堀未央奈「一番の得意料理はお味噌汁。友人とよくおにぎりパーティーも楽しんでます」ドラマ『女優めし』

俳優として多くの話題作に出演する堀未央奈さんの主演ドラマ『女優めし』が現在FODにて配信中。「グルメドラマに出演することが夢の一つだった」と語るほど、自身も“食”に大きなこだわりを見せる彼女。ドラマの見どころも含め、料理への思いをたっぷりとうかがった。

 

堀 未央奈●ほり・みおな…1996年10月15日生まれ。岐阜県出身。 2013年に第2期生として乃木坂46に加入。2019年に『ホットギミック ガールミーツボーイ』にて映画初主演を務めたほか、その後は数多くのドラマにも出演。 2021年3月に乃木坂46を卒業。最近の主な出演作に、映画『遺書、公開。』、『死に損なった男』など。 Instagram

【堀 未央奈さん撮り下ろし写真】

 

美味しい料理を食べて涙を流しそうになる撫子には共感しかない!

──主演ドラマ『女優めし』の配信されました。出演のオファーがあったときはどんなお気持ちでしたか?

 

 原作コミックのことはもともと知っていたんです。オファーをいただいてから改めてしっかりと拝読したのですが、美味しそうな食べ物がたくさん出てくるので、その画を見ているだけでぽかぽかと幸せな気持ちになって(笑)。私も食べることが大好きなので、“こんなすてきなドラマに出られるんだ!”と喜びしかなかったです。

 

──普段からよくグルメ漫画やグルメドラマをご覧になるのですか?

 

 はい! 家族全員が大好きで、実家にいた頃はみんなでよく見ていましたね。アニメだと『舞妓さんちのまかないさん』、ドラマだと『きのう何食べた?』が大好きでした。美味しそうな料理が登場する作品は、アニメやドラマに限らず、今もひと通りチェックするようにしています。

 

──どこにそれほど惹かれるのでしょう?

 

 私の場合はきっと、誰かが食事をしていたり、料理を前に幸せそうな表情をしているのを見るのが好きなんだと思います。例えば、大好きな『サザエさん』の中で、カツオがお土産でもらってきたお寿司を自分の机の引き出しに隠して、こそこそと食べる話があるんですね(笑)。そのエピソードが強烈に印象として残っていて。さすがに真似しようとまでは思いませんでしたが(笑)、そこまで美味しいものに執着するカツオにちょっと共感したんです。

 

──なるほど。となると、今回のドラマで演じた和泉撫子にも共感する部分が多かったのでは?

 

 ありました。むしろ共感しかなかったです!(笑) 撫子は“最後の大和撫子”と称されるほどの国民的女優で、人前ではいつも凛とした姿を見せているのですが、プラベートでは大衆食堂に一人で入り、ビールを片手に自分の好きなものを食べるような普通の女の子なんです。私も一人で外食するのが大好きですし、 “今日は何を食べようかな?”って考えている時間が本当に幸せで(笑)。実際に仕事を終えて食べたい料理を口にできたときは、それだけで一日のご褒美になるので、撮影しながらずっと撫子に感情移入していましたね。

 

──確かにドラマの中で撫子が料理についての感想や喜びを語るモノローグは、思わず頷いてしまうものが多いです。

 

 そうなんです! 私も美味しい料理を口にした瞬間は、撫子のようにその幸せ感を誰かと共有したくなります。でも、一人で食事をしているときはなかなか隣にいる見知らぬ方に話しかける勇気がないので(笑)、頭の中で、“そうそう、これ! この味が最高なんだよ!!”って悶絶しながら食べてます。

 

──まさに撫子そのままですね(笑)。

 

 ですね(笑)。撫子みたいに、美味しい料理を食べると思わず泣きそうになるのも、私の中の“あるある”ですし。それに、彼女は料理だけでなく、料理人さんに対しても、ものすごくリスペクトをしている。そこがすてきなところであり、私も演じながらすごく共感していました。

 

定番メニューばかりじゃなく“もっと冒険しなきゃ”って勉強に(笑)

──今回のドラマの撮影で特に印象に残っている料理はなんですか?

 

 どれも美味しくって、幸福感しかなかったですね(笑)。驚いたのは豚丼。それまで豚丼といえば、脂身たっぷりの分厚い豚肉がご飯の上にこんもり乗っているというイメージだったんです。でも、撮影で食べたものは想像と違い、あっさりした味付けで。そのことでご飯の旨味も一緒に楽しめたんです。ご飯好きの私としては最高のバランスでした。それと、初めて経験したという意味では、イカ墨のもんじゃ焼き(第3話)も驚きの味でした。

 

──意外な組み合わせで、新鮮さを感じました。

 

 私も食べる前はイメージできなかったんです。でも、すっごく美味しくて。普段、友人ともんじゃを食べに行くと、やっぱり定番の明太もちもんじゃあたりを頼んでしまうんですね。なので、たまには冒険しなきゃなって勉強になりました(笑)。

 

──(笑)。また、外食に限らず、撫子が自宅で料理を楽しむエピソードも登場しますね。

 

 パンの回(第4話)ですね。普通の食パンなのに、撫子がいろんな食べ方を披露するので、トッピングや味付け次第でまるで違う料理になるんだなと実感しました。

 

──また、ドラマに登場するお店や料理はどれも気軽に味わえそうなものばかりですが、堀さん自身は普段、どういったお店に行くことが多いですか?

 

 私も撫子と同じで、ふらっと立ち寄れるお店が大好きです。こだわった食材で料理を提供してくださるお店もすてきですが、リーズナブルなお値段で、そのお店ならではの味付けやレシピにこだわった料理が楽しめるお店にすごく惹かれるんです。例えば、よく通っている大好きなパスタ屋さんでは、パスタはもちろん、サラダにつけるオリジナルのドレッシングがすごく美味しかったりして。そのお店ではドレッシングの販売もしているので、いつも買って帰ります。

 

──ちょっとわかります。最近になってようやくドレッシングの大切さがわかってきたところがあるので。

 

 あ、それは気づけてよかったです(笑)。ドレッシングってほんと偉大なんです。ドレッシングが美味しいといつものサラダが劇的な料理に変化することもありますし、その日の気分によって味を変えると毎日飽きずに楽しめる。もっと多くの方にドレッシングの良さを知っていただきたいです!

 

第2弾、第3弾へとつながっていくとうれしいなと思っています

──普段、ご自身でも料理は作るんですか?

 

 作るのは大好きです。得意料理はお味噌汁で、「美味しい!」って褒めてもらえることも多く、ときどき友人たちとおにぎりパーティーをして楽しんでます。それぞれが食べたい具材を使って好みのおにぎりを作り、お味噌汁は私が担当して。

 

──ものすごく興味深いパーティーですね。お味噌汁はやはり味噌にこだわりがあるんでしょうか?

 

 味噌自体もそうですが、美味しさの秘訣はレシピにあるんです。埼玉県の酒屋さんが販売しているお味噌がありまして。そこで合わせ味噌と赤味噌をいつも試食してから購入しているんですが、それらを4:3で合わせるのがポイントですね。

 

──堀さんは岐阜の出身ですから、愛知の八丁味噌に愛着があるのかと思っていました。

 

 もちろん、八丁味噌も大好きです。八丁味噌はしっかりとした塩気があるので、少量でも味がちゃんとつくんです。それ以外の赤味噌だと塩気がほとんどない種類もありますので、そういうときは合わせ味噌を少し多めにしてみたりして。やはり東海民なので、好みとしてはちょっと濃い目のお味噌汁が大好きです(笑)。

 

──料理好きらしいこだわりを見せますね(笑)。

 

 また、お味噌を使った岐阜の料理といえば、やはり朴葉味噌。葉っぱの上に味噌を乗せてお肉や野菜を焼く郷土料理ですが、これが絶品なんです。

 

──岐阜は地域によって気候が異なりますし、それぞれに美味しい郷土料理があるので大好きです。

 

 うれしいです! “岐阜”と“食”ってなかなかイメージとして結びつかない方が多いようなので、ここで声を大にして、岐阜にはいろんなグルメがあるんだぞということをお伝えしたいです(笑)。飛騨牛や鮎が有名ですが、もっと山のほうにいくとジビエも堪能できますし。秋になると栗や柿も味わえて、季節ごとにいろんな食べ物があるので、ぜひ遊びに来ていただきたいです!

 

──また、先ほどおにぎりパーティーの話がありましたが、堀さんが一番好きな具材は?

 

 梅干しです。東京の日本橋に大好きな梅干し屋さんがあって、なかでも塩分が高い梅干しがお気に入りなんです。甘い梅干しも好きですが、やはりしょっぱいものを選んじゃう。私がおにぎりを作るときは、その梅干しを入れて、ご飯にも天然塩をいっぱいつけ、おにぎり屋専門店で買ってきた海苔で巻く。それが定番です。

 

──今の説明を聞いているだけで、おにぎりが食べたくなってきます。目の前でドラマの『女優めし』を観ている気分になりました。

 

 食べることが本当に大好きなので、食について語りだすと、どうしても熱量が高くなっちゃいますね(笑)。それに、私はすべての料理の中でおにぎりとお味噌汁の組み合わせが世界一だと思っていまして。実家に帰って、「ご飯何がいい?」って聞かれると、いつも「おにぎりとお味噌汁がいい」って答えるほどなんです(笑)。あの組み合わせに勝るものはないです!

 

──お話をうかがっていると、ますます堀さんが撫子にしか見えなくなってきました(笑)。

 

 ありがとうございます。本当に楽しい撮影でしたし、撫子のお芝居を通して私の料理への愛もたっぷり伝わっていると思いますので、ぜひ多くの方に見ていただきたいです。そして第2弾、第3弾へとつながっていくとうれしいなと思っていますので、ドラマを観て楽しんでいただけたら、いろんな方におすすめしてもらえたらと思います!

 

 

ドラマ『女優めし』(全8話)

FODにて全話配信中(※1話無料配信)

(STAFF&CAST)
原作:『女優めし』藤川よつ葉/漫画:うえののの(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)
脚本:遠山絵梨香
音楽:菅野みづき
演出:小林和紘/朝比奈陽子
主題歌:「weather」持田香織(avex trax)
出演:堀未央奈/SUMIRE/小方蒼介/永瀬真梨(RainTree)ほか

(STORY)
最後の“大和撫子”とも称されるほど才色兼備の和泉撫子。彼女は日本でいちばん国民から愛されている女優であり、撮影現場のスタッフからも慕われている。ところが、そんな撫子には知られざる一面があった。撮影が終わると普段着へと着替え、街の中に溶け込んでいく彼女。その行く先は大衆的なグルメを楽しめる極普通のお店だった……。

公式HP:https://www.joyumeshi.com/
FOD配信ページ https://fod.fujitv.co.jp/title/805b/

(C)藤川よつ葉・うえののの/集英社 フジテレビ

 

撮影/河野優太 取材/文・倉田モトキ

山下美月インタビュー「年齢関係なく仲良くなれるのがオンラインゲームの魅力」映画「山田くんとLv999の恋をする」

コミックのシリーズ売上は累計600万部突破、名だたる漫画賞で大賞を受賞し、2023年にはアニメ化もされた「山田くんとLv999の恋をする」の実写映画版が公開中。“最強ギャップ男子”の山田(作間龍斗)との難攻不落な恋に挑む女子大生・茜を演じるのは、乃木坂46卒業後も俳優としてドラマや映画で活躍を続けている山下美月さん。撮影を振り返り、共に主演する作間さんはじめ個性的なキャストたち、安川有果監督とのエピソードを話してもらった。

 

こちらは「GetNavi」2025年5月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

山下美月●やました・みづき…1999年7月26日生まれ。東京都出身。乃木坂46の3期生として活動後、2024年5月卒業。近年の出演作に、連続テレビ小説『舞いあがれ!』、ドラマ『スタンドUPスタート』『弁護士ソドム』『さらば、佳き日』『下剋上球児』『Eye Love You』『降り積もれ孤独な死よ』『御曹司に恋はムズすぎる』、映画『六人の嘘つきな大学生』など。「CanCam」専属モデルとしても活躍中。Instagram

【山下美月さん撮り下ろ写真】

 

あえて自分との共通点を挙げるとしたら、お姉さんっぽさ?

──大人気漫画の実写映画化になります。

 

山下 幅広い世代から支持されている原作ですので、どう見せたら不自然じゃないかというところを考えました。原作のある作品を実写に落とし込むことは大変な作業ではあるのですが、漫画やアニメのシーンが現実世界だとこうなるということを納得していただけるように、ナチュラル且つポップに演じることを心掛けていました。

 

──原作はもともとご存知でしたか?

 

山下 以前から作品のことは知っていて、出演のお話を頂いてから本格的に読み始めたのですが、一日で全巻読み切ってしまいました……!

 

──特にどんなところに魅力を?

 

山下 ラブコメと聞くと、学生時代に友達と一緒に見に行ったりとか、多くの人が一度は見ているイメージがあります。その中で、この作品はちょっと今っぽい新しさがあるというか。ラブコメならではのドタバタ感はありつつも、登場人物に悪人がいなくて優しい世界観で物語が描かれているし、オンラインゲームを通じて知り合った人と現実世界でも出会って、そこから絆が生まれていく展開が新鮮でした。私自身はあまりオンラインゲームをやったことがなかったので、こういう世界があるのだなって。今の時代はマッチングアプリなども流行していて、出会い方の多様性も広がってきています。こういう形で自分とぴったりの人を見つけることができたら、すてきなことだと思いました。

 

──映画の中にも、音楽や演出面でゲームっぽい要素が散りばめられていますね。

 

山下 ゲームのシーンは合成用のリーンで撮影していたこともあって、現場では完成形を見られませんでした。なので、実際に映画を見て“うわ~、すごい!”って。劇中に出てくるゲームの中の声をアニメ版の声優の方々が担当されていることにも感動しました。ゲームの映像制作も大変だったと思うのですが、すごく完成度の高いものに仕上がっていて。スタッフさんの力はすごいなとあらためて思いました。

 

──今回演じた茜というキャラクターについては、どのように捉えていますか?

 

山下 根っから明るい性格で、誰ともすぐに仲良くなれるし、コミュ力が高くてうらやましいです。私自身はちょっと人見知りなところがあるし、茜ほど太陽のような明るさは持っていないので……(笑)。あえて自分との共通点を挙げるとしたら、お姉さんっぽさですかね……? 茜は中学生の瑠奈ちゃん(月島琉衣)をかわいがるのですが、そうやって年下の子の面倒を見たくなるところは共感します。山田(作間龍斗)に対しても普段はタジタジだけど、ときどきお姉さんらしい一面を出しますし。後輩を目の前にすると、話を聞きたくなったりご飯に連れて行きたくなったりするところは自分と似ているなと思いました。

 

──確かに周りに年下のキャラクターがいる分、茜にはしっかり者の面も垣間見えますね。

 

山下 男子高校生と女子大学生の恋が描かれることって、ラブコメ作品としてはなかなか珍しいですよね。茜もその年齢差の部分で悩んだりもするのですが、周りには鴨田さん(鈴木もぐら)のように年上の方もいて。そうやって年齢関係なく仲良くなれるのがオンラインゲームの魅力でもあり、ゲームを題材にした作品の中にそれを落とし込んでいるところも面白いと思いました。

 

茜のおかげで撮影期間中の私は、いつも以上に元気でいられました(笑)

 

──映画からは、ギルド(ゲームプレーヤーたちが集まったグループ)の和気あいあいとした雰囲気も伝わってきました。実際の撮影現場も明るかったですか?

 

山下 明るい現場でしたが、私以外にも人見知りの方が意外と多くて(笑)。序盤はお互いに絶妙な距離感を保ちつつ、役柄のようにワイワイしていたというよりは、皆さん敬語で話す感じでした。ですので最初は“大丈夫かな?”と焦りもありましたが、撮影を重ねるにつれて気軽に話せるようになっていって。ゲームのコラボカフェに行くシーンなどは最後の方に撮影したのですが、そのときはすごく仲良くなっていました。劇中のギルドの関係性のようになって本当によかったです。

 

──特に文化祭のシーンが楽しそうでした。

 

山下 楽しかったです。エキストラの方がたくさん参加してくださって、しかも皆さん現役高校生の方ばかりで“高校生ってこんなにパワーがあるんだ!”と感じました。自分が高校生だったときは全く自覚していなかったのですが、こんなにもキラキラしていて、夢を持っていて、肌もピチピチで、スカートも短いんだ……みたいな(笑)。私にもこんな時代があったのかなと振り返りながら撮影していました。でも茜はそうやって高校生に混じっているときも、瑠奈ちゃんと一緒にいるときも、同じ目線で楽しく話ができるキャラクターですよね。おかげで撮影期間中の私は、いつも以上に元気でいられました(笑)。

 

──相手役の作間さんの印象についても聞かせてください。

 

山下 実際に声の感じや醸し出す雰囲気に山田っぽさを感じて、私も演じやすく、引っ張っていただきました。でもご本人の性格的には、本番以外ではいつも冗談をおっしゃっているイメージがあって、面白い方という印象でした。

 

──山田っぽさというのは具体的にどんなところですか?

 

山下 山田はミステリアスなキャラクターですが、わざわざ自分から自分を隠しているわけではないと思います。ただ単に自分の気持ちを言わないだけなのですけど、作間さんご自身にもそういった部分を感じました。現役のアイドルでもあるし私もアイドルをしていたから分かりますが、アイドルって俳優業とは違って、自己開示をしながらどれだけ自分の人間性を好きになってもらうかというところが本質だと思います。その点、作間さんはそこまで自分を見せびらかすことなく、自分をすごい人間だと人に思わせようとしない方という印象で、今まで私がご一緒した中ではあまり出会ったことのない方だと思いました。そういうところもすごく山田の役にハマっていました。

 

──山田のような男子を山下さん自身はどう思いますか?

 

山下 漫画を読んだときは、正直こんなキャラクターが現実にいたら大変だろうなと思いました(笑)。ちょっと色気もあって、でも好きになっちゃいけないというようなオーラも出ていて。ラブコメでよくあるのは、周りにキャーキャー騒がれる人気者の男の子にヒロインも好きになるという展開だと思うのですが。山田に関しては“この人に惚れちゃいけない”という思わせるところがあって、そこが面白いなと思いました。

 

──安川監督とも今回初めてご一緒されたと思いますが、どうでしたか?

 

山下 撮影前から役についていろいろお話しさせていただいたのですが、細かいニュアンスを伝えてくださる方でした。ご本人はちょっと天然チックで愛されキャラのようなところもあるのですが(笑)。どのシーンもこだわりを持って撮影されていましたし、そこに登場人物の心理描写を丁寧に重ねるということをずっと続けていらっしゃって。山田に後光がさしたり、風が吹いたりする演出もすごくて……あの演出は茜にも欲しかったです(笑)。

見た目はコンパクトなのに高性能で、お気に入りです

 

──GetNaviにちなみ、モノについてお聞かせください。そんな茜の部屋のセットで気になるモノはありましたか?

 

山下 いろいろな家具や小物があって、一人暮らしの大学生の女の子が真似したくなるような部屋だなと思いました。実は茜には群馬県出身という設定があって、よく見ると、ぐんまちゃんのキャラクターグッズがあって。夜になるとネオンの照明がキラキラするのもかわいかったです。美術スタッフさんのこだわりが詰まったセットだと思いました。

 

──山下さん自身の部屋のこだわりはありますか?

 

山下 私は部屋に物をあまり置かないし、色みも白とグレーみたいな感じなので茜とは真逆です(笑)。こだわりで言うと、昨年ベッドをちょっと広めのサイズのものに買い換えました……寝返りをうっても絶対に落ちないぐらいの(笑)。枕元にダウンライトがついていて、そこにキャンドルなどの癒やしグッズを置いています。あとベッドが大きくなった分、テレビが置けなくなってしまって、代わりにプロジェクターを買いました。夜は壁に映画などを流しながら寝ています。プロジェクターって何となく映像が見にくいイメージがあったのですが、とても見やすくてびっくりしました。見た目はコンパクトなのに高性能で、お気に入りです。

 

 

山田くんとLv999の恋をする

3月28日(金)より全国公開中

 

【映画「山田くんとLv999の恋をする」からシーン写真】

(STAFF&CAST)
監督:安川有果
原作:ましろ「山田くんとLv999の恋をする」(コミスマ「GANMA!」連載)
脚本:川原杏奈
主題歌:マカロニえんぴつ「NOW LOADING」(TOY’S FACTORY)

出演:作間龍斗、山下美月、NOA、月島琉衣、鈴木もぐら(空気階段)、甲田まひる、茅島みずき、前田旺志郎ほか

(STORY)
彼氏に振られて気落ちしていた大学生・茜(山下美月)は、超塩対応の高校生プロゲーマー・山田(作間龍斗)とオンラインゲーム上で出会う。無愛想で冷たい人間という印象の山田だが、ふとしたときに無自覚な優しさを垣間見せ、そのギャップに茜は少しずつ惹かれるように。恋愛に興味ゼロなのにも関わらずとにかくモテまくる山田を相手に、茜は難攻不落とも思える“史上最高レベルの恋”に挑んでいく。

公式サイト: http://yamada999-movie.com/

(C)ましろ/COMISMA INC. (C)2025『山田くんとLv999の恋をする』製作委員会

 

 

撮影/中村 功 取材・文/橋本吾郎 ヘアメイク/George スタイリスト/YAMAMOTO TAKASHI(style³)

山田邦子のあふれるリカちゃん愛。初代リカちゃんほか秘蔵コレクションから厳選5体紹介!

幼少期に夢中になったおもちゃの数々。子どもから大人になる途中で「思い出の品」となるのは誰もが通る道かもしれないが、還暦を過ぎても変わらずに愛おしむ稀有な存在も一定数いる。タレントの山田邦子さんは3歳の頃に買ってもらった1人目を皮切りに半世紀以上も「お人形遊び」をエンジョイしている。なんと、リカちゃん人形だけで所有数は1000体以上! それでも、自らをコレクターではなく“プレイヤー”だと断言する。その真髄や思い出を大いに語ってもらった。

 

山田邦子●やまだ・くにこ…1960年6月13日生まれ。東京都出身。お笑いタレント、漫談家、俳優、司会者、作詞家、小説家。80年代の漫才ブームの中で、女性として笑いの一時代を築いた。『オレたちひょうきん族』『スーパーJOCKEY』『天才・たけしの元気が出るテレビ‼』などで活躍したほか、『邦ちゃんのやまだかつてないテレビ』『山田邦子のしあわせにしてよ』など、自ら看板MCとなった番組も多数。俳優としても、NHK連続テレビ小説『ノンちゃんの夢』などに出演。最近では『M1グランプリ』で2年連続審査員を務めた。また、乳がん公表後、チャリティー活動にも精力的に参画している。公式ブログ

【山田邦子さん撮り下ろし写真】

 

コレクターではない“プレイヤー”は箱から出して遊ぶ!

 

──お人形を好きになったきっかけを教えてください。

 

山田 単純に目で見て「かわいい~♡」と感じたからだと思います。それこそ、物心がつく前から家にあった大きな「ミルク飲み人形」で遊んでいたそうです。女の子はお母さんごっこみたいな“ごっこ遊び”の中でもお世話する遊びが大好きじゃないですか? おんぶしたり抱っこしたりしていた記憶をかすかながらに残っています。

 

──最初に買ってもらった人形のことは覚えていますか?

 

山田 もちろん! 3歳の頃にお父さんに買ってもらった「ペッパーちゃん」が1人目。ちょうどその頃はビニール製の人形が店頭に並び始めた時期で、私もおもちゃ屋さんの前を通るたびに「なんて小さくてかわいい人形があるんだ!」と食い入るように見ていました。もう欲しくて欲しくてしょうがなかったの。とある日曜日に「ママごとの道具が足りなくなった」と居間でゴロゴロしていた父親に嘘ついておもちゃ屋さんに連れて行ってもらって……。

 

──どうして、わざわざ嘘をついたんですか?(笑)

 

山田 当時は何をするにも「お前にはまだ早い」と周囲に言われがちでした。2歳年上の兄と同い年の女の子たちが遊び相手になってくれていたんですが、ママごとをするにしても年下の私の配役は赤ちゃんばかり。みんながお母さんやお姉さんの役に収まるのに……。特に兄がお父さん役になってしまうと確実に赤ちゃんの役でした。それだけに、この時も「まだ早い」と言われるのが頭の中によぎったのでしょう。でも、おもちゃ屋さんに行ってしまえばこっちのもんです。一目散に陳列棚までダッシュして、「絶対に大切にするから!」と懇願して買ってもらいました(笑)。ちゃんと有言実行で遊び終わるたびにクッキーの缶に保管していましたよ。そこからは誕生日やクリスマスはもとより、お年玉や月のお小遣いを全て人形に捧げています。

 

──愛好家歴60年以上とは恐るべし……。

 

山田 長いでしょ(笑)。次に夢中になったのがファッションドールで有名な「バービー」。発売当時は「外国産のお人形はオシャレだな~」と感動した記憶があります。お母さんでも見たことがないハイヒールやマニキュアをしていたのが幼心に刺さりました。とにかくスタイルが絶品です。ボンキュッボンですからね。夢のようなスタイルにときめいていました。今回は風邪をひいたと嘘をついてお父さんに買ってもらいました。仮病で寝込んでいる私に「会社の帰りにメロンでも買ってこようか?」とお父さんが聞いてくれるんです。それで、「メロンはいらない! バービーがあれば元気になる」とお願いして買ってもらいました。

 

──優しいお父さんだったんですね。

 

山田 振り返れば、お父さんはチョロかった(笑)。お母さんから「絶対嘘なんだから甘やかしちゃダメよ」と言われても関係ありませんでした。でも、バービーが手に入る喜びと同時に一抹の不安もありました。というのも、お父さんは女の子のわびさびを理解できるような感性の持ち主ではありませんからね。特に吟味せずに最初に目についたものを買ってきがちでした。案の定、一番目立つとこに陳列されていたウエディングドレスを着たのを買ってきた。本当は水着やかっこいい系のドレスを着たのが欲しかったのに……。ペッパーちゃんを買うと他の人形のファッションブックみたいな冊子が付録で付いていたので予習だけは万全だったんです。これが幼稚園の頃でした。

 

──「ペッパーちゃん」「バービー」と女子人気が変遷する中でリカちゃんが登場しました。

 

山田 それは衝撃的な出会いでした。小学1年生の夏になるかならないかの頃に、近所のおもちゃ屋さんの前を歩いているとリカちゃんのポスターが貼られていたんです。近日発売予定と書かれていたと記憶していますが、とにかく小さくてかわいい! これが初代リカちゃんでした。親しみやすい主人公の顔をしているんですよ。一方でリカちゃんの登場によってバービーは恋敵などのヒール役に回されることが増えました。美人過ぎるゆえのジレンマなのでしょう。

 

──初代リカちゃんはどのような存在なのですか?

 

山田 最初に手にしたリカちゃん人形だけに「一生の大親友」です。もう、50年以上一緒にいます。子どもの頃は食事や寝るたびに一緒にいました。もちろん、お風呂にも一緒に入りましたよ。リカちゃんは頭髪を手入れできるんですよ。みんなお風呂でキレイに洗ってヘアアレンジをしていましたね。個人的には生活の中に溶け込ませるのが楽しみ方の1つ。自宅の階段やキッチンにもいてほしいんです。それなのに、「片づけろ!」と夫に言われまして……。結婚はつまらんものですよ!

 

──なんてことを……。ちなみにリカちゃんシリーズにはたくさんの友だちや家族も発売されています。こちらも購入されるのですか?

 

山田 もちろんです。まんまとメーカーの販売戦略にハマってしまいました(笑)。初代リカちゃんが発売した翌年に発売された「リカちゃんトリオ」と呼ばれるいづみちゃんとわたるくんもすぐに購入しました。その後にも友だちの兄弟や家族も発売されて、ボーイフレンドなんて今になって思えばいったい何人いるのか把握できません。どれだけ遊び人なんだとツッコミを入れたくなります。いずれにせよ、どんどん新商品が発売されるたびに気に入ったものを買い足していくので、現在までにリカちゃん人形だけで1000体以上を保有しています。ただし、断っておきますが私はコレクターではなく“プレイヤー”。今も昔も、箱から出して髪の毛をといたりお洋服を着替えさせたりして遊んでいます。

 

──お人形遊びにおいて“プレイヤー”という言葉を初めて耳にしました。どういう意味なのでしょうか?

 

山田 コレクターの方は購入したものを箱から出さずにそのまま保管されると思います。一方で私のようなプレイヤーは箱から出して遊ぶことが一番の目的なんです。結果的にコレクションになっていますが、そのほとんどの箱を潰して捨てています。よほど貴重なものであれば話は別ですが……。

 

──なんという徹底ぶり!

 

山田 遊べなきゃ意味がありませんから。そもそも、最近は購入時点で箱に入っていないリカちゃんもあります。「オリジナルデザインオーダーサービス リカちゃん」という商品で、その名の通りヘアスタイルからお洋服に至るまでを全てオーダーメイドできるんです。私の子どもの頃に黒髪や茶髪が主だったヘアカラーも青色、ピンク色、紫色などのたくさんの選択肢から選べるようになりました。お洋服もオリジナルのものを着させることもできるんですよ。もちろん、コレクター向けにオリンピックとタイアップした商品や十二単のような日本の伝統をモチーフにした商品もパッケージ版として発売されています。それらもかわいいと思えば購入するようにしています。もちろん、ほとんど箱から出して遊んでいます。

 

──購入するしないのジャッジはどのように下されるのでしょうか?

 

山田 完全に出会った時のインスピレーション。というより、箱の中から目が合うんですよ。「一緒に遊ぼう!」とテレパシーなのか、人形の思いが伝わってきます。リカちゃんにしても何でもかんでも買っているわけではありません。ちなみに、今日は私なりに選ばせていただいたスタメン5体を連れてきました! 本当に苦渋のセレクトでした。選ばれなかった子たちが「どうして、連れて行ってくれないの?」と棚の中から訴えかけてくるんですから……。

 

こだわりのオーダーメイド、貴重な初代、自らの分身までを一挙紹介

──それでは、1人ずつ紹介してください。この子は女学生ですか?

 

山田 そうです。私の女学校時代を投影したリカちゃんになります。先ほども申しましたが、現在のリカちゃん人形はオーダーメイドができます。私が通っていた中高一貫校の三本線の制服を再現していただいて、髪の毛は三つ編みにしてもらっています。

 

──かなり細かい注文ができるんですね。

 

山田 当時の写真やヒアリングしてもらった情報を元に再現してくれるんです。ストッキングや靴の色、カフスやタイの細かいデザインも全く同じ。強いて違うところを言うならば、髪の毛を結っているゴムの色が白色な点。実際は黒色でないと校則違反で怒られていました。髪の毛が茶髪なのも本当はアウト(笑)。それでも、すごくお気に入りの1体です。

 

──いつでも中高生の若かりし日を思い出せますね。

 

山田 そうなんです。私だけでなくそれぞれのリカちゃん人形のファンが、自分たちの通っていた学校の制服を作って着せているみたいです。特に女子高出身者。やっぱり、自分の小さい分身を作ってアレコレ語りかけたいんじゃないかな?私もこの子を見ていると青春時代の切ない思い出が蘇ってきます。「あの先生に怒られたな‥‥」「あの友だちと交換日記をしたな‥‥」という具合に。

 

──あれ? よく見るとお化粧もしているような……。

 

山田 これも校則ではアウトです。目や唇の色も選べるので、理想を追求させてもらいました。確かに眉毛も少し細いかも……。

 

──隣の子のドレスは華やかですね。

 

山田 こちらはわりと最近購入したものです。とにかくピンク色のドレスがかわいくて! 髪の毛もクリクリパーマでゴージャスでしょ? 靴下を含めて全部ピンク色でコーディネートされています。

 

──これもオーダーメイド?

 

山田 いえ、既製品になります。オーダーメイドでなくてもバリエーション豊富なんですよ。サラサラヘアから前髪パッツンのおかっぱヘアなど何でもござれ。この子の設定は結婚式の新婦さんだと思います。手袋や靴下などの細かいアクセサリーを含めてハレの日が表現されています。ちなみに、耳に付いてあるイヤリングはどのリカちゃん人形にもデフォルトで付いているの。最初に紹介した制服のリカちゃんにも付いていましたが、流石に校則違反を重ねすぎると退学になっちゃうので私が外しました。ほら、ピアスの穴が空いているでしょ?

 

──仕事が細かい! さらに隣にいる子は年季の入った印象ですがまさか……。

 

山田 この赤いお洋服の子こそが初代のリカちゃんです。私が遊んでいる中でも初代中の初代。紛れもなく小学1年生の時におもちゃ屋さんで買ってもらったもの。もう髪の毛をイジリ過ぎて最初とは全く違うヘアスタイルになっています。実は初代は2パターンに分かれているんです。

 

──と言いますと?

 

山田 この最初に発売された初代パート1だと、片側の腕を動かそうとすると両腕が一緒に動いてしまいます。これは両腕を針金でつないだ構造だから起こる仕様です。腕を曲げるポージングも取れるんですけど、何回も変えているとポキッと折れてしまう可能性があるのでなるべく無理のないように遊んでいます。お腹から下肢を握って遊ぶことが多いだけに、この箇所に手垢が付くからよく洗わないといけません。服をめくってみるとちゃんとおへそがあって、この腰の部分に境目がないでしょ? 初代パート2だと腰部分が動かせる仕様に変更されています。

 

──それにしても、保存状態が良すぎます。人形をキレイに保つ秘訣はあるのでしょうか?

 

山田 ずっと遊び続けるのに尽きると思います。何でも使わないと劣化しちゃうんです。輪ゴムでも使わずに棚にしまったままだと、いざ使う時になってバチンと切れてダメになりますよね。それと同じです。

 

──4人目は洋風スタイルの印象です。

 

山田 71年にハワイ生まれで日焼けした「ピチピチリカちゃん」が発売されました。今日も持ってこようか迷ったんですけど、代わりにリカちゃんの友だちの「さわやかリーナちゃん」を持ってきました。肌が小麦色なのが特徴です。ちなみに、ピチピチリカちゃんは少し顔が傾いていたのが不味かったのかすぐに発売中止になります。ほどなくして、リーナも肌の色が問題視されて発売中止になっているんです。

 

──では、かなり貴重な1点なんですね。これは水着を着ているんですか?

 

山田 そうです。でも、私が勝手に着せているものなので純正のものではありません。頭に載せてあるサングラスもバービーのものですね。リカちゃんはかわいい、いづみちゃんは美人、そしてリーナはどこか憂いを帯びた雰囲気が魅力。すぐに心を奪われました。実はリーナだけで3~4体持っています。だって、かわいいじゃないですか?

 

──ところで、人形たちの前に配置したのは小さいリカちゃんハウスですか?

 

山田 気づいちゃいました? 私は人形が人形で遊んでいるような世界観が大好きなんです。こういう人形たちの小道具も自宅にはたくさんあります。今回、持ってきたのはリカちゃんハウスのミニチュアバージョン。つまり、リカちゃんの所有するリカちゃんハウス。ちゃんと付いて来られていますか?

 

──……はい。

 

山田 今日もリカちゃんハウスに入れてきましたよ。よく出来ているでしょ? 最初はクッキーの缶に入れて保管していたんだけど、リカちゃんハウスを購入してからはそこに入れて持ち歩くようになりました。この子たちもミニチュア版を持ち歩けるだけに、全く私と同じ行動をとれるわけです。少し気持ち悪いでしょ?(笑)

 

──いえいえ、当時の女の子たちの夢が叶ったんです。ただ、悩ましいのが少女時代にリカちゃんハウスを買ってしまうと肝心のリカちゃん人形が買えなくなってしまいます。

 

山田 幸いなことに、優しいお父さんの会社の部下や親せきのおじさんたちに恵まれました。家に来るたびにお土産を持ってきてくれて、毎回「人形を持ってきて!」と答えていました。兄は鉄道模型を買ってもらって、部屋中にレールを組み立てていましたが、私の場合は兎にも角にも人形! 中でも、お父さんの会社の後輩で海外出張から帰ってくるたびにお土産をくれた方は最高でした。いつもは外国のお菓子を買ってくれていたんですけど、ある日「外国ならお菓子よりバービーがいい」と正直に伝えたら「わかった。買ってくるよ」と良い返事があったんです。でも、先ほども話したようにお父さんをはじめ男の人の人形選びのセンスって怪しいじゃないですか。何も考えずに一番目立つとこにあるやつを買ってくると思ったから、「私に選ばせてほしい‥‥」とさらに伝えたんです、。そうしたらお小遣いをもらえるようになって(笑)。これで味をしめて、お父さんの会社の部下や親戚を金額で呼ぶようになりました。「5千円さん」や「1万円おじさん」よいうように(笑)。

 

──文字通りの「現金な人」ですね(笑)。

 

山田 それでも、全部を買えていたわけじゃありません。初代リカちゃんは600円でしたが、それがすぐに700円、1000円と値上げされますし。お洋服も買ったり作ったりしなきゃだし……。

 

──自分でリカちゃん人形の洋服を作ることもあったんですか?

 

山田 一応、ハンカチで人形を包んで簡単なワンピースを作っていました。そんな私を見かねて母がいろいろなものを作ってくれたっけな。リカちゃんのために残り布で作ってくれたお布団は今でも残っています。私が欲しかったのは布団じゃなくてベッドだったんですけどね。あと、焼鳥の串を2本使ってセーターも編んでくれました。振り返れば、お母さんは裁縫が上手でしたね。

 

──とても愛情深いお母さんですね。

 

山田 感謝しています。でも、人形の付録で付いてくるファッションブックに掲載された純正のドレスや着物の方が欲しかった。とにかく物欲に天井がありません!

 

──そして、最後に紹介いただくのが「クニちゃん人形」ですか!

 

山田 これが発売された時は言葉では表せないレベルで感激しました。単なる私のソックリさん人形ではなく、リカちゃんのお友だちの1人としてストーリーに登場したのがうれしかった。私のような愛好家にとって死んでもいいと思えるぐらいの誉でした。リカちゃんと同じ小学5年生で子役タレントをやっている設定。クニちゃんが地方ロケで衣装が足りなくて困っているところにたまたまファッションデザイナーをしているリカちゃんのママが通りかかって助けてあげるの。そこからリカちゃんにも繋がって2人は仲良しになります。クニちゃんとリカちゃんは体の大きさも一緒。それだけに同じお洋服が着られるんです。だから同じ服を2着買うようになりました。まさにペアルックで「やまかつWink」も可能になるんです(笑)。

 

──あれ? よくよく見てみたら今日の山田さんの服装と同じ気が……。

 

山田 私のお気に入りと同じ衣装を作ってもらいました。お揃いの服は他にもあります。今日私が着ている羽織ものまで再現されています。

 

物持ちの良さのルーツは爪切りにあり。同級生にドン引きされた収集品とは!?

 

──プレイヤーとはいえ、貴重なコレクションも多数保有していると聞きます。還暦を過ぎて「終活」について考えることもあると思います。人形たちはどうする予定?

 

山田 リカちゃん人形は福島にある「リカちゃんキャッスル」に寄贈するように遺書に書いています。さすがに棺桶に一緒に入れて燃やすにはもったいないものもあるんです。キャッスルや他の人形館にも所蔵されていないような代物もありますからね。

 

──全部の人形と遊べているわけではない?

 

山田 50体ぐらいは箱からも出していないものがあります。一応、遊ぶ前提で購入しているんですけどね。やはり、遊んでない人形があるのはダメですね。死んでも死にきれなくなります。ただ、一度遊ぶとなると8時間は欲しい。

 

──え、そんなに長時間遊ぶもんなんですか?

 

山田 人形を着替えさせるだけでも一苦労なんですよ。というのも、物語に出演する十数体を着替えさせなきゃならないの。

 

──1人で何役も演じちゃうんですか?

 

山田 そこは人形に任せています。みんながアドリブでなんとかしてくれますから(笑)。8時間でも足りません。全部と一斉に遊ぼうと思ったら、一週間徹夜しても足りないと思います。今日もスタメン争いにギリギリで敗れたのが4体ほど自宅で横になっているので、帰ったらちゃんとフォローしてあげないといけません。

 

──リカちゃん人形以外にも人形をお持ちなんですよね?

 

山田 ウルトラ怪獣のソフビ、MCハマー、マリリン・モンロー、ハリーポッターなどあらゆるジャンルのものを購入しています。最近は長州力や丸藤正道などのプロレスラーの人形もお気に入り。よくリカちゃんたちと合コンをさせています。なぜかオカダカズチカとジャイアント馬場の人形が小さいから、それぞれの持ち物という設定にして「俺は馬場の人形を持っているんだ」と長州が自慢すれば、「私なんてカズチカを持っているのよ」とリカちゃんがレスポンスするような掛け合いを生み出しています。

 

──脚本は無限大ですね。

 

山田 私のような「夢見る夢子」にとってはおちゃのこさいさい(笑)。2歳上の兄が病気で大変な時期があって、家族も付きっきりだったから、私は1人で過ごす時間も長く、よく1人で妄想の世界に浸っていました。兄が良くなったら今度は弟も体調を崩しちゃって。体質改善のために隔離されたり、親がワンワン泣いたりで大変でした。そんな状況だけに「なんか大変なことが起きているわね」と人形同士でしゃべらせて紛らわせていたっけな。

 

──ライフステージの変化で卒業のタイミングもあったと思います。

 

山田 しつこい性格なのかもしれません。もう捨てちゃったんですけど、中学2年生くらいまで自分で切った爪をクッキー缶の中に保管していました。たぶん、自分で爪を切るようになった小学校に入る前ぐらいからかな。なんか捨てられなかったんですよね。

 

──へその緒や乳歯を取っておくのと同じ感覚なのでしょうか?

 

山田 近いかもしれません。女学校で出会ったお友だちを家に招いたときに缶の中を見せたらドン引きされました。「気持ち悪いから捨てなさい」と。それで捨てちゃった。

 

──実にもったいない! 今となってはどれほどの価値のあるものなのか計り知れません。爪の垢を煎じて飲むと言いますし。

 

山田 我ながらお宝だったと思います。たぶん、腐ってなかったし(笑)。将来、芸能の仕事をすると知っていたら残していたと思います。捨てたことを伊東四朗さんに話したら「お前バカなことしたな……」とすごく残念がってくれました。果たして、どっちの行為に対してのバカなのか……。

 

──最後に今後の夢を教えてください。

 

山田 リカちゃん人形の愛好家を集めたパーティーを開催したいです。17年に50周年をお祝いしたパーティーがありました。25周年の時に届いた「50周年で会いましょう」と書かれた招待状を参加者全員が持参していたんです。25周年当時は「もう25年も経つのか」と感慨にふけっていましたが、無事に50周年を迎えることができました。流石に100周年の頃にはお墓の中に入っているでしょうから、もうちょっと刻んで周年イベントを企画したいです。「リカちゃんキャッスル」のアンバサダーでもあるので、一度メーカーさんを交えてミーティングをしたい。あとは、死ぬまでリカちゃんと一緒にいたい。何度だって言いますけど、半世紀以上一緒にいる大親友なんだから!

 

 

構成・撮影/丸山剛史 執筆/多嶋正大

リリー・フランキー「僕らにとっての憩いの場所」ドラマ『ペンション・恋は桃色』season3

都会から離れた場所にあるペンションを舞台に織りなすゆるく温かな人間模様を描いた、FODオリジナルドラマ『ペンション・恋は桃色』のseason3が配信開始(フジテレビにて毎週水曜日深夜放送中)。オーナー役のリリー・フランキーさんに、斎藤工さん、伊藤沙莉さんに加え、豪華ゲストを迎えた最新作の撮影エピソードやモノに対するこだわりについて伺いました。

 

※こちらは「GetNavi」2025年2・3月合併号に掲載された記事を再編集したものです。

 

●1963年11月4日生まれ。福岡県出身。俳優・イラストレーター・声優・エッセイスト・絵本作家・小説家など多種多彩な顔を持つ。主な出演作に、映画『ぐるりのこと。『凶悪』『万引き家族』など。最近の出演作に、映画『1 ST KISS(ファーストキス)』、TBS系ドラマ『クジャクのダンス、誰が見た?』などがある。

【リリー・フランキーさん撮り下ろし写真】

 

忘れがちなモノ作りの楽しさを思い出させてくれる現場

──今回のseason3制作はseason2の撮影中(23年夏)に、すでに決まっていたそうですね?

 

リリー 実はseason1(20年)からseason2までは、4年もかかっているんです。その間、ご時世が変わっていったというか、コロナ禍でサブスクが生活に定着したんですよ。あとは「もうちょっと、こういうドラマ作った方がいいよ」という考えの人が偉い人になったという会社の中から、このドラマが選ばれたんじゃないですかね。でも、山口智子さんがseason2からレギュラーになり、今回のゲストは稲垣吾郎さんに、MEGUMIさんに、鈴木慶一さんですよ! どうやら、上層部も無視できないコンテンツになってきました(笑)。

 

──season3を迎える人気シリーズですが、周囲の方の反響や反応はいかがですか?

 

リリー 昨年、街中でよく声をかけられたのが“『地面師たち』見ました!”でした。そんななかで、二度ぐらい“『ペンション・恋は桃色』好きです”って言われたんです。僕の中では“誰も見ていないドラマ”と勝手に思っていたんですが、そう声をかけてくれた方は、どこか品のいい顔立ちをされているんですよ(笑)。

 

──シリーズごとに、リリーさん演じるシロウが経営するペンションにマドンナが現れ、最終的にフラれてしまう展開は“リリー・フランキー版『男はつらいよ』”といえるかもしれません。

 

リリー 今回も少し恋はするんですけれど、どちらかというと、伊藤沙莉さんが演じる娘のハルの恋がメインです。寅さんなのは、斎藤工さんがやっている風来坊のヨシオの方だと思いますよ。5年に渡って同じ役をやっていると、娘に対する愛情が並々ならぬものになってきて、普通に沙莉さんを見ているだけで、泣けてくる。それに、どんどん家族のドラマになっている気がしますね。ロケ地になっている山中湖のペンションに来て、3人がそろって父親役だった細野晴臣さんの写真の前に集まるだけで、なんかホッとするんです。そういう意味で、僕らにとっての憩いの場所になっていると思うし、普段忘れがちなモノ作りする楽しさを思い出させてくれる現場かもしれませんね。

 

──それは具体的に、どういうことでしょうか?

 

リリー 「いいモノを作る」って、やっぱしんどいし、苦しいし、辛いじゃないですか。原稿を書いていても、「まぁ、いいや」と思ってから、どこまで精度を上げられるかという作業になるし。でも、このドラマに関しては、撮影しているときは少なくとも楽しい。それはモノ作りの方法論がアマチュアリズムの状態で止まっているから。次に撮るシーンをみんなで話し合って決めたり、あまり大人の方法論が入ってないというか。作り方やタイトなスケジュール以外にも、電話でオファーしちゃいけないようなすごい人たちが出ているんですよね(笑)。だから、「こういう感覚を忘れないでおきたいな」って思うし、どこかご褒美の場所をもらっている感じがします。

 

──ちなみに、season3のゲスト・稲垣吾郎さん、MEGUMIさん、鈴木慶一さんとの共演はいかがでしたか?

 

リリー 皆さん、すごいんですよ。season1の頃から6日間で5話分を撮影するというスケジュールなので、何回も切り返したり、撮り直したりする時間もなくて、基本一発撮り。メリハも、ほぼほぼない。基本的には台本通りなんですが、何かセッション的な要素が強い。そのリアルな緊張感やライブ感も面白いし、皆さんにも楽しんでもらっています。それにゲストの方にも、近くにある別のペンションに泊まっていただくことで、魔法にかかるんだと思いますね。都内のセットで撮ったら、あのテンションにはなれないでしょう。しかも、その撮影に対応できるスタッフって、そんなにいないと思うんですよ。みんな若いのに、優秀ですよ。

 

なんなら、実景だけでも先に撮影しておきたいですね(笑)

──先ほども触れましたが、今回はハルがネットで知り合った、稲垣さん演じるケイタとの恋を通して、シロウの父親としての顔が垣間見ることができます。

 

リリー これまで自分の恋愛を丸出ししてきたシロウですが、本当の娘ではないハルに生かされているお父さんなんですよ。それで監督と話したのは、よくドラマで見るお父さんみたいに「どこの馬の骨かも分からない奴に、娘はやれん!」みたいな感じにしたくないなって。だから「ハルがときめく相手なら……」という感じになっていて。反対にヨシオは「絶対ないでしょ」って、寅さんみたいなおせっかいキャラになっている感じ。というか、ハルは商店街みんなの娘みたいになっていて、そのおじさんたちのメンタリティが、いわゆる女性の感性に追いつけていない。そんな勝手な純粋培養を壊してほしくて、ケイタとはネットで知り合ったという設定になったんです。

 

──そのほかの見どころ、やっぱり期待してしまうseason4への意気込みを教えてください。

 

リリー このドラマは、前のシリーズで言ったセリフを膨らませて、脚本にしていくので、今回もseason2に出てきたミュージシャンのサエキだったり、「こびとづかん」のエピソードが出てきたり、話が続いているようになっているんです。だから、season1から見ている方は面白いと思うし、season3からでも十分と思います。ペンションを訪れてくるゲストの方が事件や問題を持ってきてくれて、シロウが誰かを好きになる。正直、このシステムだと、エピソードを延々作れるんですけれど、今のところ、season4を撮る話は聞いていませんね。できれば、3月末に撮影して、桜撮りたいじゃないですか! なんなら、実景だけでも先に撮影しておきたいですね(笑)。

 

 

ペンション・恋は桃色 season3

2025年1月10日(金)よりFODにて独占配信

2025年1月29日(水)よりフジテレビにて深夜0時25分から放送中

 

(CAST & STAFF)
監督・脚本:清水康彦
主題歌:細野晴臣
出演:リリー・フランキー/斎藤工/伊藤沙莉/山口智子/稲垣吾郎/MEGUMI/鈴木慶一/JOY/岩崎う大(かもめんたろう)/眉村ちあくい/大水洋介(ラバーガール)ほか」

(STORY)
ちょっと古いペンション「恋は桃色」。56歳の誕生日を前にしたシロウ(リリー)をはじめ、住み込みのヨシオ(斎藤)、シロウの娘・ハル(伊藤)はいつもと変わらない様子でのん気に過ごしていた。そんななか、ハルに会いにあるお客さんが「恋は桃色」を訪れる。

【ドラマ「ペンション・恋は桃色 season3」よりシーン写真】

 

撮影/映美 取材・文/くれい響

久保史緒里「隠したい想いも、本音も、すべてをさらけ出している。とても人間らしい映画だなと感じました」映画『誰よりもつよく抱きしめて』

至極のラブストーリーとして話題を呼んだ新堂冬樹の小説『誰よりもつよく抱きしめて』がついに映画化。『ミッドナイトスワン』の大ヒットも記憶に新しい内田英治監督のもと、三山凌輝さんとともにW主演を果たした久保史緒里さんは、「自分にとって新しい挑戦だった」と撮影を振り返る。さまざまな感情を表現し、新境地へと挑んだ久保さんに月菜役としての思い、そして映画に込められたテーマをたっぷりとうかがった。

 

※こちらは「GetNavi」2025年2・3月合併号に掲載された記事を再編集したものです。

 

久保史緒里●くぼ・しおり…2001年7月14日生まれ、宮城県出身。乃木坂46のメンバー。ラジオ『乃木坂46のオールナイトニッポン』メインパーソナリティを務めるほか、俳優としても活躍。近年の主な出演作に、大河ドラマ『どうする家康』、連続ドラマW『落日』、『未来の私にブッかまされる!?』、映画『リバー、流れないでよ』、『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』などがある。Instagram

【久保史緒里さん撮り下ろし写真】

 

周りに頼らず、一人でずっと考えてしまうところは月菜と似てるかも

──映画『誰よりもつよく抱きしめて』はタイトルからも深い愛が感じられる、静かで、しかしながら根底に熱い想いが流れているラブストーリーです。最初に脚本を読んだときの印象はいかがでしたか?

 

久保 今おっしゃってくださったように、自分が演じた月菜の目線で読んだときは本当に胸が苦しくなりました。月菜には長く同棲している恋人がいるのですが、彼は強迫性障害による潔癖症を患っていて、そのことで恋人同士なのに直接手を握ることさえできない。心の底から想い合っているからこそ、2人の間にある距離感に切なさを感じてしまって。脚本を読みながらこれまで経験したことがないような感情が押し寄せてきて、辛さを感じながらも、物語に惹き込まれました。

 

──共感するところはありましたか?

 

久保 すごくありました。月菜もよしくん(良城)も、どこか感情に蓋をしてしまっているところがあるんです。私も他人に自分の気持ちを伝えるのが苦手なので、そこは少し似ているなと思いました。特に印象的だったのが、月菜が海を眺めているシーンで。じっと海を見ながら、彼女の頭の中にはさまざまな思いが去来しているよう思えたんです。私もよく一人で考え込んでしまう性格なので、月菜も私と同じ側の人間かも……と親近感が湧きました(笑)。

 

──もしや久保さんは、目の前に大きな壁があっても一人でなんとかしようとしちゃうタイプですか?

 

久保 まさに! 解決するまでその壁とずーっと向き合いますね(笑)。私はほんとに諦めが悪くて(苦笑)。周りに心配をかけたくないので誰かに相談することもあまりしませんし、ただひたすら一人で頑張ります。すごくアナログ的で、効率も悪いんだろうなって自分でもわかっているんですけどね(苦笑)。

 

──今作は、恋人役の水島良城を演じた三山凌輝さんとW主演になります。公式のコメントで三山さんは久保さんの印象について、「役者目線で言うと、何にも染まっていない白いレースカーテンのような人」「余分な要素が生まれないお芝居をされる方」とおっしゃっていました。

 

久保 なんて素敵なお言葉を! 私にはもったいないコメントでうれしい限りです。三山さんとは今回初めて共演させていただき、すべてのものを優しく包み込むような方だなと感じました。月菜に対してもとても寛容的で。お芝居で見せる柔軟さや温かさに、私もいつも演技の面で引っ張っていただきました。

 

──撮影現場で役について話すこともあったのですか?

 

久保 具体的な話し合いや相談をするようなことはあまりなかったです。どちらかというと、冗談を言い合ったり、「頑張りましょう!」といった声掛けをお互いよくして、そうやって恋人同士役の距離感や雰囲気を作っていきました。また、今作では三角関係になるジェホン役のファン・チャンソンさんとも共演するシーンが多かったのですが、チャンソンさんは撮影の合間などに、「あぁ、心が痛い……」とか、「本当に悲しいです……」といった作品に対する感情をよく吐露されていて。その言葉からジェホンさんが今どういった心情なのかが伝わってきたので、私も気持ちを作りやすかったです。

 

──また、今作で監督を務めた内田英治さんとは、映画『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』、連続ドラマW『落日』に続いて3作目になりますね。

 

久保 はい。内田監督の作品は個人的にも大好きなので、声をかけていただけて本当にうれしかったです。ただ、今回演じた月菜役は過去の2作品と雰囲気も性格もまるで違うんです。ですから、安心感のある現場というよりも、むしろ“新しい一面を見せなければ”という緊張のほうが大きかったですね。

 

──成長した姿も見せていかなければいけないから大変ですね(笑)。

 

久保 ほんとに!(笑) 内田監督の作品で主演に抜擢される日が来るとは思ってもいませんでしたので、それもプレッシャーで。でも、きっと私に期待をしてくださっての起用だと思いますので、絶対にその期待に応えようという気持ちで臨みました。

 

──内田監督ならではの演出のこだわりはどんなところに感じますか?

 

久保 いつもすごく丁寧に役や脚本の説明をしてくださいます。初めてお会いしたときからよく言われていたのが、「スクリーンではちょっとした嘘もバレてしまうから」という言葉で。そのため、今作でもシーンごとに月菜がどんな感情を抱いているのかをしっかりと把握するため、最初の脚本の読み合わせのときから監督と私がそれぞれ思い描く月菜像のすり合わせを何度もやらせていただきました。

 

──月菜は感情の揺れ幅が大きいだけに、そうした事前の作業はとても重要になってきそうです。

 

久保 はい。ただ、月菜にとって大きな転機となるシーンだけは、あえて事前に読み合わせをしなかったんです。監督いわく、「そこは現場で生まれるものを見たいから」と。ですから、本番直前まではすごく緊張していたのですが、そこに至るまでのシーンで監督がしっかりと月菜の感情を掘り起こしてくださったので、気負うことなく、自然体で撮影に臨むことができましたね。

 

感情の波が激しくて涙も出ないというのは初めての経験でした

──完成した作品をご覧になっていかがでしたか?

 

久保 すごく繊細な映画だなと思ったのが最初の感想です。また、試写を見た後に内田監督とお話をして、“なるほど”と思ったのが、この映画に出てくる登場人物たちは全員が全員、決していい人たちではないということなんです。それぞれに相手のことを思いやりながら、自分の気持ちにも正直であろうとしている。だから、ときには自分勝手のように見える部分もある。そうした、人間っぽいリアルな部分がしっかりと描かれているなと感じました。

 

──それぞれの言動が理解できるだけに、すべての登場人物たちに感情移入してしまって、映画を見ながらこちらの感情もぐちゃぐちゃになりました。

 

久保 わかります。“あ〜、そのひと言を言わなきゃいいのに”というセリフもたくさんあって、胸が苦しくなりますよね。でも、そこも人間らしいなと思うんです。自分の中に溜め込んでしまっていた感情をつい口に出してしまい、そんなつもりはないのに相手を傷つけてしまう。そうした咄嗟の心の変化が見事に表現されているなって。それに、人って他人とうまく関係性を築いていくために、ときには自分の気持ちを押し殺すことが必要な場合がありますよね。けど、この映画ではそこも隠さずに描いている。自分の本音を隠してしまいがちな今の時代において珍しい作品だなと感じますし、きっと多くの方がいろんな登場人物たちの言葉にハッとさせられたり、心を揺さぶられたりするのではないかと思います。

 

──確かに月菜も良城もどこか本音を隠し、相手を傷つけないようにしているところがありますよね。でも、月菜に思いを寄せるジェホンは優しい言葉も厳しい言葉も真っすぐ月菜に投げかけてくる。しかも、どれも正論ばかりだから、少しずつ月菜を追い詰めているようにも感じました。

 

久保 そうなんです。ジェホンさんの言葉はどれも正しいんです。だから逃げ場がないし(苦笑)、いっそのこと彼の想いに応えることが月菜にとっても最善なのかなと思えてくる。けど、正論では計り知れないのが人間の愛だと私は思うんです。やはり、よしくんは月菜にとってかけがえのない人ですし、強迫性障害と闘っている彼を放っておけないという思いもある。ですから、よしくんとジェホンさんに挟まれている月菜のことを考えると、本当に胸が苦しくなりました。私としては、“どっちの選択を取ってもきっと間違いじゃないんだよ”と思いながら演じていましたし、最後の最後に彼女が選んだ道も月菜らしいなと思いましたね。

 

──また、良城が祖父(酒向 芳)と病気のことで口論になった後に月菜に対して「一生守るから」と感情的に言葉を投げかけ、それを聞いて月菜が涙を流します。あの涙はどういったものだったのか教えていただけますか?

 

久保 月菜はよしくんと長年一緒にいるからこそ、彼の病気が簡単に治るものではないとわかっているんです。ただ、彼を支えているつもりの自分の存在が、逆に彼にストレスを与えてしまっているかもしれないという負い目をだんだんと感じ始めていくんですよね。つまり、自分が恋人の負担になっているかもという思いをお互いが感じ出していて、それでもやっぱり一緒にいたいからその現実から目を逸らしていたのに、よしくんの「一生守るから」という言葉によって月菜の中で張り詰めていたものが一気に崩れ出していったんです。その結果、撮影の本番でも、例えようのないさまざまな感情が私の中に押し寄せてきましたし、気づいたら自然と涙がこぼれていました。

 

──なるほど。それもあって、良城が別れ話を切り出したとき、月菜の中に哀しみや罪悪感だけじゃなく、もしかしたら、どこかほっとした気持ちも生まれたのかなという気がしました。

 

久保 確かにほっとした気持ちもあったと思います。あの場面の撮影も本当に心が苦しかったです。寂しさや哀しさを感じながらも、別れるという選択肢がもしかしたらよしくんにとっていいのかもとすら思えてしまって。ですから、脚本だけを読んでいたときは切なくて涙が出たのですが、いざ撮影に臨むと、さまざまな感情が溢れてきて涙が出なかったんです。“人って、こういう気持ちになることがあるんだ”と不思議な体験でした。

 

──何が本当の幸せなのかは当事者たちにしかわからないし、当事者すらわからないこともあるというのが、この作品のテーマの一つでもあるのかなと感じました。

 

久保 はい。それに、物語の中では場面ごとに登場人物たちのさまざまな感情が繊細に描かれていますからね。彼らが抱えるたくさんの気持ちの波を一つひとつ感じていただけたらなと思います。

 

旅先ではいつも少し積極的な性格に

──今作はロケの多くが鎌倉だったようですね。

 

久保 はい。ロケの間中、鎌倉でいろんな景色を楽しめて、すごく幸せでした。海沿いの撮影が多かったこともあり、常に波の音が耳に優しく響いていて。それに電車の音や街のざわつきなど、いろんな音に毎日癒やされてましたね。

 

──GetNaviの本誌でもいろんな街を旅するのが好きだとお話しされていました。

 

久保 そうなんです。昨年は初めてプライベートで長崎に行きました。現地で友人と合流したので、行くまでの飛行機の搭乗手続きなども初めて一人で経験して。もう飛行機の乗り方はバッチリなので(笑)、今年はいろんなところに旅行に行きたいなと思っています。最終的な目標はお仕事抜きで全国の都道府県を制覇することなので、その達成に向けて着々と進めていけたらなと。

 

──いいですね。ちなみに今はどれくらい制覇されているんですか?

 

久保 まだ九州だけなんです。なので、ゴールはまだまだ遠いですね(笑)。

 

──最後に訪れる場所ではかなりの達成感が味わえそうですね。すでにゴール地は決めているんですか?

 

久保 それは考えたことがなかったです。でも、ぜいたくにお休みをたくさんとって東北一周とかいいかもしれませんね。出身が宮城なので、あえて最後に凱旋を選んでみるのも面白いかも(笑)。東北の各県も訪れたことはあるんですが、“いつでもすぐに行けるから”という理由で、意外と隅々まで満喫したことがないなと最近気付いて。なので、東北のいろんな県を楽しんで、最後は宮城の温泉巡りなんていうのもいいかなって思ってます。

 

──ちなみに、旅先で必ずすることはありますか?

 

久保 旅行はいつも地元の友人と行くんですが、彼女が運転免許を持っているので、レンタカーを借りてドライブをします。ずっと彼女に運転を任せっきりなので、私もそろそろ免許を取らなきゃなって思っているんですけどね(笑)。

 

──クルマを運転できると、旅先での行動範囲がぐっと広がりますよね。

 

久保 そうなんです。でも、それでいうと、旅先ではバスにも必ず乗って遠くまで行きます。そこに住んでいる人たちしか行かないような街の景色を見るのが大好きで。路線バスだとその土地のおじいちゃんやおばあちゃんが話しかけてきてくれたりするので、それもすごく楽しいんです。普段は人見知りが激しいのに、旅行に行くとちょっと勇気が出て、知らない人と積極的に話せたりする。それも旅の醍醐味のひとつだなって思いますね。

 

 

誰よりもつよく抱きしめて

2月7日(金)より全国公開

【映画「誰よりもつよく抱きしめて」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
監督:内⽥英治
原作:新堂冬樹「誰よりもつよく抱きしめて」 (光⽂社⽂庫)
脚本:イ・ナウォン
主題歌:「誰よりも」BE:FIRST(B-ME)

出演:三⼭凌輝、久保史緒⾥(乃⽊坂 46)、ファン・チャンソン(2PM)、穂志もえか、永⽥ 凜、北村有起哉、酒向 芳ほか

(STORY)
学生時代から付き合いはじめ、現在同棲中の水島良城(三山凌輝)と桐本月菜(久保史緒里)。互いのことを深く思い合っている2人だが、良城は強迫性障害を患い、月菜にも触れることができない日常が続いていた。やがて月菜の勧めもあり、治療を決意した良城は、同じ症状を抱える村山千春(穂志もえか)に出会い、思いを共有できる千春との距離を縮めていく。また同じ頃、恋に不感症な男性・ジェホン(ファン・チャンソン)との不思議な出会いを果たした月菜は、優しく疲れた心を解きほぐしていくジェホンに心が揺れ動いてしまう……。

公式HP:https://dareyorimo-movie.com/

(C)2025「誰よりもつよく抱きしめて」HIAN/アークエンタテインメント

 

撮影/干川 修 取材・文/倉田モトキ ヘアメイク/高橋雅奈 スタイリスト/鬼束香奈子

菅井友香のウマ愛が炸裂「イクイノックスの子どもたちに期待しています!」

2024年は2本の地上波連続ドラマでW主演を務める一方で、『開運!なんでも鑑定団』の新MCに就任するなど、着実に活動の場を広げている菅井友香さん。1月31日公開の映画『怪獣ヤロウ!』で劇映画初出演を果たした彼女に、転機となった2024年を振り返ってもらいながら、プライベートでの思い出や、今ハマっていることなどをお聞きしました。

 

※こちらは「GetNavi」2025年2・3月合併号に掲載された記事を再編集したものです。

 

菅井友香●すがい・ゆうか…1995年11月29日生まれ。東京都出身。欅坂46および 櫻坂46の元メンバー。初代欅坂46のキャプテンを務めた。幼少期より馬術を習う。2022年11月にグループから卒業。舞台やミュージカル、ドラマなど活躍の幅を広げ、現在、「菅井友香の#今日も推しとがんばりき」(文化放送)パーソナリティーや、「競馬BEAT」(カンテレ)のMCを務めるほか、「東京GOOD!TREASURE MAP」(テレビ東京)にレギュラー出演中。2024年4月にはテレビ東京「開運!なんでも鑑定団」の新MCに就任した。W主演ドラマに「チェイサーゲームW パワハラ上司は私の元カノ」(テレビ東京)、「ビジネス婚-好きになったら離婚します-」(MBS)。公式HPInstagramX

【菅井友香さん撮り下ろし写真】

 

初老ジャパンの大岩義明さんやトラウデン直美さんと乗馬

──2024年は『チェイサーゲームW パワハラ上司は私の元カノ』(テレビ東京)、『ビジネス婚-好きになったら離婚します-』(MBS)と立て続けにドラマのW主演を務める一方で、テレビ番組のMCを新たに担当するなど、転機の年となったのではないでしょうか。

 

菅井 新しい挑戦をたくさんさせていただいて、あっという間に駆け抜けた一年でした。オファーをいただけるのは私に期待してくださったり、これまでの活動に注目してくださったりしているからだと思います。どのお仕事も、ちゃんと皆さんの期待に応えていかなきゃいけないなという気持ちで取り組みました。お芝居の実力もまだまだなので、もっと自分の中で追求していきたいですね。また舞台にも出たいですし、今まで経験したことのない役柄や作品にも挑戦していきたいです。

 

──菅井さんは中学1年生で本格的に馬場馬術を始め、高校時代は大会で目覚ましい結果を残しています。久しぶりに乗馬クラブに行く機会に恵まれたとお聞きしました。

 

菅井 パリオリンピックに出場された初老ジャパンの大岩義明さんとお話する機会をいただき、それが縁で一緒に乗馬をすることになったんです。私の馬仲間と、同じ乗馬クラブに通っていたトラウデン直美さんも同行して、結構な勢いで山を走り抜けるという楽しい一日でした。10年近く乗馬を指導していただく機会がなかったので、腕は落ちていたんですが、一番乗りやすい馬をあてがってもらえたので、すぐに感覚を思い出せました。翌日の筋肉痛はすごかったですけどね(笑)。

 

──また乗馬を始めたい気持ちもありますか?

 

菅井 あります! 乗馬のために車の免許も取ったので、またみんなで乗馬クラブに行って、レッスンを受けたいなと考えています。

 

──菅井さんは『競馬BEAT』(カンテレ)のMCも務めていますが、注目している競走馬を教えてください。

 

菅井 実際に活躍するのは数年後になると思いますが、2023年に引退したイクイノックスの子どもたちです。競走馬としての役目を終えて、種牡馬入りをしたときに取材をさせていただいたんですが、どんな強い子が育つのか、今から楽しみです。

 

──今ハマっていることや、収集しているものなどがあったら教えていただけますか。

 

菅井 モバイルバッテリー、充電コード、ワイヤレスイヤホン、スマホケースなどの電化製品を水色で揃えることにハマっています。一つ買うと同じメーカーの同じ色で揃えたくなるんですよね。そもそも水色はさっぱりしていて、かわい過ぎずに、しっくりくるので大好きな色です。あとは先ほどのお話しに繋がるんですが、馬グッズ収集もしています。

 

──具体的にどんなグッズを集めているんですか。

 

菅井 『競馬BEAT』に出演するとき、よく馬がデザインされたブローチを身に付けています。全て私物なのですが、今は7個ぐらい持っていて、もっと増やしていきたいです。他にも馬関連のグッズはたくさん集めているんですが、今のお気に入りは「アイドルホース リバティアイランド 秋華賞2023・三冠ver.」です。一昨年、リバティアイランドが牝馬三冠を達成した記念で発売されたぬいぐるみで、北海道のノーザンホースパークに行ったときに買ったんですが、ちゃんと特徴も捉えられていてかわいいんです。最近だと世田谷の馬事公苑に行ったときに出店があって、そこでプレゼント包装などに使えるカラフルな馬のリボンを買いました。

 

 

怪獣ヤロウ!

岐阜先行公開中、1月31日(金)より全国公開

【映画「怪獣ヤロウ!」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
監督・脚本:八木順一朗

出演:ぐんぴぃ
菅井友香 手塚とおる 三戸なつめ
平山浩行 田中要次 麿赤兒 清水ミチコ

(STORY)
岐阜県関市。市役所の観光課に務める山田一郎(ぐんぴぃ)はある日、市長(清水ミチコ)から“ご当地映画”の製作を命じられる。しかしどこにでもある“凡庸なご当地映画”に疑念を持った山田は、かねてからの夢だった〈怪獣映画〉の製作を思いつく。「いつも失敗ばかりでダメな自分を変えるため、パッとしない故郷を変えるため、怪獣で、全部をぶっ壊す!」。しかしその想いは、市政を巻き込んだ大事件へと発展していく。果たして山田は、夢だった〈怪獣映画〉を完成させることができるのか!?

公式HP:https://www.kaijuyaro.com/

公式Instagram:https://www.instagram.com/kaiju_yaro/

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(C)チーム「怪獣ヤロウ」

 

撮影/千川 修 取材・文/猪口貴裕 ヘアメイク/相場清志(eif) スタイリスト/山本杏那

 

『怪獣ヤロウ!』で劇映画初出演を務めた菅井友香が大学時代の失敗やグループ時代の思い出を回顧

2024年は2本の地上波連続ドラマでW主演を務める一方で、『開運!なんでも鑑定団』の新MCに就任するなど、着実に活動の場を広げている菅井友香さん。1月31日公開の映画『怪獣ヤロウ!』で劇映画初出演を果たした菅井さんに撮影エピソードや、春とヒコーキのぐんぴぃさん、清水ミチコさんと一癖も二癖もある共演者の印象、欅坂46の初代キャプテンを務めたときの思い出などを中心にお話を伺いました。

 

※こちらは「GetNavi」2025年2・3月合併号に掲載された記事を再編集したものです。

 

菅井友香●すがい・ゆうか…1995年11月29日生まれ。東京都出身。欅坂46および 櫻坂46の元メンバー。初代欅坂46のキャプテンを務めた。幼少期より馬術を習う。2022年11月にグループから卒業。舞台やミュージカル、ドラマなど活躍の幅を広げ、現在、「菅井友香の#今日も推しとがんばりき」(文化放送)パーソナリティーや、「競馬BEAT」(カンテレ)のMCを務めるほか、「東京GOOD!TREASURE MAP」(テレビ東京)にレギュラー出演中。2024年4月にはテレビ東京「開運!なんでも鑑定団」の新MCに就任した。W主演ドラマに「チェイサーゲームW パワハラ上司は私の元カノ」(テレビ東京)、「ビジネス婚-好きになったら離婚します-」(MBS)。公式HPInstagramx

【菅井友香さん撮り下ろし写真】

 

春とヒコーキのぐんぴぃさんは真面目で聡明な方

──『怪獣ヤロウ!』は菅井さんにとって劇映画初出演となります。オファーがあったときのお気持ちはいかがでしたか。

 

菅井 企画書と脚本を読んで、岐阜県関市を舞台にしたご当地映画であり、怪獣映画でもあるというユニークな作品で斬新さとエネルギーを感じましたし、「ぜひチャレンジさせていただきたい!」と思いました。

 

──関市のワンマン市長に従う秘書課職員・吉田という役どころです。

 

菅井 吉田は市長に従って生きることが自分の正義だと信念を貫いている女性ですが、ぐんぴぃさん演じる関市役所観光課職員・山田の奮闘を見て、自分のやりたかったことに気付いていきます。山田に出会う前と後で徐々に変化をつけたいなと思って、吉田の心境を考えながら演じました。私と吉田では全くタイプが違うので大変でしたが、うれしいチャレンジでした。

 

──前半と後半では、吉田のキャラクターも変化します。

 

菅井 市役所では硬い女性ですが、山田の影響ではっちゃけていくんですよね。初めて着るような奇抜な衣装もあったんですが、すごく楽しくて。監督からも「もっとやっていこう!」と言われて、どんどん殻を破っていくような感覚がありました。

 

──ぐんぴぃさんの印象はいかがでしたか。

 

菅井 衣装合わせのときに初めてお会いしたんですが、欅坂46が好きと仰っていてうれしかったです。真面目で聡明な方で、八木(順一朗)監督との息もぴったりでした。みんなでご飯を食べに行ったときに、たくさん食べる姿が素敵で、見ているだけで幸せな気持ちになりました。

 

──食べる姿が素敵というと?

 

菅井 食べっぷりの良さもそうですが、ちょっと白米が残ってしまったときに、みんなの分を食べてくださったのが素敵でした(笑)。

 

──市長役の清水ミチコさんも良い味を出していましたよね。

 

菅井 お会いする前は直属の部下役だったのでドキドキしていたんですが、私の中では市長そのままに愛のある厳しいお方というイメージで。本番中は上司として、厳しく吉田に指示を出してくださるので本気でハラハラしましたし、だからこそ緊張感のあるシーンになったと思います。

 

──撮影以外で清水さんとの交流はありましたか。

 

菅井 ご一緒する時間は少なかったのですが、初めてごあいさつさせていただいたときに、優しく「よろしくね」と言ってくださったのが印象的でした。あと、ぐんぴぃさんが清水さんにごあいさつしたときに、それまでみんなでご飯を食べていて、ご飯粒を飛ばしちゃったんです。そしたら清水さんが市長のような口調で、「初対面でご飯粒を飛ばすなんて失礼ね」と言って、現場が笑いに包まれました。清水さんのユーモアで現場を盛り上げてくださるところが素敵でかっこよかったです。

 

役を突き詰めることができ、やりがいを感じた大切な時間だった撮影期間

──八木監督は普段、春とヒコーキも所属しているタイタンの社員として働いているんですよね。

 

菅井 怪獣映画愛に溢れていて、お話ししていると情熱やこだわりが伝わってきました。ご自身で脚本も書かれているので、主人公の山田と重なるところが多くて、アクティブで生き生きとしている方ですし、役者一人ひとりに寄り添ってくださるので話しやすかったです。あと普段ぐんぴぃさんとはマネージャーとして接しているのに、撮影のときは監督と役者という関係性が出来上がっていて、良い雰囲気が流れていました。お二人に引っ張っていただいた場面は多かったですね。

 

──現場の空気感が良かったんですね。

 

菅井 八木監督をはじめ、スタッフさん、キャストさんとじっくり話して、役を突き詰めることができましたし、やりがいを感じて、私の中で大切な時間になりました。この撮影を通して本格的なセットや着ぐるみに触れる機会もあって、身が引き締まる思いもありつつ、ワクワクと感動がありました。

 

──菅井さんは撮影現場でも積極的に質問されていたそうですね。

 

菅井 八木監督が吉田のしゃべり方や声のトーンにこだわりをお持ちで、普段の私よりも低いトーンで、てきぱきしゃべる女性というアドバイスをいただいたんです。どういう心境かも説明してくださって、そのイメージに近づけるために、撮影前にいろいろお聞きしました。

 

──関市というロケーションがお芝居に影響した部分はあったのでしょうか。

 

菅井 今回の撮影で初めて関市に行かせていただいたんですが、2週間ぐらい滞在して、町の魅力にたくさん触れることができて、帰るのが寂しくなっちゃうぐらい大好きになりました。地元の方もたくさん出演されているのですが、ご当地ならではの温かさが伝わってきて、それがお芝居にも反映されていると思います。

 

──映画の公開を控えて、どんなお気持ちでしょうか。

 

菅井 劇映画初出演であり、新しい第一歩を踏んだ思い入れの深い作品になりました。まだまだ映画の現場は分からない部分も多いんですが、初めての体験として、これ以上ないぐらいありがたい環境でした。

 

母から学んだチャレンジし続けることの大切さ

──吉田は仕事で大きなミスを犯して、それが物語に大きな影響を与えていきます。

 

菅井 いつも吉田は頑張っている分、突然のトラブルに弱い部分があるんですよね。自分自身、過去に大きな失敗をしたことがあるので、その記憶が蘇るシーンでした。

 

──どんな失敗だったのでしょうか。

 

菅井 大学の卒業論文のデータを提出直前に消しちゃったことがあって……。そのときは人生が終わった気分でした。家族とは4年間で大学卒業するという約束をして芸能活動をしていたので、もう無理だと決めつけて家のソファーで大泣きしていたんです。そしたら母が「どうして泣いているの?」と聞いてくれて、「もう間に合わない」と言ったら、「諦めたら駄目!」とパソコンの画面に向き合って、エンターなどのキーを押し始めたんです。そしたら急に画面が変わって、ちょっとずつデータが戻ってきて。結果的に全部データは回復して、無事に卒業することができました。

 

──奇跡じゃないですか!

 

菅井 そうなんですよ! そのときに諦めなければ奇跡は起こるんだと母から教えてもらって。すぐに嘆かないで、チャレンジし続けることを大事にしたいなと思いました。そんな経験があったので、吉田を演じることに運命を感じました。

 

──吉田は市長と観光課の板挟みになりますが、そういう経験はありますか?

 

菅井 グループ時代、キャプテンを務めていたときは吉田のような難しさを感じる時もありました。行き詰まったときは、自分に何ができるんだろうと思い悩みました。メンバーとスタッフさん、どちらの気持ちも分かるからこそ、どう言葉で伝えたらいいのか判断が難しくて。いろんな立場の方の気持ちを知ることができた貴重な時間でした。

 

──そういう壁にぶつかったときは、どう乗り越えていたのでしょうか。

 

菅井 最初は誰にも言えなかったんですが、スタッフさんから「ちょっとずつでいいから、理解してもらえる子を一人でも二人でも増やしていくといいよ」とアドバイスをいただいて。そこから溜め込まずに、自分の弱みを見せていくことにしたんです。そうすると気持ちも軽くなるし、月日を重ねていくうちに理解してくれるメンバーも増えていきました。

 

──最後に改めて『怪獣ヤロウ!』の見どころをお聞かせください。

 

菅井 笑えるところもありますし、ウルっとするところもあって、盛りだくさんな内容ですが、どんな気持ちのときでもスーッと入ってきて、楽しい気持ちになれる映画です。悲しいことがあったとき、一歩踏み出したいとき、環境を変えたいときなどに観ると、勇気や力を届けられる作品になっているはずです!

 

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怪獣ヤロウ!

岐阜先行公開中、1月31日(金)より全国公開

【映画「怪獣ヤロウ!」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
監督・脚本:八木順一朗

出演:ぐんぴぃ
菅井友香 手塚とおる 三戸なつめ
平山浩行 田中要次 麿赤兒 清水ミチコ

(STORY)
岐阜県関市。市役所の観光課に務める山田一郎(ぐんぴぃ)はある日、市長(清水ミチコ)から“ご当地映画”の製作を命じられる。しかしどこにでもある“凡庸なご当地映画”に疑念を持った山田は、かねてからの夢だった〈怪獣映画〉の製作を思いつく。「いつも失敗ばかりでダメな自分を変えるため、パッとしない故郷を変えるため、怪獣で、全部をぶっ壊す!」。しかしその想いは、市政を巻き込んだ大事件へと発展していく。果たして山田は、夢だった〈怪獣映画〉を完成させることができるのか!?

公式HP:https://www.kaijuyaro.com/

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(C)チーム「怪獣ヤロウ」

 

撮影/千川 修 取材・文/猪口貴裕 ヘアメイク/相場清志(eif) スタイリスト/山本杏那

アートディレクター・山崎晴太郎「仕事道具に求めるものは、いかに自分を気持ちよく思考の中に潜らせてくれるか」『余白思考デザイン的考察学』第5回

デザイナー、経営者、テレビ番組のコメンテーターなど、多岐にわたる活動を展開するアートディレクターの山崎晴太郎さんが新たなモノの見方や楽しみ方を提案していく連載。自身の著書にもなった、ビジネスやデザインの分野だけにとどまらない「余白思考」という考え方から、暮らしを豊かにするヒントを紹介していきます。第5回は山崎さんの仕事道具をクローズアップ。デザイナーに欠かせない文房具やタブレットのこだわりから、作業に向かう時の知識的なアイテムまで5点をセレクトし、それぞれ解説していただきました。

 

 

アナログ的な要素を仕事の中に取り入れる大切さ

──まずご用意いただいたのが文房具。ペンケースのなかにシンプルに3種類のペンが入っており、ほかにも竹尺など、デザイナーには欠かせないアイテムが揃っています。

 

山崎 このペンケースに入った3点セットは常に持ち歩いているものです。中身はMONTBLANCのペンとよくある一般的な赤ペン、それに2Bの鉛筆。鉛筆の隣に刺さっている細い棒のようなものは栞です。普段から本を読むことが多く、今までは表紙のカバーをページに挟むようにして栞がわりにしていたのですが、大人が持つにはあまり見た目がよくないなと思いまして(笑)。それで、アートジュエリー作家である知人が作ったこの栞を愛用するようになりました。先端が天使のように見えることもあり、とても気に入っています。

 

──鉛筆はラフスケッチなどを描くためのものでしょうか?

 

山崎 そうですね。芯が柔らかいほうが好きなので使っているのは3Bから8Bが多いです。MONTBLANCのペンは20代の頃から使い始めたもの。同じデザインでゴールドとシルバーの2種類を持っています。若い時、会議中に少し貫禄を出したいなと思って使い始めました(笑)。このペンはほどよい太さで、手にした時のフィット感がすごくいい。ただ、インクの出方があまり好きではなく、そのため、改造して中身は三菱鉛筆のジェットストリームが入っています(笑)。

 

──ものすごく太いペンもありますが、これもMONTBLANCですか?

 

山崎 そうです。これはホルダーと呼ばれる道具です。シャーペンのように極太の芯が中から出てくる。建築やデザインの勉強をする時に、よく学生が学校で買わされるものですね。同じく竹尺も学生の頃から愛用している自作のものです。自分で長い竹尺を割って、好みのサイズにしていく。竹尺のメリットは金属製やプラスチックの定規とは違ってよくしなることで、また、一般的な定規とは違い、先端部分のメモリが0座標になっているから、定規の先を壁や角などに押し付けてそのまま正確な長さを測ることができるんです。ちょっとしたことですが、こうした利便性って仕事の効率においてすごく大事だと僕は思っています。

 

──確かに、わずかな使いづらさなどが徐々にストレスになり、集中力の低下にも繋がっていく気がします。

 

山崎 まさに。仕事っていかに自分のテンションを上げていくかが大事で。自分が好きな文房具を使うのも、その入口みたいなものだと考えています。このペンケースだって、ボタンを外し、ペンを取り出す時にものすごく気持ちが盛り上がる。自分にスイッチを入れる感じがするんです。それに、ペンや竹尺もそうですが、同じものを長く使い続けることで作業がルーティーン化し、パフォーマンスの再現性も高くなる。だから、学生時代や20代の頃から愛用しているものが多いですね。

 

──なるほど。続いてご紹介いただくのはペンタブレットです。

 

山崎 これはWacomの「Intuos Pro」。今使っているもので4代目になります。以前はもっとサイズが大きかったんですが、だんだんと小さくなってきました。小さすぎても使いにくいので、これがベストサイズだと思っています。

 

──勝手なイメージながら、最近はこうしたペンタブレットよりもiPadなどのほうが主流になっているのかと思っていました。

 

山崎 若いデザイナーはきっとそうでしょうね。これも先ほどと同じ理由で、僕のデザイナーとしての始まりが、グラフィックデザイナーだったということと、学生の頃からこのスタイルだからというのが大きいです。それに、液晶タブレットはイラストを描かれる方にとっては便利かもしれませんが、僕の仕事はレイアウトやグラフィックを作ることが多いんです。ですから、言ってみれば僕にとってこのペンタブはマウス代わりのようなもので、パソコンの世界にどうフィジカルを侵入させるかという感覚を作るための道具ともいえるんです。それに、これはあくまで僕の意見ですが、マウスを使っていると、どうしても“デジタルの世界でデジタル作業をしている”という感じがして、それがいまだになじまなくて。ネットで何かを検索する時もわざわざこのタブレットを使っていますし(笑)、そうしたアナログ的な動きが僕は好きなんですよね。

 

──アナログ的な感覚を好むか、もしくは利便性のあるデジタルですべての作業をするかは人それぞれだと思いますが、作業工程だけでなく、そこから生み出されるものもアナログとデジタルでは違いが出てくるものなのでしょうか?

 

山崎 僕は違いがあると思います。というのも、デジタルで作るとすべてが揃いすぎてしまうんです。分かりやすくいうと、複数の170cmの人間を描いたとして、デジタルだと服装やシルエットは違っても、きっちりと170cmの高さで統一されてしまう。でも、実際の世の中を見渡すと、同じ170cmでも髪型や靴の厚さなどで微妙に違いがあるのが当たり前なんですよね。そもそも、誰もが“170cmって大体これぐらいだよね”とざっくりした感覚を頭の中でイメージしながら物事を見るので、あまりにそろい過ぎていると、逆に違和感にも繋がるんです。また、僕にとって大事なのが、アナログから生み出される誤差や曖昧さって、いってみれば“余白”であり、そこには何かしらの面白さが偶発的に現れたり、入り込める余地がある。その意味でも、クリエイションの中にどこかしらアナログ的な要素を取り入れることをいつも大切にしています。

 

フィルム撮影で学ぶ決断力はいざという時の助けになる

──仕事のマストアイテムの3つ目はカメラ。デジカメとフィルムカメラ、そして意外にも「写ルンです」があります。

 

山崎 デジカメはフジフイルムの「X100V」です。これは本当に名機ですね。日常の仕事において、スナップがどれだけ速く立ち上がるかが大事なので、その点で言うと、ものすごく使いやすい。また、Xシリーズにはフィルムシミュレーションという機能があり、撮影の目的に合わせてさまざまな色彩をフィルムのように再現してくれるんです。エフェクト機能のようなものなのですが、それがとにかく素晴らしい。Xシリーズが多くの人から愛される理由の一つでもありますし、やっぱりみんなフィルムが好きなんだなぁって思います(笑)。今はフィルムそのものや現像代が高くなってきたので、贅沢な趣味のようになってきていますが、フィルムで写真を撮りたくなると、もう一つのミノルタの「TC-1」をよくポケッチに入れて持ち歩いています。

 

──どちらのカメラにも使い込んでいる跡がうかがえます。

 

山崎 Xシリーズの最新機種が最近出て、少し惹かれたのですが、以前に購入したものをそのまま使っています。僕は大学が写真専攻だったこともあり、これまでにも多くのカメラを使ってきました。でも、カメラって自分の体の一部のように馴染むまでに、すごく時間がかかるんですよね。学生時代、教授にも「1万枚は撮らないとカメラは自分のものにならない」と言われましたから。この「X100V」はまさにその一つですので、このまま壊れるまで使い続けようと思っています。

 

──異彩を放っているのが「写ルンです」ですが、これもよく利用されているのですか?

 

山崎 「写ルンです」はいつも会社で箱買いをして、入社して間もない新人のデザイナーたちに渡しているんです。このカメラを使って、「これだ!」と思うものを27枚撮ってきてもらう。センスが問われる課題のように思うかもしれませんが、別にそういったプレッシャーをかけるつもりはなくて。むしろ、「神様の視点で、27回も世の中の美しいものを切り取ることができる権利を与えられたと思って撮ってきてください」と伝えているんです。撮ってきたものに対して批評したいわけでもなく、何を撮ってくるかでその人の個性や視点が分かりますし、「写ルンです」には望遠レンズがないから自分で対象物に近づくしかなく、写真から感じられる距離感からもその人の感性が分かる。それ以外にも、撮ってきた27枚の関連性のない写真を一つの物語のように構成してもらったりと、これ一つでいろんな勉強ができるんです。

 

──とはいえ、27回しかチャンスがないと考えると、一枚一枚が勝負になりそうです。

 

山崎 そうですね。ですから、決断力を養う目的もあります。というのも、デザイナーってゆくゆくはアートディレクターやクリエイティブディレクターのように、作品全体を指揮する側にキャリアアップしていくことが多いのですが、立場が上に行けば行くほど、“決断”することが仕事になっていくんです。ほかの職種でも同じことが言えるかもしれませんが、ただクリエイティブの仕事では、何が美しいかを自分の感性で決めていかなければいけないし、それって誰かに相談して分かるものでもない。つまり、決断することの精神力の強さや胆力もいいアートディレクターの条件の一つであり、それを身につけるためにも、撮り直しの効かないフィルムを使って自分を鍛えることが大事だと思っているんです。

 

──続いてはヘッドホンですが、これは集中するためのものでしょうか?

 

山崎 そうです。「Bose QuietComfort Ultra Headphones」はノイズキャンセリング機能が非常に高いので愛用しています。企画やデザイン、アートなど、新しい作品を生み出す時って、0から1を生み出す作業が一番大変で、考えれば考えるほど自分の中に潜っていくような感覚になる。ですので、そこに向かっていくための儀式みたいな感じでヘッドホンを装着しています。僕にとってはアイデアの一番根っこの部分を作る時の一番の味方になので、このヘッドホンがないと本当に大変なことになります(笑)。

 

──そうした作業の時はどのような音楽を聴いていらっしゃるんですか?

 

山崎 歌声のあるものはそっちに気持ちが引っ張られてしまうので、アイスランド音楽を聴くことが多いです。アンビエントやポスト・クラシカル、ミニマル・ミュージックのような曲。仕事をしながら聴く音楽は内面とシンクロしていくので、曲選びも慎重にしています。

 

──ちなみに、BOSEは以前からよくお使いになられていたんですか?

 

山崎 ええ。もともとBOSEには思い入れがあり、社会人に成り立ての時に買った、初めてのちゃんとしたヘッドホンがBOSEの「QuietComfort2」だったんです。それからずっとBOSEを買い続けています。モノがいいというのもありますが、やはり20代の頃から愛用している、身体的に慣れているものを使い続けたいという気持ちが僕の中にはあって。それに、10代の頃は欲しくても高くて買えなかった。ですから、その頃からの憧れや、「ようやく自分も働いて買えるようになった!」という喜びも詰まっているんです(笑)。

 

身の回りにあるもの一つひとつが気持ちを上げるトリガーになっている

──そして5つ目が香水になります。ほかの4つと比べると、ご自身のマインドに関わってくるアイテムという印象があります。

 

山崎 そうですね。自分の気持ちを盛り上げるためのもの、という点で共通しています。そのなかでも最近愛用している3つを持ってきました。少し前に香水の仕事があり、その時に知った「フエギア 1833 」というアルゼンチンのブランドです。一般的に、香水にはケミカルな成分が入っているため、半年や一年ぐらいで使い切らないと劣化してしまう。でも、このブランドはすべて自然香料で作られているので、逆に経年劣化も楽しめるんです。

 

──まるでお酒のようですね。

 

山崎 本当にその通りで、同じ種類の香水でも製造年が古いと色も香りも全然違う。つい、いろんな種類を買いすぎてしまっても、急いで使い切る必要がなく、むしろ変化していく香りも楽しみの一つになっているんです。麻布台ヒルズにある店舗にはバーが併設されていて、香りとペアリングしてワインも楽しめる。香りがいいだけでなく、お酒のように熟成させることができ、しかも香水としては珍しいアルゼンチンのブランド。惹きつけられる要素が多くて、背景にあるストーリーも面白いですし、ブランディングとしても完璧で、すごく勉強になりました。

 

──もともと香水はお好きだったのでしょうか?

 

山崎 母親が大好きで、母と一緒にはまったのが、「アルキミア」のハンガリーウォーターという化粧水でした。ちょっとスピリチュアルな話になりますが、「スパゲリック法」という、中世ヨーロッパの伝統手法で作られていて、太陽や月の周期、自然の法則と調和しながら植物のエネルギーを引き出すといわれている方法で作られています。新月の日にだけ積まれるハーブを集めて作る香水なんです。つけていると体に馴染んでいく感じもして。それが僕が香りにハマったに原体験でした。仕事をするようになってからは、周りの人のために香水をつけるというより、自分を普段いる場所から別の世界に導いていくために使っているところがあります。クリエーションの仕事は突き詰めていくと、それまでの自分になかった思考をいかに見つけていくかも大事になってくる。先ほどの話しにも繋がりますが、どれだけ深くまで潜って、今までとは違う“何か”を見つけられるか。その出会いが新しい発想も生み出すので、香水も僕には欠かせないアイテムなんです。

 

──お話をうかがっていると、今回紹介していただいたものはすべて、自分自身と向き合うために必要なものという気がしました。

 

山崎 自分でも話しながら、全部に共通の価値観があるなと思いました(笑)。考えてみると、身の回りにあるもののほとんどがそうかもしれません。たとえば、気持ちを上げるという意味では傘もそうで。雨がシトシトと降っている日の自分の感情をどうデザインしてくかは、僕の中ですごく大事で。そのためのアイテムとして、柄の部分に動物がついた傘を持っているんです。FOX UMBRELLASというイギリスの老舗のステッキブランドで、折りたたみ傘をカバンの中に入れて、動物の顔だけがちょこんと外に出るようにしています(笑)。香水も文房具やヘッドホンも同じで、そうやって、すべてが仕事に気持ちよく向かうためにとても大事な要素であり、気分を上げるためのトリガーの一つになっているんですよね。

 

山崎晴太郎●やまざき・せいたろう(写真左)…代表取締役、クリエイティブディレクター 、アーティスト。1982年8月14日生まれ。立教大学卒。京都芸術大学大学院芸術修士。2008年、株式会社セイタロウデザイン設立。企業経営に併走するデザイン戦略設計やブランディングを中心に、グラフィック、WEB・空間・プロダクトなどのクリエイティブディレクションを手がける。「社会はデザインで変えることができる」という信念のもと、各省庁や企業と連携し、様々な社会問題をデザインの力で解決している。国内外の受賞歴多数。各デザインコンペ審査委員や省庁有識者委員を歴任。2018年より国外を中心に現代アーティストとしての活動を開始。主なプロジェクトに、東京2020オリンピック・パラリンピック表彰式、旧奈良監獄利活用基本構想、JR西日本、Starbucks Coffee、広瀬香美、代官山ASOなど。株式会社JMC取締役兼CDO。「情報7daysニュースキャスター」(TBS系)、「真相報道 バンキシャ!」(日本テレビ系)にコメンテーターとして出演中。著書に『余白思考 アートとデザインのプロがビジネスで大事にしている「ロジカル」を超える技術』(日経BP)がある。公式サイト / InstagramYouTube  ※山崎晴太郎さんの「崎」の字は、正しくは「大」の部分が「立」になります。

 

 

【「山崎晴太郎の余白思考 デザイン的考察学」連載一覧】
https://getnavi.jp/category/life/yohakushikodesigntekikousakugaku/

 

【Information】

余白思考 アートとデザインのプロがビジネスで大事にしている「ロジカル」を超える技術

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撮影/中村 功 取材・文/倉田モトキ

伊藤健太郎「地元の友達の子供たちも集まれる秘密基地を本気で作りたい!」ドラマ『未恋~かくれぼっちたち~』

1月より、カンテレ・フジテレビで放送、FODにて配信中のドラマ『未恋~かくれぼっちたち~』で、主人公・高坂健斗を演じている伊藤健太郎さん。本作で演じる高坂は、性格が真逆の2人の女性と向き合うことで、自分の気持ちとも向き合うようになっていく雑誌編集者という役どころ。これまで演じられた役から見る本作の高坂という人物像や、意気込みなどを伺いました。また、どうしても集めてしまうというあるモノについての話も。

 

伊藤健太郎●いとう・けんたろう…1997年6月30日生まれ、東京都出身。2012年よりモデル活動をスタートし、14年にドラマ『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』で俳優デビュー。『今日から俺は!!』で主人公のひとりであるヤンキーを演じブレイク。23年、『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』で、第47回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞した。Instagram

【伊藤健太郎さん撮り下ろし写真】

 

彼が成長する様を話数が進みにつれて表現したかった

──本作で演じている高坂は、過去に『東京ラブストーリー』で演じられたカンチを想起させるキャラクターだと思いました。

 

伊藤 性格はちょっと違いますけれど、『東京ラブストーリー』のカンチと同じような会社勤めしている普通オブ普通なキャラクターというのは、かなり久しぶりだったので、すごくうれしかったですし、「とても、やりがいのある作品になるだろうな」と楽しみでした。ラブストーリーって、けんかした直後に仲良くなるシーンを撮ったり、とても喜怒哀楽が激しかったりするので、意外と体力使うんです(笑)。だから、気合も入りましたね。

 

──最近は『静かなるドン』など、アウトロー系の役どころも増えた伊藤さんですが、ラブコメは柏木由紀さんと共演された『この恋はツミなのか!?』などでも演じられていました。

 

伊藤 コメディは必然的に現場も明るくなるので、とても楽しいです。でも、あえて面白くしようとすると、そうならなくなっちゃう部分もあるので、計算しすぎても良くないんですよ。かといって、何もしなかったらしなかったで、何をやっているか分からなくなっちゃうし、そこの塩梅が難しくもあり、楽しいんですよ。それに見てくださるファンの方のイメージを裏切っていくことは、その作品でしかできないことでもあるので、とても面白い作業だと思います。

 

──まったくタイプの違う2人の女性に挟まれるところも、どこかカンチっぽいですが、そんな高坂をどのようなキャラクターと捉えましたか?

 

伊藤 自分の本心をなかなか他人に言えないし、表現できない。ちょっと億劫になってしまっている人間だと思っています。そんな彼が2人の女性との三角関係みたいな中で翻弄されていくことで、仕事に対しても、プライベートに対しても言いたいことをちゃんと言えるようになっていくんです。そういった彼が成長していく様は、話数が進んでいくごとにしっかりと表現したかったし、意識して演じさせてもらいました。

 

──出版社のコミック編集者という設定については?

 

伊藤 「先生に描いていただくためには、何でもします!」といったタイプの方もいますし、作家先生と編集の方の関係性がとても独特だと思いましたね。これまで自分は雑誌などに載せていただいたり、編集部にお邪魔するようなことはありましたけれど、さすがに編集作業に関わることはなかったので、まったく未知な世界すぎました。改めて、大変なお仕事だと思いました。

 

「こんな奴、いるいる!」とツッコみながら見てほしい

──『東京ラブストーリー』から4年近く経っていますが、心境の変化もありましたか?

 

伊藤 あのときは20代前半で、初めて社会人の役を演じたと思うんですよ。自分ではそんなに分からないですけれど、周りからは「顔つきが変わったね」「大人っぽくなったね」って言われるんです。また、今回のビジュアルが出たときに、ファンの方々からも「カンチが大人になったパターンじゃない?」みたいなことを言っていただく方々もいて、ちょっとうれしかったですし、そういう見方で楽しんでいただけるかもと思っています。

 

──三角関係になる2人のヒロインを演じられた女優さんについてもお聞きします。まずは高坂が担当する漫画家・ゆず役の弓木奈於さんについての印象は?

 

伊藤 不思議な世界観を持っている方で、例えば普通の会話をしているときのワードチョイスがとても独特なんですよ。突然、「お」を付けて丁寧語になったりするのが面白いし、会話の入口と出口が違う。しかも、最初にお会いしたときのあいさつが「私、人見知りなんですよ」という不思議さもありました。ただ、緊張されているようなところもあったので、それが理由でパフォーマンスが下がってほしくないなっていう部分もあったので、こちらから積極的にお話をさせてもらいました。それもあって、高坂がゆずに翻弄されるパワーバランスが出来上がったと思います。

 

──続いて、高坂にとって過去の意中の人である、みなみ役・愛希れいかさんについての印象は?

 

伊藤 とても現場を引っ張ってくださる方なので、とてもありがたかったですが、愛希さんもお会いするや「私、本当は変なんです」って言われるような方なんです(笑)。とても大人な女性で、役者としても僕よりも先輩ですけど、段取り中にセリフを噛んでしまったときとか、ところどころ少女の心というか、無邪気な感じが出てくるんですよ。でも、ご本人はそれを隠そうとされているのが、すごく面白いんですよ。そんな素敵なお二人との共演だったので、自分もリラックスした状態で、楽しくお芝居をやらせていただけました。

 

──劇中では、現在進行形の話と同時に、小説家志望だった高坂の6年前のエピソードも描かれています。

 

伊藤 6年前の回想シーンでは前髪を全部下ろして、ちょっとモサい感じにしています。学生服を着るような大きな変化はないですけれど、キャラクターとして高坂が抱えてしまうものをより誇張することを意識しました。最終的に後悔することが多いネガティブ思考な男なんですよ。その後の6年間で、彼が会社で働くようになって、みんなから“Mr.リスク回避”と言われるような人間になるわけですが、自分がやりたいことより、自分がやらなきゃいけないことを選んだということも意識しながら演じています。

 

──現在ドラマを見ている方にメッセージをお願いします。

 

伊藤 放送する時間帯がわりと深い深夜帯の30分枠なので、仕事終わって、家帰ってきてとか、育児終わって、お子さん寝かせた後とか、たまたまテレビつけたら、何も考えずに見られるほのぼのした笑えるドラマになっていると思うんです。だから、僕の希望も込めて、ちょっと寝酒とか飲みながら、「こんな奴、いるいる!」とツッコみながら見てもらえるようなドラマになってほしいです。

 

タンブラーとマグカップに対するこだわり

──小説家になりたかった高坂のように、伊藤さん自身がいまだ叶えていない夢は?

 

伊藤 本気で、秘密基地を作ることですね。分かりやすく言うと、いまだに地元の友達と仲良くてよく遊ぶんですが、彼らが結婚して、子どもが産まれたりとかしても、勝手に遊びに来ることができるような場所。海が近くて、庭でバーベキューもできて、いろいろ遊べる『アイアンマン』のトニー・スタークが住んでいるような秘密基地を40歳までには作りたいんです。

 

──GetNavi webにちなみ、モノやコトについてお聞かせください。思わず集めてしまうモノなどはありますか。

 

伊藤 例えば、ブーツとか皮ジャンとかジーパンといったものは、ヴィンテージものや新品ものとか、かなり集めていまいます。手に入れると飾るとかではなく、どれだけレアなモノでも、ボロボロになるまで使いますね。あと、「一人暮らしだから、もう使わないだろう」って思っているのに、それでも地元のホームセンターに行ったときに買っちゃうのがタンブラーとマグカップ。使いやすさもそうですけれど、大きいやつが好きですね(笑)。『ファイト・クラブ』でブラッド・ピットがコーヒーを飲んでいるシーンを見て、マグカップを集め出したんですが、Fire-Kingというブランドは好きで、今では50個ぐらいあります。タンブラーもYETIというブランドが好きで、数が増えすぎて、友だちにあげたりしたんですが、それでも今15個はありますね。

 

──現場にいつも持って行くモノはありますか?

 

伊藤 基本、財布と携帯とカギ以外のモノは持たない主義ですが、バンダナは絶対ポケットに入っています。頭に巻く以外に、何かを包むでもときもあるし、ハンカチ代わりになるし、ポケットから出ていると、ちょっとだけおしゃれに見えるんですよ。アメカジの定番なんですが、バンダナも集めがちですね(笑)。

 

 

未恋~かくれぼっちたち~

カンテレにて、毎週木曜24:25~放送中

フジテレビにて、毎週木曜26:25~放送中

カンテレドーガ、TVer、FODにて配信中

(STAFF&CAST)
プロデューサー・監督:木村淳(カンテレ)
監督:髙山浩児(メディアプルポ)、中村剛
脚本:吉田ウーロン太、石黒麻衣、木村淳、中林佳苗

出演:伊藤健太郎、愛希れいか、弓木奈於(乃木坂46)、鈴木大河(IMP.)、氏家恵、藤本悠輔、伊勢佳世、森永悠希、金井勇太

(STORY)
中堅出版社でコミック誌の編集者として働く主人公・高坂健斗(伊藤健太郎)は、仕事熱心で人当たりも良く、デキル男でその上にイケメン。自宅に帰ってからも残業するなど、20代にしてはイマドキ珍しい仕事人間。しかし、それは“暇な時間”ができてしまうことが怖いから。実は、健斗にはかつて小説家を志して挫折した過去がある。今でも「小説を書きたい」という思いを心の奥に秘めながらも、本当の気持ちから逃げている。そんな中、出版社の大黒柱で、売れっ子アイドル漫画家・深田ゆず(弓木奈於)を担当することになり……。

公式サイト:https://www.ktv.jp/miren/

公式X:https://x.com/ktv_fod

公式Instagram:https://www.instagram.com/ktv_fod

 

撮影/映美 取材・文/くれい響 ヘアメイク/上野山聖菜 スタイリスト/宮崎辰二

メルヘンおじさんことキャンディさん。女装のルーツ、恋愛、闘病生活……波乱の半生を語る

フリフリのリボンやレースをデコレーションした一点もので街をブラつくおじいちゃん──。女装愛好家のキャンディ・H・ミルキィさんは現在72歳、そのファンシーな外見からは想像もつかない波乱万丈な半生を歩んできました。このほど、120分に渡るロングインタビューを敢行。女装のルーツ、恋愛、闘病生活、終活に至るまでの全てを激白してくれました。

 

キャンディ・H・ミルキィ…1952年東京都に生まれ。東京・柴又にある「キャンディ・キャンディ博物館」の館長を務める。Instagram

 

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新聞配達の合間に古着漁り「姉のブラウスがうらやましかった」

──「メルヘンおじさん」の名に違わぬ装いですね! まず、今日のファッションポイントを教えてください。

 

キャンディ ずばり“LFR”です!

 

──え?

 

キャンディ “レース、フリル、リボン”のことです(笑)。大事なことなので最初に断っておきますが、私は「LGBTQ」ではありません。男性で女性が好き。帝塚山学院大学の小田晋先生によれば、「君はレースやリボンを愛好するフェチニズムの世界の人」とのこと。つまり、レースやリボンをこよなく愛していると。

 

──なるほど、それで今日もたくさんの装飾品が……。

 

キャンディ 全部自分で布を買ってきてはミシンで継ぎ足しているの。見てよ! 袖が二重になっているでしょ? これは、寒暖に対応するため。暑い日に取り外せるように二重構造になっているんだよ。なんといっても、一年中着られるようにするためにも機能性は大事! でも、周囲からは“違法建築”だと言われることが常なんだよね。

 

──“違法建築”!? これまたどういう意味なのでしょうか?

 

キャンディ 船の模型を趣味にしている周辺でよく使われる業界用語。「魔改造」というとわかりやすいかな。船の場合は水面に浮くかどうかの機能性を無視して、自らの理想を実現させるあまりにパーツをどんどん足してしまう。まさしく沈没しちゃうような代物なわけさ。私の洋服も最初はいたってシンプルでした。そこにレース、リボン、エプロン、ケープ、スカートを次々に取り付けてしまってね。

 

──足し算ばかりで引き算はない?

 

キャンディ そうそう。そもそも小難しい計算ができるタチじゃない。インスピレーションでリボンが欲しくなれば足すし、レースが欲しくなれば足すだけのこと。ほら、これも見てよ! レースの使い方も上手でしょう?

 

──確かに匠の技ですね。先ほど、機能性の話をされていましたが流石に冬場は寒そうな恰好ですね。

 

キャンディ ちゃんとインナーとして温かいババシャツを着ているのよ(笑)ほら、セーターも着ているでしょ?

 

──本当だ! 失礼しました……。ちなみにフリフリのお洋服は何着ぐらい持っているんですか?

 

キャンディ だいたい20着ぐらいかな……。古いのを潰して新しく生まれ変わらせたり、20年以上着たのにデコレーションして復活させたりと結果的に長く着ているものばかり。常に何かしらミシンで作っているかな。だって、しょうがないんだもん。女装を始めた頃から太っていて市販のかわいい服だとサイズがない。だったら自分でイチから縫うしかないじゃない? あるいはマタニティドレスをデコレーションするしかないよね? 生地にはお金がかかるけど、他に道楽もないからね。とにかく安い店を探して材料は全部使いきるようにしているよ。

 

──素朴な疑問を失礼します。洗濯はできるんですか?

 

キャンディ もう洗濯機に放り込んでジャボジャボ洗っちゃう。ネットになんか入れないよ。基本的に綿製品ばかりなので丸洗いしてパッと干しちゃう。シワが残ればアイロンをかけるだけだからさ。

 

──ピンク色のウィッグもかわいらしいですね。

 

キャンディ ありがとうございます。被っているナースキャップにマッチしているでしょ? 自宅には大量にウィッグのストックがあるの。というのも、昔「ひまわり」という名前の同人雑誌を制作していた時代に、カツラ屋さんの広告を出したのにその代金を払えないからと代わりに大量のウィッグが送られてきた。で、それを読者プレゼントに出したんだけどかなりの数が余ってしまって。

 

──よく見ると足元もフリフリだ!

 

キャンディ なんと、これ安全靴よ。つま先に鉄板が入っている。外歩くのに疲れにくいんだ。どうしても、靴のサイズが25.5cm以上になるとかわいいのがなくなる。だから、自分でリボンをつけちゃうの。

 

──頭から足先まで抜かりなしですね。いつから女装に興味を持っていたんですか?

 

キャンディ 振り返ると、物心ついた頃から女の子の洋服やおもちゃにばかり興味があった。だって、かわいいんだもん~(笑)。4人きょうだいで1人だけ4歳上の姉がいて私は末っ子。で、姉がレースやフリルでふりふりのブラウスを着させてもらっているわけさ。それを見て「うらやましいな……」と憧憬の念を抱きながらも「俺は男だから……」と葛藤していたのを覚えている。なんせ、私が着ていたのは兄貴たちのおさがりばかり。もうシャツもズボンもボロボロでしたもん。

 

──末っ子の宿命ですね。

 

キャンディ こちらに決裁権はなし。それで、小学生の頃から父親の意向で新聞配達のアルバイトをしていたんだけど、配達で寄った団地のごみ置き場に古着が出されているのを見つけるや女性もののブラウスなんかをよく持って帰ったもんだよ。今じゃ考えられないけど、昭和中期は散らかさなければごみ置き場を漁っていてもうるさく言われなかった。実際に電化製品や家具を持って帰る人も珍しくない時代だからね。

 

──なんて大らかな時代なんだ……というか小学生の頃に新聞配達をしていたんですか?

 

キャンディ これも今ではあり得ない話だよね(笑)。でも、我が家は男兄弟全員がやっていた。朝4時に起きて朝刊を配って、学校が帰るなり夕刊を配る毎日。遊ぶ暇なんてなかったよ。学校には「ウチの教育方針なんだ」と父親が強引に許可を取りつけてしまった。少し小金を持っていた少年時代だったかもね。

 

──ちなみに持ち帰った古着はどうしていたんですか?

 

キャンディ 自宅の縁の下に隠していた。当時はレジ袋もビニールじゃなかった時代。クラフト紙や新聞紙にくるんで保管していた。それがある日、近所の野良猫が縁の下に住み着いて子どもを産んでしまった。古着のおかげで居心地の良い寝床が作れたんでしょうね。「ミャーミャー」鳴き声がするから家族に「一番チビだから縁の下を見てこい」と言われてのぞいてみたら猫の家族がいた。巣の寝床にされたボロボロの古着を見て家族たちも「こんなボロを咥えてきちゃって……」とあきれ返っていたんだけど、古着を咥えてきたのは猫じゃなくて私なんだよね(笑)。

 

一家の大黒柱が女装に熱中したキッカケは松田聖子。充実した女装ライフの先に待っていた別れとは!?

──家族には内緒にしていた少年時代に女装はいつどこで楽しんでいたんですか?

 

キャンディ 主にトイレだった。姉の洋服をくすねて天井裏や引き出しの奥に隠していてね。家族がテレビを見ている間にコッソリ……1人部屋をあてがわれる高校生まで続いた。実家にいた頃は“隠れキリスタン”みたいな心境だったよ。

 

──そこから待望の外デビューまでの道のりは?

 

キャンディ 実はしばらく女装趣味を封印していた時期があったんだ。工業高校を卒業して定時制高校に進学しているんだけど、そこで、カミさんと出会って結婚してしばらくはご無沙汰になりました。

 

──え、高校を入り直したんですか?

 

キャンディ はい。あまり知られていないんだけど、高校は卒業後に別の高校に入り直すことができるんだよ。で、私もカミさんも周囲より3歳上同士で気が合った。お互いに年下だと思っていたら同い年でね。そのまま結婚して3人の子宝にも恵まれ、蒲田に夢のマイホームも購入。すっかり女装のことも忘れて一家の大黒柱をしていたっけな。

 

──順風満帆な生活を送る中で転機が訪れるのですね。

 

キャンディ ある日、何気なくつけたテレビに映っていたのが真っ白な衣装を着た松田聖子だった。何を歌っていたのかは思い出せないけど、歌番組のは間違いない。その純白のフリフリ衣装を見た瞬間に、頭の中で「バチン!」とスイッチが入る音がしたんだよ。まるでSF映画「戦国自衛隊」のタイムトンネルに入ったシーンのような感覚。その日から松田聖子の衣装が頭から離れなかったな……。仕事も手につかなくなるほど。そこで思いついた解決方法が「女装サロン」でした。まぁ、何の解決にもなっていないんだけどね(笑)。

 

──「女装サロン」とは文字通り?

 

キャンディ 女装趣味の人たちが集まる「エリザベス会館」というサロンがあったのよ。その存在を知ってから半年ぐらいは入店できずに入口まで行っては帰ってを繰り返していた。やっぱり、勇気がいるじゃない? そんな中、4月4日に開催されていたパーティーに足を踏み入れた。受け付けから案内されるがままに更衣室で着替えてメイクをしたらビックリ! 鏡にうつる私の顔が姉にソックリなんだもん(笑)。そして、サロンのフロアに行くと同志の皆さんが拍手で出迎えてくれるわけ。流石に少しビビッてしまったよ。言葉では表現しきれないほどの光景が広がっていたんだからね。先輩方から開口一番に「アナタ4月4日にここに来たのは運命よ」って歓迎されてさ(笑)。

 

──どういう意味ですか?

 

キャンディ 3月3日は「桃の節句」、5月5日は「端午の節句」でしょ。その間の4月4日は私たちのようなマイノリティのためにある記念日。ベストプレイスを見つけてから坂を転がり落ちるように女装にのめり込んでしまった。

 

──それでさっき「何の解決にもなっていない」と

 

キャンディ 結局、週末のサロン通いが楽しみ過ぎて、水曜日ぐらいからソワソワして仕事が手につかなくなるの(笑)。でも、だんだんと活動の拠点が原宿に移っていく。当時、歩行者天国に竹の子族がいたんだよ。派手な衣装を着て踊っている雰囲気に惹かれて行くようなるんだけど、そのデビュー日にセーラー服を着て行ったの。馬鹿だよね~(笑)。

 

──さすがに浮いたんですか?

 

キャンディ そう(笑)。2回目はまた別の女装で行ったんだけどそれも若い連中からダメ出しを受けた。「おじさんそれじゃダメだよ」と言われながらも自分たちのお古を貸してくれてね。あまりに居心地が良かっただけに「エリザベス会館」から足が遠のいて原宿に通うようになっちゃた。毎週日曜日が楽しみだったよね。

 

──80年代サブカルのメインストリームにいたんですね。

 

キャンディ まさに30代。スーパーカブにコタツとコタツ布団を積んで行ったこともあったな。道路の真ん中にコタツを設置してみかんを食べながら誰それのバンド演奏を聴いて。かなりカオスな光景でしょ?

 

──もはや、どこにツッコミを入れればいいのやら……。

 

キャンディ 途中でスーパーカブからオフロードバイクに乗り代えて原宿には10年ほど通ったよ。ちなみに、“変身”していたのは「パレフランス」という建物のトイレ。懐かしいね~。

 

──家族にはバレますよね? 毎週ごとに父親が大荷物を抱えて外出しているんですから。

 

キャンディ ある日、カミさんに見つかっちゃうんだ。「子どもの教育上よくないから家に女装を持ち込まないでほしい。貸しロッカーでも借りて」と悲しい顔でお願いされてね。当時はロッカーよりも四畳半アパートの方が安かったからクローゼット代わりに近所の物件を契約しちゃった。今度はアパートの大家さんにもバレちゃうんだけど、「アパートに見知らぬ女の子がいると思ったら君だったのか!?」とビックリ仰天していた。

 

──近所だと子どもたちにもバレそうなものですが……。

 

キャンディ みんな気づいていたみたい。数年前に聞いてみたら「知っていたけどお父さんのことを嫌いになれない」と言ってくれて。みんな黙認してくれた。だけど、結局カミさんとは長く続かなかったね……。

 

──離婚する原因が女装だったんですか?

 

キャンディ そもそも女装がバレたのはマイホームを購入して引っ越したタイミング。荷解き中に「エリザベス会館」での写真が見つかってしまった。赤の他人なら私だと気づけないと思う。だけど、カミさんはすぐにわかったみたいね。子どもたちが寝てから「あなた変な趣味があるでしょ?」と聞かれるわけさ。この時ばかりは来るべき日が来たという心境。たぶん、100%理解してはもらえないと思ってはいたかな。実際に「何で私と結婚したの?」と質問されたのも女装=ゲイという先入観があったからでしょう。「お前のことを愛しているからだよ」とどれだけ伝えても疑念が晴れない。だから、一緒に「エリザベス会館」に行ったんだよ。

 

──そこで理解を得られたんですか?

 

キャンディ 似たような境遇の人に話を聞いて、ある一定の理解は得られたと思う。それでも、「生理的に嫌だ!」と拒絶されてしまった。つまり、理屈じゃないんだよ! カミさん側が「NO」なら別れる方向に舵を切らなきゃならない。私の女装は変えられないアイデンティティだから。そこからしばらくはいつもの日常が続いたけど、ある日突然、東京の家庭裁判所から呼び出しがかかるの。かみさんから離婚調停を申し立てられたんだ。

 

思い出に埋もれながら死ぬのが理想。5年以上に及ぶ闘病生活

──一緒に住んでいながら離婚調停がスタートしたんですね。

 

キャンディ 半年間の調停のみで協議離婚。長男と次男は私、三男はカミさんの家に住むことになった。子どもの往来は自由にしていたので夕飯の献立でその日に寝泊まりする家を決めていたようだな。

 

──バツイチになってから恋愛はしていますか?

 

キャンディ 現在進行形で言い寄っているのは小学生時代の初恋の子。通称「錦糸町のおばさん」と呼んでいる未亡人。お互いにフリーのはずなのに手を握ることすら叶わないだなこれが!

 

──まさに難航不落ですね。

 

キャンディ 周囲からレクチャーを受けて手を変え品を変えでアプローチしているのに「暖簾に腕押し」。振り返れば、我が人生は成就しない恋が多い気も……。

 

──それは残念です……話を戻します! 昭和から平成にかけて活動内容はどう変遷していくのですか?

 

キャンディ 原宿のホコ天がなくなると秋葉原に移った。ただし、この頃はおとなしかった。とにかく仕事に一生懸命な50代でした。

 

──女装愛好家とはまた違った顔を見せていたんですね。

 

キャンディ 「グランドハンドリング」という業務に従事していたんだよ。その中でも「汚水取り下ろし作業員」を専業していた。仕事のイメージがつかないでしょう?

 

──全く見当もつきません。

 

キャンディ 飛行機のトイレに溜まった糞尿を抜き取る仕事。汲み取り式の便所ならホースつないで処理すると思うけど、飛行機の場合はおしりのところから管を引いてタンクに落として処理場まで運ぶ。それを25年続けてね。これが失敗すると大変なんだよ。全身で中身を受け止めることになるんだから……。

 

──失敗したことあるんですか?

 

キャンディ そりゃ、何度も。だから、絶対に口を開けて作業しちゃダメ。しかも、ほったらかしにすると事故扱いになって飛行機の運航に支障をきたしてしまう。政府専用機や米国の「エアフォースワン」として運航中の飛行機も担当したことがあるよ。

 

──失礼ながら、仕事人間だった時期があるなんて驚きです。

 

キャンディ 定年まで勤めた後にアルバイトとしても働いたよ。と同時に60歳以降は「キャンディ・キャンディ博物館」の館長として人生を捧げています!

 

──東京・柴又にある少女漫画『キャンディ♡キャンディ』(講談社)ファンの聖地ですね。

 

キャンディ 2017年に開設しました。きっかけは、東京・文京区にある「弥生美術館」で漫画家の陸奥A子先生の展示会での出会い。たまたま居合わせた人から世間話の流れで『キャンディ♡キャンディ』のグッズを展示しないかと持ちかけられてね。で、その方が経営している喫茶店「セピア」の2階で私物のグッズを展示することになったんだよ。

 

──それ以前にもグッズの展示はされていたと聞きました。

 

キャンディ もともとはマイノリティのイベントで知り合ったイタリア人男性と一緒に展示会をやろうとしていたの。作画を担当していたいがらしゆみこ先生のアシスタントをしていた人物で、部屋中に『キャンディ♡キャンディ』のグッズを並べているようなコレクターでもあった。それがビザの都合で帰国することになって断念。結局、私1人でやることに。記念すべき第1回は秋葉原にあるメイド喫茶の控室。

 

──いささかアンダーグラウンドな雰囲気ですね。

 

キャンディ それでも、それなりにお客さんが入ったの。蒲田にあるお好み屋さんや茨城県鉾田市の図書館でも展示会をしたっけな。展示会をライフワークにしていただけに喫茶店での展示に誘われたのは願ってもないことだったね。

 

──しばしばメディアでも取り上げられていますもんね。テレビに初めて出演したのはいつ頃だったんですか?

 

キャンディ 「エリザベス会館」に通っていた時代。ただ、どうしてもプライバシーの都合もあるだけに店側が“自主規制”よろしく取材規制されちゃう。それで、だんだんと直接メディアの取材を受けるようになったんだ。たくさんのワイドショーに出せてもらいましたよ。中でも印象に残っている共演者は野坂昭如さん。ゲストで呼ばれた時に、野坂さんが自ら「俺も女装する」と言い出したの。銀座から衣装を運んでくるまでの時間に雑談した思い出です。しかも、楽屋のドアの向こうにいた新聞社のカメラマンがレンズを向けようものなら、「お前らな、変身しているところの写真を撮ったらダメなんだ!」と一喝。こちらの機微まで理解してくれていて感激した記憶しかない。しばらくしたら、大島渚監督も楽屋に入ってきて……。

 

──え、どんな展開なんですか?

 

キャンディ どうも、野坂さんと家族ぐるみの付き合いだったみたい。「野坂、今日は飲んでないらしいじゃないか? 大丈夫なのか?」と心配そうに尋ねるの。スタッフがすかさず「今日はお酒いらないと聞いています」とレスポンスしているのを聞くなり驚いたよね。あの頃の野坂さんのエンジンは酒がないと稼働しなかったらしい。酒を飲まないのを聞いて心配した大島監督がわざわざ駆けつけてくれたようなんだ。

 

──とんでもない大物がカットイン。本番よりも緊張しそうだ(笑)。

 

キャンディ 震えるどころじゃありませんよ。こっちは単なる女装を趣味にしているおじさんなわけですから(笑)。

 

──しかしながら、一時期テレビ出演が途絶えた時期がありました。

 

キャンディ でしょう? あれは『キャンディ♡キャンディ』の裁判の絡みで出演を見合わせることになっていたの。

 

──1995年に原作の水木杏子先生と作画のいがらしゆみこ先生による著作権裁判ですね?

 

キャンディ 「キャンディ」という名前だけでピリピリしていた。10年ほどテレビから離れていたかもしれない。時々、雑誌や新聞では取り上げてくれていて、中でも夕刊紙で取材を受けた記事を『5時に夢中!』(TOKYO MX)でイジってもらって拡散されたイメージ。

 

──マツコ・デラックスさんや有吉弘行さんなど芸能界にもファンが多い印象です。

 

キャンディ 昔からの友人のような扱いをしてくれるからうれしい限りだよね。

 

──とても元気に見えますが闘病生活を送っているんだとか?

 

キャンディ 5年ほど前に「突発性間質性肺炎」の診断を受けました。肺が線維化してスポンジみたいになってしまう病気。そして原因は不明。現状、特効薬がなく完治できない厚生労働省が指定する難病で困っちゃうよ。今日も酸素ボンベを積んだ赤いランドセルを背負ってきてね。カートで引っ張るよりも恰好もいいでしょう? ちなみに傘は杖の代わりに使っているよ。もう72歳ボロボロだよ~。

 

──平均生存率は診断確定後3~5年です。

 

キャンディ 24年が5年目。延命治療をしているだけに1年あるいは2年は長く生きられるかもしれない。ただ、1年目からの検査データを見比べると下降線をたどっていてへこんじゃう。歌手の八代亜紀さんも「間質性肺炎」で亡くなりました。私もいつお迎えがきてもおかしくないフェイズ。もう、注意のしようがないよね。

 

──そんな中でどのような「終活プラン」を考えているんでしょうか?

 

キャンディ 思い出に埋もれながら死ぬのが理想。基本的に物を捨てることはしたくない。ただし、死んだ後に遺品を処分する手配だけはしようと考えている。まだ、子どもたちにも話せていませんが……。一応、業者さんに託せるだけの蓄えは残しているつもり。あと、葬式はやらないでくれとお願いしているよ。

 

──その心は?

 

キャンディ だって、お金がかかるじゃない? だけど、さすがに「キャンディ・キャンディ博物館」だけは25年のうちに閉めるか誰かに引き継ぐか決めなきゃならない。

 

──形見分けになるのでしょうか?

 

キャンディ グッズのコレクションは欲しい人に譲ってもいいと思っている。もし、後継者がいなければ国内のみならず海外のファンを含めてバザーないしオークションをしてアパートや展示スペースの撤去費用の足しにすればいい。

 

──未練はある?

 

キャンディ もちろん! 特にやり残したことは思いつかないけど、生きていればまだやれることがたくさんあるよね? 今でも寝る前にデコレーションのアイデアを思いつくし……。とにかく、なんとか1日でも長く生きるのが今の目標です。一番有効なのは「死ぬ死ぬ~」とみずから騒ぎ立てることだと聞きました。しぶとく唱え続けていきますよ!

 

 

構成・撮影/丸山剛史 取材・文/多嶋正大

Netflixで話題作を手がける髙橋信一プロデューサーインタビュー「クリエイターの皆さんと共に誰も見たことがないような作品をつくり続ける」

2024年はNetflixオリジナル作品が今まで以上に注目された一年でした。特に話題を呼んだ 『シティーハンター』『地面師たち』『極悪女王』の制作にエグゼクティブ・プロデューサーとして力を尽くした髙橋信一氏に、それぞれのヒット作品への思いを語ってもらいました。

 

※こちらは「GetNavi」2025年1月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

 

「一気見」してしまうことで生まれる「熱量」のようなものは、やはりNetflixならでは

──2024年はNetflixのオリジナル作品が一段と話題を振りまいていたように思います。

 

髙橋 そうですね、私たちもますます多くの方々にNetflixオリジナル作品をご覧いただき、話題にしていただいた手応えを感じています。先日、映像ディレクターの大根仁さんがお一人で食事をしていたら、隣のカップルが『地面師たち』について会話を交わしていたことにとても驚いたと話していました。多くのNetflixオリジナル作品がヒットしたことをとてもうれしく思っています。お客様が求める「作品の多様性」にNetflixが応えられていることが、よい成果に結びついているように思います。

 

──Netflixの作品はスマホやパソコンを使って、視聴者がいつでも好きなときに自分のペースで見られる自由度の高さが魅力的ですね。

 

髙橋 新作ドラマシリーズを「一挙配信」すること、テレビの地上波で毎週放送すること、どちらにも良さがあると私は思います。作品をお客様が見たいタイミングに、時間を忘れて「一気見」してしまうことで生まれる「熱量」のようなものは、やはりNetflixならではの視聴体験なのかもしれません。

Netflixの作品を「一気見した」という声がSNSにたくさん投稿されたり、日常の対面による会話で交わされることで「一気見するほど面白いの?」という好奇心が喚起されます。これに勝る作品の「品質保証」はないと思いますし、視聴者の皆様に話題にしていただけることが何よりうれしいことです。

 

──視聴者の期待を受けて、Netflixのスタッフも大変な熱量をかけて作品を制作していることが伝わってきます。尺の長い作品を一気に作りあげることも大変だと思いますが、何より「一気見」したくなる作品をつくるために皆さんも熱量を高めなければならないですよね。

 

髙橋 確かにそうですね。お客様がひとつの作品をご覧になったあと、次にまた「見たことのない作品がNetflixでなら見られる」ことへの期待を持っていただけたなら、その期待に応えたいと心底思いますし、だからこそ私たちの意欲もわいてくるというものです。

(C)新庄耕/集英社

 

「きっと今までに誰も見たことのないミステリーになる」という確信と興奮

──2024年に髙橋さんが手がけた『シティーハンター』『地面師たち』『極悪女王』について、それぞれの作品に対する髙橋さんの思い入れを聞かせてください。

 

髙橋 『シティーハンター』と『極悪女王』は、私がNetflixに入社した直後から制作を始めて、配信を開始するまでにとても長い時間をかけた作品です。シンプルに「やっと完成・配信できた!」という達成感が強くありました。

それぞれに時間をかけたポイントは異なっています。『シティーハンター』でいえば、私がNetflixに入社する前に主演の鈴木亮平さんが「いつかシティーハンターの冴羽獠演じたい」という想いを持っていると聞いたことがあり、まさにそれが現実になったわけですが、いざ実写化が進むという段階で昭和の大人気コミックを原作として、令和の時代により多くの方々に楽しんでもらうためにどうすれば良いのか、試行錯誤しました。人気のある原作をリスペクトしながらアップデートすることの難しさに何度もぶつかりました。ひとつひとつ丁寧に細部を詰めてきたことで、視聴者の皆様に受け入れてもらえる“令和のシティーハンター”をつくることができたと思います。

 

──『極悪女王』はいかがでしたか。

 

髙橋 『極悪女王』も『シティーハンター』とほぼ同じタイミングで制作を開始した作品です。2020年頃にキャストを決めるオーディションからスタートしました。振り返れば主演のゆりやんレトリィバァさんの配役が同年の10月、11月ごろにオーディションを経て決定したので、配信開始まで本当に長い時間をかけてきたものだと思います。

レスラーの役を演じていただいた女優の皆さんには、本当に長い時間をかけて役作りに向き合っていただいたことに心から感謝しています。役者の皆さんが全力で、真剣勝負で挑んでくれたからこそ本作の熱量が生まれたと思っています。

 

──そして『地面師たち』も大いに話題を振りまく作品になりましたね。

 

髙橋 私がNetflixに入社する前から「大根さんと一緒に作品を作りたい」と思っていました。そんな中で『地面師たち』は大根さんからいただいた企画でした。最初に提案をいただいた時、正直に申し上げると、私はまだその内容に懐疑的でした。原作の面白さは映像化には向かないと考えていたのです。ところが大根さんはそれらの懸念を理解した上で、その懸念を払拭する鮮烈な実写映像化のアイデアを次々と提案してくれました。その面白さに、すっかり魅了されました。とにかく想像の斜め上を行くクリエイティブの提案をいただけたことに興奮したことを覚えています。

クリエイターの創作活動を最大化するサポートすることもプロデューサーの仕事のひとつですが、「この作品が世に出たら、きっと今までに誰も見たことのないサスペンスになる」という確信と興奮を感じながら制作に関わってきました。ここまで本当に多くの皆様に愛される作品になったことが何よりもうれしいです。

 

──Netflixでは、2024年上半期にヒットした作品の情報をまとめた「What We Watched: Netflixエンゲージメントレポート」を紹介しています。『シティーハンター』もヒットした作品として紹介されています。

 

髙橋 『シティーハンター』は非英語のウィークリーランキングでグローバル1位も獲得しました。弊社の佐藤善宏がエグゼクティブ・プロデューサーを務め、賀来賢人さんやデイブ・ボイル監督と共に作り上げた『忍びの家 House of Ninjas』も非英語のウィークリーランキングでグローバル1位になっています。Netflixでグローバル配信される非英語作品の中でも、特に日本のオリジナル作品の存在感が徐々に高まっていることを実感しています。

 

──例えばアメリカ発のドラマと対比した時に、日本の作品はどんなところが面白いと受けとめられているのだと思いますか。

 

髙橋 日本だけではなく、世界のどの地域の作品にも共通して言えることだと思いますが、「まだ誰も見たことのない独自性豊かな物語」が求められています。そして一方で私たち日本人にしか馴染みのなさそうな物語でも、その物語の中に世界中で共通する「普遍性」があれば多くの視聴者に注目されるように思います。

 

──『シティーハンター』や『地面師たち』の物語が展開する舞台のビジュアルはとても「日本らしく」もありながら、いま髙橋さんが言及した「普遍性」を持った物語がそこに展開されているように思います。しかも海外の方々が憧れるような、昔ながらのジャパニズムにもたれかかることなく「今の日本」がとても正確に反映されている。だからこそ海外の方々が見ても違和感なく、普遍性を共有できるように思います。『極悪女王』はいかがでしょうか?

 

髙橋 『極悪女王』は日本ならではの時代背景や文化的背景の要素がとても強い作品だと思います。ただ私自身はダンプ松本さんをはじめ、多くのレスラーの皆様と向き合いながらお話を聞く中で、当時のレスラーの方々が抱えていた葛藤というか、生き方の中に誰しもが共感しうる普遍的な物語をつむぐために欠かせない要素がたくさんあると感じました。憧れと現実の間で苦しむ若者の姿はもちろん、当時の日本を描くことによって、今日本が抱えている社会課題が浮き彫りになる。その結果、現代のNetflixファンの方々にこの物語の魅力が伝わるはずだと。もちろん企画・プロデュース・脚本を担当された鈴木おさむさんと総監督の白石和彌さんの手腕によるところが何よりも大きいと思っています。

作品をご覧いただいた方々にはよく「アンチヒーローものの物語にのめり込めた」という感想をいただくことがあります。今の世の中にある普遍的な課題感が物語に通定しているからだと私は思っています。何かを成し遂げたくてもうまくいかなかったり、与えられた環境の中で必死にもがいて、唯一掴んだチャンスが、自分が思い描いていた理想と違っていたりということは、私たちが生きている中で誰にでも起こりうることです。「これが本当にやりたかったことなのか」と、自問自答しながら今を生きることは、誰でも一度は経験することだと思いますので。

 

──作品の全話を視聴した後にも、YouTubeの公式動画も含めて作品の魅力を深掘りできるいい時代になりましたね。

 

髙橋 そう思います。NetflixではYouTubeの公式チャンネルから、作品のメイキング映像やキャストのインタビューなど様々なコンテンツを配信して、熱量を高める工夫を凝らしています。作品の魅力を伝えるためにはSNS戦略も欠かせない時代ですので、社内のマーケティングや宣伝チームと綿密な連携を図っています。

 

──『極悪女王』を見たことがきっかけになって、現代の女子プロレスに興味を持つファンも増えていると聞きます。

 

髙橋 もし本当にそうであれば、私もすごくうれしいです。『極悪女王』の制作では長与千種さんをはじめ、女子プロレスの関係者の皆様に多大なる支援をいただきましたので、恩返しができれば何よりです。『極悪女王』だけでなくNetflixでの映像化をきっかけに原作やロケ地など関わっていただいた方々にポジティブな反響があったことを多くご連絡いただいており、今後もさらに皆さんに喜んでいただける制作を行っていければと思っています。

 

──『地面師たち』に登場する個性豊かなキャラクターたちも注目を集めています。

 

髙橋 『地面師たち』は登場するキャラクターやセリフの魅力がネットミーム化するほど、私たちの予想を超える広がりが生まれました。監督と俳優の皆様がつくり出した個性豊かな「地面師軍団」の魅力が視聴者の皆様に伝わっていることが、すごく成功した所以なのだと思います。

 

──被害者のキャラクターたちにはかわいそうですが、なぜかそこまで同情できずに、むしろ地面師軍団に「成功してくれ……!」と応援しながら物語を見てしまいます。

 

髙橋 まさに大根さんが作劇の中で仕掛けたことが狙い通りに伝わっているようで、とてもうれしいですね。監督もインタビューで答えていましたが、日本人はある種の「ドッキリ」が好きな国民なのかもしれません。その感覚を物語の中に巧みに落とし込んで、観客の熱量を高めることができたのだと思います。

 

世界中の視聴者の皆さまがあっと驚くような剣劇アクション

──2025年はNetflixでこんなことに挑戦してみたいと、髙橋さんが計画していることを教えていただけますか。

 

髙橋 私は来年、「イクサガミ」という作品のエクゼクティブ・プロデューサーを担当します。俳優の岡田准一さんが主演・プロデューサー・アクションプランナーを兼務する話題作です。メインの監督には藤井道人さんをお迎えします。

日本発のNetflixオリジナル作品としては初めて時代劇に挑戦します。岡田さんが制作発表の際にも「時代劇をアップデートする」とコメントされていますが、日本だけでなく、世界中の視聴者の皆さまがあっと驚くような剣劇アクションになると思います。

2025年には『忍びの家 House of Ninja』を手がけた佐藤善宏が樋口真嗣監督と共に映画『新幹線大爆破』に挑みます。2024年11月に配信が開始されたNetflixシリーズ『さよならのつづき』を手がけた岡野真紀子と、俳優の佐藤健さんが主演兼共同エクゼクティブ・プロデューサーを務め、柿本ケンサクさんが監督・撮影をされる『グラスハート』の配信も控えています。

それら以外にも「Netflixが次はこう来たか!」と、今年以上に多くの方々に驚いてもらえるのではないかと私も楽しみにしています。

 

──ありがとうございました。

 

髙橋信一●たかはし・しんいち…映画・テレビなど様々なコンテンツを日活でプロデュース後、Netflixコンテンツ部門でエグゼクティブ・プロデューサーとして日本発の実写全般での制作及び編成を担当。今回紹介した3つの映画・シリーズのほか、Netflixコメディシリーズ「トークサバイバー」も手掛ける。

 

 

 

 

Netflix映画
シティーハンター

2024年4月よりNetflixにて独占配信中

裏社会ではシティーハンターの名前を知らない悪人(ワル)はいない。凄腕の始末屋(スナイパー)冴羽 獠と犯罪を憎む正義漢の元刑事、槇村秀幸がマモル新宿・歌舞伎町にある日、大きな事件が巻き起こる。

 

(C)新庄耕/集英社

Netflixシリーズ
地面師たち

2024年7月よりNetflixにて独占配信中

作家・新庄 耕氏が実話を基に書いたという小説を初めて映像化。「地面師(じめんし)」と呼ばれる不動産をめぐる詐欺集団たちが繰り広げる全7話のクライム・サスペンスストーリー。綾野 剛と豊川悦司がダブル主演を務める。

(C)新庄耕/集英社

 

Netflixシリーズ
極悪女王

2024年9月よりNetflixにて独占配信中

プロレスに運命を変えられ、人生を捧げた心優しい一人の少女。挫折と葛藤を乗り越えて一流の極悪プロレスラーとして悪の華を満開に咲かせたダンプ松本の半生を描く、Netflix流のスポ根ドラマ。

 

 

撮影/中村 功

百里基地航空祭に行ったら、グラビアで大人気の三橋くんがいました!

「超楽しかったです! F-2の飛行が見られたのは激アツでしたね」と興奮気味に語ってくれたのは、雑誌グラビアやコスプレで活躍中の三橋くん(くんだけど女の子)。小さいころから父親に連れられて自衛隊基地航空祭に行ったのがきっかけで戦闘機の虜に。今や戦闘機だけでなく立派なミリタリーファンに成長している。

 

プライベートでもよく参加しているという三橋くんが、2024年12月8日、茨城県にある航空自衛隊百里基地で開催された航空祭を訪れているという。早速現地にて少し時間をいただき、「百里基地航空祭2024」の感想を聞いた。大好きな戦闘機をバックに記念撮影も。

 

三橋くん●みつはしくん…2001年11月12日生まれ。東京都出身。血液型O型。身長162cm、B96、W58、H86。趣味はFPSゲーム、コスプレ。戦闘機のF-1からF-35の愛称を全部言える特技を持つ。XInstagramTikTok

 

↑なんとか最前列までたどり着き、自撮りを試みる三橋くん

 

「F-2戦闘機の飛行を見られたのがうれしいです。F-2や、今回は時間が早くて見られなかったんですが、F-15戦闘機が飛行するところって、なかなか見られる機会がないので。それが見られたのは激アツでしたね。私的にはF-2の音がすっごい好きなんですよ。1基のエンジンで最大速度マッハ約2.0ですからね。独特の飛行音がするんですよ」と目を輝かせながら語る。

 

本イベントでは、F-2戦闘機やF-15戦闘機による機動飛行のほかに、UH-60J救難ヘリコプターやU-125A救難捜索機による捜索救助デモなども行われた。それらは大勢の観客の目の前に地上に展示している状態から、エンジンに火が入り、滑走路へ移動し離陸していく。エンジンの轟音や匂いも間近に感じられるイベントで、ミリタリーファンの三橋くんが興奮するのも無理はない。

 

この日は、過去最多の6万5000人が来場。一番人気だったのは、ブルーインパルスによる曲技飛行だ。

↑大勢の観客に交じって一生懸命スマホで写真や動画を撮影する三橋くん

 

「今回のブルーインパルスの飛行、すごいめっちゃキレイじゃなかったですか! 編隊飛行がすっごい揃っててキレイでびっくりしました。もちろんいつも素晴らしい編隊飛行を見せてくれるんですけど、いつもにも増してって感じがしました。やっぱり百里基地は周辺に高い建物もないのでとても見やすいですよね。ファンがたくさん来るので、最前列に行くのは難しいですけど、すごく低いところを飛んでくれるのでお腹側だったり、エンジン側もよく見えたしとても満足です!」

【三橋くん本人がスマホで撮影した写真】

 

今年は航空祭のほかにも全国の基地にプライベートで訪れたという三橋くん。

 

「全部で6回かな? 北海道と沖縄の基地には、親族で基地で働いている方がいて、父と弟と私の3人を招待していただいて。あと関東にある基地は全制覇したような気がします。来年も航空祭にもたくさん行きたいですね」

 

ミリタリー好きということが広まって、ミリタリー模型専門誌「アーマーモデリング」でのホビーショーのレポート記事に登場するなど、ミリタリー関連の仕事に繋がってきている三橋くん。もっとミリタリーファンの女の子が増えてほしいという。

↑雑誌「アーマーモデリング」佐藤ミナミ編集長との2ショット

 

「ミリタリーって、パッと見すごい男性向けなコアな趣味みたいなイメージなんですけど、でも意外にイベントとかに来て戦闘機が飛行するところとか見ると、“おぉ! すごっ!”てなるんですよ。めちゃめちゃ興奮すると思います。あと、パイロットさんが手を振ってくれたり、めちゃレスくれます。そういうの嬉しいですよね。“レスくれた! ファンサしてくれた!”」みたいな。アイドルを推す感覚で身近になってくれたらなって思います」

↑ブルーインパルスのパイロットに手を振る三橋くん

 

お笑い愛あふれる分析ノート持参! 冨手麻妙が【M-1グランプリ2024】三連単ガチ予想!

日本一の漫才師を決める頂上決戦『M-1グランプリ2024』(テレビ朝日系)が12月22日(日)に開催される。今大会では、ついにエントリー数が1万組を越え、過去最多を記録したほか、2023年大会でチャンピオンに輝いた令和ロマンが史上初の連覇となるかも大きな話題となっている。

そこで今回、5月20日のXに、<Mおぢ凄すぎるって。いつかこうなりたい><いつかMおばになってお笑い賞レース予想記事書いてもらおう>というポストをしていた女優の冨手麻妙さんに予想をオファー。X上では普段からお笑い愛を感じさせるポストをしており、今回のM-1についても、<トムブラウン上がってきたのまじ凄すぎるwww><鬼としみちゃむ居ないの本当に泣きそう><めっちゃいいポスター! 井口かわいい>など言及し、同業者ならば敬称をつけがちだが呼び捨てしているところにお笑いファンらしさを感じてしまう。「同業だなんてとんでもない! 雲の上の存在です」と言いながら持参したM-1分析ノートをめくる冨手さんに、愛ゆえの敬称略で予想してもらいました!

 

冨手麻妙●とみて・あみ…1994年3月17日生まれ。神奈川県出身。主な出演作に映画「サイレント・トーキョー」「生きててごめんなさい」「愛の茶番」、ドラマ「どうか私より不幸でいて下さい」、Netflix「全裸監督」シリーズなど。公式HPXInstagram

冨手麻妙さん撮り下ろし写真

 

クリスマスは三浦マイルドがやっていたライブを観にひとり祇園花月へ

──ノート、何ページにも渡りびっしりと書いていますね。

 

冨手 今回の予想に関することのほかに、忘れてしまっている昔の大会を見返してメモしてきたんです。

 

──昔からお笑いが好きだったんですか?

 

冨手 ちゃんと好きになったのは2020年の『キングオブコント』(TBS系)です。ニッポンの社長の「ケンタウルス」のネタを観て衝撃と感銘を受け、そこから「趣味:お笑い」になりました。それまでは家族の団らんでテレビがついていて「今年はあの人が優勝したのかぁ」という程度の見方でしたが、そこからガラッと変わって、本気で見ようと。

 

──2020年というとコロナ禍真っただ中でしたね。

 

冨手 はい、その環境も後押しになりました。家にいる時間が増えて芸人さんのYouTubeを見る時間が増えて。さらば青春の光、ニューヨーク、見取り図……ひたすら見ていました。そうすると、見取り図は当時大阪にいて、大阪吉本のコニュニティを知り、属している若手を知り、ニューヨークきかっけで東京吉本を知り、と広がっていきました。劇場には、ニッポンの社長に“こんなに面白い芸人さんがいるんだ!”と本当に衝撃を受けたことで、まずは大阪の劇場に行くようになったんです。

 

──東京ではなく、まず遠征したんですね。

 

冨手 先に大阪吉本を好きになっちゃったので。まだマユリカやロングコートダディがいたころの京都の祇園花月に行ったりしていました。

 

──どのくらいのペースですか?

 

冨手 月1で、いつも1人で行っていました。クリスマスの祇園花月にも行ったことがあるんですよ。三浦マイルドさんがやっていたライブが、金属バットなどいいメンツが出ていて。そうやって劇場に足を運ぶと新たに芸人さんを知ることができるし、発見がたくさんあって楽しいんです。その後、無限大ホールなど東京の方にも行くようになりました。

 

──東京では誰が好きなんですか?

 

冨手 いぬ、です! クセが強くて独特の世界観を持った芸人さんが好きなんですよね。いまみたいにお笑いにハマる前に、一時期かもめんたるにハマった時期もあって、そういう人に魅力を感じます。

 

いつも三連単は惨敗「私の予想はパラレルワールドの順位(笑)」

──早速M-1について聞きたいんですが、これまでで印象的な大会は?

 

冨手 リアルタイムで見ていて号泣したのは、錦鯉が優勝した2021年です。あの大会のテーマが「人生を変えろ」で、それまで世間に浸透していなかった錦鯉が、本当にあの瞬間に人生を変えたじゃないですか。そんなふうに、振り返るとどの大会もバックボーンがあって、すごくいいなあ……と今回改めて見ながら思いました。個人的には優勝した芸人さんのネタより、最下位のほうが好みだったりしましたね。POISON GIRL BAND(ポイズンガールバンド)とか。

 

──いまは活動休止中ですよね。

 

冨手 そうなんですよね。3回出て、2006年と2007年どちらも最下位なんです。スリムクラブが初めて決勝に行った2010年もすごく好きです。笑い飯が念願の優勝を果たした年で、スリムクラブが衝撃的に登場して、松本人志さんがすごく高い点数をつけるんですよ。松本さんは真栄田(賢)さんを自分の番組に呼ぶことが多かったんですが、そのときから2人の歴史があるんだなあと、今とのつながりを感じます。あとはやっぱりトム・ブラウン! 推しなんです。2018年に初めて決勝に行ったとき、(立川)志らく師匠が「また戻ってきてください」ということを言っていて、それが6年後しで叶ったというのがうれしいです。

 

──レベルの高さを感じた年はありましたか?

 

冨手 全体的にすごいと思ったのは2019年、ミルクボーイが優勝した年ですね。1本目のネタを見た瞬間の感動もありましたし、かまいたちもすごかったし、ぺこぱは新しさを感じたし、どのコンビも爆発的な面白さでどこが優勝してもおかしくない年でしたよね。世間的にも「2019年はすごい」と答える人は多いと思います。

 

──この年の最下位はニューヨークなんですね。

 

冨手 意外ですよね。毎年1、2組は最下位をとっても「まあOK」みたいな暗黙の認識があると思いますが、2019年はいないように感じましたね。

 

──あと1つ、「ここには触れておきたい」という年はありますか?

 

冨手 ランジャタイが目立った2021年は面白かったです! 最下位でしたが「やばい芸人がいる」と世間が気づいたきっかけになったし、こんなにも最下位が似合うコンビっていないと思います。

 

──それでは今年の決勝進出者について聞きたいのですが、昨年、一昨年はM-1公式の「三連単順位予想キャンペーン」に参加して上位3組をXに投稿していますよね。

 

冨手 私、全部ハズレていますよね(笑)。いつも思うんですが、私はクセの強いお笑いが好きだと自覚していて、自分の順位と世間一般の順位予想はまったく違うんです。「順当に考えたらこうだよな」と思いつつも、結局好みを優先して予想しちゃうので、自分の予想はパラレルワールドの順位のように思います(笑)。昨年は、一昨年のさや香がすごく面白かったのでさや香を推していた気がします。敗者復活でシシガシラが上がってくるなんて思わなかったし、昨年は大ハズレすぎてびっくりしました。だから絶対に当たらないのは自覚しているんですが(笑)、今年はこうして取材をしていただいてより多くの方に予想を見られると思うと、さすがに手堅く考えました!

 

【1組目】令和ロマン

 

──今年は昨年の覇者、令和ロマンの2連覇が話題の中心になっていますよね。

 

冨手 そうですね。今年は3回戦を公式YouTubeで、準決勝を配信で見ましたが、まずは「令和ロマンVS」の構図が前提としてあると思います。令和ロマンはまだ本気を出していない感じがして、決勝の会場で笑神籤が引かれてからどのネタにするのか考える余裕があるくらい、めちゃくちゃ準備していると思います。(髙比良)くるまさんはいままでのM-1も全部研究して、圧倒的な考察力を下地に絶対に優勝できるネタを持ってくると思うんです。史上初の2連覇を本気で取りに来ているので、令和ロマンの優勝はかなり堅いと思います。ただ、今年は正統派漫才師が多いじゃないですか。徹底的に準備をしてきた令和ロマンに勝てるのって、正統派ではなくてぶち壊しにきたトリッキーな芸人なのかな、とは思っていますね。

 

【2組目】ママタルト

 

冨手 ママタルトは知名度もあるし、バラエティ番組の平場のイメージが強いと思いますが、今回決勝に行くことで「この人たちって本当に漫才が上手なんだな」というのがお笑い好き以外に知られるきっかけになるのではと思います。昨年、一昨年は敗者復活戦で頑張っていて、こうしてストレートで決勝に上がってきたのは本当によかったです!

 

──それぞれの敗者復活戦でのママタルトはいかがでしたか?

 

冨手 昨年は、鬼としみちゃむにドハマリしていて、ちょっとそっちに集中していまして……。ママタルトってみんなが見て笑える、状況を想像しやすいネタを作っていらっしゃるから「私が応援しなくてもほかに応援するひとがたくさんいるだろう」と思ってノーマークでした……すみません! とはいえ、大鶴肥満さんがせり上がってくる絵面だけで面白いと思うので、とても期待しています。

 

【3組目】ダイタク

 

冨手 双子の実力派漫才師、ダイタクの決勝進出はただただうれしいです! いつも敗者復活戦にいて、今年は決勝の舞台にストレートで行けたことに感動しました。

 

──ダイタクは劇場でも見る機会があったのでは?

 

冨手 そうなんです。劇場でのダイタクは際立っています。うまいし輝いていて「舞台に強い人たち」という印象があります。ファンも多いし圧倒的にウケるし、だから敗者復活戦でも強いはずなんですが、なかなか決勝戦には行けなくて。今回も準決勝のネタは本当に面白くて、過去の敗者復活戦で見てきたネタと比較しても「これは今年は決勝に行くのはそりゃあ納得だわ」という仕上がりでした。ただ”双子漫才”という伝家の宝刀が、決勝1本目はすごくいいかもしれませんが、2本目に新しい発見があるのかどうかが問われそうです。

 

──2人の決勝進出については、芸人仲間の反響もすごいですよね。

 

冨手 そうなんですよ! 2人は”劇場のスター”で憧れている芸人さんたちもたくさんいると思うし、吉本の芸人さんたちがめちゃくちゃ喜んでいます。多くの仲間たちが送り出していて、すごくステキな光景ですよね。信頼が厚いんだなと実感します。優勝しなくても世間に名前が知れ渡り、これからバラエティ番組に出るんだろうなという未来が見えます。2人ともギャンブラーでめちゃくちゃ面白いんですよ!『チャンスの時間』(ABEMA)にもギャンブル企画でよく出ていて、これを機にそういったクズな面が世に出ることで人気が出るんじゃないかな。あと、ラストイヤーなんですよね。ここでやりきって優勝できなくても『THE SECOND~漫才トーナメント~』(フジテレビ系)で結果を残す道も見えています。

 

──M-1後の未来まで予想していただきありがとうございます(笑)。

 

【4組目】真空ジェシカ

 

冨手 すごいですよね、連続……?

 

──2021年から4年連続ですね。

 

冨手 いやあ、すごい。悲願の優勝を本気で狙っていると思いますが、今や真空ジェシカのスタイルって世間に浸透しているじゃないですか。”トリッキーなネタ”というイメージが浸透したがゆえに、難しくなってきているような気もするんですよ。最初のインパクトがすごかっただけに、メジャーになった今は普通にすごい人気芸人さんで、その立場が逆に足を引っ張っているような気がします。見る人たちは、何をしでかすか分からない川北(茂澄)さんに対して「次はどんなトリッキーなことをしてくれるんだろう」と期待の目で見てしまっているので。私はもともと好きなので、その辺りが悔しくもありますね。ただ、『Mおじ』のYouTubeで「真空ジェシカは、3回戦や準決勝のネタをすごいブラッシュアップして決勝に持ってきたりする。ファンやほかの芸人の意見を取り入れて変えてくる」と取り上げられていて。今回の3回戦と準決勝のネタもすごく面白かったので、それをブラッシュアップしてくるとしたら優勝の可能性はあると思います!

 

──真空ジェシカも好きだったんですね。

 

冨手 はい! M-1本編も面白いけど、決勝進出者発表会見や本戦直後から配信する打ち上げ番組でもめちゃくちゃ面白いんです! 終わってから「印象に残っているのって、結局真空ジェシカだよね」と思わせる、平場でのぶっ飛んだ面白さがあります。

 

──ファイナリストによる『相席食堂』(朝日放送テレビ)での「街ブラ1グランプリ」でも、いつも爪痕を残していますよね。

 

冨手 ね! 結局真空ジェシカが持っていくんですよ。だから舞台でも平場くらい暴れてほしいです。決勝経験4回目であの場所に慣れていると思うので、変に優勝を狙いすぎずに壊しにきてほしいという願いがあります。

 

【5組目】ジョックロック

 

冨手 ジョックロックはダークホースですね。今回初めて知りましたが、それぞれピンとして活動していて結成は3年目、決勝進出が早いですよね。それこそ私のパラレルワールドでは優勝するかもしれませんが、この世界線でも特徴的なツッコミスタイルがハマれば優勝もあり得るのではと思います。霜降り明星が優勝したときのように、独特の動きと大きい声でのツッコミが、お客さんと審査員の心を掴んだらこっちのものですよね。

 

──コンビ結成3年目での優勝は最短記録になりますね(最短記録は第3回のフットボールアワーの4年8か月)。

 

冨手 そういったトピックも記念すべき20回目の大会にふさわしいですよね。2人は見た目にも華があるし、ツッコミの福本(ユウショウ)さんの、センス系かと思いきや真逆を行くツッコミスタイルのギャップにインパクトがある。それでいて、見る者が「分かる!」と共感を得やすいツッコミなんですよね。例えば、野球に例えてツッコむ芸人さんが多いと思いますが、野球を知っている人じゃないと分からないじゃないですか。そういうのがなくて、ちゃんとみんなが想像しやすく理解できるツッコミをしてくれる、見た目に反して意外と正統派なスタイルがハマってほしいです!

 

──出番順がキモになりそうですね。

 

冨手 そう! トップバッターだと難しいかもしれません。知名度がないコンビがトップバッターって「誰?」と構えて見てしまうと思うので。後半なら優勝の可能性はあると思います!

 

【6組目】バッテリィズ

 

冨手 私、すごく好きなんです。昨年の敗者復活戦でも華があり「めちゃくちゃ面白い人が出てきたな」と思わせてくれました。今年優勝できなくても、いずれ優勝のチャンスが濃厚だし、これを機にバラエティ番組に出まくるんだろうなという将来が想像しやすいです。一番将来が見えているのがバッテリィズだと思います。特にエースさんのキャラクターがかわいらしくて魅力的。大阪吉本の芸人さんたちからすごくかわいがられているイメージで、いろいろな芸人さんのYouTubeに頻繁に登場するんですよね。私が好きなニッポンの社長もかわいがっているイメージがあり、以前からすごく気になっていました。昨年の敗者復活戦で初めてちゃんとネタを見て「めっちゃ面白いじゃん!」となって、今年は敗者復活戦から上がってくるんじゃないかなと予想していましたが、まさかストレートで来るとは!

 

──昨年は注目株としてさまざまなメディアで取り上げられていましたね。

 

冨手 今年の準決勝のネタは昨年よりも格段にレベルが上っていて、この一年間で相当仕上げてきたんだなというM-1に向けての覚悟が見えました。優勝してもしなくても、「M-1で人生が変わる」というキャッチフレーズが一番ハマるのがバッテリィズではないでしょうか。現時点でも『チャンスの時間』の「ブレイキングやんちゃオーディション」で輝いていますし、今後のテレビ展開に期待大です。

 

──『チャンスの時間』は注目すべき若手芸人がよく出ていますもんね。

 

冨手 それこそヤーレンズもそうですよ。楢原(真樹)さんも「ブレイキング~」で輝いていたし、『チャンス~』はやっぱり参考になりますね。

 

【7組目】エバース

 

冨手 彼らは今年すごいプレッシャーがあったと思います。賞レースで軒並み結果を残しているんです。

 

──「上方漫才協会大賞」で大賞・新人賞にノミネートされ、「ツギクル芸人グランプリ2024」では決勝3位、「ABCお笑いグランプリ」にでも決勝進出しているし、10月27日には『NHK新人お笑い大賞』で優勝を果たしています。

 

冨手 今年一年、周囲の期待が一番高かったと思います。その期待を背負ってよくストレートで決勝に来たなと、プレッシャーに打ち克つ強さにまず惚れ惚れしました。エバースもバッテリィズと同じく昨年の敗者復活戦からこの一年で相当ネタを仕上げてきているので、優勝候補の1組に入ります。漫才が本当にうまいんですよね。ただ、これだけの賞レース常連芸人になると、今年めっちゃいいところまでいかないと今後大変になってくるかもしれませんよね。決勝進出会見でも「もうネタを出し尽くした」「新ネタを書きすぎた」「賞レースをやりすぎた」と言っているほど相当数な賞レースで名前を残しているので。ただ、M-1は新ネタを下ろさなきゃいけないわけじゃないし、既存ネタをブラッシュアップすると思います。

 

──劇場で見たことはありますか?

 

冨手 劇場ではなくて、昨年の敗者復活戦で初めて拝見しました。ケンタウロスが合コンに行くネタで、「特にツッコミがうまいなー!」と思ったことをすっごく覚えています。実力がある人たちなんだと感じました。だから「2024年はバッテリィズとエバースは絶対にストレートで決勝に行くだろう」と思っていました。M-1の空気に飲まれずに、普段通りやってほしいです!

 

【8組目】トム・ブラウン

 

冨手 今回改めて2018年の初決勝進出ネタを見ましたが、色褪せない面白さでした! そして今年、あれからスタイルを変えずにまた合体させているんですよ。ただ、やっていることは一緒なのにテンポの良さなのかなんなのか、巧みなうまさを感じるんです。2018年のときは布川(ひろき)さんが様子をうかがいながらツッコんでいるように見えましたが、今年は迷いなく合体させています。ステージを自分たちの世界にしている感があって、熟練された技を見せていただいた気分になりました。だから決勝にいることは、いるべくしている感じがするんです。好きだからというわけではなく優勝は全っ然ありだと思っています。優勝しなかったとしても、最終決戦に進む可能性が高いです。

 

──冨手さんは以前からXで決勝進出を予想しつつ、実際に進出したことに驚いていましたね。

 

冨手 そうですね(笑)。きっと4分間めちゃくちゃ笑うと思います。漫才のうまい正統派も揃っている中で、「じゃあ誰の4分間で一番笑ったか」と問われたときに思い浮かぶのは、トム・ブラウンじゃないかな。3回戦と準決勝でも会場が合体を楽しみにしている雰囲気もあり、2人の勢いもすごかったんです。会場全体を一体化させることができたのは、この6年間で2人がブレずに自分たちのやりたいことを突き詰めた結果だと思います。決勝進出が発表された瞬間も、すごくかっこよかったんですよね。みちおさんはおふざけを忘れてすごく喜んでいて。今年はラストイヤーだし、頑張ってほしいと思います。

 

──2018年は6位でしたよね。

 

冨手 そう! 633点取ってて、意外と最下位じゃないんですよ。志らく師匠が高い点数をつけているので、今年いないのが残念です。当時は上沼恵美子さんが「私には分からないけど、次のお笑い」というようなことを言っていたし、オール巨人師匠も同じようなことを言っていました。審査員を困惑させたときから6年経ち、お笑いのシーンも変わり、まさにいまは“次”じゃないですか。トム・ブラウンが異色ではなく、毎日のようにテレビで見るしメインストリームのお笑いになっている。だとしたら、優勝してもおかしくありません!

 

【9組目】ヤーレンズ

 

冨手 3回戦と準決勝のネタ、「やっぱり誰にも敵わない」と思うほどめちゃくちゃ面白くてすっごく笑いました。昨年決勝に登場したときの衝撃が色あせず、「なぜこんなにも面白い人たちをマークしていなかったんだろう。自分が恥ずかしい」と思うくらい笑って、それから一年間でヤーレンズのスタイルを知り、「今年改めてネタを見たときに自分はどう感じるのかな。もしかしたら、面白さに気づいてしまったから『まあ面白いよね』程度になってしまうのか」と思っていましたがやっぱり抜群に面白かったんですよね。とんでもない数のボケだし、頭一つ抜きん出ています。

 

運命の敗者復活戦! 決勝に進出する10組目のコンビは?

──ここから先は敗者復活戦の予想をお願いします。今年のルールは昨年同様、ABCの3つのブロックに出場者が振り分けられ、各ブロックから観客票で勝者を1組ずつ選出。その3組の中から、5人の芸人審査員が最終的なジャッジをして、決勝進出者1組を選出します。

 

冨手 準決勝を見た上で予想しましたが、すっごく悩みました。個人的に好きなのは豆鉄砲。修学旅行についてくるカメラマンのおじさんのネタでしたが、パワー系の漫才をやるそうな雰囲気なのに意外とインテリなネタで、すごく面白かったんです。ただ、SNSでは「修学旅行で写真を撮るおじさんっていうのが、よく分からなかった」という声を見かけて、万人ウケしないのかもしれません。

もう1組個人的に好きで面白かったのは、滝音。ツッコミのさすけさんが言う「ベイビーワード」呼ばれる造語によるツッコミが、ハマらない人は本当にハマらなくて……。文化素養がある人はハマりやすいと思いますが、一度立ち止まって「ん?」と考えちゃう人にとってはハマりづらいみたいで票が入りづらい感じはします。

 

──滝音は2020年に敗者復活戦11位、翌年はGYAO!ワイルドカード枠で復活していて、根強いファンの後押しもありそうですね。

 

冨手 あとは、家族チャーハンが面白かったです。ツカミが面白くてボケ数が多くて、お笑いファンじゃない人にも分かりやすいネタをしてくれるし、テンポもいい。

 

──家族チャーハンは2023年に結成したばかりで、ネタが少ない中で勝ち上がってきたことで話題となりました。

 

冨手 そうなんですよね。ファンも多いし、業界内でも期待の若手のようですね。私のお笑い好きの友達は、敗者復活枠に家族チャーハンを予想しているんです。ほかにも強そうなのはナイチンゲールダンス。昨年も本当に面白かったし、テンポもいいし場の空気を作るのもうまいんです、が、若い人からの人気がめちゃくちゃ高い一方で、中年以降のお客さんはあまり笑えないネタのような気がします。ネット社会を生きてSNSが身近にある世代じゃない人からすると、ボケが分かりづらいかもしれないですね。華があるので絶対に票は取るとは思いますけど。

 

──そのとおり昨年は敗者復活戦3位でした。

 

冨手 だからこそ、今年こそ決勝に行く可能性は相当高いと思います。以上を踏まえて私が選んだのは……。

 

★敗者復活枠 ダンビラムーチョ

 

──昨年はストレートで決勝に行き8位でしたね。

 

冨手 準決勝の配信は著作権の関係で無音で、どんな歌ネタなのか分からなかったんですが(笑)、会場のウケはすごくよかったです。今年は『キングオブコント』でやったネタ「冨安四発太鼓」が大バズりしたじゃないですか。今のダンビラは相当ノッているし、ダンビラなら最下位でもめちゃくちゃ面白いんですよ。

 

──それは共感できる人が多そうですね……!

 

冨手 視聴者の胸が痛むような哀愁がないから、手放しで面白く思える。ダンビラなら最下位でも優勝ですから!

 

2024年のM-1グランプリを制するのは? トップ3&優勝コンビ予想を発表!

──ではいよいよ、最終決戦に勝ち上がるトップ3、そして優勝コンビの予想をしてもらいます! 昨年、一昨年と三連単は大ハズレだったという冨手さんが選んだのは……?

 

冨手 うう、これ、私の予想が世に出ちゃうんですよね……だからちゃんと考えなきゃいけないと思って、本当に悩みました。悩み抜いて決めた第3位は、私の大好きな彼らです!

 

★第3位 トム・ブラウン

 

冨手 やっぱりトム・ブラウンが三連単に入るのは妥当だと思うんですよ。M-1出場者にはいろいろな物語やバックボーンが語られますが、初期はそんな物語とか全然なく「ただ面白い」だけで淡々と進んでいきました。20回目にして原点に戻り、4分間サンパチマイクの前でどれだけ面白い瞬間が作れるかの勝負……となると、最近の物語込みのM-1を粉々にしてくれるのはトム・ブラウンしかいません。

 

──破壊願望があるんですね。

 

冨手 破壊してほしいです。「記念すべき20回目なのに、今年のM-1はなんだったんだろう……」と思わせてほしい!

 

★第2位 令和ロマン
★第1位 ヤーレンズ

 

冨手 令和ロマンがとんでもない戦略を練ってきて「誰も勝てません」となる可能性はすごくありますが、彼らの今年のスタンスは”ヒール”みたいな感じじゃないですか。そんな令和ロマンを倒せるのはヤーレンズだと思うんです。その構図すらくるまさんが作り上げているのかもしれませんが、ヤーレンズは優勝への執着心がとても強いと思います。

令和ロマンとはお互いに売れない頃から新ネタライブをずっと一緒に回っていたし、だからこそ負けたくないだろうし、「2連覇をなんとしてでも止めたい」という思いは強いと思います。それに、どうしても物語も求めてしまう自分もいて、“令和ロマンを倒すヤーレンズ”を見たいと思ってしまうんですよね。令和ロマンの漫才への深い愛情も、くるまさんがさまざまなメディアでしゃべるたびに感じますが、やっぱりヤーレンズが勝つところが見たいです。

 

──昨年は最終決戦で令和ロマンに4票、ヤーレンズに3票で、ヤーレンズは惜敗だったんですよね。

 

冨手 だからこそ相当悔しかったと思います。令和ロマンを倒すためにこの一年間で仕上げてきているし、「俺たちは漫才でいく」というすごみを感じます。というのも、今年一年いろいろな番組に出ていましたが、楢原さんってすごくシャイな方なんですよね。でも漫才に入ったとたんにスイッチが入る。器用にいろんなことができない姿が、漫才師としてめちゃくちゃかっこいい。だからどうしても優勝してほしいです!

 

──アツい予想、ありがとうございました! 冨手さんの予想を聞き、ますます楽しみになりました。

 

冨手 私も楽しみすぎて今からわくわくが止まらないです。12月22日は敗者復活戦が放送される午後3時からずっとテレビ前にいます。お風呂やごはんはどうしようかと思っていますが、一年に一度のお祭りなので最後まで楽しみたいと思います。Mおじに憧れてやってみたかったM-1予想ができて、とてもいい経験でした。

 

 

構成・撮影/丸山剛史 取材・文/有山千春

松山ケンイチ&染谷将太「福田監督の現場は自分の新たな一面を知り、気づかされることが、毎日のようにある」映画『聖☆おにいさん THE MOVIE~ホーリーメンVS悪魔軍団~』

“神の子イエス”と“仏の悟りを開いたブッダ”が東京・立川にあるアパートで二人暮らしをしながら下界でバカンスを満喫する日常を描いた、ギャグ漫画「聖☆おにいさん」を福田雄一監督が実写映画化。イエス役を演じた松山ケンイチさんとブッダ役を演じた染谷将太さんが、豪華ゲストとの共演エピソードやほかの現場ではありえない撮影について語ってくれました。

 

【松山ケンイチさん&染谷将太さん写真一覧】

 

想定外の演技だけでなく、必ず何かが起こる現場

──『聖☆おにいさん』初の長編映画化の話を聞いたときの率直な感想は?

 

松山 基本的に、アパートの部屋の中で起こる話なので、2人で長編映画って尺が持つのだろうかと不安になりました。それで10分程度の短いエピソードをいくつか撮る感じなのかなと思ったのですが、「屋外に出ます」「いっぱい神様が出ます」って言われてビックリしました。その神様を演じるのが、本当にすごいキャストで、現場にただただ、笑わせに来るんですよ。何の意味もなく(笑)。ある意味、僕らが一番の観客になっていました。

 

染谷 なぜか分からないですけど、他の現場にいる方から「ひょっとしたら、映画化するかも?」って噂を聞いていました。そのときは「えっ、そうなんですか?」という感じだったんですか、正式に聞いたときは、やっぱりドキドキワクワクでしたね。しかも、中村光先生が映画化のための原作を書いてくださって、台本を読んだら、「これぞ長編映画の話だ!」と実感が湧いてきました。ただ、ゲストキャラの相関図みたいなものを見せてもらったときは、さすがに「嘘でしょ?」と(笑)。

 

松山 僕らは正式にオファーをもらってから、1か月もたたないうちに撮影が始まったんですけれど、他のキャストさんの方はもっと近々に、この映画に出ることを知らされたと思うんですよ。このすごいキャストをよくねじ込めたと思うし、どうやって出演OKをもらったのか、個人的に知りたいです。

松山ケンイチ●まつやま・けんいち…1985年3月5日生まれ、青森県出身。主な出演作に、NHK大河ドラマ「平清盛」「どうする家康」、ドラマ「100万回言えばよかった」、NHK朝の連続テレビ小説「虎に翼」、映画「BLUE/ブルー」「ノイズ」「大河への道」「川っぺりムコリッタ」「ロストケア」など。 XInstagram

 

──イエスとブッダの絶妙な掛け合いを生み出すため、意識されていることは?

 

染谷 これまでは、できるだけ自然体にやってきたんですけれど、今回初めて、いろいろな神様を演じる役者さんと掛け合いをしたとき、これまで我々が築いてきたものが一度崩壊したといいますか、見失いました。台本にないことが次々起こるアドリブ合戦で、それに対して「いや、自分たちはこれまで通りにいこう!」って、話し合ったことを覚えています。

 

松山 想定外の演技だけでなく、必ず何かが起こる現場だったので、僕たちだけじゃなく、その場にいたスタッフ・キャスト全員が衝撃を受けていたと思うんです。(佐藤)二朗さんのシーンでは面白すぎて、カメラが若干揺れていたし、スタッフさんが吹いちゃっている音も現場でよく聞こえるんです。みんなが笑いを耐えられなくなっているメイキングとか残っていたら、見たくなりますね。

 

──そんな佐藤二朗さん演じる、戦いの仙人とシーンはいかがでしたか?

 

染谷 これといった段取りもリハーサルもなく、本当にぶっつけ本番で撮り始めたんです。それが福田(雄一)監督なりの、二朗さんシーンの撮影スタイルらしいんです。

 

松山 笑うことをギリギリまで耐えているのって、『ワンピース』でルフィとキッドとローがチキンレースやっていたときの心境に似ていたかもしれません。僕らはずっと被弾していましたけど(笑)。カメラが回っているなか、何を言われるか分からないし、どの部分を使われるのかも分からない恐怖があるなんて、他の現場ではありえないことですよ!

 

染谷 そうしたら、完成版では、ほぼほぼ全部使われていたという(笑)。これもありえないことです。

 

まさか、この年齢になって、ヒーローになるとは!

──佐藤さん以外にもすごいゲストの方々が名を連ねています。

 

松山 僕らと直接共演している方は、皆さんつめ痕どころじゃない、何かをしっかり残されて帰られています。神木(隆之介)くんは「初めての福田組で緊張します」って言っていたのに、めちゃくちゃ爆発していました。

 

染谷 神木くんと(仲野)太賀くんは、めちゃくちゃバチバチなライバル関係という設定を決めてから、阿吽の呼吸でやっていましたね。でも、初日の岩田(剛典)さんと白石(麻衣)さんから、相当すごかったです。

 

松山 ムロ(ツヨシ)さん、山田(孝之)さん、(藤原)竜也さんたちとは、直接の絡みはなかったのですが、完成した作品を観たら、皆さんヤバいんですよ! 正直、このメンツが集められるのなら、もっとシリアスな『SHOGUN 将軍』並の作品が作れたと思うんですよ。でも、ただ笑わせるだけ(笑)。

 

染谷 ムロさんから直接聞いたんですけど、台本も何も渡されないまま、朝早く現場に行ったら、めちゃくちゃ長いカンペが置いてあって、福田さんから「それを読んでくれ」って言われたらしいんですよ。完成したシーンでは、その長いカンペがすごく生かされているので、お客さんにはそこもチェックしてほしいです。

染谷将太●そめたに・しょうた…1992年9月3日生まれ、東京都出身。主な出演作に映画「ヒミズ」、「みんな!エスパーだよ!」シリーズ、「バクマン。」「違国日記」「はたらく細胞」、NHK連続テレビ小説「なつぞら」、NHK大河ドラマ「麒麟がくる」、ドラマ「ブラッシュアップライフ」、Netflixオリジナル「サンクチュアリ -聖域-」「地面師たち」などに出演。

 

──イエスとブッダは戦隊ヒーロー“ホーリーメン”に変身し、戦隊モノではおなじみの採石場で怪人と戦います。

 

松山 小さい頃からよく見ていましたし、『仮面ライダーBLACK RX』はおもちゃも買いましたし、やっぱ憧れの対象ですよね。でも、実際ホーリーメンをやってみて、やっぱり見ている側の方がいいなと思いました(笑)。しかも、あのベルトって何か意味ありましたっけ? ボタンを押して、何か出るとかありませんでした。

 

染谷 でも、お互い一生懸命頑張りましたよ! 子供の頃、日曜日の朝、眠いけれど、番組を見たいから、頑張って起きた記憶はあるので、衣装合わせで、ホーリーメンの衣装を着たときは、ちょっとうれしかったです。まさか、この年齢になって、ヒーローになるとは(笑)。しかも、あの採石場で、リアルな怪人と戦うなんて、少年心をくすぐられました。修業シーンのアクションなど、一連の流れも楽しかったです。

 

──今回の映画を通じて、福田監督の演出はいかがでしたか?

 

松山 僕は福田さんとお話することは、あまりありませんでしたが、福田さんは、いつも笑っていました。福田さんの現場って、何が起こるか分からない怖さがありつつ、新しいものが生まれる瞬間があるんですよ。「この俳優さんは、こんな演技をする」というイメージがすべて壊れる。それで、新しい引き出しみたいなものが出てくるので、そういう空間を作るのがうまいんです。どの作品にも学びや反省はあるのですが、福田さんの現場は自分の新たな一面を知り、気づかされることが、毎日のようにあるんです。

 

染谷 ここまで豪華なキャストが集まって、皆さんが台本以上のものに膨らませて、「福田さんを笑わせたい」というベクトルに向かっていく。そんなことをさせてしまう福田さんの人間力のすごさを感じました。それから「この人に、この役をやらせたら、絶対に面白い」っていうセンスもすごい。完成した作品を観たら、確かに面白いですし、ゲストの皆さんの今まで見たことない芝居に注目してもらいたいです。

 

──今後、続編が作られることになったら、イエスとブッダとしてやってみたいことは?

 

松山 タイムスリップしたりしたら、面白そうじゃない?

 

染谷 今回も漫才やったり、ヒーローになったり、2人でいろいろやっていますが、バンドはまだ組んでないですね。もし神々のバンドを組むなら、ブッダは木魚というか、ドラムになるのかなぁ(笑)。

 

あの姿で街中を歩いても、誰も反応しないぐらいなじんでいる

──俳優としてのキャリアのなかで、本作もしくはイエスとブッダというキャラはどのような位置づけになりますか?

 

松山 特異点ですね。監督もキャストもスタッフもそうだと思うんですが、皆さん若干壊れていると思うんです。まともじゃない人たちが真剣に作っているのが、お客さんにただただ笑ってもらうための映画。だから、子どもからお年寄りまで、家族全員で観ていただき、「あぁ、笑った」と、劇場を後にできる作品になったと思います。

 

染谷 自分が演じてきた役で、子供から大人まで、みんなが楽しめるキャラはありませんでした。ブッダを演じていると、とても楽しいし、幸せな気分になれる現場なので、宝物のような大事な場所のようにも思えます。不思議なことに、あの姿で商店街やいろんな街中で撮影したり、撮影の合間に歩いていても、誰も反応せず、自然に通り過ぎていくんです。松山さんも普通に中野で買い物していましたし、これは皆さんになじんでいるキャラなのかなと勝手に思っています。

 

──お二人が現場に必ず持っていくものがあれば、教えてください。

 

染谷 タイではポピュラーな鼻をスースーさせるスティック状の「ヤードム」です。ちょっと疲れてきたときや眠くなってきたときに、あれを使うとスッキリして、集中力が出ますね。

 

松山 現場にはカフェラテを入れたマイボトルを持参しています。現場中の癒しのひとつでもあるので、欠かせないです。

 

 

聖☆おにいさん THE MOVIE~ホーリーメンVS悪魔軍団~

12月20日(金)より全国公開

 

【映画「聖☆おにいさん THE MOVIE~ホーリーメンVS悪魔軍団~」よりシーン写真】

 

(STAFF&CAST)
監督・脚本:福田雄一
原作:中村光「聖おにいさん」(講談社「モーニング・ツー」連載)
主題歌:「ビターバカンス」Mrs. GREEN APPLE(ユニバーサル ミュージック/EMI Records)
配給:東宝

出演:松山ケンイチ、染谷将太、賀来賢人、岩田剛典、勝地涼、白石麻衣、仲野太賀、神木隆之介、山本美月、桜井日奈子、川口春奈、中田青渚、吉柳咲良、田中美久、森日菜美、安斉星来、山田孝之、ムロツヨシ、佐藤二朗、窪田正孝、藤原竜也

(STORY)
世紀末を無事に乗り越えたイエス(松山)とブッダ(染谷)は、日本の四季折々を感じながら、福引を楽しんだり、お笑いコンビ「パンチとロン毛」を結成したりと、ゆるい日常を過ごしていた。そんなある日、2人のもとに招かれざる客が現れ、衝撃の事実を伝える。やがてそれは、神と仏と天使と悪魔が入り乱れる予測不能な戦いへと展開していく。

公式:https://saint023movie.jp/

(C)中村光/講談社 (C)2024映画「聖☆おにいさん」製作委員会

 

取材・文/くれい響

中島健人「まずは英語でのセリフを間違えないで言うことが全てだと思いました」海外ドラマ「コンコルディア/Concordia」出演

中島健人さんが初めて出演した海外ドラマ「コンコルディア/Concordia」が現在Huluで独占配信中。全編英語のセリフ、海外での長期撮影など、初めて経験することも多かったよう。記念すべき初海外ドラマの裏側を教えてもらった。

 

※こちらは「GetNavi」2025年1月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

中島健人●なかじま・けんと…1994年3月13日生まれ。「Sexy Zone」の元メンバー。最近の主演作に、ドラマ「リビングの松永さん」「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」、映画「おまえの罪を自白しろ」がある。また、アニメ「【推しの子】」の第2期主題歌をキタニタツヤとのユニット・GEMNで担当。GEMNとしてROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024に出演した。2025年2月には主演映画「知らないカノジョ」の公開を控えている。Instagram

 

自分の緊張感を生かしたら意外と役にハマりました

「いつか海外ドラマに絶対に出たい」という夢を叶えた中島さん。Huluで日本独占配信となる今作の舞台は、カメラとAIが網羅された街・コンコルディア。中島さんはコンコルディアの心臓部であるAIを作ったA・J・オオバを演じる。機械学習分野における若き天才という設定もあり、専門用語による説明ゼリフも必要となる役だ。

 

中島「まずは英語のセリフを間違えないで言うことが全てだと思いました。日本のドラマでもよくあるけど、セリフを7割覚えて現場にいくと3割余白ができて、その余白が偶発的に芝居に良い効果をもたらすこともあります。逆に『セリフなんだっけ?』ということに固執してしまうと、意外と芝居に集中できず、良い表情にならなかったりもする。でも『コンコルディア』では、そういうことを考えずに、10割セリフを頭に入れていきました」

 

WOWOWの映画情報番組のMCを務め、海外のスターや監督に英語でインタビューしてきた実績もある。それでも全編英語のセリフを覚える作業は、通常の倍の時間を要したという。

 

中島「セリフを覚える流れとしては、最初に英語の脚本を全部読みました。読んでいく中で難しいところが出てきたら、ネットなどで調べて、意味を咀嚼するようにして。さらに日本語訳の台本ももらえたので、自分なりに英語で読んだものとの答え合わせをしました。そしてもう一度、英語の台本を読んで、自分で解釈したものを英語のセリフに落とし込んでいきました」

 

コンピューター・サイエンスの中でも機械学習分野における天才。しかも自信家。中島さんはそんな情報量が多いキャラクターを、物怖じせず理路整然と話す姿や、腹の底がわからない不敵な表情で表現してみせた。

 

中島「A・Jは完全にオリジナルでいこうと思っていたので、ビジュアル、衣装、話し方、お芝居と、全部周りの方々と設計しながら作っていきました。セリフを全部覚えた後で、共演者が過去に出演した作品を見るようにしたんです。脚本を読んで、シアという主人公の女性は、高い声のイメージだったんですね。でも実際に演じたルース・ブラッドリーさんは声が低い。A・Jのライバル的な役のノアは、繊細なブリティッシュボーイみたいなイメージだったのに、たくましいドイツ人のスティーブ・ソワーさんで(笑)。でも過去作を観ていたので、皆さんのビジュアルやお芝居をしっかりチェックした上で、自分の役を演じることができました」

 

今回ケンティーらしいキラキラした笑顔は完全封印。ともすると怖いとさえ思わせる表情の裏には、意外なエピソードが。

 

中島「海外のドラマって、台本が製本されていないんですよ。撮影当日にペラ紙で来るの。それを見るとセリフが変わっていたりして。『準備稿から変わってる!』みたいな緊張感が毎日あったんですね。その緊張感のままA・Jを演じたら意外とハマるかもと思って、実際にやってみたら良かったんですよ(笑)」

 

会議中の場面で軽く頬杖を突いたり、指先を小刻みに動かしたり。A・Jの細かいしぐさにも「コンピューター関連の仕事をしてる人ってこんな感じかも」と思わせる繊細な理系男子さがある。

 

中島「最初の撮影地であるイタリアに入ってすぐにホテルのロビーでミーティングがあり、カジュアルな話し合いなのかなと思ったら、本格的な脚本読みが始まりました。そこでバーバラ・イーダー監督に『どれぐらいペン回しできる?』って聞かれて(笑)。『A・Jがペン回しをしても面白いかもね』と言うので、やってみたらうまくできて、『いいじゃん!』ってなったんです。でも本番では1回も使われなかった(笑)。A・Jは静と動でいうなら静。クールなキャラクターなので、バーバラ監督は『この動きはいらないな』ってなったんでしょうね」

 

コミュニケーション能力に自信を持って臨んだ、初めての海外ドラマの現場。持ち前のコミュ力の高さで、共演者たちとも良い関係を築いていたようだ。

 

中島「海外は本当に役者一人ひとりにトレーラーが用意されるんです。メイクはまた別のトレーラーでするから、キャストはそこに集まるんですよ。僕の隣で上司のジュリアナを演じたクリスティアーネ・パウルさんがメイクをしていて、『健人、なんか音楽流して』と言われて。Sexy Zoneの音楽を流しました。現場でSexy Zoneの曲をよく紹介したんですよ。一番人気は『RIGHT NEXT TO YOU』。絶対に踊らないだろうなって感じのクリスティアーネが、指でリズムを取っているのを見て、アイドルで良かったなって思いました」

 

 

Hulu オリジナル
「コンコルディア/Concordia」

全6話 独占配信中

(STAFF&CAST)
ショーランナー 兼 製作総指揮:フランク・ドルジャー
監督:バーバラ・イーダー
脚本:ニコラス・ラーシュ、マイク・ウェルデン、アイラ・ヴァン・トリヒト
出演:ルース・ブラッドリー、ナンナ・ブロンデル、クリスティアーネ・パウル、シュテヴェン・ゾヴァー、中島健人 ほか

(STORY)
カメラとAIに網羅された町コンコルディアは、他の町への拡張計画を間近に控えていた。そんななか、初の殺人事件とAIシステムのハッキングという二重の災厄に見舞われる。

(C)Hulu Japan

 

撮影/映美 取材・文/佐久間裕子 ヘアメイク/石津千恵 スタイリスト/川原真由

サンド伊達みきおのコロッケ愛から生まれた日本唯一の専門番組。「小さいころから食べているお肉屋さんのコロッケにエールを送るのも番組の裏テーマ」

「日本唯一のコロッケ専門番組」。こう背中に書かれた黒いTシャツを着た集団を商店街で見かけたことはないだろうか? すなわち『サンド伊達のコロッケあがってます』(BS-TBS  毎週金曜よる10時)の撮影クルーだ。各分野でマニア受けするテレビ番組に枚挙に暇がないBSにおいても「コロッケ」を題材にした番組は唯一無二! このほど、自ら番組の企画書をテレビ局に持ち込んだサンドウィッチマンの伊達みきおさんと、その相棒を務める、わらふぢなるおの口笛なるおさんに番組制作の裏側や「コロッケ愛」を語り尽くしてもらいました。

 

 

【『サンド伊達のコロッケあがってます』撮り下ろし写真】

 

なるおさんが集音担当に抜擢された理由とそのライバルとは!?

──本日はすでにオンエア1本分のロケを終えられているようですね。これからあと1本分を控えていますが現在のお腹は何分目ですか?

 

伊達 もうパンパンですよ!

 

なるお 今日も僕らは食べ過ぎでしたね。

 

伊達 お肉屋さんが2軒、パン屋さんが1軒、焼鳥屋さんが1軒、そして喫茶店が1軒とすでに5軒はしご。喫茶店でコーヒーゼリーを堪能してさらに“追いデザート”で焼鳥を食べてから2軒目のお肉屋さんでコロッケを食べるという(笑)。

 

なるお 全部かなりおいしかったですよね。すでに満腹ですけど2本目も楽しみ!

 

──“ドタ参”のお店もけっこうあると聞きました。

 

伊達 まさに今日の1軒目がそうでした。好意的に「どうぞどうぞ」と受け入れてくれて幸運でしたね。

 

──制作陣としてはどうなんですか?

 

スタッフ もちろん想定外です(笑)。

 

なるお だそうですよ。

 

伊達 ですよね(笑)。でも、それを含めての番組ですから。

 

なるお ちゃんと伊達さんが撮影許可を取りに行っていますもんね。

 

──番組のエンドロールを見ると初っ端に出てくる「企画・構成」に「伊達みきお」の名前が! 企画と構成も担当されている?

 

伊達 実は番組自体が僕の持ち込み企画でスタートしました。相方の富澤たけしがドラマ『マイファミリー』(TBS)にレギュラーで出演していて、その撮影期間中に僕のスケジュールが空いたんです。で、単にぼーっと過ごすわけにもいかないから「何かやらないとな……」とゴルフを始めたりしていたんですけど、ふと「好きなこと」の番組をしようと思い立ちまして。最初はコロッケが大好きだからYouTubeでコロッケの配信番組でもやろうかとと計画していました。でも、やれるならテレビでやりたい。そう思ってテレビ局に売り込んだらBS-TBSさんが手を上げてくださって。

 

──なんと自ら売り込まれたんですか?

 

伊達 そうなんです。同じく「企画・構成」に名前が載っている作家の水野としあきが企画書として起こしてくれてそれを売り込んだ形です。ありがたいことに4本くらいオンエアしたらレギュラー化。最初は30分番組で収録時間も放送時間も程よい尺でしたが、今度は倍の1時間番組に。しかも、裏番組が『報道ステーション』(テレビ朝日系)という時間帯での放送となりました(笑)。

 

──そもそも、どうしてコロッケの番組を着想されたのですか?

 

伊達 やはりまだ世の中にないかなと。なんとなくラーメンやカレーをテーマにした番組は目にした記憶はあるけど、日本人の国民食とも言えるコロッケをメインで扱う番組は聞いたことはありませんでしたから。「日本唯一のコロッケ専門番組」と自負しております!

 

──改めてロケ現場を見渡してみるとスタッフの着ているTシャツの背中にも「日本唯一のコロッケ専門番組」と書いてあります。

 

伊達 よくぞ気づいていただきました! 僕の指定で決めさせていただきました。それでも、最初はスタッフ全員が恥ずかしがって着るのをためらっていたんですよ。それこそ、10人ぐらいの大人に囲まれて「お前が最初に着てくれ!」みたいなこともありましたね。

 

──いえいえ、むしろ喜んで着させていただきたいデザインです。

 

伊達 ちょっと硬派な雰囲気が出るでしょ? よく商店街を歩くだけにNHKっぽさが出ればいいなと(笑)。

 

──そんな狙いが!? そういえば、2人が番組で着ているTシャツもかわいらしいデザインです。

 

伊達 ポップですよね。これはちゃんとプロにお金を払ってデザインしてもらっています。コロッケを持った僕ら2人をイメージしたデザインになっているようです。出演者とスタッフを見れば、一目でコロッケの番組を収録していることが丸わかりでしょう。

 

──番組を見ているとコロッケを揚げる行程も映しています。これは伊達さんのこだわり?

 

伊達 まさしく! お肉屋さんごとにコロッケの作り方は千差万別。あんの形はもとより揚げる油にもこだわりがあるケースがあります。あと忘れちゃならないのが、揚げる音。お店によって作り方は千差万別。あんの作り方はもとより揚げる油が違うこともあります。ちゃんとテレビの前にいる方の食欲をそそるような演出をしています。あの揚げる音が番組の肝なんですよ。

 

──そんな大事な音を録音するのはなるおさんの仕事です。いつもヘッドホンなどの音響機材を携行されていますが、その伊達さんの“相棒”とも言えるポジションへの大抜擢の理由はあるのでしょうか?

 

なるお ぜひ、僕も聞きたいです!

 

伊達 特にないよ(笑)。

 

なるお え~! そんな~!

 

伊達 とにかくくすぶっていたので。僕の頭の中にある「くすぶっている後輩芸人のリスト」から勝手に選抜させていただきました。

 

なるお そのリストの1項目目に僕の名前があったんですよね?

 

伊達 そうそう。あと、相棒に選んだのには「口笛なるお頑張れ!」というエールも込めていますよ。そもそもコイツのこと知っていました?

 

──‥‥…。

 

なるお そこは黙らないでくださいよ! 経緯としては、直接お電話で「コロッケの番組をやるから一緒にやらないか?」と誘っていただけて……。もう、その場で「ぜひ、お願いします!」と即答しました。全く迷いはありませんでした。

 

──ジョークだと思わなかったんですか?

 

なるお 思いませんよ! だって、もともと伊達さんがコロッケが好きなのは知っていましたし、コロッケの番組をやりたがっているのも数年前から聞いていました。当時は「なんなんすか?」とあまり本気で聞いていなかったんですが、本当に実現されてしまって。「サンドウィッチマンは売れたんだな……」と改めて思い知らされました。自分のやりたい番組企画を通せるほどのパワーを持ったんだと。

 

──ちなみにコロッケを揚げる音を録音する時に油はハネない? 火傷することもあるんじゃ…手n。

 

なるお それが意外にも全くハネないんですよ。コロッケのタネが最初から油に沈んだ状態なので。せいぜい浮いてくる終盤に少しパチパチするくらい。

 

伊達 「ASMR」じゃないけど、令和は耳でも食べ物を味わう時代。しっかり時流を演出に入れさせていただいております。

 

──番組内では伊達さんがフリーダムにされている印象もあります。やはり、なるおさんのサポートあってのことなのでしょうか?

 

なるお そういう立ち回りを期待してお声がけいただいたんだと思います。伊達さんは楽しそうにロケを回す。街の案内、補足情報、コロッケを揚げる音を録音するのが僕の役割なんですが……、頭ではわかっていてもうまくいかないこともしばしばでして。

 

伊達 頻繁にやらかすんですよ。お店の人がコロッケを揚げているのに音を撮りに行くのを忘れたり、ロケをする商店街のことを一切勉強していなかったりで。挙げていったらキリがありません。番組のオンエアを見てなかったこともあった!

 

なるお 番組のオンエアはちゃんと見ていますよ!

 

伊達 そうだっけか? とにかく長い目で成長を見守っています(笑)。

 

伊達みきお●だて・みきお…1974年9月5日生まれ。仙台市出身。富澤たけしとサンドウィッチマンを結成。ブログ

 

──失敗のたびに反省会はやられるんですか?

 

なるお 一応、自分の中では……。

 

伊達 その都度なるおから長文のメッセージが送られてくるんですよ。

 

なるお はい、したためさせていただいております。ただ、僕の本気の反省文なのに、この番組で紹介されちゃうんですよ。

 

伊達 数回前の収録で「視聴者からメールが来まして……」となるおの反省メールを読み上げたことがあるんです。

 

──演出にも一役買っているわけですね。

 

なるお メールをいきなり表に出されて、僕もビックリするわけじゃないですか? もちろん、ツッコミを入れるわけですよ。でも、そのツッコミの仕方もちょっとズレていたみたいで、追い打ちをかけるように伊達さんから「あれはちょっと違うんだよな」と優しく物言いを付けられてしまいました。毎回のロケで学ばせてもらっています。

 

伊達 とにかく「口笛なるお」を鍛えていますよ。

 

なるお でも、なかなか上達しません。22年から番組を続けてきてブランクもないんですが……。

 

伊達 ロケが演出なしの完全なるフリースタイル。それが難しいところなのかも。それでも、かなり場数をこなしているでしょ?

 

なるお おかげさまで。でも、この番組を含めてロケで緊張することはほとんどなくなりました。この間も名古屋に1人でロケに行かなくちゃならなかったんですけど、緊張せずに食レポを完遂できました。この番組の経験がしっかり血肉になっているのでしょう。

 

伊達 (遠い目をしながら)そうですね。そのポジションが安泰じゃないことだけはわかっていてほしいけどね。

 

なるお わかっています! 実は番組をクビになりかけているんです。

 

伊達 「トミドコロ」というグレープカンパニーのピン芸人がいるんですが、彼がコイツのポジションを狙っているんですよ。しかも、彼の実力がなるおよりも数枚上手。ちょうど同期ぐらいの年代だけにいろいろな場面で競い合っているよな。

 

なるお はい、本気で狙っています。なんとか堅守している状況です。

 

伊達 もう僅差のところまで来ているけどな。

 

なるお え!? とにかく頑張ります!

 

揚げたてのみに発動される「カロリー0理論」

──そういえば、コロッケの番組なのに他の総菜や料理もしっかり食べている気が……。

 

伊達 僕も今年で50歳なんでね、コロッケばかりだと胃もおかしくなっちゃう。途中に喫茶店でコーヒーゼリーでも食べないともたない。なんせ1時間番組のロケなんでね。

 

──そうなるとカロリーがとんでもないことになりそうです。

 

伊達 だからロケ中はカロリーを摂らないようにしています!

 

なるお それは無理です(笑)。

 

伊達 いや、揚げたてで湯気が出ているうちはまだカロリーが発生していないんです。毎回、揚げたてばかり食べているのもカロリーを気にしてのことかもしれません。

 

なるお つまり、冷めたてからカロリーが発生してしまうんですか?

 

伊達 そう! 周囲のカロリーが集合してしまう! 実際に番組をスタートさせてから体重の増減はありませんから!!

 

なるお 収録がある日はロケで満腹だから他で何も食べないだけじゃないですか。反対にスタッフの皆さんは異常に空腹なはずですよ。人が食べているのをひたすら見せられていますから。ちょっと軌道修正しますよ。確かにコロッケ以外を食べ過ぎなのは認めざるを得ません。認めちゃいましょうよ!

 

伊達 「どこのコロッケが一番おいしいですか?」とよく聞かれるんですが、いつも答えに窮してしまいます。というのもコロッケの番組でありながらもつ煮込みのおいしいお店にばかり行ってしまうんです。

 

なるお 我々のイチオシはもつ煮なんですよ!

 

伊達 南千住にある「田川商店」の大釜で炊かれた牛もつは最高だったな。あと、雑色の「竹沢商店」の味噌風味のも絶品でした。

 

なるお 焼き鳥もおいしかったですよね。モモ肉とにんにくが交互になっていたのが本当に美味でした。

 

伊達 結局、コロッケはだいたい同じ味なので(笑)。

 

なるお いやいや、最初のこだわりはどこに行ったの?

 

伊達 冗談はさておき、お肉屋さんそれぞれの雰囲気を楽しめるのも番組の見どころの1つ。1個350円もする高級コロッケもあれば、1個50円で売っている激安コロッケもある。そのお店ごとに店主のこだわりがあってね。

 

なるお でも、そのこだわりが「揚げたてアツアツ」なのは悩みどころです。

 

伊達 そうそう、お店の人もベストなタイミングで僕らに出してくれるんですよ。別に店頭に陳列されているのもので十分なんですけど、そこはお肉屋さんも「せっかくだからベストなものを食べてほしい」という思いでその場で揚げてくださいます。その心意気に応えないわけにはいかないじゃないですか?

 

なるお でも、たまに断りきることもありますよね。「常温で結構です!」と。

 

伊達 口の中がただれ過ぎて限界を迎えている時は流石にね。

 

なるお もはや、口の中の粘膜がダラダラと剝がれてしまうのには慣れちゃっていませんか?(笑)

 

伊達 わかる。それこそ何度も剥がれてを繰り返したおかげで固くなっています。さながら素振りを日課にしている高校球児の手のひらみたいに(笑)、楽しみで始めた番組のはずなんですけど、人生で一番命を削っていますよ。

 

──そんな体を張られている姿に相方の富澤さんから反響はありますか?

 

伊達 多分、富澤は見てくれているはず。「あの店おいしそうだったよな」とか、会話の中でもちょくちょく「コイツ見てんな」という言動がありますもん。一度仙台でロケした時に出てもらいました。

 

──先ほど相棒ポジションの争奪戦について明かしていただきましたが、ゲストで出たいという方も珍しくないと聞きました。

 

伊達 そうなんですよ。ありがいたいことに芸能界でも多方面で見ていただいていて、例えば、あの中居正広さんも視聴者の1人。前にお会いした時に「コロッケの番組やっているよね?」とたまたま番組を目にした体裁で話してくれましたけど、あれは、多分毎週見てくれている雰囲気でした。中居さんも出たいんじゃないかな?

 

なるお なんで上からなんですか?(笑)

口笛なるお●くちぶえ・なるお…1981年7月12日生まれ。埼玉県出身。ふぢわらとわらぶちなるおを結成。X

 

──なるおさんは実家のご家族から反響があるんじゃ?

 

なるお 実家というよりは……。

 

伊達 え! 実家の家族は見てないの? 衝撃なんだけど……。

 

なるお いえいえ! 多分見てくれているとは思います。でも、実家よりも僕の周りにいる芸人連中にチェックされています。僕と同じようにライブを主戦場にしているだけにかなりうらやましがられます。やはり、僕のポジションばかりにかぶりつきで「あの番組の立ち位置おいしいやん」から「グレープカンパニーに移籍した」とまで言われています。

 

──ポジション争いの火の手は会社を超えて芸人全土に広がっているのですね?

 

なるお そうなんです。他にないですもん。

 

伊達 でも、ゲストを含めて出演者にグレープカンパニーが多すぎる気がするな(笑)。

 

なるお 確かに(笑)。

 

「伊達みきお」の人生にはいつもコロッケがいた

──改めて、伊達さんのコロッケヒストリーを教えてください。

 

伊達 子どもの頃によく親におつかいを頼まれていたんですよ。お肉屋さんで「豚のコマ切れ」を買わなきゃならないのに間違ってコロッケを買って帰っていました。

 

なるお それは確信犯ですよね?(笑)

 

伊達 どうしても間違ってしまうから親も諦めてお肉屋さんには行かせてもらえなくなりました。で、通っていた高校の近くにあるお肉屋さんで1個50円のコロッケが売られていて、入学したばかりの頃に2年生と3年生が買い食いしているのを見て「あれは何を食っているんだろ?」なんて口の中でヨダレがいっぱいだったのを覚えています。地元ルールで上級生しか買い食いが許されなくて1年生の頃は悶々としていたな。

 

なるお ぜいたく品だったんですか?

 

伊達 どういうわけか1年生は買い食いが禁止されていた。やっと2年生になって自由にコロッケを食べられるようになって。改めて振り返ってみると伊達みきおの人生にはいつもコロッケがありました。上京して富澤と同居していた板橋時代。近所の「大山ハッピーロード商店街」にある「ミートショップアライ精肉店」にはよく行った思い出です。そこのコロッケが好きで、10年住んでいる間でちょっとでもお金が入るとコロッケやメンチカツを買って帰りました。

 

──奥様に作ってもらうことは?

 

伊達 あります。この間カニクリームコロッケを作ってくれました。

 

なるお いいですね!

 

伊達 でも、ラードで揚げたコロッケはお肉屋さんならではのもの。あの本格的な味はお肉屋さんにしか出せません。例えば、コンビニのコロッケだと普通の油で揚げていますよね。お肉の精肉過程で余分な脂身が出るお肉屋さんだからラードがあるわけです。

 

──コロッケ愛は番組からも伝わってきます。

 

伊達 そうでしょう(笑)。ただ、ほとんどのお肉屋さんでコロッケは売られていますけど、あまり儲からないらしいんですよ。実際に価格も安いですし。それでも、各店ごとにこだわり抜いて手作りしている。やっぱり、お肉屋さんのコロッケはひと味もふた味もおいしいじゃないですか。小さいころから食べているお肉屋さんのコロッケにエールを送るのも番組の裏テーマです。

 

──では、ゆくゆくは「コロッケまつり」のようなフェスイベントをやる計画はあるんですか?

 

伊達 現在進行形ではありません。でも、やりたいです。あれ? でも、TBSは夏のイベントやっていたっけ?

 

スタッフ 最近はやっていないんです。

 

伊達 まずは、何かのイベントごとでお店を出店したいです。TBSが無理ならフジテレビでも!

 

なるお 垣根を越えるのはご法度です!

 

伊達 でも、BSでは浅草キッドの玉袋筋太郎さんがやっている『町中華で飲ろうぜ』(BS‐TBS)を先駆者に「マニアック」を売りにした番組がどんどん増えていますよね。ずんの飯尾和樹さんが喫茶店を巡る『飯尾和樹のずん喫茶』(BSテレ東)やケンドーコバヤシさんがビジネスホテルを巡る『ケンコバのほろ酔いビジホ泊 全国版』(BS朝日)などつい見てしまいます。その界隈にしっかり一員として入り込みたい!

 

なるお BSは全国ネットですからね。

 

伊達 ゆくゆくは地方にも進出したいです。コロッケが我々を待ってくれていますから!

 

 

サンド伊達のコロッケあがってます

BS-TBS 毎週(金)よる10時
※Tverで最新話無料配信中

番組公式HP https://bs.tbs.co.jp/entertainment/korokke/

番組公式X https://x.com/datekoro_bstbs

番組公式Instagram https://www.instagram.com/sand_croquette_bstbs/

 

 

撮影・構成/丸山剛史 取材・文/多嶋正大

渡邉美穂&齊藤なぎさ「“主演だから頑張らなきゃ!”というより、“みんなでいいものを作りたい”という気持ちで臨ませてもらいました」 映画『あたしの!』公開中

「日向坂46」「=LOVE」とともにアイドルとして活躍後、俳優の道に進んだ渡邉美穂さんと齊藤なぎささん。幸田もも子原作の人気コミックを実写映画化した『あたしの!』(11月8日(金)公開)で俳優初共演を果たした2人が、初対面時の衝撃エピソードや撮影エピソードについて、ガールズトークさながら語ってくれました。

 

※こちらは「GetNavi」2024年12月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【渡邉美穂さん&齊藤なぎささん撮り下ろし写真】

 

美穂ちゃんは人として、素敵だし、めっちゃ好き!!

──今回、俳優として初共演となりますが、アイドル時代をはじめ、お二人はお互いにどのような印象を持っていましたか?

 

齊藤 私、日向坂46さんの中で、美穂ちゃんが推しメンだったんですよ! アイドルとしての信念というか、強いプロ意識を持っているところに惹かれていたんです。それは今回、共演してもすごく感じました。美穂ちゃん、とにかく頼りがいがあるんです。

 

渡邉 うれしいこと言ってくれるなぁ。私は風の噂で「=LOVEに、私推しの子がいる」と聞いていて、「こんなかわいい子が私を推しメンなわけがない!」と(笑)。それで忘れもしない2018年の秋。メンバーと夢の国に遊びに行ったら、いきなり「渡邉美穂さんですよね? 齊藤なぎさです!」って話しかけてくれて、一緒に写真も撮ったんです。衝撃的な初対面だったけれど、そのときの写真、まだもらってない(笑)。

 

──そんな自分を推していた齊藤さんとの共演はいかがでしたか?

 

渡邉 勝手に「女子バスケ部出身で体育会系の私が、こんなかわいいお嬢様な子と関わることはない!」と、共演とかはないだろうと思っていたのでうれしかったです。今回は幼なじみの大親友役だったので、監督さんから「撮影入る前に、仲良くなっておいて」と言われていたこともあって、私からご飯に誘ったんです。すっごくかわいいのに、サバサバした性格で、一緒にいた時間がとても心地良かったんです。だから、すぐに意気投合しちゃいました。

 

齊藤 私たち、どこか似ている部分もあるし、美穂ちゃんの「あんた大丈夫なの?」とか、たまに出るおばちゃんみたいな感じもギャップがあって面白い。とにかく人として、素敵だし、めっちゃ好き!!

 

カメラが回ってないあいだも、ずっとペチャクチャ

──ちなみに、渡邉さんは初の映画出演にして主演。斎藤さんは初のヒロインのライバル役になります。

 

渡邉 まだ実感がないんですが、今回は同世代のキャストの方が多かったり、これまでMVやCMを撮られてきた(横堀光範)監督にとっても初めての映画ということもあって、「何かを背負わなきゃ! 頑張らなきゃ!」というより、「みんなで一緒にいいものを作れたらいいな」という気持ちで臨ませてもらいました。みんな仲良く、現場を盛り上げていけたし、スタッフさんもいい方ばっかりだったので、楽しかった思い出しかありません。でも、公開されてから、映画に出た実感が湧いてくるような気がします。

 

齊藤 ファンの方から「ヒロインのライバル役をやってほしい」という声が多かったので、今回はめちゃくちゃうれしかったです。今まで演じてきた役は、どちらかというと感情を出す役ばかりだったんですが、今回は初めて感情を内に秘めていて、他人の顔色をうかがってしまう役なんです。

 

──横浜・八景島シーパラダイスや山梨ロケなど、撮影中の印象的だったエピソードを教えてください。

 

渡邉 八景島での撮影の合間に、原作の幸田もも子先生と、みんなでジェットコースターに乗ったんですよ。みんなキャーキャー言いながら乗ったので、楽しかったです。

 

齊藤 あと、お互い赤と水色の浴衣、着たよね。ホントかわいかった! 水族館にも行くことができたし、クレープもおいしかった。ガツガツしていたら「もう撮影なんで!」と、スタッフさんに怒られました(笑)。

 

渡邉 カメラが回ってない間も、ずっとペチャクチャ話していて、本当に楽しかったです。山梨ロケでは、休憩中にはババ抜きをやったり、帰るまでの時間があったときは、投げたペットボトルを立たせる「ボトルフリップを連続4回できるか?」を延々やっていたり。でも、オフの時間とは違い、なぎさちゃんが演じる充希は、難しい役どころだったと思うんです。ちょっとした表情ひとつで受け取られ方が変わってしまうから……。繊細なお芝居するのって、大変だったんじゃない?

 

齊藤 (渡邉が演じる)あこ子と対照的な性格の役柄に見せなきゃいけないし、泣く演技が私あまり得意じゃないから、そこが大変でした。でも、美穂ちゃんとのお寿司屋さんのシーンでは、全部のセリフが胸に響いてきて、自然に涙が出てきました。というか、涙が止まらなくなっちゃった。だから、ちょっと自信があるシーンになりました(笑)。

渡邉美穂●わたなべ・みほ…2000年2月24日生まれ。埼玉県出身。日向坂46の元メンバーで卒業後はドラマ、バラエティなど幅広く活躍。「シネマアディクト」「シネマクラッシュ」(BSテレ東)でシネマナビゲーターを務める。連続テレビ小説「虎に翼」などに出演。今後出演作に、「ラブライブ!スクールアイドルミュージカルthe DRAMA」(11月21日スタート、MBSほか)、映画『青春ゲシュタルト崩壊』(25年)がある。 Instagram/ 公式HP

 

なぎさちゃんは100%受け止めて返してくれると信用していた

──お互いの感情がストレートにぶつかり合うシーンですが、渡邉さんはいかがでしたか?

 

渡邉 私はいい意味で、あのシーンで手加減したくなかったんです。私が負の感情をお芝居で、なぎさちゃんにぶつけても、100%受け止めて返してくれると信用していたので、思い切り演じさせてもらいました。だからこそ、みんなの成長が分かるラストシーンと同じくらい思い入れのあるシーンになりました。

 

齊藤 アドリブ部分もいっぱいあったけれど、私がどんな無茶振りをしても、美穂ちゃんは絶対に、あこ子として返してくれたんです。だから、私的にはすごく安心感がありました。でも、ときどき“なぎさと美穂”の会話になってしまうときがあって……。そのときはやっぱりNGになりました(笑)。

 

──映画の内容にちなんで、お互い「ここだけは負けない!」ところを教えてください。

 

齊藤 美穂ちゃんには、何やってもかなわないですよ。でも、強いて言えば……妹っぽさ! 私、実際に末っ子で、すぐ転ぶし、モノを落としたりするから、お姉ちゃんぽい人が好きなんです。美穂ちゃんはかわいらしさもありつつ、しっかりしているから全力で甘えられます。

 

渡邉 日本国民の妹だ(笑)。私が唯一なぎさちゃんに負けないと言えるのは、自転車を漕ぐ速さ! この映画の中でも自転車に乗るシーンがあるんですが、高校で自転車通学していた私に対して、なぎさちゃんは「乗れない~!」と言っていたぐらいなので、そりゃ追いつけるわけないなと! そこにも注目して見てほしいです。

齊藤なぎさ●さいとう・なぎさ…2003年7月6日生まれ。神奈川県出身。=LOVEの元メンバー。ドラマ「明日、私は誰かのカノジョ」(22年)のゆあてゃ役で話題になった以降、映画『交換ウソ日記』(23年)、『恋を知らない僕たちは』(24年)などに出演。今後の出演作にドラマ「私たちが恋する理由」、実写版「【推しの子】」(24年)などがある。 InstagramX

 

とにかく柔軟な人間でありたい

──今後も出演作が続きますが、将来は、どのような女優を目指していきたいですか?

 

齊藤 私の夢は、少女マンガ原作の作品に出ることだったんです。だから、いまその夢がどんどん叶っていて、本当に信じられないのですが、これからもいただいたお仕事を全力で頑張って、将来的にはどんな役でもこなせるような女優さんになりたいなって思います。例えば、目だけが笑っていないサイコパスな殺人鬼とかいいですね。

 

渡邉 今回コミカルなお芝居が楽しかったので、またやってみたいですが、とにかく柔軟な人間でありたいですね。現場では求められることがいっぱいありますし、撮影中もいろんな意見が生まれてくると思うんです。だからこそ、独りよがりのお芝居をするんじゃなくて、共演者さんとの温度感を大切にしながら、それをお芝居に生かせるようになりたい。それで役として、ちゃんと相手と会話できる力を付けたいです。

 

──最後に「個人的に、どうしても集めてしまうモノ」があったら教えてください。

 

齊藤 化粧品が好きすぎるんですが、その中でもリップですね。特にウルつや系。前は10本ぐらいまとめ買いしたんですが、最近はお気に入りのものに絞ってます。でも、新製品で、いい評判を聞いたら……やっぱり気になりますね。

 

渡邉 私は香水かなぁ。あまり買ってるつもりがなくても、気付いたら何十個もあって驚いたんですよ。時と場合で使い分けるのも楽しいですし、好きが高じて、自分のオリジナルブランド「No.25」でも洋梨の香りをベースにした香水を出したぐらいなんですよ。再販を希望する方は、お問い合わせフォームからお願いします(笑)。

 

 

あたしの!

11月8日(金)より全国公開中

【映画「あたしの!」からシーン写真一覧】

(STAFF&CAST)
監督:横堀光範
原作:幸田もも子
脚本:おかざきさとこ
出演:渡邉美穂、木村柾哉、齊藤なぎさ、小田惟真、笠井悠聖、藤田ニコル、山中柔太朗

(STORY)
幼いころから親友のあこ子と充希。真っすぐで素直すぎる生活のあこ子は、学校イチの超人気者・直己に一目ぼれし、ド直球なアプローチを開始する。充希は「かっこいいと思うけど、恋愛って感じじゃない」と好きではないと断言するものの、あこ子は充希の怪しい動きを察知する。

公式:https://gaga.ne.jp/atashino/

(C)幸田もも子/集英社・映画「あたしの!」製作委員会

 

撮影/映美 取材・文/くれい響 ヘアメイク/岩根あやの(渡邉)、角果歩(齊藤) スタイリスト/袴田知世枝(渡邉)、佐藤奈津美(齊藤)衣装協力/ペルナ、ジユウ バイ ラベルエチュード、ヴァカンシー、アヤミジュエリー

昭和レトロな空間“純喫茶”をこよなく愛する、ずん・飯尾和樹。「“1時間に1杯は頼む”独自のルールを設けています」

昭和レトロな空間で飲むコーヒーと視覚や胃袋を刺激する定番のフードメニューを提供するベストプレイス……純喫茶。そんな昔ながらの喫茶店をこよなく愛するのがお笑いコンビ・ずんの飯尾和樹さんだ。自ら「天職」だと自負する紀行番組『飯尾和樹のずん喫茶』(BSテレ東)も4年目に突入。ぶらりロケ途中の昼下がりに喫茶店で過ごすルーティンや番組制作の裏側を語り尽くしてもらった。

 

飯尾和樹●いいお・かずき…1968年12月22日生まれ。東京都出身。O型。お笑いコンビ「ずん」のボケ担当。相方はやす。

【飯尾和樹さん撮り下ろし写真】

 

コーヒーをおかわりしてからの3杯目のレモンスカッシュがおいしい!!

──午前中に取材されていたお店の外まで楽しそうな笑い声が聞こえていました。午後に何軒のお店を回られるのですか?

 

飯尾 これから3軒回る予定です。1オンエアごとに2軒の喫茶店を紹介していますが、毎回のロケで1日に4軒を収録しています。今は東京の狛江にいますけどもう1軒収録したら高円寺までぶっとびます。

 

──選挙の応援演説さながらに東奔西走でお忙しい~! 普段から喫茶店は利用されるんですか?

 

飯尾 かなりの頻度で行きます。とにかく家で作業ができない性分でして……。どうしても誘惑が多いじゃないですか? テレビを点けたらずっと見ちゃうし、ちょっと横になっただけでそのまま寝ちゃうし、「よし! ちょっと勢いづけちゃうゾ!」と言いながらビールでも飲み出したらそのままおつまみまで作っちゃうで、全く仕事が手につかない。だから、仕事をするために喫茶店に行きます。ぼくにとっては「喫茶店=仕事場」という認識が第一にありますね。

 

──仕事となると一度お店に入ると丸1日缶詰になりそう。

 

飯尾 ご名答! だから独自のルールを設けています。「1時間に1杯は頼む」というね。あくまでお店は商売でやっていて、間違っても公民館じゃないから(笑)。どうしても仕事が長引いて“残業”をする時は別の喫茶店に移動することもあります。それこそ、祐天寺から学芸大をムササビの滑空移動よろしく颯爽と移動するんです。でも、「ちょっと歩くか……」なんて言いながら1駅分を歩いているうちにいろいろ思いついちゃって、結局2軒目に行かない日も珍しくありません(笑)。

 

──仕事が終われば“仕事場”に行く必要もなくなりますもんね。

 

飯尾 そうはいっても、ご褒美で喫茶店のオムライスやナポリタンを食べて帰る日もあります。あと、仕事以外だと雑誌を読むためだけに行くことも。買った雑誌を読まずに積み上げてしまうタイプで、よくカミさんに「いるやつといらないやつをチェックして捨てろ」と言われながら「これも読むし、あれも読むし……」で断捨離ができない。カミさんは器用に電子書籍なんて読んでいるけど、僕の場合はオッサンだからそれだと読んだ気がしなくて……。なので、3~4冊をバッグにつめて喫茶店で読むんですよ。読み終わった雑誌をそのまま捨てるのももったいなから「これいりますか?」なんて喫茶店の人に聞くんですけど、「半年前の週刊誌はいりません」って断られたりしてね(笑)。たまに「それいいですね!」なんて喜ばれるケースもあるにはあるんですが、果たして喜ばれているのか気を遣われているのかは定かではありません……。

 

──先ほど、喫茶店での「1時間に1杯は頼む」というルールをおっしゃっていましたが、決まったルーティンのようなものはあるのでしょうか?

 

飯尾 最初にコーヒーを頼みます。季節によってホットだったりアイスだったり。2杯目も同じ。3杯目に目を覚ますためにレモンスカッシュに変えます。「シロップ抜きで」という細かいオプション付きで。このコーヒーからのレモンスカッシュがさっぱりしておいしいんですよ!

 

──滞在時間も長いだけにトイレに行く回数も多そうです。

 

飯尾 ええ、なので席からトイレに行くまでの動線は喫茶店選びの大事なポイントの1つ。行くまでに手こずるようなお店だと毎回少し気まずい思いをしなくちゃならないですからね。

 

──ただでさえ、カフェインには利尿作用がありますもんね。ちなみに番組で訪れた喫茶店にはオンエア後にも通われているのですか?

 

飯尾 行きますよ。ただ、悲しいことに建て直したり、移転したりでなくなっちゃうお店も何軒かありました。寂しいもんです。例えば、ある若いご夫婦が経営されていた喫茶店はテナントの契約を更新するタイミングで閉めてしまって……、でもその後に自由が丘で立ち飲み屋さんをオープンすると聞いてひっくり返りました(笑)。

 

──全く違う形態ですね(笑)。

 

飯尾 学芸大にあった「パーラーゐ恋」というフードメニューが評判の喫茶店でした。どうも、もともと旦那さんが和食料理屋さんの板前さんだったみたいで。立ち飲み屋さんは「自由が丘デパート」の近くにオープンするそうですよ。そこは新しい店に行ってマスターに会えるけど寂しい思いをすることの方が多いのも事実。「ごちそうさま~」なんて店を出るとね、ちょっと歩いたところで「飯尾さん!」と呼び止められるんです。「あれ? 忘れ物かしら!?」と思ったら、店のマスターから「実はですね……」と閉店することを告げられて。故郷に帰ってしまう、あるいは喫茶店そのものを廃業することを打ち明けられる瞬間の切なさったらない。

 

──ロケで出会って通い出したら今生の別れになるのは辛い‥‥。

 

飯尾 マスターの高齢化や駅前の再開発は避けられません。それだけに、一期一会の出会いを噛みしめながらロケをしています。でも、それ以上に楽しいこともいっぱいあるんですよ。この間も有楽町にあるピザトースト発祥の地に行けましたし!

 

ロケで1日に4軒をハシゴしても「カフェインで寝つきが悪くなることはありません」

──食事シーンは紀行番組のハイライトの1つ。あるとうれしいフードメニューを教えてください。

 

飯尾 ナポリタンとオムライスは定番ながら大好物。あと、ピラフがあれば頼んじゃいますね。冷凍じゃないそのお店オリジナルのものがあれば尚良し。大阪ではチャーハンのことを敢えて「焼き飯」と表記していて惹かれて頼んじゃいます。

 

──矢継ぎ早に止まりませんね(笑)。

 

飯尾 20代中盤まではホットドックが僕の中の定番でした。細長いウインナーソーセージとマヨネーズをあえたキャベツが入った背割りパンにケチャップとマスタードをたっぷりかけて食べるんです。最近は、ホットドックがメニューにあるお店も減ってしまいましたが、ウインナーソーセージ、ハム、ベーコンが好きなのでそれらが入っているメニューをアラカルトでどんどん頼んでしまいます。「全部食べきれるのか?」よりも「全部食べたい!」が勝っているのでしょう。全部が全部おいしいのですぐに平らげてしまいますね。

 

──喫茶店と言えばクリームソーダも定番メニューの1つです。

 

飯尾 よく自分へのご褒美に月に1回は頼んでいました。ただ、ロケで飲ませてもらう機会も多いので、プライベートで頼む機会が激減しちゃいました。ロケ中にご褒美をいただけるのはこの上なく幸せなんですけど……、でも最近はコーヒーゼリーを頼むようになりました。当たり前のことですが、喫茶店で食べるコーヒーゼリーは家で食べるのよりも数倍おいしい。水出しコーヒーから手作りして生クリームやホイップクリームがのっているのはスーパーじゃ買えませんもんね。その店のこだわりも垣間見られてエンタメとして面白いんですよ。わざわざコーヒーゼリー用のコーヒーを作っている店もあるぐらいなんですから。

 

──コーヒーを飲んでさらにコーヒーゼリーを食べるんですね?

 

飯尾 確かにコーヒーばかり飲んでいたので番組をやるまでコーヒーゼリーはそこまで食べていなかったんです。それがロケでおいしいコーヒーゼリーに出会えて大好きになっちゃいましたね。ぼくが惚れっぽいだけなのかも!?(笑) あ! あと、忘れてはならないのが固いホットケーキ!! ふわふわのも最高なんですが、ナイフを入れた時にパリッとなるぐらいの固さのやつが堪らないんですよ。そこにバターとはちみつをかけて、もう最高で……、想像しただけでヨダレがでちゃいそう(笑)。

 

──パンケーキよりもホットケーキなんですか?

 

飯尾 パンケーキのふわふわでジャムやホイップクリームがかかっているのも素敵。それでも、固いホットケーキに勝るものはありません。ヨーロッパで生まれ育った中学2年生と高校2年生の姪っ子がいるんですが、ついこの間来日して和菓子と喫茶店のホットケーキを食べまくって帰っていきました(笑)。オフレコですが、2.7kg太ったみたいです。ここはカットでお願いしますよ~!

 

──日本人が海外での生活で太るのはよく聞きますけど、その逆のパターンもあるんですね。

 

飯尾 僕の出ている番組を見てお父さんにリクエストしてホットケーキを作ってもらっていたようなんですが、とかく本場と同じ味なのかを確かめたかったみたい。僕も良さげなお店をリサーチしてアテンドしようとするんですけど、「もう調べているから」と叔父さんは言われるがままに付いていくだけ。どうせロクに聞いちゃいないと思って「こんなおいしそうなのがあるんだぞ」とわざわざ時間を置いて2~3回同じことを聞いたら「もう、しつこい!」なんて怒られて……。叔父さんシュンです。

 

──毎回のロケで4軒ハシゴするとなると摂取カロリーも気になります。

 

飯尾 一応、前日の食事を軽くしています。昨日から始めたダイエットなんですけど(笑)、今日スタッフに宣言したばかりです。実際にロケで思いっきり食べたいものを食べられるのと昨日は中途半端な時間に昼飯を食べたのもあって、晩はプチトマトだけにしました。

 

──晩ごはんのメニューだけ見るとまるで減量中のボクサーですね。それでも、4軒だとカフェインの摂り過ぎで夜眠れなくなるんじゃ?

 

飯尾 全く問題ありません。なんなら昨日の晩も寝る前にアイスコーヒーを飲んでいますから(笑)。カフェインで寝つきが悪くなることはありません。僕の睡魔は最強なんで!

 

──ところで、「子どもの頃親父の買い物帰りに連れて行ってもらった……」という番組オープニングの語りは実体験?

 

飯尾 そうです。ウチの親父がとにかく喫茶店が好きで、よくお袋に頼まれた用事で出かけるたびに「和樹行くか?」と呼ばれて付いて行った思い出です。昭和ですからね、よくその帰りの一服がてら喫茶店に寄ってくれて。親父は今の僕と同じでコーヒー、そして当時の僕はクリームソーダを頼ませてもらえるわけです。んで、「最近、少年野球はどうだ?」なんて雑談をしながら30分ぐらい過ごします。たまにですが、そんな日が頻繁に続くと「下の兄弟には内緒だぞ!」なんて約束させられたっけな。

 

──兄貴だけズルいとなるわけですね?

 

飯尾 そうそう。だから親父から「向こうでジュースをもらったことにしろ」という感じで入れ知恵されていた思い出です。

 

──それにしても、少年時代なのによく覚えていますね!

 

飯尾 かなりの頻度で行っていましたからね。近所に親戚が住んでいて、お袋が「これ届けてきて」と用事を親父に頼むんですよ。それを耳にするたびに「一緒に行く」なんて、完全に帰りの喫茶店が目当てでした。でも、時間がない日は駄菓子屋さんだった。「キャベツ太郎」を1袋とか(笑)。親父だけじゃなくてお袋も喫茶店が好きだったみたいで、2人とも外で働いていたのでよくランチを喫茶店で済ませていたらしいんですよ。この間は旅行先でも喫茶店に入ったんだとか。北海道で30分ぐらい。

 

──休憩するのにちょうどいいお店があったんですか?

 

飯尾 それが少々違っていて……、どうも行きたい観光地が2人の間で割れてしまったから審議の時間を設けたようなんです。あ、北海道と言えば、昨年末に訪れたコーヒーハウス「ミルク」は印象深かった。あの中島みゆきさんがデビュー前から通われていた店らしいんです。マスターも音楽をやっていて手作りのスタジオを作ってミュージシャンを目指している若者に場所を提供しているお店でした。聞けば、デビュー前の中島みゆきさんが持ち込んだ歌詞と曲に度肝を抜かされて自身のプロミュージシャンになるという夢を諦めたんだとか。マスターも北海道ではアマチュアフォーク歌手として名の知られた存在だったらしいんですが、女子高生だった中島みゆきさんの才能を目の当たりにしてね。そんなスターたちの知られざるデビュー前秘話を聞けたのはラッキーでしたね。

 

──そういえば、喫茶店の「聖地」とも言われる名古屋には進出されていませんね。

 

飯尾 敢えてね!! 愛知、岐阜エリアは喫茶店もといモーニング文化の発祥の地。あの天才・清水ミチコさんの実家にも行きたいのは山々なのが正直なところ。ただ、まだ名古屋はやめときましょうと自制しています。地方でまた行きたいのは京都ですかね。実はコーヒーの消費量が全国1位なんですよ。知っていました?

 

──すみません、勉強不足で‥‥。

 

飯尾 意外と知られていないんですよ。あと、漁港にある喫茶店にも行きたい。漁師さんが行くような喫茶店でシラストーストとか食べたいですね。映画「海街ダイアリー」でもおいしそうなのが劇中で出ていましたよね。

 

ホリケンが喫茶店仲間。公演開始の2時間前に待ち合わせて喫茶店へGO!

──喫茶店に通いつめる飯尾さんの「喫茶店あるある」を教えてください。

 

飯尾 カウンター席の奥は常連さんの指定シートのケースが多い。そういうお店だとわかりやすいように丸椅子にクッションが敷いていたりするんですよ。あと、ヨーロピアンな内装でも、昔からあるお店はトイレが和式トイレの場合が多い(笑)。

 

──店内のBGMは大事?

 

飯尾 ちゃんと聴いています。これというこだわりがあるわけじゃありませんが、クラシック音楽が流れていると捗りますね。

 

──クラシックを聴きながらお昼寝……なんてことも?

 

飯尾 失敬な(笑)。それは絶対にありません! だって仕事が間に合わないんですから!! そもそも〆切間近に駆け込んでいるんだし、コーヒーも飲んでいますし。夜中にテニスのウインブルドンを観ながらうたた寝するのとはワケが違うんですよ!(笑)

 

──それは失礼致しました。喫茶店には1人で行かれるばっかりですか?

 

飯尾 だいたいそうですね。その一方でネプチューンの(堀内)健ちゃんとは喫茶店の情報交換を頻繁にする仲ですね。それこそ、タバコOKのお店やおいしいフードメニューのあるお店の情報とか。「祐天寺の駒沢通のあそこはさ」「あのホットサンドは最高でさ」てな具合です。

 

──確かにタバコが吸える喫茶店は貴重です。

 

飯尾 かなり少なくなりましたよね。でも、番組で行くお店は家族経営のところも珍しくないだけに3~4割はOKだった記憶です。そういう情報をメモして健ちゃんに教えてあげるんですよ。今度、(明石家)さんまさんの舞台を観劇しに一緒に水道橋まで行くんですけど、健ちゃんから「番組で行っていた神楽坂のあそこ行こうよ」と言われているので舞台開演の2時間前に待ち合わせです(笑)。「2軒行っていたけど良かったのはぶっちゃけどっち?」なんて逆に取材されています。

 

──お忙しいロケの合間は何をされているんですか?

 

飯尾 ほとんど雑談しています(笑)。週末に同じ番組スタッフが『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』(テレビ東京系)を撮っていて、「今週どこ行くの?」なんて根掘り葉掘り聞いています。あと、訪れた土地の思い出を語り合ったり、駅前の不動産屋さんのチラシをみんなで見に行ったりと楽しい時間を過ごさせてもらっています。

 

──え!? 駅前ロータリーに飯尾さん御一行が佇んでいるかもしれないんですか?(笑)

 

飯尾 「徒歩3分で5万5000円は安いね~」なんてよく立ち話しています。あと、いろいろな喫茶店を回るだけに、過去に食べた料理の思い出話はキラーコンテンツ。「あそこうまかったね」とスタッフ全員の記憶力がやけに良いんですよ。

 

──舌の記憶も色あせないものなんですね。

 

飯尾 そうみたいです。ただ、僕は忘れちゃう生き物なので台本を持ち帰って写真を撮って保存しています(笑)。

 

──「我の舌こそが至高なり」とお互いの食べた思い出の味を競い合うこともあるのでは?

 

飯尾 それは全くないかな。皆さんちゃんと大人なんでね。それも良いしあれも良いなんて互いの好きを尊重し合うような空気感が現場にはあります。絶対に否定はしません。あとは、スタッフのお弁当タイムになると僕だけ暇になる。僕だけロケでお腹いっぱいですから(笑)。だいたい11時半から14時まではランチタイムで書き入れ時なのでロケには入れなくてスタッフがお昼ご飯を食べる時間なんですよ。皆さんがガッツリ茶色い弁当を食べているのをぼんやり眺めていますね。編集作業のために別の喫茶店に旅立つスタッフもいます。僕はロケバスの後ろで寝ています(笑)。好きなものを食べられて2時間弱寝られるなんて最高のロケだと思います。時間になったらスタッフが起こしに来てくれますし。トントンと軽く僕の体を叩きながら「オープニングです」と小声で告げられてスイッチを入れ直しています。

 

──オンとオフのスイッチがすぐに切り替えられるのは流石ですね。

 

飯尾 う~ん、果たしてスイッチが入っているのかな。スタッフは「もっとちゃんとしてくれねぇかな」とか思っているかも(笑)。

 

──そんな中でもロケで失敗したことはあるんですか?

 

飯尾 うーん、あまり記憶にないけど……、強いて言えばよくおろしたてのシャツにミートソースやナポリタンのソースを跳ねさせてしまうことでしょうか。「あの最後の1本だな‥‥」となんとなく状況は鮮明に覚えているもんです。カミさんに何か言われることはないんですが、僕自身がショックを受けています。汚すたびに家で自らシミ抜きをしています。

 

──今年で番組は4年目。5年目、6年目と続けてライフワークにしたい?

 

飯尾 そりゃ、10年でも20年でも。スタッフに変な異動がないかぎりはやりたいですよ。今日もカミさんに「喫茶店行ってくるわ」と言って家を出てきています。「明日何すんの」と聞かれて「喫茶店」と答えるような日常をまだまだ続けたい。カミさんには「仕事と遊びどっちなのよ」なんて小言を言われちゃうのが常ですが……(笑)。

 

──最後に視聴者に向けて一言お願いします。

 

飯尾 喫茶店好きのオッサンが飲みたいものと食べたいものを飲み食いしている番組です。どうか皆様の喫茶店探しの参考にしていただけるとうれしいです。Tverの見逃し配信でも見られますので、好きな時間に部屋着でも全裸でも自分が1番リラックスできる服装で見てください!!

 

 

飯尾和樹のずん喫茶

BSテレ東 毎週(日)午後5時45分~6時15分
※Tverで最新話無料配信中

番組公式HP https://www.bs-tvtokyo.co.jp/zunKissa/

番組公式X https://x.com/BS7ch_ZunKissa

 

撮影・構成/丸山剛史 取材・文/多嶋正大

藤間爽子「何かを感じ取って他人に優しくなれる。人のつながりってそういうことが全部循環しているのかな」映画「アイミタガイ」

見逃してしまいそうな微かな触れ合いが、思いもよらない幸せを呼ぶ……。人のつながりを描いた黒木華さん主演の映画「アイミタガイ」が11月1日(金)より全国公開。主人公・梓の親友を演じた藤間爽子さんが、カメラマンとしての役作りや映画の黒木さんとの共演について語ってくれた。

 

藤間爽子●ふじま・さわこ…1994年8月3日生まれ。東京都出身。三代目 藤間紫として日本舞踊紫派藤間流の家元を務める。女優としても活躍しており、ドラマ「マイファミリー」、「silent」などに出演。10月スタートのドラマ「つづ井さん」(読売テレビ)にて主演を務める。公式HPInstagram

【藤間爽子さん撮り下ろし写真】

 

叶海は演じ甲斐がありそうだな、楽しみだなと思いました

──黒木華さん演じる梓の親友・叶海役で出演が決まったときの率直な心境からお聞かせください。

 

藤間 主演の黒木華さんとの共演は2回目で、お話をいただいたときにまたご一緒できることをすごくうれしく思いました。1回目は後輩役でしたが、役者として大先輩である黒木さんの親友を演じられることもうれしかったです。

 

──映画を拝見して、心が温かくなるような優しいお話だなと思いました。

 

藤間 脚本の前に原作を読んで、背中を押してくれるような優しい本だなと思いました。人と人とのつながりや思いやりといった、人間の良い部分がいろいろ描かれていてすごく温かい気持ちになる。叶海は最初の方で亡くなり、梓が立ち止まってしまい、再び動き出すきっかけになる役でもあるので、演じ甲斐がありそうだな、楽しみだなと思いました。

 

──叶海ははつらつとしていて、さらに施設の子供たちに贈りものをするようなとても優しい女性だなと思いました。藤間さんは叶海をどんな女性だと思いましたか?

 

藤間 中学時代にいじめられていた梓を助ける場面もあり、正義感が強く、行動力がある女性だなと思いました。その頃から好きだったカメラを自分の仕事にして、海外に行くことを夢見ている。外に意識が向いた強い女性でもあるけど、カメラで撮るのは日常のなんてことない場面だったり、人の温かい光景だったりして。そういう優しい部分も兼ね備えた女性なんだろうなって印象がありました。

 

カメラが欲しい熱が再燃して買いました(笑)

──街で見かけた人を楽しそうに撮る叶海が印象的でした。カメラマン役ということでしたが、どんな役作りをされましたか?

 

藤間 役作りというか、事前にできることといえば、これかなと思ってカメラマンの友人にカメラについていろいろ聞きました。基本的なカメラの持ち方を教えてもらいました。ケータイでパシャッと撮ったことしかなかったから、「(ファインダーを)右目で見るの? 左目で見るの?」みたいな感じで(笑)。カメラの持ち方から「普段は首にかけてるよ」とか、「一般的なカメラマンってこんな感じ」みたいな写真を友人が撮って送ってくれました。

 

──カメラマンの友達に基本から教えてもらえるのは心強いですね。

 

藤間 ありがたいです(笑)。現場でもスチールを撮ってくださるプロのカメラマンの方に、付きっ切りで教えてもらいました。「これ合ってます?」って聞いたりして。実際に持ってみると、「カメラってこんなに重いんだ!」って思いました。

(C)2024「アイミタガイ」製作委員会

 

──現場でカメラを持っているうちに、撮るのは楽しいなって思ったりしませんでした?

 

藤間 この撮影がきっかけで、カメラがすごく欲しくなりました。しかも先日撮影していた作品の現場でもカメラを持っている方が多くて。そこでまたカメラが欲しい熱が再燃して買いました(笑)。旅行先の景色や食べたものを撮ろうと思っています。

 

嘘がないのは華さんの人柄だったり、いつも自然体でいるからこそ

──黒木さんと一緒のシーンは気心の知れた親友同士の雰囲気でした。

 

藤間 華さんは気さくでとても話しやすいんです。この現場でもカメラが回っているとき以外は、ずっとおしゃべりしていました。映画のことだけじゃなくて、たわいもないことをずっと話して。本当に撮影が始まるギリギリまでおしゃべりしていたので、カフェで二人で話すシーンは、その延長で撮った感じでした。華さんは役者として大先輩ですが、緊張感や威圧感みたいなものが一切感じられないので、それが本当にありがたかったです。

(C)2024「アイミタガイ」製作委員会

 

──一緒にお芝居をして、黒木さんの素敵だなと思うところは?

 

藤間 いつも自然体。おそらく「こうしよう」と頭で考えるのではなく、そのときの相手から出るものを受けて、言葉を発していらっしゃると思うんです。だから何回か芝居することになったとしても、全く同じようなことはしない。そういうことがリアリティーにつながるんだなって思いました。華さんの芝居には嘘がなくて、「ここにいること」に無理がない感じがして。設定が現代でも、時代劇でもファンタジーでも、そこに嘘がないのは華さんの人柄だったり、いつも自然体でいるからこそなのかなって思います。

(C)2024「アイミタガイ」製作委員会

 

──中学時代の叶海と梓とのエピソードも素敵でした。

 

藤間 完成した作品を観たら、キラキラし過ぎて、私の中学時代とは思えないぐらいかっこいいと思いました。叶海の中学時代を演じた白鳥玉季さんがきれいで、スラっとして「同じ人物に見える? 大丈夫?」って心配でした(笑)。

 

──完成した作品を観て、好きだなと思ったエピソードを教えてください。

 

藤間 草笛光子さん演じる小倉こみちさんのエピソードです。こみちさんはピアノを弾くことにトラウマがあり、その理由を明かして最終的にピアノを弾くんです。草笛さんのお芝居がとても素敵で、ピアノを弾くシーンは感動しました。

 

人と人とがつながっていくことで、いま私たちはここにいる

──タイトルの「アイミタガイ」は、誰かを思ってしたことが巡り巡って見知らぬ誰かを救うという言葉だそうですが、とても素敵な言葉ですね。これが「アイミタガイ」かなと思う経験をされたことはありますか?

 

藤間 私もこの作品を通して初めて知って、こんな素敵な言葉が日本にあるんだって思いました。巡り巡って……、「人と人とがつながっていくことで、いま私たちはここにいる」という考え方だと思うんですね。そう思うと、私が今この仕事をしているのもそうなのかなって。この映画にめぐり合えたのも、そういうことがつながって、今返ってきているのかもしれない。例えば、この作品を観た方が、何かを感じ取ってくださって、他の人に優しくなれるかもしれない。人のつながりってそういうことが全部循環しているのかなって思います。

 

──ではここからはGetNavi webにちなんで、「モノ」や「コト」に関するお話をお聞かせください。最近ハマっているものはありますか?

 

藤間 ハマっているというか、おすすめしたいのは大谷翔平さんも使っているマットレスです(笑)。今年30歳になりまして、母に「何か欲しいものある?」と聞かれまして、誕生日プレゼントにマットレスを買ってもらいました。10年使えるらしいので、40歳まで使えるなと。

 

──やはり寝心地が違います?

 

藤間 その前に1年ほど使っていたマットレスが自分の体に合わな過ぎて、睡眠の質が悪かったんです。大谷さんが使っているものよりワンランク下ですが、疲れの取れ方が違う! 人間は一生の3分の1を寝ていると言いますからね。睡眠は大切にしたいですよね(笑)。

 

──なるほど! 疲れが取れるならちょっと高めでも欲しくなりますね。では趣味を教えてください。

 

藤間 旅行、舞台鑑賞、映画鑑賞。非日常を楽しむことが趣味かなと思います。私は家であまりダラダラしないですね。お出かけするのも好きです。

 

つながっている感じがするんです。本当にありがたいことだと思います

──2024年はどこか旅行されましたか?

 

藤間 年始に友達とイギリスとフランスに行きました。演劇旅というか、1日1本舞台を観ました。

 

──芸術や舞台演劇の本場って感じですね。

 

藤間 すごく楽しかったです。ミュージカルをやっている友達と一緒にミュージカルを観て、美術館に行って。国全体が芸術を大切にしている感じを受けました。

 

──これから行ってみたい場所はありますか?

 

藤間 頑張って行こうと思わないと行けない場所に行きたいです。近場は休みがあったらパッと行ってしまうので。目的はないけど、30歳のうちに親友とアフリカかフィンランドに行こうって約束をしています。30歳って節目じゃないですか。よく旅行する親友で、昨年はその友達とセブ島に行きました。

 

──旅行のお話を聞くと、藤間さんにも梓にとっての叶海みたいな親友と呼べる存在がいそうですね。

 

藤間 いますね。友達がいっぱいいるわけじゃないけど、親友と呼べる友人はいます。小学校が一緒で、小学校時代はそんなに仲良くなかったけど、中学から仲良くなりました。小学校からの親友は二人いて、大学時代に仲良くなった子もいます。

 

──3人も親友と呼べる人がいるなんて素敵なことだと思います。

 

藤間 今日も親友の1人と会います(笑)。そんなに頻繁に会っていなくても、何かあったときには気に留めてくれるから、つながっている感じがするんですよね。そういう人がいてくれるのは本当にありがたいことだと思います。

 

 

アイミタガイ

2024年11月1日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

【映画「アイミタガイ」からシーン写真】

(STAFF&CAST)
原作:中條てい「アイミタガイ」(幻冬舎文庫)
監督:草野翔吾
脚本:市井昌秀、佐々部清、草野翔吾
音楽:富貴晴美
配給:ショウゲート

出演:黒木華、中村蒼、藤間爽子、安藤玉恵、近藤華、白鳥玉季、吉岡睦雄 / 松本利夫(EXILE) 、升毅 / 西田尚美、田口トモロヲ、風吹ジュン/草笛光子

(STORY)
名古屋で働く梓(黒木華)と、大阪を拠点に活動するカメラマンの叶海(藤間爽子)。今は離れて暮らす二人は中学時代からの親友同士だ。帰省した叶海と会った梓はつい愚痴をこぼすが、叶海はネガティブになりがちな梓をいつも応援してくれる。ところがその直後、海外の撮影に旅立った叶海は、現地の事故で命を落としてしまう。

突然の事故で娘の叶海を失った朋子(西田尚美)と優作(田口トモロヲ)は、四十九日を終えても遺品のスマホを解約できずにいたが、そこには叶海の死後に届いた新しいメッセージの存在を知らせる通知が溜まっていた。すべての差出人は梓。叶海の不在を受けとめきれない梓は、これまで叶海と交わしてきたトーク画面に日々メッセージを送り続けていた。

 

(C)2024「アイミタガイ」製作委員会

 

撮影/映美 取材・文/佐久間裕子 ヘアメイク/坂本志穂(グラスロフト) スタイリスト/李 靖華

アートディレクター・山崎晴太郎「アート作品を前にすると身構えてしまう日本人の感覚をできるだけなくしていきたい」『余白思考デザイン的考察学』第4回

デザイナー、経営者、テレビ番組のコメンテーターなど、多岐にわたる活動を展開するアートディレクターの山崎晴太郎さんが新たなモノの見方や楽しみ方を提案していく連載がスタート。自身の著書にもなった、ビジネスやデザインの分野だけにとどまらない「余白思考」という考え方から、暮らしを豊かにするヒントを紹介していきます。第4回は8月から9月にかけて東京・スパイラルガーデンで開催された個展『越境するアート、横断するデザイン。』の振り返りを中心に、日本と海外におけるアート作品の捉え方の違いや、現在ブランディングで参加しているJR西日本の新しい決済サービス『Wesmo!』の話題についてたっぷりと語っていただきました。

 

 

想像力を刺激する“何か”を持ち帰っていただけたのなら大成功

──大規模な個展が大盛況で幕を閉じました。まずは終えてみての率直な感想をお聞かせください。

 

山崎 “終わったー!”というのが正直なところです(笑)。準備している段階から感じていたのですが、想像していた以上に大変でした。というのも、これまでも個展は何度か開催してきましたが、その多くは2〜3シリーズのアート作品に限定して展示することがほとんどだったんです。でも、今回は仕事としてのデザインワークも含め、近年の僕の活動や作品を網羅するような形で展示していきました。そのため、自分で自分を客観視しながら全体像を作り上げていく必要があり、そこが難しく、大変でもあったんです。ただ、そのぶん、来場者の皆さんには僕の頭の中を多面的に見ていただくことができたと思いますし、今は“やってよかったな”と心の底から感じています。

 

──初めて山崎さんの個展に来られる方も多かったのではないでしょうか。

 

山崎 そうですね。皆さん、すごく楽しんでいただけたようで、それもうれしかったです。やはり、表参道という場所柄もあり、クリエイティブなお仕事に疲れている方だけではなく、気軽に立ち寄ってくださる方も多くて。“こうした方々が僕を応援してくれているんだな”と、お顔を直接拝見できたのもよかったですね。実はそこも今回の個展をする際の楽しみでもありましたから。

 

──といいますと?

 

山崎 いまだに慣れないというか、すごく不思議に感じているのが、“僕のことを知っている人って、世の中にどのくらいいるんだろう?”ということなんです。『余白思考』の書籍を出した時も編集者さんに「1万部売れました」と言われたものの、“一体誰が読んでいるんだろう……”とピンとこなくって(笑)。それに、コメンテーターとしてテレビにも出させてもらっていますが、放送後にSNSのフォロワー数が爆発的に増えたり、いろんなコメントが届くかというと、そうでもない(笑)。だからこそ、こうして個展を開催し、会場内で直接話しかけていただく機会を得られたのも、僕にとってはすごく大きなことだったんです。

 

──なるほど。では、展覧会の内容についても伺いたいのですが、今回は会場内の設営にもこだわりが見られ、建築現場の〈足場〉のような構成になっていたのが興味深かったです。

 

山崎 あの空間づくりもかなり大変でした(苦笑)。〈足場〉を使った手法は「株式会社セイタロウデザイン」が近年手掛けている企業やお店などの空間構成によく取り入れていて、世界的な賞もいくつかいただいているのですが、それを今回の個展でも活かしてみました。“未完成である”ということがコンセプトになっていて、それはすなわち、“完成に向かっていく過程”も意味する。それを現す象徴の一つとして〈足場〉を使ってみたんです。

 

 

──どういったところに大変さがあったのでしょう?

 

山崎 当然ながら、〈足場〉には壁がないんですよね。そのため、面材を貼って、そこに作品を吊るす必要があるのですが、作品ごとに大きさが異なるので、一つひとつの面材を調整しないといけなくて。それを考えていくのが想像していた以上に大変だったんです。単純に白壁を使っていれば、もっとラクに設営ができたはずなんですが、自分の首を絞めたような形になりました(笑)。でも、来場者からの評判もよかったですし、苦労した甲斐があったなと思います。

 

──個人的には“あの空間構成を見た時、「アートやデザインは、制作の過程も作品の1つである」といったメッセージ性を感じました。

 

山崎 そのように受け取っていただいても結構ですし、どう感じるかは本当に自由でいいと思っています。今回はどの作品にも解説文やコンセプト、アイデアが生まれたきっかけなどの説明文を一切記さず、代わりに、作品の世界観をより楽しんでもらうためのちょっとした物語や文章を添えるようにしました。これも、自由に作品を楽しんでいただきたいという思いからトライしてみたことでした。ですので、なかには少し思考を巡らせないと理解できない作品もあったかもしれません。でも、そうやって考えてもらうことも一つのクリエーションだと僕は考えているんです。インスピレーションソースをいろんなところに散りばめた展覧会を目指しましたので、その中から1つか2つでも、想像力を刺激する“何か”を持ち帰っていただけたのなら大成功だったと思っています。

 

フラットな視点で作品を見てもらった感想が、次作の創作にも繋がっていく

──こうした個展を通して過去の自分の作品と向き合うと、新たな発想が生まれたり、次作へのイメージに繋がるきっかけになることもあるのでしょうか。

 

山崎 それはすごくあります。過去の自分の思考と向き合うからだけでなく、誰かに作品の説明をすることで、そこから新しいアイデアが派生していくことも多いです。脳が活性化されていくと言いますか、“この作品はもっとこっちの方向に伸ばしていけるな”といったアイデアが湧いてくる。それに、さまざまな感想や意見を直接もらうことで、そこからインスピレーションをいただくことも本当に多いんです。特に今回は初めて僕の作品をご覧になるという方が多く、そのため、感想の一つひとつがとても新鮮でした。最近は自分の作品を見せる対象者の同質性が高くなっていたんだなと気づかされたところがありましたし、フラットな感性や視点を持った多くの方々にクリエーションをストレートに届けることや、そこからたくさんの声を聞くことができましたので、そうしたところにも、この個展を開催した意味や意義を感じることができましたね。

 

──また、今回の個展を経て、山崎さんの中で再発見したものはありますか?

 

山崎 あらためて思ったのは、やはり周囲の力の大きさは何者にも代えがたいものだということです。そもそも、デザイナーって作品を一人で創り出していると思われがちですが、実際は多くの人の支えがあって成し遂げられることばかりなんです。プリンティングディレクターやエンジニア、それにいろんな職人さんがいて、その皆さんが僕の頭の片隅にある小さなアイデアを全力で形にしてくださる。いわば、専門家の方々の集合体なんですね。そうした力は本当にかけがえのないものだと今回の個展を通じて実感しましたし、すべてを終えた今は、達成感と同時に、ちょっとした寂しさも感じています。

 

──それは共同作業が終わってしまったことへのロスですか?

 

山崎 そうです。文化祭が終わってしまったあとの、あの“やりきった感”と一抹の切なさみたいなものです(笑)。とはいえ、今回ほどの規模ではないにしろ、9月と10月にはワルシャワとボスニアで展覧会がありましたし、年末にはベルリンでの個展も控えています。来年には中国でも個展を開催する予定ですので、しばらくはこの楽しさと忙しさが続きそうです。

 

↑Fossils from the future/未来からの化石 Nike Air Jordan I

 

──次にどのような個展を開催されるのか楽しみです。

 

山崎 ありがとうございます。ただ、幅広く多面的に網羅する個展に関しては、今回があまりにも大変でしたので、しばらくは控えようかなと思っています(笑)。それよりも、せっかくこれだけの規模の個展を開催し、オフィシャル写真もたくさん撮影しましたので、今は図録を作ろうと計画しています。きっと、そこでもこれまでの自分の作品たちを反芻することになると思いますし、僕自身、すごく楽しみにしています。

 

──期待しています! また、先ほど海外での展覧会のお話がありましたが、日本と海外を比べ、アート作品の捉え方や見方に違いを感じることはありますか?

 

山崎 すごくあります。もちろん、国や地域ごとに違いがありますし、たとえばアメリカだと、アートが日常に溶け込んでいるのを強く感じます。以前、アメリカのサクラメントという都市で個展を開催したのですが、その街に住んでいる老夫婦が犬の散歩をしながら、ふらっと会場に立ち寄ってくれたことがあって。でも、それって彼らにとっては日常的なことなんですよね。「この作品はどういうコンセプトなの?」とフランクに聞いてきますし。日本人はどうしても美術館に展示されたものやアート作品を前にすると身構えてしまうところがあるように思うのですが、それがまったくない。また、その時はCMも打っていただき、『砂でできたアイコン』シリーズのスニーカーをテレビで流してもらったのですが、それを見た子どもが「見たい!」と親を誘って、家族で来訪してくれたんです。たぶん、ポケモンのおもちゃとさほど変わらない視点でアートを楽しんでいる(笑)。そうした光景はすごく新鮮に写りましたね。

 

──アートに対して崇高といった意識がなく、ハードルの高さも感じていないんですね。

 

山崎 そうだと思います。当たり前のように「これはいくらなの?」って値段も聞いてきますし(笑)。日本だと、“アート作品が売り物である”という概念すらあまりないかもしれない。そうした差は海外に行くと強く実感しますし、その壁をなくしていくこともこれからは大事になってくるのかなと思っています。

↑フォントデザイナーの小林 章さん

 

『wesmo!』は安心感と便利さを突き詰めた新たな決済サービス

──また、会期中の8月23日には山崎さんがブランディングやデザイン、コミュニケーションとトータルで取り組まれているJR西日本グループの新たな決済・ウォレットサービス『Wesmo!』(来春稼働予定)の事業解説を兼ねたトークショーも開催されました。なかでも『Wesmo!』のために作られたオリジナルフォント「WESTERX SANS」の創作話は非常に興味深かったです。

 

山崎 僕らは蓋を開けるまで、“どれだけの人がこのトークテーマに興味を持ってくれるんだろう?”と不安でいっぱいでした(笑)。普段、フォントを意識することも、フォントの話を聞く機会ってあまりないでしょうし。でも、突き詰めていくとフォントって“宇宙”のように哲学的な部分があって、僕たちデザイナーは「この“R”のフォントの右のはらいの形がさ……」といった話題だけで朝まで呑めてしまえる(笑)。その面白さが少しでも伝わればいいなと思い、あのトークショーを企画しました。

 

──これをきっかけに、初めてオリジナルフォントの重要性を知った方も多かったのではないかと思います。

 

山崎 確かに、日本人はフォントを意識することって少ないですからね。でも、それは逆にいうと、誰もが無意識のうちにフォントが持つ力に気持ちを動かされているということでもあるんです。たとえば、商品の説明書き一つとっても、フォントが変われば商品が持つ印象自体が違ってきますから。ですから、僕がブランディングの仕事に参加する際は、いつもオリジナルフォントを作る重要性や意義などをお伝えし、新しく作ることを提案しているんです。ただ、オリジナルフォントを作ろうとすると時間とお金がかかってしまうので、相当な覚悟がないとできないんですよね。

 

──とはいえ、トークショーでもお話しされていましたが、消費者はオリジナルのフォントを見るだけで、それがなんのブランドなのかが自然とわかるようになる。それは、フォント自体がロゴや看板などと同等の価値や影響力があるものだと言えるということですよね。

 

山崎 そうですね。ブランドにとって“どんなフォントを使っているか”というのは、“どんな声でしゃべっているのか”ということでもありますから。しかも、それだけじゃなく、オリジナルのフォントは“守り”にも使えるんです。フィッシング詐欺が長年問題になっていますが、それだってオリジナルフォントを使えば、その文章が公式のものなのか否かをすぐに見分けることができる。特に今回の『wesmo!』のような決済を扱ったサービスだと、オリジナルフォントを作るメリットは大きいと思います。

 

↑Specimens of the spilled over/こぼれ落ちたものの標本 東京#1

 

──なるほど。また、「WESTERX SANS」の制作者であり、世界で活躍されているフォントデザイナーの小林 章さんの創作過程のお話しもフォントの重要性をわかりやすく説いていて、とても面白かったです。

 

山崎 今回の小林さんとのトークは僕にとってもすごく勉強になりました。僕は学生時代、小林さんが書かれた本でフォントを学んだんです。日本において、小林さんがいたグラフィックデザインの世界といなかった世界とでは、まるで違う未来になっていただろうなと断言できる。それに、小林さんとは今回『wesmo!』のプロジェクトでご一緒したわけですが、仕事のスピード感にも驚かされました。発想も素晴らしく、「WESTERX SANS」には遊び心があり、一見すると少しやり過ぎに感じるところもあるんです。でも、実際はとてもおさまりがいい。新しくフォントを作る時はどこまでオリジナル性を出し、攻めていくかも大事になってくるのですが、そのバランスが実に見事だなと感じました。

 

──クライアントが求めているものを掴み取る嗅覚が素晴らしいのでしょうか。

 

山崎 そうですね。先ほども話したように、日本ではまだ新しいフォントを作ることに慣れていない場合が多いんです。つまり、クライアントも何が正解なのかを明確に分かっていないことが多い。それでも小林さんは、みんなが“うん、これだよね!”と直感で理解できるものを作ってくれる。クライアントが提示するキーワードを咀嚼し、斬新さがありながらも、誰もが納得するものを生み出す。その力やセンス、造形力は本当にすごいなと思います。

 

↑8 million traces/八百万の傷跡

 

── 一方、山崎さんがブランディングで参加している『Wesmo!』のサービスも、シンプルさを突き詰めたような決済方法で非常に画期的な取り組みだなと感じました。

 

山崎 JR西日本グループから新しい決済サービスのブランディングの依頼を受けた際、「シンプルさを大事にしたい」というお話しがあったんです。今は電子マネーの決済方法が世の中にたくさんあり、差別化を図るためにさまざまな機能を追加し、それが結果的にユーザーにとっては複雑さを感じるようになってしまっている。ですから、ユーザー目線で“使いやすさ”を追求したものにしようというのは大前提としてありました。

 

──レジ前でアプリを立ち上げるのは意外と手間に感じる時がありますし、決済方法がアプリや店側の端末の違いでバラバラなのも、ちょっとしたハードルに感じているユーザーは多いと思います。たくさんあるアプリの中で使うアプリを探す手間もある。その点、『Wesmo!』は端末にスマホをかざすと自動的に決済のサイトに飛ぶようになっている。会場で試しましたが、手軽さと便利さに感動すら覚えました。

 

山崎 端末は手の平サイズで非常にコンパクトですし、薄さもあるのでテーブルチェックもできる。そこもこだわった部分の一つでした。また、デザイン自体もJRの改札機で馴染のある、交通系タッチの読み取り機にあえて似せたんです。“見たことがある”というのは、それだけで信頼感に繋がっていきますからね。電車に乗るときのように“ここにタッチすればいいんだな”と潜在的に頭に刷り込まれているので、初めての人でも迷うことなく利用することができる。つまり、SuicaやIcocaと同じぐらい安心感のあるものにしたかったんです。ほかにも、まだ発表はされていませんが、新しいお店を開拓するのが楽しみになったり、電子マネーの利便性をさらに高めていく機能も段階的に付与していきますので、ぜひ今後の展開にも期待していただければと思います。

 

 

山崎晴太郎●やまざき・せいたろう(写真左)…代表取締役、クリエイティブディレクター 、アーティスト。1982年8月14日生まれ。立教大学卒。京都芸術大学大学院芸術修士。2008年、株式会社セイタロウデザイン設立。企業経営に併走するデザイン戦略設計やブランディングを中心に、グラフィック、WEB・空間・プロダクトなどのクリエイティブディレクションを手がける。「社会はデザインで変えることができる」という信念のもと、各省庁や企業と連携し、様々な社会問題をデザインの力で解決している。国内外の受賞歴多数。各デザインコンペ審査委員や省庁有識者委員を歴任。2018年より国外を中心に現代アーティストとしての活動を開始。主なプロジェクトに、東京2020オリンピック・パラリンピック表彰式、旧奈良監獄利活用基本構想、JR西日本、Starbucks Coffee、広瀬香美、代官山ASOなど。株式会社JMC取締役兼CDO。「情報7daysニュースキャスター」(TBS系)、「真相報道 バンキシャ!」(日本テレビ系)にコメンテーターとして出演中。著書に『余白思考 アートとデザインのプロがビジネスで大事にしている「ロジカル」を超える技術』(日経BP)がある。公式サイト / InstagramYouTube  ※山崎晴太郎さんの「崎」の字は、正しくは「大」の部分が「立」になります。

 

【「山崎晴太郎の余白思考 デザイン的考察学」連載一覧】
https://getnavi.jp/category/life/yohakushikodesigntekikousakugaku/

 

【Information】

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撮影/中村 功 取材・文/倉田モトキ

パンサー向井&チョコプラ長田の自由気ままな番組「くるま温泉ちゃんねる」。2年で4台の高級車を購入し、次はサーキットを見据えたあのクルマ?

同期で大の仲良しというパンサー・向井 慧さん、チョコレートプラネット・長田庄平さんがかっこいいクルマを駆って、ゲストともにドライブや温泉、趣味のギャンブルやレジャーをゆるりと楽しむ番組『向井長田のくるま温泉ちゃんねる』。YouTubeから始まり、BSよしもと版もスタートする人気ぶり。その秘訣はなにか伺ってみたい。

 

(写真右)向井慧●むかい・さとし…1985年12月16日生まれ。愛知県出身。NSC東京校・11期生。レギュラー番組「よるのブランチ」(TBS)、「パンサー向井の#ふらっと」(TBSラジオ) など。XInstagram (写真左)長田庄平●おさだ・しょうへい…1980年1月28日生まれ。京都府出身。NSC東京校・11期生。レギュラー番組「新しいカギ」(フジテレビ)、「THE神業チャレンジ 」 (TBS) など。Instagram

 

【向井慧さん&長田庄平さん撮り下ろし写真】

 

プライベートならではの“自由”が詰まった番組

──『向井長田のくるま温泉ちゃんねる』は、オフタイムのような雰囲気が、まるでお二人と一緒に遊んでいるかのような気分にさせてくれます。

 

長田 はい、そんな感じです。プライベートエンターテインメントと提唱させていただいていて、基本的に仕事じゃないっていうスタンスでやってます。僕ら同期でもともと仲が良いんですよ。お互い仕事がちょっと忙しくなってきて、プライベートで遊ぶ時間がなくなってきたよなということで、「じゃあ、仕事でスケジュールを取れば、それって合法的に遊べるんじゃないか?」というっていうコンセプトでYouTubeの『くるま温泉ちゃんねる』を始めました。

 

向井『くるま温泉ちゃんねる』のいいところはプライベートと同じで自由になんでもできるところ。それこそ温泉だけじゃなくて、競輪に行ったり、ボートレースに行ったりとかもしますし。

 

長田 意外とね、そういうギャンブル系が好きなのも共通点です。

 

──そういった企画はどうやって立てられるんですか?

 

長田 それも、「パチンコ行ってねえな」みたい感じで、一緒にパチンコ打てたら楽しいかなと思ってやってみたら結構再生回数が良かったんです。じゃあ、好きなんで「ボートレース行こうか」とか、俺は向井とは逆にあまり競輪を知らないんで「競輪行ってみようか」とか、そんな感じですね。

 

──そこも自由なんですね。2022年の開設以来、フォロワーもだんだん増えていき、2023年5月からはBSよしもとでも番組がスタートしました。そういう盛り上がりは想定してましたか?

 

長田 いや、想定外でしたね。チャンネルの伸びに関しては、最初は想定外に……伸びてなかったので(笑)、フォロワーを増やすのにちょっと苦しんだところがあるんですけど、蓋を開けてみればここまで育ったっていうのは本当にうれしいです。

 

向井 業界にも結構ファンがいてくれるので、ゲストで来てくれた野呂佳代さんとか、笠松 将さんとかもそうですけど、ありがたいですね。

 

憧れたクルマは「松本さんのカマロ」

──フォロワーの皆さんはクルマ好きっていう流れで見に来られるんですかね

 

長田 クルマを探していて、YouTubeでクルマの動画を見ていたら、『くるま温泉ちゃんねる』が引っかかった、みたいな人とかもいます。クルマ好きな人とリンクしてますね。ただ、中身はもう本当にスカスカで(笑)。僕は好きなんで頑張ってクルマを紹介してるんですけど。

 

──長田さんは大のクルマ好きで知られていますが、向井さんってご興味的にどうなんですか、クルマは。

 

向井 興味はもちろんあるんですけど、ちょっとまだ自分のクルマは買わないですね。もうここまで買わないで引っ張って来ると、僕自身もいつ買うんだと楽しみです。でも、もう近いと思います。

 

長田 坂上 忍さんの家買う企画じゃないんだから(笑)。かなりいろんなディーラーやショップに行ってクルマを見てますから情報はいっぱい持っていて有利なんですよ。普通に買う時でもこんなに見比べることってないですから。

 

向井 だから本当にジャガーが大きな転換点でした。ジャガーを買うって決めてたんですけど、サイズ的に今住んでるマンションの駐車場に入らないっていうことがわかって、近所に駐車場も見つからなくて、それでだいぶ購入の熱が冷めてきたっていうのがありますね。

 

──一方で長田さんは、この番組が始まってから4台(JEEP・グランドチェロキーL、シボレー・カマロコンバーチブル、プジョー・408、三菱・デリカD5)もクルマを買ったことが話題になりました。クルマ好きはいつからでしょうか。

 

長田 クルマは昔から好きですね。小さい頃はおもちゃのミニカーとか集めてましたし。実際にクルマが欲しいと思ったのは、30年前ぐらいですかね、ダウンタウンの松本人志さんが黒のカマロに乗っていて、あれがすっげえかっこええなと思ったことです。人気芸人になるとこんなクルマに乗れるんだって、憧れましたよね。結局、松本さんはそのカマロを番組の企画で視聴者の方にプレゼントするんですよ。それが記憶としてずっと残ってて、それでカマロを買ったっていうのもあります。憧れ続けたクルマでしたから。

 

本物のクルマでトミカタワーを作りたい

──クルマとしてのかっこよさと同時に、芸人としてのかっこよさを松本さんのカマロに感じたということですね。

 

長田 芸人でクルマを持つって、なかなか成功してないと無理ないんですよ。一般のサラリーマンの方とかと違って、我々ってそんなに信頼とか保証もないので、ローンも組めないじゃないですか。だから、結構がっつり貯めて現金一括でないと買えなかったりするんです。だからクルマは芸人として成功の証だと思ってます。

 

──1200万円のグランドチェロキーLを現金一括で購入した回は興奮しました。

 

長田 あれは本当にチャンネルを伸ばすために、背に腹は変えられないっていうところもあるんですけどね。

 

──向井さんは隣で長田さんの買いっぷりを見ていてどうお感じですか?

 

向井 いや、儲かってるんだなと(笑)。仲がいいとはいえ、「ギャラをいくらもらってる」とかそこまで込みいった話はしないんですよ。なんとなくはわかるんですけど、買い物の仕方を見て、やっぱりYouTubeってすごいんだって思いますよ。パンサーはやってないんで。そういうのを感じますね。

 

長田 向井も同じぐらい儲かってるんですよ(笑)。普通に買えるぐらい。買うか買わないかだけなんです。

 

──クルマを買う時って、お金もそうですけど、駐車場などの条件や好みの面でもいろいろ悩むものです。即断を逡巡してる向井さん、スピンオフ番組『セカンドガレージ』に出られているシソンヌ・長谷川 忍さんが普通じゃないかなとも思いますが……。

 

長田 いや、別に衝動買いってわけじゃなくて、俺の中ではずっと考えがあったんですよ。偶然訪れたプジョーのディーラーで新型の408を買ったのも、前から408が出るんだっていうので、デザイン見ながら「これ欲しいな」ってずっと思ってたんです。それで出て、買いに行ったってことです。なので、タイミングがたまたま合ったっていうだけなんですよ。

 

──ですが、視聴者の立場で言うと、番組中に約2年間で4台も買っているその頻度ですとかも……。

 

長田 いや、まぁそうなんですけどね。

 

向井 クルマが好きなんだろうなと、本当に。

 

長田 本当はもっと台数が欲しいんですよ、駐車場があれば。トミカタワーみたいなの作りたいですもん。

 

向井 芸人が実車のトミカタワーみたいなの作ったら誰も笑わなくなるから(笑)。

 

長田 所ジョージさんとかヒロミさんのライフスタイルも憧れてるんで、いろいろマニアックなクルマとかも運転してみたいというか、乗ってみたいっていうのはあります。

 

次なるクルマは「サーキットも視野に入れて……」

──長田さんは、旧車とかっていうのはお好きなんですか?

 

長田 あんまり興味はなかったんですけど、YouTubeのロケで行って、やっぱりかっこいいなっていうのはありますね。ただ、なかなか手入れとかも大変でしょうし、コストパフォーマンスというか、維持費とかも考えると、なかなか安易には手出せないっていうところあります。

 

──次に欲しいクルマとか、狙っているクルマがあればぜひ教えてください。

 

長田 今ちょっとラリーカーが欲しいんです。三菱のランエボ(ランサー・エボリューション)とか、スバルWRXとか。あとはホンダのシビックTYPE Rとか、そのあたりを狙ってます。運転するのも超好きなんですよ。だから、いずれサーキットとか行ってみたいですね。

 

向井 そっちの欲もあるの?(笑)

 

長田 俺はそっちの欲もある。やっぱり公道でガンガン走るのは限界があるので。

 

向井 それこそ近藤真彦さんとか島田紳助さんとか、そっちの方向にどんどん行くんじゃない? 俺の予想はるかに超えてる。

 

長田 紳助さんが引退されて、「レースをやる芸人」の枠が空いてるんですよ。芸人さんもクルマ好きの方はいっぱいいらっしゃいますけど、そこまで行ってる方っていうのはなかなかいないと思うんです。だから『くるま温泉ちゃんねる』でチームを作って……。

 

向井 それ完全に紳助さん(笑)。でも、すごく頼もしいっすね。夢あるというか、今はあんまり芸人が「夢がある」みたいなことを言わなくなってきた風潮の中で、これだけ景気よく自分の好きなことにお金を使えているっていうのもいいなと思いますけどね。若手とか、これからお笑いをやりたいと思う人から見ても、「芸人いいじゃん」ってなりますよ。

 

長田 僕もダウンタウンさんに憧れて芸能界に入ってきて、そのきっかけは、もちろん面白いっていうのもあるんですけど、芸能人らしい派手な生活みたいなことにも憧れていた部分があるんです。今はそういう派手な生活をするイメージって、YouTuberとかの方に行ってるじゃないですか。僕はそれがちょっと悔しくて、やっぱり芸能人はテレビでもこれだけ成功できるんだぞっていうのを見せたいっていうか、希望を与えたいっていうのはあります。

 

ゆくゆくはファンミーティングイベントもやりたい

──『向井長田のくるま温泉ちゃんねる』がスタートして2年、番組開始当時と比べて変わったってことありましたか?

 

向井 プライベートエンターテインメントって銘打って始めて、たまにビジネスとの境界線がわかんなくなちゃって、無理やりプライベートをやろうとしてる時があります。またそこも面白さの1つなのかもしれないんですけど、スタッフさんもいらっしゃるし、もちろんゲストの方もいらっしゃるので、プライベートと仕事のはざまでなんか謎に縛られてしまっているっていう(笑)。

 

──番組が盛り上がって大きくなってくると、そこは難しい部分ですね。

 

長田 ここ、本当にどうしたらいいか探ってる最中です。だから、スタッフとめちゃめちゃ仲良くなって友達になれば、もう完全にプライベートになるんですよ。どうしたら本当にプライベートエンターテインメントとして遊んでいけるかですね。

 

──ゲストの方もいらっしゃるから、その辺の関係もあるでしょうね。

 

長田 そうなんですよね。だから、YouTubeとBSとで分けてるところがあります。BSは結構しっかりとしたゲストの方で、YouTubeの方は友達という感じで差別化してるところはあります。だからライスの関町(知弘)さんとか、しずるのKAƵMAさんとか、別に数字持ってない人でも特に(笑)。

 

──今後、番組をどんなふうにちょっとしていきたいですか

 

長田 ゆくゆくは、YouTube、BSと、地上波にもやっぱり1個持って。3つのチャンネルを持ちたいなと。

 

向井 おー、地上波にも持っちゃう? すごいね(笑)。

 

長田 あと、ファンミーティングみたいなイベントをやりたいなと思います。一度、ちょっとトークイベントをやらさしてもらいました。100ちょっとぐらいのキャパの箱(劇場)だったんですけど、応募が1000人ぐらい来たんですよ。1000人規模のイベントだったらなんかできんるかなという思いはあります。

 

──イベントは盛り上がりそうです。一方、今や地上波では、クルマの番組もすっかり少なくなってしまいましたよね。

 

長田 そうですね。だから逆に、『くるま温泉チャンネル』で盛り上げたいと思います。

 

向井さんに「運転の楽しさ」を伝授中

──先ほど運転についての話がでましたが、番組内は基本的に長田さんが運転されていますが、向井さんは運転はされるんですか?

 

向井 あんまりしないですね。番組では何回かしましたけど。

 

──長田さんは運転がお好きということですから、「長田さんが運転、向井さんは助手席」の構図は崩れないんですか?

 

長田 別に崩れないですね。でも向井がクルマを買えば崩れるかもしれないです。だから買ってほしいんですけど。

 

向井 買うのはそうですね、ちょっと近々……。

 

長田 僕は運転が苦じゃないんで全然いいんですけどね。向井に運転の楽しさを知ってほしいなと思ってずっと布教してるんですけど、なかなか伝わらないです。

 

──運転から攻めるっていうのもありますね。運転を好きになると車が欲しくなりますし。

 

向井 でもペーパードライバーなんで、やっぱり怖さが多少あります。この番組で運転して、ちょっと運転の楽しさがわかってきたなって頃に、芸能人がクルマ関係の事故を起こしたりするのを見て「やっぱり怖いな」って思って、また気持ちが戻るみたいなことを何度か繰り返してる感じです。

 

──確かに運転にはリスクが伴いますから、ぜひ慎重にお願いしたいところです。番組自体は盛り上がっていますし、スピンオフも増えていくかもしれないですよね。もしかしたら、サーキット編とかも。

 

長田 そうっすね、そういうのももしかしたら。

 

向井 そのあとクイズ番組やって、おバカタレントで曲を作ったりとか。

 

長田 なんか作ろうかな。八角形のなんか、オクタゴンみたいな。

 

──また紳助さんになってます(笑)。

 

向井 だけど、それくらいなんでも自由できそうなのが『くるま温泉ちゃんねる』のいいところだと思いますね。

 

──番組ファンとしても、お2人の肩肘張らない自由な雰囲気はずっとそのままでいてほしいです。

 

長田 はい。そこは変わらず行きたいなと思ってます。

 

──番組の魅力の1つは、多彩なゲストです。お二人が、今後出てほしい方はいますか?

 

長田 ファンで言うと僕は、深田恭子さん。フカキョンさんに出てもらえたらうれしいなと思います。女優さんを助手席に乗せる機会なんてないので、その夢を叶えるってなったら、もうこの番組でしかない。女優さんとかアイドルとかとドライブする機会ないですから。これまでに来たゲストでは野呂佳代さんがいるんですけど、ちょっとバラエティー、芸人臭が……(笑)。

 

向井 僕は、ゆずの2人とドライブしたいっすね。ファンクラブ入ってたんでね、学生時代に。ただ、ゆずさんを乗せて何をしゃべるんだっていうのがありますけど(笑)。でも、そういうチャンスがある番組だなと思います。思いもよらない人と、会えて、がっつりお話できるというのは。

 

──クルマというのもいいのかもしれないですね。自分たちの空間に招き入れるという趣もあります。

 

長田 そう。結構密室な感じになるので、話をするのも、フランクに話しやすい感じになります。ゲストの方にもちょっと期待していただければと思います。フカキョンさんもあるかもしれません!

 

──(笑)。実現したらすごいです。

 

長田 でも本当に、向こうが「番組を見てます」と言ったらもうこっちのもんですから。

 

向井 確かに。本当に危険なのは、ちょっとでも「番組見てます」って俺らに言うと、すぐにオファーかけます(笑)。だから、うかつに言わないほうがいいです。笠松さんにしても、「見てます」って言ったらすぐにオファーしました(笑)。

 

──大物ゲストの登場、番組ファン待望のイベント開催、地上波での展開、もしかしてのレースチーム結成など、今後の展開もいろいろ期待してます。これからも頑張ってください!

 

向井・長田 ありがとうございます!

 

 

<番組情報>

向井長田のくるま温泉ちゃんねる

放送チャンネル:BSよしもと(BS265ch)

放送日時:毎週土曜21:00~21:30

出演者:向井 慧(パンサー)、長田庄平(チョコレートプラネット)

視聴方法:【TV】BS265ch(無料放送)【スマホ・PC】https://video.bsy.co.jp(無料配信)

番組HP:https://bsy.co.jp/programs/by0000018651

【YouTube】https://www.youtube.com/channel/UCmJuf67BYauQMkJL_UH4agw

 

 

撮影・構成/丸山剛史 執筆/牛島フミロウ

江川清音×白井ゆかり「番組とキャスターをつなぐ架け橋のような存在になれれば」ウェザーニュースキャスター連載・第21回/特別編

24時間365日、最新の気象・防災情報を発信し続ける「ウェザーニュースLiVE」。YouTubeの登録者数は132万人(※2024年10月3日現在)を超え、日々の生活を支えるコンテンツとして、ますます多くの人に愛されています。この番組を毎日生放送でお届けしているのが気象キャスターたち。GetNavi webではそんな皆さんの活動を紹介するとともに、それぞれのプライベートな一面に迫った連載「夕虹は晴れ! ウェザーニュースキャスター」を展開。レギュラーでの連載は一度終了を迎えたものの、現在は不定期連載として復活し、再びウェザーニュースLiVEで活躍する皆さんにインタビューを敢行中。今回はその特別編として、この春に復帰された江川清音キャスター白井ゆかりキャスターが登場。現在は広報や番組制作も兼務しているお二人に仕事の内容をお聞きするとともに、内側と外側から見たウェザーニュースLiVEの魅力をたっぷりとうかがいました。

 

<ウェザーニュースLiVE×GetNavi web連載>

【連載「夕虹は晴れ! ウェザーニュースキャスター」一覧はこちら

【江川清音さん&白井ゆかりさん撮り下ろし写真】

 

新たな仕事に携わったことであらためて感じたウェザーニューズのすごさ

──お二人は今年(2024年)の5月にSNSを通してウェザーニューズ社に復帰された報告をされていましたね。

 

白井 私は、5月の連休明けに戻ってこようというのを以前から決めていました。

 

江川 私も(復帰は)5月頃かなと思っていて。偶然にも同じタイミングの報告になったんです。

 

──久々に出社されたときはどのようなお気持ちでしたか?

 

白井 なんだか不思議な感じでしたね。言葉で表すなら、一番近い感情は“そわそわ”だったかも(笑)。

 

江川 うん、わかる!(笑)

 

白井 “会社に来たぞ!”という喜びもありましたが、久々の雰囲気にそわそわドキドキして、でもどこか懐かしさもあって……。そのあとすぐに、“あぁ、やっぱりここはホームだなぁ”という気持ちが湧き上がってきました。

 

江川 私もそうでした。会社のフロアに足を踏み入れた瞬間、“ただいまー!!”って言いたくなって(笑)。“本当に戻ってきたんだなぁ”としみじみもしましたね。

 

──視聴者にとっても「おかえりなさい!」という気持ちが強かったと思います。今はキャスター以外のお仕事もされていて、すでに番組の中でも少しずつお話をされていますが、あらためてその内容についてお聞かせいただけますか?

 

白井 私はウェザーニュースLiVEの番組制作や企画などを担当しています。具体的には、番組に出演しているキャスターや気象解説員の皆さんの音声チェックであったり、事前に番組用に用意した画像や映像資料などを画面に映す「素材出し」といった裏側の仕事ですね。また、サポーター(視聴者)の皆さんがYouTubeのチャットにリアルタイムでコメントを寄せてくださるので、それらを抜粋して、画面に出したりもしています。

 

──“ポヨン”と呼ばれている吹き出しのコメントですね。

 

白井 はい。ですので、キャスターをしているときよりも皆さんのコメントをよく読んでいます(笑)。“サポーターさんはこんなことを思っているんだ”と知ることもできて、すごく楽しいです。

 

──白井さんはお休みに入られる前から、「復帰するときは制作側の仕事をするかも」とお話しされていましたが、その夢が叶ったということでしょうか。

 

白井 以前から動画の編集に興味があったんです。キャスターとして一番近い場所からスタッフたちのクリエイティブな作業を拝見していましたし、もともと趣味で写真も撮っていましたので、映像を作る仕事にも挑戦してみたいなと思っていて。そうしたら、産休明けのタイミングでチャンスをいただけたので、「ぜひ!」という思いでやってみることにしました。また、今はそうした番組制作の仕事以外にも、まだ入社して歴の浅いキャスターに向けた研修などもさせていただいていますので、本当に幅広くいろんなことをやらせてもらっています。

 

江川 ゆかりん(白井キャスター)がすごいのは、そうした研修を誰かに指示されたわけではなく、キャスター全体のことを考えて自主的に行っているところなんです。「これから大雨や台風が増える時期になるから、そのときになって困らないように、今からしっかりと対処法を身に着けておこう」と言って、積極的にみんなに声をかけて。その行動力はもちろん、後輩や番組を思う気持ちが本当に素敵だなって思います。

 

白井 清音さんに褒められた! うれしい!! ただ、実際に研修をしてみると、みんなすごく成長しているので、私からは何も言うことがないんですけどね。むしろ、“何か言わなければ……”と思って、頑張って絞り出すことがほとんどなんです(笑)。それに、私が積極的に行動に起こさなくても、みんなのほうから「ぜひ私にも教えてください」と声をかけてくれることも多くて。そういった言葉をもらうと、“みんな、もう一歩レベルアップしたくて頑張っているんだな”と思えて、私もうれしくなる。ですので、私も求められる限り、みんなのお手伝いになれればなと思っています。

江川清音●えがわ・さやね…1989年12月3日生まれ。北海道出身。O型。ウェザーニューズ「おは天」の10期生として、2008年よりキャスターに就任。その後、番組の変遷とともに「SOLiVE24」、「ウェザーニュースLiVE」の気象キャスターとして活躍。趣味・特技は社交ダンス、クラシック・バレエ、フラワーアレンジメント、クレイデコレーション、カルトナージュ、カリグラフィー、ヨガなど。XInstagram

 

──江川さんは復帰後、広報としても活躍されていますが、どういった経緯だったのでしょう?

 

江川 上司からの提案でした。急な話だったので驚きましたが、私もせっかくのチャンスだと思って飛び込んでみることにしたんです。具体的な仕事内容としてはBtoSの広報になります。一般的にはBtoC(Business to Consumer/企業と一般消費者・個人)と呼ばれるものですが、ウェザーニューズでは“Business to Supporter(企業とサポーター)”と表現しているんです。

 

白井 ウェザーニューズやウェザーニュースLiVEを扱ってくださるテレビ番組などで広報として登場している清音さんの姿を観る機会も増えましたよね。

 

江川 そうしたテレビ番組などのメディア対応も仕事の一つですね。ほかにもウェブサイトの運営であったり、ウェザーニューズが新聞やネットの記事でどれくらい取り上げられているかなどのデータを収集したり。もちろんウェザーニュースLiVE自体にも携わっていて、番組をもっと盛り上げるための企画会議などにも参加しています。

 

──SNSで江川さんがウェザーニューズのプレスリリースを紹介している投稿を拝見したことがありますが、リリースの記事も書かれているんですか?

 

江川 はい、めちゃめちゃ書いています!(笑) 例えば「猛暑見解2024」では予報センターの方に「今年は暑くなりそうですか?」と夏の気候の長期予報をお聞きしてプレスリリースの草案を作り、それをよりわかりやすく伝えるために、デザイナーさんに天気図なども描いていただいたり。初めてのことで大変ではありますけど、今まで以上に会社のことを知れて、すごく楽しいです。

 

白井 わかります! 私も、会社の取り組みについて意外と知らないことがたくさんあるんだなと実感しました。

 

江川 これまではキャスターとして番組内で扱う気象に関する情報を目にすることがほとんどでしたので、会社の業務の細部までは把握しきれていなかったんです。でも、実際には私たちの生活に関することだけじゃなく、海上気象や航空気象、それにスポーツやイベントなどあらゆる場面でウェザーニューズの気象データや情報が活かされている。なかには、“こんなところでも!?”と驚くことがありますので、いつかウェザーニュースLiVEの番組の中で広報・江川としてのコーナーを作り、ご紹介していけたらなと思っています。

 

 

番組に関わっている全ての人に拍手を贈りたい!

──お二人はそれぞれ新たな立ち場から客観的にウェザーニュースLiVEを見る機会が増えたかと思いますが、あらためて感じるウェザーニュースLiVEの良さとはどんなところでしょう?

 

白井 やはり、一番にあるのは番組と視聴者の距離の近さだと思います。サポーターさんからリアルタイムで送られてくる気象情報をスタッフたちが即座に処理し、それをキャスターに渡して番組内で発信していく。そうしたバトンの受け渡しがすごくきれいにつながっているなと強く感じます。

 

──突然の気象の変化や地震が起きたときのチャットのコメントの多さと、それを素早く情報として伝えていくスピード感にはいつも驚かされます。

 

白井 どのくらい揺れたかといった体感や雨量の多さなどを、皆さんがチャットを通じて、地名を入れて教えてくださる。そのことで、きっとどこよりも早くいろんなエリアから情報が集まってきて、地震やゲリラ雷雨などの発生直後から絶えず最新の状況を番組でお伝えすることができるんです。これができるのはウェザーニュースLiVEならではだと思います。

 

江川 また、スタッフたちの瞬発力もすごいんです。気象の情報に限らず、番組内でのちょっとした企画でも「こういうことができませんか?」と提案すると、すぐに「やりましょう!」と動いてくださる。そうした行動の早さを見ると、やはり最新の気象や防災情報を24時間365日、絶えず伝えているからこその瞬発力が皆さんに備わっているんだなと感じさせられます。

 

白井 それに、裏側に回ってみてより強く思うのが、ウェザーニュースLiVEの“チーム感”ですよね。多くの人の力で番組が作ることができ、さまざまな情報をお届けできているわけですが、それらを生み出しているスタッフやサポーターさん、それに予報センターの解説員の皆さんやキャスターたちって本当にすごいなと、心から拍手を贈りたくなります。

 

江川 あなたもその一員なんだよ!(笑) でも、皆さんを褒め称えたくなる気持ちはわかる。

白井ゆかり●しらい・ゆかり…1991年6月25日生まれ。埼玉県出身。B型。2015年にウェザーニューズ入社。現在、同社が配信する「ウェザーニュースLiVE」の気象キャスターとして活躍中。趣味・特技は茶道、ヨガなど。 XInstagram

 

白井 私や清音さんの役割は、その架け橋のようなものだと思うんです。サポーターさんがどんな情報を欲しているのかをキャッチし、それを私たちが会社やキャスターに伝えることで番組がさらに良いものになっていく。そうやって、全員にとってプラスになるように働きかけていく存在になることが大事なんだろうなって。

 

江川 きっと会社も私たちにそこを期待していると思いますしね。キャスターでありながら、同時に番組を制作する側の仕事を兼務しているのは、今のところ私たちしかいませんし、“これは失敗できないぞ!”という責任感もありますが、しっかりとキャスターの経験を活かして、架け橋になっていきたいなと思っています。

 

白井 そうですね。プレッシャーは半端ないですけどね(苦笑)。

 

──今はどんなところに大変さを感じていますか?

 

江川 広報の仕事としては、やはり言葉の表現ですね。仮にプレスリリースで間違った言葉の使い方をしてしまうと、私だけのミスではなく、会社全体の信用にもつながっていきますから。メディアへの電話対応も、私の発言が公式の言葉として捉えられてしまうので、そこは本当に慎重にならなければなと思います。もちろん、常に責任感を持って業務を行っていますし、すべての情報をしっかりと把握しているつもりではいます。でも、気象に関する言葉の言い回しは繊細なところがあり、ちょっとしたニュアンスの違いで誤解が生じる可能性がある。ですから、少しでも不安に思うことがあれば絶対に曖昧にしたり、自分を過信せず、周りにいるもっと専門的な知識のある方に伝え方を確認したうえで、自信を持って回答するようにしています。

 

白井 電話対応こそ、これまでのキャスターの仕事とは違って慣れていないから焦りが生まれそうですよね。

 

江川 それもあるし、私もともと電話がすごく苦手なの(苦笑)。両親とも電話だとあまりうまく話せないぐらいで。

 

白井 そうなんですか!?

 

江川 顔が見えないと、相手が誰であろうとドキドキしちゃって。だから、大事な用事があるときは直接会うか、もしくはメールで連絡するようにしていて。

 

白井 少しわかる気がします。私もお店とかに電話で予約するとき、少し苦手意識があります。

 

江川 同じタイプの人がいた!(笑) とはいえ、広報をしていて“電話が苦手です”ではお話にならないので、しっかりと対応できるように今頑張ってます。ゆかりん(白井)はどう? 初めての仕事が多そうだし、やっぱり大変?

 

白井 私がいる部署は以前のキャスター時代とチームも同じですので、環境自体はほとんど変わらないんです。ただ、自分の立ち位置が変わっているので、そこに難しさを感じていますね。打ち合わせのときでも、キャスター寄りの意見を言ったほうがいいのかなとか、あまり寄りすぎてもよくないのかなとか。反対に、スタッフ寄りの発言になってしまうと、キャスターとの距離が出てしまうしな……とか考えてしまって。新しいお仕事ということもあり、それらを一から覚える大変さもありますが、そのこと以上にチーム内におけるコミュニケーションを大事にしているので、より難しさを感じてしまいます。

 

江川 3時間の生放送はキャスターとスタッフがワンチームにならないと乗りこなせないから、コミュニケーションや人と人との距離感は本当に大切だよね。

 

白井 本番が始まってしまえば、楽しいことばかりなんですけどね。天気が穏やかな日は音声チェックをしながらキャスターの楽しいトークを一緒に笑って聞いていられますし、サポーターさんからのコメントを見て「どれをポヨンで出そうかな」と考えていることが多いので(笑)。

 

──とはいえ、急に天候が荒れだしたり、地震速報などが入ると、そうも言ってられなさそうです。

 

白井 そのときは一気に緊迫した空気になります。警戒レベルが上がるような状況じゃなくても、ゲリラ雷雨などが発生すると、どんどんと番組の構成が変わっていきますから。サポーターさんから届く、「このエリアの雨が急に強くなってきました」といった情報や動画をどのタイミングで出すのか、また、どの素材を使うのかといったことをディレクターが即座に判断し、それらをすぐに番組内で発信していかなければならない。当然、準備をしている間にも天気の状況は刻一刻と変化していくので、キャスターたちもものすごい緊張感に包まれているはずで。だからこそ、制作側とキャスターの間に立つ私としては、そこもうまくフォローしていけたらいいなと思っています。

 

 

リリースや動画などを通して発信する情報の大切さと難しさ

──同じ“伝える”仕事であっても、キャスターと制作や広報にはいろんな点で違いがありそうですね。

 

白井 そうですね。キャスターだと注意喚起などを、直接番組を通して自分の口からお伝えすることができますが、動画だと1つのニュースを配信し、それを皆さんに見ていただくことで注意喚起につながっていく。伝えるベース自体が大きく異なるなと感じています。

 

江川 実はゆかりんが編集したニュース動画もたくさんアップされているんだよね。

 

──ニュース動画というのはYouTubeにある3〜4分ほどの「最新気象ニュース」や「台風情報」などの動画のことでしょうか?

 

白井 はい。生放送でキャスターや気象解説員の方々がお伝えしている情報を切り取って編集し、それをニュース動画として配信しているんです。普段はあらかじめ切り抜くことを前提に番組内で気象解説していただくことが多いので編集も楽なのですが、急な天候の変化などがあると、キャスターと解説員の会話の中から抜粋してショート動画にまとめないといけないので、そのときは時間との勝負になりますし、緊張が走りますね。

 

江川 私も以前、ゆかりんに動画の編集を学んだことがあるんです。ウェザーニューズのアプリをSNSで紹介するときに「花火チャンネル」の情報を動画でアップしたいなと思って。なのに、途中で固まっちゃって(笑)。

 

白井 えっ!? なんと!

 

江川 早くアップしないといけない情報だったので、どうにもならずシュンっと落ち込みながら、結局その日はスクショの写真を貼り付けました(苦笑)。でも、そのときにも思ったんだけど、こうした編集作業って、ついのめり込んでしまって、時間があっという間に過ぎてしまう危険があるよね。

 

白井 そうなんです。キャスターとして番組を担当している3時間もあっという間ですが、動画編集も、こだわったり、集中していると、気づいたら数時間経ってることがあります。

 

──サムネイルを作る作業もこだわり出したらキリがなさそうです。

 

白井 サムネイルは沼りますね(笑)。目を引くものにするためにインパクトのある文字の乗せ方や色合いなどを細かく考えるんですが、時間をかけて悩みに悩んだ挙げ句、結局最初のものに戻ったり(笑)。

 

江川 なんだかんだと直感で作るものがわかりやすくて、いいものだったりするもんね。

 

白井 まさに! ただ、気をつけないといけないのが、油断していると毎回似たようなものばかりになったりするんです。“ここは強調したいから絶対に赤色の文字にしよう”とか、“ここは注意を引きたいから黄色かな”って考えていると、“あれ? 前々回と同じ配色になっている!”って(笑)。

 

江川 もう、くせのようになっているんだね。

 

白井 ですね。清音さんもキャスターの仕事との違いという点では、番組用の台本作りとプレスリリースでは内容も文章の書き方もまるで違いますよね。

 

江川 そうなの! よくぞ聞いてくれました(笑)。そもそも、番組用の台本は自分が理解するために書いているものなので、そこまで神経質にならないんです。でも、プレスリリースなどは他人に理解してもらわなければいけないので、しっかりとした文章が必要になる。それに、普段から書き言葉に慣れてないから、“なんか日本語が変だな”と思いつつ、でもどこがおかしいのかが具体的にわからなくて、悩んでしまったりして。逆に慣れていないことが幸いして、チームのリーダーから「これは私には書けないキャッチだ!」と褒めていただくこともあるんですけどね(笑)。

 

──文章の言い回しって、一度悩み始めると普段から使い慣れた言葉でも、“この日本語ってちゃんと合っているのかな?”と不安になることがありますよね。

 

江川 あります! “あれ? 意味通じているかな?”とか、“そもそもここでは何を伝えたいんだっけ?”と目的まで見失いそうになったり(笑)。キャッチもそうですね。こねくり回しすぎて、ゴールがわからなくなったり、反対にシンプルにしようとすると、今度は普通すぎて面白みのないキャッチしか思いつかなくなったり。そういうときは一度コーヒーを飲んだりして、頭の血を落ち着かせるようにしています。

 

白井 そういう苦労もあるんですね。……私、今日のこの取材でキャッチになるような言葉を一つも残せてない気がするんですが、大丈夫ですか?(笑)

 

江川 そんなことはない! いい言葉をたくさん言っているよ。ですよね?

 

──はい。今日に限らず、この連載ではどのキャスターさんのインタビューも印象に残る言葉ばかりで、すごく楽しいです。むしろ、毎回素敵すぎて、短くまとめるのが大変なぐらいです。

 

江川 そう言っていただけるとうれしいです。

 

白井 だからなのか、連載を重ねるたびに記事が長くなっていますよね(笑)。

 

──気づいていましたか(笑)。そうなんです。なかでも山岸愛梨キャスターの回では内容が本当に素晴らしく、ほぼノーカットで使いたかったので、前後編の2回に分けさせていただきました。

 

江川・白井 さすがあいりんさん!

 

──でも、こうしたイレギュラーな構成はWebの記事だからできることであって、プレスリリースのような資料だと、簡潔にわかりやすくまとめないといけないので大変だと思います。

 

江川 そうですね。文章が長くなりすぎると、言いたいことが散らかってしまったりしますし、要点をしっかり抑えないと、途中から読んでもらえなくなる場合もあるので、何を一番に伝えたいのかを短く構成していくのはすごく重要になってきます。それに、プレスリリースだと気象に関する専門用語だけでなく、ビジネス用語もたくさん出てきますから、きちんと理解せずに使っていると大変なことになる。そういった点においても、あらためて言葉で伝えることの責任感や大変さを強く感じますね。

 

復帰前は「私、こんなにうまく話せない!」とプレッシャーでした

──お二人は7月からキャスターとしても復帰されました。これは最初から決まっていたことなのでしょうか?

 

江川 日程自体が決まっていたわけではないのですが、「近いうちにキャスターとしても」という話はうかがっていました。

 

白井 私は正直なことを言うと、番組を裏で支える仕事に強く興味を持っていたので、産休に入る前は、“もしキャスターとして必要とされるのであれば、またやってみようかな”というぐらいの気持ちだったんです。でも、お休みをさせてもらっている間にもサポーターの皆さんから、「キャスターに戻ってきてくださいね」という声をいただくことが多く、それがすごくうれしくって。ですから、どこかで機会があればいいなとは思っていました。

 

江川 復帰の日が決まるまではドキドキだったよね。

 

白井 ほんとに! 清音さんは復帰されるのがこれで2回目ですが、それでもやっぱり緊張されていたんですね。

 

江川 前回はそのままキャスターとして戻ってくるだけだったけど、今回は広報の仕事も兼務しているから、そういう意味では今までとは違う不思議な感覚があったかも。同じように別のお仕事とキャスターを兼ねている先輩に川畑(玲)さんがいらっしゃるので、ウェザーニューズの社員としての立場やキャスターとしての立場の違いなどについて、たくさん相談に乗ってもらったりもして。

 

白井 以前から川畑さんのご活躍を見て本当にすごいなと思っていましたけど、いざ自分も似た環境になると、どれだけ大変なことをこなしているのかというのを実感しますよね。

 

──やはり制作側の仕事を経験すると、キャスター視点で見る番組自体もこれまでとは違って感じるものですか?

 

江川・白井 全然違います!

 

江川 声がそろった(笑)。けど、本当に見え方が違うよね。

 

白井 すべてのスタッフに対して感謝の気持ちでいっぱいになりますし、「こんなキャスターですみませんでした!」という言葉しか出てこないです(笑)。

 

江川 ほんと、そうだよね。スタッフの皆さん全員に頭を下げたくなる。

 

白井 「これからはちゃんと構成どおりにやります! いつも脱線してすみません!!」って(笑)。

 

江川 うん。脱線したあとに、いかにスタッフたちが自分たちの知らないところで助けてくださっていたのかがよくわかるし。番組がスムーズに進むよう、本番前にスタッフが細かく進行を考えてくださっているわけですから、そのとおりにやることがいかに大事か。

 

白井 やっぱり好き勝手やっちゃいけないなと反省していますし、謝罪したいことを挙げだしたらキリがないです(笑)。

 

──ちなみに、今回の復帰に向けて、何かしらの準備はされていたのでしょうか?

 

江川 発声練習だけはキャスター復帰に関係なく、毎日欠かさずするようにしていました。

 

白井 すごい!

 

江川 私の場合、“噛み様”と言われてしまうぐらい噛み癖があるからなんだけどね(苦笑)。今でこそ随分良くなったけど、油断すると口が動かなくなるから、訓練だけは日々しておこうと。

 

白井 私はイメトレくらいですね(笑)。というのも、復帰までの2か月の間、裏方としてずっと近くでキャスターたちの番組を見ていたので、そこで感じたプレッシャーったらなかったんです。“みんな、よくしゃべれているな。すごいな”!って。

 

江川 わかる! 今のキャスターたちの番組を見ていたら、“きっと私、こんなにしゃべれない!”って怖くなったもん。

 

白井 特に、私たちがお休みする前に研修をしていたせんちゃん(小川千奈キャスター)まゆちゃん(魚住茉由キャスター)がびっくりするぐらい成長していて。驚くと同時に、“本当に上手になったね”って、自分のことのようにうれしくなったんです。

 

江川 うん。私も“二人とも大きくなったね!”って泣きそうになった。

 

白井 いち視聴者として二人のフリートークを聞いていても本当に面白いし。そのことを本人たちに伝えたらすごく喜んでくれたんですが、とはいえ、いざ自分がキャスターに復帰することになってからは、そんなことも言っていられなくなったんです。“私、できないかもしれない!”という不安な気持ちでいっぱいになって。

 

江川 そうなんだよね。以前は研修しながら二人に、「大丈夫だよ!」って励ましていたのに、今の私の番組を見て、「全然できてないじゃん!」って思われたらどうしようって(笑)。

 

白井 まるで説得力がなくなっちゃいますからね。だからこそ私はひたすら、“大丈夫! 自分はできる!!”ってイメトレをしていたんです(笑)。

 

──復帰された日はどんなお気持ちでしたか?

 

白井 復帰日は気象状況の注意度が通常時よりも高くなっていたので、番組内も緊張具合が高まっていました。私自身の緊張度もMAXだったので……落ち着いてゆっくり丁寧に話すことを意識していたように思います。でも、あまりの緊張で正直、頭の中はぽわぽわしていました。今何を話しているのかが、自分でもあまり理解できずにいるという感じで(笑)。ただ、3時間の番組なので、そうした状態が続きながらも、番組終わりの方は口から途切れず言葉が出てくるなと客観的に見られるようになっていて、“あ〜これは、今までキャスターをやっていたときの感覚が忘れずに残っているからかな”とも思いました。番組終了後は、“反省点がいっぱいありすぎる……”と思いつつ上司に挨拶をしたところ、「以前よりも声のトーンも落ち着いて、聞きやすいよ!」と褒めていただけて、胸をなでおろしましたね。

 

江川 キャスターとして番組に出演するときは、規定の入りの時間よりいつも1時間は早く来て準備をしているのですが、天気はもちろん、生活の豆知識や実用的な情報など“皆さんに有意義な情報を届けたい!”と思って準備をしていると、いつも時間が足りなくなっちゃうんです。復帰したあの日もわちゃわちゃとして「急げ〜急げ〜!」と小声で言いつつ、スタジオの椅子に座ったのを覚えています(笑)。そして、スタジオの席に座った瞬間、“これこれ、この独特の空気感! 緊張感! キター!! ”となりました(笑)。急に現実味が増すと言いますか、背筋が30cmくらいグググっと伸びたのを感じましたね。

私の番組は元気ハツラツでテンションが高めだと言われることが多いのですが、復帰前日などには台風や大雨の影響が心配な地域があって番組の災害注意レベルが上がったり、復帰直前の番組内では千葉県で最大震度4の地震が発生していたりしたので、番組をお送りする温度感が難しかったです。ただ、番組が始まると視聴者の皆様から「おかえり! 待っていたよ!」とお声をいただき、“私のホームがここにある!”と心があたたかくなりました。そして何より、これからも視聴者、ファンの皆様に愛される番組作りをしていきたいと強気思いましたね。

 

──また、7月27日には「ウェザーニュースLiVE 劇場ライブビューイング」も開催され、お二人にとっては久々のイベントとなりました。江川さんはスタジオから、白井さんは映画館からの出演となりましたが、サポーターの皆さんとの久々の交流はいかがでしたか?

 

白井 リアルイベントが私にとってとても久しぶりで、会場で皆さんにお会いできるのが本当に楽しみでした! 以前から応援してくださっているサポーターさんもいらっしゃって、“お久しぶりです〜!”という気持ちと、初めましてのサポーターさんも多かったと思いますので、“どうもどうも白井です〜!”という新鮮な気持ちもありました。会場は皆さんとの距離が思った以上に近くて、暗いはずの映画館ではありますが、皆さんの表情がよ〜く見えました(笑)。だからこそ、私たちが登場したときに、皆さんがあたたかく迎えてくれた優しい表情が印象に残っています。あと、皆さんがたくさん掛け声を出して、場を一緒に盛り上げてくださったんです。あの一体感、最高に素敵でした! 本当にありがとうございました。

 

江川 私はイベントへの参加が数年ぶりで、かつ劇場ライブビューイングという初挑戦の催しでしたので、始まるまで期待と不安でいっぱいでしたね。スタジオではゆいちゃん(駒木結衣キャスター)みーちゃん(戸北美月キャスター)と私の3人のMCで、お互いを補いつつ、それぞれが自分の役割を果たしながら特別番組をお送りできたので良かったと思っています。また、実際に始まってみると、ご存知の通り好きにやらせてもらいまして(笑)、皆さんの反応を受けつつ、私たちも楽しませていただきました。

映画館の雰囲気については、板橋会場と幕張新都心会場で中継を繋いでいるときには盛り上がりなどが実感できたものの、それ以外の映画館の状況などを把握するのが難しく、来場していただいた方に楽しんでいただけているのかどうかという不安は残りました。全国の劇場で参加していただいた皆さんのアンケートや社員からも感想をうかがったので、今後開催される際は、皆様にとってより満足度の高いアップデートした劇場ライブビューイングをお楽しみいただきたいと思っています。

ウェザーニュースLiVEの「参加型のお天気コミュニティー」は留まることを知りません! これからも皆さんと一緒に歩み続けていきたいと思っておりますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします!

 

──では最後に、今後の目標を教えていただけますか?

 

江川 キャスターには天気や防災など、いざというときにさまざまな情報を伝えていく役割や使命があります。広報としても、会社のことをより多くの方に知っていただき、情報を届けていくという意味では同じだと思っていますので、ウェザーニュースLiVEはもちろんのこと、ウェザーニューズという会社の取り組み自体もたくさんの方に知ってもらえるように頑張っていきたいですね。また、サポーターの皆さんにとって身近なアプリについても随時アップデートをしています。ですから、そうしたユーザーの生活をより豊かにするための機能なども多くの人に広めていけたらなと思っています。

 

──江川さんもアプリの開発をされているんですか?

 

江川 広報として開発チームと一緒に作ることはあります。“こういう情報をアプリで使えるようになったら便利では?”といった提案をしたり、少しではありますが、私も企画を出すことがあって。ユーザーにとって使いやすいアプリにしていくのはもちろんですが、減災や命を守るために必要とされるツールですので、そのためにもいろんな機能を作っていきたいなと思っています。

 

白井 私の目標は、やはりキャスターとサポーターの皆さん、そして番組を支えているスタッフの架け橋のような存在になることですね。といっても、そんな大層な立ち位置ではなく、良い相談役になるような感じで(笑)。気になることや不安なことがあれば“ちょっと白井に伝えておこうかな”という気軽さで、ウェザーニュースLiVEチームのみんなの拠り所になれればなと思っています。

 

江川 みんなが「ゆかりんに頼るぞ!」みたいな感じだね(笑)。

 

白井 はい、“もう、なんでも来い!”です(笑)。それに、動画編集もさせてもらえるようになり、やりたかったことの一つに携わることができました。ですので、映像面でも有意義な動画を届けられるスキルをもっと磨いて、皆さんにとって生活に役立つ情報をお伝えしていきたいと思っています。

 

▼コラム「インタビューこぼれ話」

多忙を極めるお二人に最近はまっていることや趣味の話を語っていただきました!

江川 今はまっているものと言えば、「外郎売」を発声練習の中に取り入れています。滑舌のトレーニングとして有名なものなんですが、早口言葉も入っているので、毎朝ラジオ体操と一緒にやるようにしていますね。

 

白井 以前、隣でラジオ体操していましたよね(笑)。

 

江川 そうだった(笑)。朝に体を動かすと頭がシャキッとするし、声の出方もよくなるのでおすすめですよ。それ以外ではまっているものと言えば……カラオケかな。よくCスタ(会社にあるCスタジオ)に籠もって、一人で歌ってる(笑)。

 

白井 えーっ、そうなんですか!? なんだか意外です。

 

江川 これも発声練習がてら歌っているんだけど、最近になってCスタの電気が点くようになったから、私が歌っているのを見かけると、皆さんそっとしておいてくれるんです(笑)。

 

白井 私がはまっているのはカカオのチョコですね。小さい頃からチョコレートが大好きで、好みを聞かれたら、必ず「海外とかで売っている甘〜〜いのが好きです」と答えていたんです。でも、最近は高カカオに目覚めまして。

江川 大人になったんだ!

 

白井 はい。でも、それは決して苦みが好きになったからではないんです。カカオを口に入れてからご飯を食べると太りにくくなるそうなんです。しかも、カカオ成分が高めじゃないとダメみたいなので、86%くらいのものを食べるようにしているんですね。そうしたら、70%でも少し甘さを感じるくらいになってきて。

 

江川 それは相当好みが変わった証拠だね。

 

白井 そうなんです。毎日食事前に2粒ほど摂るようにしていたら、「お! 高カカオ、いけるぞ!」と思うようになって(笑)。今は、ほかにもいろんなチョコを試してみようかなと思っています。

 

江川 じゃあ、もし今ミルクチョコレートを食べた日には……。

 

白井 甘〜〜〜〜〜〜〜〜!ってなると思います(笑)。

江川 (笑)。では、最近新しく趣味で始めたことはある?

 

白井 う〜ん、なんだろう……。再発見ならあります。少し前にテレビ番組に出演し、久しぶりにジャンクションの話をしたんです。そのとき、あらためて“ジャンクションっていいなぁ”ってしみじみ思いました(笑)。

 

江川 山口(剛央)さんにはあまり響かなかったジャンクションだね(笑)。

 

白井 そうです。山口さんはトンネル派でしたから。昔、ウェザーニュースLiVEの番組内で『美しきジャンクションの世界』という企画を私がやらせてもらったんですが、そこで実は山口さんがトンネル好きだということが発覚して。番組が終わったあとも、ずっとトンネルの素晴らしさを熱弁されていました(笑)。私もトンネルの奥深さを知ることができてすごく面白かったんですけど、残念なことにトンネルの良さって映像で表現しにくくて、企画にもしづらいんですよね。

 

江川 そうか。基本的に暗い闇がずっと続いているだけだもんね(笑)。

 

白井 そうなんです。それで断念してしまったんですが、いつかチャンスがあれば、また山口さんに番組で語っていただきたいですね。清音さんは何か新しい趣味を見つけられたんですか?

 

江川 自分から言いだしておいてなんだけど、全然ないんです。朝から夜まで平日は仕事をしているので、なかなか時間を作れなくて。……というのは言い訳ですよね(苦笑)。なので、しいて言うなら、趣味は今も飲酒活動かな(笑)。

白井 新しさはないですね(笑)。

 

江川 あ、でも卓上で揚げ物ができる電気フライヤーを購入したんです。

 

白井 それって、テーブルの上で串揚げとかができるということですか?

 

江川 そう! できたての状態でビールと一緒に味わえる。これがもう最高なの。

 

白井 それはいいですね。でも、それなら趣味は「飲酒活動」ではなく「おつまみ作り」と言ったほうが、聞こえがいいかもしれないですよ(笑)。

 

江川 たしかに。「飲酒活動」だと、ただの飲ん兵衛みたいだもんね(笑)。

 

江川清音さん&白井ゆかりさんのサイン入り生写真を3名様にプレゼント!

<応募方法>

下記、応募フォームよりご応募ください。

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScSUJKuWdoy67EnqRP8Ggs17qPNVBP_N_ED-PPdC8vSaM1gRQ/viewform?usp=sf_link

※応募の締め切りは11月5日(火)正午まで。
※当選は発送をもってかえさせていただきます。
※本フォームで記載いただいた個人情報は、本プレゼント以外の目的での使用はいたしません。また、プレゼント発送完了後に情報は破棄させていただきます。

 

 

「ウェザーニュース」HP https://weathernews.jp/

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撮影/中村 功 取材・文/倉田モトキ

ABEMAアナウンサー・瀧山あかねインタビュー「ABEMAならではのリアルタイムで届く応援コメントを励み」に道なき道を突き進む!

番組MCからグラビアまで完璧にこなす才色兼備──。いわゆる世間一般のアナウンサー像とは一風変わったキャリアをひた走るのがABEMAアナウンサーの瀧山あかねさんだ。レース番組で“予想屋”としての才能も開花させながら人気格闘技番組で体当たりレポートを敢行! 会社員7年目も道なき道を開拓中だ!!

 

瀧山あかね●たきやま・あかね…1994年5月10日生まれ。兵庫県出身。ABEMA専属アナウンサー。XInstagram

【瀧山あかねさん撮り下ろし写真】

 

緻密にレース展開を予想して車券を購入! 万車券を的中させた実績アリ

──競輪、ボートレース、格闘技、メジャーリーグと担当番組が多岐に渡ります。ABEMAアナウンサーになる前から希望していたジャンルなのですか?

 

瀧山 最初はニュース原稿を読みたくて報道志望でした。アナウンサーを夢見て就職活動をしていた頃には思ってもみなかった領域の仕事ばかり。今年スタートした「チャンス学校チェンジ科」というバラエティ番組ではキャストの皆さんに交じってミニスカ制服の衣装まで着させていただいています。まさか制服を着る機会に巡り合えるなんて(笑)。

 

──バッチリ着こなされていましたね! ふり幅の広い担当番組の中でも「WINTICKET ミッドナイト競輪」は6年目に突入しました。もともと入社前から競輪やボートレースなどの公営ギャンブルに興味はあったんですか?

 

瀧山 全くありませんでした。2回ほど競馬の大きいレースを観戦した記憶があるぐらいで、多分関西の競馬場だと思うんですがどこに行ったのかも定かではありません。それぐらい関心が薄かったと思います。

 

──え!? では、ゼロからのスタートとなると最初はかなり苦労したんじゃ……。

 

瀧山 とにかく勉強の毎日でした。それこそ、最初はレース情報が載っている新聞の読み方も分かりませんでしたからね。番組制作にもかかわっている「分析のマサさん」という師匠に車券の買い方などのイロハを教わったり、何度も(競輪)場に足を運んだりと必死でした。競輪は毎日のように生放送があるだけに番組に出演しながら場数をこなすことができたのが幸いでした。また、視聴者の皆さんにも詳しい方がたくさんいらっしゃるのでコメントでご教示いただくことも。私も「間違っていたら指摘してください」なんてお願いしてました(笑)。振り返ると、皆さん本当に温かい目で成長を見守ってくださりました。

 

──どのくらいのタイミングでズブの初心者から抜け出せたのですか?

 

瀧山 番組を担当してから半年ぐらい経過した時期でしょうか。知識も身についてきてレースを楽しめるようになっていました。特に自分の予想が的中する喜びを覚えてからはどんどんのめり込んでいきましたね。

 

──失礼ながら、山カンで予想しているわけでは?

 

瀧山 ちゃんとレース展開を考えながら予想しますよ!「スタートからゴールまでどういう展開になるかを考えるのが醍醐味」と師匠から徹底的に叩き込まれました。正直、最初はその言葉の真意をちゃんと咀嚼できていませんでしたが、今では私なりに意味を理解しているつもりです。予想を外してレースを振り返るたびに思うことなんですが、ゴール前まででも展開を的中させていれば、それはもう“当たり”に等しいと自分の中で納得するようにしています。そのおかげで番組でもレース展開を提示した上で予想を発表できるようになりました。今では、視聴者の皆さんからのコメントで「その展開もあるね」と褒めていただけるぐらいまでに成長できました。“予想屋”として場に私の予想を掲示していただくこともあります。

 

──なんと責任重大な大役!

 

瀧山 過去には番組中に万車券を的中したこともあります。もちろん、外してしまうこともありますが、応援選手をブレブレにしなければそこまでハレーションも起きません(笑)。ちなみに、ついこの間も番組中に100円で買った車券が7000円になったばかり。番組に出演するたびに全レースを買うようにしています。「WINTICKET 」のアプリがあればどこでも買えますからね。

 

──時にはスタジオを飛び出して競輪場でロケをすることもあると思います。お気に入りのスポットを教えてください。

 

瀧山 最初に行った京王閣競輪場は思い出深い場所です。そこで食べたビールと煮込みの食べ合わせが最高過ぎて忘れられません~! あと、とにかく都心からのアクセスが良いのでふらっと行けるのも◎。映像で見るのも悪くないんですが、場でレースを見ながらアプリで買うのをオススメします。実際にレースを目にしてみると想像よりもスピードが速くて、選手たちが命を懸けて戦っている姿に感動すると思います。時速60km以上出ているんですよ! 原動機付自転車よりも速いだけに音もすごい。その迫力は一見の価値アリです。

 

──競輪だけでなくボートレースの番組にも出演されています。こちらは別の師匠に習ったんですか?

 

瀧山 スタッフさんに教えてもらいつつ、番組を担当しながら独学の部分もあります。競輪を数年見てきた経験があったので、なんとなくの展開予想ができるようになるまでに時間はかかりませんでした。そのうえで競輪とボートの違いを勉強しました。

 

──素人ながら恐縮なのですが‥‥、ボートはインを軸に買えば間違いないのでしょうか?

 

瀧山 確かにインが来る確立は約50%なので固いと思います。ただ、残りの50%でイン以外が来るのが悩ましいところ。高額の払戻金が期待できるだけにイン以外で展開を組み立てる人も少なくありません。もちろん、ケースバイケースですが、ボート初心者であれば、インを軸にしてガチガチに固い舟券を買うのをお勧めします。やっぱり、当たる喜びを感じて欲しいです。

 

ファースト写真集のきっかけはインスタのDMだった

──「BreakingDown」シリーズのリポーターや今年7月にも「超RIZIN.3」の事前特番など格闘技イベントの配信にも出演されています。ピリついた現場に恐怖を覚えないんですか?

 

瀧山 とても怖いです(笑)。ですが、実際に接してみると根っこの部分は優しい人たちが多い印象です。なんだかんだ取材にもちゃんと対応してくれますし、緊張感のある試合前でも視聴者の皆さんが盛り上がるようなコメントを言ってくれますし……。

 

──とはいえ、取材直前の選手から話を聞くのは大変そうです。

 

瀧山 とにかく低姿勢に「すみません……、私も今聞くべきじゃないと思うんですけど……」というスタンスでマイクを向けています。あと、「生放送中なので……」と敢えて伝えるようにしています。さすがに選手たちも生放送なら「何か言うか」となってくださると思うので。とにかくなんとか対応してもらうのに必死です。

 

──それでも、選手たちのコメントを拾えるのは瀧山さんしかいません。

 

瀧山 そうなんです。視聴者の皆さんは試合前の緊迫した表情を見たいと思うのでやるしかありません。でも、集中力を切らしてパフォーマンスが落ちでもしたら責任重大です。6月の「BreakingDown12」でもラッパーのSATORUさんに直撃した時に怒鳴られて泣きそうになりました(笑)。

 

──その模様はネットニュースにもなっていました。まさしく完全にガチなんですね。

 

瀧山 はい! カメラの回っていないところで喧嘩が始まることも珍しくありません。いつも誰かしらが止められているのが常です。ちなみに現場は演者の女性が私1人しかいないこともしばしば。一応、対戦前の「一服の清涼剤」として起用していただいていると理解しています(笑)。熱気に包まれた選手たちのボルテージ、多少ですが和らげるポジションなのかと。

 

──では、ストレートに聞いちゃいます! 格闘技をしている男性はお好きですか?

 

瀧山 はい! 昔から強い男性がタイプなんです。その思いが番組を通してより強くなりました。筋肉を肥大化させたマッチョもいいですが、筋肉の付いたボクサーのような体つきの方が好きです。ちなみに、父も身長が180cm以上ある影響で背の高い人に惹かれてしまいます。

 

──男友達も多そうですね。

 

瀧山 担当しているコンテンツが男性向けなので話が合うのがどうしても男性ばかりになります。同年代の女子の趣味とはかけ離れているのか、私ばかりが熱弁してしまいます。結局、美容談義の方が盛り上がります。世の中には格闘技が好きな女子も増えているので、もっと広げていきたいです。

 

──休日はどのように過ごされるんですか?

 

瀧山 お酒が大好きなので飲みに出かける日も多いです。だいたい渋谷、恵比寿、中目黒、広尾あたりに出没しています。時間さえ許せば、昼から12時間ぐらいぶっ通しで飲んでいる日もあるほど(笑)。それでも、ビールは1杯までというルールは設けています。体形を少しでもキープしたくて……。2杯目からは麦焼酎やハイボールに切りかえます。

 

──スナックにもよく行かれると聞きました。

 

瀧山 どこかノスタルジックな雰囲気が好きなんです。そして、おしゃべり上手なママの存在も魅力の1つ。どの店に行っても聞き上手なママに心を開いてしまう自分がいます。あと、実家で出てくるおかずのようなおつまみが食べられるのもいい!

 

──スナックでは何を歌うんですか?

 

瀧山 昭和の歌謡曲が多いですね。松田聖子さん、森高千里さん、中森明菜さんをよく歌っています。よく両親が聴いているのを耳にしていて、いつの間にか私も歌えるようになっていました。とにかく周囲とワイワイ楽しむのが◎。一期一会の出会いを楽しむのも好きですし、よく行く常連の店もあります。

 

──ファンの人と鉢合わせしそうなものですが……。

 

瀧山 格闘技の番組を見ている方に声をかけられたことはあります。飲んで歌ってワイワイした小休止に「瀧山あかねに似てない?」と聞かれるパターンが数回ほど。包み隠さずに「すみません、多分その瀧山です(笑)」と名乗っています。

 

──ということは、もしもスナックで瀧山さんを見かけたら話しかけてもいいってこと?

 

瀧山 もちろんです! みんなで楽しむ社交場ですからね!!

 

──お酒はワイワイ飲むのが好きなんですか?

 

瀧山 はい! でも、家でしっぽり“1人酒”の日もあります。一応、毎日飲まないように努力しているつもりですが、冷蔵庫の中にある酎ハイや日本酒の誘惑に負けてしまいます。仕事終わりに終電間際の電車で帰ってきて、近所のコンビニで買ったタコや貝のおつまみで晩酌をしています。

 

──それにしても、たくさんのお酒を飲んでいるのにスタイルを維持できるのは不思議です。

 

瀧山 私の母は「お酒は飲み物だから太らない」という格言を残しています。でも、その言葉には「おつまみで何を食べるかの方が重要」という続きがあります。要は「酒を飲むなら揚げ物や炭水化物みたいな高カロリーは控えろ」という意味。なるべくお刺し身をはじめとする低カロリーのものを選ぶようにしています。繰り返しになりますが、ビールも1杯までで我慢しています。

 

──でも、ロケで訪れる競輪場には揚げ物の誘惑がありますよね。

 

瀧山 カメラに映る場合はもちろん食べますが、収録前だと「知っている味だから今食べなくていいよな」と自らを律するようにしています。もし、金輪際食べられないものなら食べるべきですが、いつでも食べられる見知った味ならば「また今度でもOK」だと自分に言い聞かせています。もちろん、見知った味だからこそ食べたくなるものなんですけどね。やっぱり、カレーの匂いがしたらカレーを食べたくなりますよね? いずれにしても、お酒を飲むならごはんを我慢するしかありません。

 

──そんな“節制生活”で磨かれたボディは昨年出版したファースト写真集「あかねのね」(宝島社)でも披露されました。どのような経緯で写真集への道が切り開かれたのでしょうか?

 

瀧山 昨年5月に「週刊プレイボーイ」(集英社)のグラビアに出させてもらったのがきっかけです。週プレの編集長さんが私のInstagramに「グラビアに出ませんか?」とDMを下さって……。

 

──え、DMでオファーとは!?

 

瀧山 どうも、ABEMAで放送した「2022 FIFAワールドカップ」の中継を担当した姿を見ていただいたらしく。でも、最初は半信半疑でした(笑)。まさかインスタのDMでグラビアのオファーが来るなんて思わないじゃないですか? でも、このチャンスを逃すのも悔しかったので室長経由で連絡を取ってもらって、そのまま週プレで表紙を飾らせていただくことになりました。それを見た宝島社さんから写真集のオファーをいただいたという流れです。週プレの編集長さんが私を発掘しなかったら実現しなかっただけに感謝しかありません。

 

──さすがに家族も驚いたのでは?

 

瀧山 それが、めちゃくちゃ喜んでくれました。母と叔母と私の妹とその旦那はお渡し会にまで来てくれて。東京会場で妹とその旦那、大阪会場で母と叔母がいて不思議な感覚でした。そもそも両親は私の出演している番組は全部チェックしてくれる“あかねウォッチャー”。とりわけ、父は競輪を見ながら寝落ちするぐらい熱心にチェックしてくれているみたいです。そういえば、写真集の広告が掲載された新聞まで買ってくれましたね(笑)。

 

「タクシーの車内CM」に出演中の人気フリーアナがベンチマーク!?

──ABEMAアナウンサーに就任する前には就職活動でフジテレビの最終面接で落ちてしまったと。

 

瀧山 あの時は人生で一番落ち込みました。ただ、合格した女性アナウンサーは素人目にも印象に残っていたので「そうだよな」と納得の結果ではありました。今でも活躍が刺激になっています。

 

──アナウンサー試験は全国受けたんですか?

 

瀧山 キー局だけでした。就活の軸が「東京で働く」でした。当時の私は大阪でやれることはやり切ったと思っていて、日本で一番人が集まる東京で“結果”を残したいという一心でした。とにかく自分がどれだけできるのかを試してみたかったんです。

 

──すでに爪痕は残せましたか?

 

瀧山 いえいえ(笑)。まだまだですが、少なくとも自分の選択は正解だったと思います。ABEMAに入社したことも上京したことも後悔はないです。むしろ、いろいろなことにチャレンジさせてもらえる風土に感謝以外の言葉がありません。一方で、ABEMAの専属アナウンサーの1期生としてやっていくのに全く不安がなかったわけではありません。というのも、最初こそ系列のテレビ朝日と一緒に研修を受けましたが、その後のキャリアパスは全くありませんでした。それでも、番組のチャンネル数が多いので成長する機会には恵まれていたと思います。まだまだ道すがらではありますが、なんとなく私なりの道筋は作れたのかなと思います。

 

──同期とも“現在地”について話をしますか?

 

瀧山 たまに西澤由夏さんや藤田かんなさんには「ここまで室長と合わせて4人だけでやってきたのってすごいと思わない!?」という話をします。私が落ち込んでいる時にかけていただいた言葉です。

 

──とても落ち込むようには見えません!

 

瀧山 よく言われます(笑)。でも、意外と落ち込むタイプなんです。仕事で失敗したら「もう消えたい……」と弱音を吐いてばかりで……。振り返ってみると大したことではないんですが、その渦中にいるうちはブルーな気持ちに苛まれています。なんとか寝酒などでストレス解消していますが、自分だけでは抱えられないと同期に相談するようにしています。なるべく自己解決したい性分ではあるんですけど。

 

──最近は局アナがフリーに転身することも少なくありません。

 

瀧山 純粋にすごいと思います。毎年、2~3人しか合格できないほど狭き門であるテレビ局のアナウンサーの地位を捨てて、次のステップに進むのには勇気がいることですし。とても、私にはできないことなので尊敬しかありません。

 

──会社の枠を超えて挑戦したいお仕事はありますか?

 

瀧山 過去に出演させていただいたことはありますが、もう一度タクシーの車内CMに出たいです。よく森 香澄さんが出てくるじゃないですか? よく目にするだけに森さんは「売れっ子なんだな……」としみじみ思うわけですよ。

 

──やはり、森さんは意識されるんですか?

 

瀧山 畏れ多いですが(笑)。バラエティやグラビアで活躍されている姿を見ていると少し路線が似ていると勝手ながらに思っています。テレビ東京に在籍していた時代から「ベンチマーク」として一挙手一投足をチェックさせていただいていました。

 

──瀧山さんもバラエティ番組を中心に「歴代彼氏は経営者」「目標年収は4桁」などの“ぶっちゃけキャラ”としてのポジションを確立しています。

 

瀧山 幸運なことに番組のプロデューサーが面白がってくれています。初めこそ恐る恐る口にしていた部分もあったんですが、「面白いからどんどん言った方がいい」と背中を押してくださって。私も「なんでもOK」のスタンスなので驚くぐらいカットされません(笑)。アナウンス室のチェックもおおらかなのでしょうね。いずれにしても、会社が私のキャラクターを全肯定してくれるのは感謝です。

 

──今後の目標について聞かせてください。

 

瀧山 とにかくアナウンサーを続けるのが第一。その枠の中でできることを増やしていきたい。例えば、東京ガールズコレクションのMC。TGCや関西コレクションのMCに抜擢されるアナウンサーは話す能力はもとよりタレント力にも優れた方が多い印象です。9月7日に開催されたTGCも元テレ東の鷲見玲奈さんがMCを務めていましたよね。それをABEMAの専属アナウンサーとして担当したいです。

 

──あくまでもABEMA専属にこだわる?

 

瀧山 会社に感謝の気持ちがあるので、これからも恩返ししていきたいです。それに、ABEMAならではのリアルタイムで届く視聴者のコメントに救われているんです。リアルタイムで届く応援コメントが励みになりますし、ちょっとした間が空いたタイミングにコメントを読むことで何度場をつないできたことか。もし、ABEMAを卒業してもコメントなしの生放送は考えられません。

 

 

撮影・構成/丸山剛史 執筆/多嶋正大

安藤なつが愛車・ハーレー・ファットボーイ愛を語る「もう見た目と名前でひと目惚れ。バイクは1台を愛したい」

バイク歴20年を誇る、メイプル超合金の安藤なつさん。愛用のハーレーダビットソン・ファットボーイとともに、登場していただきました。これまでのバイク歴を振り返りつつ、ファットボーイへの愛情たっぷりなお話をいただきました。

 

安藤なつ●あんどう・なつ…1981年1月31日生まれ。東京都出身。血液型A型。カズレーザーとともにお笑いコンビ・メイプル超合金として活躍。主な資格にヘルパー2級、普通自動車免許、自動二輪。XInstagramYouTube

 

【安藤なつさん撮り下ろし写真】

 

アニメ『AKIRA』に出てくるアメリカンバイクに憧れ

──現在はハーレーに乗っていらっしゃる安藤さんですが、まずはバイクに興味を持ったきっかけから教えてください。

 

安藤 もともとアニメの『AKIRA』がすごい好きだったんです。主人公の金田アキラの乗るバイクじゃなくて、ジョーカーっていう敵役が乗るアメリカンタイプのバイクがかっこいいと思ったんですね。観たのが小学4年生の時だったんですけど、その頃から最終目標がハーレーになりました。ジョーカーは登場の仕方もかっこいいんですよ。ハンドルから手を離して腕を組んでバイクに乗って登場するんですけど、当時の私はアクセルとかブレーキとか仕組みがわからないですから、「こうやって走れるんだ?」って思いました。実際、腕組んでは乗れないですけど。

 

──10歳の安藤さんに、アメリカンタイプのバイクがぶっ刺さったわけですか。そもそも、ご家族など身近な方でバイクに乗ってる方はいたんですか?

 

安藤 父が乗ってました。私が小さい頃は、車名は覚えてないですけどオフロードに乗っていて、会社の通勤とかに使ってました。だからバイクに親しみはありましたね。自分で乗りたいと初めて思ったのが『AKIRA』のジョーカーのバイクなんです。

 

──それで、自分で初めてバイクに乗ったのはいつでしょう。

 

安藤 16歳です。通学用に、親にホンダのライブディオを買ってもらいました。すごく馬力がありました。見た目も良くて「これがいい」って決めました。速いバイクでしたけど、ちゃんと30キロの速度制限は守って走ってましたよ。ただ、それが1年も乗らないうちに盗まれたんです。すごいショックでした。友達とめっちゃ探し回って、家の近くの公園で見つかったんですけど、直結できないような構造になっていたからぶっ壊されていてたんです。もう直せない状態でしたね、その姿もすごくショックでした。

 

ドラッグスター400にひと目惚れして購入。しかし…

──初めての自分のバイクが盗難されて破壊されたというのはつらすぎる経験です。

 

安藤 でも通学にバイクは必要なので、家にあった原付きに乗っていました。そのあと23歳ぐらいに中型免許を取りました。原付きは30キロの速度制限や二段階右折とか交通ルールがありますよね。都内に引っ越すことになって、都内でバイクに乗るなら原付きだとそのルールにすごく気を使うので、じゃあ中型免許を取っちゃおうと思って。

 

──それに中型になれば選べる車種もたくさん増えますよね。

 

安藤 ジョーカーのバイクのこともあって、ひと目惚れでヤマハのドラッグスター400を新古車で買いました。カラーリングの青と、それから車高の低さもポイントでした。足つきがいいのも良かったです。一緒に住んでいた友達とタンデムして夜中にドン・キホーテに行ったり、花見に行ったりしてました。でもこのドラッグスターで事故に遭って廃車になってしまったんです。

 

──廃車になるほどの事故だったんですか?

 

安藤 夜、タクシーが方向指示なしでUターンしてきてぶつかりました。フレームがもうだめになっちゃって廃車です。私はバイクに左半身を挟まれて、ハンドルも胸に刺さって。救急車で病院に運ばれてレントゲン撮って、お医者さんに「何本か骨折れてましたか」って聞いたら、「いや、1本も折れてない」と。そしたらお医者さんが「1本も骨が折れてないはずはない。膝の体液を抜かせて検査させてくれ」って言うから、「いや、折れてないなら検査しなくてもいいです」と(笑)。でも10日くらい入院しました。

 

──そんなにひどい事故をしたら、バイクを降りてしまう人もいます。安藤さんが乗り続けることを選んだ理由は?

 

安藤 乗り続けることを選んだ理由って特にないですね。むしろ、乗らない理由がないというか。その事故の前にも一度転倒してるんです。タクシーに幅寄せされて、ぶつかりそうになったから自分でわざと転倒しました。その時も、乗りたくないとか思わなくて、普通に乗ってました。バイクに詳しいわけではないので、いじったりとかはできないですけど、バイクに乗ること自体が好きなんですよね。

 

──安藤さんは「芸人として売れるまでバイクに乗りません」と願掛けしたことも知られています。

 

安藤 メイプル超合金を組んだのが2012年なので2014年くらいですかね、渥美 清さんが「タバコ一生止めますから仕事ください」と願掛けしたことで有名な東京・入谷の小野照埼神社に芸人仲間と一緒にお参りに行ったんです。みんなは酒とかタバコ、ギャンブルとかを辞めるとわりと重めの願掛けをしてる中、私は「売れるまでバイクに乗らない」っていうのがパッと出てきて。自分の中では、バイクに乗らないっていうのはめっちゃ重めでしたね。ただ、「一生乗らない」じゃないところが緩いんですけど。

 

──そのあと2015年には『M-1グランプリ』に出場して注目され、ブレイクしたんですからご利益があったということですね。

 

安藤 だから、もし売れてなかったら今のハーレーは持っていないと思います。願掛け中に、誓いを破ってバイクに乗ったことはないですし。

 

ついにハーレー“ファットボーイ”購入。お気に入りのポイント

──バイクに乗りたい気持ちもありながら、芸人として売れたいという気持ちが強かったからでしょうね。それで、その願いが叶って再びバイクに乗ったきっかけは?

 

安藤 特にきっかけがあったわけじゃなく、お仕事をいただけるようになって余裕をもって生活できるようになったので、勝手に判断しました。2019年くらいですね。

 

──(笑)。今のハーレーに出会って、それがきっかけになったのかなと勝手に思っていました。

 

安藤 そういうことはないですね。でも、ちょっと悩んでたんですよ。インディアンとかもいいかなと心が揺らいでいたんです。とある先輩芸人にそれを話したら、「いや、ハーレー一択でしょ」って言われて、「あ、そうだよな」と目が覚めたんです。それで探してたら、今のファットボーイに出会ったという感じです。タンクがすごいかわいくて、それもひと目惚れポイントでした。黒いタンクと青いタンクのモデルがあったんですけど、青を選んでしまうのがやっぱりドラッグスターをちょっと追いかけてるところもあるのかなと思いますね。

 

──ちなみに今のハーレーはどういうモデルですか?

 

安藤 ハーレーダビッドソンのファットボーイ114 アニバーサリーXという、世界限定900台のモデルです。アニバーサーリーモデルとかそういうことには別に興味がなくて、もう見た目と名前でひと目惚れです。

 

──安藤さんが気に入ってるポイントはどこでしょう?

 

安藤 言ったように、まずはタンクですね。それから、音質。ノーマルマフラーですけど重厚感はめっちゃあります。1868ccもありますからね。乗ってると体に伝わる振動もすごく好きです。あとは前後の太いタイヤです。特にリヤなんか、トラックか? ってくらい太さです。走るとトルクがすごいですよ。

 

──このファットボーイで、ハーレーは初乗車になるんですか?

 

安藤 実は大型二輪の免許を取る時、教習車でハーレーに乗れる自動車学校を選んだんです。「ハーレーに乗れるんだ!?」って思って、いざ入校してみたら、ハーレーにまたがるとミラーが小さくて、自分の幅のせいで後ろが見えなくて、結局ホンダのCB750で教習を受けました。

 

──(笑)。わざわざハーレーが売りの教習所に行ったのに。

 

安藤 せっかくハーレーに乗れるから遠くまで行ったんですけどね(笑)。

 

──マフラーはノーマルとのことですけど、カスタムなどは?

 

安藤 フルノーマルです。以前はCCバーを付けていたんですけど、タンデムする友達が乗り降りするときに足が引っかかるんです。私も乗り降りするときに足が引っかかっていたので外しました。だから後ろに乗る人はちょっと辛いかもしれないですね。あと、ハンドルをチョッパーにしたいなと思っていたことがあって、チョッパーにしている人のハーレーに乗らせてもらったら、すごく曲がりにくいんです。今の状態でも曲がりにくいのに、チョッパーは無理だと諦めました。今のままで気に入ってるので、今後カスタムの予定はないですね。

 

特注で60万円した革ツナギは「峰不二子に憧れて」

──バイクアイテムについても教えてください。まずはなんといっても、今着てらっしゃるそのツナギですね。

 

安藤 ロアーズオリジナルというブランドで特注しました。値段は60万円くらいでしたね、採寸からいろいろ相談して、何回も打ち合わせをして……完成まで1年くらいかかりました。ロアーズオリジナルも革のツナギを作るのは初めてだったみたいです。ツナギにしたのは峰不二子に憧れて、やっぱりツナギがかっこいいなと。

 

──60万円のオリジナルウェアなんて持っているバイク乗りはなかなかいませんよ。

 

安藤 そうなんですかね。でも、これだけですから。毎回これです。

 

──とってもお似合いですけど、真夏のこの時期は暑いでしょうね。

 

安藤 熱中症になっちゃうんです、何回なったかな。夏は毎年熱中症になるから乗らんとこうって思っているのに、それを忘れて乗って、実家とかに帰っちゃうんですよ。途中、渋滞なんかしてたらなんかもう意識が朦朧としちゃったりして……。

 

──危険ですよそれは!

 

安藤 バイクの上で目玉焼きが焼けるくらいの暑さですからね。ラジオ(ニッポン放送『ナイツ ザ・ラジオショー』水曜日)にはハーレーで行くんですけど、その帰りの西日が一番痛いです。あんな刺すような痛みは他にないですね、ほんと無理です。

 

──ヘルメットにはハーレーのロゴが入っていますね。

 

安藤 これは、納車の時にハーレーダビッドソンの方からいただきました。大事に使ってます。あとグローブはネゴシックスさんにいただきました。すっごい柔らかいんですよ。

↑納車の際から大事に使っているというヘルメット

 

↑ネゴシックスさんからもらったというグローブ

 

──あとで走行シーンの撮影をしようと思ってますけど……大丈夫ですかね。

 

安藤 マジで死ぬかもしれません……。

 

ツーリングでは遠くに行きたくない。なぜかというと…?

──このハーレーでツーリングにもよく行かれるんですか?

 

安藤 多分私は人と行くツーリングに向いていないんですよ。「前についていかなきゃ」「見失ったらいけない」っていう気持ちで走るから余裕がないんです。「あ、間に車が入っちゃった」とか。だったら自分が行きたいところに一人で行ったほうが気楽かなと。だから、夜中に高速道路に乗って実家に帰ってみたりとか、そんな感じです。

 

──バイクで走るお気に入りのシチュエーションやお気に入りの道などはありますか?

 

安藤 ラジオに行く途中に三宅坂を通るんですけど、あのあたりは好きです。最近だと、梅雨が明けたか明けてないかというころに、ふとセミの鳴き声が聞こえて「あ、梅雨が明ける」と感じたんです。そういう時はうれしいです。秋口になれば鈴虫の鳴き声が聞こえたり。そういう季節がダイレクトにわかるところがいいですね。

 

──季節の移ろいを五感で感じられるのはバイクのいいところです。遠方にツーリングには行きますか?

 

安藤 あまり遠くには行かないです。事故を起こしたくないんですよね。さっきドラッグスターの事故の話をしましたけど、もし今のハーレーで事故ったら、その時はもうバイク乗るのを終わろうかなと思います。車重もドラッグスターよりもっと重いし、同じような事故なら受けるダメージも計り知れないじゃないですか。そこが悩ましいところなんです。だからスピードも出さないし、すり抜けもしない。そこはちゃんとしたいんです。

 

──なるほど、事故のリスクを考えてというわけですね。

 

安藤 あと、ハーレーにはスマホホルダーをつけていないのでスマホが立てられないんです。地図を頭に入れなきゃいけないんですけど、首都高とかすごく嫌いなんです。短時間で行き先表示を読み取らなきゃいけないのとか無理っすね。だから上(高速)はあんまり好きじゃないというか、一本道ならいいです。中央高速道路とかは好きですよ。

 

──芸能界でバイク乗りはたくさんいますけど、安藤さんのバイク仲間というと?

 

安藤 レイザーラモンRGさんのツーリングクラブがあるんですけど、仲間の納車式にたまに参加していたくらいですね。RGさんのツーリングクラブには、チュートリアルの福田(充徳)さんとか、バッファロー吾郎の竹若(元博)さんとか芸人の方もいるし、一般の方もいますね。あとは、番組に呼んでもらったおぎやはぎの矢作 兼さん、カンニング竹山さんとか。竹山さんは確かインディアンを買ったと言ってましたけど、全然乗ってないみたいです。私は自分の気ままに好きな時に走る感じです。

 

バイクは1台を愛したい。今のハーレーを乗りつぶしたい

──芸人さんは移動でビッグスクーターに乗ってる方が多いですけど、安藤さんはそっちには行かないんですか?

 

安藤 マニュアル車が好きなんです。車もマニュアル免許ですよ。実家の車が日産パルサーだったんですけど、それがマニュアル車だったから、マニュアル免許を取っておかないと家の車に乗れなかったんです。ビッグスクーターに乗ろうと思ったことはなかったですね。便利だと思いますけど。ギアチェンジがないと、なんか暇だなって思っちゃいますね。自分は信号待ちの時に、ニュートラルにしてクラッチを切って休憩しながら待つじゃないですか。それで青信号になったらクラッチを引いてギアを1速に入れる、その1速に入れた時の「コン」って音がすごい好きなんです。それはビッグスクーターにはないですから。「うん、ギア入ったな」っていうのが、今でも毎回いいなって思ってます。

 

──その感じ、わかります。セカンドバイク的なものを持とうというのもご予定はないですか? 125とかでもギア付きはあるし。

 

安藤 セカンドバイクはないですね。近所なら原付きで行く、といった使い分けですよね。そういうのはなかったなあ。むしろ「近所ならハーレーで良くない?」っていう感じです。2台持っていても、両方をバランスよく乗れなさそうだし、だったら1台を愛したほうがいいって思います。どっちかを乗らなくなる状態は嫌なんですよね。使い分けを器用にできませんから。1台を乗りつぶしたいです。

 

──じゃあ、小さいバイクじゃなくても、もう1台はスポーツ系のバイクを持ってみようなんていうのも……。

 

安藤 思わないですね、今のところは。今のハーレーがなくなった時に考えることかなと。バイクロケの時に250のスポーツタイプに初めて乗ったんですけど、チャリンコみたいで曲がりやすくて、「そりゃあんなにバンクできるわ」と感動しましたけど、欲しいとは思わなかったです。たまに乗ってみたいなとは思いましたけど。

 

安藤なつにとって、バイクとは「あったほうがうれしいもの」

──今日のインタビューで、安藤さんがとことんバイクに乗るのが好きで、今のファットボーイが好きなんだということがわかりました。

 

安藤 バイクは風を感じるのがいいってよく言うじゃないですか。私はまさしくそれです。 家にいる時も全部窓を開けてるんすよ。こもってるのが嫌いで、風が流れてる時が一番気持ちいいと思ってます。バイクに乗るのが好きなのは、なんかそんな理由もあるのかもしれません。

 

──16歳で原付きに乗り、願掛けでバイク断ちしていた時以外はずっと乗ってるわけですからバイク歴は20年以上になりますね。完全にベテランの域に達してます。

 

安藤 バイクは身近にずっとあったので、あれば乗るし、乗りたいしみたいな存在。バイク断ちしてる時はどうだったかな。いつバイク乗れるか様子は窺ってたかもしれないです。「そろそろかな」とか「大型免許取りに行くのはいつにしよう」とか。

 

──今はバイクに関係するお仕事も増えていると思います。いかがですか?

 

安藤 うれしいですけど、詳しくないので……イジる人って、すごく細かくここが好きでこうイジってみましたとか、この部品が好きでって言えますけど、そのあたりのプレゼンが私にはなかなか……。

 

──カスタムだけがバイクの魅力ではないですし、安藤さんは何よりバイクに乗ること自体を楽しんでいらっしゃるのが最高です。では最後に、安藤さんにとってバイクとは何でしょうか?

 

安藤 えー、なんだろう。「あったほうがいいもの」ですね。「あったほうがうれしいもの」。バイクってすごく便利なわけじゃないじゃないですか。ファットボーイなんてでかいですし、本当に便利だけを求めればビッグスクーターとか、なんだったら車のほうが良いと思います。暑いなとか寒いな、クラッチ重いなとか思うんですけど、それが嫌になるわけじゃないんですよね。なんか、全部便利じゃなくて、手間がかかるほうが愛着が湧くと思うんです。

 

──じゃあもしですよ、バイクに乗れない生活になったとしたら、どう思いますか?

 

安藤 えーっ、バイクのない生活はめっちゃ寂しいと思います。バイクはずっと乗っていたいです。乗るたびに「次に事故ったらやめよう」って覚悟で乗ってますし、ずっと乗っていたいから事故りたくないと思っています。

 

──ずっと乗り続けられるように、安全に乗る。素晴らしい教訓だと思います。これからも気を付けてバイクライフを楽しんでください!

 

安藤 ありがとうございます!

 

【安藤なつさんの愛車・ハーレーダビッドソンのファットボーイ114 アニバーサリーX】

 

撮影・構成/丸山剛史 執筆/背戸馬

岡本結子リサ「皆さんの生活に直接役立つ仕事がしたいという思いでキャスターを目指しました」ウェザーニュースキャスター連載・第20回

24時間365日、最新の気象・防災情報を発信し続ける「ウェザーニュースLiVE」。YouTubeの登録者数は124万人を超え、日々の生活を支えるコンテンツとして、ますます多くの人に愛されています。この番組を毎日生放送でお届けしているのが気象キャスターたち。GetNavi webではそんな皆さんの活動を紹介するとともに、それぞれのプライベートな一面に迫った連載「夕虹は晴れ! ウェザーニュースキャスター」を展開。レギュラーでの連載は一度終了を迎えたものの、現在は不定期連載として復活し、再びウェザーニュースLiVEで活躍する皆さんにインタビューを敢行中。今回ご登場いただいたのは2023年10月に新たなキャスターとして加わった岡本結子リサキャスター。学生との二刀流を経て、現在は“夜の顔”として多くの笑顔と癒やしを視聴者に届けている岡本キャスターに、デビューからこれまでの10か月を振り返っていただきました。

 

<ウェザーニュースLiVE×GetNavi web連載>

【連載「夕虹は晴れ! ウェザーニュースキャスター」一覧はこちら

岡本結子リサ●おかもと・ゆいこ・りさ…2000年1月30日生まれ。東京都出身。0型。ウェザーニュース気象キャスター。2023年にウェザーニューズ入社。現在、同社が配信する「ウェザーニュースLiVE」の気象キャスターとして活躍中。趣味・特技はピアノ、ダンス、フルートなど。XInstagram

【岡本結子リサさん撮り下ろし写真】

 

ももとは同期というよりも、最初から友達に近い感じでした

──前回ご登場いただいた青原桃香キャスターとは同期になります。岡本さんから見た青原さんはどんなキャスターですか?

 

岡本 もも(青原桃香キャスター)の一番の魅力は、なんといっても笑顔ですね。どんな時でもずっと笑顔なんです。私はミスをしたり、困ったことがあると焦りが表情に出てしまうんですが、ももは何かあった時にこそ、ニコッと笑顔を見せる。誰にでもできることではないですし、あの笑顔はももの武器だなって思います。

 

──ごまかしの笑顔ではなく、周囲を安心させる笑顔ですよね。

 

岡本 そうなんです! ミスをしても、見ているこっちが“大丈夫だよ!”って許してしまえる空気を作り出せるし、そうやっていつも“ももワールド”に持っていく。そこがもものすごいところなんです。ほんと、ずるい!(笑) 私もあの笑顔が欲しいです。

 

──初めて会った時から印象は変わらないですか?

 

岡本 以前のこの連載インタビューでもももが話していましたが、会社近くの駅ですれ違ったのが最初で、その時は凛とした雰囲気と言いますか、少しクールな印象がありました。大人っぽいオーラもあったので、あまり話しかけてきてくれるタイプではないのかなと思っていたんです。でも、実際に話してみたらとっても気さくで、優しさかったです。

 

──ただ、その後、あまり研修で一緒になる機会がなかったとか?

 

岡本 はい。当時は私がまだ大学4年生でしたので、一緒に研修ができたのは1〜2回ほどでした。だからかもしれませんが、感覚としては、最初から同期というよりも友達みたいな感じでしたね。土日になると会える友達みたいな(笑)。

 

──打ち解けたのはいつぐらいだったのでしょう?

 

岡本 初めて一緒にご飯に行った時です。私は他人との距離を最初からグイグイと縮めるタイプなので、それまで〈結子ちゃん〉と呼ばれていたのを、私から「呼び捨ての〈結子〉でいいよ」ってお願いをして。その時、ももが「じゃあ、お互い敬語と“ちゃん”付けはなしにしよう」と言ってくれたので、そこからぐっと距離が縮まりました。

 

──番組内のクロストークでもときどき呼び捨てで呼び合っていますよね。

 

岡本 そうですね。ただ、クロストークではいつもちょっと不思議な感覚になります。ももとはクロストークをする機会があまりなく、6月に3か月ぶりぐらいに一緒になれたのですが、その時は妙に緊張しちゃって(笑)。“あれ? いつもどうやって話していたっけ!?”って頭の中が混乱していました(笑)。

 

──あのクロストークの場って、意外と互いの距離感の調整が難しい気がします。

 

岡本 そうなんです! リラックスできる時間ではあるのですが、視聴者さんの中にはキャスター同士の関係性を知らない方も当然いらっしゃるわけですから、普段話しているような感じをそのまま出していいものかどうか迷ってしまって。だからといってかしこまると、よそよそしくなってしまうので、その距離感が意外と難しいんです。

 

──岡本さんと青原さんはたまにお互いを呼び捨てにしてフランクなのに、会話の語尾だけは敬語になったりして、距離感がバグってるように感じる時があります(笑)。

 

岡本 はい(笑)。だから、本当は番組内ではお互い“ちゃん”付けで呼び合おうと決めていて、できるだけ敬語も使うように努力もしています。でも、たまに普段の感じが出て呼び捨てになってしまうんですよね。

 

 

沈んだ心を支えてくれた友人たちの存在

──岡本さんがキャスターデビューしてから約10か月になります。今はどんな心境ですか?

 

岡本 まだ実感がないです。先程もお話ししたように、今年の3月までは大学にも通っていて、キャスターに専念するようになったのが4月からなので、気持ちとしてはまだ4か月目という感じのほうが強いです。

 

──では、今少しずつ慣れてきているところでしょうか?

 

岡本 番組に毎日出ること自体には慣れました。でも、ある意味でお仕事に慣れることは一生ない気がしています。きっと、どれだけやっても緊張感はあるんだろうなって。3時間の生放送を集中力が途切れることなく最後までこなさないといけませんし、“あ〜、あれは言わなきゃよかったなぁ”と反省することも多く、それがこの先なくなることもないと思うんです。それに、そうした緊張感や反省を常に持ち続けるのは、必要なことでもあると思うんです。

 

──何気ないちょっとしたミスであれば、逆に切り抜き動画で視聴者に楽しんでいただけたりもしますしね。

 

岡本 切り抜き動画は怖くて見られないですね(苦笑)。

 

──これまで見たことは?

 

岡本 最初の頃は見ていました。けど、最近は全くです。自分でも、“私、何言ってるんだろう”とか、“何やっちゃってんだろう”ってツッコミたくなることが多いので(苦笑)。今年の春以降は特に番組に出る回数も増え、失敗する機会も多くなっていったので、そのことで一度深く落ち込んだ時期があったんです。それからは一旦、切り抜き動画を見るのを休憩しています。

 

──そんな時期があったとは全く気づきませんでした。

 

岡本 4月はぐぐぐ〜っと沈んでいましたね。1人のスタッフさんが気づいて、「どうしたの? 大丈夫?」って心配して声をかけてくださったほどで。原因は自分自身の不甲斐なさもありましたが、環境の変化も大きかったんだと思います。それまではずっと大学で友人たちと過ごしていたのに、4月になり、会う機会が急激に減っていったのが本当につらくて。それに、「ムーン」(午後8:00〜11:00)の時間を担当することも増えたので、慣れるまで体調を崩さないように心がけていたんです。4月は仕事以外の予定を全部なくし、お休みの日はひたすら体を休めるために家でじっと過ごすようにしていたのですが、そうしたらどんどん気持ちが塞ぎ込んでしまって。

 

──逆に心が内側を向いてしまったんですね。

 

岡本 そうなんです。ですから、自分は人と会ってなきゃダメなんだなって思いました。外に出て、周りからエネルギーをもらったほうがいいんだって。それで、5月からは友人と会う予定を入れたら、心も晴れやかになっていって。やはり持つべきものは友達だなって思いました。

 

──おっしゃるように、4月になって夜の時間帯を担当することが増えましたよね。

 

岡本 「イブニング」(午後5:00〜8:00)を経験することなく、4月の最初のお仕事がいきなり「ムーン」の担当でした。時間帯が夜に変わったので私も驚いたのですが、それでも普段から起きている時間ではあるので、大丈夫かなと思っていたんです。実際には夜の20時に体の感覚をベストの状態に持っていかなければいけないので、それが想像していたよりも大変でしたね。

 

── 夜の20時というと、一般的には一日の仕事を終えて、体を休める時間帯ですもんね。

 

岡本 本番を終えた後だと脳が覚醒してしまって、最初の頃は家に帰ってからもよく眠れないという状況が続いていました。今でも覚えているのが、「ムーン」に入るようになってすぐに大きな地震が起きたんです。番組後にスタッフさんからのフィードバックをうかがっているタイミングでしたので、そこから急遽2時間ほど番組出演を延長することになって。その日は緊張もあって帰宅後に一睡もできず、そこから2週間ほどうまく寝付けない日が続いたんです。

 

──では、5月になって少しずつ心も体も慣れていった感じですか?

 

岡本 はい。……と言いたいところですが、体が慣れたら慣れたで、いろいろと自分に足りないものが見えてきたので、結果的には全く慣れてないです(笑)。本当にまだまだ足りないことばかりなので。

 

──学業と両立をしていた時期とはまた別の悩みですね。

 

岡本 確かに。大学生だった頃はたくさん授業を入れていましたから、その大変さもありました。学校で友達と会えるのがうれしくて、毎日通っていて。履修内容を決めた時はまさか自分が気象キャスターになるとは思ってもみなかったので、自分で自分の首を締めることになっていましたね(笑)。

 

──本当に友達と会う時間を大事にされていたんですね。

 

岡本 4年生の時は特にそうでしたね。大学生活の最後の年ですし、たくさん思い出を作りたかったんです。でも、キャスターになってからは土日しか番組に出られないことで、会社の皆さんやキャスターの先輩方にご迷惑をかけてしまうのが申し訳なく、どっちつかずの自分の状況にはがゆさも感じていました。

 

──そうした悩みも友達に相談を?

 

岡本 いえ、しなかったです。自分でやりたくてキャスターになったのに、始めたばかりでいきなり弱音を吐きたくなくて。それに、友人たちといる時は楽しい時間を過ごしたかったので、みんなの前ではいつもどおりにして、悩むのは一人になった時だけにしようと決めていました。気持ちが相当ぐちゃぐちゃになって、落ち込むことも何度かありましたけど、でも今は、逆にその経験があってよかったなって思っています。

 

──それはなぜでしょう?

 

岡本 もともと悩みがあっても一人で解決しようとするタイプで、周りの人に自分の弱音を吐き出すほうではないんです。ですから、あの苦悩した時期があったおかげで、より自分の中で気持ちを切り替えたり、心をリセットさせることがうまくなったなって思うんです。

 

──なるほど。ちなみに大学の友達との思い出はたくさん作れたんですか?

 

岡本 はい、たっぷりと(笑)。特に3月は「卒業旅行に行きたいです」と会社に相談させてもらっていたのですが、先輩方もスタッフさんも快く、「行っておいで!」と言ってくださったので、そのお言葉に甘えさせていただきました。なんて素敵な職場なんだろうと思いましたし、本当に皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです。

 

「災害注意体制」や「災害警戒体制」の時こそ、強い使命感が湧き上がってきます!

──デビューした日のことは覚えていますか?

 

岡本 もちろんです! お披露目の後に、ももと一緒に1時間半ずつ番組を担当させていただきましたが、あっという間でした。本当はバラバラでデビューする予定だったんです。私が先で、2週間後ぐらいにももがデビューするという流れだったのが、諸事情で私のデビューが遅れることになって。最終的に同じ日になったので、私としてはももがいてくれてすごく心強かったです。

 

──緊張はされましたか?

 

岡本 自分ではそんなつもりなかったのですが、当時の映像を見返すと、明らかにガチガチな顔をしているのが分かりますね(笑)。

 

──デビュー前の研修はいかがでしたか?

 

岡本 すごく大変でした。基本的に学校がお休みの時だけでしたので、どうしても回数自体が少なくて。フリートークの練習とかも、それまでやったことがなかったので、初日は泣きそうになりながら帰ったのを覚えています(笑)。思えば、デビューしてからも大変なことがたくさんありましたが、研修の時期が一番不安でした。“私、本当に大丈夫かな……”って毎日思っていましたから。

 

──それだと、デビューが決まった時もかなりドキドキだったのでは?

 

岡本 最初にデビュー日の話を聞いた時は、“いやいや、ちょっと待ってください”って感じでした(笑)。“どうなっても知りませんよ!?”って。でも、私が抵抗したところで予定が覆るわけもなく、最後は「いつデビューしたとしてもきっと完璧にこなせるなんてことはないでしょうし、それなら今週だろうと来週だろうと、いつでも大丈夫です」とお伝えしました(笑)。

 

──開き直ったんですね(笑)。

 

岡本 はい。むしろ、どうせ失敗して落ち込むのなら早い方がいいんじゃないかと思って。

 

──でも、デビュー日の放送を拝見しましたが、大きなミスをすることもなく番組を進行されているように感じました。

 

岡本 本当ですか!? そう言っていただけるとほっとします。

 

──自分の中で落ち着いて番組を進行できるようになってきたかなと感じたのはいつぐらいですか?

 

岡本 それもやはり4月以降でした。それまでは出演が土日だけでしたので、平日を挟むたびにどうしても感覚がリセットされてしまっていたんです。同じく学生時代にキャスターデビューをされたみーちゃん(戸北美月キャスター)も「多分慣れるのは4月になってからだと思うよ」と言ってくださったのですが、本当にそうでした。昨年のデビューから今年の3月までは、ずっと“デビュー1か月目”みたいな感じが続いていて。とはいえ、いつまでも新人みたいな進行をしていると、“この子は全然成長しないな”と思われてしまうので、それがプレッシャーにもつながったりして。それに、ももとも実力や経験でどんどん差が出てしまうので、その焦りもあり、最初の頃はしばらく家に帰ってずっと一人で泣いていましたね。

 

──普段から 一人で抱え込んでしまうタイプですか?

 

岡本 かなり(苦笑)。人前で弱音を吐くのが苦手で、涙も見せたくないんです。ただ、先程もお話ししたように、ある日、スタッフさんに呼ばれて、そこで初めて人前で泣きました。私の異変に気づいて、あまりにもつらそうだと心配してくださったそうなんです。その時に少し気持ちも切り替えられたのですが、4月になり、毎日番組に出るようになったらそれまでとは別の緊張や焦りなどがあり、また気持ちが沈んでしまって。その時も、同じスタッフさんに相談に乗ってもらっていたら泣いちゃいましたね。普段他人に相談しないだけに、誰かに話しを聞いてもらうと、感情が止まらなくなってしまうみたいです。

 

──そうした緊張や焦りからはどのように立ち直ったんですか?

 

岡本 友人たちと会う時間が増えたことで気持ちが落ち着くようになりましたし、今はとにかく、どんなことでも楽しむようにしています。私の場合、今までもそれで気持ちが切り替えられることが多かったんです。それこそ、ウェザーニュースLiVEのキャスターオーディションの時も、心の中で“楽しい!”と思い込んでやっていました。

 

──実際にオーディションでは緊張されなかったのでしょうか?

 

岡本 面接で緊張した記憶はないです。あとで面接官だった方に、「応募者の中で結子が一番笑ってたよ」って言われたぐらいです。私はそんなに笑っていた自覚がないんですけどね(笑)。控室でも周りの参加者にたくさん話しかけていたそうなんですが、それも記憶になくて。でも、番組でもそうですが、本人が楽しんでいる様子って、きっと見ている側にも伝わると思うんです。ですから、お天気が穏やかな日の放送では常に楽しむことを心がけていますね。

 

──とはいえ、刻々と変化していく天気を相手にしているだけに、時には笑顔を出せないこともあるでしょうし、気象状況に合わせて表情や雰囲気の度合いを変えていくのは大変だと思います。

 

岡本 「災害注意体制」や「災害警戒体制」(放送時に黄色の帯、赤の帯で表示)の時は特にそうですね。ただ、自分としては通常放送よりも「災害注意体制」「災害警戒体制」の時のように冷静に情報をお伝えするほうが合っているような気がします。通常放送では視聴者が飽きないように何か面白いことを言おうとするんですが、たまに空回ったりして、自分でも“無理して顔がひきつっているな”って思うことが多いので(笑)。逆に、「災害注意体制」や「災害警戒体制」のように注意喚起を促す情報をお届けしている時は、“自分のこの言葉を多くの人に伝えなければ”という使命感が湧いて、すごく集中できるんです。

 

──そうした情報を伝える仕事に興味を持ってウェザーニュースLiVEのキャスターに応募されたのでしょうか?

 

岡本 それもありますし、小さい頃から人前に出る仕事に憧れがあったんです。ただ、両親から高校生までは禁止されていて、オーディションなどを受けたこともありませんでした。大学に進学してからは逆に、「何でも好きなことをしなさい」と言われ、周りにアナウンサーを目指している学生が多かったこともあり、どんどんとキャスターの仕事に興味を持つようになりました。自分は何が好きなんだろうと考えた時、人とお話をするのが大好きだし、自分の言葉で何かを伝えることや、それが誰かの役に立つということにすごくやりがいを感じて。

 

──そこからは目標がブレることもなく?

 

岡本 いえ、そんなに簡単にうまくいくわけもなく、就活では一般の企業も受けて、内定もいただきました。だから、“この先、もう人前に立つことはもうないだろうな”と思っていたんです。そしたら、たまたまウェザーニュースLiVEのキャスターオーディションがあることを知って、“これだ!”と思ったんです。

 

──すごいタイミングですね。

 

岡本 本当に! 初めて受けたオーディション自体がウェザーニュースLiVEでしたし、まさかそこで受かるなんて、驚きの連続でした。

 

──ウェザーニュースLiVEのことはご存知だったんですか?

 

岡本 知っていました。大学1年生の時だったと思うのですが、偶然TikTokで切り抜き動画が流れてきて、“この番組のキャスターさんにはどうやったらなれるんだろう?”と思った記憶があるんです。その後もときどきキャスターを募集しているのは知っていて。そうしたら就活していた大学4年生のタイミングで応募があったので、“これは受けなきゃ!”って思ったんです。友達にも「本当に良かったね」って言われます。

 

──ご家族の反応はいかがでしたか?

 

岡本 両親はキャスターになることを応援してくれていたので、受かった時はびっくりしながらも、すごく喜んでくれました。

 

──実際にキャスターになった今、ウェザーニュースLiVEの良さはどんなところだと感じていますか?

 

岡本 これはウェザーニュースLiVEのキャスターになりたかった理由の1つでもあるのですが、お天気のことだけじゃなく、地震の情報も発生からいち早くキャスターが伝えられるところです。皆さんの生活に直接役立つ仕事がしたいというのが私の一番の思いとしてありましたので、気象と地震の両方を伝えられるところにとても魅力を感じています。

 

──だからこそ、「災害注意体制」や「災害警戒体制」の時はより強い使命感が湧くのかもしれないですね。

 

岡本 実力的にはまだまだですけどね(苦笑)。ただ、私はなぜか番組を担当している時に地震が起きることが多く、4月に入ってすぐに地震が起きた際、一緒に番組を担当していたスタッフさんから地震速報の対応を褒めていただいたことがあったんです。その方は私が番組を面白くできないことに悩んでいたのもご存知だったようで、「岡本さんは丁寧に落ち着いて情報を伝えられるのがいいところだから、その良さをこれからも伸ばしていってほしい」とおっしゃってくれて。それからは、天気が荒れている時や緊急の速報が入った時はより頑張ろうという気持ちが強くなりましたね。

 

自分でキャッチコピーを付けた罰ゲームは黒歴史です(笑)

──気象キャスターになって、どんなところに面白さを感じていますか?

 

岡本 やはり視聴者の方から「この番組を見ていて助かった」といったコメントをいただくとうれしくなります。それに、気象解説員の皆さんから天気に関するお話を聞くのがすごく楽しいです。きっと天気図が読めたり、数時間後の天気を予想できたりすると毎日が面白いだろうなと思いますし。気象予報士の資格にもいつか挑戦してみたいという気持ちがなくはないのですが、今は番組をしっかり進行できるようになるのが先決なので、資格に関してはまだ先になりそうです(笑)。

 

──どんどんと気象にも興味を持つようになってきているんですね。

 

岡本 はい。生活における気象情報の大切さを改めて感じるようになりました。というのも、私は東京で生まれ育ったので、今までは大雨による土砂災害などのニュースを見ても、どこか非現実的に感じていたんです。でも、キャスターになり、毎日天気と向き合っていると、そうした被害をできるだけ小さくするためにも気象予報がいかに大事かを痛感して。冬の雪にしても、地域によってどのような影響を及ぼすか分からない。東京だとちょっとした積雪でも交通が麻痺することがあるわけですし。ですから、予報士さんが話す言葉をしっかりと聞き、たとえ「災害注意体制」や「災害警戒体制」でなくても、天気の情報は緊張感を持って伝えるように心がけています。

 

──番組で特に意識しているのはどんなことでしょう?

 

岡本 全国のお天気をお伝えしている番組ですので、偏った地域に関するコメントばかりにならないよう、フラットに情報をお届けしていくこと。それ以外にも、言動には気をつけるようにしています。これまでにも何度か思わぬ伝わり方をしたことがあったんです。番組中、イヤホンを通してスタッフさんから指示された言葉を間違えて解釈し、視聴者さんに“この子は何を言っているんだ!?”と思わせてしまったこともありました(苦笑)。生放送だけに、一度口から出てしまったものはなかったことにできないですし、それを思うと、いつも完璧に進行されていたり、たとえミスをしても、それをごく自然な流れで訂正していく先輩方は本当にすごいなと感じます。

 

──では、番組の中で好きなコーナーはありますか?

 

岡本 特定のコーナーではないのですが、「ムーン」の22時からの30分間が好きですね。天気が荒れていない時は担当キャスターに合わせたコーナーをスタッフさんが考えてくださったりするんです。その日の打ち合わせの時に、「今日は何をやりたいですか?」とか、「最近どんな楽しいことがありましたか?」と聞いてくださり、そこで出た話題に合わせた番組作りをしていただけるので、いつもすごく楽しいです。それに、「ムーン」は比較的まったりとした時間が多いのですが、特に22時からはラスト30分も含めて、一日の終りという感じがして大好きです。

 

──「ムーン」といえば、『キーワードランキング』のクイズがありますね。以前はとても苦戦されていましたが、最近の勝率はいかがですか?

 

岡本 調子は悪くないと思いますよ(笑)。決して正解率が高いわけではないのですが、連敗をあまりしなくなった気がします。「アフタヌーン」(午後2:00〜5:00)の時に13連敗という記録を出してしまったのですが、当時はそこまで連敗が続いているという感覚がなくって。あやちさん(松雪彩花キャスター)の10連敗記録に並んだあたりから、周囲や視聴者さんがザワザワし始めたんですよね(笑)。あの時は、自分でも何がどうなっているのか分からなかったです。きっと視聴者さんも、私のことを“土日だけ番組に出演しては確実にクイズを外して、また平日にいなくなる子”という印象だったと思います(笑)。

 

──土日は罰ゲームもあるから大変でしたよね。

 

岡本 そうなんです。気づいたら罰ゲームというものが増えていて。一番つらかったのが、「自分のキャッチコピーを考えてください」というお題でした。学生時代に〈結子姫〉というあだ名で呼ばれていたことがあったのと、小さい頃からプリンセスが好きだったこともあって、〈週末プリンセス、結子姫〉というキャッチコピーを番組内で発表したんです。あれはもう完全に黒歴史ですね(笑)。

 

──最近は〈結子姫〉という呼ばれ方が定着しているような気がします。

 

岡本 それと、〈こりさ〉も多いですね。あだ名に関しては、もう皆さんが好きなように呼んでいただければと(笑)。

 

──(笑)。では、今後番組でやってみたいことは?

 

岡本 以前、スタッフさんにも聞かれたことがあって、その時は「動物に会いたい」とお答えしました。特にカワウソを見てみたくて。それをどう、お天気と絡めるのかという問題がありますが(笑)、スタッフさんは「いいですね!」と言ってくださったので、もしかしたら前向きに企画を検討していただいているのかもしれません。また、同年代のキャスターさんとロケもしてみたいです。みーちゃんや(小林)李衣奈さん、それに(小川)千奈さんとは年齢が同じなので、いつか同年代組で何か企画をさせてもらえたらなと思っています。

 

──学年が同じキャスターさんがいると気持ちのうえでも安心できますか?

 

岡本 私の中ではやはり皆さんは先輩という感じですね。ただ、みーちゃんは特別と言いますか、同じ学生デビューでしたので共通するところも多く、2人にしか分からない悩みなどをいつも寄り添って聞いてくださったんです。それが本当に心強かったので、感謝の気持ちでいっぱいです。

 

──また、7月には初めてサポーターの皆さんと直接触れ合うイベントに参加されました。始まる前はどんなお気持ちでしたか?

 

岡本 とにかく楽しみな気持ちでいっぱいでした! 正確には楽しみ9割・緊張1割ぐらいでしたが(笑)、デビューした時からずっと皆さんと実際にお会いする機会が欲しいと番組でも話していたので、イベントに参加できると聞いた時は念願が叶ったうれしさでずっと浮かれてました。参加が決まってからイベント当日までは、ずっと何を着ようか、どんな髪形、ネイルにしようかといったことばかり考えていました(笑)。

 

──本番ではどんなことが印象に残っていますか?

 

岡本 ステージに上がって、サポーターの皆さんが私の名前の入った団扇やボードを持っているのを見た瞬間が忘れられないです! 映画館に入ってスタンバイをしていた時、今までになかった緊張感が込み上げてきて、ももと手を握り合っていたほどだったんですが、実際にステージ上からの景色を見た瞬間にうれしい気持ちでいっぱいになりました。私はもともとアイドルが大好きで、ステージ上のアイドルに向かってペンライトを振ったりしていた側だったので、皆さんが私の名前の入ったものを見せてくださったり、ペンライトを振ってくださったりしているのがとても新鮮で。私はアイドルでもないのにこんなふうに応援してくださる方がいらっしゃるんだなと……少し恥ずかしい気持ちもありました(笑)。

 

──最後の挨拶では思わず涙もこぼされていましたが、あの時はどのような感情が湧いてきたのでしょう?

 

岡本 あの時はいろんな感情が入り混じって気付いたら涙が出ていたので、正直自分でもなんの涙だったのか分からないんです(笑)。ただ、間違いなく視聴者の皆さんへの感謝の気持ちが一番大きかったですね。いつも番組内やSNSでも支えてもらっていますが、やっぱり直接皆さんのお顔を見られたことがうれしく、私が手を振ると笑顔で手を振り返してくださったり、「会いたかったよ」「ずっと楽しみにしてたよ」って温かい言葉を掛けてくださって、改めてこんな私でも応援してくださる方がいらっしゃるんだなと実感しました。私が誰か1人の活力になれているのならそんなにも幸せなことってないですし、「このお仕事をしていて良かったな」って心から思いました。お会いしたことのない方に支えられるという経験が初めてだったので、言葉にできない感情が溢れてしまいました。やっぱり皆さんと直接お会いできて良かったですし、これからは私が皆さんに何かお返ししたいなと思いました。

 

──最後に今後の目標を教えてください。

 

岡本 目標はたくさんありますが、そのなかでも一番は、信頼してもらえるキャスターになることです。デビューしたばかりの頃は「皆さんに愛されるキャスターになりたいです」と話していた記憶があるのですが、それよりも今は、頼りにされるキャスターになりたいという気持ちが強いんです。それは視聴者さんだけじゃなく、先輩方やスタッフさんに対しても同じで。「岡本だと安心できる」と思ってもらえるような存在になりたいですね。また、そのためにというわけでもないのですが、いつか「モーニング」(午前5:00〜8:00)と「サンシャイン」(午前8:00〜11:00)も担当してみたいです。夜帯の番組は帰宅の時間や翌日のお天気をチェックするためにご覧になる方が多いのに対し、朝の時間帯はその日一日の天気をチェックされる方が多いので、朝の支度など忙しい時間帯でもありますし、より端的にしっかりと気象の情報を伝えていかなければいけない。きっと、他の時間とは違った緊張感ややりがいがあると思うので、経験してみたいんです。

 

──同期の青原さんはすっかり朝の顔になっていますね。

 

岡本 ももとは担当する時間帯が本当に真逆なんですよね。ももの番組で一日が始まって、私の「ムーン」で終わるということも多くて。会社ですれ違うこともほとんどないのですが、お互い番組の動画を見ていますし、頑張っている姿に元気をもらっています。

 

──先日も青原さんにお菓子をもらったと番組の中で話されていました。

 

岡本 そうでした。私がサンリオ好きなのを覚えてくれていたみたいで、クロストークの後にサンリオのキャラが載ったお菓子をくれて。見事に餌付けされました(笑)。ももに限らず、私が番組内で話したことや私の好みを他の先輩キャスターさんも覚えてくださっていて、いつもプレゼントしてくれるんです。贈り物自体もそうですが、そうやって私のことを気にかけてくださるのが本当にうれしいですね。

 

《岡本キャスターに15の質問!》

 

Q1.ご自身ではどんな性格だと思いますか?

岡本 負けず嫌いですね。すっごく……とっても……(笑)。子どもの頃からピアノやバレエなど習いごとをたくさんしていて、すべてにおいて“一番になりたい!”という性格でした。例えば学校の合唱でも、伴奏者を決める時に“絶対に自分がやるんだ!”と思い、実際に中高とも伴奏を担当したり。そうした負けず嫌いな一面は家族に思いっきりバレていて、先日も父に「あなたはきょうだいの中で一番野心が強い」と言われました(笑)。

 

Q2.友達からよく言われる第一印象は?

岡本 「初対面の時は怖そうだった」とか、「何を考えているのか分からなかった」と言われることが多いです(笑)。心や感情が読みづらいみたいですね。でも、決まってその後に、「想像以上に話しやすかった」とポジティな言葉を言ってもらえます。「怖そう」と思われるのは自分でもなんとなく分かるので、最終的にいい意味でのギャップを持ってもらえるのはうれしいですね。

 

Q3. 学生時代はどんなキャラでしたか?

岡本 周りの友人たちに助けてもらうことが多かったです。地図が読めない時とか(笑)。それに、運転免許を持っていないので、みんなでドライブに行く時は、「結子はしゃべってくれているだけでいいよ」って言われたり(笑)。私は一浪して大学に進学したので、同学年の友人はほとんどが年下なんです。だから、いつも年下の仲間に支えてもらっていたのですが、それでもいざという時は相談されることも多かったです。普段は妹的な立ち位置だけど、最後には「やっぱりお姉さんだね」と言って頼ってもらえる。それがうれしかったですね。今でも後輩から就活や恋愛の相談をされることが多いですよ。普段は自分自身のことが全然分からないのに、そうやって相談に乗って考えを話していたりすると自分を冷静に分析することにもつながるので、“もう、何でも聞いて!”って感じです(笑)。

 

Q4.MBTI診断では「ESFP型」だったそうですが、この結果についてはどう感じていますか?

岡本 最初はピンとこなかったんです。でも特徴を調べた時、ESFP型は〈とにかく人が好き〉と書いてあったんです。それを読んで、“私だ!”と思いました。今年の4月に気持ちが落ち込んだのも友人たちと会える時間が減ったからでしたし。やっぱり誰かと一緒にいるのが安心できるみたいです。

 

Q5.番組でのいつも楽しそうな笑顔が印象的ですが、明るさの秘訣は?

岡本 私、皆さんが思っているほど明るくないんですよ(苦笑)。そんなに陽気なキャラでもないですし。ただ、人前で落ち込んだ姿を見せないようにしているので、明るい印象があるのかもしれないですね。これは家族の影響が強くて。母から「自分でやると決めたことは笑顔でやり通しなさい」「周りの雰囲気を悪くするような表情を見せないようにしなさい」と言われて育ったので、それが今も活きているんだと思います。

 

Q6.休日の過ごし方の理想と現実は?

岡本 午前中は早い時間に起きて朝活をする。オシャレなカフェに行って朝ご飯を食べて、ピラティスやジムで体を動かし、午後は友人たちと遊んで、夕方からゆっくりと家族と過ごしたら「おやすみなさい」と就寝。……これは本当に理想ですね(笑)。現実は自分でも話しながら笑っちゃうぐらい、全くそんなことはないです(笑)。実際に実行しているのは大学時代の友人たちと過ごすということぐらい。ただ、月に1〜2回ほど本当に疲れている時があるので、そんな日は何も予定を立てずに家にいて、一日中、映画を観たりしています。

 

Q7. 毎日欠かさずしていることは?

岡本 眠る前にスケジュール帳に日記を書いたり、それを読み直したりしています。日々の予定はスマホにメモしているのですが、スケジュール帳にはどんな一日を過ごしたのかとか、誰と会ったのかといったことを書いていて。それをあとで見返すことで、当時のいろんな思い出が甦ってくるんです。これを高校生の頃からずっとやっています。スケジュール帳の最後のページのメモ欄には「やりたいことリスト」を100個くらい書いていたり、悔しかったことやうれしかったことなんかも書き留めていて。ですから、これまでのスケジュール帳を読むと、私がどんな人間なのかが一発で分かります。それだけに、家族にも絶対に見せられないですね(笑)。

 

Q8.これまでで思い出に残っている天気や気象はありますか?

岡本 中学2年生の時と、高校3年生の時に経験した大雪ですね。特に高校生の時は受験生だったこともあって、電車が止まるほどの積雪があったのを覚えています。番組で大雪の情報を見ると、今も脳裏に当時の景色が広がります。

 

Q9.他のキャスターさんに「ここは負けない!」というものは?

岡本 友達を大切に思う気持ち。大学を卒業したばかりですし、今でもすぐに会える身近な存在だからかもしれませんが、友人たちと会うのが私の生きる活力になっています。……と、言いつつ、先輩方のお友達事情を知らずに語っているので、「絶対に負けない」とは言い切れないのですが、それぐらい友人たちが大切で、大好きだということです。

 

Q10.“プリンセス好き”のエピソードを1つ教えてください。

岡本 物心ついた頃から大好きでした。ディズニーストアで買えるようなプリンセスのドレスをたくさん持っていて、いつもそれを着て母と一緒に兄の幼稚園のお迎えに行ったりしていましたね。プリンセスが登場するディズニーアニメは全部観ていて、一番好きなのはオーロラ姫(『眠れる森の美女』)です。どの作品も観るたびにため息が出るほど感動して、「あ〜、プリンセスになりたい……!」って今でも思っちゃいます(笑)。

 

Q11.最近のオタ活事情を教えてください。

岡本 番組でも時々お話ししていますが、ずーっとアイドルを追いかけています。各坂に推しがいて、日向坂46だと加藤史帆ちゃん、乃木坂46だと池田瑛紗ちゃん、櫻坂46だと山下瞳月ちゃんが大好きです。それとK-POPも大好きですね。BLACKPINKやNewJeansが好きで、先日のNewJeansの東京ドームのライブも観に行きました。推しはダニエルです。もともとオタ活を始めたきっかけが小3の時に好きになったAKB48のあっちゃん(前田敦子)で。今でもアイドル時代の映像を見返すぐらい好きです。アイドルの良さはみんなキラキラしているところ。アイドルからしか得られない栄養がたくさんあるので、私には欠かせない存在です。

 

Q12.学生時代にダンスをされていたそうですが、得意なダンスは?

岡本 「ガールズ」というちょっとお姉さん系のダンスが好きです。かわいい振付のダンスやヒップホップはあまり得意ではなくて。高校生の時にダンス部に入っていて、体育祭ではチアもちょっとだけやりました。

 

 

Q13.夏におすすめの映画は?

岡本 いっぱいありますけど、一本を選ぶなら『マンマ・ミーア!』。真夏を舞台にした物語ですし、小さい頃に初めて観て、今も夏になると必ず一度は観ます。楽曲も好きで、よく聞きながら出勤していますね。他には『ゴシップガール』など、かわいいお洋服や小物がたくさん出てくる作品が大好きです。

 

Q14.ご自身を家電で例えると?

岡本 ステレオのスピーカー。友人に言わせると、私ってずっとしゃべっているそうなんです(笑)。ちょっと会話が途切れた時とかも、絶妙なタイミングで新しい話題を出すらしくて。これ、褒め言葉らしいのですが、“もしかして、うるさいってことなのかな”と思ったりもします(笑)。大人数のグループでいると、なかには人見知りな性格だったり、会話が苦手な子もいるので、そういう時はよく感謝されます。

 

Q15.普段愛用しているアイテムを教えてください。

岡本 匂いフェチで、いつも好きな香りに包まれていたいんです。だから、甘い匂いのハンドクリームとリップは必ず持ち歩いています。髪につけるバームもそうですね。うっかり香水を忘れた日は一日中、落ち込んじゃうぐらいです(笑)。また、かわいい小物も大好きで、本のしおりは天使の絵柄のものを愛用しています。以前、番組の中で幻想的な雲の写真を見ながら、「天使がいそう」という話をしたのですが、その時の私の頭の中にはこのしおりの天使が浮かんでいました。

あとは……本当は愛用アイテムとしてスケジュール帳も紹介しようと思ったのですが、実物の写真が掲載されることで、何かの拍子で家族に見つけられたら生きていけないぐらい怖いので、今回は持ってきませんでした(笑)。

 

岡本結子リサさんのサイン入り生写真を3名様にプレゼント!

<応募方法>

下記、応募フォームよりご応募ください。

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSePfDBqMCq06Jv5p5gbms_aZkypO4uxiyfRA5F4Uqs6wrqeZg/viewform?usp=sf_link

※応募の締め切りは9月19日(木)正午まで。
※当選は発送をもってかえさせていただきます。
※本フォームで記載いただいた個人情報は、本プレゼント以外の目的での使用はいたしません。また、プレゼント発送完了後に情報は破棄させていただきます。

 

 

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撮影/中村 功 取材・文/倉田モトキ

アートディレクター・山崎晴太郎「アートやデザインの領域を越え、誰もが気軽に楽しめる空間にしたい」『余白思考デザイン的考察学』第3回

「山崎晴太郎の余白思考 デザイン的考察学」第3回

 

デザイナー、経営者、テレビ番組のコメンテーターなど、多岐にわたる活動を展開するアートディレクターの山崎晴太郎さんが新たなモノの見方や楽しみ方を提案していく連載がスタート。自身の著書にもなった、ビジネスやデザインの分野だけにとどまらない「余白思考」という考え方から、暮らしを豊かにするヒントを紹介していきます。第3回は8月17日から東京・スパイラルガーデン開催される大規模な個展『越境するアート、横断するデザイン。』について、コンセプトや気になる内容についてお話をうかがいました。

 

 

 

曖昧さ”や“未完成”のものの中にある美しさ

──8月17日から開催される「越境するアート、横断するデザイン。」。まずはこのタイトルに込めた思いをお聞かせください。

 

山崎 今回の展覧会では僕のアートピースとデザインワークを同時に展開していくことをコンセプトにしています。この2つは僕の中で似て非なるもので、アートがラップしていくイメージなのに対し、デザインは鋭角に刺していく感覚がある。そうした2つの領域を横断し、乗り越えていくというテーマを設けて、このタイトルにしました。言葉にすると少し難しいことを言っているように感じるかもしれませんが(笑)、実際に見ていただくと、誰もが気軽に楽しめる作品が並んだ展覧会になっています。

 

──内容自体はどのようなラインナップになっているのでしょう?

 

山崎 ここ5年から8年の間に手掛けたものが多いですね。60点ほど展示しているので、今の僕のすべてをさらけ出していると思います。面白いのが、これだけ点数があると、大抵はそのデザイナーの人となりが見えてくるものなんです。でも、少し表現の振り幅が大きいので、“一人の人の頭の中とは思えない”と混乱されるかもしれません(笑)。

 

──それほどいろんな世界観の作品があると、展示方法やレイアウトも気になるところです。

 

山崎 今回はあえて〈アート〉と〈デザイン〉のジャンルを分けないように並べているので、来場者は余計に頭の中がこんがらがるかもしれないですね(笑)。また、展示の仕方も白壁に作品を並べていくような一般的な形ではなく、建築足場のようなものを設置し、そこに立てかけたり、ぶら下げたりしています。一見すると、まだ作業中のような雰囲気を持たれるかもしれませんが、この未完成さが僕はとても大事だと思っていて。“クリエイティブに完成はない”ということ。そして、完成したと思ってしまった瞬間から、そのクリエイティブは死んでいくような気がしているんです。僕の表現者としての未熟さゆえかもしれませんけど(笑)。

 

──なるほど。では、気になる内容についてもいくつか教えてください。

 

山崎 僕のアートワークの1つに『使われなかった物語』というシリーズがあります。アート作品の中に独自の書体(フォント)を入れ込んだ作品はすでに数多く作られていますが、その逆で、書体自体を現代アートにしてしまおうと試みたのがこのシリーズです。具体的にどんなことをしているのかと言いますと、例えば「A」から「Z」までのアルファベットを一文字ずつ声に出して読み上げ、それを波形でかたどっていく。すると、それぞれの波形と波形の間に文字として認識されずにこぼれ落ちた音があることが分かる。つまり、「A」や「B」という音の概念になれなかったものたちが存在するんです。それらを拾い集めてグラフィックにし、新たなアルファベットのフォントとして作り上げていく。このフォントを利用し、旧約聖書の『創世記』やウィリアム・シェイクスピアの『ソネット第18番』を書き写してアート作品にしたのが『使われなかった物語』というシリーズです。人類の歴史の大部分は文字によって記録されてきたわけですが、そこには文字になる前にこぼれ落ちた膨大な情報があったはず。でも、それらは記録されずに消えていった。この作品は、文字として記録されてきた声の周囲には、常に記録されなかった声が存在するということの暗喩なんです。

↑使われなかった物語

 

──文字の“音”を可視化し、それらを応用して新たなフォントを創作されているんですね。

 

山崎 そうです。また、こうした音のソノグラフをテーマにした作品の制作は言葉に限らず、街に存在する音でも行っています。その1つが『こぼれ落ちたものの標本』です。土地の空の写真を背景に、同じ場所で録音した音から先ほどのフォントと同じように図形を抽出して、標本のようにピンで留めています。

↑土地の音

 

──ピンで留めることにはどのような意図が?

 

山崎 まず、前提としてこの作品シリーズには“見えていないものや曖昧なものを捕える”というコンセプトがあるんですね。音に限らず、その土地にいる神様でも妖怪もそうなんですが、本来見えないものに対して、その土地の音を拾い、目に見える形にして標本化していくという狙いがある。これは、現代社会に向けたアンチテーゼにもなっています。今の時代はなんでもかんでも名称を付けて、ラベルを貼って、カテゴライズしようとするきらいがあり、そのことで、これまでなら曖昧さのなかであっても成立していたものが、逆に複雑化されている気がするんです。例えば、LGBTQといった呼称もそうじゃないかな、と。多様性を謳いながら、新たな言葉で縛り付けようとしている。それって言い換えると、複雑さやグラデーションのあるものを表面だけ掬い取って単純な色を上に塗り足し、虫ピンで刺しているだけのような気がするんです。まるで、新しい昆虫を標本にするように。こうした、“目に見えないもの”や“曖昧なもの”をどうやって表現していくかは僕のアーティストとしてのステートメントの1つであり、また、そうした曖昧さがあるものにこそ、本当の美しさがあると僕は感じているんです。

↑土地の音

 

── “曖昧なもの”を表現した作品はほかにも展示されるのでしょうか?

 

山崎 『陰影礼賛』という作品も展示しています。これは、谷崎潤一郎の短編小説からインスピレーションを受けて制作したものです。文字を切り抜いた和紙を2枚の紙で挟んで、上から垂らしています。その3枚をピッタリと重ねるのではなく、隙間を開けて、ちょっとした風で揺らぐようにしている。また、背後から光りを透過しているので、紙が動くと切り抜かれた文字の輪郭がぼやけるようになっているんです。一方で、紙を手で直接触れると3枚の紙が重なっていくため、輪郭がはっきりと見えるようになる。これも先ほどお話ししたフォントのコンセプトと近いものがありますが、文字が紙に形として定着する前。つまり、文字が文字という存在になろうとする直前を捕まえたいという考えから制作したアートワークです。そしてもう1つ、“生まれたものの個性”を表現したアート作品に『名前のないポートレート』があります。

↑名前のないポートレート

 

──『名前のないポートレート』は真珠を使った作品ですね。

 

山崎 ええ。アコヤ真珠産業がテーマになっています。真珠って、貝の中で出来上がったばかりのものはきれいな球体ではなく、少しボコボコしているんです。それを研磨して丸くしていくわけですが、最初のいびつさのある原型を見た時、これって人間の命と同じだなと感じたんです。個性を持って生まれてきているのに、みんな工業製品として、同じ形になるように強制されていく。そこで、生まれたままの、いびつな真珠たちを使い、工業製品になる世界線と別の世界線を表現したのが『名前のないポートレート』です。薄い布で作られた大きな筒の中にいくつもの真珠を糸でつるした作品で、これは母親の胎内をイメージしており、真珠がつられた糸は個別の真珠の人生です。そして、それぞれの糸が人間関係のように絡まっていく。また、この真珠に糸を通すための穴開け作業は障がい者施設にいる方々にお願いをしています。社会からこぼれ落ちたものの美しさを掬い取るという意味で、僕の作品の一つの方向性でもあると思います。

↑名前のないポートレート

 

 

現代音楽とアートを融合させた作品も数多く展示

──山崎さんは音楽の分野でもさまざまな活動をされていますが、それらも展示されるのでしょうか?

 

山崎 はい。代表的なところで言えば、MONDO GROSSOなどに参加されていたギタリスト・田中義人さんと僕によるサウンドユニット・NU/NCの音源「recollection / 或る風景の記憶」を聴くことができます。NU/NCは図形譜を軸にした音楽作品で、僕が最初に図形譜を描き、それを基に義人くんにメロディを創っていただき、さらにそこへ僕がフィールド・レコーディングしてきた音の素材を加えて1つの曲に作り上げていったものです。

 

──図形譜とはどういったものなのでしょう?

 

山崎 音楽の楽譜と聞いて誰もが思い出すのは五線譜ですよね。五線譜はいわば、音の再現性を形にしたものです。誰がどの時代であろうと五線譜に書かれた通りに音を奏でれば、同じ音楽を作り出すことができます。一方で、図形譜とは言葉の通り、図形などを使って書かれた楽譜のことで、簡単に言うと“感情”や“気持ち”を表現しているんです。図形を見て、もし寂しく感じたら、その気持ちで弾いてもらいたいという思いが込められている。ある種、実験的な現代音楽ですが、坂本龍一さんや武満 徹さん、ジョン・ケージさんなどが取り組んだ現代音楽の一つの分野でもある。“新しい音楽の届け方”という意味でも、僕はこの概念が大好きなんですよね。また、同じく現代音楽を代表するスティーヴ・ライヒさんとコラボして作ったものの中に『余白のための楽譜』というアートワークがあり、こちらも五線譜にならない音楽をテーマにしています。

↑スティーブ・ライヒ氏とのコラボ作品「余白のための楽譜」

 

──概要だけ聞くと、先ほどの“音の概念になれなかった文字”に通ずるものがありますね。

 

山崎 そうですね。NU/NCは純粋に音楽を表現したものですが、『余白のための楽譜』はもう少しアート性が強いです。五線譜に書かれた音楽は基本的にメトロノームなどで拍を取れるようにできているのですが、音の粒と粒の間、拍と拍の間にも音は存在する。その世界を流体のような紋様で可視化したものなんです。24時間で一曲が一周する、大きなモニターを複数台使って表現したインスタレーションなのですが、さすがに今回の会場には設置できないので、ミニサイズのものを展示しています。

 

──アート以外の展示物もあるのでしょうか?

 

山崎 たくさんありますが、これまで紹介してきたものとカラーが異なる作品で言えば、国土交通省さんと河川情報センターさんからの依頼で取り組んでいる「水害ハザードマップ訴求プロジェクト」があります。通称『気をつけ妖怪図鑑』と呼んでいるもので、小学生たちにハザードマップやマイタイムラインをもっと身近に感じてもらおうというプロジェクトです。今はタブレットを授業で使っている小学校が多いので、ブラウザゲームのような感覚で水防災を楽しみながら学べるものを作りました。具体的には、床上浸水や河川の氾濫といった災害を妖怪に見立ててキャラクター化し、街や通学路にどんな危険が潜んでいるかを調べて、自分たちでハザードマップにプロットしていくというもの。これは来年度からいろんな学校で本格的に導入されるよう実証実験をしています。自分でも思いますが、本当にこれまで紹介してきたアートワークとの高低差がすごいなと思います(笑)。

↑気をつけ妖怪図鑑

 

──確かに(笑)。

 

山崎 そのほか、最新のデザイン、ブランディングプロジェクトとしてJR西日本さんが展開しているWESTER(ウェスター)ブランドのブランディングプロジェクトにも参加しています。交通系決済のICOCA、クレジットカードのJ-WESTに続く、第三の決済手段の「WESTERウォレット(仮称)」をはじめ、デジタル戦略を含めたさまざまなサービスをこれからスタートさせていく予定です。そのプロジェクトで今後使われていくオリジナルフォントの作成も行っています。

 

アイデアの“始まり”である曖昧さも作品のテーマに

──これだけ内容が多彩だと何度も訪れたくなりますし、そのたびにいろんな発見がありそうです。

 

山崎 そうですね。場所は表参道の駅からすぐですし、入場料も無料なので、ぜひ何度も足を運んでいただきたいです。会場になっているスパイラルガーデンは、多くの方に気軽にアートや文化に触れていただきたいという思いをミッションとして掲げていて、そこに僕も賛同しているんです。また、中には抽象性の高い作品も展示していますので、パッと見では分かりづらいものもあるかもしれません。そのため、作品ごとに文章も書き添えていますので、きっと初見でもそれぞれの世界観を感じて、楽しんでいただけると思います。

 

──それは解説文のようなものですか?

 

山崎 今回は、解説文は一切置いていません。ただすべてのテキストはつけていて、作品の内容とリンクした詩のようなものもあれば、物語のようなものもあります。この文章を書く作業が一番大変でした(笑)。アートやデザインの視覚表現って、僕にとっては、もともと心や頭の中にある言語化しづらい物事を言葉以外のもので形にする作業ですから、それを文章で表現し直すのは、僕にとってすごく苦手なことなんです(笑)。

 

──でも、それによって作品と観る側の距離がぐっと縮まりそうです。

 

山崎 そうなることを願っています。また、誰にとっても取っ掛かりやすい作品として、僕が撮影した日常の風景写真も多数展示します。大学で写真を専攻していたこともあり、普段から写真はたくさん撮っているのですが、近年はあまり発表する場がなかったんです。ただ、取っ掛かりやすいと言いつつ、僕が撮影するものって、やっぱり曖昧なものが多いんですよね(笑)。というのも、先ほど心の中にある言語化しづらいモヤモヤを作品にしているとお話ししましたが、曖昧さを曖昧なまま表現できる一番のツールが写真と柔らかい鉛筆だと思っているんです。

 

──柔らかい鉛筆とは?

 

山崎 芯が硬い鉛筆や先の細いペンだと線が立ってしまうので、ちょっとしたラフスケッチでも正解や正確さを求められているような気持ちになるんです。その点、例えば8Bの鉛筆やクレヨンなどは線のエッジが滲むので、曖昧さとともに線が表現できる。そうした曖昧なイメージからスタートし、徐々に粒度を上げて完成させていくのが僕の表現の作り方で、柔らかい鉛筆で書いたものや写真は、そのスタートの部分を考えるのに一番適したツールだと僕は思っているんです。

 

──今回の展覧会のフライヤーにも全面に写真が使われています。

 

山崎 これも日常の風景を撮ったもので、iPhone12miniで撮影しました。展覧会のコンセプトとして“一般の方でも楽しめるものを”という思いも込めていますので、誰もが手持ちのスマートフォンで撮れる写真をキービジュアルにしたんです。きっとアートやデザインを身近なものに感じていただける内容になっているので、ぜひ多くの方にご覧いただければと思います。

 

 

山崎晴太郎●やまざき・せいたろう…代表取締役、クリエイティブディレクター 、アーティスト。1982年8月14日生まれ。立教大学卒。京都芸術大学大学院芸術修士。2008年、株式会社セイタロウデザイン設立。企業経営に併走するデザイン戦略設計やブランディングを中心に、グラフィック、WEB・空間・プロダクトなどのクリエイティブディレクションを手がける。「社会はデザインで変えることができる」という信念のもと、各省庁や企業と連携し、様々な社会問題をデザインの力で解決している。国内外の受賞歴多数。各デザインコンペ審査委員や省庁有識者委員を歴任。2018年より国外を中心に現代アーティストとしての活動を開始。主なプロジェクトに、東京2020オリンピック・パラリンピック表彰式、旧奈良監獄利活用基本構想、JR西日本、Starbucks Coffee、広瀬香美、代官山ASOなど。株式会社JMC取締役兼CDO。株式会社プラゴCDO。「情報7daysニュースキャスター」(TBS系)、「真相報道 バンキシャ!」(日本テレビ系)にコメンテーターとして出演中。著書に『余白思考 アートとデザインのプロがビジネスで大事にしている「ロジカル」を超える技術』(日経BP)がある。公式サイト / InstagramYouTube  ※山崎晴太郎さんの「崎」の字は、正しくは「大」の部分が「立」になります。

 

【記事の登場した山崎晴太郎さんの作品一覧】

 

【event】

山崎晴太郎 個展 「越境するアート、横断するデザイン。」

開催期間:2024年8月17日(土)〜9月1日(日)
開催時間:11:00〜19:00
開催場所:スパイラルガーデン(スパイラル1F)〒107-0062 東京都港区南青山5-6-23 1F

入場料:無料

公式HP:https://seitaroyamazaki.com/exhibition2024

 

「⻄日本から社会を未来へ。 WESTERブランドとオリジナルフォント WESTER X SANS 誕生秘話。」
―JR ⻄日本の内田 修二氏・橋本 祐典氏、Monotype の小林 章氏、山崎晴太郎が事業ブランドにおけるフォントの重要性を対談―

日時:2024 年 8 月 23 日(金)
開催時間:18:00〜20:45(17:30- 受付開始)
参加費:無料 定員:100 名(事前申込・先着順)

お申込:https://seitaro-talkevent.peatix.com

※上記のPeatixで事前予約をしていただいた方にはお席をご用意いたします。定員 100 名に達した場合は立ち見席をご用意する予定ですが、着席でご覧になりたい方は事前に入場チケット(無料)をお申込ください。

 

【「山崎晴太郎の余白思考 デザイン的考察学」連載一覧】
https://getnavi.jp/category/life/yohakushikodesigntekikousakugaku/

 

【Information】

余白思考 アートとデザインのプロがビジネスで大事にしている「ロジカル」を超える技術

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著者:山崎晴太郎
価格:1760円(税込)
発行元:日経BP

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撮影/干川 修 取材・文/倉田モトキ

上坂すみれインタビュー「歌で表現する楽しさを知った最高に尊い10年でした」

唯一無二の声優アーティストとして不動の地位を築いている上坂すみれさん。7月24日にはアーティスト活動10周年を記念したベストアルバム「SUMIRE CATALOG」を発売した。この10年を振り返りつつ、選曲や作詞曲に込めた思いなどを聞いてみた!

 

※こちらは「GetNavi」2024年9月・10月合併号に掲載された記事を再編集したものです。

 

上坂すみれ●うえさか・すみれ…1991年12月19日生まれ。神奈川県出身。O型。2011年に声優デビュー。アーティストとしては2013年放送のテレビアニメ「波打際のむろみさん」の主題歌「七つの海よりキミの海」でデビューを果たす。昭和歌謡、メタルロック、ロリータ、プロレス等、多方面に興味を示し知識を持つ、唯一無二の声優アーティスト。公式HPXInstagramYouTube

【上坂すみれさん撮り下ろし写真】

 

場数を踏んで、徐々に楽しめるようになってきたアーティスト活動

──アーティスト活動10周年、おめでとうございます! この10年を振り返ってみて、いかがですか?

 

上坂 どうもありがとうございます。 活動を始める以前は人前での歌唱経験が全くなく、素人同然でした。完全にゼロベースからのスタートだったので、最初は本当に手探り状態で……。最初の5年ぐらいはまだ学生だったこともあり、余裕のないところが多かったですね。ライブやイベントを重ねていくうちに、アーティストとしての活動を徐々に楽しめるようになってきました。不安なこともたくさんありましたが、“次のライブも楽しみにしています”と言ってくださる同志(ファン)の方々も出てきて、“みんなに会えるように、もっと頑張ろう!”という気持ちが強くなっていきました。

私は声優とアーティストの活動をほぼ同時期に始めたんですけど、様々なキャラクターとの出会い、同志の皆さんと時間を共有していくなかで、表現することの楽しさ、そして声が与える力の強さを実感してきた10年だったと思います。

 

──ゼロベースからのスタートとなると、デビュー当初のライブはかなりプレッシャーがあったのでは?

 

上坂 プレッシャーもありましたし、とても緊張しました。ダンスも一切やったことがなかったので、根気よく振り付けの練習をしていた思い出があります。あと最初は、本来ライブを組めるような曲数がなくて……同じ曲を複数回セットリストに入れたり、キャラクターソングを入れたりしていました。

 

──ターニングポイントとなる出来事はありましたか?

 

上坂 やはりコロナ禍ですね。それまでは正直、キャパオーバーになりつつ取り組んでいたときもありました。でも、コロナですべてが断絶されてしまったとき、ライブを通して同志の皆さんと時間を共有することは、自分にとってかなり大切な要素なんだなぁと痛感したんです。ライブが復活した2023年……会場での声出しが解禁された3月のソロライブは、一生忘れられないと思います。“ライブってすっごく楽しい!!”と、改めて心から感じました。そういう意味でいうと、「EASY LOVE」(21年発売のシングル曲)は、とても印象深い1曲ですね。コール&レスポンスが激しめで、同志と作り上げる楽曲なのですが、声出しで披露できるまでに時間がかかりすぎて(笑)。2年の時を経て、ようやくコーレスが完成しました。この曲を愛撫で歌ったとき、“ああ、やっと、ライブという文化が日常に戻ってきたんだなぁ”と、感慨深いものがありましたね。

 

──「EASY LOVE」はもちろん、ベストアルバムに収録されていますね! 新曲「ファーストピリオド.」は、上坂さんが敬愛する声優アーティスト・桃井はるこさんが作詞・作曲を担当されています。

 

上坂 桃井さんは、私が声優を志すきっかけをくださった方なんです。そんな憧れの桃井さんに、セカンドシングル「げんし、女子は、たいようだった。」という、素敵な曲も書いていただいています。当時は、こんなに早く夢が叶ってうれしいと思う反面、自分の未熟さがもどかしく……。歌い続けることで表現や理解度が少しずつ深まり、私の10年を支えてくれたとても大切な曲です。

ベストアルバムに収録する新曲は、もともと桃井さんにお願いすることが決まっていました。最初のワンコーラスのデモテープを、桃井さんが3種類も用意してくださったんです。これはとても異例なこと。3つの中から、桃井さんのイチオシであり、私自身もとても気に入った1つを選ばせていただいたのが、「ファーストピリオド.」になります。曲調はちょっと懐かしいような、2000年代のアニソンを感じさせるような編曲にしていただいて、詞は桃井さんにいただいたそのままを使わせていただきました。“これからの10年も頑張って!”というエールを桃井さんからいただいている、そんな詞になっています。昔から桃井さんが書かれる歌詞が大好きで、ずっとパワーをもらってきました。末永く歌い続けていきたい曲です!

 

──ディスク02には上坂さんがセレクトされた曲が収録されているそうですが、特に印象深い曲は?

 

上坂  「海風のモノローグ」(5thアルバム収録曲)です。こちらも“夢が叶った!系の楽曲になります。菊池桃子さんや中森明菜さんなど、幼少期から林哲司さんが書かれた歌謡曲が大好きで、そんな林さんに作曲していただき、自分で作詞をしたということで、かなり思い入れの強い曲です。

 

──同じくディスク02に収録されている新曲「見参!革ブロ☆ふぉーえばー」も、上坂さんがご自身で作詞されていますね。どんな思いを込めて書かれたのですか?

 

上坂 客観的に見た“上坂すみれのライブ”が表現できたらいいなと思いながら、書かせていただきました。“すみぺ(愛称)のライブはこんな感じだよ!”というような光景を、この曲を聴いたらリアルにイメージしていただけるのではないでしょうか。この曲はコールがたくさんあるので、ライブでも楽しめそうです。

 

──9月の公演で披露するのが楽しみですね! ライブに関しては、今は緊張やプレッシャーよりも楽しみのほうが強いですか?

 

上坂 そうですね。ただ、今はそれ以上に、体調管理の大切さを身に染みて感じています。いかに好調な状態を保つか……。そういった面を頑張りたい気持ちが強いです。これはアーティスト活動に限ったお話ではないのですが、声優っていざやってみると、すごく体力勝負なんですよね。

 

──好調をキープするために、なにか積極的にやっていることはありますか?

 

上坂 ボクササイズやストレッチなどをしています。あとは、深く呼吸をするように気をつけたり。アフレコなどでは同じ姿勢で大きな声を出すので、首肩が凝って寝付きが悪くなりがちなんです。そういうところをストレッチなどでしっかりとカバーしつつ、毎日疲れを残さないように……と、ようやく気を遣えるようになりました(笑)。

あと、プロテインを飲んでいます。舞台のお仕事をやらせていただいたときに、プロテインを飲んでいる演者さんが多かったんです。“タンパク質を摂取すると、疲労が取れやすくて良いよ”とオススメされて、私も飲むようになりました。お気に入りは、ソイプロテインのラテ味。ソイプロテインは“筋肉をムキムキに”というよりも美容寄りのプロテインだと聞きまして、ソイを好んで飲んでいます。

 

 

私の“頑張り”を計算してくれているApple Watchが、面白くてお気に入り

──多趣味であることでも有名な上坂さんですが、最近購入した中でお気に入りのものはありますか?

 

上坂 とても気に入っていたOMEGAの時計をうっかり失くしてしまって、久しぶりにApple Watchを買ってみたのですが、“今日はこのぐらい活動しました”とか、心拍数などを教えてくれるのが面白くて気に入っています。けっこう大声を出すキャラクターを演じることが多いんですけど、一度大声を出した後に心拍数を確認してみたら、「137」と表示されたんです。それを見て、“私すごく頑張ったんだなぁ”と思って(笑)。頑張りをしっかり計算してくれていて、とても勇気づけられました。

 

──137はかなりの運動強度です(笑)。ほかに、気に入っているものや“これはオススメ!”というアイテムはありますか?

 

上坂 知り合いにオススメしてもらって購入したのですが、黄えんどう豆100%で作られた「ゼンブヌードル」がお気に入りです。小麦粉の麺を食べるとすぐ眠くなってしまうのですが、これはグルテンフリーなので食後に眠くなりません! なんにでも合うもっちりとした麺で、私はパスタにして食べるのが好きです。おうちでランチをするときに、よくいただいています。

あと、これはアイテムではないのですが、最近私の中で特撮戦隊モノブームが起こっていまして、よく観ています。“主題歌がかっこいい!”という入口から、今年ちょうど放送開始30周年を迎えた「忍者戦隊カクレンジャー」を観始めたら、夢中になって全話観てしまって……。特撮戦隊モノってすごく面白いなと思って、もっと手を広げようとしています(笑)。

 

──戦隊モノはたくさんシリーズがあるので、長く楽しめそうですね! 9月からは東名阪ツアーが控えていますが、どんなライブにしたいですか?

 

上坂 最終日のLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)は、コロナで一度中止になってしまった会場なんです。そこで改めてライブができるのは、万感の思いですね。みんな楽しい気分で、明日も頑張ろう! と思えるようなツアーにできたらうれしいです!

 

 

<Information>

SUMIRE CATALOG

発売中

GD+Blu-ray盤(写真) 4950円
完全限定生産盤 9900円
通常盤 3630円
発売元:キングレコード

アーティスト活動10周年を記念したベストアルバム。これまで発売してきたシングル15曲のほか、本人セレクトの12曲と本人作詞曲を含む新曲3曲を加えた全30曲を収録。リード曲「ファーストピリオド.」は、上坂が敬愛するアーティスト・桃井はるこが楽曲を提供している。

 

SUMIRE UESAKA BEST TOUR 2024 すみぺの大理論

9月28日(土)NHK大阪ホール(大阪)
9月29日(日)Niterra 日本特殊陶業市民会館ビレッジホール(愛知)
10月12日(土)LINE CUBE SHIBUYA(東京)

 

撮影/映美 取材・文/えんどうまい ヘアメイク/澤西由美花(Kurarasystem) スタイリスト/佐野夏水

ボクシング・井岡戦で注目のラウンドガールは、現役女子大生・人気コスプレイヤーの三橋くん!「三橋は本名でもなんでもなくて…」

7月7日に行われたWBA世界スーパーフライ級王者・井岡一翔とIBF同級王者フェルナンド・マルティネスの王座統一戦は記憶に新しいところ。スポーティーなコスチュームに身を包んだ全員160cm以上の身長というリングガール中でもちょっと小柄でベビーフェイスのあのコは誰? と話題になったのが、SNS総フォロワー40万人を超す人気コスプレイヤーの三橋くん。ラウンドガールは初めての経験だったと語る彼女の素顔に迫った。

 

三橋くん●みはしくん…2001年11月12日生まれ。東京都出身。血液型O型。身長162cm、B96、W58、H86。趣味はFPSゲーム、コスプレ。戦闘機のF-1からF-35の愛称を全部言える特技を持つ。XInstagramTikTok

【三橋くん撮り下ろし写真】

 

 

試合が終わった後は、なんかもう気持ちが高ぶりすぎてひとりで泣いてました

──初めてのラウンドガールいかがでしたか?

 

三橋くん ボクシング自体を生で見たのが初めてだったんです。なんかもうすごくて、感情がごちゃごちゃでした。会場のお客さんの熱気もすごくて。統一戦のほかにも全部で6試合リングガールをやらせていただいて、何度もリングに上がることができました。ゴングが鳴るたびにボードを持ってリングに上がるので、リングサイドの近くで試合を見ながら待っているんですけど、私も含めラウンドガールみんな試合に夢中になりすぎて、10秒前に声がかかるんですけど、出る順番誰だっけ? みたいになってました。リングからの距離が近くて血が飛んでるのとかもわかるんですよ。あんなに血が流れても選手はそれでも立ち上がって。井岡選手の試合が終わった後は、なんかもう気持ちが高ぶりすぎてひとりで泣いてました。

【三橋くんラウンドガール時の様子】

 

──普段は薬学部に通う現役の大学生だとか。

 

三橋くん 薬剤師になるためのコースを履修していて今、5年生です。もともと化学とか好きだったんですけど、『Dr.STONE』(原作:稲垣理一郎 作画:Boichi)っていうマンガを読んで一気にハマりました。主人公が作中で肺炎を直す「サルファ剤」っていうのを作るんですよ。いわゆる抗菌薬なんですけど、なんかそういう薬ができる前までって、亡くなってしまったり、免疫力に頼って自然治癒するのを待ったり、それを見守るみたいな世界線でしかなかったのに、薬ってこんなにすごいんだなっていうのに気付かされたのがこの作品でした。で、ちょっと薬学系に興味を持って、薬剤師の資格も取れるしいいなみたいな感じでなんか軽い気持ちで進んだら、すごく重い学部でした。勉強することがいっぱいあって大変です。

 

──ところで「三橋くん」という名前はどこから?

 

三橋くん 「三橋」は本名でもなんでもないんです(笑)。好きなキャラクターから取ったとかでもなくて。なんか「み」ってかわいいなって思ったのと、コスプレイヤーって、名前だけのコが多くて苗字が欲しい! って思ったんです。それで三橋がいいと思っちゃって。なぜ「くん」なのかというと、「ちゃん」がいいか「くん」がいいかX(当時はTwitter)でアンケートを取ったんです。そしたら「くん」がいいという意見が多くて「くん」になりました。女の子の愛称ななのになぜ「くん」が人気だったのかあんまり気にしてなかったんですけど、この間コスプレ仲間に、アンタそれ多分違うよ(いいとかじゃない)って、そのとき1人称「僕」だったじゃんって言われて、よくよく考えれば多分そのイメージでファンの方が「くん」か「ちゃん」つけるんなら「くん」じゃないかって感じで「くん」になったんだと思います。

 

好きなキャラになんかもう好きなだけ話しかけられる

──普段はグラビアやコスプレのお仕事をされていますが、コスプレはいつごろから?

 

三橋くん 中学3年生くらいからですね。友達からどうしてもやりたいキャラがいて、お願いだから一緒にやってほしいみたいに言われたのがきっかけです。それが『ニコニコ超会議』だったんです。ひとりで行くのにはハードルが高すぎるイベントですよね。でも何もよくわからないまま友達に連れてかれて、コスプレして参加したら、なんか1日ですごい人数のコスプレ友達ができたんですよ。なんか当時そこそこ流行ってたゲームキャラのコスプレだったので、同じキャラのコスプレしてる人たちとTwitter(X)で繋がって、で、次これやろうよみたいな話をしてたら8年経ってました(笑)。

 

──コスプレの楽しいところってどんなところですか?

 

三橋くん やっぱり、自分の好きな作品のコスプレをするから、その同じ作品を好きな人に出会えることですかね。やっぱりヲタク同志で話ができるのは大きくて。あと、理解してもらうのが難しいかもしれませんが、好きな作品の中の好きなキャラクターがいるとして、本物は当然2次元なんで3次元には来れないけど、コスプレをしてキャラになりきっていたら3次元に一番近しい、実在してるって言ったらあれですけど、そんな感覚で好きなキャラになんかもう好きなだけ話しかけられるんですよ! ナンパじゃないですけど、好きなキャラのコスプレイヤーさんには、もうめっちゃ話しかけちゃいます。

 

──どんなコスプレをすることが多いですか?

 

三橋くん 今、VTuberにハマってます。「エリーラペンドラ」ちゃんとか、ホロライブは箱推しなんですけど、団長の「白銀ノエル」ちゃん、ぶいすぽっ! だと「猫汰つな」ちゃんですかね。

 

【三橋くんのコスプレグラビア】

 

コスプレしてないポートレートをSNSに上げたらコスプレよりバズっちゃった

──コスプレとグラビア、今はその境目もなくなってきていますが、グラビアをやってみるきっかけがあったんですよね。

 

三橋くん 趣味でコスプレを続けていて、高校3年生になるタイミングで受験があるから、一旦コスプレをお休みしようと思ったんです。で、大学生になったらまた再開しようってコスプレ関係で繋がったお友達に結構話してたんですよ。そしたら、そのときよく私のコスプレを撮ってくれた仲の良いカメラマンさんが、休みに入る前にコスプレしてないポートレートを撮ってみようよって言ってくださって。撮影してもらってSNSに上げたらコスプレよりバズっちゃったんです(笑)。それからは、コスプレしてない姿も出すようになりました。でも本格的に雑誌でグラビアとかやらせてもらうようになったのは、昨年事務所に所属してからです。

 

↑こちらがその反響を呼んだポートレート写真

 

──趣味が、コスプレのほかにFPSゲームやなかでも戦闘機がお好きだと聞きました。

 

三橋くん 大好きです! 小さいころから父親に連れられて、いろんな基地の航空祭に行ってた影響で、気がついたら飛行機がずっと好きでした。なんか毎年恒例のイベントみたいになってて、運動会みたいな(笑)。ちっちゃかったからあんまり覚えてないんですけど、楽しかった記憶しかなくて。戦闘機はとにかくカッコいいんです。たくさんの機体があるんですけど、それぞれ造られる目的が違ってて、当然造りも違うんです。“ファントム”とか“イーグル”とか愛称があるんですけど、全部言えますよ。ブルーインパルスも大好きで、8月にブルーインパルスのホームの松島基地航空祭があるので、行ってみたいと思っています。お仕事ないといいなぁ(笑)。あと小さいころは家族で航空祭に行ってたんですけど、今はなかなかこの趣味が合う友達がいなくて、一緒に行ってくれる友達を募集中です(笑)。

↑航空祭で

 

──今後の活動の抱負を教えてください。

 

三橋くん グラビアをやっているからには、マンガ誌の表紙を飾りたいです。できれば全部の表紙に出たいです。写真集も出したい。頒布物として写真集は作ってきているんですけど、全国の書店に並べてもらえるような写真集を出したいです。あと、SNS総フォロワー100万人を目指しています。なので今TikTokとか頑張ってます。そのくらい有名になれたら、やっぱり趣味に関わるお仕事もたくさんしたいですね。コスプレはお仕事もいただくようになってきましたが、いわゆるFPSゲーム(ファーストパーソン・シューティングゲーム)とか戦闘機って、今まであまり女の子が介入しなかった趣味じゃないですか。だけど女子ファンもいるんだよってことをみんなに知ってほしいし、表立ってあんまり好きって言えなかったファンが、好きって言えるようになったらいいなとも思っています。

 

取材:編集部

仕事の悩み、体調の悩み、心の悩み……心理士ランナー・ぱつこが社会人の抱えるお悩みにお答えします!

かつては「グラドル最速ランナー」として多彩な活動を繰り広げていたぱつこさんが今年4月30日でグラビアを卒業。現在は「心理士ランナー」という肩書きで、心理士として働きながら、ランナーとして様々なイベントやマラソン大会に参加している。そんな彼女に、編集部スタッフの切実なお悩みに答えてもらった。

 

【関連記事】小学校教諭からグラビアアイドルに転身。現在は心理士ランナーとして新しい一歩を踏み出したぱつこのユニークな半生に迫る!

 

ぱつこ…11月21日生まれ。大学卒業後、小学校教諭を経て、大学院で学びながら、2019年にグラビアアイドルとして芸能界デビュー。同年11月、2代目サンスポGoGoクイーン準グランプリを受賞。大学院卒業後、心理士として働きながらグラビア活動を継続。「グラドル最速ランナー」として、ランナーとしても様々な大会やイベントに参加。今年4月30日でグラビアを卒業、現在は「心理士ランナー」として新たな一歩を踏み出している。XInstagramTikTokYouTube

 

【ぱつこさん撮り下ろし写真】

 

<質問1>
「日曜日の夜になると、翌日からの仕事が不安になり、憂鬱になることが多いです。どのような気持ちで過ごすのが良いでしょうか。ポジティブに過ごすコツなどがありましたら教えてください。(40代・男性)

ぱつこ 40代50代の、いわゆる中年期と言われる世代には「中年期危機(ミッドライフ・クライシス)」っていう言葉があって、今までの自分で良かったのか、本当にこの人生で正解だったのかと抑うつっぽくなる方が多いんですよね。実際、自殺される方って50代の男性が一番多いんです。だからこそ、自分だけが特別ではなく、そういうふうになりやすい年齢なんだと知ることが大切です。「不安にならないようにしなきゃ!」と思うと、それ自体が不安を考えることに直結します。そもそも日曜日の夜に、「明日からの仕事が楽しみだ!」と思う人のほうが少数派だと思います。それに年齢的な不安や、仕事の大変さなど、いろんなものが重なって余計に辛くなるじゃないですか。だから無理にポジティブになろうと思わず、認知行動療法の「マインドフルネス」という考え方なんですけど、不安を抱いている自分がいるということを否定せずに受け入れるんです。それで溜め込まずに受け流すようにすれば、うつや不安に効果的と言われています。

 

──受け流すために効果的なことはありますか。

 

ぱつこ 運動などで体を動かして、ほどよい疲労感で眠気を誘うのは効果的です。ただ運動嫌いな人が無理に運動したら逆にストレスじゃないですか。だから無理のない程度に体を動かすのもいいですし、寝る前に自分の好きな音楽を聴くとか、アロマを焚くとか、五感を刺激するのも大切です。

 

──おススメのアロマを教えてください。

 

ぱつこ 定番ですがラベンダーやイランイラン。パチュリという成分もリラックス効果が高いです。ユーカリなどもスースー系も爽快感を与えて、リフレッシュさせてくれる効果があります。

 

<質問2>
「『人と関わりたい』という思いはあるものの、拒絶されたり、恥をかいたりする恐怖があって踏み込めません。結果として当たり障りのない言動に終わって、親密な関係が築けない……というジレンマを感じています。とはいえ、劇的な荒療治はできそうにもなく、リハビリ的に小さなことから始めるとしたら何がいいでしょうか?」(40代・男性)

ぱつこ この方も中年期危機ですね。そもそも人と関わること自体が苦手なのか、それとも親密になろうと思ってトライしてみたけど、相手に拒まれた経験があるのかどうかなど、今置かれている状況によって、カウンセリングの方法も変わってきます。親密な関係を築きたいのがプライベートなのか、職場なのかによっても変わりますしね。

 

──職場の場合だと、勤務年数や、上司か部下によっても変わるでしょうしね。

 

ぱつこ 職場だとパワハラやセクハラなど、センシティブな問題もありますし、コロナ禍もあって、世の中の風潮として当たり障りのない話しかしないというのもあると思います。だから、この場合も自分だけじゃないと思うのが一番なんですが、その中でも一歩踏み出すとしたら……。職場以外のコミュニティに属したらいいのではないでしょうか。自分の好きな趣味やスポーツのコミュニティは探せば絶対にあるので、一旦「当たり障りのない言動」は置いといて、たとえばSNS上で交流して見る。それで仲良くなれそうだなと思ったら、オフ会などに参加してみる。直接会うのが怖いなら、リモートなど遠隔でコミュニケーションを取ってみる。自分の好きなものの集まりだったら、たくさん共通点もあると思うので、話も盛り上がりやすいですしね。職場だとハラスメントがつきまといますが、自分の好きなコミュニティだったら、失敗してもやり直しができますしね。

 

<質問3>
「肥満に悩んでいます。痩せなければいけないことは理解していますし、ダイエットもしようとは思っているんですが、思っているだけで行動に移せません。どちらかと言うと、過食など太る行動を取ってしまいます。この『行動に移せない』という心理状況はどこに起因するのでしょうか? また行動するためにはどうすれば良いのでしょうか?」(40代・男性)

ぱつこ 「痩せたい」って抽象的で大きな目標というか、一種の夢じゃないですか。だからこそ目の前にある欲望に負けちゃうんです。人間の脳はそういうふうにできているんですよね。だから誘惑に負けるのはしょうがないことです。それでも痩せるためには、運動する、食事制限するなど、いろんな種類があります。運動の中にも、走る、筋トレする、テニスをやるなど、たくさんの選択肢がありますし、食事制限も糖質ダイエットや炭水化物ダイエットなど、いろんなやり方があって、自分に一番合うものは何なのかを見つける必要があります。

 

──この方には補足情報があって、まず運動はしたくないと。過去に食事制限をした経験があって、実際に痩せたこともあるんですが、短期間しか続かずにリバウンドしたそうです。

 

ぱつこ 目の前に好きなものがあるとどうしても食べちゃいますし、男性だと大盛無料の店に行ったら、ついつい条件反射で大盛にしちゃいますよね。だったら環境を変えてしまうんです。大盛無料のお店には行かない。お菓子が好きだったら、見えるところに置かない、もしくは買わない。見えないようにすれば、ないからしょうがないって諦めやすくなります。自炊をする方なら、野菜を多めにストックしておいて、野菜炒めしか作れない環境を作るんです。要は自分自身で選択肢を狭めるんです。環境設定からの食事の改善は有効的な手段ですね。痩せると体も軽くなるので運動もしやすくなりますし。

 

──やはり運動は必要不可欠ですか?

 

ぱつこ どうしても食事制限だけだとリバウンドの原因になってしまうので、痩せにくい体を作るという意味でも、1駅歩くとか、家から距離のあるコンビニに行くとか、ちょっとしたことを毎日積み重ねていくだけでも、1年間の蓄積は全然違うと思います。あとは周りのサポートも大事なので、家族や友達、同僚など、誰かに報告するのも有効です。毎日とかじゃなくて、月1ぐらいの頻度でいいので、体重などを共有する。数字にして視覚化するのもすごく効果的で、毎日のアップダウンを気にしないで、1ヶ月とか3ヶ月のペースで体重のグラフを作って、長期スパンで体重の変化を追っていくのも大事です。

 

──毎日となると負担ですが、月1とかなら気も楽ですよね。

 

ぱつこ 大人になると、会食もあるし、飲み会もあるし、いっぱい食べちゃう日もあるじゃないですか。だから毎日、体重を計って一喜一憂するのもしんどいですよね。それに人間の体は約2週間で作り上げられるので、2週間前に食べたもの、運動したことが結果に出ると言われているんです。だから今日は食べ過ぎちゃったと感じたら、次の日は制限しようとか緩く考えて、全体のグラフを見ていくんです。あまり数字にこだわり過ぎると、それがストレスに繋がりますから。女性にも男性にもバイオリズムがあって、太りやすい時期と痩せやすい時期があるので、毎日じゃなくて、長い目で見ていくといいのではないでしょうか。

 

撮影/河野優太 取材・文/猪口貴裕

小学校教諭からグラビアアイドルに転身。現在は心理士ランナーとして新しい一歩を踏み出したぱつこのユニークな半生に迫る!

元小学校教諭という異色の経歴で2019年にグラビアデビューを果たしたぱつこさん。その後は心理士として働きながらグラビア活動を続ける一方、ランニング界隈でも頭角を現し、「グラドル最速ランナー」という独自の地位を確立。今年4月30日でグラビアを卒業して、「心理士ランナー」として新たな一歩を踏み出した彼女に、これまでの道のりを語ってもらった。

 

ぱつこ…11月21日生まれ。大学卒業後、小学校教諭を経て、大学院で学びながら、2019年にグラビアアイドルとして芸能界デビュー。同年11月、2代目サンスポGoGoクイーン準グランプリを受賞。大学院卒業後、心理士として働きながらグラビア活動を継続。「グラドル最速ランナー」として、ランナーとしても様々な大会やイベントに参加。今年4月30日でグラビアを卒業、現在は「心理士ランナー」として新たな一歩を踏み出している。XInstagramTikTokYouTube

 

【ぱつこさん撮り下ろし写真】

 

グラビアアイドルを目指したきっかけは、おばあちゃんの水着写真

──本日は取材開始が21時と遅めの時間ですが、今日も心理士としてのお仕事があったんですか?

 

ぱつこ そうなんです。もうちょっと早く来られる予定だったんですが、最後の患者さんが長引いて。

 

──心理士として、会社に属しているんですか?

 

ぱつこ 正社員として週5で働いているんですが、副業も認められているんです。

 

──これまで芸能一本で活動したことはあるんですか。

 

ぱつこ 一度もないです。欲張りな性格だから、いろんなことをやりたくて。芸能デビューした2019年も大学院生で、心理士になりたい夢とグラビアアイドルになりたい夢があって、どちらも叶えるために同時並行で進めていったんです。それで大学院卒業後、副業OKの会社に就職してぱつことしてグラビア活動も継続していました。

 

──グラビアアイドルを目指したきっかけは、おばあちゃんの水着写真だったそうですね。

 

ぱつこ 大学院の受験をするにあたって、勉強に集中するために、おばあちゃんの家に半年ぐらい住ませてもらっていた時期があって。二人暮らしをしていたときに、いきなり晩御飯の後に水着の写真を見せられたんです。おじいちゃんが撮影したもので、当時25歳だったおばあちゃんの水着写真。それがあまりにもかわいくてきれいで衝撃を受けたんです。私もおばあちゃんみたいに、いつか若かりし頃の水着写真を孫に見せたいと思って、グラビアアイドルになろうと決心しました。

 

──それまで芸能に興味はあったんですか。

 

ぱつこ 地下アイドルは大好きでしたが、まさか自分が出る側になるとは思わなかったです。

 

──地下アイドルが好きなんですか!

 

ぱつこ 小さい頃からアイドルが好きで、AKB48やハロプロのファンで、モーニング娘。のライブなどに行ってました。私は神奈川出身なんですが、大学生になって東京に出てくる機会も増えて、地下アイドルの現場に行くようになったんです。当時大好きだったのがCY8ER(サイバー)で、解散ライブの武道館公演は大泣きしました。最近だとiLiFE! (アイライフ)というアイドルグループが好きですね。そうやって応援するのは好きだったんですが、自分が応援される側になりたいとは思ったことがなくて。

 

──大学に進学するとき、将来の夢は何だったんですか。

 

ぱつこ その時点で小学校の先生でした。高校2年生で進路を決めなきゃいけないときに信頼できる先生に相談したら、「ぱつこは小学校の先生に向いているよ」と言われたんですよね。それを信じて大学に進学して、小学生の頃からの幼馴染に久しぶりに会ったんです。「小学校の先生になろうと思うんだよね」と話したら、幼馴染が「ぱつこは小学生のときにも『小学校の先生になりたい』と言ってたよ」と驚いていて。すっかり私は忘れていたんですが、運命的なものを感じました。

 

──どんな大学時代を送っていましたか。

 

ぱつこ 自分で言うのも何ですが、かなり破天荒でした(笑)。その年によって全然違うんですが、1年生のときは大学で一人暮らしをしている友達ができて、その子の家に入り浸って、ずーっと『スマブラ』(大乱闘スマッシュブラザーズシリーズ)をやっていました。2年生になると、「どこまで自分一人で生きていけるか試してみたい」と急に思い立って留学したんです。

 

──どこの国ですか?

 

ぱつこ 「カントリー・ロード」という曲の舞台にもなったアメリカのウェスト・バージニア州です。のどかな地域で、そこに10か月ぐらい滞在したんですが、ドミトリーに住んで、いろんな国の友達ができて。みんなで英語を勉強しながら日々を過ごすうちに、「一人でも生きていけるじゃん!」と確信しました(笑)。現地で通っていた大学には日本語専攻の学部があって、日本好きなアメリカ人たちと交流する機会もあったんです。そのときに「ぱつこはオタクにウケそうだし、メイド服も似合いそう」と言われたので、帰国後、試しにメイド喫茶でバイトを始めたんです。某有名店のメイド喫茶で萌えパワーを注入しまくっていました(笑)。

 

──でんぱ組.incをはじめ、ディアステージが盛り上がっていた時期ですよね。

 

ぱつこ まさにそうです! メイド喫茶の仕事終わりに古川未鈴ちゃんに会いに行って、チェキを撮っていました。

 

──メイド喫茶時代に地下アイドルを好きになったんですね。

 

ぱつこ そうです。メイド喫茶のバイトを始めてから、地下アイドルに触れる機会がたくさんあって。なぜ地下アイドルに惹かれたかというと、メジャーのアイドルと違って一般的な人気はないのに、一生懸命汗をかいてキラキラ頑張っている姿に、「私も頑張ろう、夢をありがとう」みたいな感じで励まされたんです。

 

──大学3年生はどっぷりとオタク文化に浸かっていたと。

 

ぱつこ ところが4年生になって、ある講義がきっかけで、机上で勉強するだけでは満足できず、体を動かして対人関係を養っていく教育プログラムに興味を持ったんです。それで教育インターン生としてプログラムのファシリテーターやリーダーを務めて、大学卒業後は目標通り小学校の先生になりました。

 

──大学在学中の教育実習はいかがでしたか。

 

ぱつこ 教育実習には当たり外れがあるらしくて、私は当たりだったんです。担当したクラスの子たちも良い子ばかりだったし、先生も優しい方ばかり。ちょうど運動会の時期だったので、生徒と一緒に一か月間、ソーラン節を練習して。運動会は一緒に踊れないので、外から応援していたんですが、「一緒に頑張った子たちが、あんなに立派になって……」みたいな(笑)。短い期間でしたけど、すごく楽しかったから、改めて小学校の先生になりたいと思いました。

 

修士論文と並行して芸能活動を行った大学院時代

──夢だった小学校の先生になっていかがでしたか。

 

ぱつこ 思っていた以上に残業が多かったです。一般企業でも同じだと思いますが、いろいろ教えてくれる先生だと教師として、人間として、自分自身の学びにすごく繋がりました。ただ一貫して、教師時代はこの子たちの担任で良かった、やっぱり子どもはかわいいなと感じていました。

 

──1年目から担任だったんですか。

 

ぱつこ そうです。3年間勤めたんですが、1年目は2年生、2年目は4年生、最後の年も2年生の担任をしました。

 

──低学年が多かったんですね。いわゆるモンスターペアレントに直面したことは?

 

ぱつこ まあそれは・・ノーコメントでお願いします(笑)。基本的には応援してくださるお母さんとお父さんが大多数でした。そういえば私の授業参観は、いつもお父さんが多いと職員室で話題になりました(笑)。

 

──そんなあからさまな(笑)。どうして3年で小学校を辞めることにしたんですか。

 

ぱつこ 子どもが好きで、子どもの成長を見届けたくて、小学校の先生になったんですが、2年目の後半ぐらいから、子どもを支援するためには、小学校の先生だと限界があるなと。子どもだけではなく親も一緒に見ることが必要だなと思い始めたんです。そういう仕事はないかと、いろいろ調べていくうちに臨床心理士という資格にたどり着いて。もともと心理学にも興味があったので、大学院に通おうと決断しました。

 

──小学校の先生は人員不足ですから、相当引き留められたのではないでしょうか。

 

ぱつこ 私は欲張りな人間なので、学生時代からいろんなことを並行してやってきて、先生だけで終わるのは物足りない気持ちもあったんですよね。ありがたいことに「先生に向いているのにもったいない」と言われたんですが、自分の決めたことなので心変わりはなかったです。

 

──家族の反応はいかがでしたか。

 

ぱつこ 絶対引き留められると思ったんですが賛成してくれました。私の性格も理解してくれていますしね。

 

──臨床心理学を学んだのは大学院が初めてですか?

 

ぱつこ そうです。学んでみると「深い」の一言に尽きるというか。いろんな心理療法があって、いろんな分析の仕方によって、自分の見方が変わるんです。自分という人間がいるけど、どういった過去の経験や、思考パターンから「自己」というアイデンティティが形成されているのかを勉強しながら自己分析して。生育歴から、こういう経験があって、こういう思いがあったから、今の自分がいるみたいな。自分自身が明るみになるので、ちょっと哲学っぽい感じもあります。

 

グラビアをやっていたことで心理士界隈から叩かれた時期もあった

──芸能活動はどのようなスタートだったんですか。

 

ぱつこ サンケイスポーツさんが主催する「サンスポGoGoクイーン」というオーディションがあって、事務所から「ここでタイトルを獲れば箔がつくから」と言われて受けたんです。審査の一つにライブ配信があって、毎日やる必要はないんですけど、毎日やらないと勝つことが難しくて。だから大学院のお昼休みに食堂でご飯を食べながら配信したり、研究しながら、こっそり配信したりしていました。それで準グランプリを受賞しました。

 

──ご自身がアイドルオタクだから、視聴者の気持ちも分かるのでは。

 

ぱつこ そうなんです! こういうふうに配信してくれたらうれしいだろうなとか、こういうことを言われたら応援したくなるなとか、ファン目線に立ちながらも、変にキャラを作らず、素で話していました。

 

──おばあちゃんに触発されたとはいえ、水着に抵抗はなかったんですか。

 

ぱつこ 最初は恥ずかしかったんですけど、いつの間にか慣れました。今ではどこでも脱げますから。ランニングのお仕事でも、私にとってスポブラは布面積が広いから洋服と一緒なので、その場で着替えます。逆にスタッフの方が慌てて「更衣室があるよ」と言ってくださるんですが、グラビアを始めてからの5年間で感覚がバグりました(笑)。

 

──ランニングを始めたのは、どういうきっかけだったんですか。

 

ぱつこ グラビアを始めてから痩せるためにランニングはしていたんですが、お仕事にしようとは全然思っていなくて。そもそも学生時代はマラソン大会も嫌でしたし、足の速さも上の下ぐらいでした。ただサンスポさん主催のマラソン大会があって、グラビアアイドル枠みたいな感じで呼ばれて、ハーフを走ってみたら、あと一人抜いたら入賞だったんです。そのときに、「頑張ればマラソンのお仕事がもらえるよ」と言われて、そこから本格的に始めました。サンスポの方も応援してくださって、練習会やジムを紹介してくれて、ちゃんと練習するようになったんです。

 

──まさに「サンスポGoGoクイーン」準グランプリの称号がプラスになったんですね。

 

ぱつこ ところが直後にコロナ禍になって、次々とマラソン大会が中止になってしまったんです。でも走ることは続けて、いつか再開するマラソン大会のために力を蓄えていました。そうこうしているうちにランニング界隈の間で、「グラビアアイドルで足の速い子がいるらしい」みたいな噂が広がって、いろいろ声をかけていただいて。YouTubeのコラボをさせていただいたり、ゲストランナーとして招待してくださったりと、ランニング界隈でどんどん人脈が広がっていきました。一生グラビアをやりたい訳ではなかったですし、そもそも第一の目的は孫に見せる水着素材を集めるためですから(笑)。水着素材は十分集まったので、徐々にランニングのほうに比重を置いていきました。

 

──いろいろな雑誌のグラビアを飾ったり、イメージDVDやデジタル写真集を出したりと、グラビアでも十分活躍していましたよね。

 

ぱつこ でも長くグラビアアイドルとして活躍できる自信がなかったんですよね。私は一応Dカップあるんですけど、一般で言ったら適乳じゃないですか。ところがグラビア界隈だと貧乳なんです(笑)。皆さん、爆発しそうなメロンを抱えている方たちばかりなので、これでは勝てないなと。私にグラビアアイドルとしての存在意義があるのかって悩み始めて、大きな壁にぶつかったんです。

 

──どのように、その壁を乗り越えたんですか。

 

ぱつこ 自分にはランニングと心理士という武器があるから、そこを繋げていったら、オンリーワンになれると思ったんです。ところが一時期、「グラビアをやっている心理士がいる」と心理士周辺でめっちゃ叩かれたんですよ。当時は資格を取り立てだったから、剥奪されたらどうしようと不安になっちゃって、それで心理士というのは公に言うのをやめようと。ただランニングとグラビアは、心理士に比べたら相性が良かったので、そのときに「グラドル最速ランナー」という肩書きを自分で付けたんです。

 

──ちなみにランニングに打ち込むと、胸は落ちないんですか。

 

ぱつこ おっぱいは脂肪なので最初に落ちます。でもカリカリになると、それ以上は減らないんです(笑)。ランニングを始めてから、明らかに胸がちっちゃくなっているなと思って、何度も下着屋さんで計測してもらったんですが、そのたびに変わらずDカップありますと。カップ数はトップとアンダーの差なので、全体的に痩せると高低差は変わらないんです。だから下着屋さんに行くたびに安心しました(笑)。

 

──今年4月30日でグラビアを卒業したのは、どういう経緯があったのでしょうか。

 

ぱつこ 2年ぐらい前から、心理士としてのキャリアを積んだら、グラビアを卒業して、次は「心理士ランナー」として活動していきたいと考えていました。それで今年4月でグラビア活動を始めて5年が経つので、良い節目だなと思って卒業しました。

 

──大学院卒業後、心理士としてはどんなキャリアを積んできたのでしょうか。

 

ぱつこ 大学院卒業後、すぐに就職して、最初は子どもたちの心理検査を取る仕事をしていました。次第に子どもたちと関わりたい気持ちが芽生えてきたので2年で転職。障害のある子どもたちが通う学童で働き、子どもと関わりながら、心理の支援をしたり、カウンセリングを行ったりしていました。

 

──今後どういう活動を考えているのでしょうか。

 

ぱつこ 心理士ランナーとしては、ランナーさんに向けたメンタルトレーニングというか、走っている最中につらくなったらどうするかなど、ポジティブに考える方法を今まで学んできた理論を交えて伝えていきたいです。ランナーとしては、自分自身のベストタイムを更新したいですね。心理士としては、子どもを支援するには親への支援も必要だということで、最近流行り出しているのが「ペアレントトレーニング」という分野で。お母さんお父さんに、子どもとの関わり方を教えてあげることで、子どの自己肯定感や学力が上がるという研究がアメリカを中心に進んでいるので、それを日本でも取り入れる活動をしていきたいです。あとは、もっともっと知識や経験を積んで、多くの人たちに心理学の知識を分かりやすく伝えられるような活動ができたらいいなと思っています。それで、いつか『サンデージャポン』に文化人枠で出演したいですね(笑)。

 

<ぱつこさんインタビューは後編に続く>

7/22(月)午前10時30分公開
仕事の悩み、体調の悩み、心の悩み……心理士ランナー・ぱつこが社会人の抱えるお悩みにお答えします!

 

 

撮影/河野優太 取材・文/猪口貴裕

FRUITS ZIPPER(月足天音&仲川瑠夏&真中まな)が語る2024年上半期ベストバイ&オフの過ごし方とは?

十代の女の子を中心に若者から絶大な支持を集め、昨年末は日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞、今年5月に開催した初の日本武道館公演も好評だったFRUITS ZIPPERから月足天音さん、仲川瑠夏さん、真中まなさんの3人が登場。前半ではこれまでの足跡をふりかえってもらいました。後編では、今年上半期に買ったお気に入りのモノやオフの過ごし方などプライベートトークをたっぷりとお送りします。

 

※こちらは「GetNavi」2024年8月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【関連記事】FRUITS ZIPPER(月足天音&仲川瑠夏&真中まな)が振り返る日本武道館までの道のり「3周年はさいたまスーパーアリーナで迎えたい!」

 

FRUITS ZIPPER●ふるーつじっぱー…アソビシステムが手掛ける、アイドル文化を世界に向けて発信する新プロジェクト「KAWAII LAB.」より誕生したアイドルグループで2022年に結成。メンバーは月足天音、鎮西寿々歌、櫻井優衣、仲川瑠夏、真中まな、松本かれん、早瀬ノエルの7人。「原宿から世界へ」をコンセプトに、多様なカルチャーの発信地、個性の集まるファッションの街“原宿”から「NEW KAWAII」を発信していく。2023年、第65回日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞。2024年5月18日・19日、日本武道館で単独公演を開催。1stアルバム「NEW KAWAII」が発売中。「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」(8/3(土)出演)などの夏フェスのほか、9月からは初ホールツアー「FRUITS ZIPPER JAPAN TOUR 2024-AUTUMN-」を開催。公式HPXInstagramTikTokYouTube

 

【月足天音さん&仲川瑠夏さん&真中まなさん撮り下ろし写真】

 

2024年上半期ベストバイを発表

──2024年上半期に買ったモノで、お気に入りのものを挙げていただけますか。

 

月足 たくさんあるんですが一番はタイガー魔法瓶の「土鍋ご泡火炊き」です。私は家電が大好きで、よくヨドバシカメラに入り浸っているんですが(笑)。初めて秋葉原のヨドバシカメラに行ったときに、売り場面積の広さにテンションが上がって、炊飯器コーナーだけでも3時間ぐらい見ていました。

 

──もともと自炊はするほうなんですか。

 

月足 最近始めたばかりなんですが、ずっと安い炊飯器を使っていたんです。「土鍋ご泡火炊き」でご飯を炊いたら、あまりにも味が違ってビックリしました。米の立ち方が全然違うし、早炊きしても美味しいし。昨日はお母さんが泊っていったので3合炊いたんですが、二日でなくなりました。

 

──得意料理はあるんですか?

 

月足 最近は韓国料理が大好きで、家でサムギョプサル焼いたり、チーズタッカルビを作ったりしています。

月足天音●つきあし・あまね…1999年10月26日生まれ。福岡県出身。身長153cm。メンバーカラーは赤。ニックネームはあぁちゃん。XInstagramTikTokYouTube

 

──ここ一年だと、ほかにどんな家電を買ったのでしょうか。

 

月足 昨年のブラックフライデーに、手頃な値段だったので「Roborock」(ロボロック)と「XGIMI」(エクスジミー)のホームプロジェクターを買いましたし、あと今年、トコジラミの大発生が問題になったじゃないですか。だから「ZABOON」(ザブーン)シリーズの洗濯乾燥機を買いました。どうしてもドラム式が欲しかったんですが、UVケアでダニを除去してくれるんですよ。

 

──それだけ家電を購入すると、かなりお金もかかりますよね。

 

月足 確かにお金はかかるんですが、いつも私は家電屋さんで値切るんですよ。だから複数まとめて買うことが多くて、洗濯乾燥機と一緒に冷蔵庫も買いました。もともとお父さんが家電屋さんで働いていて、ちっちゃいときから一緒に家電を見に行っていたので、値切り方も教えてもらったんです。ちなみに炊飯器で貯めたポイントで照明も買いました。

 

──真中さんはいかがですか?

 

真中 冬物になっちゃうんですが、「まるでこたつソックス」は寒い時期に重宝しました。くしゅくしゅって履くルームソックスで、伸ばすと膝下ぐらいまであります。足首のところに温熱刺激というのがあって、そこが温かくなるので、履いているだけで体中がぽかぽかになります。私はジャージとクロックスで出かけることが多いんですが、絶対に「まるでこたつソックス」を履いていました。家電で言うと、ドクターエアのマッサージガンがお気に入りです。小さいサイズを買ったんですが、ライブの日は絶対に持ち歩いて、リハーサル中やライブ終わりに使っています。

 

──仲川さんのお気に入りのものはありますか?

 

仲川 私も2つあるんですが、1つ目は「写経セット」です。私は集中力が壊滅的になくて、このままじゃヤバいと思ったんです。そこで神社巡りが好きなのもあって4か月前から写経を始めました。すごく時間がかかりますけど、「耐えろ自分!」と念じながら書いて。写経している間はデジタルデトックスになりますし、そもそも字を書く機会も減ったので逆に非日常的で、意外とリラックス効果もあります。2つ目がリファのドライヤーです。遠征に行くことが多いんですが、ホテルのドライヤーって当たり外れがあるじゃないですか。リファは風量がえぐいから、すぐに乾きます。

 

3人のオフの過ごしたかとは?

──遠征先に持って行く荷物は誰が一番多いんですか。

 

仲川 私です!

 

真中 例えば私がリュック1つだとすると、瑠夏は3つくらい持っているんですよ。

 

仲川 「どうして、そんなに荷物があるの?」って聞かれるけど、私からしたら「なんで1つだけなの」って逆に不思議なんです。家で日常的に使っているものを全部持って行くと、それぐらいの量になります。

仲川瑠夏●なかがわ・るな…1997年7月3日生まれ。神奈川県出身。身長154cm。メンバーカラーは紫。ニックネームはるなぴ。XInstagramTikTokYouTube

 

──写経セットも持って行くんですか?

 

仲川 いやいや、さすがに遠征先で写経はしないです(笑)。

 

真中 よく瑠夏と旅行に行ったり、遠征先で同じ部屋に泊まったりするんですけど、瑠夏は旅行用のコスメとかじゃなくて、きちんと家で使っているサイズのコスメを丁寧にパッキングして持ってくるんです。だから荷物が多いと思うんですよね。

 

仲川 そうなんです! 荷物は多いんですが、ちゃんとバッグの中は整理できています。1つでもなくしちゃうとパニックになりますからね。

 

──月足さんは、遠征先の荷物はいかがですか。

 

月足 私も1つに収めるほうですが、瑠夏と真逆で雑に突っ込んでいるだけなので、洋服とかはしわくちゃかも(笑)。

 

仲川 天音は遠征先だとコンビニで化粧水とかを買っているイメージ。

 

月足 そうそう。だからコンパクトな化粧水たちが家にたくさんあります。

 

──3人はオフの日をどう過ごすことが多いですか。

 

仲川 ひたすらドラマと映画を観ています。最近だと、私はドウェイン・ジョンソンが大好きなんですが、『ballers/ボーラーズ』をシーズン5まで一気見しました。

 

──ドウェイン・ジョンソンの魅力は?

 

仲川 全てです! プロレスラー時代の映像も観たんですが、当時からかっこよすぎて、エンターテイナーなんですよね。

 

真中 いつか会うのが夢なんだよね?

 

仲川 そうなんです! ぜひ会わせてください!

真中まな●まなか・まな…1999年4月22日生まれ。神奈川県出身。身長163cm。メンバーカラーは空色。ニックネームはまなふぃ。XInstagramTikTok

 

──真中さんのオフの過ごし方は?

 

真中 最近は韓国ドラマの「ペントハウス」にハマっています。今まで韓ドラを観たことがなく、何となく再生してみたら想像を超えてどハマりしてしまいました。まだシーズン1の終わりの方なのですが、周りにもこのドラマを観ている人が多くて、これから大どんでん返しどころではないドロドロな展開になると聞いたので楽しみです!

 

──月足さんはいかがですか?

 

月足 平成のドラマを観返すのが好きで、最近は「ブラッディ・マンデイ」を観ました。韓国ドラマも大好きなんですが、「ザ・グローリー 〜輝かしき復讐〜」や「悪の花」などのサスペンス系をよく観ています。私は一度観始めると、先が気になり過ぎて我慢できない性格なので、睡眠時間が平均2時間ぐらい減っています(笑)。さすがにヤバいので最近は自制しています。

 

 

FRUITS ZIPPERの最新情報は公式HP(https://fruitszipper.asobisystem.com/)をチェック!

 

 

撮影/中村 功 取材・文/猪口貴裕

FRUITS ZIPPER(月足天音&仲川瑠夏&真中まな)が振り返る日本武道館までの道のり「3周年はさいたまスーパーアリーナで迎えたい!」

十代の女の子を中心に若者から絶大な支持を集め、昨年末は日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞、今年5月に開催した初の日本武道館公演も好評だったFRUITS ZIPPERから月足天音さん、仲川瑠夏さん、真中まなさんの3人が登場。「わたしの一番かわいいところ」のヒットを皮切りに、着実に知名度を上げ、結成から2年で大躍進を遂げた彼女たちに、武道館までの道のりを振り返ってもらいました。

 

※こちらは「GetNavi」2024年8月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

FRUITS ZIPPER●ふるーつじっぱー…アソビシステムが手掛ける、アイドル文化を世界に向けて発信する新プロジェクト「KAWAII LAB.」より誕生したアイドルグループで2022年に結成。メンバーは月足天音、鎮西寿々歌、櫻井優衣、仲川瑠夏、真中まな、松本かれん、早瀬ノエルの7人。「原宿から世界へ」をコンセプトに、多様なカルチャーの発信地、個性の集まるファッションの街“原宿”から「NEW KAWAII」を発信していく。2023年、第65回日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞。2024年5月18日・19日、日本武道館で単独公演を開催。1stアルバム「NEW KAWAII」が発売中。「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」(8/3(土)出演)などの夏フェスのほか、9月からは初ホールツアー「FRUITS ZIPPER JAPAN TOUR 2024-AUTUMN-」を開催。公式HPXInstagramTikTokYouTube

 

【月足天音さん&仲川瑠夏さん&真中まなさん撮り下ろし写真】

 

結成当時から大きいグループになるんだろうなという予感はあった

──今年5月18日・19日に開催した日本武道館単独公演までの道のりを振り返っていただきたいんですが、FRUITS ZIPPER結成前からアイドルやタレント活動を行っていたメンバーも多いです。この7人が集結して、結成当時はどんなことを考えていましたか。

 

真中 最初から「この子たちとやっていけば大丈夫」みたいな根拠のない自信があって。きっと大きいグループになるんだろうなという予感はあったんですが、こんなに早く結果を出せるなんて思っていなかったです。

 

月足 以前、私が所属していたグループが大きめだったので、テレビに出演させていただく機会も多かったんですが、「またテレビに出られたらいいな」くらいの気持ちでした。私は上京の準備もあって、遅れてレッスンに合流したんですが、初めてみんながレッスンを受けている姿を見たとき、「レベル高っ!」と焦ったんです。そのときに、「このメンバーなら大丈夫!」と思いました。

 

──2022年4月24日に初ライブを開催、その5日後の4月29日に「わたしの一番かわいいところ」(以下、「わたかわ」)を配信リリースします。

 

月足 「バズるといいね」くらいの軽い気持ちでTikTokに投稿していたんですが、アイドルファンの方は一緒に大きい声を出して盛り上がる曲が好きなので、当初はライブでもそれほど盛り上がる曲ではなかったんです。

 

仲川 セトリを組むときも、真ん中に入れることが多くて。ところがTikTokで有名なインフルエンサーさんや芸能人の方々が「わたかわ」を踊ってくれて、この曲を見たいがために、ライブに人が集まるようになって、気づけばラストで歌う曲になりました。

 

真中 バズったからこそのプレッシャーもありました。一発屋みたいに「あんな曲あったよね」と言われないように頑張らないといけないなと思っていたら、アイドルファン以外の方にも浸透して、いろんなフェスやイベントに呼んでいただけるようになって。そこでFRUITS ZIPPERを知って、ライブに来てくれる方が増えました。そしたら「わたかわ」以外の曲もTikTokで踊っていただいて、素敵な連鎖が生み出されていったのでうれしい驚きでいっぱいでした。

月足天音●つきあし・あまね…1999年10月26日生まれ。福岡県出身。身長153cm。メンバーカラーは赤。ニックネームはあぁちゃん。XInstagramTikTokYouTube

 

──槙田紗子さんによる振り付けも話題になりました。

 

真中 紗子さんには最新曲の「NEW KAWAII」の振り付けもしていただいたんですが、振り付けの1つひとつに意味を持たせることが多くて、振り入れのときに丁寧に説明してくださるので曲の理解も深まるんです。

 

念願だった「ロッキン」出演が決まって言霊ってあるんだと思った

──昨年末、第65回日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞して、さらに勢いが加速します。

 

真中 いろんなメディアで紹介していただくときに、「日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞したFRUITS ZIPPER」と言ってもらえるのが誇らしいです(笑)。

 

──2024年前半で、特にうれしかったことを一人ずつ挙げていただけますか。

 

仲川 昨年はアイドルイベントにたくさん出させていただいたんですが、「来年はバンドさんやアーティストさんが出る夏フェスにも出まくりたいね」という話をメンバーとしていたんです。そしたら次々と夏フェスの出演が決まって。中でもうれしかったのが今年8月3日に開催する「ロッキン」(ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024)の出演でした。というのも昨年、お休みだったのでまなふぃ(真中まな)と二人でロッキンに行って、事務所の先輩のきゃりーぱみゅぱみゅさんと新しい学校のリーダーズさんのステージを観させていただいたんです。そのときに規模の大きさに圧倒されて、「来年ロッキンに出られたらいいね」と話していたら、本当に夢が叶って。言霊ってあるんだなと思いました。

 

月足 私は 2月9日に出演させていただいた「ミュージックステーション」(テレビ朝日系)です。以前のグループでも出させていただいたんですが、出演者は番組オリジナルのティッシュをいただけるんです。そのティッシュのパッケージが新しいデザインになっていて、記念に実家に送ったら、お父さんが喜んでくれました。今の目標の一つが、このティッシュを惜しみなく使えるくらい「ミュージックステーション」に出演することです(笑)。

 

──「ミュージックステーション」出演後の反響はいかがでしたか。

 

月足 生放送で2曲も披露させていただいたんですが、たくさんの感想をいただきましたし、ライブやイベントにも「ミュージックステーション」をきっかけに来てくれる方がたくさんいてうれしかったです。

 

真中 昨年から「TGC(東京ガールズコレクション)」や「ガールズアワード」などのファッションイベントに呼んでいただくんですが、この半年で、私たちのファン以外の方も立ち上がってくれたり、立ち止まってくれたりすることが増えたんです。正直、昨年はファッションイベントに呼んでいただいても、そこまで注目はされていなくて、私たちのファンの方が浮いてしまうような状態が多かったんですよね。最近は私たちがステージに立つと、方々から「FRUITS ZIPPERだ!」という声が聞こえてきますし、ペンライトを持っていなくても一緒に踊ってくれたり、手を振ってくれたりして、こんなに私たちのことを知ってくれている人が増えたんだと感慨深いです。

仲川瑠夏●なかがわ・るな…1997年7月3日生まれ。神奈川県出身。身長154cm。メンバーカラーは紫。ニックネームはるなぴ。XInstagramTikTokYouTube

 

──日本武道館単独公演のときも感じましたが、女性ファンが多いですよね。

 

月足 デビュー当時は女性ファンは少なくなかったんですが、すごく増えたなと実感したのは昨年10月28日に東京体育館で開催した全国ツアーの最終公演で。黄色い歓声も多かったですし、私たちのカラーに合わせたファッションでかわいく着飾った女の子もたくさんいました。

 

真中 ご夫婦やカップル、家族3世代で来てくださる方もいらっしゃいますし、リリースイベントにはキッズもたくさん来てくれます。

 

お父さんを武道館に連れて行きたかった

──結成当時から日本武道館に行ける自信はありましたか?

 

仲川 私も前にアイドルグループ経験があるんですが、現実的じゃない夢を語れないタイプだから、そのときは一度も「武道館に立ちたい」と言ったことがなかったんです。だけどFRUITS ZIPPERのメンバーだったら、大きな夢も言っていいんじゃないかという気持ちになれて。デビューライブ前のお披露目配信で、夢を語るコーナーのときに「武道館に立ちたい」と言ったんです。メンバーそれぞれ持っている武器があったから、「売れんじゃね?」みたいな気持ちもあったんですが、このスピード感で武道館単独公演の夢が叶うとは思っていなかったからビックリでした。

 

──しかも2デイズですからね。

 

仲川 初めてのセンターステージだし、2周年でファンの方々も期待してくれているから、絶対にヘマはできないし。良いものを見せなきゃというプレッシャーは本番当日まで伸し掛かかっていました。

 

月足 長くアイドルをやっているんですが、それまで武道館は観に行ったことも立ったこともなくて。昔からアイドルさんが好きで、大好きなアイドルさんは絶対に武道館公演をされていたので、私にとっては神聖な場所でした。上京前に両親と交わした会話でも、お父さんが「武道館に行けるようになったら俺泣くわ」と言ってて。いつかお父さんを武道館に連れて行けたらいいなと思っていたのもあって、いろんな気持ちが詰まった場所でもあるんです。

 

──実際にステージに立った感想はいかがでしたか。

 

月足 すごく広いイメージがあったんですが、実際に立ってみると、意外とファンの方との距離が近くて。最初は緊張していたんですが、センターステージで、どこからでもファンの方の顔が見えるので、安心してパフォーマンスすることができました。

 

真中 どこに行っても、ファンの方の誰かと目が合うって楽しいんですよね。

真中まな●まなか・まな…1999年4月22日生まれ。神奈川県出身。身長163cm。メンバーカラーは空色。ニックネームはまなふぃ。XInstagramTikTok

 

──センターステージならではのフォーメーションも多かったですよね。

 

真中 今まで円形のステージでやったことがなかったので一から構成を考えました。

 

──初日の本番前はどんな雰囲気でしたか?

 

仲川 初日はまだ平気だったよね?

 

真中 緊張はしていたけど、どちらかというと二日目の方がみんなガチガチでした。

 

月足 私は二日間とも緊張しました(笑)。一日目は手が震えるぐらいでしたからね。

 

──仲川さんと真中さんは、どうして二日目のほうが緊張したんですか。

 

仲川 一日目の反省点や課題が自分の中であったから、「もっとこうしよう!」みたいな気持ちが強かったんですよね。現実的な話で言うと、二日目はリハの時間も短かったんです(笑)。一日目は通しリハができたので、それで不安が大きくなった面もあります。

 

真中 私も二日目は通しリハがなかったから、何かが頭の中から抜けているんじゃないかと心配になっちゃいました。あと「一日目を超えたい!」みたいなプレッシャーも自分の中にありました。

 

──二日目の公演を観させていただいたんですが、そんなプレッシャーを感じさせないほど皆さん堂々としていて、ラストまでは必要最小限のMCで一気に突き進んでいったのが印象的でした。

 

真中 全てを出し切るということで持ち曲を全て披露させていただいたんですが、ノンストップに近い形でやらせていただきました。前半は息が上がる曲をぶっ続けでやったので、いつもより呼吸が浅くなりましたし、汗もすごくかきました。床面がLEDだったので、温度も高かったんですよね。広いステージだから、いつも以上に動き回って、ファンの方々の顔やペンライト、うちわなども見ていたので、脳みそもフル回転で、大量のカロリーを消費した感覚がありました。

 

──二日目のラストのほうで、一人ずつ手紙を読むコーナーがありましたが、号泣するメンバーが続出しました。

 

月足 もともと私は涙もろくて、二日間ともステージに出た瞬間から最後まで、気を抜いたら涙が出ちゃうぐらいの状態だったんです。だから手紙を読むときは一気に感情が昂りました。

 

──皆さん長文で心のこもった手紙でしたよね。

 

仲川 お互いに手紙の内容を知らなかったので、こんなことを考えていたんだって驚きもありました。

 

真中 一日目は心の中で思っていることをお話させていただいたんですが、事前に短めにと決めていたのにも関わらずメンバー全員がどうしても長くなってしまって。二日目の手紙も、みんな絶対に泣くから、気持ちがまとまった状態で読もうと話していたんですが、やっぱり長くなりましたね。

 

月足 いつも私たちは気持ちを伝える場になると、スタッフさんから「さくっとお願いします」と言われていたのに長くなってしまうんですよね(笑)。それぐらい、みんな感情が前面に出ちゃうんです。

 

──武道館単独公演が全て終わった直後の気持ちはいかがでしたか。

 

仲川 達成感! だけど次の夢を叶えるために切り替えなきゃなと思いました。FRUITS ZIPPERにとって武道館は通過点だし、私から「さいたまスーパーアリーナで3周年を迎えたい」と宣言したので、言っちゃったからには本気で目指さないといけないなと。9月からは初のホールツアー「FRUITS ZIPPER JAPAN TOUR 2024 – AUTUMN -」も始まりますし、気を引き締めて、みんなで頑張っていきたいです!

 

<FRUITS ZIPPER・月足天音さん&仲川瑠夏さん&真中まなさんインタビューは後編に続く>

7/20(土)午前6時30分公開
FRUITS ZIPPER(月足天音&仲川瑠夏&真中まな)が語る2024年上半期ベストバイ&オフの過ごし方とは?

 

FRUITS ZIPPERの最新情報は公式HP(https://fruitszipper.asobisystem.com/)をチェック!

 

 

撮影/中村 功 取材・文/猪口貴裕

中島歩「今を生きている僕らが作っているのだから、単なる回顧主義にならないといいな」ドラマ「À Table!~ノスタルジックな休日~」

第39回ATP賞ドラマ部門の奨励賞受賞と高評価を得た「À Table!~ノスタルジックな休日~」の続編となる、「À Table!~ノスタルジックな休日~」が現在BS松竹東急にて放送中。主演の市川実日子さんの夫役として前作に続き出演する中島 歩さん。今年すでに10作品以上に出演する今最も忙しい俳優・中島さんに、続編への感想や、最近の環境の変化についてお話を聞きました。また、多趣味な中島さんに最近にハマっているモノについてもたっぷり伺いました。

 

※こちらは「GetNavi」2024年8月号に掲載された記事を再編集したものです。

中島 歩●なかじま・あゆむ…1988年10月7日生まれ。宮城県出身。モデル活動後、2013年に舞台「黒蜥蜴」で俳優デビュー。2023年は映画11作、ドラマ10作、2024年も映画8作品、ドラマ4作品に出演。主な近年の出演作に「不適切にもほどがある!」「柚木さんちの四兄弟。」、映画「四月になれば彼女は」「劇場版 アナウンサーたちの戦争」「ナミビアの砂漠」(9月公開)がある。公式HP

【中島 歩さん撮り下ろし写真】

 

宮藤さんも一部の単館映画好きおじさんだったんです(笑)

──長澤まさみさんとのやりとりが楽しいKINCHO「虫コナーズ」のCMをはじめ、最近は映画・ドラマ・CMとさまざまなジャンルで活躍されていますが、周囲の反応や変化はありましたか?

 

中島 今までは一部の単館映画好きのおじさんたちに熱烈に支持してもらっていたんですが、地上波のテレビに出たことによって、日本映画を見ない友だちから連絡が来るようになりました。やっぱりテレビはスイッチを入れれば見られるし、あとCMも自然と目に入ってくるので、見てもらう機会は増えてるなぁと実感しています。

 

──街で声をかけられることも増えたのでは?

 

中島 それもありますね。以前は街で声かけられるとしても、一部の単館映画好きのおじさんだったんですけれど、この間も電車でおそらくテレビドラマが好きなおじさんだと思うんですが、ジロジロ見られました。きっと「不適切にもほどがある!」の影響でしょうね。

 

──「不適切~」では吉田 羊さん演じるサカエに告白する、頼りない中学教諭・安森を演じて話題になりました。

 

中島 スタッフさんは憧れていた「池袋ウエストゲートパーク」「木更津キャッツアイ」の方たちで、共演者もすごい方ばかりだったので、最初はビビっていましたが、脚本の宮藤(官九郎)さんがインパクトあるブッ飛んだ役として面白くしてくださったので、とても感謝しています。そのことを打ち上げで、宮藤さんに話したら、「ちょこちょこ映画館で拝見していました」と言われて……。宮藤さんも一部の単館映画好きおじさんだったんです(笑)。

 

──大学時代には落語研究会に在籍していた中島さんですが、今も立川談志師匠の「落語は人間の業の肯定」という言葉を胸に俳優業をされているそうですね。

 

中島 談志師匠のその言葉にはとても影響を受けています。僕、ひどくて下衆な役を演じることが多いので、実際その言葉を救いにして、これまでやってきたところもあるんですよね。落語といえば、この間NHKで再放送された古今亭志ん朝師匠の「火焔太鼓」を見たんです。落研時代に学祭で「火焔太鼓」をやったぐらい志ん朝師匠が好きで、当時は映像が手に入らなくて、音源を参考に学んだので、初めて映像を見ることができて、感動しちゃいましたね。

 

普遍的で親しみやすい味なので、きっと作りたくなると思います

──そんな中島さんの最新ドラマ「À Table!~ノスタルジックな休日~」が放送中です。これは市川実日子さん演じるジュンと夫婦役を演じた新感覚グルメドラマの第2シーズンですね。

 

中島 ここまでメインの役での続編は今までになかったので、好評を博して、再びヨシヲを演じられることはうれしかったです。「ノスタルジックな休日」の副題どおり、ロケ撮影が増えたのですが、天候にも恵まれ、そのときの楽しさみたいなものがジュンとヨシヲのリアクションにも出ていると思います。

 

──“あるレシピ”を参考に2人が調理する料理も、前シリーズ「~歴史のレシピを作ってたべる~」とは大きく異なります。

 

中島 前のシーズンは偉人が食べていた料理を再現していたので、「何これ!?」っていう面白さで、視聴者の方も「どんな味なんだろう?」という感じだったと思うんです。でも、今回は「暮しの手帖」のレシピに基づいた料理なので、もう純粋においしいんです。究極の家庭料理というか、普遍的で親しみやすい味なので、きっと作りたくなると思いますよ!

 

「自分たちは限られたことしかやってない」って気づいた

──アドリブも飛び交う舞台劇のような空気感での現場はいかがでしたか?

 

中島 今回も大変でした。ただ僕自身、普通に企画書や原作、ト書きやセリフがきちんと書いてある台本があり、文字や言葉から映像作品を作ることに、最近ちょっと疑問を持っていたんです。例えば、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の映画を観ていると、映画館の空間の使い方や時間の使い方がほかの映画と違いすぎて、「自分たちは限られたことしかやってない」って気づかされていたんです。それで、音と映像で作り上げる表現方法として、なんか変なところから作りたいなって思っていたところ、この作品に出会ったんです。台本はありますが、ファジーな部分がいっぱいある。アドリブのように俳優部に委ねられている部分が多いですし、カメラ位置や、監督が感覚的にやりたいことを立体的に作っていく現場でした。これを連続ドラマでやれたことは、いい経験になりました。

 

──ヨシヲは漬物メーカー勤務の設定ですが、「お耳に合いましたら。」でも漬物メーカーの社員役でした。

 

中島 何でしょう? 昭和感ですかね? 自分から意識しているわけでもないですし、かといってモダンな人間でもない気もするし。「ノスタルジックな休日」という副題ですが、自分が回顧主義になっていたら、ちょっと嫌だなとは思っていたんですよね。見る映画や聴く音楽、服や家具にしても、そういう人間でいたくないけど、実際そういうものも好きだから、否定はできない。だから、現場にいるときは、時間を飛び越えるっていうか、今のレシピとレトロなレシピも、全部均等に体験できると思うようにしたんです。ちょっと観念的な話ですけど、そういう哲学っぽい気持ちになりました。この作品も今を生きている僕らが作っているのだから、単なる回顧主義にならないといいなって思っています。

 

最近はジュリア・ロバーツの作品ばかり

──ちなみに、いま気になる俳優はいますか?

 

中島 以前はアダム・ドライバーだったのですが、最近はジュリア・ロバーツの作品ばかり観ていますね。アマプラ(Amazonプライム・ビデオ)で「ホームカミング」というドラマ見て、Netflixで「終わらない週末」っていう映画を観ているうちに、どんどん気になってしまって……。どちらもサム・エスメイルという監督が撮っているんですが、ジュリア・ロバーツが自虐ギャグみたいなこともやっていて、その演出もかなり面白いんですよ。

 

──それでは、中島さんのこだわりのものありますか?

 

中島 家電というかオーディオですね。(GetNavi7月号を見ながら指を指して)スピーカーはJBLの「4312B」を使っています。音楽はあらゆるジャンル聴きますし、レコードもCDもとても集めるし、サブスクでも聴きますね。「4312B」はジャズドラムの生音が聴きたいと思って買ったんですが、音響的な面白さというか、こっちから高周波の音が飛んできたりとかっていうことが楽しいですね。最近は大学のときにハマっていたダブに戻ってきた感じです。

 

 

À Table!~ノスタルジックな休日~

毎週水曜夜11時より、BS松竹東急(全国無料放送)にて放送中(全13話/各話30分)

(STAFF&CAST)
企画・シリーズ構成:清水啓太郎
監督:吉見拓真、倉光哲司
原案:『おそうざい十二カ月』『おそうざいふう外国料理』(暮しの手帖社 刊)
脚本:横幕智裕
出演:市川実日子、中島 歩、芋生 悠、神野三鈴、安奈 淳、矢代朝子

ドラマ公式 X: @BS260_drama
ドラマ公式Instagram:@bs260_a_table

 

撮影/干川 修 取材・文/くれい響 ヘアメイク/小林雄美 スタイリスト/上野健太郎

アートディレクター・山崎晴太郎「マイナスの経験でもすべてがデザインの思考のプラスになっていく」連載『余白思考デザイン的考察学』第2回

「山崎晴太郎の余白思考 デザイン的考察学」第2回

 

デザイナー、経営者、テレビ番組のコメンテーターなど、多岐にわたる活動を展開するアートディレクターの山崎晴太郎さんが新たなモノの見方や楽しみ方を提案していく連載がスタート。自身の著書にもなった、ビジネスやデザインの分野だけにとどまらない「余白思考」という考え方から、暮らしを豊かにするヒントを紹介していきます。第2回は山崎さんにとってのデザインの本質を語っていただくとともに、“経験”。の重要性をおうかがいしました。

 

 

 

目指すのは“透明化”されたデザイン

──前回の連載では、山崎さんが影響を受けたものとして劇団四季の『ライオンキング』と『ドラえもん』という話題が挙がりました。『ライオンキング』は表現の幅広さや可能性を教えてもらったとのことでしたが、『ドラえもん』からはどのような影響を受けたのでしょう?

 

山崎 こちらも同じく想像する力です。知ってのとおり、四次元ポケットから出てくる「ひみつ道具」はさまざまな想像力をかき立ててくれます。それに加え、『ドラえもん』には《人間》のすべてが詰まっていると感じたんです。よく、劇場版になるとジャイアンやスネ夫がいいヤツになることから、そこに違和感を持たれる方もいますが、人間って常にいいやつはいないし、常に嫌いなやつもいない。僕はそうした変化も含めて人間だと思うんです。劇場版は、のび太に種族を超えた友だちができ、その友だちが抱えている問題をみんなで解決していく、という形がお話の基本なんですが、その種族も人間だけではなく、動物や植物、台風だったりロボットだったり。それって裏を返せば、みんなが友だちになれば世界は平和になるんだと藤子・F・不二雄は言っているんだな、と。そこに大きな魅力を感じたんです。

↑山崎さん所有のドラえもんとドラミちゃん

 

──なるほど。

 

山崎 また、想像力を膨らませてくれるという意味では、10代の頃から落語も大好きでした。父が朝日名人会の会員だったので、よく有楽町朝日ホールに通っていたんです。それに、柳家小三治さんの『ま・く・ら』という本が非常に面白く、僕にとっての青春の1つでした。《まくら》というのは落語の本編に入るまでの噺家さんが語る小話のことなんですが、デザインはまさにこの《まくら》と同じような存在だと思っていて。今の「株式会社セイタロウデザイン」を作る前に立ち上げた会社も、「株式会社まくら」という名前にしたほどでした。

 

──デザインが《まくら》と同じというのは、生活に自然と結びついていく架け橋的なものであるということでしょうか?

 

山崎 そうです。デザインは、あくまで生活やコミュニケーションへの布石を作り出す存在であるべきで、その中心であってはならないと思うんです。できることなら“誰がデザインをしたのか”とか、そういった付加要素はないほうがいいし、アノニマス(匿名性)であるべき。こんなにメディアに出ている僕が言うと何の説得力もありませんが、そこは僕の人間としての未熟さだと思っていただいて(苦笑)。そもそも、デザインのスタート地点というのは、“今まで見たことがないけど、これすごく便利だな”といった気づきを持ってもらうことで、決して、“これ、便利でしょ?”と押し付けるものではないと思っているんですね。

 

──前回の連載でも、「生活を送っている人たちがどんなことを思い、何を考えているのかを感じて、そこから新たなものを生み出していくかを大事にしている」とお話しされていました。

 

山崎 はい。そこに加え、僕がデザインの仕事で大切にしているのが、人間の本質をしっかりと理解し、その上で、なるべく余計なものは削ぎ落としていくというシンプルさです。最近は複雑化したデザインも増えてきています。もちろん、その方向性のデザインの魅力がありますが、やはりシンプルなもののほうが幅広い世代の人の心を打ちやすい。白いグラスや湯呑みであれば、どんな家庭に置いてあっても違和感がないのと同じです。ただ、単純にシンプルにすればいいということでもなく、洗練さであったり、質感であったり、人の心に残るものでなければならない。その答えを見つけ出していくのがデザインでは一番難しくて、面白いところです。

 

──先ほどおっしゃった、“今までは気づかなかったけど便利だと感じる気づき”をいかに形にしていくかですね。

 

山崎 そうですね。もっと分かりやすく言えば、“道具の透明化”という概念があります。例えばハサミを使う時に、“輪の中に指を入れて、刃の部分に紙を挟んで……”とか考えないですよね。誰もが自分の手の延長のような感覚で使っている。その時点で、ハサミという道具は人間にとって透明化している状態といえる。Appleの製品もそうで。MacにもiPhoneにも取扱説明書がない。これは、誰もが手にした瞬間から直感的に操作ができる前提で作られているからなんです。逆に、今の日本の家電や製品は説明書だらけです。なかには、分厚い取説とは別に「かんたんガイド」みたいな冊子をつけて基本的な使い方を説明していたりもする。でも、そこまでしないと使えないのであれば、それはもうデザインの敗北だと言える(笑)。いかに行動行為を透明化させていくか、これがデザインの目指すべきところだと僕は思っています。

 

従来のウォーターサーバーのイメージを一新

──実際にこれまでに山崎さんが手掛け、“透明化”を意識した製品にはどのようなものがあるのでしょう?

 

山崎 僕はプロダクトデザイナーではないので製品は多くはないのですが、代表的なものの1つに「AQUA FAB」のウォーターサーバーがあります。ご依頼をいただいた時に要望としてあったのは、「リビングで使えるデザインにしてほしい」というものでした。そこで最初に考えたのが、剥き出しになった水のタンクを隠すこと。普段、来客があった際にリビングに飲みかけのペットボトルを置きっぱなしにする人はいませんよね。そうした発想から、残量確認用のスリットだけを入れて、水のタンクが直接見えないようにしました。また、もう1つの特徴としてウォータートレイを収納式にしています。世にある多くのウォーターサーバーを見ると当たり前のようにトレイ部分がある形でデザインされています。ただ、ポットをはじめとした他の水関連のプロダクトには、水受けがないものも多いし、本質的に必要不可欠なものではないだろう、と。また、トレイの役割はこぼれた水を受けるためのものですから、それを無くすことは《水を無駄にしない》という企業メッセージにも繋がる。この2点は最初に意識した部分でした。

 

──実際の製品を拝見すると、デザインが全体的にすごくシンプルですね。グリップレバーがあることでウォーターサーバーだと判別できますが、それがないと何の製品か分からないほどです。

 

山崎 “リビングで使えるデザイン”というオーダーをこのシンプルさに集約しました。存在感としてイメージしたのは《柱》です。というのも、友人と食事に行って「ウチの家のリビングの柱が4本あるんだけど、そのうちの1本がイマイチでさぁ……」と柱について語ることって基本ないですよね(笑)。普段、特別な意識を持たないもの……つまり《柱》は家の中の風景に溶け込んだ、透明化された存在である。それを擬態するように、ウォーターサーバーのデザインに反映させました。

 

──使う側に意識させないというのは、先ほどの「人間の本質を理解する」というデザインする上での大切さにつながることですね。

 

山崎 そうですね。僕のキャリアのスタートは広告やグラフィックデザインの仕事だったのですが、当時から、人が一日の中で目に触れる広告の数は2万から3万だと言われていました。だとすると、朝起きて、お昼すぎにはすでに1万から1万5000の広告を見ていることになる。けれど、頭に残っているものってほとんどありません。それは、我々が無意識下で、瞬時にその情報が必要かどうかを判断しているからなんです。そして、判別する時間は1つの情報に対して0.2秒程度だと言われています。デザインの世界ではよく“ワンクリエイティブ ワンメッセージ”という言葉が使われるのですが、それはつまり、人が情報を取捨選択する0.2秒の中だと、1つのメッセージしか届けられないからなんです。だからこそ、メッセージを研ぎ澄まし、人間の本質や心理を常に考えて、デザインに組み込んでいくことが必要になってくる。その結果、ミニマルでシンプルなものになっていくのは、デザインの1つの方向性として必然的なことだと言えます。

 

“面白そう”と感じたものにはすぐに自分で体験していく

──普段、デザインはどういった時に考えることが多いのでしょう?

 

山崎 決まった形というのはなく、日常生活を送っていく中で見たものや体験したものから、いろんな知識や経験が蓄積され、それがアイデアとして固まっていくことがほとんどです。先程のウォーターサーバーを例にすると、“そういえば以前、お客さんが遊びに来るから、子どもたちに出しっぱなしにしていたペットボトルを片付けるように言ったことがあったな”という記憶があり、また別の経験として、温泉旅館に泊まった際に、お茶を飲もうとしてポットの下にお茶受けがなかったことを思い出したり。そうした1つひとつの経験が体に残っていて、デザインのオファーがあった時に記憶が引きずり出され、デザインとして編集していく感覚です。

 

──常にいろんなところにアンテナを張っていらっしゃるということでしょうか?

 

山崎 それもありますが、でも“これはいつかアイデアとして使えそうだ”と意図的に覚えておくのではなく、無意識のうちに蓄積されているものばかりですね。また、何よりも重要なのが、自分が身を以て経験するということで。僕にとっては、他人の体験談を聞くだけでは、それが自分の中にアセットされることがないんです。面白そうな話を聞いて、“それ、僕もやってみよう、見てみよう”と経験をして初めて自分のメモリーに刻まれる。やはり、やってみないことには分からないことがたくさんありますから。

 

──実際に経験することと、話を聞いてイメージするだけでは大きな差がありますよね。

 

山崎 はい。それに、興味のある・なしだけで判別することも、あまりしないようにしています。興味のあることだけを選ぶとどうしても偏っていきますし、関心がなかったことでも、いざ経験してみたら意外な魅力に気づくことがあるかもしれない。また、誰かがいう“これ、面白いんだよ”という言葉には必ずその人が興味を示した理由があるはずですから、そこに僕自身も触れてみたいという思いもあります。その結果、経験することがどんどん増えていって、ちょっと大変な状況になったりもするんですけどね(笑)。

 

──ちなみに、最近はどんなことに興味をお持ちですか?

 

山崎 忍者です(笑)。知人が熱く語っていた『完本 万川集海』という本がありまして。日本の忍者のすべてをまとめた教典のような本なんです。辞書並みに分厚く、その質量からも、“忍者という文化をなめちゃいけないぞ”という熱が伝わってくる(笑)。それに、考えてみれば、子供の頃に興味本意で忍者のことを調べたことはあっても、大人になってから真剣に向き合ったことがないなと思いまして。いつか忍者の知識や考えが役立つかもしれないので、すぐに本を取り寄せて読み始めました。まだ全部を読み切れていませんけどね(笑)。

 

──それほど分量のある本なんですね。

 

山崎 ええ(笑)。でも、そうやって読みかけのまま“積ん読”状態になっている本はたくさんあります。それでいいと僕は思っていて。“積ん読”しておくことで日常的にその本が視界に入るし、常に頭の片隅に情報として存在することになり、いざという時に記憶として呼び起こされる。そうした引き出しの作り方もあると思うんです。

 

──そうしたさまざまな引き出しが、デザインに厚みをもたらしていくんですね。

 

山崎 僕の場合はそうだと言えます。ですから、その経験が自分にとってプラスでもマイナスでも構わないんです。大事なのは、それを体験したことで得られる情報ですから。もちろん、それは何も趣味的なものでなくてもよくって、漫画を読むとか、美術館に行くとか、映画や舞台を観ることでもいい。そうしたことから、僕が経営する(株)セイタロウデザインでは、映画や舞台を見に行く文化体験活動を福利厚生として補助しています。舞台を一度でも観たことがある人生と、そうでない人生とでは、好みの問題は別として大きな違いがある。そういった視覚体験の蓄積が、デザイナーにとって大きな岐路になると思うんです。

山崎晴太郎●やまざき・せいたろう…代表取締役、クリエイティブディレクター 、アーティスト。1982年8月14日生まれ。立教大学卒。京都芸術大学大学院芸術修士。2008年、株式会社セイタロウデザイン設立。企業経営に併走するデザイン戦略設計やブランディングを中心に、グラフィック、WEB・空間・プロダクトなどのクリエイティブディレクションを手がける。「社会はデザインで変えることができる」という信念のもと、各省庁や企業と連携し、様々な社会問題をデザインの力で解決している。国内外の受賞歴多数。各デザインコンペ審査委員や省庁有識者委員を歴任。2018年より国外を中心に現代アーティストとしての活動を開始。主なプロジェクトに、東京2020オリンピック・パラリンピック表彰式、旧奈良監獄利活用基本構想、JR西日本、Starbucks Coffee、広瀬香美、代官山ASOなど。株式会社JMC取締役兼CDO。株式会社プラゴCDO。「情報7daysニュースキャスター」(TBS系)、「真相報道 バンキシャ!」(日本テレビ系)にコメンテーターとして出演中。著書に『余白思考 アートとデザインのプロがビジネスで大事にしている「ロジカル」を超える技術』(日経BP)がある。公式サイト / Instagram / YouTube ※山崎晴太郎さんの「崎」の字は、正しくは「大」の部分が「立」になります。

 

【山崎晴太郎さん撮り下ろし写真】

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撮影/干川 修 取材・文/倉田モトキ

鈴木慶一「ヒット曲がなくとも50年間バンド活動を“続けてこられた”。これが我々にとって非常に大事なこと」

1975年の結成以来、常に最先端の音楽を追求し続けてきたムーンライダーズ。CSのホームドラマチャンネルでは、そんな彼らの軌跡を追う特別プログラムを3か月連続で放送。バンド活動30周年を記念した2006年の日比谷野外大音楽堂でのライブ映像を軸に、彼らの音楽との向き合い方に迫った映画『マニアの受難』をはじめ、ニューウェーブ時代の名盤『カメラ=万年筆』の再現ライブ、さらには生涯現役宣言をしたのちの『moonriders LIVE 2022』など、どれもがムーンライダーズを語るうえで欠かせない映像ばかり。放送を前に、バンドのフロントマンである鈴木慶一氏にそれぞれの見どころをうかがった。

 

鈴木慶一●すずき・けいいち…1951年8月28日、東京都出身。1972年、「はちみつぱい」を結成。1975年、「はちみつぱい」を母体に「ムーンライダーズ」を結成。個人としては70年代半ばより、アイドルから演歌まで多数の楽曲を提供するとともに、CM、映画、ゲーム音楽を作曲。代表作にゲーム『MOTHER』シリーズなど。映画音楽では『座頭市』(北野武監督)で日本アカデミー賞最優秀音楽賞。現在は、ケラリーノ・サンドロヴィッチとのユニット「No Lie-Sense」や松尾清憲とのデュオ「鈴木マツヲ」としても活動を行っている。X

【この記事の写真一覧】

 

バンドとしての最終目標はない。常にあるのは前作よりも質の高い音楽を作ること

──今回の「ムーンライダーズ セレクション」はバンドとしての《過去》と《現在》が楽しめるラインナップになっています。最初に、この3作品が放送されることへの感想をお聞かせください。

 

鈴木 感謝の気持ちでいっぱいです。特に2006年の映画『マニアの受難』は商品として入手が困難になっているそうで。それを多くの方に観ていただけるのは、大変うれしいことです。本当にありがとうございますという気持ちです(笑)。

 

──『マニアの受難』は2006年に日比谷野外音楽堂で行われた30周年記念ライブの映像を軸に、高橋幸宏さんやPANTAさん、あがた森魚さんなど、多くの関係者やアーティストへのインタビューも交えた、ドキュメンタリータッチの作品になっています。

 

鈴木 皆さんのインタビューカットはどれも面白かったですね。特に、レコード会社関係者のコメントは、どれもド真ん中を突いているなと思いました。というのも、当時の我々にはヒットチャートに載るような代表曲がなく、そのため、「ウチでヒット曲を作りましょう」と熱意を持って仰ってくださっていたんです。それは非常にありがたいことではあったのですが、ただ我々としては、どうしてもそのときどきで作りたい音楽をやるというのが優先順位のトップにあり、そこが譲れない部分でもあった。ですから、アイデアをいただいても、右の耳から左の耳へ抜けてくようなことが度々ありまして(笑)。映画の中でレコード会社の方々が語っている、「言うことを聞いてくれない」という言葉は本音だったんだろうなと思いましたね(苦笑)。

映画「マニアの受難」より(C)2006 MediaCraft/White Noise Production

 

──この2006年の30周年を経て、ムーンライダーズは一度、2011年に活動を休止しました。その後、期間限定の復活ライブなどを挟みながら、完全な活動再開の宣言をしたのが、今回放送される2020年のライブ『Special Live 「カメラ=万年筆」』でした(9月放送予定)。

 

鈴木 このライブが現在のムーンライダーズの起点になっていますね。2020年の4月頃からメンバーと、「そろそろ(アルバム制作を)やっとかないと、いつまたやれるかわかんないぞ」とメールのやりとりをしまして(笑)。それでひとまず、それぞれでデモ曲を作ることにしたんです。アルバムを作るのも約10年ぶりなわけですし、みんなが今どんな音楽を聴いていて、どんな曲を作るかもわかりませんでしたから。ただ、大量のデモが集まったのはいいけど、次に“はたしてみんなの演奏はどうなのか”という壁にぶち当たった。そこでアイデアとして、ちょうど40年前の1980年にリリースしたアルバム『カメラ=万年筆』の楽曲をフルで再現してみようという話になったんです。でもね、これがきつかった(笑)。

 

──と言いますと?

 

鈴木 『カメラ=万年筆』はニューウェイブ真っ盛りの時期に出したアルバムだから、テンポがものすごく速い。しかも、むちゃくちゃややこしい録音の仕方をしていた。アナログでレコーディングをしながら、一部分だけエコーをかけたり、電気掃除機の音を入れてコーラスの音が吸い込まれるような音を入れてみたり。そんなことばっかりをやっていた時代だったんです。

 

──そうした実験的な音楽作りは、『Special Live 「カメラ=万年筆」』でも見事に再現されていました。

 

鈴木 ライブは当時コロナ禍ということもあり、無観客配信ライブという形になりました。また、『幕間』という曲を作ってくださった佐藤奈々子さんが新しい歌詞を書いてきて、その歌詞を詠んでくれた以外は我々6人だけでしたので、まるでスタジオで録音しているかのような雰囲気のライブになりましたね。

ムーンライダーズSpecial Live 「カメラ=万年筆」

 

──そして2022年3月に『moonriders LIVE 2022』(8月18日放送予定)を開催。会場となった日比谷野外大音楽堂は前述の2006年のライブ以来、16年振りでした。当時のセットリストを振り返っていただけますか?

 

鈴木 このセットリストは本当に辛かった(笑)。話の時間を少し戻すと、2020年から始まったアルバム制作では48曲ほどデモが集まったのですが、それをアルバムにするには10曲ぐらいに絞らないといけなくて。でも、我々では選びきれないので、選曲してもらうために、信頼を置ける人たちで構成されたチームを作ったんですね。我々は彼らを「G.H.Q.」(Geek High Qualityの略)と呼んでいるんですが(笑)、その彼らにライブのセットリストの叩き台も作っていただきました。選んだ曲を見ると、ライブ会場が野音ということで、ビル街の野外で演奏することを意識して選んでくれたのかなと思います。

 

──「辛かった」というのは、難しい曲が多かったということでしょうか?

 

鈴木 ライブで1〜2回しかやっていないような曲もあって大変でしたね(笑)。若い頃だったら練習しなくてもなんとかなったんです。でも、練習しないと覚えきれない年齢になりましたから。また、おそらくライブでは2回目だと思うのですが、ホーンセクションにも出ていただいたので、ホーン用のアレンジもしなくてはいけなかった。ですから、どれも楽しいというより、一生懸命という感じでした。ただ、そうやって別の誰かにセットリストを頼んだことは、結果的にすごく良かったなと思います。それ以降のライブでも、バンドのサポートメンバーとしてずっと参加してもらっている澤部渡くん(スカート)や佐藤優介くん(カメラ=万年筆)に選曲をお願いをしていますしね。

 

──『moonriders LIVE 2022』のセットリストで印象に残っている曲はありますか?

 

鈴木 選曲した人の意志が強く働いているなと感じたのは1曲目の『いとこ同士』。1996年に20周年ライブを同じ野音で開催し、その時、コンピューターが暴走して、曲が終われなかったという過去があるんです。だから、「今度はちゃんと最後まで演奏してください」という意味も込めて、1曲目に選んできたのではないかと思います(笑)。また、30周年の記念シングルとして作った『ゆうがたフレンド(公園にて)』は、それこそライブでめったに披露していない曲で。リハーサルをしていて、こんないかした曲があったのかと思い出しましたね(笑)。

moonriders LIVE 2022

 

──さて、2026年にはムーンライダーズ結成50周年を迎えます。活動を始めた頃はこれほど長く続けたいという思いがあったのでしょうか?

 

鈴木 全然なかったです。音楽を始めた時はスタジオでレコーディングをしたいという意識がすごく強く、スタジオに行けること、レコードを出せることが何よりも嬉しかったんです。でも、いざレコードを出すと、その作品に対する過度の愛情がなくなってしまって。それは、“次は何を作るか”ということをすぐに考え出してしまうからで、そうやって50年近くやってきたんです。これ、簡単に言ってますけど、実は結構大変なことなんですよ(笑)。自分たちが作ったものに対する愛情をかなぐり捨てて、次に向かうわけですからね。けど、そこにとどまっていたら、きっと次には行けないし、そこでおしまいになっていた。もしくは、どんどんクオリティが下がっていったでしょうね。また、そうした、前作よりもクオリティを下げたくないという思いがいつも次の目標になっていたので、バンドとしての最終目標というものもなかった。もちろん、代表曲やヒット曲を出したいということが最終目標であってもいいし、たまにそうしたことを考えた時期もありました。でもヒット曲がないまま、50年間バンドを続けてこられた。この“続けてこられた”という事実が、自分たちにとって非常に大事なことだと思いますね。

 

──最後に、放送をご覧になられる方にあらためてメッセージをお願いいたします。

 

鈴木 そうですね……2006年から2020年の、そして2022年にいたるまでの経年劣化をご覧ください(笑)。いや、そこは観てもしょうがないか(苦笑)。でも、確実に変化はしていますからね。特に2006年はメンバー全員がステージにいる。これは我々にとってもすごく大きなことです。2022年にアルバム『It’s the moooonriders』を出した際も、最初はわりと気軽に作り始めたのですが、いざ作業を始めると、2013年に亡くなったドラムのかしぶち哲郎君の喪失感がものすごく湧いてきた。作詞・作曲する人が一人いなくなるというのは、アルバムの中にその人が作ってきたスペースがなくなるわけですから。その意味では、もし次にアルバムを作るとしたら、きっとまた全然違うでしょうね。今度はキーボードの岡田徹君までいないわけですし。こうした状況がいつか訪れるかもしれないなというのは、思ってもみなかったことでした。ずっとこのまま6人なんだろうなと思い続けてきましたから。だからこそ、6人全員がそろっている2006年の野音は我々にとっても非常に特別なものだと言えます。

 

 

【連続企画】ムーンライダーズセレクション

映画「マニアの受難」 ※テレビ初放送
7月7日(日) 午後7:30 – 午後9:15

映画「マニアの受難」より(C)2006 MediaCraft/White Noise Production

 

moonriders LIVE 2022(2022年3月13日(日)東京・日比谷野外音楽堂公演) ※テレビ初放送
8月18日(日) 午後5:45 – 午後8:15

moonriders LIVE 2022

 

ムーンライダーズSpecial Live 「カメラ=万年筆」(20220年8月25日 東京・渋谷クラブクアトロ)
9月放送予定 ※テレビ初放送

ムーンライダーズSpecial Live 「カメラ=万年筆」

 

「ムーンライダーズ セレクション」特設ページ https://www.homedrama-ch.com/special/moonriders

 

 

取材・文/倉田モトキ

横田真悠「相手を想い続けることって実は結構な体力がいる」京本大我主演『言えない秘密』は「視聴者の人生にも関わる映画」

運命的な出会いを果たした音大生・湊人(京本大我さん)と雪乃(古川琴音さん)の淡く切ないラブストーリー映画『言えない秘密』が6月28日(金)より公開。湊人と同じ音大に通う幼なじみで、長い間湊人を想うひかり役を演じたのは横田真悠さん。切ない想いを抱え続ける演技の難しさから、撮影中のエピソードまで聞いた。

よこた・まゆう…1999年6月30日生まれ。東京都出身。ティーン雑誌『Seventeen2014』のグランプリを受賞し、モデルデビュー。現在は『non-no』の専属モデルを務める。2019年に『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(日本テレビ系)で連続ドラマに初出演。7月から始まるドラマ『西園寺さんは家事をしない』(TBS系)に出演するほか、バラエティ番組『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)では出川ガールズとして活躍している。Instagram / X

 

【横田真悠さん撮り下ろし写真】

 

“嫌な子”かと思いきや「ひかりは良い子過ぎた」

 

──まずは脚本を読んだときの感想からお聞かせください。

 

横田 これまであまりピアノの音に触れてこなかったので、湊人と雪乃の連弾を聴くのが素直に楽しみでしたね。「映像はどうなるんだろう」と想像できない部分も多く、早く現場に立って、監督と話しながら撮影したいと思いました。

 

──ひかりをどんな女の子だと思って演じましたか?

 

横田 等身大の「大学生の女の子」だなと思いました。子どもの頃から知っている幼なじみの湊人と、同じ大学に通ってずっと近くにいる。それって現実ではあまりないことですよね。だから湊人に対してお節介になる部分があり、恋愛の好きと、それ以上に家族のように大切な存在として好きという気持ちが混ざっているんじゃないかなと。それをうまく表現できたらいいなと思いました。

 

──湊人に対して恋愛の好きも入っていると思うと、切ないですよね。

 

横田 はい。ひかりは湊人に素っ気なくされることもありますが、めげないんです。ただのお節介だけではそこまで頑張れないよな、やっぱり湊人が本当に好きなのかもしれないなと思って演じました。

 

──嫌な子に見える可能性もある役だと思うので、微妙なあんばいのお芝居が必要とされたのではないでしょうか?

 

横田 完成した作品を見て、ひかりはちょっと良い子過ぎたかなと思いました(笑)。湊人と雪乃のお話なので、視聴者に「ひかりちゃんがあれだけ良くしてくれるのに、湊人はなんで素っ気なくするの?」と思われてしまうのも良くないなって。その微妙なあんばいが、本当に難しかったです。

 

──京本さん、古川さんと共演した感想も教えてください。

 

横田 お二人ともこの作品のイメージにぴったりで、本物の湊人と雪乃ちゃんに会えた感覚がありました。京本さんは無邪気な方で、その場にナチュラルにいてくださったので、初対面でも現場で緊張し過ぎることがなかったです。古川さんも優しく話しかけてくださり、お二人のおかげで、私も素でいられる環境でした。

 

──現場で印象に残っていることはありますか?

 

横田 休憩中もピアノの音が常に聞こえてきましたね。撮影していないときもお二人がピアノの練習をしていらっしゃったので、耳に心地良い現場だったと思います。

 

──実際に湊人と雪乃の連弾を聞いていかがでした?

 

横田 すごく素敵でした! 雪乃ちゃんが湊人にピアノを弾く楽しさを伝えているようで、すごく心地良かったです。それに雪乃ちゃんだからこそ、湊人は楽しく弾けるんだろうなというのも伝わってきました。

 

「想い続けたい対象に出会えるって、あまりないこと」

 

──俳優とモデルを両立していらっしゃいますが、それぞれどんなところに楽しさを感じますか?

 

横田 服が好きなので、モデルのお仕事は服をキレイに見せるのがすごく楽しいです。シーズン先取りで撮影するのでかわいい服をちょっと早く着られるのも勉強になります。お芝居のお仕事は、表現するという点は同じでも、モデルとはまったく違います。毎回違う人の人生を体験するので、自分やみんなが納得するものを見つけていくのが難しく、ずっと模索しています。でも、それが楽しいです。

 

──作品が完成するたびに、自分を顧みて反省するのでしょうか?

 

横田 はい。お仕事を終えるたびに、もっとよくできたんじゃないかと思います。それは永遠に考えることなんだろうなと。でも撮影から作品が完成するまでに時間が空くじゃないですか。だから「あのときの自分ができた最大限のものはこれだから」と受け止めて、そんなに落ち込まないようにもしています。

 

──モデルの活動が演技に生きていると感じる瞬間はありますか?

 

横田 どうなんだろう……早着替えぐらいかも(笑)。逆にお芝居をやったことで、モデルとしての表現の幅が広がったとは感じます。物語性のある企画だと、自分としては活かせている気がしますね。

 

──では改めて今作の見どころを教えてください。

 

横田 湊人の葛藤、雪乃ちゃんの苦しみ、一瞬も見逃さないで欲しいです。相手を想い続けることって実は結構な体力がいることで、そこまでして会いたい、想い続けたいと思う対象に出会えるって、あまりないことだと思うんです。誰かを大切に思う気持ちを、ぜひ受け取って欲しいです。観てくださった方の人生にも関わる映画になるんじゃないかと思います。

 

映画『言えない秘密』

2024年6月28日(金)公開

 

【映画『言えない秘密』よりシーン写真】

 

(STAFF&CAST)
出演:京本大我、古川琴音、横田真悠、三浦獠太、坂口涼太郎、皆川猿時、西田尚美、尾美としのり
監督:河合勇人
脚本:松田沙也
音楽:富貴晴美
©2024「言えない秘密」製作委員会

 

(STORY)
留学先での経験からトラウマを抱え、音楽大学に復学しながらもピアノと距離をおこうとしていた湊人(京本大我)は、取り壊しが決まった旧講義棟から聴こえてきたピアノの音色に引き寄せられるように雪乃(古川琴音)と出会う。ミステリアスな雰囲気を持つ彼女に湊人は惹かれ、次第に2人は心を通わせていく。授業をさぼって海を見に行き、連弾し、クリスマスを共に過ごし……お互いにかけがえのない時間を過ごしていたはずだったが、湊人の前から雪乃は姿を消してしまう──。

Lucky Fes’24開催! 誕生から3年、目指すはアジア最大のテーマパーク型フェス! プロデューサー・DJ DRAGONインタビュー

茨城の夏をアツく彩る音楽フェスティバルが今年もやって来る! 7月13日~15日に「アジア最大のテーマパーク型フェスを目指して!」をテーマにした「Lucky Fes’24」が開催される。日本国内はもとよりアジア5か国の豪華アーティストが茨城県「国営ひたち海浜公園」に大集合。その企画統括からブッキングプロデュースまでを担うのがDJ DRAGONだ。地元FM局のラジオDJとしても活躍するフェス・プロデューサーに、“オラが町”の大規模イベントの見どころや誕生秘話を聞いた。

 

DJ DRAGON●でぃーじぇい・どらごん…1968年3月13日生まれ。茨城県出身。日本のクラブDJ、ラジオDJ、デザイナー、クリエイティブ・ディレクター、LuckyFES 企画プロデューサー。現在はBLACK JAXX(武田真治、ドラゴン)でDJ&MCを担当。XInstagram

【DJ DRAGONさん撮り下ろし写真】

 

ベトナムのアーティストと日本の人気俳優が初のステージ共演!

──いよいよフェスの開催まで1か月を切りました。

 

DJ DRAGON 当日が近づくにつれて時間の進むスピードが加速しているのを実感しています。どれだけ片付けてもやることが残っていて。毎年、最後の最後までバタついています。実はまだブッキングなどの調整を続けている状況でして……(苦笑)。

 

──え!? すでに100組以上のアーティストの参加が発表されていますが?

 

DJ DRAGON まだプログラムに空きのある部分があるんですよ。こればかりは例年通り、「7月13日空いていませんか?」みたいなやりとりを直前まで続けることになると思います。今のタイミングで売れっ子にオファーをかけてもほぼ無理なのは承知の上なんですけど。

 

──今年のテーマは「アジア最大のテーマパーク型フェスを目指して!」。これまでのフェスとはひと味違うプログラムが組まれているのでしょうか?

 

DJ DRAGON まさに日本を飛び越えちゃっています! タイ、ベトナム、モンゴル、台湾、韓国の5か国のアーティストに来ていただける予定です。例えば、今年初参加の「Chillies(チリーズ)」というベトナムのバンドをご存じですか?

 

──すみません!勉強不足で存じておりませんでした‥‥。

 

DJ DRAGON いえいえ、それが当然の反応です。多分日本で生活していると知る由もないと思います。ただ、ベトナムではサブスクで最も聴かれているバンドで、日本でいうところの「ミスターチルドレン」みたいな扱い。その生演奏をわざわざベトナムに行かずとも茨城で見られるのはかなり胸アツなこと! しかも、今回は俳優の森崎ウィンさんとセッションするステージも披露する予定です。今年1月にコラボレーションした楽曲をリリースしたばかりで、それを日本で生披露するのは初めて。実は、森崎さん本人から「『Chillies』が出るなら出たいです!」と逆オファーをいただいて実現しました。

 

──「知らない」を理由にスルーするのはもったいないですね。

 

DJ DRAGON 絶対に見ていただきたいステージの1つです。ちなみに、Chilliesに限った話ではありませんが、ちゃんと出演アーティストの楽曲を予習してから当日を迎えるのをオススメします。やっぱり、知っている楽曲が流れてきたらうれしいもんです。ぜひ、毎日のように出演アーティストの楽曲を空気を吸うように聴いていただきたい。これまで触れてこなかった新ジャンルの扉が開かれると思います。あと新ジャンルといえば、今年は「エクディズ」こと韓国の人気バンド「Xdinary Heroes(エクスディナリー・ヒーローズ)」も来日します。いわゆる“K-ROCK”になります。

 

──K-POPはかなり浸透していますが、“K-ROCK”は初耳です。

 

DJ DRAGON 「韓国文化放送」(MBC)とコラボレーションするステージで登場する予定です。MBCさんから提案をいただいたことで今回実現したんですが、まだ韓国のロックバンドは日本にほとんど進出できていません。というのも、“ロック大国”と呼ばれる日本にはあまり需要がない。たくさんの人気ロックバンドがあって、曲や歌詞に込められたメッセージ性を楽しむ文化も根付いていますからね。一方で、若者を中心に日本人のファンを獲得できたK-POPは完成度の高いダンスを視覚的に楽しむ側面が大きいと思います。例えば、「New Jeans」にしても英語の歌詞の意味を理解できなくても若年層を惹きつける魅力がありますよね。日本国内では馴染がないかもしれませんが、エクディズをはじめとしたK-ROCKは海外ではヒットしています。そんなグローバルに活躍しているアーティストの存在を知れるのもLucky Fes’24ならではかもしれません。

 

──どうして、日本を飛び越えてアジア圏のアーティストを呼ぶことにしたんですか?

 

DJ DRAGON 昨年の「Lucky Fes’23」が終わって、堀義人総合プロデューサーと今年の話をした時に「次はアジアをやろうか」みたいな話になりました。最初は12か国を集める計画だったんですよね(笑)。ぶっちゃけた話をすると、アジアの有名アーティストを呼んでも動員には大きな影響はないんです。さっき紹介したChilliesも日本国内にファンはいますが、どちらかといえばニッチな存在には違いありません。ですが、堀さんとのコミュニケーションの中では「トライあるのみだよね」というふうにまとまりました。実際に、コロナ禍が明けてからの日本には都心や観光地を中心に訪日外国人が爆発的に増えていますが、そういったインバウンドに向けてのアピールを無視するわけにはいきませんからね。

 

──アジア圏を超えて世界に広げていく計画はあるんですか?

 

DJ DRAGON もちろん!しかしながら、まず世界の前に「フジロックフェスティバル」、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」、「SUMMER SONIC」のような誰もが知っているフェスにするのが目標です。そして、ゆくゆくは日本人のみならず訪日外国人にとって、旅の目的がLucky Fesになるのが最終ゴールです。現実問題、インバウンドの波はフェスにまで届いていません。そのほとんどがDJのいるような渋谷のナイトクラブには足を運んでいるんですが、アイドルやアーティストのライブにはほとんど来てくれません。ファンクラブで先行販売されるなどチケットの購入方法を含めていささか敷居が高くなっているのも否定はできません。その辺の問題を解決してフェスのために来日する外国人を呼び込んで茨城ひいては日本を活性化させたい!

 

わずか半年で準備した初開催で見いだした活路はあの人気アーティストだった

──そんなLucky Fesも今年で3年目を迎えます。22年の初開催は、一部のファンから「伝説のフェス」として語り継がれています。

 

DJ DRAGON わずか半年で準備しましたからね(苦笑)。「やるぞ!」という堀さんが号令を出したのは1月でした。3年間フェスの運営に携わってなおさら思うんですけど、半年でこれだけ大規模なフェスを作るのはあり得ないことなんですよ。堀さんも相談した人全員に「無理だからやめた方がいいですよ」と諭されたと聞いています。

 

──「茨城のフェス文化の灯を消すな!」が合言葉でしたよね。

 

DJ DRAGON 22年にロッキンが千葉に移転して茨城県民はかなりショックを受けていました。ひたち海浜公園を有名にしてくれたイベントで、僕ら県民一同にとって誇らしい存在でしたからね。僕の実家は土浦なんですけど、家族で集まった時にも「千葉に行っちゃうね……」と話題はロッキンがいなくなることばかり。普段、音楽にほとんど触れない体育教師の兄でさえもブルーな気持ちになっていたのには衝撃を受けましたよね。ロッキンはおろかフェスに行ったことない人がそこまで悲しむものなのかと。

 

──どのような流れで企画統括とブッキングを担当することになったのですか?

 

DJ DRAGON 個人的に「SANCTUARY」というお台場のダンスミュージックイベントを17年と18年に主催していて、堀さんがフェスをやると聞いて「なにかお手伝いできることがありましたら……」とSANCTUARYの資料を渡していたんです。そうしたら、「1回ミーティングしようよ!」と誘っていてだいて、運営プロデューサーの矢澤英樹君と堀さんの元に訪ねるや「よし、じゃあ、この3人でフェスやるから!」と伝えられて……。

 

──かなり軽い誘い方ですね!

 

DJ DRAGON そうなんです(笑)。でも、「どんな形になってもやり抜く」という堀さんの熱意はメチャクチャ伝わりました。その場でOKしたはいいですが、フェス当日まで苦しい階段を上がることになるんですよね。家族や友人からは「よくやった!」、「偉業だよ」と称えてくれましたがとにかく大変で、大変で……。この時点で2月だったんですけど、8月開催予定だったのが7月に早まってしまいましたし。

 

──想像もつかない地獄の日々が待っていたんですね。

 

DJ DRAGON プロジェクトをスタートしてみると苦労の連続でした。やはり、時間のなさと新規のフェスに対する不安感が影響してブッキングしたアーティストに断られてしまうんです。新参者のフェスがちゃんと集客できるかどうかも怪しいじゃないですか。アーティスト側としてもスカスカの会場で演奏するのは避けたいという意見がほとんどでした。“後釜フェス”なんて揶揄されることも珍しくありませんでしたよ。

──そんなアゲインストの風が吹き荒れる中でどのように活路を見いだしたのでしょうか?

 

DJ DRAGON 突破口になったのは「MAN WITH A MISSION」のブッキングでしょうね。今年も出演していただけるんですけど、もともと個人的に良いお付き合いをしていたのもあって、Lucky Fesを前向きなものとして捉えてくださっていたんですよね。あとは、茨城県出身のボーカルTOSHI-LOWのいる「BRAHMAN」が手を挙げてくれたのも大きかった。「え!? マンウィズ出んの?」、「BRAHMANが出るなら‥‥」みたいな感じでLucky Fesに対する信用が形成されていきました。そこから、「マカロニえんぴつ」や「Novelbright」が参加を決めてくれて一気に加速したイメージです。あと、ありがたいことに他局を含めて約30年間ラジオの世界に身を置かせていただいているおかげで形成された横のつながりにも助けられました。中でも「J-WAVE」さんには陰ながら多大なる協力をしていただいております。ライバル局のイベントなのに協力してもらえて本当に涙が出ました。

 

──豪華出演アーティストの中でも「水曜日のカンパネラ」はブレイクとドンピシャのタイミングでした。

 

DJ DRAGON ちょうど声をかけさせていただいたのがコムアイさんから詩羽さんにボーカルチェンジした時でした。そして、フェスの1か月前ぐらいに「エジソン」でスターダムを駆け上がった。用意していたのが一番小さいステージだったので当日はフレンズ(Lucky Fesの観客の愛称)でパンパン! 入場規制が必要なぐらい大盛況でした。やっぱり、自分らがオファーしたアーティストが世間に認められるのが感激の一言です。例えば、昨年「オトナブルー」でブレイクした「新しい学校のリーダーズ」もオファーをかけた23年初頭の段階では世間に見つかっていませんでした。そこから、ブレイクして、フェスに出て、そのまま「NHK紅白歌合戦」にまで出場しちゃうんですから。今年もブレイク前夜のアーティストを拝めるかもしれませんよ!

 

──初開催の2日目は「ヒップホップ」を中心にしたプログラムが組まれました。

 

DJ DRAGON 主催するLuckyFMで放送するヒップホップの番組と親和性を持たせるのが目的でした。ただ、前年にコロナ禍の中に愛知県で開催されたヒップホップイベントが矢面に立たされたのもあって、「海浜公園にならず者たちが集まってくるんじゃ……」と心配する声もチラホラ。「そんなわけないじゃん!」と一蹴したいところですが、ヒップホップ文化を知らない人たちにそう思われるのも致し方ない部分があるのは理解できます。それでも、Awichiさんをはじめとする名だたるメンバーが参加してくれたステージは最高でした。とはいえ、中高年がメインとなるラジオのリスナーにあまり刺さらなかったのは反省点です。やはり、原体験として若い頃に触れていたもんでないとエモーショナルな感情も抱きづらいですよね。

 

──どちらかというと中高年世代だと、昭和のビッグネームの方が馴染み深いですよね?

 

DJ DRAGON 杏里さん、石井竜也さん、相川七瀬さんをはじめとする昭和から平成にかけて活躍したアーティストの方が人気でした。リスナー層は1日目、若い世代が2日目に集中した印象です。そのバランスをうまくMIXさせるためにプログラムを作成する時には頭を悩ませています。さすがにKREVAさんぐらいメジャーな方であればジャンルを超えて知名度がありますが、いわゆるクラブやライブハウスが主戦場になるヒップホップは中高年のリスナーが出会うキッカケがありません。それでも、「Creepy Nuts」のように令和の時代にもヒップホップの垣根を超えるアーティストは存在します。世代を問わずに複数のジャンルの音楽を引き合わせたい。ちなみに、ウチの小学生の娘なんか「マキさんが一番よかった!」と大黒摩季さんのパフォーマンスが一番の思い出になっているみたいです(笑)。

 

来場者数は右肩上がりで収益も赤字から黒字へ

──まさに固定概念やジャンルに縛られるのは損なのがわかりました。

 

DJ DRAGON 実にもったいないですよ。アイドルの楽曲を全く聴いてこなかった人も世の中には一定数いると思いますが、例えば女性アイドルグループ「AMEFURASSHI」はビックリするぐらいかっこいいですよ! 楽曲がスタイリッシュなのはもとよりK-POPに負けないぐらいパフォーマンスもキレッキレ。昨年、彼女たちの初フェスがLucky Fesでした。今年もパワーアップした彼女たちのパフォーマンスが楽しみです。

 

──人気男性アイドルグループ「NEWS」も出演するんですね。

 

DJ DRAGON 多分、ライブでは茨城初上陸じゃないですか? 普段はドームツアーのような大きい箱でのライブ活動が主だけにかなりレアです。もちろん、NEWS目当てに来てくれるフレンズもたくさんいると思います。ぜひとも、普段聴くことのないアーティストと出会うキッカケになってくれたらうれしいです。フェスで人生観が変わるとまでは言えませんが、確実に人生が豊かになる体験の1つ。ラジオのリスナーさんでLucky Fesに足を運んでくれた60代の方が何人もいましたが、一様にして「(フェスの見方が)変わった」とおっしゃってくれました。音楽好きのマニアックな人たちだけが楽しめるイベントではないことはお約束できます。

 

──かつては個人協賛者席の存在が賛否を呼んだこともありました。

 

DJ DRAGON ネガティブな声もありましたが、社会的に立場のある人たちを招待するためには必要な措置だったと考えています。それでも、最初から最後まで個人協賛者席に滞在する人はほとんどいませんでしたよ。気がついたら、前の方に移動して他のフレンズたちと混ざっていました(笑)。堀さんに誘われて来たある経営者の方も「息子とのコミュニケーションの話題です」と報告してくれました。Lucky Fesが家族の共通言語になるのは理想中の理想ですよね。

 

──来場者数は初開催で約2万人、昨年の2回目が約4万人でした。そこから今年の目標12万人はかなり大きく出た印象です。

 

DJ DRAGON 「目標は大きく」という堀さんのスタイルです。ただ、現実としては10万人台という数字はかなり高いハードル。かなり厳しい目標だとは思いますが、現時点でチケットが昨年の倍のスピードで売れているんです。やはり、フェスの知名度が広がったことが影響しているのでしょう。6~8万人は目指せる固い数字だと思います。

 

──メディアでは厳しい収支の部分も報道されていました。

 

DJ DRAGON 全部、正直に公開しちゃっていますからね(苦笑)。数字が表すようにとんでもなく火の車ですよ。そもそも、あの規模のフェスをイチから立ち上げて数年で採算ベースに載せること自体が厳しいチャレンジ。それを堀さんが私財をはたいて開催しているわけです。その背景を知るだけに僕らスタッフは必死にやるしかないと思います。なんとか今年は黒字に持っていきたい。現時点では非現実的ではないと考えています。

 

──会場のひたち海浜公園は都心からのアクセスの悪さを危惧する声も絶えません。

 

DJ DRAGON まず、都心の人たちが思っている以上に近いという事実をお伝えしたい(笑)。JR品川駅から会場最寄りのJR勝田駅までは特急1本で約1時間30分。そこからシャトルバスで15分~20分程度ですからね。そりゃ、遠方と言われれば遠方なんですが、都内まで勝田から通われている人はたくさんいると思います。実はブッキングする上でも会場は利点になっているのが事実。アーティスト側からしたら遠くない認識みたいです。

 

──では、気をつけるべきは暑さ対策でしょうか?

 

DJ DRAGON ちゃんと帽子を被って、日焼け止めを塗って、こまめに水分補給をしてなどの熱中症対策さえしていれば想像しているよりも暑くないと思います。昨年はメインだったウォーターステージの照り返しがとんでもなく暑かったんですが、今年は大草原に移ったので幾分かラクになると思います。木陰もありますし涼しい風も吹くんですよ。入口からは少し歩きますが、2つのメインステージが隣接しているだけにトータルの歩行距離は短くなっています。繰り返しになりますが、熱中症対策と雨天時の雨合羽類をお忘れなく!

 

──改めて、堀総合プロデューサーとはどんなキッカケで知り合ったんですか?

 

DJ DRAGON 約8年前からLucky FMで毎週金曜日に番組をやらせていただいているんですが、当初から「今日飲みに行こうよ!」というノリで収録後に飲みに連れ出していただく仲だったんですよ。

 

──いささかフランク過ぎる気がしますが。

 

DJ DRAGON そうなんです(笑)。有名企業の社長さんからフェスに来るフレンズまで誰とでも気さくに話している印象です。X(旧Twitter)もマメにチェックしているみたいで、Lucky Fesについての投稿を見つけると自ら「いいね」したりしますからね。しかも、「フェス会場のトイレの数は大丈夫かな?」という投稿に対して「ちゃんと〇箇所あるから安心してください」というリプライまで自分で返してしまう。

 

──さながら広報担当の立ち回りですね。

 

DJ DRAGON 「フレンズたちの満足度が高いフェスにしなくてはダメだ!」という思いを常に考えている人なんです。時には悪態をつくような投稿もあるんですが、そういうのにもちゃんと返信しちゃいます。あまりの距離の近さにアンチから一転してファンになってしまう人も少なくないんですよね。ぜひ、会場で見かけたら声をかけてみてください。

 

Lucky Fes’24公式サイト https://luckyfes.com/

 

 

構成・撮影/丸山剛史 執筆/多嶋正大

横田真悠、イッテQ!海外ロケで「絶対に持って行くと決めているモノ」京本大我主演『言えない秘密』インタビュー

音大生・湊人(京本大我さん)と雪乃(古川琴音さん)の、淡く切ないラブストーリー映画『言えない秘密』が6月28日(金)より公開。湊人に想いを寄せるひかり役を演じた横田真悠さんには、切ない想いを抱え続ける演技の難しさから、撮影中のエピソードまでインタビューした。続けてGetNavi web恒例の今ハマっているモノ・コトについて聞く。

よこた・まゆう…1999年6月30日生まれ。東京都出身。ティーン雑誌『Seventeen2014』のグランプリを受賞し、モデルデビュー。現在は『non-no』の専属モデルを務める。2019年に『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(日本テレビ系)で連続ドラマに初出演。7月から始まるドラマ『西園寺さんは家事をしない』(TBS系)に出演するほか、バラエティ番組『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)では出川ガールズとして活躍している。Instagram / X

 

アクションを熱望「女の子が強い作品が大好き」

 

──GetNavi webということで、今ハマっているモノ・コトはありますか?

 

横田 今さらですが映画『ワイルド・スピード』にハマっています。あと2作で見終わります。昨日の夜観ようと思いましたが早く寝なければならなかったので、今日観ます(笑)。

 

──まさに今ハマっているのですね。ワイ・スピを観ようと思ったきっかけは?

 

横田 シリーズがとても多いので観ていなかったのですが、劇中で使われている曲は聴いていましたし、車が好きなのでシンプルに観てみたいと思っていました。「感動するお話なんだ!」と知りました(笑)。

 

──特にどんなところに面白さを感じましたか?

 

横田 ケンカのシーンは刺激的ですねそしてカーアクションをやってみたい! とにかくアクションに挑戦してみたいんです。だからこそ、女の子が強い作品が大好きなんです。最近は、強い女の子の隊長が登場するアニメ『怪獣8号』を観ています。ワイ・スピも女性がみんな強いので最高です。

 

海外ロケでも「日常で使っているモノを使いたい」

 

──『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)で海外ロケに行くことも多いと思いますが、海外に行くときに必ず持っていくモノはありますか?

 

横田 マッサージガンかな。山に登ることもあるので、脚に当てて使っています。あとはブランケットも持って行きますね。旅行用ではなく普段使っているお気に入りのブランケットです。本当は枕も持っていきたい! できるだけ日常で使っているモノを使いたいですね。荷物になるので、枕を持って行ったことはないですが(笑)。

 

──海外に行くとなると、使い慣れたモノを持って行きたい気持ちはありますよね。

 

横田 はい。まだ実際に持って行ったことはないですが、これから持って行くと決めているモノもあります。飛行機の中で鑑賞できる映画は付属のヘッドホンを使わないと音が聴けないですよね。でもそのアイテムを使うと、Bluetoothで繋いで自分のワイヤレスイヤホンで聴くことができるんです。

 

──それは便利そう! 映画は良い音で楽しみたいですよね。

 

横田 普段から現場にもイヤホンは必ず持って行きます。ノイズキャンセリングができるイヤホンが良いです。

 

──音にこだわりたい派のようですね。

 

横田 はい、ちゃんとした音で聴きたいですね。だからヘッドホンも持っています。

 

──どんな音楽を聴くことが多いですか?

 

横田 オールジャンル聴きますが、最近はR&B系が好きです。にしなさんというシンガーソングライターの方が、メジャーデビューする前に発表していた曲がリリースされたので、聴き始めました。聴きたい曲は気分で決めていますが、テンション上げたいときは「これを聴く」と決めている曲もあります。

 

──音楽の情報は、どのようにゲットしているのでしょう?

 

横田 流れている曲をシャザム(マイクからメロディを入力して曲名を調べるアプリ)することもあるし、好きなアーティストさんがSNSにあげた“今聴いている曲”を聴くこともあります。あとはサブスクで自分の好きなアーティストと似た系統のアーティストをおすすめしてくれるじゃないですか。それを聴くこともありますね。

 

──音楽は、横田さんの日常には欠かせないものみたいですね。

 

横田 そうですね。特にお仕事の移動中は、ずっと聴いていたいです。

 

映画『言えない秘密』

2024年6月28日(金)公開

 

【映画『言えない秘密』よりシーン写真】

 

(STAFF&CAST)
出演:京本大我、古川琴音、横田真悠、三浦獠太、坂口涼太郎、皆川猿時、西田尚美、尾美としのり
監督:河合勇人
脚本:松田沙也
音楽:富貴晴美
©2024「言えない秘密」製作委員会

 

(STORY)
留学先での経験からトラウマを抱え、音楽大学に復学しながらもピアノと距離をおこうとしていた湊人(京本大我)は、取り壊しが決まった旧講義棟から聴こえてきたピアノの音色に引き寄せられるように雪乃(古川琴音)と出会う。ミステリアスな雰囲気を持つ彼女に湊人は惹かれ、次第に2人は心を通わせていく。授業をさぼって海を見に行き、連弾し、クリスマスを共に過ごし……お互いにかけがえのない時間を過ごしていたはずだったが、湊人の前から雪乃は姿を消してしまう──。

元テレ東アナウンサーの福田典子の現在。新たな働き方で「自分がわくわくしていられる」

福岡・RKB毎日放送からテレビ東京に中途入社し、『モヤモヤさまぁ~ず2』(テレビ東京)の3代目アシスタントとしても知られる福田典子さんは、2024年3月末、テレビ東京を退職し、歯科医療系メディカルテック企業「SCOグループ」に入社しました。正社員で広報業務を担うと同時に、フリーとしてアナウンス業も継続するという異色の契約形態で働く福田さんに、ずばり聞きました。「もったいない」と言われませんか!?

 

福田典子●ふくだ・のりこ…1991年2月12日生まれ。福岡県出身。現在は歌株式会社SCOグループで広報COCを務めるとともに、フリーアナウンサーとしても活動。元RKB毎日放送→テレビ東京アナウンサー。『よじごじDays』(月)(火)(金)担当、『モヤモヤさまぁ~ず2』3代目アシスタントなどを務めた。XInstagram

【福田典子さん撮り下ろし写真】

 

 

 

「就業時間内も副業OK」異色の契約

──オフィスに入った瞬間、自分のデスクから迎えに来てくれましたが、本当に会社員として働いているんだと実感しました。いま、SCOグループでどんな業務を担当していますか?

 

福田 広報ブランディング本部に所属して、プレスリリースを書いたり、外部的には「天皇杯 JFA 全日本サッカー選手権大会」の特別協賛をしているので、そこに向けての準備などをしています。大きな目的は、世の中に私たちの社名が知れ渡り、歯に興味を持ってくれ、歯科医院へメンテナンスに通いやすくなるような世の中になることを目指して頑張っています。

 

──福田さんが入社したことで、会社にどんな変化がありましたか?

 

福田 自分で言うのもおこがましいのですが、こうして私のことをメディアで取り上げてもらうことにより、会社の検索数が増えたり、公式サイトのアクセス数が増えたり、採用に対してアクセスが増えたそうです。記者会見をしたり、取材していただいたりで、50媒体くらいに取り上げていただいたので、一般消費者向けではない私たちのような企業にとっては、とても大きな数字だったとほかの社員から聞きました。中途採用のスカウトをかける際にも、返信率が上がったそうです。皆さんが検索して「あ、福田典子が転職した会社だ」と知って、信頼してくれるきっかけになっていると聞いて、とてもうれしく思います。

 

──そんなに分かりやすく表れたんですね。

 

福田 ありがたいですよね。面接時に「福田さんがいらっしゃる会社ですよね。ニュースで見ました」と言ってくださる方も増えたと聞いて驚いています。歯科医院さん相手に営業していますが、歯科医院さんからも「福田さんが出演していた時代の『モヤモヤさまぁ~ず2』を見ていました」という話をしていただいたこともあります。そういうことが続くと、私が入社したことの意味が少しでもあるのかな、と思っています。

 

──少しどころじゃないですよね。いまの契約は正社員ですか?

 

福田 はい、正社員で、副業としてはイレギュラーではありますが、SCOの広報にもつながる業務であれば“業務”の扱いとしてアナウンス業を受けてもよい、という契約なんです。そうではない場合でも、フリーアナウンサーとして仕事をお受けできる形にもなっています。なので、広報業務とアナウンス業、完全に二足のわらじです。

 

──すごくいい条件ですね!

 

福田 フリーアナウンサーとして参加したイベントで名刺交換をすると、「歯科衛生の研究員をやっていました」という方にお会いして、情報交換をすることもあり、会社でもフリーアナウンサーとしても、それぞれの活動が活きていて、とてもありがたい働き方です。

 

テレ東社員が「すごくいい転職の仕方だね!」

──アナウンサーの仕事と広報の仕事では、脳の使い方が全く違うように思いますが、いかがですか?

 

福田 そうですよね、アナウンサーは話して伝えることが多い仕事で、広報の仕事の中でも私の働き方はいま、書く仕事が多いのですが、その2つって全然違うんですよね。アナウンサーとして正しく情報を伝えるために選ぶ言葉と、広報としての言葉選びは、広報のほうが時間がかかっています。アナウンサーは一人前になるまでに10年かかると言われていますが、私はその10年以上を2つのテレビ局で勉強させてもらい、広報業務もそうなるためには時間も経験値も積まなければいけないと思っています。ただ、アナウンサー時代の下地があるからこそ、そこで積み重ねたキャリアと、いまの業務をかけ合わせて、幅を広げることができるのかな、と思います。

 

──すごく有意義な働き方をしていますよね。

 

福田 最近、テレビ東京がイベントをやっている、その隣のイベントの司会に呼んでいただき、とてもたくさんのテレビ東京の人に会ったんです。そのときに「すごくいい転職の仕方をしたんだね」と言ってくださる方が多くて。「もったいないよね」ではなく、「そういうキャリアの描き方もあるよね」というふうに言ってくださり、いい人生の選択ができたのかなとは、少しずつ実感としてあります。

 

──福田さんのような働き方をしている元アナウンサーの方、いらっしゃらないですよね。

 

福田 そうですね。他の企業に転職した方だと、令和トラベルに転職した大木優紀さん(元テレビ朝日)や現在PIVOTに携わっている国山ハセンさん(元TBS)などもいますが、大木さんは広報として出演されていて、ハセンさんはプロデューサーとしてで。私のように、広報とフリーアナウンサーという仕事を「二足のわらじでやっていいよ」という働き方なのは、結構なレアケースなのかなと思っています。

 

──そもそも、どんなきっかけでSCOグループに転職したのでしょう。

 

福田 去年、キャリアについていろいろと考えていた時期に、ちょうどSCOの方から「広報に力を入れていきたいから、一緒に働かないか」と誘ってもらいました。

 

──なぜキャリアについて考えたタイミングがあったのでしょうか。

 

福田 出産して、自分の時間の使い方を考えたとき、今までやってきたキャリアを活かすことや、将来やりたいことを見据えたんです。「将来はヘルスケアに関わる分野の仕事が広がればいいな」ということを考え始めていた時期で、まさか“歯”になるとはそのときは思っていませんでしたが(笑)。

 

開幕から優勝の瞬間まで。濃密なプロ野球取材で学んだこと

──特に女性は、出産がキャリアチェンジを考えるきっかけになることが多いかと思いますが、福田さんの場合、「働きにくいから転職した」というネガティブな転職ではないですよね。

 

福田 そうなんです。テレビ東京は時短勤務も選択できますし、ママさんだからこその仕事の場も多く、私自身も最後の一年間は『よじごじDays』という主婦目線がとても大切な番組のMCを担当していました。だから、出産後もとても働きやすい企業ではあるんですが、そういう目線ではなく「これまでやってきたことを活かして、飛躍したい」という気持ちが強くなったんです。

 

──年齢や子どもの有無などのスペックとは無関係に、もっとシンプルな、自分のためのキャリアチェンジ、ですね。

 

福田 はい。だから「SCOが働きやすい企業だった」というよりは「私がやりたいことが実現できる可能性が、高いかもしれない」というキャリアの選び方でした。

 

──福田さんのご経歴を振り返ると、常に前向きに「自分がやりたいこと」を見据えて実現し、とてもかっこいいと思います。スタートは、2013年4月、RKB毎日放送への入社でしたよね。アナウンサーとして3年間在籍しました。そこではどんな学びがありましたか?

 

福田 よくお話するのは、プロ野球の福岡ソフトバンクホークスの取材です。一年を通して取材して、優勝した瞬間まで取材できる喜びを、スポーツを担当した2年間で2度も享受できたのは貴重な経験でした。日本一になった瞬間だけを伝えることとは違い、一年間、選手やチームの浮き沈みを肌で感じて、そこからの日本一、ですからね。例えば選手から「僕は最後の方は離脱していたから、優勝の戦力にはなっていないんだよ」と言われたとして「いや、あなたの、5月のあの試合でのあの活躍があったからこそ連勝につながり、優勝につながったんですよ!」みたいな話もできるんです。全体の流れがありつつの結末を伝える楽しさ、それを知ることができたのは、福岡での大きな学びでした。

東京でももちろんそういった機会はありましたが、より深く、1つのチーム・1つの事柄に向けて取材をさせてもらえた経験は、とても大きいですね。

 

──ローカル局と在京局では、そういった違いがあるんですね。

 

福田 一方で東京では、初めて取材する人にどうやって入り込んでいくか、ということ学びました。そういうとき、無知であることにためらいを感じますが、アスリートはその道のプロフェッショナルですから「教えてください」というスタンスで取材させていただくこともあるのだ、というか、そう行かざるを得ないときもあるんだ、ということを学びましたね。

 

「テレ東に入社できても仕事がもらえないかも」という負い目で迷いも

──その後、2016年8月にテレビ東京に中途入社します。このとき、テレビ東京のアナウンサー中途採用が異例というということで、とても話題になりましたよね。どういった経緯で中途採用に挑みましたか?

 

福田 話題でしたよね。私たちローカル局のアナウンサーたちも「こんなこともう一生ないかもしれないから、エントリーシートを出しておこう!」みたいな気持ちでした。新卒以来、久しぶりに就職関連サイトに登録して、転職サイト経由でエントリーシートを出したという話をすると、みんなにびっくりされます。

 

──一般的な企業の中途採用と同じ流れなんですね。

 

福田 そうなんですよ。新卒以来エントリーシートを作って、おそらくカメラテスト代わりに自分が出演してきた映像を送らなくてはいけなくて、それも仕事をしながら大変でしたが自分で作りました。結果、振り返ると、「忙しいから」という理由で諦めなくてよかったな、と思いますね。

 

──確かに、ローカル局のアナウンサーはさまざまな業務をこなすイメージがありますね。

 

福田 そうですね。福岡という土地柄、情報もたくさんありますしスポーツも報道もあり、ドキュメンタリーが強い局でもありました。アナウンサーのカラーを出す方針があり、朗読会もあり、ラジオもあり、1日が出演時間だけで終わることも多く、本当に充実していました。そんなふうにフル回転で経験を積ませてもらえる局は貴重ですよね。そしてそこから、番組のメインを目指すのが王道だと思います。私の場合は、声質的にスポーツに向いていると言っていただき、本来は男性アナウンサーが担当することが多い「駅伝の第二放送車に乗れるように準備しておこうね」と言っていただいたり、とにかくRKBで目指すべきことはたくさんありました。

そんな中での転職活動でしたが、ローカル局のアナウンサーの中には、新卒でキー局に落ちている人も多く、私自身も「テレビ東京に入れても、全く仕事をもらえないかもしれない。求められないかもしれない」という不安もありました。だからこそ、「すぐそこに見えている未来を捨てて、福岡を離れてもいいのか」という迷いはすごくありましたが、新卒のときと同じように「内定してから悩めばいいか! 受ける前に悩んで諦めるのはもったいない」という結論になり、受ける決意を固めました。

 

──とても狭き門だったのではないでしょうか。

 

福田 1500人くらい受け、私ともう1人、元北海道テレビ放送の西野志海さんが受かり、彼女は報道系で採用されてニューヨーク支局までいきました。そのときテレビ東京は、新卒採用を数年間していなかった時期で、人が足りなくなるということで中途採用をしたようで。私は地方局で3年キャリアを積んでいて、そのタイミングで受けることができたのはラッキーだなと思います。

 

さまぁ~ずの洗礼「福田はまだまだバラエティ分かってないな~(笑)」

──受かった勝因はなんだと思いますか?

 

福田 採用側がどう思ったかは分かりませんが、面接時、RKBに対してマイナスな気持ちがなかったことが大きかったのではと思います。前向きに、先ほどお伝えしたプロ野球取材の話など「テレビ東京なら、こういう経験が活かせる」という話をメインで伝えました。ほかには、「フルマラソンも走らせてもらい、28キロ地点ではこんな気持ちになる」とか「そのとき食べたミニトマトが美味しすぎて泣いた」とか、「実体験をすることでリポートに生きることがありました。この学びを、ここで活かすことができます」という話をしたんです。働くとき、できるだけ楽しいところを見たいし、そういう気持ちで働いたほうが楽しいですしね。福岡は楽しい仕事ばかりで、それをそのまましゃべったら、その話が面接に向いていたのかな、と思います。

 

──そして2016年から2024年までテレビ東京に在籍しますが、福田さんといえば中途入社直後の2016年10月から19年5月までアシスタントを務めた『モヤモヤさまぁ~ず2』です。抜擢されたとき、とても話題になりましたし、ほかのアナウンサーさんたちの視線が気になったのではと思ってしまいました。

 

福田 初代が大江麻理子さんで、2代目が狩野恵里さんで、3代目が誰になるのかというのは大きなニュースになっていましたよね。狩野さんの番組卒業が告知されたのは私が入社する前でした。私が入社して、内々で就任が決まりましたが厳戒態勢で隠されていて、知っているのは番組のプロデューサーさんとスタッフさん数人、アナウンス部長くらいのごく少数でした。本当に誰にも知らせずに初回ロケに行ったんです。そして就任が明かされると、もしかしたら思うところがある人もいたかもしれませんが、みんな「大役だね!」「頑張ってね!」「前任の2人と福田は違うキャラだから、肩の力を抜いて大丈夫だよ」と、私が仕事に集中できるようにケアしてくれる人がとても多かったですね。

 

──さまぁ~ずのお二人との仕事はいかがでしたか?

 

福田 最初は「テレビの人だ!」と思うような人のなかに私が入っているのが信じられなくて、ふわふわしたまま終わりましたが、初回から「私、バラエティに向いていないかも」と思うシーンが多々ありました。例えば、沖縄で3人でシーサーを作ったんですが、私は見本通りに作っちゃうんですよ、基本通りに忠実に作っちゃう。どうやって自分流にしたらいいのか分からないから。お二人は個性的なシーサーを作っていて「福田はまだまだバラエティを分かっていないな~(笑)」など言われて。これまで、「優等生」と呼ばれたくて生きてきた人生の中で、手本と違うことをやることがすごく苦手なんだと、再認識しましたね。結局、バラエティをちゃんと習得できたかというと、できていない部分が大きいまま卒業したのではないかと思っています。でも、1年くらい経って顔をけがするという出来事があり、そのときに「できる範囲で全力を尽くすことを、求められているんだ」と気づくことができました。

 

──二人の番組から学べることは、きっと代えがたいものですよね。

 

福田 三村(マサカズ)さんと大竹(一樹)さんは、その場で起きることをとても大事にされている芸人さんで、ロケ中に自ら仕掛けていくこともできるけれども、面白いことが起きるのを待つこともできる方なんです。それって、街や人に愛情がないと待てないと思うんですよね。お二人は、本当にその場を楽しまれている。こなさなければならないことよりも、そのときどきの空気感を優先していて、それができるのって、すごいことですよね。それが一番の学びになりました。

 

「もったいない」の声に「やりたいことに近づけるチャンスを逃すほうがもったいない」

──そんなテレビ東京を退社し、今に至ります。さきほど、テレビ東京の方たちと会ったときに「もったいない、という声はなかった」とうかがいましたが、転職前や直後は、そういう声もあったのではないでしょうか。

 

福田 そうですね、両親に言われました。「本当にそれでいいの?」と。せっかくテレビ東京に中途で入ることができて、今まで積んだ経験はテレビ東京に入らなければ積めなかったものですし。特に母は心配していました。「子どもが小さいうちに新しい仕事を始めるって、大丈夫なの?」と。外から見たら「もったいない」かもしれないけど、私にとっては、自分がやりたいことに近づけるチャンスを逃すほうが「もったいない」のではないかなと。それに、アナウンサーを辞めるわけではなく、広報も勉強できる、「それってすごいことじゃない?」と話し、最終的には、一言目には「もったいない」と言っていた人たちが、「いい選択かもしれない」と応援してくれるようになったので、「誰にとっての“もったいない”か」ということは、よく考えます。

 

──やりたいことをおろそかにしない、後悔のない生き方ですよね。

 

福田 まあ、「自分のやりたいことを総取り」といいますか、私のわがままな生き方を、周りのみんなが許容してくれるから成り立っているんだと思います。夫にも負担をかけていますしね。いま子どもが2歳で、夫が送り迎えをしてくれたり、「転職して大変だろうから」と、家事も頑張ってくれているんです。すごくファミリーのチームビルディングができていますが、夫が多忙なご家庭だと、私のようなわがままな働き方はできないだろうな、とは思います。

 

──キャリアアップしたいけど、育児があるからと諦める方、とてもたくさんいます。

 

福田 そうですよね。以前、イベントで株式会社ポーラの及川美紀社長の聞き手を務めたことがありますが、そのときに「育児をキャリア分断だと思わないで」と教えていただきました。私自身、その話を聞いたのが出産前で「どう考えても、キャリアの分断になってしまうのでは?」と思っていましたが、振り返ると、育児には仕事に反映できる学びが溢れていたんですよね。

 

──ちなみに、いま、「やりたいこと」はどんなことですか?

 

福田 いまは歯についてです。みんなが健康へ意識を向けるきっかけ作りをしていくことが、私の役割だと思っています。私、人生の最終地点を見極めるのがすごく苦手なんですよ。大きい目標に向けて逆算していくというより、目の前にあることを積み重ねていき、先の目標まで動いていきたいタイプでして。歯についてや健康についてをパーフェクトに伝えられるようになったときに、また次の世界が見えるのかな、と思っています。

 

──自分のキャリアを邁進する人に対して、余計なお世話とも思えるような声をかける方もいるかと思いますが、いかがでしょう。

 

福田 『ABEMA Prime』に出演した際に「趣味:エゴサ」と書かれていました(笑)。そんなつもりはないんですけど、ついつい見ちゃうんですよね。これまで取り上げてくださったインタビュー記事につくコメントを読むと、あまりいい気持ちにはならないコメントもあるんです。でも、そういったコメントの考え方よりも、自分の人生を楽しくする方向に目を向けたほうが絶対に楽しいし、いいチャンスを見つけられるのでは、と思います。私自身、人生楽しく生きています。そう思えるようになったのも、母親になって強くなったこともあるかなと思います。

人生の大半は働いている時間なので、自分にとっていかに楽しくいられるかが大切なのではないでしょうか。どこで働いていたとしても、自分がわくわくしていられるような部分を見つけることが、よりよい働き方なのではないかなと思います。

 

 

構成・撮影/丸山剛史 執筆/有山千春

樋口日奈インタビュー『町中華で飲ろうぜ』二代目レギュラーに「私の中でこれまでとまた違う楽しみ方、取り組み方を見つけたい」

どの町にもある、美味しい中華料理とお酒を気取らずに楽しめる懐の深い町中華。町々の趣ある町中華の名店をめぐる『町中華で飲ろうぜ』(BS-TBS/毎週月曜日22時~)が大人気だ。町中華を探訪するのは、通称・たまちゃんこと“町中華の黒帯”玉袋筋太郎さん、そして飲みっぷりと食べっぷりが見事な2人の美女だ。長年、たまちゃんと番組を盛り上げた高田 秋さんと坂ノ上 茜さんが卒業し、4月からは元乃木坂46で、ファッションモデル・女優の樋口日奈さんと、女優の清田みくりさんが選ばれた。番組二代目メンバーの1人・樋口日奈さんに、町中華の魅力と番組これから、そして「焼酎ソムリエ」の資格を持つほどの酒飲み(?)だという知られざるプライベートについても伺った。

 

樋口日奈●ひぐち・ひな…1998年1月31日生まれ。東京都出身。A型。趣味:散歩、読書、御朱印集め、チロルチョコ包み紙集め。特技:ダンス、トランペット、早起き、どこまでも歩くこと、射的。資格:普通自動車第一種運転免許、普通自動二輪車免許、焼酎コンシェルジュ、焼酎ソムリエ。公式HPXInstagram

【樋口日奈さん撮り下ろし写真】

 

『町中華で飲ろうぜ』は人情味が感じられて、見ていて心が和らぐ

──『町中華で飲ろうぜ』はご覧になっていましたか?

 

樋口日奈(以下、樋口) はい。『町中華で飲ろうぜ』を見るようになったのは、初代の高田 秋ちゃんがきっかけです。以前、秋ちゃんと2年半ぐらいラジオでご一緒させていただいたこともあって、秋ちゃんのInstagramを拝見していました。それで番組のことを知って、見るようになりました。

 

──番組で活躍されている秋さん、それから番組に対してどんな印象をお持ちでしたか?

 

樋口 秋ちゃん、たまさん、坂ノ上さん、皆さんすごく自然体だなと思って見ていました。飲んだり食べたりしたら味を一生懸命伝えなきゃいけない街ブラや食レポの番組とは全く違って、お休みの日に一緒に町中華へ行っているような感覚になるくらい自然体なんですよね。あと、番組の映像、それからオープニングとエンディングの曲も含め、見終わった後に「明日も頑張ろう」という気持ちになって、一日のいい締めくくりになるんです。それがこの番組の魅力なんだなって思いました。ちょっと気分が落ち込んでいる時に見ると、エンディングで泣きそうになるんです。なんだか人情味が感じられて、見ていて心が和らぐからかもしれません。

 

──ファンだった『町中華で飲ろうぜ』にご自身が出演されることになったわけですが、実際にロケをしたり、オンエアを見た感想はいかがでしたか?

 

樋口 ロケはすっごく楽しくて、初回のロケからお酒をたくさん飲んでしまいました(苦笑)。私自身は楽しかったんですけど、オンエアを見た時に些細なことにもケラケラ笑っていて、『あれ、もしかして私、ちょっと騒がしいかな?』って思いました。私を応援してくださっている方は、私の性格もわかってくださっているから「いつもの樋口だな」という感じで見てくれたと思いますが、長年いろんな方に愛されてきた『町中華で飲ろうぜ』の良さは、のんびりと見られる雰囲気ですよね。

でも、「初代のメンバーと同じようにやらなきゃ」とか、反対に「二代目の私が変えなきゃ、違ったものをお届けしなきゃ」とか、そういう気負いがあるわけじゃないんです。ただ、ロケであまり力みすぎなくていいんだなっていうことは、初回の放送を見て勉強になりましたし、ちょっと反省もしましたけど、これから番組をやっていく安心感にも繋がりました。

 

“サク飲みサク食べ”ができるのも町中華

──『町中華で飲ろうぜ』はお酒を飲む番組ですから、ロケが進むと酔いも進んでつい楽しくなっちゃったりしますよね。ロケの要素としてそこは難しくはないですか?

 

樋口 2回目のロケでは、初回の反省を踏まえて、落ち着いたテンションで行こうと初めはすごく気を付けていたんです。でも、お酒が進むとやっぱり楽しくなっちゃって……ロケが終わってお家に帰ってから、「また私だけが楽しんで終わったんじゃないか」っていう気持ちになりました。そこを反省しつつ、オンエアはもう一回自分を客観的に見て……あぁ、やっぱり見るのが怖いなぁ。カメラがあると、自然にスイッチが入ってしまう自分がいるんだろうなって気づいたんですが、『町中華で飲ろうぜ』に出演させてもらうことになったからには、私の中でこれまでとまた違う楽しみ方、取り組み方を見つけたいなって思いました。

 

──じゃあ、今後の番組での樋口さんの成長を見届けるしかないですね。

 

樋口 温かい目で見守っていただけたらうれしいです!

 

──ところで、樋口さんは小さい頃に町中華に行かれた経験がなかったとか?

 

樋口 そうなんです。家の近所に町中華のお店がなかったこともあって、あまり馴染がなかったです。13歳の時に芸能界に入ってから、ロケ弁で初めて中華料理を食べました。酢豚だったんですけど、「中華ってこんなに美味しいんだ」って気づきました。それまで意識していませんでしたが、いざ周りを見渡したら町中華は身近にあることにも気づきました。その後、大人になってからは一人で行くようになりましたね。

 

──お一人で町中華に行くこともあるんですか?

 

樋口 あります。舞台の稽古終わりや本番終わりに近くの町中華に一人で行くこともありますし、キャストの皆さんとご飯に行く時にも町中華に行くことが多いんです。一人で行って好きなものを食べるのもいいし、大人数でたくさんメニューを頼むのもいいっていう町中華の楽しみ方を、キャストの先輩方に教えてもらいました。サクッと行って食べて飲んで、サクッと帰る。その“サク飲みサク食べ”ができるのも町中華の魅力だなって思います。

番組で初めて葛飾区と江戸川区に伺って、改めていろんな場所にいろんな町中華のお店があるんだなって気づきました。これから、たくさんのお店と人に出会えるのが楽しみです。

 

来てくれるお客さんに寄り添う柔軟性が、町中華の魅力

──ロケで何かびっくりしたようなことってありますか?

 

樋口 町中華のメニューの数ですね。優に100を超える数のメニューがあるんです。お店の方にお話を聞くと、常連さんや来たお客さんの好みに合わせたり、中華ではなくてもお客さんの食べたいメニューを足していくうちに数が増えたということでした。お刺身があるお店もありました。そういうお客さんに寄り添うお店の方の姿勢にすごくびっくりしました。普通のお店ではあまりないことだと思うし、来てくれるお客さんに寄り添う柔軟性が、町中華の魅力なのかなと思いました。

 

──町中華のメニューでお好きなものってあるんですか?

 

樋口 ピータンですね。食わず嫌いだったのですが、町中華でピータンを初めて食べてみたらすごく美味しくて新発見でした。あとは餃子も好きですし、夏には冷やし中華もよく頼みます。

 

──番組は、秋さんはご自分の追求しているメニューとして「きくらげ玉子炒め」がありました。いずれ樋口さんも、追求するメニューが出てくるのかなと楽しみにしてます。

 

樋口 初めて食べた時、美味しさに衝撃を受けたこともあって酢豚も好きなので、酢豚は追求してみたいです。たまさんと秋ちゃん、坂ノ上さんは酸っぱい系のメニューをあまり選ばなかったと聞いています。私は酸っぱい系は結構好きなので、チャレンジしたいなと思っています。

 

──そもそも食べることはお好きなんですか?

 

樋口 好きですね。自制をかけないとたくさん食べてしまうので、普段から気を付けたりバランスを考えて食事するようにはしています。でも『町中華で飲ろうぜ』のロケでは気にせず食べたいから、事前にしっかり調整してロケの日を楽しみにしています。ロケではたくさん食べています。本当に美味しいんですよ!

 

──番組は、町中華で”飲む”ことがメインです。お酒はどのくらい飲まれるんですか?

 

樋口 お酒は、毎日飲むということはないし、一人で飲む時にもたくさんは飲まないです。でも、打ち上げや友達と飲みに行く時は我慢せずに飲みたいので、自分の中でストッパーをかけずに飲んでいます。翌日の早い時間に予定が入っていなかったら「よし、飲むぞ」って気分になります。飲む量は、一緒に飲む人がいれば飲むし、飲まないんだったら飲まないという感じで調整できるタイプです。

 

お酒が入るとその気持ちが溢れちゃって、ついダル絡みしちゃう

──番組を見てもわかりますけど、飲むと陽気になるタイプですか?

 

樋口 そうなんです。テンションが上がっちゃって、なんでも楽しくなってしまうんです(笑)。そうなる理由として、もともと人が好きだっていうのはあるんです。私はお仕事で一緒になったり、少しでも時間を共にすると、相手を自動的に「もう大好き!」ってなっちゃうんです。お酒が入るとその気持ちが溢れちゃって、ついダル絡みしちゃうのは友達から指摘されたことがあるので、気をつけたいと思います。

実は1回目のロケで、お店の方にハグしてしまったんですよ。私、特に意識せず自然としていたのですが、あとでスタッフさんに改めて教えてもらいました。その時は初ロケで緊張していたんですが、お店のお父さんがすごく優しくしてくださって、いろんなお話をしてくださったり、気にかけてくださったりしたから、もう「お父さん好き!」ってなっちゃったんだと思うんです。お酒を飲むと愛が溢れちゃうけど、これからはその距離感に気を付けて、ちゃんと言葉で伝えられるようになっていきたいと思いました。

 

──樋口さんは焼酎コンシェルジュ、焼酎ソムリエの資格をお持ちです。どんなきっかけで取得されたんでしょうか。

 

樋口 コロナ禍の時に、時間ができたことで何かを勉強したいと思ったんです。都内にあるアンテナショップへ行って、全国各地の焼酎を買って飲んでいるうちに、焼酎についてお勉強してみたいと思うようになりました。北海道の昆布焼酎を飲んだこともきっかけの1つです。お勉強したっていう気持ちがあると、またお酒の楽しみとか、嗜み方が変わってくるのかなと思って資格を取りました。ずっと続けていないと知識が薄れていってしまうので、たまに教材を見返したりもしています。もっともっと勉強したいなって思いますね。まだ知らないお酒、飲んだことがないお酒もたくさんあります。町中華のロケで、初めて紹興酒をいただいたんです。なんとなく私は苦手なのかなって思い込んでいましたが、いざいただいてみたらすごく飲みやすかったです。

 

町中華の裾を広げられるようにしたい

──ちなみに、番組ご出演にあたって秋さんからアドバイスをもらったそうですね。どんなアドバイスを?

 

樋口 秋ちゃんには”なーひー”って呼ばれているんですけど、「なーひーなら大丈夫だから、楽しんで」ということと、「頑張りすぎなくていいんだよ」とアドバイスをもらいました。秋ちゃんも、試行錯誤をしながら番組をやっていらっしゃったみたいで、「頑張って飲まなきゃとか、そういうことを考えずに楽しんだらいいと思う」ということを教えてくれました。

私も初めは不安でしたが、「スタッフさんが本当に愛のある方々だから緊張しすぎず、怖がらなくていいんだよ」って秋ちゃんが言ってくださったんです。「みんな家族のようだから大丈夫。絶対楽しいから」って。それで実際に撮影現場に入ってみたら、ほんとにそのとおりでした。

 

──すでに番組にしっかり馴染まれているように感じます。これからどんな番組にしていきたいですか?

 

樋口 番組ファンの皆さんに、素敵な時間をお届けすることが大前提で、新しいこととしては、等身大の私が町中華を楽しむことで、私と同年代の方や女性の方、まだ思い切ってお店に入れていない初心者の方に、町中華の裾を広げられるようにしたいです。それが今回二代目に選んでいただいた私が、できたらいいなと思っている役割の1つです。

ロケに行くときは毎回、お料理を食べやすい髪形だったり、お酒を飲みやすい洋服について自分の中で作戦会議をしています。最近は洋服を買う時に、「これだと飲んでも食べてもきつくならないぞ」とか考えるようになっています(笑)。町中華に行くときはこういう服装がいいよとか、そういう視点も新たな楽しみ方としてお届けできたらいいなと思っています。

(清田)みくりちゃんと私は、前任の秋ちゃんと坂ノ上さんと同じぐらいの年の差なんです。だから、みくりちゃんとはお互い違った楽しみ方、見せ方をできたらいいなと思っています。楽しみながら、試行錯誤して、番組に貢献できるように頑張ります。

 

長年の番組ファンの方にも認めてもらえるように頑張りたい

──番組内で、秋さんは“町中華姐さん”、茜さんは“町中華娘”なんていうニックネームで呼ばれていました。樋口さんにはどんなニックネームが付くでしょうね。

 

樋口 どうなるでしょうね。ニックネームは自然とついてくるものというか、番組に馴染みが出てくると生まれるものだと思います。 だから私自身も、どうなるんだろうって楽しみです。

 

──最後に『町中華で飲ろうぜ』のファンの方、それから樋口さんがきっかけで新たに番組を観るようになった方に、一言メッセージをお願いします。

 

樋口 町中華の良さは、温かみがあるところだと思います。1回行っただけのお店なのに、お店のお父さんの顔が忘れられなくて「あのお父さん元気かな」「またお店に行ってみようかな」ってふとした時に思い出したりするんです。そういうところが、他の飲食店さんに入った時とはまた違う感覚なんですよね。町中華に行くと心が温かくなるし、元気な常連さんからパワーをもらって自分も活気づく感じがするんです。自分も元気になるし、それから町中華のある町自体も盛り上がる感じがします。

町中華ファンの皆さんとは引き続き一緒に楽しめたらいいなと思いますし、今回私の出演がきっかけで番組を見始めたという方がいらっしゃったら、自分なりの町中華の楽しみ方を見つけてもらえたらと思います。私もまだ町中華の世界に足を踏み入れたばかりですけど、堅苦しいルールはないし、第一歩を踏み込みやすいところが町中華の良さなので、一緒に楽しめたらと思います。あと、周りのスタッフさんからのアドバイスや、番組ファンの方の声は素直に受け止めたいです。番組を見ていて樋口に何かアドバイスがあったらどんどん言ってほしいです。二代目として、長年の番組ファンの方にも認めてもらえるように頑張りたいと思います。

 

──力強い決意、しかと聞きました。二代目として引き続き番組を盛り上げて下さいね。番組のファンとして応援しています!

 

樋口 はい、よろしくお願いします!

 

 

町中華に飲ろうぜ

BS-TBS 毎週(月)午後10:00~11:00

6月24日(月)の放送は「浅草SP」。玉袋筋太郎は裏浅草、奥浅草を巡る。1軒目は大正時代に開業したという「あさひ」。3年前の冷やし中華SPで1度訪れた店。まずは瓶ビールとつまみに、「やきぶた」と大好きな「パクチー」をトッピングで注文。店のアルバイトで、民謡歌手の平山里美さんの素敵な歌声に、玉袋も思わずカタい「緑茶ハイ」を何杯もおかわり。その後、2軒目は台東区橋場の「洋食中華わたなべ」を訪れる。一方、樋口日奈は“表”の浅草を巡る。1軒目は、東武浅草駅から徒歩8分ほどの「ぼたん」。昭和23年開業で、過去に番組でお世話になった町中華。まずはいつもの瓶ビールに「餃子」を注文し、人生初の「天津飯のアタマ」を堪能して、お目当ての「オムライス」に大感激。1軒目から、浅草の老舗でこれまでにない町中華の成り立ちに触れる。2軒目は、5年前の第1回放送で玉ちゃんがお世話になった「中華カド」へ。

公式HP https://bs.tbs.co.jp/machichuka/

 

構成・撮影/丸山剛史 執筆/牛島フミロウ

愛美「今この瞬間を楽しんで、人生を大切に生きる──そうした思いをアルバムタイトルに込めました」ニューアルバム『LIVE IT NOW』

声優、アーティストとして活躍する愛美が約2年ぶりとなるアルバム『LIVE IT NOW』をリリース。今作で彼女がテーマに掲げたのは“ライブ”と“人生”。ファンへの思いや自分が歌を歌うことの意味、そしてこれまで以上にロックな一面を打ち出した楽曲など、多彩なコンセプトを持った楽曲が並ぶ一枚に。7月からスタートするライブへの意気込みと合わせて、新たに収録された楽曲へのこだわりをうかがった。

 

愛美●あいみ…12月25日生まれ。2010年に『探偵オペラ ミルキィホームズ』にて声優デビュー。翌年には声優アーティストとして歌手活動をスタート。代表作に『戦姫絶唱シンフォギアXV』ミラアルク役、『アイドルマスター ミリオンライブ!シリーズ』ジュリア役など。『BanG Dream!』ではコンテンツから発生したリアルバンド「Poppin’Party」のフロントメンバー・戸山香澄役(Gt./Vo.)としても活躍。現在、『出来損ないと呼ばれた元英雄は、実家から追放されたので好き勝手に生きることにした』(ミレーヌ役)に出演中。公式サイトXInstagramYouTube

 

もし人生最後の歌を歌う時が来たら……

──アルバムのリリースは2年ぶりになるんですね。

 

愛美 そうなんです。自分では全くそんな感じがしなかったので、びっくりしました。

 

──アルバム名が『LIVE IT NOW』。このタイトルにはどのような思いを込められたのでしょう?

 

愛美 今回はアルバムのリリースと同時にライブツアーの開催も決定していたので、そこからイメージしていきました。私の中でライブって、“今、この瞬間を楽しむ空間”という思いがあるんです。また、LIVEには《生きる》という意味もありますので、“今を生きる”というメッセージも音楽で表現していきたいなと思ったんです。

 

──収録曲を見ると、前作『AIMI SOUND』以降のシングル曲を網羅しているとともに、一部のカップリング曲(『ザ・センセーション』『ステラメロウディ』)も収録されています。このセレクトされた2曲はいずれも愛美さんの作詞ですね。

 

愛美 確かに! 純粋に『LIVE IT NOW』のコンセプトに合わせて楽曲を選んだらこうなりました。『ザ・センセーション』はもともとライブで盛り上がれる曲を想定して作ったものなので、絶対に入れたくて。また、もう一曲の『ステラメロウディ』はリリースした時からファンの皆さんからの評判がすごく高かったんです。“推し”に対する気持ちを歌詞にしたもので、《推しは推せるときに推せ!》という名言もあるように(笑)、その気持ちってまさに『LIVE IT NOW』のテーマに合うなと思ったんです。

 

──ファンへの愛美さんの優しさが感じられる曲ですよね。それに、アルバム終盤に収録されていることからも、愛美さんにとって大切な意味合いを持っている曲なんだなと感じました。

 

愛美 この『ステラメロウディ』からアルバムラストの『will』への繋がりは少し悩みました。すごくきれいな流れのようでいて、実は受け取り方によってはちょっと残酷さもあるなと感じているんです。

 

──と言いますと?

 

愛美 先ほどもお話したように『ステラメロウディ』は“推し”に向けて書いた曲であると同時に、それを推される対象である私が歌うことで、皆さんが特別な感情を持って聴いてくれる曲になったと思うんです。でも、その後に続く『will』では、歌詞が《これが人生最後の歌になるかもしれない》という言葉で始まる。この一行で、もしかして私がこのアルバムでアーティスト活動を辞めてしまうのでは? という受け取り方をされる方がいるんじゃないかと思って。

 

──深読みすると、確かにそう感じてしまいますね。その《これが人生最後の歌になるかも》という歌詞にはどのような思いを込めたのでしょう?

 

愛美 決して私が音楽活動を終わらせたいという意味ではなく、きっと多くのアーティストさんが一度は自分の活動の終わりというものを考えたことがあると思うんです。例えば、自分の意志に関係なく、どうしても辞めざるを得ない状況が来てしまうかもしれませんし、もしかすると歌が嫌いになる日が来るかもしれない。だからファンの方に対して、ありがとうとごめんねの気持ちを少し伝えたくなって。それを宮田’レフティ’リョウさんがとっても素敵な楽曲にしてくださったんです。

 

──レフティさんとはどのように楽曲を制作していかれたのですか?

 

愛美 レフティさんのほうから、「愛美さんがこの楽曲に反映したいキーワードなどがあれば 」と言ってくださって。その答えを言葉にしてお渡ししたところ、私の気持ちを汲み取った形で、詞とメロディを書いてくださったんです。

 

──こうしたご自身のメッセージ性が強い曲を歌う時は、やはりレコーディングでも気持ちが少し違うものですか?

 

愛美 歌いながらところどころで込み上げてくるものはあります。なので、歌声に込める感情のバランスが難しかったです。レコーディングではどうしても冷静にならざるを得ない瞬間もあったので、ライブで自分がどうなるのかが楽しみですね。お客さんを前にすると、感情に支配されて歌がぐちゃぐちゃになるかもしれないです(笑)。

 

──なるほど。でも、そうした深みのある楽曲がアルバムラストを美しく飾っている一方で、その直後にボーナストラックとして収録された『はれるといいよね』を聴くとすごく心が救われます(笑)。

 

愛美 私も救われます(笑)。この『はれるといいよね』は妹と電話をしている間に作りました(笑)。ある意味、いちばんリラックスしている時に生まれた楽曲と言えます。

 

──歌詞もメロディもすごくかわいいです。

 

愛美 ありがとうございます。こうした楽曲は今までも何度か作ってきたのですが、いつもメロディを考えると同時に適当な言葉を音に乗せていき、勢いで作っていきます。この曲は、《らんらんらんららん》というフレーズが最初に生まれて、《あしたは晴れるといいよね》という歌詞が浮かんでどんどん繋げていきました。これから梅雨の時期ですし、憂鬱な気分が続く日がくるかもしれませんので、ぜひそんな日はこの曲を聴いて気持ちを晴れやかにしてほしいなと思います。

 

ライブで盛り上がれる最強の王道ロックを手に入れました!

──では、少し順番が前後してしまいましたが、アルバムに収録された新曲についてもそれぞれうかがえればと思います。まずはアルバム一曲目の『オネシャス!』。

 

愛美 生命力を感じられるサウンドですし、華やかさもありますよね!まさに幕開けにふさわしい楽曲なので、デモを聞いた瞬間に絶対にアルバムのオープニングにしようと決めました。ここからの『ザ・センセーション』と『MAGICAL DESTROYER』という3曲の流れは、自分でいうのもなんですがものすごく激アツです!(笑)

 

──確かに異なるロックな“愛美ワールド”が続く並びだなと感じます。その『MAGICAL DESTROYER』のあとに来るのが『5&I』。不思議なタイトルですね。

 

愛美 この楽曲はKITA.さんに作っていただいたものです。このアルバム制作よりも前から存在していた楽曲なのですが、“人生”をテーマにした曲なので、今回の『LIVE IT NOW』のコンセプトに合うなと思い、歌わせていただきました。

 

──歌詞を読むと、6度目の人生を表現した曲だから『5&I』というタイトルなんですね。

 

愛美 今の人生が終わったとしてもまたきっと生まれ変われるし、たとえ何度目の人生だろうと、新しい世界で二人の時間を作っていきたいねという思いが感じられます。あたたかいサウンドを楽しんでいただける素敵な曲になったなと思います。

 

──続いての『if』は愛美さん自身が作詞をされています。

 

愛美 『if』の作詞作業はいつも以上に悩みました。というのも、私がこのアルバムを通して伝えたかったことはすでに『will』に集約されていて、これ以上自分を掘り下げても『will』を越えるものは出てこないと思ったんです。そこで、自分以外の部分に目を向けた歌詞にしました。

 

──具体的には?

 

愛美 私が出演させていただいている作品のキャラクターの関係性を愛美ならではの視点で見つめた歌詞にしたんです。私のことをよく知っているファンの方は、“もしかしたらあの作品かな……?”と想像して楽しんでいただけると思います。

 

──そして、その『if』から続くのが『C’est la vie drive』。ライブで間違いなく盛り上がりそうな曲です。

 

愛美 はい、王道ロックです! 嘘とカメレオンの渡辺(壮亮)さんに書いていただいた曲で、イントロを聴いた瞬間に「かっこいい!!」と、最高にテンションが上がりました。実をいうと、私ってそんなに王道ロックを数多くは歌ってきていないんです。シングルで歌わせてもらうこともありますが、そうするとカップリングは世界観の異なる曲に挑戦したくなるので、結果的にロックをあまり歌っていないという現象が生まれてしまって(笑)。なので、ライブでセットリストを考える際に盛り上がりのパートで悩んだりもするのですが、今回こうして最強の楽曲を手に入れたので次のライブが楽しみです!

 

──そのライブツアーがいよいよ7月からスタートしますね。

 

愛美 きっと皆さんも同じ気持ちだと思いますが、私も待ちに待っていました! 前回のライブもすごく楽しかったんです。ただ、まだ客席で声を出せない状況だったんですよね。コール&レスポンスができる曲などもたくさん用意していたのですが、それを止められているお客さんのもどかしさをステージ上からもひしひしと感じて。ですから、その時の思いを晴らすように、今回のツアーではたくさん盛り上がりたいと思います!

 

──熱いステージを期待しています。

 

愛美 ぜひ! 愛美の曲はライブをしてなんぼみたいなところがありますから! あ、でも、楽曲の印象もあって激しいステージをイメージされている方も多いと思うのですが、“愛美のライブは想像以上に治安がいい”と評判ですので(笑)、初めての方も安心して遊びに来ていただければと思います。

 

人生を大きく変えてくれたレスポールは宝物です

──ここからは少し愛美さんと音楽の関係性についてもお聞きしたいのですが、最初に手にした楽器は何でしたか?

 

愛美 たぶんギターだと思います。音楽一家の家庭で育ったので家に楽器があり、ギターを持っている幼少期の写真があるんです。ですから、それが初めての楽器だったと思います。その後は小学生の時にピアノを少し習い、中学ではブラスバンド部でサックスを吹き、高校では友人たちとバンドを組んでいました。しっかりとギターを練習したのは高校になってからでした。意外にもFのコードにつまずかず、今に至ります。

 

──では、これまで使ってきた楽器で特に思い入れのあるものを挙げていただくと?

 

愛美 ギブソンのレスポール・スペシャルですね。上京してから買ったギターなんですが、『アイドルマスター ミリオンライブ!』で演じたジュリアという役がギターを弾くロックな女の子だったんです。それで、ライブの時に同じようにギターを弾くパフォーマンスをしてみてはどうかと提案され、買いに走ったのがレスポール・スペシャルでした。これがきっかけで『BanG Dream!』(戸山香澄役)の出演に繋がったり、今こうしてアーティスト活動をしながらギターを弾かせてもらっているので、自分の人生を大きく変えてくれたという意味でも、思い出深いギターです。

 

──今後挑戦してみたい楽器はありますか?

 

愛美 ドラムかベース。特にドラムは本気で習いに行こうかなと思っているぐらいです。少し前にSILENT SIRENさんのライブを見に行かせてもらった時、改めてバンドっていいなと思えて。私もバンド活動をしていますが、フロントマンなので、ドラムのように常にメンバーの後ろでみんなを支えるかっこよさに憧れるんです。ドラムやベースにはギターやボーカルとはまた違ったバンドの屋台骨としての魅力がありますし、そうした縁の下の力持ちにすごく惹かれます。

 

──いつか披露される日が来るのを楽しみにしています。また、今回のアルバムでも何曲か作詞をされていますが、いつも歌詞を書く際はどのような状況の時が多いですか?

 

愛美 メロディをいただいてから考えることが多いので、何度も曲を繰り返し聴き、パッとアイデアが浮かんでくるのを待つ。ひたすらそれだけですね(笑)。

 

──歌詞を考える時のマストアイテムや環境作りなどはあるんでしょうか?

 

愛美 それがまだなくって。あったらいいなと思っていろいろ試してはいるんです。例えば、好きなものをひっきりなしに食べながら考えるとか。でも、この前やってみたら、作詞は進まずただただ食べてるだけで終わりました(笑)。

 

──(笑)。新たな発想が生まれることはなく?

 

愛美 残念ながら……。食べている間は、“あ〜、これ美味しいな”っていう感覚に脳が支配されているので、この方法はもしかしてよくないのかもっていうことだけが分かって(笑)。ただカロリーを摂取しいているだけでした。

 

──では最後に、音楽とは関係なくても結構なのですが、普段愛用しているガジェットなどがありましたら教えてください。

 

愛美 1つはiPadです。この子と24時間一緒にいると言っても過言ではないです。台本の確認はもちろん、写真や映像のチェック、楽譜の管理など、すべてのことをこのiPadでやっています。ゲームもするので、私のここ数年はこの一枚に集約されていると言えます。

 

──そこまでいくとiPadなしの人生が考えられないですね。

 

愛美 本当に。家に帰るとカバンからまずiPadを出し、仕事をしたり、動画サイトを見てご飯を食べたりして、ベッドに入っても寝落ちする寸前まで「イラストロジック」というゲームをプレイしています(笑)。

 

──では、もう1つは?

 

愛美 プロポリスキャンディー(森川健康堂)ですね。スプレータイプもあるのですが、常備しているのはキャンディです。これを2〜3個ほど水に溶かして飲んでいるんです。水分の摂取と同時に喉のケアもできるので、すごく効率がいい(笑)。ライブのリハーサルやアフレコの時の必需品ですね。

 

 

 

<RELEASE INFORMATION>

愛美 ニューアルバム
「LIVE IT NOW」

2024年6月12日(水)リリース

初回限定盤〈CD+Blu-ray〉:7800円(税込)

 

(初回限定盤のみ)

[Blu-ray]
AIMI BIRTHDAY EVENT 2023 –ACOUSTIC LIVE-
「MAGICAL DESTROYER」「煩悩☆パラダイス」「HELP」「メリトクラシー」MUSIC VIDEO 収録

[封入特典]
写真集「UNUSUAL」
ステッカーシート(B6サイズ)
愛美オリジナル・イラストロジックカード

 

通常盤〈CD ONLY〉:3300円(税込)

https://aimi.lnk.to/LIVE_IT_NOW

https://aimi.lnk.to/LIVE_IT_NOW-MUSIC

 

<LIVE INFORMATION>

AIMI LIVE TOUR 2024 “LIVE IT NOW”

2024年7月14日(日) 大阪・GORILLA HALL OSAKA 16:00開場 / 17:00開演
2024年7月27日(土) 愛知・ダイアモンドホール  17:00開場 / 18:00開演
2024年8月4日(日)  東京・豊洲PIT  16:00開場 / 17:00開演

 

 

取材・文/倉田モトキ

ギリギリを攻め続ける、ちゅきめろでぃ!…突然のスランプに「結局時間って一方向にしか進まないんだ」と実感

「セクシーがダダ漏れしてしまうコスプレイヤーでゲーマー」の肩書きで活動するYouTuberちゅきめろでぃ!さんを知っていますか? 丸メガネにツートンカラーのヘアスタイルに、目のやり場に困ってしまうダイナマイトなボディをエロかわいく見せてくれるプロゲーマー女性……YouTubeの「おすすめショート動画」に登場して、つい目を止めてしまった経験はないでしょうか。ちゅきめろでぃ!さんの素顔に迫るインタビューを前後編に分けて紹介する後編。YouTubeの年齢制限に引っかからない、ギリギリを攻める企画力で視聴者を楽しませるちゅきめろでぃ!さんですが、病んだ時期もあったといいます。

 

【関連記事】ちゅきめろでぃ!って一体どんな人?“セクシーがダダ洩れしてしまうコスプレイヤーでゲーマー”が赤裸々に語ります

 

ちゅきめろでぃ!…9月8日生まれ。埼玉県出身。身長154cm。グラビアタレント、YouTuber。フォートナイトのゲーム実況で認知度を上げる。大のラジコン好き。スタイルを生かしたグラビアや動画投稿を主に行っており、定期的な配信により熱烈なファンが多い。「ゲームをプレイすることで生計を立てている人」という定義に則り、自身をプロゲーマーと称している。YouTubeXInstagramTikTok

【ちゅきめろでぃ!さん撮り下ろし写真】

 

元地下アイドルで「週4レッスン、週2ライブで合間にバイト」

──Xでコスプレ写真がバズるなど、写真での表現力に長けていますが、もともとグラビアアイドルをやっていたと思うほどです。

 

ちゅき いえいえ。グラビアはやっていませんが、ほんのちょっと、秋葉原で地下アイドルをしていたことはありました。高校を卒業してすぐから、1年半くらいですね。

 

──地下アイドルということは、歌って踊っていたんですね。

 

ちゅき そうですね。週4でレッスンして、週2でライブして、合間に居酒屋でバイトして生活費を稼いで、すごく忙しかったです。

 

──もともとはアイドルになりたかったんですか?

 

ちゅき そうなんです。AKB48がすごく好きで、前田敦子さんが好きで。父は昔から私のことを「かわいい」と言ってくれるので、小学生のときに「あっちゃんかわいい!」とか言っていたら「オーディションに応募してあげるよ」と言ってくれて。小学生ながら現実が見えていたので「いやいや、マジでムリだから大丈夫だよ。私には私の道があるから」なんて言って応募はしなかったんですけど、結局地下アイドルになって。

 

──いいお父さんですね。地下アイドル時代も応援してくれていたんですか?

 

ちゅき はい! デビューライブには両親ともに来てくれて。地下のすごい狭い箱でぎゅうぎゅうになっていました(笑)。

 

──そんな地下アイドルを辞めた理由は?

 

ちゅき いやあ、はっきり言うと、日々同じことの繰り返しで、Xのフォロワー数もメンバー全員合計で1000人とかで、全く伸びないなあって思って。お客さんはメンバー全員のファン合わせて7、8人くらいだし。新規開拓として配信アプリをやり始めましたが、そこでついたお客さんが古参ファンに潰されたりして、それをプロデューサーに相談してもなにも動いてくれなくて。アイドル活動自体は楽しかったけど、未来が見えなかったんです。それで「辞めます」と。地上もムリだし地下もダメで、「普通の人間として普通に生活しよう」と思って、バイトするようになって。

 

──それでそのあと、コロナ禍が来るわけですね。

 

ちゅき そうです。それで急に「私は動画でイケる!」となって、今に至ります。

 

「いま思うと病んでいた時期はあった」

──今はファンティアもやっていますが、どんな運営をしていますか?

 

ちゅき 思いきってファンクラブを立ち上げまして、グラビア写真を投稿しています。写真の方向性やイメージは、大好きな東雲うみちゃんを参考にしています。私がうみちゃんの写真やファンへの対応を見て「好き!」となっているように、私のファンの方もそうなっているのかな、と仮定して、「みんな、こういう衣装でこういう場所で撮ったら喜んでくれるだろうな」と想像して撮っています。

 

──ファンファーストですね。

 

ちゅき そうですね。みんなのことをずっと考えているから、みんなが好きなこと・嫌いなこと、大抵当たります。やるからには満足度の高いものを意識したいですね。一方で、同時期に始めた女性実況者がみんな辞めていっちゃうんです。多分いろいろなムリが生じて辞めてしまうんだと思いますが、私はみんなの期待に長く応えたいから、ムリせずにやっていこうと思っています。

 

──皆さんが辞めてしまう理由はなんでしょう。

 

ちゅき いや突然です。突然「動画投稿を無期限休止します」と宣言して辞めてしまうんです。私がキャプテンに声をかけてもらった時期には、キラキラした女性実況者がたくさんいましたが、ほとんどいなくなってしまって。別ジャンルにいった子もいますね。でもやっぱり、イヤなことを言われてイヤになって、休んで、そうするとなかなか復帰できない……という印象があります。

 

──ちゅきめろでぃ!さんにもそういった時期はありましたか?

 

ちゅき 今思うと病んでいた時期はありました。悩んで、いろんな方向性を探っていました。2022年春ごろ、YouTubeの登録者が5万人くらいになって、違うことにも挑戦してみたいと思って。急に「運動神経がめちゃくちゃいいチャンネル」みたいなのを始めたんです。バク転したりとかするんですけど。最初はファンの方が見てくれていましたが、本当につまらない動画だったから全く伸びなくて。今振り返っても意味が分からないチャンネルでした(笑)。

 

──時期的に、キャプテンさんとのコラボ動画の後ですよね。

 

ちゅき そうですね。具体的には、2021年5月に貯金が70万円あって、7月に30万円でPC一式を買って40万円になって、11月~12月にキャプテンとのコラボがあって、その翌月にYouTubeが収益化しました。ただ、入ってくるお金は、ギリギリ生活できるくらいの額です。余裕のある時期はなくて。

 

動画が伸びないと「このまま終わる」という心境に

ちゅき それに当時は、世間に注目されないことが一番の恐怖であり、「自分の存在が世に認められないのではないか」という恐怖心が常につきまとっていました。お金の心配より、そっちの心配が大きかった。「この状況はいつかよくなる」「いつか人気になるから、それまではとにかく数字を伸ばして頑張るんだ!」と自分に言い聞かせていましたね。

 

──そんななかでサブチャンネルを開設して。

 

ちゅき サブチャンネルは1か月くらい続けて、急に「すべてのチャンネルを休止します」という動画を出して、実際に1か月間くらい休止したんです。YouTubeの収益は7万円くらいで、家賃しか払えないくらいで。収入が下がることで生活が苦しくなることよりも、収入が下がる=自分の価値が落ちる、というマインドになって気を病んでました。「私なんてこの世にいてもいなくても一緒だ」みたいな。

そんなときにアンチコメントを目にすると、その言葉が正しいと思ってしまうんですよね。優しい言葉もたくさんあるのに、アンチコメントだけをピックアップして「ほらね、こんなにたくさんの人が『かわいくない』って言ってるじゃん。私はやっぱりかわいくないんだ」みたいな。どんどんそんな精神状態になり、知り合いの実況者から「休んだほうがいい」と言われて、休止することにしたんです。

 

──休止中はどんなことを考えて、どんな生活をしていましたか?

 

ちゅき 時間気にせず寝て起きて、スマホを見たりごはんを食べたりゲームしたり……そういう生活を続けていると、1週間くらいで「暇だなー」と思ってきまして。そう思える余裕がでてきたんです。それで「結局時間って一方向にしか進まないんだな」と実感して、私は前に進むしかないんだと思い至り、少しずつ動画のことを考えられるようになりました。そのうちいい動画の企画が思い浮かぶようになり、「よし、復帰しよう!」と思えたんです。

同時に、このタトゥーを入れたのもこの時期なんですよ。まずは髪の毛をオレンジにして。それと同時に「死ぬくらいならタトゥーを入れよう」と衝動的に思いまして。自分の好きなことをしたいのと、助けを求めていたことの表れだったように思います。

 

──入れたことで、心境の変化はありましたか?

 

ちゅき 自分の体を見るのが好きになって、「かわいい!」と思えて写真もたくさん撮るようになって、明るくなりました。そのころから自撮りをたくさんするようになって、Xでもいい反応がもらえるようになって、ファンティア開設にも繋がります。

 

──それからは休止せずに。

 

ちゅき そうですね。当時は少しでも動画が伸びなくなるともろにダメージを受けて「あ、私はこのまま終わるんだ」という心境になっていましたが、今は伸びなくても「またそのうち伸びるだろう」と思えるようになりました。というのも、理由は分かりませんが、私の動画は3か月おきに伸びて止まって、伸びて止まって……みたいなことを繰り返すんですよ。そういうサイクルがわかったので、気にしないようになりました。あとは、昨年6月にXでバズった経験もいい影響を生みました。

 

「私には、失敗を恐れて迷っている時間はない」

──どんなポストでバズったんですか?

 

ちゅき 『SPY×FAMILY』のヨルさんのセクシーなコスプレをAmazonで見かけて、ずっと欲しいなと思っていたんです。でも高くて、買うのをためらっていました。伸びなかったら恥ずかしいですし。そんななか、ある本を読んだときに「君は完璧が大好きなだけの、不完全な人間なんだよ。だからいますぐに本気を出さなければいけない」といった一節がすごく刺さりまして。「高い買い物をして失敗したらどうしよう、なんて迷っている時間はないんだな」と思って、そのコスプレを買う決心をしたんです。それでコスプレ画像をポストしたら、3万いいねもらえたんです。

そこから波に乗り始めて、すぐに違うコスプレたり、自分のYouTube企画をほかの子がマネしてバズらせてくれたりして、いい流れを実感しました。

 

──失敗を恐れずに挑んだら、いい結果がついてきたんですね。

 

ちゅき そうですね。私は「失敗したらどうしよう」なんて、ぬるいことを言っている場合ではないんですよ。

 

──本はよく読むんですね。

 

ちゅき そうですね。高校生のころからビジネス書を読んでいましたし、そこで自己プロデュースについて私なりに解釈するようになりまして。自己プロデュースって、「自分がなりたいものをできる限り細かく再現する、マネする」ということだと思っていて。「なりたいもの」のいいところを吸収して、プラス、自分ならではのよさを付加価値としてつける、ということなのかなと思っています。

逆に、どんなに売れている人でも、その人にできないことがあるはずで、それは私ができることかもしれないんです。

──セクシー路線の転機になったのも、まさにそういった考え方ですよね。かわいいコスプレでバズっていた女性をお手本にしつつ「彼女はできないけど、自分ならできること」としてセクシーなコスプレをやるようになった、と。

 

ちゅき まさにそうです。

 

──ただ、特にセクシー路線は「行き過ぎてしまう」という危険性もあったかと思います。でもちゅきめろでぃ!さんは、行き過ぎずに絶妙なバランスを保っています。

 

ちゅき 確かに、そこが一番の懸念事項でしたね。「もっとやってほしい」というDMもたくさん来るし、そういう声に付き合ったら絶対にいま以上バズるのは分かっていますが、「それは違う」というボーダーラインはしっかりと持っています。

 

──はっきりとした線引は、自己プロデュース力の賜物かと思います。最後に、今後の展望を教えてください。

 

ちゅき YouTubeの登録者100万人を目指しながら、マルチに活動していきたいですね。自分にできる仕事は、なんでも一生懸命やっていきたいです!

 

<撮影後……ちゅきめろでぃ!さんが前転に挑戦>

<ちゅきめろでぃ!さんがGetNaviTVに登場!>

6/14(金)午後9時公開
【自撮りのプロ、#SONYZV-1II 】セクシーすぎる実況者が選ぶ5つの仕事道具【Case08/ ちゅきめろでぃ!】

https://youtu.be/5hmU2xaHmag

 

 

 

撮影/中田智章 取材・文/有山千春

ちゅきめろでぃ!って一体どんな人?“セクシーがダダ洩れしてしまうコスプレイヤーでゲーマー”が赤裸々に語ります

「セクシーがダダ漏れしてしまうコスプレイヤーでゲーマー」の肩書きで活動するYouTuberちゅきめろでぃ!さんを知っていますか? 丸メガネにツートンカラーのヘアスタイル、目のやり場に困ってしまうダイナマイトなボディをエロかわいく見せてくれるプロゲーマー女性……YouTubeの「おすすめショート動画」に登場して、つい目を止めてしまった経験はないでしょうか。YouTubeの年齢制限に引っかからない、ギリギリを攻める企画力で視聴者を楽しませるちゅきめろでぃ!さんの、知られざる素性に迫りました。

 

ちゅきめろでぃ!…9月8日生まれ。埼玉県出身。身長154cm。グラビアタレント、YouTuber。フォートナイトのゲーム実況で認知度を上げる。大のラジコン好き。スタイルを生かしたグラビアや動画投稿を主に行っており、定期的な配信により熱烈なファンが多い。「ゲームをプレイすることで生計を立てている人」という定義に則り、自身をプロゲーマーと称している。YouTubeXInstagramTikTok

【ちゅきめろでぃ!さん撮り下ろし写真】

きっかけはコロナ禍の休業「貯金を切り崩して機材を買った」

──活動のきっかけはYouTubeですか?

 

ちゅきめろでぃ!(以下、ちゅき) いえ、TikTokからです。コロナ禍で東京がロックダウンして、どこにも行けない時期の2021年5月下旬にTikTokアカウントを作って、スマホで編集した「フォートナイト」の実況動画を投稿したのが最初です。当時はTikTokかYouTubeを見るくらいしか楽しみがなくて。ずっと見ていたら、「これ、私でもできるんじゃないか?」と急に思って。それで思いたったらすぐに機材を集めて、動画投稿を始めました。

 

──動画編集は未経験で?

 

ちゅき そうです。全くの未経験です。

 

──当時はどんな動画を見ていましたか?

 

ちゅき ゲーム実況か『HIKAKIN TV』くらいでした。ヒカキンさんは大好きで、更新されたらとりあえず見ていましたね。

 

──ゲームは「フォートナイト」をやっていたんですか?

 

ちゅき いえ、「スプラトゥーン」ばかり毎日やっていました。スプラの実況じゃなくて「フォートナイト」の実況をしようと思ったのは、当時、すごく盛り上がっているように見えたからです。これはスプラよりも伸びるんじゃないかと思って。それで、顔は出さずに「初心者プレイ」を前面に出した動画を投稿し始めたんです。

 

──当時のお仕事は?

 

ちゅき アルバイトをしていましたが、コロナ禍の影響で休業してしまって。いずれお店は復活するだろうと思っていましたが、2か月くらい仕事が全くない時期が続いて、なにもすることがなくて。働いていないので、機材は貯金を切り崩して買いました。「もう私は動画で食べていくんじゃ!」という勢いで(笑)。

 

──「次のアルバイトを探そう」ではなく、動画制作に振り切ったのはなぜでしょう。

 

ちゅき 性格的に、1か100しか選べないんですよ。そのときは真剣に「私ならできる」と信じていました。

 

──ちなみに、当時の貯金額は?

 

ちゅき 70万円くらいです。最初はマイクだけを買ってiPadで編集していましたが、投稿を始めて1か月後にPCが欲しくなって、PCとケーブル、モニター、机とか、一式で30万円くらい使いました。

 

──70万円のうちの30万……なかなかハラハラする額ですね。

 

ちゅき ですよねえ。でも「なんとかなる! えーい!」って買っちゃいました(笑)。

 

フォートナイトの練習に熱中し、1日1食ゆで卵1つ

──投稿ペースはいかがでしたか?

 

ちゅき 最初のうちは毎日投稿していました。それくらいしかやることがなかったし、とにかく「伸びるためにはどうしたらいいんだ」と毎日考えて、行動を止めちゃいけないなと思って。

 

──女性実況者が顔出しをせずに伸ばすには、どんなコツがありましたか?

 

ちゅき いや、案の定伸びなかったんですよ。ただ、3日で辞めてしまったら伸びない原因も分からないままだから、1か月は続けようと思って。それで「全く伸びませんでした」という結果が出たので、じゃあどうしようかと。次に「50日チャレンジ」という企画に切り替えました。初心者が毎日練習して、リアルタイムを見せ続けて、50日後にどれくらいうまくなっているか、という企画です。2か月弱、毎日ちゃんとやりましたが、それでも全く伸びず……。

 

──それでも「諦めよう」とはならず。

 

ちゅき ならなかったです。「私ならできる」という気持ちが強すぎて、「まだまだ途中じゃん。次に行こう」という気持ちで、めげなかったんですよね。

 

──現実は、貯金が目減りしていくと思います。

 

ちゅき 家賃が安かったので普通に暮らしていけたし、私は食に執着がないのでそんなにお金を使わずにやっていけていました。それに、「50日チャレンジ」中は追い詰められていて、食べる暇もないくらい練習していましたし。1日ゆで卵1つとか、そんな食生活でした。

 

──ストイック! そのころ、フォロワー数は?

 

ちゅき 「50日チャレンジ」をして、配信もして、とにかく行動していたからか、1万人くらいは集まっていました。でも自分の計算では、「1か月1万人増」じゃないとダメだったので納得はしていませんでしたね。それで、「そろそろYouTubeに人を集めてお金を稼ぐ」という方向性にチェンジしないとまずいと思いまして。そのころからYouTubeでも配信するようになりました。

やっぱりTikTokで伸びる人はYouTubeでも強い気がして、TikTokで得たファンをYouTubeに連れてこないと、と思いました。YouTubeで一からファンを獲得するという画が見えなくて。だからTikTokをすごく大事にしていたんです。

 

──YouTubeを開設してからも、TikTokはずっと続けていたんですね。

 

ちゅき はい。相変わらずゲーム実況だけを投稿していましたが、徐々にTikTokのトレンドがダンス動画になり始めていた時期で。私と同時期に開設した女性実況者が、フォートナイトのコスプレをしてエモートをダンスするようになって、めっちゃバズり始めたんです。一方で私は、寝る間も惜しんで「50日チャレンジ」しているのに全く人気がない……という状況でした。

 

同期女性実況者のコスプレ大バズリに「すごいと思うと同時に、悔しかった」

ちゅき それで、私もそういう方向性でやってみようと思い、急に顔出をしてダンスなどもするようになったんです。それからは、TikTokでもYouTube配信でも、顔を出せるときは出すようになりました。

 

──当時は、現在のセクシー系ではなく。

 

ちゅき そうですね。真面目にゲームと向き合ってプレイしていました。夏~秋頃になると、顔出しダンスのおかげか以前よりはフォロワーも増えていました。そこで分かったことが、「顔出ししただけで、最初のころの努力をあっという間に超えるんだ」ということ。あんなにストイックに頑張る必要はなかったんだなと思いましたね。

同時に刺激を受けたのが、同時期に活動し始めたコスプレイヤーの子です。Xのフォロワー数は彼女が1000人、私は200人、くらいの数字で。彼女はコスプレのクオリティが高くてすごくかわいくて、あるとき、コスプレが大バズリして「1万いいね」いって。あっという間に人気実況者の目に止まり、「この子がすごい」と拡散され、彼女は動画を1本も上げていないのにYouTubeの登録者数が8000人になったんです。

 

──人気実況者の拡散力が決め手だったんですね。

 

ちゅき そうです。私は地道に頑張って、「やっと2000人達成か~」とか言っていたのに、すごいなあと思いました。すごいと思うと同時に、やっぱり悔しくもありました。「かわいい」ことはこんなに素晴らしく価値のあるものなのかと思い知らされて。一方で私は、なんなのかよく分からない存在で。私にも何かフックがないとダメなんだと実感しました。

そこで、彼女と同じ方向性のコスプレをするのは違うよなあと、いろいろと考えている中で、フォートナイトのコスチュームをエロかわいく描いている絵師さんのイラストにたどり着いて「これだ!」と思ったんです。「よし、私はエロかわいいコスプレを自分で作って、あの子にできないコスプレをしてやろう!」と。それが、セクシーの道に歩み出したきっかけでした。

 

──そこに転機があったんですね!

 

ちゅき はい。あの子が正統派のかわいいコスプレだとしたら、私はセクシーで攻めてるコスプレ、という立ち位置を意識しました。それをTikTokでやり始めたら、2か月後、当時登録者数20万人のキャプテンしょーたさんという実況者の動画のサムネに、急に私の顔がバーンと載っているのを見て。「キターーー! この日を待っていました!」みたいな。その瞬間から、フォロワーが爆発的に増えました。

 

──発掘してくれたんですね。

 

ちゅき はい。動画制作を始めた当初の「私ならできる」と信じていたことが、ようやく数字となって表れたといいますか。自分を信じていたけど自信はなくて、でも世間が私の良さに気づいてくれたような気がして。「ここからがやっとスタートだ!」と思いました。

 

脱衣フォートナイト企画に「大丈夫?」と心配の声

ちゅき それまではYouTubeでは配信しかしていませんでしたが、動画投稿もするようになり、キャプテンしょーたさんとのコラボ動画の話をいただいて。さきほど話したコスプレイヤーの子とキャプテンとのコラボ動画は100万再生を超えていたので、「私も超えたい!」と思って。どうしたら私が100万を超えることができるのかと考えたとき、「1キルするごとに、1枚ずつ脱いで写真を撮る」という企画をキャプテンに提案してみました。キャプテンは「そんな企画をして大丈夫?」と心配そうでしたが、私は「もう分かりません」みたいな(笑)。でも、「今いる1万人のファンが全員いなくなったとしても、今のファンに申し訳ないけど、私はこの企画で10万人のファンを手に入れたいんです!」という意気込みを伝えました。

 

──セクシー方向でやっていくという覚悟を感じます。

 

ちゅき それでキャプテンと2人、気合を入れて動画を出して。今その動画はもうすぐ200万再生を超えますが、その動画から「フォートナイト」界隈で「ちゅきめろでぃ!」という存在が広がったという実感があります。

 

──1000人時代のファンの方の反応はいかがでしたか?

 

ちゅき みんな優しかったです。誰一人「え~……」という人はいなくて「コラボおめでとう!」「面白いね!」という反応ばかりで、気持ちよく今の路線にいくことができました。

 

──ストイックに努力してきた姿も知っているから、温かいんでしょうね。それに、ちゅきめろでぃ!さんの“エロ”のバランスはとても絶妙だと思います。ちゃんとエロいしそそられるけど、露骨ではない。そのバランス感覚の根源を知りたいです。

 

ちゅき 最初にエロの方向に行くと決めたとき、さまざまな課題がありました。広告がつかない可能性や、YouTubeの収益が全く入らない可能性、案件も入ってきにくいとか。つまり“YouTubeでエロをやる=再生数は取れるけど収益化が難しい”と。そういったことを周囲の方に教えてもらい、「それでも私は、お金にならなくても、まずは有名になりたいんです」という決意がありました。

エロ路線のきっかけになったキャプテンは優しくて、以降も私のチャンネルを気にかけてくれました。キャプテンが常に言っていたのは「YouTubeのエロは、面白くなきゃダメなんだよ」ということでした。「ただエロいだけの動画を、男はYouTubeでは見ない」と。

 

セクシー動画は「サムネイルとタイトルが命!」

──確かに、ただエロいだけの動画はYouTubeじゃなくともありますもんね。

 

ちゅき 「男はなんのためにYouTubeでエロい動画を見たいと思うのか」という行動原理を真剣に教えてくださいました。だから私は、次の企画を考えるときに「キャプテンならどうするか」ということを基準にしていました。

 

──その基準、「超えちゃいけないライン」は、感覚的に分かるものですか?

 

ちゅき ほとんどのYouTubeのエロ系動画って、そこまで爆エロのものってないんですよね。YouTubeには、はっきりと書かれてはいないもののガイドラインがあるので、それを理解するところからスタートしました。意識するのは「超えちゃいけないライン」というより、いかにサムネイルとタイトルで仕掛けるかだと思っています。そこが、再生数を左右する一番需要なポイントですね。動画の内容は面白さや構成を重視するのはもちろん、サムネイルは気持ちの悪いエロは避けています。なんていうんでしょう……擬音を使わないというか……。

 

──生々しさを排除する?

 

ちゅき そうです! 生々しくならないように、1枚1枚丁寧に作っています。

 

──一番こだわっているのはサムネイルなんですね。

 

ちゅき 動画を撮る前にサムネイルの画が頭にパッと浮かぶときは、すごく調子良く撮れるんです。

 

──企画はどうやって考えていますか?

 

ちゅき 自分の人気企画や、伸びている人の動画をたくさん見て「自分がやるなら」と考えたときにピンとくるサムネイルが浮かんだら……というところがスタートです。そこから中身の構成を考えます。

 

──トータルどれくらい時間をかけますか?

 

ちゅき 重い企画は準備に丸1日+撮影に丸1日、合計2日半、とかでしょうか。さきほどのエロのラインについての話に戻りますが、実は1年前はラインを超えたガチエロの動画もあったんです。それは今も残っていて、再生回数の上位に上がってきています。例えば、「キルするごとにルーレットで出た部位を見せたらガチで奇跡おきたwww」とかは、見せ方が悪かったなと反省しました。内容は全くエロくないんですが、年齢制限がかかってしまいました。このころは、まだまだ理解が浅かったんです。

 

ちゅきめろでぃ…9月8日生まれ。埼玉県出身。身長154cm。グラビアタレント、YouTuber。フォートナイトのゲーム実況で認知度を上げる。大のラジコン好き。スタイルを生かしたグラビアや動画投稿を主に行っており、定期的な配信により熱烈なファンが多い。「ゲームをプレイすることで生計を立てている人」という定義に則り、自身をプロゲーマーと称している。

 

<ちゅきめろでぃ!さんがGetNaviTVに登場!>

6/14(金)午後7時公開
【自撮りのプロ、#SONYZV-1II 】セクシーすぎる実況者が選ぶ5つの仕事道具【Case08/ ちゅきめろでぃ!】

https://youtu.be/5hmU2xaHmag

 

<ちゅきめろでぃ!さんインタビューは後編に続く>

6/15(土)午前10時30分公開
ギリギリを攻め続ける、ちゅきめろでぃ!…突然のスランプに「結局時間って一方向にしか進まないんだ」と実感

 

 

撮影/中田智章 取材・文/有山千春

小野賢章&富田美憂「この映画を観て、子を思う親の気持ちを感じてもらえれば」映画「好きでも嫌いなあまのじゃく」

『ペンギン・ハイウェイ』や『泣きたい私は猫をかぶる』など話題作を世に送り出してきたスタジオコロリドの待望の長編アニメ・映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』が現在公開&配信中。人間と鬼の世界を舞台に、少年少女の冒険や旅の先々で経験する大人たちとの交流など、多くの世代の心に響く内容となった本作。W主演を務めた小野賢章さん、富田美憂さんにキャラクターたちの魅力、アフレコの様子などをたっぷりうかがった。

 

【小野賢章さん&富田美憂さん撮り下ろし写真】

 

柊とツムギは足りない部分を補い合っている、互いに大切な存在

──この作品は“誰かに必要とされたい”と願う高校1年生の柊と、消えた母親を探している鬼の少女・ツムギの冒険譚です。お2人はご自身の役にどのような印象を持ちましたか?

 

小野 柊には親友と呼べる存在がいないんですよね。でもそれは引っ込み思案だからとか、そういうわけでもなくって。友達を作る行動はしているけど、どこか空回りしてしまっている。空気を読み過ぎて、相手の懐にあと一歩入り込めない男の子という感じがしました。

 

富田 ツムギにはたまに周りが見えなくなるところがありますけど、柊は逆に見過ぎちゃうんでしょうね。でも、柊には客観的に自分以外を見られる良さがあるし、精神的に大人だなと思いました。

 

小野 確かに。ただ、柊にはツムギのように初めて会う相手や大人に対してガツガツと言えるところがないから、柊からすれば、ツムギのほうが大人っぽいと感じているかもしれないですね。

 

──富田さんから見てツムギはどんな女の子ですか?

 

富田 鬼であるというところ以外は至って普通で、年相応の天真爛漫さがある子だなと思いました。賢章さんがおっしゃったように、自分の思ったことをハッキリと口に出せるタイプですし、きっと頭で考えるよりも先に行動に移せてしまう子なんだと思います。

 

──確かに2人が出会ったばかりの頃は、なかなかすぐに行動に移せない柊に対し、ツムギがちょっとモヤモヤしているところがありましたよね。

 

富田 そうなんです。“なんではっきり言えないの?”っていう苛立ちみたいなところもあって(笑)。ただ、柊は大人と会話をするときにちゃんと敬語を使うけど、ツムギは“敬語が苦手なのかな……?”って思えるようなお茶目なところがある。それぞれに良さと短所があるんですよね。

 

小野 お互いに足りないところを補い合っている存在だとも言えるし。だから性格は正反対だけど、相性はいいんだと思います。

小野賢章●おの・けんしょう…10月5日生まれ。福岡県出身。4歳から子役として活動を始め、12歳から映画『ハリー・ポッター』シリーズの日本語吹き替え版でハリー・ポッター役を務める。主な出演作に『黒子のバスケ』(黒子テツヤ)、『アイドリッシュセブン』シリーズ(七瀬陸)、『SPY✕FAMILY』(ユーリ・ブライア)など。声優活動に加え、ミュージカルや舞台にも多数出演し、俳優としても注目を集めている。公式HP XInstagram

 

──なるほど。

 

富田 ただ、急に大人だらけの空間に放り込まれたとき、きっと一番かわいがられるのはツムギみたいな、物怖じせずに何でも言えちゃう子なんですよね。

 

小野 そうなの?

 

富田 私、年下の兄弟がいるんですけど、真ん中の弟がまさにツムギタイプなんです。小さい頃から大人に囲まれると、「おまえはかわいいな」って言ってもらっていて。それを見ながら、“私にはない部分だなぁ”っていつも思っていました(笑)。

 

──それを思うと、旅先でツムギが倒れ、柊が旅館の方に「ここで働かせてください!」と談判する姿は、大人を相手にすごく頑張っていましたよね。

 

小野 なかなかすぐに行動に移せない柊とは思えない積極さがありましたし、実は彼ってすごく頑固な一面を持っているんだなと知れたシーンでした。それに、ツムギの体を気遣って休ませるためにあそこまで必死に頼み込んでいて。もしかしてツムギのことが好きなのかな? って、ちょっと思いましたね。

 

富田 早くないですか?(笑) だってあのシーンって、2人が出会ってからまだ2日目とかですよね。

 

小野 うん。でも、柊くらいの年頃の男の子って、好きな女の子からかっこよく見られたいという思いがあるじゃない? だから頑張れたのかなって。ものすごく勝手な妄想ですけど(笑)。

 

富田 そっかぁ〜。

 

小野 と言いつつ、ツムギの意識が戻って、「助けてくれたの?」って聞かれたとき、「いや、旅館の人たちが助けてくれたんだよ」って返していて。あの言葉から考えると、純粋にツムギのためになんとかしてあげたいと思ったのかなという気もしました。

 

──柊のツムギに対する思いは、いろいろと想像させられますよね。

 

小野 そうですね。そもそもツムギと出会い、彼女から「一緒に母親を探してほしい」と言われたことが、柊にはすごくうれしかったんだと思います。彼は学校でもよくクラスメイトに「これ、やっといてくれる」って頼まれることがありましたけど、それは言うなれば押し付けに近くて。でも、ツムギから言われたときは、本当に自分が必要とされていると感じた。だから、彼女と一緒に行く決心をしたんでしょうね。

 

──反対に、ツムギが柊に頼み込むとき、“柊じゃないとダメだ”という思いがあったと思いますか?

 

富田 う〜ん、どうかなぁ……。

 

小野 いや、あれは計算だと思う(笑)。

 

富田 はははははは!

 

小野 だって、あのシーンのときのツムギは単純に柊を利用しようと思っていただけでしょ?

 

富田 はい! 目的のために!!(笑) でも、聞いてください。ツムギの行動原理には大前提として、消えた母親にとにかく会いたいという、強い思いがあるんです。ですから、最初のうちはそれを助けてくれる人が柊でなくてもよかったという思いはあったはずで。ただ、それが一緒に旅をすることで、だんだんと“柊だから頼みたい”に変わっていく。そうした心の変化もこの作品の見どころの1つになっていると思います。

 

母親を思い続けるツムギの感情と、意外と頑固な柊に注目を

──アフレコはいかがでしたか?

 

小野 こうした単発長編作品だと1日で一気に録ったり、多くても2日で録り切ることが多いんです。でも今回は4回に分かれていて、2人で一緒に収録もできたので、丁寧に作ることができたなという印象があります。

 

富田 私、最初の頃はすごく探り探りでした(笑)。賢章さんとここまでしっかり共演するのは初めてでしたし。

 

小野 僕も柊の高1という設定には少し苦戦しました。最近は大人の役を演じる機会も増えてきたのですが、ここにきて年齢がまたぐっと下がって(笑)。高1というと、ほぼ中学生ですしね。でも、監督がすごく時間をかけてくださったんです。アフレコ前には監督が抱いているキャラクター像の説明を細かく教えていただく時間もあったので、役作りはとてもスムーズでしたね。

 

富田 そうでしたね。収録時はまだ映像が完全にはできておらず、物語に登場する“本当の気持ちを隠す人間から出る”という《小鬼》についてもたくさん説明をいただいて。おかげで頭のなかでイメージしながら演じることができました。

富田美憂●とみた・みゆ…11月15日生まれ。埼玉県出身。2015年に声優デビュー。主な出演作に『アイカツスターズ!』(虹野ゆめ)、『メイドインアビス』(リコ)、『かぐや様は告らせたい』シリーズ(伊井野ミコ)、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(チュアチュリー・パンランチ)など。朝の情報番組『ZIP!』(日本テレビ)のコーナーにておどろんの声を担当。2019年、『Present Moment』でソロアーティストとしてデビューし、音楽活動も行っている。公式HPXInstagram

 

──アフレコで特に印象的だったシーンはありますか?

 

富田 物語の序盤のほうなんですが、ツムギが柊のお母さんにお風呂上がりに髪をすいてもらう場面があるんです。そこで監督から、「多分、ツムギは母親からあまりこういうことをしてもらった経験がないから、気恥ずかしさやちょっとドキドキしている感情も出してみてください」というディレクションを受けて。それ以来、彼女が母親を思う気持ちというのが物語の要所要所に出ればいいなということを意識するようになりましたね。

 

小野 僕はやはり旅館のシーンが印象的でした。柊って、譲らないときは本当に譲らないんだなって思いましたし。だって、女将さんから何を聞かれても、「ここで働きたいんです!」しか言わないんです(笑)。

 

富田 3〜4回くらい繰り返していましたよね(笑)。

 

小野 あの、“てこでも動かんぞ!”という柊の意志の強さは本当に意外でした。

 

──また、今作ではツムギと母親に関することだけでなく、柊と父親の関係性も描かれています。それぞれのキャラクターの立場から見た父親、母親はどのように映りましたか?

 

小野 柊の父親は「俺の言ったとおりにしておけば間違いないんだ」と考えを押し付けるタイプなんですよね。柊にとっては自分のやりたいことを優先させてもらえないから、もしかしたら父親に大事にされていないんじゃないかと不安を感じている部分もあるのではないかと思います。だからこそ、ツムギに「一緒に行こう」と言われて着いていく。それがまるで家出のようにも思えて。子どもが家出をするのは、大抵が親に構ってほしいときだと思いますし。

 

富田 “探さないで”って言いつつ、本心では“絶対に探しに来てよ”って思ってるような?

 

小野 そう(笑)。だから、父親のことが決して嫌いなわけではないんだけど、自分が思っていることをちゃんと伝えたいし、聞いてほしいという気持ちがあったんじゃないかなって思いますね。

 

富田 私はこの作品に触れて、“親も人なんだな”と、より強く思いました。私自身、長きにわたり反抗期を続けていた過去がありまして(苦笑)。ある日、母と大げんかをし、思わず「こんな家なんかに生まれなければよかった」って言ってしまったことがあるんです。それを聞いた母が目の前で号泣して。その瞬間は、“どうしてこんな言葉なんかで?”と不思議に思ったのですが、自分が大人になって振り返ると、“お母さんだって人なんだから、あんなことを言われたら絶対に哀しむはずだ”と分かり、すごく反省したんです。当時は気づくことができませんでしたが、親はいつも子どものことを見ているし、私のためを思ってしてくれていたことや、かけてくれていた言葉がたくさんあって。それがどれだけ幸せなことなのかが今ではよく分かるので、この作品をご覧になり、同じように感じてくれる人がたくさんいるとうれしいですね。

 

思わず買ってしまった浮遊する電球と、一目惚れして購入した念願のレスポール

──お2人の仕事道具についてもうかがいたいのですが、アフレコ現場に必ず持っていくものなどはありますか?

 

富田 多くの声優が持っていると思うのですが、持ち運びができる吸入器ですね。私は特に乾燥に弱いので、お薬を入れられるタイプのものを使用しています。

 

小野 オムロンのだよね?

 

富田 そうです。多分、みんな同じものを使っていると思いますし、私も今のもので三代目になります。

 

小野 僕はアプリのアクセント辞典ですね。

 

富田 もしかして、NHKの?

 

小野 そう。台本を読み、“あれ? この言葉の正しい発音ってどうだったっけ?”と思ったときにすぐ確認できるので、ものすごく重宝しています。

 

──では、プライベートで最近購入して、ご自身のなかでヒットだったものはありますか?

 

富田 少し前からギターを始めたんです。レスポールのエレキギターが欲しくて、都内のいろんな楽器屋さんと転々と探し歩いていたところ、渋谷のとあるお店で見つけたギターにひと目惚れをして。

 

小野 ギブソン?

 

富田 そうです。ただ、やはりそれなりのお値段なので、なかなか踏ん切りがつかなくて。その後3〜4回ほど通い、それでも欲しいという気持ちが変わらなかったので、“この思いは本物だ!”と思って(笑)、マネージャーさんたちと買いに行きました。

 

──ギターを始めたいと思ったのは何かきっかけがあったんですか?

 

富田 実家にいた頃、父がエレキギターを弾いていたんです。それに、私ももともと楽器に興味があって。すっごく昔にちょびっとだけベースをやっていた時期もあったのですが、あまり向いてないと思って、そのときは断念したんですね(笑)。でも、今は音楽活動もさせてもらっていますし、今年になり何か新しいことをしたいなと思って、意を決して始めました。

 

小野 ということは、いつか自分のライブで披露する日も……?

 

富田 そんな日が来るといいですね。今は本当に自信がなくって、果たしてちゃんと弾けるようになるかどうか不安しかないので(笑)。

 

小野 僕は結構、ガジェットが好きなんです。“それ、絶対にムダでしょ”って思われるようなものでも、興味が湧くとつい買っちゃいます。最近は宙に浮いている電球を買いました。

 

富田 あ、もしかして、磁石か何かで電球が浮いているということですか?

 

小野 そうです。インテリアとしても面白いし、浮いている電球の下にスマホを置くと充電もできて。

 

富田 おしゃれだし、便利! でも、どこでそういうのを見つけるんですか?

 

小野 たまにショート動画とかで、「今きてるガジェット!」とか、「買ってよかった家具」みたいなのが流れてきて、面白そうだなと思うと、気づいたらポチリと押してますね(苦笑)。

 

富田 つい買っちゃう気持ちは分かります。私、ワンコを飼っているんですが、ワンちゃん用の給水器を最近新しくしたんです。普通の水道水をろ過して軟水にしてくれるというもので。そしたら、ガブガブ飲んでくれて(笑)。その姿を見て、買ってよかったなぁって思いましたね。

 

 

映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』

Netflix世界独占配信&日本劇場公開中

【映画『好きでも嫌いなあまのじゃく』よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
監督:柴山智隆
脚本:柿原優子・柴山智隆
出演:小野賢章、富田美憂、浅沼晋太郎、山根 綺、塩田朋子、斎藤志郎、田中美央、ゆきのさつき、佐々木省三、日髙のり子、三上 哲、京田尚子ほか

(STORY)
みんなに嫌われたくないという想いから、頼まれごとを断れない性格になってしまった高校1年生の柊。季節外れの雪が降ったある夏、柊は泊まるあてがないという女の子・ツムギと出会い、彼女を助けることに。そしてツムギを家に泊めたその夜、事件が起きる。寒さで目を覚ますと、目の前にいたのはお面をつけた謎の化け物。そして、ツノが生えた鬼の姿のツムギがいた。彼女は物心つく前に別れた母親を探しているといい、ツムギからの願いを断りきれず、柊は彼女と一緒に旅に出る。

 

公式HP:https://www.amanojaku-movie.com/

 

撮影/干川 修 取材・文/倉田モトキ ヘアメイク/yuto スタイリスト/DAN (kelemmi)

出口亜梨沙「怖い映画はなかなか観られないけれど、気になる人には、ちょうどいい怖さです」映画『THIS MAN』

“世界各地で人々の夢に現れた謎の男”として2006年頃から世界的に話題を集めたインターネットミーム「This Man」。それに日本独自の解釈と社会風刺を加えて映画化したパニックスリラー『THIS MAN』が6月7日(金)より公開。本作でヒロイン・華を演じる出口亜梨沙さんが初の母親役に挑んだ思いを語ってくれました。

 

出口亜梨沙●でぐち・ありさ…1992年9月18日生まれ。大阪府出身。テレビ情報番組でのリポーターとして活動を開始し、2017年よりグラビアアイドルとしても活動を開始。それに合わせて、女優としてもドラマ、映画、舞台で活動。近年の主な出演作として映画『スーパー戦闘 純烈ジャー』(2021)、『甘い夏』(2022)、『シモキタブレイザー』(2024)、ドラマ「だから殺せなかった」(2022/WOWOW)、「キス×kiss×キス~メルティングナイト~」(2022/テレビ東京)、「ブラックポストマン」(2022/テレビ東京)など。Instagram

【出口亜梨沙さん撮り下ろし写真】

 

撮影に入るまでは、実感が湧かなかった初主演

──今回、出演オファーが来たときの感想は?

 

出口 「ついに、怖いホラー系の作品か来たか!」と思いました(笑)。私、本当にホラー映画を観るのが苦手なんです。友だちと遊園地に行っても、お化け屋敷は我慢して渋々入れるのですが、ジェットコースターはガチでけんかしてしまうぐらい怖いものが苦手なんです。ホラー映画も苦手で、一緒に観ようと誘われても断ってきたので、そんな私が出演なんて! という気持ちでした。

 

──初主演映画ということに関しては?

 

出口 台本を読んだときに、ある程度のことは分かっていたのですが、撮影に入るまでは、あまり実感が湧かなかったこともあり、「主演だから頑張ろう!」というプレッシャーもありませんでした。それで撮影が進んでいくうちに、出演シーンが多い、出番が多かったことで、改めて主演ということに気付かされた感じです。

 

──夫役としてW主演を務めた木ノ本嶺浩さんと二人三脚で乗り切った感じですか?

 

出口 撮影入る前に、木ノ本さんと天野監督と3人で、すごく話し合いをしたので、三人四脚でしたね(笑)。台本読みの時間のときに、そこで3人で擦り合わせていく作業をしました。私たちから「このセリフ、おかしくないですか?」「ここのシーン、こうしたら見え方変わりませんか?」と意見を言って、天野監督も「ここは変更しましょう」「いや、ここは変えたくないです」という感じで、私たちの意見が採用されるものと、採用されないものがハッキリしていました。

 

──今回演じられた華は、一児の母という設定でもあります。

 

出口 私はまだ結婚していませんし、子どももいないので、いろいろ分からないことだらけだったのですが、クランクイン前、昨年3月に妹に子どもが生まれたんです。それで実家に帰って、初めて抱っこしたときに、生まれたときから知る妹が出産したことに感動して、涙が込み上げてきちゃって! だから、自分に子供が生まれたら、もっと思いが強まるはず……という気持ちで、華を演じました。

 

幸せなシーンが幸せであるほど、不幸に見舞われるシーンが際立つ

──娘役の子役さんとはどういうコミュニケーションをされましたか?

 

出口 最初は「お母さん大好き!」みたいな感じで、現場でも私にはあんまり心を開いてくれなかったんですが、空き時間に木ノ本さんと3人で話す時間を作って、話しかけていくうちに、現場に持ってきたおもちゃを見せてくれたり、私がトイレに行こうとしたら「どこ行くの? 一緒に行く!」みたいな感じで付いてきてくれたんです。最終的に仲良くなれて、ホッとしました。

 

──華のキャラクターをどのように捉え、演じようと思いましたか?

 

出口 最初の印象は、ふわふわした少女の部分が抜けきれず、そこまでハッキリ自分を持っていないイメージでした。ですが、いろいろな出来事が重なっていき、自分の家族も巻き込まれていくことで、自己犠牲もいとわない強い女性に変わっていく。そういった軸を大切にして演じようと思いました。天野監督から言われたのは、「幸せなシーンが幸せであればあるほど、後に不幸に見舞われるシーンが際立つ」ということ。だから、シリアスなシーンやしんどいシーンの芝居よりも、家族3人がそろった幸せなシーンの芝居について深く考えました。

 

──撮影時のエピソードですが、やはり気になるのが二度の呪術によるお祓いシーンです。

 

出口 楽しい現場で、「あの男」役の大山(大)さんが実は撮影現場のムードメイカーだったんです。また最初のお祓いでは、私の顔に般若心経を耳なし芳一のように写経しているんですが、書道の達人でもあるメイクさんに実際書いてもらいました。2時間ぐらいかかっているんですが、自分のiPhoneでタイムラプスも撮っているんですよ。しかも、アイライナーで書かれているので、なかなか落ちませんでした(笑)。2度目のお祓いはクランクアップの撮影だったので、さらに気持ちが引き締まり、「OK」が出た後はいろんな意味で清々しい気持ちになりました。

 

──夫を演じた木ノ本さん、妹を演じた鈴木美羽さんとの共演はいかがでしたか?

 

出口 木ノ本さんはひたすら優しくて、支えになってくれるし、細かな気遣いもされる方なので「実際も、こういう旦那さんなんだろうな」と思いましたね。鈴木さんはとても人懐っこくて、一緒の撮影のときや空き時間に、すごい一生懸命しゃべってくれるんです。「こんなかわいいのに、中身もかわいいのか!」と驚きました(笑)。映画の中でも鈴木さんがずっとしゃべっているので、お姉ちゃんの優しさじゃないけれど、「そっかそっか」みたいな感じで接しているシーンになりました。実際の私は……妹がしっかりしているので、あまりお姉ちゃんぽくないですね(笑)。

 

他人軸で生きてきたヒロインが自分軸になる瞬間に注目!

──完成した作品を観たときの感想は?

 

出口 鮮やかな花の色や、画がとてもきれいで、「こんな美しい映像になるんだ」と驚きました。怖さに関しては、内容を知りすぎたぶん、分からなくなっちゃったんです。だから、友だちに「映画観に行きたいけど、怖いよね?」と聞かれても困惑していたんですが、今日の取材でインタビュアーの方に「怖かったです」と言われて、「良かったぁ」と思っています。でも、怖い映画はなかなか観られないけれど、気になるという人には、ちょうどいい怖さだと思いますね。

 

──出口さんの個人的な見どころは?

 

出口 ただのホラーやスリラーじゃない。ただの怖い映画じゃないというか、しっかり人間ドラマが描かれているので、そこに注目しつつ、「自分はこの人に当てはまるかも?」と思って観ることにより、日常をちょっと変えるきっかけ、自分が納得する生き方を考えるきっかけになればいいなと思います。他人軸で生きてきた華が、自分軸になる瞬間も観てほしいです。

 

──現場によく持って行くモノやアイテムについて教えてください、

 

出口 「今日、こういう仕事ありました」とSNS用の写真を撮るときのために、自撮り棒は必ず持ち歩いています。「写真撮ってください」と言えないとき、Bluetoothに繋げば、リモコンで撮れるんですが、実はそこまで使っていないかもしれません。でも、『THIS MAN』のロケ先では、みんなで集合写真撮りしました。

 

──ちなみに、出口さんはハマっているものは?

 

出口 何かを集めるといったコレクター癖が本当になくて、その代わり、断捨離がめちゃくちゃ好きなんですよ! すぐに捨てちゃうので、家の中もそんなに物が多くないです。上京する少し前に、「わたしのウチには、なんにもない。」というエッセイを読んで「捨てるかどうか一回悩んだ服は、その後も着ることはない」と気づいたんです。それ以来4か月に1度、季節が変わるタイミングで服を断捨離しているんですが、そのとき一緒に、ほかの物も断捨離しちゃうんです。やっぱり、何か手放さないと運気も入ってこないと思うんですよ。いつかバラエティ番組とかで、他人の家の断捨離をお手伝いするような企画をやってみたいですね!

 

 

THIS MAN

6月7日(金)より公開

 

(STAFF&CAST)
監督・脚本:天野友二朗

出演:出口亜梨沙、木ノ本嶺浩、鈴木美羽、小原徳子、茜屋日海夏、校條拳太朗、大山大、般若、アキラ100%、中山功太、津田寛治、渡辺哲

(ストーリー)
とある田舎町で連続変死事件が発生。被害者は全員、眉のつながった奇妙な風貌の男を夢の中で見ていたという。夢に出てくる男は「あの男」と呼ばれ、人々を恐怖に陥れていた。「あの男」の被害が拡大していくなか、夫の義男(木ノ本嶺浩)や娘の愛と幸せに暮らしていた女性・華(出口亜梨沙)の身にも危険が迫る。やがて華は、究極の選択を突きつけられる。

 

公式サイト:https://thisman-movie.com/

 

撮影/河野優太 取材・文/くれい響 ヘアメイク/池田眞美子

山村隆太「当時のモヤモヤしていた自分の経験が、プロの役者さんには出せない、自分の持ち味を出せるかもしれないと思った」映画『風の奏の君へ』

お茶の名産地として知られる岡山県・美作(みまさか)地域を舞台に、この地を訪れた女性ピアニストと、茶葉屋を営む兄弟をめぐる物語を描く『風の奏の君へ』が、6月7日(金)より公開。本作で兄・淳也を演じた山村隆太さんが、自身の役柄からflumpoolとしての音楽活動とは異なる、俳優としての表現の仕方、俳優業の難しさなどまで伺いました。

 

山村隆太●やまむらりゅうた…1985年1月21日生まれ。大阪府出身。2007年にロックバンド・flumpoolを結成。「君に届け」「証」などのヒット曲を発表し、NHK紅白歌合戦に3回出場。国内アリーナ公演や海外単独公演を行うなど、精力的に活動している。2017年にはフジテレビ系の月9ドラマ『突然ですが、明日結婚します』で俳優デビューを果たした。Instagram

【山村隆太さん撮り下ろし写真】

 

お芝居はやればやるほど、奥深いもの

──今回、初となる映画出演のオファーがきたときの感想を教えてください。

 

山村 台本を読ませていただくと、かなりの大役ですし、感情が高ぶって涙するシーンもあったので、「自分にできるかな?」という迷いはありました。でも、監督やスタッフさんとの顔合わせで、「淳也という役を演じるというよりも、ご自身が発声障害になって活動休止されたときの挫折感や、そのとき音楽を諦めそうになった気持ちを表現してほしい」というリクエストがあったんです。それで、当時のモヤモヤしていた自分の経験を生かせるなら、プロの役者さんには出せない、自分の持ち味を出せるかもしれないと思い、「ぜひやらせてほしい」という気持ちに変わりました。

 

──ドラマ『突然ですが、明日結婚します』で俳優デビューされている山村さんですが、今回の淳也を演じるお芝居に関しては、どのように捉えていましたか?

 

山村 お芝居はやればやるほど、奥深いもの。しかも、周りの皆さんがすごすぎて、その世界に自分が足を踏み入れることは失礼だと思っていました。そんななかで、今回は淳也と似ていると思うところ、共通点が多かったところに助けられました。家族や愛する人に対して、素直になれない。それはとてもクールに見えるし、完璧を装っているように見えるけど、実は自分を守るための強さなんです。それについて共感し、理解できたことで、役作りをする必要はないと思ったほどでした。僕、幼稚園の頃から、他人に感情を見せなくて、母親にものすごく心配されていたんです。

 

──そのほか、岡山にある家業の茶葉屋さんを継いだという淳也の役作りは?

 

山村 まずは東京にいるとき、狭山のお茶農家の方を訪問させていただき、丸一日かけて作る工程を教えていただきました。茶葉がとても霜に弱いことなどを知りましたね。方言に関しては、僕はそもそも関西弁なので、親しみやすさという面では岡山弁に通じるものを感じていました。だから、そこに細かいイントネーションを変える程度だったと思います。

 

時が止まっているように感じる美作での撮影

──お茶の名産地として知られる、岡山県美作市でのロケの思い出は?

 

山村 東京で暮らしていると、いろんなものに流されすぎて、時間が経っていることすら分からなくなると思うんです。でも、美作は時が止まっているようでちゃんと雨動いていて、穏やかに吹いている風とか、温泉が流れる音とか、そのコントラストの大きさを感じるんです。クランクインの二日前に現場入りしたときは、どこか違和感があったのですが、それがだんだん身体に染み込んでいって、心地良いものになりました。僕、もともとピオーネを取り寄せるぐらいブドウが好きなんですが、4月下旬からの撮影時期は時期じゃなかったみたいなんです(笑)。

 

──元カノ・里香を演じた松下奈緒さん、彼女に恋心を抱く弟・渓哉を演じた杉野遥亮さんとの共演はいかがでしたか?

 

山村 現場ではとにかく、お二人に引っ張ってもらいました。松下さんは、やはりピアニストというイメージが強かったのですが、実際会ってみると、ものすごく気さくで、常に何か誰かを笑顔にしようとされているんです。同じ関西人ということで親近感も持ったのですが、そういう親近感こそが淳也が里香に惹かれていった理由だと捉えました。杉野くんは役に対してものすごくストイックで、その熱量を見習いたいと思える存在でしたね。仲違いしている兄弟役だったからなのか、楽屋でもほとんど話してないんです。あれは役作りか、それとも僕のことが嫌いだったのか……。今度、本人に確認しようと思っています(笑)。

 

──終盤の淳也の感情があふれるシーンについては?

 

山村 自分が泣けるほど、感情が高まらないとできないことですし、本当に淳也の気持ちの理解とともに、過去と向き合い、それを許す作業をすることなので、かなり大変でした。スタッフの皆さんに雰囲気を作っていただいて、渓哉が気持ちを押し殺しながらぶつかってくれることに助けられたこともあり、あまりテイクを重ねずに、監督からのOKを出してもらえました。

 

「息づく」と「生きることに気付く」の意を持つ主題歌

──主題歌として、エンドロールに流れるflumpool「いきづく feat. Nao Matsushita」はどのように作られたのでしょうか?

 

山村 先に出演が決まり、その後で「主題歌もお願いします」ということだったのですが、美作にいるときから、少しずつ歌詞を考えていました。自然の中で、わずかな生命と向き合う里香という主人公が誰かを思い、誰かのために生きようとするなかで、生命の大切さであったり、人を愛する人ことの素晴らしさであったり、いろいろなものに気づいていく。だから、「息づく」と「生きることに気付く」の2つの意味を持つ「いきづく」というタイトルにしました。

 

──最後に、GetNaviwebにちなんでモノについてお話ください。現場にいつも持っていったり、今ハマっているモノなどはありますか?

 

山村 気付かない姿勢の悪さや身体の力みに敏感になっているので、マッサージガンを常に持ち歩いています。長時間座っているときによく使っています。今3個持っていて、ツアー用のトランクに1個、自宅用に1個とか、欲しいときに常にあるように、いろんな場所に置いています。あと、この作品きっかけで、お茶にもハマりました。色や味の違いも分かりますし、利き茶もかなりできると思います。うま味のある狭山茶にも衝撃を受けましたが、やはり美作茶は甘味があっておいしいですね。

 

 

風の奏の君へ

6月7日(金)より公開

(STAFF&CAST)
監督・脚本:大谷健太郎
原案:あさのあつこ
出演:松下奈緒、杉野遥亮、山村隆太(flumpool)、西山潤、泉川実穂、たける(東京ホテイソン)、池上季実子

(STORY)
美作で無気力な日々を過ごす浪人生の渓哉(杉野遥亮)と、家業の茶葉屋「まなか屋」を継いで町を盛り上げようと尽力する兄・淳也(山村隆太)。ある日、コンサートツアーで町にやって来たピアニストの里香(松下奈緒)が演奏中に倒れ、療養を兼ねてしばらく滞在することに。かつて大学時代に東京で里香と交際していた淳也は、彼女に対して冷たい態度をとるが、渓哉は里香にほのかな恋心を募らせていく。実は里香には、どうしてもこの地へ来なければならない理由があった。

(C)2024「風の奏の君へ」製作委員会

公式サイト:https://kazenokanade-movie.jp/

 

撮影/中村功 取材・文/くれい響 ヘアメイク/菊地倫徳 スタイリスト/本庄克之(BE NATURAL)

佐藤隆太&岡田義徳&塚本高史『THE3名様Ω』座談会「若いころより“より面白いこと”を純粋に楽しみながらクリエイトできている」

佐藤隆太さん、岡田義徳さん、塚本高史さんが演じる、ジャンボ、まっつん、ミッキーの3人が、ただただファミレスでゆるい会話を繰り広げていく「THE3名様Ω」が初の連続ドラマ化され、FODで配信中。シリーズスタートから19年が経ち、互いに俳優としてのキャリアを重ねたことで「よりクリエイティブになった」と話します。劇中同様、取材中も3人ならではのゆる〜い空気が漂っていました。

 

【佐藤隆太さん&岡田義徳さん&塚本高史さん撮り下ろし写真】

 

倍ぐらいの年齢になったけど、精神年齢は変わっていない

──スタートから19年ですが、ファミレスでこんなに長い間しゃべることになるとは想像していましたか?

 

佐藤 そんな先のことまでは想像していませんでした。ただもうすぐ20年ですが、休止期間が12年あるんですよね。それが「もう1回、このタイミングじゃないか」ってところでみんなで動き出して、しかも1回限りの復活に留まらず、続けていけることが幸せだなと感じています。なんかこう、若かった頃以上に僕らも楽しくやれているので、こういう戻って来られる場所があるってすごくぜいたくで幸せなことですよね。

 

──19年経ってお互い変わったなと思うところと、全然変わらないなって思うところはありますか。

 

塚本 基本は変わらないですね。みんな40歳超えて(笑)。

 

岡田 倍ぐらいの年齢になってるわけだもんね。

 

塚本 そう、倍ぐらいの歳になったけど、精神年齢は変わっていないですね。ただ40を超えて、本来「THE3名様」はこういうふうにやりたかったんだよということが、もっといい環境でできているなと感じています。それは時を経て、僕らが経験を積んできたことがデカいっすね。やりたい内容を吟味しながらクリエイティブにできるようになりました。

 

岡田 今、オレが言おうと思ったことを……!(笑)

 

塚本 じゃあ、お願いします。

 

岡田 まっつんがこの言葉を使うのは似合わないかもしれないけど、すごくクリエイティブにやれていると思います。「より面白いことを」っていうのを純粋に楽しみながらクリエイトできている気がしますね。

 

ちょっとドキュメンタリーチックではあります

──オマケの映像で回した50円玉に爪楊枝を刺そうとするじゃないですか。あれはアドリブなんですよね。

 

塚本 アドリブですね。何でもいいから撮っておけば使えるよねって、現場で思い付いて撮っただけなんですよ。

 

佐藤 もちろんこのタイミングで刺してくださいって言われてできることではないですからね(笑)。その場でこれをやったら面白いんじゃないかってアイデアを出して、「じゃあ撮りましょう」ってなるんです。だからあれはちょっとドキュメンタリーチックではありますね。

 

岡田 その場でカメラワークも考えてくれて。

 

佐藤 これは他の作品では絶対ありえないですよね。「こんなのが面白いんじゃない?」って、その場の3人のノリで1つのエピソードを作っちゃうって。

 

岡田 ノリでやってることって、普通はメイキング画像みたいになると思うんですよ。それをちゃんと作品の中に落とし込んでくれるのは、この現場ならではなんじゃないかな。

佐藤隆太●さとう・りゅうた…(写真中央)1980年2月27日生まれ。東京都出身。2002年ドラマ「木更津キャッツアイ」のマスター役で注目される。ドラマ「ROOKIES」で初主演。翌年公開された映画版もヒットした。主な出演作は映画「シャイロックの子供たち」、大河ドラマ「どうする家康」など。Instagram

 

──ファミレスで緩い会話をしつつ、たまに皆さん笑いを堪えているようななんとも言えない表情をされますよね。そういうときも台本にはないセリフを言ってらっしゃるのかなって思ったんですけど。

 

塚本 そうですね。この3人は、細かいト書きや文字では表現できないような表情をすることが多々あるんですよ。でもそれをあえて狙っているわけでもないし、誰かがそうするように仕向けているわけでもなくて。自然なリアクションだったりするんですけど、それも一応、芝居やキャラの一環として出てくるものではあるんですよね。

 

佐藤 これが難しいんですよね。本来は笑うのを我慢しなくてもいいと思っているんですよ。だって学生時代に何が楽しかったかっていうと、他の人が聞いたら笑えなくても、仲間としゃべるだけでゲラゲラ笑えたじゃないですか。「THE3名様」の3人もそういうのが楽しくて話しているわけだから。むしろ3人がそろって全然笑わないって状況はおかしいですもんね。

 

岡田 そう、おかしいのよ(笑)。

 

塚本 リアルな状況で考えればね(笑)。

 

佐藤 だから本来は我慢しなくていいはずなんだけど、作品になったときにあまりにも身内ノリっぽくなるのはよくないですよね。視聴者の方を置いていきたくないし、寒くなるのも嫌だから、基本的には笑うのを我慢しているんですよ。でもたまに思います、別に我慢しなくていいんじゃないかって。なので、堪え切れないときは笑います。そうじゃないと、じゃあ何でこいつらは3人で集まってるんだって話になるから。そのあたりはいいバランスでできたらいいなって思ってます。

 

──個人的には岡田さん演じるまっつんが前歯の虫歯を我慢する回が好きでした。

 

塚本 あの回も面白いよね。まっつんがちょっとかわいいんだよね。

 

佐藤 オレがすごくかわいいなと思ったのが、薬を6時間空けて飲んでくださいっていうのを守ってるところ(笑)。まっつんはけっこう真面目なんだなって。

 

塚本 何だろうな、2年前の映画からなんだけどまっつんってテンパると手が震えるんだよね(笑)。「いいから落ち着けって!」ってツッコむキャラになった。あれヤバイよね。

 

岡田 あれ、なんでなの?

 

塚本 知らないって!(笑) あなたが作り出したキャラなんだから!

 

岡田 オレが作り出したのね(笑)。

 

佐藤 薬を空けるときに「おい、落ち着いた方がいいんじゃないか」って普通は言わないよね(笑)。「ラスいちでしょ」とか。

 

塚本 周りにいるオレらが説明してるんだよね(笑)。

 

まこちん先生の世界観全開のお話も今後やってみたい

──前作の映画から脚本に石原まこちんさんが参加されています。

 

岡田 今回、まこちん先生は自分が書いている世界観より、みんなに分かりやすい世界を描いたっておっしゃってたよね。

 

塚本 そうだね。だからセリフ量が多くて、説明ゼリフも増えたのが申し訳ないっておっしゃってました。でも言わないと伝わらないものもあるし、説明しないと分からない部分もあるので、そこは気にしないでくださいってお伝えしました。

 

岡田 だからね、まこちん先生の世界観全開のお話も今後やってみたいんです。訳わからなくてもいいから1回やってみたいと思ってます。

 

──3人の衣装も気になっているんですが、皆さんアイデアを出したりされるんですか?

 

佐藤 「THE3名様」シリーズをずっと担当してくださっている方がいてお任せです。すごく楽しんで参加してくださっているんですよ。この間も撮影中に話したんですが、ずっとやっていきたいと言ってくれますし、他の作品ではありえないリースの仕方をするので楽しいっておっしゃっていました。

岡田義徳●おかだ・よしのり…(写真中央)1977年3月17日生まれ、岐阜県出身。1993年バラエティ番組「浅草橋ヤング洋品店」に準レギュラーとして出演、翌年テレビドラマ「アリよさらば」で俳優デビュー。ドラマ「木更津キャッツアイ」でウッチーを演じ、人気を博す。近年の出演作はドラマ「むこう岸」、舞台「歌うシャイロック」など。InstagramX

 

──まっつんのTシャツに何が書いてあるかも当日まで分からないんですか。

 

岡田 いや、それは事前に選びます。

 

佐藤 衣装合わせはありますからね。

 

岡田 選んでおきますけど、その日のテンションというか、1回やってみてこれは違うなと思ったら変えることもありますね。

 

塚本 まっつんのTシャツのチョイスは、その話のメッセージを含んでいるんですよ。ジャンボが推し活する回は、オレの友達で何遊んでんだ! みたいなことを言うんですけど、Tシャツには「知らんけど」って書いてある(笑)。あと歯が痛い回も「無敵」って書いてある。そんなメッセージ性があるんです。

 

岡田 お話に関連性をつけるものもあれば、あえて関連性をつけないときもあります。

 

──ジャンボはTシャツのイメージが強かったけど、最近ファンシーな服も着ますよね。

 

佐藤 最近ファンシー系が多いです。

 

岡田 そうだよね、クマちゃんとかね。

 

佐藤 知らないうちにそういう系になっていましたね。

 

塚本 かわいいキャラになっているんだ(笑)。DVDシリーズをやっていた頃は、ジャンボも結構強めのキャラだったんですが、どんどんどんどん丸くなってきて、それに合わせて衣装を選んでくれているんじゃないでしょうか(笑)。

 

この年齢になってきたからこそ、日々の運動は必要

──8月には映画の公開も決まっていますね。

 

佐藤 多分、面白いです。

 

塚本 いや、面白いよ!(笑) 配信から関連性のある作りになっているので、配信ドラマから余すところなく見てほしいですね。

 

佐藤 そうだね、全部ひっくるめて見てもらったら一番楽しめるよね。

 

──ここからは皆さんがハマっているものだったり、趣味のお話を聞かせください。

 

佐藤 僕はずっと変わらないんですよね。着る服、聴く音楽、好きなものが全然変わらなくて。つい買ってしまうものはスニーカーですね。スニーカーを買うのが止まらないです。

 

──つい買ってしまうときのポイントは何でしょうか。

 

佐藤 シンプルにかっこいいと思うものですよね。ここ数年、世間が異常なほどのスニーカーブームで、急に全然買えなくなってしまって、「なんだよ……」と思っていたんです。でも最近、普通に戻ってホッとしているところです(笑)。

 

──プレミアシューズだと、値段も高騰していましたよね。

 

佐藤 そういうのはあまり興味がないんです。まあ好きなものは好きですけど……、最近の偏った価格の高騰はよく分からないなって思っていました。

 

岡田 隆ちゃんのいいところってそこだよね。プレミアのものをプレ値で買って、「持ってます」みたいなことを言わない。そういうことじゃなくて、本当に好きな人の買い方をしているのが僕は好きですね。

 

佐藤 めちゃくちゃ惚れ込んだものがレアですごい値段だよってなれば、どこまでも追っかけたりはしますけど。でも別にプレミアだからって欲しいって基準ではないです。

塚本高史●つかもと・たかし…(写真中央)1982年10月27日生まれ、東京都出身。1997年ドラマ「職員室」でデビュー、2000年「バトル・ロワイアル」で映画初出演。ドラマ「木更津キャッツアイ」のアニ役で人気を集める。最近はフジテレビ「イップス」、テレビ東京「ダブルチート」のゲスト出演し、ドラマ&映画以外ではNHK-BS「岩合光昭の世界ネコ歩き」「インド秘境」にてナレーションをレギュラーで担当している。Instagram

 

──では塚本さんは?

 

塚本 ギターですかね。プライベートでバンドをやっているので。

 

佐藤 ギターが好きになるきっかけは何だったの?

 

塚本 hide。

 

佐藤 やっぱりそうなんだ。存在に憧れてみたいな?

 

塚本 そうだね。だからhideがベースをやっていたとしたら、多分ベースを始めていただろうし。X JAPANというよりhideに衝撃を受けたんだよね。hideのビジュアルに衝撃を受けて、「この人、誰なの?」ってところから始まって、X JAPANというバンドでギターをやっている人なんだよって知って、同じギターが欲しいってことで、中2か中3の誕生日に父親にhideモデルを買ってもらいました。

 

佐藤 最初の1本はhideモデル?

 

塚本 そう! 小さいアンプが付いて、入門編みたいなものをオヤジに買ってもらったのが最初です。

 

岡田 それでギター始める人ってやっぱりいるんだね? Ibanezとかあったよね。

 

塚本 TARGET by FERNANDESだった(笑)。

 

岡田 オレもまたドラムを始めたのよ。夜な夜な1人でスタジオに行って、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンとかやってる。

 

塚本 いいね、かっこいい!

 

岡田 ストレス解消にドラムをやってますね(笑)。

 

──ということは岡田さんの夢中になるものはドラムですね。

 

岡田 それに伴って、体力がなくなったから最近めっちゃ走ってます。ジムでダッシュしてますよ。

 

──ジムのウェアのこだわりとかないですか。

 

岡田 全然ないです(笑)。Tシャツ短パンでやっています、酸素の薄いジムというか、高地トレーニングっていうんですが、30分ぐらい走って帰ってくるだけです。だけど、その30分間でけっこう疲れるんですよ。30秒走って30秒休むっていうのを10本から12本セットで、ほとんど毎日やってます。

 

──体力が上がった実感はあります?

 

岡田 体力は上がったと思いますね。疲れなくなりました。息が切れて、セリフが言えないときがあって、それが嫌でジムに行き始めたんですけど、それもなくなりました。

 

佐藤 この年齢になってきたからこそ、日々の運動は必要だよね。やらなきゃなって思います。

 

塚本 プライベートでは40オーバーのおっさんですからね。若そうに見えて初老だよ!(笑)

 

岡田 ジャンボが推し活する回あったじゃん。オレ、隆ちゃんが見せていたスマホの画面が見られなかったからね、老眼で!(笑)

 

──やっぱり皆さんには、老後もファミレスで話していてほしいですね。

 

佐藤 うん、いたいです!

 

 

THE3名様Ω

5月24日(金)20時よりFODにて配信中
毎週(金)2話ずつ配信(全8話) ※過去作もFODで全話配信中

8月30日(金)より劇場版新作も公開

(STAFF&CAST)
原作:「THE3名様Ω」石原まこちん
脚本:石原まこちん
演出:森谷雄(アットムービー)、小山亮太(アットムービー)

出演:佐藤隆太、岡田義徳、塚本高史、小林大介、桃月なしこ、安藤玉恵ほか

「THE3名様Ω」オフィシャルサイト:https://www.fujitv.co.jp/the3youngmen-omega/

 

撮影/中田智章 取材・文/佐久間裕子 ヘアメイク/白石義人(ima.)(佐藤)、SHUTARO(Vitamins)(岡田)、YASU(塚本)スタイリスト/勝見宜人(Koa Hole inc.)(佐藤)、山田陵太(岡田)、上井大輔(demdem inc.)(塚本)衣装協力/BRÚ NA BÓINNE、SOPH.

笹目浩之「演出家や劇団の思いをデザイナーが想像し、創造していく。演劇のポスターとは総合芸術」著書『劇場のグラフィズム』

演劇のポスターとともに生き続けて約40年。笹目浩之さんは舞台の宣伝ポスターを飲食店や劇場に貼る仕事を生業としながら、60年代以降の演劇ポスターの収集にも尽力。その数は3万点以上にものぼり、展覧会などのイベントも企画している。その笹目さんが厳選した作品集「劇場のグラフィズム アングラ演劇から小劇場ブーム、現代まで」が3月に上梓された。演劇との出会いから株式会社ポスターハリス・カンパニー設立の経緯、そして、他にはない演劇ポスターの魅力など、いくつもの視点から笹目さんの“ポスター愛”に迫った。

 

笹目浩之●ささめ・ひろゆき…株式会社ポスターハリス・カンパニー代表取締役。株式会社テラヤマ・ワールド代表取締役。1987年、株式会社ポスターハリス・カンパニーを設立。飲食店を中心とした演劇、映画、美術展等のポスター配布媒体業務を確立。1990年より演劇・映画・イベントの企画・宣伝・プロデュースも多数手がける。1994年、現代演劇ポスター収集・保存・公開プロジェクトを設立。60年代以降の舞台芸術系ポスターを収蔵し、各界の研究や演劇自身の活性化に役立てている。

【笹目浩之さん撮り下ろし写真】

1982年に観た、寺山修司の『レミング』がすべての始まりでした

──ポスターハリス・カンパニーという会社は演劇好きの中では知られた存在ですが、読んで字の如く、ポスター貼りを専門とした会社なんですよね。

 

笹目 珍しいですよね。大抵の人に、“そんなので仕事になるの?”って驚かれます(笑)。

 

──会社の歴史は古く、株式会社になったのが37年前の1987年でした。

 

笹目 ポスター貼り自体を始めたのはもっと古く、1983年からです。まさかこんなに長く続くとは、私自身が一番想像もしていませんでした(笑)。ここまで続けてこられた要因はいくつかあるのですが、なかでも大きかったのが1992年に開催した「ウルトラポスターハリスターコレクション展」でした。青山にあった、ハイパークリティカルというギャラリーで最初のポスター展を行ったんです。会場がたまたま空いているということで、ホールのオーナーから「何かやってみる?」と言ってもらえて。ポスターを貼るようになってからちょうど10年目の節目でしたし、私としてはそのイベントで大きな花火を打ち上げて、仕事自体を終わらせてもいいかなという思いで開催したんですよね。でも、これが予想以上に大盛況だったんです。

 

──その時はどのようなお客さん層が多かったのでしょう?

 

笹目 見事にバラバラでしたよ。60年代から80年代の演劇ポスターが多かったので、懐かしんで観に来てくださるご年配の方もいれば、横尾忠則さんのグラフィックに興味を持っている学生さんなど、幅広い年齢の人たちに興味を持っていただいて。しかもこのポスター展が話題となり、私もちょっとだけ有名人になったんです。“10年間もポスターを貼り続けているヘンなヤツ”みたいな感じで、取材が殺到して(笑)。

 

──確かに稀有な存在ですよね。

 

笹目 個人で演劇のポスターを収集しているというのも、きっと珍しかったのでしょう。行政機関や組織ではいくつかありました。「フィルムセンター」(現・国立映画アーカイブ)や築地にある「松竹大谷図書館」、あとは「早稲田大学演劇博物館」なんかもそうですね。でも、本当にその3つくらい。それに、台本や舞台写真などは多く保管していても、ポスターの数はそれほど多くなかったりするんです。それなら、もういっそのこと自分で舞台芸術に関するポスターを収集や保存し、展覧会の企画開催や美術館などへの貸出も行おうと思いまして。それで、1994年にスタートさせたのが「現代演劇ポスター収集・保存・公開プロジェクト」でした。

 

──話が前後してしまいますが、そもそもポスター貼りを始めたきっかけは何だったのでしょう?

 

笹目 大きなきっかけとなったのは19歳の時に紀伊國屋ホールで観た寺山修司の『レミング ‘82年版改訂版 壁抜け男』(「演劇実験室◎天井棧敷」)でした。当時、喫茶店で知り合った演劇好きのおじさんに誘われて、多くの舞台を観ていたんです。野田秀樹さんの「夢の遊眠社」などは田舎から出てきた私にとっては本当に刺激的で。あの頃はつかこうへい作品も大人気でしたね。そうしたなか、私は『レミング』を観て寺山作品の世界に魅了され、“演劇の世界に行くしかない!”と心に決めたんです。親に「俺は演劇プロデューサーになる」と言ったら、猛反対されましたけどね。大学の授業にも禄に出なくなったので、勘当されました(苦笑)。

 

──勘当されてもなお、演劇の世界に踏み入れたかったんですね。ポスター貼りを始めたのが1983年とのことでしたから、『レミング』との出会いはその一年前です。

 

笹目 ええ。しかも、1983年に寺山さんが亡くなったので、『レミング』が「天井棧敷」の最終公演になってしまった。それでも劇場に通い続けていたら、「天井棧敷」のプロデューサーをされていた九條(今日子)さんに顔を覚えられまして。「そんなに好きなら手伝いに来る?」と誘っていただいたんです。これは自分の人生において最初で最後の、そして最大のチャンスだと思いました。そこで最初にお手伝いした舞台が、1983年に西武劇場(現・PARCO劇場)で上演した寺山修司さんの追悼公演だったんです。劇団はすでに解散してしまっていたので、ポスターをいろんなところに貼ってくれるスタッフが足りなかったんでしょうね。そこに“ちょうどいいのがいた!”という感じで、私が任されたのがすべての始まりでした。

 

──そこから、どんどんといろんな公演や劇団のポスターを貼るように?

 

笹目 そうです。PARCO劇場の制作の方たちと仲良くなり、PARCOで上演される舞台のポスター貼りの仕事を請け負うようになりました。ポスターを都内のいろんな劇場や美術大学、居酒屋などに貼らせてもらうようにお願いをしに行くんです。そのうちPARCOは映画の配給も始めたので、そちらも担当するようになって。今度はそのポスターがいろんな映画の宣伝関係者の目にとまり、映画関連の仕事も一気に増えていきました。当時、フランソワーズ・モレシャンさんと一緒に仕事をしたことがあり、彼女は自分のことを《ライフコーディネーター》と話していましたが、私は私で、「それなら僕はハイフコーディネーターだ」なんて冗談で言っていましたね(笑)。

 

──(笑)。でも、それだけ需要があったということですよね。

 

笹目 ちょうど時代はバブルで、劇場の新設も重なり、上演される舞台の数は毎月たくさんありますし、作品のジャンルなどに合わせて貼る場所を分析していったんです。そうやって信頼も築いていきました。また、私は、20歳の時に、演劇の世界で生きて行く決断をしましたが、まだまだ駆け出しで、役者や演出、スタッフなどができるわけでもない。でも演劇を愛し、ポスターを貼ることで、演劇の魅力を多くの人に知ってもらうことはできる。そんな思いで、この仕事をしていましたね。それと、これは少し余談になりますが、90年代の初頭に篠井英介さんの一人芝居を私がプロデュースしまして。そこで《演劇プロデューサー》の肩書き名乗ることができたので、それを機に親とも和解することができました(笑)。

 

画鋲の刺し跡や多少の破れはポスターが人目に触れていたという“生きた証”

──笹目さんは演劇ポスターの収集家でもありますが、当時はどのように集めていかれたのでしょう?

 

笹目 予備のポスターをそのまま頂くこともありましたし、劇団から寄贈していただくこともありました。ただ、アングラ劇団の人たちはちょっと怖いイメージがあって(笑)。「うちのポスターを使って商売をしているのか?」と誤解を招きそうだったので、そこで思いついたのが、劇場に貼ってあるポスターをもらうということでした。公演期間が終われば捨ててしまうだけなので、それをいただこうと。もちろん、画鋲を刺した跡なんかが残っているし、少し破れていたりもする。でもポスターにしてみれば、それって人の目に触れたという“生きた証”でもある。そこに魅力を感じたんです。

 

──どのくらい集まるものなんですか?

 

笹目 当時で年間500種類ぐらいは集まっていました。今保管しているのは、少なくとも3万点以上はあります。

 

──すごい量ですね! 今回の書籍ではそのなかからどのような基準で選んでいかれたのでしょう?

 

笹目 デザイン的に優れたものや、歴史的に価値のあるものなどを私なりに加味しながら選んでいきました。この本を見てもらえれば60年代頃から現在までの日本の演劇史の一面が分かるようになっていますし、それとは別に、純粋にさまざまなデザインの魅力や面白さも楽しんでいただけると思います。

 

──確かに年代ごとのデザインの変遷がすごく伝わってきます。

 

笹目 60年代から70年代のアングラ劇団のポスターだけでも100枚ほど選んでいるのですが、類を見ない感じのアバンギャルドさは、やはりあの時代にしか生まれなかったものだと思います。サイケデリックなデザインは当時のニューヨークの文化に影響されていますしね。それに、60年代の学生運動の時代に生まれた反抗心や反発心、また、そうしたカウンターカルチャー的なエネルギーがポスターにもしっかり表れているんです。それが90年代の小劇場ブームになってくると、ポスターのタッチも大きく変わってくる。鈴木成一さんがデザインされている「第三舞台」はその象徴の1つですよね。生瀬勝久さんが座長だった頃の「そとばこまち」のポスターも本当にかっこいいですから。

 

──90年代は洗練されたCMや広告が世間でも話題を集めた時代でもありました。

 

笹目 そうですね。そうしたなかで、演劇のポスターには広告のような縛りがないから、デザイナーが自由に楽しんで作っているんです。劇団の作風を理解し、作品のテーマを読み取って、デザイナーがどんな形でポスターにしていくか。今も時代を経て第一線で活躍されている方たちは、その読み取り能力に長けた素晴らしい才能を持ったデザイナーばかりなんですよね。

 

──なるほど。では、今回の書籍に掲載されているもののなかで、笹目さんが特に思い入れのあるポスターを挙げていただくと?

 

笹目 私が2013年にプロデュースをした『レミング ~世界の涯まで連れてって~』のポスターですね。『レミング』が私にとって原点だというお話はしましたが、寺山さんの没後30年の時にPARCO劇場で同じ作品を上演したんです。PARCO劇場も私の原点ですから、2つの出発点が重なった舞台のプロデュースを任されたことは大変光栄でした。また、宣伝美術を担当したのが「維新派」のアートディレクターで知られる東 學さんでして。彼とは同い年で、仲も良いんです。しかも、彼もかつて1982年に上演された『レミング』の戸田ツトムさんのポスターを見て宣伝美術の道に進む決心をしたそうなんですね。まさに私と同じ。その彼と同じ作品で一緒に仕事ができたという意味でも感慨深いポスターですね。

 

ポスターはやはり紙として人に見られるべきという思い

──笹目さんが感じる演劇のポスターの魅力とはなんでしょう?

 

笹目 映画やコンサートのポスターと違って、デザインのテイストや趣旨が大きく異なる点です。というのも、映画だと撮影が終わった後や試写を観て、どのシーンのカットをデザインで使うかといった考え方ができます。でも、演劇の場合は舞台が作品として完成する前にポスターを作らないといけないから、最終形が分からない状態でデザインする必要がある。コンサートの場合は、大抵ミュージシャンの写真がメインのデザインで構成は決まっていきますし、美術展などもそう。目玉の絵画や展示物の写真を大きく扱う。なのに、演劇だと場合によっては作品のタイトル以外、台本すら出来ていないことがあるんです。翻訳劇や再演作品だと物語は決まっていますが、演出家の見せ方次第で作風がガラリと変わっていきますからね。

 

──未知の世界観を先にイメージしていかないといけないわけですね。

 

笹目 そうなんです。劇作家や演出家が“こんな感じの舞台になりそう”と言ったものを、デザイナーが想像力を駆使して作っていく。ですから、演劇のポスターって総合的な芸術が合わさったものなんです。特に60年代のアングラ劇団が作っていたポスターは本当に素晴らしかった。代表的なところだと横尾忠則さん、宇野亜喜良さん、平野甲賀さん、篠原勝之さんのデザインなどですよね。

 

──それはやはり時代性もあるのでしょうか?

 

笹目 それもありますが、例えば当時の「天井棧敷」や「状況劇場」、「黒テント」などはポスターのデザイナーは舞台美術も兼ねていることが多かったんです。ですから、ポスターと舞台そのものの世界観が繋がっていたんですよね。それに、ポスターやチラシの役割ってお客さんの興味を引くためのものだけでなく、同時に、劇団員を鼓舞するという一面もあったんです。稽古場に貼られたポスターを役者やスタッフたちが見て、“俺たちはこういう芝居をみんなで作るんだ!”と気持ちを盛り上げていった。でも、そうした力を持ったデザインのポスターも、時代とともに変化していきました。90年代になると、いろんな役者を集めて公演を打つプロデュース公演が増えていき、それに伴って、ポスターやチラシに出演者たちの顔写真を載せるのがマストになっていったんです。すると、有名な俳優であればあるほど強いパブリックイメージがありますから、作品の世界観に沿ったデザインが難しくなっていった。それでも人の目を引くポスターを作らないといけませんから、当時は多くのデザイナーがいかに個性的で魅力のあるポスターを作るかを模索していたように思います。

 

──先ほどのお話に出た2013年の『レミング』もプロデュース公演ですが、ポスターはイラストだけで勝負されていますね。これはそうした時代の流れに対するアンチテーゼなのでしょうか。

 

笹目 そこまで大げさなものではないにせよ、思いはありました。役者の写真を使う気なんて、私には最初からありませんでしたから(笑)。でも、どのタレント事務所からも一切クレームが来ませんでした。作品に寄り添った1枚ですからね。私の気持ちが通じたのだと思っています。

 

──では、令和現在の演劇ポスターは笹目さんの目にどのように写っていますか? SNSをはじめとするウェブ媒体での宣伝が増えてきたこともあり、やはり変化は感じていらっしゃいますか?

 

笹目 デジタルが主流になりつつというよりもはや主流ですよね。これは非常に怖いなと感じています。例えばスマホでポスターやチラシのデザインを見るにしても、それぞれの端末の液晶画面の違いによって色合いが変わってきますから。紙と違って、万人が同じ色合いのものを共有できないんですよね。また、街なかでよく見かけるデジタルサイネージも、本当に宣伝広告の役割を果たしているのかと疑問に思うことがあります。20秒ぐらいで次の画像へと移ってしまうので、情報が脳に残らない。その意味では、じっくりと時間をかけて内容や情報が入手できる紙のほうが優れていると言えるのではないでしょうか。もちろん、デジタルにすることでコストが抑えられるという良さもあります。舞台制作には莫大なお金がかかりますから、経費は極力かけたくない。でも、そうした恩恵はあくまで一部なんです。やはりポスターを不特定多数の人に見てもらうことであったり、宣伝としての効果は紙がベストだと感じますね。でも、紙、デジタル両方ともいいところはあるので、どちらかではなく両方のいいところをうまく使いこすのが一番だと思います。もし“貼るのが面倒だ”とか、“どこに貼れば効果的なのかが分からないからポスターを敬遠している”という方がいれば、私のところに持ってきてくれれば貼りますよ、と思います(笑)。

 

──アナログには便利さだけではない良さがあるので、いつまでも残ってほしいですよね。笹目さんは普段、渋谷でバーも経営されていますが、毎回、直筆でお品書きを書かれています。そうしたところにもアナログへの愛が感じられます。

 

笹目 ええ、筆ペンを愛用しているんです。実は書家のようなこともしていまして。何度か頼まれてCDジャケットに文字を書いたこともあります。ピエール瀧の『人生』(瀧勝名義)とかね。お品書きで使っているのは美輪明宏さんも愛用しているペンで、特に高級というわけではないのですが、一番しっくりくるんです。

 

──メニュー表を見せていただきましたが、なかには大きく文字を崩しているものもありますね。

 

笹目 我流ということもあり、日によってお客さんから「読めない」と言われることがあります(笑)。自分でもたまに、「これ、なんて書いてあるんだ⁉︎」って思う時がありますから(笑)。大体、最初の1行目でその日の崩し具合が決まるんですよね。ちゃんと読める字を書いたら残りも真面目に書いていきますが、いきなり崩れまくった字になるとどんどん崩れていく(笑)。でも、そうやって気分によって文字が大きく変わるのも書の面白さですね。

 

 

劇場のグラフィズム アングラ演劇から小劇場ブーム、現代まで

著者:笹目浩之

現在発売中 定価:4,950円(税込)

Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4766138198
楽天ブックス https://books.rakuten.co.jp/rb/17793214/
株式会社グラフィック社 https://www.graphicsha.co.jp/detail.html?p=54194

 

60年代後半に劇団の旗印として登場し、時代を挑発したアングラ演劇のポスターや、70〜80年代の演劇ブーム、そして現在第一線で活躍する劇団のポスターなど約400点を収録。美術価値の高いものから、演劇史に残るポスター、これから時代をつくる劇団のチラシまでを網羅し、巻末には日本演劇界をリードする演出家、佐藤信・白井晃・松尾スズキ・小川絵梨子とのスペシャルインタビューも掲載。まさに小劇場の宣伝美術の決定版と言える1冊。

 

撮影/映美 取材・文/倉田モトキ

結木滉星「向井さんはかっこいいし、僕もこんなふうに年月を重ねていきたいなと思います」ドラマ「ダブルチート 偽りの警官 Season1」

向井理さんが警察官と詐欺師の2つの顔を持ち、法で裁けぬ詐欺師を狙うダークヒーローを演じている連続ドラマ「ダブルチート 偽りの警官 Season1」がテレビ東京系にて放送中。結木滉星さんは詐欺事件を扱う捜査二課の若きエリート刑事・山本貫太役で出演している。役柄とリンクするという向井さんへの憧れや、共演者とのエピソードなどを語ってくれた。

 

結木滉星●ゆうき・こうせい…1994年12月10日生まれ、大分県出身。2018年「怪盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」の朝加圭一郎役でドラマ初主演。ドラマ「風間公親-教場-」、「ゼイチョー〜『払えない』にはわけがある〜」などに出演。現在はNHK 土曜ドラマ『パーセント』に出演中。Instagram

 

【結木滉星さん撮り下ろし写真】

 

クールさとかっこつけって紙一重なんです

──ドラマを見ていろんな詐欺師がいるんだなって改めて感じました。

 

結木 インターネットが普及して、詐欺の種類もどんどん増えていますよね。僕も全く知らない種類の詐欺があったので勉強になりました。

 

──主演の向井理さんが詐欺師を騙す詐欺師という裏の顔を持つ交番勤務の警察官を演じています。設定と内容を聞いてどう感じましたか。

 

結木 脚本を読んで率直に面白いなと思いました。ドラマはフィクションですが、実際に起きうる話だと思います。第一印象ですごく面白い題材だなと感じて、読み進めていくのが楽しみになりました。向井さん演じる多家良啓介が分かりやすく悪を裁いていくので、台本を読んでもスカッとします。

 

──結木さん演じる山本貫太は捜査二課の刑事で、準キャリアの統括主任という設定です。どんな人物と捉えて演じていらっしゃいますか。

 

結木 1話で内田理央さん演じる宮部ひかりにキツイ物言いをしていたので、冷たい人間なのかなって印象を抱いた方も多いだろうなと思います(笑)。でも僕自身は脚本を読むに連れて、すごく人間味のある役だなと思うようになりました。被害者の気持ちにも寄り添えて、後輩をさりげなく思いやることもできる人です。

 

──4話(5/17放送)までの間にひかりへの接し方に変化がありましたし、嫌なヤツではないんだなと徐々に見えてきました。その変化は意識して演じているのでしょうか。

 

結木 それは内田さんが演じるひかりが、山本に対して真っすぐ来てくれるからだと思います。山本にもそういう時代があり、多家良さんと一緒に仕事をしていた2年前は彼も真っすぐだったと思うんです。だからこそひかりの気持ちが分かり、寄り添えるようになったんだろうなと。

 

──そんな山本を演じる上で意識していることは?

 

結木 クールさとかっこつけって紙一重なんですよね。なので、かっこつけに見えないように意識しています。それと警察官の役なので、ビシッとするように姿勢やお辞儀の仕方にも気を付けています。上司には礼儀を持って接している部分を表現したいので。

 

内田さんと一緒に向井さんの欠点を探しています

──向井さんの印象はいかがですか。

 

結木 顔がとても小さくてビックリしました。世の中にはこんなにスタイルのいい方がいるんだって。スタイリッシュで現場での立ち居振る舞いも素敵なんです。向井さんがいるだけで現場が締まるので、やはりさすがだなと思います。かっこいいですし、僕もこんなふうに年月を重ねていきたいなって思っています。山本もかつて二課のエースだった多家良さんに憧れていたんだろうなと僕は思っていますが、僕も同じように、向井さんに憧れていますし、目標とさせていただいております。

 

──どんなところに憧れますか。

 

結木 芝居のことを僕が言うのもおこがましいんですが、現場では本当に多家良さんでしかなく、表現が合っているか分からないのですが、無駄がない素敵なお芝居をされています。あと内田さんともよく話すんですけど、プライベートの話をしていても、向井さんに欠点がなさすぎて面白くないんです(笑)。なので内田さんと一緒に向井さんの欠点を探しています。クランクアップまでに、向井さんのどこか抜けている姿が見つかるといいなって。

 

──見つかるといいですね(笑)。ところで劇中の山本は多家良に対して複雑な感情を持っていそうですが、2人の関係性についてはどう解釈していらっしゃるのでしょうか。

 

結木 山本の多家良さんに対する感情の根本には憧れがあり、ピリピリした態度はその裏返しだと思っています。憧れていた多家良さんが何で交番勤務をしているんだって。だからギスギスした態度を取ってしまう。「多家良さん……不甲斐ない」って悔しさみたいな部分が大きい気がします。

 

2年前と今の山本のギャップに注目してほしい

──捜査二課の刑事も個性的なメンバーぞろいですよね。皆さんで撮影しているときの雰囲気はどんな感じですか。

 

結木 和気あいあい、ほんわかした現場です。特別捜査室6係・係長、堀北隆司役の梶原善さんが気さくな方で、よくお話して雰囲気を良くしてくださっています。

 

──梶原さん演じる堀北は昔気質の厳しそうな刑事という印象でした。普段は気さくな方なんですね。

 

結木 僕も厳しい方なのかなってイメージでした(笑)。普段の気さくな雰囲気とは全く違う役柄を演じていらっしゃるので、素敵な役者さんだなって改めて思いました。

 

──多家良の過去など、まだまだ気になることがたくさんありますが、ここに注目すると面白く見られるというポイントを教えてください。

 

結木 これから多家良がどうなるのか皆さん気になっていますよね。多家良なりの正義を掲げ、彼なりのやり方で犯罪に立ち向かっていますが、だからといって詐欺という犯罪がなくなるわけはなくて。そこに僕ら捜査二課がどう関わって、どんな決着をつけるのかに注目してほしいです。そして僕自身の見どころとしては、2年前と今の山本のギャップでしょうか。多家良さんと一緒に捜査をしていた頃の山本は、今と全く印象が違うと思うので注目してください。

 

緑に囲まれる場所ってなかなか行けないので、ゴルフ場に行った時点で気持ちいい

──ところで結木さんは「怪盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」も含めて、刑事役が多い気がします。ご自身ではどうしてだと思います?

 

結木 一番最初にやった「怪盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」がきっかけになっていると思います。正義感のある熱血漢を演じたので、そのイメージが付いているのかもしれないですね。ただ刑事といっても、捜査一課、捜査二課で捜査対象もやるべき業務も違うんです。職業としては刑事と一括りにされていますが、全く違う仕事だなと思っています。

 

──ここからはモノやコトに関するお話をお聞かせください。最近ハマっているモノや趣味はありますか。

 

結木 趣味はゴルフとサウナです。ゴルフは仲のいい友達が始めて、打ちっ放しに連れて行かれたのがきっかけです。そのまま勢いでコースにも連れて行かれたんですよね(笑)。それからハマりました。やっぱり気持ちいいですよ。

 

──打ちっ放しに何回くらい行ってコースに出たんですか。

 

結木 2回ぐらいです(笑)。それでも意外に回れるものなんだなと思って、ハマっています! 普段都内にいると、ゴルフ場みたいに緑に囲まれる場所ってなかなか行けないので、ゴルフ場に行った時点で気持ちいいです。あとゴルフ場にはお風呂があるので、みんなで大浴場に浸かるのが気持ちいい瞬間なんです。

 

──ウェアやギアにこだわりはあります?

 

結木 ゴルフウェアはデザイン重視でかわいいと思ったものを選びます。ゴルフウェアって普段使いもできるデザインが多いんです。たまにジャケットの中にゴルフウェアとして買ったポロシャツを着たりしますよ。僕は服も好きなので、こだわりで言うとネットショッピングは絶対にしないです。お店に見に行って、絶対に試着してから買います。

 

──絶対試着する派なんですね。

 

結木 試着は重要ですよ。ネットショッピングで買って、届いて着てみたら「あれ、ちょっとイメージと違う」みたいになるのが嫌なんです。逆に見ただけではピンと来なくても、着てみたら「意外にイケるな」って発見することもあるので。服は実際に着てみないと、似合う似合わないは分からないと思います。

 

──なるほど。確かに着てみたら意外にいいなってなることはありますね。ではサウナにハマったきっかけも教えてください。

 

結木 サウナブームのすごい流れがあったじゃないですか。その頃、僕は水風呂に入れなかったので、そんなにハマらなかったんです。でも一緒にサウナに行った人に「水風呂に入らなきゃダメだ」って言われて、入ってみたら「整うってこういうことなんだ!」って気付いたんですよね(笑)。それからハマりました。

 

──「整う」ということが分かってからはちょくちょく行くように?

 

結木 最近行けてないので、月に2回ぐらいですかね。でも自分ではそれぐらいがいいペースかなって思います。

 

──現場に必ず持っていくものはありますか。

 

結木 自分にとっての必需品になってしまいますけど、歯ブラシは絶対にバッグに入れていますね。バッグを替えて歯ブラシを忘れたら、「やばい!」と思って買ってから現場に行きます。一度ご飯を食べたら、その後に絶対に磨きたいんです。食べた後そのままの口でやりたくなくて。歯を磨くことによって集中できるし、気持ちも切り換えられるんです。

 

 

テレビ東京×WOWOW共同製作連続ドラマ
ダブルチート 偽りの警官 Season1

テレビ東京系 毎週(金)午後8時~
Season2はWOWOWにて6月29日(土)午後10時よりスタート

公式HP https://www.doublecheat.com/

【ドラマ「ダブルチート 偽りの警官 Season1」よりシーン写真】

 

 

撮影/中田智章 取材・文/佐久間裕子 ヘアメイク/中島愛貴 スタイリスト/伊藤省吾

アートディレクター・山崎晴太郎「経験と知識は、すべてがクリエイションに繋がっていく」新連載! 余白思考デザイン的考察学

「山崎晴太郎の余白思考 デザイン的考察学」第1回

 

デザイナー、経営者、テレビ番組のコメンテーターなど、多岐にわたる活動を展開するアートディレクターの山崎晴太郎さんが新たなモノの見方や楽しみ方を提案していく連載がスタート。自身の著書にもなった、ビジネスやデザインの分野だけにとどまらない「余白思考」という考え方から、暮らしを豊かにするヒントを紹介していきます。第1回は山崎さんの紹介とともに、デザイナーになるまでの紆余曲折した道のり、またそれらが現在とも繋がっていくエピソードなど、これまでを伺います。

 

山崎晴太郎●やまざき・せいたろう…代表取締役、クリエイティブディレクター 、アーティスト。1982年8月14日生まれ。立教大学卒。京都芸術大学大学院芸術修士。2008年、株式会社セイタロウデザイン設立。企業経営に併走するデザイン戦略設計やブランディングを中心に、グラフィック、WEB・空間・プロダクトなどのクリエイティブディレクションを手がける。「社会はデザインで変えることができる」という信念のもと、各省庁や企業と連携し、様々な社会問題をデザインの力で解決している。国内外の受賞歴多数。各デザインコンペ審査委員や省庁有識者委員を歴任。2018年より国外を中心に現代アーティストとしての活動を開始。主なプロジェクトに、東京2020オリンピック・パラリンピック表彰式、旧奈良監獄利活用基本構想、JR西日本、Starbucks Coffee、広瀬香美、代官山ASOなど。株式会社JMC取締役兼CDO。株式会社プラゴCDO。「情報7daysニュースキャスター」(TBS系)、「真相報道 バンキシャ!」(日本テレビ系)にコメンテーターとして出演中。著書に『余白思考 アートとデザインのプロがビジネスで大事にしている「ロジカル」を超える技術』(日経BP)がある。公式サイトInstagramYouTube ※山崎晴太郎さんの「崎」の字は、正しくは「大」の部分が「立」になります。

 

 

演劇体験から始まった“表現”することの面白さ

──山崎さんのプロフィールを拝見すると、絶えず、“表現する場”をボーダーレスにご自身の中に取り入れていくアクティブさに驚かされます。今回はその1つひとつに迫っていきたいのですが、“表現”することの最初の体験は演劇だったそうですね。

 

山崎 そうです。英語演劇を始めたのは3歳の時でした。表現の面白さを知り、当時から漠然とこの世界でやっていきたいという思いを持ち始めていました。それが自分の中でより明確に固まったのが高2の時。きっかけは劇団四季の『ライオン・キング』を観たことです。舞台上で見せる動物(キャラクター)の動きや演出方法など、どれもが斬新で、衝撃的で。「表現の世界って、こんなにもいろんなことができるんだ」と思ったんですね。改めて自分も何かしら表現する職に就きたいと思いましたし、その気持ちは今も芯として強くあります。

 

──演劇の世界だと役者や演出家などの道がありますが、結果的にその方向には進まれなかったんですね。

 

山崎 演出家になりたいという思いは頭の中にありました。ただ、あくまで選択肢の一つという考えで、もっといろんな表現手法に目を向けようという思いが強かったんです。大学も一般的な私学の立教大学を選んだのですが、これにも理由があるんです。演劇表現の道に進むのであれば、美大や日芸(日本大学芸術学部)に進むという選択肢があります。でも、僕が生み出し、届けたいと思っている表現の相手は限られた特別な人たちではなく、いわゆる普通の生活を送っている方々。ですから、表現を届けたい人たちの気持ちを理解するために、なるべく同じ経験をしたいと思い、それで、立教大学に進み、写真を学びました。

 

──写真を選ばれたのはなぜでしょう?

 

山崎 これにはちょっとした偶然と面白い出会いがあったんです。話が少し前後しますが、僕は10代の頃、たくさんの本を読んでいたんです。……いや、読まされていたというほうが近いんですけどね(苦笑)。特に高校時代は紀行文が好きで、沢木耕太郎さんの『深夜特急』や辺見庸さんの『もの食う人びと』、開高健さんの『オーパ!』シリーズといった作品をよく読んでいました。その影響もあり、大学受験が終わってから入学式までの時間を使って、青春18きっぷで日本中を巡る旅をしたんです。その時、たまたまローカル線のボックスシートの向かい合わせで座った方が写真家の方で。僕も長旅で手持ち無沙汰だったこともあり、写真やカメラについていろいろ教えてもらったところ、すごく興味が湧いたんです。演劇の世界で演出家になることも考えていた頭の中に、突然、ポンっと“写真も面白そうだぞ!”という思いが湧き出てきて。思い立ったらすぐ行動だ! と、旅から帰ってきたその日に写真家の方に教えてもらった中野のフジヤカメラに行き、ニコンのFE2を購入しました。

 

──そこまで山崎さんの心を突き動かした写真の魅力とは何だったのでしょう?

 

山崎 それが、あまり詳しく覚えていないんです(笑)。でも、話をしてくれている時の写真家さんの顔がすごく輝いていたのははっきりと覚えています。自分の仕事を楽しそうにいきいきと語れる大人って、そうそういない。10代の僕はそこにうらやましさを感じたんだと思います。それに、その頃から僕には、演劇にしろ、写真にしろ、表現と呼ばれるものは最終的にすべて必ず繋がっていくはずだという思いがあったので、興味を持ったものに対してはとりあえず全部経験してみようという思いがあったんです。

 

──ということは、大学在学中から写真以外のことにも手を伸ばしていたんですか?

 

山崎 そうですね。高校時代からストリートダンスもやっていたので、その流れで、大学ではクラブイベントをオーガナイズするチームにも所属していました。渋谷や六本木で、いろんなダンサーやDJ、ラッパーたちがパフォーマンスする場を作っていたんです。ただ、イベントを開催するとなると、それを宣伝するためのポスターやフライヤーが必要になる。そのグラフィックデザインも担当していました。また、当時はステージに映すVJが流行りだしていた時期でもあったので、その映像編集もしたり。大学では写真を学び、プライベートではダンスチームに入り、同時にグラフィックデザインや映像も作る。今思えば、なかなかに多忙な大学1、2年生でした(笑)。

 

──すでに現在のお仕事とリンクするところがたくさんありますね。その頃、写真はどのようなものを撮られていたのでしょう。

 

山崎 当時はジャーナリスティックな写真に憧れていました。報道写真家・一ノ瀬泰造さんの著書『地雷を踏んだらサヨウナラ』を読んで、なんてかっこいいんだと思ったりして。マグナム・フォト(※ロバート・キャパらによって1947年に結成された、世界を代表する国際的な写真家のグループ)に入りたいと思っていましたね。その頃から、“写真やデザインの力で人の心は変えられる”、“正しいことは必ず伝わる”ということを信条にしていたんです。それもあって、先ほどお話ししたクラブイベントでも、自分がフィリピンで撮影したストリートチルドレンなどの写真をフロアに貼ったりしていました。また、NPOやNGOの方たちとも繋がりを持っていましたので、彼らの活動と一般の若者たちの心を結びつけるにはどうすればいいかということも常に考えていました。ただ、そうした思いを抱く一方で、今度は映像を撮りたくなったんです。今でも目標の一つなのですが、昔から映画を撮るのが夢で。大学で写真を学び、写真を連続させれば映像になるんだということに改めて気づいたので、その知識を活かして新しい表現を学ぼうと、大学3年生の時にアメリカに留学することを決めました。

↑山崎さん所有のカメラ

 

──ニューヨークフィルムアカデミーですね。なぜ、国内ではなくアメリカの学校を選ばれたのでしょう?

 

山崎 日本映画が好きだったんですが、当時はハリウッド映画が全盛で。相手を倒すには、まず敵の映画の理論を学ぶのが一番だと思ったんです。“敵”なんて言い方をしましたけど、その時のクラスメートとは今でもすごく仲が良いですよ(笑)。

 

──当時はどのような映像を?

 

山崎 海外の音楽やMVが好きだったので、最初はそれに影響を受けたような作品を提出したんです。すごく怒られました(笑)。「君の“魂”はどこにある?」「自分の内側から生まれ出る、君にしか出せない表現はなんだ?」と批判されて。ただ、その後、アートフィルムのような作品を撮ったところ、非常に大きな評価をいただきました。性の尊さや純血さを現した概念的な内容で、僕としては色をテーマに男女の関係性を描いたつもりだったんです。でも、「これは善と悪の象徴だ」「私には人種を表現しているように感じる」と解釈する人がたくさんいて。

 

──発想や想像が豊かじゃないと生まれない解釈ですね。

 

山崎 僕も、“人のバックボーンによって、こんなに異なる解釈をするのか”と驚きました。ただ一方で、やはりそうやって自分にしかできないものを表現していかないと世界では勝負できないんだということを学んだ経験でもあります。“表現”の繋がりで、生け花や水墨画も30を超えたタイミングから始めたのですが、それらはすべて自分を100%出せるもの……つまり、自分のルーツやアイデンティティを表現の中に取り込むために始めたことなんです。自身の中から生まれ出るものを何よりも大事にしなければいけない──そうした考えを確立したのが21歳の時でした。

 

大事にしているのは日常的な感覚と新たな発想の組み合わせ

──留学をしていたのが21歳。となると、就職活動も視野に入れなければいけない時期です。

 

山崎 ええ。留年することなく卒業できる状況ではあったのですが、おっしゃるように帰国した時点で、すでに当時の就職活動に出遅れていました。一部の映像制作会社などはまだ募集していたので、そこに懸けたりして。最終的にベンチャーの代理店に就職しました。ただ、そこで働いたのは2年間だけでしたね。実は、それとは別に内定をいただいた企業もあったんです。僕、『ドラえもん』が子どもの頃から大好きで。その会社では、《リアルドラえもんプロジェクト》というのを立ち上げていたので、“ドラえもんを作れるのであれば、クリエイションの仕事じゃなくても構わない”と思って応募したんです。なのに、内定者懇親会でドラえもん愛をひたすらしゃべっていたら、その僕の姿を見て「営業向き」という判断をされまして。ドラえもんを作れないのであれば僕にとっては本末転倒なので(笑)、その会社に内定の辞退を申し入れました。

 

──ということは、実際に就職した会社ではクリエイティブな仕事をされていたのでしょうか?

 

山崎 はい。飲料メーカーや化粧品ブランドを担当し、限定商品のパッケージや記者発表の案内状のデザインなどを作っていました。いわゆる商品とPRにまつわるコミュニケーションツールです。ありがたいことに、関係者の方たちからは高い評価もいただきました。ただ、僕にとってはそれが逆に、辞めるきっかけになったんです。実際に利用する方々の声が直接届くことがほとんどありませんし、世間にどんな評価をされているのかも分からない。自分が未熟だったせいもあり、その状況に、誤解を恐れずにいうと、なんだか虚像を作っているような感覚になったんですね。それで、“もっと利用者の反応を感じられるデザインがしたい”と思い、就職をして一年が過ぎた頃に、会社に勤めながら、建築を総合的に学べる早稲田大学芸術学校に通い始めました。

 

──なぜ建築を?

 

山崎 もともと建築が好きだったのもありましたが、建築もやはり総合芸術と言われるジャンルなので、全く違う角度から多くのことを学べそうだなと思ったんです。理系だから、とこれまで諦めていた部分があったんですが、人生は一度きりだしやっぱりやってみようと。

 

──なるほど。これまでの経緯をお聞きしていると、新たな分野に飛び込む際には必ず留学や大学といった経験をされています。決して独学で済ませないのは、やはり専門知識を一から学ぶためですか?

 

山崎 早稲田に関しては文理も異なり、完全に門外漢な建築をしっかり学びたいという明確な動機があったからですね。留学したニューヨークフィルムアカデミーも同じです。ただ、30代になってから京都芸術大学の大学院に通っていた時期があるのですが、その時は自分が周囲から怒られなくなってきていると思ったからです。人間って怒られている時が一番、拡張していく気がしていて(笑)。だから、そうした環境に身を置くために異分野の学校に行っているというのはあります。京都芸術大学では現役で事務所を開設している建築士がたくさんいるような中、僕一人だけフレッシュな1年生みたいな感じでしたから(笑)。ただ、そうした刺激を自分に与えることが僕には必要で。だから外部からの刺激を入れ替えるために、しょっちゅう事務所も引っ越したりしているんだと思います。

 

──常に視野を広げ、向上心も養っていきたという思いが感じられます。

 

山崎 確かに、視野を広げていきたいという思いは常にあります。ただ、向上心というのはちょっと違うかもしれません。いろんなことを学ぶのは、そんなに特別な行動じゃないと思っています。例えば、ゲームの『ゼルダの伝説』が好きな人は、新作が出たら無条件で買っちゃいますよね。その感覚に近いのかなと。はたから見れば遊んでるだけのように見えるかもしれないけど、そのゲームをすることで新たな体験が得られて、面白い発想が生まれるかもしれないから、自分にとっては必要なこと。ただ、だからといって、それが向上心や努力かと言われると、やはり違う。言ってしまえば、僕がいろんな大学に行くのも、いろいろな挑戦をするのも、興味がある世界に飛び込んでいるだけなんです。けど、その行動を起こすことが何よりも大事だと思っていて。人は経験を重ねれば重ねるほど、視野が広がっていきます。社会のことをほとんど知らないまま青春18きっぷで旅をしていた時と、カメラを覚えてから旅をした時とでは、同じ景色でも見え方がまるで違うのと一緒で、何気ない町並みも面白く感じるようになる。すると、“表現”として生み出すものにも広がりができるんです。

 

──すべてが仕事に繋がっているんですね。

 

山崎 いえ、さすがに世の中、そんなに簡単ではないですよ(笑)。やっているときは“どこかで繋がればラッキーだな”くらいの感じです。ただ、僕は比較的多くの経験が仕事に繋がっている。そこはすごく幸運だなと思っています。

 

──経験や挑戦に費やした時間が無駄になるかもしれないという怖さはないのでしょうか?

 

山崎 当然あります。それでも挑戦し続けられるのは、デザインを仕事にしたからかもしれませんね。多くの方が新しいことを始めるのに躊躇するのは、“失敗しそう”とか、“怒られそう”といった不安が多分にあるからだと思うんです。でも、デザインを含め、クリエイションの仕事は“他と違うこと”を是としていく。他の人と同じことをしていると、それはマネになってしまうので。

 

──確かに。

 

山崎 ただ、そうやって他と違うものを生み出すのは、楽しくもあり、同時に苦しいところでもあって。やはり半年に一度くらいクリティック(批評、批判)でボコボコにされますから(苦笑)。特に学生時代はそうですね。みんなの前で自分の作品を発表し、教授から公開処刑のようにダメ出しを受けると相当こたえます。なんせ、自分の内面から生まれたものをめちゃめちゃに批判されるわけですから。

 

──その人の思考や価値観などを否定されるようなものですよね。

 

山崎 そう。もはや人格否定みたいなものですよ(笑)。ただ、それに慣れてくると、そのうちなんとも思わなくなっていくんですけどね。とはいえ、否定されることに慣れすぎてしまうと、今度は独りよがりのものを生み出してしまう怖さもある。ですから、常に自分を俯瞰で見る感覚も必要なんです。その意味では、最初に一般の大学を選んだのは、僕には合っていたような気がします。スタートから専門的な環境に身を置くと尖った発想しか生まれなくなるかもしれませんし、世間の感覚との乖離ができてしまうと思いますから。言い換えると、デザインってブリッジだと僕は思っているんです。世の中のことをきちんと知り、日常的な生活を送っている人たちがどんなことを思い、何を考えているのかを感じて、その気持ちに寄り添いながら、新たな価値を生み出していく。この感覚は僕が仕事をするうえで、何よりも大事にしていることですね。

 

【山崎晴太郎さん撮り下ろし写真】

 

 

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撮影/干川 修 取材・文/倉田モトキ

市原隼人「今回も完全に自分のキャパを超えながら、甘利田を演じさせてもらいました」『おいしい給食 Road to イカメシ』

1980年代を舞台に、給食マニアの中学教師と生徒が静かな“闘い”を描くコメディドラマ『おいしい給食』の劇場版第3弾が、5月24日(金)より公開。主人公・甘利田を演じ、新境地を開拓した市原隼人さんが、老若男女が楽しめる極上の給食スペクタクルコメディを生み出すための熱い思いを語ってくれました。

 

市原隼人●いちはら・はやと…1987年2月6日生まれ。神奈川県出身。2001年、『リリイ・シュシュのすべて』で初主演し、『偶然にも最悪な少年』(2004)で日本アカデミー賞新人賞を受賞。近年の主な映画出演作に、『ヤクザと家族 The Family』(2021)、『太陽は動かない』(2021)、『劇場版 おいしい給食』シリーズ(2020、2022)などがある。Instagram

 

【市原隼人さん撮り下ろし写真】

 

これまでの中でも群を抜いてハードな撮影

──今回はドラマシリーズのseason3の完結編となる劇場版・第3弾が公開されます。反響はいかがですか?

 

市原 タクシーに乗れば運転士さんに、駐車場に停めれば、係の方に、お店に入ればお店の方に、行く先々で、「おいしい給食見てます!」とお声がけいただき、役者仲間や別作品のスタッフさんからも、現場で「おいしい給食見てる」と言っていただきます。毎回毎回「もうやりきった、これで終わりだ」という気持ちで全力を尽くし、奮闘しながらやっているのですが、こんなにいろんな方に作品を認知していただけるようになって、本当にうれしい限りです。一つひとつやってきて、気がついたら奇跡の「season3」を創らせていただくことになり、これもひとえに、熱望してくださった作品ファンの皆さまのお気持ちの賜物。もう夢のようです!

 

──season3が決まったときの率直な感想は?

 

市原 正直なところ、「またも甘利田という大役を務められるのか?」という思いでいっぱいでした。これまで、役者として様々な役をやらせていただきましたが、甘利田を演じるということは、精神的にも体力的にも群を抜いてハードなんです。例えば、基本の前準備としては、甘利田は、たくさん動かなくてはいけないですし、給食のシーンも長回しで何度も食べるので、撮影に入る前に体重を10キロほど落とし、身体作りから始めるんです。なので今回の脚本もいただいても、すぐには読めなかったです。他の役が入っていない時にしっかり向き合いたかったので。

 

──そこから甘利田先生独特のトリッキーな動きに繋がるんですね。

 

市原 season1のときから、いろんな可能性を試し、脚本にたくさん肉付けさせていただける現場なので、給食前に高揚して踊っている姿とか、すべて自分のアドリブで動いています。それも先に録ったナレーションと合わせなければならないので、給食のシーンは、事前にすべてを構築してから現場に入ります。そんなことを毎日考えていると、全く眠れないんです。役者冥利に尽きることなのですが、撮影中はずっとハードですね。今回も給食を食べながら、意識が飛んでしまったりとか、完全に自分のキャパを超えながら演じさせていただきました。

 

こんな世の中で信じられる作品を作りたかった

──作り手として、season1からの大きな変化はありますか?

 

市原 season1のときから作品のコンセプトは変わっていません。原作のないオリジナル作品の中、お子様が見ても目を背けさせないよう、人生のキャリアを積まれたご年配の方が見てもしっかりと楽しめるよう、王道のエンターテインメントの象徴として、「キング・オブ・ポップ」を創りたいという思いでやっています。ジャンルにとらわれない唯一無二の世界観の中、社会派でもあり、人生の糧となるようなセリフや強いメッセージ性に関しては、シリーズを追うごとに増えていると思います。現場の制作陣、キャストが一丸となって、いろんなものを生み出そうとしている、なかなか珍しい現場だと思っています。

 

──舞台は北海道・函館ですが、函館ロケの思い出を教えてください。

 

市原 今回初めて、北海道の函館という具体的な地名が出てきて、舞台が冬に舞台になりました。台本の冒頭に「私は極端に寒がりだった」というモノローグが書かれているのを見て、「これは面白くなるに決まっている!」と思いましたね。実際に極寒で大変でしたが(笑)、確実にパワーアップしていました。いろいろな名産品で知られる北海道で撮影させていただきつつ、例えば、教室の中にはストーブがあり、その横にライバルの生徒が座っていることで、新たなドラマが始まります。とてつもなくパンチの効いた、すごく面白い第3弾が出来上がったと思います。

 

──甘利田先生を長く演じ続けることでの意識の変化は?

 

市原 声を枯らしながらもなお、何度も何度も叫び続けるのは、生徒に対するエールであるのと同時に、視聴者や観客の皆さまへのエールのようになってきています。ただ甘利田をどう進化させようかと思った末、行き着いた答えは変わらずに在り続けることだったんです。「甘利田はシンプルだが、世の中はシンプルではない」というセリフがあるんですが、全くそのとおりで、現代は何が正解か分からない時代だと思うんです。国が違えば、法律もルールも違うし、同じ理念を持った会社でも上司が違えば、やり方もルールも全く変わってしまう。そんな中で、この世の中で信じられる作品を創りたかったんです。僕はこの作品に救われていますし、いろんな方の支えになることができたらうれしいなと思いながら創っています。

 

お客様を含め、全員が主役の「劇場版」

──印象に残っている撮影エピソードを教えてください。

 

市原 生徒たちの笑顔は、みんな素敵でした。とても緩急がある現場で、シリアスなシーンでは息もできないほどの緊張感なのですが、カットがかかれば、みんな笑顔で、ずっと給食を食べていたり(笑)。ペンギンみたいに、ワーッとモニター前に群がってきて、すごく楽しそうにチェックしている姿も愛おしかったです。そんな彼らの思春期の貴重な2か月を共にさせてもらうので、こちらとしても素敵な作品にしなきゃいけないと奮い立っていましたね。クランクアップでは、みんな泣いていましたし、僕も同じ思いで涙を流しながら、「一緒に戦ってくれてありがとう」と声をかけました。

 

──今回の大きな見どころとなる、学芸会でのシーンについては?

 

市原 甘利田がお手本を見せるシーンでは、綾部監督に「ちょっと時間ください」とお願いして、できるすべてをやり尽くしました。あそこは特に笑わせたいのではなく、笑われたかったんです。「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である」というチャップリンの言葉のように、給食や生徒に振り回されつつ、人生を謳歌している甘利田の背中を見ていただきたいです。

 

──市原さんから見て、「ドラマ版」と「劇場版」の大きな違いは?

 

市原 「劇場版」には、30分の「ドラマ版」では見せ切れない人間臭さを含む群像劇がたっぷり詰まっています。そして、お客様を含めて全員が主役だということを感じていただきたいです。今まで描かれてこなかった比留川先生(大原優乃)との『おいしい給食』ならではのラブシーンにも期待していただきたいです。

 

甘利田はもっと窮地に!?

──今回タイトルにもなったイカメシのほか、さまざまな給食メニューが登場します。

 

市原 今回も例のごとく、給食中にイリュージョンのシーンがあり、気付いたら教室から知らない場所に飛ばされたりするので、それがどういう形になっているか? 果たして、「甘利田はイカメシを食べられるのか?」という点も楽しんでいただきたいです。また、子供の頃は何も考えずに食べていた給食ですが、そんな給食を紐解いていくと、国が見えてきたり、情勢が見えてきたりとか、その地域の特色が見えてくると思うんです。大人にとって、ノスタルジックな思いだけでなく、そういう現状も改めて考えていただけるかもしれません。

 

──今や市原さんにとってハマり役となった甘利田先生に、今後どうなってほしいですか?

 

市原 日本は豊かな食文化に溢れているので、いろんな地域に行って、その名産品に振り回されてもらいたいですね。そして、もっともっと窮地に追い込まれてほしいです(笑)。

 

──GetNavi webにちなみまして、現場にいつも持っていくモノやアイテムがあれば教えてください。

 

市原 身体ひとつでできるものが芝居だと思っていますから、そういうものは特にないんです。強いて言えば、カメラぐらい。「おいしい給食」の現場でも、生徒たちを被写体にかなりの枚数を撮りました。キャノンのEOS 5Dにオールドレンズつけたものや、R5やR6を使ったりしています。あとは、生産が終わってしましたシリーズなのですが、35mmフルサイズが撮れるソニーのRX1RM2です

 

──あと、市原さんの趣味といえば、バイク。愛車であるカワサキZ1(900Super4)の調子はいかがですか?

 

市原 50年前のバイクで、シンプルな構造だから、乗っていて楽しいです。今はエンジンを全部ばらして、作り直しています。砂型から作って、そこに鋳造して、三次元測定器でアライメント取って。今まで排気量1015ccだったのですが、永遠のテーマであるカスタムに一度ピリオドを打ちたいと思いまして、ツインプラグ化し1200ccにして自分で組み立てようと思っています。その愛機とともに、トム・ソーヤやチェ・ゲバラのような気分で、行先を決めずアメリカ横断したいと思っていて、それをドキュメンタリーとして企画している最中です。

 

 

<作品紹介>

おいしい給食 Road to イカメシ

5月24日(金)より公開

【映画「おいしい給食 Road to イカメシ」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
監督:綾部真弥
脚本:永森裕二
プロデューサー:岩淵 規

出演:市原隼人、大原優乃、田澤泰粋、栄信、石黒 賢、いとうまい子、六平直政、高畑淳子、小堺一機

(STORY)
1989年、冬。函館の忍川中学に転勤した甘利田幸男(市原隼人)は、新たな食のライバルでもある生徒・粒来ケン(田澤泰粋)と、毎日ひそかに給食バトルを繰り広げる。そんな彼に新米教師の比留川愛(大原優乃)が憧れを抱くなか、忍川町では町長選挙を前に忍川中学が給食完食のモデル校に選定され、政治利用されようとしていた。

公式HP  https://oishi-kyushoku3-movie.com/

(C)2024「おいしい給食」製作委員会

 

<書誌情報>

【公式ファンブック】おいしい給食 うまそげBOOK

5月21日発売 価格1500円+税 ワン・パブリッシング行 Amazon購入リンク

 

最新劇場作「おいしい給食 Road to イカメシ」最速見どころレポート!

5月24日より全国公開される最新劇場作「おいしい給食 Road to イカメシ」の舞台は函館、北の地に降り立った中学教師の甘利田(市原隼人)は、念願の『イカメシ』を味わうことができるのか、そして独自の給食道をいく生徒、粒來ケンとの給食バトルは!? ほかにも給食の完食を公約に掲げる等々力町長(石黒 賢)の登場、密かに想いを寄せる甘利田先生と比留川先生(大原優乃)の恋の行く末など、本書では劇場作品の公開に先駆けて見どころレポートを掲載します。劇場に向かう準備としてもファン必読です。

完全保存版! テレビシリーズや劇場作品の全話紹介プレバック大特集!

給食を愛する甘利田先生が歩んだこれまでの「給食道」に迫る大特集は必見! これまでのテレビシリーズや劇場作品の全話ガイドに加えて、振り返り視聴する際にも役立つ人物相関図や生徒の座席表なども記載。また全作品で登場した給食メニューの一覧や貴重な撮影オフショットも楽しめます。また巻頭では、主演の市原隼人さんのロングインタビューが読めるほか、最新作のヒロイン比留川先生役の大原優乃さんとのスペシャル対談で撮影舞台裏話も余すことなく掲載しています。

付録でも誌面でも楽しめる心に響く名言集!

クスっと笑えるものから心に深く突き刺さる言葉も「おいしい給食」の魅力のひとつです。本書では、劇場最新作品で登場する名言で彩られた特製シールが付録として付きます。誌面では、これまでの作品から厳選された名言の数々をそのシーンとともに楽しめます。本書発売を記念してスペシャルなプレゼントが当たる「発売記念キャンペーン」を5月31日(金)まで開催中!

発売記念キャンペーンページ:https://kids.gakken.co.jp/feature/campaign/oishiikyusyoku/

撮影/金井尭子 取材・文/くれい響 ヘアメイク/大森裕行(VANITÉS) スタイリング/小野和美

松井愛莉&長野凌大&長妻怜央「何度、律っちゃんかわいいと思ったことか!」“全話衝撃”話題のドラマ『シークレット同盟』緊急座談会

韓国発の衝撃コミックを実写ドラマ化した『シークレット同盟』(読売テレビ、TVerほかにて現在放送&配信中)。ヤバすぎる三角ロマンスに“ゾワキュン!”必至と話題のドラマ。男性恐怖症の悩みを抱えるイケメン女子のヒロイン・詩杏役の松井愛莉さん、彼女に急接近する容姿端麗で狂気のストーカー・律子役の長野凌大さん、詩杏がアルバイトするカフェの料理長で絶世のプレイボーイ・蓮見役の長妻怜央さんに、本作の魅力を語ってもらいました。

 

【松井愛莉さん&長野凌大さん&長妻怜央さん撮り下ろし写真】

 

新たな扉を開いちゃった(!?)3人

──「TVer」ドラマランキングTOP5など、さまざまな反響を呼んでいますが、ご自身はどのように捉えられていますか?

 

松井 いろいろな反響がありますが、個人的に一番うれしい反応は、「ショートカット似合ってる!」って言ってもらえることです。これまでもショートにした作品はありましたが、ここまで短くしたのは人生初めて。しかも詩杏ちゃんはほぼほぼメイクしていない設定なので、「大丈夫かな?」って不安だったんです。やっぱり、律っちゃんが一番反響ありますよね…?

 

長野 おかげさまで、反響だらけです(照)。僕が所属している、原因は自分にある。のメンバーからはもちろん、事務所や現場のスタッフさんからも「見たよ!」って言ってくださいますし、いろんなところから連絡を頂いて、とにかくすごいんです。

 

長妻 僕は7ORDERのメンバーから、なかなか連絡が来なかったんですよ(笑)。それで「長妻怜央のプレイボーイの部分を見ていただきたいです」といったコメントを出したときに、初めて「見るよ」と連絡が来たんですが、親に見られる気持ちで、なんか恥ずかしかったですね。それでこれまで経験したことのないキスシーンがあることも知られたので、「新たな扉、開いちゃったね」といじられました。

松井愛莉●まつい・あいり…1996 年 12 月 26 日生まれ、福島県出身。最近の出演作に、ドラマ『社内マリッジハニー』(2020)、『エロい彼氏が私を魅わす』」(2022)、『ブルーバースデー』(2023)がある。映画「癒しのこころみ~自分を好きになる方法~」(2020)では主演を務め、20 年からファッション誌「GINGER」のレギュラーモデルを務める。現在放送中のwowowオリジナルドラマw‐30「白暮のクロニクル」にも出演している。 Instagram

 

──原作や脚本を読んで、これまで出演されたドラマと違う感触はありましたか?

 

長妻 「ブレイボーイの長妻怜央」から言うと(笑)、めっちゃキスシーンが多いんですよ。今まではピュアなキスシーンが多かったので、「ファンの方はどういう気持ちかな?」と考えたりもしたんですが、そんなことを考える余裕がないほど、呼吸する感覚で、いろんな人とキスしているんです。クランクインの日も、日和役の森田想ちゃんとのキスから始まっていますから(笑)。だから、これまでの長妻のラブシーンの要素がぜんぶ詰まった作品ですね。

 

松井 同じ韓国の原作モノでも以前出演した「ブルーバースデー」と全く違うドロドロな展開に驚きましたし、ここまでいろんな人から裏切られ、戒めを受けることは初めてで……(笑)。みんなの矛先が全部詩杏に向いているので、脚本を読んだときは心をズタボロにされました。なのでクランクイン前は「魂を持っていかれるんじゃないか?」という不安もありましたが、ムードメーカーの長妻さんをはじめ、皆さんが現場を明るく盛り上げくださったことで、かなり救われました。ただ、改めて考えると、とんでもない話ですよね(笑)。

 

松井 ドラマの出演経験が少ないので、僕も律子という役柄が難しさをずっと感じていて、撮影的にも毎日が山場でしたし、女装も含めて初めてのことだらけで、「どうしたらいいんだろう?」って思うことが何度もありました。そんな中で、ムードメーカーである怜央様とパンッと引き締めてくれる松井さんに助けてもらいました。

 

見逃し厳禁の「全話衝撃」で「全話最終回」!

──松井さんと長妻さんから、長野さん演じる律子はどのように見えました?

 

長妻 朝のあいさつするときは「凌大、今日もよろしくー!」みたいな軽いノリで接するんですが、メイク中から「律子さん、もう入られているんだ」と気持ちになってしまうというか、見た目もそうですけど、そう思わせるぐらい役への切り替えがすごいと思ったし、プレイボーイ切り替えが必要ない僕としては、そのギャップが面白かったですね。それで画面に映ってもすごくきれいだし、女性らしいしぐさに見惚れてしまうし、「松井さんのこと、本当に好きなんじゃない?」って、ちょっと不安に思うときもありました(笑)。

 

長野 それ、完全に視聴者目線じゃないですか!

長野凌大●ながの・りょうた…2003年7月16日生まれ。静岡県出身。原因は自分にある。のメンバー。主な出演に、「イケメン・セブン・デイズ」(tvk 火曜日レギュラー)、舞台「いいね!光源氏くん」、「空人凌大のラジオの原因。」(ラジオ日本)に出演中。 Instagram

 

松井 私は律ちゃんと対面でお芝居することが多かったのですが、最初からかわいいのに、日を増すごとにどんどんかわいくなっていくんです! どこかなじんでくるのか分からないですが、しぐさも女子に見え、上目遣いしたときの破壊力がとにかくすごいんです! 現場では何度「律っちゃん、かわいい」と思ったことか。服を脱いでウイッグを取ったときの別人感には驚かされました(笑)。

 

長野 うれしいです! 服とかウイッグって付けていくうちに、どんどん自分になじんでいくのが分かるんですよ(笑)。そういえば、女性のしぐさを知りたかったので、現場で松井さんに「座り方とか、どうしてます?」と聞いたら、「分かんない! でも、脚は閉じるんじゃないの?」と言われたんですよ。

 

──今後、さらなる泥沼化が待ち受けるなか、見どころをお願いします。

 

松井 「全話衝撃」とうたっているように、これからいろんな登場人物の正体や裏の顔が暴かれていきます。複雑な人間関係を楽しみにしつつ、まだまだ盛りだくさんの展開に振り落とされずについてきてほしいです。

長妻怜央●ながつま・れお…1998年6月5日生まれ。茨城県出身。7ORDERのメンバー。最近の出演作に、ドラマ『その結婚、正気ですか?』(2023)、『Sugar Sugar Honey』(2024)などがある。また、映画「犬、回転して、逃げる」(2023)では主演を務める。「地名しりとり 旅人ながつの挑戦」(CBCテレビ)にレギュラー出演中。 Instagram

 

長妻 これだけいろんなことが暴かれちゃったら、最終話は総集編になっちゃうんじゃないの? と思ってしまうぐらい「全話衝撃」が続きます。こうなると、「全話最終回」と言ってもおかしくないですが、ぜひ最後までお見逃しなく! そして、何回も見返していただけたらうれしいです。

 

長野 後半にかけて、それぞれのキャラクターが、どうしてこうなったのかという過去から現在に繋がっていく物語がどんどん暴かれていきます。もうそろそろ終わっちゃうんじゃない? と思うぐらい、毎回盛り上がりますので、毎週見ていただけたらうれしいです。

 

律子に成り切って選んだ歯ブラシ

──皆さんがいつも現場に持って行くモノやアイテムについて教えてください。

 

長妻 僕はすぐにモノをなくしちゃうので、現場には携帯とカギしか持って行かないです。携帯ケースには財布が付いています。あと、キスシーンがあるときは歯ブラシとガム。そういえば、クランクインの日にヘルメット型のヘッドマッサージャーを現場に持って行ったんです。「これで、皆さんの頭をほぐしていきます」って言ったものの、よく考えたら皆さんヘアセットされているんですよね。だから翌日から持って行くのをやめました。ちなみに、クランクインの日はカギも忘れました(笑)。

 

松井 お菓子です。すぐに、つまめるようチョコからグミからいっぱい持っていって、みんなに隠れて食べています(笑)。あとは、携帯や財布、台本などを一つの巾着にまとめて持って行きます。現場中に食べる朝ごはんとしては、ビタミンゼリーは必需品です。

 

長野 歯ブラシです。もう、歯ブラシがないと落ち着かないというか、食事ができないので、お守代わりになっています。現場があるときは、1日に4回は磨かないと気が済まないんですが、今回1日だけ忘れてしまった日があって、撮影の合間に新しいものをコンビニに買いに行ったんです。普段はカバーの色を選ぶとき、白か青にしているんですけれど、そのときは律子だったので、あえてピンクを選びました(笑)。

 

 

ドラマDIVE
シークレット同盟

読売テレビ 毎週木曜日 深0・59~/福岡放送 毎週月曜日 深1・29~/中京テレビ 毎週火曜日 深1・24~/TVer/FODにて配信中

(STAFF&CAST)
原作:Lero 「シークレット同盟」(KidariStudio, Inc. & LEZHIN Ent.)
監督:本田隆一 金子功 大山晃一郎
脚本:山﨑佐保子 丹保あずさ 合田純奈
出演:松井愛莉 長野凌大 / 長妻怜央

(第8話STORY)
律子からのラブホテルへの誘いに乗った蓮見。濃厚なキスを交わすその裏で、律子は蓮見の存在を詩杏の心から抹殺しようと、蓮見は律子の正体を暴こうと、互いの策略をぶつけ合う。そんな中、律子が仕掛けた想像を絶する捨て身の罠とは? 後日、蓮見は不意に詩杏をデートに連れ出し自宅へと誘って……ついに蓮見が詩杏に近づく理由が明らかになる。

 

(C)「シークレット同盟」製作委員会

公式サイト:https://www.ytv.co.jp/secret/
公式X:@dramaDIVE_ytv
公式Instagram:@drama.DIVE
公式TikTok:@drama_DIVE

 

撮影/映美 取材・文/くれい響 ヘアメイク/相場清志(eif)(松井)、小原梨奈(長野)、Chiho Oshima(長妻)スタイリスト/Erina Ohama(松井)、竹上奈実(長野)、カワセ136(長妻) 衣装協力/SOL、AIVER、STEALTH STELL’A

TikTokクリエイター・まいきちインタビュー後編! 不登校を経てからTikTokで生きていくことを決めた少女の「どうせ生きているなら、楽しんだほうがよくない?」マインド

2017年、中学1年生ときにTikTokを始めると、かわいさだけではない個性の強さで、またたく間に同世代の心をつかんだまいきちさん。14歳でフォロワー88万人を抱え、2020年には自身が作詞を手がけた楽曲で歌手としてメジャーデビューをするなど、TikTokドリームを体現している。が、本人はクールに「1歳から芸能活動をしているから、実はけっこう芸歴が長いんです」と話すのだ。そんなまいきちさんの幼少期から、マインドを変えた「どん底」まで語ってもらった。

 

【関連記事】TikTokクリエイター・まいきちインタビュー前編!「一夜でフォロワーが20万人に」中学生TikTokerのパイオニアが動画1つに6時間かける理由

 

まいきち…2005年1月30日生まれ、大阪府出身。中学1年生でTikTokを開始したことがきっかけで、2019年にユニバーサルミュージックと専属契約し、2021年2月26日に『どこでもスタート』でメジャーデビュー。2021年よりファッションメディア『Ranzuki』の専属モデルに就任した。YouTubeでは魅力的な歌声を披露している。XInstagramTikTokYouTube

 

まいきちさん 公式TikTok @maikichi0130

 

【まいきちさん撮り下ろし写真】

 

1歳のときから洋楽で踊っていた

──お父さんがミュージシャンだと聞きました。どんな音楽を聴いて育ったんですか?

 

まいきち 両親が音楽を通じて出会って、音楽があふれる家で育ちました。邦楽だとBOOWYとか桑田佳祐さんとか、一番聴いていたのはビートルズとかレッドホットチリ・ペッパーズ、プリンスとかです。

 

──物心ついたときの音楽体験、覚えていますか?

 

まいきち 物心がつく前ですが、1歳のとき、MIKAの『グレース・ケリー』という曲で立って踊りだしたらしいです。物心がついてからは、曲を作ったりパパにドラムやギター、ピアノを教えてもらっていました。

 

──どうやって曲を作っていたんですか?

 

まいきち まずテーマを決めて、私が単語をあげていって、口ずさんだ音をデモにしてくれました。ママは歌う人だったので、パパとママで急にセッションを始めたりとかありましたね。ママはすごくて、家で鼻歌を歌っていると「そこ音程ちがうよ」と指摘してくるんですよ。だから歌うのがイヤな時期もありました。

 

──音楽に対して妥協しないお母さんだったんですね。幼少期は音楽を肌で感じる生活を送り、小学生はどんな生活を送っていましたか?

 

まいきち 中華学校に通っていました。お友達は多様で、それぞれが思っていることを言い合える関係でぶつかったりもしていて、それはそれでいいことじゃないですか。でも、5年生のときに日本の学校に編入したときに「みんな言っていることと思っていることが違う」とうことに気づいて。

 

転校先の中学校で大歓声!

──本音と建前があると。

 

まいきち そう。当時、そのときにボーカル&ダンススクールに通っていたんですが、それもあって目立ってしまったようで、嫌がらせを受けるようになったんですよ。日本人の中では、こういうことをうまく交わしていかなきゃいけないんだな、と学びました。中学生になると芸能系の学校に通うことになって、入学式から「事務所、どこなん?」って会話するようなところで。バッチバチでしたね。

 

──野心がすごそうですね。

 

まいきち そこでもぶつかっちゃって。だからもう、一人でいることを楽しむようにしましたね。休み時間は一人で本を読んだり、それで知識を得られることに楽しさを見いだしていました。そのあと、中学3年生のときに上京することになるんです。

 

──中学生で一人でですか?

 

まいきち お父さんと二人でです。ユニバーサルミュージックさんに入ったタイミングだったので、東京の学校に行くことについてわくわくしました。しかも、転校のあいさつを全校生徒の前でマイクでしなきゃいけなくて。そのときすでにTikTokをやっていたので、私が壇上に上がると、「キャーーー!」ってなって。「ご存知のとおり、まいきちです」みたいな。

 

──かっこいい! 堂々としたあいさつですね。

 

まいきち 自信を持って胸を張れるキャラのほうが印象がいいかなと思って。学校は楽しかったんですが、中学3年の3学期にそのまま卒業式を迎えてしまいました。

 

不登校だった高校時代「TikTokで食べていく」

まいきち でも、一番大変だったのは高校時代です。入ったときから「うわ、まいきちかよ」みたいな反応をされて。入学して3か月は通いましたがいろいろあり、もう行く必要がないかな、と思ってそれからは学校に行きませんでしたね。その代わり、TikTokなどでライブ配信を始めるようになりました。それと同時に、「これからは、これで食べていかなきゃいけないのかもしれない」と思うようになって。

 

──高校生ですでに、食べていくことを想定したんですか。

 

まいきち 今も「どうやって生きていけばいいんだろう……という不安もあるし、めちゃくちゃ不安定な職業だと思っています。人気が落ちていく可能性を常に秘めているし、そういう不安と戦いながら毎日投稿しなきゃいけないし……というプレッシャーとストレスを感じて、精神的に落ち込んでしまったのが高校1、2年生のときだったんです。それが高校3年生のときに「こんなことをしていても意味がないな」と、急にマインドが変わりまして。「生きているのなら、楽しんだほうがよくない?」と。

 

──転機があったんですね。

 

まいきち やっぱり、最終的に笑っているヤツが勝ち、みたいなところってあるじゃないですか。昔はそれってきれいごとだと思っていたんですが。ライブ配信で悩みごとを打ち明けてくれる方が多んですが、私自身もそういう方たちにきれいごとを言っているんですよ。「笑っていれば大丈夫だから。時間はすぎるものだから」って。きれいごとだと思うけど、きれいごとを言っていきたいし、それを信じていきたいんです。……と、そんなふうにマインドが変わりまして。

 

「ただ生きているだけで正解なんだ」

──スムーズに行かない出来事があったからこそ、とても説得力がありますね。

 

まいきち ずっとそういうことを考えていたから、伝えられてうれしいです。友達がいなくて遊びに行くこともなくて、一人で考えて一人で会話をしていたんです。

 

──そういうことをメモしたりも?

 

まいきち はい、スマホのメモ帳に、思ったことをいっぱいぶわーーーって書いてます。めっちゃしょうもないんですけど、これです。(スマホ画面を見せながら)

 

──すごい! びっしり書いてありますね。この言葉を公にしたら、救われる同世代の子、多そうですね。

 

まいきち 「ひまわりになりたい」とか、意味分からないこと書いてるけど(笑)。でもこれをつまんで歌詞にすることも多いんですよね。「ただ生きているだけで正解なんだって思います」「笑顔って、すてき。例外はない」とか、いっぱい書いてる(笑)。

 

──いい言葉ですよ。

 

まいきち 自分でも覚えてないことばかりです。

 

──いつからメモし始めたんですか?

 

まいきち 中学3年生くらいですね。学校に行けなくなったくらいから。

 

──傷ついてきた過去があるからこそ、表現で昇華しているように想います。

 

まいきち たしかに傷ついているなあって思いますが、それを経験できて、その経験をよかったと感じられる自分でよかった、と思います。高校2、3年のあのときから立ち上がった自分を、自分でも褒めてあげたいんです。

 

──どん底を自覚すると、もう上がるしかないですもんね。

 

まいきち そう! マジでそう。ずっと底にいると、ほんとうに上がるしかないんです。そのマインドで生きている今は、とてもいい状態です。

 

まいきちさん 公式TikTok @maikichi0130

 

 

撮影/佐賀章広 取材・文/有山千春 構成/BuzzTok NEWS Buzz Tok NEWS公式HP https://buzz-tok.com/

TikTokクリエイター・まいきちインタビュー!「一夜でフォロワーが20万人に」中学生TikTokerのパイオニアが動画1つに6時間かける理由

2017年、中学1年生ときにTikTokを始めると、かわいさだけではない個性の強さで、またたく間に同世代の心を掴んだ、まいきちさん。14歳でフォロワー88万人を抱え、2020年には自身が作詞を手がけた楽曲で歌手としてメジャーデビューをするなど、TikTokドリームを体現している。が、本人はクールに「1歳から芸能活動をしているから、実は結構芸歴が長いんです」と話すのだ。そんなまいきちさんの、動画制作やファッションのこだわり、そして、「私がかわいい!」と公言する理由とは? 前後編に分けてのロングインタビューを。

 

まいきち…2005年1月30日生まれ、大阪府出身。中学1年生でTikTokを開始したことがきっかけで、2019年にユニバーサルミュージックと専属契約し、2021年2月26日に『どこでもスタート』でメジャーデビュー。2021年よりファッションメディア『Ranzuki』の専属モデルに就任した。YouTubeでは魅力的な歌声を披露している。XInstagramTikTokYouTube

まいきちさん 公式TikTok @maikichi0130

 

【まいきちさん撮り下ろし写真】

 

中学生で「Musical.ly」に没頭

──子役をやっていたんですね。

 

まいきち そうなんです。TikTokを始める前も、歌手デビューを目指してダンスボーカルグループのコンサートに参加したりして。その活動をするために、当時住んでいた大阪と東京を行き来しているときに、趣味でTikTokを始めたんです。そしたら伸びちゃって、いろんなことがパパパッと進んじゃって。

 

──どこで火がつくか分からないですよね。

 

まいきち TikTokで火がついたのは思いがけないことでした。

 

──それまで、歌手になるためのレッスンもしたり?

 

まいきち めちゃくちゃレッスンしたし、オーディションもいっぱい受けたし、ライブもやったし。だから、2020年に『どこでもスタート』で歌手デビューしたとき、「なんでこの子こんなに歌えるの!?」という声を多くいただきましたが、それまでたくさんやっていたんですよね。

 

──そうだったんですね。そもそも、2017年にTikTokを始めたのって世間的にも早いですよね。TikTokの日本サービスが開始されたのも同年ですし。

 

まいきち 最初は、そのとき流行っていた「Musical.ly(ミュージカリー)」という動画アプリをやっていて。

 

──2017年に、TikTokの親会社である中国の大手企業「Toutiao」が買収した、音楽動画制作アプリですね。

 

まいきち そうです。まずはミュージカリーをYouTubeの広告で見て、「なにこれ! やってみたい!」となったのが始まりです。友達と遊ぶときに撮ったり、1日7本投稿とかしていました。フォロワーを増やそうとしていたわけじゃなく、手軽に編集できて投稿して、自分の力で作った動画を見て大満足……という感じで承認欲求を満たしていたんです。そんなとき、ある日ずーーっと通知がピコピコ鳴って。「なになに!?」と思ったら、いいねが1万。急に跳ねて、「ママ! パパ! 起きて起きて! 見てこれ!」みたいな。フォロワー数も2万人に増えていました。

 

いっきにフォロワー数が20万人に

──急ですね!

 

まいきち その動画のコメント欄に「1コメ!」と書かれて。これは有名な子には毎回ついているコメントで、「私にもついてくれた!」ってすごくうれしかったのを覚えています。それで親にフォロワー数が増えたこと、いいねがたくさんついたことなどを報告したら「なにそれ?」って。今のパパだったら「よし! もっとガンガン伸ばそうぜ!」となるけど、当時は大人にとってTikTokって「子どもが遊ぶもの。どうせすぐやめるでしょ」みたいな感覚で。

 

──確かにそうでした。これほどまで主要メディアになると思っていた大人は少なかったでしょうね。

 

まいきち でもその後、親が「え! もう20万人!?」とびっくりするスピードで伸びて、上京する流れになって。同時に、2018年にSNSが乗っ取られて初めて炎上も体験しました。

 

──どんな被害に遭ったのでしょう。

 

まいきち Twitter(現X)とInstagramを同時に乗っ取られて、暴露系クリエイターさんにかなりひどいDMを送られてしまったんです。それを晒されてしまい。そんなことを私が送るはずないって普通に考えたら分かると思うんですが、「まいきち、性格悪い!」とめちゃくちゃ叩かれました。そのとき初めて、「ネットって怖いな」と思ったんです。

 

──遊びで始めて、バズって、炎上も経験して。そして歌手デビューへと繋がって。ほんの2、3年でひと通り経験したんですね。

 

まいきち 歌手デビューは、2019年にユニバーサルミュージックから声をかけていただいたのが始まりでした。作詞してMVを撮るのが夢だったから、すごくうれしかったです。

 

──『どこでもスタート』のMV撮影、いかがでしたか?

 

まいきち 朝3時から撮影でしたが、すっごくわくわくして、中3のくせに大人ぶって眠気を覚ますドリンクを飲んだら体調を崩しちゃって(笑)。現場では、出演してくれる子が「まいきちさんのTikTok、いつも見てます!」と言ってくださるので、彼女たちの前でだけ明るくしていて、控室に入った瞬間にぐったり、みたいな。

 

歌手にモデルに、次々とデビューへ

──かわいいエピソードですね(笑)。この曲、タイトルも歌詞もとても素敵ですよね。

 

まいきち タイトルをスタッフさんに伝えたとき「『どこでも』ってなに?『ここから』のほうがいいんじゃない?」と指摘されて。そのとき、中3の自分は、前に踏み出せないる……そういう空間にいる……という認識で、だから私は「ここ」に限定せずに「どこからでも、何歳でも、いつでも、スタートしていいじゃないか」という思いを込めたつもりで『どこでもスタート』にしたんです。

 

──自分の伝えたいことをそんなふうに言語化できるからこそ、響く曲ができあがったんですね。

 

まいきち 次に作るなら、めちゃくちゃかわいい曲を作りたいんです。私はファッションもお化粧も好きで、化粧をした自分を自撮りして「今日のうち、かわいい」と毎日思っています。「かわいい」と思うとその日が前向きになれるから。

 

──TikTokを見ると、ジャンル限定せずいろいろなファッションをしてますよね。

 

まいきち そう、系統を毎日変えています。好きなものも毎日変わるし。今は『Ranzuki』で専属モデルをしていますが、それぞれのモデルが“ギャル”と“清楚”にわかれるなかで、私は“個性派”といわれています。「まいきちちゃんは、“まいきちちゃん”だもんね」みたいな扱い。

 

──現時点でのTikTokの最新動画では、地雷系のメイクとファッションをしています。朝、その日の気分で決めるんですか?

 

まいきち 意識してメイクしているわけではないんですよ。メイクしていたらそれになる。ちなみに今日の私服は、「高円寺にいそうな人」です。

 

──確かに! 高円寺感ありますね!

 

まいきち ちなみにメンヘラの女の子をイメージして撮ったり。こういう子は路上が似合うだろうなと思って原宿の路上で取りました。こクラブに行きそうな子も、そういうメイクとファッションに変えるんです。

 

──場所も考えているんですか! 完成度高いですね。一番反応がいいのはどれですか?

 

まいきち Tシャツ姿のラフな感じとか。部屋着も人気です。みんなの中での私のイメージが「部屋にいる子」というのが強いと思うので。だからこういう、制服の清楚系も人気があります。

 

1動画につき30テイク

──毎日撮っているんですよね。

 

まいきち 毎日毎日、コンセプトを決めて写真を撮って投稿して、TikTokと同時にXにもポストして。こだわりもすごいんです。1枚の写真を載せるために、死ぬほど写真を撮っています。

 

──何枚くらい撮りますか?

 

まいきち 同じ画角の写真を300枚とか。スマホの写真フォルダには10万枚入ってますね。

 

──10万!

 

まいきち それくらい力を入れています。自撮りじゃなく、カメラマンさんに依頼することもあります。

 

──1カットにつき300枚のなかから、どうやってセレクトしますか?

 

まいきち これは感覚ですね。「あ、これ、バズる。イケる」みたいな。動画も同じように、下書きに1000動画のストックがあります。1動画につき30回くらい撮るし、15秒の動画に6時間かけたり。

 

──手間をかければかけるほど、バズりやすい、という傾向も?

 

まいきち 時間をかけて撮った動画は、絶対にバズってきました。友達の前で撮っていると「もうそれでいいじゃん!」とうんざりされますが、妥協が許せないんですよね。めんどうだとも思わない。一方で、「やらなきゃ。かわいく撮らなきゃ」という気持ちがストレスになるときもあります。

 

──毎日見せ方を考えて、当然疲弊する日もありますよね。

 

まいきち その上、いつ炎上するか分からないし。毎日生きること自体、すごく大変ですよ。

 

──炎上しないコツなどあるのでしょうか。

 

まいきち マイナスなことはあまり言わないようにしています。人って落ち込むと、気を引くために棘のある発言をしがちだと思うんです。そういうことをしない、とか。あと、調子の乗らないことと、ファンの子ひとりひとりを心の底から大事にすること、はずっと意識しています。

 

生きるモチベーションはファンの言葉

まいきち だから、さっきも「私、今日もかわいい」と言いましたが、それもあえて言っています。毎日「かわいい」とか「応援しています」というコメントをくれるのに、本人が「かわいくない」と否定的なことを言うと、すごく悲しいと思うんですよね。「どれだけ『かわいい』と送っても、伝わらないんだな」と。そういう気持ちになってほしくないので、今日も私は「私、かわいい」というプラスな発信をするし、「生きていてよかった」「みんなと出会えてよかった」と言うんです。そうやってすごしていると、炎上しなくなると思います。

 

──ファンの方との信頼関係を感じます。

 

まいきち それは大きいですね。炎上する子って、人気になったら、過去にファンからもらったプレゼントを蹴っている動画が流出するような子が多いんですよね。私はファンからの手紙は箱に入れてずっと取ってあるし、つらいときに読んでいます。

 

──これまで一番心に残ったファンの言葉は?

 

まいきち いっぱいありますが、例えば女の子からの手紙で、「四六時中まいきちちゃんのことを思って生活しています。勉強のモチベも、かわいくなりたいモチベもまいきちゃんだし、恋愛していて傷ついたときに元気をくれるのもまいきちちゃんです」という内容です。TikTokのコメント欄にも素敵な言葉があふれています。スマホを開くと、自分を肯定してくれる人間がいるって……それってすごく大きいんですよね。

 

──絶大な支えですね。

 

まいきち 私の活動の原動力は、ファンの声と、「もっと自分を知ってほしい。見てほしい」という気持ちです。

 

<後編に続く>
TikTokクリエイター・まいきちインタビュー! 不登校を経てからTikTokで生きていくことを決めた少女の「どうせ生きているなら、楽しんだほうがよくない?」マインド

 

まいきちさん 公式TikTok @maikichi0130

 

 

撮影/佐賀章広 取材・文/有山千春 構成/BuzzTok NEWS Buzz Tok NEWS公式HP https://buzz-tok.com/

伊原六花、ヤングタウン初女性単独パーソナリティ就任「まさか自分がここまでおしゃべりな人間だとは思わなくて(苦笑)」

大阪府立登美丘高校在学中に「バブリーダンス」が話題となり、芸能界入りしてからもマルチに活躍の場を広げる伊原六花さん。NHK連続テレビ小説『ブギウギ』では得意のダンスで視聴者の目をくぎ付けにし、地上波連続ドラマ初主演となる『肝臓を奪われた妻』(日本テレビ系)では復讐に燃えるシングルマザーという難しい役どころを熱演している。そんな勢いに乗りまくる彼女が、『MBSヤングタウン』の金曜日担当に大抜擢されることに。ヤンタン56年の歴史において、女性単独でのパーソナリティは初。本人を直撃し、その意気込みを語ってもらった。

 

伊原六花●いはら・りっか…1999年6月2日生まれ、大阪府出身。大阪府立登美丘高校在籍時、ダンス部の部員として披露した「バブリーダンス」が話題に。2018年に芸能活動を開始。『チア☆ダン』(TBS系)でのドラマ出演を皮切りに、ドラマ・映画『明治東亰恋伽』で初主演を務める。その後もNHK連続テレビ小説『なつぞら』、『どんぶり委員長』(BSテレ東ほか)、『神様のカルテ』(テレビ東京系)、『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS系)、NHK連続テレビ小説『ブギウギ』、映画『地獄の花園』、『リゾートバイト』など多数出演。現在、放送中の『肝臓を奪われた妻』(日本テレビ系)では復讐に燃える主人公を熱演し、注目を集めている。InstagramXYouTubeTikTok

 

【伊原六花さん撮り下ろし写真】

スタジオに向かうときからワクワクしています

──現在、『伊原六花のMBSヤングタウン』は3回オンエアされています(※取材日は4月26日)。少しは慣れました?

 

伊原 いや、それが全く慣れておりません(笑)。今日もこれから2週分を収録するのですが、どうなることやら……。とにかく大変なのは時間配分なんですよね。いつも時間が足りなくなり、最後は慌てふためきながら「バイバイ」ってあいさつするだけになってしまうので。

 

──過去の放送は聴かせていただきました。特に初回は、あたふたしている空気感がヒシヒシ伝わってきました(笑)。

 

伊原 番組には「これって私だけ?」というリスナー参加型のコーナーがあるんです。ところが私が本編でしゃべり過ぎるものだから、3回中2回はコーナーが消滅しちゃったんですよ。せっかくメールを送ってくださっているのに、あまりにも申し訳ない。番組が始まる前は「1人だけで1時間もしゃべれるのかな?」と不安だったんですけど、まさか自分がここまでおしゃべりな人間だとは思わなくて(苦笑)。

 

──番組にはアシスタントもいないですよね。相槌やツッコミもない中、1人だけで1時間を持たせるのってかなりのトーク技術が要求されるのでは?

 

伊原 そうそう、そこが一番不安なポイントだったんですよ! YouTubeの収録とかと違って、途中でカットとかもしないですし。1人だけのラジオというのは、私がしゃべり続けないと無音の時間ができてしまうということ。それは完全に放送事故だから、許されないわけです。だけど私って自分でもビックリするくらいオタク気質なところがあったみたいで、好きなことに関しては延々と語ってしまうんですよね。だから番組の収録は、ものすご~く楽しいんですよ。スタジオに向かうときからワクワクしていますし。

 

──確かに楽しそうですよね。好きなものを語っているときの熱量がすごくて。

 

伊原 私、普段はゆっくりしゃべるほうなんですよ。言葉が出てくるまでに時間がかかるタイプと言いますか。だけど好きな話題になると、急に早口になってしまって(笑)。やっぱりそれもオタクの特徴なんでしょうね。「めちゃくちゃテンション高いし」「好きなことだと早口過ぎるw」といったコメントも番組に寄せられますし。

 

──ファンの人も「いつもとは様子が違うぞ」と戸惑っているわけですね。

 

伊原 自分の好きなことを語るという機会は、今までYouTubeでもあったんです。だけど、やっぱりラジオって勝手が違うんですよね。ただ単にオタクが夢中になって話しているだけ(笑)。第3回で漫画を紹介したときも、とりあえず自分が好きな作品を皆さんにも知ってもらいたいという気持ちが強かったんですよ。それであらすじをガーッと説明していったんですけど、読んだことがない人からすると伝わりづらかったかなと。そこは、あとから冷静になって反省しました。まだ番組が始まったばかりということもあって、今は試行錯誤の最中ですね。

 

──『アメトーーク!』(テレビ朝日系)の「○○大好き芸人」シリーズもそうですが、人が好きなことを前のめりで語っている様子は単純に面白いですけどね。そのジャンルについて興味も湧きますし。

 

伊原 そう言っていただけると大変ありがたいです。そもそも『ヤングタウン』の金曜日を担当させていただくことになったとき、番組のスタッフさんと内容を詰めていく中で「毎回、好きなことを語っていくスタイルにしてみよう」という話に自然となったんですね。それは私がわりと突き詰めるタイプであることに加えて、好きなジャンルの幅が広いということも大きかったんですけど。

 

純粋に楽曲も素敵だけど、その裏にあるドラマ性みたいな部分にも惹かれる

──それは元来の性分なんですか?

 

伊原 おそらくそうでしょうね。音楽とかも、「流行っているから好き」という感覚があまりないんですよ。時代とかも全然関係なくて、パッと耳にしたときにときめくものを集めていったらジャンルレスになっていった感じなんです。たとえばカーペンターズの歌詞にグッと来るとするじゃないですか。そこでカーペンターズのドキュメンタリー映画を観てみたら、今度はそこに登場する別のアーティストが気になり始めたり……。

 

──素晴らしい! YouTubeの関連動画みたいに広がっていくイメージですか。

 

伊原 そうですね。たとえば私も出演させていただいた『ブギウギ』は音楽の話。そこに出てくる作曲家・羽鳥善一(草彅剛)のモデルは有名な服部良一先生ですよね。その服部先生が影響を受けたのがレナード・バーンスタインさんで、『ウエスト・サイド・ストーリー』を作曲した方なんです。私はミュージカルをずっとやっていたから、その2人が繋がることに興奮を覚えたんですよ。純粋に楽曲も素敵だけど、その裏にあるドラマ性みたいな部分にも惹かれちゃって。

 

──DJ体質というか、研究者タイプというか、とにかく調べないと気が済まない感じなんですかね。

 

伊原 それは間違いないです。ネットショッピングするときも、めちゃくちゃ下調べするくらいなので(笑)。あと私、ほかの人がハマっているものを聞くのも好きなんですよ。そこで感化されてハマったものもたくさんありますね。クラシックとかジャズを聴くようになったのも完全に周りからの影響。その世界の奥深さを知ると、「うわっ! 今までの人生、めちゃくちゃ損していたかもしれないな」とか思うんです。自分の趣味を押し付けるような感じにはしたくないけど、もし私が語ることで誰かの日々が少しでも鮮やかになるなら、ラジオでやる意味はあると思うんですよね。ですから今は一方的に自分が好きなことをしゃべっているだけだけど、ゆくゆくはリスナーさんに私が知らない世界のことを熱弁してもらえたらなとも考えておりまして。

 

──番組は1回目が自己紹介的な内容。2回目が舞台、3回目が漫画をテーマにしていました。

 

伊原 とりあえず4回目は昔の歌謡曲、5回目はサツマイモを扱うことになっています。

 

──サツマイモ? それだけで1時間もトークできるんですか?

 

伊原 いやいや! 今、サツマイモって本当に大ブームになっているんですよ! サツマイモ専門店も新たにどんどん作られているし、お土産やギフトにピッタリな高級感溢れるサツマイモ天ぷらのお店もあります。サツマイモフェスを開催すると、入場規制がかかるほどですから。昔から女性はサツマイモ好きな人が多かったと思うんですけど、それにしたって今の勢いは驚きますよ。

 

──そうなんですね。勉強になります。

 

伊原 それと、お芋って食のジャンルとしても深みがあるんですよね。蒸かす芋もあれば、焼き芋もあるし、大学芋だってある。品種によって味も全然違うし、調理法でカロリーも変わってきます。自慢する気はないですけど、私はサツマイモがブームになる前からずっと追っていましたから。「ようやく時代が私に追いついたか」という気持ちも若干ありますね(笑)。

 

──やはり自分の得意ジャンルとなると、すさまじい熱量で語りますね(笑)。5回目以降の構想もあるのでしょうか?

 

伊原 エキゾチックアニマルってご存知ですかね。トカゲとかモモンガとか、ペットとしてはメジャーじゃない動物を私は飼っているんですよ。あとは花とか植物も大好きで、家をジャングルみたいにデコレーションしたいというのが夢としてありまして。花言葉とかも調べると本当に面白いものが多いから、そうした魅力も伝えていきたい! あとは当然ダンスにも触れていきたいですし、ボディメイクとかヘルスケアとかも興味津々。語れるネタは尽きない感じはありますね。2回目にやった舞台の話なんて、自分の中では全くの消化不足でしたし。

 

──舞台の回は相当に濃厚な内容でしたけど、伊原さんの中では言いたいことの何%くらい話せたんですか?

 

伊原 50%くらいでしょうね。しかもあの収録のあとでも何本か観劇しているから、それについても語りたい気持ちがありますし。漫画の回に至っては、あれだけ熱弁しても10%に満たないかもしれない(笑)。だって世の中には素晴らしい漫画作品が山のようにあるわけじゃないですか。今すぐにでも漫画編のパート2、パート3をやりたいですし、漫画好きの方をゲストにお呼びするのもいいですよね。

 

私の両親もヤンタンで育ったようなところがあり、めちゃくちゃ喜んでくれた

──以前も伊原さんは自分のラジオ番組(『センチュリー21 presents 伊原六花とブカツ☆ダンス』/TBS系)を持っていましたよね。そのときと今回の違いは、いかがですか?

 

伊原 前回の番組が始まったのって、高校を卒業してすぐのタイミングだったんですよ。私自身が高校のダンス部で注目していただいたということもあって、放送の内容も学校の悩みを相談したり、部活について意見を交換したり、若い人たちに寄り添ったテイストだったんです。私自身も少し前まで高校生だったわけだから、学生リスナーの悩みというのは共感できる部分が多くて。だから、わりと素の状態でやっていた感覚がありますね。あの頃は駆け出しで怖いもの知らずだった面もあるし、今回のほうがブルブル震える感じは強いと思う。

 

──緊張感という意味では、「ヤンタン56年の歴史において、女性単独でのパーソナリティは初」という事実もプレッシャーになっているのでは?

 

伊原 もちろんです。伝統がある番組ということに加えて、金曜日のこの枠はアリスさんが長いこと担当されてきたわけですからね。その状態に慣れている多くの方は「なんだ、この小娘は?」って感じるはずなんですよ。ただアリスさんの魅力や持ち味を私が出そうと思っても、それは絶対に無理な話ですから。違う部分で勝負するしかないなというのは最初から考えていました。それにしても56年の歴史ってすごいことですよね。私の両親も学生時代からヤンタンで育ったようなところがあって、私がパーソナリティに決まったときはめちゃくちゃ喜んでくれたんですよ。

 

──前任のアリスだけでなく、他の曜日のパーソナリティも意識はしない?

 

伊原 魅力が全然違うから、真似できないですよね。抜群にテンポがいいAマッソさん、音楽のことを深掘りできるオーイシマサヨシさん、グループでの出来事を楽しく語れるAぇ! Groupさん、ただでさえトークの達人なのに豪華ゲストが毎週登場する明石家さんまさん……。同じ方向で私1人が立ち向かっても、敵うわけないですから。結局、別方向で行くしかないんですよ。

 

リスナーの皆さんと一緒に盛り上げていきたい

──そうした猛者たちが群雄割拠する中、ラジオパーソナリティとしてのご自身の武器はどのへんにあるとお考えですか?

 

伊原 番組のプロデューサーさんからは、私の好奇心旺盛なところを褒めていただきました。たしかに食わず嫌いみたいなことはあまりなくて、とりあえず見てみよう、知ってみよう、触れてみようという姿勢は昔から変わらないんですよ。私はまだ24歳だから知らないこともいっぱいありますし、世代を問わずリスナーの方と一緒に世界を広げていけたらいいなと考えています。

 

──伊原さん自身は、普段の生活の中でラジオを聴く機会もあるんですか?

 

伊原 好きですよ、ラジオは。特に芸人さんの番組をよく聴いてきましたね。ハライチさん、オードリーさん、霜降り明星さん……。やっぱり会話のテンポが素晴らしいし、内容的にもテレビやYouTubeとは違う魅力が出ていますよね。

単純に芸人さんたちをリスペクトしているから。いろんなバラエティでご一緒させていただくと、ずっと笑いを取り続けるすごさに圧倒されることばかりだったんです。本当に感動しますよ。同じレベルで笑わせることなんて絶対できない。私は私にできることをやるしなかいなって改めて思うんですよね。

 

──今のラジオはリスナーからメールでのリアクションに加えて、SNSとの連動も盛んになっています。

 

伊原 そこはすごくリスナーさんに助けられていますね。「また早口になってるw」とかツッコミが入ると、自分1人で戦っているんじゃないんだってうれしくなるんです。「それ私も好きですよ」といったコメントがあると、なんだかそのリスナーさんと会話できているような感覚になりますし。聴いてくれている方とのコミュニケーションは自分としても力を入れたいポイントなので、もっと番組の中で発展させていきたいです。

 

──まだ始まったばかりの番組です。今後、どういう方向で盛り上げていきたいですか?

 

伊原 正直、今はまだ探り探りのところもあるんですよね。職業柄、いろんな方と共演させていたくことも多いので、今後はゲストも呼べたらいいなと考えています。番組も続けることで成長させられると思うんですよ。そこは私1人の力だけでは無理なので、繰り返しになりますがリスナーの皆さんと一緒に盛り上げていきたいなと考えています。ぜひ聴いてみてください!

 

MBSヤングタウン

MBSラジオ 毎週(月)~(日)午後10・00~11・30

公式HP https://www.mbs1179.com/yantan/

 

構成・撮影/丸山剛史 取材・文/小野田衛

蒔田彩珠「由茉には共感というより、尊敬の気持ちの方が強いです」映画『ハピネス』

嶽本野ばら氏の同名小説を映画化したラブストーリー『ハピネス』が5月17日(金)より公開。本作で、余命1週間と告げられた高校2年生のヒロイン・由茉を演じる蒔田彩珠さんが本作の魅力や役づくり、劇中で印象的なロリータファッションへの挑戦などについて語ってくれました。

 

蒔田彩珠●まきた・あじゅ…2002年8月7日生まれ。神奈川県出身。是枝裕和監督が手掛けたドラマ「ゴーイング マイ ホーム」(2012)に出演。その後も映画『海よりもまだ深く』(2016)、『三度目の殺人』(2017)、『万引き家族』(2018)、Netflixシリーズ「舞妓さんちのまかないさん」(2023)と是枝作品の常連として存在感を放つ。初主演映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(2018)で、第33回高崎映画祭 最優秀新人女優賞、第43回報知映画賞 新人賞を受賞。2020年の『朝が来る』では、第44回日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめ、数々の賞を受賞。近年の出演作は、Netflix映画『クレイジークルーズ』(2023)やNetflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」(2024)など。Instagram

 

【蒔田彩珠さん撮り下ろし写真】

ロリータファッションをすることで由茉の気持ちが理解できました

──最初に、原作や脚本を読まれたときの感想を教えてください。

 

蒔田 恋愛映画自体がほぼ初めてでしたし、由茉は自分がこれまでやってこなかった役柄だなと思いました。言葉遣いや言葉の選び方がとても女の子らしく、かわいらしい役柄なので、それを自分が演じているところがあまり想像できなかったんです。そのため、不安な部分もあったのですが、雪夫役が窪塚(愛流)さんだということを聞いて、安心というか、楽しみになりました。脚本を読みながら、窪塚さんが演じる雪夫がすごく想像ができたので。

 

──南沙良さんとW主演された『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』以来の主演映画になりました。

 

蒔田 今回も窪塚さんとのW主演なので、そこまで不安はなく、窪塚さんと一緒に頑張れたらいいなって思っていました。そこで脚本を読んだとき、由茉には雪夫にはない強さや優しさがあって、幸夫には由茉にはない包容力を強く感じたんです。だから、役を演じるうえでも、そんなお互いに長けている部分で支え合う、寄り添い合うことを意識しようと思いました。

 

──由茉はロリータファッションに憧れているという設定です。

 

蒔田 その設定も、私の中ではかなり挑戦的でしたが、最初に衣装を着て撮影したときは、「見た目から役に入り込むことができた」という気持ちになりました。今回初めて着たのですが、由茉が一番好きなもの、キラキラ輝いて見えるものなので、ロリータファッションに身を包むことで由茉が幸せな気持ちになるのが、とても理解できました。

 

頻繁にコミュニケーションを取らなくても、役同士で通じ合える

──原作では「彼女」表記だった役柄が、今回の映画化に伴い、「由茉」という名前が付きました。演じるうえでの心境の変化はありましたか?

 

蒔田 「由茉」という名は、原作者の嶽本野ばら先生が付けてくださったのですが、役名は付いても、雪夫とお互い名前で呼び合うことはないんです。だから、それによって、お芝居が大きく変わるとかはなかったです。ただ、雪夫が「由茉!」と叫ぶシーンがあるのですが、そこだけ一瞬、無音になるんです。完成した映画を見たとき、そこの演出に鳥肌が立ちました。

 

──そのほか、役作りにおいて意識されたことは?

 

蒔田 雪夫に向ける表情と家族に向ける表情は、微妙に差をつけて演じました。家族の前の方が、ちょっと強め、逆に雪夫の前では甘えているというか、少しわがままを言える関係性を出そうと思いました。そういう意味では、雪夫は由茉を包み込んでくれる相手なのかなと思います。もし、私が病気になったときは、由茉のように強く優しくいられないと思ったので、由茉には共感というより、尊敬の気持ちの方が強いです。

 

──雪夫役の窪塚さんとの関係性は、どのようにして作られたのですか?

 

蒔田 窪塚さんはとても真面目な方で、近くで見ていても、ずっと雪夫という役に集中されていたと思います。そうやって、真っすぐ役に向き合いつつ、由茉に対しても、真っすぐ愛情を向けてくださっていたので、頻繁にコミュニケーションを取らなくても、何となく役同士で通じ合える気がしました。長いシーンや難しいシーンに関しても、篠原哲雄監督と3人で、「どのようにしたらいいか?」ということを話し合いながら作っていきました。

 

大阪ロケでは、たこ焼き三昧

──篠原監督の印象に残っている演出は?

 

蒔田 自分の病気を説明するシーンや発作が起きた後のシーンでは、どうしても沈んだ空気になってしまいがちなので、「なるべく雪夫が明るくいられるよう、由茉が明るく振る舞ってほしい」ということは、篠原監督から何度も言われました。なので、逆に由茉が雪夫を元気づける感じになれたかなと思います。

 

──大阪ロケでの印象的なエピソードを教えてください。

 

蒔田 道頓堀でのシーンではロリータファッションで撮影していたので、本当に多くの方から注目されていました。そのため、ちょっと緊張していたのですが、窪塚さんも背が高いので、さらに目立つんですよ(笑)。あと、たこ焼きを食べるシーンを撮って、ほかのシーンを撮り終えた後、みんなで閉店ギリギリの別のたこ焼き屋さんに行って、ホテルに持ち帰ったぐらい、たこ焼き三昧でした(笑)。

 

──もし、蒔田さんが由茉のように、あと7日間しか生きられないと分かったら、どんなことをしたいですか?

 

蒔田 私も由茉と同じで、好きな人と好きなところに行って、好きなものをたくさん食べると思いますね。お寿司が好きなので、お寿司のおいしいところに行きたいです。好きな人といえば、やっぱり家族や友だちは外せないので、みんな引き連れて行って、みんなと思い出を共有したいです。

 

ぜんぜんケンカしないペットたち

──Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」も話題の蒔田さんですが、周囲の反応はいかがでしたか?

 

蒔田 いろんな方から連絡があって、もうすごいです! 皆さんから「そんなに動けるんだ!」って言われました(笑)。撮影に入る4か月前ぐらいから、皆さんとアクション練習していたのですが、自分のアクションがどんなふうに映っているのか不安もありましたけれど、結果よかったですね。

 

──蒔田さんのこだわり、他人に負けないと思えることを教えてください。

 

蒔田 今、実家で犬と猫とフェレットを飼っているんですが、動物へのこだわりもありますし、性格がよくて、優しいいい子しか飼っていないので、ペットを選ぶ能力はすごいんじゃないかと思いますね。ウチは代々、犬派の家庭だったのですが、私の決断で初めて猫を飼ったんです。その後にフェレットが入っても全然けんかをしない。本当にいい子たちで、みんな仲よく過ごしています。

 

──現場に必ず持っていくモノやアイテムについて教えてください。

 

蒔田 セリフを覚えるとき、撮影日の前々々日ぐらいに、当日撮るシーンのセリフを必ずメモ帳に書き出すのですが、そのメモ帳は必ず持っていきます。それで台本がなくても、すぐにセリフが出てくるようにするんです。あと、緑茶を飲むと落ち着くので、お水より緑茶を飲むことが多いです。コンビニで売っているものなら、利き緑茶もできますね(笑)。

 

──ちなみに、最近ハマっていることは?

 

蒔田 冬から春にかけては、ペットを膝に置いて、編み物ばかりしていました。コロナ禍で何もすることがなかったときに、手芸が得意な母に教えてもらったことで、一気にハマったんです。とても集中してやっているので、イヤーマフなら5時間ぐらいで編めますし、たまにドラマの現場にも毛糸と編み棒を持っていって、控室でずっと編んでいます。

 

 

(C)嶽本野ばら/小学館/「ハピネス」製作委員会

ハピネス

5月17日(金)より全国公開

【映画「ハピネス」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
監督/篠原哲雄
原作/嶽本野ばら「ハピネス」(小学館文庫刊)
脚本/川﨑いづみ
出演/窪塚愛流、蒔田彩珠、橋本愛、山崎まさよし、吉田羊

(STORY)
高校の美術室で出会い、恋に落ちた雪夫(窪塚愛流)と由茉(蒔田彩珠)。幸せな日々を過ごしていたある日、雪夫は由茉から突然、彼女の余命があと1週間しかないことを告げられる。心臓に病気を抱える由茉は、すでに自分の運命を受け止めており、残された人生を精いっぱい生きようと決めていた。憧れていたファッションに挑戦し、大好きなカレーを食べに行き、そして何よりも残り少ない日々を雪夫と一緒に過ごしたいと話す由茉に、雪夫は動揺しながらも寄り添うことを決意する。

公式HP:https://happiness-movie.jp/

 

(C)嶽本野ばら/小学館/「ハピネス」製作委員会

 

撮影/映美 取材・文/くれい響 ヘアメイク/山口恵理子 スタイリスト/小蔵昌子

「町中華で飲ろうぜ」新レギュラーの清田みくりが、初めての食レポで試行錯誤した経緯を語り尽くす

現在公開中の山下敦弘監督の最新作『水深ゼロメートルから』でメインキャストを務めるなど、映画、ドラマを中心に活躍する俳優の清田みくりさん。今年4月から「町中華で飲ろうぜ」にレギュラー出演している彼女だが、それまでバラエティ経験すら皆無だったという。初めての食レポに試行錯誤した顛末や、山下敦弘作品への思い、今ハマっていることなどを語ってもらった。

 

清田みくり●きよた・みくり…2002年8月20日生まれ。和歌山県出身。2019年、俳優デビュー。主なドラマ出演作に「いだてん~東京オリムピック噺~」(2019/NHK)、「さくらの親子丼2」(2019/フジテレビ系)、「顔だけ先生」(2021/フジテレビ系)、「First Love 初恋」(2022/Netflix)、「クールドジ男子」(2023/テレビ東京系)、「だが、情熱はある」(2023/日本テレビ系)、「Sugar Sugar Honey」(2024/MX)。主な映画出演作に『殺さない彼と死なない彼女』(2019)、『チア男子!!』(2019)、『愛唄 ―約束のナクヒト―』(2019)、『胸が鳴るのは君のせい』(2021)、『野球部に花束を』(2022)、『モダンかアナーキー』(2023)などがある。公式HPInstagram

【清田みくりさん撮り下ろし写真】

 

初めての「町中華で飲ろうぜ」ロケは店主の笑顔で緊張がほぐれた

──今年4月8日の放送回から「町中華で飲ろうぜ」(BS-TBS)にレギュラー出演していますが、どういう経緯で決まったのでしょうか。

 

清田 新メンバーオーディションに参加させていただき、面談とカメラテストを受け、選んでいただきました。

 

──カメラテストは「町中華で飲ろうぜ」を想定したものでしたか?

 

清田 そうです。実際に町中華のお店に行って、瓶ビールを飲んで、料理を食べて。それまでバラエティへの出演経験がなかったので、ハードルが高かったです。

 

──初めての「町中華で飲ろうぜ」ロケはいかがでしたか。

 

清田 神楽坂のお店を2軒回りました。カメラテストのときは1軒で、お料理も1品だったんですが、実際のロケはお料理が各お店で3品ずつ。だからボリュームがすごかったです。お酒も瓶ビールだけじゃなくて、他のお酒も飲みました。

 

──計6品の料理を食べるのは、なかなかの量ですね。「町中華で飲ろうぜ」はオープニングでカメラに語りかけますが、うまくできましたか。

 

清田 役者のお仕事で、正面からカメラを見ることってほぼないので、どのぐらい見たらいいのか難しくて……。お店まで移動するときも、後ろからカメラが付いてくるんですが、振り向き過ぎるのもどうかなとか、いろいろ悩みました。ただ撮る直前に、「本当に緊張してます」というお話をスタッフさんにしたら、「大丈夫。自由にやっていいんだよ」と仰ってくださったので、かなり気持ちが楽になりました。

 

──最初は緊張しているのも視聴者にとっては新鮮ですからね。

 

清田 “初々しさ”が大切ですよね(笑)。

 

──あんまり自分では言わないですけどね(笑)。店主の方との会話はいかがでしたか。

 

清田 1軒目の「宝龍」さんは、初めましてだし、お邪魔させてもらっている身だし、お客さんもいらっしゃったので遠慮がちでした。私が緊張していたのもあって硬さもあったんですが、お話ししているうちに店主の方が笑顔になってくださって。すると私もほぐれてきて、楽しくお話しできました。2軒目の「上海ピーマン」さんはアルコールが入っていたのもあって、1軒目の楽しい気持ちのまま行けたので、最初からリラックスしてお話しできました。

 

レギュラーが決まった瞬間から心の中で食レポをしている

──ロケに臨むにあたって、食べ方や飲み方の練習はしましたか。

 

清田 カメラに向けての食べ方、飲み方は研究しましたし、食レポの練習もしました。というのもカメラテストをしたときに、食べても「おいしい」しか言えなくて。このままでは駄目だと思って。「レギュラーが決まりました」という電話をマネージャーさんからいただいた瞬間から、食事のときは「これはどういう味なんだ」と自問自答しつつ、ずっと心の中で食レポしています(笑)。

 

──例えば「おいしい」以外にどういう表現があるんですか。

 

清田 エビの場合は「ぷりぷりです」とか、熱々の料理を目の前にしたときに「湯気がすごいです」とか(笑)。

 

──食レポの参考にした方はいます?

 

清田 やっぱり「町中華で飲ろうぜ」の先輩方で、高田秋さんと、同じ事務所の坂ノ上茜さんです。お二人とも5年間やってらっしゃっただけあって、とても上手なので勉強になりますが、真似っこにならないように意識しています。

 

──本番はシミュレーション通りにできましたか。

 

清田 食レポの部分は拙いですけど、カメラテストのときよりは成長したんじゃないかと思います。ただ、お店の人とどういうふうに話すとか、カメラに向けてお料理を見せるとかまで頭が回らなくて、想定外のこともあったので焦りました。

 

──スタッフさんから指示はなかったんですか。

 

清田 基本的に自由にやらせてもらって、例えば「料理の断面を見せてほしい」というときは指示していただきました。そこで、このタイミングで見せるんだと学びましたし、質問内容も足りないところは一緒に考えてくださいました。食レポも練習したはいいけど、食材や調味料などが分からなくてコメントに迷っていたら、「お店の人に聞いてみたらどう?」と助け舟を出してくれました。反省点もありましたが、次に活かせることもたくさんありました。

 

──もともとお酒は飲むほうなんですか。

 

清田 たしなむ程度ですけど、母が強いので、よくおうちで一緒に飲んでいます。ただビールを飲めるようになったのが半年前で21歳になってからなので、レギュラーが決まってから、お酒を飲むときはビールにして、ぐいっと飲む練習をしています。瓶ビールを飲んだのもロケが初めての経験で、あの町中華っぽいコップに注ぐのが新鮮でした。

 

──ビール以外だと、どういうお酒を飲むんですか。

 

清田 普段はハイボールを飲むことが多いですね。

 

山下敦弘監督の作品に出演するのが大きな目標だった

──現在公開中の映画『水深ゼロメートルから』でメインキャストを務めていますが、出演が決まる前から山下敦弘監督の作品を観たことはありましたか?

 

清田 大好きでした。初めて観たのは『リンダ リンダ リンダ』(2005)で、ちょうど主人公たちと同じ高校時代に出会いました。きっかけはお芝居のレッスンで、そのときの先生に「山下監督の作品に出るような女優さんを目指しなさい」と言われたことがあって。それで観てみたら、登場人物たちがそれぞれの理由で葛藤を抱えていて、良い意味で“濁り”があって、そこに惹きつけられました。

 

──そのほかに山下監督の映画で好きな作品を一作挙げるとしたら何でしょうか。

 

清田 『もらとりあむタマ子』(2013)です。主演の前田敦子さんが、大学を卒業したけど無職で実家も出ない、ふてくされた23歳の女の子を演じているんですが、「こういう時期は自分にもあったな」と、その姿が自分に重なって心が痛くなりました。山下監督の作品はどれも人間味が強くて面白いです。

 

──目標だった山下監督の作品に出演することができて、緊張もしたのではないでしょうか。

 

清田 かなり緊張しましたけど、オーディションで初めてお会いしたときから山下監督は親戚のおじさんみたいな親近感があって。最初からリラックスして接することができました。

 

──本作は2021年に上演された舞台の映画化ですが、初めて映画版の台本を読んだときの印象はいかがでしたか。

 

清田 会話劇で、5人の女子高生が出てきますが、みんなの言っていることに共感できて。ある意味、脳内会議のようだなと。それぞれ違う方向に悩んでいるから、人によってはごちゃついた印象を受けるかもしれないけど、でも頭の中ってこういう感じだよねって思いました。

 

──清田さんが演じた水泳部のチヅルと共通する部分や、共感するところはありましたか。

 

清田 真っすぐな女の子で負けず嫌い。だからこそ水泳で勝てないことに憤りを感じているというところに共感しました。私はチヅルほど感情を表に出さないので、かわいいものですが(笑)。あと他人と意見がすれ違ったときに、あまり我を通さず、自分が折れようみたいなところも共通点です。

 

──現場の雰囲気はいかがでしたか。

 

清田 ココロ(濵尾咲綺)、ミク(仲吉玲亜)、ユイ(花岡すみれ)の3人は舞台から引き続いての出演なので本読みのときから仲が良くて、そこに一人で入っていくからどうしようと思ったんですが、濱尾咲綺さんとは一度CMで共演したことがあって。それにも助けられて、自然と輪に入ることができました。みんな明るい性格ですし、同世代というのもあって距離感が近くて、ずっとしゃべっていましたね。10日間にわたって栃木県の足利で撮影して、みんなで同じホテルに宿泊したんですが、一つの部屋に集まったり、一緒にお風呂に入ったりと修学旅行のような楽しさがありました。

 

夏までに綺麗になりたいから朝食をプロテインに置き換えました

──最後に今ハマっていることを教えていただけますか。

 

清田 プロテインです! 一か月前から飲み始めたんですが、きっかけは夏までに体を引き締めようと思ったんです。肌の露出が増えるので。夏までに綺麗になりたいという目標を立てて、とりあえず朝食をプロテインに置き換えることにしました。タンパク質を摂ると筋肉が落ちにくくなるし、鍛えやすくなりますからね。

 

──筋トレなどはしているんですか?

 

清田 筋トレは……してないです(笑)。1回チャレンジしたんですが、腕立て伏せが3回しかできなくて。そこで筋トレは諦めました。ただプロテインを飲み始めてからは、なるべく徒歩で移動するようになりましたし、8年間使っていた自転車を新しく買い替えて、距離があるときはチャリで移動するようにしています。ちょっとずつ体を動かすことが楽しくなってきました。今までスポーツらしいことって小学生のときにバトミントンをやっていたぐらいなので、それ以来ですね。

──プロテインで好きな味はあるんですか。

 

清田 マイプロテインのチョコ味です。かなりコスパも良くて、2.5kg入りを買って、毎日飲んでいます。

 

──割り方のこだわりは?

 

清田 水、牛乳、豆乳、麦芽豆乳など、たくさん試したんですが、おススメは豆乳で、めちゃくちゃおいしいし、豆乳自体にもめっちゃタンパク質が入っているんです。麦芽豆乳は混ざりにくかったですね。あとヨーグルトにプロテインを混ぜて、そこに冷凍フルーツを入れて食べるのも好きです。プロテイン、卵、牛乳を混ぜ合わせて、ガトーショコラ風にしたこともあるんですが、それは失敗しました。平らなお皿でやればよかったんですけど、マグカップでやっちゃったから、再チャレンジしたい!

 

──普段から料理はするんですか。

 

清田 全然しなかったんですが、「町中華で飲ろうぜ」のレギュラーが決まってからは、勉強も兼ねてするようにしています。チャーハン、パスタ、オムライスなど、入門編というか、王道の料理を作ることが多いです。それで食レポのバリエーションも増やしたいですし、これから暑くなるので、いっぱい食べて暑さに負けないようにしたいです!

 

 

 

町中華で飲ろうぜ

BS-TBS 毎週月曜よる10時

公式HP:https://bs.tbs.co.jp/machichuka/
公式Instagram:https://www.instagram.com/machichuka_bstbs/
公式X:https://twitter.com/machichuka_bstb

 

水深ゼロメートルから

新宿シネマカリテ・下北沢K2ほか全国順次ロードショー中

(STAFF&CAST)
監督:山下敦弘
脚本:中田夢花|脚本協力:小沢道成
原作:中田夢花 村端賢志 徳島市立高等学校演劇部
制作プロダクション:レオーネ|製作幹事:ポニーキャニオン|配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS

出演:濵尾咲綺 仲吉玲亜 清田みくり 花岡すみれ
三浦理奈 さとうほなみ

(STORY)
高校2年の夏休み。ココロ(濵尾咲綺)とミク(仲吉玲亜)は体育教師の山本(さとうほなみ)から、特別補習としてプール掃除を指示される。水の入っていないプールには、隣の野球部グラウンドから飛んできた砂が積もっている。渋々砂を掃き始める2人だが、同級生で水泳部のチヅル(清田みくり)、水泳部を引退した3年の先輩ユイ(花岡すみれ)も掃除に合流。学校生活、恋愛、メイク……。なんてことのない会話の中で時間は進んでいくが、徐々に彼女たちの悩みが溢れだし、それぞれの思いが交差していく。

公式HP:https://suishin0m.com/
公式Instagram:https://www.instagram.com/suishin0m/
公式X:https://twitter.com/suishin0m

(C)『水深ゼロメートルから』製作委員会

 

撮影/武田敏将 取材・文/猪口貴裕

異色の経歴の住職がお寺にプラネタリウムを作った!? 星空に込めた思いに玉袋筋太郎が迫る!

〜玉袋筋太郎の万事往来
第31回 證願寺17代目住職・「プラネターリアム銀河座」館長・春日 了

 

全日本スナック連盟会長を務める“玉ちゃん”こと玉袋筋太郎が、新旧の日本文化の担い手に話を聞きに行く連載企画。第31回のゲストは、東京都葛飾区立石にある證願寺(しょうがんじ)の17代目住職で、境内に作ったプラネタリウム「プラネターリアム銀河座」の館長も勤める春日 了さん。かつては声楽家を目指してイタリア留学をしたという異色の経歴を持つ春日さんが、なぜプラネタリウムを始めたのか、謎多きキャリアに玉ちゃんが迫ります!

 

 

仏教を聞いてくれる環境を作ろうとプラネタリウムを作った

玉袋 お寺の境内にプラネタリウムがあるなんて驚きですが、始めたきっかけは何だったんですか。

 

春日 話せば長くなるんですが……。そもそも僕はお寺や坊主がダメなんですよ。喘息持ちなので、世の中から線香なんてなくなればいいと思っているぐらいで。

 

玉袋 じゃあ焼香のときも大変ですね。

 

春日 焼香や線香で声が出なくなっちゃう。一方で日本のお寺はヤバいという危機感もあって、一回お寺を出たんです。それでイタリア留学をして、新しい人生を始めようと思ったら、「チチキトク」ということで帰国したんです。要はハメられたんですよね。

 

玉袋 ハメられたって(笑)。

 

春日 父は帰国して2週間で死んじゃったので、葬儀などを済ませて、イタリアに帰りますって言ったら、ある檀家から、「あなたの人生だから好きにやっていいですけど、年を取ったお母さんと結婚をしてないお姉さんの二人では、今まで通りの生活ができません。こんなことは言いたくないけど、お坊さんがいないなら、内職しなきゃ生きていけませんよ。それじゃあ、かわいそうじゃありませんか?」と言われたんです。僕も若かったから、それはかわいそうだと思ったのが運の尽きですよ。今考えたら、帰ってこなきゃよかったです。そしたら今頃、イタリアで死んでいたかもしれないのに。

 

玉袋 それも運命ですよ。星のもとにね。

 

春日 それで住職をやらなきゃいけなくなったんですが、実際やってみたら、思っていた以上に仏教に興味がない人ばかりなんです。仏教に対する日本人の通性として、興味があるのは変わった人。大抵の人にとって、お寺は霊園で、先祖が眠るところだと思っているから、坊主がどういう人柄でも関係ない。話も聞かないし、仏教を勉強する気もない。僕は大学時代、真剣に仏教を学んだので、これじゃあ意味がないなと。だったら仏教を聞いてくれる環境を作ろうということで、プラネタリウムを作ったんです。

 

玉袋 ものすごい飛躍ですね。

 

春日 みんな聞いているフリをしている、素人でもそういう芝居をすると確信したのは、話をしているときに、1歳ぐらいの子がバタバタし始めて、近くにいたおばあさんが「バー!」ってやったんですよ。やっぱり聞いてないなと。でも、これが正直な気持ちなんだと。99%の人が、おばあさんのように聞いたフリをして早く終われと思っているんだろうなと感じて、これは話し方を変えるとか、興味深い話をするぐらいではどうにもならない。がらっと環境を変えて、集中せざるを得ない空間にしないと聞いてくれないんだと痛感したんです。

 

玉袋 その方法がプラネタリウムだったと。

 

春日 僕自身、子どもの頃を振り返って、そこの環境に行くと、集中することは何かと考えたらプラネタリウムだったんです。日が沈んで、だんだん暗くなって、星がチカチカして、最後に満天の星空で天の川になるというのを見ていると、しばし嫌なことも忘れることができたんです。

 

玉袋 小さい頃から星が好きだったんですね。

 

春日 もともと天文学者になろうと思っていましたからね。どうせ住職をやるなら、世の中に仏教を広めるなんてのは大げさだけど、少なくとも10分、15分は話を聞いてみようと思ってもらいたい。やむにやまれずで作った環境がプラネタリウムだったんです。それが1996年のことですが、今ほど寺離れが問題視されていなくて。今はお寺がカフェをやったり、坊主バーがあったりと、いろいろありますけど、それ以前のことでしたから。手短に話しても、これだけ長くなってしまうんです。

 

玉袋 いやいや、面白いですね。最初のプラネタリウム体験はいくつのときだったんですか。

 

春日 5歳です。2001年に閉館した、渋谷の「五島プラネタリウム」でした。天文少年が天文おじさんになっちゃいましたが……。

 

玉袋 東京の人は、五島プラネタリウムが最初って人が多いですよね。

 

春日 それしかなかったんですよ。その頃は大阪に一つ、東京に一つ、仙台に一つという時代で、行政だと杉並区立科学館や板橋区立教育科学館がありましたけどね。それが90年代になって一気に増え始めて、今は全国で300以上、東京にはうちも含めて24あるんです。

 

玉袋 俺は京王プラザホテルの向かいにあった淀橋第二幼稚園というところに通っていたんですが、学区内の小学校にプラネタリウムがあったんですよ。

 

春日 それは恵まれていますね。プラネタリウムのある高校はありますけど、小学校は珍しい。新宿は進んでいたんですね。

 

玉袋 そこで初めてプラネタリウムを見て、その後、親父に連れられて五島プラネタリウムに行きました。映画もそうなんですけどプラネタリウムって暗闇から入っていくじゃないですか。そうすると自然と集中できるんですよね。

 

春日 暗くなれば、寝ちゃうか集中するかですからね。

 

お寺の改築計画に合わせて、中古のプラネタリウム探しを開始

玉袋 プラネタリウムを作ると言っても、めちゃめちゃお金がかかるんじゃないですか?

 

春日 かかります。天文台が数百万だとすると、プラネタリウムは最低でも0が1個変わる。そんな大金を使う訳にはいきません。

 

玉袋 どうしたんですか?

 

春日 ちょうど改築計画がお寺の中であがって、そのときに8mのドームなら入るなと思ったんです。改築計画に合わせて、タダ同然のプラネタリウムを手に入れれば何とかなるということで全国を探してみたら、見つかるものなんですよね。

 

玉袋 そうなんですか!

 

春日 廃棄になったプラネタリウムの処理を会社の代わりに引き受けますって怪しいおじさんがいて、「300万円で売るけど、うちの傘下になってもらわないと困る」と言うんです(笑)。そうこうしているうちにペンタックスが初めてプラネタリウムを作ったという情報が入ってきて、担当者の鈴木さんという方とお話したら、「僕は作っただけなので、会社の人を紹介します」ということで、何度かお会いしました。

 

玉袋 それまで国産のプラネタリウムは、どこが作っていたんですか。

 

春日 コニカミノルタと五藤光学研究所というところです。世界的に見ても、国内に2社もプラネタリウムのメーカーがあるのは珍しいんです。それで3社目としてペンタックスが参入しようと、1億5000万円を投じて、1年半かけてプラネタリウムを作ったんです。だけど社長が交通事故で亡くなっちゃって、プラネタリウムは採算にならない、会社の負担になるからとやめちゃったんですよ。それで試作機がゴミになっちゃったんですよね。そういう状況を鈴木さんから聞いていたから、おそらく安価で譲ってもらえるんじゃないかと。

 

玉袋 プラネタリウムが欲しいことは伝えていたんですか。

 

春日 伝えていなかったです。「ちょうど安いプラネタリウムを探していたんですよ」と言っても絶対にくれないですから。でも、頭を使えば、金を使わなくて済むんですよね(笑)。葬式も結婚式もそうじゃないですか。

 

玉袋 確かに今はお葬式も、どんどんミニマムになっていますもんね。

 

春日 世の中が勉強しちゃったんですよ。昔はお布施にしても、「50万、100万とみんな払っているから」と言われるがまま払っていましたけど、コロナ禍になってお寺の方がアップアップしちゃって。

 

玉袋 確かにコロナ禍はお寺も大変だったわ。

 

春日 神社なんて、もっと大変ですよ。

 

玉袋 七五三とか初詣ぐらいですよね。

 

春日 話は逸れましたが、結果的にペンタックスからプラネタリウムを譲ってもらいました。

 

玉袋 長く続けているとメンテナンスも大変ですよね。

 

春日 最初は鈴木さんが来てやってくれたんですけど、80歳になったときに「私も年なので、そろそろ自分でやってください」と言われて、それからは自分でやっています。鈴木さん生きているのかなぁ……。生きていたら100歳を越えているはずですが。

 

玉袋 星になっているかもしれないですね(笑)。

 

プラネタリウムの最先端はドイツのカールツァイス

玉袋 世界的に見ると、プラネタリウムの機械はどこが最先端なんですか。

 

春日 ドイツのカールツァイスです。五島プラネタリウムにあった機械もカールツァイスでした。ベンツで考えてもらうと分かりやすいんですが、日本車みたいに余計な機能はないけど、耐久性があって、運転性に優れていて、25万キロ走っても中古車に出せる。実際、ドイツには25万キロ走った中古車がバンバン売っていましたから。ドイツは戦前から重工業国家だから、しっかりとしたコンセプトがあるんですよね。日本車なんて10年も経つと、高値で買ってくれないでしょう。

 

玉袋 今の日本車なんて5年サイクルですもんね。

 

春日 プラネタリウムも10年サイクルなんですが、カールツァイスは50年壊れないですからね。それどころか100年持ってもおかしくない。ちなみにプラネタリウムができたのは1923年なんですが、ちょうど去年、100周年を迎えて。

 

玉袋 全然知らなかった!

 

春日 1923年10月21日にカールツァイスがプラネタリウムの内覧会を開いて、その2年後に一般公開したんです。だから2023年から2025年はプラネタリウム100周年記念なんです。

 

玉袋 一般公開は万博とかですか?

 

春日 違います。発端はドイツ博物館が、星を見る装置が欲しいとカールツァイスに頼んだんです。でかい球体がゴロゴロ動いて、その中に何十人か観客を入れて、球体に穴が開いていて星が見えるという装置を構想したんですけど、そんなデカいのは無意味だから、幻灯機みたいに、真ん中から星を光で映すというのがカールツァイスのアイデアで。惑星の動きも、行ったり戻ったりするのを歯車で調整して、プラネタリウムとはプラネット(惑星)を映す機械だと。本来はそうだったんですけど、お星さまもあったほうが雰囲気あるよねっていうことで今のスタイルになったんです。

 

大学卒業後、テノール歌手を目指してイタリア留学

玉袋 先ほどイタリア留学したとおっしゃっていましたが、どういう経緯があったんですか?

 

春日 坊主はお寺の中にいるから話を聞いてもらえるけど、外に出たらどうにもならないと言われたことがあって。何か意見を言ったとしても本気で聞いてもらえない。だったら仏教関係以外の職業に就こうと持って、大学卒業後に声楽家を目指したんです。もともと声は良かったし、歌うのも好きだったし、テノール歌手になろうと。成功した声楽家の本しか読んでないから、城を買えたとか、ブドウ園を買えたとか、すごいことが書かれているんですよ。当時は情報もなかったから、知らないということはエネルギーになる。バカほど強いものはないですから、僕も成功したテノール歌手の一端になれるだろうって。まあ幼稚だったんですよ、案外、みんなその程度の志で始めちゃうんです。

 

玉袋 ドイツで声楽を勉強するにしても、お金はかかりますよね。

 

春日 お金を貯めて、私費留学しました。最初はドイツに行ったんですけど、ドイツ語を学ぶにもお金がない。だから月曜から木曜まで、NHKラジオ講座の基礎編を聞いて、片っ端から覚えて。そしたら半年でドイツ語の基礎をしゃべれるようになったんです。それでドイツに書類を提出したら、試験に受かって。高校と大学の卒業証明書と成績証明書を送ったら、学校に通えることになって、ちょろいなと思いました。

 

玉袋 大抵の人は、そんなにうまくいかないでしょうけどね。

 

春日 それでドイツに行って勉強したけど、僕が好きなのはイタリアオペラだったから、ちょっと方向性が違ったんですよね。それにスペインでコンクールを受けたら、イタリアで勉強している東洋人の声が良かったんです。ところがドイツやフランスで学んでいる人は結果を出していない。これはイタリアの教え方のほうが良いに違いないと思って、ドイツに来て7か月でイタリアに移りました。そしたら、やっぱり当たりでしたね。

 

玉袋 イタリアにはどれぐらいいたんですか。

 

春日 2年ちょっとです。もっといたかったんですけどね。しかも、そろそろ仕事になるかなって時期だったんですよ。

 

玉袋 イタリアで声楽を学んだ住職のお経なんて他では聞けないですよね。

 

春日 とはいえ、お経をうまくあげても、拍手もないし、シーンとしています。住職になって、「良い声ですね」と言われたのは一回だけ。ダミ声の住職と一緒の扱いですよ。自分ではオペラの声でやっているから、「お寺歌手」って言っているんですが。

 

玉袋 うまいね(笑)。家族や檀家さんはプラネタリウムに理解があったんですか。

 

春日 日本のお寺のやり方はおかしいと思って日本を出たわけですから、最初に「お寺を継ぎますけど、改革しますよ」と言いました。檀家の人だけのお寺じゃなくて、通りすがりの人にも魅力的だと思われたい。魅力的に思うってことは、変に思うってことですよね。端から仏教の魅力なんか分かるわけがないから、まずは気を引くところから始めないといけない。外に恐竜があるでしょう。ミスマッチというか、「何これ?」というのをたまにやらないと、興味を持ってもらえない。これが掘っ立て小屋だと怪しいけど、ちゃんとした木造の本堂があるから、そういう遊びもできるんです。

 

玉袋 業界から異端児扱いはされなかったんですか。

 

春日 陰では言っているかもしれませんが、直接は言えないですよ。なぜなら僕が論破しちゃうから。誰よりも仏教のことを理解しているから、下手なことを言えないですよね。仏教を聞いてもらうためにプラネタリウムを作ろうと思って、お寺で会議をやって、議事録もあって、僕の勝手でやっているわけじゃないから、何か言われる筋合いもないですしね。

 

ボランティアでプラネタリウムをやっているから攻めたことができる

玉袋 プラネタリウムは子どもたちにも開放しているんですか。

 

春日 子供たちはダメです。

 

玉袋 ズバリですね(笑)。

 

春日 子どもは知性がないじゃないですか。大体親のほうが、「子供に星を見せたいんです」と言うんですが、子どもは興味ないですよ。そもそもプラネタリウムを作った目的は、お寺に来て法事をやった方々に仏教を伝えるためだから一般公開は考えていなかったんです。ところが国立天文台の先生から、「せっかくやるなら一般公開もしてよ」と言われたので、一般公開を始めたんです。入場料として1,000円取っているんですが、それもお金目的ではなく、おかしな客を入れないためのハードルなんです。1,000円にしたのは、お釣りが面倒くさいから。

 

玉袋 どんなお客さんが多いんですか。

 

春日 他のプラネタリウムに飽きた人です。僕自身が生解説をしているんですが、ただ面白い冗談を言っているわけじゃなくて、知的レベルが高いんです。だから最初に「頭が痛くなっちゃうから、全部分かろうとしないでください。分からないところがあっても先に進んでください」と断っておくんです。税金でやっている区のプラネタリウムなんかはクレームが出ると困るんですよ。「理解できない内容で不愉快だった」と言われると、何がしかの処分が下りますから。でも、僕を辞めさせることはできない。館長であり、掃除もしますから。

 

玉袋 誰かの顔色をうかがう必要もないと。

 

春日 うちのプラネタリウムはプライベートでやっているから、かなり攻めています。ただ僕が一人で生解説するだけでは飽きてしまうと思って、開館当初から女性に入ってもらって、男女の掛け合いをライブでやっているんです。

 

玉袋 そういうスタイルは他にあるんですか?

 

春日 ないでしょうね。人件費も2倍かかりますし。僕はボランティアでプラネタリウムをやっているので、給料は一切もらっていません。その分を人件費に回して、自分で番組も作っています。その番組を作るのに早くて30時間、長いときは100時間以上かけているんですけど、お金に左右されないから骨のあるものができます。最新の数値を伝えるために、常に海外の文献も読んでいます。

 

玉袋 上書きしているんですね。そういえば過去に国立天文台の三鷹キャンパスにある4D2Uドームシアターを観せてもらったんですが、あれもすごかったですね。

 

春日 メガネをかけて観るんですよね。僕は4D2Uドームシアターを始めるときに、10人いた諮問委員の一人だったんです。

 

玉袋 そうなんですか! それを俺は観ていたんだ。

 

春日 諮問委員には、星の落語をやっている柳家小ゑんさんもいましたよ。

プラネタリウムは科学性がないとダメ

玉袋 生解説をするお相手の女性はどういう方なんですか。

 

春日 佐賀県から来ている方と、千葉県から来ている方がいて、お二人ともプラネタリウムの職員です。職員も千差万別で、サラサラと伝説・神話をしゃべるだけの力がない人もいれば、最新の数値を全部覚えていて、科学的に話すことができる人もいます。もちろんお二人は後者です。

 

玉袋 プラネタリウムというと伝説・神話の印象が強いですね。

 

春日 そればかり長くしゃべっていても、しょせんウソですから。プラネタリウムは科学性がないとダメなので、神話でうっとりさせるというマスタベーションは他でやってもらえばいいんです。

 

玉袋 うっとりモードを前面に出しているプラネタリウムもありますよね。

 

春日 大体のプラネタリウムって星空解説の時間が40分ぐらいなんですけど、20分30分と神話を聞かされると苦痛になりますよね。まあ今は大多数のプラネタリウムがボタンを押すと、映画館みたく録音した音声が流れて、おしまい。良心のあるプラネタリウムは最後に生で星空解説をしますけど、うちは善良なプラネタリウムなので、全部生で、くどくやっているんですよ。だから寝られない。

 

玉袋 寝かさない(笑)。

 

春日 明石市立天文科学館では、毎年11月23日に「熟睡プラ寝たリウム」というイベントをやっています。プラネタリウムで寝る人が多いということで、「勤労感謝の日だから、今日は寝てください」とシャレで館主が始めたらウケたんですよ。でも、うちとしては寝られるようなネタをやってちゃいけないなと。

 

玉袋 ネタですか(笑)。まさに星の数ほどネタがあるってことですね。

 

春日 情報が多過ぎるって言われるんですけど、取捨選択はご自由ですからね。全部理解しようと思わないでくださいと。

 

玉袋 プラネタリウム再生工場として、コンサルティングで全国を回ったほうがいいんじゃないですか?

 

春日 プラネタリウム業界は金がないですからね。たまにお話はありますけど、「プラネターリアム銀河座」のようにやるのは難しい。決められたことをやっていればいい業界なので、なかなか突拍子もない改革は受け入れられないですね。

 

玉袋 いやー、興味深いお話ばかりでした。住職の話を聞くまで、お寺とプラネタリウムが繋がらなかったけど、綺麗に繋がりました。今後も唯一無二のプラネタリウムとして末永く続けてください!

「プラネターリアム銀河座」公式サイト:https://gingaza-2019.amebaownd.com/

 

 

玉袋筋太郎

生年月日:1967年6月22日
出身地:東京都
1987年に「浅草キッド」として水道橋博士とコンビを結成。
以来、テレビ、ラジオなどのメディアや著書の執筆など幅広く活躍中

<新刊情報>

「美しく枯れる。」著書:玉袋筋太郎

定価: 1,760円 KADOKAWA刊

仕事の人間関係、夫婦仲、家族構成にも変化が訪れた波乱万丈な50代。
「時代遅れ」な昭和の粋芸人が語り尽くした、
悩めるすべての大人たちに捧ぐ、人生後半戦の歩き方。

 

一般社団法人全日本スナック連盟会長
スナック玉ちゃん赤坂店オーナー(港区赤坂4-2-3 ディアシティ赤坂地下1階)

<出演・連載>

TOKYO MX「バラいろダンディ」
BS-TBS「町中華で飲ろうぜ」
CS「玉袋筋太郎のレトロパチンコ☆DX」
夕刊フジ「スナック酔虎伝」
KAMINOGE「プロレス変態座談会」

 

構成・撮影/丸山剛史 執筆/猪口貴裕

サイバーエージェントが興行イベントに参入! コムドットプロデュース『Creator Dream Fes』やVTuber『hololive Gamers fes』など今後の展開を語る

サイバーエージェントといえば、インターネットの広告事業やゲーム、放送・映像配信の「ABEMA」が思い浮かぶ。しかし、2015年からeスポーツイベント『RAGE』を手がけ、2023年には人気動画クリエイターのコムドットが総合プロデュースを務めた動画クリエイターの夢の祭典『Creator Dream Fes ~produced by Com.~』(以下、Creator Dream Fes)を東京ドームで開催。その流れで2023年10月、サイバーエージェントに興行本部が設置されることになった。今回は、サイバーエージェント興行本部本部長の大友真吾氏に興行ビジネスが生まれた背景、今後の計画についてうかがった。

 

大友真吾●おおとも・しんご…2007年サイバーエージェント入社。2009年CyberZ立ち上げに尽力。現在はサイバーエージェント興行本部本部長を務める

 

2023年コムドットプロデュース『Creator Dream Fes』は東京ドームで大成功!!

──2023年10月、サイバーエージェントに興行本部が設置されることが発表されました。その中心となる人物が大友さんですが、まず簡単な経歴を教えていただけますか。

 

大友 私のキャリアは、2007年にサイバーエージェントに新卒で入社し、2009年スマートフォンに特化した広告マーケティング事業やメディア事業などを取り扱うサイバーエージェントグループ子会社、株式会社CyberZの役員に就任し、立ち上げに関わりました。そのCyberZで広告ビジネス以外の新規事業のチャレンジを行うようになり、2015年頃からeスポーツ事業を立ち上げました。これが興行ビジネスとの出会いですね。

 

──そのeスポーツ事業が国内最大級の大会『RAGE(レイジ)』ですね。『RAGE』立ち上げの経緯はどんなものですか。

 

大友 私たちはeスポーツの興行ブランドとして『RAGE』を立ち上げました。これまでに約30タイトルほどのゲーム会社様と共に大会やリーグ、イベントを開催し日本のeスポーツの発展に力を注いできました。

2022年5月に開催したタクティカルFPSゲーム『VALORANT』の有観客イベント『RAGE VALORANT 2022 Spring』では、当時のeスポーツイベントでは国内最大規模の動員数となる1万3000人を達成し、6月にはさいたまスーパーアリーナ2DAYSを満席にするほどの制作・運営実績ができていました。

ちょうどそのタイミングで、映像事業の「ABEMA」から新たな収益事業として、興行などのイベントをやれないかという起案があり、興行ビジネスへの機運が高まりました。興行本部の設置は、このような成功事例と「ABEMA」の経営の多角化が背景にあります。

 

──2015年の段階でeスポーツに目をつけたキッカケは?

 

大友 2014年ごろ、CyberZは『OPENREC(オープンレック)』というゲームに特化したライブ配信プラットフォームを作りました。これは海外の『Twitch』というライブ配信プラットフォームのようなものです。CyberZの広告事業のお客様にはゲーム企業が多かったこともあり、新たなメディア事業としてゲーム配信プラットフォームに参入したのが背景です。

そのメディアビジネスのコンテンツの1つとして、eスポーツがありました。日本ではまだeスポーツがそこまで普及してない時期でもあり、自分たちでeスポーツの大会ブランドを立ち上げることができれば一番になれる参入余地がまだありました。それが『RAGE』ですね。

 

──まさに先見の明ですね。さらに昨年、人気動画クリエイターのコムドットがプロデュースした『Creator Dream Fes』が東京ドームで行われました。このような実績を重ね、いよいよ23年10月の興行本部設置となるわけですね。

 

大友 一番大きかったのは『Creator Dream Fes』ですね。手応えを感じたイベントでしたので、体制を強化したらもっと大きなビジネスに発展できるのではないかと思い、経営幹部と一緒に藤田(サイバーエージェント取締役社長)へプレゼンを行い提案しました。そこから今のサイバーエージェント全社の興行イベントを担う“興行本部”の立ち上げが決まりました。

 

──その『CreatorDream FES』はどのように成功に導けたのでしょう。

 

大友 イベントプロデュースを務めていただいたコムドットのやまとさんが軸となり、彼の持つ“熱量”を出演者の皆さん、制作運営スタッフみんなで共有し、全員が「絶対成功させる」という同じ目線でやり切ることができたからではないでしょうか。また、コムドットの皆さんに寄り添い、彼ら5人が実現したいことに向けて一緒にイベントを作り上げるというプロセスを大変な場面含めてご一緒できたこともよかった部分だと思っております。他にも、動画クリエイターをはじめとした多くのキャストが出演してくださったおかげで規模感を出すこともできました。

公演チケットの販売からイベント・グッズの企画制作、「ABEMA PPV ONLINE LIVE」での配信など、あらゆるセクションが1つのチームに揃っているという私たちのアセットは、出演者、IPホルダーにとってもメリットを多く作れるのでよかったですね。

 

チケット収入に加え、グッズ、ペイパービュー、協賛タイアップで収益化をはかる

──話せる範囲で興行はビジネスとしてどれぐらい利益が出るんでしょうか。

 

大友 eスポーツは、2015年当時に比べると、収益性は大きく改善し、投資フェーズから収益フェーズに動き始めています。

 

──今後はどのように収益化を考えていますか。

 

大友 基本的には制作コストを公演のチケット収入で、リクープラインからプラスにしていきたいと思っています。さらに大きな利益を狙うためには、グッズ販売をはじめ、「ABEMA」というメディアを活かしたペイパービュー配信チケットの売上拡大を基盤としながらも、我々の得意領域でもある広告の協賛タイアップなども考えております。

イベント協賛に関しても、会場でのサンプリングやロゴ入りグッズ配布などフィジカルなものだけでなく、メディアをうまく活用した我々ならではの提案を心がけています。協賛いただく企業様にしっかり効果をお返しできるように、RAGEでも培ってきた“広告価値を高める”協賛タイアップのノウハウをこの部門でも横展開していき「デジタル×フィジカル」の新しいタイアップ商品開発をしていきたいと考えております。

 

──なるほど。メディアミックス、タイアップ商品開発などはサイバーエージェントならではですね。

 

大友 プラス、私たちがやっていきたいことはコンテンツホルダー、IPホルダーへの収益還元の最大化です。これはチームのミッションとしても挙げています。私たちだけで儲ければいいのではなく、収益還元をしっかりと作り上げ「来年またぜひやりましょう」という世界観を作っていきたいですね。

 

──コンサート、芝居、スポーツイベントなどの旧来の興行と、今回のサイバーエージェントの興行本部との違いはあるのでしょうか。

 

大友 これまで興行をしている企業とeスポーツを含めても7〜8年の私たちでは、そもそもの歴史が違います。イベント制作のノウハウや会場を押さえる力など、我々が劣っている点はあるかと思います。ですが私たちには、既存の企業とは違うインターネットやメディアを最大限に活かした企画やプロモーション/デジタルを活用した新たなマネタイズ手法を提案・実行できる力を持っていると考えています。

 

──今までの興行のメインは、野球、サッカー、映画、演劇などでした。そういう分野にビジネスとしての興味はありますか?

 

大友 そうですね。私たちがその分野に参入することで、コンテンツホルダー、ビジネスパートナーの皆様にとって何かしらのプラスを作れるイメージや戦略ができれば検討し、トライしたいと思っています。ですが、なんでも闇雲に手を付けるわけではなく、我々の強みである“デジタルの力”を最大限に活用できる新しい興行モデルを作りあげることが当面の方針であり課題だと感じております。

 

24年も『Creator Dream Fes』など大型イベントが盛りだくさん

──では、今年興行本部でやるイベントにはどんなものがありますか?

 

大友 大きなイベントは5つぐらい計画していますが、今言えるのは2つほどです。1つは、第2回となる『Creator Dream Fes』です。8月10日(土)、今年も東京ドームで開催します。2つ目は、5月25日(土)、26日(日)の2DAYSで代々木第一体育館にて開催する『hololive GAMERS fes. 超超超超ゲーマーズ』があります。

 

──それぞれの見どころを教えてください。

 

大友 『Creator Dream Fes』はコムドットの皆さんを中心にクリエイターの方と一緒に作り上げるフェスで2回目の開催となります。期待値が上がりますが、前回を超える品質を担保したいと思っています。また、今年は、コムドット5人で作った楽曲を披露するのが、1つの目玉コンテンツとなります。

 

──5月のVTuberによる『hololive Gamers fes〜超超超超ゲーマーズ』はいかがですか。

 

大友 VTuberプロダクションであるホロライブに所属するホロライブゲーマーズという、ゲーム配信に特化した4人組ユニットが初めて開催するリアルイベントとなります。『超超超超ゲーマーズ』というタイトルも彼女たちが決め、イベント内で販売するフードのプロデュースにも協力いただきました。

VTuberは日本発のコンテンツですが、その勢いは国内にとどまらずここ数年は海外からも多くの注目を集めています。こういった新たなエンタメ市場を発展させるためにIPホルダーをはじめ、タレントの皆様、ファンの方々の期待を上回るような新たなVTuberイベントを開催していきたいですね。

『Creator Dream Fes』もそうですが、本人たちが本気で私たちと一緒に作り上げてくれる、目線が合っているということが一番大事だと感じています。『RAGE』や他のゲームイベントで培ったノウハウをVTuberの興行イベントで活かせることができればうれしいですね。

 

──ABEMAの番組から興行を考えることはあるのでしょうか?

 

大友 「ABEMA」のアニメLIVEチャンネルで開局から放送している『声優と夜あそび』という人気声優さんたちが多数出演するレギュラーバラエティ番組があります。こちらは2020年ごろから定期的にイベントを行っていたのですが、2022年からは『声優と夜あそびフェスティバル』と題して、大きな会場でも開催しています。ほかにも「ABEMA」の番組で、現在企画が進行しているものもいくつかあります。

 

ペイパービューも好調! 海外展開も視野に入れる

──オンラインライブの番組にお金を払って見る、ペイパービューに関してはどうですか?

 

大友 私たちは、VTuber、『RAGE』などのゲーム関係、「ABEMA」のコンテンツでいうとアニメなど、海外進出の可能性を持つジャンルの興行イベントをメインに仕掛けていきたいと考えています。これらのジャンルは海外でも通用すると考えており、2024年1月に有明アリーナで開催された格闘技イベント『ONE 165: Superlek vs. Takeru』に合わせて「ABEMA」からリリースした、グローバル向けの新しいオンラインライブプラットフォーム「ABEMA Live」も積極的に活用していきたいと考えています。日本国内のイベントを、ペイパービューとして海外にも配信していきたいですね。

 

──イベントの海外配信というのは、難しいものなのでしょうか?

 

大友 権利処理などは複雑な部分もありますが、今回「ABEMA Live」をリリースするにあたって、参入国のエリア、対象の国ごとの法律をきちんと理解した上で、権利処理を行い配信しています。私たちとしては、IPホルダーに寄り添う形で、現地で問題が起きないようにしっかり対応していきたいと思っています。

 

ファンの声が興行の醍醐味! 2年後には100万動員を狙う

──大友さん自身は興行ビジネスにどんな魅力を感じていますか。

 

大友 今まで私がやってきたインターネット広告ビジネスでは、広告の届け先であるユーザーの声や表情が見られることはほとんどありませんでした。一方、興行ビジネスでは、ユーザーの反応や表情が直接見えることがなによりの醍醐味だと思います。さらに興行だと、私たちがIPホルダーと一緒に考えて作り上げてきたものが、チケットの券売というわかりやすい指標で評価されます。SNSには「楽しかった」「ここが微妙だった」と投稿され、ダイレクトな感想がわかります。会場では、生のファンの表情、リアクションが見られます。これこそが興行ビジネスのやりがいです。

「興行・イベントに足を運ぶ」ということは非常にハードルが高く、エンターテインメントの消費活動の中でも最上位に近いと思います。YouTubeやテレビであれば、どこでも無料で楽しめます。しかし、興行イベントはお金を払って、この日、この時間、この場所に行かなければいけません。ファンは2時間〜3時間の興行に1万円以上の金額を払って、遠方から来るんです。そう考えるとファンの方の熱量は本当に高いですね。「イベントに行く」という消費行動を取らせるためのプロモーション、マーケティング自体にもやりがいを感じますし、何よりきてくれたファンの満足度を大切にすること。これに尽きると思います。

 

──今後、興行を進めるにあたり、展望や目指すところはありますか?

 

大友 今後の戦略に近い話ですが、私たちは「インターネット×新しい興行」に取り組んでいきます。それが活かせる分野はここ数年で生まれてきた新しいエンターテインメントです。具体的にはVTuber、バーチャルシンガー、eスポーツ、ゲーム実況などですね。また、2023年6月にサイバーエージェントグループの参画に入りました2.5次元ミュージカル業界のトップランナーであるネルケプランニングさんとも何か生み出せるといいなと思ってます。

このようなコンテンツを、「ABEMA」を中心とした弊社グループのアセットをうまく活用することで、より多くの人に届けたり、より多くの収益を生み出せるようにしていきたいです。そうすればイベントのIP、ファンの体験価値も高まると思います。

わかりやすく言うと音楽なら『フジロックフェスティバル』、ファッションなら『東京ガールズコレクション』のように、「eスポーツなら『RAGE』」「動画クリエイターの祭典であれば『Creator Dream Fes』」というように、新たなエンタメ産業でファンが熱狂する新しいイベントを国内外問わず作っていくチャレンジをしていくつもりです。

 

──一番になるため、そのジャンル初に手を付けていくんですね。

 

大友 そうですね。長期的な目標としては国内だけでなく海外です。日本のエンターテインメントコンテンツは海外でも十分に通用しますし、実績、経験を積みながら、将来的には海外に広げたいです。

 

──eスポーツイベントの海外展開はどう考えていますか?

 

大友 eスポーツの先進国は、北米圏、中国、韓国などが挙げられますが、今、私たちの価値が求められているのは、日本のような発展段階にある東南アジア地域が特に多いと感じています。現在、人口が多く、日本以上にゲームに熱狂しているポテンシャルの大きい東南アジア地域における「日本のエンタメ×eスポーツ」の進出を計画しています。

 

──かなり大規模なプロジェクトをたくさん抱えられていますが、大友さん自身のモチベーションはどこから来ていますか?

 

大友 自分自身、学生時代からチームスポーツをやっていたからか、もともとチームで大きなことを成し遂げることに楽しさを覚えるタイプなんです。サイバーエージェントに入社してからも、チームで大きなチャレンジをしているとき、アドレナリンが出ているのがわかります。

サイバーグループにいるからできることもあるので、私自身も「ABEMA」やサイバーエージェントというアセットを最大限活用させてもらい、個人では絶対できないような大きな挑戦をやっていきたいです。

 

──最後に、将来的な目標を具体的な数字で教えてください。

 

大友 2023年は、eスポーツの有料の観客数だけで、年間10万人〜15万人ほどだったかと思います。将来的には、我々が手がける全ジャンルのイベントで年間100万人動員を目指せるといいなと考えています。もしドームツアーができるイベントがあれば、それだけで20〜30万人は見込めます。都心で一定の成功を収めたら、全国にも展開させていきます。実際に2023年から『RAGE』が制作するイベントでも大阪公演がスタートし、2024年3月には名古屋公演を行いました。あとは海外でも実績を作ることができればそのサイズは桁が変わってきますよね。

 

──大友さんの計画を聞いていたら、100万人動員は軽々クリアできそうですね。これからもサイバーエージェントの「インターネット×新しい興行」でいろんなイベントが見られることを期待しています。本日はありがとうございました。

 

 

構成・撮影/丸山剛史 取材・文/松本佑貴

柏木由紀が赤裸々に語るAKB48で過ごした17年。「もう愛着のあるメンバーの卒業を見送るのはちょっとしんどいかな」

グループに在籍すること17年──。4月30日の劇場公演をもってAKB48を卒業する柏木由紀さん。「元祖握手会女王」と称されるなど人気メンバーとして順風満帆なアイドル人生を歩んできたかと思いきや目まぐるしいアイドルシーンの裏には、知られざる苦労や葛藤が見え隠れ。酸いも甘いも嚙み分けた“等身大”のインタビューをお届けします。

 

柏木由紀●かしわぎ・ゆき…1991年7月15日生まれ。鹿児島県出身。2006年、AKB48オーディション合格、2007年AKB48げ劇場にて公演デビュー。愛称は、ゆきりん。公式HPXInstagramYouTube

 

【柏木由紀さん撮り下ろし写真】

 

アイドルファンの田舎娘が一念発起してオーディションに合格!
人気メンバーの「アンダー」を経験して手ごたえを得た

──改めて、今回のタイミングで卒業を決断した理由を教えてください。

 

柏木  「そろそろ、卒業かな?」と思えることがいくつか重なったのがキッカケです。1つ目は私の立ち回りを代わりに担えるメンバーがそろそろ現れる頃合いだと思ったこと。最年長の私が先頭に立ってグループを引っ張っていたのがここ2~3年でしたが、私がそうだったように、先輩たちが卒業してやらざるを得ない状況になってこそ人が成長するものだと思います。

 

──「立場が人を作る」わけですね?

 

柏木 はい! どうしても、私がいることで遠慮しちゃう子もいると思います。2つ目は単純にダンスの振付を覚えるのが大変になったこと。20代の頃には考えもしなかった体の衰えに苦労する場面が増えてきました。ただでさえ、最近は複雑なダンスが多いですし(笑)。1回のレッスンで覚えきれなくて、家に持ち帰ったり、後輩に個人レッスンをお願いしたりというのが続いて、「もう、厳しいかもな……」という気持ちがあったのは否定できません。あと、今の大好きなAKB48のメンバーに見送ってほしいのが3つ目の理由です。もう愛着のあるメンバーの卒業を見送るのはちょっとしんどいかなと。あとあと、人生の半分以上をAKB48で過ごしていて、グループ以外の柏木由紀を経験したいという思いに至ったのが昨年の春ぐらいでした。こんなにたくさんの思いが交錯することは初めてで……。

 

──幼い頃からアイドルを目指してきたんですか?

 

柏木 そうですね! 昔から、「有名になりたい」とか「テレビに出たい」というより、「ステージに立ってみたい!」というのが夢であり目標だったので、毎日、劇場公演をしていたAKB48を選びました。10代半ばの高校生の時期は学校と劇場に通う毎日でしたね。特に夏休みは1日3公演を毎日やっていて、体力的にしんどいこともありましたが、昔からの夢を叶えたばかりでめちゃくちゃ楽しい時期を過ごしていたと今でも思います。

 

──柏木さんにも下積み時代があったんですね。

 

柏木 そうなんですよ! そこから3年ぐらいすると少しずつテレビに出させていただく機会も増えてきて……、当時は「うれしい!」という感情よりも「あれ? なんかとんでもないことになっていないか?」と実は戸惑いの方が大きかったのが10代後半の記憶です。というのも、最初は高校3年間でアイドルを辞めようと考えていたんです。誤解を恐れずに表現すると「部活感覚」に近かったと思います。当時は高校に登校して夕方に劇場に通う毎日でしたからね。部活のように私の青春を捧げたのが劇場公演だったんです。

 

──ということは、高校を卒業して大学に進学する選択肢もあったんですか?

 

柏木 はい! もともと、高校を卒業したら鹿児島に帰るつもりでした。口にこそ出していませんでしたが、両親もなんとなく長続きするものだと思っていなかったみたいで……(笑)。それが、「ポニーテールとシュシュ」のMVを撮影していた高校生が終わるぐらいの時期にグループが一気に勢いづいてきて、「あれ? これじゃ大学どころか辞めるのも絶対無理だな」という心境になって。もちろん、うれしい気持ちに満たされていましたが、その反面で「これからの人生どうなるんだろう?」という不安もありました。先が見通せていたわけでもなかったですし。

 

──ちなみにアイドル活動を始める前にダンススクールに通われていたんですか?

 

柏木 見学レベルでした(笑)。幼い頃からステージに立つことが夢だったので何かしらのレッスンを受けたいと考えていた時期もありました。地元の夏祭りのステージで歌ったり踊ったりする子どもたちがいるじゃないですか? そんな子たちが通っているダンススクールが少ないながらも鹿児島にもあって、そこに私も足を踏み入れようとしたんですが、あまり馴染めなかったんですよね……。すでにコミュニティが出来ていて、その輪の中に入る度胸がなかったでしょうね。学校でも“陰キャ”と呼ばれるタイプで、本当に目立たない人間で、当時は誰にでも明るく接することができませんでしたから。いわゆる“陽キャ”の子たちがワイワイやっている雰囲気を見て、「ここじゃ、難しいかも……」と思って諦めました。ただ、そこでうまくやれていたら逆に今の私はいないかもしれません。

 

──どこかパッとしない少女時代を過ごした柏木さんがAKB48のオーディションを受験したんですね。

 

柏木 オーディションの最終で東京に行った時にも「レベル違うわ……やばいとこに来ちゃったな」と気落ちした記憶しかありません。それこそ、当たり前にメイクをしていたり、着ている服もセンスが良かったりでしたし。私も当時のとびっきりの服をオーディション用に母と買いに行って最終選考に臨んだんですけど、見るからに「田舎の女の子」丸出しでした(笑)。完全に場違いだなと。鹿児島でモーニング娘。のオーディションを受けた時の周囲はライバルだと認識できましたが、最終選考に参加していた子たちは洗練された都会の女の子過ぎて、「レベルが違うわ……」と敵前逃亡したい気持ちでした。

 

──それでも、オーディションに合格して、アイドル活動をしていく中で「私やっていけるかも」と手応えをつかんだ転機はいつだったんでしょうか?

 

柏木 劇場に立つ前に大島優子ちゃんの“アンダー”という代役として全国ツアーを回った時です。映画の撮影で優子ちゃんが福岡と名古屋の公演に出られなくなって、当時どこの誰かも分からない私が代わりに出ることになったんです。まず、「1週間以内に全部覚えてきてください」とコンサートで歌う約30曲の資料を渡されて、家でDVDを何度も巻き戻しながら練習したんですが、テレビに映る振付が実際のものと反転しているのでめちゃくちゃ大変なんですよ。それでも、アイドルファンの自分に助けられましたね。実は、地元にいた頃からテレビを見て振付を覚えるのを当たり前のようにやっていたんですよ。しかも、生意気にも同じ動きをするために反転したのを覚えていました。そんな“自主練”が役に立ちました。もちろん、レッスンについていくのには苦労しましたけど、アイドルファンをやっていて本当に良かったと思います。

 

──大先輩と立つステージの緊張感は想像もつきません。

 

柏木 優子ちゃんの代わりなので全部立ち位置がセンターなんですよ。流石にファンの方に対しても先輩メンバーに対しても申し訳ない気持ちでしたよ。繰り返しになりますが、まだ顔見せぐらいしかしていない時期でしたからね。シンメトリーになるのも前田敦子さんだったりするんですよ。前田さんと手を繋いでステージに立つ演出もありましたね。手汗もヤバかったですし、とても生きた心地がしませんでした。単純にAKB48のファンだったので、先輩メンバーと話しができることに感激していたんですが、毎日のリハーサルに行くのが少し憂鬱だったのが正直な当時の心の内でした。

 

リスペクトした後輩メンバーとゆきりんに憧れた「浪速のバラエティー女王」

──そこからグループの中心メンバーとして活動した20代でした。

 

柏木 年齢と置かれるポジションによって大変なことは変化していきました。グループ加入当初のあれこれ初めての時期もたくさん汗をかきましたけど、先輩と後輩がいる真ん中の立ち位置になった時期には違った大変さや葛藤がありました。総選挙で2位や3位になってもずっとその位置にいられない恐怖というか……、気がつくと2列目の端っこに配置されていたりするので。いつの間にか自分がグループの一員として“やれること”がなくなってしまったと考えだしたのが20代前半から半ばぐらいの頃でしょうか。

 

──それはグループ内での“序列”が下がったということでしょうか?

 

柏木 う~ん、例えば、「RIVER」や「ヘビーローテーション」をリリースした頃はとにかくグループがイケイケでみんな頑張っている感じがあってあまり考えることはありませんでした。一方で、ある程度グループが世間に知られた後にどんどん後輩が入ってきて、中にはセンターに抜擢されるような子もいて……、そんな中で、私は前列にいたり後列にいたりで自分のポジションを見失うようになっていて、要するにAKB48に在籍する理由が分からなくなったんですよね。その時期に救いだったのは、他グループと兼任する機会に巡り合えたことですね。

 

──14年にNMB48、15年にNGT48と兼任しましたね。

 

柏木 まさに後輩の中に1人だけ先輩として入っていくのが初めての経験でした。年齢もキャリアも先輩にあたるんですけど、NMB48の中では一番の新参者になるわけで、当たり前ですけど、歌もダンスの振付も後から加入した私だけが覚える必要があって、分からないことを後輩に聞かないとレッスンにさえついていけませんでした。そういう状況に身を置いたおかげで「後輩に頼っていいんだ」、「できないことを認めることも必要なんだ」という気づきを得られたんです。

 

──世の中の組織人にも通じるエピソードです! どの組織にしても競争の中で後輩に抜かれることはありますもんね。

 

柏木 なんだかんだ言っても、後輩がセンターに抜擢されたり、自分よりも前列に配置されたりすることに折り合いがつけられなかったんでしょうね。ぜいたくな悩みではあるんですけど、「なんで2位だったのに次が11位なの?」という気持ちが頭の中を占めていたのは否定できませんし。とにかく先輩メンバーとしてのプライドやジェラシーがごった返してしたんだと思います。そんな余計な感情をNMBと兼任したことで一掃できました。

 

──グループ内で競争をする中でも親友と呼べるメンバーはいましたか?

 

柏木 同期のメンバーは今でも仲が良いですよ。中でも、すでに卒業しているんですけど、片山陽加ちゃんは大親友です。オーディションで隣の席だったことがキッカケで仲良くなって、本当に今でも毎日連絡を取り合っていて、週に1~2回は会っています(笑)。多分、人生においても一番の親友だと思います。

 

──アイドル活動を一緒にやってきた、いわゆる“戦友”でもあるんですか?

 

柏木 いえ、そこは完全なる親友です! なんていうか……お互いに何の嫉妬もありませんし、お互いに意見が衝突して言い合いになることもなく、本当にお互いをただ真っすぐに認め合える存在なんです!!  そんな親友と引き合わせてくれたAKB48には感謝しています。ついこの前も私の家に来てずっとマリオカートをやっていました(笑)。

 

──反対にバチバチに意識していたメンバーはいましたか?

 

柏木 バチバチではありませんが……(笑)。心からリスペクトしていたのはさっしー(指原莉乃)かな~? 2期下の後輩で年齢も1つ下なんですけど、グループがブレイクする前に同じチームで活動していた頃から「なんか他の子と違うな」という目で見ていました。もちろん、いい意味ですよ。今までのグループの先輩にも同期にもいなかったキャラクターだったんですよ。とにかく「話術」が抜きん出ていました。こんなに先輩にガツガツしたツッコミを入れられるものなのかと毎日のように感心させられていました。で、徐々にグループの外でもその魅力が認知されてきて……。

 

──あれよあれよという間に総選挙でも1位になりました。

 

柏木 特にすごいと思ったのは、グループ以外の共演者の方とのコミュニケーション。よくメンバーを引き連れてあいさつしていました。あと、後輩への注意一つにしても勉強になることばかり。例えば、「私もできていないからみんなで気をつけよう!」とあくまで自分を含めたみんなの問題として後輩たちに嫌味なく注意を促す場面もしばしばでした。当時の私はあまり後輩に言えなかったので、さっしーの言うことを一番に聞くということでアシストするように意識していました。とても、後輩とは思えない存在でした。スタッフさんとの連携やコンサートの演出などさっしーの背中を見て学んだことは多かったと思います。

 

──柏木さんをキッカケにAKB48を志す子も多いのではないでしょうか?

 

柏木 ありがたいことにグループ内にも何人かいます。「坂道シリーズ」の中にも、過去に私と握手会で会ってアイドルを志したというエピソードを話してくれる子も。あと、NMB48OGの渋谷凪咲ちゃんも「ポニーテールとシュシュ」のライブ映像で私だけが映っている動画を見たのをキッカケにAKB48を好きになってくれたみたいです。学校までの通学中に私のソロ曲を聴きながら通っていたことを話してくれました。もはや、今の渋谷凪咲ちゃんの活躍を見たら「私キッカケでありがとう~!」っていう感じです(笑)。

 

「職業」=「アイドル」が秘める結婚への思いは?

──卒業することを家族に話した時の反応を教えてください。

 

柏木 母には「○○の理由で卒業しようと思うんだけど……どう思う?」と相談したら、「全然、いいと思う!」と即答でした。母は私の行動を全部肯定してくれるタイプながら、時には意見をズバリ言ってくれる良きアドバイザー。「今まで考えたことなかったのに卒業したい気持ちが芽生えたのならタイミングなんじゃない?」と背中を押してくれました。

 

──お父様の方は? 当初は活動にも前向きではなかったと聞きましたが。

 

柏木 反対していたわけじゃなくて、父にギリギリまで私がオーディションを受けていることを黙っていたのが真実です。最終審査の前日に母が「明日、由紀がオーディションに行って、その当日中に合格かどうか発表されるらしい」と伝えてようやく知らされて。それでも、まさか両親とも私が受かるなんて思ってもいないから、「まぁ、記念に受けるぐらいいいんじゃない」とあまり真剣に考えていなかった節さえありました。口に出さないまでも「どうせ、受からないよ」という雰囲気でしたし。それが、合格してしまって「さあ大変」といったところでしょうか(笑)。父からすれば、まさか最終審査日から1か月以内に妻と一人娘が2人して東京に行ってしまうなんて微塵も頭の中になかったはず。なので、どちらかといえば、反対していたというよりは成す術がなかったのが正解です。

 

──そんな両親に親孝行をするプランはありますか?

 

柏木 両親がやりたいことをなんでも叶えてあげたい。最近は、父がゴルフにハマっているのでゴルフ用品を買い与えています(笑)。ゴルフボールは実家に届くように注文していますし、たまに帰省した時にも一緒にデパートに行ってゴルフウェアを一緒に選んでいます。私からプレゼントしてもらう時に母は遠慮するタイプなんですけど、父はちゃっかりしていて、これ見よがしにゴルフウェアも上下のセットアップを選んでくるんです(笑)。これからも、17年迷惑をかけてきただけの恩返しをしていきます。あと、メンバーにも……。

 

──え、メンバーにも恩返しをしているんですか?

 

柏木 卒業発表して5か月の間に「ご飯行きたいです!」と言ってくれた後輩とは必ずスケジュールを調整して食事に行っています。「終活」というと大げさかもしれませんが、グループを卒業するまでにやり残したことがないようにしたいんです。ある日は、レッスンが終わった深夜から早朝まで「鳥貴族」に入り浸る日もありました(笑)。

 

──そうは言っても、若い世代と違って朝までオールは体も悲鳴を上げているのでは?

 

柏木 家に帰ってから疲労がドバっとです(笑)。あと、ちゃんと時間とお金が消えていくのも怖いですね。お店の支払いはもとより帰りのタクシー代も出していますからね(笑)。でも、そこは金に糸目を付けずに後輩の願いを叶えたい一心です!

 

──ちなみに、30歳を超えて体のケアにも気を遣うようになりましたか?

 

柏木 いや、ケアをしていないからしんどくなるんだと思います。今でもめちゃくちゃ夜更かししちゃいますし、お菓子もボリボリ食べちゃいますし。定期的に体を鍛えたり、健康にも気を配った食事を摂ったりしていれば多少は違うのかもしれませんが、お仕事を頑張っている分、楽しいこともいっぱいしたいのが私なんです。親友とカラオケに行って、深夜でも好きなものを食べて、朝もギリギリまで寝ちゃう。そんなだらしない生活が17年間のアイドル生活を支えていたのは事実です(笑)。

──AKB48を卒業してもアイドルを卒業しない?

 

柏木 ステージで歌うことは継続したいです。やっぱり、17年間も続けてきた大好きなことなので。今でも会いに来てくれるファンの方のためにもソロでアイドル活動は続けたい。

 

──それでも、長くアイドルを続けていると心ない外野の声も聞こえてきそうですね。

 

柏木  「いつまでいるの?」、「早く後輩のために席を空けろ!」みたいな声は嫌でも耳に入ります。ついつい、エゴサーチをしてしまうので、そんなコメントをネットで目にして傷ついていたのが20代後半でした。メディアの方のインタビューでも「いつ卒業するんですか?」と毎回のように聞かれて、「やっぱり、卒業しなきゃならないのかな?」と思いながらも「でも、AKBの活動が楽しいもんな」という葛藤が頭の中でグルグル渦巻いていましたね。それが、30歳を過ぎたぐらいから気にならなくなって(笑)。「いつまでいるの?」と言われても、「私がいることでアナタに何の迷惑をかけていますか?」と心の中で言い返せるメンタルになっていました。

 

──秋元康プロデューサーからは「卒業」についてどんな言葉をかけられましたか?

 

柏木 卒業発表の前に相談しました。そのときに、「柏木の決めた人生を応援します」と温かい言葉をかけてくださりました。あとは、「卒業後も後輩のために頑張りなさい!」と秋元さんのグループへの愛情もうかがえる言葉もいただきました。

 

──歌手ではなく、「アイドル」を続けるこだわりがあるのでしょうか?

 

柏木 まず、女優やタレントあるいはアーティストと呼ばれたいのであれば、もっと早い段階で卒業を決意していたと思います。芸能界でいろいろなお仕事を経験させていただく中で、アイドルという肩書が一番しっくりきたんですよ。そもそも、人生の半分以上をアイドルとして過ごしているだけ、もはや、切っても切れないものになっています。これからもアイドルを「職業」としてやる意識でいます。

 

──アイドル活動を継続するということは恋愛や結婚も遠のいてしまうんでしょうか?

 

柏木 いえいえ! 全然、結婚するつもりですよ(笑)。とはいえ、アイドルを職業でやっていく以上はファンの方の反応を見て、結婚生活を前面に出すかどうかは考えます。実は、秋元さんも「AKBにいても結婚していいよ」と言ってくださったんですが、さすがにその前例を作るのはよくないと思って。ちなみに、結婚するかもしれないというのは私のファンの方に伝達済みです。

 

──まさか、すでに予定があるんですか?

 

柏木 え、1ミリもございません(笑)。

 

──ファンの方たちも了承済みなんですね。

 

柏木 昔から応援してくれている男性のファンからは「ステージに立つことだけはやめないでほしい」とお願いされます。ありがたいことに、結婚してもアイドルを辞めてほしくないという声ばかり寄せてくれて。都合のいい捉え方かもしれませんが「私の幸せが自分たちの幸せ」と言ってくれるような最高のファンたちが残ってくださっています。感謝の気持ちしかありません!

 

構成・撮影/丸山剛史 取材・文/多嶋正大

鈴木亮平主演『シティーハンター』が配信開始!Netflixプロデューサーが語る、原作へのリスペクト

単行本の累計発行部数は5,000万部を突破。1980〜90年代にはテレビアニメも一世を風靡した人気コミックスの「シティーハンター」がNetflixの実写映画として令和の時代に蘇ります。俳優の鈴木亮平さん演じる主人公の冴羽 獠が、現代の新宿で大暴れ。安藤政信さんが演じる相棒・槇村秀幸と息の合ったコンビ、ヒロイン・槇村 香役の森田望智さんと繰り広げるスリリングなガンアクションなどが見どころです。4月25日(木)から始まる世界独占配信に向けて、エグゼクティブプロデューサーである髙橋信一氏にNetflixが送る最新の『シティーハンター』に懸ける思いをインタビューしました。

 

髙橋信一●たかはし・しんいち…Netflixコンテンツ部門 ディレクター(実写)。2020年入社。Netflixの東京オフィスを拠点に、日本発の実写作品での制作及び編成を担当。2022 Asian Academy Creative AwardsにてBest Feature Filmを受賞した 『浅草キッド』や『桜のような僕の恋人』『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』『シティーハンター』などのNetflix映画、「新聞記者」「ヒヤマケンタロウの妊娠」「御手洗家、炎上する」「地面師たち」「極悪女王」、Netflix初の日米韓チーム共同プロデュースを行った「ONE  PIECE」などのドラマシリーズ、「未来日記」「LIGHTHOUSE」「トークサバイバー」シリーズなどのバラエティ作品のプロデュースを担当。

 

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原作ファンも魅了する「新しい『シティーハンター』」が誕生した

──まずは映画『シティーハンター』が完成した手応えを聞かせてください。

 

髙橋 鈴木亮平さんと『ひとよ』という映画でご一緒させていただいた時に、亮平さんから「いつかシティーハンターの冴羽 獠を演じてみたい」というお話を聞いていました。当時すぐには実現しなかったようなのですが、私がNetflixに入社してから数か月が経ったタイミングで、制作会社の方から企画のご提案をいただきました。

実写化はとても難易度の高い内容でした。実際に私がNetflixに入社して以来、ほぼ開発・製作に3年間という最も長い時間をかけて作った映画です。だからこそ、とても充実した手応えがあります。監督やスタッフ全員で作り上げた作品なので、本当に感慨深い思いです。

 

──プレビューを拝見しました。私もずばり「シティーハンター」世代ですが、大満足です。めちゃくちゃ面白かった! キャストの皆さんがはまり役だし、まったく違和感のない「新しい『シティーハンター』」でした。

髙橋 ありがとうございます。まさにシティーハンター世代の方々に、「シティーハンターらしさもありながら“新しい”」と感じていただきたかったので、本当にとてもうれしいです。原作者の北条 司さんとも何度も脚本について打ち合わせをする機会をいただきました。北条さんには「実写は実写だから、シティーハンターを自由に映像化してください」と温かく背中を押していただきました。「でもまあ、そうは言ってもシティーハンターらしさを無視するわけにはいかないので……」とおそれ多く思いながら、いろいろと模索しました。シティーハンターというコンテンツに新しく出会う方々を意識しつつ、原作やテレビアニメからのファンの方々にも納得してもらえるシティーハンターの魅力を最大化し、バランスをどこで取るべきか、制作チーム一同で慎重にディスカッションを重ねてきました。

 

鈴木亮平&森田望智、魅力的なキャストが選ばれた背景

──人気の原作を映像化するうえで、困難もあったのでしょうか。

 

髙橋 そうですね。原作のシティーハンターには、今から見ればある種エキセントリックとも言える80年代独特の世界観や価値観が含まれています。でも現代の価値観を基準にして、シティーハンターの面白みを削り取ってしまうと、私たちが今シティーハンターを映像化する意味が失われてしまいます。作品の「らしさ」を活かしながら、現代に製作すべき『シティーハンター』をイチから構築しました。当社の試写室に北条さんを迎えて、完成した作品をご覧いただいた時に「とにかく面白かった」とお墨付きをもらえたことがとてもうれしかったです。

 

──鈴木亮平さんの冴羽 獠はもちろんですが、槇村 香を演じた森田望智さんをはじめ、キャストの皆さんがとても魅力的です。

 

髙橋 森田さんのキャスティングに関しては、まさに私とほかのプロデューサー陣から監督に進言しました。Netflixの作品では「全裸監督」にも出演されている森田さんは、なかなか類を見ない憑依型の役者さんだと感じています。私もオフとオンで、森田さんの印象が「別人では?」と思うほどに違います。槇村 香という役にも、ファンの皆さんが期待するキャラクターが憑依したように演じてほしいという期待を込めてオファーしました。

森田さんはトレードマークの長い髪を切って、初めてのショートカットで役作りに挑んでくださいました。制作が始まった直後は、鈴木亮平さんとの掛け合いなど役作りに試行錯誤されている様子でしたが、最終的な到達点はまさしく「香そのもの」というか、ファンの皆様にも本当に深いところに刺さる槇村 香になっていると思います。感謝しています。

 

──原作の漫画やアニメの槇村 香が「実写で描かれたらまさしくこうなる!」というイメージの通りでした。そして物語を彩る悪役(?)の俳優陣もすごく冴えていましたね。皆さんがとても素敵です。

 

髙橋 ありがとうございます。キャストの皆さんと一緒に作品のイメージを共有しながら、衣装も含めて丁寧にキャラクターを作り込んだ甲斐があります。

 

映画の撮影には新宿歌舞伎町の全面協力が得られた

──物語の舞台である新宿歌舞伎町の街並みがとてもリアルで生々しかったと思います。シティーハンターを見た後に新宿を歩いてみたら、今にも向こうから冴羽 獠が歩いてくるような気分になりました。

 

髙橋 ここまでのリアリティが出せた理由は、新宿区の皆様から多大な協力をいただいたからです。新宿歌舞伎町は一般の方々の往来がとても多い東洋一の繁華街です。そのため、基本的には映画撮影の許可がとても下りにくい場所です。

ところが今回は「シティーハンターであれば」と、原作を愛する商店街の皆様に熱意を持って迎えていただきました。制作チームが「新宿で撮りたいんだ」と意を決して、新宿行政関係者の方々など関係各位に向けて丁寧に説明と交渉を進めてくれたおかげでもあります。ある種の特別な許可をいただいて、セットではなく「ホンモノの歌舞伎町」での撮影が実現しました。北条 司さんの「シティーハンター」だからこそ成し得たことだと思っています。

 

──物語の中で、特に髙橋さんがこだわりを込めたシーンを教えてください。

 

髙橋 シティーハンターのファンの皆様は、恋人以上・恋人未満というか、ある種特別な「獠と香の関係性」に愛着を持たれていると思います。でも今回のシティーハンターは、2人の関係性が構築される前日譚です。獠が相棒である兄の槇村秀幸を失って、香と新しく関係を築いていく「喪失と再生」の物語を、ファンの皆様に納得してもらえるようにどう結実させるか。ここに私は一番こだわりました。あとはセリフ回しも、獠と槇村兄妹による”あうんの呼吸”が成立するよう、監督やキャスト・スタッフの方々が練り上げてくれました。

獠のキャラクターを強く表すようなシーンのいくつかは撮影にもこだわっています。例えば冒頭のアクションシーンや、マットで階段を滑り降りて、窓ガラスを突き破って飛んでいくシーンとか。「これぞシティーハンターの世界観だ」と、胸を張ってお見せしたい場面は意識して作り込んでいます。映像の尺としては15〜20秒くらいの短いシーンなのに、撮影は丸2日かけていたりもします。このシーンがなければ制作がすごく楽になるのですが……(笑)。でも、こういうシーンがあってこそのシティーハンターだと思っています。

あとは亮平さんの努力の賜物でもあるのですが、冴羽 獠は「凄腕のスイーパー」なので、銃さばきに慣れていないと不自然です。亮平さんには本当に多大な時間を割いてもらい、ガンアクションをモノにしていただきました。ここまでのガンアクションのある作品は、日本においてなかなかできないチャレンジだったので、亮平さんと一緒にこれを実現できたことがとてもうれしいです。

エンディングテーマはもちろん「Get Wild」

──エンディングテーマにTM NETWORKの「Get Wild Continual」が流れた瞬間の感激もひとしおでした。やっぱこの曲だよね! という安心感みたいなものでしょうか。多くのファンの期待に応える選曲だと思います。

 

髙橋 シティーハンターを今実写の映画にするにあたって、「Get Wildを使わない」という選択肢は僕自身がイメージできなかったです。日本だけでなく世界に向けて配信される作品とはいえ、多くのファンに愛されてきたコンテンツの価値をしっかりと後世に残したいと思ったポイントの1つでしたね。

 

──しかも、今回はTM NETWORKが新規に演奏・録音した楽曲ですよね。

 

髙橋 そうなんです。TM NETWORKの皆様はこれまでに何度かGet Wildをアレンジしたり、新たに録音もされたりしていますが、小室哲哉さんには、今回のシティーハンターが映像も現代の新宿歌舞伎町を舞台にして作ることをお伝えして「令和版」の新しいGet Wildをお願いし、やりとりをされてもらいました。僕たちがGet Wildという曲に抱いているイメージも大切にしようということで、イントロに関してはできる限りオリジナルに忠実な演奏にしていただきました。ラストシーンの後も、物語の余韻に浸ってもらえるエンディングになったと思います。

 

Netflixの「クリエイター・ファースト」精神に込められた真意

──作品とは少し離れますが、Netflixのプロデューサーとはどんなお仕事なのでしょうか。髙橋さんのキャリアの中で、Netflixでの働き方はどのように違いますか。

 

髙橋 私が所属するNetflixのコンテンツチームではストーリーテリングに重点をおいた作品づくりに注力しています。コンテンツチームと並行してプロジェクトに関わる、制作進行、ポストプロダクション、VFX(視覚映像技術)、広報宣伝のチームなど、社内専任のプロフェッショナルがいます。それぞれが良い形で分業制をとりながら協力関係の中で作品をつくるところは、Netflixが他の現場と大きく違うと言えるかもしれません。

私はNetflixに入社する前は映画会社でプロデューサーの仕事に就いていました。当時、映画やドラマなど年間に4本前後の制作が限界でした。もっと作品をつくりたいという思いもありながら、物理的・時間的な限界に突き当たることがありました。Netflixには新しいことに挑戦しながら、もっとつくりたい、見たことのない物語をつくりたい、という創作意欲を満たしてくれる環境があります。今年は既に発表済みの作品として、「地面師たち」「極悪女王」「トークサバイバー!シーズン3」などが控えていますし、来年以降も多くの作品を準備しています。

 

──以前、Netflixには才能のあるクリエイターの意欲的な作品を視聴者に届け続ける「クリエイター・ファースト」な環境とスピリットがあると聞いたことがあります。

 

髙橋 自分の経験として言えば、視聴者の期待に目を向けながら、誰も見たことがない新しいものをつくることに挑戦するクリエイターをリスペクトする土壌がNetflixにはあります。Netflixの強みは、クリエイターが意図する映像表現を、全世界的な制作ノウハウや技術でサポートすることで、クリエイターが作品づくりに集中できる環境を最大限整備していることころです。こうすることで作品の魅力を最大化でき、結果として視聴者の皆さんにも喜んでいただけるクオリティの高い作品が日本の視聴者はもちろん、世界にも届いていくと思っています。

髙橋プロデューサーが愛用するガジェットとは

──ではGetNavi webにちなんで、髙橋さんがお仕事で活用されているガジェットがあれば教えてください。

 

髙橋 ソニーのワイヤレスイヤホン「WF-1000XM5」を愛用しています。移動中に映像をチェックしたり、ラジオを聴くためなど1日中装着しています。デスクワークや資料を読む時には、音楽をかけずにノイズキャンセリングをオンにして耳栓のように使うこともあります。

仕事環境にはデルの40インチ曲面大型ワイドモニター「U4021QW」を置いています。さまざま資料を1画面に表示して作業をすることも多いので、本機を2台使いにしてデュアルモニターで作業をこなしています。正確にいうとノートパソコンの画面も使っているのでトリプルモニター環境ですね(笑)。

デスクワークが長く続くので、どうしても肩が凝ります。日々の体のメンテナンスにはパナソニックの「コリコランワイド」が欠かせません。使い勝手がとても手軽で本当に助かっています。また仕事というより趣味として、フジフイルムのミラーレスデジタルカメラ「X-S20」を愛用しています。本機の「フィルムシミュレーションモード」が好きすぎて手放せませんね。

 

──さまざまな作品を手掛けている髙橋さんですが、情報をインプットされるために毎日の生活の中で大事にされているルーティンはありますか。

 

髙橋 そうですね、僕自身はGetNaviさんも含めて雑誌はかなり多く読んでいる方だと思います。雑誌は自分の興味のある分野に限らず、女性誌なども定期的に目を通しています。自分がつくりたい作品を、お客様にどう楽しんでもらえるか、いつも楽しみながら考えていたいと思っています。そのためには情報のインプットを絶やさないようにして、今の時代の空気感や人々の暮らし、流行などにアンテナを張っているつもりです。

これからどうなる、獠と香の関係? 続編にも期待

──では最後に、これからNetflix映画『シティーハンター』をご覧になる方々に、髙橋さんからのメッセージをお願いします。

 

髙橋 もしも現代に冴羽 獠がいたらこうなるのでは? という世界観を、原作の魅力に基づきながら、鈴木亮平さんをはじめキャストの皆様、監督とスタッフ全員が一丸になってできた作品だと自負しています。

ある時、僕が原作者の北条さんとお話ししていたら、北条さんが「実写で香の“100トンハンマー”を再現するのは絶対に無理だよね」とおっしゃっていました。まあ、そうなんですけどねと思いながら、僕たちが100トンハンマーに後々なるであろう「ルーツ」を本作で登場させました(笑)。言ってみれば「エピソードゼロ」的なエッセンスを、実写化は難しいと考えられていたエピソードも含めて、本作のいろんなところに散りばめたつもりです。

もう1つ例を挙げると、香が初めて獠の事務所を訪れて、地下の射撃場まで行くシーンがあります。最初、僕たち制作陣はここで香の足がどうして射撃場に向くのか、シーンの整合性を取れずにいました。苦悶していたところ、北条さんから「香なら射撃場だって分からないまま、いろいろなものを探しに行って偶然射撃場を発見してしまう……という流れがあり得るんじゃない?」というアドバイスをいただいて、本作の場面になりました。北条さんとのコラボレーションによって生まれたシーンにもぜひ注目してほしいです。

 

──気が早すぎるかもしれませんが続編も期待しています!

 

髙橋 ありがとうございます。獠と香の関係性がこれからどのように変化していくのか、ファンの方々にも楽しみにしていただけるのであれば、僕自身もぜひ続きを見てみたいですね。

 

 

Netflix映画『シティーハンター』

4月25日(木) Netflixにて世界独占配信

 

(STAFF&CAST)
原作:北条 司「シティーハンター」
監督:佐藤祐市
エグゼクティブプロデューサー:髙橋信一(Netflix)
プロデューサー:三瓶慶介、押田興将
脚本:三嶋龍朗
エンディングテーマ:「Get Wild Continual」TM NETWORK(Sony Music Labels Inc.)
原作協力:コアミックス

出演:鈴木亮平 森田望智 安藤政信
華村あすか 水崎綾女 片山萌美 阿見201
杉本哲太 迫田孝也 / 木村文乃 橋爪功

Netflix作品ページ:www.netflix.com/シティーハンター

 

撮影/中田 悟

舞台『蒲田行進曲』でヒロインを演じる日比美思が語る、つかこうへい作品に懸ける思いと、愛用するカメラ「そのときの自分の気持ちを写したいんです」

「ようかい体操第一」などのヒット曲を飛ばしたダンスボーカルグループ「Dream5」のメインボーカルとして活動後、現在は俳優として様々な映画やドラマ、舞台に出演中の日比美思が、5月1日に初日を迎える舞台『蒲田行進曲』でヒロインの小夏を務める。劇作家つかこうへいの代表作で、深作欣二監督の映画版も名作として語り継がれている『蒲田行進曲』へ懸ける思いや舞台の見どころとともに、大好きなカメラについて語ってもらった。

 

日比美思●ひび・みこと…1998年9月20日生まれ。神奈川県出身。2009年、『天才てれびくんMAX』(NHK教育、現Eテレ)の全国オーディションに合格。同年、ダンスボーカルグループ・Dream5のメインボーカルとしてデビュー。2016年にグループ活動終了後、女優として活動を始める。2017年「マジで航海してます。」(TBS・MBS)でドラマ初出演。主なドラマ出演に『さくらの親子丼2』(東海テレビ)、『太陽とオオカミくんには騙されない』(AbemaTV)、『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(日本テレビ系)、『真夏の少年~19452020』(テレビ朝日系)、『好きやねんけどどうやろか』(読売テレビ)、主な映画出演に『恋のしずく』(2018年)、『町田くんの世界』(2019年)、『生きちゃった』(2021年)、主な舞台出演に『陽だまりの樹』(2021年)、『点滅する女』(2023年)など。公式HPXInstagram

 

【日比美思さん撮り下ろし写真】

 

つかこうへいというジャンルを演じている気持ちになった

──今回の舞台が決まる前に、映画『蒲田行進曲』(1982年)を観たことはありましたか?

 

日比 十代後半のときに受けたワークショップで、講師の方に薦められて観ました。私が生まれる前の映画なのに新しさを感じて、時代を超えて笑って泣ける素敵な映画だなという印象でした。だから今回、オーディションに合格したときは、誰もが知っている名作に自分が携われるということでうれしかったです。

 

──ヒロイン小夏を演じるプレッシャーも大きかったのではないでしょうか。

 

日比 演出のこぐれ修さんは、俳優としても演出家としても、たくさんのつかこうへい作品に関わってきた方です。銀ちゃん役の田谷野亮さん、ヤス役の小谷けいさんも、2019年の初演に続く続投。私は、つかこうへい作品はもちろん、紀伊國屋ホールの舞台に立つのも初めて。そもそもスタートダッシュが皆さんと違うのでプレッシャーはありましたし、はいつくばる気持ちでやらないと駄目だなと気が引き締まりました。

 

──ちなみに、つかさん原作の舞台を観たことはありますか?

 

日比 映画『蒲田行進曲』を観た時期と同じぐらいに、『郵便屋さんちょっと』という舞台を観劇しました。

 

──今回、『蒲田行進曲』の台本を読んだ印象はいかがでしたか。

 

日比 基本的に、つかさんが書かれた戯曲に忠実なんですが、映画のイメージとは少し違っていて、終わり方も演劇ならではなんです。私が演じる小夏で言うと、艶っぽさのあるところは同じなんですが、戯曲のほうはおちゃめでガサツなところもあって、そこがかわいいんですよね。

 

──確かに原作の小夏は、映画版よりも強いイメージです。

 

日比 破天荒な銀ちゃんとやり合える小夏だからこそ生まれた物語なんだなと思いました。

 

──改めて小夏はどんなキャラクターだなと感じましたか。

 

日比 こぐれさんからお聞きしたんですが、つかさんは「小夏は天使なんだ」と仰っていたそうで。確かにキュートな部分もありつつ、全てを包み込むような母性も感じられる女性だなと感じました。

 

──小夏が惚れるスターの銀ちゃん。そんな銀ちゃんを慕い、銀ちゃんの子どもを身ごもった小夏を押し付けられる大部屋俳優のヤス。この二人には、どんな印象を持ちましたか。

 

日比 銀ちゃんは言葉遣いも荒いですし、言ってることもめちゃくちゃ。だけど、いつでも前向きでヒーローみたいな存在の銀ちゃんに惹かれる気持ちも分かります。それに対して、小夏に献身的に尽くしてくれるヤスも魅力的です。稽古で田谷野さんとけいさんのお芝居を間近で見ると、台本で読む以上に銀ちゃんとヤスの魅力をひしひしと感じましたし、子どもを身ごもって、精神的にも肉体的にも大変な状態の中で、銀ちゃんとヤスの間で揺らぐ小夏の気持ちも、より理解できました。

 

──これまで田谷野さん、小谷さんとの共演経験はあったのでしょうか。

 

日比 お二人とも初めましてでした。田谷野さんとは最初にオーディションでお会いしたんですが、キャストを選ぶ立場の方なので怖い印象でした(笑)。銀ちゃんという破天荒なキャラクターを演じられるから、私生活もギラギラと獣のような方なのかなと勝手に想像していたんですが、実際に話してみると、ものすごく優しくて。どうすれば、みんなが気持ち良く現場が回るのかを第一に考えている方です。

 

──小谷さんの印象はいかがですか。

 

日比 沖縄県出身ということもあってか、朗らかな方で。「やりづらいところはない?」「台本で分からないところはない?」と親身に聞いてくださいます。もちろん締めるとこは締めて、稽古中は真剣そのものなんですが、稽古が終わったら、親しくお話しさせていただいています。

 

──稽古が始まってからも、プレッシャーはありましたか?

 

日比 多少の不安はありましたけど、実際に稽古をしてみると、すごく楽しくて。演劇というジャンルから飛び出て、つかこうへいというジャンルを演じているんじゃないかという気持ちになりました。みなさんに甘えつつも、楽しめたもん勝ちなのかなと思っています。まだ全力で楽しめるまでは辿り着いていないかもしれませんが、稽古を重ねていって、本番でその域まで持っていきたいです。

 

銀ちゃんとヤスがかわいらしくて抱きしめたくなる

──稽古場の雰囲気はいかがですか。

 

日比 皆さん仕事が早いなというイメージです。早朝ではなく、ちょうど気持ち良い時間に起きて、ゆったりと稽古場に入って、びしっと稽古をして、早めに解散みたいな。詰めてやるというよりは効率的というか。でも決して怠けている訳ではなく、皆さんしっかりと台本を読み込んで現場にいらっしゃるからスムーズなんです。早く稽古が終わるので、みんなでご飯にいくこともあります。

 

──良い関係性を作られているんですね。

 

日比 皆さん明るくて優しいから、休憩中も一緒にお菓子を食べて過ごしています。舞台は役者同志の関係性が大きく影響するので、仲良くなることは大切だなと感じます。

 

──そういう輪に入るのは得意なほうですか?

 

日比 人見知りなので、前は苦手でした。でも、このままじゃ駄目だ、自分から心を開いていかないといけないと思って、人見知りを改善しようと意識するようになって。そしたら、ちょっとずつ自分の本音を話せるようになってきました。今回の舞台は年上の方が多くて、かわいがってもらえるので、心も開きやすいですね。

 

──どういうことを意識して役作りをしていますか。

 

日比 あまり意識していないかもしれません。セリフの量が膨大で、最初は話すだけで精いっぱいでした。でもセリフが頭に入ると、セリフを話しているだけで自然と気持ちも乗ってきます。まだまだ私は子どもで、母性からかけ離れている自覚があったので不安も大きかったんですが、今では銀ちゃんとヤスがかわいらしくて、抱きしめたくなります。初めて通しで稽古をしたとき、そういう気持ちが自然と出てきたのは自分の中でも発見でした。

 

──セリフ回しはいかがですか?

 

日比 モノローグもダイアローグも、ちょっとだけ今の言葉遣いとは違っていて、笑うときも「ふげ!」って笑ったりするんですよ(笑)。普段の自分の喋り方とは違うから、自然と慣れさせないといけないなと思って、お風呂場で湯船に浸かりながら、ひたすら喋っています。大きい声を出すシーンも多いので、のどのケアも気をつけています。

 

──シーンによってはギターの生演奏もあるそうですね。

 

日比 そうなんです。ギターが加わると、自然と涙を流していることもあります。譜面通りではなく、セリフの熱量や流れによってギターを弾いてくださるので、すごく話しやすいし、より抑揚が出るんですよね。

 

──過去に生演奏でお芝居をした経験はありますか?

 

日比 2019年に悪い芝居という劇団の『ミー・アット・ザ・ズー』という舞台が生演奏だったんですが、そのときはバンド編成で管楽器もありました。今回はアコースティックギター1本なので印象も全然違います。

 

──舞台の見どころをお聞かせください。

 

日比 みんなが笑って、みんなが泣ける楽しい舞台で、特にクライマックスのシーンは感動的です。もともと『蒲田行進曲』を知っている方はもちろん、知らない方もいろいろな発見があると思うので、たくさんの方に楽しんでいただけるように、もっともっと私も努力してブラッシュアップしていきたいです。

 

舞台ではDream5時代のダンス経験が活きている

──初めて舞台に出演したのはDream5時代ですか?

 

日比 そうです。初舞台は14、15歳ぐらい。『PIRATES OF THE DESERT』(2013年)という舞台でした。お芝居の経験もなかったので、とにかくセリフを間違えないようにと、すごく緊張したのを覚えています、

 

──Dream5でのダンス経験が、舞台に活きている面もありますか?

 

日比 体の使い方は活きているなと思います。例えばアクション的な要素が必要なシーンだと、これぐらい横を向けば叩かれているように見えるかなとか、こういうふうに倒れたら激しく見えるかなとか、どういう角度だと、どういうふうに見られるかが何となく分かります。

 

──これまで出演した舞台でターニングポイントになった作品を挙げるとすると何でしょうか。

 

日比 日々、自分の中で更新されているので常に最新作ということで、昨年出演した『点滅する女』(2013年)です。みなさん魅力的なキャラクターを演じられていたので毎日稽古も楽しかったですし、本番は冷蔵庫やキッチン、テーブルなどを実際に置いた状態でお芝居をしたので、演劇だけど映像を撮影しているような不思議な感覚もあって新鮮でした。積極的に役者の意見も取り入れてくださったので、みんなで作っているという感覚もありました。

 

──舞台ならではの醍醐味はどういうときに感じますか。

 

日比 映像はシーンごとに、バラバラに撮影することが多いので、完成した作品を観るまで、どういう仕上がりになるのか分かりません。それはそれで楽しみではあるんですが、舞台は最初から最後まで一連の流れがあって、本番が始まったら止めることができないという緊張感が醍醐味です。お客さんに全身を見られている感覚も、舞台ならではですね。

 

──初日と千穐楽では気持ちも変わるものですか。

 

日比 変わります。初日から自分ができる100%のところまで持っていくつもりで稽古を重ねていますが、客席にお客さんがいると全然違うんです。やっぱり演劇は生ものだなと思いますし、毎日、お客さんの反応で変わってくるものもあるし、そこも楽しいです。

 

──舞台は稽古期間も含めると、長く役に向き合いますが、終わった後も役は引きずるほうですか?

 

日比 稽古している間は、明るい役だと自分も明るく、控えめな役だと自分も控えめになるなど、役になり切るところはあるんですが、終わった後は役が抜けすぎるというか、抜け殻のようになります。そこの切り替えは、いまだに試行錯誤しながらという感じですね。

 

──稽古期間中、オフはどう過ごすことが多いですか。

 

日比 ひたすら体を休めながら、台本を読んだり、マンガを読んだり、ゆっくり過ごしています。先日は一人で岩盤浴に行きました。

 

思い出の詰まった3台のカメラ

──最後に日比さんの趣味はカメラということで、愛用しているカメラを持ってきていただきました。

 

日比 3台持ってきたんですが、一つはフィルムカメラでCONTAXの「Carl Zeiss Sonnar 2.8/38」。一つはデジタルカメラでNikonの「COOLPIX7600」。もう一つはチェキで「INSTAX SQUARE SQ1」です。

 

──それぞれ紹介をお願いします。まずは「Carl Zeiss Sonnar 2.8/38」から。

 

日比 いつもお世話になっている写真家・木下昂一さんのカメラなんですが、ずっとお借りした状態で3年経っています。高価なカメラなので、なかなか自分では手が出ないんですが。

 

──3年も経つと、もはや日比さんのものですよね(笑)。

 

日比 木下さんからも「あげるよ」と言われるんですが、「いえいえ。あくまで私の気持ちはお借りしているんです」と(笑)。

 

──それまでフィルムカメラを使ったことはあったんですか?

 

日比 一時期、「写ルンです」が若い子の間で流行ったじゃないですか。私も大好きで、よく使っていたんですが、それでフィルムの質感にハマって。ジャンク品に近いようなフィルムカメラは何度か自分で買って使っていたんですが、お値段のする、しっかりしたものを持ったのは初めてです。

 

──どういうときにフィルムカメラを使うのでしょうか。

 

日比 友達と会ったときとか、今回の舞台のように稽古中とか、人物を撮ることが多いです。

 

──今は現像するのも大変ですよね。

 

日比 フィルムによっては1週間以上かかるものもあるんですが、待つ時間も楽しいんですよね。

 

──その時々でフィルムを変えているんですね。

 

日比 そうですね。今はカメラの中にコダックの400が入っています。普段は100を使うんですが、ちょっと贅沢して800を使うこともあります。

 

──続いて「COOLPIX7600」について。

 

日比 私の祖父が使っていたカメラを受け継いだんですが、この入れ物も祖母がカメラ入れ用に編んだものです。だいぶ前のデジカメなので、画質は良くないですけど、それはそれで味がありますし、コンパクトで軽いので、いつも持ち歩いていて。お花や水溜りに反射した太陽、誰かとご飯に行ったときなどに、さっと出して撮ります。

 

──最後は「INSTAX SQUARE SQ1」。

 

日比 木下さんとは2021年に写真展をやったことがあって。そのときに撮影していただいたポラロイド写真も今日は持ってきたんですが、それとは別に、2023年に木下さんとスクエアチェキ展「往復写簡」を開催したんです。そのときに協力してくださった富士フィルムの方が、ふらっとご来展して、この「INSTAX SQUARE SQ1」をプレゼントしてくださいました。

 

──チェキはどういうときに撮影するんですか。

 

日比 物として残るので、形にして取っておきたいときです。ちょうど今やろうと思っているんですが、稽古場で一人ずつ撮らせていただいて、そのチェキにメッセージを書いて渡そうと思っています。SQUAREなので写真は真四角なんですが、画角が広めだから、どう撮るか考えるのも楽しいんです。

 

──写真を撮影する上でのこだわりはありますか。

 

日比 思い出を大事にしたいので、そのときの自分の気持ちを写したい気持ちが強いですね。

 

 

紀伊國屋ホール開場60周年記念公演
たやのりょう一座第13回公演『蒲田行進曲』

会場:紀伊國屋ホール
公演期間:2024年5月1日(水) ~5月4日(土)

価格:S 席 10,000 円 一般指定席 7,000 円
企画・制作:合同会社一座

(STAFF&CAST)
作:つかこうへい
演出:こぐれ修(劇団☆新感線)
出演:田谷野亮 日比美思 小谷けい ほか

公式サイト:https://www.tayanoryo1za.com/

 

撮影/友野雄 取材・文/猪口貴裕 メイク/江原理乃 スタイリスト/鬼束香奈子

TikTokクリエイターSATOYUインタビュー「俺、人気ないのかな……」自信をなくした元トラック運転手に舞い降りた、唯一無二のキャラクター

自身の声や顔で最大限まで遊びながら、TikTokのエフェクトを駆使してエンタメに昇華し、フォロワー数440万人を誇るSATOYUさん。2023年12月14日に開催された「TikTok Creator Awards Japan 2023」で「Rising Creators of the Year」に選出されたほか、海外にもその名が轟き世界中にファンを有する。そんなSATOYUさんの、TikTokサクセス・ストーリーとは。

 

SATOYU●さとゆ…2020年3月にTikTokを開設。声マネ動画、NCP、月歩がバズりTikTokライブも話題に。2023年12月14日に開催された「TikTok Creator Awards Japan 2023」で「Rising Creators of the Year」に選出。声マネからナレーター仕事に繋がり、映画予告『アナザーラウンド』『FALL』のナレーションを担当。式HPInstagramYouTubeX

 

SATOYUさん公式TikTok @satoyu727

 

【SATOYUさん撮り下ろし写真】

 

「楽天スーパーセール!」でいきなり再生回数100万回超え

──TikTokを始めてから約4年で、現在はナレーション業や大手企業のPR動画にも出演するなど活躍中です。どんなきかっけでTikTokを始めたんでしょうか。

 

SATOYU 友達に勧められて、最初は遊び半分でスマホのなかにあった動画を投稿していた程度でした。今はもう消していますが、細々と声真似動画をアップしていたんです。

 

──手応えはいつ頃から感じましたか?

 

SATOYU これまで4回バズった実感がありまして、初バズりは「楽天スーパーセール」のCMでおなじみの若本規夫さんの声真似でした。再生数が100Mを越えて、「いいね」も10万超えたので「これはバズったな!」と。

 

──2020年3月29日の動画ですね。若本規夫さんといえば『ドラゴンボールZ』のセル、『サザエさん」のアナゴさん、『人志松本のすべらない話』のナレーションなどでおなじみですよね。なぜバズったと思いますか?

 

SATOYU 若本さんの声まねをする人はたくさんいるんですよ。なかでも僕は、若本さんのシャウトが得意で……ちょっと若本さんが声優を務めた『プリズン・ブレイク』のティーバッグ、やっていいですか?

「スコフィーールドッッ!」

これです。

 

──うわー! 目の前でやっていただいて、すごい贅沢!(笑)

 

SATOYU 全然やりますよ。おそらく、この声まねがズバ抜けてうまかったからだと思うんです。ずっと練習していたので。2回目が、2020年12月からやり始めた、「ピカチュウ」のエフェクトをつけてドスの効いた声を出すという動画で。3回目が2022年頃に始めたモフモフ衣装のNPCキャラクターです。

 

バズったNPCが、急に落ち込んだ理由

──NPCとはゲーム用語で、ゲーム上でプレイヤーが操作しないキャラクターのことですよね。主人公が訪れる街などに、それぞれの役割で立っているような。TikTokクリエイターの夏絵ココさんがここに着目し、TikTokライブでファンタジー世界の住民のような猫耳美少女姿で登場し、ギフトが届いたらゲームキャラクターのように無機質に動く「無言配信」というスタイルを確立しました。SATOYUさんも、そうした夏絵さんのキャラクターをヒントにしたのでしょうか。

 

SATOYU そうですね。「こういう原始人みたいなキャラいそうだよね」と思いつき、ちょうど自宅にあったキャンプ用のもふもふクッションを切って着てみたんです。ヒゲは、最初は妻のアイライナーを借りて描いていました。消費量が多いので、今は100均で買っています。

 

──すべて身近にあったものだったんですね。そういった人気キャラクターを生み出すまでに、分析したりも?

 

SATOYU TikTokを見ていただけです。分析とか計算とかできないんですよ。それまでも結構なキャラクターをやってきて、そのなかのいくつかがバーンと当たっただけなんです。でも、NPCがバズった後に数字が落ちていきまして。いいときで1万人を超えていた同時接続人数が、3、4か月をすぎると100人を下回るようになっていったんです。

 

──なぜでしょう。

 

SATOYU 視聴者さんが飽きたんでしょうね。ずっと同じことをしていたら、僕が視聴者でも飽きると思います。シビアですよね。それでいろいろやりました。「ストリートファイター」のリュウとか、地雷系女子とか、10~20キャラクターはやったかなあ。この時期は“壁”でしたね。

 

「普通に働いたほうがいいのかな?」

──TikTokで初めて壁にぶつかったんですね。

 

SATOYU しかもこの時期、上京を決めたときだったんですよ。それまでは地元・愛知でトラック運転手をやっていて、ちょうど仕事を辞めたばかりで、「ヤバいな」と。

 

──どのくらいの期間、そういった状況が続きましたか?

 

SATOYU 3、4か月くらいですね。「自分、人気ないんだな……」と、メンタルにきました。結構考えて落ち込んで、一度ネガティブなことを考え出すと止まらなくて、「普通に働いたほうがいいのかな」とか。

 

──その時期、奥さまの反応はいかがでしたか?

 

SATOYU 彼女は冷静で肝が座っているんですよ。「大丈夫大丈夫、私、稼げるし」って。本当にすごいです。支えられましたね。それを経て、スーツ姿で歩く動画「月歩」で4回目のバズりを経験しました。

 

──「月歩」では、フォロワー数が100万人増えたそうですね。

 

SATOYU TikTokライブをやると、1日2万人ずつ増えていた時期でした。同時接続は最高5万人で、配信を見に来てくれた人が1000万人に達したこともありました。

 

──1000万人!? それはすごい。

 

SATOYU なぜそんなに来ていただけたのかは分かりません(笑)。

 

Tシャツをスーツに変え、大バズリ!

──「月歩」はどんな発想から生まれたんですか?

 

SATOYU もともと「歩きダンス」というパフォーマンスを海外TikTokクリエイターがやっていて、「流行ってるしやってみようかな」という感じでラフなTシャツ姿の「月歩」を投稿たんです。そのときの「いいね」は2000くらいで、可もなく不可もなくという数字でした。そんななか、コメント欄に「オシャレをしてやってみたら?」と書いてあって。ちょうどその日、映画の試写会のMCをやる仕事があり、スーツを着ていたんです。以前、友達の結婚式で着るために「洋服の青山」で勧められるままに買ったダブルのスーツで。

 

──それがお馴染みのスーツだったんですね! それももともと自宅にあったものだったとは。

 

SATOYU それがおしゃれかどうかはわかりませんでしたが、とりあえずスーツ姿で「月歩」をやってみたんです。すると思ったより再生回数が伸びて。そうしたら今度は妻が「これをTikTokライブのほうでもやってみたら?」とアドバイスしてくれて。僕は「ライブでやる必要あるかなあ?」と懐疑的でしたが、一応やってみたら1発目から同時接続人数が1万人超えたんです。

 

──周囲の方のさまざまな後押しがあったんですね。

 

SATOYU 「月歩」はいろんな偶然が重なって生まれました。たまたまそのコメントが目に入り、たまたまスーツを着ていたからやってみて、妻がアドバイスをくれて。普段はスーツなんて絶対着ていないですからね。

 

──「月歩」は海外受けもいいのではないかと思います。

 

SATOYU 海外の方が来てくれると、雰囲気ががらっと変わりますね。日本の方たちは「シェア」をあまり押さないイメージですが、海外の人たちはみんな「シェア」をしてくれるのですごく広がっていくし、一気にバズるんです。でも、やっぱり飽きられた経験を経ているので、「次もなにか用意しておかないと」と冷静に考えていました。すると最近は、海外の方たちにNPCキャラが受けはじめて、すごくうれしいんです。この前のTikTokライブは同時接続人数1万7千人で、バズっている実感があります。

 

──英語コメントでよく「OHIO」と言われているのを見かけます。

 

SATOYU そうなんですよ! 最初はそのミームがわからず「どういう意味?」状態で。調べてみて意味がわかると、イジられているんだなと。じゃあそれに乗っかろうと思い、「ジョジョの奇妙な冒険」のエンリコ・プッチのスタンド「メイド・イン・ヘブン」を文字って「メイド・イン・オハイオ!」とやったら、コメント欄に「OHIO!」「OHIO FINAL BOSS!」というコメントで溢れ返りました。

 

──それで代名詞的存在になり。

 

SATOYU とにかく目立ちたいんです、僕は。だからイジってくれてもいいし、それで「面白いヤツだ」と思われたら本望なんですが、最近では「こいつはOHIOだけど別に悪くないOHIOだよ」というコメントもあり、よくわからないんですが認められるようになりました(笑)。

 

──2023年にはANAのPR動画にご出演されたり、もうスーツ姿で歩くだけで仕事になる状態ですよね。

 

SATOYU いつも着ているスーツがダブルスーツで、パイロットさんもダブルスーツなので、そういうところでイメージが重なり起用してくれたのかもしれません。

 

オンラインゲームのボイスチャットでアナゴさん

──「友達が勧めてくれた」というきっかけでTikTokをはじめたと聞きましたが、昔から友達のなかで人を笑わせるのが好きだったんでしょうか。

 

SATOYU 「地元でおもしろいやつ」みたいな立ち位置でしたね。隙あらば笑わせたくて、面白いヤツになりたくて、隣の席の子をなんの脈略もなく勢いで笑わせたり。でも勧めてくれた友達も、「まさかここまでいくとは」とめっちゃびっくりしています。

 

──芸人さんを目指した時期もありましたか?

 

SATOYU ありました。もうひとり、僕と同じようにまわりを笑わせたいヤツがいて。その子と「吉本行きたいよね」なんて話をするだけで終わったんですけどね。

 

──周囲の友達を笑わせる以外に、表現の場はありましたか?

 

SATOYU それでいうと、中学生のときから今と同じようなことをやっていましたね。「APEX」のようなオンラインゲームをやっていて、ボイスチャットで「サザエさん」のアナゴさんの声マネで、「そっちあぶないぞ~! 気をつけて~!」とかふざけてしゃべっていました。

 

──当時一緒にやっていた人たち、「あのときの彼が!?」と驚くでしょうね。

 

SATOYU そうそう、一緒にやっていた人が僕の配信に来てくれたこともあったんです。「あのときから才能あったもんね」というコメントをくれて、覚えていてくれてうれしかったですね。

 

──オンラインゲームのボイスチャットが、SATOYUさんの原点だったんですね。

 

SATOYU そうだ、そのあと、高校生になるとスマホアプリの「斉藤さん」をやるようになったんですよ。誰かに声マネを披露したくて、最初にやったときは「俺の声マネ、どう思ってくれるんだろう」とドキドキしたのを覚えています。

 

TikTokがなくても、どこかで同じことをやっていた

──「斎藤さん」、なつかしい! iPhone版が2011年にリリースされた、ランダムに選ばれた相手と通話することができる「見知らぬ誰かと一期一会のコミュニケーションを楽しむ」をテーマに掲げたアプリですね。初めて人はどんなリアクションでしたか?

 

SATOYU 「おお! すごい!」みたいに言ってくれてうれしかったですね。自分のなかで唯一、人に褒めてもらえる特技だったのかもしれません。

 

──TikTok以前にも披露する場があったんですね。社会人になってからの表現の場はいかがでしたか?

 

SATOYU 8年ほど勤めていましたが、そういった場所はありませんでした。ただ、トラックの中では一人なので、ずっと声マネの練習していて。めちゃくちゃいい環境でした。TikTokをやり始めてからは、よりトラックの中でも練習に没頭するようになりました。そんななかで、就職してからは正直、40代、50代、60代……という、この先の未来の想像がついてしまっていたので、ちょっとちがう未来も見てみたいと思ったんです。それで本格的にクリエイターを目指すべく上京を決めました。

 

──会社を辞める相談は、奥さまにはしましたか?

 

SATOYU 「クリエイター1本でもやっていけるんじゃないか?」と思える時期だったので、打ち明けたときは「頑張ろう! 一緒にやっていこう!」と応援してくれました。妻も収入はあったし、もう本当に、妻の力は大きいですよね。

 

──もしTikTokを選択しない人生だったとしたら、どうなっていたでしょう。

 

SATOYU トラック運転手は一人になれる時間が好きなので続けているでしょうし、そのうえで、結局ほかのプラットフォームでやっていたと思います。とはいえ、ほかの場所だと伸びなかったかもしれません。TikTokの雰囲気と、僕のやりたいこととの相性が合致した結果が、いまなんだと思います。
場所はどこであれ、バズろうがそうじゃなかろうが、表現することが好きなんです。楽しいんですよね。これはずっと昔から変わらないし、これからも変わらないんだろうなあと思います。

 

──身一つが武器になっているさまは、TikTokクリエイターならではです。最後に、今後の展望を教えてください。

 

SATOYU 今までも未来のことはわからないまま、とにかく目の前にあるものを触っていく感覚で活動していました。「高い目標がないとダメだ」と言う人もいるかもしれませんが、目に見える手前のものに進んでいくだけでも十分だと思うんです。目の前が見えなくなるのは、立ち止まったときだけです。壁を感じたあの時期に「もう無理だ」「これから先もバズることがあるんだろうか」と止まりそうになりましたが、進んでいった結果、「月歩」があったし、またNPCがバズった。これからも前に進んでいくのみ、です。

 

SATOYUさん公式TikTok @satoyu727

 

撮影/佐賀章広 取材・文/有山千春 構成/BuzzTok NEWS Buzz Tok NEWS公式HP https://buzz-tok.com/

黒沢ともよ「考察したくなる物語、美しい色合い、謎の多い登場人物たち……すべてが魅力的で魅惑的な作品です」映画「クラユカバ」

塚原重義さんが原作・脚本・監督を手掛ける初の長編アニメーション映画『クラユカバ』が現在公開中。先だって2023年ファンタジア国際映画祭に出品され、長編アニメーション部門「観客賞・金賞」を受賞するなど国際的な映画祭で高い評価を集めている本作。主人公・荘太郎と邂逅する謎の装甲列車を率いる・タンネ役を演じ、「完成を待ちわびていた」という黒沢ともよさんにキャラクターや作品に込めた思いをうかがった。

 

黒沢ともよ●くろさわ・ともよ…4月10日生まれ。埼玉県出身。声優、俳優、歌手として活躍。主な出演作に、アニメ『響け!ユーフォニアム』(黄前久美子役)、『アイドルマスター シンデレラガールズ』(赤城みりあ役)、『スキップとローファー』(岩倉美津未役)など。4月21日にバースデーライブ『kioku tadori te 2024 -aquarium-』を開催。公式HPXInstagram

 

【黒沢ともよさん撮り下ろし写真】

 

タンネは軍人であり、少女性もあり、少年っぽさもある不思議なキャラ

──作品を拝見しました。レトロ感やスチームパンクっぽさもある世界観に、物語が始まった瞬間から惹き込まれました。

 

黒沢 うれしいです! ありがとうございます。

 

──この作品は、冒頭の15分にあたる「序章」がクラウドファンディングで作られ、その後、数年かけて本編の完成に至ったそうですね。

 

黒沢 はい。探偵役(荘太郎役)の神田伯山さんとサキちゃん役の芹澤 優ちゃん、そしてタンネ役の私は「序章」から参加させてもらっていて。ですから、今回の本編の完成をすごく楽しみにしていました。

 

──塚原重義監督とは「序章」で初めてお仕事をされたそうですが、その時の印象はいかがでしたか?

 

黒沢 監督はすごくおしゃれな方なんです。この作品から飛び出してきたかのような色合いのお洋服をいつも着ていらっしゃって。それに、この映画ではサキちゃんがキャスケットを被っていますが、監督もずっとキャスケットを被っているので、“もしや、本当にこの映画の世界の住人なのでは!?”と思ってしまうほどでした(笑)。その意味でも、この映画はまさに監督の頭の中をそのまま具現化したような作品なんだなと感じました。

 

──今回のタンネ役に関しては監督からどのようなディレクションがあったのでしょう?

 

黒沢 「序章」を制作していた段階では、物語の中でのタンネの立ち位置がどのようなものなのかが、私にはあまり知らされていなかったんです。オーディションでいただいた資料にも、《謎の人物で、時おり少年にも少女にも見える》といった程度の情報量しかなくって。ただ、その後、改めて今回の本編を作るにあたって監督から言われたのは、「少女性が欲しい」ということでした。また、タンネは『鬼の四六三』と呼ばれる部隊の列車長(指揮官)といった側面もあるので、そこも大事にしたいと。つまり、軍人っぽさがあり、少女性もありつつ、なおかつ、ちょっとやんちゃな少年っぽさのある役にしたいというオーダーをいただきました(笑)。

 

──今のお話を聞いているだけでも、一体どんなキャラクターなのか見失いそうになります(笑)。そうした少女性と少年っぽさが内在したキャラクターをどのように作り上げていったのでしょう?

 

黒沢 今回はそのさじ加減が本当に難しかったんです。ですから、まず私のなかで一番女の子っぽい部分を表現し、そこから一番男の子っぽいところまでを、ちょっとずつ目盛りを動かしながら演じて、「どのあたりがイメージに近いですか?」と監督と相談しながら探っていきました。

 

──最終的にはどういった点を強く意識されたんですか?

 

黒沢 本編の台本を読んだところ、列車長としての役割が大きなウェイトを占めていましたので、そこを軸に表現していくようにしましたね。軍人の要素をしっかり出しつつ、でも、タンネの相棒である女の子たちと会話をする時には無意識に少女性やボーイッシュさが出ているような。そうした女性像をイメージして演じるようにしました。

 

──確かに、タンネが部隊の代表として誰かと交渉する時はすごく軍人らしさを感じ、会話の語気もいつもより強めになっているような印象を受けました。

 

黒沢 そうなんです。タンネは誰と相対しているかで、ちょっとずつ表情や言葉遣いに違いが出るんですよね。例えば、主人公である探偵の荘太郎に対しては、最初は“おまえは何者だ!?”みたいな警戒心強めの態度だったのに、そこから少しずつ心を開いていき、会話も柔らかくなっていって。最後のほうになると、荘太郎にぼやいたり、愚痴を言うぐらいの距離感になっていましたからね(笑)。

 

──ちなみに黒沢さんは、「序章」を作っていた時、すでに今回の本編の展開をご存知だったんですか?

 

黒沢 いえ、知りませんでした。ですから、完成した台本を初めて拝読した時は驚きの連続でした。どこまでがリアルで、どこからが非現実の世界なのかが分からなくなっていく展開に、“一体どうなるの!?”というワクワク感が止まらなかったんです。それに、登場人物たちのやりとりや行動を見ていても、簡単に悪や正義という概念だけでは語れない部分があって。そこにもすごく魅力を感じましたね。

 

──タンネも「序章」では敵か味方か分からない不気味さがありました。

 

黒沢 そうなんです。そもそも「序章」では、『クラガリに曳かれるな』というセリフしか言ってませんしね(笑)。それもあって、私自身も本編での物語の展開を知るのを楽しみにしていたのですが、もう想像以上でした。

 

昨今、こんな超挑戦的なキャスティングって、そうそうないです(笑)

──お話をうかがっていると、タンネはすごく難しい役だったように感じますが、実際のアフレコはいかがでしたか?

 

黒沢 すっごく楽しかったです! この作品はセリフの語り口が独特で、声に出すと気持ちいいんです。耳も喜んでいるような感じがして(笑)。それに、タンネにはちょっと小生意気なところがあるんですよね。タンネはまだ年齢的に若いだろうに、態度がやたら横柄ですし、そうした普段の生活では絶対に出せない姿をお芝居でできたのも最高でした(笑)。

 

──耳が喜ぶという意味では、伯山さんをはじめ、素敵な声をお持ちのキャストばかりです。

 

黒沢 そうなんです。講談師の伯山さんだけじゃなく、荘太郎の古くからの知り合いである新聞記者の稲荷坂役には活動弁士の坂本頼光さんもいらっしゃって。昨今、こんな超挑戦的なキャスティングはないぞって思います(笑)。お2人とも声優活動を本業にしている役者には出せない味わいをお持ちですし、そうした点でも、これは唯一無二の作品になるなと感じました。

 

──伯山さんとは一緒に収録をされたのでしょうか?

 

黒沢 いえ、残念ながら別でした。ただ、伯山さんが8割ほど収録し終えた後でしたので、ほぼ荘太郎の声を聞きながらアフレコに臨むことができました。

 

──伯山さん演じる荘太郎にどのような印象を持たれましたか?

 

黒沢 すべてがすごかったです! たまらなかったです!! 間の取り方一つとっても独特の雰囲気があり、どれもが新鮮で。例えば、同じ量のセリフを同じくらいの尺でしゃべっているはずなのに、場面によってはすごくゆっくり話しているように聞こえたり、逆に捲し立てているようにも聞こえる。坂本頼光さんのお芝居もそうですが、“緩急の付け方やしゃべり方次第で、こんなにも違いが出るものなんだ!!”と、すごく勉強をさせていただきました。

 

色彩の柔らかさ美しさは推しポイントの1つ!

──収録時はほぼ映像が出来上がっていたとうかがいました。アニメのアフレコは画が未完成の状態で行うことがよくありますが、やはり最初から先に画があると、役へのアプローチも違うものなのでしょうか?

 

黒沢 画に合わせた演技をしやすくなりますし、イマジネーションの広がり方が変わってくることもあります。特に今回のタンネはそうでした。というのも、タンネには背景といいますか、設定があまりないんです。年齢は謎だし、謎に列車長だし、組織の中での立ち位置も謎で。とにかく謎だらけなんですよね(笑)。そのくせ、たまにニヤニヤしていたりと、表情は意外と豊かで(笑)。

 

──話してる内容や口調だけだと怖そうに感じますが、たまにかわいいところも垣間見えるのが素敵ですよね。

 

黒沢 そうなんです。ものすごくかわいいんです! 腹の中ではいろんなことを考えているけど、それらをぐっと抑えて、表情だけは笑顔だったりする。そうすると、自然と少し皮肉な感じや、相手をなめている雰囲気がお芝居にもにじみ出てくるんですよね。“なるほど、こういう表現の仕方もあるのか”と、すごく勉強になりました(笑)。

 

──確かに、実際に映画の中でも探偵に対して、「ちょっとなめてた」と告白するシーンがありました。

 

黒沢 ありましたね(笑)。しかも、それを素直に言っちゃえるのもタンネの魅力なんです。実は、収録に入る前はこのタンネをどう演じていこうかと、少し悩んでいたところがあったんです。台本の文字だけを読むと、真面目すぎる子みたいになってしまわないかという懸念もあって。でも、先ほどのお話にあったように映像がほぼ完成していたので、たとえ頭が固そうに感じるセリフでも、画のタンネが笑顔なら、そこにも合わせていかないといけない。そこが難しくもあるのですが、結果、かわいさと生意気さが混じったようなキャラクターを生み出すことができたので本当に良かったなと思いました。

 

──そうだったんですね。また、先ほど「タンネというキャラクターには設定が少ない」というお話をされていましたが、この作品に出てくる登場人物たちの背景は、探偵以外ほとんど描かれていませんよね。

 

黒沢 はい。でも、それが作品の面白さを際立たせているなと感じました。多くのキャラクターの背景が謎に包まれているので、物語が進むにつれて、どこまでが現実でどこからが虚像の世界なのかが分からなくなっていく。そうした“余白”を楽しんでいただけるんです。それに、同時公開となる『クラメルカガリ』は逆にとても分かりやすい物語になっていますので、塚原監督の頭の中のオモテとウラを覗き見している感じもして、そうやって見比べられるのもすごく面白いなって思いましたね。

 

──情報過多や説明過多とも言える今の時代において、こうした謎の多い『クラユカバ』のような作品は珍しいですし、観終わった後に、解釈を巡って友人たちといろんな話ができるのも醍醐味だなと感じます。

 

黒沢 確かにそうですね。私が声優のお仕事をさせてもらうようになったのは10年ほど前なんですが、その頃っていろんな作品でアニメファンが考察をして盛り上がっていたんです。その意味では、あの時代を経験してきたアニメ好きの方にとっては、ものすごくたぎる作品になっているなと思います(笑)。

 

──(笑)。もちろんそこまで深読みせずとも、純粋に映像を観ているだけでも楽しめますしね。

 

黒沢 はい。そこは私がすごく推したいところでもあります。色彩がとてもきれいなので、まるで夢を見ているかのような不思議な感覚を味わっていただけると思いますし。それに、なんと言っても、作品全体の画が柔らかい。劇中の戦闘シーンではバンバンと大砲を撃っているんですが、それでも目が疲れないんです!(笑) それでいて、細かい色合いなど、随所に監督のこだわりが詰まっていますので、ぜひあの美しい世界をスクリーンで堪能してほしいなと思います。

 

伯山さんの頭の中ってどうなってるんだろう?っていつも思います

──『クラユカバ』は“謎”がテーマになった作品ですが、黒沢さんのなかで最近気になっている謎のようなものはありますか?

 

黒沢 先日、伯山さんの講談を聴かせていただいたんです。その帰り道、ふと“伯山さんの頭の中には講談の読み物が何冊分入っているんだろう?”と思ったことがありました。それに、公演の演目はご自身でお決めになることがほとんどだと思うのですが、急に作品名を挙げてもすぐにできるものなのかなとも思ったり。あと、どういった練習をされているのかとか、稽古期間はいつもどれくらいなのかということも気になりますね。以前、歌舞伎は公演前に一週間ほどお稽古をするだけで本番を迎えると聞いたことがあったのですが、どうしてそれでできるんだろうかと、本当に不思議で。

 

──黒沢さんは舞台の活動もされているので、余計に疑問に感じるのかもしれないですね。

 

黒沢 はい。「普段からお稽古しているし、型が決まっているからできることなんです」という説明をうかがったこともあるのですが、歌舞伎に限らず講談や落語でも、演者さんの新たな解釈が作品に加わることがありますよね。そうすると、とてもじゃないけど一週間では間に合わないんじゃないかと思ったり。また、そうしたオリジナリティってどこまで許されるのかも気になります。あと、特に知りたいのが脳内のキャパシティ。あれだけ多くの作品が頭の中に入っているのに、インプットできる余力があとどれくらいあるのかすごく知りたいです。

 

──舞台役者さんだと、たまに千秋楽を迎えた翌日にはすべてセリフを忘れるという方もいらっしゃいますよね。

 

黒沢 私もそのタイプです。かっこよく言えば、スイッチが切り替わるように忘れちゃいます(笑)。でも、伯山さんのような講談師さんや落語家さんはストックし続けないといけないわけで。本当に、頭の中がどうなってるんだろうって思います。今度お会いした時に「忘れないと、次の台本が頭に入らなくないですか?」って聞いてみたいです(笑)。それに、何気ない会話でも覚えているものなのか、それは訓練してできるものなのか……。「人によるんじゃないですか?」って言われてしまったら、それまでですが(笑)。

 

──(笑)。では最後に、黒沢さんにとって仕事をする上での必需品があれば教えてください。

 

黒沢 よく持ち歩いているのがオムロンの吸入器です。本来は喘息の方に向けて作られたものだと思うのですが、私はそれを喉を潤すために使っていて。生理用食塩水を入れて、霧状になったものを口の中に直接入れると、加湿器代わりになるんです。私は基本的に睡眠をしっかりと取ればどれだけ喉を酷使しても翌日には治るんですが、声優と舞台のお仕事が重なったりすると、どうしても十分な睡眠時間が取れなくなって。そんな時にこれがあれば手軽に持ち運べるし、喉の炎症をすぐに治癒してくれるのですごく重宝しているんです。

↑黒沢さんが愛用するオムロンの吸入器

 

──そうした吸入器を使った喉のケアはいつ頃からされているんですか?

 

黒沢 高校生ぐらいの頃からですね。当時はものすごく大きなものしかなく、技術の進化とともに、今では手のひらサイズにまでなってくれたので、もう感謝しかないです(笑)。しかも、最近は流行りでどんどんバッグも小さくなっていますからね。時代に対応したサイズでありがたいです(笑)。

 

クラユカバ

2024年4月12日(金)より全国公開中
(『クラメルカガリ』と2作品同時公開)

 

【映画「クラユカバ」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
原作・脚本・監督:塚原重義
キャラクターデザイン:皆川一徳
音楽:アカツキチョータ
プロダクションプロデュース:EOTA
アニメーション制作チーム:OneOne
主題歌:「内緒の唄」(チャラン・ポ・ランタン)

声の出演
荘太郎:神田伯山、タンネ:黒沢ともよ、サキ:芹澤 優、稲荷坂:坂本頼光、指揮班長:佐藤せつじ、松:狩野 翔、トメオミ:西山野園美、御多福:野沢由香里

 

(STORY)
「はい、大辻探偵社」紫煙に霞むは淡き夢、街場に煙くは妖しき噂…。今、世間を惑わす”集団失踪”の怪奇に、探偵・荘太郎が対峙する! 目撃者なし、意図も不明。その足取りに必ず現る”不気味な轍”の正体とは…。手がかりを求め、探偵は街の地下領域”クラガリ”へと潜り込む。そこに驀進する黒鐵(くろがね)の装甲列車と、その指揮官タンネとの邂逅が、探偵の運命を大きく揺れ動かすのであった…!!

公式サイト:https://www.kurayukaba.jp/kurayukaba/

(C)塚原重義/クラガリ映畫協會

 

撮影/映美 取材・文/倉田モトキ ヘアメイク/笹浦麻記 スタイリスト/末吉久美子

小林虎之介「吉沢亮さんが僕のグッズを見ながらニヤニヤしてるんです。もう勘弁してくれーって(笑)」『PICU 小児集中治療室 スペシャル 2024』4・13放送

広大な北海道で子供の命を守るために戦う医師たちの姿を描いた『PICU 小児集中治療室』(フジテレビ系)のスペシャルドラマが4月13日(土)に放送される。ドラマ『下剋上球児』ではキャッチャー・日沖壮磨役を演じていた小林虎之介さんがスーパーエリートの研修医役で出演する。主演・吉沢亮さんとの撮影中のエピソードなどを語ってくれた。

 

小林虎之介●こばやし・とらのすけ…1998年2月12日生まれ。岡山県出身。ドラマ「遺留捜査スペシャル」(テレビ朝日系)、映画「18歳、つむぎます」(2023)などに出演。日曜劇場『下剋上球児』(TBS系)に野球部員の日沖壮磨役を演じて注目を集めた。Instagram

【小林虎之介さんの撮り下ろし写真】

 

急いで治療しないといけないけど、丁寧な処置をしなければいけない

──今作では吉沢亮さん演じる志子田武四郎の指導を受ける研修医・瀬戸廉役です。この役のオファーを受けたときの心境はいかがでしたか。

 

小林 ありがたくて、「とにかくやるしかない」って思いました。そしてテレビで見ていた人たちに会えるという楽しみもありました。皆さん、どんな感じで現場にいるんだろうって興味がありましたし、瀬戸役にというお話をいただいてすごくうれしかったです。

 

──医師役を演じるにあたって勉強したことはありましたか。

 

小林 自分なりに勉強はしましたが、もともとフジテレビの医療ドラマが好きで、『Dr.コトー診療所』を何回も見ていて、『PICU』も見ていたので、医師役はイメージしやすかったです。ただ瀬戸はまだ研修医なので、医療ドラマを参考にガチガチに医師の役作りをするのではなく、『PICU』の連続ドラマの吉沢さんをよく見るようにしました。特に最初の3話ぐらいの志子田先生と瀬戸の境遇が若干似ている部分もあったので参考にしましたね。

 

──医師役を実際に演じて難しく感じたことはありました?

 

小林 僕は手術シーンはなくて、器械を触るところがあったんですが、それはドラマで見ていたイメージ通りでした。医師の所作などは、実際にPICUの現場に行き、職場体験みたいな感じで教えていただいたんですが、たまたま病院を見学しているときに、救急車で重傷の方が搬送されてきたんですね。そこで医師の方の目や、現場の空気に危機感を感じたんです。急いで治療しないといけないけど、丁寧な処置をしなければいけない、絶対に焦って雑にしてはいけないという心構えみたいなものを実際に学ぶことができました。

 

本当に共通点や似ている部分はないですね(笑)

──瀬戸廉をどんな人物と捉えていらっしゃいますか。

 

小林 瀬戸は東京の大病院の御曹司で両親が東大卒。生い立ちからして、医者にならないといけないってプレッシャーの中で生きてきたと思うんですね。偉大な両親の息子だし、医師になるためにたくさん勉強して得た知識もある。だからプライドもそれなりに高いんだろうと。それが丘珠病院で研修医として働くことになり、知識だけで戦っていけないことを経験していきます。それこそ「無知の知」みたいな経験をすることが多くて、演じていても苦しいなって思う部分がたくさんありました。自分ではできると思っていたのに、できないことを思い知ってどんどん打ちのめされるような感覚って、生きているとわりと経験する機会もあるじゃないですか。でもエリートの瀬戸は、研修医になって初めて大きな打撃を受けたんだろうなって思いました。

 

──瀬戸先生との共通点や似ている部分はありますか? 志子田先生に本を勧められて「もう読みました。英語で」と返している場面からも、自信が相当あるタイプに思えましたが。

 

小林 今回は本当に共通点や似ている部分はないですね(笑)。あのシーンは『PICU』の現場に入って、初めて撮ったシーンだったんです。そのときに、改めて監督と「瀬戸はこういう役だから表情をこうしてみよう」みたいな擦り合わせをしました。その3日前まで『下剋上球児』の撮影をしていたので、監督に「心の中には日沖壮磨が宿っているから、最初のシーンでそれをなくそう」と言われて(笑)。それで監督と「瀬戸はこういう感じ」「オッケーです」と確認しながら、瀬戸に変わる作業をすることができました。

 

忘れ物をすることも多いんです……一年で財布を4個ぐらい失くして

──役柄を切り換えるシーンでもあったんですね。以前『下剋上球児』でご登場いただいたお兄さん役の菅生新樹さんが、小林さんがシャンプーかコンディショナーを流し忘れてお風呂から出てきたエピソードを教えてくださったので、なるほど、瀬戸先生とは違うんだなと納得できました。

 

小林 シャンプーですね(笑)。髪を赤く染めていたので、髪色を維持するためにピンクシャンプーを使っていたんです。シャンプーを流し忘れたまま温泉に入って、お風呂から出て頭を拭いたら白いタオルが真っ赤になって「なんだこれ!?」と。

 

──流し忘れたのはどうして……?

 

小林 疲れていたのと、みんなで一緒にお風呂に入るからずっとしゃべっていて楽しくて忘れてしまって(笑)。それからずっとイジられてます。あいつ(菅生)に一生擦られるネタを提供してしまったなって。もう勘弁してほしい(笑)。

 

──天然なところがあるわけではないと。

 

小林 でも……多分ちょっとそういう部分もあるんでしょうね。僕は忘れ物をすることも多いんです。一昨年かな。多分財布を4個ぐらい失くして、免許センターに行きまくりました。そのたびに財布を買うのもお金がもったいないなと思って、今は1000円もしないような財布を使っています。でもそうしたら失くさなくなるんですよね。……って、ちょっと恥ずかしい話しちゃったな(笑)。

 

子役たちの存在は僕にとって大きかった

──『PICU』では子役の演技が毎回話題になっていました。子役たちとの共演はいかがしたか。

 

小林 みんな元気でピュアでしたね。空き時間にお菓子を一緒に食べたり、たくさんおしゃべりしました。でも現場に入ると全然違って、ちゃんと役者になるんですよね。でも僕は子供たちがたくさんいるから楽しめました。周りを大人の役者さんたちに囲まれていたので、子役と一緒のときは気持ちが和らいだというか(笑)。子役たちの存在は僕にとって大きかったです。

 

──そういえば、瀬戸先生はPICUにいる女の子の推しのアイドルに似ているという設定もありましたね(笑)。

 

小林 僕はまず「この設定、大丈夫かな」って思いました(笑)。写真で出てくる推しのアイドルも僕がやっていて、なんならこの現場で最初にやったのはアイドル役のほうなんです。スタッフさんたちに乗せられて、調子に乗って撮影して。ドラマの中で、カレンダーやアルバムのジャケット、うちわになって、その写真が出てくるわけですよ。もう恥ずかしくてしょうがない! 撮影中は目の前に吉沢さんがいますからね。もう真のイケメンじゃないですか。その人が僕のグッズを見ながらニヤニヤしてるんですよ。もう勘弁してくれーって思いました(笑)。

↑『PICU 小児集中治療室 スペシャル 2024』より

 

──モノやコトにまつわるお話もお聞きしたいのですが、現場に必ず持っていくものってありますか。

 

小林 僕は体がすごく乾燥しやすいので、最近はずっとハンドクリームを持っています。『下剋上球児』の撮影中に、メイクさんにハンドクリームを持っていたほうがいいよって言われたんです。特に『PICU』の撮影中は乾燥がひどくて、手とかガッサガサだったんですよ。手の皮が剥けまくって、どうしようと思っていたら、吉沢さんも『PICU』の連ドラの頃、乾燥がひどかったらしいんです。でも今は大丈夫だったので、「どうしてるんですか?」と質問したら、吉沢さんから「水を飲んでないっしょ?」って聞かれて。「飲んでないですね」と答えたら、「水を飲めばいいよ。そしたらすぐ治る」と教えていただいて。

 

──なるほど。水分不足の自覚はあったんですね。

 

小林 そうなんです。吉沢さんが連ドラのときに、「一日2リットル水を飲むようにした」っておっしゃるので、「そんなに飲めないです」と言ったら、「意外とイケるぜ」って言われて。それで飲むようにしました。家にいると飲まないんですど、仕事場にずっといると飲めるんですよね。で、撮影や今日みたいな取材の日は、ちょこちょこ飲むようにしています。

 

好きなドラマや映画を上げるのって、なんか考え込んじゃいますね(笑)

──ハンドクリームにこだわりはあります?

 

小林 全然ないです。でも良い匂いのと薬用、両方持っています。なので、こだわりというと2つ持っていることかな。匂いがないほうが良い場所では、薬用のハンドクリームを使ったりします。

 

──お仕事の現場によって使い分けられるのはいいですね。では趣味はありますか。

 

小林 趣味は本当になくて……。昔はアニメやマンガが大好きだったんですけど、この仕事で成功してやる! みたいなことを思ってからは映画やドラマを見ることが多くなったんですよね。

 

──そうすると映画やドラマを仕事目線で見てしまいませんか。

 

小林 最初の頃はそうでした。以前は「こういうときはこういう表情するのか」「こういうキャラクターいいな」って、参考にしよう、盗もうみたいな気持ちで見ていました。でもそうすると、だんだん見るのが楽しくなくなってきて。なので、最近は楽しんで見るようにしています。楽しんで見ても、自ずと自分の中の引き出しには入っているようで、演じるときに「あんな雰囲気でやってみよう」って思いつくので。それに気がついてからは、普通に楽しんで見るようになりました。

 

──どんなドラマを見ることが多いんですか。

 

小林 今は韓ドラです。『その年、私たちは』ってNetflixのドラマにハマっていました。それが終わったら『忍びの家 House of Ninjas』を見ようと思っています。……好きなドラマや映画を上げるのって、なんか考え込んじゃいますね(笑)。自分のセンスが出ちゃうから。『その年、私たちは』、『無人島のディーバ』、『二十五、二十一』という直近に見た3作品がすごく良かったです。

 

 

PICU 小児集中治療室 スペシャル 2024

4/13(土)フジテレビ系 午後9時~11時10分

 

(STAFF&CAST)
脚本:倉光泰子
演出:平野 眞
医療監修:浮山越史(杏林大学病院)、渡邉佳子(杏林大学病院)、植田育也(埼玉県立小児医療センター)、川嶋 寛(埼玉県立小児医療センター)、齊藤 修(東京都立小児総合医療センター)
取材協力:宮城久之(旭川医科大学)
プロデュース:金城綾香、栗原彩乃

出演:吉沢 亮
安田 顕、木村文乃、高杉真宙、高梨 臨、菅野莉央、小林虎之介
生田絵梨花、中尾明慶、正名僕蔵、甲本雅裕、大竹しのぶ

 

撮影・映美 取材・文/佐久間裕子 ヘアメイク/樫本佳奈(山田かつら) スタイリスト/AKIHIRO MIZUMOTO 衣装協力:nonnative(the nonnative shop)

『ラヴィット!』プロデューサー・辻有一が語る躍進の舞台裏とは?「批判されようと、日々の番組を真面目に地道に作っていきたい」

朝の帯番組でありながら、「ニュースなし! ワイドショーなし!」を旗印にした『ラヴィット!』(TBS系)の勢いが止まらない。バラエティに振り切った大胆な構成と生放送ならではのハプニング性によって、SNSでは毎日のように話題となるほど。しかし、2021年の放送開始直後は「あらゆる罵詈雑言が飛んできて、眠れない日が続いた」と番組のキーマンである辻 有一プロデューサーは振り返る。躍進の舞台裏に迫った。

 

辻 有一●つじ・ゆういち…1983年生まれ。2006年にTBS入社。

 

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“日本で一番明るい朝番組”を作ろうと決めた

──『ラヴィット!』が異色の番組であることは間違いないと思います。そもそも朝の時間帯なのに、なぜワイドショー的な作りにしなかったのか? このあたりから説明していただけますか。

 

 TBSの朝番組というのは、『はなまるマーケット』(1996年~2014年)が終了した後から、数字的に苦戦していたんです。その時期は主にワイドショーというか情報報道番組が続いていたんですが、編成の意向として制作体制を切り替えようという話になったみたいで。具体的には情報制作局という情報報道番組を作る部署に替わって、バラエティを作るコンテンツ制作局がその枠を担当することになった。その中で最初はチーフプロデューサーの小林(弘典)に話が来たんですよね。それで小林が僕に一緒にやろうを声をかけてくれて、動き始めたんです。番組内容も編成からはニュースやワイドショーではない情報番組という依頼でした。

 

──つまり、上層部や編成サイドの考えが大きかったということでしょうか?

 

 編成としては『王様のブランチ』のような番組をイメージしていたんだと思います。だから新しい番組でも情報ニュースやエンタメニュースは扱っていいよ、という話でした。むしろそれをうまく扱いながら構成していく情報番組を作ってほしいと思っていたのかもしれません。

 

──なるほど。様々な背景があったわけですね。

 

 ただ僕としては当初から良いニュースであれ、悪いニュースであれ、絶対に扱いたくなかったんです。なぜかというと、番組立ち上げの準備に入ったのが2020年の秋だったんですけど、その当時はまさに新型コロナのピーク真っただ中。どのチャンネルを回しても朝から新型コロナのニュースを報じていて、朝テレビをつけると気分的に落ち込むことが多かったんです。個人的にもコロナ禍でとても大きな嫌な出来事があり、本当に精神的に参っていた時期でした。でもその頃って、きっとそう感じていた人は多かったのではないかなと。だからそういう人たちが朝にテレビを見て少しでもクスッと笑える、その日生きる元気がもらえる、“日本で一番明るい朝番組”を作ろうと決めたんです。

 

──そのフレーズは番組の標語にもなっています。

 

 番組開始当初から解釈や切り口は変えながらですが、その番組テーマだけはブレていないつもりです。エンタメ系のニュースも含め、生放送と言えどもニュースを扱わないというのも僕の一貫した番組におけるポリシーで、番組のスタイルは少しずつ変わっていますが、そこだけは守っていくつもりです。

 

出演者には数ある番組の1つにしてほしくなかった

──前例がないことをするわけですから、キャスティングが非常に重要なカギとなったはずです。メインMCの麒麟・川島明さんや各曜日のレギュラー陣はどのようにして決まったんですか?

 

 考えとしてあったのは、他ではあまり見ることができない、ここでしか見ることができないキャスティングで番組を作りたかったということ。川島さんは当時から実力のある方でしたし、業界でも評価はもちろん高かったですが、4年前はまだそこまでMCをやられていなかった。さらに各曜日にキーキャストとしてお願いした芸人さんたちもまだ東京に進出していなかったり、レギュラーはまだ持っていない方が多かった。それはそういう理由です。

 

──確かにそうでしたね。

 

 帯番組を作るというのは、会社的にもかなり大きなプロジェクトです。予算的にも人員的にも結構な規模感ですし。僕としては、相当な覚悟を持って取り組まなくちゃいけないわけです。そういう意味でいうと、当時は、川島さんを含めて出演者の方たちにもこの番組で一緒に勝負を賭けてくれる人がよかった。変な言い方ですけど、数ある番組の1つにしてほしくなかったんです。本人たちはどう思っているかは分かりませんが(笑)。

 

──レギュラー番組を7つも8つも持っている芸人さんだと、どうしても『ラヴィット!』ならではの色を打ち出せないかもしれません。

 

 特にロケなどを考えると超売れっ子の方になると、スケジュールなども現実的に厳しくなりますしね。立ち上げ当初はいろいろとうまくいかないことも想定できていたので、やっぱり「みんなで一緒になって、この番組で勝負したい」という思いが根底にあって、僕が勝手に思っているきれいごとかもしれませんが、そこにこだわったつもりです。今でも、その思いは変わらないですし、だから各局に既に引っ張りだこの人気者を「後追い」したり、そこ頼るような企画はなるべくしないようにしているつもりです。他でも見られちゃいますからね。

 

──アイドルの人選に関しても、人気メンバーを上から順に指名するといったイメージではない?

 

 違いますね。そもそもグループの中で誰が人気あるかとか全く分かってないです(笑)。ただ「この番組を楽しんでくれているか?」という点は一番大事というか、とても気にしています。というのは、『ラヴィット!』って出演者側からすると出るのが大変な番組だと思うんですよ。無茶なアンケートもお願いするし、生放送でいきなりいろんなことをやらされるし。だから楽しんでもらえないと、やっていけない番組なんです。

 

──至近距離で見ていて、川島さんのすご味はどういうところで感じますか?

 

 あらゆる局面で感じています。帯でバラエティ番組のMCを、それも生放送でこなすというのは想像以上に大変なことだと思います。相当な技量と何より精神力が必要とされます。それを完璧にこなすのは超人的です(笑)。川島さんが“いる”「安心感」があるから、芸人さんたちも自由にボケられるし、僕らは今までのテレビの常識では考えられないような挑戦が出来るんです。だったら何で開始当初はVTR中心だったのか、と言われるかもしれませんが、当時僕らは川島さんとまだそこまで深く仕事をしたことがなかったですし、川島さんも僕らに対して疑心暗鬼というか、何してくるのか未知数な部分があったと思うんですよね。いきなりトークブロックばかりの構成にして、「じゃあ1時間よろしくお願いします」っていうのはなかなか信頼関係がないと難しいものがあるので。それで初期はVTR中心の構成になったという経緯があるんです。

 

最初の一年はとにかく番組のタイトルや存在を知ってもらうこと

──番組が進化・成長したことは、オープニングで顕著に感じられます。最初は現在のように尺も長くなかったですよね。

 

 番組開始当初から僕は放送中もなるべくX(旧Twitter)やSNSの反響をチェックしているんですが、徐々に始めた川島さんが仕切るトークブロックは、やり始めた頃から評判になって、かなり話題にも上ってました。こちらとしても手応えがあって、枠を広げていったんですけど、今では1時間を超えることもザラなので、もはやオープニングではないことは僕らも理解しています。2時間オープニングで終わるって「番組が始まってもいないじゃねぇか!」とそれは視聴者から言われますよね(笑)。

 

──日本人のテレビ離れが指摘されるようになって久しいですが、『ラヴィット!』は『水曜日のダウンタウン』と並んでXのトレンドになにかと入ってくる印象があるんですよ。SNSとの親和性というのは制作陣としても意識しているポイントですか?

 

 もちろんです。番組がスタートした頃っていうのは本当に酷評の嵐だったんです。「面白くない」「こんな番組やめちまえ」「前のほうがマシだった」……SNSを覗いても、ありとあらゆる罵詈雑言が飛び交っていました。ただ、その一方でSNSのその現象を冷静に見ていると、日本の大多数の人はTBSの朝番組が変わったということすら、きっと知らないんだなと思うことがあって。だからそれをどうするかの方が僕にとって大きな問題だったんです。

 

──どういうことでしょうか?

 

 ネットでバッシングが飛び交うのは、一瞬盛り上がっているように見えるんですけど、実際はほとんどの人は、その番組すら見てもいなくて、日本のほとんどの人は『ラヴィット!』なんていう新番組が始まったことすら認識していないわけですよ。そりゃあそうですよね。視聴率最下位のテレビ局の番組が替わったって、普通は誰も気づいてくれないし、見てくれない。だから最初の一年というのは、とにかく番組のタイトルや存在を知ってもらうことに集中しないとダメだなと思ったんです。

 

──具体的には、どのように?

 

 一番は番組を面白くすること。まずは内容がつまらないから「番組の存在」に気づいてもらえないわけです。そのための工夫というか、生放送ならでは、帯番組ならでは、『ラヴィット!』における優位性を活かしたチャレンジは数えきれないほどやりましたし、今も意識してやっています。あとはSNSをいい意味で盛り上げて、「番組名」を世間に広げること。そのためにSNSを絡めたキーワード発表もやり始めました。これは極々わずかな一例ですが、こちらもトライ&エラーを繰り返しながら、番組の知名度を上げる方法をとことん模索していきましたね。

 

『ラヴィッド!』を好きでいてくれる人を、もっと好きになってもらえるように、とことん大切に

──『ラヴィット!』はTVerでの人気も非常に高いです。ニュースやワイドショーといった番組はライブが命だとされていますよね。情報番組なのに、あとから見ようとするファンが多いのは珍しい現象だと思うのですが。

 

 それは完全にバラエティとして認識されているからですかね。『ラヴィット!』はTVerのマイリストというお気に入りの数が今は125万人くらいまで伸びていて、それはうちのバラエティの中では3~4番手くらいに入るんです。ありがたいことですね。そもそも生放送の帯番組を配信するってこと自体が極めて珍しいですし、技術的にも物理的にもやはり大変らしくて、配信の部署や関係各所の皆さんの協力のおかげでなんとか成り立っています。

 

──TVerで人気ということは、視聴者層が若いということでしょうか? 朝の番組を見るのは高齢者が多いイメージもあったのですが。

 

 極端に若いと思いますよ。ファミリーコア(男女49歳以下の個人視聴率)が圧倒的に強みですし、もちろんその世代を意識して作っています。正直、オール(全層)は数字よくないんです。昔の世帯視聴率を基準で見たら、失格だと思います。それでも続いているのはTVerでの回転数や、若い人たちが見てくれていること、他にも様々な付加価値を評価されているからであって、決して盤石ではないことは、僕は一番理解しています。

 

──テレビの制作現場では、以前ほど視聴率を重視しなくなったという話も聞きます。

 

 う~ん、視聴率の価値が薄れているということはないと思うんです。ただ、TVerとかも含めて評価基準が多様化していることは間違いないでしょうね。ここからは僕個人の考えなんですけど、結局、昔みたいに家でテレビがずっとついている時代じゃなくなったんですよ。朝なんてまさにそうで、放っておいても勝手にテレビをつけてくれるような状況じゃないわけです。

 

──言われてみたら、確かにその変化は大きい気がします。

 

 テレビのチャンネルをなんとなく合わせてもらうではもうなくて、能動的にテレビを点けてもらって、チャンネルを合わせてもらって、わざわざ見に来てもらえるような番組じゃないと、これからのテレビは生き残っていけないと思う。だからこそ、「好き」の深度が大事になるんです。『ラヴィッド!』が好きだと言ってもらえる明確な理由を、自分たちがひたすら努力して作っていかなくてはいけない。そして今『ラヴィッド!』を好きでいてくれる人を、もっと好きになってもらえるように、とことん大切にしないといけない。

 

──ということは、大衆向けにバランスよく幕の内弁当のような情報番組を作るのではなく、エッジの立った内容で一点突破するという話になりますか?

 

 その通りですね。尖るという表現には慎重なんですが、本来のテレビ的なアプローチとは違っているのかもしれない。マスに向けて最大公約数的に作っていないという意味で。

 

いろいろな人の「好き」が集まって成り立っている番組

──先日の放送は『森田一義アワー 笑っていいとも!』(フジテレビ系)のテレフォンショッキングにオマージュを捧げるような内容で、いきなりゲリラ的に電話で出演オファーする様子が視聴者の度肝を抜きました。

 

 「リアルタイムで見てくれている人」が得したなと感じてもらえるような仕掛けはとても意識しています。事前予告をあえてしなかったり、サプライズにこだわったり、いい意味でハプニングが起こるかもしれない要素をあえて残すのもそのためです。あとは、「番組をずっと見続けてくれている人」をとても大切に作っています。ずっと継続的に見ているからこそ楽しめる歴史やストーリー性や伏線回収を作るのもそうです。例えば、さらば青春の光の森田哲矢さんの買い物企画なんてまさにそうで、歴史を知っていたら、なおさら楽しい(笑)。

 

──森田さんの車購入は、ネットニュースでも大きく取り上げられていました。

 

 森田さんの企画って何がいいかって、森田さん本当に欲しそうじゃないですか。ロレックスにしろ、レンジローバーにしろ、本当に好きなんだなって伝わるのがとても良くて。僕は、人が好きなことをしている姿ってめちゃくちゃパワーがあると思っているんです。周りを明るくさせる魅力がある。車や時計じゃなくてもいいし、好きなアイドルとかだっていい。ぼる塾の田辺(智加)さんが「推し」について語っている姿が、周りを幸せな気持ちにさせてくれるのも同じだと思っています。『ラヴィット!』は、番組名の由来でもあるんですが、いろいろな人の「好き」が集まって成り立っている番組なんです。

 

──感情移入しちゃいますよね。『ラヴィット!』は斬新な企画のオンパレードなので、視聴者としては面白いのですが、制作サイドはネタ切れとかマンネリ化の恐怖はないんですか?

 

 その恐怖と常に戦っている状態ですよ(笑)。この3年間というもの、四六時中、いつも番組のことばかり考えていますから。毎日毎日、悩みに悩んでいます。

 

──最初は苦戦が続いていた番組も現在では確固たる人気を獲得し、年末には特番の『ゴールデンラヴィット!』を、土曜日には総集編ともいえる『夜明けのラヴィット!』が放送されるようになりました。

 

 『ゴールデンラヴィット!』に関しては、テレビをやっている以上、どこかで朝の帯番組のゴールデン特番を作りたいと思っていました。あれは一年間の集大成的な位置づけですね。『夜明けのラヴィット!』は、川島さんが「いいともの増刊号みたいなことをやりたいね」と言ったのが大きかったですね。というのも『ラヴィット!』は生放送だから、そこで処理しきれない要素が結構出てくるんですよね。「このまま、アフタートーク的なことをやったら盛り上がるのにな」とか話してて。ところが、いざ始めてみたら早朝5時半からというとんでもない時間帯で(笑)。金曜日までの放送内容を入れなくちゃいけないので、めちゃくちゃまとめるのが大変なんですよ。金曜日のオンエアの後にそのまま徹夜で仕上げて、放送するんですけど。

 

──番組関連グッズを展示する「ラヴィット!ミュージアム」やライブイベント「ラヴィット!ロック」も開催しています。

 

 番組が始まった当時は、こんなことをやるなんて想像もできなかったですね。もちろん番組を応援してくださる方に楽しんでもらいたくてやっているわけですが、個人的にはこういったイベントを行うと、現場スタッフのモチベーションがものすごく上がるのがうれしいんですよね。内輪の話になりますけど。

 

心休まる瞬間がなくて。胃がキリキリするだけの毎日(笑)

──直接、視聴者を目にする機会は少ないでしょうからね。

 

 番組が始まった当初、ADの子たちが電話で取材交渉したりする際、すごく恥ずかしそうに『ラヴィット!』という番組名を口にしていたんです。僕はその姿が忘れられなくて……。だけど最近は新入社員として入った子や、制作会社の若手たちが「『ラヴィット!』作りたくて、この業界に入りました」とか言ってくれることも増えてきました。やっぱりそこは感慨深いものがありますよ。

 

──しかし、辻さんの気苦労は絶えないでしょうね。みんなに頼りにされているわけですし。

 

 頼られているかは分かりませんが、スタッフだけでも200人以上が関わっているんです。最初は本当にプレッシャーに押し潰されそうでした。しかも世間からは酷評の嵐だったので、マジで眠れませんでした。もちろん今でも枕を高くして眠れるわけでは全然ないですけどね。「夜明け」含めると週12時間も放送があって、「ゴールデン」や「ロック」もあると「次の企画!次の企画!」と常にあおられている感じなので。これは僕の性格的な問題ですけど、正直言って、この3年間で楽しいと思ったことなんてほぼないんですよ。

 

──そんなこと言わないでくださいよ(笑)。

 

 生放送だから何が起こるか分からないし、責任もあるし、視聴率も毎日出るし、すぐ次のこと考えなきゃいけないし、心休まる瞬間がなくて。胃がキリキリするだけの毎日(笑)。

 

──想像を絶する過酷さですね。今後、『ラヴィット!』をどうしていきたいかビジョンはありますか?

 

 それ、よく聞かれるんですけど……全く今は思いついてないんですよ(苦笑)。振り返ってみても、その日のオンエアに汲々としながら走り続けていたら3年間が経っていたという印象ですし。おそらくこれからも余裕など一切なく、目の前のことをこなすので精いっぱいになるんじゃないですかね。そんな中で、ワクワクするような企画を思いついたら、実現したいと思っています。だからこそこれからも、いくらくだらないと批判されようと、日々の番組を、真面目に地道に作っていきたいです。

 

【INFORMATION】

ラヴィット!

TBS系 毎週(月)~(金) 午前8:00~9:55

公式HP https://www.tbs.co.jp/loveit/

 

構成・撮影/丸山剛史 取材・文/小野田 衛

40代でリスタート! 現在“会社員2年目”の片瀬那奈インタビュー「本当に自分がやりたいことって?」

シャッター音を浴びながらロングスツールに腰掛けているだけで、圧倒的オーラがまぶしい。一方で、同僚社員にまぎれて、商品の在庫管理を黙々とする。2021年9月、表舞台から突然姿を消したと思ったら、アパレルECサイト「LOCONDO.jp」を運営するジェイドグループ株式会社に会社員として入社し、約1年がすぎた片瀬那奈さん。本人が「いろいろあった」と表する時期を経て、40代でリスタートをきった今を、余すことなく語ってくれた。

 

片瀬那奈●かたせ・なな…1981年11月7日生まれ。東京都出身。XInstagramYouTubeLOCONDO.jp

 

片瀬那奈さん撮り下ろし写真

 

「本当に自分がやりたいことってなんだろう」30代後半で初めて浮かんだ疑問符

──先ほど、普通に名刺交換をしていただいてびっくりしてしまいました。

 

片瀬 いつも普通に名刺交換していますよ。

 

同席した同僚女性 私たちもまだ、ふと気づくといちいちびっくりするんです。「片瀬那奈さんが社内に、隣のデスクに、いる!」って(笑)。

 

──お気持ち、とてもよく分かります。とはいえ、ロコンドの社員として週5日で働き始めたのが2022年12月からで、1年以上経ったんですよね。40代前半でそれまでとは全く別の仕事をすることについて、年齢的な節目を意識したのでしょうか。

 

片瀬 節目はそんなに意識しませんでしたが、思い返せば「ああ、このタイミングだったんだろうな」とは思いました。17歳から仕事をしていて、体格や容姿でずっと年上に見られていたので、「早く大人になりたい。年齢が外見に追いつきたい」と思いながらすごしてきて、30歳が来たときはうれしくて。でも40歳になる直前に、うれしい以外の感情が湧き上がりいろいろ考えました。

 

──どんなことを考えましたか?

 

片瀬 今まで芸能の仕事しかしてきませんでしたが、芸能の仕事って、依頼されたり与えられないと自分からは動けないんですよね。仕事をいただいて、それを自分の中で消化して、個性を出しながら表現します。その根底にあったのは、「人を楽しませたい」という使命感のようなものでした。その仕事は素晴らしい一方で、「本当に自分がやりたいことってなんだろう」と考え始めたのが、37、38歳のときでした。実は私は、好きなことも趣味もめちゃくちゃ多いし、知りたいことは知りたいし、なんでもやってみたい! と思う好奇心の塊で。例えば、雑誌の撮影があるとするじゃないですか。

 

──今日も撮らせていただきましたね。

 

片瀬 はい。通常、撮影した写真は事務所がチェックをしますよね。マネージャーさんたちのチェック中、私もたまたまそこにいて「私はこれがいいと思う」と指す写真、全部みんなが選ぶ写真と違うんですよ。

 

──自分が思う「いい」と、プロデュースする側の「いい」にギャップがあるんですね。

 

片瀬 「自分が好きな自分の顔と、ほかの人が好きな自分の顔って、全然違うんだな」と思ったら、やっぱり自分がやりたいことは求められているものではないんだな、と思うわけです。それを若い頃から悟っていて、与えられたことをしっかりと返せることの方に魅力を感じていたし、やりたいことができないストレスは全くありませんでした。

 

1つひとつ「違う」と声を上げないと「真実」になってしまう理不尽な現実

片瀬 でもふと、「このままでいいのかな」と思って。そんな中でも仕事はいただけるし、責任を持ってやりたいし……というさなかにいろいろなことがあり、「このタイミングで1回ゼロにしたい」と思ったんです。そういう時間が20年以上一度もなく、ずっと向き合ってこなかったから、知らず知らずのうちに自分を押し殺していたんじゃないのかな、とも思いました。

 

──芸能人という職業は、“イメージ”が大事な要素の1つですが、イメージと違うことをすると「かっこいい」と思う人も入れば、受け入れがたく批判的に見る人もいると思います。

 

片瀬 そうですよね。それは芸能人に限らずで、イメージは人が作るものだし、1対1で会うか、大人数の中の1人として会うか、でイメージって全然違うじゃないですか。だから私は「イメージと違う」と言われようがあまり傷つたり気にすることはありませんでした。明らかにおかしいことを言われると腹が立ちますが、1つひとつにいちいち声を上げないと“真実”になってしまうのも、おかしな話だし。その塩梅ってすごく難しくて。だから私は、真実があるならば、自分が後ろめたいことがなければ静観していようかなと思うんです。そもそも私、昔からエゴサを全くしないんですよ。ネットって「すごく素敵でした」という声の割合が少ないと思うんです。そういう人は、心の中で思ってくれるので。だから、イメージはそれぞれで作って楽しんでもらえればいいし、それをいちいち「違う」と弁明することもないし。私は私の人生を生きているだけなんですよね。

 

──2021年9月に所属事務所を離れたときは、よりそういった声が多かったかと思います。

 

片瀬 あのときは、自分がやったことに対して償いができるならなんでもやりますが、そうではなかったから。自分がやったことではないことに関して人に迷惑をかけている……という現状がつらかったですね。

 

──葛藤に押しつぶされそうになりますね。

 

片瀬 はい。それで「ゼロにしよう」と決めて、1年経ってようやく「今が一番幸せで楽しい。これで本当によかった」と思っています。

 

「出社したらメールチェック」すら知らなかった新人会社員

──紆余曲折を経ての「今が一番楽しい」、とても素敵です。

 

片瀬 ね。ロコンドに入社するきっかけも、たまたまなんです。田中裕輔社長がYouTubeからメールをくださって、普段チェックしないからその1か月後に気づいて「あの有名な社長さんだ!」って。すぐに連絡をすると「コラボしましょう」となり、その2、3日後に会いました。会う前に私、いろんなアイデアがすごい浮かんだんですよ。コラボ案やコンテンツ案など、50個くらいかな。

 

──50個!

 

片瀬 お会いしてそういう話をたくさんしたらすごく盛り上がって。「じゃあ、ロコンドの社員になるという企画をやりましょう」となったとき、実際には社員にならずに企画をやることで、視聴者さんのことを騙すのはイヤだなあと思ったんです。それに、企画で社員になると、できることも限られるし。それで「正式に社員になるのはどうか」となり、今に至ります。

 

──当時のほかの社員の方々の反応はいかがでしたか?

 

同僚女性 最初に田中から「ちょっと片瀬さんがいるから挨拶してくれない?」と言われて、「どこの片瀬さんだろう?」と思っていたら、片瀬那奈さんで。「えーー!?」って(笑)。普通にデスクでパソコン作業していたんですよ。ざわざわして、みんな必ず二度見していました。

 

片瀬 そうですね、二度見されました。

 

同僚女性 今でも不思議な光景ですよ。

 

片瀬 こんなに一流の会社に、40歳をすぎた別にこれまで実績もない人が急に入ってきて受け入れもらうって、すごいことじゃないですか? 40年生きるとなかなか新しいこともないし、「こんなふうに立ち回ったらこうなるな」と大体のことが見えている年齢だし、というなかで私は新しいことを吸収したい気持ちがありました。でも、ビジネスの場においてのメール返信の仕方も知らなかったんですから。まず出社したらメールをチェックする、という当たり前のことすら「そういうことをやるの!?」状態。

 

──会社員になって、ほかにカルチャーギャップを感じたことはありますか?

 

片瀬 だいたい全部ですかね。毎日同じ時間に会社に来ること自体初めてだし、飽きっぽいから、「毎日同じ時間に起きて、同じ時間に出社して、なんてできるかな」という不安はありましたが、すんなり順応しました。

 

──今の仕事はどんなことをやっていますか?

 

片瀬 部署は社長室で、業務内容は本当に多岐に渡ります。PRの仕事やリース業務、コラボ企画など。コラボ企画の場合、自分の人脈から繋げたりすることも多いので、ゼロの状態、企画立案から始めることが多いです。その場合、最初から最後まで1、2人の少人数でやります。

 

仕事をいちから作り上げる

──以前の仕事が活かされることもありますか?

 

片瀬 ほとんどの局面で活かされている気がします。例えばCMを作るとき、必要な予算、必要な期間やもの、演者の気持ちからスタッフの気持ちも大体は分かります。「このとき、演者さんはこういう状態になるから、時間を取ったほうがいいです」とか。

 

──やっぱり第一線で活躍していたからこそ、視野が広く分かるのですね。

 

片瀬 あとうちの会社はM&Aが多いので、素人ながらに調べたりデータを分析するのが好きですね。

 

──本当にマルチにやっていますね。

 

片瀬 今2年目だし、なるべくすべての業務を知っておきたいんですよね。「ここまでしかできません」ではなく、「やれるものは全部やらせてもらいたい」という気持ちでやっています。そうすると、どこかに自分に合うものが見つかることがあるじゃないですか。

 

──そうですね。多くを経験することで、これは合う・合わないがあぶり出されます。

 

片瀬 新人のうちはいろいろなことをやって、まずは皆さんに必要とされることが目標の1つでもあります。

 

──「40代で新人」、どんな立ち居振る舞いが求められると思いますか?

 

片瀬 とにかく変なプライドはいらないですよね。年齢関係なく、新しいことを覚えたい気持ちがあると、私は周りにめちめちゃ聞いちゃってます。うちの会社はワンフロアにすべての部署があってオープンなので、メールや社内チャットでも聞けるけれど、私は直接いっちゃうんですよ。「ここ、分からないんですけどどうしたらいいですか?」と。そうするとその場で解決することが多いので。

 

──風通しがよい会社ですね。この1年間で、一番達成感があった仕事はどんなことでしたか?

 

片瀬 今やっている仕事ですね。まだ達成していなくて、リーボックで今年ローンチする企画が何件かあり、そのプロジェクトが成功するように日々頑張っている最中です。CMやスチールなどコンテンツすべて担当しています。それを、ほぼ2人でやったよね?(と、同僚女性に顔を向ける)

 

同僚女性 そうなんです。大変でしたね。

 

生放送番組の司会で培った、ハプニング対応力

片瀬 電通さんや博報堂さんなどの広告代理店が入っていないので、私が自発的に動いて、すべてのところに確認や連絡をしないといけないのが、すごく不安だらけでした。CMとスチールの撮影をしたときも、「細かいニュアンスなど、本当にちゃんと伝わっているんだろうか」と不安でしょうがなかった。でも、何事もなく終わり少しホッとしています。

 

──演者の仕事とは全く違うヒリヒリ感ですね。

 

片瀬 そうなんです! 演者は「こういう企画で、こう撮ります」と説明されたら、やることだけに集中できます。でも今は、最後の最後まで皆さんに気持ちよくやってもらうことまでやらなければいけない。「それって、こんなに大変なことだったんだ……!」と、今まで関わってきたスタッフの方たちへの感謝の気持ちが、今になってものすごく強くなりました。皆さんに支えられて、私たちは自分の力を発揮することができていたんだなと。

 

──ローンチしたら楽になりますか?

 

片瀬 いえ、契約期間中は、まだまだ継続してずっと仕事があります。演者にも責任はありますが、仕事をオファーする側になると、責任に対する感覚がちょっと違う。

 

──これまで失敗経験もありましたか?

 

片瀬 あんまり失敗しないんですよねえ。すっごい安全牌だから、失敗する前に早めにケアするようにしています。

 

同僚女性 そうなんですよ、片瀬さんは仕事が本当に丁寧なんです。

 

──生放送の総合司会を務めていたからこそ、さまざまなハプニングに臨機応変に対応するすべが身についていそうですね。

 

片瀬 確かに、そのへんの度胸はあるかもしれないです。例えば生放送で時間が決まっているので、「絶対にこの秒数までにこのシーンにいかなきゃいけない」というとき、タイムキーパーさんがいても現場まで伝わらないこともある。そういうときは、私の方で判断してどうにか「次のコーナーです」とCMにいかせる、みたいな。

 

──とっさの判断力は第一線のタレントさんならではだと思います。

 

片瀬 柔軟であることは、一生大事ですよね。悪く言えば「自分がない」のかもしれないけど、よく言えば「臨機応変」。自分にないものを持っている人に惹かれるから、人の意見を聞くのも好きだし。でもまあ、失敗するほど大きな仕事を任されていないのかもしれない。

 

同僚女性 いやいや!

 

入社半年で猫の段ボールハウスをプロデュース

──CMはどこまで関わっているんですか?

 

片瀬 スタイリングも全部自分で考え、カット割りなども私が指示させてもらっています。ずっとこういうことをしたいと、どこかで思っていたんです。だから今の目標は、よく“右腕”っていいますが、私は“左腕”になりたいなと思っています。みんなの左腕に。右腕は皆さんちゃんといると思うので、その反対側をカバーできるような人になりたいですね。

 

──今一番ときめいたりわくわくする仕事はなんですか?

 

片瀬 全部です! なかでも、新しく始まる瞬間が一番わくわくします。

 

──始まりにかかわる、というのはつまり自分で仕事を作っていくということですよね。

 

片瀬 実は苦手だと思っていました、0から1にすること。10から150にするのは超得意なんだけど。でもこの会社はみんなが自発的だから、0から1がやりやすいんです。例えば、昨年5月に配送用段ボールを猫の家に改造できるサービスをスタートしたんですが、うち、猫がいまして、猫って段ボールが大好きなんですよね。いくらキャットハウスを与えても、結局Amazonの段ボールに入ってしまう……という姿を見て、これだ! と。そこで、+110円でかわいいデザインの段ボールを選べるというプランを考えたんです。

 

──素敵な発想ですね!

 

片瀬 そういった、今あるものをちょっとよくしたり、そういったアイデアをすごく出しやすい会社です。社長に「これどうですか?」と言えば「いいね! それやってみよう!」と、普段の会話レベルからもなにか生まれることが多くて。社長もフットワークが軽くて、思いたったらすぐに先方に連絡をします。コラボや新しいことはそうやって始まることが多いです。

 

──一般的に、そんなふうに始まるものなんですか?

 

片瀬 普通はないです(笑)。

 

──田中社長ご自身が規格外だからこそ、元タレントという経歴の片瀬さんも働きやすいのですね。

 

片瀬 そうですね、普通の企業の社長さんという感覚ではないかも。ここじゃなかったらどうなっていたか。そもそも雇ってくれないかもしれないし。社長は、大学も出ていない、なにもない40代を面白がってくれたので。

 

人に気を遣いすぎていた自分に「もうよくない?」とマインドをリセット

──片瀬さんと田中社長が対談するロコンド公式YouTubeチャンネル『LOCONDO CHANNEL』の1年前の動画で、片瀬さんが「挽回できると思っている」とおっしゃっていたのが印象的でしたが、現在、いかがでしょうか?

 

片瀬 当時、世間的にはいろいろあったように見られていたからこそ、「挽回」という言葉を使ったんだと思いますが、今は「挽回」とは違うベクトルにいると思っています。「挽回」って、同じフィールドで頑張って、マイナスだったものを元に戻すという意味があると思います。でも私は今全く違ったフィールドに来て、新しいことをゼロから始めているので、「リスタート」という感覚でしょうか。そして胸を張って、自分に誠実でいながら、「楽しい」と言えます。

 

──とても素敵な心境ですね。

 

片瀬 今の自分の能力を使って仕事ができているし、会社の人たちが好きだし、プライベートも趣味も充実しているし、友達も好きだし。

 

──周りの友達から、「前と変わった」など言われたしますか?

 

片瀬 「らしくなったね」「それが本来の那奈だよ」「気を遣いすぎていたんだよ」とは言われます。若い頃から「そんなに気を遣わなくていいよ」と周りに言われていたんですよね。別に気遣いで疲弊するわけではなく、とにかく関わる人にイヤな気持ちになってほしくない、という動機で気を遣っていました。でもこの2、3年くらい、「もっと自分のことも気遣っていいのでは?」と考えるようになりました。「自分が幸せなら、人も幸せになるでしょ?」というマインドに。

 

──マインドを転換しようと思ったきっかけがあったのでしょうか。

 

片瀬 きっかけは特になくて、自分の中で、「もうよくない?」ってなったんだと思います。もうちょっと自分に対して優しくしてもいいんじゃないかな、って。

 

──会社員として1年経過し、日々どんな発見がありますか?

 

片瀬 毎日小さな発見があって。例えば皆さんは当たり前かもしれませんが、画像検索について、私はずっと、スマホで検索して、スクショして、それをjpgに変換してPCに送信して……とやっていたんですが、実は2クリックだけでjpgで画像を保存できるって、昨日知ったんです。

 

──それまですごい作業をしていたのですね!

 

片瀬 あとね、商品を出荷するときに、商品についているバーコードのタグをバーコードリーダーで「ピッ」とするんですが、私これ、好きだなあって発見しました。「ピッ」がいっぱいあるとうれしい(笑)。

 

──童心に返ったようになるんでしょうか(笑)。最後に、今後の目標を教えてください。

 

片瀬 そうですね……皆さんの“空気ディレクター”になりたいんですよね。一応、社長に近いところにいるので、みんなが気持ちよく仕事ができるような空気を作っていける仕事ができればいいなと思っています。新人といえど、一応人生わりと長く生きていたので、そのへんの即戦力にはなるんじゃないかな、って。風通しのよい、みんなが「ここで仕事するの、楽しい」と思えるような、いい空気を作れるような存在になりたいですね。

 

アパレルECサイト「LOCONDO.jp」https://www.locondo.jp/

片瀬さん考案「キャットハウス段ボール」https://www.locondo.jp/shop/contents/makecathouse/

 

構成・撮影/丸山剛史 取材・文/有山千春

TikTokクリエイターMumei後編! ボーイッシュ野球少女が、黒髪清楚なヒロインに「変わったやん!って言われたい」

TikTokフォロワー数400万人を越えるMumeiさん。高校生のときにアカウントを開設すると、自由きままにアップしていたダンス動画が「かわいすぎる」「中毒性ある」とじわじわ話題を呼び、またたく間に人気インフルエンサーになった、まさにTikTokドリームの渦中にいる女の子だ。2022年には「TGC teen 2022 Tokyo」でランウェイデビューを果たし、昨年にはアーティストデビュー。そして3月には初のフォトブックの発売も決定している。巧みすぎる編集や、YouTubeのような大掛かりな企画などがひしめくTikTok界で、“圧倒的なカワイイとダンス”で王道を貫き独走しているMumeiさんに聞いた、友達のこと、中学のこと、そして、フォロワーへの愛。

 

【関連記事】TikTokクリエイター Mumeiインタビュー前編「15秒の動画に3時間かける」強すぎるこだわりで、実家の部屋の壁を白く塗り直すまで

 

Mumei●むめい…高校生だった2020年7月、TikTokにダンス動画を投稿すると「かわいすぎる」と話題に。かわいさだけではない、中毒性のある表現力でまたたくまにフォロワーを増やし、2023年には「超十代 -ULTRA TEENS FES- 2023@TOKYO」「TGC teen」に出演、さまざまな企業とのコラボを行っているほか、アーティストデビューも果たし幅広く活躍中。初のスタイルブック「むめいです。」(小学館集英社プロダクション)が発売中。

mumeiさん 公式TikTok @mumeixxx

 

【Mumeiさん撮り下ろし写真】

 

他校の生徒にも学校バレ

──高校生時代の体育祭の動画などを見て思うのですが、こんな子がいたら、学校は大騒ぎじゃないですか?

 

Mumei 学校の友達は普通でした。ただ友達から「他校の友達から、『そっちの学校にMumeiちゃんいるやろ』って言われた」という話をされて、その友達が「そんなに有名になったんだ!」とびっくりする、みたいなことは多かったです。

 

──他校の学生がMumeiさんの高校に集まることも?

 

Mumei そうですね。ちょっと怖いなと思ったのが、最寄り駅がバレてしまったことです。ファンの方は「応援しています」と話しかけてくれるからいいんですが、そうではないけど私の存在は知っているような人からの視線は苦手でした。はじめたきっかけが友達との遊びの延長線上だったので、「本名がバレてやばい」みたいな感覚もなかったんですよ。今思うと、もっと考えるべきだったなと感じます。

 

──危機感がなかった?

 

Mumei そう、顔を出してネットで活動するということのリスクですね。

 

「今の友達がいなかったら終わっていた」

──往年のアイドルたちは、友達が通学路をがっちりガードしてくれたという話をよくします。Mumeiさんもそうでしたか?

 

Mumei 見にきてくださる他校の方も多いので、友達が「来てるで、隠れて隠れて!」と守ってくれていましたね。一方で、同じ学校でも私のことをよく思わない人もいたと思います。悪口も言われていたと思いますが、ダイレクトに私の耳に入ってくるわけではないし、自分、メンタル強いんで。そんなの気にしていたら終わりやし、負けやし。噂されてるんやろうな、って自分でもわかりますが、前に出て活動しているので噂されるのは仕方がないと思っています。

 

──信頼できる友達がいるからこそ、強くなれるんでしょうか。

 

Mumei 身近な友達はいい子ばかりです。友達自体は少ないんですが、仲が深いですね。

 

──友達の支えを実感したのはどんなときですか?

 

Mumei 外で遊んでいるとき、自分は気づかなかった盗撮に気づいてくれて「撮られてるよ」と、壁になってくれたり。TikTokをやりすぎて勉強がおろそかになると、勉強を教えてくれたり、授業中にこっそり答えを教えてくれることもあったり。

 

──いいお友達ですね!

 

Mumei いやほんまに、マジで、今の友達がいいひんかったら終わりだと思っています。

 

圧倒的な表現力の一方、恥じらいも

──ご家族の中のMumeiさんはどんなキャラクターなんでしょう。YouTubeを見るととても明るくポジティブに感じますが。

 

Mumei 静かな方です。しゃべるの苦手やし。でも、SNSで活動をしているときは自分が楽しいと思うことなので、無意識にテンションが上って、気持ちが高くなるんです。

 

──抜きん出た表現力も、自然と湧き上がってくるのでしょうか。

 

Mumei 表現力……よく言っていただくんですか、とにかく前に出ることがうれしくて楽しくて仕方がない感じです。あとは、母が若い頃にストリートでギターを弾いて歌うアーティストだったり、親戚中みんな音楽をやっていて、それに影響されている部分もあります。

 

──そうだったんですね! 幼少期から根づいたものだったんですね。

 

Mumei ただ、やっぱり最初は恥ずかしかったんです。カメラの前で1人で表現することが。自分で見返して共感性羞恥でむずがゆくなってしまうというか。でも、見てくれるみんなが「表現力がすごい」と言ってくださるから、恥じらいをなくしていこうと意識を変えていくようになりました。

 

──吹っ切れたタイミングがあったんですね。

 

Mumei いや、実はまだ、吹っ切れてはいないです。今でも恥ずかしい気持ちはありますが、とにかく頑張っています!

 

野球とキックボクシングで鍛えられたメンタル

──高校生以前、中学時代のMumeiさんについてもうかがいたいんですが、野球部だったり、今と印象が全く違いますよね。

 

Mumei そうです。ボーイッシュ系でした。このときにメンタルが鍛えられたと思います。野球もキックボクシングも、メンタルが強くないと続けられないことなので。

 

──自分で「やりたい」と言ったんですか?

 

Mumei そうですね。自分、影響されやすくて、弟や周りの人がやっていたら、負けず嫌いな気持ちになって「自分もやる!」みたいな。でも、かわいい女の子への憧れは小学生の頃からずっとありました。“高校デビュー”という言葉があるじゃないですか、それを自分も頑張らないとな、と思ったんです。“高校=青春”で、恋愛! みたいなイメージがあって、みんなが思い描くような女の子になりたいなって。

 

──みんなが思い描く女の子とは、例えば?

 

Mumei 黒髪ロングの清楚系です。自分もそれに憧れがあって、それに寄せて高校生活を送っていました。

 

──アニメの主人公のような。

 

Mumei そうです。アニメの主人公ってほぼみんなそれですよね。そもそも中学時代はSNSは見ても使ってもいないし、LINEもしていないし、ひたすら勉強と運動だけをやっていました。それが楽しかったんです。

 

素顔は、県知事に恐縮する19歳

──中学時代の同級生がいまのMumeiさんを見たら、驚きますよね。

 

Mumei 多分驚きます。だから同窓会、行きたいんです。道端でも、ばったり会って「え!?」みたいな反応をもらったことがあって、そういう反応をしてくれたり「変わったやん!」と言われることがうれしくて。頑張ったおかげで変わることができたんだなって、うれしいんですよね。

 

──昨年は楽曲「堂々」や「IF」を公開し、アーティスト活動も開始しました。

 

Mumei ボカロPさんとコラボして作りました。自分のやり方は、「有名な人からのオファーor依頼する」のではなく、「身近な人と一緒に大きくなりたい」というスタンスなんです。なので、世間は知られていないけどステキなボカロPさんと一緒に作りました。アーティスト活動はこれからもどんんどんやっていきたいです!

 

──活動の幅が広がっていきますね。出身地である滋賀県のPRなど、自治体とも仕事していますよね。

 

Mumei そう! ひこにゃんとも会って、かわいかったです。あと迫力のあるおじさんたちがたくさんいて……大人がいっぱいいて、県知事さんが目の前にいて、ほんまに怖くてめっちゃ緊張しました。あんな大物に会えるなんて……。

 

「フォロワーさんの意見を聞くのが大好き」

──(笑)。最後に、今後の展望を教えてください。

 

Mumei YouTubeの登録者数100万人を目指しつつ、TikTokを毎日投稿して、フォロワーさんと距離を縮めていきたいです。自分、ファンのことが大好きなので、名前と顔を覚えたい!

 

──前編でも「フォロワーさんにとってうれしいことをやる」といった話があったように、フォロワーの存在をとても尊重されているように感じます。そういった気持ちが動画にも反映されていますか?

 

Mumei むしろそれが一番大きいですね。自分は、フォロワーさんの意見を聞くのが大好きなんです。「◯◯系が好き」と言われたらそれを踊るし、「△△系の服がいいな」と言われればその服でダンスをするし。海外から応援してくださる方もいるので、その人たちに向けて英語表記をしたり、世界を意識した音源を使ったり、幅広い方に理解してもらえるようにしています。

 

──だから「Mumei」という名前なんでしょうか? 「無名」であるからこそ何色にも染まるといいますか。

 

Mumei ……! それでいこう! 決めました。それいいな。どんな女の子にも変わることができるよ、っていうコンセプトだよと。

 

──あ、そういう由来じゃないんですね(笑)。

 

Mumei 違います(笑)。本名で活動したくなくて、「何にしよう。名無し……名無し……うーん、無名でいいやん!」って感じで、数分考えて適当につけたんです。それがこんなふうになるなんて、人生、なにが起こるか本当にわからないですよね。

 

 

mumeiさん 公式TikTok @mumeixxx

 

撮影/佐賀章広 取材・文/有山千春 構成/BuzzTok NEWS Buzz Tok NEWS公式HP https://buzz-tok.com/

TikTokクリエイターMumei「15秒の動画に3時間かける」強すぎるこだわりで、実家の部屋の壁を白く塗り直すまで

TikTokフォロワー数400万人を越えるMumeiさん。高校生のときにアカウントを開設すると、自由きままにアップしていたダンス動画が「かわいすぎる」「中毒性ある」とじわじわ話題を呼び、またたく間に人気インフルエンサーになった、まさにTikTokドリームの渦中にいる女の子だ。2022年には「TGC teen 2022 Tokyo」でランウェイデビューを果たし、昨年にはアーティストデビュー。そして3月には初のフォトブックの発売も決定している。巧みすぎる編集や、YouTubeのような大掛かりな企画などがひしめくTikTok界で、“圧倒的なカワイイとダンス”で王道を貫き独走しているMumeiさんに聞いた、はじまり、こだわり、そして、整形秘話。

 

Mumei●むめい…高校生だった2020年7月、TikTokにダンス動画を投稿すると「かわいすぎる」と話題に。かわいさだけではない、中毒性のある表現力でまたたくまにフォロワーを増やし、2023年には「超十代 -ULTRA TEENS FES- 2023@TOKYO」「TGC teen」に出演、さまざまな企業とのコラボを行っているほか、アーティストデビューも果たし幅広く活躍中。初のスタイルブック「むめいです。」(小学館集英社プロダクション)が発売中。。

mumeiさん 公式TikTok @mumeixxx

 

【Mumeiさん撮り下ろし写真】

 

きっかけは、友達とのフォロワー数対決

──インタビューはあまり受けていないですよね。

 

Mumei そうなんです。自分、しゃべるの苦手なので。

 

──え! TikTokを見ていると全くそうは思わないですし、YouTubeでは明るいキャラクターを見せてくれていますよね。

 

Mumei ほんとうは言葉をうまく伝えられなくて。頑張っています(笑)。

 

──そういったギャップも魅力ですよね! まずは、TikTokを始めたきっかけからお聞きしたいです。

 

Mumei 高校1年生のときにTikTokの存在を知って、クラスのみんながやっていて流行っていたので自分もやろうかな、という感じで始めました。最初は友達と、「どっちが多くフォロワーできるか、対決しよう!」という遊び方をしていたんです。

 

──友達との遊びの一貫だったんですね。

 

Mumei そうですね。それに、TikTokに上げへんくても、Instagramのストーリーに上げたり、SNS全般をプリクラ感覚で使っていました。

 

──じゃあ、こんなふうに公にするつもりはなかったんですか?

 

Mumei 最初はなかったです。時間が経つにつれて、「TikTok、楽しいやん!」となり、投稿頻度が高くなり続けていたら、フォロワーさんにとってうれしいことをやると応援してくれるようになったので「これ、ちょっと頑張ろうかな」という気持ちになったんです。

 

勉強を忘れて没頭し「この道に進む!」

──当初はどんな動画を上げて、友達と対決していたんですか?

 

Mumei 自分が踊りたい音源で踊って、上げているだけでした。フォロワーさんが何を楽しみにしているかとか考えずに、自分がしたいことをただずっとやっていただけでした。

 

──ちなみに、対決の結果はいかがでしたか?

 

Mumei 最初は同じくらいで、動画を上げれば上げるほどフォロワーさんが増えていっていましたが、勉強もしなきゃいけなくて。テスト勉強期間に入って、対決からフェードアウトしていきましたね。

 

──勉強がおろそかになるくらい、TikTokにのめり込んでしまったんですね。

 

Mumei そうなんです。悪い意味で集中して没頭してしまって。それで勉強しなさすぎて、TikTokと距離を置こうとしたんですが、距離を置くことができなくて。

 

──お母さまはなんと言っていましたか?

 

Mumei 最初の頃は、できるかぎり隠れて撮っていたんです。でも高校1年生のはじめ頃に結果的にバレてしまい、その頃には「このくらいフォロワーさんがいるし、この道に進みたい!」と話しました。

 

15秒の動画を撮るのに3時間

──高校1年の最初って、やり始めてすぐの頃じゃないですか?

 

Mumei 本当に最初の頃は全然だったんですが、1つの動画がバズっていっきにフォロワーさんが増えて。バズった気持ちがうれしくて、「次もバズらせたろう!」という感じでのめり込んでいったんです。

 

──1日にどれくらいやってしまうものなんですか?

 

Mumei 見るのだけだと半日くらいですかね。私は洋楽が好きで、洋楽の音源が流れてくると「これめっちゃ楽しい!」と延々とスクロールしていたらいつの間にか時間が経っている、という感じで。

 

──撮るときはどれくらい時間をかけますか?

 

Mumei 何時間撮っているかわからないですね……ちょっと没頭しすぎて……。いつの間にか2、3時間経っていることは普通にあります。たった15秒の動画で。

 

──たった15秒で!

 

Mumei ほんまにそう。夢中になって、時間の感覚、マジでわからないです。

 

──どんなところにこだわって、時間が経ってしまうんでしょうか。

 

Mumei 例えばメイク、絶対に失敗したらアカン部分を納得いくまでやり直したりとか。ちょっと映り方が悪いと、何回でも、何十回でも撮り直して、気づくと数時間経っているんです。

 

「髪の毛が理想的になびいてない! もう一回!」

──ちなみに最近何度も取り直した動画は?

 

Mumei 私が得意な変身系で、メガネをかけた三つ編みの冴えない女の子が、急に髪の毛サラサラな清楚系に変身するという動画です。変身するときの、髪の毛のなびかせ方がどうしても理想どおりにいかなくて。できる限りアニメに近い描写を再現したいんですが、現実ではなかなか難しいんですよね。

 

──動画を確認すると、確かにアニメーションっぽいなびかせ方ですね。

 

Mumei これができるまで何度も見返して「また全然なびいてないや……」で、撮り直し、みたいな。頭の中のイメージと一致させたいんですよね。

 

──メイクも同じように、アニメのようなイメージがあって、近づけるように?

 

Mumei そうですね。普段はアイライン細めに書いていますが、アニメって目がはっきりしているじゃないですか。だからアイラインを太めに描いたり。チークを濃くしてみたり。

 

──そういったこだわりは、「この道に進もう」と決意してから生まれたんでしょうか。

 

Mumei そうですね、それと同時に、フォロワーさんから自分でもわからへんところを見られることに気づいたんです。腕につけたままの髪の毛のゴムを見られて指摘されたりして、細かい所まで見てくれているんだなぁと驚きました。

 

母にお願いして実家の壁を白に

Mumei あと、最初は意識していなかったのが、部屋の色です。

 

──確かに当初は、実家感がありますよね。

 

Mumei カーテンが青で壁がマーブルっぽい感じで、映えなくて。お母さんにめちゃめちゃお願いして、カーテンを白にして、壁を白く塗り直しました。自分がしたいことがわかるように、はっきり映るような背景にしました。

 

──お母さま……ありがたいですね……!

 

Mumei お願い、めっちゃ聞いてくれています(笑)。

 

──鼻を整形していることを公表していますが、それもお母さまの協力があったのかと思います。

 

Mumei そうですね。事前に成功例や失敗例を一緒に調べました。カウンセリングにもいっぱい行って、信用できる先生にお願いして。

 

──とてもしっかり準備されてたんですね。

 

Mumei 自分ひとりでは行動できないので、周りの人に協力してもらいながら、そのためにはしっかりとした事前準備が必要なんですよね。周りの人に恵まれていると思います。

 

自撮りもイヤになるほどのコンプレックス

──整形した時期はいつ頃ですか?

 

Mumei 高校1年生の終わり頃です。整形したいと思ったのは、YouTubeを始めたいなと思ったからなんです。TikTokは加工ができるからいいんですが、YouTubeは無加工の、ありのままの自分が映るじゃないですか。それで、YouTubeの画面に映ったときの自分、「鼻、デカ!」みたいな。気になったら止まらなくなって、お母さんにお願いして整形をしたんですが、「整形した事実をみんなに話さない」という選択肢はありませんでした。

 

──もともと写真を撮ったり鏡を見るときなど、コンプレックスに感じていたんですか?

 

Mumei コンプレックス、ありました。昔はTikTokもほかの加工アプリも知らなかったから、自撮りすらイヤだったんです。でもTikTokに出会って、きれいな人がたくさんいて、「私の顔に合う、理想の鼻はこれだ」という形にも気づくことができました。

 

──それで理想の鼻を手に入れてたんですね。

 

Mumei はい! とはいえ、今もずっと一生懸命研究しています。自分に合うメイクや髪型を。どうやったらビジュアルの良い自分を保つことができるのか……もうずーーっと探しています。

 

<後編に続く>
TikTokクリエイター Mumeiさんインタビュー後編! ボーイッシュ野球少女が、黒髪清楚なヒロインに「変わったやん!って言われたい」

 

mumeiさん 公式TikTok @mumeixxx

 

撮影/佐賀章広 取材・文/有山千春 構成/BuzzTok NEWS Buzz Tok NEWS公式HP https://buzz-tok.com/

 

キタニタツヤが新パーソナリティ就任!「くだらない自分をアピールするという意味では『オールナイトニッポン』はうってつけの場」

ミュージシャン・キタニタツヤが『オールナイトニッポンX(クロス)』(ニッポン放送/0時~)の月曜パーソナリティに抜擢された。これまでキタニは2度にわたって『オールナイトニッポン0(ZERO)』の特番を担当。X(旧Twitter)のトレンド1位になるなど、大きな反響を呼ぶこととなった。2024年度ラインナップ発表記者会見の直前に本人をキャッチし、番組に懸ける意気込みを聞いた。

 

●きたに・たつや…1996年2月、東京都生まれ。14年頃からネット上に楽曲を公開し始め、ボカロP“こんにちは谷田さん”として活動をスタート。17年より高い楽曲センスが買われ、作家として楽曲提供をしながらソロ活動も行う。シンガーソングライター以外にも、サポートベースや楽曲提供など、ジャンルを越境した活動を行う。23年にはTVアニメ『呪術廻戦 懐玉・玉折』(MBS/TBS系)のOPテーマとして起用された楽曲『青のすみか』が大ヒット。『NHK紅白歌合戦』(NHK)の出場を果たす。XInstagram

 

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遠慮のない感じを出せたらいいなとは考えていまして

──これまでキタニさんは『オールナイトニッポン0(ZERO)』に2回登場しています。その際はリスナーからの激しいツッコミと、それに対して半ばムキになって応じるキタニさんの攻防が印象的だったのですが。

 

キタニ あれって激しかったですかね? 自分では深夜ラジオっぽい感じが出ていいかなと思っていました。たしかに好き嫌いが別れる内容だったかもしれないけど、そういうほうが面白いと思うんですよね。

 

──リスナーとの距離が非常に近い印象があったんですよ。みんなのアニキとして慕われている感じがして。

 

キタニ それは素直にうれしいですね。聴いている人が「こいつ、イジりやすいな」と感じたってことでしょうから。そもそも僕はネット育ちの人間。ネットって相手の顔が見えないものだから、みんな好き勝手に言い合っているじゃないですか。ラジオでも、その遠慮のない感じを出せたらいいなとは考えていまして。

 

──そこは大きなポイントになると思います。キタニさんはこれまで配信でもファンと交流してきました。配信やライブでファンとコミュニケーションを取るのと、ラジオのリスナーと言葉の応酬を重ねるのは勝手が違うのでは?

 

キタニ 全然違いますよね、ラジオは。何が違うかというと、ラジオだと僕が圧倒的にかっこつけていない。ステージで音楽をやるときは当日に向けてリハを重ねているし、アーティストである以上はかっこつけなくちゃいけない最低限のラインもあるわけですよ。だけど、ラジオでは本当にいつものまんま。もはや何も考えていないくらいで。

 

 

ライブとは違う方向にかっこつけているのかもしれない

──より素の自分が出ている?

 

キタニ う~ん、ただ厳密に言うと100%素の自分とも違うと思うんですよね。番組だと「なにか面白いことを言え」という無言のプレッシャーを、僕が自分で勝手に感じているだけなのかもしれませんが(苦笑)。そういう意味で言うと、ライブとは違う方向にかっこつけているのかもしれない。ちょっと見栄を張って、普段以上に面白い男になろうとしているというか。明らかに張り切っちゃっていますから。

 

──シンガーソングライターって繊細で内省的なイメージが一般的にはあると思うんですよ。ラジオでのキタニさんは躊躇なく下ネタも話しますし、わりと毒舌気味ですよね。そこでパブリックイメージが崩れる恐れはないですか?

 

キタニ あまりないですね。ファンになる手前の人が「こんな感じの人だったんだ……」と失望するケースはあるかもだけど、そこはあまり気にしてもしょうがないというか。人間、いろんな面を持っていたほうが面白いし、お得じゃないですか。そういう意識のほうが強いです。

 

──逆にキタニさんの音楽性を全く知らない層も「トークが面白いな」というところで興味を持ち、ライブに足を運んでくれることもある?

 

キタニ そうそう。幻滅されるよりも、そうしたプラス面のほうが全然大きいです。人って1つの側面だけで構成されているわけじゃないですからね。生活の中で悲しい気分になるときもあれば、怒っているときだってあるわけで。僕はそうしたいろんな感情を曲の中で表現していますけど、とにかく「この人はこういうキャラクターなんだ」って決めつけないほうがハッピーだと思いますよ。

 

 

有楽町の近くに来るだけでも緊張する

──『オールナイトニッポン』でのキタニさんは、ご自身の中の面白いチャンネルを集中的に出しているといったところでしょうか。

 

キタニ この番組、面白くない人はすぐ外されると認識していたものですから。「面白い俺であらねばならない」という一種の強迫観念ですよ(笑)。本番が始まる前は「嫌だよ~。俺、しゃべりたくないよ」ってずっと考えているんです。マジで動悸が止まらなくなりますから。

 

──過去2回の放送では、アドレナリンやドーパミンがダダ漏れしている雰囲気が伝わってきました。やはりニッポン放送のスタジオには魔物が棲んでいるのでしょうか?

 

キタニ それは確実にありますね。収録現場だと、ブースの向こう側にいるスタッフ全員が「なにか面白いことを言ってくれるんだろうな」って目で僕のことを見ているわけですよ。彼らとしてはそんな意識もないのかもだけど、僕の目にはそうとしか映らない(笑)。その目線が怖いんですよ。一刻も早くニッポン放送の建物から飛び出したくなる。有楽町の近くに来るだけでも緊張するほどなので。

 

──尋常じゃないプレッシャーを感じるものなんですね。となると、今後は毎週そのプレッシャーと戦うことになるわけですか。

 

キタニ いや、もう本当に……。ちょっと真剣に考えないとマズいですよね。毎週毎週、僕の身体が瘦せ細っていくかもしれない。毎回、死力を尽くしていたら、当然、ネタ切れだって起こすでしょうし。だからそこはペース配分を考えて、持続可能な番組作りを志します。

 

──比べられるものではないかもですが、ライブ1本を終えるのと、どちらが疲弊するものなんですか?

 

キタニ うわぁ、それは難しい質問だなぁ。でも慣れていないぶん、やっぱりラジオのほうがキツいかもしれない。精神的な負荷が異常にかかるんですよ。MPが擦り減っていく感覚。それに肉体面だって厳しいものがあります。毎回、酸欠気味になりますし。

 

──そこまで(笑)。

 

キタニ だってオンエアが始まって10分くらい経つと、口の周りが自然にしびれてくるんです。人間1人が簡単に壊れる……そういう非常に危険な場所ですよ、『オールナイトニッポン』のスタジオは。

 

──以前からキタニさんのファンだった人にとっても、ラジオを通じて知らなかった一面を知ることができるはずです。

 

キタニ そういった声は、めちゃくちゃ多いですね。そもそも僕、いい人だと思われたくないんですよ。うっかりいい人だと思われたら、私生活が生きづらくて仕方ないですから。正直、そんなの損しかないんですよ。ところがですね、忙しさにかまけて生配信とかファンクラブ日記とかをサボっていると、いい人扱いされてしまう。

 

親しみを感じてくれたら、それだけで十分

──キタニさんは東大卒の紅白出場アーティストなので、なおさらその傾向は強いでしょうね。

 

キタニ 本当に油断も隙もないですよ。放っておくと、いい人イメージが勝手に先行しちゃうので。だから自分としては意図して積極的に下品な部分を出していくしかない。じゃないとバランスが取れないんですよ。くだらない自分をアピールするという意味では、『オールナイトニッポン』はうってつけの場。思いっきり利用させてもらいます。

 

──『青のすみか』で大ブレイクしたとはいえ、まだキタニさんのことをよく知らない国民もいます。ファンでない人には、番組をどのように聴いてほしいですか?

 

キタニ なんだか知らないけど、月曜日の深夜0時になると、やたら声がデカい奴がくだらないことをしゃべっているな……それくらいの軽い感覚で聴いてもらえたらうれしいですね。ラジオって別のことをしながら、“ながら”で聴けるところが魅力だと思うんです。皆さんの生活の中で、空気のように僕の番組が流れていたら光栄かなと。「ラジオきっかけで僕の音楽も好きになってほしい」なんて欲張りなことを言う気はありません。親しみを感じてくれたら、それだけで十分ありがたいです。

 

──キタニさんのラジオは終始テンションが高すぎて、ながら作業には向いていない気もしますが(笑)。

 

キタニ そこは僕の課題になっているんですよ。ずっと慌てふためいた調子のままだと、聴いている方の生活に寄り添うような空気感にはならないので。自分にとって『オールナイトニッポン』は間違いなく鬼門ですけど、徐々にこなれていきたいですね。じゃないと、体力的にも絶対に持たないですし(笑)。

↑新パーソナリティを務める(左から)キタニタツヤ、日向坂46の松田好花、山田裕貴、ヤーレンズ

 

【information】

キタニタツヤのオールナイトニッポンX

初回放送4/1(月)24時〜

 

 

構成・撮影/丸山剛史 取材・文/小野田 衛

AFA日本人初ユース・アンバサダー・宮沢氷魚、独占インタビュー「アジア各国の皆さんに、直接自分の口で、自分の思いを伝えたい」

アジア全域版アカデミー賞ともいえる「第17回アジア・フィルム・アワード(以下、AFA)」。3月10日に行われた授賞式を前に、日本人として初めてユース・アンバサダーに就任された宮沢氷魚さんに、香港で独占取材。鈴木亮平さんと切実なラブストーリーを演じた『エゴイスト』が現地でも高い評価を得た彼に、香港の街並みや香港映画の魅力について語ってもらいました。

 

宮沢氷魚●みやざわ・ひお…1994年4月24日生まれ。アメリカ、カリフォルニア州出身。「コウノドリ」(2017)で俳優デビュー。初主演映画『his』(2020)では、数々の映画新人賞を受賞。映画『騙し絵の牙』(2021)では日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。映画『エゴイスト』(2023)では、アジア・フィルム・アワード最優秀助演男優賞、毎日映画コンクール助演男優賞、日刊スポーツ映画大賞石原裕次郎賞を受賞した。主な出演作は、NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」(2022)、『はざまに生きる、春』(2023)、『レジェンド&バタフライ』(2023)、「さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~」(2024)など。2025年放送予定NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」への出演も決定している。Instagram

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昨年の「AFA」で一気に自分の中の世界が広がったことを実感

──昨年の「AFA」では、『エゴイスト』で最優秀助演男優賞を受賞。そして、今年ユース・アンバサダーを務められます。

 

宮沢 素直にうれしいですね。昨年、受賞したときのスピーチやインタビューで「また香港に戻ってきたい」と言っていたので……。でも、翌年にユース・アンバサダーとして、すぐ参加できるとは思ってもいなかったので、今回オファーをいただいたときは「信じられない」というか、「本当に?」と、ちょっと疑ってしまうぐらい驚きました。

 

──「また香港に戻ってきたい」と思われた理由は?

 

宮沢 僕はこれまで、日本でのプロデュース作や監督さんとの作品、日本で撮影された作品と、ドメスティックな環境で映画と関わってきました。そんななか昨年、初めて「AFA」という海外の映画祭に参加し、特にアジアの監督さんとお話をする機会をいただいたことで、皆さんの映画に対する考え方や作り方、価値観の作り方の違いを知り、今まで知らなかった映画の魅力に気づけたんです。短い時間ではありましたが、その経験によって自分が豊かになれましたし、「またアジアの映画人の方々と映画のお話ができたら」という思いが募りました。

 

──ともにユーザー・アンバサダーを務められる台湾・タイ・香港の俳優たちの交流はいかがですか?

 

宮沢 まだお会いできていないのですが、なかでも『1秒先の彼女』に出演されていた台湾のリウ・グァンティンさんは、作品のなかで独特な存在感を持たれていたので、お会いするのが楽しみです。皆さん、僕と同世代なので、国は違っても、ともに成長していけたらいいなと思います。日本だけで活動していると、どうしても遠い存在に感じてしまうのですが、昨年いろんな方と出会い、SNS上でも皆さんと繋がることできて、一気に自分の中の世界が広がったことを実感したんです。だから、今年もそれを実践したいです。

 

──さて、「愛是自私」のタイトルで香港公開された『エゴイスト』ですが、日本と異なる反応はありましたか?

 

宮沢 もちろん、「面白かった」って言ってくれる方が多いですが、その中でも「あのシーンの、あのセリフは、どのような気持ちで言ったの?」と、もっと深いところで映画をご覧になっている印象が強いです。それによって、感情的なところでの話ができたり、撮影当時の状況など、テクニカルの部分の話など、質の高い会話ができたような気がします。香港の方って、映画が身近な存在だから、「作品がどのように作られたのか?」という、舞台裏やバックグラウンドまで興味を持ってくれる気がしました。

 

 

僕たちの人生において、大事な作品をともに作った仲間

──2023年の2月の日本公開から1年経過しましたが、改めて『エゴイスト』はどのような作品になりましたか?

 

宮沢 映画が公開されて、皆さんに見ていただいて、終わるものではなく、「10年、20年、30年と、長きにわたって愛される、何かしらの考えるきっかけを与える作品になってほしい」と思いながら、僕たちは作品を作っていたのですが、それを実感できる1年間でした。公開から1年経っても、皆さん『エゴイスト』の話をしてくださいますし、今回も「AFA」で(鈴木)亮平さんが(「Excellence in Asian Cinema Award」を)受賞されたり、舞台挨拶付での特別上映もされますが、この先も『エゴイスト』という作品が皆さんの中で生き続けていく気がします。

 

──鈴木亮平さんとの絆は、さらに強くなっている感じでしょうか?

 

宮沢 今年1月に亮平さんとお会いした毎日映画コンクールではありがたいことに、僕が助演男優賞を受賞し、亮平さんが主演男優賞を受賞したんです。今回の舞台挨拶は、亮平さんと松永大司監督と3人で登壇するのですが、僕たち3人の関係っていうのは、頻繁に会ったり、飲んだり、遊ぶような仲ではないんです。もっと深い絆というか、会わなくても、自然と相手のことが気になるし、誰かが活躍しているのを知ると、自分のことのようにうれしく思える存在。仲良しこよしの関係ではなくて、僕たちの人生において、大事な作品をともに作った仲間っていう意識の方が強いですね。

 

──さて、宮沢さんにおける香港映画の印象を教えてください。

 

宮沢 あまり多くの作品は観れていないのですが、そのなかでもピーター・チャン監督の『ラヴソング』、そしてサーシャ・チョク監督の『離れていても』(東京国際映画祭にて上映)という作品が好きです。たくさんアクションがあって、刺激がある作品ではなくて、普通に日常生活をしている中で、親子や恋人同士の長き関係性をじっくり描いている。みんなが共感できる温度の作品で、ホッコリしたり、悲しくなったりっていう、すごく感情に寄り添ってくれる。もちろん言語も文化も違うんですが、自然とその作品の中に入り込める魅力が香港映画にあると思います。

 

新しいものと古いものが共存していて、まるでタイムスリップしたかのような感覚

──昨年の授賞式以来、トニー・レオンさんとも交流されていますが、トニーさんの作品で好きな作品は?

 

宮沢 トニーさんとは、10月の東京国際映画祭でもお話をする機会がありましたが、昨年の「AFA」でトニーさんが主演男優賞を受賞された『風再起時』(香港映画祭2023 Making Wavesにて上映)は、とても印象的でした。ウォン・カーウァイ監督の映画など、トニーさんの若いときに出演された映画も観ていますが、ずっと第一線で活躍されている“すごみ”を改めて感じましたから。授賞式でも感じたのですが、とても謙虚な方なんですよ。怖い役を演じられても、優しい役を演じられても、どこかでトニーさんの優しい人柄が映画からにじみ出てきますし、それが長年みんなから愛される理由だと分かりました。

 

──短い滞在期間の中、グルメなど香港での楽しみがありましたら、教えてください。

 

宮沢 前回は自由な時間はなかったのですが、今回は5日間の滞在です。関連イベントなどで活動する時間も多いなか、昨日も空き時間を見つけて飲茶や屋台に行きました。ビールと一緒に食べる殻つき海老のピり辛い炒めみたいなものがおいしかったですし、できるだけ街を散歩したり、観光的なこともしたいですね。最先端な建物やショッピングモールのすぐ隣に、数十年前に建てられたマンションやお店があったり、新しいものと古いものが共存していて、まるでタイムスリップしたかのような感覚が、自分の中では刺激的です。そういう新しいものも、古いものも大事にしているところに魅力を感じますね。

 

──昨年の受賞スピーチなど、すべて英語でされていますが、今後の海外での活動予定は?

 

宮沢 「いつか海外作品に」という思いはずっとありますが、授賞式の会場にいらっしゃるアジア各国の皆さんに、直接自分の口で、自分の思いを伝えたい思いがあるからこそ、英語でスピーチをしています。今年もいろいろな国の監督さんや俳優さんが香港に集まっているので、多くの場でコミュニケーションを取れればと思います。そして、もしチャンスがあれば、ぜひ作品に呼んでいただきたいという思いは強くあります。

 

(C)Asian Film Awards Academy

 

取材・文/くれい響

俳優・奥 智哉が今ハマっているモノ「味が好きで、食感も他とは違う」Huluオリジナル「十角館の殺人」インタビュー

人気ミステリー作家・綾辻行人のデビュー作でベストセラー『十角館の殺人』がHuluオリジナルとしてドラマ化。3月22日(金)に独占配信が開始。主人公・江南(かわみなみ)孝明を演じた奥 智哉さんには原作の感想から初主演を務めた気持ち、青木崇高さんをはじめとする共演者とのエピソードまで聞いた。続けてGetNavi web恒例の今ハマっているモノについて聞く。

奥 智哉●おく・ともや…2004年7月18日生まれ。神奈川県出身。2020年、蜷川実花が監督を務めた配信ドラマ『Followers』で俳優デビュー。近年の主なドラマ出演作に『仮面ライダーリバイス』(2021・テレビ朝日系)、『みなと商事コインランドリー』(2022・テレビ東京系)、NHK『大奥』、TBS日曜劇場『ラストマンー全盲の捜査官ー』、『みなと商事コインランドリー2』(テレビ朝日系)、『癒やしのお隣さんには秘密がある』(2023・日本テレビ系)など。映画出演作に『ラーゲリより愛を込めて』(2022)。Instagram

 

あの牛丼屋に大ハマリ「キムチ牛丼大盛りが鉄板」

 

──GetNavi webということで今ハマっていることを教えていただけますか。

 

 昨年末から吉野家の牛丼にハマっています。他のお店の牛丼と食べ比べてみたのですが、出汁の味が好きですし、肉の切り方なのか食感も他とは違うんですよね

 

──頼むメニューは決まっているのですか?

 

 キムチ牛丼の大盛りが鉄板です! 最初はシンプルに牛丼を食べて、後半からキムチを混ぜます。牛丼のおかげで、苦手だった紅しょうがも大好きになったんです。牛丼になくてはならない存在ですね。

 

──牛丼愛が伝わってきます。ちなみに趣味は読書とお聞きしました。

 

 はい、母親の影響で小学生の頃から小説が大好きです。本格的なミステリーを読んだのは『十角館の殺人』が初めてでしたが、オカルトミステリーやSFミステリーなど、ミステリーものは結構読んでいます。中でも有川浩さんの大ファンで、小学5年生のときに読んだ『キケン』は小説にのめり込むきっかけになりました。自衛隊三部作も大好きなシリーズです。

 

──またアニメもお好きなんですよね。

 

 大好きです! 最近観たアニメだと『うる星やつら』のリメイクバージョンや『俺だけレベルアップな件』が印象に残っています。

 

──江南の部屋は風変わりな趣味のもので溢れていますが、奥さん自身、集めているものはありますか。

 

 『チェンソーマン』、『ベルセルク』、『ジョジョの奇妙な冒険』、『ドラゴンボール』などのアニメのフィギュアを少しずつ集めています。今は飾る場所がないので、7体程度ですが、これからどんどん集めていきたいです。特にジョジョの第6部『ストーンオーシャン』に出てくるナルシソ・アナスイと、ベルセルクのガッツがお気に入りです!

 

Huluオリジナル「十角館の殺人」

Huluで独占配信

 

【Huluオリジナル「十角館の殺人」よりシーン写真】

 

(STAFF&CAST)
出演:奥 智哉 青木崇高 / 望月 歩 長濱ねる 今井悠貴 鈴木康介 小林大斗 米倉れいあ 瑠己也 菊池和澄 / 濱田マリ 池田鉄洋 前川泰之 河井青葉 / 草刈民代 角田晃広 仲村トオル
原作:綾辻行人『十角館の殺人』(講談社文庫)
監督:内片 輝
脚本:八津弘幸 早野 円 藤井香織
音楽:富貴晴美
プロデューサー:内片 輝 内丸摂子 木下 俊 / 中村圭吾 渋谷昌彦
チーフプロデューサー:石尾 純 勝江正隆
エグゼクティブプロデューサー: 川邊昭宏 長澤一史
制作:下村忠文
制作協力:内片輝事務所 東阪企画 いまじん
製作著作:日本テレビ
©綾辻行人/講談社 ©NTV
公式HP : https://www.ntv.co.jp/jukkakukannosatsujin/
「十角館の殺人」Hulu配信ページ:https://www.hulu.jp/jukkakukannosatsujin

 

(STORY)
十角形の奇妙な外観を持つ館“十角館”が存在する、角島。 1986 年、“十角館”を建てた天才建築家・中村青司(なかむら・せいじ)は、焼け落ちた本館・青屋敷で謎の死を遂げていた。半年後、無人島と化していた角島に、K大学ミステリ研究会の男女7人が合宿で訪れる。その頃、海を隔てた本土では、かつてミス研メンバーだった江南孝明(かわみなみ・たかあき)のもとに【死んだはずの中村青司】から1通の手紙が届く。<十角館に滞在するミス研メンバー>と<死者からの手紙>。「偶然とは思えない」―。江南は調査を進めるなか、島田潔(しまだ・きよし)という男と出会い、行動を共にしていく。一方“十角館”では、ミス研の1人が何者かに殺害される。「犯人は一体誰だ?」疑心暗鬼に陥り、互いに仲間を疑いはじめるメンバーたち……孤島である角島から出ることができるのは、1週間後。2つの物語から起こる【想像を超えた衝撃の結末】とは。

 

取材・文/猪口貴裕 撮影/金井尭子 ヘアメイク/岩下倫之(Leinwand) スタイリスト/カワセ136

衣装協力/
【アイテム:ブランド名/金額(税抜)/問い合わせ先】
ジャケット:DISCOVERED/4万8000円/DISCOVERED
パンツ:DISCOVERED/3万9000円/DISCOVERED
シャツ:LITTLEBIG/3万8000円/LITTLEBIG
靴:opposite of vulgarity/1万4000円/HEMT PR
リング:PLUIE/3万1000円/PLUIE Tokyo

DISCOVERED
03-3463-3082
東京都渋谷区恵比寿西1-33-3光雲閣404

LITTLEBIG
03-6427-6875
東京都渋谷区円山町28-8 #305

HEMT PR
03-6721-0882
東京都渋谷区神宮前2-31-8 FKビル3F

PLUIE Tokyo
03-6450-5777
東京都渋谷区神宮前6-18-10海老名ビル3F

“映像化不可能”「十角館の殺人」でドラマ初主演・奥 智哉インタビュー「ドッキリじゃないかと」3月22日Hulu独占配信

人気ミステリー作家・綾辻行人のデビュー作で、日本のみならず海外の作家にも多大な影響を与えた「館」シリーズの第1作『十角館の殺人』。長年、映像化は難しいと言われていた本作が、綾辻行人と親交のある内片輝(うちかた・あきら)監督によりHuluオリジナルでドラマ化。3月22日(金)に独占配信が開始した。通称“コナン”こと主人公・江南(かわみなみ)孝明を演じるのは、ドラマ初主演となる奥 智哉だ。自然体で臨むことができたという彼が経験した撮影でのエピソードを聞いた。

奥 智哉●おく・ともや…2004年7月18日生まれ。神奈川県出身。2020年、蜷川実花が監督を務めた配信ドラマ『Followers』で俳優デビュー。近年の主なドラマ出演作に『仮面ライダーリバイス』(2021・テレビ朝日系)、『みなと商事コインランドリー』(2022・テレビ東京系)、NHK『大奥』、TBS日曜劇場『ラストマンー全盲の捜査官ー』、『みなと商事コインランドリー2』(テレビ朝日系)、『癒やしのお隣さんには秘密がある』(2023・日本テレビ系)など。映画出演作に『ラーゲリより愛を込めて』(2022)。Instagram

 

【奥 智哉さん撮り下ろし写真】

 

「最後の一行を読んだ衝撃は忘れられない」

 

──原作の『十角館の殺人』は読みましたか?

 

 今回のお話をいただいて読ませていただきました。本格的なミステリーを読んだのは初めてで時系列が混乱することもあり、何度も読み返して思い出すなど、頭の中で整理しながら読みました。

 

──原作ならではの良さはどういうところに感じましたか?

 

 文字だからこそキャラクターの声や造形などが頭の中で膨らんで、それがトリックの肝に結び付くのが醍醐味かなと感じました。“十角館”が存在する角島(つのじま)と、本土の描写のバランスが素晴らしくて、種明かしまでたどり着く過程が味わい深かったです。

 

──原作をお読みになったとき、途中で犯人の予想はつきましたか。

 

 中盤で犯人の予想はついたんです。でも、なぜそうなったのかは1ミリも想像できなくて。だからこそ最後の一行を読んだ衝撃は忘れられないですね。 “館シリーズ”を読み進めていて、まだまだ初心者ですが、ミステリーの面白さをひしひしと感じています。

 

──ドラマ初主演ですが、オファーがあったときのお気持ちはいかがでしたか。

 

 マネージャーさんから聞いて、最初はドッキリじゃないかと(笑)。絶対に嘘だと思いました。衣装合わせや監督との顔合わせなどをしていくうちに、徐々に実感が湧いてきました。

 

──撮影に臨むにあたって、どんな準備をしたのでしょうか。

 

 撮影前に内片輝監督から「そんなに硬くならずに楽しくやろう。優しいメンバーばかりだから気楽に演じてほしい」と言ってもらい、主演だからと肩ひじを張らずに、自然体で臨むことができました。原作を読んだときに混乱したところがあったので、「このシーンはどこまで進んでいるんだっけ?」「この時点で誰が死んでいて」という情報整理をして、物語を理解した上で撮影に臨みました。ここまで細かく脚本を整理したのは初めての経験でしたね。

 

──事前に内片監督から、こう演じてほしいといった指示はありましたか。

 

 「とにかく明るく、常に好奇心旺盛でいてほしい」と。僕はお芝居をする時に控えめに表現してしまう癖があったので、もっと明るくていいんだ、もっと前のめりでいいんだと、すり合わせをできたのが良かったです。

 

青木崇高さんは「思い描く理想の大人」

 

──内片監督の印象はいかがでしたか。

 

 第一印象は「デカい!」です(笑)。共演者の方々と「RIZINに出てそう」と話していました。演出に関しては、内片監督から具体的な技術について教えていただくことが多かったです。例えば顔を上げるタイミングで、目線を先に上げてから顔を上げたほうがかっこいい画が撮れるなど、細かいところまで教えてくださいました。一シーンが撮り終わった後も、すぐに監督と見返して、「最初はこうだったけど、こう変わったよね」と自分の変化が具体的に分かりました。監督のおかげで、表現の幅も広がったと思います。

 

──青木崇高さん、角田晃広さん、濱田マリさんなど、キャリアのある方との共演シーンが多かったですが、プレッシャーはありましたか?

 

 最初はプレッシャーを感じていましたが、江南は関係者にぐいぐい質問して真相に迫っていくので、僕も見習わなきゃいけないなと思いました。ですので5分休憩でも自分から積極的に話しかけました。特に共演シーンの多い青木さんと角田さんとは、3人でよく読み合わせもしていました。

 

──バディ役の青木さんは、どんな方でしたか。

 

 芸能界に入る前から知っている俳優さんで、お会いしたときはスター感を感じました。親子ぐらい年の差がありますし、俳優としても大先輩ですが、めちゃめちゃ優しくて。お話をしていても、僕の目線に自然と合わせてくださるんですよね。とてもひょうきんな方で、子どものような純粋さもありましたが、芯はしっかりしていて、島田に通じるものがありました。僕が思い描く理想の大人です。

 

──青木さんとの会話で印象に残っていることを教えてください。

 

 ちょっとした人生相談をさせていただいたとき「いろんなことに挑戦して、そのときに自分が感じたものを大事にしたらいい」という言葉をいただき、一人旅を勧めていただきました。あと青木さんは謎解きがお好きで、脱出ゲームにも行かれているそうなんです。僕は実生活で何かを推理することはなかったのですが、撮影の合間に青木さんと謎解きをしたことで推理の楽しさに触れることができました。

 

──江南を演じる上で、他にどんなことを意識しましたか。

 

 江南は常に明るく楽しそうで、聞き込みのときは失礼にあたることも、ぐいぐいと斬り込んでいきます。島田に対して「よくそんなことを言えますね」とツッコミを入れるのに、自分も初対面の人にずけずけとものを言う。そういう図太さや、好奇心旺盛な一面を、お芝居で意識しました。僕自身も好奇心旺盛ですし、子どもっぽさも根っこにあるので、そこは似ているなと感じます。

 

──改めて「十角館の殺人」という大きな作品で主演を飾ったお気持ちを聞かせてください。

 

 配信日が近付くに従って、偉大な作品に参加させていただいたことが身に染みています。撮影期間中はそれほどプレッシャーを感じずにいられましたが、今はなかなかの恐怖体験です(笑)。

 

Huluオリジナル「十角館の殺人」

Huluで独占配信

 

【Huluオリジナル「十角館の殺人」よりシーン写真】

 

(STAFF&CAST)
出演:奥 智哉 青木崇高 / 望月 歩 長濱ねる 今井悠貴 鈴木康介 小林大斗 米倉れいあ 瑠己也 菊池和澄 / 濱田マリ 池田鉄洋 前川泰之 河井青葉 / 草刈民代 角田晃広 仲村トオル
原作:綾辻行人『十角館の殺人』(講談社文庫)
監督:内片 輝
脚本:八津弘幸 早野 円 藤井香織
音楽:富貴晴美
プロデューサー:内片 輝 内丸摂子 木下 俊 / 中村圭吾 渋谷昌彦
チーフプロデューサー:石尾 純 勝江正隆
エグゼクティブプロデューサー: 川邊昭宏 長澤一史
制作:下村忠文
制作協力:内片輝事務所 東阪企画 いまじん
製作著作:日本テレビ
©綾辻行人/講談社 ©NTV
公式HP : https://www.ntv.co.jp/jukkakukannosatsujin/
「十角館の殺人」Hulu配信ページ:https://www.hulu.jp/jukkakukannosatsujin

 

(STORY)
十角形の奇妙な外観を持つ館“十角館”が存在する、角島。 1986 年、“十角館”を建てた天才建築家・中村青司(なかむら・せいじ)は、焼け落ちた本館・青屋敷で謎の死を遂げていた。半年後、無人島と化していた角島に、K大学ミステリ研究会の男女7人が合宿で訪れる。その頃、海を隔てた本土では、かつてミス研メンバーだった江南孝明(かわみなみ・たかあき)のもとに【死んだはずの中村青司】から1通の手紙が届く。<十角館に滞在するミス研メンバー>と<死者からの手紙>。「偶然とは思えない」―。江南は調査を進めるなか、島田潔(しまだ・きよし)という男と出会い、行動を共にしていく。一方“十角館”では、ミス研の1人が何者かに殺害される。「犯人は一体誰だ?」疑心暗鬼に陥り、互いに仲間を疑いはじめるメンバーたち……孤島である角島から出ることができるのは、1週間後。2つの物語から起こる【想像を超えた衝撃の結末】とは。

 

取材・文/猪口貴裕 撮影/金井尭子 ヘアメイク/岩下倫之(Leinwand) スタイリスト/カワセ136

衣装協力/
【アイテム:ブランド名/金額(税抜)/問い合わせ先】
ジャケット:DISCOVERED/4万8000円/DISCOVERED
パンツ:DISCOVERED/3万9000円/DISCOVERED
シャツ:LITTLEBIG/3万8000円/LITTLEBIG
靴:opposite of vulgarity/1万4000円/HEMT PR
リング:PLUIE/3万1000円/PLUIE Tokyo

DISCOVERED
03-3463-3082
東京都渋谷区恵比寿西1-33-3光雲閣404

LITTLEBIG
03-6427-6875
東京都渋谷区円山町28-8 #305

HEMT PR
03-6721-0882
東京都渋谷区神宮前2-31-8 FKビル3F

PLUIE Tokyo
03-6450-5777
東京都渋谷区神宮前6-18-10海老名ビル3F

池村碧彩「とにかくうれしすぎて、ピョンピョン、ピョンピョンってしちゃいました!」映画『FLY!/フライ!』

「ミニオンズ」のイルミネーションが送る新作アニメ『FLY!/フライ!』が3月15日(金)より公開中。渡り鳥なのに移動したことがないカモ一家がある日、旅に出ることを決意。旅の途中に起こるハプニングや出会いを描いていく冒険アドベンチャー。カモ一家のキュートなおてんば娘・グウェンを、7歳の池村碧彩さんが担当。収録時のお話やお友達との日常などをいろいろと語ってくれた。

 

池村碧彩●いけむら・あおい…2016年5月生まれ。2019年よりキッズモデルとしてテレビCM、カタログモデル、web広告などに数多く出演。2021年、NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」ではヒロイン百音の幼少期を演じて注目されている。ミュージカル「SPY×FAMILY」のアーニャ役、NHK大河ドラマ「どうする家康」の亀姫役も話題を呼んだ。InstagramX

【池村碧彩さん撮り下ろし写真】

 

グウェンはすべてがかわいい

──完成した『FLY!/フライ!』を観てどんなことを感じましたか。

 

池村 トラブルが起きても、仲間、家族、み~んなで乗り越えるところが素敵だなと思いました。それからキャラクターと声優の人の声がぴったりで、それも魅力的だなって思いました。

 

──グウェンをやることになったときはどんな気持ちになりましたか。

 

池村 とにかくうれしすぎて、(軽く体を弾ませながら)ピョンピョン、ピョンピョンってしちゃいました! 何日経ってもあのうれしい気持ちは忘れません。

 

──グウェンのかわいいと思ったところや好きだなって思ったところを教えてください。

 

池村 グウェンはすべてがかわいいです。一つ好きなシーンがあって、落ち込んでいるお兄ちゃんの前に急にグウェンがやってきて、なぐさめてあげるのが本当にかわいくて! なぐさめ方がかわい過ぎて、「こんな役できるの!?」って思いました。

 

──公式サイトのコメントでグウェンに似ているとおっしゃっていました。どんなところが似ているのでしょうか。

 

池村 グウェンはお兄ちゃんを力づける強さもある子なので、お兄ちゃんに「こうしたら?」って強く言えるところも似ているし、家族が大好きなところも似ていると思います。

 

本番では自然にグウェンができました

──グウェンの声をやるために練習しましたか。

 

池村 監督さんが「あまり練習しないで」とおっしゃっていたから、あまり練習はしませんでした。でも本番では自然にグウェンができました。グウェンが“Pleaーーーーーーーーーーーs!!”って、長く伸ばすセリフがあって。最初に映像を観たときに「え、こんなに長いの!?」って思ったので、そこは練習しました。

 

──グウェンみたいにおねだりすることってありますか。

 

池村 私は欲しいモノがあってもまず使うことを考えるようにします。「これ本当に使うのかな?」って思うのでおねだりはあんまり……。でもガチャをやることもあるので、そっちの方が無駄かなって思ったりもします。

 

──今“Pleaーーーーーーーーーーーs!!”って長く伸ばすほどお願いしたいものはあります?

 

池村 自由帳を10冊ぐらい買って欲しいです。あとお絵描きパレット。前からデジタルで絵を描いてみたいなって思っているので。

 

──絵を描くのが好きなんですね。どんな絵を描きますか。

 

池村 いろいろ描きますけど、キャラクターみたいな人間と鳥さんを描くことが好きです。グウェンとミニオンズの絵も描きました。

 

──「ミュージカル SPY×FAMILY」ではアーニャ役で初めての舞台に挑戦しました。今回は初めての声優となりますが、どっちが緊張しましたか。

 

池村 それは舞台です。東京、兵庫、福岡で公演したんですけど、東京の初日から兵庫の半分が終わるぐらいまで、ずっとおなかが痛くなっていました(笑)。キメラ長官というぬいぐるみをギュッてするようにしていました。でも声優さんは本当に楽しくて。前の日はすごく緊張したけど、マイクの前に立ったら緊張がボーンッてなくなりました。

 

声の高さや低さで表さないといけないから、そこが難しいところだなって

──お兄ちゃんのダックスとお話するときと、ダンおじさんとお話するとき、それぞれ違うお芝居をしている感じがしました。

 

池村 ダンおじさんはグウェンに優しくしてくれるから、ちょびっとかわいい感じ。お兄ちゃんは「やるぞー!」って元気に声をかけたりするのでそこは強い感じ。お父さん、お母さんには普通に接してるかなって、そういうことを考えながら演じました。

 

──声優さんをやって難しかったことはありましたか。

 

池村 私はいつも体全体で表現をしているけど、声優さんは「今はこういう気持ちだな」っていうのを声の高さや低さで表さないといけないから、そこが難しいところだなって思いました。

 

──体全体を使った表現の方がやりやすい?

 

池村 ただ体を使うと疲れちゃうけど……、でもどっちも同じぐらい楽しいです。

 

両手でほっぺをギュッとつぶしながら言ったセリフは自分でも「いいな」って

──では声優さんのお仕事で一番楽しかったことは?

 

池村 グウェンというキャラクターができたこともうれしかったし、グウェンの声をして、初めてだったので「声優さんってこんな感じで表現するんだ」ってハッ!! としました。また一ついろんな勉強ができたかなって思って楽しかったです。

 

──自分でもうまくできたなって思ったセリフはありましたか。

 

池村 両手でほっぺをギュッとつぶしながら言ったセリフがあって、そこは自分で初めて聞いたときに「あ、いいな」って思いました。

 

──収録するときに両手でほっぺをギュッとしたんですか。

 

池村 はい。監督さんが「こうやってみたら?」ってアドバイスをしてくれて、実際にやってみたらすごくよくできました。

 

スネ夫の声で話してくれたので、めっちゃうれしかった

──お父さんのマックを演じている堺雅人さん、お母さんのパムを演じている麻生久美子さんはどんな方ですか。

 

池村 すごく優しくしてくれます。私といっぱいおしゃべりしてくれて、会見で私が緊張していると「頑張ろうね」と言ってくれたし、会見が始まる前も終わったときもタッチしてくれてうれしかったです。

 

──お兄ちゃん役の黒川想矢さんは?

 

池村 お兄ちゃんはめっっちゃ優しくて、トークでは難易度が高いお話をするので、追いつけないんです(笑)。でも「さすがお兄ちゃん!」と思いました。

 

──キャストの皆さんとはどんなお話をしましたか。

 

池村 お父さん、お母さんとは好きな食べ物のお話をしたり、お兄ちゃんとは「イエーイ!!」ってやったりしました。デルロイさん(関智一)さんは、「ドラえもん」のスネ夫をやっているのを私も知っていたんです。だから「スネ夫くんですか?」って聞いたら、スネ夫の声で話してくれたので、めっちゃうれしかったです。

 

──普段の碧彩さんがわかるお話も聞かせてください。お友達とはどんな遊びをすることが多いですか。

 

池村 縄跳びをすることが多いです。前跳び勝負、後ろ跳び勝負をしたりしています。

 

──いろんな跳び方ができるんですね。

 

池村 えーと、前跳び、後ろ跳び、駆け足跳び、ケンケン跳び、あとはあや跳び、交差跳び、後ろ駆け足跳びができます。

 

お猿ポーズをしてこんな顔をします

──すごいたくさん! 碧彩さんが一番得意なのは?

 

池村 うーん……、一番うまいのは後ろ跳び。自分の最高記録ができました。(回数を)言ってもいいですか? 87回!

 

──すごい! 縄跳び勝負ではよく勝つ方?

 

池村 よく……負ける方です(笑)。途中でミスっちゃうんです。

 

──何か集めているものはありますか?

 

池村 絵を描くことが好きなので、消しやすい消しゴムを集めています。

 

──お気に入りの消しゴムはありますか。

 

池村 黒い消しゴムがあって、それはよく消えます。目に光を入れるんですけど、もっとリアルっぽくするために消しゴムを使っています。

 

──消しゴムのテクニックも使って絵を描いてるんですね。では、特技が変顔だそうですが、どんなときに変顔をするんですか。

 

池村 めっちゃ盛り上がってるときとか。家族みんなで〇〇をしているときに変顔をします。

 

──得意な変顔は?

 

池村 (肘を曲げて上げた両手を頭につけながら)こうやってお猿ポーズをしてこんな顔をします。あとは顔だけでもやります。

 

──お友達の前でも変顔するんですか。

 

池村 にらめっこするときにします! たまに声だけで笑わせています。

 

──どんな声で笑わせるんですか。

 

池村 言っちゃダメなことを言います(笑)。

 

──それは気になる(笑)。ここでは言えませんか。

 

池村 はい。言ったらやば〜いってなります(笑)。にらめっこだからみんな笑っちゃうんです。

 

かわいいと思うものは「か」で始まって「そ」で終わる動物

──にらめっこは強い?

 

池村 強いほうだと思います。最初は変顔をして、それでも笑わなかったら「ふわぁ〜」ってヘンな声を出したりするので、勝てない子は1人ぐらいかな。

 

──笑うまで頑張ると。ところで、アーニャ、グウェンとかわいいキャラクターが続いていますが、碧彩さんがかわいいと思うものはなんですか。

 

池村 2つあって、どっちも動物で1つはモルモット、もう1つは〇〇〇〇(まるまるまるまる)です。ではまずモルモットから紹介しましょう。

 

──はい、よろしくお願いします。

 

池村 おばあちゃんとよく動物園に行くんですけど、モルモットを抱っこするとめちゃふわふわで、目がクリクリしていてかわいいなって思いました。そして〇〇〇〇は、「か」で始まって「そ」で終わる動物なんですけど、なにかわかる?

 

──なんだろう……(笑)。

 

池村 かわうそ〜(笑)。かわうそは何時間も寝ていて、チュンチュンって動くところがかわいくて、目も本当にクリクリしてるんです。かわうそも絵に描いてみたいんですけど、描くのがめちゃ難しいんです。

 

──動物も好きなんですね。飼いたい動物は?

 

池村 本当に飼いたいのはわんちゃんです。柴犬かトイプードルかチワワ。あとスクランブルエッグみたいな名前の……、まあとにかくいろいろ飼いたいです(笑)。(撮影中に画像を見てフレンチブルドッグと判明)

 

デザイナーさんパティシエさんもできて、大食い女子でもある女優さんに(笑)

──意外な犬種が出てきた(笑)。じゃあ将来の夢はなんですか。

 

池村 2つあって、占いでも「どっちも良いですね」って言われました。一つ目は、私は料理を作ることが好きなので、パティシエさんになってみたいと思いました。あとは絵を描くことが好きで3歳ぐらいのときに決めたんですけど、(服の)デザイナーさんにもなりたいなって。

 

──女優さんは?

 

池村 やめません! デザイナーさんパティシエさんもできて、大食い女子でもある女優さんになります(笑)。

 

──多才な女優さんですね。ぜひ頑張ってください。

 

池村 はい、頑張ります♪

 

 

 

FLY!/フライ!

2024年3月15日(金)より全国公開中

 

【映画「FLY!/フライ!」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
製作:クリス・メレダンドリ
監督:バンジャマン・レネール
脚本:マイク・ホワイト
配給:東宝東和

日本語吹替版キャスト:堺雅人(マック役)
麻生久美子(パム役)
ヒコロヒー(チャンプ役)
黒川想矢(ダックス役)
池村碧彩(グウェン役)
羽佐間道夫(ダンおじさん役)
野沢雅子(エリン役)
関智一(デルロイ役)
鈴村健一(グーグー役)ほか

 

(C)2023 UNIVERSAL STUDIOS. ALL Rights Reserved.

 

撮影/映美 取材・文/佐久間裕子

青原桃香「キャスターとしては新人でも、皆さんの心に寄り添うことはできる。いつも楽しむ気持ちを忘れず、笑顔を送り届けていきたい!」ウェザーニュースキャスター連載・第19回

24時間365日、最新の気象・防災情報を発信し続ける「ウェザーニュースLiVE」。YouTubeの登録者数は118万人を超え、日々の生活を支えるコンテンツとして、ますます多くの人に愛されています。この番組を毎日生放送でお届けしているのが気象キャスターたち。GetNavi webではそんな皆さんの活動を紹介するとともに、それぞれのプライベートな一面に迫った連載「夕虹は晴れ! ウェザーニュースキャスター」を展開。レギュラーでの連載は昨年4月に一度終了を迎えたものの、現在は短期集中連載として復活し、今回ご登場いただいたのは2023年10月に新たに加わった青原桃香キャスター。番組に登場して以来、いつも朗らかな笑顔で視聴者に元気を与えている青原キャスターに、お仕事への思いをたっぷりとうかがいました。

 

<ウェザーニュースLiVE×GetNavi web連載>

【連載「夕虹は晴れ! ウェザーニュースキャスター」一覧はこちら

青原桃香●あおはら・ももか…1999年1月5日生まれ。愛知県出身。0型。ウェザーニュース気象キャスター。2023年にウェザーニューズ入社。現在、同社が配信する「ウェザーニュースLiVE」の気象キャスターとして活躍中。趣味・特技は乗馬、料理、ドライブなど。 X(旧Twitter)Instagram

 

【青原桃香さん撮り下ろし写真】

 

以前は、周囲から不機嫌そうに見られるぐらい人見知りでした

──昨年末にご登場いただいた松雪彩花キャスターの後を継いでの出演となります。その松雪さんは、青原キャスターや同じく10月にデビューした岡本結子リサキャスターの魅力について、「いつもしなやかさと柔らかさを感じます」とお話しされていました。

 

青原 そうおっしゃっていただけたんですか? もったいないお言葉です。私から見た松雪さんは、お話の仕方や醸し出す雰囲気など一挙手一投足の全てが麗しく、憧れの存在です。また、番組を拝見していると、美しさの中にキリッとした知性も感じられて。隅から隅まで完璧な女性だなといつも思っています。

 

──松雪さんとは青原さんがキャスターデビューしてすぐくらいに、番組のクロストークでご一緒されていましたね。

 

青原 はい。初めてのときは松雪さんに対して絶対に失礼があってはいけないと思い、その気持ちが強すぎてガチガチになっていました。

 

──知らない人がこれを読んだら、松雪さんのことを怖い人だと思いそうですよ(笑)。

 

青原 いえ、そういう意味ではないです(笑)。クロストークって、お相手の方がいるから、最初は緊張しちゃっていたんです。自分一人が変なことを言って空気がおかしくなる分には自己責任だからいいんですが、先輩を巻き込んで迷惑をおかけしてしまったらどうしようって。

 

──今はもう緊張しなくなったんですか?

 

青原 はい。私が失敗しても先輩方が優しくフォローしてくださるので、リラックスして楽しめるようになりました。ただ、いつまでも甘えてばかりではいけないので、私もしっかりと上手に進めていけるようになりたいと思っています。

 

──また、前回の松雪さんのインタビューでは、青原さんから手作りのクッキーをいただけたことをすごく喜ばれていました。

 

青原 うれしかったです。まさにクロストークで松雪さんが私の作ったお菓子を食べてみたいとおっしゃってくださったんです。そのときは「器具を実家から持ってきていないんです」とお伝えしたのですが、偶然にも翌日の週末から実家に帰る予定があって。それで早速土曜日に作ったんですよね。……あ、違います。正確には土曜に一度作ってうまくいったのですが、もっといいものにしたくて、日曜にまた作り直したんです。でも、そっちはうまくいかなくって(苦笑)。

 

──それは悔しい(笑)。

 

青原 そうなんです! もう、本当に悔しくて。それで結果的に最初に作ったものをお渡ししました。

 

──実家から器具を持ってきて、ゆっくり作るという選択肢はなかったんですか?

 

青原 その案も考えました。でも、母が「使い慣れているオーブンで作ったほうがいいんじゃない?」と(笑)。「あやちさん(松雪)と約束したものなんだから、いつも以上においしく作りたいよね」って、家族もみんな見守ってくれて。

 

──素敵なご家族ですね。

 

青原 はい。それに私も、あやちさんが私のクッキーを食べたいと言ってくださったことがうれしかったので、早くお届けしたかったというのもありました。

 

──松雪さんに限らず、今ではすっかりと先輩キャスターの中に溶け込んでいる印象がありますが、あまり人見知りはされないほうなんですか? 松雪さんも「ほかのキャスターと打ち解けるのが早かった」とおっしゃっていました。

 

青原 いえ、その逆で、すごく人見知りです。ですから、最初の頃は皆さんから声をかけていただけてうれしかったのですが、同時にとてつもなく緊張もしていて(苦笑)。ただ、皆さんは優しく接してくださるので、普段よりは積極的にお話ができたように思います。

 

──番組を見ていると青原さんはいつも雰囲気が柔らかいので、周りの先輩方もつい声をかけたくなるのかなと思いました。

 

青原 そう感じていただけているのならうれしいのですが、自分ではそうは思っていないんです。むしろ、周囲に近寄り難さや怖い印象を与えていないかという不安が先行してしまって。だからこそ、普段は丁寧に話すことを心がけているんです。

 

──人見知りの硬さや緊張が表に出てしまうことが多いということでしょうか?

 

青原 はい。それもあって、高校生ぐらいまでは初対面の人から話しかけにくいような印象を持たれることも多かったですね。

 

──普通にしているだけなのに、なぜか怒っているように思われたり?

 

青原 まさに(笑)。友達にも、初めは話しかけづらくて、仲良くなってからのギャップがすごいねって。それがすごくコンプレックスでもあったので、意識して直すようにしたんです。こうした話をすると、最近出会った方からは、「想像つかない」って驚かれることが多いです。

 

──人見知りが激しいのであれば、カレンダー撮影の日は大変だったのではないですか? たしかキャスターになって最初のお仕事がカレンダー撮影で、そこで先輩キャスターとも初めてお会いしたと番組で話されていましたよね。

 

青原 山岸愛梨キャスター大島璃音キャスター小林李衣奈キャスターとお会いしたのが、その日初めてでした。しかも、みんなで同じクルマに乗って遠くのスタジオまで移動することになっていて、私が集合場所に到着したのがギリギリだったせいで、皆さんを少しお待たせしてしまったんです。遅刻をしたわけではなかったものの、それがすごく申し訳なくて。それに、すぐにクルマが出発してしまったので、しっかりごあいさつができたのがロケ地に着いてからだったんです。

 

──そのスタートはちょっと緊張しますね。

 

青原 でも、一日ずっと撮影だったのでたくさんお話もさせてもらい、おかげで途中からは皆さんとの撮影を楽しめるようになりました。というより、最初は緊張する以上に、皆さんのオーラやスタイルの良さに衝撃を受けたりと、完全にミーハーになっていましたね(笑)。

 

──(笑)。そのときはどのようなお話を?

 

青原 「とにかく体調を崩さないように、頑張り過ぎないでね」という優しいお言葉をかけていただきました。皆さんはそうやって、新人の私に対してもいつも気遣ってくださるんです。お仕事への姿勢はもちろん、一人の人間として尊敬できるところばかりですし、普段から先輩後輩関係なくフランクに接してくださるので、本当に素敵な職場だなと感じています。

 

──生配信中にいきなり「ももぴん」と呼びかけられる職場って、そうそうないですしね。

 

青原 ハロウィン企画のときの(駒木)結衣さんですね(笑)。急に初めてのあだ名で呼ばれたので、あのときはびっくりすると同時にとってもうれしかったです。でも、ひと言「ももぴん」と発しただけで、それがすぐに視聴者さんたちに浸透する結衣さんの影響力の大きさがすごいです。あとで、結衣さんも「どうしてあのとき、急に“ももぴん”って言ったんだろう?」って不思議がられていて。これで視聴者さんと私の距離を縮めるきっかけをいただけたので、すごく感謝しています。

 

──思えば、あのハロウィン企画もデビューしてすぐくらいでしたよね。

 

青原 はい。気象キャスターになったはずなのに、突然バラエティっぽい配信企画に参加することになって驚きました。“あれ? キャスター募集の要項にはそんなこと書いてなかった気がするぞ”って。見落としていただけなんですかね(笑)。

 

──きっと書いてなかったと思います(笑)。

 

青原 ですよね(笑)。でも、ハロウィンの配信もそうですが、こうした機会がないとできないことばかりですし、先輩方が企画を盛り上げている姿を見て、とっても素敵だなって思うので、私もいろんな企画に全力で楽しんで臨むようにしています。

 

3週間の研修の予定が、いきなり2週間後にキャスターデビューに

──では、改めてデビュー日のことをうかがえればと思います。当日のことは覚えていますか?

 

青原 とても緊張していて、はっきりとは覚えていないです初お披露目だった10月21日は結子ちゃんと自分たちの紹介の後に1時間半ずつ番組を担当し、翌日に初めて1人で3時間の放送をしたんです。でも、どちらの日も気づいたら終わっていたという感じでしたね。

 

──デビューまでの研修期間が2週間だったとか?

 

青原 はい。それもあって本番中はドキドキで、もうわけが分からなかったです(笑)。

 

──研修のときから2週間後にデビューすることは決まっていたのでしょうか?

 

青原 決まっていなかったと思います。ただ、明確にいつだというのはなかったものの、なんとなくデビュー日は聞いていて。そのときは3週間後ぐらいということでした。なのに、デビュー日の直前に「一週間早まった」と言われて。急なことだったので心の準備もできていませんでしたし、言われた瞬間は頭の中が真っ白になっていましたね。

 

──急転直下ですね。けど、それでも問題ないという判断だったんでしょうね。

 

青原 ……おそらく(笑)。たしか「これ以上やっても、きっと大きくは変わらないから大丈夫」と言われた気がします。私も、そんなもんかなと鵜呑みにしてしまって(笑)。あとになって、“あれ? もしかして、うまく丸め込まれた!?”とも思いましたけど、振り返ると、皆さんが言うように、一週間早まったからといってそんなに変わらなかっただろうなって自分でも思います(笑)。

 

──1時間半のデビュー放送を終えた日はどんな心境でしたか?

 

青原 本当なら家で一人反省会とかをすべきだったんでしょうけど、すぐ寝ちゃいました(笑)。“明日の放送に向けて、気持ちを切り替えよう!”って。それに、翌日の3時間のときもそうだったのですが、2日間とも全国的に天気が穏やかだったので、気象に関する情報は必要最低限で、どちらかというと、自分の紹介や視聴者さんからのリポートを読んでいる時間のほうが長かったんです。ですから、“とりあえず、たくさんしゃべったぞ!”という感覚が強く、どっと疲れが出たのも大きかったと思います。

 

──自分のペースをつかめてきたかなと思ったのはいつぐらいでしょう?

 

青原 遅すぎるかもしれませんが、デビューして1か月ぐらい経ったあたりだと思います。その頃から、ようやく自分の番組を少しずつ見返せるようになっていきましたので。

 

──それまでは自分の番組のアーカイブを見るのが怖かったんですか?

 

青原 はい。もちろん、毎回ちゃんと見返して、反省していくのが大事だとは分かっていたんです。でも、それをすると私のメンタルが崩壊するだろうと思って(苦笑)。ただ、いつまでもそれじゃダメだと思い、まずは切り抜き動画から見るようにしました。気象の情報をお伝えしているときの拙い自分の姿は怖くて直視できなくても、視聴者さんが面白く編集してくださった切り抜き動画なら、まだ笑って見られるかなって。そうやってちょっとずつ自分に慣れていきましたね(笑)。

 

──先輩方の番組を見て、勉強することもあるんでしょうか?

 

青原 あります。ただ、3時間の放送を全部見てしまうと、自分の性格上、物まねみたいになってしまって、あまりいい結果にならないと思うんです。もともと器用ではないので、同じようにしようとするあまり、ロボットがしゃべっているみたいになっちゃうだろうなって(笑)。ですから、“こういう天候のときはどういった表現をされているのかな?”とか、“この時間帯はどんなテンションなのかな”と、コーナーごとにいろんな先輩方の進行を見るようにしていますね。

 

──特に注視されているキャスターはいらっしゃいますか?

 

青原 小林キャスターです。以前、あいりんさん(山岸)に相談をしたとき、たくさんアドバイスをいただいて。その際、私の声質や話し方、それに発声などは小林キャスターが参考になるとおっしゃってくださったので、担当する時間帯は異なることが多いものの、李衣奈さんの番組はよく拝見していますね。

 

──デビューしてからご家族の反響は?

 

青原 私以上に熱量高く楽しんでいるみたいです。本当にいつも温かく見守ってくれていて。それ自体はすごくうれしいんです。でも、「あそこはこうしたほうがいい」とか、「あの発言は失礼にあたるかもしれない」って細かくダメ出しをしてくるんですよね。デビューしたばかりの頃はそれが本当に多くて、たまに……いや、たまにじゃないぐらいムッとしていました(笑)。

 

──「じゃあ、一度自分でやってみてよ!」って言いたくなりますよね。

 

青原 実際に言ったこともあります。ちょっと不機嫌になってしまったり(笑)。

 

──(笑)。自分でも分かっていることを改めて他人から指摘されると、耳が痛いだけに腹が立ちますよね。

 

青原 そうですねただ、そうやってダメな部分を気遣いなく本音で言ってくれるのは家族だけなので、すごく感謝しています。それに、最近は自分たちが少し言いすぎてしまっていることに気づいてきたのか、ちょっとしたフォローが入るようになったんです。ダメ出しの後に、「……まぁ、でも頑張ってるよね」「大変だよね」って(笑)。そうした優しさも含めて、本当に感謝しています

 

オーディションのことは消し去りたい記憶になっています(笑)

──そもそもの質問になりますが、青原さんがウェザーニュースLiVEのキャスターになろうと思ったきっかけは何だったのでしょう?

 

青原 もともと人前に立って情報をお伝えしたり、周りを笑顔にできるような職業に憧れを持っていました。そして大学生の頃から、自ら何かを発信したり、伝えていく仕事に就きたいと思うようになって。でも、なかなか実行に移すことができず、大学卒業後は別の企業にも勤めていたところ、ある日、偶然ウェザーニュースLiVEがキャスターを募集していることを知り、絶対に挑戦したいと思ったんです。それ以前にも、情報を伝える仕事の募集記事を見かけたことは何度もありましたが、なぜかこのときだけはすぐに体が動いて、気がついたら証明写真を撮りに行く予約を入れ、その日のうちに志望動機も考えていましたね。どうしてあんなに衝動的に体が動いたのか、本当に自分でも分からないんですけど。

 

──オーディションはいかがでしたか?

 

青原 緊張しました。面接では一人ずつ志望動機と自己PR、それに原稿読みをする時間があったのですが、いざ自分の番になったら事前に考えていた志望動機が全部飛んじゃったんです(笑)。とっさにいろんなことを頑張ってしゃべりましたが、きっととっ散らかって、わけの分からないことを話していたと思います(笑)。自己PRのときも、ちょっとでも笑ってもらえたらいいなと思って準備をしていたのですが、村田さん(村田泰謁プロデューサー)は笑ってくれたものの、別の方はくすりともせず、ただただ無言のまま真顔で……。

 

──それは、心が折れますね。

 

青原 ポッキリと折れました(笑)。そのときの面接官の方の顔は今でも忘れられないですね(笑)。

 

──実際に何をされたんですか?

 

青原 趣味で乗馬をしているので、乗馬の頭文字(じ・よ・う・ば)を使ったあいうえお作文を発表したんです。そのなかの一つとして、乗馬にはヒップアップ効果があるので、「スタイルもよくなりますよ」という言葉と一緒にお尻をプリッと上げて(笑)。ものすごく恥ずかしかったんですけど、それでクスッとしてもらえたらいいなと思い、なんとかやりきったところで皆さんの反応を見たら、村田さんの笑い声だけがその場に虚しく響いているという状況になっていました。……本当に苦しい時間でしたね(苦笑)。そのときは開き直って、“あとはもう家に帰るだけだし、いいや!”って感じだったのですが、間違いなく顔は真っ赤っ赤になっていたと思います(笑)。

 

──そのお話の後に聞く質問としては酷かもしれませんが、オーディションを終えた後、受かりそうだなという手応えはあったのでしょうか?

 

青原 全く。その日はせっかく東京まで来たんだし、オーディションだけじゃもったいないから、終わった後に少し観光もしようと決めていたんです。すぐ帰りましたね(笑)。

 

──もはやそんなテンションじゃなく。

 

青原 まるでそんな気分になれず、とにかく東京から離れたい一心で(笑)。

 

──帰りの新幹線でのメンタルが心配になります。

 

青原 あ、ただ、本当に何もしないのは嫌だったので、グリーン車で帰ったんです。ちょっともったいないなとは思いましたけど、私の中でこの日の記憶を、オーディション日ではなく、生まれて初めてグリーン車に乗った日に書き換えようと思って(笑)。

 

──その発想は面白いですね(笑)。しかも、結果的にオーディションに受かり、同じ日にグリーン車にも乗ったことで、より忘れられない日になったわけですし。

 

青原 そうなんです。ありがたいことに、私にとっていろんな特別が生まれた日になりました。初のグリーン車も本当に快適でした。ただ、恥ずかしかったのが、フットレストの使い方がいまいち分からず、周りを見ながらまねをするようにして使っていたので、リラックスというより、ずっとソワソワしていて(笑)。でも、それもいい思い出です。

 

──キャスターに受かったときは、ご家族も驚かれたのでは?

 

青原 実は受かると思っていなかったので、家族には面接が通ってから伝えたんです。ですから、なおのこと驚いていましたね。「何かの間違いだ!」って言われた気がします(笑)。

 

研修中のリポート読みはまるでお葬式のようでした

──オーディションに見事合格し、その後キャスターとしての研修が始まったわけですが、2週間の研修はいかがでしたか?

 

青原 一番辛かったです(苦笑)。最初にスタッフさんから、「デビューしてからも、自分の不甲斐なさに落ち込んで泣いちゃうことがあるよ」と言われたのですが、研修中も家に帰ってから何度も泣いていました。同期の結子ちゃんがまだ学生だったこともあって、ほとんど一人で研修を受けていたんです。気持ちを共有できる相手がいないというのが辛かったですし、たまに一人で練習をしているときも、果たしてそれが正しいのかどうかが分からず、そうした不安もありましたね。

 

──研修内容の中では何が一番大変でしたか?

 

青原 ……ふふふふふ。

 

──その笑いは何でしょうか(笑)。

 

青原 思い出すのも嫌なくらい、リポートを読むのがへたくそだったんです。本当にできなくて、まるでお葬式で弔辞を読んでいるみたいになっていました(笑)。

 

──リポートって、視聴者から届く「お天気リポート」や「晩ごはんリポート」とかのことですよね?

 

青原 そうです。それを読んで感想を話すのがほんとに酷かったんです。あれこそ誰にも見せられないです。研修中の様子は毎回録画をしていて、聞いた話だと、それを見て反省するためにあとで渡されるそうなんですね。でも、私はデータを送ってもらった記憶がほとんどないんです。自分でも薄々気づいていたのですが、多分スタッフさんが私には見せられないと判断されていたみたいで。見せると間違いなく落ち込むだろうし、なんだったら、見せたところで意味がないと思われていたんじゃないかと(笑)。

 

──そんなことはないと思いますが。

 

青原 いえ、私自身が見るに値しないと思っていましたから(笑)。というのも、リポートを読んだ後に、そこから話を膨らませていく言葉が出てこなくて、無言のまま時間だけが過ぎていくという状況が何度もあったんです。つまり、動画を見て反省するという以前の問題だったんですよね。

 

──それは言葉のバリエーションが少なくて、コメントに苦労したということですか?

 

青原 表現力の問題というよりも、自分は一体誰に向かって、どんな言葉を届ければいいんだろうと考え込んじゃうんです。よく注意を受けていたのが、「真面目に考えすぎている」ということでした。リポートを送ってくださる方にどのような言葉をおかけして、何をお伝えするべきなのかを深く考えすぎてしまって、かえって言葉が出てこなくなってしまっていたんだと思います

 

──なるほど。

 

青原 そうやって、どうすれば自分の頭の中で思っていることを誤解なく伝えられるんだろうかと考えているうちに、無言の時間だけが過ぎてしまう。研修中はずっとそんな感じでした(苦笑)。

 

──普段からそうなんですか?

 

青原 そうですね。ですから、今はいろんなものに興味を持つようにしていますね。感受性を高め、何かを見たり聞いたりした後は、さらにそこから一歩踏み込んで、自分の心が今どんな感情なのかといったことを客観的に考えるようにしています。

 

──素晴らしいです! ちなみに今は番組の中ではどのコーナーが一番好きですか?

 

青原 それはもう迷うことなく、「おやつリポート」と「ご飯リポート」です(笑)。いつもおいしそうな写真が届くので見ているだけで幸せな気持ちになりますし、感想をお伝えするのも楽しいです。

 

──めちゃくちゃ克服しているじゃないですか。

 

青原 研修のときは本当に言葉が出てこなかったので、それを思うとちょっとは成長しているのかもしれないですね。でも、まだまだだと思うので、これからもたくさん勉強して先輩キャスターさんに少しでも追いつける様に頑張っていきたいです!

 

気象キャスターになり、天気予報の必要性をより強く実感しています

──先ほど、伝える仕事に憧れを持っていたというお話をされていましたが、実際に気象キャスターになられて、どんなところに魅力を感じていますか?

 

青原 お天気は毎日、多くの方が必要としている情報ですし、特にウェザーニュースLiVEでは全国に向けて最新の気象の様子をお伝えできる。そこにすごくやりがいを感じています。

 

──これまで気象自体にも興味をお持ちだったのでしょうか?

 

青原 興味はありました。ただ、家を出るときに母から「今日は雨が降るみたいだから傘を持っていきなさい」と言われると、“じゃあ、持っていこうかな”と思う程度で、もし傘を持たずに出かけて途中で降られても、そのときはそのときだという感じでしたね(笑)。

 

──今は違うんですか?

 

青原 はい。天気にすごく興味を持つようになりました。ひと言で「晴れ」や「雨」、「曇り」といってもさまざまな状況があり、ちょっとした差で予報の表記が変わったりする。私が知識として知っていた気象の世界はほんの一部だったんだなということが分かり、そこに面白さを感じたんです。それに、こうして気象を伝える立場になり、災害などから身を守るためにも天気予報は生活に欠かせないものなんだと強く実感するようになりました。今は吸収するばかりですし、全てのことが新鮮で刺激的ですが、もっともっと勉強しないといけないなという気持ちでいっぱいです。

 

──気象キャスターになったことで好きになった天気はありますか?

 

青原 好きといいますか、気象キャスターの立場になったばかりの頃は、“お願いだから、天気が荒れないで!”といつも思っていました(苦笑)。その一方で、全国的に穏やかな晴れの日も、それはそれで語彙が必要になってくるので難しいなと思ったり。ですので、こんなことを言うと怒られちゃうかもしれませんが、今は“伝えやすい天気”が一番好きです(笑)。

 

──本当に正直ですね(笑)。でも、日本語ってボキャブラリーが多いのでいろんな表現ができますが、だからこそ言葉のチョイスを微妙に間違ったりすると、別の意味で伝わってしまうこともあるので難しいですよね。

 

青原 そうした怖さはいつも持つようにしていますね。ただ、言葉を慎重に選びすぎても、“結局、何が言いたかったんだろう?”と思わせてしまうことがあるので、そこにも注意が必要で。番組が終わった後はいつもスタッフさんから気づいたことを言っていただき、次に活かせるようにしています。

 

──特にウェザーニュースLiVEでは気象状況に合わせて注意喚起のレベルを3段階に分けていますし、そのときどきで言葉遣いや表情などを変えていく必要もあるので、より臨機応変な対応が求められそうです。

 

青原 はい。初めてM2(黄色レベルの注意喚起)を経験したときは、いろんなことがうまくいかなくて本当に悔しい思いをしました。言葉のチョイスだけじゃなく、インターバルを挟んで番組を再開したときに、いつものクセでにこやかな表情をしてしまって。スタッフさんからイヤモニ越しに、「顔が違うよ」という注意の指示が入ったのを覚えています。

 

──ただ、M2といってもそこまで緊迫した感じではなく、通常放送に近い雰囲気のときもありますよね。

 

青原 その日もまさにそういった状況でした。限りなくM1(通常放送)寄りだったこともあり、私もテンション感がよく分かっていなかったんです。それで、スタッフさんにもどういう雰囲気で番組を進行していけばいいかをお聞きしたのですが、「そこまで深刻そうじゃなくてもいいよ」とおっしゃられて。ただ、「でも笑顔は違うかな」とも言われたので、ますますどんな按配で進行すればいいのか分からなくなってしまったんです(苦笑)。気象の状況は日によって全て異なりますし、“これが正解”という明確な答えがないだけに、今でも迷ってしまうことがありますね。

 

──では、青原さん自身はご自分のキャスターとしての武器ってなんだと思いますか?

 

青原 まだ自分の中でこれというのはない気がします。自分に自信を付けたいのですが、今でもついモジモジしちゃうことがありますし(笑)。ただ、サポーターさんの気持ちに寄り添うことはできるとは思いますので、誰ひとり置いてけぼりにすることなく、皆さんと一緒に楽しい時間を作っていく。そこをいつも考え、意識しながら番組に臨んでいきたいと思っています。

 

──最後に、今後の目標を教えてください。

 

青原 今、私が先輩方の姿を見て憧れているように、私も誰かに目標とされるようなキャスターになっていきたいです。同時に、サポーターの皆さんにも愛されるキャスターでありたいなとも思っています。そして何より、常に楽しむ心を忘れずにいたいです。どれだけ頑張っている姿を見せても、そこに私自身が楽しんでいる様子が伝わらなければ皆さんも安心して番組を見られないと思いますので、失敗や成功はひとまず置いておいて(笑)、見てくださる方々にいつも笑顔を送り届けていきたいなと思っています。

 

──さて、次回は同期である岡本キャスターの登場になります。青原さんから見た岡本さんの魅力を教えていただけますか?

 

青原 結子ちゃんと初めて会ったのは、会社でも、オーディション会場でもなく、駅のお手洗いだったんですよね。初顔合わせの日にたまたま駅で見かけて。そのときはお互いの顔を知らなかったのですが、見た瞬間に、“絶対にこの子だ!”と思ったんです。逆に、“もしこの子じゃないなら、このオーラのすごさは何!?”と思うぐらい存在感があって。

 

──ひときわ輝いていたんですね。

 

青原 はい。そうしたら結子ちゃんも、“もしかしてこの人が同期なのかな”と思っていたそうで。ですから、私たちの全ての始まりは駅のお手洗いからでした(笑)。その後、改めて社内で会ったのですが、初めてお話をしたときから、素直で真っすぐな子だなという印象がありました。自分が思っていることややりたいことをストレートにまわりに伝えられる芯があって。そこがすごくうらやましくもあり、尊敬もしているところです。それに、一緒にいて楽しいですし、みんなを明るく元気にさせるパワフルさも持っているので、きっと番組をご覧になっているサポーターの皆さんも自然と笑顔になれる、そんな素敵なキャスターだなって思いますね。

 

《青原キャスターに15の質問!》

 

Q1.ご自身ではどんな性格だと思いますか?

青原 マイペースです。……というと、みんなから「その通りだね」って言われます(笑)。物事に動じないとか、周囲に流されないというのではなく、“自分は自分”みたいな感じのマイペースさがありますね。

 

Q2.“パブリックイメージとはここが違う”というところはありますか?

青原 最初の印象では大人しそうに見られることが多く、その後でギャップに驚かれます。「話してみると意外と陽気な感じなんだね」とか、「しっかりしてるのかと思ったけど、抜けてたり、適当なところがあるんだね」とか。素を隠しているつもりは全くないんです。それなのに、勝手にハードルを上げられて、それで「イメージと違う」と言われても、もうどうすればいいのかと(苦笑)。

 

Q3.関東での新生活いかがですか?

青原 いまだに電車で迷っちゃいます。路線が多く、人もたくさんいるので、出かけるだけで疲れてしまったり。でも、新しい街を知るのは楽しいですね。休日はよくお店の店員さんや美容師さんに「お買い物でおすすめの場所ってどこですか?」と聞いて、リサーチもしています。

 

Q4.学生時代はどんなキャラでしたか?

青原 アクティブだったと思います。テニス部に入っていたので、友達と遊びに行くというよりも、平日や土日に関係なく部活に専念していて、肌も真っ黒に焼けていました。

 

Q5.ずっと続けている趣味は?

青原 大好きなのは乗馬とドライブ。特にドライブは、景色を楽しみながら、一人の空間も満喫できるので、地元の名古屋にいた頃はよく遠出をしていました。クルマのなかでは音楽をかけながら、ずーっと熱唱しています(笑)。歌うことも大好きなので、一人カラオケにもよく行きますし、平気で5〜6時間ぐらい歌っています。今は松田聖子さんの曲を力を入れて練習しています!

 

Q6.乗馬を始めたきっかけは?

青原 始めたのは社会人になってからなんです。働き出すと運動不足になるかなと感じて、何かしら体を動かすことをしようと思ったんです。でも、ジムに通うならそのあたりを走ればいいやと思い(笑)、あまり周りの人がしたことのないものを選びたくて乗馬を始めました馬が大好きというのもあります千葉にもたくさん乗馬クラブがあるので、今も続けていますね。

 

Q7.アニメ好きだそうですが、好きな作品ベスト3を選ぶなら?

青原 今だと一番は『呪術廻戦』です。2位と3位は……難しいですね(笑)。最近好きなのは『葬送のフリーレン』と『ウマ娘』。『ウマ娘』のキャラクターはみんなかわいいんですが、あえて推しを挙げるならトウカイテイオーが好きです。

 

Q8.愛知県のおすすめ穴場スポットを教えてください。

青原 穴場ではないかもしれませんが、おすすめは知多半島の海沿いを走るドライブコース。半島をぐるっと一周できるので、私も休日になるとよく行っていました。老夫婦が営んでいるお気に入りのレストランがあって、いつ訪れてもお客さんがあまりいないんですが(笑)、そこから見える海の景色が本当にきれいで。風景に癒やされながらエビフライカレーを食べるというのが、私の一人ドライブの定番でした。

 

Q9.毎日欠かさずしていることは?

青原 よく家族とビデオ通話をしていますね。最初は母と話をして、途中から父と弟に代わるのがパターンです。私は意外にもホームシックになっていないのですが、母がすごく寂しがっているみたいです。そういえば、以前、私の一人暮らしの家に家族で遊びに来てくれたことがあり、帰り際に母が寂しさのあまり泣いてしまったことがあったんです。それを見ていた父が慰めつつ、「次はいつ会えるの?」って母に聞いたら、返ってきた言葉が、「3日後」で(笑)。母も自分の言葉に泣きながら笑っていましたこのほっこりするエピソードがあまりにも面白すぎて、私の中でかなりお気に入りになっています(笑)。

 

Q10.休日の過ごし方の理想と現実は?

青原 インドアとアウトドアの2つの面を持っていて、インドアな気分のときは家の中でアニメとかを見て、一日中だらだらと過ごすのが理想ですね。外出したい気分のときは、お買い物に行ったり、いろんな景色を見に散歩したり、おいしいごはん屋さんを見つけに行ったりと、やりたいことがたくさんありすぎて困っています。どちらかというと、出かけるほうが好きですね。ただ、一人暮らしを始めたら、やらなければいけないことが多いことに気づいて。結局、家のことをいろいろとしている間に一日が終わっちゃうのがほとんどです。

 

Q11.家で一番落ち着く場所はどこですか?

青原 ベッドの上。ずーーーっとゴロゴロしていたい(笑)。実家にいるときからベッドが大好きで。だからなのか、帰省すると普段以上に熟睡できます。

 

Q12.いつも笑顔が素敵ですが、青原さんにとって笑顔の源は?

青原 私自身は、そんなに笑顔の多い人間だと思っていなくて。周りにいる方々から、「いつもすごくいい笑顔だね」って言ってもらえるようになって、初めて気付かされたほどなんです。ただ、私はこれまでたくさんの愛情で育ててくれた家族や地元の友人など、本当に人に恵まれた環境の中で過ごしてきました。これが私の笑顔の源だと思っています。そして、今はサポーターの皆さんからの温かい応援があり、優しい言葉をかけてもらったり、楽しいリポートをたくさんいただいているので、それを笑顔でお返ししたいなって思うんです。

 

Q13.2024年の中日ドラゴンズにひと言!

青原 ひと言かぁ(笑)。私は応援することが楽しいので、あまり勝ち負けは考えていないんです。……と言いつつ、山口さん(山口剛央気象解説員)を見ていると、阪神タイガースが勝った次の日はさぞやうれしいんだろうなってうらやましくも思ったり(笑)。私はファン歴が5〜6年ほどなので、強いドラゴンズ時代を経験していないんですね。最近ファンになったという話をすると、昔から応援されている方たちに、「よく今のドラゴンズを見て好きになったね」って驚かれます(笑)。ファンになったきっかけは、大学生の頃にバンテリンドーム(ナゴヤドーム)のボールガールをしていて、そのときに選手たちを目の前で見たことでした。今は地元から離れたことで、より一層応援したいという気持ちが強くなりましたね。ちなみに、試合では投手が頑張っている姿を見るのが大好きなのですが、最近は外野手の岡林勇希選手を応援しています。まだまだ若いのに、結果を残しているのが本当にすごくて。今でも十分活躍されていますが、この好調さをキープしてほしいなと思います。

 

Q14.ご自身を家電で例えると?

青原 う〜ん……(笑)。松雪さんは前回のこのインタビューで「皆さんの生活に潤いを与えるという意味で“加湿器”」と答えていらっしゃいましたよね。ならば、私は皆さんの心をきれいにする存在になりたいという願いを込めて“洗濯機”にします(笑)。これからもたくさん笑顔を届けていきたいと思いますので、応援よろしくお願いいたします。

 

Q15.普段愛用している家電を教えてください。

青原 常に持ち歩いているのはワイヤレスイヤホンですね。キャスターになったお祝いとして弟がプレゼントしてくれたものなんです。AirPods Proなので、まだ学生の弟にとっては随分と値が張るものなのに、その気持ちもうれしかったです。しかも、《弟からの贈り物》という文字まで入っていて(笑)。出かけるときは、いつもお守代わりにカバンの中に忍ばせています。

 

青原桃香さんのサイン入り生写真を3名様にプレゼント!

<応募方法>

下記、応募フォームよりご応募ください。

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSePfDBqMCq06Jv5p5gbms_aZkypO4uxiyfRA5F4Uqs6wrqeZg/viewform?usp=sf_link

※応募の締め切りは4月12日(金)正午まで。
※当選は発送をもってかえさせていただきます。
※本フォームで記載いただいた個人情報は、本プレゼント以外の目的での使用はいたしません。また、プレゼント発送完了後に情報は破棄させていただきます。

 

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撮影/干川 修 取材・文/倉田モトキ

清水くるみが語る二人芝居「東京輪舞(トウキョウロンド)」と積年の夢が叶った朝ドラ「ブギウギ」への想い

公演中の舞台「東京輪舞」で、髙木雄也さんとともに二人芝居に挑んでいる清水くるみさん。昨年は幾つもの舞台に出演する一方で、「親友は悪女」で連続ドラマ初主演を果たし、現在放映中の「ブギウギ」で念願だった朝ドラ出演の夢を叶えるなど乗りに乗っている。東京のリアルを生きる“男”と“女”を描く作品についてのエピソードや、卒論のテーマにも選んだほど大好きな朝ドラへの想い、大好きな韓国映画や、最近買ったお気に入りのものなどを語ってもらった。

 

清水くるみ●しみず・くるみ…1994年7月16日生まれ。愛知県出身。2007年開催「アミューズ30周年全国オーディション」で65,368人の応募の中からグランプリを獲得。以降、CM、ドラマ、映画などに立て続けに出演し、無垢な魅力と、演技・唄・ダンス三拍子そろった実力で多くの作品で存在感を示す。主な出演作に、【映画】『最後まで行く』(2023)、『わたし達はおとな』(2022)、『Arcアーク』(2021)、『チア男子!!』(2019)、『青の帰り道』(2018)、【ドラマ】、NHK連続テレビ小説『ブギウギ』(2023)、『親友は悪女』主演(2023)、『持続可能な恋ですか?~父と娘の結婚行進曲』(2022)、『心の傷を癒すということ』(2020)、【舞台】『月とシネマ2023』(2023)、ミュージカル『マリー・キュリー』(2023)、A New Musical『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』(2023、2019)、ミュージカル『ヘアスプレー』(2022)、『海王星』(2021)、『ゴヤ-GOYA-』(2021)、『現代能楽集X『幸福論』~能「道成寺」「隅田川」より』(2020)、『サムシング・ロッテン!』(2018-2019)、『修羅天魔~髑髏城の七人Season極』(2018)、『新世界ロマンスオーケストラ』(2017)などがある。公式HPInstagramX

 

【清水くるみさん撮り下ろし写真】

 

“初めまして”で髙木雄也さんと手を繋いで見つめ合う撮影があってすごく恥ずかしかった

──今回、清水さんが出演する舞台「東京輪舞」は、オーストリアの劇作家アルトゥル・シュニッツラーが1900年に発行した『輪舞』を、東京の現代に翻案しています。情事前後の会話をリレー形式で描いた作品ですが、脚本を読んだときの印象はいかがでしたか。

 

清水 初めて台本を読んだときは、設定や構成がすごく面白いなと思いました。髙木雄也さんと私の2人で、様々な役を演じ分けるので、どう演じ分けるかが悩みどころでした。初めての本読みで、キャラクターごとに声を変えて演じてみたら、演出の杉原邦生さんに、「声よりも役のテンションを大事にして、ちゃんとその人の感情を理解してやってみて」と言われて。テクニックだけで演じ分けようとしていたのを見透かされてしまいました。

 

──前から二人芝居に興味があったとか。

 

清水 いつか挑戦してみたいと思っていたんですが、こんなにも早く機会をいただけるとは思っていなかったので、驚きました。しかも6役というハードさで、小悪魔的な少女から、今まで演じたことのない挑発的な女性まで、様々なキャラクターが出てきます。チャレンジすべき課題がたくさんありましたが、プレッシャーとともにワクワクも大きかったです。

 

──会話劇で、過激なセリフもたくさん出てきますが、どこか上品な印象です。

 

清水 頭の良い会話だなと思いましたし、こういう会話ができる人になりたいと思いました。“トウキョウのリアルとエロスを交差させた”と謳っているので、お客様はドキドキしながら観に来ると思いますが、性の部分に関しては、第一景から構えることなく観られるはずです。

 

──髙木さんの印象はいかがですか。

 

清水 世代的にドラマ「ごくせん」のイメージが強いので、怖い雰囲気なのかなと思っていたんですが、すごくフレンドリーな方で。積極的に話しかけてくださるので、稽古もしやすかったです。途中で役が入れ替わるパートがあるんですが、そのときに髙木さんの演じた役をまねしなきゃいけない。逆もしかりで、それまで私が作ってきた役を髙木さんがやる訳なので、相談しながら作り上げています。

 

──チラシの写真も、ティザーの映像も、お二人の姿がスタイリッシュでした。

 

清水 素敵ですよね。でも撮影中はすごく恥ずかしかったんです(笑)。髙木さんとは“初めまして”なのに、いきなり二人で手を繋いで、向かい合って見つめ合い、くるくると回るんですよ。「この時間は何だろう」と思いましたが、恥ずかしさに耐えたおかげで、素敵な仕上がりになってよかったです。

 

──公演で楽しみにしていることは何でしょうか。

 

清水 お客様の感想も楽しみですが、杉原さんの手がける演出と美術はいつも素敵なので、場面転換も含めて、すごく楽しみです。

 

朝ドラ『ブギウギ』の出演で2つの夢が同時に叶った

──この一年、舞台にドラマに大忙しですね。

 

清水 一年を通して振り返ると、そこまで忙しかった訳じゃないんですけど、確かに前半はスケジュール的にも駆け抜けていました。3~4月に「マリー・キュリー」、6月に「FACTORY GIRLS〜私が描く物語〜」と2つのミュージカルがあって、どちらの舞台も並行して朝ドラ『ブギウギ』の撮影がありましたから。

 

──どうやって気持ちを切り替えていたんですか。

 

清水  『ブギウギ』の撮影が大阪だったので、大阪に行く間の移動で切り替えることができて、ありがたい時間でした。

 

──昔から清水さんは朝ドラが大好きで、卒論も朝ドラがテーマだったそうですね。

 

清水 大学は社会学科だったんですけど、研究テーマは自分に寄り添ったものがいいなと考えたときに、朝ドラは社会と密接に関係しているなと思ったんです。社会や文化の変化とともに、朝ドラのヒロイン像もどんどん変わっているんです。

 

──例えばどんな変化があるのでしょうか。

 

清水 もともと朝ドラは男性を支えるヒロインを描いた作品が多かったんですが、たとえば2016年の「とと姉ちゃん」は、ヒロインが結婚しないんです。ちゃんと時代の流れを汲んでいるし、これを研究したら、社会学の卒論も面白そうだなと。大学内には朝ドラを研究している教授がいらっしゃって、その方の研究も参考にしつつ、この業界にいる私だからこその目線も入れて卒論を書きました。

 

──『ブギウギ』が朝ドラの第109作目ですから、膨大な作品量ですよね。

 

清水 仕事をしながら卒論を書いていたので大変でした。もう見返したくないとすら思いました(笑)。それに古い作品だと、簡単に資料も手に入らないので、『NHKウイークリーステラ』などをフリマサイトやアプリで買って。そのほかの文献もサイトや古本屋さんで探しまくって、資料を集めました。映像も見られるものは見ましたけど、昔の作品は残っていないので、資料に頼るしかないんです。

 

──卒論のために見た朝ドラでよかった作品を挙げるとすると何でしょうか。

 

清水 『カーネーション』(2011)です。『ブギウギ』は耳で聞いても面白くて分かりやすい、明るい「ザ・朝ドラ」みたいな作品ですけど、『カーネーション』はじっくり見たくなる作品で。最近で言うと、『らんまん』(2023)路線です。

 

──念願だった朝ドラ出演の夢が叶った訳ですが、実感としては長かったですか?

 

清水 決まったときは芸歴15年だったので、長かったですね。なぜか「若いとき、朝ドラに出てたでしょう」と言われることが多くて。まだ朝ドラ好きを公言する前から、そういうイメージがあったみたいで、ずいぶん悔しい思いもしました。やっぱり朝ドラって登竜門ですし、同じ世代の俳優にとっては、この仕事をしていたら絶対に年2回受けるオーディションなんです。だから目標にならざるを得ないというか。みんなが目指している場所なので、やっと決まったという気持ちでした。

 

──オーディションで朝ドラ好きのアピールはしていたんですか?

 

清水 オーディションのたびに大好きなことを伝えて、卒論のテーマも朝ドラだったとアピールしていました(笑)。今回、『ブギウギ』に合格して、先ほどお話した教授から7年ぶりに連絡があったんです。「ようやく出演が決まったんだね。いつか出ると思ってたよ」みたいなメールで、その内容に泣けちゃいました。

 

──清水さんは小さい頃にダンスを習っていて、宝塚歌劇団に憧れていた時期もあったから、梅丸少女歌劇団(USK)のトップスター・リリー白川という役柄も感慨深かったのではないでしょうか。

 

清水 『ブギウギ』のオーディション要項が発表されたときに、「絶対この作品に出たい!」と思いましたし、2つの夢が同時に叶うみたいな気持ちでした。

 

──『ブギウギ』に出演した反響はいかがでしたか。

 

清水 やっぱり大きかったですし、朝ドラのおかげで地元・大府市の広報大使に就任しました。同級生で地元の市役所に勤めている子がいるんですけど、ずっと「くるみが広報大使になれるように私も頑張るから」と言ってくれていたんです。それが『ブギウギ』の出演が決まった瞬間、お話があって、朝ドラの影響力ってすごいなと改めて思いました。

 

──昨年は『親友は悪女』で連続ドラマ初主演を果たし、山谷花純さんと共にダブル主演を務めました。

 

清水 『親友は悪女』の撮影期間は約1か月だったんですが、あっという間で、ずっと走っているような感覚でした。やっぱり主演っていいなと思ったのは、ずっと現場にいれることです。例えば主人公の友達役とかだと、そこまで現場にいる時間が長くないので、なかなかスタッフさんの名前まで覚えられないんです。でも『親友は悪女』は、ずっと現場にいたので、めちゃくちゃスタッフさんとも仲良くなれて、すごく楽しかったですね。真ん中に立つのは大変なことだけど、こういうよさもあるんだなと思いました。

 

「マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~」のIUは素晴らしい!

──趣味のお話もお伺いしたいんですが、清水さんは韓国ドラマと韓国の音楽が好きだそうですね。

 

清水 音楽はK-POPというよりも、ロック系が好きで。最近はBIG Naughty(ビッグナティ)というアーティストにハマっています。あとは韓国の音楽番組で『ファンタスティック・デュオ~スターとデュエット~』も大好きで、永遠に見ていられます。例えばIUが出演する回だと、まずIUの曲を5人ぐらいの一般の方が歌って。その中からIUが一番うまかった方を選んで、その後、2人でデュエットをするんです。この番組に出る一般の方は本当に歌が上手で、時には本家よりもうまいんじゃないかというときもあります。初めて見たときは号泣しちゃって、うまい方の歌を聴くと涙が出るんだという気づきがありました。

 

──そういえばIUは今月来日公演を開催しますね。

 

清水 IUは歌手としても好きですけど、先日観た『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』の演技が素晴らしくて、IUにしかできない役柄だなと思いました。

 

──昨年末に亡くなったイ・ソンギュンが主人公のドラマですね。

 

清水 その追悼もあって見たんです。『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』は、いろんな人から勧められるので、何度か見たんですけど、いつも2話ぐらいで、あんまり話が進まないなと思って見るのをやめちゃっていたんです。ただお正月で時間もあったので見てみたら、嗚咽するほど泣きました。

 

──韓国ドラマにハマったのは、いつ頃なんですか。

 

清水 大学卒業してすぐぐらい。『修羅天魔〜髑髏城の七人Season極』(2018)という舞台に出演していたとき、同じ楽屋だった保坂エマさんが韓国ドラマをお好きで。私も海外ドラマは好きだったので、「おすすめのドラマはありますか?」と聞いたら、「韓国ドラマなんだけど、『トッケビ』がおすすめだよ。ちょうど日本でやっているからテレビで見て」と言われて。それまで韓ドラを見たことなかったので、試しに見たらハマって。最初はながら見をしていたんですけど、最後のほうは面白すぎてテレビにかじりついていました。それからずっと韓国ドラマが好きです。

 

──幾つかお勧めの韓国ドラマを教えてください。

 

清水 一番好きなのが『応答せよ』シリーズで、3シリーズは全部見ているんですが、演出したシン・ウォンホ監督の作品はどれも好きで。『刑務所のルールブック』(2017)や『賢い医師生活』(2020-2021)もおすすめです。最近よかったのは『誘拐の日』(2023)で、今ハマっているのは『私の夫と結婚して』(2024)です。どちらもAmazonプライムで配信されているんですが、韓国ドラマはアマプラが熱いんですよ!

 

丁寧な暮らしをすると心も体も安定する

──最近買ったものでお気に入りのものをお聞かせください。

 

清水 家を森みたいにしたくて、観葉植物を大量に買いました。前からちょいちょい植物は置いていたんですけど、断捨離でいろんなものを捨てたり、部屋の配置を変えたりしたら、いっぱい観葉植物が置けるかもとなって、大きいのを3つ、ちっちゃいのを2つ買いました。

 

──花もお好きですか?

 

清水 大好きです。クランクアップでもらった花も、ちゃんと活けて、枯れてきたらドライフラワーにすることもあります。お花をもらうのも好きだし、自宅に友達が遊びに来るときは、自分でお花を買って飾ったりもします。そういえば面白そうだからベランダでひょうたんを育てたことがあったんですが、うまくいかなかったです。

 

──観葉植物があると生活も潤いますか。

 

清水 そうですね。朝、水やりをする時間も楽しいですし、成長過程を見るのも好きだし。だから地方公演があるときは、すごく心配になります。お正月に帰省したときも、観葉植物のことが心配でした。

 

──お部屋も綺麗そうですね。

 

清水 綺麗好きだと思います。そもそも洗濯、掃除、ご飯を作るなど、家事が大好きなんですよ。日頃から丁寧な暮らしをしたいと思っていますし、思い切って炊飯器を捨てて、ご飯は土鍋で炊いています。

 

──土鍋って大変そうですけど、意外と簡単って言いますよね。

 

清水 そうなんですよ。あまり炊飯器の手間と変わらない。炊飯器のよさは寝ている間に炊けるぐらいですかね。土鍋も朝起きて仕込めば、おかずを作っていたら炊けていますからね。土鍋で炊いたご飯は冷凍してもおいしいです。

 

──米の銘柄にもこだわりはあるんですか。

 

清水 そこまでこだわりはないんですが、「青天の霹靂」を買ってます。

 

──最近作った料理はどんなものがありますか。

 

清水 年末年始が寒かったので、よくユッケジャンスープを作っていました。あとは豚汁です。うちの実家で祖母から伝わる豚汁は、世間で言う粕汁に近くて、酒粕が入っているんです。実家に帰ると、いつも母親が張り切って凝った料理を作るので、それに刺激されて作りたくなるんですよね。だから母親にレシピを聞いて作ることも多いです。

 

──料理をするときは、集中するほうですか。

 

清水 セリフを覚えるときに作ることが多いですね。セリフって動きながら言うことが多いですし、何かをしながらだと、脳みそを2つ働かさなきゃいけないから覚えるのも早いんですよ。ある程度、台本を読んで覚えたら、相手のセリフを録音して、料理をしながらブツブツ言ってます。

 

──丁寧な暮らしが仕事に反映される部分もありますか。

 

清水 もともとタフなほうですけど、より心も体も安定しますね。最近は家にいる時間が本当に多くて、友達とご飯を食べに行くこともありますが、私の家に来てもらってご飯を食べることも多くて。そうすると落ち着くし、内緒話もできるしで良いこと尽くしなんです(笑)。

 

 

PARCO PRODUCE 2024
『東京輪舞(トウキョウロンド)』

●東京公演
会場:PARCO劇場(渋谷PARCO 8F)
日時:2024年3月10日(日) 〜2024年3月28日(木)

●福岡公演
会場:久留米シティプラザ ザ・グランドホール
日時:2024年4月5日(金) 〜2024年4月6日(土)

●大阪公演
会場:森ノ宮ピロティホール
日時:2024年4月12日(金) 〜2024年4月15日(月)

●広島公演
会場:広島上野学園ホール
日時:2024年4月19日(金)13:30開演、18:00開演

原作:アルトゥル・シュニッツラー
作:山本卓卓
演出・美術:杉原邦生
出演:髙木雄也 清水くるみ

 

公式サイト:https://stage.parco.jp/program/tokyoronde
公式Instagram:https://www.instagram.com/i_ai_movie_2024/
公式X:https://twitter.com/iai_2024

 

 

撮影/友野 雄 取材・文/猪口貴裕 ヘアメイク/夏子(アッパークラスト)

TikToker マツダ家の日常・関ミナティ・後編「日本だけでは興奮できない体になってしまった」動画作りの背景にあった、少年時代の1人遊び

日本のTikTokerの中でもいち早く世界に轟いたクリエイターといえば、マツダ家の日常にほかならない。メンバーの関ミナティさんが試行錯誤の末にたどり着いた、ブルーオーシャンで見た、絶景とは。さらに、動画制作の根源でもあるといえる、知られざる少年時代の“一人だけの遊び”を明かしてくれた。

 

【関連記事】TikTokerマツダ家の日常・関ミナティインタビュー前編! 投稿1本目で金脈を掘り当てた彼らが気づいた「いい動画」「悪い動画」

 

(写真前列中央右)関ミナティ●せき・みなてぃ…2020年11月TikTokアカウント「マツダ家の日常」を開設すると、関暁夫の物まねで都市伝説風にコンビニ商品を紹介する動画が大バズリ。2021年、「TikTok流行語大賞2021」で「いやヤバいでしょ」のフレーズがチャレンジ部門を受賞。現在、ショート動画の合計再生回数が毎月約5億回再生を誇る。著書に「TikTokハック あなたの動画がバズり続ける50の法則」(KADOKAWA)がある。SNSコンサルティング「マツダ家コンサル」も行っている。写真は「M2DK/マツダ家の日常」より

 

マツダ家の日常 公式TikTok @matsudake

 

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すぐ海外に届くと思いきや「あれ? これもダメ?」

──至るところがブルーオーシャンといいますか、釣り糸を垂らせば必ず何かが釣れる状態のように見えますが、試行錯誤していた時期はなかったんでしょうか。

 

 ありましたよ。ラップ期の2021年頭ですね。ラップがバズって日本の多くの方に見てもらえたものの、興奮しきれない自分もいました。それは、世界に響かせることができなかったからです。

 

──その頃から海外を視野に入れていたんですね。

 

 はい、海外に届けたいと思いいろんな動画を撮りましたが、日本では再生されるものの海外ではまったくで……。で、自分たちでもおもしろいと思えてたどり着いたのが、非言語の「No edit動画」でした。スゴ技をマネする動画があるじゃないですか。僕らはそれを「編集なし」と謳って、めちゃくちゃ編集してスゴ技に見せるという動画シリーズで、それが初めて海外まで届き、ハマったんです。そこに至るまで、かなり試行錯誤しています。

 

──たしかに、ラップから「No edit」の合間にいろいろやっていらっしゃいますね。といっても、期間的には短いと思うんですが。

 

 いやいや、僕らの中ではめちゃくちゃ長かったんですよ。すぐに海外に届けられると思っていたのに、「あれ? コレもダメ?」みたいな感じで。

 

──「No edit」はどこからヒントを得たんですか?

 

 当時は、スゴ技をやるのが世界的なトレンドで、「スゴ技動画を流した後に、自分も挑戦して成功させる」という動画がすごく流行っていて。で、その次に「スゴ技動画を流した後に、自分も挑戦したけど、失敗する」という動画が流行りました。僕らは、この大きな2つの流れを掛け合わせて「スゴ技に失敗するけど、編集して成功したように見せる」。しかも、「編集していません」というタイトルで。

このシリーズの1本目を投稿したとき、日本の人はツッコんでくれると予想していました。「いや、編集してるじゃん!」と。それはそのとおりになった上、予想外なことに、海外の人も同じようにツッコんでくれたんです。英語やタイ語など、いろんな言語でツッコんでくれたり、「彼は一切編集してないな」とノッてくれる人もいたり、国を越えてコメント欄で遊んでくれていたんです。このコメント欄を見て、「あ、これはイケるな」と確信してシリーズ化しました。

 

──見事に海外まで届き、ちょっと有言実行すぎませんか?

 

 いやいや(笑)。楽しくやらせてもらっていただけです。

↑「No edit!!編集無し!!」M2DK/マツダ家の日常 (@matsudake) オフィシャルより/2021-10-20

 

中毒性の高い“バズり汁”を有効活用

──日本だけじゃ満足できない体になってしまったのは、なぜなんでしょう。やはり、一度でも“バズり”を体験したらそうなってしまうのでしょうか。

 

 まさにそうです。僕らがTikTokを始めた頃は、『ポケットからきゅんです!』という曲が日本でとんでもないバズり方をしていました。「みんなこれをやっていて、すごいなあ」と眺めていた場所に、自分たちが来てしまった。でも、そんなすごい場所から日本を眺めると、狭かったんです。世界の60億、70億という規模の場所でバズったらどうなるんだろう、と。目指したいと思いました。

 

──世界を見据えるスピード感が、TikTokならではですね。

 

 10年前に「海外で有名になる」のは、夢物語だったと思います。でも今は、誰でもすぐに有名になる可能性を秘めてる。見据えないのはもったいないと思います。僕たちのYouTube『M2DK.マツダ家の日常』は、1か月の再生回数が5億回とかなんですが、少し前だと「毎月5億再生」ってありえなかったと思います。でも今は違う、現実的な数字になったんです。

 

──5億……。“バズり”を知る前と知った後では、物の見え方や意識に変化はありますか?

 

 明確に変化はあります。バズると、“バズり汁”が頭から出るんですよ。

 

──バズり汁! 初めて聞くワードです(笑)。

 

 これはバズり経験がある“クリエイターあるある”だと思いますよ。バズると、本当にこれまで味わったことのない感覚というか……これまで刺激が入らなかった脳のある部分に、ドバッと刺激が入る感覚があるんですよ。それを“バズり汁”と呼んでいるんですけど。バズり汁が出ると、いろんなことが思いつくようになるんですよ。「こんな動画を撮ったらうまくいくんじゃないか」「こんな企画もできそうだ」と、次々と沸いてくる。そしてそれが、ことごとくうまくいく。

 

──バズり汁……すごい……。

 

 ただマイナス面もあります。とにかく中毒性が強く、「とにかくまたあのバズり汁を出したいッッ!」と思ってしまうんです。その点、僕らは自分たちのアカウントだけではなく、各クライアントさんのアカウントもやらせてもらっているので、淀みなく全てにフルパワーで頭を使うことができているし、どのアカウントがバズってもめっちゃうれしいんです。

 

──常にバズり汁が出っぱなしなんですね。

 

 今も出ています。

 

──出っぱなしで体に弊害はないんでしょうか。

 

 今のところないですねえ。いいことに使おうとすると疲れないですし。しんどくなることもあるんですよ。「マツダ家を最大化するためにどうすればいいか」という方向に頭を使おうとすると、ダメですね。途端に、「数字が落ちたらヤバい」という焦燥感に苛まされてしまうんです。今のように「誰かを支援できないか」「誰かをバズらせることはできないか」という考え方をすると、良質なパワーになるんです。これは3年前に気づきました。

↑開始2秒でチーズが美味しそうに映る M2DK/マツダ家の日常 (@matsudake) オフィシャルより/2022-5-14

 

映画「激突!」に感銘を受け、人形遊びを追求した少年期

──気付く前は、しんどくなった瞬間もあったんでしょうか。

 

「このままいくと、しんどくなりそうだな」と思ったときがあったんです。物理的に自分たちができることは限られているけど、「あれもしたい、これもしたい」という常に求め続ける欲求が肥大化して、さばききれなくなりフラストレーションが溜まりそうだな、と。

 

──それを今は、各クライアントに分散して注ぐことができるようになった。

 

 はい、そういうことができるなと、気付いたんです。

 

──考え方がフレキシブルですし、根っからクリエイター気質なのかなと感じました。学生時代から、「他の子どもと違うな」など感じたことはありましたか?

 

 それは自覚があったかもしれません。僕は幼少期から自分1人の部屋があり、子ども向けではない映画を1人で見たりしていました。

 

──例えばどんな映画ですか?

 

 覚えているのは、幼稚園の頃にスティーヴン・スピルバーグの「激突!」を見たこととか。

 

──主人公が乗る車が、謎のタンクローリーに追いかけ回される映画ですね。

 

 そうですそうです! 父親から「面白いから一緒に観よう」と誘われて見たのが、衝撃的に面白くて。それまで僕が見ていたアニメは、分かりやすい悪者と味方がいて、最後に悪者が「やられた~」と言うんですが、「激突!」は敵の顔が見えないんですよ。だから敵の顔を頭の中で想像するんです。自分が思い描く、最も怖いキャラクターとして想像して。そんなふうに自由度があることが革命的でした。「こんなに面白いものを作れる人がいるんだ!」と衝撃を受けたことを今でも覚えています。それから、映画や物語にハマるようになりました。

 

──当時からクリエイティブの素養があったんですね。

 

 いや、そんなにかっこいいものじゃないですよ。僕は部屋で、ずっと1人遊びをしていたんです。高校生くらいまで、マジで人形で遊んでいたんですよ。その人形遊びの題材探しのために映画を見ていたほどです。

 

──人形遊びというのは、ストップモーションを撮ったり、ということですか?

 

 いや、普通に、こうやって持って遊ぶだけです。

 

──普通に!

 

 頭の中にはストーリーが山ほどあり、部屋には数えきれいない種類のフィギュアがブワーーッと置いてあって。「このキャラとこのキャラを使うときは、こういうストーリーで」とか、それぞれに物語があるんですよ。それをその時々の気分でやったり、話を作ったりしていました。

↑M2DK/マツダ家の日常

 

TikTokがなかったら、3人でコテージを作っていた

──楽しすぎる放課後じゃないですか!

 

 ちゃんと声を出しながらやるし、自分で作った話で号泣したりとかもありました(笑)。

 

──最高ですね(笑)。お友だちやご兄弟を巻き込んだりはなかったんですか?

 

 そこはやっぱり恥ずかしいので、ずっと隠していました。

 

──親御さんは、部屋にフィギュアがたくさんあるのは、コレクション趣味だと思っていたんですかね。

 

 いや、あることすら知らなかったと思います。1つの隠しボックスに詰め込んで、クローゼットのめっちゃ奥に入れていたので。

 

──般的な年頃の男子は、セクシーグッズを隠すものですよね(笑)。

 

 僕は大量のフィギュアを隠していました(笑)。

 

──想像してストーリーを作ることが習慣化していたんですね。部活で、演劇部で脚本を書いたりなどはしなかったんですか。

 

 全然ないです。本当に1人の遊びでした。

 

──初期メンバーの2人は、そういった趣味嗜好を共有できる友人なんでしょうか。

 

 はっきり言ったことはないですが、「関はそういうのが得意なんやろうな」というのは知っています。

 

──今、そのバックボーンが動画制作で昇華していると考えると、TikTokがなかったらもったいないことになっていましたよね。

 

 TikTokがなかったら……それを想像すると、僕たち3人はキャンプやコテージ宿泊にハマっていたので、コテージ作りに振り切っていたんだろうなと思います。

 

──コテージ作りというのは、DIYということですか?

 

 いえ、仕組みづくり、ですかね。「こういうコテージがあったら泊まりたい」というコテージを作り、それを全国、世界に展開させるにはどうすればいいのか、という事業をやっていたと思います。

 

──「多くの人に楽しんでもらいたい」という根底は、今と同じですね。

 

 そうなんです。楽しんでもらいたいし、自分たちも楽しみたい。常にそれが一番です。

 

──そんな初期メンバー3人から、今は「マツダ家」のメンバーは何人いらっしゃいますか?

 

 40人ほどですね(※2023年取材当時)

 

──志同じ仲間が集まったんですね。

 

 振り切ったことをやっているからこそ、振り切っている人たちが集まってくれました。

 

──皆さんの動画作りには、プロ意識が働いているように思います。プロとしてのこだわりはどういったところにありますか?

 

 動画を作る瞬間だけ頑張っても意味がないと思っていまして、動画のこと、広告のこと、クリエイターたちが発展していくにはどうしたらいいのか……ということを常に生活の中心に置いていられるかどうかが、プロ意識なのかなと思います。

↑GoogleのPR動画は初期のコンビニグルメ紹介を踏襲し、ファンから「懐かしい!」の声も M2DK/マツダ家の日常 (@matsudake) オフィシャルより/2023-4-7

 

TikTok広告代理店のパイオニアに

──最後にお聞きしたいのですが、今後、Tik Tokはどうなっていくと思いますか?

 

 これからも広がり続けていくだろうし「TikTokで稼いでいます」という人がめっちゃ増えるだろうなと思います。今はまだそこまでできている人は少ないですが、TikTokはビジネスの可能性が無限にあります。僕たちの会社も、そんなクリエイターさんのお手伝いをさせてもらえたらと思っています。

 

──マツダ家さんのコンサル業もさらに需要が高まりそうです。

 

 昨年から大きな変化を実感したんですが、ナショナルクライアントと直接仕事をするようになりました。これは少し前のTikTokではなかったことらしくて。僕らがお手伝いすることで目に見えた成果があり、大きな企業と直接やらせてもらえる機会が増えました。

 

──コンサル業も、始めてすぐに軌道に乗ったんですか?

 

 そうですね。最初は仕事にするつもりも全くなく、タダでやっていたんですよ。「なんか詳しいって聞いたんですけど、僕のアカウントってどうすればいいですか?」という相談にアドバイスをしたりとか。そうしたら「めっちゃ伸びました!」という報告をいただき。そういったことが続き、「これ、仕事にしたほうがいいんじゃないか?」と。でもその時点では、企業と一緒にやることは想像していなかったです。TikTokでコンサルができる人たちは、世界中探してもあまりいないと思います。

 

──パイオニア的存在ですよね。

 

 で、昨年から「TikTokで広告」の流れがきて。その頃から僕らがやっているのが、「このクリエイターさんで、こういったPR動画を作る」という業務で。

 

──まさに広告代理店の仕事ですね。

 

 そうです。そのクリエイターさんが普段投稿している動画よりも、僕らが一緒にやったPR動画のほうが伸びがいいというケースがめちゃくちゃ出てきている状態なので、今後もっと広がっていくと思います。

 

──もちろんその次の展開も考えていらっしゃって。

 

 もちろんです。次はクリエイターさんの支援ですね。TikTokのクリエイターさんはマネタイズが難しいので、「マツダ家と組むことによって新しいビジネスができる」という展望をお見せできればと思います。

 

 

マツダ家の日常 公式TikTok @matsudake

 

撮影/佐賀章広 取材・文/有山千春 構成/BuzzTok NEWS Buzz Tok NEWS公式HP https://buzz-tok.com/

TikTokerマツダ家の日常・関ミナティインタビュー前編! 投稿1本目で金脈を掘り当てた彼らが気づいた「いい動画」「悪い動画」

フォロワー数620万人超を誇る日本のトップTikTokerマツダ家の日常。始まりは、Mr.都市伝説こと芸人の関暁夫さんの語り口をオマージュし、コンビニグルメを紹介する「ロスチャイルドファミリーマート」だった。秒でバズった彼らだが、納得せずにはいられないロジカルな戦略があったのだ。メンバーの関ミナティさんにインタビューを敢行した。

 

関ミナティ●せき・みなてぃ…2020年11月TikTokアカウント「マツダ家の日常」を開設すると、関暁夫の物まねで都市伝説風にコンビニ商品を紹介する動画が大バズリ。2021年、「TikTok流行語大賞2021」で「いやヤバいでしょ」のフレーズがチャレンジ部門を受賞。現在、ショート動画の合計再生回数が毎月約5億回再生を誇る。著書に「TikTokハック あなたの動画がバズり続ける50の法則」(KADOKAWA)がある。SNSコンサルティング「マツダ家コンサル」も行っている。

マツダ家の日常 公式TikTok @matsudake

 

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お風呂で1度練習した程度の物まねで、大バズリ!

──Tik Tokを始めたきっかけは、お友達同士の“ノリ”だったと聞きました。

 

 はい、親友3人でキャンプに行ったとき、僕が酔った勢いでMr.都市伝説 関暁夫さんの物まねをすると、1人が「面白いからTikTokに投稿したい!」と言い出したのが始まりでした。

 

──もともと関暁夫さんの物まねが得意だったんですか?

 

 いえ、前日に関さんの都市伝説の番組を見て、1人でふざけて風呂場で練習した程度なんです(笑)。それでキャンプの日、暖炉のあるコテージに泊まって、1人が暖炉に火をつけようとしていたら、湿っていてなかなかつかなくて。最初は「頑張れー」なんて応援していたんですが、だんだん暇になってきたので、僕が関暁夫さんの物まねをしながらその状況を解説し始めまして。

「いい? これは何者かの力によって火をつけさせてもらえないってこと。前の『ヤリすぎ都市伝説』でも言ったでしょ?」

みたいなことをずっと言っていたんですよ。そしたら深夜ノリもあって2人が死ぬほど笑ってくれて、僕は調子に乗って2時間くらいずっとやっていて。

 

──思った以上に軽い感じで始めたんですね。

 

 そうなんですよ。そのときに思ったのが、この日がめちゃくちゃ楽しくて、「3人でもこんなに楽しいんだから、100人でこの楽しさが共有できたらどれほど楽しいだろう」ということ。TikTokで発信することで楽しむ仲間ができたら面白いなと。

 

──それで初投稿されたのが、2020年11月27日、ファミリーマートの「紅茶の生チーズケーキ」を、関暁夫さん風にレポートする「ロスチャイルドファミリーマートシリーズ」の第一弾でした。当初からシリーズ化を見据えていたんですか?

 

 そこまで深く考えていませんでしたが、「もしこれがバズったら、コンビニの商品は新しいものがどんどん出るし、シリーズとして続けられるな」とは思いながら投稿しましたね。

 

──当初から戦略手的な思考がうかがえますが、ユーザーとしてもTik Tokをそういった目でご覧になっていたんですか?

 

 TikTokをやる前は、「これは面白いな。これはあんまり面白くないな。なんでだろう」程度に見ていましたが、投稿する側になってからは「これはなぜバズっているのか」「なぜバズっていないのか」ということを徐々に言語化できるようになっていきました。

 

いいグルメ動画=「次の日に行けるお店」

──マツダ家さんは1本目からバズり、ロスチャイルドファミリーマートシリーズが定着すると1か月も経たぬうちにフォロワー数が10万人を突破しました。その理由も分かっていたんでしょうか。

 

 そうですね、その当初から僕の中で仮説を立てていて、ラッキーなことにそれがハマったんだなと思いました。

 

──仮説?

 

 1本目を投稿する前、「ごはんを食べに行く動画がすごい流れてくるなあ。再生数もいいね数もすごいし」と思ってTikTokを見ていました。じゃあ、都市伝説風にグルメを紹介する動画はどうだろうと考え、でもそれだけでは自信がなくて。まずは自分の中で、“いいグルメ動画”を定義する必要があると思いました。そこで至ったのが、“いいグルメ動画”=「身近にあり、次の日にすぐ食べに行けるお店をレポートする」ではないかと。全国の人たちが等しく「次の日にすぐ食べに行けるお店」はつまり、コンビニですよね。そうやって、「コンビニ商品を都市伝説風に紹介する」にたどり着いたんです。

 

──すでにロジックを考えていた上で制作していたんですね。“グルメ動画”といいつつ、食べないし味をレポートするわけではないという振り切り方も、ほかの動画との差別化だったんでしょうか。

 

 あ、それは、僕が一切顔出しをしたくなかったから食べなかったんです。食べると顔が映っちゃうじゃないですか。そういえばそうだった、食べなかった理由、今思い出しました(笑)。

↑初めての顔出しの瞬間「Mr.都市伝説 関ミナティでカレーの惑星紹介」M2DK/マツダ家の日常 (@matsudake) オフィシャルより/2020-12-18

 

──顔出しNGだったんですね! 初の顔出しは、関暁夫さんを彷彿させる黒スーツとセンターパートにサングラス姿で登場した、12月18日でした。この頃はもう、TikTokに本腰を入れていらっしゃったということなんですか。

 

 そうですね。初期メンバーの3人とも自営業で、すでにTikTokに全振りしていました。

 

──全員が同じタイミングでTikTok1本に絞ることは、勇気がいることではなかったですか?

 

 いえ、逆に、ほかの業務もしながらTikTokに微力しか注げないことのほうが、僕らにとっては恐怖でした。1本目で”バズる”という体験をしたとき、「3人で地面を掘っていたら急に金がバーーッと出てきて『やべえ! すげえ!』となったけど、ふと周りを見ると、みんなは気づかずスルーしている」という感覚を覚えたんです。みんなは気づかないけど、ここをもっとちゃんと掘ったら、もっとすごいことになるんじゃないか、と。

↑初期メンバーはザッカーバーグとイーロンでおなじみ M2DK/マツダ家の日常 (@matsudake) オフィシャルより/2021-1-7

 

勝因は、1日20時間TikTok漬け

──嗅覚がすごいですね。

 

 単純に興奮していたし楽しいから「ここに全振りしよう!」となったんです。「儲かりそうだからやろう」ではなかったですね。マネタイズを意識したら絶対に縮小してしまうだろうなということは、感覚としてわかっていたので。なので、儲けを優先せず、「自分たちのチームをいかに最大化できるか」ということを目標にやっていくようになりました。

 

──全振りを考えたのはいつ頃ですか?

 

 2、3本目を投稿した頃ですね。

 

──早い!

 

 3人で言葉にしたわけではなく、自然と「こっちやな」と暗黙の了解でしたね。

 

──2021年になると、完全に顔出ししてラップ動画を投稿するようになりましたが、これも流行りを察知してですか?

 

 そうですね。当時は「ロスチャイルドファミリーマートを、やればバズる」というのは分かってきて、正直飽きてもいました。「これをずっとやっていてもなあ」と。それで、なにか違うシリーズをやってみようと探ると、そのときはかっこいいラップを巧みに披露するブームだったんです。で、都市伝説をかけ合わせてちょっとふざけたラップをやってみたらどうだろうと思い投稿すると、バズってくれました。

 

──すごく気軽に「バズった」とおっしゃいますが、普通ではありえないことだと思うんですよね。出す動画がすべてバズるなんて。なにがほかのTikTokerとの違いなんでしょうか。

↑「Mr.都市伝説 関ミナティでラップ」M2DK/マツダ家の日常 (@matsudake) オフィシャルより/2021-1-5

 

 TikTokについて考える量と時間が違うと思います。当時は、僕らのほかにTikTokのことを1日20時間考えている人なんていなかったんですよ。特別才能があるというわけではなく、それだけ時間と労力をかければ誰でもそうなると思います。

もし才能があるとすれば、そこにいかにハマれるか、ということでしょうか。僕らは文字通り、寝る時間以外はずっとTikTokを触っている状態で、そんな生活に慣れることができたのが勝因だったのかもしれません。そのときほかにも同じような人がいれば、同じような結果が出ていたと思いますよ。

 

──力の注ぎ方が、ほかのTikTokerとは違ったと。「ずっとTikTokを触っている」とはいえ、普通は皆さん流し見していると思いますが、マツダ家さんはどんなポイントを見ていらっしゃるんですか?

 

 初期の頃は、「面白いのに、なんでこの動画はバズっていないんだろう」とか、逆に「僕は面白いとは思えないけど、なんでバズっているんだろう」という疑問がどんどん沸いてきました。それに対して、1つひとつ仮説を立てて検証していくような見方をしていましたね。「これがバズらないのは、面白くなるのが10秒以降だから、最初に興味を引けずに飛ばされてしまうんだろうな」とか。

 

最初の2秒で、バズが決まる

──すごく細かく見ていらっしゃるんですね。

 

 あとはコメント欄もチェックします。自分の感覚とTikTokの中の空気の感覚とが、ズレていないかが分かるんですよね。例えば、「こういうコメントが多いだろう」と思って開くと、全然違うコメントが多かった場合、「自分の感覚がズレているな、チューニングを合わせないとな」と意識できます。僕らの動画の根底には「見た人をがっかりさせたくない」というポリシーがあるんです。無料とはいえ、視聴者からは時間をもらっている。だから「今回はあんまり面白くなかったな」とは思わせたくないんです。

 

──コンテンツを提供する側が常に直面する葛藤といいますか、「自分が面白いと思う」ものと「見る人が面白いと思う」かをすり合わせるのは、とても難しいことだと思います。

 

 僕らの場合は「自分たちが楽しいこと、うれしいこと」=「多くの人に喜んでもらえること」なんです。たとえ「僕らはこれがおもしろいと思う!」というものがあったとしても、それが多くの人におもしろいと思えなかったら、結果、僕はそれが楽しいとは思えないんです。そうやって需要と供給が重なったことは、ラッキーだと思いますね。

↑『X-ファイル』のテーマ曲をバックに、都市伝説風ワードを散りばめスイーツを紹介「Mr.都市伝説 関がコンビニスイーツ紹介」M2DK/マツダ家の日常 (@matsudake) オフィシャルより/2020-11-27

 

──さきほど「最初の10秒」とおっしゃったように、すごくシビアな時間感覚が必要とされるんですね。

 

 例えば、僕らの最近の動画を例にあげると、“最初の2秒”が、食べ物を食べるシーンです。複雑な説明一切なしに、
・おいしそうな食べ物がある
・それを口に運ぶ
これが“最初の2秒”のツカミなんですが、この“最初の2秒”で、多くの人に受け入れられるか否かが決まってしまうんです。

 

──たしかに分かりやすいですね。

 逆に、例えばツカミで「今東京で大変なことが起こっているんです」というセリフを言うとします。そうすると、この言葉を理解できる人以外は離脱します。興味があって、しっかり聞いてくれる人にしか見てもらえない。どんどん狭くなっていくんです。“最初の2秒”が、「今、東京で大変なことが起こっているんです」VS「おいしそうな食べ物を食べる」だとしたら、後者が圧勝するんですよね。……という感じで、動画を作る前に案を対戦させているんです。

 

──さまざまな案を上げて、精査して、勝ち残った「より多くの人の興味を引く」動画を制作していると。

 

 さらにその食べ物も戦わせます。
「そば」
VS
「チーズの乗った食べ物」
ならば、チーズが強いよなとか。

 

──企画会議すら面白そうですね。

 

 僕らは今、さまざまな企業のTikTokアカウント運用をサポートする「マツダ家コンサル」というコンサル業をしていますが、たくさんのクライアントさんと企画会議をしていて、すごく楽しんでやっています。

 

──コンサルは、戦略から企画、リサーチ、そして撮影から編集まで、一手に引き受けていらっしゃるんですよね。

 

 例えば、マツダ家の動画制作中、「これ、A社さんの動画のほうが合うんじゃないか?」となったり、A社の動画を作っているときに「これはA社では無理だけど、B社さんだったらできるな」とか。企画を考えれば考えるほど、どこかで使えるという状況です。

 

──もう余すところがないですね。

 

 そうですね。クライアントさんが増えれば増えるほど、企画の精度が上がっている状態です。やっぱり、本気でアカウントを運用しないと、見えてこないものはあるんだなと思います。

 

<後編に続く>
TikToker マツダ家の日常・関ミナティ・後編「日本だけでは興奮できない体になってしまった」動画作りの背景にあった、少年時代の1人遊び

 

マツダ家の日常 公式TikTok @matsudake

 

撮影/佐賀章広 取材・文/有山千春 構成/BuzzTok NEWS Buzz Tok NEWS公式HP https://buzz-tok.com/

岡本信彦&久野美咲「タンクは最強だし、かわいくてエース級に強い子ばかり。最高のパーティーだなって思います」アニメ『最強タンクの迷宮攻略〜』

これまであまりRPGの世界で注目を集めることのなかった《タンク》のスキル。仲間たちを守ることに特化したこのスキルを軸に、計り知れない力を持つ主人公・ルードと仲間たちの冒険譚を描いたアニメ『最強タンクの迷宮攻略〜体⼒9999のレアスキル持ちタンク、勇者パーティーを追放される〜』が絶賛放送中。現在は物語も中盤に入り、さらなる仲間マリウスとアモンも加わって、より賑やかで強固なパーティーとなった。そこで2人の魅力に迫るべく、キャラクターを演じる岡本信彦さんと久野美咲さんにご登場いただき、作品への思いをたっぷりとうかがった。

 

【岡本信彦さん&久野美咲さん撮り下ろし写真】

 

強敵として登場した2人。それが今では……

──《タンク》を主人公にした作品ということで、原作も以前から大きな話題を集めていました。お2人が最初にこの作品に触れた時はどのような印象を持たれましたか?

 

岡本 RPGのゲームが好きな方にとっては、タンクってものすごく重要な役割を担っている存在なんです。いわゆる敵からの攻撃を受ける“盾”ですから。ただ、それだけに地味な印象があり、物語の主人公にするには映えそうにないポジションでもあるんですよね。にもかかわらず、この作品では非常に魅力的に映し出しているなと感じました。また、物語の冒頭で、主人公がいきなりパーティーをクビになるのも面白くて。こうした“追放モノ”というのはポピュラーな設定ではあるんですが、本来なら卑屈になりそうな主人公をここまでかっこよく描いているのがほかにはない部分ですし、見終わったあとに気持ちが前向きになれるところにも新鮮さを感じました。

 

久野 私はタンクという言葉の意味が最初はわからなかったんです。なので、作品のタイトルを見た時も“最強タンクって何だろう……!?”と思って(笑)。

 

岡本 そうか。そうだよね。知らない人にとってはタンク=戦車と思う人もいるだろうし。

 

久野 私は桶や樽を連想してしまって。タンクボトルとか、そっちのほうを(笑)。

 

岡本 面白い!(笑) それはそれで斬新な物語が作れそうだけどね。桶を使って、いかに主人公が迷宮を攻略していくか。……ごめん、自分で言いながら、全然想像つかなかった(苦笑)。

岡本信彦●おかもと・のぶひこ…10月24日生まれ、東京都出身。2006年に声優デビュー。代表作に『葬送のフリーレン』ヒンメル役、『鬼滅の刃』不死川玄弥役、『僕のヒーローアカデミア』爆豪勝己役、『ハイキュー!!』西谷夕役など。2012年よりKiramuneレーベルで音楽活動も行っている。公式HPXInstagram

 

久野 (笑)。でも、原作を読んで、タンクの意味がちゃんとわかりました(笑)。お話を読み進めると、登場するキャラクターがみんな素敵だなって思いました。回を増すごとに主人公のルードとの関係性も深まっていきますし、心がほっこりするシーンがたくさんあって、元気をもらえる作品だなって。

 

岡本 温泉シーンもあるしね。

 

久野 そうですね(笑)。身も心もほっこりするのは間違いないです!

 

──(笑)。お2人が演じるマリウスとアモンは物語の途中からルードたちの仲間となります。しかも、その加わり方が斬新でした。

 

岡本 そうなんですよね。マリウスはルードたちが攻略しようと訪れたアバンシア迷宮の守護者であり、その迷宮のボス的な存在でした。戦闘が大好きで、バトルシーンでは声を荒げたり、変身もする獰猛さを兼ね備えていて。

 

久野 アモンもケイルド迷宮の守護者としてルードたちと戦うところからスタートでした。そんな2人が戦いののちにパーティーに入るんです。ルードやその仲間たちの人柄や、パーティーの空気感の良さに惹かれたのもあるんでしょうね。

 

──パーティーに加わってからは、マリウスもアモンも醸し出す雰囲気が変わっていきますよね。

 

岡本 はい。マリウスは見た目もイケメンでかっこいい要素が満載なんです。でも、どんどんとかわいらしいキャラへと変わっちゃって(笑)。温泉のエピソードではデフォルト顔までさらけ出していますし、どんどん愛すべきキャラになってきています。

 

久野 マリウスはどんどん表情が豊かになっていきますよね。アモンに関しては原作を読んだ時、スラッとした容姿で大人の女性という印象で、荘厳で怖い表情をお芝居でも表現できたらと思っていました。アフレコでは「余裕のある感じで演じてください」というディレクションがあったので、ルードたちを上から見下ろすような雰囲気で演じました。

 

岡本 それが今や……という感じだよね(笑)。

 

久野 ほんとですね(笑)。仲間になってからはコミカルなお芝居がどんどん増えていって。「怖さを忘れてかわいさを出してほしい」というディレクションもいただきました。アモンはルードに甘えたり、仲間にいじられてすねたり、お菓子をもらって喜んだりと、いろんな表情があってどれもが魅力的なので、演じていてとても楽しいです。

 

チート級で、未知の力も秘め、愛されキャラ。ルードはちょっとズルい(笑)

──個性あふれる仲間が集まっていますが、お2人から見てこのパーティーの魅力はどんなところだと思いますか?

 

岡本 バランスがいいですよね。ルードの強さはもちろんですが、実はどのパーティーでもエース級の人たちが集まっているんです。それに、僕の中でタンクの役割って、ゲームの世界では敵からのダメージを一手に引き受けつつ、それを仲間のヒーラーに回復してもらうというイメージなんです。でも、ルードはそのダメージすら返せる。ちょっとズルすぎる(笑)。しかも、それだけでもチート級なのに、まだ何かしら未知の力を持ってそうで。本当に最強のパーティーだなと思います。

 

久野 ルードはパーティーのみんなを引っ張ってくれます。戦闘能力が高いだけでなく、性格も素敵だなって思います。パーティーの仲間であるニンやルナ、リリア、それにリリィたちはそれぞれ不安なことや心配事を抱えながら頑張っていて。そうした一面をルードは理解し、相手の気持ちを考えて行動して、優しく寄り添ったり、楽しい時間を一緒に過ごそうとしてくれるんです。そんな彼だからこそ、みんな信頼してついていきたいと思うんでしょうし、パーティーの絆を強固なものにしている気がします。

久野美咲●くの・みさき…1月19日生まれ、東京都出身。舞台でのキャリアを積み、2003年に声優デビュー。代表作に『アイドルマスター シンデレラガールズ』市原仁奈役、『リコリス・リコイル』クルミ役、『戦姫絶唱シンフォギア』エルフナイン役、『七つの大罪』ホーク役など。公式HPX

 

──ルードは敵味方関係なく、真っすぐに相手の心に寄り添い、裏表のない言葉を投げかけるのが素敵ですよね。

 

久野 そうなんです。正義感のある言葉って、ときにはきつく聞こえることがあるかもしれませんが、ルードはまず相手のことを尊重して思い遣ったうえで、自分の言葉を素直に真っすぐ届けることができるんです。見習いたいなって思いますね。

 

──ちなみに、ご自身の役以外で特に気になるキャラクターを挙げていただくと?

 

岡本 個人的にすごくかわいいなと思うのはルナですね。人間とは少し違う種族という要素もありますし、そうした彼女の背景をルードが支えているところにも魅力を感じます。それと、マニシアも。もともとルードはマニシアのために頑張っているところがありますから。あとはやはり、そのルード本人も。キャラデザだけでいえば、正直、ルードよりもマリウスのほうがかっこいいと思うんです(笑)。でも、ルードのほうが女性キャラたちにモテる。これは世の男性陣にとって勇気になりますよね。“男は中身だぞ!”って(笑)。

 

久野 女の子たちはみんなかわいいですよね。原作を読んでいる時からみんなのことが大好きだったんですが、アニメになってより一層、魅力的に感じたのがマニシアです。(小倉)唯ちゃんのお芝居も相まってすっごくかわいい! ほんとにかわいい!!ルードがメロメロになっちゃうのも納得です(笑)。アモンもマニシアからお菓子をもらうシーンがあって、私自身もニヤニヤしちゃいましたね。

 

深夜のゲームはアラームをかけて寝落ちのパターン(笑)

──今作にはさまざまなスキルを持ったキャラクターたちが登場しますが、もし自分がパーティーを組むとして、仲間に“これだけは持っていてほしい!”と思うスキルはありますか?

 

岡本 ザオリクですね!(即答)

 

久野 即答ですね!(笑) その“ザオリク”というのは……?

 

岡本 いわゆる蘇生系の力で、戦闘不能になった仲間を復活させるスキル。これさえあれば、強大な敵と戦ったとしても、痛みはあるだろうけど、なんとか生きていけると思うので(笑)。

 

久野 なるほど。それは戦闘において大事なスキルですね。私が仲間にいてほしいのは……強い人(笑)。それだけでいいです。アモンみたいな強い子がいたら安心ですね。ちなみに、岡本さん自身はどんなスキルを持ちたいですか?

 

岡本 僕はずっと一貫していて魔法使い。夢が詰まっていますから(笑)。久野ちゃんは?

 

久野 私はきっと何もできないと思うので、みんなの邪魔にならないように、ずっと後ろの方にいたいと思います(笑)。

 

岡本 ということは、マスターだね。

 

久野 マスター? それはどういうポジションなんですか?

 

岡本 みんなに「いけ!」って指示を出す人。

 

久野 いいですね!(笑) あ、でも、戦略を立てられる自信もないし、状況が刻一刻と変わっていく中で適切な指示を出せない気もするので、やっぱり仲間に迷惑をかけちゃうかも(苦笑)。

 

──(笑)。久野さんは普段、ゲームはされるんですか?

 

久野 時々やりますね。ちょっと前だとスイカゲームにはまってましたし、パズル系も好きですね。

 

岡本 そっちのジャンルが好きなんだね。ということは、バトル系やRPGとかはあまりしてこなかったんだ?

 

久野 RPGだと「ドラゴンクエスト」はプレーしたことがあります。あと、「マリオ」シリーズや「星のカービィ」とか。あれはアクションゲームになるんですか?

 

岡本 そうだね!

 

久野 かわいいし面白いですよね。「星のカービィ」は初めて遊んだゲームかもしれないです。「ドラゴンクエスト」だと、トルネコが出ていたのも持ってました。トルネコ、お気に入りだったんです(笑)。

 

岡本 トルネコが登場するシリーズというと「IV」だね。「導かれし者たち」だ。

 

久野 すぐにパッとタイトル出てくるんですね!! 岡本さんは「ドラゴンクエスト」シリーズだとどれが好きなんですか?

 

岡本 どれも好きなのですが、個人的に物語として最高傑作だと思っているのは「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」で。主人公が勇者の武器を手にできず、“えっ、これはどういうこと?”と思っていたら、息子ができて、真の勇者は息子だったという、その展開が本当に感動的で。

 

久野 それはとっても気になります! でも、岡本さんってお忙しいと思うのですが、いつゲームをされているんですか?

 

岡本 忙しい時とそうじゃない時でムラがあるんだけど、基本的にゲームは深夜にやり始めることが多いかな。で、たいてい寝落ちしている(笑)。そのまま寝ちゃってもいいように、アラームだけはセットして(笑)。

 

──用意周到ですね(笑)。久野さんは今、はまっているものなどはありますか?

 

久野 なんだろう……趣味らしいものってあったかなぁ……。

 

岡本 料理とかするの?

 

久野 前はしてたんですけど、最近は全然していなくて……。趣味と呼べるかどうかは分かりませんが、一年ちょっと前からピラティスをしています。

 

岡本 ピラティスって、いまいちよく分かっていないんだけど、ヨガみたいなものなの?

 

久野 体幹を鍛えるという意味では近いかもしれないです。体を動かすとスッキリするので、楽しく続けられていますね。

 

──ありがとうございます。ではこの流れで、最後にGetNavi WEBらしく、お2人が愛用しているおすすめのガジェットを教えていただけますか?

 

岡本 僕は「AirFly」です。最近、飛行機に乗る機会が多く、座席の画面で映画などを観る際に愛用しているんです。座席にある音声端子に挿すことで自分が持ってるイヤホンにBluetoothでペアリングできる。そのことで煩わしいケーブルがなくなり、快適に過ごせるので、すごく重宝しています。

 

久野 私はこの前、スマホの充電器を新しく購入しました。コンセントにも直接させて充電できる機能があるので、それがすごく便利で。1日中お仕事がある日も安心ですし、充電切れで困ってる友達に貸すこともできます。何かあった時のために、カバンの中にいつも入れてますね。

 

 

 

最強タンクの迷宮攻略〜体⼒9999のレアスキル持ちタンク、勇者パーティーを追放される〜

毎週土曜26時からABCテレビ・テレビ朝日系列全国24局ネット『ANiMAZiNG!!!』枠にて放送中

毎週土曜26時30分からABEMAにてWEB最速配信

毎週木曜26時からBS12 トゥエルビにて放送中

動画配信サービス
Prime Video/U-NEXT/dアニメストア/Lemino/DMM TV/バンダイチャンネル/Hulu/FOD/ニコニコ/J:COM/TELASA/みるplus/auスマートパス/マンガUP!/TVer

 

(STAFF&CAST)
監督:熨斗谷充孝
シリーズ構成:雨宮ひとみ
キャラクターデザイン:永井泰平
音楽:Mao Yamamoto
音楽制作:ビクターエンタテインメント
オープニング主題歌:「Brave」いれいす(ビクターエンタテインメント)
エンディング主題歌:「夢の中で」いれいす(ビクターエンタテインメント)
アニメーション制作:STUDIO POLON

出演:
ルード:笠間 淳
ニン:本渡 楓
ルナ:市ノ瀬加那
マニシア:小倉 唯
リリア:大橋彩香
リリィ:優木かな
マリウス:岡本信彦
アモン:久野美咲

(STORY)
最愛の妹・マニシアの病気を治すため、どんな願いごとでも叶えるという秘宝を追い求めていたルードは、勇者パーティーの盾役として迷宮攻略に挑んでいた。ところがある日、勇者から“使えないスキル”と烙印を押され、パーティーから追放されてしまう。仕方なく故郷へ戻ろうとした時、道中で不思議な少女・ルナを助け、やがて彼女が持つ能力によってルードの本来の力が判明する。それは歴代最高の外皮【9999】と未知の力を宿した最強のスキルだった。

公式HP  https://www.saikyo-tank.com/

公式X    @saikyo_tank

 

撮影/干川 修 取材・文/倉田モトキ

デイヴ・ボイル監督が語る『忍びの家 House of Ninjas』のこだわりと革新性「このためにストーリーテラーになったんだと改めて実感できた」

Netflix週間グローバルTOP10で1位を獲得するなど、世界中で旋風を巻き起こしているNetflixシリーズ『忍びの家 House of Ninjas』。現代の日本を舞台に、最後の忍び一家が、国家を揺るがす危機と対峙していく本作で、脚本と監督を担当したのはアメリカ人のデイヴ・ボイル監督。主演と共同エグゼクティブ・プロデューサーを務めた賀来賢人さんらと共に、今までにない“忍者もの”を目指したという氏に、『忍びの家 House of Ninjas』のこだわりと革新性を語ってもらった。

 

デイヴ・ボイル…1982年生まれ。アメリカの監督、作家、編集者、俳優。映画『ビッグ・ドリームス・リトル・トーキョー』(2006年)、『ホワイト・オン・ライス』 (2009年)、『サロゲート バレンタイン』(2011年)、『サマータイム』(2012年)、『リノから来た男』(2014年)の監督・脚本を務める。

【デイヴ・ボイル監督インタビュー写真一覧】

 

市川雷蔵主演の映画『忍びの者』シリーズに多大な影響を受けた

──配信2週目で、Netflix週間グローバルTOP10(非英語シリーズ)で1位を獲得するなど、『忍びの家 House of Ninjas』(以下、『忍びの家』)の勢いはとどまることを知りません。世界中で観られているとデイヴ監督が実感したのは、どういうタイミングでしたか。

 

デイヴ ちょうど日本からアメリカに帰国しようと飛行機に乗るタイミングで配信が始まったんです。機内で携帯は使えないので、ロスに到着してからチェックしたら、たくさんの連絡やリアクションがあって。しかも日本とアメリカだけではなく、フランスやドイツなど、さまざまな国から、SNSを通じて面白いという声が次々と届いて。「嘘だろう……」という気持ちもありましたし、自分の関わった作品が、ここまで喜ばれていることがうれしかったです。

 

──ここまでの反響は考えていましたか。

 

デイヴ 当初から(賀来)賢人さんとは「今までにない“忍者もの”を作ろう」という話をしていて、実際にそういう作品を作れた自信は2人ともあったんです。どういう反応があるのかワクワクしていた反面、新しい作品だからこその不安もあって、多くの方に受け入れられなかったらどうしようという怖さもありました。でも配信が始まると、最初からいろんな国の視聴者が喜んでくれて。そこまで大勢の方から反響があるのは個人的に初めての経験だったので、想像もしていなかったですし、非常にありがたいことです。

 

──以前からアメリカで忍者ものは愛されているジャンルで、たくさんのドラマや映画が作られていますが、『忍びの家』の新しさとはどういうところなのでしょうか。

 

デイヴ 『忍びの家』では、忍者のアイデンティティ・心を描きたいと思っていたんです。今までアメリカで制作された忍者ものは、どちらかというとアクションやガジェット的なものが強調されていました。もちろん、そういう部分もしっかり描きたいと考えていましたが、一体、忍びとはどういうものなのかというセントラルクエスチョンを強調したかったんです。今回、文献などを通して忍者や、忍者の歴史を勉強していく中で、特に惹かれたのが、忍者には縛りやルールが多いことでした。

 

──例えばどういうものでしょうか。

 

デイヴ 主(あるじ)の言うことに従わなければならなかったり、食べ物でいえば肉を我慢しなくちゃいけなかったり、恋愛に対する縛りも多くて、それが心に響いたんです。そういった縛りやルールを現代に生きる忍者に置き換えたとき、何百年も前の価値観で生活しなければいけないのは、どんなにつらいだろうと思ったんです。そういう部分をベースにしつつも、エンタメですから、苦しみばかりを描いても駄目で。忍者のアイデンティティをベースにして、その土台の上にストーリーを作ろうと考えました。

 

──「Get Navi web」で賀来さんにインタビューした際、デイヴ監督について、「日本のカルチャーに造詣が深くて、忍者というキーワードに強く興味を示し、僕たちの作った企画書を何十倍にも広げてくれたんです」と仰っていました。例えば、どういう要素を提案したのでしょうか。

 

デイヴ 実際にあった忍者の歴史を織り交ぜることが重要だという提案をしました。賀来さんたちの書いた企画書の時点で、すでに忍者家族というコンセプトが土台としてあったんですが、忍者の伝統を受け継いだ家族であれば、史実に基づいてストーリーに繋げたほうがいいんじゃないかと思ったんです。先ほどお話した忍者の規則を踏襲するのも僕が提案しました。やっぱり忍者は主に仕えなければいけないから、主を作らなきゃいけない。でも舞台は日本ですから、CIA的なスパイ・エージェンシーみたいなものじゃなくて、忍者だからこその国家秘密組織が必要だろうということで “Bureau of Ninja Management” BNM「忍者管理局」を作りました。

 

──主な舞台を小田原に設定した理由は何でしょうか。

 

デイヴ これまでの忍者ものといえば、伊賀と甲賀を舞台にすることが多かったじゃないですか。特に時代劇はそうですよね。でも忍者の歴史を調べると、小田原も重要な場所なんです。それに東京近郊にある小さな街として魅力がありますし、忍者が小田原を拠点にしてもおかしくないなと考えました。

 

──デイヴ監督自身、『忍びの家』に関わる前から、忍者ものの作品は好きだったんですか。

 

デイヴ 大好きでした。特に1960年代にヒットした市川雷蔵主演の映画『忍びの者』シリーズの大ファンです。あの作品もアクションだけではなく、権力者たちの下で活動する忍者の苦しさを描いていて、深くて面白いシリーズです。だから、『忍びの家』を撮る上でも、多大な影響を受けています。

 

木村多江さんのアクションはアスリートのようだった

──忍者の伝統を大切にしつつ、日本の今のカルチャーも巧みに取り入れていますが、そういう部分もデイヴ監督にはなじみがあったのでしょうか。

 

デイヴ 僕は日本語こそしゃべれますが、本作の撮影前は一度も日本に住んだことがないんです。だから、それほど詳しくはありません。ただ賀来さんたちと話し合っていく中で、主人公である俵(たわら)一家の日常生活は絶対にキープしないといけないねという話になって。賢人さん演じる俵家の次男・晴(はる)は、自動販売機の商品を補充する仕事をしていますが、アメリカで自動販売機はそこまで一般的じゃないんです。吉岡里帆さん演じる伊藤可憐(いとう・かれん)と晴が出会うのは牛丼屋ですが、それも日本ならではの飲食店ですよね。そういった日本における日常生活の要素は僕にとって新鮮でしたし、外からの視点で無意識に強調している面はあるかもしれません。賢人さんを始め、脚本家や演出家の方々の意見を聞きながら、ナチュラルに日本での日常生活を描こうと務めました。

 

──奇想天外な忍術に頼らないのも印象的でした。

 

デイヴ 賀来さんたちが出した企画書の中にも、日常生活から戦いが始まっていくことは書かれていて、僕もその要素が面白いなと思ったんです。だから現代の忍者だったら、日常生活でどうやって忍術を使うのか、脚本チームと演出チーム全員で考えました。

 

──アクションシーンも闇雲に派手なものではなく、リアルで実践的な殺陣が多いですが、そこも意識しましたか。

 

デイヴ まさに、そういう狙いでした。現代日本の地味な日常から入って、徐々に忍者の動きに気づかせていくという流れにしたかったんですよね。忍者は周囲に気づかれてはいけないという第一のルールがあるので、派手なアクションは適切ではないなという考えはありました。だから細かい動きでアクションを作ろうということで、そこはアクション監督を務めていただいた田渕景也さんの存在が大きかったです。本作りの段階から田渕さんに参加していただいて、いろんな意見を聞かせていただき、アクションを考えてもらいました。

 

──アクションを演出する上で気を付けたことはありますか。

 

デイヴ 例えば1話で忍び二人が戦うシーンがありますが、あれは周りは誰も気づいていない中で戦うというコンセプトから始まったアクションシーンなんです。僕自身、CGなどを使った派手なアクションよりも、ナチュラルで実用的なアクションのほうが撮っていてワクワクします。そういうアクションのほうが観ていて、リアルに感じられてストーリーに入り込めるんですよね。かといってドキュメンタリーみたいな撮り方ではなくて、ちゃんとエンタメ性もありつつ、実用的なアクションの演出を心がけました。

 

──俵家の母・陽子を演じた木村多江さん、晴の妹・凪を演じた蒔田彩珠さんをはじめ、女性陣のアクションも素晴らしかったです。

 

デイヴ 僕が最初に出したプロットの時点で、前半で一番アクションをやっているのはお母さんでした。最初にお母さんが動き出して、お母さんのアクションシーンがたくさんあったほうが、意外性があって面白いと思ったんです。多江さんはアスリートそのもので、この作品のために何か月も前から準備をしてくれて、とてもかっこよかったです。

 

もっともっと現代社会にうごめく忍びの世界を見せていきたい

──日本での撮影はいかがでしたか。

 

デイヴ 俵一家の住む日本家屋のセットは東宝スタジオに作ったので、夢の中の世界にいるようで、とても楽しかったです。今回は日本を代表する一流のスタッフが集結して、一緒にお仕事をさせていただいたので、すごくやりやすかったです。私なんかが監督でいいのだろうかと思うぐらいでした(笑)。ただ驚いたのは、ロケ地の許可が簡単に下りないことでした。

 

──確かに日本は厳しいと言われますよね。

 

デイヴ アメリカだと、撮影の許可をもらえば、警察が一般の車を停めるなどの協力もしてくれるんですが、それが日本では難しいということを初めて知りました。でも今回のチームは本当に優秀で、ロケ地の交渉も頑張ってくれましたし、事前準備も素晴らしくて。日本ならではの景色をたくさん撮ることができました。外国人監督でこういう経験をできたのは本当にラッキーでした。

 

──光と闇を効果的に使った撮影など、映画に引けを取らない映像美にも圧倒されました。

 

デイヴ 僕自身、ほぼ映画しか撮ったことがないですし、スタッフも映画畑の人たちが中心でした。最初から劇場で公開しても遜色のないクオリティの映像を目指していましたし、撮影監督の江原祥二さんにも一切の妥協をせずに撮影していただきました。あと配信ドラマって自由度が高いんですよね。途中でコマーシャルを入れたり、各話を50分に統一したりみたいな縛りがないからこそ、撮り方も自由なんです。編集の面でも、映画的なリズムやテンポで繋ぐことができました。

 

──デイヴ監督の他に、瀧本智行監督、村尾嘉昭監督でエピソードを分けて演出されていますが、監督同士のコミュニケーションは円滑でしたか。

 

デイヴ 本作りの段階から話し合って、お二人の意見を聞かせていただいたので、同じ方向を向いていましたし、大きな認識のズレもなく、やりやすかったです。そもそも村尾さんは、賢人さんとともに原案者の一人なので、最初からチームとして一緒に動いていました。6、7話を担当した瀧本監督もベテランで、いろんな経験と知識がある方だから、僕にとっても勉強になりました。二人には、とても感謝しています。

 

──シーズン1を終えて今思うところを教えてください。

 

デイヴ 『忍びの家』は僕にとっても特別な作品で、みんなが楽しく見られる作品を作るためにストーリーテラーになったんだと改めて実感できました。最終話で、ちょっとずつ世界が広がっていくシーンがありますが、次の展開を期待させますし、もっともっと現代社会にうごめく忍びの世界を見せていきたいです。

 

 

Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」

Netflixにて世界独占配信中

 

(STAFF&CAST)
原案:賀来賢人 村尾嘉昭 今井隆文
監督:デイヴ・ボイル 瀧本智行 村尾嘉昭
脚本:デイヴ・ボイル 山浦雅大 大浦光太 木村緩菜
エグゼクティブ・プロデューサー:佐藤善宏(Netflix)
プロデューサー:神戸明

出演:賀来賢人 江口洋介 木村多江 高良健吾 蒔田彩珠 吉岡里帆・ 宮本信子 ・田口トモロヲ 柄本時生 嶋田久作 ピエール瀧 筒井真理子 番家天嵩

 

取材・文/猪口貴裕

水瀬いのり「苦境を乗り越え、なんとか生き抜こうとする恐竜たちの姿に強く心を動かされました」映画「恐竜超伝説2 劇場版ダーウィンが来た!」

NHKで放送中の人気自然番組『ダーウィンが来た!』の劇場版第5弾が3月8日(金)より公開。今回スポットを当てたのは、いまだ多くの謎に包まれた恐竜たち。太古の大陸・ゴンドワナを舞台に、新たな説を交えて彼らの生態に迫っている。そこで、過去2作に続き、今回もナレーションを務めた水瀬いのりさんにご登場いただき、見どころを直撃。知られざる世界を一足早く体験した彼女に、作品や恐竜への思いをうかがった。

 

水瀬いのり●みなせ・いのり…12月2日生まれ。東京都出身。NHK『ダーウィンが来た!』放送内の次回予告アニメ『マヌ~ルのゆうべ』にてツノゼミのツノミン役を担当。主な出演作に「心が叫びたがってるんだ。」(成瀬順役)、「Re:ゼロから始める異世界生活」(レム役)、「五等分の花嫁」(中野五月役)など。9月15日(日)より兵庫県を皮切りにライブツアーも開催。公式HPXInstagramLINEYouTube

 

【水瀬いのりさん撮り下ろし写真】

 

時代を超えて少しずつ解明されていく恐竜たちの研究内容にロマンを感じました

──『劇場版ダーウィンが来た!』シリーズで水瀬さんがナレーションを担当するのはこれで3作目になります。今回は“恐竜”がテーマになっていますが、完成した作品をご覧になってどのような印象を持ちましたか?

 

水瀬 《命》を軸に、恐竜たちの生態に関するさまざまな説を描いた作品でしたので、驚きと新鮮さでいっぱいでした。そもそも私の中で恐竜というと、動物園や水族館で出会える動物ではないので、どこかしら空想の世界にいる生き物のようなイメージがあったんです。博物館などに展示されている骨を見て、“本当にこんなにも大きな生き物がいたんだ!?”と実感することはあっても、実際に恐竜たちが大自然の中で暮らしている様子までは、なかなか想像ができなくて。でも、今作にはいろんな恐竜たちが登場し、彼らがどんな生活をして、自然と共存していったかが描かれているんです。ひと言で恐竜といっても、肉食系か植物食系かによって行動の仕方が異なりますし、そうしたところからも、改めて恐竜たちも私たち人間と同じようにいろんな生き方があったんだなと知ることでき、本当に勉強になることばかりでした。

 

──爬虫類っぽい色合いの恐竜たちだけでなく、それぞれ皮膚の色や柄にも個性や特徴があって驚きました。

 

水瀬 そうなんです。意外とカラフルできれいなんですよね。今作には2022年に報告されたばかりの新しい話が盛り込まれていたりと、最新の研究結果も反映されていて、そこも見どころの一つになっています。恐竜に関する研究や調査は日々、世界中で行われていて、過去に発掘したものと新たに発見された情報がジグソーパズルのようにはまり、今まで分からなかったことが明らかになっていく。そこがすごく面白いですよね。それに、自分たちが見つけた調査内容が今はまだ謎だらけでも、未来の研究者たちにとっての解明の糸口になるかもしれなくて。そうした、“過去”と“現在”と“未来”の全てが一つに繋がっているというところにもロマンを感じました。

 

──ナレーションの作業はいかがでしたか?

 

水瀬 やはり《命》がテーマになっていますので、ドラマチックな部分もあり、原稿を読みながらいろんな興味が湧いてきましたね。特に印象的だったのが戦いのシーンでした。私にとって恐竜同士の争いというと、縄張り争いであったり、食料にするために相手を倒すというイメージが強かったんです。でも、この作品では彼らにも家族があり、守るべきものがあるからこそ戦っているといった姿も描かれている。それに、彼らの中には“なんとしてでも生き延びるんだ”という本能的な強い思いがあり、そのことが彼らの生態をも進化させたり、知恵を使った戦い方を見いだしていったんだということがよく分かりました。そうした、凶暴さだけではない恐竜の一面も、ぜひ映画を通して感じ取っていただければなと思います。

 

──確かに、凶暴さで知られるティラノサウルスでさえもしっかりと子育てをしていたかもしれないという説は意外性がありました。

 

水瀬 ティラノサウルスって怖い印象しかなかったのに、彼らにも母性や父性があるんだと思うと親近感が湧きますし、かわいいなって思っちゃいますよね(笑)。それに、子どもを守る方法が恐竜の種類によってさまざまであるところも非常に興味深かったです。中には、敵に食べられないように歯が欠けるほど硬い殻で覆った卵を生む恐竜もいて。しかも、それほどまでに硬い卵をどうやって孵化させるんだろうと思っていたら、火口近くの地熱を利用して温めていくんです。誰かに教えられたわけでもないのにそうした工夫を身に着けていく姿を見ていると、生き物が持っている普遍的な本能って本当にすごいなと改めて感じましたね。

 

リアルな映像を観ていたら、この世界に行ってみたくなりました

──また、今作ではそんな恐竜たちが生存していた場所である超巨大大陸・ゴンドワナが舞台となっています。かつて存在していたこの大陸のことはご存知でしたか?

 

水瀬 私は初めて知りました。昔、南米やアフリカの大陸が一つに繋がっていたという話は聞いたことがあったのですが、その大陸を「ゴンドワナ」と言うんですよね。この映画では35m級の大きさがある植物食恐竜のプエルタサウルスに焦点を当て、彼らがゴンドワナ大陸でどう暮らしていたかも描いているのですが、その行動には感情移入するところがたくさんありました。衝突の冬の寒さにも負けず、食べ物を探してなんとか生き抜こうとする姿に心を打たれましたし、そうやって恐竜やいろんな生き物たちが命を繋いできてくれたから、今の私たちがあるんだなって。それを思うと、途方もない昔の話なのに恐竜たちのことを身近に感じられましたし、なんだか不思議な気持ちにもなりましたね。

 

──巨大隕石が地球に衝突したことで氷河期のような時代、衝突の冬に突入し、その結果、恐竜たちが絶滅したものだと思っていましたが、実はそうした環境下でも一部の恐竜は生き延びていたかもしれないという説は見ていて勇気をもらいました。

 

水瀬 この映画の監修をされている小林(快次)先生や植田(和貴)監督から聞いたお話では、もしかすると衝突の冬の期間がそれほど長くはなかったかもしれないという説があるんです。だから、生き抜くことができた恐竜たちがいたのかもしれない、と。でも、そうであれば、“恐竜たちが絶滅した原因は一体何だったんだろう?”という新たな謎が生まれますよね。

 

──確かに!

 

水瀬 その答えは私には分からないのですが、けどこうやって、一つの有力な仮説が生まれるたびに新しい解明に繋がったり、逆に別の謎が生まれたりするのが、本当に面白いなと思いました。

 

──未解決のことが多いだけに、小さなお子さんたちが映画を観ると、豊かな想像力で大人とはまた違った感想を持ちそうですよね。

 

水瀬 そう思います。この映画をきっかけに、もっと恐竜やこの時代のことを知りたいと思う子もたくさん出てくるでしょうし。それに、そうやって何かに興味を持つことって、探究心を養うことにも繋がっていくし、それがやがて趣味であったり、やりたい仕事に向かって動き出すための原動力にもなるんじゃないかなって思うんです。もちろん、お子さんに限らず、大人の方でも好奇心をくすぐられる作品だと思います。実際に私も映画を観た後で、恐竜図鑑を買いたくなりましたから(笑)。その意味でも、ぜひ多くの方に観ていただきたいですね。

 

──特に恐竜たちの迫力ある映像は映画館で体感してもらいたいです。

 

水瀬 本当に! 大きなスクリーンだと目の前に等身大に近い恐竜が現れて、本当に実在するようにも見えるでしょうし、没入感も半端ないと思います! きっと劇場版でやる意味もそこにあるんだろうなと感じました。それに、この映画で描かれている恐竜自体は精密なCGですが、本物の景色を背景に合成しているので、どのシーンもすごくリアルなんですよね。現実にある世界なんじゃないかと錯覚して、私もちょっとだけあの中に入ってみたいなって思いました。怖いから、行くにしてもほんのちょっとだけでいいんですけど(苦笑)。

 

──(笑)。もし行けたら何をしてみたいですか?

 

水瀬 植物食恐竜は大人しそうなので、彼らの首や背中に乗ってみたいですね。そんなに簡単に懐いてくれるとは思いませんが(笑)。近づこうとして、尻尾で追い払われて終わりでしょうし(笑)。でも、映画の中では恐竜たちも目を合わせてコミュニケーションを取っていたかもしれないと描かれていたので、もしかしたら相手を思いやる感情があったのかもしれなくて。そう考えたら、恐竜たちと仲良くなれる可能性もあるのかなって、そんなことも夢見てしまいますね。

 

日々、アロマオイルの効果を実感しています

──最後に、水瀬さんが最近ハマっているモノを教えていただけますか?

 

水瀬 少し前からアロマオイルにハマっています。いろんな種類が入ったキットを購入し、香りだけでアロマの名前を当てるということを夜な夜なしています(笑)。また、その日に一番ピンときた香りをディフューザーに入れて眠るのも楽しみの一つになっていますね。

 

──日によって好みの香りが変わるんですか?

 

水瀬 そうなんです。昨日はすごく好きな香りだったのに、今日嗅いでみたらあまり気持ちに刺さらなかったり。きっと自分の体調や自律神経が左右しているのだと思うのですが、そうした感じ方の違いがあるのも面白いです。また、種類によってはバスソルトに香りづけをしてお風呂で使えるモノであったり、殺菌作用や免疫力向上の効果をもたらすオイルもあるので、今はいろいろと試している最中です。

 

──実際に効果は感じられますか?

 

水瀬 びっくりするぐらい違いますね。寝付きもよくなりましたし、疲労回復具合もこれまでとの違いを感じます。きっと好きな香りに包まれていると自然と呼吸も深くなるので、そのことでぐっすりと眠れているというのもあるんでしょうね。

 

──なるほど。では、いろいろと試しながら、アロマオイルごとに自分にとってどんな効果があるのかを調べてみるのも面白そうですね。

 

水瀬 確かに! そうやって統計を取っていくことで、“私の緊張緩和オイル”みたいなのが作れるかもしれませんし(笑)。「明日は緊張と仲良くなるぞ!」みたいな日の前夜は気持ちが上がる香りを調合してみたり。組み合わせによって本当にいろんな香りが作れますよね。

 

 

恐竜超伝説2 劇場版ダーウィンが来た!

2024年3月8日(金)全国ロードショー

 

【映画「恐竜超伝説2 劇場版ダーウィンが来た!」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
監督:植田和貴
監修:小林快次
エンディングテーマ:MISIA
制作:NHKエンタープライズ
映像提供:NHK

ナレーター:水瀬いのり
ヒゲじい:龍田直樹

(STORY)
今から6600万年前、太古の大陸「ゴンドワナ」には、40mにも達する超巨大植物食恐竜・プエルタサウルスや10m級の肉食恐竜・マイプなどが生存し、生きるために死闘を繰り広げていた。ところが、巨大隕石の衝突によって彼らの生活環境は一変。火災や寒冷化が地球上のいたるところで起き、生き物たちは絶滅の危機に瀕する。しかし、そんな環境下でもたくましく生き抜こうとする恐竜たちがいた……。

(C)「恐竜超伝説2 劇場版ダーウィンが来た!」製作・配給 ユナイテッド・シネマ

 

撮影/干川 修 取材・文/倉田モトキ

DIY未経験だったノンフィクション作家・川内有緒さんが語る「小屋作りの楽しさ」

ノンフィクション作家の川内有緒さんが、山梨県に小屋を作る過程を記した、モノづくりエッセイ『自由の丘に、小屋をつくる』。東日本大震災をきっかけに、既存の価値観に疑問を抱き、自分の無力さも自覚。子どもが出来たことでその思いが深まり、この困難な時代を娘が生き抜くために自分にできることは何なのかを考えた末にたどり着いたのが、「小屋を作る」こと。もともと不器用でモノづくりが苦手だったという川内さんが、実家のDIYリノベ―ションを経て、山梨の丘に土地を見つけて小屋作りに向かうまでの過程を伺いました。

 

川内有緒●かわうち・ありお…ノンフィクション作家。1972年東京都生まれ。映画監督を目指して日本大学芸術学部へ進学したものの、あっさりとその道を断念。行き当たりばったりに渡米したあと、中南米のカルチャーに魅せられ、米国ジョージタウン大学大学院で中南米地域研究学修士号を取得。米国企業、日本のシンクタンク、仏のユネスコ本部などに勤務し、国際協力分野で12年間働く。2010年以降は東京を拠点に評伝、旅行記、エッセイなどの執筆を行う。『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』(幻冬舎)で新田次郎文学賞、『空をゆく巨人』(集英社)で開高健ノンフィクション賞、『目の見えない白鳥さんとアートを見に行く』(集英社インターナショナル)でYahoo!ニュース本屋大賞 ノンフィクション本大賞を受賞。ドキュメンタリー映画『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』の共同監督も務める。公式サイト公式X

 

【川内有緒さん撮り下ろし写真】

 

自分でこれはどうやるのかを考えたときに、初めて主体的な学びがあった

──昨年10月に発売した最新刊『自由の丘に、小屋をつくる』は、どういう経緯で執筆したのでしょうか。

 

川内 もともとは『熱風』(スタジオジブリ出版部)という雑誌から「何か書きませんか」というお話があって、1回だけ旅に関する長めのエッセイを書いたんです。その後も「何かやりたいですね」ということになって、雑談しているうちに「今、小屋作りをやっている」とお話したら、「それをやりましょう」と言ってくださって「丘の上に小屋を作る」という連載が始まりました。

 

──連載開始当初は、どれぐらい小屋作りが進んでいたんですか。

 

川内 そのときは影も形もなくて、実家のリフォームもやる前でした。この本には収録されていないんですが、土地を探している段階が長かったんです。そういう話も連載では書いていたんですが、本にするときに全部省略しました。

 

──連載当初は実際に小屋が完成するかどうかも分からないですよね。

 

川内 そういう状態だったので、連載も不定期がいいんじゃないかと言ってくれて、何かが起きたら書けばいいということだったので、それだったらやれるかもということで、2か月から3か月に1回だけ、長い原稿を書いていくというのを繰り返していました。

 

──リアルタイムだからこそ、記述も詳細なのでしょうか。

 

川内 それもありますし、文字数が多くて大丈夫だったので、細かく書ける余裕があったんですよね。後から振り返って書いていたら、こんなに細かく書かなかったかもしれないですね。

 

──もともとDIYなどの物作りは苦手だったんですよね。

 

川内 得意じゃないし、好きでもないし、むしろ避けてきたところがあって、自分がやらなくても済むことはやらないまま生きてきました。フィールドワークは結構やってきたんですけど、仕事はパソコンの中で完結しますし、何かを作るのは自分の中で苦手意識がありました。モノづくりができる人への憧れみたいなものはすごくあって、克服というほど大袈裟なことではないけど、小屋を作ろうと。

 

──なぜ小屋作りだったのでしょうか。

 

川内 娘が生まれたのもあって、「買う」ではなく「作る」という新たな選択肢を手に入れられたら、自分たちの生き方にも変化が生まれるかもしれないと思ったんですよね。

 

──その第一歩を踏み出すハードルが高いですよね。最初は木を真っすぐ切るだけでも苦戦しますし。

 

川内 最初は何も分からないので、「木を切る……」って感じですよね。だから手始めに娘の机を作ろうと思って、早稲田の「DIYがっこう」という場所に通いました。木はこういう道具で切るんだとか、木を直角に切るのって難しいんだとか、そういうところから始まって。いっぱい失敗しながら、ちょっとずつ習得していきました。

 

──男子は小学・中学で技術の授業がありますけど、女子はのこぎりなどに触れる機会はなかなかないですからね。

 

川内 そういうことを覚えなくても生きられるんですよね。お金で買えばいいわけだから、必要があるのかないのかを聞かれたら、ないんだけど、いざ覚えてみたら、これは全員が習得していい技術なんじゃないかなと思いました。スマホやパソコンと同じように使えることができたら、いろんなことが楽になる技術なんですよね。

 

──日常生活でも普通に活かせる技術ですからね。

 

川内 誰の生活にも直結しているんだけど、できないと思うと、誰かにやってもらわなきゃとか、お金を払わなきゃとなります。でも、ちょっと覚えたら、いろんなことができるんです。

 

──DIYがっこうはどんなところだったんですか。

 

川内 工房に家具職人の先生的な方が一人いて、聞けば何でも教えてくれるけど、一から教えますよっていう訳じゃなくて、それが個人的にすごく良かったんです。ただ教えられたことをやるって、おそらく身につかないんですよ。自分でこれはどうやるのって考えたときに、初めて主体的な学びがあって。あえてDIYがっこうがそうしていたのかは謎なんですけど、「ここがどうしても分からないんですけど」と聞くと、「こうするといいですよ」と快く何でも教えてくれるんです。この本には出てこないんですが、最後は大きな建具も作っていたんですよ。それぐらい大きいものだと少し計算が狂うだけでも後で大変になるので、「正確に作りたいんです」と言うと、そのやり方も教えてくれました。

 

──事前にそういう学校だと知っていたんですか?

 

川内 全く分からなかったです。DIYがっこう自体が始まったばかりで、開校して1、2か月でやってきたのが私だったらしくて、向こうも試行錯誤していたんだと思います。DIYがっこうは途中でなくなったんですけど、私は最初から最後までいました。トータルで2年ぐらい通ったんですが、土地を探しながら、いろんな家具だの建具だのを作り続けて、小屋の建前をやる頃も通っていました。今振り返ると、いろいろなことを学びましたね。

 

実家のDIYリノベ―ションをやったのが大きかった

──『自由の丘に、小屋をつくる』を読んでいると、ここぞというタイミングで手伝ってくれる人やアドバイスしてくれる人が登場する印象で、まるでマンガのようでした。

 

川内 DIYがっこうに通っていたときは、コツコツ自分一人で作るのかなと思っていて、「一人で家を建てました」みたいな本もたくさん読んでいたんです。こういうふうに孤独に耐えながら作るのかな、みたいな未来をイメージしていたんですが、本当にどうしていいのか分からない。そしたら夫の友人で一級建築士のタクちゃん(皆川拓さん)が最初に現れて、いろいろ教えてくれて。他にも本には出てこないんですけど、私はアーティストの知り合いが多いから、方々で小屋作りをしたいと言ってたら、いろんなことを周りが教えてくれるんですよね。

 

──仕事柄、いろいろな職業の方と知り合う機会も多いですしね。

 

川内 小屋作りの前に、恵比寿にある実家のDIYリノベ―ションをやったのも大きくて。都心だから、手伝いに来てくれる人がいて。全然意図してなかったんですけど、そこに来た人たちが、その後の小屋作りにも来てくれるきっかけになったんです。

 

──なかなか自分から踏み出せないけど、潜在的にDIYをやりたいって人は多いんでしょうね。

 

川内 そうだと思います。本気でやりたいわけじゃないし、道具を揃えるのはハードルが高いけど、ちょっと手伝ってみたいという人は多くて。DIYリノベ―ションの後も、実際に来る人は限られていたけど、手伝いたいと連絡をくれる人はたくさんいました。

 

──一日体験みたいな感覚なのかもしれないですよね。

 

川内 例えば、お金はないけど、家をリフォームして綺麗にしたい人がいたら、どんどんやったらいいんですよ。大工さんにちょっとした謝礼を支払えば、やり方を教えてくれますし、材料を揃えて、手伝ってくれる友達を3人ぐらい集めればできるんです。

 

──土地探しは難航しますが、2017年2月、発酵デザイナーの小倉ヒラクさん、フリーランスの編集者/ライターの小野民さん夫妻の紹介で、山梨県甲州市に理想の場所が見つかります。

 

川内 本当に運が良かったとしか言いようがないです。ヒラクさん一家が山梨に移住して1年後ぐらいのタイミングだったのかな。たまたま使っていない土地が家の近所にあるから、そこを使っていいというお話で。土地を放っておくと、見た目もよくないし、草木が繁茂して、虫が増えたり、獣が来たりするから、集落の人たちも土地の手入れをしていてほしいんですよね。

 

──地元の人たちにあいさつ回りなどはしたんですか。

 

川内 しなかったんですけど、地元の方はヒラクくん一家を知っているから、みんな声をかけてくれました。それに周りも自分で家を作った人たちがいたんですよ。近所にカフェがあるんですけど、そこもセルフビルドで建てていて。いろんなアドバイスをしてくれて、皆さんよくしてくださいます。近所の人に「うるさくてごめんなさい」と言ったときも、「賑やかでいいわね」って言ってくれました。

 

──イノシシとかは出ないんですか。

 

川内 いるみたいですけど、まだ見たことはないですね。山の中にある集落なので、すぐそこは山だけど、民家もあって開けているんです。

 

──夫婦でお仕事をして、子育てもあって。山梨に行くのも大変じゃないですか。

 

川内 大変ですね。小屋作りを始めた頃は、娘も2歳とちっちゃかったから、娘を連れてどこかに行くだけでも疲れるオペレーションで。娘を手伝わせるのも難しいから、2日間あったら、1日は作業で、1日は遊びという感じで、遊びを兼ねて行ってました。

 

──車じゃないと行けない場所なんですか。

 

川内 そうですね。でも東京から車で行くと、あまりに渋滞がすごくて……。何回も何回も渋滞に巻き込まれて、もう二度と行きたくないって思うんですけど、何か月かすると忘れて、また渋滞に巻き込まれて嫌気がさすというのを繰り返して。今は杉並区に引っ越したので、山梨も近くなりましたし、いろんな行き方を試した結果、ゴールデンルートも見つかりました。そんなことをやっているうちに電車って素晴らしいと思って、電車のことが大好きになりました(笑)。

 

──山梨を生活の拠点にする選択肢はなかったんですか。

 

川内 地方への移住は考えてなかったんですよね。あくまで小屋を作る遊びをしてみたかったんです。

 

──小屋の中にはどれぐらいの人数が泊まれるんですか?

 

川内 そんなに入れないです。6畳ですから、家族3人プラス1人ぐらいですね。

 

──個人的にトイレ作りを記した章が大好きなんですけど、やっていて楽しかった作業は何ですか。

 

川内 トイレ作りの章は、本を読んだ方から人気がありますね。ただ、どの作業もだんだん楽しくなるんですよ。ゼロから1を立ち上げていくのが、道具もないし、材料も分からない、やり方も分からないで、一番疲れるパートなんです。作業はもちろん、暑い、寒い、渋滞など、いろんなことが初めての経験で本当にしんどくて。でも最初はやる気があるから乗り切れて。建前が終わった後は、ずっと楽しいです。建前が終わると、屋根は急ぎましたけど、あとは積み上げていけばいいので、そこまで急いでやらなきゃいけない作業ってないんですよ。

 

──完成までの期限も決めてないんですよね。

 

川内 決めなかったですよね。決めると、それに合わせなければいけないので、仕事みたいになって疲れるじゃないですか。だからそういうことは考えずに、来週は山梨に行けるから何をやろうか? みたいな。

 

小屋作りや草刈りなど一日中、肉体労働をすると元気になる

──モチベーションが落ちることはなかったですか。

 

川内 何回も投げ出そうとしました(笑)。行ったけどモチベーションが上がらない日もあって、小屋に着いたけど何もやりたくない。でも誰かしらが手伝いに来るので、「今日はやる気が起きなくて」と言うと、「じゃあ休んでいればいいじゃないですか」と。私がいなくても、自走が始まっているんですよ。「別に有緒さんは何もやらなくていいんじゃないですか?」みたいに言われることもあります(笑)。

 

──連載に逐一、途中経過を記しているのも大きかったのではないでしょうか。

 

川内 確かに書くこと自体がモチベーションになるっていうのもあって。書くためにやる訳じゃないんだけど、書こうと思うと、「じゃあやるか」みたいなときもありました。ただ、こんなに長期間、連載をするなんて連載を頼んだ編集者も想像していなかったと思うんですよね。私自身、不定期連載といっても、せいぜい5、6回、1年ぐらい書いて終わるだろうと思っていたのが、1年経っても小屋の影すら見えずで、仕事が忙しい、コロナ禍でいろいろあってとか言ってるうちに、気付けば約5年の長期連載。連載が終わった時点で、文字数は30何万字とかあったんですよ。本にする際に15万字ぐらいにしなければいけなくて、書き下ろしだったら、こんな文字量にはなっていなかったですね。

 

──今も小屋作りは継続しているんですよね。

 

川内 そうなんです。行くと、これやらなきゃなっていうことがいっぱいあって。

 

──ホームセンターは近くにあるんですか。

 

川内 一番近いところだと車で10分ぐらいの場所にあります。「コメリ」と「ナフコ」という2つのホームセンターがあって、大きなものが必要なときはナフコに行って、ビス程度のちょっとしたものはコメリに行ってます。

 

──道具などへのこだわりはありますか?

 

川内 全くないです。マキタはかっこいいな、くらいで。そもそも何に関してもこだわりの少ない人間なんですよね。

 

──夫の川内イオさんもそうなんですか。

 

川内 彼もざっくりした人です。ざっくり同士で、お互いに細かいことを言わないから、事前に話し合わなくても大丈夫なんですよ。いつも彼がホームセンターに行ってくれるんですが、例えば無色透明の塗料を頼んだのに、全く違うものを買ってきちゃったりするんです。でも「これじゃないんだけど、まあいいや」って一瞬で受け入れて、一部の壁の色がちょっと違う色になったりして。手伝いに来てくれた人から、「なんてこだわりがない人たちなんだろう。だからやっていけるんですね」と言われます(笑)。

 

──お子さんは山小屋を気に入っているんですか?

 

川内 気に入っていると思いますよ。毎回一緒に行きますし。それにヒラクくんの娘さんがうちの子と半年違いで、すごく仲が良いので、ずっと一緒にいたがるんですよ。1歳のときから定期的に遊んでいて、一緒に小屋の中で過ごしたり、お散歩に行ったりして、従姉妹みたいな関係なんですよね。山小屋のヒラクくんの家が徒歩で1、2分で行けるので、距離感もいいんです。

 

──都会からIターンした人が、地元の人とトラブルになるって話もよく聞きますけど、ほどよい距離感ですよね。

 

川内 住んでいる人の数が少ないということもあります。ヒラクくん一家は定住していますけど、隣の家の人も二拠点生活で、たまにしか来ないし、反対側にある家も住んでいなくて、畑しか使ってないんです。東京から近いので、地元の人たちも外から来る人を受け入れてくれて、ほのぼのしていますね。

 

──小屋作りを始めて、仕事のスタンスに変化はありましたか。

 

川内 仕事って永遠にできちゃうから、この週末は小屋作りをするから仕事をしないって決めると休みになりますよね。山梨では小屋作り以外にも草を刈るなどの作業が一日中あるんですけど、肉体労働をすると逆に元気になるんです。私の仕事は、やたらと移動は多いですけど、あまり体は動かしません。だから、たまに肉体労働をするとヘトヘトになりますが、とにかく体を動かしているから、東京に帰ってくると疲れたなと思いながらも、何かエネルギーが湧く感じがします。

 

toolboxの商品は初心者でも簡単におしゃれなDIYができる

──東京でDIYをすることはあるんですか。

 

川内 ありますよ。ただ家具を作るにしても、東京は場所がないので、工房に行くなり、なんなりしないと作業が難しいんですよね。ただ実家のリフォームがまだ続いていて、昨年も私と妹が使っていた部屋を、妹が事務所として使いたいということで、床を張り直して、壁を綺麗にしたんです。

 

──床の張り直しって難しくないんですか?

 

川内 今はすごく簡単なんですよ。DIYはどんどん進化していて、企業もDIYをやる人たちに寄せてきているから、簡単にできるものがたくさん売っているんです。インパクトドライバーとかもいらないですし、ノコギリさえあればできるという床張り用の資材が売っていて、すごく綺麗にできますよ。業者がやった床張りと比べても遜色がないです。

 

──とはいえ初心者は苦戦しそうですが。

 

川内 手で押しながらパチッとはめると、ロックされる商品なので、端っこの処理は難しいけど、そこを測って正確に切るというスキルさえあれば問題ないです。正確に切るスキルも、すぐに覚えられるから、誰でもできるんですよ。私がお勧めするのはtoolbox(ツールボックス)の商品です。

 

──toolboxというと?

 

川内 「東京R不動産」という不動産会社がDIYを推奨していて、そこが手がけているシリーズです。すごくおしゃれで、そこまで高くない商品がたくさん売っていて。目白にショールームがあるので、そこに行って商品のお話を聞くこともできます。私は初めての床張りのときは、インパクトドライバーを使って本格的にやったんですが、toolboxの商品だとインパクトドライバーすらいらないですし、時間もせいぜい半日ぐらいで完成します。ホームセンターで揃えるとゼロからやらなきゃいけないけど、toolboxは素人でも簡単におしゃれな家を作れるというコンセプトなんですよね、

 

──プレゼンがうまいですね(笑)。

 

川内 toolboxの回し者じゃないですよ(笑)。ただ一人で作業するのはお勧めしません。3人一組ぐらいで、切る人、はめる人みたいに共同作業でやるのがいいですね。DIYを1人でやっていると、修行みたいで、途中で悲しくなってくるんですよ。だからInstagramとかで「1人でDIYをやってます」みたいな投稿を見ると感心します。一番良いのは2人一組か3人一組。あまり人数が多過ぎても、何もやることがない人も出てきちゃうので手持ち無沙汰になるんです。3人ぐらいいると交代しながらできますし、途中でお茶を飲んだりしておしゃべりするのも楽しいですし。切るスキルにしても、3人のうち1人が持っていればいいんですよ。

 

──DIY初心者でも適材適所でやれることはあると。

 

川内 あります。漆喰を塗るとかだったら子どもでもできます。もちろん完璧にやりたい人は、ちゃんとした業者さんに頼んだほうがいいと思うんです。でもDIYは、作る過程を楽しみたいとか、ちょっとうまくいかなかったところも、味になるし、思い出になるよねみたいな気持ちになれる人にお勧めです。

 

 

(インフォメーション)

『自由の丘に、小屋をつくる』

好評発売中!

著者:川内有緒
価格:2200円(税込み2420円)
発売元:新潮社

 

『自由の丘に、小屋をつくる』刊行記念
『手づくりのアジール』増刷記念
川内有緒×青木真兵「自分で自分の居場所をつくる」

日時:2024年3月8日(金)19:00~(開場:18:30)
場所:隣町珈琲
住所:東京都品川区中延3丁目8−7 サンハイツ中延 B1
価格:会場入場料(自由席):¥2,500 オンライン配信(zoomミーティング):¥2,500

※本イベントは会場(隣町珈琲)とオンライン(zoomミーティング)のハイブリットの開催になります。

https://peatix.com/event/3843762

 

 

撮影/武田敏将 取材・文/猪口貴裕

DIY未経験だったノンフィクション作家・川内有緒さんが語る「小屋作りの楽しさ」

ノンフィクション作家の川内有緒さんが、山梨県に小屋を作る過程を記した、モノづくりエッセイ『自由の丘に、小屋をつくる』。東日本大震災をきっかけに、既存の価値観に疑問を抱き、自分の無力さも自覚。子どもが出来たことでその思いが深まり、この困難な時代を娘が生き抜くために自分にできることは何なのかを考えた末にたどり着いたのが、「小屋を作る」こと。もともと不器用でモノづくりが苦手だったという川内さんが、実家のDIYリノベ―ションを経て、山梨の丘に土地を見つけて小屋作りに向かうまでの過程を伺いました。

 

川内有緒●かわうち・ありお…ノンフィクション作家。1972年東京都生まれ。映画監督を目指して日本大学芸術学部へ進学したものの、あっさりとその道を断念。行き当たりばったりに渡米したあと、中南米のカルチャーに魅せられ、米国ジョージタウン大学大学院で中南米地域研究学修士号を取得。米国企業、日本のシンクタンク、仏のユネスコ本部などに勤務し、国際協力分野で12年間働く。2010年以降は東京を拠点に評伝、旅行記、エッセイなどの執筆を行う。『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』(幻冬舎)で新田次郎文学賞、『空をゆく巨人』(集英社)で開高健ノンフィクション賞、『目の見えない白鳥さんとアートを見に行く』(集英社インターナショナル)でYahoo!ニュース本屋大賞 ノンフィクション本大賞を受賞。ドキュメンタリー映画『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』の共同監督も務める。公式サイト公式X

 

【川内有緒さん撮り下ろし写真】

 

自分でこれはどうやるのかを考えたときに、初めて主体的な学びがあった

──昨年10月に発売した最新刊『自由の丘に、小屋をつくる』は、どういう経緯で執筆したのでしょうか。

 

川内 もともとは『熱風』(スタジオジブリ出版部)という雑誌から「何か書きませんか」というお話があって、1回だけ旅に関する長めのエッセイを書いたんです。その後も「何かやりたいですね」ということになって、雑談しているうちに「今、小屋作りをやっている」とお話したら、「それをやりましょう」と言ってくださって「丘の上に小屋を作る」という連載が始まりました。

 

──連載開始当初は、どれぐらい小屋作りが進んでいたんですか。

 

川内 そのときは影も形もなくて、実家のリフォームもやる前でした。この本には収録されていないんですが、土地を探している段階が長かったんです。そういう話も連載では書いていたんですが、本にするときに全部省略しました。

 

──連載当初は実際に小屋が完成するかどうかも分からないですよね。

 

川内 そういう状態だったので、連載も不定期がいいんじゃないかと言ってくれて、何かが起きたら書けばいいということだったので、それだったらやれるかもということで、2か月から3か月に1回だけ、長い原稿を書いていくというのを繰り返していました。

 

──リアルタイムだからこそ、記述も詳細なのでしょうか。

 

川内 それもありますし、文字数が多くて大丈夫だったので、細かく書ける余裕があったんですよね。後から振り返って書いていたら、こんなに細かく書かなかったかもしれないですね。

 

──もともとDIYなどの物作りは苦手だったんですよね。

 

川内 得意じゃないし、好きでもないし、むしろ避けてきたところがあって、自分がやらなくても済むことはやらないまま生きてきました。フィールドワークは結構やってきたんですけど、仕事はパソコンの中で完結しますし、何かを作るのは自分の中で苦手意識がありました。モノづくりができる人への憧れみたいなものはすごくあって、克服というほど大袈裟なことではないけど、小屋を作ろうと。

 

──なぜ小屋作りだったのでしょうか。

 

川内 娘が生まれたのもあって、「買う」ではなく「作る」という新たな選択肢を手に入れられたら、自分たちの生き方にも変化が生まれるかもしれないと思ったんですよね。

 

──その第一歩を踏み出すハードルが高いですよね。最初は木を真っすぐ切るだけでも苦戦しますし。

 

川内 最初は何も分からないので、「木を切る……」って感じですよね。だから手始めに娘の机を作ろうと思って、早稲田の「DIYがっこう」という場所に通いました。木はこういう道具で切るんだとか、木を直角に切るのって難しいんだとか、そういうところから始まって。いっぱい失敗しながら、ちょっとずつ習得していきました。

 

──男子は小学・中学で技術の授業がありますけど、女子はのこぎりなどに触れる機会はなかなかないですからね。

 

川内 そういうことを覚えなくても生きられるんですよね。お金で買えばいいわけだから、必要があるのかないのかを聞かれたら、ないんだけど、いざ覚えてみたら、これは全員が習得していい技術なんじゃないかなと思いました。スマホやパソコンと同じように使えることができたら、いろんなことが楽になる技術なんですよね。

 

──日常生活でも普通に活かせる技術ですからね。

 

川内 誰の生活にも直結しているんだけど、できないと思うと、誰かにやってもらわなきゃとか、お金を払わなきゃとなります。でも、ちょっと覚えたら、いろんなことができるんです。

 

──DIYがっこうはどんなところだったんですか。

 

川内 工房に家具職人の先生的な方が一人いて、聞けば何でも教えてくれるけど、一から教えますよっていう訳じゃなくて、それが個人的にすごく良かったんです。ただ教えられたことをやるって、おそらく身につかないんですよ。自分でこれはどうやるのって考えたときに、初めて主体的な学びがあって。あえてDIYがっこうがそうしていたのかは謎なんですけど、「ここがどうしても分からないんですけど」と聞くと、「こうするといいですよ」と快く何でも教えてくれるんです。この本には出てこないんですが、最後は大きな建具も作っていたんですよ。それぐらい大きいものだと少し計算が狂うだけでも後で大変になるので、「正確に作りたいんです」と言うと、そのやり方も教えてくれました。

 

──事前にそういう学校だと知っていたんですか?

 

川内 全く分からなかったです。DIYがっこう自体が始まったばかりで、開校して1、2か月でやってきたのが私だったらしくて、向こうも試行錯誤していたんだと思います。DIYがっこうは途中でなくなったんですけど、私は最初から最後までいました。トータルで2年ぐらい通ったんですが、土地を探しながら、いろんな家具だの建具だのを作り続けて、小屋の建前をやる頃も通っていました。今振り返ると、いろいろなことを学びましたね。

 

実家のDIYリノベ―ションをやったのが大きかった

──『自由の丘に、小屋をつくる』を読んでいると、ここぞというタイミングで手伝ってくれる人やアドバイスしてくれる人が登場する印象で、まるでマンガのようでした。

 

川内 DIYがっこうに通っていたときは、コツコツ自分一人で作るのかなと思っていて、「一人で家を建てました」みたいな本もたくさん読んでいたんです。こういうふうに孤独に耐えながら作るのかな、みたいな未来をイメージしていたんですが、本当にどうしていいのか分からない。そしたら夫の友人で一級建築士のタクちゃん(皆川拓さん)が最初に現れて、いろいろ教えてくれて。他にも本には出てこないんですけど、私はアーティストの知り合いが多いから、方々で小屋作りをしたいと言ってたら、いろんなことを周りが教えてくれるんですよね。

 

──仕事柄、いろいろな職業の方と知り合う機会も多いですしね。

 

川内 小屋作りの前に、恵比寿にある実家のDIYリノベ―ションをやったのも大きくて。都心だから、手伝いに来てくれる人がいて。全然意図してなかったんですけど、そこに来た人たちが、その後の小屋作りにも来てくれるきっかけになったんです。

 

──なかなか自分から踏み出せないけど、潜在的にDIYをやりたいって人は多いんでしょうね。

 

川内 そうだと思います。本気でやりたいわけじゃないし、道具を揃えるのはハードルが高いけど、ちょっと手伝ってみたいという人は多くて。DIYリノベ―ションの後も、実際に来る人は限られていたけど、手伝いたいと連絡をくれる人はたくさんいました。

 

──一日体験みたいな感覚なのかもしれないですよね。

 

川内 例えば、お金はないけど、家をリフォームして綺麗にしたい人がいたら、どんどんやったらいいんですよ。大工さんにちょっとした謝礼を支払えば、やり方を教えてくれますし、材料を揃えて、手伝ってくれる友達を3人ぐらい集めればできるんです。

 

──土地探しは難航しますが、2017年2月、発酵デザイナーの小倉ヒラクさん、フリーランスの編集者/ライターの小野民さん夫妻の紹介で、山梨県甲州市に理想の場所が見つかります。

 

川内 本当に運が良かったとしか言いようがないです。ヒラクさん一家が山梨に移住して1年後ぐらいのタイミングだったのかな。たまたま使っていない土地が家の近所にあるから、そこを使っていいというお話で。土地を放っておくと、見た目もよくないし、草木が繁茂して、虫が増えたり、獣が来たりするから、集落の人たちも土地の手入れをしていてほしいんですよね。

 

──地元の人たちにあいさつ回りなどはしたんですか。

 

川内 しなかったんですけど、地元の方はヒラクくん一家を知っているから、みんな声をかけてくれました。それに周りも自分で家を作った人たちがいたんですよ。近所にカフェがあるんですけど、そこもセルフビルドで建てていて。いろんなアドバイスをしてくれて、皆さんよくしてくださいます。近所の人に「うるさくてごめんなさい」と言ったときも、「賑やかでいいわね」って言ってくれました。

 

──イノシシとかは出ないんですか。

 

川内 いるみたいですけど、まだ見たことはないですね。山の中にある集落なので、すぐそこは山だけど、民家もあって開けているんです。

 

──夫婦でお仕事をして、子育てもあって。山梨に行くのも大変じゃないですか。

 

川内 大変ですね。小屋作りを始めた頃は、娘も2歳とちっちゃかったから、娘を連れてどこかに行くだけでも疲れるオペレーションで。娘を手伝わせるのも難しいから、2日間あったら、1日は作業で、1日は遊びという感じで、遊びを兼ねて行ってました。

 

──車じゃないと行けない場所なんですか。

 

川内 そうですね。でも東京から車で行くと、あまりに渋滞がすごくて……。何回も何回も渋滞に巻き込まれて、もう二度と行きたくないって思うんですけど、何か月かすると忘れて、また渋滞に巻き込まれて嫌気がさすというのを繰り返して。今は杉並区に引っ越したので、山梨も近くなりましたし、いろんな行き方を試した結果、ゴールデンルートも見つかりました。そんなことをやっているうちに電車って素晴らしいと思って、電車のことが大好きになりました(笑)。

 

──山梨を生活の拠点にする選択肢はなかったんですか。

 

川内 地方への移住は考えてなかったんですよね。あくまで小屋を作る遊びをしてみたかったんです。

 

──小屋の中にはどれぐらいの人数が泊まれるんですか?

 

川内 そんなに入れないです。6畳ですから、家族3人プラス1人ぐらいですね。

 

──個人的にトイレ作りを記した章が大好きなんですけど、やっていて楽しかった作業は何ですか。

 

川内 トイレ作りの章は、本を読んだ方から人気がありますね。ただ、どの作業もだんだん楽しくなるんですよ。ゼロから1を立ち上げていくのが、道具もないし、材料も分からない、やり方も分からないで、一番疲れるパートなんです。作業はもちろん、暑い、寒い、渋滞など、いろんなことが初めての経験で本当にしんどくて。でも最初はやる気があるから乗り切れて。建前が終わった後は、ずっと楽しいです。建前が終わると、屋根は急ぎましたけど、あとは積み上げていけばいいので、そこまで急いでやらなきゃいけない作業ってないんですよ。

 

──完成までの期限も決めてないんですよね。

 

川内 決めなかったですよね。決めると、それに合わせなければいけないので、仕事みたいになって疲れるじゃないですか。だからそういうことは考えずに、来週は山梨に行けるから何をやろうか? みたいな。

 

小屋作りや草刈りなど一日中、肉体労働をすると元気になる

──モチベーションが落ちることはなかったですか。

 

川内 何回も投げ出そうとしました(笑)。行ったけどモチベーションが上がらない日もあって、小屋に着いたけど何もやりたくない。でも誰かしらが手伝いに来るので、「今日はやる気が起きなくて」と言うと、「じゃあ休んでいればいいじゃないですか」と。私がいなくても、自走が始まっているんですよ。「別に有緒さんは何もやらなくていいんじゃないですか?」みたいに言われることもあります(笑)。

 

──連載に逐一、途中経過を記しているのも大きかったのではないでしょうか。

 

川内 確かに書くこと自体がモチベーションになるっていうのもあって。書くためにやる訳じゃないんだけど、書こうと思うと、「じゃあやるか」みたいなときもありました。ただ、こんなに長期間、連載をするなんて連載を頼んだ編集者も想像していなかったと思うんですよね。私自身、不定期連載といっても、せいぜい5、6回、1年ぐらい書いて終わるだろうと思っていたのが、1年経っても小屋の影すら見えずで、仕事が忙しい、コロナ禍でいろいろあってとか言ってるうちに、気付けば約5年の長期連載。連載が終わった時点で、文字数は30何万字とかあったんですよ。本にする際に15万字ぐらいにしなければいけなくて、書き下ろしだったら、こんな文字量にはなっていなかったですね。

 

──今も小屋作りは継続しているんですよね。

 

川内 そうなんです。行くと、これやらなきゃなっていうことがいっぱいあって。

 

──ホームセンターは近くにあるんですか。

 

川内 一番近いところだと車で10分ぐらいの場所にあります。「コメリ」と「ナフコ」という2つのホームセンターがあって、大きなものが必要なときはナフコに行って、ビス程度のちょっとしたものはコメリに行ってます。

 

──道具などへのこだわりはありますか?

 

川内 全くないです。マキタはかっこいいな、くらいで。そもそも何に関してもこだわりの少ない人間なんですよね。

 

──夫の川内イオさんもそうなんですか。

 

川内 彼もざっくりした人です。ざっくり同士で、お互いに細かいことを言わないから、事前に話し合わなくても大丈夫なんですよ。いつも彼がホームセンターに行ってくれるんですが、例えば無色透明の塗料を頼んだのに、全く違うものを買ってきちゃったりするんです。でも「これじゃないんだけど、まあいいや」って一瞬で受け入れて、一部の壁の色がちょっと違う色になったりして。手伝いに来てくれた人から、「なんてこだわりがない人たちなんだろう。だからやっていけるんですね」と言われます(笑)。

 

──お子さんは山小屋を気に入っているんですか?

 

川内 気に入っていると思いますよ。毎回一緒に行きますし。それにヒラクくんの娘さんがうちの子と半年違いで、すごく仲が良いので、ずっと一緒にいたがるんですよ。1歳のときから定期的に遊んでいて、一緒に小屋の中で過ごしたり、お散歩に行ったりして、従姉妹みたいな関係なんですよね。山小屋のヒラクくんの家が徒歩で1、2分で行けるので、距離感もいいんです。

 

──都会からIターンした人が、地元の人とトラブルになるって話もよく聞きますけど、ほどよい距離感ですよね。

 

川内 住んでいる人の数が少ないということもあります。ヒラクくん一家は定住していますけど、隣の家の人も二拠点生活で、たまにしか来ないし、反対側にある家も住んでいなくて、畑しか使ってないんです。東京から近いので、地元の人たちも外から来る人を受け入れてくれて、ほのぼのしていますね。

 

──小屋作りを始めて、仕事のスタンスに変化はありましたか。

 

川内 仕事って永遠にできちゃうから、この週末は小屋作りをするから仕事をしないって決めると休みになりますよね。山梨では小屋作り以外にも草を刈るなどの作業が一日中あるんですけど、肉体労働をすると逆に元気になるんです。私の仕事は、やたらと移動は多いですけど、あまり体は動かしません。だから、たまに肉体労働をするとヘトヘトになりますが、とにかく体を動かしているから、東京に帰ってくると疲れたなと思いながらも、何かエネルギーが湧く感じがします。

 

toolboxの商品は初心者でも簡単におしゃれなDIYができる

──東京でDIYをすることはあるんですか。

 

川内 ありますよ。ただ家具を作るにしても、東京は場所がないので、工房に行くなり、なんなりしないと作業が難しいんですよね。ただ実家のリフォームがまだ続いていて、昨年も私と妹が使っていた部屋を、妹が事務所として使いたいということで、床を張り直して、壁を綺麗にしたんです。

 

──床の張り直しって難しくないんですか?

 

川内 今はすごく簡単なんですよ。DIYはどんどん進化していて、企業もDIYをやる人たちに寄せてきているから、簡単にできるものがたくさん売っているんです。インパクトドライバーとかもいらないですし、ノコギリさえあればできるという床張り用の資材が売っていて、すごく綺麗にできますよ。業者がやった床張りと比べても遜色がないです。

 

──とはいえ初心者は苦戦しそうですが。

 

川内 手で押しながらパチッとはめると、ロックされる商品なので、端っこの処理は難しいけど、そこを測って正確に切るというスキルさえあれば問題ないです。正確に切るスキルも、すぐに覚えられるから、誰でもできるんですよ。私がお勧めするのはtoolbox(ツールボックス)の商品です。

 

──toolboxというと?

 

川内 「東京R不動産」という不動産会社がDIYを推奨していて、そこが手がけているシリーズです。すごくおしゃれで、そこまで高くない商品がたくさん売っていて。目白にショールームがあるので、そこに行って商品のお話を聞くこともできます。私は初めての床張りのときは、インパクトドライバーを使って本格的にやったんですが、toolboxの商品だとインパクトドライバーすらいらないですし、時間もせいぜい半日ぐらいで完成します。ホームセンターで揃えるとゼロからやらなきゃいけないけど、toolboxは素人でも簡単におしゃれな家を作れるというコンセプトなんですよね、

 

──プレゼンがうまいですね(笑)。

 

川内 toolboxの回し者じゃないですよ(笑)。ただ一人で作業するのはお勧めしません。3人一組ぐらいで、切る人、はめる人みたいに共同作業でやるのがいいですね。DIYを1人でやっていると、修行みたいで、途中で悲しくなってくるんですよ。だからInstagramとかで「1人でDIYをやってます」みたいな投稿を見ると感心します。一番良いのは2人一組か3人一組。あまり人数が多過ぎても、何もやることがない人も出てきちゃうので手持ち無沙汰になるんです。3人ぐらいいると交代しながらできますし、途中でお茶を飲んだりしておしゃべりするのも楽しいですし。切るスキルにしても、3人のうち1人が持っていればいいんですよ。

 

──DIY初心者でも適材適所でやれることはあると。

 

川内 あります。漆喰を塗るとかだったら子どもでもできます。もちろん完璧にやりたい人は、ちゃんとした業者さんに頼んだほうがいいと思うんです。でもDIYは、作る過程を楽しみたいとか、ちょっとうまくいかなかったところも、味になるし、思い出になるよねみたいな気持ちになれる人にお勧めです。

 

 

(インフォメーション)

『自由の丘に、小屋をつくる』

好評発売中!

著者:川内有緒
価格:2200円(税込み2420円)
発売元:新潮社

 

『自由の丘に、小屋をつくる』刊行記念
『手づくりのアジール』増刷記念
川内有緒×青木真兵「自分で自分の居場所をつくる」

日時:2024年3月8日(金)19:00~(開場:18:30)
場所:隣町珈琲
住所:東京都品川区中延3丁目8−7 サンハイツ中延 B1
価格:会場入場料(自由席):¥2,500 オンライン配信(zoomミーティング):¥2,500

※本イベントは会場(隣町珈琲)とオンライン(zoomミーティング)のハイブリットの開催になります。

https://peatix.com/event/3843762

 

 

撮影/武田敏将 取材・文/猪口貴裕

ピエール瀧「当たり前がなくなってしまうこと、当たり前を積み重ねていける幸せを感じられる映画にしたかった」映画『水平線』

俳優・小林且弥さんの初長編監督作『水平線』が3月1日(金)より公開。福島県のとある港町で、散骨業を営む主人公・井口真吾を演じるのは、小林監督と『凶悪』で共演したピエール瀧さん。監督との絶大な信頼関係や独自の役作りについてのほか、役柄と同じ一人娘を持つ父親の顔ものぞかせてくれました。

 

ピエール瀧●ぴえーる・たき…1967年4月8日生まれ、静岡県出身。1989年に石野卓球らと電気グルーヴを結成。95年頃から俳優としてのキャリアをスタート。『凶悪』(2013年/白石和彌監督)で、日本アカデミー賞優秀助演男優賞など、数々の賞を受賞。主な出演作品には『怒り』(2016年/李相日監督)、『アウトレイジ 最終章』(2017年/北野武監督)、Netflixドラマ「サンクチュアリ-聖域-」(2023年)など多数。2月15日よりNetflixドラマ『忍びの家 Houseof Ninjas』が配信スタート。XInstagramYouTube

 

【ピエール瀧さん撮り下ろし写真】

 

 監督からは「瀧さんのままでフレームの中にいてください」と言われ……

──『凶悪』で共演者だった小林且弥監督から直接オファーされたときに、「これは断ったらいけないやつだな」と思われたそうですね。

 

瀧 ある日突然、携帯が鳴ったら、小林くんからの久しぶりの着信だったんです。そしたら「今度、初めて長編映画を監督することになったので、主演お願いできないですか?」とお願いされて……。どんな内容かも言われてないですが、彼は『凶悪』で僕の舎弟役をやっていて、ストーリー上では僕に撃ち殺されるんで、そのときの負い目もあって……(笑)。ホントのことを言えば、今まで役者で頑張ってきた彼が人生初の長編映画デビュー作を撮ることになって、直接連絡までしてくれたなら、そういう気持ちには出来るだけ応えるべきだと思いました。それですぐに脚本を送ってもらいました。

 

──監督から送られてきた脚本を読んだときの感想は?

 

瀧 脚本は僕を当て書きに書いてくれたようですが、そんな真吾さんは福島の港町で暮らしていて、特別なヒーローでもないですし、周りの人に大きな影響を与えるような人でもない。逆にさまざまな出来事に巻き込まれていく市井の人を演じてほしいという、監督の意図を感じました。後々になって、監督が「瀧さんに断られたら第二候補がいなかった」と言っていましたけど、そのときはどうするつもりだったんでしょうね?(笑)

 

──瀧さんが演じられた井口真吾には実在のモデルになった方がいらしたとのことですが、役作りはどのようにされましたか?

 

瀧 監督から出演依頼があってからクランクインまであまり時間がなかったんです。なので、仮に役作りのために福島に出向いて現地の方のお話を聞いたところで、それは付け焼き刃にすぎないんじゃないかと思ったんです。あとは「そんな程度の認識の僕がこの役を演じる資格があるのか?」というのは悩みどころではあったので、それを正直に監督に伝えたところ、「そういうことは一切考えず、瀧さんのままでフレームの中にいてください」と言ってくれました。監督は福島で暮らす皆さんからいろんな話を聞いて、状況についてもかなりリサーチしていたので、そこは頼らせてもらいました。

 

僕の苦いような、寂しいような、悲しいような表情が面白いのでは?

──監督から「瀧さんのままでフレームの中にいてください」と言われることでのプレッシャーは?

 

瀧 どうだろう? ただ、娘の奈生(栗林藍希)や事件の被害者遺族など、いろんな人に追い詰められて、困っているときの真吾さんって、だいたい黙っているんですよね。何の言葉も発することもできない。その黙っているときの、僕の苦いような、寂しいような、悲しいような表情が、小林監督にとって面白くもあり、なにか特殊な感覚のものとして映っているんじゃないかと思います。僕自身、寡黙な役が好きって言ったら変ですけど、以前NHKのドラマ「64(ロクヨン)」で、三上さんという警察の広報官役をやったときも、困りに困って、ずっと黙っているキャラクターだったんです。だから、その部分を喜んでくれる層は意外といるのかもしれませんね(笑)。

 

──いつも現場に入る前に心がけていることは?

 

瀧 どの作品でもそうですけれど、作品の中での自分の役割のピークみたいなものを決めて、そこから逆算して演じるようにしています。どんどん積み上げて足していくやり方をしてしまうと、そのピークが来たときに、自分のテンションなり、お芝居の能力が足りてないと台無しになっちゃうんじゃないかと思っているので……。

 

──撮影初日が印象的なスナックのカラオケで、サザンオールスターズの 「勝手にシンドバット」を熱唱するシーンだったそうですね。

 

瀧 この映画って、見終わった後に「これはこうでした」と明確に定義できるような話じゃないんですよね。それは真吾さんを演じた僕もそうで、「なぜ最後にあんな行動を取ったんだろう?」って、どこかで思っているし、 テーマであるSNSやマスコミの在り方についてなど、何が正解かは分からないんです。でも、そういう類の映画であればあるほど、市井の日々の営みみたいなものを丁寧に細かく積み上げていかなければいけないわけで……。真吾さんは確かに不幸な境遇ではあっても、日々下を向いて暮らしているわけでもなく、気心の知れた友だちと一緒にちょっとハメを外すことだってある。それをうまく表現したシーンだと思うし、自分の声量も含めて、本編中一番圧が強いシーンだと思っているので(笑)、初日だったのは良かったのかもしれません。

 

真吾さんが自分の分身のように娘を見ていたところとかよく分かります(笑)

──主演映画だったことで、撮影を振り返っていかがですか?

 

 “座長として”みたいな考えって、僕には全然ないんですよ。みんなで作品を作っていくチームの中で、ちょっと比重が大きいポジションっていうぐらい(笑)。「俺について来い」という気持ちもないですし、監督もそういうものは期待してなかったと思うんです。ただ、撮影期間が12日しかなかったんです。そういう意味では、ほぼテストなし、1テイクで決めるしかない中、「怒涛の撮影をどう乗り切るか?」という緊張感はありましたし、スタッフ一丸となってのチームワークみたいなものが出来上がった作品に出ているかと思います。「ずっと天気であってくれ」と思いつつ、雨が降ったことによってどこか切ない感じになって良かったなと思うシーンもありますし、なんとなく運も味方してくれた現場でしたね。

 

──瀧さん自身も、真吾と同じ娘さんを持つ父親ですが、奈生との関係性や距離感をどのように捉えましたか?

 

瀧 奈生とは状況も環境も違いますが、ウチの娘ももう高校3年ですから、 小学校低学年のときとは関係性が変わりますよね。幸いなことに、ウチは今でも娘とは仲良くしていますが、真吾さんがとんでもない色の原付をプレゼントするとか、自分の分身のように娘を見ていたところとかはよく分かります(笑)。あと、時間がない中で監督とは脚本にはない、まだお母さんがいた頃、震災前に親子3人で楽しく暮らしていた時間を、あざとくない感じで入れようという話をしました。例えば、奈生の部屋に入るシーンは、紙袋を被って「ワーッ!」と言いながら入るようにしてみたらというアイデアを出したり。子供の頃に親子でじゃれ合っていたことって、今思うと幸せでいい時間だったと思うけど、そのときって気づかないんですよね。そんな実際の娘との関係性にもリンクする、当たり前のことがなくなってしまうこと、逆に当たり前のことを積み重ねていける幸せも感じられるような映像にしたかったんです。

 

リトルカブでの一人旅にどハマり

──最近、ハマっているモノを教えてください。

 

瀧 昨年、中学の友だちから譲ってもらったリトルカブですね。お正月に地元の静岡に帰ったときに、「乗ってない原付あったら誰かくれない?」と話したら、1か月後にちゃんと整備してくれたんです。それで東京から持っていったナンバープレートを付けて、一般道で東京まで帰ってきたら、めっちゃ楽しくて(笑)。しかも、静岡から東京までガソリンがたった3リッターだったという燃費のお化けだったことに気付きました。通販サイトで買ったシートやキャリアを使って乗り心地をカスタマイズしたら、そういうとこも楽しくなっちゃって。

 

──ということは、ツーリングも頻繁にされているんですか?

 

瀧 この間は東京から横須賀まで走って、そこで東京湾フェリーで千葉の金谷港まで行った後、無目的に外房に向けて海沿いを走りましたね。それで鴨川まで行ったら、日が暮れちゃったので、観光案内所で海沿いのペンションの素泊まりを紹介してもらって、次の日は朝から房総半島の真ん中を突っ切って、木更津のホテル三日月まで。そこで、うちの草野球チームのメンバーと合流して宴会をやりました。今ではどこまでも行けちゃいそうだなと思っていて、フェリーで四国とか北九州まで行って、ぐるっと走る夢とが膨らんでいます。あと、軽トラならリトルカブを載せられるし、アクアラインも渡れるので、今は軽トラにも注目しています(笑)。

 

──実際に番組として、放送や配信したら面白そうですよね。

 

瀧 それは分かるんですけれど、番組としてやると、例えば金谷港に着いたときに、海鮮丼とか食べなきゃいけないでしょ?  泊まるところも、何となくいい感じの宿を選ばなきゃいけないじゃない? こっちは完全に自由に縛りなしで行きたいから、もうバーミヤンでいいし、小汚い民宿でいいんですよ。

 

 

水平線

3月1日(金)より、テアトル新宿、UPLINK吉祥寺ほか全国順次公開

 

(STAFF&CAST)
監督/小林且弥
脚本/齋藤孝

出演/ピエール瀧、栗林藍希、足立智充、内田 慈、押田 岳、円井わん、高橋良輔、清水 優、遊屋慎太郎、大方斐紗子、大堀こういち、渡辺 哲

(STORY)
震災で妻を亡くした井口真吾(ピエール瀧)は、個人で散骨業を営みながら、水産加工場で働く娘・奈生(栗林藍希)と2人で暮らしている。高齢者や生活困窮者を相手に、散骨を請け負う彼の元に、かつて世間を震撼させた通り魔殺人事件の犯人の遺骨が持ち込まれる。苦しい選択を迫られた真吾は、ある決断を下すことに。

公式HP https://studio-nayura.com/suiheisen/

(C)2023 STUDIO NAYURA

 

撮影/映美  取材・文/くれい響  ヘアメイク/重見幸江(gem)

森高愛「自分が大切にしているものを守りたいと思う気持ちは似ている」映画『ただ、あなたを理解したい』

20代前半の若者たちが現実に、将来に、友情に、恋に悩む姿を描く青春群像劇。自らも俳優として活躍する碓井将大監督による劇場映画初監督作『ただ、あなたを理解したい』が2月23日(金・祝)より公開中。舞台はある地方都市。高校時代、秘密基地に集まっていた幼なじみたちが、上京した仲間の帰郷をきっかけに4年ぶりに再会する。その仲間たちの1人、ななみを演じた森高 愛さんに撮影時のエピソードや役との向き合い方について聞いた。

 

森高 愛●もりたか・あい…1998年1月14日生まれ。埼玉県出身。2009年、『ニコ☆プチ』でモデルデビューし、『ラブベリー』、『ピチレモン』の専属モデルとして活躍。2014年スーパー戦隊シリーズ『烈車戦隊トッキュウジャー』にトッキュウ5号/カグラ役で出演。映画『俺物語!!』、『兄に愛されすぎて困ってます』、ドラマ『アンナチュラル』、『ジャンヌの裁き』などに出演。TikTokでも注目を集めている。公式HPXInstagramYouTubeTikTok

 

【森高 愛さん撮り下ろし写真】

 

仲間たちとのやりとりを大事にして演じました

──ななみという役について、どんな女性だと捉えて演じられたのでしょうか。

 

森高 すごく周りが見える子なんだろうなと思いました。周りが見えて、自分が今一番大切にしているものが明確にあるから、それが壊れそうになると必死に守るんだろうなって。

 

──碓井将大監督とは役柄や演技について、どんなお話をされましたか。

 

森高 一番仲の良い由衣香(伊藤千由李)との掛け合いなど、仲間たちとのやりとりを大事にしていこうって話しました。それからななみはある問題を抱えていて、そこにどれぐらい真摯に向き合うか。多分ななみは真摯に向き合えていないからこそ、今のななみがあるという難しいバランスで演じないといけなくて。監督が「森高だったらどうする?」とか、いろいろ聞いてくださって、話し合いながら進めていきました。役柄については、ななみは地元にずっといて、いろんなことをやりきって飽きているんじゃないかと。ぶっきらぼうさもある子だから、ななみ役を演じるにあたり、髪の内側だけ金髪ぽく染めようということになりました。

 

──碓井監督はご自身も俳優でもあり、今作は劇場映画初監督作となりますが印象的だった演出はありましたか。

 

森高 監督が「こういう感じで」とさりげなく自らやってくださるのがうますぎて、現場で見ていて「おお!」ってなりました(笑)。「もうちょっとこのくらいの間でやってほしい」って具体的に伝えてくださるんですが、セリフを言ってグッとつかむ方法がお上手なんです。監督も俳優さんなので、そういう部分でも勉強させてもらいました。そして出演者にすごく寄り添ってくださいました。例えば消化しきれない部分があったときに、どうして消化できないのかを話し合って、「じゃあここで立ってみたらやりやすくなるんじゃない?」みたいに技術的な部分を提案してくれますし、俳優としての気持ちも分かるからメンタル部分でもケアしてくださってすごく助けられました。

 

1つひとつのことで、「その人」は形成されていく

──他にはどんな役作りを?

 

森高 インする前に監督が、ななみたちが住んでいる街の地図を渡してくれて、「ここが秘密基地で、ここが祐也(鈴木昂秀)の家で、ここを登っていくと桜が見える場所があって。こっちは海で」って、お話に登場する場所を地図で教えてくれました。その地図を見てからインしたので、「私の知っている街だ」って感覚がありましたね。波の音を聞いて育ったとか、この裏通りを行くとすごく近道なんだよなとか、そういうのは実際に住んでいないと分からないじゃないですか。でも地図を見ていたおかげで、多分、この裏通りをななみは使うけど、由衣香は使わないよねとか、そういう細かい1つひとつのことで、「その人」は形成されていくんだなって今回感じました。

 

──ななみを演じて難しいと思ったことはありましたか。

 

森高 康二(比嘉秀海)との距離感がすごく難しかったです。恋人でも友達でもない、どっちつかずの微妙な関係で。だから撮影中は比嘉くんといろいろ話すようにしました。2人でいても話さなくても大丈夫な空間みたいなものを作るのが一番大事な気がしたので、ずっと他愛もない話をしていました。撮影がお休みの日は、朝2人で散歩しながらちょっと話してから現場に行ったり。

 

──森高さんご自身とななみは似ている部分や共通する部分はありますか。

 

森高 ななみほど口は悪くないですけど(笑)、自分が大切にしているものを守りたいと思う気持ちは似ていると思います。ななみは自分が守りたいものの範囲がすごく狭いんですが、私もそうなんです。例えば自分の家族だったり。

 

自分が大切にしていたものの中に入ってきた異物という危機感

──ななみは子供時代に発見した秘密基地で一緒に遊んだ幼なじみたちをすごく大切にしていますよね。だから幼なじみの1人で、東京に行った祐也が連れてきた葵(新谷ゆづみ)に対してキツイことを言ったり。

 

森高 葵に対してななみの中には、自分が大切にしていたものの中に入ってきた異物という危機感がすごくあるんでしょうね。でも、その気持ちは私にも分かるんです。私は友達とその彼氏と一緒にご飯に行こうって誘われると、めちゃくちゃ身構えます。面倒くさいムーブになって、「どこで出会ったんですか」「どこが好きなんですか」とかいろいろ聞いちゃいます(笑)。もちろん自分の大切な人が好きになった人なので大丈夫だろうとは思いつつ、その方の人となりが気になるんですよね。

 

──二日酔いのシーンを含めて、ななみが裕也と康二と飲み明かすシーンが印象的でした。3人の関係性や高校時代の面影が垣間見られるような気がします。

 

森高 あのシーンは監督からもよかったと言っていただいたシーンでもあり、うれしいです。特に何を話しているわけでないのですが……。実は前の日、みんなで実際に二日酔いになったほうがいいのでは? と監督含めて話が出たのでお酒を飲みました。が、緊張からか全く酔わず二日酔いどころか目もバッキバキで撮影に臨みました(笑)。

 

──のどかな風景がいろいろ出てきますが、撮影中はロケ先に滞在されていたのですか。

 

森高 2週間くらい滞在していました。みんなでご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、合宿みたいな感じでした。先に撮影が終わっても、ちょっと残って現場に顔を出して、その後、伊藤千由李ちゃんと2人で自転車を借りてサイクリングしたりしました。

 

3日以上の滞在なら筋膜リリースローラーを持っていきます

──ところで、長期滞在のロケに必ず持っていくものってありますか。

 

森高 そこは40分くらい歩かないとコンビニもなかったので、いろんなものを持っていきましたけど、いつも持っていくのは筋膜リリース棒と筋膜リリースローラーですね。1泊なら棒だけ、3日以上の滞在ならローラーを持っていきます。

 

──2つとなると結構荷物の場所を取りそうですね(笑)。

 

森高 その2つを入れるので、「なんでそんなに大きなキャリーケースなの?」って言われました(笑)。みんな手荷物扱いぐらいの大きさのキャリーだったんですけど。

──その棒と筋膜リリースローラーは1日が終わったら絶対に使う?

 

森高 そうですね。現場にいるとヘンな体勢で座ったりすることがあるので、気がついたらいろんなところがバキバキになっていたり……帰ったらすぐコロコロします。宿泊した旅館が和室だったので、ヨガマットも持って行ったから思う存分コロコロしましたよ。

 

──もう習慣になっているんですね。

 

森高 そうですね。ピラティスをやっているので、始まる前にほぐすためにホームローラーというポールみたいなものを使って筋膜リリースするんです。撮影中は2週間行けなかったから、せめてそれでやらないとっていう感じでした。

 

LE SSERAFIMはウンチェちゃん。もうかわいい!

──ピラティスはどんな頻度で通っているんですか。

 

森高 週2回くらいは行きます。LE SSERAFIMちゃんがやっている動画を見て、「なにこれ、すごい! やりたい」って思って始めました。いろんなスタジオで体験してみたんですけど、家の近くじゃないと続かないと思い、歩いて20分くらいのところで見つけました。いつも20分歩いて行って、1時間やって20分歩いて帰ってます。

 

──では今、ハマっているものや夢中になっているものを教えてください。

 

森高 それこそK-POPが大好きで、何かあればライブに行ってます。

 

──ちなみに好きなグループは?

 

森高 LE SSERAFIMちゃんが一番好きです。あともうすぐデビューする「PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS』で選ばれたME:Iちゃんも気になっています。

 

──推しは決まっているんですか。

 

森高 LE SSERAFIMはウンチェちゃん。もうかわいい! 日本語を話すウンチェちゃんが大好きで。九州で売られている九州だし醤油のポテチを食べて、「なんでこんなにおいしいの!?」って言っている動画を1時間ぐらい延々と見たりしています。本当にそこだけリピートして見ていて、自分でもビックリしました(笑)。見れば見るほどかわいくなってくるんです。

 

──それだけ熱く語れるLE SSERAFIMの魅力とは?

 

森高 仲が良いグループがすごく好きなんですよね。だからわちゃわちゃしていてほしい。アイドルを見て癒されています。でもパフォーマンスをすると、みんなセクシーでパワフルで、そのギャップにもやられちゃいますね。

 

──ファンクラブにも入っていたり?

 

森高 もちろん。ME:Iにも入りましたし、母がSEVENTEENが好きなので、セブチのFCにも入ってるんです。いろんなファンクラブに入っているので、ファンクラブ代がサブスク化しています(笑)。なので、うちはずっと韓国語が流れています。母も私も韓国ドラマも好きだから、帰宅した父が「まーた韓国ドラマか」ってあきれています(笑)。

 

 

 

 

(C)BOKURANOFILM

ただ、あなたを理解したい

2月23日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開中

【映画「ただ、あなたを理解したい」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
監督:碓井将大
脚本:鈴木裕那、渋谷未来
主題歌:MA55IVE THE RAMPAGE『ガーベラ』(rhythm zone)

出演:鈴木昂秀、野村康太、新谷ゆづみ、森高 愛、比嘉秀海、伊藤千由李、山本愛香、吉田晴登、城 夢叶、高橋ひとみ ほか

(STORY)
幼なじみの祐也と春樹、由衣香は、高校生になっても子どもの頃に見つけた秘密基地で他愛のない時間を過ごしていた。卒業後、祐也は役者になることを夢見て上京。一方、残った仲間たちは、時が止まったままのような秘密基地で現実逃避のような日々を送っていく。そんなある日、4年ぶりに祐也が恋人を連れて帰省する。思わぬ再会に、再び彼らの時間が動き出していく……。

公式サイト:https://tadaanata-movie.com/

(C)BOKURANOFILM

 

撮影/中村功 取材・文/佐久間裕子

俳優・大島優子が今ハマっているコト。逆に“オススメしない”モノとは⁉ 映画『マダム・ウェブ』インタビュー

マーベル初の本格ミステリー・サスペンス映画『マダム・ウェブ』が、2月23日(金)に日本公開。突如として未来予知能力に目覚める主人公キャシー・ウェブ(後のマダム・ウェブ)の吹き替え版を、第1子を出産したばかりの大島優子さんが務めた。マーベル作品の大ファンだという大島さんには、女子のチーム経験の話から出産の話までたっぷりとインタビュー。続けてGetNavi web恒例の今ハマっているモノ・コトについて聞いた。

大島優子●おおしま・ゆうこ…1988年10月17日生まれ。栃木県出身。2006年にアイドルグループ・AKB48に第2期生として加入。“神7”と呼ばれグループを牽引した。2014年6月のAKB48卒業後は俳優として活躍しており、NHK連続テレビ小説『あさが来た』(2015)をはじめ、NHK大河ドラマ『青天を衝け』(2021)、日本テレビ系ドラマ『ネメシス』(2021)、映画『とんび』(2022)などに出演。私生活では2021年7月に俳優の林遣都と結婚し、2023年1月に第1子出産を発表した。XInstagram

 

「自宅をより居心地よくすることが好き」

 

──大島さんは、最近何かハマっていることはありますか?

 

大島 これといったモノはないのですが、自宅をより居心地よくすることが好きで。収納の仕方をいつでも考えていて改良を重ねています。どれだけスペースにシンデレラフィットするかにこだわったりとか!(笑)。そのために、自分でDIYもするんですよ。

 

──おお! それはすごい。最近は何を作られましたか?

 

大島 最近だと、鍋敷きを作りました。外壁用のタイルをサンプルでもらったんですよね。それが海外製の可愛らしいタイルで、何かにできないかなと。厚さも十分にあったので、フェルト生地を接着して鍋敷きに作り直しました。

 

──アイデアマンですね。以前から、手作りするのは好きだったんですか?

 

大島 そうですね。祖母が編み物や手作業が好きだったので、その姿をずっと見ていたこともあります。

 

──使って良かった道具やアイテムは何かありますか?

 

大島 先日、子どもの本棚を組み立てたんです。バラバラで素材がきたのでそれを組み立てて完成させて、仕上げに角が危ないので、安全クッションを取り付けました。粘着性のテープ状になっていて、真ん中が折れるタイプのコーナークッションを購入しましたが……アレ全然ダメですね!

 

──ああ、ダメなタイプでしたか……!

 

大島 すみません、おすすめしない方でした(笑)。かなり強力な粘着性のモノにしましたが、ペロッと剥がれちゃって使えなかった。最初から直角に形成されているタイプを、長さを測ってフィットさせた方が物持ちは良さそうだなと気づきました。

 

──しっかりDIYする方の意見ですね。勉強になります。

 

大島 DIYする時って、ついつい便利さや手軽さで考えがちですが、私は最終的には「物持ちの良さ」「耐久性」の部分で、素材やキットを選ぶようにしています。

 

──お子様のためを思ってというのが、DIYのきっかけになっているんですか?

 

大島 いえ、自分の引き出しの取っ手を木工から真鍮のものに変えるなど、細かいことは以前からやっていました。子どもが産まれてから、また取っ手を木に戻しましたけどね(笑)。

 

──これから作ってみたいモノはありますか?

 

大島 できることなら、なんでも全部作ってみたいくらい……!特に、これからは子ども用の棚とかおままごと用のキッチンとか作ってあげたいですね。時間があればやりたいなという気持ちですが。

 

──素敵ですね。ぜひ完成された際は見せていただければと思います!

 

 

映画『マダム・ウェブ』

2024年2月23日(金)全国公開

 

(STAFF&CAST)
原題:MADAME WEB
監督:S・J・クラークソン
出演:ダコタ・ジョンソン、シドニー・スウィーニー、イザベラ・メルセド、セレステ・オコナー、タハール・ラヒム、エマ・ロバーツ、アダム・スコット
公式サイト:https://www.madame-web.jp
© & ™ 2024 MARVEL

 

(STORY)
救急救命士として働くキャシー・ウェブ(後のマダム・ウェブ)は、一人でも多くの命を救うため日々奮闘していた。ある時、救命活動中に生死を彷徨う大事故に巻き込まれてしまう。それ以来、キャシーはデジャブのような奇妙な体験を重ねるのだった。自分に何が起きているのか戸惑うキャシーだったが、偶然にも出会った 3人の少女たちが、黒いマスクの男に殺される悪夢のようなビジョンを見てしまう。それが未来に起きる出来事だと確信したキャシーは、少女たちを助けることを決意。未来が見えるという不思議な力を使い何度も危機を回避するが、謎の男はどこまでも追ってくる……。男の目的は一体? なぜ執拗に少女たちを追うのか? やがて明らかになる、少女たちの<使命>とキャシーの能力の秘密。少女たちを守る先に、彼女が救うことになる<未来>の正体とは──

 

撮影/金井尭子 取材・文/kitsune スタイリスト/有本祐輔(7回の裏) ヘアメイク/松野仁美

俳優・賀来賢人がハマり続けているモノ「見つける度に買っていたらとんでもない数に」Netflix「忍びの家 House of Ninjas」

現代の日本を舞台に、最後の忍び一家が、国家を揺るがす危機と対峙していくNetflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」で、主演、原案と一人二役をこなす賀来賢人さん。ファッションに造詣が深い賀来さんに、今ハマっているコト・モノについて聞いた。

賀来賢人●かく・けんと…1989年7月3日生まれ。東京都出身。2007年に映画『神童』で俳優デビュー。主な出演作に映画『新解釈・三國志』、『今日から俺は!!劇場版』(2020)、『劇場版TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』(23)、ドラマ『今日から俺は!!』(2018・日本テレビ系)、TBS日曜劇場『半沢直樹』(2020)、『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(2021)、『マイファミリー』(2022)など。映画『金の国 水の国』、『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』(2023)では声優も務めた。InstagramX

 

ファッション小物は必需品「帽子屋さんになれる」

 

──GetNavi webということで、賀来さんが今ハマっているコトを教えてください。

 

賀来 英語です。本作でデイヴ・ボイル監督と仕事をし始めたのをきっかけに、座学とオンライン英会話を始め、塾にも通っています。仕事で海外の方と会話する機会も増えているので、すごく役立っています。英語を知っておくだけで、行動範囲も広がるじゃないですか。違う言語だと思考も変わることも面白いですね。

 

──素敵です。ではハマっているモノはありますか?

 

賀来 ファッション小物が好きで、眼鏡、時計、帽子はずっとハマっています。特に眼鏡は数えきれないぐらい所有しています。目が弱いので、普段から眼鏡は欠かせないんですよ。

 

──眼鏡はどのように選んでいるのでしょう?

 

賀来 古い眼鏡が好きなんです。アンティークと呼ばれるモノから、70・80年代のモノまで、いろいろ持っています。精巧に作られていて、貴金属素材のジュエリーフレームもあり、ラグジュアリーでかっこいいんです。見つける度に買っていたらとんでもない数になりました。

 

──たくさんのコレクションの中から、その日の眼鏡をどうやって選ぶのでしょう?

 

賀来 出かける直前に玄関の鏡を見て、今日のファッションに似合う眼鏡を選ぶこともあれば、眼鏡から服装を決めることもあります。僕はメイクをしないので、眼鏡は唯一のメイクのようなモノです。

 

──時計もアンティークがお好きなのでしょうか?

 

賀来 そうですね。眼鏡ほどではないですが、たくさん持っています。シックな時計もあれば、昔の人が付けていそうな派手な金時計もあり、気分によって変えています。仲の良いスタイリストさんが時計マスターなので、「これは絶対に買っといたほうがいい」という時計を教えてもらって、ネットで買うこともあります。

 

──帽子はいかがでしょう?

 

賀来 帽子屋さんになれるぐらいの数を持っています(笑)。髪の毛がクルクルで、スタイリストさんがいなければ、まとめられないんです。だから現場に行く時、帽子は必需品です。素材、裏地、形にこだわって選んでいますね。とはいえ、よく被る帽子は同じモノが多いですが。

 

──ぜひお気に入りの帽子を教えてください。

 

賀来 「ソラリス」という知り合いのブランドです。昨年、オリジナルの帽子を作らせてもらいました。レザーのキャスケットで、長年被り続けたような味わいがあってお気に入りです。

 

Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」

Netflixで独占配信中

 

(STAFF&CAST)
出演:賀来賢人 江口洋介 木村多江 高良健吾 蒔田彩珠 吉岡里帆・ 宮本信子 ・田口トモロヲ 柄本時生 嶋田久作 ピエール瀧 筒井真理子 番家天嵩 山田孝之
原案:賀来賢人 村尾嘉昭 今井隆文
監督:デイヴ・ボイル 瀧本智行 村尾嘉昭
脚本:デイヴ・ボイル、山浦雅大、大浦光太、木村緩菜
エグゼクティブ・プロデューサー:佐藤善宏(Netflix)
プロデューサー:神戸明
製作プロダクション:TOHOスタジオ
製作:Netflix
Netflix公式Instagram:https://www.instagram.com/netflixjp
Netflix公式X: https://twitter.com/i/broadcasts/1YqGoDZZANEJv
Netflix公式YouTube: https://www.youtube.com/watch?v=qmaDgyhEEzA

 

(STORY)
古く巨大な屋敷に暮らす俵一家。自動販売機の補充をするアルバイトを続ける次男の晴(賀来賢人)は孤独な毎日を送っていた。実は俵家は、服部半蔵直系の最後の”忍び”ファミリー。かつては家族全員がエリートの”忍び”として、BNM(=忍者管理局)から重宝される存在だった。しかし6年前、死闘の末長男の岳(高良健吾)を失い、一家は”忍び”の世界から完全に足を洗うことを決意。晴のささやかな楽しみは、仕事の後に訪れる牛丼屋で毎日顔を合わせる可憐(吉岡里帆)の存在。勇気を振り絞って話しかけることに成功した晴は、徐々に可憐との距離を縮めていく。しかし可憐は雑誌記者で、晴に接近する“ある目的”があった。可憐と行動を共にするうち、晴は辻岡と自身の強烈な因縁に気付き始める──。

 

撮影/中村功 取材・文/猪口貴裕 スタイリスト/小林新(UM) ヘアメイク/西岡達也

大島優子「自分に厳しく、人にも厳しくしていた経験と重なる」マーベル映画『マダム・ウェブ』で実写吹き替え初挑戦

『スパイダーマン』シリーズのソニー・ピクチャーズが贈るマーベル初の本格ミステリー・サスペンス映画『マダム・ウェブ』が、2月23日(金)に日本公開。今作の主人公は突如として未来予知能力に目覚めるキャシー・ウェブ(後のマダム・ウェブ)で、ダコタ・ジョンソンが演じている。

大島優子●おおしま・ゆうこ…1988年10月17日生まれ。栃木県出身。2006年にアイドルグループ・AKB48に第2期生として加入。“神7”と呼ばれグループを牽引した。2014年6月のAKB48卒業後は俳優として活躍しており、NHK連続テレビ小説『あさが来た』(2015)をはじめ、NHK大河ドラマ『青天を衝け』(2021)、日本テレビ系ドラマ『ネメシス』(2021)、映画『とんび』(2022)などに出演。私生活では2021年7月に俳優の林遣都と結婚し、2023年1月に第1子出産を発表した。XInstagram

 

そんなキャシー(マダム・ウェブ)役の日本語吹き替えを、俳優の大島優子さんが務めることが決定。第1子出産後初となる作品であり、実写映画の吹き替えは初挑戦だという大島さんにインタビューした。

 

【大島優子さん撮り下ろし写真】

 

マーベル作品の大ファン!「先に観ていいんですか」

 

──本作『マダム・ウェブ』で、大島さんは主人公キャシー・ウェブ(マダム・ウェブ)の吹き替えを演じられました。オファーが来たときは、どのような気持ちでしたか?

 

大島 うれしかったですね! もともとマーベル作品の実写映画やドラマはほとんど見ている大ファンなので、その世界の中に入れることに興奮しました。試写で作品を観るときから「ええ⁉ 本当に先に見ていいんですか……」って気持ち(笑)。幸せでしたし、胸が高鳴りました。

 

──好きな世界観に入り込めるのはうれしいですよね。

 

大島 ただ、その分プレッシャーもありました。映画だけでなく、コミックスからのファンの方も多いので。マダム・ウェブというキャラクターはコミックスから登場していますが、実写化にあたって、どういう人物になるのかは明かされていなかった。その期待も大きいだろうと思っていました。

 

──初めて作品をご覧になった際の印象はいかがでしたか?

 

大島 序盤から展開が早くて驚きました。キャシーが能力を開花させてビジョンが見え始めたシーンでは、過去なのか未来なのか、それすらまだ分からず謎に包まれていて、先が読めない演出に引き込まれました。時間軸に揺さぶられるような、あの感じ……興奮しましたね。ハラハラドキドキさせられ、あっという間に見終わった印象でした。

 

──キャシーのキャラクターとご自身では、似ている部分や共感できる部分はありましたか?

 

大島 彼女は初め、人に心を開かないタイプでした。しかも、彼女が出会ったジュリア、アーニャ、マティという3人の少女たちに対しても責任を感じていなかった。しかし、そこから徐々に自分が守っていかなきゃいけないんだという気持ちが芽生えて、最終的には彼女の母性が爆発する。周囲のいろいろなことを少しずつ感じ取って、吸収して、咀嚼することで自分を積み上げていく部分は、私と似ているなと感じました。

 

アフレコは「あと1か月やりたかった」

 

──大島さんは、過去にアニメ―ション作品の吹き替えを担当されていましたが、実写映画は初ということで、どのような点に気を配られましたか?

 

大島 キャシーの感情を表現できるように、自分もお芝居をしているかのような感覚で演じることを意識しました。他の登場人物がキャシーに対してそれぞれどういう相手なのか、距離感や周りの状況、音などでも、声のトーンが変わってくるだろうと考えました。

 

──お芝居の経験を生かしながらアフレコに臨んだわけですね。

 

大島 はい。ただキャシー役のダコタ・ジョンソンさんに馴染むようにも意識しました。アフレコは数日間でしたが、1日目は感覚がわからず、しっくりこなかったんです。でも2日目には「ハマった、これだね」と演出の方に言っていただけて、自分でも腑に落ちました。

 

──限られたスケジュールで完成まで持っていったわけですね。

 

大島 他の出演者の方のセリフが埋まっていくと、また全然違う感じになりました。そうなると自分のテンションも変わりますよね。最終日に向けて、どんどん世界観を仕上げていきました。最後は名残惜しかったです。あと1カ月ぐらいやりたかった(笑)!

 

──本作は、アクションシーンも多い作品でした。通常の吹き替えと違う点や発見はありましたか?

 

大島 アクションシーンは ただただ楽しくやらせていただきました。感情面はあまり考えないで、やられたら「やられた!」っていう感覚で。唸りは、ダコタさん本人と同じような声を真似しました。ダコタさんは『フィフティ・シェイズ』シリーズなど息遣いが多い俳優さんなんですよ。その時の感情によって息遣いが違うので、とても勉強になりました。

 

──なるほど。呼吸や息の吐き方にも気を付けて演技されていたわけですね。

 

大島 呼吸って自然なことだから、普段は注目しないじゃないですか。でも、やっぱり緊張している時、疲れている時、反対にリラックスしている時の呼吸は全く違う。そこを表すのがすごく上手な方だったので、いろんなパターンの息遣いをやらせていただいて楽しかったです。

 

チーム活動への共感「穴埋めされてどんどん成長していく」

 

──この物語はキャシーと、ジュリア、アーニャ、マティという3人の少女たちの成長も見どころの一つですよね。

 

大島 キャシーと女の子たちは、みんな寂しそうで何かを求めていた。それは愛情だけではなかったと思うんです。何かを求めて日々生きて、自然とみんなが集まって、でも実は運命の糸で結ばれていた……。キャシー自身、何か自分に足りてないものがあることをわかっていて、みんながチームになることで、それが穴埋めされてどんどん成長していく。その過程にも注目してほしいです。

 

──大島さんご自身も、チームとして活躍されていたご経験があると思いますが、何か重なる点はありましたか?

 

大島 彼女たちがいるのは、生きるか死ぬかの世界じゃないですか。キャシーもそのつもりで、女の子たちに厳しく教えることは教え、伝えることは伝えています。そして自分にも厳しくしていると思うんです。私もグループ時代に自分に厳しく、人にも厳しくしていたので、重なりますね(笑)。

 

──後輩の方も多くいらっしゃる中でチームを率いられていたからこそ、通じる部分があるというか。

 

大島 照らし合わせてみると通じる部分があるなと思いました。厳しくしながらも、女の子たちのおかげで、彼女自身も変化して成長しているんですよね。

 

──女の子たちがだんだん仲良くなっていく描写は、微笑ましいですよね。

 

大島 そうですね。3人それぞれ違った個性の持ち主で、同じ学校でも絶対に友達にならないジャンルだと思うんですけど(笑)。女の子って同じことを体験するとすごく仲良くなる。「あの時こうだったよね」と、経験をシェアすると絆が強くなると思います。

 

「子どもが健康に生まれてくれるなら、できることすべてやる」

 

──作中では「母と子」という親子の関係性も大きなテーマになっていますよね。キャシーと実の母親、そしてキャシーと少女たち。

 

大島 最初は、特に責任を感じていなかったキャシーも、だんだんと女の子たちと過ごすに連れて「守りたい」という母性が生まれていく。戸惑いながらも、それを受け入れていくんですよね。

 

──実際に、お母さんになられた大島さんから見て、共感する部分はありましたか?

 

大島 やっぱり子どもが生まれる時は、何がなんでも健康で生まれてほしいし、できることがあれば全てやると思うんですよね。自分もそうすると思うので、キャシーのお母さんの気持ちはすごく共感できました。

 

──子どもを守りたいという気持ちですね。

 

大島 逆に母親の記憶がないキャシーの立場になると、お母さんが自分のことを愛していたかなんてわからないじゃないですか。母親にどう思われていたか分からずに30年近く生きてきて、母親の愛情を知った瞬間っていうのは、キャシーの気持ちにも母親の気持ちにも感情移入しましたね。胸が熱くなりました。

 

マーベル作品の魅力は「自分もスーパーパワーを与えられた感覚になれること」

 

──今回「マダム・ウェブ」という新たなマーベルヒーローが誕生したわけですが、改めてマーベル作品の魅力とは?

 

大島 やはり一番は、見た人が強くなった気持ちになれること。見終わった後、なぜか自分もスーパーパワーを与えられた感覚になりますね。そこが私の好きな部分で、いつも自分を奮い立たせてもらえるな、と感じています。でも本作はマーベル初の本格ミステリー・サスペンスということで、アクションで自分が強くなる気分というよりは、頭脳的に賢くなって教養がついたような気持ちになれる。フィジカルだけじゃないのが、今までとはまた違った魅力かなと思います。自分にも何か才能が眠っているんじゃなかいかって思わせてくれるというか。

 

──大島さんが、キャシーのような“未来が見える”才能に目覚めたらどうします?

 

大島 いやー、もし未来が見えたとしても、上手く使いこなす自信がないですね。未来が見えても、それをどう使うかの判断ができるかどうか。自分がヒーローとして与えられた使命があるんだったら、できるかもしれませんが。

 

──大島さんの中で、理想のヒーロー像というものは何かありますか?

 

大島 私はアイアンマンがすごく好きで。人間として欠落してる部分はあるけれど、能力が高い。でもどこか愛情に飢えていて、ちょっと寂しがりやなところが、すごく心に刺さるんですよね。

 

──マダム・ウェブも少し共通している点があるような。

 

大島 そうですね。マダム・ウェブもどこか人間として欠けてる部分があり、人を遮断している部分がある。あまり人に心を開かないタイプだと思うんで、彼女もそれを自分で理解しながら過ごしている。それでも、未来予知っていう能力が与えられてからの彼女の変化ぶりっていうのは素晴らしくて。その成長ぶりが素敵だなと思いましたね。人間、そしてヒーローとして形成されていく感じ、魅力的なヒーローだと思います。

 

──最後に、公開を楽しみにされているファンの方にメッセージをお願いします。

 

大島 今回、マーベル初の本格ミステリー・サスペンスということで展開が読めないなか、登場人物一人ひとりのセリフで謎が解き明かされていきます。字幕はもちろん、字幕で追いつかない場合はぜひ吹き替えで見ていただき、一謎を解きながら観ていただければと思います。

 

映画『マダム・ウェブ』

2024年2月23日(金)全国公開

 

(STAFF&CAST)
原題:MADAME WEB
監督:S・J・クラークソン
出演:ダコタ・ジョンソン、シドニー・スウィーニー、イザベラ・メルセド、セレステ・オコナー、タハール・ラヒム、エマ・ロバーツ、アダム・スコット
公式サイト:https://www.madame-web.jp
© & ™ 2024 MARVEL

 

(STORY)
救急救命士として働くキャシー・ウェブ(後のマダム・ウェブ)は、一人でも多くの命を救うため日々奮闘していた。ある時、救命活動中に生死を彷徨う大事故に巻き込まれてしまう。それ以来、キャシーはデジャブのような奇妙な体験を重ねるのだった。自分に何が起きているのか戸惑うキャシーだったが、偶然にも出会った 3人の少女たちが、黒いマスクの男に殺される悪夢のようなビジョンを見てしまう。それが未来に起きる出来事だと確信したキャシーは、少女たちを助けることを決意。未来が見えるという不思議な力を使い何度も危機を回避するが、謎の男はどこまでも追ってくる……。男の目的は一体? なぜ執拗に少女たちを追うのか? やがて明らかになる、少女たちの<使命>とキャシーの能力の秘密。少女たちを守る先に、彼女が救うことになる<未来>の正体とは──

THE RAMPAGE鈴木昂秀「いつも空回りしているこの役を一番うまく演じられるのは自分だと思いました(笑)」映画「ただ、あなたを理解したい」

THE RAMPAGE、MA55IVE THE RAMPAGEで活躍する鈴木昂秀さんが初主演を務めた映画『ただ、あなたを理解したい』が2月23日(金・祝)より公開。豊かな景色が広がる地方都市を舞台に、20代前半の若者たちが自身の人生や恋、そして仲間たちへの想いに悩む青春群像劇。等身大の演技で本作に挑んだ鈴木さんに、「本当の親友同士のようだった」と語る共演者たちとの制作秘話や、作品に込められたメッセージについてたっぷりとお話をうかがった。

 

鈴木昂秀●すずき・たかひで…1998年10月3日生まれ、神奈川県出身。THE RAMPAGEのパフォーマー。2014年に開催した「GLOBAL JAPAN CHALLENGE」を経て、正式メンバーとなる。 2017年、1st SINGLE「Lightning」でメジャーデビュー。 2016年からは俳優としても活動し、「HiGH&LOW」シリーズにも出演。現在グループ派生ユニット「MA55IVE THE RAMPAGE」としても活動。公式HPInstagram

 

【鈴木昂秀さん撮り下ろし写真】

 

身近にいる人を理解したいと願う彼らの想いに涙がこぼれました

──ちょうど昨日、初号試写をご覧になられたそうですね。(※取材時)

 

鈴木 はい。自分の演技を見るのがめちゃくちゃ恥ずかしかったです(苦笑)。でも、作品自体は本当に素晴らしくて。自分で言うのも恥ずかしいのですが……結構、泣いちゃいました(笑)。

 

──それはどういった涙だったのでしょう?

 

鈴木 いろいろと考えさせられた故の涙でした。というのも、今作は青春群像劇なのですが、キラキラしているだけではないんです。高校時代にただただ楽しい時間を過ごしてきた仲間たちとの関係性があり、その4年後、高校卒業と同時に消え去るように東京に出ていった主人公の祐也が恋人を連れて再び姿を現す。再会したかつての仲間たちの中には、年齢を重ねたことで大人の考えを持つようになった者もいれば、当時の思い出から抜け出せない人もいて。そのことで互いの関係性にも変化を感じ、だからこそ、それぞれが相手のことを“理解”したいと思い始めるんですね。僕自身、試写を見ながら、もっと自分の近くにいる人たちのことをちゃんと考え、理解したいし、理解しなきゃダメだなと思うようになって。その瞬間、自然と涙が流れてきたんです。

 

──なるほど。今作で鈴木さんはその祐也を演じられました。どんな男性だと感じましたか?

 

鈴木 正直、僕そのまんまだなと思いました(笑)。台本を読みながら、“あ〜、こういうこと、俺も一年ぐらい前に言っていたなぁ”と思ったり、“ダメダメ! そういう行動を取っちゃうから、話がややこしくなるんだよ!”ってツッコんだり。本当に共感することばかりで、この役を一番うまく演じられるのは自分だという自負もありました(笑)。

 

──そうだったんですね(笑)。とはいえ、劇中では仲間たちから「ただ暑苦しいだけのバカ」と言われていましたが……。

 

鈴木 言われていましたね。でも、祐也は本当になんの取り柄もない男だから、しょうがないです(笑)。それに、これって裏を返せば、褒め言葉でもあると思うんです。空気が読めず、空回りしてしまうこともありますが、それだけ彼は自分の感情に素直で、みんなのことを思ってつい突っ走ってしまうところがあるということですから。

 

──確かに彼の言動は純粋で、それ故に恥ずかしくなるようなことも口にしますが、ときにそのストレートな言葉が心に刺さってきます。

 

鈴木 それはきっと、彼には打算がないからだと思います。飾らず、思ったことをそのまま言う。そのことで、仲間たちからは「そんなの言われなくても分かってるよ」と思われるんですが、でも実は、本当に大切なことってそうしたシンプルな言葉の中にあったりするんですよね。ですから、きっと見終わった後も、“あの言葉って、つい聞き流してしまったけど、もしかしてこういう想いがあったのかも……”といろんな考察をして楽しんでいただけると思います。

 

──また、すごく印象的だったのが、劇中で何度も登場する祐也の「おまえらラッキーだぞ!」という口癖でした。この言葉にはどのような感情を込めていたのでしょう?

 

鈴木 これはすごく解釈が難しかったです。純粋に“楽しい!”という感情をみんなと共有したくて発しているのかもしれないですし、祐也の性格的に友人たちの前で粋がったり、強がっているだけなのかもしれない。“おまえらは気づいてないだろうけど、今、こんなに楽しい状況なんだぜ!”って。でもこれは、あえて明確化せず、できるだけいろんな感情として伝わるように演じましたので、映画を見ていただく皆さんが自由に感じ取っていただければなと思います。

 

相手を理解することが幸せに繋がらないことも……

──今作は鈴木さんにとって初主演映画となります。座長としてのプレッシャーはありましたか?

 

鈴木 最初はやっぱり、ものすごく緊張しました(笑)。でも、共演者のみんなとは年齢が近かったこともあって、現場では常に和気あいあいとした雰囲気だったのでよかったです。愛知県でロケをしていたのですが、一週間ぐらいずっと一緒にいて。撮影がない日でも現場に遊びに来るぐらい、スタッフさんを含め、みんなの気持ちが一つになっていましたね。ですから、僕が主演としてみんなを引っ張るということもなかったです。

 

──そうした関係性は出会った瞬間から作れたのでしょうか?

 

鈴木 ……いや、最初の顔合わせの時はやっぱりみんなカチカチでした(笑)。でも、その日の夜であったり、撮影に入る前日に男性俳優陣を食事に誘ったりして、関係性を築いていったんです。思えば、座長っぽいことをしたのって、それぐらいかもしれません(笑)。

 

──でも、そうした仲の良さが画面からも伝わってきました。

 

鈴木 そう感じてもらえたのならすごくうれしいです。この作品の魅力の一つに、仲間たちとの距離感のリアルさがあると思うんです。例えば、日常でも、数年ぶりに友人と再会して、顔を見た瞬間に学生時代と同じノリに戻ることってありますよね。僕も今年のお正月に帰省した際、親友たちを家に呼んで一緒にお酒を飲んだんですが、何の気遣いもなく、好きなことを言い合える仲ってすごくいいなって改めて思って。この映画では、そうした気兼ねない仲間たちとの関係性がしっかり描かれていますし、それと同時に、祐也が恋人を連れて帰ってきたことで生まれるちょっとした気まずさなども繊細に表現されている。だからこそ、誰が見ても感情移入しやすいんだと思います。

 

──なるほど。その意味では、もしかすると映画を見る世代によっては、祐也たちの関係性の見え方も違うかもしれませんね。

 

鈴木 そうだと思います。10代の子たちの目には、大人たちのいつまでも変わらぬ友情にうらやましさを感じるでしょうし、逆に僕と同世代や少し上の人たちにとっては、10代の頃の楽しかった思い出が甦ってきて、ちょっとセンチメンタルな気持ちになるかもしれません。

 

──まさにセンチメンタルになった一人です(笑)。

 

鈴木 (笑)。それに、この映画は見るたびに発見があるんですよね。僕も、初めて見た時は祐也の目線で物語を追っていたので、切なさが一番に湧いて出てきたのですが、次にフラットな気持ちで見たら仲間がいることの素晴らしさを強く感じて、ほっこりできたんです。

 

──登場人物の誰に視点を置くかでも、見る側の感情が変化しそうですよね。

 

鈴木 はい。それぞれの役が置かれている環境や立場も違いますからね。祐也は高校を卒業すると同時に役者になることを夢見て、思い切って上京した身ですが、一方で、親友である春樹(野村康太)の妹・梓(山本愛香)は将来が見えないことに不安を感じ、自分が何をしたいのかも分からないまま、ただ“この街を飛び出したい”と悩んでいる。その対比の描かれ方も興味深いですし、親目線だと梓のことを心配する母親(高橋ひとみ)の気持ちもすごく分かる。それぞれに抱えているものが異なるので、視点を変えるたびに、“自分や相手にとっての幸せとは何か”“でも、その答えはきっと一つじゃないんだ”ということを考えさせられるんです。

 

──まさしく、映画のタイトルである“あなたを理解したい”というテーマが至るところに詰まっていますね。

 

鈴木 ただ難しいのが、本当に相手の気持ちを全て知ることが幸せに繋がるのかということなんですよね。理解してしまったがために、“自分の居場所はここじゃないのかも”と、逆に不安に襲われることもある。それに、今まではちょうどいい距離感で付き合えていたのに、相手を深く知ってしまったことで、その絶妙な距離が崩れてしまう場合だってあるわけで。もちろん、何が正解なのかは誰も分からないですし、答えは見てくださる人の数だけあると思います。そうしたメッセージ性は碓井将大監督がこだわっていた部分でしたので、ぜひ劇場で作品に込められた想いを感じ取っていただければと思います。

 

直談判して主題歌を。MA55IVEにとっては新たな挑戦の一曲

──今作の主題歌にはMA55IVE THE RAMPAGEによる「ガーベラ」が使われています。鈴木さん自身も作詞・作曲に携わったそうですが、この経緯を教えていただけますか?

 

鈴木 最初に映画の台本をいただいた時、主題歌の欄だけ空白になっていたんですね。それで、撮影中に監督とプロデューサーに「主題歌をMA55IVEに作らせていただくことは可能ですか?」と直談判したんです。そうしたらすぐに事務所と連絡を取ってくれて、OKも出たので、僕が主導で曲を作らせていただくことになりました。

 

──それは、鈴木さんの中で最初から曲のイメージがあったということでしょうか?

 

鈴木 はい。映画を撮っていくなかで、どんどんとドラムやベース、ギターの音が頭の中で鳴り響いていって。いざ、主題歌の制作が決まってからは、その断片を一つにまとめていったんです。完成のイメージは最初から固まっていたので、実質4〜5日ほどでメロディと歌詞の細かいところまで形にしていくことができましたね。

 

──「ガーベラ」というタイトルも鈴木さんの案だったのでしょうか?

 

鈴木 レコーディングを終えた後にMA55IVEのメンバーと一緒に決めていきました。最初は、映画のシーンで印象的だった夕暮れの街並みから連想して「オレンジ」というアイデアもあったんです。でも、そこからさらに絞り出し、同じオレンジ色の花である「ガーベラ」に決めました。花言葉もまさにこの映画にピッタリだなと思って。

 

──ガーベラの花言葉には<希望>や<常に前進する>といった意味がありますね。

 

鈴木 映画をご覧いただくと分かるのですが、ラストシーンは祐也がこれからの未来に思いを馳せるような内容になっているんですよね。僕はそこに彼の希望を感じたんです。また、祐也に限らず、今作は青春映画ということで登場人物たちが走っているイメージが僕の頭の中にあって。ですから楽曲自体も疾走感のあるものにしたのですが、そこも<常に前進する>という花言葉に合っているなと思ったんです。

 

──曲調自体は、これまでのMA55IVEになかった珍しい世界観になっていますね。

 

鈴木 はい。MA55IVEといえばガッツリとしたヒップホップが代名詞のようになっていましたが、今回は誰もが聴きやすい爽やかな曲になっています。新たなアプローチに挑戦したので、どんな反応をいただけるのかもすごく楽しみですね!

 

大好きなアニメ作品を語るなら、半日以上はください(笑)

──さて、GetNavi webではインタビューにご登場される皆さんにハマっているモノや趣味をご紹介いただいているのですが、最近ではどんなものがありますか?

 

鈴木 最近どころか、ずっと大好きなのがマンガとアニメです。なかでも、もともと大好きだった『俺だけレベルアップな件』というマンガが、今年の1月からアニメ化されていて。もう、まじでヤバいです!!(笑) うれしさのあまり、放送前にマンガを読み返してしまいました(笑)。

 

──どういった点にそれほどの魅力を?

 

鈴木 ダンジョンやハンターなどが登場するファンタジー世界の物語ではあるんですが、バトル展開がリアルで生々しいんです。もちろんそれだけじゃなく、主人公の水篠旬がハンターのなかで最低ランクに位置するという設定も面白くて。こうしたダンジョンものって、突然出現したモンスターを前に勇者が現れて敵を倒していくのが王道ですが、この作品では主人公が簡単にやられてしまうんですね。ただ、瀕死の重傷を負った主人公が、とある「システム」の力を手に入れたことで、ミッションをクリアするごとにスキルがパワーアップしていく。その過程も最高で。世界中で観られているほど話題の作品ですし、きっと一度見たら多くの方がハマると思います!

 

──作品への熱量がものすごく伝わってきました(笑)。ちなみに、人生で何度も見返しているようなアニメ作品はありますか?

 

鈴木 間違いなく『ソードアート・オンライン』ですね。僕の人生において一番好きなアニメです。THE RAMPAGEでコスプレイベントをした時、主人公のキリトに扮したぐらい大好きです(笑)。この作品は3周……いや、4周は繰り返し見ていますね。グッズも揃えていて、作中に登場する原寸大の剣も買っちゃいました。1万5000円ぐらいしたんですけど(苦笑)。

 

──筋金入りですね(笑)。何をきっかけにこの作品を知ったのでしょう?

 

鈴木 まだ寮に住んでいた時、少し気持ちが落ちていたことがあって。ファンタジー要素のあるアニメを見て元気を出そうと思い、たまたま見たのがこの作品との出会いでした。主人公は決して無敵の強さがあるわけじゃなく、敵にやられて、しゃべることさえできなくなるほど鬱になったりする。そうした人間味のあるところも素敵ですし、それでも最後には戦いに挑む強さを取り戻していく姿に感銘を受けたんです。もちろん、ほかにも素敵な要素はたくさんあって…………。あ〜、ダメですね。こんな短時間で好きなアニメは語り尽くせないです。せめて半日以上は語る時間をください(笑)。

 

 

 

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ただ、あなたを理解したい

2024年2月23日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

 

(STAFF&CAST)
監督:碓井将大
脚本:鈴木裕那、渋谷未来
主題歌:MA55IVE THE RAMPAGE『ガーベラ』(rhythm zone)

出演:鈴木昂秀、野村康太、新谷ゆづみ、森高 愛、比嘉秀海、伊藤千由李、山本愛香、吉田晴登、城 夢叶、高橋ひとみ ほか

(STORY)
幼なじみの祐也と春樹、由衣香は、高校生になっても子どもの頃に見つけた秘密基地で他愛のない時間を過ごしていた。卒業後、祐也は役者になることを夢見て上京。一方、残った仲間たちは、時が止まったままのような秘密基地で現実逃避のような日々を送っていく。そんなある日、4年ぶりに祐也が恋人を連れて帰省する。思わぬ再会に、再び彼らの時間が動き出していく……。

 

【映画「ただ、あなたを理解したい」よりシーン写真】

公式サイト:https://tadaanata-movie.com/

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撮影/映美 取材・文/倉田モトキ ヘアメイク/佐藤由佳(KIND) スタイリスト/高橋正典

賀来賢人、忍者役作りで初の15キロ増「筋肉を大きくしました」Netflix「忍びの家 House of Ninjas」企画持ち込み一人二役

現代の日本を舞台に、最後の忍び一家・俵(タワラ)家が国家を揺るがす危機と対峙していくNetflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」。2月15日(木)に配信されるや否や世界92の国と地域でTOP10入りし、Netflix週間グローバルTOP10(非英語シリーズ)で初登場2位にランクイン。全世界で大ヒット中の本作において主演、原案の一人二役をこなした賀来賢人さんに、個性的なキャスト陣と、世界的に活躍するスタッフ陣が集結した本作の制作秘話を語ってもらった。

賀来賢人●かく・けんと…1989年7月3日生まれ。東京都出身。2007年に映画『神童』で俳優デビュー。主な出演作に映画『新解釈・三國志』、『今日から俺は!!劇場版』(2020)、『劇場版TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』(23)、ドラマ『今日から俺は!!』(2018・日本テレビ系)、TBS日曜劇場『半沢直樹』(2020)、『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(2021)、『マイファミリー』(2022)など。映画『金の国 水の国』、『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』(2023)では声優も務めた。InstagramX

 

【賀来賢人さん撮り下ろし写真】

 

「家族を通して懸命に生きている人たちを描きたかった」

 

──原案と主演を担うNetflix「忍びの家 House of Ninjas」では、原案としても名を連ねている賀来さん。企画の発端を教えてください。

 

賀来 子どもと忍者のテーマパークに行った時に、日本人として“忍び”というカルチャーがおざなりになっていると感じたんです。子どもや外国人観光客は興奮しているのに、僕たち大人は「忍者なんて現代にいないし」と言う。そういう感覚がもったいないなと。そこで忍びをエンタメに昇華できたら、世界中が楽しめる作品になるだろうなと思いつきました。

 

──思いついてから、どのように作品に落とし込んだのでしょう?

 

賀来 作品を作るうえで僕の中に2つのキーワードがありました。1つは「忍者」。もう1つは「家族」。やりたかったことの一つが「普遍的なモノ」で、「全世界で普遍的なテーマって何だろう」と考えた時に家族が思い浮かんだんです。年齢幅の広い大家族かつ、かわいらしい家族にしたかった。同時に、家族を通して懸命に生きている人たちを描きたかったんです。

 

──原案には、賀来さんを含め村尾嘉昭監督と今井隆文さんが名を連ねていますが、どのように作業を進めていったのでしょう?

 

賀来 ドラマ『死にたい夜にかぎって』(2020)でご一緒した村尾嘉昭監督と、コロナ禍の緊急事態宣言の時に「何か作品を作ろう」と話していました。でも途中で「俺たち文章が書けないね」と気づいて(笑)。脚本も書ける役者の今井隆文くんに入ってもらいました。僕たちが話すことを文章にしてもらい、それをNetflixに提出しました。

 

──企画を提出した時の手応えはいかがでしたか?

 

賀来 常に根拠のない自信があるタイプなので、「これは絶対いける!」という感覚でした(笑)。実際にNetflixの方も可能性を感じてくださり「キャラクターとストーリーにもっと広がりがあるほうがいい」と、クリエイターであるデイヴ・ボイルさんと繋げてくれたんです。

 

──監督と脚本に名を連ねている方ですね。

 

賀来 デイヴはアメリカ人ですが日本のカルチャーに造詣が深く、忍者に強く興味を示し、僕たちの作った企画書を何十倍にも広げてくれました。例えば忍者には、肉を食べちゃいけない、酒を飲んじゃいけない、セックスをしちゃいけない……たくさん縛りがある。そんな面白いキーワードをピックアップして、窮屈な忍者を表現してくれました。彼がいなければこのストーリーは作れなかったです。

 

──俵家の父役の江口洋介さん、母役の木村多江さん、長男役の高良健吾さんはじめ、俵家以外のキャスト陣も実力派・個性派揃いですが、キャスティングにも賀来さんは関わっているのでしょうか?

 

賀来 はい、僕が直接お願いをした方もいます。カメラマンには江原祥二さん、照明には杉本崇さんなど、日本映画界のオールスターのような超一流の方々が集まってくださいました。そこにピヨピヨの僕と、アメリカから来たクリエイターという不思議な組み合わせで、最初は皆不安だったと思います。でも誰もが常に提案をしてくださり、想像を遥かに超えるセッティングをしてくださり、助けられまくりでした。やっぱり一流ってすごいなと感動しました。

 

一番に考えた「どれだけ居心地の良い環境で仕事ができるか」

 

──共同エグゼクティブ・プロデューサーとして、現場では何を意識しましたか。

 

賀来 皆さんがどれだけ居心地の良い環境で仕事ができるかを一番に考えました。特に役者は、どんな脚本でも「これでは動けない、会話ができない」という状況が生まれることがあります。僕自身が役者なので、皆が迷いを感じていたら、すぐに飛んで行きました。

 

──予算管理も賀来さんがされたのでしょうか? セットやCGなど、かなり豪華でした。

 

賀来 僕に予算の判断はできなかったので担当者に任せましたが、プロデューサーは頭を抱えていましたね(笑)。例えば江原さんは推進力がすごくて「ここはクレーンじゃないと撮れないよ、持って来て!」と、どんどんクリエイティブを提案してくれる。林田さんが作ったセットも、とんでもなくすごいです。日本家屋を一軒建てたようなもので、実際に住めるくらいの完成度でした。アクションは基本的にCGなしでやる予定でしたが、予想外のCGも結構ありました。

 

──原案兼主演として、お芝居でのやりにくさはなかったですか?

 

賀来 撮影に入るまでは両立が難しいと思っていました。でも原案から関わり時間をかけて準備を進めていったからこそ、作品に対しての理解が深く現場で迷うことがありませんでしたね。

 

──監督との話し合いは、どういう場面ですることが多かったのでしょう?

 

賀来 全シーンを、事前に話し合うようにしていました。直前の話し合いは絶対に事故が起きると思ったので、なるべく前に解消しておきたかったです。撮影終わりに、翌日のシーンについて監督陣とディスカッションを重ねました。客観視はできていたのかなと思います。

 

──主演ということで座長的な役割も意識しましたか?

 

賀来 これまでも主演であっても、僕は意識しません。僕が楽しそうにしていたら、みんなも楽しそうになると勝手に信じています。

 

──ちなみに今後監督兼主演に興味はありますか?

 

賀来 監督たちから「もしシーズン2があったら、一話でも撮ってみたら」と言われたんですが絶対に無理ですね。体力的にも難しく、監督も役者も疎かになってしまうなと。次は自分が役者として参加しないで、プロデューサーに専念してみたいですね。

 

母役・木村多江さんは「これまでのイメージを覆す」

 

──賀来さんの肉体美が服越しでも伝わってきたのですが、ボディメイクやアクションの事前準備はどのようにしていたのでしょう?

 

賀来 一度、体重を15キロぐらい増やし、そこから体重は落として筋肉を大きくしました。アクションも、半年ぐらい前からコンディションを整え始めましたね。僕ができていないと、他のキャストさんに示しがつかないですから。

 

──そこまで体重を増やしたことはこれまでありましたか?

 

賀来 初めてです!

 

──アクション面は、どんなことを意識しましたか?

 

賀来 今回のアクションはド派手なものというよりは、地味で実践的な殺陣でした。あくまで忍者というカテゴリーで表現しなければ、忍者という文化にも失礼だし、世界の人たちもがっかりすると思ったんです。伝統から抜けられない古いタイプの忍者が令和に生きている姿を描いているので、アクションも伝統を守った殺陣に徹底しました。

 

──女性陣のアクションが、男性陣に引けを取らないなと感じました。

 

賀来 そうなんですよ! 俵家で言うと、(木村)多江さんはこれまでのイメージを覆すぐらい動ける方なのです。(蒔田)彩珠ちゃんも、最初はストレッチの段階で体が硬かったのに、どんどん動けるようになって。女性陣は本当にかっこよかったです。

 

──「かわいらしい家族にしたかった」というお話もありましたが、家族の描き方でこだわったポイントを教えてください。

 

賀来 いかに説明を省いて、短いセリフと表情で、家族というものを伝えられるかが大きなチャレンジでした。あと俵家は、子どもからおばあちゃんまでいるので、幅広い視聴者が感情移入できるようにしました。そして家族全員が主役であることが今回のテーマですね。一応僕が主演となっていますが、出演時間は他の家族と変わりません。家族一人ひとりが葛藤や謎を抱えていて、それを丁寧に描いていく。キャラクターの個性が少しずつめくれていく構成にしました。すごく難しいやり方ですが、丁寧にめくれればめくれるほど、視聴者はこの家族に共感してくれるんじゃないかなと。

 

──俵家は伝統的な家族ですが現代的なところもあり、特に木村さん演じる母親は行動もぶっ飛んでいますよね(笑)。

 

賀来 やっぱり女性は強いですよ。一方で江口(洋介)さん演じる父も、普段はパッとしないけど、ここぞというときは誰よりも家族を守るヒーローになる。その姿を見て娘も見直す。そういう構造を作りたかったんです。

 

──もうすぐ配信が始まります。今はどんなお気持ちでしょうか?

 

賀来 今日のような取材も含めて、いろんな方の意見を聞くと、改めて見る人によってさまざまな視点や楽しみ方があるんだなと思います。今までは役者として「ここを見てほしい」と思うことがありましたが、今回は「面白かった」と言ってもらえたらいい。視聴者の娯楽の一部になれば、どういう解釈でもいいんです。本作がきっかけで忍者や日本の文化に興味を持っていただけたらうれしいですね。

 

Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」

Netflixで独占配信中

 

(STAFF&CAST)
出演:賀来賢人 江口洋介 木村多江 高良健吾 蒔田彩珠 吉岡里帆・ 宮本信子 ・田口トモロヲ 柄本時生 嶋田久作 ピエール瀧 筒井真理子 番家天嵩 山田孝之
原案:賀来賢人 村尾嘉昭 今井隆文
監督:デイヴ・ボイル 瀧本智行 村尾嘉昭
脚本:デイヴ・ボイル、山浦雅大、大浦光太、木村緩菜
エグゼクティブ・プロデューサー:佐藤善宏(Netflix)
プロデューサー:神戸明
製作プロダクション:TOHOスタジオ
製作:Netflix
Netflix公式Instagram:https://www.instagram.com/netflixjp
Netflix公式X: https://twitter.com/i/broadcasts/1YqGoDZZANEJv
Netflix公式YouTube: https://www.youtube.com/watch?v=qmaDgyhEEzA

 

(STORY)
古く巨大な屋敷に暮らす俵一家。自動販売機の補充をするアルバイトを続ける次男の晴(賀来賢人)は孤独な毎日を送っていた。実は俵家は、服部半蔵直系の最後の”忍び”ファミリー。かつては家族全員がエリートの”忍び”として、BNM(=忍者管理局)から重宝される存在だった。しかし6年前、死闘の末長男の岳(高良健吾)を失い、一家は”忍び”の世界から完全に足を洗うことを決意。晴のささやかな楽しみは、仕事の後に訪れる牛丼屋で毎日顔を合わせる可憐(吉岡里帆)の存在。勇気を振り絞って話しかけることに成功した晴は、徐々に可憐との距離を縮めていく。しかし可憐は雑誌記者で、晴に接近する“ある目的”があった。可憐と行動を共にするうち、晴は辻岡と自身の強烈な因縁に気付き始める──。

 

撮影/中村功 取材・文/猪口貴裕 スタイリスト/小林新(UM) ヘアメイク/西岡達也

ヨーロッパで大旋風を巻き起こした史上初“F3女性チャンピオン”凱旋。18歳の超新星・野田樹潤の目標は“日本女性初のF1ドライバー”

昨シーズン、F3クラスのヨーロッパの大会で女性ドライバーとして史上初の優勝を飾り、さらに年間チャンピオン獲得という偉業を達成した野田樹潤(じゅじゅ)さん。2024年、いよいよアジア最高峰『全日本スーパーフォーミュラ選手権』への参戦も決定。モータースポーツ界の常識を塗り替え続ける“世界最速女子高生”に、これまでの歩みと次なるチャレンジへの決意を語ってもらった。

 

 

野田樹潤●のだ・じゅじゅ…2006年2月2日生まれ、東京都出身。岡山県美作市育ち。日本体育大学桜華高校3年。父親は元F1レーサーの野田英樹。4歳でKIDSカートデビュー。9歳でフォーミュラ4レースに最年少デビュー。11歳から13歳まで参戦した『フォーミュラU17チャレンジカップ』11戦全勝。2020年、拠点を海外に移し14歳よりヨーロッパ各国でレースに挑戦。2021年、『デンマークF4選手権』優勝3回(総合7位)。2023年、フランスで開催された『ユーロ・フォーミュラ・オープン』において女性ドライバーとして初の優勝を飾り、イタリア国内を中心に7戦が行われた『ジノックスF2000フォーミュラトロフィー』でも女性初の年間チャンピオンに輝いた。2024年1月、アジア最高峰の『全日本スーパーフォーミュラ選手権』参戦決定。公式HPXInstagram

 

【野田樹潤さん撮り下ろし写真とレース中の写真】

 

三輪車より先にカートに乗っていた
負けて悔しい思いをしたのはレースだけ

──いつも周囲の皆さんからはどう呼ばれているんですか?

 

Juju 「ジュジュ」と呼ばれてます。文字に書くときはアルファベットで“Juju”です。

 

──分かりました。では、このインタビューでもJujuさんと呼ばせていただくということでよろしいでしょうか?

 

Juju はい。それでよろしくお願いします(笑)。

 

──Jujuさんは4歳からレースを始めたそうですね。初めてハンドルを握ったときのことは憶えていますか?

 

Juju 最初は父(元F1レーサーの野田英樹さん)のレースを見ることから始まって、3歳でカートに乗ったんですけど、そのとき、ただ見てるよりも自分で操ったほうがずっと楽しいって感じたんです。私にとっては三輪車に乗るよりそっちのほうが先で、すごく楽しんで乗っていたっていう記憶があります。

 

──どういうところが楽しかったんですか?

 

Juju 3歳ですからアクセルとかブレーキとかいう概念はないし恐怖心もないですから、アクセルをベタ踏みして離さなかったみたいです。それで父が危なくないようにと、カートに紐を括り付けて引きずられている写真が残ってます(笑)。

 

──カーレースに興味を持ったのは、やはりお父さんの影響ですか?

 

Juju  そうですね。それが一番大きいですね。

 

──お父さんの現役時代は憶えてますか?

 

Juju あまり記憶にはないんですけど、引退レースの印象は強く残ってます。

 

──Jujuさんは自分からレースに出たいと希望したんですか?

 

Juju レースに出たいというより走るのが楽しかったんです。でも、走ってみて勝てないとすごく悔しくて。それからは負けたくないという、ただその一心で一生懸命やって、勝てば嬉しい、負ければ悔しいの繰り返しでした。

 

──他に興味のあるスポーツはなかったんですか?

 

Juju いろんなスポーツをやりました。空手、サッカー、体操、水泳、バレエやチアなんかもやったんですけど、レースで負けたときは周りが手をつけられないぐらい泣いたのに、他のことでは負けても悔しいとは思わなくて。それで自分にとってレースは他のスポーツと違うんだとはっきり自覚したんです。 

 

ヘルメットを被ってしまえば相手が誰だろうと関係ない
事故に遭うより走るのをやめるほうが苦しいと思った

──Jujuさんは9歳でフォーミュラ4レースに最年少デビュー(フォーミュラカーとはタイヤとコクピットが剥き出しになったレース用4輪車のこと。F1からF4の4つのカテゴリーに分類される)。10歳の時点で、すでに大人にも負けないタイムを叩き出していたわけですが、その時点でプロのレーサーになると決意していたんですか?

 

Juju はい。その時点で決めてました。

 

──相手は全員年上。大人でも気後れはなかった?

 

Juju ヘルメットを被って車に乗ってしまえば、相手が大人なのか子供なのか、男性なのか女性なのかも全然関係なくなりますから。それをイコールコンディションと呼べるかどうかはか分かりませんが、勝負してるときは、皆、同じレースで上を目指しているライバル。相手もそうですけど、自分が何者なのかも考えてません。

 

──カートとフォーミュラマシンでは性能が桁違い。戸惑いはありませんでした?

 

Juju もう車の大きさもスピードも全然違います。サーキットもカートとは比べものにならないですから、もちろん不安もありました。でも、ちょっとずつ乗りこなしていくのがすごく楽しかったんです。

 

──幼い頃からレースシミュレーターを使って訓練されてましたね。あの練習は素人目にはゲームをしているようにしか見えないのですが、具体的にどういうメリットがあるのでしょう?

 

Juju シミュレーターで練習しておくと、初めて行くサーキットでも事前にコースの情報をある程度覚えられるんです。実際のコースを走って練習できる時間は限られているので、それが一番のメリットですね。

 

──その分、コースではドライビングに集中できると。

 

Juju そうです。あとはシミュレーターなら普段やらないようなセッティングにしてどう変化するかいろいろ試すこともできます。リスキーなチャレンジをして事故を起こしても車は壊れないのでお金の心配も要りません(笑)。私が使ってるのはF1やトップチームのシミュレーターみたいに高機能ではありませんけど、普段と違ったことをいろいろ試せて、そこでつかんだイメージをコースでの練習に反映できるのは大きなメリットですね。

 

──フォーミュラレースでは極端に視界が狭まると聞いています。その視界の外で起きていることにレーサーは何を頼りに対処されているんですか?

 

Juju 経験から身につけた感覚ですね。それと普段からなるべく視野を広く捉えながら反射神経を磨くトレーニングも積んでいます。

 

──とはいえF4マシンの最高速度は240km。怖くなかったんですか?

 

Juju 普通に走ってる分には怖さを感じませんでした。

 

──Jujuさんが11歳のときのドキュメンタリー番組(サタデードキュメント『小学生レーサー目指すはF1』2017年11月放送/BS-TBS)の中で、コースアウトして壁に激突し、その後に泣き叫んでいる場面がありました。普通、あんな怖い目に遭ってしまったら走れなくなると思うのですが。一体あのショックからどうやって立ち直ったんですか?

 

Juju あの事故のときは本当に怖かったですし、しばらくそれまでと同じようには走れなくなって。そしたら父にこう言われたんです。「レースをやっていれば必ず事故は起きる。これからも起きるしもっと大きな事故も経験する。それが怖ければ、もう今のうちにやめた方がいい。やめることは別に悪いことじゃないから」と。そのとき、事故よりレースをやめるほうが自分にとっては苦しい、それに比べたら恐怖心なんて大したことじゃないって思ったんです。

 

──では、最終的にはご自身でレースを続ける決断を下したんですね。

 

Juju はい。もちろん事故に対する恐怖心がなくなったわけではなかったんですけど、それはレースをやっているドライバーなら皆同じ。むしろそれがあるからこそ自分自身を制御することもできる。私はあの経験によって、恐怖心との向き合い方、どうやって自分の中でコントロールするかを学べたような気がしてます。

 

14歳でヨーロッパのレースに挑戦
家族でのキャンピングカー生活と苦闘の果てに掴んだ史上初の快挙

──Jujuさんは2020年、ご家族で拠点を海外に移し、14歳からヨーロッパのレースに挑戦されてきたわけですが、その背景には、やはり年齢制限の問題(日本国内でのF3相当のレースへの参加資格は18歳以上)があったわけですか?

 

Juju はい。通常だとあと4年待たなければいけなかったので国外へ出るという選択肢しかなかったんです。

 

──つまり、海外でのレースに勝算があったからではなく、ブランクを開けずにレースを続けるためには他に方法がなかったということですね。

 

Juju 本場のヨーロッパで勝てるなんて全く思ってなかったですし、むしろ自分の力がどこまで通用するのか不安でした。

 

──その不安がなくなったのはいつ頃でしたか?

 

Juju デンマークでの初戦に優勝することができて、すごく自信になりました。ただ、それからは向こうのチームから目の仇にされて。日本人の女の子に何年もそこでやってるチームが負けたわけですから面白いはずがないのは分かるんですけど、「えっ!? こんなことしてくるの!」って驚いてしまうくらい、いろいろ理不尽なことをされて。

 

──何があったんですか?

 

Juju 急にルールを変えられたり、あとは相手がやってもペナルティにならないのに私がやるとペナルティになったり。そのときはこれってスポーツじゃないよねって腹が立ったし、本当につらかったんですけど。でも、こう考えたんです。それって裏を返せば自分の力が通用してるからだ。脅威に思われている証明だって。

 

──ライバルとして認められたのだと前向きに捉えたんですね。

 

Juju 勝負に対する姿勢が根本的に違うんです。日本人には「そんなことしてまで勝って恥ずかしくないのか」っていう武士道精神のようなものがありますけど、向こうの人は「勝てないことが恥ずかしい」っていう考え方なんです。

 

──なるほど。そこまで真逆の考え方の相手と戦うのはかなり難しかったんじゃないですか?

 

Juju いつも父がこう言ってたんです。「卑怯な手を使って勝ったとしても、そういうやつはこの先必ず通用しなくなる。だから、つらいかもしれないけど今は自分ができることを一生懸命やろう。そしていつかチャンスが来たときにそれを自分のものにするんだ。最後は本物が残る。信じて諦めずにやっていこう」と。実際、そのとおりになりました。

 

──素晴らしい教えですね。現地ではその頼りになる監督でもあるお父さんとお母さん、そして弟さんと4人でキャンピングカーに寝泊まりする生活をされていたということですが、見知らぬ異国を転々とする暮らしに不自由を感じることはありませんでした?

 

Juju それはまあいろいろ(笑)。日本とは生活スタイルも違いますし、細かいこと言うと、よく高速道路のサービスエリアのシャワーを使ってたんですけど、お湯が出ないとか霧みたいな水しか出ないとか、そんなことはしょっちゅうでした。小さなことですけど、そういう面で日本は恵まれてるなってあらためて感じましたね。でも、何から何まで家族がサポートしてくれたおかげで自分はいつでも集中して楽しくレースができたので、本当に感謝しかないと思ってます。

 

2024年『全日本スーパーフォーミュラ選手権』参戦
日本人女性ドライバー初にして最年少の挑戦

──2021年に『デンマークF4選手権』で優勝3回、2023年にはフランスの『ユーロ・フォーミュラ・オープン』に女性として初めて優勝、イタリアの『ジノックスF2000フォーミュラトロフィー』では5勝を挙げて女性として初の年間王座を獲得。F3クラスのレースで女性が年間チャンピオンになったのは史上初という快挙を成し遂げたわけですが、それらの結果を出したことで変化はありましたか?

 

Juju そうですね。同じサーキットで行われたGTレースのチームから「来年、うちで走らないか」ってその場で声をかけられました(笑)。でも一番大きかったのは周りの反応より自分の気持ち。ヨーロッパで苦しみながらも頑張ってきた結果が、どんどん形になっていく実感を味わえたことが何よりの喜びでした。

 

──そしてヨーロッパでの結果が、いよいよ今年、アジア最高峰といわれる『全日本スーパーフォーミュラ選手権』(F2に匹敵するカテゴリー)参戦へと繋がった(1月9日、TGM Grand Prixがドライバーとして起用すると発表)。“日本人女性ドライバー初”でなおかつ“史上最年少”という話題性もあって一躍注目の的となっていますが、今、どんなお気持ちですか?

 

Juju 昨シーズンが始まる前は、まず1年はユーロフォーミュラで経験を積んで、次の年もまたそこで頑張っていくつもりでいました。まさかこんなに早くスーパーフォーミュラに出られるなんて考えてなかったので素直にうれしいし、とてもわくわくしてます。

 

──今季はヨーロッパでの実績を引っ提げての凱旋でもあります。自信のほどはいかがですか?

 

Juju 昨年の暮れに初めてスーパーフォーミュラの車に乗ったんですが、初日はアクセルやブレーキのタイミングがうまくいかなかったんです(ドライバー候補者は3日間にコースを192周する合同テストを受けた)。車はいけるのに自分のほうがそれについていけない感じで。今までの自分の常識と全然違っていてうまくいかなかったんです。でも2日目には「ここまでいけるんだ!」って。すごく難しいけど、これは乗りこなせたら本当に楽しいだろうなって感じました。

 

──手応えはあったんですね。

 

Juju いえ、私の場合、スーパーフォーミュラのようなビッグパワー(最高時速300km超)の車も初めてなら日本のサーキットを走った経験もほとんどありません。まして国内のトップドライバーが揃っていて、海外からもすぐにF1へ行けるようなドライバーたちが集まってくるカテゴリーですから、経験値から言ってもどん尻の自分がすぐに結果を出せるほど簡単な世界じゃないです。でも、だから最下位でいいなんて消極的な考えでもありません。とにかくチャレンジを重ねて一戦ごとに成長していく姿を皆さんに見せられたら、それが一番だと思っています。

 

 

構成・撮影/丸山剛史 取材・文/木村光一

北原里英「他の共演者としゃべらないために役者一人にロケ車一台が用意」出演者も先が読めない、謎解きはアドリブで!? 『劇場版 マーダー★ミステリー 探偵・斑目瑞男の事件簿 鬼灯村伝説 呪いの血』

推理小説の登場人物となり、参加者が話し合いながら事件の解決を目指す体験型ゲームの新ジャンル「マーダーミステリー」。このゲームシステムをベースに、ストーリーテラーを劇団ひとりさんが務めるドラマ「マーダー★ミステリー 探偵・斑目瑞男の事件簿」は好評を博し、舞台化もされた。2月16日(金)から公開されるシリーズ最新作、『劇場版 マーダー★ミステリー 探偵・斑目瑞男の事件簿 鬼灯村伝説 呪いの血』も、各シーンのセリフはほぼアドリブで行われ、演技者としての実力が試される新感覚ミステリームービーとなっている。過去にも「マーダーミステリー」を取り入れた舞台に出演している北原里英さんに、緊迫感に満ちた撮影時のエピソードを中心に、今ハマっていることやモノなどを語ってもらった。

 

北原里英●きたはら・りえ…1991年6月24日生まれ。愛知県出身。2007 年、AKB48 第二回研究生(5期生)オーディションに合格して、2008 年から AKB48メンバーとして活躍。2015年、NGT48に移籍し、キャプテンを務める。2018年にNGT48を卒業。卒業後、ドラマや映画に多数出演し活躍している。女優ほか2023年には小説家としてデビューを果たす。近年の代表作として、映画『女子大小路の名探偵』(2023年)、『神さま待って!お花が咲くから』(2023年)など。公式HPInstagramXYouTube

 

【北原里英さん撮り下ろし写真】

 

撮影が始まって、実際に接して得た情報で推理をしていくしかない

──「マーダーミステリー」というゲームシステムを取り入れた『劇場版 マーダー★ミステリー 探偵・斑目瑞男の事件簿 鬼灯村伝説 呪いの血』ですが、事前に与えられるのはキャラクター設定と行動指示のみ、各シーンのセリフはほぼ即興劇(アドリブ)という、俳優さんにとって、演技力はもちろん、推理力やアドリブ力も求められる内容です。

 

北原 ドラマ版の「マーダー★ミステリー 探偵・斑目瑞男の事件簿」には出演していないのですが、もともと私はマーダーミステリーにご縁があって。マーダーミステリーの要素を取り入れた舞台やテレビのバラエティには出演したことがあったんです。だから初めての方よりは、ルールを分かった上で参加できました。

 

──マーダーミステリーは人狼ゲームと通じるところもありますが、こういうゲームは得意なほうですか?

 

北原 あまり人狼ゲームは得意じゃないです。というのもゲームとはいえ、なるべく嘘はつきたくないから。偽善者に聞こえるかもですが(笑)。

 

──今回の映画は、事前にどんな情報をもらえたんですか。

 

北原 舞台となる鬼灯村(ほおずきむら)と自分が演じる人物の設定書、その事件が起きるまでの動き、その日の自分の簡単な行動は、それぞれもらっているんですが、それを発展させて自分でセリフを作らなきゃいけないので、誰にも頼ることができないんです。他のキャラクターに関しては、例えば「〇〇に好意を寄せている」ぐらいは分かるんですけど、ほぼ情報がなくて。撮影が始まって、実際に接して得た情報で推理をしていくしかないんです。

 

──休憩中、共演者とはどう過ごしていたんですか?

 

北原 本当に厳重で、セッティングチェンジなどで空き時間が生まれるじゃないですか。そういうときも、他の人と話したりしては駄目なので、一人一台ロケ車が用意してあって、車の中で待機するんです。それぞれ車に戻ると、役者一人に、一人ずつ担当のスタッフさんが付いていて。例えば1回目の話し合いをするシーンが終わった後、そのスタッフさんから、「あなたはこれを見つけました」と新たな証拠を渡されるんです。それを次の話し合いのときに、どの順番で出すかが今後の展開で重要になってきますし、自分が犯人と疑われたときに、みんなの目を逸らさせるために出すこともあります。「ちょっと、この証拠は弱いな」と思ったら早めに行きたいし、そこは自由なんです。

 

──それはすごい! もちろん事前に俳優さん同士で話し合うのも駄目?

 

北原 駄目です。メイクルームでメイクしているときも、他の方と時間が重なったらあいさつするじゃないですか。あいさつした後に世間話を始めたら、スタッフさんが飛んできて「しゃべらないでください!」と止められるぐらい徹底していました。

 

「アドリブが苦手」と仰っていた高橋克典さんの独白シーンは圧巻だった

──撮影期間はどのぐらいだったんですか。

 

北原 俳優陣は2日です。1日目は丸々アドリブパートで、死体発見からエンディングまで。2日目は回想シーンなど前後の芝居パートだったので、その日は決まったセリフのみ。たった2日間なのに、1日目で脱出ゲームをやったくらいの絆が生まれたので、2日目は連帯感がありました。

 

──かなり1日目は張り詰めた空気だったんじゃないですか。

 

北原 緊張感はすごくありました。アドリブに対する緊張感もありますし、これが映画になるというところで、1つの作品として完成させなきゃいけないという緊張感もおのおのあったと思います。スタッフさんは、俳優陣の初見のリアクションを大切にして撮ってくださったのですが、演じている側は素とお芝居の中間という感覚でした。

 

──アドリブパートは、どの俳優さんが話し出すか分からないから、カメラの台数も相当ありますよね。

 

北原 そうですね。でも、完成した作品を見たら、それを感じさせないので、さすがプロの方々だなと思いました。一日中撮影をしていたので、もっとたくさんのことを話し合ったりもしたんですが、余計なシーンは削って、ミステリー色強めにきれいにまとまっているなと感じました。

 

──例えば、どういう要素がカットされていましたか。

 

北原 ドラマ版から出演している劇団ひとりさんはアドリブのプロじゃないですか。八嶋智人さんも面白い方なので、お二人のアドリブは、笑いが堪えられないくらい面白い瞬間が多々ありました。一度カメラが回ったらストップしないので、スタッフさんも流れに任せるしかないんです。そういうシーンは本編でも多少は残っていますが、全体的にシリアスになっていますね。関西人の役者さんが多かったので、現場ではお笑い色が強めでした。

 

──劇団ひとりさんは笑わせる気満々でしたよね。

 

北原 満々でした(笑)。初めて映画を見た方は気付かないかもしれないんですが、みんな笑いを堪えたり、顔を背けたりしていて。繰り返し見ていただくと、そういうところにも気付いていただけるんじゃないかと。

 

──中盤で脱落するキャラもいますが、それも途中で知らされたんですか?

 

北原 そうです。ご本人も直前まで知らなかったみたいです。

 

──アドリブ面で特に印象に残っている共演者はどなたですか。

 

北原 高橋克典さんの独白シーンは、「本当はセリフが用意されてない?」と疑うぐらい迫真の演技でした。しかもご本人は「アドリブが苦手」と仰っていたのに、アドリブでこんなに感情を入れることができるんだと驚かされました。

 

目の前で劇団ひとりさんのアドリブ劇が見られてうれしかった

──1日目の手応えはいかがでしたか?

 

北原 全然攻めることができないし、うまくかわされることもあって、演じながら下手だなと思いました。どこまで言うのかがマーダーミステリーって難しくて、あまりに自白しなさ過ぎても話が進みません。大体こういう作品って、一番怪しくない人が犯人じゃないですか(笑)。だから怪しいポイントが多い人は、先に言っちゃったほうが良かったりもするんです。

 

──事前の役作りも難しいですよね。

 

北原 でも、しっかり役を作っていかないと、何か言われたときにパッと返せないから、いろんなパターンを考えていきました。何か言われたときの否定の仕方一つとっても、「そんなに強く出たら変だよな」とか、いろんなことを考えちゃうんです。私が演じた七尾優子(ななお・ゆうこ) は最近移住してきた元看護師なので、村人からしたら部外者なんです。村人のことを知らない中で、誰にどうやって疑惑の目を向けていくかも悩みました。

 

──優子が不利になるような証拠写真も出てきますが、もちろん本番の前に撮影しているわけですよね。

 

北原 そうです。衣装合わせのときに撮影しているので、どこかで絶対に出てくるんだろうなと思っていたんですが、どこで出てくるかは分からない。でもマーダーミステリー作品をいくつもやってきたので、自分の設定書を見ながら、写真を出されたときに、どういう言い訳をしようか考えていました。

 

──衣装合わせも推理の上では重要だったと。

 

北原 そうなんですよ。もっと言えば、打ち合わせが一番の肝だったんじゃないかと思っていて。光岡麦監督との話し合いで、何点かメモしていたことを「こう書いてありますけど、私じゃないですよね?」みたいな感じで質問したら、「鋭いですね」と仰っていました。

 

──打ち合わせから光岡監督との駆け引きがあったんですね。

 

北原 逆に撮影が始まってからは、光岡監督と演技プランなどを話し合う時間は少なかったですね。2日目のお芝居パートも、「とにかく全員怪しく演じてください」みたいな感じだったので、綿密に話し合ってというよりは、好きにやらせてもらいました。

 

──完成した作品を見てどんな印象を受けましたか。

 

北原 しっかりとしたミステリーに仕上がっていたので、ミステリーファンの方にも満足していただける内容になったと思いますし、劇団ひとりさんのアドリブが好きな方にもオススメです。

 

──劇団ひとりさんのお芝居は『ゴッドタン』を彷彿とさせますよね。

 

北原 そうなんです! 私は「キス我慢選手権」が大好きで、『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE』は劇場まで見に行ったくらいなので、目の前で劇団ひとりさんのアドリブ劇が見られてうれしかったです。

 

夫婦で愛用しているスマホスタンド「Majextand M」

──映画でオススメのミステリー作品を教えていただけますか。

 

北原 私は『名探偵コナン』が好きで、新作映画は毎回、映画館で見ます。中でも好きな作品は2作目の『名探偵コナン 14番目の標的』(1998年)で、各キャラクターの名前に入っている数字を基に事件が起きるんです。目暮十三だったら13、白鳥任三郎だったら3と、この映画のために作者の青山剛昌先生は名前を付けたんじゃないかというぐらい見事でした。今年4月公開の新作『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』は、私の推しである服部平次がキーパーソンになるので、今から楽しみです。

 

──アニメ全般がお好きなんですか?

 

北原 それが他のアニメは、ほぼ見ないんです。それ以外だと『エヴァ(新世紀エヴァンゲリオン)』ぐらい。だから本物の『名探偵コナン』ファンなんです!

 

──今ハマっていることは何ですか。

 

北原 数年前からなんですが、スパイスカレー作りにハマっています。完全にオリジナルなんですが、適当にスパイスを配合して作ります。家族以外に振る舞うのも好きなので、クリスマス会や正月などで集まるときは、スパイスカレーを作って持って行きます。

 

──スパイスは専門店で買うんですか。

 

北原 そういうときもありますが、今はスーパーや百均でもスパイスが売っていて、手軽に買えるんですよ。しかもスパイスカレーって難しいと思われがちなんですけど、実はめちゃくちゃ簡単で。煮込まなくていいので時間も掛からないですし、市販のルーで作るよりも簡単かもしれない。私はキーマカレーが一番得意なんですけど、挽肉を炒めるだけだし、お肉が固くなる心配もないので、すごく楽です。

 

──最後に今オススメのモノを紹介してもらえますか。

 

北原 「Majextand M」というスマホ用のスタンドです。お手持ちのiPhoneにシートを貼って磁石で固定させるんですけど、スタンドの高さと角度を調節できますし、縦にも横にもできるし、タブレットにも使えます。例えば新幹線で動画を見るときって何かにスマホを立てて見ると思いますが、不安定でぐらつくじゃないですか。それが全くないですからね。TikTokなどで動画を撮るときや、インスタライブをやるときも、めちゃくちゃ便利ですし、集合写真を撮るときも重宝します。お正月に家族親戚一同で集まったときも大活躍なんですよ。オンラインミーティングにも最適ですし、畳んでコンパクトになるので持ち運びも簡単。あと人間工学に基づいているので、ストレートネックにもなりにくいんです。

 

──通販番組みたいにスラスラと説明できるんですね(笑)。

 

北原 そろそろ販売元の会社からオファーをもらってもいいんじゃないかというぐらい周りに売りまくっていますから(笑)。今作の衣装合わせでも、監督さんや衣装さんたち3人が買いました。私からオススメしたわけではなく、普通に使っていたら、「何ですかそれ?」って、みんな興味を持つんですよね。共演者だと、木村了さんと八嶋智人さんにも売り込みました(笑)。

 

──店頭で見つけたんですか?

 

北原 いえ、夫(笠原秀幸)がドラマの現場に行ったら、メイク中にスマホを「Majextand M」に立てていた俳優さんがいたらしくて、わざわざスタンドを持ち歩いているんだと思っていたら、メイク後に畳んでいるのを見て、まさかのスマホにくっついているスタンドなんだと。それで夫婦で購入したんですが、我々夫婦で100個は売っています(笑)。色も4色展開で、私が使っているのはシルバーですが、女の子だったらローズゴールドがかわいいと思います。

 

──本当に会社と繋がってないんでしょうか?(笑)

 

北原 繋がっていません! でも、これだけ夫婦で売っているので、そろそろ何がしかの契約をいただけたらうれしいですよね(笑)。

↑北原さんがオススメする「Majextand M」。かわいくデコレーションも

 

 

劇場版 マーダー★ミステリー 探偵・斑目瑞男の事件簿 鬼灯村伝説 呪いの血

2024年2月16日(金)より、新宿バルト9ほか全国ロードショー

 

(STAFF&CAST)
監督:光岡 麦
企画:安井一成  エグゼクティブプロデューサー:後藤利一 松井 伸  チーフプロデューサー:梅村 安 嶋田 豪 プロデューサー:西前俊典 市川貴裕 龍川拓美
シナリオ構成:渡邊 仁 企画アドバイザー:眞形隆之
配給:アイエス・フィールド 配給協力:ショウゲート

出演:劇団ひとり、剛力彩芽
木村了、犬飼貴史、文音、北原里英、松村沙友理、堀田眞三
八嶋智人、高橋克典

(STORY)
舞台は『一夜のうちに3人の生贄の血を滴らせると死者が蘇生する』という不気味な伝承が残る鬼灯村(ほおずきむら)。その伝承をもとに「三つ首祭り」という奇妙な鬼祭が行われていた夜、村の長を務める一乗寺家当主の遺体が発見される。 しかし、その日、村へと続く一本道で土砂崩れが発生、 警察が到着するまでにはかなりの時間を要する。当時、屋敷にいたのは8人。それぞれ人には言えない秘密を抱えており、全員が殺害の動機をもっていた。事件の真相に迫るべく、登場人物を演じるキャストによるアドリブ推理が予測不能な結末へと導かれていく―!

公式HP https://madarame-misuo.com/
公式X https://twitter.com/MadarameMisuo

(C) 2024劇場版「マーダー★ミステリー 斑目瑞男の事件簿」フィルムパートナーズ

 

撮影/武田敏将 取材・文/猪口貴裕 ヘアメイク/住本由香 スタイリスト/山田梨乃

国本梨紗インタビュー【完全版】「このお仕事をするようになってから人見知りが消え、趣味の幅もどんどん広がってきています」

『ズームイン!!サタデー』のお天気キャスターをはじめ、『超無敵クラス』や『プレミアの巣窟』などのレギュラー番組で話題を集めている、現在大注目の国本梨紗さん。昨年12月に発売されたGetNavi 02・03月合併号でも「NEXTトレンド2024」に登場するや、大きな反響を呼びました。そこで、本誌では語り尽くせなかった彼女の魅力を“完全版”として紹介します!

※こちらは「GetNavi」 2024年02・03月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

国本梨紗●くにもと・りさ…2003年4月10日生まれ。長野県出身。2020年に『第7キングダム』にてテレビデビュー。現在出演中の『ズームイン!!サタデー』では番組初の現役高校生お天気キャスターに抜擢され、話題に。レギュラー番組に『超無敵クラス』『プレミアの巣窟』など。2023年より、地元の長野県で「白馬村観光大使」としても活躍中。Instagram

 

【国本梨紗さん撮り下ろし写真】

 

学生時代は12km先の友人の家まで自転車で通っていました

──国本さんといえば、『超無敵クラス』内の人気企画「チャリ通ジャーニー」で、過酷な長距離の通学路を学生と一緒に自転車で走る様子が話題となりました。私も大ファンの一人です!

 

国本 ありがとうございます! 「チャリ通ジャーニー」は本当に多くの方から反響がありました。顔や名前を覚えていただくきっかけにもなって、私にとっても忘れられない、大事な企画の一つになっています。

 

──学生たちと遜色ない力強い自転車の走りにも驚きましたが、もともと体力には自信があるほうなんですか?

 

国本 そうですね。そもそも、私自身も「チャリ通ジャーニー」に近い環境で育った一人でしたから。出身が長野県の白馬村で、片道12km先の友達の家に遊びに行くというのが日常だったんです(笑)。

 

──12km!? それってどれくらい時間がかかるものなんですか?

 

国本 マウンテンバイクに乗っていたというのもありますが、皆さんが想像されるよりも意外と早くて、大体1時間くらいです。それに、私が住んでいた場所は、まだ平坦なところだったのでよかったんです。ただ、友人の家はゲレンデの近くにあり、坂が多かったので大変でしたね。きっとそこで、自然と体力と脚力がついたんだと思います。

 

──リアル『弱虫ペダル』ですね(笑)。

 

国本 まさに! 田舎道なので、たまに鹿と出くわしてビックリすることもありましたし(笑)。ただ、上京して自転車に乗って分かったことですが、都会は都会でクルマの往来が激しく、田舎にはない怖さを感じたんです。それでいえば、相手が動物かクルマかの違いだけで、注意しなければいけないのは、きっとどこでも同じなんだなと思いました。

 

──野生の動物とクルマの危険度を同軸で語る方に初めて会いました(笑)。でも、今の話だと、もしや番組側は、そうした環境で国本さんが育ってきたことを知っていた上で、「チャリ通ジャーニー」の企画に抜擢されたということなんでしょうか?

 

国本 いえ、多分知らなかったと思います。ですから、私もまさかこんなに自分にぴったりの企画をいただけるとは思わず、ホントに驚いて。出演してくださる高校生たちとお話をしていても共感する部分が多かったですし、どんなことを考えながら自転車を漕いでいるのかとか、自転車通学の魅力を聞くたびに、“分かるなぁ”と思えて楽しかったです。

 

── 一見すると辛いだけに感じますが、自転車って、あのスピードだからこそ発見できる景色の良さなどがありますよね。

 

国本 そうなんです。クルマだとあっという間に通り過ぎてしまう景色でも、自転車だとゆっくりと楽しむことができる。季節の移ろいを全身で感じることもできますし、自転車って本当にいいなぁって思います。

 

──今でも乗っているんですか?

 

国本 上京してからも、しばらくは15km先のお店に平気で自転車でお買い物に行ったりしていました(笑)。でも、ある日盗まれちゃって。それ以来、トラウマになって最近は自転車から少し離れてしまっていますね。

 

白馬村で生まれ育ったことが、お天気キャスターの仕事にも活かされています

──また、国本さんは昨年、地元の魅力を全国に伝えるべく、「白馬村観光大使」の第一号にも任命されました。国本さんが感じる白馬村の良さはどんなところですか?

 

国本 やはり一番は自然の素晴らしさです! 地元に帰るたびに3000m級の山々が目の前に広がっていて、それがまるで私のことを迎えてくれているような幸せな気持ちになるんです。それに食べ物もおいしい! きっと水が澄んでいるのも大きくて。夏場に顔を洗おうと思って蛇口をひねると、いつもキンキンに冷えた水が出てきますし。東京だと少し温い水が出てくることがあるので、そんなときは、“あ〜、村に帰りたい!”って、少しホームシックになります(笑)。

 

──現在、『ズームイン!!サタデー』でお天気キャスターとしても活躍されていますが、そうした地域による気候や環境の違いの感じ方は、お仕事にも活かされていそうですね。

 

国本 はい。すごくあると思います。例えば、白馬村は雪の多い場所なので、「国本さんは寒さに強そうだね」と聞かれることが多いんですね。でも、同じ気温でも湿度が異なると、体感が全然違うんです。東京はすごく乾燥しているから数字以上に寒く感じますし、長野は逆に湿度が高いから、気温が低くても意外と平気だったりする。こうした感覚の違いを身を以て知っているのは、お天気をお伝えするうえで、どこかしら役に立っているところがあるのかなと思います。

 

──確かに、お天気ニュースでよく耳にする「明日は積雪に注意を」という言葉ひとつとっても、雪が滅多に降らない地域と積雪量の多い地域とでは、意味合いが違ってきますよね。

 

国本 そうですね。東京だと雪で交通が麻痺するおそれがあったり、前日から注意を呼びかけたりしますから、本当に全然違うなって思います。思えば上京したばかりの頃、積雪に備えた電車の計画運休があるという話を聞いたときは、絶対に都市伝説だと思ってました(笑)。

 

番組で得た知識は友人にめちゃくちゃドヤ顔で語っています(笑)

──また、近年はバラエティをはじめ、さまざまな番組に出演して活躍されていますが、特にご自身にとってチャレンジだったと感じた番組はありますか?

 

国本 昨年二十歳になり、10月にBS12 トゥエルビの『NEXT TRIP ~心アガる香港!ひとり女子旅』という番組に出させていただいたのですが、初めての海外での一人旅でしたので、それがすごく印象に残っていますね。海外旅行自体は家族で経験があったものの、これまでは台湾や韓国、ハワイなど、多少なりとも日本語が通じる場所ばかりだったんです。でも、香港は全く通じなくて。そんな土地で、お買い物をしたり、自分一人の力で街の魅力を見つけていくという経験はいろんなチャンレジがありましたし、素敵な思い出になりました。

 

──怖さはなかったんですか?

 

国本 現地の方は皆さんすごく優しくて、私の“出川イングリッシュ”のような英語も必死に理解しようとしてくださったので、なんとかなりました(笑)。絶対に会話になってなかったと思うんですが、不思議と理解をし合えているような気もして(笑)。それに香港って先進的な街並みがある一方で、路地に一歩入るとディープな世界が広がっている感じがすごく面白いんです。今回は時間があまりなかったのでディープな世界には入り込めなかったのですが、いつか個人的に深掘りしていきたいという目標もできましたね。

 

──すごく積極的ですね。そうした探究心は以前からお持ちだったんでしょうか?

 

国本 もしかしたら、今のこうしたお仕事をするようになったことがきっかけかもしれないです。出会う人たちとコミュニケーションを取るのがどんどん楽しくなってきて。もともとはすごく人見知りだったんです。高校時代なんて、半年ぐらい友達が作れませんでしたから(笑)。でも今は、「チャリ通ジャーニー」で出会った学生さんたちから番組内でもっといろんな話を聞き出したいなって思うようになったり、ちょっとずつ一人暮らしにも慣れてきたことで、『ズムサタ』の共演者の皆さんやスタッフさんに「休みの日は何をされてるんですか?」と積極的に話しかけて、自分の時間を充実させる術を学ぶようにもなってきたんです。

 

──『ズムサタ』をはじめ、レギュラーで出演中の『プレミアの巣窟』など多くの情報番組に出ていらっしゃると、知識や趣味の幅も広がっていきそうですね。

 

国本 それはすごくあります。これまで自分が触れてこなかった分野のことをたくさん知れるので、どんどん自分が成長しているように思います。それこそ『プレミアの巣窟』に携わらせていただくようになってから、プライベートで美術館に行ったり、舞台を観に行くようになって。この一年で自分の興味の幅も広がりました。普段でも、番組で学んだことが友人との会話の中で出てくると、ここぞとばかりにめちゃくちゃドヤ顔で語ったりしますね(笑)。

 

──(笑)。先ほど、昨年二十歳になったというお話がありましたが、ご自身の中で変化はありましたか?

 

国本 変化なのかは分かりませんが、ひとつだけ気づいたことがあります。私の実家は居酒屋で、これまでいろんな方がお酒を飲んで楽しんでいる姿を見て、憧れを持っていたんですね。“二十歳になったら絶対にお酒を飲むぞ!”って。でも、いざ飲んでみたら、一杯目でコロッと寝てしまいました。どうやら、ド下戸だったみたいです。お酒って楽しいものなんだろうなって想像していたのに、私にとっては強敵でしたね(笑)。

 

──長野だとおいしいお酒がたくさんありそうですから、それは残念ですね(笑)。

 

国本 そうなんですよ。日本酒や地ワインなど、本当にたくさんあるみたいなんですが、下戸の私にとってはどれも噂レベルでしかないです(笑)。ただ、お酒が得意じゃなくても、長野にはお酒の肴にぴったりな大人が嗜む食べ物がたくさんありますし、そういったものをこれからもっと知っていきたいなと思っています。八ヶ岳のチーズもそうですし、これまで食べず嫌いで避けてきたジビエにもチャレンジして、観光大使としてしっかり地元の良さをアピールしていきたいですね!

 

この4点は、今の私の生活に欠かせないアイテムです!

──さて、GetNavi webではインタビューにご登場される皆さんに“愛用品”をご紹介いただいているのですが、国本さんの最近のお気に入りアイテムを教えていただけますか?

 

国本 ネイチャーリパブリックという韓国のコスメブランドと『超無敵クラス』がコラボして共同開発した「YOKUBARIマスク」と「ハニーメルティングリップ」です。番組の出演者みんなで意見を出し合い、こだわって作った製品なので思い入れがあるのですが、商品としても本当にいいんです。マスクはゼリータイプなので乾燥しにくく、ドライヤーで髪を乾かしながらでも利用できますし、口元に切り込みが入っているので、会話や歯磨きもできる優れものです。リップも日本限定カラーをみんなで考えました。ミルクティーのような色合いですので使う場所を選ばず、すごく重宝していますね。

↑国本さん愛用の「ハニーメルティングリップ」

 

──そのほかの2点については?

 

国本 モバイルバッテリーとパイロットのボールペン(ILMILY)です。モバイルバッテリーはいくつか持っているんですが、これはスマホに直接挿せるのでケーブルいらずなんですね。仕事やプライベートでバッグを変える方って多いと思うのですが、私はケーブルだけ家に忘れてしまうことが多くて(笑)。でも、そんな心配がいりませんし、軽くて小さくて、充電の残量まで表示されるので、今は常に持ち歩いていますね。ボールペンも、ようやく理想の一本に出会うことができました(笑)。子どもの頃から香りのする文房具が大好きで、なかでもこのペンは私が好きなゼラニウムの香りがするんです。それに、最近は文字を書く作業をサボりがちで。でも、香りを楽しみながら文字を書くと、“もしかしたら、いい言葉が生み出せるかも!”と思って、愛用しています(笑)。

↑外出時の必需品モバイルバッテリー

 

──香りのする文房具はたくさんあると思いますが、なぜこのペンが理想の一本だったのでしょう?

 

国本 私、左利きなんです。すると、文字を書く際にペン先を推すような形になってしまうので、きっとそれが原因でインクがかすれてしまうことがあるんですね。でも、このILMILYは今まで使ってきた中で、それがほとんどなくって。ストレスなく快適に書くことができるので、“これだ!”と思って手放せなくなりましたね(笑)。

↑“これだ!”と思って手放せなくなったというILMILYのボールペン

 

 

撮影/映美 取材・文/倉田モトキ

金子隼也&野村康太インタビュー!理想のプロポーズは「2人の思い出の場所で」ドキドキの同居生活を描く「パーフェクトプロポーズ」が配信中

現在、動画配信サービス・FODにて配信中の「パーフェクトプロポーズ」は累計発行部数21万部を超える、鶴亀まよ氏による同名漫画を原作としたBLドラマ。仕事でパワハラ上司にプレッシャーをかけられ、眠れない毎日を送る主人公の疲れた心を、10年ぶりに再会した家事能力抜群の年下クール男子がおいしいご飯で癒す、ドキドキの同居生活を描いた作品です。

主人公・渡浩国(わたり・ひろくに)を演じる金子隼也さんと、相手役の深谷甲斐(ふかや・かい)を演じる野村康太さんに、原作やキャラクターに感じる魅力や役柄を演じる上で意識していたこと、それぞれ相手の印象や撮影時のエピソードなど、お2人のかわいらしさ満載のインタビューを行いました。GetNavi web恒例の今ハマっているモノについてもお聞きしました。

 

(写真右)金子隼也●かねこ・しゅんや…1999年11月27日生まれ。神奈川県出身。O型。現在、ドラマ『春になったら』に出演中。3月8日(金)公開の映画「マイホームヒーロー」にも出演。X(旧Twitter)Instagram (写真左)野村康太●のむら・こうた…2003年11月30日生まれ。東京都出身。O型。2月9日(金)公開の映画「身代わり忠臣蔵」、2月23日(金)公開の映画「ただ、あなたを理解したい」にも出演。Instagram

 

【金子隼也さん&野村康太さん撮り下ろし写真】

 

浩国の繊細な心情の変化をしっかり捉えて表現していくことを大切に

──原作や脚本を最初に読んだ際に感じた印象は?

 

金子 僕はこのドラマのオーディションを受けるに当たって原作を読んだのですが、これまでBL作品を読んだことがなかったこともあり、ちょっとドキドキしつつ、同時に温かさを感じました。浩国と甲斐が抱えているものが繊細に描かれていたので、どちらの役にも感情移入でき、とても素敵な作品だなと思いました。

 

野村 僕も原作を読んですごく癒されました。2人の優しさや当たり前にある日常の大切さというのが丁寧に描かれていて、尊さを感じました。

 

──それぞれが演じるキャラクターに感じた印象や、演じる上で意識していたことは?

 

金子 浩国は上司にプレッシャーを掛けられながらも忍耐強く仕事を続けて、仕事に夢中になっているが故に、家事には全然手が回らなくなってしまっていて……というところは、何かに夢中になると他のことに手が回らなくなってしまう自分と少し似ている部分でした。また、浩国は会社においても甲斐に対しても優しさにあふれる人で、その中で起こる繊細な心情の変化をしっかり捉えて表現していくことを大切にしていました。原作から感じられた浩国の感情を大切にしながら台本を読んでいたので、それぞれの場面でどれぐらい甲斐に心が揺れているのか、どんな思いで言葉を発しているのかイメージしやすかったです。

 

野村 甲斐はクールで淡々としていて、感情をあまり表に出さないタイプ。僕はどちらかと言うとふわふわした性格で感情もわりとすぐ顔に出てしまうので、僕自身とは違うところがたくさんあるなという印象でした。僕も原作の甲斐を大切にしつつ、ドラマの撮影では、現場であったり、隼也君からの受けたものをお芝居で返すということを意識していました。

 

サウナという同じ趣味が見つかって盛り上がりました

──最初の頃は会話がなかったとお聞きしましたが、お互い第一印象と今の印象で変わった部分は?

 

金子 最初に野村君と会った時は、これまで見上げるくらい身長が高い方と共演することがあまりなかったので、まずそこにびっくりしましたし、19歳(※当時)という年齢にも驚いて。しかもかっこよくて、スタイルもよくて、ザ・好青年だなと思いました。そこから撮影を通して人懐っこさも見えてきて、かわいらしくて……もう無敵だなって思っています(笑)。

 

野村 ありがとうございます(笑)。隼也君は、最初は物静かであまりしゃべらない人なのかなと思っていたのですが、本読みやリハーサルと現場を重ねていくうちにおちゃめでかわいらしくて明るい部分が見えてきて。当時と今ではもうガラッと印象が変わりました。

 

──今となっては和気あいあいとされたお2人ですが、どのように信頼関係を築いていったのでしょうか。

 

金子 浩国の家のセットがそこまで広くない空間の中でずっと一緒にいたのもありますし、それぞれ1人ずつのシーンを撮っている時も、空き時間はいつも2人で過ごしていたんです。そこでたわいもない話をしたりして、徐々に関係性が築かれていったのかなと思います。

 

野村 お互いサウナという同じ趣味が見つかって、そういう話でも盛り上がりました。

 

金子 まだ一緒に行けてないね(笑)。

 

野村 行けてないですね……。

 

金子 というのも、撮影の時は野村君が甲斐を演じるのに茶髪だったので(色が落ちてしまうため)行けず、終わってからは逆に僕が茶髪にしないといけなくなって……もどかしいです(笑)。今度行こうね。

 

──相手が演じるキャラクターに感じる魅力的な部分は?

 

金子 甲斐はなかなか感情を表には出さず、生い立ちからときどき結果を見ずに諦めてしまっているような部分があるのですが、その弱さのようなものを浩国だけには見せてくれるんです。甲斐のそういうところに、みんな落ちてしまうんじゃないかなと思います(笑)。

 

野村 僕は浩国の優しさ。甲斐の全てを受け入れてくれるといいますか、包み込んでくれるような優しさに僕自身もグッと来てしまって。そんな浩国だからこそ甲斐も自分の感情をぶつけられたのかなと。本当に、優しさであふれているキャラクターだと思います。

 

野村君はいつもまとっている雰囲気が温かい

──お互い個人としてかわいいなと思うところ、逆にモノ申したいところは?

 

金子 野村君は、現場に椅子を2つ用意していただいていたのに僕の膝の上に座ってきたりして、そういうところがかわいいです(笑)。対して、うらやましいのは身長があり、顔も小さく、かっこいい上にちゃんと筋肉もついている……という完璧なところ。いつもいいな~と思いながら見ていました(笑)。

 

野村 僕は、隼也君が見せる無邪気な笑顔がすごい好きで。劇中の浩国もそうですが、普段からすごく笑顔がかわいいんです。うらやましいのは、家事が得意なところ。僕はどちらかというと家事が苦手なので、きちんと料理や掃除ができるのはいいなと思います。

 

──では、実際のお2人は役柄とは正反対?

 

野村 そうですね。甲斐の役柄としては家事万能という感じですが、僕自身は普段ほとんど料理をしたことなくて。なので、どうやったら上手に料理を作ってるように見えるかというのは、現場で相談しながら、何度も撮り直しをしながらやっていました。

 

──そうすると、それぞれ相手と役にギャップは感じていた?

 

金子 そうですね。でも、演じている時は甲斐、オフになったら野村君、というそのギャップが見ていて楽しかったです。野村君はいつもまとっている雰囲気が温かいんです。あと、僕は家のベッドじゃないと寝られないタイプなのですが、彼はどこでも寝られたり(笑)、そういうかわいらしさをいつも感じていました。

 

野村 僕は、逆に隼也君と浩国は似ているなと思っていました。浩国もですが、隼也君本人もすごく優しくて、それこそ膝の上に座ってしまうぐらいの安心感や包容力があるので(笑)。

 

──そもそも、野村さんはなぜ膝の上に座っていたのでしょうか?(笑)

 

金子 あまり深く考えていないよね?

 

野村 そうですね(笑)。

 

金子 僕も野村君の胸筋を勝手に触ったりして、特に何も考えることなく、いつも2人で楽しんでいました(笑)。

 

浩国は変わらず優しい心の持ち主だなとキュンとした

──本作は全6話とのことですが、それぞれ印象深いシーンを挙げていただくと?

 

金子 浩国の感情の動きが見えるようなシーンはもちろん、毎話登場する食事のシーンも大好きです。浩国が甲斐の作ってくれたご飯を食べ、少しずつ自分らしさを取り戻していく過程を見守っていただくのと同時に、同じようなご飯を作ったりして楽しんでいただくのもいいんじゃないかなと思います。

 

野村 甲斐はあまり感情を表に出さない性格ですが、最終回で初めて浩国に対して自分の感情をさらけ出すシーンがあって。クライマックスということもあり、お互いの関係性や心情の変化というのも鮮明に描かれるので、そこはぜひ注目して見ていただけたらうれしいです。

 

──それでは、それぞれにキュンとしたシーンは?

 

金子 僕は、3話で甲斐と一緒に寝るシーンです。突然無言で布団に入ってくるところに甲斐らしさを感じつつ、浩国と距離を詰めたいという思いが見えてキュンとしますし、ここから何かが始まりそうな予感がするといいますか。僕自身、映像を見ていて「おおっ」となりました(笑)。

 

野村 僕は、1話で浩国が甲斐に「これからも晩飯作ってくれよ」と、甲斐に気を使わせずに家に泊まることを許すシーンです。浩国は昔から変わらず優しい心の持ち主だなとキュンとしたのと、あと、最終回で浩国が甲斐に思いを伝えるシーンもすごくグッときました。

 

──既に配信されていますが、序盤の撮影において印象深いエピソードはありますか?

 

金子 2話で、甲斐と一緒にお祭りに行く約束をしたものの浩国が時間に間に合わず……というシーンがあるのですが、野村君が撮影の合間にチョコバナナとリンゴ飴とかき氷を食べていたんです。かつ、スタッフさんから追加でチョコバナナと焼きそばを持って帰ったと聞いて、めっちゃ食べるな! って(笑)。というのも、僕はこの時に初めてリンゴ飴を食べたのですが、飴1本とかき氷をちょっと食べただけでお腹いっぱいになっちゃったんです。なのに、野村君はそんなに食べていて、さらに持ち帰ったという大食い具合に感心しつつ、かわいらしかったことを思い出しました(笑)。

 

野村 僕は、2話の甲斐が洗面所で着替えているところに浩国が入ってきて慌てちゃうシーンかな。その時の浩国のリアクションも好きなのですが、隼也君がずっと「筋肉すごい」って腕や胸をちょんちょん触ってきて、僕もそういうところがかわいらしいなと思いました(笑)。

 

1週間に1度だけご褒美としてラーメンを食べに行く

──劇中にて“食事”が大切な存在として描かれていますが、お2人の生活において力をくれる存在は?

 

金子 僕は散歩と睡眠とラーメン。インドアなのでオフの日は家にいることが多いのですが、台本を読んでいたりして息詰まった時に30分ぐらい歩くと、いい息抜きになって気持ちの切り替えができます。あと、睡眠は3時間だけしか寝られない……みたいな状況が続くと体調が悪くなってしまうので一定の時間を確保することを大切にしたいというのと(笑)、ラーメンは単純に大好きで週1ぐらいで食べに行っています。ただ、食べ過ぎるとすぐに太ってしまうので、他の日はバランスよく食べ、1週間に1度だけご褒美として食べに行く、というのが日々の楽しみです。

 

野村 僕は筋トレ。高校の時から継続して週に3~4日やっているのですが、体も心も元気になるだけでなく、ストレス解消にもなるんです。僕の生活において、筋トレは欠かせないルーティンかなと思っています。

 

──もし、お2人が浩国と甲斐同様に同居するとしたらそれぞれ何担当をしますか?

 

金子 僕はひとまず料理と掃除。……何やる?(笑)

 

野村 買い物、ゴミ出し、洗濯……?

 

金子 洗濯も僕がやりたい(笑)。劇中で甲斐が洗濯物を干すシーンがあるんですけど、思いのほか雑で……(笑)。 僕は結構きっちりやりたいタイプなのと、特に家事を苦に感じないので、家事全般は僕がやりたいです。

 

野村 でも、最近洗濯物を干す時は、トップスなら縫い目とハンガーの線を合わせて掛けるように気を付けています。

 

金子 ちなみに、ハンガーは下から入れているよね?(笑)

 

野村 はい。前は何も気にせず上から入れていたんですけど、隼也君に言われてからは下から入れるようになりました!(笑)

 

──本作のタイトルにちなみ、それぞれが思う理想のプロポーズのシチュエーションは?

 

金子 僕は2人の思い出の場所かな。“プロポーズするぞ”みたいな空気感の場所だと緊張しちゃいそうなので、そういう場所のほうがやりやすいのかなと。キザな感じでいって断られてしまったら立ち直れない気がするので、フラットに普段通りの雰囲気でできたらと思います(笑)。

 

野村 僕、以前の取材の時は「おしゃれなレストランに行ったり、ドローンを使って派手にやりたい」みたいなことを言っていたんですけど、いま隼也君くんの“思い出の場所”っていうのを聞いて、それもいいなって。緊張しいなのでいかにもそういう雰囲気だとガチガチになってしまう気がするのですが、思い出の場所ならほっこりできそう。2人の思い出に浸りながらプロポーズするのもいいなと思います。

 

自分にどれが合うのかなっていうのを試して楽しんでいます

──最後に、GetNavi webということで普段の必須アイテムやハマっているアイテムを教えてください。

 

金子 Apple Watch SEです。電車の中など人が多くてスマホを触れないような時でも音楽を変えたりできますし、アプリの通知も来るのですごく便利だなって。あとは目薬。コンタクトを付けていてもスース―するものがあって、それはもう必須アイテムです。あと、美容で言えばリップクリームは絶対持ち歩いていますし、ほぼ毎日パックもしています。最近美容に目覚めたばかりなので(笑)、ひとまずいろんなものを買っては自分にどれが合うのかなっていうのを試して楽しんでいます。

 

野村 僕も唇の乾燥が気になるので、リップクリームは2、3本持ち歩いています。保湿してくれるやつ、血色が良くなるやつ…と用途もそれぞれ違うものを。あと、スキンケアには前から気を使っていて、美顔器を使ったり、化粧水、乳液、パックも毎日しています。お風呂に入っている時とか寝る前に小顔エクササイズみたいなものをやってみたり……。

 

金子 あるある(笑)。顔のラインがシャープになる6~7分くらいのエクササイズがあって、僕もたまにやったりします。

 

野村 僕は電化製品なら電子レンジかな(笑)。毎朝、卵を温めて半熟にして食べているんです。あと、Nintendo Switchは撮影で地方に泊りがけで行く時なんかは必ず持っていきます。

 

 

ドラマ「パーフェクトプロポーズ」(全6話)

動画配信サービス・FODにて現在配信中
以降毎週金曜よる9時に最新話を配信

※メイキング
Short Ver.:現在配信中(無料)
Long Ver.:3月1日(金)21時~(FODプレミアム会員限定)

(STAFF&CAST)
監督:宝来忠昭
脚本:宮本武史
原作:鶴亀まよ「パーフェクトプロポーズ」(海王社「GUSH COMICS」刊)
主題歌:「Daydream」OCTPATH(YOSHIMOTO UNIVERSAL TUNES.)
挿入歌:「Hello Tomorrow」OCTPATH(YOSHIMOTO UNIVERSAL TUNES.)

出演:金子隼也、野村康太
入江甚儀、木下彩音、高橋璃央、林裕太/田中幸太朗、岩瀬亮/北見敏之ほか

(STORY)
パワハラ上司にプレッシャーをかけられながら仕事に追われ、眠れない毎日を送るサラリーマン・渡浩国(金子隼也)。彼はある日、どこか謎めいた美しい青年に突然声をかけられた。

「結婚まで約束した仲なのに……」

それは浩国が中学生の頃に仲良しだった小学生の深谷甲斐(野村康太)だった。あれから10年ほどが経ち、大人に成長した甲斐が浩国の前に現れたのだ。住む所がなくなったという彼は、浩国の家に転がり込んできて、毎日ご飯を作ることを条件に2人の同居生活がスタート。

ちょっと生意気だけど家事能力バツグンで、浩国の好きなものは何でも知っている甲斐。仕事で上手くいかず疲れきった浩国は、美味しい料理と居心地の良さに癒されていく。日々年上の浩国をからかいながらも、自身の愛情をまっすぐに届ける甲斐。一方で、彼が大切な存在と気付きながら、その愛を受け止めきれずにいる浩国。そんな2人の同居生活にもタイムリミットが近づいていて―。

 

ドラマ公式HP https://www.fujitv.co.jp/propose_drama/

配信ページ https://fod.fujitv.co.jp/title/70li

 

撮影/映美 取材・文/片岡聡恵 ヘアメイク/佐々木麻里子(金子)、SUGA NAKATA(野村)、木下佐知子(野村) スタイリスト/清水拓郎(金子)、能城 匠(野村)

TikTokerブチギレ氏原インタビュー後編!結成から現在まで同居する相方は「卑怯者」、芸人への道を反対した母親は「手の平返し」!?

2020年4月、無事コロナ禍のTikTokに現れたり、森羅万象にブチギレ続けたり、生配信で集まった視聴者からのコメントにも瞬時にブチギレると、またたく間に人気TikTokerに躍り出たブチギレ氏原さん相方・サカモトさんと一緒にお笑いコンビ「ゴンゴール」として活動していましたが、2022年7月、TikToker&YouTuberとしてかじを切り、「GGチャンネル」として生まれ変わると、同年9月21日配信のYouTube動画「【生配信】」 】来たコメント全てにキレる生配信~Special Guest 轟さん(宮博之)~』で、まさかの昨日100万円のスパチャが集まり、翌日に本人が『の雷さんのキレる生配信、スパチャ額「世界一だった」とツイート、非公式ながらデイリーランキング世界1位という功績を残した。そんな氏原さんの「キレ芸」の原点を、学生時代まで​​遡る。

 

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ブチギレ氏原●ぶちぎれ・うじはら…2009年、相方のサカモトとお笑いコンビ「ゴンゴール」を結成。ケイダッシュステージに所蔵していたが、2021年4月、「ブチギレ氏原」の名前でTikTokで森羅万象にキレ散らかす動画をアップすると話題に。2022年7月に事務所を退所しフリーに。現在「GGチャンネル」として活動。

ブチギレ氏原公式TikTok @ujiharagongoal

 

【ブチギレ氏原さんの撮り記録写真】

 

ファーストコンタクトを無視した相方

──相方のサカモトさんとはずっと一緒に住んでるんですね。

 

氏原 はい。僕がかなり早い段階で一般の生活が本当になにもできないことが分かって、仕事がなんにもできないサカモトが家の掃除とか生活についてやってくれています。僕は仕事は全力でやってちゃんと稼ぐから、と。もうきっちり分けよう! という感じです。

 

──いい関係ですね。

 

氏原 それもケンカしてキレてる最中に「せめてなんかやれよ!」という流れで、1つずつそうなっていったんです。

 

──とはいえ、ピリピリしていた時期よりもサカモトさんへの愛があるのでは。

 

氏原 変わらないと思いますけどね(笑)。今日も普通にちょっと怒りましたし。

 

──出会いは高校時代に遡ると、長い付き合いですよね。

 

氏原 こいつは俺の幼なじみの幼なじみで、中3のときに幼なじみが「おまえの行ってる塾にサカモトが来るよ」と言うから、サカモトの連絡先を聞いてメールしたんです。「俺、◯◯の幼なじみの氏原っていうんだけど、よろしくー」って。こいつ無視したんですよ

 

──(笑)。

 

氏原 消化器ぶちまけたりして調子に乗ってましたし、「もう終わってるヤツだな」って印象です。

 

──あははは! むしろサカモトさんのほうが激ヤバな人物だったと。

 

氏原 激ヤバですよ。だって高校のあだ名「卑怯者」ですからね。

 

コンビに決めた理由は「顔がよかった」

──なぜですか(笑)。

 

氏原 日常で些細な卑怯を繰り返していたからです。たとえば、工業高校の電機科だったんですが、文化祭でクラス一丸となってフィーリングカップルの電光掲示テーブルを作ったんです。イケてるグループも真面目グループも壁を取っ払ってほんとうに一丸となって。そんな中でこいつは、「漢検の勉強する」って1人だけノータッチ。そういうことの積み重ねで「卑怯者」と。

 

──漢検(笑)。サカモトさんはそう呼ばれていたことを知っていたんですか?

 

サカモト いや、覚えてないですね。「犬」とは呼ばれていたけど。

 

──犬!(笑)

 

氏原 そうそう、「鳥」って呼ばれてるヤツもいて、そいつとセットな感じだったんですよ。

 

──そんなサカモトさんとコンビを組もうと思ったのはなぜですか?

 

氏原 顔が整っていて、明るいヤツだから。それだけです。

 

──理由が明確ですね(笑)。

 

氏原 高校時代に一度誘って断られて、大学でお互いに上京したときに再会したら、こいつ、俳優のオーディション雑誌を持っていたんです。それで「俳優になるなら、芸人にしない?」と改めて誘って。

 

──そこで晴れてコンビの結成となったんですね。

 

氏原 それからフリーライブなどに出ながら、お笑い養成所に通わずに入れる事務所を探した結果、ケイダッシュステージに入れることになりました。

 

スタッフは強力な元芸人たち

──それが2009年で。当時は、今「GGチャンネル」としてTikTokなどで活動する未来が来るとは予測できないですよね。GGチャンネルのメンバーはサカモトさんのほかに、3名いらっしゃるんですよね。

 

氏原 はい、1人は同じ事務所だった同期で、彼も事務所を辞めるタイミングで「がっつりやってもらえないか」と誘って、編集スタッフも元芸人なんです。そしてもう1人は、DMで「弟子にしてください」と送ってきた変わったヤツです。やっぱり、いくら「自分がやりたいことをやりたい」とはいえ、本当に1人でやるには限界があるんです。組織にしないと続かないと思って、今のメンバーと一緒にやっています。

 

──スタッフを芸人仲間で固めているのには、理由がありますか?

 

氏原 ずっと、芸人をやっていた10年間はムダだと思っていたんですが、TikTokでバズったとき、「芸人は、ネットの中では明らかにレベルが違うな」と客観的に思ったんです。芸人時代はムダではなかったんだと。だから編集やディレクターも、元芸人だからこそ相当強いのではないかなと。

 

──プロフェッショナルだからこそ、笑いのツボを抑えた動画を作ることができるのだと思いますが、そうではない方が作るのと、決定的な違いはどんなところでしょう。

 

氏原 笑いが起きる理由を言語化できるということだと思います。狙って作れる、ということですね。

 

少年時代、母親に3時間怒られ続け……

──そういった背景を前提にしつつ、やっぱり氏原さんの“キレ”の瞬発力やバリエーションがすさまじいと思います。いつもどこでインスピレーションを得ているんでしょうか。

 

氏原 多分、子どもの頃の経験が影響していると思います。僕の母親は長時間ずっと怒ってくる人で、それにいちいち反論していて、それが原点なんじゃないのかなと思っているんですけど。

 

──お母さん、どんなときに怒るんですか?

 

氏原 僕には双子のきょうだいがいて、そいつが、先生が親に電話をかけてくるレベルにも満たない僕の悪さを母親に通報していて。リビングで正座させられて5時間も詰めてくるんですよ。

 

──5時間!?

 

氏原 いや、5時間は言いすぎました。実際は3時間くらいですね。

 

──十分長いです(笑)。

 

氏原 それでいちいち反論していると、母親は「こいつ、反省していないな」とジャッジして、折れるまでずーーっとネチネチ理詰めで来るんですよ。

 

──終着点はどこにあるんですか?

 

氏原 本当にイヤな思い出すぎて覚えていないですけど、どうやって終わっていたんだろ……お互い疲れて終わるか、きょうだいが「もうやめなよ」と言うか、まあ僕が一応謝って終わっていた気がします。

 

──ちゃんと謝って偉いですね……。

 

氏原 3時間キレられたら謝りますよそりゃあ。

 

母親とまともに話すのは5年ぶり

氏原 だから30歳くらいまで母親のことを「ムカつくな、あいつ……!」ってなっちゃってて、会いたくなくて、きょうだいの結婚式も出なかったりして。それで、僕がやっとこういう状態になれたのと、きょうだいに子どもができて母親が顔を見に行くというので「子どもの顔を見る名目で母親にも会うか」ってことで、再会したんです。

 

──何年ぶりですか?

 

氏原 何年か前に友達から「母親に腹が立っていることを言ったほうがいいよ」とアドバイスされたタイミングが4、5年前にあって、そのときに言ったら……反論してきたんですよね、なんか。

 

──(笑)。

 

氏原 「あんたはなにも分かってない! お母さんにも事情があった!」って。それで「こいつほんとナイな」って、より加速しちゃって。その後も芸人時代の単独ライブにも来ていましたが、会いはしたけどしゃべりはしなかったので、ちゃんとしゃべったのは5年ぶりですね。

 

──お母さん、強そうですね(笑)。

 

氏原 母親は変わらなそうだなと思いましたね。この前も、何事もなかったかのように普通に話してきて。まあ、それが楽といえば楽でしたけどね。

 

──お母さんは今のご活躍をご存知なんでしょうか。

 

氏原 LINEで定期的に「この前バズっていたね」と連絡が来ることはありますが、「手の平返しやがって!」が本音です(笑)。芸人になりたいと言ったときは引くほど反対してきたのに、成功したら「よく頑張ったわね」じゃねえよと。

 

亡くなる直前の、父の助言

──たしかに(笑)。反対されたんですね。

 

氏原 高校受験のときに、芸人になるために「大学に行く必要なんてないから」と工業高校を選んだんですけど、そしたら母親側の親戚総動員で全員に取り囲まれて猛反対されたんです。「絶対に成功するわけないんだからやめろ」と。人が聞いたら引いちゃうくらいの止め方でしたね。

 

──(笑)。それを振り切って芸人になって、かっこいいです。

 

氏原 高校生の漫才大会でちょっといい成績を残したときに、1回目の手のひら返しがありましたね。その後、芸人になる前にアメリカに行きたかったんですが「芸人になるなら留学費用は一切出さない」と言われました。そのとき、亡くなる直前の父親に言われたんです。「お母さんは頑固な人だから、もう大学には行ってあげろ。その後好きなことやればいいから」と。

 

──お父さんはいろいろと汲んでいますね。

 

氏原 そうですね。そんなことがありましたが、今となっては「当時は芸人の情報も少なかったし、止めて当然かな」とは思いますが、悔しいからそんなことは母親には伝えません(笑)。

 

──お母さんも同じように考えてくれる日が来ることを、願っています……!

 

氏原 もっと大きくなっていろんな仕事をさせてもらえるようになるまで、母親には生きていてもらえたらなって感じです。

 

 

ぶちギレ氏原公式TikTok @ujiharagongoal

 

撮影/佐賀章広 取材・文/有山千春 構成/BuzzTok NEWS Buzz Tok NEWS公式HP https://buzz-tok.com/

TikTokerブチギレ氏原インタビュー前編!テレビからTikTokに振りきり「コンビニで値段を見ずに買い物ができるようになった」

2020年4月、突如コロナ禍のTikTokに現れるや、森羅万象にブチギレ続け、生配信で寄せられた視聴者からのコメントにも瞬時にブチギレると、またたく間に人気TikTokerに躍り出たブチギレ氏原さん。相方・サカモトさんとともにお笑いコンビ「ゴンゴール」として活動していたが、2022年7月、TikToker&YouTuberとしてかじを切り、「GGチャンネル」として生まれ変わると、同年9月21日配信のYouTube動画「【生配信】来たコメント全てにキレる生配信~ Special Guest 轟さん(宮迫博之)~」で、なんと94万6482円のスパチャが集まり、デイリーランキング世界1位という功績を残した。月収3000円の芸人から独立を経て、TikTokドリームの渦中にいる氏原さんにインタビュー!

 

ブチギレ氏原●ぶちぎれ・うじはら…2009年、相方のサカモトとお笑いコンビ「ゴンゴール」を結成。ケイダッシュステージに所蔵していたが、2021年4月、「ブチギレ氏原」の名前でTikTokで森羅万象にキレ散らかす動画をアップすると話題に。2022年7月に事務所を退所しフリーに。現在「GGチャンネル」として活動。

ブチギレ氏原 公式TikTok @ujiharagongoal

 

【ブチギレ氏原さんの撮り下ろし写真】

 

動画で勝負をするために、事務所を退所

──それまで、オードリーやトム・ブラウンなどが所属する芸能事務所ケイダッシュステージに所属していましたが、2022年7月に退所され、現在はフリーで活動されているんですね。

 

氏原 はい。テレビじゃなくネットで勝負したいので退所したいと相談したら、快く送り出してくれました。

 

──いつから独立を考えていたんでしょうか。

 

氏原 明確には覚えていませんが、僕らがTikTokをやり始めたのがコロナ禍の2020年4月で、当時はYouTuberの方たちの「これからは個人の時代だ」という考え方が広がり始めていて。そういう風潮を眺めながら徐々に考えていたと思います。

 

──先輩芸人からなにかアドバイスをもらったり?

 

氏原 いろんな人たちに意見を聞きました。例えばある先輩は「テレビでやるなら事務所に残っていいと思うけど、完全にネットで勝負するなら、独立もアリなんじゃないか」とか。

 

漠然とした不安も「すぐに行動したかった」

──葛藤はありませんでしたか?

 

氏原 ちょっと怖かったですね。「困ったときに、もう事務所に相談できないのか」「本当に大丈夫だろうか」という漠然とした不安はありましたが、今思えば、僕は自分で全て決めたい人だったので、独立は自分に合っていたかなと思います。やっぱり事務所にいると、迷惑がかからないよう念のため「これやっていいですか?」と事務所に確認をしてから動いていたので、機動力も上がったと思います。

 

──TikTokではキレちらかしていますが、インタビューの受け答えは常識的ですよね。

 

氏原 まあ(笑)、前がヤバかったので。前がヤバすぎて、急いで常識を身につけているところなんですよ。今のスタッフの1人がもともと同期の芸人なんですけど、昔からいつも「おまえ、ヤバいぞ」と注意してくれていたんです。

 

──(笑)。どんなときに教えてくれるんですか?

 

氏原 「氏原は、人の”意見”を“否定”と捉えるクセがあるから。あれは“意見”だからね」とか。

 

──大人ですね~!

 

氏原 あとは、人に自分の意見を押し付けすぎちゃったりが多くて。そういうときですね。

 

ピリピリしていた木造アパート時代

──動画では、相方のサカモトさんによくキレていらっしゃいます。マジギレなのかと思ってしまうこともあります(笑)。

 

氏原 いや~! 前に付き合いで30歳以上の女性が働く飲み屋さんに行ったんですけど、こいつ(取材場所で体育座りをして聞くサカモトさんを指差し)、「35歳のおばさんが~」みたいなことを言い出したんですよ! それでキレました。「ここにいる女性みんな30歳以上だし、おばさんはまずいでしょ?」って。(サカモトさんに向け)なにちょっとイヤな顔してんだよ! ネタになったからいいだろ。

 

──常識的なキレ方(笑)。

 

氏原 特にTikTokを始めた前後は完全にヤバいときで、こいつにキレることが多かったんですよ。

 

サカモト ピリピリしてましたね。ずっと一緒に住んでいるんですが、当時は家も木造だったし。

 

氏原 YouTubeでの生配信もやり始めて、それが収益化する前は月収3000円とかでしたから。

 

──月収3000円というのは、お笑いライブの出演などですか?

 

氏原 いや、ちょこっと出たネット番組のギャラとかです。

 

──いつ頃から収益化したんですか?

 

氏原 2020年8月くらいだと思います。収益化してスパチャ機能がついたときに生配信をしたら、スパチャがすごい入ってきたんです。

 

1時間23万円投げる視聴者も!

──ファンの方がたくさんいらっしゃることを実感されたんですね。

 

氏原 いや、そんなキレイな言葉じゃなくて……「おい! 金がめちゃくちゃ入ってくるぞ!」って(笑)、それが正直な気持ちでした。1時間の生配信で20~30万、70万円入ってくるときもありましたから。びっくりしましたね。

 

──プロの芸人による「来たコメントにキレる」という発想は、氏原さんの発明だったと思います。それで右肩上がりに?

 

氏原 上がりはしないんですよ。1時間で読めるコメント数は決まっているので。生配信の数を増やせばいいんでしょうけど、体力的にきついですからね。

 

──たしかに、いつも全力でキレていますもんね。

 

氏原 ちゃんとムラはありますよ(笑)。もう3年以上もやっているとね。それを感じ取ったのか、それから来てくれなくなる人もちゃんといますからね。

 

──一方で、当初からスパチャし続けている古参ファンの方もいらっしゃいますよね。センスのあるコメントで有名なファンの方もいますよね。「たかぎさん」という女性とか。

 

氏原 頭おかしいですよね(笑)。

 

スタッフ 上限がないTikTokでは、たかぎさんのギフト最高額は1時間23万円です。

 

──23万! なにをやっている方なんでしょう……。

 

氏原 「車屋さん」と言っていましたね。たかぎさんはほかにも推しがいるみたいで、お金がどうなっているのか不思議ですよ。

 

有名芸人とのコラボや、大規模キャパで有観客ライブも

──昨年3月には都内最大級のキャパを誇る大型ライブハウスの豊洲PITで有観客ライブを実施したり、ほかのYouTuberとのコラボなども行っています。

 

氏原 2022年6月にやったカジサックさんとのコラボはよかったですね。お互いのいいところが出ていたと思うし、昔からテレビで見ていた人と一緒にやることで「頑張ってここに来たんだな」と思いました。

 

──今後も目標はありますか?

 

氏原 登録者100万人と、有観客ライブを武道館でやりたいです。

 

──3000円から70万円という振り幅を経験していますもんね、実現への期待感があります。ちなみに、3000円から70万円の世界に突然来ると、どんな変化が起こりますか?

 

氏原 なんだろう、なにが変わったかな?

 

サカモト 2人ともお金を持ったところで趣味も広がらないし、今までと同じ生活を送るんですが、2人でテンションが上ったのは、コンビニで値段を見ずに買い物が出来た瞬間ですね。

 

氏原 ああ、たしかにそれだね。

 

サカモト それまでは、赤いきつねで200円使ったらおにぎりなんて買えない……みたいな生活でしたから。好きなものを買えるようになったのはうれしかったです。

 

相方は「氏原がバスっているのが気に食わない」!?

──あとは、ピリピリしていた家の中がマイルドになって、氏原さんがサカモトさんに優しくなったり?

 

氏原 家は木造じゃなくなりましたが、優しくはなっていないですね。

 

──(笑)。

 

氏原 こいつ、俺がバズっていることを「気に食わない」と言っていたから。

 

──えええ!(笑)

 

氏原 お金が入ってくるようになったのに、その考えってマズいよ。でも、ポジティブに解釈すると、自分もまだ演者としての気持ちがあるんだなと思うことにして、自分を納得させました。

 

──それでずっとコンビを続けていらっしゃるんですね。いい関係ですね。

 

氏原 もう共依存になっちゃってるだけだと思いますよ。

 

<後編に続く>

TikTokerブチギレ氏原インタビュー後編!結成から現在まで同居する相方は「卑怯者」、芸人への道を反対した母親は「手の平返し」!?

 

 

ブチギレ氏原 公式TikTok @ujiharagongoal

撮影/佐賀章広 取材・文/有山千春 構成/BuzzTok NEWS Buzz Tok NEWS公式HP https://buzz-tok.com/

中村静香インタビュー「着物でタップダンスって、すごくかっこいい」映画『レディ加賀』

石川県・加賀温泉を盛り上げるために結成された旅館の女将たちによるプロモーションチーム「レディー・カガ」から着想を得た、女将たちの奮闘を描いた『レディ加賀』(2月9日(金)より全国公開)。小芝風花さん演じる主人公・由香と共に、女将修業に挑む元No.1キャバ嬢・麻衣を演じた中村静香さんが、見せ場となるタップダンスの苦労話など、体育会系の部活合宿ばりの撮影を振り返ってくれました。

 

中村静香●なかむら・しずか…1988年9月9日生まれ。京都府出身。2003年、「第9回全日本国民的美少女コンテスト」出場。その後、「法医学教室の事件ファイル」「緊急取調室」シリーズなど、さまざまなドラマに出演。女優としてのキャリアを重ねる一方、「カイモノラボ」(TBS)や「ゴッドタン」(テレビ東京)などの情報・バラエティ番組でも活躍している。X(旧Twitter)Instagram

 

【中村静香さん撮り下ろし写真】

 

麻衣の生真面目さやひたむきなところに強く共感

──出演オファーが来たときの感想は?

 

中村 まず、台本を頂く前に、劇中にタップダンスのシーンがある映画だと聞いたんです。これまでやりたいと思ってもやる機会がなかったこともあって、「これはいい経験になる!」と、とても楽しみでした。それで、クランクイン数か月前から仕事の合間に、タップダンスの監修をしていただいたHideboHさんの教室に通うところから始まりました。

 

──その後、台本を読んで、中村さん演じる麻衣が女将修業に挑む元No.1キャバ嬢というキャラクターだということが分かったときは?

 

中村 本当に基礎からタップを始めて、劇中でどれぐらいのレベルを求められるのか、分からなかったので、着物姿でタップをすると分かったときは、さすがに不安になりました。麻衣は年齢的な理由もあって、第二の人生を歩むために女将修業に挑もうとしている子で、メッシュを入れたり、メイクが濃かったり、見た目の派手さはありますが、タップの練習には必ず顔を出すんですよね。そういう麻衣の生真面目さやひたむきなところに強く共感できました。

 

──クライマックスに描かれるダンスイベントでは、デッキブラシと和傘を使用した2パターンのダンスを披露されます。その練習はいかがでしたか?

 

中村 デッキブラシは意外と重さがあるので、振り回したときに、体が持っていかれないよう気を付けなきゃいけなかったです。でも、練習しているうちに、ちょっとずつ体力がついてきたのか、だんだん振り回されなくなりました。和傘でのダンスを練習するときは、風圧のことを考えて、ビニール傘に穴を空けたものを使っていました。それでも踊るときのテンポや傘を振り回すスピードがあまりに速いので、どんどん壊れてしまうんです。ほんまに難しくて、めちゃめちゃ苦戦しました。

 

撮休の日は、昼から日本酒飲み比べ3点セット

──主人公・由香を演じた小芝風花さんや、「女将ゼミナール」講師を演じた佐藤藍子さんとの共演はいかがでしたか?

 

中村 佐藤さんには以前からお世話になっていたので、今回久々にご一緒することができてうれしかったですね。以前と変わらず、とても気さくで優しい方で、大好きなんです。小芝さんとは初めての現場だったのですが、明るくて、チャキチャキしていて、活発なイメージどおりでしたね。彼女はプロのタップダンサーを目指していた役で、ソロパートもあったこともあり、とても大変だったと思いますが、キャスト全員壁がない子ばかりで、同じ宿に滞在しつつ、みんなで一致団結して、自主練をしたりしていました。だから、まるで体育会系の部活合宿みたいな空気感でした(笑)。

 

──グルメなど、加賀温泉郷ロケでの印象的な思い出は?

 

中村 長時間、タップシューズで踊っていると、肩や脚が痛くなってくるんですよ。だから、温泉に入ることで、それを癒して、また翌日の撮影に励むという日々でした。あと、ちょっと散策すると、無料の足湯スポットもあって、それにも癒されました。グルメに関しては、新鮮な海産物が有名で、特に身が分厚い、のどぐろのお寿司がおいしかったです。あとは、甘えびよりも甘味があるガスエビの石焼き。とてもカリカリして、香ばしくておいしかったです。

 

──となると、中村さんがお好きなお酒もかなり進まれましたか?

 

中村 もちろん、かなりいただきました(笑)。やはり日本酒がおいしいと言われていたので、海鮮を食べるときはもちろんですが、撮休の日にみんなが甘味処でデザート食べている横で、私は昼間から日本酒の飲み比べ3点セットと塩昆布をいただいていました(笑)。ちなみに、私が行ったお寿司屋さんの女将さんが、たまたま映画のモデルになった女将さんチーム「レディー・カガ」メンバーの方で、いろんなお話も聞かせていただきました。

 

──約200人のエキストラを集めたダンスイベントのシーンはいかがでした?

 

中村 みんなそれぞれが着物を着て、小道具を持って、うまく踊れるようになっても、本番では全員でタイミングを合わせなきゃいけないことが大変でした。和傘を回すスピードや肩にかけたり、突き出したりするときの角度やタイミングなどをそろえることがとても大切なので、それに注意しながらも足元は常にタップしているというのは、かなり集中力が必要でした。現場ではHideboHさんが実際にモニターを見ながら、細かく的確に指示を出してくださったので、とてもありがたかったです。

 

女将とはこれまた違う、平安時代の所作

──そんな努力の結晶で、完成した作品を見たときの感想は?

 

中村 とてもかっこよく見えるように、丁寧に撮ってくださったのもありがたかったのですが、出来上がったものを客観的に見たとき、「着物でタップダンスを踊ることって、すごくかっこいい」と、素直に思いました。大きく揺れ動く振り付けなので、見た目の迫力だけでなく、日本の美が強調された素敵な作品になったと思います。あと、キャバ嬢から女将と、場所やスタイルが変わっても、「おもてなしをする心構えは変わらないし、それは誰にも負けない」という麻衣のセリフは好きです。いろんなトラブルに巻き込まれながらも、みんなが一丸となって、前に進んでいく姿を見てもらえれば、自然と元気になってもらえるような気がします。

 

──和装繋がりだと、NHK大河ドラマ「光る君へ」では藤原頼忠の娘・藤原遵子を演じられています。

 

中村 同じ和装でも全然違うというか、着こむ枚数からして違うので(笑)。本当にずっしり重くて、カツラも重い中で姿勢をキープしながら平安時代の所作をするのは大変苦戦しました。戦のない時代の朝廷のお話なので、優雅でゆったりしているのですが、できるだけ着物から手足を出さないように。「レディ加賀」の女将さんの所作との大きな違いは歩き方です。平安時代は、どちらかというと摺り足ですから。

 

──中村さんが日頃、手放せないモノやアイテムについて教えてください。

 

中村 数年前に、メイクさんからプレゼントしていただいたオールステンレスの「三徳包丁」です。日本発の商品で、切れ味が落ちないとは聞いていたんですが、海外でも賞を獲っているぐらい本当に落ちないんですよ! しかも、洗いやすいし、デザインもシンプル。それで、ちょっとしたおつまみを作って、ビールやハイボールで晩酌しています。SNSのおつまみ動画でも活躍しているアイテムですが、最近作ってみておいしかったのは、ささみの大葉ロールでした。

 

 

 

レディ加賀

2月2日(金)より石川県先行公開中

2月9日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

 

【映画「レディ加賀」よりシーン写真】

 

(STAFF&CAST)
監督・脚本:雑賀俊朗
脚本:渡辺典子
出演:小芝風花、松田るか、青木瞭、中村静香、八木アリサ、奈月セナ、小野木里奈、水島麻里奈、佐藤藍子、篠井英介、森崎ウィン、檀れい

(STORY)
加賀温泉にある老舗旅館「ひぐち」の一人娘・樋口由香(小芝風花)。幼い頃、タップダンスに魅了された由香は、タップダンサーを目指して上京したものの夢破れ、実家に戻って女将修行を開始。あまりの不器用さから大苦戦するなか、加賀温泉を盛り上げるためのプロジェクトが発足。幼なじみのあゆみ(松田るか)や元No.1キャバ嬢の麻衣(中村静香)ら、新米女将を集め、由香はタップダンスのイベントを計画しようとする。

公式HP https://ladykaga-movie.com/

(C)映画「レディ加賀」製作委員会

 

撮影/映美 取材・文/くれい響 ヘアメイク/石岡悠希 スタイリスト/竹上奈実

500年後にはトップに!? ナンセンスマシーンを開発し続ける明和電機・土佐信道の創作の極意に玉袋筋太郎が迫る!

〜玉袋筋太郎の万事往来
第30回「明和電機」代表取締役社長・土佐信道

 

全日本スナック連盟会長を務める“玉ちゃん”こと玉袋筋太郎が、新旧の日本文化の担い手に話を聞きに行く連載企画。30回目のゲストは、芸術ユニット「明和電機」の代表取締役社長として、国内のみならず広く海外でも活動する一方、音符の形の電子楽器「オタマトーン」などの商品開発も行う土佐信道さん。ユニークなナンセンスマシーンを開発し続ける創作の秘密に玉ちゃんが迫る!

 

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:猪口貴裕)

明和電機…1993年に、アートユニット「明和電機」を結成。青い作業服を着用した、日本の中小企業のスタイルで、国内外での作品展示、著書出版、公演など活動を幅広く行っている。公式サイトX(旧Twitter)YouTube

 

過去に父親が経営していた会社の屋号を使って活動開始

玉袋 まさか武蔵小山の住宅街に明和電機さんの秘密工場があるとは思いませんでした。ここに越してきて何年になるんですか。

 

土佐 1998年からだから26年です。

 

玉袋 この工場が将来はドーンと大きくなって、明るいナショナルみたいになるわけですね。

 

土佐 そうですね(笑)。

 

玉袋 明和電機さんとは、ちょこちょこすれ違っているんですよね。昨年も俺が応援団長をやっている「企業対抗カラオケ選手権」でライブパフォーマンスをしてくれて。

 

土佐 飛び道具を持ち込んで、ずるい出方をしたんですけど。

 

玉袋 いやいや、番組史上一番盛り上がりましたよ。明和電機さんとしての活動はどれぐらいなんですか。

 

土佐 2023年で30周年を迎えました。

 

玉袋 おめでとうございます。そもそも活動を始めたきっかけは何だったんですか。

 

土佐 美術大学で変な機械を作っていて、それを世の中に見せるときに、普通に見せてもみんな興味を持ってくれないなと考えていたときに、そういえば父親が電気屋をやっていたなと。ちっちゃな会社でしたが、最盛期は100人を超す従業員を抱えていたんですが、オイルショックが原因で倒産してしまって。それを思い出して明和電機を名乗るようになりました。

 

玉袋 マキタスポーツみたいなもんだね。あの芸名も山梨にある実家のスポーツ用品店の屋号だから。形はどうあれ明和電機という名前が復活して、一種の親孝行じゃないですか。

 

土佐 父親は理解していなかったです。借金があって潰れた会社なので、「おまえは大丈夫なのか?」って言われました。

 

玉袋 電気屋の頃は製造をやっていたんですか?

 

土佐 そうです。主にテレビのボリュームなどを作っていて、松下電器や東芝の下請けでした。

 

玉袋 まさしく明るいナショナルに繋がるわけだ。

 

土佐 倒産するときは全然明るくなかったですけどね(笑)。

 

玉袋 明和電機は世の中に出たときに、すぐに光がつきましたよね。面白い活動をしているってことで、テレビにも出てましたもんね。

 

土佐 初めてテレビに出たのはタモリさんの「音楽は世界だ」(テレビ東京系)でした。次がビートたけしさんの「たけしの誰でもピカソ」(テレビ東京系)で、とんとんとテレビに出させていただいて。

 

玉袋 (明和電機の「全製品カタログ」のページをめくりながら)テレビに出る前から発表する機械はたくさんあったんですか。

 

土佐 今みたいな数はなかったです。今は300点ぐらいありますけど、最初は指パッチンする木魚(パチモク)しかなかったですし。

 

玉袋 背負ってたやつだ。覚えてるよ!

 

土佐 今もやっていますけどね(笑)。

 

──大学在学中からパフォーマンス活動は行っていたんですか。

 

土佐 やっていましたけど、当時は魚を撲殺するパフォーマンスとかをしていました。今じゃ考えられないです。

 

玉袋 そういえば昔、一緒にお仕事をさせてもらったときに、「魚コード」をいただいて家で使ってましたよ。

 

土佐 魚コードが明和電機の量産第1号ですね。

 

玉袋 大手事務所に入らず、自分でやっているわけですよね。

 

土佐 以前は事務所に所属していました。最初はソニー・ミュージックエンタテインメントに1993年から1998年までいて、1998年から2016年までは吉本興業でした。

 

玉袋 (「全製品カタログ」掲載の活動歴を記した世界地図を見ながら)相手は世界ですもんね。言葉もあるけど、音楽とモノがあるから、どこでも通じちゃうわけじゃないですか。

 

土佐 行ってないのは南アメリカぐらいだったんですけど、昨年はコロンビアにも行きました。

 

玉袋 世界戦略は、とにかく明るい安村よりも全然早いし、規模もそれどころじゃないからね。しかも製品を海外に卸しているわけでしょう。

 

土佐 そうですね。ライブが飛び込み営業みたいなものですから。営業先でパフォーマンスをして、「(オタマトーンを指して)これ売ってるよ」って感じで。

 

玉袋 大人から子どもまで喜ぶしね。

 

土佐 ただ今のようにネットが発達してなかったら難しかったです。今は飛び込みで行って、「どうぞAmazonで買ってください」って言えますから。

 

影響を受けたのは横山ホットブラザーズ

──製品の販売はいつから始めたんですか?

 

土佐 一発目の魚コードが1995年です。当時はニセモノも出回りました。

 

玉袋 どうやって流通に乗っけたんですか?

 

土佐 ソニー・ミュージックだったので、流通はレコード屋さんで売っていたんですよ。お店側からしたら邪魔でしょうがなくて、このスペースに何枚CD置けるんだよって話で。

 

玉袋 魚コードにしても、オタマトーンにしても何て言うんだろう……。

 

土佐 役に立たないものですからね。

 

玉袋 そう、その言葉が欲しかったんだ! それを言おうとしたんだけど、俺からは言いにくいし、社長自ら言ってもらえて良かった。世の中、こういう幅がないと面白くないわけで、そういったニーズにピタッとハマっているのが素晴らしいですよね。

 

土佐 ニッチだけど、好きな人が世界中にいますからね。

 

玉袋 言ってしまえば変態ですよ。

 

土佐 変態と変態を繋いでいるんです。

 

玉袋 一番変態がいたなと感じた国はどこですか?

 

土佐 スタッフがおかしかったのは2019年に行ったロシアですね。最初から最後まで、ずっとお酒を飲んでいるんですよ(笑)。

 

玉袋 下手すると、北朝鮮にも呼ばれそうだな。社長としては製品も売らなきゃいけないから、コストのことも考えなきゃいけないし、さじ加減が難しいんじゃないですか。

 

土佐 最初は全然駄目でしたね。明和電機でCDも出しているんですが、作詞作曲っていうシンガーソングだけじゃなく、楽器も一から作るので元を取れないんです。それがソニー・ミュージック時代。

 

玉袋 そうか。ミュージシャンですからね。

 

土佐 シンガーソングライターメイカーです(笑)。CD、魚のコード、コンサートの収入など、いろいろあったんですけど、本当に儲からなかったです。

 

玉袋 影響を受けたパフォーマーで言うと誰なんですか。

 

土佐 強いて挙げるなら横山ホットブラザーズですかね。

 

玉袋 そっちの方向になるんだ。確かにホットブラザーズのノコギリも気持ちいいですもんね。

 

──学生時代、何か楽器はやられていたんですか。

 

土佐 打楽器をやっていました。それとコンピュータミュージックをくっつけたいなと思って、くっつけたらこうなっちゃったんです。

 

玉袋 テクノはどうだったんですか。

 

土佐 YMO世代なので、高校生のときにコンピュータミュージックにドハマりしました。でも出音がピコピコだけでしょぼいというか、打楽器でダイナミックな音を出していたから物足りなさを感じて。それで自然と今のスタイルになっていったんです。

 

玉袋 そういえば昔タミヤのプラモデルで戦車とか作ったけど、工作するのもありましたよね。

 

土佐 「楽しい工作シリーズ」ですね。

 

玉袋 それだ! 明和電機さんの製品を見ていると綱渡りするピエロとか思い出すね。懐かしい。そこら辺も通ってるんですか?

 

土佐 ちっちゃい頃は、そういうのも作ってました。

 

玉袋 そりゃ作るよね。ただ普通はガキの頃で終わっちゃうんだよ。それをずっと続けているんだもんね。

 

土佐 ずーっと続けちゃってます。

 

玉袋 続けた結果が明和電機になるわけじゃないですか。普通なら卒業するけど、そうじゃないから面白いんだ。プロレスも一緒だよ。みんなガキの頃は熱中するんだけど、大抵は卒業しちゃうんだ。俺は卒業できてないけどね。昔は学校でも技術の授業があって、いろいろ作ったじゃない。今はどうなっているんだろうね。

 

土佐 我々の時代とは違うみたいですね。男の子女の子の区別はなくしましょうという流れもありますし。

 

玉袋 そうだ。男子は技術、女子は家庭だったよね。

 

土佐 だからIKEAの家具が届いたけど組み立てられない男の人もいるらしいですよね。

 

玉袋 うちの倅がそうですよ。「任せろ!」って買ったわりには何にもできなくてカミさんが全部組み立てたっていうさ。今は仕組みが見えるものって減ってるじゃない。明和電機さんの製品って、仕組みが見えているのもいいんだ。昔は親父のラジオをドライバーで開けちゃったりしたけど、そういう解体する文化がないよね。

 

土佐 iPhoneとか簡単に分解できないですからね。明和電機の製品は見て分かる。僕自身、見て分かるものじゃないと分からないんですよ。

 

玉袋 機械なんだけど温かみがあるよね。俺の知り合いがコーンズっていう高級車を販売する会社で整備士をやっているんだ。彼の両親とも話すんだけど、やっぱちっちゃい頃からドライバーで車のネジを外しちゃっていたらしいんだ。それが今はコーンズってデカいところで整備をやっているんだから、子どもの頃の経験って大きいんだよね。

 

土佐 ただYouTubeで機械をバラして組み立てる動画もあって、詳しい子は、めちゃめちゃ詳しいので、両極端になっちゃっているんですよね。ただ、またそういう解体する時代がくると思うんですけどね。

 

役に立つものは作りたくない

玉袋 スーツケースを使った「スーツケース型音源」も面白いですね。

 

土佐 スーツケースって叩くと良い音がするんですよね。そのままライブに持って行って、組み立てて演奏して、それを解体して持って帰る。海外に行くときもコンパクトなので一番いいんですよ。

 

玉袋 発想がいいよね。子どももさ、最先端のおもちゃに触れるよりも、オタマトーンとかに触れていたほうが絶対いいと思うね。孫へのプレゼントでおもちゃ売り場に行くとさ、スマホ型のおもちゃがあるんだよ。親がずっといじっているんだから、そりゃ子どももやりたいよね。でも俺は、よちよち歩きしたら音が鳴るみたいなさ、昔ながらのおもちゃに惹かれるんだ。明和電機さんの製品は、それに近いよね。

 

土佐 やっていることは19世紀だと思います。僕は役に立つものは作りたくないんですよ。

 

玉袋 最高だよ! でもパッと思い浮かぶものって便利なものばかりだよね。

 

土佐 でも自動車にしても、時計にしても、出始めの頃って「何これ?」って反応だったと思うんです。「一日を24時間で区切るって何言ってるの?」みたいな。僕はナンセンスって言っているんですけど、ウォシュレットだって最初はナンセンスだったと思うんですが、それが徐々にコモンセンスになっていく。だから明和電機も100年ぐらい経つとスタンダードになる可能性があります。

 

玉袋 いいですね!

 

土佐 可能性はなくはない(笑)。

 

玉袋 確かにウォシュレットが出始めたときは、「何だこれ?」って思ったけど、今はないと物足りないもんな。今、頭の中で考えて形になってないものはあるんですか。

 

土佐 たくさんあります。イメージはあるけど素材が見つかってないとか、なかなか実現が難しいものもあります。でも待っているうちに、使えるようになったとか出て来るものなんですよ。

 

玉袋 言える範囲で、まだ実現化してないのってどんなものですか。

 

土佐 水の中に花を描く機械みたいなのを作りたくて、いろんな材料を使って試しましたけど、まだ見つかってないですね。ただ、今は何でも明和電機の工房で作れるようになって、この「SUSHI BEAT」なんかも3Dプリンターとレーザーカッターで作っているんです。昔だったら、金型を工場に出すしかなかったですからね。

 

玉袋 ピストルとかも作れちゃうよね。

 

土佐 まあ作れないこともないでしょうけど……。

 

玉袋 ダメだよ(笑)。冗談だよ。

 

土佐 大体自分で作れるようになったので、物欲もなくなりました。

 

──新しい製品に取り組むときに締め切りは設定しているんですか。

 

土佐 新しいイベントがあるとか、そこに向けての締め切りはあります。まあ人生が締め切りみたいな感じで、ずっとやっています。

 

玉袋 やっぱ人生は締め切りだよ、締め切りのない奴は駄目だ。常に締め切り。いつ終わるんだろう、この戦争は? みたいなさ。でも締め切りがあるからこそ考える力も出てくるしね。

 

土佐 締め切りに終わらせるイメージがないとダメですね、そこで終わらせるぞっていうイメージがあると勢いで行けるんです。あと僕は諦めが早いんです。どうでもいいから、やろうっていうか。社訓が「やったもんがち、とったもんがち」ですから。「やりましょう」「やっとけ」みたいなことを全部自分の中でやっているんですよね。

 

──外注に出すことはあるんですか。

 

土佐 大量に同じものが欲しいときなどは出します。そういうときは中国のアリババと直接交渉するんですけど、すごく便利になりました。物を作るのも便利になってますし、売るのも簡単になりました。

 

玉袋 大きさでいうとどこら辺までの大きさが得意なんですか。

 

土佐 僕が得意中の得意な大きさはおもちゃだと思います。おもちゃサイズを超えると、もう手に負えないですね。車なんて絶対に無理です。

 

玉袋 車で言うとさ、中央道で山梨方面に行くとき、「メロディーポイント」ってあるじゃない。あれは発明だよね。

 

土佐 いいですよね。あれはわりと悔しかったです。

 

玉袋 悔しいよね(笑)。アイデアとして「やりやがったな」みたいな。

 

土佐 ヒット曲ですよ。車であそこを通る人は、みんな聴いているわけですから。

 

玉袋 レゴなんかはどうですか?

 

土佐 正直、今のレゴは僕に合わないですね。ちっちゃい頃のレゴは本当にブロックしかなかったから、動かそうとしても動かない。それを何とか動かすように工夫して、いろいろ考えるわけですけど、今は最初から動くようにセットされていますからね。

 

玉袋 個人的には神輿を明和電機さんに作ってほしいな。

 

土佐 盆踊りのやぐらも惹かれるものがありますね。神輿をやるなら、まずは神様から作りたいですね。神社があって、神輿があって、露店があってという3部作をやりたいです。

 

玉袋 明和神社だ。

 

土佐 ディズニーランドっぽさもありますしね。昨年、ラフォーレ原宿で、エレクトリカルパレードみたいな感じで、明和電機で「メカちんどん屋」をやって店内を練り歩いたんです。百鬼夜行みたいになってしまいましたけどね(笑)。

 

シャッター街になっていた秋葉原のラジオデパートに出店した理由

──2019年、秋葉原のラジオデパートに初の公式ショップ「明和電機 秋葉原店」を出店したのは、どういう経緯があったんですか。

 

土佐 ラジオデパートは学生のときから通っていて、部品とかを買っていたんですけど、今はシャッターが降りたお店が増えて、シャッター街になっているんですよね。それを見たときに悲しいなと思って、家賃を聞いたら意外と安くて借りました。

 

玉袋 今は、あの頃の秋葉原じゃないからね。俺も「マルチバンドレシーバー」とか無線を買いに行ってた口だからさ。大手よりも個人店で買うほうが面白いんだよね。一見すると吊るしで売ってるもんと一緒なんだけど中身は改造してあってさ。普通ならスクランブルがかかるのに、最初からダイヤルを回すとスクランブルがかからないようになってるとかさ。それを親父も言わないんだ。暗黙の了解というかさ。そんな関係が良かったよね。

 

土佐 お店を出すときは怖かったんですよ。老舗のラジオデパートに忽然と出店するわけですし、昔から営業している方々とどう関係性を作ろうかと。実際、開店祝いの花を置きっぱなしにしていたら、怒られたこともありました。話してみると良い人たちばかりで、今は楽しいですけどね。最近は三代目の方々が中心で、四代目も現れています。

 

玉袋 最初にそういう流儀を教わるんだね。ちょっと話は変わるけどさ、荻窪に「カッパ」っていう行きつけのモツ焼き屋があるの。そこでベトナム人がバイトしていたんだけど、故郷に帰ることになって。カッパの味が大好きだから、ベトナムで同じスタイルのもつ焼き屋をオープンしたんだ。いつか行こうと思っているんだけど、そういうのを聞くといいなって感じるよね。一号店を秋葉原の老舗デパートに出店して、いずれは海外にもどんどん支店を出してほしいね。シンガポールとかにあったら行きたくなるよ。夢が広がるね。日本の大手家電メーカーが右肩下がりの中、明和電機さんには頑張ってほしいよ。

 

土佐 明和電機という名前をつけたとき、日本の大手家電メーカーはイケイケだったので、仮想敵というか。そこに対する反骨精神もあったんです。だけど、どんどん元気がなくなって寂しさもあります。

 

玉袋 こうなっちゃったのが悔しいよね。自動車もそうだけど、日本の家電は心の誇りだったからさ。でも明和電機は世界のトップに立つ可能性もありますよ。

 

土佐 500年ぐらい経ったら、上にいるかもしれないですね(笑)。

 

玉袋 東芝だって以前は「サザエさん」の一社提供だったけど、何年か前にやめちゃったじゃない。「水戸黄門」の枠だって、かつては“ナショナル劇場”って名称だったんだから。いずれは「明和電機がお送りする○○アワー」みたいな番組もできるかもしれないですよ。

 

土佐 三代目ぐらいになったときにあるかもしれません(笑)。

 

玉袋 今はCMにも出ていますよね。

 

土佐 三協アルミさんのCMに起用していただきました。オファーをいただいたとき、「楽器から作ります」と伝えて、三協アルミさんの工場に行って廃材で楽器を作ったんですが、夢のような場所でした。

 

玉袋 宝の山だ。

 

土佐 曲も踊りも自分で作って、楽しかったですね。

 

玉袋 着実に活動の幅を広げていますね。益々のご活躍をお祈り申し上げます!

 

 

玉袋筋太郎

生年月日:1967年6月22日
出身地:東京都
1987年に「浅草キッド」として水道橋博士とコンビを結成。
以来、テレビ、ラジオなどのメディアや著書の執筆など幅広く活躍中

一般社団法人全日本スナック連盟会長
スナック玉ちゃん赤坂店オーナー(港区赤坂4-2-3 ディアシティ赤坂地下1階)

<出演・連載>

TOKYO MX「バラいろダンディ」
BS-TBS「町中華で飲ろうぜ」
CS「玉袋筋太郎のレトロパチンコ☆DX」
夕刊フジ「スナック酔虎伝」
KAMINOGE「プロレス変態座談会」

森雪之丞が語る詩の原点と、私淑する早川義夫との思い出

作詞家デビュー48年目を迎え、昭和・平成・令和と常に第一線を走り続け、約2700曲の歌詞を紡いできた森雪之丞さん。近年は演劇・ミュージカルの世界でも活躍するなど、旺盛に創作活動を続ける森さんに、心の師と仰ぐ早川義夫さんとの思い出や、今年1月に刊行したオールタイムベスト詩集『感情の配線』について、2022年上演のブロードウェイ・ミュージカル『ジャニス』で出会ったアイナ・ジ・エンドさんと長屋晴子(緑黄色社会)さんから受けた衝撃などを語ってもらった。

 

森 雪之丞●もり・ゆきのじょう…1954年1月14日生まれ。東京都出身。作詞家、詩人、劇作家。大学在学中からオリジナル曲のライブを始め、同時にプログレッシブ・ロックバンド「四人囃子」のゲスト・シンガーとしても活躍。1976年に作詞&作曲家としてデビュー。以来、ポップスやアニメソングで数々のヒット・チューンを生み出す。1990年代以降、布袋寅泰、hide、氷室京介など多くのロック・アーティストからの支持に応え、尖鋭的な歌詞の世界を築き上げる。これまでにリリースされた楽曲は2700曲を超え、2006年には作詞家30周年を記念したトリビュート・アルバム『Words of 雪之丞』が制作され、2016年には作詞家40周年記念CD BOX『森雪之丞原色大百科』(9枚組)が発売された。また詩人として、1994年より実験的なポエトリー・リーディング・ライヴ『眠れぬ森の雪之丞』を主催。2003年には詩とパフォーマンスを融合した『POEMIX』を岸谷五朗と、2011年には朗読会『扉のかたちをした闇』を江國香織と立ち上げるなど、独創的な行動と美学は多くの世代にファンを持つ。近年は舞台・ミュージカルの世界でも活躍。劇団☆新感線の『五右衛門ロック』シリーズの作詞を始め、『キンキーブーツ』『チャーリーとチョコレート工場』『ボディガード』などブロードウェイ・ミュージカルの訳詞も手掛ける他、オリジナル戯曲にも取り組み、ロック☆オペラ『サイケデリック・ペイン』(2012・2015)、『SONG WRITERS』(2013・12015)、『怪人と探偵』(2019)、『ロカビリー☆ジャック』(2019)、『ザ・パンデモニアム・ロックショー』(2021)の作・作詞・音楽プロデュースの公演を成功させている。公式プロフィール公式サイトX(旧Twitter)

 

【森 雪之丞さん撮り下ろし写真】

 

日本人の怨念や湿り気をはらんだ早川義夫さんのソウルフルな歌い方に惹かれた

──森さんは今年で作詞家デビューして48年目になります。公式サイトの年譜によると、高校生のときに「ビートルズ、ボブ・ディラン、ジャックスの早川義夫などに多大な影響を受け、オリジナル曲を作り始める」と記していますが、ジャックスとの出会いを教えていただけますか。

 

 中学生のときに、友達がジャックスのファンクラブのカードを持っていたんです。ファンクラブ名が「薔薇卍結社」だったんですけど(笑)、その言葉に惹かれて。ちょうどジャックスが「タクト」というインディーズ・レーベルからシングルが出るタイミングで、それを聴いてぶっ飛んだんです。その後、メジャーから出た1stアルバム『ジャックスの世界』(1968)も最高でした。

 

──中学生でジャックスにハマるって、当時としては早熟ですよね。早川さんのどういうところに惹かれたのでしょうか。

 

 一つはソウルフルな歌い方ですね。黒人のソウルではなくて、日本人の怨念や湿り気をはらんだソウルで、そこにヤラれました。それまで聴いていた日本の音楽はグループサウンズや歌謡ポップスでしたから、そこには絶対に出てこないような言葉を早川さんは歌うんです。「裏切りの季節」という曲だったら、“燃える体を寄せ合って くずれていったあの夜に”という歌詞を、身をよじりながらシャウトする。あとアルバムジャケットの裏に早川さんが「このレコードは、こういうものです」みたいなライナーノーツを自ら書かれていて。その文章がものすごく詩的で、そこからも多大な影響を受けました。

 

──ジャックスの活動期間は1965年から1969年と短命に終わります。

 

 2ndアルバム『ジャックスの奇蹟』(1969)は、レコーディング中に解散したために不遇な作品ではあったんですが、やっぱり好きでしたし、解散後に出した早川さんの1stソロアルバム『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』(1969)も愛聴していました。

 

──森さんはジャックスが解散した年に、通っていた都立大泉高校の同級生とロック・バンド「南無(なむ)」を結成するんですよね。

 

 そうです。実は、そのバンドがきっかけで早川さんとお会いする機会があったんです。

 

──それはすごい!

 

 南無で活動していたときに、同級生ですけど違う高校に通っていた岡井大二というドラマーと、森園勝敏というギタリストと知り合って。二人とは、後に「四人囃子」というプログレバンドを結成するんですが、その当時から彼らはうまかったんです。「フリー」や「グラファン(グランド・ファンク・レイルロード)」のコピーをやっていて、界隈に名が響き渡るほどのテクニックでした。南無はめちゃくちゃ下手くそだったんですけど、ジャックスの影響でオリジナルを日本語でやっていたので、僕らのライブを聴いて二人はビックリして、それで友達になったんです。高校2年生のときに南無は解散するんですけど、二人のプロデュースで5曲入りレコード『南無』を100枚自主制作して、森園はギターも弾いてくれました。そのレコードを早川さんに聴いてもらったんです。

 

師と仰いでいる人からのオファーで歌詞を書いた「天使の遺言」

──どのように早川さんと繋がったんですか?

 

 話は前後するんですが、立教大学に「OPUS」という、ちょっと学生運動がかった音楽集団があって、そこの主催者が当時、「渋谷ジァン・ジァン」という小劇場のオーディションを仕切っていたんですよね。それに、まだ高校生だったんだけどギターの弾き語りで合格して。そのときに主催者の方から「立教に遊びにおいでよ」って言われたんです。それでギターを担いで遊びに行ったら、「ムーンライダーズ」の前身である「はちみつぱい」の渡辺 勝さんや岡田 徹さんと知り合って。当時は立教が溜まり場になっていたので、斉藤哲夫さんやあがた森魚さんとも面識ができたんです。

 

──錚々たるメンバーですね!

 

 1970年に哲夫さんが「悩み多き者よ」でURCレコードからデビューするんですが、その曲のプロデュースが早川さんだったんです。当時、早川さんはURCでディレクターをやっていたので、哲夫さんに「どうしても紹介してほしい」と頼み込んで、自主制作した『南無』を持って、早川さんに会いにURCに行ったんです。もうドキドキでしたよ。

 

──ジャックスのヴィジュアルはダークで近寄りがたい雰囲気でしたが、当時の早川さんはどんな方だったんですか?

 

 とても優しい方でした。「とにかく聴いてください!」とレコードを渡して、後日、電話で早川さんとお話ししたんですが、そのときに「森くんは僕に何をしてほしいの?」って聞かれたんです。当時はプロになる気持ちもなかったので、「早川さんに聴いてもらいたいだけだったんです」と伝えたら、「ピエロみたいな格好をして踊るといいよ」というアドバイスをくれて。まだヴィジュアル系などが出るはるか前ですからね。怨念の人だと思っていた早川さんが、そういう非凡な発想をするから、すごい人だなと改めて思いました。

 

──共通の知り合いがいたとはいえ、憧れの人に直接レコードを渡すって、ものすごい行動力ですね。

 

 今は音楽スクールに行けば、精神は学べないけど、幾らでもテクニックは学べるじゃないですか。僕らの時代は何もなかったので、憧れのアーティストがいたら、まずは会ってみたいと思うし、会うためにはどうすればいいんだろうと考えて。自分が作ったレコードを渡せば、拙い内容でも少しは思いが伝わるかもしれないと思ったんですよね。そこに至るまでには、勝さんや哲夫さんがいて、早川さんに繋がっていくというのは、今お話しして思いましたけど“物語”ですよね。哲夫さんの家に押し掛けたこともあったし、意外と僕は図々しい奴だったのかもしれない(笑)。確か僕の大泉の実家に勝さんが遊びに来たこともあったし、先輩も優しい方ばかりでしたね。

 

──その後も早川さんとは親交が続いたんですか。

 

 早川さんは音楽の仕事を辞めて、本屋さんを始めたので、それっきりでした。ただ早川さんが90年代に入って音楽活動を再開して、1993年に江古田の「バディー」というライブハウスで復活ライブを行ったんですが、勝さんがピアノで参加するということで呼んでいただけたんです。そのときに早川さんとお話しさせていただいたら、僕の作品も聴いてくれていたみたいで。その後、「森くんの歌詞を歌ってみたいな」という連絡があったんです。

 

──早川さん自身からオファーがあったんですね。

 

 私淑して、師だと思っていたアーティストに頼まれたわけだから、ものすごいプレッシャーでした。もちろん喜びも大きかったんですが、喜びの中には苦痛も共存しているものなんですよね。それを形にしたのが、「天使の遺言」という作品です。もう1曲あったんですが、それはまだ作品化されていません。2006年に『Words of 雪之丞』という僕のトリビュート・アルバムが出たんですが、斉藤和義くんが「どうしても『天使の遺言』を歌いたい」とカバーしてくれて。ライブでも歌ってくれているので、斉藤くんで知ってくださった方も多いと思います。

 

アイナ・ジ・エンドのシャウトに魅せられた

──森さんは70歳の誕生日となる今年1月14日に自選詩集『感情の配線』を刊行しましたが、どういう経緯で作ろうと思ったのでしょうか。

 

 作詞家デビューして48年、そのうちの30年で歌詞だけではなく詩も書いて、5冊の詩集を出してきました。70歳になるにあたって、30年間で書いた詩を今の人たちにも届けたいなと思って、自選で一冊にまとめました。

 

──30年前と今で、ご自身で変化は感じますか?

 

 1994年に刊行した第一詩集の『天使』を読むと、もちろん拙いと思うことはあります。この30年間で表現の仕方も深まりましたしね。ただ今回まとめてみて、その時々で考えていることの違いはあれ、一貫して人間というものを書いてきたのかなと思いました。人間の儚さ、哀れさ、不条理といったものの中で、自分なりに光や幸せを探したいという願いを込めてきたと思います。

 

──さまざまな形式の詩が収められている中で、「夢と旅の図式」と題された連作の戯曲詩が5篇収録されていますが、どのような発想で生まれたのでしょうか。

 

 ここ20年、舞台の仕事もずいぶんやりましたので、詩に戯曲のような要素を入れたいなと思ったんです。女・男・天使・影・魔術師・旅人といった登場人物が出てきますが、詩なんだけどもシナリオに近い、詩なんだけども芝居に近いというようなニュアンスで、5つの詩を物語のように紡ぎました。書いた時期がバラバラなので、戯曲詩にして一つの物語になればいいなと手直しをしました。

 

──昔から物語を作りたい欲求はあったのでしょうか。

 

 音楽が好きでキャリアが始まっているので、物語というよりは、やはり詩なんでしょうけど、もちろん詩にも物語がある。ある物語を設定して、その1シーンだったり、一つの感情だったり、もしくは数年にわたる情景を、一篇の詩や歌詞にすることもあります。僕の場合は、長いものを書くよりも、それを削いで削いで、一つの詩にするというふうなことをやってきたんです。でも、2003年に鴻上尚史さん主宰の第三舞台の名作『天使は瞳を閉じて』をミュージカル化するにあたり、作詞と音楽プロデュースを担当したんです。それをきっかけにミュージカルが面白くなってきて、それ以降、劇作家の方と組んで、詩を提供するというのをやり始めました。2008年からは劇団☆新感線と定期的にお仕事するようになって、座付作家に中島かずきさんがいて、僕が詞を書いているんですけど、その経験を重ねているうちに、自分で物語も書いて、そこに詩を組み込んでいったほうがミュージカルとしては自然だなと感じたんです。それで2012年に上演したロック☆オペラ『サイケデリック・ペイン』から戯曲そのものを手掛けるようになり、この12年で5本のミュージカルを書きました。

 

──多岐に渡る活動をする中で、12年間で5本も書いたのは驚異的ですね。

 

 他の仕事と並行しながら書いているので、相当な時間をかけていますし、我ながら元気だったなと思います(笑)。今までのようなペースは無理ですけど、これからもミュージカルは書き続けたいですね。

 

──2022年にはブロードウェイ・ミュージカル『ジャニス』の訳詞も手掛けていますが、本作には主演のアイナ・ジ・エンドさんや緑黄色社会の長屋晴子さんなど、若いアーティストが出演しました。新しい世代のシンガーを間近で見て、どう感じましたか。

 

 もちろんアイナはジャニス・ジョプリンをリアルタイムでは知らないんだけど、ちゃんとジャニスのハートを持っていて、ハスキーな声でソウルフルに歌うし、シャウトもすごかった。日本で、ここまで素晴らしいシャウトができる人は少なかったと思うので、そういう人が当たり前のようにひょこっと出てくるのが面白かったです。緑黄色社会の長屋はエタ・ジェイムスを演じたのですが、J-POPで育ったらしいのに、ものすごくソウルフルに歌えるんですよね。おそらく親がソウルやファンクを聴いていて、それが娘に受け継がれているとしか思えない。そういう新しい時代になったんでしょうね。

 

詩を書くことは感情を配線しているようなところがある

──『感情の配線』は装丁から関わられたそうですね。

 

 今まで5冊の詩集も含めて、幾つも本を出してきたんですが、装丁から関わったのは今回が初めてでした。花布(はなぎれ)の色まで決めなきゃいけなくて大変だったんですが、本というものは、いろんなパーツがあってできているんだと改めて知れたのも面白かったです。僕はネットも大好きですけど、紙の本はいつでもどこでも手軽に読めるのが好きなんです。もちろんスマホやパソコンで読んでもらうのもうれしいですが、せっかくなら『感情の配線』を手に取って、本の手触りや匂いも感じてほしいですね。

 

──表紙の絵は、森さんの娘さんが描いたものだそうですね。

 

 娘が16歳のときに描いた絵なんです。何を作っているのかは分からないんだけど、何かを配線しているのが、『感情の配線』というタイトルにリンクしているなと。詩を書くことも、感情を配線しているようなところがありますからね。

 

──ネットがお好きということですが、いち早くパソコンなども取り入れたほうですか?

 

 早かったほうだと思います。そもそもワープロを使い始めたのも早かったですから。最初に買ったワープロなんてモニターに1行しか表示されなかったんですよ(笑)。でも手書きで清書をするよりはマシだなと。それまではペンで歌詞を清書していて、ホワイトで修正するのも味気ないからと、間違えたら一から書き直していたので、すごく時間がかかっていたんです。だから表示されるのは1行でも、簡単に修正できるのは大きかったです。その後、表示できる行数が増えて、どんどん進化していくので、効率も良くなっていきました。

 

──アーティストによっては、手書きのまま歌詞を印刷して世に出す方もいて、味わいがありましたよね。

 

 手書きで綺麗な字が書けてしまうと、ヴィジュアルに酔って良い詩かなと思うこともあるし、気持ちが入ったときの詩は強く記憶に残ってしまって、冷静に見られなくなる面もあるんです。だから最終的に印字をして、フォントで確認したほうが、書いたときの自分と少し距離を置けるので、手書きよりも僕に合っているんですよね。

 

 

<Informaition>

森雪之丞自選詩集『感情の配線』

好評発売中!

装画:森まりあ
価格:2,500円(税別)
発売元:株式会社開発社

<収録内容>
森雪之丞自身がこれまでに発売した詩集から厳選、図形詩、戯曲詩の初の書籍収録。

<目次>
詩I 14 篇
図形詩 10 篇
詩Ⅱ 13 篇
戯曲詩『夢と旅の図式』5 篇による連作詩
詩Ⅲ「生きる、あなたに泣いてほしくて」

自選詩集『感情の配線』特設ページ公開 https://www.mori-yukinojo.com/emotional_wiring/

 

Podcast番組「森雪之丞 Poetory Readingの世界『感情の配線』」

配信開始!

【出演】森雪之丞(著者)
【配信】2024年1月14日(日)正午から順次配信予定
(隔週月曜日 正午頃 各種Podcastサービスで配信 ※Spotify、Apple Podcast、AmazonMusic、YouTube Musicなど)
【番組ハッシュタグ】#感情の配線 #推詩

 

撮影/武田敏将 取材・文/猪口貴裕

木竜麻生「登場人物たちの次の展開を期待してしまう。彼らが運命に翻弄されていく姿を、スクリーンの中で見たいと思った」映画「熱のあとに」

2019年に起きた新宿ホスト殺人未遂事件から着想を得て描かれる、一人の女性の一途で狂信的な激情を描いた映画「熱のあとに」(2月2日(金)より公開中)。衝撃的な事件から6年後、橋本愛さん演じる主人公・沙苗の目の前に現れる謎の隣人女性・足立を演じる木竜麻生さんが、これまでとは異なる役柄や刺激的な現場エピソードについて振り返ってくれました。

 

木竜麻生●きりゅう・まい…1994年7月1日生まれ。新潟県出身。2014年に『まほろ駅前狂騒曲』で映画デビューし、2018年には瀬々敬久監督の『菊とギロチン』で300人の中から花菊役に選ばれ、映画初主演を果たす。また、同年の『鈴木家の嘘』でもヒロインを務め、この2作の演技が高く評価され、数々の映画賞を受賞する。近年は主演作『わたし達はおとな』(2022年)のほか、『ぜんぶ、ボクのせい』(2022年)、『ヘルドッグス』(2022年)、『Winny』(2023年)、『福田村事件』(2023年)などの話題作に出演している。Instagram

 

【木竜麻生さん撮り下ろし写真】

 

 

「なぜ彼女らしいのか?」ということも演じていく上でのポイントに

──最初に脚本を読んだときの感想は?

 

木竜 映画の中で、しっかり母親役を演じるのは初めてでしたし、かなり謎めいた人物で、物語を動かしていく、かき回していくことに関しても初めての経験だったので、山本英監督から「木竜さん、足立役でどうでしょう?」と脚本を渡されたときは、純粋にうれしかったです。「今までとは違う私を見てもらえる作品になりそう」という思いや、自分の力量を試せそうな好奇心もあったので、わりと早い段階で「ぜひお願いします」と言わせてもらいました。あと、「自分がこの映画をお客さんとして見たい」という思いも強かったんです。

 

──「お客さんとして見たい」と思われた大きなポイントは?

 

木竜 自分が共感できるかどうかということとは別に、それぞれの登場人物が話している言葉がどこか固かったり、詩的だったり、普段人が話すときとは違う言葉選びをする瞬間があるんです。そこに関しては、とても興味深かったですし、とにかく登場人物たちの次の展開を期待してしまう。彼らが運命に翻弄されていく姿を、スクリーンの中で見たいと、純粋に思えたんです。

 

──ちなみに、足立という人物をどのように捉えましたか?

 

木竜 その後、何度か台本読みをする時間を取っていただいたときに、脚本のイ・ナウォンさんから、それぞれの登場人物にまつわるサブテキストになるものをいただいたんです。私は「足立から息子に宛てた手紙」という内容のものだったんですが、自分を彼女に近づけていくときの拠り所にさせてもらいました。傍から見ると、かなり息子に冷たい母親に見えるかもしれませんが、その手紙の中に「あなたが間違えて、この手紙に落書きしちゃったり、ビリビリに破いてゴミ箱に捨てちゃっても私は構わない」といったような記述があったんです。それはとても彼女らしい息子との距離感だなと思ったんですが、「なぜ彼女らしいのか?」ということも演じていく上でのポイントにしました。

 

──そのほか、一筋縄ではいかない彼女を演じる上で軸になったものは?

 

木竜 悲しさや寂しさ、やるせなさなど、足立なりに抱えているものがいろいろあると思うんですよ。それを表に出さずに、明るさやフレンドリーさ、飄々した部分を保っていて、しっかり地に足をつけて立っている、彼女なりの愛情がある人なんだろうと捉えました。沙苗に近づいていく彼女の正体が明らかになる中盤までは、彼女の持つ軽さみたいなものが損なあwれないように演じていたと思います。

 

監督に直談判した思い入れあるシーン

──かなりシリアスな「愛について」の物語が描かれますが、現場の雰囲気は?

 

木竜 2週間半から3週間程度のギュッとした長野ロケだったのですが、みんなでペンションを借りて、そこで同じ時間と空間と環境を共有しながらの撮影でした。だから、撮影の合間も、スタッフさんも含め、みんなでご飯を食べたり、仲良くなりすぎなぐらい仲が良かったです(笑)。逆に、それだけ風通しのいいコミュニケーションが取れていたからこそ、思い切ったお芝居ができたのかもしれません。緊張感を保たなければいけないシーンが多くありましたが、とても楽しくて濃厚な時間だったと思います。

 

──沙苗役の橋本愛さん、彼女の夫・健太役との仲野太賀さんとの共演はいかがでしたか?

 

木竜 お二人とも度量が広い俳優さんなのは分かっていたので、私はお二人の胸を借りるつもりでやってみようと思っていましたし、現場にいてくださるだけで終始助けてもらっていました。お互いに集中したいときは、何も言わなくても距離を置ける感じでしたし、あるシーンでカットがかかった直後に、愛ちゃんに「不完全燃焼だったかも?」と私が言ったら、「いや、監督のOKを信じよう」と言ってもらえるような関係性になっていました。お休みの日は3人でボウリングにも行ったんですが、ゲームの登録名を役名と同じ、沙苗・健太・(足立)よしこにしていました(笑)。みんなで一緒に、山本監督が作りたいものを作っていこう、という楽しさや空間を感じることができました。

 

──劇中、足立が沙苗と教会で対峙するシーンは、とても印象的です。

 

木竜 教会のシーンも、愛ちゃんを信頼していたので、どんと行けました(笑)。格子越しに、お互いの手の平を合わせるシーンは台本にはあったのですが、山本監督の意見で一度なくなったんです。でも、段取りが終わって、撮影のセッティング中に、愛ちゃんと控室に戻ったときに、「本当は交わりたくないのに、繋がってしまった2人を表現するには、手の平を合わせた方がいい」という話になったんです。それで監督に直談判して、復活してもらいました。だから、思い入れのあるシーンになりました。

 

作品を作りだし、足を運んで見てもらうというのはうれしいと同時に最低限の責任がある

──テイクを重ねるなど、一番大変だったシーンは?

 

木竜 一番大変だったのは、終盤に3人がペンションで集うシーンでした。なるべくカットを割りたくない山本監督の思いもあって、個々のショットを撮るときも、シーンの最初からカメラを回していたので、「今日撮り終わらないかも?」と思うほど時間もかかりました。毎回毎回、気持ちを最初に戻してからお芝居していくことは、かなり集中力が必要な作業でしたし、身体的なものも大変でしたが、それを乗り越えることができたのは、やはり同じ方向を向いていた俳優部とスタッフさんのチームワークがあったからだと思います。

 

──「Winny」「福田村事件」など、社会派作品に出演されている印象も強いですが、そのあたりは意識されているのでしょうか?

 

木竜 私の中で、「これ!」と決めているわけではないんですが、マネジメントもやっていただいている事務所の社長と、できるだけ作品について話したり、脚本を読んだときの感想を共有するようにしています。あと、台本を読んでワクワクするとか、「熱のあとに」のように「この映画を見てみたい!」と思うとか、自分の心が動くことも大切にしています。やはり俳優部として作品に参加する以上、作品を作りだす、それに足を運んで見てもらうというのはうれしいと同時に最低限の責任があるとも思うので。

 

──木竜さんが憧れる俳優、または理想の俳優像を教えてください。

 

木竜 具体的に憧れている方はいないのですが、私は映画を見ていて、生活や暮らしが見える描写が心地良くて、すごく好きなんです。例えば、誰かがご飯を食べるとか、洗濯物を干すとか、朝起きて出かけるとか、そこまで深い意味を持たない何気ない日常のルーティンのシーン。セリフはなくても、周りを見渡したら、この人いそうだなって俳優さんは、皆さんすごいなって思います。最近、アキ・カウリスマキ監督の「枯れ葉」やヴィム・ヴェンダース監督の「PERFECT DAYS」を見たときに、改めてそう感じました。

 

──木竜さんが熱くなるモノ、こだわりのモノなどがありましたら教えてください。

 

木竜 基本的に香るものが好きです。いろんな人に会ったり、人がたくさんいる空間に行った後など、ちょっと疲れていたり、力を抜きたいと感じたときは、必ず家でお香や香木を焚いてリフレッシュしています。最近はアウトドア好きな父と兄に勧められた、天然香木のパロサントが気に入っていて、ネットやショップで購入しています。普通のお香に比べて火はつきにくいのですが、煙の量が多いのが特徴なんです。気が付けば、朝起きて、窓開けて、換気した後に焚いているぐらい今のルーティンになっているかもしれません(笑)。ちなみに、「熱のあとに」でのロケ先ではさすがに焚くことができなかったので、ホワイトセージ(シソ科のハーブ)のスプレータイプのものを寝室や私服にかけていましたね。

 

 

熱のあとに

2月2日(金)より公開中

【映画「熱のあとに」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
監督:山本英
脚本:イ・ナウォン
出演:橋本愛、仲野太賀、木竜麻生、坂井真紀、木野花、鳴海唯、水上恒司

(STORY)
自分の愛を貫くため、ホストの隼人(水上恒司)を刺し殺そうとして逮捕された沙苗(橋本愛)。事件から6年後、彼女は自分の過去を受け入れてくれる健太(仲野太賀)と見合い結婚し、平穏な日常を過ごしていた。しかしある日、謎めいた隣人女性・足立(木竜麻生)が沙苗の前に現れたことから、運命の歯車が狂い始める。

公式HP:https://after-the-fever.com/

(C)2024 Nekojarashi/BittersEnd/Hitsukisha

 

撮影/映美 取材・文/くれい響 ヘアメイク/主代美樹 スタイリスト/カワサキタカフミ