感染者数の累計は420万4613人。アメリカに次いで感染者が多い)。3月25日からは、全土でロックダウンが実施され、ほぼすべての人々の移動や経済・社会活動が制限されました。その後、生活に最低限必要な活動や移動は可能になりましたが、依然として公共交通機関は止まったまま、リキシャー(三輪タクシー)や私用車の利用は禁止され、近隣の町への移動も制限されたままでした。

 

そのため農業従事者が農地に行けない、収穫された農産物を運べない、加工や販売ができないという事態が発生し、流通網がズタズタに寸断されてしまったのです。4月になると、インドはマンゴー収穫の時期を迎えます。このままでは大量のマンゴーを廃棄することにもなりかねません。

↑収穫したマンゴーを箱詰めする現地マンゴー農家の人々

 

この窮地を救ったのが、“Farm to Family”(農場から家族へ)と名付けられた直販プロジェクトでした。オンラインで生産者と消費者を結びつけるデリバリーサービスです。

 

熟したマンゴーを信じられない価格で提供

舞台となったのは、インド南部・デカン高原に位置するアンドラ・プラデシュ州です。人口は4957万人(2017年調査)で、そのうちの62%が農業に従事し、農耕可能な面積は805万ha、ほぼ北海道と同じ面積になります。この広大な農耕地で生産されている作物は多岐にわたりますが、トマト、オクラ、パパイヤ、メイズ(白トウモロコシ)の生産高はインド国内1位、マンゴーは2位、コメは3位という農業州です。

↑収穫時期のマンゴー農園

 

同州にはもう1つ強みがあります。流通の拠点となる海港を5つ、空港を6つも擁しているのです。州政府は農業と流通インフラという強みを活かし、農作物の生産から加工、流通までのフードバリューチェーンを構築し、食品加工産業の発展に注力してきました。ロックダウン下においては、農業従事者が畑に行って収穫することはできましたが、地元の仲介人が収集することも、販売網を通じて販売することもできませんでした。行き場を失ったマンゴーたちは、廃棄せざるを得ません。農家の収入はそもそも多くないのですが、これでは無収入になっていまいます。

 

危機的な状況を受け、州政府はこの地で実施されていたJICAの事業の一環として、州園芸局やコンサルティング会社と対応策を検討しました。そこで考え出されたのが、寸断された流通網をIT技術で修復するという画期的な方法でした。

 

プロジェクトのチラシにはこう書かれていました。「グッドニュース! マンゴーのシーズンが到来しました。政府は、COVID-19でピンチになった小さな農家を支援します。仲介者やトレーダーをなくすことで、農家と消費者に双方にメリットがあります。自然に熟したマンゴーを信じられない価格で提供します」

↑直販プロジェクトの開始を告知するチラシ

 

このプロジェクトには、約350人もの農業者が参画。ネットを使用してコミュニティーごとに需要を把握し、直接消費者に販売しました。ハイデラバードの3つのコミュニティでスタートして以来、これまでに3トンのマンゴーが販売されたほか、12のコミュニティから10トンの事前予約が寄せられ、ロックダウンの解除後も直販体制を継続することが予定されています。

↑農園に集まったプロジェクトメンバー

 

現地のマンゴー農家であるテネル・サンバシバラオ氏はプロジェクトについてこう話してくれました。

 

「この取り組みには大変感謝しています。品質のよいマンゴーを適切な価格で、直接消費者に届けることができました。販売にかかる運搬費や仲介料がかからなかった点もとても助かりました」

 

このコメントの裏からは、農家の深い悩みが窺えます。インドでは一般的に最大4層の仲介業者が存在し、農家には価格の決定権がありません。農家が仲介業者を通じて出荷すると、見込める収益の数十パーセント程度の価格で買い叩かれてしまい、農家の生活は厳しいものとなっているのです。“Farm to Family”(農場から家族へ)は、ロックダウンで分断されていた農家と消費者双方に果実をもたらしたと言えます。

↑出荷を待つマンゴー

 

農業、流通という強み。水不足、技術不足という弱み

そもそもJICAのプロジェクトは2017年12月からスタートしていました。農業と流通に強みをもつアンドラ・プラデシュ州ですが、一方で課題もありました。 まず、バリューチェーンの根幹となる、農作物の収穫量と質が安定していません。そこには農業生産に欠かせない「水」の問題がありました。世界の淡水資源のおよそ7割が農業に使われるというほど、農業と水は切っても切り離せません。

 

アンドラ・プラデシュ州では農業用水の62%を地下水に依存していますが、現在、その地下水の枯渇が懸念されています。これに関しては、原因がはっきりとわかっているわけではありません。私がプロジェクトを行なっている北部のジャンムーカシミール州の村では「雪の降り方が変わったことが地下水不足につながっている」と言う人もいますし、もう1つのプロジェクト地であるマハーラーシュトラ州の村の人々は「森林伐採の影響を受けているのではないか」と主張します。つまり場所によってさまざまな要因が考えられると言えます。

 

また、生産量の高まりとともに地下水の使用量が増加しているという声も多くの州で聞きます。なかには、どれだけの水を農業に使用しているのかわからないという地域も。アンドラ・プラデシュ州も同様で、節水などの地下水マネジメントは急務とされていました。

 

水を管理するうえで、もう1つ重要なのが灌漑用の施設の整備です。施設が老朽化すると水漏れも多くなり、貴重な水が農地まで届きません。それが水不足に追い討ちをかけています。

 

一方で、生産や加工の技術が不足しているという悩みもあります。品質のよい作物を育て、最適な時期に収穫するといった営農技術、収穫後の付加価値を高める加工処理技術などが十分に定着していないため、農産品の加工率が低く、販路が狭くなっています。

 

灌漑設備の改修とバリューチェーンの構築

こうしたさまざまな課題を解決するため、JICAが現地で取り組んでいるのが「アンドラ・プラデシュ州の灌漑・生計改善事業」という、灌漑設備の改修をはじめ、生産から物流までのバリューチェーンの構築を支援するプロジェクトです。「プロジェクトにはいくつかの柱がありますが、重要な柱の1つが、灌漑施設の改修です」とはJICAインド事務所の古山香織さんです。

 

州水資源局によって20年以上前に整備された灌漑施設はあるのですが、前述したように老朽化や破損による漏水、不適切な管理によって、失われる水の量が増えています。農業への水利用効率(灌漑効率)、すなわち農業用に確保した貴重な水の38%しか農地に届いていないのです。実際、末端の水路を利用している農家の中には雨水に頼らざるを得ないところもあります。近年は気候変動の影響で雨の降り方が以前とは変わっているため、収穫量は不安定で一定品質の農作物がつくれません。

↑改修前の灌漑用水路

 

「そこで老朽化した設備を新しいものと交換したり、地面に溝を掘っただけの水路をコンクリート張りの近代的な水路に変えています。 事業は着実に進捗しており、2024年に完了する見込みです。さまざまな規模の灌漑施設の改修が完了(470箇所を予定)すれば、灌漑農業による農作物の収穫量と質の改善が期待できます」(古山さん)

↑改修後の灌漑用水路

 

同時に、現地NGOと連携して地元の農家による水利組合づくりを手伝い、施設改修後の維持管理作業を自分たちで行うことができるよう研修も実施しており、実はこれが大変重要な取り組みなのです。技術を提供するだけでは不十分で、壊れてしまった途端放置される水施設がとても多いことが世界各地の水支援の現場で共通する問題であり、それを防ぐためには、技術を現地に根付かせるための人材育成が欠かせません。

 

さらに灌漑施設の改修を生産量の増加に結びつけるために、関係政府部局と現地NGOで構成する農業技術指導グループも組織しました。

 

「灌漑施設の改修、生産農家の組織化の支援、営農支援などを行うことで、それらが相乗効果をもたらして、高品質の農作物が安定的に生産されるようになります」(古山さん)

 

プロジェクトでは、さらにフードバリューチェーン全体の整備も支援しています。先述のように、マンゴーであればおいしくて大きな果実を育て、それをいちばんよい時期に収穫し、消費者のもとに届けること、あるいは収穫したマンゴーを顧客のニーズにあった製品に加工して付加価値をあげることです。

 

「消費者のニーズに合った加工品を開発・販売することで、付加価値の向上と農産品のロスを抑えることができます。小さな農家同士を組織化することにより、仲介人を介さず消費者と直接取引ができるようになれば、農家の収入向上につながりますし、逆に消費者の立場で考えると、購入できる農作物の種類と品質が向上することになります」(古山さん)

 

実現すれば農作物の収量と品質が高まりますし、農業者の収入も向上・安定します。農業セクターの重要性も高まります。同時にインドの食料安全保障の改善にも寄与していると言えるでしょう。

 

コロナ禍で起きた農家の考え方の変化

新型コロナの世界的な収束は、まだまだ先が見えない状況ですが、人々の心境の変化、生産や流通に対する考え方の変化が確実に起きているとJICAインド事務所のナショナルスタッフであるアヌラグ・シンハ氏は話します。

 

「新型コロナをきっかけに、農家の考え方に変化が起きています。販売のためには農産品の品質の向上が重要で、そのためには収穫のタイミングや選別がとても大切であるという認識がこれまでより強くなりました。同時に、消費者との直接取引などでデジタル・テクノロジーを有効活用すべきとの意識も芽生えています」

↑コミュニティーで販売されるマンゴー

 

農家と消費者が直接つながることで関係性が強くなり、農家は相手に対して「よりよいものを提供しよう」、消費者は「顔の見える生産者を応援しよう」という気持ちが生まれるなど、相乗効果も期待できそうです。

 

またインドでは、テクノロジーを活用して農業の効率と生産性を向上させる「アグリテック」の分野が、2015年頃から注目を集めるようになっています。データを活用した精密農業システム導入のほか、スマート灌漑システムなどの生産性向上、農業経営に特化したクラウドサービス拡充などその事業内容は幅広いのですが、新型コロナはこうした動きを加速させることになるでしょう。

 

一方、日本国内に目を向けると、国産の農林水産物を応援する「#元気いただきますプロジェクト」をはじめ、農家(生産家)と消費者を結ぶさまざまなプロジェクトが立ち上がっています。このような取り組みは今後も世界的に広がることが予想されます。

 

新型コロナにより、従来の社会は大きく変貌を迫られています。しかし、必ずしも悪い面ばかりではありません。大量生産と大量消費を繰り返し、食品廃棄など大量の無駄が存在していたこれまでの社会。しかし、今回ご紹介した、地域社会を大切にし、水や食料を大切にする新しい流通網の構築への取り組みなどは、私たちの社会を持続可能な方向へと向かわせてくれるのではないでしょうか。

 

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62万着のダウンをリサイクル!ユニクロの「リサイクル ダウンジャケット」は街に出かけたくなる一品

ユニクロは、ユーザーのもとで不要になったユニクロの服を回収し、服に新しい価値を与えて次へと生かすユーザー参加型の取り組み「RE.UNIQLO」をスタートすることを発表しました。

↑左からファーストリテイリング ソーシャルコミュニケーション統括部長 遠藤真廣さん、ユニクロ グローバル商品本部MD部長 齋藤 源太郎さん

 

リ.ユニクロ新商品第1弾「リサイクル ダウンジャケット」

この取り組みの一環として、昨年日本国内で回収した62万着のダウン商品を再生・再利用した新商品第1弾「リサイクル ダウンンジャケット」を11月2日より発売。さらに、ダウン商品の回収活動をグローバルに拡大し、9月下旬から日本を含む世界21の国・地域で順次、回収キャンペーンを開始することを発表しました。ユニクロは、ユーザーに安心して手に取れるブランドであり続けるため、サステナブル素材の採用や、生産工程での水などの資源使用量削減を通じて、よりサステナブルな商品作りを進めていこうとしているのです。

↑「リサイクル ダウンジャケット」は、一部店舗とオンラインサイトにて販売

 

今回始動する RE.UNIQLOでは、2006年から「全商品リサイクル活動」として進めてきた 取り組みが、さらに大きく進化。海外の難民への衣料支援など、服を服のまま再利用(REUSE)することに加え、ユーザーの協力により回収した服を生まれ変わらせ、新しい商品として再びユーザーに届ける循環型リサイクル(RECYCLE)を新たに進めていきます。「ユニクロの服を、再び(RE)ユニクロの服へ」。これらの取り組みによって、商品のライフサイクルを通じて余分な廃棄物、CO2排出量、資源使用量をさらに削減(REDUCE)していくのです。

↑ファーストリテイリング ソーシャルコミュニケーション統括部長遠藤さん。ユニクロは、RE.UNIQLOを通じて、賛同してくれたユーザーとともに、より環境と社会に良いブランドとなっていくことを目指していく事を考えている

 

RE.UNIQLOで取り組む、服から服へのリサイクル第1弾となる「ダウンリサイクルプロジェクト」では、初の商品化となる「リサイクル ダウンジャケット」。これは、クリストフ・ルメール率いるパリ R&D (リサーチ&ディベロップメント)センターのデザインチームによるブランドUniqlo Uから登場します。

↑リサイクル ダウンジャケットのカラーはダークグリーン、ダークオレンジ、ダークグレー、ブラウンの4色展開

 

↑去年ユーザーから回収した62万着のダウン商品のダウンとフェザーを100%使用したダウンジャケット

 

ユニクロは、“服を捨てない”という 小さな行動の変革で環境や社会に貢献できる新しい取り組みを、まずはダウン商品からスタート。一度役目を終えた服が、環境にも人にも心地よい、ワードローブとして生まれ変わるのです。気になる価格は7990円(税別)とサステナブル商品にしては、同社の通常ダウンの価格とほぼ変わらないのはうれしい限りでしょう。

 

また、ユニクロのダウン商品を日本の店頭に持ちこんだユーザーには、国内のユニクロ全店舗/オンラインストアにて利用できる500円分のデジタルクーポン(5000円(税別)以上購入で1会計あたり1枚使える)を発行します。ダウン商品の回収はデジタルクーポン発行期間終了後も継続するとのこと。

 

 

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キノコの皮ではなく「キノコの革」の誕生で勢いを増すファッションの「サステナブル化」

近年、ファッションもどんどんサステナブル化しています。バッグや靴、財布などに使われる本革は、高級感と独特の風合いを楽しめるものですが、牛や羊などの動物の皮を利用しているため、動物愛護の観点から問題視されることもあります。世界的なブランドが脱動物性素材の動きを強めるなか、最近、注目されているのがキノコから作ったレザーです。

↑新種のレザー

 

キノコ由来の代替レザーについて調査したオーストラリアのRMIT大学(ロイヤルメルボルン工科大学)の発表によると、キノコを活用してレザーに応用する技術は、キノコの「菌糸体」と呼ばれる構造を利用したとのこと。

 

おがくずや農業廃棄物のうえでキノコの根が成長すると、厚いマットのようになりますが、これを酸やアルコール、染料などで処理したあとに圧縮し、乾燥させると、本革と同様に取り扱うことができるようです。このような方法で作られる「キノコの革」は本物の革と同じような見た目で、耐久性もあるそう。

 

キノコから作ったレザーの魅力は、短期間で製造できること。動物は何年もの年月をかけて飼育しなければなりませんが、キノコの場合は数週間程度で単一胞子から大きくなります。

 

環境負荷に関する利点を見てみると、家畜による二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量はよく知られていますが、キノコではその量が減ると考えられます。また、キノコのレザーは生分解性なので廃棄ゴミの問題も解決できるでしょう。このようにキノコのレザーを利用することで、地球環境に配慮することも可能になるのです。

 

おまけに動物の皮の加工には環境に有害な化学薬品が使われるそうですが、キノコのレザーならそのような薬品も使わずに済むとされています。

↑名案でしょう?

 

キノコのレザーを処理する工程はシンプルで、必要最低限の機器類があれば大量生産にも応用可能なのだとか。約5年前にアメリカの企業が製造技術の特許を取得しており、2019年にアメリカやイタリア、インドネシアで、腕時計、財布、靴などの試作品が発表されています。ちなみにキノコのレザーを使ったバッグの販売価格はおよそ500ドル(約5万3000円)。大量生産されれば、安価な製品として販売されると期待されます。

 

「ナイキ スペース ヒッピー」サステナビリティーを追求したナイキの答え!

デザインと廃棄物の両立を目指して、ゴミを美しいものに変えるということに真摯に向き合い続けたナイキ。そんな取り組みが身を結んだのが9月20日発売予定の「SPACE HIPPIE 04」です。世界中で問題となっているサステナブル問題に先駆けて、プロダクトがスムースに循環することを目指したこの取り組みが、遂に実現したのです!

 

本作はアッパーからアウトソールまで、全体重量の25%以上にリサイクル素材を使用。ちなみにアッパーには、ペットボトルやTシャツ、糸の廃棄物からリサイクルした素材を約85%使用しています。さらにソールには、使われなくなったシューズをリサイクルして作る素材「Nike Grind」と複数のフォームを融合し、しなやかな履き心地も提供してくれます。

 

ナイキのアティテュードが詰まっている

アッパーのニットは、リサイクルされたペットボトルやTシャツ、糸くずなどの100%再生素材「スペースウェイストヤーン」と呼ばれる糸で構成されています。

 

ミッドソールには他モデルの生産工程で発生したスクラップや、使われなくなったシューズをリサイクルして作った素材「Nike Grind」と複数のフォームを使用。

 

アウトソールのトウとヒール部分は摩擦が起こりやすいので、補強を設けて耐久性を高めています。

 

インソールにはさり気なくも、ナイキのヴィンテージモデルで多く見られる通称“風車ナイキ”を配して、遊び心もプラス。

 

ナチュラルな質感とボリューミーなフォルムでとっても今っぽいルックスです。カジュアルシーンに調和するのはもちろん、どことなくアウトドアテイストも漂わせていて、秋のアーバンアウトドアスタイルにもピッタリです!

NIKE
ナイキ スペース ヒッピー 04
1万5400円(税込)

 

NIKE カスタマーサービス
TEL:0120-6453-77

 

 

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途上国の感染症流行に奮闘する国際緊急援助隊――ノウハウの実績は日本の感染症対策にも貢献【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)に協力いただき、その活動の一端をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、途上国の感染症流行に奮闘する国際緊急援助隊の活動について紹介します。

 

新型コロナウイルスの感染拡大により、国境を越えて広がる感染症への対策は、世界各国にとって共通の課題であることが再認識されました。

 

JICAに事務局を置く国際緊急援助隊(JDR:Japan Disaster Relief Team)には2015年、「感染症対策チーム」が設立され、各国での感染症対策に向け活動しています。JDR感染症対策チームの登録メンバーの多くは、日本国内で新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染症対策の最前線で活動する医療関係者です。海外での支援実績とノウハウの蓄積は、日本国内の感染症対策にとって大きな貢献が期待されています。

 

昨年12月には麻しんが大流行した大洋州の島国サモアで、患者に対して診療活動を行い、同国の緊急事態宣言解除を支えました。途上国の感染症対策に奮闘するJDR感染症対策チームの活動の様子を紹介します。

↑JDR感染症対策チームによるサモアでの麻しん患者診療の様子

 

↑人口移動の増加や地球環境の変化に伴い、世界各地で感染症の流行は続いています。JDR感染症対策チームへの期待も増しており、当該国からの要請に備えて平時から訓練や研修を行っています

 

JDR感染症対策チームが直接診療を初めて実施

サモアでは昨年10月、麻しん(はしか)が流行し、サモア政府は11月に緊急事態宣言を発令。こうしたなか、同国政府の要請によりJDR感染症対策チームが12月2日から29日まで現地に派遣されました。これまで、同チームの活動は、検疫、検査診断、ワクチンキャンペーン支援など、公衆衛生関連の活動が中心でしたが、今回初めて、患者に対する直接的な診療活動を実施しました。

 

派遣先は、サモアの首都アピア国立中央病院、首都から西へ約30km離れたレウルモエガ地域病院、隣接地のファレオロ・メディカルセンターの3ヵ所。まさに麻しん診療の最前線での活動です。

 

麻しんは、39℃以上の高熱と発疹が出て、肺炎や中耳炎を合併しやすく、亡くなる割合は先進国でもおよそ1000人に1人といわれています。地方における診療活動は、医師・看護師による診察・処置・処方を行って、症状が重ければ入院、あるいは中央の国立病院へ搬送といった流れで行われました。

 

JDR感染症対策チームの山内祐人隊員(薬剤師)は、サモアでの活動について次のように話します。

 

「麻しんの大流行を防ぐには予防接種が重要ですが、ワクチン接種率の上昇だけでは期待する効果は得られません。特に、サモアのように年間を通して気温が高い国では、ワクチンの日々の温度管理が非常に重要です。サモアでは薬剤師が常駐していない医療機関が多く、看護師がワクチンを含む医薬品の管理を行っているため、看護師に対してワクチンの温度管理の重要性などに関する講習会を開き、ワクチンへの理解を深めてもらいました」

↑熱帯地域における麻しんワクチンの温度管理の講習会。「皆さん熱心に耳を傾け、積極的に質問されていたのが印象的でした」と山内隊員

 

サモアに派遣された薬剤師は2人とも、かつて大洋州のパプアニューギニアで青年海外協力隊として活動。「その経験が今回のJDR派遣で大きく活かされた」と言います。

 

日本で研修を受けたサモアの看護師と共に取り組む

JDRがサモアで活動したレウルモエガ郡病院は、1982年にJICAの無償資金協力で建設され、日本との関係も深く、昨年12月初旬までJICA沖縄の研修「公衆衛生活動による母子保健強化」に参加していた看護師のピシマカ・ピシマカ氏が勤務していました。

 

ピシマカ氏は看護師長として人員や薬品、医療器具・機械などの配置も担っており、JDRに対して現地事情をわかりやすく教え、活動をサポートしました。

 

田中健之隊員(医師)は、「医療資源が限られるなか、サモア人スタッフの献身的な医療へのスタンスは、検査診断にやや頼る傾向にある昨今の日本の医療現場で忘れかけていたものを感じさせてくれました。ピシマカ氏をはじめとする帰国研修員スタッフは、昼夜を問わず診療管理を統括する役目を担い、JICAと現地との連携において非常に大きな存在でした」と、両国スタッフの連携協調がうまく機能したと振り返ります。

↑ピシマカ氏(後列中央)は「JDRは、サモア人医師や看護師、病院職員に常に状況を知らせてくれて、現地スタッフとの協議を大切してくれた。これはとてもありがたかったです」と感謝の言葉を寄せました

 

このように、JDR感染症対策チームは延べ17日間、合計約200名の患者を診療するなど、サモアでの麻しん対策に大きく貢献。麻しん流行は、日本をはじめ、ニュージーランド、オーストラリアなど多くの国からの支援によって終息に向かい、12月29日にはサモア政府によって緊急事態宣言が解除されました。

↑サモアは気温が高く、発熱や嘔吐で脱水症状にならないよう、隊員らは経口補水液(ORS)の重要性などを伝えます

 

長崎大学との連携協定を締結

サモアに派遣されたJDR感染症対策チームには、2015年のチーム設立時から重要な役割を担っている長崎大学から4名のスタッフが参加しました。同大学大学院は熱帯病や新興感染症対策のためのグローバルリーダー育成プログラムに各国からの留学生を受け入れています。

↑JICA北岡伸一理事長(左)と長崎大学河野茂学長による協力協定署名式(2019年12月25日)

 

このような活動のさらなる連携強化を目指し、昨年12月、JICAは長崎大学と熱帯医学やグローバルヘルス関連分野における包括連携協力協定を結びました。

 

感染症は本来、早期に発見し、流行する前に封じ込めるべきものです。JDR感染症対策チームのサモア派遣の経験や長崎大学との包括連携協力協定の締結は、感染症の疫学的な研究はもちろん、新薬やワクチン開発はじめ、各種検査方法や検疫体制の強化など、海外派遣の緊急支援活動だけにとどまらず、日本国内の感染症対策にとっても、さまざまな波及効果が見込まれています。

 

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今、日本からできることを! 一時帰国中の海外協力隊員が活躍――赴任国に向け、リモートで支援【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)に協力いただき、その活動の一端をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、新型コロナウイルスの影響により一時帰国を余儀なくされているJICA海外協力隊の隊員の活動について紹介します。

 

中断された活動への無念さ、赴任国への思いなどから、多くの一時帰国中隊員が「今、できることから取り組もう!」と日本から現地に向け活動を始めています。本稿では、日本から赴任国に向け、インターネットを通じて支援を始めた隊員の姿を追います。

 

カンボジア:「手洗いダンス動画」で感染症対策

「病院職員だけでなく、患者さんにも広く公衆衛生の意識が高まってきたタイミングでの帰国で、文字どおり後ろ髪を引かれる思いでした」

 

残念そうに語るのは、看護師隊員としてカンボジアへ派遣された近藤幸恵隊員です。看護師歴13年の近藤隊員は、カンボジア南部のシハヌーク州立病院で、おもに感染症対策と病院経営の5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)・KAIZEN活動の協力に携わりました。

↑赴任先の病院で、患者さんやその家族に紙芝居を使うなどして手洗いの重要性を説明する近藤隊員

 

↑同任地の教育隊員の協力も得て、小学校での出前授業も行なっていました

 

そんな近藤隊員が一時帰国後、取り組んだのは、手洗い啓発ダンス動画の作成です。同時期にカンボジアに派遣されていた看護師隊員と小学校教育隊員の3人で制作にあたりました。

 

「この動画は新型コロナウイルス感染症COVID-19対策も含めた公衆衛生改善支援WASH(=Water, Sanitation, and Hygiene) の一環です。カンボジアの人々に馴染みのあるダンスをアレンジすることで、気軽に手洗いの必要性やタイミング、具体的な手洗い法などを知ってもらい、楽しみながら習慣にしてもらうことを目指しています」

 

まず、看護師隊員が手洗いダンスの見本動画を作成。その後、カンボジアに派遣されていた一時帰国中の隊員やJICAカンボジア事務所職員、現地カンボジアの方々など、たくさんの人々に出演協力を依頼しました。日本に戻っても、カンボジアとのつながりを大切にして、動画の制作を進めました。

 

完成した動画は、FacebookやTwitterなどに投稿し、JICAカンボジア事務所や隊員、配属先の人々などに積極的にシェアしていく予定です。

↑手洗いダンス動画の一場面。動画編集は、同じカンボジアの小学校で体育教員として活動していた隊員が担当。カンボジアの皆さんの目に留まるよう、カンボジア国旗の色のイメージで画面レイアウトを工夫しています

 

↑手洗い動画の制作は、同僚隊員やJICAカンボジア事務所とオンライン会議で進めています(画面左下が近藤隊員)

 

「一時帰国後も現地病院スタッフと連絡を取っています。今回、インターネットを活用してリモートでも支援ができることに気づきましたが、オンラインだけでは現地の文化・習慣を肌で感じることは難しいと思います。やはり、相互理解は現地に住むことでより深まり、現場での体験が自分の視野を広げ、考え方も豊かにしてくれると改めて感じました。機会があれば、また海外で活動できればと考えています」と、近藤隊員は語ります。

■完成した動画はこちら↓

手洗い啓発ダンス動画

手洗いの大切さを説明

 

メキシコ:現地食品メーカー向けに品質管理のセミナー動画を作成

「NPO法人メキシコ小集団活動協会(AMTE)のホームページに掲載するオンラインセミナー動画を制作しています。食品の安全・安心を担保するHACCP(注)に基づいた食品の品質と衛生管理に関する内容です。昨年10月、メキシコの全国小集団活動大会で特別講演をした際、知り合ったAMTE事務局のリカルド・ヒラタ氏にいろいろアドバイスをいただきながら作っています。メキシコの皆さんに活用してもらえると嬉しいです」

 

こう話すのは、食品メーカーを定年退職後にJICA海外協力隊に応募し、2018年10月から2020年3月までメキシコの職業技術高校(CONALEP)ケレタロ州事務所で、日本式の5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)の導入と定着に向けた活動を行っていた入佐豊隊員です。

(注)Hazard Analysis and Critical Control point:「危害分析重要管理点」=世界中で採用されつつある衛生管理の手法。最終段階の抜き取り検査ではなく、全工程を管理する。日本でも食品関連事業者は2020年6月から義務化となった

↑セミナー動画のリハーサルの様子。入佐隊員(写真左)が作成した食品安全の資料を画面に写し、日本語で講義。スペイン語訳をボイスオーバーで入れます

 

「同じメキシコ派遣のシニア海外協力隊2人とともに、オンライン会議を行いながら、それぞれの職務経験を活かしてセミナー動画を作成しています。いつもながら、スペイン語によるコミュニケーションには苦労しています」と苦笑いを隠さない入佐隊員。「でも、メキシコの方々の人懐っこさや陽気さにはいつも助けられます」と微笑みます。

 

陽気でポジティブな人々に囲まれ、入佐隊員はCONALEPケレタロ州事務所での活動に取り組み、5S活動の現地推進メンバーを募り、いよいよ本格的に実施内容や改善点などを出し合おうとする矢先に、まさかの一時帰国でした。

↑CONALEPケレタロ州事務所が管轄する職業技術高校で、5Sの講義を行っていた入佐豊隊員

 

↑5S委員会の普及活動の様子(サンファンデルリオ校)

 

「軌道にのりかけた5S活動がストップしただけでなく、職業技術学校も休校となってしまい残念です。でも、ケレタロ州事務所が管轄する4つの職業技術高校のうち3校には私の専門である食品科があるので、AMTE向けのセミナー動画が完成したら、それを高校生向けにアレンジできないか、あれこれ検討しています」

↑毎週1回オンライン会議でセミナー動画の進捗を相談するメンバー(写真左下が入佐隊員)

 

初めてのセミナー動画作りに戸惑いながらも、任国メキシコに思いを向ける入佐隊員。道半ばで一時帰国せざるを得なかったシニア海外協力隊たちの新しいチャレンジは、これからも続きます。

 

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東京ガスが「ショッピングサイト」を運営!? 同社のユニークな「SDGs」の取り組みは社会課題解決と価値創造が目標

食品ロスなど廃棄の削減へ貢献するECサイト「junijuni sponsored by TOKYO GAS」を協業~東京ガス株式会社

 

「junijuni(ジュニジュニ)」というサイトをご存じでしょうか。賞味期限が迫っていたり、パッケージの変更や期間限定プロモーションの終了などの理由で、従来は廃棄されていた食品や日用品などを中心に手ごろな価格で販売するECサイトです。商品の価格には、社会課題の解決に取り組む各種団体などへの寄付金も含まれていて、商品の購入を通じてユーザーも社会課題解決に貢献できます。このサイトを開設したのが、都市ガス事業のパイオニアである東京ガスです。

 

社会に貢献できるサービスとしてスタート

「junijuni sponsored by TOKYO GAS」のトップページ 2020年8月3日時点(https://www.junijuni.jp/

「『junijuni』は2019年4月25日にオープン。今年7月で1年3か月が経過した社会貢献型ショッピングサイトです。サイト名は、SDGsの『12:つくる責任、つかう責任』に本サイトの趣旨が合致することから、12(ジューニ)に重ねて、弊社が命名しました」と話すのは、サイト開設初期から携わる価値創造部サービスイノベーショングループの塩田夏子さんです。

 

価値創造部サービスイノベーショングループ・塩田夏子さん

「東京ガスというとガス会社のイメージが強いと思うのですが、それだけでなく、“快適な暮らしづくり”と“環境に優しい都市づくり”に貢献し、お客さまの暮らし全般を支えられる企業になるという経営理念があります。私たちが所属する価値創造部は、そうした理念を踏まえて新しいサービスを考える部署です。 社会課題解決に貢献できるサービスをいろいろ考えていたところ、先行して類似サイトを運営していたSynaBiz様とお会いする機会がありました。近年問題視されている、食品ロスや日用品廃棄の削減に貢献できるサイトということで興味を持ち、協業の話を進めていったのです」 (塩田さん)

 

2018年夏にプロジェクトがスタートし、同社の会員を対象にテストマーケティングを実施。会員へのアンケートを行ったところ、サイト趣旨に対して高い評価が得られたため、オープンに至ったそうです。現在では、さまざまな理由で廃棄されていた食品・日用品などをメーカーや卸などから集めるとともに、消費者である利用客への周知を行っているそう。サービスの運営はSynaBiz社が務めていると言います。

 

メーカー・消費者がまさにwin-winの関係に

このサイトでは、“もったいない”という想いへの解決策が提示されていて、メーカー、消費者ともにメリットが大きいことは一目瞭然です。

 

「『junijuni』で買い物をしてくださるお客さまにとっては、賞味期限間近などの理由があるにせよ、手ごろな価格で商品をお買い求めいただけるということ。さらに、ご自身のお買い物で食品ロスや日用品廃棄の削減と寄付ができるという満足感も得られます。普段のお買い物で社会貢献しているという実感を持てるのです。また、商品をご提供いただいているメーカー様などにとっては、処分対象の商品を出荷できるという点がかなり魅力的だと思います。廃棄するにもお金がかかりますし、何よりも、自分たちが作った商品を捨てるというのは悲しいことです。それをお客さまに届けられて、喜んでいただけているのではないでしょうか。

 

「junijuni」を通じてのメリットの輪(「junijuni」HPより)

弊社にとっても、企業としてSDGs達成に貢献できるだけでなく、こうした新しいサービスを提供していくことで“東京ガスってこんないいサービスを行っているんだ”と感じていただける部分にメリットを感じています。また、東京ガスというブランドに基づく安心感を多少なりとも消費者に持っていただける企業と協業することで、SynaBiz様にとっても、規模拡大の可能性があると考えています」 (塩田さん)

 

ちなみに、ある日の「デイリー注目度ランキング」を見ると、1位:ココアサブレ 2位:クッキーの詰め合わせ 3位:食パン詰め合わせ 4位:焼鮭フレーク……と食品が続きます。インスタント食品、調味料、カップ麺、缶詰、お菓子、ソフトドリンク、お茶、酒類など、やはり飲食類が充実していますが、美容サプリメント、基礎化粧品、シャンプー、芳香剤、調理器具、ドッグフードほか、サイト内で扱う商品の種類はバラエティに富んでいます。

 

メーカーなどから集めた商品を管理する物流倉庫

 

1年間で約1万人が利用し約25万点を販売

そもそも食品ロスの問題は、近年、大きく取りざたされてきました。環境省の資料によると、日本国内の食品ロス(まだ食べられるのに廃棄される食品)は年間 643 万t、廃棄コストも2兆円かかっています。消費期限と違い、賞味期限は必ずしも食べられなくなる期限ではありません。しかし「賞味期限」に対して消費者が敏感なことと、スーパーやコンビニにおける、賞味期限切れの商品が店頭に並ぶことを防ぐ商習慣が、食品ロスを生む一因と考えられます。こうした課題の解決に「junijuni」は一役買っているわけです。

 

日本国内の食品ロス(「junijuni」HPより。参考:環境省HP)

「“廃棄量何トン分”という形では数値を出していませんが、サイトのオープンから1年間で、のべ約1万人のお客さまにご利用いただき、商品数にすると25万点ほどご購入いただいています。食品だけでなく日用品も販売しているのですが、全体の8割ぐらいは食品。特にジュースやスイーツが人気です」(塩田さん)

 

また先に述べたように、商品の購入と寄付が連動していることでも、社会課題解決に貢献しています。寄付先は、8団体に台風などの災害義援金を加えた全9団体。サイトのオープンから約1年で30万6577円(2020年3月31日現在)を寄付できました。

 

販路に困っている人たちの救世主に

「まだ食べられるのに捨ててしまうのは本当にもったいない。そのような商品を、こうしたサイトで買えて、もったいないを減らせるのはすごいことだし、広めていった方がいい」という会員の声が多いという「junijuni」。開設から1年が過ぎ、今後はどのような展開を考えているのでしょうか。

 

「具体的にはまだ決まっていませんが、在庫に困っている地元企業様や生産者様の課題を解決できるような仕組みを展開できなかと考えています。現状では、新型コロナウイルス感染症の影響で販路に困っている方が増えているので、『junijuni』を活用していただければという思いから、『コロナに負けない! 生産者・販売者をみんなで応援! 買って応援特設サイト』を設けて、生産者や販売者の皆様をサポートしています」(塩田さん)

新型コロナウイルス感染症の影響で販路に困っている方向けに開設

新型コロナウイルス感染症対策支援は他にも行っています。5月25日と29日には、新型コロナウイルスの影響で生活に困窮する世帯を支援するフードバンク3カ所に食品を寄贈しました。

 

フードバンクへ寄贈した商品例

「3~5月に『junijuni』の利用者数は増えました。販路を失った生産者や業者が困っている状況をニュースや新聞などが取り上げていて、一般の方たちの意識も高まったのかもしれません。これからも、食品や日用品のロスを救える買い物の仕方に注目が集まるのではないでしょうか」(塩田さん)

 

事業活動を通じて社会的責任を果たす

 

「junijuni」を通して社会課題の解決に向き合う同社ですが、その活動は今に始まったことではありません。近年は、特に持続可能な社会の実現に対する企業への期待や要望が高まっていますが、エネルギーインフラを支える企業として、東京ガスは古くから社会課題の解決に取り組んできました。折しも昨年は、LNG(液化天然ガス)の導入から50年目にあたる記念の年。サステナビリティ推進部SDGs推進グループの森井奈央子さんによると、「51年前、東京ガスが初めて日本にLNGを導入したことも、社会課題を解決した事例のひとつかと思います」とのこと。

 

サステナビリティ推進部 SDGs推進グループの森井奈央子さん

「当時の日本はまさに高度経済成長期。経済成長に伴ってエネルギー需要が伸び、それにより大気汚染が深刻化していました。石炭や石油と比べて環境性の高い天然ガスの導入は、その課題解決に貢献できたと思います。また、天然ガスはカロリーが高いので効率良くエネルギーを供給することができ、エネルギー需要の増大にも対応できました」(森井さん)

 

一方で、社員の意識も高いといいます。

 

「元々弊社の事業は公益性が高いので、自社やお客さまの利益だけでなく、世の中のため、社会のために貢献していこうという創立時からの変わらない考え方があります。現在も、事業を通じて社会の持続的発展に貢献することで、企業としても持続的に発展していく、という考えに基づいて事業活動を進めています」(森井さん)

 

パートナー企業との連携によるサービスの創出

ガス・電気を供給する事業者として、SDGsの「7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに」や「11:住み続けられるまちづくりを」に貢献してきた東京ガス。昨年11月には2030年に向けた経営ビジョン「Compass2030」を発表しました。

 

「その中の挑戦の1つが“CO₂ネット・ゼロをリード”していくというもの。気候変動問題が深刻化している中、化石燃料である天然ガスを扱うリーディングカンパニーとして、今後CO₂をネット・ゼロにすることに挑戦していきたいと考えています。また、エネルギー事業だけでなく、より幅広い社会課題の解決に貢献していくためには、パートナーと協力していく必要があります。SDGsの「17:パートナーシップで目標を達成しよう」に該当しますが、個人や法人のお客さま、自治体、NPO法人、有識者、いろいろな方と強みを持ち寄って新たな価値を創出していく予定です」 (森井さん)

 

すでに取り組んでいるサービスが、警備会社と連携した「東京ガスのくらし見守りサービス」です。元々はガスの消し忘れの確認などを利用者に知らせるサービスとしてスタートしましたが、これに付加価値を加え、例えば、ドアの開け閉めをセンサーで確認することで、鍵の閉め忘れや、子どもの帰宅をスマートフォンに知らせることができます。さらに24時間の警備員対応や、保健同人社による健康相談などにも対応。離れて暮らす両親が心配でこのサービスを利用する人も少なくないそうです。

 

ふるさと納税の返礼品にもなっている「東京ガスのくらし見守りサービス」

「エネルギーの安定供給、そして安心・安全な生活を支える街づくりに関しては、これまで通り力をいれていきます。さらに今後は、『junijuni』も事例の1つですが、どれだけ社会的な価値を創出していけるかというところを重視していきます。あくまでも、弊社が目指しているのは持続可能な社会の実現。そこに向かって事業活動を通じて取り組んでいきます。それが実現できれば、結果的にSDGsにも貢献できると捉えています」(森井さん)

 

いまや世界の共通言語となったSDGs。それにより、パートナーシップが生まれやすい環境になったことも確かです。東京ガスは、これからもさまざまなパートナーとの連携により、社会課題の解決につながるサービスを創出していくことでしょう。

コロナ後を見据え、タイで始まった新しい形のサプライチェーン構築【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)に協力いただき、その活動の一端をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回はタイからです。新型コロナウイルスが経済にも大きな影響を与えている状況のなか、日本企業が進出し東南アジアの一大製造拠点となっているタイで始まりつつある危機下における事業継続のリスクを最小化する試みとは…。

 

JICAは、タイで2011年に発生した洪水被害の教訓を活かし、「地域全体で取り組む事業継続マネジメント」に向けた研究を産学連携で進めてきました。民間企業だけでは対応しきれない産業集積地の地域的防災対応への研究から得られた知見が今、コロナ後を見据えたサプライチェーンの新しい形にヒントを与えています

↑都市封鎖により人のいないバンコク中心部。高架鉄道サイアム駅(上)と駅前広場(4月撮影)

 

新型コロナでタイ国内のサプライチェーンが寸断

タイは、多くの日本企業が進出し、1980年代以降に石油化学や自動車関連産業の産業集積が進んできました。タイ国内に部品の製造から組み立て、販売までをひとつの連続した供給連鎖のシステムとして捉えるサプライチェーンが構築されており、メコン経済回廊の中心拠点として工業団地の整備が進んでいます。

 

しかし、新型コロナウイルス対策のため各国で都市封鎖や外出制限が広がると各企業とも生産や物流の活動を見直さざるを得なくなります。特に今年2月の中国の生産活動停止はタイをはじめとしたASEAN各国に大きな影響を及ぼしました。

 

JICAタイ事務所の大塚高弘職員はその影響について、「タイでも非常事態宣言が発出され、県境をまたぐ移動制限や外出自粛要請が行われたことから、人の行き来は大幅に減りました。日本企業を含む多くの製造業が立地するタイでも工場の稼働を停止させざるを得なくなるなど大きな影響が出ました」と話します。

 

産業集積地での事業継続リスクに関する研究の成果を活かす

今回の新型コロナウイルス感染拡大という危機下において、2018年からタイで実施してきた災害時における産業集積地での事業継続リスクに関する研究の成果を活かすプロジェクトが開始されました。

↑タイで実施されている自然災害時の弱点を可視化する研究プロジェクトでの会議

 

タイでは、2011年に発生した水害を教訓に、工業団地を取り巻く地域コミュニティの災害リスクを可視化して、企業、自治体、住民が地域としてのレジリエンス(しなやかな復元力)を強化して、災害を乗り越えていくための研究をしています。

↑2011年に発生したバンコク市内での洪水。高速道路上に多数の避難車両が並んだ

 

研究の日本側代表者である渡辺研司氏(名古屋工業大学大学院教授)は、現在実施しているプロジェクト成果の活用について、次のように述べます。

 

「プロジェクトで設計していく枠組みは、迫りくるリスクに対しての対応を地方自治体・住民・企業やその従業員などといった地域内の利害関係者が情報を共有し、意思決定を行い、対応行動を調整するプラットフォームとなることを目指しており、今回のコロナ禍に対しても活用可能と考えています」

↑プロジェクトの日本側代表、名古屋工業大学大学院の渡辺研司教授

 

サプライチェーン再編に備え、ウェビナーで知識を共有

これからに向け、グローバル・サプライチェーンの弱点を見直す手がかりとして、JICAタイ事務所は4月末、「新型コロナウイルスによる製造業グローバル・サプライチェーンへの影響と展望」と題したウェビナー(オンラインwebセミナー)を開催しました。JETRO(日本貿易振興機構)バンコク事務所の協力を得て、タイ政府の新型コロナウイルス感染症に対応した具体的な経済支援政策を紹介するとともに、渡辺研司教授による今後の課題を見据える講演を実施しました。

 

セミナーにおいて渡辺教授は、今回の災害を「社会経済の機能不全の世界的連鎖を伴う事案」と捉えた上で、「コロナウイルスの終息は、『根絶』ではなく『共存』。長期戦を想定したリスクマネジメントが必要となる」との展望を示しました。そして、「今までにない柔軟な発想を持って、転換期を見逃さないことが必要」とし、今後のレジリエンス強化の重要性を強調します。

 

さらに、「災害や事件・事故による被害を防ぎきることは不可能。真っ向からぶつかるのではなく、方向を変えてでもしぶとく立ち上がることが基本となる。通常時から柔軟性をもって対応しこれを日々積み上げることや、いざという時に躊躇なき転換を行う意思決定を行うことのできる体制を持つことこそが、転禍為福を実現するレジリエンスだ」と結びました。

↑プロジェクトの枠組みのCOVID-19事案への適用 (ウェビナー資料より)

 

ウェビナーには、在タイ日本企業の担当者を中心に240人が参加し、うち約6割は製造業およびサプライチェーンを支える企業からでした。

 

JICAタイ事務所の大塚職員は、「ウェビナーは渡航・外出制限下でも機動的に開催できるため、今回は企画構想から18日間で実施することができました。タイの感染拡大が収まりつつある一方、今後の見通しや計画策定に必要な情報が不足しているタイミングで、タイムリーに開催することができました」とオンラインイベントの手応えを語りました。

 

長年積み上げてきた日本とタイとの信頼関係をベースとして、精度の高い現地情報や研究の知見を多くの関係者と共有できる場が、実際の課題解決に貢献する。そんな国際協力の現場がここにあります。

 

【JICA(独立行政法人国際協力機構)のHPはコチラ

 

【関連リンク】

産業集積地におけるArea-BCMの構築を通じた地域レジリエンスの強化

危機下で増加する女性や子どもへの暴力を防ぐ――ブータン国営放送で働きかけ【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)に協力いただき、その活動の一端をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、ブータンでの取り組みを紹介します。

 

新型コロナウイルスの感染拡大という未曽有の危機下では、ウイルスへの脅威といった医療的なリスクだけでなく、社会の中で弱い立場におかれる人々がさらされるさまざまなリスクが浮き彫りになります。その一つが、女性や子どもに対する暴力のリスクです。

 

そんな懸念にブータンがいち早く対応しています。

 

ブータンでジェンダー課題への取り組みを続けてきたJICAと、ブータンの女性と子ども国家委員会(NCWC)は、国営放送で家庭内暴力に関するドキュメンタリービデオを放映し、暴力防止に向けた啓発を図るなど、社会的に弱い立場にある人々に目を向けた対策を進めています。

↑放映されたビデオで、家庭内暴力への警鐘を鳴らすクンザン・ラムNCWC事務局長(動画はコチラ→Suffering in Silence 

 

感染者が確認されるやいなや、女性と子どもに対するリスクへの対応を協議

「ブータンで新型コロナウイルス感染者が初めて確認されたのが3月5日。その翌週には、JICAとNCWCの担当者の間で、社会的に弱い立場におかれている女性や子どもたちに向けた支援が必要になると判断し、すぐに協議を始めました」

 

そう語るのは、JICAブータン事務所でジェンダー分野を担当する小熊千里・企画調査員です。東日本大震災の被災地では、経済的な要因に基づくストレスなどが原因で家庭内暴力や性暴力が増加し、悪化するケースが多く報告されるなど、緊急事態下では女性や子どもに対する暴力のリスクが高まることが指摘されています。

 

議論を重ねるなか、コロナ危機下で増加が想定される暴力の被害を防ぐため、家庭内暴力に関するドキュメンタリービデオを国営放送で流すアイデアが浮上。放送局との交渉や、ビデオの放映前に流すメッセージの作成などに奮闘したのが、ウゲン・ツォモNCWC女性部長です。

 

「ブータンではもともと、女性のうち約半数が、夫が妻に身体的暴力をふるうことへの正当性を容認しているといった調査結果もあり、暴力を受けた女性が声をあげにくいことがあります。放映したビデオには、カウンセリングやヘルプライン、シェルターの連絡先なども含まれ、暴力に苦しむ女性たちに具体的な情報を伝えると同時に、そのような暴力は決して容認されるものではないことを広く知らせることができればと思ったのです」とウゲン女性部長は、ビデオ放映を進めた理由を語ります。

 

このビデオは、3月20日から5日間、全国放送で10回以上にわたり放映されました。その後、ヘルププラインには通常より多くの問い合わせがありました。

↑JICAやNCWCは放映されたビデオの冒頭で、自然災害や紛争など緊急事態下では、家庭内暴力や性暴力が増加する傾向があることを訴えました

 

日本での研修で得た知見が素早いアクションにつながる

ウゲン女性部長がビデオ放映を進めた背景には、2017年度に日本で受けたジェンダー主流化(※)促進に向けたJICA研修に参加した経験がありました。

 

ウゲン女性部長は、研修のなかでも特に「女性に対する暴力」について学んだことが現在の業務に活かされていると言います。家庭内暴力や性暴力の現状、そして被害者の声を多くの人に知ってもらうことは、ジェンダー平等と女性のエンパワメントの実現に向けてなくてはならない取り組みの一つであり、今回のビデオ放映にもつながりました。

↑日本で実施された「行政官のためのジェンダー主流化政策」(※)研修の講師らとウゲン女性部長 (左)

 

※:ジェンダー主流化とは、「ジェンダー平等と女性のエンパワメント」という開発目標を達成するためのアプローチ/手法を指す。ジェンダー平等と女性のエンパワメントを主目的とする取り組みを実施する他に、都市開発や運輸交通、農業・農村開発、平和構築、保健、教育など、他の開発課題への取り組みを行う際に、ジェンダー視点に立った計画・立案、実施、モニタリング、評価を行うこと

 

JICAとNCWCは現在、ブータンで女性と子どもの保護やケアにあたる保護担当官の能力向上に向け、国内全24自治体の保護担当官などを対象にした研修を今後2回にわたり日本で実施する計画を進めています。

 

保護担当官たちは、家庭内暴力を受けた女性や虐待に苦しむ子どもたちへのケアや対応を知識としては知っていても、実際に被害者に対して適切に向き合うことができるかどうかといった点では、まだまだ経験不足が否めません。そのため、ウゲン女性部長は今回の研修により、保護担当官たちが被害者の立場に立って適切なケアを行えるよう、具体的な対応力を身に付けることを期待しています。

 

ブータンでは、家庭内における女性や子どもへの暴力や虐待に加え、未成年者の薬物依存や家庭外における性的虐待といった問題も表面化しつつあるなか、被害者に直接対応する保護担当官のカウンセリング能力の向上などは重要な課題です。

 

危機下でより深刻なリスクにさらされる人々の側から考える

国連のグテーレス事務総長は4月、「新型コロナウイルスの影響は全世界、すべての人々に及ぶが、その影響はおかれる状況に応じ異なるものであり、不平等を助長しうるもの」と発言。社会経済の停滞や変化が、男女平等を目指してきたこれまでの取り組みを後退させ、不平等を助長することへの強い懸念を示しました。

 

コロナ危機下の現在、ジェンダーに基づく差別や社会規範により社会的に弱い立場におかれている女性や少女に深刻な社会的・経済的影響が広がっています。感染リスクの増加だけでなく、性と生殖に関する健康と権利や母子保健に係るサービスの後退、暴力や虐待の増加、生計手段や雇用の喪失、学習・教育機会の減少など、女性や少女が直面するリスクがさらに拡大することが指摘されています。

 

このようなリスクが広がるなか、JICAはジェンダー視点に立った取り組みを一層強化し、女性や少女を取り残さない、また、女性や少女がこれまでに培ってきた能力や経験を地域社会で十分に発揮できるよう支援を進めていきます。このような支援の推進は、この困難を乗り越え、より強靭で包摂的な社会を築いていくために不可欠です。

 

ブータンの保護担当官への研修に対しジェンダーの視点から助言を行っている山口綾国際協力専門員(ジェンダーと開発)は、「ジェンダー不平等や格差のない社会をつくっていくためには、誰もがジェンダーの問題を身近な問題として意識することが大切です。ジェンダーの問題を意識することは、女性や少女と同じように社会的に弱い立場におかれている多様な人々が抱える様々な問題に目を向けることにもつながると考えています。そのような人々の声を聞き、取り組みを進めることで、「誰一人取り残さない」よりよい社会の実現につながると信じています。ジェンダーの問題が身近にある解決すべき重要な問題であるという認識が広まるよう、これから先も丁寧な情報発信を続けていきます」とその言葉に力を込めます。

↑新型コロナの感染が拡大するなか、ブータン女性と子ども国家委員会内の託児所で衛生備品が不足していたことから、JICAは寝具などの資材を供与。写真は供与された寝具など

 

↑納品に立ち会ったJICAブータン事務所と委員会のメンバー

 

【JICA(独立行政法人国際協力機構)のHPはコチラ

いまさら聞けない「SDGs」とは?

2015年の国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、「2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す」ための国際目標です。とはいえSDGsの全体像をつかむのはなかなか大変。ならば日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)が取り組むSDGsの活動を追えば、その本質が見えてくるのはないでしょうか。そこで本シリーズは、JICAが発行する広報誌「mundi」に掲載されたSDGsに関する記事をシリーズで紹介していきます。今回紹介する記事は2015年の記事ですが、SDGsの成り立ちやポイントがコンパクトにまとめられている、JICA的SDGs宣言でもあります。

※本記事は、JICAの広報誌「mundi」2015年12月号からの転載です

 

全ての人により良い世界を ――。そんな願いを込めて掲げられた世界の新しい目標「持続可能な開発目標(SDGs)」が、いよいよ2016年から始まる。そこには、私たち一人一人にできることが、きっとあるはずだ。

編集協力:公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)森秀行所長

(c)久野武志

17の目標と169のターゲット

2015年12月31日、ある目標が期限を迎えるのをご存知だろうか。

 

2000年に採択された「国連ミレニアム宣言」に基づく「ミレニアム開発目標(MDGs)」の達成期限が今年、2015年だ。MDGsでは、開発途上国の貧困削減に向けた8つの目標とのターゲットが設定され、具体的な数値目標を踏まえた開発協力が展開された。その結果、最貧困層が1990年の19億人から2015年の8億3600万人まで半減するなど、一定の成果を挙げている。その一方で、紛争地域の人々や女性など、一部の人々が発展から取り残される不平等の存在も指摘された。

 

そうした流れを受けて今年9月に採択されたのが、2030年までの15年間を実施期間とする「持続可能な開発目標(SDGs/※)」だ。SDGsでは、達成が不十分だった一部の MDGsの目標を引き継ぐとともに、先進国を含めた世界全体の持続可能な発展に向けた目標や、先進国と開発途上国の協力関係を深めるための目標が加わっている。

※:Sustainable Development Goals

 

「D、つまり〝Development〞が日本語で〝開発〞と訳されているので、SDGsも途上国の問題と思われるかもしれませんが、これを〝発展〞と理解すれば、世界全体の課題であることがより実感できるのではないでしょうか」と、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)の森秀行所長は指摘する。

 

SDGsは、1992年にリオデジャネイロでの地球サミットで採択された行動計画「アジェンダ」の延長上にあるという考え方もある。アジェンダ21では、社会の発展に必要な環境資源を保護・更新する経済活動への移行が強調され、その一環として貧困削減なども掲げられていたからだ。

 

誰のための目標か自分の頭で考える

もう一つ 、SDGsの目標が多角化した理由として、MDGsが一定の成功を収めたことが挙げられる。MDGsは国連本部が軸となって、幅広い分野の取り組みを主導した。その結果、世間の注目が集まり、目標達成に向けた新たな基金が設立されるなどしたことから、MDGsに参画していなかった国連機関などが、より積極的に参画したのだ。中でも、明確な目標を掲げて国や企業、個人など、多彩なステークホルダーにアプローチする手法は、MDGsへの取り組みを通して定着した。

 

森所長は、「SDGsの内容に目を通し、それぞれの目標やターゲットが誰に向けたもので、どの主体が、これらにどう関わってくるかを考えることが大切です」と強調する。特に、貧困や環境面の課題などでは、途上国と先進国の違いはもちろん、一つの国でも都市と地方で状況が大きく違うため、世界共通の数値目標を作ることは難しい。事実、今回、環境に関連するターゲットは、他のターゲットに比べて数値目標があまり設定されなかった。従って、そうした分野では、自治体や企業などが自分たちに合った目標を作ることが極めて重要になってくる。

 

目標を設定する方法には大きく分けて二つある、と森所長は説明する。一つ目は、「内側から生まれる現実的な目標」、もう一つは「外側で提示されたものを取り入れる目標」だ。内側からの目標は、家庭や企業などの現状を把握した上で、その延長線上で実現可能な目標を設定するもので、これまでも多くの企業や団体などが取り組んできている。一方、例えば、二酸化炭素の排出量を抜本的に削減することなどは「外部から取り入れる目標」に当たる。現実的な目標を定めることはこれまでどおり基本となるが、それと同時に科学的な視点から思い切った目標を定めれば、革新的なイノベーションの可能性が開ける。

 

SDGs の精神を象徴する言葉に、「誰一人取り残されない」というものがある。貧困、紛争、災害など、過酷な状況下にある人たちに手を差し伸べる協力と同時に、全ての主体がさらなる発展に向けて身近な課題を解決していくことで、私たち皆が豊かさを手に入れる、新しい未来が見えてくるはずだ。

 

私たちに何ができる? 新たな開発目標SDGsの特徴

◉「5つのP」と日本の取り組み

「誰一人取り残されない」をキーワードに、People(人間)、Planet(地球)、Prosperity(繁栄)、 Peace(平和)、Partnership(連携)の「5つのP」に焦点を当てて取り組むことが掲げられた。

 

【People(人間)】

貧困と飢餓を撲滅し、全ての人が平等の下で、尊厳を持って健康に生きられる環境を確保する

↑ポリオの撲滅に向けて、ワクチンの調達や予防接種キャンペーンなどを支援(パキスタン)

 

【Prosperity(繁栄)】

全ての人の豊かな生活を確保し、自然と調和した経済的・社会的・技術的な進歩を目指す

↑メコン経済圏の南部経済回廊の要衝となる「つばさ橋」の建設に協力(カンボジア)

 

【Partnership(連携)】

全ての国・関係機関・人が 、目標達成のために協力する

↑保健システム強化プロジェクトを、アンゴラ・ブラジル・日本の三角協力で実施(アンゴラ)

 

【Peace(平和)】

恐怖や暴力のない、平和で公正、かつ全ての人を包み込んだ社会を育む

↑地雷の除去作業のために必要な地雷探知機などの機材の調達を支援(カンボジア)

 

【Planet(地球)】

持続可能な消費と生産、天然資源の管理、気候変動対策などに取り組み、地球環境を守る

↑アマゾンなどの熱帯林の変化を測定し、森林や生物多様性を守る活動を継続(ブラジル)

 

ものすごいエコ! THE NORTH FACE「インスティンクト エクスプローラー」は着心地が良く、軽く、速乾性もあるよ!

THE NORTH FACEは、環境配慮やサスティナブルを意識した製品である「Instinct Explore(インスティンクト エクスプローラー)」シリーズから、「Instinct Explore Hoodie(インスティンクト エクスプローラー フーディ)」と「S/S Instinct Explore Tee(ショートスリーブ インスティンクト エクスプローラー ティー)」を発売します。

 

「EXPLORE SOURCE(エクスプローラーソース)」とは、ザ・ノース・フェイス独自のウェアリサイクルの循環型アップサイクルプロジェクトです。ザ・ノース・フェイス直営店のリサイクルボックス設置店舗でユーザーより冒険を終えた(不要になった)アパレル製品を回収し、そこからタフさを要求されるアウトドアフィールドでも十分に機能が発揮できる純度の高いポリエステル素材を再生成し、よりハイスペックな製品へアップサイクルして次の冒険へつないでいくというストーリーを持った取り組みです。

 

今回発売する、インスティンクト エクスプローラーシリーズのアイテムは、エクスプローラーソースの取り組みの一環として開発されたリサイクル繊維を用い、できるだけ石油資源に依存しないモノづくりを実現しています。あらかじめ染色された糸を直接編み込んで成型するため裁断を行わず、 従来と比べ廃棄ロスが少ないなど、製造工程面でも環境に配慮しています。

 

縫い目のないホールガーメント製法(無縫製のニット製法)を基本としており、人体のシルエットを立体的にとらえ、運動時における自由な着心地と同時に静止時のシルエットの美しさにもこだわっています。肩周りや肘を立体的に編むことで、ダイナミックな上半身の動きにスムーズに追従します。

↑インスティンクト エクスプローラー フーディ、価格は1万6500円(税込)。ブラック、アーバンネイビー、ニュートープの3色展開

 

↑ショートスリーブ インスティンクト エクスプローラー ティー、価格は7150円(税込)。ブラック、アーバンネイビー、ニュートープの3色展開

 

↑背面には SEND(ルートを攻略する)、 JAM(クラックを登る際の手足の技術)、 ROUTE(道・課題)というクライミング用語を配しています。

 

ポリエステル100%の生地は軽く、速乾性があり、洗濯も気軽にできるイージーケアです。アウトドアで活用できる機能性を持ちながら、ファッション性もアガる普段使いもできる汎用性の高い製品です。7月22日から順次、 全国のザ・ノース・フェイスの一部直営店、ブランドオフィシャルオンラインストアなどで販売を開始します。

 

【フォトギャラリー(GetNavi webにてご覧になれます)】

ここまでエコなイヤホンも珍しい! 「SMILE JAMAICA WIRELESS 2」はSDGsでワイヤレス

昨年話題となった「SDGs」(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)を筆頭に、環境負荷の少ないエコロジカルな企業活動を求める動きが世界的に広がっています。

 

そんななか、パッケージから製品までサステナブルな素材を使用したワイヤレスイヤホンが、オーディオブランド「House of Marley」より登場しました。

 

同社のワイヤレスイヤホンの最新モデル「SMILE JAMAICA WIRELESS 2」(直販価格4980円)は、イヤホンのハウジングにFSC認証の木材やリサイクル加工されたアルミニウム素材を使用。ケーブルには使用済みプラスチックボトルからリサイクルした繊維を使っているほか、パッケージは100%リサイクル可能なプラスチックフリーの紙繊維素材を採用しています。ここまで環境に徹底配慮している製品はめずらしいのではないでしょうか。

↑リサイクル素材など環境負荷の低い素材を使用

 

カラーは、ベーシックな「シグネチャーブラック」に加え、「デニム」「カパー」「ラスタ」の計4色をラインナップ。スタイリッシュなデザインと、あたたかみのあるHouse of Marleyのシグネチャーサウンドが楽しめます。

↑左から、デニム、カパー、ラスタ、シグネチャーブラック

 

↑装着イメージ

 

1回の充電で最大約9時間の連続再生が可能。クイックチャージ機能に対応しており、約15分の充電で最大約2時間再生することができます。

 

ケーブル部には3ボタンのリモコンを備えているほか、汗や水しぶきに強いIPX4相当の防水性能を備えています。BluetoothのコーデックはSBCとAACをサポート。

↑再生/一時停止や曲送りなどの操作ができる3ボタンリモコンを搭載

 

サステナブルな素材を採用したワイヤレスイヤホンは、できるだけ環境に配慮した製品を選択したい、と考える方に最適。エコに関心をお持ちの方へのプレゼントにも良さそうですね。

 

【フォトギャラリー(画像をタップするとご覧いただけます)】

 

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そんななか、パッケージから製品までサステナブルな素材を使用したワイヤレスイヤホンが、オーディオブランド「House of Marley」より登場しました。

 

同社のワイヤレスイヤホンの最新モデル「SMILE JAMAICA WIRELESS 2」(直販価格4980円)は、イヤホンのハウジングにFSC認証の木材やリサイクル加工されたアルミニウム素材を使用。ケーブルには使用済みプラスチックボトルからリサイクルした繊維を使っているほか、パッケージは100%リサイクル可能なプラスチックフリーの紙繊維素材を採用しています。ここまで環境に徹底配慮している製品はめずらしいのではないでしょうか。

↑リサイクル素材など環境負荷の低い素材を使用

 

カラーは、ベーシックな「シグネチャーブラック」に加え、「デニム」「カパー」「ラスタ」の計4色をラインナップ。スタイリッシュなデザインと、あたたかみのあるHouse of Marleyのシグネチャーサウンドが楽しめます。

↑左から、デニム、カパー、ラスタ、シグネチャーブラック

 

↑装着イメージ

 

1回の充電で最大約9時間の連続再生が可能。クイックチャージ機能に対応しており、約15分の充電で最大約2時間再生することができます。

 

ケーブル部には3ボタンのリモコンを備えているほか、汗や水しぶきに強いIPX4相当の防水性能を備えています。BluetoothのコーデックはSBCとAACをサポート。

↑再生/一時停止や曲送りなどの操作ができる3ボタンリモコンを搭載

 

サステナブルな素材を採用したワイヤレスイヤホンは、できるだけ環境に配慮した製品を選択したい、と考える方に最適。エコに関心をお持ちの方へのプレゼントにも良さそうですね。

 

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引越しゴミ「ゼロ」を目指すーーアート引越センターが挑戦する「SDGs」の取り組みとは?

紙資源を使わない「エコ楽ボックス」を開発〜アートコーポレーション株式会社

 

ここ数年、耳にする機会が増えてきた「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」。2015年に国連サミットで採択され、政府や自治体はもちろん、企業も積極的に取り組むようになっています。引越しの「アート引越センター」でお馴染みのアートコーポレーションも、早くからSDGsの考えに賛同し、持続可能な世界の実現を目指していると言います。

 

お客様の「あったらいいな」をカタチに

「当社は、『引越し』を専業とする会社として初めて創業し、引越しを“運送業”としてではなく、“サービス業”として発展させてきました。そして、お客様の“あったらいいな”をカタチにして、いつも先を行くサービス、いつも喜ばれるサービスを提供してきました」と話すのは、経営企画部の趙 培華(チョウ バイカ)さんです。

 

今回、話をうかがった経営企画部の趙 培華さん

同社は“関係者の共存と社会貢献活動の実践”をグループの基本理念の一つに掲げ、創業当時から、アートグループ全体で数々のCSRに取り組んできました。

 

「このような取り組みは、2015年9月に国連サミットで採択されたSDGsの目標と合致する部分も多く、グループ全体としてもSDGsに賛同すると同時に、これまでの取り組みをSDGsの各目標に合致する内容に再分類し、アートグループとして持続可能な世界の実現に向けた活動を実践することにしました」(趙さん)

 

SDGsの活動については、2018年11月に関西SDGsプラットフォームへ登録・掲載、同年12月には同社のホームページへ掲載しました。また2019年2月には、外務省のSDGsプラットフォームへも登録・掲載し、今年の6月には、内閣府の『地方創生SDGs官民連携プラットフォーム』の入会申請も承認されました。

 

プラスチック製で再利用が可能な「エコ楽ボックス」

SDGsの17目標について、グループ全体で数々の社会貢献活動に取り組む同社。そのなかで重きを置いたのが“ゴミゼロの引越し”を目指すということでした。

 

「『暮らし方を提案する企業』として、お客さまが新生活を快適に送れるようサポートしていくと同時に、地球温暖化、資源枯渇、廃棄物などの問題に向き合ってまいりました。その流れのなかで、少しでも引越し時の資材を減らし、環境にやさしい取り組みはないかと考え、使用済み段ボールを回収、再利用を始めたのです。1994年には『リ・ユース資材』を導入しましたが、当時のニーズには合いませんでした。しかし、社会が環境を意識する時代となり、また、お客様のニーズを直接お聞きしながら改良を重ね、『お引越をもっと楽に、もっとエコに。』というコンセプトのもとで開発されたのが『エコ楽ボックス』です。2008年7月に新たなエコ資材としてサービスを開始しました」(趙さん)

 

エコ楽ボックス(左)と従来の梱包(右)

『エコ楽ボックス』とは、紙素材を一切使用せず、食器をそのまま梱包できるプラスチック段ボールです。段ボールや割れ物を包む梱包材など引越しは多くの紙資材を使用しますが、そういったゴミを減らすうえ、再利用が可能なため、環境だけでなく素材費用の節約もできます。現在では『エコ楽ボックス』シリーズとして食器類だけでなく、シューズケース、テレビケース、照明ケース、ハンガーケースを展開しています。

 

エコ楽ボックスの使用例

また、“ゴミゼロの引越し”に向け、ペーパーレス化も積極的に推進。タブレット見積システムを使用し、従来複写式だった手書きの見積書を電子化しています。これは業務の効率化にも繋がり、『働き方改革』の一環として労働環境の改善にも一役買っているのです。

 

タブレット見積システムでお客様に説明

 

緩衝材の使用も約22%の削減を実現!

地球にとっても、客にとっても“やさしい引越し”を実現した「エコ楽ボックス」。改めてメリットを見ていくと、以下があげられます。

 

①紙資材を一切使用しないため、紙資源の節約ができる。

②ボックス本体はプラスチック段ボールでできた外ケースと緩衝性に優れるポリエチレン製の内仕切りを使用するため、食器が割れにくいだけでなく耐水性と密閉性も高い。

③そのまま食器を入れて簡単に梱包できるため、食器の荷造りや荷解きにかける時間が省ける。

④年配の方から子供までどんな人にも負担なく食器の梱包ができる。

⑤無料でレンタルの形で提供するため、利用客の財布にも優しい。

⑥ケースと仕切りともに折りたためるため、省スペースの保管が可能。

⑦反復資材のため、環境に優しい。

 

「エコ楽ボックス」を使うかどうかは利用客に委ねられていますが、引越し費用の軽減につながるほか、「これまでの引越しは食器を紙で包装していたので、引越し後の食器を片付けた時に、紙のゴミがたくさん出ていた。今回『エコ楽ボックス』を使ったところ、引越し後のゴミは一切なく、とてもエコに感じた」というようなコメントも多く聞かれるそうです。社会貢献の意義も感じられるためか、『エコ楽ボックス』は利用客からも高く評価されているのです。そして資源の節約という点でもその成果は顕著に表れています。

 

「食器を紙またはエアキャップのような緩衝剤でつつんで通常の段ボールの中に入れる従来の食器梱包方法と比べて、『エコ楽ボックス』を使用したことで、緩衝剤の使用は約22%削減されました(2015年と2017年の引越し件数との割合で算出)。使用しなかったエアキャップの総面積を算出したところ、2,255,904㎡になり、何と東京ドームの約48個分に相当します」(趙さん)

 

お客様の“あったらいいな”を形にして、様々な取り組みをしていきたいと話す同社。これからも、エコ資材の開発と紙資源の節約ができる新たなサービスの開発に注力しながら、ペーパーレスに繋がるデジタル化を進めていきたいと話します。

 

“ゴミゼロ”実現のための職場環境作り

「SDGsの17目標についてはすべて賛同している」という同社。一般トラック運送事業者の一員として、当然のことながら“事故ゼロ”も目標に掲げています。車両運行では、デジタル運行記録装置やドライブレコーダーを搭載し、走行中の負荷、速度、時間をデータ化することで安全指導を徹底。大阪府警察による「大阪府無事故・無違反チャレンジコンテスト」にも全支店が参加していると言います。

 

そしてこの“ゴミゼロ”“事故ゼロ”を実現するために、従業員の健康促進や、より働きやすい職場環境づくりにも注力しています。例えば、引越し業界として初めて定休日を設け、長時間労働や社員の健康などの課題解決に取り組みました。また、女性従業員からなる社内プロジェクト「女性活躍推進プロジェクト“Weチャレンジ”」を立ち上げ、女性が働きやすい環境を自ら考え、実行することで、健やかに働ける環境づくりを目指しています。これまで、「いきいきと働くための健康教室」「運動と休息で健康づくり」「異業種企業との交流会」など、社内のコミュニケーション活動を充実させてきました。

 

「女性活躍推進プロジェクト“Weチャレンジ”」の会議風景

対外的にも、日本全国さまざまな地域事業への協賛を通じ、地域が抱える課題の改善や、地域の盛り上げに取り組んでいます。自治体と提携した「高知県移住支援特使」では、Uターン・Iターンによる移住促進策を支援。「秋田竿燈まつり」や「さっぽろ雪まつり」、「芦屋サマーカーニバル」ほか、その土地に根付いているお祭りやイベントに参加・協力し、地域活動に貢献しています。

 

さらに関東、関西エリアのトラックには、AED(自動体外式細動器)を順次搭載。仕事柄、トラックで住宅街など街中の人命救助にあたることができると考えてのことです。AEDに関しては、グループ会社のアートチャイルドケアも、保育施設への設置を順次進めているそう。コマーシャルでもお馴染みのキャッチフレーズ“あなたの街の0123♪”の通り、地域のことを考え、いつまでも住み続けられる街づくりに貢献しているのです。

 

AEDのステッカーが目印

 

2030年までに“ゴミゼロ”の引越しをめざす

“引越し専業会社”という枠にとらわれず、“暮らし方を提供する企業”として、様々な取り組みを進めてきた同社。SDGsの活動について、今後どう考えているのか最後にうかがいました。

 

「これからもCS(顧客満足)とES(従業員満足)を経営の機軸に置いて、引越し事業を核とした“暮らし方を提案する”企業グループという経営方針を維持していきます。そして『the0123』ブランドの強みを活かし、引越しを中核としながらも、さらに暮らしに関わる企業へと事業領域を拡大していきたいと考えています」(趙さん)

 

“「ゴミゼロ」「事故ゼロ」をめざす”“働きがいのある環境作りをめざす”“より暮らしやすい社会をめざす”“地域の活性化”などさまざまな目標を掲げ、その実現に向け、取り組んできた同社。今後はさらに高みを目指していくと意気込みます。

 

「CSに関しては、引き続きお客様の“あったらいいな”の気持ちを大切にして、お客様により一層満足いただくことをサービスの原点とする姿勢で、2030年までに“ゴミゼロ”の引越しをめざすと共に、『エコ楽ボックスシリーズ』のような地球環境に優しい資材をさらに開発することで、アートならではの高品質なサービスを提供し続けていきます。また、ESに関しては、今後も従業員の健康促進を実施し、長時間労働や働く環境の改善に向けて、定休日の設定や業務のデジタル化を行い、より働きがいのある会社になるように取り組んでいきます。こうしたSDGsの理念にも共通しているCSとESの取り組みで、社会貢献活動を実践し続けていきます」(趙さん)