ショッピングモールを撮り続けて20年。そこから見える「人」と「社会」のストーリーとは?

僕の家の近くには、大きめのショッピングモールがある。徒歩3分ほどの場所だ。あまりにも近くにあるので、2日に1回は足を運んで、食材を買ったり食事をしたり、100円ショップや300円ショップを見たりしている。僕は心の中でそのショッピングモールを「冷蔵庫」と呼んでいる。

 

画一化されたショッピングモールに浮かんでくるストーリー

もはや自分の中で当たり前の存在になっているショッピングモールだが、それを題材にした写真集がある。『モール』(小野啓・著/赤々舎・刊)だ。

 

収められている写真を見る。どこにあるショッピングモールなのか記載されていないが、正直どこもほぼ同じようなイメージ。コンビニのように画一化されているから、それほど個性のようなものは感じられない。

 

しかし、そこにいる人たちが映り込んでいくと、無機質なショッピングモールにストーリーが浮かび上がってくる。ベンチに座る女性、通路に立ち尽くす女子高生、寝具売り場のベッドに寝転ぶ男の子、駐輪場にたたずむ高校生カップル……。

 

この写真集を見たあとに近くのショッピングモールに行ってみると、そこには驚くほどのストーリーがあることに気がつくだろう。買い物以外の楽しみ方がひとつ増えた感じだ。

 

何でも揃うショッピングモールは町そのもの

この写真を撮っている小野啓は、元々インターネットを通じて全国の高校生から依頼を受け、彼らを撮影するために日本全国を回っていた。撮影場所は彼らの思い出のある場所なのだが、近年はショッピングモールを指定されることが増えてきた。そこでショッピングモールそのものを撮影しようと思い立ったのだ。

 

巻末に、編集者/ライターの速水健朗の解説がある。そこにこう書かれている。

 

ショッピングモールは、日常の中にあるちょっとだけ特別な場所。とりたてて何をするでもなく出かけていく。“町”とよく似ている。
モールは、町の機能を集約した擬似的な町である。

(『モール』より引用)

 

買い物もできるし、食事もできる。散歩することもできるし、大きめの郊外のショッピングモールなら映画館があったり、スポーツが楽しめる施設があったり。フードコードで勉強している高校生なども見かけるし、子どもたちが遊ぶスペースがあるところもある。ドッグランや猫カフェ、ミニSLが走っているところもあるだろう。

 

そう、ショッピングモールは“町”なのだ。僕らが暮らす町が凝縮されているのがショッピングモール。そう考えると、被写体としておもしろいなと思うし、撮影したくなる気持ちもわかる。

 

ショッピングモールなんて特別な場所ではない。でも、ちょっと視点を、考え方を変えると、そこには町と同じくらいストーリーがある。

 

僕が「冷蔵庫」と呼んでいるショッピングモールは、最近専門店エリアやフードコートに空きテナントが増えてきている。オープン当初のあのキラキラした感じはもうあまり感じられないが、なんかそんなところも町っぽさを感じる。

 

さて、今日もショッピングモールに行ってこよう。

 

【書籍紹介】

モール

著者:小野啓
発行:赤々舎

人の欲望やそれぞれの差異を覆い隠す、巨大な箱のような外観。その中に登場する人々の、日常と地続きでありながら少し浮遊するような振る舞い。ひとつの街でもあるモールは、地元の風景にどのように接続し、見え隠れするのか。そして時間の経過によって廃墟となるモールも現れ、しかし今日もどこかで建設が進む現場。20年にわたる撮影を通して、人々の共通体験となったモールを記録し、その内側と外側から、社会の循環と人の営みを見ようとする試みです。

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ダメな馬もいないし、ダメな人間もいない。引退馬支援から学べること

近年、保護犬の里親になる人が増えてきました。そのため犬の殺処分数は激減し、天寿を全うできるようになっています。それと同じように、最近は馬でも同じ動きが起きています。競馬を引退した馬たちに老後を安心して過ごしてもらうための支援が広がっているのです。

 

馬は話を聞いている

私は馬が好きな娘と共に、牧場に行くことがあります。そこでは乗馬はもちろん、馬にブラシをかけたりニンジンをあげたりというふれあいも楽しめます。ある日、人間でいうと中年くらいの年齢の馬に白髪が出てきたと、たてがみの生え際を見せてもらいました。

 

私にも白髪があるので勝手に親近感を抱いてしまい、馬に向かって「お互い頑張ろうね」と話しかけると、まるで話を聞いているかのように、こくこくと何度も頷いたのです。こうしたことは今までも何度もあり、そのたびに理解してくれる親友のように感じて、ますます馬を好きになってしまいます。

 

悲しみに寄り添う馬

馬の持つ優しい雰囲気、分かち合ってくれるかのような感覚に魅了される人は大勢います。『生きているだけでいい!馬がおしえてくれたこと』(倉橋燿子・著/講談社・刊)は、NPO法人引退馬協会代表理事の沼田恭子さんの激動の半生が描かれた本ですが、そこにもそうしたエピソードが何度も出てきます。

 

沼田さんがご主人を亡くして哀しみに沈んでいる際に、自ら沼田さんに歩み寄り、顔をすりつけてきたり、話を聞いてくれるかのようなそぶりをした馬がいたそうです。彼女は「まるでわたしのほうが抱きしめられ、つつみこまれているかのよう」と不思議な感覚を味わっています。

 

犬も泣いている人のそばにずっといたり顔を舐めたりと、寄り添いの行動をとることがありますが、馬にもそれはあるのです。馬の身体は暖かく、毛の手触りは心地良く、さらに馬の下唇は想像を超える柔らかさがあり、触れると気持ちが落ち着くという人も多いようです。

 

馬を殺処分から救う

こんなに思いやり深い生き物である馬ですが、競馬の世界では、引退した馬が殺処分され、食用肉になることがあります。馬が生きているとエサ代などの経費がかかって大変だからです。その数は年間5000頭ほどとも言われていて、だとすると、犬の殺処分数4059頭(2020年度)よりも多いかもしれないのです。

 

犬の殺処分数は10年前の4万4000頭から十分の一以下に激減しました。これは、保護犬活動が広まり、犬の里親になる人が増えたからです。そして近年は馬にもその波が到達し、引退馬を引き取って世話をする施設が増え始め、のんびり老後を過ごす馬が少しずつ増えているのです。

 

馬の里親になる

沼田恭子さんは、引退馬の暮らしを支えるためのフォスタープランシステムを考案した人です。会員になり月々の会費を支払うことで、特定の馬の支援ができるというこのプランは、最期まで生きてもらいたいという強い願いがあったからこそ生まれたものでした。

 

沼田さん自身、乗馬クラブを運営していたご主人を重い病気で亡くしています。次第にできることが少なくなり、最後は手を握っても反応があまりないような状態に陥った彼を「生きているだけでうれしい」と感じていたその時の思いを、馬にも抱いているのです。

 

ダメな馬なんていない

この本は、馬たちに向けての温かい言葉で溢れています。「生きているだけでいい、生きているだけで価値があるんだ」「ダメな馬なんていない。どんな馬だって、それぞれに能力があるんだよ」などの言葉は、そのまま、人間にも当てはまるものだと思うのです。ダメな人間なんていないのですから。

 

たくさんの名言が散りばめられている本ですが、あとがきにも素晴らしいフレーズがありました。「つらいことや悲しいことが、じつは次の扉を開いてくれる大きなきっかけとなる」がそれです。実際、沼田さんはご主人を失ったことをきっかけに、彼が愛した馬の命を支えるようになりました。私たちも、つらいことがあった時に、苦しくても、次の扉を開けるために前を向いていたいものです。

 

 

【書籍紹介】

生きているだけでいい! 馬がおしえてくれたこと

著者:倉橋燿子
発行:講談社

かしこくて、こわがりな動物、馬。その命を守る活動をしているのが、NPO法人『引退馬協会』代表の沼田恭子さんです。東日本大震災のときには、福島県南相馬市に入り、津波の被害にあった多くの馬を救いました。子どものころ動物が苦手だった沼田さんが、なぜ馬にかかわる仕事をするようになったのでしょう? 沼田さんと馬たちの交流と、馬を守る活動をえがくノンフィクション!

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日本で最初のアニメとは? なぜ1話30分になった? 意外と知らない日本アニメ史~注目の新書紹介~

ゴールデンウィークにアニメ映画をテレビで見たり、実際に映画館に行ったりした、という方も多いのではないでしょうか。海外の人に日本のイメージを聞くと、よく「アニメ」と「忍者」が挙がるといいます。忍者は令和時代にはほとんど見かけないので、アニメが名実ともに日本を代表する文化といえそうです。

 

では、私たちはどのくらい日本アニメについて知っているでしょうか。日本で最初のアニメーションは? テレビアニメがお茶の間に浸透したきっかけは? あのアニメがブームになった背景は? 教養として一から日本のアニメを勉強してみるのもいいかもしれません。

日本のアニメ史を一気に把握

 

今回紹介する新書は日本アニメ史 手塚治虫、宮崎駿、庵野秀明、新海誠らの100年』(津堅 信之・著/中公新書)。著者の津堅 信之さんは、アニメーション研究者で日本大学藝術学部映画学科講師。アニメを映画史や大衆文化など広い領域から研究してきました。『日本のアニメは何がすごいのか』(祥伝社新書)、『新海誠の世界を旅する 光と色彩の魔術』(平凡社新書)、『京アニ事件』(平凡社新書)など、アニメに関する著書も多数です。

第1章は、1917年(大正6年)に上映された日本初の国産アニメーションのひとつ『猿蟹合戦』の話から始まります。海外アニメーション映画を見よう見まねで研究し、作られた作品。最初は動くキャラも動かない背景もすべて一枚絵に描き、それを何枚も連ねていく、非常に手間がかかる「ペーパーアニメーション」的な手法だったそうです。

 

日本アニメのターニングポイントとなったのは1963年。テレビアニメ『鉄腕アトム』の放送が始まります(第4章)。「アニメを作るために漫画を描いた」と公言していた手塚治虫さん。そんな手塚さんが率いたスタジオ「虫プロダクション」による『鉄腕アトム』は、「毎週1回・1話30分・連続放送」という、今でも引き継がれているテレビアニメの枠組を確立しました。

 

その一方で、1話の制作費が250万円かかるところを、55万円という採算度外視で引き受けて……。賛否はあるものの、津堅さんは「商品としてのアニメを形成した虫プロは産業的モダニズムをもたらしたと言い換えることもできるだろう」と評しています。

 

アニメ史上の重要年をピックアップし、カギを握る名作を解説していくメリハリある構成が本書の良さ。しっかりとした堅い内容ながら読みやすく、それぞれの時代背景のなかで、各アニメが果たした役割や意義も見えてきます。

 

第6章に入ってくると、懐かしいと思う読者も増えてくるのではないでしょうか。1979年は、富野由悠季監督の『機動戦士ガンダム』、宮崎駿監督の『ルパン三世 カリオストロの城』、りんたろう監督の劇場版『銀河鉄道999』と名作が数多く輩出された年。

 

しかし、『カリオストロの城』は興行成績が振るわず、視聴率が一桁だった前年のテレビアニメ『未来少年コナン』(同じく宮崎駿監督作品)とともに当時は失敗作とみなされていたそうです。実は、このつまづきがのちのアニメ史に大きな影響を及ぼすことに……。単体の作品だけを見ていてはわからない、歴史のつながりを感じるエピソードも豊富です。

 

現在は、アニメスタジオが配信する動画チャンネルやサブスクの動画サービスで、古い名作を手軽に楽しめる環境になってきました。東京国立近代美術館フィルムセンターが運営するサイト「日本アニメーション映画クラシックス」には、戦前の国産アニメーション映画も公開されています。本書に挙げられたアニメ史に残る作品をじっくり鑑賞すれば、日本文化の深層に触れられるかもしれません。

 

【書籍紹介】

『日本アニメ史 手塚治虫、宮崎駿、庵野秀明、新海誠らの100年』

著者:津堅 信之
発行:中央公論新社

初の国産アニメが作られてから、一〇〇年余り。現在、海外でも人気が高く、関連産業も好調だ。本書は、今や日本を代表するポップカルチャーとなったアニメの通史である。一九一七年の国産第一作に始まり、テレビでの毎週放送を定着させた『鉄腕アトム』、監督の作家性を知らしめた『風の谷のナウシカ』、深夜枠作品を増大させた『新世紀エヴァンゲリオン』など、画期となった名作の数々を取り上げ、その歴史と現在を描く。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

2000万じゃなくて5000万! いったい老後の資金はいくら必要なのか?『コミック版 やってはいけない老後対策』

2019年6月、金融庁が驚きの発表をしました。いわゆる「老後2000万円問題」と呼ばれるもので、平均的な年金受給者は2000万円の貯蓄がないと生活が破綻してしまうというのです。そんなこと急に言われても、どうしたらいいのかわからないと、誰もが驚いたことでしょう。私も「えっ! そうなの?」と思い、たまらなく不安になりました。『やってはいけない老後対策』は、そんな私たちの「えっ!」に答えてくれる本です。

 

「老後対策」をわかりやすく教えてくれる

著者は、元国税調査官の大村大次郎。国税局に10年勤務した後、経理事務所などを経て、フリーランスのライター・作家として活躍しています。ベストセラー『あらゆる領収書は経費で落とせる』など、多くのヒット作があるので、ご存じの方も多いでしょう。

 

数ある老後対策本の中から、私が『コミック版 やってはいけない老後対策』(大村大次郎・著、西島ユタカ・シナリオ、蒼田山・マンガ/小学館・刊)を選んだのは、著者が国税に詳しいことがいちばん大きな理由ですが、コミック形式の本であることにひかれました。お金の話になると、頭痛がしてくる私としては、読まなければいけないとわかっていながら、税金の本はできれば避けて通りたい難物なのです。けれども、『コミック版 やってはいけない老後対策』は、2018年に出版された『やってはいけない老後対策』をコミック版にしたものなので、私でもなんとか完読できそうだと思ったのです。そして、実際、最後まで一気に読みました。

 

漫画に登場するのは5人。会社員の鈴木浩(59才)、パート従業員として働く妻の美津江(54才)、そして、浩の妹の斎藤明子(48才)、明子の夫の隆一(48才)です。

 

鈴木夫妻はサラリーマンと主婦であり、斎藤夫妻は二人でデザイン事務所を経営しているという設定です。そして、もう一人、鍵となる人物がいます。鈴木夫妻の娘・綾(30才)です。彼女はマネーアドバイザーをしていて、お金の問題に詳しいのです。ストーリーは二組ののんきな夫婦に対して、若い綾が鋭い意見を述べる形で進んでいきます。

 

鈴木夫妻と斎藤夫妻は、老後の生活に不安感を持っていません。まあ、なるようになるだろうと考えています。けれども、綾はそうした甘えを見逃しません。具体的な数字を容赦なく示し、両親や叔母夫妻の生活に警鐘を鳴らします。とくに、叔母夫婦に対しての意見は、手厳しいものとなっています。叔母は「大丈夫」と、言い張りますが、それに根拠などないとわかっているからです。かつては税務署に勤めていた綾の言葉は説得力があります。

 

私にとっても、綾の話は耳に痛いものでした。自分ではなんとかなるさと思ってはいますが、根拠などないのです。自分では頑張って働いているつもりですが、主婦業をしながら原稿を書いてきただけで、会社勤めをしたことがありません。そもそもエッセイストは、原稿の依頼が無くなったら終わる職業です。楽観などできないはずなのに、私は考えないようにしています。

 

ところが、夫は違います。退職して年金生活者になったばかりですが、将来を見据え、考えを巡らせています。彼は40年近く休むことなく働いてきましたから、年金を受け取ることができます。けれども、私とは違い、なんとかなるとは思っていないようです。生活から無駄を省くように工夫をこらしています。さらには、ゆとりある老後のために、準備を怠ってはならないと主張するのです。

 

最近の夫の趣味は、年金生活者の現実を描くYouTubeを見ることです。そこには、ぎりぎりの年金で生活するための知恵がつめこまれています。果たして実話なのか、確かめる術がないものの、年金生活者のひとつの現実を表していると思います。

 

現実を見据えて

『コミック版 やってはいけない老後対策』には、多くの人が目を背けがちな現実がはっきりと描かれています。

 

年金制度そのものがなくなることはあり得ませんが、現行制度がそのまま続くということは考えにくいでしょう。今の年金制度は、これから年金受給対象となるシニア世代だけでなく、年金を納めている若者も、年金だけをあてにしない生き方を真剣に考えなくてはならない時期が来ているのです。

(『コミック版 やってはいけない老後対策』より抜粋)

 

では、いったいいくらあったら、私たちはゆとりある生活ができるのでしょう。著者のシュミレーションによると、「現役時代に5000万円以上の貯蓄が必要」だそうです。もちろん、ケースバイケースだとあり、一概には言えないそうです。それでも、5000万円の貯蓄という具体的な数字にはショックを受けます。

 

もっと貯金するよう努力すべきだったと後悔しますが、こうなったら、今からでも、できることをするしかありません。まずは細々とではあっても、注文がある限り、原稿を書き続けるのが、私の未来への一歩だと考え直しているところです。あとは生活の無駄を省くようにすることでしょうか。

 

『コミック版 やってはいけない老後対策』には、厳しい現実が示されていますが、私たちが何をすべきかについても教えてくれます。

 

そのためにまずすべきことは、生活のダウンサイジングです。1日も早く、早ければ40代、遅くとも50代に入ってからは「生活の無駄」をなくしておきましょう。たったそれだけでもびっくりするような効果が上がります。

(『コミック版 やってはいけない老後対策』より抜粋)

 

それはたとえば、車を手放すことであったり、動画などのサービスを見直し、必要でないものは解約すること、さらには電気・ガスなどの契約を見なおすことだといいます。確かに、なんとなくだらだら使っているものを思い切って辞め、生活の見直しをはかるのは、とても大切なことでしょう。

 

これから考えるべきこと

さらに、引退後の住まいについても、言及しています。私たちにとって、「持ち家が得か、借家が得か」は大きな問題です。週刊誌などでも頻繁に特集されています。果たしてどちらが得か? は悩むところです。

 

持ち家の最大のメリットは、「お金がなくなっても、いつまででも住める」「何歳まで生きても住むところには困らない」ということです。

(『コミック版 やってはいけない老後対策』より抜粋)

 

さらには、高齢の単身者に大家さんは家を貸したがらないそうです。一人暮らしの高齢者は、自然死したり孤独死したりするリスクがついてくるからです。残酷な現実ではありますが、考えておかなければならないでしょう。

 

けれども、絶望しすぎないでください。『コミック版 やってはいけない老後対策』は、定年退職するときの注意やちょっとしたコツも伝授してくれます。とくに「繰り上げ受給」にするか、「繰り下げ受給」にするか、迷っている人がいたら、参考になる指摘がなされています。

 

当面、お金に不自由していないのなら、年金はなるべく遅くもらうほうがいいと、著者は言います。様々なケースが挙げられていますから、それを参考にしましょう。どれも「なるほど」と、思えることばかりですが、とくに、定年後のアルバイトは、お金が戻ってくるケースが多い」というのは知りませんでした。アルバイトは、年末調整をしていないため、税金が払いすぎになっているのです。税金の納めすぎは自分で申告しない限り、戻ってこないというのですから、ぼやぼやしてはいられません。

 

『コミック版 やってはいけない老後対策』によって、私は自分の老後について、様々な知恵を授けられました。のんきにかまえていないで、自分で考え、工夫すべきだとも知りました。方法は一つではないので、自分はどのケースに当てはまるのかよく考えてみなければなりません。けれども、ボヤボヤしていてはいけないと思うようになったのは、ひとつの大きな収穫です。

 

【書籍紹介】

コミック版 やってはいけない老後対策

著者:大村大次郎(著)西島ユタカ(シナリオ)蒼田山(マンガ)
発行:小学館

上位10%の人だけが実践している秘密のワザを伝授。これを知らないと大損します! 2022年4月施行の年金制度改正法完全網羅。老後2000万円問題にはこう備えよ。

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2000万じゃなくて5000万! いったい老後の資金はいくら必要なのか?『コミック版 やってはいけない老後対策』

2019年6月、金融庁が驚きの発表をしました。いわゆる「老後2000万円問題」と呼ばれるもので、平均的な年金受給者は2000万円の貯蓄がないと生活が破綻してしまうというのです。そんなこと急に言われても、どうしたらいいのかわからないと、誰もが驚いたことでしょう。私も「えっ! そうなの?」と思い、たまらなく不安になりました。『やってはいけない老後対策』は、そんな私たちの「えっ!」に答えてくれる本です。

 

「老後対策」をわかりやすく教えてくれる

著者は、元国税調査官の大村大次郎。国税局に10年勤務した後、経理事務所などを経て、フリーランスのライター・作家として活躍しています。ベストセラー『あらゆる領収書は経費で落とせる』など、多くのヒット作があるので、ご存じの方も多いでしょう。

 

数ある老後対策本の中から、私が『コミック版 やってはいけない老後対策』(大村大次郎・著、西島ユタカ・シナリオ、蒼田山・マンガ/小学館・刊)を選んだのは、著者が国税に詳しいことがいちばん大きな理由ですが、コミック形式の本であることにひかれました。お金の話になると、頭痛がしてくる私としては、読まなければいけないとわかっていながら、税金の本はできれば避けて通りたい難物なのです。けれども、『コミック版 やってはいけない老後対策』は、2018年に出版された『やってはいけない老後対策』をコミック版にしたものなので、私でもなんとか完読できそうだと思ったのです。そして、実際、最後まで一気に読みました。

 

漫画に登場するのは5人。会社員の鈴木浩(59才)、パート従業員として働く妻の美津江(54才)、そして、浩の妹の斎藤明子(48才)、明子の夫の隆一(48才)です。

 

鈴木夫妻はサラリーマンと主婦であり、斎藤夫妻は二人でデザイン事務所を経営しているという設定です。そして、もう一人、鍵となる人物がいます。鈴木夫妻の娘・綾(30才)です。彼女はマネーアドバイザーをしていて、お金の問題に詳しいのです。ストーリーは二組ののんきな夫婦に対して、若い綾が鋭い意見を述べる形で進んでいきます。

 

鈴木夫妻と斎藤夫妻は、老後の生活に不安感を持っていません。まあ、なるようになるだろうと考えています。けれども、綾はそうした甘えを見逃しません。具体的な数字を容赦なく示し、両親や叔母夫妻の生活に警鐘を鳴らします。とくに、叔母夫婦に対しての意見は、手厳しいものとなっています。叔母は「大丈夫」と、言い張りますが、それに根拠などないとわかっているからです。かつては税務署に勤めていた綾の言葉は説得力があります。

 

私にとっても、綾の話は耳に痛いものでした。自分ではなんとかなるさと思ってはいますが、根拠などないのです。自分では頑張って働いているつもりですが、主婦業をしながら原稿を書いてきただけで、会社勤めをしたことがありません。そもそもエッセイストは、原稿の依頼が無くなったら終わる職業です。楽観などできないはずなのに、私は考えないようにしています。

 

ところが、夫は違います。退職して年金生活者になったばかりですが、将来を見据え、考えを巡らせています。彼は40年近く休むことなく働いてきましたから、年金を受け取ることができます。けれども、私とは違い、なんとかなるとは思っていないようです。生活から無駄を省くように工夫をこらしています。さらには、ゆとりある老後のために、準備を怠ってはならないと主張するのです。

 

最近の夫の趣味は、年金生活者の現実を描くYouTubeを見ることです。そこには、ぎりぎりの年金で生活するための知恵がつめこまれています。果たして実話なのか、確かめる術がないものの、年金生活者のひとつの現実を表していると思います。

 

現実を見据えて

『コミック版 やってはいけない老後対策』には、多くの人が目を背けがちな現実がはっきりと描かれています。

 

年金制度そのものがなくなることはあり得ませんが、現行制度がそのまま続くということは考えにくいでしょう。今の年金制度は、これから年金受給対象となるシニア世代だけでなく、年金を納めている若者も、年金だけをあてにしない生き方を真剣に考えなくてはならない時期が来ているのです。

(『コミック版 やってはいけない老後対策』より抜粋)

 

では、いったいいくらあったら、私たちはゆとりある生活ができるのでしょう。著者のシュミレーションによると、「現役時代に5000万円以上の貯蓄が必要」だそうです。もちろん、ケースバイケースだとあり、一概には言えないそうです。それでも、5000万円の貯蓄という具体的な数字にはショックを受けます。

 

もっと貯金するよう努力すべきだったと後悔しますが、こうなったら、今からでも、できることをするしかありません。まずは細々とではあっても、注文がある限り、原稿を書き続けるのが、私の未来への一歩だと考え直しているところです。あとは生活の無駄を省くようにすることでしょうか。

 

『コミック版 やってはいけない老後対策』には、厳しい現実が示されていますが、私たちが何をすべきかについても教えてくれます。

 

そのためにまずすべきことは、生活のダウンサイジングです。1日も早く、早ければ40代、遅くとも50代に入ってからは「生活の無駄」をなくしておきましょう。たったそれだけでもびっくりするような効果が上がります。

(『コミック版 やってはいけない老後対策』より抜粋)

 

それはたとえば、車を手放すことであったり、動画などのサービスを見直し、必要でないものは解約すること、さらには電気・ガスなどの契約を見なおすことだといいます。確かに、なんとなくだらだら使っているものを思い切って辞め、生活の見直しをはかるのは、とても大切なことでしょう。

 

これから考えるべきこと

さらに、引退後の住まいについても、言及しています。私たちにとって、「持ち家が得か、借家が得か」は大きな問題です。週刊誌などでも頻繁に特集されています。果たしてどちらが得か? は悩むところです。

 

持ち家の最大のメリットは、「お金がなくなっても、いつまででも住める」「何歳まで生きても住むところには困らない」ということです。

(『コミック版 やってはいけない老後対策』より抜粋)

 

さらには、高齢の単身者に大家さんは家を貸したがらないそうです。一人暮らしの高齢者は、自然死したり孤独死したりするリスクがついてくるからです。残酷な現実ではありますが、考えておかなければならないでしょう。

 

けれども、絶望しすぎないでください。『コミック版 やってはいけない老後対策』は、定年退職するときの注意やちょっとしたコツも伝授してくれます。とくに「繰り上げ受給」にするか、「繰り下げ受給」にするか、迷っている人がいたら、参考になる指摘がなされています。

 

当面、お金に不自由していないのなら、年金はなるべく遅くもらうほうがいいと、著者は言います。様々なケースが挙げられていますから、それを参考にしましょう。どれも「なるほど」と、思えることばかりですが、とくに、定年後のアルバイトは、お金が戻ってくるケースが多い」というのは知りませんでした。アルバイトは、年末調整をしていないため、税金が払いすぎになっているのです。税金の納めすぎは自分で申告しない限り、戻ってこないというのですから、ぼやぼやしてはいられません。

 

『コミック版 やってはいけない老後対策』によって、私は自分の老後について、様々な知恵を授けられました。のんきにかまえていないで、自分で考え、工夫すべきだとも知りました。方法は一つではないので、自分はどのケースに当てはまるのかよく考えてみなければなりません。けれども、ボヤボヤしていてはいけないと思うようになったのは、ひとつの大きな収穫です。

 

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コミック版 やってはいけない老後対策

著者:大村大次郎(著)西島ユタカ(シナリオ)蒼田山(マンガ)
発行:小学館

上位10%の人だけが実践している秘密のワザを伝授。これを知らないと大損します! 2022年4月施行の年金制度改正法完全網羅。老後2000万円問題にはこう備えよ。

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日本でデニムを最初にはいたのはジョン万次郎だった? デニム知識が満載の『教養としてのデニム』が面白い!

みなさんは普段、どんなパンツ・ズボンをはいていますか?季節問わず、どんな人でもカッコよく着こなせてしまうデニム。ご家庭のクローゼットに1本はあるのではないでしょうか。

 

今や日本人のライフウェアと言ってもいいほど浸透しているデニムですが、その歴史を紐解くと、意外な事実に驚くことも。今回はそんなデニムの歴史が丸わかりな『教養としてのデニム』(藤原 裕・著/KADOKAWA・刊)をご紹介します。

日本で最初にデニムをはいたのは誰?

デニムはゴールドラッシュ時代のアメリカで作業着だった、というのは多くの人が知っていることかもしれません。しかし、そのデニムがどうやって日本に渡ってきたのかはあまり知られていないんですよね。そんな歴史を紐解くと、なんとあのジョン万次郎にたどり着くのだとか。

 

資料によると、数年後に帰国をする際、日本へ初めてデニムの生地とミシンを持ち込んだとされています。時代背景的に、当時アメリカではすでにデニムが誕生していたので彼が穿いていた可能性はあるかもしれませんが、残念ながらデニムを実際に穿いていたという記録は残っていません。

(『教養としてのデニム』より引用)

 

時代は流れ、デニムを実際にはいていた姿が残されているのは、終戦後! 実業家の白洲次郎なのだそう。終戦後に首相となった吉田 茂の側近として活躍した人物です。偶然にも「次郎」つながり!

 

この白洲さんのデニム姿はイケメンすぎるくらいかっこいいので、たくさんの人に見て欲しい……。白Tシャツにかたそうなデニムをはいて足を組んだ写真が掲載されているのですが、俳優さんのようですよ。

 

デニムとジーンズの違いは?

『教養としてのデニム』には、デニムの起源から流行の歴史、そして著者である藤原さんがどうしてヴィンテージデニムアドバイザーになったのかがたっぷりと記されています。

 

ページをめくるたびに「普段何気なくはいているデニムにこんな歴史が!」と発見できます。私もリーバイスのデニムをはいていましたが、501の番号やアルファベッドに意味があることや、レザーパッチ(背面についている長方形のもの)に描かれているのが“ジーンズを引っ張り合う2頭の馬”だってことも知りませんでした。「すまん、Gパン……」と思い、気がついたのですが、日本人は、デニムだけでなく、ジーンズやGパンって呼びますよね? これらの違いはあるのでしょうか。

 

「デニム」は「serge de nimes(セルジュドゥニーム)」、フランス語の“ニーム産の綾織物”に由来すると言われています。19世紀後半、アメリカでは屈強な綿織物で作られた労働着などを総称して「ジーンズ」と呼んでいました。本書では一般的な通称として、広義で「ジーンズ」含めて「デニム」としています。

(『教養としてのデニム』より引用)

 

基本的に、デニムもジーンズも違いはないとのこと。ちなみに「Gパン」は、ジーンズパンツの略称かと思いきや、「Government Issue(=米国兵士)」が穿いていたパンツ「GIパンツ」からきているそうです。確かにジーンズを英語で書くと「Jeans」だからJパンですね(笑)。

 

ヴィンテージデニムはどうやって鑑定しているの?

著者である藤原さんは、原宿にある「ベルベルジン」で店長をしながら、日々素敵なデニムを探しているそう。最近では、ヴィンテージデニムが投資対象となり、1本数百万円を超えるものもたくさんあり、投資目的で訪れるお客さんも増えているのだとか。すごい時代……!

 

そんなヴィンテージデニムですが、どうやって「これは年代ものだ!」と鑑定しているのでしょうか?

 

さらに私の経験上、ヴィンテージと復刻版で決定的に異なるのがステッチです。ヴィンテージデニムはコットン製の糸を使用しているので切れたりほつれていることが多いのに対し、復刻版は高品質のポリエステルの糸を採用しているので切れていませんし、よく見ると化繊特有の光沢感があるのですぐにわかります。

(『教養としてのデニム』より引用)

 

ブランドや年代によって見るポイントは変わってくるそうですが、細かいところまでチェックしているんですね。ちなみに、個人的に激推ししている吉井和哉さんも藤原さんのお店によく行かれているとのことで、2人の「ヴィンテージデニム対談」が掲載されています。ファンの方にもおすすめです(笑)。

 

普段何気なくはいているデニムも、歴史を知ることで「今度はあの時代のデニムをはいてみたい」と新しい視点が生まれます。私も現在3本デニムを所有しているのですが、次に迎えるデニムは、ベルベルジンか古着屋さんで探してみようと思っています。ファッションに興味がある方もない方も、『教養としてのデニム』から新しい魅力に出会ってみてくださいね!

 

 

【書籍紹介】

教養としてのデニム

著者:藤原 裕
発行:KADOKAWA

1000万円超のGジャン、5年で5倍に跳ね上がるジーパンetc.“デニムに人生を捧げる男”がわかりやすく解説。

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コロナ禍で売上9割減!『地球の歩き方』が出した“旅行しにくい時代”への答えとは

世界各国の詳しい現地情報や旅のノウハウが掲載された、旅行ガイドの定番『地球の歩き方』。海外旅行には必ず持っていく! という人も多いでしょう。しかしコロナ禍で海外取材に行けず、ガイドブックの改訂がいっさいできなくなるという事態に……。そんな『地球の歩き方』が、最近何やら変わったガイド本を次々と出版し、話題になっているのです。

 

なかでも、オカルト誌の金字塔(?)として創刊から40年超の歴史を誇る『月刊ムー』とコラボした『地球の歩き方 ムー ~異世界(パラレルワールド)の歩き方~』の発売には、出版業界もザワつくほど。今回、聞き手となるブックセラピスト・元木忍さんも「一体何があったの?」と驚きを隠せなかったそう。

 

そこで『地球の歩き方』の編集長、宮田崇さんに、同誌がコロナ禍の逆風の中、どこへ向かって歩いているのか、そして大ヒット中『地球の歩き方ムー』の見どころなどをうかがいます。

 

地球の歩き方

2022年2月に発売された『地球の歩き方ムー』は、3月時点で11万部の大ヒットを記録。他にも東京オリンピックに合わせて出版された『東京』、読者からのリクエストが多数寄せられ出版となった『東京 多摩地域』も話題に。また「旅の図鑑」シリーズは、2020年から2022年3月末までに14冊をリリース。『世界の祝祭』『世界のカレー図鑑』など個性豊かなラインナップが並びます。最新刊は3月に発売された『地球の果ての歩き方』。

 

コロナ禍で、海外旅行ガイド本の売上は9割減

元木忍さん(以下、元木):今日はとっても楽しみにしておりました! うかがいたいことだらけなのですが、まず2020年秋、ダイヤモンド・ビッグ社から学研プラスへ『地球の歩き方』が丸ごと事業譲渡されるというニュースがありました。私自身も大きな出来事として記憶しているのですが、その背景から教えていただけますか?

 

宮田 崇さん(以下、宮田):私にとっても青天の霹靂でした。2020年11月に事業譲渡に関する決定事項が発表されて、2021年1月に新会社「地球の歩き方」が設立となりました。入社して20年以上『地球の歩き方』に携わってきましたが、ここまで海外旅行市場がダメージを受けるのは初めてで、変化に適応しようと、とにかく必死でした。

 

地球の歩き方編集部・編集長の宮田崇さん。この日は『地球の歩き方ムー』のタイアップTシャツでご登場!

 

元木:ちょっと衝撃的でした。その背景には新型コロナウイルスの影響があったということでしょうか?

 

宮田:そうですね。2020年4月に最初の緊急事態宣言が出た時は、多くの書店さんが休業していました。もちろん海外にも行けないので、『地球の歩き方』ガイドブックシリーズの売上は9割減。当時は「コロナも夏前には収束するだろう」って思っていたし、東京オリンピックを見越して出版した『地球の歩き方 東京』や2006年から発行している『御朱印』シリーズも好評で、今につながる図鑑シリーズの企画も進めている時期でした。正直、すぐには心の整理がつきませんでしたね。事業譲渡から3か月くらい多忙な時期が続いて、記憶が抜けているんですよ、白髪も増えちゃったし(笑)。

 

元木:なんと……そこから学研グループにいらっしゃって、同じく出版社でも、かなり“文化”が違ったのではないでしょうか?

 

『地球の歩き方』は大好きで、いろいろな地域を読んでいたという元木さん。

 

宮田:コロナが想像以上に長引き、海外旅行が思うように解禁とならない焦りがないわけではありませんが、「旅人を第一に考えたい」という思いは変わっていません。会社が変わっても以前と仕事の内容には大きな変化はないですね。

 

元木:「地球の歩き方」に、学研らしさも重なって面白いことができそうですよね。ところで、現在の編集部にはどれくらいの人数がいるのでしょうか?

 

宮田:12名ですね。年間100本を目標に出版スケジュールを組んでいます。コロナ前は、海外などのガイドブックを年間約80本、女性向けの『aruco』、御朱印や島旅などのシリーズ本も合わせると年間120本くらい出していました。

 

旅ができない状況下だからこそ生まれた図鑑シリーズには、旅の奥行きを知る面白さがある

『地球の歩き方 東京』はこれまで海外の地域を紹介してきた『地球の歩き方』の創刊40周年を記念し、初の国内版としてリリース。東京を再発見できる定番のガイドブックとして、長年の“歩き方ファン”からも親しまれている一冊です。『世界244の国と地域』は“旅の図鑑シリーズ”の記念すべき第1弾。197ヵ国と47地域の情報をギュッと濃縮した一冊。次の旅行先選びにもおすすめです。

 

元木:年間100冊はすごい目標ですね! もちろん、関わる外部スタッフさんもいらっしゃってのことだと思いますが、いろいろなご苦労が想像できます(笑)。ちなみに最近話題で、私も大好きな図鑑シリーズは、学研プラスに移ってから発売されたものなんですか? きっかけを教えてください。

 

宮田:企画したのは学研グループに入る前です。東京にオリンピックが来るから『地球の歩き方 東京編』を出そう、それと合わせて、オリンピックの開会式・閉会式を見ながら世界各国の雑学を読んで楽しめる本を作ろう! と、旅の図鑑シリーズとして『世界244の国と地域』を発売したのがきっかけです。

これは売れるぞ~! とやましい気持ちもありましたね(笑)。結局、東京オリンピックが1年延期になって、タイミングがはずれてしまったのですが、ちょうど海外旅行に行けない時期が続いていたので、読者には「地球の歩き方が、次の旅先選びのための本を出してくれた」って前向きに捉えてもらうことができました。

 

元木:なるほど、学研に移籍する前だったんですね! “図鑑”が入っていたので、最初から学研が絡んでいると思っていました。でもオリンピックは1年延期になってしまったものの、話題の本になりましたよね。

 

左から『世界のすごい城と宮殿333』『世界のすごい巨像』『世界のすごい島300』。ページをめくるたび、「すごい」と呟いてしまいそうになる、“すごいシリーズ”3部作。まだまだ知らない世界の一面を垣間見せてくれます。

 

元木:この図鑑シリーズ、タイトルセンスがいいですよね! コレクションしたくなるというか、本好きにも旅好きにも刺さるものが多いんですよ。『世界のすごい巨像』とか思わず手に取りたくなっちゃうんですよね。

 

宮田:すごいシリーズのテーマは、最初はノリで提案したものでした(笑)。私自身が仏像好きで、当初は世界の仏像を集めた本を作ろうと企画したのですが、世界中を網羅した一冊にするのがなかなか難しくて……。それが『世界のすごい巨像』にしたら、見事にハマってくれました。

 

元木:『世界なんでもランキング』と『世界のグルメ図鑑』も素晴らしかったです。『世界遺産 絶景でめぐる自然遺産完全版』も、たくさんの世界遺産の本がある中で地球の歩き方が出すとこうなるのねって新しい発見もあって。

 

元木さんお気に入りの『世界のグルメ図鑑』。イタリアの餃子“トルテッリーニ”はこれで名前を覚えたそう。

 

宮田:ありがとうございます! 『世界なんでもランキング』は、“アームチェアトラベル”(=自宅で海外旅行の気分を味わうこと)をどこまで楽しめるか? って考えていた時に、家族と楽しめる、子どもたちと楽しめる本にしたくて企画したものでした。『世界のグルメ図鑑』も、この担当者がとにかくグルメなんですよ。旅に行けなくてもお腹は空くよね? から企画が始まりました。世界のグルメを紹介しつつ、世界の言葉で「おいしい」を言うとどうなる? とか、自宅で作れるレシピ、日本で食べられる場所も紹介して、旅にいけない中で旅人に寄り添うにはどうしたらいいか? ある種、大喜利のような。いろいろな制限がされている中でも旅の気分を味わえるようなテーマを考えていました。

 

元木:ガイド本は、現地取材をして作っていますよね? 今回の図鑑シリーズのネタはどこから集めてきたのでしょうか?

 

宮田:創刊時から携わっているスタッフも多いので、ガイドブックには使えないけれど、世界のネタは豊富にあったんですよ。例えば、「イランの女性って高すぎる鼻がコンプレックスで、美容整形で鼻を低くしているらしい」「オーストラリアの水にはフッ素が入っているから、虫歯になる人が少ないらしい」「カタールは、飛行機にハヤブサを持ち込めるらしい」とか。飲み会の中で出てくるようなネタを、放出しているところです(笑)。

僕も、これまで72の国と地域に行ったことがあるんですけど、本を作りながら「あれ? まだ120も行けていない国と地域があるの?」って気がついちゃったんですよ。図鑑シリーズを通じて、旅にいけない旅人たちも、まだ行ったことのない場所がたくさんあることに気がつくんじゃないかと思っています。

3月に発売した『地球の果ての歩き方』もタイトルだけ読むと「なんで?」なんですけど、知ると行きたくなる……。そうか、まだ攻めていないエリアがあったか! って発見してもらえるとうれしいですね。

 

『世界遺産 絶景でめぐる自然遺産 完全版』『地球の果ての歩き方』。宮田さんが入社した頃、当時の社長からポルトガルのロカ岬がいかに素晴らしい果てか、熱弁されたのだとか。もしかして、旅のプロは果て好きが多い?

 

10年後には、ムーの言葉が真実になる……かも?

大ヒットを記録中の『地球の歩き方ムー』は発売前から重版出来。今は入手困難となった初回限定版には、『月刊 ムー』デザインの表紙に着せ替えられる帯付き。

 

元木:そして、月刊ムーとのコラボですね。まずは大笑いしました。地球の歩き方を愛している宮田編集長が、なぜムーなのか……。学研プラスに来たからってまさか、無理矢理コラボしたわけじゃないよね? と思ってしまって(笑)。一体どんな背景があったのでしょうか。

※『月刊ムー』は学研プラス(旧学習研究社、学研バブリッシング)が出版元として40年間発行。現在は学研プラス傘下のワン・パブリッシングが承継している。

 

宮田:きっかけは地球の歩き方の現社長の一声でした。もともとムーの編集部にもいた経緯があったので、やろうよ! って。僕自身も幼少期には、世界の七不思議に始まり兄貴とツチノコを探しもしました。愛読書は手塚治虫全集だったので、ムーに出てくるような地球外生命体やUFOの存在は否定派ではありません。

あと実は、ムーと地球の歩き方って同級生(創刊年が同じ1979年)でして。地球の歩き方として、謎めいたムーの世界を歩かせることができたら面白いと思ったので、かなり楽しく制作することができました。

 

元木:めちゃくちゃいい話ですね。ムーのファンのためにも、そして世界中を旅している人たちにもいろんな解明をしてくれちゃう発想が最高です! 制作はどのように進めたのでしょうか? 苦労はありませんでしたか?

 

宮田:そうですね、見せ方の部分ではたくさんの工夫があります。例えば、エジプトのピラミッドにしても地球の歩き方の観光地としての解説と、ムーが唱える不思議な説を両方読んで楽しめる作りになっています。

 

元木:交互にページがあるので、1つの場所について、地球の歩き方とムーが追いかけっこのように読める面白さがありますね。

 

同じ地域でも、地球の歩き方とムーそれぞれの視点で書かれており、情報量もたっぷり!

 

地球の歩き方のページでも、ムー的な解説が入るコラムはデザインをムー仕様に。

 

また、ページの隅にはUFOに連れ去られるモアイ像のパラパラ漫画も! 細かいところまで見逃せないのは、地球の歩き方イズムです。

 

宮田:実は、ムー的な視点ってすごく大切で。例えば、歴史的な地域を訪れて、「ここをあの英雄が……」って何もない場所を見て、思いを馳せるのは難しい。でも、史実だけでは語り尽くせない部分もムーの解釈を知ることで、イメージできてワクワクするかもしれない。事実や史実だけを丁寧に正確に伝えることも大切ですが、地球の歩き方読者にもムー読者にも、新しい旅の視点を与えられる一冊になったと思います。

 

元木:しかも、11万部(2022年3月時点)の大ヒット! すごいことですよ。

 

宮田:くっついちゃいけない“二人”がくっついたからですかね?(笑)内容はしっかりしているので、「便利なものがまとまった」「欲しい情報が一冊になった」というニーズもあったかもしれませんね。

 

元木:あとSNSの発信もとても上手ですよね。

 

宮田:ありがとうございます。発売30日前からTwitterでの告知を開始し、毎日ツイートし続けました。
Twitterは、人によって接する時間帯が変わります。いつもフォロワーさんが初見の状態を意識してつぶやいていくと、10回連続でつぶやいたこともそのうちのひとつが「初めて見た情報」になることもあるんですよね。しつこいくらいやった結果、発売前に重版が決定しました。

 

ムー以外にもご存知、大泉洋さん出演の『水曜どうでしょう』ともコラボしていた地球の歩き方。創刊時の表紙デザインに、ポエトリーなキャッチコピーが綴られた『ヨーロッパ21カ国完全制覇(上巻)』(右)と、現代の馴染みある表紙デザインにメルヘン街道の朝が描かれた『ヨーロッパリベンジ ヨーロッパ20カ国完全制覇完結編 21年目のヨーロッパ21カ国完全制覇(下巻)』(左)。どうでしょう軍団とともに旅している気分を味わえるファンにはたまらない、まさに永久愛蔵版!

 

世界中を旅すれば、世の中から争いごとはなくなる

元木:素晴らしい! 今後、ムーのようなコラボはありますか? ムーと同じ出版社には『歴史群像』という、これまた面白そうな雑誌もありますが?

 

宮田:ドキッ(笑)。いろいろと考えてはいます。旅と歴史は、とても相性がいいんですよ。福沢諭吉が書いた『西洋事情』ってご存知ですか? 幕末から明治にかけて書かれたもので、「レディの前でタバコを吸うな」とか書いてあるんです。お遍路さんのガイドブックにも「茶屋の娘がかわいい」って書いてあったり、昔のガイドブックには生きた情報があるんですよね。リブート作品のようにできたら面白いなぁと考えたりはしていますよ。

 

元木:なるほど。いろいろな切り口ができそうですね。最後に、これからについても伺いたいのですが、海外旅行も少しずつ再開できそうな雰囲気も出てきましたよね。

 

宮田:ついに本業の海外旅行が始まる! って感覚はありますね。ただ、世界の情勢でいうとまだまだ気軽に……というのは少し難しい部分もあります。

僕、中東エリアがすごく好きで、シリアも行ったことがあるんですけど、とにかくみんな優しい人なんです。カバンのチャックが空いていたら、肩叩いて教えてくれるんですよ。それに「どこまでいくの?」「バス停はあっちだよ」ってホスピタリティも世界トップレベルだと思います。世界で、そこに住む人を知れば、嫌いな国なんてなくなると思っちゃいますよね。

 

これはあくまで個人的な考えですけど、全人類が世界中を旅すれば、世界中から争いごとはなくなる……って信じたいですね。

 

【プロフィール】

『地球の歩き方』編集長 / 宮田 崇

大学1年の時にインドに行って以来、旅にはまる。コツコツ旅に出て24年、72の国と地域を訪れた。過去の担当タイトルは、ベトナム、カンボジア、東アフリカ、チュニジア、エジプト、南米、メキシコ、アメリカ全般、ハワイ、など多数。地球の図鑑シリーズ第1弾『世界244の国と地域』で、世界には244の国と地域があることを再認識し、世界制覇を密かにたくらんでいる。

 

ごはんを炊くだけじゃもったいない!炊飯器で作れるバリエーション豊富なおかずレシピ104品!

ご飯を炊くために利用する炊飯器ですが、実はラクしておかずも作ることができる優れもの! 炊飯器に食材と調味料を入れてスイッチを押すだけ! あとは完成を待つだけです。『炊飯器でラクチンレシピ』では、煮る、焼く、蒸すなどのいろいろな調理ができる炊飯器で作ることができるレシピ104品を紹介します。

 

主食も主菜も副菜も! 炊飯器でいっぺんにできちゃう!

炊くだけじゃない調理方法がたくさんある炊飯器ではごはんとおかずが2品同時に完成できちゃうレシピもあります。通常なら火加減や火を見張っていないといけない煮物や煮込みは放ったらかしでOK! 内釜が大きいからスープや汁物は3~4人分をたっぷり作れます。炊飯器の保温モードなどの機能を使えばパン作りの発酵から完成までおまかせ!

 

炊飯器の「普通モード」「早炊きモード」「調理モード」などを使いこなせば、食材にしっかり熱を通し、ムラなく加熱して調理することができます。

炊飯器調理初心者でも安心! お手入れ方法と便利グッズ紹介

「炊飯器で調理するとにおい移りが気になりそう…」という意見を解決するために、本書では炊飯器のお手入れ方法を掲載。におい残りやカビなども防ぐために、炊飯器を清潔に保つポイントを紹介しています。

 

また、炊飯器レシピを失敗せず、幅広いメニュー作りで楽しむために必要な、便利な調理グッズも紹介! 特に蒸し台があると肉まんやプリンといったレシピも作れてしまうのです!

 

主食、主菜、副菜から汁物やデザートまで、バリエーション豊富なレシピを紹介!

肉や魚介の煮物、炒め物、蒸し物料理はもちろん、具材たっぷりなスープ&汁物やふっくらできあがるパン、甘いプリンやケーキなどのデザートまでバリエーション豊かなメニューを数多く紹介しています。

 

Part1の「ワンプレートごはん」ではふっくらごはんとボリューム満点のおかずが2品同時に完成するレシピを紹介。洗い物も減らせるので一石二鳥です。


[商品概要]
炊飯器でラクチンレシピ

著者: 阪下千恵
定価: 1485円 (税込)

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おうちごはんにうれしい、少ない材料でもおいしい料理が作れるレシピが満載!「材料2つだけ!きじま流極旨レシピ」

使う材料は2つだけなのに、きじま流のアイデアでおいしい料理が完成! 『材料2つだけ!きじま流極旨レシピ』で紹介するバリエーション豊かなレシピは、毎日食べても飽きない工夫がいっぱいです。野菜ともう1食材を組み合わせたレシピだから、ヘルシーでお財布にもやさしいのもうれしい。使う野菜は季節ごとに分けて紹介し、使いたい食材から料理を探せるインデックスも付いています。180度開く特殊製本で、本を見ながら料理するのに便利!

 

 

使うのは「季節の野菜+1食材」の材料2つだけ!

春の野菜、夏の野菜、秋の野菜、冬の野菜、そして年中ある野菜。季節の野菜ともう1食材で作れるヘルシーでおいしい主菜、副菜のレシピを紹介しています。

【春の野菜で】でっかいロールキャベツ、セロリとゆで鶏のバンバンジー、アスパラとえびのクリーム炒めetc.
【夏の野菜で】塩もみなす入りつくねの照り焼き、フレッシュトマトのバターチキンカレー、はがれない肉詰めピーマン、レバピー炒めetc.
【秋の野菜で】れんこんとスペアリブのBBQ風、ごぼうと豚バラのマスタード炒め、かぶと牛肉のポン酢すき煮etc.
【冬の野菜で】白菜シュウマイ、大根と鶏手羽の塩煮込み、たっぷり長ねぎのさばみそ煮etc.
【年中野菜で】マーボーもやし、ふんわりにら玉、水菜と豚しゃぶの生春巻きetc.

 

 

食材別INDEX付きで使いたい食材からレシピが探せる!

野菜名から探せるのはもちろん、肉、魚介、卵、大豆加工品など、今冷蔵庫にあるものから、作れるレシピが探せます。

 

180度開く特殊製本で、料理しながら見やすい本

本が180度開く特殊製本なので、料理中に本が閉じてしまう……という心配もなし。キッチンでじゃまにならないコンパクトなA5サイズの本です。

 

*「きじまりゅうたの食材2つでうまい!146品」からレシピを厳選。再編集、再構成した本です。

 

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材料2つだけ! きじま流極旨レシピ

著者: きじまりゅうた
定価: 1430円 (税込)

 

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DIYで楽しむ「車中泊&バンライフ」特集!『ドゥーパ!』2022年6月号(148号)発売

日本で唯一のDIY雑誌の最新号「ドゥーパ!2022年8月号」(発行:株式会社キャンプ)が5月7日に発売!

 

 

第1特集は、DIYで楽しむ車中泊&バンライフ情報が満載!「旅とクルマとDIY」

2022年も衰えるどころか勢いを増す気配をビンビン感じる車中泊&バンライフムーブメント。

軽トラ、軽バン、ハイエースにモバイルバス……今年もさまざまなベース車のDIYカスタム実例を集め、それぞれの車にまつわるテクニックやアイデアを大公開。

その他、人気コミック連載「車のおうち」特別編やDIYライターが伝授する車中泊カスタムの基礎知識も収録。

 

 

 

 

編集部のDIY実践リポートは、スズキ・エブリイをベースにした軽バンキャンパー作りの模様を紹介。

Vol.1は車内天井を断熱、木装、電装を施し、本場アメリカのバンライフ車のような車内カスタムを実現。

Vol.2はキャリアを利用したルーフデッキ作りの模様をお届け。

車中も車上も120%楽しむ、ドゥーパ!ならではの旅車カスタムをご覧あれ!

 

 

 

 

第2特集は「自然エネルギーと自然素材の家」

自然エネルギーと自然素材を活用した3件の家を徹底解剖。

オフグリッドでエネルギー自給のシステムを備えた家は、まさに温故知新。

昔からの建築テクニックを取り入れつつ、現代に合わせてアップデートされた家とその暮らしは、これからのセルフビルドやリノベーションのヒントが満載です。

 

 

 

 

 

バラエティあふれる連載にも注目!

トリマー&ルーター木工、レザーソーイングやグリーンウッドワークなど、さまざまなジャンルのもの作りの魅力を個性あふれる作家とともにお届けします。

その他、自給自足の田舎暮らしエッセイなど読み物も充実。こちらもぜひお楽しみください!

[商品概要]
ドゥーパ! 22年6月号(NO.148)
著者:ドゥーパ!編集部
定価:1,100円(税込)
発売日:2022年5月7日
判型:A4変形

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本でも映画でも”男が妊娠したら?”が話題に!——『徴産制』

徴産制』(田中兆子・著/新潮社・刊)は2018年度センス・オブ・ジェンダー賞の大賞受賞作品。近未来の日本で男が子どもを産むことになるという衝撃的なフィクションなのだが、ページを開いた瞬間からハマッテしまいスイスイと一気に読んでしまった。最高におもしろかった。そして、本書を読み終えたとき、Netflixでは人気コミックを映画化した『ヒヤマケンタロウの妊娠』が世界同時配信となり、主演の斉藤工さんが特殊メイクにより、大きなお腹の妊夫!姿になった映像に驚き、こちらも一気に観てしまった。

 

どちらも、性差の問題を深く探求していて、ジェンダーの時代にふさわしい作品だと思った。

 

徴兵制ならぬ、徴産制とは?

『徴産制』の舞台になっているのは2093年の日本。その6年前の2087年、女性のみに発症し、若いほど死亡率が高い疫病が蔓延し、10代の女性の9割、20代の女性の8割が日本から消えてしまった。人口の減少は危機的な状況となり、政府は「日本国籍を有する満十八歳以上、三十一歳に満たない男子すべてに、最大二十四ヶ月間「女」になる義務を課す」という徴産制を提案、2093年に試行されることになった。

 

本書を読み始めて、私が男女逆転の物語ですぐに思い出したのは『大奥』(よしながふみ・著)だった。こちらは江戸時代に男だけがかかる疫病により、男性の数が激減。そのため女性将軍が擁立され、大奥は男ばかりになったというストーリーだった。数ある『大奥もの』の中でその物語が強く印象に残っているのは、やはり”ありえない世界”を描いていたからだろう。

 

さて、男が子どもを産むためには女にならなくてはならないわけだが、そのあたりは本文中でこう解説されている。

 

万能細胞を利用した新薬における特許使用料で巨万の富を得たロシア系日本人医学者が創設した、ワッカナイ大学再生医科学研究所において、画期的な性転換技術の開発が成功した。これにより、大掛かりな外科手術をすることなく、可逆的に性別を変えることができるようになったのである。男性研究者が女性へ性転換し、妊娠と出産に成功、子供が順調に育っていることが発表された。

(『徴産制』から引用)

 

産役に就けば新築の家が一軒買える!

本書では産役に就いた5人の男たちの物語がケースが描かれている。まず登場するのが貧しい農村に育ったショウマ28歳のケースだ。

 

産役に就けば国から給料が支給されるうえに、自ら志願すればさらに一時金が上乗せされる。そして、もしめでたく出産できれば、このあたりなら新築の家が一軒買えるほどの報奨金が出る。

(『徴参制』から引用)

 

ショウマは家族のために志願することにした。では、産役に就くと、どういう流れになるのかがこの項では詳しく書かれているので抜粋して紹介しておこう。

 

男たちは、まず徴産検査を受ける。それに何の問題もなく合格すると、各地にある医療センターで性転換手術を受ける。そして女になった産役男たちは、こちらも日本各地に設けられた「産教センター」で4か月の合宿を行い、産事教練を受ける。それは女の身体や出産、化粧や女らしい立ち振る舞いについて学び、女としての生活を体験する訓練。それらの行程を経て産役男たちは産役に就いていくのだ。

 

パートナーはどうやって選ぶ?

訓練を終えると卒業パーティーが開かれ、そこには40歳までの男たちが招待されている。その場で見初められた産役男はパートナー契約を結ぶことができる。パートナーの庇護の下で妊娠、出産をして無事に産役を終えることができるというわけだ。誰からも声をかけられなかった産役男は指定された地域に赴任し、指定された企業でお茶汲みなどの簡単な作業をしながらパートナー探しをする”腰かけOL”となるのだ。

 

産役男は、赴任先でパートナーを得て、妊娠することが求められる。妊娠方法は、パートナーとのセックス、あるいはパートナーから提供された精子による人工授精でも可。ただし、相手を特定しない人工授精による妊娠は、赴任して半年後でなければ認められない。

(『徴参制』から引用)

 

産役は2年間、その間によりよいパートナーを見つけようと日々奮闘する産役男たち。最終的に相手を見つけられず出産マシンのように人工授精で妊娠、出産することは彼らにとっては屈辱ではあるが、それでも子を産めればよい。最悪なのは2年間の間に出産できなかったケースだ。

 

「あの男は国のために子を産めなかった」と負け組の烙印を押され、見下され続ける存在となってしまうのだ。

 

生まれた子どもたちはどうなる?

産役を終えたら再び性転換手術で男に戻っても、女のまま生きていくのも本人の自由。また、産役男が産んだ子どもはそのまま本人が育ててもよく、また近未来の日本では同性婚が認められているので、パートナー契約の相手と晴れて結婚し家庭を築いていくこともできるのだ。産んだ子を育てたくない場合は、国に納めることになり、その子らは国立の養育施設で育っていくことになる。

 

本書の後半に登場するケースでは、養育施設で育った者の数が半数近くに増え、親という概念すら変わりつつある社会が描かれていて、それはユートピアと真逆のディストピアの世界なのだ。

 

「女」になった5人の男たちの物語

さて、この本に登場する5人の男を簡単に紹介しておこう。貧しい農村に育ったショウマ、デカくてブサイクな男が、そのまま、デカくてブサイクな女になっただけだったが、心やさしいうどん屋のオヤジと出会い、妊娠に成功する。

 

2番目に登場するのが、政治家を目指している容姿端麗なエリートのハルト。美しい産役男となったので、見初められパートナーはたやすく見つかったが、その後不妊に苦しみ、やがて捨てられてしまうことに……。

 

3番目のタケルは、産役男になったものの、慰安男として客をとらされることになってしまうというケース。

 

4番目のキミユキは4歳の娘と妻と共に暮らしているパパという立場で、産役に就くことになった。他人の子を身ごもってほしくないという妻はなんと男になる決心をするというまさに男女逆転のストーリーなのだ。

 

5番目のイズミは、子ども時代に病気で人をたじろがせる容貌になってしまい、いじめに苦しんできた過去を持つ。産役に就くと大々的な整形手術を受け、自らを鏡に映し、うっとりするような美女になる。そして産役男だけでなく、性別。年齢、国籍、人種に関係なく人と人が出会えるテーマパークを作るというプロジェクトに着手していくというお話だ。

 

女性たちが味わってきたさまざまな理不尽をつきつけられた男たちの物語。女らしさ、男らしさって何?と考えさせられる場面も多々ある。が、読んでいて痛快で、そしてどんな時も前向きに生きていこうという勇気をくれる一冊でもある。

 

【書籍紹介】

徴産制

著者:田中兆子
発行:新潮社

女になって、子を産め。国家は僕にそう命じたーー。2093年、疫病により女性人口が激減した日本で、満18歳から30歳の男性に性転換を課し、出産を奨励する制度が施行された。貧しい農村に育ったショウマ、政治家を志すハルト、知人の国外脱出を助けるタケル……。立場も職業も思想も異なる5人の男性が〈女〉として味わう理不尽と矛盾、そして希望とは。男女の壁を打ち破る挑戦的で痛快な物語。

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「歴史群像」6月号付録・「ティーガーⅠ」重戦車 精密ペーパークラフトの作り方を徹底解説します!【後編】

前編では、付録ペーパークラフトの作り方の基本的なポイントと、実際の作り方の第一段階、車体と足回りを作るところまでご説明しました。この後編では、砲塔、主砲などを作り、完成するところまでを解説します。

【前編はコチラ

 

砲塔と主砲を作る

砲塔基部

砲塔基部は円形と曲面のあるパーツで構成されています。これらのパーツは、カッターとハサミを併用して切り出しましょう。また、円筒形のパーツは、切り出した後に曲げクセを付けてから接着していきましょう。

↑パーツ64、66は、切り出す前にハサミ印部分を先にカッターで切り抜き、外周はハサミを使用すると切り取りやすいです。パーツを接着したら、棒やピンセットを使って接着面を圧着してください

 

↑砲塔基部。手順53~59までを組み立てた状態

 

砲身

↑砲身部分のパーツ70、72、76は曲げクセを付けてから接着しますが、直径サイズが異なります。このため曲げクセを付ける際には、棒の太さはパーツのサイズに合わせて変えた方が作りやすいです

 

↑砲身のパーツ76を組み立てた状態。曲げクセを十分につけた後、接着は一度に行わず、前後いずれかの端側から、位置がずれないように接着していきましょう。接着後は、丸棒を砲身内に入れて、のりしろを圧着し、形を整えてください

 

↑砲身部分を組み立てた状態。各パーツを接着する際には、砲身がまっすぐになるように注意しながら接着します(写真は説明のため、「組み立ての手順」とは違う手順で組み立てています)

 

防盾

防盾(ぼうじゅん)は砲身を取り付ける基部になります。防盾部分は複数のパーツを接合して作ります。このためパーツ74、75、80~82は歪みや反りなどが出ないようパーツを正確に組み立ててください。

↑防盾部分の各のりしろは細かいため、接着後はピンセットを使用して圧着する

 

↑防盾部分の各パーツは正確な形状を出すため、折り線部分がしっかりと折れるように折りクセをつけてから組み立てを始めてください

 

マズルブレーキ

手順75~79のマズルブレーキの組み立ては、パーツが細かいため、切り出しから接着まで、焦らずに時間をかけて行いましょう。

↑マズルブレーキの各パーツはピンセットを使い接着面を圧着。接着剤が乾いてからパーツ同士を接着、組み立てていきましょう

 

↑パーツ77、78のハサミ印部分の切り抜きが難しいと思った場合は、オプションパーツを使用することもできます。どちらかを選択して組み立ててください

 

砲塔側面

砲塔側面のパーツ85は切り出した後、曲面となる部分に曲げクセを付けてから、手順60で組み立てた砲塔基部に接着します。接着前に仮組を行い、前後・上下にズレが生じないように、位置を確認してから接着しましょう。

↑砲塔側面を接着する際、パーツ85左右の赤い○部分が前後と上下にズレないように注意する

 

↑砲塔側面パーツは砲塔基部に沿って組み立てますが、下部の縁が上下にズレないよう組み立ててください

 

車長用キューポラ

キューポラは円錐状をしています。パーツ同士を貼り付ける際に、その形状を崩さないように注意しましょう。

↑パーツ94は、のりしろの折り線部分を先になぞってからパーツを切り出し、曲げクセをつけます。組み立てたパーツ94に95~96のパーツを接着する際は、歪みが出ないように注意しましょう

 

↑キューポラを砲塔に接着する際、のりしろ部分にしっかりと折りクセを付けておけば、パーツの浮き上がりを防げます

 

その他

残りのマフラーやヘッドライト、ボールマウントなどのパーツも、これまでの組み立て方と同様に、パーツの折り線をしっかりなぞる、パーツを切り出す、曲面パーツは曲げクセを付ける、接着後には、のりしろ部分を圧着する、接着剤が乾いてから次の組み立てに進むという手順で組み立ててください。

↑排気マフラーのパーツ104(110)と106(111)は、カッターとハサミを併用して切り出す。マフラーカバーはパーツの中央部分に曲げクセを付けてください

 

↑パーツ114の機関銃銃身などの細かいパーツは、切り出した後、ピンセットを使って組み立て、取り付けてください

 

完成!

機関銃パーツをキューポラ上の対空機銃マウントレールに接着したら、基本パーツの組み立てはすべて完了です。砲塔側面の予備履帯と左右第1転輪の外側転輪は「オプションパーツ」になります(本ペーパークラフトのモデルとなった車両では、この転輪が外されていました)。好みに合わせて取り付ければ、ついに完成です! おつかれさまでした。

 

「歴史群像」精密ペーパークラフト第2弾の「ティーガーⅠ」は、いかがでしたでしょうか。細かく複雑な構造の部分が少ない分、前回の戦艦『大和』のペーパークラフトに比べると短い時間で完成できると思います。空いた時間を利用して、ぜひ挑戦してみてください。

 

臨場感を演出する「地面ジオラマシート」

歴史群像のホームページでは、無料でダウンロードできる展示用の「地面ジオラマシート」(A4、A3の2種類)と搭乗員パーツも用意されています。完成した「ティーガーⅠ」を載せれば臨場感あふれるジオラマが完成します。

【地面ジオラマシート&搭乗員パーツはこちら

 

あなたが完成させた「ティーガーⅠ」の写真を大募集!

歴史群像編集部では、完成した「ティーガーⅠ」の写真(デジタルのみ)を募集しています。写真は歴史群像ホームページの特設ギャラリーに掲載されます。ぜひご応募下さい。

【応募要項はこちら

 

【関連記事】
超リアル!「歴史群像」6月号付録、『ティーガーⅠ』重戦車 精密ペーパークラフトのクオリティーがすごい!

 

親のすねかじりが過ぎる!? 日本有数の毒グモの哀しい生態とは?~注目の新書紹介~

書店に行くと、本の帯に釣られてつい買ってしまうことがよくあります。表紙側に内容をまとめたうたい文句が載っているのは普通ですが、最近の中公新書は帯の背表紙部分にも短いキャッチコピーがついています。

 

 

真面目な言い回しが多いなか、今回紹介する新書カラー版 クモの世界 糸をあやつる8本脚の狩人』(浅間 茂・著/中公新書)のコピーには思わずクスッと笑ってしまいました。「こわがらないでね」。この一行だけ。まるでクモが語りかけているかのようです。

確かに子どものころは、怖がるどころか見かけたらラッキーくらいの勢いで、巣を揺らしたり、背中の模様をじっと眺めたりしていた記憶があります。しかし、大人になるとだんだんと気持ち悪いと思うように……。まあ、世界的ヒーローのスパイダーマンもクモですから、せっかくなので今回は怖がらずにクモの世界を覗いてみよう。そう思った次第です。

クモの研究者が教える驚きの秘密

著者の浅間 茂さんは、千葉県立高校の生物教師を経て現在は千葉生態系研究所所長。生き物と環境の関係をメインテーマに、特にクモの生態について研究しています。著書に『フィールドガイド ボルネオ野生動物―オランウータンの森の紳士録』(講談社ブルーバックス)、『カラー版 虫や鳥が見ている世界 紫外線写真が明かす生存戦略』(中公新書)などがあります。

 

「(クモは)非常に興味深い生きもの」「クモの世界を知ることは、私たちの視野を広げ、身の回りの環境を知ることにもつながる」と浅間さん。確かに糸で罠を作るという生態だけでも人間の想像をはるかに超えてますよね。

 

子に身を捧げるクモの親心とは!?

まず第1章は、クモ全般の身体構造や網の作り方などに迫っていきます。クモは体内のタンパク質から、網の横糸(粘着力あり)と縦糸(粘着力なし)、移動用の糸、獲物に巻き付ける糸などを作り分けています。コガネグモ科ならなんと7種類とか。まさに1人製糸工場ですね!

 

世界には約5万種、日本には約1700種が生息するというクモ。第2章以降はさまざまなクモの不思議な生態が明かされていきます。日本の家でよく見られるオオヒメグモは、軒先などに張った網から粘球がついた捕獲糸をぶら下げ、獲物を一本釣りするクモ。糸の震動で獲物が引っかかったことがわかると一気に獲物を引き上げるそうです。漁師さんもビックリのダイナミックな狩猟ですね。

 

読んでいて私が一番衝撃を受けたのは、日本有数の毒グモとして知られるカバキコマチグモ。世界のクモのなかでも非常に珍しい習性を持っています。ススキの葉を巻いた産室に母グモが閉じこもって産卵するのですが、孵化した子グモはその動かない母グモの体に食いつき、丸々と太って家を出ていくそう……。これは究極のすねかじりですが、ちょっとショッキングでした。

 

「カラー版」と銘打っているだけにページを開くごとに浅間さんが撮影した写真が挟まっているのがポイント。連続したシーンの写真も多く、リアルな生態が伝わってきます。

 

また、自作の紫外線カメラで撮影した写真も掲載され、人間には見えない、虫や鳥が認識しているクモの姿もわかります。人間には黄色と黒の縞模様でハチのように見えるコガネグモのお腹は、実は黄色い部分が紫外線を反射していてエサの昆虫を引きつけているとか。

 

「多様なライフスタイル」「驚異の能力」「食うか食われるか」と章ごとのテーマに沿って世界のクモが紹介されているため、図鑑以上にまとまりがあり、次はどんな特殊能力を持ったクモが出てくるのか楽しみになってきます。

 

クモとひと言でいっても、厳しい自然界で勝ち残るための生存戦略はさまざま。なんとなくビジネスや人生にも通じるところがあるなあと思ったりしました。

 

【書籍紹介】

『カラー版-クモの世界――糸をあやつる8本脚の狩人』

著者:浅間 茂
発行:中央公論新社

日本には1700種類のクモがいる。もともとクモは地中に生活していたが、網を張って待ち伏せするクモに進化し、さらにあちこち歩き回って獲物を捕らえるクモが生まれた。花の蜜を吸うクモ、投げ縄を放つクモ、花嫁をぐるぐる巻きに縛ったり催眠術をかけたりして交尾に及ぶクモ、我が子に自分の体を与えるクモなど、特徴ある生き方をするクモも多い。その種類から生態観察、人との関わりまで、クモの全てを紹介。カラー370点。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

「歴史群像」6月号付録・「ティーガーⅠ」重戦車 精密ペーパークラフトの作り方を徹底解説します!【前編】

本記事では、「歴史群像」6月号付録「ティーガーⅠ」ペーパークラフトの作り方を詳しく、そしてできるだけわかりやすく解説します。完成度を高めるためのテクニックも併せて紹介しますので、ぜひ、実際に作られる前に読んでみてください。

 

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「ティーガーⅠ」を再現!

付録は全32ページの冊子になっており、使用する道具についての説明、組み立て方の説明が掲載されたページと、パーツが並んだ「展開図」と呼ばれるページから成っています。

 

「歴史群像」6月号本誌の巻頭カラー記事では、ペーパークラフトの完成見本を使って「ティーガーⅠ」の特徴や各部の解説記事が掲載されています。組み立て前に記事を読んで「ティーガーⅠ」についての知識を得ておくのもよいでしょう。

 

「ティーガーⅠ」は1942年4月の生産開始から1944年8月の生産終了までに1355両が生産されました。生産された時期により、現在は極初期、初期、中期、後期、最後期型に分類されています。今回のペーパークラフトは、東部戦線で活躍したドイツ陸軍戦車エース、オットー・カリウスが乗車した車両(中期型)を再現しました。また、お好みで使える選択式のオプションパーツも付属しています。

 

「ティーガーⅠ」重戦車とは?

「ティーガーⅠ」は、ドイツ陸軍が開発した重戦車で、全長8.45m、全幅3.7m、重量57トン、8.8cm主砲1門を備え、最大装甲厚120mmの重戦車です。実戦には1942年9月に投入されました。そして連合軍戦車の性能を上回る火力と防御力から、各戦線で多数の敵戦車を撃破し、連合軍将兵に恐れられました。

 

まずは道具を用意しよう

ペーパークラフトを作るには道具が必要です。まずは、どんな道具が必要かを見ていきましょう。ちなみに、これらの道具の多くは100円ショップで購入できます。

①定規
切り出すパーツの大小に応じて、15cmと30cmの2つのサイズがあると便利です。

②接着剤
木工や手芸用の速乾性で、乾くと透明になる水性タイプがお薦め。

③ハサミ
刃の部分が短いクラフト用のもの(③-A)があると、曲線部分のカットがしやすいので便利です。一般的な事務用のもの(③-B)でもOK。

④折り線部分をなぞる道具
折り線部分を切れないようになぞって、パーツを折りやすくするために必要。目打ちやインクの切れたボールペン、またはカッターの刃を紙ヤスリで削って切れなくしたものでもOK。

⑤カッター
一般的な事務用のものでOK。細かいパーツの切り取りには、写真右のようなアートナイフや、刃先の角度が30度程度のクラフト用(同左)があれば、より切り出しやすくなります。

⑥ピンセット
細かいパーツの取り付け、のりしろ部分の圧着に使用します。ピンセットの種類は、お好みで選んでください。

⑦丸棒(写真は竹製ニット用と竹串)と爪楊枝
パーツを丸めたり、曲線を出すために使用します。断面の丸い割り箸などでもOK。爪楊枝は、接着剤を細かいパーツにつける際や、のりしろに付けた接着剤を平らにならす時などに使用します。

※カッティングマット
サイズは大きい方が使いやすいですが、作業スペースに合わせたサイズを用意しましょう。

 

組み立て作業に入る前に知っておきたい、いくつかのポイント

パーツに示されたさまざまな線の意味を知る

各パーツには、組み立ての際に必要な各種のラインが印刷されています(下図参照)。それぞれの意味を頭に入れてから、組み立てを始めてください。

 

折線部分をきれいに折るために、折りクセを付ける方法

↑パーツは切り出したあと、組み立てを始める前に折り線をなぞって、折りクセを付けておきます。山折りであれ谷折りであれ、折り線部分は目打ち等の尖ったものでなぞってください。こうすることで、紙のなぞった部分に溝ができて、きれいに折れるようになります。2回ほどなぞるとよりきれいに仕上げられます。直線部分は写真のように定規を使うときれいになぞれます

 

パーツをカットする際の注意点

パーツをカットする際は、切り取り線の真上をカットするようにします。線の内側ではなく、真上です。また、切り取り線の部分が細かい場合は、先にパーツの余白部分を少し大きめに残してカットし、そのあとで細部をカットすると切り出しやすくなります。

 

曲面に仕上げるパーツに曲面のクセを付ける方法

↑砲塔、マフラーカバーなどの曲面や、主砲やキューポラなどの円筒状のパーツを組み立てる際には、パーツを切り抜いた後に丸棒を使ってパーツに予めクセを付けると組み立てやすくなります。丸棒はパーツの大きさに合わせて太さの違うものを用意すると便利です。クセをつける際は、弾力のあるシート状のもの(写真ではマウスパッドを使用)の上で行うとよりクセをつけやすいでしょう

 

いよいよ組み立てに! まずは車体から

さて、それでは実際に作っていきましょう。まず最初に、付録冊子の展開図のページ(P9~30)をすべて、ページの左側の切り取り線部分でカッターかハサミで切り離してください。以降は、冊子の「組み立ての手順」(4~8、31ページ)を確認しながら、適宜パーツを切り出して、組み立てを進めていきます。

 

車体の下部

車体下部は全体の土台となります。最初に組み立てるパーツ1はズレや接着後の歪みが生じないように注意しながら組立てましょう

↑パーツの接着部分は、ピンセットなどで挟み、のりしろ部分を圧着させるとはがれにくくなります

 

↑車体を組んだ後は、平らな場所に置いて接着剤が乾くまでペーパーウエイトなどの重りとなるものを入れておくと、パーツのねじれが防げます(写真では、適当な重りが手元になかったたため、乾電池を使用しています)

 

曲線と直線のあるパーツの切り出し

転輪などのパーツの切り出しには、ハサミとカッターを併用すると切り出しやすくなります。

↑直線部分とハサミが入らない部分はカッターで切り出す

 

↑曲線部分はハサミを使用すると切り出しやすいです

 

転輪の組み立て

↑パーツは一度に接着せずに、パーツの端に適量の接着剤をつけて楊枝などで伸ばし、接着位置を確認しながら順に接着していくと、パーツ同士のズレを防げます

 

↑接着後、定規などの平らなものを上からあてて圧着。その後、重りを載せて乾燥させると、パーツの反りを防げます

 

↑転輪はパーツに指示されている丸い部分の色や矢印の方向、接着するパーツ番号を確認して、接着の位置と向きに注意しましょう

 

起動輪と誘導輪の組み立て

手順22、25、32で作る起動輪(パーツ30、33、39、42)と誘導輪(パーツ36、45)のパーツは、丸棒を使い曲げクセを付けてから、歪みが出ないように組み立ててください。

↑円筒形のパーツは接着後、のりしろ部分をピンセットで圧着し、接着面が乾燥してから次の手順へと進む

 

↑転輪右側のパーツ18~29を組み立てた状態

 

履帯の組み立て

履帯は左右と内側外側があります。分割されている履帯パーツをつなぎ合わせる際には、左右と内外の向きに注意してください。また、パーツ50、51(52、53)をつなげた後、平らな場所に置いて上から重りを載せて接着剤が乾燥するまで待つと、履帯の反りやねじれが防げます。履帯を車体に取り付ける際には左右と前後の向きにも注意してください。

↑履帯をつなげる前に、起動輪と誘導輪の位置にあたる部分に曲げクセをつける

 

↑履帯をつないだ状態。接合面は乾燥するまで剥がれないように注意しましょう

 

車体上部の組み立てと取り付け

車体上部も下部同様に歪みが出ないように組み立て下さい。車体上部の組み立て後、下部との接着は接着面が浮き上がらないように密着させてください。

↑ハサミ印の部分は、切り抜く部分です

 

↑車体上部も重りを入れて接着剤の乾燥を待ってください

 

車体上部と下部の接着

車体上部の組み立てが済んだら、車体下部と接着します。その際に、前後、左右の位置がずれないよう位置を確認しながら行ってください。接着後は、ピンセットや棒を使用して接着面を圧着してください。

 

ここまでで、車体と足回り部分が完成しました。いかがでしたでしょうか。次回の「後編」では、砲塔から主砲、そして完成までの手順を解説します。お楽しみに!

超リアル!「歴史群像」6月号付録、『ティーガーⅠ』重戦車 精密ペーパークラフトのクオリティーがすごい!

ペーパークラフトといえば、簡単に組み立てられるけど、大幅にデフォルメされていて、本物とはだいぶ形状が違うというイメージをお持ちではないでしょうか。そんな常識を覆す、戦艦『大和』の超リアルなペーパークラフトが付録について話題になったのが昨年の「歴史群像」8月号でした。

 

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超リアル!「歴史群像」8月号付録・戦艦『大和』超精密ペーパークラフトのクオリティーが高すぎる!

 

あれから10か月、大好評につき、ついに第2弾が登場しました。それが5月6日発売の「歴史群像」6月号の特別付録、「『ティーガーⅠ重戦車』精密ペーパークラフト」です。

 

↑付録『ティーガーⅠ』の完成状態を右斜め前から見たところ

 

考証を踏まえて誕生した、1/35スケール・全長約24センチの本格派!

本モデルのスケール(縮尺)は戦車のプラモデルでは一般的な1/35で、組み立てると全長約24センチになります。ティーガーⅠが誇る砲塔の8.8センチ主砲は、砲身が上下動し、砲塔も回転します。

 

本モデルは第二次世界大戦でドイツ陸軍を代表する戦車エースの一人、オットー・カリウスが搭乗した第502重戦車大隊第2中隊17号車を再現したものです。同車の当時の写真を始めとする史資料を基にして考証を行って再現しました。ティーガーⅠのなかの「中期型」に分類されるタイプの車両です。

 

↑第502重戦車大隊第2大隊17号車の実物の写真

 

ティーガーⅠとはどんな戦車か?

ティーガーⅠは第二次大戦中にドイツ陸軍が開発・生産した重戦車です。大戦中の1942年9月、東部戦線のレニングラード戦域に初めて投入されました。その後、北アフリカ、東部戦線のクルスクの戦い、西部戦線のノルマンディーの戦いなど、各地での戦いに投入され連合軍と死闘を演じました。その車体は、全長8.45メートル、全幅3.7メートル、重量57トンと巨大で、強力な8.8センチ砲と最大120ミリの装甲を備え、連合軍将兵に恐れられました。

 

 

↑本モデルと同じ中期型のティーガーⅠ

 

作り易さにもこだわりつつも、ディテールまで再現!

あまり部品を細かくしすぎると作りにくくなりますので、本モデルでは、精密さを失わない範囲で作り易さにもこだわりました。その一方で、転輪が複雑に配置された足回りなど、細部までこだわって再現しました。

 

↑ティーガーⅠの複雑な足回り

 

本付録は全32ページの冊子になっていて、パーツが並んだ「展開図」のページと組み立ての手順や道具などの解説で構成。丁寧にわかりやすく解説されているので、初心者でも問題なく作れるはずです。

 

↑付録冊子と「歴史群像」6月号

 

↑付録冊子の誌面。左側が作り方、右側がパーツ本体

 

さらに本誌では、完成させたペーパークラフトを用いて『ティーガーⅠ』の特徴や装備を解説。解説記事を読みながら完成品を見ることで、「立体的な教材」として『ティーガーⅠ』の特徴をより深く理解できます。

 

↑6月号の本誌のペーパークラフト解説記事。各部の名称や役割などが解説されている

 

週末など、家でゆっくりと過ごしたい時や、雨などで外に出たくない時など、自宅におられる時間に、この歴史群像特製ペーパークラフトを作ってみられてはいかがでしょうか。

 

古今東西の「戦い」に関する記事も充実!

「歴史群像」6月号は、付録以外の記事も充実。今号の特集は「日本陸軍歩兵論」「伊勢宗瑞~「北条早雲」と呼ばれた男の素顔と生涯」「入門・ローマ軍団」の3本。この他、「キエフ包囲戦1941」「図説 鎌倉武士の屋敷とは」ほか計20本以上の記事を掲載しています。付録ペーパークラフトともども、ぜひいちどご覧になってみてください。

 

『ティーガーⅠ重戦車』ペーパークラフトの完成作品写真を募集しております。「歴史群像」ホームページの応募フォームよりぜひご応募ください。同特設ギャラリーにて掲載させて頂きます。草原をイメージしたジオラマシートと搭乗員パーツも無料でダウンロードできますので是非ご活用ください。
 
★応募要項および応募フォーム
 
★特設ギャラリー
 
★ジオラマシートと搭乗員パーツのダウンロードはこちら
 
 
※「歴史群像」6月号の電子版には、付録ペーパークラフトは付いていません。

【書籍情報】

歴史群像6月号

特別定価:1150円 (税込)

【本書のご購入はコチラ】

・Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B09XZD461X/
・セブンネット https://7net.omni7.jp/detail/1234808096

親ガチャにハズれたと言われた親は子どもにどう対応したらいいのか?

「親ガチャ」という言葉が最近よく使われています。どの親から生まれてくるかを選べないため、くじ引きのような意味合いでガチャと表現しているのです。子どもから「親ガチャにハズれた」と言われたら、親はどうしたらいいのでしょう。

世の中には当たりハズれがある

子どもを育てるようになると、当たりハズれというものが世の中にあることを痛感することがあります。幼稚園の入園が抽選であった時、子どもが行きたがっているイベントが抽選である時など、運が左右することがあるからです。

 

運よく入園資格やイベントチケットを当てることができる親子と、残念ながら当てられずにあきらめるしかない親子とに分かれてしまうのは、定員がある以上どうしようもないことです。こういうことについて「ガチャにハズれた」と表現するのはまだわかります。けれど、親に対して「ガチャ」と言うのはどうなのでしょう。

 

不幸の連鎖のなかで

親ガチャにハズれたけど普通に生きてます』(上村秀子・著/KADOKAWA・刊)は、親ガチャにハズれた子ども側から綴られたコミックエッセイです。母親の離婚、再婚、そして貧困に暴力……胸が痛くなるような苦しいエピソードが前半では続きます。

 

できればお金持ちの家に生まれたいと思う人はいるでしょう。全ての親が暴力や暴言をふるわず、いつもニコニコ褒めてくれて、美味しいご馳走を食べさせてくれて、外国旅行にも連れ出してくれるような親だったら、どんなに素晴らしいでしょう。

 

子どもは親を選べない

けれど、子どもは親を選ぶことはできません。裕福ではない家に生まれ、行きたい学校に通うことも許されず、暴力を振るわれ、満足に食事を与えられない生活を送らなくてはならない子どもも世の中にはいるのだという現実を、このコミックは突きつけてきます。

 

ただ、救われた思いがするのは、主人公の女の子が決して人生を諦めなかったというところ。劣悪な環境から抜け出そうと努力し、自力で働いて家から出ていこうと頑張る姿には、心から応援したくなります。けれど、どのようにして頑張ったらいいのかもわからず苦しみ続ける子どもも、なかにはいるのかもしれません。

 

親も子どもを選べない

女子高生たちが街で「親ガチャにハズれてさ」「もっと金持ちの家に生まれれば良かったよ」などと話している言葉が耳に刺さったことがあります。自分の家の子がこのようなことを口走ったらなんと答えればいいのだろうと考えてしまいますが、自分の人生、自分で頑張って成功を掴んでねとしか思い当たりません。

 

親も子どもを選ぶことはできません。けれど、生んで顔を合わせたその時がご縁の始まり。成人するまで責任を感じながら育てていくわけです。子どもにも個性があり、親の思い通りに成長するわけではありません。イライラすることも出てきますが、その都度話し合い、お互いになんとか折り合いをつけながら日々を送っていくしかないのでしょう。

 

親と子の結びつき

『親ガチャにハズれたけど普通に生きてます』の主人公は、後半では家から脱出し、自分の人生を幸せに歩み始めたかのようにも見えたのですが、ことあるごとに母親から受けた影響が彼女を苦しめるようになります。親以外の生きかたや愛しかたを知る機会を得られないままだったのかもしれません。

 

親の影響から完全に脱するにはやはり長い時間がかかるのかもしれません。お互いの性格や生きかたの違いもあり、残念ながらわかりあうのが難しいケースもあるのでしょう。

 

コミックでは親の甘えも多数描かれ、子を持つ親としては、気づかされることも多かったです。私たちは「家族なんだから」という言い訳で関係に依存せず、一歩離れ、お互いの個性を尊重しながら暮らすことがいいかもしれません。そうすれば、必要以上に傷つけ合わず、お互いに楽になれるかもしれないからです。

 

【書籍紹介】

親ガチャにハズれたけど普通に生きてます

著者:上村秀子
発行:KADOKAWA

毒親育ちは「私がダメな子だから」と自分を責めて育つ。そうじゃなくたまたま運が悪かった、と思える親ガチャという言葉が救いになる。親ガチャ失敗からのリカバリー!自伝的コミックエッセイ。

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丸い地球の果てはどこ? 新しい旅行の楽しみが見つかる『地球の果ての歩き方』

そろそろ旅行を……と考えている方も多いでしょう。コロナ禍で旅行の大切さを実感した人もたくさんいらっしゃると思います。そんな中、旅行の定番「地球の歩き方」が、旅の図鑑シリーズを発売していたのをご存知でしょうか? 「月刊ムー」とのコラボで注目を集めていますが、やっぱり旅は旅の専門家に教えてもらうのが一番だな! と実感したのが『地球の果ての歩き方』(地球の歩き方編集室・編/地球の歩き方・刊)という一冊でした。

 

北の果て、南の果て、海の果て、地の果て……と、「果て」にこだわって編集されたこの本は、めくるたびに多くの発見があります。今回は、驚きと感動が詰まった『地球の果ての歩き方』をご紹介します。

 

知らない場所だらけで、あっという間に2時間経っちゃう!

『地球の果ての歩き方』を読む前は、「う〜ん、果てか……」とそこまで興味がそそられなかったのが正直な思いなのですが(ごめんなさい!)、冒頭にあるこの一文でその考えが覆されて、本屋さんの会計へと急いだのでした。

 

時代が変わっても、

「果て」を求める旅人の心に大きな違いはない。

「果て」は終わりであると同時に

始まりの場所でもある。

本書は、そんな世界中にある様々な「果て」に憧れる

冒険心をもった旅人へ贈る一冊だ。

(『地球の果ての歩き方』より引用)

 

一体、どんな果てがあるのだろう?

 

ワクワクしながらページをめくっていたのですが、気がついたら2時間近く経っていて驚きました。「私って果てが好きだったんだ……」そんなことも思ってしまいました。

 

「果て」にもいろんな果てがある

私にとってはほとんどが知らない地域ばかりだったので、じっくり文章を読んで、写真を眺めているうちに時間が経ってしまったのですが、掲載されている項目は結構シンプルです。

 

目次を開くと、

 

1 北の果て、南の果て

2 海の果て、地の果て、空の果て

3 大陸の果て

4 気候の果て

5 時の果て

 

の5つで構成されています。気候の果てには、青森市が掲載されているのですが、一体どんな「果て」かご存知でしょうか?

 

実は、2016年に発表された「降雪量の多い人口10万人以上の世界の都市ランキング」での1位が青森市だったのです。ちなみにこのランキングのトップ3は全て日本だったそう!

 

世界の中で降雪量の多いところはありますが、雪が多い中で人が暮らしているのがポイント。日本にいると、あまり実感しませんが、世界的に見るとすごいことかもしれませんよね。そんなことにも気付かされました。

 

「時の果て」が美しい……

個人的におすすめなのが、「時の果て」のページです。日本からは軍艦島が掲載されているのですが、時間によって移りゆく建築物や街が紹介されています。戦争や自然災害によって破壊されてしまった場所、あるタイミングから時が止まってしまった場所など、写真を眺めているだけでも訴えてくるものがあり、心が揺さぶられます。

 

見れば見るほど、「自分の目で確かめたい」思いも湧いてきました。そんな「時の果て」の中には、『スター・ウォーズ』で使われた場所も紹介されています。アイルランドにあるシュケリッグ・ヴィヒルなのですが、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』で、「ルークったら、なんでこんなところにいるのよー!」と突っ込んでしまったあの場所です!(笑)どんな場所なのかは是非『地球の果ての歩き方』でお楽しみください。私はもう一度『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を見返したくなりました。

 

これまでの旅行は、世界遺産を見たり、都市に行ってお買い物をしたり、アクティブに活動することがメインでしたが、「果てに行く」「果てを体感する」というのは新しい旅行の楽しみ方になると感じました。果てだけに、行って帰ってくるのもそれなりに大変な場所が多いですが(笑)、果てなき探究心を胸に、旅へ出かけてみたいと感じます。旅行をもっと楽しみたい方、果ての魅力を知りたい方、たくさんの方に読んでもらいたい一冊です。

 

【書籍紹介】

地球の果ての歩き方

著者:地球の歩き方編集室
発行:地球の歩き方

地球の「果て」には何があるのだろう? 北の果て、南の果て、海の果て、地の果て、空の果て、大陸の果て、気候の果て、時の果て…そこには旅心を刺激する景色が広がっている。

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行動経済学ブームに火をつけたベストセラー『予想どおりに不合理』

株式投資関連の本を読みあさり、さまざまな動画を見まくっている。ちょっと思うところあって、実践的な知識を身につけるためだ。

投資に本当に役立つ知識とは

毎朝欠かさず経済ニュースに目を通し、株価チャートを見て予測を立て、アメリカの雇用統計の数字をチェックする—なんてことは一切やっていない。“どビギナー”である筆者が株価の動向を読み取ったり、利益を生み出しそうな銘柄を見きわめたりするなんてできるわけがないからだ。ビギナーズラックに恵まれるところまでにさえ達していない。

 

好きな会社、応援したい会社の株を買いなさい。そんなアドバイスに従って、愛用しているヘビーデューティーな腕時計を作っている会社、お気に入りのスニーカーのメーカー、そして在り方がすてきだなと思う会社の株を少額ずつ買う。その程度だ。

 

ただ自分なりにもがく中、これなら活かせるんじゃないかというものを見つけることができた。行動経済学だ。これを基にした興味深い理論モデルを知って、かなり入れ込んでいる。

 

実用的かつ魅力的な行動経済学

行動経済学に関するお勧めの一冊を選ぶよう言われたら、間違いなく『予想どおりに不合理』(ダン・アリエリー・著、熊谷淳子・訳/早川書房・刊)を挙げる。行動経済学は、“経済学の数学モデルに心理学的に観察された事実を取り入れていく研究手法”と定義されている。でもこの本は、そういう学問的な定義からはるかに離れたところに位置していて、まるで「すべらない話」を見ているような感覚で純粋に文章を追っていくことを楽しめるのだ。まえがきにこんな文章がある。

 

この本を通じてのわたしの目標は、自分や周りの人たちを動かしているものがなんなのかを根本から見つめなおす手助けをすることだ。さまざまな(そして、たいてはかなり愉快な)科学的実験や研究成果、逸話などを紹介することがよい道しるべになるのではないかと思う。

『予想どおりに不合理』より引用

 

これまでもやもやしていて、はっきり見えなかったものがすっきりしそうな気がする。

 

ものごとを第三者の目で見る

Ted Talk』でも紹介されているが、心理学および行動経済学の専門家であるアリエリー教授は18歳のころに事故で火傷を負い、3年間の入院生活を余儀なくされた。それまでの日常から切り離された生活を送る中で、当たり前以外の何物でなかったそれまでの行動を第三者の目で見る感覚が養われたという。

 

まるでべつの文化から(あるいは、べつの惑星から)来たよそ者のように、自分やほかの人のさまざまな行動について、なぜそうするのかを考えはじめた。たとえば、なぜわたしには好きになる女の子とそうでない女の子がいるのか。なぜわたしの毎日のスケジュールは、わたしではなく医師に都合よく組まれているのか。

『予想どおりに不合理』より引用

 

この本の目的は、さまざまな行動を通して人間の不合理性を追究していくことにほかならない。不合理性を浮き彫りにすることで合理性の本質が見えてくる。そういう言い方もできるだろう。

 

15パターンのケースワーク

相対性、需要と供給、コスト、ものごとを先延ばしにしてしまう心理…。著者の実体験を通して語られる考察が、全15章で展開される。相対性について詳しく触れられた第1章では、容姿や年収額など比較的優劣・大小を区別しやすい要素を例に挙げながら話が進んでいく。

 

相対性は(相対的に)理解しやすい。しかし、相対性には、絶えず私たちの足をすくう要素がひとつある。わたしたちはものごとをなんでも比べたがるが、それだけでなく、比べやすいものだけを一生懸命に比べて、比べにくいものは無視する傾向がある。

『予想どおりに不合理』より引用

 

第5章では、価格が人間の利己心に歯止めをかけるメカニズムが解き明かされていく。その過程は、次のような文章で示される。

 

つまりこういうことだ。需要の理論はたしかなものである—ただし、値段ゼロを扱うときを除いて。やりとりに金銭が絡まないとなると、かならず社会規範がついてくる。社会規範は人々に他者の幸福を思い出させ、その結果、利用できる資源に負担をかけ過ぎない程度まで消費を抑えさせる。

『予想どおりに不合理』より引用

 

演繹➝実験➝解説という流れに乗せて、実践的な知識がテンポよく盛り込まれていく。難解な学術用語は出てこないし、表現も面白い。だからこそ、「すべらない話」感覚で一気に読み切ってしまった。

 

この本は、特に若い世代の人たちに読んでいただきたい。経済学に興味を持つ人が増えて株式市場への資金流入が多くなり、それに引っ張られて景気が良くなれば、賃金が上がって国際競争力が高まるだろう。国の経済は、人々の気持ちや行動によって強くも弱くもなるのだ。

 

 

【書籍紹介】

予想どおりに不合理

著者:ダン・アリエリー
刊行:早川書房

「現金は盗まないが鉛筆なら平気で失敬する」「頼まれごとならがんばるが安い報酬ではやる気が失せる」「同じプラセボ薬でも高額なほうが効く」-。人間は、どこまでも滑稽で「不合理」。でも、そんな人間の行動を「予想」することができれば、長続きしなかったダイエットに成功するかもしれないし、次なる大ヒット商品を生み出せるかもしれない! 行動経済学ブームに火をつけたベストセラーの文庫版。

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世間のブルーオーシャンを仕事にするにはどうしたらいい?——『「ない仕事」の作り方 』

マイブーム、ゆるキャラ、クソゲー、DTなどなど、今我々が日常会話で使ったりメディアで見ることがあるこれらのキーワード、実はすべて同じ人物が生み出している。その人物とは、みうらじゅんだ。

 

みうらじゅんの職業は「イラストレーターなど」

みうらじゅんって誰? という人のために簡単に説明すると、元々は漫画家で、そのほかにも文筆業、ミュージシャン、評論家、ラジオDJ、解説者などなどさまざまな活動を行っている。自称「イラストレーターなど」。

 

そんなみうらじゅんは、これまで誰も見向きもしなかったさまざまなことを世間的なブームに押し上げてきた。これを「マイブーム」と呼び、一般的なものにしたのだ。もちろんマイブームも造語だ。

 

彼がどうやって、一般的には存在しない市場を見つけ、それを仕事にしてきたのか。その方法論が記されているのが、『「ない仕事」の作り方 』(みうらじゅん・著/文藝春秋社・刊)だ。

 

気になることに「名称」と「ジャンル」を与える

本書は、2015年に出版され、同年の本屋大賞発掘部門「超発掘本!」を受賞している。みうらじゅんが人と違う着眼点を持っているのは子どものころから。仏像が好きで、自分で仏像のパンフレットを切り抜いてスクラップし、オリジナルの仏像スクラップを作ったことから始まっている。後年、仏像好きということから、同じ仏像好きのいとうせいこうとの仏像巡りを記した『見仏記』などが生まれている。

 

いったい、どうやってこれまでなかったものを見つけ出して、それを仕事に結びつけているのか。本書にはこう記されている。

 

まず、名称もジャンルもないものを見つける。そしてそれが気になったら、そこに名称とジャンルを与えるのです。

(『「ない仕事」の作り方 』より引用)

 

たとえばゆるキャラの場合。全国各地の着ぐるみのキャラクターに興味を覚えたとき、そのいびつさとせつなさに気付き、虜になった彼は、それに名前を付ける。普通に説明すると

 

地方の物産店で見かける、おそらく地方自治体が自前で作ったであろう、その土地の名産品を模した、着ぐるみのマスコットキャラクター

(『「ない仕事」の作り方 』より引用)

 

という長い説明を、一言で表現するために作った名称が「ゆるキャラ」なのだ。また、彼はこうも述べている。

 

「ゆるキャラ」と名づけてみると、さもそんな世界があるように見えてきました。統一性のない各地のマスコットが、その名のもとにひとつのジャンルとなり、先に述べた哀愁、所在なさ、トゥーマッチ感、郷土愛も併せて表現することができたのです。

(『「ない仕事」の作り方 』より引用)

 

確かに、「ゆるキャラ」というたった5文字の名称なのに、すべての特徴と感情が収まっているように感じる。

 

ネガティブ+ポジティブな単語を組み合わせる

また、ネーミングに関しても彼独自の方程式がある。

A+B=ABではなく、A+B=Cになるようにするのです。そしてAかBのどちらかは、もう一方を打ち消すようなネガティブなものにします。

(『「ない仕事」の作り方 』より引用)

 

ゆるキャラはもちろん、「カスハガ」(意味不明で価値が感じられない観光地で売っている絵はがき)や「クソゲー」(お金を出してまで買ってやるようなレベルではないくだらないゲームソフト)、「いやげ物」(もらってもうれしくないお土産)という言葉も、この方程式に当てはまっている。

 

このような考え方ができるようになると、世の中のちょっとしたことをとてもおもしろく感じられるようになるのではないだろうか。

 

グッズを収集して自分を洗脳する

いくら、みうらじゅん個人がおもしろいと思っても、それを周囲が、世間がおもしろがってくれなければ大きなブームにならず、仕事にもならない。そこで彼が行っているのが「自分の洗脳」だ。ただ、他人を洗脳するよりも自分を洗脳するのは難しい。そこで彼が取る行動がある。

 

興味の対象となるものを、大量に集め始めます。好きだから買うのではなく、買って圧倒的な量が集まってきたから好きになるという戦略です。

(『「ない仕事」の作り方 』より引用)

 

まさに洗脳。行動を起こすことによって自分を錯覚させるという、なかなかマゾヒスティックな戦略だが、集まったものを見れば自然とそのジャンルへの愛情が深まるだろう。

 

かくいう僕も、アコースティックギターが好きですでに10本以上所有している。それほど高額なものはないが、それだけの数が集まると「やっぱり俺ってアコギ好きなんだなぁ」と思い、いろいろ詳しくなってしまった。ギターを弾きたいのか、買いたいだけなのか、よくわからなくなっているが…。

 

アイデアに行き詰まったときにヒントになるかも

本書は、みうらじゅんがどうやって今のような仕事をするようになったのか、また巻末には師匠ともいえる糸井重里とのトークライブの模様も収録されているので、みうらじゅんという人物に興味のある方はご一読を。0から1を作り出すためのヒントが隠れているので、行き詰まったときに読むといいかもしれない。

 

【書籍紹介】

「ない仕事」の作り方

著者:みうらじゅん
発行:文藝春秋

「マイブーム」「ゆるキャラ」など新語を生み出し、それまで世の中に「なかった仕事」を企画、営業、接待も全部自分でやる「一人電通」という手法で作り続けてきたみうらじゅん。アイデアのひらめき方から印象に残るネーミングのコツ、世の中に広める方法まで、その驚きの仕事術を丁寧に解説。糸井重里さんとの対談も収録。

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太宰治(16歳)が日記に残した暗号とは? 文豪たちの17歳時代~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。みなさんは17歳のとき、何を考え、何をしていましたか? 学年でいえば高2か高3。私は、それまで皆勤賞だった学校をさぼって、上野あたりの美術館をフラフラしていました。悪いことをしたかったのか、勉強以外の知識を身につけたかったのかよくわからない毎日でした(笑)。

 

では、後世に名前を残した作家たちの17歳とは? さぞかし優秀だったのか? それともごく普通の若者だったのか? 今や成人年齢は18歳。子どもと大人の境目の17歳はすべてが揺れ動く年頃です。

日本文学研究者が作家の17歳を深掘り

今回紹介する新書は、作家たちの17歳』(千葉 俊二・著/岩波書店)。著者の千葉 俊二さんは日本文学研究者で早稲田大学名誉教授。谷崎潤一郎を中心に、児童文学や森鴎外・寺田寅彦などの日本文学を幅広く研究しています。著書に『文学のなかの科学―なぜ飛行機は「僕」の頭の上を通ったのか』(勉誠出版)、『谷崎潤一郎』(集英社新書)などがあります。

日記に暗号で書いた作家とは!?

本書に登場する作家は太宰治、宮沢賢治、芥川龍之介、谷崎潤一郎、樋口一葉、夏目漱石の6人。個人的にやはり太宰治が気になります。『人間失格』に記された「恥の多い生涯を送って来ました」。こんな文章を書けるようになるには、どういった青年期を過ごしたのか……。第1章は太宰治が旧制中学3年生で、満年齢17歳を迎える1926年(大正15年/昭和元年)の正月から1か月ほど書いた日記の紹介から入ります。

 

「自分は今人生の岐路に立って居るのではないかと思って居る……その岐路に於ける自分の歴史を作って行かねばならぬと自分は思って居る」。若くしてこの自覚。のちに“太宰治”となって、人生を振り返ることがわかっていたかのような書きぶりです。

 

面白いのは日記のところどころに暗号風の表現が使われている点。「眼野大黄い尾ん菜(上-ウ覚成) 余尾見手居多」とは、「目の大きい女(女学生) 余を見ていた」となるのだそう。

 

こうした暗号は、異性を意識したときやタバコを吸うなど不良行為をしてしまったときに限られていたとか。隠しておきたい欲望をえぐり出していく後年の太宰文学を念頭に、「太宰少年は、それを直視するのを恐れるかのように、遊戯的な要素もまじえながら、おずおずと自分にしか分からない暗号的な表記で書いた」のではないかと千葉さん。暗号というメンタリティがのちに文学として昇華されていったのでしょうか。

 

顔ぶれのなかでは唯一の女性である樋口一葉の17歳は波瀾万丈でした。1889年(明治22年)に17歳で父を亡くした一葉は、樋口家(母と妹)を養う戸主という重責を背負うことに。このころの備忘録で一葉は、自分を「みの虫」にたとえているそうです。清少納言の『枕草子』をふまえた表現で、風に吹かれてブラブラ揺れながら「父よ、父よ」と力なげに鳴く姿を重ねています。

 

そして同じく17歳で、一葉は父に決められていた婚約者からまさかの言葉を告げられます。その内容とは……!?

 

過去の日記や世に出る前の文章など多数の資料が引用され、カジュアルな雑学本とは異なる知見の深さを感じる一冊。岩波ジュニア新書なので基本的なターゲットは中高生ですが、丁寧で読みやすい文章で書かれた、名作の背景に踏み込む分析は大人が読んでも「なるほど」と思わされます。

 

まだ何者でもなかった17歳の作家たちの素顔を知れば、親近感が湧くこと請け合い。本書をきっかけに、私も改めて数々の名作を読み返したいと思いました。

 

【書籍紹介】

作家たちの17歳

著者:千葉 俊二
発行:岩波書店

十七歳、誰もまだ「文豪」じゃなかったーー太宰治は作家になろうと決意し、宮沢賢治は進路をめぐって父に反発、芥川龍之介は友達と雑誌を作り、谷崎潤一郎は苦学生だった。夏目漱石は下宿で受験勉強し、樋口一葉は父と兄を亡くして一家を背負うことになる。作家たちの十代とその決断を、当時の日記や創作とともに紹介。

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作家たちの17歳

 

【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

絶望を乗り越え、前を向いてともに進む——『東大教授、若年性アルツハイマー病になる』

厚生労働省の発表によると、認知症を患う人の数は、2025年には700万人を超えるといいます。つまり、65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症になるのですから、事態は深刻です。さらに、アルツハイマー病はその原因もいまだはっきりしない病です。誰もが罹る可能性があり、自分は関係ないと傍観しているわけにはいきません。若年性の場合、働き盛りの人がかかるため、社会的な損失も大きなものとなります。

 

東大教授が、若年性アルツハイマー病になったとき

東大教授、若年性アルツハイマー病になる』(若井克子・著/講談社・刊)は、東大教授として忙しい日々を送っていた若井晋先生が、五十代の若さで若年性アルツハイマー病におかされたことに気づき、悩み、いかにそれを受け入れたかについて書かれた本です。著者は、先生に寄り添い、看護を続けた奥様の若井克子さんです。

 

アルツハイマー病は、最初のころは、本人も気づかないことが多く、それがよけいに家族を悩ませます。自身の行動が変調をきたしていることに、なかなか気づきにくいのです。それでも、どこかおかしいと不安には思うので、イライラしたり、家族に当たり散らしたりもします。けれども、若井先生の場合は、ご自分が若年性アルツハイマー病にかかっているとわかっていました。脳神経外科を専門とする医師なので、人一倍、脳機能に詳しかったのです。そのため、自分の変化を見逃さなかったのでしょうが、これほど残酷なことはありません。他人は気がつかなくても、自分だけが自らの異常を認識して、苦しまなければならないのですから。

 

『東大教授、若年性アルツハイマーになる』には、そんな先生を見つめ、支え続けた奥様の日々が綴られています。先生ご自身が書かれた実際の日記も掲載されていて、読む者の胸を打ちます。それは、2001年6月9日、まだ奥様でさえ気づいていないころのことでした。深夜に一人で書いたという日記には、どこか頼りない文字で、先生の不安が記されています。

 

漢字を相当忘れるようになったため日記をつけることにする。単純な漢字がすぐに出てこない

(『東大教授、若年性アルツハイマー病になる』より抜粋)

 

このとき、先生はまだ54歳……。まだこれからという時に、信じられない事態が発生していたことになります。漢字を忘れるようになったと訴える先生に奥様は「私だってそうだよ。老化現象だから仕方がないんじゃない?」と、答えたのだそうです。先生はその言葉に救いを感じたのでしょう。「近頃はみんな、パソコンを使って文章を書くから、漢字が書けない人はごまんといるそうだよ」と、ご自分を慰めるようにつぶやきました。

 

けれども、先生は人知れず苦しみ、脳のMRI画像を撮るなど、医師としての確認を怠りません。さらに、漢字の練習をしなければいけないと思ったのでしょう。ノートに「振」「刺激」「改善」などの文字を何度も繰り返し書いています。けれども、文字には誤字がまざり、達筆だったころの面影はありません。そのページを読んだとき、私は歯をかみしめ、泣くのをこらえました。今は亡き母のことを思い出したからです。

 

私の実家の母も、若年性のアルツハイマー病に罹りました。診断を受けたとき、余命はだいたい7年だと言われましたが、その言葉のとおり、57歳で発病し、64歳で亡くなりました。遺品を片付けていたとき、私は母が漢字の練習をしたノートを見つけました。母はペン習字の先生でしたが、字は乱れ、間違えた漢字が並んでいました。おそらく、漢字を忘れていく自分を受け入れることはできなかったのでしょう。何度も何度も、同じ文字が書かれていました。

若年性アルツハイマー病は怖い病気か?

若年性のアルツハイマー病が、患者本人はもちろんのこと、家族をどれほど絶望に陥れるのか、私は身をもって知ってしまいました。母が亡くなってから26年も経つというのに、私はまだ立ち直れないままです。アルハイマー病について書かれた本を読んだり、映画を観たりするのもつらくてできませんでした。

 

ところが、『東大教授、若年性アルツハイマー病になる』は、手にとってすぐに読み始めました。表紙の『東大教授、若年性アルツハイマー病になる』のタイトルは、ショッキングですが、傍らに掲載された先生ご夫妻の写真が希望に満ちたもので、いまだに傷ついたままでいる私の心を癒やしてくれたからです。写真を撮影したとき、先生は既に発病し、苦しみのさなかであったはずなのに、お二人の立ち姿は、「大丈夫だよ。そりゃあ、大変なこともあるけれど、幸福だよ」という言葉を投げかけてくれたような気がしました。

 

彼は若年性アルツハイマー病になって、知識を、地位を、職を失った。世間からは「天国から地獄に落ちた」ように見えるのかもしれない。だが私には、むしろ、すべて失ったことで「あるがまま」を得て、信仰の、人生の本質に触れたように感じられるのだ」

(『東大教授、若年性アルツハイマー病になる』より抜粋)

 

私はなかなかこういう境地には達することができません。けれども、著者は、夫に徹底的に寄り添い、その希望をかなえるべく、様々な試みをしています。診断を受けた後、東大の宿舎を離れ、沖縄に引っ越したのも英断です。過去にしがみつくことなく、失ってしまった居場所を求めての行動したのですから。もちろん、沖縄に行ったからと言って、病気の進行を食い止めることはできません。けれども、あたたかな人間関係を築きながら、穏やかな日々を手に入れることができました。

 

困難は続くものの

少し生活が落ち着いたと胸をなでおろしたころ、夫婦で交通事故にあうなど困難は続きます。それでも、お子さんたちや周囲の方に支えられながら、そのとき、できることを精一杯しながら、夫婦の闘病は続きます。

 

診断から2年後、若井先生は日本キリスト者医科連盟の総会にあわせて、日本側の国際交流委員長になって欲しいと頼まれます。若年性アルツハイマー病であることを公表し、皆に承認されての就任となりました。委員長としての初仕事は、挨拶文を書くことでした。その時は、既に、読むことも書くことも難しくなっていたので、夫婦で考えながら発表することになりました。その挨拶文は、読む者の胸を打ちます。

 

これまで私は、たえず後ろを振り向くことなく走ってきた。しかし、アルツハイマー病と診断されて、これまでのように何でもできると思っていたことができなくなり、自分のありようが白日のもとにさらされた。そして、これまでの自分の信仰が、根源的に問われることになった。

『東大教授、若年性アルツハイマー病になる』より抜粋

 

なぜ自分はこんなことになったのかと、絶望する日々もあったでしょう。けれども、なんとかして、前進しようとする生き方に頭が下がります。

 

それから、13年後、2021年2月10日、若井先生は誤嚥性肺炎のため、亡くなりました。コロナ禍のさなかでの緊急入院で、お見舞いも許されない状態でした。奥様は家族で看取りたいと願い、退院を決断します。そして、その望み通りにお子さんたちの見守るなか、先生は静かに息を引き取りました。享年75。穏やかな最期だったといいます。

 

『東大教授、若年性アルツハイマー病になる』を読んだ後も、アルツハイマー病に苦しんだ母の記憶が薄れることはありません。けれども、おそれてばかりいないで、私なりに今を大切に前進しようと思うようになりました。寝たきりになった母も、外側からはわからなくても、必死に生きようとしていたに違いありません。やっとそう思えるようになったのです。それは私にとって、大きな救いとなりました。

 

【書籍紹介】

東大教授、若年性アルツハイマーになる

著者:若井克子
発行:講談社

無教会派クリスチャンの医師にして、世界を股にかけた「国際地域保健学」の専門家。5つの言語を学び、学会誌の編集委員を務め、最高学府の教授でもあった夫・若井晋。地位を、知識を、そして言葉を失うとき、彼は、そして家族はどうなるのか。最期まで歩みを共にした妻が、ありのままを描き出す!

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家にある調味料だけでおいしくスピーディにできるレシピが満載!『長谷美穂の10分でできるごきげんレシピ』

おうち時間が増えたことで、時短やラクラクをうたうさまざまな料理本が出ていますが、『長谷美穂の10分でできるごきげんレシピ』(長谷美穂・著/ワン・パブリッシング・刊)は、家にある基本の調味料だけでおいしくスピーディにできるレシピが満載の一冊でした。

 

作る前は「本当に10分でできるの!?」なんて疑っていましたが、実際に作り始めてみるとあら不思議! 本当に10分くらいでできちゃいました。しかも、家にある調味料だけで本格的な味わいが楽しめるので、料理上手になった気分も味わえる……! 今回は、毎日忙しくて料理を作るのが大変! とお悩みの方におすすめしたい一冊をご紹介します。

 

【関連記事】
ライバー、モデル、さらに料理家! 初のレシピ本を出版する長谷美穂さんが、いつもごきげんな理由

 

仕事もプライベートも大忙しな長谷美穂さんのレシピ本

このレシピ本の著者は、2人のお子さんを育てながら、「17LIVE」でのライブ配信やモデル、アーティストとしても大活躍されている長谷美穂さん。レシピサイト「Nadia」でも人気料理家さんとして活動もされています。

 

そんな長谷さん初の料理本はなんと“10分でできる”時短のレシピ本。どうしてこのようなレシピ本を作ることになったのでしょうか?

 

欲張りかもしれないけれど、外では輝きたいし、

プライベートも大切にしたい。

両立するために頑張っている同志のような方へ

「頑張らなくても大丈夫」とエールを送る気持ちで、

私のレシピを贈ります。

“10分でできるごきげんレシピ”が肩の力を抜いて頼れる、

あなたの助っ人になれますように。

(『長谷美穂の10分でできるごきげんレシピ』より引用)

 

素敵だ……!

 

実際にレシピ本を開いてみると、調理時間の目安が記載されており、短いものだと3分! 長いものでも20分と家に帰ってきてから、冷蔵庫を覗いて「あ、これできそう!」と作れるレシピが満載です。

 

しかも! 特別な調味料はほとんどありません。常備されている調味料で、和洋中さまざまなレシピが作れるので、「アレがないから作れない」もなくて助かるものばかりです。

 

本当にこの時間でできる? いざ、やってTRY!

今回は、『長谷美穂の10分でできるごきげんレシピ』の中から実際に作ってみたものをご紹介します。

 

まず、最初にご紹介するのは調理時間たったの3分でできる「きゅうりキムチ」。私は2分45秒と15秒もまいて作ることができました!

 

板ずりしたきゅうりをカットし、キムチとゴマ油であえるだけなので、作りながら「本当にこれだけでいいの?」と思いながら混ぜましたが、出来上がって驚き! ウマい! お酒のおつまみにもなりますし、ちょっとあっさりとした主菜の日でもきゅうりの食感がよく、夕飯の満足度もUPしました。我が家の定番メニューの仲間入りです。

 

そして、次は少しハードルを上げて(笑)、夏に向けて体が欲しくなる「スーラータンスープ」を作ってみました。調理時間は10分ですが、実際に作ってみると13分3秒……! 何かを競っているわけではないですが、惜しかったです。

 

トマトと酸味が苦手な旦那にも食べてもらったのですが、「クセがなく食べやすい」とのこと。よかった〜♪ 2人分の分量で作りましたが、出来上がってみると結構ボリューミーで食べ応えも十分。我が家では余った分を翌日のお昼に、うどんを入れていただきました。これまた美味しかったー!

 

表紙にもなっている「彩り酢鶏」は絶対作ってほしい逸品

『長谷美穂の10分でできるごきげんレシピ』を読んでいると、本当にお手軽なので、次々と作りたくなってしまうので、もう一品! 紹介させてください。

 

表紙にもなっている「彩り酢鶏」は、酢豚の味わいそのままに楽しめる鶏むね肉を使ったレシピです。彩りがきれいなのはもちろんなのですが、驚くのは、調理工程の少なさと本格的な味わい!

 

味付けに使う調味料は、醤油・酢・ケチャップ・砂糖・オイスターソースだけ! 酢豚を作る時には、「酢豚の素」を使ったり、野菜だけで作れるチルド商品を使ったりしていましたが、家にある調味料だけでできたのはうれしかったです。しかも、鶏むね肉だから高タンパクでヘルシー! 結婚してから、酢豚とか手間のかかるものは億劫になっていたのですが、これだけ簡単ならたまには作ろうかな〜と感じたのでした(笑)。

 

『長谷美穂の10分でできるごきげんレシピ』には他にも手軽でおいしいレシピが満載! 段取りよくできれば、20分で4品作れるレシピも掲載されているので、タイマー片手にチャレンジしてみるのも楽しいかもしれませんよ♪

 

ページに登場する長谷さんの写真がかわいくて見惚れてしまうので、料理を作るより「今日は何にしようかな〜」と考えている時間の方が長くなっちゃうかも(笑)。これだ! と思ったらパッと作れる料理がほとんどなので、育児に忙しいパパ・ママ、一人暮らしで自前のレシピが少ない人、最近レパートリーが定番化してきた人、いろんな人におすすめできます。ぜひお試ししてみてくださいね!

 

【書籍紹介】

長谷美穂の10分でできるごきげんレシピ

著者:長谷美穂
発行:ワン・パブリッシング

ほぼ3ステップ、10分程度でできるおかずばっかり載せました! レシピサイトNadia・ライブ配信アプリで大人気の長谷美穂さんの初のレシピ本です。仕事・家事・育児に忙しい中でも、おいしいごはんを食べたい!という願いをかなえる時短&絶品レシピをたっぷり紹介します。長谷さんのレシピのテーマは「子どももおいしく食べてくれて、自分の健康・美容にもうれしいレシピ」。肉をやわらかくする、食べやすい味つけにするなど、お子さんに食べやすい工夫だけでなく、ヘルシー&高たんぱくな食材を意識的に取り入れるアイデアも。料理を作る人の負担を増やさず、おなかが減った家族を待たせない時短テクニックは必見です。

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数量に限りがあるので、お早めにお買い求め下さい!

人生100年時代。あたなはどう生きて、どう死にますか?——『100歳まで生きてどうするんですか?』

知り合いにもうすぐ102歳の誕生日を迎えるおばあちゃんがいる。視力が落ちぼんやりとしかまわりが見えず、また、片方の耳も聴こえなくなっているが、足腰はしっかりしているし、毎日食欲もりもりでとても元気だ。自分で出来ることはやる、「人に頼らない」がおばあちゃんの信条で、よく見えないにもかかわらず手探りで縫い物などをして日々を過ごしてる。彼女は私の目標で、私も健康なまま100歳以上までぜひとも生きたいと思っているのだ。

 

だから『100歳まで生きてどうするんですか?』(末井昭・著/中央公論社・刊)を見つけると、すぐに手に取り、読み始めることとなった。本書はフリー編集者の末井氏が、WEBマガジン「婦人公論.jp」で同タイトルで連載していたエッセイを書籍化したものだ。

日本は世界でもトップクラスの長寿国

日本における100歳以上の高齢者は1991年にはわずか3625人だった。それが30年後の2021年に厚生労働省が発表した100歳以上の高齢者数は、8万6510人にまで増えた。今後もこの数字は増えるだろうから、誰もが100歳まで生きられる可能性がある、というわけだ。

 

著者の末井氏は1948年生まれ。「終活」という言葉が嫌いで、年相応の恰好や振る舞いもして来なかったものの、自分の寿命がチラチラ頭をよぎることもあるという。日本人男性の平均寿命まで生きるとしたら、あと10年も残っていないので寂しい気持ちになるとも打ち明けている。が、もし100歳まで生きられるとしたら、あと27年もあり、そうなると今度は健康でいられるかどうかが心配になってくるとも。

 

そんなことを考え出した頃から、新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、テレビを見ていても、目の前に死を突きつけられるようなことが度々ありました。そのような状況の中で、老後の人生をどう生きたらいいのか、老後を楽しく生きるにはどうしたらいいのか、そしていつかは来る死はどんなものなのか、あの世はあるのか、死んだら何もなくなるのかなどなど、自分の過去の出来事を織り交ぜながら書いたのが本書です。「100歳まで生きてどうしますか?」は、自分への問いでもあります。

(『100歳まで生きてどうするんですか?』から引用)

 

死を遠ざけたいのに”生前墓”の不思議

末井氏を有名にしたのは、『素敵なダイナマイトスキャンダル』という本で、映画化もされたのでご存じの方も多いのではないだろうか? 母親が隣家の若い男とダイナマイトを爆発させて心中したという衝撃の事実を綴ったものだ。実母の心中は当時小学校1年生だった彼に大きな影を落としていて、自身の中に拭い去ることができない虚無が潜んでいるという。また、死を遠ざけたいのは、その虚しさから抜け出したいからだとも語っている。

 

ところが、コロナ禍となり、世界中で犠牲者が増えるにしたがって、遠ざけていた死のことを考えざるを得なくなった。

 

仕事もほとんどなく、スーパーに行くことも禁止され、外に出ることは散歩ぐらいしかなくなり、家でテレビをボーッと眺めていると、気持ちがどんど沈んできます。そうすると、死が忍び寄ってくるのです。「お前が死んだら、墓はどうするんだ~」という声が、どこからともなく聞こえてくるのです。

(『100歳まで生きてどうするんですか?』から引用)

 

以前の末井氏は死を遠ざけるためにも、生前墓など想像外だったそうだが、パンデミックの中、自分のお墓のことを本気で考えてみたそうだ。生前墓は縁起がよく、また、相続税が軽くなるメリットもあるようで、建てる人は意外と多いらしい。

 

生前墓を建てると時々見に行ったりするものでしょうか。行ったついでに花なんか供えて、自分で自分の墓参りをするなんて、かなりシュールで面白いとは思いますが。

(『100歳まで生きてどうするんですか?』から引用)

 

「パンデミックと生前墓」と題した項では、死を遠ざけたいのに、墓を建てるという人々の心理に迫っている。

 

定年退職を喜びの日に

100歳まで生きられるとしたら、定年退職で悲観している場合ではない。会社人間、仕事人間だった人の中にはウツになってしまうケースもあるようだが、末井氏は、定年退職の日は自由に生きることの始まりなのだから、本当は喜びの日になるはずだという。

 

会社を辞めた人に対して、ぼくがお勧めの「心身の健康法」は家事です。「家事なんて男の沽券にかかわる」とか言う古臭い人はもういないでしょうけど、そういう気持ちが少しでもあると、老後は生き辛くなります。ぼくも昔は、家事は一切しなかったのですが、やってみると楽しいのです。その楽しさは、やってみて初めてわかることです。

(『100歳まで生きてどうするんですか?』から引用)

 

末井氏は起きている時間の三分の一は家事をしているという。炊事、洗濯、掃除で家の中を動き回っていると、気分はすっきり、さらに足腰の鍛錬にもなるし、ついでに奥さんに喜ばれて家庭円満にもなる。家事なんて……などど思わず、まずは試してみてはいかがだろう。

 

死ぬまで毎日楽しく生きたい

人生100年時代と言われるようになったのは、2016年に出版された”人生100年時代の人生戦略”という副題がついた『LIFE SHIFT』という本がきっかけだろうと末井氏は言う。ロンドンのビジネススクールの教授二人が著者で、長寿時代の良い人生とは、優しい家族と素晴らしい友人がいて、高度のスキルと知識を持ち、心身ともに健康に恵まれ、お金にも不自由しない生活を送ることと記されていて、ビジネス書だから仕方ないとはいえ、末井氏はその定義には意義を申し立てたい気持ちがあるそうだ。

 

「できれば100歳まで生きてみたい」とぼくが思うのは、新しい知識の習得でもスキルアップでもなく、自分がやりたいことだけをして生活しながら、世の中がどう変わっていくか見たいと思うからです。

(『100歳まで生きてどうするんですか?』から引用)

 

一日一日を大事にし、その日その日を面白く感じて生きられれば、その連続が楽しい人生になる。死ぬまで楽しく生きられるのなら、人の寿命はそれぞれだから80歳でも、90歳でも、100歳でも本当はかまわない、と結んでいる。

 

充実した人生を送りつつ、長生きしたいと思うすべての人にお勧めの一冊だ。

 

【書籍紹介】

100歳まで生きてどうするんですか?

著者:末井昭
発行:中央公論新社

「この年になるまで、自分が老人であるとか、いつ死ぬだろうかとか、まったく考えたことがありませんでしたーー」。
人生100年時代といわれる今、飄々と丸裸で綴る、人生、老い、そして「死」。笑って脱力し、きっと生きるのが楽しくなります。

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カエルの解剖がイカの解剖に!? 理科の授業はどのように変わった?~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。歴史の教科書が今と昔で違うというのは、ネットやテレビでもしばしば取り上げられる話題です。鎌倉幕府の成立年は1192年と信じて疑っていませんでしたが、最近では1185年説が主流で、多くの教科書が1185年を採用しているとか。

 

仮に30代以上が「いい国(1192)つくろう鎌倉幕府」と覚えていたとして、今や8000万人以上が無意味な語呂合わせを記憶している状態……。ちょっと怖くてちょっと笑える、大掛かりなコントですね。

時代を追って変わりゆく教科書

 

歴史の教科書も変わっていますが、理科の教科書も時代を追うごとに内容が変化しています。今回紹介する新書はこんなに変わった理科教科書』(左巻 健男・著/ちくま新書)。著者の左巻 健男さんは理科教育の研究者で、東京大学教育学部附属中高教諭、京都工芸繊維大学教授、同志社女子大学教授、法政大学教授を歴任し、現在は「RikaTan(理科の探検)」誌編集長を務めています。『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など、理科・科学に関する著書も多数です。

姿を消したアルコールランプ

「生活単元学習の時代」「現代化の時代」「厳選とゆとり教育の時代」「理数教育充実の時代」……戦後の理科教育を約10年ごとに7期に分けて、切り替わる教科書を通じて、日本の理科教育を見つめていく本書。もちろん、「今はもう、これ教えてないの!?」「あの用語がなくなった!?」という驚きも満載です。

 

第2章の物理・化学に続いて、第3章は生物・地学について。生物の授業で一番インパクトがあったのは、「カエルの解剖!」という人も多いのではないでしょうか。私も、カエルの足に電流を流して筋肉が動くのを確かめた記憶がうっすらとあります。

 

ですが、2000年代の生物の中学教科書ではカエルの解剖についての掲載が減り、準備と後片付けが大変なうえ、動物愛護の観点もあってカエルの解剖は行わない傾向になっているそう。「子どもたちは教科書にある解剖図を眺め、視聴覚教材で画像を見ることで、動物の体のつくりを知ったつもりになってしまっています」と左巻さん。

 

代わりといってはなんですが、2010年代の教科書で「無脊髄生物」の項目が復活したため、イカの解剖がよく行われているとか。確かにイカなら用意も簡単そうですが……。

 

第5章を読むと、実験器具も変わってきていることがわかります。理科室といえばアルコールランプや石綿付き金網など独特の器具がズラリと並んでいました。しかし、アルコールランプは「倒れやすい」「炎の調節が難しい」「事故が多い」といった理由からお役ご免に。

 

現在の主流は実験用ガスコンロ。つまみを回せば点火でき、炎の調節も簡単なため対流の実験もしやすいとか。このアルコールランプの巻き添えになったのがマッチです。実験でマッチを使うことはほぼなくなり、実生活でもマッチを見る機会が減り、マッチをすれない子も……。便利になった半面、できないことが増えていくというのは少し皮肉を感じます。

 

中学で放射線と放射能の違いまで学んでいた1960年代、ゆとり教育時代になくなり、また復活した元素の周期表、光電池や発光ダイオードが教材として採り入れられたここ最近の小学校理科……。長年理科教育に携わってきた左巻さんの視点から、教科書の項目、用語、実験を軸に語られる教科書の変遷。そこから科学立国を目指してきた日本の戦後モデルの紆余曲折も透けて見えます。

 

読者の興味をひきながら、丁寧な口調とわかりやすい説明で進んでいく本書。「子どもは知りたがり」「科学をたのしむ姿勢を育てたい」という左巻さんのメッセージもよく伝わってきます。

 

【書籍紹介】

こんなに変わった理科教科書

著者:左巻 健男
発行:筑摩書房

カエルの解剖、ショウジョウバエの飼育、有精卵を使った成長観察、かいちゅうや十二指腸虫の感染経路の写真付き解説、たくさんの昆虫や季節の植物など、いまはもうない理科授業。約一〇年ごとに、理科は大きく変わってきた。新発見や説明法の見直しもあって、かつての常識がいまは非常識だったりすることもある。生活密着の五〇年代、科学立国を目指した六〇年代、米ソ冷戦の影響を受けた七〇年代まで、理科はどんどん難しくなったが、詰め込み教育への反省から八〇年代以降は精選、厳選へ。けれど二〇一〇年代以降、ゆとり教育批判で再び高度化した。理科教科書で戦後日本のあゆみを読み解く。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

やっぱり、人と会って話すって楽しい! そんな気持ちが湧き上がる一冊『会って、話すこと。』

2年以上オンライン生活が続き、「コロナが明けても当分はこのスタイルが続くだろうな〜」と思っていたのですが、『会って、話すこと。』(田中泰延・著/ダイヤモンド社・刊)を読み終わり、人と会って話したくなりました。オンラインで便利な世の中になっていくけれど、会うことって大事なんだなぁ……と実感したのです。

 

コロナ禍でも、さまざまな「話し方」や「会話術」の本が出ていますが、この『会って、話すこと。』に書かれてあることはとってもシンプル! 会話って色々考えなくてもできるものだよね、と原点に戻されました。今回は、少しずつ会って、話す機会が増えてくるこれからに向けて復習しておきたい、会話についてご紹介します。

そうだ、会話ってこれだった

この『会って、話すこと。』は、話し方のテクニックやコツ、事例が載っているようなビジネス書ではありません。

 

著者の田中さんと、編集者の今野さんの2人が各章の冒頭で対談(ダイアローグ)している様子があり、その後、田中さんがダイアローグに出てきた部分を解説する構成で進められていきます。喫茶店で隣のおじさんたちが「あら案外いい話しているじゃない」と聞き耳を立てるあの感じに似ているかも。例えば、第2章の「どう話すか(とっかかり編)」ではこんな会話が出てきます。

 

今野 ギブアンドテイクの考え方を否定するんですか。

田中 それですよ。会話はギブアンドテイクじゃない。聞いてあげたら、自分にもしゃべる権利がうまれる。聞けば「貸し」ができる。次はこっちの話をさせてもらえる。そんなわけがない。

今野 カラオケみたいですね。みんなでカラオケ行くとそうなるじゃないですか。あいつの曲聞いたら次は俺が歌う番、っていう。

田中 それでいうなら、みんなヘタじゃないですか。

今野 え?

(『会って、話すこと。』より引用)

 

この本は一般的なビジネス書にあるような「これをしておけばOK」とか「会話で大事なのはコレ」といったマニュアルが書かれていないため、自分のアンテナに引っかかったところが大事なところ……そんな一冊です。

 

そのため、話し方のテクニックやコツを知りたい人にとっては、「どうしたらいいの?」と迷ってしまうかもしれません。自分自身の会話の経験や失敗談を思い出しながら、話が進んでいくので、これまで読んだ話し方の本の中で一番人間らしい本だと感じました。エッセイやコラムを読むような楽しさから、会話術を学べるそんな一冊なのです。

 

オンラインの違和感は、自分の顔が表示されることだった!

この本は2021年9月に出版されたのですが、途中から会って話すことができなくなり、オンラインで話すようになります。田中さんは、書籍の中でも「なかなか難しかった」と語っており、その難しさを以下のように分析しています。

 

そんなタイムラグやコミュニケーションにロスがある環境では「ボケること」は非常に難しい。ちょっとした冗談を挟もうとして、聞き取りにくくてもう1度言わされるのはつらい。また、なぜかオンラインでは「自分の顔」を画面に表示する設定が基本になっている場合が多い。有史以来、自分の顔を見ながら他人に話しかけることがあっただろうか。それもまた、妙な自意識につながって、話しにくい原因のひとつだ。

(『会って、話すこと。』より引用)

 

これだ! と思いました。

 

私もオンラインの取材が増えて、やることは大きく変わらないのに何かが違うなぁと感じていたのですが、原因がわかって落ち着きました。「じゃあ自分を非表示にすればいい!」と思ってやってみたのですが、これも違う(笑)。むしろ不安になるだけでした。

 

『会って、話すこと。』では、そんなオンラインの時代を経て、会って話すことにはどんな意味があるのか? についても考えることができます。オンラインが良い・悪いではなく、会話とは何か自分なりに納得した答えが持てるようになるはずです。

 

不機嫌は伝染する

いつになるかはわかりませんが、新型コロナウイルスが落ち着いて人と会うことが当たり前になった時、私自身「これは忘れたくないな」と思ったことがありました。それは、不機嫌は伝染するということ。ある種、新型のウイルスよりも根深く、ず〜〜〜っと猛威を振るっているものかもしれないと感じます。

 

会話でも同じことが起こる。ひとり不機嫌な者がいて不満や愚痴や、怒りを表明すると、たちまちそれは全体に伝染する。会話に不機嫌病が蔓延し始めたら、自分をさっさと隔離しよう。笑い話にしてしまう、話題を変える、最後は物理的にその場を立ち去る。手段はいくつかある。

(『会って、話すこと。』より引用)

 

じゃあ会わなくていいや……となるかもしれませんが、そうじゃない!(笑)やっぱり会いたいんです。

 

もともと「会って話したい!」と思っていた人は、自分の会話を振り返るきっかけになりますし、これから対面の場面が増えて不安だと思う人にとっては「こうすれば良かったのか」と新しい知識を得られる一冊になると思います。出社する人、リモートする人、移住する人、定住する人、どんな人でもコミュニケーションは必要です。まだまだ感染対策が必要ですが、さまざまな人と自由に会えるようになる前に『会って、話すこと。』を読んでおけば、心の支えになってくれるでしょう。

 

 

【書籍紹介】

会って、話すこと。

著者:田中泰延
発行:ダイヤモンド社

自分のことは話さなくていい。相手のことも聞き出さなくていい。ただ、お互いの「外」にあるものに目線を合わせられれば、誰とだって会話は続くし、楽しくなる。2020年から非日常になってしまった「会って、話す」を問い直し、幸せな人間関係を築くための技術と考え方を伝えます。

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導入・設定からメールや検索、Officeソフトの使い方まで、Windowsに関する悩みをまるごと解消!『パソコンで困ったときの大事典』

「パソコンで困ったときの大事典」は、パソコンを使うなかで生じる様々な悩み、疑問、トラブルへの対処法をまとめた一冊です。本書では、Windowsパソコンの導入や初期設定、Windowsの基本的な使い方、WordやExcelなどのOfficeソフトの操作法、メールやインターネットの基礎、周辺機器の扱い方や各種エラーへの対応策など多岐にわたるケースを豊富な図版とともに解説しています。

 

よくある悩みや疑問をQ&A形式でていねいに解説

本書では、Windowsパソコンやアプリ、周辺機器に関する多くの悩みや疑問とそれに対する解決策をQ&A形式でまとめています。解説パートは、図版を豊富に収録しており、初心者でも迷わずに操作手順を理解することができます。

 

WordやExcel、メール、Zoomなど多くのアプリの使い方がわかる

Windows自体の使い方だけでなく、WordやExcelといった主要なOfficeソフトについてもしっかりと解説。さらに、Windows標準のメールアプリや写真アプリ、インターネットブラウザのEdgeのほか、ビデオ会議が可能なZoomなどについても、基本操作や上手な使い方を紹介しています。

 

エラーやトラブルへの対処法もマスターできる

パソコンと付き合ううえで避けては通れないのがエラーやトラブル。そんな非常事態への対処法もしっかりと解説しています。
また、パソコンの動きが遅くなったり、新しいパソコンに引っ越したりといったケースや、データのバックアップをとっておきたいケースでも、やるべきことの手順をイチから紹介しています。

 

[商品概要]
パソコンで困ったときの大事典

著者: GetNavi編集部
定価: 1320円 (税込)

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・Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/465120211X/
・セブンネット https://7net.omni7.jp/detail/1107290259

大人気田舎ライフコメディ『のんのんびより』ロスを癒やしてくれる『のんのんびより りめんばー』

日常ほのぼの系マンガ・アニメが好きな僕が、愛して止まない作品が『のんのんびより』だ。とある田舎にある学校を舞台に、その学校に通う生徒たちとその家族や友人などが送る日常風景を描いた、ほのぼのコメディだ。

 

2021年2月に連載が終了。その後短期連載などはあったものの、のんのんびよりのストーリーは終わったと言っていい。

『のんのんびより』ロスをいやしてくれる一冊

連載が終わったといっても、マンガ・アニメはいつでも見られる。ただ、今後新しいエピソードが読めないのかと思うと寂しさを感じる。

 

作品内では、登場人物たちは歳を取らない。同じ1年を何回か繰り返すシステム。ただし、本編の最後には1年が経過し、生徒たちは1学年上になった。おめでとう。

 

ただ、成長した登場人物たちのその後が見られないし、これまで語られていないエピソードがもう出てこないというのは寂しい。そんなぽっかり空いた心の穴を埋めてくれるのが、『のんのんびより りめんばー』(あっと・著/KADOKAWA・刊)だ。

 

駄菓子屋の過去と夏海の未来

本書には、『のんのんびより』のこぼれ話や、登場人物の詳細設定、その他作品内の世界観を補完してくれる解説などが掲載されている。こぼれ話は書き下ろしで、過去の話や1年後、2年後の話などがあり、登場人物たちの未来をちょっとだけ見ることができる。

 

個人的に気に入っているのが、こぼれ話の1話と4話。1話は駄菓子屋(加賀山楓という女性だが家業が駄菓子屋なのでこう呼ばれている)とれんげ(作品内では小学校1年生〜2年生の少女)の、5年前の話。駄菓子屋は子どもが苦手だが、れんげに対しては愛情が深い。ツンデレなので素直には愛情表現はできないが。子どもが苦手な中学3年生とまだ赤ちゃんのれんげのふれあいのエピソードは、心が温まる。

 

で、こぼれ話の4話が、中学3年生になった夏海(作中では中学1年生〜2年生。勉強はできないがとにかく元気)が、駐在所で生まれた赤ん坊のお守りをするという話。あまり赤ん坊の世話などはできないタイプの夏海だが、なんやかんやお守りをするというエピソードだ。

 

この2つのこぼれ話を最初と最後に配置されているのは偶然ではないはず。駄菓子屋とれんげの関係性と、夏海と赤ん坊(かすみ)の関係性が重なり、何ともいえない柔らかい感情になる。こういうところが、『のんのんびより』のおもしろいところだ。

 

『のんのんびより』は不滅

本書には、主人公たちの詳細なデータが記載されている。それぞれの年齢は作品を観ていれば想像がつくが、身長や誕生日などが明記されているので、ファンにはうれしい。中学2年生ながら身長が低い小鞠の身長は「140cm未満→140cmくらい」とアバウトだが。

 

ボリューム的にはもうちょっとあってもいいかなと思うが、登場人物たちの未来が描かれているのはとてもうれしい。『のんのんびより』が終わって寂しいなと感じている人は、本書を読んでみると、まだみんながあの田舎町で暮らしていることがわかり、安心できるだろう。『のんのんびより』は永遠に不滅です!

 

【書籍紹介】

のんのんびより りめんばー

著者:あっと
発行:KADOKAWA

惜しまれつつも連載終了した、大人気田舎ライフコメディ『のんのんびより』のこぼれ話やお楽しみ情報を収録した番外編が登場!

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2040年には独身者が5割に!? 「おひとりさま社会・日本」を生き抜くための知恵とは?——『「一人で生きる」が当たり前になる社会』

2年以上も続くコロナ禍。新株の名前や第7波という言葉にリアリティを感じ始める人が多くなっている中、孤独死が増加の一途を辿っている。

「一人で死ぬ」まで続く「一人で生きる」ステージ

最近ではコロナに感染した独居老人の容態が悪化し、そのまま亡くなるというパターンも決して珍しくはないだろう。ただ、孤独死という現象自体はコロナ禍が始まってから顕著化したものではない。『特掃ジャーナル』の記事によれば、孤独死の増加が目立ち始めたのは2013年だった。50歳以上のグループに限って言うなら、2019年の孤独死総数は2015年度と比較して1.13倍に増加している。

 

当然ながら、一人で死ぬという状態の前段階には「一人で生きる」というステージがある。昭和・平成・令和と元号が新しくなっていく過程で、ライフスタイルや社会意識は大きな変化を遂げた。少し前から「おひとりさま」というフレーズがごく一般化していることからもわかるように、一番大きな変化が訪れたのは結婚観ではないだろうか。

 

「一人で生きる」が当たり前になる社会』(荒川和久、中野信子・著/ディスカヴァー・トゥエンティワン・刊)は、読者に客観的な事実を伝える文章から始まる。

 

2040年には、独身者が人口の5割になり、既婚者(64歳まで)は3割になる—。この衝撃的な数字を見て、みなさんはどのように感じたでしょうか。

『「一人で生きる」が当たり前になる社会』より引用

 

64歳までの既婚者は、かなりのマイノリティになってしまうということなのだ。

 

独身研究と脳科学

本書は、独身研究の第一人者である荒川和久氏と脳科学者の中野信子氏の対談というフォーマットに乗せて話が進んでいく。章立てを見てみよう。

 

第1章 「ソロ社会」化する日本

第2章 孤独とは悪いことなのか?

第3章 ソロの幸せ、既婚者の幸せ

第4章 恋愛強者と恋愛弱者の生存戦略

第5章 ソロ化と集団化の境界線

第6章 自分とは何か—一人の人間の多様性

第7章 世の中を動かす「感情主義」のメカニズム

終 章 「withコロナ時代」の生き方を考える

 

「2040年には、独身者が47%に」「一人でいたい人は4割、他者と一緒にいたい人は6割」「ソロ男の外食費は、一家族分の外食費の2倍近い!」「友だちの数が可視化されて、孤独を増進するSNS」など、思わず読んでみたくなる見出しが各章に並ぶ。

 

恋愛も結婚もディストピアでしかないのか

こんなやりとりがある。

 

中野 もう若い層は結婚しないほうが当たり前の世界がすぐそこに来ているんですね。

荒川 結婚したとしても晩婚になりますし、離婚も増えてきているので、必然的に独身が増えます。

中野 最近は、結婚するにしても「永遠の愛を誓う」というような風潮ではなくなってきたように思います。結婚する
メリットを疑ってかかる時代に、本格的に突入したという感じでしょうか。

                 『「一人で生きる」が当たり前になる社会』より引用

 

恋愛や結婚をディストピア視する人たちが増え始めたのはいつごろからだろうか。事態は想像よりもはるかに深刻なのだ。どれくらい深刻なのか。内閣府・男女共同参画局が主催する「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」で、「壁ドン・告白・プロポーズの練習」の必要性が大マジで取り上げられるほどなのだ。

 

まずは慌てず、今の歩みだけを見る

丹念にファクトを積み重ね、専門知識に裏付けられながら進む対談には深みと重みが感じられ、説得力は抜群だ。特定の主張を押し付けるようなニュアンスもない。冷静な口調で論拠が示された後の荒川氏の言葉は警鐘ではなく、ごく近い未来に確実に訪れる状況の説明にほかならない。

 

日本は今まさに、「少産少死」から「少産多死」の時代への過渡期にあります。すでに、日本は年間当たり出生数より死亡数の多い「多死社会」へ突入しています。まもなく数年後には、年間150万人以上の死亡が50年にわたって続く時代になるのです。

 『「一人で生きる」が当たり前になる社会』より引用

 

ただ、ディストピアの到来をじっと待つだけという手はないはずだ。あとがきに次のような言葉がある。

 

私たちが向き合うべきは、変わるはずのないものを変えられるかのような欺瞞や茶番ではなく、ファクトを知ったうえで、不可避な未来を見据え、今をどう歩いていくかということだと思います。ソロ社会、個人化する社会は、決して絶望の未来ではありません。

                 『「一人で生きる」が当たり前になる社会』より引用

 

スピリチュアリズムの話をしているわけではない。過去を悔やまず、未来を心配せず、今という瞬間だけを考えて生きる。そういう姿勢が実用的になる時代が来ることは、もはや確実のようだ。

 

【書籍紹介】

「一人で生きる」が当たり前になる社会

著者:荒川和久、中野信子
刊行:ディスカヴァー・トゥエンティワン

2040年には、人口の半分が独身者に…「ソロ大国・ニッポン」をどう生きるか、徹底検証!

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幸福を贈り合うことで社会を変える——『世界は贈与でできている』

誰かに愛情を贈られると、こちらも愛情でお返ししたくなる時があります。その愛情のお返しは、贈ってくれた本人ではなく、他の誰かに向かうこともあります。こうした愛情の行き交いは「贈与」という考えかたで説明ができるそうです。

またあの体験をしたい

私にはまた行きたくなるお店がいくつもあります。またあの美味しいごはんを食べられる、また楽しい時間を過ごせるなど、行くとうれしいことが起きる場所だと信頼しているお店です。

 

都立多摩図書館に調べものに行った帰りに寄る喫茶店「クルミドコーヒー」もそんなお店のひとつです。お店の細部に至るまで可愛らしい工夫がなされていて、心くすぐられる発見の連続で楽しかったし、しかも出された食事がとびきり美味しかったのです。

 

心が満たされるということ

「クルミドコーヒー」では、お店自体が出版社を運営していて、お店でだけ買うことができる小さな本を売っていました。その試みもとても素敵でしたし、お店にはクルミとクルミ割り器が置かれていて、好きなだけクルミを割って食べることもできました。

 

店内はツリーハウスのような温かみある設計で落ち着けたし、伝票の代わりに小さな木の人形を渡され、それを渡してお会計をしたりと、童話の世界に入り込んだかのような小さなときめきの連続でした。店員さんとはほとんど関わらなかったのに、店内の仕掛けによりたくさんのサービスを受けたと感じられたのも、不思議で楽しい経験でした。

 

たくさん受け取ると返したくなる

世界は贈与でできている』(近内悠太・著/ニューズピックス・刊)にも、そのお店のオーナーの考えかたが紹介されていました。人は金額以上のものを受け取ったと感じると、また行きたくなったり、友人知人にそのお店を紹介したくなったりするのだそうです。確かに私はそのお店のことをTwitterに書いて、素敵なお店でしたと自主的に宣伝していました。

 

この本では「贈与」について深い考察がされています。贈与というと、私たちはどうしても贈与税などお金が絡むことを連想してしまいますが、本書でいう贈与とは「僕らが必要としているにもかかわらずお金で買うことのできないものおよびその移動」を指しています。たとえば親から子への愛情もそのひとつです。そして私のカフェでの体験もお店から贈与(過分な温かなもてなし)を受けたということで説明がつくそうです。

 

フリーと贈与の違い

2009年に『フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略』(クリス・アンダーソン・著/NHK出版・刊)という本が話題になりました。このフリー(フリーミアム)という方法は、本を出版する前に期間限定で無料で本を全文公開するというような無償提供のスタイルです。当時は本を無料で見せるなんて、と驚く人も多かったですが、今ではSNSで無料公開されたコミックが後で本になることは珍しくありません。

 

フリーと贈与の違いは何かというと、フリーの場合は贈る側は大きな負担はない(元々ある原稿を公開するので)けれど、贈与の場合は、その人のために時間をかけたりと、相手に尽くす度合いが強くなっているように感じます。しかしそれを苦にしない意欲が贈り主にあるのです。それは贈り主自体が贈るほどの量の愛情を備えているからなのかもしれません。

 

幸せが連鎖する社会へ

『世界は贈与でできている』では、贈与には必ずプレヒストリーがあると考察されています。事前に誰かから何かを贈られているから、それを次の誰かに贈ることができるというものです。次の贈り先を誰にするかは自分が決めて行動するものなので、そこに自分の生きざまも現れることでしょう。

 

私が心地よく過ごした喫茶店も、オーナーやスタッフが日頃からあの童話的空間で十分に癒されているからこそ、来店者にもその素晴らしさを伝えたくて心憎い数々の演出を用意してくれているのかもしれません。そしてそのサービスを受け取り心が満たされた私も誰かに素敵な贈り物をあげたくなりました。そんなささやかな贈与の連鎖がこれからの心地いい社会を作るきっかけになるのだとしたら、とても素敵なことだと思うのです。

 

【書籍紹介】

 

世界は贈与でできている

著者:近内悠太
発行:ニューズピックス

最有望の哲学者、「希望」のデビュー作。「仕事のやりがい」「生きる意味」「大切な人とのつながり」-。なぜ僕らは、狂おしいほどにこれらを追い求めるのか?どうすれば「幸福」に生きられるのか?ビジネスパーソンから学生まで、見通しが立たない現代を生き抜くための愛と知的興奮に満ちた“新しい哲学”の誕生!

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レジェンドの「まんがの描き方」から社会運動を知る絵本まで—— 歴史小説家が選ぶ「入門・スタート」のための5冊

毎日Twitterで読んだ本の短評をあげ続け、読書量は年間1000冊を超える、新進の歴史小説家・谷津矢車さん。今回のテーマは「入門・スタート」。谷津さんが選んだ5冊を眺めつつ、あなたもなにか新しいことを始めてみませんか?

 

【過去の記事はコチラ


つい先日、お世話になっている編集者から人事異動のご連絡を頂いたばかりである。基本的に歳時記に影響を受けないのだが、取引先である出版社は一般企業、編集者のぼやきや報告から「そういえば、もう〇月か」と気づかされたりもする、世間に超然とした態度を取り切れないのが作家という稼業である。なんかふと、己の在り方が水槽の中をぐるぐる泳ぐ熱帯魚のようにも思えてきて、やるせない気分になり、じっと手を見る次第である。

 

さて、新生活の時期である。大きな変化があった方、なかった方、いろいろあるだろう。けれど、変化があった人たちに合わせ、なんとなく世の中全体が「新しいことを始めよう」みたいな殺気を帯びる季節もである。いっそ、風潮に乗ってみるのも一興かもしれない。

 

というわけで今月の選書テーマは「入門・スタート」である。

 

物語を書きたくなったあなたに

一冊目は漫画技法書から。『藤子・F・不二雄のまんが技法』 (藤子・F・不二雄・著/小学館・刊)である。『ドラえもん』『パーマン』『チンプイ』などなどの名作を生み出してきた国民的漫画家による漫画技法書である。さて、皆さん、いきなり面食らってはいないだろうか。「藤子F先生って子供向け作品ばっかり書いている方じゃないか、大人が読んで参考になるの?」と。

 

心配ご無用である。とにかく本書においては、「楽しく描くこと」、「物語作りの楽しさ」が前面に押し出されている。絵の練習が欠かせないことは前提として提示されているとしても、「好きこそものの上手なれ」を高らかに謳い上げた一冊になっている。

 

本書は漫画を描いてみたいという方はもちろん、広く「物語」を書きたい方にとって大いに参考になる本である。なので、生活の変化をきっかけに漫画や小説を書いてみたくなったという方や、物語作りを教える学校に進学なさった方の最初の一冊にもお勧め出来る一冊である。

 

社会運動について知りたいあなたに

お次は異色の絵本から。『プロテストってなに? 世界を変えたさまざまな社会運動』(アリス&エミリー・ハワース=ブース・著、糟野桃代・翻訳/青幻舎・刊)である。皆さんは社会運動についてどういうイメージをお持ちだろうか。たぶん世代によってもばらつきがあろうし、政治的スタンスによっても答えが変わってくるだろう。かくいうわたしも社会運動にはあまり関わっていない。

 

本書は、紀元前から現代まで起こり続けてきた社会運動を平易に紹介している。絵本形式で書かれていることもあって肩こりすることなく読め、人間の営みとしての社会運動に触れ、社会運動の役割について知ることができるだろう。もちろん、わたしには本書を通じて皆さんを特定の社会運動に誘導する意図は毛頭ない。だが、有史以来繰り返されてきた各社会運動がなにを願い、社会のなにを変えてきたのかを知ることは社会の成員として大事なことだ。その上で、今は関わっていないとしても、いつか、もしかしたらあなたにだって社会運動が必要になる日が来るかもしれない。その際の入門書になるだろう一冊である。

 

絵画鑑賞を趣味にしたいあなたに

お次は『名画BEST100』(山内舞子 ・監修/永岡書店・刊)である。本書はその名前の通り、世界の名画をベスト100形式で紹介する書籍である。わたしは絵をモチーフに小説を書くことがあり、それゆえに読者の方から「絵ってどうやって観たらいいかわからない」「絵を鑑賞する楽しさがわからない」というご意見を頂戴することがある。ぶっちゃけフィーリングでもいい(この絵は自分好み、自分好みじゃない、とジャッジしながら絵を鑑賞するのも決して悪いことではない)というのがわたしの基本スタンスなのだが、絵の持っている文脈を踏まえつつ鑑賞するのも楽しい。その際にお勧めできるのが本書である。

 

本書は作品や画家の来歴や生きた時代を紹介、その上で名画の位置づけを説明している。その上で要点を絞り、絵の見所を紹介しているのも特徴だ。これは一つの見方として、という但し書きのつく提案だが、画家の来歴を知ると、絵を観る楽しさが倍増する。「この作品、若書きなんだ」とか、「この絵、そんな大変な時期に描いてたんだ」と知ることで、絵を媒介にして、画家と向かい合っているような感覚に陥ることがある。

 

あんまり意識はされないが、日本人は美術好きである。毎年のように大都市では海外の画家をテーマにした大きな展覧会が開かれ、国宝級の名画が日本にやってくる。絵画鑑賞を趣味にしたい皆さんの入門書として、本書を手に取って頂ければ幸いである。

 

縄文時代を詳しく知りたいあなたに

お次は『縄文人も恋をする! ?』(山田 康弘・著/ビジネス社・刊)である。精力的に一般向け考古学書籍を上梓している考古学者による、縄文時代入門書である。副題に「54のQ&Aで読み解く縄文時代」とあるように、一般の人からやってきた縄文時代に関する質問に答えるQ&A形式となっているため、小学校の社会の授業で知識が止まっている人でも楽しく読めるハードルの低さが本書の特徴である。しかし、初心者向けの外装をしておきながらなかなかディープな知識をも扱う本であり、本書の内容をすべて理解できれば、考古学を専攻する大学二年生並の知識量になっているはずである。

 

何より本書は「考古学がどういう思考法で往時の人々の生活に肉薄しようとしているのか」を知ることができる。

 

今、世の中は幾度目かの縄文ブームである。かつて岡本太郎が縄文土器をアート的文脈で捉え直したように、ポップカルチャー的な文脈で縄文文化を捉え直し、「KAWAII」的文脈の中に取り込む動きが起こっている。いや、この動きは悪いことではないとわたし個人は考えている。文化をより豊かにする行ないだからだ。しかし、その立場に立ったとて、元ネタを知った上で取り組んだほうがより楽しいはずである。2022年現在の学問の成果を踏まえることで、昨今の縄文ブームもさらに光彩を増していくのではないか。という元考古学徒の呟きはさておき、縄文の入門書としてぜひぜひ。

 

古生物学の発展と19世紀英国の女性の社会的地位について知りたいあなたへ

最後は児童文学から。『ライトニング・メアリ 竜を発掘した少女』(アンシア・シモンズ・著、布施由紀子・翻訳/岩波書店・刊)である。本書は、イルカに似た海竜、イクチオザウルスの全身骨格を発見、発掘した実在のイギリス人女性化石採集者、メアリ・アニングを主人公にした小説である。本書、児童文学の括りの作品であるが、大人にも読んで欲しい一冊である。

 

ややネタバレになるかもしれないが、あえて書こう。本作の主人公であるメアリ・アニングは上流階級に属していない。19世紀のイギリスに男女同権の概念はない。そして、本書に描かれるイギリス社会は神学の影響が強く、進化や絶滅といった概念にも疑いの目が向けられている。父親の影響から化石を発掘し始めたメアリがその化石の正体に目を向けるようになると、様々な壁が彼女の前に立ちはだかってくるのである。

 

本書は古生物学の黎明期を描いた小説でありつつも、偏狭な時代に生まれついた一人の女性の戦いを描いた歴史小説であり、社会の軋轢に向かい合った女性のスタートラインを描いた小説ともいえるのである。

 

メアリがなにと戦い、なにに憤ったのか。本書を辿っていくうちに、現代のわたしたちにも通じる苦悩にも気づくことができるはずである。

 

 

四月は変化の季節である。

変化は常にしんどさを伴う。あまり変化のない仕事をしているわたしが言うのはなんだと思うが、それでもかつては勤め人だった経験もあり、皆さんのご苦労にある程度思いを致すことはできる。だからこそ、本というパラシュートを使ってソフトランディングをしていただきたいと心から願っている次第である。

皆さんの新生活に幸あれ。

 

【過去の記事はコチラ

 

【プロフィール】

谷津矢車(やつ・やぐるま)

1986年東京都生まれ。2012年「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞受賞。2013年『洛中洛外画狂伝狩野永徳』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』にて歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。最新刊は『北斗の邦へ跳べ』(角川春樹事務所)

 

発酵学博士が北海道の幸を食べまくり! 「スシニシン」はご飯何杯でもいける~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。「生まれてから一生、47都道府県のひとつから出られないとしたら、どこを選ぶ?」。この質問には答えが割れることでしょう。愛着のある地元? 冬が過ごしやすい温暖な地域? それとも遊ぶところに困らない東京?

 

では、次の質問ならどうでしょう。「生まれてから一生、47都道府県のどこかひとつで採れた食材しか食べられないとしたら、どこを選ぶ?」。これなら北海道を選択する人がぐっと増える気がします。魚介類に乳製品、トウモロコシなどの野菜、最近ではお米の味も評判が上がっています。私の好きな桃はほとんどなさそうですが、メロンがあるので大丈夫です(笑)。

 

発酵学者が北海道の食を語る!

 

さて、今回紹介する新書は食エッセイ『北海道を味わう 四季折々の「食の王国」』(小泉 武夫・著/中公新書)。著者の小泉武夫さんは、日本の発酵学の第一人者で東京農業大学名誉教授。『発酵食品礼讃』(文春新書)、『食と日本人の知恵』(岩波現代文庫)など著書も多数です。エッセイ「食あれば楽あり」を日本経済新聞に長年連載している文筆家としても知られています。

 

小泉さんの北海道との縁は約30年前にさかのぼります。北海道庁農政部から依頼を受けてアドバイザーに就任した小泉さんは、「小泉博士の北うまっ!プロジェクト」に長年携わり、北海道各地のさまざまな食べ物と出会ったのだそう。その食べ歩きの経験が思う存分活かされています。

北海道ならではのジャガイモの食べ方は?

本書は春夏秋冬の四季ごとに分かれて、それぞれ「海の幸」「大地の幸」「季節の料理」を紹介するという構成。浜ゆでベニズワイガニ、フキノトウの味噌炒め、砂糖水のように甘いニンジンジュース、幻のサケ「銀聖」、“世界一美味しい”ジンギスカン……。

 

文字だけでもヨダレが出そうですが、私が強く心引かれたのは、「春の味覚」で紹介されている料理「スシニシン」。これはいわゆるお寿司ではなく、春に産卵のためにやってくるニシンを使った保存食で、活きのいいニシンの腹に塩ぬかを詰めて樽に並べて漬け込んだ発酵食品です。

 

地元の漁師さんの家で初めて食べさせてもらったとき、小泉さんは発酵学者として衝撃を受けたのだとか。数年間貯蔵していつでも利用できること。漬けて半年の若いスシニシンは発酵食品の常識を破り、焼いて食べるということ。「三平汁」や「飯鮓(いずし)」の味付けにも利用されること……。

 

耐塩性の乳酸菌と酵母で発酵したスシニシンを焼いたものは、一般的な焼きニシンとまるで違った味で、「実にうま味と酸味が濃く、塩も角が取れておだやかになっていた。……ご飯の上にのせただけで、もう他のおかずなど無用となり、それだけで何杯もご飯が食べられた」とか。

 

このスシニシンの項目に限らず、本書は全体的に発酵学者としての分析と、食通としての味の描写が一体となって、読者の知識欲を満たし、大いに食欲をかき立てます。

 

これから迎える夏の実りでは、7月下旬から収穫される新ジャガ! 小泉さんによると、北海道だけの“奇妙な”ジャガイモの食べ方があるそうです。それは茹でたジャガイモにイカの塩辛とバターを塗り付けて食べる「塩辛ジャガバター」。

 

バターが少し溶けたあとに塩辛をのせるのがコツで、こうすると塩辛の塩味がマイルドになって美味しいのだとか。「塩辛×新ジャガ」、海と大地の出会いはある意味北海道の真髄ですね。

 

春夏秋冬、定番の食材から知られざる名物までてんこ盛りに紹介されている一冊。どこを訪れて食べたか、誰が料理してくれたかといった旅情感もあってほっこりした気持ちになれます。人間って美味しいものをほおばっているときが一番幸せですよね!

 

【書籍紹介】

北海道を味わう 四季折々の「食の王国」

著者:小泉武夫
発行:中央公論新社

春はニシン、ヤマワサビ。夏はウニ、ジャガイモ。秋はサケ、新米。冬はカニ、タラ。そして通年でジンギスカン、ラーメン……。北海道は、日本ばかりか世界でも有数の「食の王国」である。海・川・湖の幸、広大な大地の幸に恵まれ、食材本来の良さを生かした料理の数々は、私たちを魅了してやまない。無類の食いしん坊を自認し、北海道中を長年食べ歩いた発酵学の第一人者による、垂涎のうまいもの尽くしエッセイ。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

総力特集はUFOと北極地底文明の謎!月刊「ムー」5月号

世界の謎と不思議に挑戦するスーパーミステリー・マガジン・月刊「ムー」5月号が発売中です。

総力特集 UFOと北極地底文明の謎

広大なタイガが広がる極北のシベリア、その地には人間の侵入を拒み、目に見えない力が支配する死の谷がある。禁足地ともいうべき死の谷を調査したところ、地底に未知の超古代遺跡が存在することが判明した。しかも、遺跡は今も機能しているというのだ。いったい、超古代遺跡の正体とは何か。北極地方に飛来するUFOとの関連はあるのか。極北の異人類文明に挑む‼

2色刷り特集 未確認動物UMA怪談

無気味な姿をした正体不明の謎の生物。未確認動物UMAに遭遇した人々が語る恐ろしい体験談の数々を紹介する。たんなる遭遇事件ではない、世にも奇妙なUMA怪談の世界‼

今月もミステリー記事満載‼

特別企画 異様に古びた「令和元年銘10円玉」の謎を追う‼ /実用スペシャル 納豆が人類を救う‼/別冊特別付録 緊急提言! 明かされるゾーン状態の謎/特別とじ込み付録 負の波動を正の波動に変える「惑星神の護符」/ロシアのウクライナ侵攻はイルミナティカードに予言されていた‼/太陽に超巨大モノリス出現‼/トンガ海底火山噴火による津波の謎/奇書「契丹古伝」が語る日本人のルーツ「辰国」の謎/ほか

[商品概要]
月刊ムー 2022年5月号

著者: ムー編集部
定価: 900円 (税込)

【本書のご購入はコチラ】
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・セブンネット https://7net.omni7.jp/detail/1234139078

もし、あなたが日常を放り出したくなったら、まずは大好きな詩や写真を眺めて欲しい——『天の指揮者』

天の指揮者』(服部剛・詩、関谷義樹・写真/ドン・ボスコ社・刊)は、二人の芸術家が集い、寄り添い、完成させた本です。一人は服部剛。詩集『我が家に天使がやってきたーダウン症をもつ周とともにー』で知られる詩人です。もう一人は関谷義樹。カトリックの司祭ですが、写真家としても活動しています。この二人が、それぞれの思いをそれぞれの方法で表現した結果、写真詩集というべき作品が出来上がりました。

もう一人の魅力的な参加者

二人の前にあるのは、雄大な自然です。それは山であったり、滝であったり、湖であったり、砂漠であったり、世界中を巡っています。それがたとえどこであっても、自然は私たちに様々な姿を見せてくれます。写真を眺めていると、なぜか心が安らいできて、たとえ今日がどんなにつらくても、明日には、希望を感じる日差しをこの身に受けられるのではないかという思いが湧いてきます。

 

写真と詩のコラボレーションには、もう一人、参加者がいます。女優の秋吉久美子です。詩を通じて服部剛と交流があった彼女は、快く『天の指揮者』のまえがきを書くことを承諾したのだそうです。そして、印象的な散文詩を寄せています。

 

生きることは荒むことなのかもしれない。
ときに熾烈な争いであり、予断を許さない運の勝敗に翻弄される。
だからこそ人は、神の平安を求めて天を仰ぐ

(『天の指揮者』より抜粋)

 

ぐいっと心をつかむような書き出しです。確かに、生きることは荒むことの連続かもしれません。けれども、私たちには慰めが与えられます。ある人にとっては、それは信仰でしょう。またあるときは、家族が支えとなります。さらには、私たちをとりまく自然がつらい心を慰め、癒やし、力を与えてくれるに違いありません。だからこそ、私たちはどうにかその日をやり過ごし、明日に向かって顔を上げることができるのです。

 

詩の力と写真の力

詩を読んでいると、心の柔らかいところをつかまれたような気持ちになります。ふいに思いがあふれ、自分をもてあますほど心が揺れて、どうしたらよいのかわからなくなったりもします。そんなとき、私は頭の中で架空のカメラを思い描き、シャッターを押してみます。すると、思いは具体的な画像となって心に焼き付けられ、記憶となって心に定着します。

 

素晴らしい写真を見たときは、心が震え、体が熱くなり、詩を書きたくてたまらなくなります。なぜそういう思いになるのか自分でもわかりませんが、目から入った感動を文字で残したくなるのです。人間の持つ本能なのかもしれません。

 

『天の指揮者』も、詩と写真が出会い、共鳴し、互いの思いを打ち明け合ったからこそ出来上がったのでしょう。コラボレーションとはこういうことを言うのではないでしょうか。どの詩もそれぞれに素晴らしく、写真も胸に迫ります。私が一番好きだと思った詩と写真が同じ作品だったことに自分でも驚いています。共鳴の度合いが大きいため、深く心に届いたのでしょう。

 

それは「雪山の聖夜」という作品で、次のようなものです。

 

日々の不器用な
自分を脱ぎたくて、変わりたくて
旅に出たのです

道の途上は雪原で
黄色い電気の硝子戸に、人影うつる
あの小屋の煙突から

しゅるしゅるる
しゅるしゅるる

十二月の
仄かな宵闇空に
ひとすじ 煙は昇りゆく

それは、火照りおどる吐息
今まで凍えた体の内に
<炎の芯は…めらめらと…>
通いくる
雪明かりの夜でした

(『天の指揮者』より抜粋)

 

この詩とコラボレートしている写真を、是非見ていただきたいと思います。本当に、雪山に「しゅるしゅるる」という風景が広がっているのに驚きます。そして、まえがきにあった「山は祈り、人は願う。山は教え、人は識る」の言葉を実感します。

 

心が疲れたとき

このところ、「あぁ、疲れた」と思うことが増えました。ひとつには寄る年波には勝てず、体力がなくなってきたからです。さらには、コロナ禍での毎日は不自由で、重ねて家族も病気がちです。もちろん、そんなことには関係なく締め切りはやってきます。

 

そのためでしょうか。いつもは大好きな読書が負担に感じるようになりました。心身共に疲れると、長い文章を読むのが負担になるのかもしれません。読みかけの小説が投げ出したままになっています。感動するのは疲れることでもあるからです。楽しみにしていたDVDを観ていて、途中で消してしまうときもあります。頭のメモリがいっぱいになったかのようで、理解できなくなり、居眠りをしてしまうのです。

 

そんなとき、『天の指揮者』を通して自然と出会ったら、心底、休まりました。もし、あなたが何かと疲れる日常を放り出したくなっていたら、「もう駄目、これ以上耐えられない」と、泣きたくなったら、まずは深呼吸をして、大好きな詩や写真を、眺めてみてください。それが一番の薬になるのではないでしょうか。じいっと見つめるのではなく、心をからっぽにして、ただ眺めるのです。するとどこからか不思議な力が湧いてくると私は信じています。

 

【書籍紹介】

天の指揮者

著者:詩・服部剛 写真・関谷義樹
発行:ドン・ボスコ社

服部剛氏の綴る心に響く46編の詩と、関谷義樹師の撮る雄大な自然を切り取った46枚の写真のコラボレーション。生命の尊さ、生きることのすばらしさを伝える感動の写真詩集は、この本を開く者に至福の時間をもたらすだろう。

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仕事や家事の合間に! 動画付きで超わかりやすいエクサイズ本『さやピラ式背伸びするだけでやせボディ』

新生活が始まり、緊張していた心と体に少しずつ疲れを感じているのではないでしょうか?

 

そんな時におすすめなのが、Instagramでも人気のピラティスインストラクターsayaさんの『さやピラ式背伸びするだけでやせボディ』(saya・著/ワン・パブリッシング・刊)。この本には、背伸びするだけでやせやすい体をゲットできちゃう驚きのメソッドが掲載されています。

 

またエクササイズのページごとに動画もあるので、スマホにブックマークしておけば、いつでもどこでもすぐに実践できちゃうすぐれもの。今回は、何かと緊張しやすい春にぴったりなさやピラ式エクササイズをご紹介します。

 

「さやピラ」なら、伸びるだけでOK!

エクササイズ本は、続けるのが難しかったり、「〇〇だけ」と言いつつ「だけ」じゃなかったり……買ってはみたものの1回やって、放置状態なんて人も多いかもしれません。

 

しかし、この『さやピラ式背伸びするだけでやせボディ』は、本当に背伸びだけ。ここも伸ばせるのか〜! と驚くほど、伸びのバリエーションも豊富で、実際にやってみると、超気持ちいい♪ ハードな動きは少ないので、家事や仕事の合間にサッとできるのも嬉しいです。そんな「さやピラ」とは、一体どんなメソッドなのでしょうか?

 

私がこの本で紹介する「さやピラ」とは、私が考案した「背伸びの動き」と「ピラティス」をかけあわせたメソッドのこと。悪い姿勢を続けて、縮こまらせてかたくなってしまった筋肉を伸ばし、姿勢を改善することで、理想のボディに導くというものです。

(『さやピラ式背伸びするだけでやせボディ』より引用)

 

「さやピラ」を考案したsayaさんのオンラインレッスンも人気。受けている方には、3児のママでウエスト5cm&体重5kg減した方も! Instagramでもさまざまなエクサイズを発信されていますが、『さやピラ式背伸びするだけでやせボディ』は目的別にまとまっているので、初めての方でもわかりやすく使いやすい一冊になっていますよ。

 

動画付きだから、運動が苦手な人でもわかりやすい!

エクササイズ本だと、静止画なので「この間の動きは?」と気になることもあるのですが、『さやピラ式背伸びするだけでやせボディ』はなんと動画付き!

 

DVDではなく、エクササイズのページごとにQRコードが記載されているので、スマホでQRコードを読み込めばすぐに動画がチェックできます。

 

 

フルカラーなので、書籍だけでも十分わかりやすいですが、お気に入りの動画ページをブックマークしておけば、仕事の合間やキッチンで家事をしている時など、本を開かずともエクササイズができますよ。

 

私も歯磨きしながら、エレベーターに乗っている間、在宅ワーク中など、本が近くになくてもスマホで動画ページを見てエクササイズしています。

 

個人的なお気に入りは、背中美人をつくる「バンザイ&Wポーズ」のエクササイズ。これは朝起きてすぐ、メール送信した後、お風呂に入る前など、常にやっていたので動画を見なくてもできるようになりました(笑)。肩甲骨まわりが刺激されるので、デスクワーク中心の方や背中に疲れが溜まりやすい人にもおすすめのエクササイズです!

 

無理せずマイペースに!  sayaさんの言葉にも勇気をもらえる!

『さやピラ式背伸びするだけでやせボディ』には、著者であるsayaさんの言葉もたっぷり掲載されています。

 

「どうしたらモチベーション上がりますか?」「おかしがやめられない……」などボディメイク中の気になることについても丁寧に回答されています。また、エピローグには、もともとメンタルが弱かったと語るsayaさんの濃厚メッセージが。とっても笑顔が素敵な方ですが、その笑顔の裏にはこんな苦労があったのかと、ちょっとウルウルしてしまうエピローグでした。

 

この一冊で、心も体も元気になれること間違いなし♪ 新生活で疲れたら、自分の体を労ることも大切です。ちょっとエクササイズするだけで、頑張りすぎな自分にも気づくことができます。縮こまった体を、さやピラでぐ〜んと伸ばして、元気な毎日を過ごしましょう!

 

【書籍紹介】

さやピラ式背伸びするだけでやせボディ

著者:saya
発行:ワン・パブリッシング

現代人は日々の家事、スマホ操作、デスクワークで筋肉がぎゅっと縮こまっており、その機能を弱めてもいます。そんな筋肉を正常な状態に戻すことで、代謝が上がり、やせ体質になることができます。そこで本書で紹介するのが「さやピラ式背伸び」。この背伸びを行うことで全身の筋肉にアプローチでき、効率的に刺激を与えることができるのです。「腕がしっかり上がらない」「股関節の伸びが悪い」といったお悩みにも補強レッスンで解説しているので、ダイエット初心者でも無理せず始めることができます。

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どうして、絆は壊れてしまったのか? 家庭、親子のあり方を問う実話——『家族』

家族』(村井理子・著/亜紀書房・刊)は、人気エッセイストである村井理子さんが自身の育った環境、家族を赤裸々に綴った実話だ。

 

村井さんといえば愛犬の黒ラブラドール・ハリーの話『犬がいるから』で大いに笑わせてもらい、『全員悪人』では認知症になった義母の目線で描いた世界で認知症患者の思いを私たちに伝えてくれた。

 

そして『兄の終い』では孤独死した実兄を弔った数日の出来事を綴っていた。どうしてお兄さんは孤独死しなければならなかったのか? など、本書は村井さんが生まれ育った家庭を振り返ったエッセイだ。出版にともなったあるインタビューで、村井さんは兄の死をきっかけに親族から話を聞いたり、自身の古い記憶を呼び起こしたりしつつ、どうして自分の家族は壊れてしまったのかを考えるようになったのだと答えている。本書のカバー写真は亡くなったお兄さんの部屋に飾られていた一枚だそうだ。

世の中には幸せになれない家族もいる

カバー写真は昭和の時代の幸せそうな家族の姿をとらえている。しかし、この家族は脆くも壊れてしまった。父親も母親も兄もこの世を去り、残ったのは村井さんただ一人。

 

時代が良ければ、場所が良ければ、もしかしたら今も三人は生きていて、年に一度ぐらいは四人で集まって、笑いながら近況報告ができていたのかもしれない。一度でいいから、そんな時間を過ごしてみたかった。

(『家族』から引用)

 

写真の当時、一家は静岡県の港町で暮らしていた。母親は実父の援助でジャズ喫茶を経営し、繁盛していたそうだ。父親は会社勤めだったが、店にもよく顔を出し、マスターと呼ばれていたという。けれども、祖父が店に来ると我が物顔になるため父はすぐ外に出てしまう。まだ三歳くらいだった村井さんですら、両親と祖父の対立を感じていたそうだ。家族のギクシャクはこのあたりからはじまったのかもしれない。

 

完ぺき主義者の父親と問題行動が多い息子

けれども祖父の存在以上に、幼かった村井さんの記憶に強く残っているのは、父親と兄との様子だったと打ち明けている。父親は何をやっても器用にこなし、また完璧主義者だったという。一方、その息子である兄は、やんちゃで落ち着きがなく問題行動ばかりを起こしていたようだ。兄をきつく叱る父親、それをかばう母親。いっぽうで生まれつきの心臓疾患を抱えていた妹の村井さんは、父親からとてもかわいがられ、叱られた記憶はないという。

 

兄は教師からも好かれる子どもではなく、口が達者で、騒がしく、自分勝手な行動を繰り返すため、母親はしばしば学校に呼び出されていたそうだ。成長とともに問題行動がさらに増え、やがて兄は高校を中退することに……。両親の夫婦としての関係もこのころには既に破綻していたはずだ、と、村井さんは当時を振り返る。父親は暗い表情で笑わなくなり、帰りも不自然なほど遅く、また常に酔っているようになってしまった。

 

兄はダイナマイトで、父は燃えさかる炎のような人だった。母はその間に挟まれた川のような存在で、私は何者でもなかった。あの子は大丈夫、あの子は大人がいなくても立派に生きていける。(中略)私はいつも一人。誰にも心配されない存在。私はそんな役回りだった。

(『家族』から引用)

 

少女時代の村井さんは、本に没頭することで自らを癒していたそうだ。

 

母と娘の間には薄い膜が張られていた

村井さんは、自分の母親のことが未だによく理解できないという。約束を破る人、一緒に行こうといった場所に連れて行ってくれない人、喜ばせ、そして手痛く裏切る人、なにからなにまで嘘。少女のころから村井さんは母親に強い怒りを感じていたと告白している。

 

母と私の間には常に薄い膜のようなこのが張っていて、最後の最後まで、その膜を完全に取り除くことができなかった。どれだけ話しても、彼女の考え方が、特徴的な表情の意味が理解できなかった。私に嘘を言い当てられる時、強く批判される時に必ず見せる、あの醒めた表情。怒ってるのか、悲しんでいるのかさえもわからない、あの特徴的な顔。

(『家族』から引用)

 

結局、村井さんは母親が生きている間にその表情を理解できたことはなかったそうだ。ただ、今になって鏡に映る自分の顔が母の表情に似ていると感じる時があり、もしかしたら、母親も兄や自分のことで悩んでいたのかもしれないと思うようになったのだとか。

 

普通は強い絆で結ばれいてるはずの家族なのに、互いに何を考えているのかわからない、そんな親子関係、兄弟関係、実は多々あるのかもしれない。

 

過ぎ去った時間は取り戻せない

一家の父親は49歳という若さで病死してしまった。葬儀の日に一番泣いていたのは折り合いが悪かったはずの兄だったそうで、「あんたが殺したようなものだ」と自分をかばい続けた母親を責めたという。父を苦しめ続けたのは「あんたじゃないか」と村井さんは兄に抗議し、病院に通い続け献身的に看護していた母を擁護した。すると兄は鋭い視線を妹に向け、延々と怒鳴り散らすはめに。

 

母は私をかばうでもなく、ただ、下を向いていた。母が私をまったくかばってくれないことに、母を守った私を兄の攻撃に晒したことに、私は大きなショックを受けていた。

(『家族』から引用)

 

その後、母親は父の一周忌が済む前に恋人をつくった。妻がいる男だったのに、母親はその人に貢ぎ続けたため、村井さんは連絡を絶っていたという。やがて母親も病死。

 

兄は、二度の離婚のあと、引き取った息子と二人暮らしをしていたが、孤独死してしまう。発見者は幼い息子だったという。

 

父が亡くなって三十一年、母が亡くなって七年、兄が亡くなって二年の月日が過ぎた。三人をそれぞれ見送った私は、とうとうひとりぼっちになった。(中略)ほんの些細な誤解を早い段階で解いていれば、きっと私たちは幸せな家族になれたはずだ。全員がそれぞれ、愛情深い、優しすぎるほど優しい人たちだったから。

(『家族』から引用)

 

村井さんは現在、ご主人と双子の息子さん、そして愛犬とともに幸せに暮らしている。そして父、母、兄の三人も村井さんの心の中で静かに暮らしているそうだ。

 

このエッセイは、消えてしまった家族をもう一度取り戻す彼女の心の旅とも言える。

 

家族のことで悩んでいる人、新しい家族をつくろうと思っている人、さらに、今は家族はまとまっていて幸せだという人も、いま一度”家族”を見つめなおす機会を与えてくれるのが本書だ。

 

【書籍紹介】

家族

著者:村井理子
発行:亜紀書房

幸せになれたはずの私たちは、どうして「壊れた」のか?何度も手痛く裏切られたけれど、それでも愛していたー『兄の終い』『全員悪人』の著者が綴る、胸を打つ実話。

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「おい、小池!」ポスターの生みの親はリーゼント刑事! 波瀾万丈の警察人生を振り返る~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。若いころ、住んでいたアパートで空き巣と鉢合わせしたことがあります。買い物から帰るとなぜかカギが開いていて、不思議に思いドアノブを回すと、部屋の中からゴソゴソと人の気配が……。慌ててドアを閉めたのですが、向こうも気付いたようでベランダから逃げられてしまいました。

 

その後、警察の方が来て、指紋を採るためにクロゼットに銀色のパウダーをポンポンとはたいているのを見て、「刑事ドラマで見たやつだ!」と感動して、少しショックが和らいだのを覚えています。と、同時に「こんなに荒らされて大変でしたね」と刑事さんから声をかけられて、7割くらいはもともと汚い部屋だったので恥ずかしかったです(笑)。

42年間走り続けた警察人生!

さて、今回紹介する新書はリーゼント刑事 42年間の警察人生全記録』(秋山 博康・著/小学館新書)。週刊ポストに連載されていたコラムを大幅に加筆修正した一冊です。著者の秋山博康さんは徳島県警の元刑事で、指名手配ポスター「おい、小池!」のフレーズを考案した人物。情報提供を募るため「警察24時」などテレビ特番にも出演し、「リーゼント刑事」として有名になりました。

2021年3月に定年退職を迎え、現在は犯罪コメンテーターとして活躍する秋山さん。リーゼントにこだわるのは、中学生のときから崇拝している永ちゃんこと矢沢永吉さんの影響だとか。

 

新人時代にニセモノ登場!?

「警察24時」では迫力ある捜査の裏側がのぞけますが、普段はどのような仕事をしているのか? 交番時代の休日返上での巡回、意外と知られていない検視の立ち会い、暴走族を更生させるための交流、取り調べでヤクザと髪型で意気投合!? さまざまなエピソードが詰まっています。お堅い警察官のイメージとは異なるざっくばらんな口調で、型破りで熱い人柄もよく伝わってきて、臨場感あり読みやすいのが特徴です。

 

そもそも秋山さんが刑事を志したのは、小学4年生のとき、泥棒に入られたのがきっかけ。駆けつけた刑事の「おっちゃんが必ず逮捕したるから」のひと言に大きな安心感を覚え、刑事になることを決意したのだそうです。

 

高校では暴走族の友人とつるんで遊びつつも、警察官の採用試験で有利になるからと生徒会長も務めるという破天荒ぶり。「暴走族の『裏総長』的なワシが、表では高校の生徒会長になったのだ」。高校3年生のときに徳島県警に採用され、交番や機動隊勤務を経て23歳のときに刑事になりました。

 

本書で、私が一番印象に残ったエピソードは第4章で語られる新米刑事時代の話。新人ならではの仕事にまっすぐ向き合う姿勢と、それが裏目に出てのトラブルは、「ドラマ化決定!」と思わせるほど味があります。

 

先輩刑事から「取り調べ、聞き込み、書類作成の3つを一日も早く自分のモノにしろ」と言われた秋山さん。半年ほど官舎に帰らず署の道場に寝泊まりしては、先輩の書類を読んで仕事のやり方を覚えようと奮闘していました。

 

しかし、張り切りすぎての失敗は新人につきもの。「刑事としてバリバリに名前を売り、協力者をぎょうさん得ようと考えたワシは、街のいたるところで名刺を配っていた」。

 

その結果、なんと徳島市内のスナックに偽の「秋山刑事」が現れて、ツケで飲み食いしたうえにママに結婚をほのめかして金品を貢がせた……!?

 

そのほか、取調室でいかに「ウタわせる(自供させる)」かの攻防や、「グリコ・森永事件」を始めとする新聞を賑わせた事件・事故の捜査にまつわる裏話も読みどころ。

 

刑事はドラマや小説などで身近な職業ですが、そのリアルな現場は意外と見えてこないもの。リーゼント刑事が駆け抜けた波瀾万丈の42年間。普通に生活していては知り得ない誰かの人生を垣間見られるのも新書の良さです。

 

【書籍紹介】

リーゼント刑事 42年間の警察人生全記録

著者:秋山博康
発行:小学館

「おい、小池!」-2001年に発生した徳島・淡路父子放火殺人事件の指名手配犯ポスターは、見る者に強烈な印象を残した。ポスターを生み出したのが、当時・徳島県警で特別捜査班班長を務めていた秋山博康氏だ。目撃情報を募るため各局の「警察24時」に多数出演し、独特な風貌からいつしか“リーゼント刑事”と呼ばれるように。事件捜査に邁進し、2021年3月末で徳島県警を退職した秋山氏が、42年の警察人生を1冊にまとめた。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

フランス発! 顔の心理学を知れば、もう人間関係に悩まなくなる?『ビジネスは顔が9割』

コロナ禍でオンライン会議の回数も増えて、画面越しが初対面なんてことが当たり前になりました。私もこの2年で、対面で名刺を渡す機会が減り、画面上で挨拶することが増えています。最近はオンライン会議にも慣れてしまい油断していますが(笑)、せっかくならオンラインでも良い印象を与えてスムーズなお仕事をしたいですよね。

 

今回は、そんな印象に関する面白い一冊をご紹介します。『ビジネスは顔が9割』(佐藤ブゾン貴子・著/祥伝社・刊)は、日本人で初めて相貌(そうぼう)心理学教授資格を取得した佐藤ブゾン貴子さんの新書。本のタイトルはかなり攻めていますが、日常に使える、活かせることが満載の一冊でした。

 

フランス生まれの相貌心理学とは?

顔で性格を見るというと「占い?」と思う人もいるかも知れませんが、そうではありません。相貌心理学は、1937年にフランスの精神科医で臨床心理学者でもあったルイ・コルマン博士によって創設されました。当初は「自閉症の人々を理解するためのツール」として活用されていましたが、後継者たちによって教育や人材育成、ビジネスで活用するようになったのだとか。現代では、なんと婚活でも使われているそうですよ!

 

相貌心理学と人相学との大きな違いは、その分析手法にあります。目や鼻や口など、個別のパーツに表れた特徴に注目する人相学に対し、相貌心理学ではパーツ同士の相互関係を見ながら、顔全体をトータルで分析します。

たとえば、相貌心理学では「目尻が下がっている人」は、「人の話をよく聞く人」だと理解します。それだけなら、とても好ましい表出のように思えますが、その目が乗っている土台が「柔らかい(張りのない)肉付き」である場合は、ただ人の話をよく聞くだけでなく、「人の意見に流されやすい」という理解になります。

(『ビジネスは顔が9割』より引用)

 

私もこの本を読むまで、「顔のパーツは遺伝だから!」と思っていましたが、読み進めていくと「顔って変わるよなぁ」と思うようになりました。顔には30種類以上の筋肉があるので、肉付きや顔の張りが日々変化していくのだとか。

 

テレビを見ていても、勢いがある芸人さんなどは、ブレーク前と顔が変わることがありますよね。逆に人気が下降気味の方はやつれて、オーラがなくなるというか……心理が影響してくるのも納得できます。

 

顔のどこを見たらいいの?

実際に相貌心理学を使ってみよう! と思ったら、何から始めたら良いのでしょうか?『ビジネスは顔が9割』には、人の顔を見るステップが紹介されていました。

 

そこで、まずは入門編として「人の顔を見るときの基本的なステップ」をご紹介しましょう。私自身、初対面の方に会ったときは、大体この順番で相手のお顔を見ています。

 

ステップ1:「輪郭」を見る

ステップ2:「肉付き」を見る

ステップ3:「拡張ゾーン」を見る

ステップ4:「各パーツ(目・鼻・耳などの器官)」を見る

(『ビジネスは顔が9割』より引用)

 

ステップごとに見るポイントが決まっています。詳しくは『ビジネスは顔が9割』を読んでいただきたいのですが、例えば、ステップ3の「拡張ゾーン」というのは、顔を「思考」「感情」「活動」の3つのゾーンに分けて観察していきます。この3つの中でどの面積が広がっているかによって、その人が大切にしている価値観がわかるそうです。

 

思考ゾーン:額のてっぺんから目の下までのゾーン

感情ゾーン:目の下から唇の上までのゾーン

活動ゾーン:唇の上からあご先までのゾーン

(『ビジネスは顔が9割』より引用)

 

こうやってご紹介すると「見た目だけで決めつけるの?」と思うかもしれませんが、顔だけで相手を決めつけるのではなく、相手を知るためのヒントとして活用しましょう。「この人と仲良くなりたいけれどどうしたらいいのかな?」という時に相貌心理学の視点を持っておくことで、話し方やコミュニケーション方法が選択できるようになりますよ!

 

プログラマーにピッタリなのは、“粗品顔”

他にも『ビジネスは顔が9割』には、顔の特徴ごとの適職も紹介されています。耳が傾いている方が営業に向いている、広報は派手顔、保育士さんは鼻筋がどっしりしている人がいいなど具体的なイラストと共に紹介されており、わかりやすいですよ。

 

そんな中で、これぞプログラマー顔! というのがお笑い芸人・霜降り明星の粗品さんなのだとか。

 

これまでに、さまざまな有名人の方の顔を分析してきましたが、その中で「この人はプログラマー向きだ!」とピンと来たのが、お笑い芸人の粗品さんです。

粗品さんの顔で特徴的なのは、額に「高さ」があり、なおかつ額が「台形」であるということ。これは、想像力の高さに加えて、その想像を具体的なアイデアに落とし込んでいく、展開力の高さを表しています。

(『ビジネスは顔が9割』より引用)

 

さらに粗品さんの目の細さは「理想主義」を表しており、唇の薄さは「完璧主義」の表れとのこと。言われてみれば、“粗品顔”なエンジニアさんって多い気がしますよね!

 

ちなみに「私は〇〇に向いていないから……」と、顔でその職業を諦めるのは違いますよ! 『ビジネスは顔が9割』には、メガネやヘアスタイルを少しいじるだけで印象を変える方法も紹介されています。外見を意識することで、内面も変わってくるというのが相貌心理学の面白いところ。私も本を片手に鏡を何度も見てしまいました(笑)。今の自分がどんな顔で、これからどんな顔になりたいのか、本を読みながら考えてみると面白いはずです。

 

新生活でコミュニケーションに悩んでいる方や、オンライン会議が続いて相手の気持ちを読み解くのに苦労している方にもおすすめの一冊です。

 

 

【書籍紹介】

ビジネスは顔が9割

著者:佐藤ブゾン貴子
刊行:祥伝社

「人の性格は顔に表れる」と言うと、半信半疑の人もいるかもしれない。しかし、日本で唯一の相貌心理学教授である著者は、「人の『顔』は表情筋によって後天的に作り出されるもので、内面が映し出されている」と断言する。相貌心理学の分析手法を使えば、仕事の適性、チームの相性、相手の信頼度などを見分けられるのだ。約20の職種・業種を相貌心理学の観点から分析。採用活動でのミスマッチを防ぐだけでなく、オンライン時代に顔しかわからない場面でも、相手の情報を読み解くことができる。さらに、自己プロデュースで適性に近づく方法も伝授。自分と相手の適性を知り、より適正な環境に導く「顔の心理学」を紹介する。

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「植物だったらゲノム解析されてそう」ってどんな悪口なの? あなたの教養も試される『教養悪口読本』

的外れな答えしか返さないカスタマーサポート。同じことを何回も何回も尋ねるオペレーター。マニュアル通りの対応しかしない客様相談窓口のお姉さん。

面白い悪口

筆者は、怒ると口調がとても丁寧になる。そして、キレればキレるほど雄弁になる。相手がいくら話の飲み込みが悪くても、話がループし始めているのを感じても、「あんた、バカなんじゃないの?」みたいなことは絶対に言わないし、そんなこと考えもしない。考えるのは、異常なまでに丁寧な言葉で紡ぐ皮肉なものいいをぶつけることだけ。イヤな奴でしょ?

 

教養悪口本』(堀元見・著/光文社・刊)は、そんな筆者にとって怖いくらい“どストライク”な一冊だ。まずは、筆者の心にいきなり刺さった「はじめに」に綴られている文章を紹介する。

 

「最近のインターネットは悪口ばかりでつまらない」 そんな声をよく聞く。僕はその度に思う。「悪口のせいにしないでほしい」と。たしかに、インターネットにはつまらない悪口が氾濫している。「キモい」とか「バカ」とか「死ね」とか。だけど、それは悪口がつまらないのではなく、「つまらない悪口」なのである。

『教養悪口読本』より引用

 

ウィットめいたもの、そして悪意に満ちた慇懃無礼なものいい。“面白い悪口”があるのだとしたら、スタート地点はそのあたりになるのではないだろうか。実は筆者、物心ついたころからこの感覚を宿し、体現していた気がしてならない。イヤな子でしょ?

 

ずしんと響くひとこと

ウィットめいたものと必殺の悪意を込めたひとことをぶつけるにはどうするか。そして、具体的にはどんなものがあるか。こうしたことについてすごくわかりやすい言葉で説明しながら、楽しませてくれるのが本書なのだ。たとえばこんなひとこと。

 

「こいつ無能。死ね」というツイートを見て、楽しい気分になる人はいない。「こいつ無能」と言いたくなった時は、代わりに「植物だったらゲノム解析されてる」と言おう。

『教養悪口読本』より引用

 

説明しよう。シロイヌナズナという植物がある。食べられないし薬にもならないし、人間にとっての利用価値はまったくない。しかし利用価値が全くないからこそ、“モデル生物”としてゲノム解析が進むことになった。モデル生物というのは「理系の世界でみんなが研究に使うスタンダードな生物」で、植物学ではシロイヌナズナが代表例として認識されている。「無能だ」とだけ言うのではストレートすぎる。「植物だったとしたらモデル生物としてゲノム解析されちゃうレベルの使えなさだね」――そういう意味なのだ。実用例はこんな感じ。

 

「移動してきた佐藤さんのこと、どう思う?」

「う~ん……なんていうか……植物だったらゲノム解析されてそうかな……」

『教養悪口読本』より引用

 

 

さすがプロの仕事

38編の悪口が次のような章立てで紹介されていく。

第1章 職場編
第2章 友人・知人編
第3章 飲み会編
第4章 娯楽編
第5章 恋愛編
第6章 ネット編

 

不快さを楽しさや知的好奇心に変えることができるもの。著者の堀元氏は、「正しい悪口」の効能をそう定義する。この本が生まれた経過も面白い。

僕はこれを「インテリ悪口」と称して、インターネットに書き溜めてきた。noteで有料マガジンとして書いていたら、いつの間にかそれだけで食えるようになってしまった。プロの専業インテリ悪口作家である。

『教養悪口読本』より引用

 

不快だけでしかない単純でつまらない悪口を知見でろ過し、何の関係も感じられない言い方に変換する。しかしその過程で、相当量の毒が盛られるのだ。筆者は、眺めているだけで楽しくなってしまう。フリースタイルラップとか、例えツッコミにも活かしていけるコンセプトだろう。

 

ウィル・スミスにも教えたかった

一つひとつのインテリ悪口を解説する文章にはどこか音楽的な響きが感じられ、心地よく読み進めていけるし、ライブアルバムを聞くのにも似ている。

 

ウィル・スミスがアカデミー賞授与式で生放送中にプレゼンターのクリス・ロックに張り手をくらわすという事件が起きた。これまでさまざまな経緯が明らかにされているのだが、何億という人たちの前で妻をイジった人間に対する行動として、他に何が考えられただろうか。

 

なかなかの力でロックの左頬を張った後、自分の席に戻っても放送禁止用語を叫んでいたスミスの姿は、少なくとも筆者の目には「キレながらバカに向かってバカと言い続ける人」にしか映らなかった。本書の内容に寄せて考えるなら、正解はこんな言い方になるだろうか。

 

「はい出た! ペリクレス戦略!」

 

詳細は第1章「職場編」でご確認ください。

 

【書籍紹介】

教養悪口読本

著者:堀元見
刊行:光文社

その企画、パリティビットが意味をなさない品質ですねー誤りを検出するための仕組みであるパリティビットも想定を超えた間違いには対応できない。あり得ないほどミスがある仕事に対して使うインテリ悪口。植物だったらゲノム解析されてそうー利用価値がないゆえにゲノム解析の国際協力が進んだ植物・シロイヌナズナ。無能な人や役に立たない人をこれにたとえたインテリ悪口。弥子瑕に対する霊公じゃないんだからー『韓非子』に登場する王様(霊公)と、寵愛された美少年(弥子瑕)のエピソードから。倦怠期に冷たくなる恋人を指すインテリ悪口。…論理学、行動経済学、歴史学、文学、文化人類学、理論社会学、生物学、化学、情報工学、応用数学、宗教学。モヤモヤを教養に変える38のロジカル巧言。

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僕がEPICソニーにハマったのは必然だった。その2つの理由とは『EPICソニーとその時代』

現在40代から50代の音楽好きの人たちは、そのほとんどが「EPICソニー」というキーワードにピンと来ることだろう。現在は「エピックレコード」という名称のソニー・ミュージックレーベルズの社内レコードレーベルという位置付けだが、80年代から90年代にかけては、日本の音楽シーンを牽引するレコード会社だった。

EPICソニーと歩いた青春

僕が中高生のころに聞いていた日本の音楽は、そのほとんどがEPICソニーのアーティストだったように思う。

 

僕が音楽にどっぷりとハマったきっかけが佐野元春だったし、渡辺美里もよく聞いていた。岡村靖幸の変態っぷりに度肝を抜かされ、めちゃくちゃ聞き込んだし、バンドをやっていたときはBARBEE BOYSはすごいバンドだと少々恐れをなしていた。あんなことできやしないし、そのあともBARBEE BOYSのようなバンドは出てきていない。大澤誉志幸の声に憧れて声を枯らそうとしたけれど、ちっとも枯れなかったなぁ。

 

今思えば、全員EPICソニーのアーティストだ。また、当時はテレビでも音楽番組が多かったが、テレビ東京の深夜にやっていた「eZ」という番組もよく見ていた。これはアーティストのPVを流すという、今のCS放送のような体裁の30分番組だった。これもEPICソニー制作の番組だった。そう、僕は気付けばEPICソニーとともに青春時代を送っていたのだ。

 

EPICソニーの歴史を紐解く一冊

青春時代は、EPICソニーということを意識していたわけではない。ただ気になるアーティストがEPICソニーだったというだけ。ただ、EPICソニーというのは当時は相当変わったレコード会社だったようだ。

 

EPICソニーとその時代』(スージー鈴木・著/集英社・刊)は、音楽評論家の著者が、EPICソニーというレコード会社について細かく考察した書。これを読むと、EPICソニーがどのような経緯で立ち上げられたのか、そしてなぜ80年代の音楽シーンを席巻したのか、その理由がわかる。

 

一言で言えば、EPICソニーは「反骨精神」から生まれたレコード会社。アイドルの新人賞争い、大物歌手の賞レース争いといった音楽ビジネスを疑問視し、歌謡曲ではない路線、賞レースとは関係のない独自の音楽シーンを切り開くという思想のもとに作られたのだ。

 

スタッフもほぼ未経験、アーティストも抱えていない状態からスタートし、さまざまな新人アーティストを発掘。そして佐野元春やTHE MODSといったアーティストをデビューさせ、「日本のロック」という未開拓のフィールドを切り開いてきた。決してロックがやりたかったわけではなく、賞レースから一番遠いところを探したら日本のロックシーンだったというわけだ。

 

そして、メーカーとのCMタイアップという手法でさまざまなアーティストを売り出していく。大沢誉志幸(現・大澤誉志幸)の『僕は途方に暮れる』などは、当時大ヒットした。僕もこのCMは覚えている。

 

今では当たり前になっているアーティストのPVも、EPICソニーが仕掛けたもの。テレビの歌番組などに出られないアーティストたちのプロモーションとして、独自の映像作品を自社で作り、それをホールなどで上映したり、先述した「eZ」で流すことで認知度を高める。

 

しかし、「日本のロック」という未開の地を切り開いてきたEPICソニーも、次第に方向性が変わり、いつの間にかソニー本体に吸収されることになる。この辺りの話は本書を読んでほしい。いかに当時のEPICソニーが革新的だったか、そしてメインストリームに対するカウンターカルチャーであったのかがわかることだろう。

 

僕がEPICソニーを聞いていたのは必然だった

本書では、EPICソニーを「佐野元春」だと定義している。

 

要するに、あのEPICソニーの本質は何だったのか。80年代EPICソニーのキラキラとした像のキラキラとした皮を剥いで、剥いで、残るもの。それが佐野元春であり、彼が作り出した音楽ではなかったのか。

(『EPICソニーとその時代』より引用)

 

佐野元春は、EPICソニーでデビューし、日本のロックを牽引してきた存在。僕は佐野元春にハマり、音楽にどっぷりと浸かり、今でも音楽から抜け出せないでいる。僕がEPICソニーのアーティストを知らず知らずのうちに聞いていたのは、おそらく偶然ではない。また、こんな記述もある。

 

「EPICソニーがタイガースならば、CBSソニーは巨人」という比喩は、当時の音楽シーンを知っている方々ならば、感覚的に納得できるものだと思う。
 私自身の感覚としても、80年代のCBSソニーには王者の風格を感じていた。V9を成し遂げた昭和40年代の巨人のようなイメージで見ていた。

(『EPICソニーとその時代』より引用)

 

当時のCBSソニーは、松田聖子の大ヒットがあり、その後浜田省吾、尾崎豊、プリンセス・プリンセス、レベッカ、ユニコーンなどなど、ロックシーンでも人気アーティストを抱えていた。楽曲もポップだし、聞きやすく、大衆に指示されやすいものだった。僕も好きなアーティストが多い。まさに巨人。まさに読売ジャイアンツ。

 

ただ、とがっていなかった。EPICソニーのアーティストは、決して万人受けするわけではないが、ひとつとがったものがあり、それがやけにキラキラ輝いていた。

 

阪神タイガースというのもうなずける。僕は東京生まれだが、父親の影響(宮城出身)で生まれてこの方阪神タイガース一筋。やはりメインストリームではなく、それに対抗する何かを応援したくなる気質があるようだ。佐野元春と阪神タイガースが大好きな僕が、EPICソニーに惹かれていたのは偶然ではないと思う。

 

本書の目玉はインタビューパート

本書はEPICソニーについて深く掘り下げた内容で、とても興味深い。しかし、本書のクライマックスは第三章のインタビューパート。登場しているのは、EPICソニーの元プロデューサーの小坂洋二と、佐野元春だ。

 

小坂洋二は、佐野元春をはじめとした新人アーティストをプロデュースして売り出した人物。音楽ファンなら一度は耳にしたことがある人物だが、あまり表だって話すことはなかったので、たいへん貴重なインタビューだ。

 

そしてミスターEPICソニー、佐野元春。彼のインタビューというのは珍しくないが、EPICソニーに最初期からその中核を担ってきた人物の言葉は重い。これまでのインタビューでは話していない内容もあり、こちらもたいへん興味深い。

 

80年代90年代に青春を送った人で、音楽好きな人なら、絶対におもしろく読める一冊。あの当時の曲を聴きながら読むと、一層味わい深く読めるはずだ。

 

 

【書籍紹介】

 

EPICソニーとその時代

著者:スージー鈴木
発行:集英社

先進的な音楽性により八〇年代の音楽シーンを席捲したレコード会社「EPICソニー」。レーベルの個性が見えにくい日本の音楽業界の中で、なぜEPICだけがひと際異彩を放つレーベルとして君臨できたのか?そして、なぜその煌めきは失われていったのか?佐野元春“SOMEDAY”、渡辺美里“My Revoltion”、ドリカム“うれしはずかし朝帰り”など名曲の数々を分析する中でレーベルの特異性はもちろん、当時の音楽シーンや「八〇年代」の時代性が浮かび上がっていく。佐野元春ロングインタビュー収録。

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英語を読んで泣くということ——『英語で泣ける ちょっといい話』

多読という英語学習方法があります。辞書をできるだけ使わずに英語の本を大量に読むことで英語力をつけるものです。ドキドキハラハラする物語を英文で読んで楽しむのもいいですが、悲しい物語を読んで泣きそうになっている自分がいることに気づくと、なんともいえない感動に包まれるのでおすすめです。

英語多読の楽しみ

拙宅でも子どもが英語を多読で学んでいた時期があり、そのころは私も英語の本を貸し出してくれる有料図書館に通って協力していました。私の語学力で読めるのは児童書がせいぜいで、そうなると科学図鑑や子ども向けのほのぼのとしたストーリーが多いのです。クマが出てくる童話を何冊読んだかわかりません。

 

私は感情が揺さぶられるような悲しい話が好きなのですが、子ども向けだとそこまでディープなストーリーはなかなかありません。もちろんどろどろのラブストーリーもなく、自分の語学力のなさがいけないのですが、やや物足りなさを感じていました。

 

英語の喜怒哀楽

喜怒哀楽の中で、児童書に多いのは「喜」や「楽」です。プレゼントをもらって喜んだり、クマさんと遊んで楽しんだりという陽の部分ばかりが取り上げられている本がかなり多いのです。また、英語のジョークの本でクスッと笑う時も、楽しいと感じるからでしょう。

 

けれど長い人生の中にはやり場のない怒りをおぼえる日も、突然の哀しみに襲われる日もあります。そうした陰の部分の感情も英語で味わいたい。そんな時に出会ったのが 『英語で泣ける ちょっといい話』(ちょっといい話製作委員会・著/アルク・刊)です。なんと、英語が苦手な私でも、初めて英語で泣くことができたのです。

 

初心者でも大丈夫

この本は、初級レベルの人向けにやさしい英語で書かれた泣ける話が20話収録されたもの。英語学習の本を多数出版しているアルクが版元なので、私のように英語に苦手意識を感じているものでもとても読みやすい表現がされています。

 

収録されているのは、作者不明の物語たち。誰が書いたかはわからないけれど、とてもいい話だからと人々の間で伝えられている話なので、素敵な内容ばかりです。しかも日本語訳が別のページに付いているので、自分の解釈が合っていたかどうかをチェックすることもできて便利です。

 

英語で泣くということ

胸にじんとくる話が多いのですが、たとえば収録されている『箱いっぱいのキス』は、父と小さな3歳の娘で暮らしているひとり親家庭の物語です。このつつましい親子が迎えたクリスマス。3歳の女の子スージーは、パパに何か贈り物をと考えました。そしてとても心のこもったものを考えついたのです。

 

クリスマスプレゼントの物語には、O.ヘンリーの『賢者の贈り物』のように、感動的なものが多いです。愛する人に幸せなクリスマスを迎えてもらいたいというその優しい気持ちこそが、決してお金では買えない素晴らしい宝物だと改めて感じさせられます。

 

英語で泣くという体験は、なかなか不思議なものでした。スラスラ読める英文だったので、途中から外国語を読んでいるという感覚すらなくなり、物語にのめり込めていたのが良かったのだと思います。しばらく余韻に浸ってから「あ、これ英語だったんだ」と気づき、英語で感動できた喜びが湧いてきました。

 

英語の物語に親しむコツ

涙が出るくらい別の言語を味わうことができたのは、初めての経験です。今回は日本人の初心者向けにアレンジされたものであったとはいえ、とても大きな自信となり、他の話も読んでみたいという意欲にもつながっています。

 

AmazonのKindleなどには、無料で読める英語の物語が大量に配信されています。まずは気になる本をダウンロードし、その中から自分にも読めそうなものを選んでいけばいいのです。先日はインドの人が書いた、ファーストデートのショートストーリーを完読しました。英語で書かれた本は日本語よりもずっと多いので、これからはさらに読書の選択が広がりそうです。

 

 

【書籍紹介】

英語で泣けるちょっといい話

著者:ちょっといい話製作委員会
発行:アルク

「家族」「友情」「愛情」……。泣ける話、いい話は、歴史・文化・人種・宗教などの壁を超えて心を打ちます。この本では、長年、英語で語り継がれ、読み継がれてきた、20のショートストーリーを紹介。語彙も3000語レベルに抑えてあるので、どんどん読むことができます。

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旅の達人が芭蕉の背中を追いかける! 静けさはなく、岩にしみ入るのは子どもの「ヤッホー」!? ~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。定番の観光地に行くのも楽しいですが、自分だけの目的を持ってあちこち回る旅というのも達成感があっていいものです。

 

知り合いに、使っている路線のすべての駅で降りて、駅前の一番近い定食屋や喫茶店に立ち寄るというチャレンジを週末ごとにしている人がいました。これもオリジナルなプチ旅行と言えるでしょう。弟子の曾良とともに、俳句を詠みながら東北、北陸を歩いて巡った松尾芭蕉も、またオリジナル旅行の達人かもしれません。今だったら旅行系YouTuberとして人気が出たかも!?

 

松尾芭蕉はどんな想いを胸に旅をしたのか?

 

今回紹介する新書は「おくのほそ道」をたどる旅 路線バスと徒歩で行く1612キロ』(下川 裕治・著/平凡社新書)。著者の下川 裕治さんは、新聞社勤務を経てフリーランスとなった旅行作家。主にアジアや沖縄をフィールドにバックパッカースタイルで旅を続けています。

特にディープなトラベルエッセイ『世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ』は、非日常な現地に飛び込んで目の当たりにする日常と、そこから見えてくる暮らし方の違いが肌で感じられる一冊でした。

 

今回の『「おくのほそ道」をたどる旅』は、旅行先が日本ということもあって落ち着いたテイスト。もともと下川さんは昔から「おくのほそ道」の書きだし「月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也」(「月日は永遠の旅人であり、来ては去っていく年もまた旅人である」という意味)があまりにもかっこよすぎると引っかかっていたそうです。

 

旅の文章を何回も書いてきた身にすれば、旅への思いはもっと雑駁なもので、今の暮らしからの逃避でもある、と下川さん。一体芭蕉はどんな想いで旅をしていたのか? 各地を巡って芭蕉の気持ちを考えることも、この本のテーマになっています。

 

賑やかになった寺、寂れていった街……

「閑(しずか)さや 岩にしみ入る 蝉の声」。これは出羽国の立石寺(山形県山形市)に参詣したときに芭蕉が詠んだ句。当時は静かな山寺だった立石寺ですが、今では長い1000段を超える石段に渋滞が起こるほど観光客が押し寄せているそうです。

 

石段の手前には土産物屋や食堂が建ち並び、終点の奥の院では遠足であろう幼稚園の子どもたちが「ヤッホー」と叫ぶ……。下川さんは「ヤッホー」の妙な響きの良さに、かつてここに満ちていたセミの声を重ね合わせ、逆にそのうるささが「しずかさ」に通じるかもしれないと想像します。

 

先人に思いを馳せるのは、紀行文を追いかける旅の醍醐味でしょう。変わってしまったものと受け継がれているもの、両者がリンクしてタイムトラベル的な面白さもあります。

 

下川さんが「おくのほそ道」のなかでも一番気に入っているという句が「暑き日を 海にいれたり 最上川」。真っ赤な夕陽が海に沈んでいく暑さと川の涼しさが鮮烈なイメージとして、私の記憶にも残っていた句です。

 

この句が詠まれた山形県酒田市の日和山公園を訪れた下川さん。しかし、11月だったため寒風が吹きつけ、気持ちも沈む。芭蕉の頃は西廻り航路の北前船が立ち寄る港として賑わっていたという酒田ですが、下川さんが商店街で見た光景は……。

 

派手な観光地ではなく、路線バスやコミュニティバスを乗り継ぎ、芭蕉が通った旧街道があれば歩く。全体から漂うもの哀しい情緒が本書の味として染み出していて、じわじわと引き込まれていきます。芭蕉や曾良が句に托したであろう想いを、下川さんならではの少し斜めの視点から解釈しているのも読みどころ。「おくのほそ道」をたどって見えてきたものとは?

 

 

【書籍紹介】

『「おくのほそ道」をたどる旅 路線バスと徒歩で行く1612キロ』

著者:下川 裕治
発行:平凡社

世界を旅する著者が1日に1時間歩くことを目標に、路線バスを乗り継いで、「おくのほそ道」をたどる旅に出た。「おくのほそ道」は、1689年に松尾芭蕉が門人の曾良を従えて、東北・北陸から大垣に至るまでの旅を記したものである。
ある夏の日、両国から船に乗って旅のスタートを切ったのだが……。時代や文化・社会も大きく変わったなかで、はたして、何を感じ、何を思うのか――。新たな出合いや発見を求め、いざ出発!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

サウナブームを支える熱波師たちの仕事の流儀とは?

熱波師という職業をご存じでしょうか? サウナでお客様をあおぎ、風を送る仕事です。彼らはタオルなどを使い、室内に充満している水蒸気をかき回して、お客に届けます。私自身はこれまでほとんどサウナを利用したことがなく、熱波師に会ったこともありませんでした。ですから、初めて「熱波師」という職業を聞いたときは、よくわからないままに、気象予報士の一種だと考えました。暑い夏、熱波がやってくるので気をつけるようにと呼びかけてくれる人だと思い込んでしまったのです。

熱波師に注がれる熱い視線

それでも、サウナに私が知らない何か特別な存在がいるということは、気づいていました。サウナ好きな人たちが「あのサウナはいいよ。特に、お兄ちゃんの口上と踊りが愉快でね」と賞賛するのを耳にしていたからです。

 

熱波師の仕事の流儀』(サウナーヨモギ・著/ぱる出版・刊)は、知っている人は知っていて、知らない人は想像もできない「熱波師」という職業に熱く迫った本です。著者はサウナーヨモギダ。サウナに関する執筆や講演、コンサルタントを行い、さらにはイベントを主催したり、メディアに出演するなど、幅広く活動しています。著者自身がサウナ好きということもあり、熱波師に注ぐ視線はことさらに熱く、サウナをよく知らない私まで熱気に包まれたような気持ちになります。

 

サウナは、熱した石に水を掛けて、水蒸気を発生させる仕組みです。これをフィンランド語でロウリュというのだそうです。発生した水蒸気は室内の隅々まで満ち、利用する人たちは熱い蒸気の中に身を置くことになります。この時、室内の水蒸気をタオルなどを使ってかき混ぜ、室内にいる客に熱い風として送り届けるのが熱波師の仕事です。

 

ひとことで熱波師と言っても、その役割は二つあります。

 

水蒸気を発生させるのがロウリュ、それを攪拌して扇ぐのがアウフグースである。日本では当初、アウフグースのサービスがロウリュと呼ばれていたこともあり、ロウリュとアウフグースが混同されてきたが近年は正しい表記をすべきという意見が多く区別されるようになりつつある。

(『熱波師の仕事の流儀』より抜粋)

 

なかなかに複雑ですが、サウナ愛好家にとっては、気持ちの良い風を送るように工夫してくれて、サウナにいる時間をより楽しくしてくれる存在であればそれで満足でしょう。

 

進化する熱波師

熱波師は、最初のうちはサウナの従業員としてお客を扇ぎ熱い風を送っていたそうです。けれども、次第にタオルの回し方に独自性を持たせるようになり、音楽に合わせてパフォーマンスを行うようになりました。さらに、風を送る前に面白いことを言ったり口上を述べたりと、多様化しショー的な要素が高まっていきました。

 

2010年代の半ばごろになると、プロとして業務を行う職業熱波師が誕生しました。2019年にはアウフグースの講習会も行われ、研修を終了すると、ドイツサウナ協会公認のアウフギーサーの修了書が与えられるようになりました。

 

『熱波師の仕事の流儀』でとくに興味をひかれたのは、タオルの振り方にも色々な手法があるということでした。それぞれに面白い名前もついていて、楽しみが倍増されます。以下、簡単に紹介します。

 

・ランバージャック 上から両手で前に振り下ろす振り方
・パラシュート 後ろから振りかぶり下に振り落とす
・エイト 8の字を描くように振る
・エンジェル 横から背負投げのように前へ振る。天使の羽みたいに
・フラッグ 真横から旗のように振る
・ピザ ピザ職人がピザ生地を伸ばすように片手でクルクル回す

(『熱波師の仕事の流儀』より抜粋)

 

これから先、さらに新しい名前がついたタオルの振り方ができるかもしれません。急に思わぬところでタオルを落とす「愛の不時着方式」とか、床でタオルをしぼる「手打ちうどん式」とか……。

 

7人の熱波師と温浴コンサルタント

熱波師とは何かを掘り下げるため、著者は7人の熱波師と温浴コンサルタントにインタビューを試みています。最初に質問するのは「熱波師とは何か?」だったといいます。それぞれ個性に富んだ8人の略歴を紹介しましょう。

 

1.箸休めサトシ

彼の熱波師としてのキャリアは長く、2010年から熱波師になりました。きっかけは「熱波師芸人募集」の張り紙を見て、気軽に応募したといいます。今やベテランですが、これまで辛い思いをしながら成長してきました。

 

2.レジェンドゆう

日本で最も稼いでいる熱波師です。けれども、サウナ嫌いで10秒しか入っていられなかったといいます。それなのに、今や売れっ子熱波師です。そこに至る道のりはひたすらに努力の日々でした。

 

3.渡辺純一

アウフグース歴23年の現役熱波師で、日本でいち早くアウフグースを始めた人として知られています。健康増進を目的としており、一人ずつ丁寧に風を送ることをモットーとします。

 

4.宇田蒸気

サウナが大好きで、毎日、サウナに通っていました。本職は会社員で、熱波師の仕事は週末だけです。副業が禁止されているため、報酬を受け取ることはできず、サウナを無料で使ったり、食事をしたりと、現物支給で満足しているそうです。

 

5.大森熱狼

日本で初めて、熱波師を職業にした人です。大きな体を使ってタオルを操りますが、その風は細やかな配慮に満ちています。最初はセラピストだったというだけに、彼のタオルから出る風は優しいものです。時には、肩までもんでくれます。体だけではなく、心もほぐしてくれる熱波師なのでしょう。

 

6.五塔熱子

元気いっぱいで、明るい熱波師です。タオルの振り方も、斬ると表現したくなると言われるほどで、まさに熱い波動が心に響いてくるような仕事ぶりです。本場ドイツまで行き、アウフグースを学ぶ研究熱心な熱波師です。

 

7.井上勝正

お客さんと掛け声をかわすことで知られる熱波師です。井上が「ネーネーネー」と呼びかけると、お客さんが「パーパーパー」と答えるといいます。元プロレスラーというだけあって、パフォーマンス精神が豊かなのでしょう。ただし、実はそこにはもっと深い意味がこめられていると知り、心を動かされました。

 

8.望月義尚

温浴のコンサルタント・機材の会社を経営しており、日本のサウナについて大変詳しい人物として知られています。かつてコンサルタントとして、熱波師をしていたときのニックネームは「ロングトーク望月」。理由は、話が長かったからです。それだけ、話すべきことを蓄えているということでしょう。

 

サウナに行ってみたくなる

『熱波師の仕事の流儀』を読むまで、私は熱波師という職業があることさえ知りませんでした。ほとんどサウナを利用したことがないのですから、知りようがありません。けれども、熱波師の熱さを知った今、サウナに行きたくてたまらない自分に驚いています。サウナを楽しみたいのはもちろんですが、熱波師に会いたくなったのです。

 

『熱波師の仕事の流儀』は様々な驚きを私に与えてくれましたが、一番、印象的だったのは、以下の部分です。

 

日本文化と切っても切り離せないのが儀式である。(中略)素晴らしい日本の文化だ。完全に型がある熱波師がいてもいいと思っている。ジャパニーズ式、セレモニー・オブ・ネッパ。どうだろうか

(『熱波師の仕事の流儀』より抜粋)

 

確かに、茶道や華道にお家元がいるように、熱波師にも、それぞれ流派があっても不思議はありません。疲れた人が増える今、熱波師の果たす役割はさらに大きくなっていくでしょう。

 

【書籍紹介】

熱波師の仕事の流儀

著者:サウナーヨモギダ
発行:ぱる出版

サウナ業界を盛り上げ続ける、7人の熱波師と温浴コンサルタントを徹底取材!

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30代後半で気がついた“草もち”のおいしさ! 知るほど面白いよもぎの魅力『若杉ばあちゃんのよもぎの力』

私の中で春を感じさせてくれるのは、桜より“草もち”です。和菓子店の軒先にあるしぶ〜い文字の「草もち」を見ただけで、春だなぁ〜とマスクの中でよだれが溢れます。花より団子とはまさにこれ!

 

よもぎのフレッシュな香りとほどよい苦味……。今までスルーしてきた人生を後悔するくらい、30代後半から好きなものになりました。今回は草もちの原料であるよもぎについてたっぷり解説されている『若杉ばあちゃんのよもぎの力』(若杉友子・著/株式会社パルコ・刊)をご紹介。呑気に食べていた草もちに、こんなパワーがあったとは! と、驚きます。

 

戦後の寄生虫対策にも、よもぎが大活躍したらしい

「草もちうま〜」と食べていた私ですが、よもぎについて調べてみると、自然療法や食養生では日本のスーパーハーブと呼ばれ親しまれているものでした。その歴史は古く、万葉集にも出てくるほど。著者である1937年生まれの若杉ばあちゃんも、幼少期によもぎの力を実感したひとりなのだとか。

 

戦後、日本人のおなかに寄生虫が発生したときは、よもぎの生葉を摘んで、すり鉢ですりつぶし、よもぎの汁を盃一杯飲まされたものでした。しばらくすると、便と一緒に回虫が排泄されるので、よもぎの威力には驚くばかりでした。ばあちゃんも、その体験者の一人です。

(『若杉ばあちゃんのよもぎの力』より引用)

 

すごい時代……! 今は気軽に病院も行けますし、何かあればドラッグストアで体調不良も改善できるますが、自然に生えているものでなんとか乗り越えていた人間力、驚くばかりです。

 

また、よもぎは、お灸(もぐさ)として使われたり、韓国のよもぎ蒸しでも使われたり、食べる以外にも使われています。私も田舎育ちなので、近くの原っぱでよもぎを摘んでいましたが、こんなパワーがあったとは知りませんでした。

 

勝手に摘むのはダメ! 時期や場所も考慮して

これからの時期は、どんどん繁ってくるので「よもぎ取り放題」タイムに突入しますが、実は、摘む時期や場所が重要とのこと。気温上昇に伴い、よもぎも成長してアクが強くなってくるため、食用にできるのは、4月いっぱいまでとしておくのが良いそうです。

 

大きくなるに従い、アクが強くなって葉や茎がかたくなるので、使い方を変えていきます。食べるのは4月いっぱいまでとしておくのが安全ですが、寒い地域では5月にずれこむので、大きさややわらかさで判断してください。必ず、一度も刈っていない場所のよもぎを摘むこと。

(『若杉ばあちゃんのよもぎの力』より引用)

 

おいしそうなよもぎがあるからと、他人の敷地へ入り込み勝手に採取するのは犯罪です! しっかり許可を得てくださいね。また、犬の散歩道や道路沿い、農薬を使っている農家さんの畦道に生えているよもぎもおすすめできないとのこと。『若杉ばあちゃんのよもぎの力』では、写真付きで採取時の注意点も細かく紹介されています。自分の庭にあるよもぎは食べてもいいのかな? と気になっている方は参考にしてみましょう(トリカブトやオトコヨモギが似ているので要注意!)。

 

最近では無農薬農園が通販で、よもぎを販売しているのだとか。なかなか近隣で安全に採取できない場合は、摘んだ場所が明確な商品を選ぶのが良さそうです。

 

草もち以外にもレシピが満載! よもぎを食べまくれる一冊

『若杉ばあちゃんのよもぎの力』を読む前は、草もち以外で食べる方法を知りませんでしたが、かりんとうやクレープ、うどんにおひたし、天ぷらや味噌汁とその食べ方の幅広さにも驚きました。

 

食べる前にはアク抜きが必須のため、すこ〜し面倒ではありますが、自分で摘んだよもぎを食べられるってちょっと贅沢な気持ちもしますよね。都内ではなかなか摘むことも難しいので、私は昔の人々の知恵や思いに感謝しながら、今年もおいしい草もちをたくさん食べていこうと改めて感じているところです(笑)。

 

現代にも役立つ暮らしのヒントがいっぱいの『若杉ばあちゃんのよもぎの力』、ぜひ読んでみてくださいね。

 

【書籍紹介】

若杉ばあちゃんのよもぎの力

著者:若杉友子
刊行:株式会社パルコ

正しい摘み方・正しいアク抜き法。料理・おやつ・よもぎ茶・よもぎ酒のレシピ46。お風呂、腰湯、よもぎ湿布、枕など。衣類や米の防虫、部屋の消臭に…よもぎは現代人を救う「医草」。頭痛・肩こり・冷え性・花粉症・不眠症・うつ・婦人病・アトピー性皮膚炎なども「よもぎ」でお手当て。

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名曲の背後にある作曲家たちのドラマを読み解く——『クラシックを読む』

クラシックを読む 1 愛・狂気・エロス』(百田尚樹・著/祥伝社・刊)は三部作になっている。2は生きる喜び、3は天才が最後に見た世界。

 

作家の百田尚樹氏によると、クラシック音楽は耳で楽しむだけではなく、読んでも楽しめる音楽だそうだ。聴いているだけでも曲の魅力は味わえるが、その曲が持っているドラマ、つまり作曲家の苦悩や喜びを知れば、よりいっそうその曲を深く楽しめることができるという。ポップスや歌謡曲のように言葉のないクラシック音楽だが、本書を読みつつ、じっくりと聴けば、曲は小説や詩以上に雄弁に語りかけてくるはずだ、と。

『永遠のゼロ』とマスカーニの歌劇

百田氏は、小説を書くときは常にクラシック音楽をかけているそうだ。たいていは近くにあったCD、あるいはそのときのお気に入りをかけるのだが、稀に書いているシーンや人物に合わせて同じ曲ばかり繰り返し聴く時があるという。

 

『永遠のゼロ』のラストシーンを書いているときは、マスカーニの歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」の間奏曲をかけ続けていたそうだ。

 

『永遠のゼロ』のラストシーンにふさわしい、というか、これしかない! という気持ちで聴いていたからです。(中略)物語の主役であった一人の零戦搭乗員・宮部久蔵の弔いの場面です。恥ずかしい話を白状すると、私はこの場面を涙をぽろぽろ流しながら書きました。(中略)「カヴァレリア・ルスティカーナ」の間奏曲はわずか数分の曲ですが、執筆中はこのCDをエンドレスでかけ続けました。もう何度聴いたかわかりません。今でも宮部の弔いの場面を思い出すとこの音楽が頭の中で鳴り響くほど、私の中に刷り込まれています。

(『クラシックを読む 1』から引用)

 

名曲の背後にはドラマがある

さて、本書に収録されている全曲をまず紹介しておこう。

 

第一章 愛の幻想

ベルリオーズ「幻想交響曲」
べラームス「弦楽六重奏曲第一番」
チャイコフスキー「白鳥の湖」
ショパン「ピアノ協奏曲第一番」
リヒャルト・シュトラウス「ばらの騎士」
グリーグ「ペール・ギュント」
シューベルト「幻想曲」

 

第二章 エロス

リヒャルト・シュトラウス「サロメ」
ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第二番」
モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」
ドビュッシー「牧神の午後への前奏曲」
ヴァーグナー「トリスタンとイゾルデ」
ホルスト「惑星」
プッチーニ「ラ・ボエーム」

 

第三章 天才の狂気

ムソルグスキー「展覧会の絵」
バガニーニ「ニ四の奇想曲」
ベートーヴェン「ピアノソナタ第ニ三番《熱情》」
ストラヴィンスキー「春の祭典」
リスト「ピアンソナタ ロ短調」
モーツァルト「ピアノ協奏曲第二〇番」
ラヴェル「夜のガスパール」
ビゼー「カルメン」
ショパン「ピアノソナタ第二番《葬送》」
ベートーヴェン「ディアべリ変奏曲」

 

ショパンの呟きがピアノの音色から聴こえてくる

では、各章から一曲ずつ内容を紹介してみよう。

 

ショパンの「ピアノ協奏曲第一番」は彼が二十歳の時に書いたもので、百田氏によると、まさしく”愛の幻想”と呼ぶべき協奏曲だという。ショパンは生涯にわたってピアノを愛したが、あまり演奏旅行にも出かけず、大きなホールで演奏するよりも、自宅や小さなサロンで少人数を相手に演奏するのを好んだ。同世代でヨーロッパ各地を回り、大きなホールで喝采を浴びていたリストとは正反対だったようだ。

 

もしかしたらショパンは人前で演奏するよりも自分のために演奏したかったのではないでしょうか。というのもショパンのピアノ曲を聴いていると、まるで彼がピアノで呟いているようにも聴こえるからです。彼のピアノ曲はすべてピアノで綴った日記かもしれません。

(『クラシックを読む 1』から引用)

 

ショパンがこの曲を書いたのは恋人と破局した直後であることから、失った恋人への想いが綴られているとも言われているそうだ。青春の悲しみのようなものを感じ、切なさで胸が締めつけられると百田氏は言う。音楽は理性ではなく、感情に訴えるもの。音楽によってゆり動かされるのは心の奥に眠っている”想い”なのだ。

 

モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」はエロティックなオペラ

一般的に思われているモーツァルトの天真爛漫なイメージとはまったく異なる曲が「ドン・ジョヴァンニ」。主人公のドン・ジョヴァンニはとてもつもない好色漢で、物語の冒頭から婦女暴行未遂ではじまるようなオペラなど前代未聞。同時代に活躍したベートーヴェンがこのオペラを非常にに嫌ったのは有名な話で、音楽は人間の精神を高めるためにこそあると重っていた彼には、モーツァルトのこのふしだらな物語が許せなかったようだ。

 

しかしモーツァルトにとってはそうではありませんでした。想像するに、おそらく彼はこの物語に嬉々として音楽を書いた気がしてなりません。というのも「ドン・ジョヴァンニ」に使われている音楽は、モーツァルトの音楽の中でも最上級に素晴らしいものだからです。まず序曲が凄い。いきなりニ短調の悲劇的で重苦しい和音が聴く者の心を震わせます。これは彼が書いた六〇〇を超える曲の中で、もっとも劇的な序奏です。

(『クラシックを読む 1』から引用)

 

女を描かせたら、モーツァルトの右に出るオペラ作曲家はいない、と百田氏は評している。

 

ベートーヴェン「ディアベリ変奏曲」は狂気の産物

ベートーヴェンが生涯にわたって弛まず書き続けたのはピアノソナタ。しかし彼の音楽表現力はピアノを追い越してしまった。51歳で最後のピアノソナタを書いた時、「ピアノという不完全な楽器は、これからも多くの作曲家を苦しめるだろう」という言葉まで残している。

 

「ディアベリ変奏曲」は彼がすべてのピアノソナタを書き終えたあとに作ったピアノ曲で、演奏時間が50分を超えるとてつもない大曲だ。

 

耳が完全に聴こえなくなった男が作る曲とは思えません。ある意味、その存在そのものが狂気の産物です。(中略)第一変奏からベートーヴェンの世界となります。三拍子から四拍子に変化し、力強く雄々しいメロディが現れる。ここから音楽は宇宙的とも言える広大で深遠な世界へと入っていきます。(中略)この曲を聴き終えると、私はいつも呆然とします。何という世界、何という神秘——。そして、この曲こそ、ベートーヴェンの生涯そのものを描いたものではないだろうか、とさえ思います。

(『クラシックを読む 1』から引用)

 

この他の名曲についても、そこに隠されたそれぞれの作曲家の思いを百田氏はわかりやすく私たちに伝えてくれている。読み終えるとその曲を聴きたくなるし、また、言葉のないクラシック音楽が、語りかけてくるように感じるから不思議。すべての音楽ファンにおすすめしたい一冊だ。

 

【書籍紹介】

クラシックを読む 1

著者:百田尚樹
発行:祥伝社

クラシック音楽にはドラマがある。曲の背後には作曲者の人生があり、その苦悩や喜びが詰め込まれているからだ。ブラームスがある女性に捧げた「弦楽六重奏曲第一番」、なぜか不倫をテーマにした映画に使われるラフマニノフの「ピアノ協奏曲第二番」、一人で聴いていると異世界に吸い込まれそうになるラヴェルの「夜のガスパール」など、知られざる逸話と共に24曲を紹介する。2万枚を超えるCDに囲まれ、ほぼ毎日聴いている作家・百田尚樹によるクラシック音楽エッセイ、第1巻。まずは気になった曲から、どうぞ。

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神宮球場「1.44」、ナゴヤドーム「0.57」。この数字の意味は? セイバーメトリクスが野球を面白くする~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。最近ではコンピュータでの分析が進み、さまざまな分野で事象が数値化されるようになってきました。身近でその変化を強く感じたのは将棋です。

 

私は、作家に通じるところがある棋士が好きで、たまに将棋を観戦しているのですが、10年ほど前までは対局で指された一手の良し悪しは瞬時にはわかりませんでした。今ではコンピュータによって、その手がどのくらいの価値があるのか一目瞭然。将棋の見方は大きく変わりました。

 

野球も「セイバーメトリクス」という新たなデータ分析手法で、ひとつひとつのプレイの意味に革命が起きています。セイバーメトリクスではじき出された統計学的なセオリーを知れば、単に勝った負けただけでなく、野球がより深く楽しめることは間違いないでしょう。

 

セイバーメトリクスの第一人者が教える野球の本質

 

今回紹介する新書『統計学が見つけた野球の真理 最先端のセイバーメトリクスが明らかにしたもの』(鳥越 規央・著/講談社ブルーバックス)は、新指標から野球の本質がつかめる一冊。

 

著者の鳥越 規央さんは、統計学者で江戸川大学客員教授。スポーツのデータを分析し、評価や戦略立案に役立てるセイバーメトリクスの日本での第一人者です。著書に『9回無死1塁でバントはするな』(祥伝社新書)、『スポーツを10倍楽しむ統計学』(化学同人)などがあります。

数字でわかる犠牲バントの有効性

序章「セイバーメトリクスの歴史」から始まり、「セイバーメトリクスの原理」「投手の指標」「打撃の指標」……と順を追って解説する丁寧な構成。具体的な例が挙げられていてイメージしやすく、入門書としても最適です。

 

たとえば1章に書かれている「得点期待値」について。野球には「無死 ・1死 ・2死」という3種類のアウトカウントと、「走者なし ・一塁 ・二塁 ・三塁 ・一二塁 ・一三塁 ・二三塁 ・満塁」という8種類の塁状況をかけあわせた24種類のシチュエーションがあります。そこからイニングが終わるまでに何点入るかを示したのが「得点期待値」。これによって犠牲バントの有効性も導き出されます。

 

2021年シーズンの無死一塁での得点期待値は「0.790」。一方で一死二塁では「0.636」だったそうです。つまり、無死一塁を一死二塁にする犠牲バントは得点期待値を下げてしまう……。こうしたデータを知った上で試合を見れば、采配が何を狙ってのものなのか、意図も見えてきます。

 

私が「なるほど、これは意外と重要だ」と感じたのは球場の指標。多くのスポーツでは競技フィールドの大きさはきっちり規定されているものです。しかし、野球は球場の大きさやフェンスの高さが異なり、球場ごとに特色があります。

 

それを数字でわかりやすく表したのが「パークファクター」。「本塁打パークファクター」は、どの球場でホームランが出やすいかを示す指標で、当該球場での1試合当たりの本塁打+被本塁打を、他球場での1試合当たりの本塁打+被本塁打で割った値。2021年はセ・リーグなら神宮球場が「1.44」でトップ。最下位はバンテリンドームナゴヤで「0.57」だったとか! これだけ差があるんですね。

 

仮に本塁打だけでなく、盗塁のしやすさ、エラーの起きやすさ、ケガの発生率などのパークファクターが見えてくれば、あるスタジアム専用で起用される選手も出てくるかもしれません。

 

第8章の「総合指標 『二刀流』を評価する」も野球ファンなら気になるところでしょう。2021年のMLBアメリカンリーグでMVPに輝いた大谷翔平選手に関するセイバーメトリクスの分析が紹介されています。感覚的には二刀流がすごいことはわかりますが、数字で見ると果たしてどうなのか……。

 

3月25日に日本のプロ野球が開幕しました。セイバーメトリクスの数式自体は少し複雑ですが、昨シーズンの実際の数字が使用され、始まったばかりの2022年シーズンの予習にも役立ちます。この本を読んでからプロ野球観戦すると、ぼんやりとしていた野球の真髄が見えてくるかも!?

 

【書籍紹介】

統計学が見つけた野球の真理 最先端のセイバーメトリクスが明らかにしたもの

著者:鳥越 規央
発行:講談社

ベストセラー作品『マネー・ボール』に描かれた、貧乏球団が下剋上を果たす夢を実現した原動力が、統計学的手法で選手を評価するセイバーメトリクスだ。評価の指標はさまざまに進化し、犠牲バントへの疑問符など、戦術面にも大きな影響を与えたが、近年起きた「革命」が、測定技術の発達によるビッグデータの解析だった。従来わからなかった選手やボールの動きをとらえることで次々に生まれた新指標が、野球の真理を明らかにする!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

これから新しい環境で働く新社会人に読んで欲しい一冊『がんばらないことをがんばるって決めた。』

もう15年以上前になりますが、社会人1年目、岩手から東京へ上京した日のことは今でも忘れずに覚えています。新居のある小岩駅に降り立ち、新しい日々にワクワク。とにかく気合も十分でしたし、明るい未来しかない! そんな気分でした。しかし、半年もすればエネルギーも切れて、学生時代から付き合っていた人にもフラれ、ダメな自分と向き合う日々。そう、春は誰もが無理しちゃう時期なのです!!(笑)

 

もし、私が小岩駅に降り立つ前に『がんばらないことをがんばるって決めた。』(考えるOL・著/KADOKAWA・刊)を読んでいれば、余計な気合を入れることなく、エネルギー不足になることもなく、過ごせていたかも? そんなことを思ってしまいました。今回は、新生活これから頑張るぞー! と気合の入りまくっている人にこそ読んで欲しい一冊をご紹介します。

「みんな、演じているんだよ。会社の一員を。」という、先輩の言葉

Twitterフォロワー10万人を超える、著者の考えるOLさん。20代の現役OLさんで、2020年8月にツイートした内容に15万以上のいいねがつき、話題となりました。

 

 

心のモヤモヤや葛藤をやわらかな言葉でツイートされていて、ちょっと疲れた時に眺めると、どんどんハートを押してしまう自分が……(笑)。この『がんばらないことをがんばるって決めた。』は、そんな考えるOLさんのツイートをベースにしたエッセイで、4つの章にわけて書かれています。

 

その中に、新入社員時代のエピソードも綴られているのですが、営業職で働いていたとき、取引先さんに怒られてしまったり、あまりの辛さに泣きたくなったり、うまくいかずもがいていたこともあったそう。そんなことを先輩に相談すると、こんな回答があったと書かれてありました。

 

どうして先輩たちは、こんなつらい思いをしても涼しい顔して仕事していられるんだろう?

あるとき、先輩に思い切ってきいてみた。そうすると「みんな、演じているんだよ。会社の一員を。」と、教えてくれた。

(『がんばらないことをがんばるって決めた。』より引用)

 

これは私も太めの付箋を貼ってしまったくらい共感! 怒られているのは、自分ではなく、会社の看板を背負った私。「私が悪いんだ……」「もっと私が頑張らないと〜」と思うのですが、なんだかんだで社員なのだから、“株式会社〇〇の私”なんですよね。

 

36歳を過ぎた私も、いつの日からか、自然とそう思えるようになりましたが、新人のころはそれもわからず、がむしゃらに自分の力だけでなんとかしようとしていました。「あぁ〜これを新卒時代に読んでおきたかった!」と感じたのでした。

 

どうやったら「自己肯定感」は上がるの?

社会に出ると、ぐいぐい下がってしまう「自己肯定感」。

 

私は価値のない人間なんだ……、こんなこと思うのは私だけ……、と自己肯定感が下がっていくと、自己表現もできなくなってしまいます。そんな悩みを抱える人もたくさんいるようで、2018年に内閣府が発表した「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」によると、日本の若者の自己肯定感が低いなんて結果も出ています。

 

どうやったら自己肯定感って上がりますか?

考えるOLとしてTwitterを始めてから、一番多く質問されたことだ。

私もたくさん悩んできたからこそ、そんな質問にはまっすぐにこう答えたい。

 

「自分を大切にしてくれない人とは離れる」ことだ。

(『がんばらないことをがんばるって決めた。』より引用)

 

自己肯定感が低いから上げよう! と無理するのは禁物。どうしたら自分らしくいられるか? そんなことを考えながら、自分に合った場所に移動するのが大事なんですね。

 

考えるOLさんの言葉は、悩んでいる人だけでなく、無意識に自己肯定感が下がる場所にいる人もハッとさせられる、そして元気になるような言葉がたくさん散りばめられていますよ。

 

逃げや負けなんてことはないよ

「でも、それって逃げることじゃないの?」と思う人もいるでしょう。『がんばらないことをがんばるって決めた。』の最後にはこのような言葉が書かれてありました。

雨が苦手なら、大きな屋根の下に。

暑さが苦手なら、緑道の涼しい木陰に。

 

逃げているのではない。自らの意思で、咲ける場所を探すことも立派な努力だ。

(『がんばらないことをがんばるって決めた。』より引用)

 

今までは、どんな場所でも頑張っていればなんとかなる時代でした。

 

先行きが不明瞭な現代においては、頑張れる場所を探すことが何より大事なのだと感じます。一度の人生、何を頑張りたいのか? 誰と頑張りたいのか? 頑張ることがダメなのではなく、本気を出せる場所や自分の居場所を見つける努力がまずは大切なのだと思います。

 

今悩んでいる方だけでなく、希望に満ちた新入社員の方にも、転ばぬ先の杖だと思ってぜひ『がんばらないことをがんばるって決めた。』を読んで欲しいです。今すぐにはわからなくても、わかる時がきっと来る、役立つ言葉がたくさんある、そう感じさせてくれる一冊でした。

 

【書籍紹介】

がんばらないことをがんばるって決めた。

著者:考えるOL
刊行:KADOKAWA

今日も会社に行けなかった。まあいいか。生きてるし。Twitterで15万人が共感。不幸なわけじゃない、でも毎日どこかモヤモヤする…そんな社会人に贈る、ありのままの人生をゆるやかに生きるためのヒントがつまったエッセイ。

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IQ・EQに次ぐ第3の知性「PQ(自己表現力)」こそ、ビジネスにもっとも必要な力だ!ーー『成功はPQで決まる』

ああ、ヘタだ。ヘタすぎる。動画配信に関わらせていただいているが、パフォーマンスは理想とかけ離れている。

 

PQとは?

もちろん、スタッフのせいでは決してない。それに、筆者は自分がそこそこ面白い人間だと思っている。でも、動画を見ると期待していたほど面白くない。いや、想定していた仕上がりとはほど遠い。収録の時の主観性と、アップされた動画を見る時の客観性にこれほどの差が出るとは……。トークのプロではないので、毎回高評価をいただくというのは無理な話だろう。それは十分わかっているんだけれども、もうちょっとなんとかならないか。

 

筆者のそんな思いが引き寄せの法則に乗ったのだろう。『成功はPQで決まる』(佐藤綾子・著/学研プラス・刊)という本を手にすることになった。“PQ”というのは耳慣れない言葉ではないだろうか。これはPerformance Quotient=「自己表現力指数」の略で、世界初の自己表現力測定尺度を意味する。日本におけるパフォーマンス心理学の第一人者である佐藤綾子氏の42年にわたるキャリアの成果として誕生した。

 

IQ(=知力)、そしてEQ(=自分や相手の感情を理解する力)がいくら高くても、その二つを適切に表現する自己表現力であるPQがなければ、真意が的確に伝わらないどころか、IQもEQも宝の持ち腐れになってしまう。PQとは、IQとEQ以上に重要な「第3の知性」であり、人間の対人能力の統合形にほかならない。

 

IQとEQ、そしてPQによって表される人間の姿

今の世の中、何らかのパフォーマンスとまったく無縁で生きていける人はいない。パフォーマンスの本質とは、何かを伝えることにほかならない。誰かと関わりを持った瞬間にその芽が生まれる。最近は、オンライン会議などデジタル由来の関わり合いにおいても必須だ。

 

PQは、特に今の時代において自分という存在を固めていく過程——自己実現という言い方が正しいのだろう——に不可欠な概念なのだ。まずは、PQを構築する要素とそれぞれの関係性、そしてPQによってもたらされるものすべてがひと目でわかる表を見ていただきたい。古代ギリシャの哲学者アリストテレスの言葉も概念の可視化を助けてくれる。

 

然るべきことがらについて、然るべき人々に対して、さらにまた然るべきしかたにおいて、然るべきときに、然るべき間だけ怒る人間は称賛される。かかる人は『穏やかな人』といえよう。

 

・「然るべきことがら」が何で、「然るべき人」が誰であるか理解できる力➡IQ

・怒りの感情処理と「穏やかな人」という気持ちがわかる力➡EQ

・「然るべきしかたで」➡表現技法選択のPQ

・「然るべき時に」➡表現のタイミングをつかむPQ

・「然るべき時間だけ怒る」➡1つの表現の所要時間を決めるPQ

『成功はPQで決まる』より引用

 

話はここから、マインドマップ的な展開で広がっていく。まさにPQで用いられるレーダーチャートそのもののイメージだ。

 

人は誰もがパフォーマー

筆者が皮膚感覚レベルで悩んでいる主観と客観のギャップに関するキーワードは、能の大成者である世阿弥によって残されていた。

 

「我見」は役者が観客を見る目。

「離見」は観客が役者を見ている目。

「離見の見」は、観客の目を意識して、見せたい自分を見せて行く役者の目。

 

視点を2022年に置き換えると、次のような文章になる。

 

見る目、見られる目、見せる目を常に駆使して、プレゼンをしたり、会社の会議に出たり、社外の交流会に参加したりしてみませんか。なかなか緊張感があり、スリリングで、面白い。第一、それがビジネス成功の基本でもあります。

『成功はPQで決まる』より引用

 

佐藤氏は語る。人は誰もがパフォーマーなのだ。

 

何をどう伝えるか

人間の本質がパフォーマーであるなら、パフォーマンスの質を上げていく過程はごく自然な行いとしてとらえるべきだ。こうした行いは、なぜ大切なのか。

 

社会で人とつながって自己実現していく人間の運命や根源的仕組みを考える時、心の中の思いは自分が「伝えた」と思っていても相手にその意図どおりに「伝わって」いなければ、意味がないのです。

『成功はPQで決まる』より引用

 

自己実現に不可欠な自己表現力は、以下のような各能力によって総合的に示される。

 

自己表現の4つの基礎力…言語力、表情力、動作力、声(周辺言語力)

自己表現の12の応用力…印象力、コミュニケーション力(自己肯定・他者肯定力)、ストレス対処力、レジリエンス(再起力)、楽観力、フロー力、NLP力(神経言語プログラミング力)

 

これら16の能力は「AS自己表現力テスト(PQテスト)」によって測定することができる。さらに、今の時代に不可欠なオンライン力もカバーしながら、ひとつひとつの能力を詳細に検証し、伸ばしていく具体的な方法も示される。測定を定期的に行えば、進歩が目に見える形でわかるだろう。

 

パフォーマンスの新しい概念とすぐに役立つヒント

章立てを見てみよう。

 

第1章 IQとEQだけでは人生の成功はつかめない 人間の能力の総仕上げは自己表現力「PQ」
第2章 誰もがパフォーマー 
パフォーマンス心理学の基本構造
第3章 ステップ1 自己発見 欲求や願望がぶれない人は強い
第4章 ステップ2 自己強化 「大善」のフィルターを通す
第5章 ステップ3 自己表現【言語】 思いを伝える言語11キー
第6章 ステップ3 自己表現【非言語】 言葉より強い非言語12キー
第7章 PQを正確に知って成功につなげる 自己発見から他者発見強化と成功への道
第8章 今すぐできる自己表現力トレーニング 生涯使える最大自己資産「自分を伝える力」を作る

 

豊富な図表が概念の理解に役立つ。パフォーマンスの概念は次のように図式化され、パフォーマーである自分の立ち位置や、自分と周辺情報、外的要因の関係性を直感的に把握できる。

すぐに使える実用的なテクニックもいっぱいだ。ひとつ例を挙げておく。ふとした瞬間にいい知れぬ不安に襲われることは誰にでもあるはずだ。心理学でいう“予期不安・期待不安”が生まれた時には、「先取りの感謝」が効く。

 

例えばゴルフ場では「神様、私のゴルフボールは無事に池を越えて、あのピンそばにピタリとオンしますから、ありがとうございます」というわけです。「神様、これから会う人は絶対私の話を聞いてくれますから、ありがとうございます」というように。

『成功はPQで決まる』より引用

 

「先取りの感謝」が役立ってくれるシチュエーションは数限りなくイメージできるのではないだろうか。

 

変化は確実に訪れる

今の自分のPQを正確に知り、強い側面も弱い側面も常に意識していく姿勢さえ作っておけば、アプリケーションは無限大だ。まず、それぞれの力をトレーニングするチャンスを積極的に見つけていく心がけが大切になると思う。これを続けていると、結果的にPQのレーダーチャートがきれいな形で大きくなっていくはずだ。ビジネスでの成功にせよ幸福の追求にせよ、日々のパフォーマンスを確認することが客観的な自己認識につながっていくだろう。

 

客観的な自己認識とは、具体的にどのような形で現れたり訪れたりするのか。結果として何がもたらされるのか。今の筆者にはまだわからない。ただ、何らかの変化が訪れることは確信している。そして佐藤氏がおっしゃる通り、“変化”は“目覚め”という言葉に置き換えることができるにちがいない。

 

 

【書籍紹介】

成功はPQで決まる

著者:佐藤綾子
刊行:学研プラス

表現されない実力は、無いも同じだ!これは、日本初のパフォーマンス心理学を開始した私と仲間たちが、1980年のニューヨーク大学大学院パフォーマンス研究科修了以来、40年以上もの間掲げているパフォーマンス心理学の鉄則です。相手のニーズを正確に読み取りながら、言うべきことを最適な形で言って、必要な影響力を相手に与えていくこと。そのとき、表現手段は言葉だけでなく、表情やしぐさまで総動員すること。相手がわかって動き出すまで、効果的な発信をし続けることが大切です。特に、昨今のグローバル社会においては、多様な価値観が当たり前のことになっています。黙っていては、何も伝わらないのです。

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ピアノがまったく弾けなくても、左手1本+右手3本の指で弾けばそれっぽく聞こえるよ!

僕は音楽が好きで、昔はバンドをやっていたし、今はアコースティックギターの弾き語りをやったりしている。曲はほとんどオリジナルだ。

 

大学生のころはバンドサークルに所属していた。一応ボーカル志望で入ったのだが、人材不足もあり当時はギター、ベース、ドラムをやっていた。一番やっていたのがドラムだった。

コードはわかるが鍵盤は弾けない

長年音楽を楽しんでいるが、どうしても乗り越えられない壁がある。それが「ピアノ」だ。ピアノというか、鍵盤楽器がどうしても弾けない。せめてコード(和音)くらいは弾けるようになりたいのだが、うまくいかない。

 

ギターが弾けるので、和音の構成音くらいはわかる。Cならドミソ、Fならファラド、Gならソシレ。わかる。わかるのだが、鍵盤で弾こうとするとなぜかうまくいかない。ギターと違い、指の形で覚えるというわけにはいかず、鍵盤ごとに何の音なのかをある程度理解していないと、コードを抑えることすらわからなくなる。

 

若いころにちょっと挑戦したのだが、すぐに挫折した。というか、根気がなかった。

 

90分でなんとなくピアノが弾けるような気分になる

でも、やっぱりピアノが弾けたらいいな。そんな風に思っていたときに見つけたのが『楽譜がよめなくても90分でいきなりピアノが弾ける本』(monaca.factory・著/ダイヤモンド社・刊)だ。

 

楽器未経験でも、楽譜が読めなくても簡単にピアノが弾けるようになると謳っているこの書籍。著者は作曲が本業のようだが、いわゆる「ピアノ教則本」という感じではない。ピアノ教室のように基礎をしつこく練習したりせず、とにかく「弾ける」ようになろうという主旨の内容だ。

 

最初のほうに、鍵盤の弾き方(ドレミファソラシドの指の運び)があるものの、あまり技術的な内容は出てこない。コードの構成音を右手で3音弾けば、歌の伴奏くらいにはなりますよ、みたいな結構ゆるい感じなので、意外とすんなりできる(気がする)。

 

もちろん徐々に難しくはなっているが、タイトルのように90分あれば、なんとなくピアノを弾いてる気分になれる。心理的ハードルが低くなるというのは、楽器を練習するときにとても重要だ。

 

左手1本+右手3本の指を使えばピアノが弾けてる雰囲気になる

本書を読んで、ここまでできればなんとかなるなと思ったのが、「右手で3つ音を出し、左手で1つ音を出す」というコードの弾き方。都合4音だけなのだが、一応両手を使っているし、それなりに聞こえる。何より、左手の負担が軽いのがいい。まずはこれができることを目指すのがよさそうだ。

 

ちなみに、これなら90分あれば4つのコードくらいは弾けるようになった。4つもコードが弾ければ、簡単な曲ならできる。あとは、徐々に左手の使う指を増やしていき、左右3本ずつの指でコードが抑えられるようになると、かなり上達した気持ちになれるだろう。

 

ピアニストのように、右手でメロディ、左手で伴奏というのは結構難しいと思う(特に大人になってから始めると指が動かない)が、コードを押さえるくらいなら両手でなんとかできそう。そんな気分にさせてくれる書籍だ。

 

打倒黒鍵! ピアノ弾き語りを目指して

僕は、ギターを弾けるといってもほとんどコードしか弾かない(歌の伴奏レベル)ので、それで十分。そう思ったら、なんだかピアノが弾けるんじゃないかという気がしてきた。

 

あとは、和音の構成音を覚えて、指4本でスムーズにいろいろなコードを弾けるようになれば万々歳。難しいことはやらない。シンプルに歌の伴奏だけをやる。これなら続けられそうだ。本書を読んでちょっと鍵盤をいじってみて、そう感じた。

 

ただ、ここで大きな壁が……。黒鍵(鍵盤の黒いところ)を押さえようとすると、一気に混乱してくるのだ。やっぱり楽譜の読み書きができないというデメリットがこういうところに出てきているのだろうか……。

 

でもがんばろう。自分の曲くらい、ピアノで歌えるようになりたい。もうすっかりいい歳になってしまったが、これからはピアノの弾き語りができるように、チャレンジしてきたいと思う。

 

【書籍紹介】

 

楽譜がよめなくても90分でいきなりピアノが弾ける本

著者:monaca:factory
発行:ダイヤモンド社

「ド」の位置からはじめて、あっという間に曲が弾けちゃう。譜面の暗記は必要なし!楽譜がなくても演奏できるようになる。片手ずつ丁寧に教えてくれるから、わかりやすい。「ピアノの楽しさがわかった」と大好評のレッスン、待望の書籍化!

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「キレる」のではなく、正しく上手に怒るための心構え——『怒る技術』

テレビでも日常生活でも、怒っている人をよく見かける。「キレる」というキーワードで検索すると、誰かが怒っている動画がかなり多く引っかかってくる。

 

キレるスイッチ

店員のお釣りの渡し方が気に入らなかった。クラクションを鳴らされてカチンときた。たまたまマスクを外した瞬間を見られて注意された。キレるスイッチは人それぞれだ。そして、とどまるところを知らないレベルまでキレてしまう人もいる。

 

以前とはまったく違う日常の中で生きることを強いられたこの2年の間に、キレやすくなったり怒りやすくなったりした人は確実に増えたにちがいない。アンガーマネジメント(怒りの感情のコントロール法)先進国のアメリカでは、“パンデミック・アンガー”という新しい言葉も生まれた。今の世の中では、怒りの感情が生まれやすく、どこまでも突っ走ってしまいやすくなっていると思ったほうがいいだろう。

 

怒りの感情と正しく向き合うために

怒りの感情をあたりかまわず、誰彼かまわずぶちまけるような態度は問題だ。しかし、全ての怒りをひたすらため込むのも健やかな行いではない。アンガーマネジメントの講座に参加するほどではないが、怒りの感情と正しく向き合い、健やかな方法で解き放ちたい。普通の人間は、普通に生まれる怒りの感情にどのように対処していったらいいのか。そして、そもそも怒りの感情を認識するのが苦手だったり、できなかったりする人もいるようだ。

 

怒る技術』(中島義道・著/株式会社KADOKAWA・刊)は、怒りという感情を本質から多角的にとらえた一冊だ。著者の中島氏による考察の過程はエキセントリックでありロジカルであり、そして何よりクレイジーだ。“戦う哲学者”である著者は、憎たらしささえ感じる繊細な響きの言葉を使いながら、これでもかというくらいの緻密さで怒りをつまびらかにしていく。すべては次の大前提の下に進められる。

 

怒る技術を学ぶことは、効果的に怒る技術を学ぶこと、つまり怒りを爆破させるのではなく、冷静に計算して相手にぶつける技術を学ぶことなのです。

   『怒る技術』より引用

 

怒りを定義する

中島氏は怒りを次のように定義する。

 

「怒り」とは「悲しみ」や「寂しさ」や「虚しさ」や「苦しさ」といった単なる受動的な感情ではなく、表出とコミになった感情です。

『怒る技術』より引用

 

感じた怒りは何らかの形で外に出していかなければならない。ならば、誰よりも自分が納得できる方法でこれを行うためにはどうしたらよいのか。

 

一挙に怒るように自分を仕向けていってもたちまち挫折する。段階を踏んで一歩一歩進むことが大切です。その第一歩として、怒りの出現を正確にとらえること。どんな小さなものでもいい。怒りの兆候をあなたが感じたら、それを大切に育てることです。

『怒る技術』より引用

 

常識や社会規範との関係

笑いのツボはひとそれぞれだろう。だから、怒りのツボだって違って当たり前だ。ただ中島氏の怒りのツボは、はっきり言って世の中の大部分の人が同意するものではない。いや、かなり乖離していると言ったほうが正確だ。表出の方法もストレートだ。

 

これまで法に触れる窃盗を二度ほどしました。一度は、電通大近くの天神通りにある、酒場のスピーカーがあまりにもうるさいので、それを奪い取って、「返してくださいよ! 返せよ!」という訴えをものとせず、民家の庭に投げ捨てたのでした。

『怒る技術』より引用

 

本書の性質としては、怒りの本質を明らかにして、それをうまく表出していくまでのプロセスについて論じる哲学書という言い方が正しいのだろう。でも、怒りを育て、それをストレートな形で表出しまくっていく著者の行動を追うだけでも一読の価値がある。いや、その部分が一番面白い。常識とは何か。社会的規範とは何か。読者はそういうところまで考えていく必要に迫られる。

 

哲学って……

怒るというのは、ネガティブなばかりの行いでは決してない。問題は、怒りの感情の育み方と表出の方法だ。

 

怒りはあなたを確実に鍛えてくれる。あなたの人生を確実に輝かせ豊かにしてくれる。ですから、さあ、あすから、いや今夜から、いやいますぐにでも、何かに対して猛烈に怒ることにしましょう。何に怒るかって? そうですね、さしあたり、こんな本のために460円も払ってしまった、あるいはこんな本を最後まで読んでしまった、自分の浅はかさに怒ってはいかがでしょうか?

『怒る技術』より引用

 

哲学って、実はとんでもなくぶっ飛んだ学問なのかもしれない。十分楽しませてもらったから、最後の最後でこういうふうに突き放されても怒る気にはなれないな。

 

【書籍紹介】

 

怒る技術

著者:中島義道
刊行:KADOKAWA

あなたは上手に怒ることができますか?突発的に「キレる」のではなく、効果を冷静に計算して、相手に怒りをぶつけること。「やさしい」言葉に乗じて、個人固有の考え方や感受性、言葉を奪い去ろうとする他者に対して、怒りを感じ、伝え、時に相手の怒りを受け止める術を磨く。かつては怒れなかった青年が、留学先のウィーンで独り生き抜くために培った怒る技術。豊かな人生を取り戻すために、本書を片手に、いまこそ怒ろう。

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「CAPA 4月号」は通巻500号スペシャル!モノ、モノ、モノづくしの大特集「カメラ・写真用品500アイテム」

「CAPA 4月号」の巻頭特集は「カメラ・用品500アイテム、全部見せる!」。通巻500号を記念し、撮影欲をかき立てる500アイテムを写真付きで紹介します。第2特集は「春の絶景‟桜ふぶき”必撮テクニック」をお届け。桜ふぶきで狙いたい表現「流す・止める・ぼかす」の撮り方を解説します。さらに、「CAPAアワード2021-2022」のノミネート製品発表のほか、巻頭&巻末グラビアは風景、スポーツ、ポートレートと盛りだくさん。CAPA4月号もカメラ・写真を楽しむための記事が満載です。

【通巻500号記念 総力特集】カメラ・写真用品500アイテム、全部見せる!

『CAPA』は1981年10月号の創刊から数え、今号で通巻500号に到達しました。そこで500号を記念して、編集部が厳選した撮影欲をかき立てる‟500アイテム”を一挙にご紹介します。

 

いま注目のカメラ21モデル、写真を変える交換レンズ100本のほか、三脚、ライティング用品、カメラバッグ、フィルター、プリンター、記録メディア、ソフトウェアなど写真がより楽しくなる撮影用品370アイテム。さらに、ニューモデル特報として3月25日発売のパナソニックLUMIX GH6をいち早くレポートします。

 

“流す・止める・ぼかす”で魅せる! 春の絶景「桜ふぶき」必撮テクニック

満開を過ぎたら狙いたいのが、桜ふぶき。淡い花びらが風に吹かれ舞う様子は、桜が見せるもう一つの絶景です。ただし、絵になるように撮るにはコツが必要です。本特集では、桜ふぶきで狙いたい3つの表現「流す」「止める」「ぼかす」の撮影テクニックを紹介します。

 

斎藤佑樹 グラビア&インタビュー

昨年、惜しまれつつ現役を引退した元プロ野球選手の斎藤佑樹さん。年末には「株式会社斎藤佑樹」を設立し、これからは野球の未来のために働いていきたいと語ります。そんな斎藤さんが今、写真にハマっていると聞きつけ、今号の表紙撮影とインタビューが実現。自身の作品を披露していただきつつ、カメラとこれからの夢について語ってもらいました。野球のセンスは写真にも表れる⁉ 乞うご期待です。

 

このほか、‟ユーザー視点”で優秀な製品を選出し表彰する「CAPAアワード2021-2022」のノミネート製品を発表。カメラ部門、レンズ部門、用品部門(三脚関連、プリンター、フラッシュなど)、3部門14カテゴリーに分けて読者投票を実施します。投票期間は5月15日まで。

 

無線綴じの特別号は、巻頭&巻末のグラビアも必見。高砂淳二「ALOHA~美しきハワイをめぐる旅~」や土屋勝義「東京橋美人」、感動がよみがえる「北京 2022 OLYMPIC 氷点下に輝くアスリートたち」を公開します。

[商品概要]
CAPA 2022年4月号

著者: CAPA編集部
定価: 1200円 (税込)

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・セブンネット https://7net.omni7.jp/detail/1233561469

考えないで節約とダイエットを同時にかなえる! 『節約できる! 糖質オフのやせる献立』

『節約できる! 糖質オフのやせる献立』は、掲載しているすべてのおかずに糖質量、カロリー、食材費を記載。すべての献立がダイエットにうれしい糖質量内になるように計算されているから、そのままマネするだけでOK。鶏むね肉や豆腐などのお買得食材でできるおかずばかりなので食費削減にも効果があります。

最安献立は1人分98円! 悩まず糖質オフダイエットができる献立を紹介

1食あたりの糖質量を自分で計算せずに、糖質オフダイエットができる献立レシピを掲載。主菜1品+副菜2品でできる献立を主に紹介します。献立例を見れば、おかずの組み合わせにも糖質量にも悩まずにそのままマネするだけでOK! それぞれのおかずに食材費の目安もついているので、節約にも役立ちます。最安献立はなんと1人分98円! 体重も食費もしっかり減らすことができます。

 

ごはんもの&おやつのアイデアレシピ

糖質オフダイエットをするときに我慢しがちなのが丼ものやおやつ。工夫次第で安心して食べられるレシピを提案しています。話題のオートミールをフル活用したり、豆腐でかさまししたり、たっぷり食べられるのにしっかり糖質オフができる工夫あるレシピを紹介します。 好きな食べ物を我慢せずに、ストレス知らずでダイエットができます。

 

レンチンでできるお手軽おかずも!

糖質オフおかずは電子レンジだけで作ることができるものもあります。手軽に作れるので、あと1品足したいときにもすぐに完成します。どうしても料理が面倒くさい日も、電子レンジにおまかせすればおいしいおかずができます。「料理が続かなくてダイエットを諦めていた!」という人にも安心のレシピです。

 

[商品概要]
節約できる! 糖質オフのやせる献立

著者: 料理書編集部
定価: 990円 (税込)

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マイコップ・マイテイクアウト容器・マイストロー——効率よくプラスチックを減らす方法

少しでも地球を汚さないために、多くの企業や個人がプラスチック製品を使わないように努力しています。脱プラスチックに向けてゴミ袋やストローがかなり減らされていますが、この他に私たちができる効率のいい方法を探してみました。

食品ゴミが激減

筆者はプラスチックごみが半減した経験があります。それは一時的にベジタリアンになった時でした。まず、肉と魚を食べなくなるので、食品トレイなどのパッケージが激減しました。また、地元農家の販売所を利用するようになったので、野菜用のプラスチック袋も激減したのです。

 

さらに卵も食べなくなったので、卵ケースも減りましたし、ソーセージの袋などの加工食品の類もなくなってしまったのです。2年ほどの経験でしたが、こんなにゴミが減るなんて! と驚きました。今でもできるだけ過剰パッケージされていない品物を選択するようにしています。

 

プラスチックと環境汚染

プラスチック・フリー生活 今すぐできる小さな革命』(シャンタル・プラモンドン、ジェイ・シンハ・著/NHK出版・刊)は、そのタイトル通り、プラスチックのない生活を実践するためのアイデアに満ちた本です。この本を読めば、今よりもさらにプラスチックを日常生活から減らすことができるのではないでしょうか。

 

そもそも、なぜここまでプラスチックごみが問題視されているのでしょうか。土に還らないため地球環境を汚染することや、それを口にした魚や鳥がプラスチックを胃袋に詰まらせて命を落とすということが頭に浮かぶ人は多いでしょう。

 

本書ではそれに加えて、プラスチックに含まれる化学物質を口にすることについての心配も書かれています。できるだけ自然に暮らしたいと考えているのであれば、人工的なプラスチックは少しずつでも減らしていくほうが安心でしょう。

 

レジ袋やストローだけじゃない

本書には、今日からすぐに実践できるプラスチックごみの減らしかたが伝授されていています。欧米での脱プラスチックの動きは日本よりもずっと進んでいて、著者のおふたりはカナダ在住ということもあり、先を行く人からのアドバイスがとても参考になるのです。

 

日本ではようやくマイバッグやマイボトルやマイ箸が浸透してきた感がありますが、本書では、マイコップやマイテイクアウト容器、そしてマイストローの紹介まであります。マイストローにはステンレス製やガラス製、それから竹や藁を使うものも紹介されていて、特に竹は洗えば繰り返し使えるのだとか。

 

ベストなマイバッグとは

個人的に常々気になっているのは、マイバッグの素材です。繰り返し使えて便利ですが、実はこれもポリエステル製を使ったら化学的な素材であるわけで、果たしてエコと言えるだろうかという疑問があります。本ではそのことにもしっかり言及していて、木綿とジュートと麻が土に還るのでおすすめだということです。

 

なかでもベストはコットンのキャンバス地のマイバッグで、これを定期的に洗って使えば清潔さは保てるとのこと。2011年にはマイバッグを洗って使っている人はわずか3%しかいないというアンケート調査も出たそうですが、そうすると雑菌も繁殖しやすくなってしまうので、繰り返し洗える丈夫な素材であることが大切になるでしょう。

 

本書には、コットンのメッシュ袋を持参すれば、スーパーでのビニール袋を使う回数も減らせるというアイデアもありました。こうして眺めてみるとやはり日頃の食事や食材を見直すだけでもかなりの削減になりそうです。より簡易な包装をするお店を探してみるのも大事な一歩かもしれません。

 

【書籍紹介】

プラスチック・フリー生活 今すぐできる小さな革命

著者:シャンタル・プラモンドン, ジェイ・シンハ
発行:NHK出版

これを知っても、まだペットボトルを買いますか? 今、世界的に注目を集めているプラスチックごみ問題。じつは環境だけでなく、私たちの健康にも知らぬ間に害を及ぼしている。使用中に漏れ出す化学物質の作用とは? 使い続けても大丈夫? その危険性の徹底解説から、代替品を使った暮らし方のヒントまで網羅した“プラスチック・フリー”入門ガイド。簡単な6つのステップで、今すぐ8割減らせる!

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行列覚悟!? 町の小さな飲食店、ナゾの看板メニューの秘密に迫る~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。「百聞は一見にしかず」とはいうものの、私は旅行記や食レポも活字で読むのがわりと好きです。YouTube動画を見れば一目瞭然ですが、「どんな景色だろう」「どういう味だろう」と想像しながら読むことで、より深く鮮やかに記憶に刻まれる気がします。書き手の静かな感動も文字だとじんわり伝わってきますよね。

 

ファンが多い飲食店の秘密

今回紹介する新書飲食店の本当にスゴい人々』(稲田俊輔・著/扶桑社新書)の著者・稲田俊輔さんは、料理人で飲食店プロデューサー。和食店、ビストロ、インド料理など幅広いジャンルの店を経営する一方、レシピ本やエッセイなどの執筆活動も積極的に行っています。著書に『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』(扶桑社新書)、『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分!本格インドカレー』(柴田書店)などがあります。

 

繁盛する洋食店主の本音とは?

本書の構成としては、全体の3分の2が居酒屋や洋食店といった個人店の看板メニュー紹介。「ジャンボ焼」「かきソーテー」「メキシカンライス」など、個性的な料理が並びます。それぞれ店主へのインタビューも行われ、どこにこだわっているのか、何が普通の店とは違うのか、評判店の秘密が見えてきます。

 

後半3分の1は、サイゼリヤ、ロイヤルホスト、ドムドムハンバーガーという根強いファンがいる外食チェーンへのインタビュー。チェーンのキーパーソンに稲田さんが鋭い質問をぶつけています。

 

ビジネス本とグルメ本のいいところがバランス良く混ざっているのが本書の特徴。特に食レポの表現が巧みで、どの料理も食欲をかき立てられます。

 

私が明日にでも訪れてみたい! と思ったのは、東京・高円寺の老舗洋食店「ニューバーグ」。ここの看板メニューはもちろんハンバーグ。「A」ことスタンダードなハンバーグはライスと味噌汁付きで530円(※原材料高騰のため値上げを検討中)。

 

「牛豚の合い挽きを丹念に練り込み、つなぎに肉汁を吸わせきってしまうこの店のそれは、ねっちりとしたまとまりの中にところどころ肉粒感が顔を出すタイプ」。濃厚なデミグラスソースを味わったあと、目玉焼きを切り崩し、ライスを頬張る。至福の瞬間に違いないでしょう。

 

ハンバーグもソースもドレッシングも一から手作りの店ですが、店主いわく「電子レンジがさ、ちょっと悔しいんだよね」と本音……。たくさんのお客さんに手頃な価格で提供するため、まとめて焼いてレンジで温めて仕上げるのだそう。味にこだわりながらも気軽に入れる値段、それがまさに町の洋食店ですよね。

 

チェーンのキーパーソンにじっくり話を聞く第3章も読み応えがありました。「サイゼリヤ」のパートでは代表取締役社長の堀埜一成さんが登場。

 

理系の経営陣が多いことで知られるサイゼリヤ。商品開発は現地へ行ってさまざまな料理をチェックし、日本のお客さんに食べてもらいたいと思ったら機を見て商品化するのだとか。その商品化のタイミングはなんと“宇宙の意志”!?

 

ちょっと怪しげですが(笑)、「日本人の味覚って中国文化圏でありモンスーン文化圏なんですよ。例えばヨーロッパでは核酸系の旨味が中心ですけど、日本ではアミノ酸の旨味が中心です」と社長・堀埜さんのしっかりした分析もあり、計算と独自のセンスが同居するサイゼリヤらしいと感じました。

 

料理を作るのは結局は人。作る側がどのような想いを持って創意工夫しているかが見えると、その料理は一層美味しく感じられます。店主と料理が同時に味わえる新書でした。

 

【書籍紹介】

『飲食店の本当にスゴい人々』

著者:稲田俊輔
発行:扶桑社

人気店「エリックサウス」の総料理長であり、飲食店プロデューサー、ナチュラルボーン食いしん坊である稲田俊輔(イナダシュンスケ)が、普段から思い入れを抱く飲食店のおいしさの「正体」を探るべく実際に足を運び、徹底取材を行った。あの林修先生も注目する食のエンターテイナーが、お店の成り立ち、メニューの作り方から作り手のバックボーンまで根掘り葉掘り聞き出し、普段はなかなか気づかないであろう料理や飲食店の内側にある本当の姿を解き明かす。おいしい料理に出会えるのはもちろんのこと、これを読むことで食をさらなる楽しいひとときに、そして一段上の味わい深いものへと昇華してくれること間違いなし!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

天才は天才を知る。将棋界のレジェンドが若き天才について語る『藤井聡太論 将棋の未来』

将棋に興味がない方でも、藤井聡太の名前を聞けば、「あ、あの若き天才ね」と、すぐに思い当たるでしょう。2022年3月現在、藤井聡太は王位・叡王・王将・棋聖と4冠のタイトルを保持しています。これだけでも驚きの快挙ですが、彼は今も現在進行形で進化を続けており、このコラムが配信されるころには、さらに記録を伸ばしているでしょう。

 

将棋を知らなくても

藤井聡太論 将棋の未来』(谷川浩司・著/講談社・刊)は、将棋界のレジェンド・谷川浩司が天才・藤井聡太に迫った本です。これは読まずにはいられません。とはいえ、私自身は将棋のことはさっぱりわかりません。駒の動かし方さえよくわからず、金と銀の違いもすぐにごちゃごちゃになります。けれども、子どものころから、将棋の世界にずっと興味を持っていました。自分では出来ないからこそ、知りたくてたまらなくなるのです。棋士達は私が一生かかってもまったく理解できない世界にその身を捧げ、盤上を俯瞰しながら生きています。頭の構造が違うとはいえ、一体、どうなっているのだろうと興味を持たずにはいられません。

 

将棋には詳しくないくせに、テレビ放送の対局をよく観ます。私にとって、スポーツを観戦するのに似た楽しさがあります。もちろん、表面上はスポーツをしているようには見えません。棋士は将棋盤をにらみながら、長時間にわたってじぃっと座っているでけです。たまにお茶を飲んだり、扇子を手にしたりはしますが、あとは体を揺らす程度で、かたまったように動きません。ところが、頭の中ではすさまじい勢いで何かがうごめき、激しく格闘しているのがわかります。その様子は、タイトル戦に挑むボクサーのようでもあり、相手の動きをさぐり合う柔道家のようでもあります。

 

今、将棋の世界は、かつてない変革のときを迎えています。AI(人工知能)が台頭し、ますます激しさを増しているからです。

 

将棋ソフトのポナンザ(Ponanza)が現役の名人に完勝したのは二〇一七年五月だった。(中略)現在、ほとんどの棋士が将棋研究にAIを取り入れ、AIの評価値(ある局面での形成の優劣を示す数値)が棋戦のネット中継で表示される方式も定着している。AIの進化は棋士の研究方法や観戦スタイルを一気に変えたと言えるだろう。

(『藤井聡太論 将棋の未来』より抜粋)

 

「やはりそうだったのですね」と、大きくうなずかずにはいられません。私も、最近、将棋が以前とはまったく異なるものになってきていると実感しています。以前、テレビで観戦した名人戦は、真剣勝負ながらも、どこか牧歌的な雰囲気がありました。芸事としての色っぽさも残っていたように思います。ところが、近年の将棋は戦いの激しさが増すばかりで、芸事というより、どこにもゆるみのない数字が激しくぶつかり合っているように見えます。冷たい殺気を感じ、背筋が寒くなることもあります。

 

最近の若い棋士達は「将棋というゲーム」という言葉を頻繁に使います。私はこれまで将棋を「将棋道」ととらえていましたので、その差に驚いてしまいます。おそらく、今は将棋が大きく変わり、新世界が出来上がりつつあるときにあたるのでしょう。そして、その今までなかった世界を牽引しているのが、藤井聡太なのではないでしょうか。

 

谷川浩司と藤井聡太、二人の天才が出会ったとき

谷川浩司と藤井聡太が初めて出会ったのは、2010年11月、名古屋で開かれたイベントで指導対局をした時のことだといいます。藤井はまだ小学校2年生、飛車と角を落とす2枚落ちのハンデ戦での対局でした。その時の様子は以下の通りです。

 

私のほうが優勢の局面だったが、「引き分けということにしようか」と提案した瞬間、負けを察していた藤井少年は将棋盤に覆いかぶさり、火がついたように泣き始めた

(『藤井聡太論 将棋の未来』より抜粋)

 

びっくり仰天のエピソードです。優しい顔をした少年が、そこまで負けず嫌いだとは、想像していませんでした。まして、その時、谷川浩司はA級在籍の連続記録を伸ばしている最中で、多忙な毎日を送っているスター棋士です。そんな彼が名古屋まで出かけて行き、指導対局を行うことだけでも驚きです。まして、まだ小学校2年生の男の子が、将棋の天才に負けたのが悔しくて号泣するなんて、希有な場面だとしか言いようがありません。

 

その時、将棋盤を抱えて泣いた男の子が、今は将棋界を変革する存在となっているのですから、歴史的局面が始まるその瞬間だったのかもしれません。

 

天才のすごさ

『藤井聡太論 将棋の未来』には、谷川でなければ書くことのできない藤井のすごさが、他にも数多く紹介されています。年下の棋士を見つめ、分析し、賞賛するのは、誰もができることではありません。まして、谷川浩司はひとつの時代を築いた人物であり、今も現役の天才棋士なのです。引退したご隠居が、目を細めながら、後輩の活躍を褒めるというのとはわけが違います。そこがこの本のすごいところです。

 

『藤井聡太論 将棋の未来』で、谷川は藤井を天才だと証明する数々のエピソードが紹介しています。とくに印象に残った話を取り上げてみましょう。

 

まず、藤井の集中力についてです。彼は、幼い頃、将棋のことを考えながら歩いていて、溝に落ちてしまったことがあるそうです。一旦、将棋について考え始めると、他のことを考えることができなくなるのでしょう。棋士に限らず、スポーツ選手や囲碁の世界でも、「ゾーン」と呼ばれる集中力が極限まで高まった状態に入るときがあるといいます。それは独特な状態で、言葉で説明するのは難しく、意識が消失したと感じるほどの時間です。ゾーン状態になると、周囲の景色や音が消失してしまうといいますから、溝に落ちるのも仕方がないことかもしれません。天才ならではの時間でしょう。

 

集中力が高いだけに、棋士は対局前、緊張して眠れないに違いないと、私は勝手に思っていました。ところが、藤井はしっかり7時間は眠るといいます。緊張を飼い慣らすのがうまいのでしょう。それとも、タイトル戦を前にしても緊張しないということなのでしょうか。私にはよくわかりませんが、「むしろ対局後の方が難しい」という感想に人間性を感じます。燃えさかった頭脳を鎮めるのに時間がかかるのでしょう。さらに、藤井はメディアへの対応も見事です。

 

……将棋を指すために生まれてきたかは分からないですけど、将棋に巡り合えたのは運命だったのかなと思いますし、将棋を突きつめていくこと、強くなることが使命……使命までいくかわからないですけど自分のすべきことだと思います

(『藤井聡太論 将棋の未来』より抜粋)

 

二人の共通点

『藤井聡太論 将棋の未来』は、谷川浩司と藤井聡太、この二人の間に、意外な共通点があることも教えてくれました。

 

藤井は7段に昇段した時、扇子に「飛翔」と記したそうです。この言葉は、他でもない谷川浩司が、まだ若いころから現在まで、色紙や扇子に書き続けた言葉です。目指す将棋をつきつめると、二人とも「飛翔」という言葉に行き着くのでしょうか。

 

もうひとつ、読んでいて思わずにっこりしてしまう共通点がありました。それは二人が鉄道好きだということです。藤井は鉄道に乗るのが趣味の「乗り鉄」として知られ、棋士にならなかったら鉄道の運転士になりたかったほどだそうです。一方、谷川は時刻表を見るのが好きで、ダイヤ改正があると時刻表の全ページを読み尽くして日本中を旅した気分になるといいます。天才棋士同士が似た趣味を持つことを知り、私はなんだかたまらなくうれしくなりました。天才とはいえ、棋士も一人の人間であると感じるお話ではありませんか?

 

これから先、AIを越える将棋を目指して、棋士達はさらにしのぎを削るのでしょう。それは辛く、厳しい道のりに違いありません。けれども、やはり将棋は人間が指してこそ、その魅力を増すものです。好きな鉄道に乗り、たまにはほっと一息つきながら、さらに上を目指していただきたいと願わないではいられません。

 

【書籍紹介】

藤井聡太論 将棋の未来

著者:谷川浩司
発行:講談社

天才だけが知る若き天才の秘密。人間はどこまで強くなれるのか?現れた巨大な才能と、彼としのぎを削る高度な頭脳集団。レジェンドが大変貌する将棋界を解明する。

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人気の教養シリーズから世界の名建築が登場! 建築を通じて世界旅行できちゃう『366日 世界の名建築』

世界には数えきれないほどの建築物があります。自分が住んでいる家、通っている学校や職場、駅や公共施設など、ひとまとめに「ビル」や「建物」と呼んでいる建築物もよ〜くみてみると面白い仕掛けを見つけた! なんてこともありますよね。厳選された名建築が一冊にまとまったのが、人気の“366日の教養シリーズ”最新刊『366日 世界の名建築』(磯 達雄・監修/三才ブックス・刊)です。

 

建築物が好きなビルマニアな方はもちろん、今まで建築物にあまり興味がなかった方もこれを読むと向かいのビル、マンションの細かいギミックにも注目したくなりますよ!

 

7つのテーマで名建築を楽しめる

ある程度建築の知識がある方なら、どのページからでも楽しめると思いますが、「なんとなくすごいのはわかるけど……」という建築初心者の人にとっては、どこの何がすごいのか分かりにくい部分がありますよね。『366日 世界の名建築』を読む前の私がまさにそれでした(笑)。

 

けれど、そんな方もご安心ください! この本では、7つのテーマに分けて建築物が紹介されていきます。そのため、全く知識がなくても「なるほどこの視点でみるといいのか〜」と納得しながら読み進めることができますよ。

 

本書では、世界の名建築を7つのテーマで紹介しています。1日1テーマ、つまり1週間で7つのテーマを学ぶことができます。

たとえば、2022年の場合、1月1日は土曜日なので、1年を通じて、土曜日は「現代のすごい建築に出合う!」、日曜日は「建築の歴史を学ぶ!」、月曜日は「建築家の創造性に触れる!」、火曜日は「住宅とホテルを楽しむ!」、水曜日は「驚きの技術に着目する!」、木曜日は「文化施設に感動する!」、金曜日は「商業・業務施設の工夫を知る!」となります。

(『366日 世界の名建築』より引用)

 

個人的にハマってしまったのは、「住宅とホテルを楽しむ!」というテーマ。アイスランドのブルーラグーンやベトナムのハン・ガー・ゲストハウス(クレイジーハウスとの別名も!)、イタリアのトゥルッリ石積住居など幅広い建築物が紹介されているのですが、どれも丁寧に解説文がついていてわかりやすい!

 

また帯には『1日5分の建築探訪 1年で「建築」の見方が身につく!』と、と書かれてありましたが、あまりの面白さに3日ほどで一気読みしてしまいました(笑)。ページをめくるたび、「何これ! かっこいい……」と建築物の魅力にはまってしまいます。時間を忘れてしまうので、時間を区切って読むのがおすすめです!

 

都内の建築物も掲載。東京スカイツリーには、根がある!?

本書では、東京にある建築物もいくつか紹介されています。個人的に大好きな東京スカイツリーも掲載されていて、どうやって634メートルという高さの電波塔を建築したのか解説されています。五重塔の技術を使ったという話はよく聞きますが、実は見えない部分である地中にもすごい技術が使われていたそう。

 

高層建築ほど、地震や強風時の揺れで基礎部分に大きな力がかかります。そのため、「スパイクの靴底」のように複数の基礎の杭を用い、木の根のように地中に張り巡られました。

(『366日 世界の名建築』より引用)

 

気になって、建設をした大林組のサイトを確認してみると、地中にプラス50メートルもの杭が使われているとの記載が……! まさに木じゃないか! と驚いてしまいました。世界一の電波塔で、今まで見上げてばかりでしたが、地中にもしっかり東京スカイツリーの部分があるのかぁと思うとしみじみしてしまいますよね。

 

日本の建築物は、この東京スカイツリーを含めて、14か所紹介されています。いつもなんとなく通り過ぎている場所も、その裏側を知るだけで興味深い建築物に変わっちゃいますよ。

 

旅行したような満足感も味わえる

他にも世界遺産に登録されているような有名な名建築から、世界最大のショッピングモールであるドバイ・モール、ポーランドのねじれた家、イギリスのインフィニティー橋まで幅広い建築物を楽しめます。また、それぞれの解説文も建築方法だけでなく、さまざまな角度から建築の面白さを教えてくれます。例えば、イギリスのMI6本部ビルにはこんなネタも。

 

組織の性質上、耐爆撃性に優れていて、映画『007 スペクター』(2015年公開)では、完全に破壊されてしまっていますが、実際に2000年にテロリストの小型ミサイル弾で攻撃を受けたときには、9階の窓が壊れただけでした。

(『366日 世界の名建築』より引用)

 

「建築物」というと、外観の美しさや大きさに目が行きがちですが、耐爆撃性という視点も必要なのか……と驚きました。建物って奥深い!

 

『366日 世界の名建築』には、366の個性豊かで、厳選された名建築が掲載されているので、これを読んでもっといろんな建築物を見てみたい! 国内の名建築も知りたい! と思うのはもちろんのこと、普段歩いている街の中の建造物も気になってしまうほど、建築が好きになる要素がいっぱい!

 

掲載されている写真もきれいで、美しいものばかりなので、ページをめくる度、旅行したようなワクワク感も感じられます。歴史あるものから、最新の技術を使ったギミックたっぷりな建造物まで楽しめるので、海外に行けない今のうちにたっぷり知識を吸収して、旅行気分を味わってみるのもおすすめです。気になった場所には付箋をして、その近くの情報を動画で見たり、関連スポットの情報を集めたりするだけでも楽しいですよ!

 

【書籍紹介】

366日 世界の名建築 (366日の教養シリーズ)

著者:磯 達雄
刊行:三才ブックス

本書は、世界各地の名建築とともに、人生を豊かにする教養を身につけるための本です。1月1日から12月31日まで366の名建築を、「現代建築」「建築史」「建築家」「住居&ホテル」「技術」「文化施設」「商業・業務施設」といった7つの共通テーマで考察・解析・推理・解説します。

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大切な人の死をどう乗り越えていけばいいのか? 吉本ばななの最高傑作短編集——『ミトンとふびん』

私がはじめて吉本ばななさんの本を手にしたのは1988年に刊行された『キッチン』だった。大学生の主人公は早くに両親と祖父を亡くし、祖母と二人暮らしをしていたが、その祖母までもが亡くなってしまい天涯孤独となり、そこからゆっくりと立ち直っていくストーリー。この本を読んだ2年後に、私は実母を亡くしたのだが、そのときのさまざまな心境は『キッチン』のままで、あらためて吉本ばななさんという作家はすごいなあと思ったものだ。

 

それから30年以上が経ち、大切な人の死を扱った彼女の最高傑作と思える本に再び出会うことができた。『ミトンとふびん』(吉本ばなな・著/新潮社・刊)だ。

人は癒えることのない喪失を抱えて生きていく

吉本さんは長い間、こういう小説を書きたかったという。あとがきから少し引用してみよう。

 

いつかどこかで誰かの心を癒す。しかし読んだ人は癒されたことにさえあまり気づかない。あれ? 読んだら少しだけ心が静かになった。生きやすくなった。息がしやすい。あの小説のせいかな? まさかね。そんな感じがいい。そのほうが長いスパンでその人を救える。(中略)よりさりげなく、より軽く。しかしよりたくさんの涙と血を流して。この本を出せたから、もう悔いはない。引退しても大丈夫だ。

(『ミトンとふびん』から引用)

 

吉本さんの30年間の経験を込め、時間をかけてやっとできたというこの本は、最近大切な人を亡くした人、あるいは、余命いくばくもない家族を世話する人に特におすすめしたい。きっと救われると思う。6つの話が収録されているので、タイトルを紹介しておこう。

 

夢の中

SINSIN AND THE MOUSE

ミトンとふびん

カロンテ

珊瑚のリング

情け嶋

 

最愛の母を亡くすということ

6つの短編の中で、いちばん泣けて、また癒されたのが「SIN SIN AND THE MOUSE」だった。主人公は母親を亡くした30歳のちづみという女性。かつて私自身が経験したことであり、辛かった日々が時間の経過によって癒されていったことを思い出させてくれたのだ。

 

母は長患いしていたので、彼女を失うことに関して気持ちを整える時間は充分にあったはずだった。それでもずっと続いていたはりつめた気持ちでの看病が(入院しているときはお見舞いが)急に失くなったことでぽっかりと穴があいたようになり、母と合えない毎日が思いのほか重く悲しくて、三ヶ月もの間、ほとんど誰とも会わず、なにもできなかった。悪い夢の中にいるようにただ暗い気持ちの中で毎日が過ぎていくだけだった。

(『ミトンとふびん』から引用)

 

そんなとき、仕事と新婚旅行を兼ねて台湾に行くから、気晴らしに来ないか?と友人に誘われる。旅に出れば環境が変わり、ほっとするかもしれないと思い、同行することにしたものの、その考えは甘かった。どこを歩いていても母親と二人で過ごした日々を思い出し、目に涙が浮かんでくるのだ。

 

友人はちづみにひとりの男性を紹介してくれた。母親が台湾人、父親が日本人というシンシンだ。

 

シンシンは女優である母が不在がちで、寂しい幼少期を過ごしており、唯一の慰めは絵本だった。家の壁の向こうには、同じ家族構成のねずみの一家が暮らしているというお話が、彼の淋しさをやわらげていたのだ。ちづみはとても小柄な女性なので、シンシンは「君はほんとうに小さいねずみみたいな生き物だね。」と言うのだが、そこには小さな愛情が込められていた。タイトルのSIN SINはシンシン、THE MOUSEはねずみでちづみのこと。最愛の人を失ったが、もしかしたら、新しく現れた人が次の最愛の人になってくれるかも? そんな素敵な物語なのだ。

 

ヘルシンキへ新婚旅行にでかけた”ふびんな二人”

表題になっている「ミトンとふびん」も大切な人を亡くした者同士が出会い、結婚し、そして新婚旅行でヘルシンキに向かう話だ。主人公の”私”の母親は、結婚に反対したまま、急な脳梗塞で亡くなった。”私”は十代で大病をし、子宮を失くしていたこと、そして相手の男性が別の誰かを見つめているように感じたことが反対の理由だった。

 

男性は”外山くん”といい、弟をいじめが原因で亡くしており、母親もわが子の死で精神を病んでいて、やはり結婚に反対のまま亡くなってしまう。

 

”私”は亡くなった外山くんの弟と瓜二つの顔をしていた。母親が言った別の誰かとは、その弟の影だったのだ。それでも孤独なふたりは結婚し、ヘルシンキへやって来た。

 

「ああ、私、手袋忘れてきた、最低気温マイナス十六度だっていうのに!」飛行機からヘルシンキの空港を出たとたん、身が引き締まるような空気の冷たさを感じて、私が最初につぶやいたのはその言葉だった。(中略)外山くんが私にお店の紙袋をそのまま渡したので、ぽかんとして受け取った。中にはとても無骨な、黒革の中にもこもこの羊の毛が入っているミトンが入っていた。男物なんじゃないか? と思うくらいごつい。でも、嬉しかった。「ありがとう! 一生使うよ。」私が言い、「一生は使わなくていいよ。」と外山くんが照れた。

(『ミトンとふびん』から引用)

 

また、訪れたレストランでは、クロークのおじさんと常連客の老夫婦に、「とてもいいご夫婦」と言われ、さらに「あなたの親だったら、誇らしく思うでしょう」という言葉まで贈られる。もしかしたら、母親たちが言いたくとも二度と言えなくなってしまったことを、ヘルシンキの人たちが代わりにちゃんと言葉にしてくれたのかもしれないと”私”は思い、涙を流す。

 

この上ないふびんさを自明のこととして持つ人類と、その輝かしい幸せを乗せて、いつでもどこでも地球は回っているんだな。

(『ミトンとふびん』から引用)

 

どんなに悲しい出来事があっても、人生には喜びがあることを教えてくれるストーリーなのだ。

 

この他の4作も、さすが吉本ばなな!という物語。読んでいると泣けるけれど、同時に心があたたまってくる1冊は、女性男性を問わず、すべての人におすすめしたい。

 

【書籍紹介】

ミトンとふびん

著者:吉本ばなな
発行:新潮社

愛は戦いじゃないよ。愛は奪うものでもない。そこにあるものだよ。たいせつなひとの死、癒えることのない喪失を抱えて、生きていくーー。凍てつくヘルシンキの街で、歴史の重みをたたえた石畳のローマで、南国の緑濃く甘い風吹く台北で。今日もこうしてまわりつづける地球の上でめぐりゆく出会いと、ちいさな光に照らされた人生のよろこびにあたたかく包まれる全6編からなる短篇集。

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「ボム4月号」は乃木坂46表紙巻頭 与田祐希・金川紗耶/SKE48水着いっぱい大特集!

「ボム4月号」は、3月23日(水)に29枚目のシングル『Actually…』を発売する乃木坂46が表紙巻頭に登場!

★与田祐希は“ひな祭り”がテーマのグラビアを。春らしいピンクのオーバーサイズのニットではベッドでゴロゴロ、ニットからのぞく素肌にドキドキ。爽やかなペパーミントグリーンのタンクトップでは、ちらし寿司を作ったり。ガーリーな花柄スカートとブラウスのコーデでは、ひなあられを食べたり。柔らかい素材感の黄色のワンピースは、まさに春の装い。心がときめく、春爛漫なグラビアになりました。

★金川紗耶はボム初ソログラビアを。今年成人式を迎えた乃木坂46メンバー8人が“新・華の2001年組”としてシングルのカップリング曲に参加。そのメンバーの1人でもあるやんちゃんは、公園でバードウォッチングをしたり、バスケットボールで遊んだり、スープカレーを食べたり。隣にいると楽しくなる、そんなグラビアです。

【W付録】
●別冊付録
両面超BIGポスター
与田祐希(乃木坂46)

●綴じ込み付録
大判光沢フォト
春のメッセージカード
与田祐希・金川紗耶(乃木坂46)

【通常版の裏表紙は金川紗耶(乃木坂46)】

【TSUTAYA限定版表紙にはシングル『心にFlower』をリリースするSKE48が!】

★3月9日(水)にシングル『心にFlower』をリリースするSKE48は、26ページの大特集! 6期生の選抜メンバー、鎌田菜月・熊崎晴香・日高優月の3人は仲良し水着グラビアを。彼シャツ、彼ニットの太ももギリギリ感。SKE48らしい元気なチューブトップビキニ。そしてグッと大人の雰囲気の黒ビキニ。楽しさ溢れる私服風コーデと3人のいろんな表情を詰め込みました。

★最新シングルのカップリング曲でセンターを務める青海ひな乃は、ボム初登場ソロビキニ。青系のチューブトップ&短パンに、青いビキニ。そしてボディラインを意識したニットスタイル。スレンダーボディを確かめてください。

★SKE48から卒業する大場美奈は、チームKⅡで8年間を共に過ごした古畑奈和とのスペシャル対談を。センターとキャプテン、“同志”と呼ぶにふさわしい関係の2人の出会い、思い出を語る。

【TSUTAYA限定版の裏表紙はSKE48の青海ひな乃が!】

【TSUTAYA限定版はポスターもオリジナル】
●別冊付録
両面超BIGポスター
鎌田菜月・熊崎晴香・日高優月(SKE48)

※綴じ込み付録の大判光沢フォトメッセージカードは通常版、TSUTAYA版ともに同じです。

[商品概要]
ボム 22年4月号<通常版>

特別定価: 1098円(税込)

ボム4月号別冊 ボム22年4月号限定版
定価: 1098円(税込)

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<限定版>
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あの名作が生まれた場所はここだった!少女漫画家12人の思い出の“家”エピソード~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。私は一般的な仕事とは少し違って、小説を読んではパソコンの前に座って、ああでもない、こうでもないと文字を並び替える日々。のりたまではなく、活字でご飯を食べています。

 

気が付くと一日中部屋に籠もって、外が暗くなっていることもしばしば。仮に動くものを“動物”と定義するなら、もはや自分は部屋のインテリアじゃないかと思うこともよくあります(笑)。これは漫画家さんも同じ感覚ではないでしょうか。仕事部屋という小宇宙に自分が取り込まれている……。

豪華メンバーが語る漫画家の「家」

 

今回紹介する新書少女漫画家「家」の履歴書』(週刊文春・編/文春新書)は、“家”という視点を軸に、少女漫画家たちが自らの半生を振り返るというインタビュー集。「週刊文春」の連載「新・家の履歴書」のなかから、少女漫画の黄金期とも言われる1970年代までにデビューした12人の少女漫画家が選ばれています。仕事場や生活の拠点である“家”の様子がわかる間取りイラストが入っていて、当時の光景が想像できるのもいいですね。

旅館の合宿生活で生まれた『ガラスの仮面』

私も一時期ハマって読みふけっていた『ガラスの仮面』の作者・美内すずえさんの思い出の“家”は、長年カンヅメで仕事をしていたという神保町の旅館「錦友館」。12畳ほどの部屋でアシスタントとともに座敷テーブルを囲んで作業し、座布団を敷いて寝る。合宿ノリが面白くて、ある種の「劇団」体験だったとか。漫画は作者ひとりの名前がクローズアップされがちですが、共同作業の熱量で作品が成り立っていることが伝わってきます。

 

ギャグマンガ『パタリロ!』の魔夜峰央さんの“家”にも驚きのドラマが隠れていました。『パタリロ!』が軌道に乗った1979年に故郷・新潟から移り住んだのは、埼玉・所沢駅から徒歩15分ほどのネギ畑に囲まれた借家。編集者から「便利なとこだから」と勧められたのですが、実は編集者の近所で“原稿を回収するのに便利”という意味だったそうです(笑)。

 

そして、この家で描かれたのが『翔んで埼玉』。刊行からおよそ30年の歳月が過ぎ、「冬の時代」が来たと魔夜さんが思っていた頃に、この『翔んで埼玉』が話題となり映画化される……。魔夜さんが埼玉ではなく東京に呼ばれていたら、未来は別ものになっていたでしょう。

 

本書を読んでいると漫画の変遷も見えてきます。『星のたてごと』『白いトロイカ』『ファイヤー!』と、少女漫画家の草分けとして漫画史に名前を刻む水野英子さんの“家”は「トキワ荘」。漫画の原稿が憧れの手塚治虫さんに気に入られて1958年に上京、トキワ荘に住むことになりました。四畳半の部屋で若い漫画家たちが集まって執筆三昧。「トキワ荘にいるだけで絵が月ごとに上達しました」。トキワ荘はまさに文化が芽吹く場所だったんですね。

 

もともと雑誌の連載コーナーなので各インタビューは短いものの、読みやすくまとまっています。少女漫画家12人の回想が一気に読めるため、漫画とは何か、仕事との向き合い方、少女漫画黄金期とはどういう時代だったのか……。そうしたことが比べられるのがこの本の面白さ。1人だけのインタビュー本では浮かび上がらなかった“核心”が見えてきます。

 

仕事の話以外にも、編集者との恋愛や結婚といったプライベートな部分も赤裸々に語られていて、どのインタビューも朝ドラの原型になりそう。それぞれの漫画家の“家”を想像しながら、もう一度名作を読んでみたいと思いました。

 

【書籍紹介】

『少女漫画家「家」の履歴書』

著者:週刊文春・編
発行:文藝春秋

あの名作は、こんな「家」から生まれた!少女漫画の黄金期である一九七〇年代までにデビューした豪華十二人の漫画家が語る「家」の履歴。家族や仲間たちと過ごした最も私的な空間を語るからこそ見えてきた原体験、あの傑作の舞台裏とは。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

月刊「ムー」4月号の総力特集は「不老不死」の最新科学!

世界の謎と不思議に挑戦するスーパーミステリー・マガジン「月刊ムー」。4月号の総力特集は不老不死です。

 

総力特集 不老不死の最新科学

いつまでも老いることなく、永遠に生きる。人類は不老不死に憧れ、王や権力者たちは、時には多くの犠牲を払ってまで、その究極の夢を追い求めてきた。そして、ヒトゲノムの解析や遺伝子研究によって、老化のメカニズムが明らかになってきた。最新の科学は、ついに永遠の生命を手に入れる段階を迎えようとしている‼

 

 

特別企画 八岐大蛇が明かす「出雲神話」の謎

スサノオ命の八岐大蛇退治といえば、『古事記』に記されていることで知られる。その舞台が出雲であることを疑う者はいない。ところが、綿密な考証を重ねることによって、八岐大蛇伝承の源郷が出雲ではなく、その隣の伯耆であることが判明した‼

[商品概要]
月刊ムー 2022年4月号

著者: ムー編集部
定価: 850円 (税込)

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・セブンネット https://7net.omni7.jp/detail/1233404261

自分軸を知って、仕事も人間関係もうまくいく? 算命学のメソッドを活用した『東洋の成功法則』が面白い!

あなたは、占いを信じますか?

 

私も趣味で相手を占うこともあるのですが、タロットと算命学の2つを占術に使っています。残念ながら私にはスピリチュアル的な要素は一切なかったので(笑)、統計的に当たりやすい占いはないかな〜と模索した結果、算命学にたどり着きました。

 

そんな算命学をビジネスにも活用したのが『持って生まれた力を最大化させる 東洋の成功法則』(篠田法正・著/イースト・プレス・刊)という一冊。所詮、占いでしょ? と思っている人にこそ読んでほしい、新生活にも使える本なのです。

 

算命学は「王者の占術」

この本を一言で言うならば、「算命学に基づいて、自分軸を見つけることで、生きやすくなる!」という感じでしょうか。「〇〇座の人の2022年の運勢は〜」と解説されているような本ではありません。では、そもそも算命学とはなんなのでしょうか?

 

本書で扱う算命学は、生年月日から人の性格などを調べるという側面を持つため、一般には「占い」として知られています。しかし、単に「当たった、外れた」を楽しむだけではもったいない。本来は、「王者の占術」とも呼ばれるように、東洋の帝王が戦いに勝ち、国を治め、人材を活用するために発展してきた学問です。

(『持って生まれた力を最大化させる 東洋の成功法則』より引用)

 

王者! ものすごいものに感じてしまいますが、読み終えて、個人的に思ったのは、この本は誕生日版ストレングス・ファインダーみたいな感じ? ということ。設問に答えて自分の才能を知るのがストレングス・ファインダーですが、自分が生まれた日には、こういう意味があるんだよ、こういう性格の人が多いらしいよ、こんな宿命があるんだよ、というデータを知ることができる、誕生日ごとの取り扱い説明書のようにも感じました。

 

じゃあ同じ誕生日の人は、全部同じ運命なの?

「同じ誕生日の人は同じ運命になるの?」占いを信じない人がよく言うことです。でも、同じ両親から生まれてきた双子も、同じ日に結婚して、同じ場所に就職するなんてことはほとんどありませんよね。

 

『持って生まれた力を最大化させる 東洋の成功法則』には、運命の方程式が「宿命+環境=運命」と書かれてありました。

 

宿命は変わりませんが、環境は変わります。だから運命は変えられるということを言っているのです。

環境とは、どんな所に、どんな人と住んでいるのか、家族、学校、職場などであり、人との出会い、学び、経験なども含みます。

また、出来事に対して自分がどう捉えるかということも、広い意味での環境ということになります。

(『持って生まれた力を最大化させる 東洋の成功法則』より引用)

 

つまり、今の運命を構成している環境と、本来自分が持って生まれた宿命を知ることで、運命は変えられるぜ! ということ。

 

宿命というと、すごく大事のように感じられるかも知れませんが、自分にどんな性質があるのかを知ることで、環境の変化にも順応に対応できるようになりますよ。

 

購入者はサイトから簡単に「自分軸」を見つけられる

『持って生まれた力を最大化させる 東洋の成功法則』の中には、自分の誕生日を入力するだけで、パッと宿命がわかるサイトが掲載されています。私も実際に診断してみると、こんなチャートが出てきました。

 

全部で5つのブロックがあるのですが、中央が自分の生き方、右がビジネスや交友関係、左が家族との関係、上が過去からの思い、下が未来への思いとそれぞれのブロックに意味が込められています。

 

このブロック内に書かれている「フォーカス」や「ハーモニー」は「才能のタネ」と呼ばれていて、全部で10種類あります。

 

「才能のタネ」は、人生のさまざまな出来事を経験することで、次第に才能へと成長します。そして、どんな環境で育つかによって、「才能のタネ」の成長度合いは変わります。同じリンゴのタネを青森に植えるか、沖縄に植えるかで、育ち具合も変わってくるはずです。もっと言えば、せっかく持って生まれた「才能のタネ」を、まったく成長させていない場合もあり得るのです。

(『持って生まれた力を最大化させる 東洋の成功法則』より引用)

 

10種類の「才能のタネ」の解説は本の中で丁寧にしてくれているので、ここでは割愛しますが、個人的にはめっちゃわかる……と納得することばかりでした。占いの本ではないと書きましたが、「当たってる〜」と純粋に楽しめる部分もありますよ。

 

占いが全てではないですが、こうして自己分析するツールのひとつに算命学を使ってみるのも楽しいと感じました。これから新生活を迎えるという方、なんとなくうまくいかないことが重なっている方、ぜひ『持って生まれた力を最大化させる 東洋の成功法則』を読んで、自分の才能のタネが活かされているか、確認してみてはいかがでしょうか?

 

本の中では、自分の宿命を知るだけじゃなくどう「活かすか」までしっかりと示してくれています。じっくり自分と向き合うこともできるので、新年度から新しい環境に行く方にもおすすめですよ!

 

 

【書籍紹介】

持って生まれた力を最大化させる 東洋の成功法則

著者:篠田法正
刊行:イースト・プレス

スキルよりもノウハウよりも「宿命」を知ることが成功への近道。自分の力が伸びていく環境がわかる。「どちらに進めばいいか」に迷わなくなる。自分の「得意」や「好き」を仕事にできる。仕事に無理なく熱中できるようになる。自然と結果が出て、人やモノが集まってくる。運命を味方に付ける、「真のミッション」の見つけ方。

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コスプレ・アニメ好き・ちょっと天然なお天気キャスター、檜山沙耶の魅力をご紹介します『ブルーモーメント』

僕は普段、家で仕事をしている。そのとき、BGM代わりにたいていiPadで何かしら動画を流している。以前は日常系のアニメだったり、ゲームの実況動画などを流していたが、ここ3年ほどは「ウェザーニュースLiVE」という、24時間365日お天気情報を配信しているYouTubeの番組を流している。

 

ウェザーニュースLiVEといえば「ガチャピン事件」

ウェザーニュースLiVEについて簡単に説明すると、朝5時から夜11時まで、3時間のお天気番組が6本放送される。3時間の番組の内容はそれぞれ異なるのだが、基本的には一人のお天気キャスターが担当。視聴者とリアルタイムでコミュニケーションを取りながら番組を進行。リアルタイムで刻々と変わっていく天気の様子を伝えるだけでなく、旬の情報やフリートークなどもある。地震速報などがあれば、いち早く詳しい情報を伝えてくれる。

 

僕がウェザーニュースLiVEに興味を持ったのが、ガチャピン事件だ。ゲストに来たガチャピンが、同色のクロマキーで透けてしまうという放送事故なのだが、そのとき担当していた松雪彩花キャスター(現在産休中)の立ち回りがすばらしく、ネットで話題になった(確か地上波の番組でも取り上げられていた)。そのときに、こんな番組あるんだと思って見るようになった次第だ。

 

僕のイチ押し、檜山沙耶の初フォトエッセイ

ウェザーニュースLiVEを見ていると、絶妙な緩さ加減がいい。キャスター一人で3時間放送するという特殊な放送形態ということも興味を引いたし、何しろ女性キャスターたちの個性がすばらしい。そのなかでも、僕が好きなのが檜山沙耶だ。

 

キャスターデビュー4年目の28歳。デビュー当初はかなりおぼつかない感じではあったが、最近では落ち着いて見ていられるキャスターとなっている。

 

が、彼女はとにかく個性的。見た目はとてもきれいなお嬢様風なのだが、アニメやゲーム、コスプレが大好きで、いったんスイッチが入ってしまうとオタク特有の早口で長々としゃべり出す。そしてときたま出る天然っぷり(本人は認めたくないようだが)で、一躍人気キャスターに。個性派揃いのキャスター陣のなかでも、トップクラスの人気を誇っている(海外の人たちからも人気が高い)。

 

そんな彼女の初フォトエッセイが『ブルーモーメント』(檜山沙耶・著/ワニブックス・刊)だ。

 

番組を通しても彼女のまっすぐな人柄というのは伝わってくるのだが、本書を読むとさらに伝わってくる。インタビューパートとエッセイパートがあるのだが、個人的にはエッセイパートのほうが読み応えがあった。読みやすい文章で、丁寧に自分の気持ちを綴っている感じが、聡明な印象を受ける。

 

彼女がどんな性格なのか、文章からも伝わってきて、さらに好きになってしまった。本書では子どものころや学生時代の写真も掲載されているので、ファンならぜひ見ておきたいところだ。

 

ウェザーニュースLiVEを熱く語れる友だちが欲しい

ウェザーニュースLiVEを見たことがないという方は、一度見ていただきたい。お天気番組なのだが、天気が安定しているときはキャスターがニコニコしながら天気にまつわるトークやコーナーを放送している。仕事中に流していてもじゃまになるような感じがせず、ふとしたときにおもしろいシーンが出てきたりするので、テレワークのお供にもいいと思う。

 

僕は毎年キャスターカレンダーを購入するくらいには好きなのだが、周囲にウェザーニュースLiVEマニアがいない。できればウェザーニュースLiVEについて熱く語れる仲間が欲しい。誰かいないだろうか…。一緒にウェザーニュースLiVEについて語りませんか?

 

【書籍紹介】

ブルーモーメント

著者:檜山沙耶
発行:ワニブックス

「おさや」「さやっち」の愛称で知名度&人気ともに急上昇中の『ウェザーニュースLiVE』のお天気キャスター・檜山沙耶による待望の初エッセイ。自身の生い立ちや仕事のことから、コアファンを引き付けたアニメやコスプレへの熱すぎる思いの丈をつづります。また、幼少期から学生時代、仕事中の秘蔵写真に加えて、最初で最後(?)の撮り下ろしグラビアも本邦初公開! ブルーモーメントとは、夜明け前と夕焼けの後のわずかな時間帯に訪れる、辺り一面が青い光に照らされてみえる現象で、本人が一番好きな空。現在28歳、成熟した女性になるかどうかという、まさしく女性としての境界にいる檜山沙耶本人の“いま”を詰め込んだ、ファン必読の一冊です。

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DIYで家を遊ぶ「セルフリノベの強化書」特集!『ドゥーパ!』2022年4月号(147号)発売

日本で唯一のDIY雑誌の最新号「ドゥーパ!2022年4月号」(発行:株式会社キャンプ)が3月8日に発売!

 

第1特集 DIYで家を遊ぶ -セルフリノベの強化書-

リノベーションの常識にとらわれない、遊び心あふれたセルフリノベが大集合! 昭和民家改装したモダンハウス、廃工場を改装したガレージハウス、自然エネルギーを活用した自給する家、クライミングウォールがある型破りな平屋……DIYだからこそ実現できる個性豊かな空間作りの実践術とその魅力的な暮らしぶりを解剖する。

 

 

風景を作るリノベーション・KITORIの空間創造術にズームアップ!

リノベーションは暮らしを便利にするという実利だけでなく、暮らしを楽しくさせる創造的なもの作りである。本企画では「物語を感じる空間」をテーマに、クリエイティブなリノベーションを手掛けるKITORI・山上一郎さんをフューチャー。作例はもちろん、そのデザインや発想の思考法、資材の入手方法や施工方法までを徹底取材。

 

第2特集 捨てない暮らしの作り方 ~循環するもの作りの場を訪ねて~

物をただ捨ててしまうのではなく、循環させることにより、よりよい暮らし・生き方を実践する動きが日本各地で起こり始めた。それは単なるもの作りや建築だけに留まらず、コミュニティをもビルドする。本特集ではそんな静かな生活革命を実践する人々とその暮らしぶりを紹介。物や人を循環させる「循環工場」、自然と寄り添うパーマカルチャーヴィレッジ、廃材を使った建築・家具工房という3つのスポットから、アップサイクルな暮らしの作り方を学ぶ。

 

バラエティあふれる連載にも注目!

車中泊や旅を楽しむための軽バンカスタム、トリマー&ルーター木工、さらにはレザーソーイングやグリーンウッドワークなど、さまざまなジャンルのもの作りの魅力を個性あふれる作家とともにお届けします。その他、自給自足の田舎暮らしエッセイなど読み物も充実。こちらもぜひお楽しみください!

 

<商品概要>
ドゥーパ!2022年4月号(No.147)
著者: ドゥーパ!編集部
定価: 1,100円(税込)
発売日: 2022年3月8日
判型: A4変形

 

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「LOVE & RESPECT」こそが生のコミュニケーションの質を高める『キラークエスチョン~会話は「何を聞くか」で決まる』

ちかごろ、インタビューのお仕事をさせていただく機会が増えた。これまで何回となく経験しているのだけれど、会心の出来はなかなかない。

 

生のコミュニケーションの質を高める

インタビューというのは、相手にご自身の思いをご自身の言葉で伝えていただくという過程なわけだが、英語で言う“アイス・ブレイキング”がまず難しい。お互い打ち解けるための段取り。インタビューなら、お相手に浮かぶままの言葉をそのままの形で伝えていただきやすくするための環境設定の段階ということになる。これに関しては、経験則的に培った自分なりの方法論がある。その方法論に乗っていれば大きく外すことはないこともわかっている。ただ、限られた時間の中で最大限の情報を得ていく過程に、プラスアルファとなる何かが欲しい。

 

キラークエスチョン~会話は「何を聞くか」で決まる』(山田玲司・著/光文社・刊)は、筆者がするだろう次のインタビューでも、筆者を含める多くの人々の日常的な人間関係においても役立つに違いない一冊だ。こう言おう。誰かと物理的に向き合いながら話をする機会が減った環境で生きている今だからこそ、“生のコミュニケーション”の質を高めたい。そのためにはどうしたらいいのか。そんな思いに応えてくれる。

 

5年間で200人にインタビュー

「はじめに」に記された次の文章は、筆者の“仕事柄な部分”に深く響いた。

        

取材では、わずか一、二時間で相手の心へ入り込んでいかなければならない。初対面の相手が心を開いてくれるか否か。それはまったくもってインタビュアーの力量に左右される。

『キラークエスチョン~会話は「何を聞くか」で決まる』より引用

 

筆者の山田氏が5年間にわたり、約200人に対して行ったインタビューから得た真実だ。人とのコミュニケーションを深めるのに大切なものは「何を話すか」ではなく、「何を聞くか」を意識する姿勢にほかならない。この文章だけを切り取って示しても、あまりにも当たり前に感じられることはわかっている。ただ山田氏は、聞き役という立場を強く意識しながら人と接すると、仕事から離れた会話でも相手との関係が目に見えて良化していくことに気づいたという。

 

チャンスの神様が与えてくれる時間を無駄にしないために

本書が対象としているのは、次のような人たちだ。

 

・何度会ってもさっぱり相手との距離が縮まらない

・会話が始められない、もしくはすぐに終わる

・人から相談されたことがない

・とにかくモテない

・初対面の人と話すのが苦手

 

筆者の“仕事柄ではない部分”に響いた文章も紹介しておきたい。

 

人生には「ここ一番」という決定的な出会いの瞬間が何度かある。この機会しか会えないという異性と思いがけず一対一になった瞬間。社長とエレベーターの中でふたりきりになった瞬間。その機会を活かせば人生が大きく変わるかもしれない瞬間だ。ところが、そういったときに「何を話していいかわからない」という人が実に多い。

『キラークエスチョン~会話は「何を聞くか」で決まる』より引用

 

気が利いたひと言である必要はまったくない。ただ、発すべき言葉をあれこれ考えているうちにチャンスの神様が与えてくれる時間は過ぎ去ってしまう。この本は、こうした瞬間に自分から言葉を発する勇気も与えてくれる。自己啓発本というざっくりとした形でカテゴライズしてしまうのは、ちょっと違うかもしれない。

 

LOVE & RESPECT

「その服、どこで買ったんですか?」「しんどいですよ……そっちはどうですか」「昨夜はちゃんと眠れました?」「これは読んでおけ、と言える本を教えてください」など26項目の“キラークエスチョン”を軸に話が進んでいく。質問に込められた意図を読み解きながら、自発的な問いかけによって言葉のやりとりが生まれ、相手との溝が埋められ、思いをやりとりするところまでのメカニズムを脳裏に思い浮かべることができる。根本的なテーマは、他者とのコミュニケーションを円滑にしていくためのテクニックではない。大きな言葉ひとつで表現するなら、“愛”だろうか。あとがきに次のような文章がある。

 

まずは近くにいる人間に関心を持とう。そして質問をしてほしい。それは愛のある「問いかけ」になるはずだ。この他者への関心(あい)がなければ、キラークエスチョンはただ小賢しいだけの処世術に終わるだろう。あくまでも相手に対するリスペクトがなければならない。

『キラークエスチョン~会話は「何を聞くか」で決まる』より引用

 

ここまで書いた今、この本を紹介するにあたって、インタビューや人間関係に役立つ“実践的な”テクニックを主眼にしようとした自分を、ちょっと恥ずかしく感じている。

 

【書籍紹介】

 

キラークエスチョン~会話は「何を聞くか」で決まる

著者:山田玲司
刊行:光文社

人と何を話せばいいかわからない、他人とうまくやれずに損ばかりしている。この本は、そんな人たちを救う一冊になるはずだ。あるときを境に著者は、「何を話すべきか」ではなく「何を聞くべきか」と考えるようになって、すべてがうまくいくようになった。些細なことだけど、そこを意識するだけで、相手と深くコミュニケーションがとれるようになったのだ。世の中には「しゃべること」が重要だというような風潮があるけれど、それはウソだ。自分の話ばかりで人の話を聞かない人間は確実に孤立していく。人は基本的に話を聞いていほしい生き物なのだから、つかむ話よりもつかむ質問、すなわち、相手の本音を引き出す「キラークエスチョン」を相手にぶつけるべきだろう。質問次第では相手の心にフックがかかり、固く閉じられていた心の扉が開く。

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「推し活に国境はない!」世界の“推し活”事情を劇団雌猫に聞いてみた!

2022年3月10日に発売される『世界が広がる 推し活英語』(学研プラス・刊)をご存知でしょうか? 発売前からSNSで「これは使える」「これなら勉強する気になる」と話題になり、さまざまなメディアで紹介され、注目を集めています。

 

本書を覗いてみると、「私はデビューの時から彼らを応援している古参ファンです」「無課金で星5を出すのは難しい……」「推しのために今日も働く」など、毎日の推し活に役立つ330の単語と477のフレーズが掲載されており(すごいボリューム!!)、読んでいるだけでもニヤニヤ楽しい。

 

この話題本を監修したのは、平成生まれのオタク女性ユニット・劇団雌猫さん。今回はひらりささん&かんさんのお二人に、ワールドワイドに広がる「推し活」の世界について伺います。

(※取材はオンラインにて行いました)

 

【PROFILE】

●劇団雌猫/ 平成元年生まれのオタク女4人組(もぐもぐ、ひらりさ、かん、ユッケ)。2016年12月にさまざまなジャンルのオタクがお財布事情を告白する同人誌『悪友vol.1 浪費』を刊行し、ネットを中心に話題となった。2017年8月には『浪費図鑑』(小学館)として書籍化。現在はイベントや連載などに活動を広げながら、それぞれの趣味に熱く浪費している。
Twitter:@aku__you
イラスト:kamochic

 

”推し”という言葉の登場により、好きなものを表現しやすくなった

劇団雌猫は4名で活動するオタク女性ユニット。みなさんそれぞれお仕事をしながら、“推し事”にも熱心! ユニット名は『テニスの王子様』のキャラクター・跡部景吾ファンの総称でもある「雌猫」から。

 

お話を伺ったひらりささんは、BLをきっかけにオタクになり、漫画やアニメなど、幅広いジャンルを広く愛でるのが好きな方。関西に実家があるかんさんは宝塚歌劇団が好きで、今は宙組の芹香斗亜さんに夢中とのこと。

 

ここ数年で「オタク」イメージが変わってきているようにも感じますが、劇団雌猫のお二人は最近の「推し活」ブームにどんな印象を持っているのでしょうか?

 

「“推し”という言葉の登場は大きいですよね。昔は、BL好きな女子は隠れないといけないとか、公式に迷惑をかけないとか、ひっそりとオタク活動している人が大半でしたが、ソーシャルメディアと“推し”という言葉の登場により、『好きなものを語り合って、ファン同士繋がり合おう』『布教することが推しのためになる!』という価値観や文化が広がり、 “推し活”に繋がっていったと考えられます」(ひらりささん)

 

「“推し”という言葉は、元々AKB48やハロプロなどのアイドルオタクが使っていたようです(※諸説あり)。AKB48は女性ファンも多く『選抜総選挙』がテレビ放送されるほど話題になって、男女問わず“推し”という言葉が一般的に使われるようになったのではないでしょうか? 最近ではファッション誌でも推し活が取り上げられ、オタク自体が変わったというよりも、社会の認知度や許容範囲が広がったのかも?」(かんさん)

 

“推し”は、人とのコミュニケーションを目的とした言葉だと感じます。自分がものすごく好きなものを伝えたい時には『推してます!』って言うと熱意が伝わりやすい」(ひらりささん)

 

世界に広がる、グローバルな推し文化!

日本国内だけでなく、最近では海外でも“推し”文化は広がっているそう。『世界が広がる 推し活英語』は100人以上のオタクの方々へのアンケートをもとに作られていますが、劇団雌猫のお二人が体験したグローバルな推し活についても伺ってみましょう!

 

かんさんは、中学2年生のころに短期留学したカナダで、初めて経験した外国人のオタクとの交流エピソードを教えてくれました。

 

「留学先で友達になった台湾出身の子が、当時日本ではまだ現在ほどの知名度がなかったMIYAVIさんの大ファンでした。その子は彼のことが好きすぎて、なんとか私から日本の情報や言葉を習得しようとしていたんですけど(笑)。日本に帰国してからも、私が英語、彼女が日本語で手紙を書いてやりとりしていたんですが、次第に疎遠になってしまいました……。ただ、それから何年かして、テレビで活躍するMIYAVIさんを見てめっちゃ感動したんです。『あの子が好きだったMIYAVIじゃん!』って。これが初めて経験した海外のオタクとの交流エピソードですね」(かんさん)

 

現在、イギリスに留学中というひらりささん。現地には、漫画やアニメに関連したソサエティ(社交クラブ)が数多くあることを知ったそうです。

 

「この前、通っている大学院のコースでオタクに関することをプレゼンテーションする機会があったんです。私が好きな『Free!』について、私も好きだと話しかけてくれる中国人の子がいたり、『NARUTO』を読んでいた人がいたり、日本に興味がある人には漫画・アニメ好きが多いと感じました。アイドル好きはそんなにいないかな? でも、同じ寮で仲良くしている子に、日本で買ってきてほしいものを聞いたら、欅坂46のDVDと言われました(笑)」(ひらりささん)

 

いずれも素敵なエピソード……! 日本にいると日本の文化が海外でどのように受け入れられているかを感じにくいですが、イギリスでも日本の作品が愛されているなんて、誇らしく感じますね!

 

外国語での情報収集はできても、自分の言葉で想いを伝えたい人が多数

コロナ禍によって、日本人が海外のイベントに出向くことや、外国の方が日本のイベントを見に来ることが難しくなりました。コロナ禍での推し活には、どんな変化があったのでしょうか?

 

「最近、劇団雌猫の4人で全然会えていないんですよ! グループ名の由来にもなっている『テニミュ』に行ける日が、再び来るといいのですが……。私の好きな宝塚も、コロナの影響で公演が中止になることも。オタクにとってライブや公演はまさにハレの日なので、期待しすぎていざ中止になると、そこに向けて頑張っていた自分の心がぽっきり折れてしまって辛い。このコロナ禍で、だいぶメンタルコントロールができるようになりましたね(笑)」(かんさん)

 

さまざまなイベントが中止になってしまい、かんさんのように悲しい思いをしたオタクも多いはず。しかし、それは海外のオタクにとっても同じこと。日本の作品を愛する海外のオタクたちは、遠く離れた日本の情報をゲットするために、どんな方法をとっているのでしょうか?

 

は公式サイトやYouTubeでの世界配信がしっかり行われているので、違法にアップロードされたものを視聴するよりも、そちらを利用して公式にお金を費やす流れが、世界的にあると感じます。ファン同士の交流もSNS上で気軽にできるので、日本人が海外のアーティストの情報を得ているのと同じように海外のファンも情報収集しているのではないでしょうか」(ひらりささん)

 

同書の編集を担当された澤田未来さんにもお話を伺うと、「推しに対する想いを自分の言葉で伝えたい」と感じた経験が本を作るきっかけになったそうです。

 

外国人の友だちと好きなものを語り合うときに、”I love ~!”などのありきたりの語彙しか使えなかった歯がゆい経験から、本書を企画しました。独りよがりなものづくりにならないよう、たくさんのオタクの方々を取材されてきた劇団雌猫さんに監修を依頼しました。4人がそれぞれ異なるジャンルの推し活を経験していることもあり、多角的な視点でアドバイスをくださって、心強かったです」(編集担当・澤田さん)

 

↑ジャンルを問わず使える単語を掲載

 

運営とのやり取りフレーズまで掲載されている推し活英語

劇団雌猫さんの原体験や、編集担当の澤田さんの想いが詰まった『世界が広がる 推し活英語』。最後に劇団雌猫のお二人から、読者のみなさんにメッセージをいただきました。

 

「これまで私たちは、数多くのオタクの方々とイベントや取材でお会いする機会がありましたが、最近はコロナ禍でその機会も減ってしまっています。コロナ前のようにリアルな場でわいわいできるのは当分先かもしれませんが、本書を通じて間接的にいっしょに盛り上がれたらうれしいです。個人的なおすすめページは『CHAPTER4 運営とのやり取りに使えるフレーズ』。『円盤化希望!』など運営への要望を伝えるフレーズから、『更新ありがとうございます』など運営への感謝を伝えるフレーズまでが載っている本はなかなかないと思うので、実用的な語学書として使ってもらえると思います」(かんさん)

 

「今までの本以上に、幅広い層の方々に手に取っていただけるかな、と感じています。発売前から話題にしていただけて、幸せな気持ちです。ここ2年くらいオタクにとって暗い話題が多かったので、気軽に楽しめるコンテンツとして、いろんな人に手に取ってもらえたらいいなあと思います」(ひらりささん)

 

海外の文化が好きな人、日本国内の文化を海外に発信したい人、いろんな人に使えそうですよね。せっかくなら、他の言語バージョンも欲しいなぁ……(笑)。

 

私も『スター・ウォーズ』でカイロ・レンを演じたアダム・ドライバーが好きで、海外サイトやTwitterのファンアカウントを見ているのですが、先日ついにFacebookのファングループに入ってしまいました。ここでのやりとりはもちろん英語! 読む分には「日本語訳」できますが、「この写真やば! めちゃかっこいい!」とコメントを残すためには、英語が必須です。今度、Facebookグループに最高にかっこいいアダム・ドライバーの写真がアップされたら、『推し活英語』に掲載されている、

 

Omg, wait no, I can’t, it’s too much!(待って、無理しんどい。)

 

と、打ち込んでみようと思います(笑)。

 

↑あまりの推しの魅力に思考が停止する感覚は世界共通!

 

英語の教材としても楽しい読み物としても、活用できること間違いなし。ぜひ、お手に取って楽しんでみてくださいね!

 

【書籍紹介】

世界が広がる 推し活英語

監修:劇団雌猫
刊行:学研プラス

動画やSNSで海外のファンのコメントを目にする、コンサートやファンイベントで海外のファンに会う……あらゆるコンテンツが国境を越えて共有される今、日本にいながら、推し活で世界中の言葉に触れる機会があります。本書はその中でも英語にフォーカスし、かわいいイラストとともに、「推し」「沼」「尊い」などの330語と「待って無理しんどい」「オタク全員好きなやつ」「実質無料」などの477フレーズを紹介しています。海外に推しがいる方はもちろん、推しの魅力を世界に発信したい方、動画やSNSでよく見る英語表現の意味を知りたい方など、いろいろな方に楽しんでもらえる1冊です。

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アイデアで勝つ。アフリカにあるもうひとつの「ウサギと亀」の物語

多くの人が知っている『ウサギと亀』の昔話。日本ではイソップ物語のなかのひとつとして知られていますが、実は、アフリカにはもうひとつの『ウサギと亀』の物語があるのです。

競走という物語

イソップ物語での『ウサギと亀』では、のろまの亀が、ウサギとかけっこをすることになります。その原因は、ウサギが亀の足ののろさをあざわらったことにありました。ウサギは「自分が負けるわけがない」と余裕でスタートを切ります。

 

大差をつけたウサギは途中で昼寝をしてしまいました。そして寝ているウサギの横を亀が追い抜き、気づいた時は亀はゴール直前。必死の追い込みも届かず、ウサギは亀に負けてしまいました。どんなに楽勝そうに見えても気を抜いてはいけないというようなお話です。

 

走る真剣勝負

走ることが運命を左右するという話はあちこちにあります。たとえば『走れメロス』(太宰治・著)でも、メロスは決められた時間までにゴールしなければ、友人の命が失われてしまうという大変な重荷を背負いながら走っています。

 

走るという行為は、人間が自分の体だけで頑張るしかないものです。だからこそ、観ているほうも手に汗を握るのでしょう。箱根駅伝での沿道の大観衆も、学生たちが抜きつ抜かれつの真剣勝負をしている姿に胸を打たれるからだと思われます。

 

アフリカの「ウサギと亀」

世界昔ばなし(下)アジア・アフリカ・アメリカ』 (日本民話の会・編訳/講談社・刊)では、アジアやアフリカなどの珍しい地域の昔ばなしが49編収録されていて、アフリカ版『ウサギと亀』とも言える話も入っています。不思議なことにそのタイトルは『亀とウサギ』と、動物の順番が逆になっています。

 

あらすじはほぼ同じです。ウサギと亀が競走をして、亀が勝つのです。けれど、アフリカ版では先に闘いを挑んだのは亀のほうなのです。そして、ウサギは昼寝はしません。それどころか全力で勝負します。しかし、負けてしまうのです。

 

知恵で相手を撹乱

亀はどうやってウサギに勝ったのでしょう。それは、知恵を使ったからなのです。亀は、要所要所に親戚の亀をあらかじめ配置してから勝負に挑みました。親戚と言うからには見かけも似ているのでしょう。この亀たちがウサギを翻弄するのです。

 

ウサギは時々立ち止まると、どれだけ亀を引き離しただろうと後ろを振り返ります。しかしすぐ近くから亀がのそっと出てきて「僕はここだよ」と言うものだから、ひどく驚き、もっと引き離さなくてはと全力でゴールに向かうのです。

 

教訓の違い

どちらの物語もあらすじはそっくりなのに、得られる教訓が違います。イソップ物語では、気を抜いてはダメという教えでしたが、アフリカの昔ばなしでは、知恵を使って相手に勝とうというものなのです。

 

解説によると、世界の各地に、知恵を使って相手を懲らしめるという昔ばなしは存在しているのだとか。「自分より劣っていると思っている相手をからかったりいじめたりすると、あとで痛い目に遭うぞ」という勧善懲悪的な考えも入っているのかもしれません。

 

コンプレックスとの闘い

物語での亀は、足が遅いことをウサギにからかわれ、それをコンプレックスに思っていたことでしょう。しかし、コンプレックスこそが原動力になるものです。亀も悔しさからウサギに勝つための作戦を真剣に考えるようになったのではないでしょうか。

 

世の中にはコンプレックスと闘っている大勢の人がいます。コンプレックスは逆手に取れば、長所になることもあります。たとえば背の低さを生かして、小回りを利かせて活躍するようになったサッカー選手もそうです。

 

こう考えると、アフリカの昔ばなしのタイトルが「亀とウサギ」となっていたことにも納得できます。「ウサギと亀」では寝坊したウサギが主人公でしたが、「亀とウサギ」では知恵を使った亀が主人公だったのでしょう。敗者が得た教訓と勝者が得た教訓、ふたつの物語は視点が違ったからこそ教訓も異なっていたのです。

 

【書籍紹介】

世界昔ばなし(下) アジア・アフリカ・アメリカ

著者:日本民話の会(編)
発行:講談社

六代生きてるおばあさんがいて……、ウズラ打ちのチャンさんと、漁師のリーさんは、義兄弟の契を結んで……、大平原にインディアンの村があった。大変暑い夏のこと……、歴史も文化も異なる様々な民族の伝承。美しく厳しい大自然に密着した、生命力あふれる昔話を、原資料から選んで翻訳。詳しい解説付き。

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日本料理はドラマだ! 世界をうならせる気鋭の料理人が語る日本料理の神髄~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。若い頃はステーキ! フレンチ! イタリアン! と横文字ご飯に飛び付いていましたが、最近は日本料理が心にも体にもしみてきます。ランチ時、静かなお庭を見ながら、つややかな料理の数々をゆっくり食べていると本当に時間が止まった気分。上質な映画を一本見終わった後の感覚と似ています。

 

では、“日本料理”とは一体何なのでしょうか? ほかの料理とどこが違うのでしょうか? 食べる側からではなく、作る側の視点から日本料理の秘密と神髄に迫るのが今回の新書です。

 

三つ星料理人が語る日本料理の精神

日本料理は、なぜ世界から絶賛されるのか』(奥田 透・著/ポプラ新書)の著者、奥田 透さんはミシュランガイド東京版で三つ星を獲得した「銀座小十」の店主。

 

2013年にパリ、2017年にはニューヨークに店をオープンするなど、日本を代表する気鋭の料理人として知られています。また、『日本料理 銀座小十』(世界文化社)、『世界でいちばん小さな三つ星料理店』(ポプラ社)など著書も多く、日本料理の魅力をわかりやすく伝えています。

 

日本料理の基本は「切る」にあり!

第1章「日本料理の神髄とは何か」では、日本料理の本質が見えてきます。私が日本料理と聞いて思うのは「盛りつけが綺麗で、淡い味つけ」……というぼんやりとした印象ですが、奥田さんによれば、日本料理の大きな特徴は極端に油を使わないこと。だしの旨みを中心としているため、余計な油を必要とせず、身体への負担が少ない料理だとか。そのため、料理人は味をみるために全神経を舌に集中させなければなりません。

 

そして、西洋料理と比べてはっきりと「メインディッシュ」の概念がないことも特徴。「付き出しに始まって、10品ほどの料理をつないでいくのが日本料理」と奥田さん。その流れを考えることはある意味シナリオ作りと一緒で、ドラマのように意図があって組み立てられている、と表現しています。

 

私も小説を書評する際には物語の構造に注目するので、日本料理との共通点が見いだせてうれしくなりました。一品一品の料理で山あり谷ありの世界を作る、それがプロの料理人の意識なんですね。

 

第2章「『調理法』から見る日本料理」にも発見がありました。奥田さんいわく、日本料理の基本はなんといっても「切る」。割烹料理の語源となった「割主烹従(かっしゅほうじゅう)」は、「割」が切る、「烹」が煮るを指し、切ることが主で煮ることが従、という意味だそうです。

 

雑に切ると味が抜けてしまうため、素材に合った包丁できちんと切らないと口のなかで味が膨らまない。奥田さんは、「和包丁の世界は、やはり武士、侍が持っていた刀から来ているような気がします」と言います。

 

ほかにも、炭火で1時間かけてじっくりと焼き上げる究極の鮎の塩焼き、香りを出しつつ丁寧に中の松茸エキスを残す焼き松茸、ニューヨークでも知れ渡っている豊洲市場ブランド……など食欲と知識欲を刺激するトピックスが並んでいます。

 

平易ながらも奥深い言葉で語られ、日本料理の精神を多くの人に知ってもらいたいという情熱も伝わってきます。料理というカテゴリを超えて、仕事への真摯な向き合い方はビジネスの参考にもなりそう。ちょっと贅沢な日本料理を食べる前にぜひ読んでおきたい一冊です。

 

【書籍紹介】

日本料理は、なぜ世界から絶賛されるのか

著者:奥田透
発行:ポプラ社

ミシュランを圧倒する世界一美食の国・日本。素材・調理法・精神性…日本料理の神髄を一冊に!世界で活躍する料理人が、日本料理の魅力を問う!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

起業家であり統計学者でもあった! 看護だけではないナイチンゲールの多面性を知るシリーズ『ナイチンゲールの越境』

コロナ禍のもと、不自由な毎日が続いています。カッパ株、ベータ株、オミクロン株など、混乱するほど様々な名前が表れ、混乱してしまいます。そんな中、医療従事者の方々は戦いの日々を送っています。看護師さんたちはとくに患者さんと長時間にわたって触れあい、看護しなければなりません。自分の身を感染の危険にさらしながら、重症のコロナ患者の処置をするのですから、仕事とはいえ、本当に大変です。

 

フローレンス・ナイチンゲールの存在

看護師さんたちを支えるものは、いったい何なのでしょう。職務への義務感でしょうか。病人への愛でしょうか? 看護師になるとき、彼ら、そして彼女たちは、ナイチンゲールが定めた誓いを宣誓するといいます。いわゆる「ナイチンゲール誓詞」と呼ばれるもので、白衣の天使たちの基本となる考え方なのでしょう。

 

1820年に生まれたフローレンス・ナイチンゲールは、1853年に勃発したクリミヤ戦争に自ら出向き、味方の兵士はもちろんのこと、敵までもわけへだてなく看護し、助けたことで知られています。彼女は看護師でありながら、起業家でもあり、統計学者としても秀でた才能を持っている人でした。病院を建築する際にも、彼女のアイディアがいかんなく発揮されたということです。疲労がたたったのか、後半生は病に冒されてしまい、ベッドの上での生活を余儀なくされました。それでも、頭脳は明晰で、的確な指示を出し続けたといいます。ビクトリア朝が生んだ傑出した女性と言えるでしょう。

 

シリーズごとにあてられる様々な光

昨年、2021年はナイチンゲール生誕200年にあたり、とりわけ関心が高まりました。ましてや、このコロナ禍、看護について考えないではいられません。日本看護協会出版会からは、「ナイチンゲールの越境」として興味深いシリーズが出版されました。

 

シリーズは全部で6冊。実に様々な視点から、ナイチンゲール論が展開されています。どこから読み始めようかと迷ったときは、自分が一番、興味を持っている項目から読んでみることをお勧めします。もちろん、全部を網羅して読むのが理想ですが、ナイチンゲールは多才で、複雑な人物です。すぐに理解できるとは思えません。ですから、まずは自分が読みたいと思うエピソードから始めましょう。

 

シリーズの内容は以下のようになっています。ごく簡単ですが、内容を説明します。

 

「1:建築 ナイチンゲール病棟はなぜ日本で流行らなかったのか 」

クリミヤ戦争に従軍したナイチンゲールは、不潔な野戦病院で、多くの年若い兵士が命を落とすのを目撃しました。心を痛めた彼女は、病院を改善すべきであると主張し、病院建築について彼女ならではの意見を述べるようになりました。それなのに、日本ではナイチンゲールの設計した病棟は、流行しなかったそうです。それはなぜか?専門家達がその謎に迫ります。

 

「2:感染症 ナイチンゲールはなぜ「換気」にこだわったのか」

現在、コロナ禍のもとで生活している私たちは、マスク・手洗い・三密にならないを目標としていますが、もうひとつ大切に考えるべきことがあります。それは「喚気」です。今、私たちが乗る電車やバスは窓が開けられるようになっていますが、160年近くも前に、ナイチンゲールは既に「換気」に注目していました。「新鮮な空気」は健康を保つためにどうしても必要で、「汚れた空気」が病気の原因となると、早くも見抜いていたのです。

 

「3:ジェンダー ナイチンゲールはフェミニストだったのか」

ヴィクトリア朝時代は、まだ伝統的な慣習が色濃く残り、女性の社会進出に理解があるとはいえませんでした。しかし、そんな風潮に負けず、彼女は「看護」を通して女性の社会進出を試みました。ナイチンゲールならではの女性の社会参加に興味がわきます。

 

「4:時代 ナイチンゲールが生きたヴィクトリア朝という時代 」

私は個人的にはこのシリーズ4に、とりわけ関心を持ちました。元々、ヴィクトリア朝時代(1837年から1891年まで)に関心がありましたし、どんなに独自の路線をいく人でも、時代と関わりなく生きていくことはできません。

 

ヴィクトリア朝時代は、産業革命により、経済や技術がものすごいスピードで発展したときにあたります。その一方で、上流階級と労働者階級というふたつの階層が生まれ、国民が分断され、格差社会が生まれたときでもありました。イギリスは世界経済の覇者として君臨し、大英帝国の名をほしいままにしていましたが、一方で、問題は山積だったのです。

 

ナイチンゲールは、裕福な家庭に生まれ、サロン文化に親しみながら育ち、家族とともに世界中を旅する日々を送っていました。フローレンスという名も、フィレンツェを旅行中に母親が出産したからついた名前だといいます。ちなみに、フローレンスはフィレンツェの英語読みです。

 

他のシリーズにも言えることですが、「ナイチンゲールの越境 シリーズ4」も、執筆者が多彩で、読み応えがあります。

 

まずは、甲南大学名誉教授であり、日本ヴィクトリア朝文化研究学会長でもある中島俊郎が、「フローレンス・ナイチンゲールとヴィクトリア朝」と「ナイチンゲールのグランド・ツアー」について詳しく教えてくれます。人は生まれる時代を選ぶことはできませんが、時代と関係なく生きることも不可能です。時に時代に迎合し、またある時は反抗し、さらには流されながら生きるものでしょう。では、ナイチンゲールの場合はどうだったのか? 尽きせぬ興味を満たしてくれます。

 

次に、国内外の歴史、古典文学関連を中心に執筆活動を繰り広げる福田智宏は「ナイチンゲールが生きた時代」について、考察します。ナイチンゲールが活躍した時代に日本では何が起こっていたのかを知ることによって、より身近に彼女を感じることができます。

 

続いて、金沢医科大学看護学部教授の滝内隆子は、本国イギリスから植民地に移民として人口が流出していき、その結果、結婚適齢期を過ぎてしまう女性が増えたことに注目しています。看護師という職業が承認されていった背景にはこういう社会的な事情もあったのでしょう。

 

さらに、静岡大学防災総合センターの客員教授である鈴木清史は、ナイチンゲールの直弟子であるルーシー・オズバーンの興味深い人生をたどります。彼女はオーストラリアで活躍し、ナイチンゲールの看護を根付かせた最初の海外での事例となりました。しかし、二人の関係は円満ではなかったようです。

 

また、文筆家であり、翻訳家の村上リコは、ナイチンゲールの実家について教えてくれます。令嬢であったナイチンゲールが、母親の思いどおりには生きなかった娘になっていく様子に女の意地を感じます。さらには、ビクトリア朝の相続問題についても、わかりやすく解説してくれます。

 

加えて、大東文化大学外国語学部英語学科講師の野澤督は、19世紀前半、フランスのサロンの中心的な人物レカミエ夫人について描いています。美しく人気者であった夫人ですが、ナイチンゲールは好感を持っていなかった点など、驚きの内容でした。

 

そして、笹川保健財団会長の喜多悦子は、赤十字の創始者であるジャン=アンリ・デュナンを取り上げます。デュナンはナイチンゲールに会ったことはないものの、彼女に憧れており、二人の関係は興味深いものがあります。

 

桜美林大学リベラルアーツ学群人文学系准教授、出島有紀子は、ナイチンゲールが賞賛したオクタヴィア・ヒルを取り上げます。ナイチンゲールは「すべての街路に一人ずつオクタヴィア・ヒルがいたら、ロンドンは再生するだろうに」とまで言ったのです。

 

同志社女子大学看護学部・大学院看護学研究科 特別任用教授である岡山寧子は、女医のパイオニアと呼ばれるエリザベス・ブラックウェルとアメリカで専門的な訓練を受けた最初の看護師リンダ・リチャーズを取り上げ、ナイチンゲールとの関係に言及しています。

 

最後は、津田塾大学学長である高橋裕子が、津田梅子がナイチンゲールに面会したこと、その時、贈られた花束を押し花にして大切に保管していたという驚きのエピソードを紹介します。

 

駆け足でしか紹介できませんでしたが、どうぞ興味のあるところから読んでください。ナイチンゲールに対する印象ががらりと変わるかもしれません。さらに、このシリーズは「5 :宗教 ナイチンゲール、神の僕となり行動する 」そして、「6:戦争 ナイチンゲールはなぜ戦地クリミアに赴いたのか」と続きますので、是非、そちらもチェックして、ナイチンゲールという存在を丸ごと理解していただきたいと思います。

 

【書籍紹介】

 

ナイチンゲールの越境4:時代 ナイチンゲールが生きたヴィクトリア朝という時代

著者:中島俊郎、福田智弘ほか
発行:日本看護協会出版会

産業革命により経済、科学技術、工学、自然科学等々が大きく発展した一方で、富める上流階級と貧しい労働者階級という〈二つの国民〉の分断が著しい格差社会でもあったヴィクトリア朝。これまでのナイチンゲール研究ではあまり取り上げられてこなかった〈時代〉にフォーカスをあて、ナイチンゲールに及ぼした影響について、歴史、文化・社会史、西洋文学、人類学、看護学の研究者らが考察しました。

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名作の読み方が変わる? 精神科医の目線から紐解く、驚きの作家論!『文豪はみんな、うつ』

川端康成、宮沢賢治、芥川龍之介など、国語の教科書で一度は読んだことがある文豪たちの作品。読書感想文の作品に選んだ人も多いでしょう。

 

今回ご紹介する『文豪はみんな、うつ』(岩波明・著/幻冬舎・刊)は、そんな一度は読んだことのある文豪たちについて、彼らの作品や生き方を精神科医である岩波 明さんの目線から分析した一冊です。なんとなくわかっていたような、知りたくなかったような(笑)。興味深い視点から紐解かれる作家論をご紹介します。

出典:国立国会図書館「近代日本人の肖像」

 

太宰 治は誤解されている?

『人間失格』や『走れメロス』の著者である太宰 治。彼の人生を描く映画や舞台が現代でも度々公開されているので、なんとなく「壮絶な人生を歩んでいそう……」というイメージがある人が多いのではないでしょうか?

 

また、自殺未遂や薬物中毒だったことも有名で、私もこの本を読む前から「絶対、太宰 治はこの本に入っているよね」と思っていました。しかし、読み進めていくと”太宰 治は誤解されている作家“との表記が。一体どういうことなのでしょうか?

 

精神科医の分野でも、太宰治は誤解されている。ある評論においては、太宰治を「境界例(境界性人格障害)」と断定しているが、これはまったくの誤りである。

境界例は「パーソナリティ障害(人格障害)」の一つであり、対人関係の不安定さ、感情面で動揺しやすく、社会的な問題行動を繰り返すなどの特徴がある。太宰は自殺企図こそ数回しているものの、全般的な社会適応は良好で、妻であった津島美知子の回顧録(『回想の太宰治』人文書院)に述べられているように、多くの弟子たちや編集者に慕われた人物である。境界例の診断はあてはまらない。

(『文豪はみんな、うつ』より引用)

 

この本を書いた岩波 明さんは、精神科医としてこれまで多くの書籍を執筆されてきた方。「なるほどそう読み解けるのか……」と納得してしまいます。

 

とは言っても、岩波さん曰く太宰治はうつ病を抱えていたとのこと。その背景を知りたい方は『文豪はみんな、うつ』を読んでみてください。太宰が生きた時代の空気も知ることができ、もう一度作品を読み直したくなりますよ!

 

お札になった夏目漱石も

2024年から北里柴三郎にかわる1000円札。1983年から2003年までの20年間は、『坊ちゃん』や『吾輩は猫である』の夏目漱石が描かれていました。

 

私の学生時代は夏目漱石の1000円札だったので、お小遣いで漱石さんをもらえるとうれしくて、いい思い出がたくさんあるのですが、なんとなく明るそうなイメージを勝手に持っていたので、うつだったとは。

 

漱石さんが30代でロンドン留学したことも有名ですが、実はその裏で彼の精神状態は悪化していたそうなのです。

 

漱石はロンドン留学中に精神状態が悪化し、「神経衰弱」が再燃した。下宿先の家主に対する被害妄想、幻聴などもみられ、下宿先を短期間で転々とした。

(『文豪はみんな、うつ』より引用)

 

さらに「夏目狂セリ」と国際電報が送られたという記録も残されているそう。神経衰弱とは、今風に言うとノイローゼ。教員時代から精神的に追い込まれると度々発症していたとのことで、ロンドンめっちゃ辛かったんだろうなぁと少しかわいそうになってしまいました。

 

今のように病名が診断されることでホッとできることもありますが、精神医療もあまり発展していない時代では、「狂セリ」で表現されてしまうんですよね。もし令和に夏目漱石が生きていたら、どんな作品を残すのかちょっと気になってしまいました。

 

「異形」を認め、価値を認めることも大切

全部で10名の文豪たちが紹介されているのですが、どの作家の話を読んでも「作品を読み直したい」と思うものばかり。暗い気持ちになってしまう瞬間もありますが(笑)、苦しい時代や辛い時期を乗り越えた人生を知ってから改めて読み直す作品は、感情の入れ具合が変わってきます。

 

『文豪はみんな、うつ』の著者である岩波さんも、文庫版の出版に際して、あたらしい「おわりに」を執筆されています。その一部をご紹介します。

 

本書で指摘した文豪たちと精神疾患を結び付ける試みについては、多くの異論があるかもしれません。ただ明らかに言える点は、彼らが規格外の人たちで、世間の決めた枠組みに留まることができなかったという事実です。精神疾患を伴ったことは、「異形」であったことの表れなのかもしれません。

(『文豪はみんな、うつ』より引用)

 

多様性を認める世の中になってきたとはいえ、まだまだ枠組みに留めようとする力は大きいです。もしそんなことに悩んでいる人がいたら、「異形」な文豪の先輩たちの生き方を知ることで、今を生きるヒントにつながるかもしれませんよ。

 

 

【書籍紹介】

 

文豪はみんな、うつ

著者:岩波明
刊行:幻冬舎

文学史上に残る10人の文豪ー漱石、有島、芥川、島清、賢治、中也、藤村、太宰、谷崎、川端。漱石は、うつ病による幻覚を幾多のシーンで描写し、藤村は、自分の父をモデルに座敷牢に幽閉された主人公を描くなど、彼らは、才能への不安、女性問題、近親者の死、自身や肉体の精神疾患の苦悩を、作品に刻んだ。精神科医によるスキャンダラスな作家論。

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パリ郊外を描いた書にまつわる、異色のフランス物語——『郊外へ』

パリ市は東京の山手線内と同じくらいの面積の街で、その昔、パリは城壁でぐるりと囲まれていた。ヴィクトル・ユーゴーの代表作『レ・ミゼラブル』で描かれているのは城壁があった時代のパリを背景としている。壁はやがて解体され、現在は、ヴェルサイユ門、オルレアン門、モントルイユ門、クリニャンクール門……など、門があった場所にその名が残っているだけだ。

 

郊外へ』(堀江敏幸・著/白水社・刊)は、芥川賞、そして三島賞作家である堀江氏のデビュー作。雑誌『ふらんす』に連載されていたエッセイを一冊にまとめ1995年に刊行されたもののUブックス版だ。既製のパリやフランスのエッセイとは一線を画していて、仏文学者でもある堀江氏が、パリの城壁の外に広がる町を舞台としたフランスの現代小説や随筆を紹介しつつ、批評した読み物なのだ。

 

私は20年間パリの壁の外で暮らしていた。前半はパリ16区に隣接したブローニュ・ビヤンクール市、後半はパリの南西郊外、ジフ・シュル・イヴェット市にいたので、本書にはなじみのある地名、駅名が多く登場するのでとても懐かしかった。

 

パリ好きの方でも、本書を読むとパリ市内とは少し違う趣がある郊外の街にきっと興味が湧いてくるはずだ。そして移民国家であるフランスをより理解することもできるだろう。

パリ郊外へのびる小説

連載エッセイだったときのタイトルは”郊外へのびる小説”だったそうだ。本書のあとがきに堀江氏はこう記している。

 

一連の物語に登場する「私」とその周辺の出来事は、完全な虚構である。背景などに多少の知見はこめてあるものの、彼は「郊外について」の語り手を担っているのではなく、「郊外的」な立ち位置の代弁者にすぎない。もし、実体験を語っていたならば、それは既視感の反復に終わり、なにかに「ついて」言葉を綴ろうとしていたら、郊外「論」になってしまっただろう。

(『郊外へ』から引用)

 

どの項も、短編の小説を読んでいるような感覚でとてもおもしろい。目次は以下のようになっている。

 

レミントン・ポータブル

空のゆるやかな接近

夜の鳥

動物園を愛した男

霧の係船ドック

ロワシー・エクスプレス

灰色の皿

給水塔へ

記憶の場所

首のない木馬

坂道の夢想

垂直の詩

タンジールからタンジェへ

ロワシー=シャルル・ド・ゴール空港からはじまるパリ郊外の旅

 

私たち日本人はパリの国際空港を、シャルル・ド・ゴール空港と呼ぶことが多いが、フランスでは地名を使ってロワシー空港と呼ぶ人が大半だ。

 

このロワシー空港駅を起点にパリ地方を南北に横切っているのがRERのB線という電車。全長は約60キロで、パリ北駅、シャトレ・レ・アール駅などパリの真ん中を通り、南西郊外のサン・レミィ・レ・シュヴルーズ駅まで計37の駅からなっている。ちなみに私が暮らしていたジフ・シュル・イヴェットも終点から3つ手前の駅だった。

 

「ロワシー・エクスプレス」と題した項で、堀江氏は『ロワシー・エクスプレスの乗客』という本を紹介している。RERのB線を移動するのではなく、一日ひと駅ずつ「旅」をしてみるというユニークな発想の本で、著者はフランソワ・マスぺロ、写真は彼の友人であるアナイク・フランツだ。ふたりはまず出発点であるロワシーの町へと向かう。

 

パリ周辺の旅行案内書にも、細部はほとんど記されていない。わずかにパリ郊外を網羅している五万分の一地図に、ロワシー・アン・フランスという名が太字で刻まれている程度である。花の都への玄関ロワシーは通過するための空間であって、旅行者が立ち寄るべき場所ではないのだ。

(『郊外へ』から引用)

 

マスペロは、生粋のロワシーっ子という老人に話を聞くと、ロワシーでは赤ん坊はひとりも生まれないという。なぜなら小さな町には産院がなく隣町にしかないからだ、と。国際的大都市の近郊に故郷と出生地が一致しない町があることにマスペロは驚くのだった。

 

旅は続き、パリの北郊外の駅周辺は移民や失業者が多い荒廃した町が多々ある。パリの南側の駅はハイソな町と移民が多い少し荒廃した町が交互にやってくる。マスペロとフランツは1か月をかけてパリ郊外を旅をした。歩くとは、考えるとはこういうことだ、と教えられた気がする。

 

アラン・ドロンは郊外で生まれ育った

「坂道の夢想」という項では、俳優のアラン・ドロンについて書かれている。ある日、”私”はテレビで白髪になったドロンが子どものころの思い出を語っているのを観る。

 

わたしは郊外に生まれ育ったので、メトロに憧れていましてね、たまにパリに出ていくとその切符を捨てずに持ちかえって、友達に見せびらかしたり、何度も匂いを嗅いだり、ひどく大切にしていたものですよ、それがパリの匂い、都会の香りでしたね。

(『郊外へ』から引用)

 

アラン・ドロンの生い立ちはあまり幸福なものではない。パリ南郊ソーの乾物屋に生まれたが、両親が不仲になり8歳で里子に出された。その3年後には養父母も亡くしてしまい、離婚した両親のあいだを行き来していたが、それぞれに別の相手がいたため、厄介者扱いをされ、不安定な少年期を過ごすこととなった。当然のごとく不良化し、停学や放校処分で郊外の町の学校を転々としていたという。最終学歴はリセ(高校)どまりで、演劇を学んだ形跡もない。学業を放棄してからは、豚肉店を経営していた養父を頼って見習いをしていたそうだ。ジョルジュ・ペレックの『ぼくは思い出す』という本の中で、「アラン・ドロンがモンルージュで豚肉屋の見習いをしていたのを覚えている」という一節にがあるそうで、肉屋の使い走りと国際的スターとのギャップには誰もが驚いてしまう。

 

ちなみにドロンが生まれ育った郊外はすべてRERのB線沿いにある。

 

映画界に入るきっかけはカンヌ映画祭を冷やかしに出かけたこと。ドロンの美しいルックスが見出され、そこからサクセスストーリーがはじまったのだ。

 

パリの南郊で生まれたアランという名の乾物屋の倅が、両親にうとまれ、非行を重ねていたのは一九四〇年代のことであり、それはドワノーが写真機をぶら下げて歩き回っていた時代に合致している。『パリ郊外』に登場する楽しげな子どもたちのなかにこの少年がまじっていたら、アラン・ドロンという俳優は生まれていなかったかもしれず、もしかすると、彼にとってはその方がずっと幸福だったかもしれない。

(『郊外へ』から引用)

 

ロベール・ドワノーの写真集『パリ郊外』については、本書の最初「レミントン・ポータブル」の項で詳しく書かれている。

 

コロナ後、海外に自由に出掛けられるようになったら、お決まりのパリ旅行ではなく、パリの壁の外を探索してみると意外な発見があるかもしれない。本書はその参考にもなるだろう。

 

【書籍紹介】

郊外へ

著者:堀江敏幸
発行:白水社

パリを一歩離れるといつも新しい発見があった。卓抜した仕掛けによって、パリ郊外を語りつくした魅惑の書。ドワノーやモディアノなど郊外を愛した写真家や作家に寄り添いつつ、ときに幸福な夢想に身をゆだね、ときに苦い思索にふける、「壁の外」をめぐる物語の数々。三島賞作家鮮烈のデビュー作。

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100均ショップは「新しい命が生まれる場所」ーー『100均グッズ 改造ヒーロー大集合』の発想力に高鳴る

「楽園だ」。私がそう感じる場所の一つが「100円均一ショップ」。

 

炊事や洗濯・掃除などに使う日用品、衣料品、文房具、食べもの、駄おもちゃ、果ては「何に使うのかよくわからないモノ」までズラリ並んだ100均ショップ。ここは、生きるためのパワーをチャージする場所だ。雑貨をショッピングバスケットへ投入するたびに、単に「安いからおトク」だけでは終わらない高揚感が私の全身を包む。まるで、新たな命をいただいているかのような。

 

そんなふうに日々100均に救われている私に、光が降り注いだ。『100均グッズ 改造ヒーロー大集合』(平凡社)が発売されたからだ。

 

100均グッズ 改造ヒーロー大集合

著者:安居智博

発行:平凡社

テレビやSNSで話題沸騰。軍手、タワシ、ペットボトル、水引が「魔改造」でとんでもロボットに大変身。ニューズウィーク誌「世界が尊敬する日本人100」に選出された造形作家の世界。100円ショップにある日用品や駄玩具、また、包装紙や千代紙などのプリント柄の紙など、なんでもロボット化してしまう安居さんの驚異の発想力のすべてがここに。たくさんの作品写真と制作プロセス写真で、58のヒーローが登場します。

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根底にある「100均グッズのデザインへのリスペクト」

ページをめくれば、ぅおおぉ(ため息)。

 

タワシ、輪ゴム、水道ホース、千代紙、パーティグッズの「鼻メガネ」などなど、暮らしに密着した地味ぃなアイテムの数々がなんとスーパーヒーローに変身。どれも、支えがなくとも絶妙なバランスで自立しているからすごい。「ドメスティックロボ、発信!」の掛け声一つで、ダイソー、セリア、ワッツ、シルクなど全国各地の秘密基地から、いつでも怪獣が暴れる街へと飛び発ちそう。彼らにはそんな正義への強い意志を感じる。100円玉から生まれたとは思えぬカッコよさなのだ。

 

 

作者は京都にアトリエをかまえる造形作家の安居智博さん。とはいえこれらの100均ヒーローズのほぼすべては、ビジネスから生まれたものではない。安居さんが仕事の合間に、言わば解放されるために改造したものなのだ。

 

モノづくり系のクリエイターさんは、仕事を離れた趣味もモノづくりである場合が多い。切って、つないで、変身させる。その行為は安居さんにとって職業ではなく人生そのもの。だからこそ、安価なグッズにも地球より重い魂が宿るのである。

 

安居さんが生みだすスーパーヒーローたちは、なぜこんなに凛々しいのか。それは素材となる100均グッズのプロダクトデザインにリスペクトがあるからだろう。

 

たとえばテニスボールのヒーロー「ウィンブルドーン」(いい名前!)は、スポーツのボールを切り刻む行為に愛好家が嫌悪感をいだかぬよう、本来のテクスチャーを分断したり削り落としたりせず曲線をそのまま活かしている。

 

「初心者マーク」を改造した「ワカバー」(うまい!)も本来の左右対称な意匠を遵守しながらスマートに再構築しているのだ。だって、そこを覆しては“交通違反”なのだから。

 

反対にブルーシートの「バショトリー」(最高!)はあえて紙ヤスリでダメージを与えている。現場で貢献してきた実績を表現しているのだ。ゴム風船「ヨクバルーン」は経年とともにゴム層がはげてきているのだが、それもまたわびさびある味わいだと、そのままの姿を残している。

 

 

そういえば幼い頃に読んだ雑誌『テレビランド』のカラーページには、ボロボロに傷ついたマジンガーZが横たわっていた。「日本を守るため、傷だらけになるまで身を挺して闘ってくれたのか」と、胸に熱いものがこみ上げてきた。100均のグッズで、まさかあの日の涙が蘇るとは。

 

輪ゴムはゴムの木が生まれた南国をイメージ。便所のサンダルはモビルスーツのような重厚感をもたせる。バトミントンの羽にはフェミニンな気品を漂わせる。電気コードに至っては、分解することで「仮面をはずしたヒーロー、正体やいかに!」とドラマ展開まで魅せてくれる。

 

安居さんは、軍手の黄色いイボイボを「美しい」と語っている。私たちは日用品を美しく感じるアンテナを、社会の固定観念に毒されるうちに、いつしか失っていたのかもしれない。安居さんはこのように原型となる100均グッズのデザインを美しいものとして尊重し、メーカーや愛用者が拒絶しない愛あるデザインを仕上げているのだ。

 

きらめきながら現れる100均ヒーローたち

 

さらに重要なのが、安居さんは100均ヒーローズが真価を発揮できるよう、シチュエーションをしっかり考えている点だ。

 

たとえば、「その件、俺に仕切らせてくれ」とぬっと現れた、弁当を仕切るバラン。光を透かし、着色をほどこさず重ねた部分の濃淡のみによってカラーリングを表現しているから驚き(バランのみならず、安居さんはすべて縮小や拡大コピー、着色などをせず、マテリアルそのままの色合いや質感で造形している)。

 

20個のラムネ菓子入りボトルから誕生したヒーローは「内部が透けて見えることを前提に、可動の構造を構築すること」と自らに高難度なミッションを課している。そうして見事にブドウ糖を充てんするスケルトンの勇者が登場した。

 

 

透明の小さな醤油挿しを集結させた「大醤軍(だいしょうぐん)」は中銀カプセルタワービルを想起させる構造美がある。象のかたちをしたジョウロは実際に水をほとばしらせて灯りを乱反射させ、カリスマ性を演出している。食器洗いスポンジは泡の海を割って水面から飛び出し、シャボン玉は七色にきらめきながら敵を幻惑させる。

 

このように安居さんは光の透過がもたらす効果を存分に採り入れている。思えば「光」はヒーローになくてはならない要素。子どもたちはミクロマン、変身サイボーグ、人造人間キカイダーやハカイダーなど光学迷彩で神々しく輝くヒーローやヒールに憧れた。元祖ヒーローと言えるウルトラマンは光の国からやってきたではないか。

 

そういった憧れの気持ちがオブジェに反映しているから、この新刊からは単なる100均グッズ工作本とは一線を画する感動がもらえるのである。

 

素材と素材を結ぶ独自技術「ヤスイ締め」

 

100均のチープな雑貨に正義の心を芽生えさせた安居さん。実現できた最大の理由は、小学校3年生のときに発明した関節可動の仕組み「ヤスイ締め」だ。接着剤が効かない素材どうしを針金でつなぐ技術を安居さんは少年期に早くも開発していたのである。

 

 

小学校2年生からペーパークラフトに関心をいだき、小学校3年生で「ヤスイ締め」によるロボットレスラー「カミロボ」を誕生させた。カミロボプロレス界はのちに15団体が乱立。ベルトを奪いあう戦国時代へと突入していった。小学生のときに制作した第1号レスラーのマドロネックキングをはじめ、死闘を経てもなお600体以上のカミロボが現存しているというから、たまげた。いかに「ヤスイ締め」が優れた技法であるかがうかがい知れる。

 

そう、安居さんにとって、素材と言えば紙だった。歴史を変えたのは爪楊枝、アルミホイル、コンクリートブロックによる悪役レスラー「異素材軍団」の参上。安居さんは「紙か、紙以外か」とまるで工芸界のローランドのように紙に想いを馳せていたが、異素材軍団の意外な健闘により、次第に紙以外にも惹かれていったという。安居さんにとって当初は悪役だった異素材だけで、こうして単行本にまとまるとは感慨深い。「かみ」に背くとは、まるで悪魔が正義に目覚めたデビルマンのストーリーのようだ。

 

100均で生まれコロナ禍に立ち向かう勇者たち

 

安居さんの100均グッズ改造に拍車がかかったのは、コロナ禍が原因だという。展示会などの機会を失い、「俺のステイホーム、なめんなよ!」とクリエィティブの魂に火がついた。

 

人と人との分断が余儀なくされる昨今。この亀裂を元に戻すには、人間関係にも「ヤスイ締め」が必要だろう。そういう点で、地球全体が危機を迎えるなかでヒーローたちが立ち上がったこの新刊は、とてつもなくタイムリーと言える。100均グッズのヒーローたちに希望をもらいながら、コロナが収束するまで、しばし辛抱しようではないか。

 

100均グッズ 改造ヒーロー大集合

著者:安居智博

発行:平凡社

テレビやSNSで話題沸騰。軍手、タワシ、ペットボトル、水引が「魔改造」でとんでもロボットに大変身。ニューズウィーク誌「世界が尊敬する日本人100」に選出された造形作家の世界。100円ショップにある日用品や駄玩具、また、包装紙や千代紙などのプリント柄の紙など、なんでもロボット化してしまう安居さんの驚異の発想力のすべてがここに。たくさんの作品写真と制作プロセス写真で、58のヒーローが登場します。

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ニュースの数字に気をつけて!「チェリーピッキング」って何?~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。みなさんは数字が得意ですか? それとも苦手ですか? 私は間違いなく後者(笑)。領収書や請求書など数字が必要な書類は大抵一度では上手くいかず、どこかしら間違えています……。

 

逆に私の友人は数字に鋭いタイプ。2人で買い物に行くと

 

友人「さっき見た1680円のマグカップ、かわいかったよね。隣の2200円のよりも良さそう」
私「??? えっ、それって青っぽくて形が丸かったやつ?」

 

こんな風になることがしょっちゅう。数字のとらえ方は人によってさまざまですね。

ニュースの数字にだまされないためには?

今回紹介する新書ニュースの数字をどう読むか 統計にだまされないための22章』(トム・チヴァース、デイヴィッド・チヴァース著、北澤 京子・訳/ちくま新書)は、もっともらしいニュースの数字と正しく向き合うための一冊。

 

著者のトム・チヴァースさんは、イギリスのサイエンスライター・作家。2021年には英国サイエンスライター協会からサイエンスライターオブザイヤーに選ばれています。共著者のデイヴィッド・チヴァースさんは、オックスフォード大学で教鞭をとった後、現在はダラム大学経済学部助教授。専門はマクロ経済です。

実際のニュースを例にして検証

「数字にだまされるな!」という本はほかにもありますが、本書は最近のニュース記事を題材にしていてピンと来るのがいいところ。「似たような言い回し、見たことあるなあ」と思うこと請け合いです。

 

しかも、著者がサイエンスライターということで、ユーモアを交えながら柔らかい語り口で解説されています。統計学の専門的な話は出てくるものの、私のような文系脳でもなんとかついていけるレベルです。

 

私もだまされているだろうなと感じたのが、第16章で取り上げられている「チェリーピッキング」。「チェリーピッキング」とは熟れたサクランボだけを取るという意味で、“いいとこどり”のこと。

 

例に挙がっているのは、2019年の「サンデー・タイムス」のトップ記事「ティーンエイジャーの自殺率はここ8年でほぼ倍になった」というもの。「倍なんて大変!」とショックを受けますが、じつはこれ、ティーンエイジャーの自殺がもっとも少なかった2010年を起点にしたことで生まれた、大げさな数字だとか。

 

考えてみれば、「5年前と比べて」「ここ20年で」「80年代以降」「戦後」などなど、どの期間を切り取るかはデータを主張する人の裁量次第。比較元をしっかり確認しないと、チェリーピッキングに引っかかってしまいそうです。

 

前後しますが、第8章にも面白い例が載っていました。2011年の「デイリー・テレグラフ」の見出し「炭酸飲料はティーンエイジャーを暴力的にする」。これは学術誌に掲載された「缶入りソフトドリンクを1週間に5本以上飲んだ若者は、武器を持ち歩いたり、友人、家族、付き合っている人に暴力をふるったりする可能性が有意に高かった」という研究に基づいているそうです。

 

一見、「炭酸飲料はティーンエイジャーを暴力的にする」という見出しと、「炭酸飲料をよく飲むティーンエイジャーは暴力的だ」という研究内容は似通って見えますが、見出しのほうは明らかに炭酸飲料が原因で暴力性が高まったという印象を受けます。これは数字ではなく、言い回しのトリックですね。

 

仮に「クラスで早起きしているグループは、テストの点数が10点高い」という結果があったとして、「だったら早起きするだけで、10点アップするんだ!」とはならないわけです。短絡的に因果関係で2つの事柄を結びつけてしまうのは、読む側もやりがちな失敗。健康食品やサプリなどを選ぶ際にも気をつけたいですね。

 

そのほか、リスクの数字を大げさに示す「相対リスク」、成功例だけを見てデータを出す「生存者バイアス」など、人の判断を誤らせる数字の使われ方の例が全22章にわたって紹介されています。

 

最近はネットニュースなどのセンセーショナルな見出しに、さらに尾ひれがついて一人歩きすることも多いですが、一呼吸置いてしっかり考えることが大事なのがわかります。

 

【書籍紹介】

ニュースの数字をどう読むか 統計にだまされないための22章

著者:トム・チヴァース、デイヴィッド・チヴァース、北澤 京子(訳)
発行:筑摩書房

ニュースにはたくさんの数字が出てくる。新型コロナウイルス感染症のパンデミックが世界を席巻してからは、なおさらだ。感染者数、陽性者数、再生産数、陽性率…。しかしその数字は、ニュースに出てくる時点で選択されており、記事のストーリーに沿うかたちで提示されている。因果関係は本当にあるのか。その数字は本当に「大きい」のか。増えた、減ったの判断の基準は本当に正しいのか。じつは数字によるミスリードにはパターンがあり、それを知っていれば大きな間違いは避けられる。具体的な例を使い、ユーモラスな語り口でその方法を伝授する。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

電子レンジもオーブンも冷凍もOK! コスパ◎な耐熱ガラス容器で、煮豚を作ってみた

おしゃれなデザインでお皿としてそのまま使えると話題の「耐熱ガラス容器」。余った食材を保存する容器として使っている方が多いかも知れませんが、なんと電子レンジやオーブン、さらに容器のまま冷凍までできちゃうんです!

 

今回は、保存容器だけに使うのはもったいない! 調理・保存・器にもなる耐熱ガラス容器をフル活用できる『耐熱ガラス容器で毎日ラクチンレシピ』(阪下千恵・著/ワン・パブリッシング・刊)をご紹介します。

 

作る・食べる・片づけるまで1つでできる「ノンストップ料理」

作り置きしたおかずを保存するだけでなく、調理にも使えるのが耐熱ガラス容器の良いところ。

 

『耐熱ガラス容器で毎日ラクチンレシピ』には、ハンバーグにナポリタンとみんなが喜ぶ定番メニューからスイーツまで、1台で何役も活躍できるレシピが掲載されています。さらにたいのアクアパッツァ、アヒージョとお店で食べるようなレシピまで! 掲載レシピ総数は、65品と豊富にあるので、眺めているだけでも迷ってしまいます。

 

1時間以上煮込みにかかる「煮豚」をサクッと作ってみた!

スーパーの特売でもよく見かける「塊肉」。これで煮豚を作ったら美味しいよなぁ〜と思いつつ、鍋で煮込む時間、しょうゆで汚れてしまう鍋とガス台を想像すると躊躇してしまいます(笑)。

 

しかし、耐熱ガラス容器があれば、ほぼ放っておくだけで美味しい煮豚ができてしまいます。今回は「iwaki 耐熱ガラス容器(1.2L)」を使用しました。

 

材料(作りやすい分量)

豚肩ロースかたまり肉……300〜350g

A しょうゆ……大さじ5

 酒……大さじ1

 砂糖……大さじ1

 おろしにんにく……小さじ1/2

 顆粒鶏ガラスープの素……小さじ1/2

(『耐熱ガラス容器で毎日ラクチンレシピ』より引用)

 

とてもシンプルな材料ですが、作り方も簡単!

フォークで10か所ほど穴を開けたお肉を耐熱ガラス容器に入れ、Aの調味料をかけて全体に馴染ませます。その後、レンジで5分、裏返して4分加熱。これでも十分美味しいですが、その容器のまま200℃のオーブントースターへ入れ、それぞれ5分程度温めて、両面に焼き色をつけていきます。

 

↑1.2Lの容器も我が家のバルミューダにすっぽり入りました!

 

香ばしい匂いがしてきたら、そのまま予熱で30分ほど放置! あっという間に煮豚が完成しました。

 

これが、めちゃくちゃ美味しいです! ほぼレンジ&トースターの中なので、火加減を見なくていいですし、何より器ひとつでできちゃうのが最高! 保存もそのままできちゃうので、こぼれ出ているしょうゆをサッと拭いてそのまま冷蔵庫で保管できます。

 

我が家ではペロリと食べてしまったので、保存容器よりも調理器具として使った感覚でした(笑)。

 

こんなに焦げているのに、お手入れもラクラク!

煮豚を作って驚いたのが、レンジ&トースターを使ったので、容器にしょうゆが思っていた以上にこびりついていたんですよね。

 

「これ、落ちるかな?」と軽くお湯で濯いでそのまま、食洗機の中へポン! 翌朝、食洗機の中を見てびっくり〜! これだけこびりついていたしょうゆ汚れがキレイに取れているではないですかー!(お使いの耐熱ガラス容器の使い方もご確認くださいね)

 

ガラスなのでお手入れもしやすく、繰り返し使えるのは環境にやさしい気がしますよね。

 

『耐熱ガラス容器で毎日ラクチンレシピ』には、他にも、1合分のもち米から作る鶏ごぼうのレンジおこわ、ガラス容器でおしゃれに見える茶碗蒸しなど和・洋・中問わず、美味しそうなレシピが掲載されています。

 

レシピと共に耐熱ガラス容器のおすすめ容量も記載されているので、初めての方でも使いやすいレシピ本です。もしお家に、保存用にしか使っていない耐熱ガラス容器があれば、ぜひ活用してみてくださいね♪

 

【書籍紹介】

耐熱ガラス容器で毎日ラクチンレシピ

著者:阪下千恵
刊行:ワン・パブリッシング

ひとりディズニー歴16年の最強Dヲタが解説!!1人だからこそ世界観をとことん発見・堪能できる!もうひとつのパークの魅力。音回行っても新しい感動がある!

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80年代の音楽はすべてFMラジオと『FMステーション』で学んだ

僕が音楽に興味を持ち始めたのは中学2年生くらいのころ。今から30年以上前の話だ。

 

当時はテレビで音楽番組が多く、歌謡曲などはテレビで見て覚えた。しかし、洋楽や日本のロックやフォークといった、あまりテレビでは放送されない音楽はほとんど知らなかった。

 

しかし、ある日突然音楽に目覚め、急に貸しレコード店などに通うようになる。しかしお小遣いが少ない中学生にとっては、貸しレコード屋の料金+ダビングするためのカセットテープの値段もばかにならない。そこでたどり着くのがFMラジオだ。

 

当時関東では、NHK-FMとFM東京(現TOKYO FM)が聞けた。AMラジオと違い、ステレオ放送で臨場感があった。当時のFMラジオは音楽主体で、DJのしゃべりなどはほとんどなく、洋楽中心に歌謡曲以外の音楽をたくさん聞くことができた。それをカセットテープに録音して、いろいろな音楽を吸収していった。その当時一世を風靡したのがFMラジオ専門誌だ。

FMラジオのエアチェック派は必携の専門誌

FMラジオ専門誌は、FMラジオ局のタイムテーブルが掲載されているほか、その番組でかかる曲目一覧も載っていた。つまり、目当ての曲を探して録音したいキッズにとって、とてもありがたい情報源だった。ちなみにラジオを録音することは「エアチェック」と言っていた。

 

当時FMラジオ専門誌は『FMレコパル』『FM Fan』『週刊FM』などがあったが、僕が読んでいたのは『FMステーション』だった。鈴木英人のポップなイラストが表紙で、他誌よりも大判で読みやすかった。そして、アーティストのインタビューカットなどはカセットテープのレーベルサイズになっていたので、そのまま切り抜いてカセットテープのケースに入れられた。蛍光ペンで番組表の録音したい曲にマークをしていたのはいい思い出だ。

 

FMラジオは青春だった

その『FMステーション』の創刊から休刊に至るまでを書いた書籍が『『FMステーション』とエアチェックの80年代 僕らの音楽青春記 』(恩蔵茂・著/河出書房新社・刊)だ。

 

FMラジオ専門誌としては後発の『FMステーション』がどのようにして立ち上がったのか。そして当時の音楽業界の様子、雑誌編集部の様子などが描かれている。僕も雑誌の編集やライターをやっていたので、書かれている内容に「ああ、わかるわー」と思わず同意してしまうことも多い。

 

当時FMラジオを聞いていた人、FMラジオ専門誌を読んでいた人、雑誌の編集などに携わっていた人は、かなりおもしろく読めるのではないだろうか。

 

僕にとって、『FMステーション』は音楽の楽しむための必携ツールだった。当時の僕の音楽知識は、ほとんど『FMステーション』で養われていたといってもいい。臭い言い方だが、僕の青春を形成していたワンピースだ。

 

もうカセットテープを聴くこともないし、紙の雑誌を読む機会もかなり減った。でも『FMステーション』という名前を聞くと、表紙やレイアウト、好きなアーティストのインタビューの内容などを思い出すことができる。

 

この書籍のタイトル通り、FMラジオと『FMステーション』は、僕の青春だったんだなと改めて感じた。僕と同年代で同じようにエアチェックをしていた人は、懐かしく読めることだろう。ぜひ手に取って、中学生のときの気持ちを思い出してほしい。

 

【書籍紹介】

『FMステーション』とエアチェックの80年代

著者:恩藏茂
発行:河出書房新社

FM雑誌で番組表をチェックしてデッキの前でスタンバイ、カセットテープに録音してカセットレーベルでドレスアップーかつてエアチェックに熱中したすべての音楽ファンに捧ぐ!音楽業界やミュージシャンの秘蔵エピソード満載、元『FMステーション』編集長が語り尽くす、愛と笑いと涙の80年代FM雑誌青春記!

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なぜ、英語がうまくならないのか? それは英語独特の”考え方”を理解していないから!?『英語の思考法』

NHKの朝ドラ『カムカムエヴリバディ』が “やり直し英語”のきっかけとして熱い支持を受けている。ラジオ講座テキストの売上も好調なようだ。

 

英語学習もリモートが主流化

コロナ禍で生まれたさまざまなもののリモート化は、英語の勉強にも訪れた。PCはおろかスマホだけで完結する対面オンラインレッスンが主流になっている。このやり方なら、完全にプライベートな空間の中で、グループレッスンにありがちな恥ずかしさを感じることもなく進めていくことができるだろう。

 

各種SNSには、今も「こんなに短い期間でペラペラになれる」的な英会話レッスンの広告があふれている。そうなれる人も、もちろんいるにちがいない。ただ、絶対的なパーセンテージがどのくらいかというと、話が変わってくると思うのだ。

 

言語の文化背景を掘り下げる

英語学習も最新フォーマットに乗せたほうが効率的なのかもしれないけれど、それがオールマイティであるとは言い切れない気がする。昔ながらの学習法を心地よく感じ、学習効果を上げていく人もいるのではないだろうか。

 

外国語身につけようとする際には、その言葉が使われている国の文化的背景を知ることが重要だ。最近の英語のオンラインレッスンには、ドラマを通してマスターを目指すというカリキュラムも目出つ。世代感覚に合致した、最大公約数的な学習法なのかもしれない。ただここでは、最近のトレンドとはちょっと異なるアプローチで質の高い情報を提供してくれる一冊を紹介したい。

 

暗記を単純作業にしないための工夫

英語の思考法 話すための文法・文化レッスン』(井上逸兵・著/筑摩書房・刊)の著者・井上逸兵氏は社会言語学と英語学が専門の大学教授だが、英語を「勉強する」のではなく「身につけようとする」という表現を使う。その方法論は、文法と文化レッスンを軸に進められる。文化レッスンはともかく、文法という言葉に拒否反応を起こす人がいるかもしれない。本書のスタンスは明確だ。

 

「日本の英語教育は、文法ばかり勉強して『英会話』ができない」という話をよく耳にする。親のカタキのごとく悪しざまに言う定型句だ。だが、それは半分合っているが半分間違っている。英語教育論は本書の目的ではないが、文法や慣用句など、教育現場では「暗記物」とされそうなことがらが英語のコミュニケーションの根幹に関わることをわかっていただくのが本書の目論みだ。

『英語の思考法』より引用

 

文法や慣用句は、確かに「暗記物」という言葉でくくられることが多い。その一方で、暗記という言葉の響きだけで思考がシャットダウンしてしまう人もいるだろう。本書は、アレルギーを感じがちな人が多い暗記にまったく異なる角度から視線を向けようとする。

 

「わかりかた」の道案内

こんな文章もある。

 

英語の文法や慣用表現は、「英会話」と核心においてつながっている。むしろ、この英語の核心を理解しなければ、やみくもに「英会話」の修行の旅で放浪することになる。なにごとにもコツというものがある。それを体得することが上達への最短ルートだ(近道というものがあるかは疑問だが)。本書はその「わかりかた」の道案内である。もう一度言おう。文法や慣用表現はコミュニケーションとつながっている。

『英語の思考法』より引用

 

どのような章立てで「わかりかた」の道案内をしてくれるのか。

 

序 章 英語の核心

第1章 英語は「独立」志向である

第2章 英語は「つながり」を好む

第3章 英語にも「タテマエ」はある

第4章 英語の世界は奥深い【応用編】

第5章 英語を使ってみる【実践編】

 

 

「英語では誰もが対等」「日本人が苦手なIとyou」「「つながり志向」の英語」「謝らない英米の謝罪事情」「英語は相手を追い詰めない」「断るにも戦略が要る」など、情景を思い浮かべやすい項目が各章に並ぶ。

 

日本との根本的な違いへの解答

まえがきでも触れられている通り、本書の核は暗記物と形容されるものだ。しかし実際に読んでみると、暗記感はまったくない。何かを覚えるという行いを強いられている気もしない。もうひとつ、紹介しておきたい文章がある。

 

さまざまな英米系の国々の人たちと接していても、あるいは日常、英米の映画、動画、小説、物語に触れていても、根本的なところで日本とは違い、かつそれが一貫して違うということを体感している人は多いのではないだろうか。本書がそのような人たちの謎へのひとつの解答であることを望む。楽しんでいただけたなら筆者としてこれ以上の喜びはない。

『英語の思考法』より引用

 

ひと言では表現しにくい“謎”に対する解答を明確な形で示してくれるし、楽しみながら英語を身につけていく工程を掘り下げてくれる一冊。これから本格的に取り組もうとしている人の目にも、もちろんやり直しを試みる人の目にも、とても新鮮に映るだろう。

 

【書籍紹介】

英語の思考法

著者:井上逸兵
刊行:筑摩書房

学校、ビジネス、英会話ーこんなに勉強しているのに、いつまでたっても自然な英語がしゃべれないのはなぜ?それは日本語にはない英語コミュニケーション独特の「考え方」を理解していないから!「独立」「つながり」「対等」という三つの核心をキーワードに、様々なシチュエーションでの会話やマナーを豊富な具体例とともに徹底解説。英語をマスターするにはまずは思考から!テレビ・ラジオなどで人気の著者が上達への道を伝授する。

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どうしてSNSは炎上して罵詈雑言の嵐になるのか?——『まんがでわかる正義中毒 人は、なぜ他人を許せないのか?』

スキャンダルを起こしたり失言をしてしまった芸能人が、SNSで炎上することがあります。このようなことはなぜ起きるのでしょう。そして炎上を防ぐ方法はあるのでしょうか。

 

誰だってミスをする

実はこの記事を書いている筆者自身もSNSで漢字を間違えるミスをしたことがあります。「間違ってますよ」と指摘いただくのはとてもありがたいし、もちろんすぐに「失礼しました」と修正もします。けれど、時には「作家のくせに正しい日本語も使えないのか」などと心ない言葉を投げてくる人もいます。

 

作家は正しい日本語を使うものだというイメージがあるのかもしれません。けれど作家や国語教師も、ロボットのように完璧な存在ではありません。人間なので時にはミスもします。けれどそのミスを許せず、非難する人がいるのです。

 

許すことができない人

たとえば、赤ちゃんの散歩の時に左右違う靴下をはかせて出かけてしまったなどというささいなミスを、「あの有名人、あんな育てかたをして子どもがかわいそう」などと書き立てられることがあります。

 

子どもを育てた人なら誰でもそうだと思いますが、経験のないはじめての子育ては手探りで、時には間違えることもあります。失敗したら親として落ち込むでしょう。それを励ますどころか、いつまでも何度も責めてしまう人がいるのは、なぜなのでしょうか。

 

批判が拡散する恐怖

まんがでわかる正義中毒 人は、なぜ他人を許せないのか?』(サイドランチ・シナリオ、川井いね子・作画/アスコム・刊)は、中野信子さんの同名著書(アスコム・刊)を、ストーリーコミックとして再構築したものです。

 

この本には、企業のSNS担当となった女性が、自らの書き込みによってアカウントを炎上させてしまう様子が描かれています。次々と浴びせられる非難の言葉やどんどん拡散されていく様子は、読んでいるこちらもつらくなってしまうほど。

 

ひとたび炎上すると、言い訳を書き込んでもそれをさらに揚げ足取りのように批判されてしまうこともあり、鎮火が難しい状態になることも。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いという言葉もあるように、一度腹を立てるとその人のすべてを嫌いになってしまい、なかなか許すことができない人もいるようです。

 

SNSと炎上

中野さんによると、こうした炎上現象が起きる一因にはSNSがあるとのこと。今まで意見を公の場で発表する機会が乏しかった一般の人間が、スキャンダルを起こした有名人のSNSに厳しい批判や非難を書くこともできるようになったからなのです。

 

批判することがクセになり、攻撃対象を探し求め、常に誰かを叩きたがる人がいますが、これについては彼女は「正義中毒」と表現しています。誰かを叩くことが快感となり、依存のような状態になってしてしまうのだとしたらおそろしいことです。

 

本書には「一度も会ったことがない、会う可能性すらない赤の他人からもなじられてしまうようになりました」とありますが、まさにそういう状況がSNSでは発生しています。しかも、一部のSNSでは匿名投稿が可能で自分の正体を隠して相手を攻撃できてしまうため、きつい言葉も平気で書けるのかもしれません。

 

相手の立場を思いやる

最近は悪意ある書き込みが訴えられることも増え、多少は沈静化してきたかのように見える辛辣な書き込み。でも、事件やスキャンダルが発生するとその人のSNSへのコメントが増るように感じます。歯に衣着せぬ投稿では相手を傷つけてしまいかねません。

 

投稿の前に一度手を止め、向こうにもいろいろ事情があるのだろうと思いやる気持ちを持てば、言葉は柔らかくなり、炎上もかなり減るのではないでしょうか。ミスをした人を責めるのではなく「自分も間違えることはある」と考えれば、必要以上に責めなくなるでしょう。ほんの少しの配慮で、SNSはさらに気持ちよく使えるサービスになるはずなのです。

 

 

【書籍紹介】

まんがでわかる正義中毒 人は、なぜ他人を許せないのか?

著者:中野信子(監修)、サイドランチ・シナリオ、川井いね子・作画
発行:アスコム

SNSいじめ、炎上、ハラスメント、誹謗中傷ー他人を許せない人の脳で起きていること。誰かを「傷つける」「傷つけられる」を断ち切るために、怒りや憎しみの感情を手放すヒントを脳科学から学ぶ。

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本誌初のモノクロ表紙はカメラ・写真大好き長濱ねる。「CAPA 3月号」

巻頭特集は「CP+2022直前! 注目製品見どころチェック」。期待のニューモデル最速レポートから各社の注目製品までをイッキに紹介します。第2特集は「デジタルモノクローム表現に迫る!」をお届け。デジカメでモノクロ作品づくりをしている4名の写真家のノウハウに迫ります。さらに、花の生命力がグンと引き立つ撮影テクニック「逆光ライティングで描く早春の花風景」も必見。「CAPA3月号」はカメラ・写真を楽しむための記事が満載です。

 

【特集】カメラショーCP+2022直前! 注目製品見どころチェック

カメラ・レンズ・写真用品の祭典「CP+2022」がいよいよ始まります。コロナ禍の影響で、残念ながら会場イベントは中止。オンラインのみの開催となってしまいましたが、このタイミングに向けて各社から期待の新製品が続々と姿を現してきました。

 

そこで、本特集ではCP+2022を100パーセント楽しむためにも、それらの新製品を含めた各社の注目製品を徹底チェック。発売前から話題のOM SYSTEM OM-1やキヤノンEOS R5 Cなどの最速レポートもお届けします。

 

実はフィルムよりも奥が深い! 写真家たちの実践術「デジタルモノクローム表現に迫る!」

フィルム時代は、フィルターを付け替えたり現像方法を工夫したりと手間のかかったモノクロ写真。しかし現代のデジタル撮影では、カメラ設定を切り替えるだけで多彩な表現が手軽に試せるようになりました。そこで、日ごろから精力的にモノクロ作品づくりに取り組んでいる4人のプロ写真家に、デジタルモノクロームにおける表現術を聞きました。

 

藤井智弘さんはライカ「M10モノクローム」、内田ユキオさんは富士フイルム「X-Pro3」、中藤毅彦さんはリコー「GR Ⅲ」、そして河野英喜さんはニコン「Z9」とパナソニック「LUMIX S1R」を使って、その機種ならではの機能やプロのこだわり設定を紹介します。

 

生命力がグンと引き立つ撮影テクニック「逆光ライティングで描く早春の花風景」

まだ雪が残り、吹く風さえも冷たい中で、季節の到来を告げてくれる早春の花たち。しかしその生命力とは裏腹に色は淡く、写真で色彩を描くのは難しいものです。そこでカギとなるのがライティング! 逆光で描くことで、春の花の健気な姿を表現できます。

 

ここでは広大なランドスケープからマクロの視点まで、独自の感性で風景を切り取る写真家・中西敏貴さんに、早春の花の撮り方を解説してもらいます。

 

このほか、内田ユキオさんがファン待望の新型機「ライカM11」を、清水哲朗さんが写真の可能性を切り拓く次世代‟1”「OM SYSTEM OM-1」を実写レビューします。伊達淳一のレンズパラダイスでは、お手ごろ価格で小型軽量&高画質と3拍子揃った、キヤノンRF16ミリF2.8とRF100~400ミリF5.6-8をチェック。

 

そして人気グラビア連載「Momoco写真館、ふたたび」では、『涙の太陽』で歌手デビューし、現在も女優として活躍する田中美奈子さんの未掲載カットを公開します。

 

 

[商品概要]

CAPA 2022年3月号
著者: CAPA編集部
定価: 1100円 (税込)
【本書のご購入はコチラ】
・Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B09RNL456M/
・セブンネット https://7net.omni7.jp/detail/1233055600

地球を旅立ち火星に移住!「はやぶさ」開発メンバーが本気で考える火星移住の可能性~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。今やお金があれば宇宙ステーションに滞在できる時代になりました。こうなると、次は月や火星へのバカンスでしょうか? コロナ前は芸能人がこぞってお正月にハワイへ飛んでいましたが、「年末年始は火星でのんびりだよ」なんて未来がくるかもしれません。

 

将来的には火星に人類が進出!

今回紹介する新書本気で考える火星の住み方』(齋藤 潤・著、渡部 潤一・監修/ワニブックスPLUS新書)の著者・齋藤 潤さんは、東京大学大学院理学系研究科鉱物学専攻博士課程を修了し、西松建設に勤務後に2005年からJAXAの「はやぶさ」プロジェクトチームに参加。カメラ観測チームのリーダー兼小惑星観測時の広報担当を務めました。現在は合同会社「ムーン・アンド・プラネッツ」で嘱託研究員として研究を続けています。

 

監修の渡部 潤一さんは天文学者で国立天文台の副台長。2006年に冥王星が「準惑星」になったときの惑星定義委員を務めたことでも知られています。以前このコラムで紹介した『古代文明と星空の謎』 (ちくまプリマー新書) など天文関連の著書も多数です。

火星の1日は何時間?

長年、宇宙と向き合ってきた著者の齋藤さんが本書で挑むのは火星の移住! 夢物語や空想の域を抜け出して、移住までの道のりを本気で探ります。

 

まず第1章「火星ってどんな星?」では、今わかっている火星の情報がまとめられています。みなさんは火星の1日は何時間だと思いますか? これが50時間や100時間だと私たちの生活も大きく変わってきます。コンビニの100時間営業なんて、どうなってしまうのか……(笑)。

 

でも、ご安心を。火星の1日は24時間37分で地球とほぼ同じ。地軸の傾きも似ていて季節の概念もあるそうです。地球人が生活スタイルの大枠をそのまま持って行けるかどうかの視点は意外に重要だなと感じました。

 

また、大気と季節があるため生命が存在する可能性も予想されています。1996年に火星からの隕石に生物の痕跡らしきものがあったとNASAが発表し、世界を騒がせました。この火星隕石の論争をきっかけに、かつての火星は生命の住める状況であったという方向へ、科学者たちの議論がシフトしているそうです。

 

現在は生命の兆候も掴めない荒涼とした砂漠でも、手を加えればなんとかなるかもしれない。地球と比べて人類に最適な環境とは言えませんが、最低限の条件は満たしていると考えられます。

 

本書のメインとも言えるのが第4章と第5章。火星探査プロジェクトによって集められた情報を齋藤さんが分析し、火星移住のビジョンを構想しています。移住の前段階では、国際法の整備や人体への影響の克服などの問題が焦点。

 

そして、火星開発を進めるにあたっては水資源の確保が重要となります。水は火星の地下にあるとされる氷から得ることに。しばらくは着陸船を居住区に使い、のちに地球から持ち込んだモジュール(組み立てユニット)をつないで基地を建設する。

 

火星基地というと赤い砂漠にぽつんと施設が建っているというイメージが映画やゲームではおなじみですが、齋藤さんは「基地は地下に置くべき」と書いています。その理由とは……。将来的に火星に新宿や梅田並みの地下迷宮ができて、ショッピングが楽しめるかもしれません。

 

中国やインド、アラブ首長国連邦(UAE)など世界各国が火星の探査プロジェクトを進めている現状。UAEの火星探査機「アル・アマル」は日本が依頼され、種子島宇宙センターから打ち上げられました。

 

各国政府や宇宙ベンチャー企業の思惑も絡む火星開発。純粋なロマンとして火星移住を夢みる時代は終わりつつあるようです。空想的フロンティアの消失は少し寂しさを感じますね。

 

【書籍紹介】

本気で考える火星の住み方

著者:齋藤 潤 ・著、 渡部 潤一・監修
発行:ワニブックス

地下なら火星に住める可能性が!? 2020年代に入り、NASAをはじめとする宇宙機関が地球にもっとも近い惑星である火星の探査を進め、次々と新発見が報告されています。そこで、本書ではあの惑星探査機「はやぶさ」の開発メンバーが現時点で火星についてわかっていること、そして以前より模索されている「人類が火星に住める可能性」について、タイトル通り本気で検討・解説します。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

あなたは「耳」をいたわっていますか? 専門家が教えるケアとエクササイズ

耳鳴り難聴 自力でよくなる! 耳鼻科の名医が教える 最新1分体操大全』(中川雅文、坂田英明、秋定健・著/文響社・刊)は、長年、耳鳴りに悩んできた私にとって、希望の書です。耳鼻科の名医たちが、耳鳴りと難聴について、懇切丁寧に説明してくれます。

 

著者は次のお三方。国際医療福祉大学医学部耳鼻咽喉科教授で、同大の耳鼻咽喉科部長の中川雅文、埼玉医科大学と昭和女子大学の客員教授であり、川越耳科学クリニック院長でもある坂田英明、そして、川崎医科大学耳鼻咽喉科学教授であり、同大の総合医療センター副院長をつとめる秋定健、この3人の先生方が、耳鳴りとは何か? 難聴をどうやって治すべきか? など、耳鳴りで悩む人たちが知りたくてたまらないことを解説してくださいます。耳鳴りと難聴に悩む人にとって、心に灯りがともる本だと思います。

耳鳴りに苦しむ

私の耳鳴りは、忘れもしない、2003年の1月5日に始まりました。なんでもうろ覚えの私が、日付けを正確に言えるのには、理由があります。その日、京都金杯という競馬のレースを観戦するため、京都競馬場に出かけていて、馬券もチョッピリ取ったので、よく覚えているのです。「今年も春から縁起がいいや」と喜んだとき、暖房機の音に混じり、蝉が鳴くようなジージー音が両耳から響いてくるのに気づきました。そのときは、「興奮したからだろう」とか「寒くて疲れたのだろう」と、あまり気にしませんでしたが、夜になっても音は止まらず、ひどくなる一方でした。

 

数日間は我慢していたのですが、耐えきれず病院に行きました。うるさくてどうかなりそうだったのです。お医者さまは丁寧に診察してくださった後、「競馬場から直行して欲しかったなぁ、早いほど治りがいいんですよ」と残念がりながらも、点滴など、適切な処置をしてくれました。私は私で、このうるささから逃れるためなら、何でもしようと、毎日さぼらずに病院に行きました。薬も真面目に飲みました。

 

幸い、右の耳のジージー音は消えました。しかし、左は相変わらずで、ジージーはキーンキーンとなり、耳が詰まったような感覚に苦しむようになりました。夜も眠れず、いつも疲れているように感じます。ひどい時は、耳の裏にアブラゼミがとまっているのではないかと思うほどのジージー音です。結局、それから19年が経つ今も、左の耳は四六時中、鳴り続けています。音自体は低くなったり、高音になったり、大きくなったり、小さくなったりを繰り返してはいるものの、常時、鳴りっぱなしなのです。

 

なんとかこの苦しみからのがれようと、いろいろな病院に行きました。紹介された鍼や灸やマッサージも試みました。どこも私の話を辛抱づよく聞いてくれて、様々な処置をしてくれましたが、「残念ながら治らないですね」というのが、結論でした。「耳鳴りで死ぬわけじゃないし。気にするとかえってよくないんだよ」と、言われたこともあります。

 

最初はなんとかして治そうと必死だった私も、やがて「私が神経質すぎるのかもしれないな。何か気を紛らわせたほうがいいんだわ」と自分に言い聞かせ、最近は「人生とは耳が鳴ることだ」と達観し始めました。

 

耳が聞こえにくい

ところが、よる年波も加わったのか、最近どうも耳の聞こえがよくありません。周囲が静かだときちんと聞こえます。ところが、テレビがついていたり、雑踏の中だったりすると、相手が何かを言っているのはわかるのですが、何を言っているのかわかりません。毎日のことだけに、夫も私との会話に疲れるのでしょう。「さっき言ったよね。聞こえてないんじゃない?」と、心配するようになりました。仕方なくまた耳鼻科に通い始めましたが、「確かに聴力は少しは落ちてるけど、難聴というほどではないですね。まあ、加齢かな」という診断でした。

 

耳が聞こえにくい状態で、インタビューの仕事を引き受けたり、会議に出席するのは無責任かと、私は悩み始めました。それでも、既に約束した仕事は、なんとかこなさなければなりません。私は必死でした。ところが、焦れば焦るほど状況は悪化していきます。最近は日本のドラマでさえ字幕つきで観たくなります。コロナ禍のため、マスクをする生活が始まってから、ことは深刻度を増しました。相手の唇が読めないので困るのです。

 

救いの書

そんな私にとって、『耳鳴り難聴 自力でよくなる! 耳鼻科の名医が教える 最新1分体操大全』は、救いの書となりました。耳の不調の問題にどうつきあうべきか、はっきりくっきり書いてあるからです。

 

耳の不調の問題は、音とどうつきあうかにかかっています。(中略)音が大きすぎたり、音を長く聞きつづけたり、耳を休ませていなかったりといった悪い条件がそろうと、皮膚のやけどと同様、取り返しのつかないダメージが耳に及ぶことになります。(中略)耳に静寂の時間を与えたりすることが大切なのです。

(『耳鳴り難聴 自力でよくなる! 耳鼻科の名医が教える 最新1分体操大全』より抜粋)

 

耳の火傷……、確かに……。振り返ってみると、私は静寂の中に身をおいて生活していません。家事をするときも、掃除機の音に負けない音量で音楽をかけています。夜はつけっぱなしのテレビの前で寝ています。夫はテレビをつけたままでないと眠れないのです。そうした生活が、耳にダメージを与えているとは夢にも思いませんでした。知らないうちに、私の耳は「火傷」になっていたのかもしれません。

 

既に起こってしまったことは仕方がないとしても、なんとか自分でできることをしようと決心しました。『耳鳴り難聴自力でよくなる!耳鼻科の名医が教える最新1分体操大全』には、10種類の「耳トレ」と2種類の内耳エクササイズが紹介されているので、早速やってみました。簡単にできますし、特別な器具も必要がないので、すぐにとりかかりました。

 

始めよう、耳トレ

耳をトレーニングするために試みたい体操には次の10種類があります。

 

1 耳を上方と後方にそれぞれ引っ張る
2 耳の裏をほぐす
3 寝たまま首を倒す
4 寝たまま股関節をほぐす
5 4つ数えながら呼吸する
6 起床時、耳をすます
7 側頭筋をほぐす
8 声を出して笑う
9 胸鎖乳突筋をさする
10 1分間耳ツボマッサージをする

 

さらに、内耳のエクササイズは以下のようなものです。

 

1 30分に一度は椅子から立ち上がる
2 1分間しこをふむ

 

さらに詳しい解説は、『耳鳴り難聴 自力でよくなる!耳鼻科の名医が教える最新1分体操大全』に詳しく書いてありますので、参考にしてトライしてみてください。私は読後すぐに体操を始めました。効果の程は、これから追々わかると思いますが、耳鳴りが少しよくなったような気がします。

 

もうひとつ気づいたことがあります。一日中、座りっぱなしで原稿を書いているこの生活を変えなければ、耳鳴りは治らないだろうということです。これまでは原稿を書いている最中に、配達などで玄関のチャイムが鳴ると、仕事が中断されるため、嫌で嫌でたまりませんでした。ところが、今は耳のエクササイズになると考えて、いそいそと走って出るようになりました。かたまっていた体がほぐれるのがわかります。

 

耳鳴りが完全に消えるのか、難聴を治すことができるのか、それはまだわかりません。けれども、明るい兆しが見えてきたのは、本当です。十分に心と体が軽くなったと実感しています。何よりも、今までの私に足りなかったのは、静寂の中に身を置くことだったと気づくことができました。これからも頑張ってエクササイズを続けます。

 

【書籍紹介】

耳鳴り難聴 自力でよくなる! 耳鼻科の名医が教える 最新1分体操大全

著者:中川雅文、坂田英明、秋定健発行:文響社

冷え・加齢・メタボ・むくみ・酸欠。耳トラブルの5大原因別最新ケア。1分体操で聞こえが2倍にアップ! 耳鳴りが消え熟睡できた!大学教授・耳の専門医が図解で指導!

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一度ハマるとやめられない? おばさんでも超楽しかった! 「ひとりディズニー」のすすめ 

先日、人生初の「ひとりディズニー」をしてきました。行くまでは、それはもうドキドキで……「こんなおばさんが、ひとりでディズニーランドとか哀愁がやばいのでは?」と心配していたのですが、門をくぐるとさすが夢の国! 定番の「ビッグサンダー・マウンテン」や「スペース・マウンテン」、さらには最新アトラクションの「美女と野獣“魔法のものがたり”」にも乗り、パレードと花火を見ながら大号泣。気がつけば10時間近く滞在していました。 

 

今回は、ひとりディズニーデビューしたい人にもおすすめの『ひとりディズニー 50の楽しみ方』(みっこ・著/サンクチュアリ出版・刊)をご紹介します。 

 

ぶっちゃけ「ひとりディズニー」している人はいるの? 

かつては、ひとりでは行けない場所ナンバー1とも言われていたほど、家族や友人、カップルで行くのが定番だったディズニーリゾート。先日行った際にもゲート前には、ひとりの人はほぼいませんでした。

 

「やはり、ひとりはいないか……」と肩を落としましたが、パーク内に入ってみると、いる! 意外と多い!! パレードを待つひとりの女性、アトラクションに並ぶひとりの男性、レストランで食事を楽しむおひとりさま。これまで、気がつかなかっただけで、ひとりディズニーを楽しんでいる人は割と多く目につきました。 

 

「おひとりさま」に慣れていないうちはどうしても他人の視線が気になるもの。しかし、逆に自分がパークに行ったとき、他のゲストをどれくらい見ているか想像してみてください。……そうなのです。まわりの人は意外とあなたを見ていませんので、まったく気にする必要はありません。 

(『ひとりディズニー 50の楽しみ方』より引用) 

 

『ひとりディズニー 50の楽しみ方』には、ひとりがおすすめな理由として、「何もかもがすべて自分の思い通り」であること、とも書かれてありました。 

 

これが本当にその通りで、ひとりだと自分の行きたい場所に行き、乗りたいアトラクションに乗り、全部好きなタイミングで満喫できる……そして、そんな楽しみ方が許されているのが、東京ディズニーランドなのです。ここにきているおひとり様たちは、みんなその楽しさを知っているんだなぁと思うと不思議なユニティを感じてしまいました。 

 

気がついたらミニー推しになっていた 

最近のディズニーリゾートは、さまざまなことをアプリで管理しています。待ち時間表示もアプリ、昔あったファストパスやショーの抽選もアプリ内で行われており、レストランも人気の場所は、アプリ内で事前予約した人しか入ることができません。 

 

そんな中、運良く抽選で当たったのが『ミニーのスタイルスタジオ』。スタジオ収録しているミニーちゃんに会えるというグリーティング施設です。ミニーちゃんも好きでしたが、正直「ミッキーが良かったなぁ〜」と思っていました。しかし、会った瞬間、ミニーマウスの虜に……「か、かわいすぎる!」 

 

ちゃっかりミニーちゃんのグッズを買って、ミニーちゃんが主役のパレードも最前列に座り15分前からスタンバイしている私がいたのです。 

 

ひとりディズニーをよりいっそう深く楽しむために、その「好き」を「推し」にしてみるのもひとつの手です。もちろん無理にそれを決める必要もありません。気づいたら「推し」になっているケースがほとんどです。 

(『ひとりディズニー 50の楽しみ方』より引用) 

 

推しが見つかっただけでも「行ってよかったぁ〜」としみじみできます。ディズニーランドは人並み程度に好きでしたが、ミニーちゃんという推しができてしまうとそこは沼……。今後の自分が怖いくらいです(笑)。 

 

楽しみ方は十人十色! 

『ひとりディズニー 50の楽しみ方』には他にも、隠れキャラクターの見つけ方や、パーク内で美しい写真を撮る方法、パーク外での時間の過ごし方など、ディズニーリゾートを楽しむ方法が満載! 実際に私もこの本を読んだことがきっかけで、「ひとりディズニー」のハードルが下がり、本当に楽しい経験をすることができました。 

 

最後に、16年以上のDヲタと語る著者のみっこさんの言葉を紹介させてください! 

 

ディズニーリゾートでの楽しみ方は十人十色、人それぞれ。誰かに強制されてやるものではなく、純粋に自分の好きな時間を過ごし、食べたいものを食べ、行きたいところに行き、「予算」を「時間」を、そしていちばん大切な「気持ち」を自分のために100%使うことができるのです。 

そしてそうすることによって、ひとりディズニーを満喫することができたあとは、逆に家族や友達、恋人と行くディズニーが、また別の角度から楽しむことができ、楽しみ方の幅がこれまでより広がっていくのです。 

(『ひとりディズニー 50の楽しみ方』より引用) 

 

書籍には50の楽しみ方が掲載されていますが、自分だけの楽しみ方を見つけることができるのが「ひとりディズニー」最大の素晴らしさだと感じました。 

 

すっかり虜になってしまった私ですが(笑)、次回はバズ・ライトイヤーが大好きな姪っ子と共に、楽しい時間を過ごしたいと思います。『ひとりディズニー 50の楽しみ方』を読みながら、感染対策ばっちりで、ひとりディズニー楽しんでみてはいかがでしょうか? 

 

 

【書籍紹介】

ひとりディズニー 50の楽しみ方 

著者:みっこ 
刊行:サンクチュアリ出版 

ひとりディズニー歴16年の最強Dヲタが解説!!1人だからこそ世界観をとことん発見・堪能できる!もうひとつのパークの魅力。音回行っても新しい感動がある!

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7人の女流作家が描く7つの物語のキーワードは”食”『あなたとなら食べてもいい』

電車に乗る機会の多い私にとって、乗車時間は楽しい読書タイムとなっている。ポケットに入る文庫本で、できれば20分ほどで読んでしまえる短編集が好ましい。長編小説だと夢中になって下車駅を飛ばしてしまいかねないからだ。

 

あなたとなら食べてもいい 食のある7つの風景』(千早茜、遠藤彩見、田中兆子、神田茜、深沢潮、柚木麻子、町田そのこ・著/新潮社・刊)は、通勤電車の中、あるいは寝る前のわずかな時間におすすめの短編集だ。

 

人気の7人の女流作家による食にまつわるアンソロジー。どんな美味しい食べ物が出てくるのか、興味津々でページを開いたのだ。

甘い味、切ない味、思い出の味……七人七色の物語

目次を紹介してみよう。

 

千早茜 くろい豆

遠藤彩見 消えもの

田中兆子 居酒屋むじな

神田茜 サクラ

深沢潮 アドバンテージ フォー

柚木麻子 ほねのおかし

町田そのこ フレッシュガム -『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』番外編ー

 

若手女流作家たちが描く食のある風景。好みは人それぞれだと思うが、私が読んで印象に残った話を抜粋してみよう。

 

京都・丹波の黒枝豆にまつわる物語

これは食べてみたい!と思ったのが、千早茜さんの作品『くろい豆』に登場する黒枝豆だ。

 

秋に届く豆がある。受け取ると、すぐに箱を開ける。中にはかさついた太い枝が束になって入っている。ところどころ土で汚れており、一見食べ物にはみえないけれど、よく見ると莢におさまった豆が鈴なりについている。(中略)莢は普通の枝豆より大きい。くすんだ緑色をしていて、あちこち茶色い斑点がある。すこし汚い。けれど、これが黒枝豆の特徴。毎年、この時期になると京都は丹波から収穫したてのものが送られてくる。

(『あなたとなら食べてもいい』から引用)

 

物語の主人公は35歳を過ぎた尚子、妻子持ちの50代の誠一という男性と10年も暮らしている。彼の妻は別居し、夫の存在を無視し続けながらも離婚には応じないという設定だ。尚子と誠一の仲は食べ物がとりもっている。毎年、秋になると彼の故郷から黒枝豆が送られてくるのだが、かつて妻はこれをめんどくさがっていたという。しかし、尚子は違う。受け取るとすぐにゆでて旬の味をふたりで思う存分味わうのだ。

 

黒枝豆の茹で時間は長い。(中略)あくをすくいながら吹きこぼれないように湯を見つめる。ぷくぷくと弾けるあぶくに思考が吞み込まれていく。誠一との関係は変わらなかった。私は毎年恒例の贈り物をせっせと茹で、誠一はそれをおいしそうに食べた。私も負けじと食べた。最初は意地だったのかもしれない。けれど、人は慣れるもので、いつの間にか影にも慣れた。今ではもう、私も純粋においしいという理由だけで丁寧に下処理をして口に運んでいる。

(『あなたとなら食べてもいい』から引用)

 

茹で上がった薄墨色の皮をまとった大粒の豆は柔らかく、とても甘いのだそうだ。本書を読みつつ、食べてみたくて、口の中に唾がたまっていく。

 

さて、物語では波乱もある。ある日、黒枝豆好きの誠一には、まったく似合わない生フルーツを使ったパフェやパンケーキで人気のとあるフルーツパーラーから、彼が若い女性と腕を組んで出てくるのを尚子は目撃してしまうのだ。二人の関係はどうなるのか? それは読んでのおたのしみ。

 

かつて”カルボーン”というお菓子があった

柚木麻子さんの『ほねのおかし』もとても印象に残った。

 

「あ、カルボーンっていうお菓子、覚えてる?」いきなり八十年代の固有名詞が出て、私は面食らって、ちょっと笑ってしまった。

「カルボーンって、あの白くてこりこりした砂糖のかたまりみたいなお菓子?」

「そうそう、人の骨って、カルボーンそっくりなんだよ。質感も、焼き場でトングみたいなので挟んだ時、カサカサって軽い音がするの。今にして思うと、かなり危険なセンスの食べ物だったなぁと思うよ。人骨そっくりのお菓子ってさ……」

(『あなたとなら食べてもいい』から引用)

 

カルボーンは80年代に実際にあった骨型のお菓子で、カルシウムが豊富に含まれているのが売りだったが、1992年に販売終了となっている。

 

さて、物語は、久しぶりに会うことになった幼馴染の佳織が元旦の夜に遺骨を持って主人公の家にやってきたところから幕を開ける。主人公の”私”が暮らすマンションはかつては若いファミリーたちが住み、活気があったが、今では”孤独死のデパート”と化している。

 

ひとり暮らしでほぼ部屋から出ることなく、日用品はネットショッピングで済ませていた彼女は、同じマンションの1階で佳織の父親が孤独死したことすら知らなかった。20年ぶりに顔を合わせた佳織は、親戚の間でちょっと問題が起きていて父親をどのお墓に入れるかでもめ、骨の争奪戦がおきている。もし自分の手元に置くと盗まれてしまいそうで怖い。だからお正月が終わるこの2、3日の間でいいから預かってほしいと言う。これに対し、私は、遺骨をほしがる人がいるとは思えず、単に確執のあった父親の骨のそばで暮らすのが怖いだけでは? と疑うが、それでもノーとは言えない。

 

20年ぶりに再会した友。10歳くらいだった当時、互いの母親たちは手作りのお菓子にこだわっていて、市販のお菓子で許してもらえたのがカルボーンだったのだ。その人工的な味わいを思い出しつつ、遺骨を挟んで向き合うふたり。結局、主人公は正月の間、遺骨を預かり共に過ごすこととなり、当時の出来事を次々と思い出すのだ。人骨とカルボーン、ちょっとゾクッとしそうなストーリーかと予想したが、実はとても心があたたまるいい結末だった。

 

この他、テレビドラマの撮影現場から消えもののエクレアが本当に消えてしまう話、行き場のない人々が集まる居酒屋物語、減量に奮闘する女性の恋物語、フレンチレストランで繰り広げられる女同士の舌戦の話、そしてみずみずしい初恋を描いた甘いガムの話。

 

7つの食べ物の味を、あなたにも是非、堪能してみてはいかがだろう?

 

【書籍紹介】

あなたとなら食べてもいい

著者:千早茜、遠藤彩見、田中兆子、神田茜、深沢潮、柚木麻子、町田そのこ
発行:新潮社

穏やかな食卓を囲む二人に潜む秘密。盗まれたエクレアが導く驚きの結末。最後の砦のような居酒屋に集う人々の孤独。減量に奮闘する女性が巡り会った恋。美食の上で繰り広げられる女同士の舌戦。幼なじみと再会して作る菓子の味。駄菓子を食べ合う瑞々しい初恋とそれを眺める大人達の切ない祈り…。7人の作家がこしらえた、色とりどりの食べものがたりに舌鼓を打つ絶品アンソロジー。

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鬼ブームのいま、マストアイテムの『日本の鬼図鑑』は読んで使って遊び倒せる最強の1冊だ!

鬼ブームが来ている。『鬼滅の刃』の歴史的ヒットによる波及効果であるのはまちがないだろうけれど、鬼という存在にここまでスポットライトが当てられることがあっただろうか。

 

鬼殺隊派? ひょっとして鬼派?

劇場映画『「鬼滅の刃」無限列車編』の公開から約1年半が経過した今、ブームの主役は竈炭治郎や我妻善逸、そして煉獄杏寿朗など鬼殺隊のメンバーから、鬼舞辻無惨や猗窩座といった鬼キャラに移行したようだ。ビジュアル系っぽかったり、パンクっぽかったりするルックスの鬼たちに、アンチヒーロー的な魅力を感じる人もいるのだろう。『スターウォーズ』のダース・ベイダーが不動の人気キャラであるのと全く同じ感覚かもしれない。こうした背景が追い風となっているのか、鬼にまつわる博物館の設立30周年記念を盛大に祝うための資金を集めるクラウドファンディングも立ち上げられた。鬼萌えしている人たちは、かなり多いのだ。

 

今、鬼にまつわる決してネガティブではないトレンドが顕著になっている。そんな時代ならではの、エポックメイキング的な『日本の鬼図鑑』(八木 透・監修/青幻舎・刊)という本を紹介したい。どんな性質の図鑑なのか。帯には、鬼萌え心をくすぐる文字が並んでいる。

 

人を喰い、都を荒らし、天災をもたらす。しかし、鬼は本当に悪なのか?

 

高木彬光さんとか馳 星周さんのピカレスクロマン小説によく似た響きを感じてしまうのは、筆者だけではないだろう。

 

大人も子どもも楽しめる鬼エンサイクロペディア的図鑑

章立てを見てみよう。

 

序章 鬼とは

一章 鬼の故郷―大江山

二章 退治された鬼

三章 鬼になった人間

四章 広まった鬼

五章 仏教から生まれた鬼

 

そもそも図鑑なので、豊富に掲載されたカラフルな図版を楽しめることは言うまでもない。特筆すべきは、酒呑童子や牛鬼、安達原の鬼婆など代表的な鬼34体の能力がひと目でわかるパラメーターだ。力・頭脳・体格・技術・凶暴性・統率という資質で構成されるレーダーチャートになっている。

 

筆者はさっそく、桃太郎の鬼と金太郎の鬼が戦ったらどうなるかといった鬼同士の妄想マッチを楽しんだ。安倍晴明をはじめとする“鬼バスターズ”も数多く紹介されているので、こちらも対戦相手を変えて、たとえば安倍晴明が安達原の鬼婆と対峙したらどうなるか、といったオリジナルのマッチメーキングも面白いと思う。鬼バスターを組み合わせて最強ユニットの結成を試みるのもいいかもしれない。こうしたプロセスは、年代に関係なく楽しめるにちがいない。読んで使って、遊び倒せる図鑑なのだ。

 

エンタテインメントの向こう側に広がる学術性

もちろんそれだけではない。フォークロアの主人公としての鬼のとらえ方に独自な視線を感じる。民俗学的な検証と宗教学的見地からの解説も読みごたえ十分。エンタテインメントの向こう側に深く揺るぎない学術性が垣間見える構成だ。話の順番が逆になってしまったが、「はじめに」に次のような文章が記されている。

 

鬼は少なくとも悪の象徴であり、反人間的であり、反社会的、反道徳的な存在である。そこまでは間違いないのだが、しかしそれだけで説明できてしまえるほど、鬼は単純な存在ではない。鬼は、実にきわめて複雑で多種多様な顔を有している。本書では日本の鬼について、できる限り多角的な視点からとらえ、かつビジュアル的に理解していただくことを目指した。

 『日本の鬼図鑑』より引用

 

出発点をしっかり刷り込んでおかないと、この本が提供してくれる楽しみ方をあるべき形で受け入れられなくなるかもしれないので、ここは大切。

 

改めて、鬼という存在に思いを馳せてみる

鬼を媒体にして、歴史的・地理的知識がごく自然な形で刷り込まれることを感じた。映画や文学作品に出てきたシーンが甦る瞬間も確実に訪れる。「鬼を切った刀」をはじめとするコラムも魅力的。巻末資料の日本地図を見ると、日本はまさに鬼の国といっても過言ではない。

 

英語版を出したらかなりの話題になるんじゃないだろうか。欧米にも数多い『鬼滅の刃』ファンにアピールするはずだ。あとがきに次のような文章を見つけた。

 

鬼と向き合うことによって、人間が鬼に心を開き、弱さや醜さを抱きながらも、人間としてのあるべき姿に向かって歩み始めたとき、すばらしい善の世界が広がっていることだろう。

     『日本の鬼図鑑』より引用

 

確かにそうなのだろうけれど、筆者がこの本に何よりも感じたのは、高いエンタテインメント性だ。“〇〇の鬼”という表現がある。求道者とか、何かを極めた者というニュアンスで使われることが多い。そこでもう一度、この本の帯に書かれている言葉を思い出していただきたい。鬼は本当に悪なのか? 読み終わった後、改めてそう思う人たちが多いだろうことは、もうわかっている。

 

【書籍紹介】

日本の鬼図鑑

著者:八木 透(監修)
刊行:青幻舎

日本固有の存在で、人々を恐れさせた「鬼」はどうして生まれたのか? 忘れてはならない鬼から、鬼でもあった神、悲しい運命の鬼や愛すべき鬼まで。約150点のビジュアルを掲載し、鬼研究唯一の団体「鬼学会」の全面協力により第一人者が語り尽くす。これ一冊で鬼の全てがわかる。

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日本の近代建築50選!エピソードと見どころをその道のプロが解説~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。建物って非常に身近ながら、もっとも大きい芸術作品のひとつですよね。私も好きで一般公開されている昔のお屋敷をよく見に行くのですが、その存在感と整った姿には圧倒されます。

 

しかも、グリコ以上に“1粒で2度美味しい”(笑)。外観はもちろん、中に入ると装飾やディティールにこだわりの美が満ちている。ふたつの楽しみ方ができるのもいいですね。

 

日本の近代建築、ここに注目!

今回紹介する新書は日本の近代建築ベスト50』(小川 格・著/新潮新書)。著者の小川 格さんは建築専門誌「新建築」の編集を経て、建築書の出版に携わったあと、建築専門の編集事務所「南風舎」を神保町に設立し、2010年まで代表を務めてきました。50年にわたって日本の近代建築を見つめてきた、いわば“建築ソムリエ”の小川さんによる初の著書。どの近代建築をベストに挙げたのか、それだけでも気になりませんか?

 

本書は、各4ページで50の名建築が竣工年順に紹介されていく形式です。ひとつひとつのテキスト量はそれほど多くないものの、建築家のエピソードや建物の特徴がわかりやすくまとめられています。建築に詳しくない門外漢でもすっと頭に入ってくるのがいいところ。

 

建築家がどうしてその建物を造るに至ったのか、そんな壮大な物語の一端が見えてきて、読んでいて引き込まれます。原則、建物の内外ともに見学可能なものという選考基準も読者にとって親切です。

 

普通の日本家屋に見える前川國男自邸の秘密

私は東京・小金井市の「江戸東京たてもの園」に何度か行ったことがあるのですが、ここに移築されている「前川國男自邸」(1942年)もベスト50に選ばれていました。正直なところ、前川國男自邸の凄さはあまりわかっていなかったのですが、この本を読んでもう一度じっくり見学してみたくなりました。

 

書かれているエピソードにはドラマを感じます。1928年(昭和3年)、前川國男は東京帝国大学の卒業式のその日に夜行列車で神戸へ向かい、船出して大連へ。17日間シベリア鉄道を乗り継いでパリへたどり着き、憧れだったモダニズム建築の巨匠ル・コルビュジエに弟子入りする……。

 

一見、木造の日本家屋なのに、大きな吹き抜けの居間と背後の中二階という前川國男自邸の構成は師匠譲りだとか。今でこそ自由に使える広いリビング空間は当たり前とはいえ、当時はさぞかしモダンだったことでしょう。

 

コンサート会場としてもおなじみの「国立代々木競技場」(1964年)もベスト50入りしています。設計したのは戦後の復興期から高度経済成長期に数多くの名建築を手がけた丹下健三(前川國男の弟子でもあります)。

 

1964年の東京オリンピックに用いる1万5000人の観客を収容するための大規模な第一体育館は、新たな構造と技術を導入する必要がありました。そこで丹下健三は両端に2本の支柱を立て、掛け渡した2本のケーブルから巨大な屋根を吊り下げるという前例のない形式を選んだそうです。しかしコンピュータのない時代、構造計算は簡単ではなく、工期も限られ予算も足りない。それを解決したのは……。今度、コンサート前にじっくり屋根を見上げてみようと思います。

 

天才青年が遺した優美な白鳥を連想させる「小菅刑務所」(1929年)、4×2.5m(10平方メートル)の立方体を積み重ねた集合住宅「中銀カプセルタワービル」(1972年)、外壁がすべて曲面ガラスという透明感ある「金沢21世紀美術館」(2004年)……。近代建築の魅力と設計に関わった人々の想いが伝わってくる一冊。時代順に並んでいるので、タイムトラベルしている感覚もありました。

 

【書籍紹介】

『日本の近代建築ベスト50』

著者:小川格
発行:新潮社

建築は、時代と人々を映す鏡である――日本で近代建築が始まって約100年。この間、数多くの建築が作られ、また破壊・解体されてきた。本書では、半世紀以上にわたり専門誌・書籍の編集に携わってきた著者が、ル・コルビュジエから丹下健三、磯崎新や隈研吾まで、現存するモダニズム建築の傑作50を選び、写真やエピソードとともに徹底解説。戦前から戦後の高度成長期、さらに現代まで流れる建築思想をたどる。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

『地球の歩き方』なの?『月刊ムー』なの? ”混ぜるな危険”驚異のコラボで生まれた旅行ガイド『地球の歩き方ムー』とは?

販売前からSNSで話題となり、出版前に重版となった『地球の歩き方ムー〜異世界(パラレルワールド)の歩き方〜』。本の厚さ約3cm、重さ627gとカバンに入れて持ち歩くにはなかなかな大きさですが、一度読み始めると、寝るのを忘れてページをめくり続け、いつの間にか異世界へと旅立っている……そんな不思議体験ができる1冊です。

 

今回は、この異色コラボが実現させた担当編集者さんを直撃! おすすめページも教えていただきながら、『地球の歩き方ムー』の魅力をたっぷりとお伺いします。

 

地球の歩き方ムーの詳細はコチラ

『地球の歩き方ムー』は、見えざる力によって運命的に誕生した!?

『地球の歩き方』と『月刊 ムー』の創刊は、1979年(昭和54年)と奇しくも同年に発行されている。『地球の歩き方』は、創刊時からダイヤモンド・ビッグ社が発行していたが、2021年1月より学研プラスへ事業譲渡。譲渡先である学研グループといえば、日本を代表するオカルト情報誌『月刊 ムー』(現在ワン・パブリッシングが発行)を忘れてはいけない。

 

創刊から40年以上の時を経て、同じグループとなった2冊の本たち。これは一体、何を意味するのか。創刊時からコラボレーションする運命は決まっていたのかもしれない……。

 

と、ちょっと『月刊ムー』的に始めてみましたが、今回の『地球の歩き方ムー』はどのように実現したのでしょうか? 編集担当の池田祐子さんにお話を伺いました。

 

「コラボレーションのきっかけとしては、表向きには、2021年8月に発行された『世界197ヵ国のふしぎな聖地&パワースポット』内で、『月刊ムー』の編集長である三上丈晴さんに取材したことなのですが、実は2020年の11月、事業譲渡の直前に、こんなツイートをしているんですよ」(池田祐子さん、以下同)

 

 

「このツイートの反響が結構、大きくて。編集部が世論の期待を背負っていた部分があったかもしれないですね。また、弊社(株式会社地球の歩き方)の現代表が『月刊ムー』編集部出身ということもあり、裏で何やら動きもあったみたいです。きっかけとしては、『世界197ヵ国のふしぎな聖地&パワースポット』の三上編集長への取材でしたが、それと同時進行で『地球の歩き方ムー』の企画も密かに進行していてました。いろんな人が知らず知らずに動いたことで企画がまとまるということは、出版する運命だったかもしれないですね(笑)」

 

地球の歩き方ムーの詳細はコチラ

 

地球の歩き方スタッフ陣もムー色に染まった!?

2021年春ごろから企画がスタートしたという『地球の歩き方ムー』。半年以上かけて、『地球の歩き方』の編集部と、『月刊ムー』編集部でアイデアを出し合いながら1冊にまとめられたそうです。

 

本書の構成はとても面白く、地球の歩き方らしい解説が掲載されているページと、「あれ? 私って『月刊ムー』を読んでたっけ?」とまさに異世界に飛ばされてしまうようなページが混在しています。デザインでこだわったポイントをお伺いしました。

 

↑グラビア特集は見応えたっぷり! 『地球の歩き方』(上)『月刊ムー』(下) 視点で書かれる「ピラミッド」。同じ場所でも、素敵な写真で「行ってみたい〜」ワクワクと、「未知なる発見だ……」と別なワクワクを感じさせてくれるのがすごい

 

「1つのスポットに対して、『地球の歩き方』的視点と、『月刊ムー』的視点を同時展開していくことで、お互いを異世界として、パラレルワールド(同時並行世界)を感じてもらえるデザインにしました。本のタイトルから『うん、これで異世界に転生されても大丈夫だな!』っていう声もいただいたんですけど、実際に歩ける場所しか掲載していないので、お間違えないように(笑)」

 

↑地球の歩き方によるリアルな現地情報と、もし〇〇だったらと想像力を掻き立ててくれる『月刊ムー』視点を合わせて読むことで、ピラミッドの魅力が何倍にも膨れ上がってしまう。

 

「以前出版した『水曜どうでしょう』とのコラボもそうでしたが、地球の歩き方のデザインは汎用性が高いので、そのパロディがウケるというのが経験則としてありました。『月刊ムー』に寄せたデザインもできますが、そうするとムー民(『月刊ムー』読者の愛称)さんには物足りなさを感じるだろうし、違うな……と。今回も、地球の歩き方を創刊時から担当している編集プロダクションやベテランのデザイナーさんにお願いして制作しています。最初、『地球の歩き方』のスタッフ陣は『歩き方とムーのデザインはハッキリ分けます!』ってちょっとの侵食も許さない雰囲気でした。でも、制作が進むにつれて皆がだんだんムー色に染まり……気がついたら地球の歩き方の特集ページも『月刊ムー』みたいになっていました(笑)」

 

↑『月刊ムー』っぽいけれど、こちらは『地球の歩き方』の特集ページ。『月刊ムー』ではお馴染みのイラストレーター久保田晃司さんにイラストを依頼しています!

 

地球の歩き方ムーの詳細はコチラ

 

『地球の歩き方ムー』おすすめページベスト3をご紹介

『地球の歩き方』創刊時からのスタッフ陣まで染めてしまった『月刊ムー』! 恐るべし!!

 

ここからは、編集部の独断で選んでいただいた『地球の歩き方ムー』おすすめページをご紹介します。池田さんは、これまで80か国以上巡っているというまさに地球の歩き方の達人。そんな池田さんですが、この企画を進めるまで『月刊ムー』に触れることがあまりなかったそうで、編集していく中で「この場所に、こんな逸話が!」と新たな発見がたくさんあったと教えてくれました。

 

失われたムー大陸をどう歩く?『沈んだ大陸の痕跡を探しに』

「もう歩けない場所を、どう歩かせるか? というのは、頭を悩ませた部分です。ムーやアトランティス大陸は、その痕跡が辿れる場所を『地球の歩き方』的に紹介しています。『月刊ムー』的な考察を読んで、実際に与那国島海底地形を訪れると、今までの景色が違って見えるのではないでしょうか」

 

ロンギヌスの槍は実在する!? 『キリスト教の聖遺物』

「このロンギヌスの槍の写真、私が撮影しました! 同じページにあるノアの箱舟のかけらがありますが、ノアの箱舟が漂着したと言われているアララット山(トルコとアルメニアにまたがる山)のページと合わせて読むと『本当にあったのかも……』と不思議な感覚を味わえますよ」

 

侵入禁止エリアはどうなっているの?『アメリカのUFO関連地域』

「UFO好きには有名な『エリア51』って、中には入れないんですよね。UFOマニアの聖地として掲載していますが、実際にどんな場所なのか? というのは『月刊ムー』視点からも紐解いています。周辺情報の詳細は『地球の歩き方』ページ、異星人のミステリーについては『月刊ムー』のページを読んでもらうと考察が深まります」

 

ちなみに、沢山の候補地の中から掲載を減らしたのは“心霊スポット”。ヨーロッパの幽霊屋敷なども掲載されていますが、好き嫌いが分かれるだろうと、今回は最小限にとどめているのだとか。今後、『心霊スポットの歩き方』が発売されたりするとか、しないとか……(今の所、発売予定はありません!笑)。

 

他にもTBSテレビ「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンター竹内海南江さんへのインタビュー(『月刊 ムー3月号(No.496)』では、『地球の歩き方ムー』で語りきれなかった部分も掲載予定)、SNSで公募した「ミステリー体験」の投稿ページや、『地球の歩き方』ではお馴染み巻末にある「旅のプランニング」には、UMAを探す際の服装やどんな世界の人とも仲良くなれそうなエスペラント会話まで掲載されています。

 

↑英語ではなく、国際共通語であるエスペラント語というところにもこだわりが!!

 

超ボリューム満点なので、『地球の歩き方』ファンにも、『月刊ムー』好きな方にも、どちらも読んだことがない方にも楽しんでいただける1冊になっていますよ!

 

地球の歩き方ムーの詳細はコチラ

 

何よりも自由なガイドブックが『地球の歩き方ムー』

『地球の歩き方』といえば、海外旅行の欠かせない相棒的な1冊でしたが、新型コロナウイルスによってその売り上げは9割減に。「また海外旅行ができる時のために……」と、現在は、世界遺産や巨像、カレーといった角度から世界を読み解く『旅の図鑑シリーズ』、女性向けの『arucoシリーズ』では「東京で楽しむ海外」にテーマをしぼるなど、企画力で勝負した新刊を次々と生み出しています。

 

そんな中、運命的に誕生した『地球の歩き方ムー』。このコラボレーションの楽しみ方をお伺いしました。

 

「これまで『地球の歩き方』は、教科書にあるような定説を掲載していましたが、もともと現地取材しているとムー的なネタも聞く機会が多々あったんですよ。今回コラボできたことで、いろんな視点から読み解ける自由なガイドブックにすることができました。それに、今は定説でも、時代の変化によって『月刊ムー』の解釈が正解になる時代も来るかもしれません。何を信じるかは、あなた次第っ! なかなか現地に行けない状況ですが、まずは妄想トリップや異世界冒険をたっぷり楽しんでもらえればうれしいです」

 

発売前から、書店さんの反応も良くイベントやキャンペーンが展開される予定なのだとか。この本は、他の国の『地球の歩き方』と同じコーナーを中心に置かれる予定とのことなので、旅行コーナーで『地球の歩き方ムー』をゲットしてみてくださいね。

 

これを読んでムーの世界にはまってしまったという方は、『月刊ムー』を。逆にムー民として知識は豊富にあるけれど、現地に足を運んだことがなかった方は、その地域の『地球の歩き方』もセットで楽しんでみるのがおすすめです。さぁ、時は満ちた! 『地球の歩き方ムー』共に、異世界へと旅立ちましょう。

 

【書籍紹介】

地球の歩き方 ムー

著者:地球の歩き方編集室
発売:学研プラス

共に1979年創刊のロングセラーブランドがスペシャルコラボ。世界中に残る謎と不思議に満ちたスポットの数々。諸説あるなかで、地球の歩き方、ムー、両方の視点から各スポットの神秘にせまるパラレルワールド(同時並行世界)の歩き方。何を信じるかはアナタ次第。想像力を無限大に、世界を旅して自分の目で真実を確かめてください!

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ハンバーガーひとつに使われる水の量は3000リットル! 毎日の食事が変わるかもしれない一冊『SDGs時代の食べ方』

今日食べたものがどこで育って、どこを経由して、自分の口に入ったかわかりますか? 自給自足をしている人はわかりますが、スーパーやコンビニで販売されている食べ物が辿ってきた道は、はっきりとわからないですよね。

 

「そんなこと考えたこともない」という人がほとんどだと思いますが、『SDGs時代の食べ方』(井出留美・著/筑摩書房・刊)を読むと、食に関する考え方が変わります。今回はちょっとの心がけで、未来の地球がガラリと変わるかもしれない一冊をご紹介します。

 

ハンバーガーにどうして大量の水が必要なの?

1つ100円前後で食べられるハンバーガーですが、そのハンバーガーひとつに3000リットルの水が必要だと言われています。3000リットルは、家庭のお風呂の10〜15杯分! どうしてこんなに大量の水が必要なのでしょうか?

 

1キログラムのお米を栽培するのには、およそ3700リットルの水が必要です。

一方、1キログラムの牛肉を生産するには、この5倍、2万リットル以上もの水が必要なのです。

牛肉を育てるには、水のほかに、大量の飼料(エサ)も必要です。その飼料を栽培するのにもまた、水が必要になるため、このような大量の水が必要になってくるのです。

(『SDGs時代の食べ方』より引用)

 

生産過程で使われる水の量って、こんなに多いんですね。この水の量を「バーチャルウォーター」と言うのですが、なんと日本は世界一の輸入量なのだとか。

 

バーチャルウォーターは、環境省のページで計算することができるので、最近の食事をバーチャルウォーターをチェックしてみると、驚くような数字が出てくるかもしれませんよ!

 

【バーチャルウォーター量自動計算】
https://www.env.go.jp/water/virtual_water/kyouzai.html

 

日本の食品ロスの半数近くは家庭から出ている

これだけたくさんの水を使って生産しても、「食品ロス」で捨てられてしまうことも……。日本の年間食品ロス量は570万トン! これまたどえらい数量です。

 

この食品ロス、コンビニや飲食店からのロスが圧倒的に多いと思いがちですが、令和元年度の農林水産省の推計によると、年間570万トンの食品ロスのうち261万トンが家庭由来、309万トンが事業系由来と、家庭からの食品ロスも結構多い。捨てる時には「これくらい、仕方ないやぁ〜」と思ってしまいますが、そのちょっとの積み重ねが261万トンにつながっていると思うと、捨てる前にちょっと考えたくなりますよね。

 

『SDGs時代の食べ方』によると、野菜の皮をむきすぎるなどの「過剰除去」と、賞味期限が過ぎたものを捨ててしまう「直接廃棄」などが要因になっているそう。どうしたら、家庭内での食品ロスを防ぐことができるのでしょうか?

 

家庭の食品ロスは、「買い過ぎない」、「まず家にある食品をチェック」、「買い物リストを作って、ないものだけ買う」、「食材の切り方や保存方法を工夫する」などで少なくすることができるのです。

(『SDGs時代の食べ方』より引用)

 

当たり前のことではありますが、少しずつ意識を変えて、家庭からの食品ロスを減らしていきたいですよね。ほかにも『SDGs時代の食べ方』には、食品のごみ処理にいくらの税金が使われているのか、家庭の生ごみの内訳など知っていると食生活が変わるようなトピックスが満載です。

 

10代に向けたシリーズ『ちくまQブックス』

この『SDGs時代の食べ方』は、10代のノンフィクション読書を応援します! をコンセプトにした、ちくまQブックスの中のひとつ。2021年9月からこれまでに10冊の書籍が出ており、2022年6月には第2弾が始まる予定なのだとか。

 

10代向けなので、文章にはルビがふられページ数も127ページで「最近本を読んでいないな〜」という人でも気軽に読めるようなシリーズです。巻末には、次に読んでほしい本が、著者の推薦コメントとともに掲載されているので、数珠繋ぎ的に読んでいく面白さも体験できます。

 

小説以外の本を読んでみたい10代の学生も、読書が苦手な大人も、毎日のように本を読んでいる人も楽しめること間違いなし! 読書術や、身体論、勉強法まで幅広いジャンルが刊行されているので、興味のある分野から読んでみるのがおすすめです。

 

【書籍紹介】

 

SDGs時代の食べ方

著者:井出留美
刊行:筑摩書房

世界にはまともにご飯を食べられない人が大勢いる。なのに日本では今この瞬間にもまだまだ食べられる食べものが捨てられている。その量は国連が飢餓の国に行っている食料支援のなんと1.4倍。これっておかしくない? SDGs時代にふさわしい食べ方で社会を変えよう!

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魔王を倒した勇者パーティの「その後」を描いた異色のマンガ『葬送のフリーレン』

RPG(ロールプレイングゲーム)を題材としたマンガ・アニメは数多くある。基本的にはゲーム内容と同じ、勇者ご一行が敵を倒しながら旅をして、最後にラスボスを倒して世界に平和がもたらされるというものがほとんどだ。

 

しかし、なかには一風変わった作品もある。たとえば『灰と幻想のグリムガル』は、RPGの敵側、たとえばザコキャラであるゴブリンの生活を丹念に描くことで、やられる側の視点を取り入れていた。

 

今回取り上げるのは『葬送のフリーレン』(山田鐘人・原作、アベツカサ・画/小学館・刊)。2021年のマンガ大賞を受賞した作品だ。

世界に平和が訪れたその後の勇者たち

この作品は、魔王を倒した勇者一行の後日譚を描いている。RPGは、勇者たちが魔王を倒すところで終わる。しかし冷静に考えれば、その後の人生のほうが長い。この作品では、勇者たちは10年もの間旅に出ていた。しかし、人生80年と考えれば、10年は人生のほんの一部。戦いを終えたその後、勇者たちはどのような人生を送っていくのだろうか。確かに興味が湧く。この視点が、『葬送のフリーレン』のおもしろさのひとつだ。

 

主人公は、エルフの魔法使い、フリーレン。エルフは非常に長寿な種族で、1000年以上も生きる。勇者や戦士、僧侶などのほかのパーティのメンバーは、人間とほぼ同じ寿命のため、フリーレンは彼らよりもさらに長い時間生きていかなければならない。老いていく他のメンバー。ほとんど歳を取らないフリーレン。この対比もおもしろい。

 

作品中に年老いた戦士がフリーレンに語るシーンがある。

 

人生ってのは衰えてからのほうが案外長いもんさ。

(『葬送のフリーレン(1)』より引用)

 

これは真理だろう。

 

物語はまだまだ続きそう

現在6巻まで刊行されているので、一気に読んでみた。シリアスな題材ながら随所に笑いもあり、読みやすい。絵柄も親しみやすく、スイスイと読み進められる。

 

しかし、作品の根底に流れるテーマは「老い」や「死」だ。前述した戦士の台詞のように、随所にハッとさせられるシーンがある。作品の見た目の雰囲気だけで読むと、時々心が苦しくなるときもある。それでも、適度にライトなテイストなので、エンターテイメントとして楽しめる作品だ。

 

この作品がどこまで続くのかはわからないが、6巻まで読んだ感じだとまだまだ続きそう。できれば、あまりだらだらと引っ張ることなく、物語の軸をぶらさずにエンディングまで進んでいってほしい。

 

【書籍紹介】

 

葬送のフリーレン

著者: 山田 鐘人, アベ ツカサ
発行:小学館

魔王を倒した勇者一行の“その後”。魔法使いフリーレンはエルフであり、他の3人と違う部分があります。彼女が”後”の世界で生きること、感じることとはーー残った者たちが紡ぐ、葬送と祈りとはーー物語は“冒険の終わり”から始まる。英雄たちの“生き様”を物語る、後日譚(アフター)ファンタジー!

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喪失感や閉塞感を打ち破るために、自分なりのニッチを見つける『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』

コロナ禍が始まってまる2年が経過した。大小さまざまある失われたものは数えきれないし、日常生活のふとした瞬間に改めて意識する閉塞感もぬぐい切れない。

 

日本社会を覆う重苦しい雲

2019年12月以前の暮らし方は、もう戻ってこないんじゃないだろうか。最近、リアルにそう感じている。しかし、日々の生活は回し続けていかなければならない。喪失感や閉塞感に押しつぶされない自分を作っていくためにはどうしたらいいのか。

 

精神論にも一定の効き目はあるだろう。ただ、現実と完全にリンクさせるのは難しい。筆者が置かれているシチュエーションの中、現実的な線の指標として役立ってくれそうなのが『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』(橘玲・著/株式会社幻冬舎・刊)という本だ。まえがきにこんな一文がある。

 

いまや誰もがいい知れぬ不安を抱え、グローバル資本主義や市場原理主義を非難し、迷走を続ける政治に不満を募らせている。国家は市場に対してあまりにも無力で、希望は永遠に失われたままだ。

『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』より引用

 

この本が出版されたのは平成27年4月だ。今思えば、日本社会はすでに重苦しい空気に覆われていたのだろう。

 

自己啓発はオールマイティーではない

重苦しさがもたらすモヤモヤ感の一面は、自己啓発をキーワードにした以下のような文章にも示されている。

 

グローバルな能力主義の時代を生き延びる方法として、自己啓発がブームになっている。ぼくはずっと、自己啓発に惹かれながらもうさんくさいと感じていて、そのことをうまく説明できなかった。能力開発によって、ほんとうにすべてのひとが救われるのだろうか。

 『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』より引用

 

自己啓発という言葉の響きは心地よい。でも、オールマイティーではない。自己啓発という言葉でカバーできる範囲がしっくりこない人、あるいは自己啓発という言葉自体に違和感を覚える人にはどういう手段があるのか。どう折り合いをつけていけばよいのか。

 

「二行」で表現できる成功哲学とは

橘氏は言う。

 

残酷な世界で生き延びるための成功哲学は、たった二行に要約できる。伽藍を捨ててバザールに向かえ。恐竜の尻尾の中に頭を探せ。

『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』より引用

 

ダン・ブラウンの小説の冒頭のような文章だ。この「二行」が意味することに達するため、読者は橘氏と共に旅に出る。旅の指標となる章立てを見てみよう。

 

序章 「やってもできない」ひとのための成功哲学

第1章 能力は向上するか?

第2章 自分は変えられるか?

第3章 他人を支配できるか?

第4章 幸福になれるか?

終章 恐竜の尻尾のなかに頭を探せ!

 

どんな道中になるか、なんとなく想像できはしないだろうか。

 

恐竜の尻尾

「自己実現という神の宣託」(序章)、「ダメでも生きていける比較優位の理論」(第1章)、「“遺伝的に正しい”生き方」(第2章)、「自分は特別という妄想」(第3章)、「日本的雇用が生み出す自殺社会」(第4章)など、魅力的で刺激的な響きの項目が70以上並ぶ。本書の目的地となる「二行」の意味は、終章に図という具体的な形で示されている。ここで図をそのままの形で見ていただくわけにはいかないので、説明の文章だけ引用しておく。

 

クリス・アンダーソンは、『フリー』の前作である『ロングテール』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)で、インターネット時代のニッチ市場に巨大な変化が起きていると述べた。

『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』より引用

 

この図は、恐竜を横から見たところに似ている。尻尾というのは、ニッチな市場のことなのだ。

 

自分にふさわしいニッチを見つける

七〇億のひとびとが織りなすグローバル市場も、地球環境に匹敵する複雑な生態系だ。伽藍を捨ててバザールへと向かえば、そこにはきっと、君にふさわしいニッチがあるにちがいない。

『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』より引用

 

このタイミングでこの文章を示しても、「は?」と思われるだけだろう。恐竜の尻尾は、どんな状況の世の中でも通用する概念なのか。それは、我々自身が強いられながらも未知の違和感に慣れつつある中で、自分という存在を媒体にして行う試行錯誤を通して確認していくしかない。

 

この本を読み、筆者が得た何かと同じものを感じ取る人がいることを確信している。その“何か”は、いくばくかの希望につながっている。今の、そしてこれからの世の中に対して、少しでも希望を感じさせてくれる本。筆者はすでに、自分なりのニッチを見つけようという気持ちになっている。

 

【書籍紹介】

残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法

著者:橘玲
刊行:幻冬舎

ワーキングプア、無縁社会、孤独死、引きこもり、自殺者年間3万人超など、気がつけば世界はとてつもなく残酷。だが、「やればできる」という自己啓発では、この残酷な世界を生き延びることはできない。必要なのは、「やってもできない」という事実を受け入れ、それでも幸福を手に入れる、新しい成功哲学である。

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人体の不思議からツアーナースの日常、そして新型コロナウイルスまで—— 歴史小説家が選ぶ「医療」を知るための5冊

毎日Twitterで読んだ本の短評をあげ続け、読書量は年間1000冊を超える、新進の歴史小説家・谷津矢車さん。今回のテーマは「医療」。新型コロナウイルスの最前線に立つ医療従事者の方々に感謝しつつ、改めて「医療」について考え直す5冊となっています。

 

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風邪を引いたり、怪我をした際、皆さんはどうするだろうか。

 

薬局に行って市販薬を買う? それも一つだろう。わたしは、間髪入れずにお医者さんに駆け込むようにしている。

 

親不知の痛みの際に痛感したことだが、体調の悪化を我慢しても何もメリットがない。早い内に根治してしまったほうが、結局クオリティ・オブ・ライフが高まることに気づいてからは、体調の不調を感じたらかかりつけ医の元に相談に向かうようにしている。わたくしごとで恐縮だが、この前腰を痛めた折には即座に医者の助言を受け、大事になる前に痛みが引いたりしている。

 

お医者さんには頭が上がらない。というわけで、今回の選書テーマは「医療」である。

 

傷をつけた武器に軟膏を塗る? 不可思議すぎる「奇書」の世界

まずご紹介するのは『奇書の世界史 歴史を動かす“ヤバい書物”の物語』(三崎律日・著/KADOKAWA・刊)である。皆さんは「ゆっくり動画」をご存知だろうか。ニコニコ動画やYouTubeなどの動画投稿サイトに投稿される、音声読み上げソフトの声を当てられた同人ゲーム『東方シリーズ』の登場人物が、解説や説明役に当たることを特徴とした動画ジャンルのこと。本書は「ゆっくり動画」発書籍の一つである。

 

本書(そして本ゆっくり動画)が扱うのは、ずばり「奇書」である。なぜこんな本が存在するのだろう? と首を傾げたくなるような本を取り上げ、奇書成立の史的経緯や逸話を紹介している。その手の好事家には広く知られる『ヴォイニッチ手稿』や『台湾誌』、明治期のトンデモ野球害悪論『野球と其害毒』などなど、ラインナップも充実している。

 

今回の選書に本書を選んだのは、武器軟膏に関するくだりが存在するからである。

 

武器軟膏とは、16~7世紀のヨーロッパで唱えられた学説で、傷を治す際、傷口ではなく、傷をつけた武器に軟膏を塗る治療法である。――こう書くと、皆さんの頭の上には「?」が浮かぶことだろうが、書き間違いではない。本当に武器に軟膏を塗る治療法なのである。

 

現代から見れば奇異なこと極まりないが、本書はその治療が受け入れられた経緯から、この説が克服された経緯までを追っている。

 

医療行為――ひいては人間の智そのものが現代と比べれば未発達だった時代。だからこそ浮かび上がる人々の試行錯誤を平易に紹介し、ことほぐ1冊である。

 

なかなか聞けないツアーナースの日常

お次に紹介するのは漫画から。『漫画家しながらツアーナースしています。 こどもの病気別“役立ち”セレクション』(明・著/集英社・刊)である。漫画家兼ツアーナース(修学旅行などの際に同行し児童の健康管理を行なう看護師)である著者のエッセイ漫画で、ツアーナースとして直面した様々な事件や日々の業務を紹介した書籍である。

 

本書を読んで、まず「そんな仕事があったのか」という驚きがあった。わたしも児童時代にはお世話になっていたはずだろうが、さっぱり記憶からすっ飛んでいた。多くの方はわたしと似たような感覚だろうと思う。しかし、ツアーナースの重要性は、本書を読むうちに心から理解できる。アトピー、喘息、怪我に熱中症、体調の激変。子どもの周りには常に危険が佇んでいる。そんな中、適切な応急処置を施す人の存在は、子どもたちの学校生活、楽しい思い出をも守ってくれている。

 

そして本書、子どもが直面しがちな怪我や病気などの知識や応急処置法についても細かな記載があるので、お子さんのおられる方や、お子さんを引率する立場の方にもお勧めである。そして、広い意味での医療がわたしたちの生活を守ってくれていて、多くの医療従事者が胃を痛くしながら身体を張ってくれていることを知ることのできる書籍でもある。

 

雑学的に読めるも志の高さを感じる1冊

お次は『すばらしい人体――あなたの体をめぐる知的冒険』(山本健人・著/ダイヤモンド社・刊)をご紹介。〝外科医けいゆう〟の名前で情報発信を続けている著者による、人体を巡るサイエンス書である。

 

それにしても、本書はフックのかけ方が上手い書籍である。本書の惹句で引用されている文章に、こんな一文がある。

 

汚い例になってしまうが、私たちが「おなら」ができるのは、肛門に降りてき物質が固体か液体か気体かを瞬時に見分けて、「気体の場合のみ気体だけを排出する」というすごい芸当ができるからである。 

 

この引用文には雑学本的な匂いがするのだが、いざ本書を読んでみると、人体のふしぎだけに留まらず、古代から現代に亘る医療史や、医学は何を目指す学問なのかという命題をも包括しつつ平易に読める1冊になっている。それどころか、学びを深めるためのブックガイドまでついた、志の高さを感じる1冊でもある。

 

もちろん、雑学本的な読まれ方を想定する作りになってもいて、この引用文で興味を持ってお読みになっても一向に構わない。実はわたしもこの引用文に釣られて買ったクチである。

 

というわけで、皆さんもぜひ釣られていただきたい。医学の入り口にもってこいの1冊である。

 

優れたオウム小説であり、優れた医療小説

次にご紹介するのは小説から。『沙林 偽りの王国』(帚木蓬生・著/新潮社・刊)である。いわゆるオウム事件を扱っており、松本サリン事件発生当時、農薬による中毒症ではないかと疑われていた時分から治療に当たっていた医師たちの視点から描かれるという、少し変わった視点で繰り広げられる小説である。

 

本書を読み解くにおいて、なぜ医師の視点から描かれるのかという命題はかなり重要である。オウム事件全体を主題に置いた場合、松本サリン事件の治療に当たった医師は主役になり得ない立ち位置の人物で、素直に考えれば、一章の視点人物、あるいは脇役に収まるのが自然である。しかし、本書において医師たちが主役となったのは、本書を貫くテーマが、「医学(という学問)」だからなのである。

 

人を癒やす術である医学は、裏返すと人を壊す術になる。そして、現代、多くの人を救っている医学は、多くの人の犠牲や、理不尽な実験の上に成り立っている。本書において731部隊に関する言及があるのも、化学兵器が詳述されているのも、医学という学問の負の面も浮かび上がらせたからに他ならない。

 

本作は、優れたオウム小説であり、優れた医療小説なのである。

 

ワクチン接種前の世情を後世に残すための物語

最後にご紹介するのも小説から。『臨床の砦』(夏川草介・著/小学館・刊)である。本書は2021年の1月から2月ごろの長野を舞台にした医療小説である。当然、この時期を舞台にしているということは……。そう、本書の主人公たちは、未知のウイルスといっても過言ではない新型コロナウイルス対応に当たる医師の奮闘を描いた小説である。

 

本書に描かれる光景には、胃の痛くなる思いがする。後手後手に回る行政、毎日のように感染者が担ぎ込まれる病院、家族と会えぬ日々、偏見や差別に晒されるのではないかという恐怖、医療従事者である自分たちが社会を分断してはならぬという危機意識……。まさしく、地域医療最後の砦である病院で戦う医者たちも、一個の人として逡巡し、懊悩し、それでも医師としての責任を果たすべく働く姿を描いている。

 

そうした読み方とは別に、本書はワクチン接種前の雰囲気を残す小説であるともいえ、その点でも興味深い。2021年夏の接種により風向きが変わる前の殺伐とした雰囲気は、5年もすれば忘れられてしまうことだろう。その雰囲気を物語る語り部となりうる1冊でもあるのである。

 

新型コロナウイルスによる社会の混乱が長引いている。

 

明るいニュースがないのは何処の業界も一緒。出版業界は好況に湧いているという報道もあるが、その中にいる一個人としては横ばいないし少々状況が悪化しているように思える。よくある話だが、マクロとミクロの動向は往々にして食い違うものである(種明かしをすると、学習書籍や漫画などの分野の好況が出版業界そのものを底上げしているとされている)。恐らく、これをお読みの皆さんも大変な思いをなさっていることだろうと思う。

 

だからこそ、今、最も大変な役割を担ってくださっている人たちの一角である、医療関係者の皆様に厚く御礼を申し上げる次第である。

 

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【プロフィール】

谷津矢車(やつ・やぐるま)

1986年東京都生まれ。2012年「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞受賞。2013年『洛中洛外画狂伝狩野永徳』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』にて歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。最新刊は『北斗の邦へ跳べ』(角川春樹事務所)

 

焼酎の「前割り」はなぜ美味い? 焼酎の謎に科学で迫る!~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。みなさんはどのお酒が好きですか? 私はもっぱら赤ワインを飲んでいますが、友人に言わせると「酒飲みは最後に焼酎に行き着く!」とのこと。何を根拠に言っているのかは定かではありませんが(笑)、確かに焼酎だとおでん、焼き鳥、サバ味噌など大概の和食に合うし、ロックでもお湯割りでも梅干しを入れても美味しく飲めて、日本の食卓にピッタリ。すでに焼酎に行き着いているという方も多いかもしれません。

 

謎多き酒・焼酎を科学的に解明

今回紹介する新書は焼酎の科学 発酵、蒸留に秘められた日本人の知恵と技』(鮫島吉廣、髙峯和則・著/講談社ブルーバックス)。焼酎とはそもそも何か、どうしてこれほどまで愛されているかが科学的に分析されます。自分の好きなものの秘密が理屈でわかると、世界が開けたような気がしてうれしいですよね。

 

著者の鮫島吉廣さんは、ニッカウヰスキー、薩摩酒造を経て現在は鹿児島大学客員教授。焼酎の研究を40年以上続けています。焼酎文化や歴史など鹿児島の焼酎の伝え手を育成する「かごしま焼酎マイスターズクラブ」理事長であり、焼酎に関する著書多数。また、髙峯和則さんは鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究センター教授で、本書では焼酎研究の最前線について執筆を担当しています。

 

サツマイモの部位で風味が変わる!?

焼酎とはどのようなお酒かというと蒸留酒の一種。蒸留酒はアルコール発酵させた液体を沸騰させて発生した湯気を冷やしたもの。つまり「湯気の集まり」なのですが、同じ蒸留酒でもウイスキー、ブランデー、ラムと生まれた土地によって香りも味わいもまったく異なります。

 

焼酎のカテゴリでも、薩摩の芋焼酎、沖縄の泡盛、壱岐の麦焼酎、球磨の米焼酎……とそれぞれ個性的。最近では、「水やお湯で割って飲む」「ウイスキーなどと違って熟成させずに飲む」といった珍しい特徴から海外でも注目されているそうです。

 

第1章は焼酎の歴史、第2章は発酵や麹などの基礎知識、第3章は焼酎ができるまでの製法……と、身近ながらあまり知られていない“焼酎の世界”が科学的な説明を交えつつわかりやすいテキストで解明されていきます。

 

焼酎の奥深さを感じさせるのが第4章「最大の謎『風味』の科学」。芋焼酎の独特の風味は麹が作り出したもの。甘い香りの「イソアミルアルコール」や、バラの香りの「β-フェネチルアルコール」、バナナの香りの「酢酸イソアミル」など、0.2%ほどの微妙な成分が焼酎の個性を決めているのだそうです。

 

用いるサツマイモの部位で風味が異なる、というのも驚きでした。中心部には「ネリル配糖体」、表皮近くには「ゲラニル配糖体」や「リナリル配糖体」などが多く分布し、中心部のみで造った焼酎はスッキリ、表皮部のみだと華やかな味わいになるとか。

 

また、最近流行っている、あらかじめ焼酎と水を混ぜて2~3日寝かせておく「前割り」についても説明されています。美味しく感じるのは“おあずけ”されているからではなく(笑)、時間が経過すると、舌を刺激するエチルアルコール分子の周りを水が取り囲む「分子会合」という現象が起きるから。それでまろやかになるのですね。

 

そのほか、どうして最近の芋焼酎は臭みが少ないのか? 科学的に考える美味しいお湯割りの作り方は? など焼酎の素朴な疑問にも答えています。単なる焼酎のガイド本ではなく、しっかり勉強になるのがブルーバックスらしいところ。研究対象として長年焼酎と付き合ってきた科学者の愛情が伝わってきます。本書を読むと、焼酎のお湯割りがますます美味しくなりますよ。

 

【書籍紹介】

焼酎の科学

著者:鮫島吉廣、髙峯和則
発行:講談社

魅惑の酒、焼酎の七不思議に迫る。身近な存在ながら、じつは非常に特殊な蒸留酒、焼酎。どんな原料でも焼酎にできて、蒸留酒なのに新酒でも旨く、健康にも良い。蒸留すればただの「湯気の集まり」のはずなのに、さまざまな個性的な風味も持っている。今や世界から注目を集め、国酒にも認定された焼酎には、清酒を造れなかった九州地方の人々が生み出した知恵と技が詰まっている。知るほどに驚く、焼酎の世界へ!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

正式なタイトル、いくつわかる?『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』

世の中には、一字一句きちんと記憶する人と、なんとなくの雰囲気でざっくり記憶する人の2種類がいると思う。たとえば、芸能人の名前。後者の場合、言葉の響きと漢字をふわ~っとしか認識していないため、いざ名前を伝えたいときにはたと困る。

 

私にとって、いまいちばん名前が出てこない女優さんは、あの子だ。清らかで清純で…朝食でフルーツを食べていそうな。名前はさやちゃん、だったか。ほら、この間まで朝ドラに出ていた子!

 

確認すると清原果耶(きよはらかや)さんであった。いやはや、失礼極まりない。この機会に、しっかり覚えます……。

 

同様に覚え間違いが多いのが、本のタイトルではないだろうか。『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』(福井県立図書館・編/講談社・刊)は、福井県立図書館の司書さんが出会った抱腹絶倒な覚え違いが、ページをめくる度にこれでもかと攻撃してくるので、思わず吹き出さずにはいられない。

 

今回は、その中から特に印象的な覚え違いをいくつかご紹介しよう。

 

覚え違い(1)『100万回死んだねこ』

まずは、本のタイトルにもなっている『100万回死んだねこ』。最初、まったく間違いに気づかなかった。違和感がなさすぎる。正式なタイトルは『100万回生きたねこ』。100万回死んだことには変わりがないから、あながち間違いではないか。

 

ちなみに、ほかの覚え違い例として『100日後に死んだ猫』というケースもあったのだとか。猫? もしやワニ……?

 

覚え違い(2)『八月の蝉』角田和代

こちらも、ふむふむとスルーしてしまうそうな覚え違い。だがしかし、タイトル&著者名のダブルで間違っている。正しくは『八日目の蝉』で、角田光代(かくたみつよ)さん。

 

檀れいさん主演でドラマ化、井上真央さん主演で映画化されている作品なので、ご存知の方も多いだろう。ぜひ小説も読んでいただきたい。

 

覚え違い(3)『人生が片付くときめきの魔法』

正直、パッと見ただけでは、間違いに気づかないかもしれない。でも、一旦気づくと、じわじわくる間違い。正しくは、『人生がときめく片づけの魔法』。

 

最近、終活やらエンディングノートやらが一般的になってきたので、本当にこんまりさんから「人生を綺麗サッパリ片付ける」ためのメソッドが出ても不思議ではない。

 

覚え違い(4)村上春樹『とんでもなくクリスタル』

こちらも、タイトル&著者名のダブルミステイク。正しくは、村上 龍さんの『限りなく透明に近いブルー』。目の前に浮かぶ情景は、ほぼ同じような気がするけれども。

 

ちなみに、この案内をした司書さん曰く「実は田中康夫さんの『なんとなく、クリスタル』をお探しだった可能性も?」とのこと。確かに、その可能性も大いに有り得る。

 

タイトルや著者名が怪しい場合は、どこでその本を知ったかや、ざっくりしたストーリーを伝えると、探している本が見つかる確率が高まることを覚えておきたい。

 

覚え違い(5)ウサギのできそこないが2匹出てくる絵本 

ひどい言い様だ。でも、ピンと来てしまった。おそらく『ぐりとぐら』だろう! 『リサとガスパール』という線も捨てがたいが。もしくは、『しろいうさぎとくろいうさぎ』という絵本もある。が、こちらは本物のウサギだから、できそこないとは言わないはずである。

 

正解は、やはり『ぐりとぐら』だった(笑)。この2匹はウサギではなく野ねずみなので、お間違えなく。

 

覚え違い(6)独身男性が若い女の子を妻にしようとして色々失敗した話

この質問を、司書の人にぶつけた勇気を讃えたい。正解は、谷崎潤一郎の『痴人の愛』。あらすじ的にはまさにそのとおりだが、近代日本文学というヒントが欲しいところ。もしかしてあの話? いやいやこの話かも? とあらゆる可能性を秘めた覚え違いだ。

 

図書館のレファレンスをフル活用すれば、読書はもっとおもしろい!

今回ご紹介した『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』は、福井県立図書館のレファレンスサービスに集まった問い合わせから生まれた一冊。こうして誰かの覚え違い例を知ることで、うろ覚えでも、雰囲気しかわからなくても大丈夫、思い切って尋ねていいんだ、そう勇気が湧いてくる。そして、新たに読んでみたい本が増えていく。

 

福井県立図書館「覚え違いタイトル集」

 

次に図書館に行ったら、レファレンスサービスで気になっている本について質問してみようか。きっと、図書館という場所が、ただ本を借りるだけでなく、司書の人とコミュニケーションを楽しむ場所に変わるかもしれない。

 

 

【書籍紹介】

 

100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集

著者:福井県立図書館
発行:講談社

利用者さんの覚え違いに爆笑し、司書さんの検索能力にリスペクト。SNSでも話題沸騰!あなたはいくつ答えられる?

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GetNavi3月号付録のスキレットを使ってみたら……肉まんが美味すぎた!

 

筆者は最近究極のソロクッカーを求めて、ロッジの丸底、スノーピーク コンボダッチデュオ、ユニフレームの6インチなど、コンパクトなスキレットを買い漁っている。調理やメンテナンスのしやすさ、取り回しのよさ、スタッキング性において、どれも感動レベルの魅力があるのだが、使っていて何かがいつもしっくりこない。ソロキャンプ用としては、サイズがオーバースペックなのだ。

キャンプ場にログインし、ちびちびと(いや、割と豪快に)飲みながら設営を終えた時点で、もはや量は食えない身体になっている。つまみ程度で十分なのである。

しかもスキレットはなかなかにかさばり、スタッキングもしづらく重いゆえ、必然的に出番も減る。そんなサイクルに陥ってしまうのが現実だ。

 

これぞソロ専用! 待望のミニマムサイズが出た!

そんななか、モノ・トレンド情報誌「GetNavi(ゲットナビ)」3月号の特別付録として、ソロキャンパーに最適なサイズのスキレットがリリースされたという。

早速、同誌編集長の川内一史さんにお願いして、試用させてもらった。

 

この週末は野営地に出撃できなかったたため、自宅で予行演習。

事前に簡単に油を馴染ませて、シーズニングを完了してからいざ調理へ。

 

このスキレットを見た時、ビビッときたのがこれ。肉まんだ。

 

このスキレットなら某人気キャンプアニメで見た、伝説の肉まんホットサンドクッカーサンドらしき調理ができるのではないか。そう期待しながらスーパーで5個入りを早速ゲットした。

 

完璧すぎるシンデレラフィット!!!!!!!!!!

この肉まん、一般的なものよりやや大きめのサイズなので、コンビニで売ってるタイプはピッタリ収まると予想。

 

さらに、蓋用に2台目のスキレットを入手。

スキレットは組み合わせることで料理の幅が広がり、同時調理も可能になるので、2台持ちを強く推奨する(蓋があるだけで熱がバランス良く行き渡るので、めっちゃ美味くなる)。

 

噛み合わせも完璧で、蓋としてもピッタリ。これなら蒸し調理もバッチリいけそう。

 

両面5分くらい弱火で加熱し、恐る恐る開けてみると。。。

 

「JOURNAL STANDARD」の刻印が!!!! 美しい。

絵に描いたような完璧な仕上がりだ!

ちなみに裏面はピザみたいな焼き上がり。肉まんのサイズがもっと大きければ両面にきれいな刻印できるかも。

 

外はパリパリ、中はもっちりで、見た目も味もバッチリ!

肉まん専用スキレットに認定だ!

 

目玉焼きやじゃがいものガレットもいける!

肉まんが完璧だったので、勢いで朝食の定番目玉焼きも作ってみた。

 

今回はごく普通にスーパーに売っている卵を1個用意。

 

じゅわ〜。スキレットは十分に温めてから卵を投入するとよさそう。

 

じゅわわわわ〜ん。水を投入して、蓋をする。

 

フライパンで作るよりも、白身に厚みがでるので、いつもよりやや時間をかけて弱火でじっくり焼くのがポイント。

 

問題なく完成! スキレットがちょうどお皿サイズなので、レストラン気分でこのまま食べられるのも◎。

 

続いてじゃがいもの千切りとチーズをたっぷり乗せてガレットにも挑戦。

 

両面を弱火で10分ずつくらい焼くと。。。。

 

じゃがいの生地がくっつかず、見た目はいまいちw

量が少なかったか(じゃがいも1個分)。

ただ、味はどれよりも美味かった!

 

使い込むほどに自分だけの味が出せる

使い終わったら、こびれつきは焼き切って、薄く油を塗ってメンテナンス。

使い込むほどに味が出てきそう。

これが雑誌付録のクオリティとは……恐るべし。

ぜひ皆さんも使ってみてください!

 

使い終わったら、こびれつきは焼き切って、薄く油を塗ってメンテナンス。使い込むほどに味が出てきそう。これが雑誌付録のクオリティとは……恐るべし。ぜひ皆さんも使ってみてください!

 

【商品概要】

GetNavi(ゲットナビ)3月号

本体価格:900円+税

判型:A4変型判

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■著者

正田省二(しょうだ・せいじ)

元ゲットナビ統括編集長で、現在は株式会社ワン・パブリッシング取締役。ソロキャンプをこよなく愛し、毎週末のように外遊びへと繰り出している。

入門にぴったり、虚実入り交じる遠藤周作の幻の初期短編集——『秋のカテドラル』

2022年1月10日付け産経新聞の朝刊に、遠藤周作の未発表原稿が見つかったという記事が載っていました。長崎の遠藤周作文学館に寄託されていた資料の中から、3本の戯曲原稿が発見されたというのです。記事を読みながら、「遠藤周作さんは私たちに多くのものを遺してくださったのだな」と、しみじみ思いました。これまで演じられることはなかった作品ですが、いつの日か舞台の上で出会うこともあるかもしれません。

 

若いころの小説だからこその輝き

遠藤周作は、今回見つかった戯曲の他にも、いくつかの贈り物というべき作品を遺しています。昨年は没後25年めにあたる記念の年だったこともあり、『秋のカテドラル』と『薔薇色の門 誘惑』の2冊が相次いで出版されました。いずれも、雑誌に発表されながら単行本未収録だった作品を編んだものです。

 

関係者の努力がなければ、私たちの手元に届くことはなかったでしょう。どんなに素晴らしい小説でも、長い間人の目に触れなければ、そのまま埋もれていきます。それではいけないと奮起した編集者や、遠藤周作を研究してきた研究者、そして彼を慕い続ける多くの方の情熱があったからこそ、幻の短編が1冊の本として姿をあらわしたに違いありません。

 

秋のカテドラル』(河出書房新書・刊)には、14の短編がおさめられています。中には、1955年に芥川賞を受賞した直後に発表されたものもあります。遠藤周作がまだ若いころ、精魂込めて書いた作品群は、瑞々しく、はっとするような驚きに満ちています。今まで知らなかった新しい一面に触れたようで、私はすっかりうれしくなりました。

 

良く知られているように、遠藤周作はカトリックの信仰を基にした作品を数多く発表しましたが、その一方で「狐狸庵先生シリーズ」をはじめとするユーモアあふれるエッセイも著しました。テレビにも出演し人気者でした。そのため、ひたすら愉快で活動的な人という印象を持つファンも多いと思います。それはそれで正しいと思うのですが、作家というのはいくつもの顔をうちに秘めているものです。

 

学生のころ、私は『沈黙』をワクワクしながら読みました。ところが、読む度に「私はこの作品を本当に理解できているのだろうか」と、不安になり、何度も読み直しました。私にとっての遠藤作品は、読めば読むほど混乱し、それでも読まずにはいられない不思議な力を持つものでした。妖しいまでに読者を惹きつけながら、一方で、突然、怜悧に突き放す残酷さもあります。何とかして近づこうと頑張っても、近づくことができないのです。

 

ところが、この『秋のカテドラル』におさめられた短編は、悩むことなく、すっと心に入ってきました。ただ楽しんで読むことができるのです。作者が苦悩にのたうちまわる気配を感じて、息が苦しくなることもありませんでした。

 

名もない人たちの悲しみやつらさ

『秋のカテドラル』をまとめたのは、文芸評論家の今井真理。日本の近代文学と現代文学を専門とし、町田市民文学館で行われた「遠藤周作展」をはじめとして、多くの企画展に携わっています。

 

解説の中で、今井はこう語っています。

 

本書につづられた十四の短編には大きなテーマはないかもしれない。しかし、ここにはまさしく、新宿や、渋谷の街で生きている名もない人たちの悲しみや、辛さが詰まった物語がある。(中略)これらの物語の背後に、その人たちを見つめるキリストの視線が確かに存在する。

(『秋のカテドラル』の解説より抜粋)

 

確かに、主人公達は歴史上の人物であるとか、特別な偉業をなしとげた存在というわけではありません。普通の生活を送っている市井の人がほとんどです。けれども、誰もが苦しみ、悩みながら生きているのに変わりはありません。そんな彼らに寄り添い、包み込むように描く筆致には打たれないではいられません。著者が主人公に寄り添っているのです。

 

アカシヤの花の下

14作品のうち、私がとりわけひきつけられたのは、「アカシヤの花の下」という作品でした。雑誌「女性セブン」に読切の短編として掲載されたものだそうです。ストーリーは、主人公の作家がテレビ番組に出演することを承諾する場面から始まります。

 

初恋の人を探しだして、スタジオで対面するという企画です。この話が実話なのか創作なのか、最初よくわかりませんでした。一緒に出演したゲストが実名で記されていたので、実話なのだろうと思いながら読んでいたのですが、番組終了後に起こったことは、あまりにも意外な展開でした。ほのぼのとした初恋の話が、一転して、残酷で痛ましい現実に変わっていく物語の運びは、叫び出したくなるほどです。虚構と現実が、ねじれた糸のように絡み合って構成され、最初から最後まで、ページを繰る時間が惜しいほど、結末に向けて突き進む短編でした。

 

生きていたコリンヌ

さらに、「生きていたコリンヌ」は、まるでペテンにかけられたような不思議な味わいを残す作品です。この物語は嘘なのだろうか、それとも実は本当の話だったのではないかと、ふたつの思いを行きつ戻りつしながら、立ち尽くしてしまいます。結局のところ、遠藤周作の描く世界に翻弄されつつも、それが楽しくてたまらなかったのです。なんだかだまされて悔しいような、それでいて、それはそれでいいか、よくぞここまでだましてくださったとお礼を言いたくなるような、奇妙な満足感がありました。

 

「生きていたコリンヌ」は、夏の巴里に一人取り残されて暮らす主人公のぼやきに似た独り言から始まります。

 

巴里の夏は砂漠だと、仏蘭西人たちは言っている。砂漠や荒野かしらないが、七月ともなると、確かに「花の都」は寂漠としずまりかえってしまうのだ。

(『秋のカテドラル』より抜粋)

 

巴里で暮らしたことなどない私ですが、帰省することもできず、安下宿で汗だくになりながら昼をやり過ごし、夕飯だけようやく外に出る留学生のわびしさが身に迫ります。遠藤周作の作品には、こうした疑似体験というべき思いになるものが数多くあります。

 

さて、そんな主人公が、偶然、知り合ったひとりの学生。何でもチェコの出身で、霊媒師のもとへ行くところだといいます。暇をもてあましていた主人公は、好奇心に勝てず、留学生についていくことにするのですが……。

 

オカルト色をまぶした推理小説のようなストーリー運びを楽しんでいると、いきなり突きつけられる唖然とする結末。なるほど短編小説とはこういう風に書くものなのかと、驚きつつ、うなりました。読んでしばらくした今もなお、私は巴里の霊媒師に取り憑かれているような気持ちから抜け出せずにいます。

 

遠藤周作ファンにはもちろん読んでいただきたい短編集ですが、もし、今まで遠藤作品を読んだことがない方がいたら、『秋のカテドラル』から始めてみてはいかがでしょう。遠藤周作の若き日々が色濃く反映されていて、新鮮さを感じる1冊ですから、最初に触れるのにふさわしいと思います。

 

【書籍紹介】

秋のカテドラル

著者:遠藤周作
発行:河出書房新社

『海と毒薬』『沈黙』につながる秘められた幻の短篇、初の単行本化!瑞々しい筆致で描かれた、若き日の秀作。

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寒い時期にぴったり! ダイエット中でも美味しく食べられる『オートミールでスープジャー弁当』

少しずつ春の訪れを感じつつも、まだまだ寒い日が続きそうな今日このごろ。あたたかぁ〜いスープで心も体も温まりたいですよね。

 

温かいスープが飲めるスープジャーを愛用している人も多いと思いますが、今回は普段のスープにオートミールを入れるだけで立派なお弁当になってしまう『オートミールでスープジャー弁当』(牛尾 理恵・著/ワン・パブリッシング・刊)をご紹介。オートミールを食べたことがない人でも美味しく食べられるレシピがたくさん掲載されていますよ。

 

スープジャーにオートミールとスープを入れるだけ!

この『オートミールでスープジャー弁当』には、オートミール雑炊・リゾット&ポタージュ・おかゆなど、オートミールを使ったレシピが60以上紹介されています。オートミールは食物繊維が豊富でダイエットにいいと聞いてはいるけれど、どうやって食べたらいいのかいまいちわからない……という方にもおすすめ。また、日ごろからオートミールを食べているけれど食べ方がマンネリ化してきた……なんて方にもぴったりなレシピ本です。

 

さらにうれしいのが、掲載されているレシピのほとんどが、スープジャーにオートミールとスープを入れ、混ぜて待つだけというお手軽さ!

 

スープだけでは補えない栄養素をオートミールが補ってくれるので、栄養バランスもばっちりなお弁当になりますよ。

 

煮込み時間が少なくてもコトコト煮込んだ味に!

『オートミールでスープジャー弁当』には、冬にぴったりの「サムゲタン雑炊」や「かぼちゃとミックスビーンズのリゾット」など、目次を見ただけで美味しそうなレシピが並んでいるのですが、保温性の高いスープジャーを使うので、スープを作る際の煮込み時間は2〜3分でOKなのだとか。忙しい朝でも、材料を温めて、オートミールと一緒に入れるだけでほかほかなお手軽ランチができあがってしまうのです。

 

鍋に材料を入れ、2〜3分火にかけた後、オートミールと一緒にスープジャーに入れて放置するだけだから、スープの煮込み時間を大幅に短縮できるので、時間のない朝にピッタリ!

(『オートミールでスープジャー弁当』より引用)

 

「野菜たっぷり洋風リゾット」を作ってみましたが、煮込み時間はほぼなかったのに、食べるころには野菜がいい具合に火が通っていて、湖畔のカフェメニューにありそうな逸品に!

 

ちなみに『オートミールでスープジャー弁当』は、1人分のレシピで掲載されていますが、朝に2〜3人分作っておくのもアリかも。お昼は、オートミールを入れたスープジャー弁当用、夜はオートミールなしのスープとしていただいても最高でした。家族分のお弁当をまとめて作っている方なら、スープジャー弁当だけで十分お腹いっぱいになれるので、かなりの時短になると思います。

 

甘い「ミルクがゆ」がうまい……!

和洋中とたくさんのレシピが掲載されていますが、個人的に大ヒットだったのが、甘いオートミールがゆシリーズ!

 

「バナナのアーモンドミルクがゆ」「干しいもと豆乳のおかゆ」「クコの実としょうがと甘酒のおかゆ」「りんごと低脂肪牛乳のおかゆ」の4つがあるのですが、最初見た時は「え〜美味しいの?」とかなり疑っていました(笑)。実際に「干しいもと豆乳のおかゆ」を作ってみたのですが、これが大ヒット!!

 

作り方

1 干しいもは1cm角に切る。

2 オートミール、1を入れた300mlのスープジャーに温めた豆乳を注ぎ入れ、フタをする。いただく際に、シナモンパウダーをふり、お好みではちみつをかける。

(『オートミールでスープジャー弁当』より引用)

 

熱々の湯気でレンズが曇ってしまいましたが、ほくほくのお芋が甘くて美味しくて、ランチを食べ損ねて「お腹空いている、甘いものも食べたい」なんて時にピッタリでした。もちろんダイエット中の方にもおすすめ! 甘いものをお腹いっぱい食べてもこのメニューならたっぷりの食物繊維が摂れるので、ギルトフリーなランチメニューになるはず!

 

まだまだ寒い日が続くので、『オートミールでスープジャー弁当』を参考にしながら温かいスープで健康的に元気に過ごしましょう。

 

 

【書籍紹介】

オートミールでスープジャー弁当

著者:牛尾理恵
刊行:ワン・パブリッシング

食物繊維、カルシウム、たんぱく質ー栄養素をまるっと摂れるオートミールをスープジャーで手軽においしく!おいしく食べてムリなくやせる!

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高齢になってもシーナさんが綴る日常は痛快だ!——『われは歌えどもやぶれかぶれ』

80年代、一緒に仕事をしていた編集者、カメラマン、デザイナーなどなど、男性陣のほとんどは、シーナさんこと椎名誠さんに憧れていた。シーナ隊長率いる”怪しい探検隊”を真似して、メンバーを集めては各地にキャンプに出掛けるデザイン事務所の人々に誘われて伊豆半島に出かけたこともあった。彼らの会話の中にも「シーナが、シーナが」とよく出てきて、椎名さんは”男が惚れる男”なのだな、と思ったものだ。

 

そして、椎名さんが綴るエッセイの数々は女性が読んでもとてもおもしろかった。『さらば国分寺書店のオババ』、『わしらは怪しい探検隊』『哀愁の町に霧が降るのだ』『岳物語』などなど、海外紀行ものでは『インドでわしも考えた』『ロシアにおけるニタリノフの便座について』など、今ふっと思い出すだけでもここには書ききれないほどのエッセイを楽しく読ませてもらった。ちょっと気分が落ち込んだ日なども、椎名さんの文章でゲラゲラ笑って元気をもらった記憶もある。

 

その椎名さん、現在はなんと77歳になったそうだ。今日紹介する『われは歌えどもやぶれかぶれ』(椎名誠・著/集英社・刊)は、私がひさしぶりに手に取った彼のエッセイ本だ。”老い”という言葉が似合わないシーナさんは、どんな日常を送っているのか、興味津々でページを開いたのだ。

シーナに、怖いものはない?

まず、私がいちばん驚いたのは、あの椎名誠でもコロナにやられるんだ!ということだった。昨年6月に新型コロナに感染し、自宅で倒れているのを家族が発見し、救急搬送され入院したことはニュースで知っていたが、強靭な体の人をも襲う新型コロナウイルスは本当に恐ろしいと思った。

 

さて、本書は「サンデー毎日」に2016年8月から2017年10月まで連載されたエッセイを一冊にまとめたものなので、5年ほど前の椎名さんの日常が綴られているが、文庫版として発行されたのが昨年の晩秋、あとがきにご本人はこう記している。

 

コロナ禍のせいでこの一年半ほど自宅蟄居が続いている。(中略)この本を読んでいると、いまから四~五年前のコトなんだけれどまあこの書き手(私のコトですが)はあわただしく、あっちこっちよく動いていること。あの頃はつくづくタフだったなあ、という感懐もある。(中略)コロナワクチンはちゃんと二回打っているし、それよりも何よりも六月にコロナ感染し、しばらく入院していたので、もうこのあとの感染はない筈だ、と勝手に決めていた。

(『われは歌えどもやぶれかぶれ』から引用)

 

本書の帯には、”ピロリに コロナに 熱中症 もう、怖いものはありませんな やぶれかぶれなシーナの日常” とある。コロナ感染から復帰され、ますますお元気な後期高齢者となったシーナさんの痛快エッセイは、長引くコロナで憂鬱な日々を送っている人たちにきっと勇気をくれるはずだ。

 

極悪ピロリ完全掃討戦記

本書には53編のエッセイが収録されている。どれもこれも、読み応えがありおもしろいが、ほんの少しだけ抜粋して紹介してみよう。

 

上記の見出しは、人間ドックの胃カメラでピロリ菌が発見された体験を綴ったものだ。ピロリ菌は胃を中心に生息していて、万病の元になる。調査によると胃がんの90パーセント以上がピロリ菌のしわざと言われているそうだ。ピロリ菌を駆除するにはかなり強い抗生物質を朝夕、7日間正確に飲み続けなければならない。さらに必須条件があり、薬を飲む前の1日と飲んでいる間ずっと、飲み終わったあとの2日間は、いっさいお酒を飲んではいけない。

 

この何十年、毎日ビールぐらいは瓶にして二~三本は飲んできたダラク者には、そうとう厳しい「掟」である。ちょっとぐらいいいだろうへへへ。などと甘く見ていると必ず失敗。(中略)そして七日分、全部キチンと抗生物質を飲み、あと二日、何も飲まない最終コースに入った。マラソンでいえば大観衆のスタジアムに拍手で迎えられて入っていく気分だ。「新宿自堕落酔っぱらい男もやるときはやりますね」「いや、でも本当の勝利はすぐにはわかりませんからね」医師に言われていた。

(『われは歌えどもやぶれかぶれ』から引用)

 

ピロリ菌というのは狡賢く、薬投与期間は胃の深いヒダに隠れていたり、十二指腸に避難したりすることがあり、抗生物質による駆逐は8~9割、なので、半年から一年後に残存を確かめる検査が必要なのだそうだ。幸い、椎名さんの場合、ピロリ菌を一掃でき、「やった!」となったと記している。

 

書き手によっては重く暗くなってしまう病気にまつわる話も、椎名さんの文章は読者をゲラゲラ笑わせてしまう。

 

快晴小アジ小サバ釣り

『岳物語』の主人公であった息子さんも、はや二児のパパ、椎名さんもおじいちゃんになったそうだ。三世代で釣りに行った日を綴ったこの編も、ほのぼのとしてとてもよかった。行った先は千葉県の鴨川の堤防。

 

親子三代で休日の釣りにいく、というのがぼくのちょっとした「大きな夢」であったから、その日は二人の孫よりも浮かれていたのかもしれない。(中略)よく釣りにいっているじいちゃんがどのくらいの釣りの腕か、というのがひとつのポイントになっていたが、ぼくはその逆に孫たちがどんな釣りをするか、ということに興味があった。(中略)二人の男兄弟(孫たち)は父親に基本的な仕掛けをつくってもらい、思い思いのところに竿をいれる。(中略)みんなで三十匹ほど釣り上げた頃にお昼の時間になった。(中略)ぼくは三匹釣って、あとは「リタイヤした好々爺」よろしく、海や空を含めたそんな風景を楽しんでいた。

(『われは歌えどもやぶれかぶれ』から引用)

 

そうして家に戻り、炊きたてのアツアツご飯と共に、とりたての小アジとサバを家族揃って食べたそうだ。椎名さんは、このような一日はお孫さんにとって長く記憶に残る「古きよき日々」になるだろうと確信したと綴っている。

 

本書の挿絵は、椎名さんとのコンビでおなじみの沢野ひとしさんだ。読んで、見て、最高に楽しめる一冊。シーナファンだけでなく、元気になりたい人すべてにおすすめだ。

 

 

【書籍紹介】

われは歌えどもやぶれかぶれ

著者:椎名誠
発行:集英社

モノカキ人生も40年を過ぎると体のあちこちにガタが出てくる。おかげで長旅はおっくうになるし草野球では長打が打てないし、極悪ピロリ菌や不眠症のせいで若い頃は無縁だった通院が日課に…と、こぼしつつも痛飲はやめられず、シメキリ地獄に身を委ねてせっせと原稿を量産し、食が細くなったことを自覚しながらつい大盛りを頼んでしまう、やぶれかぶれのシーナの日常がみっちり詰まった一冊。

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銀行員が突如命じられたのはミャンマーでの金融制度づくり!? たったひとりのミャンマー奮闘記~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。学生時代、ケルト神話の世界に憧れてアイルランドを旅したことがあります。現地の暮らしを肌で感じようと、ホテルではなく毎日どうにか予約を取りつつB&Bを巡りましたが、オーナーの家族と上手くコミュニケーションが取れず、プチトラブルの連続。自分の無力さに旅行から帰ってもしばらく落ち込んでいました。それでも、今となっては未知の世界での経験は財産になるというのはよくわかります。あくまで「振り返ってみれば」なんですけどね(笑)。

突然の辞令でまさかの任務がスタート

今回紹介する新書ミャンマー金融道 ゼロから「信用」をつくった日本人銀行員の3105日』(泉 賢一・著/河出新書)は、47歳で突然ミャンマーでのプロジェクトを命じられた銀行マンの体験記。著者の泉 賢一さんは、1991年に太陽神戸三井銀行(現・三井住友銀行)に入行して、2013年からミャンマーで中小企業への融資制度づくりに取り組みます。その後、2019年に三井住友銀行を退職してミャンマー住宅開発インフラ銀行のCOOを努め、現在は住友林業に勤務しています。

 

 

金融が信じられていない国で孤軍奮闘

本書の始まりはまさに青天の霹靂。ドラマチックで一気に引き込まれます。2013年3月29日、突然、部長室への呼び出しを受けた泉さん。「君の異動先は本店の法人マーケティング部だ。ただし、ミャンマーの金融政策に関わる仕事だと聞いている」。

 

何かの間違いかと思った泉さん。ひたすら国内畑で働き、海外赴任経験もないのに降ってきたミッション。外国銀行の進出が禁じられてきたミャンマーで支店開設の認可を得るため協力関係を築く……。たったひとりの戦いがスタートします。泉さん本人は衝撃と不安が大きかったでしょうが、私たち読者にしてみれば手つかずの国に単身で乗り込んでいく姿はまるで企業ドラマの第一話です。

 

実は当時のミャンマーは金融がほとんど機能していませんでした。ミャンマーでは経済政策が失敗してインフレが起き、流通する紙幣を廃止する廃貨令が過去に3回も出されたほど。大型銀行の取り付け騒ぎもあって、金融への信頼は地に堕ちていた状況だったとか。銀行マンにとってはアウェイ中のアウェイ。そんなミャンマーで、中小企業を対象とした融資制度を構築しようと奔走する姿に熱くなります。

 

私が仕事をするうえでこれは大事だなと思ったのが、泉さんと当時のミャンマー財務副大臣とのエピソード。最初の出張で帰国前日にギリギリで面談のアポを取ることができた泉さん。しかし、ミャンマー語はもちろん、英会話も苦手。

 

そこで言いたいことを英文であらかじめノートに書き、「このノートを読ませてください」と腹をくくって切り出す……。「副大臣の前でノートを読んだ男」として周囲で語り草になったそうですが、意外にも副大臣には「やる気がある」という印象を与え、それ以降力になってもらったとか。何かを伝えたいという気持ちの強さが大切ですね。

 

仕事以外のエピソードもところどころに挟まり、ミャンマーでの日常風景も見えてきます。ミャンマーの名物料理「モヒンガ」は、ナマズでだしを取った甘辛いスープに米粉の麺を入れたヌードル。「ドロッとした濃厚な味が特徴で、食べてすぐ好きになった」。ナマズのだし、気になります。

 

全体的に描写も丁寧でわかりやすく、業務内容や現地の雰囲気はもちろん、金融とは何かといった“経済の本質”も見えてきます。コロナ禍で国際的な交流は停滞していますが、慣れない土地で信念を持って汗を流している人たちが少しずつ世界を動かしているんだなあと感じました。

 

【書籍紹介】

ミャンマー金融道 ゼロから「信用」をつくった日本人銀行員の3105日

著者:泉 賢一
発行:河出書房新社

二〇一三年、ミャンマーが民主化へと舵を切り始めた頃、英語もミャンマー語も話せないまま、その地に赴任した、四七歳の日本人銀行員がいた。通貨や銀行が信じられていなかったその国の各地をまわり、中小企業のための融資の仕組みをつくったのち、自分以外が全員ミャンマー人の地場銀行のCOOになるーミャンマー金融を成熟させるために動いた、一銀行員の三一〇五日間の物語。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

12年以上フィンランドに通った著者が描く、ディープな魅力がつまったコミックエッセイ『マイフィンランドルーティン100』

フィンランドと聞いてどんなイメージが思い浮かぶでしょうか?

 

マリメッコ? 映画『かもめ食堂』? ムーミン? 最近流行りのサウナ? キシリトール? たくさんの名物がありますが、どんな場所なのかイメージがつきにくく、旅行へ行くには少しハードルが高く感じるところかもしれません。

 

しかし『マイフィンランドルーティン100』(週末北欧部 chika・著/ワニブックス・刊)を読んでいると、そのハードルがグンと下がり、めっちゃ行きたくなっちゃうから不思議(笑)。湖畔で白樺を削ってスプーンを作ったり、CD屋さんでメタルのアルバムを買ったり、静かな図書館でくつろいだり……。今回は読めば読むほどフィンランドが好きになる『マイフィンランドルーティン100』をご紹介します。

基本的に静かなフィンランド

『マイフィンランドルーティン100』は、昨年秋に出版されたコミックエッセイですが、とにかく情報が濃い! タイトル通り週末北欧部 chikaさんのフィンランドルーティンが100掲載されていて、そのルーティンのほとんどがヘルシンキ周辺。フィンランド全土かと思いきや、中心部だけでこれだけのルーティンができるとは……。

 

著者である週末北欧部 chikaさんは、12年以上フィンランドに通い続けている方。現在は、会社員をしながらフィンランドに移住して寿司職人になるための修行中なのだとか(すごいバイタリティ!)。

 

 

個人的に一番興味をそそられたのは、フィンランドの静けさ。日本の駅では当たり前に流れているアナウンスや爆音で走る宣伝カーもなく、街全体がし〜んとしているのだとか。バスも降車アナウンスがないので、気づかないまま通り過ぎてしまうこともあるんですって! 夜も長く、寒くて街まで静かだと寂しいような気持ちもしますが、その中で感じられる人のあたたかさがあるのかな? と思いました。日本では、静かな電車に乗るなんてこと経験できないので、これは体験してみたいですね〜。

 

フィンランド語はどれもかわいい

『マイフィンランドルーティン100』には、フィンランドへ行く際に準備したほうがいいもの、フィンランドでAirbnbを使う方法や中心部のマップなど、フィンランド情報も満載!さらに、旅行で役立つフィンランド語も掲載されています。何気なく眺めていたのですが、どのフィンランド語もかわいい……!

 

やあ!   Moi!(モイ)/Hei!(ヘイ)

バイバイ  Moimoi!(モイモイ)

さようなら Näkemiin!(ナケミーン)

ありがとう Kiitos(キートス)

(『マイフィンランドルーティン100』より引用)

 

モイモイ〜とかちょっと使いたいですよね。ちなみに、フィンランド語でSusi(スシ)はオオカミで、Sika(シカ)は豚の意味があるのだとか。面白い!

 

現在は、すぐに行けない状況ではありますが、気軽に行けるようになるその時のために、行きたい国の言葉を知っておくのも良いかも。私もコロナ禍が終わったらフィンランド行きたいモードになったので、「オンライン フィンランド語」で検索してみると、結構ある! 旅行プランを考えながら、言語も一緒に学べたらとっても楽しそうですよね。

 

世界一まずい飴「サルミアッキ」を食べたい……

フィンランドには見た目も美しい、おしゃれなグルメもたくさんあるのですが、『マイフィンランドルーティン100』に出てきた世界一まずい飴サルミアッキは、絶対食べたいと思っています。

 

噂によると、日本でも輸入系の食品店なら買えるようで、 あのIKEAにサルミアッキのグミが売ってた! と話題になっていたようですが、本場フィンランドでは、飴以外にもウォッカやアイスなど横展開もされているのだとか。

 

このサルミアッキの原料は、塩化アンモニウムとリコリスというハーブ。う〜ん、味も匂いも想像ができない(笑)。まずいのに定番商品としてしっかり残っているって、日本でいう納豆みたいな感じなのかな?

 

なかなか旅行に行けない今だからこそ、コミックエッセイで旅行気分を味わうというのもおすすめ。知らない国の食事や文化を妄想するだけでも心が豊かになれる気がします。

 

【書籍紹介】

マイフィンランドルーティン100

著者:週末北欧部 chika
刊行:ワニブックス

サウナ発祥の国でビールとソーセージ両手にととのう!海を眺めながら具だくさんのサーモンスープを食らう!水辺のコテージを借りて気の済むまで焚火を楽しむ!蚤の市で現地の人からレアな北欧アイテムを受け継ぐ!など。ディープな北欧旅行を描いたコミックエッセイ。

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基本から活用法までをわかりやすく。この一冊でZoomのすべてがわかる!

「Zoom基本&便利ワザまるわかり 最新版」は、インターネット環境があればどこからでも利用できるウェブ会議サービス「Zoom」の基本から活用法までをわかりやすく解説します!

 

Zoomのことはこれ一冊ですべて解決!

テレワークの普及、オンライン授業などにより利用者が増え続けているウェブ会議サービスの「Zoom(ズーム)」。インターネット環境があれば世界中のどこからでも利用できるウェブ会議サービスの「Zoom」の基本から活用法までを、210ページもの大ボリュームでわかりやすく解説。

 

Zoomの特徴からアプリのダウンロードの仕方、サインアップの方法、実際の使用方法など、これ一冊でZoomのすべてがわかります。

基本操作が全部わかる

ミーティングの始め方、スケジューリングの方法、カメラやマイクの使い方、おすすめのプロフィール画像設定など、まずはZoomの基本を丁寧に解説。

ウェビナーの開催方法や役立つ便利機能も解説

ブレイクアウトルームの活用法やウェビナーの開催方法、PCやスマホでの画面共有&動画共有の方法、便利な連携アプリ紹介などの応用編も充実しています。

[商品概要]

Zoom基本&便利ワザまるわかり 最新版

著者: ゲットナビ編集部
定価: 1078円 (税込)

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「光る大五郎」から実用的な作品まで——ギャルがやさしくていねいに電子工作を教えてくれる楽しい入門書

ギャル電」をご存知だろうか。ギャル二人組が「ギャルも電子工作をする時代」と高らかに謳い、やけにギラギラ光る電子工作をするユニットだ。最近ではテレビやネットメディアなどにも顔を出しているだけでなく、コロナ禍以前はワークショップなども多数開催し、注目を集めている。

 

そのギャル電が書き下ろした書籍が『ギャル電とつくる! バイブステンアゲサイバーパンク光り物電子工作』(ギャル電・著/オーム社・刊)だ。

 

意外とちゃんとした電子工作入門書

いわゆる電子工作入門書なのだが、ほかの入門書とはひと味違う。基礎も何もないゼロから「なんか光るアクセサリー作れたら最高じゃね?」というノリで電子工作を始めた二人が、その「素人感」(いい意味で)を押し出して、かなりわかりやすく電子工作のイロハを解説している。

 

必要な工具や材料について、どこで買ったらいいのか、回路図の見方、プログラムはどこから拾ってくればいいか(基本はコピペ上等)などなど、小難しい話はあまりなく、「ノリでやっちゃいなよ!」というバイブスがビンビン伝わってくる内容となっている。

 

文体こそギャルっぽいポップな感じになっているが、内容はちゃんとしている。ちょっと電子工作やってみたいけれどなんだか難しそうと躊躇している人の背中を押してくれるだろう。

 

有用的な作品から「光る大五郎」まで幅広い作品群

実際にギャル電が作った電子工作も例として紹介されている。ただLEDを光らせているだけではなく、意外と社会派。例えば「ソーシャルディスタンスボディバッグ」は、超音波距離センサーを使い、周囲の人との距離を測定してソーシャルディスタンスのレベルを色でお知らせしてくれるボディバッグ。

 

表紙には「とりまつないで光ればいいじゃん?」とあるが、ちゃんと実用的なものも作れるだぜ、という面が垣間見える。と思えば、「光る大五郎」なるわけのわからないものもある。

 

大五郎っていう4Lのお酒のボトルがあって、その底面と取っ手の部分にテープLEDを貼り付けて光らせたアゲ↑なパーティーアイテム。友達のパーティーに差し入れするために作ったやつ。

(『ギャル電とつくる! バイブステンアゲサイバーパンク光り物電子工作』より引用)

 

あの大五郎のボトルが光ってるのか…。そう思うと楽しい気持ちとなんだかやるせない気持ちが交錯する。ちなみにこんな注意書きもある。

 

光る大五郎、LEDや電源をダクトテープで貼ってるってのもあって、光ってないと超不審物に見える。電車とかにうっかり置き忘れちゃったりすると危険物に見える可能性あるから、置き忘れには超注意!

(『ギャル電とつくる! バイブステンアゲサイバーパンク光り物電子工作』より引用)

 

気をつけよう。

 

用語集だけでも見てみて。おもしろいから

本書の巻末には、「ギャル電用語集」がある。もちろん電子工作系の用語もあるのだが、ギャル語も記載されている。

 

インターネットは神、オタクに優しいギャル、カニって赤くてかわいくね?、大五郎、脳の治安が悪い、などなど、電子工作まったく関係ない商品名や都市伝説、マンガの名言なども混ざっているので、ここだけ読むと何の本だかわからなくなるので注意しよう。

 

とにかく電子工作の敷居をさげまくってくれる本なので、電子工作やってみよっかなーと考えている人は、一度手に取ってみるといいだろう。「あ、こんなお気楽でいいんだ」という感じになるはず。そして、LEDやらホットボンドやらを買ってくれば、もう今日から電子工作が楽しめるはずだ(と思うんだけどね)。

 

【書籍紹介】

ギャル電とつくる! バイブステンアゲサイバーパンク光り物電子工作

著者:ギャル電
発行:オーム社

今のギャルは電子工作する時代! とりまつないで光ればいいじゃん? 本書は、「光るカッコイイものを作ってみたい」方に向けて、ギャル電の電子工作レシピを紹介する本です。初心者でも取り組みやすいように、最初は材料や道具の紹介から、はんだ付けだけのレシピ、Arduinoを使ったレシピまで徐々に応用させつつ説明しています。ただレシピ通りに作るだけでなく、読む方それぞれの作りたいものに電子工作を取り入れて、自作のグッズにチャレンジできるように、ギャル電がどういうところからヒントを得て、どんなアレンジをしているかも解説しています。電子工作を始めてみたいという方はもちろん、手芸作品を発展させたい、アクセサリーやグッズ・衣装に光る要素をプラスしてみたいという方にもおすすめの一冊です。

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「歴史+広報」で日本史の見え方が大きく変わる!『もし幕末に広報がいたら』

ちかごろ、組み合わせの面白さに気持ちが向いている。現役高校生運営のインターネット×塾とか、箱根の芸者さんたちによるクラウドファンディング×ライブ配信とか、そういう組み合わせだ。

 

足し算が醸し出す組み合わせの妙

この種の面白さは、かけ算でたとえられることが多い。ただ筆者は、足し算にリアリティを感じる。A×BよりもA+Bのほうが、本質が交じり合うプロセスを思い浮かべやすいような気がするのだ。

 

ここでは、「歴史+広報」という足し算を軸に話が進む『もし幕末に広報がいたら』(鈴木正義・著/日経BPマーケティング・刊)という本を紹介したい。著者の鈴木氏は、とある企業の現役広報部長。専門知識と実務経験を背景に、これまで誰も考えなかった手法で日本の歴史的事件を見直し、その本質を浮き彫りにしていく。広報部長らしく、プレスリリースに乗せるのだ。

 

歴史的事件のプレスリリース

どういうことなのか。以下の文章を見ていただきたい。本書のタイトルにも使われている大政奉還に関するプレスリリースの一部だ。

 

幕府、大政奉還を奏上

近年、米国、ロシアなど諸外国からさらなる日本市場の開放の声が高まっています。安政5年に締結した5か国との通商条約をめぐっては、「桜田門外の変」をはじめとする混乱を招くこととなりました。幕府はこの混乱を招いた責任を痛感し、また現有の幕藩体制では今後の国内外の政治運営が困難であると考え、今回、より高い指導力をお持ちの朝廷に政治権限をお返しすべきとの結論に至りました。

『もし幕末に広報がいたら』より引用

 

背景・理由・経緯など伝えるべき情報がすべて盛り込まれていて、ロジックにもツッコミどころがない。この本の各項目は、まずこうしたプレスリリースの文面が提示され、全体的構成を俯瞰し、それぞれの文章に対してより具体的な解説が加えられるという作りになっている。

 

知的好奇心をダイレクトにくすぐる項目タイトル

章立てを見てみよう。

1章 リスクマネジメント
2章 制度改革
3章 マーケティング
4章 広報テクニック
5章 リーダーシップ

 

実用書というのは、章タイトルにも説明的な文章が付けられることが多い。しかし、この本はご覧のとおりごくシンプル。このあたりにも、伝えたいことをシンプルに伝えるというプレスリリースの作法や極意みたいなものが見え隠れしていると思う。

 

超実用的なプレスリリースをIFの世界で展開させていく面白さは、「武田信玄の死を広報的にごまかしてみる」「松尾芭蕉を旅行系の人気ユーチューバーに」「学習塾風に松下村塾の生徒を大募集!」「聖徳太子をメディアに売り込む最高の方法」「井伊直弼、命懸けのコンプライアンス違反」といった項目タイトルから十分に感じられる。

 

IFの世界で繰り広げられるリアリティ

広報という仕事についての連載コラムも手がけている鈴木氏は、解説を通して気づいたことがあるという。当事者にとってはネガティブでしかない「失敗したときのプレスリリース」を実例と共に紹介することこそ、読者にとって最も実用的なコンテンツなのだ。実践的な失敗の研究を、説得力ある実例としてつまびらかにしていくにはどうしたらよいのか。そこから生まれたのが「歴史+広報」というフォーマットだった。

 

実際に執筆を進めながら、いつものプレスリリースを書く要領で事実を調べていくうちに、「あれ?この人物、もし現代にいたら名経営者になっているな」とか「もしこれが現代なら、コンプライアンスでアウトだろう」など、「もし」を加えることによって学校で習った歴史とは違った面白さを見つけることができました。

 『もし幕末に広報がいたら』より引用

 

「もし」を相手にした本書ならではの足し算によってもたらされたものも、はっきり示される。

 

これって作詞に近いんじゃないの

もうひとつ、紹介しておきたい文章がある。徳川綱吉による“生類憐みの令”に関するプレスリリースの最後の部分だ。

 

江戸は世界屈指の人口を持ちながら、水道システム、衣類の高いリユース率、排せつ物等のリサイクルシステムなど、世界に類を見ないエコロジーの進んだ都市です。「生類憐みの令」により、動物愛護に加え、子どもの権利、社会的弱者の権利にも配慮した理想都市として、ダイバーシティーとインクルージョンでも世界に誇るレガシーをまた一つ手にすることになります。

『もし幕末に広報がいたら』より引用

 

自然に生まれる独特なフロウが感じられないだろうか。プレスリリースの文章を書くという作業はコピーライティングに近いのだろうけれど、その本質はむしろ作詞に似ているのかもしれない。日本史を学び直すのにも、伝わりやすい文章を体感するのにもぴったりの一冊。

 

【書籍紹介】

もし幕末に広報がいたら

著者:鈴木正義
刊行:日経BP

もし、あの時代に「広報」がいたら、日本の歴史は大きく変わっていたかもしれないーー。本書は大政奉還、本能寺の変、関ケ原の戦い、武田信玄の死といった、誰もが知る日本史の大事件を題材に、マスコミ向けの報道発表資料である「プレスリリース」を作成し、企業や組織による情報発信の重要性や広報という仕事の面白さについて解説しました。

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生活のためか、生きがいか。私たちの「働く理由」を鋭くつく『未来職安』

「未来では人間の仕事をロボットが代行するようになるため、仕事を奪われる人間が増えるだろう」という予測を時々目にする。その時には、一体どんな世界が待っているのだろう。未来の職業事情を描いた小説にはさまざまなことが予言されていた。

 

日本人の99%が働かない

未来職安』(柞刈湯葉・著/双葉社・刊)は、仕事がほとんどなくなる近未来的世界を描いたSF小説だ。仕事が得られる日本人はわずか1%で、残りの99%は時間を持て余している。全ての人には必要最低限の生活ができる生活基本金が配られる。生活基本金は全員が同じ額だというのでベーシック・インカムに近いシステムなのだろう。

 

社会では仕事をしている1%の人間は生産者と言われ、残りの99%は消費者と呼ばれる。働かなくても生きていくことはできるが贅沢はできないので、多くの人が1%の生産者になりたがる。給料が加算され、生活にかなりゆとりができるからだ。

 

未来の職安とは

現代日本の職安(ハローワーク)では多くの求人が公開されていて、求職中の人はその中から自分に合っていそうな仕事を選び、紹介してもらう。職安は公共機関だ。けれど、未来職安は、民間人が来訪者に仕事を紹介し、紹介先から手数料を受け取るので、どちらかというと派遣業者に近い印象だ。

 

出てくる職安職員は、それを仕事としているだけに、プロである。キャリアコンサルタントというか、職のソムリエというのがぴったりくる感じだ。来客者の特性やニーズを素早く掴み、最適な職業を案内することもできる。募集中の職業を頭に叩き込んでいるからこそこなせる業務なのだ。

 

仕事がない苦しみ

現代社会には、お金持ちになって早く仕事をやめたいと考える人がいる。宝くじに当たったら退職するんだと夢を語る人もいる。つまり、現代社会では労働は苦行なので、お金さえあれば働きたくないと考えている人が多いということだ。

 

しかし、未来職安には「お金はもらわなくてもいいから、社会の役に立つことがしたい」というような人までやって来る。未来社会では労働は社会とつながるためのひとつの手段なのだろう。それほどに人々は「生き甲斐」に飢えているのだ。家でごろごろしているだけの生活では罪悪感を感じてしまうのかもしれない。

 

人は、なんのために生きているのかと自問自答することができる生き物である。日々を漫然と過ごすことに耐えられず、時間を大量に奪われる職業に就きたがるのは、お役目を感じて精一杯生きたいからなのかもしれない。

 

お金より大切なこと

現代日本も、この小説に少しずつ近づいているように感じる。「働き方改革」や「プレミアムフライデー」など、仕事時間を減らすよう働きかける社会になってきたからだ。昭和のころはたくさん残業をしてたくさん稼ぐことが奨励されていたが、令和の今は、できるだけ残業せず、余った時間で自分の好きなことをするという人が増えている。

 

そして、多くの人々が「意味のある仕事をしたい」と考えるようになった。上からの命令を右から左に片づけるのではなく、自分なりに業務の目的を考え、工夫したり提案するようにもなりつつある。労働時間が減ったので疲れも蓄積せず、頭脳が冴え、アイデアが次々生まれるようになったのだとしたら、素晴らしいことだ。

 

社会の価値観は大きく変わり始めている。今までは年収が高い仕事がスゴいと考えられていたが、今では給与の額ではなく、社会貢献できて満足できる仕事をしている人のほうが羨まれるようになりつつある。もし現代人が「未来職安」を訪れたとしたら、「世の中のためになる仕事」をしたいとリクエストする人が結構な数いるのではないだろうか。

 

 

【書籍紹介】

 

未来職安

著者:柞刈湯葉
刊行:双葉社

令和よりちょっと先の未来、国民は99%の働かない<消費者>と、働く1%のエリート<生産者>に分類されている。労働の必要はないけれど、仕事を斡旋する職安の需要は健在。いろんな事情を抱えた消費者が、今日も仕事を求めて職安にやってくる。ほっこり楽しい近未来型お仕事小説!

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匂いも焼き色も食欲をそそる「こんがりグルメ」を紹介!『上沼恵美子のおしゃべりクッキング2022年2月号』

「上沼恵美子のおしゃべりクッキング2022年2月号」が発売中。今号は、匂いも焼き色も食欲をそそる「こんがりグルメ」、家呑みがさらに楽しくなる「おうちで居酒屋」など、おうちごはんをより充実させるレシピをご紹介します!

 

1月31日-2月25日放送の4週分のレシピを掲載!

■テレビテキスト

1/31→2/4放送 テーマ「豆で元気」
豆さば/あずきの中華風おこわ/ひよこ豆とスペアリブの煮込み/
鶏と大豆の煮込み/グリンピースとかにのパスタ

2/8→2/11放送 テーマ「こんがりグルメ」
※2/7は2022年北京冬季オリンピックの中継番組のため、放送はありません。
手羽のトースター焼き/こんがりチーズハンバーグ/
焼き海老の生姜風味/トマト入り焼きギョーザ

2/14→2/18放送 テーマ「簡単スピードメニュー」
やみつき鶏/鶏とサツマイモのさわやか和え/さば炒飯/
もずくにゅうめん/豚肉ときのこのビネガー風味

2/21→2/25放送 テーマ「おうちで居酒屋」
ホタテのとろろ焼き/きのこと海老のアヒージョ/鯛の中華風サラダ/
ギョニソのゼッポリーネ風/ささみと砂肝の和えもの

 

こんがり・あつあつがたまらない♪ 大好き! グラタン

グラタンが最もおいしい季節がやってきました! こんがり焦げ目がついた表面をスプーンで割ると、とろりと濃厚なソースがたっぷり。肉や魚、野菜など、好きな具材を入れて楽しめるのも魅力ですよね。定番のホワイトソースはもちろん、トマトクリームやカレー風味など、料理研究家の市瀬悦子さんが様々なバリエーションで紹介します!

 

デミグラミートボールグラタン、サーモンとほうれん草のエッググラタン、3種きのこのアンチョビーペンネグラタン 他

 

うまみがのった旬を楽しむ 冬の魚介

冬の時季ならではの魚介、たら、かき、ぶりなどを使った料理を盛りだくさんにご紹介。焼き方にこだわる「ぶりのグリーンソース」に、揚げ衣に春巻きの皮を使った「かきの変わり揚げ」など、なじみのあるいつもの料理も、辻調理師専門学校の先生方のアイデアが光るレシピで楽しみましょう!

 

ぶりのグリーンソース、たらの照り焼き、ほたての塩辛炒め 他

 

[商品概要]

上沼恵美子のおしゃべりクッキング22年2月号

著者: ABCテレビ 辻調理師専門学校
定価: 520(税込)円 (税込)【本書のご購入はコチラ】
・Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B09PVYJYKS/
・楽天 https://books.rakuten.co.jp/rb/17015155/
・セブンネット https://7net.omni7.jp/detail/1232415885