動画を観ながらセリフを繰り返すので、確かにとても記憶には残ります。けれど、私が好んで観たのはアクションものが多かったので「Kill them all!(皆殺しだ!)」などという物騒なセリフを習得してしまいました。でも、一度覚えたフレーズは単語を多少入れ替えれば応用できます。例えば「Love them all!(みんなを愛する!)」などと使い回せるので、少しは私の英語の幅も広がったはずです。
そして、大学に入ってしばらく経ったある日。キャンパスの近くの書店で立ち読みをしていた時、ピアノとギターとストリングスから成る、聞いたこともないような美しいイントロが聞こえてきた。男性ボーカルの声の響きも曲の展開も信じられないくらいよくて、読んでいた本を手にしたままそのまま立ち尽くし、聞き入った。『恋するカレン』との出会いはこんな感じだ。音の源をたどってすぐに隣のレコード店に行き、『A Long Vacation』を買った。買ったのはレコードじゃなくカセットテープだ。当時肌身離さず持っていたウォークマン2号機ですぐ聞きたかったからだ。
1981年の夏
その『A Long Vacation』を世に送った大滝詠一さんの名前が表紙でうたわれている本を買わないわけにはいかない。『「ヒットソング」の作り方』(牧村憲一・著/NHK出版・刊)の「大滝詠一と日本ポップスの開拓者たち」というサブタイトルが目に入った瞬間から、18歳の自分を取り戻す準備は整っていた。
1981年は、特に夏が忘れられない。決して大げさではなく、どこに行っても大滝サウンドを耳にしたにもかかわらず、通学中もバイトの行き帰りも、そして遊びに行く時にも『A Long Vacation』を聞いていた。聞き過ぎで伸びてしまうことが容易に想像できたので、ダビングテープを2本作った。ちなみに『A Long Vacation』のカセットテープ版は2種類あって、筆者が持っていたのはテープ本体が白い2ndエディションだった。そういうニッチな知識も一気に甦ってくる。
その中で際立つのは、1970年代前半から2010年代前半まで、日本のミュージックシーンに何らかの形で関わり続けていたナイアガラ・サウンドの存在だ。大滝詠一さんは数々のCMソングを手がけてから「はっぴいえんど」というバンドを経て、ミリオンセラーとなった『A Long Vacation』を残した。その後も、杉 真理さん・佐野元春さんと組んだ「ナイアガラ・トライアングル」でヒット曲を飛ばし、松田聖子さんの『風立ちぬ』やキムタクと松たか子さんのトレンディドラマ『ラブジェネレーション』の主題歌『幸せな結末』の作曲でも知られている。
その大滝詠一さんが亡くなってからすでに7年4か月が経過した今、『A Long Vacation』のリリース40周年記念盤が発売されている。ナイアガラ・サウンドの神髄は、新しい形で残されていくようだ。これは、買わないわけにはいかないな。
そんな一田さんの「聞く」スキルによって、新たな自分を発見できたと、モデルでバンドCzecho No Republicとしても活躍されているタカハシマイさんとのエピソードで語られていました。その記事はウェブメディア『@Living』で現在も公開されているので、合わせて読むと一田さんの「聞く」スキルを実感できますよ。