断捨離生みの親、やましたひでこさんがコロナ禍を経て辿り着いた住まい方とは?

少しずつ日常を取り戻しつつありますが、新型コロナウイルスが流行する前と後では、価値観は大きく変わりました。「断捨離」メソッドの生みの親でもあるやましたひでこさんは、2020年10月から、本拠地・東京に加えて、鹿児島県指宿市にも拠点を構え行き来する、いわば“多拠点居住”を始めたといいます。

 

2022年もちょうど折り返し地点。私たちがこれから進むべき道はどこなのか、日々変化していく中で考えるべきことはなにか、多拠点での住まいを起点にお話しいただきました。

 

コロナ禍で生まれた「指宿リトリート」

———以前、取材させていただいたのが2020年の年末。その際に、指宿のホテルに住民票を移されたと伺って驚きました。現在のやましたさんは、どのような生活をされているのでしょうか?

 

「東京と指宿の二拠点生活を続けています。自然がいっぱいの指宿と、刺激的な東京。理想は半々ですが、なかなかそれも難しくて。現状は3分の1が指宿、3分の2が東京くらいの割合で過ごしています。以前の連載でも、『“断”ちがたいものは人間関係で、“離”れがたいのが土地』とお伝えしましたが、二拠点生活をしていくと、人間には、都会の暮らしも田舎の暮らしも、どちらも必要だったのだと実感しています」

 

東京のマンションと、砂蒸し風呂で有名な鹿児島県指宿市の山の上にあるホテル「指宿ベイヒルズ」に住民票を移しての二拠点生活。

 

ここに「指宿リトリート リヒト」と名付けられたやましたさんプロデュースの空間があり、自分を癒す場所として現在一般にも利用されています。

 

———どちらもですか?

 

対照的であるからこそ、ひとつになって初めてバランスが取れると、あらためて感じました。コロナ禍で田舎暮らしにシフトした方もるけれど、“田舎がいい”とか“都会がダメ”なのではなくて、両方と行ったり来たりすることで、健やかに生きていけるのだと思ったんです。私が欲張りなのかもしれないけれど、都会にしかないもの、田舎だから味わえるもの、どちらも体験したいじゃない?(笑)」

 

———二拠点生活は“いいとこ取り”ってことですね。指宿リトリートは、一般の方も宿泊できる施設とのことですが、どのような場所なのでしょうか?

 

「コロナ禍でできた場所でもあるから“一時待避所”をイメージして作りました。本当にいろんな方がやってきますよ。2泊3日で慌しく帰っていく人もいれば、1か月ほどのんびり滞在する人も。一般的なホテルや観光地と違うのは、一度リトリートに訪れた人は『ただいま〜』と言いながら、また帰ってきてくれるところでしょうか」

 

———利用される方も『ただいま〜』と戻ってくるなんて、素敵ですね。

 

「観光地ってあまり繰り返し行かないですよね? ここには『また来ます』って、帰ってくる人が多くて。初めていらっしゃった方と話していると、『ずっと悩んで、やっと来られました!』って、一大決心してやってくるんですよ。リトリートも、山の中にある砦のようだから、時間もかかるし大変なんです。でも、一度来れば『来られた』って自信になるし、不思議と2回目以降は『近い』って感じるんです。私も今は全然、遠いと思わなくなりましたね」

 

———繰り返していくことで、近く感じるようになるのは面白いですね。

 

「不思議なんだけど、遠いと思ったことはないです(笑)。満員電車で1時間以上かけて通勤している人と比べたら、飛行機に乗っていれば着くし、空港からも車で1時間半ほどなので、慣れれば近いんですよ」

 

指宿リトリート「リヒト」にあるラウンジは、誰もが自由に使える場所。

 

仕事をする人、読書をする人、料理を作る人など思い思いの時間を過ごします。一人で来ても「独りじゃない」と、たびたび訪れる人も多いのだとか。

 

空間が変わると、自分の意識も変わる

———二拠点生活をしていく中で、ご苦労はありましたか?

 

「その時、その場での自分の最適があるから、大変だったことはほとんどありませんでしたね。むしろ指宿の良さも、東京の良さもどちらも味わえて楽しいですよ。こういう話をすると、『それはやましたさんだからできるのよ』って言われちゃうんですけど、そうじゃないんです。人間、できない探しは大得意! できない理由を探すのではなく『自分がしたいのか、したくないのか』、そこから考えることが大切です

 

———なるほど。「私も指宿に行ってみたいな〜」と思ったら、できる方法から考えればいいってことですね。

 

「そうです。『いいなぁ〜』と思ったなら、どうしたらできるかを考えればいいだけ。何かをしようと思った時、私たちはできない理由から探してしまうんです。これは思考の癖。まず行動を起こしていくと、『できた』という結果が積み重なっていくので、『いいなぁ〜』と思ったなら行動あるのみです」

 

———そんなやましたさんが、これからやってみたいと思っていることはどんなことなのでしょうか?

 

「実はね、指宿でシロくんというお馬さんを飼ったんです」

 

———え、馬!? 馬って個人で飼えるんですか?

 

「東京にいたら無理ですよね(笑)。指宿の大自然を見ていると、『ここならお馬さんと暮らせるな〜』なんて、思考まで大きくなっちゃって。今は、近くの乗馬場で預かってもらっているんですけど、空間が変わったことで、自分の意識も変わったんですよね。景色に合わせて、空間に合わせて、自分の視野が広がっていくことは、二拠点生活だからこそ実現できたことだと思います」

 

———なるほど、すごい! 東京だけで暮らしていては、そういう発想にならないかもしれません。そもそも空間自体が狭いというか……。

 

「そうですね。機会があれば、高いところから都会のビル群を見てみてほしいんですが、まるで隙間を埋めるようにビルがひしめき合っていますよね? この状態が本当に“快適”かどうか、一度考えてみてほしいんです。カラーボックスのように積み上げられた建物の中をのぞいてみると、その中にもカラーボックスがいっぱい。街の中も、家の中も、窮屈な状態です。一方、田舎に目を向けると人口減少によって、空き家が増えて、街も家も生きている感じがしないですよね。密な場所と、疎な場所で、新陳代謝を生み出すことが、快適な街にするポイントなのだと思います」

 

———断捨離の考え方は、まちづくりにも活かせるんですね。

 

「誰も、ここに定住しなさいなんて言っていないですよね? 都会と田舎でバランスを取りながら、自在に暮らすことができれば、もっと楽しい人生になると思います。断捨離のテーマは『空間で労う、もてなす』です。空間が変われば、意識も簡単に変わりますよ」

 

2022年は、調和に向けてスタートする年

———以前のお話だと、2020年は分断の年、2021年は好きなものを選び、楽しむ年と伺いました。2022年もちょうど折り返しになりましたが、今年はどんな年でしょうか?

 

「今年は『調和に向けてスタートする年』でしょう。さまざまな変化を経験して、多様な価値観が生まれました。それらが調和に向かっていく年になると思います。そのスタートを切れるか、それとも変化についていけず固執してしまうか……」

 

———すごく慌ただしい時期を過ごしてきたので、調和や安定に向かっていると思うと、ホッとします。

 

「変化を経験すると、安定したいと思いますよね。でも、安定は固定ではありません。乗馬を例にしてみましょう。馬って想定していない動きをするので、常に変化していますよね。馬に合わせて動かないと、乗りこなすことはできません。乗馬している人をみると、固まっている人っていないでしょ? 人生は安定を求めがちなんですが、安定した場所はないんですよ。変化には変化で対応することが安定であり、調和なんです

 

———変化には、変化を。コロナ禍でいろんなことが変わったので、今のお話に納得できます。

 

「確実に時間は変化しているので、どうやったって元には戻れませんから。過去の成功や失敗に固着しすぎると、調和はできません。何かにしがみつくのは、安定じゃないんです」

 

———これは今までの連載でも教えていただいた『断捨離』の考え方とも通じるものがありますね。ちょっとスケールの大きな話になっちゃいますが、今のご時世、変化に不安を感じたり、「このままがいい」と感じる人が多かったり、どこか停滞感を感じる時もあります。

 

「今の日本は、元気がないですよね。それは住環境にも表れていて、いろいろなご自宅にお邪魔させてもらうのですが、どこも閉塞感と拘束感が漂っています。そんな中で暮らしていると、人間関係にも影響するのは当然です」

 

———住環境から、人間関係にまで悪影響が及んでいるとは……。調和に向けてスタートが切れるようにしたいですね。

 

「断捨離で空間を甦らせていくことで、元気と癒しを与えられると思います。何度もお伝えしていますが、断捨離は捨てるだけではありません。断捨離の基本は、断=なだれ込むモノを「断」つ、捨=いらないモノを「捨」てる、「離」=「断」と「捨」を繰り返し、モノへの執着から「離」れること。私たちは大きな変化を経験しているわけですから、何かにしがみつこうとせず、調和していきたいですね」

 

やましたひでこさんの「断捨離」に関する過去のコラムはこちら
https://at-living.press/tag/yamashitahideko-danshari/

 

【プロフィール】

クラターコンサルタント / やましたひでこ

一般財団法人「断捨離®︎」代表。学生時代に出逢ったヨガの行法哲学「断行・捨行・離行」に着想を得た「断捨離」を日常の「片づけ」に落とし込み応用提唱。誰もが実践可能な「自己探訪メソッド」を構築。断捨離は人生を有機的に機能させる「行動哲学」と位置づけ、空間を新陳代謝させながら新たな思考と行動を促すその提案は、年齢、性別、職業を問わず圧倒的な支持を得ている。『断捨離』をはじめとするシリーズ書籍は、国内外累計500万部を超えるミリオンセラー。アジア各国、ヨーロッパ各国において20言語以上に翻訳されている。

・BS朝日「ウチ、断捨離しました!」<毎週月曜夜8時>レギュラー出演中
https://www.bs-asahi.co.jp/danshari/

・やましたひでこ公式HP『断捨離』
日々是ごきげん 今からここからスタート http://www.yamashitahideko.com/
・やましたひでこオフィシャルブログ『断捨離』
断捨離で日々是ごきげんに生きる知恵 http://ameblo.jp/danshariblog/
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※「断捨離」はやましたひでこ個人の登録商標であり、無断商業利用はできません。

「断捨離」生みの親 やましたひでこが振り返る2020年と、2021年にもつべき希望と心構えとは?

2020年は、これまでの“当たり前”が一変し、非日常が日常になった1年だった、という人も多いのではないでしょうか。

 

「断捨離」の“生みの親”でもあるやましたひでこさんには、この連載を通じて断捨離の真意をお話しいただいてきました。今回は、そんな特別な1年となった2020年を振り返りながら、2021年に向けて、この試練をどのように乗り越えていけばいいのか、またこの経験をどう生かしていけばいいのかを、断捨離の視点から考察していただきました。

 

2020年は良くも悪くも“分断”した年
この経験から見えてくる“希望”とは

———2020年は本当にいろいろなことがありました。やましたさんは、振り返ってみてどのような1年だったと感じますか?

 

「ひと言で表すなら、“分断”の年だったと思います」

 

———政府から緊急事態宣言が発令された後にお話をうかがった、「#StayHomeの今、私たちが家で過ごしながらすべきこと」でも、今後は“分断された社会”になるとおっしゃっていましたね。

 

「はい。振り返ってみれば、必要な分断だったのかもしれません。現状は、この分断された状況を理解した上で受け入れている人、気がついたら分断されたまっ只中にいた人、分断されていることにすら気がつかず過ごしている人の、3つに分けられると思います。できることなら理解した上で、分断の中にいる人でありたいですよね」

 

———“分断”と聞くと、どうしてもネガティブな印象をもってしまうので、3つのどの状況にあっても、「なんとなく不安だな……」という思いが付きまといます。来年以降も、漠然とした不安を抱えながら暮らしていくことになるのでしょうか?

 

「今は不安に思っている人も多いかもしれませんね。でも私は、この分断を“希望”としてとらえています。この状況を希望と感じるか、不安だと思いながら生きるかはどこに焦点を当てるか次第です。つまりは自分の意識次第なんです。

ちょっと難しいので例を出してお話しすると、新型コロナウイルスも第三波がやってきて、Go To トラベルが停止になったり、再び緊急事態宣言が出されてしまうのではないか? と不安になったり、ニュースをつければ日々ネガティブな情報ばかりが飛び交っています。けれど、世界規模で感染者増加グラフを見比べてみれば、日本の状況はそこまで悲惨ではないんですよね。もちろん、ひとりひとりが感染を予防するのは当たり前のことですが、俯瞰してみると、『今、必要以上に不安がることはないのでは?』と思えることもあります。ずっと家にいるのに、感染者が増えていくニュースに右往左往してしまってはそれこそ不安だし、疲れ果ててしまいます。感染予防し、不要な外出を控え、家の中で生活しているだけなら快適に毎日を過ごせるわけだから、どうやって物事をとらえるかで気持ちは変えられるということです」

 

「みんな一緒」の価値観はもう終わり

———確かに、新型コロナウイルスのネガティブな部分ばかりがピックアップされてしまいますが、俯瞰して考えてみると、リモートワークが中心になったことで今まで交通費がかかっていた場所の方とも気軽にオンラインでお話しできたり、自由な家空間で仕事ができたり、予想外の恩恵もありました。断捨離を通じて、「住」環境ともじっくり向かい合えた1年だったとも感じます。

 

「やっと、時代が断捨離に追いついてきましたね(笑)。この時期にしっかり断捨離できていたかどうかというのも、“分断”の中のひとつにあると思います。『断捨離していて良かった』と感じられるか、知らずに過ごしてイライラしているか……。自分が住んでいる場所が不要・不適・不快(※)だったら、それだけでもイライラするし、不安になりますからね。12月末に新著『1日5分からの断捨離』(大和書房)を発売するのですが、そこでも、目の前にあるものをたった1つでもいい、5分でもいいから断捨離してみようということを書いています。時間がなくてできないとか、何から手をつけたらいいか、と悩んでいる方はこの連載と合わせて読んでいただけると、理解も深まると思いますよ」

※『要・適・快』は、「これは私にとって、必要か(要)・ふさわしいか(適)・心地よいか(快)?」と自分に問いながら必要なものを見定めていくこと。『不要・不適・不快』は、今の自分にとって「あれば便利だけどなくても困らない(不要)モノ・今の自分には合わない(不適)モノ・長く使っているけれど違和感を感じる(不快)モノ」を手放していくこと。

 


『1日5分からの断捨離』(大和書房)

 

———われわれは、コロナ以前からやましたさんに取材させてもらっていたので、プライベートでも少しずつ断捨離することができました。こう言うのもおこがましいですが、「断捨離していて良かった」派です!

 

「それはなによりです(笑)。これは私の勝手な妄想でしかないけれど、新型コロナウイルスによって今、“密”と“疎”のバランスが見直されているのでは? とも感じています。昔は、みんなが同じアイドルが好きで、みんなが知っている歌があって、みんなが同じドラマやバラエティを見て、みんなが同じスポーツを観戦して熱狂して、日本全体で一体感を感じる場面が身近にありましたよね。日本全体の趣味嗜好や流行が“密”だったんですよね。けれど、今はどうでしょう?」

 

———今は自分の趣味嗜好に合わせた番組をYouTubeで楽しんだり、音楽もヒットチャートなど関係なくサブスク配信で好きなものを聞いたり、各コミュニティの中での一体感を感じることはあっても、日本中が一緒に盛り上がるという機会は少なくなりましたね。

 

「そうですよね。その意味での“分断”と捉えると、『私は私で好きなことやります! 興味があるなら一緒にやらない?』くらいで十分楽しめる時代になっていると思います。今までは興味のない人までどうやったら巻き込めるか? ということに苦心してきたけれど、分断されたことでかえって“個”が尊重されるようになり、働き方はもちろん、生き方も自分らしく、ダイナミックな人生を送れるようになってきたと思うと、意外といい時代だと感じませんか?」

 

———ええ、そう感じます。

 

「マラソンで例えるなら、みんな同じゴールを目指してスタートしても先頭集団と後方集団に分かれてしまいますよね。『断捨離』に関しては、今までは遅れている人がいたら、さぁ! 一緒に頑張りましょう! って並走していましたが、その行為自体がおこがましいし、私の役目ではないなと感じたんです。分断されている時代での私の役目は、先に行ってるよ〜! と、どんどん前を走っていくこと、そこについて来たい人とともにスピードアップして走り抜けることだと思っています」

 

———なるほど。後方の人も途中で目的地を変えるかもしれないし、先頭集団に追いつくスピードを得られるかもしれないですからね。「置いていかれた!」と思うのではなく、自分でどこに向かいたいか考えることが大切ですね。

 

いろいろあるから人生は面白い

———来年に向けてのお話も少しお伺いしたいのですが、やましたさんご自身は、なんと鹿児島県指宿市に住民票を移されたそうですね。

 

「はい。ご縁があって、指宿のホテルに住民票を移しました。役所での手続きはいろいろと面倒でしたけどね(笑)」

 

———すごいですね! 私にとって“住民票を移す”ということは、一大決心というか……もう戻らないぞ! とか、ここでなんとかやっていくんだ! という気合が必要な気がしてしまって。しかもその移住先がホテルとなると、驚きです。心のどこかで「楽しそうだな〜」「いいな〜」とは思っていても、なかなか行動には移せません。

 

「断捨離の中で、“断”ちがたいものは人間関係で、“離”れがたいのが土地。気軽に引越しができない背景には、仕事や学校、家族はどうするの? と、断ちにくいもの、離れがたいものがあるからです。けれど、2020年を振り返ると、仕事もリモートでできるようになって、毎日出社する人も減りましたよね。これまで当たり前に離れられなかったものが崩壊し始め、離れることのしがらみがなくなったんだと思います。だったら緑が豊かな場所でのんびり過ごしたいし、刺激が欲しい時には都会に戻りたい、自由自在に行き来できるなら『このシーズンにはこの服を着ましょう』くらいの感覚で住む場所を変えても、問題ないと考えたんです」

 

———やましたさんとお話ししていると、とても簡単なことに思えてしまうから不思議ですね……。

 

「それと、このホテルは一般のお客様が宿泊できるホテルの顔とは別に、やましたが信頼している仲間が1日でも1週間でも1年でも、いつでも来て泊まってもらえる場所として活用してもらいたいと計画しています。ひとりでのんびりしたい時には、部屋でくつろいでもらって、でもラウンジに出てくるとやましたと会えたり、他の仲間もいたり。今回の計画も、ご縁がなければ実現できなかったことですから」

 

———“分断”を経て、あらためて新しい絆が繋がっていくように感じますね。来年からはどんな方向に向かっていくのでしょうか?

 

「2020年は、“分断”によってたくさんの人が重たい荷物を手放して、捨てた年だったと思います。やましたの考え方として、人生って『いろいろあって大変だ』ではなくて、『いろいろあるから面白い』ってスタンスなんです。人生を面白がれる方が、生きていて楽しいはず。目の前にあること、人、状況と徹底的に向き合って、思いっきり楽しんでやるぞ! って姿勢が、これからの時代には必要になってくると思いますよ」

 

———お話をお伺いする前は「まだまだコロナの状況は続くし、先行きが不安定だな」と来年を迎えるのが不安だったのですが、少し希望が持てるようになりました。

 

「こんなにたくさん手放して、捨てたんですから。あとは好きなものを拾っていくだけです。これからどうしていこうかな? どんなことができるかな? って考えて、アグレッシブに行動していく年になると思いますよ。だって人生は『いろいろあるから面白い』でしょ?」

 

———本当にそうですね。すべて来年のための準備だったんだなと思うと、2021年が楽しみになってきました。ありがとうございました。

 

第7回の断捨離に関するキーワード

・2020年は分断の年。いろいろなものを断ち、手放した年
・2021年は好きなものを選び、楽しむ年
・洋服を着替えるように、住んでいる土地も選べる時代へ

 

やましたひでこさんの「断捨離」に関する過去のコラムはこちら
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【プロフィール】

クラターコンサルタント / やましたひでこ

一般財団法人「断捨離®︎」代表。学生時代に出逢ったヨガの行法哲学「断行・捨行・離行」に着想を得た「断捨離」を日常の「片づけ」に落とし込み応用提唱。誰もが実践可能な「自己探訪メソッド」を構築。断捨離は人生を有機的に機能させる「行動哲学」と位置づけ、空間を新陳代謝させながら新たな思考と行動を促すその提案は、年齢、性別、職業を問わず圧倒的な支持を得ている。『断捨離』をはじめとするシリーズ書籍は、国内外累計500万部を超えるミリオンセラー。アジア各国、ヨーロッパ各国において20言語以上に翻訳されている。

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※「断捨離」はやましたひでこ個人の登録商標であり、無断商業利用はできません。
※取材はオンラインで行いました。写真は2020年1月中旬に撮影したものです。



提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

“仕事と労働”は似て非なるもの! やましたひでこが説く、前向きに働くための断捨離的思考

リモートワークや時差出勤など、これまでの当たり前が変わり、働き方に変化を迎えている2020年。「このままの働き方でいいのかな?」と悩み始めた人も多いのではないでしょうか?

 

この連載では、「断捨離」の“生みの親”であるやましたひでこさんの生き方のなかで導き出された、断捨離と「人間関係」や「お金」との関係について、解説していただいてきました。今回のテーマは「仕事」。仕事と断捨離の関係を考えてみると「効率化のために〇〇をする」とか「〇〇している人は仕事ができる」と、ついノウハウに頼ってしまいがちですが、やましたさんによるとそれはNG! それ以前に、知っておくべき心得があるのだとか。心地よく、また自分らしく仕事するためのポイントを教えていただきます。

 

第6回 楽しく快適に仕事するための断捨離的考え方
———仕事の本質を理解する———

———今回のテーマは「仕事」です。“仕事における断捨離”を想像してみると、机の上から物をきれいさっぱりなくすとか、時間内にテキパキと仕事を終わらせるとか、どういったノウハウがあるのだろう? なんて思ってしまうのですが……。仕事をする上で大切な、断捨離の考え方を教えていただけますか?

 

「たしかに仕事と断捨離というと、どうしても“効率化”がクローズアップされてしまいますよね。もちろん、結果的に断捨離することで効率化はされるのですが、実は最優先ではありません。効率化が最優先になってしまうと、仕事の醍醐味や成長が失われていくような感じをおぼえます。仕事について悩んでいるのなら、まずは、“何のために仕事をするのか?”をよく考えてみないといけないのではないでしょうか」

 

———そうですね。ただ、働くことによって対価を得ている私たちにとって、仕事における断捨離はしたいけど、お金のことを考えるとすぐには難しい、また人間関係がつらいけど、年収や今の環境を考えると転職できないなど、断捨離はしたいけれど二の足を踏む人も多いかもしれません。

 

「『仕事=労働』、つまり、仕事は自分のエネルギーと時間を引き換えに、お金をもらうことだと思っていませんか? どんな仕事でも『買っていただきありがとうございます』『こちらこそ、売ってくれてありがとうございます』という、目の前にいるお客さまと“感謝の交換”が気持ちよくできるようになると、仕事が楽しくなってくるのではないでしょうか。

これは家事もそう。よく、“家事労働”という言い方をしますが、本来は“家事仕事”なんですよね。というのも、仕事は“事”に“仕”えると書きます。何に仕えるか意識するだけでも、労働と仕事は違うと思えてきませんか?」

 

———今まで「仕事=労働』という価値観でとらえていたと、ハッとしました。でも、どう向き合い方を変えたらいいのか、わかりません。

 

「これまでそんなことを教えてくれる人がいなかったのだから、わからなくて当然です。『これは労働じゃない、仕事なんだ』と、気がつくところからスタートですよね。労働じゃないと気がついたら、自分がやりたいとか楽しいと感じられる“仕事の自分軸”を探します。これはそうすぐに見つかるものではありません。私だって何十年もかけて経験を重ね、社会に揉まれながら『今の私の軸はこれだな』と、日々変化しながら感じているものですから」

 

———自分軸が見つかったらOKというわけでもなく、断捨離には終わりがないから、日々トライアンドエラーをしながら変化していくのですね。

 

「その通りです。ここまでできたから天職になった! ということではありません。厳しい道のりですけれど、考えてみると、勉強しながらお金がもらえるってすごいことだと思いませんか? 労働ではなく、今やっていることを“仕事”として捉えられるようになってくると、どんな人や環境であっても自分の経験値として積み上げられて、自分軸を築き上げる糧になっていくわけですから」

 

捨てられない書類は、「後回し」の証拠品

———少し話はそれますが、最近は自宅で仕事をする機会が増えたという人も多く、やっぱり職場じゃないと集中できないとか、どうやって仕事環境を整えたらいいのかわからないとか、なかなか落ち着いて仕事ができない人も増えています。断捨離で環境を整える方法はないのでしょうか?

 

「それは簡単。自分のいる仕事空間を美しくするだけです」

 

———それは、机の上がきれいな状態ということでしょうか?

 

「物だけでなく、机の上はもちろん戸棚やPCの中まで、目に入る景色すべて、自分の『要・適・快』に合わせて心地いい状態になっている空間です。PCのデスクトップにファイルがばらばらとまとまりなくあったら、美しくないですよね? 仕事で自分の力を100%発揮させたいのに、どうでもいいものが机の上やPCの中にあったら、力を発揮できるわけないですよね」

※『要・適・快』は、「これは私にとって、必要か(要)・ふさわしいか(適)・心地よいか(快)?」と自分に問いながら必要なものを見定めていくこと。『不要・不適・不快』は、今の自分にとって「あれば便利だけどなくても困らない(不要)モノ・今の自分には合わない(不適)モノ・長く使っているけれど違和感を感じる(不快)モノ」を手放していくこと。

 

———耳が痛いです……。とはいえ、書類なんかもなかなか捨てられなくて。

 

「よく『書類を捨てるコツを教えてください』って聞かれるんですけど、そんなコツはありません」

 

———え! ないんですか!?

 

「できない、捨てられない、と思っている時点でアウトです。『この書類、捨てるに捨てられないんだよなー』って悩んでいる時点で、あなたは仕事としっかり向かい合えていないということだと思います。その書類は、決断を後回しにして保留にしているだけの物なんです。その都度、判断を下していれば書類が溜まるはずがないし、できる・できないじゃなくて、やるか・やらないかだけのこと。『やる』を重ねていく事で、判断する時間もスピードアップし、結果、効率的に仕事ができるようになるわけです」

 

———たしかに、決めてやるのみ、ですよね。反省します。そういえば、やましたさんは普段から名刺を持ち歩かないとか。いつから「名刺は使わない」と思うようになったのですか?

 

「私も最初は、お渡ししていましたよ。でも、その場でしか機能しないものだと気がついたんです。『こういう漢字のお名前なんですね』『遠くからいらっしゃったんですね』って、確認するためのものだったんです。けっして、コレクションするものではないですよね。今の時代、お名前さえわかっていれば気軽につながれるので、名刺を作ることも渡すこともやめました」

 

———なるほど! 私は、知らず知らずのうちにコレクションしてしまっていました。

 

「あとから使う場面があるのなら、どうぞ取っておいてください。目的もなく、その場に置いているだけであれば、空間を無駄にしているだけですよ」

仕事でもっとも頭を悩ませるのは、実は人間関係ではないでしょうか? とくにいちサラリーマンは上司や部下を選べません。仕事における人間関係は、断捨離できないものでしょうか……? 引き続き、やましたひでこさんに伺いました。

 

上司や部下、同僚に期待しすぎない

———先ほどから、耳が痛いことばかりなのですが……、いちサラリーマンは上司や部下を選べません。仕事における人間関係は、断捨離できないものでしょうか?

 

「仕事環境で何がつらいかって、やっぱり人間関係ですよね。どうしてつらいか、考えてみたことはありますか?」

 

———性格の不一致など、さまざまな原因が重なってつらくなる、という感じでしょうか?

 

「たとえば、性格的に合わない上司だったとしても、あなたをちゃんと評価してくれる上司と、いい人なんだけど査定評価ではいつも曖昧にされてしまう上司とだと、どちらの方が人間関係で悩みが発生しますか? きっと曖昧にされてしまう上司のほうが悩みますよね。でもその評価基準って実は、自分の期待でしかないわけです」

 

———「なんでこんなに頑張っているのに、評価してくれないんだ!」って上司に期待をかけ過ぎちゃっているということですか。

 

「言わば、“くれない族”ですね。これもしてくれない、あれもしてくれない、って。『あぁ、私はあの上司に勝手に期待して、自分の期待通りに動いてくれないから不満なんだ』って、自分がくれない族になっていたことに気づくだけでもいいんです。上司の中には、どう頑張っても好きになれない人もいるでしょう。それは『嫌』のまま、放っておけばいいんです。好きになれとは言いません」

 

———ちなみに、今の環境が嫌だから転職したい! という人もいると思うのですが、“くれない族”のままだと転職先でも同じような思いをしてしまう可能性はありますよね。

 

「そうですね。2016年に出版した『感度の高い仕事人は断捨離じょうず。』という本でも書いたのですが、例に挙げたことで言えば、評価してくれない上司には今以上の期待はしない、けれど、『この世の中の貢献に繋がる仕事をする』と決められれば、『今の会社のままでもできるかも』とか『貢献度の高い会社に転職しよう』とか、次なる目標が立てられるようになりますよ」

 

↑『感度の高い仕事人は断捨離じょうず。』(ぴあ)仕事ができる人とはどんな人なのか? 「断捨離思考」を実践している人はなぜかみんな成功しているという。片付けだけじゃない仕事における断捨離を、やましたさんの経験や実例と共に紹介されている。男女関係なく、仕事を頑張りたいすべての人に読んでもらいたい一冊

 

———これまでのお話を伺っていて気がついたんですが、断捨離って「仕事場だけきれいだったらいい」とか「住居だけ整っていればいい」という問題ではなく、ひとつ断捨離できるようになってくると、すべてがつながるというか、表裏一体のように感じますね。きっと自宅の断捨離が上手な人は、お金も仕事も人間関係の断捨離も上手にできるような気がしてきました。

 

「よく、仕事は仕事、プライベートはプライベートと分けている人もいますが、表と裏でキッチリわけるなんて、本来なら難しいはずです。自分はひとりしかいないわけですから。たとえば、バリバリのキャリアウーマンで仕事はできるのに汚部屋に住んでますなんて、ずいぶんギャップがあると思いませんか? キャリアを築くために、朝活や人脈作りに精を出すなら、その前にまず部屋を片付けようか! ってアドバイスしたくなりますね」

 

———汚い部屋に住んでいる私と、キラキラバリバリ働く私のふたりがいるってことですね。常に違和感を感じてしまいそうです。

 

「きっと表のキラキラしている自分でいる方が好きだから、現実の汚い部屋に住んでいる私をバリバリ働いている私で取り繕うとして、ギャップが生まれてしまう。表の自分を強くすればなんとかなる! と、知識やノウハウをどんどん積み重ねて“足し算”を頑張ってしまうのだけど、汚い部屋をキレイにすればいいだけってことに気が付かないんですよね。いらないものを捨てていく“引き算”ができるようになると、自分と向かい合うこともできるし、自分の軸もはっきりする。人生が変わってきますよ」

 

———本当にそうですね。人間関係も足し算を頑張っちゃいますが、冷静に考えてみると逆なんですね。

 

「増やせばいい、たくさんいればいいってことでもないですから。人間関係も足し算では考えません。信頼できる人、敬意を払える人とのネットワークがあれば十分です」

 

———今回は、「仕事」と「労働」の違いから、人間関係の話まで、断捨離を通じて自分の仕事を振り返ることができました。ありがとうございました!

 

第6回の断捨離に関するキーワード

・「仕事」と「労働」は違う
・書類は、“後回し”にした証拠品
・仕事環境も自宅も、“要適快”なうっとり空間を目指す
・人間関係は引き算で考える

 

やましたひでこさんの「断捨離」に関する過去のコラムはこちら
https://at-living.press/tag/yamashitahideko-danshari/

【プロフィール】

クラターコンサルタント / やましたひでこ

一般財団法人「断捨離®︎」代表。学生時代に出逢ったヨガの行法哲学「断行・捨行・離行」に着想を得た「断捨離」を日常の「片づけ」に落とし込み応用提唱。誰もが実践可能な「自己探訪メソッド」を構築。断捨離は人生を有機的に機能させる「行動哲学」と位置づけ、空間を新陳代謝させながら新たな思考と行動を促すその提案は、年齢、性別、職業を問わず圧倒的な支持を得ている。『断捨離』をはじめとするシリーズ書籍は、国内外累計500万部を超えるミリオンセラー。アジア各国、ヨーロッパ各国において20言語以上に翻訳されている。

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※取材はオンラインで行いました。写真は2020年1月中旬に撮影したものです。



提供元:心地よい暮らしをサポートするウェブマガジン「@Living」

“お金と断捨離”は相入れない? やましたひでこが説く、お金の正しい生かし方

新型コロナウイルスの猛威に右往左往することになった2020年。思い描いていた未来とは違った現実となりましたが、2020年下半期も不安と背中合わせに過ごす日々になってしまうのでしょうか? 経済情勢も大きく変わり、“お金”について考える機会が増えた、先の見えない不安に貯蓄したいと考える人が増えた、というニュースも聞こえてきます。

 

これまで「断捨離」の生みの親である、やましたひでこさんに人生を振り返りながら、断捨離の真意を語っていただいてきましたが、そこから発展して、前回は「人間関係と断捨離」について伺いました。続く今回のテーマは、誰もが気になる「お金」について。人生を豊かにする「お金と断捨離」の関係を紐解きます。

 

第5回 財布、そして貯蓄の断捨離的考え方
———お金は目的を果たすためのエネルギー———

———今回は「お金」について伺います。まず、一番身近な“財布”について考えてみたいのですが、今までのお話を振り返ってみると、財布もひとつの“空間”として考えていいということでしょうか?

 

「そうですね、財布はお金のおうちです。お金にとって、居心地が良いと感じられる空間なら、お金も機能してくれます。お金は自発的に動くことはできませんが、その財布に入っているお金は持ち主のお金です。つまり、その財布の住環境を作り出しているのは、持ち主自身ということなんです」

 

———たしかに、お金は勝手に増えることはないですよね。ついつい「金運アップのために、黄色いお財布にしよう!」などと形から入ってしまいますが、冷静に考えたらそれは、財布を変えただけでは金運はアップしないですよね。

 

「色や形状は何でもいいんです。せっかく素敵な空間があっても、手入れもせずレシートだらけで、いくらお金が入っているかもわからない、残念な財布を持ち歩いている人が、金運を上げられると思いますか? 以前、『要・適・快』の話をしましたが、これは財布という空間でも同じです。“あなたのお金がきちんと機能できるような空間になっているか”が重要なんです」

※『要・適・快』は、「これは私にとって、必要か(要)・ふさわしいか(適)・心地よいか(快)?」と自分に問いながら必要なものを見定めていくこと。『不要・不適・不快』は、今の自分にとって「あれば便利だけどなくても困らない(不要)モノ・今の自分には合わない(不適)モノ・長く使っているけれど違和感を感じる(不快)モノ」を手放していくこと。

 

———なるほど。

 

「それに、財布を長財布にして、小銭入れと分けて、新札も揃えて入れても、もっと大きな空間である自分の家や環境が残念な有り様だったらどうですか? 『要・適・快』を理解していれば、財布の汚れやお札の向きとかも気になるだろうし、ご機嫌なお金の使い方ができるようになるはずです。すべての空間をクリエイトしているのは、自分自身の意識です。クローゼットも、リビングも、キッチンも、財布も、考え方は同じことです」

 

お金をエネルギーとして考える

———ついつい、財布だけに意識が向いてしまうといいますか、中身のお金は別で考えてしまいがちですが、俯瞰してみればモノで捉えられるということですね。ところで、ふと疑問に思ったのですが、「貯金」とは、断捨離とは逆の発想ですよね。そこに矛盾はないのでしょうか?

 

「まずここから考えてみましょう。そもそも“貯金”とは何でしょうか?」

 

———将来のためにとっておくお金……でしょうか?

 

「では、『ためる』という漢字を思い浮かべてみてください。貯水池の『貯める』と、ため池の『溜める』がありますね。貯水池は、もしくはダムというとわかりやすいでしょうか、入ってくる水と出ていく水の流れがある中で、必要な時に供給できるよう、水を貯めておく場所です。一方、溜め池は、雨など自然から水は入ってきますが、どこかに使われたり流れていくことはないので、よどみが生じます。これはあくまで私個人の考え方ですが、貯金も貯水池と同じように“使うため”にお金を貯めておくことで、そこに留めて“溜めて”おくものではないと思っています」

※灌漑目的で人工的に形成された池を「溜め池」と呼ぶ場合もあります。

 

———なるほど! 使うためのお金が、貯金ということですか。

 

「さらに言えば、お金は人間に必要な“エネルギー”だと思っているんです。例えば、クルマを走らせるためのエネルギーはガソリンですよね。ガソリンを入れているだけでクルマは走りますか? ガソリンを消費して、クルマを走らせなければ目的地にはいけません。もちろん、目的地に行く途中でガス欠は避けたいので、辿り着けるだけの潤沢なエネルギーは欲しいですが、ガソリンを入れているだけで走りもしないクルマは、目的地にも近づけません。お金も一緒で“使わないと機能しない”のです」

 

———思えば、私も節約することを優先して、ただただお金を溜め込もうとしていた気がします……。

 

「節約にもエネルギーはかかっているんですよ? 節約には“時間”というエネルギー、労力というエネルギーが必要です。一度考え方をフラットにして、節約するためにかかった時間と労力と、節約できたお金を比べてみてください。それぞれどれくらいの差があるでしょうか?」

 

———たしかに、考え直してしまいますね。

 

「私がお会いした、節約だけが目的になってしまっている人たちは、『私は節約しなければいけない』という刷り込みを毎日毎日しています。それでは心が疲弊してしまいますよね? 例えば、小さなゴミ袋に満杯までゴミを詰め込んで袋を節約できた! とか、フリーザーバッグを洗って干して何度も使うなど……。エコのためなら素晴らしいのですが、ただ節約のためだとしたら、それでいくらのお金を節約できたのでしょうか? “モノの機能を活かす”暮らしをしないと、いじましい生活になっちゃいますよ!」

 

———猛省します。もっと視野を広くして、エネルギーを賢く使っていかないといけませんね! もうひとつ貯金について伺いたいのですが、「海外旅行に行きたい!」と将来使うための貯金と、「将来が不安だから……」とさしあたって使う目的がない貯金がありますが、お金がエネルギーとするならば、貯金には目的や動機はあった方がいいのでしょうか?

 

「動機が希望なのか、不安なのか、同じ行動でも結果はそれぞれ別な形で出てしまいます。これはお金に限らず、さまざまなことで言えますね。『お金は“ある”んです、残念ながら今手元に“ない”だけで』って思いながら、“ある”ということに着目できればいいのだけど、私たち人間は、“ない”に注目するのが得意な生き物です。お金がない・時間がない・自信がない……って無意識&無自覚で、不安なイメトレをしちゃうんですよね。不安にならないためにも、断捨離のトレーニングは必要です。『これは捨てても大丈夫』『これは手放しても生きていける』と」

 

———以前の緊急提言でも教えていただきましたね! つまりお金もモノだから、今“ある”と実感できれば、「〇〇万円貯金しないと!」と金額にとらわれることもなくなり、“ない”という思考から脱却できると。

 

「エネルギーは使ってこそですから。先ほどクルマに例えましたが、タンクにガソリンが満タンでも、行動しなければ車は走りません。じゃあ、使ってみよう! と行動することで、結果が返ってきます。お金って『通貨』って言いますよね? まさに通過していくものなんです。どういう通過のさせ方をしているのか、通過される量よりも自分のお金が機能する質の高い使い方をしているかどうか、断捨離もまずは『出す』というのを以前お話しましたが、お金も出していくことがポイントです」

 

お金の質を高めるために「出す」、とはいったいどういうことでしょうか? 次のページではその真意・極意を引き続き、やましたひでこさんにうかがいます。

お金の質を高めるために、まずは「出す」

———お金を“出す”というと、とにかく使う! とイメージしてしまうのですが……。

 

「お金を得る方法は知っていても、出し方・使い方を知らない人が多いですよね。物理学で『エネルギー保存の法則』ってありましたよね? 孤立したエネルギー総量は変化しないという法則です。そのまま何もしなければ総量は変化しないけれど、もしほかのエネルギーと関わりを増やして、循環させると総量はどうなると思いますか?」

 

———増えていく?

 

「そう、自分だけで完結してしまう孤立したエネルギーだとそこだけで終わってしまいますが、困っている人を助けるため、家族や友人を喜ばせるため、社会のため……お金というエネルギーを使うとどうでしょう。『エネルギー保存の法則』で考えたら、自分の総量は増えますよね。気持ちも潤うし、お金の質が高まっていくような感覚に変わります」

 

———小さなことで言うと、スーパーで「とりあえず」と割引の付いたものを買うよりも、100円プラスして自分が美味しそうと思えるお刺身を買った方が心は豊かな気がします(笑)。そう思うと、プラスで出した100円がすごく価値あるものように感じてしまいますね。

 

「何かモノを得るためにお金を出すわけですが、お金が残念なモノに変わってしまっていたら、残念な気持ちになりますよね? 今日のお買い物で3000円使えると考えて、“とりあえず”予算内に収まるものを買うのか、自分の気持ちを尊重した“お気に入り”を買うのか、繰り返していくうちに洗練され、質について考えられるようになりますよ」

 

———本当に欲しいものを、お金というエネルギーを使って、買っているか? ということですね。

 

「選択と実践を繰り返していけば、勝手に質は上がっていきます。良いものを選べた! といううれしい気持ちが生まれれば自己肯定感も育まれていくので、いい循環ができてくるんです。その時その場の最上級を選ぶぞ! という意識です。無理に寄付をしなさい、質の高いものを買いなさい、お金を出しなさいと言っているのではなくて、今自分が持っているお金を自分が心地よくなるためにどう使うか、選択できる力を身につけて欲しいのです」

 

———「お金」ってついつい“ない”ものだと考えてしまいますが、“ある”ものをどんなエネルギーに変えてどうやって機能的に使うかを考えていくと楽しくなってきますね。

 

「人生は楽しんでこそ! 考え方を変えるためには、行動が先です。『節約しなきゃ』ととらわれている人は、一度たっぷりのお湯のお風呂に浸かってみたらいいですよ。もう心の底から気持ちいい! を感じられるはずですから(笑)。私自身もトライ&エラーを繰り返しながら、寄り道しながら、この考えに辿りつきました。選択して、実践していく中で自分の行動が何倍にもなって返ってくることを体験しています。お金は汚いものなんかではなく、感謝のエネルギーなんです。自分が持っているこのお金をどう使うか、どう貢献できるか、考えると楽しくなってくるはずです」

 

———シンプルなようでとても奥深いメッセージが込められていて、お金は身近で大切なものだからしっかりと向かい合わければ、と痛感しました。ありがとうございました。

 

第5回の断捨離に関するキーワード

・貯金は“使うために”貯めるお金のこと
ないことよりも、あることに目を向ける
・お金は「エネルギー」。使って、出すことで巡ってくる

 

第6回は、仕事と断捨離の関係について。仕事という形のないものはどういった空間理論でとらえるべきなのか、上司や職場の人間関係、収入なども含めて教えていただきたいと思います。

 

やましたひでこさんの「断捨離」に関する過去のコラムはこちら
https://at-living.press/tag/yamashitahideko-danshari/

【プロフィール】

クラターコンサルタント / やましたひでこ

一般財団法人「断捨離®︎」代表。学生時代に出逢ったヨガの行法哲学「断行・捨行・離行」に着想を得た「断捨離」を日常の「片づけ」に落とし込み応用提唱。誰もが実践可能な「自己探訪メソッド」を構築。断捨離は人生を有機的に機能させる「行動哲学」と位置づけ、空間を新陳代謝させながら新たな思考と行動を促すその提案は、年齢、性別、職業を問わず圧倒的な支持を得ている。『断捨離』をはじめとするシリーズ書籍は、国内外累計500万部を超えるミリオンセラー。アジア各国、ヨーロッパ各国において20言語以上に翻訳されている。

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