東京都心で20cm以上も雪が積もったのは4年ぶりとのこと。忘れもしない2014年は、2月に2週連続で27cmもの積雪があり、高速道路や公共交通がマヒした。
筆者の妻が生まれ育った青森市などから見れば、たかが20cmである。ゆえに大雪の日の我が家は冷静に時が進んでいく。しかし東京生まれの自分は非常事態と認識し、仕事を早めに切り上げ、愛車はスタッドレスタイヤを履いているが運転は避けた。つまり自宅待機している時間が長かったわけで、大雪関連のニュースはかなり見た。
その結果感じたことを書くと、まず鉄道は4年前の苦い経験を生かしていると感じた。多くの職場が早退になったので、夕刻前の少ない電車に乗客が殺到し、駅の入場制限や列車の遅延は発生したが、全面運休という路線はほとんどなかったと記憶している。
通常より本数を減らした、いわゆる間引き運転についても、事故を防止するとともに、少し前に新潟で発生した駅間での立ち往生を避ける措置であったと認識している。
一方の道路は相も変わらずサマータイヤで「なんとかなるだろ」という“ゆとりドライバー”が各所で渋滞を作り出していた。今回は特にレインボーブリッジという名所で数時間もクルマが動かない事態が発生。場所が場所だけにニュースになった。
今回の大雪はおおむね天気予報どおりだった。予想が外れたという言い訳は通用しない。過失というより故意に近い。
鉄道に話を戻すと、人身事故などで故意に列車を止めた場合は損害賠償が発生し、その額は数百万円にもなるという。自動車の輸送効率は鉄道に比べれば低いけれど、道路もまた移動や物流を支えるインフラである。しかも大雪での立ち往生は自然渋滞とは異なり、発生源が特定できる。
なので高速道路や橋や峠については、同様の損害賠償を立ち往生の原因を作り出した車両に課しても良いのではないかと感じた。とりわけ物流への影響は相当のレベルに達しているのだから。
■山手トンネルはいち早く通行止めにすべきだった
ただし今回の大雪でもうひとつ話題になった、首都高速道路中央環状線の山手トンネルの立ち往生は分けて考えるべきだと思っている。こちらはチェーンを装着していた大型トレーラーが原因だと報じられているからだ。
山手トンネルを走った人なら分かると思うが、既存の路線とつながるインターチェンジは例外なく急勾配が待ち受ける。チェーンを着けていても坂を登れなかったという証言に納得だ。トンネル内も地下鉄などを避けるために、ひんぱんにアップダウンがある。しかもトンネルなので、なんとか人は避難できるけれど車両の退出は難しい。
こういう道は、大雪が予想されるならいち早く通行止めにすべきだろう。首都高速道路で言えば中央環状王子線や神奈川県の横浜北線も同様である。
たしかに不便にはなる。しかしいずれの路線もここ10年ぐらいで開通しており、それ以前は存在しなかったわけだから、当時に戻ったと思えば良いのではないかという気がする。
そもそも東京に今回と同レベルの大雪が降るのは数年に一度であり、そのために北海道や青森並みの耐雪能力を備えるのは、百年に一度の大津波のために高さ数十mの大堤防を築くのと同じ。愚策でしかない。
それよりも重要なのは、自然の前には人間は無力であると認識し、会社や学校をいち早く休みにすることではないだろうか。
かくいう筆者もこの日取材が入っていた。月曜日ということもあり事前の連絡がなかったので集合場所に向かったが、その場で延期が言い渡されるのではないかと思っていた。
ところが他の人々は、午前中が説明と質疑応答、昼食を挟んで午後から撮影というスケジュールを、当たり前のように進めていく。筆者は質問を終えたところで「非常事態なのだからすぐに撮影すべきでしょう!」と提案し、なんとか雪が積もる前に撮影を終えた。
遅めの昼食を取る頃、外は吹雪に近い状況になっていた。こうなることが予想できたのに通常の生活を崩そうとせず、鉄道や道路にも平常であることを求める。このマインドこそ東京の大雪でいちばん怖いと思った。
【著者プロフィール】
モビリティジャーナリスト 森口将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材し、雑誌・インターネット・講演などで発表するとともに、モビリティ問題解決のリサーチやコンサルティングも担当。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本デザイン機構理事、日本自動車ジャーナリスト協会・日仏メディア交流協会・日本福祉のまちづくり学会会員。著書に『パリ流環境社会への挑戦(鹿島出版会)』『富山から拡がる交通革命(交通新聞社)』『これでいいのか東京の交通(モビリシティ)』など。
THINK MOBILITY:http://mobility.blog.jp/