いつまでも「数学は苦手」で大丈夫ですか? この一冊を読めば、数学のことが好きなる! 『決定版 数学のすべてがわかる本』

「すべてがわかる本」シリーズは、 科学の理論やジャンルをテーマとする人気レーベル。 網羅的な構成、 徹底的に嚙みくだいた説明、 そして豊富な図版により、 そのテーマの「全体像」をわかりやすく提示しています。 今回のテーマは、 「数学」。 人類史とともに発展してきた数学の歴史をたどり、 偉大な数学者が解き明かしてきた定理や法則を通して、 この世のすべてをつかさどる最強学問の面白さに迫ります。

 

苦手だった人も一気にわかる! これからの時代に必要な数学の知識

本書は、 「学生時代から、 数学が嫌いだった」という苦手意識を引きずっている人に、 「数学とはどんなものか」を楽しみながら一気につかんでもらうために作られた本。 数学は、 現代のあらゆるテクノロジーを支えています。 「数学、 何だかいやだな」という苦手意識をもったままでは、 新しい話題や社会の流れについていけず、 取り残されてしまいます。

 

そこで本書では、 「人類は、 どのようにして数学を作ってきたのか」という歴史ドラマにフォーカスして、 数学の全体像を紹介します。 真理の追究に情熱を燃やした天才たちの物語や、 ロマンに満ちた壮大な理論を、 面倒な計算などに悩まされることなく、 存分に味わえるのが特徴。 本書を読むだけで、 「数学、 何だかいやだな」という考えは、 きれいさっぱりなくなるはず。

 

豊富な図版・図解で「イメージ」がつかめる!

「すべてがわかる本」シリーズは、 図解や図版が豊富に掲載され 「難しいはずの内容も、 感覚的にわかる」のが特長です。

この特長は、 抽象的な話になりがちな「数学」というテーマだからこそ絶大な効果を発揮します。 文章だけではわかりづらい内容も、 ひと目でイメージをつかみ、 納得できるのです。

 

 

数学の歴史にまつわる写真も多数掲載。 人類と数学との、 何万年にもわたるかかわりに思いを馳せることもできます。

 

 

数学史を彩る天才たちも、 画像つきで紹介しています。 彼らのおりなす人間ドラマが、 身近に感じられることでしょう。

 

「学び直し」にも最適な新鮮な切り口

古代の数学から現代の最先端理論まで、 歴史を追って、 図解を交えながら徹底的にやさしく紹介する本書は、 これまでになかったタイプの数学「超」入門書です。 単に「学校数学」を復習するような内容ではないので、 大人の「学び直し」としても、 新鮮な気持ちで楽めます。 「どうして、 マイナスとマイナスをかけるとプラスになるの?」 「2乗してマイナスになる『虚数』なんて、 本当にあるの?」 こんな「素朴な疑問」にも、 「学校では教えてくれないやり方」で答えてくれます。

 

 

「数学、 何だかいやだな」を引きずりつづけるのと、 この一冊を読んで「数学って面白いよ」と言えるようになるのと、 どちらがいいですか? ぜひ本書で「数学のすべて」をつかんで、 「数学がわかる人生」「数学が楽しめる人生」を手に入れてください。

 

[商品概要]


決定版 数学のすべてがわかる本

著者: 科学雑学研究倶楽部 編
定価: 693円 (税込)

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Twitterでバズったお手軽レシピはほんとにお手軽だった!

僕は冬場はそれなりに料理を作るが、暖かくなるとあまりしなくなる。理由は単純で「面倒くさい」から。冬場だったら、大きな鍋にカレーだったり煮込み料理だったりを作って、それを2、3日食べるのだが、今の季節になってくるとそういう気分でもなくなる。また、最近は仕事が忙しく料理するのが億劫になってしまい、毎日、納豆にしそ、大根おろし、なめ茸をご飯にかけて食べている。

Twitterで一番バズった「無限湯通しキャベツ」

こんな面倒くさがりな僕でもちゃちゃっと料理できるものはないか。そんな気分で手に取ったのが『お手軽食材で失敗知らず! やみつきバズレシピ 』(リュウジ・著/扶桑社・刊)だ。

 

著者は日頃作っている簡単レシピを、2016年ごろからTwitterに投稿。それが大人気となり、本書が出版されたようだ。そのトップを飾るのが「無限湯通しキャベツ」。これがとても簡単そう。材料と作り方は以下の通り。

 

材料(2人分)
キャベツ…1/4個

A
シラス…25g
ごま油…大さじ1
うま味調味料…小さじ1/3
塩・黒コショウ…各適量

1 キャベツは千切りにし、ザルに入れる
2 熱湯をまんべんなく回しかけ、水気をきってボウルに入れる。
3 Aを加えて混ぜ、器に盛る。

(『お手軽食材で失敗知らず! やみつきバズレシピ 』より引用)

 

こりゃ簡単だ(笑顔)。最近無限キャベツという言葉をよく聞くなと思っていたけれど、もしかしたらこれが起源なのかもしれない。しかし、キャベツにお湯をかけるという発想、僕にはなかった。これなら、僕でも作れそうだ(キャベツの千切りが面倒くさそうだけど、なぜか専用器具持ってるし)。

 

ほうれん草を生で食べる方法

そのほか、気になったのが「スイーツトマト」。あまり甘みがないトマトも、砂糖をまぶして冷蔵庫で冷やし、ポン酢で食べるとおいしくなるらしい。トマト大好きなので、これもぜひチャレンジしたい。

 

もうひとつ気になったのが「ポパイサラダ」。ほうれん草を生で食べるレシピだ。ほうれん草は、サラダ用のものしか生食できないと思っていたが、どうやら違うらしい。

 

ホウレンソウは切って水に長めにつければ、シュウ酸が抜け、生で食べられます。香ばしいピーナッツをプラスして!

(『お手軽食材で失敗知らず! やみつきバズレシピ 』より引用)

 

なんと、普通に売っているほうれん草も生で食べられるのか……。知らなかった。ほうれん草は好きなのだが、茹でるのが面倒(どれだけ面倒くさがるのか)なので食べなかったが、ただ水につけるだけなら僕でもできる!

 

面倒くさがりでも手軽に作れそう

本書には、もうちょっと手の込んだ料理も多数掲載されている。どれも材料少なめ、手順少なめなので、料理ができる人にとっては非常に簡単だと思う。

 

時間をかけた手の込んだ料理ももちろんいいが、冷蔵庫にある残り物で、ささっと料理ができるというのが、ほんとうに料理上手なんだなと思う。僕はそうはなれないと思うが、まずは無限キャベツくらいは面倒くさがらずに作れるくらいにはなりたい。そう決意した梅雨の休日でした。

 

 

【書籍紹介】

お手軽食材で失敗知らず! やみつきバズレシピ

著者:リュウジ
発行:扶桑社

フォロワー7万人突破! 彼も旦那さんも大喜び! 3ステップでスーパー・コンビニ食材が絶品おかずに大変身。安い、早い、美味い129レシピ。Twitterで今一番「バズってる」料理家の待望のレシピ集。

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光浦靖子から学ぶ折り返し地点から人生を楽しむためのヒント

人生100年時代といわれます。人生が長くなったので、時間もたくさんあります。タレントの光浦靖子さんは50歳という人生の節目でたくさんの新しいことを始め、生き生きと過ごされています。エッセイ集『50歳になりまして』(文藝春秋・刊)には毎日を楽しく過ごすためのヒントがたくさんありました。

アラフィフで留学や歯列矯正

人生が100年だとすると、50歳はその折り返し地点。この記事を書いている私も50歳ですが、迎えた瞬間、今までのように人生がいつまでもあるとは思えなくなりました。次第に残り少なくなっていく人生をどう過ごそうか、真剣に考えるようにもなりました。

 

光浦さんは、2021年7月から1年間、カナダに留学されるそうです。彼女は東京外国語大出身ですが、英語が話せないことがコンプレックスだったのだとか。その前から英会話教室にも通い、コツコツと勉強されていて、留学したいと前々から考えていたそうです。

 

さらに、留学前に歯列矯正にもチャレンジ。その理由がカナダでモテて恋愛をしたいからというのだから、とても素敵です。実は光浦さんは、恋愛をした経験が一度もないのだとか。50歳になってなお、留学に矯正に恋愛にと積極的に挑戦されている姿に励まされます。

 

人生に遅すぎるということはない

私の周りでは、50代で通信過程ではなく通学過程で大学院に進学した人もいますし、スキーを始めた人もいます。50代で起業した人もいます。実は、2020年の日本の起業者の平均年齢は43.7歳(日本政策金融公庫調べ)。この年齢は年々上がり続けているそうで、人生100年時代を感じさせられます。

 

人生に遅すぎるということはない。学ぶのに年を取り過ぎているということはないという言葉もあります。恋愛に年齢は関係ないという人もいます。多様化の時代となり、自分が今までやりたかったことを叶えやすくなっているのです。

 

自分の中の穴を埋める

光浦さんは、人生100年と知った時、怖かったのだとか。「あと何十年、一人で生きてゆかなきゃいけないんだ? 働き続けなくちゃいけないんだ?」(本文より)と感じたそうです。これは同世代の女性だったら「そうだよねえ」とうなずきたくなります。人生はため息が出るくらい長くなっているのですから。

 

でもそこからが素敵で、光浦さんは学習に逃げ腰になった大学生時代に立ち戻り、改めて学び直すことを決意されました。彼女は大学生活に悔いがあり、もっと勉強しておけばとずっと思っていたのかもしれません。だからこそ英語に挑戦し、自分自身の心に長いこと空いていた穴を埋める作業をされているのでしょう。

 

勇気ある一歩を

この、過去の自分の穴埋め作業は、今後流行するのではないでしょうか。現代人は「前々から、私はあれをやってみたかった」「自分はこれを勉強してみたかった」と思い返し、それを実行する時間があるのです。むしろ足りないのは思い切って始める勇気なのです。

 

光浦さんは、カナダ留学後も、レギュラー出演しているラジオ番組に現地からリモート出演予定だそうです。とても素敵で新しい試みです。彼女のひたむきな生き方に触発され、新たに何かを始める人も、大勢出てくるのではないでしょうか。

 

 

【書籍紹介】

50歳になりまして

著者:光浦靖子
発行:文藝春秋

コロナ禍の変化、更年期のとまどい、そして老後の話…話題沸騰の「留学の話」を含む、書き下ろしエッセイ集。友達、先輩、憧れの人たちの笑い顔とかわいい動物が満載の最新ブローチ集! 手芸エッセイ、大久保佳代子・目つきの悪い猫・純情乙女なブタブローチの作り方も収録。

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ミッキーマウスとチャップリンの意外な関係性は? チャップリンとディズニーが交差した時代~注目の新書紹介~

書評家・卯月 鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

 

 

真のエンターテインメントとは?

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。書評やコラムの仕事をしていると、エンターテインメントとは何かというテーマにぶつかることがよくあります。

 

「entertainment」の語源はラテン語に由来し、「enter(間に)」と「tain(つかむ、保つ)」と「ment(動詞を名詞化する接尾語)」に分かれます。諸説ありますが、人をもてなし続ける、人の心をつかんで離さないといったニュアンスを持つそうです。一流のエンターテインメントは一度見たら忘れられない、人生に残るものなのでしょう。

新書『ディズニーとチャップリン エンタメビジネスを生んだ巨人』(大野裕之・著/光文社新書)の著者は、日本チャップリン協会会長で、脚本家・演出家でもある大野裕之さん。チャップリンの遺族からも信頼があつく、日本でのチャップリンの権利の代理店も務めています。著作『チャップリンとヒトラー』ではサントリー学芸賞を受賞。その大野さんが、今回はチャップリンとディズニーの関係性に迫っています。

 

チャップリンに憧れたディズニー

第1章「チャーリーとウォルト」では、チャップリンとディズニー、2人の生い立ちが紹介されます。チャップリンはイギリス・ロンドンで芸人夫婦の息子として生まれ、極貧の幼少期を過ごし、喉を壊した母に代わって5歳で初舞台を踏みました。25歳でアメリカの映画に出演してチョビ髭に山高帽、ステッキがトレードマークのキャラクターに扮してデビュー1年目で人気を博しています。

 

一方、チャップリンの12歳年下のディズニーは、父の都合でシカゴ、アメリカ中西部の農園やカンザスシティを転々とする少年時代を送りました。読んで驚いたのは、映画で見たチャップリンに憧れ、地元のそっくりさんコンテストで見事優勝したというエピソード。ディズニーがいかにチャップリンを好きだったかがわかります。

 

そんなふたりの接点が語られているのが第3章。ハリウッドでアニメーション映画の制作会社を設立したディズニーは、実はチャップリンに会えないかと、彼がいる撮影所の周りをうろつく、いわば「出待ち」をしていたとか。

 

そして、ミッキーマウスのキャラクター形成にも実はチャップリンの影響があったことが、ディズニー本人の証言によってわかります。「私たちはチャーリー・チャップリンにかなりの借りがある」。ミッキーマウスに、チャップリンの切なさや小さくつつましい様子、それでも頑張ろうとするイメージを投影したそうです。もしチャップリンという存在がなければ、ミッキーマウスも違ったキャラクターになっていたかもしれません。

 

1932年、2人はついに出会います。そこでチャップリンはディズニーの才能を称え、ある意外なアドバイスをしました。それは「自分の作品の著作権は他人の手に渡しちゃだめ」というもの。現在のディズニー社の、権利を重視しキャラクターイメージを守るスタンスに通じていますね。

 

意気投合したふたりですが、やがてヨーロッパでファシズムが勃興した1930年代後半から第二次世界大戦にかけて思想はすれ違い、絆は失われていくことになります。そのあたりの経緯が書かれた第5章「戦争 二人の別れ」は、エンタメとプロパガンダについて非常に考えさせられる内容でした。

 

当時の資料や証言も引用され、20世紀エンタメ界の巨人ふたりが残した功績がわかりやすくまとめられている1冊。比較して語られることが意外に少ないチャップリンとディズニーを並べることで、さまざまな角度から“エンタメの本質”が見えてきます。比較文化論ならぬ比較人物論として、知的好奇心が満たされました。

 

 

【書籍紹介】

『ディズニーとチャップリン エンタメビジネスを生んだ巨人』

著者:大野裕之
発行:光文社

ディズニーの生涯の野心は「もう一人のチャップリンになること」だった。俳優の道を諦めた代わりに、彼は「もう一人のチャップリン」をアニメーションの世界で創った。それがミッキーマウスだ。――固い友情と時代に翻弄された離別。知られざる二人の師弟関係を豊富な資料で明らかに! エンタメビジネス創世記としても読める一冊。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

世界で一番詳しい最新の占星術を、初心者からプロの研究家まで堪能できる『愛蔵版 サビアン占星術』

サビアン占星術は、ひとつの星座を30に分割し、そのひとつひとつに詳細な解説をつけた世界で一番詳しい最新の占星術です。『愛蔵版 サビアン占星術』は、星座1度につき1ページ、5度ごと、星座全体など、 サビアンシンボルの詳細な解説を施し、巻末には、2042年までの天文暦を網羅した、初心者からプロの研究家まで存分に堪能できる占いファン必携の書。

 

 

360のシンボルが、 あなたの運命を示す!

本書の主な内容

I サビアン占星術の基礎
II サビアン占星術の構造
III サビアン占星術でさらに詳しく占う
IV 実占例から学ぶサビアン占星術
V サビアンシンボル解説大全
VI サビアン占星術についてよくある質問と回答

 

サビアンシンボルを詳細に解説!

占星術でのひとつのサインは、それぞれ30度の幅を持っているのですが、サビアン占星術は、この度数の1度1度に意味を詳しく与えた細密な占星術で、それぞれの度数に、サビアンシンボルという詩文のようなキーワードがつけられ、この詩文の象徴的な意味を考えることで真の意味を探るものです。

 

本書では、このサビアンシンボルを、1度につき1ページで詳細に解説しており、その詳細さは、まさに「日本でいちばん詳しいサビアンシンボルの解説書」といえます。

 

巻末には 2042年までの天文暦を網羅!

巻末資料として、出生恒星時表、出生地時差表、太陽の天文暦の詳細なデータも掲載されています。

 

 

【商品概要】

愛蔵版 サビアン占星術

著者: 松村潔
定価: 5500円 (税込)

【本書のご購入はコチラ】
・Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4651201091/
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皮膚を刺激して「オキシトシン」を分泌させれば「幸せ」になれる!

誰もが幸せになりたいと願っているでしょう。けれども「幸せとは何か」と改めて自分に問うと、よくわかりません。もちろん、私も幸せを求めて日夜努力しているつもりです。それでも、やはり、生きているのは辛くて、苦しい……。

 

周囲に不満があるわけではありません。家族はそれなりに元気ですし、あたたかな心をもった友人や知人に恵まれています。これで文句を言ったら罰が当たるとよくわかっています。わかってはいますが、生きるのが苦しいのは変わりがありません。そもそも「幸せとは何か」わかっていないのが一番の問題です。

幸せが生きるのに邪魔って本当?

引き寄せる脳 遠ざける脳』(中野信子・著/セブン&アイ出版)は、「幸福とは何か?」を教えてくれる本です。著者・中野信子は、脳科学者であり医学博士であり、認知科学者でもあります。現在、東日本国際大学で教授として教鞭を執りながら、多くのテレビ番組に出演しているのでご存じの方も多いでしょう。彼女は幸福に脳科学者としてアプローチします。そこがユニークで面白いのです。

 

脳科学の観点で見ると、「幸せを感じる」という営みは、脳と体が絶えず行う相互作用に過ぎません。そのとき、脳で分泌される神経伝達物質である「オキシトシン」の作用が、幸せの感情をもたらすことが明らかになっています。

(『引き寄せる脳 遠ざける脳』より抜粋)

 

「えっ、そうなの?」と驚きつつも、著者に従ってついていけば幸せの正体をつかみ、自分を幸せにすることができると信じたくなります。幸せについて、著者はさらに驚くべきことを教えてくれます。

 

実は、人間の生命活動を維持するためだけなら、「幸せ」はとくに必要なものではありません。いや、むしろ邪魔になるものとさえいえます。

(『引き寄せる脳 遠ざける脳』より抜粋)

 

再び、「えっ、そうなの?」となります。幸せが邪魔だと言われると戸惑いますが、もし、幸せであることに満足してしまうと、もう何もしなくていいとなり、向上心が欠如してしまうというのです。そう言われるとそうかもしれません。幸せを求めて何かをすること、そこが肝心なのでしょう。

 

 オキシトシン、それは何?

幸せを感じているとき、人の脳にはオキシトシンという神経伝達物質が分泌されるとのだそうです。これまで幸せって何だろうと考えてきましたが、分泌物が鍵だったと知ると、なぜか心が楽になります。恵まれていると知りながら、生きるのが苦しいと感じる自分を恥じていましたが、きっとオキシトシンが足りなかったのでしょう。そう考えると、「オキシトンを増やせばいいのだから大丈夫〜〜」と自分を励ますことでき、それだけでなんだか幸せになってきます。

 

オキシトシンには不思議な力があります。ラットを使った実験でも、背中に傷をつけたラットにオキシトシンを注射すると、傷の治りが早くなるという結果が出たそうです。他にも、オキシトシンにまつわる衝撃的な実験を著者は示してくれます。

 

現在では倫理的にとても許されない実験が、第2次世界大戦後のスイスで心理学者のルネ・スピッツによって行われました。

これは、孤児院の新生児を対象に、食事や排泄などの日常の世話はするものの、誰も話しかけず抱っこもせず、栄養はミルクで与えることを続けて結果を観察するというものでした。つまり、スキンシップを与えることを続けて結果を観察するというものでした。

結果は衝撃的なものでした。

なんと55人いた子どものうち、27人が2歳までに亡くなり、残ったなかの17人があまり成長できず、成人を迎える前に死んでしまいました。さらに、成人後も生き続けた11人も、知的水準が低かったり、知的障害が見られたり、体が病弱だったりしたそうです。

(『引き寄せる脳 遠ざける脳』より抜粋)

 

つまり、赤ちゃんは栄養を与えてもそれだけでは生きていけず、抱き上げて可愛がってこそ、すくすくと育つのです。

 

振り返ってみると、私は息子が赤ん坊のとき抱いてばかりいました。ベビーベッドに寝かせるとグズグズいうからです。「抱き癖がつくわよ」と何度も注意され、「私は駄目な母親だろうか」と、悩んだこともありました。けれども、もし、赤ん坊が愛情を食べて育つのなら、あれでよかったのだと、40年近く前の子育てを肯定的にとらえることができ、幸せな気持ちになりました。オキシトシンが分泌されたのかもしれません。

 

オキシトシンを得るために

では、オキシトシンの分泌を増やすために、私たちは何をしたらよいのでしょう。著者は日常生活の中で、どうすべきか教えてくれます。それは意外に簡単なことでした。オキシトシンを出すためには皮膚への刺激やスキンシップが大切なので、それを満たすようにすればいいというのです。

 

たとえば、心地よい服を着ること、肌触りの良いタオルを使うこと、さらには、入浴も効き目があるといいます。音楽を聴く、とくにコンサートなどで、皮膚感覚に訴えかけてくる音を感じると、オキシトンシンが分泌されるそうです。確かに、私も肌が心地よいと幸せに包まれます。キーワードは「肌」にあったのです。

 

息すって吐く、それで上出来と思いたい

多くの人が「自分はなぜ生きているのだろう」と問い続け、胸つまる思いを抱えながら暮らしているのだと思います。それは人間にとって永遠のテーマであり、私たちを進歩させる問いでもあるのでしょう。同時に、私たちを不安に陥れ、苦しみの原因となることも多いに違いありません。

 

私の周囲には、鬱病や神経症を抱え苦しむ人がたくさんいます。私に悩みをぶつけて来る人もいます。「どうしてあなたはいつもそんなに幸福そうな顔してるの?」とか、「よく眠れていいよね」やら「恵まれてるからだよね〜」と、明らかに悪意に満ちた言葉を投げかけられることもあります。

 

そんなとき、私は返答に困りつつも、のんきでへらへらしてるのは事実だしな〜と、落ち込みます。けれども、私にだってやはり悩みや苦しみはあります。死ぬほど悩んで眠れなくなり、「私、心を病んでいるのかな」と、思ったこともあります。ところが、ある時、息子に言われました。

 

「母さん、生きているだけでいいじゃん。息すって、吐いて、それだけじゃ、駄目なの? それで充分だよ」と。その時、私は「えっ!そうか」となりました。

 

以来、人間は生きているだけで、たいしたものなのだと、自分を励ましてきました。今回、『引き寄せる脳 遠ざける脳』を読み、さらにその思いを強くしています。一日、ただ息をすって吐くだけでいいのです。それだけでもけっこう大変です。まして、ご飯を作り、掃除をして、原稿を書いた日は、「もう上出来、上出来。できすぎ〜」と、自分を褒めるようにしています。

 

一日をどうにか乗り切り、ちょっとでもオキシトシンを分泌できたらそれで十分……。いつかきっと幸福を引き寄せる脳を得ることができると信じて、今日を生き抜きましょう。

 

 

【書籍紹介】

引き寄せる脳 遠ざける脳

著者:中野信子
発行:セブン&アイ出版

人は誰もが「幸せになりたい」と願うもの。脳科学的に見れば、「幸せを感じる営み」とは脳と体が絶えず行う相互作用といえます。脳の機能と使い方を知り、「幸せホルモン」である「オキシトシン」を上手に活用することで、人は幸福感に満ちた人生をつかみ取れる。脳科学者・中野信子先生による、まったく新しい「実践・幸福論」。

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梅雨の時期なんだかダル〜い……そんなお悩みを抱えた「雨ダルさん」の原因は気圧だった! でも、どうしたら改善できるの?

天気のせいで体がダルい、天気のせいで調子が出ない……。そんなお悩みを抱えた「雨ダルさん」が増えているようです。

 

天気によって気分の浮き沈みがある、肩こりが悪化する、雨が降る前・最中に頭痛がする、耳鳴りがするなど、その症状はさまざまですが、最近では「気象病」「天気痛」とも呼ばれ認知されるようになってきました。天気のせいで体調が悪くなる人の中には「どうして私だけ?」と悩んでいる人も多いはず!

 

今回はそんな人にぜひ読んでもらいたい一冊『「雨の日、なんだか体調悪い」がスーッと消える「雨ダルさん」の本』(佐藤 純・著/文響社・刊)をご紹介します。少しでも症状を緩和して、梅雨時期でも快適に過ごせるようにしましょう!

 

体感しにくい「気圧」が、雨ダルさんの原因に

天気の変化によって変わるのは主に「気温」「湿度」「気圧」の3つですが、温度と湿度については、痛みとの関係について昔から研究が進められ、相関関係があると証明されているそうです。

 

それに「暑くなってきたな〜」とか「ジメジメするなぁ〜」というのは誰もが感じられるものですが、「あぁ〜気圧下がってきたな」というのはなかなか感じにくいもの。しかし、ある実験で「気圧」が痛みを悪化させるということがわかったそうです。

 

慢性痛に悩む患者さん6人に人工的に気圧を操作できる部屋に入ってもらい、気圧を下げはじめたとたん全員の痛みが強くなりピークへと達したのです。天気の要素のうち「気圧」の変化で痛みは悪化するーー気圧が天気痛の原因であることがはっきりと証明されたのです。

(『「雨の日、なんだか体調悪い」がスーッと消える「雨ダルさん」の本』より引用)

 

気圧の変化によって雨ダルさんたちの体内では何が起こるか? というと、自律神経が乱れ、交感神経が過剰に働いて血管が収縮。それにより血行が悪くなり頭痛やめまいなど、体調不良を起こしてしまうそうなのです。自律神経が乱れず、正常に働いていれば気圧の変化があっても上手にスイッチできますが、乱れたままなのが雨ダルさんということ。

 

ちなみに著者の佐藤 純さんが、ウェザーニュースと一緒に共同開発した『天気痛予報』では、気圧変化を元にした天気痛予報を無料で見ることができます。自律神経が乱れず、健康でいることが一番ですが、今日からいきなり健康になるぞ! というのも難しいので、「今日の頭痛は天気が原因か」と知るところから始めてみましょう。

 

「雨ダルさん」は治らない? 仕方のないもの?

気圧変化によって自律神経が乱れて雨ダルさんになることはわかりましたが、エアコンで温度や湿度をコントロールすることはできても、気圧は簡単にコントロールできません。じゃあ、一生この痛みと付き合うしかないのか……と諦めてはいけません。もしかしたら「耳」の血行をよくすることで症状が緩和できるかもしれませんよ!!

 

そこで、ぜひ実践していただきたいのが耳の血行をよくすること。なぜなら、気圧の変化を察知するのは耳内部の内耳であり、第1章でも述べたような血行の悪化が雨ダル症状に関係しているからです。予兆を感じた段階で、内耳の血行は悪くなりはじめているので、そこを刺激して血行をよくしようというわけです。

(『「雨の日、なんだか体調悪い」がスーッと消える「雨ダルさん」の本』より引用)

 

本書では、内耳の血行をよくするマッサージや、手軽にできる「耳温熱」の方法も紹介されています。2週間〜1か月ほど続けていくのが良いそうなので、気になる方は実践してみてくださいね! 私も耳に圧がかかっているような症状がよく出るのですが、病院に行っても原因は不明……けれどこの本を読んでいて「あ、天気と関係しているかも!」と発見し、気がついた時にマッサージを実践しています。悪化はしていないので、耳マッサージのおかげかな? と思っています。

 

効率的に予防したいなら「耳栓」もおすすめ!

気圧調整機能がついた「耳栓」を使うことで、気圧変化を感じにくくすることもできるそうです。本の中では、実際に耳栓を使ったことで約81%の人が改善を実感したとも紹介されていました。

 

う〜ん、気になる! 私も原因不明の耳症状が出始めてから、新幹線や飛行機など気圧変化が大きい乗り物に乗ると酔ってしまうようになったので、どうしたものかと思っていたのですが、こういった日常生活の中での気圧変化にも「耳栓」が効果的に働いてくれるのだとか。こんなご時世なので移動する機会は減りましたが、次に長距離移動する時には、耳栓を一緒に持っていこうと思っています!

 

他にも『「雨の日、なんだか体調悪い」がスーッと消える「雨ダルさん」の本』には自律神経の仕組みと整え方、Q&Aを用いながら雨ダル症状の解説、タオルを使った体操、頭痛薬など薬の使用方法などを丁寧に説明してくれています。

 

梅雨が終われば、今度は台風がくるので雨ダルさんにはちょっと辛い季節がやってきます。しんどくなる前に正しい知識を身につけて、対策しておきましょう!

 

 

【書籍紹介】

「雨の日、なんだか体調悪い」がスーッと消える「雨ダルさん」の本

著者:佐藤 純
発行:文響社

薬頼みの罪悪感から解放!低気圧による不調がみるみる改善! 雨の日ラクラク!

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認知症当事者の視点で描かれた話題のエッセイを読む——『全員悪人』

認知症をテーマにした小説、エッセイ、映画はとても多い。そして今、認知症になってしまった本人の立場から描かれた作品が映画でも本でも話題になっている。

 

映画『ファーザー』でアカデミー賞主演男優賞を獲得したアンソニー・ホプキンス。彼は認知症が進行する父親の役を見事に演じ、当事者の不安や苦悩、そしてその時々で見えている世界を私たちに伝えてくれた。

 

本では、『全員悪人』(村井理子・著/CCCメディアハウス・刊)。認知症になってしまった村井さんの義母と家族のドラマなのだが、全編が当事者の視点で描かれているユニークな作品で、エッセイというより小説を読んでいるような感覚なのだ。

老いるとは複雑でやるせない

唯一、著者の村井さんの言葉で書かれているのが「あとがき」で、家族の様子が変わったことに気づいたのは3年ほど前だったそうだ。義母の感情の起伏が激しくなり、些細な問題を起こすことが増えていった。意図が分からない、怒りの矛先が見えない、口論は増える……。村井さんは嫁として、変化を遂げてしまった家族と対話をし、二日と開けずに顔を見るようになった。

 

様々な人の手を借りて支援を続けているが、それは順調とは言いがたいと打ち明けている。けれども村井さんは忍耐強く義理のお母様に寄り添ってきた結果、老いる者の孤独や不安が手に取るように分かるようになったという。

 

高齢者が抱く、変化への恐れや苦しみ、孤立、それに伴う焦燥感、そんな複雑な感情のすべてが、その表情から見て取れる。普通に出来ていたことが、出来なくなってしまう悲しさ。プライドを踏みにじられたと思い、募る他者への怒り。老いるとは、想像していたよりもずっと複雑でやるせなく、絶望的な状況だ。

(『全員悪人』あとがきから引用)

 

村井さんは、そんな彼らの一番の味方であり続けたいと思っているそうだ。それは人生の先達に対する敬意に近い感情だとも記している。

 

知らない女が毎日家にやってくる

物語はこんな一文ではじまる。認知症が進んでいく高齢者の世話を家族だけではみられなくなったとき、ケアマネージャーやヘルパーなどの手を借りなくてはならない。介護のプロたちは、誠意を持ってお年寄りたちに接し、出来なくなってしまった家事などもこなしてくれる。ありがたいことだが、認知症になってしまった本人には別の感情が渦巻くようだ。

 

女が来ると居場所がない。邪魔にされているのだから、仕方がない。用がないと、能力がないとそれとなく言われているのだから。知らない女に家に入り込まれ、今までずっと大切に使い、きれいに磨き上げてきたキッチンを牛耳られるなんて、屈辱以外の何ものでもない。私は失格の烙印を押された主婦になった。

(『全員悪人』から引用)

 

村井さんがお義母さんを観察していて、支援してくれている人々に対し、きっとこんな風に感じているに違いないと、認知症当事者の気持ちを代弁している。本書は途中の解説などはなく、すべて本人の混乱したままの胸の内を打ち明けるように進んでいく。

 

お父さんがロボットに?

悲しいことだが認知が進んでいくと家族のことも分からなくなっていく。村井さんのお義母さんは長年連れ添った伴侶さえも、ときどきロボットに見えていたようだ。病気で入院が長引いたお義父さんが家に帰ってきたのに、それは偽者のロボットだと思い込んでしまったのだ。お義母さんは本物そっくりのロボットを「パパゴン」と呼んでいたとある。

 

ある日、偽者のくせに先に風呂に入り、しかも長湯をしていることに腹を立て息子に電話をする。

 

「今、お父さんに似た人がお風呂に入っているんやけれど、お父さんやないように思う」と私がそれとなく言うと、息子は「えっ?」と言って、驚いた様子だった。(中略)

「それやったらかあさん、今からもういっぺん風呂に行って、そのパパゴンとかいう偽者の顔を見てきたらええやん。左の目の上に傷があったら、それは間違いなく親父やから」(中略)

確かに傷がある。なんて完璧なロボットだろう。敵ながらあっぱれとは、こういうときに使う言葉なのだろう。

(『全員悪人』から引用)

 

さらに、家に頻繁に泥棒が入ると思い込んだり、ケアマネやデイサービスの職員がお父さんと浮気をしていると思い込んでしまったり、認知症当事者はどんどん自分を追い込んでいく。そして、ある夜、悪いのはすべてロボットのせいだとテレビのリモコンでパパゴンの額を叩いてしまう。が、その瞬間に、なんとパパゴンは本物のお父さんに変わっていて、ハッと気がついたのだそうだ。これらは作り話ではなく村井家で実際に起こった出来事で、すべて認知症という病気がさせていることなのだ。

 

白衣の人も悪人に

村井さんのお義母さんは、華道の先生だった。最近、生徒さんが来なくなったのはコロナが原因と思っている。主婦としても、お花の先生としても完璧に生きてきた本人には、認知症は受け入れがたい事実だ。病院に行ったときのエピソードがこんな風に綴られている。

 

「(前略)今から、お母さんには本当のことを、正直に言いますね。最近、お母さんの様子が変わってしまったと、家族のみなさんが心配しておられます。いろいろなことを忘れたり、家族のことがわからなくなったり、お父さんに対して腹を立てたりしたみたいですね。覚えていらっしゃいますか?」と白衣の人が聞いてきた。

はっ? それは私の話ですか? それともお父さんのこと?

(『全員悪人』から引用)

 

夫であるお父さんのことは軽い認知症らしいとは思っているが、まさか自分のこととは信じない。白衣の人は一時的な入院を勧めるが、悪いところはひとつもないのにと当人は傷つき、涙が頬を伝う。そして入院するくらいなら、故郷へ帰るとまで言い出し拒否する。

 

誰が戻ってくるもんか。こんな場所には一秒でも長くはいたくはないと、丸い椅子から勢いよく立って、出口に急いだ。あほか、舐めたらいかんぜよ!

(『全員悪人』から引用)

 

村井さんならではの軽快なリズムの文章で、ときにはクスッと笑える箇所もあるが、実際に認知症の人と接し、対応していくことはどれほど大変だろうとも思う。家族としては忍耐の繰り返しに違いない。

 

地域包括支援センターの職員が村井さんにこう言ったそうだ。

 

「認知症はね、大好きな人を攻撃してしまう病なんですよ。すべて病がさせることなのです」と。

 

今現在、家族に認知症患者がいて悩んでいる人も、これからに不安を抱いている人も、この病気をよく知り、当事者の気持ちを理解するためにも読んでおきたい一冊だ。

 

【書籍紹介】

全員悪人

著者:村井理子
発行:CCCメディアハウス

『兄の終い』のエッセイストが書く、認知症をめぐる家族のドラマ。

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ももクロがグラビアジャック!? Hey! Say! JUMPの中島裕翔さんのスペシャルカメラ対談も必見!「CAPA 7月号」本日発売

「CAPA 7月号」は本日発売。

 

巻頭特集は「カメラ・レンズ・撮影アクセサリー 厳選83アイテム」、 専門家や目利きのプロが本音で勧める厳選アイテムに迫る企画です。 第2特集は「AF完全チェック」。 カメラ機能の中でも昨今、 進化の著しいAF機能。 6メーカー11機種のミラーレスカメラのAFを徹底検証します。 このほか、 夏の撮影テクニック「光が描き出す水風景」や、 2021~2022年のカメラ業界を先読みする「新型カメラ大予言!」など、 カメラ・写真を楽しむための記事が満載です。

 

【特集】
カメラ・機材購入スペシャル 夏買い! 専門家の厳選83アイテム

緊急事態宣言が明けたら、 楽しい撮影シーズンがきっと来るはず。 今のうちに撮影機材の充実を図りましょう! 今回の特集は、 専門家による厳選アイテムを大紹介します。 カメラやレンズ、 撮影アクセサリーも合わせて、 買って間違いのない厳選83製品を全24ページにわたって詳細に解説します。 十分な性能を備え長く使える優良カメラ、 撮影が楽しくなる交換レンズ、 最新ストロボやLED照明など写真表現のためのアクセサリー、 そしてパソコンモニターやSSDなど撮影後に活躍するPC周辺機器、 最新ドローンまでぎっしり掲載。 夏のお買い物前に必読の大特集です。

 

•目指せバチピン! 「AF」完全チェック

動物の目にも対応する「瞳AF」など、 目覚ましい進化を遂げるAF機能。 しかし、 実際にこの1点にバチピンで合わせたいときに、 最新のAFは果たしてどこまで期待に応えてくれるのでしょうか? また、 AFはどこまで理想のピントを提供してくれるのか。 ‟機能チェックスペシャル”と題した本記事では、 そうしたバチピン性能を完全チェック。 キヤノンやソニーなど6メーカー、 11機種のミラーレスカメラのAFを徹底検証します!

 

• 完璧露出と超絶フレーミングを目指す! 光が描き出す水風景

梅雨が明けて本格的な夏が始まると、 深山の渓谷では光が描き出すフォトジェニックな光景が見られるようになります。 その姿を捉えるには、 思い切ったフレーミングと露出調整がカギとなります。 そこで、 水の動きを大胆に捉える写真家・高橋宣之さんに撮影テクニックを聞きました。 光を生かす3つのポイントに注目しつつ、 解説します。

 

このほか、 表紙を飾った 「ももいろクローバーZ」が後半のグラビアでも6ページにわたって登場 。 しかも、 しおりんが自らメンバーを激写。 撮影のメイキングカットなど、 グラビア撮影の舞台裏も見ることができます。

 

また、 カメラ好きで知られる中島裕翔さん(Hey! Say! JUMP)と赤城耕一さんのスペシャルカメラトーク もお届け。 二人でレトロカメラと最新機材を試しまくりました。 人気グラビア連載「Momoco写真館、 ふたたび」では、 ‟のりピー”の愛称で知られる酒井法子さんの未掲載カットを公開します。

 

[商品概要]


CAPA 2021年7月号

著者: CAPA編集部
定価: 1100円 (税込)

 

【本書のご購入はコチラ】
・Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B096RFN7NF/
・楽天 https://books.rakuten.co.jp/rb/16766363/
・セブンネット https://7net.omni7.jp/detail/1227582081

世渡り上手は言い方で「損」をしない!好感度をUPさせる言い換えのフレーズ652

ビジネスはお願い事で成り立っていると言っても過言ではない。上司に、同僚に、部下に、そして取引先に。かく言う私も先日、あるデザイナーさんに少々急な案件を依頼したところ、こんな返信が届いた。

 

「◯日の夕方まではちょっと厳しいですが、なんとか間に合うように全力で頑張ります!」

 

私はこのメールを読んで、タイトなスケジュールを詫びると同時に、彼の伝え方のテクニックにいたく感動してしまった。

 

言葉の裏側に潜むホンネを探れ!

というのも、この一文の裏側にはたくさんの本音が見え隠れする。

 

「いきなり◯日の夕方までって言われても、他の仕事も山程あるし厳しいに決まってるだろ」
「でも、いつも仕事を評価してもらえてるし、できるだけ期待に応えたい」
「締切希望日までに納品するつもりだけど、タイトなスケジュールは今回だけにしてほしい」

 

本人に確認したわけではないが、おそらくこのあたりではないだろうか。相手の要望を受け入れつつも、自分の主張はしっかりと伝える。しかも角が立たないように。このあたりのさじ加減ってなかなか難しいが、彼はなんなくやってのけた。

 

コロナ禍で人と会う機会が減り、メールやSNSでの連絡が増えた昨今、些細な言葉の言い回しや表現ひとつがとても大きな意味を持つ。言い方や伝え方のチョイスによって、相手を快にも不快にもさせてしまうからだ。

 

先のデザイナーのように、好感度を下げないで自分の主張を伝えられるお願い上手になりたいけれど、どんな言葉のチョイスをすればいいか皆目見当がつかない! そんな人にお薦めしたいのが、『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』(石原壮一郎・著/ワン・パブリッシング・刊)である。巷に数多ある言い方ハウツー本の中で、一際異彩を放っている一冊だ。

 

事を荒らげず、自分の想いを伝えるには?

『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』が、他と異なる点。そのひとつが、紹介されているフレーズ数だ。全652フレーズとは、結構な数ではなかろうか。

 

頼み方、断り方、謝り方、ホメ方、怒り方、承諾、同意、反論、誘い、感謝の全10パートにわかれていて、きっと誰しもが直面する日常生活の中のシーンにおける、絶妙にうまい言い方を指南してくれている。

 

そしてもうひとつ、本書の大きな特徴は、おすすめのフレーズを紹介すると同時に、その言葉の裏側に潜む本音を解説しているところにある。たとえば「仕事関係の相手に反論する」ページを見てみると、

 

「念のための確認なんですけど」

ホンネ「そうじゃないだろ。しっかりしてくれよ、まったく」

【解説】取引の内容や条件が打ち合わせと違っていたり、上司が勘違いをもとに指示をしてきたりしたときに。相手の間違いをメールで指摘するときは、「ご確認いただけますでしょうか」が便利。

【発展】相手が間違いに気づいたら、「いえ、私のほうも記憶があいまいで」と下手に出ておく。「ほら、やっぱり」という顔をするのは禁物。

(『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』より引用)

 

といった具合だ。

このように、すべてのフレーズにホンネ・解説・発展が書かれているので、相手との関係性を崩さずに相手に自分の想いを伝えたいとき、どのフレーズがベストなのかがひと目でわかるようになっている。

 

大人としてスマートな会話を楽しむための豆知識がギッシリ!

 

『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』には、真似したいフレーズ以外にも、「活用したい大人の”クッション言葉”」や「マスク越しのコミュニケーションの基本」「赤っ恥注意! 間違いやすい慣用句」など、今すぐにでも使える知識が盛りだくさんだ。

 

もちろん、ビジネスシーンのみならず、友人やパートナー、家族、ママ友など、さまざまな相手に使えるフレーズも多彩に取り揃えられている。

 

きっとあなたは、ほんの少しの言葉の言い換えが、コミュニケーションを円滑にすることを痛感し、同時に言葉選びの大切さを再認識するだろう。この一冊が、明日からの人間関係を変えるきっかけになるかもしれない。

 

【書籍紹介】

超実用 好感度UPの言い方・伝え方

著者:石原壮一郎
発行:ワン・パブリッシング

「頼む」「断る」「謝る」「ホメる」「怒る」「承諾」「同意」「反論」「誘い」「感謝」の10 の章に分けて、知的でスマートかつ実用的なフレーズを紹介。使えば使うほど、人間関係が円滑になり、あなた自身の株も上がること請け合い。メールやLINE やSNS でコミュニケーションを取る場面で使いたいフレーズや、マスク越しの会話やリモート会議など、近ごろ気になるシチュエーションもしっかり網羅しています。

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夏野菜のおかずやピリ辛おかずなど、元気が出る料理がいっぱい!「上沼恵美子のおしゃべりクッキング2021年7月号」本日発売!

「上沼恵美子のおしゃべりクッキング2021年7月号」(特別定価520円)は本日発売。

 

この号は、6月28日~7月30日までの番組放送レシピを、詳しい手順写真つきで掲載。旬の「夏野菜たっぷり」おかずや、食欲をそそる「ちょい辛・ピリ辛」おかず、おうち飲みにうれしい「ビールがうまい!」料理などを紹介します。

 

また、テキストオリジナルの特別編集企画では、夏に大活躍する、のどごしのよい冷たい麺や冷や汁ご飯を紹介します。

 

6月28日-7月30日放送のレシピを掲載!

■テレビテキスト


・6/28→7/2放送 テーマ「豆腐をおいしく」
ねぎたっぷり肉豆腐/豆腐とインゲンの煮込み/アスパラと豚肉の豆腐ソース/
豆腐とあさりの磯風味/豆腐バーグのXO醤ソース

・7/5→7/9放送 テーマ「ちょい辛・ピリ辛
ピリ辛イカ焼き/スパイシーフライ/豚ヒレ肉の辛み炒め/
海老のうま辛トマトソース/なすのピリ辛春巻き

・7/12→7/16放送 テーマ「夏野菜たっぷり」
ゴーヤの生姜煮/あじとピーマンのマリネ/冬瓜とトマトのさっぱり煮/
焼きとうもろこしご飯/オクラとミートボールのスープ

7/19→7/23放送 テーマ「簡単スピードメニュー」
ナスの梅煮/たこのガーリックバター風味/牛肉と空芯菜の炒めもの/
炊き込みチキンピラフ/ナスの肉味噌炒め

・7/26→7/30放送 テーマ「ビールがうまい!」
ししゃもの和風春巻き/ビネガーポークチャップ/砂肝のねぎポン酢/にらギョーザ

ひんやりがごちそう 夏の麺と冷や汁ご飯

暑い日はやっぱり、のどごしのよい冷たい麺や、冷や汁ご飯が喜ばれます。人気のぶっかけスタイルを中心に、夏に大活躍する多彩な味をご紹介します。

 

揚げじゃこ&のりおろしのぶっかけ、牛肉と野菜の黒酢だれ麺、冷や汁 他

 

 

【書籍紹介】

上沼恵美子のおしゃべりクッキング21年7月号

著者: ABCテレビ 辻調理師専門学校
特別定価: 520円 (税込)

ワン・パブリッシングWebサイト: https://one-publishing.co.jp/

 

【本書のご購入はコチラ】
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・セブンネット https://7net.omni7.jp/detail/1227586032

「さまよえる湖」の真相は?美女のミイラのルーツは? シルクロードの謎に迫る~注目の新書紹介~

書評家・卯月 鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

 

「シルクロード」、その魅力とは?

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。かつてテレビは一家に一台が当たり前でした。うちもご多分にもれず、子どもだった私にチャンネル権はなく、渋~いNHKの番組がご飯時には流れていました。

 

テレビはついていても一家団らんはお堅いムード(笑)。それでも、NHK特集「シルクロード」のテーマ曲と砂漠を渡るラクダたちの風景はいまだに記憶に残っています。大学で歴史学を専攻したのも、もしかしたらすり込まれた「シルクロード」の影響だった……かも。テレビは世界の窓口でした。

今回の新書『シルクロード~流沙に消えた西域三十六か国』(中村清次/新潮新書)の著者・中村清次さんは、NHKに入局後、1979~1981年にNHKの番組『シルクロード』の取材班団長をつとめ、当時のシルクロードブームの立役者となった人物。

 

退職後はNHK文化センターの講師としてシルクロード講座を担当しているそうです。今回の本はNHKのラジオ番組「カルチャーラジオ」のテキスト『シルクロード 10の謎』に大幅な加筆・修正を加えたものとなっています。

 

砂漠の道に隠された秘密とは?

第1章は「『楼蘭の美女』は、どこから来たのか」。世界有数の美しいミイラとして知られる「楼蘭の美女」のルーツに迫ります。約3800年前のミイラである楼蘭の美女は、1992年に展覧会のために日本に来ています。私も上野の国立科学博物館に見に行きました。

 

楼蘭はタクラマカン砂漠に存在したオアシス都市。司馬遷の『史記』に登場し、7世紀以降に姿を消しました。ここに住んでいたのはどんな人たちだったのか?

 

「楼蘭の美女」や同年代のミイラの分析によると、紀元前1800年ごろの古代楼蘭人は、インド・ヨーロッパ語を話す原ヨーロッパ人に極めて近い人種だったとか。いまだ謎多き楼蘭のルーツが垣間見えた気がします。

 

第2章は「さまよえる湖」ことロプ・ノール湖のエピソード。ロプ・ノール湖は琵琶湖の数倍ある巨大な湖でしたが、干上がった湖の痕跡を発見したスウェーデンの探検家・ヘディンは、「さまよえる湖」説を1905年に唱えました。

 

この一帯は標高差があまりなく、雪解け水を運ぶ河が流れを変えると、それに伴い湖の場所もおよそ1600年周期で南北に動き、元の湖岸にあった楼蘭もその際に廃れたというのです。実際に1934年にこの地を再訪したヘディンは、自身の予想通り、水の流れが変わっているのを確認し、この説は立証されたといわれました。

 

しかし、NHK特集「シルクロード」のための事前調査の結果、地理学や考古学の立場から反論が行われています。なぜ湖は動いたように思えたのか。その理由とは……。

 

東西の文化をつなぐシルクロードには多くの謎が眠っています。シルクロードを通って玉を運んだ謎の民族・月氏の正体は? オアシス国家で発見された巨人のミイラが着けた仮面は何を表すのか?

 

新書ということもあって写真が少なめなのはやや残念ですが、丁寧な文章によってシルクロードの謎と歴史がわかりやすくまとまっています。シルクロードが覆い隠していた宝箱に再び出会える1冊。ページをめくるとノスタルジックな歴史旅行が待っています。

 

 

【書籍紹介】

『シルクロード 流沙に消えた西域三十六か国』

著者:中村清次
発行:新潮社

シルクロード――それはなぜ、日本人にとって懐かしさを感じさせるのか。あの「NHK特集 シルクロード」取材班団長として、ブームの立役者の一人となった著者が、タクラマカン砂漠の謎や、楼蘭の美女と呼ばれる美しいミイラの秘密、さまよえる湖として有名なロプ・ノールの真実の姿、楼蘭の消えた財宝の行方、そして敦煌はなぜ捨てられたのかなど、今なお多くの謎が眠るシルクロード、西域三十六か国を案内する。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

「となりのトトロ」の「となり」って? ジブリ映画の見方を変える『ジブリアニメで哲学する』

夏が近づくと観たくなる映画のひとつにジブリアニメがあるのではないでしょうか?

 

最近では再放送されるたびにSNSではさまざまな考察も行われていますが、そこまで深く考察しなくとも「なるほど、こんな見方もあるのね!」と、新しい視点を与えてくれるのが『ジブリアニメで哲学する』(小川仁志・著/PHP研究所・刊)です。今回は、この一冊をご紹介します。

 

「アニメ哲学」ってどういうこと?

「哲学」と聞くと「難しそう……」「色々考えすぎて眠れなくなりそう……」などネガティブなイメージあって、きっとこの本も難しいんだろうな〜なんて思っていました。しかし面白いくらいにズンズン読み進めてしまい、素直に「面白かった〜!」と楽しめました。

 

『ジブリアニメで哲学する』は、哲学を全く知らない私のような人間でもサラリと読めますし、ジブリアニメを観たことがある人なら「そういう考え方もあったか!」と新しい発見ができる一冊になっています。しかし、アニメ哲学とは一体……。どんな哲学なのでしょうか?

 

アニメは本と違って、文字ではなく動画で表現されます。動画は本を読むのと異なり、自分のペースで読み進めていくことができません。映像が映し出されるがままについていくだけです。たとえば100分間のアニメ映画を観るときは全員がそれを100分かけて、同じペースで観るのです。

このとき私たちは、やはり何かを考えながら鑑賞しています。そこは哲学書を読んで思考するのと同じなのですが、違うのは「自分のペースではない」という点です。そのため私たちは、理性よりも、どちらかというと感性を働かせて思考しているのです。

(『ジブリアニメで哲学する』より引用)

 

ジブリアニメを哲学書のように捉えて、アニメに登場するセリフや情景から感じたことを考えて言葉にしてみよう! としたのがこの本。個人的にはジブリアニメを観た後に読むと、「そういうことだったのか!」と思えることが多かったので、まだジブリ作品を観たことのない人は、ぜひ観てから読んで欲しいです。

 

「となりのトトロ」のとなりってどこ?

『ジブリアニメで哲学する』は、「風の谷のナウシカ」から「風立ちぬ」までの10作品を取り上げ、アニメ哲学しています。例えば、「天空の城ラピュタ」に出てくる『バルス』という呪文。どうしてシータは知っていたの? とか、石は人間にとってどんな存在なの? と、アニメに出てくるキーワードなどから考えを深めていきます。

 

私がこれまで20回以上は見ている「となりのトトロ」。『ジブリアニメで哲学する』に「なぜトトロは、前でも後ろでもなくとなりにいたのか?」と書かれてあり、ハッとしました。タイトルの「となり」が一体どこだったのかなんて考えたことがなかったからです。この本には唯一の正解が書かれているわけではなく、問いがあり「ある一つの答え」として著者の小田さんの考えが掲載されているのですが、以下のように書かれてありました。

 

80年代末、バブル崩壊の直前に、それへの代替案のような形で公開されたこの田舎の物語は、当時の日本にとって、もう一つの可能性でもあったはずです。行き着くところまでいってしまった物質文明の後、いったいどこに向かえばいいのか? 「となりのトトロ」はすでにもう一つの可能性としてのとなりの世界を見せてくれていたのです。

(『ジブリアニメで哲学する』より引用)

 

なるほど〜! ってなりませんか? 私は、家のとなりの森に住んでいるトトロだと思っていたのですが、それなら「後ろの山のトトロ」でもいいわけですからね。となりの世界を見せてくれていると思ってもう一度「となりのトトロ」をみると、視点も変わってくるような気がしてきます。

 

「千と千尋の神隠し」に出てくるカオナシは何者?

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』以前、邦画の歴代興行収入1位だった「千と千尋の神隠し」は、多くの方が映画館やテレビで観て「好きだ!」と答える作品ではないでしょうか? 私も大人になってから見返して嗚咽するほど号泣した思い出があり、それ以降「見たら号泣するから……」となかなか見返せていない作品です(笑)。

 

そんな「千と千尋の神隠し」は、個性豊かなキャラクターがたくさん出てきますが、一度見たら忘れられないのがカオナシ。このカオナシは、千ことが大好きで、お金をたくさん出して願いを叶えてやろうとしますが、千はそれを拒否します。なんだか怖いような、かわいいような……(笑)。カオナシとは一体何者なのでしょうか?

 

千につきまとってきたカオナシは、千の中に潜む欲望の影でもあり、それと決別するためには激しい痛みと苦しみを伴います。しかし、その痛みと苦しみを乗り越えることができたときはじめて、千はカオナシに別れを告げ、真の意味での成長を遂げることができるのです。欲望によってもたらされた成長は、まだ本当の意味での成長ではないからです。

(『ジブリアニメで哲学する』より引用)

 

これもひとつの説なので、これが正解! というわけではありませんが、こういう考え方でもう一度「千と千尋の神隠し」を観ると、どうしてあのときカオナシが現れて、あの場所でさよならするのかも納得できる気がします。

 

他にも、「魔女の宅急便」でどうして父親はラジオを渡したのか?「紅の豚」はどうして豚だったのか?「ハウルの動く城」に出てくるカルシファーは何者? など、今まで見ていた物語がどんどん面白くなる問いがたくさん掲載されています。雨の日や暑くて外に出たくない週末は、お家でゆっくりジブリ三昧も良いかもしれませんね! ぜひ『ジブリアニメで哲学する』とともに楽しんでもらいたいです。

 

 

【書籍紹介】

ジブリアニメで哲学する

著者:小川仁志
発行:PHP研究所

あの国民的アニメを哲学すれば、現実世界の本質が見えてくる! 人気哲学者が、楽しみながら頭がよくなる「思考の新しい鍛え方」を紹介。

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時給1500円から26万円! エンリケが語る「億稼ぐ」接客の秘訣とは?

元カリスマキャバ嬢。爆買いクイーン。Youtuber。エステや脱毛サロン、そしてシャンパンバーなどを経営する女性実業家。ちかごろゴールデンタイムの番組でもよく見るようになったエンリケ(小川えり)さんの主な肩書だ。

 

反応力

そのエンリケさんが書いた『結局、賢く生きるより素直なバカが成功する』(エンリケ・著/講談社・刊)を紹介したい。これまでにも著書は何冊か出ているのだが、エンリケさんという人の本質に最も近いところ、そしてこれまでの変遷が最も詳しく記されている一冊だと思う。

 

キャバ嬢という仕事に最も大切なのは、反応力ではないだろうか。売り上げを立てるためには会話力とか情報収集能力も不可欠だろうけれど、すべての基本になるのは反応力だと思うのだ。自分が置かれた場でどう反応するか。向けられた言葉にどう反応するか。反応力に長けている人は、理に適った行動をすることができる。まず言っておきたいのは、エンリケさんが反応力抜群な人であるということだ。

 

カリスマキャバ嬢の履歴書

すべてのキャリアのスタートとなったキャバ嬢という仕事は、こんな経緯で始まった。

 

知らない人のために簡単に経緯を書くと、18歳から時給1500円でキャバ嬢を始めて、最初の4年間は全く売れないポンコツ時代。ブレイクしたきっかけは、キャバ嬢7年目に「シャンパンの直瓶」をブログにアップしたこと。気づけば7年間連続ナンバーワンで、最終的には時給26万円、最高月収1億円超え、引退式4日間の売上は5億を超えるまでになれた。

『結局、賢く生きるより素直なバカが成功する』より引用

 

突出した成功を手にする人は、前段階としてかなりつらい状況を強いられることが多いように感じる。エンリケさんも例外ではない。小学校中学年のころ、保証人になった親戚のおじさんが“飛んで”家族ごと消え、お父さんが多額の借金を返済することになってしまった。

 

中学を卒業してすぐに働くことにしたが、それは家計を助けたかったからではなく、とにかく自立したかったからだという。しかし、岐阜の実家を離れて名古屋の飲食店で働き出してすぐ、実家が差し押さえになってしまう。そんなある日、キャバクラで働いていた中学時代の先輩から1日だけ代打を頼まれた。キャバ嬢という仕事は、意外な形で始まった。

 

14年間の緻密な記録

本書は、エンリケさんがつけていた14年にわたる日記を基にしている。章立ても、その特徴を活かした構成になっている。

 

CH1 14年間つけた日記の記録で振り返る 時給1500円~26万円までの道のり

CH2 ナンバー1になるための思考と戦略 指名をもらう、売上継続の実践マニュアル

CH3 お客様の心をつかむ話し方 初めてのお客様に、常連さんになってもらう会話術

CH4 お客様を店に呼ぶメール術 お客様に気持ちを伝えるLINEやメッセージの書き方

特別付録 仕事ができる人は記録がうまい! 夢を引き寄せるエンリケ日記

 

最初は日記というニュアンスではなく、単なるデータとして残すための記録のメモにすぎなかった。アイテムはお客さんの名前や同伴人数、指名人数、ボトルの数、ブログの閲覧者数など、現状を把握するために残していた。

 

私は同僚にライバル心なんて一切なくて、あるのは自分に対してだけ。過去の自分と比べるときにデータがないと、前進しているのかわからないでしょ。それを確かめるために毎日書くようにしたの。

『結局、賢く生きるより素直なバカが成功する』より引用

 

こうした積み重ねが、日々の現場で活きる反応力につながっていったのだろう。

 

刺さったヒントに即反応して実行

たとえば、こんなエピソードがある。キャバ嬢7年目、お店の指示でブログを始めた。しかしなかなかアクセス数が上がらない。同業者のブログの構成を参考にしたり、お客さんの意見を取り入れたりしながらの試行錯誤が続く。

 

また別の人は、「シャンパンをおろすから、ラッパ飲みする写真をブログに載せなよ」と進めてくれて、言われるままやったの。その時はラッパ飲みしている「ふり」だったけど、そしたらアクセスがドッと増えて。思えばそれが、「直瓶」をするようになるきっかけだった。

『結局、賢く生きるより素直なバカが成功する』より引用

 

え? “そんな簡単なことで”って思う人が多いはずだ。でも、才能と呼べるレベルの素直さが反応力と結びつくと、魔法めいた瞬間が訪れるのかもしれない。実際、これでアクセスが爆上がりしたんだから。

 

エンリケが行く

チャンスのつかみ方。チャンスが来ていることを認識する力のつけ方。そしてつかんだチャンスを最大限に活かすための反応力の育み方。話し言葉で綴られた、ストレートな響きの文章に込められたメッセージは多く、深い。

 

カリスマキャバ嬢が自ら実践した接客術のマニュアルという内容ではとどまらないし、成功者が自分の言葉で語る成功の秘訣というだけの印象ではない。もっともっと深いところに、独特の余韻が残る一冊だ。

 

【書籍紹介】

結局、賢く生きるより素直なバカが成功する

著者:エンリケ
発行:講談社

賢いわけでもなく、容姿で勝負ができるわけでもない私がお客様にお金を使う価値を感じてもらうためには、命を削って努力する姿を見せることで、応援してもらうしかなかった。—凡人が14年間の実践で身につけた億稼ぐ接客術。

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目標は小さくていい。100円ショップ「ダイソー」社長の経営哲学

100円ショップと聞いて、どの店を思い浮かべるだろうか。ほとんどの人が「ダイソー」と答えるだろう。筆者は100円ショップが大好きなのだが、やはりなんだかんだとダイソーが一番だなと思っている。とにかく「こういうものが欲しいな」という商品があることが多い。

 

ダイソーの商品が100円とは思えないクオリティのワケ

そのダイソーの創業者であり社長が矢野博丈氏だ。氏は非常にネガティブな社長として有名。「いつか潰れる」「ずっとうまくいくことはありえない」「店舗が増えるのが怖い」など、およそ経営者とは思えない発言が多い。

 

その矢野博丈を追った書が『百円の男 ダイソー矢野博丈』(大下英治・著/さくら舎・刊)だ。本書は、ジャーナリストの著者が10年以上にわたり、矢野および矢野をよく知る社員などに取材して書かれている。

 

100円ショップ好きの筆者から見て、ダイソーの商品は100円の割にはクオリティが高いと思っている。それもそのはず、ほかの100円ショップに比べて原価が高いらしい。商売の基本は「お客様に喜んでもらうこと」と語る矢野は、1977年の創業当時、ほかにあった100円ショップよりも高品質なものを取り扱うことで、「100円でこのクオリティ?」とお客さんが喜ぶやらビックリするやらする顔が見たかったようだ。

 

もちろん、その分儲けは少なくなる。オイルショックで商品の原価が上がったときには、98円で仕入れたものを100円で売っていたこともある。

 

<自分の儲けを考えていたら、商売なんてできん。ワシは、客が驚く姿が見たかったんじャ。客が喜んでくれればそれでええ。その分、ワシは売って売って儲けを出すんじャ>

(『百円の男 ダイソー矢野博丈』より引用)

 

究極の薄利多売。しかしそれが功を奏し、2021年2月末現在の売上高は5262億円。世界に5800店舗以上出店するまでになっている。効率化や利益率を追求するビジネスとは真逆の、いかにも「商売」といった感じでここまで大きくなったのだから、社長をはじめ従業員がどれだけ働き者なのかがわかるのではないだろうか。

 

小さなことをコツコツと

矢野はとても謙虚かつネガティブだが、それが経営哲学にも大きく反映されている。創業時から現在までダイソーは、長期計画を立てていない。予算も作らない。社是や社訓もない。会社の規模を大きくすることにもそれほど興味がない。創業当時はトラックでスーパーなどの店頭または催事場での販売をメインにしていたが、そのときの夢が「年商1億」。そのための具体的な目標として「夫婦ふたりで一番売るトラック」を目標に掲げた。

 

仮に、年商一〇〇億円、三〇〇億円という大規模の目標を掲げたなら、トラックの台数を増やし、安いものを大量に仕入れ、粗利を追求していく道を選ばざるを得ない。

(『百円の男 ダイソー矢野博丈』より引用)

 

野心は大きいほうがいいが、それに囚われてしまうと道を誤ってしまうこともある。矢野は「夫婦ふたりで一番売るトラック」という小さな目標を掲げ、そのために地道なチラシ配りを行ったり、それこそ寝る間も惜しんで働くことを積み重ねてきた。その結果が今のダイソーなのだ。目の前の小さな目標をコツコツクリアしていく。一見簡単そうだが、それを何十年も続けるのは、なかなかできることではないだろう。

 

1か月に500〜700もの新アイテムを開発

矢野の100円均一へのプライドはとても高い。昔は、名刺交換をしたときに「100均かぁ」「安売りかぁ」とバカにされると、矢野は反論していたようだ。

 

「ちがいます。一〇〇万円の車は安物ですが、一〇〇万円の家具は高級品ですよね。一〇〇円でも高級品を売っているんです」

(『百円の男 ダイソー矢野博丈』より引用)

 

100円で100円の価値があるものを売っているのでは、当たり前。100円で100円以上の価値があるものを提供することで、ダイソーはお客さんの心をつかんできた。

 

このマインドは現在まで変わることはない。何せ、1か月で約500〜700もの新アイテムを投入。それだけ新製品開発の余念がないのは、常に100円以上の価値のあるもの、そして常に目新しいものを店頭に並べておきたいからだ。

 

現在、大手100円ショップといえば、ダイソー、セリア、キャンドゥになると思うが、やはりダイソーは品揃え、クオリティ、店舗数、どれを取ってもナンバーワンではないかと感じる。

 

本書を読むと、なぜダイソーは人気があるのか、他社とは何が違うのかがわかることだろう。そして無性にダイソーでいろいろ買い物をしたくなってしまう。まあ、ダイソーなら散財しても1000円2000円。それでストレス発散ができると思えば、安いものだ。

 

【書籍紹介】

百円の男 ダイソー矢野博丈

著者:大下英治
発行:さくら舎

ダイソーは「潰れる!潰れる!」といわれ、今日の成功がある! 利益一円でも売る100均商法で不可能を可能にしたダイソー社長! 初めて書かれる、誰も思いつかなかった新ビジネスモデルをつくった商売秘話!

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サーカスの「ピエロ」は本来は間違い!? サーカス研究者が語る道化師の秘密~注目の新書紹介~

書評家・卯月 鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

サーカスの思い出はありますか?

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。みなさんはサーカスに行ったことはありますか? 私はまだ幼いころ、地元の大きな公園に来ていた木下大サーカスに連れていってもらいました。コミカルなピエロ、空中ブランコ、ライオンの曲芸に大興奮したのを覚えています。

ところが、このピエロ、本来は「ピエロ」じゃないというからビックリです!? 今回の新書『日本の道化師 ピエロとクラウンの文化史』(大島幹雄・著/平凡社新書)は、謎に包まれた日本のピエロという存在が明らかになる深くニッチな1冊。手軽に新しい世界をのぞける新書ならではの良さが光ります。

 

著者の大島幹雄さんはノンフィクション作家でサーカス学会学長。日本のサーカス研究の第一人者として知られています。著作『明治のサーカス芸人はなぜロシアに消えたのか』は、明治維新後の激動の時代、海を越えてロシアでサーカス芸人となった日本人たちに迫る非常に読み応えある内容でした。

 

道化師は「ピエロ」ではなく「クラウン」と呼ぶべきという大島さん。今回はさまざまな角度からクラウンにスポットを当てています。

 

クラウンとピエロの違いは?

第一章は「クラウンの歴史」。クラウンが最初にサーカスに現れたのは1780年のイギリス。テームズ川のほとりで行われた馬の曲乗りショーで、間をつなぐために道化役者が雇われたのが始まりとされます。

 

下手な曲乗りを披露し「ビリー・ボタン」と名付けられた芸は、本家の曲乗り以上に人気を得たのだとか。この道化たちが「田舎者」を意味する「クラウン」という名前で呼ばれるようになり、近代サーカスに定着しました。派手な衣装に赤毛のカツラ、白いメイクがサーカスのクラウンの定番となっていきます。

 

それではなぜ、日本でクラウンが「ピエロ」呼ばれるようになったのか。このあたりが解説されるのが第2章。ピエロはもともとイタリアの喜劇に登場する召使い役「ペドロリーノ」がルーツ。この喜劇がフランスに伝わって召使い役が「ピエロ」と呼ばれるようになりました。だぶだぶのひだ襟の服、小麦粉で白塗りの顔、間抜けな行動。ピエロは庶民の間に浸透していったのです。

 

イギリスのサーカスの道化師がクラウン、イタリアやフランスの喜劇に登場する道化役がピエロ、と本来は別物。それがどうして日本ではすべてピエロになってしまったのか……。これは本書を読んでのお楽しみですが、西洋文化受容のプロセスが見えて、知的ミステリーのようなカタルシスがありました。

 

そのほかにも、日本のクラウンの原型ともいえる、ひょっとこや歌舞伎の道化役の紹介、明治時代に来日したイタリアのチャリネ曲馬団のエピソード、さだまさしさんの歌「道化師のソネット」のモデルとなった栗原 徹さんの短くも鮮烈な人生……と話題は豊富です。

 

最終章で触れられているホスピタルクラウンにも興味をひかれました。映画『パッチ・アダムズ』で知られるようになった、病院に長期入院する人たちに笑いを届けるクラウン。クラウンは人を笑顔にし、気持ちを和らげる身近な存在。サーカステントから飛び出しても活躍しているのですね。

 

【書籍紹介】

『日本の道化師 ピエロとクラウンの文化史』

著者:大島幹雄
発行:平凡社

近代サーカスの誕生時から、本場のサーカスや舞台で道化を演じるのは“クラウン”と呼ばれてきた。だが、日本で道化師といえば“ピエロ”が一般的だ。日本ではなぜ“クラウン”ではなく、“ピエロ”が定着したのか。クラウンは日本でいかに受けとめられてきたか。サーカス研究の第一人者が、日本における「道化師」の歴史をたどる。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

Facebookの共同創始者が提唱する5万5000円の「保証所得」で世の中を変える方法

もしも毎月5万5000円がもらえるとしたらどうしますか。そのお金があれば今の生活をほんの少し豊かに彩ることができるはずです。そんなワクワクさせられるシステムを提唱する人がいます。実現したらどんな毎日が待っているのでしょうか。

 

日本での10万円給付

日本ではコロナ禍の2020年6月、国民に特別定額給付金10万円が給付されました。その受給率はなんと99.4%で、受給申請をしなかったのはわずか34万世帯だったそうです(総務省調べ)。日本には1億円以上の金融資産を持つ富裕層が132.7万世帯いる(野村総合研究所調べ)というので、裕福な層であっても多くが給付金を受け取っていたようです。

 

私の2人の子どもたちは給付金を貯金していましたが、私はその額とほぼ同額の大型冷蔵庫を購入しました。すると冷凍容量が倍に増えたおかげで食材の補充は週に1度で済むようになり、私の生活の質は向上したのです。

 

幸福感と消費欲

お金を給付されると、お年玉を受け取った子どものように心が明るくなり、幸福感が増すことがあります。臨時収入で気分が浮かれて何かに使いたくなる人も少なくないでしょう。消費は必要最低限にしたほうがいいという人もいますが、お金を使って楽しいことをしたり、可愛いものを買ったりすることで、人生は素敵に彩られると思うのです。

 

1%の富裕層のお金でみんなが幸せになる方法』(プレジデント社・刊)の著者であるクリス・ヒューズはFacebook共同創始者。彼は20代にして数億ドルの資産を持つ超富裕層となりました。彼は貧困問題の解決のために奔走するようになり、年間収入5万ドル以下の人に月500ドル(日本円で約5万5000円)を毎月配ることが問題解決になるのでは、と思い至りました。これを保証所得と言います。

 

500ドルは、富裕層にとってはささやかな額かもしれません。けれど中流階層や貧困層にとっては、必要最低限以外のものを購入する素晴らしいきっかけとなるのです。彼は「自分にとって一番大切なことにお金を使うことができる」ようになり「夢を追いかける尊厳と自由」が尊重されるようになるのだと説きます。

 

労働者の定義とは

もし保証所得が導入されると、アメリカでは6000万人が受給対象になります。全人口のおよそ20%ほどです。条件は年収5万ドル以下の「労働者や社会に貢献している人」。給与を得ていなくても「幼い子どもの母親と父親、高齢の親を介護する人、大学生」なども対象者なのは素晴らしいことです。

 

本書には、育児や介護や勉学という理由で「一時的に仕事から離れている労働者」も給付対象だと書かれていました。そういえば日本でも、仕事を減らしたり休んだりして、大学や大学院で学び直す人が増えています。彼らは学んで得た知識を職場に戻ってから生かすはずで、潜在的な労働者だとしたら、確かにそうなのです。

 

1%が世界を変える

クリス・ヒューズはこの保証所得の原資はアメリカの超富裕層への増税だと説きます。その数は人口の1%ほどの300万人。アメリカの富の40%を所有している1%の彼らが、少し多めに税金を納めれば数千万人の対象者が救われるのだとか。

 

この計画が実現されるかどうかはまだ決まっていません。けれど人間は夢を見ることができます。もし月々5.5万円を得られたらどんなことをしようかと楽しく思いを巡らせるだけでも、自分が本当にやりたいことが見えてくるのではないでしょうか。そしてその夢は、いつか叶えたい目標として、自分を奮い立たせてくれるはずです。

 

【書籍紹介】

1%の富裕層のお金でみんなが幸せになる方法

著者:クリス・ヒューズ
発行:プレジデント社

フェイスブックの共同創業者として、20代の若さで巨万の富を手にした若き理想家が、自らの富と経験を注ぎ込んで取り組む「最も困難な問題」の現実的な解決策が「保証所得」という考え方だ。その財源のすべては「上位1%の富裕層への増税」で賄える…。

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フェイクニュース、陰謀論に踊らされる今こそ読むべき必読の書!『大本営参謀の情報戦記 —情報なき国家の悲劇』

コロナ禍のもと、感染者やワクチン接種について、毎日、膨大な情報がもたらされています。テレビをつけると、「今日はどこどこで感染者が*人。これは月曜日としては過去最高です」とか「ワクチンの会場で大混乱。電話もつながりません」というニュースが流れます。新聞、テレビ、インターネットから、情報があふれ出し、「結局、何を信じればいいの?」と、迷わずにはいられません。

 

しかも、もたらされるニュースは深刻な面が強調され、感染がおさまった都市はニュース性が薄いためか、ほとんど報道されないのが実情です。「何かがおかしい。でも、何がおかしいのかさえ、わからない」と悩む私に、夫が「これ読んでみたら」と勧めたのが『大本営参謀の情報戦記 —情報なき国家の悲劇』(堀 栄三・著/文藝春秋・刊)でした。

 

今に通じる深い知恵

『大本営参謀の情報戦記 —情報なき国家の悲劇』は、第二次世界大戦で情報将校として懸命に働いた一人の軍人が、長い沈黙を破って出版したものです。敗戦の経験を語るのは苦しいことだったに違いありませんが、著者は真摯に自分のつとめを果たしました。読み始めたとき、この本は私には荷が重いと感じました。76年も前に終わった大戦の話を読むことに、果たして意味があるのかという疑問も湧いてきます。それも、敗け戦の記録です。知らないことも多く、理解できるのだろうかと思いながら、おそるおそる本を開きました。そもそも、私は戦記物に弱いのです。

 

ところが……。まえがきで早くも心を奪われました。『大本営参謀の情報戦記 —情報なき国家の悲劇』は、戦争中の情報戦について記された本に違いありませんが、現在まで脈々と通じる深い知恵を与えてくれるとわかったからです。とりわけ、現在、私たちが直面しているコロナに関する情報を正しく判断するために、膨大な情報をどうやって扱うべきかを教えてくれる大切な指南書となりました。

 

情報という言葉が、毎日のテレビやラジオや新聞などに現れない日はない。ある新聞には、人びとは情報の氾濫のため、あり余る情報の中に埋没して悲鳴をあげているとも書かれていた。(中略)しかし、そういう情報は、相手の方から教えたい情報であり、商品として売られるべく氾濫しているものである。

(『大本営参謀の情報戦記 —情報なき国家の悲劇』より抜粋)

 

まさにその通り……。私の持っている文庫本は1996年に書かれたものですが、それから25年も経った今でも、情報について変わることのない問題が続いていることがわかります。現に私は膨大な情報を前に、いったいどう判断すべきか困り果てているではありませんか。ネットからも、無記名の情報が次々と飛び込んできて、センセーショナルな情報の海でおぼれそうです。情報の正しい扱い方を知り、どの情報を信じたらいいのか、学ぶべき時がきているのでしょう。

 

物語の大部分は、自ら太平洋戦争の戦場が主体であるが、企業でも、政治でも、社会生活の中でも、情報が極めて重要な役割を占めている今日、それぞれの分野や組織で、情報に関する人びとにとって、それなりの示唆を与えるものではないかと思っている。

(『大本営参謀の情報戦記 ー情報なき国家の悲劇』)

 

そう、この本は2021年の今こそ読むべきものなのです。

 

著者について

本書の著者・堀 栄三は、1913年、奈良県の吉野村で生まれました。中学を卒業後、東京陸軍幼年学校に入学し、陸軍士官学校に進みます。そのころには、既に、物量の前には精神主義が役に立たないという教訓を得ていたといいます。根性論では解決できないのが戦争だと、気づいていたのです。その後、騎兵少尉となり、騎兵第26連隊に配属された後、陸軍予科士官学校で教官を務め、やがて少佐となりますが、ひょんなことから情報を扱うプロとして働くように命じられます。

 

自ら進んで情報将校の道を選んだわけではありません。しかし、命じられた以上、職務に忠実であろうとします。戦争では情報を正しく受け止め、作戦を立てることが何よりも必要だと感じ、半ば独学で情報を科学的に分析する方法を学んでいきます。そして、後には「マッカーサー参謀」と呼ばれるほど、アメリカ軍の動きを的確に読むようになります。

 

彼はエリート街道を歩いたわけではありません。英才教育も受けませんでした。ただ、生まれながらの勘の良さに加え、尊敬する父と、師と仰ぐべき先輩から多くを学びました。枝葉末節にとらわれず、本質を見る目を養ったのです。

 

ある日突然、情報の世界へ放り込まれてしまった男が、そのときどきの波や風に翻弄されながら困難と苦境にぶつかって鍛えられ、「情報職人」となって働いた個人的体験記録である。

(『大本営参謀の情報戦記 —情報なき国家の悲劇』より抜粋)

 

堀 栄三の戦果

堀の数ある業績の中で何よりも秀でているのが、台湾沖航空戦を正しく捉えたことでしょう。昭和19年、台湾沖で米軍と交戦の報を受け、堀は急ぎ状況を視察するため、鹿屋の海軍飛行場へ急ぎました。搭乗員からの報告を聞き、それを分析しようと考えてのことでした。兵士たちは勇ましく、敵空母を撃沈したと次々と告げ、「やった! よし、ご苦労!」のねぎらいの言葉と共に黒板に「戦果」が書き込まれていきます。あたりは歓声につつまれ、命がけの働きが勝利につながった喜びが充満します。

 

ところが、堀は冷静でした。かつての経験から、それはあり得ないと考えたからです。本当に撃沈の瞬間を見たのでしょうか。撃沈したのは空母だと、その目で確かめたのでしょうか。堀は報告を終えたばかりの搭乗員に向かって、次々と質問しました。なぜ撃沈と認識したのか、戦果を確認した搭乗員はいったい誰なのか、知りたかったのです。その結果、答えがあいまいなものだと気づきます。夜に行われた航空戦です。闇の中、月か星しかよく見えない状態下で撃沈の瞬間をはっきり見たものはいないのです。

 

堀は搭乗員が故意に嘘をついたわけではないとわかっていました。撃沈を信じ、うれしく思い、それを報告したのです。人は無意識に自分や周囲に都合の良い結果を事実と信じてしまうところがあります。周囲が「撃沈! 撃沈!」と叫ぶ声を聞きながらも、堀は緊急の電報を打ったといいます。「この成果は信用出来ない。いかに多くても二、三隻、それも航空母艦かどうかも疑問」という内容でした。

 

情報を理解する難しさ

情報を正しく理解するためには、やはり訓練が必要なのでしょう。そして、それは戦争においてだけ重要なものではありません。企業の経営や毎日を無事に生きていくためにも、私たちは膨大な情報を正しく受け止め、処理していかなくてはなりません。情報は膨大でありしかも流動的です。その上、こちらが欲しい情報を得るのは難しく、不完全でよくわからない情報がさも正しいことのようにもたらされ、私たちを翻弄します。今回のコロナ禍は人間が初めて出会うウイルスなだけに、情報も錯綜しました。何が正しいのかよくわからないままに、私たちは自分と家族を守るための対策を考えなければなりません。

 

ウイルスは人を選びません。もちろん、コロナに罹った人が悪いわけでもありません。今わかっていることと、そうでないことをきっちり分け、自分で考え、すべきことをするしかありません。情報を正しく捉えるのは極めて難しいことです。まさに職人技的な技術が必要です。けれども、少しでもそれに近づき、自分なりの対処をして、私たちは難しい世を生きぬき、生き残るよう努力すべきなのでしょう。堀 栄三が私たちに示した考え方は、決して過去のものではなく、今、ここにある危機をのりきるにあたってどうしても必要なものだと思います。私もこれからは、情報を受け入れるとき、枝葉末節にこだわり、一喜一憂することなく、それらを精査し、大局観からものごとを自分で判断できる力を養いたいと考えるようになりました。

 

【書籍紹介】

大本営参謀の情報戦記 —情報なき国家の悲劇

著者:堀 栄三
発行:文藝春秋

「太平洋各地での玉砕と敗戦の悲劇は、日本軍が事前の情報収集・解析を軽視したところに起因している」-太平洋戦中は大本営情報参謀として米軍の作戦を次々と予測的中させて名を馳せ、戦後は自衛隊統幕情報室長を務めたプロが、その稀有な体験を回顧し、情報に疎い日本の組織の“構造的欠陥”を剔抉する。

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知っているのといないのとでは大違い! 絶対に役立つお金の新常識が満載——『読むだけで1億円以上得する! お金ドリル88』

近ごろ私の周りでも「貯金がなかなか増えなくて」「給与アップのために転職したくてさ」「家のローンが大変で」なんて、お金にまつわる話を当たり前にするようになりました。

 

今やどこにでも情報があるんだから自分で調べればいいよね! と思いつつ……お金については知らないことがあり過ぎて、「え〜! そうだったの!?」と後悔してしまうことも度々。これ以上後悔したくない! だけど何から始めたらいいかわからない! そんな方におすすめなのが、『読むだけで1億円以上得する! お金ドリル88』(前田晃介・著/徳間書店・刊)。全部で88問のドリルを解いていくだけで、お金についてお得な知識が身につけられる、ありがたぁ〜い一冊です。

携帯料金、60年支払い続けたらいくらになる?

『読むだけで1億円以上得する! お金ドリル88』は以下のような問題が88問掲載されているドリル形式の本。「本が苦手」「難しいことはちょっと……」とネガティブに捉えてしまうような人でも、気軽に楽しみながら読み進めることができます。

 

大手キャリアで携帯電話を契約しています。60年間使い続けると、1人あたりいくら支払うことになるでしょう。

 

1 約230万円

2 約470万円

3 約580万円

4 約720万円

(『読むだけで1億円以上得する! お金ドリル88』より引用)

 

この正解は「約720万円」なんです!!! こうやって金額で提示されるとギョッとしてしまいますよね。ちなみにこの計算方法は、MMD研究所「2019年スマートフォンの料金に関する調査」での平均月額価格8023円をもとに計算されています。

 

一度、毎月の携帯料金に、12か月と60年間をかけて計算してみましょう。「これなら車買えるじゃん」と思う人も多いはず! 今後、よほどのことがない限り携帯電話やスマートフォンは使い続けるものだと思いますので、毎月の料金をどうやって抑えるか考えてみるのも良いかもしれませんね。

 

「ポイ活」で海外旅行も夢じゃない! 3年でどこまで行ける?

最近なにかと話題の「ポイ活」。私も、ヨドバシカメラのクレジットカードの還元率が異様に高くて、貯まったポイントでダイソンの商品を購入することができました。ポイントだけで欲しかった商品を手にできると、むちゃくちゃ得した気持ちになりますよね!

 

そんな「ポイ活」で海外旅行も夢じゃない! 本当に〜? と思ったそこのあなたに、こんなドリルをご紹介します。

 

ふだんの生活の中で、すべての支払いをクレジットカードにしました。3年後に貯まったポイントを使って、海外旅行(往復航空券)はどこまで行けるでしょう?(月の生活費25万円、還元率1%とします)

 

1 韓国(ソウル)

2 タイ(バンコク)

3 ハワイ(ホノルル)

4 フランス(パリ)

 

(『読むだけで1億円以上得する! お金ドリル88』より引用)

 

所詮ポイントでしょ? と侮るなかれ! なんとこの正解は「フランス(パリ)」! 1年間で3万円分のポイントが貯まる計算なので、エコノミーですが、1ポイント=1マイルに移行させると3年で9万マイル。パリまでのマイルと交換できてしまうという計算です。繁忙期など時期によって必要なマイル数は変わりますが、往復の航空券がポイントで交換できたらうれしいですよね〜!

 

ちなみに、よく旅行をする! という方は、旅行会社が運用している「旅行積立」もおすすめ。本書を読むまでそんな積立があるのも知りませんでしたが、今の時期に積み立てておいて、ポイントと合算してビジネスクラス、いやファーストクラスでハワイへ……あぁ〜夢が広がりますね!(笑)

 

年金は繰り上げたのと繰り下げたの、どちらがいくら得する?

友人と話をしていても、30代半ばを過ぎればトピックスは「私たちの老後ってどうなるんだろうね」です。

 

何も気にせず、何も考えず楽しく生きていた時代を過ぎ、先行きの見えない未来を案じながら時間を過ごしている今日このごろですが、可能な限りお金の心配をせず、老後の生活を楽しみたいですよね。そこで重要となるのが「年金」。受給できる年齢が変わったり、支払われる金額が下がってしまったり、あと30年後には果たして年金生活できているのかしら……と考えてしまいます。年金について心配がある人はこのドリルを解いてみましょう。

 

年金を繰り上げ受給して60歳から受け取った場合と、65歳からスタートした場合。90歳の時点でどちらのほうが得でしょう? 65歳の年金額は180万円とします。

 

1 60歳で受け取った方が20万円の得

2 どちらもそれほど変わらない

3 65歳で受け取ると20万円の得

4 65歳で受け取ると700万円以上の得

(『読むだけで1億円以上得する! お金ドリル88』より引用)

 

さほど変わらないだろうと思いきや、「65歳で受け取ると700万円以上の得」なんです! さらに言うと、繰り下げ(65歳より後に受給をスタートさせる)たほうがもっと増額されるのだとか。いやぁ〜70歳まで働きたくないけれど、人生100年時代を生きていく私たちにとっては70歳まで働いて、30年間しっかり年金をいただいて、100歳まで生きるというのが当たり前になるのでしょうかね。ここ数年でも年金制度についてはコロコロと変わってきているので、しっかり今後もチェックしていかねば! と思った次第です(とはいえ、自分が何歳まで生きれるか、わからないけれど……)。

 

『読むだけで1億円以上得する! お金ドリル88』には、他にも「空き家になった実家にかかる費用は?」「iDeCoとNISAってどっちがいいの?」「ふるさと納税の仕組みは?」「カーシェアとレンタカーならどちらが得?」など身近なテーマからお金の正しい知識を身につけることができます。

 

学校ではなかなか教わる機会のない「お金」のことなので、お子さんやおじいちゃん・おばあちゃんと一緒に学べると良いですよね。定価1500円+税のこの本ですが、88問のドリルをしっかり解くことができれば、確実に1500円以上のお金は得できる一冊なので(笑)、迷っている方はぜひ読んでみてくださいね♪

 

 

【書籍紹介】

読むだけで1億円以上得する! お金ドリル88

著者:前田晃介
発行:徳間書店

将来に役立つ令和版、お金の新常識!

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半世紀前の新書がいま話題に! 60年代ルワンダを救ったひとりの日本人の奮闘記——『ルワンダ中央銀行総裁日記』

アフリカの小国、ルワンダが世界のニュースのトップになったのは1994年の同国の動乱の時。当時のハビャリマナ大統領暗殺事件をきっかけに勃発した大虐殺では80万から100万人もの人々が犠牲になった。つい先日、ルワンダの首都キガリを訪問したフランスのマクロン大統領は演説で、当時、フランスは虐殺を進めた政権を支持する側にいたとし、はじめて責任を認めたことが日本のメディアでも大きく報道された。

 

そのルワンダを舞台にした1冊の本が、今SNS上で話題になって10万部を突破し、若いビジネスマンの必読書となっているのをご存じだろうか?『ルワンダ中央銀行総裁日記 増補版』(服部正也・著/中央公論新社・刊)の初版が出たのが1972年6月、半世紀前の本が、なぜ今話題になったのか?

 

嘘のような実話に若者が共感

本書は最近SNSでバズり、またテレビニュースなどでも取り上げられ、読者層をぐんぐんと広げている。著者の服部氏は1918年生まれの日銀マンだ。彼は46歳になった1965年、アフリカ中央にある小国で、超赤字国家だったルワンダの中央銀行総裁に任命されたのだ。

 

国際通貨基金の技術援助はすでにルワンダで失敗したあとで、そこに私がゆくのではないか。無からなにかを創造することはやさしくないが、崩れたものを再建することも至難である。これは大変なことになったと思った。

(『ルワンダ中央銀行総裁日記 増補版』から引用)

 

降り立ったキガリの空港には空港ビルなどなく、滑走路の横に電話ボックスのような小屋が2つあり、そこが入国管理と検疫の事務所だったそうだ。勤務する中央銀行もペンキのはげかかった2階建ての建物、さらに仮の宿舎の床はカーペットもなくセメントのままで家具もわずか。さらに、ひげを剃るための鏡を買うために町中を探してやっと見つけたのは、ガラスが割れて縁が錆びているものだった。服部さんの着任当時のキガリの物資の欠乏は想像を絶するものだったという。さらに、総裁付きの運転手として現れた人の服はボロボロで、なんとはだしだった!

 

そのような現状にも服部さんは屈せず、その後6年間の任期中に、ルワンダ経済を見事に再建させ、国民の生活環境を大きく向上させたのだ。その記録である本書は、経済政策の真髄に迫るノンフィクションの傑作といえる。

 

ルワンダ共和国とは

ここで、ルワンダとはどういう国なのかをざっと紹介しておこう。東アフリカに位置する小国だが、人口密度はアフリカでもっとも高い。多数派で農耕民系のフツ族、少数派の牧畜民系のツチ族から成っていて、ルワンダ大虐殺では、多くのツチ族とフツ族穏健派が殺害された。

 

ルワンダはドイツ植民地時代、ベルギー植民地時代を経て、1962年に独立国家となった。経済を支える中心産業は農業で、コーヒーの産地として知られている。また、重要な輸出品としては、スズ、タングステン、レアメタルなどの鉱物資源がある。

 

常にルワンダ人と対話した「現場の人」

服部氏は、まず緊急救済策として、二重為替相場を廃止し、ルワンダ・フランの対外価値を自由相場並みに切り下げて一本化。また、それまでの外国人優遇税制という問題にも切り込み、着任から一年後の1966年には通貨改革を成功させた。

 

これと並行して、ルワンダ経済の発展のために、自活のためだった農業を市場経済へ引き出すべく物価統制を廃止したり、流通機構を整備するためにルワンダ商人の育成にも着手した。

 

このとき、服部氏が最も関心をもったのは、ルワンダ人は怠け者かどうかということ。国民が働かなければどんな計画も失敗に終わるからだ。そこで彼は、現場に出て農民たちと話をすることにしたのだ。その結果、当時、落ち込んでいたコーヒーの生産は、彼らが怠け者だからではなく、物資の供給が不足し、価格体系が悪いから、彼らにとって価値を失った現金収入を捨てて自活経済に後退したにすぎないこと気づいた。

 

これは彼らが経済的に合理的に反応することを示すものではないか。私は非常に力づけられた。ルワンダ人の殆ど全部がもともと農民であり、そして農業に従事しているときは働き者である。彼らは彼らなりに自分の生活を大切にしているから、価格体系を是正して物資の供給を潤沢にすれば彼らはよく働き、農業生産は増進するはずである。これはまた、大統領の命じたルワンダ国民の福祉に直接つながるのである。

(『ルワンダ中央銀行総裁日記 増補版』から引用)

 

服部氏の成功の秘訣は「現場の人」だったからだだろう。総裁としてオフィスにいることより、現場に赴き、ルワンダの人々の声を聞き、彼らの心情に常に寄り添っていたのだ。

 

英雄はルワンダの農民と商人

本書のまえがきでも服部氏はこう記している。

 

平和といい、貿易といい、援助というものは、究極的には国民と国民との関係という、いわば人の問題である。この人の面を無視して進められる国際関係の基礎は、きわめて脆弱なものである。アフリカには経済的には恵まれないが黙々として働き、子孫が自分よりも豊かな生活ができるよう地道な努力をしている国民が多い。こういう国と関係を深めることこそが、同じ道によって今日の繁栄を実現したわが国のとるべき道ではなかろうか。

(『ルワンダ中央銀行総裁日記 増補版』から引用)

 

さらに、ルワンダの発展は、ルワンダ人農民、ルワンダ人商人の自発的な努力によるもので、彼らこそが英雄だときっぱりと言っている。これから活躍の場を広げていくであろう日本の若きビジネスマンたちも、服部氏のこの言葉を肝に銘じておくべきだろう。

 

ルワンダ動乱について

ルワンダ経済を再生させた服部氏は1971年に帰国。その後は世界銀行の副総裁、アフリカ開発銀行、国際農業開発基金などの委員を務め、1999年に逝去された。

 

本書は増補版で、1994年に起こったルワンダ動乱についての服部氏の論考も収録されている。「ルワンダ動乱は正しく伝えられているか」と題して、ルワンダをよく知る立場としての報道に対する疑問、大国の影などを綴っている。

 

今回の事件でもわかるように、世界はいまだ力が支配していることを痛感すべきで、ただ「平和。平和」と一国で喚いても、一人で祈っても平和は来ない現実を直視すべきである。弱者の悲哀は、ルワンダの惨状がまざまざと見せつけている。

(『ルワンダ総裁日記 増補版』から引用)

 

動乱によりルワンダ経済は壊滅的な打撃を受けたものの、その後は復興し、1998年には農業生産も回復し、その後も経済は発展し続けている。現在のルワンダ政府は2035年までに高中所得国、2050年までには高所得国になるべく目標を掲げているそうだ。そのルワンダ経済の礎を築いたのが、一人の日本人だったことは、私たちにとって誇りである。

 

本書はどんなビジネスシーンであっても、常に「現場の人」であるべきということを教えてくれる。ぜひ読んでおきたい一冊だ。

 

 

【書籍紹介】

ルワンダ総裁日記 増補版

著者:服部正也
発行:中央公論新社

一九六五年、経済的に繁栄する日本からアフリカ中央の一小国ルワンダの中央銀行総裁として着任した著者を待つものは、財政と国際収支の恒常的赤字であったー。本書は物理的条件の不利に屈せず、様々の驚きや発見の連続のなかで、あくまで民情に即した経済改革を遂行した日本人総裁の記録である。今回、九四年のルワンダ動乱をめぐる一文を増補し、著者の業績をその後のアフリカ経済の推移のなかに位置づける。

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学研の図鑑「スーパー戦隊」は情報量の多さにめまいがする「THE・図鑑」である【愛用品コラム65】

本連載ではGetNavi web編集長・山田佑樹が日々の生活で愛用している品々を紹介していきます。

 

【#愛用品 65:学研の図鑑「スーパー戦隊」】

●起

本コラムで初めての出版物だ(愛用品とはややニュアンスが違うが紹介したい)。古巣の出版物でもあるが、もちろん自腹買いしている。さて、出版社に入る前、図鑑というコンテンツは地味なジャンルだと思っていた。「動物」「魚」「昆虫」「植物」など世の中には様々な図鑑があるが、それを分類して分かりやすく紹介するだけなんじゃないかと。

 

●承

だが、学研に入社してから、それが間違いであることがわかってきた。そもそも、生き物はわからないことだらけである。むしろ、わかっていないことがほとんどだ。研究の最前線に飛び込んで、地図のカケラを少しずつ編み集めていく。冒険家に近い。断片的な情報を科学的な視点と、ときにはダイナミックな想像力で広げていく作業。それが図鑑だ。

 

●転

スーパー戦隊の場合は、さらに冒険家要素が極まる。なぜなら、一般的な図鑑は先人の知見が体系化されているが、こちらは整理されていないし、そもそも作品ごとに細かに世界観が違う。公式資料にもない要素もゴロゴロ。本書の場合も、設定集にないメカの造形はひたすら映像を見て調べ上げているという。膨大な作品の海をひたすら泳ぎながらフィールドワークする。知と血のアドベンチャーだ。

 

●結

いつも通りごちゃと御託を並べてしまったが、実際にページをめくると、その情報量の多さにめまいがする。戦隊モノのファンブックは郷愁に駆られるものだが、本書にはそういうのは一切ない。「あ、これエネルギー消費しながら読むやつだ」である。監修者や編集者と同じように、読者も無限に広がる世界を冒険できる。それが図鑑の醍醐味であり、それをスーパー戦隊という世界に誇る日本の文化で体験できるのが本書である。

 

GetNavi web編集長・山田佑樹の「愛用品コラム」はInstagramでも展開中。週3回公開しています。

単館上映の映画が大化けしてブレイク!? 映画買い付けのコツとヒットの法則とは?~注目の新書紹介~

書評家・卯月 鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

 

いつまでも心に残るニッチ作品の魅力

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。私はベストセラーや賞を取った本よりもあまり知られていない、でも誰かの心には確実に刺さる、そんな小説が好きでよく読んでいます。

 

映画好きにもそういった人は多いのではないでしょうか。ハリウッド映画よりも、単館上映の個性ある映画が好きという話もよく聞きます。万人受けを狙っていない、メッセージ性の強さに引きつけられますよね。

さて、今回の新書『職業としてのシネマ』(髙野てるみ・著/集英社新書)は、そうした単館系洋画配給ビジネスの裏側を教えてくれる本。

 

著者の髙野てるみさんは、フランス映画を中心とした洋画の配給会社「巴里映画」の代表取締役。これまで『テレーズ』『ギャルソン!』『パリ猫ディノの夜』といった映画を配給し、ミニシアターブームを作り上げた立役者のひとりです。映画への造詣が深いシネマ・エッセイストでもあります。

 

洋画の配給プロデューサーの仕事とは?

第1章「知られざる『配給』という仕事」では、映画業界の黒子とでもいうべき「配給プロデューサー」の役割が語られます。買い付けた映画作品を劇場にブッキングするだけでなく、来日した監督や主演俳優のインタビューを有力メディアに売り込む「宣伝」も大きな仕事。

 

髙野さんは「映画好きというだけで、この仕事を選ばないほうがいい」とアドバイスします。それは、宣伝すべき作品が自分の好きな映画だけとは限らないから。買い付けてから時間とお金を「かける(賭ける)」、リスクを伴う仕事でもあります。それでも手がけた作品がヒットすると、強いやりがいを感じるとか。文化を担う仕事でもあり、ビジネスとしてはギャンブル的な要素もあるのですね。

 

「映画ってどうやって買うんだろう?」という素朴な疑問に答えてくれるのが第2章。ビジネスの直接的な窓口は作品のプロデューサーかワールド・セールスを任されている会社。そこにかけあって金額を決めます。

 

映画祭で賞を獲得すると複数の配給会社で争奪戦が繰り広げられ、前渡し保証金「MG(ミニマム・ギャランティ)」の金額はつり上がってしまいます。髙野さんは「残り物には福がある」と、無理をせずに「掘り出し物」を探すスタンスで成功を収めています。

 

たとえばヴィルジニ・テヴネ監督の『ガーターベルトの夜』の場合、アート性とセンスの高さから、この監督は日本の女性に受けると確信した髙野さんは、パリに飛んでいきなり監督と直談判。そして監督からプロデューサーに頼んでもらい、ミニマムな金額で交渉成立にこぎつけました。

 

「シネセゾン渋谷」でレイトショーとして1日1回公開したところ、映画感度の高い人々に口コミで広がり、興行は大成功! 髙野さんの狙いは当たったのです。

 

ちなみに単館系洋画配給は初日の客層が重要で、オシャレにこだわる男女、または女子の仲良し2人組が集まるとヒットするとか。

 

本書はミニシアターを中心とした映画ビジネスがテーマですが、お堅いビジネス書ではなく、映画監督や女優さんのエピソードも豊富に挟まり、映画の魅力が伝わってくるのがポイント。

 

オンライン動画配信の定着、さらにコロナ禍によって、苦境に立たされているミニシアターですが、映画を愛する人たちがいる限り、その存在はなくならないでしょう。

 

 

【書籍紹介】

職業としてのシネマ

著者:髙野てるみ
発行:集英社

80年代以降、『テレーズ』『ギャルソン!』『ガーターベルトの夜』『サム・サフィ』『TOPLESS』『ミルクのお値段』『パリ猫ディノの夜』等の配給作品のヒットでミニシアター・ブームをつくりあげた立役者の一人である著者が、長きにわたって関わった配給、バイヤー、宣伝等の現場における豊富なエピソードを交え、仕事の難しさや面白さ、やりがいを伝える一冊。業界で働きたい人のための「映画業界入門書」である一方、ミニシアター・ブーム時代の舞台裏が余すところなく明かされており、映画愛好家にはたまらない必読書である。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

池波正太郎のファンタジーから数学オリンピックまで—— 歴史小説家が選ぶ「オリンピック」の5冊

毎日Twitterで読んだ本の短評をあげ続け、読書量は年間1000冊を超える、新進の歴史小説家・谷津矢車さん。今回のテーマは「オリンピック」。開催か中止か、はたまた延期か。世界を巻き込んだ論争となっていますが、こんな時だからこそ「オリンピック」についてじっくり考えてみませんか?

 

【過去の記事はコチラ

 


今年の夏、オリンピック、パラリンピックが開催されるらしい。ほんまかいな、と慣れない大阪弁でツッコミをしたくなるのは、なにもわたしだけではあるまい。

 

わたし個人としてはオリンピック種目の中に好きなスポーツがいくつもあるし、できることなら観戦したいところなのだが、現状を思うと気が重くなる。オリンピック、パラリンピックを推し進めたい人々の気持ちも分からないではない。人はウイルスでも死ぬが、経済的な困窮でも死ぬ。オリンピック、パラリンピックを巡る混乱の多くは、煎じ詰めると異なる価値観、異なる人生観の衝突なのだろう。

 

人が不安や不快を感じるのは、目の前にあるものが未知の存在であったり、不可解なものだからである。それらの負の感情を取り除くためには、「知る」ことが何よりの処方箋となる。

 

というわけで、今回の選書テーマは「オリンピック」である。

 

古代と近代——2つの五輪の相違と相似

オリンピックと聞いてわたしたちの多くが思い浮かべるのは、いわゆる近代オリンピックである。このスポーツの祭典に元ネタがあるのをご存じの方も多いことだろう。そう、古代オリンピックである。では、その古代オリンピックがどんなイベントであったのか、おぼろげにしかご存じでない方もいらっしゃることだろう。

 

そうした方にお勧めしたいのが、『古代オリンピック 全裸の祭典』 (トニー・ペロテット・著、矢羽野薫 ・訳/河出書房新書・刊)である。本書は文学作品や考古資料、史書などから古代オリンピックの記述や痕跡を拾い上げ、古代オリンピックの諸相に迫った本である。

 

本書の描き出す古代オリンピックの姿は、驚きの連続である。古代オリンピックは近代オリンピックとは精神の在り方がまったく違う(詳しくは本書を手に取っていただこう)。一方で、片やギリシア世界における世紀の祭典であり、片や全世界における空前の祭典となった二つのオリンピックにはあまりにも相似点が多い。

 

繰り返しになるが、古代オリンピックと近代オリンピックは立脚点がまるで異なる。にも拘わらず、なぜこんなにも鏡写しなのか――。同じイベント名を冠したことによるものなのか、それとも――? そんな感慨に襲われる本である。

 

“いだてん”金栗四三の実像に迫る

次に行こう。皆さんは金栗四三(かなくりしそう/かなぐり・しぞうとも)をご存じだろうか。大河ドラマ『いだてん』をご覧になった方は中村勘九郎の好演を覚えておられる方も多いかも知れない。一般には、1912年のオリンピックストックホルム大会のフルマラソンに出場したものの行方不明扱いとされ、戦後になってストックホルム大会55年式典の際に金栗にゴールテープを切らせる企画が催され、54年8か月6日5時間32分20秒3という前人未踏のマラソン〝記録〟を打ち立てた、という、トリビア的な逸話で知られていよう(わたしもこの逸話で知ったくちである)。

 

だが、逸話は往々にしてその人物の実像を覆い隠してしまう。だからこそ、この本をおすすめしたい。『金栗四三 消えたオリンピック走者』 (佐山和夫・著/潮出版社・刊)である。本書は名前の通り金栗四三を主人公においたノンフィクションであり、ストックホルム大会とその後の55年式典に焦点を置いて語られがちな金栗の人生を丁寧に追っている。本書は金栗だけではなく、彼が生きた時代や当時の近代オリンピックの在り方、今でも金栗を顕彰し記憶に留め続けるストックホルムの街、彼と同時代に生きながら忘れ去られた選手にまで筆を伸ばし、金栗四三という一人のスポーツ選手・スポーツ教育者のみならず、近代オリンピズムの在処にまで迫っている。

 

池波正太郎のファンタジー小説!?

次は、こちらをご紹介しよう。『緑のオリンピア』 (池波正太郎・著/講談社・刊) である。池波正太郎といえば『鬼平犯科帳』『剣客商売』『仕掛人・藤枝梅安』などの代表作を持ち、歴史時代小説の黄金期を支えた一平二太郎の一角を占める作家として有名であるが、実は現代小説も上梓している。本書はそんな現代小説作品で、しかも、表題作はファンタジー作品である。

 

三段跳びの選手である「僕」が、昭和28年、18歳で迎えた全日本インターハイ大会で妖精(フェアリ)のセリナ・マネットと出会うところからこの話は始まる。……いや、嘘ではない。本当にこんな導入なのである!

 

だが、「僕」は決して恵まれた選手生活を送ったわけではなかった。家が貧しかったことや諸般の事情もあり、「僕」はデパートの店員に就職し、社会人の立場でメルボルンオリンピックを目指すことになる。しかし、仕事との両立に悩み、肝心の記録も伸びない。なのだが――。

 

この作品を読むと、妖精という怪力乱神が語られているにも拘わらず、いや、そうであるがゆえに、ディテール部分の土臭さが目立つ。「僕」の社会人としての苦衷などは、今、ビジネスパーソンとして過ごしている皆さんにも刺さるところがあるのではないだろうか。だからこそ、唯一のファンタジー要素である妖精セリナの存在が大きくクローズアップされる仕掛けになっている。

 

本作は、かつての日本人が抱いていたオリンピックの夢を閉じ込めた作品のようにも思える。現代っ子であるわたしにとっても、本作に描かれている「僕」のひたむきな夢は、実に眩しい。

 

「知のスポーツ」チェスを巡る冒険

皆さんは、オリンピックに選ばれそうで選ばれていない種目の一つに、チェスがあることをご存じだろうか。

 

日本においては盤上遊技と認識されているチェスだが、西洋においては知的スポーツとして扱われており、それゆえに、オリンピック種目化の議論が時折なされるようである。2018年の平昌冬期五輪においてデモ種目として採用されるという憶測が流れたこともあり、2024年のパリ夏季五輪でもデモ種目としての採用が一部で取り沙汰されているという。

 

新たな五輪種目となるかもしれないチェスを、やや内角攻めで知ることのできる一冊といえば本書だろう。『謎のチェス指し人形「ターク」』(トム・スタンデージ ・著、服部 桂 ・訳/NTT出版・刊)である。本書は18世紀、突如として西洋社交界に現われたチェス〝ロボット〟タークを扱った本である。

 

自ら手筋を計算してチェスを指すという触れ込みのこのターク、途轍もなく強かったらしい。西洋社交界を飛び回り、数々のデモンストレーションや勝負を繰り広げた。しかも、種も仕掛けもありません、とばかりに、タークの下にあった机を開けて見せ、中に人が入っていないことを証明してみせるのが常であったという。

 

無論、現代人であればこれがいかさまであることは想像がつくところであろう(本書の著者も中に人間が入って操作していたのだろうと推測している)。しかし、本書はこのタークの存在が、人間にあらざるものがチェスを指すというコンセプトを形作り、のちのチェスAIに結びついたと論じる。

 

18世紀に生まれた大きな嘘が、21世紀に夢として結実する。想像と夢を巡る一冊とも言えよう。

 

天才達が集う「数学オリンピック」に挑む秀才

最後は漫画から。『数学ゴールデン』(藏丸竜彦・著/白泉社・刊)である。本書は数学オリンピックを目指す高校生たちの群像を描いた青春漫画である。

 

若者たちが自分の能力や才能を燃やし、コンプレックスや無力に囚われながらも、それでも見えない壁に挑み続ける姿のなんと美しいことよ。本書は「高等数学を解く」という絵的に地味になりがちなモチーフを魅力的に、かつ大胆に描き出すことに成功している。

 

この作品には様々なタイプの人々が登場する。だが、主人公である小野田春一が、天才とは程遠い秀才として描かれているのが何よりもいい。春一は高校の学年総代になることができるくらいの学力は有しているが、数学オリンピックに必要とされる天才性には恵まれない不器用な人物として描写されながら、数学の楽しさを知っている。だからこそ、本作の主役なり得る魅力を有した人物となっているのである。

 

2021年5月現在2巻まで刊行と、非常に追いやすい。手を出すなら今である。

 

 

オリンピック、パラリンピックは、夢と結びつけられることが多い。

事実、オリンピック、パラリンピックは夢であり、希望だ。それは否定できない。

だが、世の中には人の数だけ夢があり、希望があることもまた忘れてはならない。

 

いや、それをもってオリンピックやパラリンピックを否定するつもりはない。わたしが言いたいのは、自らの立場で以て誰かの夢を頭から否定してはならないということだ。それを是とすれば、己の夢も誰かに踏みにじられても文句が言えなくなってしまう。

 

相手の夢を尊重した上での議論。これからわたしたちに求められているのは、そうしたしなやかな態度なのだろう。いずれにしても、気が重い話ではあるのだが。

 

【過去の記事はコチラ

 

【プロフィール】

谷津矢車(やつ・やぐるま)

1986年東京都生まれ。2012年「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞受賞。2013年『洛中洛外画狂伝狩野永徳』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』にて歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。最新作は『吉宗の星』(実業之日本社)

ディズニーランドが教えてくれる「最大の娯楽」——『「エンタメ」の夜明け―ディズニーランドが日本に来た日』

アメリカ国外で初のディズニー・テーマパークとなった東京ディズニーランドが開園したのは1983年4月15日。そして名称が東京ディズニーリゾートに変わってから20年あまりが経つ。

 

スペースマウンテンの風

東京ディズニーランドに初めて行った時のことを覚えている人は多いのではないだろうか。筆者の脳裏に強烈な印象として残っているのは、夏の暑い日差しの中、かなり長い時間並んだ後にスペースマウンテンで感じた風だ。

 

ディズニーパーク初体験は、カリフォルニア州アナハイムのディズニーランドだった。19歳で初めて行った時に感じたのも、やはりスペースマウンテンの風だ。ちょっと力んだ言い方をするなら、“マイ・ディズニー・モーメント”みたいなものだ。人それぞれに、そういうシーンがあると思う。

 

みんなが共有するマジック

20年くらい前の話。大好きなTDLで働けたらいいな、なんて漠然と思っていた時、突然チャンスに恵まれた。当時建設中だったディズニー・シーの現場で通訳として働けることになったのだ。期間はそれほど長くなかったが、本当に楽しかった。

 

持ち場がどこであれ、現場の人たちは週ごとに設定されるかなりキツいノルマをこなさなければならない。しかし、みんなそれを超えたところにある何かを見据えながら、実に楽しそうに働いていた。「おいおい、ほんとにマジックかかってんじゃないの?」と感じる瞬間が何回もあった。

 

その根底にあったのは、“夢の世界の一番新しい部分”を創る現場にいられる幸福感かもしれない。いや、それだけではない。数えきれないほどの人たちが長い間享受していくエンタテインメントに直接関わっているというワクワク感も大きかったはずだ。

 

ワクワク感を可視化する

「エンタメ」の夜明け―ディズニーランドが日本に来た日』(馬場康夫・著/講談社・刊)は、日本にしっかり根付いている一大エンタテインメントが芽を出していく様子を見ていく内容だ。その過程で、独特のワクワク感が可視化されていく。章立てを見てみよう。

 

1.史上最大のプレゼン

2.ディズニーを呼んだ男

3.パッカードに乗った次郎長

4.黒い蝶

5.世界の国からこんにちは

6.祭りのあとさき

7.ウォルト・ディズニー

8.利権の海

9.白いキャンバス

 

筆者みたいなおっさんでもワクワクできるのはなぜか。ふとした瞬間にYouTubeでエレクトリカルパレードの最新映像を探してしまうのはなぜか。そしてあの夏の日、スペースマウンテンで感じた風の匂いを今も覚えているのはなぜか。この本には、多くのヒントが隠されているに違いない。

 

芽が出るまでの緊張感

芽を出す前の、種が蒔かれるまでについて触れた第1章は、走り始める緊張感が章の終わりまで続く。

 

1974年12月1日の昼下がり、三井・三菱という日本を代表するふたつの企業グループの招きで、ウォルト・ディズニー・プロダクションズの経営陣が羽田に降り立った。

  『「エンタメ」の夜明け』より引用

 

そして、日本にディズニーランドを作る計画を具体化するための6日間が始まった。それぞれの企業がプレゼンを準備し、実行する様子が細かく描かれる。このあたり、まるで『24』を見ているような感覚にとらわれる。2章以降は、歴史的プレゼンに深く関わった人々の経歴を俯瞰しながら、「ディズニーランドを日本に持ってくる」ことに対する情熱が静かに大きくなっていく過程が明らかにされる。

 

“最大の娯楽”とは何か

ワクワク感を生み出す原動力となっているのは、ひたすらファクトを積み重ねていく地味な努力ではないかという気がしてきた。それは、次のような言葉にも垣間見ることができる。

 

「ディズニー・ランドは世界中のレジャー施設が噛みしめていい示唆に満ちている。ディズニーの言ったことばで僕の好きなセリフをもう一つだけ付け加えておこう。—われわれは、王さまや王妃さまを楽しませたいと思う。しかし。ディズニー・ランドでは、すべての客がVIP(要人)である」

『「エンタメ」の夜明け』より引用

 

もうひとつ、ぜひ紹介しておきたいエピソードがある。開園当初のアナハイムのディズニーランドでは、水飲み場のノズルが180度反対の方向に取り付けられていた。なぜか。その理由は、スタッフの生の言葉を通して次のように綴られる。

 

飲料スタンドまで行かずに水飲み場で水を飲むというのは、そのお客様がよほどのどが渇いている証拠です。カラカラに乾いたのどを水で潤すとき、ペコペコに空いたお腹を食べ物で満たすとき、つまり欠けていた生存欲求が満たされたとき、人間はいちばんいい表情をします。そのいちばんいい表情を親子で共有できるなんて、最大の娯楽じゃないですか」

『「エンタメ」の夜明け』より引用

 

ウォルト・ディズニーという人は、エンタテインメントをこういうレベルでとらえることができる人だったのだ。そしてこうした姿勢は、TDRにもしっかりと受け継がれ、息づいている。

 

思い通りにパークを歩けるようになるまで、まだしばらく時間がかかるだろう。だからその時を思い浮かべながら、ワクワク感をひたすら貯めておくことにする。

 

【書籍紹介】

「エンタメ」の夜明け ディズニーランドが日本に来た日

著者:馬場康夫
発行:講談社

ウォルト・ディズニー、小谷正一、堀貞一郎ー見えない因縁の糸で結ばれた日米3人のプロデューサーたち。東京ディズニーランドはいかにして誕生したのか。したたかでウイットに富んだ男たちの「戦い」が、日本のエンターテインメント・ビジネスの夜明けを告げたー。

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「にゃーん」しか打てないキーボード、オンライン飲み会緊急脱出マシーン……「無駄づくり」に学ぶアイデアの生み出し方

無駄づくり」というYouTubeチャンネルをご存知だろうか。全然実用的ではないものを発明しては作り、発表しているチャンネルだ。無駄づくりを行っているのは、藤原里菜という女性。彼女は2013年から無駄づくりをはじめ、YouTubeでの活動をメインに、ワークショップを開いたり個展を開催したり、文筆活動を行ったりしている。今では日本だけではなく海外でも有名なアーティストとなった。ちなみに彼女は、元お笑い芸人だ。

 

「無駄づくり」とはどんなものなのか

「無駄づくり」で公開されている作品が、どのくらい無駄なのかは動画を見てもらえれば一目瞭然だが、どんなものなのかいくつか紹介する。

 

・レバーを倒すと自動的に上司に体調不良メールを送信する2度寝マシーン
・「にゃーん」しか打てないキーボード
・オンライン飲み会緊急脱出マシーン
・Twitterで「別れました」とツイートされると光るライト
・札束で頬をぶたれるマシーン
・イヤホンを絡ませるマシーン

 

■「にゃーん」しか打てないキーボード

 

一見、何のことやらわからないかもしれない。これを入力している筆者も、なんだかわけがわからなくなってきているが、まあ、こういうものを日々考え、作っているのが藤原里菜なのだ。

 

「無駄づくり」のアイデア発想法は無駄じゃない

彼女の何がすごいのかというと、そのアイデアだ。普通ならば、無駄だと思えるものは真っ先にアイデアリストから消去すると思う。だって、何も解決されないアイデアを実現することこそ無駄だからだ。

 

しかし、そのアイデア発想法には無駄がない。それがわかるのが『考える術――人と違うことが次々ひらめくすごい思考ワザ71』(藤原里菜・著/ダイヤモンド社・刊)だ。本書は、タイトルから分かる通り、彼女がアイデアを生み出す際のテクニックを71個解説している。

 

「無駄づくりをしている人のアイデア発想法なんて知ってもそれこそ無駄ではないか?」と思うかもしれないが、実はそんなことはない。アイデアが思い浮かばないとき、もっと斬新なアイデアが欲しいときなどにたいへん役立つテクニックが満載だ。

 

筆者がいくつか共感したテクニックを紹介していこう。

 

●「ダジャレ」から考える
ダジャレというのは、まさに「新しい言葉」をつくることだ。くだらないように思えるかもしれないが、そのものの本来の性質とは関係のない文脈で新しい言葉の組み合わせを考えることができるので、ダジャレはたいへんすばらしい。

(『考える術――人と違うことが次々ひらめくすごい思考ワザ71』より引用)

 

実は筆者は、企画を考えるときなどにダジャレで作ったタイトルだけを提出したら通ってしまったことが数度ある。本人はシャレのつもりだったのに、本決まりになってしまいたいへん苦労した思い出が……(内容まで考えてないから)。

 

●「アウトプットの言葉」を組み合わせる
アイディアを言葉から考えていくとき、まとめる言葉がたいへん重要な役割を果たすのだ。(中略)わたしはこれを「アウトプットの言葉」と呼んでいる。

(『考える術――人と違うことが次々ひらめくすごい思考ワザ71』より抜粋)

 

これは、企画を考えたときに、最後に何か単語を付け加えることでまとめるという技法。たとえば、イベント系だったら「●●フェア」や「●●祭り」、ノウハウ集なら「●●大全」「●●ガイド」、電子工作系なら「●●マシーン」「●●ロボ」のような単語だ。思いついたアイデアにアウトプットの言葉をくっつけてみると、意外と新鮮になることがあるという。なるほど。このアウトプットの言葉を多く持っていると、いろいろなアイデアに結びつきやすい。

 

●「感情移入」する
わたしは、知らない人が自分がしない行動をしていることに注目して、その人たちが抱えていそうな問題を、勝手に考えたりしている。(中略)また、無機物に惨めさを感じるときもある。鳥よけのために畑に吊されているCDを見ると、切ないような惨めな気持ちになる。CDたちはきっと音楽を聞いてほしいのに、まったく別の使われたかをされていてかわいそうだ。その惨めさを解消するにはどうすればいいだろうか。

(『考える術――人と違うことが次々ひらめくすごい思考ワザ71』より抜粋)

 

要は、自分以外の、人、動物、無機物の気持ちになってみるということだ。上の文章で藤原里菜は、鳥よけのCDに感情移入をしていた。そしてそこから思いついたのがこれ。

 

わたしが考えたのは、「畑に吊されたCDだけのクラブイベント」だ。吊されたCDたちを、一夜だけでも本来の用途として使ってあげたら、彼らも浮かばれるのではないだろうか。

(『考える術――人と違うことが次々ひらめくすごい思考ワザ71』より引用)

 

このアイデアを見たとき、筆者は不覚にもエモさを感じた。鳥よけとして余生を過ごしていたCDたちが、DJの手によって大音量で自分たちの音楽を奏で、それに合わせてオーディエンスが踊ったり歓声を送ったりしているところを想像すると、涙が出る。長年外に吊されていたために音飛びしていたりすることもあるだろう。しかし、それは魂のブレイクだ。こういうアイデアが思いつく藤原里菜、天才なのではないかと思った。

 

自分の堕落した感情もアイデアに結びつく、かも?

本書を読むと、彼女が常に何かを考え、それをアウトプットすることで次のアイデアを生み出しているのがわかる。つまるところ、いつもアンテナを張り巡らせ、考え、実行するということが大事なのかなと感じた。

 

人間は、普通に生きていると普通の考え方が身についてしまう。生き方はそうそう変えられないかもしれないが、考え方はいかようにも変えられる。見える世界を、ちょっとだけずらしてみて、自分の近くに引き寄せてみると、無駄なアイデアがいっぱい思いつくのではないだろうか。本書を読めば、「おなかがすいたけど食べるのめんどうくさい」という矛盾した感情から、何か無駄なアイデアが生まれるかもしれない。そう思わせてくれるだけでも、かなり良書だと言える。

 

 

【書籍紹介】

考える術――人と違うことが次々ひらめくすごい思考ワザ71

著者:藤原麻里菜
発行:ダイヤモンド社

開くたび、パッとひらめく思考全書!令和最強「鬼才」発明家の超技法!

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猫が遊べるキャットタワーが作れるかも! ムック『DIYで作る猫との暮らし』が好評発売中

日本唯一のDIY専門誌『ドゥーパ!』の編集部が手掛けた猫のためのDIYムック『DIYで作る猫との暮らし』が好評発売中です。

 

本書は、猫たちとの暮らしをDIYで豊かにできる作例が詰まった一冊。「猫と私のための手作りの部屋」「DIYを始める前に知っておきたいこと」「猫のための家具を作ろう」「猫のための遊具を作ろう」の4章立てになっている、愛猫のために家具や遊具を手作りしたい! というDIY派な飼い主さんの願いを叶えるムックです。

 

「猫と私のための手作りの部屋」では、猫が遊んだり、くつろいだり、外のパトロールを楽しんだりできる手作りのキャットタワーや、キャットウォークがある部屋の実例集を紹介。インテリアに合わせたトイレカバーや猫用ケージなども登場します。

 

「DIYを始める前に知っておきたいこと」では、猫の特性の解説やDIYの基本テクニックを紹介しています。

 

「猫のための家具を作ろう」と「猫のための遊具を作ろう」では、猫のごはん台、トイレカバー、おもちゃを収納できる猫ベッド、愛猫家にはおなじみのニャンモック(猫用ハンモック)などの作り方を収録。

 

さらに、猫と暮らし始めたら一度は手に入れたい憧れのキャットタワー、キャットウォークといった遊具の作り方も披露しています。もちろん、それぞれの製作過程や道具の使い方なども詳しく紹介しているので、製作に挑戦しやすくなっています。

 

 

このほか、一級建築士事務所ねこのいえ設計室を主宰する、いしまるあきこさんによる猫との住まい作りに関するコラムや、かわいらしい猫ちゃんが散歩したり遊んだりするパラパラ漫画を収録。

 

『DIYで作る猫との暮らし』はAmazon楽天ブックスセブンネットで購入できます。愛猫との暮らしをもっと豊かにしたいDIY好きの人はぜひお手に取ってみてください!

 

【商品情報】
商品名 DIYで作る猫との暮らし
発売日 2021年2月18日
定価 1980円
本体 1800円
雑誌コード 69531-05
ISBNコード 9784651200798

自分探しに出る個体まで。ヒトとそっくりな「ハダカデバネズミの社会」

ふにゃっとした薄ピンク色の体とつぶらな瞳に長い二本の前歯。愛らしい姿を見つめているとなごめるからか、最近はキャラクターグッズも増えているハダカデバネズミ。『〈生きもの〉 ハダカデバネズミ-女王・兵隊・ふとん係』(吉田重人、岡ノ谷一夫・著/岩波書店・刊)では、ヒト社会との類似も指摘されています。

ヒトとの共通点

彼らにはそれぞれ役割分担がされていて、女王や兵隊のほか、掃除係や食料調達係、そして子どもを温めて育てるふとん係までいます。兵隊の生き方は衝撃的で、天敵のヘビがやってくると、自分の身を進んで投げ出すのです。自らが食べられることで仲間を逃すというのだから胸が熱くなります。

 

また、ハダカデバネズミは個体によって働きかたが違い、仕事に打ち込んでいるものもいれば、マイペースに作業しているものもいるそうです。一部には仕事をサボってだらけるものもいて、女王がしばしば巣穴を見回り、休んでいたら叱りつけることもあるのだとか。まるで、ヒトの会社組織のようです。

 

「真社会性」に生きる

とはいえ、ヒトとは大きく違うところがあります。ハダカデバネズミは、繁殖する個体がごく少数に限られ、ほとんどの個体は繁殖の手伝いをするだけなのです。これは「真社会性」と言われ、哺乳類では2種類だけが持つ形態なのだとか。

 

ヒトは、それぞれが繁殖するのでこの点は同じではありません。臨機応変に生きかたを変えることができるこの多様性こそが、ヒトの面白さや奥深さなのかもしれません。

 

自分探しの旅に出る

本書のなかでとても興味深かったのは、群れを飛び出して新天地を探す旅に出るハダカデバネズミがいるということ。ヒトにも自分探しの旅に出るケースがあるので、親近感を持ってしまいます。

 

ハダカデバネズミだって、工事係が掘ってくれた大きな巣穴の中で仲間と助け合って暮らしているほうが安全だし楽なはず。それなのに、外の世界を知りたいと決意の一歩を踏み出す小さな個体がいるという事実は感動的です。

 

ヒトの世界も、今までに作り上げられたシステムでほどほどに働けば、そこそこに生きていけるようにできていると思います。けれど、そこから飛び出して新しい何かを始める勇気を持つ人がいるからこそ、世界は変化し、技術革新も行われていったのでしょう。私たちも人生を賭けてみたいものに出会った時に一歩を踏み出せる勇気を備えておきたいものです。

 

【書籍紹介】

〈生きもの〉ハダカデバネズミ-女王・兵隊・ふとん係

著者:吉田重人、岡ノ谷一夫
発行:岩波書店

ひどい名前、キョーレツな姿、女王君臨の階級社会。動物園で人気急上昇中の珍獣・ハダカデバネズミと、その動物で一旗あげようともくろんだ研究者たちの、「こんなくらしもあったのか」的ミラクルワールド。なぜ裸なの?女王は幸せ? ふとん係って何ですか? 人気イラストレーター・べつやくれい氏のキュートなイラストも必見。

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車のボンネットでご飯は炊ける? 理系研究者が食の疑問に体当たりチャレンジ!~注目の新書紹介~

書評家・卯月 鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

 

理系研究者が料理を大実験!

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。人間は文系脳と理系脳に分かれるとよくいいますが、それなら私は徹頭徹尾文系脳。いまだに電子レンジは魔法だと思ってますし、冷蔵庫もとりあえず入れておけば食品が長もちする封印の箱だと思っています(笑)。まあ、封印にも限界があって、奥から干からびた野菜が発見されるんですけど。

そんな文系の私からすると、理系の発想で発明していく今回の新書『理系研究者の「実験メシ」 科学の力で解決! 食にまつわる疑問』(松尾佑一・著/光文社新書)はものすごく刺激的。

 

「炎天下の車のボンネットでお米は炊けるのか?」「マンガに出てきたタクアン製造マシンを実際に作れないか?」など、日常のちょっとした疑問から料理を科学し、装置を作っていく。まさに大人の自由研究です。

 

著者は放射線生物学・分子生物学を専門とする研究者で、国立大学で研究教育職に従事する松尾佑一さん。『彼女を愛した遺伝子』『生物学者山田博士の聖域』など、科学や科学者にまつわる小説も数多く手がけている作家でもあります。今回は初の新書。9本の科学エッセイが軽妙な文章でつづられていきます。

 

自転車でバターを作れば0カロリー!?

これはいい! と思ったのは、第2章の「ソーラー炊飯器」。「炎天下の車のボンネットで目玉焼きが作れる」という話はよく聞きます。しかし、松尾さんは目玉焼きがそれほど好きではなく、そのことを学生に話すと「じゃあ、お米は炊けませんかね?」と言われ、この実験が始まりました。

 

しかし、JAF(日本自動車連盟)の報告によると、ボンネットに近いダッシュボードの温度は79度。お米を炊くには98度で20分加熱が必要で、これでは温度が足りません。そこでボンネットでの炊飯はあきらめ、レンズで太陽光を集めるソーラー炊飯器を作ることに。

 

塩化ビニルシートにアルミホイルをスプレーボンドで接着して反射板を作り、300mlのコーヒー缶に黒ビニルテープを巻いて炊飯容器にする……。実験装置は組み上がりました。果たして太陽光だけでお米は炊けるのか?

 

第6章は「自転車バター」。スコーンを作っていた奥さんを手伝い、生クリームを振ってバターとホエーに分離させていたとき、「自転車を漕ぐ振動でバターを作れないか?」とひらめいた松尾さん。さらに、「自転車に乗って消費したカロリー数(A)」と「できあがったバターのカロリー数(B)」を比べたら面白いのでは? と考えました。

 

ということで生クリームを背負って自転車で1時間走ってみたところ……見事に失敗。生クリームはまったく分離しませんでした。ならば自転車を漕ぐと回転するクランクを利用して、生クリームが入ったペットボトルを振動させたら?

 

失敗してもそのデータを活かしてさらなる工夫をする。妄想や空想に終わらず、具体的な形にしてチャレンジする前向きさが、本書の読後感の良さにつながっています。

 

ほかにも、遠心分離器を使ってコーヒーの粉を取り除く「遠心分離コーヒー」、世界最小の調理器で作る「ポケットポップコーン」などに挑戦しています。手描きの図解やイラストも味がありますね。

 

ふとした思いつきをきっかけに始まる“実験メシ”の試行錯誤は、ロジカルかつコミカル。こうしたなかから私たちの生活を一変させる、とんでもない発明が生まれるのかもしれません。

 

【書籍紹介】

『理系研究者の「実験メシ」 科学の力で解決! 食にまつわる疑問』

著者:松尾佑一
発行:光文社

「ポップコーンの白い部分は何でできている?」「炎天下の車のボンネットなら目玉焼きが作れそう」――ふとした瞬間に湧き上がる食に関する様々な疑問、一度は感じたことがありませんか? 本書ではそんな疑問に大学で生物学を教える研究者が実際に実験して体当たりで解決します。世界最小の調理器具を作ろうとして、ポケットインサイズのポップコーン製造機を自作してみたり、いつでも美味しい手作り納豆を食べられるように、家でできる納豆の作り方を模索してみたり――。成功あり、失敗あり、ハプニングありのちょっぴり大人な自由研究がお腹と知的好奇心を満たします!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

知っているようで知らなかったタイガー・ウッズの真の姿がここにある

タイガー・ウッズ』(ジェフ・ベネディクト、アーメン・ケテイヤン・著/ゴルフライブ・刊)を、是非とも読みたい。そう思いました。私はゴルフをしませんが、彼の試合をテレビで観戦する度に、驚愕していたからです。機械のように正確なショット、腰や膝に故障を抱えながらも、痛みをこらえ苦悶の表情でプレーを続けるその姿……。ゴルフができなくても、それがどんなに大変なことかわかります。

 

届いた本を見てぶっ飛んだ

今年の2月、タイガー・ウッズが自動車事故を起こし、重傷を負ったというニュースが飛び込んできました。「あぁ、これは大変だな。しばらくは復帰できないだろう」と思っていたら、事故から2か月後にはリハビリのためグリーンに姿を表したというではありませんか。「すごい! やはり、普通じゃない」と、驚かずにはいられません。彼は2009年にも事故を起こし、それをきっかけに数々のスキャンダルが露呈、大騒ぎとなりました。一時は、ゴルファーとしての復帰は難しいとまで言わながらも、見事復活を遂げました。

 

改めて彼に興味をかきたてられた私は、早速、『タイガー・ウッズ』を注文し、楽しみに待っていたのですが、届いた本を見て「えっ! 嘘〜〜」と、のけぞりました。これほど分厚い本とは予想していなかったのです。物差しで測ってみると、厚さ5センチもあります。おまけに、細かな字が566ページにわたってぎっちりつまっています。ところが、お値段はというと、税別で2980円。しかも、わかりやすい翻訳がなされた本です。タイガーを知って欲しいという願いをこめて、ぎりぎりの価格を設定したのではないでしょうか。

 

いざ読み始めてみると、ページごとにぶっ飛ぶような内容でした。タイガー・ウッズとは、これほど悲しい人だったのかと、胸がいたみ、しばし天井を見上げてしまったほどです。世界的なセレブとして有名な彼が、こんな思いに耐えていたなんて。よけいなお世話と分かっていても、真っ白な歯を見せてにっこり笑うあの素敵な笑顔の裏に、こんなにも暗く深い苦悩があったとは……。

 

不思議な子ども

タイガー・ウッズは幼いころからゴルフ漬けの毎日でした。なんと生後6か月からゴルフを始めたというのです。もちろん、まだ歩くこともできず、おむつもしていましたから、クラブを振ったわけではありません。父のアール・ウッズが息子をガレージに連れて行き、ハイチェアに座らせると、5番アイアンで延々とボールを打ち込む姿を見せていたというのです。ひとり息子を溺愛していた母のクルティダも協力しました。

 

クルティダが片手にスプーン、片手に離乳食を持って、ハイチェアの横に座ることもあった。クルティダの話によれば、アールが球を打つたびにタイガーが口を開けるので、そこにすかさず離乳食を流し込み、完食するまで、それを繰り返したという。

(『タイガー・ウッズ』より抜粋)

 

生後11か月になると、タイガーはハイチェアから自分で降り、短く切ったクラブを使って、スイングをするようになります。日本の伝統芸能などでも、幼いころから、芸を叩き込む慣習があります。けれども、まだ1歳にもならない子どもに離乳食を食べさせながらゴルフを教えるとは、驚きのあまり口あんぐりです。

 

2歳になると、父のアールはタイガーをゴルフコースに毎日連れて行くようになりました。そして、自らテレビ局に売り込みをかけます。紹介者がいたわけではありません。電話をかけて自分の考えを述べたのです。

 

「二歳になる息子のことなんですがね」とアールは切り出した。「ずばり言いましょう。うちの子はゴルフ界に旋風を巻き起こすこと間違いなしです。息子の登場ですべてが大きく変わるでしょうね。人権問題に関しても」

(『タイガー・ウッズ』より抜粋)

 

この電話がきっかけとなり、タイガーはテレビに出演することになりました。まだ60センチほどの身長なのに、きちんとしたフォームで、まっすぐにボールを打ってみせます。その姿に大人達は夢中になりました。それでも、現実にはタイガーはまだ2歳の男の子です。インタビューを受け、「ゴルフのどこが好きなの?」と何度も聞かれても、ため息をついてクビをかしげるだけで答えません。そして、わざとなのか、本当にそうだったのか「ぼく、ウンチする」と言いながら、父親の膝から飛びおりてしまいます。周囲は大爆笑となりましたが、本人の心のうちはどうだったのでしょう。

 

華々しい経歴

2歳で既に人気者になったタイガーについて、著者は次のように表現しています。

 

タイガー・ウッズは、ハレー彗星のごとく一生に一度、お目にかかれるかどうかという希有なスター選手だった。どこからどう観ても、彼ほど才能あふれるゴルファーはいない。(中略)ゴルフ競技でタイガーが紡ぎ出した伝説は、ほとんど想像の範疇を超えている。

(『タイガー・ウッズ』より抜粋)

 

タイガーの成し遂げた偉業は膨大で、ここにはとても書き切れません。ハイスピードで、多くの歴史をぬりかえていきます。思いつくままに書いてみると、アフリカ系アメリカ人で初めて、メジャー選手権で優勝を果たしました。それも最年少での快挙です。メジャーの優勝回数は14回を超え、稼ぎ出した賞金も世界1位。コマーシャル契約を結んだ有名企業も数え切れないほどです。

 

私生活でも、美しい妻を持ち、子どもにも恵まれ、誰もがうらやむ生活をしっかりとつかみ取っているように見えました。けれども、タイガーもひとりの人間です。神様ではありません。2009年の交通事故の後、数多くの女性関係が暴かれ、スキャンダルにまみれ、幸福を手放すことになります。離婚を経て、子どもたちとも離ればなれにならざるを得ませんでした。

 

神のような存在として君臨していたタイガーは、弱さを抱えたひとりの人間として、世界中の目に曝されたのです。

 

謎の人、タイガー・ウッズ

どんなにスキャンダルに曝されようと、タイガー・ウッズはアメリカが生んだスターであることに変わりはありません。そんな人物の伝記を書くのは、ある意味、無謀な試みだったに違いありません。おまけに、タイガー本人からの協力を仰げない状態で仕事を進めなければなりませんでした。彼は自分について語られることを極端に嫌い、周囲に厳しすぎるほど厳しい箝口令を強いているためです。そのため、タイガーの私生活は謎に包まれており、分からないことばかりです。

 

けれども、著者ジェフ・ベネディクトとアーメン・ケテイヤンはあきらめませんでした。タイガーが今まで行った320回以上の公式記者会見を文字に起こし、精読します。さらに、タイガーが受けたおびただしい数のインタビュー記事を読み、タイガーに関する新聞、雑誌、論文記事を集め、数千件のすべてに目を通したといいます。映像におさめられたタイガーの姿も細かくチェックし、彼の実像を明らかにしようとしました。

 

タイガーの関係者へのインタビューも、400回以上行いました。その中には、今までインタビューを受けたことがなかった人も多く含まれていました。だからこそ、今までにない新しいタイガー・ウッズ像を浮き彫りにするのに成功したのでしょう。

 

この分厚い本を私は一気に読み終えました。謎が謎を呼びながら、少しずつタイガーの実像に迫る様子に寒気を感じるほど惹きつけられたからです。これまで、タイガーは人間とは思えない偉業を成し遂げ、生きながらにしてレジェンドになりました。

 

アメリカン・ドリームの達成者として、祭り上げられたと言っていいと思います。そのおかげで得た幸福もあったでしょう。同時に、だからこそ見舞われた不幸もありました。彼は自分を守るために、謎の人として生きるしかなかったのかもしれません。

 

これだけ分厚い本でもまだ収まりきれないほどの人生をタイガーは既に味わいました。そして、これからも物語は続きます。彼はまだ45歳なのですから。

 

【書籍紹介】

タイガー・ウッズ

著者:ジェフ・ベネディクト、アーメン・ケテイヤン
発行:ゴルフライブ

米国の著名なスポーツジャーナリスト、ジェフ・ベネディクトとアーメン・ケテイヤンが、タイガー・ウッズの関係者250人以上、実に400回以上のインタビューを通して、アメリカン・レジェンドの真の人物像を描いた決定版。

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新緑の季節、グングン成長していく植物について学んでみよう『面白くて眠れなくなる植物学』

“おうち時間”の増加に伴い、自宅で植物を育て始めたなんて人も多いのではないでしょうか? 私もその一人で、もともとモンステラという南国な見た目をした植物だけだったのが、あれよあれよと7種類まで増え、少しずつ大きくなる植物たちに癒される日々を過ごしています。

 

しかし、2〜3日家を空けることになり、ちょっと弱っている植物がいたのですが「まぁ大丈夫っしょ!」と出かけてしまったところ、見事に枯れておりました。悲しい……。それ以外は元気だったのでどうしてだろう? と疑問になり、もっと植物のことを知りたい! と手に取った『面白くて眠れなくなる植物学』(稲垣 栄洋・著/PHP研究所・刊)には、私たちが普段食べている野菜のことから、植物の進化の歴史まで幅広い知識が掲載されていました。

 

植物は、どうして動かずとも生きていけるのか?

動物である人間は、ステイホームをしていると「外へ出たい」「動きたい」という気持ちになってしまいますが、植物たちは「私たちはこれまでもこれからもここで暮らしてますので……」と謙虚にじっとその場から動かず、日々成長していきますよね。そんな姿を見ているだけでもすごいなぁ〜と関心してしまいます。けれど、どうして植物は動かなくても成長し続けることができるのでしょうか?

 

植物はこの光合成を行うことができるので動く必要がないのです。また、植物は土の中の栄養分を吸収して、生きる上で必要なすべての物質を作ることができます。そのため植物は「独立栄養生物」と呼ばれています。

(『面白くて眠れなくなる植物学』より引用)

 

食べることで栄養を得ている動物は動き回らないと食べることはできませんが、自分で光合成ができる植物は動き回らなくても栄養を得ることができるわけです。

 

当たり前かもしれませんが、めっちゃ効率のいい体ですよね!(笑)その辺に生えている木にも「すごいですね〜」「えらいわね」と言いたくなってしまいます。

 

世界一高い木は何メートル?

そんな植物ですが、そのまま成長を続けたらどこまで大きくなれるのでしょうか? 神社などには樹齢〇〇年など神木として大切に育てられている木もありますが、世界一高い木はアメリカにあるそうです。

 

現存する世界一高い木はアメリカのカリフォルニア州にあるセコアメスギで高さ一一五メートルにもなると言います。これは二五階建てビルの高さと同じくらいです。とはいえ、一四〇メートルが理論上の限界です。

(『面白くて眠れなくなる植物学』より引用)

 

ものすごい高さですが、どうして140メートルが限界なのか? それは、根から水を吸い上げる高さの限界が140メートルほどだから。詳しく知りたい! という方は、『面白くて眠れなくなる植物学』にその仕組みがたっぷりと掲載されているので、ぜひご自身で確かめていただければと思います。

 

言われてみれば「なるほど」と思うことがたくさん掲載されているので、植物に興味がないという方でも一度読むとタイトル通り面白くて眠れなくなっちゃうかもしれませんよっ!

 

カイワレ大根をそのまま育て続けたら大根になる?

私たちが毎日食べているお米や野菜も「植物」ですよね。白米からは芽は出ませんが、玄米を水に入れていればそこからまた稲が出てお米を育てることができます。

 

では、サラダやこれからの季節の定番になる「冷やし中華」に欠かせないカイワレ大根はそのまま育てたら大根になってしまうのでしょうか?

 

スプラウトとして売られている貝割れ大根(カイワレ大根)は、ダイコンの芽です。

開いた双葉の形が貝に似ていることから「貝割れ」と呼ばれています。この貝割れ大根が育つと、私たちが食べるダイコンになるのです。

(『面白くて眠れなくなる植物学』より引用)

 

知らなかった……! とはいえ「カイワレ大根」という品種で出回っているものは、スプラウト用に品種改良されているものがほとんどなので、「よし! 育ててみよう!」としても上手に育たないものの方が多いようです。YouTubeを見てみると、実際にチャレンジしている方も何人かいましたが「これって大根?」と思うようなものがほとんどでした(笑)。大根の種とカイワレ大根のタネを同時に育ててどうなるか……などは、夏休みの自由研究の題材としても面白そうなので、やってみると良いかも!

 

『面白くて眠れなくなる植物学』には、これ以外にも紅葉する仕組みや日本タンポポと西洋タンポポの違い、バナナに種がないのはどうして? など、普段まったく気にしてこなかった植物の疑問やトリビアがたっぷりと掲載されています。知っているようで知らない植物学の入門としてもおすすめの一冊ですので、休日にお子様と一緒に読んでから、実際にどうなっているか観察するために近所の公園へ出かけてみるのも楽しいと思います!

 

植物学者である著者の稲垣栄洋さんは、これ以外にも植物に関する様々な書籍を発刊されているので、気になる方はぜひ他の本も読んでみてくださいね! 新緑の美しいこれからの季節に「ねぇ知ってる?」とちょっと自慢できるような知識をたくさん知れるはずですよ!

 

 

【書籍紹介】

面白くて眠れなくなる植物学

著者:稲垣栄洋
発行:PHP研究所

植物の生き方は、想像よりもずっとダイナミックでドラマチック。植物の不思議がわかる!文庫版でしか読めない、「ウイルスとともに生きる」を特別掲載!

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スマホを見ても迷子になってしまう人におすすめ!『方向音痴って、なおるんですか?』著者・吉玉サキさんインタビュー!

「角を曲がると目的地の方角がわからなくなる」「駅から出て最初の一歩は勘」「徒歩10分と書いているのにその時間内にたどり着けない」など、方向音痴で困った! ことはありますか?

 

そんな方向音痴な人に寄り添ってくれる『方向音痴って、なおるんですか?』(交通新聞社・刊)が2021年5月21日、雑誌『散歩の達人』のウェブメディアさんたつの連載を経て発刊されました。

 

著者は『山小屋ガールの癒されない日々』(平凡社・刊)でも人気の、ライター・エッセイストの吉玉サキさん。吉玉さんが過去にnoteへアップした記事「方向音痴専用ナビを作ってほしい」を読んださんたつの編集部(本書にも出てくる中村嬢さん)が、吉玉さんへ依頼したことから連載がスタートしたそう。今回は、吉玉サキさんに方向音痴あるあるや、方向音痴をなおして(!?)これからやってみたいことを聞いてみました。

 

吉玉サキ

ライター・エッセイスト。札幌市出身。北アルプスの山小屋で10年間働いた後、2018年からライターとして活動を始めた。近著は『山小屋ガールの癒やされない日々』(平凡社)。山では迷ったことがないが、下界では方向音痴。

 

あなたはいくつ当てはまる? 『方向音痴あるある』

——『方向音痴って、なおるんですか?』を読ませてもらったのですが、「なんで?」と思うことがたくさんありました。特に「最初の一歩を勘で歩き出す」という方向音痴あるあるには驚きで!

 

吉玉 私も最初の一歩はとても怖いんですよ。けれど、勘しか頼るものがないので、もう仕方なくその一歩を踏み出しているんです。実際に歩き出して、GoogleMapが思った方向に向いていれば「良かった」と思うし、違っていたら……。

出口がひとつしかないような田舎の駅や慣れている場所なら、その目的地へなんとかたどり着けるんですけど、都内の大きな駅っていくつも出口があるだけじゃなく、上下のレイヤーも加わるじゃないですか。新宿駅だと小田急線をよく使うのですが、降りた時って地下だったり地上だったりするし。その時点で出口が分からなくなります。

 

——複雑な駅、多いですからね。Twitterでも「#方向音痴ってなおるんですか」のキャンペーンが行われていますが、こんなにも皆さん悩みながら生きていたのか! と感じました(笑)。

 

●キャンペーンツイート(5月31日まで募集中です)

 

吉玉 面白いですよね。こちらの方のツイートとか、フランダースの犬みたいな情景を思い浮かべてしまいました。この感覚はすごく理解できるんです。

 

 

——そうなんですね! 吉玉さんも「マリオカート」のツイートをされていますが、現実の世界だけでなくゲームの中でも方向感覚が分からなくなってしまう?

 

 

吉玉 はい。なんどもジュゲムにブブ〜って言われます(笑)。

 

——ワハハ! ちなみに本書の中でも書かれている10個の『方向音痴あるある』ですが、私は「東西南北ではなく前後左右で言ってほしい」は分かりますけど……って感じでした(笑)。なので、吉玉さんと一緒に街歩きしたら楽しいだろうなと思って読ませてもらいました。

 

【方向音痴あるある】

1.地図をくるくる回してしまう
2.駅にある案内図など「北が上じゃない地図」を見てもそのことに気づかない
3.カーナビやグーグルマップのナビ機能に酔う
4.最初の一歩を勘で歩き出す
5.ショッピングモールで同じ店にばかりたどり着く
6.個室居酒屋がニガテ。トイレから戻ってこられない
7.東西南北ではなく前後左右で言ってほしい
8.太陽を当てにする
9.グーグルマップに向かってしゃべったり怒ったりする
10.駐車場に止めた自分の車を探し出せない

 

吉玉 一緒に歩いたらきっとイライラしちゃうと思いますよ(笑)。5年以上住んでいる家の近隣でも、知らない道を通ると分からなくなってしまいますから。実家の母が東京へ遊びにきた時、家の近所のスーパーに寄ってから「近くに公園があるんだよ」と行くことになったのですが、出発点が家じゃなくなってしまったからか、たどり着けなかったんですよ。家から徒歩5分圏内でそれが起こってしまうので。

 

——住んでいる場所でもそうなんですね!

 

吉玉 あと道が全部90度、直角に曲がっている、カーブもなく直線の道を歩いているという感覚もあって。空想地図作家の今和泉隆行(いまいずみ・たかゆき)さんとの対談で、よく行く町田駅周辺の地図を描いて、その地図を見てもらったんですが、『わぁ、全部縦横になってる!(笑)』と言われちゃいました。

 

方向音痴を自覚したのは、大人になってから

——そんな吉玉さんが「私って方向音痴かも?」と思ったのはいつごろからなのでしょうか?

 

吉玉 いつぐらいだろう、う〜ん……。大人になってからだと思います。上京したのが19歳くらいなのですが、当時は積極的にあちこち遊びに行っていました。けれど、就職活動中の説明会会場にたどり着けずスーツで迷子になることなどが重なっていき、「方向音痴かも?」と自覚するようになりました。

 

——では、幼いころは特に迷うこともなく?

 

吉玉 子どものころは、そもそもひとりで知らない場所を歩くことがなかったので、自分でも「方向音痴だ」と認識するタイミングもなかったのかもしれませんね。街の中を歩いていても「〇〇に行きたい」と言えば、周りの友だちが先陣を切って「こっちだよ!」と誘導してくれていたので、ついていくキャラだったんですよ。私自身も周りの子も「方向音痴」という自覚がなかったのかもしれませんね。

 

——『方向音痴って、なおるんですか?』の中で、札幌のお友達“トモちゃん”にお題を出してもらって街を巡るコラムがありましたが、トモちゃんは「方向音痴だったよね」と言ってましたね(笑)。

 

吉玉 昔から友人には、気がつかれていましたね(笑)。

 

——うふふ。吉玉さんは、山小屋で働かれていた様子を『山小屋ガールの癒されない日々』に書かれています。登山しない人からすると山の方が迷うように思うのですが……。

 

吉玉 山道って正解は1本しかないんですよね。正解の道があって、間違えて入っちゃいそうなところは「ここ違うよ!」って×印が書いてあるので迷いません。あと、私は主に人気の山を登るので「踏み跡」を見ればたどり着くことができるんです。

けれど下界には正解の道がないので……。行きたい道に印がついていれば行けます。

 

——下界! 迷路みたいな感覚になっちゃうんですかね?

 

吉玉 そうですね。方向音痴じゃない人は、「絶対にこの道じゃなくても大体の方角が分かれば、最終的にはたどり着けるから」って言うんですけど、目的の方角が角を曲がると分からなくなってしまうんです。

 

知らないところへ行く恐怖感は、すこ〜し和らいだ

——『方向音痴って、なおるんですか?』では、4人の専門家と対談や街歩きをしながら方向音痴について紐解かれています。目から鱗だったエピソードなどはありますか?

 

吉玉 認知科学者の新垣紀子(しんがき・のりこ)教授とのお話は「なるほど」でした。方向音痴じゃない人にとっては、教えてもらうまでもなくやっていることだと思うんですけど、地図と現実の景色を照らし合わせる時に目印を2つ以上見つけることで、自分の位置関係の把握ができるようになりました。

夫にこれを言ったら「教えてもらわなくても子どものころから知ってた」と(笑)。

 

↑目印がひとつの場合。左手にデパートがあるが、これだけでは現在地が特定できない(絵と図 デザイン吉田)

 

↑目印がふたつの場合。左手にデパート、右手に交番がある場所を地図上で探せば、現在地を特定できる(絵と図 デザイン吉田)

 

——なるほど(笑)。私はゲームをやりながら地図に強くなったと感じるんですけど「こうやって地図を見ようね」って教わらないですからね。

 

吉玉 そうですよね。自分の好きなことや関心を持てるようになると、なんでも覚えられるなって、今回の連載を通じて感じました。

そもそも、街に対して好奇心がある方じゃないと思っていたんですけど、東京スリバチ学会の皆川典久(みながわ・のりひさ)さんと四谷の街歩きをしたのもすごく面白かったんですよ。知的好奇心がくすぐられて「おもしろ〜」となっちゃって。

 

——地図をどう読むかよりも、街に興味・関心を持てるようになったことで地図を見ること、街歩きが楽しくなってきたのは素敵ですね!

 

吉玉 地図研究家の今尾恵介(いまお・けいすけ)さんも方向音痴らしいんですよ。けれど、「迷うのも楽しいよ」と対談していく中で教えてもらって。今尾さんは、あえて地図を見ずに電車がなかなか来ないような田舎の道で迷っているともおっしゃっていました。

 

——迷うのも楽しいかぁ〜。今日、吉玉さんとお話をするって思いながら寝たからかもしれないんですけど「会議室にたどり着けない〜!」って焦りながら、走り回る夢を見たんです(笑)。楽しくはなかったです!

 

吉玉 私も迷う夢、よく見ますよ! めちゃくちゃ焦りますよね(笑)。

けれど、連載のおかげで「知らないところへ行く」ことへの恐怖心は少し和らいだと思います。とはいえ、いまだに初めての場所で「打ち合わせです」とか言われちゃうと、プラス30分は余裕を見て行くようにしています。たどり着くまでにドキドキしてしまうし、たどり着いてからがお仕事なのになんだか着いただけで一仕事終えているので(笑)、終わるころにはぐったりしていますよ。

 

一人の時間も楽しめるような人になれたら、と思えるようになった

——いやぁ大変だ(笑)。『方向音痴って、なおるんですか?』は、方向音痴に悩む人は吉玉さんと一緒に「なるほど!」と成長していくような一冊になっていますし、当たり前に地図を読める人にとっても、街を楽しむ新しい視点をもらえるところがたくさんあると思いました。これから吉玉さんがやってみたいことはどんなことでしょうか?

 

吉玉 出不精のわりに、知らない街が好きなので、いろんな街に行ってみたいと思っています。編集部の中村さんと歩いた谷中も「わ! 猫がいる〜」とかお話ししながら気兼ねなく街ブラができてとても楽しかったんですよ。今度は、城下町とかを着物を着て歩いてみたいですね。

 

——いいですね〜! 一人旅ですか?

 

吉玉 基本的には友達や夫とか、誰かと一緒に歩くのが好きなんですよ。谷中も中村さんと一緒だったから楽しかったと思うんです。いつかは、一人旅、一人で街歩きも楽しめるようになりたいなぁとは思います。

 

——過去に一人旅はされたことありますか?

 

吉玉 昔、18きっぷで実家のある札幌から東京まで一人旅をしたことが一度だけあるんですが、大きい駅があまりないので、迷いようもなくて(笑)。一人旅をしたいと思っている方向音痴さんは、18きっぷの旅おすすめですよ。もう来た列車に乗ればたどり着けますから。

 

——面白い! 最後になりますが、これから『方向音痴って、なおるんですか?』を読まれる方にメッセージをお願いします。

 

吉玉 ネタバレになるかもしれませんが(笑)、この本自体、私が克服したってほどでもないし、具体的な解決策が書いてあるようなノウハウ本ではありません。対談させてもらった4人の達人がどのように街を楽しんでいるか、今までにない視点に触れていただくことで、街の楽しみ方を知っていただけると思います。方向感覚がなくても、迷っても街は楽しい、楽しめるということを伝えられればと思います。

 

 

「方向音痴」というと、ちょっとネガティブに感じてしまうことですが、明るくポップに「道が分からなくなっちゃうんですよね〜」とお話ししてくれた吉玉さん。

 

私としては「迷ってはいけない!」「間違えてはいけない!」という気持ちで歩いていることがほとんどだったので、知らない街の知らない道を「分からなくなってしまった」とちょっぴりドキドキしながら歩いてみたいなとも思いました。

 

目的地にたどり着くだけが正解ではなく、そこで迷ったことや困ったこと、そこで見つけたお店など、街は目的地以外にも発見がいっぱいあるはず。普段、地図係をしている人はスマホからちょっと目を離して街を眺めてみてはいかがでしょうか? また方向音痴で悩むあなたも、『方向音痴って、なおるんですか?』を読んでから街を歩くときっと今までのドキドキが楽しく変わるはずですよ!

 

【書籍紹介】

方向音痴って、なおるんですか?

著者:吉玉サキ
発行:交通新聞社

方向音痴の克服を目指して悪戦苦闘! 迷わないためのコツを伝授してもらったり、地図の読み方を学んでみたり、地形に注目する楽しさを教わったり、地名を起点に街を紐解いてみたり……教わって、歩いて、考える、試行錯誤の軌跡を綴るエッセイです。

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リモートでもいい、対話をする楽しみを今こそ思い出したい——『ていだん』

コロナ禍で家族や友人と会えず、寂しい思いをしている人が多いだろう。複数の人と何気ない対話をすることは、時に刺激になり、時に癒しにもなる。リモートでいいから毎日わずかな時間でも、人と繋がること、会話をすることは大切。私も海外で暮らす娘ともう2年近く対面できていないが、スカイプで頻繁に話しているので、しょっちゅう会っているような気分にはなれているのだ。

 

さて、今日紹介する『ていだん』(小林聡美・著/中央公論新社・刊)は、『婦人公論』で2015年9月からはじまった「小林聡美のいいじゃないの三人ならば」と題した連載をまとめ、その文庫版としてこの春に刊行されたもの。鼎談(ていだん)とは、三人が向かい合って話をすること。小林さんと多彩なゲストたちとの会話は、とてもおもしろく、あらためて対話の楽しさを思い出させてくれる。

 

 

三人芝居に夢中になる

小林聡美さんは”三人”が似合う女優だと、私は思っている。彼女が出演した作品で欠かさずに観ていたのが、シチュエーションコメディの『やっぱり猫が好き』だった。舞台はマンションの一室で、もたいまさこさん、室井 滋さん、そして小林さん扮する三姉妹と猫だけが基本出演で、会話だけでストーリーを成り立たせていたが、これが愉快で、大いに笑わせてもらった。

 

フィンランドのヘルシンキを舞台にした映画『かもめ食堂』も私のお気に入りだ。異国で食堂を開店した日本女性を小林さんが演じ、そこに旅行者としてやってきた片桐はいりさん、さらに、もたいまさこさんが絡んでいくストーリーで、やはり三人の絶妙の演技に魅了された。そんな三人が似合う女優の鼎談、これは読まずにいられないとページを開いたのだ。

 

10年後、私たちは……

第一回目の鼎談は、井上陽水さん、川上未映子さん。当時の対話を振り返り、小林さんはあとがきにこう記している。

 

奇しくも一〇年後の私たちについてワイワイ語り合っていました。(中略)一〇年後への未来半ばで、人智の簡単に及ばない新型ウイルスの猛威に私たちは直面したのです。(中略)そんな今、この本を開いてみると、なんの不安も疑いも持たずに、むき出しの顔で堂々と三人で向き合い、ツバキを飛ばしながら、ああでもないこうでもない、と語り合った時間がまるで宝物のごとく輝いて感じられます。(中略)今思うことは、そのうち、人とまた普通に、会って喋って大声で笑って、肩を叩いたり、抱きしめたり、その他もろもろ、今してはいけないことを思いっきりやってやりたい、ということです。

(『ていだん』から引用)

 

まったく同感、今は誰もが同じ思いでいるのだ。

 

希望を持たないと意味がない

たった今、希望が持てず、不安な日々を送っている人たちに、6年近く前、小林さんが井上陽水さん、川上未映子と語った内容が、勇気をくれるので一部を抜粋してみよう。

 

井上 理論的に考えれば、これから先の未来について、悲観的なことしか考えられないんだけど、最近はちょっとこう、希望を持たないとダメだなと思いますね。

川上 そうですよ!

井上 そういうことにやっと気がついてね。ちょっと遅かったんだけど。

川上 その「希望」というのには、伝えなきゃ、という感じも含まれますか?

井上 「何やっても仕方ないよね~、しょせん」というのではなくて、肯定的な気持ち、ということですかね。そうでなければ意味がないということが、この頃よくわかってきたんです。その点、聡美さんなんかは、もう若い頃からそんなことわかっているというお顔をなさっていて、私を冷たく見ていたけれど……。

小林 いやいやいやいや。井上さんだって根はすごくポジティブで、ハッピーじゃないですか。ちょっとミステリアスな感じの歌が多いですけど。(笑)

(『ていだん』から引用)

 

「やりたくないことをやらないだけです」

映画『かもめ食堂』で共演した、もたいまさこさん、片桐はいりさんとの鼎談は裏話が多く語られている。夏のヘルシンキは気温14度で寒かったにもかかわらず夏服で撮影した話、映画公開後はヘルシンキが日本人だらけになった話など、とてもおもしろく読めた。また、片桐さんがセリフの意味が理解できておらず、10年経ってやっとわかったと打ち明けている。

 

食堂を経営するサチエ(小林)、その手伝いをするミドリ(片桐)、そこにあとからやって来たマサコ(もたい)が語りかけるシーンだ。

 

片桐 (前略)「あなたたち、好きなことだけやってらしていいわねえ」という場面がありますね。

小林 ありますね。

片桐 それに対してサチエさんは、「やりたくないことをやらないだけです」と返すんです。

(『ていだん』から引用)

 

その言葉が片桐さんのなかでは腑に落ちなかったのだそうだ。「好きなことだけやりたい」、あるいは「やりたいことだけやってます」なら理解できた。が、「やりたくないことをやらない」とは? と。当時は「欲張らない」という感覚がわからなかったが、10年経って、やっとそのセリフの奥深さを知ったのだそうだ。私も思わず有料動画サイトでこの映画のその場面を観直してしまった。

 

18回36人との語らい

本書には小林さんと36人のゲストとの語らいが収録されている。

 

「堂々と生きる」(長塚圭史・西加奈子)

「なぜ、まねるのか?」(江戸家小猫・南 伸坊)

「センスって、なんだろう」(大橋 歩・小野塚秋良)

「猫の徳」(坂崎千春・坂本美雨)

「太い女」(板谷由夏・平岩 紙)

「九州男児と語らう」(光岩 研・役所広司)

「動物の命とどうかかわる?」(石田ゆり子・中谷百里)

 

などなど、興味深い話がたっぷりと聞ける。そして、この本を読んでいると、誰かと言葉を交わすことはなんと愛おしいんだろうとしみじみ思う。

 

今は、LINEやFacebookのMessengerなどのビデオ通話を利用すれば、どんなに遠くに離れた友だちともすぐに繋がることができるし、3人以上のグループ会話だって可能だ。リモートならマスクなしのむき出しの顔で大笑いもできる。本書を真似て、あなたも”ていだん”を楽しんでみてはいかがだろう。

 

【書籍紹介】

 

ていだん

著者:小林聡美
発行:中央公論新社

「鼎談」とは、三人が向かい合って話をすること。噺家、ミュージシャン、絵本作家、俳人、料理人、漁師など、俳優・小林聡美が会いたい人を二人ずつ迎え、三人で語り合う。三十六人の多彩なゲストと交わされる言葉は、何気ないようで味わい深い。対話の楽しみに満ちた、豊かな鼎談集。

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未踏の洞窟の奥に広がっていた光景とは!? 洞窟探検家が語るその魅力~注目の新書紹介~

書評家・卯月 鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

 

人を引きつける洞窟という魔力

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。「川口 浩探検隊」に限らず、昔は狭い洞窟を進んでいくテレビ番組がちょくちょくありました。突如コウモリが襲ってきたり、横穴を抜けると美しい湖が広がっていたり……。ブラウン管にかじりつく勢いで、凝視していたのを覚えています。

 

今でも観光地に洞窟・鍾乳洞があるとつい足を運んでしまいます。観光地なので、安全かつ先に何があるかもわかっているのに、ドキドキするのはなんででしょう?(笑)

今回紹介する新書は『洞窟ばか すきあらば前人未踏の洞窟探検』(吉田勝次・著/扶桑社・刊)です。本書は2017年に刊行された書籍に、ラオス探検のパートを加筆、全体を修正した新書版。洞窟の魅力が詰まっています。

 

著者の吉田勝次さんは日本有数の洞窟探検家。外構工事会社を経営しつつも、洞窟探検にハマり、今では洞窟ガイドを行う地球探検社も設立。常に洞窟のことばかり考えている「洞窟病」に感染してしまったとか。

 

絶景が広がる地下空間の世界

第1章「洞窟病、重症化する」では、のちにホームグラウンドとなる三重県の大洞窟「霧穴」を見つけて、実際に探検していく様子がいきいきと語られます。

 

霧穴は、吉田さんと仲間が立ち入るまでは未踏の地でした。洞窟がある山の管理者に頼み込んで期待半分、不安半分で潜ったところ、そこは驚くほど広大な洞窟。

 

入口から歩いて30分ほどの平らな空間を見つけ、ベースキャンプを設置し、泊まりがけで探検することに! 地下水が流れているので生活用水は万全。天井から落ちる水滴はブルーシートを張って防ぎ、床にシートとマットを敷いたら快適空間の出来上がり。さらにインターホンを置いて外部と連絡ができるようにする……。

 

なお、洞窟を汚さないよう食事は捨てずに食べきり、排泄物はジップロックとペットボトルに入れて持ち帰る、というルールを徹底しているそうです。まさに秘密基地! 読んでいて子どものころの憧れが一気に蘇りました。

 

第3章は、国内外のさまざまな洞窟のエピソードが挙げられていきます。ベトナムにある世界最大といわれる「ソンドン洞窟」、奇跡的に水が引いた先に人類未到の空間が広がっていたラオスの洞窟。

 

なかでも行きたい気持ちをかきたてられたのが、沖縄・沖永良部島の「銀水洞」。巨大なホールの底にあるリムストーンプール(棚田)のすべてに透明なブルーの水がたまり、ライトを沈めるととんでもない絶景が浮かび上がったとか! 周囲の鍾乳石も真っ白な“生きている”状態。これはぜひ自分の目で見てみたいものです。

 

海外の洞窟探検は、通訳や村の人など「いい人に巡り会えるか」が成功のカギ。現地の政治家に振り回されて洞窟に入る許可を取るだけでも一苦労なんてことも……。各洞窟のページ量はそれほど多くはないものの、生の言葉で語られていて、臨場感に満ちています。

 

巻頭には16ページにわたって洞窟のカラー写真も載っています。特にラオスの洞窟の地下神殿を思わせる荘厳な岩壁は圧巻!

 

文章には吉田さんの洞窟愛が満ちていて、こちらも純粋な気持ちになりました。私たちの気がつかない場所に、こんなにも神秘の空間が広がっている。私もしばしの間、“洞窟ばか”の一員でした。

 

【書籍紹介】

洞窟ばか すきあらば前人未踏の洞窟探検

著者:吉田勝次
発行:扶桑社

落石で骨折し片手で300メートルのロープをよじ登る。17cmの隙間があればもぐりこむ。排泄物はすべて持って帰る。ときに10日間以上洞窟に入りっぱなしのことも。何度死にかけても、見てみたい!! 圧倒的な暗闇に広がる、美しくも恐ろしい世界。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

Twitterで寄せられたお悩みをスパパ〜ンと解決! カマたくの爽快語録が炸裂『お前のために生きてないから大丈夫です』

ここ数年タイムラインによく現れていた「カマたく」さん。

 

最初は「なんだこのタンクトップの人」とスルーしちゃっていたのですが、ドアップでたまに変顔も取り入れながら語っている動画を見たら「言ってること超真っ当なんですけど!」とすっかり虜に(笑)。Twitterにアップされているのは1〜2分ほどの短い動画なのですが、気がつくといつも最後まで見てしまう! そして、彼の言葉がもっと欲しくて動画をさかのぼっていたら、いつのまにか夜中! みたいなこともありました。

 

今回はTwitterのフォロワーも126万人と、大人気のカマたくさんの新刊『お前のために生きてないから大丈夫です』(カマたく・著/KADOKAWA・刊)をご紹介します。

 

すごい、本のタイトル……ですよね(笑)

歌舞伎町のゲイバーで働くカマたくさん。Twitterでは以下のようなお悩みや世の中のあるあるに対して、爽快にぶった切ってくれています。

 

 

『頑張らなくても意外と死なないからざっくり生きてこ』(KADOKAWA)というエッセイも執筆されているのですが、本書はTwitterで寄せられたお悩みをズバズバと答えていく一冊になっています。

 

『お前のために生きてないから大丈夫です』というタイトルに驚くかもしれませんが、いろんな人のお悩みと、それを解決していくカマたくさんの言葉を読み終えると「うん、本当にその通りだよな」と思えてしまうから不思議です。

 

恋愛のこと、仕事のこと、人間関係など老若男女幅広い悩みが寄せられていました。ちなみに「はじめに」でカマたくさんは、以下のように語っています。

 

しかもひどいのがこのタイトル。『お前のためにいきていないから大丈夫です』
すごいわよね、こんな本見たことない。とんでもない自己完結。
前作の『頑張らなくても意外と死なないからざっくり生きてこ』のほうがまだメッセージ性があったわよ。 

だけどね、本当にこれに尽きる。お前のために生きてないから大丈夫。
何を言われても、どう思われても私は私、お前はお前であんたはあんた。
それ以上でもそれ以下でもないから、悩む必要はないのよ。 

……あれ、まだ2ページ目とかなのに、この本もう終わりそう。
これ誰が読むの? 大丈夫?

(『お前のために生きてないから大丈夫です』より引用)

 

大丈夫! 私が読みました(笑)。一体どんなお悩みが掲載されているのでしょうか? 少しだけご紹介します。

 

「自己肯定感」を高めるには?

この本では50のお悩みと、カマたくさんのコラムが掲載されているのですが、「恋愛のそうだん」「仕事のそうだん」「人間関係のそうだん」「家族と将来のそうだん」「自分自身のそうだん」の5章にわかれて載っています。

 

『7年付き合った彼と別れました』『医療従事者です』『義姉からマウント取られてます』『生きづらいです』などなど、現代を生きる中で「悩みますよね〜」と思う相談が幅広い年代から寄せられています。

 

その中で、『どうしたら自分を肯定してあげられますか?』と28歳の女性からのお悩みに対して、カマたくさんは以下のように答えます。

 

自己肯定感があろうがなかろうが、このまま生きるしかないんだから。強いて言うなら、自己肯定感なんていう概念にとらわれていない人=自然と自己を肯定できてる人なんじゃないかしら。自信があるから何? ないから何? 気にすることってなんのメリットもないわよ。無駄。本当に無駄よ!

もっと感覚的に生きてもいいんじゃない? 頭でっかちになりすぎなのよ、みんな。「自分は自分でいいんだ」って……ダメって言われたらどうするの? どうしようもなくない!? 気にしてもどうにもならないことは気にする時間が無駄なので悩む必要ない。もう、何回言ったらわかるのよ〜〜〜。

(『お前のために生きてないから大丈夫です』より引用)

 

本当その通り!この言葉自体がなければ、「ある」とか「ない」とか悩むこともなかったとも書いてあり、最近はそんな言葉のせいで、比べたり悩む機会が増えてきたよなと感じました。

 

毎日がつまらない……

また40歳男性からは、『彼女もいないし、毎日がつまらない、仕事もやめたい。どうやったら幸せになれますか?』という相談もありました。

 

「何か」があれば、「どう」すれば幸せになれる、とか、答えがあると思っている時点で一生幸せになれないわよ。あんたと同じような年齢の会社員で独身でも、愉快に生きてる人は私の周りにもたくさんいるわ。家族が欲しいか聞くと「ほしいよー!!」とは言ってるけど、こんなお先真っ暗絶望みたいなテンションじゃなくてむしろ楽しそう。みんな、そういう人と結婚したいんじゃない?

(『お前のために生きてないから大丈夫です』より引用)

 

痺れる……! ついつい悩みだすと、ネガティブに「自分だけどうして?」とか「なんで自分は」と思ってしまいますが、それって実は自分で自分の首を絞めているだけだったりするんですよね。また、「幸せ」に答えはない! ってことにも改めて気づけて、なんだか自分の相談に乗ってもらったような気持ちになりました。

 

『お前のために生きてないから大丈夫です』は、目次通りに読んでもいいですし、自分に近いお悩みから読むのもOKです。「はじめに」から「おわりに」まで、心を満たしてくれる言葉がいっぱいで、いろんな悩みを抱えている人にとっては処方箋のような一冊になるだろうと感じました。

 

また、読むタイミングによってもカマたくさんの言葉の何が響くかは変わってくると思います。その時、刺さった言葉に付箋をつけながら、半年に一回くらい読み返していくと「今の自分の悩み」とも向き合えると思います。

 

何かに悩んでるならまずこれ読んで! そうおすすめしたくなる一冊でした。

 

 

【書籍紹介】

お前のために生きてないから大丈夫です

著者:カマたく
発行:KADOKAWA

歌舞伎町イチ、癖がすごいゲイバー店員・カマたくによる書籍第二弾。恋愛、人間関係、仕事、家族、人生。生きていく上で直面するあらゆるお悩み相談へのアンサー本のはずが……「私、みんなの悩み全然わかってあげられないんだけど! なんでみんな飽きもせずちまちま考えてんのよ」と、頭を抱えるところからスタート! カマたくに悩みがないのはなぜ? 「幸せになりたい」と思うこと、それが不幸の始まり? 今までの凝り固まった考え方、漠然とした不安、答えの出ないすべての問いに対する、まったく新しい「脱出法」がここに。

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夢破れた者が語る「夢の怖さ」そして希望とは?——『宇宙飛行士選抜試験』

2021年3月17日、全国の小・中・高校生を対象に行われた第32回「大人になったらなりたいもの」アンケートの結果が発表された。今年は男子が小中高すべて、そして女子が中学と高校で“会社員“を1位に挙げている。

 

 

「好きだから」会社員になりたい

調査を行った第一生命保険は、会社員が人気になった要因に関して次のように分析している。「コロナ禍でリモートワークの導入が進み、自宅で仕事をする父親・母親の姿を目の当たりにして、会社員という職業を身近に感じた子どもが多かったのでは」

 

選んだ理由は、男女ともすべてのグループで「好きだから」が1位だった。家族が揃って自宅で過ごす時間が長くなるなか、これまでチャンスがなかった“オン”の状態にあるお父さん・お母さんのシャープな一面を垣間見る場面が増え、会社員という仕事に対する好感度が上がったのだろう。

 

かなり特殊な仕事

この原稿で紹介しようとしている一冊は、小中高生世代の2021年の時代精神に逆行するものかもしれない。かなり特殊な職業に就くための過程と、それに挑戦した後に訪れた大きな挫折感をつまびらかにしていく内容だからだ。

 

「かなり特殊な職業」という言い方から、どんな仕事をイメージするだろうか。プロスポーツ選手やアーティストを思い浮かべる人は多いだろう。医師や看護師など、医療関係の仕事も特殊という形容がふさわしいかもしれない。もちろん、YouTuberやダンサーも考えられる。ただここでは、もうちょっと振り切っていただきたい。

 

宇宙飛行士選抜試験』(内山 崇・著/SBクリエイティブ・刊)は、特殊さに関してなら異次元的な響きの宇宙飛行士という仕事に挑戦した男性のドキュメントだ。“はじめに”の冒頭部分に、次のような文章が綴られている。

 

このものがたりは、スペースシャトルにあこがれて宇宙エンジニアになったぼくが、小さいころからの夢「宇宙飛行士」になるために全身全霊を傾けて挑んだ10か月に及ぶ「宇宙飛行士選抜試験」への挑戦と、そして、その後の12年間の葛藤を描いたものである。

『宇宙飛行士選抜試験』より引用

 

サブタイトルに込められた深い感情

JAXA(宇宙航空研究開発機構)のウェブサイトに掲載されている資料によれば、これまで宇宙に行った人は566人(2020年8月14日現在)。そのうち日本人は12人。著者の内山氏は、その12人には入っていない。

 

夢を叶えて宇宙飛行士になった人たちに関する情報は、さまざまな形で世に出る。しかし、あと一歩で夢を叶えられなかった人が、自らの言葉で語る機会はきわめて少ないはずだ。人生のすべてを賭けるほどの大きな夢への挑戦に失敗した事実を改めて認め、挫折感と喪失感にさいなまれた12年間をさらけだす行いには、尋常ではない勇気が必要だ。その勇気の本質を知るためだけでも、本書は間違いなく一読に値する。「ファイナリストの消えない記憶」というサブタイトルには、読む側の想像以上にさまざまな感情が込められているに違いない。

 

夢の怖さ

何かを実現するためにすべてを捧げてきて、それが叶わないと知った瞬間、人は何を思うのだろうか。内山氏は、次のような言葉で綴っている。

 

後悔はなかった。結果に不満もなかった。ただ、目の前にまできていた夢が一瞬にしてなくなり、行き場のなくなったぼくの昂った熱をどうすることもできなかった。「あと少しで宇宙飛行士になれたかもしれない」という呪縛からなかなか逃れられなかった。夢の怖さを知った。自分でもその深さに気づけないほど心の傷は深かった。

 『宇宙飛行士選抜試験』より引用

 

“夢の怖さ”というひとことに、凄みを感じる。

 

哲学書としても読みたい

目次を見てみよう。

 

第0章 指先まで触れた夢

第1章 突然の報、10年ぶりの募集

第2章 ザ・宇宙飛行士選抜試験(前編)

第3章 宇宙飛行士の資質とは?

第4章 ザ・宇宙飛行士選抜試験(後編)

第5章 残酷な分岐点

第6章 2020年、宇宙への絆は消えない

終章  紡いでいく夢

 

一気に読み切ってしまった。何かに挑戦するワクワク感、予想もできないことに触れる疾走感に満ちた毎日、合格への期待感、そして最後の最後に訪れた絶望。すべてを乗り越えた内山氏が示してくれるのは、悔やみ、考え、苦しみ抜いた人間だけが辿り着くことができるピュアな感覚だ。

 

いまぼくは、心の底から晴れ晴れとした気持ちだ。ぼくは夢を諦めるんじゃない。夢の実現方法を変えるんだ!

『宇宙飛行士選抜試験』より引用

 

この文章だけ切り取って紹介すると、予定調和的なものとして映るだろうことはわかっている。でも、違うのだ。なぜ、どう違うのか。それは実際にこの本を読んで感じ取っていただくしか方法はない。

 

ジャンルはまったく違うのだが、1994年のハリウッド映画『ショーシャンクの空に』を見終わった時と同じ気分になった。哲学書という角度から見ても優れていると思う。普段の生活ではあまり気にしないかもしれないさまざまなことを気づかせてくれる一冊だ。ちなみに今年の秋、13年ぶりにJAXAで宇宙飛行士の募集が行われるみたいですよ。

 

 

【書籍紹介】

宇宙飛行士選抜試験

著者:内山 崇
発行:SBクリエイティブ

宇宙飛行士選抜試験。日本で唯一、宇宙飛行士として生きる夢に挑戦できる場所。日本が有人宇宙開発分野で世界に名乗りを上げた2008年、JAXAは10年振りとなる5回目の宇宙飛行士募集に踏み切った。応募総数は史上最多の963名。このものがたりは、スペースシャトルにあこがれて宇宙エンジニアになった著者が、「宇宙飛行士」になるために全身全霊を傾けて挑んだ10か月におよぶ選抜試験への挑戦と、その後の12年の葛藤を描いたものである。

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70年代フォークシーンにいたかのような気分になれる写真集——『高田渡の視線の先に-写真擬-1972-1979-』

1970年代から日本フォークシーンで活躍し、2005年に北海道でのライブ中に倒れ、そのまま天国へ旅立った“孤高のフォークシンガー”高田 渡。彼が音楽と同じくらい情熱を傾けていたのが、写真だ。愛用のライカを常に首から下げ、ツアー先やレコーディング風景、ふらっと出かけた海外旅行先や、自分の生活を撮り続けていた。それらの写真の一部は、自分のレコードジャケットに使ったり、雑誌に掲載されたりしていた。

 

そんな高田渡の残した膨大な写真たちから生まれたのが、写真集『高田渡の視線の先に-写真擬-1972-1979-』(高田 漣・著、高田 渡・写真/リットーミュージック・刊)だ。文章は、息子である弦楽器奏者・高田 漣が担当している。

 

↑1974年の春一番コンサートより。なぎら健壱、他。©️Takada Wataru(画像出典:プレスリリースより)

 

貴重なショットが盛りだくさん

70年代のフォークが好きな人ならば、この写真集はお宝に感じるだろう。なにせ、高田 渡がツアー中に撮影した写真も多く掲載されているからだ。当時のミュージシャンたちが多数登場している。

 

よく一緒にツアーを回っていた、遠藤賢司やなぎら健壱、かまやつひろし、シバ、中川イサト、中川五郎、友部正人、加川 良、泉谷しげるなどはもちろん、バックバンドを務めていたはっぴいえんどの面々(大滝詠一、細野晴臣、松本 隆、鈴木 茂)、当時フォークシーンに頻繁に顔を出していた坂本龍一までが被写体として登場している。これだけでかなりお腹いっぱいになるだろう。

 

ステージ写真などはあまりないが、バックステージの様子や喫茶店などの日常風景が多く、当時のミュージシャンたちの様子がわかるのがおもしろい。

 

高田 渡の写真の特徴

掲載されている写真は、街角のスナップも多い。日本だけではなく海外の写真も多いのだが、どれもこれも味わい深い。しかも、どれも同じ雰囲気を持っている。撮影しているのが同じ人だから当たり前といえばそうなのだが、なんとなく自分がその場にいるような気分になってくる。

 

おそらく、高田 渡はどこにいてもその場に昔からいたかのように、その街、その瞬間に溶け込んでいるからなのかもしれない。高田 漣は、高田 渡の写真を以下のように評している。

 

高田渡の写真のもう一つの特徴はその人物を真正面から撮らないことだ。それは背中が語るそれぞれの人生に魅了されていたからだろう。世界中の沢山の背中を集めるうちにいつしか若かったはずの高田渡の背中も老成した深みを増したのかも知れない。

(『高田渡の視線の先に-写真擬-1972-1979-』より引用)

 

これも、自分がその場にいるように感じる要因なのだろう。

 

外国の街角で歌う高田 渡

この写真集には、高田 渡自身も多数登場する。セルフタイマーで撮ったものはもちろん、奧さんが撮ったもの、そして、ヨーロッパの街角に腰掛けてギター片手に歌う本人の写真がある。どうやって撮ったのかはわからないのだが、これがとても印象的だ。

 

夜の灯りの中で路上に腰掛け歌う。詩を、歌うことの意味を、そして何にも代え難いその喜びをこの夜、高田渡は再確認したのだろう。その聖地は伝説にありがちな常套句の荒野の十字路ではなく、ありふれた夜の街の片隅であったようだ。

(『高田渡の視線の先に-写真擬-1972-1979-』より引用)

 

もともと、アメリカの古いフォークソングに日本語の歌詞をあてて歌っていた彼だけに、海外の路上でぽつりぽつりと歌うことは、原点なのかもしれない。妙齢のご婦人が目の前に立って高田 渡の歌を聴いているような写真もある。言葉は違えど、高田 渡の歌が市井の人の歌であるということが伝わるのだろうか。

 

ずっと見ていて飽きない写真

僕が好きな写真は、ずっと見ていて飽きない写真だ。そのなかでも、日常風景の写真が好きだ。そう考えると、高田 渡の写真は僕の好きな写真そのものだということに気がついた。

 

日常の何気ないシーンを何気なく撮影した数々の写真は、ずっと見ていられる。中にはピンボケだったりぶれている写真もあるが、写真の本質はそこではない。「撮影者がそのときどこにいたのか」だと思う。高田 渡の写真は、まさに彼がそこにいてその写真を撮っていたことが手に取るようにわかるので、僕はとても好きだ。

 

それなりに高価でかさばる写真集ではあるが、高田 渡ファンはもちろん、70年代フォークファン、写真好きは必携の一冊だ。そして、無性にフィルムで写真を撮りたくなる。僕も久しぶりにコンパクトフィルムカメラにフィルムを詰めて、どこかに出かけようと思う。

 

【書籍紹介】

高田渡の視線の先に ー写真擬 1972-1979ー

著者:高田 漣(著)、高田 渡(写真)
発行:リットーミュージック

本書は、フォーク・シンガーの高田 渡がカメラを構え、撮影した作品を一冊にした写真集です。酒と音楽をこよなく愛した彼はツアーや旅先にも必ずカメラを持ち歩き、一時期は本気で写真家を志した時期があったと言います。写真の解説は、高田渡の長男であり、マルチ弦楽器奏者として様々なフィールドで活躍する高田 漣が担当。稀代の詩人でもあった高田 渡の視線の先にあった大事なものが、きっとこの写真集から伝わってくることでしょう。

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英語も0円で学ぶ時代!?——『ムダなお金をかけずに英語が話せる!』

ネットの普及により、さまざまなことが無料で学べるようになりました。動画サイトには、無料で観ることができる資格試験や受験勉強の学習動画もたくさんあります。このことにより、語学学習の費用も格安になりつつあるようです。

無料の師匠が大勢

大学生の娘がアコースティックギターを弾けるようになり、楽しそうに弾き語りをしています。彼女は誰に教わったわけでもなく、YouTubeを観て独習したそうです。「アコギ 初心者」で検索すると、何人もの人がレクチャー動画をアップロードしているので、その中から自分に合いそうな人を見つけて、動画を一気に観てコードなどを覚えていったそうです。

 

動画の時代と言われるだけあって、YouTubeだけでなく、Googleで検索をすると、国語算数理科社会などの勉強はもちろん、料理や掃除や片付けのコツといった家事の習得、それから歌やランニングなど、何かを始めたいと思った人に丁寧に教えてくれる動画が山のように出てきます。やる気さえあれば、どんどん技術を身につけることができるのです。

 

よりリアルに近い習得に

今までは、こうした親切な無料レクチャーは、ブログに多くありました。写真を何枚も載っていて、わかりやすいものも多かったのですが、動画はより対面に近く、習得しやすくなっていると感じます。そして語学も、無料動画で習得する人が急増しています。

 

ムダなお金をかけずに英語が話せる!』(日経WOMAN・編/日経BP・刊)では、無料アプリや無料ニュースサイトなどを利用して、安く英語を覚えて活躍する女性たちのコツが満載されています。有料の方法もありますが、驚くほど格安に抑えられていて、お金をかけずに学ぶことができる時代が来たと感じます。

 

動画学習で決めゼリフを暗記

私自身もこのガイドに出てくる「English Central」という無料動画アプリで学習をしたことがあります。1-2分の短い動画が1万本以上収録され、そこには日本語と英語の字幕が付いています。興味のあるものを選び、アプリの指示に従って、動画と同じような発音になるまで何度も繰り返して練習できるというものです。

 

動画を観ながらセリフを繰り返すので、確かにとても記憶には残ります。けれど、私が好んで観たのはアクションものが多かったので「Kill them all!(皆殺しだ!)」などという物騒なセリフを習得してしまいました。でも、一度覚えたフレーズは単語を多少入れ替えれば応用できます。例えば「Love them all!(みんなを愛する!)」などと使い回せるので、少しは私の英語の幅も広がったはずです。

 

続けることの大切さ

ただただ英単語を覚えるよりは、こうしてフレーズで覚えていったほうが頭に入ってきやすく、また、臨場感あるセリフを口にすることでお芝居をしているような気持ちにもなれるため、無味乾燥な例文よりはずっと楽しく学習できるのです。

 

最近は学校に通ったり留学しなくても、こうした動画サイトやアプリで英語を習得して話せるようになったという人も出てきています。ガイドにも、その人ごとに好みや目的に沿って、安く工夫して英語を学習している様子がぎっしり紹介されています。日本にいながら外国語を覚えられるのだと思うと、やる気も湧いてきます。

 

何かを学びたいのに学費が高額で難しい、そんな悩みはオンラインの豊富なコンテンツのおかげで解消されつつあると感じています。格安学習法だけでなく、英語を活用するための記事も豊富なので、この1冊があればかなり心強いし、頑張る気持ちも湧いてくることでしょう。

 

 

【書籍紹介】

ムダなお金をかけずに英語が話せる!

著者:日経WOMAN
発行:日経BP

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「デコる」「ポシャる」は戦前のモダン語だった!? 流行語から見える時代の風~注目の新書紹介~

書評家・卯月鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

 

 

「モダン語」って一体何?

こんにちは、書評家の卯月鮎です。「きゅんです」「ぴえん通り越してぱおん」など、TikTokを中心に面白い響きの言葉が流行っています。私としては「何を言っているのかわからない」「ついていくのがやっと」の状態ですが(笑)、新しい言葉はいつの時代もナウなヤングにバカうけですよね。

 

大正から戦前にかけても、いわゆる「モダン語」と呼ばれる新造語が大量に生まれ、みなが面白がって使っていたとか。

今回の『モダン語の世界へ 流行語で探る近現代』(山室信一・著/岩波新書)は、そうした大正・昭和初期(1910~30年代)に流行した「モダン語」を解説する新書。「モガ・モボ」「エロ・グロ・ナンセンス」など時代を象徴するフレーズに加え、「ポシャる」「チャブ台」「シック」など、今でも残っているモダン語の由来も解説されています。

 

著者は、歴史学者で京都大学名誉教授の山室信一さん。『キメラ―満洲国の肖像』『法制官僚の時代』など著書多数。本書は月刊誌「図書」での連載エッセイをまとめたもので、山室さんの広く深い知識によって、当時の“新語”から時代のうねりが見えてきます。

 

「ラムネ階級」ってどういう意味?

第一章は「モダン、そしてモダン語とは?」。岩波新書だけあって、単に語源などを面白おかしく並べただけの雑学本ではない格調の高さ。「モダン語」とは、新輸入の外来語をもじるなどした戦前の新造語で、山室さんによると1910年が起点だそうです。

 

1910年には、幸徳秋水など社会主義者12人が処刑されることになる大逆事件が起き、一方で自我の尊重・人間讃歌の理想主義をうたう雑誌「白樺」が創刊され、武者小路実篤や志賀直哉の「白樺派」が旗揚げしました。海外からさまざまな思想・文化が流れ込んだ時期で、時代に呼応して多彩な言葉が作り出されていったのです。

 

第2章「百花繚乱」には、具体的なモダン語が並んでいます。物事がダメになったときに使う「ポシャる」は、フランス語で「帽子」を指す「シャッポ(シャポー)」の逆さ読みがルーツ。「帽子を脱ぐ(兜を脱ぐ)」ということで、「失敗」や「降参」のイメージにつながりました。

 

「スマホをデコる」なんて、何かを飾り付けるときに使う「デコる」も実はモダン語。「美しくデコる佳人」などとほめる意味のほかに、「過剰な装飾を嘲笑する」ニュアンスもあったとか。約100年前にすでに「デコる」が使われていたのに驚きますね。

 

なるほどと思ったのが、「ラムネ階級」という言葉。これは洋服も家具も家も、ローン(月賦)で生活しているサラリーマン階級を指した言葉で、その心は「げっぷで苦しい」から(笑)。今の時代のサブスク貧乏なら、さしずめ“サイダー生活”といった感じでしょうか。

 

「アメチョコ・ガール」「テロ・ガール」など、当時の辞典に掲載されていた、モガ関連の用語を集めたおまけの「モダン・ガール小辞典」も戦前の女性たちのいきいきとした姿が目に浮かんできて、想像がふくらみます。

 

グローバリゼーションに揺れる現代と重なる部分も多く、流行り言葉から人間の本質も見えてくる1冊。果たして、100年後に「ぴえん」は残っているのでしょうか。

 

 

【書籍紹介】

モダン語の世界へ 流行語で探る近現代

著者:山室信一
発行:岩波書店

モボ・モガが闊歩した一九一〇~三〇年代の日本では、国民の識字率の向上やマスコミの隆盛、日露戦争と第一次世界大戦の勝利など背景に、外来の言葉と文化が爆発的に流れ込んだ。博覧強記で知られる歴史学者が、当時の流行語を軸に、人々の思想や風俗、日本社会の光と影を活写する。『図書』連載のエッセイ、待望の書籍化。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

きっと誰もがドキリとする……究極のリアリティエッセイ漫画『妻が口をきいてくれません』

今どき、「女性が家事をすべて担い、男性は外で稼いでくる」なんて考え方は古い。けれど、すべての家庭で「家事は平等に」という令和流・夫婦のあり方が実現できているわけではないのも事実。

 

「結局、家のことは主に女性がおこなっている」という家庭のほうが、まだまだ多いのではないだろうか。我が家もご多分に漏れず、であるが。

 

そのため、とりわけ出産後の小さな乳飲み子を家で世話する数年間においては、家事や育児に参加しない(する気がない)夫に、妻は殺意すら覚える(無論、男女逆のパターンも存在することは承知の上だが、今回は妻が家事や育児を負担しているケースで語ることをご理解いただきたい)。

 

どこかのタイミングで話し合い、お互いの考えを尊重することで関係が回復すれば良い。だが、徐々にこじらせてしまい、気づけば心がすっかり離れてしまうとことも珍しくない。我慢に我慢を重ね、イライラが募った結果、「子どもたちが成人したら離婚してやる!」と腹をくくっている女性陣も少なくないだろう。

 

これは、近年の熟年離婚数増加を見れば明らかだ。

 

夫サイドと妻サイド、どちらから見るかで問題は180度変わる

最近話題になっているエッセイ漫画がある。『妻が口をきいてくれません』(野原広子・著/集英社・刊)だ。夫・誠と妻・美咲、そして2人の子どもの4人家族で幸せに暮らしていたはずが、ある日を境に、妻が夫と口をきかなくなってしまう。何が原因か、自分の何が悪かったのかと焦り悩み苦しむ夫。「離婚よりも、生き地獄」という帯のキャッチフレーズがすべてを物語る。

 

第一章は、夫サイドのストーリー。口をきかなくなった妻に対し、会社の先輩に相談して花を買って帰ってみたり、久々にスキンシップを……と手を握ってみたり、あれやこれやと策を練って実行するも、すべて玉砕。

 

妻が口をきかないといっても、家庭内で会話がないわけではない。妻と子どもたち、夫と子どもたちは普通に話す。実家に帰ったときも、いたって普通に接する。ママ友たちの前でも同様だ。それが一転、第三者の目がなくなった瞬間、夫に対してだけ妻は口を閉ざす。貝のように。そして心も。

 

奥さん、ここまでしなくてもよくない? 理由くらい言いなよ。旦那さん可哀想だよ? などと旦那に肩入れする読者が多いであろう「夫 誠の章」。

 

しかし、次章の「妻 美咲の章」を読むと、それはもう、腸が煮えくり返るほど誠への憎しみが増幅するから、いとおかし。

 

たとえば、いつまで経っても物の在り処を覚えない。どうしても時間がなくレンチンの惣菜を並べたら「オレこういうのあんまり食べたことないや」とのたまう。たまっている洗濯物、汚れた場所を指摘して「一日家にいるんだからいろいろできるでしょ」と苦言。妻からの相談にも「静かにして これ観たい」とテレビ番組を優先。ああ、書き出しているだけでムカムカする。

 

仕事が忙しいのはわかる。家にいるときくらいは、好きなテレビ番組を見てゆっくりしたいのもわかる。常に家が綺麗であってほしいのもわかる。

 

だけど、一日子どもの面倒を見ていると、やりたくてもできないことが出てくるのだ。毎日掃除機をかけていても、あっという間に汚れるのだ。洗っても洗っても、家族が多いと洗濯物ってたまるんだ!! それを、目の前の状態だけ見て、怠けてるとか努力してないとか、判断しないでほしい! これが、世の女性たちの心の叫びではないだろうか。

 

「薄れはしても、忘れはしない」問題を、どう乗り越えるか。

誠に共感した後、美咲の気持ちに共感し、さて、残るは「夫婦の章」。夫、妻、それぞれの想いが交錯する。

 

『妻が口をきいてくれません』は、程度の差こそあれ、どこの家庭でも起こりうる問題を孕んだ作品であることは間違いないだろう。シンプルな絵柄ながらも登場人物の気持ちを汲み取れるから、ついつい感情移入して読み進めてしまうのも、本作品にハマる理由だ。

 

個人的には、夫婦が大きな揉め事なくやっていく秘訣は、相手の立場や気持ちを推し量る想像力と、些細なことにも「ありがとう」を伝える感謝の気持ちではないかと思っている。さて、誠と美咲の場合はどうか。冷え切った関係は修復するのか、それとも。

 

ぜひ、最後の最後の一コマまで、油断しないで読んでほしい。

 

【書籍紹介】

 

妻が口をきいてくれません

著者:野原広子
発行:集英社

妻はなんで怒っているのだろう……。妻、娘、息子の四人家族として、ごく平和に暮らしていると思っていた夫。しかし、ある時から妻との会話がなくなる。3日、2週間と時は過ぎ……。家事、育児は普通にこなしているし、大喧嘩した覚えもない。違うのは、必要最低限の言葉以外、妻から話しかけてこないことだけ……。Webサイト「よみタイ」で、累計3000万PVを超え大反響を呼んだ話題のコミック、描き下ろしを加えて待望の書籍化。

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残り9か月! 強制引退かチャンピオンか——ボクサー・米澤重隆の激闘を描く『一八〇秒の熱量』

一生懸命努力すれば、叶わない夢はない。そう信じて勉強や運動に取り組んだ人は多いだろう。私は子どものころ鉄棒が苦手で、逆上がりさえできなかった。担任の先生は優しい人で、「毎日練習すれば、必ずできるようになるからね」と励まし、放課後の居残り練習にも付き添ってくれた。しかし、残念ながら、私はとうとうできるようにはならなかった。先生は悔しそうに「もう、十分頑張ったから」と、放課後の練習は終了となった。

 

一八〇秒の熱量』(山本草介・著/双葉社・刊)を読んでいると、鉄棒にしがみついた日々が思い出される。人は夢が叶うまで努力を続けるべきなのか、それとも、あきらめることも必要なのか……。

 

定年が迫るボクサー・米澤重隆

『一八〇秒の熱量』は、33歳でプロデビューした後、必死の努力を続け、チャンピオンを目指したボクサーの話だ。主人公の名は米澤重隆。元々は、青山学院大学でレスリングの選手として活躍しており、ボクシングジムに入門したのもレスリングの技を磨くためだった。ところが、突如転向を決意してプロボクサーとしてデビューする。この時、引退まであまり時間がないことを彼はどの程度意識していたのだろう。

 

日本のプロボクサーには三七歳で引退という年齢制限があるため、彼がリングに立てるのはあと九ヶ月しかない。(中略)米澤が始めた挑戦は、その九ヶ月以内に日本チャンピオンになるということだった。なぜなら、日本のプロボクシングのルールでは、チャンピオンには年齢制限がないからだ。つまり、三七歳以降プロとしてボクシングを続けたければ、チャンピオンになるしかないのだ。

(『一八〇秒の熱量』より抜粋)

 

米澤はその始まりから、厳しい状態にいたことになる。

 

米澤重隆を見つめる男たち

米澤をボクシングの世界へ誘ったのは、青木ボクシングジムの小林昭善トレーナー。試合勘と根性があると見込んでのことだ。ジムの会長である有吉将之も、米澤の真面目さに打たれ応援しなくてはと思うようになっていく。米澤には人をその気にさせる何かがあるのだろう。

 

『一八〇秒の熱量』の著者・山本草介も米澤に引き寄せられていった一人だ。彼はフリーランスの映像作家として活躍しており、「プロフェッショナル 仕事の流儀」「情熱大陸」など、多数のドキュメンタリー作品で知られる。山本は米澤にはりつくように取材し、番組を作ろうと決める。

 

山本が米澤を取材すると決めた一番大きな理由は、彼の置かれた状況にあった。米澤は既に36歳3か月になっており、引退まであとわずか9か月を残すのみ。それまでに日本チャンピオンにならなければ引退せざるをえない状況で、いわば崖っぷちに立っていた。普通に考えれば、一発逆転を狙った無謀な挑戦だが、それだけに、もし夢を叶えたら、「頑張れば思いは通じる」と視聴者に強く訴えることができる。

 

一方で、山本は取材対象となる米澤を冷静な目で見つめていた。

 

テレビドキュメンタリーは、非情なまなざしを持つ。彼が日本チャンピオンを目指すという無謀な挑戦をしているから、それを応援しようということで企画が通ったとしても、取材を始めるにあたってどれだけの人間が彼の夢が叶うと思っていただろうか。かくいう僕も、正直難しいのだろうなと想像していた。むしろ、このドキュメンタリーは米澤の挑戦がどのように終わるのかにかかっていると思っていた。

(『一八〇秒の熱量』より抜粋)

 

確かにその通り。現実は人の夢の前に立ちはだかり、「そんなにうまくいくわけないでしょ」と、あざ笑うかのような結果に終わることも多い。それでも、男達はあきらめなかった。小林トレーナーや青木会長は米澤をチャンピオンにしようと躍起になり、米澤はそれにこたえようとする。

 

山本までもが、取材を続けていくうちに、番組を作るだけでは満足できなくなっていった。言い残したことがあるようで、さらに米澤に熱い視線を注ぎ続ける。その結果、出来上がったのが彼にとって初めての著書『一八〇秒の熱量』だ。

 

誰かに頼まれて書いたわけではない。ただ、書くのをやめることができなかった。挙げ句の果てに、本業をほったらかしにしてまで書き続けた。

 

やがて書き終わった時には貯金は尽き、生後三ヶ月の娘を抱えた嫁さんが、家のガスが止まったのを知って、僕と結婚しなければよかったと思ったらしい

(『一八〇秒の熱量』より抜粋)

 

不思議なボクサー・米澤重隆

これほどまでに、周囲の人間を巻き込む米澤重隆とは、いったいどんな人物なのだろう。私の興味はそこに絞られた。チャンピオンの器を持っているのか、ボクサーとしての戦績はどうかというより、彼がいったいどんな生活をしているのか、夢を追うとはどういうことなのか、知りたくてたまらなくなった。そして、思った。やはり米澤というボクサーには他の人にはない何かがある。

 

山本は、米澤には「いつ訪れるかわからない死」が刷り込まれていると考えた。最初の刷り込みは、米澤がまだ高校生だったころに起きた。レスリングの選手だった米澤は、インターハイのベスト8がかかった大事な試合に参加することになった。その時、米澤はまだ1年生だったが、大巨漢を相手に見事フォール勝ちを決めた。おかげでチームは勝利し、先輩の一人が信州大学に入学できることになった。「よねのおかげで、大学行けたよ」という感謝の言葉を聞き、米澤も心底うれしかった。

 

ところが、ここに信じられないようなことが起こる。喜んで進学した先輩は、オウム真理教による松本サリン事件で亡くなったのだ。まだ19歳だった。もちろん、米澤のせいではない。しかし、彼は自分を責めた。自分が勝たなかったら、彼は信州大学へは進学せず、死なずにすんだかもしれない。

 

それから5か月後、もうひとつの事件が米澤を襲った。同じレスリング部の後輩が、突然、命を絶ったのだ。試合に負けてがっかりしている後輩を「また来年、頑張ればいいんだよ」と、米澤は励ました。それがいけなかったのだろうか。なぜもっと親身になってやらなかったのだろう。彼は激しく後悔し、それからさらに死を意識する人間として生きていくようになる。

 

背広に着替えたボクサー

米澤の取材を始めてすぐ、著者は彼のもうひとつの生活を知る。社会人として働く姿だ。ボクサーとして、朝早くから激しい練習をした後、米澤はスーツに着替えて出社する。勤め先は世に言うコールセンターだ。ボクサーとして食べていけない状態だから、当然と言えば当然だ。しかし、その働き方が尋常ではない。契約社員という立場で、通信設備のメンテナンスをしているのだが、働きぶりは真面目そのもの、同僚が舌をまくほど徹底的だ。おまけに就業時間は不規則で、夜中でも働き続ける。会社で仮眠を取りながらの労働だ。

 

それでも、彼は文句も言わず、淡々と仕事をこなしていく。食事も「これは食べ物か?」と、問いたくなるほど奇異な弁当だけだ。体重制限があるため、おかずは茹でた鶏の胸肉に青汁とワカメスープの粉末をかけ、湯を注いだものだ。主食はレトルトの玄米。この献立を昼も夜もひたすらに続ける。しかも、「全然、飽きないっすよ。旨い」と、喜びながらかみしめるのだ。

 

不思議な人だ。でも、惹きつけられる。死を意識しながら生きる男は、生き残ろうと必死になりながら、緑色のスープに浸かった鶏の胸肉をほおばる男でもある。

 

そんな米澤も恋をする。みな子さんという素敵な女性と巡り会ったのだ。彼女のためにも勝たねばならない。ぼろぼろになっても勝つしかない。しかし、タイムリミットまで、あとわずか……。

 

結局、彼は定年に間に合ったのか? 夢をつかみ取ることができたのか? 恋の行く末も気になるところだ。それは、『一八〇秒の熱量』を読んで、確かめてみて欲しい。ただ、37歳の誕生日をリングの上で迎えたことだけはお伝えしておきたい。

 

巻末には、米澤自身と著者と担当編集者、そして、みな子さんも加わっての対談も掲載され、映像には描かれなかった米澤の姿が描き出されているのも興味深い。

 

人を殴るのが嫌いだと言う優しすぎるボクサー。こういう人生もあると知っただけで、なぜか私まで、あきらめた夢を追いかけたくなる。「逆上がり、もう一度、挑戦してみようかな」と思ったりしたのも、彼のおかげだ。

 

【書籍紹介】

一八〇秒の熱量

著者:山本草介
発行:双葉社

NHKドキュメンタリーに取り上げられて大反響。感動と興奮のタイムリミット・ノンフィクション。引退を回避するためには日本チャンピオンにならなければならない。契約社員のB級ボクサー・米澤重隆の命を削る激闘が始まる。スピードもテクニックもスター性もない。だが、愚直に闘い続ける米澤の姿に、ただ心が震えるーー。

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米まで炊けるとは知らなかった! キャンプにもおすすめの『アイラップレシピ』

昭和レトロなパッケージがかわいい「アイラップ」は1976年に登場し、キッチンにはなくてはならない存在として今でもたくさんの人に使われています。

 

そんなアイラップ、食品を保存するためだけに使っていませんか? 実は、冷凍・レンジ・湯煎が可能なアイラップを使った『アイラップレシピ』(アイラップ愛好会・著/山と渓谷社・刊)が、じわじわと話題になっています。

 

今回は「レンジで同時調理ができちゃう!」「キャンプでも使える!」「米まで炊ける!」と普段使いから災害時まで役立つ情報がてんこ盛りな、アイラップレシピをご紹介いたします。

 

アイラップの基本的な使い方

冷凍ができて、電子レンジでも使えるアイラップ。私もひき肉を混ぜる下ごしらえや、野菜や小分けにした食材を保存するのに使っていたのですが、『アイラップレシピ』を読んで、冷凍のまま電子レンジで解凍したり、炊飯器を使った低温調理までできたりと、使い方の幅がかなり広いことを知りました。

 

お皿代わりに使えるので洗い物も減らせるし、しっかり空気を抜いて真空保存もできるし、一度使い始めると「あれ? 味玉作るのにも使えるんじゃない?」「袋の中で混ぜられるからポテサラもできるね!」などなどアイデアも出てくる、出てくる!

 

そんなアイラップですが、いくら強い! 使いやすい! と言っても耐熱温度が設定されているので、そこはちゃんと守るようにしましょう。

 

アイラップの耐熱温度は120度。それ以上になると溶けたり火事につながることもあるので、必ず守ろう。オーブンやトースター、鍋での直接加熱は絶対にしてはいけない。鍋にアイラップを入れて使う場合は、必ず耐熱皿とセットで行うように。

(『アイラップレシピ』より引用)

 

ちなみに、耐冷はマイナス30度までなので、一般家庭で使う分には問題なさそうです。使い方さえ間違えなければ、本当に便利なアイラップ! 我が家には、通常サイズの「アイラップ」(サイズ:210mm×350mm、マチ40mm)に加えて、「アイラップ ミニ」(サイズ:110mm×250mm、マチ40mm)も愛用中。ちょっと漬物作りたい! とか、薬味など少量を冷凍したい時などにも役立っています。

 

アイラップとお湯があれば、米が炊ける!

ネットやSNSでも「アイラップレシピ」と検索するとたくさんのレシピが出てくるのですが、覚えておくと便利なのが「アイラップで炊飯できる」こと。そう、お湯さえあればお米が炊けちゃうのです!!

 

作り方

1.無洗米と水をアイラップの中に入れる。※米1に対して水の量は1.2倍という割合を覚えておけば、1合が測れなくても炊飯できる。軟食(離乳食)は2倍、お粥は5倍で覚えておこう。

 

2.袋は空気を抜いて上のほうを結ぶ。通常の生米の場合は、30分ほど浸水させる。

 

3.沸騰した湯に袋を入れる。沸騰してから、ぽこぽこと湯が沸いた状態で25分湯煎するレトルトカレーもここで一緒に温める。

 

4.袋を湯から取り出す。白米のほうは5分ほど蒸らして出来上がり。

(『アイラップレシピ』より引用)

 

家にアイラップがある方はぜひ一度お試しあれ!

 

ご飯茶碗1杯分だけ作りたいのなら、90mlの紙コップにすり切り1杯で炊けばOK。防災グッズの中に入れておくのもおすすめですが、一度作り方を予習して実践しておくと、いざという時に慌てずにできますね。

 

また、ここではレトルトカレーと一緒に温めていますが、災害時「洗い物を出したくない」「お皿がない」などの問題も、アイラップがあれば袋だけで食べることもできます! キャンプなどでも使えそうなので、気になる方はぜひお試しください!

 

魯肉飯(ルーローファン)もアイラップで超簡単に!

『アイラップレシピ』の表紙になっている魯肉飯。台湾の人気料理で、手軽に食べたいけれど、圧力鍋がなかったり、わざわざ「大同電鍋」を買うのはなぁ〜と悩んだり、かといってレトルト商品を食べるのはなんだか違ったり……もっと手軽に食べたい! という人におすすめなのが、アイラップで作る魯肉飯です。

 

(材料 1人分)

豚バラブロック肉(薄切りでも可、1cm角)…150g

にんにく、しょうが(みじん切り/チューブでも可)…各5g

卵…1個

ご飯…適量

【A】

 砂糖…大さじ1/2

 酒…大さじ1/2

 しょう油…大さじ1/2

 オイスターソース…大さじ1/2

 水…大さじ1

 五香粉…少々

 フライドオニオン(市販品)…大さじ1

(『アイラップレシピ』より引用)

 

これらの材料を、全部アイラップに入れて空気を抜くように口を閉じて20分湯煎するだけ(耐熱皿の上で湯煎してくださいね)。ほったらかしでできちゃいます!

 

普通のお鍋で作ると、タレが焦げついて洗うのが面倒! なんてこともありますが、アイラップならそんなこともありませんでした。一緒に、ゆで卵やスープ、副菜まで作れてしまうのもうれしいポイント。

 

他にも「ハンバーグ」「茹でオムレツ」「カレーうどん」と、目から鱗なレシピが豊富に掲載されています。湯煎だけでなくレンジで使えるレシピもあるので、これから暑くなり、台所に立つのが億劫になる人にもおすすめです。ぜひ一度ご覧くださいー!

 

 

【書籍紹介】

アイラップレシピ

著者:アイラップ愛好会
発行:山と溪谷社

ふだん使いに! キャンプに!災害時に! 簡単・時短・手間いらず。冷凍・レンジ・湯煎OK。愛され続けて40年のロングセラー、マチ付きポリ袋「アイラップ」を使ったレシピ集。

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“「ボケてるオレ」を笑って”と語る蛭子さんは、超高齢社会の日本における希望の星だ!

もしも「あなたは認知症です」と医師に宣告されたら、どうするだろう。

 

ライター、主婦、3児の母に加えて、新しい肩書きが増えただけ。そう言い切れるだけの強さが、今の自分にあるだろうか。

 

おとぼけキャラと、独特なタッチが味わい深い漫画でおなじみのタレント・蛭子能収さんが、「認知症である」と公表した。さらに、『認知症になった蛭子さん』(蛭子能収・著/光文社・刊)が先日発売になり、話題となっている。

 

 

蛭子さんが「認知症」を公表した! 

2020年7月、『主治医が見つかる診療所』というテレビ東京系の番組で、蛭子さんは「軽い認知症」、正確には「レビー小体病とアルツハイマー病の合併による初期の認知症」と診断された。

 

認知症といえば、近い将来、高齢者の5人に1人がなると推測されているほど、誰にとっても身近なものとなった。事実、亡くなった私の祖父も認知症を患っていたし、友人や知人の身内で認知症になった人がいるという話も、これまでに複数耳にしている。

 

けれども、自分や家族が認知症であることを公言した人には、今のところ出会っていない。

 

認知症は、初期・中期・末期で症状が大きく異なる。そのため、「認知症=大変なこと」と決めつけるのは早計であろう。しかし、まだまだ世間のイメージは、「認知症の実態はよくわからないけれど、とてつもなく大変で、なってしまったら(ある意味)おしまい」が大半だ。

 

そのため、介護者は身内が認知症だと周囲にカミングアウトしづらく、結果、さまざまなサポートが受けにくい状況に陥っていると考えられる。だからこそ、今回の蛭子さんの認知症公表は驚いたし、本の出版にはさらに驚いた。

 

介護する側も「自分ファースト」の姿勢が大切!

『認知症になった蛭子さん』は、蛭子さんの奥さん、マネージャー、(今回の書籍化のもととなった)連載担当記者という3名の赤裸々な告白を通して、「家族」「仕事」「社会」がどう認知症の人を受け入れていくかを指南してくれている。

 

特に、第一章に書かれている奥さんの吐露は、かつて祖父の介護で四六時中苦しんでいた母の姿が幾度も蘇り、胸がぎゅっと締め付けられた。

 

そして今回、私は大きな気づきを得た。それは、「自分ファーストの介護」の重要さだ。

 

ショートステイやデイサービスなどは私の祖父も利用していたが、それらはすべて祖父のためだと思っていた。けれども、違った。介護支援施設は「介護者である家族の心や体を健康に維持するため」にも、大切な存在であったのだ。

 

あのころ、すでに家を出ていた私には、認知症の祖父と家族の普段の様子をすべて知ることは難しかったが、それでも一日のほとんどを祖父の対応に費やしていた母の苦労は筆舌に尽くしがたい。

 

本当に、適切なタイミングで、適切な施設を利用できていただろうか。ケアマネージャーさんを頼れていただろうか。母は心から休息をとれていただろうか。

 

蛭子さんの奥さんは本書の中で、

 

介護をする側も、よっちゃん(蛭子さん)にならって「自分ファースト」の姿勢を持つことが大事なのだと思いました。介護は妻である私がやる、という呪縛にかかっていたのかもしれません。

(『認知症になった蛭子さん』より引用)

 

と述べている。ああそうだ、これはある種の呪縛だ。このところ特に、「一般論」「世間の目」「普通はこうである」といった呪縛に苦しむことが多い。呪縛なんてクソ喰らえである。

 

誰のためでもなく、自分自身と愛する人のために、「自分ファースト」の姿勢を貫けばいい。そう、蛭子さんの奥さんに教わった。

 

「蛭子さん」=「認知症の人が働ける社会」のアイコンに!

『認知症になった蛭子さん』の後半には、『女性自身』で連載している「蛭子能収のゆるゆる人生相談」から、選りすぐりの傑作回が掲載されている。

 

認知症を公表した以降も、連載は続行中。傍らには16年以上蛭子さんを担当しているマネージャーさんが居り、記憶を呼び起こせなかったり、言葉に詰まったりする蛭子さんに助け舟を出しながら、回答しているのだという。

 

「ま、いっか」が口癖の蛭子さん。独特の言い回しで、ゆるりと読者からの相談に回答していく。

 

「生きているだけですごいこと。それで十分だと思おう」「子どもや孫は過保護にせずに 遠くから見守っていればいい」「自信がなくても別にいい。笑っていればなんとかなる!」など、なんとも深い回答ばかり。結果的に解決策になっていなくても、「蛭子さんがてへっ! と笑いながらそう言うなら大丈夫か~」と気持ちが軽くなるから不思議だ。

 

そして何より、蛭子さんは「認知症になっても、いくつになっても、自分の力で稼ぎたい」という思いが人一倍強いそうだ。実際に、蛭子さんがどんどんお金を稼いでくれたら、認知症の人や家族も勇気づけられると、認知症介護に携わるプロたちも期待を寄せている。

 

認知症になっても、今までと変わらず、ゆるくひょうひょうとした姿勢で私たちを楽しませてくれる蛭子さん。彼の存在こそ、認知症の人を、そして認知症の人を取り巻く家族の心をふわりとラクにしてくれる治療薬であり、超高齢社会の日本における希望の星かもしれない。

 

【書籍紹介】

認知症になった蛭子さん

著者:蛭子能収
発行:光文社

“きれいごと”では解決しないー蛭子さん妻・悠加さんの「介護」相談も収録! 2020年7月、認知症であることを公表した蛭子さんに起こった“過酷な現実”を、いちばん近くで見てきた妻・悠加さんが初告白。“きれいごと”だけでは解決しない悩みに、介護の先輩が本音で答えます。さらに、公表後も続ける人気コラム「蛭子能収のゆるゆる人生相談」傑作選を収録。介護する家族の心を「楽」にする考え方が、ここにあります!

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今こそ読むべき! 寺山修司の感性で選んだ名言の数々——『ポケットに名言を』

去る5月4日は、詩人であり劇作家あり評論家でもあった寺山修司氏の命日だった。没後38年だそうだ。20代のころ、私は寺山さん主宰の演劇実験室「天井桟敷」の公演はほぼ全部、観に行っていた。同郷の友人が劇団員だったので、彼女を応援するのが目的だったが、おかげで素晴らしき寺山ワールドをこの目で観て、感じることができたのだ。

 

当時の天井桟敷のスターは若松武史さんで、彼の演技は迫力満点だった。その若松さんが今年4月に癌で亡くなられたことをニュースで知り、すぐに友人にメールをした。彼女は懐かしい寺山さん、若松さんたちとのエピソードを思い出し偲んでいた。そして「百年の孤独」、「レミング」、「奴婢訓」などの台本を探し出し、台詞の数々を読み返し、寺山さんの才能を改めて感じ、作り出された言葉の数々は今もまったく色あせていないと言っていた。

 

言葉を友人に持ちたい

今日紹介する『ポケットに名言を』(寺山修司・著/KADOKAWA・刊)は、いわゆる格言集ではない。寺山さんがそのときどきで「これは!」と思った言葉をノートに書き残していたものを集めたユニークな一冊なのだ。サルトル、サン・テグジュぺリ、アルベール・カミュ、太宰 治、三島由紀夫の引用があったり、懐かしい映画の台詞が出てきたり、歌謡曲の歌詞もある。寺山さんが何に興味を持ち、何に感動し、それを自身でどう消化していったのかが、ほんの少しだけ垣間見える書でもある。

 

老いた言葉は、言葉の祝祭から遠ざかってゆくが、不逞の新しい言葉には、英雄さながらのような、現実を変革する可能性がはらまれている。私は、そこに賭けるために詩人になったのである。言葉はいつまでも、一つの母国である。(中略)本当にいま必要なのは、名言などではない。むしろ、平凡な一行、一言である。だが、私は古いノートをひっぱり出して、私の「名言」を掘り起こし、ここに公表することにした。まさに、ブレヒトの「英雄論」をなぞれば「名言のない時代は不幸だが、名言を必要とする時代は、もっと不幸だ」からである。そして、今こそ、そんな時代なのである。

(『ポケットに名言を』から引用)

 

寺山ワールドを作り上げていった言葉とは?

本書は1977年に出版されたものだが、今、この時代にこそ読んでおきたい一冊ともいえる。まずは章立てからみていこう。

 

1 言葉を友人に持とう 私にとって名言とは何であったか

2 暗闇の宝探し 映画館の中での名セリフ

3 好きな詩の一節

4 名言

5 無名言 やくざのスラング/さみしいときの口の運動

6 時速100キロでしゃべりまくろう 私自身の詩と小説の中のことば

 

「さよならだけが人生だ」

寺山さんが学生だったころ、最初に出会った「名言」は井伏鱒二の「花に嵐のたとえもあるさ さよならだけが人生だ」という詩だったそうだ。

 

私はこの詩を口ずさむことで、私自身のクライシス・モメントを何度のりこえたか知れやしなかった。「さよならだけが人生だ」という言葉は、言わば私の処世訓である。

(『ポケットに名言を』から引用)

 

この一節は、井伏鱒二の「厄除け詩集」にある。言葉は、時には思い出にすぎないものもあるが、時には、その言葉が世界全部の重さと釣り合うこともある。若き日の寺山さんにとって「さよならだけが人生だ」という一言が、葛藤を乗り越えるときなど様々な場面で大きな支えになっていたようだ。

 

名言は軽く着こなし、脱ぎ捨ててゆけばいい

本書は1968年に「青春の名言」(大和書房)から出されたものを、10年近く経ってから改訂し出版されたものだ。寺山さんは「古い住所録を書き直すように」、いくつかの名言は消し、また新たな名言を書き加えたそうだ。ところで、寺山修司にとっての名言とは何か? の定義も書かれているので引用しておこう。

 

一 呪文呪語の類

二 複製されたことば、すなわち引用可能な他人の経験

三 行為の句読点として用いられるもの

四 無意識世界への配達人

五 価値および理性の相対化を保証する証文

六 スケープゴードとしての言語

とでも言ったことになるだろうか?

(『ポケットに名言を』から引用)

 

さらに、名言などは、シャツでも着るように軽く着こなしては脱ぎ捨ててゆく、といった態のものだということを知るべきだろう、とも記している。

 

この本は第4章の名言が当然ボリュームがあり、「人生」「孤独」「恋」「幸福」「快楽」「冒険と死」「朝」「文明」「望郷と友情」「忘却、「真実」「地上的な、苦痛な」「善と悪」「革命」という見出しが立てられ、それぞれに〔私のノート〕として寺山さんが名言を選んだ背景が書かれている。

 

ドストエフスキー、ゲーテ、サルトル、マルクス、アルベール・カミュ、アンドレ・マルロー、井伏鱒二、太宰 治、三島由紀夫などの書からの一句もあれば、突然に、映画「燃えよドラゴン」ブルース・リーの台詞が出てきたり、あるいは西田佐知子が歌った「東京ブルース」の歌詞もあったりするのがユニークだ。

 

寺山修司に名言はない?

最終章が寺山さん自身の言葉の数々で、「詩集」「歌集」「毛皮のマリー」「あゝ、荒野」などから選ばれた一句、一節が上げられている。

 

言いたいことは暗黒星雲アンドロメダほどもある。そしてまた、言いたいと思って口に出した言葉が音になったとたんに、易く私を裏切ってしまうような気さえするのである。だから残念ながら、私には「名言」はない。私は、ただ時速一〇〇キロでしゃべりまくるだけである。

(『ポケットに名言を』から引用)

 

紹介したい言葉ばかりなのだが、それは本書を読んでいただくとして、氏が一番目にあげている有名な詩を引用しておこう。

 

一本の樹のなかにも流れている血がある

樹のなかでは

血は立ったまま眠っている

(「詩集」より)

 

【書籍紹介】

ポケットに名言を

著者:寺山修司
発行:KADOKAWA

世に名言、格言集は多いけれど、どれもなんだか説教臭くてつまらない!? もっと気楽に、もっと楽しく、Tシャツとジーンズを着るように、名言を自分のものにしませんか ? 小説や映画の一節、サルトルやマルクス、詩、短歌、歌謡曲、演劇などなど、寺山修司ならではの感性で選んだフレーズの中に、あなたの心のポケットにぴったり合う言葉がきっと見つかるはず。

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妻と娘にモテたい! 脱サラ料理家YouTuber・筒井チャンネルさんの魅力とは?

これまでに420万回以上再生されているYouTubeの人気動画「サラリーマンが出勤前に作る朝ごはん【二人分】」をご存知でしょうか?

 

ちょっぴりイカつい男性が、奥さんのために黙々と朝ごはんを作っているだけの動画なのですが、なぜか最後まで見てしまう……。コメント欄にも「この人と結婚したい女性軽く100万人はいそう」「再生中のテロップもおもろすぎ」「神ですね…」など絶賛コメントが並びます。

 

この動画がアップされているYouTube筒井チャンネルは、2019年10月から動画投稿を始め、チャンネル登録者数はすでに39.2万人(2021年4月末時点)! 動画のタイトルにはひたすら「妻と娘にモテたい」って付いているし、盛り付けは女子っぽくてかわいいのですが、この筒井さんって一体、何者? 今、話題の筒井さんにあれこれ聞いちゃいました!

 

 

「妻にモテたい」から始めた料理

——本日はよろしくお願いします! 筒井さんはYouTuberとしてだけでなくレシピサイト『Nadia』でも料理家として活躍されていますが、今の奥様とお付き合いする前まで、料理経験はなかったと伺いました。

 

筒井 そうですね。妻と付き合い出したのが7年前くらいなのですが、それから料理を始めました。なんとか彼女の気を引こうと、ホワイトデーに卵焼き器でバームクーヘンを作りまして……そこから、モテるために料理を続けてきました。無事に結婚することができて、子どもが生まれてからも、めげずに妻と娘にモテたい一心で、味はもちろん見た目にもこだわった料理を作り続けています。

 

——モテ続けようと努力している姿が素晴らしいですね。献立に悩むこととかないですか?

 

筒井 動画にアップする用の献立はあらかじめ決めてから料理していますが、日常生活の中で食べるのは毎日のことなので、気がついたら冷蔵庫の中を見てあるもので作れるようになっていました。妻も料理をするのですが、レシピとか見ずにちゃちゃちゃっと作っちゃうのはすごいと思いますね。敵いません(笑)

そんな妻は広島出身なのですが、「広島のお好み焼き」が好きなのでよく作ったりします。あと「パンケーキ」は自画自賛するほど綺麗な焼き目がつくれるので、家族にも好評です。

 

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筒井 しょうた(@tsutsuuuuuui)がシェアした投稿

 

——言葉の一言一言が眩しすぎて……素敵です! 世の中の男性を筒井さん化させたい。

 

筒井 いやいや(笑)、ありがとうございます。最近は、SNSのDMに「うちの旦那が筒井さんに憧れて料理始めたんです」とか「筒井さんを目指してYouTube始めました」と連絡いただくことも増えてきました。個人的にはめちゃくちゃうれしいですね。

 

——パイオニアですねっ! そんな筒井さんの動画はとっても不思議で、一度見始めたら絶対最後まで見ちゃうというか……筒井ワールドがありますよね。何か意識していることはありますか?

 

筒井 アップする動画は「誰でもできる、基本的な料理」を意識しています。あまり凝りすぎないようにと思っていますが、ただシンプルすぎても動画として飽きてしまうので、その辺は気を配っています。

動画も2〜3分くらいの短いものをアップしているのですが、片手間でもサクッと見てもらえるものを作りたくて。お子さんの寝かしつけをしながら、音声オフの状態で見てもテロップと動きである程度内容は理解できる、そんな動画をもともとインスタグラムで発信していたんですよ。

 

——もともとはインスタで投稿されていたんですね。

 

筒井 そうなんです。料理の写真をアップして「いいね」を頂いたりすれば、自分のモチベーションも上げられるんじゃないかな? と思って始めたのがきっかけです。そのうち、フォロワーをもっと増やしたいって欲望が出てきちゃいまして(笑)。おしゃれな写真の撮り方とか、盛り付け方とかを本で勉強したり、人気のあるインスタグラマーさんの真似したり、当時は今よりシンプルな写真投稿SNSだったので、「いかにおしゃれな写真をアップするか」みたいな部分にこだわってあげてましたね。

 

——そこからYouTubeにはどんな転身があったのですか?

 

筒井 ある時、インスタのフォロワーさんから「料理の作り方を動画で教えて欲しい」とコメントがありまして。言われるがままインスタで動画投稿をしたら、バズったんです。

 

——インスタの動画がバズるって珍しいですね。

 

筒井 そうですよね。一気にフォロワーさんも「いいね」も増えてきたんですが、フォロワーさんに「筒井さん、絶対YouTubeやったら伸びますよ」って、そそのかされまして。「そんなことないですよ〜」って言いながら、すぐチャンネルを作ったんですよ。それが2019年の年末くらいです。

 

——そそのかされた(笑)。

 

筒井 インスタに投稿していた時と同じ機材・編集方法でそのままYouTubeに動画をあげていたので、当時は「お小遣い稼げればいいや〜」くらいに思っていましたし、自分がYouTuberになるぞ! みたいな気持ちも全然なくて。どうやったらチャンネル登録者数が増えるかな? どうやったら収益化できるかな? ってそこまで気合は入れてなかったんですよね。けれど、2020年1月にアップした「サラリーマンが出勤前に作る朝ごはん【二人分】」が何故かバズりました。そこからあれよあれよと、10万人突破して、現在に至ります。

 

■サラリーマンが出勤前に作る朝ごはん【二人分】

 

YouTuberは、狙ってなるものじゃない?

——そそのかされて始めたYouTubeがバズるってすごいことですよ!

 

筒井 それまではどの動画も2000〜3000再生回数くらいだったんです。これは、タイトルが良かったのかな? 自分でも要因はサッパリわからないのですが、アップした2〜3日後に管理画面を見たら80万回って表示されていて。二度見しました。

 

——二度見(笑)

 

筒井 最初、バグかな? って思ったんですよ。でもコメントはたくさん書かれてあるし、「マジで!?」と。そこから1日数千人規模でチャンネル登録者数が増えていって、見ていただける動画も増えて、驚きましたね。

YouTubeって本当難しくて、狙ってバズれるわけでもないので、YouTuberになりたい! バズりたい! なんて思ってやっていたらきっとこうはならなかったと思っています。ぬるっと、気がついたらYouTuberだったっていうのが僕らしいというか、それが良かったんだと思います。

 

——なるほど〜。それまでサラリーマンをしながらSNSやYouTubeを更新していた筒井さんですが、2020年8月から独立されています。どんなきっかけがあったのでしょうか?

 

筒井 YouTubeのチャンネル登録者数が10万人を超えたあたりから、企業案件や出版の依頼、事務所に入りませんか? などお誘いが増えてきました。YouTubeに本腰を入れてやりたい気持ちはあったのですが、動画を作るだけでも10時間とかかかっていたので(汗)、働きながらは難しいなと。

そこで妻とも相談をして、「何とかなるでしょう」と独立する決心をしました。慈悲深い妻のおかげです。

 

——素敵な奥様ですね! 実際に独立してみていかがでしたか?

 

筒井 一番難しいのは、オン/オフの切り替えですね。子どもと遊んでいる時とかは考えませんが、ひとりでぼ〜っとしていると「この時間で何かできるんじゃない?」って不安になっちゃったり(笑)。

フリーランスって、働けば働いただけ儲けることができますが、働かなければ売り上げは0円。昔からフリーで働くということに憧れがありましたけど、実際に働いてみてサラリーマンより泥臭い世界なんだな、と。やりがいはあるけど、気は休まらないですね(笑)。

 

料理は好きだけど、オリジナルレシピを考えるのは苦手(笑)

——お話を聞くほど、筒井ワールドの魅力にはまってしまうのですが、今後は料理家さんとしても注目が集まりそうですね。

 

筒井 ありがとうございます。本格的な料理じゃなく、僕みたいなパパさんたちも「手軽にぱぱっと作れる簡単料理」を提案していきたいなと思っています。料理本とかも出せたらいいですね。

 

——オリジナルレシピとか考えてたりするんですか?

 

筒井 それがね、僕オリジナルレシピを作るのが苦手で(笑)。料理家として活動し始めてから気が付いたんです。料理家としてあってはいけないですよね……どうしようかな? と思ってます。

 

——またまた!(笑)筒井さんは料理だけではなく、料理を盛り上げてくれる「つ印のモテ木プレート」も販売されていますよね。

 

筒井 ありがとうございます。自分が使っていた木のプレートが絶版になってしまって。再現するためには、どうしたらいいかと思って、「自分で作ってしまえ」と販売を始めました。今後も「つ印」での商品展開を考えているので、ご期待いただきたいですね。

やっぱり料理したい! と思わせてくれる家電やグッズって大事だと思うんですよね。それは機能面でも見た目でも自分にとって「これがあるから」的なものがあるのとないのとでは、違うと思います。お料理って面倒ですからね(笑)

 

——本当そうですね! そんな筒井さんがおすすめする調理家電をいくつか教えてもらえませんか?

 

筒井 「妻と娘にモテたい男が作る晩ごはん【ペッパーランチ風のヤツ】」でも使っているのですが、BRUNO(ブルーノ)のホットプレートはいいですね。

まず見た目がかわいい。料理も美味しそうに仕上がるので、料理写真をアップしたい方にもいいのではないかと思いますね。ホットプレートは最近いろんな種類のものが出ているので、気になるものも多いのですが、「プリンセステーブルグリル」も気になっていました。

 

■妻と娘にモテたい男が作る晩ごはん【ペッパーランチ風のヤツ】

 

——いいですね〜!  筒井さんが今「欲しい」と思っている調理家電はありますか?

 

筒井 いっぱいありますよ(笑)。最近悩んでいるのは、ホームベーカリーですね。アンパンマン育ちなので、ジャムおじさんが作っているようなパンへの憧れがありますし、「自分で作ったパン美味しいでしょ!」って思っていたのですが、めちゃくちゃ時間はかかるし、いざ作ってみたらしょっぱいし、硬いし、正直美味しくなかったんですよ……なので買っちゃおうかな? と思っています。

 

——そうだったんですね(笑)。朝、焼きたてのパンが食べられるのはいいですよね!

 

筒井 でも、YouTubeに投稿することを考えると、粉入れてスイッチ押すだけなので地味なんですよね(笑)。欲しいけどどうしよう……って悩んでました。

 

——筒井さんらしい悩み! 今後も動画楽しみにしています。一緒に「うぇ〜い」したいので(笑)

 

筒井 ありがとうございます。料理が完成したら「うぇ〜い」ってテロップと効果音を入れているんですけど、以前忘れたことがありまして。ファンの方からお叱りをいただいたこともあるので、忘れずに入れていきます。

 

——お叱りしたのは私ではありませんが、ぜひ入れてください(笑)。Nadiaでもレシピをアップされているので、こちらも楽しみに見させていただきます。今回は、お忙しいところ本当にありがとうございました!

 

 

これまでの「料理」のイメージががらりと変わるとても楽しいインタビューでした。ズボラな人でもできる! とか、5分でできる! とかそんな切り口の料理本はたくさん出ていますが、無理やり料理をしなければいけないのではなく、生活の延長、モテの延長に料理がある、だから楽しもう! そんな気持ちにさせてもらったように思います。

 

性別関係なく、人間であれば一生モテたいし、褒められたい気持ちはあるので(笑)、私も旦那にモテてちやほやしてもらえるように、肩肘はらずに楽しく作れるようになりたいと思いました。

 

「どちらかが料理をしなければならない」という時代ではなく、男女関係なく、立場関係なく誰もが料理を楽しんでいい時代になったのだと感じます。筒井さんのスピリットが広がっていけばいいなぁと感じたインタビューでした。今後の「筒井チャンネル」、料理家・筒井しょうたさんの活躍にも期待しましょう!

 

 

【書籍紹介】

Nadia magazine  vol.02

著者:Nadia magazine編集部
発行:ワン・パブリッシング

人気レシピサイトNadiaから好評レシピを厳選した公式ムックの第2弾登場!「Nadia magazine」は、人気レシピサイトNadiaの中から特に好評のレシピを掲載した公式料理ムック。Nadiaとは、月間2000万ユーザーを誇る料理投稿サイト。「通過率は10分の1」と言われる独自の審査を通過した人のみがレシピを掲載でき、その高いクオリティのレシピが好評を集めています。この3年でユーザー数が約5倍に。そんなNadiaに掲載されている約600人の料理家による約8万1000レシピの中から、さらに厳選したレシピを紹介。毎日の料理に役立つ、「作りやすくておいしい」レシピだけを集めました

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読書体験にのめり込めるための「金魚の栞」が味わい深い【愛用品コラム45】

本連載ではGetNavi web編集長・山田佑樹が日々の生活で愛用している品々を紹介していきます。

 

【#愛用品 45: フェリシモ「金魚の透明しおり」】

●起

風呂の時間ぐらいは、デジタル機器から離れようと思い、紙の本を持ち込んで読書している。風呂の時間ぐらいは仕事から離れようと思い、小説を読んでいる。アユーラの入浴剤と組み合わせた時間が1日の楽しみだ。

 

●承

ガサツな性格なので、本のカバーや帯を栞にすることが多かったが、それではいかんと思い、使っているのがこの栞だ。金魚が踊る様子が美しく、水にまつわる場所で使う点でも相性が良いと思って購入。素材はプラスチックなので、湿気でシナシナにならない点も良い(濡れる場所の使用は推奨していない)。

 

●転

風呂での読書は、正直、ページは進まない。長く入っても1時間が限界だから、読める分量は知れている。けど、情報として消費するのではなくて、作品の世界観をゆっくりと堪能するにはとてもいい環境だ。

 

●結

この栞、いくつかのバージョンがあって、羽ばたく鳥が印刷されたものもある。これは休日に屋外で読書するときにぴったりだ。基本は電子書籍で読書するけど、紙の本で読書するときは、栞も含めて読書体験。引き続き遠くには行けなそうなので、読書で知らない世界に出かけてみたい。

 

GetNavi web編集長・山田佑樹の「愛用品コラム」はInstagramでも展開中。週3回公開しています。

お笑い第一世代・いかりや長介と萩本欽一の凄み、第三世代・ダウンタウンととんねるずのカリスマ性~注目の新書紹介~

書評家・卯月 鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

 

 

世代に特徴あり! あなたは何世代?

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。新人類、ゆとり世代、さとり世代……。世代を表す言葉っていろいろありますよね。焼け跡世代、ポパイ・JJ世代、ロスジェネ世代なんてちょっと変わったネーミングもあります。

 

「○○世代」と言われて、当の本人たちは「そんなことない!」と思うでしょうし、個人個人はバラバラなのですが、なんとなく当たっているような気もするのが世代論の面白さでしょう。

 

お笑いの世界では、今、「第7世代」と呼ばれる若手がテレビを席巻しています。第七世代はあまりガツガツしていないのが特徴。昔ながらの「スキあらば前へ前へ」という笑いのスタイルとは少々違うようです。

そんなお笑いの世代論について、わかりやすくまとまっているのが本書『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(ラリー遠田・著/光文社・刊)。ネタの傾向や、お笑いとテレビの関係性、芸人の気質など、世代ごとの変化を的確に分析・解説しています。

 

著者は東大卒業後、番組制作会社を経て、現在はお笑い評論家として活躍するラリー遠田さん。『教養としての平成お笑い史』『M-1戦国史』など、テレビ・お笑いに関する著書多数。お笑い評論家といえばこの人! という存在になりつつあります。

 

テレビにフィットした芸でスターに!

この本では、クレージーキャッツが活躍していた60年代以後に焦点を当て、「テレビ芸」というべき新たな笑いが発明されたところを起点として論をスタートさせています。各世代ごとに代表的な2組の芸人を取り上げ、彼らを中心に話は進んでいきます。

 

まず、第一世代はいかりや長介さんと萩本欽一さん。テレビで見せるための「テレビ芸」を極めたふたりです。メンバー5人のキャラを固めたうえで新ネタを作り続け、飽きられないようにしたドリフターズ。それまでの舞台を中心とした芸人が、ひとつのネタを磨いてきたのとは異なる手法が当たりました。

 

一方で、萩本欽一さんは一般人が何気なく口にする言葉の面白さに目覚め、素人いじりを編み出してテレビの王様に! テレビではプロの芸人の芸よりも、この手の自然発生的な笑いのほうがウケやすい。テレビの登場・普及とともに笑いの取り方も変わっていったのです。

 

続く第二世代は、ビートたけしさんと明石家さんまさん。毒舌で欺瞞を暴く「批評の天才」たけしさんは、「既存の権威を疑い否定しながらも、一方でその古い価値観に縛られ続ける団塊世代」であり、「真面目さを引きずっている」というのは興味深い分析です。

 

さんまさんは無邪気で明るく恋愛を謳歌する「しらけ世代」であり、テレビで軽妙に恋愛の話ができる芸人として人気になったというのも新鮮な視点でした。

 

「新人類世代」のとんねるず・石橋貴明さんとダウンタウン・松本人志さんの分析も「なるほど!」と思える内容。思想の重石がなく上下関係に縛られない新人類世代の彼らはいわゆる師匠を持たず、自分が面白いと思うもののみを追求していく……。

 

学問として確立されていない「お笑い史」は、どうしても書き手の思い入れが強くなってしまうもの。しかし、本書はカジュアルな読み口ながら、俯瞰的な分析が冷静になされ、紹介されるエピソードも芸人本人の著作などから引用されていて納得感があります。

 

テレビとともに歩んできた第一から第七世代。本格的な動画配信時代に移ってきた今、第八・第九世代はどのような芸人が人気者となるのでしょうか。楽しみです。

 

 

【書籍紹介】

『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』

著者:ラリー遠田
発行:光文社

「売れた」芸人たちの栄枯盛衰の物語。「世代」で読みとくもう一つの戦後史。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

大滝詠一とナイアガラ・サウンドと日本のポップス史と——『「ヒットソング」の作り方』

2021年は、筆者にとって特別な意味を持つ年だ。あの『ベストヒットUSA』の地上波版の放送が始まったのも、大滝詠一さんの歴史的なアルバム『A Long Vacation』がリリースされたのも1981年。そう。今年は、筆者の音楽観を決定づけたきわめて大きなふたつの出来事の40周年なのだ。

立ち止まってしまった1曲

中学2年の時、KISSに心をつかまれ、その後、Led ZeppelinやDeep Purpleを聞き込み、徐々に英米のヒットチャートに興味を持つようになった。当時FEN(現在のAFN)で毎週土曜日の午後放送していた『アメリカン・トップ40』のランキングはノートに記録していた。そんなことが数年間続いたタイミングで『ベストヒットUSA』の放送が始まったわけだ。

 

そして、大学に入ってしばらく経ったある日。キャンパスの近くの書店で立ち読みをしていた時、ピアノとギターとストリングスから成る、聞いたこともないような美しいイントロが聞こえてきた。男性ボーカルの声の響きも曲の展開も信じられないくらいよくて、読んでいた本を手にしたままそのまま立ち尽くし、聞き入った。『恋するカレン』との出会いはこんな感じだ。音の源をたどってすぐに隣のレコード店に行き、『A Long Vacation』を買った。買ったのはレコードじゃなくカセットテープだ。当時肌身離さず持っていたウォークマン2号機ですぐ聞きたかったからだ。

 

1981年の夏

その『A Long Vacation』を世に送った大滝詠一さんの名前が表紙でうたわれている本を買わないわけにはいかない。『「ヒットソング」の作り方』(牧村憲一・著/NHK出版・刊)の「大滝詠一と日本ポップスの開拓者たち」というサブタイトルが目に入った瞬間から、18歳の自分を取り戻す準備は整っていた。

 

1981年は、特に夏が忘れられない。決して大げさではなく、どこに行っても大滝サウンドを耳にしたにもかかわらず、通学中もバイトの行き帰りも、そして遊びに行く時にも『A Long Vacation』を聞いていた。聞き過ぎで伸びてしまうことが容易に想像できたので、ダビングテープを2本作った。ちなみに『A Long Vacation』のカセットテープ版は2種類あって、筆者が持っていたのはテープ本体が白い2ndエディションだった。そういうニッチな知識も一気に甦ってくる。

 

大滝詠一という名前の才能

著者の牧村氏は、1960年代半ばから半世紀にわたって音楽制作に関わってきた人だ。1970年代初めに音楽ディレクターとして現場で活躍し始めたころ、とあるCMソングの製作現場で素晴らしい才能と出会う。

 

それが大滝詠一さんでした。大滝さんのCMソング作りの現場を通じて、僕はプロデュース、作曲、作詞、編曲、歌唱、演奏、レコーディング技術……、その一つひとつを会得するヒントをいただき、いえ、盗ませていただいたのです。

『「ヒットソング」の作り方』より引用

 

二人が初めて顔を合わせた時、どんな空気が流れていたのだろうか。二つの才能がぶつかり合って火花がバチバチ飛び散るようなものではなく、なんかこう、もっとソフトな質感のもので占められていたような気がしてならない。

 

出会うべくして出会ったソウルメイト

その場の空気感は、「サイダー’74」という大滝さんによるCMソングのレコーディングの様子を描写した次のような何気ない文章から推し量るしかない。

 

このときのセッションに立ち会えたことが、僕の音楽プロデューサーとしての道を決定づけたのだと思います。大瀧さんは旧知のメンバー一人ひとりに口頭でアレンジのイメージを伝え終えると、「それでは」とテイクワンを録り始めました。

『「ヒットソング」の作り方』より引用

 

音楽に詳しい人たちに言わせると、「サイダー’74」は後にナイアガラ・サウンド——ごく簡単に言ってしまえば大滝詠一さんらしい響きの楽曲——と呼ばれるようになる楽曲コンセプトが、しっかりとした形になった記念碑的な作品であるという。

 

大滝詠一さんというアーティストと、日本の音楽業界で素晴らしいキャリアを積んでいくことになる牧村氏は、運命的な瞬間を共有したソウルメイトだったにちがいない。ちなみに、この時のレコーディングには細野晴臣さん、林 立夫さん、松任谷正隆さん、そして伊藤銀次さんというレジェンド級の人々が顔をそろえていた。

 

日本のポップス史とナイアガラ・サウンド

話は、日本のポップス史を俯瞰した形で進んでいく。ビートルズやローリング・ストーンズのブリティッシュ・ロックによって与えられた影響とフォークソングブーム。それが昇華する形で生まれたニューミュージック。そして、こうした音楽がJ-POPと呼ばれるようになるまでの進化過程。

 

その中で際立つのは、1970年代前半から2010年代前半まで、日本のミュージックシーンに何らかの形で関わり続けていたナイアガラ・サウンドの存在だ。大滝詠一さんは数々のCMソングを手がけてから「はっぴいえんど」というバンドを経て、ミリオンセラーとなった『A Long Vacation』を残した。その後も、杉 真理さん・佐野元春さんと組んだ「ナイアガラ・トライアングル」でヒット曲を飛ばし、松田聖子さんの『風立ちぬ』やキムタクと松たか子さんのトレンディドラマ『ラブジェネレーション』の主題歌『幸せな結末』の作曲でも知られている。

 

その大滝詠一さんが亡くなってからすでに7年4か月が経過した今、『A Long Vacation』のリリース40周年記念盤が発売されている。ナイアガラ・サウンドの神髄は、新しい形で残されていくようだ。これは、買わないわけにはいかないな。

 

【書籍紹介】

「ヒットソング」の作り方

著者:牧村憲一
発行:NHK出版

なぜ彼らの歌は色褪せないのか? シュガー・ベイブや竹内まりや、加藤和彦、フリッパーズ・ギター、そして忌野清志郎+坂本龍一の「い・け・な・いルージュマジック」など…、数々の大物ミュージシャンの音楽プロデュースを手掛け、今日まで四〇年以上業界の最前線で活動を続けてきた伝説の仕掛人が、彼らの素顔と、長く愛され、支持され続けるものづくりの秘密を明らかにする。

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昭和のプロレスの雰囲気を存分に楽しめる4コママンガ『味のプロレス オールスター編』

僕が最初にプロレスにハマったのは小学生の時。ジャイアント馬場の全日本プロレス、アントニオ猪木の新日本プロレス、そして解散寸前だった国際プロレスもテレビ放映をしていた。日曜の昼は全日本女子プロレスの放送もあった。

 

やっぱり「昭和のプロレス」がおもしろい

僕は全日本プロレスが好きで、ジャンボ鶴田のファンだった。新日本プロレスではタイガーマスクがデビューし一大ブームに。全日本女子プロレスはクラッシュギャルズがアイドル的な人気を誇っていた。

 

つまり、僕のプロレス原体験は「昭和のプロレス」だ。一時期、プロレス自体の人気がかなり下火になっていたが、最近は新日本プロレスやDDT、大日本プロレスといった団体が息を吹き返し、若い層を中心に徐々にプロレス人気が高まっている。

 

しかし、僕はあまり今のプロレスにはなじめない。やはり、昭和のプロレスがいいなと思ってしまう。

 

80年代90年代のプロレス好きならハマる

僕のように、昔はプロレスが好きだったけど最近はあまり……という人は多いことだろう。最近のプロレスはさっぱりわからないけれど、昔のプロレスはよかったなぁ。そんな風に思っている人にオススメなのが『味のプロレス オールスター編』(アカツキ・著/新紀元社・刊)。これは、プロレスにまつわるさまざまなエピソードが描かれた4コママンガだ。

 

内容はといえば、80年代90年代のプロレスラーのエピソードや出来事が味のあるタッチで描かれている。一言で言えば「プロレス愛に満ちている」マンガだ。読む度に「フフッ」となる感じだ。

 

昭和のレスラーは常人離れしたエピソードが満載

昭和のプロレスの何がいいのかと考えると、ひとつが「レスラーの個性」だ。この場合の個性とは、リング上での個性ではない。私生活における素の個性だ。

 

レスラーは、やはり一般人とは違うもの。肉体の強さはもちろん、精神的にも一般の人とは違っていなければならない。というか、そういう人がプロレスラーになっていたのかもしれない……。

 

一昔前のレスラーのエピソードなどは、今では考えられないくらい豪快なものが多い。レスラーが地方巡業で旅館に泊まれば、宴会で酔っ払って旅館を破壊する。食堂車の料理を一人で全部食べ尽くす。道場破りに来た人を若手がボコボコにする。付き合ってた女性とケンカをして包丁で背中を刺されたので、原付バイクに乗って病院に行く……(あ、これは今の現役バリバリのスターレスラーだ)。まあ、プロレスラーとは夢と幻想の塊のような人たちなのだ。

 

今はインターネットが発達しているので、割とプロレスラーの等身大の姿が見えやすい。それが幅広いプロレスファンの獲得につながっているとも言えるが、ちょっと物足りない気もする。やはりプロレスラーはちょっと近づきにくい怖い存在であってほしいところがある。古い考えだが。

 

次回作は女子プロレス編を、ぜひ!

本書には、いたずら好きな橋本真也のヤバいエピソード、若手時代の小橋健太とジャイアント馬場のいい話、解説するとすぐに覆面レスラーの本名を言うマサ斎藤、飲食店で飲んでいるときに店にいた客全部のお勘定をする天龍源一郎。義理人情に厚く下ネタ好きな三沢光晴。とにかく、昔のプロレス好きなら楽しめる内容が満載だ。まさに『味のプロレス』なのだ。

 

知っているエピソードもあるし、知らなかったエピソードもある。知らなかったエピソードが出てくるとちょっと得した気分になる。

 

特に「このマンガいいよ!」と人に勧めたくなるようなものではないが、いつも手元に置いておき、ちょっと時間があるときにパラパラっとめくりたくなる、そんなマンガだ。

 

現在は、オールスター編のほか、王道編、闘魂編も刊行されている。別にストーリーがあるわけではないので、どれから読んでも楽しめる。気になったら好きなものから手に取るといいだろう。

 

もし、次回作があるのなら、ぜひ女子プロレス編をお願いしたい。男子レスラーに比べ、女子レスラーは笑いにしづらい部分がある(主に人間関係でのしがらみが多そう)だろうが、その分ディープなエピソードが多そうだ。

 

なお、作者はTwitter(https://twitter.com/buchosen)で『味のプロレス』をちょくちょくアップしているので、気になったらフォローしてみてはいかがだろうか。プロレスを知っている人なら「フフッ」となるはずだ。

 

【書籍紹介】

 

味のプロレス オールスター編

著者:アカツキ
発行:新紀元社

インターネットで大人気! 80、90年代のプロレスを題材にした愛しかない4コママンガが待望の書籍化。オールカラー&載録作品326の大ボリューム!

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19世紀のフランスにも「インフルエンサー」がいた!——『職業別 パリ風俗』

19世紀フランス。インターネットはなく、「いいね」やフォロワーなども存在しない時代です。けれど、そのころでも人々は流行に敏感でした。そしてインフルエンサーのような役割を持つ人物もいたのです。

 

 

洋服は超高級品だった

19世紀のフランスは革命の時代です。フランス革命が終わりナポレオンが国を治め始めたのが1799年、その後1830年には七月革命が起きました。ビクトル・ユゴーの小説『レ・ミゼラブル』に出てくる革命(六月暴動)も1832年のことです。

 

ミュージカルや映画の『レ・ミゼラブル』では、貧しい市民たちはかなり質素で、ボロボロになった服を着ている人もいます。パリの市民生活が解説されている『職業別 パリ風俗』(鹿島 茂・著/白水社・刊)によると、当時洋服は超高級品だったそうで、1着作るのに15万円ほどもかかったのだとか。

 

パリにたくさんいた古着店

ファストファッションが浸透し、洋服を安く手に入れることができるようになった今の日本では、服がとても高価だということがピンとこないかもしれませんが、当時は仕立て屋に依頼するので、オーダーメイド料金がかかったようです。

 

なかなか正価で作ることができない人のために、パリには古着店がたくさんあったと本書には書かれています。現代では、古着はフリマアプリを利用して手に入れることもできますが、当時は古着店が家々を回って服を査定し、買い取っていたそうです。

 

服はツケで買い、何年後かに払う

面白いのは、当時、学生は服をツケで購入できたということ。学生が入学時に服を購入し、卒業するころに支払う事例もあったのだとか。最終的には親が料金を支払ってくれるはずなので、仕立て屋も長い目で見ていたのかもしれません。

 

そして学生以外にも、立身出世を目指していたり、おしゃれになりたい若者の中から、仕立て屋が有望だと感じたものにはツケを許していたのだとか。イキに着こなし、社交界で注目されるような存在になれば、仕立て屋のいい宣伝になるからです。

 

人を見抜く目を持つこと

服をカッコよく着こなす若者には、「それどこで作ったの?」という質問が多くの人から投げかけられ、結果的に仕立て屋の儲けになります。なので「この男なら」と見込んだ男性には、服をツケで作ってあげていたのです。

 

この仕組みは、現代のSNSにも通じるものがあります。ファッションブランドは、大勢のフォロワーを抱えるインフルエンサーに新作の服のモニターになってもらい、彼らがそれを着た画像を投稿することで、大きな宣伝効果を得ているからです。そして、どちらの時代でも業者が持つべきなのは、広告塔となりうる人物を見抜く目であるはずです。

 

逆玉の輿も!?

本書の中では、バルザックの小説『幻滅』での仕立て屋のセリフが引用されています。良い服を購入した男性に対し「半月もすると裕福なイギリスのご婦人ときっと結婚なさるということになりましょう」と言っているものです。良い服で人前に現れることで、立派な人物とみなされ、セレブともお近づきになれたのでしょう。

 

現代にも、婚活する男性にスタイリストが似合う服をアドバイスするサービスがあります。多少お金がかかっても、どのような格好をしたら女性に好印象を与えることができるかを熟知しているプロに頼んだほうが話が早いからなのでしょう。

 

いつの時代も、おしゃれをして人に注目されたいという気持ちは変わらないもの。衣替えの季節に自分のワードローブを見直し、どんなアイテムをプラスしたらよりカッコよくなれるか、鏡の前で考えを巡らせてみるのも、楽しいかもしれません。

 

【書籍紹介】

職業別 パリ風俗

著者: 鹿島 茂
発行:白水社

バルザックの《人間喜劇》に代表されるように、19世紀フランスほど、人間の欲望や本質が剥き出しになった面白い社会はないだろう。現代の日本における「女子高生」(JK)のように、当時のパリにおいては「お針子」たちが男性たちのファンタスムを掻き立てる欲望のアイコンであった。また、医者や弁護士といった実用的な職業を目指さず文学部や理学部に進学し、その後ドロップアウトして田舎の高校の復習教師になった、「黒服の悲惨」と呼ばれる高学歴ワーキングプアがごまんといた。その他、法廷では弁護をしない「代訴人」、情報通の「門番女」、医者より儲かる「薬剤師」、自営業としての「高級娼婦」……カラー挿絵版画付の風俗観察百科『フランス人の自画像』やバルザックやフロベールの小説に描かれた様々な職業の実態から、19九世紀フランスの風俗や社会が手に取るようにわかる! 読売文学賞受賞作。

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若返るクラゲに、がんにならないネズミ!生物の死の役割は?~注目の新書紹介~

書評家・卯月鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

 

死とは何かを問う生物学入門

「もう早くお迎えが来てほしいわ……」と常々ぼやいている友人の母は、テレビでちょっとでも「健康にいい!」と紹介されると、黒酢でもヨーグルトでもモロヘイヤでも嬉々として買ってくるのだとか。まあ、多かれ少なかれ誰にでもそういうところはありますよね(笑)。

“死”はあらゆる生物に必ず訪れます。では、死に意味はあるのでしょうか? 生物学的に見て死の役割とは? そんなテーマを掲げた新書が『生物はなぜ死ぬのか』(小林武彦・著/講談社・刊)。読み終わると死生観がちょっとだけ変わるかもしれません。

 

著者は東京大学定量生命科学研究所教授で細胞老化などを研究する小林武彦さん。生命の連続性を支えるゲノムの再生(若返り)機構を解明するため、日夜研究に取り組んでいます。

 

実は小林さんは天文学者になりたいと思ったことが何度かあるとか。というわけで、この本はビッグバンの話題から始まり、生命が誕生し現在に至るまでの進化の歴史や細胞の役割など、遺伝子に組み込まれた死の秘密に迫ります。

 

生命が誕生したのは奇跡!

第1章は「そもそも生物はなぜ誕生したのか」。ドロドロに溶けた地球表面が何億年もかかって冷え、核酸(RNA)、タンパク質、脂質など細胞の材料となる物質が蓄積されていきました。やがてRNAとタンパク質が塊(液滴)を作り、化学反応の末に自己複製する「袋」ができて最初の細胞が誕生する……。

 

その確率は「25メートルプールにバラバラに分解した腕時計の部品を沈め、グルグルかき混ぜていたら自然に腕時計が完成し、しかも動き出す確率に等しい」とか。ジャンボ宝くじの当選なんて目じゃない、とんでもない奇跡の上に私たちは成り立っているんですね。

 

この後の章では、生物の生と死にまつわる驚きのトピックスが次々と紹介されていきます。たとえばベニクラゲという体長1cmほどのクラゲは、なんと若返る! 子どもから大人になったあと、また子どもの体になるなんてどこかの名探偵のようですが(笑)、ベニクラゲは成体になったあと、生育環境が悪くなると「ポリプ」と呼ばれる幼体に戻るのだとか! これを繰り返せば理論上寿命はないことになります。

 

また、アフリカの乾燥した地域で穴を掘り暮らすハダカデバネズミは、がんにならないネズミ。小型のネズミながらハツカネズミの10倍以上の約30年を生きます。その理由は体温が低く、食べる量が少なくて済む省エネ体質だから。

 

エネルギーを生み出すときに生じる老化促進物質の活性酸素が少ないため、細胞の機能が正常に維持されます。しかも、ハダカデバネズミの皮膚には弾力性をもたらすヒアルロン酸が大量に含まれています。このヒアルロン酸に抗がん作用があることが最近の研究で判明しているそうです。

 

過去5回あった種の大量絶滅は何を引き起こしたか? 若返り薬の実現の可能性は? なぜヒトだけが死を恐れるのか? 死の概念がないAIの問題点は? など興味深い話題が盛りだくさん。

 

専門的な内容ながら、思わず人に話したくなるような雑学が多く、教授のざっくばらんな雑談といった親しみやすさが魅力です。死があることで地球上の生物全体が進化する。「生き物は利己的に偶然生まれ、公共的に死んでいく」。生命の進化とは深いですね。

 

 

【書籍紹介】

生物はなぜ死ぬのか

著者:小林武彦
発行:講談社

死生観が一変する現代人のための生物学入門!遺伝子に組み込まれた「死のプログラム」とは?

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

『銀河英雄伝説』から『風光る』まで—— 歴史小説家が選ぶ「ゴールデンウィークに読む長編」5冊

毎日Twitterで読んだ本の短評をあげ続け、読書量は年間1000冊を超える、新進の歴史小説家・谷津矢車さん。今回のテーマは「ゴールデンウィークに読む長編」。20年の連載を経て完結した歴史少女漫画、日本SFの金字塔であるスペースオペラ、そして(1冊で完結する)ミステリーやファンタジーなど、谷津さんが選んだ5冊で、あなたもステイホームの連休を楽しみませんか。

 

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世間は春の大型連休である。

 

とはいえ、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が発出された地域もあり、該当外の地域でもおおっぴらに出歩く雰囲気ではなくなっている。かくして、日本社会全体が地盤沈下に呑み込まれようとしている。

 

出版業界も同様である。人の流れが止まって購買行動が鈍化すれば、わたしたちの首を絞まっていく……と、暗い話ばかりしてもしようがない。例年のように行楽に出ることが難しい。それならば、家でのんびり過ごす皆さんが多いということになる。そんなときこそ本の出番である。

 

というわけで、本日のテーマは「ゴールデンウィークに読む長編」である。お付き合い願いたい。

 

 

ついに完結した新撰組×少女漫画

まずは漫画からご紹介しよう。『風光る 』 (渡辺多恵子・著/小学館・刊)である。

 

幕末の動乱に巻き込まれた少女・富永セイが様々な事情で男装して、男所帯の新撰組に入隊、唯一その事実を知る沖田総司と交流を深めていく、という恋愛漫画的な側面もある新撰組漫画である。1997年から連載が始まり、なんと今年(2021年)完結を迎えた大河漫画でもある。

 

本作の魅力は、歴史的事実と少女漫画的なストーリーの噛み合いだろう。

 

本作は主人公セイと沖田総司の恋愛(途中からこの二人だけの関係だけではなくなるのだが)が主軸となっていくとともに、新撰組が直面した様々な歴史的事実にセイたちが振り回される物語でもある。そんなストーリーを下から支えるのは、徹底的にリサーチされた歴史考証である。たとえば、本作における沖田総司は池田屋で喀血しない。新撰組の物語において、沖田総司が池田屋事件の際に喀血するのは、後の彼の人生を暗示させる伏線であるが、本作においては沖田総司がこの時期に血を吐くのはおかしいということで、喀血エピソードが割愛されている。

 

この例のように本作は怪しげな巷説(こうせつ)を退け、蓋然性の高い歴史を描こうという意欲に満ちているのだが、これはあくまで「女が新撰組に入隊している」という大嘘を成立させるためのリアリティ確保、つまり、物語に貢献するための工夫なのである。

 

こんな堅苦しい話は抜きとしても、皆さんには是非、セイと総司の物語の行方をチェックしていただきたい。

 

和製スペースオペラの大傑作

次は大長編小説から紹介しよう。『銀河英雄伝説』(田中芳樹・著/複数版あり)である。

 

言わずと知れた人気SF・スペースオペラ作品であり、幾度となくメディアミックスされてきた有名作品である。なぜ今更本書を? そういぶかしむ向きもあるだろうが、どんな素晴らしい作品・売れた作品でも、未読の人も数多くいるはずである。その一点において、この選書で触れる意味があると確信している。

 

本作は遠い未来の宇宙で繰り広げられている、銀河を股にかけた国家の攻防を描いたスペースオペラ作品である。そのスケール感は確かにSF的であるが、実は本作、読み進めていくとむしろ戦記・歴史小説的な読み味であることに気づかされていく。

 

古き専制国家の銀河帝国、腐敗しかけた民主国家である自由惑星同盟、そして二者の間に立ち上手く独立を維持しているフェザーン自治領、そして人類の母星である地球への帰依を説く地球教……。これらの勢力が、時に軍略、時に政略、また時に交易、さらにはテロリズムと様々な手段を以て戦いを繰り広げていく様は、さながら中国の史書を読んでいるような胸のすきを覚える。

 

これは何といっても、本作に登場する人物たちの魅力によるものだろう。主役級とされる銀河帝国のラインハルト、自由惑星同盟のヤン・ウェンリーを始め、本作には知将、猛将、謀将、政将、愚将……様々な将星が輝き、所々で強い光彩を残す。軍人だけではない。政治家や役人、民間人たちもまた、その時々で強烈な印象を読者に残し、銀河の歴史を鮮やかに染めていく。

 

(版によりばらつきはあるが)本伝で全十巻。一日に一冊読むとすれば十日である。これまでなんとなく本作に手を伸ばしそびれていた皆様、ぜひ、この休みを機に銀河の英雄たちの群像に浸っていただけたら幸いである。

 

人の願いや思いが未来に連なる物語

次にご紹介するのは『ジュリーの世界』(増山 実・著/ポプラ社・刊)である。

 

かつて京都にいた、河原町のジュリーと呼ばれたホームレスを描いた小説である、と書くと語弊があるかもしれない。というのも、本作において河原町のジュリーはほとんど登場せず、同じ町に生きている人々の視点から僅かにその姿が描かれるに過ぎないからだ。

 

だというのに、本作は河原町のジュリーを描いた小説となっている。なぜか。それは、河原町のジュリーが存在する/存在したことを肯定していた人々の姿をそこに描いているからである。

 

本作の登場人物たちの多くは河原町のジュリーが町に存在することを了解し、日々、生きている。本作においてメインの視点人物といっても過言ではない人物が、本来はホームレスを取り締まる立場の警察官であるのは、象徴的であるといえる。

 

河原町のジュリーはそこにいるだけではない。町の人々にわずかばかり影響を与えている。そして、河原町のジュリーもまた、町に影響を受けて生きている。あくまで些細な関係、潮汐力に過ぎない。だが、そんな密やかな何かが積み重なり、未来へつながる力学が生まれる。

 

本作は、河原町のジュリーという一個の人間にフォーカスすることで、人の願いや思いが未来に連なっていく姿を描いた小説であると言えるのである。

 

江戸の同心が戦国で探偵に!?

次にご紹介するのは『鷹の城』(山本巧次・著/光文社・刊)である。現代と過去を行き来することのできる女性、優佳(おゆう)を探偵役にした『八丁堀のおゆう』(宝島社・刊)、明治初期の鉄道事情を下敷きにした『開化鐵道探偵』 (東京創元社・刊)などの時代ミステリー作品で知られる著者の最新作である。

 

戦国時代の天正六年、織田信長による播磨攻めの最中、織田に圧迫されていた小領主の城で殺人が起こり、その謎を追うミステリ作品になっている。

 

本作の工夫は、何と言っても探偵役である。なんと、江戸時代に江戸の町を駆け回っていた、町奉行所の同心が探偵役なのである。

 

どういうことか。南町奉行所の役人である瀬波新九郎が、ひょんなことからタイムスリップをし、天正六年の播磨に飛ばされてしまうのである。つまり本作、江戸時代人が戦国時代に飛ばされる、という、変格タイムスリップものなのである。

 

江戸期の人物の視点が入ることによって、戦国時代の特殊性や江戸期までに廃れた作法、戦の時代の空気感を体感的に提示することに成功している。作品の臨場感を高めると共に、探偵役としての特殊性をも担保する、鋭い奇手である。

 

普段ミステリや時代小説をお読みでひねった作品を読みたいという方はもちろん、純粋にエンターテイメントをお求めの皆さんにも。

 

現代日本でマルコ・ポーロと旅に出る!?

最後はこちらを。『大江いずこは何処へ旅に』 (尼野 ゆたか・著/二見書房・刊) である。

 

彼氏に振られて傷心の中にある大江いずこが、ひょんなことから怪しげなネックレスを売りつけられ、その中に閉じ込められていたマルコ・ポーロと共に旅に出る、ファンタジックな設定を有した小説である。

 

本作の魅力は、とにかく「旅」にこそある。

 

マルコ・ポーロといえば『東方見聞録』を著したことでも知られる、世界を股にかけた旅人である。そんなマルコ・ポーロをどこかすっとぼけていて、親しい友人のような愛嬌ある人物として造形したのは、本作の成功であろう。そんなマルコとの珍道中がつまらないはずはなく、インタラスティング(=興味深い)で、ファニー(=おかしみ)がサンドイッチになった旅が描かれる。まさにこれは、気のおけない仲間たちとの旅の光景そのものである。

 

大型連休といえば旅がつきものだが、今、旅行も難しい情勢だ。仮に旅行に行ったとしても、食べ歩きやちょっとした触れ合いなどの場面で躊躇があったりするかもしれない。だが、本作は実際に旅に行った気にさせてくれる、そんな力に満ちている。なかなか外出の難しい今だからこそ、お勧めしたい。

 

今年の大型連休は、例年とはまったく様相が異なる。

はっきり言って、誰にとっても好ましからざる事態である。

だが、いついかなる時にも、本はある。本の魅力は、その普遍性にもあるのだとわたしは思う。

 

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【プロフィール】

谷津矢車(やつ・やぐるま)

1986年東京都生まれ。2012年「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞受賞。2013年『洛中洛外画狂伝狩野永徳』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』にて歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。最新作は『小説 西海屋騒動』(二見書房)

『神木探偵』と一緒に全国の「御神木」の謎を解き明かす!!

神木探偵』(本田不二雄・著/駒草出版・刊)は日本全国にある御神木(ごしんぼく)を訪ね歩き、それらに対峙した記録をおさめた本です。著者・本田不二雄は、自らを神木探偵と称するだけあって、御神木に大変詳しく、迫力ある写真と丁寧な文章で私たちを御神木の世界へ誘ってくれます。以前から御神木に興味がある私には、『神木探偵』は、神が宿る木へどうやって近づくべきかを教えてくれる優れた案内書となりました。

御神木と人間

子どものころから、「御神木」が気になってたまりませんでした。樹木が私に話しかけるはずがないと思いながらも、見上げていると、何か囁く声が聞こえてくるのです。今、暮らしているマンションを選んだのも、裏山に大きなクスノキがあったことが大きな理由でした。

 

記念物の指定を受けているような特別な木ではありませんが、しめ縄がかけられ、近所の人たちに大切にされています。引っ越してきたその日から、私はベランダに出る度に、畏敬の念をもってクスノキを眺めてきました。1995年に阪神・淡路大震災に遭ったときも、「あの樹が守ってくれるからきっと大丈夫」と思いながら、電気やガスが止まったままの生活を過ごしました。

 

『神木探偵』には、樹木と人間の関係について、興味深い考察が述べられています。

 

御神木と呼ばれる木も、人との関わりなしに存在しない。(中略)いうまでもないが、神木といっても、木そのものが神なのではない。木に宿ったナニモノかを見出すことで木は神木と呼ばれる

(『神木探偵』より抜粋)

 

御神木を前に心を震わせることは、木を知ると同時に、自分自身を探ることにもつながるのでしょう。その意味で、御神木を求めてさまようことは、自分がいったい何者なのかを問う旅だといえるかもしれません。

 

たとえ御神木を見に出かけられなくても

出来ることなら、今すぐにでも、御神木を見る旅に出たいと思います。けれども、日常の生活にどっぷり浸かっていると、なかなか重い腰が上がりません。ましてや今はコロナ禍のもと、不要不急の外出は避けるようにとのお達しもあり、思うがままに御神木巡礼に出るわけにはいきません。けれども、『神木探偵』を眺めていると、たとえわが身は自宅にいようとも、心が体を抜け出して、御神木の前に立ち、巨大な木を見上げているような錯覚に陥ります。行くことが出来ない土地を丁寧に案内してもらっているようです。

 

『神木探偵』には多くの御神木がリストアップされています。それぞれ迫力ある写真が載っているので、ページをめくっていると、霊場巡りをしているような気持ちになります。たくさんの木が紹介されていますが、どれを選ぶかは人それぞれでしょう。私にとってとりわけ印象深かったのは、「寂心さんの樟(クスノキ)」「志多備神社(しだびじんじゃ)のスダジイ」でした。

 

寂心さんの樟

熊本県にある「寂心さんの樟」は、数ある日本の巨木の中でも、高い人気を誇る存在だといいます。県指定天然記念物であり、樹齢はなんと800年と推定されています。写真で見ているだけでも、「何かあったらきっと守ってくださる」と、慕いたくなるような安心感を醸し出しています。

 

寂心の名は、戦国時代の武将である鹿子木親員(かのこぎちかかず)の法名に由来しているのだそうです。親員は熊本を代表する熊本城の原型である隈本城を築いた人物として知られています。

 

寂心は亡くなった後、この樹の下に葬られました。樹は成長を続け、やがて寂心の墓石を巻き込んでしまったといいます。寂心が樹木に身を託したのでしょうか? それとも、樹木の方で寂心をかき抱こうと枝を伸ばしたのでしょうか? そのいずれかはわかりませんが、長い時を経て、樟は寂心の墓石と一体化し、寂心さんの樟として、今の時代も安らぎを与えてくれる存在となりました。

 

志多備神社のスダジイ

スダジイとはブナ科シイ属の常緑広葉樹です。子どものころ、シイの実を拾って遊ぶのが大好きでした。木の実を拾う楽しさは格別でしたが、もし、そのころ、島根県の松江にある志多備神社に行ったら、実を拾うのを忘れてしまったに違いありません。

 

樹齢300年以上と言われるスダジイは、ものすごい迫力で私たちに迫ってきます。樹木以上のものであると言いたくなります。著者と志多備神社のスダジイとの出会いも、衝撃的なものであったようです。

 

そこには”怪物”がいた。昼なお暗く葉を繁らせるその大樹の根元には、大蛇を思わせる藁製のオブジェ(藁蛇という)がぐるりと取り巻き、幹の分岐部分へと昇っている。ただならぬ風情だが、これは”怪物”の背中にちがいないと気づき、半周してその正面に立った

(『神木探偵』より抜粋)

 

この御神木は単なる樹ではなく、蛇を体に巻き付けた怪物として君臨しているようです。あぁ、見てみたい、今すぐにでも松江に向かいたい、そんな気持ちになります。もし願いを果たして、スダジイの前に立つことができたら、私は何を思うのでしょう。圧倒されて、尻餅をつくでしょうか? それとも、樹木の持つエネルギーを体に取り込んで元気はつらつとなるのでしょうか?

 

他にもたくさん紹介したい御神木が並んでいます。『神木探偵』を片手に、できれば実際に行ってみていただきたいと思います。今は無理ですが、私もその日が来るのを楽しみに毎日を過ごすことといたしましょう。焦ることはありません。何百年もの間、御神木は動くことなく、私たちを待っていてくれるのですから。

 

【書籍紹介】

神木探偵

著者:本田不二雄
発行:駒草出版

この国にはたくさんの“ヌシ”がいる。見る者の魂を震わす全国の御神木を巡り、その秘密を解き明かすはじめての本!すごい御神木69柱! 十二本ヤス(青森県五所川原市)、蒲生のクス(鹿児島県姶良市)、軍刀利神社の大カツラ(山梨県上野原市)、武雄の大楠(佐賀県武雄市)、岩倉の乳房杉(島根県隠岐の島町)…ほか。

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『神木探偵』と一緒に全国の「御神木」の謎を解き明かす!!

神木探偵』(本田不二雄・著/駒草出版・刊)は日本全国にある御神木(ごしんぼく)を訪ね歩き、それらに対峙した記録をおさめた本です。著者・本田不二雄は、自らを神木探偵と称するだけあって、御神木に大変詳しく、迫力ある写真と丁寧な文章で私たちを御神木の世界へ誘ってくれます。以前から御神木に興味がある私には、『神木探偵』は、神が宿る木へどうやって近づくべきかを教えてくれる優れた案内書となりました。

御神木と人間

子どものころから、「御神木」が気になってたまりませんでした。樹木が私に話しかけるはずがないと思いながらも、見上げていると、何か囁く声が聞こえてくるのです。今、暮らしているマンションを選んだのも、裏山に大きなクスノキがあったことが大きな理由でした。

 

記念物の指定を受けているような特別な木ではありませんが、しめ縄がかけられ、近所の人たちに大切にされています。引っ越してきたその日から、私はベランダに出る度に、畏敬の念をもってクスノキを眺めてきました。1995年に阪神・淡路大震災に遭ったときも、「あの樹が守ってくれるからきっと大丈夫」と思いながら、電気やガスが止まったままの生活を過ごしました。

 

『神木探偵』には、樹木と人間の関係について、興味深い考察が述べられています。

 

御神木と呼ばれる木も、人との関わりなしに存在しない。(中略)いうまでもないが、神木といっても、木そのものが神なのではない。木に宿ったナニモノかを見出すことで木は神木と呼ばれる

(『神木探偵』より抜粋)

 

御神木を前に心を震わせることは、木を知ると同時に、自分自身を探ることにもつながるのでしょう。その意味で、御神木を求めてさまようことは、自分がいったい何者なのかを問う旅だといえるかもしれません。

 

たとえ御神木を見に出かけられなくても

出来ることなら、今すぐにでも、御神木を見る旅に出たいと思います。けれども、日常の生活にどっぷり浸かっていると、なかなか重い腰が上がりません。ましてや今はコロナ禍のもと、不要不急の外出は避けるようにとのお達しもあり、思うがままに御神木巡礼に出るわけにはいきません。けれども、『神木探偵』を眺めていると、たとえわが身は自宅にいようとも、心が体を抜け出して、御神木の前に立ち、巨大な木を見上げているような錯覚に陥ります。行くことが出来ない土地を丁寧に案内してもらっているようです。

 

『神木探偵』には多くの御神木がリストアップされています。それぞれ迫力ある写真が載っているので、ページをめくっていると、霊場巡りをしているような気持ちになります。たくさんの木が紹介されていますが、どれを選ぶかは人それぞれでしょう。私にとってとりわけ印象深かったのは、「寂心さんの樟(クスノキ)」「志多備神社(しだびじんじゃ)のスダジイ」でした。

 

寂心さんの樟

熊本県にある「寂心さんの樟」は、数ある日本の巨木の中でも、高い人気を誇る存在だといいます。県指定天然記念物であり、樹齢はなんと800年と推定されています。写真で見ているだけでも、「何かあったらきっと守ってくださる」と、慕いたくなるような安心感を醸し出しています。

 

寂心の名は、戦国時代の武将である鹿子木親員(かのこぎちかかず)の法名に由来しているのだそうです。親員は熊本を代表する熊本城の原型である隈本城を築いた人物として知られています。

 

寂心は亡くなった後、この樹の下に葬られました。樹は成長を続け、やがて寂心の墓石を巻き込んでしまったといいます。寂心が樹木に身を託したのでしょうか? それとも、樹木の方で寂心をかき抱こうと枝を伸ばしたのでしょうか? そのいずれかはわかりませんが、長い時を経て、樟は寂心の墓石と一体化し、寂心さんの樟として、今の時代も安らぎを与えてくれる存在となりました。

 

志多備神社のスダジイ

スダジイとはブナ科シイ属の常緑広葉樹です。子どものころ、シイの実を拾って遊ぶのが大好きでした。木の実を拾う楽しさは格別でしたが、もし、そのころ、島根県の松江にある志多備神社に行ったら、実を拾うのを忘れてしまったに違いありません。

 

樹齢300年以上と言われるスダジイは、ものすごい迫力で私たちに迫ってきます。樹木以上のものであると言いたくなります。著者と志多備神社のスダジイとの出会いも、衝撃的なものであったようです。

 

そこには”怪物”がいた。昼なお暗く葉を繁らせるその大樹の根元には、大蛇を思わせる藁製のオブジェ(藁蛇という)がぐるりと取り巻き、幹の分岐部分へと昇っている。ただならぬ風情だが、これは”怪物”の背中にちがいないと気づき、半周してその正面に立った

(『神木探偵』より抜粋)

 

この御神木は単なる樹ではなく、蛇を体に巻き付けた怪物として君臨しているようです。あぁ、見てみたい、今すぐにでも松江に向かいたい、そんな気持ちになります。もし願いを果たして、スダジイの前に立つことができたら、私は何を思うのでしょう。圧倒されて、尻餅をつくでしょうか? それとも、樹木の持つエネルギーを体に取り込んで元気はつらつとなるのでしょうか?

 

他にもたくさん紹介したい御神木が並んでいます。『神木探偵』を片手に、できれば実際に行ってみていただきたいと思います。今は無理ですが、私もその日が来るのを楽しみに毎日を過ごすことといたしましょう。焦ることはありません。何百年もの間、御神木は動くことなく、私たちを待っていてくれるのですから。

 

【書籍紹介】

神木探偵

著者:本田不二雄
発行:駒草出版

この国にはたくさんの“ヌシ”がいる。見る者の魂を震わす全国の御神木を巡り、その秘密を解き明かすはじめての本!すごい御神木69柱! 十二本ヤス(青森県五所川原市)、蒲生のクス(鹿児島県姶良市)、軍刀利神社の大カツラ(山梨県上野原市)、武雄の大楠(佐賀県武雄市)、岩倉の乳房杉(島根県隠岐の島町)…ほか。

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5月5日の深夜に復活!「くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン」をより楽しむために読んでおきたい番組オフィシャルブック

2005年から2008年までの約3年半、毎週火曜日深夜に放送されていた「くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン」。番組終了から12年経った今でもたくさんのリスナーに愛され続けている番組ですが、なんと5月5日(水)25時から特番復活が決定!

 

「くりぃむしちゅーのANNはやばい」「伝説のラジオだ」なんて話は聞いたことがあったものの……私自身リアルタイムで聴いたことがなく「いつかこの耳で聴きたい」そう思っていた時にめちゃくちゃうれしいニュースでした! やったー!

 

この伝説のラジオ番組が復活した背景には、4月に発売された『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン 番組オフィシャルブック』(ナチュラルエイト・監修/ニッポン放送・協力/総合法令出版・刊)があるのだとか。今回は、5月5日の放送を何倍にも楽しくしてくれるこの番組オフィシャルブックをご紹介いたします。

 

タイトルコールをなかなか言わせてもらえなかった上田さん

『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン 番組オフィシャルブック』では、上田さんと有田さんに当時を振り返ってもらいながら楽しい思い出を語ったインタビューが掲載されています。

 

私自身はリアルタイムリスナーではないのですが、タイムスリップできるならその時に戻って聴いてみたい! と思ってしまうほど楽しそうなエピソードがたくさん掲載されていました。上田さんは、高校時代からオールナイトニッポンを聴いていて、芸人になってパーソナリティになるのが夢だったのだとか。レギュラーが決まった当時はその念願が叶ってうれしかったそうですが、あることができず歯がゆい思いもしていたそう……。

 

初期の頃に『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン』っていう番組タイトルコールを有田が僕にやらせないやり取りがあったんですよ。だから「何だよ、タイトルコール言いてぇのに。何で言わせてくれねぇんだよ」っていう歯がゆい思いをしていましたね(笑)。

(『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン 番組オフィシャルブック』より引用)

 

これまでにオールナイトニッポンを聴いたことがある人はわかるかと思いますが、オープニングトークをして、タイトルコールをすると「ビタースウィート・サンバ」が流れる定番のアレです。オールナイトニッポンに憧れている人なら、絶対タイトルコールしたいですよね(笑)。

 

しかしそんな歯がゆい思いをしていた上田さんも、“とある事件”でタイトルコールができることに! リスナーだった方には定番かもしれませんが、この事件もしっかりオフィシャルブックに書かれてあります。5月5日のタイトルコールは誰がするのか、今から楽しみです。

 

このラジオの魅力は、ふたりのフリートーク

『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン 番組オフィシャルブック』を読めば読むほど、この番組はリスナーに愛されていたんだなぁと感じます。高校時代からの同級生コンビのくりぃむしちゅーだからこその掛け合いには、文字起こしを読んでも阿吽の呼吸で繰り広げられるトークテンポの良さが伝わってきます。

 

書籍の中では、この番組を支えていた歴代ディレクターや構成作家にもインタビューしているのですが、作っていた人たちもみんなこの番組が好きだというのが、言葉のひとつひとつから伝わってきます。特にラジオブースの中に入って、一緒に番組を盛り上げていた構成作家の石川昭人さんのインタビューには、裏話がたくさんあって、読んでいてワクワクしました。ぜひ現役リスナーさんだった人には読んでもらいたい!

 

冒頭で「番組作りで心掛けていたところは?」と質問されるのですが、石川さんは意外な答えをしています。

 

何もしないようにすることを心がけていました。僕はこの番組でしたことってあまりなくて、ただ笑っていただけなんですよ。

(『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン 番組オフィシャルブック』より引用)

 

色々としたくなっちゃうところを、「ただ笑っていただけ」と言えるのは本当すごいことですよね。石川さんのインタビューを読むと「それだけじゃない」ことも十分に伝わってくるのですが、熱い思いをもったスタッフさんあってこその番組だったのだな〜と感じました。

 

たった3年半のレギュラー放送でしたが、ここまで熱烈なファンを作り、10年以上経った今でも注目されるほど愛されている番組はなかなかありません。今回の復活でも、石川さんの笑い声が聴けると思うとうれしくなりますね。

 

今回は特番だけど……レギュラー復活の可能性もゼロじゃない?

実は「くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン」は、2008年に一旦の最終回を迎えてから何度か復活を遂げています。2020年に一夜限りの復活をした際には、「くりぃむANN」や「#ariue」がTwitterのトレンド入りを果たすなど、引き続き熱いリスナーたちがいることを感じさせてくれました。

 

オフィシャルブックのインタビューで、有田さんは2020年に復活した日のことを振り返りつつ、こんなことを語っていました。

 

この前の放送の後にもスタッフにちゃんと言いました。「ちょっとこれじゃあダメだよ。この前と内容が同じだから」って。だからせめて年に3、4回ぐらいは放送して、もうちょっと新しい展開を作っていきたい。だってレギュラー放送の時はフリートークのなかから何かネタが生まれたり、とんでもない角度からハガキが来て、それが次の週につながったりしていたんですよ。

(『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン 番組オフィシャルブック』より引用)

 

どこまで有田さんの本心かわからないけど、年3〜4回は期待しちゃう頻度(笑)。もしかしたら5月5日以降もやってくれるのかな? そんな気持ちになりますね。

 

このままレギュラー番組として復活してくれても「かまわんよ」と思いつつ、今回も有田さんのどんな「いや、まいったね……」から始まるのかワクワクです。

 

ちなみに、入り待ち・出待ちは禁止とのことですので、お家のレディオの前で『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン 番組オフィシャルブック』を片手に楽しみましょう!

 

【書籍紹介】

くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン 番組オフィシャルブック

著者:ナチュラルエイト(監)ニッポン放送(協力)
発行:総合法令出版

2005年~2008年までレギュラー放送された深夜ラジオ番組『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン』は、有田哲平さんと上田晋也さんが織りなす“部室トーク”で人気を誇り、レギュラー放送終了から12年経った今でも、オールナイトニッポン好きのリスナーから伝説のラジオ番組として絶大な支持を集めています。
今回、そんな同番組を“初”の書籍化。くりぃむしちゅーへのロングインタビューをはじめ、3年半の放送期間における神回や名言などを掲載。記録性の高いものとしつつ、制作関係者への取材も実施し当時の裏事情などを紹介して、ファン垂涎の1冊となっています。

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5月5日の深夜に復活!「くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン」をより楽しむために読んでおきたい番組オフィシャルブック

2005年から2008年までの約3年半、毎週火曜日深夜に放送されていた「くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン」。番組終了から12年経った今でもたくさんのリスナーに愛され続けている番組ですが、なんと5月5日(水)25時から特番復活が決定!

 

「くりぃむしちゅーのANNはやばい」「伝説のラジオだ」なんて話は聞いたことがあったものの……私自身リアルタイムで聴いたことがなく「いつかこの耳で聴きたい」そう思っていた時にめちゃくちゃうれしいニュースでした! やったー!

 

この伝説のラジオ番組が復活した背景には、4月に発売された『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン 番組オフィシャルブック』(ナチュラルエイト・監修/ニッポン放送・協力/総合法令出版・刊)があるのだとか。今回は、5月5日の放送を何倍にも楽しくしてくれるこの番組オフィシャルブックをご紹介いたします。

 

タイトルコールをなかなか言わせてもらえなかった上田さん

『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン 番組オフィシャルブック』では、上田さんと有田さんに当時を振り返ってもらいながら楽しい思い出を語ったインタビューが掲載されています。

 

私自身はリアルタイムリスナーではないのですが、タイムスリップできるならその時に戻って聴いてみたい! と思ってしまうほど楽しそうなエピソードがたくさん掲載されていました。上田さんは、高校時代からオールナイトニッポンを聴いていて、芸人になってパーソナリティになるのが夢だったのだとか。レギュラーが決まった当時はその念願が叶ってうれしかったそうですが、あることができず歯がゆい思いもしていたそう……。

 

初期の頃に『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン』っていう番組タイトルコールを有田が僕にやらせないやり取りがあったんですよ。だから「何だよ、タイトルコール言いてぇのに。何で言わせてくれねぇんだよ」っていう歯がゆい思いをしていましたね(笑)。

(『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン 番組オフィシャルブック』より引用)

 

これまでにオールナイトニッポンを聴いたことがある人はわかるかと思いますが、オープニングトークをして、タイトルコールをすると「ビタースウィート・サンバ」が流れる定番のアレです。オールナイトニッポンに憧れている人なら、絶対タイトルコールしたいですよね(笑)。

 

しかしそんな歯がゆい思いをしていた上田さんも、“とある事件”でタイトルコールができることに! リスナーだった方には定番かもしれませんが、この事件もしっかりオフィシャルブックに書かれてあります。5月5日のタイトルコールは誰がするのか、今から楽しみです。

 

このラジオの魅力は、ふたりのフリートーク

『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン 番組オフィシャルブック』を読めば読むほど、この番組はリスナーに愛されていたんだなぁと感じます。高校時代からの同級生コンビのくりぃむしちゅーだからこその掛け合いには、文字起こしを読んでも阿吽の呼吸で繰り広げられるトークテンポの良さが伝わってきます。

 

書籍の中では、この番組を支えていた歴代ディレクターや構成作家にもインタビューしているのですが、作っていた人たちもみんなこの番組が好きだというのが、言葉のひとつひとつから伝わってきます。特にラジオブースの中に入って、一緒に番組を盛り上げていた構成作家の石川昭人さんのインタビューには、裏話がたくさんあって、読んでいてワクワクしました。ぜひ現役リスナーさんだった人には読んでもらいたい!

 

冒頭で「番組作りで心掛けていたところは?」と質問されるのですが、石川さんは意外な答えをしています。

 

何もしないようにすることを心がけていました。僕はこの番組でしたことってあまりなくて、ただ笑っていただけなんですよ。

(『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン 番組オフィシャルブック』より引用)

 

色々としたくなっちゃうところを、「ただ笑っていただけ」と言えるのは本当すごいことですよね。石川さんのインタビューを読むと「それだけじゃない」ことも十分に伝わってくるのですが、熱い思いをもったスタッフさんあってこその番組だったのだな〜と感じました。

 

たった3年半のレギュラー放送でしたが、ここまで熱烈なファンを作り、10年以上経った今でも注目されるほど愛されている番組はなかなかありません。今回の復活でも、石川さんの笑い声が聴けると思うとうれしくなりますね。

 

今回は特番だけど……レギュラー復活の可能性もゼロじゃない?

実は「くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン」は、2008年に一旦の最終回を迎えてから何度か復活を遂げています。2020年に一夜限りの復活をした際には、「くりぃむANN」や「#ariue」がTwitterのトレンド入りを果たすなど、引き続き熱いリスナーたちがいることを感じさせてくれました。

 

オフィシャルブックのインタビューで、有田さんは2020年に復活した日のことを振り返りつつ、こんなことを語っていました。

 

この前の放送の後にもスタッフにちゃんと言いました。「ちょっとこれじゃあダメだよ。この前と内容が同じだから」って。だからせめて年に3、4回ぐらいは放送して、もうちょっと新しい展開を作っていきたい。だってレギュラー放送の時はフリートークのなかから何かネタが生まれたり、とんでもない角度からハガキが来て、それが次の週につながったりしていたんですよ。

(『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン 番組オフィシャルブック』より引用)

 

どこまで有田さんの本心かわからないけど、年3〜4回は期待しちゃう頻度(笑)。もしかしたら5月5日以降もやってくれるのかな? そんな気持ちになりますね。

 

このままレギュラー番組として復活してくれても「かまわんよ」と思いつつ、今回も有田さんのどんな「いや、まいったね……」から始まるのかワクワクです。

 

ちなみに、入り待ち・出待ちは禁止とのことですので、お家のレディオの前で『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン 番組オフィシャルブック』を片手に楽しみましょう!

 

【書籍紹介】

くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン 番組オフィシャルブック

著者:ナチュラルエイト(監)ニッポン放送(協力)
発行:総合法令出版

2005年~2008年までレギュラー放送された深夜ラジオ番組『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン』は、有田哲平さんと上田晋也さんが織りなす“部室トーク”で人気を誇り、レギュラー放送終了から12年経った今でも、オールナイトニッポン好きのリスナーから伝説のラジオ番組として絶大な支持を集めています。
今回、そんな同番組を“初”の書籍化。くりぃむしちゅーへのロングインタビューをはじめ、3年半の放送期間における神回や名言などを掲載。記録性の高いものとしつつ、制作関係者への取材も実施し当時の裏事情などを紹介して、ファン垂涎の1冊となっています。

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”自分の弱さ”を受け入れたほうが人生は豊かになる——『平熱のまま、この世界に熱狂したい』

平熱のまま、この世界に熱狂したい』(宮崎智之・著/幻冬舎・刊)を見つけたとき、私が最初に注目したのは、タイトルよりキャッチコピーのほうだった。『「弱さ」を受け入れる日常革命』とあり、これはおもしろそうだと、ページを開き読み進めていった。どんなときも人は強く生きねばならない、私はそう教えられてきたし、多くの人も同様に「強く強く」と踏ん張っているに違いない。しかし、本書の著者、宮崎智之さんは自らの弱さを認め、ありのままの弱い自分で世界を見つめているという。現在の長引くコロナ禍は社会を大きく転換させ、これまでの常識では、何もかもがうまくいかなくなり始めている。もしかしたら、これからは「弱さ」とともに歩くほうが、小さな幸せを日々感じられるようになるのかもしれない。

 

アルコール依存症を克服し、平熱の生活に

宮崎さんの書く文章はスイスイと読めるし、おもしろく笑える箇所も多くある。どんなテーマであっても根底に優しさを感じるのだ。それは、彼が人の痛みを知っているからだろう。宮崎さんは学生時代からお酒はめっぽう強かったようだが、離婚がきっかけで本人曰く、常軌を逸した飲み方をするようになった。そしてアルコール依存症となり、ついに倒れて救急車で運ばれる事態に。そのとき、息子を良く知る彼のお母さんは「お酒は強いんですけど、心が弱いんです!!」と絶叫したのだそうだ。苦い経験をした宮崎さんはその後、断酒に取り組み、それから4年以上が過ぎた今は飲みたいと思うこともなくなり、体調も精神も安定し、生活も仕事も充実しているそうだ。

 

ぼくは飲まない。少なくとも今のところは、もう二度と飲まないつもりでいる。なぜか。意志が強くなったからなのか。決してそうではない。事実はまったくの逆だ。ぼくは意志が強くなどなっておらず、相変わらず弱い。しかし、酒に手が伸びそうになったとき、ぼくを寸前で止めてくれるのは、むしろ「弱さ」のほうである。再び敗北するのを恐れる臆病な「弱さ」が、酒をコントロールできるという思い込みから、ぼくを少しだけ引き離してくれる。

(『平熱のまま、この世界に熱狂したい』から引用)

 

ままならない人生を救うのは「言葉」

本書は、新型コロナウイルスの感染が広がる最中に執筆されたエッセイで、当然「コロナ以後」の世界を意識して綴られている。宮崎さんの言葉を借りれば、なるべくなら楽しく生きたい、喜びに浸りたいと思っても、現実はあまりにあけすけで人生はままならない。社会は身も蓋もなく、弱いものにはいつだって冷淡なものだ。では、どうすればいいのか? 言葉の力を借りることだ。

 

もし、ぼくに言葉をつむぐ力があるとしたら、その力を使って、しんどい現実を反転させたい。(中略)「この世界も、あながち悪いものではないかも」と思える言葉を、ぼくは探している。(中略)人間は言葉に癒され、慰められ、言葉によって世の中の見え方が変わることもある。

(『平熱のまま、この世界に熱狂したい』から引用)

 

新型コロナウイルスによって日常が変わってしまった

人間には世界の複雑さをすべて受け入れて理解することができない。宮崎さんがそれを強く再確認したのは、新型コロナウイルスの感染拡大で、瞬く間に日常が変容した状況に直面したときだったという。しかも、再婚した奥様が妊娠中で、2020年5月に出産を予定していたため、早い段階から対策をし、報道もこまめにチェックしていたそうだ。

 

大阪出身の奥様は里帰り出産の予定で、当初は宮崎さんも東京と大阪を行き来して仕事をこなそうとしていた。しかし、状況が悪化することは目に見えてきたため、最初の緊急事態要請が出される前に奥様ひとりが帰省、宮崎さんと愛犬は東京に残る決断をした。新型コロナウイルスの厄介な部分の一つに、「もし自分が移してしまったら」「『加害者』になってしまったら」という恐怖があり、身動きが取れなくなる、無症状者が多いというのも、その恐怖に拍車をかける。

 

宮崎さんは大阪にいる臨月の妻に会いたい、産まれてきた子どもを1秒でも早く見たいと思ったが、「もし、万が一……」と考え自粛した。不安に駆られ、一般相談窓口に電話もしたそうだ。明確が答えなどでないことはわかっていても、聞かずにはいられなかったという。結局、奥様と生まれてきた息子さんと対面したのは、緊急事態宣言が解除され、さらにその後しばらく時間をおいてからになったのだそうだ。

 

父親になった2020年、38歳のぼくは世界の複雑さを前に眩暈を起こすことしかできなかった。誰かに決めてほしかった。世界を単純化してほしかった。「個人」を捨ててでも、単純化して運用されている「社会」に乗っかりたかった。誰かの救いの言葉に、すがりつきたくて仕方なかった。そのことを、いつか息子に伝えたいと思う。

(『平熱のまま、この世界に熱狂したい』から引用)

 

3回目の緊急事態宣言が出された今、救いの言葉を求める人はますます増えているに違いない。

 

退屈な日常の中にも刺激はある

本書には、思わずクスクスと笑い出してしまう項目も多くある。たとえば、「ヤブさん、原始的で狂おしい残念な魅力」という見出しでは、”ヤブイヌ”について書かれている。宮崎さんが一目で虜になったのが、ヤブイヌ(英語名はbush dog)で、「里芋に似ている」と思ったそうだ。動物園へ見に行くと、横でヤブイヌを見ていたおばちゃんの「ちくわが歩いているみたい」という呟きを聞き、その残念さこそがヤブイヌの魅力とますます好きになったとか。以来、宮崎さんは「プリミティブで、残念なほど地味だが、たまらなく趣がある」ものに対し、「ヤブみ」という言葉を使うようになったとある。

 

この他、朝顔を育てながら想像力を磨く話、人前でオナラをしてしまったときの言動について、蓄膿症の手術で入院した病院の売店にあった、売れ残りのアヒルのぬいぐるみを買ったエピソードなど、とてもおもしろかった。

 

最後に本書のカバーには、こんな言葉もある。

 

不完全は優しさ。あきらめは許し。弱さは贅沢。自分が美しいと思うものを踏みにじらずに生きるために—。

(『平熱のまま、この世界に熱狂したい』から引用)

 

自粛自粛の今だからこそ読んでおきたい一冊といえる。

 

【書籍紹介】

平熱のまま、この世界に熱狂したい

著者:宮崎智之
発行:幻冬舎

不完全は優しさ。あきらめは許し。弱さは贅沢。自分が美しいと思うものを踏みにじらずに生きるためにー。アルコール依存症、離婚を経て取り組んだ断酒。そして、手に入れた平熱の生活。退屈な日常は、いつでも刺激的な場へと変えられる。

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”自分の弱さ”を受け入れたほうが人生は豊かになる——『平熱のまま、この世界に熱狂したい』

平熱のまま、この世界に熱狂したい』(宮崎智之・著/幻冬舎・刊)を見つけたとき、私が最初に注目したのは、タイトルよりキャッチコピーのほうだった。『「弱さ」を受け入れる日常革命』とあり、これはおもしろそうだと、ページを開き読み進めていった。どんなときも人は強く生きねばならない、私はそう教えられてきたし、多くの人も同様に「強く強く」と踏ん張っているに違いない。しかし、本書の著者、宮崎智之さんは自らの弱さを認め、ありのままの弱い自分で世界を見つめているという。現在の長引くコロナ禍は社会を大きく転換させ、これまでの常識では、何もかもがうまくいかなくなり始めている。もしかしたら、これからは「弱さ」とともに歩くほうが、小さな幸せを日々感じられるようになるのかもしれない。

 

アルコール依存症を克服し、平熱の生活に

宮崎さんの書く文章はスイスイと読めるし、おもしろく笑える箇所も多くある。どんなテーマであっても根底に優しさを感じるのだ。それは、彼が人の痛みを知っているからだろう。宮崎さんは学生時代からお酒はめっぽう強かったようだが、離婚がきっかけで本人曰く、常軌を逸した飲み方をするようになった。そしてアルコール依存症となり、ついに倒れて救急車で運ばれる事態に。そのとき、息子を良く知る彼のお母さんは「お酒は強いんですけど、心が弱いんです!!」と絶叫したのだそうだ。苦い経験をした宮崎さんはその後、断酒に取り組み、それから4年以上が過ぎた今は飲みたいと思うこともなくなり、体調も精神も安定し、生活も仕事も充実しているそうだ。

 

ぼくは飲まない。少なくとも今のところは、もう二度と飲まないつもりでいる。なぜか。意志が強くなったからなのか。決してそうではない。事実はまったくの逆だ。ぼくは意志が強くなどなっておらず、相変わらず弱い。しかし、酒に手が伸びそうになったとき、ぼくを寸前で止めてくれるのは、むしろ「弱さ」のほうである。再び敗北するのを恐れる臆病な「弱さ」が、酒をコントロールできるという思い込みから、ぼくを少しだけ引き離してくれる。

(『平熱のまま、この世界に熱狂したい』から引用)

 

ままならない人生を救うのは「言葉」

本書は、新型コロナウイルスの感染が広がる最中に執筆されたエッセイで、当然「コロナ以後」の世界を意識して綴られている。宮崎さんの言葉を借りれば、なるべくなら楽しく生きたい、喜びに浸りたいと思っても、現実はあまりにあけすけで人生はままならない。社会は身も蓋もなく、弱いものにはいつだって冷淡なものだ。では、どうすればいいのか? 言葉の力を借りることだ。

 

もし、ぼくに言葉をつむぐ力があるとしたら、その力を使って、しんどい現実を反転させたい。(中略)「この世界も、あながち悪いものではないかも」と思える言葉を、ぼくは探している。(中略)人間は言葉に癒され、慰められ、言葉によって世の中の見え方が変わることもある。

(『平熱のまま、この世界に熱狂したい』から引用)

 

新型コロナウイルスによって日常が変わってしまった

人間には世界の複雑さをすべて受け入れて理解することができない。宮崎さんがそれを強く再確認したのは、新型コロナウイルスの感染拡大で、瞬く間に日常が変容した状況に直面したときだったという。しかも、再婚した奥様が妊娠中で、2020年5月に出産を予定していたため、早い段階から対策をし、報道もこまめにチェックしていたそうだ。

 

大阪出身の奥様は里帰り出産の予定で、当初は宮崎さんも東京と大阪を行き来して仕事をこなそうとしていた。しかし、状況が悪化することは目に見えてきたため、最初の緊急事態要請が出される前に奥様ひとりが帰省、宮崎さんと愛犬は東京に残る決断をした。新型コロナウイルスの厄介な部分の一つに、「もし自分が移してしまったら」「『加害者』になってしまったら」という恐怖があり、身動きが取れなくなる、無症状者が多いというのも、その恐怖に拍車をかける。

 

宮崎さんは大阪にいる臨月の妻に会いたい、産まれてきた子どもを1秒でも早く見たいと思ったが、「もし、万が一……」と考え自粛した。不安に駆られ、一般相談窓口に電話もしたそうだ。明確が答えなどでないことはわかっていても、聞かずにはいられなかったという。結局、奥様と生まれてきた息子さんと対面したのは、緊急事態宣言が解除され、さらにその後しばらく時間をおいてからになったのだそうだ。

 

父親になった2020年、38歳のぼくは世界の複雑さを前に眩暈を起こすことしかできなかった。誰かに決めてほしかった。世界を単純化してほしかった。「個人」を捨ててでも、単純化して運用されている「社会」に乗っかりたかった。誰かの救いの言葉に、すがりつきたくて仕方なかった。そのことを、いつか息子に伝えたいと思う。

(『平熱のまま、この世界に熱狂したい』から引用)

 

3回目の緊急事態宣言が出された今、救いの言葉を求める人はますます増えているに違いない。

 

退屈な日常の中にも刺激はある

本書には、思わずクスクスと笑い出してしまう項目も多くある。たとえば、「ヤブさん、原始的で狂おしい残念な魅力」という見出しでは、”ヤブイヌ”について書かれている。宮崎さんが一目で虜になったのが、ヤブイヌ(英語名はbush dog)で、「里芋に似ている」と思ったそうだ。動物園へ見に行くと、横でヤブイヌを見ていたおばちゃんの「ちくわが歩いているみたい」という呟きを聞き、その残念さこそがヤブイヌの魅力とますます好きになったとか。以来、宮崎さんは「プリミティブで、残念なほど地味だが、たまらなく趣がある」ものに対し、「ヤブみ」という言葉を使うようになったとある。

 

この他、朝顔を育てながら想像力を磨く話、人前でオナラをしてしまったときの言動について、蓄膿症の手術で入院した病院の売店にあった、売れ残りのアヒルのぬいぐるみを買ったエピソードなど、とてもおもしろかった。

 

最後に本書のカバーには、こんな言葉もある。

 

不完全は優しさ。あきらめは許し。弱さは贅沢。自分が美しいと思うものを踏みにじらずに生きるために—。

(『平熱のまま、この世界に熱狂したい』から引用)

 

自粛自粛の今だからこそ読んでおきたい一冊といえる。

 

【書籍紹介】

平熱のまま、この世界に熱狂したい

著者:宮崎智之
発行:幻冬舎

不完全は優しさ。あきらめは許し。弱さは贅沢。自分が美しいと思うものを踏みにじらずに生きるためにー。アルコール依存症、離婚を経て取り組んだ断酒。そして、手に入れた平熱の生活。退屈な日常は、いつでも刺激的な場へと変えられる。

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「ぬれ煎餅」に「まずい棒」、副業がコケたらそこで終了の銚子電鉄サバイバル術~注目の新書紹介~

書評家・卯月鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

 

 

万年赤字状態の銚子電鉄

こんにちは、書評家の卯月鮎です。若いころ、貧乏生活をしていたというのはよく聞く話。私もご多分にもれず、フリーになったばかりのときは、小ネギの根っこを再生産してはそれをちょっぴりカットしてパスタにのせて、醤油で食べていました(笑)。素パスタは友人に話すとドン引きされますが、意外と美味しかったです。

 

個人の苦労話はそこらへんに転がっていても、企業の極貧エピソードがおおっぴらに語られるのはかなりレアかもしれません。

今回の新書『廃線寸前!  銚子電鉄 “超極貧”赤字電鉄の底力』(寺井広樹・著、交通新聞社新書)は、万年赤字で、古いレール、線路の石ころ、枕木用の釘……と売れるものは何でも売る銚子電鉄の哀しくも笑えるサバイバル術が語られます。

 

著者の寺井さんは『企画はひっくり返すだけ!』『人生の大切なことに気づく 奇跡の物語』など著作多数の文筆家。銚子電鉄の「お化け屋敷電車」「まずい棒」の企画プロデュースも手がけています。

 

寺井さんが縁もゆかりもなかった銚子電鉄と関わるようになったきっかけは、執筆した『ありがとう』という本。銚子電鉄の外川駅がネーミングライツで「ありがとう駅」になったため、「本を置かせてもらったらどうか」と寺川さんのお父さんから提案があり、連絡したのがなれそめというから素敵なエピソードです。

 

「まずい棒」企画者が銚子電鉄を語る

第1章は「銚子電鉄の『まずい』通史」。銚子電鉄は1923年(大正12年)に開通し、全長6.4km、終点まで19分の短さです。バス会社との競争に敗れ、慢性的な赤字状態。それでも地元住民に必要な路線ということで、現在も涙ぐましい努力を続けています。

 

力を入れているのが副業。1970年代には当時流行していた『およげ!たいやきくん』にあやかって、たい焼きの製造販売を始め人気に。そして1995年には、今や銚子電鉄の代名詞ともなった「ぬれ煎餅」の製造販売が始まります。鉄道部門1億円の売上に対し、「ぬれ煎餅」の売上はなんと2億円にのぼったとか!

 

その結果、企業情報データベースの帝国データバンクには、「鉄道会社」ではなく「米菓製造業」として登録されているそうです。売上的には煎餅店が、副業として鉄道を経営している状態ですね(笑)。

 

第2章「あきらめない『竹本勝紀』という人物」では、銚子電鉄の名物社長・竹本勝紀さんの経営哲学とへこたれない秘密に迫ります。竹本さんはもともと銚子電鉄の顧問税理士でしたが、2012年、東日本大震災に端を発した経営危機の際に断り切れず社長に就任。以来、「絶対にあきらめない」という信念で数々の自虐的な商品・企画を打ち出してきました。

 

鯖のほぐし身を使ったスパイシーなカレー「鯖威張る(サバイバル)カレー」、和風ケーキ「おとうさんのぼうし」(“倒産防止”)、「金欠鬼vs貧乏神」がコンセプトの「銚電マンシール」……。

 

3年前、SNSでバズった銚子電鉄の自虐商品といえば「まずい棒」。この企画をプロデュースしたのが本書の著者・寺井さん。“経営がまずいから”という理由で作り出された「まずい棒」の開発秘話も本書の読みどころ。

 

寺井さんと竹本社長が、本家「○まい棒」のY社さんに何度も電話をかけ、訪問して、最終的には「黙認」という形で許可をもらえたエピソードも明かされています。

 

自虐とユーモアに満ちた銚子電鉄の不屈の歴史が読みやすくまとまっていて、なんだか自然と前向きになれる一冊。ビジネス書としても成功につながるヒントが盛りだくさんです。今日も銚子電鉄は走り続けているんですね。

 

【書籍紹介】

廃線寸前!銚子電鉄”超極貧”赤字鉄道の底力

著者:寺井広樹
発行:交通新聞社

「経営がまずい」ので販売した「まずい棒」のほか、線路の石でも犬釘栓抜きでもなんでも売って、自虐的“超C”級映画『電車を止めるな!』を本気で制作! 銚子電鉄は、経営を改善すべく突飛なアイデアやイベントをどんどん仕掛けてきた。その「絶対にあきらめない」勇姿とチャレンジの数々を、「まずい棒」を考案した寺井広樹が紹介。

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廃線寸前! 銚子電鉄 “超極貧”赤字電鉄の底力

 

 

【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

メンズドレス業界のカリスマ・西口修平氏の「愛用品図鑑」は、お洒落ゴコロを忘れかけた大人たちのバイブルだ。

どこの世界にも、カリスマ的な人物がいる。今、メンズドレス業界のカリスマといえばこの人だろう。西口修平氏。Instagramのフォロワー数は12万人超え、業界きってのトップインフルエンサーである。

 

ただカッコイイだけじゃない。
ファッションとの向き合い方、生き方そのものが粋

西口氏がこれほどまで多くの人に支持されているのは、着こなすファッションのスタイルがイケてるとか、アイテムのチョイスが洗練されているからだけではない。

 

たとえば、彼のお眼鏡にかなったアイテムには歴史やストーリーがあり、長く愛用できるだけの品質や素材を持つ。そして何より、自分のスタイルや生き方をあらわすために必要不可欠な存在であるかどうかが、ファッションアイテムを選ぶ上での大きなポイントのようだ。

 

つまり、彼にとっての洋服や小物たちは、単に着飾るための小道具ではなく、自分自身を表現するための大切な相棒たちなのである。そんなお洒落への真摯な姿に、男女問わず多くの人が惹かれるのであろう。

 

……と随分知ったかぶって語ってみたが、実はつい先日まで西口氏の存在を知らなかった。メンズファッション界にとんと疎くて申し訳ない。

 

だが、ファッションに明るい知人から西口氏の話を聞いたちょうど同じタイミングで、彼が出した書籍を手に取る機会があった。その装丁がなんとも好みだったため、一気に興味を持った次第である。

 

Nishiguchi Essentials 100』(西口修平・著/ワン・パブリッシング・刊)。結果的にこの本は、私のファッションに対する価値観を大きく揺るがしてくれた。

 

私が『Nishiguchi Essentials 100』に惚れた理由

まずは、全体的に「辞典」のようなつくりである点にビビッときた。

 

深いネイビーブルーの表紙に、シルバーの文字。フォントも古き良きタイプライターを思い起こさせ、実に洒落ている。

 

さらに、カバーを外せば、まるで洋書のような佇まい。銀の箔押しが渋くてしびれる。間違いなく、この本を持っているだけでモテるだろう。ちょっと気になる先輩の鞄からこの本が覗いていたら、たちまちフォーリンラブである(あくまでも、個人的感想)。

 

ページを開くと、要所要所に散りばめられた西口氏の手書き文字が目に入る。人柄やファッションへのこだわりが、文字にもあらわれているようだ。辞典をイメージしているが故に、ともすると少し無機質にも感じられる雰囲気の中、手書き文字が少し加わるだけでぐっと温かみが増す。

 

そして、肝心のアイテム紹介ページだ。繰り返しになるが、私はメンズファッションに疎く、さほど興味もなかったので、いくらジャケ買いしたとはいえこの結構なページ数をはたして読み進められるか? と少々不安だった。けれども、まったくの杞憂だった。

 

西口氏がピックアップしたアイテムに出会うまでの背景や、どんな心持ちで日々対峙しているかが語られていて、各ページがひとつの物語のようだ。さらには、英訳まで。

 

私でもよく知っているブランドもあれば、通のみぞ知るような名ブランドまで、この本で紹介されているのは西口氏が「男の必需品」だと厳選した100アイテム。そのどれもがキラリと光っており、”こだわり抜いて選んだものを身につける”ことが人生にどんな影響を与えてくれるのか、一つひとつのストーリーを読むにつれて肌で感じるように伝わってくる。

 

 

ひとつのモノを長く愛することは、
今の時代にベストマッチしている

ファストファッションをシーズンごとに着倒すのも、もちろん悪くない。それも、お洒落を楽しむひとつの手段だ。

 

けれど、本当に質が良いモノは、値は張るが、まさしく一生使い続けられるタフさと繊細さをあわせもっている。なにより、モノを大切にするという、今の時代に欠かせないSDGsの精神にふさわしいのではないだろうか。

 

ここ数年、独身時代のようにファッションに散財することがなくなった。たまに選ぶのは、お値段控えめで、かわいいけれどすぐにくたびれてしまうような素材のものが多い。もしかしたら幼子を持つ人の多くは、同じような状況かもしれない。

 

けれど、独身だって既婚者だって、子どもがいようといまいと、もっとお洒落を楽しんでもいいのではないか。一生モノのアイテムを身につけ、大切に使い、いつかは子どもに譲り渡すなんて、これこそ粋ではないか。

 

私にもそろそろ、本物を見極めて一生を添い遂げられるような逸品を探すときが来たのかもしれない。『Nishiguchi Essentials 100』は、ファッション好きな人はもちろんだが、お洒落ゴコロを忘れかけている大人にこそ手にとってほしい一冊である。

 

【書籍紹介】

Nishiguchi Essentials 100

著者:西口修平
発行:ワン・パブリッシング

オール私物。洋服のプロが一生欠かさない「男の必需品」100選。秘蔵コレクションを公開、一生モノの「選び方」&「付き合い方」を伝授。

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本の中から笑い声が聞こえてきそうなラジオ番組の対談集『LIFESTYLE COLLEGE 吉岡里帆と日曜日18時。』

この1年を振り返ってみると、ラジオやYouTubeなどで人の声を聞く機会が増えたなぁと感じています。私も昨年から「radikoプレミアム」に入りまして、好きな番組だけでなく全国のラジオ番組も聴くようになりました。

 

お笑い芸人さんや地方のアナウンサーさんなど様々なパーソナリティが毎日楽しい番組をしてくれているのですが、数あるラジオ番組の中でもとびっきりの癒し時間を届けてくれるのが、人気女優の吉岡里帆さんがパーソナリティをつとめるラジオ番組『UR LIFESTYLE COLLEGE』(毎週日曜18時〜JFL5局で放送中)。毎回様々なジャンルで活躍する方をゲストに迎え、ライフスタイルについて迫る1時間番組なのですが、プライベートでゲストの方とお茶をしている吉岡里帆さんの隣の席に座っちゃったような、そんな感覚のラジオ番組なのです(笑)。

 

今回はそんなラジオ番組の楽しいトークが収録された『LIFESTYLE COLLEGE 吉岡里帆と日曜日18時。』(リットーミュージック・刊)をご紹介します。

 

ダチョウ倶楽部の知らなかった下積み時代の話

『LIFESTYLE COLLEGE 吉岡里帆と日曜日18時。』には、これまでラジオに登場したゲストの中から厳選された24組のトークが掲載されています。私も聞き始めたのは最近なので「過去にこんなゲストの方が来ていたんだ!」と楽しませてもらえました。

 

映画監督の岩井俊二さん、お笑い芸人の藤井 隆さん、シンガーソングライターのあいみょんさんや竹原ピストルさん、女優の上白石萌音さん、ラジオ番組のスポンサーであるUR都市機構のCMで共演している千葉雄大さんまで、ジャンルや経歴を問わずたくさんの方との対談が掲載されています。

 

中でも私が一番好きだったのは、ダチョウ倶楽部の竜ちゃんこと、上島竜兵さんとの回。2018年10月28日に放送されたものなのですが、最近結婚された有吉さんを「捨て猫を育てていると思ったら虎になっちゃった」と言ったり、「もともと163センチの身長があったのに158センチになっちゃった」と悲しんだり、クスクス笑いながら読んでしまう回でした。そんな中でもちょっとグッときてしまったのがこちら。

 

吉岡  忘れられない光景ってありますか? その若い時。

上島  やっぱりそのバナナパワーに出ていた頃、それまで俺と寺門のふたりでやってたんだけど、全然受けなくて。そのあとリーダーが混ざってきてね。リーダーはネタの書き方を知っているから、やってみたら1回で解散するつもりが、そこで受けたので、じゃあやってみようかっていうので、やりだしたんですけど。その時にリーダーにリーダーは年下ですけどね竜ちゃん、うまくなったねって言われたのがね。

吉岡  うわあ、なんか泣きそうになるんですけど……。

上島  それが嬉しかったですね。それまでは演劇の養成所を出て、決まったセリフとか、そういうことしか言えなかったのが、そこで初めてそういう風になって。それはちょっと嬉しかったですね。人前でしゃべる、笑いを取ることが現実にできる。滑ることもあるんですけどね。

(『LIFESTYLE COLLEGE 吉岡里帆と日曜日18時。』より引用)

 

テレビで見ている竜ちゃんじゃない!(笑)

 

ちなみにバナナパワーというのは六本木にあったショーパブで、今やバラエティ番組には欠かせないヒロミさんも、ダチョウ倶楽部と共に出演していたこともあったのだとか。1つ300円のパイを投げる「パイ投げコーナー」なんてバブリーな遊びもあったそうで(笑)、当時は超楽しかったんだろうなぁ〜と読みながら感じました。

 

美輪明宏さんのエピソードが新鮮!

2019年3月31日に出演されたのが、あの美輪明宏さん。もはや知らない人はいないほどの有名人ですが、当時83歳の美輪さんと26歳の吉岡里帆さんとの掛け合いがなんともフレッシュ!

 

この時は、1967年に初演された寺山修司さんの伝説的な名作『毛皮のマリー』が、2019年に再演されるということでラジオ番組に出演。当時の話を振り返りながら波瀾万丈な美輪さんの人生を語られていました。後半、吉岡さんはこんな話を切り出します。

 

吉岡 もし、生まれ変わって違う職業ができるとしたら何がしたいですか?

美輪 今でけっこう。楽しいですもの。ものを作り上げることは。舞台とかね。曲とか詞とか。衣装のデザインをやったり、舞台装置を作ったり。そういったものだけで十分。楽しいですよ。おやりになれば?

吉岡 舞台美術とかもされているのはすごいなと思います。

(『LIFESTYLE COLLEGE 吉岡里帆と日曜日18時。』より引用)

 

わぁ〜言葉が、しみる……!

 

私も83歳になったときこんな風に人生を振り返りながら、「今でけっこう」と言えるかな? なんて思ってしまいました。他にも、寺山修司さんとの出会いから銀座に住んでいたころの話など、その時代にタイムスリップしたように話してくれています。年齢が離れているふたりだけれど、トーク内容は決して浅くなく、とても深い話もたくさん書かれてありました。美輪明宏さんってどんな人なの? とあまりご存知のない若い人から、舞台で大活躍している美輪さんをリアルタイムで知っている方にもぜひ読んでいただきたい対談だと思いました。

 

音声版「あとがき」が、最高です……!

『LIFESTYLE COLLEGE 吉岡里帆と日曜日18時。』は、ラジオ番組の対談本ということもあり、最終ページにQRコードが掲載されており、スキャンすると吉岡里帆さんの音声が!!

 

3分ほどの音声コンテンツですが、最後まで聞くと「もう大事にします、この本!」とぎゅっと抱きしめたくなるようなあとがき音声になっています。

 

毎週日曜日の癒しタイムを文字でも楽しみたい人、ラジオ番組は知らなかったという人、吉岡里帆さんのファンの方などなど、どんな人でも満足感を得られる一冊だと思います。あとがきの音声コンテンツも含めて、ぜひお楽しみください!

 

【書籍紹介】

LIFESTYLE COLLEGE 吉岡里帆と日曜日18時。

発行:リットーミュージック

女優・吉岡里帆がナビゲートするラジオ番組、待望の書籍化! 26人のゲストと語り合う極上の対談集。

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ガラパゴス化に陥らないための情報収集の方法とは?——『世界のニュースを日本人は何も知らない』

サブカルチャー的な事象に対する執着が強い筆者は、主流派マスコミという枠組みから外れるソースから発信される情報を積極的に、可能な限り多く拾うためさまざまな手段を講じている。

 

非主流派情報の集め方

主流派ではないから、時として――というよりほとんどの場合――情報の内容がエキセントリックなものになりがちなのだが、一つひとつを見ると決して的外れではない。それを主流派ソース情報でろ過し、希釈した上で咀嚼するようにしている。ものごとを正反対の視点から見ることで、真実の部分がより明らかな形で浮かび上がる。

 

いかにぶっ飛んだ内容でも、まったくの嘘だったということはない。どんな種類の情報にも一抹の事実が含まれているものだ。いわゆる「プロス・アンド・コンズ」(賛否両論)という二極論的な見方に、さらにいくつかの視点を加えて多角的に見ていけば、最終的に残す情報の質も上がるはずだ。

 

見過ごしてしまいがちなもの

自ら積極的に取りにいかない限り、おそらくは見過ごしてしまう情報に触れていくにはどうしたらよいか。ここで紹介していく『世界のニュースを日本人は何も知らない』(谷本真由美・著/株式会社ワニブックス・刊)は、そういうスタンスで読み始めるのが正解だと思う。

 

筆者の場合、知りたい情報を深掘りする手段としてYouTubeを使うことが多くなっている。それに加えてキュレーターアプリで集めた特定のウェブサイトや、さらには個人のブログまで追いかける。

 

ゆでガエルにならないために

この本の核の部分は、まえがきに記されている次の文章で過不足なく表されていると思う。

 

事実を直視せず重要なことを見逃している日本は、ぬるま湯のゆでガエルです。じわりじわりと熱されていき、やがて熱湯になったころには跳躍する力を失っているでしょう。たくさんの選択肢を失い、膨大な損失に苦しめられることになるのは目に見えています。

『世界のニュースを日本人は何も知らない』より引用

 

ガラパゴス化という表現は、情報を得るための手段や取捨選択の基準にも当てはまるのかもしれない。著者はこう語りかける。

 

この本は、そんな危機的な状況に置かれた日本のみなさんに、日本の外からの視点を提供し、さまざまな気付きのヒントを得てもらうための指南書です。すっかりゆで上がったカエルになってしまわないよう、世界のニュースにしっかりと目を向けて一人ひとりが意識を変えていくことを願ってやみません。

『世界のニュースを日本人は何も知らない』より引用

 

 

煽りの文言の裏側にある冷静さ

目次を見てみよう。

 

はじめに

序章 日本人はなぜ世界のニュースを知らないのか

第1章 世界の「政治」を日本人は何も知らない

第2章 世界の「常識」を日本人は何も知らない

第3章 世界の「社会状況」を日本人は何も知らない

第4章 世界の「最新情報」を日本人は何も知らない

第5章 世界の「教養」を日本人は何も知らない

第6章 世界の「国民性」を日本人は何も知らない

終章 世界の重大ニュースを知る方法

おわりに すべては日本人のこれからのために

 

ちょっと気になる項目をいくつか挙げておく。「世界のニュースを知らないことが命取りに」「本当はものすごく豊かなアフリカ」「大半の国は日本よりはるかに悲惨」「人種差別にも“格差”がある!」「AIなんて実は頭が悪い!」「効率は創造性を殺す」「欧州人、実は……読み書き計算さえヤバイDQNだらけ」

 

言葉遣いこそ煽りめいた響きに満ちてはいるものの、70に近い項目で語られる内容がきわめて冷静であることは特に強調しておかなければならない。

 

ステレオタイプに蝕まれるままに任せるか

「世界のニュースを知らないことが命取りに」の項目では、“ごく普通”の日本人的な意識と世界の現実のギャップが綴られる。

 

・2015年以降シリアやアフガニスタンからの難民が大量流入しているエーゲ海の島々を、“キレイ”だから新婚旅行で訪れたいというメンタリティ。

・同じ時期、爆破事件が起きたり、首都イスタンブールでの暴動を受けて戒厳令が敷かれたりしているトルコに、親日国家であることを理由に遊びに行きたいという楽観主義。

・欧米社会におけるインターンシップという制度の本当の仕組みを知らないまま、有名企業にメールでお試し雇用を申し込み、仕事を教えてもらおうとしたビジネスエリート志望者の思惑。

 

知らないことは仕方がない。しかし、知らないことによって被る損失の責任を、自分以外の誰かに求めるのは間違いだ。それに、どんなものにもステレオタイプ(誤った固定観念)がある。知らないことをそのままにしたり、受動的であり続けたりすることでステレオタイプに蝕まれるままに任せるか。それとも、自ら進んで求める情報を探し出し、自分の中ですでに構築されてしまっているかもしれないステレオタイプ的なものを正しい形に整えていくか。著者の思いは、「おわりに」に記された次のような文章にも込められている。

 

この世界には、これからの時代を生き抜くために必要な情報が山ほどあります。それらを自分にとって有益なものとし、生き抜くスキルに変えていくことが今後の鍵となるでしょう。

『世界のニュースを日本人は何も知らない』より引用

 

自分と情報との関係性を確かめる意味で、読んでおいて間違いない一冊だ。

 

【書籍紹介】

世界のニュースを日本人は何も知らない

著者:谷本真由美
発行:ワニブックス

報道/常識/教養/思考/日本の評価など、世界各国の印象がガラッと変わる! 新聞・TVではわからない世界の真実に迫る。

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丸亀製麺の売上ナンバーワン店舗はど〜こだ?−−業界1位の独自戦略とは

手軽においしいうどんが食べられる丸亀製麺。誰でも一度は食べたことがあるのではないだろうか。

 

行きすぎた効率化は人間味をなくす

丸亀製麺の特長は、あのコシの強い麵。讃岐うどん特有のコシの強さだが、実は、丸亀製麺は香川県の企業ではなく兵庫県にあるトリドールが運営している。トリドールは焼き鳥店からスタートし、その後まだ強豪がいなかった(はなまるうどんくらいしかいかなった)うどん業界に進出。路面店やショッピングモールのフードコートを中心に、世界中に店舗を構えて、今や業界ナンバーワンの企業だ。

 

各店舗で小麦粉から製麺し、天ぷら類も店舗で揚げ、おにぎりやおいなりさんなども店舗で作る。食券機は置かず、あくまでも対面販売にこだわる。一見非効率な経営のようだが、「行きすぎた効率化は人間味をなくす」という社長の信念の元、あくまでもそのスタイルを崩さない。非常に独特な経営をしている。

 

2位を大きく引き離してうどん業界ナンバーワンをひた走る

丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか? 非効率の極め方と正しいムダのなくし方』(小野正誉・著/祥伝社・刊)は、トリドールホールディングス(トリドールグループの持ち株会社)の社長秘書兼IR担当者。つまり、一番社長に近い人物が、丸亀製麺の企業体質について書いている書だ。

 

2018年の時点で丸亀製麺は、日本のうどん業界でナンバーワン。うどん業界はおそらく世界でも日本だけだと思われるので、世界ナンバーワンのうどん店とも言える。

 

日本の外食産業全体の規模は約25兆円。うどん・そば市場はマーケットの規模としては大きくて1兆円以上あります。そんな中、丸亀製麺の売上は約904億円(2018年3月期。国内のみ)。うどん業界ではダントツの1位を独走中です。

(『丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか? 非効率の極め方と正しいムダのなくし方』より引用)

 

2位のはなまるうどんは売上高約270億円(2018年2期)なので、その規模の大きさがわかるだろう。

 

他社との競合を考えず独自路線を貫く

丸亀製麺がこれほどまでに成長したのは、いくつかの要因がある。そのなかでも大きいのは、「他社との競合を重視していない」だろう。

 

同業他社と売上競争をしていたら、好立地を巡って陣地取りを繰り広げたり、値下げ合戦に巻き込まれたりして、企業は疲弊していきます。丸亀製麺は常にお客様のニーズやウォンツが何かを考えて店舗運営に反映し、効率や強豪に競り勝つことを最優先しませんでした。

(『丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか? 非効率の極め方と正しいムダのなくし方』より引用)

 

その結果、気がついたらナンバーワンになっていたというわけ。無欲の勝利は言いすぎかもしれないが、常にユーザーのニーズをくみ取っていく姿勢が、顧客に受け入れられたのだろう。

 

全店直営で社員店長がいない店舗も

丸亀製麺はいろいろおもしろい点があるのだが、なかでもおもしろいなと思ったのが、国内店舗は100%直営店で、パートナー(丸亀製麺ではパートやアルバイトのこともパートナーと呼んでいる)が店長に就いている店舗があることだ。

 

フランチャイズを取り入れないのは、1店舗ずつ丁寧に育てていきたいため。社員を店長にすることにこだわらないのは、その地域で生活しているパートナーのほうが、その地域のことを熟知しているのでまかせたほうがいいと考えているから。通常、飲食店などの規模拡大を図るには、フランチャイズ方式で店舗を増やしていくのが手っ取り早いが、それを行わずあくまでも地域密着型のうどん店を目指しているのが、おもしろい。

 

店舗づくりもある程度は各店舗に任せているようで、子ども用の椅子を置いたり、ひざ掛けを置いたりといった独自サービスを行っている店舗もあるそうだ。これらのアイデアのほとんどが、パートナーから出てきたもの。現場の声を店舗に反映できるシステムが整っているのも、丸亀製麺の特長のひとつだ。

 

世界一の売上を出しているのはハワイ・ワイキキ店!

さて、ここでタイトルの答えを。丸亀製麺で一番売上が高い店舗は、2014年にオープンしたハワイのワイキキ店だ。ハワイでうどんなんて売れそうもないが、大人気らしい。基本メニューは日本と同じだが、マッシュルームやアスパラの天ぷら、スパムおにぎりなどの独自メニューを置いたり、出汁をぬるめにしてカレーうどんのスパイスを多めにしたりといった柔軟な対応をした結果、現地人の利用がとても増えたという。店内にはチリペッパーやとんかつソース、ケチャップなどの調味料も置いている。

 

「日本食だから、日本風に」などと硬いことを言わず、好きなように食べていただくのが丸亀製麺流。かしわ天やエビ天、アスパラ天、かぼちゃ天などをお皿に山盛りに積み上げ、ケチャップをかけて食べるお客様もいらっしゃいます。

(『丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか?――非効率の極め方と正しいムダのなくし方』より引用)

 

「こう食べてほしい」という気持ちよりも、「好きなように食べてほしい」という気持ちが、丸亀製麺流ということだ。

 

いくら効率化をしても最後は「人」

僕もたまに丸亀製麺が食べたくなるのだが、ほとんどが車で行かないといけないところにある。隣の大きな駅の近くにはあるのだが、電車に乗って行くのもなんだかなー、という感じがして、たまに車で通りかかったときに食べる程度になっている。

 

製麺機やフライヤーなどを置く関係上、ある程度店舗スペースがないと出店できないため、家賃の関係などからロードサイド店がどうしても増えるようだ。

 

本書を読むと、効率だけが経営のポイントではないことがわかる。どんな商売でもそうだが、最終的には「人と人」というところに返ってくるのかもしれない。そう感じた。

 

さて、原稿を書き終わったので丸亀製麺に行ってきます。釜揚げうどんにしようかな。

 

【書籍紹介】

丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか? 非効率の極め方と正しいムダのなくし方

著者:小野正誉
発行:祥伝社

うどん業界ダントツ1位の驚異的仕事術。「常識」をことごとくひっくり返し、売れ続ける。その秘密が、この本でわかります。

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丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか? 非効率の極め方と正しいムダのなくし方

 

東京駅、網走監獄、日光東照宮……知っているようで知らない名建築のスゴさがわかる異色の建築ガイド~注目の新書紹介~

書評家・卯月鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

 

 

文章とイラストで名建築を紹介

私は横浜が好きでよく行くのですが、元町の上のほうに山手西洋館という明治~昭和初期の洋館が建ち並ぶエリアがあり、そこをフラフラと散歩するのがお気に入りです。洋館を取り囲む庭園からは異国の風が吹き、ひとたび建物内に入るとあっという間に時代を超えられる。古い建築物は人間を包み込むタイムカプセルです。

 

さて、今回紹介する『絶品・日本の歴史建築[東日本編] 』(磯 達雄、宮沢 洋・著/日本経済新聞出版・刊)は、2014年の単行本『旅行が楽しくなる日本遺産巡礼[東日本編]』の内容を一部更新し、新書として刊行したもの。サイズも少しコンパクトになっています。

 

著者は、文章担当で現代建築の取材を行う建築ライター・建築ジャーナリストの磯 達雄さんと、イラスト担当で単行本版刊行当時、建築雑誌「日経アーキテクチュア」の編集者だった宮沢 洋さん。

 

江戸時代以前の歴史建築に関してはやや専門外とのことですが、その分“歴史のお勉強”的にはならず、新鮮な視点と現代建築から見た驚きが紹介されています。「ぜひ見に行ってみたい!」、そう思わせる建築物が満載です。

 

東京駅に隠された秘密とは?

東日本編は中尊寺金色堂、松本城、迎賓館赤坂離宮など全30の建築が取り上げられています。本書の最初を飾るのは「東京駅 丸の内駅舎」。明治を代表する建築家・辰野金吾による、英国建築の流れに位置づけられるクイーン・アン様式の名建築です。

 

なんといっても赤レンガと白い大理石のストライプ模様が印象的。宮沢さんのイラストには、「人に話したくなる10のトリビア」が描き込まれ、知らなかったことばかり!

 

「1:ドーム上部のアーチ部分のキーストーンは、豊臣秀吉の兜がモチーフ」「2:ドームのアーチとアーチの間にある円形のレリーフは干支の動物。ただし八角形なので8匹」とこんな具合。時間に余裕があるときにじっくりと見てみたいものです。ちなみに、干支の残り4匹は辰野金吾が同時期に手がけていた佐賀県・武雄温泉の楼門にいるとか! なんだかリアル脱出ゲームの謎みたいですね(笑)。

 

30の建築物のなかで個人的に一番興味をそそられたのは、北海道・網走刑務所の旧施設「網走監獄」。明治45年から昭和59年まで実際に使用され、現在は博物館として公開されているそうです。文章担当の磯さん曰く、玄関を入ってすぐの見張り所から、5方向に伸びる舎房の通路がすべて見通せて圧巻。大量の囚人を少人数で監視できるように放射状に配置された建築はまさに「むき出しの合理主義」。そこに機能美ともいえるデザイン性を感じるのは皮肉ですね。

 

少し変わった歴史建築としては、秋田県鹿角市にある縄文時代後期の遺跡「大湯環状列石」も気になりました。ストーンサークルというとイギリスのストーンヘンジが有名ですが、日本にもそれに類した遺跡があるんですね! 磯さんは、イギリスよりも立石ははるかに小さいものの、これは海外の建築界からも注目されている日本の小建築のルーツかもしれないと分析していて、なるほどと思いました。ミニサイズは縄文時代からの日本のお家芸といったところでしょうか。

 

「ブルーノ・タウトが日光東照宮を強くこき下ろしたのはなぜか?」「白川郷の合掌造りとモスラの意外な関係性とは?」など、独自の視点からの謎解きもあり、よく知られている建築物でもワクワクできる内容となっています。「西日本編」もすでに新書版が出ているので、いつか全国の名建築を巡ってみたいですね。

 

【書籍紹介】

絶品・日本の歴史建築[東日本編]

著者:磯達雄/宮沢洋
発行:日本経済新聞出版

あまりにぜいたくすぎる日本初の西洋風宮殿建築「迎賓館赤坂離宮」、日本オタクのイギリス青年が手掛けた「旧岩崎久彌邸」、バベルの塔のようならせん建築「会津さざえ堂」、建築というよりまるで美術品のような「中尊寺金色堂」…。北海道・東北・関東・中部、東日本に点在する名建築の味わい方を、建築雑誌出身、目の肥えた二名の著者が文章とイラストで紹介します。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

「シェア」から「ギフト」へ。持続可能な新しい経済のまわし方——『ギフトエコノミー 買わない暮らしのつくり方』

モノや場所を多くの人と共有する「シェアリングエコノミー」が話題です。最近は「ギフトエコノミー」という言葉も出てきました。こちらはなんと、一切お金をかけずにモノやサービスのやりとりができるというのですが、どういう形で行われているのでしょうか。

 

ギフトエコノミーにはお金がかからない

シェアリングエコノミーは、モノやサービス、場所などをシェアまたは売買するもの。多くは利用する際に手数料や代金が発生します。たとえば、誰かとルームシェアをして共同生活を送る時は、大家さんに家賃を支払いますし、フリマアプリで不用品を売る時は、運営サイトに売買手数料の支払いが必要となります。

 

しかし、ギフトエコノミーにはお金が全くかかりません。ここがシェアリングエコノミーと大きく違うところです。無料でモノやサービスや場所を提供してくれる人がいて、利用者はタダでモノを受け取れたり場所を利用することができ、運営もボランティアスタッフが無償で行なっています。

 

なぜお金がかからないの?

モノをやり取りするのにお金が介在しないだなんて、にわかには信じがたいものがあります。けれど、私もかつては子育て系のネットコミュニティで、お古のベビー服セットを無料でいただいたことがあります。そして、私自身もそのベビー服をさらに別の人に譲り、リサイクルしていました。

 

なぜお金がかからなかったのか。それは送り主もそのほうが気楽だったからです。ベビー服をフリマサイトで売ったとしても大儲けできるわけではありません。それに、サイトに出品すると商品撮影などの手間もかかります。だったらまとめて誰かに譲って断捨離したほうが気楽です。近所のお子さんにお古の服をあげるのと似た感覚なのです。

 

ギフトエコノミーのコミュニティ

ギフトエコノミー 買わない暮らしのつくり方』(リーズル・クラーク、レベッカ・ロックフェラー・著青土社・刊)は、無料のやりとりのコミュニティを作った女性たちの貴重な体験やノウハウが詰まった本です。著者のリーズル・クラークとレベッカ・ロックフェラーが2013年にFacebook上に地域の「Buy Nothing(買わない暮らし)」というコミュニティを立ち上げると、それはあっという間に世界各地にも広まり、総利用者が数十万人にまで成長しました。

 

地域のオンライン上のコミュニティ(本によると理想は500人程度)の中で、ベビーカーやホームベーカリーなどいろいろなモノや、ハウスクリーニングや散髪などのサービスを譲り合う、または貸し借りし合うのは、とても便利そうです。ご近所なので自分の足で受け取りに行けるから送料すらもかかりません。

 

消費とストレス発散

地域でモノを譲り合うシステムは、地球にもお財布にも優しいもの。もちろんすべてが無料というわけではなく、食料品や教育、それから文化などにはお金を使って暮らすのです。このシステムに慣れると、何かしらストレスが溜まった時の衝動買いがしづらくなります。

 

本書よると、ネットで買い物をする時や商品が到着した際に、脳は快感を得るのだとか。けれど、地域の人と不用品をやり取りする時にも、同様の感覚は得られるそうです。それは買い物体験とはまた違う「仲間とつながり、資源を分かち合う」という新しい喜びです。知恵を使いながら、ないものを調達したり、今あるものでまかなったりする暮らしは、心地よさにも満ちているでしょう。

 

こうした無償譲渡のコミュニティは日本にもいくつも出てきています。自分の持ち物を見返りを求めずに喜んで差し出すという行為を「喜捨(きしゃ)」と言います。それにはモノに対する執着を捨てるという意味も含まれているのだとか。ギフトエコノミーに清々しさを感じるのも、この喜捨の精神が流れているからなのでしょう。

 

【書籍紹介】

ギフトエコノミー 買わない暮らしのつくり方

著者: リーズル・クラーク、レベッカ・ロックフェラー
発行:青土社

持続可能な世界をつくるために私たちができること。ヒマラヤの小さな村で「見返りをもとめない贈与」=真のギフトエコノミーに出会った著者は、友人と二人で物々交換サイト「買わない暮らし」を立ち上げました。そして、サイトはまたたく間に会員を全米に広げ、一大ムーブメントを引き起こしました。この運動は単にエコというだけではなく、隣人とのつながりも深めるという意味で、新しいライフスタイルを提言しています。コロナ時代だからこそ求められる、読むだけで簡単に始められる、地球とお財布にも優しい「新しい生活様式」がここに!

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将棋界のレジェンドがSNSに降臨! ファンが狂喜乱舞した奇跡とは——『チーム康光の軌跡』

新型コロナウイルスの影響を受けての不自由な暮らしは、私たちに有形無形の苦しみを与え続けている。しかし、そんななかでも一筋の光があることを『チーム康光の軌跡』(佐藤康光、谷川浩司、森内俊之・著/マイナビ出版・刊)は教えてくれた。

 

著者は、佐藤康光九段(永世棋聖の資格保持者)、谷川浩司九段(十七世永世名人の資格保持者)、森内俊之九段(十八世永世名人資格保持者)のお三方で、将棋界の重鎮である。彼らはまさにレジェンドの名にふさわしく、勝負の世界に生き、多忙な毎日を送っていた。ところが、コロナ禍によって仕事は制限され、重苦しい雰囲気のなかで過ごすことを強いられるようになった。一方で、コロナ禍が信じられないものも生み出した。それが、「第3回Abema TVトーナメント」で誕生した「チーム康光」であり、それに伴って開設されたTwitterだ。

「チーム康光」が生んだあり得ないTwitterのやりとり

これまで、3人のレジェンドがタッグを組みTwitterで語り合うなど、あり得ない話だった。互いにトップ棋士としてしのぎを削ってきた方々である。チームメイトとして団体戦を戦うことなど、夢のまた夢であったはずだ。しかし、それは起こった。

 

始まりは「第3回AbemaTVトーナメント」だった。史上初のドラフト団体戦として行われることになり、佐藤康光、谷川浩司、森内俊之チーム、名付けて「チーム康光 レジェンド」が誕生した。トーナメント戦は早指し戦で、一般には若手が有利とされるルールである。たとえレジェンドでも、予選をどこまで勝ち上がることができるのかわからなかった。ところが、始まってみると「チーム康光」は準決勝まで勝ち上がり、優勝候補の筆頭チームと戦うこととなった。

 

それだけでも楽しい企画だったが、将棋ファンを何よりも驚かせたのは、3人によるTwitterが始まったことだ。それまで、SNSからは遠い存在と言われてきたレジェンドが、楽しそうにツィートし、将棋の解説までしてくれるのだからこたえられない。

 

たとえ将棋を知らなくても

『チーム康光の軌跡』には、合計700に及ぶツイートに、鼎談が加えられている。彼らが将棋ファンのためにここまでするとは……。特に、本のために行われた鼎談は驚き以外の何ものでもない。佐藤が「みなさん、こんにちは。佐藤康光です。チーム康光、チームレジェンドの一日だけの復活と銘打ちまして、おじさんトークショーにやってきました」と口火を切るや、谷川が「今日はこのためだけに東京に来ました」と応じ、森内が「毎日、ツィッターと向かい合う日々が続いていましたので、また以前の日々が戻ってきたという感じです」と振り返る。このやりとりだけ読んでも、この本がいかに希有なものかわかるだろう。コロナ禍で元気を失いがちな将棋ファンのために、何かしなくてはというレジェンドの熱い思いを感じずにはいられない。

 

いや、将棋ファンだけではない。将棋のことをほとんど知らない私でも、十分に楽しみ、元気をもらった。もっとも、以前から将棋の世界に興味を持ってはいた。駒の動かし方すらよくわかっていない私だが、将棋の対局番組は楽しみにしていた。とくに勝敗が決まった瞬間の映像は、ボクシングのKOシーンを目のあたりにしたようで鳥肌ものだった。さらに、その後に始まる「感想戦」がこれまたすごい。「負けました」という宣言で対局が終わると、棋士たちは感想戦を始める。ついさきほどまで死にものぐるいで行われていた対局を、ビデオテープを逆回しするように戻していく。それも、勝者は敗者が納得するまで、とことん付き合うという。ここにあるのは、勝負にこだわる激しい闘争心と相手に対する尊敬の念だ。棋士とは不思議な人々だと感じるのは、こういうときだ。

 

『チーム康光の軌跡』での3人は、勝負に生きる鬼のような形相を捨て、棋士にも私生活があることを教えてくれる。それは、私には厳しい生活を維持していく上でどのように息抜きをすべきかを考えるヒントとなった。これまでは、プロ棋士とは常人にはわからない特殊な存在であり、私など近づくことも許されないと後ずさりしてきた。けれども、本を読んでいるうちに私のような素人でも、将棋や棋士に興味を持っていいと呼びかけられたような気持ちになった。

 

変わらないこと、変えていくべきこと

『チーム康光の軌跡』は内容が盛りだくさんだ。将棋は長い伝統を誇る世界だが、アナログ世界にとどまることなく、デジタル世界に参入していることもよくわかった。棋士はコンピュータと戦い、苦しんでいるとばかり思っていたが、最高の友達となる努力もしていたのだ。何よりも興味深いのは、将棋界が新しいものに対して、柔軟な姿勢を持っていることだ。鼎談の結びにあった言葉がそれを示している。

 

将棋界も変わらない部分と変わっていかなければいけない部分があると思っています。今回の企画はかなり大きな変化で、我々にとりましてもひとつのチャレンジをすることができました。

(『チーム康光の軌跡』より抜粋)

 

確かに……。コロナ禍のもと、変化の兆しを感じたレジェンドたちの打ち明け話は、これからの私たちにも大きな力となるに違いない。レジェンドだって、もがいている。何とかしたいと思っている。そのことに心を打たれつつ、「お教えをありがとうございます」と、本に向かってお辞儀したくなった。

 

しかし、何も考えずに、思わずゲラゲラ笑ってしまったときもある。森内の「こんばんは、ゴルゴ13です(某関係者に、顔が似ていると言われるだけ)」というツイートに、佐藤が「も、も、森内先生、確かに言われてみれば」と続き、なぜかお嬢さんが以前に作成したという花の画像を「意味不明」のコメントとともに貼りつける。一方、谷川は「そういえば、森内俊之ゴルゴ13説、というのは昔聞いたことがあります」と冷静に応えたこの流れは、私が本書でいちばん好きなツイートだ。

 

この内容を読んだとき、理由なく大笑いしながら、コロナ禍の中でも笑って生活しなくちゃと決心した。その意味でも、『チーム康光の軌跡』は不思議な本だ。将棋ファンはもちろんのこと、将棋のことを知らない方にとっても、希有な書となるだろう。

 

【書籍紹介】

チーム康光の軌跡

著者: 佐藤康光、谷川浩司、森内俊之
発行:マイナビ出版

将棋ファンを熱狂させたドリームチーム。彼らはどう戦い、何を残したのか? スペシャル鼎談+全ツイート収録。

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これ1冊で全国にある個性豊かなお餅レシピが楽しめる『米のおやつともち』

お正月しか「お餅」を食べない人がほとんどだと思いますが、私の出身の岩手では、日常的にお餅を食べる文化がありました。四角い硬いお餅ではなく、つきたてのびよ〜んと伸びるお餅にくるみダレをかけた「くるみ餅」、お餅生地の中にドロっとした黒砂糖が入った「きりせんしょ」、お隣宮城県の名物「ずんだ餅」など、小さいころからお餅に囲まれた生活をしていました。

 

スーパーや産直にも「餅コーナー」があって日常的に食べられていたのですが、上京してからは餅とも疎遠になっておりました。先日岩手に帰る機会があり、久しぶりに食べた餅が驚くほど美味しい! あぁ〜つきたてのあのお餅が食べたい〜(涙)と都内に戻ってきてからは、ホームシックになっています。

 

今回は美味しいお餅のおやつがたくさん紹介されている、餅好きには永久保存版な1冊『米のおやつともち』(日本調理科学会・編集/農山漁村文化協会・刊)をご紹介します。

全国の聞き書き調査で集められた「お餅」レシピを掲載

『米のおやつともち』は、全16巻からなる「伝え継ぐ 日本の家庭料理」シリーズの1冊。本シリーズは、日本調理科学会が昭和35年から45年ごろまでに定着していた家庭料理の中から、“伝え継ぎたい料理”の聞き書き調査を、数年かけて全国で行い、暮らしの背景とともに記録したものです。時代と共に変化していく家庭料理が丁寧に記録されており、当時の日本の暮らしに想いを馳せながら読み進めることができるレシピ本になっています。

 

聞き書き調査は日本調理科学会の会員が47都道府県の各地域で行ない、地元の方々にご協力いただきながら、できるだけ家庭でつくりやすいレシピとしました。実際につくってみることで、読者のみなさん自身の味になり、そこで新たな工夫や思い出が生まれれば幸いです。

(『米のおやつともち』より引用)

 

今は、アプリやネット上にたくさんの家庭料理が載っているので「わざわざ本を買わなくても〜」と思うかもしれませんが、『米のおやつともち』に掲載されているレシピやその料理の背景は、ネットにはなかなか出てこないような情報ばかり。いくつかご紹介していきましょう!

 

田植えのお供に鹿児島県の「いっさきだんご」

『米とおやつともち』では、都道府県ごとにお餅のレシピが紹介されています。その中で一番多く掲載されているのが鹿児島県で、「ねったぽ」「ミキ」「かるかん」「あくまき」「いっさきだんご」の5つ。

 

「かるかん」はお土産としても人気ですが、それ以外は聞いたことないものばかりですよね。ここでは、鹿児島県の姶良(あいら)地区で、これからの田植え時期に食べられる「いっさきだんご」をご紹介します。「いっさき」というのは、鹿児島弁で青桐(あおぎり)のことなんだとか。どんな場面で食べられていたのでしょうか?

 

昔の田んぼの作業は地域で手伝い合いました。田植えも2〜3日かかったので、毎日だんごを50個近くつくって持って行き、みんなで田んぼで食べたそうです。

(『米のおやつともち』より引用)

 

蒸して裏ごししたさつまいも・小麦粉・上新粉・もち粉を混ぜてつくった生地に、こしあんを入れ、手のひらより大きな青桐の葉で包んで蒸すものだそうです。今でもつくって食べているのかな? お土産として残っていく郷土の味もありますが、誰かが作らなくなったら終わってしまうような郷土の味も大切にしていきたいものですね。

 

冠婚葬祭にもお餅!?

続いてご紹介するのは、岩手県の『もち本膳』。岩手県の県南エリアには300種類以上のもち料理があるため(す、すごい!)甘いものからしょっぱいものまでなんでも「お餅」で食べてしまうのだとか。

 

かつては自宅で婚礼があると、「もち本膳」といってあんこもち、雑煮、料理もち(菜にあたるもち)、大根おろし、たくあんを膳に組み、お客様をもてなしました。正月ももち料理で、雑煮とあんこの他に数種類のもちを食べます。

(『米のおやつともち』より引用)

 

お祝いごとの際に「もちをつく」文化があったため、これでもか! とご馳走だったお餅でもてなしたんですね。でも、嫁いだ先の結婚式で出てくる料理が全部餅だったら、お嫁さんも複雑な気持ちになりそう(笑)。

 

そういえば、岩手に住む祖母の家には餅つき機があって、ゴンゴンとすごい音を立てながら餅をついていたなぁ〜と思い出しました。コンビニやスーパーで手軽におやつが買える今だからこそ、お餅を楽しんでみるのもいいかも? なんて思いました。

 

みんなで食べる機会が減っている今ですが、世の中が落ち着いて人々が集まれるようになったら、『米のおやつともち』を参考にいろんなお餅を食べ合う「おもちパーティ」でも開催してみようと思います。

 

「伝え継ぐ 日本の家庭料理」シリーズは、他にも『炊き込みご飯・おにぎり』『汁もの』『野菜のおかず』などトータル1400品のレシピがまとめられています。気になる方は他の本も見てみてくださいね。

 

【書籍紹介】

米のおやつともち

著者:日本調理科学会(編)
発行:農山漁村文化協会

本書では、もちのいろいろな食べ方と、米でつくる多彩なおやつを集めました。

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NY在住のバズライターが綴る新しい日常とは?——『ここじゃない世界に行きたかった』

「ここではない世界に行ってみたい」と人は誰しも一度は思うだろう。それを実行に移すのは少数派かもしれないが、私は20数年前、ある日突然に日本を脱出して欧州に向かった。本書を手にしたのはタイトルをみて懐かしい気持ちになったからだが、著者がわかるとますます興味津々となった。塩谷 舞さんといえば「バスライター」の異名をとる現代のオピニオンリーダーだ。

 

ここじゃない世界に行きたかった』(塩谷 舞・著/文藝春秋・刊)は、インターネットの世界で情報を発信し続けてきた彼女の初の紙媒体。”静かな声が届くよう、静かな空間でゆっくり話をしてみたかった。”という塩谷さんの願いが込められたエッセイ集なのだ。

バズライターが自分を取り戻すためにはじめたnote

塩谷さんがインターネットを使って世に放った記事は十中八九バズっていた。が、しかし、悩みもあったようだ。

 

インターネットの大波に揉まれて記事を量産していると、自分が書いているのか、大衆が求めるものを書かされているのか、もしくはアルゴリズムのマリオネットになっているのかさえもわからなくなってくるものだ。そこで数年前から、noteで『視点』という定期購読マガジンをはじめた。(中略)誰かのインタビューでもなく、何かの宣伝でもなく、ただ自分が考えていることだけを夜通し書き綴っていく行為は、インターネットに疲れた自分自身へ施すセラピーのようでもあった。

(『ここじゃない世界に行きたかった』から引用)

 

本書は、そのnoteの『視点』、そして塩谷さんがひっそりと運営しているというWEBメディア「milieu」などから記事を抜粋し、加筆と修正を加えて出来上がった一冊。バズライターの本音が聞ける本といえるだろう。

 

ニューヨークに移住

塩谷さんにとっての「ここではない世界」はニューヨークだった。2017年秋、アート研究家のご主人が現代アートの中心地であるニューヨークに移住を決め、彼女もついて行くことになった。憧れの地での暮らしは、最初からバラ色ではないのが常のようで、ニューヨーク到着と同時に淡い期待を床に投げつけるような散々な日々がはじまった、と記している。住まいは快適ではなく、日本から送った大切な荷物は盗まれる。物価は高く、競争は激しく、治安は悪く、寒すぎる……などなど。

 

海外旅行経験すら少なかった私には、想定外のことばかりだった。(中略)どこか遠くへいきたいな……と、脳内お花畑でのこのこついてきた自分こそが大馬鹿野郎なのだ。せめて愚痴でもこぼそうかとTwitterを開けば、「塩谷舞は自分の意志で渡米した訳じゃないから、やっぱり全然覚悟が足りない」だなんて書かれて泣けてくる。図星だからこそ泣けのるだ。

(『ここじゃない世界に行きたかった』から引用)

 

けれども、塩谷さんはその状況に留まることはなかった。Instagramを徘徊して、お気に入りの店を見つけたり、人との出会いを求めて行動を開始。しだいに塩谷さんの視野はグンと広がり、五感はみずみずしく冴え、その結果、世界の諸問題に対する視点も、ますますするどくなっていったのだ。

 

先に答えを知ると本質に辿り着きにくい

塩谷さんは、何事に対しても、〔感じる→考える→知る→考える→文章にする〕という順番を大切にしているそうだ。それは、最初から頭に情報を与えてしまうと、何を見ても情報との答え合わせになって、自由に空想する時間が失われてしまうからだ。

 

そうして心ゆくまで勘違いしたのち、解説文を読んだり、関連書籍に手を出したりするのだけれど。でもすでに、自分の脳内に勝手な物語をこしらえているもんだから、そこに書かれている「正解」は、共感と裏切りの連続だ。合っていても間違っていても、知れば知るほど感極まる。そして今度は、正解にイチャモンを付けたりしてみる。(中略)どれほどの偉人相手でも、脳内で議論するのは自由なもんだ。

(『ここじゃない世界に行きたかった』から引用)

 

彼女が綴る文章が新鮮なのは、そういう過程を経てから言葉を紡いでいくからなのだろう。

 

コロナ禍で変わった日常

ところで、現在の長引くコロナ禍は塩谷さん夫妻の生活も変えてしまったようだ。アートを生業にするご主人は仕事が相次いで中止になる事態に。ない袖は振れないと、家賃の予算を下げ、ニューヨーク州の隣のニュージャージー州に引っ越しをした。自然に囲まれてはいるが、徒歩で行ける商業施設は大型スーパーとスターバックスコーヒーというありふれた郊外の風景。マンハッタンは近くて遠い場所になった。

 

最近の私といえば、外からの刺激は月に一度でも多すぎるくらいなのだ。あとは家の中でもぐらのように過ごし、あれやこれやと悩みながら、文章を書くくらいがちょうどいい。刺激は自分の内側にも満ちていて、そっちを追いかけているほうがうんと高揚感に包まれることに気づいてからは、何かを求めて都会に出る回数も減っていった。

(『ここじゃない世界に行きたかった』から引用)

 

「ここじゃない世界」は今いる場所にもある

塩谷さんの故郷は、大阪千里のニュータウン。退屈でつまらない町だと飛び出してきたものの、「ここには何もない」と諦め、つまらなくしていたのは自分自身だったと、ここにきて気づいたのだそうだ。

 

世界のどこに行ったって、自分のために用意された理想郷は存在しない。だったら自分でやるしかない。内側の声に、そして地域の声に耳を傾け、自らの手で小さな理想郷をこしらえていく。それが一番まっとうで、真面目で、美しい在り方なんだろう。そうしてできたものをインターネットに乗せてあげれば、「ここじゃない世界」はあちらから、いまいる場所までやってきてくれるのかもしれない。

(『ここじゃない世界に行きたかった』から引用)

 

コロナ禍の最中、どこにも行けない、何も出来ないと嘆いている人には塩谷さんの言葉が響くはずだ。

 

本書には、ニューヨークで見つけた美しいもの、愉快な人々との出会いなどワクワクする話、さらには、BLM問題、アジア系アメリカ人にまつわる深い話、大統領選で見えてきた青と赤のあわいにある色たちの話など、読み応えのある内容ばかりだ。

 

 

【書籍紹介】

ここじゃない世界に行きたかった

著者:塩谷 舞
発行:文藝春秋

あたりまえに生きるための言葉を取り戻す。出会うべき誰かと強く惹かれあうためにー。世界の諸問題への視点と生活への美意識が胸を打つ、“多様性の時代を象徴する”新世代エッセイ集!

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あなたの筋トレ、間違ってませんか? カリスマトレーナーの“考える筋トレ”~注目の新書紹介~

書評家・卯月 鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

 

筋トレって自己流になりがち……

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。私は昔から運動音痴で、体育の成績は散々でした。習い事でバレエに通わされていましたが、自分でもわかるほどギクシャク、ドタドタ。白鳥ではなく、いいカモでしたね(笑)。

 

今思うと、頭のなかで体をどう動かすか、きちんと理解できていなかったのが敗因かと……。運動にもロジックが必要なようです。

 

今回の新書『ロジカル筋トレ 超合理的に体を変える』(清水 忍・著/幻冬舎・刊)は、正しい筋トレとは何か、効果的な筋トレ方法をわかりやすく教えてくれる1冊。

 

著者はトレーニングジム「IPF」ヘッドトレーナーの清水 忍さん。論理的な指導で、メジャーリーガーの菊池雄星選手など、プロアスリートのパーソナルトレーナーとして絶大な人気を誇っています。ウェブのインタビュー記事を読むと、中学時代に柔道場の隅にあったバーベルと出会ったのがトレーニングのきっかけとか。

 

ノルマの罠にハマってはダメ!

「一生懸命頑張っているのにもかかわらず、とんでもなく無駄な遠回りをしている人が多い」という清水さん。「なぜ」をしっかり考えることが効率のいいトレーニングへとつながるのです。

 

まず第1章「ロジカル筋トレとは何か」では、筋トレの意味を追求します。筋トレには中毒性があり、いつしかそれをすることが目的になってしまう、と清水さんは言います。ノルマの罠にハマり、やみくもにトレーニングしていると特定の筋肉に頼ってしまって筋肉の連動性が失われ、パフォーマンスが落ちる……。確かに私も、つい回数をこなそうと適当にスクワットをこなしてしまうことはよくあります。

 

第2章以降は、筋トレの理論と具体的な方法が部位ごとに説明されていきます。「ロジカル筋トレ」だけでなく「ざんねんな筋トレ」のイラストも比較として描かれていて、やってはいけないことが紹介されているのもいいところ!

 

「腹筋をいくらやっても腹は割れない」「腰痛解消のために腹筋をつけるは大間違い!」など、常識を覆すようなトピックも多く、なんとなくイメージしていた筋トレ像を打ち破ってくれました。

 

特に下半身の筋トレが説明されている第4章「下肢」は、足腰を鍛える重要さが語られ、適当ながら毎日スクワットをしている私にとっては興味深い内容。

 

「なぜ足腰を鍛えるのか?」。清水さんが出した答えは「地面をより力強く押せるようになるため」。足で地面を押すことは動作の基本中の基本で、足はあらゆる力を生み出す起点。地面を踏んだ反発力「地面反力」を意識すれば合理的な動作を行えるようになるというのです。

 

新書なのでカラーページや写真はありませんが、その分、文章で理論がしっかり説明されています。大判のいわゆる「筋トレマニュアル本」と違って、電車のなかでもスマートに読めるのがメリットです。「筋トレは自己投資」という言葉は、サボりがちな私に刺さりました(笑)。

 

【書籍紹介】

ロジカル筋トレ 超合理的に体を変える

著者:清水 忍
発行:幻冬舎

なぜここを鍛えるのか、なぜこのフォームか――あなたは目的に合致したフォームや回数を論理的に考えてトレーニングしているか。たとえば腹筋運動でへそをのぞき込むように上体を起こす人は、肝心の腹直筋を使えていない。あごを引きすぎず、頭と背中のラインを一直線にして上体を起こせば、筋肉によりフォーカスできる。さらに効果を上げたいなら、腹直筋だけではなく、腸腰筋も同時に鍛えられる腹筋運動・シットアップのほうがおすすめだ。わかりやすいイラストと解説が、筋トレ効果を最大限にアップする!

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

『戦争は女の顔をしていない』から『呪術廻戦』まで—— 歴史小説家が選ぶ「ジェンダー」を学ぶ5冊

毎日Twitterで読んだ本の短評をあげ続け、読書量は年間1000冊を超える、新進の歴史小説家・谷津矢車さん。今回のテーマは「ジェンダー」。谷津さんが選んだ硬軟取り混ぜた5冊で、あなたも、この問題にしっかり向き合ってみませんか。

 

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ジェンダーバイアスを巡る話題が、止まらない。連日のように報道される有名人によるミソジニー(女性嫌悪)的な言動、インビジブルな男女間格差、そして、この話題を政治・思想の問題と限定して語る人々……。

 

わたしにも無論、思いや考えはある。とはいえ、わたしは小説家である。小説家であるわたしが何かを発信する時には、テキストで語るのが常。というわけで、今回の選書テーマは「ジェンダー」である。

 

ただ、今回はテーマがセンシティブなため、一つ、注意を述べておきたい。

 

わたしの選書は、あくまで「ジェンダーにまつわる何かがモチーフとなっている」本を取り上げている。主題が別のところにある書籍を選んでいる場合があるが、ジェンダーという論点が、身近なものに含まれていることの裏返しであると捉えて頂ければ幸いである。

 

常に主体的な、新たなエンタメの女性像

まずご紹介するのは漫画から。『呪術廻戦』 (芥見下々・著/集英社・刊) である。本書は言わずと知れた呪術・呪力がモチーフの異能バトル漫画であり、既に社会現象的な人気を博している作品である。今更本書を紹介するのも気が引けるのだが、ジェンダーを巡る本、という視点から眺めると、また違った様相が見えてくる。

 

本作の女性陣の描かれ方は色々だが、常に主体的であり、トロフィーワイフ的な描かれ方はしていない。一番わかりやすいのは、主人公虎杖悠仁(いたどり ゆうじ)の傍にいる釘崎野薔薇(くぎさき のばら)であろう。この登場人物は決して「男たちの帰りを待つ女」ではない。自らの目的の元に戦場に立ち、体を張って戦っている。そんな野薔薇にはいわゆる「女の子っぽいもの」が好きという設定があるが、それすらも、「自分のために」選び取った志向であることが作中で明言され、様々な行動の動機に連動している。そしてジャンプ読者はその野薔薇のあり様を支持しているのである。

 

エンタメにおける女性表象の在り方として、現代的な落ち着き処の一つを体現した漫画であると言えよう。

 

 

「女性の献身」その美談の裏にあるもの

次は歴史小説作品から。『華岡青洲の妻』(有吉佐和子・著/新潮社・刊)である。『悪女について』『紀ノ川』『連舞』などの傑作小説で知られる作家の代表作である。

 

華岡青洲をご存じだろうか。江戸時代後期の医者で、西洋に先んじること40年、全身麻酔「通仙散」の開発、これを使用した乳がんの摘出手術に成功した人物である。華岡青洲には、一つの〝美談〟がある。全身麻酔薬「通仙散」の開発中、動物実験までは上手くいったものの、臨床実験を行なうことが難しかった。これを見かねた青洲の妻と実母が自ら実験台になることを申し出て、臨床データを得ることに成功、その上で「通仙散」の開発にこぎつけたというものである。本書はその〝美談〟をモチーフにしているのだが……。

 

本書で表面的に描かれるのは、女たちの献身、そして、意地の張り合いである。息子・夫のために身を捧げる女の戦いが紙幅の多くを占め、華岡青洲その人の印象はむしろ薄いといってもいい。だが、嫁姑の愛憎の末、作品も終局に至ろうとする場面になって、華岡青洲の存在感がいや増してくる。

 

詳しくは本書に譲るが、女というジェンダーに縛りつけられた女性たちの思いや、エネルギーを収奪することで成立する江戸社会――あるいは現代社会――の姿を告発しているのではないか、とも読めるのである。

 

 

男性もまた、「男らしさ」の檻に囲まれている

さて、次はこちらを。『男らしさの終焉』(グレイソン・ペリー ・著、小磯洋光 ・訳/フィルムアート社・刊)である。

 

本稿をお読みの男性読者の方は、こう考えてはおられないだろうか。ジェンダー問題っていうけど、結局男には関係ない話題なんじゃないの? ジェンダー問題は女性が割を食って男性が得をするシステムだから、男の自分からすれば得だよ、と。そんな思い込みを粉々に粉砕するのが本書である。

 

社会が求める女性像が女性を縛りつけるように、社会が求める男性像もまた、男性を苦しめる面があるのである。

 

男性もまた、「男らしさ」の檻に囲まれている。

男性にとっても、ジェンダーは他人事ではない。

 

もしかすると、男性のあなたが今、生きづらさを感じているとするなら、それは制度化・形式化された男らしさについて行くために必死だからかもしれないのだ。本書は、今ある枠組みを疑う大切さを教えてくれる本でもあろう。実は、わたしが「男性のジェンダー」について考えるきっかけをくれたのが本書である。感謝を込めてご紹介。

 

 

ジェンダーと戦争

次は古典作品を。『戦争は女の顔をしていない』 (スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ ・著、三浦みどり・訳/岩波書店・刊)である。最近漫画化もされている(小梅けいと・作画/KADOKAWA・刊)ので、そちらを手に取っておられる方も多いだろう。

 

本作は、第二次世界大戦中の東部戦線を巡るルポルタージュ作品である。ナチス・ドイツとソビエトとの戦争である東部戦線において、防御に回ったソビエトは、多くの女性を戦争に動員した。工場勤務や後方支援は元より、前線での狙撃任務や破壊活動に当たった女性たちもあった。そうしたひとびとにフォーカスを当てた作品である。

 

本書が剔抉(てっけつ)するものはあまりに多岐に亘っており、一口で述べることは難しい。国家総動員戦争の悲惨さであり、大きなものに蹂躙される小さなものたちの記録であり、苦しい局面にあってもなお存在する人間らしいひとときの輝きであり……。読み返す度に発見がある。

 

だが、本書において強く浮かび上がるモチーフの一つは、やはりジェンダーであろう。現代でこそ払拭が進んでいるとはいえ、軍隊は古今東西、男の園でありつづけた。第二次世界大戦中も、もちろんそうである。そんななかに、女性という異なるジェンダーのグループが入ったらどうなるか――。本書はそんな現場の混乱や困惑、そして戦争遂行という大義と軍内の秩序のために否応なくジェンダーを凍結させられてゆく女性たちを描いているようにも見える。

 

 

「普通」からはずれて生きること

最後にご紹介するのはこちら。『水を縫う』(寺地はるな・著/集英社・刊)である。この著者は「普通であること」「人並み」から外れた人々の群像をモチーフにしてきた作家だが、本作もその一冊で、「普通であること」からちょっと外れた一家の、危うくもしなやかな繋がりを描いた連作短編集である。

 

普通。この二文字ほど危険な言葉はないかもしれない。この言葉の裏には、「正しいとされるロールモデル」が顔をのぞかせる。そしてそれは往々にしてわたしたちの個性とバッティングし、摩擦を起こす。その摩擦熱を駆動力に物語を紡いできたこの著者が、ジェンダーをテーマに取るのは当然の成り行きといえる。

 

本作主人公格である清澄は裁縫を趣味としており、それゆえに「男らしさ」のジェンダーモデルからはみ出している。その姉の水青は過去の体験から「かわいい」という価値観――「女らしさ」のジェンダーモデルに違和感を抱いている。そんな水青のために清澄がウエディングドレスを縫おうというのだから、軋轢が起こらないはずはない。この姉と弟の衝突に、方向性の違う生きづらさを抱えた家族が関わっていくことで、物語は加速していく。やがて、この物語は、異なる生きづらさを抱えた人々がどうやって共生していくのかを描き出しているのだが、その答えは、ぜひ自らの手で確認していただきたい。

 

 

歴史上、ジェンダーは変化してきた。二十一世紀の現代、わたしたちは高度なテクノロジーによって肉体的な性差をある程度埋めることができるようになった。

 

現代を生きるわたしたちは、数世代に亘って既存のジェンダーを疑い、更新してゆく必要があるのだろう。昨日より今日、今日よりも明日がよい日になることを願いながら。

 

 

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【プロフィール】

谷津矢車(やつ・やぐるま)

1986年東京都生まれ。2012年「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞受賞。2013年『洛中洛外画狂伝狩野永徳』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』にて歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。最新作は『小説 西海屋騒動』(二見書房)

SNSから手紙まで「書く」ためのスキルが盛りだくさん!——『暮らしを変える書く力』

あなたは、「書くこと」が好きですか?

 

職業柄「書くこと」ばかりしていますが、改めて聞かれるとオッ……とうろたえてしまう私。読むことは大好きだ! と胸を張って言えますが、毎日さまざまな原稿を書いていると、当たり前になり過ぎてしまい、「答えられない!」と思ってしまいました。

 

暮らしを変える書く力』(一田憲子・著/KADOKAWA・刊)は、各界で活躍している人たちの習慣を紹介する人気雑誌『暮らしのおへそ』の編集ディレクター・一田憲子さんの新刊です。言葉と丁寧に向き合ってきた一田さんの文章には、日々書くことを生業にしている人はもちろん、いつかライターになりたい、PRの仕事で活かしたい、SNSやブログで上手な文章を書きたいと思っている人におすすめできる言葉が、たくさん散りばめられていました。

 

 

文章には2タイプある

一田さんは、編集・ライターのお仕事以外にも「ライター塾」という少人数制の講座も開催されています。その中で最初に伝えているのが、雑誌記事のように「自分を出さずに書く文章」と、エッセイのように「自分を出して書く」2つのタイプがあるということなんだとか。例が紹介されていたので、以下を読み比べてみましょう。

 

自分を出さないで書く場合

東京吉祥寺の駅から徒歩3分。「えっ、ここに?」という雑居ビルの2階に、カフェと洋服の店「コロモチャヤ」があります。オーナーの中臣美香さんは、アパレル業界で働いたのち、ケーキ作りを学んだという方。1枚のシャツと、一皿のケーキが伝える心地よさはきっと同じ。そんな思いで作り上げた店は、中臣さんの歩いてきた道そのもの。手作りのケーキと香り高いお茶でひと休みした後に、明日着ていくシャツを選ぶ。そんな過ごし方ができます。

 

自分を出して書く場合

甘夏のタルトを頼んだら、びっくりするほど大きな器に盛り付けてテーブルに運ばれてきました。その余白の美しいこと! この器を選んだ人のことが知りたくなりました。「コロモチャヤ」は、カフェの横に洋服のセレクトショップがつながっている、「2つでひとつ」の店。オーナーの中臣美香さんは、アパレル業界で働いたのち、ケーキ作りを学んだと聞いて、このお店の形に「なるほど」と思いました。ケーキにも、器にも、シャツにも「コロモチャヤ」らしさが宿っている……。その繊細な視点に触れると心が刺激され、一度訪れるとまた行きたくなるのです。

(『暮らしを変える書く力』より引用)

 

どうですか? どちらも同じ「コロモチャヤ」というお店の紹介文なのに、書く視点が変わるだけでピックアップされる言葉がここまで変わってくるのか! と実感できますよね。

 

私がこのコーナーで書いている文章は、「自分を出して」書いているものがほとんどです。なぜなら、私が「読みたい」と思って読んだ本の中から「これはGetNavi webで紹介したい!」と思った本について書いているからです。これが「PR記事やインタビュー記事を書いてください」という依頼だった場合、自分の感想よりも読者に知ってもらいたい事実・情報を一番に伝えなければいけません。

 

この2つは無意識でやっている人がほとんどかもしれませんが、意識して書き分けることで、あなたの文章力はさらにアップするはず。

 

書くために必要な、インタビュースキルは「黙る」こと

私が高校生のころは雑誌やファンクラブの会報、テレビ・ラジオ番組くらいしかアーティストのプライベートや言葉を読み聞きすることができませんでした。それがいまや、SNSやYouTube番組、ウェブメディアなどにより、たくさんの記事が読めるようになりました。ファンになったアーティストなどの情報を追いきれないほど広がる推しがいのあるいい時代です!

 

追っているファンからすると「推しの知らないところを知りたい」のが本音だと思いますが、たくさんのメディアを追っていると「これはこの前、聞いたな」なんてエピソードの重複が出てくることも。

 

メディア側としては、可能ならその人の未知の部分にスポットを当てて新たな魅力も引き出してあげたい! と思うわけですが、限られた時間の中で、言葉を引き出すために焦って空回りしてしまうことも。私も毎度、反省の日々なのですが、『暮らしを変える書く力』にはこんなことが書かれてありました。

 

ときには、相手が「う〜ん……」と答えに窮することもあります。そんなときは気まずいけれど、とにかく待つ。それは、私の「問い」に対して、相手が真剣に考えてくれているという証拠だからです。

(『暮らしを変える書く力』より引用)

 

ぬお〜! 私は沈黙に耐えきれず「〇〇ですよね?」なんて聞いてしまっていた!! 一田さんはさらにこんなことも続けて書かれていました。

 

こうして「黙った後」に「その人でなければ語ることができない言葉」がやってきます。インタビュー中、手を替え品を替え、あちこちの方向から質問し、このきらりと光る言葉を聞いたとき、「あ、書ける」と思います。「聞く」スキルは、「書く」スキル以上に大切なものだと感じています。

(『暮らしを変える書く力』より引用)

 

猛烈に反省なう! です(笑)。

 

そんな一田さんの「聞く」スキルによって、新たな自分を発見できたと、モデルでバンドCzecho No Republicとしても活躍されているタカハシマイさんとのエピソードで語られていました。その記事はウェブメディア『@Living』で現在も公開されているので、合わせて読むと一田さんの「聞く」スキルを実感できますよ。

 

【参考】
“暮らしの編集者”が見た、清楚とロック、モデルとミュージシャン…「タカハシマイ」の2つの顔

 

本を閉じる時、「あぁ私って書くことも好きだな」と思わせてくれる

他にも紹介したい言葉がたくさんあるのですが、続きはぜひ『暮らしを変える書く力』を読んでみてください。

 

私自身この本を読むまで、「読むことは好きだけれど、書くことは仕事だからなぁ〜」なんて、考えていたのですが、読み終わってみると、自分自身の未熟さを猛烈に反省しながらも、「あぁ私って書くことも好きだな」と感じることができました。

 

「誰かに伝えるための文章を書きたい」と思っている人や、4月から新しい部署に配属になって不安だという人、自分のSNSやブログで思いをたくさんの人に伝えたいと思っている人、現役のライター・編集者、本当にたくさんの人に読んでもらいたい1冊だと思います。

 

書くことが好きな人が増えて、素敵な文章が世の中にいっぱい広がって、心が動くような一文と出会えたらうれしいですよね! 私も誰かにとっての素敵な文章を書ける人になれるよう努力しなきゃと、新年度に気合いが入りました。

 

【書籍紹介】

暮らしを変える書く力

著者:一田憲子
発行:KADOKAWA

会えないときこそ、必要なのは「言葉」だ。『暮らしのおへそ』編集ディレクターが教える新しい時代の文章レッスン。ブログ、メール、SNSや手紙など誰かに自分の言葉を伝えたいときに。

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テクノロジーが発達しても校正・校閲という仕事がなくならない理由

文章を扱う仕事をしていると、「校正」という業務の重要さが身にしみてわかる。

 

通常、商業媒体で文章を公開する場合(紙媒体であれWeb媒体であれ)、ライターが原稿を書いて編集者がその原稿に間違いがないかをチェックする。さらに専門の人が校閲を行うこともある(校閲は校正よりもさらに内容チェックをメインに行う)。

 

つまり、原稿は二重三重にチェックされてから、世に放たれているわけだ。しかし、それでも間違いというものはゼロにはならない。不思議なものだ。

パソコンに頼りっぱなしの原稿執筆

近年では、ほとんどの文章はパソコンを使って書かれている。この原稿も、MacBook AirにインストールしたAtomというテキストエディタに、ジャストシステムの日本語入力システム「ATOK」を使用して書いている。この「ATOK」はなかなか賢く、入力している文章の文脈を認識して、同音異義語などはある程度適切なものを勧めてくれる。

 

また、Microsoft Wordなどのワープロソフトを使えば、日本語の誤用や英単語のスペルミスなどをリアルタイムで教えてくれたりもする。

 

こんな環境に慣れてしまうと、ペンで原稿用紙に原稿を書くのがとても昔のことのように感じる。あのころは、辞書を引いたり類語辞典なども傍らに置き、事実関係を調べるために国会図書館で古い文献をあたったりしたなぁ(まだインターネットもあまり普及してなかった)。

 

何が言いたいかというと、僕は文章を書いてはいるが、その大半をテクノロジーに頼っているということだ。もちろん、自分で考えた文章をキーボードを通じて書いてはいるものの、ひらがなから漢字への変換などはATOKに任せっきり。これでは年々漢字が書けなくなっていくわけだ。

 

とはいえ、テクノロジーの進化のありがたさは感じている。いつもありがとうございます。今後ともよろしく。

 

校正・校閲は人間が行う理由

ただし、校正・校閲に関してはまだまだ人間の能力が必要だ。変換ミスや間違った日本語の使い方、数字の入力ミス、人名の間違い、起きた出来事の事実確認などなど、こういったことはいまだに人間がやらなければならない。だからこそ、校正や校閲を専門に行うスペシャリストがいるのだ。

 

カンマの女王 「ニューヨーカー」校正係のここだけの話』(メアリ・ノリス、有吉宏文・訳/柏書房・刊)は、アメリカで発行されている雑誌『ニューヨーカー』の校正係である著者が記した書。彼女がどうして校正という仕事に就いたのか、そして実際に校正で問題になる「.」(カンマ)や「-」(ハイフン)、代名詞の抱える難しい問題などについて言及されている。

 

当然ながら英語の文章についての校正の話となっているが、日本語でも似たようなことに遭遇することはあるので、文章を書いたり、他人の文章を編集したりする機会が多い人にはおもしろい内容となっている。

 

本書で、彼女がスペルチェック機能について語っている部分がある。スペルチェック機能とは、ワープロソフトなどで英語のスペルを自動的にチェックして、間違いがあればその場で提示してくれる機能だ。これを有効にしておくと、すぐに気付けるのでミスが減る。

 

『ニューヨーカー』でも、すべての文章にどこかの段階でスペルチェックを行っているという。しかし、校正者の仕事はなくならない。それはなぜだろうか?

 

それでもスペルチェック機能が校正者を追いやっていないのは、ヤツは文脈を認識しないので、異形同音異義語(ホモフォン)、すなわち発音が同じでも綴りや意味が異なる語を区別できないからだ。

(『カンマの女王 「ニューヨーカー」校正係のここだけの話』より引用)

 

本文には例として以下のような単語が挙げられている。

 

・peddle(売り歩く)とpedal(ペダルを踏む)

・rye(ライ麦)とwry(顔をしかめる)

・cannon(大砲)とcanon(正典)

・roomy(ゆったりとした)とroomie(ルームメイト)とrheumy(鼻水がたくさん出る)とRumi(名前のルミ)

 

このように、発音が同じで意味が違う英単語は、スペルチェック機能がうまく働かないらしい。このような部分をきっちりフォローできるのは、やはり人間ということになるのだろう。

 

人生の経験がすべて活きてくる仕事

また、彼女はこうも記している。

 

自分の仕事で好きなのは、人となりのすべてが求められるところである。文法、句読点、語法、外国語、文学の知識だけではなく、さまざまな経験、たとえば旅行、ガーデニング、船、歌、配管修理、カトリック信仰、中西部、モッツァレラ、電車のゲーム、ニュージャージーが生きてくる。

(『カンマの女王 「ニューヨーカー」校正係のここだけの話』より引用)

 

特に校閲では、文字や文法の間違いだけではなく、内容に関しても突っ込んでチェックするため、かなり広範囲の知識が必要とされる。そのときに活きてくるのが、担当者の知識量。人生で経験したことがすべて活かせる職業とも言える。そう考えると、人生に無駄なことなどないのではないか。そう思えてくる。

 

まさに縁の下の力持ち

あまり表に出てくる職業ではないが、校正や校閲というのはとても重要な仕事だ。僕だって間接的にかなりお世話になっている。

 

また、僕は編集者として他の人の原稿を校正することもあるので、著者のように自分の今までの人生で経験したことをフル動員して、その原稿をよりよいものにするよう努力しなければならないなと思った次第だ。

 

この原稿に、ミスがないように、もう一度チェックしようと思う。

 

【書籍紹介】

カンマの女王 「ニューヨーカー」校正係のここだけの話

著者: メアリ・ノリス(著)、 有好宏文(訳)
発行:柏書房

校正ー規則と心情のあいだで揺れる、きわめて人間的な仕事。英語の間違い見つけます! アメリカの老舗雑誌『THE NEW YORKER』校正係による、細かすぎてユーモラスな校正エッセイ。

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ロマコメ的な展開がスピードラーニングにつながる!!——『英語が上手くなりたければ恋愛するに限る』

スマホの英語学習アプリにすごく興味があって、さまざまなものをチェックしている。TOEIC対策や会話特化などピンポイントな性格を打ち出したもの、あるいはワンストップショッピング的に総合色を売りにしているもの。どのアプリも、1年くらいのスパンで確実に進化していることが感じられる。

 

英文の響きを脳裏に刻む

今とある本を翻訳していて、これに「1900年代初頭のアメリカ東部特有の言い回し」みたいな文章がちょいちょい出てくる。筆者は電子辞書版のランダムハウスとオンライン英和辞典、英・英辞典、それに同義語辞典など何種類か組み合わせて使っているのだが、どの網目からも漏れてしまう表現があるのも事実だ。

 

こうした表現は文章をそのままコピペしてネットで検索し、意味を類推して訳し、その精度を確かめていくというプロセスが必要だ。このプロセスをより良い形でこなすにはどうしたらいいか。経験則的に言って、触れる文章の絶対量を増やすことだと思う。だから、ありとあらゆるジャンルの英文を可能な限り流し読みして、その響きを“なんとなく”脳裏に刻んでおくことにしている。

 

視覚情報としての文意

これを習慣づけると、読んだ英文のニュアンスを映像化できるようになる。文章を読む時、英語で入ってくる文字情報を日本語にした際の響きを映像として残す。この原稿で紹介する『英語が上手くなりたければ恋愛するに限る』(キャサリン・A・クラフト・著、里中哲彦・編訳/幻冬舎・刊)は、筆者が実践してきたこうした方法論にさらなる要素をトッピングしてくれる英語学習本だ。

 

コンセプトを短く言うなら“英語でする恋バナ”ということになるだろうか。セックスに関する表現も含めた作りは英会話本としての実用性がきわめて高く、他の英会話本との差別化がきっちりとされている。英語を勉強する動機としての引きの強さも十分に感じられる。

 

ロマコメ的な展開で進む英会話本

筆者は、『ラブ・アクチュアリー』とか『ラブソングができるまで』、『ノッティングヒルの恋人』といった、いわゆる「チック・フリック(女子映画)」という言葉で形容されるロマコメ映画が大好きだ。『英語が上手くなりたければ恋愛するに限る』は、このジャンルの映画を見ているような感じで読み進めることができる。文字情報の響きを映像で脳裏に残す感覚も実感できるはずだ。それは、高いストーリー性が感じられる以下のような章立てと無関係ではない。

 

・出会う

・ときめく

・デート

・自分を伝える

・いちゃいちゃする

・夢をはぐくむ

 

本書の基本的な性格は、次のように説明されている。

 

本書では、男女の出会いから別れまで、交際から結婚まで、考えられる状況をリストアップし恋愛のキーワードを交えながら恋愛物語をつくってみました。

『英語が上手くなりたければ恋愛するに限る』より引用

 

ロマコメ好きのおっさんの心は、広がりが感じられるこの一文でがっちりつかまれてしまった。

 

読者の想像力を高める作り

例文はとてもシンプル。ごく自然なフレーズが数多く紹介されていて、そのつみ重ねがリアリティを生み出す。こんな感じだ。

 

1 〔路上で〕あのう、すみません。

Excuse me.

誰かがあなたにこう声をかけてきました。あなたなら、どう反応しますか?

  • Yes?

何でしょう?

この“Yes?”がとっても重要です。あるいはまた、

  • Excuse me. Can I ask you a question?

すみません。ちょっと聞いてもいいですか?

と、尋ねる外国人もいるでしょう。そういった場合は、次のように応じるのが自然です。

  • Sure. What is it?

ええ。何でしょう?

“Sure”というのは、肯定の相づちです。“What is it?”は、〔ワズィイッt〕のように発音します。

『英語が上手くなりたければ恋愛するに限る』より引用

 

まるまる一項目紹介したが、すべての項目がこのくらいのボリュームでまとめられている。それに、kindle版には一切イラストがない。理由を考えてみた。読者一人ひとりが自分なりの映像を思い浮かべられるようにしてあるからではないだろうか。

 

字面を追っているだけなのに、次々といろいろなシーンが浮かんでくる。ひょっとして、この本は英会話学習本としてものすごく画期的な作りなのかもしれない。その根底にあるのは、もう一度言っておくが、シンプルさだ。シンプルがゆえに、字面のボリュームに対して、読み手が能動的に想起する情報量がかなり多くなる。

 

恋も英語の勉強も、シンプルなのが一番

読み進めていく中、80年代にキング・オブ・ラブソングみたいな言い方をされていたライオネル・リッチーの『ハロー』という曲を思い出した。そして『ベストヒットUSA』のMC小林克也さんが、ライオネル・リッチーを「シンプルな表現で深い意味合いを醸し出す」アーティストだと評していたことも思い出した。

 

本書に難しい言葉は一切出てこない。恋する気持ちを表すためには、シンプルな言い方が一番ということなのだろう。そしてシンプルが一番いいっていうことは、英語の勉強にも通じるのかもね。

 

 

【書籍紹介】

英語が上手くなりたければ恋愛するに限る

著者: キャサリン・A・クラフト(著)、 里中哲彦(訳)
発行:幻冬舎

基礎英語よりビジネス英語より確実に語学が上達する方法、それは英語を母語とする恋人を持つことだといわれる。自分の気持ちや願望を正確に相手に伝えたいという思いこそが、言語のスピード・ラーニングにつながるからである。実際に恋人を作らなくとも、本書が紹介する出会いのフレーズや一連のコミュニケーション英会話が自然に口をついて出れば、日常やビジネス・シーンに応用可能な英語力が必ず身につく。「目からウロコ」の画期的な英語学習本。

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配達員がいちばん忙しいのは12月1日。「母の日」は切なくなる?——『リアル宅配便日記…毎日こんなことが起こってます!!』

毎日のように届く宅配便。そして見かけるたびに忙しそうな配達員たち。そんな彼らの日常生活には、思いがけないエピソードもあれこれあるようです。知っているようで知らなかった宅配便事情を調べてみました。

 

宅配便に差し入れしたくなる時

宅配便に限らず、配達員に何か渡したくなる時がありますよね。私は大型のものを運んでもらったり、集荷で手間をかけてしまった時に、ミネラルウォーターやお茶を渡すことがあります。以前は缶コーヒーだったのですが、ある配達員に「コーヒーは飲まないんです」とすまなそう言われてからは、誰でも飲みそうな水かお茶を渡すようになりました。

 

特に暑い夏は、配達員も大汗かいているので、冷えているものを渡します。すると「助かります!」とありがたそうに言ってくれる人もいて、ちょっとうれしくなったり。主婦や在宅ワーカーなど、1日の大半を自宅で過ごす人間にとって、配達員だけが、その日唯一関わった外の世界の人ということも多々あるので、やりとりは重要なイベントなのです。

 

配達員が受け取るさまざまな差し入れ

私の母が配達員に缶コーヒーを渡す人だったので、私も当たり前のように差し入れをしているのですが、他の人たちはしているのか気になっていました。『リアル宅配便日記…毎日こんなことが起こってます!!』(ゆきたこーすけ・著/KADOKAWA・刊)を読むと、配達員がさまざまなものを受け取っていたので、ちょっと安心しました。

 

缶コーヒーやジュースがやはり多いそうですが、「子猫拾ったけどもらってくれない?」などという驚きのエピソードも。配達員はお客様からいろいろと渡されたり、渡そうとされたりしているようです。チョコレートをもらうことが多いのは意外でしたが、疲れた時にはチョコ、と考えている人が多いのでしょうか。

 

宅配便が忙しい時期

インターネット通販の利用が増えるにつれ宅配便の量が増えたそうで、配達員は大変そうですが、1年で一番忙しいのは12月1日だそうです。これは月初の荷物に加え、お歳暮が加わるからなのかもしれません。それから年末にはおせちの配達が大量にあるのだとか。そういえば実家の母も高齢になってからは自分で作らず、おせちの到着を今か今かと楽しみに待つようになりました。

 

せつないのは母の日です。たくさんのお花がこの日に贈られるので、配達員は慎重に届けて回るのですが、喜ばれることばかりではないのです。「あの子ったらちっとも実家に帰ってこないで花だけ送って……」と淋しそうな顔になるお母さんもいるのだとか。そして父の日は母の日ほどは忙しくないのもまたちょっと複雑な気持ちになります。父の日は花以外のものをプレゼントする人が多く、宅配を利用しないのかもしれませんが……。

 

配達員を困らせないために

漫画を読んでいると、どういう時に配達員さんが困るのかがよくわかります。時間に追われる仕事なので、待たせたり、引き留めたりしてはいけません。とはいっても入浴中だったり料理中だったりと、どうにも出るに出られないこともありますが、やはり、できるだけ迅速なやりとりが喜ばれるのは事実。私は寝起きの顔であってもドアを開け、とにかく荷物は受け取るようにしています。

 

また、玄関にサインをするためのボールペンを備え、そのペンを片手にドアを開け、すぐさまサインをするようにもしています。そうするとあっという間に受け取りが完了し、配達員もすぐに移動できるのです。また、着払い便や代引き便が来ると分かっている時は、できるだけちょうどの金額を用意してあらかじめ封筒に入れてておきます。

 

配達員とテンポの良いやりとりができた時には、こちらもいい仕事をこなしたような清々しい気持ちになるものです。ひんぱんに顔を合わせる彼らの日常を、このコミックエッセイでそっと覗いてみてはいかがでしょう。

 

 

【書籍紹介】

 

リアル宅配便日記…毎日こんなことが起こってます!!

著者:ゆきたこーすけ
発行:KADOKAWA

名古屋在住で某有名運送会社の現役ドライバーとして働いている著者が、日々起こるおもしろエピソードを4コママンガで紹介。ほっこりする子供やおじいちゃんおばあちゃん話から
「え、そんな事あるの!?」な配達エピソードまでを4コママンガでたっぷりお届けします!!

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日本のディズニーランドの入園料は安い? 世界との価格差に驚き!~注目の新書紹介~

書評家・卯月鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

 

「安い!」と喜んでばかりはいられない!?

今というわけではなく、もう5~6年前からですが、海外によく行く友人が日本に帰ってきてしみじみ言うのは「日本の外食は安いのに、どこで食べても美味しい!」。ヨーロッパやアメリカ、東南アジアの国々では、日本と同じくらいかそれ以上の値段でも、味とサービスにはかなりバラツキがあるとか。

 

思えば、牛丼300円、ミラノ風ドリア300円、天丼500円、無限にお肉が出てくるしゃぶしゃぶだって2000円ほど。それで店内も綺麗でサービスも行き届いているのだから、考えてみればすごいことです。

しかし、これが一概にいいとは言えないようで……。本書『安いニッポン 「価格」が示す停滞』(中藤 玲・著/日本経済新聞出版・刊)は、そんな安すぎる日本の実態に迫る1冊。

 

著者は、日経新聞の記者・中藤 玲さん。新聞連載をまとめた内容となっています。もともと中藤さんが2019年にソウルで、おみやげ用の韓国食器を買おうと現地のダイソーを訪れたところ、3000ウォン(約280円)や5000ウォン(約470円)だったため、「日本の価格が突出して安くなっているのでは?」という問題意識を抱いたといいます。

 

日本のディズニーランドはかなり割安!?

第1章は「ディズニーもダイソーも世界最安値水準」。海外と日本の価格差の実態とその理由に迫ります。たとえば、ディズニーランドの入園料は日本の8200円(1デーパスポート)に対して、フロリダは約1万4500円。パリは約1万800円、敷地が狭い香港でも約8500円と日本を超えているそうです。

 

ダイソーにしても基本価格はアメリカが約160円、タイは約210円、イスラエルは約320円……。それでも現地では安さと日本ブランドで人気だとか。

 

この価格差は長年続いた日本のデフレが原因。企業が価格転嫁するメカニズムが破壊され、値上げできず儲からないため、賃金も上がらず、結果消費も増えない……という悪循環が続いていると本書は指摘します。

 

第2章「年収1400万円は『低所得』?」もショッキングな内容でした。東京・港区の平均所得はおよそ1200万円。これは私からすれば羨ましい金額ですが、サンフランシスコではなんと「低所得」に分類されるというから絶句……。

 

サンフランシスコに住んでいる日本人経営者への取材が載っていましたが、3ベッドルームあるアパートメント(日本でいうマンション)の家賃は約47万円。食費は宅配費込みで、近所のカフェの朝食(BLサンドイッチ、サラダ、コーラ)3700円、昼食のとんこつラーメンとギョウザ3700円、夕食は日本でもおなじみの「シズラー」のステーキとケーキで6400円と、1日の食費は優に1万円を超えるとか。確かにこれでは年収1200万円でも足りないかもしれません。

 

有名IT企業の本社と隣接するサンフランシスコならではという気もしますが、アメリカ全体で見ても、30代IT人材の平均年収は1200万円以上。日本は30代IT人材は平均年収約520万円……。かなりの差があります。

 

日本型雇用は、年功序列で雇用が安定しているなどいい面もあるのですが、優秀な人材を海外企業に取られて競争力が失われるのが難点。確かに収入差がこれだけはっきりしていると、海外企業に分があるでしょう。

 

第3章「『買われる』ニッポン」では北海道・ニセコへの海外投資やアニメ会社の買収など、日本に流れ込む外資の実態に迫り、第4章「安いニッポンの未来」ではコロナ後の経済を予測しています。

 

もともと新聞記事だったこともあって、取材とデータのバランスが程良く読みやすいのが特徴。普段あまり触れることのない、世界の物価と日本の現状がよくわかります。

 

モノの価格も賃金も企業の価値も安くなってしまったニッポン。グローバル社会になり、日本のいいところは残しながら、世界的な水準も保たなければならない。かなり難しい時代になってきた気がします……といいつつ、100円ショップで「これで100円なの!?」と、かわいい文具やデザインのいい雑貨を嬉々として買っている自分がいます(笑)。

 

【書籍紹介】

安いニッポン 「価格」が示す停滞

著者:中藤玲
発行:日本経済新聞出版

日本のディズニーランドの入園料は実は世界で最安値水準、港区の年平均所得1200万円はサンフランシスコでは「低所得」に当たる…いつしか物価も給与も「安い国」となりつつある日本。30年間の停滞から脱却する糸口はどこにあるのか。掲載と同時にSNSで爆発的な話題を呼んだ日本経済新聞記事をベースに、担当記者が取材を重ね書き下ろした、渾身の新書版。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

災害用伝言ダイヤルの使い方って知ってる? 親子でミッションクリアし「防災スキル」を身につける『防災クエスト』

今年は、東日本大震災から丸10年。そのためか、3月に入ってから地震関連の特別番組や特集が例年よりも多かった。

 

けれども、3月11日が過ぎると、その流れはパタリと止まってしまった。あの日あの時起こったことを思い出し、現在の自分の生活を省みること。防災対策が万全かをチェックすること。これらは、3月11日が終わって4月になっても、夏になって秋になっても、常に意識し続けなくてはいけないのではないだろうか。

 

防災を「ゲーム感覚」で楽しみながら学んでみる

みんな頭ではわかっている。防災が必要なことだと。でも、なんとなく億劫に感じたり、怖いイメージがあったり、何から始めたらいいかわからなかったり。

 

現に、今年2月に実施された「有事(災害時)の備えに関するアンケート(auじぶん銀行株式会社調べ)」では、「9割以上の人が災害への備えが必要だと思っている」にもかかわらず、「実際に災害への備えをしている人は約35%」にとどまっている。

 

少し前の私がそうだった。必要に迫られているのになにかにつけて言い訳をし、なぜか「自分だけは大丈夫」「生き延びられる」と根拠のない自信を胸に日々を過ごしていた。でも、それではダメなのだ。この地震大国に住んでいる限り、いつかはものすごい規模の大地震が起こるだろう。

 

そこでお薦めしたいのが、『防災クエスト』(辻 直美・著/小学館・刊)だ。著者の辻さんは、これまでにも防災に関する本を出しており、どれもわかりやすく実践しやすいものばかり。

特に今回は、防災をRPG(ロールプレイングゲーム)に見立てた漫画で展開されており、辻さんが課すミッションをひとつずつクリアしている仕掛けになっている。子どもでも読みやすい構成が特徴だ。

 

防災ミッションは、全部で13。防災とは何かを知ることから始まり、防災リュックの準備や家の中の防災対策、防災クッキングにチャレンジと少しずつステップアップしていく。そして最終ミッションは、防災キャンプをおこなってそれまでのスキルを実践するというもの。

 

どのミッションも、構えないとできないような難しいものではなく、ゲーム感覚で気軽に挑戦できるのが良い。これなら、週末に家族で楽しみながら実践できる。

 

災害用伝言ダイヤルを子どもと試してみた。

我が家でも、ミッションの中のひとつ「災害用伝言ダイヤルを使ってみよう」にチャレンジしてみた。

 

災害用伝言ダイヤルとは、災害発生直後の電話がつながりにくいとき、安否確認のために利用できる音声の伝言板のこと。自宅電話や携帯電話はもちろん、公衆電話からもかけられる。私自身、その存在は知っていたが実際に使ってみたことがなかった。そもそも、番号も怪しかったくらいだ(正解は171)。

 

毎月1日と15日に体験利用できるというので早速やってみたのだが、意外な問題点が次々と浮き彫りになる事態に!

 

171をダイヤルするとアナウンスが流れるので、特に使い方に困るわけではないが、録音にも再生にも共通の電話番号入力が必要だ。これを誰の携帯番号にするのか、家族で共有しておかねばいけない。また、いつ災害が起こるかわからないので、夫と私が使えるだけではいけない。子どもたちにこそ、電話番号と使い方を覚えておいてもらわなくては。

 

我が家は子どもたちに携帯電話を持たせておらず、家電(いえでん)もない。ということは、もしも子どもだけのときに被災したら、公衆電話を利用することになる。が、3人の子どもたちに聞くと、公衆電話自体がピンとこない様子。「緑色の電話でね」と説明するも、私自身、近所のどこに公衆電話があったかうろ覚えだ。災害用伝言ダイヤルはお金を入れなくても使えるようだが、そもそもの使い方から教えなくては。

 

せっかくありがたいツールがあっても、利用できなければ意味がない。そして、これらの問題点は、実際に使ってみたからこそわかったこと。ぜひ一度家族で実践してみてほしい。

 

災害は怖い。でも、防災をおもしろがろう。

辻さんは、本書を通じて私たちにこう訴えかける。

 

「災害は怖いけど、防災はおもしろい」

 

『防災クエスト』は、まさに防災を楽しみながら取り組むためにうってつけの一冊だ。まずは、読んでみる。そして、書かれていることを試してみる。

 

我が家は今度の週末、近所を歩きながら公衆電話を探してみようと思っている。ハザードマップを見ながら、家の周りの危険の確認も。子どもと散歩がてらおこなえば、楽しみながら防災に取り組むことができそうだ。目指せ、ミッション全クリア!

 

 

【書籍紹介】

防災クエスト

著者:辻 直美
発行:小学館

本書は、子育て家族のための防災の本です。防災をRPG(ロールプレイングゲーム)に見立て、家族みんなで楽しみながら防災スキルを身につけられる構成になっています。

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人生100年時代を元気に過ごすために、今日からできる栄養管理術『その不調、栄養不足が原因です』

「最近、全然痩せなくて〜」がリアルになってしまった30代後半。 もう余るほどダイエット知識は頭に入っているのですが、痩せないのです!! さらに困ったのは、不調。集中力が続かない、なんか眠い、いつもダルい、そんな毎日を過ごしているわけですが、100歳を過ぎたおばあちゃんが聖火ランナーとして走っているニュースを見ると、驚きよりも自分が情けなく感じてしまうのです(笑)。

 

何が原因なのかわからずにモヤモヤしていた時に読んだ『その不調、栄養不足が原因です』(佐藤智春・著/主婦の友社・刊)には、私の不調の原因を丸っと解決できることが書かれてありました。そう、私、糖質をとり過ぎていたのです!

 

まずは自分のタイプを知ろう!

『その不調、栄養不足が原因です』では、「ふらふら鉄欠乏タイプ」「カリカリホルモン不安定タイプ」「イタイタ関節痛タイプ」「ぷよぷよ低血糖タイプ」「ぶーぶー不調(腸)タイプ」と、女性に多い不調タイプを5つに分類。どのタイプに近いかがわかるチェックリストが掲載されています。診断の結果、私は「ぷよぷよ低血糖タイプ」でした。

 

パンやお菓子が大好きで、急にエネルギー切れや集中力の低下が起こりがち。バッグには即効性の高いチョコレートが欠かせない(それ、ドーピングよ!)。そんな糖質過多な食生活を送る人が、このタイプ。血糖値の乱高下によって低血糖状態に陥ると、自律神経にも影響が出て、さらには肥満ホルモンも分泌され、脂肪をため込みやすくなるデメリットも。

(『その不調、栄養不足が原因です』より引用)

 

確かに、学生のころから朝は甘いパンもしくは食べない、仕事中にもあま〜いお菓子が手放せない、エネルギーが切れた時はレッドブルで無理やり再起動させていました……。

 

今、健康的な夕食に変更し、たまに運動をして誤魔化しても、15年以上の蓄積が今ど〜んときているわけか……。そりゃ不調にもなるわ、と納得できました。ごめんよ、私のボディ……。自分がどのタイプか気になる方は『その不調、栄養不足が原因です』でタイプ診断をしてみてくださいね。

 

タイプごとに必要な栄養は異なってくる?

「たまねぎがいい!」「大豆がいい!」「青魚がいい!」などなど、メディアでは健康に良いとされているものを単品で紹介することが増えていますが、全人類に「いい!」わけではないのも、私たちは理解できるようになってきました。「いい!」と言われたものだけを取り入れるのではなく、自分の体の状態に合わせて、必要な栄養素を補うことが大切です。

 

例えば、私の場合は「ぷよぷよ低血糖タイプ」なので、ポイントとなってくるのは「糖質」です。

 

糖質のとりすぎは、低血糖症状を引き起こす原因になります。食事をとると、通常は1時間ほどで血糖値がピークまで上がり、その後3〜4時間かけてゆっくりと下がります。糖質の種類によっては血糖値が乱高下し、急激に下がるときに起こるのが低血糖症状です。現代は糖質を含む食品が多く、日常的に糖質過多の人が増えており、不調の原因が糖質と気づかず、糖質を多くとりつづける人も少なくありません。

(『その不調、栄養不足が原因です』より引用)

 

こうなってくると「食べない!」という方向に行きがちなのですが、そうではなく、大事なのは糖質の選び方なのだとか。例えば、うどんを食べるならそばに、バナナジュースを飲むならオレンジジュースに、食パンを全粒粉パンに変えるなどなど、GI値を意識した食生活に変えていくと不調が薄れていくかもしれないとのこと。

 

他にも「ふらふら鉄欠乏」でいつも目の下にクマがあるのよ……と悩んでいる人は、鉄分に加えてタンパク質&ビタミンCを取るといいとか、イライラしたり汗をかきやすい「カリカリホルモン不安定タイプ」なら味噌汁がいいとか、なるほどと思いながら読むことができます。

 

とりあえず「ぷよぷよ低血糖タイプ」の私は、日常的に食べているチョコレートを低糖質な商品に変えてみようと思います。

 

どのタイプにも「たんぱく質」は不足しがちな栄養素

健康に関する情報を収集している方は存じかもしれませんが、近年問題視されているのが「現代型栄養失調」。これは、現代人に共通していることで、生きるために必要なエネルギー量は足りていても、たんぱく質やビタミン・ミネラルが不足している状態を言います。

 

栄養素をひとつひとつ確認しながら食事をする人はなかなかいないと思います。でも、無意識にとりあえず「食べている」ことで、栄養素が偏り、本来起こるはずのなかった不調が出てくる場合もあるそうです。

 

人生100年時代に突入し、元気に長生きしなければいけない時代になってきました。自分のためにも、そして周りの家族のためにも元気で長生きできるようにしたいものですね。

 

『その不調、栄養不足が原因です』には、健康診断の血液検査でチェックすべき項目や、40〜50代の女性が気になる閉経前後の体調変化、健康診断のポイントなどが詳しく書かれてあります。健康に関する知識は正しいものを実践してはじめてみになるもの。ぜひ正しい知識を実践して、元気に過ごして行きましょう!

 

 

【書籍紹介】

その不調、栄養不足が原因です

著者:佐藤智春
発行:主婦の友社

だるい、疲れる、やる気が出ない、節々が痛い……。毎月の生理で血(鉄)を失い、女性ホルモンに翻弄される女性は、さまざまな心身の不調に悩まされます。不調の多くは栄養不足が原因です。不調は大きく5つのタイプに分かれます。自分自身の不調のタイプを知り、日々の食事に足りない栄養素を補うことはとても大事! すぐできることから始めて、自分の健康は自分で守りましょう。

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いつかくる「介護」のために知っておくべきこと『親の介護をする前に読む本』

25年前の夏、私は実家の母を喪った。7年もの間、闘病していたのだから、覚悟はできているはずだった。それなのに、病院からの知らせを受けたとき、ひたすらびっくりしている自分に、これまたびっくりした。母が亡くなるなんて考えていなかったのだ。いや、正確に言えば、考えたくなかったので、考えないようにしていた。病院にお見舞いには行ってはいたけれど、最期の日がくるなんてことは許さない、という感じだった。もし、あのとき『親の介護をする前に読む本』(東田 勉・著/講談社・刊)を読んでいたら、弱っていく母にもう少しましな態度で接することができただろう。後悔しても遅いけれど、後悔せずにはいられない。

介護家族のための入門書

『親の介護をする前に読む本』は、介護をする家族のために書かれた入門書だ。著者の東田 勉は、コピーライターとして制作会社に勤務した後、フリーライターに転身し、介護雑誌の編集を担当していたという。それだけに、介護現場に詳しく、情緒におぼれることなく、はっきりした態度で介護や認知症の問題を示してくれる。

 

人間には健康寿命というものがあります。制限なく健康な日常生活を送ることができる期間を示す健康寿命は、女性74.21歳、男性71.19歳(2013年)で、平均寿命との差は女性が12.84年、男性が9.6年もあるのです。

(『親の介護をする前に読む本』より抜粋)

 

つまりこの統計からすると、私たちは健康寿命が終わった後に、かなり長い時間を健康とは言えない体で生きていかねばならない。それはすなわち、介護を受けながら暮らす毎日につながる。義父や両親の晩年を振り返ってみると、10年近くは何らかの形で周囲の助けを必要としていた。もうびっくりしている場合ではない。さすがの私もこの事態を重く受け止めなくてはいけないと思うようになった。逃げようとしても逃げ切れない。それが介護というものだろう。

 

実際、何も準備しないで立ち向かえるほど介護は甘くありません。「いつか身に降りかかるにしても、イヤなことは考えたくないから後回しにしよう」と思考停止に陥るのは危険です。

(『親の介護をする前に読む本』より抜粋)

 

やはり、何らかの準備が必要なのだ。家族を守るために、たとえ目を背けたくなっても、知識を得ておかなくては……。

 

『親の介護をする前に読む本』は、「介護とは何か?」から始まり、「介護施設を利用する際に知っておくこと」「お金の問題」「介護保険をどうやって使いこなすか」を教えてくれる。さらには、「寝たきりになるのを防ぐにはどうしたらいいのか」など、介護が始まったら避けては通れないことが網羅してある。おかげで、昨年の秋に義母が骨折したときは、必要以上にあわてないでいられたと思う。

 

寝たきりを防ぐための7か条

どの項目が自分にあてはまるのかは、実際に介護が始まってみないとわからない。けれども、前もってうっすらとでも理解していると、介護するときも、自分が介護される時も、スタートラインの場所が違う。『親の介護をする前に読む本』をあらかじめ読んでおくと、介護保険の使い方や介護施設のこと、さらには入院が高齢者に何をもたらすかについて、心の準備ができる。何もわからないままでいると、パニック状態に陥り、酸欠の金魚のように、はぁはぁしてしまうだろう。

 

私には、第七章が非常に参考になった。ここでは、寝たきりにならないために守るべき7か条が取り上げられている。退院して自宅に戻った義母が、なんとか口から物を食べるようになったのは、周囲の配慮もさることながら、7か条を守ろうと皆で努力したのが良かったのだと思う。

 

では、その7か条について、簡単に説明したい。

 

①廃用症候群の怖さを知る

廃用症候群とは、「入院などで心身の活動性が低下したために起こる二次的障害の総称」のことだ。たとえば骨折して入院した場合、手術や治療を経て、怪我は治ったとしても、術後のリハビリテーションがうまくいかず、そのまま寝たきりになってしまうことがある。高齢者によく起きる症状だ。それを避けるために、患者が本人の力で生活していくことができるよう、見守りの姿勢が大事だ。

 

②なるべく座った姿勢を保つ

ベッドに寝てばかりいると、床ずれができ、血圧の調節がうまくいかなくなり、筋力も低下していく。しかし、介護する側からすると、寝ていてくれると、安心してしまうところがある。転倒の危険も防げるし、手もかからない。しかし、そこに落とし穴がある。結果的に寝たきりを作ってしまうことになるからだ。

 

③低栄養にならないように気をつける

高齢者が気をつけるべきなのは、栄養状態を悪くしないよう気を配ることだ。食が細くなっている場合は、蛋白質をたくさんとるように、意識的に配慮しなければならない。

 

④口でかむことで脳を賦活させる

口でかむことは、脳の前頭前野にとって大切な行為だ。よくかむことで、意欲をアップさせられる。

 

⑤口腔ケアをしっかり行い、肺炎を予防する

口の中を清潔に保つことは、肺炎の予防につながる。さらに、口周囲のマッサージをすることによって、嚥下障害を防げる。

 

⑥できることは何でも自分でする

口から食べ、トイレで排泄し、お風呂に入る。こうした日常生活を送ることが、何よりも大切。その人らしく生きてもらう手助けをすることが大切だ。

 

⑦関わりのもつ力を大切にする

人間は健康なときから、人と交流する中でお互いに元気をもらっている。年をとったらなおさら、仲間との触れあいを大事にしなければならない。介護者はそうした場を提供するように助けるべきだ。

 

最後にすべきこと

『親の介護をする前に読む本』の最終章となる第九章には、終末期の医療が取り上げられている。幸い介護がうまくいったとしても、最後には嫌でもしなくてはならない選択が待っている。それは「口から食べられなくなったら、どうするか」という問題だ。私も何度かそういう場面に立たされたので、この章は胸に迫った。

 

栄養がとれなくなり、水も飲めなくなった肉親を前に、「点滴はやめてください」とか「胃瘻は駄目です」、「このままでいいんです」と言い切るのは勇気が必要だ。実際にそういう場面にぶち当たってみると、思わずたじろぐ。しかし、家族が「チューブだらけの体は嫌だ」と言っていたことを思い出すと、やはり言わねばと悩み、胸がつぶれそうになる。結局、「先生におまかせします」と言いながら、何とかして逃げだしたくなる。けれども、家族に穏やかな死を迎えて欲しいと願うなら、介護者にも相当の覚悟が必要だ。

 

終末期のお年寄りを看取るために、あらかじめ考えておくべき3つのポイントがあるという。

 

①経管栄養にするか、それとも口から食べることにこだわるか

②いざというとき救急車を呼ぶのか、呼ばないのか。つまり延命措置の有無。

③救急車を呼ばない場合、そのまま亡くなることもあると納得できるか

 

家族にこうした質問をするのは辛い。しかし、避けては通れない関門だ。できることなら、介護する家族に問う前に、自分自身に聞いて、答えを出しておきたい。やがては自分にもふりかかる決定だからだ。

 

『親の介護をする前に読む本』は、介護者のために書かれた入門書だ。しかし、一方で、自分がどうやって死にたいかを決める指南書にもなっていると、私は思う。

 

【書籍紹介】

親の介護をする前に読む本

著者:東田 勉
発行:講談社

優良施設を見分ける方法。介護離職を避けるには。実際にかかる介護費用は? 介護保険活用の裏ワザ。平穏死を迎えるために家族がやってはいけないこと。医者が教えてくれない「恐怖の認知症治療」。-ありそうでなかった介護家族のための入門書。

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村山由佳さんと愛猫・もみじの17年の絆が胸を打つ−−『猫がいなけりゃ息もできない』

作家・村山由佳さんは4匹の猫と暮らしている。オスのメインクーンの・銀次、オスのラグドール・青磁、オスの黒のハチワレ・サスケ、そしてメスの三毛・楓。じつは、もう1匹、3年前に天に召された特別な猫がいた。それがメスの三毛・もみじだ。17年と10か月間共に人生を歩んできた盟友だった。

 

猫がいなけりゃ息もできない』(村山由佳・著/ホーム社・刊)は、もみじが病に冒され、残された時を慈しむように送り、そして看取るまでの日々を綴ったもので、WEB連載時から猫好きたちの間で大反響となったエッセイだ。

 

猫だって家ではなく、人につく

ものごころつくころにはすでに家に猫がいて、何匹もの猫を飼ってきた村山さんだが、中でも”もみじ”は特別な存在だったという。旦那さん一号と暮らしていた房総・鴨川の家を村山さんはある日突然ひとり飛び出した。都内に棲家を見つけるまでの1か月間はやむを得なく、もみじと離れ離れになった。

 

何しろ、生まれ落ちた時に私が取り上げ、私なしには夜も日も明けない子だったから、いきなりの不在はとんでもなく寂しかったのだろう。迎えに行くと、顔を見るなり足もとから胸まで爪を立ててよじのぼり、それきりどれだけなだめても、引き剥がそうとしても、しがみついて離れようとしなかった。(中略)誰かにそこまで切実に帰りを待たれたのも、そんなに強く求められたのも、生まれて初めてのことだった。

(『猫がいなけりゃ息もできない』から引用)

 

もみじの分離不安はその後も変わらず、村山さんが机に向かって仕事をしている間中、彼女は村山さんの膝の上にうずくまり、ときどき顔を向けてひたむきに見つめてきたそうだ。

 

犬は人につき猫は家につく、とよく言われるが、猫だって飼い主が大好きで、やっぱり人につくのだと思う。

 

もみじが、癌!

村山さんともみじは、その後も転機と転居を重ね、軽井沢に終の棲家を見つけることとなった。愛猫たちとの穏やかで輝くような毎日。しかし、ある日、もみじが癌におかされていることが発覚。口に違和感があったようで、前足で口の横をこすっては首を振ったり、ギシギシと歯ぎしりをしていたので獣医師に診てもらった。すると腫瘤が見つかり、病理検査の結果、扁平上皮癌であることがわかった。この病にかかった猫の平均余命は3か月、村山さんは衝撃を受け、ひとしきり泣いたあとで決意する。

 

せめてここから先の一日一日を、彼女にとってできるだけ心地よいものにしてやりたい。(中略)病気という運命はゆるやかに受け容れつつ、生きる気力や体力を保つためにできることを手助けする。食いしん坊の彼女が、できるだけどこも痛まない状態で好物の缶詰やカリカリを食べられる状態を保てるように、口の中の腫れ物が大きくなった時だけ先生に切除してもらい、症状に応じたお薬を最低限処方してもらって、あとは、もみじ自身の意思に任せる

(『猫がいなけりゃ息もできない』から引用)

 

その後、もみじは12回もの手術を受け、3か月をはるかに超えて元気に生き続けたのだ。

 

人間の言葉は動物にも通じている

言葉が通じていると思いたいのは人間のほうだけで、動物はせいぜい声のトーンで判断しているに過ぎないという意見が多い。けれども、もみじに関してはこちらの言葉がわかっている、そうとしか思えないと感じることがたくさんあったそうだ。

 

村山さんの現在のパートナーに「とーちゃんは今忙しいからな、かーちゃんの膝へ行っとけ」と言われればその通りに動く。「お風呂に入るよ来る?」と訊けば、いそいそと先に風呂場に直行。「もみじさんはほーんまに美人さんやねえ」と褒めれば鼻面をつんと上げて横を向く。などなど偶然にしてはいつもいつもそうだったのだという。

 

親ばかと笑うなかれ。何しろ十七年間もずっと一緒にいて、朝昼晩ひっきりなしに話しかけてきたのだ。言葉、というものの捉え方は人間と違うかもしれないけれど、意味については、かなりのところまで理解していて当然なんじゃないか。おそらくは、こちらが思っているよりもはるかに正確にわかっていて、ただ口や舌の形状が人の言葉を発音するようにはできていないから喋れないだけなんじゃないか。というか。私たちのほうこそ、彼らの伝えようとしていることを百分の一もわかっていないんじゃないか。そんなふうにさえ思う。

(『猫がいなけりゃ息もできない』から引用)

 

もみじの言いぶん

もしかしたら18歳の誕生日を迎えられるかも……、村山さんはそう願ったが、もみじは永遠のセブンティーンのまま家族に看取られ旅立った。

 

本書の巻末には、ネコだから喋ることができないもみじに代わって、村山さんが”もみじの言いぶん”を記しているので、その一部を抜粋してみよう。

 

いま、かーちゃんは、うち以上に愛せる猫なんかおるわけない、て思てるはずや。うちが一生でいちばんやった、て。うちにそのまんま生まれ変わってきて欲しい、て。(中略)せやけどな。いつかもし、縁あって次のコを迎えることになった時は、うちの代わりやのうて、そのコとして可愛がったって欲しいねん。(中略)なんでってそれは、この世に、うちとおなじくらい幸せな猫が一匹増えた、というこっちゃねんから。そのことを、忘れんといてな。

(『猫がいなけりゃ息もできない』から引用)

 

きっと、飼い主に心から愛されて天寿を全うした猫たちはみな、こんなふうに思っているのかもしれない。

 

現在、猫を飼っているひとだけでなく、これから猫を飼いたいと考えている方もこの”もみじの物語”をぜひ読んでほしいと思う。

 

【書籍紹介】

猫がいなけりゃ息もできない

著者:村山由佳
発行:ホーム社

房総・鴨川での暮らしを飛び出して約十五年。度重なる転機と転居を経て、軽井沢に終の住まいを見つけた著者。当初二匹だった猫は、気づけば五匹に。中でも特別なのは、人生の荒波をともに渡ってきた盟友“もみじ”、十七歳ー。大反響のWEB連載が、読者の熱望を受けついに書籍化! 愛猫とのさいごの一年。リアルタイムで綴られた奇跡のエッセイ。

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ガラスに包まれた微生物、メデューサ型の古細菌……微生物たちの美しくも恐ろしい生き方~注目の新書紹介~

書評家・卯月鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

 

京大の微生物研究者が語るミクロの驚異

昔の悪口って面白いものも多かったですよね。「おたんこなす」とか「すっとこどっこい」とか「おまえの母ちゃんでべそ」とか(笑)。今回の新書を読んで、そういえば「単細胞」って悪口もあったなと思い出しました。

単純な人をからかう言葉ですが、この「単細胞」が実はすごいとわかるのが『京大式 へんな生き物の授業』(神川龍馬・著/朝日新聞出版・刊)。単一の細胞にとてつもない秘密がギッシリでした。

 

著者は京都大学農学部の准教授で、単細胞の「真核生物」を研究する神川龍馬さん。語り口はソフトでさらっと読めて、そのうえで内容はしっかりと骨太。ミクロの世界にひしめく住民たちの生存戦略が明かされます。

 

ガラスの箱を持つ海のシンデレラ

第1章「人間はわりとカビに近い―微生物と人間と進化」で微生物の分類を教わったあと、第2章「他力本願ですが何か?」では共生・寄生する微生物たちのたくましい姿が語られます。

 

人間は単体で生きているわけではなく、腸内や皮膚にはさまざまな細菌・真菌などの微生物がいて、代謝や免疫の機能を助けてくれています。これは他の生物も同じ。

 

ウシの胃のなかには草を発酵させてウシが消化しやすくする微生物が大量に存在しているのです。彼らは一生懸命働いて草を分解しますが、最後は草と一緒に消化されてしまう「ブラック企業とそこで働く人々のような悲しい関係」だとか。それでも一部は生き残り、種をつないでいくという生存戦略。過酷な職場ですね……。

 

第3章「ミクロの世界は失敗だらけ」以降は、テーマに沿った「へんな」微生物が続々登場します。海で光合成する珪藻は、6500万年前の隕石衝突で他の生物が大量絶滅するなか生き残り、酸素を生成することで今に至るまで地球の環境を支えています。

 

珪藻の特徴はなんといっても「ガラスの殻」。ナノスケールでの装飾が施された美しいガラスの箱に包まれた珪藻は、多くの学者を魅了してやまない“海のシンデレラ”。モノクロで小さな写真が掲載されていますが、この生きるガラスの芸術品をもっとじっくり見てみたいところですね。

 

ファンタジー好きの私には、北欧神話に登場する悪神の名を冠した「ロキ古細菌」にもぐっと来ました。北極海の深海にある熱水が湧き出す場所、通称「ロキの城」で発見された古細菌。ロキ古細菌はひとつの細胞なのに本体からギリシア神話の怪物・メドゥーサのように触手がうねうねと伸びた衝撃的な姿。神話の世界にふさわしい微生物かもしれません。

 

ほかにも、細胞内の小部屋からまるでミサイルのような道具を発射して他の生物の細胞に侵入するマラリア原虫、単細胞ながら性がある眠り病の原因生物「トリパノソーマ・ブルセイ」など、個性豊かな微生物ばかり。こうした微生物と共存することで私たち人間の命もまた成り立っていることがわかります。「多様性のある社会を目指す」とよく言われますが、ミクロの世界ではすでに実現していました。

 

【書籍紹介】

京大式 へんな生き物の授業

著者:神川龍馬
発行:朝日新聞出版

微生物の生存戦略は、かくもカオスだった! 光合成をやめて寄生虫になった者、細胞から武器を発射する者……。ヘンなやつら、ズルいやつらのオンパレードだ。京大の新進気鋭の研究者が書く、時にずるくしたたかに見える、偶然と驚きに満ちたミクロの世界の生存戦略。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

都心から6時間で楽しめる、ゆるゆる登山のススメ——『東京発 半日ゆるゆる登山』

春の便りが聞こえてくる今日このごろ。今年は少し運動をしたい、外の空気を吸いたい、と思っている人もいらっしゃいますよね。まだまだ遠出するのも厳しい日々が続きますが、感染対策をしっかりしつつ、半日ゆるゆる登山に出かけてみるのはいかがでしょうか? 今回は、なまってしまった体を起こすのにちょうどいい『東京発 半日ゆるゆる登山』(石丸哲也・著/山と渓谷社・刊)をご紹介します。

 

登山ってそんな簡単にできるものなの?

登山やアウトドアという言葉を聞くとギョエッ! とNG反応を起こしてしまう私の体ですが、『東京発 半日ゆるゆる登山』を読むと、不思議と行ってみたい気持ちになってきます。JR山手線の駅から出発して、半日でおさまる50コースが季節ごとに紹介されていて、高尾山くらいしか知らなかった私は、関東にはこんな魅力的な山々があるのかー! と驚くばかり。大きなリュックや登山グッズを揃えなくても、文字通り「ゆるゆる」楽しめるスポットがたくさん掲載されているのです。

 

また、『東京発 半日ゆるゆる登山』には、

 

・歩行時間、歩行距離
・標高
・アクセス(往復時間と運賃)
・適期
・モデルコース
・立ち寄りスポット

 

など、登山をしたことがない人でも安心なアドバイスがたくさん記載されているため、「ルート内に温泉あるの!?」とか「品川駅から2000円以内で行けるならいいね」とか自分で想像しながらプランを組み立てられるのも魅力です。

 

おすすめの季節ごとに紹介されているので、今週はここ、来週はあそこと本に沿って行ってみるだけでも十分に楽しめる一冊になっています。

 

4月1週目におすすめなのは「関東の吉野山」こと蓑山(みのやま)

『東京発 半日ゆるゆる登山』では、実際に著者の石丸さんが現地に赴き、「このルートで巡ったよ」という最寄り駅からのルート地図と共にその山の魅力がたっぷりと紹介されています。4月1週目におすすめなのが関東の吉野山と称される、埼玉県の蓑山。池袋駅から秩父鉄道の親鼻駅まで電車に揺られて1時間45分、そこから約1時間半歩いて蓑山へ到着します。

 

秩父鉄道が走る秩父周辺の荒川沿いは、手ごろな低山の宝庫で、蓑山もそのひとつです。他の山々は連なって、小規模な山脈状になっていますが、蓑山は少し離れて頭をもたげ、独立峰とも形容されます。全体的になだらかで、動物がうずくまったような趣。その平坦な山頂部に美の山公園が広がっています。埼玉県に桜の名所をつくろうと、10年がかりで桜を植え、1979年(昭和54年)に開園。全山で8000本が植えられているそうです。

(『東京発 半日ゆるゆる登山』より引用)

 

お弁当片手に、展望台で桜を眺めるなんて素敵ですよね。現在、埼玉県の「美の山公園」のウェブサイトに「宴会自粛のお願い」が出ているので、みんなでゾロゾロと遊びには行けませんが、感染対策をしっかりして混雑時を避ければ意外とのんびり過ごせる場所かもしれません。

 

途中には道の駅、すこし横道に入れば日帰り温泉もあり、蓑山に行って帰るだけなら半日ですが、1日ゆっくり過ごすプランも考えられそうです。

 

また、4月上旬は桜ですが、5月中旬はヤマツツジ、7月にはアジサイ、8月中旬〜10月上旬まではブドウ狩りも楽しめるとのことなので、季節を問わず「行きたい」と思ったその時に足を運べば、蓑山を堪能できること間違いなし! こんな時期なので、事前情報を調べてから行くようにしましょうね。

 

東京23区で一番高い山「箱根山」

メディアなどにも取り上げられている有名な場所なので、すでにご存知の方も多いかもしれませんが、東京23区内にも山があるのです! それが、標高44.6メートルの「箱根山」。23区で一番高い山として登録されています。ちなみに、箱根山がある戸山公園サービスセンターに行くと登頂証明書も発行してもらえるのだとか。

 

『東京発 半日ゆるゆる登山』では10月4週がおすすめとして紹介されていましたが、季節問わず楽しめる場所なので、仕事前の登山、お昼休みの登山、残業帰りの登山など都心で心を癒すスポットとして活用するのも良いかもしれませんね。

 

まだまだ油断はできませんが、少しずつ日常を取り戻そうしている昨今。春の陽気に誘われつつ、近場で楽しめるスポットを『東京発 半日ゆるゆる登山』から探してみましょう!

 

【書籍紹介】

東京発 半日ゆるゆる登山

著者:石丸哲也
発行:山と渓谷社

寝坊したから、時間がないから、とせっかくの休日に山をあきらめるのはもったいない。そこで東京都心のターミナル駅を起点に、半日のうちに行って歩いて登って安全に帰ってこられるコースをベストシーズンごとにセレクトしました。首都圏の奥多摩、高尾、奥武蔵などの山地から多摩や鎌倉の丘陵や里山、都心部の超々低山まで、花や歴史、味などの楽しみをあわせて案内します。

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脳も再生可能!? 実は賢いナメクジの秘密に迫る—『考えるナメクジ—人間をしのぐ脅威の脳機能』

雨が降った後、ちらほら目にするナメクジ。カタツムリと似たような生きものだが、カタツムリほど愛されてはいない。塩をかけると溶けてなくなるのは有名だ(実際に溶けているわけではないが)。

 

ナメクジは、野菜などを食べてしまう害虫としてあまり好かれている生きものではないが(カタツムリも同じように野菜を食べるが、なぜかこちらはあまり害虫扱いされない)、実はかなり頭のいい生きもののようだ。

ナメクジのここがすごい!

考えるナメクジ—人間をしのぐ脅威の脳機能』(松尾亮太・著/さくら舎・刊)は、世界でもそれほど数多くないナメクジの脳研究を行っている著者が、その驚くべき脳機能について解説している書だ。いったいどんなところがすごいのか。本書からそのすごいところを抜粋するとこんな感じだ。

 

●脳や触覚は破壊・切断されたまま放置されてもひとりでに再生
●学習能力がある
●食べた分だけ身体が大きくなり、大きくなった個体は小さくなることはない

 

これらがどうすごいのか。本書を頼りに簡単に説明していこう。

 

脳や触覚は再生可能

まず脳や触覚の再生能力について。身体が切断されても再生する生きものはそれなりにいるが、ナメクジの再生能力もかなり高い。

 

たとえば、ナメクジの脳にある「前脳葉」という、記憶を司る部分がある。ナメクジの脳は約1.5mm角。その大部分を占めるのが前脳葉だ。ここを破壊すると数週間から1か月で前脳葉が再生される。この前脳葉は記憶のほかに、嗅覚も担当している。視覚があまり発達していないナメクジは、嗅覚が命綱。前脳葉が破壊されてしまうと、それこそ生死に関わる。そのためか、ものすごいスピードで前脳葉が再生されるようだ。ただし、記憶はリセットされてしまう。

 

触覚に関しても同様。ナメクジには頭部に大小4本の触覚があるが、ここで嗅覚を感じている。この触覚を切断しても再生される。やはり嗅覚に関する部分のため、随時再生されるのだ。

 

学習能力がある

ナメクジはただぼんやり生きているわけではない。実は学習能力がある。たとえば、ナメクジに初めてマッシュルームを食べさせるときに、同時に二酸化炭素を吹きかけると、それ以降数週間にわたりマッシュルームを食べなくなる。つまり、「マッシュルームを食べようとすると二酸化炭素を吸わされる」ということを学習するのだ。これを「連合学習」という。

 

しかも、その学習は数週間は記憶される。さっきどこかに置いたスマホが見当たらなくて家中探しまくる筆者よりも賢いかもしれない。

 

なお、連合学習だけではなく「論理学習」も行える。論理学習とは「A=B、B=CならA=C」というような二次条件づけや、ブロッキングと呼ばれる学習もできるとのこと。簡単に言えば、「パブロフの犬」のようなことがナメクジでも可能というわけだ。

 

ただし、前述のように脳を損傷して再生すると、その記憶は消えてしまうとのこと。脳が再生するというのは素晴らしい能力だが、記憶が消えてしまうという弱点もある。

 

食べれば食べるほど身体が大きくなる

ナメクジは、餌を与えたら与えた分だけ食べてしまう性質がある。そのため、餌をたくさん与え続けると身体がどんどん大きくなる。しかも、大きくなった個体は餌を与えなくても身体が小さくなることがない。人間ならダイエットすれば痩せるが、ナメクジはダイエットには向いてない生きもののようだ。

 

実は、この「身体が無限に大きくなる」というのは、生存戦略的に重要なポイント。ナメクジは雌雄同体で、個体同士で精子を交換して、体内の卵子と受精させていつでも卵を産むことができる。身体が大きい個体は一度に数十個の卵を産むが、小さな個体は1から数個。つまり、身体が大きいほうが子孫を残すという点においては断然有利なのだ。

 

ナメクジ研究者はかなりレアな生きもの

著者によれば、ナメクジは飼いやすく哺乳類に比べ脳の構造がシンプル。かつ誰が実験をしても同じ結果が得られやすいため、行動実験動物として扱いやすいのだそう。

 

しかし、世界的にナメクジの脳研究を行っている研究者は非常に少ないため、情報交換ができない、ほかの研究者の研究を参照できない、実験のための器具や薬品などがない(あっても高価)という苦労もあるようだ。

 

ナメクジは比較的よく目にする生きもの。道ばたにいれば「ああいるな」くらいで済むが、自分の家にいたらちょっといやな感じがするくらいには、マイナスイメージがあったが、本書を読むとなかなか賢くておもしろい生きもののようだ。

 

これからナメクジを見かけたら、ちょっと観察してみようか。そんな風にナメクジに関する印象が変わった。

 

【書籍紹介】

考えるナメクジ—人間をしのぐ脅威の脳機能

著者:松尾亮太
発行:さくら舎

ナメクジは脳も生態もスゴいんです! 論理思考も学習もでき、壊れると勝手に再生する、1.5ミリ角の脳の力! ナメクジの苦悩する姿にびっくり!  頭の横からの産卵にどっきり!

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今から発信者になるために必要なこととは?−−『自分メディアはこう作る』

筆者が敬愛してやまないオカルト研究の第一人者・並木伸一郎先生が立ち上げたYouTubeチャンネルに参加している。まさかこのタイミングでYouTubeに関わり始めるとは思っていなかったが、かなり前のめりになっていることが自分でもわかる。

 

各種SNSの連動体制

TwitterやFacebookの活用法や連動にすごく興味があり、試しにやってみたことが予想以上にハマると、ものすごい達成感がある。Clubhouseも最初はノリがわからなかったが、最近は、ひと昔前の表現を使うならザッピングやネットサーフィンみたいな感覚で複数のルームを行き来するようになっている。

 

休眠状態のブログも復活させて、音声配信も始めたい。Instagramもからめて互換性を高めたらどうだろうか。何かアイデアが生まれると、それを具体的な形にして記録するまで眠れない夜が続いている。

 

「自分メディア」って、なんて魅力的な響きなんだろう

ポジティブな形で背中を押されているのを実感している筆者が『自分メディアはこう作る』(ちきりん・著/文藝春秋・刊)をページごとに反芻する感覚で読み込んだのは、ごく当たり前なのだ。この本の基本的な性格は、ブログの定点観測・成長観察記録といったところだろうか。目次を見てみよう。

 

=第一章 出発点=

・日記帳からブログへ

・ブログ開始にあたって

・ネット上での個人情報公開

・初期のブログ

・メッセージを伝える

=第二章 ブレーク!=

・最初の転換点 ネットの有名人へ

・第二の転換点 ネットの外へ

・意識的なブログ運営の始まり

・ブランディングのために

=第三章 自分のメディアへ=

・メディア価値を高めるために

・自分のメディアを作るための5か条

・自分と読者のためのルール

=第四章 今、そしてこれから=

・読者と向き合う視点

・つながる危険と可能性

・ここまで大きくなりました!

・自分のためのブログ活動

・ちきりんブログ成功の理由

 

これに加え、「ベストエントリ20」として成長・キャリア・つながり・教育・政治・ビジネスという6ジャンルに分けられた実際のエントリの文章、そして“日本一のニート”として有名な人物を相手にネット・ブログ・本の関係性を軸に繰り広げる対談が収録されている。複数メディアの紐づけについても触れてくれている内容は、まさに筆者の望み通りといえる。

 

ブログの誕生と成長をつぶさに見せる構成

発信者側は、読者側の期待を感知しながらそれ以上のものを提供したい。ブログを媒体とした読者と発信者の理想的な関係をどう実現するか。本書では、そのプロセスが明確に言語化されている。自ら社会派ブロガーと名乗るちきりんさんの出発点は、こんな感じだった。

 

あるとき無名の会社員が“ちきりん”などというふざけたペンネームで書き始めた個人ブログは、今や日々数万人の読者が訪れる人気ブログとなりました。月間の読者数は20万人以上で、ちょっとした雑誌と同じレベルにまでなっています。

『自分メディアはこう作る』より引用

 

ちきりんさんが「Chikirinの日記」を始めたのは、ブログという言葉が流行語大賞に選ばれた2005年。ブログを書くという行いがぐっと身近になったこの年に「Chikirinの日記」が立ち上げられたことは、今考えればエポックメイキングな出来事だったにちがいない。

 

ヒントを探す作業

ちきりんさんの方法論が正しかったことは、20万人という驚異的な数の読者によって証明されている。

 

読んでいただければわかるように、私はかなり意識的に、そして戦略的に自分のブログを育ててきました。本書はノウハウ本ではなく、あくまで10年間の「Chikirinの日記」の舞台裏を綴る読み物ではありますが、自分もブログを書いているという人や、これからは自分も個人として発信していきたいと考える人にとっては、何かしらヒントになることもあるはずです。

 『自分メディアはこう作る』より引用

 

そう。この本には、経験則に裏打ちされた無数のヒントがちりばめられているのだ。

 

無名の書き手が注目される時代

ネット上にいる数えきれないほどの人たちに、自分が書いたものを読んでもらうにはどうしたらいいのか。すでに何万人という単位の読者を獲得しているブログの主催者が、ひとつ上のレベルを目指す手段を得るにはどうしたらいいのか。10年におよぶ記録から得られる具体的な答えは、想像以上に多い。

 

「何についてどう書くか」だけではなく、ブログ始める時に選ぶべきサービスやドメインに関する超実用的なアドバイス、予期せぬバッシングや炎上への対策、そしてブランディングに関するノウハウまで網羅されている。最後に、次のような言葉を紹介しておきたい。

 

皆さんのおかげで、今の“ちきりん”は存在しています。こんなふうに無名の書き手が見いだされ、注目される新しい時代を作っているのは、まさにそうした読者の方々の力によるものです。

『自分メディアはこう作る』より引用

 

まだ形がはっきりしていなくてもいい。発信したい気持ちが少しでもあるなら、今日から何かを始めるべきだ。

 

【書籍紹介】

自分メディアはこう作る

著者:ちきりん
発行:文藝春秋

会社を辞めて、自由に生きていく! 自分の価値を高めて「自由」を手に入れる5つの戦略とはーー「個人」の時代の必読書!

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まるでアイドルプロデューサー!? 引退した元お殿様はこんな生活をしていた~注目の新書紹介~

書評家・卯月鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

 

ちっとも隠れていない隠居生活!?

「老後資金には2000万円必要」と金融庁の審議会の報告書にあったことが少し前に話題となりました。そんなに老後は大変なの? と心がザワザワしたのを覚えています。一昔前は、老後は悠々自適でのんびりなんてムードもあったのに今はどこへやら……。「老後の沙汰も金次第」とはシビアですね。

今回の新書『お殿様の定年後』(安藤優一郎・著/日本経済新聞出版・刊)は、大名5人の隠居後の生活を紹介した歴史本。現役時代よりも好き勝手に活動し、歴史書作りや歌舞伎見物に没頭する様子はうらやましい限りです。

 

著者は歴史家の安藤優一郎さん。『お殿様の人事異動』『相続の日本史』『河合継之助』など、日本史関連の著作が多数あります。今回は「定年後」という面白い切り口で、江戸時代の元お殿様の暮らしと江戸の文化に迫っています。

 

御老公の発案で藩の財政がひっ迫……

まず第1章は「大名のご公務―江戸と国元の二重生活」。お殿様は花のお江戸に出かけては、町娘をからかったり、悪を成敗したり……というのは時代劇だけのお話。現実には大変な思いで参勤交代をして江戸に着き、そこでも堅苦しい生活を送っていたそうです。江戸城登城に遅刻したら懲罰。毎日のタイムスケジュールも決められ、幕府の監視下にあるも同然の状態でした。これなら早く家督を譲って隠居したくなるのもうなずけます。

 

第2章「水戸藩主徳川光圀―水戸学を作った名君の実像と虚像」では、ご隠居の代表格、水戸黄門こと水戸藩主・徳川光圀のエピソードが語られます。正式ではない側室の子として堕胎を命じられながらも密かに育てられ、剛毅な性格から兄たちを差し置いて想定外の世継ぎとなり、30年以上藩政に従事しました。

 

隠居後は、若いころに改心するきっかけとなった中国の『史記』をお手本にした歴史書「大日本史」の編纂に注力。各地へ学者を調査に向かわせるなど、年間経費はなんと8万石! 水戸藩の石高は28万石(後に35万石)だったことを考えると、とんでもない出費と言えそうです。

 

隠居後、庭いじりと歌舞伎三昧という趣味の毎日を送ったのが大和郡山藩主の柳沢信鴻(のぶとき)。東京都内屈指の名園として知られる六義園(りくぎえん)に居を移し、自らの手で美しく整備しました。また、ときには江戸市中を歩き回って世間で評判の茶屋娘を訪ねていたとか。その様子は「宴遊日記」に事細かく記されています。芝居が好きなあまり、屋敷に舞台を作り自分で台本を書いて侍女たちに演じさせたという逸話にも驚きました。もちろん採用の際には歌舞音曲の腕前を信鴻がチェックしたというから、まるでアイドルプロデューサーですね(笑)。

 

そのほか、出世争いに挫折して隠居するも文章に生き甲斐を見出し、江戸の名随筆「甲子夜話」を書き上げた肥前平戸藩主・松浦静山。(有名な「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」は静山の名言です)。幕政からの引退後、文化事業に力を入れた白河藩主・松平定信などが取り上げられています。

 

藩の舵取りから解き放たれて、やりたいことができるようになったお殿様は最強のオタクといったところでしょうか。そんな老後に憧れますね。

 

【書籍紹介】

お殿様の定年後

著者:安藤優一郎
発行:日本経済新聞出版

江戸時代は泰平の世。高齢化が急速に進む中、大名達は著述活動、文化振興、芝居見物などで隠居後の長い人生を謳歌した。権力に未練を残しつつもそれぞれの事情で藩主の座を降りた後、時に藩の財政を逼迫させながらもアクティブに活動した彼らの姿を通じ、知られざる歴史の一面を描き出す。

 

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

220年ぶりの時代の変化に適応せよ!−−『「風の時代」に自分を最適化する方法』

2021年になってから「風の時代」というワードを良く目にするようになりました。物事が高速に変化する時代になってきているので、言い得て妙だとは思いますが、この言葉は誰が考え出したものなのでしょう。

 

実は占星術用語である「風の時代」

この「風の時代」という言葉は、もともとは占星術で使われていました。西洋占星術では火・地・風・水の4つのエレメントに星を分け、およそ200年ごとにエレメントは変化する、と考えてきました。そして2020年に、220年ぶりのエレメントの移動が起き、時代は地から風へと変化しました。時代の変わり目なので、世界は大きく変わるのではと推測する人もいたのです。

 

さらに言えば、2020年末よく使われていた「グレート・リセット」という言葉もあります。2021年5月に世界経済フォーラム(WEF)が開催するダボス会議のテーマが「グレート・リセット」とされたこともあるでしょうが、実はこれも占星術の言葉です。エレメントが移り変わる際に、今までの時代がリセットされることを意味します。つまり「風の時代」も「グレート・リセット」も全く同じ、2020年12月22日から始まる占星術上の変化を指していると考えられるのです。

 

200年に1度の大きな変化

2020年後半から、経済学や政治学の世界の人までもが占星術の言葉を使うようになったことはとても興味深い事象です。占星術系のワードはドラマティックなものも多く、今まで目にする機会が少ない言葉だったからこそ、単語として新鮮に感じられたのかもしれません。

 

遠い昔は星の動きで政治や戦の行方を占うこともあったと言われていますが、この現代社会で再び星読み系統のワードが使われるようになったことは、実際に占いが利用されているわけではないとはいえ、とても新鮮です。

 

時代はおよそ200年周期で動く

「風の時代」に自分を最適化する方法』(yuji ・著/講談社・刊)には、今までのエレメントの変化の歴史が書かれています。それによると「風の時代」の前は、1800年代から約200年間「地の時代」でした。「地の時代」は土地、つまり不動産が重要視されたとのこと。このころに産業革命が起き、資本主義社会のなか、人々は家や土地を買うことを目指したわけですから、確かにそんな感じはします。

 

そのさらに約200年前、1600年代には「火の時代」がありました。日本では戦国時代、関ヶ原の戦いのころです。この時代は盛んに戦が行われ、人々はかなり血気盛んだったでしょうし、それを「火の時代」と称するのも理解できる気がするのです。

 

「風の時代」とはどんな時代?

では「風の時代」とはどんな時代なのでしょう。本書によると、物質的なことよりも精神的なことに価値を感じる時代のようです。この部分を読むだけでハッとさせられますが、確かに最近、ミニマリストという物を持たない暮らしをする人が増えていますし、「エモい」という言葉が流行しましたが、これも「感情が揺さぶられる」という意味だからです。

 

また、もうひとつ刺さったのは『「どんなふうに・いくら稼ぐのか」ではなくて、(略)「どんなものをあなたは無から生み出していくのか」が問われる時代』(本文より)という部分です。確かに、最近はYouTubeの広告収入など、面白いコンテンツを作り出せたらそれが結果となって現れることが多いからです。

 

こうして占星術的な考えかたで時代を深読みしていくと、今までとは違った視点で世界のことを考えられるので、気づくこともたくさんありました。本書を読むと、「風の時代」は多様化に対応した素敵な時代になりそうなので、楽しみながら対応していけそうです。

 

【書籍紹介】

「風の時代」に自分を最適化する方法

著者:yuji
発行:講談社

星が教える、これからの、生き方、仕事、恋愛、経済、居場所、お金、2020年12月22日から、地球は新時代へ!

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“普通の家族”って何ですか? 変転していく家族の歴史を描く『ははのれんあい』

恋愛は難しい。好きな人ができても、相手がこちらの気持ちに気づいてくれないこともある。なんとか思いを伝え恋人になっても、いざ付き合ってみると、うんざりするような一面に気づき失望したりもする。たとえ、幸運に恵まれ、結婚し子どもを授かったとしても、油断はならない。家族になったからこそ起きる数々の困難に見舞われるからだ。

 

ははのれんあい』(窪 美澄・著/KADOKAWA・刊)は、そうした恋愛の難しさ、結婚の流動性を描いた小説だ。恋愛小説でありながら、家族小説であり、人生の指南書ともなる。結婚の闇を描いたという点では、スリラーとして読むこともできる。

 

二部構成で家族を描く

『ははのれんあい』は大きく二つの物語に分けられている。第一部は母親である由紀子の視点で描かれ、第二部は由紀子の長男・智晴(ちはる)の視点に変わる。登場人物も第一部には、由紀子と夫の智久、夫の両親や由紀子の母親に重きが置かれているが、第二部になると、夫婦をめぐる人たちが加わり増幅していく。智晴の友達や職場の人々が次々と現れ、複雑さを増していく。

 

結婚とはそういうものだろう。最初は、ひと組の男女が織りなすもので、小さな閉じられた世界である。二人の濃密な思いだけで成立しているからだ。けれども、いつまでもそのままではいられない。恋をしていた男女は、夫婦になるや、義理の両親や実家の両親との家族関係をこなすようになり、そこに軋轢や葛藤が始まる。

 

子どもが生まれると、感動し、喜び、家族がひとつになったように思う。しかし、蜜月は長くは続かない。赤ん坊ができて、新しく組み直された家族は、その養育を巡ってぶつかり合う。

 

おむつは「紙おむつか、さらしの布おむつにすべきか?」に始まり、「母乳? それともミルク?」という選択もしなくてはならない。何よりも、思いがけない出費がかさみ、若い夫婦にのしかかってくる。そのあたりの事情を、著者・窪 美澄は、生活のちょっとしたことを取り上げ、印象深く描く。

 

母になった由紀子の毎日を読むうち、私は忘れかけていた自分の子育ての日々を思い出した。典型的な親バカだった私は、息子より可愛い生きものはこの世にいないと信じていた。根拠などなかった。なぜ、こんなに可愛いのだろうと考えたりもしなかった。もっと動物的な反応をして、毎日の子育てに邁進していた。

 

もしかしたら、自分たちの夫婦関係が変化してしまったのではとか、夫がどんな思いでいるかなどとは考えなかった。そんな余裕はなかったのだ。

 

赤ん坊は実に手間がかかる。1日24時間を捧げていても、まだ足りないほど忙しい日々……。由紀子の毎日も同じように、てんてこまい。そして訪れると考えもしなかった運命の変転。

 

大黒柱になった長男

第二部になり、語り手が息子の智晴(ちはる)に変わると、物語の色調も変わる。「ちーくん」と呼ばれる彼は、胸が痛くなるほど家族に優しく、献身的だ。働いている母・由紀子にかわり、奮闘する。長男として生まれた宿命を背負っているかのようだ。

 

皆から「ちーくん」と呼ばれてはいるが、智春は15歳という実際の年齢より大人びていて、物わかりがいい。反抗的な態度を見せるでもなく、けなげそのものの生活ぶり。その姿に接すると、「いいのよ、ちーくん。心の奥底をはき出してしまってかまわないのよ」と呟きながら、よしよしと慰めたくなる。

 

智晴が赤ちゃんだったときの家庭と、15歳になった家とでは、同じ家かと思うほど異なるものになっている。ごく普通の家庭だったはずだったのに、「ちょっと複雑だろ、僕の家」と言わなければならないほど、変容を遂げてしまった。

 

楽しみながら、そして、涙をこらえながら、読んでいただきたいので、智晴や母の由紀子の生活がどう変わったのかここには書かない。ただ、幸福な家庭を築こうとどんなに努力をしても、うまくいかないことがあることは言っておきたい。そもそも、うまくいく方が奇跡なのかもしれない。

 

家庭とは一見したところ安定していて、穏やかで、平凡な毎日のくり返しだ。しかし、ほんのちょっとしたことで、すれ違いや嫉妬が燃え上がる。死や喧嘩や憎しみあいも日常茶飯事で起こり、挙げ句の果てに、破壊された家庭の残骸の中で呆然と立ち尽くす自分に気づく。まるで、ナマモノのように、家庭は刻々と変化し、注意して扱わないとすぐに腐ってしまうものなのだろう。

 

それでも、家庭を守ろうとする家族の努力によって、壊れかけた家庭は息を吹き返し、新しい形で再生していく。その意味で、家庭ほどもろく、強いものはないと私は思う。

 

コロナ禍のもと、結婚とは何か? 夫婦とはどうあるべきか? 家庭のあるべき形とは? が問われている。だからこそ、なおさらに読んでいただきたい本である。

 

自分の家庭が「ちょっと複雑」と思うとき、どうか『ははのれんあい』を思い出して欲しい。「普通の家庭」が果たしてあるのかどうかについても思いを巡らしたい。どこの家庭もそれぞれに「ちょっと複雑」なまま、変化を重ねていくものだからだ。

 

『ははのれんあい』は大黒柱たらんとする「ちーくん」の姿にじーんとしながら、変転に変転をくり返す家庭を観察できる。そして、子どもが成長したとき、家庭は養育という大事な役割を終え、さらに新しい段階に進むことを胸に刻みたい。

 

【書籍紹介】

 

ははのれんあい

著者:窪 美澄
発行:KADOKAWA

長男の智晴(ちはる)を産んだ由紀子は、優しい夫と義理の両親に囲まれ幸せな家庭を築くはずだった。しかし、双子の次男・三男が産まれた辺りから、次第にひずみが生じていく。死別、喧嘩、離婚。壊れかけた家族を救ったのは、幼い頃から母の奮闘と苦労を見守ってきた智晴だった。智晴は一家の大黒柱として、母と弟たちを支えながら懸命に生きていく。直木賞候補作『じっと手を見る』の著者が描く、心温まる感動の家族小説。

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BLの原点にして日本の宝! 懐かしく新しい美少年漫画を丸ごと堪能できる『私たちがトキめいた美少年漫画』

今や男女共、当たり前に楽しめるようになったBL(ボーイズラブ)ですが、私が高校生だった20年ほど前は、隣の席の子から「BLって知ってる?」と教えてもらい「こんな世界があるの〜!」とドキドキしながら読んだほど秘めたものでした。今では気軽に電子コミックで読んだり、本屋さんでも普通に購入できるようになりましたが、当時は本屋さんで買うなんてめちゃくちゃ勇気のいる行為だったのです(私は借りる止まりで、買うことはできませんでしたw)。

 

けれど、そんな20年前よりもさらに昔、1970〜90年代にはすでにBLの原点とも言える美少年漫画という世界があったのはご存じでしょうか? 今回はBLが当たり前になった今だからこそ知っておきたい美少年漫画についてまるっと知ることができる『私たちがトキめいた美少年漫画』(オフィスJ・B・編集/辰巳出版・刊)をご紹介します。

 

漫画情報誌『JUNE(ジュネ)の誕生の経緯がすごい……!

耽美な美少年漫画の世界を語る上で外せないのが、雑誌『JUNE』だと言います。創刊号が出たのは1978年のこと。当時は『面白くてユニークでエキセントリックでヒワイでヘンタイチックで、マニアックで美しくしかもハイセンスな少女漫画誌を目指して作った』と編集部が語っていたそうなのですが、ちょっとどんな漫画雑誌なのかよくわからないですよね(笑)。『JUNE』には漫画家による美少年漫画の連載だけでなく、映画や小説などの情報、読者からの投稿コーナーも充実していたそう。しかし残念ながら、翌年1979年8月で休刊してしまうことに。その後に復刊しますが、そこには読者たちの存在があったそうです。その背景について当時の編集長である佐川俊彦さんは以下のように語っていました。

 

最初は売れ行きの予想がつかなくて10数万部出したんですよ。そうしたら返本が結構多くて休刊に。でもそのとたん読者から手紙が殺到して、コミックが240円とかの時代に、なぜかみんな判で押したように「1000円までなら出しますので復刊してください」って(笑)。

 

――熱烈ですね。読者は何を求めていたんでしょうか。

 

その手の情報すべてなんでしょうね。同人誌の紹介を載せていたので、コミケに行けない地方の人なんかは、『JUNE』を見て通販していたんです。投稿できる雑誌だということも大きかったと思います。

(『私たちがトキめいた美少年漫画』より引用)

 

今、これほど愛されている雑誌はあるのでしょうか……! 『JUNE』の創刊の歴史や当時の思い出を知ることで、女性たちのパワーのすごさを思い知り「現代を生きる私も、もっと頑張らないと!」と読んでいるだけでも力が湧いてきてしまいました(笑)。

 

みんなどんな目覚め方をしているの?

『私たちがトキめいた美少年漫画』には1955年生まれの漫画家・笹生那実さんとbelneさんのおふたりがどのようにしてこの世界に目覚めたのか……という対談も掲載されています。現役の方はもちろんのこと、「腐女子とは聞いたことがあるけど、一体どういうこと?」と思っている方が読んでも「なるほど!」と思える部分がたくさんありますよ。個人的に驚いたのが笹生先生の目覚め方!

 

私は小学校のときに『巨人の星』を見たのが最初です。とにかく花形くんの星くんに対する愛の深さに胸を熱くしました。花形満と星飛雄馬って、一方は眉目秀麗で精神年齢が上のキャラ、もう一方はちょっぴり可愛い精神年齢が下のキャラ。眉目秀麗側が密かに愛しているのに可愛い側は鈍感で…という組み合わせはBLによくありますよね。時代的なことや『巨人の星』が当時どれだけのブームであったかを考えると、『巨人の星』はBLの源流よりもっと深い、腐葉土であるというのが私の説なんです(笑)。

(『私たちがトキめいた美少年漫画』より引用)

 

想像力が素晴らしいのはもちろんですが、当時「ボーイズラブ」というジャンルがなかったのにも関わらず、小学生という年齢で物語の裏側を想像し、萌えや尊さを楽しんでいらっしゃったということに驚きます。

 

他にも、御手洗直子さんの『腐女子の目覚め』を描いたコミックエッセイも掲載されており、こちらもめちゃくちゃ面白いのでぜひ読んでいただきたい……! たくさんの漫画家さんがこうやって影響を受けて「今」を生きていらっしゃるということに感激してしまいますよ!

 

また読みたい! 読んでみたい! 人も、電子書籍で読める時代だよー!

「昔は読んでいたのだけど、処分してしまって」「今はBL好きだけど、美少年漫画も読んでみたい」という方、ご安心ください。なんとこの『私たちがトキめいた美少年漫画』では、『ジャックとエレナ』シリーズ(清水玲子)、上海を舞台にした『南京路に花吹雪』(森川久美)、コメディとしても楽しめる『花の美女姫』(名香智子)など、今でも電子書籍で読むことができるコミックも多数紹介されています。

 

……なんて便利な時代! 『私たちがトキめいた美少年漫画』で読みたいと思った作品をすぐに読めるなんてうれしすぎますよね。私も読んでいて一番気になった『花の美女姫』を早速購入(笑)。感想をここで書いてしまうと長くなってしまうので割愛しますが、「この世界面白い……」と新たな沼を見つけてしまった予感がプンプンします。

 

全国的にも桜が咲き始めた今日このごろ、自分の中の新しい「春」を美少年漫画で見つけてみませんか?

 

【書籍紹介】

私たちがトキめいた美少年漫画

著者:オフィスJ・B(編)
発行:辰巳出版

ボーイズラブの原点・美少年漫画の世界を徹底紹介! 現在、ボーイズラブ漫画シーンが盛り上がっていますが、その創成期で、橋渡し的ともいえる美少年漫画の世界を紹介していく一冊です。紹介するのは70年代から90年代の作品をメインとして、基本的に「耽美」をテーマにした美少年と少年愛にスポットをあてていきます。竹宮惠子などの花の24年組や、坂田靖子などポスト24年組の少年愛の世界から、雑誌『JUNE』などに至る耽美の漫画誌や作品も辿っていきます。

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年を重ねるごとに美しくなる! パリのマダムたちがエレガントに自分らしく生きるワケ

現在のパリはロックダウンこそしていないが、18時以降の夜間外出は禁止されており、レストラン、カフェ、デパート、そして美術館も閉まったままだ。4月中頃になれば日常が戻るかもという意見があるかと思えば、感染拡大が止まらなければ再びロックダウンという噂もあり、とにかく今はワクチン接種を加速させ、そこに希望をつないでいる状態だという。

 

さて、今日紹介する『パリのマダムは今日もおしゃれ』(スマイルエディターズ・編/KADOKAWA・刊)は昨年末に発行された本。コロナ禍においてフランス人がどう対処をし、何に希望をつないでいるのかをインタビューしているのが、数あるパリのおしゃれ本とは違うところだ。

なぜフランス女性は年を重ねるほど素敵になるのか?

日本女性とフランス女性の決定的な違いは、前者は年を重ねるほど装いが地味になっていくが、後者は年齢が上がるほど華やかで個性的な装いになっていくことだろうか。

 

私は彼の地で子育てをし、フランス人たちを観察してきたが、たとえば娘がリセエンヌ(高校生)だったときも、素敵なのはティーンたちではなく彼女や彼らのお母さんたちだった。顔のしわはどんどんふえていっても、マダムたちは皆、背筋をシャンと伸ばし、誰のコピーもしない、それぞれの装いを楽しんでいたのだ。

 

本書では8人の女性を取材しているが、いちばん若いマダムで57歳、いちばん年上で77歳。けれども写真を見ていると皆若々しく、とてもエレガントで、参考にしたいコーディネイトがいっぱい。さらに、ファッションだけでなく、住まいのインテリアの紹介、そしてパリの行きつけの店の情報もある。渡航ができない今だが、数々の写真を眺めているだけでもパリを旅した気分に浸れそうだ。

 

ロックダウンをマダムたちはどう感じたのか?

さて、本書に登場するマダムたちが、コロナ禍のロックダウンで何を思ったのかを抜粋して紹介してみよう。

 

テキスタイルデザイナーのアンナさん(60歳)は、

 

「コロナでロックダウンになり、いまだにこの先どうなるのかわからないという不安定な時期を通過中よね。でも、私はこれからも多分ポジティブだと思うわ。何事も立ち止まって考えることはとても大切だから」

(『パリのマダムは今日もおしゃれ』から引用)

 

小説家のシャンタルさん(60歳)は、カフェが閉まったパリの街を見て灯りが消えたような喪失感を感じたという。

 

「毎朝、カフェに通うのが長年の私の日課だったから。のんびりお茶を飲みながら、道行く人を眺めたり、小説のプロットを組み立てたりする場所を失ってしまったんだもの。いつもの日常がなくなたときに考えたのが、今、この瞬間を大切に生きよう、ということ。忙しいから明日に!と先送りせず、すぐに行動することの大切さを改めて痛感したの」

(『パリのマダムは今日もおしゃれ』から引用)

 

主主婦のマリー=エレンさん(77歳)は、外出制限期間中は近所の公園までの散歩を日課にしたそうだ。

 

「ご近所の人は私のことをマダム・ギャロップと呼ぶの。馬で駆け抜けるように早歩きだから(笑)。でもコロナ禍で少しだけペースダウンしてみたら、ものごとを違った観点で捉えられるようになったわ。季節の移ろいを観察して自然を謳歌し、久しぶりに家族揃って食卓を囲んで。どんなときもささやかな幸せを感じられるのはとても豊かなことなんだと改めて感じたの」

(『パリのマダムは今日もおしゃれ』から引用)

 

この他、人生の本質を見つめ直すのに必要な時間だったというマダム、ロックダウンをきっかけに環境問題に興味を持つようになったマダム、インターネットでの買い物を楽しむようになったマダムなどなど、皆、年を重ねているからこその強さと柔軟性を感じる意見が多かった。

 

装いには内面が映し出される

本書はおしゃれ本だから、ページをめくるたびに、マダムたちの素敵な装いが次々と登場し、「どうしてパリのマダムってこんなにかっこいいんだろう」とため息がでる。ゴテゴテとしたコーディネイトではなく、皆、シンプルな服をさらりとまとっているだけなのにエレガントなのだ。

 

これについては、女優やセレブのパーソナルアドバイザーとして長年モードの世界に携わり、現在は引退しているジョアンナ・ヴァン・ヴリットさん(74歳)がこう述べている。

 

人はそれぞれ年齢に沿って服を選び、着こなします。ファッションは今の自分を表現する手段のひとつ。考えすぎなくてもその人の内面が映し出されるもの。だから誰ひとり同じじゃないのが面白い。

(『パリのマダムは今日もおしゃれ』から引用)

 

さらに、外出制限のかかる今でも、ジョアンナさんは、毎朝マスカラと赤い口紅のメイクは欠かさないそうだ。そして着替えて鏡のなかの自分に向かって、「さあ、今日も一日素晴らしい日になるわよ!」と語りかけるのだという。

 

彼女のこの言葉は、自粛生活が長引き、ノーメイクでどうでもいい部屋着で過ごす日が増えてしまった私に活を入れてくれた。この他にも、日々鍛えることでスタイルをキープし、60歳を過ぎてもミニスカートで素脚を見せられるマダムもいて羨ましい限り。

 

パリが好きな人、そして、いつまでも美しくありたいと願うすべての女性におすすめの一冊だ。

 

【書籍紹介】

パリのマダムは今日もおしゃれ

著者:smile editors(編)
発行:KADOKAWA

自分らしく生きるためにどんな日も好きな服を着る。会えなくてもつながっている友人や家族と新しい幸せを紡ぐ。ファッションは人生をよりよい方向に修正し絶望から救ってくれることすらある…どんなときも自分らしく素敵に! パリのマダムの心意気は変わらない。極め付き8人のメッセージ。

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悲しみを乗り越えるため「次善の選択肢」を持つことの重要性−−『OPTION-B(オプションB)』

人生の中には、喪失を味わう瞬間も訪れます。大切な家族や友人やペットとの別れはとてもつらいものです。愛する存在を失ってひとりになったとき、人はどのようにそれを乗り越えていくものなのでしょうか。

 

 

別のプランを考える柔軟さ

『OPTION-B(オプションB)』(シェリル・サンドバーグ、アダム・グラント・著/日本経済新聞出版社社・刊)は、突然やってきた孤独や悲しみを、どうやって対応し、乗り越えていくかということを、著者を実体験をもとに綴っている本です。

 

著者のシェリル・サンドバーグさんは、Facebook の最高執行責任者(COO)。愛する夫と子どもたちに囲まれ、仕事に打ち込む幸せの絶頂期であった彼女は、ある日突然、11年連れ添った夫の死に見舞われます。本書には、彼女の心の傷が少しずつ癒やされていく様子がていねいに綴られています。彼女が見つけた答は、タイトルにもなっている「オプションB」という考えかたでした。

 

オプションBとは、代替プランとも言えるようなもの。A案を実行することが無理になったのなら、B案を見つけ、それを楽しむ道だってあります。目的地への道が通行止めだったら、別の道を通って到着します。当然、人生にも同様に別の道があるわけで、この考えは、気持ちを少し楽にしてくれそうです。

 

失った関係を恋しがるということ

先日、友人が恋人に振られてしまいました。結婚まで考えた男性との交際が突然中断した彼女の喪失感は大変なものでした。最初のうちはどうしても別れを受け入れられず、彼に復縁を迫ったりもしたのです。

 

人は自分に訪れた別れに揺れます。納得して離婚したはずなのに、多くの人がそれを後悔するリバウンド期を味わうともいいます。もう戻ってはこない関係を恋しがり、失ったものを数えて嘆くのです。けれど喪失をしっかりと実感してこそ、次のステップに進めるものなのかもしれません。

 

嘆きの時期を超えて

人はすぐに気持ちを切り替えられるわけではありません。著者のシェリルさんも、時間がかかりました。もう彼はいないのだという現実に何度も直面し、そのたびに嘆き悲しんだのです。そしてその時期を経たうえでやっと、オプションBを生きることを考え始めました。

 

人生はすべてが思い通りになるわけではありません。納得がいかなくても、運命の残酷さに嘆いても、代替案を選ぶしかない時があります。愛する人を失っても、残されたものの人生は続くのだから、せめてそれを楽しく過ごしたほうが有意義なはずです。シェリルさんはオプションBロードを歩くためのガイドサイト(optionb.org)の運営に乗り出し、新しい道を歩み始めました。

 

人生での代替プラン

このオプションBという考えかたは、人生のさまざまなシーンで応用できそうです。たとえば恋人と別れた私の友人は、しばらく嘆き悲しんだ後は、新しい恋の相手を探すようになったのです。これも彼女にとってのオプションBなのでしょう。つらい現実をただ嘆くだけではなく、できることを探して行動することで、人生に前向きになれるのです。

 

そして、この本には興味深いデータが載っていました。人間の幸福度は、結婚をしてもそれほど上がらないというもの。幸福度がわずかに高くなるのは結婚式の前後だけで、それも1年もしないうちに元に戻ってしまうのだとか。逆に言えば、私たちは、日常を平穏に過ごすことこそが幸福なのかもしれません。そして、人生のハプニングに見舞われても、オプションBを見つけることで、幸福度をキープしていけるのかもしれません。

 

 

【書籍紹介】

OPTION B(オプションB)

著者:シェリル・サンドバーグ、アダム・グラント
発行:日本経済新聞出版社

全米大ベストセラー! 失恋、挫折、人間関係のこじれ、仕事の失敗、突然の病、そして愛する人の死ーだれであれ、「バラ色」だけの人生はあり得ない。フェイスブックのCOOシェリル・サンドバーグは、休暇先で最愛の夫を突然失った。友人で著名心理学者のアダム・グラントが教えてくれたのは、人生を打ち砕く経験から回復するための、具体的なステップがあるということだった。回復する力の量は、あらかじめ決まっているのではない。レジリエンスは、自分で鍛えることができる力なのだ。人生の喪失や困難への向き合い方、逆境の乗り越え方を、世界的ベストセラー『LEAN IN』著者と『GIVE&TAKE』著者が説く。

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花粉症は貴族の病気だった!? 人類と花粉の関係が解き明かされる~注目の新書紹介~

書評家・卯月鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

人類は花粉とどう戦ってきたのか?

こんにちは、書評家の卯月鮎です。私はそれほどでもないですが、今年は周りから「花粉症がひどい」という話をよく聞きます。みなさん大丈夫でしょうか?

そういえば昔、友人が「ブタクサの花粉症は格好悪いから、どうせならバラの花粉症になりたかった」と言っていて、思わず吹き出してしまいました。でも今回の新書で、バラの花粉が引き起こす「バラ風邪」がヨーロッパでは古くからあったと知って驚き!「バラ風邪」なら、涙と鼻水だらけでもどこかロマンチックですよね(笑)。

 

新書『花粉症と人類』(小塩海平・著/岩波書店・刊)の著者は、スギ花粉飛散防止の研究を長年続けてきた東京農業大学の教授・小塩海平さん。花粉症を撲滅することを目指してきたはずが、花粉の魅力にとりつかれてしまった……と語る小塩さん。

 

古代から現代に至るまで、人類はどう花粉と向き合い、花粉症と戦い続けてきたのでしょうか? 憎っくき花粉の意外な一面も見えてきます。

 

花粉症は上流階級がかかる病気!?

第1章は花粉の発見史を語る「花粉礼賛」、第2章は「人類、花粉症と出会う」。実は、花粉は状況によっては何千万年も保たれる情報の宝庫。そのおかげで、ネアンデルタール人の秘密もわかりました。ネアンデルタール人の遺跡であるイラクのシャニダール洞窟では、人骨とともに、そこにはあるはずのないおよそ8種類の花粉が発見されました。ここから彼らが死者にわざわざ花を捧げていたことが推測されたのです。

 

ちなみに、花の中には薬用となる植物も含まれており、長年花粉症対策に用いられてきた成分エフェドリンを含むマオウという薬草もあったそうです。ネアンデルタール人も花粉症に悩んでいたのでしょうか……。

 

また、近代イギリスでは花粉症は主に上流階級がかかる病気と見なされていたというのも面白いエピソードでした。花粉症が病気として「夏カタル」の名前で認識されたのは大英帝国の絶頂期、19世紀ヴィクトリア朝でのこと。

 

医師チャールズ・ハリソン・ブラックレイが、自ら花粉を鼻に塗り込んで実験し、論文を書いたことでその概念が広まりました。当時は牧師、医師、貴族などが発症する病気であり、花粉症は一種のステータスシンボルだったそうです。

 

ラストの6章は、著者が長年研究してきたスギ花粉について。小塩さんは、スギの雄花がまき散らす花粉をネバネバした物質でトリモチのように絡めとれないか、試行錯誤してきました。

 

ただ、この過程で大量の花粉を浴びてしまい、花粉症を発症……。当初は花粉への復讐心に燃えていたものの、今では感謝の気持ちを抱いている、というのだから人間の心理は複雑です(笑)。

 

得体の知れないものに苦しめられるよりは、花粉が何かわかったほうが少しは気休めになるかも。綺麗な花には“粉”がある。花粉を軸にたどる人類史は新鮮な切り口でした。

 

 

【書籍紹介】

花粉症と人類

著者:小塩海平
発行:岩波書店

目はかゆく、鼻水は止まらない。この世に花粉症さえなければ――。毎年憂鬱な春を迎える人も、「謎の風邪」に苦しみつつ原因究明に挑んだ一九世紀の医師たちの涙ぐましい努力や、ネアンデルタール人以来の花粉症との長い歴史を知れば、きっとその見方は変わるだろう。古今東西の記録を博捜し、花粉症を愛をもって描く初めての本。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

「愛の不時着」ロスの人もBTSファンの人も! 韓国ドラマやカルチャーの沼にハマっているあなたに贈る一冊

時は、第4次韓流ブームだそうだ。「冬のソナタ」のヨン様ブームにはじまって、いつのまにやら4次である。

 

確かに、BTSをはじめとするK-POP人気は留まることを知らず、加えて昨年(2020年)はいまやCMで見ない日はないNiziUが誕生した、日韓合同オーディション番組「Nizi Project(虹プロ)」が大人気を博した。

 

また、活字離れが叫ばれる中で、『私は私のままで生きることにした』(ワニブックス・刊)や『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房・刊)などの韓国文学が大ヒット。

 

そして今回の韓流ブームの火付け役となったのが、ドラマ「愛の不時着」で間違いないだろう。なんでもNetflixの発表によると、この1年で同サービスの新規有料会員数は200万人増加、特に韓国ドラマの視聴が昨年と比較して6倍以上に成長したというから驚愕だ。

 

今回は、そんな韓流ドラマやカルチャーの沼にドハマり中の人はもちろん、「『愛の不時着』が気になってるけど、なんとなく一歩を踏み出せないんだよね~」という人にこそおすすめの一冊をご紹介したい。『最旬韓国ドラマ&カルチャーFAN BOOK』(ワン・パブリッシング・刊)だ。

 

「愛の不時着」「梨泰院クラス」「サイコだけど大丈夫」を徹底分析

この『最旬韓国ドラマ&カルチャーFAN BOOK』、今年2月に発売して以来Twitterを中心に話題となっていて、一時Amazonのカートは在庫なし、海外からの問い合わせも殺到したというから、やはり韓流ブームの凄まじさを感じる。

 

核となるのが「愛の不時着」「梨泰院クラス」「サイコだけど大丈夫」の3大人気ドラマ徹底分析。ストーリーの裏話や制作秘話、登場人物のメイク&ファッションなどの情報が盛りだくさんだ。

 

 

また、発売前にTwitterで開催された「愛の不時着 名シーン総選挙」の結果も発表。ヒョン・ビンやソン・イェジンらが選んだ名シーンとあわせて紹介されている。これからドラマを見る人にとってはネタバレになってしまうが、私などは事前情報が欲しいタイプなので、この名場面ベスト5を見てからドラマを堪能すればさらに楽しめそうだな……とほくそ笑んでいる次第だ。

 

 

イケメン好きの沼住人たちを満足させるべく、各ドラマの主人公を演じた俳優たちのクローズアップページも。恥ずかしながら名前すら知らなかったのだが、「ヒョン・ビン、カッコイイな!」とか、「ソン・イェジンが綺麗すぎてもう!」とか、かなり前のめりで楽しめる特集が満載だった。それにしても、どうして韓国の女優さんってこんなにも肌が綺麗なんだろう……と思っていたら、韓国コスメの特集ページもあって、ぬかりがない。

 

徐々に私自身、韓流の沼にハマっていく予感満載

 

絶対行きたい! 韓国ロケ地ガイド

ドラマや映画といえば、ロケ地巡り。「ああ、ここは主人公がデートしてたカフェ!」など、ロケ地巡りはある意味、最高のドラマの味わい方ではなかろうか。

 

 

そんなファンの想いに応え、各ドラマのロケ地ガイドもバッチリ。ここまで詳しく紹介されているって、結構珍しい。まだまだ渡韓は難しそうだが、今後韓国に行った際はぜひ訪れてみたい。

 

BTSのVも参加! ドラマ内の神曲も紹介

『最旬韓国ドラマ&カルチャーFAN BOOK』というタイトルだけあって、韓国カルチャーに関する記事も網羅されている。

 

 

たとえば、「梨泰院クラス」内で流れる曲の中には、BTSのVが自らプロデュースした「Sweet Night」という曲が。ほかにも、「神曲」と呼ばれるにふさわしい曲の数々が紹介されている。

 

音楽だけではない。ドラマの主人公による韓国語講座や、「サイコだけど大丈夫」で物語のカギを握る童話紹介、ソウルの絵本カフェ&本屋特集、いま韓国でホットな食べ物、韓国焼酎のおいしい飲み方なども。これ一冊に、いまの韓国の魅力がぎゅっとつまっている。

 

ちょうどいただき物のチャミスルがあったので、特集ページを読みながら一杯

 

とにかく、内容がものすごく濃い『最旬韓国ドラマ&カルチャーFAN BOOK』。ページを開く度に興味深い情報を発見できるので、読んでいて飽きない。

 

さあ。機は熟した。Netflixも契約した。今週末から「愛の不時着」を手始めに、韓国ドラマの沼にハマってみようと思う。

 

【書籍紹介】

最旬韓国ドラマ&カルチャーFAN BOOK

発行:ワン・パブリッシング

『愛の不時着』『梨泰院クラス』『サイコだけど大丈夫』大特集! 話題の韓国ドラマ『愛の不時着』『梨泰院クラス』『サイコだけど大丈夫』他を、どこよりも詳しく徹底紹介します! 何度でも浸りたい名シーンや名セリフをもう一度。見どころは、ドラマに登場するコスメ・ファッション・フードなど、韓国カルチャーの大特集! さらに韓国で撮りおろした、大迫力のロケ地マップも!

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あなたの頭痛は何型? 痛みの理由から、治し方までまるごとわかる『頭痛女子バイブル』

仕事中やお休みの時に突然やってくる頭痛。なんとかしなきゃ! と薬を飲んでその場を乗り切っているけど、何度も繰り返す頭痛に不安になっている人も多いと思います。そんな方に読んでいただきたいのが頭痛の原因から治し方までが掲載されている『頭痛女子バイブル』(五十嵐 久佳・監修/世界文化社・刊)。女性だけでなく男性にも役立つ情報が満載! 今回はその中でも「片頭痛」の原因と治し方をご紹介していきます。

片頭痛の原因はわかっていない!?

『頭痛女子バイブル』では、冒頭に自分の頭痛タイプを診断することができるチェックリストがあり、「緊張型頭痛」「片頭痛」「片頭痛・緊張型頭痛の合併」「慢性片頭痛」「群発頭痛」の5つと、今すぐ病院へ! という「危険な頭痛」に分けられています。私もやってたのですが「片頭痛」タイプになりました。片頭痛は30代女性に多い頭痛だそうで、脳の太い血管が拡張することで神経が刺激されて起こるそう。その拡張する原因には色々な説があり、まだハッキリとわかっていないのだとか。

 

そのなかでも、近年有力視されているのが「三叉神経血管説」です。まず、脳内のどこかに片頭痛を起こす「発生器」のようなものがあり、そこからの刺激が三叉神経に伝わります。すると、三叉神経が、ある神経伝達物質を放出し、それにより血管が拡張します。血管が拡張すると、その刺激で血管周囲に炎症が起こり、さらに三叉神経を刺激。その興奮が脳に伝わって、頭痛や、吐き気・嘔吐などの頭痛にともなう症状を引き起こすというものです。

(『頭痛女子バイブル』より引用)

 

他にも原因があるそうなのですが、要は発生器を発動させない&血管の拡張を抑えることができれば片頭痛は少なくできるということ。ちなみに、月に15回以上ズキンズキンと痛むようなら「慢性片頭痛」の可能性も。気になる方は頭痛外来の受診などで詳しい原因も探っておきましょう。

 

片頭痛なら冷やすのもあり!

こまめなマッサージやお灸などで痛みが和らぐのはイメージできますが、頭痛はこちらの予定なんてお構いなしにやってくるので、いざという時でも痛みを和らげる方法を知っておきたいですよね! コーヒーや紅茶など適度なカフェイン成分の摂取もおすすめですが、片頭痛を少しでも楽にしたい時には、こめかみなど痛みを感じる部分を「冷やす」のが良いそう。

 

保冷剤や冷却シートでこめかみ部分をおさえる。横になるなら、氷枕でも。

(『頭痛女子バイブル』より引用)

 

ここで注意してほしいことが2点あります。ひとつは、体は冷やさず頭だけを冷やすこと。体全体を冷やすのではなく、脳の血管が拡張している部分を冷やして落ち着かせるイメージです。もうひとつは、ぎゅ〜っと頭を締め付けられるような「緊張型頭痛」を抱えている人は温める方が痛みを緩和できるそうなので、冷やさずに温めるようにすること。緊張型頭痛の人は、体の冷えがコリに繋がり頭痛の原因になる場合があるので、季節問わず毎日の入浴や冷え対策をすることで日々の痛みを緩和できるかもしれませんよ。

 

病院に行く前に「頭痛ダイアリー」をつけてみよう

近年、頭痛外来も増えてきて、病院で診てもらいやすいご時世にはなりました。「この頭痛をちゃんと治したい!」と考えているのであれば、日々の頭痛の記録を残し、それを元に病院を受診してみるのはどうでしょうか? 自分の症状をその場で詳しくお医者さんに伝えられれば良いですが、「痛いです」だけではお医者さんも正しい診療をするのが難しくなってしまいます。病院では具体的にどんなことを伝えればよいでしょうか?

 

「いつからか、きっかけは何か、どんな痛みか、どこが痛いか、痛みの程度、頻度、鎮痛薬は飲んでいるか」ぐらいは、具体的に説明できるようにしておきましょう。でも、いざ診察となると緊張してしまい要領よく話せないときもありますよね。そんなことにならないよう、事前にメモを書いておくといいでしょう。手持ちの手帳に頭痛ダイアリーをつけて持参して行けばベストです。

(『頭痛女子バイブル』より引用)

 

手帳メモ程度でも十分とのことですが、この「頭痛ダイアリー」は日本頭痛学会のホームページからダウンロードすることもできます。

https://www.jhsnet.net/dr_medical_diary.html

 

また『頭痛女子バイブル』には、全国31の頭痛専門医がいる病院や頭痛を減らす生活習慣や頭痛体操、頭痛女子におすすめのレシピまで掲載されています。今年の新生活は頭痛とさよならして、すっきりと快適な日々を過ごすようにしたいですね!

 

 

【書籍紹介】

頭痛女子バイブル

著者:五十嵐久佳(監修)
発行:世界文化社

女性の頭痛人口はとても多いのですが、(30代で5人に1人は片頭痛持ちなど)きちんと自分の頭痛の種類を知り、適切なケアや診療を受けている人はあまりいません。セルフケアでも大いに改善する病気でもあるし、頭痛を専門で診ている医師の診察で劇的に症状が改善する人もたくさんいます。本書は医療本ではなく、女性の健康本、ライフスタイル本などを購入するような幅広い女性たちに手にとって欲しいと思っています。

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「24時間」ではなく「1440分」で考える。成功者が語る時間管理の秘訣−−『1440分の使い方』

平日は約18時間。週末なら約15時間。筆者の1日あたりの稼働時間はこれだけある。コロナ騒ぎの前は平日でも昼前にならないと起きない日があったので、この1年は使える時間が確実に増えている。

 

生産性は高まったけど、無駄な時間も増えたかも

決して大げさではなく、昼ご飯を食べる前にその日の仕事の80%くらいが終わる気がしている。午前中の作業効率は高いというけれど、きわめて遅まきながらこれが本当であることを実感しているわけだ。午後に余裕ができるので、以前は感じることが多かった焦りめいた気持ちもない。

 

ただそれと同時に無駄な時間も増えている。YouTubeで80年代洋楽ヒットメドレーを次々に見てしまったり、サッカーゲームのオンラインマッチを6試合くらい立て続けに組んでしまったり。次の課題は、稼働時間の中でのオンとオフの使い分けについて考えることだ。

 

時間の使い方を見直してみる

そんな状態にある今の筆者に刺さったのが『1440分の使い方』(ケビン・クルーズ・著、木村千里・訳/パンローリング・刊)。7人の億万長者、239人の起業家、13人のオリンピック選手、29人のオールAの学生を紹介しながら綴られるのは「成功者たちの時間管理 15の秘訣」だ。表紙には「生産向上の日常習慣」という文字が目立つ。イントロダクションの前に“本書で学べること”がまとめられている。翻訳書らしい実用性が強く感じられる体裁だ。

 

読書やスポーツ、家族との団らんに使える「自由な時間」が毎日あと1時間、手に入るとしたら? 起業家、億万長者、オリンピック選手、オールAの学生たち288人への独自の取材と調査研究によって明らかになった、生鮮性向上の究極の秘訣とは?

                  『1440分の使い方』より引用

 

目に見える形で何かを成し遂げた人たちは、そのプロセスをどのようにこなしたのか。1440分=24時間の使い方が深く関係していたということだ。

 

時間を盗むもの

著者のクルーズ氏は、元デジタル学習企業の創業社長。立ち上げた事業はすぐ軌道に乗って収益ペースも倍々ゲームで進んだ。ところが会社が大きくなっていくにつれ、解決しなければならない問題の数も増えていった。当然のことながら、割かなければならない時間も長くなっていく。

 

アドバイスや助けを求めてくる人たちに罪はない。しかし、他人の優先課題や問題の解決で私の一日はつぶれていた。「ちょっと」頼まれたはずの打ち合わせが、どうしても30分以上に延びるからだ。私自身の優先事項、つまり会社の戦略上の優先事項は、永遠に終わらない“火急”の相談という奔流に押し流されてしまう。

   『1440分の使い方』より引用

 

そしてクルーズ氏は、1440分=1日の時間の絶対量を分という単位で意識するようになる。目に見えない“時間泥棒”撃退の第一歩にするためだ。

 

1日を1440分という目盛りでとらえてみる

1日の目盛りを24時間ではなく1440分にセットすると何が起きるか。クルーズ氏と彼の会社の社員たちには、「1分のクオリティを高めたい」という気持ちが生まれたようだ。結果として、それぞれがこなすべきタスクに優先順位をつけて仕事の効率を高める努力をしたり、必要性が感じられないミーティングが行われなくなったりした。

 

失った時間は決して取り戻せない。時間を浪費してしまったから追加で手に入れよう、というわけにはいかない。時間は買うことも、レンタルすることも、拝借することもできないのだ。

 『1440分の使い方』より引用

 

この文章だけ切り取って紹介すると、ごく当たり前に聞こえることはわかっている。でも、そうではないのだ。筆者には、組織の中で起きた変化を実体験として自分に刷り込んでいる人間が発する言葉の重みが感じられる。

 

時間との効率的な関係を築く

時間との向き合い方、効率の良い付き合い方が21章とふたつの付録にわたって詳細に解き明かされていく。時間というものを擬人化して、その人との付き合い方のノウハウが語られているような気がする。今の筆者にとって特に役立つと思われる言葉を3つ紹介しておきたい。

 

・「私は前の晩のうちに、やるべきことリストを作っておく。(中略)デスクの前に座ったら、メールをチェックする前にそのリストを片づける」アンドリュー・マコーリー(オートパイロット・ユア・ビジネス共同創業者)

・「メールは常に簡潔にまとめよう。私はもう10年以上、メールを3行にまとめるよう訓練してきた。余計なことは省いて最も革新的なポイントだけを残す。すると自分の時間も空いての時間も節約できる」 ライアン・ホームズ(フートスイート創業者兼CEO)

・「睡眠を犠牲にしてはいけない。そんなことをすれば、遅かれ早かれ悪い結果を招く。本来の力を発揮できなくなるし、病気になる」ウィル・ディーン(ロンドンおよびリオ五輪のボート競技カナダ代表)

『1440分の使い方』より引用

 

各章に職業別――起業家、管理職、フリーランス、学生、専業主婦/夫という分類――で大切なタスクを見極めていくためのヒント、そして章全体の内容をまとめる“秘訣”が簡潔な表現で示されているのも実用的。

 

時間とは追うものでも追われるものでもなく、おそらくは肩を並べて共に進んでいくという意識を持つべきものなのだ。

 

【書籍紹介】

1440分の使い方

著者:ケビン・クルーズ
発行:パンローリング

7人の億万長者、13人のオリンピック選手、29人のオールAの学生、そして239人の起業家。計288人への取材から導き出された、時間管理と生産性向上にまつわる15の秘訣を、本書ではより実践しやすい方式とともに紹介する。「ノートは手書きでとる」「メールは一度しか触らない」「ノーと言う」「日々のテーマを決める」など具体的ノウハウから、「最重要タスクの見極め方」「先延ばし癖を克服する極意」「桁外れの利益を得るための思考法」まで15の秘訣が、あなたの人生に輝きを取り戻してくれるだろう。

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役者が全員黒ずくめのお芝居って? ひらめき力が勝負の「水平思考クイズ」でアタマを柔らかくしてみよう!

人間は、歳を取るにつれて経験や知識は増えていくものだと思う。その一方で失われてしまうものもある。それが「柔軟性」だ。この場合の柔軟性は、身体が硬くなるということではなく、頭の話。思考に柔軟性がなくなってしまうように感じるのだ。

 

経験と知識が思考回路をじゃまする

なぜ、人生経験を積み知識も豊富な大人が、思考の柔軟性をなくしてしまうのか。それは、その経験と知識がじゃまをしているからだ。これまでの人生において蓄積したものがあると、どうしてもそこから答えを導き出すようになってしまう。そのため、自分が経験したことがないような局面にぶつかったとき、過去の経験と知識のなかから答えを探そうとしてしまう。思い当たる節があるのではないだろうか。

 

水平思考=ひらめき力

「いやいや、自分は歳の割に考え方は柔軟だよ」と思っている人も多いだろう。では、自分はどれくらい思考回路が柔軟なのか、ちょっと試してみようではないか。『ひらめき脳を鍛える ナゾトキ水平思考クイズ』(古川洋平・著/幻冬舎・刊)は、クイズ作家である著者が「水平思考クイズ」なるものを出題する書籍だ。

 

ところで「水平思考」とはなんだろうか。本書の前書きにこう記してある。

 

「水平思考」とは、固定概念にとらわれることなく、いろんな側面から物事を見る考え方のこと。いわゆる論理的思考力が「垂直思考力」であるならば、「水平思考力」はひらめき力とも言いかえることができるだろう。

『ひらめき脳を鍛える ナゾトキ水平思考クイズ』より引用

 

固定概念とは、これまでの人生における経験や知識と置き換えられる。つまり、そういうものにとらわれていると、柔軟な思考が生まれないということなのだ。

 

初級レベルで頭ならし

ということで、本書の中からいくつか問題を引用する。まずは初級レベルから。

 

黒ずくめのお芝居

あるお芝居では、おひめ様役も王子様役も、
その他の役の人も、全員黒ずくめの服を着ている。
いったいどんなお芝居だろうか?

『ひらめき脳を鍛える ナゾトキ水平思考クイズ』より引用

 

どうだろう。ちなみに僕はすぐにわかった。

 

答えは「そのお芝居は人形劇だった」。ちょっと想像すれば「ああ、なるほど」と思うだろう。

 

ちょっと難しい中級レベル

では、中級レベル。

 

首の違和感

ある日、散歩に出かけていたタロウくんは、
途中で首のあたりに引っ張られるような違和感を覚えた。
いったい何があったのだろうか?

『ひらめき脳を鍛える ナゾトキ水平思考クイズ』より引用

 

何やら事件の匂いが…。この後どうなるのだろう? 答えはこちら。

 

「犬のタロウくんは、元気すぎて、飼い主にリードで首輪を引っ張られた」

 

タロウ君と聞いて、人間と思い込んでしまうと事件にしか思えないが、タロウ君が犬であると気付けばなんてことはない。

 

固い頭じゃわからない上級レベル

最後は上級レベル。

 

逆さま新聞

新聞を読んでいると、
ある文字が上下逆さまに印刷されていた。
しかし、みんな違和感なく読んでいる。
なぜ文字が逆さまになっているにもかかわらず、
だれも違和感を持たないのだろうか?

『ひらめき脳を鍛える ナゾトキ水平思考クイズ』より引用

 

文字が逆さまに…。ちなみに本書は、問題に必ずヒントがある。この問題のヒントは次の通り。

 

①逆さまになった文字は、ミスプリントではありません。
②ある枠の中の文字が上下逆さまになっています。
③逆さまになっていた文字は「金」などいくつかの文字だけでした。

『ひらめき脳を鍛える ナゾトキ水平思考クイズ』より引用

 

ヒントを読めば「!」とひらめいた人もいるのではないだろうか。

 

答えは「将棋コーナーの図面だから」。なんとなくニヤリとしてしまう答えだ。

 

家族や友だちとやると盛り上がる!

水平思考クイズは、答えを聞いてしまえば「なあんだ」と思うようなものばかり。しかし、なかなか答えが思い浮かばない人も多いのではないだろうか。それだけ、頭が固くなっているということなのだろうか。

 

この水平思考クイズ、複数人でやるとおもしろいとのこと。いくつか問題を覚えて、友だちと一緒にやってみるといいかもしれない。お子さんのいるご家庭では、お子さんと一緒にやってみると、子どもの柔軟な思考回路に驚くことになるかも?

 

【書籍紹介】

ひらめき脳を鍛える ナゾトキ水平思考クイズ

著者:古川洋平
発行:幻冬舎

ナゾの物語の真相を斬新な発想力で解き明かす推理ゲーム。新作書き下ろし全70問。

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鉄道で移動する力士たち、ギュウギュウの3人席の真ん中は誰が座る?~注目の新書紹介~

書評家・卯月鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

 

行司の仕事は土俵の上だけではない!

こんにちは、書評家の卯月鮎です。相撲の行司さんが審判役というのは知っていましたが、実はそれ以外にもさまざまな仕事があると分かって今回びっくりしました。番付表などの相撲字を書くのも、場内アナウンスをするのも行司さんの仕事。さらに、地方巡業の興行主との折衝補佐、移動手段の確保と座席割、イベントの受付などなど! すべての行いを司ると書いて「行司」。まさに名前そのものの活躍ですね。

 

今回紹介する『大相撲と鉄道』(木村銀治郎・著/交通新聞社・刊)の著者は、30年余り角界に身を置く現役の行司である木村銀治郎さん。巡業の際に移動手段を確保する「輸送係」も担当しています。趣味は鉄道! 架線や信号機が大好きで、駅弁の掛け紙も集めているとか。

 

交通新聞社新書からは『プロ野球と鉄道』『競馬と鉄道』など、鉄道と他ジャンルの関係をクローズアップした既刊があり、そこに連なる1冊となっています。

 

鉄道の座席表を決めるのはまるでパズル!?

大相撲は1年を通じて、番付を決める6回の本場所と、春夏秋冬4回の地方巡業から成り立っています。全国を巡るときの移動手段は鉄道。主に幕下以下の力士と若い行司、呼出し、床山が乗り込みます。別行動を取る部屋もありますが、基本的には日本相撲協会で手配し、集団で移動しているそうです。「風紀係」と呼ばれる関取衆が数名いて、若い衆の身だしなみやあいさつをチェック。なんだか修学旅行みたいですね(笑)。

 

木村さんは「輸送係」として、人数・運賃を計算してJRに報告し、時間割を考え、予定を書いた紙「能書き」を作る、とやることは山積み。経費を考えて「のぞみ」ではなく、「ひかり」で移動します。

 

ところで、大きいお相撲さんが3人掛けの左右に座ったら、真ん中の人は悲惨……なんてコントがありますが、実際のところどうしているのでしょうか? 実は、真ん中の席には体の細い新弟子や若い行司をパズルのピースを埋めるように割り振っているのだとか。座席表を考えるのはちょっとした脳トレですね(笑)。

 

1車両を貸し切り、最大100人の力士が乗り込む車両。鬢付油の匂いが漂い、疲れて寝ている力士も多くいびきが響く……。ここから抜け出しグリーン車へ行くためには、強くなって十両以上の関取になるしかない。そうするとグリーン車代が支給してもらえるそうです。ここにも勝負の世界の厳しさがうかがえます。

 

鉄道ファンなら、福岡県東峰村の「大行司駅」に訪れたエピソードが興味をそそるかも。駅名が気になった木村さんは九州場所のついでに日田彦山線の大行司駅に行くことに。駅に着くとそこには……。

 

相撲好きとして知られるエッセイスト・イラストレイターの能町みね子さんのイラストがところどころに挟まり、こちらもいい味を出しています。

 

相撲×鉄道のありそうでいて、あまり見かけない新鮮なコラボ。ページを開くだけで、知らない世界を気軽にのぞけるのは本ならではの特権です。

 

【書籍紹介】

大相撲と鉄道

著者:木村銀治郎
発行:交通新聞社

「鉄道×大相撲」で現役行司が書き下ろし!! 現役幕内格行司である木村銀治郎だからこそ書けた、大相撲と鉄道の関係性を深掘りする一冊。相撲愛好家・能町みね子ならではのイラストも収録。「交通新聞社新書」シリーズ中でも人気の「鉄道×異業種」コラボレーションの妙。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

 

可愛すぎて息ができない! 『砂漠の天使 スナネコ』に身も心も癒やされまくり!!

最近SNSを騒がした「スナネコ」をご存知でしょうか? 猫よりもちょっと横広なお顔がとってもキュートな「世界最小の野生ネコ」が、これでもか! というほど載っている写真集を見つけてしまいました!!

 

 

今回は2020年3月に那須どうぶつ王国と神戸どうぶつ王国にやってきたスナネコと、そこから繁殖した子スナネコたちがこれでもか! と掲載された『砂漠の天使 スナネコ』(那須どうぶつ王国、神戸どうぶつ王国・協力/学研プラス・刊)をご紹介していきます。

 

とりあえず、このかわいさを見てください!

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

 

わーーー!!!!! 天使!!!!

 

「砂漠の天使」と呼ばれているのも納得なのですが、こんなモフモフが砂漠にいるんですか? と思ってしまいますよね。主な生息地はアフリカ北部、西アジア、中央アジアの砂漠地帯。かわいい見た目をしていますが、ネズミ・昆虫・ヘビ・トカゲあたりが主食なので、動物園で飼育されている子たちも毎日生肉を食べているそうですよ。

 

『砂漠の天使 スナネコ』には写真だけでなく、スナネコを飼育している那須どうぶつ王国と神戸どうぶつ王国の飼育員さんの対談も掲載されているのですが、最初のころは警戒心が強く近づくだけでも「シャーー」と言われていたそうです(笑)。また生肉を食べる様子は「いかにも肉食獣だな」と思うような食べっぷりなんだとか。ただただ可愛いだけの子かと思ってしまいますが、性格や生態を知ると面白いですね。

 

どうして飼っちゃダメなの?

可愛くて、見ているだけでも癒されてしまうスナネコですが、ペットには向きません。そもそも、単独で生活する野生動物のため、人間との共同生活に慣れる性格ではないというのはもちろん、ペットに向かない理由はそれだけではありません。

 

その可愛い外見から、ペットにしようとする人が増えると、密猟などにより絶滅してしまう日がくるかもしれません。

(『砂漠の天使 スナネコ』より引用)

 

野生に暮らしているスナネコたちの視点で考えてみれば、人間の「かわいい〜」という感情だけで勝手に注目されてしまって、自分たちの暮らしが一変してしまう危険がはらんでいるんですよね。

 

動物園なら会えるよ!

写真集は穴があくほど見まくった! どうしても動くスナネコを愛でたいのだ! という方は、動物園に行くのはどうでしょうか。関東近辺なら栃木県にある「那須どうぶつ王国」、関西近辺なら兵庫県にある「神戸どうぶつ王国」でスナネコたちと会うことができます。2つの動物園合わせると10匹のスナネコがいるので、自分の推しを作って成長を見守るのも楽しいかもしれませんね。

 

私は、那須どうぶつ王国にいるオスの「シャリフ」推しです(笑)。那須どうぶつ王国のYouTubeでも見ることができますよ。

 

車寅次郎を彷彿させるような四角い顔がたまりません。『砂漠の天使 スナネコ』には10匹の名前と性格が写真と合わせて掲載されているので、写真集でたっぷりと予習をした上で、アイドルに会いに行くかのような感覚で楽しむことができると思います。

↑那須どうぶつ王国、神戸どうぶつ王国で暮らすスナネコたちの家系図

 

写真集で癒されながら、「かわいい」だけで終わらせず人間と共にこの地球で生きる動物たちの未来についても考えてみるきっかけにしてみてくださいね!

 

スナネコは野生動物です。 とても可愛らしい動物ですが、 牙も鋭く気性も荒く、 ペットには向きません。

 

【特別公開! 本誌未公開カット(画像をタップすると閲覧できます)

 

 

【書籍紹介】

砂漠の天使 スナネコ

協力:那須どうぶつ王国、神戸どうぶつ王国
発行:学研プラス

“砂漠の天使”として話題の世界最小級の野生ネコ、スナネコの写真集が登場!那須どうぶつ王国・神戸どうぶつ王国で生まれた赤ちゃんの成長記録を中心に、スナネコの魅力が詰まったベストショットを収録。野生の生態や動物園の裏側がわかるコラムも!

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『少女は卒業しない』から『忍者と極道』まで!! 歴史小説家が選ぶ「卒業」の5冊

毎日Twitterで読んだ本の短評をあげ続け、読書量は年間1000冊を超える、新進の歴史小説家・谷津矢車さん。今回のテーマは「卒業」。谷津さんが選んだ硬軟取り混ぜた5冊で、あなたも久しく忘れていた卒業気分にひたれるかもしれません。

 

【過去の記事はコチラ

 


卒業シーズンである。

 

とはいえ、昨年から引き続き、新型コロナウイルスのせいで、例年と異なる様相を呈してしまいそうである。卒業式も三密を避ける工夫がなされることだろうし、会食や追いコンなどのイベントは延期あるいは中止、卒業旅行も表立ってできる空気ではあるまい。心から、今年の卒業生の皆様にはご同情申し上げる次第である。

 

三十四の今、ひしひしと思い知っていることだが、大人になると「卒業」の機会は滅多にないし、なかなか「卒業」の語にプラスの意味を見出しづらいところがある。大人になると、晴れがましく希望に満ち溢れたゴールはやってこず、大抵は「終わってほっとした」「重い荷物を下ろすことができた」という安堵が強かったりするのである。……って、いったいわたしは何を書いているのだ。

 

というわけで、今回の選書のテーマは三月らしく「卒業」である。

 

卒業後でも情報整理法の基礎が学べる

まずご紹介する一冊はこちら。『歴史学で卒業論文を書くために』 (村上紀夫・著/創元社・刊)である。

 

卒業論文。その四文字に、大学三年生、特に人文科学系の学生さんは震えていることだろう。人文科学系の学部における最終試験であり、それゆえに大関門とされる卒業論文。本書は歴史学の研究者で大学で教鞭を執る著者が、歴史学分野での卒業論文の書き方を平易にレクチャーする本である。

 

こう書くと、「歴史学科の学生じゃないと読んでも意味がなさそうだし、社会人が読んでも益するところがなさそう」とお思いの方もいらっしゃることだろうがさにあらず。本書は「卒業論文を執筆する」というミッションを通じ、資料収集法や問いの構築法、スケジューリングや情報整理法の基礎をすべて一通り教えてくれる本なのである。

 

例えば、皆さんの中にはご自分の趣味をネタにブログを書いておられる方もいるかもしれない。あるいは、YouTubeに動画を投稿しておられる方もいるかもしれない。そういう、「何かを集めて作る」タイプの趣味、仕事をやっておられる方にはなにがしかの気づきがある本である。

 

そして、この選書が公開される2021年3月現在の大学三年生諸君。そろそろ、卒論に手をつけ始めた方がいいぞ、しくじると卒業できなくなるぞ、と釘を刺す意味もあって、本書を紹介する次第である。

 

誰でも「わがこと」として読める青春小説

 

次にご紹介するのはこちら、『少女は卒業しない』 (朝井リョウ・著/集英社・刊) である。青春小説の旗手による真っ正面、ド直球の青春小説作品である。取り壊しの決まった高校で開かれる最後の卒業式、その日に起こった様々な人間ドラマを描いた連作短編集となっている。

 

それにしても――。どの短編も、読んでいて「わがこと」と読めるのが不思議なんである。

 

念のため断っておくが、学生時代のわたしは教室において空気のようなキャラクターで、同窓生の多くはわたしの存在を覚えておるまい。高校の時など、卒業アルバムを作ることになった際、「あれ、(ほぼ皆勤で学校に来ているはずなのに)谷津の写真がない!」と騒ぎになったくらい影が薄かった(実話)。

 

何が言いたいのかというと、本書に出てくるいかなる登場人物とも隔絶したパーソナリティを持つわたしでも、すべての短編を己の体験として読んでいた。登場人物たちの思いに共鳴し、「そういえばわたしも昔、こんなことがあった気がする」と己の過去を改編してしまいそうになるほどに。月並みな言葉となってしまうが、優れた作家は読者を人生の檻から解き放ち、自らの世界へと誘うものなのだ。

 

青春小説の名手の紡ぐ卒業式独特の風景と香りに、是非耽溺して頂きたい。

 

なぜ、日本人は卒業式で「泣く」のか?

次にご紹介するのは、『卒業式の歴史学』 (有本真紀・著/講談社・刊) である。

 

皆さんは、卒業式と聞いて何をイメージするだろうか。桜? 校歌? 卒業証書? 制服の第二ボタン? 本書は「涙」をとっかかりに卒業式を解剖していく。なぜ卒業式と涙は密接不可分なのか? そして、なぜ卒業式で涙を流すことをよしとされるのか? かくして、本書は日本独自の「泣き」の卒業式が誕生した経緯を追っていく。

 

終わりは、日常の延長でもある。卒業式の歴史を追う本書も、「卒業式」という終わりから、日本教育史を眺める一冊になっている。本書を読むと、わたしたちが「卒業」という言葉に覚えるなんとない郷愁や胸を締め付けられる気持ちの正体にも気づくことができるかもしれない。

 

感動すること、涙を流すこと。これらのことを冷笑するつもりはさらさらない。しかし、それらの感情の動きは高度に制度化されたセレモニーの「泣きの文法」の上に乗っかった行ないということだってある。感情は自分だけのものであると我々は認識しているが、一方で我々は制度化された感動の装置の中で生かされている。そのことに気づかされる一冊でもある。

 

現代の学校教育からの卒業

次にご紹介する本は、ぜひ『卒業式の歴史学』と一緒に読んで欲しい。『学校、行かなきゃいけないの? これからの不登校ガイド』 (雨宮処凛・著/河出書房新社・刊) である。

 

日本の学校は、概して対面方式の一斉教授というやり方で行なわれてきた。たぶんこれをお読みの皆様も体験しているだろう。学校の先生が黒板の前に立ち、壇上から生徒に向かってものを教える指導スタイルのことである。この教授法は、よい人材を効率よく発掘するという戦前日本の方針、人材を画一的に教育するという戦後日本の方針とも合致したやり方であった。だが、一斉教授を成立させるには強烈な規律を子どもたちに強いる必要がある。結果として、そこから弾かれてしまう子どもや、逆にその方式に順応しすぎる子どもが出てきてしまう。

 

本書は、現代の学校制度の歪みの被害者である子どもたちのために居場所を作る大人や、現代の学校制度を変えようとしている人々、かつて学校制度の枠から弾かれた後活躍している人たちへの取材集となっている。

 

本書はまさしく、「これまでの教育の在り方からの卒業」を読者に提示しているのである。

 

いつまでも「卒業」したくない者たちへ

最後はこちらを。『忍者と極道』(近藤信輔・著/講談社・刊) である。

 

三百年に亘り忍者と極道が争っているという世界線の現代、極道の領袖である極道(きわみ)が忍者側を刺激することで一大戦争が勃発、忍者側の少年忍者(しのは)も戦いに身を投じるのだが、実はこの二人はある特定の趣味を通じた、歳の離れた友人で……。ああだめだ、このあらすじ紹介では本書の魅力が伝わらない。

 

本書の魅力は、反吐が出るほどに極悪な登場人物たちの狂った思考回路が高次のレベルで整合が取られていてそれがそのままキャラ立ちに直結している点、マシンガンのごとく差し込まれるルビ芸の数々、そしてシリアスとギャグの間を突く、強烈なネタの絨毯爆撃ぶりにこそある。

 

さて、なぜわたしは「卒業」テーマで本書を紹介せんとしているのか。それは、3〜4巻で展開された首都高速激闘篇のゆえである。色々あって緒戦を終えた極道(きわみ)は伝説の暴走族集団暴走族神(ゾクガミ)を招集し、忍者たちと戦わせるのだが、ここに出てくる暴走族神の幹部たちが実にいい。皆、色々な意味で子どもから卒業できずにいる大人の群像なのである。もちろん、破壊活動に身を染める人々の気持ちはわたしには分からない。しかし、彼らの奥底にある「卒業できない・したくない」感情に、ある種の大人は胸を掴まれるのではないだろうか。

 

大人になっちゃいるけれど、大人であることを投げ捨てたい、そんなあなたに。

 

 

大人になってから晴れがましい卒業はあまりない、と冒頭で書いた。

うん、それは間違いない。

だからこそ、大人は晴れがましい「卒業」にノスタルジアを感じる。

これから卒業が控えている若人たちには、ぜひ、何の気なしに卒業気分を味わって欲しい。

それが十年後、あなたの中で不思議な輝きを放っているかもしれない。

ざっと言えば、これこそが人生経験と呼ばれるものの正体なのである。

 

【過去の記事はコチラ

 

【プロフィール】

谷津矢車(やつ・やぐるま)

1986年東京都生まれ。2012年「蒲生の記」で歴史群像大賞優秀賞受賞。2013年『洛中洛外画狂伝狩野永徳』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』にて歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。最新作は『小説 西海屋騒動』(二見書房)

中国の現代美術家といわきの経営者が250年先を見据える美術プロジェクトとは?−−『空をゆく巨人』

人と人が関わるとき、思いがけない何かが起こることがある。偶然の出会いによって、火花が散るようなエネルギーがほとばしり、スパークして体を駆け抜けていく。『空をゆく巨人』には、「こんなことって本当にあるのだろうか」と、驚愕するような出会いが描かれている。

 

二人の出会いは、花火に似ている

出会ったのは、祭 國強(ツァイ グオチャン)と志賀忠重。国籍も職業も置かれた環境も違う二人が、ふとした偶然で知り合い、意気投合し、その後、長い友情をはぐくむことになるのだから、やはり、人と人の出会いは運命的なものだと思う。

 

著者・川内有緒は、二人の人生を互い違いに描きながら、ひとつの物語としてまとめ上げようとした。丁寧な取材を続け、多くの史料と格闘した甲斐があり、二人の人生はひとつになり、大輪の花火となって空に打ち上げられた。

 

著者の経歴も興味深い。彼女は最初、アメリカの企業やフランスの国連機関に勤務したが、安定した職業を辞めてフリーライターとして活動するようになった。以来、評伝や旅行記、数多くのエッセイを発表してきたが、祭國強と志賀忠重との出会いは、深い縁で結ばれていたとしか言い様のないものだった。

 

縁と言えば、『空をゆく巨人』の帯はスタジオジブリの鈴木敏夫氏によるものだが、彼は川内のことを子どものころから知っていた。たまたま同じマンションの8階に鈴木家が、9階に川内家が住んでおり、ご近所さんだったというのである。

 

ぼくはいまでも彼女のことをこう呼ぶーあっちゃん、やったね!開口健賞、おめでとう

(『空をゆく巨人』帯より抜粋)

 

ここにもひとつのスパークがある。

 

祭 國強というヒト

祭 國強は、現代美術界のスーパースターだ。日本では「さい・こっきょう」と呼ばれ、火薬を爆発させることによって描かれた作品で知られている。世界中から賞賛を集めており、展覧会も数多く行われてきた。

 

今では大活躍の彼だが、その経歴は異色である。1957年、中国は福建省の泉州という町で、祭は生まれた。父の祭 瑞欽(ツァイエイチン)は墨絵画家で、書家でもあった。長男が可愛くて仕方がなかったのだろう。國強を膝にのせたまま、絵を描いていたという。家にはたくさんの文人が集まり、文化サロンのような雰囲気に包まれていた。國強が芸術を愛するようになったのも、環境からいって当然だ。

 

泉州生まれであることも、祭 國強に大きな影響を与えた。古くから海のシルクロードの出発点として栄え、世界中の商人達が活躍の拠点としていた場所であり、世界に門戸を開く自由な空気があったからだ。

 

ところが、彼が9歳のころ、文化大革命が起こるや、それまで培ってきた価値観は大きく変わってしまう。私有財産は没収され、文化財は次々と破壊されていく。若者達は中学校を卒業後に貧しい農村に移住して肉体労働に従事するよう命じられた。いわゆる「下放」政策だ。祭は下放を逃れようと、ひとつの策を講じる。

 

「私の場合は一発勝負、劇団に入ることに賭けたです」

(『空をゆく巨人』より抜粋)

 

数千人の希望者が殺到するなか、選ばれるのはほんの十数人……。しかし、運が強いのか才能を見いだされたのか、彼は見事に合格し、舞台美術を担当するようになった。

 

来日した彼

1986年、29歳のとき、彼は日本にやって来た。自由を求めての来日だったが、成田空港に降り立つと「きついゴムと香水の匂いに驚いた」という。魚と醤油のにおいがしたという話は聞いたことがあるが、ゴムと香水の組み合わせはユニークだ。

 

無事に来日を果たしたものの、日本語も話すことができず、アーティストとしても無名な状態で、日本語学校に通いながら、銀座の画廊に自分の作品を持ち込む日々が続いた。何とか作品を買ってもらえないかと頼んでも、けんもほろろに追い返されてばかりだった。「中国には現代美術など50年経っても生まれないと思う」と、言われたこともある。

 

しかし、祭は不運を呪うでもなく、コツコツと作品を作り続け、画廊を巡り続けた。呼ばれて来日したわけではなく、自分で望んでやって来たのだから、つれない仕打ちをされても文句を言う気にはならなかったのだ。心が強いのだろう。自分の才能に自信があったのかもしれない。

 

志賀忠重というヒト

祭が銀座の画廊を巡って苦労しているころ、もう一人の主人公・志賀忠重は、福島県のいわき市で暮らしていた。彼は商才があり、携帯電話の販売代理店の事業をはじめ、英会話スクールや英語パブなど、手広く事業を展開していた。しかし、現代美術にはまったく興味がなく、見たいと思ったこともなかった。

 

接点のない二人を結びつけたのは、いわきでギャラリーを経営する藤田忠平だ。志賀と同級生だった彼は、祭の絵に魅せられ、作品を買い、初めての個展を行った。そのとき、志賀は祭の絵をとくに気にいったわけでもないというのに、藤田がいいと言うからと、ただそれだけの理由で購入を決めた。

 

当時、生活費にも事欠いていた祭は、とても喜んだ。
「どうして私の絵を買ってくれたんですか」
初めて志賀に会うなり、目を輝かせて尋ねた。
絵が素晴らしいからですよ、という答えを期待していたかもしれないが、返ってきたのは「いやあ、だって、藤田くんに頼まれたからだぁ!」という身も蓋もない返答だった。

(『空をゆく巨人』より抜粋)

 

以来、二人は友達になり、長い付き合いが始まり、現在に至る。

 

250年後を見据えたプロジェクト

いわき市での成功は祭に自信を与えた。以来、彼は人々の度肝を抜く作品を発表し始める。それはもう宇宙的規模と言うべきもので、あまりにもスケールが大きく、どう対処すべきか悩むほどだが、その発端がいわき市の個展にあったと思うと、心があたたかくなる。

 

これまで、二人は新しい試みに挑戦してきた。祭がアイデアを出しスケッチを描くと、志賀が仲間を率いてそれを具体的な形として、結実させていく。数々の作品の中でもとりわけ規模が大きいプロジェクトが「いわき回廊美術館」だ。30年にわたる祭といわきチームの物語や子ども達の絵が展示されている。同時に、周囲の山に途方もない数の桜の樹を植えるプロジェクトも進行している。福島第一原発事故で汚染されてしまった故郷に世界一の桜の名所を作る予定だという。終了予定は250年後だというのだから、ぶっ飛ぶ。

 

『空をゆく巨人』には、祭がニューヨークに移ってからの活動についても、細かく記されている。しかし、著者が一番、書きたかったのは、祭と志賀の運命のつながりだと、私は思う。人は人に傷つけられたり、苦しめられたりする。人と人が出会うとき、そこに激しい憎しみや争いが起こることも多い。

 

しかし、しかしである。祭と志賀のように、激しい個性の持ち主が独特の間合いをとって、幸福なプロジェクトを進行させていく関係も確かにあるのだ。それは私にとって、救いであり、希望である。

 

【書籍紹介】

空をゆく巨人

著者:川内有緒
発行:集英社

第16回開高健ノンフィクション賞受賞作! 現代美術のスーパースター蔡 國強と、いわきの“すごいおっちゃん”志賀忠重がアートで起こした奇跡! ふたりの30年に及ぶ類い稀なる友情と作品づくりを辿り、芸術が生み出した希望を描く感動作。

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オンライン会議で知っておきたい「話し方」のコツ−−『世界最高の話し方』

日本がリモート化してから、早いもので1年が経とうとしています。「どうやって打ち合わせしよう?」とか「オンラインで伝わるの?」などなど疑問に思っていたのが嘘のように、リモートスタイルに移行した会社は多く、すっかり「当たり前」になってしまいました。

 

昨年10月に発売された『世界最高の話し方』(岡本 純子・著/東洋経済新報社・刊)には、元・新聞記者でエグゼクティブ・スピーチコーチ&コミュニケーション・ストラテジストというすごい肩書きをお持ちの著者、岡本純子さんのノウハウが50のルールとして余すところなく掲載されています。今回は、オンラインミーティングに慣れてきた今だからこそ改めて学んでおきたい「話し方」のコツをお伝えしていきます。

リモートはそもそも集中力が持ちにくいと心得るべし

たまに5名以上のウェブ会議に参加すると、画面も音声もミュートにしている人がいて「本当に聞いてもらえているのかな?」と心配になりますよね。でも、自分も担当部分が終わればコーヒーを淹れちゃったりして(笑)、顔を合わせていた時よりも集中していたか? と聞かれると正直できていないことの方が多いなーと思います。

 

Amazonの「めっちゃお得〜」のCMでも、リモート打ち合わせ中にAmazon見ている設定になっていますから、リモートでは聞く側は集中できていない状態かもよ! ということを前提に話し方を工夫しなければいけないそうです。

 

全身の五感で感じ取っていた情報を、目と耳だけで吸収しなければならないリモート環境では、発信者はこれまで以上の努力をしなければ、伝わりません。

聞き取りやすく緩急をつけた声も重要ですし、表情やプレゼン資料の「見せ方」「魅せ方」にもいっそうの工夫を凝らさなければならないということです。

(『世界最高の話し方』より引用)

 

その「工夫」は、YouTuberに学ぶのが良いのだとか。確かに人気YouTuberの動画を見てみると効果音をふんだんに使っていたり、大きなテロップが入っていたり、商品の見せ方を工夫していたり、「視覚」と「聴覚」へのアプローチが上手ですよね。大事な会議でYouTuberのように「はいどーもー!〇〇ですっ♪」と言われてしまったら驚きますが(笑)、しっかり聞いてもらえるための見せ方は真似できる部分がありそうですね。

 

プレゼン達人の必殺技

リモートになったからといって、商談やプレゼンの場が減ったわけではありません。むしろ、遠方の会社とも商談しやすくなったのでプレゼン機会が増えた! なんて人も多いと感じます。ただでさえ、集中力が持たないオンラインミーティングで上手なプレゼンをするためにはどうするのが良いのでしょうか? プレゼンの達人はとっても簡単な方法を使っているそうですよ。

 

有名な動画配信プロジェクト「TEDトーク」の最も人気のある上位25のプレゼンテーションを分析したところ、次の3つの特徴がありました。

・笑いをとっている
・拍手や歓声をあつめていた
・問いかけが多い

「?」の数は579あり、ピリオド、つまり日本語の「。」が3910でした。

「。」で終わる文が6に対し、「?」つまり質問や問いかけを1の割合で入れていくべきだというわけです。

(『世界最高の話し方』より引用)

 

そんな簡単でいいの? と思ってしまいますが、「。」を「?」に変えるだけで、一方的な自分語りから相手との対話となるため、関心を持って聞いてくれるようになるそうです。なんだか最近、リモートだと商談がうまく進まないなぁ〜と思っている人は、話している内容の語尾をほどよく「?」に変えてみると、いつもと違うリアクションがもらえるかもしれません。

 

オンラインでの部下の褒め方

社内のコミュニケーションもリモートによってちょっぴり希薄になったと感じる人もいるかと思います。また便利なチャットツールが主流になった今は、直接「褒める」ということも減りましたよね。頑張っている部下を褒めてあげたいのだけれど、どうやって褒めたらいいか、どう話したらいいかわからないという方におすすめの「ミカンほかん」の法則をご紹介します。この法則は、「承認(みとめる)」「共感」「賞賛(ほめる)」「感謝」の「み・感・ほ・感」を組み合わせたものなのだとか。

 

「ミカンほかん」を実践すると、こんな感じの伝え方になります。

 

大口の契約がとれたそうだね。(承認・認める)

つらい思いをしたから、余計うれしいよね。その気持ちはよくわかるよ。(共感)

お客様への心配りも素晴らしかった。よくがんばったよ。(賞賛・ほめる)

心からおめでとう。そして本当にありがとう。(感謝)

(『世界最高の話し方』より引用)

 

ここまで褒められたらうれしいですよね! 心のどこかで「うそ〜」「またまたぁ〜」とは思いつつ、言われて嫌な気持ちがしないから不思議です(笑)。

 

「話し方」は、教えてもらう場面が少ないので、ついつい我流でやってしまいますが『世界最高の話し方』を読んでいると、知らず知らずのうちにやっていた自分のクセや間違った話し方に気がつくようになります。項目が細かく分かれ、さらっと読める一冊なので「話し方を鍛えたいけど読書が苦手で……」という人もおすすめです。また春から新しい環境で働くという方もオンライン時代にあった「話し方」を身につけられるはずです。

 

リモートワークが中心となり、人と話す機会も減っている今のうちに改めて「話し方」のコツを身につけてしまいましょう!

 

 

【書籍紹介】

世界最高の話し方

著者:岡本 純子
発行:東洋経済新報社

1000人以上の社長・企業幹部の話し方を変えた「伝説の家庭教師」の全メソッドが、初めて書籍化! 完全初公開! 「雑談」「プレゼン」「説得」「説明」「ほめ方」「叱り方」、話し方にまつわる全スキルが、たった1冊で身につく! リモートにも完全対応!「伝え方」「目線」「声」「しぐさ」今知りたいノウハウが満載! 仕事も日常会話も、この「黄金50のルール」でうまくいく!話し方が変われば、人生が変わる!

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可愛くてお洒落なデザインが人気の「セリア」が1位に−−主婦が選ぶ好きな100円ショップTOP5

PLAN-Bが運営するカジナビは、20~40代の主婦を中心に、「100円ショップ」に関するアンケートを実施しました。

 

好きな100円ショップの第1位は、可愛くてお洒落なデザインが人気の「セリア」でした。100円ショップを、月に最低2~3回利用する人は約8割に上ります。1回の買い物に使う予算で最も多かったのは、「1000円前後」でした。

 

出典画像:プレスリリースより

1021人の主婦が選んだ、「好きな100円ショップ」の第1位に輝いたのは、「セリア」でした。わずか2票の差で、「ダイソー」が2位に入っています。3位は「キャンドゥ」、4位は「ワッツ」、5位は「ローソン100」と続きました。ランク外には、「レモン」「ミーツ」「ナチュラルキッチン」などの名前が挙がっています。

 

出典画像:プレスリリースより

100円ショップで買い物する頻度で最も多かったのは「月に2〜3回」で、続いて「週1回」となっています。「週2~3回」「週4回以上」を含めると、最低でも半月に1回100円ショップを利用している主婦は約8割に上りました。週に1回以上であればスーパーに行く頻度とさほど変わらず、100円ショップは日常に欠かせないといえそうです。

 

出典画像:プレスリリースより

100円ショップでの1回あたりの予算で最も多かったのは、「500〜1000円未満」で42%でした。「1000〜1500円未満」が35%で続いています。全体の77%が1回の買い物で1000円程使っていることから、10点ほど買っていることが分かりました。

コロナ禍で災害が起こったら!? 国際レスキューナースに学ぶ「新型コロナ禍の防災マニュアル」

先日、福島県沖で震度6強の地震が起こった。震度3~4前後の地震は頻発していたが、この規模は久々だ。震源地エリアのこともあり、東日本大震災のときのことが頭をよぎった人も多かったのではないだろうか。

 

私自身は、大阪北部地震のときの恐怖が蘇った。開いていた食器棚の扉からは食器が飛び出し、シンク横のキッチン用品が散乱。再び地震が来るのではという恐ろしさに加えて、ガラスの破片や散らばった小物たちを片付けることが、結構な負担となった。

 

あの日を境にいろいろな防災対策を試みているつもりだが、時は新型コロナ時代である。もしも今、大きな災害が起こったら。単に避難所に逃げればいいというものではなく、感染症のリスクも考えなくては。でも、どうすれば?

今回は、国際レスキューナースとしても活躍中の辻 直美さんの著書『レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル』(扶桑社・刊)を手引きに、日常生活でできる感染症対策をご紹介しよう。

とにかく家の中をグリーンゾーンに保つこと!

辻さんが声を大にして言いたいポイントのひとつが、「家の中をグリーンゾーンに保つこと」なのだそう。レッドゾーン=新型コロナウイルスで汚染されている区域、グリーンゾーン=ウイルスで汚染されていない区域。つまり、もしかしたら外で自分の体や衣服についてしまったかもしれないウイルスを、できるだけ家の中に持ち込まない努力と工夫が大事ということ!

 

そのためには、玄関でのひと手間が必要だ。

 

辻さんは靴箱にアルコールとティッシュ、ゴミ箱を置いていて、帰宅したらマスクを外す→ゴミ箱に捨てる→アルコールで手指消毒→内側のドアノブを消毒→上着を脱いで、内側が表になるようにしてハンガーにかける(もしくは、ボックスなどに入れておく)。これらを玄関でおこなうのだそう。

 

帰宅したら、まずはリビングでゆっくりしたいよ~というところだが、玄関でウイルスをシャットアウトする習慣をつけておけば、家の中では安心して過ごせるのだ。

 

なお、コロナ禍で災害が起こったら、ぶっちゃけ避難所より在宅避難の方が安心とのこと(もちろん、時と場合によるが)。そのため、普段から家の中にウイルスを持ち込まない努力をしたうえで、地震が起きても住める部屋づくりを心がけよう。

 

レスキューナース直伝「感染症予防法」

辻さんは、国際災害レスキューナースとしての専門的な知識や経験がじつに豊富だ。以前、取材をしたときも、ちょうど新型コロナウイルスが流行し始めたばかりのころだったが、その徹底した感染症対策には驚いた。

 

たとえば、ドアを開けるときは利き腕とは逆のヒジを使うこと。これは、アメリカの消防隊が実践しているクロスドミナンスという感染予防法で、できるだけ利き手がウイルスに触れる機会を減らすことが目的。エレベーターのボタンなども、利き手と反対の手で押す。できれば、指先ではなく中指の第二関節がベストなのだそう。

 

というのも、ウイルスを手で触ってしまったからといって、それだけでは感染しない。問題は、ウイルスがついた手で顔を触ってしまうこと! 口や鼻、目などの粘膜を通してウイルスが体内に入ってしまうことで感染するという仕組みなのだそうだ。

 

私たちは無意識のうちに手や指で顔を触っている。触りまくっている。その数、なんと1時間で平均23回にも及ぶらしい。私自身はアトピーということもあり、常に体のどこかが痒い。顔もすぐに触りがちなので、非常に危険だ……。利き手と反対の手を使う、指はできるだけ薬指と小指を、場合に寄ってはヒジ、第2関節も活用する。ぜひ意識したい。

 

防災グッズに「コロナ対策グッズ」をプラスする

もしものときに備えて、防災グッズ(非常持ち出し袋)を用意している人がほとんどだろう(まだの人は、今すぐ準備を!)。そのなかに、辻さんおすすめのコロナ対策グッズを足しておこう。

 

辻さんがおすすめするのは、以下の7つ。

 

(1)固形石鹸 (2)マスク1箱 (2)逆性石鹸を薄めて小分けにしたもの 

(4)逆性石鹸 (5)体温計 (6)洗えるマスク (7)使い捨て手袋

 

逆性石鹸とは、石鹸とは言いながらも洗浄力はなく、細菌をやっつける効果があるもののこと。医療器具の消毒などにも利用されており、原液を1本持っておけば水道水などで薄めて大量に消毒液を作れるので便利なのだそう。薬局などで手に入るので用意しておきたい。

 

「生き抜くための感染予防法」を無駄にするべからず!

『レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル』には、辻さんがこれまで被災地で経験してきたことが活かされた「生き抜くための感染予防法」が満載だ。

 

そして、この本の最後に書かれていたことに、私は大きく感銘を受けた。

 

たとえば、避難所で消毒液を持っていない人がいたら、自分が持っている逆性石鹼の原液を薄めて分けてあげる。なぜならば、避難所内で感染者が出て流行してしまったら、自分自身の感染リスクも格段に上がってしまうから。自分一人が助かればいい……ではなく、災害をみんなで乗り越えよう! という心の余裕こそが、コロナ禍で生き抜くための大切な心意気。そんな辻さんの教えを胸に、できることから取り掛かりたい。

 

災害はいつ起こるかわからない。じゃあ、いつ対策するの? 今でしょ!!

 

【書籍紹介】

 

レスキューナースが教える 新型コロナ×防災マニュアル

著者:辻 直美
発行:扶桑社

被災地での経験を生かした「感染予防法」が満載! 私は防災の専門家です。地震や水害に襲われた被災地で活動してきました。衛生環境の悪い被災地では感染症が発生します。それらを蔓延させないことが、私たちレスキューナースの使命なのです。その私が言います。「新型コロナウイルス感染症」も、災害です。しかも、「得体のしれない災害」です。人はわからないものに対して、不安になります。周りが不安になると、さらに不安になります。そんな不安を抱えてどうしたらいいかわからず、フリーズしている人が増えています。この本を読めば、その恐怖心を払しょくできます。

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