ガーナの1歳男児が「世界最年少アーティスト」に認定。大人が批判されるわけとは?

「世界最年少アーティスト」と認められた男の子。ギネス世界記録のタイトルを獲得したとき、その男の子は生後わずか1歳と152日でした。

↑世界最年少アーティストのエース=リアム・ナナ・サム・アンクラちゃん(画像提供/SearchSift/YouTube)

 

ガーナに住むエース=リアム・ナナ・サム・アンクラちゃん。母親のシャンテル・クウクア・エガンさんはシングルマザーで、ミス・ユニバースから依頼された作品に取り組んでいたため、エース=リアムちゃんに一人で遊ばせる必要がありました。

 

そこで、絵の具とキャンバスを用意して、エース=リアムちゃんが自由に遊べるようにしたのです。エース=リアムちゃんは、好きな色の絵の具の中でハイハイして楽しんでいたそうです。

 

そして、エガンさんはそんなエース=リアムちゃんが選んだ色の組み合わせに感銘を受けたのだとか。「この子は明らかにとても楽しんでいました。どの色が互いに引き立てあうのかを知っています」とエガンさんは語っています。

 

そして、息子をギネス記録の世界最年少アーティストとして申請することにしたのです。ただし、アーティストの称号を得るためにはプロの展示会で作品を出す必要がありました。

 

そこで、2023年12月から2024年1月までガーナの首都アクラの科学技術博物館で展示会を開催。エース=リアムちゃんの作品10点を展示し、そのうち9点が売れたそうです。こうして先日、ギネス世界記録から正式に「世界最年少アーティスト」と認められたのです。この報告にエガンさんは涙を流して喜んだとか。

 

しかし、このニュースに対して「赤ちゃんに絵の具を与えて、散らかったなかでハイハイされる。それが芸術? 本気じゃないでしょう?」「犯罪にならないの? そんな幼い子どもが家族のために稼ぐべきじゃない」「関係者は全員恥を知れ!」など、否定的な意見が少なくありません。

 

子どもが無邪気に遊びながら作った‟作品“を見て、「うちの子って天才!」「もしかしてすごい才能の持ち主じゃないか」などと親が思うのは、ごくごく自然なこと。エース=リアムちゃんの才能がこれからどれほど伸びるのか、周囲の人たちは温かく見守ってあげたいですね。

 

【主な参考記事】

New York Post. Guinness crowns toddler the youngest-ever male artist — and his paintings are selling fast. May 24 2024

サッカー場の半分ほどの島に建物がぎしぎし…。なんじゃこりゃ!?

地面が見えないほど、トタン屋根の建物で覆いつくされた島。そんな“世界一人口密度の高い島”をご存知ですか? 海外の映画監督が取材で訪れ、衝撃的な動画を公開しています。

↑ミギンゴ島の風景(画像提供/Joe Hattab/YouTube)

 

ケニア、ウガンダ、タンザニアに囲まれた、アフリカ最大の湖、ビクトリア湖。この湖の東側に浮かぶミギンゴ島が、冒頭でご紹介した島です。

 

島の面積は0.49エーカー。1エーカーがサッカー場とだいたい同じなので、サッカー場の半分ほどしかない小さな島だと考えればいいでしょう。そんな小さな島に、ところ狭しと建物が作られ、およそ1000人の人々が暮しており、世界で一番人口密度の高い島と言われているのです。

↑上から見た↑ミギンゴ島(画像提供/Joe Hattab/YouTube)

 

先日、ドバイを拠点とする映画製作者であるジョー・ハッタブさんがこの島をテーマにした短編映画を作るため、ミギンゴ島を訪れました。ジョーさんは、ケニアのナイロビに飛行機で降り立つと、そこからクルマで約6時間をかけてビクトリア湖のほとりにある小さな町に向かい、そこから地元の小さなモーターボートに2時間乗ってミギンゴ島に到着しました。

 

驚くことに、島にはスーパーのような店があるほか、警察もいて、音楽が流れるビリヤード場もあるそう。そして、人々は近くの海辺を洗濯場と、男女別の浴場として利用しているのだとか。土地は限られているものの、人々の生活がここで成り立っていることを裏付けています。漁師の家で一晩過ごしたジョーさんは、「近くに打ち寄せる波の音がとてもうるさかった」と語っています。

 

ちなみに、ミギンゴ島は陸からもかなり離れた場所で、釣りをするのに人気があるのだとか。ミギンゴ島の人口は、2009年はわずか約130人だったのに、どんどん増加していったのだそうです。この島では、海賊行為を防ぐために、部外者が島に入るときは、入島税250ドル(約3万8000円※)を島の警備員に支払う必要があります。

※1ドル=約154円で換算(2024年5月16日現在)

 

【主な参考記事】

Daily Mail. I visited the most crowded island on Earth – where more than 1,000 people live on a cramped 0.49-acre outcrop. May 14 2024

新興国で最大の市場規模! アフリカの農業に打って出るべき4つの理由

現在、アフリカでは史上最悪の食料危機が起きており、多くの人たちが飢饉に苦しんでいます。専門家の間ではアフリカの農業をもっと発展させなければならないという危機感が募るとともに、国際的な支援の重要性もますます高まっています。日本企業がアフリカの農業に目を向けるべき理由はどこにあるのでしょうか? 大きく4つの可能性が考えられます。

伸び代が大きいアフリカの農業

 

1: 衰えない農業の市場規模

一つ目の理由は、アフリカにおける農業の市場規模が高いまま維持されているから。アフリカで農業がGDP(国内総生産)に占める割合は約35%で、世界銀行によると、この割合は数十年間変化がありません。他の新興国に目を向けてみると、農業の規模は縮小している所が多くあります。例えば、1970年の東南アジア諸国では農業がGDPの30~35%程度を占めていましたが、2019年には10~15%までに低下しました。アフリカでは今後も農業の市場規模が維持されていくと見られており、日本の企業が参入できる可能性は大きいと言えそうです。

 

2: 工業化に転じない可能性

経済は、農業のような一次産業から工業や製造業といった二次産業に発展することが一般的ですが、アフリカは必ずしもそれに当てはまりません。国際ビジネスを専門とするニューヨーク市立大学バルーク校のライラック・ナフーム教授は農業がアフリカ経済を牽引すると主張しており、その理由の一つとして「製造業を中心とした成長にはインフラが必要だが、アフリカのインフラは整っていない」と指摘しています。実際、エチオピアやモロッコなどの一部の例外を除いて、アフリカの多くの国で製造業を確立することが実現できていないので、他の新興国が辿ってきた発展のプロセスを踏む可能性は低いと考えられます。それゆえに、アフリカは持続可能な農業の形を模索することができるのかもしれません。

 

3: 栽培に適した広大な土地

アフリカには豊かな土地があることも、日本企業がアフリカ進出を検討すべき理由の一つに挙げられます。アフリカの国土は、中国、インド、アメリカ、ヨーロッパなどの国々の合計よりも広く、その半分以上は耕作が可能な土地と言われています。そこで栽培されたカカオやコーヒー、紅茶などはアフリカを代表する作物であり、最高級品質のものが世界中の市場に輸出されています。

 

近年、アフリカでは気候変動によって水不足や洪水などが起きることが多くなり、農業への影響が懸念されるようになりました。農業を守るためには、例えば、水が不足する時期の灌漑用水の確保や、効率的な栽培技術の発展などの技術革新が必要でしょう。また、きび、ひえ、あわなどの雑穀は、比較的過酷な環境下でも栽培しやすく栄養価も高いことから、国連を中心に注目が高まっています。作物を育てるのに適した気候と十分な土地があるアフリカに適しているかもしれません。

 

4: 求められる生産性の改善

アフリカの農業は、使用している機械の量が世界で最も少なく、生産性が世界最低のレベルであると指摘されています。その一因は、アフリカの農家の大半が、自分や家族が生活する分だけの作物を栽培する小規模農家であること。国際農業開発基金によれば、サハラ以南のアフリカの平均農地面積は1.3ヘクタールで、中米の22ヘクタール、南米の51ヘクタール、北米の186ヘクタールと比べると数十倍から百倍以上の差があります。また、小規模農家の多くは貧しく、機械を購入できるほどの資金がないことも生産性が低い原因と考えられますが、経済的な自立を支援していくためには、生産性を上げることが欠かせないでしょう。だからこそ、人口の半数以上が農業に従事しているとされるアフリカでは、日本のように人手不足を補う効率化ではなく、農業の作業を効率化して生産性を上げる技術やサービスが求められると考えられます。

 

国連食糧農業機関(FAO)が2021年に発表したデータによると、アフリカでは5人に1人にあたる2億7800万人が飢餓に直面していたとのこと。アフリカの農業はカカオやコーヒーといった作物を他国に輸出している反面、多くの国が輸入に依存しており、食料自給率が低いことも課題となっています。従来の「自分たちが食べる作物だけを育てる」という小規模農業から、生産性の高い農業にシフトすることは、このような状況を改善し、より多くの人々の利益につながっていくことが期待されます。しかし、この変化を起こすためには、日本などの政府による支援と、技術や知見を持った企業の関わりが必要不可欠でしょう。

 

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過去数十年で最悪の「食料危機」に陥るアフリカ、「小魚」が希望の光

近年、アフリカの食料危機が深刻化していることをご存知でしょうか? そのレベルは過去数十年で最も悪いと言われ、日本の人口を超える1億4600万人もの人が食料不足に陥り、死のリスクに直面する子どもが増加しています。そんな中、このような現状を解決する一助になるかもしれない、ある研究結果が報告されました。

食料危機における希望の光

 

国際赤十字・赤新月社連盟の2022年11月の報告によると、サハラ以南のアフリカで現在、食料不足に直面している人の数は1億4600万人。日本の人口よりも多い人々が、日々生きていくために必要な食料を得られていないことになります。これは昨今の気候変動(干ばつ)で、作物の収穫量が減少したこと、さらにロシアのウクライナ侵攻で世界全体の食料供給が不安定になっていることなどが関連しています。これだけの人々が食料危機に陥っているのは、過去数十年で最もひどいそう。

 

この影響は、幼い子どもにも及んでいます。十分な栄養を摂取できないことから、ひどく痩せ細り、死のリスクすらあるという消耗症(症状の重い乳児栄養失調症で、体組織が破壊され、食事量を増やしても体重は減り、ひどく痩せてしまう)に陥る子どもの数が増加していると言います。このような食料危機は2023年も続くと予測されており、ユニセフや国際赤十字をはじめ、さまざまな組織や団体が支援を呼び掛けているのです。

 

安くて栄養価が高い小魚

そこで注目したいのが、小魚の存在。英国・ランカスター大学の研究者らが、先日「ネイチャー」に発表した論文で、食料不足に苦しむ国において小魚が新しい食料供給源として有効であるとまとめたのです。

 

この研究では2348種の漁獲量と栄養データ、さらに低・中所得の39か国のデータなどを分析し、小魚は栄養価が高いのに価格が手ごろであると主張しています。例えば、ニシン、イワシ、カタクチイワシなどは栄養価も高く、72%の国で最も価格が安い魚でした。その価格は1日分の食費のわずか1~3割ほどで済むと同研究者らは述べています。

 

日本で小魚は手頃に入手でき、頭からしっぽまで丸ごと食べられて、栄養価が高い食材だと知られています。しかし、日本のように伝統的に魚を食べる習慣がある国とは違い、途上国の中には魚を頻繁に口にしない国もあります。例えば、サハラ以南のアフリカで5歳以下の子どもの魚介類摂取量は、推奨される量の38%にとどまっているそう。

 

また、現在の漁獲量だけでも、人々に供給するだけの十分な量があるとされており、ニシンなどの小さい遠海魚の漁獲量のわずか20%ほどで、アフリカの沿岸部に住む5歳未満のすべての子どもの推奨摂取量を満たせることが同論文で指摘されています。

 

日本の加工・品質管理技術が求められる

水産物を高い品質で管理し加工する日本の技術は、世界でもトップ水準。栄養価をできるだけ損なわずに、新鮮でおいしい状態を維持して長期間管理する技術があれば、より多くの人に高い栄養価の状態で魚を供給できるでしょう(例えば、コールドチェーン技術。原材料の調達から生産、加工、物流、販売、消費までのサプライチェーンの全工程において、冷凍や冷蔵などの適切な温度管理を行うこと)。日本が技術面で支援を行うことで、アフリカの食料不足や栄養失調の問題解決に役立つことが考えられます。

 

食料不足を解決する可能性を持っていることが明らかとなった小魚。アフリカなどで新たな食料源として活用するのに、コールドチェーンなど日本の技術が役立つでしょう。

 

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アフリカがEU化する「AfCFTA」って何? 鍵を握るデジタル決済の重要性とあわせて解説

近年、世界中で普及するデジタル決済。この市場は2027年までに毎年12.31%のペースで成長すると言われています。アフリカでは、Interswitch(インタースイッチ)がデジタル決済サービスを牽引する存在の一つですが、このフィンテック企業は同大陸の自由貿易を推進するうえで重要な役割を担っています。

デジタル決済が自由貿易の障壁を低くする

 

2002年にナイジェリアで創業したインタースイッチは、デジタル決済のプラットフォームを構築し、アフリカを中心にさまざまなサービスを提供しています。例えば、同社はアフリカだけでなく欧米諸国の一部でも使用できるクレジットカードの「Verve」を発行しており、このカードに対応したATM数は1万1000台に上るそう。現在では、オンライン決済プラットフォームの「Quickteller」、モバイルビジネス管理プラットフォームの「Retailpay」、フィンテックカードの発行のほか、ナイジェリア初となる国内銀行間の取引サービスや州政府向けの電子決済インフラも展開しています。

 

2019年には、大手決済企業のVISAがインタースイッチの株式の一部を買収したことからも、アフリカで最も勢いのある企業の一つであることが伺えるでしょう。もともとナイジェリアでは現金主義の人が大半だったそうですが、同社はそんな国でキャッシュレス化を推進してきたと言える存在です。

 

アフリカ版EUの命運を左右

インタースイッチが重要視しているのが、アフリカ55か国間での自由貿易。先日、シエラレオネ共和国で開催され、インタースイッチも参加したセッションでは、この自由貿易がテーマとなり、同国を含めたアフリカ諸国におけるデジタル決済の問題やトレンドが議論されました。

 

アフリカには「アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)」協定があります。「アフリカ版EU」と呼ばれているように、貿易のルールをアフリカ国内で共通化して、関税を撤廃し、貿易を活発化させていくもので、2021年1月から運用が開始されています。

 

AfCFTAの成功の鍵となるのが、諸外国との取引をよりシームレスにするデジタル決済でしょう。その反面、デジタル決済サービスにはサイバー関連の脅威が伴いますが、その点、インタースイッチは州政府にも利用されるなど、セキュリティ面でも定評があることから、アフリカ各国の地方銀行などにも導入される可能性があると見られています。創業以来、インタースイッチはアフリカで「決済がシームレスで目に見えない物として日常生活の一部になること」を目指しており、そのビジョンの実現に向けて現在も邁進しているのです。

 

世界銀行のデイビッド・マルパス総裁が「デジタル革命は、金融サービスへのアクセスと利用を拡大し、決済、ローン、貯蓄の方法を一変させた」と述べているように、デジタル決済は人々の暮らしに大きな変化をもたらしました。同行のGlobal Findex Databaseによると、デジタル決済における途上国のシェアは2014年は35%でしたが、2021年には57%に拡大。アフリカ諸国の自由貿易を支える立役者としてインタースイッチには今後も注目が集まりそうですが、途上国におけるデジタル決済の普及が進めば、日本企業にとってもビジネスがしやすくなるでしょう。

 

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「ドローン配送」の普及へアフリカが猛進! ジップラインと大手EC企業が提携

2022年9月、ドローン配送のスタートアップとして知られるジップラインが、アフリカの大手EC(電子商取引)企業・ジュミアと提携したことが発表されました。これにより、アフリカでドローン配送の普及が進むことが期待されていますが、その影響は日本を含めた先進国に及ぶかもしれません。

アフリカから先進国に向かって飛んでいくか?

 

ヘルスケアや小売分野でドローン配送に取り組むジップラインは、アメリカやアフリカなどで事業を展開しており、過疎地への医療機器やワクチンなどの配送で注目を集めています。例えば、ルワンダやガーナでは、病院から依頼を受けるとドローンが輸血用の血液パックを積んで離陸し、病院に届けています。このサービスは、コロナ禍ではワクチンや日用品の配送を可能にする手段として世界から熱い視線を集めてきました。これまで配送したワクチンは500万ユニット以上。日本では豊田通商と提携しており、長崎県五島列島の医療機関への医療用医薬品のドローン配送の試験を2022年から始めています。

 

一方、ジュミアはアフリカを代表するマーケットプレイスを運営するほか、デジタル決済のプラットフォームや物流事業を展開。現在ではアフリカの11か国で30以上の倉庫を有し、ドロップオフ&ピックアップの拠点は3000以上になります。2019年にはニューヨーク証券取引所に上場しており、金融情報を提供するリフィニティブによると、時価総額は7億4100万ドル(約1091億円※1)です。

※1: 1ドル=約147.2円で換算(2022年10月14日現在)

 

今回、この二社が提携したのは、ジュミアが構築してきた流通・物流ネットワークの圏外のエリアへ配送することを可能にするため。アフリカにおけるECの利用が拡大している中、ジュミアでは流通網が十分に整っていない農村部からの注文が配達件数のおよそ27%を占めるようになりました。そこで、従来の配送サービスでは難しかったラストワンマイル(※2)への配送にドローンで対応しようと乗り出したのです。

※2: サービス提供者の最後の拠点から顧客・ユーザーまでの「最後の区間」のこと

 

ガーナで行われた最初の試験では、1時間未満で85㎞離れた場所までの配送に成功。大きさや重さが異なるさまざまな商品を組み合わせながら、実験を繰り返してきたそうです。将来的にはコートジボワールやナイジェリアにも本サービスを拡大するとのこと。

 

リバース・イノベーションの可能性

ドローン配送は、アマゾンや中国大手の京東集団(JD.com)といった大手ECはもちろん、フェデックス、UPSなどの物流企業も取り組みを初めている分野です。また、自動車と比較すると排出する温室効果ガスが98%も少なく、環境にもやさしい点もメリットの一つと言われています。

 

ドローン配送は先進国でも有用ですが、交通網や流通網が発展していない途上国や過疎地で真価を発揮することは間違いありません。そのため、今回の提携をきっかけに、アフリカのような新興国でドローン配送が一気に普及し、それが先進国に波及して革新を起こす「リバース・イノベーション」が起こることも考えられるでしょう。

 

世界各地で広がるドローン配送。まだ日本は実用化に向けて試験を行なっている段階ですが、これまで以上に当たり前に利用される日は確実に近づいているのではないでしょうか?

 

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日本の漫画はアフリカでも人気!「コミコン・アフリカ」が3年ぶりにリアル開催

2022年9月下旬、南アフリカのヨハネスブルグで、アフリカ大陸最大のマンガイベント「コミコン・アフリカ(Comic Con Africa)」が開催。大勢のマンガ好き、ゲーマー、コスプレーヤーが集まり、新型コロナウイルスのパンデミック以降、3年ぶりとなる同イベントは大盛況で幕を閉じました。マンガやアニメはアフリカでも巨大なポップカルチャーになりつつあります。

大盛況!(画像提供/Comic Con Africa)

 

「コミコン・アフリカ」が初めてアフリカで開催されたのは2018年のこと。米国・ニューヨーク最大のポップカルチャーイベント「NYコミコン」やシアトルで開催される「エメラルドシティ・コミコン」などを手掛ける企業リードポップが主催し、コミックやマンガのコンテンツを制作する企業、出版社、インフルエンサーなどを招き、地元のマンガファンとの交流を楽しむイベントとして始まりました。

 

もともとアフリカでは、日本の漫画とアメコミ(アメリカのマンガ)が高い人気を集めており、アフリカと世界を結ぶ場所として南アフリカが開催地に選ばれたのです。2018年の初回は、イベント開幕前にチケットが完売。その成功から、翌年の2019年には大手スポンサーがついて会場も大きくなり、アフリカ各国や世界中から多くの来場者を集めるイベントに成長しました。

 

その後、2020年はパンデミックでオンラインイベントに移行。翌年は中止になりましたが、2022年は3年ぶりのリアルイベントの開催とあって、これまでよりもさらに大きな会場が選ばれました。7万5000人を収容できるヨハネスブルグ・エクスポセンターを舞台に、4日間にわたり、マンガ、映画、ゲーム、コスプレなどのファンが集い、アフリカで過去最大のイベントとなったのです。参加したコスプレーヤーの中には、マーベルやセーラームーン、ハリー・ポッター、鬼滅の刃のキャラクターの装いをしている人たちがいました。

 

【コミコン・アフリカ2022の初日の様子】

 

アフリカ人にとってのマンガ・アニメ・コスプレは何を意味するのでしょうか? ヨハネスブルグに暮らし、今回のコミコン・アフリカに参加した女性のコスプレーヤーは、SF映画『アバター』に登場する、神秘の星パンドラの先住民ナヴィ族のネイティリを装い、「私にとってネイティリは、とてもパワフルで自分の村や部族のために戦うアフリカの女性です」と自分に重ねながら話しています。

 

また、12年間、映画のコスチュームデザイナーとして働いてきた人が自身もコスプレを楽しむようになり、今回のイベントに参加したというケースも見られました。アフリカでもマンガやアニメ、コスプレといったポップカルチャーの人気はとても高く、日本やアメリカが生み出す作品を見て育ったクリエイターたちが業界を引っ張りながら、着実にその文化が人々の間に根付いていっているようです。

 

2022年の開催では、ファン同士や業界関係者のコミュニケーションに満足感を覚えた参加者が多かったようです。実際、現地のコミックアーティストからは「オンラインでの開催となった2年間を取り戻したような感じだった」「とても楽しんだ」という声がありました。

 

締め切り前の停電は痛すぎる

一方、コミコン・アフリカに参加したコミックアーティストの中には、マンガやコミック、アニメがアフリカでさらに発展するうえでの課題を指摘する人もいます。ヨハネスブルク在住でマーベルなどのコミック作品を描くジェイソン・マスターズさんは「私たちはデジタルで仕事をしています。タブレットも持っているから、停電になっても数時間程度なら仕事を続けられます。でも、締め切り前に停電になったときはつらかった!」と、テクノロジー系メディア・Glitchedのインタビューに回答。安定的な電力供給を可能にするインフラの整備が求められているようです。

 

インターネットが発達してSNSが身近になった今日、個人が自分の作品をSNSに投稿するなどして広く世界に紹介することが簡単にできるようになっています。それをきっかけに新しいコミュニティが生まれたり、新しいアーティストの発掘につながったりする可能性が増えているのです。コミコン・アフリカでは、現地のアーティストが自分の作品を紹介できるプラットフォームの構築も検討しているそうで、コミコンの盛り上がりの後押しを受けて、この業界の新しい発展が期待されています。

 

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ガーナにアグリテックの拠点が誕生! アフリカ全体を巻き込む「timbuktoo」とは!?

 

UNDP(国連開発計画)が主導して進めている「timbuktoo(ティンブクトゥ)」というプロジェクトをご存じでしょうか。これは、さまざまな産業でICTを活用することにより、アフリカ大陸の成長と貧困からの脱却を目指す目的で2021年に発足したイノベーションイニシアチブ。

 

具体的には、アクラ、ナイロビ、ケープタウン、ラゴス、ダカール、キガリ、カサブランカ、カイロなど、スタートアップの拠点なりうるアフリカの都市8ヵ所に、民間主導となるハブ(施設)を設立。ベンチャービルダーやベンチャーファンドへの投資を通して、若手起業家の育成・支援を実施します。各ハブは、フィンテック、ヘルステック、グリーンテック、クリエイティブ、トレードテック、ロジスティック、スマートシティとモビリティ、ツーリズムテックなど、さまざまな分野に特化すると言います。

 

投資される資金は、官民あわせて今後10年間で約10億ドル(約1400億円)。1000社以上のスタートアップの育成や、1億人以上の人々の生活改善、環境改善などを目標に掲げており、投資額の10倍となる100億ドル(約1兆4000億円)以上の経済効果を目指しています。

 

ガーナ・アクラに設置されるハブでは「アグリテック」に注力

そしてこのたび、ガーナのラバディビーチホテルで開催されたイベントで、アグリテックに特化したイノベーションハブを首都アクラに設置することが発表されました。

 

「私たちは雇用を創出する必要があります。そのためには、まず起業家を育てることが重要。DXを活用してイノベーションと雇用創出を実現したい」とガーナ共和国副大統領のMahamudu Bawumia氏は期待を寄せます。

 

一方、UNDPガーナ常駐代表のAngela Lusigi氏もこうコメントしました。

 

「timbuktooは “未来志向のスマートなアフリカ”というUNDPのビジョンに沿った新しいアプローチ。民間と協力し、テクノロジーとイノベーションを活用して駆使して未来を拓くという、大胆で新しい取り組みを誇りに思います」

 

またtimbuktooでは、アフリカの低所得国10カ国にある大学に、学生たちのイノベーションとデザイン思考を促進するための研究施設(UniPods)の設立を予定。2022年末までに運用が開始され、さらに2023年までには18カ国にまで拡大する予定だといいます。

 

官民学が連携することで、ガーナをはじめアフリカのさまざまな国で、ICTによる経済成長を図ろうとしているtimbuktoo。今後、アフリカ地域全体のさらなる成長を促すことが大いに期待されています。

 

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SDGsの「目標4:教育」に警鐘! 活路はアフリカへの「オンライン教育」の技術提供か

9月19日、米国・ニューヨークの国連本部で「トランスフォーミング・エデュケーション・サミット(TES)」が開催されます。このサミットは、「質の高い教育をみんなに」という目標を掲げる持続可能な開発目標(SDG)4の実現に向けて、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が国際社会の協力を強化するために構築した「グローバル・エデュケーション・コーポレーション・メカニズム」の一環。SDG4は2030年までに「教育への普遍的なアクセス」の実現を目指していますが、実はいま、この計画が危機的な状況に陥っているのです。

どうすれば世界は結束するのか?

 

TESに先行して、ユネスコは7月に『2022 SETTING COMMITMENTS』というレポートを発表しました。SDG4には、退学率やジェンダーギャップなど7つの指標があり、それぞれの目標が達成されるために、世界各国がどれだけ貢献するかを決めています。ユネスコは各国の取り組み状況を調べ、以前よりも多くの国がSDG4の実現に向けて取り組むことを約束した、と同レポートで述べています。しかし、前向きな材料はそれ以外にほとんどなかった模様。

 

現状は厳しいようです。同レポートの主な論点は、2030年までにSDG4を達成するのが難しいということ。たとえ各国の取り組みが順調に進んだとしても、未就学の児童や青少年の数は2030年までに約8400万人に上る見込みと言われています。また、同年までに初等教育(日本では小学校に当たる)を修了することができる子どもの数は世界中で3分の2以下とされる一方、ほぼ全ての子どもが中等教育(中学校と高校)を終えることができそうな国の割合は、6か国中わずか1つ。「普遍的なアクセス」と呼ぶには程遠い状況です。

 

これを受けて、国連は警鐘を鳴らし始めました。ECOSOC(国際連合経済社会理事会)のコレン・ヴィクセン・ケラピ議長は、途上国と先進国の間で教育格差が拡大しており、その中でもアフリカの教育環境が最も脆弱であると述べています。新型コロナウイルスのパンデミックがこの傾向に拍車をかけていることは明白ですが、「仮にいまアフリカ諸国がオンライン教育に舵を切っても、オンライン教育を行うための技術的な方法がない」とケラピ議長は指摘。持てる国が持たざる国と技術や方法を共有する必要があると論じています。

 

SDG4を達成するためには、先進国と途上国の結束が重要。これからも国連の機関は従来の指標を使って各国の取り組みを測定します。危機的な状況下にある国を支援するためには先進国の指導的役割が不可欠ですが、オンライン教育や回線接続環境などにおいては、民間企業を含めた国際協調体制の構築が強く求められるでしょう。

 

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なお、当メディアへのご意見・ご感想は、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集部の問い合わせアドレス(nbi_info@icnet.co.jpや公式ソーシャルメディア(TwitterInstagramFacebook)にて受け付けています。『NEXT BUSINESS INSIGHTS』の記事を読んで海外事情に興味を持った方は、是非ご連絡ください。

世界最高の送金コストを減らせ! アフリカで「デジタル通貨」導入の動きが加速

【掲載日】2022年8月2日

世界各国で進展している自国通貨のデジタル化は、アフリカ大陸において急激な進展を見せています。すでにナイジェリアは、中央銀行発行のデジタル通貨「eナイラ」を2021年にローンチした一方、南アフリカとガーナはパイロット運用を実施中。さらにケニア、タンザニア、ナミビアなど約8か国が、将来の本格的な導入に向けて詳細なリサーチを開始しており、安定した金融制度を確立するために奔走しています。

中央銀行デジタル通貨(CBDC)がアフリカ諸国に広がる

 

各国政府の中央銀行によるデジタル通貨は「CBDC(Central Bank Digital Currency)」の略称で呼ばれており、自国の法定通貨建てで、中央銀行の債務として発行されて流通している自国通貨のデジタル版となっています。価格変動の激しい暗号通貨と異なり、政府の規制で介入されるので、安定度の高さが見込まれるのが特徴。

 

アフリカ諸国は、政情不安やインフレなどによる通貨の激しい値動きに長年悩まされ続けてきました。さらに銀行口座を持っていない国民も多く、個人に向けた給付金などが想定通りに配布されないなど、多くの問題が存在しています。また、海外からの送金においてもサブサハラ(サハラ砂漠以南の国々)地域の平均手数料は約8%と、送金コストが世界で最も高いグループに属しています(世界銀行によると、2021年第1四半期における世界の送金コストの平均は6.4%で、南アジアが最低の4.6%。持続可能な開発目標では2030年までに3%に抑えることを目指している)。CBDCはこのような問題を解決できる可能性を持っており、それゆえに本格的な導入に向けた取り組みが熱を帯びているのです。

 

当然ながらデジタル通貨の導入には、解決すべき問題も多数存在しています。前提条件として、国民がデジタル通貨を活用するためのデバイスの所有や、広範囲な接続網などのインフラ整備が不可欠。また、デジタルゆえに、サイバー攻撃による資産や情報の流出リスクを常に警戒する必要があります。アフリカだけでなく他国でも、CBDCの導入を巡る議論においては自国の状況を踏まえながらメリット・デメリットを検証するため、リスクが大きい場合は慎重にならざるを得ません。

 

しかし、デジタル通貨の流通には大きな利点があります。それは金融包摂で、貧困や差別により既存の金融システムから除外されてしまった人々に対して手を差し伸べることが期待できるのです。デジタル通貨やブロックチェーン、NFTといった「フィンテック」は、すべての人々に対して経済的に平等な権利を与える意味でも革新的な技術。より多くの人たちが金融サービスにアクセスできるようにすることは、途上国だけでなく先進国の課題でもあるので、アフリカの先駆的な取り組みは世界が見守っています。

 

デジタル通貨の到来に向けたビジネスでは、アプリやセキュリティ、スマートカードの提供など大きなチャンスが存在しています。途上国ではフィンテックを活用した新しいビジネスモデルが続々と生まれていますが、デジタル通貨の導入に向けた動きが加速する中、アフリカの動向から今後も目が離せません。

 

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世界最高の送金コストを減らせ! アフリカで「デジタル通貨」導入の動きが加速

【掲載日】2022年8月2日

世界各国で進展している自国通貨のデジタル化は、アフリカ大陸において急激な進展を見せています。すでにナイジェリアは、中央銀行発行のデジタル通貨「eナイラ」を2021年にローンチした一方、南アフリカとガーナはパイロット運用を実施中。さらにケニア、タンザニア、ナミビアなど約8か国が、将来の本格的な導入に向けて詳細なリサーチを開始しており、安定した金融制度を確立するために奔走しています。

中央銀行デジタル通貨(CBDC)がアフリカ諸国に広がる

 

各国政府の中央銀行によるデジタル通貨は「CBDC(Central Bank Digital Currency)」の略称で呼ばれており、自国の法定通貨建てで、中央銀行の債務として発行されて流通している自国通貨のデジタル版となっています。価格変動の激しい暗号通貨と異なり、政府の規制で介入されるので、安定度の高さが見込まれるのが特徴。

 

アフリカ諸国は、政情不安やインフレなどによる通貨の激しい値動きに長年悩まされ続けてきました。さらに銀行口座を持っていない国民も多く、個人に向けた給付金などが想定通りに配布されないなど、多くの問題が存在しています。また、海外からの送金においてもサブサハラ(サハラ砂漠以南の国々)地域の平均手数料は約8%と、送金コストが世界で最も高いグループに属しています(世界銀行によると、2021年第1四半期における世界の送金コストの平均は6.4%で、南アジアが最低の4.6%。持続可能な開発目標では2030年までに3%に抑えることを目指している)。CBDCはこのような問題を解決できる可能性を持っており、それゆえに本格的な導入に向けた取り組みが熱を帯びているのです。

 

当然ながらデジタル通貨の導入には、解決すべき問題も多数存在しています。前提条件として、国民がデジタル通貨を活用するためのデバイスの所有や、広範囲な接続網などのインフラ整備が不可欠。また、デジタルゆえに、サイバー攻撃による資産や情報の流出リスクを常に警戒する必要があります。アフリカだけでなく他国でも、CBDCの導入を巡る議論においては自国の状況を踏まえながらメリット・デメリットを検証するため、リスクが大きい場合は慎重にならざるを得ません。

 

しかし、デジタル通貨の流通には大きな利点があります。それは金融包摂で、貧困や差別により既存の金融システムから除外されてしまった人々に対して手を差し伸べることが期待できるのです。デジタル通貨やブロックチェーン、NFTといった「フィンテック」は、すべての人々に対して経済的に平等な権利を与える意味でも革新的な技術。より多くの人たちが金融サービスにアクセスできるようにすることは、途上国だけでなく先進国の課題でもあるので、アフリカの先駆的な取り組みは世界が見守っています。

 

デジタル通貨の到来に向けたビジネスでは、アプリやセキュリティ、スマートカードの提供など大きなチャンスが存在しています。途上国ではフィンテックを活用した新しいビジネスモデルが続々と生まれていますが、デジタル通貨の導入に向けた動きが加速する中、アフリカの動向から今後も目が離せません。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

なお、当メディアへのご意見・ご感想は、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集部の問い合わせアドレス(nbi_info@icnet.co.jpや公式ソーシャルメディア(TwitterInstagramFacebook)にて受け付けています。『NEXT BUSINESS INSIGHTS』の記事を読んで海外事情に興味を持った方は、是非ご連絡ください。

6億人に「きれいな水」を! ーーノウハウと総合力でスピーディーに成し得たケニア・水供給プロジェクト

【掲載日】2022年7月27日

 

本記事は、2022年6月10日にGetNavi webで掲載された記事を再編集したものです

 

国連の「世界人口予測」で、2100年の人口が43~44億人になると言われているアフリカは、魅力あるマーケットとして世界中から注目されています。ポンプやコンプレッサ・タービンなどの機械製造を軸に、さまざまな事業を展開する荏原製作所も、アフリカ・ケニアで自社の製品と技術を活かし、水の供給支援を実施。

 

開発途上国でインフラを構築するという点では決して珍しいものではありませんが、そこには、技術力はもちろん、海外企業との連携力、現地の人々のコミュニケーション力、これまでの経験値、そしてスタッフの熱き思いなど、総合力があったからこそ、スムーズに実現し得た事業だと言います。

 

あるドイツ企業からの提案

「きっかけは、再生可能エネルギーを利用した水処理設備のソリューション提供を専門とするBoreal Light GmbH(ドイツ)というスタートアップ企業からの提案でした」と話すのは、同プロジェクトを担当する乗富大輔さん。ケニアの事業に立ち上げから携わってきた1人です。

 

「当社は、2020年に『E-Vision2030』という長期ビジョンを策定しました。その重要課題の一つとして『持続可能な社会づくりへの貢献』を掲げ、具体的な成果として『6億人に水を届ける』ことを目指しています。サブサハラアフリカでは、水道など基礎的な給水サービスを利用できない人が人口の4割ほどいます。

 

ポンプメーカーとしては、一歩踏み込んだビジネスモデルを創出し、課題解決に取り組まなければいけないという認識を持っていました。そんな背景があり、イタリアのEBARA Pumps Europe S.p.A.(EPE社)の顧客でもあるBoreal Light GmbHから提案を受け、2021年4月にスポンサーシップ契約を締結しました」(乗富さん)

右から3人目がEbara Pumps East Africa ケニアプロジェクトジェネラルマネジャーの乗富大輔さん

 

学校の子どもたちに飲料水を無償提供

プロジェクトの舞台はマチャコスという街。ケニア南部に位置し、首都ナイロビから車で約2時間の場所にあります。

 

「マチャコスの水道供給は限られており、住民は井戸水を利用したり、タンクに詰めた水を販売する業者から購入したりしていました。安全性の高い水の入手が難しい当地にて、当社は、特別支援学校の敷地内に4台のポンプを含む浄化装置を設置。

 

これにより、深井戸から水を汲み上げ、1時間に2000リットルの清潔な飲料水を製造することが可能となりました。それを学校の生徒たち約160人に無償で提供。余った飲料水は日本の駅のキオスクのようなスタンド『Waterkiosk』で地域コミュニティーの方たちに販売し、収益をWaterkioskの運営費用に充てています。

 

浄水装置に必要な電力はソーラーパネルで発電されたクリーンエネルギーを活用しており、また、浄水装置から出る排水は、施設内の農場や魚の養殖池で有効活用するなど、持続可能なモデルとして運営できる点も重要であると考えています。

飲料水の販売スタンド「Waterkiosk」

 

このWaterkioskの運営は2021年7月中旬から始まりました。今回のケースでは、EPE社のポンプを含むBoreal Light GmbHの標準化された浄化装置を活用したため、着工から完成まで約3か月という短期間で実現することが出来たのです。

 

その間に、学校関係者や保護者をはじめ、水を利用する方たちに集まっていただき、プロジェクトの概要や運営システム、水の販売価格をいくらに設定するかなど議論し、現地のニーズを収集しました。

 

また、学校には寮もあるため、飲料水だけでなく、シャワーや手洗いなどの生活用水も供給しています。最初に学校を訪問した際は、不純物のせいか、寮のシャワーが詰まっていて水が出ませんでした。

 

当初の計画にはなかったのですが、寮で暮らす子どもたちの生活全体を改善したいという想いも強かったので、限られた予算の中で調整し、安全な水を生活用水としても提供できるようにしました。結果として、子どもたちの更なるQOL向上に貢献できたと思います。また、このような取り組みを評価頂き、「荏原グループが目指す『6億人に水を届ける』に関わる途上国向け浄水・給水ビジネスモデルの創出」として、第5回ジャパンSDGsアワード特別賞を受賞することが出来ました」(乗富さん)

Waterkiosk設立の式典。子どもたちを前にスピーチをする乗富さん

 

 

6億人に水を届けることで生活の改善を目指す

ケニアでの水供給のビジネスモデルは 、あくまで“6億人に水を届ける”という目標に向けての取り組みの1つです。「6億人の対象者はアフリカに限らず世界中すべて」と話すのは、マーケティング統括部の崎濱大さん。

 

「世界の人口は、現在の78億人から2030年には85億人に増加するといわれており、増加分のほとんどが新興国です。当社は、世界シェアを現在よりも5%拡大させることによって、6億人の人に水を供給することを目標としています。

 

ケニアでの新規事業プロジェクトに限らず、既存事業も含めた長期的なビジョンですので、ケニアのビジネスモデルをそのまま他の国や地域で展開するのではなく、それぞれの課題やニーズに応じて柔軟にアプローチをしていきたいと考えています。

荏原製作所 マーケティング統括部 マーケティング推進部 第一課・崎濱 大さん

 

新興国の中には、所得や水道事業の運営そのものに課題があったり、そもそも水にお金を払うという認識すらない地域もあります。さまざまな課題に対応し、衛生的で安全、そして安定的な供給をするためには、単にポンプや浄水装置を販売するだけではなく、その国の社会や生活環境への理解を深めることが大切。

 

そのためにも、今回のように現地パートナーと組んで、ニーズに応じた持続可能なシステムを構築、創出していく必要があると考えています」(崎濱さん)

 

水が変われば、生活全体が次々と変わる

“水”というと飲料水だけをイメージしがちですが、もちろんそれだけではありません。

 

「アフリカでは人口増加に伴い、農業生産性の向上と食料の安定供給が大きな課題です。小規模農家向けに当社の技術を活かした灌漑設備を提供し、農業分野においても貢献していきたいと考えています。顧客農家の生産量と所得が増えることで、生活の質向上にも繋げられたらと思います」(乗富さん)

マチャコスの学校内では浄水装置の排水を利用して野菜を育てている

 

「食料問題以外にも、水汲み労働による子どもの教育問題、衛生環境問題など、課題は多岐にわたります。こうした安心安全な水にアクセスできる仕組みを作ることにより、課題を解決し、生活基盤の改善が期待できると考えています。

 

今後も飲料水の供給に限らず、当社の技術的な強みと知見を活かせる領域を見定め、現地のニーズに合わせた商品やサービスを創出することで、アフリカをはじめとする新興国の人たちの生活が、社会的かつ経済的に改善されていくように取り組んでいきたいと思います」(崎濱さん)

 

SDGsという言葉が生まれる遥か昔から実施

今回紹介した事例以外にも、荏原製作所では、新興国を対象に、その国や地域の社会基盤の整備や改善に役立てるよう、社員や技術者によるセミナーやワークショップを1989年から開催。2019年までにアジアを中心に20か国で279回実施しています。

 

社会課題に向き合う同社の姿勢について、経営企画部 IR・広報課の粒良ゆかりさんは「創業当時から社会の役に立ちたいという想いを持って事業を継続してきました」と話します。

荏原製作所 グループ経営戦略・経理財務統括部 経営企画部 IR・広報課 粒良ゆかりさん

 

「現在は、『E-Vision2030』(前出)で掲げた5つのマテリアリティの解決を目指した、新規事業の開拓、創出を行っています。例えば世界的な食糧不足、たんぱく質不足という課題解決のために、陸上養殖システムの開発を行ったり、水素社会に向けて極低温の液体水素を運ぶための技術実証も予定しています。今後も、当社の技術や知見を活かし、持続可能な社会、豊かな社会づくりに貢献できればと思います」(粒良さん)

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

なお、当メディアへのご意見・ご感想は、NEXT BUSINESS INSIGHTS編集部の問い合わせアドレス(nbi_info@icnet.co.jpや公式ソーシャルメディア(TwitterInstagramFacebook)にて受け付けています。『NEXT BUSINESS INSIGHTS』の記事を読んで海外事情に興味を持った方は、是非ご連絡ください。

6億人に「きれいな水」を! ーーノウハウと総合力でスピーディーに成し得たケニア・水供給プロジェクト

アフリカ・ケニアで学校の子どもたちに水を届けるプロジェクトがスタート~株式会社荏原製作所

 

国連の「世界人口予測」で、2100年の人口が43~44億人になると言われているアフリカは、魅力あるマーケットとして世界中から注目されています。ポンプやコンプレッサ・タービンなどの機械製造を軸に、さまざまな事業を展開する荏原製作所も、アフリカ・ケニアで自社の製品と技術を活かし、水の供給支援を実施。

 

開発途上国でインフラを構築するという点では決して珍しいものではありませんが、そこには、技術力はもちろん、海外企業との連携力、現地の人々のコミュニケーション力、これまでの経験値、そしてスタッフの熱き思いなど、総合力があったからこそ、スムーズに実現し得た事業だと言います。

 

あるドイツ企業からの提案

「きっかけは、再生可能エネルギーを利用した水処理設備のソリューション提供を専門とするBoreal Light GmbH(ドイツ)というスタートアップ企業からの提案でした」と話すのは、同プロジェクトを担当する乗富大輔さん。ケニアの事業に立ち上げから携わってきた1人です。

 

「当社は、2020年に『E-Vision2030』という長期ビジョンを策定しました。その重要課題の一つとして『持続可能な社会づくりへの貢献』を掲げ、具体的な成果として『6億人に水を届ける』ことを目指しています。サブサハラアフリカでは、水道など基礎的な給水サービスを利用できない人が人口の4割ほどいます。

 

ポンプメーカーとしては、一歩踏み込んだビジネスモデルを創出し、課題解決に取り組まなければいけないという認識を持っていました。そんな背景があり、イタリアのEBARA Pumps Europe S.p.A.(EPE社)の顧客でもあるBoreal Light GmbHから提案を受け、2021年4月にスポンサーシップ契約を締結しました」(乗富さん)

↑右から3人目がEbara Pumps East Africa ケニアプロジェクトジェネラルマネジャーの乗富大輔さん

 

学校の子どもたちに飲料水を無償提供

プロジェクトの舞台はマチャコスという街。ケニア南部に位置し、首都ナイロビから車で約2時間の場所にあります。

 

「マチャコスの水道供給は限られており、住民は井戸水を利用したり、タンクに詰めた水を販売する業者から購入したりしていました。安全性の高い水の入手が難しい当地にて、当社は、特別支援学校の敷地内に4台のポンプを含む浄化装置を設置。

 

これにより、深井戸から水を汲み上げ、1時間に2000リットルの清潔な飲料水を製造することが可能となりました。それを学校の生徒たち約160人に無償で提供。余った飲料水は日本の駅のキオスクのようなスタンド『Waterkiosk』で地域コミュニティーの方たちに販売し、収益をWaterkioskの運営費用に充てています。

 

浄水装置に必要な電力はソーラーパネルで発電されたクリーンエネルギーを活用しており、また、浄水装置から出る排水は、施設内の農場や魚の養殖池で有効活用するなど、持続可能なモデルとして運営できる点も重要であると考えています。

↑飲料水の販売スタンド「Waterkiosk」

 

このWaterkioskの運営は2021年7月中旬から始まりました。今回のケースでは、EPE社のポンプを含むBoreal Light GmbHの標準化された浄化装置を活用したため、着工から完成まで約3か月という短期間で実現することが出来たのです。

 

その間に、学校関係者や保護者をはじめ、水を利用する方たちに集まっていただき、プロジェクトの概要や運営システム、水の販売価格をいくらに設定するかなど議論し、現地のニーズを収集しました。

 

また、学校には寮もあるため、飲料水だけでなく、シャワーや手洗いなどの生活用水も供給しています。最初に学校を訪問した際は、不純物のせいか、寮のシャワーが詰まっていて水が出ませんでした。

 

当初の計画にはなかったのですが、寮で暮らす子どもたちの生活全体を改善したいという想いも強かったので、限られた予算の中で調整し、安全な水を生活用水としても提供できるようにしました。結果として、子どもたちの更なるQOL向上に貢献できたと思います。また、このような取り組みを評価頂き、「荏原グループが目指す『6億人に水を届ける』に関わる途上国向け浄水・給水ビジネスモデルの創出」として、第5回ジャパンSDGsアワード特別賞を受賞することが出来ました」(乗富さん)

↑Waterkiosk設立の式典。子どもたちを前にスピーチをする乗富さん

 

 

6億人に水を届けることで生活の改善を目指す

ケニアでの水供給のビジネスモデルは 、あくまで“6億人に水を届ける”という目標に向けての取り組みの1つです。「6億人の対象者はアフリカに限らず世界中すべて」と話すのは、マーケティング統括部の崎濱大さん。

 

「世界の人口は、現在の78億人から2030年には85億人に増加するといわれており、増加分のほとんどが新興国です。当社は、世界シェアを現在よりも5%拡大させることによって、6億人の人に水を供給することを目標としています。

 

ケニアでの新規事業プロジェクトに限らず、既存事業も含めた長期的なビジョンですので、ケニアのビジネスモデルをそのまま他の国や地域で展開するのではなく、それぞれの課題やニーズに応じて柔軟にアプローチをしていきたいと考えています。

↑荏原製作所 マーケティング統括部 マーケティング推進部 第一課・崎濱 大さん

 

新興国の中には、所得や水道事業の運営そのものに課題があったり、そもそも水にお金を払うという認識すらない地域もあります。さまざまな課題に対応し、衛生的で安全、そして安定的な供給をするためには、単にポンプや浄水装置を販売するだけではなく、その国の社会や生活環境への理解を深めることが大切。

 

そのためにも、今回のように現地パートナーと組んで、ニーズに応じた持続可能なシステムを構築、創出していく必要があると考えています」(崎濱さん)

 

水が変われば、生活全体が次々と変わる

“水”というと飲料水だけをイメージしがちですが、もちろんそれだけではありません。

 

「アフリカでは人口増加に伴い、農業生産性の向上と食料の安定供給が大きな課題です。小規模農家向けに当社の技術を活かした灌漑設備を提供し、農業分野においても貢献していきたいと考えています。顧客農家の生産量と所得が増えることで、生活の質向上にも繋げられたらと思います」(乗富さん)

↑マチャコスの学校内では浄水装置の排水を利用して野菜を育てている

 

「食料問題以外にも、水汲み労働による子どもの教育問題、衛生環境問題など、課題は多岐にわたります。こうした安心安全な水にアクセスできる仕組みを作ることにより、課題を解決し、生活基盤の改善が期待できると考えています。

 

今後も飲料水の供給に限らず、当社の技術的な強みと知見を活かせる領域を見定め、現地のニーズに合わせた商品やサービスを創出することで、アフリカをはじめとする新興国の人たちの生活が、社会的かつ経済的に改善されていくように取り組んでいきたいと思います」(崎濱さん)

 

SDGsという言葉が生まれる遥か昔から実施

今回紹介した事例以外にも、荏原製作所では、新興国を対象に、その国や地域の社会基盤の整備や改善に役立てるよう、社員や技術者によるセミナーやワークショップを1989年から開催。2019年までにアジアを中心に20か国で279回実施しています。

 

社会課題に向き合う同社の姿勢について、経営企画部 IR・広報課の粒良ゆかりさんは「創業当時から社会の役に立ちたいという想いを持って事業を継続してきました」と話します。

↑荏原製作所 グループ経営戦略・経理財務統括部 経営企画部 IR・広報課 粒良ゆかりさん

 

「現在は、『E-Vision2030』(前出)で掲げた5つのマテリアリティの解決を目指した、新規事業の開拓、創出を行っています。例えば世界的な食糧不足、たんぱく質不足という課題解決のために、陸上養殖システムの開発を行ったり、水素社会に向けて極低温の液体水素を運ぶための技術実証も予定しています。今後も、当社の技術や知見を活かし、持続可能な社会、豊かな社会づくりに貢献できればと思います」(粒良さん)

人口爆発でサブサハラが台頭! 2050年の「メガシティー」予測

【掲載日】2022年4月22日

現在の日本では、高齢化や人口減少がすでに大きな社会問題に発展していますが、その一方で爆発的な人口増加の状況下にある国々も数多く存在しています。ビジネスの世界においては、人口増加率や平均年齢の若さなどが将来の市場の成長性を見出す大きな要素の1つであり、グローバル展開を検討している企業にとって、将来の大きなリターンが見込まれるチャンスになり得るでしょう。では、将来のメガシティー(巨大都市)はどこで生まれているのでしょうか?

メガシティーに向かって走れ!

 

国際連合の経済社会局人口部は2021年に『Global Population Growth and Sustainable Development(世界の人口増加と持続可能な開発)』を発表しています。このレポートによると、2020〜50年の間に高い人口増加率が見込まれる上位10か国はインド、ナイジェリア、パキスタン、コンゴ民主共和国、エチオピア、タンザニア連合共和国、エジプト、インドネシア、アメリカ合衆国、アンゴラ(人口増加数が高く見込まれる順)。

 

サブサハラ(サハラ砂漠以南のアフリカ)地域だけで約半分の5か国を占めています。この上位10か国は、下位グループでも約5000万人以上の人口増加が見込まれ、上位のインドとナイジェリアに関しては約2億人以上も増加するとのこと。これらの国々では人口爆発と経済発展に伴い、都市化が進むと見られます。

2020年〜50年の世界各国の人口変動予測(出典: 国連『Global Population Growth and Sustainable Development』2021年

 

サブサハラに着目すれば、この地域では今後のビジネスにおいて高い成長性が見込まれる国が多数存在しており、デジタル経済の発達や国の経済力をはかる指標の1つである名目GDP(国内総生産)の上昇が顕著である国も多く、それゆえにGoogleやMetaに代表されるような巨大IT企業が続々と巨額投資を行い、将来のグローバルビジネスで覇権を得るべく近年顕著に事業を展開しています。

 

このような人口動態や開発は日本から想像しにくいかもしれませんが、上記のグラフの下位に目を移せば、2050年までに最も人口が減少するのは中国で、日本とロシアがそれに続きます。数十年前、関西のある著名経営者は日本の人口減少について「顧客候補になる人間が1人減るということは、目、鼻、口、耳、触感など五感にまつわるビジネスがいくつも減るということ。それが広がっていくことの恐ろしさを本当に理解していますか?」と警鐘を鳴らしていたそう。いまこそ日本の経営者は近くではなく、もっと遠くを見るべきかもしれません。

 

【出典】United Nations Department of Economic and Social Affairs, Population Division (2021). Global Population Growth and Sustainable Development. UN DESA/POP/2021/TR/NO. 2. https://www.un.org/development/desa/pd/sites/www.un.org.development.desa.pd/files/undesa_pd_2022_global_population_growth.pdf

 

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●アイ・シー・ネット株式会社「海外進出に役立つ資料集」

トーゴに来た! アフリカに巨大なデジタル経済圏を生む「Google海底ケーブル」

【掲載日】2022年4月18日

20223月、西アフリカ地域に向けたGoogleの海底ケーブル「Equiano」が西アフリカのトーゴに陸揚げされたと報じられました。近年、巨大IT企業によるアフリカへの投資がヒートアップしていますが、Equianoの進展によりアフリカにおけるデジタル経済がまた一歩前進した格好です。

国際海底ケーブル「Equiano」の地図(画像提供/Google)

 

2019年に始まったEquianoプロジェクトは、欧州のポルトガルから西アフリカ各地を経由して南アフリカのケープタウンへの陸揚げを目指しています。18世紀後半にベニン王国(現ナイジェリア南部)で生まれ、奴隷解放運動を行った作家のOlaudah Equiano(オラウダ・イクイアーノ)にちなんで名付けられたこの国際海底ケーブルは、これからナイジェリアとナミビアにも陸揚げされる予定。同プロジェクトは西アフリカのインターネット環境を劇的に改善させ、その結果、巨大なデジタル経済圏が生まれると言われています。

世界の移動通信事業者等から成る国際業界団体GSM(GSM Association)の調査によれば、トーゴは人口(約828万人)の7割以上が携帯電話を所有する一方、世界銀行によるビジネス環境ランキングではアフリカで第6位。しかし、モバイル人口の高さに比較すると、インターネット環境が整っていないことがデジタル経済の推進における大きな課題の1つでした。モバイルのインターネット接続率は36%で、3G通信のカバー率は全人口の66%と、先進国の通信環境とは雲泥の差であります。

 

Googleの海底ケーブルの到達により、世界の潮流である5G通信環境の展開が視野に入るようになるため、トーゴを皮切りとして西アフリカ地域のデジタル経済が飛躍的に改善されることになるでしょう。急激な人口増加で若年層比率が非常に高い西アフリカは、今後の経済成長に伴う巨大市場の出現を狙った各国企業の進出が今後ますます増加すると思われます。

 

Meta(旧Facebook)主導の「2Africa」プロジェクトも進んでおり、アフリカのデジタル経済市場は想像を超えるスピードで発達していきそうです。

 

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製薬産業に革新を!「医薬品」の輸入依存から脱却を進めるアフリカ

【掲載日】2022年4月14日

新型コロナウイルスのパンデミックは全世界のサプライチェーンにダメージを及ぼし、各国経済に多大なダメージを引き起こしました。先進国はもちろん、新興国も景気の回復に向けて戦略を模索していますが、昨今アフリカで喫緊の課題となっているのが医薬品不足。この問題は住民の健康に悪影響を及ぼすだけではなく、経済成長も鈍化させ、貧困を拡大させるリスクを併せ持っています。

もはや輸入に頼ってばかりではいられない

 

10億人以上の人口を持つアフリカ大陸には、その膨大な需要に対応するだけの医薬品メーカーが存在しません。コンサルタント企業のマッキンゼーによると、その数は同大陸全体で約375社で、同程度の人口を有する中国やインドと比較すると圧倒的に少なく(中国は約5000社、インドは約1万500社)、医薬品の多くは輸入品に頼らざるを得ない状況です。さらに、コロナ禍における輸出制限やサプライチェーンの混乱などのため、大陸全域で医薬品の入手が困難になりました。

 

今回のパンデミックで、慢性疾患の治療や経口避妊薬、精神安定剤など、すべての医薬品がアフリカ全土で不足状況に陥っています。また、アフリカは世界人口の約17%の人口を占めているにも関わらず、新型コロナウイルスのワクチンにおいては、全世界で生産された約90億回分のワクチンのうち6%程度しか供給されていません。

 

そんな状況を変えるために、アフリカも動き出しています。例えば、新型コロナウイルスパンデミック初期の2020年4月、日本のJICAとアフリカ連合開発庁はアフリカの保健医療分野に関わる企業の支援策「Home Grown Solutions(HGS)アクセラレータープログラム」をスタートさせました。本プログラムは、選出された対象企業に対して、個々の企業のニーズに応える形で約6か月間サポートするもの。例えば、2021年にサポート対象になった注射器等の基礎医療用品メーカーのリバイタル社(ケニア)においては、複数の投資家から約7億円の資金調達に成功、製造ラインの拡大と共に注射器の生産量が約3.5倍に拡大、製品輸出も増加させるなど目覚ましい結果を残しています。

 

医薬品の自国生産能力が乏しいアフリカでは、元来低所得者が多く、医療保険制度も未発達な状況にあり、これからどこまで自前で医薬品を製造できるのかが大きなチャレンジ。アフリカ連合開発庁は同大陸の55の国と地域からなるアフリカ連合のグローバルパートナーシップ調整機関で、JICAを含めた他国のサポートだけでなく、先進国の民間企業の進出も望まれています。東アフリカ地域からスタートしたJICAのHGSプログラムは、今後アフリカ全土に波及していくことが見込まれており、ヘルスケア市場の成長および医薬品生産能力向上に大きく貢献していくことが期待されます。

 

「NEXT BUSINESS INSIGHTS」を運営するアイ・シー・ネット株式会社では、開発途上国の発展支援における様々なアプローチに取り組んでいます。新興国でのビジネスを考えている企業の活動支援も、その取り組みの一環です。そんな企業の皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料を用意。具体的なステップを踏みたい場合の問い合わせ受付も行っています。「NEXT BUSINESS INSIGHTS」の記事を見て、途上国についてのビジネスを考えている方は、まずは下記の資料集を参照ください。

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「モバイル革命」に新展開! 携帯電話と機械学習が人道支援を改善する

【掲載日】2022年4月7日

コロナ禍において、各国政府や人道支援団体などは、さまざまな支援を行っています。しかし、そこには「誰を支援の対象とするか?」「対象基準はどのように設定するか?」という2つの問題があり、やり方を間違えれば、本当に支援を必要とする人に現金や援助物資が届きません。そんな中、機械学習と携帯電話を使って人道支援のターゲティングを改善するという研究が発表され、専門家の間で注目を集めています。

ケータイが人道支援をより良くする

 

西アフリカのトーゴ共和国は、新型コロナウイルスの流行が自国で表面化してきた2020年4月に、パンデミックの影響を最も受けた貧困層を対象とした現金配布プログラム『Novissi(同国で話されているエヴェ語で「団結」を意味する)』を始めました。トーゴの主要産業は農業で、アフリカの経済成長に伴い近年の国家経済は上昇傾向にありますが、国連の名目GDP国別ランキング(2020年)で213か国中157位となっているように、貧困は深刻な問題。そこで、本プログラムを実施するに当たって、トーゴ政府や支援団体は、貧困層の中から最貧困層を選別して、給付対象者として特定しようとしました。

 

大きな問題の1つは、支給対象者になる最貧困層を何の基準で特定するのか? トーゴでは自給自足で生活している人々が多いうえ、日本のように全国で統一されている住民基本台帳制度や世帯収入の特定なども存在しません。そんな条件を考慮して本プログラムでは、携帯電話を活用した機械学習プログラムをメインの判断基準として導入されました。

 

今回のプログラムをサポートしたのは、米国・カリフォルニア大学バークレー校情報学部の研究チーム。給付はデジタル通貨を対象者の携帯電話に送ることが前提条件で、支援が必要な人たちは、携帯電話とSIMカードを持っている必要があります。この時点で給付から除外されてしまう人も存在するかもしれませんが、成人の約65%、世帯の約85%が携帯電話を保持しているトーゴでは、戸籍や収入が特定できる仕組みが未整備であることも考慮すれば、携帯電話の使用は実現可能な範囲で最善の選択であると考えられます。

 

ターゲティングの主な基準は以下の通り3つ。

(1)携帯電話からNovissiのプラットフォームにダイヤルして基本情報を入力する

(2)特定の地域で投票をしている

(3)投票者登録の職業欄が非正規職業である

 

本プログラムでは、トーゴの主な携帯電話事業者2社が提供するメタデータに機械学習のアルゴリズムを適用し、加入者の財産や消費を測定することも行われています。メタデータに関しては、データの送受信量や通話日時などの記録、電子マネーの消費量、位置データなど、さまざまな情報が含まれており、個人情報やプライバシーの問題を併せ持っています。

 

ビッグデータがもたらす新たな商機

今回の試みは、人道支援だけでなくビジネスの観点からも示唆的です。これまで貧困層はあまり統計データがなかったため、ビジネスの対象になりづらかったのですが、これから彼らの行動などに関するビッグデータが蓄積されていけば、データドリブンによって貧困層向けビジネスのヒントが見えてくる可能性があります。モバイル革命に新展開が生まれるかもしれません。

 

【出典】Aiken, E., Bellue, S., Karlan, D. et al. Machine learning and phone data can improve targeting of humanitarian aid. Nature 603, 864–870 (2022). https://doi.org/10.1038/s41586-022-04484-9

 

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寄付型クラウドファンディングで事業を拡大! アフリカの女性起業家、その実情を知る

【掲載日】2022年4月2日

世界的に女性の起業家が増えている昨今、日本でも女性が新たなビジネスに参入しやすい世の中、仕組みを作るための施策が行われています。その中の一つに、「日アフリカ・ビジネスウーマン交流セミナー」という2013年から続くセミナーがあります。これまでにアフリカ22か国から計120名の女性起業家と行政官が参加し、アフリカにおける女性のビジネスや起業を推進することを目標としてきたものです。

 

今年で9回目を迎えるセミナーは2022年1月25日から3月1日にかけて開催され、13名がオンラインで参加。アフリカ諸国及び日本での女性起業家の現状や政府としての取り組み、アフリカと日本の女性起業家の経験などを聞き、今後の事業計画を作成しました。

 

セミナーは、講義・発表・ワークショップ・オンデマンド教材などを使った15コマのセッションで構成されています。今回のセミナーで特筆すべきは、「寄付型クラウドファンディング・ワークショップ」の実施をとおして、女性起業家が直面するファイナンスの壁を乗り越えるための方策が検討されたことです。日本でも広がり始めたクラウドファンディングをどのように事業に役立てたのか、また、本セミナーを通して見るアフリカの女性起業家にとっての今後の課題などに触れていきしょう。

 

アフリカ8か国から13人の女性が参加した今年度のオンラインセミナー

 

アフリカ8か国からオンラインで参加

日アフリカ・ビジネスウーマン交流セミナーが始まったきっかけは、2013年6月に横浜市で開催された第5回アフリカ開発会議(TICAD V)にさかのぼります。アフリカの経済開発の重要な要素として、女性の役割について議論され、同会議で採択された「横浜宣言 2013」には、「ジェンダーの主流化」*が掲げられました。

*ジェンダー平等を実現するための基本として、社会政策や立案・運営すべての領域でジェンダーの視点を入れていく考え方

 

これを受けて「日アフリカ・ビジネスウーマン交流プログラム」が立ち上げられ、JICA(国際協力機構)と横浜市が連携する形で、2013年度から英語圏・仏語圏のアフリカ諸国から女性企業家と行政官が日本に招へいされるようになったのです。そして2015年度からはJICAの課題別研修として、アフリカと日本の女性起業家や行政官による交流セミナーが実施されるようになりました。

 

行政官と女性起業家がペアで参加するのが本セミナーのユニークなところ。写真は、女性起業支援に積極的な横浜市の行政関係者との研修会(2018年撮影)

 

横浜市が女性起業家を支援するためにつくった女性専用シェアオフィス(F-SUSよこはま)を視察するアフリカの女性起業家と行政官たち(2018年撮影)

 

今年のセミナー参加者は、英語圏アフリカ諸国のエチオピア、ガーナ、モーリシャス、ソマリア、南スーダン、スーダン、ウガンダ、ザンビアの8か国から計13名で、この内、ガーナ、ソマリア、南スーダン、スーダン、ウガンダは各国2名ずつ参加しました。このセミナーのユニークさは、先述のとおり、女性起業家と行政官がペアになって参加する点です。

 

セミナーに参加するのは、女性起業家とともに母国に戻ってすぐに女性の起業やビジネス支援策を実行できる要職につく政府高官の人たちです。セミナーに参加するまでは面識のないペアが大半ですが、参加を通じて知り合いになるので、帰国後の活動におけるマッチングの場としての機能も果たしています。

 

セミナーの受託実施機関であるアイ・シー・ネット株式会社のグジス香苗さんによると、今年のセミナーで特徴的だったのが、行政官の所属する省庁がバラエティに富んでいたことだそう。例年は経済産業省など関係部署からの参加者が多かったのに対し、今年はウガンダから保健省の行政官が参加するなど、女性起業家の支援とは一見縁遠いような参加者もいました。

 

しかし、今回ペアを組んだウガンダの女性起業家が母子保健分野での事業を展開していたこともあり、良い繋がりが生まれました。2人はウガンダ国内の離れた町に暮らしていますが、いまではメッセンジャーアプリで気軽に繋がれる関係性にまでなったそうです。

 

セミナーでは、日本の経産省担当者による日本の女性起業支援についての講演や、民間による起業家支援の状況についての講義、横浜市の女性起業支援のサービスを利用した女性起業家との交流などが実施されています。コロナ禍の昨年度と本年度はオンライン開催となりましたが、それまではアフリカから一行が来日して地方自治体の視察や日本の女性起業家との交流なども行っていました。

 

セミナーの内容は毎年工夫を重ね、年度ごとに少し異なります。過去には来日した研修員がメンターになり、日本の女性起業家の悩みにアドバイスするといった面白い取り組みも実施されました。アフリカの女性起業家は5年以上事業を展開している人を中心に参加しているので、日本とアフリカ双方に学びがある場になっているのです。

 

女性起業家の最大障壁はファイナンスと情報へのアクセス

アフリカの女性の起業や事業拡大に際して大きな障壁となっている課題はいくつもあります。たとえば、「女性は家に居て、外で働くのは男性」といった日本社会にも似た固定概念が根付いている点や、宗教上の理由で社会との関わりを持つことが困難な点。さらに、起業や事業拡大に必要な資金調達のハードルが高いことも大きな課題です。

 

なんと、アフリカでは女性が銀行口座を開設しづらいといった現実があるのです。ひと昔前までは銀行口座の開設にパートナーの同意が必要だったり、最初に銀行口座に預けるお金が用意できなかったり、銀行口座を維持するための手数料が払えなかったりといった障壁がありました。そうしたことから、心理的なハードルを感じていた女性起業家も多くいるのです。

 

その一方で、いまのアフリカはモバイルファイナンスの波が押し寄せており、モバイルマネーの使いやすさなど日本の数歩先を行くほどになっています。高齢の女性や若い主婦層などの多くの女性もモバイルの口座を持てるようになり、金融アクセスは少しずつ改善されているようです。

 

また、どうやって起業すればいいのか、どこに行けばそうした情報が得られるのかがわからないという、起業に関する情報アクセスがしづらいことも問題となっています。さらに、アフリカでは女性の起業に特化した施策が少ないのも現実です。ほかにも、信頼できる仲間を見つけることや人材育成に手間がかかるといった点も女性の起業を妨げる要因となっています。

 

前出のグジスさんは、「アフリカの女性起業家の声を聞くと、アフリカ独自の課題がある反面、日本の女性起業家と共通の悩みも多くあるように感じます」と話します。子育てで自由な時間が作れないといった悩みや、パートナーや周囲の支援を得づらいという声は日本と同じ。さらに、女性起業家同士のネットワークがなかったり、見つかっても関係性を続けにくかったりという現実もあるそうです。

 

今回のセミナーに参加することで、「こうした悩みをほかの人と共有できるのがいい」という意見もあります。しかし、本セミナーの研修が実施される横浜市は、待機児童対策やワークライフバランスと男性の家事・育児参画施策といった女性活躍支援の施策があります。加えて、女性起業家への支援事業が手厚く、起業家予備軍から起業・事業拡大まで、起業のフェーズごとにきめ細やかな支援が用意されていたり、毎年新たな支援が打ち出されたりするので、「女性の起業なんて日本だからできるんだ」という意見もあります。その一方で、いっしょに参加するアフリカの行政官にとっては良いインスピレーションを受けるきっかけになっているのも事実です。

 

横浜市男女共同参画センターの起業UPルームナビゲーター吉枝氏のセミナー受講の様子(2014年撮影)

 

NPO農スクール(株)えと菜園の小島希世子氏の農園を訪問し、意見交換を実施(2018年撮影)

 

クラウドファンディングをきっかけに事業を見つめ直す

今回のセミナーでは、初めて「クラウドファンディング・ワークショップ」が取り入れられました。セミナー期間中に実際のプロジェクトをローンチするという実践型のワークショップは、過去の反省を活かして考えられたプログラムでした。

 

グジスさんによると、ファイナンスへのアクセスをどうするかというのは大きな課題だったそうです。今回のセミナーでクラウドファンディング実習を取り上げたことで、研修を受けて帰国後にアフリカの人たちがすぐに使えるようになったのは大きな成果となりました。

 

クラウドファンディングを学ぶオンラインワークショップの様子

 

セミナーで利用したのは、株式会社奇兵隊が運営する寄付型クラウドファンディングの「Airfunding」。300ドルや500ドルといった少額を資金調達の目標額に設定でき、少額の寄付をリクエストできることや、セミナー参加国で既に資金調達に成功した事例があったことなどから、参加者のニーズに合うと考えられ、今回コラボが実現することになったそうです。

 

ほとんどの参加者がクラウドファンディングをするのは初めてですが、唯一、ソマリアの起業家女性がクラウドファンディングで起業資金を集めた経験があったそうです。彼女は今回、事業拡大のためのクラウドファンディングを行いましたが、そうしたアフリカの同胞起業家の体験ストーリーは他の参加者への刺激にもなっています。

 

セミナーで実際にファンディングを立ち上げ、資金調達に成功したウガンダの女性起業家のサイト

 

少額の資金集めに成功したスタートアップ起業を支援するスーダンの女性起業家のサイト

 

ソーシャルビジネスに寄付型ファンディング結びつけたザンビア女性起業家のサイト

 

クラウドファンディング・ワークショップに参加した11名のうち8名が実際にプロジェクトをローンチし、ウガンダの女性起業家はすでに資金を獲得し始めています。彼女は安全で清潔なお産をサポートするプロジェクトとしてマタニティグッズを販売しており、獲得した資金は製造費用に使うそうです。ほかにも、スーダンの女性起業家が女性のスタートアップ起業を支援する事業を展開しており、少しずつ資金を集め始めています。ザンビアでリサイクル事業を行う女性は、不用品を使ってカゴやバッグを作るという事業を行っており、製造現場に女性を雇い、売上を学校に通えない子ども達に寄付するといった活動をしています。

 

今回立ち上げた多くのプロジェクトに共通するのが、「ソーシャルビジネス」というキーワードです。本セミナーの重点項目のひとつに“ソーシャルビジネス(ビジネスを通して社会課題の解決に取り組む企業)”があります。経済的利益を出しながら、持続的開発目標(SDGs)への取り組みや社会的インパクトを出す持続的な企業経営やその重要性について学びました。

 

アフリカの多くの起業家は、起業時に社会貢献を目標に始めたわけではなく、利益を挙げることで手一杯。今回のセミナーでは、私たちを取り巻く社会課題をSDGsの17のゴールを参照しつつ、参加者のビジネスの「社会的ミッション」を考えるという学習を行い、参加者が改めて自分の事業が社会貢献に繋がり、社会課題の解決こそがビジネスに繋がるということに気付いてもらえたようです。

 

オンライン参加という従来とは異なる参加方式だったため、雑談のなかでヒアリングできる生の声はなかなか聞けなかったと話すグジスさんですが、そのなかで南スーダンの女性起業家からの声が嬉しかったと言います。

 

彼女はセミナーの開始日が有給休暇と重なったので、集中してセミナーを受講できたそうです。受講で得た情報をすぐに女性起業家のネットワークやご近所の女性と共有したと話しており、「この研修を修了し、私は非常に変わったと思います。今はもう以前と同じような考え方はしません。以前は自分のビジネスを大きくしてより多くの子どもが学校で学ぶことができるよう手助けをすることだけ考えていましたが、今は、もっと有能な経営者になりたいと思うようになりました」といったコメントを最後にくれたのだとか。また、「事業を進めるなかで限界を感じていたが、男性と競い合うという意味ではなく、これからも負けずにやっていく勇気をもらえた。会社でより重要なポストに昇進したいと考えるようになった。それが他の女性の道も開くだろうと思う」とも言ってくれたのが印象的だったそうです。

 

初めての試みだったクラウドファンディングのワークショップは大きな成果を生むきっかけとなったのは間違いありません。これまで研修後の成果物として帰国後の事業プランを作成してきましたが、プランを実行に移すための資金を調達する術がないのが現実でした。しかし、今回、Airfundingを知ったことで、帰国してからの資金を得るための方法を学べたのは大きな進歩だといえるでしょう。

 

課題は受講後も繋がれる仕組みの構築

すでに多くの卒業生を輩出してきた日アフリカ・ビジネスウーマン交流セミナーですが、今後の課題は「卒業生達と繋がり続けること」。今回のセミナーには以前研修に参加した2名の女性起業家が講師として招かれましたが、彼女達も今年の参加者から学んだことが多くあり、こうしたネットワークを維持することの重要性をグジスさんは感じたそうです。

 

これまで組織として数名をフォローアップしていくことはあったものの、多くの場合は日本のスタッフとは個人的な繋がりしかなかったのが現状です。しかし、そのなかでも事業が拡大した成功例はいくつかあります。

 

たとえば、ブルキナファソ、ガーナ、カメルーンの女性起業家が好事例。ブルキナファソの女性は農産品の加工・販売、マーケットを西アフリカからヨーロッパに拡大しました。カメルーンの女性は、農産品の加工をする機械を製造する事業を展開しており、JICA事業へのKAIZENコンサルタントとしても活躍しています。ガーナの女性は農産品加工をしていて、コロナ渦でジンジャーティーやハーブティーなどの健康食品の売上が伸びたそうです。その背景には、日本のセミナーに参加したことで、日本のコンサルタントとの繋がりができたからということもあり、こうした関係を維持していく重要性が伺われます。

 

過去に受講者として参加し、今回は講師として登壇してくれたガーナの女性起業家。2017年にセミナー参加後、日本の梱包技術を自社の農産品加工・販売に活用している

 

2016年に参加した南アフリカ女性起業家。今回は講師として、セミナー参加後のアフリカ各国への事業展開の共有に加えて、セミナー参加者の同窓会ネットワークの活性化に関する提案も行ってくれた

 

日アフリカ・ビジネスウーマン交流セミナーが目指すのは、アフリカの女性起業家が直面する障壁を乗り越えるための方法を伝えることです。その際、自身の事業がどのように社会課題の解決に働きかけているのか、社会貢献としての一面をいかにアピールできるかが、事業にとってもプラスなのは確か。いまや、世界中で社会貢献なくして事業は続けられないものになっていることを、私たちも忘れてはいけません。

 

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構成/小倉 忍 画像提供/アイ・シー・ネット株式会社

 

「NEXT BUSINESS INSIGHTS」を運営するアイ・シー・ネット株式会社では、開発途上国の発展支援における様々なアプローチに取り組んでいます。新興国でのビジネスを考えている企業の活動支援も、その取り組みの一環です。そんな企業の皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料を用意。具体的なステップを踏みたい場合の問い合わせ受付も行っています。「NEXT BUSINESS INSIGHTS」の記事を見て、途上国についてのビジネスを考えている方は、まずは下記の資料集を参照ください。

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世界の食文化3強の一角! 途上国の中間層が「日本食」をもっと人気にする

2022年2月、米国の著名な料理専門メディア「Eat This, Not That!」において、世界で最も人気のある料理(国別)ランキングで日本食が堂々の3位になりました。日本料理——特に和食——は1位のイタリア料理、2位の地中海料理と肩を並べる三強の一角です。

2019年、ケニアのナイロビで開かれた日本食のイベントの様子

 

日本食は美味しさもさることながら、見た目の芸術性や素材の生かし方、健康的な要素など、さまざま理由で世界各国の人々に愛されています。日本に住んでいると当たり前のように感じる日本食は、私たちの想像を超える強さで世界中の人々に支持されており、それが米国メディアのランキング結果にも表れていると言えるでしょう。

 

近年、成長著しい新興国においては、経済成長に伴う中間層の増加により、外食を楽しむ人や海外の食材を購入して自宅で調理を楽しむ人が増えていくと考えられます。例えば、2019年にケニアのナイロビで開催された「Nairobi Japan Food Festival(NJFF)」には現地の人々が多数来場し、ポン酢などの調味料が高い評価を受けました。その一方、アジアではラオスなどで青汁やわかめなどが好調に売れており、完成された日本食以外にも飲料や食材、調味料の分野まで広範囲な輸出の拡大に期待が持てます。

 

和食に無限の可能性

しかし、味の好みを含めた食文化は多様であるため、「日本人に好まれる味がそのまま海外で通用することはない」と事前に認識しておくことが賢明です。特にインドやバングラディッシュなどのスパイス食文化圏で日本食は苦戦していることもあり、現地の人たちの感覚に合わせる「ローカライゼーション」の意識を持つことが重要でしょう。

日本食に高い関心を示したナイロビの人々

 

例えば、NJFFでは「日本食」ではなく、「日本の味(フレーバー)」を現地の食文化と掛け合わせて紹介することに重点を置き、結果的にそれが功を奏しました。実際、ある参加者は、最初に同フェスティバルの宣伝を見たとき、「『日本食=寿司=生魚』を食べさせられる」と思って嫌がったそうですが、同イベントで初めて日本の味に触れて、「ビックリするほど美味しかった」と言っていました。

 

また、NJFFでのアンケート結果では、回答者がそれまで日本の食品を購入したことがなかった理由として、「どこで購入できるのか分からない」および「調理法が分からない」との回答がアンケート結果の6割を占めています。しかし見方を変えれば、これはまだまだビジネスチャンスが残されていることを示しているので、グローバル展開を検討している食品関連企業は、現地の情報を把握している専門企業に相談する価値があるでしょう。完成された日本食はもちろん、現地の料理と組み合わせて新たなレシピを生み出せる食材には、無限の可能性が秘められているのです。

 

画像提供/アイ・シー・ネット株式会社

 

創業初期で巨額の資金調達! 世界が注目するアフリカのテック企業2社

【掲載日】2022年2月2日

アフリカのテック企業の成長と資金調達が加速しています。同大陸では近年、数多くの新興企業が出現し、世界各国の企業や投資家から注目を集めています。本稿では、その代表例として2社をピックアップ。両者は新しいビジネスモデルを構築し、2021年にプレシード段階(創業初期のコンセプト段階)で大規模な資金調達を実施しました。

 

電子カルテを患者自身が管理

エジプトの先進的なヘルスケアサービス「HealthTag」(画像提供/Bypa-ss)

 

まずは、ヘルステック分野で急成長を遂げているBypa-ss社。2019年にエジプトで設立した同社は、患者の病歴やデータ、いわゆる電子カルテと呼ばれる情報を各医療機関で共有できるサービスを展開しています。プレシード段階で国内外の投資家から約100万ドル(約1億1500万円※)の資金調達を成功させて一躍有名になりました。

※1ドル=約115円で換算(2021年2月1日時点)。以下同様。

 

Bypa-ss社は、創業者であるAndrew Saad氏が医学生時代に、医者が病歴を知らないために薬を投与できない女性に出会ったことがきっかけで、電子カルテの研究を行い、起業に至りました。同社は「HealthTag」というモバイルアプリとカードで患者自身が健康状況を管理できるサービスを提供しており、オンライン決済やエジプト国内医療機関における割引サービスも展開しています。患者が自分でカルテを持ち、医療費も節約できることは、患者本人のみならず医療従事者においても革新的なサービスであり、さらなる成長が期待されるでしょう。

 

国の教育制度に一石を投じるプラットフォーム

Edukoyaはナイジェリアの教育を変えるか? (画像提供/Edukoya)

 

一方、エドテック分野で前途を嘱望されているのが、オンライン教育プラットフォームを提供するナイジェリアのEdukoya社。同社は2021年12月のプレシード段階で350万ドル(約4億円)の資金調達目標を発表して、大きな注目を集めました。Honey Ogundeyi氏が同年5月に設立した同社は、現在ベータ版をリリースしており、2022年の本格稼働を目指しています。

 

ナイジェリアの最大都市ラゴスと英国のロンドンを拠点とする同社は、ナイジェリア国内の高等教育機関への進学を目指すユーザーをターゲットに、オンライン家庭教師をはじめ、試験準備や与えられた課題についての勉強法、問題集の提供、成績管理まで含めたサービスを現在無料で提供しています。将来は、有料サービスへのアップグレードを含めたフリーミアムモデルを展開する計画で、既存の教育機関や制度に満足できていなかったナイジェリアの学生や保護者から大きな期待が寄せられています。

 

創業者のOgundeyi氏は、数十年間変化のないナイジェリアの教育制度や多くの人々が失望している既存のシステムに一石を投じるために本サービスの展開を志しました。保護者と生徒に対して満足のいくサービスを目指して100%オンラインで提供しています。

 

プレシード期から多額の資金調達を実現しているアフリカのテック企業の中には、創業1年に満たない企業が多いのですが、同大陸は飛躍的な成長が見込まれているだけに、世界中の企業や投資家が投資やパートナーシップを狙っています。アフリカからますます目が離せません。

夢を実現するため海外ビジネスコンサルティング業界へ。異業種からの転職はやりがいのある毎日に

【掲載日】2021年12月27日

海外での業務やコンサルティング業務に興味はあるものの、転職にハードルを感じている人は少なくありません。しかし、たとえ経験がなくとも、自身の経験や知識を活かすことで、その力を発揮できる場はたくさんあります。今回はかねてからの夢を叶えるため、まさしく他業種から現在のコンサル業務へと転職した渕上雄貴さんにお話をうかがいました。

 

渕上雄貴/大学・大学院で資源工学を学び、在学中にはガーナでマイクロファイナンスボランティアにも参加。卒業後、2015年から石油精製プラントやLNGプラント建設プロジェクトを請け負う企業に入社。2019年10月にアイ・シー・ネットへ転職。現在、コンサルティング事業本部スタッフとして、予算管理、財務経済分析、人材育成などのプロジェクト管理、調査・研究、評価などに関する開発コンサルティング業務を担当している。

 

 夢だったアフリカでの仕事の機会を得るために転職

 

――はじめに、現職にいたるまでの経緯を教えてください。

 

渕上 私は、10代の頃から海外で働きたいという強い思いを持っていました。高校時代にOBの講演会があり、そこで、NPO法人をスーダンで立ち上げ、医療活動をされている方の話を聞いたのがきっかけでした。その方は元ラグビー部のOBでもあり、仲間たちを通じて資金を集め、知恵とお金でいくつもの難しい課題を解決していったという姿に感銘を受けたんです。また、そのお話を聞いた時、同時に、私もアフリカや途上国で仕事がしたいという思いが湧きました。

 

そうした夢を抱いたまま、大学では資源工学を学びました。いわゆる、ガスや石油、鉱物といった天然資源に関する学科で、その頃は環境にも興味を持っていたこともあり、石炭や石油の発電所の隣に二酸化炭素を地下に埋める施設を作ることでトータル的にクリーンなエネルギーを生み出す研究もしていました。

 

また、私が通っていた大学ではインドネシアなどでフィールドワークをする機会も多く、それが大学を選ぶ決め手にもなったのですが、実際に在学中には海外留学をし、インドネシアの金鉱山を訪れて金を採集する経験をしたり、反対に、大学にやって来るさまざまな国の留学生とも交流を深めていきました。卒業後も大学で学んだことを活かし、海外で石油・ガスプラントを建設する企業に入社。そこで約4年半働いたのち、現職のアイ・シー・ネットに転職しました。

 

――前職では具体的にどのようなお仕事をされていたのでしょう?

 

渕上 主にスケジュール管理です。プロジェクトマネジメント部という部署で、取引企業を相手にプロジェクトのスケジュール管理やプラント建設の進捗状況を毎週、毎月報告。さらには、設計部や調達部、工事下請け会社の督促などもおこなっていました。直接現場に赴くことも多く、新入社員の頃に3ヵ月ほどフィリピンに、カタールには半年ほど行き、現地の方と建設を進めていく経験もしました。

 

ただ、当初はフィリピンやインドネシア、モザンビークなどに積極的に進出していくという企業方針に惹かれて入社したのですが、2018〜19年頃にアメリカでガスが出はじめたんですね。そのことで会社の軸がアメリカに向いてしまい、私が望んでいた途上国での仕事はもう少し先延ばしになるとのことでしたので、2019年の秋に思い切って転職を決めました。

 

建設業からコンサルティング業務への転職でしたが、かねてより興味があったアフリカで働くことができそうだというのが、アイ・シー・ネットを選んだ大きな理由でした。また、アイ・シー・ネットがJICA(独立行政法人国際協力機構)のパートナーだったこともあり、途上国支援に関われる機会が多いこともアイ・シー・ネットを選んだ要因のひとつです。もともと、“まずはやってみないと分からない!”という性格なので(笑)、他業種への転職にハードルを感じることもありませんでしたね。

調査で訪れたルワンダ首都・キガリの街

 

 戦略的なアドバイスだけでなく、一緒に夢に向かって伴走していくこともやりがいに

 

――今は主にどのようなお仕事をされているのですか?

 

渕上 民間企業支援とJICAに関連した業務がちょうど半分ずつという感じです。民間企業支援は「飛びだせJapan!」のプロジェクトがメイン。これは、アフリカをはじめとする途上国でビジネスをしたいと考えている企業を支援していくというもので、業務内容は募集広告から書類選考、採択後の支援まで多岐にわたり、トータル的に企業とお付き合いをしながら、二人三脚で事業の実現に向けて活動しています。

 

また、私が現在担当しているのは南アフリカとウガンダになります。採用された企業の中から、どの企業を支援したいかは自分で決めることができたため、それだけにとても強いやりがいあります。ウガンダでは、どのようにビジネスを実施しているのかを、実際に現地に行って見たり、関係者へのヒアリングしたりして、ビジネスの今後の展望や、現地政府職員のそのビジネスへの期待の声などを聞くことができましたので、“まさしく自分がやりたいことがここにある”と感じました。

 

――一番の楽しさはどんなところでしょう?

 

渕上 やはり、アフリカでビジネスを立ち上げた方は熱意を持っていらっしゃる方が多いので、先ほどもお話ししたように、一緒に夢に向かって伴走している気持ちになれるところです。一般的にコンサルティングというと、データなどを元に戦略的なアドバイスを伝えていくような印象をお持ちの方が多いかと思います。でも、私がやっているのは、皆さんと常に同じ目線に立ち、可能な限り希望に叶う道をともに模索していくこと。人対人のコミュニケーションがとても重要になってくる。そこにいつもやりがいと楽しさを感じます。思えば、大学時代も前職でも、私は防火服を着て、ヘルメットを被り、図面を持って現場を歩き回る経験をよくしていたので、そうした作業が自分には合っているのかもしれません(笑)。それに、実現までの提案書や報告書をまとめるようなモノを書く作業も、前職の経験が強く活かされているように思いますね。

 

――JICAの業務についても教えていただけますか。

 

渕上 日本に来る外国人が年々増えていく中、JICAではビジネス人材の育成をはじめ、日本の自治体や企業と高度人材を連携させていくことを目的とした「日本人材開発センター(通称:日本センター)」を世界各国に設置しています。この日本センターをどう活かしていくかを調査するのが私の役割であり、2021年の春頃から携わっています。こちらは比較的新しいプロジェクトであることから、JICAにも、企業や自治体にもあまり知見がなく、そのため、ひとつひとつ湧き上がる問題に対応しながら、活動を進めています。また、近年のコロナ禍で、直接、海外の日本センターに状況を見に行くことができず、反対に今は海外からの人材の受け入れもストップしていますので、この環境下でできることも模索しているところです。

飛びだせJapan!ウガンダでのモバイルマネーを用いた自動井戸料金回収サービスの現地視察(株式会社 Sunda Technology Global:https://www.sundaglobal.com/

 

 大切なのはコミュニケーションとコネクション

 

――現職に就いて2年が経ち、ご自身の中にどのような変化があったと感じていますか?

 

渕上 一番大きいのは、誰かをサポートする仕事が自分に向いていると気づけたことです。実は、自分もアフリカで起業してみたいと考えたことがありました。でも、企業を支援する側に立ち、皆さんの熱量を感じているうちに、どんどんとその思いが薄れていったんです。正直な話、お金儲けをしようと思うのなら、成長の度合いをみても東南アジアに目を向けたほうが収益は見込めます。しかし、あえてアフリカを選択している以上、そこには確固たる思いが皆さんの中にあるんですよね。それを近くで感じ、支援という形で携われていることが、自分にとって今は大きな喜びになっています。

 

また、そのために大事にしなければいけないのがコミュニケーションとコネクションだと感じています。相手が何を求めているのかを、会話をする中でしっかりと感じ取る。そうやって信頼関係を築き、それを積み重ねていけば、やがては大きなコネクションとなり、将来的に新たにアフリカでビジネスをしたいと考える方のための架け橋にもなれる。その意味でも、人との繋がりは大切にしていかなければいけないと、改めて強く思うようになりました。

 

――渕上さんのように他業種からコンサルティング業務に転職しようと思われている方は多いと思います。ご自身の経験から、どのような人が向いていると感じますか?

 

渕上 コンサルティングの仕事には論理的思考や戦略に長けた力も必要だと思いますが、今の私の業務でいえば、自ら動き回れるフットワークの軽さが求められているように思います。また、担当する企業もさまざまですので、広い視野でいろんなことを楽しめる方も向いているのではないでしょうか。とはいえ、コンサルの仕事に興味があれば、職種はあまり関係ないように感じます。私自身は学生時代に環境やエネルギーを学んできた人間ですので、担当する企業もその分野が多くなります。でも、なかには同じアフリカでも食品や保健医療、それに教育の知識や知恵を必要としている企業もたくさんあります。それに、バックグラウンドがさまざまな人材がアイ・シー・ネットに集まってくれれば、お互いに協力しあいながら、途上国の発展を早められるアイデアが生まれるかもしれません。実際に、私のまわりにも航空業界や法律事務所など、さまざまな業種の経歴を持つ方がたくさんいらっしゃいますので、まずは飛び込んできていただければと思います。

 

 アフリカと日本企業との長期的なマッチングを目指す

 

――最後に、渕上さんの今後の展望を教えてください。

 

渕上 今、私が担当しているのはスタートアップ企業が多いんです。皆さんが求めているのは、戦略的なアドバイスというよりは、同じ目線でサポートをしてくれるコンサルだと感じています。私自身、一緒に現地に行って、ともに汗を流し、ともに喜びを得ることに幸せを感じていますので、そのスタンスは変わらず持ち続けていきたいですね。また、現在のJICAの業務をまっとうしつつ、アフリカ企業のクライアントの比率をもっと増やしていきたいと思っています。自分の興味関心の深い分野である環境やエネルギーを軸に、IoTを使ったソリューションにフォーカスしていけたらと考えています。そして、人との繋がりで得たコネクションで新しいビジネス展開を模索し、長期的にアフリカと日本の企業のマッチングしていく。それが今の私の目標ですね。

 

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日本とアフリカにおけるビジネス活動を促進する「第2回日アフリカ官民経済フォーラム」開催報告

2021年12月7日から9日までの3日間「第2回日アフリカ官民経済フォーラム」が開催されました。経済産業省、ケニア政府、日本貿易振興機構(JETRO)の共同開催による同フォーラムは、日本とアメリカ双方の官民ハイレベルが集まり、貿易・投資、インフラ、エネルギー等の各分野において、具体的なビジネス成果につなげていくための工夫の在り方を議論する場です。さまざまな分野で経験を積んだ専門家による洞察に富んだプレゼンテーション、パネルディスカッションが行われました。

 

<プログラム[各75〜120分]>

【DAY 1】
Panel 1:COVID-19 でも加速するアフリカビジネスのスタートアップ企業の可能性
Panel 2:AfCFTAの最新動向と、ビジネスからの期待
Panel 3:アフリカの産業化への日本の貢献と日本への期待

【DAY 2】
Panel 4:アフリカの電化とクリーンエネルギー導入、通信デジタルインフラ整備への貢献
Panel 5:民間投資の拡大に向けた官民連携の取り組み
MOU(了解覚書)セレモニー

【DAY 3】
Panel discussion:日アフリカビジネスリーダーズフォーラム

 

[1日目]Panel 1:スタートアップ企業の可能性を探る

 

初日の7日は、最初にJETRO理事・中條一哉氏、ケニア投資庁のOlivia RACHIER氏の開会挨拶から始まりました。Panel 1のセッションは、「COVID-19でも加速するアフリカビジネスのスタートアップ企業の可能性」がテーマです。前半は、起業家の視点でアフリカでのビジネスの可能性が語られました。

 

まず、JICAの発展途上国の起業家支援活動「Project NINJA」が取り上げられ、そこで実施されたアフリカでのビジネスコンテストへ寄せられたアイデアからトレンドを分析。応募案件は、食品農業分野が30%、保険医療分野が16%と多く、フィンテック分野に資金が集まるアフリカのスタートアップ企業向け投資と、起業家のアプローチの違いが浮き彫りとなりました。

 

開会挨拶を行なったケニア投資庁のOlivia RACHIER氏

 

スタートアップ企業が注目するのは、農業と保険医療セクター

 

続いてその農業と保険医療分野のスタートアップ企業3社がプレゼンテーション。1社目は、ケニアの農業物流に変革をもたらしたTwiga foodsです。アフリカでは多くの小規模小売業者が分散しており、消費者に届くまでに何層もの仲介業者が挟まっています。Twiga foodsは、このフードサプライチェーンの非効率をICTの技術で解決し、より廉価な商品を消費者に届けることに成功しました。成長の要因の一つには、ケニアで携帯電話の通信回線とM-Pesaと呼ばれる電子決済サービスが普及していた点が挙げられましたが、CEOのPeter NJONJO氏は、「通信会社はアフリカ大陸全体で事業の多角化を進めており、他のアフリカ諸国でも向こう2、3年のうちにモバイルマネーをはじめとする多様なサービスが提供されるだろう」と予測しています。

フードサプライチェーンの非効率を解決したTwiga foodsのソリューション

 

2社目には、前日6日に経済産業省とアイ・シー・ネットの共催で行われたサイドイベントで成果普及セミナーが行われた「技術協力活用型・新興国市場開拓事業(通称:飛びだせJapan!)」に採択された日本の企業キャスタリアが登壇。タンザニアで事業を展開しています。キャスタリアが開発したのは、妊婦の電子カルテと情報提供機能が一体化したスマートフォンアプリ。アプリ上で助産婦が入力する診察カルテをクラウド上に保管でき、妊婦に対しても妊娠周期ごとに必要となる知識や注意点などを配信できるサービスです。

 

「タンザニアは、急速に増える人口に対し医療の提供機会が足りていません。妊娠出産を契機に亡くなる女性の数はいまだ非常に高い。病院での妊婦検診に時間がかかるため病院を訪れず、必要な知識が得られないので自身や胎児の健康を害してしまいます」とキャスタリアの鈴木南美氏。こうした状況を改善するため2022年夏のアプリ運用開始に向け準備中です。鈴木氏は「アフリカにおけるスマートフォンの普及率は確実に広がっています。我々のような小さな会社でもメディカルの領域に進出できる、それこそがアフリカで事業を行う最大の可能性であり魅力だと実感しています」と力を込めました。

 

3社目に登壇した日本植物燃料は、先の2社が行う物流改善やヘルステックといったものを包括する「農村のコミュニティ開発」にまで視野を広げています。日本植物燃料は、アフリカの農村部でバイオ燃料事業に参入したことを皮切りに、農民の組合を立ち上げ、フードバリューチェーンの改善を進めました。さらに電子マネーを導入し、日本や現地の企業と現地農家グループをつなぐ、作物、資材、金融、技術の売買マッチングサイト「電子農協プラットフォーム」のサービスを開始。今後は、こうしてできた電子マネー経済圏を用いて、農民の暮らし全体を向上させるマルチソリューションの実現を目指しています。

 

日本植物燃料が進めるマルチソリューション「Small Smart Community」。Smallは、小型分散型のファシリティやエネルギー、Smartはデジタライゼーションを表している

 

コロナ禍で加速するデジタル化が、全ての分野でトレンドに

 

後半のパネルディスカッションでは、投資家の視点からアフリカ市場の可能性が語られました。技術イノベーションに対する投資が急増するアフリカでは、ナイジェリア、ケニア、南アフリカ、エジプトがBIG4と呼ばれ市場を支配しています。特にナイジェリアは、スタートアップ企業のエコシステムが機能する最大の市場です。

 

「特にフィンテック分野は、全体の50%を占めます。次にヘルスケア、eコマース分野が続きます。コロナ禍で世界的にデジタル化が加速しましたが、ケニアやアフリカも例外ではありません。ケニアでは遠隔医療も可能になりました。取引のデジタル化というトレンドは全ての分野で起こっています」と新興国での投資育成事業を行うAAICの石田氏。

 

アフリカの投資会社からは、「40億ドルがアフリカのベンチャーキャピタル向けに資金調達されていますが、60〜70%が欧米からの資金。日本の投資家や企業も本格的に参入すれば、アフリカのマーケットについて学習できます」と日本への期待を述べました。

 

最後に、モデレーターを務めたアフリカビジネス協議会事務局長の羽田裕氏が「道路がつながる前に通信網がつながり、歴史上経験のない全く新しいパターンの経済発展が生まれるだろう」と話しセッションは終了しました。

 

[1日目]Panel 2&3:アフリカ大陸の統合は不可欠。巨大市場が寄せる日本への期待

 

続く2つのセッションでは、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の最新動向やアフリカ産業化に向けた日本への期待がテーマとなりました。AfCFTAには、アフリカ連合(AU)55カ国中54カ国が署名、39カ国が加盟し、インフラの連結や人々の自由な移動も進んでいます。特に製造業の成長にとっては、生産拠点から人口の多い市場に製品を提供できることは大きな利点です。より活発に投資や貿易を行うためにアフリカ大陸の統合は不可欠であり、自由貿易協定が重要な役割を果たすことが述べられました。

 

また、アフリカの産業化を進める上での人材開発と技術移転の重要性も、多くのスピーカーから語られました。電力供給などのインフラ整備や物流強化、生産性を高めるための機械化を進めると同時に、途上国の能力構築のための教育や職業訓練が、日本の官民とアフリカ各国政府との協力によって進められることが求められています。「アフリカ大陸の統合により投資環境を整え、産業化を進めるためにも日本から学ぶ必要がある」とPanel 3のモデレーターを務めた京都精華大学学長ウスビ・サコ氏が語りセッションが締めくくられました。

 

【左上】Panel2のモデレーターを務めたBinoy R. V. MEGHRAJ氏(Meghrej Group投資銀行会長)、【左上】隈元隆宏氏(日本たばこ産業株式会社 渉外企画室国際担当部長)、【右上】Anish JAIN氏(ETG最高財務責任者)、【右下】 Vijay GIDOOMAL氏(Car & General (Kenya) Plc CEO)

 

[2日目]Panel 4:アフリカのデジタルインフラ整備は、電化無くして実現しない

 

2日目の最初のセッションPanel 4では、前半にアフリカの電化とグリーンエネルギー導入について、後半では通信デジタルインフラ整備をテーマにプレゼンテーションが行われました。アフリカでは人口の56%にあたる6億人の人々が電力にアクセスできず、インターネットにも6割の人々がまだ接続されていません。デジタルインフラの整備だけでなく、経済成長を遂げて人々の生活の質を高めるためには安定的な電力供給が必須です。

 

オフグリッドで電力を地産地消。分散化が電化の鍵に

 

まず国の電力系統が弱いという課題を解決する取り組みとして「オフグリッドによる電力開発」をテーマにプレゼンテーションが行われました。ポイントは小規模発電です。アフリカの水力発電企業「Virunga Power」は小規模の水力発電所の運用により、電力が行き届かない地域の電力需要を満たすとともに電力を国や企業に販売しています。

 

「エネルギー分野において最も大事なことは分散化、多角化である」というCEOのBrian Kelly氏は、電力供給を国に依存しすぎることなく、かつ国の電力公社と協調して事業を進めることが必要であり、電力網を分散化させていくことで堅牢な電力系統をアフリカで持つことができると語ります。

 

また、関西電力は、セネガルのスタートアップ企業と組んで小型太陽電池と携帯通信を組み合わせて提供する事業について説明しました。防災などの視点から日本で拡大する自立型自給自足の小規模電源を応用したものです。さらに、現地の学校にソーラーパネルを設置し分散電源を届けることで、教育コンテンツを遠隔配信していきたいと考えています。

 

技術力の提供だけでなく、教育により持続可能な仕組みに

 

ケニアの発電会社KenGenは、パートナーシップが一番必要な分野として「技術スタッフの能力構築」を挙げました。発電所の設計技能、また発電所の運営技能を持つ人材を育てていきたいと語ります。1985年から日本の地熱用タービンを導入したことに始まり、地熱発電所設備の供給を全て日本企業から受けていることに触れ、日本企業による現地スタッフの研修訓練に期待を寄せ、大学などの教育機関との連携も視野に入れたいと話しました。

 

三井物産はCO2の発生量が少なく発電効率の高い「超々臨界石炭火力プロジェクト」をアフリカで初めて実施したり、豊田通商は日本の風力発電事業国内シェア1位を誇るユーラスエナジーと再生可能エネルギーの開発を進めるなど本セッションでも日本の技術を活かしたグリーンエネルギーによるインフラ整備への貢献が語られました。それらの取り組みを持続可能なものにするためにも教育による技術移転が望まれています。

 

ブロードバンドで平等な接続性を全ての人に

 

セッションの後半は、アフリカ地域のデジタル化推進を目指す官民連合「Smart Africa」の取り組みが紹介されました。アフリカ 32 カ国等から構成され、廉価なデジタルインフラを構築することで2025年までにアフリカのブロードバンドの普及率を、現在の2倍となる51%にする目標です。さらに全ての学校をインターネット接続し、スマートデバイスを提供します。

 

「Smart Africa」のマニフェスト

 

この取り組みには、ソフトバンクの技術が活用されています。アフリカでのインターネットの平等な接続性を実現するためには、光ファイバーが、量、質の面から考えて適したソリューションだと言いますが、ソフトバンクはさらに光ファイバーの敷設までの一時的な課題解決手段として衛星通信を活用した「空からの接続性」というものも提案しています。これにより、サービスが提供されていない地域もカバーできるからです。

 

ソフトバンクが提案する「空からの接続性」

 

NTTも同様に、光ファイバーは設置コストを下げられるためモバイルネットワーク構築の重要な要素であると述べました。しかし地域ごとに技術格差があるため、技術の標準化を進める必要性を示唆。配線や建設技術の研究開発にも力を入れ、無線のアクセスポイントのカバー率を広げようとしています。

 

モデレーターを務めた神戸情報大学院大学特任教授・山中敦之氏は、本セッションを振り返り「目先の利益を追い求めるのではなくアフリカのデジタルインフラにどう貢献できるのかが大切」と述べたスピーカーの姿勢に賛同しセッションを終えました。

 

[2日目]Panel 5:両国の関係強化とリスクの軽減で優良な投資環境を作る

 

ここまでに伝えられたようなアフリカでのビジネスを促進するためには、多くの資金が必要です。民間投資への期待も高まりますが、民間企業がアフリカのようにカントリーリスクの高い国に参入するには障壁が多くあります。この課題を解決するため、最後のセッションでは、両国の金融機関や企業、公的資金提供機関や国際機関の代表者により「民間投資の拡大に向けた官民連携の取り組み」についてセッションが行われました。最後は、15のMOU(了解覚書)の調印セレモニーが行われ、出席者への感謝の意が述べられこの日のプログラムが終了しました。

 

[3日目]Panel discussion:世界有数の投資国・日本とアフリカの可能性

 

12月9日に予定されていた全体会合は延期となり、スペシャルセッションとして「日本アフリカビジネスリーダーズフォーラム」が開催されました。世界有数の投資国となった日本。国連の2018年、2019年の調査では投資額が世界No.1となる一方、アフリカへの投資はその全体の0.5%にとどまっています。アフリカへの投資をどう上げていくのか。最後に、課題を含めたその可能性を話し合い、第2回日アフリカ官民経済フォーラムが幕を閉じました。

 

「第2回日アフリカ官民経済フォーラム」を振り返って

 

アフリカは日本から地理的、心理的な距離感があるためか、日本語で入手できる現地情報は非常に限られています。一般的な日本人が持つアフリカのイメージが30年前からほとんど変わっていない中、アフリカでは急速な変化が起こっており、ビジネスで解決できる社会課題が沢山あります。本フォーラムやサイドイベントでは貴重な現地情報が紹介されており、日本企業にとってアフリカが有望な市場であることが再確認できました。

 

また、フォーラムやサイドイベントでは、アフリカでビジネス展開されている日本企業も紹介されていました。こうした企業に共通していたものが、ローカライズです。機能や品質を現地に合わせるようなローカライズはもちろんのこと、ビジネスモデルそのものをローカライズしているケースもあります。ビジネス環境が整備された中で事業ができる日本と異なり、環境そのものを自分たちで作っていったり、現地の購買力に合わせてサブスクリプションで料金回収するなど、革新的な取り組みをしている企業がありますが、こうしたチャレンジをするには、会社の体質やメンタリティも変える必要があるでしょう。

 

12月6日に開催されたサイドイベント「日本×アフリカで挑む、加速するアフリカビジネスの現在地」で、立命館大学の白戸教授が言っていた言葉が印象的だったので、最後に記します。「アフリカビジネスは日本企業にとってのリトマス試験紙」。アフリカビジネスに適応していくことが、日本企業がグローバル企業に変わっていく最初の一歩になるのかもしれません。

 

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タンザニアをはじめアフリカ各国が注目! 医療課題を解決する「E-Health」とは?

現在、急激に人口が増加しているアフリカ。国連の世界人口推計によると、サハラ以南のアフリカの人口は、2050年までに倍増すると言われています。人口増加によって経済成長や市場の拡大が期待される一方、いまだ多くの課題があるのも事実。中でも、保健医療の体制を整えることはアフリカ全体で急務となっています。

 

そこで注目されているのが、IT技術を活用して医療課題を解決する「E-Health」です。今回は、長年保健医療の分野に携わり、現在はアフリカの医療支援団体でも活動している三津間氏に話を聞きました。アフリカの中でも「ブルーオーシャン」として注目が集まるタンザニアにフォーカスし、保健医療分野の現状や具体的なニーズを解説。「E-Health」の可能性を探ります。

 

お話を聞いた人

三津間 香織

日本の医療機器製造販売メーカーに10年以上勤務し、医療機器の商品開発から生産販売、事業開発、アライアンスに関する業務などを広く経験。その後、大学院で経営学を学び、アフリカに置き薬を広めるNPO法人「AfriMedico」での活動を始める。本団体での活動をきっかけに、アイ・シー・ネットに入社。ビジネスコンサルタントとしてアフリカへ進出する日本企業の支援をしながら、現在も「AfriMedico」での活動を続けている。

 

急速な人口増加を迎え、課題を抱えるタンザニアの保健医療分野

タンザニアは、世界の中でも、今後大幅な人口増加が起こると予測されている国の一つ。現在約5800万人の人口は、2050年には1億人以上になると言われています。しかしながら、増加する人口を支えるだけのインフラは、まだ十分に整っているとは言えません。特に保健医療の分野においては、さまざまな課題を抱えているのが現状です。

 

例えばタンザニアでは、妊産婦の死亡率が高く、10万人あたりの死亡者数は524人にものぼります。死亡要因を見ても、1990年と比べると大幅に減少していますが、いまだ死亡要因の50パーセント以上を占めているのが、感染症疾患及び母子・栄養疾患です。三津間氏は、「特に農村部では、マラリアやエイズなどの感染症にかかって亡くなる子どもが多い」と話します。

 

 

ダルエスサラームなど都市部では、概ね道路も舗装されていて、30分ほど車を走らせればどこかの病院に行くことができます。しかし、ダルエスサラーム以外の州には、まだ舗装されていない道も多くあり、公共交通機関で病院まで行こうとすると片道1、2時間はかかってしまいます。さらに農村部の病院では待ち時間が長く、受診するまでに早くても3時間、ときには5時間ほど待たされることも少なくありません。そして受診後に薬を処方されたとしても、病院が薬の在庫を持っていないケースもあって、その場合は処方箋だけもらって次の日にまた薬局まで取りに行かなければならないんです。

 

農村部に住んでいる人たちにとっては、『一日がかりで病院に行くこと』が普通で、軽い症状だと我慢をしてしまう人も多いのが現状。そのため、病院に行く頃には症状が悪化していたり、特に子どもは手遅れで亡くなったりするケースもあります。ただ病院の数が少ないことだけではなく、道路や物流といったインフラにも、都市部と農村部では大きな差があると言えます

 

村にあるクリニック

 

政府の力だけでなく、民間の手も借りながら人口増加に備える

医療従事者の数が全体的に大きく不足していることも深刻な課題の一つ。特に一般医は、人口1万人あたり0.25人しかおらず、これは日本の100分の1であることから、不足傾向が顕著です。今後、人口が増えることを考えると早急に対処する必要がありますが、三津間氏は、「人口増加にあわせて医療従事者を増やしていくことは難しい」と語ります。

 

 

日本でも実感できることですが、高齢者が増えているからと言って、その需要を満たすだけの介護士が増えるわけではありませんよね。私たちは職業を自由に選択することができますし、同じ職種でも待遇が良ければ、海外で働くことを選ぶ人もいます。特に医療従事者は大学を卒業しても現場での経験を積む必要があり、育成までに数年かかります。そのためタンザニアに限らず、アフリカ全土で急激な人口増加に併せて医療従事者をいっきに増やすことは不可能に近いことだと感じています。

 

しかしそもそもタンザニアでは、『医療従事者になることができる人』がとても少ないのが現状です。現在のタンザニアの義務教育は小学校のみ。中学高校に進学できる子どもは国民全体の2割ほどで、さらに大学に進学できる子どもは1割ほどしかいません。今後は、医療従事者を目指すことができる母数を増やすため、ボトムアップしていくことも課題の一つになると考えられます。その一方で、都市部に出てきて進学する優秀な若者たちの多くは、保健医療分野に対して、すでに強い課題意識を持っています。それはやはりほとんどの若者が、自分の家族や友達を感染症で亡くした経験を持っているから。今の国の政策だけでは解決し得ないこともわかっていて、多くの人たちが『この状況をなんとかしたい』と思っています。このような背景もあってタンザニアでは今、政府だけではなく、官民の連携や民間企業の介入によって、保健医療サービスなどの提供を進めていくことが、ますます求められるようになっているのです

 

IT技術を用いて医療を提供する「E-Health」

保健医療分野の課題を解決するために、近年アフリカ全体で注目されているのが、「E-Health」です。「E-Health」とは、IT技術を用いて、より効率的・効果的な医療サービスを提供しようという取り組みのこと。現在アフリカで実際にスタートしているサービスや、タンザニアでの導入状況について、三津間氏に聞きました。

 

日本で近年よく耳にするオンライン診療も、『E-Health』の一例です。すでにアフリカのいくつかの国では、イギリスがつくったオンライン診療のサービスが導入されています。また、ナイジェリアでは『偽薬』を防ぐためのIT技術が導入され始めているところ。アフリカでは薬の物流形態が複雑で、途中で偽物の薬が混じってしまい、そのまま販売されてしまうことがあります。偽薬のせいで命を落としてしまう人もいるため、アフリカではかなり深刻な問題として考えられているのです。しかしIT技術を用いることで、サプライチェーンの流通を管理して混じった偽薬を検知することが可能になります。このような技術が今後さらに広まれば、アフリカのさまざまな国で、安心安全な薬の流通を実現させることができるはずです。

 

このようにアフリカ各国で『E-Health』のサービスがスタートしていますが、実はタンザニアでは、まだあまり大規模な導入は進んでいません。その背景には、農村部で通信が不安定な地域が多かったり、キャリア会社が5~6社もあったりして、サービスを始めても一気に拡大しにくい現状があります。しかし、数年前までタンザニアと同じようにキャリア会社が複数あった隣国のケニアは、今ではほぼ1社に絞られており、タンザニアも同様の道をたどると言われています。そのためタンザニアでも、今後キャリア会社が絞られてインフラが整備されることで、E-Healthの導入が本格的に加速するのではと考えています

 

「医療を効率よく提供すること」は日本とも共通の課題

これからE-Healthの導入が期待されるタンザニア。中でもニーズがあると考えられているのが、妊産婦や小児向けのサービスです。三津間氏は今後ニーズが見込めるサービスとして、オンライン診療や、妊産婦が正しい知識を得られるようなコンテンツ配信などを例に挙げました。

 

「タンザニアでは、保健省の政策で妊娠期間中に合計5回はクリニックに行って診察を受けることが決まりとなっています。周産期を確認して出産のタイミングを予測したり、赤ちゃんの状態はもちろん、母体の健康状態をチェックしたりする必要があるためです。しかしながら現地で出産した人からは『2~3回しかクリニックへ行っていない』という話を聞くことも。農村部に住む人々は、一日がかりで病院に行かなければならず、特に妊産婦や小児にとって大きな負担となっているのが現状です。そのため、何らかの症状が出ていても我慢してしまい、重症化してから病院へ行くというケースも少なくありません。

 

この課題を解決するために考えられるのが、オンライン診療・問診などのサービスです。例えば、オンライン上で問診をすることで、初期症状での対応が可能となり、医療サービスへのアクセス向上が期待できます。さらに、現在紙で運用されている母子手帳を電子化して、妊産婦の過去の診療データや経過などを一括管理することも、より効率的な医療サービスの提供につながります。

 

また、妊産婦たちや患者へ正しい対処法が伝わっていないことも課題の一つです。タンザニアでは、赤ちゃんを育てるときに必要な対処法などをコミュニティの中で教わることが多いのですが、それが必ずしも医学的に正しいとは言い切れません。そのため、妊産婦たちが安心して子育てできるよう正しい情報を提供することも、今後求められるようになると思います。例えば、赤ちゃんに起こりやすいトラブルの対処法を、ラーニング用の動画や漫画のようなテキストを用いて楽しく学んでもらえるコンテンツなどは、ニーズが見込めるのではと考えています」

 

村の中心部の様子

 

タンザニアでは今、若者たちを中心にインスタグラムやFacebookなどSNSを利用することも増えていて、外から来た新しいものに対してオープンに受け入れる土壌ができつつあると感じています。そのためこれから若い世代をボリューム層として『E-Health』が波及していくのではと期待が高まっているところです。高齢化が進む日本とは一見、状況が異なるようにも思えますが、日本の医療体制においても過疎地や離島など、医療へのアクセスが困難な地域へ『医療をいかに効率的に提供していくか』は、課題の一つ。そのため、『人口密度の低い地域へ効率的に医療サービスや情報を提供する』という課題は、タンザニアの農村部も日本の過疎地も共通しています。日本が高齢化社会に対応していくためにつくったヘルステック系のサービスが、タンザニアのニーズにも応えられる可能性は、大いにあるのではないでしょうか」

 

市場が成長し始めている今が、参入のチャンス

さらにタンザニアでは、「E-Health」以外にも、ニーズが見込まれている製品やサービスが多くあります。例えば、心疾患、脳卒中、糖尿病といった感染症以外を早期発見するための画像診断機器や、増加する糖尿病患者のための血液透析装置などです。そのほか、慢性疾患にあわせた薬やサプリメントなどもニーズが高まっています。このように「人口増加や経済成長にあわせた製品やサービスには、大きなチャンスがある」と三津間氏は語ります。

 

現在、隣国のケニアには、アメリカで優秀な大学を出た若者たちがスタートアップを立ち上げようと集まってきています。これほど競争力があって成長しきった市場に入ることは、コストがかかる上にかなり難しいです。しかしタンザニアは、今まさに市場が伸び始めているところ。このタイミングで製品やサービスのシェアを獲得できれば、たとえ一顧客あたりの単価が安かったとしても、人口増加とあわせて、将来的に売り上げは自ずと伸びていきます。商品特性と市場成長のタイミングを見極め、投資をするタイミングを見誤らなければ、かなり面白い市場だと思います。

 

さらに、タンザニアの政策が海外企業に対してオープンな方向になりつつあることも、今がチャンスだと言える理由の一つ。タンザニアでは、昨年、新たな大統領が就任したことで、グローバルに足並みをそろえようとする発言や政策が増えるなど、少しずつ変化の兆しが見えてきています。まだ就任して間もないですが、これから国のルールや規制が本格的に変わっていけば、今までより海外企業が進出しやすくなると考えられます

 

「今のうちに、現地で起業している日本人や開発コンサルタントに相談しながら、現地の感覚をつかんだり手続きを先んじて進めたりしてもいいのでは」と三津間氏。タンザニア市場を狙う企業にとって、すでに進出準備を始めるフェーズが来ていると言えます。

巨大IT企業が次々に巨額投資! ハードルが下がる「アフリカ進出」

2021年10月、GoogleおよびAlphabetのCEOサンダー・ピチャイ氏が、アフリカに10億ドル(約1137億円※)を投資することを発表しました。自身を「テクノロジー・オプティミスト」と称するピチャイ氏は「テクノロジーがアフリカの未来を大きく変革できる」という力強いメッセージを発しており、Google for Africaでアフリカ投資に向けた施策を数多く展開しています。

※1ドル=約113円で換算(2021年11月5日時点)

よっしゃ! ネットにつながった!

 

今回の投資における主要な4つの分野は「安価なアクセスおよびアフリカのユーザー向けの製品開発」「企業のデジタルトランスフォーメーション支援」「次世代技術促進に向けた起業家への投資」「アフリカの人々の生活向上に貢献する非営利団体の支援」とされています。

 

以前からGoogleはアフリカの人々にデジタルスキルをサポートしており、2017年に表明したアフリカ人に向けたデジタルスキル支援においては、600万人を超える人々にトレーニングを実施。さらに、8万人を超える開発者の訓練や80社以上のスタートアップ企業の資金調達支援などを通じて、数千人規模の雇用を創出してきました。

 

テクノロジーを活用した医療支援やオンライン学習、モバイルマネーなどは、すでにアフリカで巨大なビジネスに成長していますが、Googleは今後5年間でさらに3億人以上のアフリカ人がインターネットに接続できるようになると予測しており、幅広い分野でデジタルイノベーションの準備を進めています。

 

当然ながら、巨大市場アフリカに向けて、ほかの企業も大規模プロジェクトを予定しており、Meta(旧Facebook)を中心としたコンソーシアムによる海底ケーブル拡張プロジェクト「2Africa」はその一例です。同社のほかに、2Africaにはチャイナ・モバイル・インターナショナル、MTNグローバルコネクト、オレンジ、サウジ・テレコム、テレコム・エジプト、ボーダフォン、WIOCCが参加。本プロジェクトは、アフリカ、アジア、ヨーロッパを直接結ぶものであり、2021年9月には上陸地に9つの新拠点を追加し、ケーブルの長さが4万5000km以上に及ぶことが発表されました。

 

当初はアフリカの約12億人にネット接続を提供する予定でしたが、今回の発表では世界人口の約36%に相当する33か国、約30億人にインターネット接続を提供することが可能になると報じられています。インフラが整えば、情報格差を埋めたり、何十億人ものライフスタイルやビジネスの手段が変わったりするでしょう。

 

巨大IT企業が主導するインフラ開発やデジタルスキルの普及によって、先進国における既存のビジネスルールを適用できる環境が整えられる可能性があり、アフリカ進出のハードルが低くなるかもしれません。このようなアフリカの変革は、日本企業においても大きなビジネスチャンスであり、成長著しいマーケットに向けたサービスを展開するには追い風です。

 

アフリカでモバイルマネーが急速に普及したことは世界的に知られていますが、今後はビジネスのキャッシュレス決裁もさらに広がる見通しで、海外企業のアフリカ進出はさらに拡大することが予測されます。日本からアフリカに向けたビジネス展開もさらに容易になっていくことでしょう。

コロナ禍でも資金調達件数が44%も増加! 勢いが止まらないアフリカの「スタートアップ」

13億人を超える巨大市場、アフリカ大陸のスタートアップ企業が世界中の企業や投資家から注目されています。世界平均の約2倍の速さで人口が増加している莫大な可能性を秘めたフロンティアは、2050年には25億人を突破すると予測されており、その人口規模は世界の4分の1以上を占めると分析されています。

世界中から熱視線を浴びるアフリカ

 

アフリカ各国は長年、開発途上国として世界経済や最先端技術における分野で後塵を拝していました。しかし、情報通信技術の発達によるブロードバンドの普及とインターネットユーザーの増加によって、スタートアップとテクノロジー系企業の勃興が起こり、世界各国の企業が提携や投資、出資などで競い合っています。

 

日本においては、この状況を察知した一部の企業や投資家がすでに進出している事例もありますが、現地の言語や文化の壁に加えて、距離的な障壁から正確な情報を有している企業が少ないのが現状です。アフリカには、日本よりも進んだ技術を使ってビジネスを展開している分野も存在する一方、欧米の企業や投資家は歴史的背景や言語的な強みを生かして、アフリカ諸国に情報網を張り巡らせており、情報収集や分析、アクションにおいて数歩先を行っています。

 

アフリカでは、フィンテック、アグリテック、ヘルステック分野において、現地の社会問題を解決することを目指すスタートアップが多く、世界の最先端技術を取り入れて展開しています。また、道路や電気などの基礎インフラが未整備である開発途上国が、先進国が歩んできた発展段階を飛び越えて、最先端技術に一気に辿り着いて普及させる「リープフロッグ現象」が起きています。

 

世界各国に拠点を置くベンチャーキャピタルのPartech Partners社によると、2020年にアフリカのハイテクベンチャー企業347社が、前年比44%増となる359回のラウンドで約14.3億米ドルの資金を調達したとのこと。この資金調達額は前年比29%減でしたが、世界経済を凍りつかせたコロナ禍の状況においても僅かな減少に留まっており、アフリカのエコシステムや、最先端技術を導入した複数企業の連携事業は、上昇の機運を維持しています。さらに、2021年は2019年を上回る調達額になると予測されており、50億ドル規模で推移している日本のVC調達額を超えることも射程圏内に入ってきました。

 

日本企業のダイキンが展開しているWASSHAとの合弁会社、Baridi Baridi(タンザニア)は、リープフロッグを活かしながら現地に進出している好事例です。高性能でニーズに合うエアコンを、現地の購買力を考慮したサブスクリプション型のビジネスモデルで展開。製品販売が厳しい経済環境下において、モバイルマネー経由で料金回収ができるこの仕組みは、最先端技術を導入した現地に合わせたモデルとして好評を得ています。

 

海外での事業展開において、現地での情報収集や調査という観点からスタートアップ企業は重要な事業パートナー候補の一つであり、提携や合弁会社設立はもちろん、出資や投資対象などさまざまな連携方法があります。欧米の企業や投資家は、アフリカのエコシステムの回復や主要産業分野のデジタル化の加速度が上がっていることで、「アフリカは大きな潜在能力を秘めた市場である」という見方をさらに強めています。

 

経済成長率の鈍化により成熟ステージにある日本を含めた先進各国の企業にとって、アフリカのスタートアップとのパートナー展開は大きなチャンスです。市場や人口拡大の予測を考慮して、できる限り早めに現地に進出したいと考える企業も多いでしょう。その際には、事前の正確な情報収集や現地スタイルに合わせたビジネスモデルの検証が成功のカギです。未来の世界経済を牽引するであろうアフリカ大陸は、日本企業の今後のグローバル展開における重要な候補地の一つになっているのです。

【アフリカ現地リポート】withコロナで人々の生活はこう変わった――ガーナ、ルワンダ、コンゴ民主共和国

「ウイルスの感染拡大で自分たちの生活がこれほど変わってしまうとは……」

新型コロナウイルス(COVID-19)による緊急事態宣言からの外出自粛やマスク生活などを経験して、このように思った人は多いのではないでしょうか。現在も世界各国で感染を広げ続けている新型コロナウイルスは、日本だけでなく世界中の人々の生活を一変させています。

↑手洗い指導を受けるルワンダの小学生たち

 

たとえば、先進諸国と比べて報道される機会が少ない途上国。なかでも9月に入って感染者数が110万人を越えたアフリカ大陸では、どんな影響や生活の変化があるのでしょうか。コロナ禍以前から日本にあまり情報が入ってきていない分、想像できない面が多くあります。そこで今回は、ガーナ共和国、ルワンダ共和国、コンゴ民主共和国の3カ国で活動を行っているJICA(独立行政法人 国際協力機構)職員や現地ナショナルスタッフを取材。果たして現地の状況は? また人々の生活にどういう変化が起こっているのでしょうか。

 

【ガーナ共和国】コロナ対策への貢献で野口記念医学研究所が一躍有名に

 

↑ガーナの首都・アクラの風景

 

ガーナ共和国は大西洋に面した西アフリカの国で、面積は本州より少しだけ大きく、人口は2900万人弱。日本では「ガーナといえばチョコレート」を思い浮かべる人も多いでしょうが、実際、今でもカカオ豆は主要産品です。また、ダイヤモンドや金などの鉱物資源も豊富なうえ、近年は沖合の油田開発が始まり、経済成長も急速に進んでいます。

 

そんなガーナで初めて新型コロナウイルスの感染者が確認されたのは3月12日。その10日後に国境を封鎖し、さらに1週間後に大きな都市だけロックダウンするという迅速な対策が実施されました。ただし、日用品の買い物はOKで、不要不急の外出は禁止という程度の制限でした。ところが、結局3週間でロックダウンは解除。感染者が減ったからではなく、人々の生活が成り立たなくなってしまうという経済的な事情と、ロックダウン中に検査や治療の態勢がある程度、各地で整ったという背景があるようです。

 

その後も感染者は増え続け、6~7月は1日の確認数が千人を越えた日も。7月頭には累計2万人を越えました。それでもロックダウンはされることはなかったのですが、6月末をピークに現在はかなり減ってきています。この理由について、JICAガーナ事務所で日本人として現地に残っている小澤真紀次長は、「新規感染者が減っている理由はよくわかっておらず、私たちも研究結果を待っているところです」と言います。

 

コロナ以前にくらべ、人々の衛生意識に着実な変化が

JICA事務所で働くガーナ人スタッフに話を聞くと、「公共バスは混雑していてソーシャルディスタンスもとりづらい状況なので、自分は極力利用しないようにしています。街中を見ると、市場では売り手のほとんどがマスクを着用していますが、定期的に手を洗ったり、消毒剤を使用したりといった他の予防策はあまりとられていません」と、それほどコロナ対策が徹底されていないと感じているようです。

↑ガーナではもっとも安価な交通機関として人気の乗合バス「トロトロ」の車内。コロナ対策としてマスクの着用と席間を空けることが義務づけられている

 

一方、別のスタッフは、「多くのガーナ人は手洗いや消毒など衛生面の重要性を以前より意識するようになりました。天然ハーブを使って免疫力を高めようとしている人もいます。マスクについても、ほとんどの人が家を出るときにマスクを持っていますが、正しく着用している人は少ないです。呼吸がしづらいという理由で、アゴにかけたり、鼻を覆っていなかったりする人も多いです」と教えてくれました。日本と違ってやはりマスクに慣れている人が少ないことが窺えます。

 

生活面に関しては、「生活は日常に戻りつつありますが、ソーシャルディスタンスのルールを守っている人は少ないです。大きなスーパーマーケットやレストランではコロナ対策のルールをしっかりと守っていますが、小規模の店では徹底しきれていないと感じます。また、ほとんどの学校はオンライン教育を行なう手段を持っていないので、子供たちが学校に行けなくてストレスを感じています」と言います。そんななか、以前から行なわれていたJICAの取り組みが意外な形でコロナ対策に役立っています。

 

「JICAでは以前から現地の中小企業の製造プロセスにおける無駄をなくすため、カイゼン活動を紹介するなど、民間に対する協力をしていました。その中に布マスクを作っている縫製会社もあり、増産していただくことになったのです」(小澤さん)

 

ガーナ国内では、マスクの着用が義務付けられて以来、さまざまな業者や個人で仕立て屋を営む女性たちがマスクの製造を始め、街中でマスクを売る人も増えました。布マスクが100円しないぐらいで買える(紙マスクとあまり変わらない価格)ので、マスクの普及も一気に進んだそうです。小澤さんも「最近は服を仕立てるのと同じ布でマスクもセットで作ってくれたりします」と、コロナ禍でも新たな楽しみを見出していると言います。

↑アフリカならではのカラフルな色使いが特徴の布マスク

 

そして、コロナ禍でひと際クローズアップされるようになったのが日本の国際協力です。なぜなら、1979年に日本の協力で設立された「野口記念医学研究所(以降、野口研)」が、感染のピーク時には、ガーナ国内のPCR検査の8割程度を担ってきたからです。当研究所の貢献は毎日のように報道され、「今は知らない人が1人もいないぐらい有名になっています」(小澤さん)とのこと。ガーナでは「日本といえば野口研」というイメージになった模様です。もちろん「野口」というのは、黄熱病の研究中に自らも黄熱病に感染し、1928年にガーナで亡くなった野口英世博士のことです。

↑野口記念医学研究所のBSLラボでの検査の様子。PCR検査だけでなく、これまでも多くの研究成果をあげてきた

 

この野口研に対しては、以前からJICAが資金、人材、設備などさまざまな面で協力を続けています。コロナ前から長い時間をかけて積み上げてきた協力が、この災禍の中で大きな成果をあげているというのは、同じ日本人として誇らしいことですね。

 

【教えてくれた人】

JICAガーナ事務所・小澤真紀次長

大学時代に訪れた、南西アジアにおける村落開発に興味を覚え、2002年に旧国際協力事業団(現JICA)に入構。2017年に保健担当所員としてガーナ事務所に着任し、2018年秋より事業担当次長を務める。ガーナ駐在は2006年に続いて2度目。趣味のコーラスはガーナでも継続しているが、コロナ流行で中断中。代わりにパン焼きを始めた。山梨県出身。

 

【ルワンダ共和国】コロナ禍で若者や現地スタッフが大きな力に

 

次に紹介するのは、東アフリカの内陸国、ルワンダ共和国。面積は四国の1.4倍ほどで、人口は1230万人。アフリカでもっとも人口密度が高い国と言われています。1980~90年代には紛争や虐殺もありましたが、21世紀に入って近代化が進み、近年はIT産業の発展にも力を入れているそうです。

↑ルワンダの首都・キガリの街並み

 

「資源の少ない内陸の小国なので、教育を通じて人間力を高め、それを経済発展につなげていこうと考えているようです。そこは日本とも共通しますね」。こう話を切り出したのは、JICAルワンダ事務所の丸尾信所長です。

 

ルワンダで最初に新型コロナウイルスの感染者が確認されたのは3月14日で、その1週間後には強力なロックダウンが施行されました。国境はもちろん、州を越えた移動も物流以外は制限され、市内でも食料など生活必需品の買い物以外は基本的に外出禁止。もちろん外出中はマスクの着用が必須。街角には警官が立ち、ルールを守らない人を取り締まりました。ルワンダでは政府の力が強く、早い段階で強硬なコロナ対策が徹底されたのです。そうしたロックダウンが2カ月近く続き、解除された後も夜間の外出禁止や学校の休校は続いています。また感染者が多い地域やクラスターが発生した街は、その都度、部分的なロックダウンが行なわれているようです。

↑ソーシャルディスタンスを取って店頭に並ぶ人々。多くの人がマスクを着用している

 

感染予防対策に関して、行政の指導によってかなり浸透してきましたが、アフリカならではの共通した課題もあります。それは、地方では家の中まで水道管がつながっていない家庭のほうが多いこと。井戸や共同水洗まで水を汲みに行って生活用水にしているので、日本のように頻繁に手を洗う習慣はありません。そのためコロナ対策として、街中のあちこちに簡易な手洗い器が設置されるようになりました。

↑街中ではこのような簡易手洗い施設が各所に設置されるように。手の洗い方を写真入りで示したガイドが貼られ、石けんも置かれている

 

実際の生活について、JICA事務所のルワンダ人スタッフにも聞いてみました。

 

「COVID-19によって在宅勤務をする人はかなり増えました。 私も必要に応じて在宅勤務とオフィス勤務を使い分けていますが、ネットの接続が途切れることが多いため、在宅勤務はあまり効率的ではありません」

 

日本の家庭では光ファイバーなどの有線回線も普及していますが、ルワンダをはじめとするアフリカ諸国では携帯電話の電波を使った接続が主流です。そのため、回線状態が安定せずに苦労することも多いのだとか。

 

一方、「バスの駐車場、市場や公共の場所などでは、ベストを着たボランティアの若者の姿をよく見ます。彼らは、市民がマスクを適切に着用することや、公共の場所に入る前に石鹸あるいは液体消毒剤で手を洗うように促しています」と話してくれたスタッフも。

 

丸尾さんの印象では、ルワンダ国民はお互いに助け合う意識が強く、それを若い世代もしっかりと受け継いでいるようです。

 

IT立国を目指すルワンダならではのユニークな対策

ルワンダならではの特徴的な対策として、ドローンをはじめとする最先端IT技術の活用が挙げられます。たとえば、ドローンに拡声器を取りつけて市中に飛ばし、COVID-19の予防措置について住民に呼びかける活動などが行われています。また、アメリカ発の「Zipline」というスタートアップが実施する飛行機型ドローンで血液や医薬品を輸送するという事業は、コロナ禍以前から続けられています。ルワンダでの運用経験を生かして、COVID-19検体の輸送にも利用するようになった国もあるそうです。「ルワンダでドローンが積極的に利用されるのは、この国の道路事情も関わっている」のだと丸尾さん。

 

「山がちな国土のうえ、地方では道路整備が進んでおらず未舗装路が多いんです。しかも、雨が降ると坂道に水が流れてさらに凸凹になり、走行に支障をきたします。しかしドローンを使うことで、自動車だと3時間ぐらいかかっていた場所でも10分ぐらいで血液を届けられるようになったという話を聞きました」

 

他にも、1分間に何百人も非接触で検温をしたり、医療従事者の患者との接触を減らすために入院患者に食事を配膳したりするロボットが空港や病院で使われるなど、試験的にではなく実用として先端技術が生かされています。そこにも日本の技術が数多く生かされているのです。

↑空港で実際に使用されているロボット。「AKAZUBA(ルワンダのローカル言語でSunshineの意味)」と名付けられている

 

現在は、万一新型コロナウイルスに感染し、重症化した場合を懸念して、各国に駐在するJICA日本人スタッフや専門家はほとんど帰国しています。にも関わらず、ルワンダでは以前から進行中のプロジェクトが中断されている事例はひとつもないそうです。

 

「たしかに日本人の専門家が現場に行って直接指示を出せないのは大きな障害ですが、以前からプロジェクトに携わってきた現地スタッフに、日本からリモートで連絡をとりながら事業を進めてもらうというやり方が、試行錯誤しながら成果を挙げてきています。経験があって能力も高い現地スタッフが多く、彼らの活躍によって思った以上にプロジェクトが継続できています」(丸尾さん)

 

これも、日本やJICAが長年にわたって地道に支援を続けてきた成果と言えるかもしれません。

 

【教えてくれた人】

JICAルワンダ事務所・丸尾 信所長

2009~2013年にルワンダの隣国タンザニアのJICA事務所に在任中、ルワンダ・タンザニア国境の橋梁と国境施設建設案件を担当。以来ルワンダ事業に関わる。ルワンダ政府の方針に寄り沿い、周辺国との連結性強化の取り組みも支援している。赤道近くながらも、標高1000mを超える高原地帯にあるルワンダの冷涼な気候がお気に入り。2019年2月より現職。

 

【コンゴ民主共和国】「感染症の宝庫」ならではのコロナ事情とは

 

「コンゴ」という名が付く国が2つあることは、日本ではあまり知られていません。今回紹介する「コンゴ民主共和国」は1997年に「ザイール」から改称した国で(以下、コンゴと省略)、その西側に隣接するのが「コンゴ共和国」です。コンゴ民主共和国は、日本のおよそ6倍、西ヨーロッパ全体に相当する面積を持ち、人口は約8400万人。アフリカ大陸ではアルジェリアに次いで2番目に大きな国です。鉱物資源が豊富で、耕作可能面積も広大なので非常に大きな開発ポテンシャルを持っていますが、その一方で、国内紛争が長く続いていて、マラリアやエボラ出血熱などの感染症死亡者も多く、アフリカにおける最貧国のひとつとも言われています。

↑コンゴ民主共和国の首都・キンシャサは、人口1300万人以上というアフリカ最大の都市

 

今回、JICAコンゴ民主共和国事務所の柴田和直所長に同国の詳しい情報を伺ったのですが、中には日本に住む我々には想像できないような話もありました。たとえば、コンゴには26の州がありますが、国土の西端近くにある首都キンシャサから自動車だけで行ける州は3つ。全国的な道路整備が進んでおらず、その他の州に行くには、飛行機に乗るか船で川を進んでいくしかないとのこと。

 

「だから国全体を統治することが難しく、東部で続いている紛争を止めるのも困難な状況です。資源国でありながら、経済発展がなかなか進まないんです」(柴田さん)と、広大な国土を持つコンゴならではの難しさを指摘します。

 

そんなコンゴのもうひとつの特徴は、新型コロナウイルス以前から感染症が非常に多いことです。エボラ出血熱の発祥地でもあり、これまで10回にわたるエボラの封じ込めを行ってきました。感染症関連の死因でもっとも多いのはマラリアで、今年もすでに8千人以上(※見込み値)が亡くなっています。その他にもコレラ、黄熱病、麻疹(はしか)などでも死者が出ており、中には、日本では予防接種をすれば問題ないとされる、はしかで亡くなる子どもも。

 

コンゴで新型コロナウイルスの感染者が初めて確認されたのは3月10日で、2日後には国の対応組織が作られました。そして3月21日に国境が封鎖され、飛行機は国際線も国内線も運行停止に。3月26日には、首都キンシャサの中心部、政治・経済の中枢となっているゴンベ地区がロックダウンされ、他の国と同様のさまざまな制限が設けられました。こうした迅速な対応ができたのは、国として感染症の恐さもよくわかっていて、なおかつ専門家も多いからと言えます。一方で、「首都でこれだけ厳しい対策がしかれ、大きな影響が出ているのは、私の知るかぎりは初めて」(柴田さん)という言葉から、新型コロナウイルスの脅威の大きさが窺えます。

↑コロナ禍以前のキンシャサの市場。今は混雑もかなり緩和されているが、ソーシャルディスタンスを確保するのは難しいそうだ

 

JICA事務所のコンゴ人スタッフも「移動の制限が生活をとても困難にしています。それが商品不足の不安を引き起こして買いだめにもつながり、物価が高騰して国民の生活を非常に苦しくしています」と厳しい現状を伝えてくれました。

 

現在はロックダウンを解除しているコンゴ。小規模な小売店をはじめ、その日その日の収入で生活している人が多いため、外出禁止にすると食べ物を得る糧を失ってしまう人が多く、外国人や富裕層が多いゴンベ地区以外は制限を緩めて経済活動を継続せざるをえないという事情があるからです。他の感染症に比べて死亡率が低く、感染しても無症状で終わることが多い新型コロナウイルスで、これほどの経済的苦難を強いられるのは納得がいかないなどの理由から、コロナの存在自体を否定するフェイクニュースが出たりすることもあるようです。

 

日本の貢献が光る、コンゴでのコロナ対策

そんなコンゴでも、コロナ禍で日本の存在感が大きくなっています。ガーナでの野口記念医学研究所と同様の役割を持つ「国立生物医学研究所(INRB)」は日本が継続的に協力している機関で、コンゴではPCR検査の9割以上をINRBがまかなっています。また、日本が設立した看護師、助産師、歯科技工士などの人材を育成する学校「INPESS」は、国のコロナ対策委員会の本部や会議室として使用されています。

↑日本が建設したINRBの新施設

 

コンゴ医学界の要人との絆もより強固になっています。70年代にエボラウイルスを発見したチームの一員で、2019年に第3回野口英世アフリカ賞を受賞したジャン=ジャック・ムエンベ・タムフム博士は、INRBの所長を務め、JICAとの関係も深い人物。国民の信頼も厚く、現在はコロナ対策の専門家委員会の委員長も務めていて、日々国民の感染対策への意識を啓発しています。

↑ムエンベ博士(中央)と柴田所長(左)。右の女性は、JICAを通じて北海道大学へ留学した経験があるINRBスタッフ

 

「私たちが一緒に働いているコンゴの人たちは本当に真面目で、この国を良くしたいと毎日頑張っています。陽気で楽しい人たちでもあります。今回はお伝えできなかったですが、とても豊かで魅力的な文化や自然もあります」と柴田さん。最後にコンゴへの思いを熱く語ってくれました。

 

コンゴに限らず、アフリカの人たちはとても芯が強く、苦しい生活の中でも明るさを失っていないと、小澤さんも丸尾さんも柴田さんも口を揃えています。コロナ禍にあっても決して折れない心。それは日本の我々にとっても大きな希望となるように感じました。

 

【教えてくれた人】

JICAコンゴ民主共和国事務所・柴田和直所長

1994年よりJICA勤務。2018年3月より2度目のコンゴ駐在。過去2か国で4回のエボラ流行対策支援に関わり、コロナ対策支援も現地で奮闘中。趣味は旅行、音楽鑑賞・演奏などで、コロナ流行前は、コンゴ音楽のライブやキンシャサの観光名所巡りを楽しんでいた。

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【関連リンク】

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