『ラヴィット!』プロデューサー・辻有一が語る躍進の舞台裏とは?「批判されようと、日々の番組を真面目に地道に作っていきたい」

朝の帯番組でありながら、「ニュースなし! ワイドショーなし!」を旗印にした『ラヴィット!』(TBS系)の勢いが止まらない。バラエティに振り切った大胆な構成と生放送ならではのハプニング性によって、SNSでは毎日のように話題となるほど。しかし、2021年の放送開始直後は「あらゆる罵詈雑言が飛んできて、眠れない日が続いた」と番組のキーマンである辻 有一プロデューサーは振り返る。躍進の舞台裏に迫った。

 

辻 有一●つじ・ゆういち…1983年生まれ。2006年にTBS入社。

 

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“日本で一番明るい朝番組”を作ろうと決めた

──『ラヴィット!』が異色の番組であることは間違いないと思います。そもそも朝の時間帯なのに、なぜワイドショー的な作りにしなかったのか? このあたりから説明していただけますか。

 

 TBSの朝番組というのは、『はなまるマーケット』(1996年~2014年)が終了した後から、数字的に苦戦していたんです。その時期は主にワイドショーというか情報報道番組が続いていたんですが、編成の意向として制作体制を切り替えようという話になったみたいで。具体的には情報制作局という情報報道番組を作る部署に替わって、バラエティを作るコンテンツ制作局がその枠を担当することになった。その中で最初はチーフプロデューサーの小林(弘典)に話が来たんですよね。それで小林が僕に一緒にやろうを声をかけてくれて、動き始めたんです。番組内容も編成からはニュースやワイドショーではない情報番組という依頼でした。

 

──つまり、上層部や編成サイドの考えが大きかったということでしょうか?

 

 編成としては『王様のブランチ』のような番組をイメージしていたんだと思います。だから新しい番組でも情報ニュースやエンタメニュースは扱っていいよ、という話でした。むしろそれをうまく扱いながら構成していく情報番組を作ってほしいと思っていたのかもしれません。

 

──なるほど。様々な背景があったわけですね。

 

 ただ僕としては当初から良いニュースであれ、悪いニュースであれ、絶対に扱いたくなかったんです。なぜかというと、番組立ち上げの準備に入ったのが2020年の秋だったんですけど、その当時はまさに新型コロナのピーク真っただ中。どのチャンネルを回しても朝から新型コロナのニュースを報じていて、朝テレビをつけると気分的に落ち込むことが多かったんです。個人的にもコロナ禍でとても大きな嫌な出来事があり、本当に精神的に参っていた時期でした。でもその頃って、きっとそう感じていた人は多かったのではないかなと。だからそういう人たちが朝にテレビを見て少しでもクスッと笑える、その日生きる元気がもらえる、“日本で一番明るい朝番組”を作ろうと決めたんです。

 

──そのフレーズは番組の標語にもなっています。

 

 番組開始当初から解釈や切り口は変えながらですが、その番組テーマだけはブレていないつもりです。エンタメ系のニュースも含め、生放送と言えどもニュースを扱わないというのも僕の一貫した番組におけるポリシーで、番組のスタイルは少しずつ変わっていますが、そこだけは守っていくつもりです。

 

出演者には数ある番組の1つにしてほしくなかった

──前例がないことをするわけですから、キャスティングが非常に重要なカギとなったはずです。メインMCの麒麟・川島明さんや各曜日のレギュラー陣はどのようにして決まったんですか?

 

 考えとしてあったのは、他ではあまり見ることができない、ここでしか見ることができないキャスティングで番組を作りたかったということ。川島さんは当時から実力のある方でしたし、業界でも評価はもちろん高かったですが、4年前はまだそこまでMCをやられていなかった。さらに各曜日にキーキャストとしてお願いした芸人さんたちもまだ東京に進出していなかったり、レギュラーはまだ持っていない方が多かった。それはそういう理由です。

 

──確かにそうでしたね。

 

 帯番組を作るというのは、会社的にもかなり大きなプロジェクトです。予算的にも人員的にも結構な規模感ですし。僕としては、相当な覚悟を持って取り組まなくちゃいけないわけです。そういう意味でいうと、当時は、川島さんを含めて出演者の方たちにもこの番組で一緒に勝負を賭けてくれる人がよかった。変な言い方ですけど、数ある番組の1つにしてほしくなかったんです。本人たちはどう思っているかは分かりませんが(笑)。

 

──レギュラー番組を7つも8つも持っている芸人さんだと、どうしても『ラヴィット!』ならではの色を打ち出せないかもしれません。

 

 特にロケなどを考えると超売れっ子の方になると、スケジュールなども現実的に厳しくなりますしね。立ち上げ当初はいろいろとうまくいかないことも想定できていたので、やっぱり「みんなで一緒になって、この番組で勝負したい」という思いが根底にあって、僕が勝手に思っているきれいごとかもしれませんが、そこにこだわったつもりです。今でも、その思いは変わらないですし、だから各局に既に引っ張りだこの人気者を「後追い」したり、そこ頼るような企画はなるべくしないようにしているつもりです。他でも見られちゃいますからね。

 

──アイドルの人選に関しても、人気メンバーを上から順に指名するといったイメージではない?

 

 違いますね。そもそもグループの中で誰が人気あるかとか全く分かってないです(笑)。ただ「この番組を楽しんでくれているか?」という点は一番大事というか、とても気にしています。というのは、『ラヴィット!』って出演者側からすると出るのが大変な番組だと思うんですよ。無茶なアンケートもお願いするし、生放送でいきなりいろんなことをやらされるし。だから楽しんでもらえないと、やっていけない番組なんです。

 

──至近距離で見ていて、川島さんのすご味はどういうところで感じますか?

 

 あらゆる局面で感じています。帯でバラエティ番組のMCを、それも生放送でこなすというのは想像以上に大変なことだと思います。相当な技量と何より精神力が必要とされます。それを完璧にこなすのは超人的です(笑)。川島さんが“いる”「安心感」があるから、芸人さんたちも自由にボケられるし、僕らは今までのテレビの常識では考えられないような挑戦が出来るんです。だったら何で開始当初はVTR中心だったのか、と言われるかもしれませんが、当時僕らは川島さんとまだそこまで深く仕事をしたことがなかったですし、川島さんも僕らに対して疑心暗鬼というか、何してくるのか未知数な部分があったと思うんですよね。いきなりトークブロックばかりの構成にして、「じゃあ1時間よろしくお願いします」っていうのはなかなか信頼関係がないと難しいものがあるので。それで初期はVTR中心の構成になったという経緯があるんです。

 

最初の一年はとにかく番組のタイトルや存在を知ってもらうこと

──番組が進化・成長したことは、オープニングで顕著に感じられます。最初は現在のように尺も長くなかったですよね。

 

 番組開始当初から僕は放送中もなるべくX(旧Twitter)やSNSの反響をチェックしているんですが、徐々に始めた川島さんが仕切るトークブロックは、やり始めた頃から評判になって、かなり話題にも上ってました。こちらとしても手応えがあって、枠を広げていったんですけど、今では1時間を超えることもザラなので、もはやオープニングではないことは僕らも理解しています。2時間オープニングで終わるって「番組が始まってもいないじゃねぇか!」とそれは視聴者から言われますよね(笑)。

 

──日本人のテレビ離れが指摘されるようになって久しいですが、『ラヴィット!』は『水曜日のダウンタウン』と並んでXのトレンドになにかと入ってくる印象があるんですよ。SNSとの親和性というのは制作陣としても意識しているポイントですか?

 

 もちろんです。番組がスタートした頃っていうのは本当に酷評の嵐だったんです。「面白くない」「こんな番組やめちまえ」「前のほうがマシだった」……SNSを覗いても、ありとあらゆる罵詈雑言が飛び交っていました。ただ、その一方でSNSのその現象を冷静に見ていると、日本の大多数の人はTBSの朝番組が変わったということすら、きっと知らないんだなと思うことがあって。だからそれをどうするかの方が僕にとって大きな問題だったんです。

 

──どういうことでしょうか?

 

 ネットでバッシングが飛び交うのは、一瞬盛り上がっているように見えるんですけど、実際はほとんどの人は、その番組すら見てもいなくて、日本のほとんどの人は『ラヴィット!』なんていう新番組が始まったことすら認識していないわけですよ。そりゃあそうですよね。視聴率最下位のテレビ局の番組が替わったって、普通は誰も気づいてくれないし、見てくれない。だから最初の一年というのは、とにかく番組のタイトルや存在を知ってもらうことに集中しないとダメだなと思ったんです。

 

──具体的には、どのように?

 

 一番は番組を面白くすること。まずは内容がつまらないから「番組の存在」に気づいてもらえないわけです。そのための工夫というか、生放送ならでは、帯番組ならでは、『ラヴィット!』における優位性を活かしたチャレンジは数えきれないほどやりましたし、今も意識してやっています。あとはSNSをいい意味で盛り上げて、「番組名」を世間に広げること。そのためにSNSを絡めたキーワード発表もやり始めました。これは極々わずかな一例ですが、こちらもトライ&エラーを繰り返しながら、番組の知名度を上げる方法をとことん模索していきましたね。

 

『ラヴィッド!』を好きでいてくれる人を、もっと好きになってもらえるように、とことん大切に

──『ラヴィット!』はTVerでの人気も非常に高いです。ニュースやワイドショーといった番組はライブが命だとされていますよね。情報番組なのに、あとから見ようとするファンが多いのは珍しい現象だと思うのですが。

 

 それは完全にバラエティとして認識されているからですかね。『ラヴィット!』はTVerのマイリストというお気に入りの数が今は125万人くらいまで伸びていて、それはうちのバラエティの中では3~4番手くらいに入るんです。ありがたいことですね。そもそも生放送の帯番組を配信するってこと自体が極めて珍しいですし、技術的にも物理的にもやはり大変らしくて、配信の部署や関係各所の皆さんの協力のおかげでなんとか成り立っています。

 

──TVerで人気ということは、視聴者層が若いということでしょうか? 朝の番組を見るのは高齢者が多いイメージもあったのですが。

 

 極端に若いと思いますよ。ファミリーコア(男女49歳以下の個人視聴率)が圧倒的に強みですし、もちろんその世代を意識して作っています。正直、オール(全層)は数字よくないんです。昔の世帯視聴率を基準で見たら、失格だと思います。それでも続いているのはTVerでの回転数や、若い人たちが見てくれていること、他にも様々な付加価値を評価されているからであって、決して盤石ではないことは、僕は一番理解しています。

 

──テレビの制作現場では、以前ほど視聴率を重視しなくなったという話も聞きます。

 

 う~ん、視聴率の価値が薄れているということはないと思うんです。ただ、TVerとかも含めて評価基準が多様化していることは間違いないでしょうね。ここからは僕個人の考えなんですけど、結局、昔みたいに家でテレビがずっとついている時代じゃなくなったんですよ。朝なんてまさにそうで、放っておいても勝手にテレビをつけてくれるような状況じゃないわけです。

 

──言われてみたら、確かにその変化は大きい気がします。

 

 テレビのチャンネルをなんとなく合わせてもらうではもうなくて、能動的にテレビを点けてもらって、チャンネルを合わせてもらって、わざわざ見に来てもらえるような番組じゃないと、これからのテレビは生き残っていけないと思う。だからこそ、「好き」の深度が大事になるんです。『ラヴィッド!』が好きだと言ってもらえる明確な理由を、自分たちがひたすら努力して作っていかなくてはいけない。そして今『ラヴィッド!』を好きでいてくれる人を、もっと好きになってもらえるように、とことん大切にしないといけない。

 

──ということは、大衆向けにバランスよく幕の内弁当のような情報番組を作るのではなく、エッジの立った内容で一点突破するという話になりますか?

 

 その通りですね。尖るという表現には慎重なんですが、本来のテレビ的なアプローチとは違っているのかもしれない。マスに向けて最大公約数的に作っていないという意味で。

 

いろいろな人の「好き」が集まって成り立っている番組

──先日の放送は『森田一義アワー 笑っていいとも!』(フジテレビ系)のテレフォンショッキングにオマージュを捧げるような内容で、いきなりゲリラ的に電話で出演オファーする様子が視聴者の度肝を抜きました。

 

 「リアルタイムで見てくれている人」が得したなと感じてもらえるような仕掛けはとても意識しています。事前予告をあえてしなかったり、サプライズにこだわったり、いい意味でハプニングが起こるかもしれない要素をあえて残すのもそのためです。あとは、「番組をずっと見続けてくれている人」をとても大切に作っています。ずっと継続的に見ているからこそ楽しめる歴史やストーリー性や伏線回収を作るのもそうです。例えば、さらば青春の光の森田哲矢さんの買い物企画なんてまさにそうで、歴史を知っていたら、なおさら楽しい(笑)。

 

──森田さんの車購入は、ネットニュースでも大きく取り上げられていました。

 

 森田さんの企画って何がいいかって、森田さん本当に欲しそうじゃないですか。ロレックスにしろ、レンジローバーにしろ、本当に好きなんだなって伝わるのがとても良くて。僕は、人が好きなことをしている姿ってめちゃくちゃパワーがあると思っているんです。周りを明るくさせる魅力がある。車や時計じゃなくてもいいし、好きなアイドルとかだっていい。ぼる塾の田辺(智加)さんが「推し」について語っている姿が、周りを幸せな気持ちにさせてくれるのも同じだと思っています。『ラヴィット!』は、番組名の由来でもあるんですが、いろいろな人の「好き」が集まって成り立っている番組なんです。

 

──感情移入しちゃいますよね。『ラヴィット!』は斬新な企画のオンパレードなので、視聴者としては面白いのですが、制作サイドはネタ切れとかマンネリ化の恐怖はないんですか?

 

 その恐怖と常に戦っている状態ですよ(笑)。この3年間というもの、四六時中、いつも番組のことばかり考えていますから。毎日毎日、悩みに悩んでいます。

 

──最初は苦戦が続いていた番組も現在では確固たる人気を獲得し、年末には特番の『ゴールデンラヴィット!』を、土曜日には総集編ともいえる『夜明けのラヴィット!』が放送されるようになりました。

 

 『ゴールデンラヴィット!』に関しては、テレビをやっている以上、どこかで朝の帯番組のゴールデン特番を作りたいと思っていました。あれは一年間の集大成的な位置づけですね。『夜明けのラヴィット!』は、川島さんが「いいともの増刊号みたいなことをやりたいね」と言ったのが大きかったですね。というのも『ラヴィット!』は生放送だから、そこで処理しきれない要素が結構出てくるんですよね。「このまま、アフタートーク的なことをやったら盛り上がるのにな」とか話してて。ところが、いざ始めてみたら早朝5時半からというとんでもない時間帯で(笑)。金曜日までの放送内容を入れなくちゃいけないので、めちゃくちゃまとめるのが大変なんですよ。金曜日のオンエアの後にそのまま徹夜で仕上げて、放送するんですけど。

 

──番組関連グッズを展示する「ラヴィット!ミュージアム」やライブイベント「ラヴィット!ロック」も開催しています。

 

 番組が始まった当時は、こんなことをやるなんて想像もできなかったですね。もちろん番組を応援してくださる方に楽しんでもらいたくてやっているわけですが、個人的にはこういったイベントを行うと、現場スタッフのモチベーションがものすごく上がるのがうれしいんですよね。内輪の話になりますけど。

 

心休まる瞬間がなくて。胃がキリキリするだけの毎日(笑)

──直接、視聴者を目にする機会は少ないでしょうからね。

 

 番組が始まった当初、ADの子たちが電話で取材交渉したりする際、すごく恥ずかしそうに『ラヴィット!』という番組名を口にしていたんです。僕はその姿が忘れられなくて……。だけど最近は新入社員として入った子や、制作会社の若手たちが「『ラヴィット!』作りたくて、この業界に入りました」とか言ってくれることも増えてきました。やっぱりそこは感慨深いものがありますよ。

 

──しかし、辻さんの気苦労は絶えないでしょうね。みんなに頼りにされているわけですし。

 

 頼られているかは分かりませんが、スタッフだけでも200人以上が関わっているんです。最初は本当にプレッシャーに押し潰されそうでした。しかも世間からは酷評の嵐だったので、マジで眠れませんでした。もちろん今でも枕を高くして眠れるわけでは全然ないですけどね。「夜明け」含めると週12時間も放送があって、「ゴールデン」や「ロック」もあると「次の企画!次の企画!」と常にあおられている感じなので。これは僕の性格的な問題ですけど、正直言って、この3年間で楽しいと思ったことなんてほぼないんですよ。

 

──そんなこと言わないでくださいよ(笑)。

 

 生放送だから何が起こるか分からないし、責任もあるし、視聴率も毎日出るし、すぐ次のこと考えなきゃいけないし、心休まる瞬間がなくて。胃がキリキリするだけの毎日(笑)。

 

──想像を絶する過酷さですね。今後、『ラヴィット!』をどうしていきたいかビジョンはありますか?

 

 それ、よく聞かれるんですけど……全く今は思いついてないんですよ(苦笑)。振り返ってみても、その日のオンエアに汲々としながら走り続けていたら3年間が経っていたという印象ですし。おそらくこれからも余裕など一切なく、目の前のことをこなすので精いっぱいになるんじゃないですかね。そんな中で、ワクワクするような企画を思いついたら、実現したいと思っています。だからこそこれからも、いくらくだらないと批判されようと、日々の番組を、真面目に地道に作っていきたいです。

 

【INFORMATION】

ラヴィット!

TBS系 毎週(月)~(金) 午前8:00~9:55

公式HP https://www.tbs.co.jp/loveit/

 

構成・撮影/丸山剛史 取材・文/小野田 衛

40代でリスタート! 現在“会社員2年目”の片瀬那奈インタビュー「本当に自分がやりたいことって?」

シャッター音を浴びながらロングスツールに腰掛けているだけで、圧倒的オーラがまぶしい。一方で、同僚社員にまぎれて、商品の在庫管理を黙々とする。2021年9月、表舞台から突然姿を消したと思ったら、アパレルECサイト「LOCONDO.jp」を運営するジェイドグループ株式会社に会社員として入社し、約1年がすぎた片瀬那奈さん。本人が「いろいろあった」と表する時期を経て、40代でリスタートをきった今を、余すことなく語ってくれた。

 

片瀬那奈●かたせ・なな…1981年11月7日生まれ。東京都出身。XInstagramYouTubeLOCONDO.jp

 

片瀬那奈さん撮り下ろし写真

 

「本当に自分がやりたいことってなんだろう」30代後半で初めて浮かんだ疑問符

──先ほど、普通に名刺交換をしていただいてびっくりしてしまいました。

 

片瀬 いつも普通に名刺交換していますよ。

 

同席した同僚女性 私たちもまだ、ふと気づくといちいちびっくりするんです。「片瀬那奈さんが社内に、隣のデスクに、いる!」って(笑)。

 

──お気持ち、とてもよく分かります。とはいえ、ロコンドの社員として週5日で働き始めたのが2022年12月からで、1年以上経ったんですよね。40代前半でそれまでとは全く別の仕事をすることについて、年齢的な節目を意識したのでしょうか。

 

片瀬 節目はそんなに意識しませんでしたが、思い返せば「ああ、このタイミングだったんだろうな」とは思いました。17歳から仕事をしていて、体格や容姿でずっと年上に見られていたので、「早く大人になりたい。年齢が外見に追いつきたい」と思いながらすごしてきて、30歳が来たときはうれしくて。でも40歳になる直前に、うれしい以外の感情が湧き上がりいろいろ考えました。

 

──どんなことを考えましたか?

 

片瀬 今まで芸能の仕事しかしてきませんでしたが、芸能の仕事って、依頼されたり与えられないと自分からは動けないんですよね。仕事をいただいて、それを自分の中で消化して、個性を出しながら表現します。その根底にあったのは、「人を楽しませたい」という使命感のようなものでした。その仕事は素晴らしい一方で、「本当に自分がやりたいことってなんだろう」と考え始めたのが、37、38歳のときでした。実は私は、好きなことも趣味もめちゃくちゃ多いし、知りたいことは知りたいし、なんでもやってみたい! と思う好奇心の塊で。例えば、雑誌の撮影があるとするじゃないですか。

 

──今日も撮らせていただきましたね。

 

片瀬 はい。通常、撮影した写真は事務所がチェックをしますよね。マネージャーさんたちのチェック中、私もたまたまそこにいて「私はこれがいいと思う」と指す写真、全部みんなが選ぶ写真と違うんですよ。

 

──自分が思う「いい」と、プロデュースする側の「いい」にギャップがあるんですね。

 

片瀬 「自分が好きな自分の顔と、ほかの人が好きな自分の顔って、全然違うんだな」と思ったら、やっぱり自分がやりたいことは求められているものではないんだな、と思うわけです。それを若い頃から悟っていて、与えられたことをしっかりと返せることの方に魅力を感じていたし、やりたいことができないストレスは全くありませんでした。

 

1つひとつ「違う」と声を上げないと「真実」になってしまう理不尽な現実

片瀬 でもふと、「このままでいいのかな」と思って。そんな中でも仕事はいただけるし、責任を持ってやりたいし……というさなかにいろいろなことがあり、「このタイミングで1回ゼロにしたい」と思ったんです。そういう時間が20年以上一度もなく、ずっと向き合ってこなかったから、知らず知らずのうちに自分を押し殺していたんじゃないのかな、とも思いました。

 

──芸能人という職業は、“イメージ”が大事な要素の1つですが、イメージと違うことをすると「かっこいい」と思う人も入れば、受け入れがたく批判的に見る人もいると思います。

 

片瀬 そうですよね。それは芸能人に限らずで、イメージは人が作るものだし、1対1で会うか、大人数の中の1人として会うか、でイメージって全然違うじゃないですか。だから私は「イメージと違う」と言われようがあまり傷つたり気にすることはありませんでした。明らかにおかしいことを言われると腹が立ちますが、1つひとつにいちいち声を上げないと“真実”になってしまうのも、おかしな話だし。その塩梅ってすごく難しくて。だから私は、真実があるならば、自分が後ろめたいことがなければ静観していようかなと思うんです。そもそも私、昔からエゴサを全くしないんですよ。ネットって「すごく素敵でした」という声の割合が少ないと思うんです。そういう人は、心の中で思ってくれるので。だから、イメージはそれぞれで作って楽しんでもらえればいいし、それをいちいち「違う」と弁明することもないし。私は私の人生を生きているだけなんですよね。

 

──2021年9月に所属事務所を離れたときは、よりそういった声が多かったかと思います。

 

片瀬 あのときは、自分がやったことに対して償いができるならなんでもやりますが、そうではなかったから。自分がやったことではないことに関して人に迷惑をかけている……という現状がつらかったですね。

 

──葛藤に押しつぶされそうになりますね。

 

片瀬 はい。それで「ゼロにしよう」と決めて、1年経ってようやく「今が一番幸せで楽しい。これで本当によかった」と思っています。

 

「出社したらメールチェック」すら知らなかった新人会社員

──紆余曲折を経ての「今が一番楽しい」、とても素敵です。

 

片瀬 ね。ロコンドに入社するきっかけも、たまたまなんです。田中裕輔社長がYouTubeからメールをくださって、普段チェックしないからその1か月後に気づいて「あの有名な社長さんだ!」って。すぐに連絡をすると「コラボしましょう」となり、その2、3日後に会いました。会う前に私、いろんなアイデアがすごい浮かんだんですよ。コラボ案やコンテンツ案など、50個くらいかな。

 

──50個!

 

片瀬 お会いしてそういう話をたくさんしたらすごく盛り上がって。「じゃあ、ロコンドの社員になるという企画をやりましょう」となったとき、実際には社員にならずに企画をやることで、視聴者さんのことを騙すのはイヤだなあと思ったんです。それに、企画で社員になると、できることも限られるし。それで「正式に社員になるのはどうか」となり、今に至ります。

 

──当時のほかの社員の方々の反応はいかがでしたか?

 

同僚女性 最初に田中から「ちょっと片瀬さんがいるから挨拶してくれない?」と言われて、「どこの片瀬さんだろう?」と思っていたら、片瀬那奈さんで。「えーー!?」って(笑)。普通にデスクでパソコン作業していたんですよ。ざわざわして、みんな必ず二度見していました。

 

片瀬 そうですね、二度見されました。

 

同僚女性 今でも不思議な光景ですよ。

 

片瀬 こんなに一流の会社に、40歳をすぎた別にこれまで実績もない人が急に入ってきて受け入れもらうって、すごいことじゃないですか? 40年生きるとなかなか新しいこともないし、「こんなふうに立ち回ったらこうなるな」と大体のことが見えている年齢だし、というなかで私は新しいことを吸収したい気持ちがありました。でも、ビジネスの場においてのメール返信の仕方も知らなかったんですから。まず出社したらメールをチェックする、という当たり前のことすら「そういうことをやるの!?」状態。

 

──会社員になって、ほかにカルチャーギャップを感じたことはありますか?

 

片瀬 だいたい全部ですかね。毎日同じ時間に会社に来ること自体初めてだし、飽きっぽいから、「毎日同じ時間に起きて、同じ時間に出社して、なんてできるかな」という不安はありましたが、すんなり順応しました。

 

──今の仕事はどんなことをやっていますか?

 

片瀬 部署は社長室で、業務内容は本当に多岐に渡ります。PRの仕事やリース業務、コラボ企画など。コラボ企画の場合、自分の人脈から繋げたりすることも多いので、ゼロの状態、企画立案から始めることが多いです。その場合、最初から最後まで1、2人の少人数でやります。

 

仕事をいちから作り上げる

──以前の仕事が活かされることもありますか?

 

片瀬 ほとんどの局面で活かされている気がします。例えばCMを作るとき、必要な予算、必要な期間やもの、演者の気持ちからスタッフの気持ちも大体は分かります。「このとき、演者さんはこういう状態になるから、時間を取ったほうがいいです」とか。

 

──やっぱり第一線で活躍していたからこそ、視野が広く分かるのですね。

 

片瀬 あとうちの会社はM&Aが多いので、素人ながらに調べたりデータを分析するのが好きですね。

 

──本当にマルチにやっていますね。

 

片瀬 今2年目だし、なるべくすべての業務を知っておきたいんですよね。「ここまでしかできません」ではなく、「やれるものは全部やらせてもらいたい」という気持ちでやっています。そうすると、どこかに自分に合うものが見つかることがあるじゃないですか。

 

──そうですね。多くを経験することで、これは合う・合わないがあぶり出されます。

 

片瀬 新人のうちはいろいろなことをやって、まずは皆さんに必要とされることが目標の1つでもあります。

 

──「40代で新人」、どんな立ち居振る舞いが求められると思いますか?

 

片瀬 とにかく変なプライドはいらないですよね。年齢関係なく、新しいことを覚えたい気持ちがあると、私は周りにめちめちゃ聞いちゃってます。うちの会社はワンフロアにすべての部署があってオープンなので、メールや社内チャットでも聞けるけれど、私は直接いっちゃうんですよ。「ここ、分からないんですけどどうしたらいいですか?」と。そうするとその場で解決することが多いので。

 

──風通しがよい会社ですね。この1年間で、一番達成感があった仕事はどんなことでしたか?

 

片瀬 今やっている仕事ですね。まだ達成していなくて、リーボックで今年ローンチする企画が何件かあり、そのプロジェクトが成功するように日々頑張っている最中です。CMやスチールなどコンテンツすべて担当しています。それを、ほぼ2人でやったよね?(と、同僚女性に顔を向ける)

 

同僚女性 そうなんです。大変でしたね。

 

生放送番組の司会で培った、ハプニング対応力

片瀬 電通さんや博報堂さんなどの広告代理店が入っていないので、私が自発的に動いて、すべてのところに確認や連絡をしないといけないのが、すごく不安だらけでした。CMとスチールの撮影をしたときも、「細かいニュアンスなど、本当にちゃんと伝わっているんだろうか」と不安でしょうがなかった。でも、何事もなく終わり少しホッとしています。

 

──演者の仕事とは全く違うヒリヒリ感ですね。

 

片瀬 そうなんです! 演者は「こういう企画で、こう撮ります」と説明されたら、やることだけに集中できます。でも今は、最後の最後まで皆さんに気持ちよくやってもらうことまでやらなければいけない。「それって、こんなに大変なことだったんだ……!」と、今まで関わってきたスタッフの方たちへの感謝の気持ちが、今になってものすごく強くなりました。皆さんに支えられて、私たちは自分の力を発揮することができていたんだなと。

 

──ローンチしたら楽になりますか?

 

片瀬 いえ、契約期間中は、まだまだ継続してずっと仕事があります。演者にも責任はありますが、仕事をオファーする側になると、責任に対する感覚がちょっと違う。

 

──これまで失敗経験もありましたか?

 

片瀬 あんまり失敗しないんですよねえ。すっごい安全牌だから、失敗する前に早めにケアするようにしています。

 

同僚女性 そうなんですよ、片瀬さんは仕事が本当に丁寧なんです。

 

──生放送の総合司会を務めていたからこそ、さまざまなハプニングに臨機応変に対応するすべが身についていそうですね。

 

片瀬 確かに、そのへんの度胸はあるかもしれないです。例えば生放送で時間が決まっているので、「絶対にこの秒数までにこのシーンにいかなきゃいけない」というとき、タイムキーパーさんがいても現場まで伝わらないこともある。そういうときは、私の方で判断してどうにか「次のコーナーです」とCMにいかせる、みたいな。

 

──とっさの判断力は第一線のタレントさんならではだと思います。

 

片瀬 柔軟であることは、一生大事ですよね。悪く言えば「自分がない」のかもしれないけど、よく言えば「臨機応変」。自分にないものを持っている人に惹かれるから、人の意見を聞くのも好きだし。でもまあ、失敗するほど大きな仕事を任されていないのかもしれない。

 

同僚女性 いやいや!

 

入社半年で猫の段ボールハウスをプロデュース

──CMはどこまで関わっているんですか?

 

片瀬 スタイリングも全部自分で考え、カット割りなども私が指示させてもらっています。ずっとこういうことをしたいと、どこかで思っていたんです。だから今の目標は、よく“右腕”っていいますが、私は“左腕”になりたいなと思っています。みんなの左腕に。右腕は皆さんちゃんといると思うので、その反対側をカバーできるような人になりたいですね。

 

──今一番ときめいたりわくわくする仕事はなんですか?

 

片瀬 全部です! なかでも、新しく始まる瞬間が一番わくわくします。

 

──始まりにかかわる、というのはつまり自分で仕事を作っていくということですよね。

 

片瀬 実は苦手だと思っていました、0から1にすること。10から150にするのは超得意なんだけど。でもこの会社はみんなが自発的だから、0から1がやりやすいんです。例えば、昨年5月に配送用段ボールを猫の家に改造できるサービスをスタートしたんですが、うち、猫がいまして、猫って段ボールが大好きなんですよね。いくらキャットハウスを与えても、結局Amazonの段ボールに入ってしまう……という姿を見て、これだ! と。そこで、+110円でかわいいデザインの段ボールを選べるというプランを考えたんです。

 

──素敵な発想ですね!

 

片瀬 そういった、今あるものをちょっとよくしたり、そういったアイデアをすごく出しやすい会社です。社長に「これどうですか?」と言えば「いいね! それやってみよう!」と、普段の会話レベルからもなにか生まれることが多くて。社長もフットワークが軽くて、思いたったらすぐに先方に連絡をします。コラボや新しいことはそうやって始まることが多いです。

 

──一般的に、そんなふうに始まるものなんですか?

 

片瀬 普通はないです(笑)。

 

──田中社長ご自身が規格外だからこそ、元タレントという経歴の片瀬さんも働きやすいのですね。

 

片瀬 そうですね、普通の企業の社長さんという感覚ではないかも。ここじゃなかったらどうなっていたか。そもそも雇ってくれないかもしれないし。社長は、大学も出ていない、なにもない40代を面白がってくれたので。

 

人に気を遣いすぎていた自分に「もうよくない?」とマインドをリセット

──片瀬さんと田中社長が対談するロコンド公式YouTubeチャンネル『LOCONDO CHANNEL』の1年前の動画で、片瀬さんが「挽回できると思っている」とおっしゃっていたのが印象的でしたが、現在、いかがでしょうか?

 

片瀬 当時、世間的にはいろいろあったように見られていたからこそ、「挽回」という言葉を使ったんだと思いますが、今は「挽回」とは違うベクトルにいると思っています。「挽回」って、同じフィールドで頑張って、マイナスだったものを元に戻すという意味があると思います。でも私は今全く違ったフィールドに来て、新しいことをゼロから始めているので、「リスタート」という感覚でしょうか。そして胸を張って、自分に誠実でいながら、「楽しい」と言えます。

 

──とても素敵な心境ですね。

 

片瀬 今の自分の能力を使って仕事ができているし、会社の人たちが好きだし、プライベートも趣味も充実しているし、友達も好きだし。

 

──周りの友達から、「前と変わった」など言われたしますか?

 

片瀬 「らしくなったね」「それが本来の那奈だよ」「気を遣いすぎていたんだよ」とは言われます。若い頃から「そんなに気を遣わなくていいよ」と周りに言われていたんですよね。別に気遣いで疲弊するわけではなく、とにかく関わる人にイヤな気持ちになってほしくない、という動機で気を遣っていました。でもこの2、3年くらい、「もっと自分のことも気遣っていいのでは?」と考えるようになりました。「自分が幸せなら、人も幸せになるでしょ?」というマインドに。

 

──マインドを転換しようと思ったきっかけがあったのでしょうか。

 

片瀬 きっかけは特になくて、自分の中で、「もうよくない?」ってなったんだと思います。もうちょっと自分に対して優しくしてもいいんじゃないかな、って。

 

──会社員として1年経過し、日々どんな発見がありますか?

 

片瀬 毎日小さな発見があって。例えば皆さんは当たり前かもしれませんが、画像検索について、私はずっと、スマホで検索して、スクショして、それをjpgに変換してPCに送信して……とやっていたんですが、実は2クリックだけでjpgで画像を保存できるって、昨日知ったんです。

 

──それまですごい作業をしていたのですね!

 

片瀬 あとね、商品を出荷するときに、商品についているバーコードのタグをバーコードリーダーで「ピッ」とするんですが、私これ、好きだなあって発見しました。「ピッ」がいっぱいあるとうれしい(笑)。

 

──童心に返ったようになるんでしょうか(笑)。最後に、今後の目標を教えてください。

 

片瀬 そうですね……皆さんの“空気ディレクター”になりたいんですよね。一応、社長に近いところにいるので、みんなが気持ちよく仕事ができるような空気を作っていける仕事ができればいいなと思っています。新人といえど、一応人生わりと長く生きていたので、そのへんの即戦力にはなるんじゃないかな、って。風通しのよい、みんなが「ここで仕事するの、楽しい」と思えるような、いい空気を作れるような存在になりたいですね。

 

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片瀬さん考案「キャットハウス段ボール」https://www.locondo.jp/shop/contents/makecathouse/

 

構成・撮影/丸山剛史 取材・文/有山千春

TikTokクリエイターMumei後編! ボーイッシュ野球少女が、黒髪清楚なヒロインに「変わったやん!って言われたい」

TikTokフォロワー数400万人を越えるMumeiさん。高校生のときにアカウントを開設すると、自由きままにアップしていたダンス動画が「かわいすぎる」「中毒性ある」とじわじわ話題を呼び、またたく間に人気インフルエンサーになった、まさにTikTokドリームの渦中にいる女の子だ。2022年には「TGC teen 2022 Tokyo」でランウェイデビューを果たし、昨年にはアーティストデビュー。そして3月には初のフォトブックの発売も決定している。巧みすぎる編集や、YouTubeのような大掛かりな企画などがひしめくTikTok界で、“圧倒的なカワイイとダンス”で王道を貫き独走しているMumeiさんに聞いた、友達のこと、中学のこと、そして、フォロワーへの愛。

 

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Mumei●むめい…高校生だった2020年7月、TikTokにダンス動画を投稿すると「かわいすぎる」と話題に。かわいさだけではない、中毒性のある表現力でまたたくまにフォロワーを増やし、2023年には「超十代 -ULTRA TEENS FES- 2023@TOKYO」「TGC teen」に出演、さまざまな企業とのコラボを行っているほか、アーティストデビューも果たし幅広く活躍中。初のスタイルブック「むめいです。」(小学館集英社プロダクション)が発売中。

mumeiさん 公式TikTok @mumeixxx

 

【Mumeiさん撮り下ろし写真】

 

他校の生徒にも学校バレ

──高校生時代の体育祭の動画などを見て思うのですが、こんな子がいたら、学校は大騒ぎじゃないですか?

 

Mumei 学校の友達は普通でした。ただ友達から「他校の友達から、『そっちの学校にMumeiちゃんいるやろ』って言われた」という話をされて、その友達が「そんなに有名になったんだ!」とびっくりする、みたいなことは多かったです。

 

──他校の学生がMumeiさんの高校に集まることも?

 

Mumei そうですね。ちょっと怖いなと思ったのが、最寄り駅がバレてしまったことです。ファンの方は「応援しています」と話しかけてくれるからいいんですが、そうではないけど私の存在は知っているような人からの視線は苦手でした。はじめたきっかけが友達との遊びの延長線上だったので、「本名がバレてやばい」みたいな感覚もなかったんですよ。今思うと、もっと考えるべきだったなと感じます。

 

──危機感がなかった?

 

Mumei そう、顔を出してネットで活動するということのリスクですね。

 

「今の友達がいなかったら終わっていた」

──往年のアイドルたちは、友達が通学路をがっちりガードしてくれたという話をよくします。Mumeiさんもそうでしたか?

 

Mumei 見にきてくださる他校の方も多いので、友達が「来てるで、隠れて隠れて!」と守ってくれていましたね。一方で、同じ学校でも私のことをよく思わない人もいたと思います。悪口も言われていたと思いますが、ダイレクトに私の耳に入ってくるわけではないし、自分、メンタル強いんで。そんなの気にしていたら終わりやし、負けやし。噂されてるんやろうな、って自分でもわかりますが、前に出て活動しているので噂されるのは仕方がないと思っています。

 

──信頼できる友達がいるからこそ、強くなれるんでしょうか。

 

Mumei 身近な友達はいい子ばかりです。友達自体は少ないんですが、仲が深いですね。

 

──友達の支えを実感したのはどんなときですか?

 

Mumei 外で遊んでいるとき、自分は気づかなかった盗撮に気づいてくれて「撮られてるよ」と、壁になってくれたり。TikTokをやりすぎて勉強がおろそかになると、勉強を教えてくれたり、授業中にこっそり答えを教えてくれることもあったり。

 

──いいお友達ですね!

 

Mumei いやほんまに、マジで、今の友達がいいひんかったら終わりだと思っています。

 

圧倒的な表現力の一方、恥じらいも

──ご家族の中のMumeiさんはどんなキャラクターなんでしょう。YouTubeを見るととても明るくポジティブに感じますが。

 

Mumei 静かな方です。しゃべるの苦手やし。でも、SNSで活動をしているときは自分が楽しいと思うことなので、無意識にテンションが上って、気持ちが高くなるんです。

 

──抜きん出た表現力も、自然と湧き上がってくるのでしょうか。

 

Mumei 表現力……よく言っていただくんですか、とにかく前に出ることがうれしくて楽しくて仕方がない感じです。あとは、母が若い頃にストリートでギターを弾いて歌うアーティストだったり、親戚中みんな音楽をやっていて、それに影響されている部分もあります。

 

──そうだったんですね! 幼少期から根づいたものだったんですね。

 

Mumei ただ、やっぱり最初は恥ずかしかったんです。カメラの前で1人で表現することが。自分で見返して共感性羞恥でむずがゆくなってしまうというか。でも、見てくれるみんなが「表現力がすごい」と言ってくださるから、恥じらいをなくしていこうと意識を変えていくようになりました。

 

──吹っ切れたタイミングがあったんですね。

 

Mumei いや、実はまだ、吹っ切れてはいないです。今でも恥ずかしい気持ちはありますが、とにかく頑張っています!

 

野球とキックボクシングで鍛えられたメンタル

──高校生以前、中学時代のMumeiさんについてもうかがいたいんですが、野球部だったり、今と印象が全く違いますよね。

 

Mumei そうです。ボーイッシュ系でした。このときにメンタルが鍛えられたと思います。野球もキックボクシングも、メンタルが強くないと続けられないことなので。

 

──自分で「やりたい」と言ったんですか?

 

Mumei そうですね。自分、影響されやすくて、弟や周りの人がやっていたら、負けず嫌いな気持ちになって「自分もやる!」みたいな。でも、かわいい女の子への憧れは小学生の頃からずっとありました。“高校デビュー”という言葉があるじゃないですか、それを自分も頑張らないとな、と思ったんです。“高校=青春”で、恋愛! みたいなイメージがあって、みんなが思い描くような女の子になりたいなって。

 

──みんなが思い描く女の子とは、例えば?

 

Mumei 黒髪ロングの清楚系です。自分もそれに憧れがあって、それに寄せて高校生活を送っていました。

 

──アニメの主人公のような。

 

Mumei そうです。アニメの主人公ってほぼみんなそれですよね。そもそも中学時代はSNSは見ても使ってもいないし、LINEもしていないし、ひたすら勉強と運動だけをやっていました。それが楽しかったんです。

 

素顔は、県知事に恐縮する19歳

──中学時代の同級生がいまのMumeiさんを見たら、驚きますよね。

 

Mumei 多分驚きます。だから同窓会、行きたいんです。道端でも、ばったり会って「え!?」みたいな反応をもらったことがあって、そういう反応をしてくれたり「変わったやん!」と言われることがうれしくて。頑張ったおかげで変わることができたんだなって、うれしいんですよね。

 

──昨年は楽曲「堂々」や「IF」を公開し、アーティスト活動も開始しました。

 

Mumei ボカロPさんとコラボして作りました。自分のやり方は、「有名な人からのオファーor依頼する」のではなく、「身近な人と一緒に大きくなりたい」というスタンスなんです。なので、世間は知られていないけどステキなボカロPさんと一緒に作りました。アーティスト活動はこれからもどんんどんやっていきたいです!

 

──活動の幅が広がっていきますね。出身地である滋賀県のPRなど、自治体とも仕事していますよね。

 

Mumei そう! ひこにゃんとも会って、かわいかったです。あと迫力のあるおじさんたちがたくさんいて……大人がいっぱいいて、県知事さんが目の前にいて、ほんまに怖くてめっちゃ緊張しました。あんな大物に会えるなんて……。

 

「フォロワーさんの意見を聞くのが大好き」

──(笑)。最後に、今後の展望を教えてください。

 

Mumei YouTubeの登録者数100万人を目指しつつ、TikTokを毎日投稿して、フォロワーさんと距離を縮めていきたいです。自分、ファンのことが大好きなので、名前と顔を覚えたい!

 

──前編でも「フォロワーさんにとってうれしいことをやる」といった話があったように、フォロワーの存在をとても尊重されているように感じます。そういった気持ちが動画にも反映されていますか?

 

Mumei むしろそれが一番大きいですね。自分は、フォロワーさんの意見を聞くのが大好きなんです。「◯◯系が好き」と言われたらそれを踊るし、「△△系の服がいいな」と言われればその服でダンスをするし。海外から応援してくださる方もいるので、その人たちに向けて英語表記をしたり、世界を意識した音源を使ったり、幅広い方に理解してもらえるようにしています。

 

──だから「Mumei」という名前なんでしょうか? 「無名」であるからこそ何色にも染まるといいますか。

 

Mumei ……! それでいこう! 決めました。それいいな。どんな女の子にも変わることができるよ、っていうコンセプトだよと。

 

──あ、そういう由来じゃないんですね(笑)。

 

Mumei 違います(笑)。本名で活動したくなくて、「何にしよう。名無し……名無し……うーん、無名でいいやん!」って感じで、数分考えて適当につけたんです。それがこんなふうになるなんて、人生、なにが起こるか本当にわからないですよね。

 

 

mumeiさん 公式TikTok @mumeixxx

 

撮影/佐賀章広 取材・文/有山千春 構成/BuzzTok NEWS Buzz Tok NEWS公式HP https://buzz-tok.com/

TikTokクリエイターMumei「15秒の動画に3時間かける」強すぎるこだわりで、実家の部屋の壁を白く塗り直すまで

TikTokフォロワー数400万人を越えるMumeiさん。高校生のときにアカウントを開設すると、自由きままにアップしていたダンス動画が「かわいすぎる」「中毒性ある」とじわじわ話題を呼び、またたく間に人気インフルエンサーになった、まさにTikTokドリームの渦中にいる女の子だ。2022年には「TGC teen 2022 Tokyo」でランウェイデビューを果たし、昨年にはアーティストデビュー。そして3月には初のフォトブックの発売も決定している。巧みすぎる編集や、YouTubeのような大掛かりな企画などがひしめくTikTok界で、“圧倒的なカワイイとダンス”で王道を貫き独走しているMumeiさんに聞いた、はじまり、こだわり、そして、整形秘話。

 

Mumei●むめい…高校生だった2020年7月、TikTokにダンス動画を投稿すると「かわいすぎる」と話題に。かわいさだけではない、中毒性のある表現力でまたたくまにフォロワーを増やし、2023年には「超十代 -ULTRA TEENS FES- 2023@TOKYO」「TGC teen」に出演、さまざまな企業とのコラボを行っているほか、アーティストデビューも果たし幅広く活躍中。初のスタイルブック「むめいです。」(小学館集英社プロダクション)が発売中。。

mumeiさん 公式TikTok @mumeixxx

 

【Mumeiさん撮り下ろし写真】

 

きっかけは、友達とのフォロワー数対決

──インタビューはあまり受けていないですよね。

 

Mumei そうなんです。自分、しゃべるの苦手なので。

 

──え! TikTokを見ていると全くそうは思わないですし、YouTubeでは明るいキャラクターを見せてくれていますよね。

 

Mumei ほんとうは言葉をうまく伝えられなくて。頑張っています(笑)。

 

──そういったギャップも魅力ですよね! まずは、TikTokを始めたきっかけからお聞きしたいです。

 

Mumei 高校1年生のときにTikTokの存在を知って、クラスのみんながやっていて流行っていたので自分もやろうかな、という感じで始めました。最初は友達と、「どっちが多くフォロワーできるか、対決しよう!」という遊び方をしていたんです。

 

──友達との遊びの一貫だったんですね。

 

Mumei そうですね。それに、TikTokに上げへんくても、Instagramのストーリーに上げたり、SNS全般をプリクラ感覚で使っていました。

 

──じゃあ、こんなふうに公にするつもりはなかったんですか?

 

Mumei 最初はなかったです。時間が経つにつれて、「TikTok、楽しいやん!」となり、投稿頻度が高くなり続けていたら、フォロワーさんにとってうれしいことをやると応援してくれるようになったので「これ、ちょっと頑張ろうかな」という気持ちになったんです。

 

勉強を忘れて没頭し「この道に進む!」

──当初はどんな動画を上げて、友達と対決していたんですか?

 

Mumei 自分が踊りたい音源で踊って、上げているだけでした。フォロワーさんが何を楽しみにしているかとか考えずに、自分がしたいことをただずっとやっていただけでした。

 

──ちなみに、対決の結果はいかがでしたか?

 

Mumei 最初は同じくらいで、動画を上げれば上げるほどフォロワーさんが増えていっていましたが、勉強もしなきゃいけなくて。テスト勉強期間に入って、対決からフェードアウトしていきましたね。

 

──勉強がおろそかになるくらい、TikTokにのめり込んでしまったんですね。

 

Mumei そうなんです。悪い意味で集中して没頭してしまって。それで勉強しなさすぎて、TikTokと距離を置こうとしたんですが、距離を置くことができなくて。

 

──お母さまはなんと言っていましたか?

 

Mumei 最初の頃は、できるかぎり隠れて撮っていたんです。でも高校1年生のはじめ頃に結果的にバレてしまい、その頃には「このくらいフォロワーさんがいるし、この道に進みたい!」と話しました。

 

15秒の動画を撮るのに3時間

──高校1年の最初って、やり始めてすぐの頃じゃないですか?

 

Mumei 本当に最初の頃は全然だったんですが、1つの動画がバズっていっきにフォロワーさんが増えて。バズった気持ちがうれしくて、「次もバズらせたろう!」という感じでのめり込んでいったんです。

 

──1日にどれくらいやってしまうものなんですか?

 

Mumei 見るのだけだと半日くらいですかね。私は洋楽が好きで、洋楽の音源が流れてくると「これめっちゃ楽しい!」と延々とスクロールしていたらいつの間にか時間が経っている、という感じで。

 

──撮るときはどれくらい時間をかけますか?

 

Mumei 何時間撮っているかわからないですね……ちょっと没頭しすぎて……。いつの間にか2、3時間経っていることは普通にあります。たった15秒の動画で。

 

──たった15秒で!

 

Mumei ほんまにそう。夢中になって、時間の感覚、マジでわからないです。

 

──どんなところにこだわって、時間が経ってしまうんでしょうか。

 

Mumei 例えばメイク、絶対に失敗したらアカン部分を納得いくまでやり直したりとか。ちょっと映り方が悪いと、何回でも、何十回でも撮り直して、気づくと数時間経っているんです。

 

「髪の毛が理想的になびいてない! もう一回!」

──ちなみに最近何度も取り直した動画は?

 

Mumei 私が得意な変身系で、メガネをかけた三つ編みの冴えない女の子が、急に髪の毛サラサラな清楚系に変身するという動画です。変身するときの、髪の毛のなびかせ方がどうしても理想どおりにいかなくて。できる限りアニメに近い描写を再現したいんですが、現実ではなかなか難しいんですよね。

 

──動画を確認すると、確かにアニメーションっぽいなびかせ方ですね。

 

Mumei これができるまで何度も見返して「また全然なびいてないや……」で、撮り直し、みたいな。頭の中のイメージと一致させたいんですよね。

 

──メイクも同じように、アニメのようなイメージがあって、近づけるように?

 

Mumei そうですね。普段はアイライン細めに書いていますが、アニメって目がはっきりしているじゃないですか。だからアイラインを太めに描いたり。チークを濃くしてみたり。

 

──そういったこだわりは、「この道に進もう」と決意してから生まれたんでしょうか。

 

Mumei そうですね、それと同時に、フォロワーさんから自分でもわからへんところを見られることに気づいたんです。腕につけたままの髪の毛のゴムを見られて指摘されたりして、細かい所まで見てくれているんだなぁと驚きました。

 

母にお願いして実家の壁を白に

Mumei あと、最初は意識していなかったのが、部屋の色です。

 

──確かに当初は、実家感がありますよね。

 

Mumei カーテンが青で壁がマーブルっぽい感じで、映えなくて。お母さんにめちゃめちゃお願いして、カーテンを白にして、壁を白く塗り直しました。自分がしたいことがわかるように、はっきり映るような背景にしました。

 

──お母さま……ありがたいですね……!

 

Mumei お願い、めっちゃ聞いてくれています(笑)。

 

──鼻を整形していることを公表していますが、それもお母さまの協力があったのかと思います。

 

Mumei そうですね。事前に成功例や失敗例を一緒に調べました。カウンセリングにもいっぱい行って、信用できる先生にお願いして。

 

──とてもしっかり準備されてたんですね。

 

Mumei 自分ひとりでは行動できないので、周りの人に協力してもらいながら、そのためにはしっかりとした事前準備が必要なんですよね。周りの人に恵まれていると思います。

 

自撮りもイヤになるほどのコンプレックス

──整形した時期はいつ頃ですか?

 

Mumei 高校1年生の終わり頃です。整形したいと思ったのは、YouTubeを始めたいなと思ったからなんです。TikTokは加工ができるからいいんですが、YouTubeは無加工の、ありのままの自分が映るじゃないですか。それで、YouTubeの画面に映ったときの自分、「鼻、デカ!」みたいな。気になったら止まらなくなって、お母さんにお願いして整形をしたんですが、「整形した事実をみんなに話さない」という選択肢はありませんでした。

 

──もともと写真を撮ったり鏡を見るときなど、コンプレックスに感じていたんですか?

 

Mumei コンプレックス、ありました。昔はTikTokもほかの加工アプリも知らなかったから、自撮りすらイヤだったんです。でもTikTokに出会って、きれいな人がたくさんいて、「私の顔に合う、理想の鼻はこれだ」という形にも気づくことができました。

 

──それで理想の鼻を手に入れてたんですね。

 

Mumei はい! とはいえ、今もずっと一生懸命研究しています。自分に合うメイクや髪型を。どうやったらビジュアルの良い自分を保つことができるのか……もうずーーっと探しています。

 

<後編に続く>
TikTokクリエイター Mumeiさんインタビュー後編! ボーイッシュ野球少女が、黒髪清楚なヒロインに「変わったやん!って言われたい」

 

mumeiさん 公式TikTok @mumeixxx

 

撮影/佐賀章広 取材・文/有山千春 構成/BuzzTok NEWS Buzz Tok NEWS公式HP https://buzz-tok.com/

 

キタニタツヤが新パーソナリティ就任!「くだらない自分をアピールするという意味では『オールナイトニッポン』はうってつけの場」

ミュージシャン・キタニタツヤが『オールナイトニッポンX(クロス)』(ニッポン放送/0時~)の月曜パーソナリティに抜擢された。これまでキタニは2度にわたって『オールナイトニッポン0(ZERO)』の特番を担当。X(旧Twitter)のトレンド1位になるなど、大きな反響を呼ぶこととなった。2024年度ラインナップ発表記者会見の直前に本人をキャッチし、番組に懸ける意気込みを聞いた。

 

●きたに・たつや…1996年2月、東京都生まれ。14年頃からネット上に楽曲を公開し始め、ボカロP“こんにちは谷田さん”として活動をスタート。17年より高い楽曲センスが買われ、作家として楽曲提供をしながらソロ活動も行う。シンガーソングライター以外にも、サポートベースや楽曲提供など、ジャンルを越境した活動を行う。23年にはTVアニメ『呪術廻戦 懐玉・玉折』(MBS/TBS系)のOPテーマとして起用された楽曲『青のすみか』が大ヒット。『NHK紅白歌合戦』(NHK)の出場を果たす。XInstagram

 

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遠慮のない感じを出せたらいいなとは考えていまして

──これまでキタニさんは『オールナイトニッポン0(ZERO)』に2回登場しています。その際はリスナーからの激しいツッコミと、それに対して半ばムキになって応じるキタニさんの攻防が印象的だったのですが。

 

キタニ あれって激しかったですかね? 自分では深夜ラジオっぽい感じが出ていいかなと思っていました。たしかに好き嫌いが別れる内容だったかもしれないけど、そういうほうが面白いと思うんですよね。

 

──リスナーとの距離が非常に近い印象があったんですよ。みんなのアニキとして慕われている感じがして。

 

キタニ それは素直にうれしいですね。聴いている人が「こいつ、イジりやすいな」と感じたってことでしょうから。そもそも僕はネット育ちの人間。ネットって相手の顔が見えないものだから、みんな好き勝手に言い合っているじゃないですか。ラジオでも、その遠慮のない感じを出せたらいいなとは考えていまして。

 

──そこは大きなポイントになると思います。キタニさんはこれまで配信でもファンと交流してきました。配信やライブでファンとコミュニケーションを取るのと、ラジオのリスナーと言葉の応酬を重ねるのは勝手が違うのでは?

 

キタニ 全然違いますよね、ラジオは。何が違うかというと、ラジオだと僕が圧倒的にかっこつけていない。ステージで音楽をやるときは当日に向けてリハを重ねているし、アーティストである以上はかっこつけなくちゃいけない最低限のラインもあるわけですよ。だけど、ラジオでは本当にいつものまんま。もはや何も考えていないくらいで。

 

 

ライブとは違う方向にかっこつけているのかもしれない

──より素の自分が出ている?

 

キタニ う~ん、ただ厳密に言うと100%素の自分とも違うと思うんですよね。番組だと「なにか面白いことを言え」という無言のプレッシャーを、僕が自分で勝手に感じているだけなのかもしれませんが(苦笑)。そういう意味で言うと、ライブとは違う方向にかっこつけているのかもしれない。ちょっと見栄を張って、普段以上に面白い男になろうとしているというか。明らかに張り切っちゃっていますから。

 

──シンガーソングライターって繊細で内省的なイメージが一般的にはあると思うんですよ。ラジオでのキタニさんは躊躇なく下ネタも話しますし、わりと毒舌気味ですよね。そこでパブリックイメージが崩れる恐れはないですか?

 

キタニ あまりないですね。ファンになる手前の人が「こんな感じの人だったんだ……」と失望するケースはあるかもだけど、そこはあまり気にしてもしょうがないというか。人間、いろんな面を持っていたほうが面白いし、お得じゃないですか。そういう意識のほうが強いです。

 

──逆にキタニさんの音楽性を全く知らない層も「トークが面白いな」というところで興味を持ち、ライブに足を運んでくれることもある?

 

キタニ そうそう。幻滅されるよりも、そうしたプラス面のほうが全然大きいです。人って1つの側面だけで構成されているわけじゃないですからね。生活の中で悲しい気分になるときもあれば、怒っているときだってあるわけで。僕はそうしたいろんな感情を曲の中で表現していますけど、とにかく「この人はこういうキャラクターなんだ」って決めつけないほうがハッピーだと思いますよ。

 

 

有楽町の近くに来るだけでも緊張する

──『オールナイトニッポン』でのキタニさんは、ご自身の中の面白いチャンネルを集中的に出しているといったところでしょうか。

 

キタニ この番組、面白くない人はすぐ外されると認識していたものですから。「面白い俺であらねばならない」という一種の強迫観念ですよ(笑)。本番が始まる前は「嫌だよ~。俺、しゃべりたくないよ」ってずっと考えているんです。マジで動悸が止まらなくなりますから。

 

──過去2回の放送では、アドレナリンやドーパミンがダダ漏れしている雰囲気が伝わってきました。やはりニッポン放送のスタジオには魔物が棲んでいるのでしょうか?

 

キタニ それは確実にありますね。収録現場だと、ブースの向こう側にいるスタッフ全員が「なにか面白いことを言ってくれるんだろうな」って目で僕のことを見ているわけですよ。彼らとしてはそんな意識もないのかもだけど、僕の目にはそうとしか映らない(笑)。その目線が怖いんですよ。一刻も早くニッポン放送の建物から飛び出したくなる。有楽町の近くに来るだけでも緊張するほどなので。

 

──尋常じゃないプレッシャーを感じるものなんですね。となると、今後は毎週そのプレッシャーと戦うことになるわけですか。

 

キタニ いや、もう本当に……。ちょっと真剣に考えないとマズいですよね。毎週毎週、僕の身体が瘦せ細っていくかもしれない。毎回、死力を尽くしていたら、当然、ネタ切れだって起こすでしょうし。だからそこはペース配分を考えて、持続可能な番組作りを志します。

 

──比べられるものではないかもですが、ライブ1本を終えるのと、どちらが疲弊するものなんですか?

 

キタニ うわぁ、それは難しい質問だなぁ。でも慣れていないぶん、やっぱりラジオのほうがキツいかもしれない。精神的な負荷が異常にかかるんですよ。MPが擦り減っていく感覚。それに肉体面だって厳しいものがあります。毎回、酸欠気味になりますし。

 

──そこまで(笑)。

 

キタニ だってオンエアが始まって10分くらい経つと、口の周りが自然にしびれてくるんです。人間1人が簡単に壊れる……そういう非常に危険な場所ですよ、『オールナイトニッポン』のスタジオは。

 

──以前からキタニさんのファンだった人にとっても、ラジオを通じて知らなかった一面を知ることができるはずです。

 

キタニ そういった声は、めちゃくちゃ多いですね。そもそも僕、いい人だと思われたくないんですよ。うっかりいい人だと思われたら、私生活が生きづらくて仕方ないですから。正直、そんなの損しかないんですよ。ところがですね、忙しさにかまけて生配信とかファンクラブ日記とかをサボっていると、いい人扱いされてしまう。

 

親しみを感じてくれたら、それだけで十分

──キタニさんは東大卒の紅白出場アーティストなので、なおさらその傾向は強いでしょうね。

 

キタニ 本当に油断も隙もないですよ。放っておくと、いい人イメージが勝手に先行しちゃうので。だから自分としては意図して積極的に下品な部分を出していくしかない。じゃないとバランスが取れないんですよ。くだらない自分をアピールするという意味では、『オールナイトニッポン』はうってつけの場。思いっきり利用させてもらいます。

 

──『青のすみか』で大ブレイクしたとはいえ、まだキタニさんのことをよく知らない国民もいます。ファンでない人には、番組をどのように聴いてほしいですか?

 

キタニ なんだか知らないけど、月曜日の深夜0時になると、やたら声がデカい奴がくだらないことをしゃべっているな……それくらいの軽い感覚で聴いてもらえたらうれしいですね。ラジオって別のことをしながら、“ながら”で聴けるところが魅力だと思うんです。皆さんの生活の中で、空気のように僕の番組が流れていたら光栄かなと。「ラジオきっかけで僕の音楽も好きになってほしい」なんて欲張りなことを言う気はありません。親しみを感じてくれたら、それだけで十分ありがたいです。

 

──キタニさんのラジオは終始テンションが高すぎて、ながら作業には向いていない気もしますが(笑)。

 

キタニ そこは僕の課題になっているんですよ。ずっと慌てふためいた調子のままだと、聴いている方の生活に寄り添うような空気感にはならないので。自分にとって『オールナイトニッポン』は間違いなく鬼門ですけど、徐々にこなれていきたいですね。じゃないと、体力的にも絶対に持たないですし(笑)。

↑新パーソナリティを務める(左から)キタニタツヤ、日向坂46の松田好花、山田裕貴、ヤーレンズ

 

【information】

キタニタツヤのオールナイトニッポンX

初回放送4/1(月)24時〜

 

 

構成・撮影/丸山剛史 取材・文/小野田 衛

AFA日本人初ユース・アンバサダー・宮沢氷魚、独占インタビュー「アジア各国の皆さんに、直接自分の口で、自分の思いを伝えたい」

アジア全域版アカデミー賞ともいえる「第17回アジア・フィルム・アワード(以下、AFA)」。3月10日に行われた授賞式を前に、日本人として初めてユース・アンバサダーに就任された宮沢氷魚さんに、香港で独占取材。鈴木亮平さんと切実なラブストーリーを演じた『エゴイスト』が現地でも高い評価を得た彼に、香港の街並みや香港映画の魅力について語ってもらいました。

 

宮沢氷魚●みやざわ・ひお…1994年4月24日生まれ。アメリカ、カリフォルニア州出身。「コウノドリ」(2017)で俳優デビュー。初主演映画『his』(2020)では、数々の映画新人賞を受賞。映画『騙し絵の牙』(2021)では日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。映画『エゴイスト』(2023)では、アジア・フィルム・アワード最優秀助演男優賞、毎日映画コンクール助演男優賞、日刊スポーツ映画大賞石原裕次郎賞を受賞した。主な出演作は、NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」(2022)、『はざまに生きる、春』(2023)、『レジェンド&バタフライ』(2023)、「さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~」(2024)など。2025年放送予定NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」への出演も決定している。Instagram

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昨年の「AFA」で一気に自分の中の世界が広がったことを実感

──昨年の「AFA」では、『エゴイスト』で最優秀助演男優賞を受賞。そして、今年ユース・アンバサダーを務められます。

 

宮沢 素直にうれしいですね。昨年、受賞したときのスピーチやインタビューで「また香港に戻ってきたい」と言っていたので……。でも、翌年にユース・アンバサダーとして、すぐ参加できるとは思ってもいなかったので、今回オファーをいただいたときは「信じられない」というか、「本当に?」と、ちょっと疑ってしまうぐらい驚きました。

 

──「また香港に戻ってきたい」と思われた理由は?

 

宮沢 僕はこれまで、日本でのプロデュース作や監督さんとの作品、日本で撮影された作品と、ドメスティックな環境で映画と関わってきました。そんななか昨年、初めて「AFA」という海外の映画祭に参加し、特にアジアの監督さんとお話をする機会をいただいたことで、皆さんの映画に対する考え方や作り方、価値観の作り方の違いを知り、今まで知らなかった映画の魅力に気づけたんです。短い時間ではありましたが、その経験によって自分が豊かになれましたし、「またアジアの映画人の方々と映画のお話ができたら」という思いが募りました。

 

──ともにユーザー・アンバサダーを務められる台湾・タイ・香港の俳優たちの交流はいかがですか?

 

宮沢 まだお会いできていないのですが、なかでも『1秒先の彼女』に出演されていた台湾のリウ・グァンティンさんは、作品のなかで独特な存在感を持たれていたので、お会いするのが楽しみです。皆さん、僕と同世代なので、国は違っても、ともに成長していけたらいいなと思います。日本だけで活動していると、どうしても遠い存在に感じてしまうのですが、昨年いろんな方と出会い、SNS上でも皆さんと繋がることできて、一気に自分の中の世界が広がったことを実感したんです。だから、今年もそれを実践したいです。

 

──さて、「愛是自私」のタイトルで香港公開された『エゴイスト』ですが、日本と異なる反応はありましたか?

 

宮沢 もちろん、「面白かった」って言ってくれる方が多いですが、その中でも「あのシーンの、あのセリフは、どのような気持ちで言ったの?」と、もっと深いところで映画をご覧になっている印象が強いです。それによって、感情的なところでの話ができたり、撮影当時の状況など、テクニカルの部分の話など、質の高い会話ができたような気がします。香港の方って、映画が身近な存在だから、「作品がどのように作られたのか?」という、舞台裏やバックグラウンドまで興味を持ってくれる気がしました。

 

 

僕たちの人生において、大事な作品をともに作った仲間

──2023年の2月の日本公開から1年経過しましたが、改めて『エゴイスト』はどのような作品になりましたか?

 

宮沢 映画が公開されて、皆さんに見ていただいて、終わるものではなく、「10年、20年、30年と、長きにわたって愛される、何かしらの考えるきっかけを与える作品になってほしい」と思いながら、僕たちは作品を作っていたのですが、それを実感できる1年間でした。公開から1年経っても、皆さん『エゴイスト』の話をしてくださいますし、今回も「AFA」で(鈴木)亮平さんが(「Excellence in Asian Cinema Award」を)受賞されたり、舞台挨拶付での特別上映もされますが、この先も『エゴイスト』という作品が皆さんの中で生き続けていく気がします。

 

──鈴木亮平さんとの絆は、さらに強くなっている感じでしょうか?

 

宮沢 今年1月に亮平さんとお会いした毎日映画コンクールではありがたいことに、僕が助演男優賞を受賞し、亮平さんが主演男優賞を受賞したんです。今回の舞台挨拶は、亮平さんと松永大司監督と3人で登壇するのですが、僕たち3人の関係っていうのは、頻繁に会ったり、飲んだり、遊ぶような仲ではないんです。もっと深い絆というか、会わなくても、自然と相手のことが気になるし、誰かが活躍しているのを知ると、自分のことのようにうれしく思える存在。仲良しこよしの関係ではなくて、僕たちの人生において、大事な作品をともに作った仲間っていう意識の方が強いですね。

 

──さて、宮沢さんにおける香港映画の印象を教えてください。

 

宮沢 あまり多くの作品は観れていないのですが、そのなかでもピーター・チャン監督の『ラヴソング』、そしてサーシャ・チョク監督の『離れていても』(東京国際映画祭にて上映)という作品が好きです。たくさんアクションがあって、刺激がある作品ではなくて、普通に日常生活をしている中で、親子や恋人同士の長き関係性をじっくり描いている。みんなが共感できる温度の作品で、ホッコリしたり、悲しくなったりっていう、すごく感情に寄り添ってくれる。もちろん言語も文化も違うんですが、自然とその作品の中に入り込める魅力が香港映画にあると思います。

 

新しいものと古いものが共存していて、まるでタイムスリップしたかのような感覚

──昨年の授賞式以来、トニー・レオンさんとも交流されていますが、トニーさんの作品で好きな作品は?

 

宮沢 トニーさんとは、10月の東京国際映画祭でもお話をする機会がありましたが、昨年の「AFA」でトニーさんが主演男優賞を受賞された『風再起時』(香港映画祭2023 Making Wavesにて上映)は、とても印象的でした。ウォン・カーウァイ監督の映画など、トニーさんの若いときに出演された映画も観ていますが、ずっと第一線で活躍されている“すごみ”を改めて感じましたから。授賞式でも感じたのですが、とても謙虚な方なんですよ。怖い役を演じられても、優しい役を演じられても、どこかでトニーさんの優しい人柄が映画からにじみ出てきますし、それが長年みんなから愛される理由だと分かりました。

 

──短い滞在期間の中、グルメなど香港での楽しみがありましたら、教えてください。

 

宮沢 前回は自由な時間はなかったのですが、今回は5日間の滞在です。関連イベントなどで活動する時間も多いなか、昨日も空き時間を見つけて飲茶や屋台に行きました。ビールと一緒に食べる殻つき海老のピり辛い炒めみたいなものがおいしかったですし、できるだけ街を散歩したり、観光的なこともしたいですね。最先端な建物やショッピングモールのすぐ隣に、数十年前に建てられたマンションやお店があったり、新しいものと古いものが共存していて、まるでタイムスリップしたかのような感覚が、自分の中では刺激的です。そういう新しいものも、古いものも大事にしているところに魅力を感じますね。

 

──昨年の受賞スピーチなど、すべて英語でされていますが、今後の海外での活動予定は?

 

宮沢 「いつか海外作品に」という思いはずっとありますが、授賞式の会場にいらっしゃるアジア各国の皆さんに、直接自分の口で、自分の思いを伝えたい思いがあるからこそ、英語でスピーチをしています。今年もいろいろな国の監督さんや俳優さんが香港に集まっているので、多くの場でコミュニケーションを取れればと思います。そして、もしチャンスがあれば、ぜひ作品に呼んでいただきたいという思いは強くあります。

 

(C)Asian Film Awards Academy

 

取材・文/くれい響

俳優・奥 智哉が今ハマっているモノ「味が好きで、食感も他とは違う」Huluオリジナル「十角館の殺人」インタビュー

人気ミステリー作家・綾辻行人のデビュー作でベストセラー『十角館の殺人』がHuluオリジナルとしてドラマ化。3月22日(金)に独占配信が開始。主人公・江南(かわみなみ)孝明を演じた奥 智哉さんには原作の感想から初主演を務めた気持ち、青木崇高さんをはじめとする共演者とのエピソードまで聞いた。続けてGetNavi web恒例の今ハマっているモノについて聞く。

奥 智哉●おく・ともや…2004年7月18日生まれ。神奈川県出身。2020年、蜷川実花が監督を務めた配信ドラマ『Followers』で俳優デビュー。近年の主なドラマ出演作に『仮面ライダーリバイス』(2021・テレビ朝日系)、『みなと商事コインランドリー』(2022・テレビ東京系)、NHK『大奥』、TBS日曜劇場『ラストマンー全盲の捜査官ー』、『みなと商事コインランドリー2』(テレビ朝日系)、『癒やしのお隣さんには秘密がある』(2023・日本テレビ系)など。映画出演作に『ラーゲリより愛を込めて』(2022)。Instagram

 

あの牛丼屋に大ハマリ「キムチ牛丼大盛りが鉄板」

 

──GetNavi webということで今ハマっていることを教えていただけますか。

 

 昨年末から吉野家の牛丼にハマっています。他のお店の牛丼と食べ比べてみたのですが、出汁の味が好きですし、肉の切り方なのか食感も他とは違うんですよね

 

──頼むメニューは決まっているのですか?

 

 キムチ牛丼の大盛りが鉄板です! 最初はシンプルに牛丼を食べて、後半からキムチを混ぜます。牛丼のおかげで、苦手だった紅しょうがも大好きになったんです。牛丼になくてはならない存在ですね。

 

──牛丼愛が伝わってきます。ちなみに趣味は読書とお聞きしました。

 

 はい、母親の影響で小学生の頃から小説が大好きです。本格的なミステリーを読んだのは『十角館の殺人』が初めてでしたが、オカルトミステリーやSFミステリーなど、ミステリーものは結構読んでいます。中でも有川浩さんの大ファンで、小学5年生のときに読んだ『キケン』は小説にのめり込むきっかけになりました。自衛隊三部作も大好きなシリーズです。

 

──またアニメもお好きなんですよね。

 

 大好きです! 最近観たアニメだと『うる星やつら』のリメイクバージョンや『俺だけレベルアップな件』が印象に残っています。

 

──江南の部屋は風変わりな趣味のもので溢れていますが、奥さん自身、集めているものはありますか。

 

 『チェンソーマン』、『ベルセルク』、『ジョジョの奇妙な冒険』、『ドラゴンボール』などのアニメのフィギュアを少しずつ集めています。今は飾る場所がないので、7体程度ですが、これからどんどん集めていきたいです。特にジョジョの第6部『ストーンオーシャン』に出てくるナルシソ・アナスイと、ベルセルクのガッツがお気に入りです!

 

Huluオリジナル「十角館の殺人」

Huluで独占配信

 

【Huluオリジナル「十角館の殺人」よりシーン写真】

 

(STAFF&CAST)
出演:奥 智哉 青木崇高 / 望月 歩 長濱ねる 今井悠貴 鈴木康介 小林大斗 米倉れいあ 瑠己也 菊池和澄 / 濱田マリ 池田鉄洋 前川泰之 河井青葉 / 草刈民代 角田晃広 仲村トオル
原作:綾辻行人『十角館の殺人』(講談社文庫)
監督:内片 輝
脚本:八津弘幸 早野 円 藤井香織
音楽:富貴晴美
プロデューサー:内片 輝 内丸摂子 木下 俊 / 中村圭吾 渋谷昌彦
チーフプロデューサー:石尾 純 勝江正隆
エグゼクティブプロデューサー: 川邊昭宏 長澤一史
制作:下村忠文
制作協力:内片輝事務所 東阪企画 いまじん
製作著作:日本テレビ
©綾辻行人/講談社 ©NTV
公式HP : https://www.ntv.co.jp/jukkakukannosatsujin/
「十角館の殺人」Hulu配信ページ:https://www.hulu.jp/jukkakukannosatsujin

 

(STORY)
十角形の奇妙な外観を持つ館“十角館”が存在する、角島。 1986 年、“十角館”を建てた天才建築家・中村青司(なかむら・せいじ)は、焼け落ちた本館・青屋敷で謎の死を遂げていた。半年後、無人島と化していた角島に、K大学ミステリ研究会の男女7人が合宿で訪れる。その頃、海を隔てた本土では、かつてミス研メンバーだった江南孝明(かわみなみ・たかあき)のもとに【死んだはずの中村青司】から1通の手紙が届く。<十角館に滞在するミス研メンバー>と<死者からの手紙>。「偶然とは思えない」―。江南は調査を進めるなか、島田潔(しまだ・きよし)という男と出会い、行動を共にしていく。一方“十角館”では、ミス研の1人が何者かに殺害される。「犯人は一体誰だ?」疑心暗鬼に陥り、互いに仲間を疑いはじめるメンバーたち……孤島である角島から出ることができるのは、1週間後。2つの物語から起こる【想像を超えた衝撃の結末】とは。

 

取材・文/猪口貴裕 撮影/金井尭子 ヘアメイク/岩下倫之(Leinwand) スタイリスト/カワセ136

衣装協力/
【アイテム:ブランド名/金額(税抜)/問い合わせ先】
ジャケット:DISCOVERED/4万8000円/DISCOVERED
パンツ:DISCOVERED/3万9000円/DISCOVERED
シャツ:LITTLEBIG/3万8000円/LITTLEBIG
靴:opposite of vulgarity/1万4000円/HEMT PR
リング:PLUIE/3万1000円/PLUIE Tokyo

DISCOVERED
03-3463-3082
東京都渋谷区恵比寿西1-33-3光雲閣404

LITTLEBIG
03-6427-6875
東京都渋谷区円山町28-8 #305

HEMT PR
03-6721-0882
東京都渋谷区神宮前2-31-8 FKビル3F

PLUIE Tokyo
03-6450-5777
東京都渋谷区神宮前6-18-10海老名ビル3F

“映像化不可能”「十角館の殺人」でドラマ初主演・奥 智哉インタビュー「ドッキリじゃないかと」3月22日Hulu独占配信

人気ミステリー作家・綾辻行人のデビュー作で、日本のみならず海外の作家にも多大な影響を与えた「館」シリーズの第1作『十角館の殺人』。長年、映像化は難しいと言われていた本作が、綾辻行人と親交のある内片輝(うちかた・あきら)監督によりHuluオリジナルでドラマ化。3月22日(金)に独占配信が開始した。通称“コナン”こと主人公・江南(かわみなみ)孝明を演じるのは、ドラマ初主演となる奥 智哉だ。自然体で臨むことができたという彼が経験した撮影でのエピソードを聞いた。

奥 智哉●おく・ともや…2004年7月18日生まれ。神奈川県出身。2020年、蜷川実花が監督を務めた配信ドラマ『Followers』で俳優デビュー。近年の主なドラマ出演作に『仮面ライダーリバイス』(2021・テレビ朝日系)、『みなと商事コインランドリー』(2022・テレビ東京系)、NHK『大奥』、TBS日曜劇場『ラストマンー全盲の捜査官ー』、『みなと商事コインランドリー2』(テレビ朝日系)、『癒やしのお隣さんには秘密がある』(2023・日本テレビ系)など。映画出演作に『ラーゲリより愛を込めて』(2022)。Instagram

 

【奥 智哉さん撮り下ろし写真】

 

「最後の一行を読んだ衝撃は忘れられない」

 

──原作の『十角館の殺人』は読みましたか?

 

 今回のお話をいただいて読ませていただきました。本格的なミステリーを読んだのは初めてで時系列が混乱することもあり、何度も読み返して思い出すなど、頭の中で整理しながら読みました。

 

──原作ならではの良さはどういうところに感じましたか?

 

 文字だからこそキャラクターの声や造形などが頭の中で膨らんで、それがトリックの肝に結び付くのが醍醐味かなと感じました。“十角館”が存在する角島(つのじま)と、本土の描写のバランスが素晴らしくて、種明かしまでたどり着く過程が味わい深かったです。

 

──原作をお読みになったとき、途中で犯人の予想はつきましたか。

 

 中盤で犯人の予想はついたんです。でも、なぜそうなったのかは1ミリも想像できなくて。だからこそ最後の一行を読んだ衝撃は忘れられないですね。 “館シリーズ”を読み進めていて、まだまだ初心者ですが、ミステリーの面白さをひしひしと感じています。

 

──ドラマ初主演ですが、オファーがあったときのお気持ちはいかがでしたか。

 

 マネージャーさんから聞いて、最初はドッキリじゃないかと(笑)。絶対に嘘だと思いました。衣装合わせや監督との顔合わせなどをしていくうちに、徐々に実感が湧いてきました。

 

──撮影に臨むにあたって、どんな準備をしたのでしょうか。

 

 撮影前に内片輝監督から「そんなに硬くならずに楽しくやろう。優しいメンバーばかりだから気楽に演じてほしい」と言ってもらい、主演だからと肩ひじを張らずに、自然体で臨むことができました。原作を読んだときに混乱したところがあったので、「このシーンはどこまで進んでいるんだっけ?」「この時点で誰が死んでいて」という情報整理をして、物語を理解した上で撮影に臨みました。ここまで細かく脚本を整理したのは初めての経験でしたね。

 

──事前に内片監督から、こう演じてほしいといった指示はありましたか。

 

 「とにかく明るく、常に好奇心旺盛でいてほしい」と。僕はお芝居をする時に控えめに表現してしまう癖があったので、もっと明るくていいんだ、もっと前のめりでいいんだと、すり合わせをできたのが良かったです。

 

青木崇高さんは「思い描く理想の大人」

 

──内片監督の印象はいかがでしたか。

 

 第一印象は「デカい!」です(笑)。共演者の方々と「RIZINに出てそう」と話していました。演出に関しては、内片監督から具体的な技術について教えていただくことが多かったです。例えば顔を上げるタイミングで、目線を先に上げてから顔を上げたほうがかっこいい画が撮れるなど、細かいところまで教えてくださいました。一シーンが撮り終わった後も、すぐに監督と見返して、「最初はこうだったけど、こう変わったよね」と自分の変化が具体的に分かりました。監督のおかげで、表現の幅も広がったと思います。

 

──青木崇高さん、角田晃広さん、濱田マリさんなど、キャリアのある方との共演シーンが多かったですが、プレッシャーはありましたか?

 

 最初はプレッシャーを感じていましたが、江南は関係者にぐいぐい質問して真相に迫っていくので、僕も見習わなきゃいけないなと思いました。ですので5分休憩でも自分から積極的に話しかけました。特に共演シーンの多い青木さんと角田さんとは、3人でよく読み合わせもしていました。

 

──バディ役の青木さんは、どんな方でしたか。

 

 芸能界に入る前から知っている俳優さんで、お会いしたときはスター感を感じました。親子ぐらい年の差がありますし、俳優としても大先輩ですが、めちゃめちゃ優しくて。お話をしていても、僕の目線に自然と合わせてくださるんですよね。とてもひょうきんな方で、子どものような純粋さもありましたが、芯はしっかりしていて、島田に通じるものがありました。僕が思い描く理想の大人です。

 

──青木さんとの会話で印象に残っていることを教えてください。

 

 ちょっとした人生相談をさせていただいたとき「いろんなことに挑戦して、そのときに自分が感じたものを大事にしたらいい」という言葉をいただき、一人旅を勧めていただきました。あと青木さんは謎解きがお好きで、脱出ゲームにも行かれているそうなんです。僕は実生活で何かを推理することはなかったのですが、撮影の合間に青木さんと謎解きをしたことで推理の楽しさに触れることができました。

 

──江南を演じる上で、他にどんなことを意識しましたか。

 

 江南は常に明るく楽しそうで、聞き込みのときは失礼にあたることも、ぐいぐいと斬り込んでいきます。島田に対して「よくそんなことを言えますね」とツッコミを入れるのに、自分も初対面の人にずけずけとものを言う。そういう図太さや、好奇心旺盛な一面を、お芝居で意識しました。僕自身も好奇心旺盛ですし、子どもっぽさも根っこにあるので、そこは似ているなと感じます。

 

──改めて「十角館の殺人」という大きな作品で主演を飾ったお気持ちを聞かせてください。

 

 配信日が近付くに従って、偉大な作品に参加させていただいたことが身に染みています。撮影期間中はそれほどプレッシャーを感じずにいられましたが、今はなかなかの恐怖体験です(笑)。

 

Huluオリジナル「十角館の殺人」

Huluで独占配信

 

【Huluオリジナル「十角館の殺人」よりシーン写真】

 

(STAFF&CAST)
出演:奥 智哉 青木崇高 / 望月 歩 長濱ねる 今井悠貴 鈴木康介 小林大斗 米倉れいあ 瑠己也 菊池和澄 / 濱田マリ 池田鉄洋 前川泰之 河井青葉 / 草刈民代 角田晃広 仲村トオル
原作:綾辻行人『十角館の殺人』(講談社文庫)
監督:内片 輝
脚本:八津弘幸 早野 円 藤井香織
音楽:富貴晴美
プロデューサー:内片 輝 内丸摂子 木下 俊 / 中村圭吾 渋谷昌彦
チーフプロデューサー:石尾 純 勝江正隆
エグゼクティブプロデューサー: 川邊昭宏 長澤一史
制作:下村忠文
制作協力:内片輝事務所 東阪企画 いまじん
製作著作:日本テレビ
©綾辻行人/講談社 ©NTV
公式HP : https://www.ntv.co.jp/jukkakukannosatsujin/
「十角館の殺人」Hulu配信ページ:https://www.hulu.jp/jukkakukannosatsujin

 

(STORY)
十角形の奇妙な外観を持つ館“十角館”が存在する、角島。 1986 年、“十角館”を建てた天才建築家・中村青司(なかむら・せいじ)は、焼け落ちた本館・青屋敷で謎の死を遂げていた。半年後、無人島と化していた角島に、K大学ミステリ研究会の男女7人が合宿で訪れる。その頃、海を隔てた本土では、かつてミス研メンバーだった江南孝明(かわみなみ・たかあき)のもとに【死んだはずの中村青司】から1通の手紙が届く。<十角館に滞在するミス研メンバー>と<死者からの手紙>。「偶然とは思えない」―。江南は調査を進めるなか、島田潔(しまだ・きよし)という男と出会い、行動を共にしていく。一方“十角館”では、ミス研の1人が何者かに殺害される。「犯人は一体誰だ?」疑心暗鬼に陥り、互いに仲間を疑いはじめるメンバーたち……孤島である角島から出ることができるのは、1週間後。2つの物語から起こる【想像を超えた衝撃の結末】とは。

 

取材・文/猪口貴裕 撮影/金井尭子 ヘアメイク/岩下倫之(Leinwand) スタイリスト/カワセ136

衣装協力/
【アイテム:ブランド名/金額(税抜)/問い合わせ先】
ジャケット:DISCOVERED/4万8000円/DISCOVERED
パンツ:DISCOVERED/3万9000円/DISCOVERED
シャツ:LITTLEBIG/3万8000円/LITTLEBIG
靴:opposite of vulgarity/1万4000円/HEMT PR
リング:PLUIE/3万1000円/PLUIE Tokyo

DISCOVERED
03-3463-3082
東京都渋谷区恵比寿西1-33-3光雲閣404

LITTLEBIG
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池村碧彩「とにかくうれしすぎて、ピョンピョン、ピョンピョンってしちゃいました!」映画『FLY!/フライ!』

「ミニオンズ」のイルミネーションが送る新作アニメ『FLY!/フライ!』が3月15日(金)より公開中。渡り鳥なのに移動したことがないカモ一家がある日、旅に出ることを決意。旅の途中に起こるハプニングや出会いを描いていく冒険アドベンチャー。カモ一家のキュートなおてんば娘・グウェンを、7歳の池村碧彩さんが担当。収録時のお話やお友達との日常などをいろいろと語ってくれた。

 

池村碧彩●いけむら・あおい…2016年5月生まれ。2019年よりキッズモデルとしてテレビCM、カタログモデル、web広告などに数多く出演。2021年、NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」ではヒロイン百音の幼少期を演じて注目されている。ミュージカル「SPY×FAMILY」のアーニャ役、NHK大河ドラマ「どうする家康」の亀姫役も話題を呼んだ。InstagramX

【池村碧彩さん撮り下ろし写真】

 

グウェンはすべてがかわいい

──完成した『FLY!/フライ!』を観てどんなことを感じましたか。

 

池村 トラブルが起きても、仲間、家族、み~んなで乗り越えるところが素敵だなと思いました。それからキャラクターと声優の人の声がぴったりで、それも魅力的だなって思いました。

 

──グウェンをやることになったときはどんな気持ちになりましたか。

 

池村 とにかくうれしすぎて、(軽く体を弾ませながら)ピョンピョン、ピョンピョンってしちゃいました! 何日経ってもあのうれしい気持ちは忘れません。

 

──グウェンのかわいいと思ったところや好きだなって思ったところを教えてください。

 

池村 グウェンはすべてがかわいいです。一つ好きなシーンがあって、落ち込んでいるお兄ちゃんの前に急にグウェンがやってきて、なぐさめてあげるのが本当にかわいくて! なぐさめ方がかわい過ぎて、「こんな役できるの!?」って思いました。

 

──公式サイトのコメントでグウェンに似ているとおっしゃっていました。どんなところが似ているのでしょうか。

 

池村 グウェンはお兄ちゃんを力づける強さもある子なので、お兄ちゃんに「こうしたら?」って強く言えるところも似ているし、家族が大好きなところも似ていると思います。

 

本番では自然にグウェンができました

──グウェンの声をやるために練習しましたか。

 

池村 監督さんが「あまり練習しないで」とおっしゃっていたから、あまり練習はしませんでした。でも本番では自然にグウェンができました。グウェンが“Pleaーーーーーーーーーーーs!!”って、長く伸ばすセリフがあって。最初に映像を観たときに「え、こんなに長いの!?」って思ったので、そこは練習しました。

 

──グウェンみたいにおねだりすることってありますか。

 

池村 私は欲しいモノがあってもまず使うことを考えるようにします。「これ本当に使うのかな?」って思うのでおねだりはあんまり……。でもガチャをやることもあるので、そっちの方が無駄かなって思ったりもします。

 

──今“Pleaーーーーーーーーーーーs!!”って長く伸ばすほどお願いしたいものはあります?

 

池村 自由帳を10冊ぐらい買って欲しいです。あとお絵描きパレット。前からデジタルで絵を描いてみたいなって思っているので。

 

──絵を描くのが好きなんですね。どんな絵を描きますか。

 

池村 いろいろ描きますけど、キャラクターみたいな人間と鳥さんを描くことが好きです。グウェンとミニオンズの絵も描きました。

 

──「ミュージカル SPY×FAMILY」ではアーニャ役で初めての舞台に挑戦しました。今回は初めての声優となりますが、どっちが緊張しましたか。

 

池村 それは舞台です。東京、兵庫、福岡で公演したんですけど、東京の初日から兵庫の半分が終わるぐらいまで、ずっとおなかが痛くなっていました(笑)。キメラ長官というぬいぐるみをギュッてするようにしていました。でも声優さんは本当に楽しくて。前の日はすごく緊張したけど、マイクの前に立ったら緊張がボーンッてなくなりました。

 

声の高さや低さで表さないといけないから、そこが難しいところだなって

──お兄ちゃんのダックスとお話するときと、ダンおじさんとお話するとき、それぞれ違うお芝居をしている感じがしました。

 

池村 ダンおじさんはグウェンに優しくしてくれるから、ちょびっとかわいい感じ。お兄ちゃんは「やるぞー!」って元気に声をかけたりするのでそこは強い感じ。お父さん、お母さんには普通に接してるかなって、そういうことを考えながら演じました。

 

──声優さんをやって難しかったことはありましたか。

 

池村 私はいつも体全体で表現をしているけど、声優さんは「今はこういう気持ちだな」っていうのを声の高さや低さで表さないといけないから、そこが難しいところだなって思いました。

 

──体全体を使った表現の方がやりやすい?

 

池村 ただ体を使うと疲れちゃうけど……、でもどっちも同じぐらい楽しいです。

 

両手でほっぺをギュッとつぶしながら言ったセリフは自分でも「いいな」って

──では声優さんのお仕事で一番楽しかったことは?

 

池村 グウェンというキャラクターができたこともうれしかったし、グウェンの声をして、初めてだったので「声優さんってこんな感じで表現するんだ」ってハッ!! としました。また一ついろんな勉強ができたかなって思って楽しかったです。

 

──自分でもうまくできたなって思ったセリフはありましたか。

 

池村 両手でほっぺをギュッとつぶしながら言ったセリフがあって、そこは自分で初めて聞いたときに「あ、いいな」って思いました。

 

──収録するときに両手でほっぺをギュッとしたんですか。

 

池村 はい。監督さんが「こうやってみたら?」ってアドバイスをしてくれて、実際にやってみたらすごくよくできました。

 

スネ夫の声で話してくれたので、めっちゃうれしかった

──お父さんのマックを演じている堺雅人さん、お母さんのパムを演じている麻生久美子さんはどんな方ですか。

 

池村 すごく優しくしてくれます。私といっぱいおしゃべりしてくれて、会見で私が緊張していると「頑張ろうね」と言ってくれたし、会見が始まる前も終わったときもタッチしてくれてうれしかったです。

 

──お兄ちゃん役の黒川想矢さんは?

 

池村 お兄ちゃんはめっっちゃ優しくて、トークでは難易度が高いお話をするので、追いつけないんです(笑)。でも「さすがお兄ちゃん!」と思いました。

 

──キャストの皆さんとはどんなお話をしましたか。

 

池村 お父さん、お母さんとは好きな食べ物のお話をしたり、お兄ちゃんとは「イエーイ!!」ってやったりしました。デルロイさん(関智一)さんは、「ドラえもん」のスネ夫をやっているのを私も知っていたんです。だから「スネ夫くんですか?」って聞いたら、スネ夫の声で話してくれたので、めっちゃうれしかったです。

 

──普段の碧彩さんがわかるお話も聞かせてください。お友達とはどんな遊びをすることが多いですか。

 

池村 縄跳びをすることが多いです。前跳び勝負、後ろ跳び勝負をしたりしています。

 

──いろんな跳び方ができるんですね。

 

池村 えーと、前跳び、後ろ跳び、駆け足跳び、ケンケン跳び、あとはあや跳び、交差跳び、後ろ駆け足跳びができます。

 

お猿ポーズをしてこんな顔をします

──すごいたくさん! 碧彩さんが一番得意なのは?

 

池村 うーん……、一番うまいのは後ろ跳び。自分の最高記録ができました。(回数を)言ってもいいですか? 87回!

 

──すごい! 縄跳び勝負ではよく勝つ方?

 

池村 よく……負ける方です(笑)。途中でミスっちゃうんです。

 

──何か集めているものはありますか?

 

池村 絵を描くことが好きなので、消しやすい消しゴムを集めています。

 

──お気に入りの消しゴムはありますか。

 

池村 黒い消しゴムがあって、それはよく消えます。目に光を入れるんですけど、もっとリアルっぽくするために消しゴムを使っています。

 

──消しゴムのテクニックも使って絵を描いてるんですね。では、特技が変顔だそうですが、どんなときに変顔をするんですか。

 

池村 めっちゃ盛り上がってるときとか。家族みんなで〇〇をしているときに変顔をします。

 

──得意な変顔は?

 

池村 (肘を曲げて上げた両手を頭につけながら)こうやってお猿ポーズをしてこんな顔をします。あとは顔だけでもやります。

 

──お友達の前でも変顔するんですか。

 

池村 にらめっこするときにします! たまに声だけで笑わせています。

 

──どんな声で笑わせるんですか。

 

池村 言っちゃダメなことを言います(笑)。

 

──それは気になる(笑)。ここでは言えませんか。

 

池村 はい。言ったらやば〜いってなります(笑)。にらめっこだからみんな笑っちゃうんです。

 

かわいいと思うものは「か」で始まって「そ」で終わる動物

──にらめっこは強い?

 

池村 強いほうだと思います。最初は変顔をして、それでも笑わなかったら「ふわぁ〜」ってヘンな声を出したりするので、勝てない子は1人ぐらいかな。

 

──笑うまで頑張ると。ところで、アーニャ、グウェンとかわいいキャラクターが続いていますが、碧彩さんがかわいいと思うものはなんですか。

 

池村 2つあって、どっちも動物で1つはモルモット、もう1つは〇〇〇〇(まるまるまるまる)です。ではまずモルモットから紹介しましょう。

 

──はい、よろしくお願いします。

 

池村 おばあちゃんとよく動物園に行くんですけど、モルモットを抱っこするとめちゃふわふわで、目がクリクリしていてかわいいなって思いました。そして〇〇〇〇は、「か」で始まって「そ」で終わる動物なんですけど、なにかわかる?

 

──なんだろう……(笑)。

 

池村 かわうそ〜(笑)。かわうそは何時間も寝ていて、チュンチュンって動くところがかわいくて、目も本当にクリクリしてるんです。かわうそも絵に描いてみたいんですけど、描くのがめちゃ難しいんです。

 

──動物も好きなんですね。飼いたい動物は?

 

池村 本当に飼いたいのはわんちゃんです。柴犬かトイプードルかチワワ。あとスクランブルエッグみたいな名前の……、まあとにかくいろいろ飼いたいです(笑)。(撮影中に画像を見てフレンチブルドッグと判明)

 

デザイナーさんパティシエさんもできて、大食い女子でもある女優さんに(笑)

──意外な犬種が出てきた(笑)。じゃあ将来の夢はなんですか。

 

池村 2つあって、占いでも「どっちも良いですね」って言われました。一つ目は、私は料理を作ることが好きなので、パティシエさんになってみたいと思いました。あとは絵を描くことが好きで3歳ぐらいのときに決めたんですけど、(服の)デザイナーさんにもなりたいなって。

 

──女優さんは?

 

池村 やめません! デザイナーさんパティシエさんもできて、大食い女子でもある女優さんになります(笑)。

 

──多才な女優さんですね。ぜひ頑張ってください。

 

池村 はい、頑張ります♪

 

 

 

FLY!/フライ!

2024年3月15日(金)より全国公開中

 

【映画「FLY!/フライ!」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
製作:クリス・メレダンドリ
監督:バンジャマン・レネール
脚本:マイク・ホワイト
配給:東宝東和

日本語吹替版キャスト:堺雅人(マック役)
麻生久美子(パム役)
ヒコロヒー(チャンプ役)
黒川想矢(ダックス役)
池村碧彩(グウェン役)
羽佐間道夫(ダンおじさん役)
野沢雅子(エリン役)
関智一(デルロイ役)
鈴村健一(グーグー役)ほか

 

(C)2023 UNIVERSAL STUDIOS. ALL Rights Reserved.

 

撮影/映美 取材・文/佐久間裕子

青原桃香「キャスターとしては新人でも、皆さんの心に寄り添うことはできる。いつも楽しむ気持ちを忘れず、笑顔を送り届けていきたい!」ウェザーニュースキャスター連載・第19回

24時間365日、最新の気象・防災情報を発信し続ける「ウェザーニュースLiVE」。YouTubeの登録者数は118万人を超え、日々の生活を支えるコンテンツとして、ますます多くの人に愛されています。この番組を毎日生放送でお届けしているのが気象キャスターたち。GetNavi webではそんな皆さんの活動を紹介するとともに、それぞれのプライベートな一面に迫った連載「夕虹は晴れ! ウェザーニュースキャスター」を展開。レギュラーでの連載は昨年4月に一度終了を迎えたものの、現在は短期集中連載として復活し、今回ご登場いただいたのは2023年10月に新たに加わった青原桃香キャスター。番組に登場して以来、いつも朗らかな笑顔で視聴者に元気を与えている青原キャスターに、お仕事への思いをたっぷりとうかがいました。

 

<ウェザーニュースLiVE×GetNavi web連載>

【連載「夕虹は晴れ! ウェザーニュースキャスター」一覧はこちら

青原桃香●あおはら・ももか…1999年1月5日生まれ。愛知県出身。0型。ウェザーニュース気象キャスター。2023年にウェザーニューズ入社。現在、同社が配信する「ウェザーニュースLiVE」の気象キャスターとして活躍中。趣味・特技は乗馬、料理、ドライブなど。 X(旧Twitter)Instagram

 

【青原桃香さん撮り下ろし写真】

 

以前は、周囲から不機嫌そうに見られるぐらい人見知りでした

──昨年末にご登場いただいた松雪彩花キャスターの後を継いでの出演となります。その松雪さんは、青原キャスターや同じく10月にデビューした岡本結子リサキャスターの魅力について、「いつもしなやかさと柔らかさを感じます」とお話しされていました。

 

青原 そうおっしゃっていただけたんですか? もったいないお言葉です。私から見た松雪さんは、お話の仕方や醸し出す雰囲気など一挙手一投足の全てが麗しく、憧れの存在です。また、番組を拝見していると、美しさの中にキリッとした知性も感じられて。隅から隅まで完璧な女性だなといつも思っています。

 

──松雪さんとは青原さんがキャスターデビューしてすぐくらいに、番組のクロストークでご一緒されていましたね。

 

青原 はい。初めてのときは松雪さんに対して絶対に失礼があってはいけないと思い、その気持ちが強すぎてガチガチになっていました。

 

──知らない人がこれを読んだら、松雪さんのことを怖い人だと思いそうですよ(笑)。

 

青原 いえ、そういう意味ではないです(笑)。クロストークって、お相手の方がいるから、最初は緊張しちゃっていたんです。自分一人が変なことを言って空気がおかしくなる分には自己責任だからいいんですが、先輩を巻き込んで迷惑をおかけしてしまったらどうしようって。

 

──今はもう緊張しなくなったんですか?

 

青原 はい。私が失敗しても先輩方が優しくフォローしてくださるので、リラックスして楽しめるようになりました。ただ、いつまでも甘えてばかりではいけないので、私もしっかりと上手に進めていけるようになりたいと思っています。

 

──また、前回の松雪さんのインタビューでは、青原さんから手作りのクッキーをいただけたことをすごく喜ばれていました。

 

青原 うれしかったです。まさにクロストークで松雪さんが私の作ったお菓子を食べてみたいとおっしゃってくださったんです。そのときは「器具を実家から持ってきていないんです」とお伝えしたのですが、偶然にも翌日の週末から実家に帰る予定があって。それで早速土曜日に作ったんですよね。……あ、違います。正確には土曜に一度作ってうまくいったのですが、もっといいものにしたくて、日曜にまた作り直したんです。でも、そっちはうまくいかなくって(苦笑)。

 

──それは悔しい(笑)。

 

青原 そうなんです! もう、本当に悔しくて。それで結果的に最初に作ったものをお渡ししました。

 

──実家から器具を持ってきて、ゆっくり作るという選択肢はなかったんですか?

 

青原 その案も考えました。でも、母が「使い慣れているオーブンで作ったほうがいいんじゃない?」と(笑)。「あやちさん(松雪)と約束したものなんだから、いつも以上においしく作りたいよね」って、家族もみんな見守ってくれて。

 

──素敵なご家族ですね。

 

青原 はい。それに私も、あやちさんが私のクッキーを食べたいと言ってくださったことがうれしかったので、早くお届けしたかったというのもありました。

 

──松雪さんに限らず、今ではすっかりと先輩キャスターの中に溶け込んでいる印象がありますが、あまり人見知りはされないほうなんですか? 松雪さんも「ほかのキャスターと打ち解けるのが早かった」とおっしゃっていました。

 

青原 いえ、その逆で、すごく人見知りです。ですから、最初の頃は皆さんから声をかけていただけてうれしかったのですが、同時にとてつもなく緊張もしていて(苦笑)。ただ、皆さんは優しく接してくださるので、普段よりは積極的にお話ができたように思います。

 

──番組を見ていると青原さんはいつも雰囲気が柔らかいので、周りの先輩方もつい声をかけたくなるのかなと思いました。

 

青原 そう感じていただけているのならうれしいのですが、自分ではそうは思っていないんです。むしろ、周囲に近寄り難さや怖い印象を与えていないかという不安が先行してしまって。だからこそ、普段は丁寧に話すことを心がけているんです。

 

──人見知りの硬さや緊張が表に出てしまうことが多いということでしょうか?

 

青原 はい。それもあって、高校生ぐらいまでは初対面の人から話しかけにくいような印象を持たれることも多かったですね。

 

──普通にしているだけなのに、なぜか怒っているように思われたり?

 

青原 まさに(笑)。友達にも、初めは話しかけづらくて、仲良くなってからのギャップがすごいねって。それがすごくコンプレックスでもあったので、意識して直すようにしたんです。こうした話をすると、最近出会った方からは、「想像つかない」って驚かれることが多いです。

 

──人見知りが激しいのであれば、カレンダー撮影の日は大変だったのではないですか? たしかキャスターになって最初のお仕事がカレンダー撮影で、そこで先輩キャスターとも初めてお会いしたと番組で話されていましたよね。

 

青原 山岸愛梨キャスター大島璃音キャスター小林李衣奈キャスターとお会いしたのが、その日初めてでした。しかも、みんなで同じクルマに乗って遠くのスタジオまで移動することになっていて、私が集合場所に到着したのがギリギリだったせいで、皆さんを少しお待たせしてしまったんです。遅刻をしたわけではなかったものの、それがすごく申し訳なくて。それに、すぐにクルマが出発してしまったので、しっかりごあいさつができたのがロケ地に着いてからだったんです。

 

──そのスタートはちょっと緊張しますね。

 

青原 でも、一日ずっと撮影だったのでたくさんお話もさせてもらい、おかげで途中からは皆さんとの撮影を楽しめるようになりました。というより、最初は緊張する以上に、皆さんのオーラやスタイルの良さに衝撃を受けたりと、完全にミーハーになっていましたね(笑)。

 

──(笑)。そのときはどのようなお話を?

 

青原 「とにかく体調を崩さないように、頑張り過ぎないでね」という優しいお言葉をかけていただきました。皆さんはそうやって、新人の私に対してもいつも気遣ってくださるんです。お仕事への姿勢はもちろん、一人の人間として尊敬できるところばかりですし、普段から先輩後輩関係なくフランクに接してくださるので、本当に素敵な職場だなと感じています。

 

──生配信中にいきなり「ももぴん」と呼びかけられる職場って、そうそうないですしね。

 

青原 ハロウィン企画のときの(駒木)結衣さんですね(笑)。急に初めてのあだ名で呼ばれたので、あのときはびっくりすると同時にとってもうれしかったです。でも、ひと言「ももぴん」と発しただけで、それがすぐに視聴者さんたちに浸透する結衣さんの影響力の大きさがすごいです。あとで、結衣さんも「どうしてあのとき、急に“ももぴん”って言ったんだろう?」って不思議がられていて。これで視聴者さんと私の距離を縮めるきっかけをいただけたので、すごく感謝しています。

 

──思えば、あのハロウィン企画もデビューしてすぐくらいでしたよね。

 

青原 はい。気象キャスターになったはずなのに、突然バラエティっぽい配信企画に参加することになって驚きました。“あれ? キャスター募集の要項にはそんなこと書いてなかった気がするぞ”って。見落としていただけなんですかね(笑)。

 

──きっと書いてなかったと思います(笑)。

 

青原 ですよね(笑)。でも、ハロウィンの配信もそうですが、こうした機会がないとできないことばかりですし、先輩方が企画を盛り上げている姿を見て、とっても素敵だなって思うので、私もいろんな企画に全力で楽しんで臨むようにしています。

 

3週間の研修の予定が、いきなり2週間後にキャスターデビューに

──では、改めてデビュー日のことをうかがえればと思います。当日のことは覚えていますか?

 

青原 とても緊張していて、はっきりとは覚えていないです初お披露目だった10月21日は結子ちゃんと自分たちの紹介の後に1時間半ずつ番組を担当し、翌日に初めて1人で3時間の放送をしたんです。でも、どちらの日も気づいたら終わっていたという感じでしたね。

 

──デビューまでの研修期間が2週間だったとか?

 

青原 はい。それもあって本番中はドキドキで、もうわけが分からなかったです(笑)。

 

──研修のときから2週間後にデビューすることは決まっていたのでしょうか?

 

青原 決まっていなかったと思います。ただ、明確にいつだというのはなかったものの、なんとなくデビュー日は聞いていて。そのときは3週間後ぐらいということでした。なのに、デビュー日の直前に「一週間早まった」と言われて。急なことだったので心の準備もできていませんでしたし、言われた瞬間は頭の中が真っ白になっていましたね。

 

──急転直下ですね。けど、それでも問題ないという判断だったんでしょうね。

 

青原 ……おそらく(笑)。たしか「これ以上やっても、きっと大きくは変わらないから大丈夫」と言われた気がします。私も、そんなもんかなと鵜呑みにしてしまって(笑)。あとになって、“あれ? もしかして、うまく丸め込まれた!?”とも思いましたけど、振り返ると、皆さんが言うように、一週間早まったからといってそんなに変わらなかっただろうなって自分でも思います(笑)。

 

──1時間半のデビュー放送を終えた日はどんな心境でしたか?

 

青原 本当なら家で一人反省会とかをすべきだったんでしょうけど、すぐ寝ちゃいました(笑)。“明日の放送に向けて、気持ちを切り替えよう!”って。それに、翌日の3時間のときもそうだったのですが、2日間とも全国的に天気が穏やかだったので、気象に関する情報は必要最低限で、どちらかというと、自分の紹介や視聴者さんからのリポートを読んでいる時間のほうが長かったんです。ですから、“とりあえず、たくさんしゃべったぞ!”という感覚が強く、どっと疲れが出たのも大きかったと思います。

 

──自分のペースをつかめてきたかなと思ったのはいつぐらいでしょう?

 

青原 遅すぎるかもしれませんが、デビューして1か月ぐらい経ったあたりだと思います。その頃から、ようやく自分の番組を少しずつ見返せるようになっていきましたので。

 

──それまでは自分の番組のアーカイブを見るのが怖かったんですか?

 

青原 はい。もちろん、毎回ちゃんと見返して、反省していくのが大事だとは分かっていたんです。でも、それをすると私のメンタルが崩壊するだろうと思って(苦笑)。ただ、いつまでもそれじゃダメだと思い、まずは切り抜き動画から見るようにしました。気象の情報をお伝えしているときの拙い自分の姿は怖くて直視できなくても、視聴者さんが面白く編集してくださった切り抜き動画なら、まだ笑って見られるかなって。そうやってちょっとずつ自分に慣れていきましたね(笑)。

 

──先輩方の番組を見て、勉強することもあるんでしょうか?

 

青原 あります。ただ、3時間の放送を全部見てしまうと、自分の性格上、物まねみたいになってしまって、あまりいい結果にならないと思うんです。もともと器用ではないので、同じようにしようとするあまり、ロボットがしゃべっているみたいになっちゃうだろうなって(笑)。ですから、“こういう天候のときはどういった表現をされているのかな?”とか、“この時間帯はどんなテンションなのかな”と、コーナーごとにいろんな先輩方の進行を見るようにしていますね。

 

──特に注視されているキャスターはいらっしゃいますか?

 

青原 小林キャスターです。以前、あいりんさん(山岸)に相談をしたとき、たくさんアドバイスをいただいて。その際、私の声質や話し方、それに発声などは小林キャスターが参考になるとおっしゃってくださったので、担当する時間帯は異なることが多いものの、李衣奈さんの番組はよく拝見していますね。

 

──デビューしてからご家族の反響は?

 

青原 私以上に熱量高く楽しんでいるみたいです。本当にいつも温かく見守ってくれていて。それ自体はすごくうれしいんです。でも、「あそこはこうしたほうがいい」とか、「あの発言は失礼にあたるかもしれない」って細かくダメ出しをしてくるんですよね。デビューしたばかりの頃はそれが本当に多くて、たまに……いや、たまにじゃないぐらいムッとしていました(笑)。

 

──「じゃあ、一度自分でやってみてよ!」って言いたくなりますよね。

 

青原 実際に言ったこともあります。ちょっと不機嫌になってしまったり(笑)。

 

──(笑)。自分でも分かっていることを改めて他人から指摘されると、耳が痛いだけに腹が立ちますよね。

 

青原 そうですねただ、そうやってダメな部分を気遣いなく本音で言ってくれるのは家族だけなので、すごく感謝しています。それに、最近は自分たちが少し言いすぎてしまっていることに気づいてきたのか、ちょっとしたフォローが入るようになったんです。ダメ出しの後に、「……まぁ、でも頑張ってるよね」「大変だよね」って(笑)。そうした優しさも含めて、本当に感謝しています

 

オーディションのことは消し去りたい記憶になっています(笑)

──そもそもの質問になりますが、青原さんがウェザーニュースLiVEのキャスターになろうと思ったきっかけは何だったのでしょう?

 

青原 もともと人前に立って情報をお伝えしたり、周りを笑顔にできるような職業に憧れを持っていました。そして大学生の頃から、自ら何かを発信したり、伝えていく仕事に就きたいと思うようになって。でも、なかなか実行に移すことができず、大学卒業後は別の企業にも勤めていたところ、ある日、偶然ウェザーニュースLiVEがキャスターを募集していることを知り、絶対に挑戦したいと思ったんです。それ以前にも、情報を伝える仕事の募集記事を見かけたことは何度もありましたが、なぜかこのときだけはすぐに体が動いて、気がついたら証明写真を撮りに行く予約を入れ、その日のうちに志望動機も考えていましたね。どうしてあんなに衝動的に体が動いたのか、本当に自分でも分からないんですけど。

 

──オーディションはいかがでしたか?

 

青原 緊張しました。面接では一人ずつ志望動機と自己PR、それに原稿読みをする時間があったのですが、いざ自分の番になったら事前に考えていた志望動機が全部飛んじゃったんです(笑)。とっさにいろんなことを頑張ってしゃべりましたが、きっととっ散らかって、わけの分からないことを話していたと思います(笑)。自己PRのときも、ちょっとでも笑ってもらえたらいいなと思って準備をしていたのですが、村田さん(村田泰謁プロデューサー)は笑ってくれたものの、別の方はくすりともせず、ただただ無言のまま真顔で……。

 

──それは、心が折れますね。

 

青原 ポッキリと折れました(笑)。そのときの面接官の方の顔は今でも忘れられないですね(笑)。

 

──実際に何をされたんですか?

 

青原 趣味で乗馬をしているので、乗馬の頭文字(じ・よ・う・ば)を使ったあいうえお作文を発表したんです。そのなかの一つとして、乗馬にはヒップアップ効果があるので、「スタイルもよくなりますよ」という言葉と一緒にお尻をプリッと上げて(笑)。ものすごく恥ずかしかったんですけど、それでクスッとしてもらえたらいいなと思い、なんとかやりきったところで皆さんの反応を見たら、村田さんの笑い声だけがその場に虚しく響いているという状況になっていました。……本当に苦しい時間でしたね(苦笑)。そのときは開き直って、“あとはもう家に帰るだけだし、いいや!”って感じだったのですが、間違いなく顔は真っ赤っ赤になっていたと思います(笑)。

 

──そのお話の後に聞く質問としては酷かもしれませんが、オーディションを終えた後、受かりそうだなという手応えはあったのでしょうか?

 

青原 全く。その日はせっかく東京まで来たんだし、オーディションだけじゃもったいないから、終わった後に少し観光もしようと決めていたんです。すぐ帰りましたね(笑)。

 

──もはやそんなテンションじゃなく。

 

青原 まるでそんな気分になれず、とにかく東京から離れたい一心で(笑)。

 

──帰りの新幹線でのメンタルが心配になります。

 

青原 あ、ただ、本当に何もしないのは嫌だったので、グリーン車で帰ったんです。ちょっともったいないなとは思いましたけど、私の中でこの日の記憶を、オーディション日ではなく、生まれて初めてグリーン車に乗った日に書き換えようと思って(笑)。

 

──その発想は面白いですね(笑)。しかも、結果的にオーディションに受かり、同じ日にグリーン車にも乗ったことで、より忘れられない日になったわけですし。

 

青原 そうなんです。ありがたいことに、私にとっていろんな特別が生まれた日になりました。初のグリーン車も本当に快適でした。ただ、恥ずかしかったのが、フットレストの使い方がいまいち分からず、周りを見ながらまねをするようにして使っていたので、リラックスというより、ずっとソワソワしていて(笑)。でも、それもいい思い出です。

 

──キャスターに受かったときは、ご家族も驚かれたのでは?

 

青原 実は受かると思っていなかったので、家族には面接が通ってから伝えたんです。ですから、なおのこと驚いていましたね。「何かの間違いだ!」って言われた気がします(笑)。

 

研修中のリポート読みはまるでお葬式のようでした

──オーディションに見事合格し、その後キャスターとしての研修が始まったわけですが、2週間の研修はいかがでしたか?

 

青原 一番辛かったです(苦笑)。最初にスタッフさんから、「デビューしてからも、自分の不甲斐なさに落ち込んで泣いちゃうことがあるよ」と言われたのですが、研修中も家に帰ってから何度も泣いていました。同期の結子ちゃんがまだ学生だったこともあって、ほとんど一人で研修を受けていたんです。気持ちを共有できる相手がいないというのが辛かったですし、たまに一人で練習をしているときも、果たしてそれが正しいのかどうかが分からず、そうした不安もありましたね。

 

──研修内容の中では何が一番大変でしたか?

 

青原 ……ふふふふふ。

 

──その笑いは何でしょうか(笑)。

 

青原 思い出すのも嫌なくらい、リポートを読むのがへたくそだったんです。本当にできなくて、まるでお葬式で弔辞を読んでいるみたいになっていました(笑)。

 

──リポートって、視聴者から届く「お天気リポート」や「晩ごはんリポート」とかのことですよね?

 

青原 そうです。それを読んで感想を話すのがほんとに酷かったんです。あれこそ誰にも見せられないです。研修中の様子は毎回録画をしていて、聞いた話だと、それを見て反省するためにあとで渡されるそうなんですね。でも、私はデータを送ってもらった記憶がほとんどないんです。自分でも薄々気づいていたのですが、多分スタッフさんが私には見せられないと判断されていたみたいで。見せると間違いなく落ち込むだろうし、なんだったら、見せたところで意味がないと思われていたんじゃないかと(笑)。

 

──そんなことはないと思いますが。

 

青原 いえ、私自身が見るに値しないと思っていましたから(笑)。というのも、リポートを読んだ後に、そこから話を膨らませていく言葉が出てこなくて、無言のまま時間だけが過ぎていくという状況が何度もあったんです。つまり、動画を見て反省するという以前の問題だったんですよね。

 

──それは言葉のバリエーションが少なくて、コメントに苦労したということですか?

 

青原 表現力の問題というよりも、自分は一体誰に向かって、どんな言葉を届ければいいんだろうと考え込んじゃうんです。よく注意を受けていたのが、「真面目に考えすぎている」ということでした。リポートを送ってくださる方にどのような言葉をおかけして、何をお伝えするべきなのかを深く考えすぎてしまって、かえって言葉が出てこなくなってしまっていたんだと思います

 

──なるほど。

 

青原 そうやって、どうすれば自分の頭の中で思っていることを誤解なく伝えられるんだろうかと考えているうちに、無言の時間だけが過ぎてしまう。研修中はずっとそんな感じでした(苦笑)。

 

──普段からそうなんですか?

 

青原 そうですね。ですから、今はいろんなものに興味を持つようにしていますね。感受性を高め、何かを見たり聞いたりした後は、さらにそこから一歩踏み込んで、自分の心が今どんな感情なのかといったことを客観的に考えるようにしています。

 

──素晴らしいです! ちなみに今は番組の中ではどのコーナーが一番好きですか?

 

青原 それはもう迷うことなく、「おやつリポート」と「ご飯リポート」です(笑)。いつもおいしそうな写真が届くので見ているだけで幸せな気持ちになりますし、感想をお伝えするのも楽しいです。

 

──めちゃくちゃ克服しているじゃないですか。

 

青原 研修のときは本当に言葉が出てこなかったので、それを思うとちょっとは成長しているのかもしれないですね。でも、まだまだだと思うので、これからもたくさん勉強して先輩キャスターさんに少しでも追いつける様に頑張っていきたいです!

 

気象キャスターになり、天気予報の必要性をより強く実感しています

──先ほど、伝える仕事に憧れを持っていたというお話をされていましたが、実際に気象キャスターになられて、どんなところに魅力を感じていますか?

 

青原 お天気は毎日、多くの方が必要としている情報ですし、特にウェザーニュースLiVEでは全国に向けて最新の気象の様子をお伝えできる。そこにすごくやりがいを感じています。

 

──これまで気象自体にも興味をお持ちだったのでしょうか?

 

青原 興味はありました。ただ、家を出るときに母から「今日は雨が降るみたいだから傘を持っていきなさい」と言われると、“じゃあ、持っていこうかな”と思う程度で、もし傘を持たずに出かけて途中で降られても、そのときはそのときだという感じでしたね(笑)。

 

──今は違うんですか?

 

青原 はい。天気にすごく興味を持つようになりました。ひと言で「晴れ」や「雨」、「曇り」といってもさまざまな状況があり、ちょっとした差で予報の表記が変わったりする。私が知識として知っていた気象の世界はほんの一部だったんだなということが分かり、そこに面白さを感じたんです。それに、こうして気象を伝える立場になり、災害などから身を守るためにも天気予報は生活に欠かせないものなんだと強く実感するようになりました。今は吸収するばかりですし、全てのことが新鮮で刺激的ですが、もっともっと勉強しないといけないなという気持ちでいっぱいです。

 

──気象キャスターになったことで好きになった天気はありますか?

 

青原 好きといいますか、気象キャスターの立場になったばかりの頃は、“お願いだから、天気が荒れないで!”といつも思っていました(苦笑)。その一方で、全国的に穏やかな晴れの日も、それはそれで語彙が必要になってくるので難しいなと思ったり。ですので、こんなことを言うと怒られちゃうかもしれませんが、今は“伝えやすい天気”が一番好きです(笑)。

 

──本当に正直ですね(笑)。でも、日本語ってボキャブラリーが多いのでいろんな表現ができますが、だからこそ言葉のチョイスを微妙に間違ったりすると、別の意味で伝わってしまうこともあるので難しいですよね。

 

青原 そうした怖さはいつも持つようにしていますね。ただ、言葉を慎重に選びすぎても、“結局、何が言いたかったんだろう?”と思わせてしまうことがあるので、そこにも注意が必要で。番組が終わった後はいつもスタッフさんから気づいたことを言っていただき、次に活かせるようにしています。

 

──特にウェザーニュースLiVEでは気象状況に合わせて注意喚起のレベルを3段階に分けていますし、そのときどきで言葉遣いや表情などを変えていく必要もあるので、より臨機応変な対応が求められそうです。

 

青原 はい。初めてM2(黄色レベルの注意喚起)を経験したときは、いろんなことがうまくいかなくて本当に悔しい思いをしました。言葉のチョイスだけじゃなく、インターバルを挟んで番組を再開したときに、いつものクセでにこやかな表情をしてしまって。スタッフさんからイヤモニ越しに、「顔が違うよ」という注意の指示が入ったのを覚えています。

 

──ただ、M2といってもそこまで緊迫した感じではなく、通常放送に近い雰囲気のときもありますよね。

 

青原 その日もまさにそういった状況でした。限りなくM1(通常放送)寄りだったこともあり、私もテンション感がよく分かっていなかったんです。それで、スタッフさんにもどういう雰囲気で番組を進行していけばいいかをお聞きしたのですが、「そこまで深刻そうじゃなくてもいいよ」とおっしゃられて。ただ、「でも笑顔は違うかな」とも言われたので、ますますどんな按配で進行すればいいのか分からなくなってしまったんです(苦笑)。気象の状況は日によって全て異なりますし、“これが正解”という明確な答えがないだけに、今でも迷ってしまうことがありますね。

 

──では、青原さん自身はご自分のキャスターとしての武器ってなんだと思いますか?

 

青原 まだ自分の中でこれというのはない気がします。自分に自信を付けたいのですが、今でもついモジモジしちゃうことがありますし(笑)。ただ、サポーターさんの気持ちに寄り添うことはできるとは思いますので、誰ひとり置いてけぼりにすることなく、皆さんと一緒に楽しい時間を作っていく。そこをいつも考え、意識しながら番組に臨んでいきたいと思っています。

 

──最後に、今後の目標を教えてください。

 

青原 今、私が先輩方の姿を見て憧れているように、私も誰かに目標とされるようなキャスターになっていきたいです。同時に、サポーターの皆さんにも愛されるキャスターでありたいなとも思っています。そして何より、常に楽しむ心を忘れずにいたいです。どれだけ頑張っている姿を見せても、そこに私自身が楽しんでいる様子が伝わらなければ皆さんも安心して番組を見られないと思いますので、失敗や成功はひとまず置いておいて(笑)、見てくださる方々にいつも笑顔を送り届けていきたいなと思っています。

 

──さて、次回は同期である岡本キャスターの登場になります。青原さんから見た岡本さんの魅力を教えていただけますか?

 

青原 結子ちゃんと初めて会ったのは、会社でも、オーディション会場でもなく、駅のお手洗いだったんですよね。初顔合わせの日にたまたま駅で見かけて。そのときはお互いの顔を知らなかったのですが、見た瞬間に、“絶対にこの子だ!”と思ったんです。逆に、“もしこの子じゃないなら、このオーラのすごさは何!?”と思うぐらい存在感があって。

 

──ひときわ輝いていたんですね。

 

青原 はい。そうしたら結子ちゃんも、“もしかしてこの人が同期なのかな”と思っていたそうで。ですから、私たちの全ての始まりは駅のお手洗いからでした(笑)。その後、改めて社内で会ったのですが、初めてお話をしたときから、素直で真っすぐな子だなという印象がありました。自分が思っていることややりたいことをストレートにまわりに伝えられる芯があって。そこがすごくうらやましくもあり、尊敬もしているところです。それに、一緒にいて楽しいですし、みんなを明るく元気にさせるパワフルさも持っているので、きっと番組をご覧になっているサポーターの皆さんも自然と笑顔になれる、そんな素敵なキャスターだなって思いますね。

 

《青原キャスターに15の質問!》

 

Q1.ご自身ではどんな性格だと思いますか?

青原 マイペースです。……というと、みんなから「その通りだね」って言われます(笑)。物事に動じないとか、周囲に流されないというのではなく、“自分は自分”みたいな感じのマイペースさがありますね。

 

Q2.“パブリックイメージとはここが違う”というところはありますか?

青原 最初の印象では大人しそうに見られることが多く、その後でギャップに驚かれます。「話してみると意外と陽気な感じなんだね」とか、「しっかりしてるのかと思ったけど、抜けてたり、適当なところがあるんだね」とか。素を隠しているつもりは全くないんです。それなのに、勝手にハードルを上げられて、それで「イメージと違う」と言われても、もうどうすればいいのかと(苦笑)。

 

Q3.関東での新生活いかがですか?

青原 いまだに電車で迷っちゃいます。路線が多く、人もたくさんいるので、出かけるだけで疲れてしまったり。でも、新しい街を知るのは楽しいですね。休日はよくお店の店員さんや美容師さんに「お買い物でおすすめの場所ってどこですか?」と聞いて、リサーチもしています。

 

Q4.学生時代はどんなキャラでしたか?

青原 アクティブだったと思います。テニス部に入っていたので、友達と遊びに行くというよりも、平日や土日に関係なく部活に専念していて、肌も真っ黒に焼けていました。

 

Q5.ずっと続けている趣味は?

青原 大好きなのは乗馬とドライブ。特にドライブは、景色を楽しみながら、一人の空間も満喫できるので、地元の名古屋にいた頃はよく遠出をしていました。クルマのなかでは音楽をかけながら、ずーっと熱唱しています(笑)。歌うことも大好きなので、一人カラオケにもよく行きますし、平気で5〜6時間ぐらい歌っています。今は松田聖子さんの曲を力を入れて練習しています!

 

Q6.乗馬を始めたきっかけは?

青原 始めたのは社会人になってからなんです。働き出すと運動不足になるかなと感じて、何かしら体を動かすことをしようと思ったんです。でも、ジムに通うならそのあたりを走ればいいやと思い(笑)、あまり周りの人がしたことのないものを選びたくて乗馬を始めました馬が大好きというのもあります千葉にもたくさん乗馬クラブがあるので、今も続けていますね。

 

Q7.アニメ好きだそうですが、好きな作品ベスト3を選ぶなら?

青原 今だと一番は『呪術廻戦』です。2位と3位は……難しいですね(笑)。最近好きなのは『葬送のフリーレン』と『ウマ娘』。『ウマ娘』のキャラクターはみんなかわいいんですが、あえて推しを挙げるならトウカイテイオーが好きです。

 

Q8.愛知県のおすすめ穴場スポットを教えてください。

青原 穴場ではないかもしれませんが、おすすめは知多半島の海沿いを走るドライブコース。半島をぐるっと一周できるので、私も休日になるとよく行っていました。老夫婦が営んでいるお気に入りのレストランがあって、いつ訪れてもお客さんがあまりいないんですが(笑)、そこから見える海の景色が本当にきれいで。風景に癒やされながらエビフライカレーを食べるというのが、私の一人ドライブの定番でした。

 

Q9.毎日欠かさずしていることは?

青原 よく家族とビデオ通話をしていますね。最初は母と話をして、途中から父と弟に代わるのがパターンです。私は意外にもホームシックになっていないのですが、母がすごく寂しがっているみたいです。そういえば、以前、私の一人暮らしの家に家族で遊びに来てくれたことがあり、帰り際に母が寂しさのあまり泣いてしまったことがあったんです。それを見ていた父が慰めつつ、「次はいつ会えるの?」って母に聞いたら、返ってきた言葉が、「3日後」で(笑)。母も自分の言葉に泣きながら笑っていましたこのほっこりするエピソードがあまりにも面白すぎて、私の中でかなりお気に入りになっています(笑)。

 

Q10.休日の過ごし方の理想と現実は?

青原 インドアとアウトドアの2つの面を持っていて、インドアな気分のときは家の中でアニメとかを見て、一日中だらだらと過ごすのが理想ですね。外出したい気分のときは、お買い物に行ったり、いろんな景色を見に散歩したり、おいしいごはん屋さんを見つけに行ったりと、やりたいことがたくさんありすぎて困っています。どちらかというと、出かけるほうが好きですね。ただ、一人暮らしを始めたら、やらなければいけないことが多いことに気づいて。結局、家のことをいろいろとしている間に一日が終わっちゃうのがほとんどです。

 

Q11.家で一番落ち着く場所はどこですか?

青原 ベッドの上。ずーーーっとゴロゴロしていたい(笑)。実家にいるときからベッドが大好きで。だからなのか、帰省すると普段以上に熟睡できます。

 

Q12.いつも笑顔が素敵ですが、青原さんにとって笑顔の源は?

青原 私自身は、そんなに笑顔の多い人間だと思っていなくて。周りにいる方々から、「いつもすごくいい笑顔だね」って言ってもらえるようになって、初めて気付かされたほどなんです。ただ、私はこれまでたくさんの愛情で育ててくれた家族や地元の友人など、本当に人に恵まれた環境の中で過ごしてきました。これが私の笑顔の源だと思っています。そして、今はサポーターの皆さんからの温かい応援があり、優しい言葉をかけてもらったり、楽しいリポートをたくさんいただいているので、それを笑顔でお返ししたいなって思うんです。

 

Q13.2024年の中日ドラゴンズにひと言!

青原 ひと言かぁ(笑)。私は応援することが楽しいので、あまり勝ち負けは考えていないんです。……と言いつつ、山口さん(山口剛央気象解説員)を見ていると、阪神タイガースが勝った次の日はさぞやうれしいんだろうなってうらやましくも思ったり(笑)。私はファン歴が5〜6年ほどなので、強いドラゴンズ時代を経験していないんですね。最近ファンになったという話をすると、昔から応援されている方たちに、「よく今のドラゴンズを見て好きになったね」って驚かれます(笑)。ファンになったきっかけは、大学生の頃にバンテリンドーム(ナゴヤドーム)のボールガールをしていて、そのときに選手たちを目の前で見たことでした。今は地元から離れたことで、より一層応援したいという気持ちが強くなりましたね。ちなみに、試合では投手が頑張っている姿を見るのが大好きなのですが、最近は外野手の岡林勇希選手を応援しています。まだまだ若いのに、結果を残しているのが本当にすごくて。今でも十分活躍されていますが、この好調さをキープしてほしいなと思います。

 

Q14.ご自身を家電で例えると?

青原 う〜ん……(笑)。松雪さんは前回のこのインタビューで「皆さんの生活に潤いを与えるという意味で“加湿器”」と答えていらっしゃいましたよね。ならば、私は皆さんの心をきれいにする存在になりたいという願いを込めて“洗濯機”にします(笑)。これからもたくさん笑顔を届けていきたいと思いますので、応援よろしくお願いいたします。

 

Q15.普段愛用している家電を教えてください。

青原 常に持ち歩いているのはワイヤレスイヤホンですね。キャスターになったお祝いとして弟がプレゼントしてくれたものなんです。AirPods Proなので、まだ学生の弟にとっては随分と値が張るものなのに、その気持ちもうれしかったです。しかも、《弟からの贈り物》という文字まで入っていて(笑)。出かけるときは、いつもお守代わりにカバンの中に忍ばせています。

 

青原桃香さんのサイン入り生写真を3名様にプレゼント!

<応募方法>

下記、応募フォームよりご応募ください。

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※応募の締め切りは4月12日(金)正午まで。
※当選は発送をもってかえさせていただきます。
※本フォームで記載いただいた個人情報は、本プレゼント以外の目的での使用はいたしません。また、プレゼント発送完了後に情報は破棄させていただきます。

 

「ウェザーニュース」HP https://weathernews.jp/

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撮影/干川 修 取材・文/倉田モトキ

清水くるみが語る二人芝居「東京輪舞(トウキョウロンド)」と積年の夢が叶った朝ドラ「ブギウギ」への想い

公演中の舞台「東京輪舞」で、髙木雄也さんとともに二人芝居に挑んでいる清水くるみさん。昨年は幾つもの舞台に出演する一方で、「親友は悪女」で連続ドラマ初主演を果たし、現在放映中の「ブギウギ」で念願だった朝ドラ出演の夢を叶えるなど乗りに乗っている。東京のリアルを生きる“男”と“女”を描く作品についてのエピソードや、卒論のテーマにも選んだほど大好きな朝ドラへの想い、大好きな韓国映画や、最近買ったお気に入りのものなどを語ってもらった。

 

清水くるみ●しみず・くるみ…1994年7月16日生まれ。愛知県出身。2007年開催「アミューズ30周年全国オーディション」で65,368人の応募の中からグランプリを獲得。以降、CM、ドラマ、映画などに立て続けに出演し、無垢な魅力と、演技・唄・ダンス三拍子そろった実力で多くの作品で存在感を示す。主な出演作に、【映画】『最後まで行く』(2023)、『わたし達はおとな』(2022)、『Arcアーク』(2021)、『チア男子!!』(2019)、『青の帰り道』(2018)、【ドラマ】、NHK連続テレビ小説『ブギウギ』(2023)、『親友は悪女』主演(2023)、『持続可能な恋ですか?~父と娘の結婚行進曲』(2022)、『心の傷を癒すということ』(2020)、【舞台】『月とシネマ2023』(2023)、ミュージカル『マリー・キュリー』(2023)、A New Musical『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』(2023、2019)、ミュージカル『ヘアスプレー』(2022)、『海王星』(2021)、『ゴヤ-GOYA-』(2021)、『現代能楽集X『幸福論』~能「道成寺」「隅田川」より』(2020)、『サムシング・ロッテン!』(2018-2019)、『修羅天魔~髑髏城の七人Season極』(2018)、『新世界ロマンスオーケストラ』(2017)などがある。公式HPInstagramX

 

【清水くるみさん撮り下ろし写真】

 

“初めまして”で髙木雄也さんと手を繋いで見つめ合う撮影があってすごく恥ずかしかった

──今回、清水さんが出演する舞台「東京輪舞」は、オーストリアの劇作家アルトゥル・シュニッツラーが1900年に発行した『輪舞』を、東京の現代に翻案しています。情事前後の会話をリレー形式で描いた作品ですが、脚本を読んだときの印象はいかがでしたか。

 

清水 初めて台本を読んだときは、設定や構成がすごく面白いなと思いました。髙木雄也さんと私の2人で、様々な役を演じ分けるので、どう演じ分けるかが悩みどころでした。初めての本読みで、キャラクターごとに声を変えて演じてみたら、演出の杉原邦生さんに、「声よりも役のテンションを大事にして、ちゃんとその人の感情を理解してやってみて」と言われて。テクニックだけで演じ分けようとしていたのを見透かされてしまいました。

 

──前から二人芝居に興味があったとか。

 

清水 いつか挑戦してみたいと思っていたんですが、こんなにも早く機会をいただけるとは思っていなかったので、驚きました。しかも6役というハードさで、小悪魔的な少女から、今まで演じたことのない挑発的な女性まで、様々なキャラクターが出てきます。チャレンジすべき課題がたくさんありましたが、プレッシャーとともにワクワクも大きかったです。

 

──会話劇で、過激なセリフもたくさん出てきますが、どこか上品な印象です。

 

清水 頭の良い会話だなと思いましたし、こういう会話ができる人になりたいと思いました。“トウキョウのリアルとエロスを交差させた”と謳っているので、お客様はドキドキしながら観に来ると思いますが、性の部分に関しては、第一景から構えることなく観られるはずです。

 

──髙木さんの印象はいかがですか。

 

清水 世代的にドラマ「ごくせん」のイメージが強いので、怖い雰囲気なのかなと思っていたんですが、すごくフレンドリーな方で。積極的に話しかけてくださるので、稽古もしやすかったです。途中で役が入れ替わるパートがあるんですが、そのときに髙木さんの演じた役をまねしなきゃいけない。逆もしかりで、それまで私が作ってきた役を髙木さんがやる訳なので、相談しながら作り上げています。

 

──チラシの写真も、ティザーの映像も、お二人の姿がスタイリッシュでした。

 

清水 素敵ですよね。でも撮影中はすごく恥ずかしかったんです(笑)。髙木さんとは“初めまして”なのに、いきなり二人で手を繋いで、向かい合って見つめ合い、くるくると回るんですよ。「この時間は何だろう」と思いましたが、恥ずかしさに耐えたおかげで、素敵な仕上がりになってよかったです。

 

──公演で楽しみにしていることは何でしょうか。

 

清水 お客様の感想も楽しみですが、杉原さんの手がける演出と美術はいつも素敵なので、場面転換も含めて、すごく楽しみです。

 

朝ドラ『ブギウギ』の出演で2つの夢が同時に叶った

──この一年、舞台にドラマに大忙しですね。

 

清水 一年を通して振り返ると、そこまで忙しかった訳じゃないんですけど、確かに前半はスケジュール的にも駆け抜けていました。3~4月に「マリー・キュリー」、6月に「FACTORY GIRLS〜私が描く物語〜」と2つのミュージカルがあって、どちらの舞台も並行して朝ドラ『ブギウギ』の撮影がありましたから。

 

──どうやって気持ちを切り替えていたんですか。

 

清水  『ブギウギ』の撮影が大阪だったので、大阪に行く間の移動で切り替えることができて、ありがたい時間でした。

 

──昔から清水さんは朝ドラが大好きで、卒論も朝ドラがテーマだったそうですね。

 

清水 大学は社会学科だったんですけど、研究テーマは自分に寄り添ったものがいいなと考えたときに、朝ドラは社会と密接に関係しているなと思ったんです。社会や文化の変化とともに、朝ドラのヒロイン像もどんどん変わっているんです。

 

──例えばどんな変化があるのでしょうか。

 

清水 もともと朝ドラは男性を支えるヒロインを描いた作品が多かったんですが、たとえば2016年の「とと姉ちゃん」は、ヒロインが結婚しないんです。ちゃんと時代の流れを汲んでいるし、これを研究したら、社会学の卒論も面白そうだなと。大学内には朝ドラを研究している教授がいらっしゃって、その方の研究も参考にしつつ、この業界にいる私だからこその目線も入れて卒論を書きました。

 

──『ブギウギ』が朝ドラの第109作目ですから、膨大な作品量ですよね。

 

清水 仕事をしながら卒論を書いていたので大変でした。もう見返したくないとすら思いました(笑)。それに古い作品だと、簡単に資料も手に入らないので、『NHKウイークリーステラ』などをフリマサイトやアプリで買って。そのほかの文献もサイトや古本屋さんで探しまくって、資料を集めました。映像も見られるものは見ましたけど、昔の作品は残っていないので、資料に頼るしかないんです。

 

──卒論のために見た朝ドラでよかった作品を挙げるとすると何でしょうか。

 

清水 『カーネーション』(2011)です。『ブギウギ』は耳で聞いても面白くて分かりやすい、明るい「ザ・朝ドラ」みたいな作品ですけど、『カーネーション』はじっくり見たくなる作品で。最近で言うと、『らんまん』(2023)路線です。

 

──念願だった朝ドラ出演の夢が叶った訳ですが、実感としては長かったですか?

 

清水 決まったときは芸歴15年だったので、長かったですね。なぜか「若いとき、朝ドラに出てたでしょう」と言われることが多くて。まだ朝ドラ好きを公言する前から、そういうイメージがあったみたいで、ずいぶん悔しい思いもしました。やっぱり朝ドラって登竜門ですし、同じ世代の俳優にとっては、この仕事をしていたら絶対に年2回受けるオーディションなんです。だから目標にならざるを得ないというか。みんなが目指している場所なので、やっと決まったという気持ちでした。

 

──オーディションで朝ドラ好きのアピールはしていたんですか?

 

清水 オーディションのたびに大好きなことを伝えて、卒論のテーマも朝ドラだったとアピールしていました(笑)。今回、『ブギウギ』に合格して、先ほどお話した教授から7年ぶりに連絡があったんです。「ようやく出演が決まったんだね。いつか出ると思ってたよ」みたいなメールで、その内容に泣けちゃいました。

 

──清水さんは小さい頃にダンスを習っていて、宝塚歌劇団に憧れていた時期もあったから、梅丸少女歌劇団(USK)のトップスター・リリー白川という役柄も感慨深かったのではないでしょうか。

 

清水 『ブギウギ』のオーディション要項が発表されたときに、「絶対この作品に出たい!」と思いましたし、2つの夢が同時に叶うみたいな気持ちでした。

 

──『ブギウギ』に出演した反響はいかがでしたか。

 

清水 やっぱり大きかったですし、朝ドラのおかげで地元・大府市の広報大使に就任しました。同級生で地元の市役所に勤めている子がいるんですけど、ずっと「くるみが広報大使になれるように私も頑張るから」と言ってくれていたんです。それが『ブギウギ』の出演が決まった瞬間、お話があって、朝ドラの影響力ってすごいなと改めて思いました。

 

──昨年は『親友は悪女』で連続ドラマ初主演を果たし、山谷花純さんと共にダブル主演を務めました。

 

清水 『親友は悪女』の撮影期間は約1か月だったんですが、あっという間で、ずっと走っているような感覚でした。やっぱり主演っていいなと思ったのは、ずっと現場にいれることです。例えば主人公の友達役とかだと、そこまで現場にいる時間が長くないので、なかなかスタッフさんの名前まで覚えられないんです。でも『親友は悪女』は、ずっと現場にいたので、めちゃくちゃスタッフさんとも仲良くなれて、すごく楽しかったですね。真ん中に立つのは大変なことだけど、こういうよさもあるんだなと思いました。

 

「マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~」のIUは素晴らしい!

──趣味のお話もお伺いしたいんですが、清水さんは韓国ドラマと韓国の音楽が好きだそうですね。

 

清水 音楽はK-POPというよりも、ロック系が好きで。最近はBIG Naughty(ビッグナティ)というアーティストにハマっています。あとは韓国の音楽番組で『ファンタスティック・デュオ~スターとデュエット~』も大好きで、永遠に見ていられます。例えばIUが出演する回だと、まずIUの曲を5人ぐらいの一般の方が歌って。その中からIUが一番うまかった方を選んで、その後、2人でデュエットをするんです。この番組に出る一般の方は本当に歌が上手で、時には本家よりもうまいんじゃないかというときもあります。初めて見たときは号泣しちゃって、うまい方の歌を聴くと涙が出るんだという気づきがありました。

 

──そういえばIUは今月来日公演を開催しますね。

 

清水 IUは歌手としても好きですけど、先日観た『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』の演技が素晴らしくて、IUにしかできない役柄だなと思いました。

 

──昨年末に亡くなったイ・ソンギュンが主人公のドラマですね。

 

清水 その追悼もあって見たんです。『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』は、いろんな人から勧められるので、何度か見たんですけど、いつも2話ぐらいで、あんまり話が進まないなと思って見るのをやめちゃっていたんです。ただお正月で時間もあったので見てみたら、嗚咽するほど泣きました。

 

──韓国ドラマにハマったのは、いつ頃なんですか。

 

清水 大学卒業してすぐぐらい。『修羅天魔〜髑髏城の七人Season極』(2018)という舞台に出演していたとき、同じ楽屋だった保坂エマさんが韓国ドラマをお好きで。私も海外ドラマは好きだったので、「おすすめのドラマはありますか?」と聞いたら、「韓国ドラマなんだけど、『トッケビ』がおすすめだよ。ちょうど日本でやっているからテレビで見て」と言われて。それまで韓ドラを見たことなかったので、試しに見たらハマって。最初はながら見をしていたんですけど、最後のほうは面白すぎてテレビにかじりついていました。それからずっと韓国ドラマが好きです。

 

──幾つかお勧めの韓国ドラマを教えてください。

 

清水 一番好きなのが『応答せよ』シリーズで、3シリーズは全部見ているんですが、演出したシン・ウォンホ監督の作品はどれも好きで。『刑務所のルールブック』(2017)や『賢い医師生活』(2020-2021)もおすすめです。最近よかったのは『誘拐の日』(2023)で、今ハマっているのは『私の夫と結婚して』(2024)です。どちらもAmazonプライムで配信されているんですが、韓国ドラマはアマプラが熱いんですよ!

 

丁寧な暮らしをすると心も体も安定する

──最近買ったものでお気に入りのものをお聞かせください。

 

清水 家を森みたいにしたくて、観葉植物を大量に買いました。前からちょいちょい植物は置いていたんですけど、断捨離でいろんなものを捨てたり、部屋の配置を変えたりしたら、いっぱい観葉植物が置けるかもとなって、大きいのを3つ、ちっちゃいのを2つ買いました。

 

──花もお好きですか?

 

清水 大好きです。クランクアップでもらった花も、ちゃんと活けて、枯れてきたらドライフラワーにすることもあります。お花をもらうのも好きだし、自宅に友達が遊びに来るときは、自分でお花を買って飾ったりもします。そういえば面白そうだからベランダでひょうたんを育てたことがあったんですが、うまくいかなかったです。

 

──観葉植物があると生活も潤いますか。

 

清水 そうですね。朝、水やりをする時間も楽しいですし、成長過程を見るのも好きだし。だから地方公演があるときは、すごく心配になります。お正月に帰省したときも、観葉植物のことが心配でした。

 

──お部屋も綺麗そうですね。

 

清水 綺麗好きだと思います。そもそも洗濯、掃除、ご飯を作るなど、家事が大好きなんですよ。日頃から丁寧な暮らしをしたいと思っていますし、思い切って炊飯器を捨てて、ご飯は土鍋で炊いています。

 

──土鍋って大変そうですけど、意外と簡単って言いますよね。

 

清水 そうなんですよ。あまり炊飯器の手間と変わらない。炊飯器のよさは寝ている間に炊けるぐらいですかね。土鍋も朝起きて仕込めば、おかずを作っていたら炊けていますからね。土鍋で炊いたご飯は冷凍してもおいしいです。

 

──米の銘柄にもこだわりはあるんですか。

 

清水 そこまでこだわりはないんですが、「青天の霹靂」を買ってます。

 

──最近作った料理はどんなものがありますか。

 

清水 年末年始が寒かったので、よくユッケジャンスープを作っていました。あとは豚汁です。うちの実家で祖母から伝わる豚汁は、世間で言う粕汁に近くて、酒粕が入っているんです。実家に帰ると、いつも母親が張り切って凝った料理を作るので、それに刺激されて作りたくなるんですよね。だから母親にレシピを聞いて作ることも多いです。

 

──料理をするときは、集中するほうですか。

 

清水 セリフを覚えるときに作ることが多いですね。セリフって動きながら言うことが多いですし、何かをしながらだと、脳みそを2つ働かさなきゃいけないから覚えるのも早いんですよ。ある程度、台本を読んで覚えたら、相手のセリフを録音して、料理をしながらブツブツ言ってます。

 

──丁寧な暮らしが仕事に反映される部分もありますか。

 

清水 もともとタフなほうですけど、より心も体も安定しますね。最近は家にいる時間が本当に多くて、友達とご飯を食べに行くこともありますが、私の家に来てもらってご飯を食べることも多くて。そうすると落ち着くし、内緒話もできるしで良いこと尽くしなんです(笑)。

 

 

PARCO PRODUCE 2024
『東京輪舞(トウキョウロンド)』

●東京公演
会場:PARCO劇場(渋谷PARCO 8F)
日時:2024年3月10日(日) 〜2024年3月28日(木)

●福岡公演
会場:久留米シティプラザ ザ・グランドホール
日時:2024年4月5日(金) 〜2024年4月6日(土)

●大阪公演
会場:森ノ宮ピロティホール
日時:2024年4月12日(金) 〜2024年4月15日(月)

●広島公演
会場:広島上野学園ホール
日時:2024年4月19日(金)13:30開演、18:00開演

原作:アルトゥル・シュニッツラー
作:山本卓卓
演出・美術:杉原邦生
出演:髙木雄也 清水くるみ

 

公式サイト:https://stage.parco.jp/program/tokyoronde
公式Instagram:https://www.instagram.com/i_ai_movie_2024/
公式X:https://twitter.com/iai_2024

 

 

撮影/友野 雄 取材・文/猪口貴裕 ヘアメイク/夏子(アッパークラスト)

TikToker マツダ家の日常・関ミナティ・後編「日本だけでは興奮できない体になってしまった」動画作りの背景にあった、少年時代の1人遊び

日本のTikTokerの中でもいち早く世界に轟いたクリエイターといえば、マツダ家の日常にほかならない。メンバーの関ミナティさんが試行錯誤の末にたどり着いた、ブルーオーシャンで見た、絶景とは。さらに、動画制作の根源でもあるといえる、知られざる少年時代の“一人だけの遊び”を明かしてくれた。

 

【関連記事】TikTokerマツダ家の日常・関ミナティインタビュー前編! 投稿1本目で金脈を掘り当てた彼らが気づいた「いい動画」「悪い動画」

 

(写真前列中央右)関ミナティ●せき・みなてぃ…2020年11月TikTokアカウント「マツダ家の日常」を開設すると、関暁夫の物まねで都市伝説風にコンビニ商品を紹介する動画が大バズリ。2021年、「TikTok流行語大賞2021」で「いやヤバいでしょ」のフレーズがチャレンジ部門を受賞。現在、ショート動画の合計再生回数が毎月約5億回再生を誇る。著書に「TikTokハック あなたの動画がバズり続ける50の法則」(KADOKAWA)がある。SNSコンサルティング「マツダ家コンサル」も行っている。写真は「M2DK/マツダ家の日常」より

 

マツダ家の日常 公式TikTok @matsudake

 

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すぐ海外に届くと思いきや「あれ? これもダメ?」

──至るところがブルーオーシャンといいますか、釣り糸を垂らせば必ず何かが釣れる状態のように見えますが、試行錯誤していた時期はなかったんでしょうか。

 

 ありましたよ。ラップ期の2021年頭ですね。ラップがバズって日本の多くの方に見てもらえたものの、興奮しきれない自分もいました。それは、世界に響かせることができなかったからです。

 

──その頃から海外を視野に入れていたんですね。

 

 はい、海外に届けたいと思いいろんな動画を撮りましたが、日本では再生されるものの海外ではまったくで……。で、自分たちでもおもしろいと思えてたどり着いたのが、非言語の「No edit動画」でした。スゴ技をマネする動画があるじゃないですか。僕らはそれを「編集なし」と謳って、めちゃくちゃ編集してスゴ技に見せるという動画シリーズで、それが初めて海外まで届き、ハマったんです。そこに至るまで、かなり試行錯誤しています。

 

──たしかに、ラップから「No edit」の合間にいろいろやっていらっしゃいますね。といっても、期間的には短いと思うんですが。

 

 いやいや、僕らの中ではめちゃくちゃ長かったんですよ。すぐに海外に届けられると思っていたのに、「あれ? コレもダメ?」みたいな感じで。

 

──「No edit」はどこからヒントを得たんですか?

 

 当時は、スゴ技をやるのが世界的なトレンドで、「スゴ技動画を流した後に、自分も挑戦して成功させる」という動画がすごく流行っていて。で、その次に「スゴ技動画を流した後に、自分も挑戦したけど、失敗する」という動画が流行りました。僕らは、この大きな2つの流れを掛け合わせて「スゴ技に失敗するけど、編集して成功したように見せる」。しかも、「編集していません」というタイトルで。

このシリーズの1本目を投稿したとき、日本の人はツッコんでくれると予想していました。「いや、編集してるじゃん!」と。それはそのとおりになった上、予想外なことに、海外の人も同じようにツッコんでくれたんです。英語やタイ語など、いろんな言語でツッコんでくれたり、「彼は一切編集してないな」とノッてくれる人もいたり、国を越えてコメント欄で遊んでくれていたんです。このコメント欄を見て、「あ、これはイケるな」と確信してシリーズ化しました。

 

──見事に海外まで届き、ちょっと有言実行すぎませんか?

 

 いやいや(笑)。楽しくやらせてもらっていただけです。

↑「No edit!!編集無し!!」M2DK/マツダ家の日常 (@matsudake) オフィシャルより/2021-10-20

 

中毒性の高い“バズり汁”を有効活用

──日本だけじゃ満足できない体になってしまったのは、なぜなんでしょう。やはり、一度でも“バズり”を体験したらそうなってしまうのでしょうか。

 

 まさにそうです。僕らがTikTokを始めた頃は、『ポケットからきゅんです!』という曲が日本でとんでもないバズり方をしていました。「みんなこれをやっていて、すごいなあ」と眺めていた場所に、自分たちが来てしまった。でも、そんなすごい場所から日本を眺めると、狭かったんです。世界の60億、70億という規模の場所でバズったらどうなるんだろう、と。目指したいと思いました。

 

──世界を見据えるスピード感が、TikTokならではですね。

 

 10年前に「海外で有名になる」のは、夢物語だったと思います。でも今は、誰でもすぐに有名になる可能性を秘めてる。見据えないのはもったいないと思います。僕たちのYouTube『M2DK.マツダ家の日常』は、1か月の再生回数が5億回とかなんですが、少し前だと「毎月5億再生」ってありえなかったと思います。でも今は違う、現実的な数字になったんです。

 

──5億……。“バズり”を知る前と知った後では、物の見え方や意識に変化はありますか?

 

 明確に変化はあります。バズると、“バズり汁”が頭から出るんですよ。

 

──バズり汁! 初めて聞くワードです(笑)。

 

 これはバズり経験がある“クリエイターあるある”だと思いますよ。バズると、本当にこれまで味わったことのない感覚というか……これまで刺激が入らなかった脳のある部分に、ドバッと刺激が入る感覚があるんですよ。それを“バズり汁”と呼んでいるんですけど。バズり汁が出ると、いろんなことが思いつくようになるんですよ。「こんな動画を撮ったらうまくいくんじゃないか」「こんな企画もできそうだ」と、次々と沸いてくる。そしてそれが、ことごとくうまくいく。

 

──バズり汁……すごい……。

 

 ただマイナス面もあります。とにかく中毒性が強く、「とにかくまたあのバズり汁を出したいッッ!」と思ってしまうんです。その点、僕らは自分たちのアカウントだけではなく、各クライアントさんのアカウントもやらせてもらっているので、淀みなく全てにフルパワーで頭を使うことができているし、どのアカウントがバズってもめっちゃうれしいんです。

 

──常にバズり汁が出っぱなしなんですね。

 

 今も出ています。

 

──出っぱなしで体に弊害はないんでしょうか。

 

 今のところないですねえ。いいことに使おうとすると疲れないですし。しんどくなることもあるんですよ。「マツダ家を最大化するためにどうすればいいか」という方向に頭を使おうとすると、ダメですね。途端に、「数字が落ちたらヤバい」という焦燥感に苛まされてしまうんです。今のように「誰かを支援できないか」「誰かをバズらせることはできないか」という考え方をすると、良質なパワーになるんです。これは3年前に気づきました。

↑開始2秒でチーズが美味しそうに映る M2DK/マツダ家の日常 (@matsudake) オフィシャルより/2022-5-14

 

映画「激突!」に感銘を受け、人形遊びを追求した少年期

──気付く前は、しんどくなった瞬間もあったんでしょうか。

 

「このままいくと、しんどくなりそうだな」と思ったときがあったんです。物理的に自分たちができることは限られているけど、「あれもしたい、これもしたい」という常に求め続ける欲求が肥大化して、さばききれなくなりフラストレーションが溜まりそうだな、と。

 

──それを今は、各クライアントに分散して注ぐことができるようになった。

 

 はい、そういうことができるなと、気付いたんです。

 

──考え方がフレキシブルですし、根っからクリエイター気質なのかなと感じました。学生時代から、「他の子どもと違うな」など感じたことはありましたか?

 

 それは自覚があったかもしれません。僕は幼少期から自分1人の部屋があり、子ども向けではない映画を1人で見たりしていました。

 

──例えばどんな映画ですか?

 

 覚えているのは、幼稚園の頃にスティーヴン・スピルバーグの「激突!」を見たこととか。

 

──主人公が乗る車が、謎のタンクローリーに追いかけ回される映画ですね。

 

 そうですそうです! 父親から「面白いから一緒に観よう」と誘われて見たのが、衝撃的に面白くて。それまで僕が見ていたアニメは、分かりやすい悪者と味方がいて、最後に悪者が「やられた~」と言うんですが、「激突!」は敵の顔が見えないんですよ。だから敵の顔を頭の中で想像するんです。自分が思い描く、最も怖いキャラクターとして想像して。そんなふうに自由度があることが革命的でした。「こんなに面白いものを作れる人がいるんだ!」と衝撃を受けたことを今でも覚えています。それから、映画や物語にハマるようになりました。

 

──当時からクリエイティブの素養があったんですね。

 

 いや、そんなにかっこいいものじゃないですよ。僕は部屋で、ずっと1人遊びをしていたんです。高校生くらいまで、マジで人形で遊んでいたんですよ。その人形遊びの題材探しのために映画を見ていたほどです。

 

──人形遊びというのは、ストップモーションを撮ったり、ということですか?

 

 いや、普通に、こうやって持って遊ぶだけです。

 

──普通に!

 

 頭の中にはストーリーが山ほどあり、部屋には数えきれいない種類のフィギュアがブワーーッと置いてあって。「このキャラとこのキャラを使うときは、こういうストーリーで」とか、それぞれに物語があるんですよ。それをその時々の気分でやったり、話を作ったりしていました。

↑M2DK/マツダ家の日常

 

TikTokがなかったら、3人でコテージを作っていた

──楽しすぎる放課後じゃないですか!

 

 ちゃんと声を出しながらやるし、自分で作った話で号泣したりとかもありました(笑)。

 

──最高ですね(笑)。お友だちやご兄弟を巻き込んだりはなかったんですか?

 

 そこはやっぱり恥ずかしいので、ずっと隠していました。

 

──親御さんは、部屋にフィギュアがたくさんあるのは、コレクション趣味だと思っていたんですかね。

 

 いや、あることすら知らなかったと思います。1つの隠しボックスに詰め込んで、クローゼットのめっちゃ奥に入れていたので。

 

──般的な年頃の男子は、セクシーグッズを隠すものですよね(笑)。

 

 僕は大量のフィギュアを隠していました(笑)。

 

──想像してストーリーを作ることが習慣化していたんですね。部活で、演劇部で脚本を書いたりなどはしなかったんですか。

 

 全然ないです。本当に1人の遊びでした。

 

──初期メンバーの2人は、そういった趣味嗜好を共有できる友人なんでしょうか。

 

 はっきり言ったことはないですが、「関はそういうのが得意なんやろうな」というのは知っています。

 

──今、そのバックボーンが動画制作で昇華していると考えると、TikTokがなかったらもったいないことになっていましたよね。

 

 TikTokがなかったら……それを想像すると、僕たち3人はキャンプやコテージ宿泊にハマっていたので、コテージ作りに振り切っていたんだろうなと思います。

 

──コテージ作りというのは、DIYということですか?

 

 いえ、仕組みづくり、ですかね。「こういうコテージがあったら泊まりたい」というコテージを作り、それを全国、世界に展開させるにはどうすればいいのか、という事業をやっていたと思います。

 

──「多くの人に楽しんでもらいたい」という根底は、今と同じですね。

 

 そうなんです。楽しんでもらいたいし、自分たちも楽しみたい。常にそれが一番です。

 

──そんな初期メンバー3人から、今は「マツダ家」のメンバーは何人いらっしゃいますか?

 

 40人ほどですね(※2023年取材当時)

 

──志同じ仲間が集まったんですね。

 

 振り切ったことをやっているからこそ、振り切っている人たちが集まってくれました。

 

──皆さんの動画作りには、プロ意識が働いているように思います。プロとしてのこだわりはどういったところにありますか?

 

 動画を作る瞬間だけ頑張っても意味がないと思っていまして、動画のこと、広告のこと、クリエイターたちが発展していくにはどうしたらいいのか……ということを常に生活の中心に置いていられるかどうかが、プロ意識なのかなと思います。

↑GoogleのPR動画は初期のコンビニグルメ紹介を踏襲し、ファンから「懐かしい!」の声も M2DK/マツダ家の日常 (@matsudake) オフィシャルより/2023-4-7

 

TikTok広告代理店のパイオニアに

──最後にお聞きしたいのですが、今後、Tik Tokはどうなっていくと思いますか?

 

 これからも広がり続けていくだろうし「TikTokで稼いでいます」という人がめっちゃ増えるだろうなと思います。今はまだそこまでできている人は少ないですが、TikTokはビジネスの可能性が無限にあります。僕たちの会社も、そんなクリエイターさんのお手伝いをさせてもらえたらと思っています。

 

──マツダ家さんのコンサル業もさらに需要が高まりそうです。

 

 昨年から大きな変化を実感したんですが、ナショナルクライアントと直接仕事をするようになりました。これは少し前のTikTokではなかったことらしくて。僕らがお手伝いすることで目に見えた成果があり、大きな企業と直接やらせてもらえる機会が増えました。

 

──コンサル業も、始めてすぐに軌道に乗ったんですか?

 

 そうですね。最初は仕事にするつもりも全くなく、タダでやっていたんですよ。「なんか詳しいって聞いたんですけど、僕のアカウントってどうすればいいですか?」という相談にアドバイスをしたりとか。そうしたら「めっちゃ伸びました!」という報告をいただき。そういったことが続き、「これ、仕事にしたほうがいいんじゃないか?」と。でもその時点では、企業と一緒にやることは想像していなかったです。TikTokでコンサルができる人たちは、世界中探してもあまりいないと思います。

 

──パイオニア的存在ですよね。

 

 で、昨年から「TikTokで広告」の流れがきて。その頃から僕らがやっているのが、「このクリエイターさんで、こういったPR動画を作る」という業務で。

 

──まさに広告代理店の仕事ですね。

 

 そうです。そのクリエイターさんが普段投稿している動画よりも、僕らが一緒にやったPR動画のほうが伸びがいいというケースがめちゃくちゃ出てきている状態なので、今後もっと広がっていくと思います。

 

──もちろんその次の展開も考えていらっしゃって。

 

 もちろんです。次はクリエイターさんの支援ですね。TikTokのクリエイターさんはマネタイズが難しいので、「マツダ家と組むことによって新しいビジネスができる」という展望をお見せできればと思います。

 

 

マツダ家の日常 公式TikTok @matsudake

 

撮影/佐賀章広 取材・文/有山千春 構成/BuzzTok NEWS Buzz Tok NEWS公式HP https://buzz-tok.com/

TikTokerマツダ家の日常・関ミナティインタビュー前編! 投稿1本目で金脈を掘り当てた彼らが気づいた「いい動画」「悪い動画」

フォロワー数620万人超を誇る日本のトップTikTokerマツダ家の日常。始まりは、Mr.都市伝説こと芸人の関暁夫さんの語り口をオマージュし、コンビニグルメを紹介する「ロスチャイルドファミリーマート」だった。秒でバズった彼らだが、納得せずにはいられないロジカルな戦略があったのだ。メンバーの関ミナティさんにインタビューを敢行した。

 

関ミナティ●せき・みなてぃ…2020年11月TikTokアカウント「マツダ家の日常」を開設すると、関暁夫の物まねで都市伝説風にコンビニ商品を紹介する動画が大バズリ。2021年、「TikTok流行語大賞2021」で「いやヤバいでしょ」のフレーズがチャレンジ部門を受賞。現在、ショート動画の合計再生回数が毎月約5億回再生を誇る。著書に「TikTokハック あなたの動画がバズり続ける50の法則」(KADOKAWA)がある。SNSコンサルティング「マツダ家コンサル」も行っている。

マツダ家の日常 公式TikTok @matsudake

 

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お風呂で1度練習した程度の物まねで、大バズリ!

──Tik Tokを始めたきっかけは、お友達同士の“ノリ”だったと聞きました。

 

 はい、親友3人でキャンプに行ったとき、僕が酔った勢いでMr.都市伝説 関暁夫さんの物まねをすると、1人が「面白いからTikTokに投稿したい!」と言い出したのが始まりでした。

 

──もともと関暁夫さんの物まねが得意だったんですか?

 

 いえ、前日に関さんの都市伝説の番組を見て、1人でふざけて風呂場で練習した程度なんです(笑)。それでキャンプの日、暖炉のあるコテージに泊まって、1人が暖炉に火をつけようとしていたら、湿っていてなかなかつかなくて。最初は「頑張れー」なんて応援していたんですが、だんだん暇になってきたので、僕が関暁夫さんの物まねをしながらその状況を解説し始めまして。

「いい? これは何者かの力によって火をつけさせてもらえないってこと。前の『ヤリすぎ都市伝説』でも言ったでしょ?」

みたいなことをずっと言っていたんですよ。そしたら深夜ノリもあって2人が死ぬほど笑ってくれて、僕は調子に乗って2時間くらいずっとやっていて。

 

──思った以上に軽い感じで始めたんですね。

 

 そうなんですよ。そのときに思ったのが、この日がめちゃくちゃ楽しくて、「3人でもこんなに楽しいんだから、100人でこの楽しさが共有できたらどれほど楽しいだろう」ということ。TikTokで発信することで楽しむ仲間ができたら面白いなと。

 

──それで初投稿されたのが、2020年11月27日、ファミリーマートの「紅茶の生チーズケーキ」を、関暁夫さん風にレポートする「ロスチャイルドファミリーマートシリーズ」の第一弾でした。当初からシリーズ化を見据えていたんですか?

 

 そこまで深く考えていませんでしたが、「もしこれがバズったら、コンビニの商品は新しいものがどんどん出るし、シリーズとして続けられるな」とは思いながら投稿しましたね。

 

──当初から戦略手的な思考がうかがえますが、ユーザーとしてもTik Tokをそういった目でご覧になっていたんですか?

 

 TikTokをやる前は、「これは面白いな。これはあんまり面白くないな。なんでだろう」程度に見ていましたが、投稿する側になってからは「これはなぜバズっているのか」「なぜバズっていないのか」ということを徐々に言語化できるようになっていきました。

 

いいグルメ動画=「次の日に行けるお店」

──マツダ家さんは1本目からバズり、ロスチャイルドファミリーマートシリーズが定着すると1か月も経たぬうちにフォロワー数が10万人を突破しました。その理由も分かっていたんでしょうか。

 

 そうですね、その当初から僕の中で仮説を立てていて、ラッキーなことにそれがハマったんだなと思いました。

 

──仮説?

 

 1本目を投稿する前、「ごはんを食べに行く動画がすごい流れてくるなあ。再生数もいいね数もすごいし」と思ってTikTokを見ていました。じゃあ、都市伝説風にグルメを紹介する動画はどうだろうと考え、でもそれだけでは自信がなくて。まずは自分の中で、“いいグルメ動画”を定義する必要があると思いました。そこで至ったのが、“いいグルメ動画”=「身近にあり、次の日にすぐ食べに行けるお店をレポートする」ではないかと。全国の人たちが等しく「次の日にすぐ食べに行けるお店」はつまり、コンビニですよね。そうやって、「コンビニ商品を都市伝説風に紹介する」にたどり着いたんです。

 

──すでにロジックを考えていた上で制作していたんですね。“グルメ動画”といいつつ、食べないし味をレポートするわけではないという振り切り方も、ほかの動画との差別化だったんでしょうか。

 

 あ、それは、僕が一切顔出しをしたくなかったから食べなかったんです。食べると顔が映っちゃうじゃないですか。そういえばそうだった、食べなかった理由、今思い出しました(笑)。

↑初めての顔出しの瞬間「Mr.都市伝説 関ミナティでカレーの惑星紹介」M2DK/マツダ家の日常 (@matsudake) オフィシャルより/2020-12-18

 

──顔出しNGだったんですね! 初の顔出しは、関暁夫さんを彷彿させる黒スーツとセンターパートにサングラス姿で登場した、12月18日でした。この頃はもう、TikTokに本腰を入れていらっしゃったということなんですか。

 

 そうですね。初期メンバーの3人とも自営業で、すでにTikTokに全振りしていました。

 

──全員が同じタイミングでTikTok1本に絞ることは、勇気がいることではなかったですか?

 

 いえ、逆に、ほかの業務もしながらTikTokに微力しか注げないことのほうが、僕らにとっては恐怖でした。1本目で”バズる”という体験をしたとき、「3人で地面を掘っていたら急に金がバーーッと出てきて『やべえ! すげえ!』となったけど、ふと周りを見ると、みんなは気づかずスルーしている」という感覚を覚えたんです。みんなは気づかないけど、ここをもっとちゃんと掘ったら、もっとすごいことになるんじゃないか、と。

↑初期メンバーはザッカーバーグとイーロンでおなじみ M2DK/マツダ家の日常 (@matsudake) オフィシャルより/2021-1-7

 

勝因は、1日20時間TikTok漬け

──嗅覚がすごいですね。

 

 単純に興奮していたし楽しいから「ここに全振りしよう!」となったんです。「儲かりそうだからやろう」ではなかったですね。マネタイズを意識したら絶対に縮小してしまうだろうなということは、感覚としてわかっていたので。なので、儲けを優先せず、「自分たちのチームをいかに最大化できるか」ということを目標にやっていくようになりました。

 

──全振りを考えたのはいつ頃ですか?

 

 2、3本目を投稿した頃ですね。

 

──早い!

 

 3人で言葉にしたわけではなく、自然と「こっちやな」と暗黙の了解でしたね。

 

──2021年になると、完全に顔出ししてラップ動画を投稿するようになりましたが、これも流行りを察知してですか?

 

 そうですね。当時は「ロスチャイルドファミリーマートを、やればバズる」というのは分かってきて、正直飽きてもいました。「これをずっとやっていてもなあ」と。それで、なにか違うシリーズをやってみようと探ると、そのときはかっこいいラップを巧みに披露するブームだったんです。で、都市伝説をかけ合わせてちょっとふざけたラップをやってみたらどうだろうと思い投稿すると、バズってくれました。

 

──すごく気軽に「バズった」とおっしゃいますが、普通ではありえないことだと思うんですよね。出す動画がすべてバズるなんて。なにがほかのTikTokerとの違いなんでしょうか。

↑「Mr.都市伝説 関ミナティでラップ」M2DK/マツダ家の日常 (@matsudake) オフィシャルより/2021-1-5

 

 TikTokについて考える量と時間が違うと思います。当時は、僕らのほかにTikTokのことを1日20時間考えている人なんていなかったんですよ。特別才能があるというわけではなく、それだけ時間と労力をかければ誰でもそうなると思います。

もし才能があるとすれば、そこにいかにハマれるか、ということでしょうか。僕らは文字通り、寝る時間以外はずっとTikTokを触っている状態で、そんな生活に慣れることができたのが勝因だったのかもしれません。そのときほかにも同じような人がいれば、同じような結果が出ていたと思いますよ。

 

──力の注ぎ方が、ほかのTikTokerとは違ったと。「ずっとTikTokを触っている」とはいえ、普通は皆さん流し見していると思いますが、マツダ家さんはどんなポイントを見ていらっしゃるんですか?

 

 初期の頃は、「面白いのに、なんでこの動画はバズっていないんだろう」とか、逆に「僕は面白いとは思えないけど、なんでバズっているんだろう」という疑問がどんどん沸いてきました。それに対して、1つひとつ仮説を立てて検証していくような見方をしていましたね。「これがバズらないのは、面白くなるのが10秒以降だから、最初に興味を引けずに飛ばされてしまうんだろうな」とか。

 

最初の2秒で、バズが決まる

──すごく細かく見ていらっしゃるんですね。

 

 あとはコメント欄もチェックします。自分の感覚とTikTokの中の空気の感覚とが、ズレていないかが分かるんですよね。例えば、「こういうコメントが多いだろう」と思って開くと、全然違うコメントが多かった場合、「自分の感覚がズレているな、チューニングを合わせないとな」と意識できます。僕らの動画の根底には「見た人をがっかりさせたくない」というポリシーがあるんです。無料とはいえ、視聴者からは時間をもらっている。だから「今回はあんまり面白くなかったな」とは思わせたくないんです。

 

──コンテンツを提供する側が常に直面する葛藤といいますか、「自分が面白いと思う」ものと「見る人が面白いと思う」かをすり合わせるのは、とても難しいことだと思います。

 

 僕らの場合は「自分たちが楽しいこと、うれしいこと」=「多くの人に喜んでもらえること」なんです。たとえ「僕らはこれがおもしろいと思う!」というものがあったとしても、それが多くの人におもしろいと思えなかったら、結果、僕はそれが楽しいとは思えないんです。そうやって需要と供給が重なったことは、ラッキーだと思いますね。

↑『X-ファイル』のテーマ曲をバックに、都市伝説風ワードを散りばめスイーツを紹介「Mr.都市伝説 関がコンビニスイーツ紹介」M2DK/マツダ家の日常 (@matsudake) オフィシャルより/2020-11-27

 

──さきほど「最初の10秒」とおっしゃったように、すごくシビアな時間感覚が必要とされるんですね。

 

 例えば、僕らの最近の動画を例にあげると、“最初の2秒”が、食べ物を食べるシーンです。複雑な説明一切なしに、
・おいしそうな食べ物がある
・それを口に運ぶ
これが“最初の2秒”のツカミなんですが、この“最初の2秒”で、多くの人に受け入れられるか否かが決まってしまうんです。

 

──たしかに分かりやすいですね。

 逆に、例えばツカミで「今東京で大変なことが起こっているんです」というセリフを言うとします。そうすると、この言葉を理解できる人以外は離脱します。興味があって、しっかり聞いてくれる人にしか見てもらえない。どんどん狭くなっていくんです。“最初の2秒”が、「今、東京で大変なことが起こっているんです」VS「おいしそうな食べ物を食べる」だとしたら、後者が圧勝するんですよね。……という感じで、動画を作る前に案を対戦させているんです。

 

──さまざまな案を上げて、精査して、勝ち残った「より多くの人の興味を引く」動画を制作していると。

 

 さらにその食べ物も戦わせます。
「そば」
VS
「チーズの乗った食べ物」
ならば、チーズが強いよなとか。

 

──企画会議すら面白そうですね。

 

 僕らは今、さまざまな企業のTikTokアカウント運用をサポートする「マツダ家コンサル」というコンサル業をしていますが、たくさんのクライアントさんと企画会議をしていて、すごく楽しんでやっています。

 

──コンサルは、戦略から企画、リサーチ、そして撮影から編集まで、一手に引き受けていらっしゃるんですよね。

 

 例えば、マツダ家の動画制作中、「これ、A社さんの動画のほうが合うんじゃないか?」となったり、A社の動画を作っているときに「これはA社では無理だけど、B社さんだったらできるな」とか。企画を考えれば考えるほど、どこかで使えるという状況です。

 

──もう余すところがないですね。

 

 そうですね。クライアントさんが増えれば増えるほど、企画の精度が上がっている状態です。やっぱり、本気でアカウントを運用しないと、見えてこないものはあるんだなと思います。

 

<後編に続く>
TikToker マツダ家の日常・関ミナティ・後編「日本だけでは興奮できない体になってしまった」動画作りの背景にあった、少年時代の1人遊び

 

マツダ家の日常 公式TikTok @matsudake

 

撮影/佐賀章広 取材・文/有山千春 構成/BuzzTok NEWS Buzz Tok NEWS公式HP https://buzz-tok.com/

岡本信彦&久野美咲「タンクは最強だし、かわいくてエース級に強い子ばかり。最高のパーティーだなって思います」アニメ『最強タンクの迷宮攻略〜』

これまであまりRPGの世界で注目を集めることのなかった《タンク》のスキル。仲間たちを守ることに特化したこのスキルを軸に、計り知れない力を持つ主人公・ルードと仲間たちの冒険譚を描いたアニメ『最強タンクの迷宮攻略〜体⼒9999のレアスキル持ちタンク、勇者パーティーを追放される〜』が絶賛放送中。現在は物語も中盤に入り、さらなる仲間マリウスとアモンも加わって、より賑やかで強固なパーティーとなった。そこで2人の魅力に迫るべく、キャラクターを演じる岡本信彦さんと久野美咲さんにご登場いただき、作品への思いをたっぷりとうかがった。

 

【岡本信彦さん&久野美咲さん撮り下ろし写真】

 

強敵として登場した2人。それが今では……

──《タンク》を主人公にした作品ということで、原作も以前から大きな話題を集めていました。お2人が最初にこの作品に触れた時はどのような印象を持たれましたか?

 

岡本 RPGのゲームが好きな方にとっては、タンクってものすごく重要な役割を担っている存在なんです。いわゆる敵からの攻撃を受ける“盾”ですから。ただ、それだけに地味な印象があり、物語の主人公にするには映えそうにないポジションでもあるんですよね。にもかかわらず、この作品では非常に魅力的に映し出しているなと感じました。また、物語の冒頭で、主人公がいきなりパーティーをクビになるのも面白くて。こうした“追放モノ”というのはポピュラーな設定ではあるんですが、本来なら卑屈になりそうな主人公をここまでかっこよく描いているのがほかにはない部分ですし、見終わったあとに気持ちが前向きになれるところにも新鮮さを感じました。

 

久野 私はタンクという言葉の意味が最初はわからなかったんです。なので、作品のタイトルを見た時も“最強タンクって何だろう……!?”と思って(笑)。

 

岡本 そうか。そうだよね。知らない人にとってはタンク=戦車と思う人もいるだろうし。

 

久野 私は桶や樽を連想してしまって。タンクボトルとか、そっちのほうを(笑)。

 

岡本 面白い!(笑) それはそれで斬新な物語が作れそうだけどね。桶を使って、いかに主人公が迷宮を攻略していくか。……ごめん、自分で言いながら、全然想像つかなかった(苦笑)。

岡本信彦●おかもと・のぶひこ…10月24日生まれ、東京都出身。2006年に声優デビュー。代表作に『葬送のフリーレン』ヒンメル役、『鬼滅の刃』不死川玄弥役、『僕のヒーローアカデミア』爆豪勝己役、『ハイキュー!!』西谷夕役など。2012年よりKiramuneレーベルで音楽活動も行っている。公式HPXInstagram

 

久野 (笑)。でも、原作を読んで、タンクの意味がちゃんとわかりました(笑)。お話を読み進めると、登場するキャラクターがみんな素敵だなって思いました。回を増すごとに主人公のルードとの関係性も深まっていきますし、心がほっこりするシーンがたくさんあって、元気をもらえる作品だなって。

 

岡本 温泉シーンもあるしね。

 

久野 そうですね(笑)。身も心もほっこりするのは間違いないです!

 

──(笑)。お2人が演じるマリウスとアモンは物語の途中からルードたちの仲間となります。しかも、その加わり方が斬新でした。

 

岡本 そうなんですよね。マリウスはルードたちが攻略しようと訪れたアバンシア迷宮の守護者であり、その迷宮のボス的な存在でした。戦闘が大好きで、バトルシーンでは声を荒げたり、変身もする獰猛さを兼ね備えていて。

 

久野 アモンもケイルド迷宮の守護者としてルードたちと戦うところからスタートでした。そんな2人が戦いののちにパーティーに入るんです。ルードやその仲間たちの人柄や、パーティーの空気感の良さに惹かれたのもあるんでしょうね。

 

──パーティーに加わってからは、マリウスもアモンも醸し出す雰囲気が変わっていきますよね。

 

岡本 はい。マリウスは見た目もイケメンでかっこいい要素が満載なんです。でも、どんどんとかわいらしいキャラへと変わっちゃって(笑)。温泉のエピソードではデフォルト顔までさらけ出していますし、どんどん愛すべきキャラになってきています。

 

久野 マリウスはどんどん表情が豊かになっていきますよね。アモンに関しては原作を読んだ時、スラッとした容姿で大人の女性という印象で、荘厳で怖い表情をお芝居でも表現できたらと思っていました。アフレコでは「余裕のある感じで演じてください」というディレクションがあったので、ルードたちを上から見下ろすような雰囲気で演じました。

 

岡本 それが今や……という感じだよね(笑)。

 

久野 ほんとですね(笑)。仲間になってからはコミカルなお芝居がどんどん増えていって。「怖さを忘れてかわいさを出してほしい」というディレクションもいただきました。アモンはルードに甘えたり、仲間にいじられてすねたり、お菓子をもらって喜んだりと、いろんな表情があってどれもが魅力的なので、演じていてとても楽しいです。

 

チート級で、未知の力も秘め、愛されキャラ。ルードはちょっとズルい(笑)

──個性あふれる仲間が集まっていますが、お2人から見てこのパーティーの魅力はどんなところだと思いますか?

 

岡本 バランスがいいですよね。ルードの強さはもちろんですが、実はどのパーティーでもエース級の人たちが集まっているんです。それに、僕の中でタンクの役割って、ゲームの世界では敵からのダメージを一手に引き受けつつ、それを仲間のヒーラーに回復してもらうというイメージなんです。でも、ルードはそのダメージすら返せる。ちょっとズルすぎる(笑)。しかも、それだけでもチート級なのに、まだ何かしら未知の力を持ってそうで。本当に最強のパーティーだなと思います。

 

久野 ルードはパーティーのみんなを引っ張ってくれます。戦闘能力が高いだけでなく、性格も素敵だなって思います。パーティーの仲間であるニンやルナ、リリア、それにリリィたちはそれぞれ不安なことや心配事を抱えながら頑張っていて。そうした一面をルードは理解し、相手の気持ちを考えて行動して、優しく寄り添ったり、楽しい時間を一緒に過ごそうとしてくれるんです。そんな彼だからこそ、みんな信頼してついていきたいと思うんでしょうし、パーティーの絆を強固なものにしている気がします。

久野美咲●くの・みさき…1月19日生まれ、東京都出身。舞台でのキャリアを積み、2003年に声優デビュー。代表作に『アイドルマスター シンデレラガールズ』市原仁奈役、『リコリス・リコイル』クルミ役、『戦姫絶唱シンフォギア』エルフナイン役、『七つの大罪』ホーク役など。公式HPX

 

──ルードは敵味方関係なく、真っすぐに相手の心に寄り添い、裏表のない言葉を投げかけるのが素敵ですよね。

 

久野 そうなんです。正義感のある言葉って、ときにはきつく聞こえることがあるかもしれませんが、ルードはまず相手のことを尊重して思い遣ったうえで、自分の言葉を素直に真っすぐ届けることができるんです。見習いたいなって思いますね。

 

──ちなみに、ご自身の役以外で特に気になるキャラクターを挙げていただくと?

 

岡本 個人的にすごくかわいいなと思うのはルナですね。人間とは少し違う種族という要素もありますし、そうした彼女の背景をルードが支えているところにも魅力を感じます。それと、マニシアも。もともとルードはマニシアのために頑張っているところがありますから。あとはやはり、そのルード本人も。キャラデザだけでいえば、正直、ルードよりもマリウスのほうがかっこいいと思うんです(笑)。でも、ルードのほうが女性キャラたちにモテる。これは世の男性陣にとって勇気になりますよね。“男は中身だぞ!”って(笑)。

 

久野 女の子たちはみんなかわいいですよね。原作を読んでいる時からみんなのことが大好きだったんですが、アニメになってより一層、魅力的に感じたのがマニシアです。(小倉)唯ちゃんのお芝居も相まってすっごくかわいい! ほんとにかわいい!!ルードがメロメロになっちゃうのも納得です(笑)。アモンもマニシアからお菓子をもらうシーンがあって、私自身もニヤニヤしちゃいましたね。

 

深夜のゲームはアラームをかけて寝落ちのパターン(笑)

──今作にはさまざまなスキルを持ったキャラクターたちが登場しますが、もし自分がパーティーを組むとして、仲間に“これだけは持っていてほしい!”と思うスキルはありますか?

 

岡本 ザオリクですね!(即答)

 

久野 即答ですね!(笑) その“ザオリク”というのは……?

 

岡本 いわゆる蘇生系の力で、戦闘不能になった仲間を復活させるスキル。これさえあれば、強大な敵と戦ったとしても、痛みはあるだろうけど、なんとか生きていけると思うので(笑)。

 

久野 なるほど。それは戦闘において大事なスキルですね。私が仲間にいてほしいのは……強い人(笑)。それだけでいいです。アモンみたいな強い子がいたら安心ですね。ちなみに、岡本さん自身はどんなスキルを持ちたいですか?

 

岡本 僕はずっと一貫していて魔法使い。夢が詰まっていますから(笑)。久野ちゃんは?

 

久野 私はきっと何もできないと思うので、みんなの邪魔にならないように、ずっと後ろの方にいたいと思います(笑)。

 

岡本 ということは、マスターだね。

 

久野 マスター? それはどういうポジションなんですか?

 

岡本 みんなに「いけ!」って指示を出す人。

 

久野 いいですね!(笑) あ、でも、戦略を立てられる自信もないし、状況が刻一刻と変わっていく中で適切な指示を出せない気もするので、やっぱり仲間に迷惑をかけちゃうかも(苦笑)。

 

──(笑)。久野さんは普段、ゲームはされるんですか?

 

久野 時々やりますね。ちょっと前だとスイカゲームにはまってましたし、パズル系も好きですね。

 

岡本 そっちのジャンルが好きなんだね。ということは、バトル系やRPGとかはあまりしてこなかったんだ?

 

久野 RPGだと「ドラゴンクエスト」はプレーしたことがあります。あと、「マリオ」シリーズや「星のカービィ」とか。あれはアクションゲームになるんですか?

 

岡本 そうだね!

 

久野 かわいいし面白いですよね。「星のカービィ」は初めて遊んだゲームかもしれないです。「ドラゴンクエスト」だと、トルネコが出ていたのも持ってました。トルネコ、お気に入りだったんです(笑)。

 

岡本 トルネコが登場するシリーズというと「IV」だね。「導かれし者たち」だ。

 

久野 すぐにパッとタイトル出てくるんですね!! 岡本さんは「ドラゴンクエスト」シリーズだとどれが好きなんですか?

 

岡本 どれも好きなのですが、個人的に物語として最高傑作だと思っているのは「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」で。主人公が勇者の武器を手にできず、“えっ、これはどういうこと?”と思っていたら、息子ができて、真の勇者は息子だったという、その展開が本当に感動的で。

 

久野 それはとっても気になります! でも、岡本さんってお忙しいと思うのですが、いつゲームをされているんですか?

 

岡本 忙しい時とそうじゃない時でムラがあるんだけど、基本的にゲームは深夜にやり始めることが多いかな。で、たいてい寝落ちしている(笑)。そのまま寝ちゃってもいいように、アラームだけはセットして(笑)。

 

──用意周到ですね(笑)。久野さんは今、はまっているものなどはありますか?

 

久野 なんだろう……趣味らしいものってあったかなぁ……。

 

岡本 料理とかするの?

 

久野 前はしてたんですけど、最近は全然していなくて……。趣味と呼べるかどうかは分かりませんが、一年ちょっと前からピラティスをしています。

 

岡本 ピラティスって、いまいちよく分かっていないんだけど、ヨガみたいなものなの?

 

久野 体幹を鍛えるという意味では近いかもしれないです。体を動かすとスッキリするので、楽しく続けられていますね。

 

──ありがとうございます。ではこの流れで、最後にGetNavi WEBらしく、お2人が愛用しているおすすめのガジェットを教えていただけますか?

 

岡本 僕は「AirFly」です。最近、飛行機に乗る機会が多く、座席の画面で映画などを観る際に愛用しているんです。座席にある音声端子に挿すことで自分が持ってるイヤホンにBluetoothでペアリングできる。そのことで煩わしいケーブルがなくなり、快適に過ごせるので、すごく重宝しています。

 

久野 私はこの前、スマホの充電器を新しく購入しました。コンセントにも直接させて充電できる機能があるので、それがすごく便利で。1日中お仕事がある日も安心ですし、充電切れで困ってる友達に貸すこともできます。何かあった時のために、カバンの中にいつも入れてますね。

 

 

 

最強タンクの迷宮攻略〜体⼒9999のレアスキル持ちタンク、勇者パーティーを追放される〜

毎週土曜26時からABCテレビ・テレビ朝日系列全国24局ネット『ANiMAZiNG!!!』枠にて放送中

毎週土曜26時30分からABEMAにてWEB最速配信

毎週木曜26時からBS12 トゥエルビにて放送中

動画配信サービス
Prime Video/U-NEXT/dアニメストア/Lemino/DMM TV/バンダイチャンネル/Hulu/FOD/ニコニコ/J:COM/TELASA/みるplus/auスマートパス/マンガUP!/TVer

 

(STAFF&CAST)
監督:熨斗谷充孝
シリーズ構成:雨宮ひとみ
キャラクターデザイン:永井泰平
音楽:Mao Yamamoto
音楽制作:ビクターエンタテインメント
オープニング主題歌:「Brave」いれいす(ビクターエンタテインメント)
エンディング主題歌:「夢の中で」いれいす(ビクターエンタテインメント)
アニメーション制作:STUDIO POLON

出演:
ルード:笠間 淳
ニン:本渡 楓
ルナ:市ノ瀬加那
マニシア:小倉 唯
リリア:大橋彩香
リリィ:優木かな
マリウス:岡本信彦
アモン:久野美咲

(STORY)
最愛の妹・マニシアの病気を治すため、どんな願いごとでも叶えるという秘宝を追い求めていたルードは、勇者パーティーの盾役として迷宮攻略に挑んでいた。ところがある日、勇者から“使えないスキル”と烙印を押され、パーティーから追放されてしまう。仕方なく故郷へ戻ろうとした時、道中で不思議な少女・ルナを助け、やがて彼女が持つ能力によってルードの本来の力が判明する。それは歴代最高の外皮【9999】と未知の力を宿した最強のスキルだった。

公式HP  https://www.saikyo-tank.com/

公式X    @saikyo_tank

 

撮影/干川 修 取材・文/倉田モトキ

デイヴ・ボイル監督が語る『忍びの家 House of Ninjas』のこだわりと革新性「このためにストーリーテラーになったんだと改めて実感できた」

Netflix週間グローバルTOP10で1位を獲得するなど、世界中で旋風を巻き起こしているNetflixシリーズ『忍びの家 House of Ninjas』。現代の日本を舞台に、最後の忍び一家が、国家を揺るがす危機と対峙していく本作で、脚本と監督を担当したのはアメリカ人のデイヴ・ボイル監督。主演と共同エグゼクティブ・プロデューサーを務めた賀来賢人さんらと共に、今までにない“忍者もの”を目指したという氏に、『忍びの家 House of Ninjas』のこだわりと革新性を語ってもらった。

 

デイヴ・ボイル…1982年生まれ。アメリカの監督、作家、編集者、俳優。映画『ビッグ・ドリームス・リトル・トーキョー』(2006年)、『ホワイト・オン・ライス』 (2009年)、『サロゲート バレンタイン』(2011年)、『サマータイム』(2012年)、『リノから来た男』(2014年)の監督・脚本を務める。

【デイヴ・ボイル監督インタビュー写真一覧】

 

市川雷蔵主演の映画『忍びの者』シリーズに多大な影響を受けた

──配信2週目で、Netflix週間グローバルTOP10(非英語シリーズ)で1位を獲得するなど、『忍びの家 House of Ninjas』(以下、『忍びの家』)の勢いはとどまることを知りません。世界中で観られているとデイヴ監督が実感したのは、どういうタイミングでしたか。

 

デイヴ ちょうど日本からアメリカに帰国しようと飛行機に乗るタイミングで配信が始まったんです。機内で携帯は使えないので、ロスに到着してからチェックしたら、たくさんの連絡やリアクションがあって。しかも日本とアメリカだけではなく、フランスやドイツなど、さまざまな国から、SNSを通じて面白いという声が次々と届いて。「嘘だろう……」という気持ちもありましたし、自分の関わった作品が、ここまで喜ばれていることがうれしかったです。

 

──ここまでの反響は考えていましたか。

 

デイヴ 当初から(賀来)賢人さんとは「今までにない“忍者もの”を作ろう」という話をしていて、実際にそういう作品を作れた自信は2人ともあったんです。どういう反応があるのかワクワクしていた反面、新しい作品だからこその不安もあって、多くの方に受け入れられなかったらどうしようという怖さもありました。でも配信が始まると、最初からいろんな国の視聴者が喜んでくれて。そこまで大勢の方から反響があるのは個人的に初めての経験だったので、想像もしていなかったですし、非常にありがたいことです。

 

──以前からアメリカで忍者ものは愛されているジャンルで、たくさんのドラマや映画が作られていますが、『忍びの家』の新しさとはどういうところなのでしょうか。

 

デイヴ 『忍びの家』では、忍者のアイデンティティ・心を描きたいと思っていたんです。今までアメリカで制作された忍者ものは、どちらかというとアクションやガジェット的なものが強調されていました。もちろん、そういう部分もしっかり描きたいと考えていましたが、一体、忍びとはどういうものなのかというセントラルクエスチョンを強調したかったんです。今回、文献などを通して忍者や、忍者の歴史を勉強していく中で、特に惹かれたのが、忍者には縛りやルールが多いことでした。

 

──例えばどういうものでしょうか。

 

デイヴ 主(あるじ)の言うことに従わなければならなかったり、食べ物でいえば肉を我慢しなくちゃいけなかったり、恋愛に対する縛りも多くて、それが心に響いたんです。そういった縛りやルールを現代に生きる忍者に置き換えたとき、何百年も前の価値観で生活しなければいけないのは、どんなにつらいだろうと思ったんです。そういう部分をベースにしつつも、エンタメですから、苦しみばかりを描いても駄目で。忍者のアイデンティティをベースにして、その土台の上にストーリーを作ろうと考えました。

 

──「Get Navi web」で賀来さんにインタビューした際、デイヴ監督について、「日本のカルチャーに造詣が深くて、忍者というキーワードに強く興味を示し、僕たちの作った企画書を何十倍にも広げてくれたんです」と仰っていました。例えば、どういう要素を提案したのでしょうか。

 

デイヴ 実際にあった忍者の歴史を織り交ぜることが重要だという提案をしました。賀来さんたちの書いた企画書の時点で、すでに忍者家族というコンセプトが土台としてあったんですが、忍者の伝統を受け継いだ家族であれば、史実に基づいてストーリーに繋げたほうがいいんじゃないかと思ったんです。先ほどお話した忍者の規則を踏襲するのも僕が提案しました。やっぱり忍者は主に仕えなければいけないから、主を作らなきゃいけない。でも舞台は日本ですから、CIA的なスパイ・エージェンシーみたいなものじゃなくて、忍者だからこその国家秘密組織が必要だろうということで “Bureau of Ninja Management” BNM「忍者管理局」を作りました。

 

──主な舞台を小田原に設定した理由は何でしょうか。

 

デイヴ これまでの忍者ものといえば、伊賀と甲賀を舞台にすることが多かったじゃないですか。特に時代劇はそうですよね。でも忍者の歴史を調べると、小田原も重要な場所なんです。それに東京近郊にある小さな街として魅力がありますし、忍者が小田原を拠点にしてもおかしくないなと考えました。

 

──デイヴ監督自身、『忍びの家』に関わる前から、忍者ものの作品は好きだったんですか。

 

デイヴ 大好きでした。特に1960年代にヒットした市川雷蔵主演の映画『忍びの者』シリーズの大ファンです。あの作品もアクションだけではなく、権力者たちの下で活動する忍者の苦しさを描いていて、深くて面白いシリーズです。だから、『忍びの家』を撮る上でも、多大な影響を受けています。

 

木村多江さんのアクションはアスリートのようだった

──忍者の伝統を大切にしつつ、日本の今のカルチャーも巧みに取り入れていますが、そういう部分もデイヴ監督にはなじみがあったのでしょうか。

 

デイヴ 僕は日本語こそしゃべれますが、本作の撮影前は一度も日本に住んだことがないんです。だから、それほど詳しくはありません。ただ賀来さんたちと話し合っていく中で、主人公である俵(たわら)一家の日常生活は絶対にキープしないといけないねという話になって。賢人さん演じる俵家の次男・晴(はる)は、自動販売機の商品を補充する仕事をしていますが、アメリカで自動販売機はそこまで一般的じゃないんです。吉岡里帆さん演じる伊藤可憐(いとう・かれん)と晴が出会うのは牛丼屋ですが、それも日本ならではの飲食店ですよね。そういった日本における日常生活の要素は僕にとって新鮮でしたし、外からの視点で無意識に強調している面はあるかもしれません。賢人さんを始め、脚本家や演出家の方々の意見を聞きながら、ナチュラルに日本での日常生活を描こうと務めました。

 

──奇想天外な忍術に頼らないのも印象的でした。

 

デイヴ 賀来さんたちが出した企画書の中にも、日常生活から戦いが始まっていくことは書かれていて、僕もその要素が面白いなと思ったんです。だから現代の忍者だったら、日常生活でどうやって忍術を使うのか、脚本チームと演出チーム全員で考えました。

 

──アクションシーンも闇雲に派手なものではなく、リアルで実践的な殺陣が多いですが、そこも意識しましたか。

 

デイヴ まさに、そういう狙いでした。現代日本の地味な日常から入って、徐々に忍者の動きに気づかせていくという流れにしたかったんですよね。忍者は周囲に気づかれてはいけないという第一のルールがあるので、派手なアクションは適切ではないなという考えはありました。だから細かい動きでアクションを作ろうということで、そこはアクション監督を務めていただいた田渕景也さんの存在が大きかったです。本作りの段階から田渕さんに参加していただいて、いろんな意見を聞かせていただき、アクションを考えてもらいました。

 

──アクションを演出する上で気を付けたことはありますか。

 

デイヴ 例えば1話で忍び二人が戦うシーンがありますが、あれは周りは誰も気づいていない中で戦うというコンセプトから始まったアクションシーンなんです。僕自身、CGなどを使った派手なアクションよりも、ナチュラルで実用的なアクションのほうが撮っていてワクワクします。そういうアクションのほうが観ていて、リアルに感じられてストーリーに入り込めるんですよね。かといってドキュメンタリーみたいな撮り方ではなくて、ちゃんとエンタメ性もありつつ、実用的なアクションの演出を心がけました。

 

──俵家の母・陽子を演じた木村多江さん、晴の妹・凪を演じた蒔田彩珠さんをはじめ、女性陣のアクションも素晴らしかったです。

 

デイヴ 僕が最初に出したプロットの時点で、前半で一番アクションをやっているのはお母さんでした。最初にお母さんが動き出して、お母さんのアクションシーンがたくさんあったほうが、意外性があって面白いと思ったんです。多江さんはアスリートそのもので、この作品のために何か月も前から準備をしてくれて、とてもかっこよかったです。

 

もっともっと現代社会にうごめく忍びの世界を見せていきたい

──日本での撮影はいかがでしたか。

 

デイヴ 俵一家の住む日本家屋のセットは東宝スタジオに作ったので、夢の中の世界にいるようで、とても楽しかったです。今回は日本を代表する一流のスタッフが集結して、一緒にお仕事をさせていただいたので、すごくやりやすかったです。私なんかが監督でいいのだろうかと思うぐらいでした(笑)。ただ驚いたのは、ロケ地の許可が簡単に下りないことでした。

 

──確かに日本は厳しいと言われますよね。

 

デイヴ アメリカだと、撮影の許可をもらえば、警察が一般の車を停めるなどの協力もしてくれるんですが、それが日本では難しいということを初めて知りました。でも今回のチームは本当に優秀で、ロケ地の交渉も頑張ってくれましたし、事前準備も素晴らしくて。日本ならではの景色をたくさん撮ることができました。外国人監督でこういう経験をできたのは本当にラッキーでした。

 

──光と闇を効果的に使った撮影など、映画に引けを取らない映像美にも圧倒されました。

 

デイヴ 僕自身、ほぼ映画しか撮ったことがないですし、スタッフも映画畑の人たちが中心でした。最初から劇場で公開しても遜色のないクオリティの映像を目指していましたし、撮影監督の江原祥二さんにも一切の妥協をせずに撮影していただきました。あと配信ドラマって自由度が高いんですよね。途中でコマーシャルを入れたり、各話を50分に統一したりみたいな縛りがないからこそ、撮り方も自由なんです。編集の面でも、映画的なリズムやテンポで繋ぐことができました。

 

──デイヴ監督の他に、瀧本智行監督、村尾嘉昭監督でエピソードを分けて演出されていますが、監督同士のコミュニケーションは円滑でしたか。

 

デイヴ 本作りの段階から話し合って、お二人の意見を聞かせていただいたので、同じ方向を向いていましたし、大きな認識のズレもなく、やりやすかったです。そもそも村尾さんは、賢人さんとともに原案者の一人なので、最初からチームとして一緒に動いていました。6、7話を担当した瀧本監督もベテランで、いろんな経験と知識がある方だから、僕にとっても勉強になりました。二人には、とても感謝しています。

 

──シーズン1を終えて今思うところを教えてください。

 

デイヴ 『忍びの家』は僕にとっても特別な作品で、みんなが楽しく見られる作品を作るためにストーリーテラーになったんだと改めて実感できました。最終話で、ちょっとずつ世界が広がっていくシーンがありますが、次の展開を期待させますし、もっともっと現代社会にうごめく忍びの世界を見せていきたいです。

 

 

Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」

Netflixにて世界独占配信中

 

(STAFF&CAST)
原案:賀来賢人 村尾嘉昭 今井隆文
監督:デイヴ・ボイル 瀧本智行 村尾嘉昭
脚本:デイヴ・ボイル 山浦雅大 大浦光太 木村緩菜
エグゼクティブ・プロデューサー:佐藤善宏(Netflix)
プロデューサー:神戸明

出演:賀来賢人 江口洋介 木村多江 高良健吾 蒔田彩珠 吉岡里帆・ 宮本信子 ・田口トモロヲ 柄本時生 嶋田久作 ピエール瀧 筒井真理子 番家天嵩

 

取材・文/猪口貴裕

水瀬いのり「苦境を乗り越え、なんとか生き抜こうとする恐竜たちの姿に強く心を動かされました」映画「恐竜超伝説2 劇場版ダーウィンが来た!」

NHKで放送中の人気自然番組『ダーウィンが来た!』の劇場版第5弾が3月8日(金)より公開。今回スポットを当てたのは、いまだ多くの謎に包まれた恐竜たち。太古の大陸・ゴンドワナを舞台に、新たな説を交えて彼らの生態に迫っている。そこで、過去2作に続き、今回もナレーションを務めた水瀬いのりさんにご登場いただき、見どころを直撃。知られざる世界を一足早く体験した彼女に、作品や恐竜への思いをうかがった。

 

水瀬いのり●みなせ・いのり…12月2日生まれ。東京都出身。NHK『ダーウィンが来た!』放送内の次回予告アニメ『マヌ~ルのゆうべ』にてツノゼミのツノミン役を担当。主な出演作に「心が叫びたがってるんだ。」(成瀬順役)、「Re:ゼロから始める異世界生活」(レム役)、「五等分の花嫁」(中野五月役)など。9月15日(日)より兵庫県を皮切りにライブツアーも開催。公式HPXInstagramLINEYouTube

 

【水瀬いのりさん撮り下ろし写真】

 

時代を超えて少しずつ解明されていく恐竜たちの研究内容にロマンを感じました

──『劇場版ダーウィンが来た!』シリーズで水瀬さんがナレーションを担当するのはこれで3作目になります。今回は“恐竜”がテーマになっていますが、完成した作品をご覧になってどのような印象を持ちましたか?

 

水瀬 《命》を軸に、恐竜たちの生態に関するさまざまな説を描いた作品でしたので、驚きと新鮮さでいっぱいでした。そもそも私の中で恐竜というと、動物園や水族館で出会える動物ではないので、どこかしら空想の世界にいる生き物のようなイメージがあったんです。博物館などに展示されている骨を見て、“本当にこんなにも大きな生き物がいたんだ!?”と実感することはあっても、実際に恐竜たちが大自然の中で暮らしている様子までは、なかなか想像ができなくて。でも、今作にはいろんな恐竜たちが登場し、彼らがどんな生活をして、自然と共存していったかが描かれているんです。ひと言で恐竜といっても、肉食系か植物食系かによって行動の仕方が異なりますし、そうしたところからも、改めて恐竜たちも私たち人間と同じようにいろんな生き方があったんだなと知ることでき、本当に勉強になることばかりでした。

 

──爬虫類っぽい色合いの恐竜たちだけでなく、それぞれ皮膚の色や柄にも個性や特徴があって驚きました。

 

水瀬 そうなんです。意外とカラフルできれいなんですよね。今作には2022年に報告されたばかりの新しい話が盛り込まれていたりと、最新の研究結果も反映されていて、そこも見どころの一つになっています。恐竜に関する研究や調査は日々、世界中で行われていて、過去に発掘したものと新たに発見された情報がジグソーパズルのようにはまり、今まで分からなかったことが明らかになっていく。そこがすごく面白いですよね。それに、自分たちが見つけた調査内容が今はまだ謎だらけでも、未来の研究者たちにとっての解明の糸口になるかもしれなくて。そうした、“過去”と“現在”と“未来”の全てが一つに繋がっているというところにもロマンを感じました。

 

──ナレーションの作業はいかがでしたか?

 

水瀬 やはり《命》がテーマになっていますので、ドラマチックな部分もあり、原稿を読みながらいろんな興味が湧いてきましたね。特に印象的だったのが戦いのシーンでした。私にとって恐竜同士の争いというと、縄張り争いであったり、食料にするために相手を倒すというイメージが強かったんです。でも、この作品では彼らにも家族があり、守るべきものがあるからこそ戦っているといった姿も描かれている。それに、彼らの中には“なんとしてでも生き延びるんだ”という本能的な強い思いがあり、そのことが彼らの生態をも進化させたり、知恵を使った戦い方を見いだしていったんだということがよく分かりました。そうした、凶暴さだけではない恐竜の一面も、ぜひ映画を通して感じ取っていただければなと思います。

 

──確かに、凶暴さで知られるティラノサウルスでさえもしっかりと子育てをしていたかもしれないという説は意外性がありました。

 

水瀬 ティラノサウルスって怖い印象しかなかったのに、彼らにも母性や父性があるんだと思うと親近感が湧きますし、かわいいなって思っちゃいますよね(笑)。それに、子どもを守る方法が恐竜の種類によってさまざまであるところも非常に興味深かったです。中には、敵に食べられないように歯が欠けるほど硬い殻で覆った卵を生む恐竜もいて。しかも、それほどまでに硬い卵をどうやって孵化させるんだろうと思っていたら、火口近くの地熱を利用して温めていくんです。誰かに教えられたわけでもないのにそうした工夫を身に着けていく姿を見ていると、生き物が持っている普遍的な本能って本当にすごいなと改めて感じましたね。

 

リアルな映像を観ていたら、この世界に行ってみたくなりました

──また、今作ではそんな恐竜たちが生存していた場所である超巨大大陸・ゴンドワナが舞台となっています。かつて存在していたこの大陸のことはご存知でしたか?

 

水瀬 私は初めて知りました。昔、南米やアフリカの大陸が一つに繋がっていたという話は聞いたことがあったのですが、その大陸を「ゴンドワナ」と言うんですよね。この映画では35m級の大きさがある植物食恐竜のプエルタサウルスに焦点を当て、彼らがゴンドワナ大陸でどう暮らしていたかも描いているのですが、その行動には感情移入するところがたくさんありました。衝突の冬の寒さにも負けず、食べ物を探してなんとか生き抜こうとする姿に心を打たれましたし、そうやって恐竜やいろんな生き物たちが命を繋いできてくれたから、今の私たちがあるんだなって。それを思うと、途方もない昔の話なのに恐竜たちのことを身近に感じられましたし、なんだか不思議な気持ちにもなりましたね。

 

──巨大隕石が地球に衝突したことで氷河期のような時代、衝突の冬に突入し、その結果、恐竜たちが絶滅したものだと思っていましたが、実はそうした環境下でも一部の恐竜は生き延びていたかもしれないという説は見ていて勇気をもらいました。

 

水瀬 この映画の監修をされている小林(快次)先生や植田(和貴)監督から聞いたお話では、もしかすると衝突の冬の期間がそれほど長くはなかったかもしれないという説があるんです。だから、生き抜くことができた恐竜たちがいたのかもしれない、と。でも、そうであれば、“恐竜たちが絶滅した原因は一体何だったんだろう?”という新たな謎が生まれますよね。

 

──確かに!

 

水瀬 その答えは私には分からないのですが、けどこうやって、一つの有力な仮説が生まれるたびに新しい解明に繋がったり、逆に別の謎が生まれたりするのが、本当に面白いなと思いました。

 

──未解決のことが多いだけに、小さなお子さんたちが映画を観ると、豊かな想像力で大人とはまた違った感想を持ちそうですよね。

 

水瀬 そう思います。この映画をきっかけに、もっと恐竜やこの時代のことを知りたいと思う子もたくさん出てくるでしょうし。それに、そうやって何かに興味を持つことって、探究心を養うことにも繋がっていくし、それがやがて趣味であったり、やりたい仕事に向かって動き出すための原動力にもなるんじゃないかなって思うんです。もちろん、お子さんに限らず、大人の方でも好奇心をくすぐられる作品だと思います。実際に私も映画を観た後で、恐竜図鑑を買いたくなりましたから(笑)。その意味でも、ぜひ多くの方に観ていただきたいですね。

 

──特に恐竜たちの迫力ある映像は映画館で体感してもらいたいです。

 

水瀬 本当に! 大きなスクリーンだと目の前に等身大に近い恐竜が現れて、本当に実在するようにも見えるでしょうし、没入感も半端ないと思います! きっと劇場版でやる意味もそこにあるんだろうなと感じました。それに、この映画で描かれている恐竜自体は精密なCGですが、本物の景色を背景に合成しているので、どのシーンもすごくリアルなんですよね。現実にある世界なんじゃないかと錯覚して、私もちょっとだけあの中に入ってみたいなって思いました。怖いから、行くにしてもほんのちょっとだけでいいんですけど(苦笑)。

 

──(笑)。もし行けたら何をしてみたいですか?

 

水瀬 植物食恐竜は大人しそうなので、彼らの首や背中に乗ってみたいですね。そんなに簡単に懐いてくれるとは思いませんが(笑)。近づこうとして、尻尾で追い払われて終わりでしょうし(笑)。でも、映画の中では恐竜たちも目を合わせてコミュニケーションを取っていたかもしれないと描かれていたので、もしかしたら相手を思いやる感情があったのかもしれなくて。そう考えたら、恐竜たちと仲良くなれる可能性もあるのかなって、そんなことも夢見てしまいますね。

 

日々、アロマオイルの効果を実感しています

──最後に、水瀬さんが最近ハマっているモノを教えていただけますか?

 

水瀬 少し前からアロマオイルにハマっています。いろんな種類が入ったキットを購入し、香りだけでアロマの名前を当てるということを夜な夜なしています(笑)。また、その日に一番ピンときた香りをディフューザーに入れて眠るのも楽しみの一つになっていますね。

 

──日によって好みの香りが変わるんですか?

 

水瀬 そうなんです。昨日はすごく好きな香りだったのに、今日嗅いでみたらあまり気持ちに刺さらなかったり。きっと自分の体調や自律神経が左右しているのだと思うのですが、そうした感じ方の違いがあるのも面白いです。また、種類によってはバスソルトに香りづけをしてお風呂で使えるモノであったり、殺菌作用や免疫力向上の効果をもたらすオイルもあるので、今はいろいろと試している最中です。

 

──実際に効果は感じられますか?

 

水瀬 びっくりするぐらい違いますね。寝付きもよくなりましたし、疲労回復具合もこれまでとの違いを感じます。きっと好きな香りに包まれていると自然と呼吸も深くなるので、そのことでぐっすりと眠れているというのもあるんでしょうね。

 

──なるほど。では、いろいろと試しながら、アロマオイルごとに自分にとってどんな効果があるのかを調べてみるのも面白そうですね。

 

水瀬 確かに! そうやって統計を取っていくことで、“私の緊張緩和オイル”みたいなのが作れるかもしれませんし(笑)。「明日は緊張と仲良くなるぞ!」みたいな日の前夜は気持ちが上がる香りを調合してみたり。組み合わせによって本当にいろんな香りが作れますよね。

 

 

恐竜超伝説2 劇場版ダーウィンが来た!

2024年3月8日(金)全国ロードショー

 

【映画「恐竜超伝説2 劇場版ダーウィンが来た!」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
監督:植田和貴
監修:小林快次
エンディングテーマ:MISIA
制作:NHKエンタープライズ
映像提供:NHK

ナレーター:水瀬いのり
ヒゲじい:龍田直樹

(STORY)
今から6600万年前、太古の大陸「ゴンドワナ」には、40mにも達する超巨大植物食恐竜・プエルタサウルスや10m級の肉食恐竜・マイプなどが生存し、生きるために死闘を繰り広げていた。ところが、巨大隕石の衝突によって彼らの生活環境は一変。火災や寒冷化が地球上のいたるところで起き、生き物たちは絶滅の危機に瀕する。しかし、そんな環境下でもたくましく生き抜こうとする恐竜たちがいた……。

(C)「恐竜超伝説2 劇場版ダーウィンが来た!」製作・配給 ユナイテッド・シネマ

 

撮影/干川 修 取材・文/倉田モトキ

DIY未経験だったノンフィクション作家・川内有緒さんが語る「小屋作りの楽しさ」

ノンフィクション作家の川内有緒さんが、山梨県に小屋を作る過程を記した、モノづくりエッセイ『自由の丘に、小屋をつくる』。東日本大震災をきっかけに、既存の価値観に疑問を抱き、自分の無力さも自覚。子どもが出来たことでその思いが深まり、この困難な時代を娘が生き抜くために自分にできることは何なのかを考えた末にたどり着いたのが、「小屋を作る」こと。もともと不器用でモノづくりが苦手だったという川内さんが、実家のDIYリノベ―ションを経て、山梨の丘に土地を見つけて小屋作りに向かうまでの過程を伺いました。

 

川内有緒●かわうち・ありお…ノンフィクション作家。1972年東京都生まれ。映画監督を目指して日本大学芸術学部へ進学したものの、あっさりとその道を断念。行き当たりばったりに渡米したあと、中南米のカルチャーに魅せられ、米国ジョージタウン大学大学院で中南米地域研究学修士号を取得。米国企業、日本のシンクタンク、仏のユネスコ本部などに勤務し、国際協力分野で12年間働く。2010年以降は東京を拠点に評伝、旅行記、エッセイなどの執筆を行う。『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』(幻冬舎)で新田次郎文学賞、『空をゆく巨人』(集英社)で開高健ノンフィクション賞、『目の見えない白鳥さんとアートを見に行く』(集英社インターナショナル)でYahoo!ニュース本屋大賞 ノンフィクション本大賞を受賞。ドキュメンタリー映画『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』の共同監督も務める。公式サイト公式X

 

【川内有緒さん撮り下ろし写真】

 

自分でこれはどうやるのかを考えたときに、初めて主体的な学びがあった

──昨年10月に発売した最新刊『自由の丘に、小屋をつくる』は、どういう経緯で執筆したのでしょうか。

 

川内 もともとは『熱風』(スタジオジブリ出版部)という雑誌から「何か書きませんか」というお話があって、1回だけ旅に関する長めのエッセイを書いたんです。その後も「何かやりたいですね」ということになって、雑談しているうちに「今、小屋作りをやっている」とお話したら、「それをやりましょう」と言ってくださって「丘の上に小屋を作る」という連載が始まりました。

 

──連載開始当初は、どれぐらい小屋作りが進んでいたんですか。

 

川内 そのときは影も形もなくて、実家のリフォームもやる前でした。この本には収録されていないんですが、土地を探している段階が長かったんです。そういう話も連載では書いていたんですが、本にするときに全部省略しました。

 

──連載当初は実際に小屋が完成するかどうかも分からないですよね。

 

川内 そういう状態だったので、連載も不定期がいいんじゃないかと言ってくれて、何かが起きたら書けばいいということだったので、それだったらやれるかもということで、2か月から3か月に1回だけ、長い原稿を書いていくというのを繰り返していました。

 

──リアルタイムだからこそ、記述も詳細なのでしょうか。

 

川内 それもありますし、文字数が多くて大丈夫だったので、細かく書ける余裕があったんですよね。後から振り返って書いていたら、こんなに細かく書かなかったかもしれないですね。

 

──もともとDIYなどの物作りは苦手だったんですよね。

 

川内 得意じゃないし、好きでもないし、むしろ避けてきたところがあって、自分がやらなくても済むことはやらないまま生きてきました。フィールドワークは結構やってきたんですけど、仕事はパソコンの中で完結しますし、何かを作るのは自分の中で苦手意識がありました。モノづくりができる人への憧れみたいなものはすごくあって、克服というほど大袈裟なことではないけど、小屋を作ろうと。

 

──なぜ小屋作りだったのでしょうか。

 

川内 娘が生まれたのもあって、「買う」ではなく「作る」という新たな選択肢を手に入れられたら、自分たちの生き方にも変化が生まれるかもしれないと思ったんですよね。

 

──その第一歩を踏み出すハードルが高いですよね。最初は木を真っすぐ切るだけでも苦戦しますし。

 

川内 最初は何も分からないので、「木を切る……」って感じですよね。だから手始めに娘の机を作ろうと思って、早稲田の「DIYがっこう」という場所に通いました。木はこういう道具で切るんだとか、木を直角に切るのって難しいんだとか、そういうところから始まって。いっぱい失敗しながら、ちょっとずつ習得していきました。

 

──男子は小学・中学で技術の授業がありますけど、女子はのこぎりなどに触れる機会はなかなかないですからね。

 

川内 そういうことを覚えなくても生きられるんですよね。お金で買えばいいわけだから、必要があるのかないのかを聞かれたら、ないんだけど、いざ覚えてみたら、これは全員が習得していい技術なんじゃないかなと思いました。スマホやパソコンと同じように使えることができたら、いろんなことが楽になる技術なんですよね。

 

──日常生活でも普通に活かせる技術ですからね。

 

川内 誰の生活にも直結しているんだけど、できないと思うと、誰かにやってもらわなきゃとか、お金を払わなきゃとなります。でも、ちょっと覚えたら、いろんなことができるんです。

 

──DIYがっこうはどんなところだったんですか。

 

川内 工房に家具職人の先生的な方が一人いて、聞けば何でも教えてくれるけど、一から教えますよっていう訳じゃなくて、それが個人的にすごく良かったんです。ただ教えられたことをやるって、おそらく身につかないんですよ。自分でこれはどうやるのって考えたときに、初めて主体的な学びがあって。あえてDIYがっこうがそうしていたのかは謎なんですけど、「ここがどうしても分からないんですけど」と聞くと、「こうするといいですよ」と快く何でも教えてくれるんです。この本には出てこないんですが、最後は大きな建具も作っていたんですよ。それぐらい大きいものだと少し計算が狂うだけでも後で大変になるので、「正確に作りたいんです」と言うと、そのやり方も教えてくれました。

 

──事前にそういう学校だと知っていたんですか?

 

川内 全く分からなかったです。DIYがっこう自体が始まったばかりで、開校して1、2か月でやってきたのが私だったらしくて、向こうも試行錯誤していたんだと思います。DIYがっこうは途中でなくなったんですけど、私は最初から最後までいました。トータルで2年ぐらい通ったんですが、土地を探しながら、いろんな家具だの建具だのを作り続けて、小屋の建前をやる頃も通っていました。今振り返ると、いろいろなことを学びましたね。

 

実家のDIYリノベ―ションをやったのが大きかった

──『自由の丘に、小屋をつくる』を読んでいると、ここぞというタイミングで手伝ってくれる人やアドバイスしてくれる人が登場する印象で、まるでマンガのようでした。

 

川内 DIYがっこうに通っていたときは、コツコツ自分一人で作るのかなと思っていて、「一人で家を建てました」みたいな本もたくさん読んでいたんです。こういうふうに孤独に耐えながら作るのかな、みたいな未来をイメージしていたんですが、本当にどうしていいのか分からない。そしたら夫の友人で一級建築士のタクちゃん(皆川拓さん)が最初に現れて、いろいろ教えてくれて。他にも本には出てこないんですけど、私はアーティストの知り合いが多いから、方々で小屋作りをしたいと言ってたら、いろんなことを周りが教えてくれるんですよね。

 

──仕事柄、いろいろな職業の方と知り合う機会も多いですしね。

 

川内 小屋作りの前に、恵比寿にある実家のDIYリノベ―ションをやったのも大きくて。都心だから、手伝いに来てくれる人がいて。全然意図してなかったんですけど、そこに来た人たちが、その後の小屋作りにも来てくれるきっかけになったんです。

 

──なかなか自分から踏み出せないけど、潜在的にDIYをやりたいって人は多いんでしょうね。

 

川内 そうだと思います。本気でやりたいわけじゃないし、道具を揃えるのはハードルが高いけど、ちょっと手伝ってみたいという人は多くて。DIYリノベ―ションの後も、実際に来る人は限られていたけど、手伝いたいと連絡をくれる人はたくさんいました。

 

──一日体験みたいな感覚なのかもしれないですよね。

 

川内 例えば、お金はないけど、家をリフォームして綺麗にしたい人がいたら、どんどんやったらいいんですよ。大工さんにちょっとした謝礼を支払えば、やり方を教えてくれますし、材料を揃えて、手伝ってくれる友達を3人ぐらい集めればできるんです。

 

──土地探しは難航しますが、2017年2月、発酵デザイナーの小倉ヒラクさん、フリーランスの編集者/ライターの小野民さん夫妻の紹介で、山梨県甲州市に理想の場所が見つかります。

 

川内 本当に運が良かったとしか言いようがないです。ヒラクさん一家が山梨に移住して1年後ぐらいのタイミングだったのかな。たまたま使っていない土地が家の近所にあるから、そこを使っていいというお話で。土地を放っておくと、見た目もよくないし、草木が繁茂して、虫が増えたり、獣が来たりするから、集落の人たちも土地の手入れをしていてほしいんですよね。

 

──地元の人たちにあいさつ回りなどはしたんですか。

 

川内 しなかったんですけど、地元の方はヒラクくん一家を知っているから、みんな声をかけてくれました。それに周りも自分で家を作った人たちがいたんですよ。近所にカフェがあるんですけど、そこもセルフビルドで建てていて。いろんなアドバイスをしてくれて、皆さんよくしてくださいます。近所の人に「うるさくてごめんなさい」と言ったときも、「賑やかでいいわね」って言ってくれました。

 

──イノシシとかは出ないんですか。

 

川内 いるみたいですけど、まだ見たことはないですね。山の中にある集落なので、すぐそこは山だけど、民家もあって開けているんです。

 

──夫婦でお仕事をして、子育てもあって。山梨に行くのも大変じゃないですか。

 

川内 大変ですね。小屋作りを始めた頃は、娘も2歳とちっちゃかったから、娘を連れてどこかに行くだけでも疲れるオペレーションで。娘を手伝わせるのも難しいから、2日間あったら、1日は作業で、1日は遊びという感じで、遊びを兼ねて行ってました。

 

──車じゃないと行けない場所なんですか。

 

川内 そうですね。でも東京から車で行くと、あまりに渋滞がすごくて……。何回も何回も渋滞に巻き込まれて、もう二度と行きたくないって思うんですけど、何か月かすると忘れて、また渋滞に巻き込まれて嫌気がさすというのを繰り返して。今は杉並区に引っ越したので、山梨も近くなりましたし、いろんな行き方を試した結果、ゴールデンルートも見つかりました。そんなことをやっているうちに電車って素晴らしいと思って、電車のことが大好きになりました(笑)。

 

──山梨を生活の拠点にする選択肢はなかったんですか。

 

川内 地方への移住は考えてなかったんですよね。あくまで小屋を作る遊びをしてみたかったんです。

 

──小屋の中にはどれぐらいの人数が泊まれるんですか?

 

川内 そんなに入れないです。6畳ですから、家族3人プラス1人ぐらいですね。

 

──個人的にトイレ作りを記した章が大好きなんですけど、やっていて楽しかった作業は何ですか。

 

川内 トイレ作りの章は、本を読んだ方から人気がありますね。ただ、どの作業もだんだん楽しくなるんですよ。ゼロから1を立ち上げていくのが、道具もないし、材料も分からない、やり方も分からないで、一番疲れるパートなんです。作業はもちろん、暑い、寒い、渋滞など、いろんなことが初めての経験で本当にしんどくて。でも最初はやる気があるから乗り切れて。建前が終わった後は、ずっと楽しいです。建前が終わると、屋根は急ぎましたけど、あとは積み上げていけばいいので、そこまで急いでやらなきゃいけない作業ってないんですよ。

 

──完成までの期限も決めてないんですよね。

 

川内 決めなかったですよね。決めると、それに合わせなければいけないので、仕事みたいになって疲れるじゃないですか。だからそういうことは考えずに、来週は山梨に行けるから何をやろうか? みたいな。

 

小屋作りや草刈りなど一日中、肉体労働をすると元気になる

──モチベーションが落ちることはなかったですか。

 

川内 何回も投げ出そうとしました(笑)。行ったけどモチベーションが上がらない日もあって、小屋に着いたけど何もやりたくない。でも誰かしらが手伝いに来るので、「今日はやる気が起きなくて」と言うと、「じゃあ休んでいればいいじゃないですか」と。私がいなくても、自走が始まっているんですよ。「別に有緒さんは何もやらなくていいんじゃないですか?」みたいに言われることもあります(笑)。

 

──連載に逐一、途中経過を記しているのも大きかったのではないでしょうか。

 

川内 確かに書くこと自体がモチベーションになるっていうのもあって。書くためにやる訳じゃないんだけど、書こうと思うと、「じゃあやるか」みたいなときもありました。ただ、こんなに長期間、連載をするなんて連載を頼んだ編集者も想像していなかったと思うんですよね。私自身、不定期連載といっても、せいぜい5、6回、1年ぐらい書いて終わるだろうと思っていたのが、1年経っても小屋の影すら見えずで、仕事が忙しい、コロナ禍でいろいろあってとか言ってるうちに、気付けば約5年の長期連載。連載が終わった時点で、文字数は30何万字とかあったんですよ。本にする際に15万字ぐらいにしなければいけなくて、書き下ろしだったら、こんな文字量にはなっていなかったですね。

 

──今も小屋作りは継続しているんですよね。

 

川内 そうなんです。行くと、これやらなきゃなっていうことがいっぱいあって。

 

──ホームセンターは近くにあるんですか。

 

川内 一番近いところだと車で10分ぐらいの場所にあります。「コメリ」と「ナフコ」という2つのホームセンターがあって、大きなものが必要なときはナフコに行って、ビス程度のちょっとしたものはコメリに行ってます。

 

──道具などへのこだわりはありますか?

 

川内 全くないです。マキタはかっこいいな、くらいで。そもそも何に関してもこだわりの少ない人間なんですよね。

 

──夫の川内イオさんもそうなんですか。

 

川内 彼もざっくりした人です。ざっくり同士で、お互いに細かいことを言わないから、事前に話し合わなくても大丈夫なんですよ。いつも彼がホームセンターに行ってくれるんですが、例えば無色透明の塗料を頼んだのに、全く違うものを買ってきちゃったりするんです。でも「これじゃないんだけど、まあいいや」って一瞬で受け入れて、一部の壁の色がちょっと違う色になったりして。手伝いに来てくれた人から、「なんてこだわりがない人たちなんだろう。だからやっていけるんですね」と言われます(笑)。

 

──お子さんは山小屋を気に入っているんですか?

 

川内 気に入っていると思いますよ。毎回一緒に行きますし。それにヒラクくんの娘さんがうちの子と半年違いで、すごく仲が良いので、ずっと一緒にいたがるんですよ。1歳のときから定期的に遊んでいて、一緒に小屋の中で過ごしたり、お散歩に行ったりして、従姉妹みたいな関係なんですよね。山小屋のヒラクくんの家が徒歩で1、2分で行けるので、距離感もいいんです。

 

──都会からIターンした人が、地元の人とトラブルになるって話もよく聞きますけど、ほどよい距離感ですよね。

 

川内 住んでいる人の数が少ないということもあります。ヒラクくん一家は定住していますけど、隣の家の人も二拠点生活で、たまにしか来ないし、反対側にある家も住んでいなくて、畑しか使ってないんです。東京から近いので、地元の人たちも外から来る人を受け入れてくれて、ほのぼのしていますね。

 

──小屋作りを始めて、仕事のスタンスに変化はありましたか。

 

川内 仕事って永遠にできちゃうから、この週末は小屋作りをするから仕事をしないって決めると休みになりますよね。山梨では小屋作り以外にも草を刈るなどの作業が一日中あるんですけど、肉体労働をすると逆に元気になるんです。私の仕事は、やたらと移動は多いですけど、あまり体は動かしません。だから、たまに肉体労働をするとヘトヘトになりますが、とにかく体を動かしているから、東京に帰ってくると疲れたなと思いながらも、何かエネルギーが湧く感じがします。

 

toolboxの商品は初心者でも簡単におしゃれなDIYができる

──東京でDIYをすることはあるんですか。

 

川内 ありますよ。ただ家具を作るにしても、東京は場所がないので、工房に行くなり、なんなりしないと作業が難しいんですよね。ただ実家のリフォームがまだ続いていて、昨年も私と妹が使っていた部屋を、妹が事務所として使いたいということで、床を張り直して、壁を綺麗にしたんです。

 

──床の張り直しって難しくないんですか?

 

川内 今はすごく簡単なんですよ。DIYはどんどん進化していて、企業もDIYをやる人たちに寄せてきているから、簡単にできるものがたくさん売っているんです。インパクトドライバーとかもいらないですし、ノコギリさえあればできるという床張り用の資材が売っていて、すごく綺麗にできますよ。業者がやった床張りと比べても遜色がないです。

 

──とはいえ初心者は苦戦しそうですが。

 

川内 手で押しながらパチッとはめると、ロックされる商品なので、端っこの処理は難しいけど、そこを測って正確に切るというスキルさえあれば問題ないです。正確に切るスキルも、すぐに覚えられるから、誰でもできるんですよ。私がお勧めするのはtoolbox(ツールボックス)の商品です。

 

──toolboxというと?

 

川内 「東京R不動産」という不動産会社がDIYを推奨していて、そこが手がけているシリーズです。すごくおしゃれで、そこまで高くない商品がたくさん売っていて。目白にショールームがあるので、そこに行って商品のお話を聞くこともできます。私は初めての床張りのときは、インパクトドライバーを使って本格的にやったんですが、toolboxの商品だとインパクトドライバーすらいらないですし、時間もせいぜい半日ぐらいで完成します。ホームセンターで揃えるとゼロからやらなきゃいけないけど、toolboxは素人でも簡単におしゃれな家を作れるというコンセプトなんですよね、

 

──プレゼンがうまいですね(笑)。

 

川内 toolboxの回し者じゃないですよ(笑)。ただ一人で作業するのはお勧めしません。3人一組ぐらいで、切る人、はめる人みたいに共同作業でやるのがいいですね。DIYを1人でやっていると、修行みたいで、途中で悲しくなってくるんですよ。だからInstagramとかで「1人でDIYをやってます」みたいな投稿を見ると感心します。一番良いのは2人一組か3人一組。あまり人数が多過ぎても、何もやることがない人も出てきちゃうので手持ち無沙汰になるんです。3人ぐらいいると交代しながらできますし、途中でお茶を飲んだりしておしゃべりするのも楽しいですし。切るスキルにしても、3人のうち1人が持っていればいいんですよ。

 

──DIY初心者でも適材適所でやれることはあると。

 

川内 あります。漆喰を塗るとかだったら子どもでもできます。もちろん完璧にやりたい人は、ちゃんとした業者さんに頼んだほうがいいと思うんです。でもDIYは、作る過程を楽しみたいとか、ちょっとうまくいかなかったところも、味になるし、思い出になるよねみたいな気持ちになれる人にお勧めです。

 

 

(インフォメーション)

『自由の丘に、小屋をつくる』

好評発売中!

著者:川内有緒
価格:2200円(税込み2420円)
発売元:新潮社

 

『自由の丘に、小屋をつくる』刊行記念
『手づくりのアジール』増刷記念
川内有緒×青木真兵「自分で自分の居場所をつくる」

日時:2024年3月8日(金)19:00~(開場:18:30)
場所:隣町珈琲
住所:東京都品川区中延3丁目8−7 サンハイツ中延 B1
価格:会場入場料(自由席):¥2,500 オンライン配信(zoomミーティング):¥2,500

※本イベントは会場(隣町珈琲)とオンライン(zoomミーティング)のハイブリットの開催になります。

https://peatix.com/event/3843762

 

 

撮影/武田敏将 取材・文/猪口貴裕

DIY未経験だったノンフィクション作家・川内有緒さんが語る「小屋作りの楽しさ」

ノンフィクション作家の川内有緒さんが、山梨県に小屋を作る過程を記した、モノづくりエッセイ『自由の丘に、小屋をつくる』。東日本大震災をきっかけに、既存の価値観に疑問を抱き、自分の無力さも自覚。子どもが出来たことでその思いが深まり、この困難な時代を娘が生き抜くために自分にできることは何なのかを考えた末にたどり着いたのが、「小屋を作る」こと。もともと不器用でモノづくりが苦手だったという川内さんが、実家のDIYリノベ―ションを経て、山梨の丘に土地を見つけて小屋作りに向かうまでの過程を伺いました。

 

川内有緒●かわうち・ありお…ノンフィクション作家。1972年東京都生まれ。映画監督を目指して日本大学芸術学部へ進学したものの、あっさりとその道を断念。行き当たりばったりに渡米したあと、中南米のカルチャーに魅せられ、米国ジョージタウン大学大学院で中南米地域研究学修士号を取得。米国企業、日本のシンクタンク、仏のユネスコ本部などに勤務し、国際協力分野で12年間働く。2010年以降は東京を拠点に評伝、旅行記、エッセイなどの執筆を行う。『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』(幻冬舎)で新田次郎文学賞、『空をゆく巨人』(集英社)で開高健ノンフィクション賞、『目の見えない白鳥さんとアートを見に行く』(集英社インターナショナル)でYahoo!ニュース本屋大賞 ノンフィクション本大賞を受賞。ドキュメンタリー映画『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』の共同監督も務める。公式サイト公式X

 

【川内有緒さん撮り下ろし写真】

 

自分でこれはどうやるのかを考えたときに、初めて主体的な学びがあった

──昨年10月に発売した最新刊『自由の丘に、小屋をつくる』は、どういう経緯で執筆したのでしょうか。

 

川内 もともとは『熱風』(スタジオジブリ出版部)という雑誌から「何か書きませんか」というお話があって、1回だけ旅に関する長めのエッセイを書いたんです。その後も「何かやりたいですね」ということになって、雑談しているうちに「今、小屋作りをやっている」とお話したら、「それをやりましょう」と言ってくださって「丘の上に小屋を作る」という連載が始まりました。

 

──連載開始当初は、どれぐらい小屋作りが進んでいたんですか。

 

川内 そのときは影も形もなくて、実家のリフォームもやる前でした。この本には収録されていないんですが、土地を探している段階が長かったんです。そういう話も連載では書いていたんですが、本にするときに全部省略しました。

 

──連載当初は実際に小屋が完成するかどうかも分からないですよね。

 

川内 そういう状態だったので、連載も不定期がいいんじゃないかと言ってくれて、何かが起きたら書けばいいということだったので、それだったらやれるかもということで、2か月から3か月に1回だけ、長い原稿を書いていくというのを繰り返していました。

 

──リアルタイムだからこそ、記述も詳細なのでしょうか。

 

川内 それもありますし、文字数が多くて大丈夫だったので、細かく書ける余裕があったんですよね。後から振り返って書いていたら、こんなに細かく書かなかったかもしれないですね。

 

──もともとDIYなどの物作りは苦手だったんですよね。

 

川内 得意じゃないし、好きでもないし、むしろ避けてきたところがあって、自分がやらなくても済むことはやらないまま生きてきました。フィールドワークは結構やってきたんですけど、仕事はパソコンの中で完結しますし、何かを作るのは自分の中で苦手意識がありました。モノづくりができる人への憧れみたいなものはすごくあって、克服というほど大袈裟なことではないけど、小屋を作ろうと。

 

──なぜ小屋作りだったのでしょうか。

 

川内 娘が生まれたのもあって、「買う」ではなく「作る」という新たな選択肢を手に入れられたら、自分たちの生き方にも変化が生まれるかもしれないと思ったんですよね。

 

──その第一歩を踏み出すハードルが高いですよね。最初は木を真っすぐ切るだけでも苦戦しますし。

 

川内 最初は何も分からないので、「木を切る……」って感じですよね。だから手始めに娘の机を作ろうと思って、早稲田の「DIYがっこう」という場所に通いました。木はこういう道具で切るんだとか、木を直角に切るのって難しいんだとか、そういうところから始まって。いっぱい失敗しながら、ちょっとずつ習得していきました。

 

──男子は小学・中学で技術の授業がありますけど、女子はのこぎりなどに触れる機会はなかなかないですからね。

 

川内 そういうことを覚えなくても生きられるんですよね。お金で買えばいいわけだから、必要があるのかないのかを聞かれたら、ないんだけど、いざ覚えてみたら、これは全員が習得していい技術なんじゃないかなと思いました。スマホやパソコンと同じように使えることができたら、いろんなことが楽になる技術なんですよね。

 

──日常生活でも普通に活かせる技術ですからね。

 

川内 誰の生活にも直結しているんだけど、できないと思うと、誰かにやってもらわなきゃとか、お金を払わなきゃとなります。でも、ちょっと覚えたら、いろんなことができるんです。

 

──DIYがっこうはどんなところだったんですか。

 

川内 工房に家具職人の先生的な方が一人いて、聞けば何でも教えてくれるけど、一から教えますよっていう訳じゃなくて、それが個人的にすごく良かったんです。ただ教えられたことをやるって、おそらく身につかないんですよ。自分でこれはどうやるのって考えたときに、初めて主体的な学びがあって。あえてDIYがっこうがそうしていたのかは謎なんですけど、「ここがどうしても分からないんですけど」と聞くと、「こうするといいですよ」と快く何でも教えてくれるんです。この本には出てこないんですが、最後は大きな建具も作っていたんですよ。それぐらい大きいものだと少し計算が狂うだけでも後で大変になるので、「正確に作りたいんです」と言うと、そのやり方も教えてくれました。

 

──事前にそういう学校だと知っていたんですか?

 

川内 全く分からなかったです。DIYがっこう自体が始まったばかりで、開校して1、2か月でやってきたのが私だったらしくて、向こうも試行錯誤していたんだと思います。DIYがっこうは途中でなくなったんですけど、私は最初から最後までいました。トータルで2年ぐらい通ったんですが、土地を探しながら、いろんな家具だの建具だのを作り続けて、小屋の建前をやる頃も通っていました。今振り返ると、いろいろなことを学びましたね。

 

実家のDIYリノベ―ションをやったのが大きかった

──『自由の丘に、小屋をつくる』を読んでいると、ここぞというタイミングで手伝ってくれる人やアドバイスしてくれる人が登場する印象で、まるでマンガのようでした。

 

川内 DIYがっこうに通っていたときは、コツコツ自分一人で作るのかなと思っていて、「一人で家を建てました」みたいな本もたくさん読んでいたんです。こういうふうに孤独に耐えながら作るのかな、みたいな未来をイメージしていたんですが、本当にどうしていいのか分からない。そしたら夫の友人で一級建築士のタクちゃん(皆川拓さん)が最初に現れて、いろいろ教えてくれて。他にも本には出てこないんですけど、私はアーティストの知り合いが多いから、方々で小屋作りをしたいと言ってたら、いろんなことを周りが教えてくれるんですよね。

 

──仕事柄、いろいろな職業の方と知り合う機会も多いですしね。

 

川内 小屋作りの前に、恵比寿にある実家のDIYリノベ―ションをやったのも大きくて。都心だから、手伝いに来てくれる人がいて。全然意図してなかったんですけど、そこに来た人たちが、その後の小屋作りにも来てくれるきっかけになったんです。

 

──なかなか自分から踏み出せないけど、潜在的にDIYをやりたいって人は多いんでしょうね。

 

川内 そうだと思います。本気でやりたいわけじゃないし、道具を揃えるのはハードルが高いけど、ちょっと手伝ってみたいという人は多くて。DIYリノベ―ションの後も、実際に来る人は限られていたけど、手伝いたいと連絡をくれる人はたくさんいました。

 

──一日体験みたいな感覚なのかもしれないですよね。

 

川内 例えば、お金はないけど、家をリフォームして綺麗にしたい人がいたら、どんどんやったらいいんですよ。大工さんにちょっとした謝礼を支払えば、やり方を教えてくれますし、材料を揃えて、手伝ってくれる友達を3人ぐらい集めればできるんです。

 

──土地探しは難航しますが、2017年2月、発酵デザイナーの小倉ヒラクさん、フリーランスの編集者/ライターの小野民さん夫妻の紹介で、山梨県甲州市に理想の場所が見つかります。

 

川内 本当に運が良かったとしか言いようがないです。ヒラクさん一家が山梨に移住して1年後ぐらいのタイミングだったのかな。たまたま使っていない土地が家の近所にあるから、そこを使っていいというお話で。土地を放っておくと、見た目もよくないし、草木が繁茂して、虫が増えたり、獣が来たりするから、集落の人たちも土地の手入れをしていてほしいんですよね。

 

──地元の人たちにあいさつ回りなどはしたんですか。

 

川内 しなかったんですけど、地元の方はヒラクくん一家を知っているから、みんな声をかけてくれました。それに周りも自分で家を作った人たちがいたんですよ。近所にカフェがあるんですけど、そこもセルフビルドで建てていて。いろんなアドバイスをしてくれて、皆さんよくしてくださいます。近所の人に「うるさくてごめんなさい」と言ったときも、「賑やかでいいわね」って言ってくれました。

 

──イノシシとかは出ないんですか。

 

川内 いるみたいですけど、まだ見たことはないですね。山の中にある集落なので、すぐそこは山だけど、民家もあって開けているんです。

 

──夫婦でお仕事をして、子育てもあって。山梨に行くのも大変じゃないですか。

 

川内 大変ですね。小屋作りを始めた頃は、娘も2歳とちっちゃかったから、娘を連れてどこかに行くだけでも疲れるオペレーションで。娘を手伝わせるのも難しいから、2日間あったら、1日は作業で、1日は遊びという感じで、遊びを兼ねて行ってました。

 

──車じゃないと行けない場所なんですか。

 

川内 そうですね。でも東京から車で行くと、あまりに渋滞がすごくて……。何回も何回も渋滞に巻き込まれて、もう二度と行きたくないって思うんですけど、何か月かすると忘れて、また渋滞に巻き込まれて嫌気がさすというのを繰り返して。今は杉並区に引っ越したので、山梨も近くなりましたし、いろんな行き方を試した結果、ゴールデンルートも見つかりました。そんなことをやっているうちに電車って素晴らしいと思って、電車のことが大好きになりました(笑)。

 

──山梨を生活の拠点にする選択肢はなかったんですか。

 

川内 地方への移住は考えてなかったんですよね。あくまで小屋を作る遊びをしてみたかったんです。

 

──小屋の中にはどれぐらいの人数が泊まれるんですか?

 

川内 そんなに入れないです。6畳ですから、家族3人プラス1人ぐらいですね。

 

──個人的にトイレ作りを記した章が大好きなんですけど、やっていて楽しかった作業は何ですか。

 

川内 トイレ作りの章は、本を読んだ方から人気がありますね。ただ、どの作業もだんだん楽しくなるんですよ。ゼロから1を立ち上げていくのが、道具もないし、材料も分からない、やり方も分からないで、一番疲れるパートなんです。作業はもちろん、暑い、寒い、渋滞など、いろんなことが初めての経験で本当にしんどくて。でも最初はやる気があるから乗り切れて。建前が終わった後は、ずっと楽しいです。建前が終わると、屋根は急ぎましたけど、あとは積み上げていけばいいので、そこまで急いでやらなきゃいけない作業ってないんですよ。

 

──完成までの期限も決めてないんですよね。

 

川内 決めなかったですよね。決めると、それに合わせなければいけないので、仕事みたいになって疲れるじゃないですか。だからそういうことは考えずに、来週は山梨に行けるから何をやろうか? みたいな。

 

小屋作りや草刈りなど一日中、肉体労働をすると元気になる

──モチベーションが落ちることはなかったですか。

 

川内 何回も投げ出そうとしました(笑)。行ったけどモチベーションが上がらない日もあって、小屋に着いたけど何もやりたくない。でも誰かしらが手伝いに来るので、「今日はやる気が起きなくて」と言うと、「じゃあ休んでいればいいじゃないですか」と。私がいなくても、自走が始まっているんですよ。「別に有緒さんは何もやらなくていいんじゃないですか?」みたいに言われることもあります(笑)。

 

──連載に逐一、途中経過を記しているのも大きかったのではないでしょうか。

 

川内 確かに書くこと自体がモチベーションになるっていうのもあって。書くためにやる訳じゃないんだけど、書こうと思うと、「じゃあやるか」みたいなときもありました。ただ、こんなに長期間、連載をするなんて連載を頼んだ編集者も想像していなかったと思うんですよね。私自身、不定期連載といっても、せいぜい5、6回、1年ぐらい書いて終わるだろうと思っていたのが、1年経っても小屋の影すら見えずで、仕事が忙しい、コロナ禍でいろいろあってとか言ってるうちに、気付けば約5年の長期連載。連載が終わった時点で、文字数は30何万字とかあったんですよ。本にする際に15万字ぐらいにしなければいけなくて、書き下ろしだったら、こんな文字量にはなっていなかったですね。

 

──今も小屋作りは継続しているんですよね。

 

川内 そうなんです。行くと、これやらなきゃなっていうことがいっぱいあって。

 

──ホームセンターは近くにあるんですか。

 

川内 一番近いところだと車で10分ぐらいの場所にあります。「コメリ」と「ナフコ」という2つのホームセンターがあって、大きなものが必要なときはナフコに行って、ビス程度のちょっとしたものはコメリに行ってます。

 

──道具などへのこだわりはありますか?

 

川内 全くないです。マキタはかっこいいな、くらいで。そもそも何に関してもこだわりの少ない人間なんですよね。

 

──夫の川内イオさんもそうなんですか。

 

川内 彼もざっくりした人です。ざっくり同士で、お互いに細かいことを言わないから、事前に話し合わなくても大丈夫なんですよ。いつも彼がホームセンターに行ってくれるんですが、例えば無色透明の塗料を頼んだのに、全く違うものを買ってきちゃったりするんです。でも「これじゃないんだけど、まあいいや」って一瞬で受け入れて、一部の壁の色がちょっと違う色になったりして。手伝いに来てくれた人から、「なんてこだわりがない人たちなんだろう。だからやっていけるんですね」と言われます(笑)。

 

──お子さんは山小屋を気に入っているんですか?

 

川内 気に入っていると思いますよ。毎回一緒に行きますし。それにヒラクくんの娘さんがうちの子と半年違いで、すごく仲が良いので、ずっと一緒にいたがるんですよ。1歳のときから定期的に遊んでいて、一緒に小屋の中で過ごしたり、お散歩に行ったりして、従姉妹みたいな関係なんですよね。山小屋のヒラクくんの家が徒歩で1、2分で行けるので、距離感もいいんです。

 

──都会からIターンした人が、地元の人とトラブルになるって話もよく聞きますけど、ほどよい距離感ですよね。

 

川内 住んでいる人の数が少ないということもあります。ヒラクくん一家は定住していますけど、隣の家の人も二拠点生活で、たまにしか来ないし、反対側にある家も住んでいなくて、畑しか使ってないんです。東京から近いので、地元の人たちも外から来る人を受け入れてくれて、ほのぼのしていますね。

 

──小屋作りを始めて、仕事のスタンスに変化はありましたか。

 

川内 仕事って永遠にできちゃうから、この週末は小屋作りをするから仕事をしないって決めると休みになりますよね。山梨では小屋作り以外にも草を刈るなどの作業が一日中あるんですけど、肉体労働をすると逆に元気になるんです。私の仕事は、やたらと移動は多いですけど、あまり体は動かしません。だから、たまに肉体労働をするとヘトヘトになりますが、とにかく体を動かしているから、東京に帰ってくると疲れたなと思いながらも、何かエネルギーが湧く感じがします。

 

toolboxの商品は初心者でも簡単におしゃれなDIYができる

──東京でDIYをすることはあるんですか。

 

川内 ありますよ。ただ家具を作るにしても、東京は場所がないので、工房に行くなり、なんなりしないと作業が難しいんですよね。ただ実家のリフォームがまだ続いていて、昨年も私と妹が使っていた部屋を、妹が事務所として使いたいということで、床を張り直して、壁を綺麗にしたんです。

 

──床の張り直しって難しくないんですか?

 

川内 今はすごく簡単なんですよ。DIYはどんどん進化していて、企業もDIYをやる人たちに寄せてきているから、簡単にできるものがたくさん売っているんです。インパクトドライバーとかもいらないですし、ノコギリさえあればできるという床張り用の資材が売っていて、すごく綺麗にできますよ。業者がやった床張りと比べても遜色がないです。

 

──とはいえ初心者は苦戦しそうですが。

 

川内 手で押しながらパチッとはめると、ロックされる商品なので、端っこの処理は難しいけど、そこを測って正確に切るというスキルさえあれば問題ないです。正確に切るスキルも、すぐに覚えられるから、誰でもできるんですよ。私がお勧めするのはtoolbox(ツールボックス)の商品です。

 

──toolboxというと?

 

川内 「東京R不動産」という不動産会社がDIYを推奨していて、そこが手がけているシリーズです。すごくおしゃれで、そこまで高くない商品がたくさん売っていて。目白にショールームがあるので、そこに行って商品のお話を聞くこともできます。私は初めての床張りのときは、インパクトドライバーを使って本格的にやったんですが、toolboxの商品だとインパクトドライバーすらいらないですし、時間もせいぜい半日ぐらいで完成します。ホームセンターで揃えるとゼロからやらなきゃいけないけど、toolboxは素人でも簡単におしゃれな家を作れるというコンセプトなんですよね、

 

──プレゼンがうまいですね(笑)。

 

川内 toolboxの回し者じゃないですよ(笑)。ただ一人で作業するのはお勧めしません。3人一組ぐらいで、切る人、はめる人みたいに共同作業でやるのがいいですね。DIYを1人でやっていると、修行みたいで、途中で悲しくなってくるんですよ。だからInstagramとかで「1人でDIYをやってます」みたいな投稿を見ると感心します。一番良いのは2人一組か3人一組。あまり人数が多過ぎても、何もやることがない人も出てきちゃうので手持ち無沙汰になるんです。3人ぐらいいると交代しながらできますし、途中でお茶を飲んだりしておしゃべりするのも楽しいですし。切るスキルにしても、3人のうち1人が持っていればいいんですよ。

 

──DIY初心者でも適材適所でやれることはあると。

 

川内 あります。漆喰を塗るとかだったら子どもでもできます。もちろん完璧にやりたい人は、ちゃんとした業者さんに頼んだほうがいいと思うんです。でもDIYは、作る過程を楽しみたいとか、ちょっとうまくいかなかったところも、味になるし、思い出になるよねみたいな気持ちになれる人にお勧めです。

 

 

(インフォメーション)

『自由の丘に、小屋をつくる』

好評発売中!

著者:川内有緒
価格:2200円(税込み2420円)
発売元:新潮社

 

『自由の丘に、小屋をつくる』刊行記念
『手づくりのアジール』増刷記念
川内有緒×青木真兵「自分で自分の居場所をつくる」

日時:2024年3月8日(金)19:00~(開場:18:30)
場所:隣町珈琲
住所:東京都品川区中延3丁目8−7 サンハイツ中延 B1
価格:会場入場料(自由席):¥2,500 オンライン配信(zoomミーティング):¥2,500

※本イベントは会場(隣町珈琲)とオンライン(zoomミーティング)のハイブリットの開催になります。

https://peatix.com/event/3843762

 

 

撮影/武田敏将 取材・文/猪口貴裕

ピエール瀧「当たり前がなくなってしまうこと、当たり前を積み重ねていける幸せを感じられる映画にしたかった」映画『水平線』

俳優・小林且弥さんの初長編監督作『水平線』が3月1日(金)より公開。福島県のとある港町で、散骨業を営む主人公・井口真吾を演じるのは、小林監督と『凶悪』で共演したピエール瀧さん。監督との絶大な信頼関係や独自の役作りについてのほか、役柄と同じ一人娘を持つ父親の顔ものぞかせてくれました。

 

ピエール瀧●ぴえーる・たき…1967年4月8日生まれ、静岡県出身。1989年に石野卓球らと電気グルーヴを結成。95年頃から俳優としてのキャリアをスタート。『凶悪』(2013年/白石和彌監督)で、日本アカデミー賞優秀助演男優賞など、数々の賞を受賞。主な出演作品には『怒り』(2016年/李相日監督)、『アウトレイジ 最終章』(2017年/北野武監督)、Netflixドラマ「サンクチュアリ-聖域-」(2023年)など多数。2月15日よりNetflixドラマ『忍びの家 Houseof Ninjas』が配信スタート。XInstagramYouTube

 

【ピエール瀧さん撮り下ろし写真】

 

 監督からは「瀧さんのままでフレームの中にいてください」と言われ……

──『凶悪』で共演者だった小林且弥監督から直接オファーされたときに、「これは断ったらいけないやつだな」と思われたそうですね。

 

瀧 ある日突然、携帯が鳴ったら、小林くんからの久しぶりの着信だったんです。そしたら「今度、初めて長編映画を監督することになったので、主演お願いできないですか?」とお願いされて……。どんな内容かも言われてないですが、彼は『凶悪』で僕の舎弟役をやっていて、ストーリー上では僕に撃ち殺されるんで、そのときの負い目もあって……(笑)。ホントのことを言えば、今まで役者で頑張ってきた彼が人生初の長編映画デビュー作を撮ることになって、直接連絡までしてくれたなら、そういう気持ちには出来るだけ応えるべきだと思いました。それですぐに脚本を送ってもらいました。

 

──監督から送られてきた脚本を読んだときの感想は?

 

瀧 脚本は僕を当て書きに書いてくれたようですが、そんな真吾さんは福島の港町で暮らしていて、特別なヒーローでもないですし、周りの人に大きな影響を与えるような人でもない。逆にさまざまな出来事に巻き込まれていく市井の人を演じてほしいという、監督の意図を感じました。後々になって、監督が「瀧さんに断られたら第二候補がいなかった」と言っていましたけど、そのときはどうするつもりだったんでしょうね?(笑)

 

──瀧さんが演じられた井口真吾には実在のモデルになった方がいらしたとのことですが、役作りはどのようにされましたか?

 

瀧 監督から出演依頼があってからクランクインまであまり時間がなかったんです。なので、仮に役作りのために福島に出向いて現地の方のお話を聞いたところで、それは付け焼き刃にすぎないんじゃないかと思ったんです。あとは「そんな程度の認識の僕がこの役を演じる資格があるのか?」というのは悩みどころではあったので、それを正直に監督に伝えたところ、「そういうことは一切考えず、瀧さんのままでフレームの中にいてください」と言ってくれました。監督は福島で暮らす皆さんからいろんな話を聞いて、状況についてもかなりリサーチしていたので、そこは頼らせてもらいました。

 

僕の苦いような、寂しいような、悲しいような表情が面白いのでは?

──監督から「瀧さんのままでフレームの中にいてください」と言われることでのプレッシャーは?

 

瀧 どうだろう? ただ、娘の奈生(栗林藍希)や事件の被害者遺族など、いろんな人に追い詰められて、困っているときの真吾さんって、だいたい黙っているんですよね。何の言葉も発することもできない。その黙っているときの、僕の苦いような、寂しいような、悲しいような表情が、小林監督にとって面白くもあり、なにか特殊な感覚のものとして映っているんじゃないかと思います。僕自身、寡黙な役が好きって言ったら変ですけど、以前NHKのドラマ「64(ロクヨン)」で、三上さんという警察の広報官役をやったときも、困りに困って、ずっと黙っているキャラクターだったんです。だから、その部分を喜んでくれる層は意外といるのかもしれませんね(笑)。

 

──いつも現場に入る前に心がけていることは?

 

瀧 どの作品でもそうですけれど、作品の中での自分の役割のピークみたいなものを決めて、そこから逆算して演じるようにしています。どんどん積み上げて足していくやり方をしてしまうと、そのピークが来たときに、自分のテンションなり、お芝居の能力が足りてないと台無しになっちゃうんじゃないかと思っているので……。

 

──撮影初日が印象的なスナックのカラオケで、サザンオールスターズの 「勝手にシンドバット」を熱唱するシーンだったそうですね。

 

瀧 この映画って、見終わった後に「これはこうでした」と明確に定義できるような話じゃないんですよね。それは真吾さんを演じた僕もそうで、「なぜ最後にあんな行動を取ったんだろう?」って、どこかで思っているし、 テーマであるSNSやマスコミの在り方についてなど、何が正解かは分からないんです。でも、そういう類の映画であればあるほど、市井の日々の営みみたいなものを丁寧に細かく積み上げていかなければいけないわけで……。真吾さんは確かに不幸な境遇ではあっても、日々下を向いて暮らしているわけでもなく、気心の知れた友だちと一緒にちょっとハメを外すことだってある。それをうまく表現したシーンだと思うし、自分の声量も含めて、本編中一番圧が強いシーンだと思っているので(笑)、初日だったのは良かったのかもしれません。

 

真吾さんが自分の分身のように娘を見ていたところとかよく分かります(笑)

──主演映画だったことで、撮影を振り返っていかがですか?

 

 “座長として”みたいな考えって、僕には全然ないんですよ。みんなで作品を作っていくチームの中で、ちょっと比重が大きいポジションっていうぐらい(笑)。「俺について来い」という気持ちもないですし、監督もそういうものは期待してなかったと思うんです。ただ、撮影期間が12日しかなかったんです。そういう意味では、ほぼテストなし、1テイクで決めるしかない中、「怒涛の撮影をどう乗り切るか?」という緊張感はありましたし、スタッフ一丸となってのチームワークみたいなものが出来上がった作品に出ているかと思います。「ずっと天気であってくれ」と思いつつ、雨が降ったことによってどこか切ない感じになって良かったなと思うシーンもありますし、なんとなく運も味方してくれた現場でしたね。

 

──瀧さん自身も、真吾と同じ娘さんを持つ父親ですが、奈生との関係性や距離感をどのように捉えましたか?

 

瀧 奈生とは状況も環境も違いますが、ウチの娘ももう高校3年ですから、 小学校低学年のときとは関係性が変わりますよね。幸いなことに、ウチは今でも娘とは仲良くしていますが、真吾さんがとんでもない色の原付をプレゼントするとか、自分の分身のように娘を見ていたところとかはよく分かります(笑)。あと、時間がない中で監督とは脚本にはない、まだお母さんがいた頃、震災前に親子3人で楽しく暮らしていた時間を、あざとくない感じで入れようという話をしました。例えば、奈生の部屋に入るシーンは、紙袋を被って「ワーッ!」と言いながら入るようにしてみたらというアイデアを出したり。子供の頃に親子でじゃれ合っていたことって、今思うと幸せでいい時間だったと思うけど、そのときって気づかないんですよね。そんな実際の娘との関係性にもリンクする、当たり前のことがなくなってしまうこと、逆に当たり前のことを積み重ねていける幸せも感じられるような映像にしたかったんです。

 

リトルカブでの一人旅にどハマり

──最近、ハマっているモノを教えてください。

 

瀧 昨年、中学の友だちから譲ってもらったリトルカブですね。お正月に地元の静岡に帰ったときに、「乗ってない原付あったら誰かくれない?」と話したら、1か月後にちゃんと整備してくれたんです。それで東京から持っていったナンバープレートを付けて、一般道で東京まで帰ってきたら、めっちゃ楽しくて(笑)。しかも、静岡から東京までガソリンがたった3リッターだったという燃費のお化けだったことに気付きました。通販サイトで買ったシートやキャリアを使って乗り心地をカスタマイズしたら、そういうとこも楽しくなっちゃって。

 

──ということは、ツーリングも頻繁にされているんですか?

 

瀧 この間は東京から横須賀まで走って、そこで東京湾フェリーで千葉の金谷港まで行った後、無目的に外房に向けて海沿いを走りましたね。それで鴨川まで行ったら、日が暮れちゃったので、観光案内所で海沿いのペンションの素泊まりを紹介してもらって、次の日は朝から房総半島の真ん中を突っ切って、木更津のホテル三日月まで。そこで、うちの草野球チームのメンバーと合流して宴会をやりました。今ではどこまでも行けちゃいそうだなと思っていて、フェリーで四国とか北九州まで行って、ぐるっと走る夢とが膨らんでいます。あと、軽トラならリトルカブを載せられるし、アクアラインも渡れるので、今は軽トラにも注目しています(笑)。

 

──実際に番組として、放送や配信したら面白そうですよね。

 

瀧 それは分かるんですけれど、番組としてやると、例えば金谷港に着いたときに、海鮮丼とか食べなきゃいけないでしょ?  泊まるところも、何となくいい感じの宿を選ばなきゃいけないじゃない? こっちは完全に自由に縛りなしで行きたいから、もうバーミヤンでいいし、小汚い民宿でいいんですよ。

 

 

水平線

3月1日(金)より、テアトル新宿、UPLINK吉祥寺ほか全国順次公開

 

(STAFF&CAST)
監督/小林且弥
脚本/齋藤孝

出演/ピエール瀧、栗林藍希、足立智充、内田 慈、押田 岳、円井わん、高橋良輔、清水 優、遊屋慎太郎、大方斐紗子、大堀こういち、渡辺 哲

(STORY)
震災で妻を亡くした井口真吾(ピエール瀧)は、個人で散骨業を営みながら、水産加工場で働く娘・奈生(栗林藍希)と2人で暮らしている。高齢者や生活困窮者を相手に、散骨を請け負う彼の元に、かつて世間を震撼させた通り魔殺人事件の犯人の遺骨が持ち込まれる。苦しい選択を迫られた真吾は、ある決断を下すことに。

公式HP https://studio-nayura.com/suiheisen/

(C)2023 STUDIO NAYURA

 

撮影/映美  取材・文/くれい響  ヘアメイク/重見幸江(gem)

森高愛「自分が大切にしているものを守りたいと思う気持ちは似ている」映画『ただ、あなたを理解したい』

20代前半の若者たちが現実に、将来に、友情に、恋に悩む姿を描く青春群像劇。自らも俳優として活躍する碓井将大監督による劇場映画初監督作『ただ、あなたを理解したい』が2月23日(金・祝)より公開中。舞台はある地方都市。高校時代、秘密基地に集まっていた幼なじみたちが、上京した仲間の帰郷をきっかけに4年ぶりに再会する。その仲間たちの1人、ななみを演じた森高 愛さんに撮影時のエピソードや役との向き合い方について聞いた。

 

森高 愛●もりたか・あい…1998年1月14日生まれ。埼玉県出身。2009年、『ニコ☆プチ』でモデルデビューし、『ラブベリー』、『ピチレモン』の専属モデルとして活躍。2014年スーパー戦隊シリーズ『烈車戦隊トッキュウジャー』にトッキュウ5号/カグラ役で出演。映画『俺物語!!』、『兄に愛されすぎて困ってます』、ドラマ『アンナチュラル』、『ジャンヌの裁き』などに出演。TikTokでも注目を集めている。公式HPXInstagramYouTubeTikTok

 

【森高 愛さん撮り下ろし写真】

 

仲間たちとのやりとりを大事にして演じました

──ななみという役について、どんな女性だと捉えて演じられたのでしょうか。

 

森高 すごく周りが見える子なんだろうなと思いました。周りが見えて、自分が今一番大切にしているものが明確にあるから、それが壊れそうになると必死に守るんだろうなって。

 

──碓井将大監督とは役柄や演技について、どんなお話をされましたか。

 

森高 一番仲の良い由衣香(伊藤千由李)との掛け合いなど、仲間たちとのやりとりを大事にしていこうって話しました。それからななみはある問題を抱えていて、そこにどれぐらい真摯に向き合うか。多分ななみは真摯に向き合えていないからこそ、今のななみがあるという難しいバランスで演じないといけなくて。監督が「森高だったらどうする?」とか、いろいろ聞いてくださって、話し合いながら進めていきました。役柄については、ななみは地元にずっといて、いろんなことをやりきって飽きているんじゃないかと。ぶっきらぼうさもある子だから、ななみ役を演じるにあたり、髪の内側だけ金髪ぽく染めようということになりました。

 

──碓井監督はご自身も俳優でもあり、今作は劇場映画初監督作となりますが印象的だった演出はありましたか。

 

森高 監督が「こういう感じで」とさりげなく自らやってくださるのがうますぎて、現場で見ていて「おお!」ってなりました(笑)。「もうちょっとこのくらいの間でやってほしい」って具体的に伝えてくださるんですが、セリフを言ってグッとつかむ方法がお上手なんです。監督も俳優さんなので、そういう部分でも勉強させてもらいました。そして出演者にすごく寄り添ってくださいました。例えば消化しきれない部分があったときに、どうして消化できないのかを話し合って、「じゃあここで立ってみたらやりやすくなるんじゃない?」みたいに技術的な部分を提案してくれますし、俳優としての気持ちも分かるからメンタル部分でもケアしてくださってすごく助けられました。

 

1つひとつのことで、「その人」は形成されていく

──他にはどんな役作りを?

 

森高 インする前に監督が、ななみたちが住んでいる街の地図を渡してくれて、「ここが秘密基地で、ここが祐也(鈴木昂秀)の家で、ここを登っていくと桜が見える場所があって。こっちは海で」って、お話に登場する場所を地図で教えてくれました。その地図を見てからインしたので、「私の知っている街だ」って感覚がありましたね。波の音を聞いて育ったとか、この裏通りを行くとすごく近道なんだよなとか、そういうのは実際に住んでいないと分からないじゃないですか。でも地図を見ていたおかげで、多分、この裏通りをななみは使うけど、由衣香は使わないよねとか、そういう細かい1つひとつのことで、「その人」は形成されていくんだなって今回感じました。

 

──ななみを演じて難しいと思ったことはありましたか。

 

森高 康二(比嘉秀海)との距離感がすごく難しかったです。恋人でも友達でもない、どっちつかずの微妙な関係で。だから撮影中は比嘉くんといろいろ話すようにしました。2人でいても話さなくても大丈夫な空間みたいなものを作るのが一番大事な気がしたので、ずっと他愛もない話をしていました。撮影がお休みの日は、朝2人で散歩しながらちょっと話してから現場に行ったり。

 

──森高さんご自身とななみは似ている部分や共通する部分はありますか。

 

森高 ななみほど口は悪くないですけど(笑)、自分が大切にしているものを守りたいと思う気持ちは似ていると思います。ななみは自分が守りたいものの範囲がすごく狭いんですが、私もそうなんです。例えば自分の家族だったり。

 

自分が大切にしていたものの中に入ってきた異物という危機感

──ななみは子供時代に発見した秘密基地で一緒に遊んだ幼なじみたちをすごく大切にしていますよね。だから幼なじみの1人で、東京に行った祐也が連れてきた葵(新谷ゆづみ)に対してキツイことを言ったり。

 

森高 葵に対してななみの中には、自分が大切にしていたものの中に入ってきた異物という危機感がすごくあるんでしょうね。でも、その気持ちは私にも分かるんです。私は友達とその彼氏と一緒にご飯に行こうって誘われると、めちゃくちゃ身構えます。面倒くさいムーブになって、「どこで出会ったんですか」「どこが好きなんですか」とかいろいろ聞いちゃいます(笑)。もちろん自分の大切な人が好きになった人なので大丈夫だろうとは思いつつ、その方の人となりが気になるんですよね。

 

──二日酔いのシーンを含めて、ななみが裕也と康二と飲み明かすシーンが印象的でした。3人の関係性や高校時代の面影が垣間見られるような気がします。

 

森高 あのシーンは監督からもよかったと言っていただいたシーンでもあり、うれしいです。特に何を話しているわけでないのですが……。実は前の日、みんなで実際に二日酔いになったほうがいいのでは? と監督含めて話が出たのでお酒を飲みました。が、緊張からか全く酔わず二日酔いどころか目もバッキバキで撮影に臨みました(笑)。

 

──のどかな風景がいろいろ出てきますが、撮影中はロケ先に滞在されていたのですか。

 

森高 2週間くらい滞在していました。みんなでご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、合宿みたいな感じでした。先に撮影が終わっても、ちょっと残って現場に顔を出して、その後、伊藤千由李ちゃんと2人で自転車を借りてサイクリングしたりしました。

 

3日以上の滞在なら筋膜リリースローラーを持っていきます

──ところで、長期滞在のロケに必ず持っていくものってありますか。

 

森高 そこは40分くらい歩かないとコンビニもなかったので、いろんなものを持っていきましたけど、いつも持っていくのは筋膜リリース棒と筋膜リリースローラーですね。1泊なら棒だけ、3日以上の滞在ならローラーを持っていきます。

 

──2つとなると結構荷物の場所を取りそうですね(笑)。

 

森高 その2つを入れるので、「なんでそんなに大きなキャリーケースなの?」って言われました(笑)。みんな手荷物扱いぐらいの大きさのキャリーだったんですけど。

──その棒と筋膜リリースローラーは1日が終わったら絶対に使う?

 

森高 そうですね。現場にいるとヘンな体勢で座ったりすることがあるので、気がついたらいろんなところがバキバキになっていたり……帰ったらすぐコロコロします。宿泊した旅館が和室だったので、ヨガマットも持って行ったから思う存分コロコロしましたよ。

 

──もう習慣になっているんですね。

 

森高 そうですね。ピラティスをやっているので、始まる前にほぐすためにホームローラーというポールみたいなものを使って筋膜リリースするんです。撮影中は2週間行けなかったから、せめてそれでやらないとっていう感じでした。

 

LE SSERAFIMはウンチェちゃん。もうかわいい!

──ピラティスはどんな頻度で通っているんですか。

 

森高 週2回くらいは行きます。LE SSERAFIMちゃんがやっている動画を見て、「なにこれ、すごい! やりたい」って思って始めました。いろんなスタジオで体験してみたんですけど、家の近くじゃないと続かないと思い、歩いて20分くらいのところで見つけました。いつも20分歩いて行って、1時間やって20分歩いて帰ってます。

 

──では今、ハマっているものや夢中になっているものを教えてください。

 

森高 それこそK-POPが大好きで、何かあればライブに行ってます。

 

──ちなみに好きなグループは?

 

森高 LE SSERAFIMちゃんが一番好きです。あともうすぐデビューする「PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS』で選ばれたME:Iちゃんも気になっています。

 

──推しは決まっているんですか。

 

森高 LE SSERAFIMはウンチェちゃん。もうかわいい! 日本語を話すウンチェちゃんが大好きで。九州で売られている九州だし醤油のポテチを食べて、「なんでこんなにおいしいの!?」って言っている動画を1時間ぐらい延々と見たりしています。本当にそこだけリピートして見ていて、自分でもビックリしました(笑)。見れば見るほどかわいくなってくるんです。

 

──それだけ熱く語れるLE SSERAFIMの魅力とは?

 

森高 仲が良いグループがすごく好きなんですよね。だからわちゃわちゃしていてほしい。アイドルを見て癒されています。でもパフォーマンスをすると、みんなセクシーでパワフルで、そのギャップにもやられちゃいますね。

 

──ファンクラブにも入っていたり?

 

森高 もちろん。ME:Iにも入りましたし、母がSEVENTEENが好きなので、セブチのFCにも入ってるんです。いろんなファンクラブに入っているので、ファンクラブ代がサブスク化しています(笑)。なので、うちはずっと韓国語が流れています。母も私も韓国ドラマも好きだから、帰宅した父が「まーた韓国ドラマか」ってあきれています(笑)。

 

 

 

 

(C)BOKURANOFILM

ただ、あなたを理解したい

2月23日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開中

【映画「ただ、あなたを理解したい」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
監督:碓井将大
脚本:鈴木裕那、渋谷未来
主題歌:MA55IVE THE RAMPAGE『ガーベラ』(rhythm zone)

出演:鈴木昂秀、野村康太、新谷ゆづみ、森高 愛、比嘉秀海、伊藤千由李、山本愛香、吉田晴登、城 夢叶、高橋ひとみ ほか

(STORY)
幼なじみの祐也と春樹、由衣香は、高校生になっても子どもの頃に見つけた秘密基地で他愛のない時間を過ごしていた。卒業後、祐也は役者になることを夢見て上京。一方、残った仲間たちは、時が止まったままのような秘密基地で現実逃避のような日々を送っていく。そんなある日、4年ぶりに祐也が恋人を連れて帰省する。思わぬ再会に、再び彼らの時間が動き出していく……。

公式サイト:https://tadaanata-movie.com/

(C)BOKURANOFILM

 

撮影/中村功 取材・文/佐久間裕子

俳優・大島優子が今ハマっているコト。逆に“オススメしない”モノとは⁉ 映画『マダム・ウェブ』インタビュー

マーベル初の本格ミステリー・サスペンス映画『マダム・ウェブ』が、2月23日(金)に日本公開。突如として未来予知能力に目覚める主人公キャシー・ウェブ(後のマダム・ウェブ)の吹き替え版を、第1子を出産したばかりの大島優子さんが務めた。マーベル作品の大ファンだという大島さんには、女子のチーム経験の話から出産の話までたっぷりとインタビュー。続けてGetNavi web恒例の今ハマっているモノ・コトについて聞いた。

大島優子●おおしま・ゆうこ…1988年10月17日生まれ。栃木県出身。2006年にアイドルグループ・AKB48に第2期生として加入。“神7”と呼ばれグループを牽引した。2014年6月のAKB48卒業後は俳優として活躍しており、NHK連続テレビ小説『あさが来た』(2015)をはじめ、NHK大河ドラマ『青天を衝け』(2021)、日本テレビ系ドラマ『ネメシス』(2021)、映画『とんび』(2022)などに出演。私生活では2021年7月に俳優の林遣都と結婚し、2023年1月に第1子出産を発表した。XInstagram

 

「自宅をより居心地よくすることが好き」

 

──大島さんは、最近何かハマっていることはありますか?

 

大島 これといったモノはないのですが、自宅をより居心地よくすることが好きで。収納の仕方をいつでも考えていて改良を重ねています。どれだけスペースにシンデレラフィットするかにこだわったりとか!(笑)。そのために、自分でDIYもするんですよ。

 

──おお! それはすごい。最近は何を作られましたか?

 

大島 最近だと、鍋敷きを作りました。外壁用のタイルをサンプルでもらったんですよね。それが海外製の可愛らしいタイルで、何かにできないかなと。厚さも十分にあったので、フェルト生地を接着して鍋敷きに作り直しました。

 

──アイデアマンですね。以前から、手作りするのは好きだったんですか?

 

大島 そうですね。祖母が編み物や手作業が好きだったので、その姿をずっと見ていたこともあります。

 

──使って良かった道具やアイテムは何かありますか?

 

大島 先日、子どもの本棚を組み立てたんです。バラバラで素材がきたのでそれを組み立てて完成させて、仕上げに角が危ないので、安全クッションを取り付けました。粘着性のテープ状になっていて、真ん中が折れるタイプのコーナークッションを購入しましたが……アレ全然ダメですね!

 

──ああ、ダメなタイプでしたか……!

 

大島 すみません、おすすめしない方でした(笑)。かなり強力な粘着性のモノにしましたが、ペロッと剥がれちゃって使えなかった。最初から直角に形成されているタイプを、長さを測ってフィットさせた方が物持ちは良さそうだなと気づきました。

 

──しっかりDIYする方の意見ですね。勉強になります。

 

大島 DIYする時って、ついつい便利さや手軽さで考えがちですが、私は最終的には「物持ちの良さ」「耐久性」の部分で、素材やキットを選ぶようにしています。

 

──お子様のためを思ってというのが、DIYのきっかけになっているんですか?

 

大島 いえ、自分の引き出しの取っ手を木工から真鍮のものに変えるなど、細かいことは以前からやっていました。子どもが産まれてから、また取っ手を木に戻しましたけどね(笑)。

 

──これから作ってみたいモノはありますか?

 

大島 できることなら、なんでも全部作ってみたいくらい……!特に、これからは子ども用の棚とかおままごと用のキッチンとか作ってあげたいですね。時間があればやりたいなという気持ちですが。

 

──素敵ですね。ぜひ完成された際は見せていただければと思います!

 

 

映画『マダム・ウェブ』

2024年2月23日(金)全国公開

 

(STAFF&CAST)
原題:MADAME WEB
監督:S・J・クラークソン
出演:ダコタ・ジョンソン、シドニー・スウィーニー、イザベラ・メルセド、セレステ・オコナー、タハール・ラヒム、エマ・ロバーツ、アダム・スコット
公式サイト:https://www.madame-web.jp
© & ™ 2024 MARVEL

 

(STORY)
救急救命士として働くキャシー・ウェブ(後のマダム・ウェブ)は、一人でも多くの命を救うため日々奮闘していた。ある時、救命活動中に生死を彷徨う大事故に巻き込まれてしまう。それ以来、キャシーはデジャブのような奇妙な体験を重ねるのだった。自分に何が起きているのか戸惑うキャシーだったが、偶然にも出会った 3人の少女たちが、黒いマスクの男に殺される悪夢のようなビジョンを見てしまう。それが未来に起きる出来事だと確信したキャシーは、少女たちを助けることを決意。未来が見えるという不思議な力を使い何度も危機を回避するが、謎の男はどこまでも追ってくる……。男の目的は一体? なぜ執拗に少女たちを追うのか? やがて明らかになる、少女たちの<使命>とキャシーの能力の秘密。少女たちを守る先に、彼女が救うことになる<未来>の正体とは──

 

撮影/金井尭子 取材・文/kitsune スタイリスト/有本祐輔(7回の裏) ヘアメイク/松野仁美

俳優・賀来賢人がハマり続けているモノ「見つける度に買っていたらとんでもない数に」Netflix「忍びの家 House of Ninjas」

現代の日本を舞台に、最後の忍び一家が、国家を揺るがす危機と対峙していくNetflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」で、主演、原案と一人二役をこなす賀来賢人さん。ファッションに造詣が深い賀来さんに、今ハマっているコト・モノについて聞いた。

賀来賢人●かく・けんと…1989年7月3日生まれ。東京都出身。2007年に映画『神童』で俳優デビュー。主な出演作に映画『新解釈・三國志』、『今日から俺は!!劇場版』(2020)、『劇場版TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』(23)、ドラマ『今日から俺は!!』(2018・日本テレビ系)、TBS日曜劇場『半沢直樹』(2020)、『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(2021)、『マイファミリー』(2022)など。映画『金の国 水の国』、『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』(2023)では声優も務めた。InstagramX

 

ファッション小物は必需品「帽子屋さんになれる」

 

──GetNavi webということで、賀来さんが今ハマっているコトを教えてください。

 

賀来 英語です。本作でデイヴ・ボイル監督と仕事をし始めたのをきっかけに、座学とオンライン英会話を始め、塾にも通っています。仕事で海外の方と会話する機会も増えているので、すごく役立っています。英語を知っておくだけで、行動範囲も広がるじゃないですか。違う言語だと思考も変わることも面白いですね。

 

──素敵です。ではハマっているモノはありますか?

 

賀来 ファッション小物が好きで、眼鏡、時計、帽子はずっとハマっています。特に眼鏡は数えきれないぐらい所有しています。目が弱いので、普段から眼鏡は欠かせないんですよ。

 

──眼鏡はどのように選んでいるのでしょう?

 

賀来 古い眼鏡が好きなんです。アンティークと呼ばれるモノから、70・80年代のモノまで、いろいろ持っています。精巧に作られていて、貴金属素材のジュエリーフレームもあり、ラグジュアリーでかっこいいんです。見つける度に買っていたらとんでもない数になりました。

 

──たくさんのコレクションの中から、その日の眼鏡をどうやって選ぶのでしょう?

 

賀来 出かける直前に玄関の鏡を見て、今日のファッションに似合う眼鏡を選ぶこともあれば、眼鏡から服装を決めることもあります。僕はメイクをしないので、眼鏡は唯一のメイクのようなモノです。

 

──時計もアンティークがお好きなのでしょうか?

 

賀来 そうですね。眼鏡ほどではないですが、たくさん持っています。シックな時計もあれば、昔の人が付けていそうな派手な金時計もあり、気分によって変えています。仲の良いスタイリストさんが時計マスターなので、「これは絶対に買っといたほうがいい」という時計を教えてもらって、ネットで買うこともあります。

 

──帽子はいかがでしょう?

 

賀来 帽子屋さんになれるぐらいの数を持っています(笑)。髪の毛がクルクルで、スタイリストさんがいなければ、まとめられないんです。だから現場に行く時、帽子は必需品です。素材、裏地、形にこだわって選んでいますね。とはいえ、よく被る帽子は同じモノが多いですが。

 

──ぜひお気に入りの帽子を教えてください。

 

賀来 「ソラリス」という知り合いのブランドです。昨年、オリジナルの帽子を作らせてもらいました。レザーのキャスケットで、長年被り続けたような味わいがあってお気に入りです。

 

Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」

Netflixで独占配信中

 

(STAFF&CAST)
出演:賀来賢人 江口洋介 木村多江 高良健吾 蒔田彩珠 吉岡里帆・ 宮本信子 ・田口トモロヲ 柄本時生 嶋田久作 ピエール瀧 筒井真理子 番家天嵩 山田孝之
原案:賀来賢人 村尾嘉昭 今井隆文
監督:デイヴ・ボイル 瀧本智行 村尾嘉昭
脚本:デイヴ・ボイル、山浦雅大、大浦光太、木村緩菜
エグゼクティブ・プロデューサー:佐藤善宏(Netflix)
プロデューサー:神戸明
製作プロダクション:TOHOスタジオ
製作:Netflix
Netflix公式Instagram:https://www.instagram.com/netflixjp
Netflix公式X: https://twitter.com/i/broadcasts/1YqGoDZZANEJv
Netflix公式YouTube: https://www.youtube.com/watch?v=qmaDgyhEEzA

 

(STORY)
古く巨大な屋敷に暮らす俵一家。自動販売機の補充をするアルバイトを続ける次男の晴(賀来賢人)は孤独な毎日を送っていた。実は俵家は、服部半蔵直系の最後の”忍び”ファミリー。かつては家族全員がエリートの”忍び”として、BNM(=忍者管理局)から重宝される存在だった。しかし6年前、死闘の末長男の岳(高良健吾)を失い、一家は”忍び”の世界から完全に足を洗うことを決意。晴のささやかな楽しみは、仕事の後に訪れる牛丼屋で毎日顔を合わせる可憐(吉岡里帆)の存在。勇気を振り絞って話しかけることに成功した晴は、徐々に可憐との距離を縮めていく。しかし可憐は雑誌記者で、晴に接近する“ある目的”があった。可憐と行動を共にするうち、晴は辻岡と自身の強烈な因縁に気付き始める──。

 

撮影/中村功 取材・文/猪口貴裕 スタイリスト/小林新(UM) ヘアメイク/西岡達也

大島優子「自分に厳しく、人にも厳しくしていた経験と重なる」マーベル映画『マダム・ウェブ』で実写吹き替え初挑戦

『スパイダーマン』シリーズのソニー・ピクチャーズが贈るマーベル初の本格ミステリー・サスペンス映画『マダム・ウェブ』が、2月23日(金)に日本公開。今作の主人公は突如として未来予知能力に目覚めるキャシー・ウェブ(後のマダム・ウェブ)で、ダコタ・ジョンソンが演じている。

大島優子●おおしま・ゆうこ…1988年10月17日生まれ。栃木県出身。2006年にアイドルグループ・AKB48に第2期生として加入。“神7”と呼ばれグループを牽引した。2014年6月のAKB48卒業後は俳優として活躍しており、NHK連続テレビ小説『あさが来た』(2015)をはじめ、NHK大河ドラマ『青天を衝け』(2021)、日本テレビ系ドラマ『ネメシス』(2021)、映画『とんび』(2022)などに出演。私生活では2021年7月に俳優の林遣都と結婚し、2023年1月に第1子出産を発表した。XInstagram

 

そんなキャシー(マダム・ウェブ)役の日本語吹き替えを、俳優の大島優子さんが務めることが決定。第1子出産後初となる作品であり、実写映画の吹き替えは初挑戦だという大島さんにインタビューした。

 

【大島優子さん撮り下ろし写真】

 

マーベル作品の大ファン!「先に観ていいんですか」

 

──本作『マダム・ウェブ』で、大島さんは主人公キャシー・ウェブ(マダム・ウェブ)の吹き替えを演じられました。オファーが来たときは、どのような気持ちでしたか?

 

大島 うれしかったですね! もともとマーベル作品の実写映画やドラマはほとんど見ている大ファンなので、その世界の中に入れることに興奮しました。試写で作品を観るときから「ええ⁉ 本当に先に見ていいんですか……」って気持ち(笑)。幸せでしたし、胸が高鳴りました。

 

──好きな世界観に入り込めるのはうれしいですよね。

 

大島 ただ、その分プレッシャーもありました。映画だけでなく、コミックスからのファンの方も多いので。マダム・ウェブというキャラクターはコミックスから登場していますが、実写化にあたって、どういう人物になるのかは明かされていなかった。その期待も大きいだろうと思っていました。

 

──初めて作品をご覧になった際の印象はいかがでしたか?

 

大島 序盤から展開が早くて驚きました。キャシーが能力を開花させてビジョンが見え始めたシーンでは、過去なのか未来なのか、それすらまだ分からず謎に包まれていて、先が読めない演出に引き込まれました。時間軸に揺さぶられるような、あの感じ……興奮しましたね。ハラハラドキドキさせられ、あっという間に見終わった印象でした。

 

──キャシーのキャラクターとご自身では、似ている部分や共感できる部分はありましたか?

 

大島 彼女は初め、人に心を開かないタイプでした。しかも、彼女が出会ったジュリア、アーニャ、マティという3人の少女たちに対しても責任を感じていなかった。しかし、そこから徐々に自分が守っていかなきゃいけないんだという気持ちが芽生えて、最終的には彼女の母性が爆発する。周囲のいろいろなことを少しずつ感じ取って、吸収して、咀嚼することで自分を積み上げていく部分は、私と似ているなと感じました。

 

アフレコは「あと1か月やりたかった」

 

──大島さんは、過去にアニメ―ション作品の吹き替えを担当されていましたが、実写映画は初ということで、どのような点に気を配られましたか?

 

大島 キャシーの感情を表現できるように、自分もお芝居をしているかのような感覚で演じることを意識しました。他の登場人物がキャシーに対してそれぞれどういう相手なのか、距離感や周りの状況、音などでも、声のトーンが変わってくるだろうと考えました。

 

──お芝居の経験を生かしながらアフレコに臨んだわけですね。

 

大島 はい。ただキャシー役のダコタ・ジョンソンさんに馴染むようにも意識しました。アフレコは数日間でしたが、1日目は感覚がわからず、しっくりこなかったんです。でも2日目には「ハマった、これだね」と演出の方に言っていただけて、自分でも腑に落ちました。

 

──限られたスケジュールで完成まで持っていったわけですね。

 

大島 他の出演者の方のセリフが埋まっていくと、また全然違う感じになりました。そうなると自分のテンションも変わりますよね。最終日に向けて、どんどん世界観を仕上げていきました。最後は名残惜しかったです。あと1カ月ぐらいやりたかった(笑)!

 

──本作は、アクションシーンも多い作品でした。通常の吹き替えと違う点や発見はありましたか?

 

大島 アクションシーンは ただただ楽しくやらせていただきました。感情面はあまり考えないで、やられたら「やられた!」っていう感覚で。唸りは、ダコタさん本人と同じような声を真似しました。ダコタさんは『フィフティ・シェイズ』シリーズなど息遣いが多い俳優さんなんですよ。その時の感情によって息遣いが違うので、とても勉強になりました。

 

──なるほど。呼吸や息の吐き方にも気を付けて演技されていたわけですね。

 

大島 呼吸って自然なことだから、普段は注目しないじゃないですか。でも、やっぱり緊張している時、疲れている時、反対にリラックスしている時の呼吸は全く違う。そこを表すのがすごく上手な方だったので、いろんなパターンの息遣いをやらせていただいて楽しかったです。

 

チーム活動への共感「穴埋めされてどんどん成長していく」

 

──この物語はキャシーと、ジュリア、アーニャ、マティという3人の少女たちの成長も見どころの一つですよね。

 

大島 キャシーと女の子たちは、みんな寂しそうで何かを求めていた。それは愛情だけではなかったと思うんです。何かを求めて日々生きて、自然とみんなが集まって、でも実は運命の糸で結ばれていた……。キャシー自身、何か自分に足りてないものがあることをわかっていて、みんながチームになることで、それが穴埋めされてどんどん成長していく。その過程にも注目してほしいです。

 

──大島さんご自身も、チームとして活躍されていたご経験があると思いますが、何か重なる点はありましたか?

 

大島 彼女たちがいるのは、生きるか死ぬかの世界じゃないですか。キャシーもそのつもりで、女の子たちに厳しく教えることは教え、伝えることは伝えています。そして自分にも厳しくしていると思うんです。私もグループ時代に自分に厳しく、人にも厳しくしていたので、重なりますね(笑)。

 

──後輩の方も多くいらっしゃる中でチームを率いられていたからこそ、通じる部分があるというか。

 

大島 照らし合わせてみると通じる部分があるなと思いました。厳しくしながらも、女の子たちのおかげで、彼女自身も変化して成長しているんですよね。

 

──女の子たちがだんだん仲良くなっていく描写は、微笑ましいですよね。

 

大島 そうですね。3人それぞれ違った個性の持ち主で、同じ学校でも絶対に友達にならないジャンルだと思うんですけど(笑)。女の子って同じことを体験するとすごく仲良くなる。「あの時こうだったよね」と、経験をシェアすると絆が強くなると思います。

 

「子どもが健康に生まれてくれるなら、できることすべてやる」

 

──作中では「母と子」という親子の関係性も大きなテーマになっていますよね。キャシーと実の母親、そしてキャシーと少女たち。

 

大島 最初は、特に責任を感じていなかったキャシーも、だんだんと女の子たちと過ごすに連れて「守りたい」という母性が生まれていく。戸惑いながらも、それを受け入れていくんですよね。

 

──実際に、お母さんになられた大島さんから見て、共感する部分はありましたか?

 

大島 やっぱり子どもが生まれる時は、何がなんでも健康で生まれてほしいし、できることがあれば全てやると思うんですよね。自分もそうすると思うので、キャシーのお母さんの気持ちはすごく共感できました。

 

──子どもを守りたいという気持ちですね。

 

大島 逆に母親の記憶がないキャシーの立場になると、お母さんが自分のことを愛していたかなんてわからないじゃないですか。母親にどう思われていたか分からずに30年近く生きてきて、母親の愛情を知った瞬間っていうのは、キャシーの気持ちにも母親の気持ちにも感情移入しましたね。胸が熱くなりました。

 

マーベル作品の魅力は「自分もスーパーパワーを与えられた感覚になれること」

 

──今回「マダム・ウェブ」という新たなマーベルヒーローが誕生したわけですが、改めてマーベル作品の魅力とは?

 

大島 やはり一番は、見た人が強くなった気持ちになれること。見終わった後、なぜか自分もスーパーパワーを与えられた感覚になりますね。そこが私の好きな部分で、いつも自分を奮い立たせてもらえるな、と感じています。でも本作はマーベル初の本格ミステリー・サスペンスということで、アクションで自分が強くなる気分というよりは、頭脳的に賢くなって教養がついたような気持ちになれる。フィジカルだけじゃないのが、今までとはまた違った魅力かなと思います。自分にも何か才能が眠っているんじゃなかいかって思わせてくれるというか。

 

──大島さんが、キャシーのような“未来が見える”才能に目覚めたらどうします?

 

大島 いやー、もし未来が見えたとしても、上手く使いこなす自信がないですね。未来が見えても、それをどう使うかの判断ができるかどうか。自分がヒーローとして与えられた使命があるんだったら、できるかもしれませんが。

 

──大島さんの中で、理想のヒーロー像というものは何かありますか?

 

大島 私はアイアンマンがすごく好きで。人間として欠落してる部分はあるけれど、能力が高い。でもどこか愛情に飢えていて、ちょっと寂しがりやなところが、すごく心に刺さるんですよね。

 

──マダム・ウェブも少し共通している点があるような。

 

大島 そうですね。マダム・ウェブもどこか人間として欠けてる部分があり、人を遮断している部分がある。あまり人に心を開かないタイプだと思うんで、彼女もそれを自分で理解しながら過ごしている。それでも、未来予知っていう能力が与えられてからの彼女の変化ぶりっていうのは素晴らしくて。その成長ぶりが素敵だなと思いましたね。人間、そしてヒーローとして形成されていく感じ、魅力的なヒーローだと思います。

 

──最後に、公開を楽しみにされているファンの方にメッセージをお願いします。

 

大島 今回、マーベル初の本格ミステリー・サスペンスということで展開が読めないなか、登場人物一人ひとりのセリフで謎が解き明かされていきます。字幕はもちろん、字幕で追いつかない場合はぜひ吹き替えで見ていただき、一謎を解きながら観ていただければと思います。

 

映画『マダム・ウェブ』

2024年2月23日(金)全国公開

 

(STAFF&CAST)
原題:MADAME WEB
監督:S・J・クラークソン
出演:ダコタ・ジョンソン、シドニー・スウィーニー、イザベラ・メルセド、セレステ・オコナー、タハール・ラヒム、エマ・ロバーツ、アダム・スコット
公式サイト:https://www.madame-web.jp
© & ™ 2024 MARVEL

 

(STORY)
救急救命士として働くキャシー・ウェブ(後のマダム・ウェブ)は、一人でも多くの命を救うため日々奮闘していた。ある時、救命活動中に生死を彷徨う大事故に巻き込まれてしまう。それ以来、キャシーはデジャブのような奇妙な体験を重ねるのだった。自分に何が起きているのか戸惑うキャシーだったが、偶然にも出会った 3人の少女たちが、黒いマスクの男に殺される悪夢のようなビジョンを見てしまう。それが未来に起きる出来事だと確信したキャシーは、少女たちを助けることを決意。未来が見えるという不思議な力を使い何度も危機を回避するが、謎の男はどこまでも追ってくる……。男の目的は一体? なぜ執拗に少女たちを追うのか? やがて明らかになる、少女たちの<使命>とキャシーの能力の秘密。少女たちを守る先に、彼女が救うことになる<未来>の正体とは──

THE RAMPAGE鈴木昂秀「いつも空回りしているこの役を一番うまく演じられるのは自分だと思いました(笑)」映画「ただ、あなたを理解したい」

THE RAMPAGE、MA55IVE THE RAMPAGEで活躍する鈴木昂秀さんが初主演を務めた映画『ただ、あなたを理解したい』が2月23日(金・祝)より公開。豊かな景色が広がる地方都市を舞台に、20代前半の若者たちが自身の人生や恋、そして仲間たちへの想いに悩む青春群像劇。等身大の演技で本作に挑んだ鈴木さんに、「本当の親友同士のようだった」と語る共演者たちとの制作秘話や、作品に込められたメッセージについてたっぷりとお話をうかがった。

 

鈴木昂秀●すずき・たかひで…1998年10月3日生まれ、神奈川県出身。THE RAMPAGEのパフォーマー。2014年に開催した「GLOBAL JAPAN CHALLENGE」を経て、正式メンバーとなる。 2017年、1st SINGLE「Lightning」でメジャーデビュー。 2016年からは俳優としても活動し、「HiGH&LOW」シリーズにも出演。現在グループ派生ユニット「MA55IVE THE RAMPAGE」としても活動。公式HPInstagram

 

【鈴木昂秀さん撮り下ろし写真】

 

身近にいる人を理解したいと願う彼らの想いに涙がこぼれました

──ちょうど昨日、初号試写をご覧になられたそうですね。(※取材時)

 

鈴木 はい。自分の演技を見るのがめちゃくちゃ恥ずかしかったです(苦笑)。でも、作品自体は本当に素晴らしくて。自分で言うのも恥ずかしいのですが……結構、泣いちゃいました(笑)。

 

──それはどういった涙だったのでしょう?

 

鈴木 いろいろと考えさせられた故の涙でした。というのも、今作は青春群像劇なのですが、キラキラしているだけではないんです。高校時代にただただ楽しい時間を過ごしてきた仲間たちとの関係性があり、その4年後、高校卒業と同時に消え去るように東京に出ていった主人公の祐也が恋人を連れて再び姿を現す。再会したかつての仲間たちの中には、年齢を重ねたことで大人の考えを持つようになった者もいれば、当時の思い出から抜け出せない人もいて。そのことで互いの関係性にも変化を感じ、だからこそ、それぞれが相手のことを“理解”したいと思い始めるんですね。僕自身、試写を見ながら、もっと自分の近くにいる人たちのことをちゃんと考え、理解したいし、理解しなきゃダメだなと思うようになって。その瞬間、自然と涙が流れてきたんです。

 

──なるほど。今作で鈴木さんはその祐也を演じられました。どんな男性だと感じましたか?

 

鈴木 正直、僕そのまんまだなと思いました(笑)。台本を読みながら、“あ〜、こういうこと、俺も一年ぐらい前に言っていたなぁ”と思ったり、“ダメダメ! そういう行動を取っちゃうから、話がややこしくなるんだよ!”ってツッコんだり。本当に共感することばかりで、この役を一番うまく演じられるのは自分だという自負もありました(笑)。

 

──そうだったんですね(笑)。とはいえ、劇中では仲間たちから「ただ暑苦しいだけのバカ」と言われていましたが……。

 

鈴木 言われていましたね。でも、祐也は本当になんの取り柄もない男だから、しょうがないです(笑)。それに、これって裏を返せば、褒め言葉でもあると思うんです。空気が読めず、空回りしてしまうこともありますが、それだけ彼は自分の感情に素直で、みんなのことを思ってつい突っ走ってしまうところがあるということですから。

 

──確かに彼の言動は純粋で、それ故に恥ずかしくなるようなことも口にしますが、ときにそのストレートな言葉が心に刺さってきます。

 

鈴木 それはきっと、彼には打算がないからだと思います。飾らず、思ったことをそのまま言う。そのことで、仲間たちからは「そんなの言われなくても分かってるよ」と思われるんですが、でも実は、本当に大切なことってそうしたシンプルな言葉の中にあったりするんですよね。ですから、きっと見終わった後も、“あの言葉って、つい聞き流してしまったけど、もしかしてこういう想いがあったのかも……”といろんな考察をして楽しんでいただけると思います。

 

──また、すごく印象的だったのが、劇中で何度も登場する祐也の「おまえらラッキーだぞ!」という口癖でした。この言葉にはどのような感情を込めていたのでしょう?

 

鈴木 これはすごく解釈が難しかったです。純粋に“楽しい!”という感情をみんなと共有したくて発しているのかもしれないですし、祐也の性格的に友人たちの前で粋がったり、強がっているだけなのかもしれない。“おまえらは気づいてないだろうけど、今、こんなに楽しい状況なんだぜ!”って。でもこれは、あえて明確化せず、できるだけいろんな感情として伝わるように演じましたので、映画を見ていただく皆さんが自由に感じ取っていただければなと思います。

 

相手を理解することが幸せに繋がらないことも……

──今作は鈴木さんにとって初主演映画となります。座長としてのプレッシャーはありましたか?

 

鈴木 最初はやっぱり、ものすごく緊張しました(笑)。でも、共演者のみんなとは年齢が近かったこともあって、現場では常に和気あいあいとした雰囲気だったのでよかったです。愛知県でロケをしていたのですが、一週間ぐらいずっと一緒にいて。撮影がない日でも現場に遊びに来るぐらい、スタッフさんを含め、みんなの気持ちが一つになっていましたね。ですから、僕が主演としてみんなを引っ張るということもなかったです。

 

──そうした関係性は出会った瞬間から作れたのでしょうか?

 

鈴木 ……いや、最初の顔合わせの時はやっぱりみんなカチカチでした(笑)。でも、その日の夜であったり、撮影に入る前日に男性俳優陣を食事に誘ったりして、関係性を築いていったんです。思えば、座長っぽいことをしたのって、それぐらいかもしれません(笑)。

 

──でも、そうした仲の良さが画面からも伝わってきました。

 

鈴木 そう感じてもらえたのならすごくうれしいです。この作品の魅力の一つに、仲間たちとの距離感のリアルさがあると思うんです。例えば、日常でも、数年ぶりに友人と再会して、顔を見た瞬間に学生時代と同じノリに戻ることってありますよね。僕も今年のお正月に帰省した際、親友たちを家に呼んで一緒にお酒を飲んだんですが、何の気遣いもなく、好きなことを言い合える仲ってすごくいいなって改めて思って。この映画では、そうした気兼ねない仲間たちとの関係性がしっかり描かれていますし、それと同時に、祐也が恋人を連れて帰ってきたことで生まれるちょっとした気まずさなども繊細に表現されている。だからこそ、誰が見ても感情移入しやすいんだと思います。

 

──なるほど。その意味では、もしかすると映画を見る世代によっては、祐也たちの関係性の見え方も違うかもしれませんね。

 

鈴木 そうだと思います。10代の子たちの目には、大人たちのいつまでも変わらぬ友情にうらやましさを感じるでしょうし、逆に僕と同世代や少し上の人たちにとっては、10代の頃の楽しかった思い出が甦ってきて、ちょっとセンチメンタルな気持ちになるかもしれません。

 

──まさにセンチメンタルになった一人です(笑)。

 

鈴木 (笑)。それに、この映画は見るたびに発見があるんですよね。僕も、初めて見た時は祐也の目線で物語を追っていたので、切なさが一番に湧いて出てきたのですが、次にフラットな気持ちで見たら仲間がいることの素晴らしさを強く感じて、ほっこりできたんです。

 

──登場人物の誰に視点を置くかでも、見る側の感情が変化しそうですよね。

 

鈴木 はい。それぞれの役が置かれている環境や立場も違いますからね。祐也は高校を卒業すると同時に役者になることを夢見て、思い切って上京した身ですが、一方で、親友である春樹(野村康太)の妹・梓(山本愛香)は将来が見えないことに不安を感じ、自分が何をしたいのかも分からないまま、ただ“この街を飛び出したい”と悩んでいる。その対比の描かれ方も興味深いですし、親目線だと梓のことを心配する母親(高橋ひとみ)の気持ちもすごく分かる。それぞれに抱えているものが異なるので、視点を変えるたびに、“自分や相手にとっての幸せとは何か”“でも、その答えはきっと一つじゃないんだ”ということを考えさせられるんです。

 

──まさしく、映画のタイトルである“あなたを理解したい”というテーマが至るところに詰まっていますね。

 

鈴木 ただ難しいのが、本当に相手の気持ちを全て知ることが幸せに繋がるのかということなんですよね。理解してしまったがために、“自分の居場所はここじゃないのかも”と、逆に不安に襲われることもある。それに、今まではちょうどいい距離感で付き合えていたのに、相手を深く知ってしまったことで、その絶妙な距離が崩れてしまう場合だってあるわけで。もちろん、何が正解なのかは誰も分からないですし、答えは見てくださる人の数だけあると思います。そうしたメッセージ性は碓井将大監督がこだわっていた部分でしたので、ぜひ劇場で作品に込められた想いを感じ取っていただければと思います。

 

直談判して主題歌を。MA55IVEにとっては新たな挑戦の一曲

──今作の主題歌にはMA55IVE THE RAMPAGEによる「ガーベラ」が使われています。鈴木さん自身も作詞・作曲に携わったそうですが、この経緯を教えていただけますか?

 

鈴木 最初に映画の台本をいただいた時、主題歌の欄だけ空白になっていたんですね。それで、撮影中に監督とプロデューサーに「主題歌をMA55IVEに作らせていただくことは可能ですか?」と直談判したんです。そうしたらすぐに事務所と連絡を取ってくれて、OKも出たので、僕が主導で曲を作らせていただくことになりました。

 

──それは、鈴木さんの中で最初から曲のイメージがあったということでしょうか?

 

鈴木 はい。映画を撮っていくなかで、どんどんとドラムやベース、ギターの音が頭の中で鳴り響いていって。いざ、主題歌の制作が決まってからは、その断片を一つにまとめていったんです。完成のイメージは最初から固まっていたので、実質4〜5日ほどでメロディと歌詞の細かいところまで形にしていくことができましたね。

 

──「ガーベラ」というタイトルも鈴木さんの案だったのでしょうか?

 

鈴木 レコーディングを終えた後にMA55IVEのメンバーと一緒に決めていきました。最初は、映画のシーンで印象的だった夕暮れの街並みから連想して「オレンジ」というアイデアもあったんです。でも、そこからさらに絞り出し、同じオレンジ色の花である「ガーベラ」に決めました。花言葉もまさにこの映画にピッタリだなと思って。

 

──ガーベラの花言葉には<希望>や<常に前進する>といった意味がありますね。

 

鈴木 映画をご覧いただくと分かるのですが、ラストシーンは祐也がこれからの未来に思いを馳せるような内容になっているんですよね。僕はそこに彼の希望を感じたんです。また、祐也に限らず、今作は青春映画ということで登場人物たちが走っているイメージが僕の頭の中にあって。ですから楽曲自体も疾走感のあるものにしたのですが、そこも<常に前進する>という花言葉に合っているなと思ったんです。

 

──曲調自体は、これまでのMA55IVEになかった珍しい世界観になっていますね。

 

鈴木 はい。MA55IVEといえばガッツリとしたヒップホップが代名詞のようになっていましたが、今回は誰もが聴きやすい爽やかな曲になっています。新たなアプローチに挑戦したので、どんな反応をいただけるのかもすごく楽しみですね!

 

大好きなアニメ作品を語るなら、半日以上はください(笑)

──さて、GetNavi webではインタビューにご登場される皆さんにハマっているモノや趣味をご紹介いただいているのですが、最近ではどんなものがありますか?

 

鈴木 最近どころか、ずっと大好きなのがマンガとアニメです。なかでも、もともと大好きだった『俺だけレベルアップな件』というマンガが、今年の1月からアニメ化されていて。もう、まじでヤバいです!!(笑) うれしさのあまり、放送前にマンガを読み返してしまいました(笑)。

 

──どういった点にそれほどの魅力を?

 

鈴木 ダンジョンやハンターなどが登場するファンタジー世界の物語ではあるんですが、バトル展開がリアルで生々しいんです。もちろんそれだけじゃなく、主人公の水篠旬がハンターのなかで最低ランクに位置するという設定も面白くて。こうしたダンジョンものって、突然出現したモンスターを前に勇者が現れて敵を倒していくのが王道ですが、この作品では主人公が簡単にやられてしまうんですね。ただ、瀕死の重傷を負った主人公が、とある「システム」の力を手に入れたことで、ミッションをクリアするごとにスキルがパワーアップしていく。その過程も最高で。世界中で観られているほど話題の作品ですし、きっと一度見たら多くの方がハマると思います!

 

──作品への熱量がものすごく伝わってきました(笑)。ちなみに、人生で何度も見返しているようなアニメ作品はありますか?

 

鈴木 間違いなく『ソードアート・オンライン』ですね。僕の人生において一番好きなアニメです。THE RAMPAGEでコスプレイベントをした時、主人公のキリトに扮したぐらい大好きです(笑)。この作品は3周……いや、4周は繰り返し見ていますね。グッズも揃えていて、作中に登場する原寸大の剣も買っちゃいました。1万5000円ぐらいしたんですけど(苦笑)。

 

──筋金入りですね(笑)。何をきっかけにこの作品を知ったのでしょう?

 

鈴木 まだ寮に住んでいた時、少し気持ちが落ちていたことがあって。ファンタジー要素のあるアニメを見て元気を出そうと思い、たまたま見たのがこの作品との出会いでした。主人公は決して無敵の強さがあるわけじゃなく、敵にやられて、しゃべることさえできなくなるほど鬱になったりする。そうした人間味のあるところも素敵ですし、それでも最後には戦いに挑む強さを取り戻していく姿に感銘を受けたんです。もちろん、ほかにも素敵な要素はたくさんあって…………。あ〜、ダメですね。こんな短時間で好きなアニメは語り尽くせないです。せめて半日以上は語る時間をください(笑)。

 

 

 

(C)BOKURANOFILM

ただ、あなたを理解したい

2024年2月23日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

 

(STAFF&CAST)
監督:碓井将大
脚本:鈴木裕那、渋谷未来
主題歌:MA55IVE THE RAMPAGE『ガーベラ』(rhythm zone)

出演:鈴木昂秀、野村康太、新谷ゆづみ、森高 愛、比嘉秀海、伊藤千由李、山本愛香、吉田晴登、城 夢叶、高橋ひとみ ほか

(STORY)
幼なじみの祐也と春樹、由衣香は、高校生になっても子どもの頃に見つけた秘密基地で他愛のない時間を過ごしていた。卒業後、祐也は役者になることを夢見て上京。一方、残った仲間たちは、時が止まったままのような秘密基地で現実逃避のような日々を送っていく。そんなある日、4年ぶりに祐也が恋人を連れて帰省する。思わぬ再会に、再び彼らの時間が動き出していく……。

 

【映画「ただ、あなたを理解したい」よりシーン写真】

公式サイト:https://tadaanata-movie.com/

(C)BOKURANOFILM

 

撮影/映美 取材・文/倉田モトキ ヘアメイク/佐藤由佳(KIND) スタイリスト/高橋正典

賀来賢人、忍者役作りで初の15キロ増「筋肉を大きくしました」Netflix「忍びの家 House of Ninjas」企画持ち込み一人二役

現代の日本を舞台に、最後の忍び一家・俵(タワラ)家が国家を揺るがす危機と対峙していくNetflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」。2月15日(木)に配信されるや否や世界92の国と地域でTOP10入りし、Netflix週間グローバルTOP10(非英語シリーズ)で初登場2位にランクイン。全世界で大ヒット中の本作において主演、原案の一人二役をこなした賀来賢人さんに、個性的なキャスト陣と、世界的に活躍するスタッフ陣が集結した本作の制作秘話を語ってもらった。

賀来賢人●かく・けんと…1989年7月3日生まれ。東京都出身。2007年に映画『神童』で俳優デビュー。主な出演作に映画『新解釈・三國志』、『今日から俺は!!劇場版』(2020)、『劇場版TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』(23)、ドラマ『今日から俺は!!』(2018・日本テレビ系)、TBS日曜劇場『半沢直樹』(2020)、『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(2021)、『マイファミリー』(2022)など。映画『金の国 水の国』、『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』(2023)では声優も務めた。InstagramX

 

【賀来賢人さん撮り下ろし写真】

 

「家族を通して懸命に生きている人たちを描きたかった」

 

──原案と主演を担うNetflix「忍びの家 House of Ninjas」では、原案としても名を連ねている賀来さん。企画の発端を教えてください。

 

賀来 子どもと忍者のテーマパークに行った時に、日本人として“忍び”というカルチャーがおざなりになっていると感じたんです。子どもや外国人観光客は興奮しているのに、僕たち大人は「忍者なんて現代にいないし」と言う。そういう感覚がもったいないなと。そこで忍びをエンタメに昇華できたら、世界中が楽しめる作品になるだろうなと思いつきました。

 

──思いついてから、どのように作品に落とし込んだのでしょう?

 

賀来 作品を作るうえで僕の中に2つのキーワードがありました。1つは「忍者」。もう1つは「家族」。やりたかったことの一つが「普遍的なモノ」で、「全世界で普遍的なテーマって何だろう」と考えた時に家族が思い浮かんだんです。年齢幅の広い大家族かつ、かわいらしい家族にしたかった。同時に、家族を通して懸命に生きている人たちを描きたかったんです。

 

──原案には、賀来さんを含め村尾嘉昭監督と今井隆文さんが名を連ねていますが、どのように作業を進めていったのでしょう?

 

賀来 ドラマ『死にたい夜にかぎって』(2020)でご一緒した村尾嘉昭監督と、コロナ禍の緊急事態宣言の時に「何か作品を作ろう」と話していました。でも途中で「俺たち文章が書けないね」と気づいて(笑)。脚本も書ける役者の今井隆文くんに入ってもらいました。僕たちが話すことを文章にしてもらい、それをNetflixに提出しました。

 

──企画を提出した時の手応えはいかがでしたか?

 

賀来 常に根拠のない自信があるタイプなので、「これは絶対いける!」という感覚でした(笑)。実際にNetflixの方も可能性を感じてくださり「キャラクターとストーリーにもっと広がりがあるほうがいい」と、クリエイターであるデイヴ・ボイルさんと繋げてくれたんです。

 

──監督と脚本に名を連ねている方ですね。

 

賀来 デイヴはアメリカ人ですが日本のカルチャーに造詣が深く、忍者に強く興味を示し、僕たちの作った企画書を何十倍にも広げてくれました。例えば忍者には、肉を食べちゃいけない、酒を飲んじゃいけない、セックスをしちゃいけない……たくさん縛りがある。そんな面白いキーワードをピックアップして、窮屈な忍者を表現してくれました。彼がいなければこのストーリーは作れなかったです。

 

──俵家の父役の江口洋介さん、母役の木村多江さん、長男役の高良健吾さんはじめ、俵家以外のキャスト陣も実力派・個性派揃いですが、キャスティングにも賀来さんは関わっているのでしょうか?

 

賀来 はい、僕が直接お願いをした方もいます。カメラマンには江原祥二さん、照明には杉本崇さんなど、日本映画界のオールスターのような超一流の方々が集まってくださいました。そこにピヨピヨの僕と、アメリカから来たクリエイターという不思議な組み合わせで、最初は皆不安だったと思います。でも誰もが常に提案をしてくださり、想像を遥かに超えるセッティングをしてくださり、助けられまくりでした。やっぱり一流ってすごいなと感動しました。

 

一番に考えた「どれだけ居心地の良い環境で仕事ができるか」

 

──共同エグゼクティブ・プロデューサーとして、現場では何を意識しましたか。

 

賀来 皆さんがどれだけ居心地の良い環境で仕事ができるかを一番に考えました。特に役者は、どんな脚本でも「これでは動けない、会話ができない」という状況が生まれることがあります。僕自身が役者なので、皆が迷いを感じていたら、すぐに飛んで行きました。

 

──予算管理も賀来さんがされたのでしょうか? セットやCGなど、かなり豪華でした。

 

賀来 僕に予算の判断はできなかったので担当者に任せましたが、プロデューサーは頭を抱えていましたね(笑)。例えば江原さんは推進力がすごくて「ここはクレーンじゃないと撮れないよ、持って来て!」と、どんどんクリエイティブを提案してくれる。林田さんが作ったセットも、とんでもなくすごいです。日本家屋を一軒建てたようなもので、実際に住めるくらいの完成度でした。アクションは基本的にCGなしでやる予定でしたが、予想外のCGも結構ありました。

 

──原案兼主演として、お芝居でのやりにくさはなかったですか?

 

賀来 撮影に入るまでは両立が難しいと思っていました。でも原案から関わり時間をかけて準備を進めていったからこそ、作品に対しての理解が深く現場で迷うことがありませんでしたね。

 

──監督との話し合いは、どういう場面ですることが多かったのでしょう?

 

賀来 全シーンを、事前に話し合うようにしていました。直前の話し合いは絶対に事故が起きると思ったので、なるべく前に解消しておきたかったです。撮影終わりに、翌日のシーンについて監督陣とディスカッションを重ねました。客観視はできていたのかなと思います。

 

──主演ということで座長的な役割も意識しましたか?

 

賀来 これまでも主演であっても、僕は意識しません。僕が楽しそうにしていたら、みんなも楽しそうになると勝手に信じています。

 

──ちなみに今後監督兼主演に興味はありますか?

 

賀来 監督たちから「もしシーズン2があったら、一話でも撮ってみたら」と言われたんですが絶対に無理ですね。体力的にも難しく、監督も役者も疎かになってしまうなと。次は自分が役者として参加しないで、プロデューサーに専念してみたいですね。

 

母役・木村多江さんは「これまでのイメージを覆す」

 

──賀来さんの肉体美が服越しでも伝わってきたのですが、ボディメイクやアクションの事前準備はどのようにしていたのでしょう?

 

賀来 一度、体重を15キロぐらい増やし、そこから体重は落として筋肉を大きくしました。アクションも、半年ぐらい前からコンディションを整え始めましたね。僕ができていないと、他のキャストさんに示しがつかないですから。

 

──そこまで体重を増やしたことはこれまでありましたか?

 

賀来 初めてです!

 

──アクション面は、どんなことを意識しましたか?

 

賀来 今回のアクションはド派手なものというよりは、地味で実践的な殺陣でした。あくまで忍者というカテゴリーで表現しなければ、忍者という文化にも失礼だし、世界の人たちもがっかりすると思ったんです。伝統から抜けられない古いタイプの忍者が令和に生きている姿を描いているので、アクションも伝統を守った殺陣に徹底しました。

 

──女性陣のアクションが、男性陣に引けを取らないなと感じました。

 

賀来 そうなんですよ! 俵家で言うと、(木村)多江さんはこれまでのイメージを覆すぐらい動ける方なのです。(蒔田)彩珠ちゃんも、最初はストレッチの段階で体が硬かったのに、どんどん動けるようになって。女性陣は本当にかっこよかったです。

 

──「かわいらしい家族にしたかった」というお話もありましたが、家族の描き方でこだわったポイントを教えてください。

 

賀来 いかに説明を省いて、短いセリフと表情で、家族というものを伝えられるかが大きなチャレンジでした。あと俵家は、子どもからおばあちゃんまでいるので、幅広い視聴者が感情移入できるようにしました。そして家族全員が主役であることが今回のテーマですね。一応僕が主演となっていますが、出演時間は他の家族と変わりません。家族一人ひとりが葛藤や謎を抱えていて、それを丁寧に描いていく。キャラクターの個性が少しずつめくれていく構成にしました。すごく難しいやり方ですが、丁寧にめくれればめくれるほど、視聴者はこの家族に共感してくれるんじゃないかなと。

 

──俵家は伝統的な家族ですが現代的なところもあり、特に木村さん演じる母親は行動もぶっ飛んでいますよね(笑)。

 

賀来 やっぱり女性は強いですよ。一方で江口(洋介)さん演じる父も、普段はパッとしないけど、ここぞというときは誰よりも家族を守るヒーローになる。その姿を見て娘も見直す。そういう構造を作りたかったんです。

 

──もうすぐ配信が始まります。今はどんなお気持ちでしょうか?

 

賀来 今日のような取材も含めて、いろんな方の意見を聞くと、改めて見る人によってさまざまな視点や楽しみ方があるんだなと思います。今までは役者として「ここを見てほしい」と思うことがありましたが、今回は「面白かった」と言ってもらえたらいい。視聴者の娯楽の一部になれば、どういう解釈でもいいんです。本作がきっかけで忍者や日本の文化に興味を持っていただけたらうれしいですね。

 

Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」

Netflixで独占配信中

 

(STAFF&CAST)
出演:賀来賢人 江口洋介 木村多江 高良健吾 蒔田彩珠 吉岡里帆・ 宮本信子 ・田口トモロヲ 柄本時生 嶋田久作 ピエール瀧 筒井真理子 番家天嵩 山田孝之
原案:賀来賢人 村尾嘉昭 今井隆文
監督:デイヴ・ボイル 瀧本智行 村尾嘉昭
脚本:デイヴ・ボイル、山浦雅大、大浦光太、木村緩菜
エグゼクティブ・プロデューサー:佐藤善宏(Netflix)
プロデューサー:神戸明
製作プロダクション:TOHOスタジオ
製作:Netflix
Netflix公式Instagram:https://www.instagram.com/netflixjp
Netflix公式X: https://twitter.com/i/broadcasts/1YqGoDZZANEJv
Netflix公式YouTube: https://www.youtube.com/watch?v=qmaDgyhEEzA

 

(STORY)
古く巨大な屋敷に暮らす俵一家。自動販売機の補充をするアルバイトを続ける次男の晴(賀来賢人)は孤独な毎日を送っていた。実は俵家は、服部半蔵直系の最後の”忍び”ファミリー。かつては家族全員がエリートの”忍び”として、BNM(=忍者管理局)から重宝される存在だった。しかし6年前、死闘の末長男の岳(高良健吾)を失い、一家は”忍び”の世界から完全に足を洗うことを決意。晴のささやかな楽しみは、仕事の後に訪れる牛丼屋で毎日顔を合わせる可憐(吉岡里帆)の存在。勇気を振り絞って話しかけることに成功した晴は、徐々に可憐との距離を縮めていく。しかし可憐は雑誌記者で、晴に接近する“ある目的”があった。可憐と行動を共にするうち、晴は辻岡と自身の強烈な因縁に気付き始める──。

 

撮影/中村功 取材・文/猪口貴裕 スタイリスト/小林新(UM) ヘアメイク/西岡達也

ヨーロッパで大旋風を巻き起こした史上初“F3女性チャンピオン”凱旋。18歳の超新星・野田樹潤の目標は“日本女性初のF1ドライバー”

昨シーズン、F3クラスのヨーロッパの大会で女性ドライバーとして史上初の優勝を飾り、さらに年間チャンピオン獲得という偉業を達成した野田樹潤(じゅじゅ)さん。2024年、いよいよアジア最高峰『全日本スーパーフォーミュラ選手権』への参戦も決定。モータースポーツ界の常識を塗り替え続ける“世界最速女子高生”に、これまでの歩みと次なるチャレンジへの決意を語ってもらった。

 

 

野田樹潤●のだ・じゅじゅ…2006年2月2日生まれ、東京都出身。岡山県美作市育ち。日本体育大学桜華高校3年。父親は元F1レーサーの野田英樹。4歳でKIDSカートデビュー。9歳でフォーミュラ4レースに最年少デビュー。11歳から13歳まで参戦した『フォーミュラU17チャレンジカップ』11戦全勝。2020年、拠点を海外に移し14歳よりヨーロッパ各国でレースに挑戦。2021年、『デンマークF4選手権』優勝3回(総合7位)。2023年、フランスで開催された『ユーロ・フォーミュラ・オープン』において女性ドライバーとして初の優勝を飾り、イタリア国内を中心に7戦が行われた『ジノックスF2000フォーミュラトロフィー』でも女性初の年間チャンピオンに輝いた。2024年1月、アジア最高峰の『全日本スーパーフォーミュラ選手権』参戦決定。公式HPXInstagram

 

【野田樹潤さん撮り下ろし写真とレース中の写真】

 

三輪車より先にカートに乗っていた
負けて悔しい思いをしたのはレースだけ

──いつも周囲の皆さんからはどう呼ばれているんですか?

 

Juju 「ジュジュ」と呼ばれてます。文字に書くときはアルファベットで“Juju”です。

 

──分かりました。では、このインタビューでもJujuさんと呼ばせていただくということでよろしいでしょうか?

 

Juju はい。それでよろしくお願いします(笑)。

 

──Jujuさんは4歳からレースを始めたそうですね。初めてハンドルを握ったときのことは憶えていますか?

 

Juju 最初は父(元F1レーサーの野田英樹さん)のレースを見ることから始まって、3歳でカートに乗ったんですけど、そのとき、ただ見てるよりも自分で操ったほうがずっと楽しいって感じたんです。私にとっては三輪車に乗るよりそっちのほうが先で、すごく楽しんで乗っていたっていう記憶があります。

 

──どういうところが楽しかったんですか?

 

Juju 3歳ですからアクセルとかブレーキとかいう概念はないし恐怖心もないですから、アクセルをベタ踏みして離さなかったみたいです。それで父が危なくないようにと、カートに紐を括り付けて引きずられている写真が残ってます(笑)。

 

──カーレースに興味を持ったのは、やはりお父さんの影響ですか?

 

Juju  そうですね。それが一番大きいですね。

 

──お父さんの現役時代は憶えてますか?

 

Juju あまり記憶にはないんですけど、引退レースの印象は強く残ってます。

 

──Jujuさんは自分からレースに出たいと希望したんですか?

 

Juju レースに出たいというより走るのが楽しかったんです。でも、走ってみて勝てないとすごく悔しくて。それからは負けたくないという、ただその一心で一生懸命やって、勝てば嬉しい、負ければ悔しいの繰り返しでした。

 

──他に興味のあるスポーツはなかったんですか?

 

Juju いろんなスポーツをやりました。空手、サッカー、体操、水泳、バレエやチアなんかもやったんですけど、レースで負けたときは周りが手をつけられないぐらい泣いたのに、他のことでは負けても悔しいとは思わなくて。それで自分にとってレースは他のスポーツと違うんだとはっきり自覚したんです。 

 

ヘルメットを被ってしまえば相手が誰だろうと関係ない
事故に遭うより走るのをやめるほうが苦しいと思った

──Jujuさんは9歳でフォーミュラ4レースに最年少デビュー(フォーミュラカーとはタイヤとコクピットが剥き出しになったレース用4輪車のこと。F1からF4の4つのカテゴリーに分類される)。10歳の時点で、すでに大人にも負けないタイムを叩き出していたわけですが、その時点でプロのレーサーになると決意していたんですか?

 

Juju はい。その時点で決めてました。

 

──相手は全員年上。大人でも気後れはなかった?

 

Juju ヘルメットを被って車に乗ってしまえば、相手が大人なのか子供なのか、男性なのか女性なのかも全然関係なくなりますから。それをイコールコンディションと呼べるかどうかはか分かりませんが、勝負してるときは、皆、同じレースで上を目指しているライバル。相手もそうですけど、自分が何者なのかも考えてません。

 

──カートとフォーミュラマシンでは性能が桁違い。戸惑いはありませんでした?

 

Juju もう車の大きさもスピードも全然違います。サーキットもカートとは比べものにならないですから、もちろん不安もありました。でも、ちょっとずつ乗りこなしていくのがすごく楽しかったんです。

 

──幼い頃からレースシミュレーターを使って訓練されてましたね。あの練習は素人目にはゲームをしているようにしか見えないのですが、具体的にどういうメリットがあるのでしょう?

 

Juju シミュレーターで練習しておくと、初めて行くサーキットでも事前にコースの情報をある程度覚えられるんです。実際のコースを走って練習できる時間は限られているので、それが一番のメリットですね。

 

──その分、コースではドライビングに集中できると。

 

Juju そうです。あとはシミュレーターなら普段やらないようなセッティングにしてどう変化するかいろいろ試すこともできます。リスキーなチャレンジをして事故を起こしても車は壊れないのでお金の心配も要りません(笑)。私が使ってるのはF1やトップチームのシミュレーターみたいに高機能ではありませんけど、普段と違ったことをいろいろ試せて、そこでつかんだイメージをコースでの練習に反映できるのは大きなメリットですね。

 

──フォーミュラレースでは極端に視界が狭まると聞いています。その視界の外で起きていることにレーサーは何を頼りに対処されているんですか?

 

Juju 経験から身につけた感覚ですね。それと普段からなるべく視野を広く捉えながら反射神経を磨くトレーニングも積んでいます。

 

──とはいえF4マシンの最高速度は240km。怖くなかったんですか?

 

Juju 普通に走ってる分には怖さを感じませんでした。

 

──Jujuさんが11歳のときのドキュメンタリー番組(サタデードキュメント『小学生レーサー目指すはF1』2017年11月放送/BS-TBS)の中で、コースアウトして壁に激突し、その後に泣き叫んでいる場面がありました。普通、あんな怖い目に遭ってしまったら走れなくなると思うのですが。一体あのショックからどうやって立ち直ったんですか?

 

Juju あの事故のときは本当に怖かったですし、しばらくそれまでと同じようには走れなくなって。そしたら父にこう言われたんです。「レースをやっていれば必ず事故は起きる。これからも起きるしもっと大きな事故も経験する。それが怖ければ、もう今のうちにやめた方がいい。やめることは別に悪いことじゃないから」と。そのとき、事故よりレースをやめるほうが自分にとっては苦しい、それに比べたら恐怖心なんて大したことじゃないって思ったんです。

 

──では、最終的にはご自身でレースを続ける決断を下したんですね。

 

Juju はい。もちろん事故に対する恐怖心がなくなったわけではなかったんですけど、それはレースをやっているドライバーなら皆同じ。むしろそれがあるからこそ自分自身を制御することもできる。私はあの経験によって、恐怖心との向き合い方、どうやって自分の中でコントロールするかを学べたような気がしてます。

 

14歳でヨーロッパのレースに挑戦
家族でのキャンピングカー生活と苦闘の果てに掴んだ史上初の快挙

──Jujuさんは2020年、ご家族で拠点を海外に移し、14歳からヨーロッパのレースに挑戦されてきたわけですが、その背景には、やはり年齢制限の問題(日本国内でのF3相当のレースへの参加資格は18歳以上)があったわけですか?

 

Juju はい。通常だとあと4年待たなければいけなかったので国外へ出るという選択肢しかなかったんです。

 

──つまり、海外でのレースに勝算があったからではなく、ブランクを開けずにレースを続けるためには他に方法がなかったということですね。

 

Juju 本場のヨーロッパで勝てるなんて全く思ってなかったですし、むしろ自分の力がどこまで通用するのか不安でした。

 

──その不安がなくなったのはいつ頃でしたか?

 

Juju デンマークでの初戦に優勝することができて、すごく自信になりました。ただ、それからは向こうのチームから目の仇にされて。日本人の女の子に何年もそこでやってるチームが負けたわけですから面白いはずがないのは分かるんですけど、「えっ!? こんなことしてくるの!」って驚いてしまうくらい、いろいろ理不尽なことをされて。

 

──何があったんですか?

 

Juju 急にルールを変えられたり、あとは相手がやってもペナルティにならないのに私がやるとペナルティになったり。そのときはこれってスポーツじゃないよねって腹が立ったし、本当につらかったんですけど。でも、こう考えたんです。それって裏を返せば自分の力が通用してるからだ。脅威に思われている証明だって。

 

──ライバルとして認められたのだと前向きに捉えたんですね。

 

Juju 勝負に対する姿勢が根本的に違うんです。日本人には「そんなことしてまで勝って恥ずかしくないのか」っていう武士道精神のようなものがありますけど、向こうの人は「勝てないことが恥ずかしい」っていう考え方なんです。

 

──なるほど。そこまで真逆の考え方の相手と戦うのはかなり難しかったんじゃないですか?

 

Juju いつも父がこう言ってたんです。「卑怯な手を使って勝ったとしても、そういうやつはこの先必ず通用しなくなる。だから、つらいかもしれないけど今は自分ができることを一生懸命やろう。そしていつかチャンスが来たときにそれを自分のものにするんだ。最後は本物が残る。信じて諦めずにやっていこう」と。実際、そのとおりになりました。

 

──素晴らしい教えですね。現地ではその頼りになる監督でもあるお父さんとお母さん、そして弟さんと4人でキャンピングカーに寝泊まりする生活をされていたということですが、見知らぬ異国を転々とする暮らしに不自由を感じることはありませんでした?

 

Juju それはまあいろいろ(笑)。日本とは生活スタイルも違いますし、細かいこと言うと、よく高速道路のサービスエリアのシャワーを使ってたんですけど、お湯が出ないとか霧みたいな水しか出ないとか、そんなことはしょっちゅうでした。小さなことですけど、そういう面で日本は恵まれてるなってあらためて感じましたね。でも、何から何まで家族がサポートしてくれたおかげで自分はいつでも集中して楽しくレースができたので、本当に感謝しかないと思ってます。

 

2024年『全日本スーパーフォーミュラ選手権』参戦
日本人女性ドライバー初にして最年少の挑戦

──2021年に『デンマークF4選手権』で優勝3回、2023年にはフランスの『ユーロ・フォーミュラ・オープン』に女性として初めて優勝、イタリアの『ジノックスF2000フォーミュラトロフィー』では5勝を挙げて女性として初の年間王座を獲得。F3クラスのレースで女性が年間チャンピオンになったのは史上初という快挙を成し遂げたわけですが、それらの結果を出したことで変化はありましたか?

 

Juju そうですね。同じサーキットで行われたGTレースのチームから「来年、うちで走らないか」ってその場で声をかけられました(笑)。でも一番大きかったのは周りの反応より自分の気持ち。ヨーロッパで苦しみながらも頑張ってきた結果が、どんどん形になっていく実感を味わえたことが何よりの喜びでした。

 

──そしてヨーロッパでの結果が、いよいよ今年、アジア最高峰といわれる『全日本スーパーフォーミュラ選手権』(F2に匹敵するカテゴリー)参戦へと繋がった(1月9日、TGM Grand Prixがドライバーとして起用すると発表)。“日本人女性ドライバー初”でなおかつ“史上最年少”という話題性もあって一躍注目の的となっていますが、今、どんなお気持ちですか?

 

Juju 昨シーズンが始まる前は、まず1年はユーロフォーミュラで経験を積んで、次の年もまたそこで頑張っていくつもりでいました。まさかこんなに早くスーパーフォーミュラに出られるなんて考えてなかったので素直にうれしいし、とてもわくわくしてます。

 

──今季はヨーロッパでの実績を引っ提げての凱旋でもあります。自信のほどはいかがですか?

 

Juju 昨年の暮れに初めてスーパーフォーミュラの車に乗ったんですが、初日はアクセルやブレーキのタイミングがうまくいかなかったんです(ドライバー候補者は3日間にコースを192周する合同テストを受けた)。車はいけるのに自分のほうがそれについていけない感じで。今までの自分の常識と全然違っていてうまくいかなかったんです。でも2日目には「ここまでいけるんだ!」って。すごく難しいけど、これは乗りこなせたら本当に楽しいだろうなって感じました。

 

──手応えはあったんですね。

 

Juju いえ、私の場合、スーパーフォーミュラのようなビッグパワー(最高時速300km超)の車も初めてなら日本のサーキットを走った経験もほとんどありません。まして国内のトップドライバーが揃っていて、海外からもすぐにF1へ行けるようなドライバーたちが集まってくるカテゴリーですから、経験値から言ってもどん尻の自分がすぐに結果を出せるほど簡単な世界じゃないです。でも、だから最下位でいいなんて消極的な考えでもありません。とにかくチャレンジを重ねて一戦ごとに成長していく姿を皆さんに見せられたら、それが一番だと思っています。

 

 

構成・撮影/丸山剛史 取材・文/木村光一

北原里英「他の共演者としゃべらないために役者一人にロケ車一台が用意」出演者も先が読めない、謎解きはアドリブで!? 『劇場版 マーダー★ミステリー 探偵・斑目瑞男の事件簿 鬼灯村伝説 呪いの血』

推理小説の登場人物となり、参加者が話し合いながら事件の解決を目指す体験型ゲームの新ジャンル「マーダーミステリー」。このゲームシステムをベースに、ストーリーテラーを劇団ひとりさんが務めるドラマ「マーダー★ミステリー 探偵・斑目瑞男の事件簿」は好評を博し、舞台化もされた。2月16日(金)から公開されるシリーズ最新作、『劇場版 マーダー★ミステリー 探偵・斑目瑞男の事件簿 鬼灯村伝説 呪いの血』も、各シーンのセリフはほぼアドリブで行われ、演技者としての実力が試される新感覚ミステリームービーとなっている。過去にも「マーダーミステリー」を取り入れた舞台に出演している北原里英さんに、緊迫感に満ちた撮影時のエピソードを中心に、今ハマっていることやモノなどを語ってもらった。

 

北原里英●きたはら・りえ…1991年6月24日生まれ。愛知県出身。2007 年、AKB48 第二回研究生(5期生)オーディションに合格して、2008 年から AKB48メンバーとして活躍。2015年、NGT48に移籍し、キャプテンを務める。2018年にNGT48を卒業。卒業後、ドラマや映画に多数出演し活躍している。女優ほか2023年には小説家としてデビューを果たす。近年の代表作として、映画『女子大小路の名探偵』(2023年)、『神さま待って!お花が咲くから』(2023年)など。公式HPInstagramXYouTube

 

【北原里英さん撮り下ろし写真】

 

撮影が始まって、実際に接して得た情報で推理をしていくしかない

──「マーダーミステリー」というゲームシステムを取り入れた『劇場版 マーダー★ミステリー 探偵・斑目瑞男の事件簿 鬼灯村伝説 呪いの血』ですが、事前に与えられるのはキャラクター設定と行動指示のみ、各シーンのセリフはほぼ即興劇(アドリブ)という、俳優さんにとって、演技力はもちろん、推理力やアドリブ力も求められる内容です。

 

北原 ドラマ版の「マーダー★ミステリー 探偵・斑目瑞男の事件簿」には出演していないのですが、もともと私はマーダーミステリーにご縁があって。マーダーミステリーの要素を取り入れた舞台やテレビのバラエティには出演したことがあったんです。だから初めての方よりは、ルールを分かった上で参加できました。

 

──マーダーミステリーは人狼ゲームと通じるところもありますが、こういうゲームは得意なほうですか?

 

北原 あまり人狼ゲームは得意じゃないです。というのもゲームとはいえ、なるべく嘘はつきたくないから。偽善者に聞こえるかもですが(笑)。

 

──今回の映画は、事前にどんな情報をもらえたんですか。

 

北原 舞台となる鬼灯村(ほおずきむら)と自分が演じる人物の設定書、その事件が起きるまでの動き、その日の自分の簡単な行動は、それぞれもらっているんですが、それを発展させて自分でセリフを作らなきゃいけないので、誰にも頼ることができないんです。他のキャラクターに関しては、例えば「〇〇に好意を寄せている」ぐらいは分かるんですけど、ほぼ情報がなくて。撮影が始まって、実際に接して得た情報で推理をしていくしかないんです。

 

──休憩中、共演者とはどう過ごしていたんですか?

 

北原 本当に厳重で、セッティングチェンジなどで空き時間が生まれるじゃないですか。そういうときも、他の人と話したりしては駄目なので、一人一台ロケ車が用意してあって、車の中で待機するんです。それぞれ車に戻ると、役者一人に、一人ずつ担当のスタッフさんが付いていて。例えば1回目の話し合いをするシーンが終わった後、そのスタッフさんから、「あなたはこれを見つけました」と新たな証拠を渡されるんです。それを次の話し合いのときに、どの順番で出すかが今後の展開で重要になってきますし、自分が犯人と疑われたときに、みんなの目を逸らさせるために出すこともあります。「ちょっと、この証拠は弱いな」と思ったら早めに行きたいし、そこは自由なんです。

 

──それはすごい! もちろん事前に俳優さん同士で話し合うのも駄目?

 

北原 駄目です。メイクルームでメイクしているときも、他の方と時間が重なったらあいさつするじゃないですか。あいさつした後に世間話を始めたら、スタッフさんが飛んできて「しゃべらないでください!」と止められるぐらい徹底していました。

 

「アドリブが苦手」と仰っていた高橋克典さんの独白シーンは圧巻だった

──撮影期間はどのぐらいだったんですか。

 

北原 俳優陣は2日です。1日目は丸々アドリブパートで、死体発見からエンディングまで。2日目は回想シーンなど前後の芝居パートだったので、その日は決まったセリフのみ。たった2日間なのに、1日目で脱出ゲームをやったくらいの絆が生まれたので、2日目は連帯感がありました。

 

──かなり1日目は張り詰めた空気だったんじゃないですか。

 

北原 緊張感はすごくありました。アドリブに対する緊張感もありますし、これが映画になるというところで、1つの作品として完成させなきゃいけないという緊張感もおのおのあったと思います。スタッフさんは、俳優陣の初見のリアクションを大切にして撮ってくださったのですが、演じている側は素とお芝居の中間という感覚でした。

 

──アドリブパートは、どの俳優さんが話し出すか分からないから、カメラの台数も相当ありますよね。

 

北原 そうですね。でも、完成した作品を見たら、それを感じさせないので、さすがプロの方々だなと思いました。一日中撮影をしていたので、もっとたくさんのことを話し合ったりもしたんですが、余計なシーンは削って、ミステリー色強めにきれいにまとまっているなと感じました。

 

──例えば、どういう要素がカットされていましたか。

 

北原 ドラマ版から出演している劇団ひとりさんはアドリブのプロじゃないですか。八嶋智人さんも面白い方なので、お二人のアドリブは、笑いが堪えられないくらい面白い瞬間が多々ありました。一度カメラが回ったらストップしないので、スタッフさんも流れに任せるしかないんです。そういうシーンは本編でも多少は残っていますが、全体的にシリアスになっていますね。関西人の役者さんが多かったので、現場ではお笑い色が強めでした。

 

──劇団ひとりさんは笑わせる気満々でしたよね。

 

北原 満々でした(笑)。初めて映画を見た方は気付かないかもしれないんですが、みんな笑いを堪えたり、顔を背けたりしていて。繰り返し見ていただくと、そういうところにも気付いていただけるんじゃないかと。

 

──中盤で脱落するキャラもいますが、それも途中で知らされたんですか?

 

北原 そうです。ご本人も直前まで知らなかったみたいです。

 

──アドリブ面で特に印象に残っている共演者はどなたですか。

 

北原 高橋克典さんの独白シーンは、「本当はセリフが用意されてない?」と疑うぐらい迫真の演技でした。しかもご本人は「アドリブが苦手」と仰っていたのに、アドリブでこんなに感情を入れることができるんだと驚かされました。

 

目の前で劇団ひとりさんのアドリブ劇が見られてうれしかった

──1日目の手応えはいかがでしたか?

 

北原 全然攻めることができないし、うまくかわされることもあって、演じながら下手だなと思いました。どこまで言うのかがマーダーミステリーって難しくて、あまりに自白しなさ過ぎても話が進みません。大体こういう作品って、一番怪しくない人が犯人じゃないですか(笑)。だから怪しいポイントが多い人は、先に言っちゃったほうが良かったりもするんです。

 

──事前の役作りも難しいですよね。

 

北原 でも、しっかり役を作っていかないと、何か言われたときにパッと返せないから、いろんなパターンを考えていきました。何か言われたときの否定の仕方一つとっても、「そんなに強く出たら変だよな」とか、いろんなことを考えちゃうんです。私が演じた七尾優子(ななお・ゆうこ) は最近移住してきた元看護師なので、村人からしたら部外者なんです。村人のことを知らない中で、誰にどうやって疑惑の目を向けていくかも悩みました。

 

──優子が不利になるような証拠写真も出てきますが、もちろん本番の前に撮影しているわけですよね。

 

北原 そうです。衣装合わせのときに撮影しているので、どこかで絶対に出てくるんだろうなと思っていたんですが、どこで出てくるかは分からない。でもマーダーミステリー作品をいくつもやってきたので、自分の設定書を見ながら、写真を出されたときに、どういう言い訳をしようか考えていました。

 

──衣装合わせも推理の上では重要だったと。

 

北原 そうなんですよ。もっと言えば、打ち合わせが一番の肝だったんじゃないかと思っていて。光岡麦監督との話し合いで、何点かメモしていたことを「こう書いてありますけど、私じゃないですよね?」みたいな感じで質問したら、「鋭いですね」と仰っていました。

 

──打ち合わせから光岡監督との駆け引きがあったんですね。

 

北原 逆に撮影が始まってからは、光岡監督と演技プランなどを話し合う時間は少なかったですね。2日目のお芝居パートも、「とにかく全員怪しく演じてください」みたいな感じだったので、綿密に話し合ってというよりは、好きにやらせてもらいました。

 

──完成した作品を見てどんな印象を受けましたか。

 

北原 しっかりとしたミステリーに仕上がっていたので、ミステリーファンの方にも満足していただける内容になったと思いますし、劇団ひとりさんのアドリブが好きな方にもオススメです。

 

──劇団ひとりさんのお芝居は『ゴッドタン』を彷彿とさせますよね。

 

北原 そうなんです! 私は「キス我慢選手権」が大好きで、『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE』は劇場まで見に行ったくらいなので、目の前で劇団ひとりさんのアドリブ劇が見られてうれしかったです。

 

夫婦で愛用しているスマホスタンド「Majextand M」

──映画でオススメのミステリー作品を教えていただけますか。

 

北原 私は『名探偵コナン』が好きで、新作映画は毎回、映画館で見ます。中でも好きな作品は2作目の『名探偵コナン 14番目の標的』(1998年)で、各キャラクターの名前に入っている数字を基に事件が起きるんです。目暮十三だったら13、白鳥任三郎だったら3と、この映画のために作者の青山剛昌先生は名前を付けたんじゃないかというぐらい見事でした。今年4月公開の新作『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』は、私の推しである服部平次がキーパーソンになるので、今から楽しみです。

 

──アニメ全般がお好きなんですか?

 

北原 それが他のアニメは、ほぼ見ないんです。それ以外だと『エヴァ(新世紀エヴァンゲリオン)』ぐらい。だから本物の『名探偵コナン』ファンなんです!

 

──今ハマっていることは何ですか。

 

北原 数年前からなんですが、スパイスカレー作りにハマっています。完全にオリジナルなんですが、適当にスパイスを配合して作ります。家族以外に振る舞うのも好きなので、クリスマス会や正月などで集まるときは、スパイスカレーを作って持って行きます。

 

──スパイスは専門店で買うんですか。

 

北原 そういうときもありますが、今はスーパーや百均でもスパイスが売っていて、手軽に買えるんですよ。しかもスパイスカレーって難しいと思われがちなんですけど、実はめちゃくちゃ簡単で。煮込まなくていいので時間も掛からないですし、市販のルーで作るよりも簡単かもしれない。私はキーマカレーが一番得意なんですけど、挽肉を炒めるだけだし、お肉が固くなる心配もないので、すごく楽です。

 

──最後に今オススメのモノを紹介してもらえますか。

 

北原 「Majextand M」というスマホ用のスタンドです。お手持ちのiPhoneにシートを貼って磁石で固定させるんですけど、スタンドの高さと角度を調節できますし、縦にも横にもできるし、タブレットにも使えます。例えば新幹線で動画を見るときって何かにスマホを立てて見ると思いますが、不安定でぐらつくじゃないですか。それが全くないですからね。TikTokなどで動画を撮るときや、インスタライブをやるときも、めちゃくちゃ便利ですし、集合写真を撮るときも重宝します。お正月に家族親戚一同で集まったときも大活躍なんですよ。オンラインミーティングにも最適ですし、畳んでコンパクトになるので持ち運びも簡単。あと人間工学に基づいているので、ストレートネックにもなりにくいんです。

 

──通販番組みたいにスラスラと説明できるんですね(笑)。

 

北原 そろそろ販売元の会社からオファーをもらってもいいんじゃないかというぐらい周りに売りまくっていますから(笑)。今作の衣装合わせでも、監督さんや衣装さんたち3人が買いました。私からオススメしたわけではなく、普通に使っていたら、「何ですかそれ?」って、みんな興味を持つんですよね。共演者だと、木村了さんと八嶋智人さんにも売り込みました(笑)。

 

──店頭で見つけたんですか?

 

北原 いえ、夫(笠原秀幸)がドラマの現場に行ったら、メイク中にスマホを「Majextand M」に立てていた俳優さんがいたらしくて、わざわざスタンドを持ち歩いているんだと思っていたら、メイク後に畳んでいるのを見て、まさかのスマホにくっついているスタンドなんだと。それで夫婦で購入したんですが、我々夫婦で100個は売っています(笑)。色も4色展開で、私が使っているのはシルバーですが、女の子だったらローズゴールドがかわいいと思います。

 

──本当に会社と繋がってないんでしょうか?(笑)

 

北原 繋がっていません! でも、これだけ夫婦で売っているので、そろそろ何がしかの契約をいただけたらうれしいですよね(笑)。

↑北原さんがオススメする「Majextand M」。かわいくデコレーションも

 

 

劇場版 マーダー★ミステリー 探偵・斑目瑞男の事件簿 鬼灯村伝説 呪いの血

2024年2月16日(金)より、新宿バルト9ほか全国ロードショー

 

(STAFF&CAST)
監督:光岡 麦
企画:安井一成  エグゼクティブプロデューサー:後藤利一 松井 伸  チーフプロデューサー:梅村 安 嶋田 豪 プロデューサー:西前俊典 市川貴裕 龍川拓美
シナリオ構成:渡邊 仁 企画アドバイザー:眞形隆之
配給:アイエス・フィールド 配給協力:ショウゲート

出演:劇団ひとり、剛力彩芽
木村了、犬飼貴史、文音、北原里英、松村沙友理、堀田眞三
八嶋智人、高橋克典

(STORY)
舞台は『一夜のうちに3人の生贄の血を滴らせると死者が蘇生する』という不気味な伝承が残る鬼灯村(ほおずきむら)。その伝承をもとに「三つ首祭り」という奇妙な鬼祭が行われていた夜、村の長を務める一乗寺家当主の遺体が発見される。 しかし、その日、村へと続く一本道で土砂崩れが発生、 警察が到着するまでにはかなりの時間を要する。当時、屋敷にいたのは8人。それぞれ人には言えない秘密を抱えており、全員が殺害の動機をもっていた。事件の真相に迫るべく、登場人物を演じるキャストによるアドリブ推理が予測不能な結末へと導かれていく―!

公式HP https://madarame-misuo.com/
公式X https://twitter.com/MadarameMisuo

(C) 2024劇場版「マーダー★ミステリー 斑目瑞男の事件簿」フィルムパートナーズ

 

撮影/武田敏将 取材・文/猪口貴裕 ヘアメイク/住本由香 スタイリスト/山田梨乃

国本梨紗インタビュー【完全版】「このお仕事をするようになってから人見知りが消え、趣味の幅もどんどん広がってきています」

『ズームイン!!サタデー』のお天気キャスターをはじめ、『超無敵クラス』や『プレミアの巣窟』などのレギュラー番組で話題を集めている、現在大注目の国本梨紗さん。昨年12月に発売されたGetNavi 02・03月合併号でも「NEXTトレンド2024」に登場するや、大きな反響を呼びました。そこで、本誌では語り尽くせなかった彼女の魅力を“完全版”として紹介します!

※こちらは「GetNavi」 2024年02・03月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

国本梨紗●くにもと・りさ…2003年4月10日生まれ。長野県出身。2020年に『第7キングダム』にてテレビデビュー。現在出演中の『ズームイン!!サタデー』では番組初の現役高校生お天気キャスターに抜擢され、話題に。レギュラー番組に『超無敵クラス』『プレミアの巣窟』など。2023年より、地元の長野県で「白馬村観光大使」としても活躍中。Instagram

 

【国本梨紗さん撮り下ろし写真】

 

学生時代は12km先の友人の家まで自転車で通っていました

──国本さんといえば、『超無敵クラス』内の人気企画「チャリ通ジャーニー」で、過酷な長距離の通学路を学生と一緒に自転車で走る様子が話題となりました。私も大ファンの一人です!

 

国本 ありがとうございます! 「チャリ通ジャーニー」は本当に多くの方から反響がありました。顔や名前を覚えていただくきっかけにもなって、私にとっても忘れられない、大事な企画の一つになっています。

 

──学生たちと遜色ない力強い自転車の走りにも驚きましたが、もともと体力には自信があるほうなんですか?

 

国本 そうですね。そもそも、私自身も「チャリ通ジャーニー」に近い環境で育った一人でしたから。出身が長野県の白馬村で、片道12km先の友達の家に遊びに行くというのが日常だったんです(笑)。

 

──12km!? それってどれくらい時間がかかるものなんですか?

 

国本 マウンテンバイクに乗っていたというのもありますが、皆さんが想像されるよりも意外と早くて、大体1時間くらいです。それに、私が住んでいた場所は、まだ平坦なところだったのでよかったんです。ただ、友人の家はゲレンデの近くにあり、坂が多かったので大変でしたね。きっとそこで、自然と体力と脚力がついたんだと思います。

 

──リアル『弱虫ペダル』ですね(笑)。

 

国本 まさに! 田舎道なので、たまに鹿と出くわしてビックリすることもありましたし(笑)。ただ、上京して自転車に乗って分かったことですが、都会は都会でクルマの往来が激しく、田舎にはない怖さを感じたんです。それでいえば、相手が動物かクルマかの違いだけで、注意しなければいけないのは、きっとどこでも同じなんだなと思いました。

 

──野生の動物とクルマの危険度を同軸で語る方に初めて会いました(笑)。でも、今の話だと、もしや番組側は、そうした環境で国本さんが育ってきたことを知っていた上で、「チャリ通ジャーニー」の企画に抜擢されたということなんでしょうか?

 

国本 いえ、多分知らなかったと思います。ですから、私もまさかこんなに自分にぴったりの企画をいただけるとは思わず、ホントに驚いて。出演してくださる高校生たちとお話をしていても共感する部分が多かったですし、どんなことを考えながら自転車を漕いでいるのかとか、自転車通学の魅力を聞くたびに、“分かるなぁ”と思えて楽しかったです。

 

── 一見すると辛いだけに感じますが、自転車って、あのスピードだからこそ発見できる景色の良さなどがありますよね。

 

国本 そうなんです。クルマだとあっという間に通り過ぎてしまう景色でも、自転車だとゆっくりと楽しむことができる。季節の移ろいを全身で感じることもできますし、自転車って本当にいいなぁって思います。

 

──今でも乗っているんですか?

 

国本 上京してからも、しばらくは15km先のお店に平気で自転車でお買い物に行ったりしていました(笑)。でも、ある日盗まれちゃって。それ以来、トラウマになって最近は自転車から少し離れてしまっていますね。

 

白馬村で生まれ育ったことが、お天気キャスターの仕事にも活かされています

──また、国本さんは昨年、地元の魅力を全国に伝えるべく、「白馬村観光大使」の第一号にも任命されました。国本さんが感じる白馬村の良さはどんなところですか?

 

国本 やはり一番は自然の素晴らしさです! 地元に帰るたびに3000m級の山々が目の前に広がっていて、それがまるで私のことを迎えてくれているような幸せな気持ちになるんです。それに食べ物もおいしい! きっと水が澄んでいるのも大きくて。夏場に顔を洗おうと思って蛇口をひねると、いつもキンキンに冷えた水が出てきますし。東京だと少し温い水が出てくることがあるので、そんなときは、“あ〜、村に帰りたい!”って、少しホームシックになります(笑)。

 

──現在、『ズームイン!!サタデー』でお天気キャスターとしても活躍されていますが、そうした地域による気候や環境の違いの感じ方は、お仕事にも活かされていそうですね。

 

国本 はい。すごくあると思います。例えば、白馬村は雪の多い場所なので、「国本さんは寒さに強そうだね」と聞かれることが多いんですね。でも、同じ気温でも湿度が異なると、体感が全然違うんです。東京はすごく乾燥しているから数字以上に寒く感じますし、長野は逆に湿度が高いから、気温が低くても意外と平気だったりする。こうした感覚の違いを身を以て知っているのは、お天気をお伝えするうえで、どこかしら役に立っているところがあるのかなと思います。

 

──確かに、お天気ニュースでよく耳にする「明日は積雪に注意を」という言葉ひとつとっても、雪が滅多に降らない地域と積雪量の多い地域とでは、意味合いが違ってきますよね。

 

国本 そうですね。東京だと雪で交通が麻痺するおそれがあったり、前日から注意を呼びかけたりしますから、本当に全然違うなって思います。思えば上京したばかりの頃、積雪に備えた電車の計画運休があるという話を聞いたときは、絶対に都市伝説だと思ってました(笑)。

 

番組で得た知識は友人にめちゃくちゃドヤ顔で語っています(笑)

──また、近年はバラエティをはじめ、さまざまな番組に出演して活躍されていますが、特にご自身にとってチャレンジだったと感じた番組はありますか?

 

国本 昨年二十歳になり、10月にBS12 トゥエルビの『NEXT TRIP ~心アガる香港!ひとり女子旅』という番組に出させていただいたのですが、初めての海外での一人旅でしたので、それがすごく印象に残っていますね。海外旅行自体は家族で経験があったものの、これまでは台湾や韓国、ハワイなど、多少なりとも日本語が通じる場所ばかりだったんです。でも、香港は全く通じなくて。そんな土地で、お買い物をしたり、自分一人の力で街の魅力を見つけていくという経験はいろんなチャンレジがありましたし、素敵な思い出になりました。

 

──怖さはなかったんですか?

 

国本 現地の方は皆さんすごく優しくて、私の“出川イングリッシュ”のような英語も必死に理解しようとしてくださったので、なんとかなりました(笑)。絶対に会話になってなかったと思うんですが、不思議と理解をし合えているような気もして(笑)。それに香港って先進的な街並みがある一方で、路地に一歩入るとディープな世界が広がっている感じがすごく面白いんです。今回は時間があまりなかったのでディープな世界には入り込めなかったのですが、いつか個人的に深掘りしていきたいという目標もできましたね。

 

──すごく積極的ですね。そうした探究心は以前からお持ちだったんでしょうか?

 

国本 もしかしたら、今のこうしたお仕事をするようになったことがきっかけかもしれないです。出会う人たちとコミュニケーションを取るのがどんどん楽しくなってきて。もともとはすごく人見知りだったんです。高校時代なんて、半年ぐらい友達が作れませんでしたから(笑)。でも今は、「チャリ通ジャーニー」で出会った学生さんたちから番組内でもっといろんな話を聞き出したいなって思うようになったり、ちょっとずつ一人暮らしにも慣れてきたことで、『ズムサタ』の共演者の皆さんやスタッフさんに「休みの日は何をされてるんですか?」と積極的に話しかけて、自分の時間を充実させる術を学ぶようにもなってきたんです。

 

──『ズムサタ』をはじめ、レギュラーで出演中の『プレミアの巣窟』など多くの情報番組に出ていらっしゃると、知識や趣味の幅も広がっていきそうですね。

 

国本 それはすごくあります。これまで自分が触れてこなかった分野のことをたくさん知れるので、どんどん自分が成長しているように思います。それこそ『プレミアの巣窟』に携わらせていただくようになってから、プライベートで美術館に行ったり、舞台を観に行くようになって。この一年で自分の興味の幅も広がりました。普段でも、番組で学んだことが友人との会話の中で出てくると、ここぞとばかりにめちゃくちゃドヤ顔で語ったりしますね(笑)。

 

──(笑)。先ほど、昨年二十歳になったというお話がありましたが、ご自身の中で変化はありましたか?

 

国本 変化なのかは分かりませんが、ひとつだけ気づいたことがあります。私の実家は居酒屋で、これまでいろんな方がお酒を飲んで楽しんでいる姿を見て、憧れを持っていたんですね。“二十歳になったら絶対にお酒を飲むぞ!”って。でも、いざ飲んでみたら、一杯目でコロッと寝てしまいました。どうやら、ド下戸だったみたいです。お酒って楽しいものなんだろうなって想像していたのに、私にとっては強敵でしたね(笑)。

 

──長野だとおいしいお酒がたくさんありそうですから、それは残念ですね(笑)。

 

国本 そうなんですよ。日本酒や地ワインなど、本当にたくさんあるみたいなんですが、下戸の私にとってはどれも噂レベルでしかないです(笑)。ただ、お酒が得意じゃなくても、長野にはお酒の肴にぴったりな大人が嗜む食べ物がたくさんありますし、そういったものをこれからもっと知っていきたいなと思っています。八ヶ岳のチーズもそうですし、これまで食べず嫌いで避けてきたジビエにもチャレンジして、観光大使としてしっかり地元の良さをアピールしていきたいですね!

 

この4点は、今の私の生活に欠かせないアイテムです!

──さて、GetNavi webではインタビューにご登場される皆さんに“愛用品”をご紹介いただいているのですが、国本さんの最近のお気に入りアイテムを教えていただけますか?

 

国本 ネイチャーリパブリックという韓国のコスメブランドと『超無敵クラス』がコラボして共同開発した「YOKUBARIマスク」と「ハニーメルティングリップ」です。番組の出演者みんなで意見を出し合い、こだわって作った製品なので思い入れがあるのですが、商品としても本当にいいんです。マスクはゼリータイプなので乾燥しにくく、ドライヤーで髪を乾かしながらでも利用できますし、口元に切り込みが入っているので、会話や歯磨きもできる優れものです。リップも日本限定カラーをみんなで考えました。ミルクティーのような色合いですので使う場所を選ばず、すごく重宝していますね。

↑国本さん愛用の「ハニーメルティングリップ」

 

──そのほかの2点については?

 

国本 モバイルバッテリーとパイロットのボールペン(ILMILY)です。モバイルバッテリーはいくつか持っているんですが、これはスマホに直接挿せるのでケーブルいらずなんですね。仕事やプライベートでバッグを変える方って多いと思うのですが、私はケーブルだけ家に忘れてしまうことが多くて(笑)。でも、そんな心配がいりませんし、軽くて小さくて、充電の残量まで表示されるので、今は常に持ち歩いていますね。ボールペンも、ようやく理想の一本に出会うことができました(笑)。子どもの頃から香りのする文房具が大好きで、なかでもこのペンは私が好きなゼラニウムの香りがするんです。それに、最近は文字を書く作業をサボりがちで。でも、香りを楽しみながら文字を書くと、“もしかしたら、いい言葉が生み出せるかも!”と思って、愛用しています(笑)。

↑外出時の必需品モバイルバッテリー

 

──香りのする文房具はたくさんあると思いますが、なぜこのペンが理想の一本だったのでしょう?

 

国本 私、左利きなんです。すると、文字を書く際にペン先を推すような形になってしまうので、きっとそれが原因でインクがかすれてしまうことがあるんですね。でも、このILMILYは今まで使ってきた中で、それがほとんどなくって。ストレスなく快適に書くことができるので、“これだ!”と思って手放せなくなりましたね(笑)。

↑“これだ!”と思って手放せなくなったというILMILYのボールペン

 

 

撮影/映美 取材・文/倉田モトキ

金子隼也&野村康太インタビュー!理想のプロポーズは「2人の思い出の場所で」ドキドキの同居生活を描く「パーフェクトプロポーズ」が配信中

現在、動画配信サービス・FODにて配信中の「パーフェクトプロポーズ」は累計発行部数21万部を超える、鶴亀まよ氏による同名漫画を原作としたBLドラマ。仕事でパワハラ上司にプレッシャーをかけられ、眠れない毎日を送る主人公の疲れた心を、10年ぶりに再会した家事能力抜群の年下クール男子がおいしいご飯で癒す、ドキドキの同居生活を描いた作品です。

主人公・渡浩国(わたり・ひろくに)を演じる金子隼也さんと、相手役の深谷甲斐(ふかや・かい)を演じる野村康太さんに、原作やキャラクターに感じる魅力や役柄を演じる上で意識していたこと、それぞれ相手の印象や撮影時のエピソードなど、お2人のかわいらしさ満載のインタビューを行いました。GetNavi web恒例の今ハマっているモノについてもお聞きしました。

 

(写真右)金子隼也●かねこ・しゅんや…1999年11月27日生まれ。神奈川県出身。O型。現在、ドラマ『春になったら』に出演中。3月8日(金)公開の映画「マイホームヒーロー」にも出演。X(旧Twitter)Instagram (写真左)野村康太●のむら・こうた…2003年11月30日生まれ。東京都出身。O型。2月9日(金)公開の映画「身代わり忠臣蔵」、2月23日(金)公開の映画「ただ、あなたを理解したい」にも出演。Instagram

 

【金子隼也さん&野村康太さん撮り下ろし写真】

 

浩国の繊細な心情の変化をしっかり捉えて表現していくことを大切に

──原作や脚本を最初に読んだ際に感じた印象は?

 

金子 僕はこのドラマのオーディションを受けるに当たって原作を読んだのですが、これまでBL作品を読んだことがなかったこともあり、ちょっとドキドキしつつ、同時に温かさを感じました。浩国と甲斐が抱えているものが繊細に描かれていたので、どちらの役にも感情移入でき、とても素敵な作品だなと思いました。

 

野村 僕も原作を読んですごく癒されました。2人の優しさや当たり前にある日常の大切さというのが丁寧に描かれていて、尊さを感じました。

 

──それぞれが演じるキャラクターに感じた印象や、演じる上で意識していたことは?

 

金子 浩国は上司にプレッシャーを掛けられながらも忍耐強く仕事を続けて、仕事に夢中になっているが故に、家事には全然手が回らなくなってしまっていて……というところは、何かに夢中になると他のことに手が回らなくなってしまう自分と少し似ている部分でした。また、浩国は会社においても甲斐に対しても優しさにあふれる人で、その中で起こる繊細な心情の変化をしっかり捉えて表現していくことを大切にしていました。原作から感じられた浩国の感情を大切にしながら台本を読んでいたので、それぞれの場面でどれぐらい甲斐に心が揺れているのか、どんな思いで言葉を発しているのかイメージしやすかったです。

 

野村 甲斐はクールで淡々としていて、感情をあまり表に出さないタイプ。僕はどちらかと言うとふわふわした性格で感情もわりとすぐ顔に出てしまうので、僕自身とは違うところがたくさんあるなという印象でした。僕も原作の甲斐を大切にしつつ、ドラマの撮影では、現場であったり、隼也君からの受けたものをお芝居で返すということを意識していました。

 

サウナという同じ趣味が見つかって盛り上がりました

──最初の頃は会話がなかったとお聞きしましたが、お互い第一印象と今の印象で変わった部分は?

 

金子 最初に野村君と会った時は、これまで見上げるくらい身長が高い方と共演することがあまりなかったので、まずそこにびっくりしましたし、19歳(※当時)という年齢にも驚いて。しかもかっこよくて、スタイルもよくて、ザ・好青年だなと思いました。そこから撮影を通して人懐っこさも見えてきて、かわいらしくて……もう無敵だなって思っています(笑)。

 

野村 ありがとうございます(笑)。隼也君は、最初は物静かであまりしゃべらない人なのかなと思っていたのですが、本読みやリハーサルと現場を重ねていくうちにおちゃめでかわいらしくて明るい部分が見えてきて。当時と今ではもうガラッと印象が変わりました。

 

──今となっては和気あいあいとされたお2人ですが、どのように信頼関係を築いていったのでしょうか。

 

金子 浩国の家のセットがそこまで広くない空間の中でずっと一緒にいたのもありますし、それぞれ1人ずつのシーンを撮っている時も、空き時間はいつも2人で過ごしていたんです。そこでたわいもない話をしたりして、徐々に関係性が築かれていったのかなと思います。

 

野村 お互いサウナという同じ趣味が見つかって、そういう話でも盛り上がりました。

 

金子 まだ一緒に行けてないね(笑)。

 

野村 行けてないですね……。

 

金子 というのも、撮影の時は野村君が甲斐を演じるのに茶髪だったので(色が落ちてしまうため)行けず、終わってからは逆に僕が茶髪にしないといけなくなって……もどかしいです(笑)。今度行こうね。

 

──相手が演じるキャラクターに感じる魅力的な部分は?

 

金子 甲斐はなかなか感情を表には出さず、生い立ちからときどき結果を見ずに諦めてしまっているような部分があるのですが、その弱さのようなものを浩国だけには見せてくれるんです。甲斐のそういうところに、みんな落ちてしまうんじゃないかなと思います(笑)。

 

野村 僕は浩国の優しさ。甲斐の全てを受け入れてくれるといいますか、包み込んでくれるような優しさに僕自身もグッと来てしまって。そんな浩国だからこそ甲斐も自分の感情をぶつけられたのかなと。本当に、優しさであふれているキャラクターだと思います。

 

野村君はいつもまとっている雰囲気が温かい

──お互い個人としてかわいいなと思うところ、逆にモノ申したいところは?

 

金子 野村君は、現場に椅子を2つ用意していただいていたのに僕の膝の上に座ってきたりして、そういうところがかわいいです(笑)。対して、うらやましいのは身長があり、顔も小さく、かっこいい上にちゃんと筋肉もついている……という完璧なところ。いつもいいな~と思いながら見ていました(笑)。

 

野村 僕は、隼也君が見せる無邪気な笑顔がすごい好きで。劇中の浩国もそうですが、普段からすごく笑顔がかわいいんです。うらやましいのは、家事が得意なところ。僕はどちらかというと家事が苦手なので、きちんと料理や掃除ができるのはいいなと思います。

 

──では、実際のお2人は役柄とは正反対?

 

野村 そうですね。甲斐の役柄としては家事万能という感じですが、僕自身は普段ほとんど料理をしたことなくて。なので、どうやったら上手に料理を作ってるように見えるかというのは、現場で相談しながら、何度も撮り直しをしながらやっていました。

 

──そうすると、それぞれ相手と役にギャップは感じていた?

 

金子 そうですね。でも、演じている時は甲斐、オフになったら野村君、というそのギャップが見ていて楽しかったです。野村君はいつもまとっている雰囲気が温かいんです。あと、僕は家のベッドじゃないと寝られないタイプなのですが、彼はどこでも寝られたり(笑)、そういうかわいらしさをいつも感じていました。

 

野村 僕は、逆に隼也君と浩国は似ているなと思っていました。浩国もですが、隼也君本人もすごく優しくて、それこそ膝の上に座ってしまうぐらいの安心感や包容力があるので(笑)。

 

──そもそも、野村さんはなぜ膝の上に座っていたのでしょうか?(笑)

 

金子 あまり深く考えていないよね?

 

野村 そうですね(笑)。

 

金子 僕も野村君の胸筋を勝手に触ったりして、特に何も考えることなく、いつも2人で楽しんでいました(笑)。

 

浩国は変わらず優しい心の持ち主だなとキュンとした

──本作は全6話とのことですが、それぞれ印象深いシーンを挙げていただくと?

 

金子 浩国の感情の動きが見えるようなシーンはもちろん、毎話登場する食事のシーンも大好きです。浩国が甲斐の作ってくれたご飯を食べ、少しずつ自分らしさを取り戻していく過程を見守っていただくのと同時に、同じようなご飯を作ったりして楽しんでいただくのもいいんじゃないかなと思います。

 

野村 甲斐はあまり感情を表に出さない性格ですが、最終回で初めて浩国に対して自分の感情をさらけ出すシーンがあって。クライマックスということもあり、お互いの関係性や心情の変化というのも鮮明に描かれるので、そこはぜひ注目して見ていただけたらうれしいです。

 

──それでは、それぞれにキュンとしたシーンは?

 

金子 僕は、3話で甲斐と一緒に寝るシーンです。突然無言で布団に入ってくるところに甲斐らしさを感じつつ、浩国と距離を詰めたいという思いが見えてキュンとしますし、ここから何かが始まりそうな予感がするといいますか。僕自身、映像を見ていて「おおっ」となりました(笑)。

 

野村 僕は、1話で浩国が甲斐に「これからも晩飯作ってくれよ」と、甲斐に気を使わせずに家に泊まることを許すシーンです。浩国は昔から変わらず優しい心の持ち主だなとキュンとしたのと、あと、最終回で浩国が甲斐に思いを伝えるシーンもすごくグッときました。

 

──既に配信されていますが、序盤の撮影において印象深いエピソードはありますか?

 

金子 2話で、甲斐と一緒にお祭りに行く約束をしたものの浩国が時間に間に合わず……というシーンがあるのですが、野村君が撮影の合間にチョコバナナとリンゴ飴とかき氷を食べていたんです。かつ、スタッフさんから追加でチョコバナナと焼きそばを持って帰ったと聞いて、めっちゃ食べるな! って(笑)。というのも、僕はこの時に初めてリンゴ飴を食べたのですが、飴1本とかき氷をちょっと食べただけでお腹いっぱいになっちゃったんです。なのに、野村君はそんなに食べていて、さらに持ち帰ったという大食い具合に感心しつつ、かわいらしかったことを思い出しました(笑)。

 

野村 僕は、2話の甲斐が洗面所で着替えているところに浩国が入ってきて慌てちゃうシーンかな。その時の浩国のリアクションも好きなのですが、隼也君がずっと「筋肉すごい」って腕や胸をちょんちょん触ってきて、僕もそういうところがかわいらしいなと思いました(笑)。

 

1週間に1度だけご褒美としてラーメンを食べに行く

──劇中にて“食事”が大切な存在として描かれていますが、お2人の生活において力をくれる存在は?

 

金子 僕は散歩と睡眠とラーメン。インドアなのでオフの日は家にいることが多いのですが、台本を読んでいたりして息詰まった時に30分ぐらい歩くと、いい息抜きになって気持ちの切り替えができます。あと、睡眠は3時間だけしか寝られない……みたいな状況が続くと体調が悪くなってしまうので一定の時間を確保することを大切にしたいというのと(笑)、ラーメンは単純に大好きで週1ぐらいで食べに行っています。ただ、食べ過ぎるとすぐに太ってしまうので、他の日はバランスよく食べ、1週間に1度だけご褒美として食べに行く、というのが日々の楽しみです。

 

野村 僕は筋トレ。高校の時から継続して週に3~4日やっているのですが、体も心も元気になるだけでなく、ストレス解消にもなるんです。僕の生活において、筋トレは欠かせないルーティンかなと思っています。

 

──もし、お2人が浩国と甲斐同様に同居するとしたらそれぞれ何担当をしますか?

 

金子 僕はひとまず料理と掃除。……何やる?(笑)

 

野村 買い物、ゴミ出し、洗濯……?

 

金子 洗濯も僕がやりたい(笑)。劇中で甲斐が洗濯物を干すシーンがあるんですけど、思いのほか雑で……(笑)。 僕は結構きっちりやりたいタイプなのと、特に家事を苦に感じないので、家事全般は僕がやりたいです。

 

野村 でも、最近洗濯物を干す時は、トップスなら縫い目とハンガーの線を合わせて掛けるように気を付けています。

 

金子 ちなみに、ハンガーは下から入れているよね?(笑)

 

野村 はい。前は何も気にせず上から入れていたんですけど、隼也君に言われてからは下から入れるようになりました!(笑)

 

──本作のタイトルにちなみ、それぞれが思う理想のプロポーズのシチュエーションは?

 

金子 僕は2人の思い出の場所かな。“プロポーズするぞ”みたいな空気感の場所だと緊張しちゃいそうなので、そういう場所のほうがやりやすいのかなと。キザな感じでいって断られてしまったら立ち直れない気がするので、フラットに普段通りの雰囲気でできたらと思います(笑)。

 

野村 僕、以前の取材の時は「おしゃれなレストランに行ったり、ドローンを使って派手にやりたい」みたいなことを言っていたんですけど、いま隼也君くんの“思い出の場所”っていうのを聞いて、それもいいなって。緊張しいなのでいかにもそういう雰囲気だとガチガチになってしまう気がするのですが、思い出の場所ならほっこりできそう。2人の思い出に浸りながらプロポーズするのもいいなと思います。

 

自分にどれが合うのかなっていうのを試して楽しんでいます

──最後に、GetNavi webということで普段の必須アイテムやハマっているアイテムを教えてください。

 

金子 Apple Watch SEです。電車の中など人が多くてスマホを触れないような時でも音楽を変えたりできますし、アプリの通知も来るのですごく便利だなって。あとは目薬。コンタクトを付けていてもスース―するものがあって、それはもう必須アイテムです。あと、美容で言えばリップクリームは絶対持ち歩いていますし、ほぼ毎日パックもしています。最近美容に目覚めたばかりなので(笑)、ひとまずいろんなものを買っては自分にどれが合うのかなっていうのを試して楽しんでいます。

 

野村 僕も唇の乾燥が気になるので、リップクリームは2、3本持ち歩いています。保湿してくれるやつ、血色が良くなるやつ…と用途もそれぞれ違うものを。あと、スキンケアには前から気を使っていて、美顔器を使ったり、化粧水、乳液、パックも毎日しています。お風呂に入っている時とか寝る前に小顔エクササイズみたいなものをやってみたり……。

 

金子 あるある(笑)。顔のラインがシャープになる6~7分くらいのエクササイズがあって、僕もたまにやったりします。

 

野村 僕は電化製品なら電子レンジかな(笑)。毎朝、卵を温めて半熟にして食べているんです。あと、Nintendo Switchは撮影で地方に泊りがけで行く時なんかは必ず持っていきます。

 

 

ドラマ「パーフェクトプロポーズ」(全6話)

動画配信サービス・FODにて現在配信中
以降毎週金曜よる9時に最新話を配信

※メイキング
Short Ver.:現在配信中(無料)
Long Ver.:3月1日(金)21時~(FODプレミアム会員限定)

(STAFF&CAST)
監督:宝来忠昭
脚本:宮本武史
原作:鶴亀まよ「パーフェクトプロポーズ」(海王社「GUSH COMICS」刊)
主題歌:「Daydream」OCTPATH(YOSHIMOTO UNIVERSAL TUNES.)
挿入歌:「Hello Tomorrow」OCTPATH(YOSHIMOTO UNIVERSAL TUNES.)

出演:金子隼也、野村康太
入江甚儀、木下彩音、高橋璃央、林裕太/田中幸太朗、岩瀬亮/北見敏之ほか

(STORY)
パワハラ上司にプレッシャーをかけられながら仕事に追われ、眠れない毎日を送るサラリーマン・渡浩国(金子隼也)。彼はある日、どこか謎めいた美しい青年に突然声をかけられた。

「結婚まで約束した仲なのに……」

それは浩国が中学生の頃に仲良しだった小学生の深谷甲斐(野村康太)だった。あれから10年ほどが経ち、大人に成長した甲斐が浩国の前に現れたのだ。住む所がなくなったという彼は、浩国の家に転がり込んできて、毎日ご飯を作ることを条件に2人の同居生活がスタート。

ちょっと生意気だけど家事能力バツグンで、浩国の好きなものは何でも知っている甲斐。仕事で上手くいかず疲れきった浩国は、美味しい料理と居心地の良さに癒されていく。日々年上の浩国をからかいながらも、自身の愛情をまっすぐに届ける甲斐。一方で、彼が大切な存在と気付きながら、その愛を受け止めきれずにいる浩国。そんな2人の同居生活にもタイムリミットが近づいていて―。

 

ドラマ公式HP https://www.fujitv.co.jp/propose_drama/

配信ページ https://fod.fujitv.co.jp/title/70li

 

撮影/映美 取材・文/片岡聡恵 ヘアメイク/佐々木麻里子(金子)、SUGA NAKATA(野村)、木下佐知子(野村) スタイリスト/清水拓郎(金子)、能城 匠(野村)

TikTokerブチギレ氏原インタビュー後編!結成から現在まで同居する相方は「卑怯者」、芸人への道を反対した母親は「手の平返し」!?

2020年4月、無事コロナ禍のTikTokに現れたり、森羅万象にブチギレ続けたり、生配信で集まった視聴者からのコメントにも瞬時にブチギレると、またたく間に人気TikTokerに躍り出たブチギレ氏原さん相方・サカモトさんと一緒にお笑いコンビ「ゴンゴール」として活動していましたが、2022年7月、TikToker&YouTuberとしてかじを切り、「GGチャンネル」として生まれ変わると、同年9月21日配信のYouTube動画「【生配信】」 】来たコメント全てにキレる生配信~Special Guest 轟さん(宮博之)~』で、まさかの昨日100万円のスパチャが集まり、翌日に本人が『の雷さんのキレる生配信、スパチャ額「世界一だった」とツイート、非公式ながらデイリーランキング世界1位という功績を残した。そんな氏原さんの「キレ芸」の原点を、学生時代まで​​遡る。

 

【関連記事】TikTokerブチギレ氏原インタビュー前編!テレビからTikTokに振りきり「コンビニで値段を見ずに買い物ができるようになった」

 

ブチギレ氏原●ぶちぎれ・うじはら…2009年、相方のサカモトとお笑いコンビ「ゴンゴール」を結成。ケイダッシュステージに所蔵していたが、2021年4月、「ブチギレ氏原」の名前でTikTokで森羅万象にキレ散らかす動画をアップすると話題に。2022年7月に事務所を退所しフリーに。現在「GGチャンネル」として活動。

ブチギレ氏原公式TikTok @ujiharagongoal

 

【ブチギレ氏原さんの撮り記録写真】

 

ファーストコンタクトを無視した相方

──相方のサカモトさんとはずっと一緒に住んでるんですね。

 

氏原 はい。僕がかなり早い段階で一般の生活が本当になにもできないことが分かって、仕事がなんにもできないサカモトが家の掃除とか生活についてやってくれています。僕は仕事は全力でやってちゃんと稼ぐから、と。もうきっちり分けよう! という感じです。

 

──いい関係ですね。

 

氏原 それもケンカしてキレてる最中に「せめてなんかやれよ!」という流れで、1つずつそうなっていったんです。

 

──とはいえ、ピリピリしていた時期よりもサカモトさんへの愛があるのでは。

 

氏原 変わらないと思いますけどね(笑)。今日も普通にちょっと怒りましたし。

 

──出会いは高校時代に遡ると、長い付き合いですよね。

 

氏原 こいつは俺の幼なじみの幼なじみで、中3のときに幼なじみが「おまえの行ってる塾にサカモトが来るよ」と言うから、サカモトの連絡先を聞いてメールしたんです。「俺、◯◯の幼なじみの氏原っていうんだけど、よろしくー」って。こいつ無視したんですよ

 

──(笑)。

 

氏原 消化器ぶちまけたりして調子に乗ってましたし、「もう終わってるヤツだな」って印象です。

 

──あははは! むしろサカモトさんのほうが激ヤバな人物だったと。

 

氏原 激ヤバですよ。だって高校のあだ名「卑怯者」ですからね。

 

コンビに決めた理由は「顔がよかった」

──なぜですか(笑)。

 

氏原 日常で些細な卑怯を繰り返していたからです。たとえば、工業高校の電機科だったんですが、文化祭でクラス一丸となってフィーリングカップルの電光掲示テーブルを作ったんです。イケてるグループも真面目グループも壁を取っ払ってほんとうに一丸となって。そんな中でこいつは、「漢検の勉強する」って1人だけノータッチ。そういうことの積み重ねで「卑怯者」と。

 

──漢検(笑)。サカモトさんはそう呼ばれていたことを知っていたんですか?

 

サカモト いや、覚えてないですね。「犬」とは呼ばれていたけど。

 

──犬!(笑)

 

氏原 そうそう、「鳥」って呼ばれてるヤツもいて、そいつとセットな感じだったんですよ。

 

──そんなサカモトさんとコンビを組もうと思ったのはなぜですか?

 

氏原 顔が整っていて、明るいヤツだから。それだけです。

 

──理由が明確ですね(笑)。

 

氏原 高校時代に一度誘って断られて、大学でお互いに上京したときに再会したら、こいつ、俳優のオーディション雑誌を持っていたんです。それで「俳優になるなら、芸人にしない?」と改めて誘って。

 

──そこで晴れてコンビの結成となったんですね。

 

氏原 それからフリーライブなどに出ながら、お笑い養成所に通わずに入れる事務所を探した結果、ケイダッシュステージに入れることになりました。

 

スタッフは強力な元芸人たち

──それが2009年で。当時は、今「GGチャンネル」としてTikTokなどで活動する未来が来るとは予測できないですよね。GGチャンネルのメンバーはサカモトさんのほかに、3名いらっしゃるんですよね。

 

氏原 はい、1人は同じ事務所だった同期で、彼も事務所を辞めるタイミングで「がっつりやってもらえないか」と誘って、編集スタッフも元芸人なんです。そしてもう1人は、DMで「弟子にしてください」と送ってきた変わったヤツです。やっぱり、いくら「自分がやりたいことをやりたい」とはいえ、本当に1人でやるには限界があるんです。組織にしないと続かないと思って、今のメンバーと一緒にやっています。

 

──スタッフを芸人仲間で固めているのには、理由がありますか?

 

氏原 ずっと、芸人をやっていた10年間はムダだと思っていたんですが、TikTokでバズったとき、「芸人は、ネットの中では明らかにレベルが違うな」と客観的に思ったんです。芸人時代はムダではなかったんだと。だから編集やディレクターも、元芸人だからこそ相当強いのではないかなと。

 

──プロフェッショナルだからこそ、笑いのツボを抑えた動画を作ることができるのだと思いますが、そうではない方が作るのと、決定的な違いはどんなところでしょう。

 

氏原 笑いが起きる理由を言語化できるということだと思います。狙って作れる、ということですね。

 

少年時代、母親に3時間怒られ続け……

──そういった背景を前提にしつつ、やっぱり氏原さんの“キレ”の瞬発力やバリエーションがすさまじいと思います。いつもどこでインスピレーションを得ているんでしょうか。

 

氏原 多分、子どもの頃の経験が影響していると思います。僕の母親は長時間ずっと怒ってくる人で、それにいちいち反論していて、それが原点なんじゃないのかなと思っているんですけど。

 

──お母さん、どんなときに怒るんですか?

 

氏原 僕には双子のきょうだいがいて、そいつが、先生が親に電話をかけてくるレベルにも満たない僕の悪さを母親に通報していて。リビングで正座させられて5時間も詰めてくるんですよ。

 

──5時間!?

 

氏原 いや、5時間は言いすぎました。実際は3時間くらいですね。

 

──十分長いです(笑)。

 

氏原 それでいちいち反論していると、母親は「こいつ、反省していないな」とジャッジして、折れるまでずーーっとネチネチ理詰めで来るんですよ。

 

──終着点はどこにあるんですか?

 

氏原 本当にイヤな思い出すぎて覚えていないですけど、どうやって終わっていたんだろ……お互い疲れて終わるか、きょうだいが「もうやめなよ」と言うか、まあ僕が一応謝って終わっていた気がします。

 

──ちゃんと謝って偉いですね……。

 

氏原 3時間キレられたら謝りますよそりゃあ。

 

母親とまともに話すのは5年ぶり

氏原 だから30歳くらいまで母親のことを「ムカつくな、あいつ……!」ってなっちゃってて、会いたくなくて、きょうだいの結婚式も出なかったりして。それで、僕がやっとこういう状態になれたのと、きょうだいに子どもができて母親が顔を見に行くというので「子どもの顔を見る名目で母親にも会うか」ってことで、再会したんです。

 

──何年ぶりですか?

 

氏原 何年か前に友達から「母親に腹が立っていることを言ったほうがいいよ」とアドバイスされたタイミングが4、5年前にあって、そのときに言ったら……反論してきたんですよね、なんか。

 

──(笑)。

 

氏原 「あんたはなにも分かってない! お母さんにも事情があった!」って。それで「こいつほんとナイな」って、より加速しちゃって。その後も芸人時代の単独ライブにも来ていましたが、会いはしたけどしゃべりはしなかったので、ちゃんとしゃべったのは5年ぶりですね。

 

──お母さん、強そうですね(笑)。

 

氏原 母親は変わらなそうだなと思いましたね。この前も、何事もなかったかのように普通に話してきて。まあ、それが楽といえば楽でしたけどね。

 

──お母さんは今のご活躍をご存知なんでしょうか。

 

氏原 LINEで定期的に「この前バズっていたね」と連絡が来ることはありますが、「手の平返しやがって!」が本音です(笑)。芸人になりたいと言ったときは引くほど反対してきたのに、成功したら「よく頑張ったわね」じゃねえよと。

 

亡くなる直前の、父の助言

──たしかに(笑)。反対されたんですね。

 

氏原 高校受験のときに、芸人になるために「大学に行く必要なんてないから」と工業高校を選んだんですけど、そしたら母親側の親戚総動員で全員に取り囲まれて猛反対されたんです。「絶対に成功するわけないんだからやめろ」と。人が聞いたら引いちゃうくらいの止め方でしたね。

 

──(笑)。それを振り切って芸人になって、かっこいいです。

 

氏原 高校生の漫才大会でちょっといい成績を残したときに、1回目の手のひら返しがありましたね。その後、芸人になる前にアメリカに行きたかったんですが「芸人になるなら留学費用は一切出さない」と言われました。そのとき、亡くなる直前の父親に言われたんです。「お母さんは頑固な人だから、もう大学には行ってあげろ。その後好きなことやればいいから」と。

 

──お父さんはいろいろと汲んでいますね。

 

氏原 そうですね。そんなことがありましたが、今となっては「当時は芸人の情報も少なかったし、止めて当然かな」とは思いますが、悔しいからそんなことは母親には伝えません(笑)。

 

──お母さんも同じように考えてくれる日が来ることを、願っています……!

 

氏原 もっと大きくなっていろんな仕事をさせてもらえるようになるまで、母親には生きていてもらえたらなって感じです。

 

 

ぶちギレ氏原公式TikTok @ujiharagongoal

 

撮影/佐賀章広 取材・文/有山千春 構成/BuzzTok NEWS Buzz Tok NEWS公式HP https://buzz-tok.com/

TikTokerブチギレ氏原インタビュー前編!テレビからTikTokに振りきり「コンビニで値段を見ずに買い物ができるようになった」

2020年4月、突如コロナ禍のTikTokに現れるや、森羅万象にブチギレ続け、生配信で寄せられた視聴者からのコメントにも瞬時にブチギレると、またたく間に人気TikTokerに躍り出たブチギレ氏原さん。相方・サカモトさんとともにお笑いコンビ「ゴンゴール」として活動していたが、2022年7月、TikToker&YouTuberとしてかじを切り、「GGチャンネル」として生まれ変わると、同年9月21日配信のYouTube動画「【生配信】来たコメント全てにキレる生配信~ Special Guest 轟さん(宮迫博之)~」で、なんと94万6482円のスパチャが集まり、デイリーランキング世界1位という功績を残した。月収3000円の芸人から独立を経て、TikTokドリームの渦中にいる氏原さんにインタビュー!

 

ブチギレ氏原●ぶちぎれ・うじはら…2009年、相方のサカモトとお笑いコンビ「ゴンゴール」を結成。ケイダッシュステージに所蔵していたが、2021年4月、「ブチギレ氏原」の名前でTikTokで森羅万象にキレ散らかす動画をアップすると話題に。2022年7月に事務所を退所しフリーに。現在「GGチャンネル」として活動。

ブチギレ氏原 公式TikTok @ujiharagongoal

 

【ブチギレ氏原さんの撮り下ろし写真】

 

動画で勝負をするために、事務所を退所

──それまで、オードリーやトム・ブラウンなどが所属する芸能事務所ケイダッシュステージに所属していましたが、2022年7月に退所され、現在はフリーで活動されているんですね。

 

氏原 はい。テレビじゃなくネットで勝負したいので退所したいと相談したら、快く送り出してくれました。

 

──いつから独立を考えていたんでしょうか。

 

氏原 明確には覚えていませんが、僕らがTikTokをやり始めたのがコロナ禍の2020年4月で、当時はYouTuberの方たちの「これからは個人の時代だ」という考え方が広がり始めていて。そういう風潮を眺めながら徐々に考えていたと思います。

 

──先輩芸人からなにかアドバイスをもらったり?

 

氏原 いろんな人たちに意見を聞きました。例えばある先輩は「テレビでやるなら事務所に残っていいと思うけど、完全にネットで勝負するなら、独立もアリなんじゃないか」とか。

 

漠然とした不安も「すぐに行動したかった」

──葛藤はありませんでしたか?

 

氏原 ちょっと怖かったですね。「困ったときに、もう事務所に相談できないのか」「本当に大丈夫だろうか」という漠然とした不安はありましたが、今思えば、僕は自分で全て決めたい人だったので、独立は自分に合っていたかなと思います。やっぱり事務所にいると、迷惑がかからないよう念のため「これやっていいですか?」と事務所に確認をしてから動いていたので、機動力も上がったと思います。

 

──TikTokではキレちらかしていますが、インタビューの受け答えは常識的ですよね。

 

氏原 まあ(笑)、前がヤバかったので。前がヤバすぎて、急いで常識を身につけているところなんですよ。今のスタッフの1人がもともと同期の芸人なんですけど、昔からいつも「おまえ、ヤバいぞ」と注意してくれていたんです。

 

──(笑)。どんなときに教えてくれるんですか?

 

氏原 「氏原は、人の”意見”を“否定”と捉えるクセがあるから。あれは“意見”だからね」とか。

 

──大人ですね~!

 

氏原 あとは、人に自分の意見を押し付けすぎちゃったりが多くて。そういうときですね。

 

ピリピリしていた木造アパート時代

──動画では、相方のサカモトさんによくキレていらっしゃいます。マジギレなのかと思ってしまうこともあります(笑)。

 

氏原 いや~! 前に付き合いで30歳以上の女性が働く飲み屋さんに行ったんですけど、こいつ(取材場所で体育座りをして聞くサカモトさんを指差し)、「35歳のおばさんが~」みたいなことを言い出したんですよ! それでキレました。「ここにいる女性みんな30歳以上だし、おばさんはまずいでしょ?」って。(サカモトさんに向け)なにちょっとイヤな顔してんだよ! ネタになったからいいだろ。

 

──常識的なキレ方(笑)。

 

氏原 特にTikTokを始めた前後は完全にヤバいときで、こいつにキレることが多かったんですよ。

 

サカモト ピリピリしてましたね。ずっと一緒に住んでいるんですが、当時は家も木造だったし。

 

氏原 YouTubeでの生配信もやり始めて、それが収益化する前は月収3000円とかでしたから。

 

──月収3000円というのは、お笑いライブの出演などですか?

 

氏原 いや、ちょこっと出たネット番組のギャラとかです。

 

──いつ頃から収益化したんですか?

 

氏原 2020年8月くらいだと思います。収益化してスパチャ機能がついたときに生配信をしたら、スパチャがすごい入ってきたんです。

 

1時間23万円投げる視聴者も!

──ファンの方がたくさんいらっしゃることを実感されたんですね。

 

氏原 いや、そんなキレイな言葉じゃなくて……「おい! 金がめちゃくちゃ入ってくるぞ!」って(笑)、それが正直な気持ちでした。1時間の生配信で20~30万、70万円入ってくるときもありましたから。びっくりしましたね。

 

──プロの芸人による「来たコメントにキレる」という発想は、氏原さんの発明だったと思います。それで右肩上がりに?

 

氏原 上がりはしないんですよ。1時間で読めるコメント数は決まっているので。生配信の数を増やせばいいんでしょうけど、体力的にきついですからね。

 

──たしかに、いつも全力でキレていますもんね。

 

氏原 ちゃんとムラはありますよ(笑)。もう3年以上もやっているとね。それを感じ取ったのか、それから来てくれなくなる人もちゃんといますからね。

 

──一方で、当初からスパチャし続けている古参ファンの方もいらっしゃいますよね。センスのあるコメントで有名なファンの方もいますよね。「たかぎさん」という女性とか。

 

氏原 頭おかしいですよね(笑)。

 

スタッフ 上限がないTikTokでは、たかぎさんのギフト最高額は1時間23万円です。

 

──23万! なにをやっている方なんでしょう……。

 

氏原 「車屋さん」と言っていましたね。たかぎさんはほかにも推しがいるみたいで、お金がどうなっているのか不思議ですよ。

 

有名芸人とのコラボや、大規模キャパで有観客ライブも

──昨年3月には都内最大級のキャパを誇る大型ライブハウスの豊洲PITで有観客ライブを実施したり、ほかのYouTuberとのコラボなども行っています。

 

氏原 2022年6月にやったカジサックさんとのコラボはよかったですね。お互いのいいところが出ていたと思うし、昔からテレビで見ていた人と一緒にやることで「頑張ってここに来たんだな」と思いました。

 

──今後も目標はありますか?

 

氏原 登録者100万人と、有観客ライブを武道館でやりたいです。

 

──3000円から70万円という振り幅を経験していますもんね、実現への期待感があります。ちなみに、3000円から70万円の世界に突然来ると、どんな変化が起こりますか?

 

氏原 なんだろう、なにが変わったかな?

 

サカモト 2人ともお金を持ったところで趣味も広がらないし、今までと同じ生活を送るんですが、2人でテンションが上ったのは、コンビニで値段を見ずに買い物が出来た瞬間ですね。

 

氏原 ああ、たしかにそれだね。

 

サカモト それまでは、赤いきつねで200円使ったらおにぎりなんて買えない……みたいな生活でしたから。好きなものを買えるようになったのはうれしかったです。

 

相方は「氏原がバスっているのが気に食わない」!?

──あとは、ピリピリしていた家の中がマイルドになって、氏原さんがサカモトさんに優しくなったり?

 

氏原 家は木造じゃなくなりましたが、優しくはなっていないですね。

 

──(笑)。

 

氏原 こいつ、俺がバズっていることを「気に食わない」と言っていたから。

 

──えええ!(笑)

 

氏原 お金が入ってくるようになったのに、その考えってマズいよ。でも、ポジティブに解釈すると、自分もまだ演者としての気持ちがあるんだなと思うことにして、自分を納得させました。

 

──それでずっとコンビを続けていらっしゃるんですね。いい関係ですね。

 

氏原 もう共依存になっちゃってるだけだと思いますよ。

 

<後編に続く>

TikTokerブチギレ氏原インタビュー後編!結成から現在まで同居する相方は「卑怯者」、芸人への道を反対した母親は「手の平返し」!?

 

 

ブチギレ氏原 公式TikTok @ujiharagongoal

撮影/佐賀章広 取材・文/有山千春 構成/BuzzTok NEWS Buzz Tok NEWS公式HP https://buzz-tok.com/

中村静香インタビュー「着物でタップダンスって、すごくかっこいい」映画『レディ加賀』

石川県・加賀温泉を盛り上げるために結成された旅館の女将たちによるプロモーションチーム「レディー・カガ」から着想を得た、女将たちの奮闘を描いた『レディ加賀』(2月9日(金)より全国公開)。小芝風花さん演じる主人公・由香と共に、女将修業に挑む元No.1キャバ嬢・麻衣を演じた中村静香さんが、見せ場となるタップダンスの苦労話など、体育会系の部活合宿ばりの撮影を振り返ってくれました。

 

中村静香●なかむら・しずか…1988年9月9日生まれ。京都府出身。2003年、「第9回全日本国民的美少女コンテスト」出場。その後、「法医学教室の事件ファイル」「緊急取調室」シリーズなど、さまざまなドラマに出演。女優としてのキャリアを重ねる一方、「カイモノラボ」(TBS)や「ゴッドタン」(テレビ東京)などの情報・バラエティ番組でも活躍している。X(旧Twitter)Instagram

 

【中村静香さん撮り下ろし写真】

 

麻衣の生真面目さやひたむきなところに強く共感

──出演オファーが来たときの感想は?

 

中村 まず、台本を頂く前に、劇中にタップダンスのシーンがある映画だと聞いたんです。これまでやりたいと思ってもやる機会がなかったこともあって、「これはいい経験になる!」と、とても楽しみでした。それで、クランクイン数か月前から仕事の合間に、タップダンスの監修をしていただいたHideboHさんの教室に通うところから始まりました。

 

──その後、台本を読んで、中村さん演じる麻衣が女将修業に挑む元No.1キャバ嬢というキャラクターだということが分かったときは?

 

中村 本当に基礎からタップを始めて、劇中でどれぐらいのレベルを求められるのか、分からなかったので、着物姿でタップをすると分かったときは、さすがに不安になりました。麻衣は年齢的な理由もあって、第二の人生を歩むために女将修業に挑もうとしている子で、メッシュを入れたり、メイクが濃かったり、見た目の派手さはありますが、タップの練習には必ず顔を出すんですよね。そういう麻衣の生真面目さやひたむきなところに強く共感できました。

 

──クライマックスに描かれるダンスイベントでは、デッキブラシと和傘を使用した2パターンのダンスを披露されます。その練習はいかがでしたか?

 

中村 デッキブラシは意外と重さがあるので、振り回したときに、体が持っていかれないよう気を付けなきゃいけなかったです。でも、練習しているうちに、ちょっとずつ体力がついてきたのか、だんだん振り回されなくなりました。和傘でのダンスを練習するときは、風圧のことを考えて、ビニール傘に穴を空けたものを使っていました。それでも踊るときのテンポや傘を振り回すスピードがあまりに速いので、どんどん壊れてしまうんです。ほんまに難しくて、めちゃめちゃ苦戦しました。

 

撮休の日は、昼から日本酒飲み比べ3点セット

──主人公・由香を演じた小芝風花さんや、「女将ゼミナール」講師を演じた佐藤藍子さんとの共演はいかがでしたか?

 

中村 佐藤さんには以前からお世話になっていたので、今回久々にご一緒することができてうれしかったですね。以前と変わらず、とても気さくで優しい方で、大好きなんです。小芝さんとは初めての現場だったのですが、明るくて、チャキチャキしていて、活発なイメージどおりでしたね。彼女はプロのタップダンサーを目指していた役で、ソロパートもあったこともあり、とても大変だったと思いますが、キャスト全員壁がない子ばかりで、同じ宿に滞在しつつ、みんなで一致団結して、自主練をしたりしていました。だから、まるで体育会系の部活合宿みたいな空気感でした(笑)。

 

──グルメなど、加賀温泉郷ロケでの印象的な思い出は?

 

中村 長時間、タップシューズで踊っていると、肩や脚が痛くなってくるんですよ。だから、温泉に入ることで、それを癒して、また翌日の撮影に励むという日々でした。あと、ちょっと散策すると、無料の足湯スポットもあって、それにも癒されました。グルメに関しては、新鮮な海産物が有名で、特に身が分厚い、のどぐろのお寿司がおいしかったです。あとは、甘えびよりも甘味があるガスエビの石焼き。とてもカリカリして、香ばしくておいしかったです。

 

──となると、中村さんがお好きなお酒もかなり進まれましたか?

 

中村 もちろん、かなりいただきました(笑)。やはり日本酒がおいしいと言われていたので、海鮮を食べるときはもちろんですが、撮休の日にみんなが甘味処でデザート食べている横で、私は昼間から日本酒の飲み比べ3点セットと塩昆布をいただいていました(笑)。ちなみに、私が行ったお寿司屋さんの女将さんが、たまたま映画のモデルになった女将さんチーム「レディー・カガ」メンバーの方で、いろんなお話も聞かせていただきました。

 

──約200人のエキストラを集めたダンスイベントのシーンはいかがでした?

 

中村 みんなそれぞれが着物を着て、小道具を持って、うまく踊れるようになっても、本番では全員でタイミングを合わせなきゃいけないことが大変でした。和傘を回すスピードや肩にかけたり、突き出したりするときの角度やタイミングなどをそろえることがとても大切なので、それに注意しながらも足元は常にタップしているというのは、かなり集中力が必要でした。現場ではHideboHさんが実際にモニターを見ながら、細かく的確に指示を出してくださったので、とてもありがたかったです。

 

女将とはこれまた違う、平安時代の所作

──そんな努力の結晶で、完成した作品を見たときの感想は?

 

中村 とてもかっこよく見えるように、丁寧に撮ってくださったのもありがたかったのですが、出来上がったものを客観的に見たとき、「着物でタップダンスを踊ることって、すごくかっこいい」と、素直に思いました。大きく揺れ動く振り付けなので、見た目の迫力だけでなく、日本の美が強調された素敵な作品になったと思います。あと、キャバ嬢から女将と、場所やスタイルが変わっても、「おもてなしをする心構えは変わらないし、それは誰にも負けない」という麻衣のセリフは好きです。いろんなトラブルに巻き込まれながらも、みんなが一丸となって、前に進んでいく姿を見てもらえれば、自然と元気になってもらえるような気がします。

 

──和装繋がりだと、NHK大河ドラマ「光る君へ」では藤原頼忠の娘・藤原遵子を演じられています。

 

中村 同じ和装でも全然違うというか、着こむ枚数からして違うので(笑)。本当にずっしり重くて、カツラも重い中で姿勢をキープしながら平安時代の所作をするのは大変苦戦しました。戦のない時代の朝廷のお話なので、優雅でゆったりしているのですが、できるだけ着物から手足を出さないように。「レディ加賀」の女将さんの所作との大きな違いは歩き方です。平安時代は、どちらかというと摺り足ですから。

 

──中村さんが日頃、手放せないモノやアイテムについて教えてください。

 

中村 数年前に、メイクさんからプレゼントしていただいたオールステンレスの「三徳包丁」です。日本発の商品で、切れ味が落ちないとは聞いていたんですが、海外でも賞を獲っているぐらい本当に落ちないんですよ! しかも、洗いやすいし、デザインもシンプル。それで、ちょっとしたおつまみを作って、ビールやハイボールで晩酌しています。SNSのおつまみ動画でも活躍しているアイテムですが、最近作ってみておいしかったのは、ささみの大葉ロールでした。

 

 

 

レディ加賀

2月2日(金)より石川県先行公開中

2月9日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

 

【映画「レディ加賀」よりシーン写真】

 

(STAFF&CAST)
監督・脚本:雑賀俊朗
脚本:渡辺典子
出演:小芝風花、松田るか、青木瞭、中村静香、八木アリサ、奈月セナ、小野木里奈、水島麻里奈、佐藤藍子、篠井英介、森崎ウィン、檀れい

(STORY)
加賀温泉にある老舗旅館「ひぐち」の一人娘・樋口由香(小芝風花)。幼い頃、タップダンスに魅了された由香は、タップダンサーを目指して上京したものの夢破れ、実家に戻って女将修行を開始。あまりの不器用さから大苦戦するなか、加賀温泉を盛り上げるためのプロジェクトが発足。幼なじみのあゆみ(松田るか)や元No.1キャバ嬢の麻衣(中村静香)ら、新米女将を集め、由香はタップダンスのイベントを計画しようとする。

公式HP https://ladykaga-movie.com/

(C)映画「レディ加賀」製作委員会

 

撮影/映美 取材・文/くれい響 ヘアメイク/石岡悠希 スタイリスト/竹上奈実

500年後にはトップに!? ナンセンスマシーンを開発し続ける明和電機・土佐信道の創作の極意に玉袋筋太郎が迫る!

〜玉袋筋太郎の万事往来
第30回「明和電機」代表取締役社長・土佐信道

 

全日本スナック連盟会長を務める“玉ちゃん”こと玉袋筋太郎が、新旧の日本文化の担い手に話を聞きに行く連載企画。30回目のゲストは、芸術ユニット「明和電機」の代表取締役社長として、国内のみならず広く海外でも活動する一方、音符の形の電子楽器「オタマトーン」などの商品開発も行う土佐信道さん。ユニークなナンセンスマシーンを開発し続ける創作の秘密に玉ちゃんが迫る!

 

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:猪口貴裕)

明和電機…1993年に、アートユニット「明和電機」を結成。青い作業服を着用した、日本の中小企業のスタイルで、国内外での作品展示、著書出版、公演など活動を幅広く行っている。公式サイトX(旧Twitter)YouTube

 

過去に父親が経営していた会社の屋号を使って活動開始

玉袋 まさか武蔵小山の住宅街に明和電機さんの秘密工場があるとは思いませんでした。ここに越してきて何年になるんですか。

 

土佐 1998年からだから26年です。

 

玉袋 この工場が将来はドーンと大きくなって、明るいナショナルみたいになるわけですね。

 

土佐 そうですね(笑)。

 

玉袋 明和電機さんとは、ちょこちょこすれ違っているんですよね。昨年も俺が応援団長をやっている「企業対抗カラオケ選手権」でライブパフォーマンスをしてくれて。

 

土佐 飛び道具を持ち込んで、ずるい出方をしたんですけど。

 

玉袋 いやいや、番組史上一番盛り上がりましたよ。明和電機さんとしての活動はどれぐらいなんですか。

 

土佐 2023年で30周年を迎えました。

 

玉袋 おめでとうございます。そもそも活動を始めたきっかけは何だったんですか。

 

土佐 美術大学で変な機械を作っていて、それを世の中に見せるときに、普通に見せてもみんな興味を持ってくれないなと考えていたときに、そういえば父親が電気屋をやっていたなと。ちっちゃな会社でしたが、最盛期は100人を超す従業員を抱えていたんですが、オイルショックが原因で倒産してしまって。それを思い出して明和電機を名乗るようになりました。

 

玉袋 マキタスポーツみたいなもんだね。あの芸名も山梨にある実家のスポーツ用品店の屋号だから。形はどうあれ明和電機という名前が復活して、一種の親孝行じゃないですか。

 

土佐 父親は理解していなかったです。借金があって潰れた会社なので、「おまえは大丈夫なのか?」って言われました。

 

玉袋 電気屋の頃は製造をやっていたんですか?

 

土佐 そうです。主にテレビのボリュームなどを作っていて、松下電器や東芝の下請けでした。

 

玉袋 まさしく明るいナショナルに繋がるわけだ。

 

土佐 倒産するときは全然明るくなかったですけどね(笑)。

 

玉袋 明和電機は世の中に出たときに、すぐに光がつきましたよね。面白い活動をしているってことで、テレビにも出てましたもんね。

 

土佐 初めてテレビに出たのはタモリさんの「音楽は世界だ」(テレビ東京系)でした。次がビートたけしさんの「たけしの誰でもピカソ」(テレビ東京系)で、とんとんとテレビに出させていただいて。

 

玉袋 (明和電機の「全製品カタログ」のページをめくりながら)テレビに出る前から発表する機械はたくさんあったんですか。

 

土佐 今みたいな数はなかったです。今は300点ぐらいありますけど、最初は指パッチンする木魚(パチモク)しかなかったですし。

 

玉袋 背負ってたやつだ。覚えてるよ!

 

土佐 今もやっていますけどね(笑)。

 

──大学在学中からパフォーマンス活動は行っていたんですか。

 

土佐 やっていましたけど、当時は魚を撲殺するパフォーマンスとかをしていました。今じゃ考えられないです。

 

玉袋 そういえば昔、一緒にお仕事をさせてもらったときに、「魚コード」をいただいて家で使ってましたよ。

 

土佐 魚コードが明和電機の量産第1号ですね。

 

玉袋 大手事務所に入らず、自分でやっているわけですよね。

 

土佐 以前は事務所に所属していました。最初はソニー・ミュージックエンタテインメントに1993年から1998年までいて、1998年から2016年までは吉本興業でした。

 

玉袋 (「全製品カタログ」掲載の活動歴を記した世界地図を見ながら)相手は世界ですもんね。言葉もあるけど、音楽とモノがあるから、どこでも通じちゃうわけじゃないですか。

 

土佐 行ってないのは南アメリカぐらいだったんですけど、昨年はコロンビアにも行きました。

 

玉袋 世界戦略は、とにかく明るい安村よりも全然早いし、規模もそれどころじゃないからね。しかも製品を海外に卸しているわけでしょう。

 

土佐 そうですね。ライブが飛び込み営業みたいなものですから。営業先でパフォーマンスをして、「(オタマトーンを指して)これ売ってるよ」って感じで。

 

玉袋 大人から子どもまで喜ぶしね。

 

土佐 ただ今のようにネットが発達してなかったら難しかったです。今は飛び込みで行って、「どうぞAmazonで買ってください」って言えますから。

 

影響を受けたのは横山ホットブラザーズ

──製品の販売はいつから始めたんですか?

 

土佐 一発目の魚コードが1995年です。当時はニセモノも出回りました。

 

玉袋 どうやって流通に乗っけたんですか?

 

土佐 ソニー・ミュージックだったので、流通はレコード屋さんで売っていたんですよ。お店側からしたら邪魔でしょうがなくて、このスペースに何枚CD置けるんだよって話で。

 

玉袋 魚コードにしても、オタマトーンにしても何て言うんだろう……。

 

土佐 役に立たないものですからね。

 

玉袋 そう、その言葉が欲しかったんだ! それを言おうとしたんだけど、俺からは言いにくいし、社長自ら言ってもらえて良かった。世の中、こういう幅がないと面白くないわけで、そういったニーズにピタッとハマっているのが素晴らしいですよね。

 

土佐 ニッチだけど、好きな人が世界中にいますからね。

 

玉袋 言ってしまえば変態ですよ。

 

土佐 変態と変態を繋いでいるんです。

 

玉袋 一番変態がいたなと感じた国はどこですか?

 

土佐 スタッフがおかしかったのは2019年に行ったロシアですね。最初から最後まで、ずっとお酒を飲んでいるんですよ(笑)。

 

玉袋 下手すると、北朝鮮にも呼ばれそうだな。社長としては製品も売らなきゃいけないから、コストのことも考えなきゃいけないし、さじ加減が難しいんじゃないですか。

 

土佐 最初は全然駄目でしたね。明和電機でCDも出しているんですが、作詞作曲っていうシンガーソングだけじゃなく、楽器も一から作るので元を取れないんです。それがソニー・ミュージック時代。

 

玉袋 そうか。ミュージシャンですからね。

 

土佐 シンガーソングライターメイカーです(笑)。CD、魚のコード、コンサートの収入など、いろいろあったんですけど、本当に儲からなかったです。

 

玉袋 影響を受けたパフォーマーで言うと誰なんですか。

 

土佐 強いて挙げるなら横山ホットブラザーズですかね。

 

玉袋 そっちの方向になるんだ。確かにホットブラザーズのノコギリも気持ちいいですもんね。

 

──学生時代、何か楽器はやられていたんですか。

 

土佐 打楽器をやっていました。それとコンピュータミュージックをくっつけたいなと思って、くっつけたらこうなっちゃったんです。

 

玉袋 テクノはどうだったんですか。

 

土佐 YMO世代なので、高校生のときにコンピュータミュージックにドハマりしました。でも出音がピコピコだけでしょぼいというか、打楽器でダイナミックな音を出していたから物足りなさを感じて。それで自然と今のスタイルになっていったんです。

 

玉袋 そういえば昔タミヤのプラモデルで戦車とか作ったけど、工作するのもありましたよね。

 

土佐 「楽しい工作シリーズ」ですね。

 

玉袋 それだ! 明和電機さんの製品を見ていると綱渡りするピエロとか思い出すね。懐かしい。そこら辺も通ってるんですか?

 

土佐 ちっちゃい頃は、そういうのも作ってました。

 

玉袋 そりゃ作るよね。ただ普通はガキの頃で終わっちゃうんだよ。それをずっと続けているんだもんね。

 

土佐 ずーっと続けちゃってます。

 

玉袋 続けた結果が明和電機になるわけじゃないですか。普通なら卒業するけど、そうじゃないから面白いんだ。プロレスも一緒だよ。みんなガキの頃は熱中するんだけど、大抵は卒業しちゃうんだ。俺は卒業できてないけどね。昔は学校でも技術の授業があって、いろいろ作ったじゃない。今はどうなっているんだろうね。

 

土佐 我々の時代とは違うみたいですね。男の子女の子の区別はなくしましょうという流れもありますし。

 

玉袋 そうだ。男子は技術、女子は家庭だったよね。

 

土佐 だからIKEAの家具が届いたけど組み立てられない男の人もいるらしいですよね。

 

玉袋 うちの倅がそうですよ。「任せろ!」って買ったわりには何にもできなくてカミさんが全部組み立てたっていうさ。今は仕組みが見えるものって減ってるじゃない。明和電機さんの製品って、仕組みが見えているのもいいんだ。昔は親父のラジオをドライバーで開けちゃったりしたけど、そういう解体する文化がないよね。

 

土佐 iPhoneとか簡単に分解できないですからね。明和電機の製品は見て分かる。僕自身、見て分かるものじゃないと分からないんですよ。

 

玉袋 機械なんだけど温かみがあるよね。俺の知り合いがコーンズっていう高級車を販売する会社で整備士をやっているんだ。彼の両親とも話すんだけど、やっぱちっちゃい頃からドライバーで車のネジを外しちゃっていたらしいんだ。それが今はコーンズってデカいところで整備をやっているんだから、子どもの頃の経験って大きいんだよね。

 

土佐 ただYouTubeで機械をバラして組み立てる動画もあって、詳しい子は、めちゃめちゃ詳しいので、両極端になっちゃっているんですよね。ただ、またそういう解体する時代がくると思うんですけどね。

 

役に立つものは作りたくない

玉袋 スーツケースを使った「スーツケース型音源」も面白いですね。

 

土佐 スーツケースって叩くと良い音がするんですよね。そのままライブに持って行って、組み立てて演奏して、それを解体して持って帰る。海外に行くときもコンパクトなので一番いいんですよ。

 

玉袋 発想がいいよね。子どももさ、最先端のおもちゃに触れるよりも、オタマトーンとかに触れていたほうが絶対いいと思うね。孫へのプレゼントでおもちゃ売り場に行くとさ、スマホ型のおもちゃがあるんだよ。親がずっといじっているんだから、そりゃ子どももやりたいよね。でも俺は、よちよち歩きしたら音が鳴るみたいなさ、昔ながらのおもちゃに惹かれるんだ。明和電機さんの製品は、それに近いよね。

 

土佐 やっていることは19世紀だと思います。僕は役に立つものは作りたくないんですよ。

 

玉袋 最高だよ! でもパッと思い浮かぶものって便利なものばかりだよね。

 

土佐 でも自動車にしても、時計にしても、出始めの頃って「何これ?」って反応だったと思うんです。「一日を24時間で区切るって何言ってるの?」みたいな。僕はナンセンスって言っているんですけど、ウォシュレットだって最初はナンセンスだったと思うんですが、それが徐々にコモンセンスになっていく。だから明和電機も100年ぐらい経つとスタンダードになる可能性があります。

 

玉袋 いいですね!

 

土佐 可能性はなくはない(笑)。

 

玉袋 確かにウォシュレットが出始めたときは、「何だこれ?」って思ったけど、今はないと物足りないもんな。今、頭の中で考えて形になってないものはあるんですか。

 

土佐 たくさんあります。イメージはあるけど素材が見つかってないとか、なかなか実現が難しいものもあります。でも待っているうちに、使えるようになったとか出て来るものなんですよ。

 

玉袋 言える範囲で、まだ実現化してないのってどんなものですか。

 

土佐 水の中に花を描く機械みたいなのを作りたくて、いろんな材料を使って試しましたけど、まだ見つかってないですね。ただ、今は何でも明和電機の工房で作れるようになって、この「SUSHI BEAT」なんかも3Dプリンターとレーザーカッターで作っているんです。昔だったら、金型を工場に出すしかなかったですからね。

 

玉袋 ピストルとかも作れちゃうよね。

 

土佐 まあ作れないこともないでしょうけど……。

 

玉袋 ダメだよ(笑)。冗談だよ。

 

土佐 大体自分で作れるようになったので、物欲もなくなりました。

 

──新しい製品に取り組むときに締め切りは設定しているんですか。

 

土佐 新しいイベントがあるとか、そこに向けての締め切りはあります。まあ人生が締め切りみたいな感じで、ずっとやっています。

 

玉袋 やっぱ人生は締め切りだよ、締め切りのない奴は駄目だ。常に締め切り。いつ終わるんだろう、この戦争は? みたいなさ。でも締め切りがあるからこそ考える力も出てくるしね。

 

土佐 締め切りに終わらせるイメージがないとダメですね、そこで終わらせるぞっていうイメージがあると勢いで行けるんです。あと僕は諦めが早いんです。どうでもいいから、やろうっていうか。社訓が「やったもんがち、とったもんがち」ですから。「やりましょう」「やっとけ」みたいなことを全部自分の中でやっているんですよね。

 

──外注に出すことはあるんですか。

 

土佐 大量に同じものが欲しいときなどは出します。そういうときは中国のアリババと直接交渉するんですけど、すごく便利になりました。物を作るのも便利になってますし、売るのも簡単になりました。

 

玉袋 大きさでいうとどこら辺までの大きさが得意なんですか。

 

土佐 僕が得意中の得意な大きさはおもちゃだと思います。おもちゃサイズを超えると、もう手に負えないですね。車なんて絶対に無理です。

 

玉袋 車で言うとさ、中央道で山梨方面に行くとき、「メロディーポイント」ってあるじゃない。あれは発明だよね。

 

土佐 いいですよね。あれはわりと悔しかったです。

 

玉袋 悔しいよね(笑)。アイデアとして「やりやがったな」みたいな。

 

土佐 ヒット曲ですよ。車であそこを通る人は、みんな聴いているわけですから。

 

玉袋 レゴなんかはどうですか?

 

土佐 正直、今のレゴは僕に合わないですね。ちっちゃい頃のレゴは本当にブロックしかなかったから、動かそうとしても動かない。それを何とか動かすように工夫して、いろいろ考えるわけですけど、今は最初から動くようにセットされていますからね。

 

玉袋 個人的には神輿を明和電機さんに作ってほしいな。

 

土佐 盆踊りのやぐらも惹かれるものがありますね。神輿をやるなら、まずは神様から作りたいですね。神社があって、神輿があって、露店があってという3部作をやりたいです。

 

玉袋 明和神社だ。

 

土佐 ディズニーランドっぽさもありますしね。昨年、ラフォーレ原宿で、エレクトリカルパレードみたいな感じで、明和電機で「メカちんどん屋」をやって店内を練り歩いたんです。百鬼夜行みたいになってしまいましたけどね(笑)。

 

シャッター街になっていた秋葉原のラジオデパートに出店した理由

──2019年、秋葉原のラジオデパートに初の公式ショップ「明和電機 秋葉原店」を出店したのは、どういう経緯があったんですか。

 

土佐 ラジオデパートは学生のときから通っていて、部品とかを買っていたんですけど、今はシャッターが降りたお店が増えて、シャッター街になっているんですよね。それを見たときに悲しいなと思って、家賃を聞いたら意外と安くて借りました。

 

玉袋 今は、あの頃の秋葉原じゃないからね。俺も「マルチバンドレシーバー」とか無線を買いに行ってた口だからさ。大手よりも個人店で買うほうが面白いんだよね。一見すると吊るしで売ってるもんと一緒なんだけど中身は改造してあってさ。普通ならスクランブルがかかるのに、最初からダイヤルを回すとスクランブルがかからないようになってるとかさ。それを親父も言わないんだ。暗黙の了解というかさ。そんな関係が良かったよね。

 

土佐 お店を出すときは怖かったんですよ。老舗のラジオデパートに忽然と出店するわけですし、昔から営業している方々とどう関係性を作ろうかと。実際、開店祝いの花を置きっぱなしにしていたら、怒られたこともありました。話してみると良い人たちばかりで、今は楽しいですけどね。最近は三代目の方々が中心で、四代目も現れています。

 

玉袋 最初にそういう流儀を教わるんだね。ちょっと話は変わるけどさ、荻窪に「カッパ」っていう行きつけのモツ焼き屋があるの。そこでベトナム人がバイトしていたんだけど、故郷に帰ることになって。カッパの味が大好きだから、ベトナムで同じスタイルのもつ焼き屋をオープンしたんだ。いつか行こうと思っているんだけど、そういうのを聞くといいなって感じるよね。一号店を秋葉原の老舗デパートに出店して、いずれは海外にもどんどん支店を出してほしいね。シンガポールとかにあったら行きたくなるよ。夢が広がるね。日本の大手家電メーカーが右肩下がりの中、明和電機さんには頑張ってほしいよ。

 

土佐 明和電機という名前をつけたとき、日本の大手家電メーカーはイケイケだったので、仮想敵というか。そこに対する反骨精神もあったんです。だけど、どんどん元気がなくなって寂しさもあります。

 

玉袋 こうなっちゃったのが悔しいよね。自動車もそうだけど、日本の家電は心の誇りだったからさ。でも明和電機は世界のトップに立つ可能性もありますよ。

 

土佐 500年ぐらい経ったら、上にいるかもしれないですね(笑)。

 

玉袋 東芝だって以前は「サザエさん」の一社提供だったけど、何年か前にやめちゃったじゃない。「水戸黄門」の枠だって、かつては“ナショナル劇場”って名称だったんだから。いずれは「明和電機がお送りする○○アワー」みたいな番組もできるかもしれないですよ。

 

土佐 三代目ぐらいになったときにあるかもしれません(笑)。

 

玉袋 今はCMにも出ていますよね。

 

土佐 三協アルミさんのCMに起用していただきました。オファーをいただいたとき、「楽器から作ります」と伝えて、三協アルミさんの工場に行って廃材で楽器を作ったんですが、夢のような場所でした。

 

玉袋 宝の山だ。

 

土佐 曲も踊りも自分で作って、楽しかったですね。

 

玉袋 着実に活動の幅を広げていますね。益々のご活躍をお祈り申し上げます!

 

 

玉袋筋太郎

生年月日:1967年6月22日
出身地:東京都
1987年に「浅草キッド」として水道橋博士とコンビを結成。
以来、テレビ、ラジオなどのメディアや著書の執筆など幅広く活躍中

一般社団法人全日本スナック連盟会長
スナック玉ちゃん赤坂店オーナー(港区赤坂4-2-3 ディアシティ赤坂地下1階)

<出演・連載>

TOKYO MX「バラいろダンディ」
BS-TBS「町中華で飲ろうぜ」
CS「玉袋筋太郎のレトロパチンコ☆DX」
夕刊フジ「スナック酔虎伝」
KAMINOGE「プロレス変態座談会」

森雪之丞が語る詩の原点と、私淑する早川義夫との思い出

作詞家デビュー48年目を迎え、昭和・平成・令和と常に第一線を走り続け、約2700曲の歌詞を紡いできた森雪之丞さん。近年は演劇・ミュージカルの世界でも活躍するなど、旺盛に創作活動を続ける森さんに、心の師と仰ぐ早川義夫さんとの思い出や、今年1月に刊行したオールタイムベスト詩集『感情の配線』について、2022年上演のブロードウェイ・ミュージカル『ジャニス』で出会ったアイナ・ジ・エンドさんと長屋晴子(緑黄色社会)さんから受けた衝撃などを語ってもらった。

 

森 雪之丞●もり・ゆきのじょう…1954年1月14日生まれ。東京都出身。作詞家、詩人、劇作家。大学在学中からオリジナル曲のライブを始め、同時にプログレッシブ・ロックバンド「四人囃子」のゲスト・シンガーとしても活躍。1976年に作詞&作曲家としてデビュー。以来、ポップスやアニメソングで数々のヒット・チューンを生み出す。1990年代以降、布袋寅泰、hide、氷室京介など多くのロック・アーティストからの支持に応え、尖鋭的な歌詞の世界を築き上げる。これまでにリリースされた楽曲は2700曲を超え、2006年には作詞家30周年を記念したトリビュート・アルバム『Words of 雪之丞』が制作され、2016年には作詞家40周年記念CD BOX『森雪之丞原色大百科』(9枚組)が発売された。また詩人として、1994年より実験的なポエトリー・リーディング・ライヴ『眠れぬ森の雪之丞』を主催。2003年には詩とパフォーマンスを融合した『POEMIX』を岸谷五朗と、2011年には朗読会『扉のかたちをした闇』を江國香織と立ち上げるなど、独創的な行動と美学は多くの世代にファンを持つ。近年は舞台・ミュージカルの世界でも活躍。劇団☆新感線の『五右衛門ロック』シリーズの作詞を始め、『キンキーブーツ』『チャーリーとチョコレート工場』『ボディガード』などブロードウェイ・ミュージカルの訳詞も手掛ける他、オリジナル戯曲にも取り組み、ロック☆オペラ『サイケデリック・ペイン』(2012・2015)、『SONG WRITERS』(2013・12015)、『怪人と探偵』(2019)、『ロカビリー☆ジャック』(2019)、『ザ・パンデモニアム・ロックショー』(2021)の作・作詞・音楽プロデュースの公演を成功させている。公式プロフィール公式サイトX(旧Twitter)

 

【森 雪之丞さん撮り下ろし写真】

 

日本人の怨念や湿り気をはらんだ早川義夫さんのソウルフルな歌い方に惹かれた

──森さんは今年で作詞家デビューして48年目になります。公式サイトの年譜によると、高校生のときに「ビートルズ、ボブ・ディラン、ジャックスの早川義夫などに多大な影響を受け、オリジナル曲を作り始める」と記していますが、ジャックスとの出会いを教えていただけますか。

 

 中学生のときに、友達がジャックスのファンクラブのカードを持っていたんです。ファンクラブ名が「薔薇卍結社」だったんですけど(笑)、その言葉に惹かれて。ちょうどジャックスが「タクト」というインディーズ・レーベルからシングルが出るタイミングで、それを聴いてぶっ飛んだんです。その後、メジャーから出た1stアルバム『ジャックスの世界』(1968)も最高でした。

 

──中学生でジャックスにハマるって、当時としては早熟ですよね。早川さんのどういうところに惹かれたのでしょうか。

 

 一つはソウルフルな歌い方ですね。黒人のソウルではなくて、日本人の怨念や湿り気をはらんだソウルで、そこにヤラれました。それまで聴いていた日本の音楽はグループサウンズや歌謡ポップスでしたから、そこには絶対に出てこないような言葉を早川さんは歌うんです。「裏切りの季節」という曲だったら、“燃える体を寄せ合って くずれていったあの夜に”という歌詞を、身をよじりながらシャウトする。あとアルバムジャケットの裏に早川さんが「このレコードは、こういうものです」みたいなライナーノーツを自ら書かれていて。その文章がものすごく詩的で、そこからも多大な影響を受けました。

 

──ジャックスの活動期間は1965年から1969年と短命に終わります。

 

 2ndアルバム『ジャックスの奇蹟』(1969)は、レコーディング中に解散したために不遇な作品ではあったんですが、やっぱり好きでしたし、解散後に出した早川さんの1stソロアルバム『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』(1969)も愛聴していました。

 

──森さんはジャックスが解散した年に、通っていた都立大泉高校の同級生とロック・バンド「南無(なむ)」を結成するんですよね。

 

 そうです。実は、そのバンドがきっかけで早川さんとお会いする機会があったんです。

 

──それはすごい!

 

 南無で活動していたときに、同級生ですけど違う高校に通っていた岡井大二というドラマーと、森園勝敏というギタリストと知り合って。二人とは、後に「四人囃子」というプログレバンドを結成するんですが、その当時から彼らはうまかったんです。「フリー」や「グラファン(グランド・ファンク・レイルロード)」のコピーをやっていて、界隈に名が響き渡るほどのテクニックでした。南無はめちゃくちゃ下手くそだったんですけど、ジャックスの影響でオリジナルを日本語でやっていたので、僕らのライブを聴いて二人はビックリして、それで友達になったんです。高校2年生のときに南無は解散するんですけど、二人のプロデュースで5曲入りレコード『南無』を100枚自主制作して、森園はギターも弾いてくれました。そのレコードを早川さんに聴いてもらったんです。

 

師と仰いでいる人からのオファーで歌詞を書いた「天使の遺言」

──どのように早川さんと繋がったんですか?

 

 話は前後するんですが、立教大学に「OPUS」という、ちょっと学生運動がかった音楽集団があって、そこの主催者が当時、「渋谷ジァン・ジァン」という小劇場のオーディションを仕切っていたんですよね。それに、まだ高校生だったんだけどギターの弾き語りで合格して。そのときに主催者の方から「立教に遊びにおいでよ」って言われたんです。それでギターを担いで遊びに行ったら、「ムーンライダーズ」の前身である「はちみつぱい」の渡辺 勝さんや岡田 徹さんと知り合って。当時は立教が溜まり場になっていたので、斉藤哲夫さんやあがた森魚さんとも面識ができたんです。

 

──錚々たるメンバーですね!

 

 1970年に哲夫さんが「悩み多き者よ」でURCレコードからデビューするんですが、その曲のプロデュースが早川さんだったんです。当時、早川さんはURCでディレクターをやっていたので、哲夫さんに「どうしても紹介してほしい」と頼み込んで、自主制作した『南無』を持って、早川さんに会いにURCに行ったんです。もうドキドキでしたよ。

 

──ジャックスのヴィジュアルはダークで近寄りがたい雰囲気でしたが、当時の早川さんはどんな方だったんですか?

 

 とても優しい方でした。「とにかく聴いてください!」とレコードを渡して、後日、電話で早川さんとお話ししたんですが、そのときに「森くんは僕に何をしてほしいの?」って聞かれたんです。当時はプロになる気持ちもなかったので、「早川さんに聴いてもらいたいだけだったんです」と伝えたら、「ピエロみたいな格好をして踊るといいよ」というアドバイスをくれて。まだヴィジュアル系などが出るはるか前ですからね。怨念の人だと思っていた早川さんが、そういう非凡な発想をするから、すごい人だなと改めて思いました。

 

──共通の知り合いがいたとはいえ、憧れの人に直接レコードを渡すって、ものすごい行動力ですね。

 

 今は音楽スクールに行けば、精神は学べないけど、幾らでもテクニックは学べるじゃないですか。僕らの時代は何もなかったので、憧れのアーティストがいたら、まずは会ってみたいと思うし、会うためにはどうすればいいんだろうと考えて。自分が作ったレコードを渡せば、拙い内容でも少しは思いが伝わるかもしれないと思ったんですよね。そこに至るまでには、勝さんや哲夫さんがいて、早川さんに繋がっていくというのは、今お話しして思いましたけど“物語”ですよね。哲夫さんの家に押し掛けたこともあったし、意外と僕は図々しい奴だったのかもしれない(笑)。確か僕の大泉の実家に勝さんが遊びに来たこともあったし、先輩も優しい方ばかりでしたね。

 

──その後も早川さんとは親交が続いたんですか。

 

 早川さんは音楽の仕事を辞めて、本屋さんを始めたので、それっきりでした。ただ早川さんが90年代に入って音楽活動を再開して、1993年に江古田の「バディー」というライブハウスで復活ライブを行ったんですが、勝さんがピアノで参加するということで呼んでいただけたんです。そのときに早川さんとお話しさせていただいたら、僕の作品も聴いてくれていたみたいで。その後、「森くんの歌詞を歌ってみたいな」という連絡があったんです。

 

──早川さん自身からオファーがあったんですね。

 

 私淑して、師だと思っていたアーティストに頼まれたわけだから、ものすごいプレッシャーでした。もちろん喜びも大きかったんですが、喜びの中には苦痛も共存しているものなんですよね。それを形にしたのが、「天使の遺言」という作品です。もう1曲あったんですが、それはまだ作品化されていません。2006年に『Words of 雪之丞』という僕のトリビュート・アルバムが出たんですが、斉藤和義くんが「どうしても『天使の遺言』を歌いたい」とカバーしてくれて。ライブでも歌ってくれているので、斉藤くんで知ってくださった方も多いと思います。

 

アイナ・ジ・エンドのシャウトに魅せられた

──森さんは70歳の誕生日となる今年1月14日に自選詩集『感情の配線』を刊行しましたが、どういう経緯で作ろうと思ったのでしょうか。

 

 作詞家デビューして48年、そのうちの30年で歌詞だけではなく詩も書いて、5冊の詩集を出してきました。70歳になるにあたって、30年間で書いた詩を今の人たちにも届けたいなと思って、自選で一冊にまとめました。

 

──30年前と今で、ご自身で変化は感じますか?

 

 1994年に刊行した第一詩集の『天使』を読むと、もちろん拙いと思うことはあります。この30年間で表現の仕方も深まりましたしね。ただ今回まとめてみて、その時々で考えていることの違いはあれ、一貫して人間というものを書いてきたのかなと思いました。人間の儚さ、哀れさ、不条理といったものの中で、自分なりに光や幸せを探したいという願いを込めてきたと思います。

 

──さまざまな形式の詩が収められている中で、「夢と旅の図式」と題された連作の戯曲詩が5篇収録されていますが、どのような発想で生まれたのでしょうか。

 

 ここ20年、舞台の仕事もずいぶんやりましたので、詩に戯曲のような要素を入れたいなと思ったんです。女・男・天使・影・魔術師・旅人といった登場人物が出てきますが、詩なんだけどもシナリオに近い、詩なんだけども芝居に近いというようなニュアンスで、5つの詩を物語のように紡ぎました。書いた時期がバラバラなので、戯曲詩にして一つの物語になればいいなと手直しをしました。

 

──昔から物語を作りたい欲求はあったのでしょうか。

 

 音楽が好きでキャリアが始まっているので、物語というよりは、やはり詩なんでしょうけど、もちろん詩にも物語がある。ある物語を設定して、その1シーンだったり、一つの感情だったり、もしくは数年にわたる情景を、一篇の詩や歌詞にすることもあります。僕の場合は、長いものを書くよりも、それを削いで削いで、一つの詩にするというふうなことをやってきたんです。でも、2003年に鴻上尚史さん主宰の第三舞台の名作『天使は瞳を閉じて』をミュージカル化するにあたり、作詞と音楽プロデュースを担当したんです。それをきっかけにミュージカルが面白くなってきて、それ以降、劇作家の方と組んで、詩を提供するというのをやり始めました。2008年からは劇団☆新感線と定期的にお仕事するようになって、座付作家に中島かずきさんがいて、僕が詞を書いているんですけど、その経験を重ねているうちに、自分で物語も書いて、そこに詩を組み込んでいったほうがミュージカルとしては自然だなと感じたんです。それで2012年に上演したロック☆オペラ『サイケデリック・ペイン』から戯曲そのものを手掛けるようになり、この12年で5本のミュージカルを書きました。

 

──多岐に渡る活動をする中で、12年間で5本も書いたのは驚異的ですね。

 

 他の仕事と並行しながら書いているので、相当な時間をかけていますし、我ながら元気だったなと思います(笑)。今までのようなペースは無理ですけど、これからもミュージカルは書き続けたいですね。

 

──2022年にはブロードウェイ・ミュージカル『ジャニス』の訳詞も手掛けていますが、本作には主演のアイナ・ジ・エンドさんや緑黄色社会の長屋晴子さんなど、若いアーティストが出演しました。新しい世代のシンガーを間近で見て、どう感じましたか。

 

 もちろんアイナはジャニス・ジョプリンをリアルタイムでは知らないんだけど、ちゃんとジャニスのハートを持っていて、ハスキーな声でソウルフルに歌うし、シャウトもすごかった。日本で、ここまで素晴らしいシャウトができる人は少なかったと思うので、そういう人が当たり前のようにひょこっと出てくるのが面白かったです。緑黄色社会の長屋はエタ・ジェイムスを演じたのですが、J-POPで育ったらしいのに、ものすごくソウルフルに歌えるんですよね。おそらく親がソウルやファンクを聴いていて、それが娘に受け継がれているとしか思えない。そういう新しい時代になったんでしょうね。

 

詩を書くことは感情を配線しているようなところがある

──『感情の配線』は装丁から関わられたそうですね。

 

 今まで5冊の詩集も含めて、幾つも本を出してきたんですが、装丁から関わったのは今回が初めてでした。花布(はなぎれ)の色まで決めなきゃいけなくて大変だったんですが、本というものは、いろんなパーツがあってできているんだと改めて知れたのも面白かったです。僕はネットも大好きですけど、紙の本はいつでもどこでも手軽に読めるのが好きなんです。もちろんスマホやパソコンで読んでもらうのもうれしいですが、せっかくなら『感情の配線』を手に取って、本の手触りや匂いも感じてほしいですね。

 

──表紙の絵は、森さんの娘さんが描いたものだそうですね。

 

 娘が16歳のときに描いた絵なんです。何を作っているのかは分からないんだけど、何かを配線しているのが、『感情の配線』というタイトルにリンクしているなと。詩を書くことも、感情を配線しているようなところがありますからね。

 

──ネットがお好きということですが、いち早くパソコンなども取り入れたほうですか?

 

 早かったほうだと思います。そもそもワープロを使い始めたのも早かったですから。最初に買ったワープロなんてモニターに1行しか表示されなかったんですよ(笑)。でも手書きで清書をするよりはマシだなと。それまではペンで歌詞を清書していて、ホワイトで修正するのも味気ないからと、間違えたら一から書き直していたので、すごく時間がかかっていたんです。だから表示されるのは1行でも、簡単に修正できるのは大きかったです。その後、表示できる行数が増えて、どんどん進化していくので、効率も良くなっていきました。

 

──アーティストによっては、手書きのまま歌詞を印刷して世に出す方もいて、味わいがありましたよね。

 

 手書きで綺麗な字が書けてしまうと、ヴィジュアルに酔って良い詩かなと思うこともあるし、気持ちが入ったときの詩は強く記憶に残ってしまって、冷静に見られなくなる面もあるんです。だから最終的に印字をして、フォントで確認したほうが、書いたときの自分と少し距離を置けるので、手書きよりも僕に合っているんですよね。

 

 

<Informaition>

森雪之丞自選詩集『感情の配線』

好評発売中!

装画:森まりあ
価格:2,500円(税別)
発売元:株式会社開発社

<収録内容>
森雪之丞自身がこれまでに発売した詩集から厳選、図形詩、戯曲詩の初の書籍収録。

<目次>
詩I 14 篇
図形詩 10 篇
詩Ⅱ 13 篇
戯曲詩『夢と旅の図式』5 篇による連作詩
詩Ⅲ「生きる、あなたに泣いてほしくて」

自選詩集『感情の配線』特設ページ公開 https://www.mori-yukinojo.com/emotional_wiring/

 

Podcast番組「森雪之丞 Poetory Readingの世界『感情の配線』」

配信開始!

【出演】森雪之丞(著者)
【配信】2024年1月14日(日)正午から順次配信予定
(隔週月曜日 正午頃 各種Podcastサービスで配信 ※Spotify、Apple Podcast、AmazonMusic、YouTube Musicなど)
【番組ハッシュタグ】#感情の配線 #推詩

 

撮影/武田敏将 取材・文/猪口貴裕

木竜麻生「登場人物たちの次の展開を期待してしまう。彼らが運命に翻弄されていく姿を、スクリーンの中で見たいと思った」映画「熱のあとに」

2019年に起きた新宿ホスト殺人未遂事件から着想を得て描かれる、一人の女性の一途で狂信的な激情を描いた映画「熱のあとに」(2月2日(金)より公開中)。衝撃的な事件から6年後、橋本愛さん演じる主人公・沙苗の目の前に現れる謎の隣人女性・足立を演じる木竜麻生さんが、これまでとは異なる役柄や刺激的な現場エピソードについて振り返ってくれました。

 

木竜麻生●きりゅう・まい…1994年7月1日生まれ。新潟県出身。2014年に『まほろ駅前狂騒曲』で映画デビューし、2018年には瀬々敬久監督の『菊とギロチン』で300人の中から花菊役に選ばれ、映画初主演を果たす。また、同年の『鈴木家の嘘』でもヒロインを務め、この2作の演技が高く評価され、数々の映画賞を受賞する。近年は主演作『わたし達はおとな』(2022年)のほか、『ぜんぶ、ボクのせい』(2022年)、『ヘルドッグス』(2022年)、『Winny』(2023年)、『福田村事件』(2023年)などの話題作に出演している。Instagram

 

【木竜麻生さん撮り下ろし写真】

 

 

「なぜ彼女らしいのか?」ということも演じていく上でのポイントに

──最初に脚本を読んだときの感想は?

 

木竜 映画の中で、しっかり母親役を演じるのは初めてでしたし、かなり謎めいた人物で、物語を動かしていく、かき回していくことに関しても初めての経験だったので、山本英監督から「木竜さん、足立役でどうでしょう?」と脚本を渡されたときは、純粋にうれしかったです。「今までとは違う私を見てもらえる作品になりそう」という思いや、自分の力量を試せそうな好奇心もあったので、わりと早い段階で「ぜひお願いします」と言わせてもらいました。あと、「自分がこの映画をお客さんとして見たい」という思いも強かったんです。

 

──「お客さんとして見たい」と思われた大きなポイントは?

 

木竜 自分が共感できるかどうかということとは別に、それぞれの登場人物が話している言葉がどこか固かったり、詩的だったり、普段人が話すときとは違う言葉選びをする瞬間があるんです。そこに関しては、とても興味深かったですし、とにかく登場人物たちの次の展開を期待してしまう。彼らが運命に翻弄されていく姿を、スクリーンの中で見たいと、純粋に思えたんです。

 

──ちなみに、足立という人物をどのように捉えましたか?

 

木竜 その後、何度か台本読みをする時間を取っていただいたときに、脚本のイ・ナウォンさんから、それぞれの登場人物にまつわるサブテキストになるものをいただいたんです。私は「足立から息子に宛てた手紙」という内容のものだったんですが、自分を彼女に近づけていくときの拠り所にさせてもらいました。傍から見ると、かなり息子に冷たい母親に見えるかもしれませんが、その手紙の中に「あなたが間違えて、この手紙に落書きしちゃったり、ビリビリに破いてゴミ箱に捨てちゃっても私は構わない」といったような記述があったんです。それはとても彼女らしい息子との距離感だなと思ったんですが、「なぜ彼女らしいのか?」ということも演じていく上でのポイントにしました。

 

──そのほか、一筋縄ではいかない彼女を演じる上で軸になったものは?

 

木竜 悲しさや寂しさ、やるせなさなど、足立なりに抱えているものがいろいろあると思うんですよ。それを表に出さずに、明るさやフレンドリーさ、飄々した部分を保っていて、しっかり地に足をつけて立っている、彼女なりの愛情がある人なんだろうと捉えました。沙苗に近づいていく彼女の正体が明らかになる中盤までは、彼女の持つ軽さみたいなものが損なあwれないように演じていたと思います。

 

監督に直談判した思い入れあるシーン

──かなりシリアスな「愛について」の物語が描かれますが、現場の雰囲気は?

 

木竜 2週間半から3週間程度のギュッとした長野ロケだったのですが、みんなでペンションを借りて、そこで同じ時間と空間と環境を共有しながらの撮影でした。だから、撮影の合間も、スタッフさんも含め、みんなでご飯を食べたり、仲良くなりすぎなぐらい仲が良かったです(笑)。逆に、それだけ風通しのいいコミュニケーションが取れていたからこそ、思い切ったお芝居ができたのかもしれません。緊張感を保たなければいけないシーンが多くありましたが、とても楽しくて濃厚な時間だったと思います。

 

──沙苗役の橋本愛さん、彼女の夫・健太役との仲野太賀さんとの共演はいかがでしたか?

 

木竜 お二人とも度量が広い俳優さんなのは分かっていたので、私はお二人の胸を借りるつもりでやってみようと思っていましたし、現場にいてくださるだけで終始助けてもらっていました。お互いに集中したいときは、何も言わなくても距離を置ける感じでしたし、あるシーンでカットがかかった直後に、愛ちゃんに「不完全燃焼だったかも?」と私が言ったら、「いや、監督のOKを信じよう」と言ってもらえるような関係性になっていました。お休みの日は3人でボウリングにも行ったんですが、ゲームの登録名を役名と同じ、沙苗・健太・(足立)よしこにしていました(笑)。みんなで一緒に、山本監督が作りたいものを作っていこう、という楽しさや空間を感じることができました。

 

──劇中、足立が沙苗と教会で対峙するシーンは、とても印象的です。

 

木竜 教会のシーンも、愛ちゃんを信頼していたので、どんと行けました(笑)。格子越しに、お互いの手の平を合わせるシーンは台本にはあったのですが、山本監督の意見で一度なくなったんです。でも、段取りが終わって、撮影のセッティング中に、愛ちゃんと控室に戻ったときに、「本当は交わりたくないのに、繋がってしまった2人を表現するには、手の平を合わせた方がいい」という話になったんです。それで監督に直談判して、復活してもらいました。だから、思い入れのあるシーンになりました。

 

作品を作りだし、足を運んで見てもらうというのはうれしいと同時に最低限の責任がある

──テイクを重ねるなど、一番大変だったシーンは?

 

木竜 一番大変だったのは、終盤に3人がペンションで集うシーンでした。なるべくカットを割りたくない山本監督の思いもあって、個々のショットを撮るときも、シーンの最初からカメラを回していたので、「今日撮り終わらないかも?」と思うほど時間もかかりました。毎回毎回、気持ちを最初に戻してからお芝居していくことは、かなり集中力が必要な作業でしたし、身体的なものも大変でしたが、それを乗り越えることができたのは、やはり同じ方向を向いていた俳優部とスタッフさんのチームワークがあったからだと思います。

 

──「Winny」「福田村事件」など、社会派作品に出演されている印象も強いですが、そのあたりは意識されているのでしょうか?

 

木竜 私の中で、「これ!」と決めているわけではないんですが、マネジメントもやっていただいている事務所の社長と、できるだけ作品について話したり、脚本を読んだときの感想を共有するようにしています。あと、台本を読んでワクワクするとか、「熱のあとに」のように「この映画を見てみたい!」と思うとか、自分の心が動くことも大切にしています。やはり俳優部として作品に参加する以上、作品を作りだす、それに足を運んで見てもらうというのはうれしいと同時に最低限の責任があるとも思うので。

 

──木竜さんが憧れる俳優、または理想の俳優像を教えてください。

 

木竜 具体的に憧れている方はいないのですが、私は映画を見ていて、生活や暮らしが見える描写が心地良くて、すごく好きなんです。例えば、誰かがご飯を食べるとか、洗濯物を干すとか、朝起きて出かけるとか、そこまで深い意味を持たない何気ない日常のルーティンのシーン。セリフはなくても、周りを見渡したら、この人いそうだなって俳優さんは、皆さんすごいなって思います。最近、アキ・カウリスマキ監督の「枯れ葉」やヴィム・ヴェンダース監督の「PERFECT DAYS」を見たときに、改めてそう感じました。

 

──木竜さんが熱くなるモノ、こだわりのモノなどがありましたら教えてください。

 

木竜 基本的に香るものが好きです。いろんな人に会ったり、人がたくさんいる空間に行った後など、ちょっと疲れていたり、力を抜きたいと感じたときは、必ず家でお香や香木を焚いてリフレッシュしています。最近はアウトドア好きな父と兄に勧められた、天然香木のパロサントが気に入っていて、ネットやショップで購入しています。普通のお香に比べて火はつきにくいのですが、煙の量が多いのが特徴なんです。気が付けば、朝起きて、窓開けて、換気した後に焚いているぐらい今のルーティンになっているかもしれません(笑)。ちなみに、「熱のあとに」でのロケ先ではさすがに焚くことができなかったので、ホワイトセージ(シソ科のハーブ)のスプレータイプのものを寝室や私服にかけていましたね。

 

 

熱のあとに

2月2日(金)より公開中

【映画「熱のあとに」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
監督:山本英
脚本:イ・ナウォン
出演:橋本愛、仲野太賀、木竜麻生、坂井真紀、木野花、鳴海唯、水上恒司

(STORY)
自分の愛を貫くため、ホストの隼人(水上恒司)を刺し殺そうとして逮捕された沙苗(橋本愛)。事件から6年後、彼女は自分の過去を受け入れてくれる健太(仲野太賀)と見合い結婚し、平穏な日常を過ごしていた。しかしある日、謎めいた隣人女性・足立(木竜麻生)が沙苗の前に現れたことから、運命の歯車が狂い始める。

公式HP:https://after-the-fever.com/

(C)2024 Nekojarashi/BittersEnd/Hitsukisha

 

撮影/映美 取材・文/くれい響 ヘアメイク/主代美樹 スタイリスト/カワサキタカフミ

石田卓也「3人それぞれ、このシーンに対する秘めた思いは強く、本番前は絶妙な緊張感と距離感を保っていました」映画『罪と悪』

罪の真実と正義の在り方を問う衝撃のノワール・ミステリー『罪と悪』が、2月2日(金)より公開。長編デビュー作となる齊藤勇起監督のオリジナル脚本作品で、心に傷を持つ朔を演じる石田卓也さん。朔ら幼なじみ3人が再会を果たすことで、ある事件によって止まっていたそれぞれの時間が動き始めていきます。幼なじみ役の高良健吾さん、大東駿介さんといった同世代俳優と火花を散らした撮影エピソードのほか、現在、俳優業とともに農業もされている石田さんが農業を始めたことによる自身に変化についても語ってくれました。

 

石田卓也●いしだ・たくや…1987年2月10日生まれ。愛知県出身。2005年、ドラマ「青春の門・筑豊編」でデビューし、同年公開された『蝉しぐれ』でキネマ旬報新人賞を受賞。主な出演作に『キトキト』(2007年)、『グミ・チョコレート・パイン』(2007年)、『リアル鬼ごっこ』(2008年)、劇場アニメ『時をかける少女』(2008年)など。Instagram

 

【石田卓也さん撮り下ろし写真】

 

10代半ばから一緒に頑張ってきた同世代俳優との再会

──普段は農業もされている石田さんが、本作への出演を決めた理由は?

 

石田 脚本を読ませてもらったときに、直感で「こんな作品を待っていた!」と思ったんです。偶然にも朔も農家をやっていますし、彼の内面的なところも理解できるというか、自分と重なるものが少なからずあったので、これは絶対にやりたいなと。今回、脚本も書かれた齊藤勇起監督は僕が出演した『モンゴル野球青春記』(2013年)で助監督をされていたご縁もあって、朔役に僕を指名してくれたそうですが、お話しを頂いた時は純粋にうれしかったですね。

 

──30代になられて、同世代の俳優である高良健吾さん、大東駿介さんと一緒に男臭いドラマに出演できるということも魅力的ですよね。

 

石田 男臭さに加えて、本作品はコミカル要素も一切ありません。そして2人とは10代半ばぐらいから、ずっと一緒に頑張ってきた同世代の俳優です。健ちゃん(高良)は同じ作品に出演したことがあるし、大東くんも『リアル鬼ごっこ』(2008年)で一緒でしたけど、やはり10代後半ぐらいの記憶で止まっているんですよね。そこから数年経って、またこのタイミングで一緒に作品を作れることに、この作品に出てくる3人のような、巡り合わせというか運命を感じました。

 

──久しぶりに再会するという設定は、劇中の3人の関係性にリンクしますね。

 

石田 そうなんです! ただ、幼なじみの設定だったんですよね。幼なじみの空気感って、現場入って「久しぶり!」という感じではなかなか出せないから、撮影に入る前に、本読みやコミュニケーションを取る場を設けていただきました。それによって、現場では3人それぞれが絶妙な空気感を保っていたと思います。齊藤監督がある程度の方向性を提示して、あとは僕たちに任せてくれたこともありがたかったです。初監督作で、自分のオリジナル脚本で、そこまで僕たちを信じて、任せてくれるっていうのは、なかなかできないことだと思うんですよね。本当に感謝しています。いろいろな監督の助監督をされて、経験を積んでこられた齊藤監督だからこその懐の深さを感じました。

 

役作りで大切にしたのは、歪んだ自己愛からくる正当性

──そんな中で、石田さんが朔を演じる上で心がけたことは?

 

石田 周りの人間から「おまえ、それ違うだろ?」って言われようとも、揺るがない正当性ですね。朔は非常に繊細な心を持った人間で、自分を守るための行き過ぎた自己愛が朔という人間を作り上げたんだなと感じたので、芯の部分は非常に大切にしました。それ以外のことは意識しなくても、相手が出してくる芝居に対して、自然と出てくる気持ちを表現していった感じです。本当に相手のセリフのニュアンスが変わるだけで、受け取るものって変わってくるから面白いですし、それがこの仕事をしていて楽しいところだと思います。3人がそこにいれば自然とシーンが出来上がるんです。

 

──3人が対峙するクライマックスの撮影エピソードは?

 

石田 齊藤監督の穏やかな人柄もあって、実は現場の空気感もそこまでピリピリしていなかったですし、撮影時間もそんなにかからなかったんですよ。ただ、3人それぞれこのシーンに対する秘めた思いは強く、本番前は絶妙な緊張感と距離感を保っていました。緊張し過ぎているわけでも、緩み過ぎているわけでもない。そんな空気感がたまらなく好きでした。それもあって、僕たちが本読みでやっていたものを遥かに超えて、3人の魂が語り合うシーンになったと思います。

 

自然に寄り添いつつ、やれることをやっていく農業の面白さ

──話はさかのぼりますが、農業を始められた理由は?

 

石田 もともと健康に興味があって、「自分の体内に取り入れるものが、どのように作られているのか?」ということを知りたくて、農業を始めたんです。国内の自然栽培農学校に通いながらオーガニック農家で働き、その後、海外のオーガニックファームを巡って農業修行をしていました。農業は自然が相手なので、なかなか自分が思うようにいかないんですよね。人間が自然に対して何か強制するのではなく、自然に寄り添いつつ、僕達は自然に対して少しお手伝いをさせてもらう。そんな考え方、生き方に魅力を感じました。

 

──農業をやられていることで、俳優活動に還元していると思われることは?

 

石田 心に余裕というか、ゆとりみたいなものが出てきました。現場にいる時も、自分の中ではゆっくりと時間が流れているように感じます。若い時はどうしても、一生懸命が故に”我”が前面に出てしまって、俯瞰で見ることができていなかったと思います。今は、自分の中でどうこうしようというよりは、自分はどういう立ち位置にいた方がいいのか、ということを客観的に見られるようになりました。あとは、純粋に俳優業は心身の健康が一番大切だと思うんです。そういったところからも、自然の中で汗を流して心身のバランスを整えてくれる農業を始めて良かったと思います。

 

──Instagramでは高良さんとアウトドアされている写真もアップされていますが、個人的にハマっているものは?

 

石田 最近は機会がある時に陶芸をしています。初めて陶芸をしたのは15歳の時でしたが、とても楽しかった記憶があります。もともと土を触ることが好きなのかもしれません。土を触っていると気持ちがいいですし、時間を忘れて没頭できます。今はまだ始めたばかりで作品にもなりませんが、作っている時間を楽しんでいます。陶芸作家さんの作品を見たり収集したりするのも好きで、益子の陶器市にも何度も行きました。作家さんの個性を出した作品が多くて1つひとつを見ているだけで楽しめます。今日は特に気に入っている飛騨高山の陶芸家・中西忠博の作品を持ってきました。この唯一無二の色合いと、風土を感じさせるこの素朴さを見ているだけで、感性が刺激されます。いつの日か自分でも納得のいく作品が作れたら最高に幸せです。

↑飛騨高山の陶芸家・中西忠博さんによる作品

 

 

 

罪と悪

2月2日(金)より公開

(STAFF&CAST)
監督・脚本:齊藤勇起
出演:高良健吾、大東駿介、石田卓也、村上淳
市川知宏、勝矢、奥野壮、坂元愛登、田代輝、柴崎楓雅、石澤柊斗、深澤幸也、
/佐藤浩市(特別出演)、椎名桔平

(STORY)
ある日、14歳の正樹の遺体が橋の下で発見。彼の同級生だった春、晃、双子の朔と直哉のうち、1人が犯人と思われる老人を殺し、殺害現場となった家に火を放つ。それから22年後、刑事になった晃(大東駿介)が父の死をきっかけに帰郷。久々に会った朔(石田卓也)は引きこもりになった直哉の面倒をみながら実家の農業を継ぎ、春(高良健吾)は地元の不良たちを集めた闇の仕事も請け負う建設会社を経営していた。やがて、かつての事件と同じように、橋の下で少年の遺体が発見される。

公式HP https://tsumitoaku-movie.com/

(C)2023「罪と悪」製作委員会

 

撮影/中田智章 取材・文/くれい響 ヘアメイク/KEIKO スタイリスト/櫻井賢之

西川貴教「『SEEDシリーズ』最新作の主題歌としてだけでなく、日本のアニメそのものの捉え方に変化を与えられる楽曲に」映画『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』主題歌「FREEDOM」

ガンダムシリーズの中でも屈指の人気を誇り、プロジェクト発表から約20年の歳月を経て、念願の公開となった映画『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』。その主題歌「FREEDOM」を歌うのは、アーティスト、声優としてテレビアニメの「SEEDシリーズ」を支え、盛り上げてきた西川貴教さん。小室哲哉さんとの初コラボなど大きな話題を呼んだこの楽曲で西川さんが目指したもの、そして自身にとっての「ガンダム」への思いをたっぷりとうかがった。

 

西川貴教●にしかわ・たかのり…1970年9月19日生まれ、滋賀県出身。ソロプロジェクトのT.M.Revolutionとして音楽活動を展開するほか、西川貴教名義でも活躍。ドラマや映画、舞台など俳優としても多くの作品に出演し、声優として『機動戦士ガンダムSEED』、『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』に参加した。X(旧Twitter)Instagram

 

【西川貴教さん撮り下ろし写真】

テーマにしたのは時代を超越した人や運命の“繋がり”

──ついに『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』が公開されました。西川さんにとってはテレビアニメの「SEEDシリーズ」で主題歌や挿入歌を担当されていただけでなく、2002年の『SEED』ではミゲル・アイマン役として、2005年の『SEED DESTINY』ではハイネ・ヴェステンフルス役として出演もされていましたので、今回の約20年越しの公開には感慨深いものがあるのではないかと思います。

 

西川 本当におっしゃるとおりです。劇場版の製作自体はテレビアニメが終わってすぐくらいに発表されましたが、そこからおよそ20年。その間、ずーっと“プロジェクトは着々と進行中”だとか、“今は止まっているらしい”といった、まことしやかな噂だけが流れていましたからね(笑)。正直、映画の公開日が決まってからも、僕は最後の最後まで訝しがっていました(笑)。だからこそ、完成作品を拝見したときは込み上げてくるものがありましたね。

 

──今作には主題歌「FREEDOM」での参加になりましたが、楽曲自体はどのような流れで作っていかれたのでしょう?

 

西川 今回はすごく悩みました。この劇場版『FREEDOM』にはどういった楽曲がふさわしいのかと考えていく中で、単純にシリーズ完結編の主題歌ということだけでなく、日本におけるアニメーションそのものの捉え方を考えてもらえるような曲にしたいなという思いがあったんです。というのも、今やアニメーションやゲーム、コミックは日本の文化を象徴するものとして世界中に広がりを見せていますが、僕がまだ小さかった頃……それこそファーストガンダムが作られていた時代のアニメは、まだまだ子どものためのものという印象が強かったんです。

 

──確かに、『機動戦士ガンダム』も作品の中身を見れば大人が楽しめる内容やクオリティでしたが、世間的には“ロボットアニメ”という大きなジャンルで括られてしまっていたように思います。

 

西川 そうなんです。でも、そのファーストガンダムなどを見て日本のアニメのすごさや素晴らしさを知った我々がこうして大人になり、今度はアニメに携わる側や作る側になった。つまり、アニメ黎明期の昭和に生まれた僕らがいて、日本のアニメーションが進化を遂げた平成という時代に作られた『ガンダムSEED』があり、今こうして令和の時代に新たな劇場版作品が生み出されたわけですから、今回の主題歌では、そうした時代性を超えた楽曲を届ける責任があるんじゃないかと思ったんです。そのためには、音楽でさまざまな時代と文化を築いてきた小室(哲哉)さんの力が必要だと思い、今回は初コラボという形でプロデュースをお願いしました。

 

──小室さんといえば、ガンダムファンとしてはやはりTM NETWORKの「BEYOND THE TIME(メビウスの宇宙を越えて)」(映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』主題歌)が思い出されます。

 

西川 もちろん、僕も同じです。今回の楽曲にどんなメッセージ性を込めていけばいいのかと悩んだ際、その答えを見つけるきっかけになったのも、実は「BEYOND THE TIME」でした。というのも、2019年のガンダム40周年のとき、LUNA SEAが『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』のオープニングテーマとして「BEYOND THE TIME」をカバーしていたんですね。それを聴きながら、いろんな思いが僕の頭の中を去来していったんです。彼らとは年齢もほぼ同じですし、二十歳ぐらいの頃から同期として切磋琢磨してきた仲でもある。そんな仲間たちが、時を越えて僕と同じように「ガンダム」の主題歌を歌っている……。その繋がりに運命的なものも感じたんです。それに、なんといっても「ガンダム」という作品自体にも長きに渡る時代性があり、人と人との出会いや別れなどがテーマとして描かれていますからね。『SEED』を締めくくる主題歌として、この“時代を超越した繋がり”というメッセージはまさしくぴったりだなと思ったんです。

 

──歌詞を拝見しても、そのテーマを強く感じることができます。

 

西川 歌詞に関しては、劇場版の製作が発表されたときの第一弾キービジュアルを見て、すぐにイメージが浮かびました。そこにはキラ・ヤマトとラクス・クラインだけが登場していて。「ガンダム」といえばモビルスーツ同士のバトルやアクションが象徴的ですが、そうではなく、あえて“人間同士の繋がり”を見せることを選んだと福田(己津央)監督がおっしゃっていたので、そうした監督の思いも歌詞にも踏襲しています。

 

イラッとするシンの言動が、僕を20年前に引き戻してくれました(笑)

──サウンドの作りも、ぜひ映画館で体感してほしいと思える、壮大かつ深淵さのある楽曲になっているなと感じました。

 

西川 もちろん、歌だけの単体で聴いていただいても楽しめる楽曲になっていますが、僕もこの「FREEDOM」は映像と1つに重なることで生まれるケミストリーがたくさんあるなと思いました。たしか、初めて少しだけお披露目したのが、昨年11月に文京シビックホールで行われたイベントで。そのときに僕が主題歌を歌うということと、小室さんがプロデュースを手掛けてくださるということ、さらには楽曲を使った最新ティザーが公開になったんですよね。ファンの皆さんにとってはいきなり情報量が多すぎて、少し混乱されたと思うんですが(笑)、同時に大いなる期待を寄せてくださっている声も耳にしましたし、その期待に応えるだけの楽曲になっているなと自負しています。

 

──実際に劇場で「FREEDOM」が流れるシーンをご覧になって、どのような印象を持ちましたか?

 

西川 少しおこがましい言葉になってしまうかもしれませんが、まさしく僕がイメージし、目指していたものになっているなという感動がありました。楽曲をお渡ししてからも、監督が劇場公開するまでの間に、映像面で細かい調整をしてくださったそうなんです。例えば曲が流れ出す際、僕のボーカルにお客さんが集中しやすいようにと、その直前のシーンまであったSEを全部抜いてくださったり。本当にこの曲を大切にしてくださっているんだなとうれしく思いましたね。

 

──なるほど。では、映画自体の感想もお聞きしたいのですが、西川さんの目に『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』はどのように映りましたか?

 

西川 一瞬でテレビアニメの頃の感覚に引き戻させてくれる力を感じました。そう思えたのは、福田監督が描こうとしている世界観の強さはもちろん、キャストの皆さんが当時と変わらぬフレッシュな表現をされていたことも大きかったように思います。キラやアスラン・ザラを演じられた保志総一朗さんや石田 彰さんがテレビアニメのときと同じように主人公然とした表現をされている一方で、鈴村健一さん演じるシン・アスカにも昔と変わらないイライラさせられる感じがあって(苦笑)。鈴村さんといえば、いまや多くの若手声優が憧れる存在ですし、事務所の社長業をこなす傍ら、10年以上に渡って「AD-LIVE(アドリブ)」という舞台のプロデュースもされている。人として非常に成熟された方なのに、当時と同じように、しっかりと見る人をイライラさせるお芝居を表現されているんです(笑)。だからこそ、20年という時間の流れを感じることなく、スッと「SEED」の世界に入っていけたのだと感じました。

 

──たしかに。また、物語も今の時代とどこかリンクし、考えさせられるところがたくさんありました。

 

西川 そこも「SEED」や「ガンダム」のすごさの1つですよね。SFでありながら、常に現実と地続きであるといいますか。恐らく、今作のストーリーや構想自体は随分前に作られていたのだと思います。テレビアニメの脚本を書かれていた両澤(千晶)さんがご存命だった頃からあったテーマだったはずで。にも関わらず、今の時代にすごくフィットしている。世界では絶えず紛争が起きていて、どこを正面にして物事を考えていけばいいのかが分からない。今作を見たとき、まさにそんな“今”の時代を予見したかのような内容になっていて驚きました。

 

── “正義”そのものの定義を考えさせられるという意味では、テレビシリーズのとき以上に、より登場人物たちの善悪を分けづらい物語になっているように感じました。

 

西川 そうなんですよね。テレビシリーズの頃と比べ、SNSが発達したことで個人個人が自分の正義を主張できるようになり、“正しさ”の意味がさらに複雑化していきました。そんな混沌とした時代だからこそ、1人ひとりがどの道を選ぶのかが大事になってきていて。でも、その根底にはやはり“人が人を想う気持ち”や人間愛がないといけない。この「SEEDシリーズ」は、まさしくそのテーマがしっかりと描かれた作品だなとあらためて感じましたね。

 

ボディスプレーは、シーンに合わせて気持ちにスイッチを入れてくれる最高のアイテム

──最後に、このGetNavi webではご登場いただく皆さんに、お仕事をする上でのマストアイテムやプライベートで愛用しているお気に入りアイテムなどをお聞きしているのですが、西川さんは何かありますか?

 

西川 今日もカバンに入れてきたのですが、 TOM FORDのボディスプレーです。TOM FORDはシーンに合わせた香りの重ね付けを推奨しているんですよね。たしかに香りって時間とともに薄くなったり、変化していくものなので、そこに新たに別の香りを付けて足していくという使い方はしたことがなかったなと思って。それで、いくつか種類を購入し、場所や時間など状況に合わせた香りを作って楽しんでいるんです。

 

──何種類ぐらいお持ちなんですか?

 

西川 普段使い分けているのは4〜5種類くらい。それ以外にもストックがあります。今日たまたま持っていた「LOST CHERRY」もそうですが、ネーミングからも分かるように、これまでにちょっとなかったような発想の香りが多いんです。

 

──興味をそそられるネーミングですね。それに、香りは気持ちにも変化をもたらすので、シチュエーションごとに香りを使い分けるというのも面白いです。

 

西川 そうなんですよね。僕にとって香りは日常生活におけるスイッチみたいになっているところがあるんです。女性にはアクセサリーや、洋服やバッグなどにつけるちょっとした小物など、その日の気分によって楽しめるアイテムがたくさんありますが、男性だと腕時計やメガネぐらいだと思うんです。そうした中、TOM FORDのこのボディスプレーはすごくいいアイテムだなと思って。その時々によって、手軽に香りで日常にアクセントをもたらしてくれるので、いつも便利に使わせてもらってますね。

 

 

 

<INFORMATION>

西川貴教 with t.komuro「FREEDOM」(『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』主題歌)

2024年1月24日(水)リリース

※完全生産限定盤(CD+ガンプラ):6,000円(税込)
・オリジナルガンプラ(HG 1/144 フリーダムガンダム [ポラライズドクリア])
・『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』絵柄アナザージャケット(4種)

※通常盤:1,300円(税込)
・カップリング「Believer」収録

購入はこちら
https://erj.lnk.to/FREEDOM

 

『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』

2024年1月26日(金)全国上映中

(STAFF&CAST)
企画・制作:サンライズ
原作:矢立肇、富野由悠季
監督:福田己津央
脚本:両澤千晶、後藤リウ、福田己津央
キャラクターデザイン:平井久司
メカニカルデザイン:大河原邦男、山根公利、宮武一貴、阿久津潤一、新谷学、禅芝、射尾卓弥、大河広行
メカニカルアニメーションディレクター:重田 智
音楽:佐橋俊彦
製作:バンダイナムコフィルムワークス
配給:バンダイナムコフィルムワークス、松竹

キャスト:
キラ・ヤマト……保志総一朗
ラクス・クライン……田中理恵
アスラン・ザラ……石田彰
カガリ・ユラ・アスハ……森なな子
シン・アスカ……鈴村健一
ルナマリア・ホーク……坂本真綾
メイリン・ホーク……折笠富美子
マリュー・ラミアス……三石琴乃
ほか

『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』
公式サイト https://www.gundam-seed.net/freedom
X  https://twitter.com/SEED_HDRP
TikTok https://www.tiktok.com/@seed_freedom_official
※2024年3月31日(日)23:59まで期間限定

 

撮影/干川 修 取材・文/倉田モトキ ヘアメイク/浅沼薫(Deep-End)

吉田美月喜「自分の人生を捧げて、文化を守る選択肢を取ることは、なかなかできない」映画「カムイのうた」

アイヌ民族が口頭伝承してきた叙事詩ユーカラ(※1)を、「アイヌ神謡集」として日本語訳した実在の人物・知里幸惠をモデルに描いた映画「カムイのうた」(1月26日より拡大公開中)。理不尽な差別やいじめに遭いながらも、強くたくましく生きた主人公・テルを演じた吉田美月喜さんに、アイヌ文化をリスペクトした徹底した役作りについて伺いました。

※「ユーカラ」の「ラ」は正式には小さな「ラ」の表記となります。

 

吉田美月喜●よしだ・みつき…2003年3月10日生まれ。東京都出身。主な出演作にドラマ「シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。」「ドラゴン桜」、映画「鬼ガール!!」「たぶん」「メイヘムガールズ」、Netflixドラマ「今際の国のアリス」など。2023年には映画「あつい胸さわぎ」、舞台「モグラが三千あつまって」で主演を務めた。Instagram

 

【吉田美月喜さん撮り下ろし写真】

 

自然と共存するアイヌの生き方が素敵で、共感できる部分しかなかった

──本作で演じられたテル役は、オーディションで選ばれたそうですね。

 

吉田 最初に動画を送らせていただいて、その後、対面オーディションを経て、実際の衣装を着て、メイクや髪形をしたカメラテストという初めての経験をさせていただきました。海外の作品では多いようなのですが、とても新鮮な気持ちで演じることができました。以前から「着物とか似合いそう」と言われることもあって、時代モノにとても興味があったんです。だから、合格してうれしかったのですが、その一方で不安なところもありました。

 

──どういうところが不安だったのでしょうか?

 

吉田 オーディションの段階から、菅原浩志監督が「責任を持って、北海道の方やアイヌの方が納得してもらえる作品を届けなきゃいけない」と強く言われていたんです。もちろん、私もそういう気持ちだったのですが、いざテル役に決まってみると、「でも、どうしたらいいの?」という気持ちになってしまったんです。

 

──そこから役作りに入ったと思いますが、かなりいろいろなことを学ばれたのでしょうか。

 

吉田 正直、それまではアイヌの文化や歴史のことを知らなかったので、まずは伝統あるアイヌ文化の洋服や道具、生活を学びました。その後、製作発表会見で北海道に伺ったときに、モデルとなった知里幸惠さんの銀のしずく記念館にお邪魔させていただき、より理解を深めていきました。そうやって、知るところから始めて、いろいろ調べていきました。また、着物や袴の所作は毎日動画で撮って練習しましたし、方言やユーカラ(謡)は録音されたボイスメモをひたすら一人で覚えました。あと、竹製楽器であるムックリは新大久保にあるアイヌ料理のお店に通いながら勉強しました。自然と共存するアイヌの生き方がすごく素敵で、共感できる部分しかなかったので、最初に感じた不安みたいなものは、だんだんとなくなっていきました。

 

私たちの思いがお客さんにしっかり伝わった

──夏と冬に敢行した北海道でのロケはいかがでしたか?

 

吉田 実際に着物を着て、歴史ある場所で撮らせてもらうことで、自然とテルという人物になっていきましたし、そういった環境や空気感によって、さらに気が引き締まったので、とても助けられました。夏の撮影では役柄における精神的な辛さ、寒波とかさなった冬の撮影では肉体的な辛さと、なかなか大変ではありましたが、アイヌ文化の魅力って、ユーカラもムックリも、感情で表現する自由度の高さだと思うんです。だから、そういうアドリブをする場合も自分の中でいろんな歌い方や音のレパートリーを用意しなければいけませんでした。私の中では歌のようなものと捉えていたユーカラも、実際は童話や物語を語るものだということを先生に教えていただき、さらに納得できるものになるまで練習しました。そういったことが、一番大変だったかもしれません。

 

──実際に19歳で亡くなった知里幸惠さんをモデルにしたテルという役柄を、撮影当時19歳だった吉田さんが演じてみていかがでしたか?

 

吉田 同じ年齢の役柄を演じられることはとても光栄ですし、いい経験になったと思います。ただ、改めて、知里さんやテルのように自分の人生を捧げて、文化を守る選択肢を取ることは、なかなかできないことだと思いました。あと、これはほかの時代モノを観ても思うのですが、当時の方の精神年齢の高さに驚かされました。今は便利なものがいろいろありますが、そういうものがない昔には、いろいろ耐えなきゃならないことがあったと思うんです。そういう強い意志みたいなものが、精神年齢を高くしていたのかなとも考えながら演じました。

 

──昨年11月からは北海道にて先行上映中ですが、そのときの反応や反響は?

 

吉田 上映後の舞台あいさつに登壇したのですが、アイヌの血を引いていらっしゃる方も多くいらっしゃいました。その方たちが目頭を押さえられている姿を観たときに、この作品に参加できて、本当によかったと思いました。あと、舞台あいさつも楽しんでくださるというよりは、とても真剣に聞いてくださっているように見えて、「私たちの思いがしっかり伝わった」と、安心しました。撮影中も、ロケ地の東川町の方たちと触れ合いができたのもいい思い出です。

 

俳優は作品全体の行く末を考えながら、自分の立場を考えなければいけない

──「あつい胸さわぎ」以来の主演作となる本作は、吉田さん自身にとって、どのような作品になりましたか?

 

吉田 日本の歴史を伝える史実に基づいた物語に参加できたことは、俳優としてとてもいい経験になりました。あと、兼田教授役の加藤雅也さんとご一緒したときに、加藤さんが作品全体のことを考えて菅原監督に話をされていたんですが、テルに関することも出してくださったんです。私はテルのことを考えるだけで、いっぱいいっぱいだったのに……。そのとき、「俳優は作品全体の行く末を考えながら、自分の立場を考えなければいけない」ということに、改めて気付かされました。

 

──最後に、2024年にやりたいことや挑戦したいことを教えてください。

 

吉田 これまで、お肉や中華などが好きだったんですが、周りの健康趣向の友だちの影響からか、今年はいろんなヘルシー料理を食べてみたいです。自分の身体に合ったものを食べると、それが体調にも影響しそうなので、いろいろ試したいです。そういえば、アイヌ料理も鹿肉やお魚、お野菜が多いので、かなりヘルシーですよ(笑)。

 

 

カムイのうた

北海道先行上映中。1月26日(金)より全国順次拡大公開中

 

(STAFF&CAST)
監督・脚本:菅原浩志
出演:吉田美月喜、望月歩、島田歌穂、清水美砂、加藤雅也

(STORY)
1917年、成績優秀な北里テル(吉田美月喜)は、アイヌ民族の出身者として初めて職業学校に入学するものの、理不尽な差別といじめを受ける。ある日、アイヌ語研究の第一人者である兼田教授(加藤雅也)が、アイヌの叙事詩ユーカラを聞くため、テルの伯母イヌイェマツ(島田歌穂)を訪ねてやって来る。彼の勧めでユーカラの翻訳を始めたテルの努力が実り、東京で活動することになった彼女を、アイヌの青年の一三四(望月歩)らが見送ることに。

公式HP: https://kamuinouta.jp/

(C)シネボイス

 

撮影/干川 修 取材・文/くれい響 ヘアメイク/田中陽子 スタイリスト/岡本純子

莉子「こんなにセリフ量のある作品を経験したことで、怖いモノなしになりました」映画「違う惑星の変な恋人」

4人の男女による厄介なシーソーゲームを描いたラブコメディ「違う惑星の変な恋人」が1月26日(金)より公開中。期待の新鋭・木村聡志監督による笑いと共感必至な恋愛群像劇で、年上男性にひと目ぼれする主人公・むっちゃんを演じた莉子さん。モデルとして同性からの絶大な人気を得ている彼女が、初主演映画で得た経験を振り返ってくれました。

 

莉子●りこ…2002年12月4日生まれ。神奈川県出身。モデルとして活躍するなか、2018年にドラマ出演を果たし、女優デビュー。その後、「小説の神様 君としか描けない物語」(2020年)、「君が落とした青空」(2022年)、「牛首村」(2022年)、「女子高生に殺されたい」(2022年)、「なのに、千輝くんが甘すぎる。」(2023年)などの映画にも出演。現在は出演ドラマ「アオハライド」(WOWOW)、「SHUT UP」(テレビ東京系)が放送中。X(旧Twitter)Instagram

 

【莉子さん撮り下ろし写真】

 

パンティーが話題のシーンだけで、台本6ページ分も(笑)

──とても独特な雰囲気を持った脚本を読んだときの率直な感想は?

 

莉子 私の役名がむっちゃんで、ほかのキャラの名前もグリコ、ベンジー、モーというあだ名で脚本が書かれているんです。しかも、それぞれのセリフの分量が多くて、モーとのパンティーが話題のシーンだけで、台本6ページ分もあったり(笑)、どこで誰がしゃべっているのかを一致させるのだけで大変でした。だから、脚本を読んだだけだと、どんな映画になるのか分からなかったです。だからこそ、早く映像化した作品を見たいっていう、ワクワクした気持ちになりました。

 

──会話劇ならではの膨大なセリフ量なうえ、初主演映画ということに関しては?

 

莉子 セリフに関しては、正直ヤバいなと思いました(笑)。撮影時期が別の作品と重なることが分かっていて、そちらもかなりのセリフ量だったので、「それやりながら、この映画やれる?」と、どこか挑戦する感じでした。初主演映画ということに関しては、すごくうれしかったです。私、かなり気負っちゃう方ですが、この作品にはそこまで気負わないでいい雰囲気を感じたんです。個性的な4人の群像劇でもあるので、みんなそれぞれ同じ分量を背負っていることも大きいと思いますし、私一人が「頑張ります!」というより、皆さんと一緒に作り上げていけたらいいなっていう気持ちになっていました。

 

──脚本も書かれた木村聡志監督の印象は?

 

莉子 木村監督は、実際にお会いしてもよく分からない人でした(笑)。「むっちゃんは莉子さんと近いですか?」とは聞かれましたが、むっちゃんのキャラについて教えてくださるわけでもないんです。人見知りの性格なのか、具体的な説明や細かく演出されるというよりは、フィーリング重視なスタイルの監督さんだったので、とてもやりやすかったです。あとは、ほかの共演者さんと一緒に現場でやってみることによって、木村監督らしい会話劇の感覚をつかむ感じでした。

 

──美容師である、むっちゃんの役作りに関しては?

 

莉子 この映画の登場人物って全員、いそうでいない感じだと思うんです。そんななか、どこかちょっとフィクションな感じを出さなきゃいけないんですけれど、皆さんに面白いキャラだと思っていただきたいっていう意識に持っていきすぎてもいけない。むっちゃんは余計なひと言を言っちゃったり、空気が読めなかったりするんですが、決してそこを狙いすぎない。その塩梅が難しかったです。でも、木村監督が書く脚本って、日常で使う言葉が多くて、自然な流れになるので、そこに助けてもらった部分はかなり多いと思います。

 

レッドカーペットを歩くことって、こんな感じ?

──むっちゃんの同僚・グリコ役の筧美和子さん、憧れの対象となるベンジー役の中島歩さん、グリコの元彼・モー役の綱啓永さんとの絶妙な掛け合いについては、かなりリハーサルを重ねられたのでは?

 

莉子 リハーサルは、ほぼほぼありませんでした(笑)。同世代の綱くんは共通の友達がいる程度で、中島さんも筧さんも初めましての状態だったんです。現場では軽くテストした後に、「次、本番いきましょう」という流れで、その間もこれといった演出も特に何もなく。会話劇だから、リズムが大切だと思うんですが、それを自分で考えながら演じることは大変でしたが、現場のいい雰囲気に助けられて、セリフもすらすらと出てきました。撮影後にも綱くんと「こんなにセリフ量のある作品を経験したことで、私たち怖いモノなしになったよね!」と話したぐらい、強いマインドを持てるようになりました。

 

──ちなみに、どのシチュエーションでの撮影が印象的でしたか?

 

莉子 美容室のシーンはどれも印象的でした。例えば、モーが自動ドアに何回も挟まるシーンでは、何度も笑いをこらえましたし(笑)。あと、宇宙服を着たシーンは普通のスタジオで撮ったんですが、本格的に作られていたので、ヘルメットがかなり重くて大変でした。役とはいえ、そんな経験もなかなかできないので、木村監督が言われるがままジャンプしたりして、楽しんでいました。

 

──個人的には、お好きなシーンは?

 

莉子 むっちゃんも電話をかけてくる、筧さんのグリコと中島さんのベンジーが家に一緒にいるシーン。この映画の一番長いシーンで、13分ぐらいあると思うんですが、中島さんと筧さんが作り出す空気感がいいので、ずっと見ていられるんですよ。会話劇でそこまで大きな動きもないと、見ている側も限界があると思うんですが、最初に完成したこのシーンを見たとき、「ちょっとすごいな……」と思ったぐらい好きです。

 

──そして、本作がワールド・プレミア上映された第36回東京国際映画祭では初めてレッドカーペットを歩かれましたが、いかがでしたか?

 

莉子 二十歳にして、こんな体験はなかなかできないので、「とにかく楽しもう」と思っていたのですが、「レッドカーペットを歩くことって、こんな感じ?」って、ずっとフワフワしていて、アッという間に終わっちゃいました(笑)。実は綱くんがめっちゃ緊張していて、歩く前にストレッチとかしていたんですよ。それに突っ込んでいたりしたら、「はい。どうぞ!」みたいな流れで歩いていたので、ずっと笑っていました。

 

ちょっとずつ確実にコマを進められるようになりたい

──本作は初の主演映画になりましたが、モデル活動から初めて、女優としての転機になった作品や出来事を教えてください。

 

莉子 私、お芝居をすることが楽しいと思えるまで、だいぶ時間がかかったタイプだと思うんです。最初の頃は、モデルの延長線上と思っていたのか、セリフを覚えて、カメラの前で演じるってことがとても恥ずかしかったんです。そんなとき、「小説の神様」という映画に、佐藤大樹さんの妹役で出していただくことになったんです。その顔合わせのときに、プロフェッショナルな皆さんを目の当たりにして、「私は何もお芝居ができないし、考え方も甘すぎる」と実感したんです。とても悔しかったですし、そんな気持ちで作品に出演していたことも恥ずかしくなり、本格的にワークショップに通うようになり、お芝居の基礎を学んだんです。

 

──放送中のWOWOWドラマ「アオハライド」でも、これまでの莉子さんのイメージとは異なる槙田悠里役を演じられていますよね。

 

莉子 ここ数年楽しくお芝居をやらせていただいている中で、どこか欲が出てきたというか、悪役じゃないけれど、もっといろんな役をやりたいと思っていたんです。そんなときに、悠里役のお話をいただいたのですが、「私でいいんですか?」と正直ビックリしました。今までやったことのない役なので、「この役に挑戦したら、より成長できるんじゃないか?」と思ったんですが、演じていてとても楽しかったですし、いろいろな方から「よかったよ」と言っていただけて、うれしかったです。

 

──また、現在放送中のドラマ「SHUT UP」では仁村紗和さん、片山友希さん、渡邉美穂さんという個性的な女優さんと共演されています。

 

莉子 いろいろこだわりを持ったチームで作っているので、映像が非常にきれいですし、貧困などメッセージ性が強い作品なので、とても丁寧に作っています。普段はあまり巡り合わないジャンルで活動している女子4人なので、最初は「どんな感じになるんだろう?」と思ったんですが、素の部分も似ているからか、皆さんとすぐに仲良くなれて、現場は女子校みたいに和気藹々としているんです。だから、演じながら、シリアスな作品とのギャップも楽しんでいます。

 

──今後、どのような女優を目指していきたいですか?

 

莉子 特にこうなりたいはないですけれど、現状維持というものが難しいこの世界で、ちょっとずつ確実にコマを進められるようになりたいです。役としては、今までにない役、最初は難しいなとは思っても、楽しく演じられる役にもっと出会えたらいいな、とは思っています。そのためには、もっと頑張らなきゃいけないし、モデルからのファンの方が、私が出ているという理由で、いろんなジャンルの作品に興味を持ってくれたらうれしいです。時々、「莉子ちゃん、お芝居始めちゃったから……」と言うファンの子もいるんですが、私はお芝居だけをしたいわけではなく、モデルもしたいし、何でもやりたいので、そこも含めて応援してもらえたらうれしいですね。

 

フィルムカメラの現像するまでのワクワク感が好き

──いつも現場に持っていくモノやアイテムを教えてください。

 

莉子 3年ぐらい前に父親からプレゼントしてもらったフィルムカメラ「NATURA」です。もともと現像するまでのワクワク感が好きで、最初は「写ルンです」とかを使っていたんですけれど、フィルムカメラって、いろいろ画質とかにこだわると中古なのに、高値がついていて、プレゼントでもらったときは嬉しかったですね。常にカバンに入れていて、撮らないときがあっても現場には持っていきますし、大体ひと現場で24枚撮り終える感じ。今は「SHUT UP」のオフショットを撮っています。

 

違う惑星の変な恋人

1月26日(金)より、新宿武蔵野館・UPLINK吉祥寺ほか、全国順次公開中

(STAFF&CAST)
監督・脚本:木村聡志
出演:莉子、筧 美和子、中島 歩、綱 啓永、みらん、村田 凪、金野美穂、坂ノ上 茜

(STORY)
何でも話し合う仲となった美容室で働くむっちゃん(莉子)とグリコ(筧 美和子)の元に、グリコに未練のある元恋人モー(綱 啓永)に現れる。グリコはシンガー・ソングライターのナカヤマシューコ(みらん)のライブで旧知のベンジー(中島 歩)と再会し、同行していたむっちゃんはベンジーにひと目ぼれ。むっちゃんはグリコとモーの協力を得てベンジーと恋仲になるべく奮闘するが、ベンジーはナカヤマシューコと関係を持つ一方、久々に会ったグリコにひかれていた。

公式HP https://www.chigawaku.com/

(C)「違う惑星の変な恋人」製作委員会

 

撮影/映美 取材・文/くれい響 ヘアメイク/長坂 賢 スタイリスト/高橋美咲 衣装協力/PS Paul Smith

TikTokクリエイター・夏絵ココインタビュー「加工と無加工が全然違うじゃないか」という声すらも。彼女が見出すコミュニケーションの美しさとは?

フォロワー数160万人を誇り、「TikTok AwardsJapan 2022」では「LIVE Creator of the Year」にて最優秀賞を受賞されたことで話題となった夏絵ココさん。カメラを前に、まるで仮想現実を思わせる世界観で、ひとことも話さず配信をやりきる「無言配信」では、同時視聴者数5万人を記録したこともあるパイオニア的存在だ。2023年8月には楽曲「Virtual mod Real」をリリースし、アーティストデビューも果たした。その名が世界に轟く夏絵ココさんに、深掘りインタビュー!

 

夏絵ココ●なつえ・ここ…2021年10月31日に誕生し、TikTok LIVEを開始。2022年には言葉を発さず、身振り手振りだけでリアクションする「無言配信(思考実験)」が話題となり約2000人だったフォロワー数が半年で150万人となる大人気クリエイター。配信中はゲームに出てくるNPC(Non Player Character)のような動きのクオリティが高く国内外で注目されている。無言配信のパフォーマンスが終わるとコメントやギフティングへのお礼などを直接伝える時間を設け、「無言配信」と「会話」の両方を楽しめる構成となっている。また、2023年7月にはそのパフォーマンスが海外の配信者でもトレンドとなり、「NPC LIVE Streamer」の生みの親として大手海外メディアINSIDERでも取り上げられ、世界からも注目されるTikTokクリエイター。TicTok公式HPX(旧Twitter)InstagramYouTube

夏絵ココ 公式TikTok @natuecoco

 

【夏絵ココさんの撮り下ろし写真】

 

配信1分前まで、照明の色に悩み続ける

──夏絵さんといえば「無言配信」ですが、一番のこだわりはどんなところですか?

 

夏絵 まず照明です。照明の色を、その日のテーマに合わせて組んでいます。白系の衣装でかわいいメイクをしていたら、ピンク色で、クールな印象の日は紫や青、森にいそうな格好をしていたら緑、とか。見る人が一番目につくのは、私の姿と色だと思いますし、色の印象はキャラにダイレクトに反映されると思うので、すごく大事にしています。

 

──どれくらい機材があるんでしょうか。

 

夏絵 いろんなものを試しすぎて未使用機材もたくさんありますが、いまレギュラーで稼働しているのは4種類です。常に照明のトレンドをチェックしていて、かわいいライトがあったらすぐに買って、顔に当ててみたり、背後から当ててみたり、いろいろなパターンで試してみます。

 

──例えば、「今日はこの衣装でいこう」となると、1日がかりで考えたり?

 

夏絵 そうですね。1分前まで妥協したくなくて、ライブ配信30分前はもうカツカツです。頭の中で「これにしよう」と決めていざスマホに映すと、想定していた光と全く違ったりするので、納得がいかなくて。ギリギリまで粘って、ずっと照明をイジっています。妥協できない性格なんですよ。そこが不器用だなと、自分でも思います。

 

プライベートではお気に入りの森で撮影

──当初から、照明の大切さに気づいていたんですか?

 

夏絵 そうですね。私はもともとカメラが趣味なんです。一眼を片手にいろいろな場所に行ったり、人物を撮るために照明を組むのも好きで。そういうとき、キャラ物のコスプレだといつになく力が入るので、プライベートで撮影していても照明を大掛かりにしてしまいがちです。

 

──プライベートではどんな撮影をしていたんでしょうか。

 

夏絵 森に行ったりしていましたね。まずは、自分が撮りたい日差しが、きれいに差し込む森を探すんです。スタジオでも、十字の窓枠があって、顔に差す光が十字になっているところがタイプですね。

 

──光を妥協すると、写真にもちぐはぐさが表れたり?

 

夏絵 分かりやすく言うと「今日、盛れてない……!」となりますね。

 

──好きな森があるんでしょうか。

 

夏絵 鬱蒼と生い茂ったファンタジックな世界観で、乗馬もできる森があるんですよ。ざわざわとした、理想的な木々なんですよねえ。

 

──理想のファンタジー世界を常に頭の中にありそうです。

 

夏絵 頭の中には、いつも人以外のなにかがいます(笑)。エルフとか、人魚とか、妖精とか。そういった理想の姿があり、そこに向かって自分を作り上げていきたい、という感じです。

 

CLAMP作品のキャラに感銘を受け「やりたい!」

──今の夏絵さんの「猫耳にロリータファッション」にたどり着いたのも、頭の中を具現化した結果ですか?

 

夏絵 この子は、CLAMPさんの「ちょびっツ」というマンガの登場人物「ちぃ」がヒントです。ちぃは人型パソコンで、主人公とはぐれた際に変なスカウトに捕まってしまい、のぞき部屋に連れていかれてしまうシーンがありまして。そのときのちぃが、きょとんとした顔をしながら人間がやらないような行動に出て、でも外見は完璧な人間で……というそのコントラストがすごく頭に残っていて、「私もこれをやってみたい」と思ったのが、きっかけだと思います。私のほかのキャラクターも、そんなふうに自分の頭の中の「これ、やりたい!」を目指して作り込んでいます。

 

──表現方法として、VTuberという手段もあったかと思いますが、「自分でやる」ことに意義があるのですね。

 

夏絵 自分が一番自分自身をよりよく表現できることを知っているし、生身の体を使ったほうが、表現が多彩にできると思ったんですよね。VTuberの良さと生身の人間の良さはベクトルが全く違うと思いますが、私は生っぽさが好みだった、という感じです。

 

──生身だからこそ、どうしても納得できないコンディションの日もあるかと思いますが、どうしていますか?

 

夏絵 ダメなときはやらないと決めています。自分が納得いかないものをリスナーさんに見せることができないというか、そんなものを見せられてもイヤだと思うんです。

 

気づかぬうちに、NOまばたき

──妥協がないからこそ、ここまで作り込んだ世界を続けられるのだと思いますが、個人的にすごいと思うのは、夏絵さんのまばたきについてです。無言配信でキャラクターになりきるとき、ほとんどまばたきしていないですよね。

 

夏絵 ああ、たしかに。配信が始まるとモードに入るというか、あのしぐさをすると、自然と目を閉じることができなくなるんです。リスナーさんからも言われたことがあって、そのときに初めて気づいて「私、してないんだ!」と驚きましたね。

 

──もし自分が「はい、今から夏絵さんの無言配信をやってください」と言われたら、ずっと目まぐるしく考えると思うんですよ。「次にアレして、あの動きして、これやって……あああどうしよう!」と。でも、夏絵さんからはそういった水面下の足掻きが全く見えません。

 

夏絵 私は、ギフトをいただいたら声を出して反応していますが、このときのやりとりって、「イエーイ!」と来たから「イエーイ!」と返しているというか、考えるより先に呼応する感覚です。いろんな人とあいさつやハイタッチしている感じが近いかもしれません。ハイタッチって、考えてやるものではないですもんね。

 

──2023年4月には初の対面イベント「夏絵ココ展~リアル思考実験~」を開催し、1時間の無言パフォーマンスに挑戦しました。私も拝見しましたが、夏絵さんはお客さんと交流しながら猫のように自由気ままに動き続け、ライブ配信がそのまま現実にスライドしたような独特の緊張感でした。

 

夏絵 あれは台本もなく、1時間アドリブでやったんですが。

 

──え! 全部アドリブですか!?

 

夏絵 はい、普段は1時間座りっぱなしでライブ配信していますが、このときは1時間動き回ることができて、いつもより可動域が広くてむしろ楽でした。

 

アートを吸収し、動画に昇華

──逆に楽……。来ていらっしゃった方から、どんな感想が届きましたか?

 

夏絵 「新しすぎて、『これが夏絵ココだ!』と思った」とか、「現実の世界ではない場所に連れていかれて、夢のような感覚だった」とか、「忘れがたい、覚えていたい。けど、夢のようだったから、いつか記憶からなくなってしまうんだろうというのが、今からもうわかる」とか。すっごく厚みのあるレポートをいただき、ほんとうにうれしかったです。

 

──普段インプットをしていないと、なかなかできないパフォーマンスだと思います。感性はどんなふうに磨いていますか?

 

夏絵 美術館を巡ってアート作品に触れるのが大好きで、よく前情報なく観に行っています。

 

──最近、心を動かされた作品は?

 

夏絵 ポーラ美術館の企画展「部屋のみる夢ーボナールからティルマンス、現代の作家まで」で観た作品です。空間が隙なく出来上がっていて、その光景が美しすぎて。窓枠の影が絵画の横に重なるように照明が組まれていたり、木漏れ陽が差す壁の横に、木漏れ陽をモチーフにした作品があったりして。そういった絵画に、筆の通った跡を見つけると「この人は、この一瞬に美しさを見出して描いたんだな」と、作者の臨場感を感じることができて、没頭してしまいます。

 

人間だからこそ生じる日々の変化を、大切にしたい

──先ほど「思考実験」という単語が登場しましたが、夏絵さんが以前からずっと掲げているキーワードですよね。一体どういうことなんでしょうか。

 

夏絵 私がいて、リスナーさんがいて、それぞれがいろんなことを思い巡らせながら“思考”しますよね。例えば、私は衣装に合わせて毎回メイクを変えています。それは人間にしかできないことだし、私自身も一番楽しい工程で。

 

──AIやVTuberとの大きな違いの1つですね。

 

夏絵 そうですね。メイクの仕方や服装、髪形など、意図的に変えることもあればコンディションによって変化が生じることもある。リスナーさんがそんな毎日の少しずつの変化・変貌に気づき、そこに対話が生まれることに、思考実験の源があると思っています。

 

──かみくだくと、「それぞれが何をどう感じてもいいし、それを受けた夏絵さんも、何をどう感じてもいい」という、自由度の高いコミュニケーションの一貫という感じでしょうか。

 

夏絵 「太った」「痩せた」「メイクがいつもと違う」と、毎日異なる印象を持ち、その上で取るコミュニケーションに魅力を感じているし、それが真のコミュニケーションだと思うんです。それをすごく大切にしたいから、どんな声も受け止めるし、「なんでも言ってくれ」という姿勢で挑んでいます。

 

──だから、とにかくかわいく映るような加工一辺倒ではないのですね。

 

夏絵 かわいいと思われたいとか、考えていないですね。そりゃあ言われたらうれしいですが、「かわいいって言われたい!」という欲望はないんです。だって、人間なんだから当たり前のように毎日違いますもん。こうしてしゃべっている間だって、私の情報がアップデートされて見る目も変わるかもしれませんし、そうやって毎日毎日変わっていく人間って、美しいな、と思います。

 

「いじってくれてありがとう」を伝えたかった

──2023年5月、夏絵さんが話題になった出来事がありました。「爆笑そっくりものまね紅白歌合戦スペシャル」(フジテレビ系)で、エハラマサヒロさんが夏絵さんのものまねをしたことで、審査員席の鈴木 福さんが「なんでこの人がバズってるのか分からない人ランキング、僕の中で1位」とコメントし、夏絵さんご自身もX(旧Twitter)で「うっす」と反応しましたよね。その後、TikTok Liveでもそのことに触れ、さらに話題になりました。

 

夏絵 そうなんですよ。鈴木 福さんが遊んでくれたので「私も一緒に遊びたい! 仲間に入れて!」という気持ちをTikTok Liveで伝えてみたんです。「いじってくれてありがとう!」の気持ちで。リスナーさんはその場でとても楽しんでくれました。

 

──猫耳がアイコンの夏絵さんですが、まさに猫のような好奇心を感じますね。

 

夏絵 そう、好奇心ですね。つついてくれたから、私もコミュニケーションを取りたくて。すべては思考実験なんです。

 

どんな声にも「存分に遊んでくれ!」と思える理由

──2022年12月に「TikTok Awards Japan 2022」で初めて公の場にご出演されたことは、思考実験の最たるものだったと思います。

 

夏絵 あのときはわくわくしましたね。「いつもの無言配信と同じように、しゃべらないほうが面白いだろうな」とか「絶対に、『加工と無加工が、全然違うじゃないか!』と言われるぞっ」とか考えて。一番大きな思考実験になると思ったので、「もう存分に遊んでくれ!」という状態で出ました。

 

──怖さはなかったですか?

 

夏絵 いろんなことを思われても「そう思ったことも含め、あなたなんだから、別によくない? 私はそんなあなたを見て楽しむね」と思っていました。そんなふうに怖さがないのは多分、共感性が薄いからかもしれません。例えば、お友達から「イヤなことがあって、髪を切ったんだよね」という連絡がきたとする。多分正解は「イヤなこと? 何があったの?」と聞くことだと思いますが、私は「髪切ったの? 写真見せて」と言ってしまうんです。それでお友達から「いや、違うから」と言われてしまうことが、これまで結構多くて。そんなふうに、共感性が備わっているみんなの中にいると、「私って全く違う生物なんだな」と感じて、人に対して猫ちゃんやワンちゃんの気持ちを理解するような考えが働くんです。

 

海外リスナーの「これは陰謀か!?」に大興奮

──一方で、そもそも言語や文化が全く違う、海外からの反応はいかがですか?

 

夏絵 最初に私のところに海外の方が流れ着いてきたときのこと、今でも覚えています。ずーっと「なんなんだこれは?」と言われていて、そんななか「これは、アメリカの政策の新しい陰謀か?」というコメントがついたんです。「えっ、陰謀!? なにそれ! めっちゃ面白いな!」と興奮しました。で、「分かった、私もそれに乗る!」となり、その日から数週間ほどは、もっと陰謀みを感じられるように、機械的に動いてみたり、AIっぽさを出してみたりして遊びました。

 

──リスナーの声で夏絵さんが変化していくのは、すてきなコミュニケーションですね。

 

夏絵 AIっぽさを出すと、案の定、陰謀を疑うようなコメントが増えて。「ロボットか? これはロボットなのか?」みたいな(笑)。さらに「男なのか? 女なのか!?」という論争も激しくなり、その辺は世界共通の反応でしたけど(笑)。

 

「好きになってもらいたい」欲を出した夏絵ココの、次の一手

──TikTokという限られたなかで、プラットフォームを生かしたクリエイティビティを発揮している夏絵さんですが、今後挑戦したいことを教えていただけますか?

 

夏絵 もっと広く共感していただける表現で、アーティスト活動をしていきたいですね。2023年8月にはアーティストデビュー曲「Virtual mod Real」をリリースしましたが、文字を書いてみたり、絵を描いてみたりもやってみたい。今はコアなリスナーさん以外の方には分かりずらい表現だと思うので、皆さんがひと目で分かるような“夏絵ココ”を展開してみたいと思っています。ちょっと欲が出てきちゃったんです。もっといろんな人に楽しんでもらいたいな、好きになってもらいたいな、って。

 

──「好きになってもらいたい」、とても清々しい素直なお気持ちですね。

 

夏絵 TikTokを始めたころは、「とにかくみんなで遊ぼう!」くらいのノリで、お互い猫ちゃんで、お互いじゃれ合っているような感覚でした。すべてが新鮮で、刺激的で。今は当時と比較すると、“夏絵ココ”をもっと落ち着いて見てくださるようになり、すると「この人、結局なんなんだろう?」という空気が感じられるようになりました。だから、歩み寄りたくなったんです。猫ちゃん同士ではなく、人間として。

 

──その変化もまた、思考実験の一部なんですね。

 

夏絵 そうですね。これからの自分の変化も、皆さんの変化も、とても楽しみです。

 

 

夏絵ココ 公式TikTok @natuecoco

 

撮影/佐賀章広 取材・文/有山千春 Buzz Tok NEWS公式HP https://buzz-tok.com/

俳優・野村周平が今ハマっているコト「全員俺のこと好きになっちゃう。誰も勝てないよ」映画『サイレントラブ』公開インタビュー

声を捨てた青年・蒼と、目が不自由になった音大生・美夏の“世界でいちばん静かなラブストーリー”『サイレントラブ』が1月26日(金)に公開。美夏が通う音楽大学の非常勤講師で、名門家庭出身のピアニスト・北村悠真を演じた野村周平さんには、役作りから役を引きずらないワケ、同級生である山田涼介さんとのエピソードまで語ってもらった。続けて、GetNavi web恒例の今ハマっているモノについて聞く。

 

「モテるためじゃなく、人間磨きの努力をしている」

 

──野村さんといえばバイクや車好きで知られていますが、ズバリ今ハマっているものはありますか。

 

野村 バイクと車は相変わらず好きだし、少し前から釣りにハマっています。革靴も大事にしていてちゃんと磨いたり、昔のではなく今のLEVI’Sを買ったりもしています。多く持っているわけでも、高いモノを買っているわけでもないですが、服や靴は大事にしますね。やっぱりモノは大事にしなきゃね。

 

──幅広くモノを大事にされているのですね。今、特にハマっているコトは釣りでしょうか?

 

野村 いちばんは釣りかな! コロナ禍をきっかけに始めました。基本船釣りなので、海に出られると気持ちいい。そして魚との勝負! 生死の戦いをしているんですよ。こっちもリスペクトを込めて、釣ったあとにいただきます。食べられる魚、食べられる量しか釣らないです。

 

──どのような魚と戦っているのでしょう?

 

野村 マグロですよ! マグロからアジやタコまで、大きい魚から小さい魚まで。やっぱりおいしいですもん。そして自分でさばくのが大事! 包丁も数本持っています。

 

──包丁まで揃えられたのですね。今はどのような包丁を使われているのでしょう?

 

野村 出刃包丁、刺身包丁です。まだ3本くらいしかなく、四角い中華包丁もほしいですね。そうだ、これから「包丁いっぱいほしい!」って言おう。プレゼントしていただくなら、服のように選んでいただくのが難しいモノより、消耗品の包丁やまな板、調理器具や圧力鍋がほしいです(笑)。

 

──調理器具や圧力鍋ということは、魚をさばくだけではなく、料理もされるのですね。

 

野村 この前は友達が鯛を釣ってきてくれたので、アクアパッツァを作りました。鯛を塩漬けして、水を抜いて、深めのフライパンに、オリーブオイルとにんにくと、トマトとあさりを入れて。美味すぎてびっくりした!

 

──本格的ですね!

 

野村 “本格的”じゃないんです、これが“普通”なの。本格的とか最高級とか言った時点で、本当にそうなっちゃうじゃないですか。違う違う、これが普通なんだって。

 

──なるほど。こうした料理をすることは、野村さんにとって普通だと。

 

野村 でも料理できるようになっちゃったら俺、モテまくりだな……(笑)。「車やバイクに詳しくて、アメ車やハーレーに乗っていて、やんちゃなのに小説も読んで映画も観て、えぇっ⁉ その上料理もできるの⁉ かっこいいいい!」って、そりゃ全員俺のこと好きになっちゃいます。日本男児、誰も勝てないよ俺に! モテるためじゃなく、人間磨きの努力をしているので。

 

──(笑)料理を始めたのは、モテるためではないんですね。

 

野村 モテるためではない! ただ魚釣りを始めたから、料理が始まったんです。魚を釣って毎回居酒屋に持って行くのは面倒くさいし、居酒屋も迷惑でしょう。じゃあどうやってその釣った魚をおいしく食べようかなと考えると、自分で三枚おろしをしようってなって、それには包丁が必要だな、調味料にもこだわったほうがいいなってなりますよね。

 

──筋道を立てて考えた結果、たどり着いたと。

 

野村 はい。筋はしっかりと通すタイプなので。筋が通っていないことは大嫌いです。俺は義理、人情、筋ですから。

 

──漢らしいですね!

 

野村 でもキュートで生きています。「いえーい(ピース)」ってすぐにできます。

 

──『クロちゃんずラブ〜やっぱり、愛だしん〜』のクロちゃん役が話題になったように、演じられる役も幅広くて驚かされます。

 

野村 よく言われますけど、役者なら全員やればできますよ。俺でもできるんですから。この世界は、俺よりも才能あふれている人ばかりなので。それからよく「次はどんな役がやりたいですか?」って聞かれますけど、やりたい役なんてなくて、何でもやるんです。その質問は禁止にしたほうがいい、俳優はみんな思っているんじゃないですかね(笑)。

 

映画『サイレントラブ』

1月26日(金)全国公開

 

(STAFF&CAST)
出演:山田涼介 浜辺美波 野村周平/吉村界人 SWAY 中島歩 円井わん 辰巳琢郎/古田新太
原案・脚本・監督:内田英治
共同脚本:まなべゆきこ
音楽:久石譲
主題歌:「ナハトムジーク」Mrs. GREEN APPLE
公式サイト:https://gaga.ne.jp/silentlove/

 

(STORY)
声を捨て、毎日をただ生きているだけの蒼。ある日、不慮の事故で目が不自由になり絶望の中でもがく音大生・美夏と出会う。何があってもピアニストになるという夢を諦めない美夏に心を奪われた蒼は、彼女をすべてから護ろうとする。だが、美夏に想いを伝える方法は、そっと触れる人差し指とガムランボールの音色だけ。蒼の不器用すぎる優しさが、ようやく美夏の傷ついた心に届き始めた時、運命がふたりを飲み込んでいく──。

 

撮影/映美 ヘアメイク/矢口憲一(駿河台矢口) スタイリスト/清水奈緒美

野村周平、同級生・山田涼介と共演で「高校時代はあんなんだったな」“サイレントラブ”個性的な役でも「俺のほうがキャラ強い」

山田涼介さん演じる声を捨てた青年・蒼と、浜辺美波さん演じる目が不自由になった音大生・美夏の“世界でいちばん静かなラブストーリー”『サイレントラブ』が1月26日(金)に公開した。映画『ミッドナイトスワン』を手掛けた内田英治監督のオリジナルストーリーである。

野村周平●のむら・しゅうへい…1993年11月14日生まれ、兵庫県出身。2010年に俳優デビュー。2012年にNHK連続テレビ小説『梅ちゃん先生』で注目を集める。2023年は映画『隣人X -疑惑の彼女-』、ドラマ『夫を社会的に抹殺する5つの方法』(テレビ東京系)などに出演。Paraviで配信された『クロちゃんずラブ〜やっぱり、愛だしん〜』では、お笑い芸人のクロちゃん役がそっくりだと話題になった。2024年1月から放送中のテレビドラマ『婚活1000本ノック』(フジテレビ系)にも出演中。Instagram

 

静かな同作では、美夏が通う音楽大学の非常勤講師・北村悠真が奏でるピアノの音が響き渡る。名門家庭出身のピアニストでありながら乱れた生活を送る北村は、ひょんなことから蒼と美夏の人生に深く関わることに。「ただのろくでなし野郎ですよ」と語ったのは、北村を演じた野村周平さん。北村の役作りから役を引きずらないワケ、山田涼介さんとのエピソードまで明かした。

 

【野村周平さんの撮り下ろし写真】

 

役を引きずらないのは「俺を超えてくれるキャラがいない」

 

──静かなラブストーリーということで、映画を観た率直な感想を聞かせてください。

 

野村 主人公の蒼は声を発さない、美夏は目が不自由であるということで難しい恋描写だなと思いましたが、それらが2人の恋の妨げになっている訳ではなくて、むしろ「障害は関係ない」というのを分からせてくれる素敵な映画になったのではないでしょうか。「何が幸せなのか」を考えさせられます。

 

──野村さんが演じた北村は同作におけるキーマンかと思いますが、どのような人物なのでしょう?

 

野村 お金持ちで音楽の才能もありますが、上には上がいるという葛藤に振り回されている男です。全部持っているけど、心が裕福じゃない。お金がなくても心が裕福な人と、どっちが幸せなんだろうね。

 

──そんな北村を演じるうえで、役作りはどのように行いましたか?

 

野村 この作品の直前にヤンキー役を演じていたので、とりあえずヤンキー感を抜くことを意識しました。監督からは「棒読みでいいよ」と指示されたんです。ヤンキー役の名残が残ったまま感情がバリバリに出ていたので、感情を殺すために、監督はそう言ってくれたんだと思います。だから映画を観ながら「俺、棒読みだな」と思いましたが「俺を責めないでくれ!」って感じです(笑)。

 

──ピアニストとしての役作りは、何を意識されたのでしょう?

 

野村 北村は世界が誇る坂本龍一さんのようなピアニストではなく、ただ表面上の上手さを求めて葛藤するピアニストだと思うんです。“真のピアニスト”ではない。まだ自分を出しきれていない、さまざまなことに気づけていない子で、未熟なピアニストと捉えて演じました。

 

──葛藤という言葉通り、かなりフラストレーションがたまるシーンが続いたかと思います。役に引っ張られることはありましたか?

 

野村 役には全く引っ張られません。撮影場の空気を読みつつ、ずっと変わらずこの感じです。役より俺のほうがキャラ強いので(笑)! 残念ながら俺を超えてくれるキャラがいないので、もし俺を超えるキャラが現れたら、引きずる可能性もありますね。

 

世界一かっこいい楽器「人間だったら弾けるようになりたい」

 

──ピアノを演奏するシーンは、どのように撮影されたのでしょう?

 

野村 さすがにWキャスト(演奏シーンは別の人が演じる)とさせていただきました。めちゃめちゃ練習して弾けるようになったのですが……クラシックのハードコアを完璧に弾くのは、やっぱり無理よ! 1年練習して弾けなかったら文句言われても仕方ないかもしれないけど、数ヶ月では厳しい! 音楽に合わせて身体も手も動かせましたけど、手の寄りは無理。アル・パチーノでも無理よ。

 

──映像を見ると「野村さん、ピアノ弾けたっけ?」と思うくらい自然でした。

 

野村 ピアノの曲は好きでよく聴いていて、前から弾きたいと思っていたので練習を頑張れました。楽譜は一生読めないと思いますが、教えてもらって反復練習したり、ピアノを借りて家でも復習したり、耳コピして弾いたりしていましたね。坂本龍一さんの『戦場のメリークリスマス』は弾けましたし、今作で音楽を担当されている久石譲さんの『Summer』も練習しました。好きこそものの上手なれですね、楽しかったです。

 

──今作以前に、何かピアノにまつわる思い出があったのでしょうか?

 

野村 ピアノは、やっぱり人間だったら弾けるようになりたい楽器の1つじゃないですか。世界一かっこいい楽器だなって思っています。借りていたピアノは返さざるを得ませんでしたが、今後も続けたいと思っていますし、またピアニスト役に挑戦してみたいです。

 

山田涼介さんは「外見からにじみ出る不運な少年感がありました」

 

──山田さんが演じた蒼というキャラクターについて聞かせてください。

 

野村 蒼は、美夏のためにあるお願いを北村にしてくるんですが「すんげぇ金払ってくれるじゃん!」って(笑)。1回数万ですよ、なんでこんなに金払いいいんだろうなと。まぁ本当に美夏が好きなんだろうなと思いました。こんなに真っ直ぐなラブがこの世に存在しているのだろうかと思いながら、蒼のことを見ていました。

 

──浜辺さんが演じた美夏のキャラクターについてはいかがでしょう?

 

野村 ピアノが大好きな、真っ直ぐな女の子で、浜辺さんにピッタリの役だと感じました。ちょうどいい塩梅でお芝居されていて「もう浜辺さんなんじゃない?」と見ていましたね。あまりにきれいなフィクションなので「そんなことないだろ!」って思うところも多々ありましたが、浜辺さんがあの役を演じていたことで、より観入る作品になっていると思います。あ、美夏は少し暗い子ですが、浜辺さん本人はお喋りで明るい子ですよ。そりゃ好感度あるわって感じました(笑)。

 

──山田さん、浜辺さんとの印象的なエピソードを聞かせてください。

 

野村 山ちゃんは高校の同級生で、前からお互いを知っていたのが良かったですね。たまに「高校時代はあんなんだったな」と話してました。浜辺ちゃんは結構お喋りしていたのですが、内容を覚えていないということは、どうでもいい話をしていたんでしょうね(笑)。

 

映画『サイレントラブ』

1月26日(金)全国公開

 

(STAFF&CAST)
出演:山田涼介 浜辺美波 野村周平/吉村界人 SWAY 中島歩 円井わん 辰巳琢郎/古田新太
原案・脚本・監督:内田英治
共同脚本:まなべゆきこ
音楽:久石譲
主題歌:「ナハトムジーク」Mrs. GREEN APPLE
公式サイト:https://gaga.ne.jp/silentlove/

 

(STORY)
声を捨て、毎日をただ生きているだけの蒼。ある日、不慮の事故で目が不自由になり絶望の中でもがく音大生・美夏と出会う。何があってもピアニストになるという夢を諦めない美夏に心を奪われた蒼は、彼女をすべてから護ろうとする。だが、美夏に想いを伝える方法は、そっと触れる人差し指とガムランボールの音色だけ。蒼の不器用すぎる優しさが、ようやく美夏の傷ついた心に届き始めた時、運命がふたりを飲み込んでいく──。

 

撮影/映美 ヘアメイク/矢口憲一(駿河台矢口) スタイリスト/清水奈緒美

クリエイティブディレクター・山崎晴太郎が語るビジネスの流儀「自分のクリエイションにとって大きな武器は余白」

デザイナー、アーティスト、経営者、テレビ番組のコメンテーターなど、多岐に渡る活動を展開するクリエイティブディレクターの山崎晴太郎氏が、自身初となるビジネス書『余白思考 アートとデザインのプロがビジネスで大事にしている「ロジカル」を超える技術』を刊行した。仕事にも日常にも「余白」が必要だと説く氏に、仕事と趣味の向き合い方や、愛用しているガジェットなどを聞いた。

 

山崎晴太郎●やまざき・せいたろう…代表取締役、クリエイティブディレクター 、アーティスト。1982年8月14日生まれ。立教大学卒。京都芸術大学大学院芸術修士。2008年、株式会社セイタロウデザイン設立。企業経営に併走するデザイン戦略設計やブランディングを中心に、グラフィック、WEB・空間・プロダクトなどのクリエイティブディレクションを手がける。「社会はデザインで変えることができる」という信念のもと、各省庁や企業と連携し、様々な社会問題をデザインの力で解決している。国内外の受賞歴多数。各デザインコンペ審査委員や省庁有識者委員を歴任。2018年より国外を中心に現代アーティストとしての活動を開始。主なプロジェクトに、東京2020オリンピック・パラリンピック表彰式、旧奈良監獄利活用基本構想、JR西日本、Starbucks Coffee、広瀬香美、代官山ASOなど。株式会社JMC取締役兼CDO。株式会社プラゴCDO。「情報7daysニュースキャスター」(TBS系)、「真相報道 バンキシャ!」(日本テレビ系)にコメンテーターとして出演中。公式サイトInstagram

 

【山崎晴太郎さん撮り下ろし写真】

 

定住すると自分自身が止まる気がする

──今回、初の著書『余白思考 アートとデザインのプロがビジネスで大事にしている「ロジカル」を超える技術』を刊行した経緯を教えてください。

 

山崎 本のお話は前々から頂いていたんですが、本を書くと思考がそこで止まってしまう気がして出せなかったんです。ただ今回のテーマは「余白」ということで、楔を刺さないような思想を出せるので、タイミングとしてもいいかと思いました。

 

──これまでの仕事を総括するようなアートやデザインの本ではなく、ビジネス書というのが意外でした。

 

山崎 ビジネス書だからこそ、ライトに取り組むことができたんです。アートやデザインといった本流だと、その本が世の中に存在する意義や、業界に対してのプレゼンスなど、見せ方も含めて、いろいろ考え過ぎてしまうので。ビジネス書は細かくチャートを分けて、端的に言いたいことをスパンと伝えられるからコピーライティング的で、僕としてもやりやすかったです。

 

──「余白」を意識したのはいつ頃ですか?

 

山崎 アーティスト活動を始めた頃から、デザインやアートでは当たり前に使っている武器だったんですが、余白という概念は海外にないんですよね。英訳もできないので、そのまま「YOHAKU」と書いているんですが、直訳すると「ブランクスペース」や「ネガティブスペース」になってしまうので、“何もない場所”や“虚無”といった意味合いになってしまうんです。日本人の感覚で言う「余白」は、その中に宇宙があるというか、何がしかの意味合いがあるスペース。そういう概念は海外にないので、自分のクリエイションにとって大きな武器になるんだなと思ったのは30歳ぐらいです。そのタイミングで、生け花をやり始めたり、水墨画を始めたり、日本の文化や感覚を自分の中に意識的に取り入れました。

 

──確かに日本には余白を使った空間や場所は多いですけど、日本独特の文化なのでしょうか。

 

山崎 独特だと思います。“ミニマム”や“禅”など、いろんな表現をされるんですが、別の言葉で言うと「余白をうまく使う」なのかなと。最近よく“コンセプト”って言いますけど、それも多分に余白的だと思っていて。日本は英語の文化じゃないが故に、デザインやクリエイションがガラパゴス化しているところがあるんですけど、その中で余白は特徴的な概念だなと思います。

 

──本書には、ご自身で設計した「理想の家」で失敗した経験が書かれていますが、具体的にどういう失敗だったのでしょうか。

 

山崎 無垢の杉材を使ったら、床暖房を設置できないので、基礎にちょっとした切れ込みを入れて、エアコンを床下に向けて設置するとか、生け花や植物が溢れる家にするために、リビングと連続した土間のような植物専用エリアを作るとか、実験も含めて、いろんなことをやったんです。そのときに思う理想ではあったんですが、余白がないというか、偶発性がないので、半年ぐらいで飽きてしまいました。家庭料理は飽きずに食べられるけど、毎日コンビニのお弁当だと飽きるじゃないですか。その感覚に近くて、生活に揺れが出ないんですよね。

 

──オフィスも定期的に引っ越すようにしているんですよね。

 

山崎 株式会社セイタロウデザインは2008年に設立したので16期目なんですが、今のオフィスが8つ目。契約更新したのはコロナ禍の一回だけです。

 

──頻繁に引っ越すのも環境に飽きてしまうからですか?

 

山崎 それもありますが、まだ自分のクリエイションにどこか自信がないんでしょうね。定住すると自分自身が止まる気がするんです。だから、仕事もできる限り幅の広いことをやって、刺激を入れ替えるようにしているんですが、一番手っ取り早いのはいる場所を変えることなんですよね。外部刺激を入れ替えることで、生活のリズムやルーティンを外して、強制的にクリエイションに刺激を与え続けている感覚です。今は少し会社も大きくなってきたので、本社は動かしにくいんですけど、アトリエを別の場所にする計画をしていますし、今年は自宅も引っ越そうかなと思っています。

 

大物ガジェットを入れ替えるのが習慣化している

──PC以外で、仕事に向かう際に欠かせないモノ、最近手に入れてよかったモノ、気に入っているモノなどを教えてください。

 

山崎 欠かせないものは鉛筆とスケッチブック、あとはカメラですかね。最近手に入れたモノだと、「Kindle Scribe」が良かったです。それまでiPadを使っていたんですが、レスポンスや書きやすさが全然違っていて、PDFファイルにアナログ感覚でバーッと書き込めるので超便利です。あれは僕的に昨年のミラクルヒット。読書用に「Kindle Oasis」も持っているんですが、Kindle Scribeはメモやスケッチ用に使っています。

 

──ガジェットがお好きなんですか。

 

山崎 めっちゃ好きです。新しいモノがあったら買ってるかも(笑)。iPhoneも毎回買っていますし、「AirPods Pro」もUSB-Cになっただけで買い替えました。「MacBook Pro」も昨年出た黒のM3です。

 

──新しいモノを取り入れるのは仕事柄もありますか?

 

山崎 言い訳としては仕事柄です(笑)。飽きるのも早いし、オフィスと一緒で変化が欲しいんでしょうね。

 

──山崎さんは大学で「写真表現」を専攻していて、著書でもフィルムカメラの重要性を書いていますが、今使っているカメラは何ですか?

 

山崎 デジタルカメラはライカの「M10」、フィルムカメラはミノルタの「TC-1」とCONTAXの「TC3」、スナップ用に富士フィルムの「X100V」と主に4台を使っています。ライカは昔から大好きで、若いときは高くて買えなかったんですが、初めて買ったのが「Q2」で、次にフィルムカメラの「M-A」を買って、今はM10。僕にとってライカはオートフォーカスがないところが重要で、曖昧さの中にある表現が好きなんです。今欲しいのは「M11モノクローム」。高価なライカでモノクロしか撮れないって狂気の沙汰ですよね(笑)。

 

──カメラ以外で定期的に買い替えるモノってありますか?

 

山崎 カメラ、バイク、車、自転車のどれかを毎年、新しくしています。大物ガジェットを入れ替えるのが習慣化しているんです。一昨年はカメラ、昨年はバイクを買い替えたんですが、今年は自転車を考えています。昨年は大型バイクのために大型二輪の免許も取りました。

 

──よく取りに行く時間がありましたね。

 

山崎 一番高いプランで最初にギチギチに授業を入れました(笑)。昨年4月に「真相報道 バンキシャ!」で、「新生活で大型二輪の免許を取りたいと考えています」と言ったんですが、ゴールデンウィーク明け早々には取っていました。

 

──かなりアクティブですね。バイクに乗る時間はあるんですか?

 

山崎 全然乗ってないです(笑)。大型バイクを買うで一つ自分の中でクリアしているんですよ。バイクはトライアンフの「ボンネビル スピードマスター」に乗り換えたんですが、乗るよりもいじりたいから、イギリスの「モートーン」というカスタムパーツメーカーからいろいろ取り寄せて、週末のたびにパーツを変えています。美しいモノを作るのが好きなんですよね。乗るよりもいじっている時間のほうが圧倒的に長いから、トルクとかも気にしないですし、まだ100キロも走ってないと思います(笑)。

 

──自転車もカスタムが基本ですか?

 

山崎 もちろんです。前の自転車は一通り組みきったので、うちの社員にあげたんですが、また違うパターンで組み立てたいなと。前はヤフオクとかで良いパーツを取り寄せて組んだんですが、次は逆にドレスダウンして組もうかなと考えています。

 

──スノボも趣味とお聞きしましたが、やはり板も頻繁に買い替えるんですか?

 

山崎 2、3年で買い替えてます。年齢を重ねるに従って、滑りのスタイルも変わりますからね。

 

──何事も追求するタイプなんですね。

 

山崎 その世界の中でイケてる枠にいたいんです(笑)。例えば学生時代、僕はサッカーをやっていたんですが、当時のサッカーだったら「ディアドラ」のシューズを履いていると、「知ってるね」みたいな空気があったんですよ。個人的には、そういうのが大事なんです。一時期、クワガタムシのブリーディングをしていたことがあって、そのときも菌糸ビンにこだわってました。

 

──クワガタのブリーディングにまで手を出していたんですか(笑)。

 

山崎 先輩でスマトラオオヒラタを育てているブリーダーの方がいて、「幼虫が生まれ過ぎたから、欲しい人は取りに来て」という連絡があって。他にも欲しいって言っていた方々がいたんですけど、温度管理が大変だとか、奥さんに反対されたとかで、取りに行ったのは僕だけだったんです。当時は子どもが2人だったので、2匹もらって育てたんですが、クワガタを育てるにあたって何がイケてるか分からないから、いろいろ調べたら菌糸ビンのメーカーが3つぐらい出てきて。でも、どれがイケてるか分からなくて、まだ昆虫のブリーディング業界はデザインされていないと思ったんです。だったらアクアデザインアマノ代表の天野尚さんが手がける水槽のように、僕がイケてる菌糸ビンを作ればいいんじゃないかと。そうすればブリーディング業界の間口が広がるはずだと。

 

──新たな可能性を見出したんですね。

 

山崎 菌糸瓶のデザインはまだですが、いつもそうやって新しいことを始めて、各所で言っていたら、いつの間にか仕事になることが多いんです。遊びで始めたことが仕事に繋がっていく。自分の余白にポンポン、いろいろなものをツッコんでいるうちに、何かが花開いていくんですよね。ただ今は一周回って、クワガタは飼ってないんですけど(笑)。極めたいわけではなく、ブリーディングをしたという人生の経験を持ちたいんですよね。

 

──現在進行形でハマっていることは何ですか?

 

山崎 先ほどお話した大型バイクです。今は年配の男性の間で流行っていますが、その中でどう自分のスタイルを確立させるか探っている最中です。ロングコートでバイクに乗る、みたいなスタイルが作れないかな、と。そんなことをやっていたら、取締役をやっている製造業のJMCと、Pamsというバイクガレージと一緒に「ゼロからバイクと車を組みませんか?」というプロジェクトが始まって。今年から「P,z」というブランドの立ち上げが始まりました。ドンガラのカワサキの「Z1」を、ゼロからデザインしながら組み上げていくプロジェクトです。

 

──大型バイクも仕事に繋がったんですか!

 

山崎 その繋がりで言うと、クラシックカーも大好きで、1969年のフォルクスワーゲンに乗ったり、90年代のジャガーXJ-Sに乗ったりしていたんですが、最初は、月に何度もJAFを呼ぶぐらい不便で。今、クラシックカーって、マニア以外には購入の選択肢に入らないじゃないですか。だから新しい車を買おうと検討している一般の方の選択肢に入るようなクラシックカーをデザインするのが、今回のプロジェクトの僕の1つのテーマになっていて。それを実現させたら、新しい時代をデザインできるかな、と考えています。その第一歩として、「P,z」の一環でフェアレディZの「S30」もデザインすることになっているんです。

 

──バイクにしても車にしても、一から勉強しなきゃいけないわけですよね。

 

山崎 そうです。大変ですけど、それが楽しいんですよね。普通に勉強するのは性に合わないですけど、そもそも好きなことですから。それで車の構造を勉強するために、過去に売られていた「S30」の1/8スケールのプラモデルをアメリカから直輸入しました。サイズが大きくて、説明書も全部英語で、1万8000円ぐらいしたんですけど、パーツを見ながら、こうすれば美しくなるなとか考えながら作ったんです。ついでにタミヤの塗装セットも一式買いました(笑)。

 

──プラモデルの領域にも仕事が広がりそうな勢いですね(笑)。クラシックカーや大型バイクに限らず、マニアの多い業界の方と仕事をするときに齟齬感は出ないんですか?

 

山崎 出ますね。こだわりの強い業界の方は、一般の人があまり気にしないことまで気にしていることが多いですよね。それは素晴らしいことなんですが、逆にいうと、閉鎖的になりがちで、一般の人が入りにくい。なので、僕が変なアイデアを出すと、「それをやると、Zに対する愛がなくなる」みたいな話も出てきます。そこを調整しながらやっているんですけど、うまく一般の人とマニアの人を繋げられたら、面白いことが起きるかなと思うんです。

 

会社はやりたいことを実現するための社会に対する器

──本のお話に戻りますが、山崎さんが独立した2008年当時、グラフィックはグラフィックデザイナー、ウェブはウェブデザイナー、プロダクトはプロダクトデザイナー、建築は建築家と、あるゆるデザインが分断されていたそうですが、いつ頃から風向きが変わったのでしょうか。

 

山崎 本格的にはここ5、6年ですかね。10年は経ってない気がします。テレビとネットの関係性と同じで、ウェブデザインがメインになり始めたあたりからです。僕がいた広告業界で言うと、昔は、デザイナーとして偉かったのはグラフィックデザイナーで。それこそ、独立した当時は、「1年くらいウェブデザインの専門学校に行っただけでデザイナーと名乗って。デザインをなめるな」みたいな風潮もありました。でもウェブのほうが断然コミュニケーション力もあるし、どんどんマーケットが大きくなっていくにつれて、紙のデザイナーがウェブもやるし、ウェブのデザイナーも紙をやるという具合に、徐々に旧来のやり方が崩れていったんです。そのあたりからグッドデザイン賞やACC広告賞の評価基準も、物の美しさだけじゃなくて、それで起きた世の中の現象やプロジェクト自体を評価するようになって、風向きも変わったと思います。

 

──そういった業界のタコツボ化みたいなものって日本特有のものだったんですか。

 

山崎 どこの国でもあるとは思いますが、特に日本は強かったと思います。海外だとアーティストがデザインをやったり、デザイナーがアーティストをやったりすることが珍しくなかったですし、マーク・ニューソンやジャスパー・モリソンのように、多岐にわたるデザインを手がけるデザイナーも多かったです。今は日本もデザインの線引きがなくなってきましたけどね。

 

──ベテランの世代でも、うまく時代の波に乗れている人は何が違うと思いますか。

 

山崎 過去のルールなどに固執せずに、本当にやりたいからやる、自分の興味を優先した人が時代を乗り越えている印象です。昔は同じようなやり方で一段一段上がっていくイメージが強かったと思いますけど、今はいろんなやり方があります。AIをどう使うかもそうだと思うんですけど、いろんなテクノロジーが日進月歩で進んでいるので、若くても個性を発揮しやすい状況です。

 

──山崎さんは二十代半ばでセイタロウデザインを設立しますが、早くに独立した理由は何だったのでしょうか。

 

山崎 大学を卒業して、PR代理店のクリエイティブ部門に新卒で入ったんですが、1年間だけフルタイムで働いて、2年目からは会社の時短制度を使って早稲田大学の夜間の芸術学校に通って建築を学んだんです。

 

──なぜ建築を学ぼうと思ったのでしょうか。

 

山崎 当時、僕が手がけたデザインに対して、クライアントは喜んでくれるんですけど、一般の人は僕のデザインにお金を払ってないという感覚があって。僕のデザインは社会の価値になってないなと感じたんです。建築やプロダクトだと、一般の人も僕のデザインに価値を認めてお金を払ってくれるだろうから、そういうものを作りたいなと思って建築を学びました。ところが途中で、建築事務所に勤めなければ、建築士の資格は取れないことに気づくわけです(笑)。そのまま代理店に残るとしても、今までのようにクライアントの商品ありきではなく、商品のコンセプト作りから広告のデザイン、店舗の空間デザインまで全てやりたかった。それを社長に伝えたら、「そんな会社は今の日本にないけど、自分で作ればいいじゃないか」と言われて、資本金の1000万円を出してくれたんです。それで最初は子会社として会社を作ったのが、セイタロウデザインの始まりでした。

 

──設立するにあたって、具体的なビジョンはあったんですか?

 

山崎 なかったです。ただ大きい経済規模を一番に求める会社にはしないと思っていたのと、やりたいことをやるために会社を作るというのが、そもそもの成り立ちなので、やりたくないことをやる会社にはしない。それは今も一貫しています。

 

──社長業とアーティスト性のバランスで悩むことはありますか。

 

山崎 会社を設立した当初はありました。例えばポスターを作るときに、デザイナーとしてはエンボスを捺したい。でもクライアントは捺さなくてもいいと言っている。僕は社長でもあるので、会社の利益を削れば捺せるわけです。そんな状況のときに、どちらを取るかで悩んで、アイデンティティクライシスに陥りました。でも自分がやりたいことをやって、世の中に評価されないのであれば、それは世の中に必要ないということだろうと思うようにしたんです。それですごく気持ちが楽になりました。その後は自分がやりたいことを社会に問うという思考になったので、経営上の大きなターニングポイントでした。

 

──会社の規模が大きくなると、思いきった決断も難しくなりませんか?

 

山崎 今でも、一般的に見ると思いきった決断をしているかもしれません。昨年も途中まで進めていたプロジェクトに納得がいかなくて、独断でやめました。社内の誰にも相談せずに。それが良いやり方なのかどうかは分からないけど、心は平穏になります。

 

──リーダーに必要なのは、メンバーにある程度の裁量を持たせることと書かれていますが、ご自身も現役のアートディレクター 、デザイナーで、部下に任せられるのはすごいなと思います。

 

山崎 僕自身が自由にやりたいから会社をやっていますし、この会社はやりたいことを実現するための、社会に対する器だと考えています。入社面談のときにも、「自分がやりたいことを実現できるようになってください」と言っています。セイタロウデザインという社名だから、僕の弟子のような位置付けで、社員は自由にデザインができないんじゃないかと聞かれることも多いんですが、基本的に縛りはないですし、僕が入らない案件もたくさんあります。

 

──人生でスランプに陥ったことが3度あり、その間も「動き続けること」「活動を止めないこと」を挙げてらっしゃいましたが、具体的にどのように過ごしていたのでしょうか。

 

山崎 スランプって本当に辛いですよね……。超ダウナーになって、アイデアも出ないし、何をやっても自分の中で否定しちゃう。だけどやるしかないので、誰も食べられない料理を作るような気持ちになります。ただ、復活するときって徐々にじゃなくて、パっと「抜けた!」って感じなんですよ。そのために作り続けることもそうだし、環境を変えるのもそうだし。3度目のスランプはコロナ禍だったんですけど、そのときは足袋ばかり履いていました。スランプのために、地面をグリップする力を変えてみようと思ったんです。それでマルジェラの足袋シューズをきっかけに足袋シューズを集めていたら、いつの間にかスランプを抜けていました。足袋の効果かは分かりませんが、そういう発想も一種の余白かもしれません。

 

 

 

余白思考 アートとデザインのプロがビジネスで大事にしている「ロジカル」を超える技術

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著者:山崎 晴太郎
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発行元:日経BP

 

撮影/映美 取材・文/猪口貴裕

俳優・大谷亮平が続けている2つのコト「やめる理由がない」映画『ゴールデンカムイ』撮影中も「できる場所を探していた」

明治末期の北海道を舞台に、アイヌ埋蔵金争奪戦の行方を描いた映画『ゴールデンカムイ』が1月19日(金)より公開。原作とアニメファンの中で、大人気のキャラクターである谷垣源次郎役を演じる大谷亮平さんに、谷垣の魅力から役作り、続編への期待まで語っていただいた続けてGetNavi web恒例の今ハマっているモノ・コトについて聞 

大谷亮平●おおたに・りょうへい…1980年10月1日生まれ。大阪府出身。2003年に韓国でCM出演したのをきっかけに、拠点を韓国に移す。韓国映画『神弓-KAMIYUMI-』(2011)、『バトル・オーシャン 海上決戦』(2014)などに出演。ドラマ『朝鮮ガンマン』では韓国ドラマアワード2014グローバル俳優賞を受賞。2016年に日本でもデビューし、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)で注目を集める。主演ミュージカル『ボディガード』が2月18日(日)より上演予定。XInstagram

 

凄まじい継続力と熱量「ピアノを買ってきました」

 

──GetNavi webということで、大谷さんが今ハマっているモノはありますか? 集めているモノや現場に必ず持っていくモノなど。 

 

大谷 それが、物欲が全くないんですよね……。何かあったかな…… 本当に、ないですね……。モノではないですが、バレーボールはずっと続けています。 

 

──10歳から始められて現在も続けられているとか。バレーボールの魅力について教えてください。 

 

大谷 これといった理由はなく、ただ好きなんです。今43歳なので、若い子ばかりの大会に出るのはしんどくなってしまいましたが(笑)。40歳以上のシニア枠の大会だと、みんなどこか痛めていたり、怪我をしていたりします。それでも鞭打って頑張っているみんなの姿が、自分にとって励みになるんです。腰をひねって、ジャンプして、足をつりながら頑張っている姿、なんかいいですよね。

 

──いいですね。「バレーを続けてきてよかった」と思えるエピソードはありますか? 

 

大谷 バレーボーラーは自分のジャンプ力を測る時に、「バスケットゴールのリングにどこまで届くか」ということをやります。僕も中学で挑戦し始めました。最初にリングに触れられた時の感動は今でも忘れられません。そんな思いを抱えながら、去年の夏に久しぶりにやってみたら、なんとリングを掴みかけたんです! 高校のピーク時にも近い高さで、その時「バレーを続けてきてよかった!」と涙が出そうになりました。  

 

──やはり今後もバレーは続けていきたいですか? 

 

大谷 生活の一部なので、もうやめられないというか、やめる理由がないです。身体が動かなくなるのも嫌ですが、仕事で試合に出られない時も辛いですね(笑)。怪我さえしなければ、身体だけでなくコンディション作りなど、俳優業に生かせるスポーツだと思っているので、怪我に注意しつつ今後も地道に続けていきたいですね。

 

──ピアノが趣味だとも伺いました。  

 

大谷 そうだ! ピアノを忘れていました(笑)。小学生の時に少しだけ「バイエル」(ピアノの教則本)を弾いていましたが、コロナ禍で突然「この曲を弾いてみたい!」という衝動に駆られてピアノを買ってきました。エンニオ・モリコーネが作曲した『Love Affair』(映画『めぐり逢い』テーマ曲)という曲です。僕は楽譜が読めないので、耳コピして、忘れないように毎日練習していました。今でも2週間に一度ぐらいは弾くようにしていて、実は『ゴールデンカムイ』のロケでも「ピアノが弾けるところはないかな?」と、できる場所を探しました(笑)。  

 

 

──耳コピはすごいですね。なぜ『Love Affair』だったのですか? 

 

大谷 以前パリでCMを撮った時のメイキング映像をいただき、そのBGMが『Love Affair』でした。あまりにきれいなメロディーだったので「いつか弾いてみたい」と思っていましたが、挑戦しては断念してを繰り返していたんです。そのBGMには、浅田真央さんがソチオリンピックで使われたラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」もありました。とても難しいんですよ! これも耳コピして、自己満レベルでちょっとだけ弾けるので、この2曲は死守したいです(笑)。 

 

映画『ゴールデンカムイ』 

1月19日(金)全国公開 

 

(STAFF&CAST)
原作: 野田サトル『ゴールデンカムイ』(集英社ヤングジャンプ コミックス刊)
監督:久保茂昭
原作:野田サトル
脚本:黒岩勉
音楽: やまだ豊
主題歌: ACIDMAN「輝けるもの」(ユニバーサル ミュージック)
アイヌ語・文化監修: 中川裕 秋辺デボ
出演:山﨑賢人、山田杏奈、眞栄田郷敦、工藤阿須加、柳俊太郎、泉澤祐希、矢本悠馬、大谷亮平、勝矢、高畑充希、木場勝己、大方斐紗子、秋辺デボ、マキタスポーツ、玉木宏、舘ひろし
(C)野田サトル/集英社 (C)2024映画「ゴールデンカムイ」製作委員会
公式サイト:https://kamuy-movie.com/

 

(STORY)
日露戦争での鬼神のごとき戦いぶりから「不死身の杉元」の異名を持つ杉元佐一(山﨑賢人)。ある日、彼はアイヌ民族から強奪された莫大な金塊の存在を知る。金塊を奪った「のっぺら坊」と呼ばれる男は、捕まる直前に金塊を隠し、その在処を暗号にした刺青を24人の囚人の身体に彫って彼らを脱獄させた。金塊を見つけ出すべく動き始めた杉元は、野生のヒグマに襲われたところをアイヌの少女アシㇼパ(山田杏奈)に救われる。彼女は金塊を奪った男に父を殺されており、その仇を討つため杉元と行動をともにするが、大日本帝国陸軍「第七師団」を率いる鶴見篤四郎中尉(玉木宏)と、戊辰戦争で戦死したとされていた新選組副長・土方歳三(舘ひろし)も、それぞれ金塊の行方を追っていた。

 

撮影/映美 取材・文/くれい響 ヘアメイク/MIZUHO(vitamins) スタイリスト/カワサキタカフミ

俳優・古川琴音が今ハマっているコト「頭の中がすっきり」映画『みなに幸あれ』は「不可解な怖さが連続して脳内がカオスに」

“幸せは他者の犠牲の上で成り立っている”をテーマに、ヒロインの身に不可解な出来事が次々と襲いかかるホラー映画『みなに幸あれ』が1月19(金)に公開。“社会派ホラー”とも呼ばれる新たなジャンルで、主人公を演じる古川琴音さんには、撮影中のエピソードからテーマに対する思いまで語っていただいた。続けてGetNavi web恒例の、今ハマっているモノについて聞く。

 

ホラーは好物「意味がよくわからないモノに恐怖を感じる」

 

──今作にちなんで、古川さん自身、ホラー作品はお好きなのでしょうか?

 

古川 好きでよく観ます! 『パラノーマル・アクティビティ』はじめ、最近では『呪詛』と『コンジアム』を観ました。私は意味がよくわからないモノに恐怖を感じるんです。怨念が生まれる要因が明確であったり、誰かを恨む理屈がしっかりしていたりする物語よりも「なぜこれが、ここにあるの?」「どうしてこの人は、こんな変な動きをしているの?」といった不可解な物事を、怖いもの見たさで楽しんでいます。

 

──ということは、映画『みなに幸あれ』は大好物だったのでは?

 

古川 はい(笑)。しかもこの作品は、ちょっと笑っちゃうんです。まさか自分がホラー映画を観て笑うとは思わなかったので、すごく新鮮でした。コミカルな描写で純粋に笑ってしまうところもありましたが、あまりにも不可解な怖さが連続していたので、脳内がカオスになっていたんです。脳で処理しきれないことが続くと、人は笑ってしまうんだなと驚きました。

 

独自のリフレッシュ法「断片的なイメージを一つの形に」

 

──映画『みなに幸あれ』の撮影は、主に福岡県で行われたとのことでした。長期ロケに必ず持っていくモノはありますか?

 

古川 バスソルトはよく持っていきますね。普段から使っているので、自分の家にいるような気持ちになれて、リラックスできるんです。それから空気や匂いがこもっている時があるので、ミストを持参することもあります。あとは長期ロケに限らず、湯たんぽを入れられる猫のぬいぐるみを現場に持って行きます。以前、別の作品の現場でお誕生日プレゼントとしていただいて、寒い時期はマストアイテムになっています。

 

──湯たんぽ入りのぬいぐるみだとすごく温かそうですね。ほかに常に持ち歩くモノなどあれば教えてください。

 

古川 Beatsのワイヤレスイヤホンは常に持ち歩いています。首にかけられるタイプですね。録音したセリフを聞きながら現場に向かうこともありますし、空き時間の気分転換用としても愛用しています。散歩をしている時に耳から外れても大丈夫なので、すごく重宝しています。

 

──では最後に、ズバリ今ハマっているモノ・コトはありますか?

 

古川 最近イラストを描き始めました! ふとした時に、自分の中にいろんな断片的なイメージが湧いてくるので、それを画として一つの形にしていくと頭の中がすっきりするんです。まだ下手ですし、女の子の画ばかりですが。

 

 

──ということは、そのときどきの古川さんの心象が画に現れているのかもしれませんね。

 

古川 はい、分析すると面白いかもしれません。今は紙に描いたものを写真に撮ってInstagramにあげていますが、今後はペンタブに挑戦してみたいです。デジタルで描けばきれいな色合いのままアップできますし、色も無限に出せるので。

 

映画『みなに幸あれ』

2024年1月19日(金)全国公開

 

【映画『みなに幸あれ』よりシーン写真】

 

(STAFF&CAST)
出演:古川琴音 松⼤航也 犬山良子 西田優史 吉村志保 橋本和雄 野瀬恵子 有福正志
原案・監督:下津優太
総合プロデュース:清水崇
脚本:角田ルミ
主題歌:Base Ball Bear『Endless Etude(BEST WISHES TO ALL ver.)』
音楽:香田悠真
配給:KADOKAWA
公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/minasachi/
©2023「みなに幸あれ」製作委員会

 

(STORY)
看護学生の“孫”が数年ぶりに訪れた祖父母の住む家。両親が遅れて到着するまでの間、3人で久々の再会を楽しみながら過ごすも、ときおり祖父母が見せる不可解な言動に違和感を覚えはじめる。やがて、家の中に“何か”がいる気配に襲われた孫がそのことを2人に話すと、それまでの常識を覆されるような、思いもよらないことを告げられる……。

 

撮影/金井尭子 取材・文/倉田モトキ ヘアメイク/伏屋陽子(ESPER) スタイリスト/藤井牧子

衣装協力/

sacai
黒ドレス 9万9000円
ブーツ 16万5000円
お問い合わせ sacai.jp

mamelon @mamelon
アクセサリー

リリー・フランキー「スナックラジオ」イベント終了後に直撃!「一対一の関係というか、同じ穴のムジナ感っていう感覚がリスナーとパーソナリティにはある」

土曜夕方の気だるいひとときに、1時間限定でオープンする「スナックラジオ」。奔放女子と純情男子のカリスマにして稀代の聞き上手リリー・フランキー店長と、およそ遠慮というものを知らないアルバイト女子店員の本音トークが心地良いと評判で、多くの常連客リスナーが癒しを求めてやってくる。

時に香ばしく、時に甘酸っぱく、時にほろ苦い……そんな隠れた名店の2024年一発目の放送は、2年ぶり2度目の年またぎ生放送となる“年越し営業SP”。競争率100倍の超難関を勝ち抜いたラッキーなリスナーの男女15名を招き、昨年のクリスマス放送回でお目見えしたチェリーボーイ6名による“童貞合唱団”、さらにはいわくつきの腹話術人形ケンちゃんも参加するという豪華極まりない120分。放送を終えたばかりのリリー店長を直撃した!

 

リリー・フランキー…1963年11月4日生まれ。福岡県出身。イラストやデザインのほか、文筆、写真、作詞・作曲、俳優など、多分野で活動。 絵本「おでんくん」がアニメ化、小説「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」は2006年本屋大賞を受賞。 音楽活動では、総合プロデュースした藤田恵美「花束と猫」(ポニーキャニオン)が 第54回 輝く!日本レコード大賞において優秀アルバム賞を受賞。 俳優としては、映画「ぐるりのこと。」でブルーリボン賞新人賞を受賞。「そして父になる」では、第37回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞、 「万引き家族」では 第42回日本アカデミー賞優秀主演男優賞ほか多数の映画賞を受賞した。公式HP「ロックンロールニュース」

 

【リリー・フランキーさん&スナックラジオ年越し営業SPの撮り下ろし写真】

童貞のイタリア語がいいなと思ったんですよね

──あけましておめでとうございます。年またぎ放送、おつかれさまでした。

 

リリー たまに生放送でやるんですど、やっぱりあっという間でしたね。なんかダラダラしたところがないとこの番組っぽくないっていうか、あんまり決まった台本どおりにやっていくと面白くないので、まあいつもどおりダラダラと。とはいっても生放送ですから、だからまあみんな使える話だけをしてたって感じですね。

 

──招待したリスナーさんは競争率100倍だったとか。

 

リリー 15人でしたけど、お客さんを入れてっていうことができましたから、やっとスナックの体を成した感じではありますね。2022年はクリスマスイベントということで、番組初の公開録音スタイルのイベント「公録スペシャルon X’Mas Eve²」を下の会場(TOKYO FMホール)でやって、300人ぐらいの人に来てもらっていろいろやったんですけど、やっぱりこのくらいの少ない人数の方がスナックっぽくできたかな。こういうちっちゃな集まりをたくさんの人に聴いてもらうというのがいいんですよね。

 

──前回のイベントでお目見えしたのが童貞合唱団ですね。

 

リリー 課題曲として伝えてあったのが「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」だったんですが、よく頑張ったと思います。いい出来でした。多分ちゃんと曲を聴き込んできたんだと思いますよ。メンバーがみんな関東近辺住まいだったらじっくり練習もできるんですけど、半分以上地方の子たちですから、今日は放送6時間前の17時ぐらいからスタジオ入りしてもらって必死に練習してもらいました。ムズイ曲ですが、その甲斐は十分ありましたね。

 

──なぜその曲を?

 

リリー いろんなミュージシャンの方が歌っている名曲ではあるんですが、その中でもイル・ディーヴォっていうめちゃくちゃモテそうなイタリアの4組のコーラスグループも歌ってるんですよ。それを童貞が歌うと面白いなと。それに童貞のイタリア語がいいなと思ったんですよね。

 

──あれは響きましたね! ところでメンバー6人の顔ぶれに全く変更がないようですが……。

 

リリー クリスマスイベントをやるにあたってリスナーから合唱団員を募集したんですが、やっぱりメンバーは童貞であってほしいという思いがあって。彼らは多数の応募者の中から、作家とディレクターの厳しい選考をクリアした選りすぐりの童貞ですからね。やっぱり童貞しか出せない声っていうかね。声はごまかされませんから、嘘はつけませんよ。童貞合唱団はキスでもしたら即脱退ですから、その辺のアイドルグループより厳しいですよ。アイドルだったら、いくらでも嘘ついていいんですけどね(笑)。

 

──今回の年またぎ放送で、お客さんから新たに2人増員しそうな勢いでしたね。

 

リリー もっと練習する時間があったらレパートリーを増やして、営業に行かせたいんだけどね。

 

──オープニングの「お正月」、エンディングの「一月一日」は分かりますが、途中の「ウィ・アー・ザ・ワールド」はどういう経緯で?

 

リリー あれはなんだったのかな? 多分今日のゲストの腹話術人形のケンちゃんのせいなんでしょう。ケンちゃんは知人の映画評論家・黒住先生(黒住光さん)のお母さんが生前大切にされていた腹話術人形で、亡くなられてお葬式に行ったときに、祭壇の遺影の横にガーンとケンちゃんが座ってたんですよ。ああいう場で笑っちゃいけないというのは一番キツイじゃないですか(笑)。黒住先生から、それ以来ずっと押し入れの中にしまったまんまだって聞いたから、外に出してあげようってことで、今日特別に連れてきてもらったんですよ。トランク詰めでやってきたんですけど。

 

──先の童貞合唱団もそうですが、どっちもイメージを喚起させるネタですね。

 

リリー やっぱりラジオでしかできないことをやりたくてね。放送作家の時にコントもいっぱい書きましたけど、宇宙を舞台にしたSFものをやろうとすると、これがテレビや映画だとどうしてもしょぼくなるんですよ。そこには限られた予算というハードルがあるから。でもラジオは違うんですよ。例えば「ここは宇宙」って言っちゃえば、リスナーは最大級のデカい宇宙を想像してくれるんです。そういうところがラジオのすごく面白いところでね。

昔、「スネークマンショー」を聞いてたころに、桑原茂一さんがゴルフの中継をラジオでやるってコントがあって、「はい18番ホール」って声にパットの音に続いてカップインする音がカランカラーンと響いて「まぁご覧のとおりですね」みたいな解説が入る、ただそれだけなんですけど、そういうのいいなって思ってね。みんなが想像を掻き立てるような。テレビが情報過多になってる分だけ、ラジオは情報というか、逆に説明が足りない方が面白いんじゃないかと思うんですよね。

 

性に奔放な女性と童貞がお客さんで来がち

──“スナラジ”は今年3月から4年目に突入しますね。

 

リリー その間、ほとんどがコロナ禍だったんですよ。それがコロナ禍だと、いかんせんZOOMですからね。ホントにやりづらかったですよ。一番ラジオが持ってなきゃいけない臨場感っていうんですかね。やっぱり、スタジオの中のあの空気をみんなで共有したいわけじゃないですか。それが感じられないのは難しいですよね。

ラジオのリスナーとパーソナリティってめちゃくちゃ関係が近いんですよ。だから道歩いてて、一番声をかけてくれる人は、僕の本を読んでくれた人もそうですけど、ラジオリスナーもそうなんですよ。一対一の関係というか、同じ穴のムジナ感っていう感覚がリスナーとパーソナリティにはあるんですよ。

 

──それにしても土曜16時にしては攻めてますよね、下ネタも多いし。

 

リリー 番組が始まって1、2か月はちょっと気にはしてたんですよ。でもあんまり関係ないと思い直したんです。ラジオを聴くライフスタイルは昔と随分変わっていて、オンタイムで聴いていない人も結構多いですからね。

昔は聴きたい時にアンテナの場所を考えたりして、ジャストに合わせるのが難しかったものですけど、例えばradicoが革命的だと思ったのは、TOKYO FMだと38局ネットですが、地方の一個しかネットしていない番組も同じお皿に乗っかってるということに、ラジオの可能性をすごく感じましたね。そういう環境が整って、最近はラジオを聴いてる若い人が増えている印象が実感としてあります。

 

──リスナーはどんな方が多いんでしょうか。

 

リリー 大体俺の場合、昔からイベントとかやると、性に奔放な女性と童貞がお客さんで来がちなんですよ。「週刊プレイボーイ」(集英社)で人生相談の連載を20年くらいやってますけど、そっちも大体同じような客層なんです。やっぱり男の子の悩みの方がしんみりしてて、女の人の方が奔放なんですよね。

 

──BABIさんとか、しゅうさんとか、アルバイト店員の女のコが面白いですね。

 

リリー スナックの体なので、アルバイト店員として入ってもらってる女の子たちはいわゆるプロのタレントさんじゃないんですよ。中には、なかしー(中島侑香)みたいな女優さんもいたりするんですけど、基本的にプロのタレントさんじゃないところの面白さというか、それがスナックっぽさになってるんですよね。

町のスナックに入った時の、だるいバイトの感じっていうのが“スナラジ”でやりたいことなんですよ。

 

──番組の知名度が上がって、BABIさんも話せないことが増えてきたとか。

 

リリー いや、BABIの話なんて元来9割使えないんですから(笑)。聴いてると分からないと思うんですが、いつも1時間半ぐらい回して、バッサリ切って編集してるんです。BABIの発言で実際に使えるところなんてほんのちょっとしかないんですよ。今日みたいな生放送の時は、彼女も大人になったから生放送用の受け答えをしてるんですよね。

だから実はしゃべってはいるんですよ。音声が加工されてても、BABIが何を言ったのかをリスナーに想像してもらう分には、それはそれでいいっていうかね。

 

──プロデューサーによると、BABIさんも放送できるかできないかの境界が分かってきたんじゃないかという分析でしたが。

 

リリー こなれてもらっても困るんですけどね。バイト店員たちには、ある程度のアマチュアリズムの面白さをずっと持っててほしいんですよ。

最近、女性のリスナーがどんどん増えてきてるんですが、やっぱりBABIたちがホントに思ってることをズバッと言うってところが、逆に何周か回って時代的にちょうど良くなってきてるんじゃないですか。

いわゆるホントのフェミニズムの形っていうのが、女性が妙に気を回して女性はこうあるべきだと考えているような概念じゃないというかね。まあでも飲み屋でみんなが話してることってそんな感じですよね。

 

その人が抱えている悩みに正しい答えはないんですから

──そう考えると、「スナックラジオ」っていいタイトルですね。悩める男女の癒しの場というか。

 

リリー いや結局、“スナラジ”に寄せられてる悩みとか相談事っていうのは、多分何千年も前からあるヤツで、ホントに嫉妬ひとつにしても、性の悩みにしても、いろんな哲学者が本に書き記してきたようなことでね。こういう悩みっていくらAIが進化しようがSNSが発展しようが、人間が持っている悩みは変わらないんですよ。しかも物事が便利になればなるほど悩みは増えていくんです。

それに、番組としても悩みに対してちゃんと答えを出してるわけじゃないですからね。そもそも、その人が抱えている悩みに正しい答えはないんですから。

 

──投稿者も最初から答えを求めてないのかも。

 

リリー やっぱり飲み屋でそんな話をする人って、ただ聞いてもらいたいだけじゃないですか。で、僕らはそのことをネタに話してるっていう。だから一応飲み屋の体でやってるのもありますが、説教くさいのもイヤだし、押しつけがましいのもイヤだし、批判的なものもイヤなんですよ。

そういうことは極力やらないようにして、お客さんがバイトの子と飲んでるような気分になってもらえればね。だから「スナックラジオ」は僕の番組ということになってますけど、僕は作家の気分でやってます。自分がパーソナリティっていう気分じゃなくて。だからアルバイトの女の子たちから、どうやって話を引き出すかっていう、店主としては気を遣うタイプですよね。

 

──そういう意味ではなかなか素晴らしい看板娘ですね。

 

リリー やっぱりBABIは他にないぐらい面白いですからね。20年早く生まれてたら、テレビの大人気者になってたんでしょうが、残念ながら今のコンプライアンス的に、今のメディアにはBABIを抱えきれないっていう(笑)。

発想もそうですし、大体人生経験がありますからね。それにタレントじゃないから媚びてないっていうかね。あれくらいの年齢の女のコがどういうふうに思われたいと思ってるのか見透かされるような、みっともないところがないっていうか。あいつ別に、ラジオ聴いてるリスナーの人にいい子に思われようなんてちっとも考えてないと思いますよ。

 

──BABIさんは女性人気も高いそうですね。

 

リリー 物事を思ったとおりに、ちゃんと正直に話してるからでしょうね。だから今までのバイトの子に言ってるのは「嘘を言うなよ」と。嘘は絶対リスナーに見透かされますから。

 

スナックは水商売ですから、いつまで続くか分かりません

──店長としては、あんまり女の子をいっぱい抱えてても困りますね。

 

リリー お試しで来てもらった子もいるから、20人じゃきかないぐらいいますね。毎回シフトも店長の僕が決めてるんですけど、バイト同士の相性っていうのもあるんですよ。「あの子が入ってるときは、あの子が一緒の方がうまくいく」まである。

それに、しゅうみたいに全くしゃべれなかった子がちゃんとしゃべれるようになると、聴取歴の長いリスナーのおじさんが「しゅうちゃんが最近育ったねー」って感激してますよ。

 

──スナックの常連さんみたいですね(笑)。

 

リリー スナックに来て店長の話を延々聞いてる客なんていないですから。やっぱりバイトの女の子たちが面白ければスナックが助かるんですよ。

その代わり、みんなプロじゃないから、勝手にドタキャンされる時もあるんですよ。急に来ないとか、今日はまあしゅうの遅刻ぐらいで済みましたけど。もしあいつらがプロだったら、それに見合う対価が必要になるじゃないですか。宣伝協力とか、ギャランティーだとか、車用意してくれんの、とか。あいつらの場合はそれがなくて、ホントに薄給で働いてますから(笑)。だからもうドタキャンしようがどうしようが文句言われる筋合いはあいつらにとっちゃないんです。

 

──ブラックですね……。でも、それくらいのユルい関係性が“スナラジ”の居心地のよさに繋がってるのかもしれません。

 

リリー クライアントがラジオCMを入れてくれたらそれで、「こんなにもらっちゃった」って喜んでますからね。お客さんにタクシー代もらっちゃったみたいな(笑)。

コンセプトとしてはまだお客さんが来てないスナックで、マスターとダベッてるっていう状態なんですよ。それをリスナーの人たちが聴いていると。だからおべっか使うこともない。

 

──2024年の“スナラジ”は?

 

リリー まあ今までどおりですね。やっぱりミニマムな場所でミニマムな話をするっていうのがいいんじゃないかと。この番組、局からのイベントをものすごく断ってる番組なんですよね。お客さん入れてやりますか、とか、ネットで同時配信するとかいろんな提案があるんですけど、それも違うなっていう。

大箱でやれるラジオの内容と、そうじゃないものがあると思うから。スナックは水商売ですから、いつまで続くか分かりませんが、“スナラジ”はしばらくこのスタイルで。

 

──今年の大みそかも年またぎやりますか?

 

リリー やらないと思います。

 

──ありがとうございました(笑)。

 

 

リリー・フランキー スナックラジオ

TOKYO FM 毎週(土)午後4時~4時55分

 

 

構成・撮影/丸山剛史 取材・文/左文字右京

宮田裕章が読み解く2023年。トレンドワードから深掘りするモノとコトとは?

2023年はどんな年だったか?──この特集では、GetNaviチームが収集した「数字」を根拠に読み解いていく。データを基に考察を行う「データサイエンス」が専門の宮田裕章氏に、様々なジャンルのヒット商品を縦断的に分析してもらった。GetNavi webではGetNavi1月号掲載のインタビューから、さらにボリュームアップした完全版として、全3回に分けてお届けします。第3回のテーマは「トレンドワードから深掘り」です。

※こちらは「GetNavi」 2024年1月号に掲載された記事を再編集したものです。
宮田裕章●みやた・ひろあき…1978年生まれ。慶應義塾大学医学部教授、データサイエンティスト。データサイエンスなどの科学を駆使して社会変革に挑戦し、現実をより良くするための貢献を軸に研究活動を行う。同時に世界経済フォーラムなどの様々なステークホルダーと連携して、新しい社会ビジョンを描く。Instagram

 

【宮田裕章さん撮り下ろし写真】

新聞紙で炊ける炊飯器はオフグリッドへの備えにも

GetNavi webでよく読まれた記事として、新聞紙で炊ける炊飯器「魔法のかまどごはん KMD-A100」がありましたね(https://getnavi.jp/zakka/902123/)。

 

実はうちも、電気じゃなくて鍋でご飯を炊いているんです。おいしい料理店が鍋や釜で炊いたご飯をウリにしているように、もちっと炊いたりもパラッと炊いたりもできて本当においしいんですよ。もう10年くらい炊飯器を使っていないので、最先端の炊飯器も素晴らしいクオリティなんだろうなとは思うんですが。

 

だから「KMD-A100」も、炊飯器の一流メーカーであるタイガー魔法瓶が出してきたということで、どんな炊きあがりになるのかとても興味があります。

↑新聞紙を燃料にできてオフグリッドな、かまど型炊飯器の記事。10月発売だが、現在発送が2024年2月下旬以降となっているヒット商品だ

 

新聞紙を燃料にできるということでエコっぽいものの、CO2は排出してしまっているんですけどね(笑)。ただ、そういう社会的な意味づけでいうと、この炊飯器は「オフグリッドへの備え」ということでも関心を持たれたのではないかと思います。現代はかつてないほど電力に依存した社会になっていますから、オフグリッド、つまり電源が供給されない状態では、途端に生活能力のほとんどを失ってしまうという恐怖があります。

 

電力に限らず、水道やガスなどいつも当たり前に存在するインフラ、そこから切り離されたときにどうするかという備えや訓練が必要になっています。もしかしたら昨今のキャンプへの関心は、そういうところにも要因があったのかもしれません。

 

オフグリッドは、ビジネス界でも大きなテーマの1つになっています。たとえば今後の社会で大いに活用されるであろう生成AIも、そもそも電源がなければ利用できません。実は生成AIについても、電源の供給をどうするかというのは大きな課題なのです。

 

社会的な価値の重心が「モノ」から「体験」へと変わりつつある

GetNavi1月号では、JR東日本「HIGH RAIL 1375」や、大井川鐵道「星空列車」といった観光列車が取り上げられていました。そこから読み取れるのは、列車に乗るということの価値が「目的地に効率よく移動すること」だけではなく「列車に乗ってどのような体験をするか」にも見出されているということです。

 

この変化は乗用車についてもいえて、「ブランド力のある高級車を所有してドヤる」ではなく「その車でどういう体験をするか」が重要になっています。その象徴の1つが、かつて「東京モーターショー」だったイベントに変わって今年開催された「ジャパンモビリティショー」です。メインテーマが、「モーター(カー)」という「モノ」から、「モビリティー(移動手段)」という「体験」へと拡大されたといえるでしょう。

 

同じく1月号で、トヨタ「アルファード」と「ヴェルファイア」(いわゆるアル・ヴェル)や、ホンダ「N-BOX」のフルモデルチェンが取り上げられています。またGetNavi webでは、三菱「デリカミニ」(https://getnavi.jp/vehicles/886633/)の記事も高い注目を集めていました。

↑ミニバンながらアウトドアにも対応する人気機種「デリカD:5」のファミリーにあたる軽自動車。受注台数は約半年で1万6000台を突破

 

このことから読み取れるのも「体験」重視ということ。アル・ヴェルは空間づくりが優れています。内部がとにかく快適なんですよ。N-BOXにしてもデリカミニにしてもそう。「効率的に移動する」「所有して喜ぶ」という、「モノ」としての価値以上に、そのモノを利用して得られる体験をどう作っていけるか、ということが求められるようになってきたのでしょう。

 

デリカミニに関しては、それまで普通乗用車として人気だった車種が軽自動車として発売されたというところに、ガソリンの高い時代をも反映されているといえます。

 

カップラーメンが世界における日本食の評判を押し上げしている

GetNavi webの「食」の分野では、明星「麺とスープだけ え? 透明スープの豚骨!?」(https://getnavi.jp/topic/899886/)の記事が人気でした。具のない地味すぎるビジュアルから、SNS時代を逆手にとって「むしろ映える」ということも注目された理由だったのかもしれません。

 

ここからはカップラーメン全般の話になるのですが、私は海外の人が日本食をおいしいと認識してくれている理由の1つが、海外で販売されているカップラーメンではないかと思っています。日本で提供される食事って世界的にみてもトップクラスなんです。ミュシュランの星を獲得した店の数が多いトップ5の都市のうち、3都市が日本だということもそうですが、そのような「高くておいしい料理」以外に、カップラーメンやコンビニごはんのような「安くておいしいもの」が多いのも特長です。

 

にも関わらず日本食が海外でしばらく弱かったのは、お寿司がおいしくなかったことが原因ではないでしょうか。お寿司の味は鮮度にかなり依存しますし、手に入る魚の種類も違うので再現がすごく難しい。

 

その点で、カップラーメンは海外でもおいしい。そして誰もが手に取りやすい。この、場所を問わず同じおいしさを提供できる日本のカップラーメンのおかげで、海外の人たちが「日本食はおいしい」という認識を持ってくれているのではないでしょうか。その意味でもカップラーメンには感謝しています(笑)。

 

 

撮影/映美 取材・文/湯浅顕人 ヘアメイク/新井裕梨

大谷亮平「こんな奴に襲われたら、さすがの谷垣でも」実写映画『ゴールデンカムイ』裏話明かす「本気で怖くなりました」

明治末期の北海道を舞台に、アイヌ埋蔵金争奪戦の行方を描いた野田サトル氏の大ヒット漫画を実写化した映画『ゴールデンカムイ』が、1月19日(金)に公開。主人公・杉元佐一(山﨑賢人さん)たちを追い詰める大日本帝国陸軍「第七師団」所属の一等卒・谷垣源次郎を演じる大谷亮平さんが、原作ファンの中でも人気が高い自身のキャラの魅力を、自ら分析してくれた。 

大谷亮平●おおたに・りょうへい…1980年10月1日生まれ。大阪府出身。2003年に韓国でCM出演したのをきっかけに、拠点を韓国に移す。韓国映画『神弓-KAMIYUMI-』(2011)、『バトル・オーシャン 海上決戦』(2014)などに出演。ドラマ『朝鮮ガンマン』では韓国ドラマアワード2014グローバル俳優賞を受賞。2016年に日本でもデビューし、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)で注目を集める。主演ミュージカル『ボディガード』が2月18日(日)より上演予定。XInstagram

 

【大谷亮平さん撮り下ろし写真】

 

人間味をいちばん感じさせる谷垣に惹かれた 

 

──バトルアクション映画である『ゴールデンカムイ』ですが、大谷さんは韓国で『神弓-KAMIYUMI-』といったアクション大作に出演されていましたね。 

 

大谷 はい。国は違いますが雪山が舞台という共通点があり、『ゴールデンカムイ』を撮影する際は『神弓-KAMIYUMI-』を思い出しました(笑)。『ゴールデンカムイ』にも激しいアクションがあるので「また過酷な撮影になるな」と覚悟しましたね。でも実は、日本に拠点を移してからハードなアクション映画に出たことがなかったので、出演できてうれしかったです。 

 

──原作とアニメファンから大人気である谷垣源次郎役をオファーされた時の、率直な感想を聞かせてください。 

 

大谷 『ゴールデンカムイ』の存在は知っていましたが、拝見したことがなかったので、オファーをいただいてまずはアニメ版から観始めました。自分が演じることは関係なく、谷垣がいちばん好きなキャラクターになりましたね。 

 

──谷垣のどういうところに魅力を感じ、お好きになったのでしょうか? 

 

大谷 とんでもなくハードでバイオレンスなキャラが集まっている中で、人間味をいちばん感じさせるところに惹かれました。見ていてホッとするというか、情に溢れる本当にいい男です。原作ファンの方々から人気があるキャラであることを実感しました。 

 

続編への期待「谷垣の魅力を個性に変えていきたい」

 

──見事な大胸筋が特徴的な谷垣だけに、身体づくりなど役作りはどのように行われたのでしょう? 

 

大谷 今も現役でバレーボールをやっていることもあり、日々さまざまなトレーニングは積んでいます。今回、さすがに原作通りの大胸筋は難しいですが(笑)。リアルな感じを出すために、さらにウェイト(トレーニング)はしましたし、食べ物にも気をつけました。あとは元マタギという設定なので、雪山を自由自在に走ったり歩いたりできるような下半身づくりですね。ただ40歳を過ぎて無理すると怪我をしてしまうことも分かっているので、かなり注意しました。 

 

──原作ありきの作品ということで、久保茂昭監督からは何か指示があったのでしょうか? 

 

大谷 クランクイン前に久保監督とコミュニケーションを取る時間がありましたが、「原作やアニメを意識してほしい」というような指示はありませんでした。「実写化としてのリアリティを生かしてほしい」という想いの方が強く感じられましたね。僕からは「谷垣はほかのキャラと違って、優しい部分もありますよね」といった意見を出しました。実際に自然を生かしたロケーションの中で演じさせてもらえたので、現場で生まれる感情を大切に、リアルに汲み取って演じることができたと思います。 

 

──谷垣の人柄が出ているシーンといえば、追いかけたアシㇼパを説得するシーンが挙げられます。 

 

大谷 谷垣が杉元とアシㇼパを追うシーンは、谷垣に悪意があるわけでも、恨みがあるわけでもないんですよね。谷垣はただ自分の生き方を模索しつつ、第七師団として与えられた任務を遂行しているだけなので、彼らを傷つけようとは思っていない。原作を知らない人がこのシーンを観た時でも「谷垣は、ほかのキャラクターとはちょっと違う」と思ってもらえる気がします。 

 

──白銀のエゾオオカミ(レタㇻ)に襲撃されるシーンで、印象的な撮影エピソードはありますか? 

 

大谷 完成したシーンはCG合成されているのですが、現場では美術さんが作ってくださったダミーのレタㇻを相手にお芝居をしました。めちゃくちゃリアルかつ原寸大の大きさで、本気で怖くなりました(笑)。「こんな奴に襲われたら、さすがの谷垣でも……!」という気持ちで演じたので、かなり自然に生まれたリアクションだったと思います。谷垣の人生が大きく変わる重要なシーンでもあるので、注目していただきたいですね。 

 

──やはり続編を期待せずにはいられません。大谷さん自身の、続編にかける意気込みを聞かせてください。 

 

大谷 原作では今後、より殺伐としていきます。その中で谷垣は人情や温かみといったものをより担っていくキャラクターだと思うんです。今回の映画では出番が多くないかもしれませんが、もし再び彼を演じられるなら、誠実さや真面目さを持ったごく普通の男である谷垣の魅力を個性に変え、大事に、しっかり演じていきたいですね。 

 

映画『ゴールデンカムイ』 

1月19日(金)全国公開 

 

(STAFF&CAST)
原作: 野田サトル『ゴールデンカムイ』(集英社ヤングジャンプ コミックス刊)

監督:久保茂昭
原作:野田サトル
脚本:黒岩勉
音楽: やまだ豊
主題歌: ACIDMAN「輝けるもの」(ユニバーサル ミュージック)
アイヌ語・文化監修: 中川裕 秋辺デボ
出演:山﨑賢人、山田杏奈、眞栄田郷敦、工藤阿須加、柳俊太郎、泉澤祐希、矢本悠馬、大谷亮平、勝矢、高畑充希、木場勝己、大方斐紗子、秋辺デボ、マキタスポーツ、玉木宏、舘ひろし
(C)野田サトル/集英社 (C)2024映画「ゴールデンカムイ」製作委員会
公式サイト:https://kamuy-movie.com/ 

 

(STORY)
日露戦争での鬼神のごとき戦いぶりから「不死身の杉元」の異名を持つ杉元佐一(山﨑賢人)。ある日、彼はアイヌ民族から強奪された莫大な金塊の存在を知る。金塊を奪った「のっぺら坊」と呼ばれる男は、捕まる直前に金塊を隠し、その在処を暗号にした刺青を24人の囚人の身体に彫って彼らを脱獄させた。金塊を見つけ出すべく動き始めた杉元は、野生のヒグマに襲われたところをアイヌの少女アシリパ(山田杏奈)に救われる。彼女は金塊を奪った男に父を殺されており、その仇を討つため杉元と行動をともにするが、大日本帝国陸軍「第七師団」を率いる鶴見篤四郎中尉(玉木宏)と、戊辰戦争で戦死したとされていた新選組副長・土方歳三(舘ひろし)も、それぞれ金塊の行方を追っていた。 

 

撮影/映美 取材・文/くれい響 ヘアメイク/MIZUHO(vitamins) スタイリスト/カワサキタカフミ

「否定もできない」古川琴音“自分が幸せだと感じる物事の裏で、誰かが負の部分を背負っている”映画『みなに幸あれ』

作品ごとにさまざまな表情をのぞかせ、視聴者の心に残る演技で存在感を魅せる俳優・古川琴音さん。彼女が新たに挑んだのが、自身にとって初となるホラー映画『みなに幸あれ』。“幸せは他者の犠牲の上で成り立っている”というテーマを軸に、ヒロインの身に次々と襲いかかる常識外れの出来事。ホラージャンルだけでは括れないこの作品に、果たしてどう向き合っていったのか。

古川琴音●ふるかわ・ことね…1996年10月25日生まれ、神奈川県出身。2018年に主演短編映画『春』が9つの映画祭でグランプリを受賞し、一躍注目を集める。代表作に映画『十二人の死にたい子どもたち』(2019)、『偶然と想像』(2021)、NHK連続テレビ小説『エール』(2020)、NHK大河ドラマ『どうする家康』(2023)、Netflix『幽☆遊☆白書』など。映画『雨降って、ジ・エンド。』『言えない秘密』の公開が控えている。Instagram

 

【古川琴音さん撮り下ろし写真】

 

突き詰めたリアル「“何がある”のか知らされていませんでした」

 

──映画『みなに幸あれ』は物語に不可解なことが多く、謎が次々と押し寄せてくるという展開でした。最初に台本を読んだ時の印象はいかがでしたか?

 

古川 私もわからないところがたくさんあり、それが作品全体に不気味さを生み出しているんだなと感じました。後味の悪さといいますか、「ちょっと嫌なことを知ってしまったなぁ」という気分になりましたね。また完全なフィクションではあるものの、どこか現実世界とつながっているようなリアルさも伝わってきて。そこに面白さを感じました。

 

──そうした物語の不可解な点は、どのように解釈していったのでしょう?

 

古川 当たり前のようにいる生贄の存在や、祖母たちの身に起きる不思議な現象など、不可解なことは下津優太監督に直接お聞きしました。でも監督からいただいたのは「曖昧なままでいい」というアドバイスでした。とにかくいろんなことに巻き込まれていくので、目の前で起きていることを理解しなくてもいいと。むしろ、まっさらな状態でお芝居をして「その時に感じたことを素直に出してほしい」と言われたんです。

 

──それは思い切った演出ですね。

 

古川 初めての経験で、いろんな発見がありましたね。あえて細かい役作りをしなくても大丈夫な環境を、監督が作ってくださったというのもありますが、自分から想像もしていなかった表現がたくさん出てきたんです。監督は今作が初めての長編作品ということで、いろんな実験をされていたのかなという印象がありました。

 

──実験とは、具体的にはどのようなものでしょう?

 

古川 生贄として近所の人を家に誘い込むシーンがありますが、その生贄役を、本当に「近所に住んでいる一般の方」にお願いしていました。しかも監督は、役の設定を教えずに撮影しようとされていたんです(笑)。また私が天井に吊るされた布を勢いよく剥がす場面も、布の向こう側に“何がある”のかは知らされていませんでした。本番で初めてそこにあるモノを見て、素で叫んでしまって(笑)。こうしたリアルな反応とフィクションを、いかに融合して映画を作っていくかという挑戦が随所に見られ、本当に刺激的な現場でした。

 

──ほかに、これまでの現場との違いを感じた部分はありましたか?

 

古川 いちばん違いを感じたのが体力の消耗具合。目の前で起こる非日常的なことに終始驚いていくので、泣いて、叫んで、逃げて、怒っての連続なんですね。どれもが体力を使う感情で、撮影後は毎日ヘトヘトになっていました(笑)。

 

──大変でしたね。消耗した体力は、どうやって回復されたのでしょう?

 

古川 結局、最後まで回復できなかったです(笑)。でも今作は福岡県で撮影をしていて、地元の方がいつも精の付くお料理を用意してくださったので持ちこたえました。それに撮影の順番が台本の流れに沿っていたこともあり、疲労感がいい具合にお芝居にも反映されたんです。ですから、毎日思う存分に体力を使っていましたね。

 

作品テーマに嫌悪「言語化してほしくなかった」

 

──共演者にはお芝居未経験の方が多かったそうですね。

 

古川 はい。印象に残っているのが祖母役の方。監督が「自由にセリフを付け足していいよ」と話されたので、祖母と私の掛け合いのシーンは、本当に祖母が久々に家に遊びに来た孫と話しているような、自然な会話や空気感が生まれたように思います。

 

──叔母役も一般の方とは思えないほどの迫力がありました。

 

古川 今作にはホラー映画らしい衝撃的なシーンがたくさん散りばめられていますが、なかでも私がいちばんを選ぶなら、叔母との場面です。叔母役の方は撮影前に「覚えたセリフを話すだけで精一杯」とおっしゃっていたのに、本番では、まるで悪魔に取り憑かれたかのような表情になって、呪文のように意味のわからないことをずっと話されていたんです。その方が話すと妙な説得力や真実味があって、お芝居なのに本気で恐怖を覚えるぐらい怖かったです。

 

──今作はホラーであると同時に、“幸せは他者の犠牲の上で成り立っている”という社会的なテーマも盛り込まれていますね。

 

古川 このテーマを目にした時「嫌なことを言うなぁ……」と思いました。でも否定もできないですよね。自分が幸せだと感じる物事の裏で、誰かがその陰や負の部分を背負っているかもしれない。もちろん認めたくないし、そんな世界になってほしくないという願いもみんな持っている。だからこそ、はっきりと言語化してほしくなかったなと感じたんです。

 

──言葉にされると、否が応でも目の前に突きつけられますからね。

 

古川 そうなんです。この物語でも、主人公はこの言葉に抗っていますし、同じように「これは間違っている」と唱える幼なじみもいる。でも、そんな彼らのほうが周囲からは奇異な目で見られてしまう。そんな場面含めて “人間の幸福とは何か”を考えるきっかけが散りばめられているからこそ、すごく見応えのある作品になっていると思います。

 

──古川さん自身は、自分の常識から外れた物事に直面した時、どのような行動をとると思いますか?

 

古川 「絶対に間違っている」という確信があることに対しては抗うと思います。……いや、とりあえずその世界の中に混じってみるかも(笑)。まずは受け入れてみて、そのあとでじっくり考えて行動を起こすかもしれません。

 

──ホラー映画ファンや、逆に少し苦手に感じている方に向けてのメッセージをお願いします。

 

古川 社会派ホラーというこれまでにない作品になっていますので、ホラー好きの方々にも、あまり得意ではない方々にも、ちょっと冒険するような気持ちでご覧いただけたらなと思います。きっとこれまで経験したことのない感覚を味わえます。人って、大人になればなるほど初めての感情を経験する機会が少なくなると思うので。もしかしたら、新しい自分を発見できるかもしれません。

 

映画『みなに幸あれ』

2024年1月19日(金)全国公開

 

【映画『みなに幸あれ』よりシーン写真】

 

(STAFF&CAST)
出演:古川琴音 松⼤航也 犬山良子 西田優史 吉村志保 橋本和雄 野瀬恵子 有福正志
原案・監督:下津優太
総合プロデュース:清水崇
脚本:角田ルミ
主題歌:Base Ball Bear『Endless Etude(BEST WISHES TO ALL ver.)』
音楽:香田悠真
配給:KADOKAWA
公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/minasachi/
©2023「みなに幸あれ」製作委員会

 

(STORY)
看護学生の“孫”が数年ぶりに訪れた祖父母の住む家。両親が遅れて到着するまでの間、3人で久々の再会を楽しみながら過ごすも、ときおり祖父母が見せる不可解な言動に違和感を覚えはじめる。やがて、家の中に“何か”がいる気配に襲われた孫がそのことを2人に話すと、それまでの常識を覆されるような、思いもよらないことを告げられる……。

 

撮影/金井尭子 取材・文/倉田モトキ ヘアメイク/伏屋陽子(ESPER) スタイリスト/藤井牧子

衣装協力/

sacai
黒ドレス 9万9000円
ブーツ 16万5000円
お問い合わせ sacai.jp

mamelon @mamelon
アクセサリー

宮田裕章が読み解く2023年。「生成AI」の普及で「学ぶこと」「働くこと」が根本から変わる

2023年はどんな年だったか?──この特集では、GetNaviチームが収集した「数字」を根拠に読み解いていく。データを基に考察を行う「データサイエンス」が専門の宮田裕章氏に、様々なジャンルのヒット商品を縦断的に分析してもらった。GetNavi webではGetNavi1月号掲載のインタビューから、さらにボリュームアップした完全版として、全3回に分けてお届けします。第2回のテーマは「生成AI」です。

※こちらは「GetNavi」 2024年1月号に掲載された記事を再編集したものです。
宮田裕章●みやた・ひろあき…1978年生まれ。慶應義塾大学医学部教授、データサイエンティスト。データサイエンスなどの科学を駆使して社会変革に挑戦し、現実をより良くするための貢献を軸に研究活動を行う。同時に世界経済フォーラムなどの様々なステークホルダーと連携して、新しい社会ビジョンを描く。Instagram

 

【宮田裕章さん撮り下ろし写真】

 

「知識」と「問題解決」をITが担う時代に

2023年に起きた大きなイノベーションといえば、なんといっても「ChatGPT」(※1)に代表される「生成AI」(※2)でしょう。生成AIのもっともイノベーティブな点は、その機能というよりも「学ぶこと」と「働くこと」を根本から変えてしまったということです。

 

従来、日本の教育は「知識」と「問題解決能力」に圧倒的な比重が置かれていました。これは「科挙」(※3)の影響もあるのですが、日本を含む東アジア諸国ではとても厳しい受験勉強を強いられてきたわけです。その辛い受験勉強で「知識」と「問題解決能力」を磨き、厳しい関門を突破したら安定した人生が待っている、という状況がありました。

 

それが、まず「検索エンジン」の登場により、「知識」はインターネットから得られるようになりました。そのため、知識よりも「適切な結果を得るための検索ワードをいかに選べるか」という能力が重要になったのです。

 

そしていま同様のイノベーションとして、「生成AI」が登場しました。「問題解決」の大きな部分を生成AIが行なってくれるため、求められる能力が「問題解決」ではなく「問いを立てる力」、つまり「生成AIが適切な答えを返すような問いを作る能力」が求められるようになっているのです。

※1 ChatGPT…米国企業「OpenAI」が開発した、生成AIを利用したサービスの一種。文章で質問し、文章が返ってくる。生成AIの代表格であり、生成AIが認知されるきっかけとなったサービス。 ※2 生成AI…自然言語(人間が通常使っている言語)で質問や要求をすると、答えを返してくれるシステムのこと。回答はインターネット上のデータを元にしているが、人間の思考に近い方法でデータを処理することにより、単にキーワードの一致するデータを返すのではなく、人間の専門家のような答えが返ってくる。文章で回答するほか、画像や映像を生成するAIもある。 ※3 科挙…中国で6~20世紀まで行なわれていた官僚登用試験。過酷な難易度と競争率で知られる。

 

教育を変えるには大学入試の改革が必要

それでは今すぐ小中高の教育課程を変えればいいかというと、そうもいきません。現在の大学受験が依然として「知識」と「問題解決能力」を求めているからです。そのため、「生成AIを活用できる能力」を習得しても大学受験には役立ちません。

 

そのような探索型の学習を取り入れている意欲的な学校もあるのですが、それは大学受験に直接役立ちはしないため、その意味ではロスとなってしまっています。

 

ということは、まず大学入試を変えなければならないということです。すでに中国では、2年前から受験産業の規制が始まっています。政府が持つ強烈なパワーによって、構造を一気に変えようとしているのです。

 

もちろん、知識や問題解決能力の習得が全部無駄なわけではありません。基礎代謝としての体力は必要です。しかし今はそれが90%以上になってしまっている。その比重を変えていくということが重要です。

 

そして大学時代も単に知識を与える場所ではなく、ともに問いを立てながら社会に向き合っていく場所に変わっていく必要があります。

↑会話システムChatGPT。膨大なデータと学習により、まるで人間が考えて答えたような反応が得られる「生成AI」を利用している

 

いちはやく変化の兆しをみせる企業

変化という点では、むしろ企業の側はすでに変わりつつあります。従来使われてきたAI技術であるディープラーニングに対する生成AIの強みは、コンサルティングのような高度な知的技能の部分でも能力を発揮できるという点です。だからこそ、人間も小中高大学だけでなく企業に入ってからも学習を続けていく必要があります。

 

受験勉強のトラウマのせいか、日本人の多くは勉強が嫌いになってしまっています。しかし本来は、学ぶことは楽しいこと。小中高大学そして社会人という流れを通して、楽しみながら色々なことを生涯学び続ける「リカレント」がとても重要になってくると思います。

 

多様性に配慮した製品が開発されるようになる

生成AIは、もう1つ大きなイノベーションをもたらしています。それは製品開発の多様化です。生成AIは対話型なので、多数の人間による大量の問いを受けます。それがいわば「御用聞き」のようになって、新しいニーズや新しいライフスタイルのデータを集めていることになるわけです。こうしてAIが集めてきた情報が、従来よりも細やかな多様性に寄り添う製品を生むことになります。

 

GetNavi本誌で紹介した「パーソナル食洗機(NP-TML1)」や「全自動の炊飯器(SR-AX1)」などは、多様なニーズやライフスタイルに応えて開発された製品。今後、生成AIにより一層“個人”に寄り添える製品が出てくると考えられます。

 

 

撮影/映美 取材・文/湯浅顕人 ヘアメイク/新井裕梨

宮田裕章が読み解く2023年。第1回は「Googleトレンドから見えた2023年のイノベーションは『デジタルマネー』」

2023年はどんな年だったか?──この特集では、GetNaviチームが収集した「数字」を根拠に読み解いていく。データを基に考察を行う「データサイエンス」が専門の宮田裕章氏に、様々なジャンルのヒット商品を縦断的に分析してもらった。GetNavi webではGetNavi1月号掲載のインタビューから、さらにボリュームアップした完全版として、全3回に分けてお届けします。第1回のテーマは「Googleトレンドを読む」です。

※こちらは「GetNavi」 2024年1月号に掲載された記事を再編集したものです。
宮田裕章●みやた・ひろあき…1978年生まれ。慶應義塾大学医学部教授、データサイエンティスト。データサイエンスなどの科学を駆使して社会変革に挑戦し、現実をより良くするための貢献を軸に研究活動を行う。同時に世界経済フォーラムなどの様々なステークホルダーと連携して、新しい社会ビジョンを描く。Instagram

 

【宮田裕章さん撮り下ろし写真】

 

 

顧客を自社のサービスに集める「囲い込み」戦略

2023年、日本だけでなく世界中が振り回された(笑)トピックスとして「『Twitter』が『X』に改称された」ということが挙げられるでしょう。この決断に踏み切ったイーロン・マスクの狙いは、これから提供するさまざまなサービスを「X」という名の下に統合することだと考えられています。

 

実はこの「さまざまなサービスを統合して提供」というのが、これからのビジネスの大きなテーマとなっているのです。その鍵となるのが「スーパーアプリ(※1)」「デジタルマネー」「ポイント」の3つ。

 

自社のスーパーアプリで提供しているサービスの決済(支払い)に、自社で提供しているデジタルマネーを使用させ、それによって自社のポイントが得られるようにします。

 

デジタルマネーでの決済は情報を記録できるので、顧客の情報をビッグデータとして蓄積・参照できるようになります。顧客は得たポイントを再び同じスーパーアプリでのサービスに消費するため、企業側は自社のサービスを利用してもらいやすくなります。そしてポイントの消費情報もビッグデータとして蓄積できるわけです。

 

この囲い込みを「ポイント経済圏」と呼ぶことがあります。楽天市場と楽天ポイントなどを中心とした「楽天経済圏」がよく知られていますね。

 

「ショッピングアプリでの購入履歴」や「SNSでの発言」、「ニュースの閲覧履歴」などはビッグデータとして蓄積され、ショッピングアプリのオススメ製品やニュースの広告に反映されることがあります。その結果、顧客の好みにあった製品やサービスが表示されることになり、提供する側と顧客の双方にとってメリットがあるわけです。

※1 スーパーアプリ…スマホアプリのジャンルの1つで、さまざまな機能を統合したアプリのこと。「メッセージ送受信」「通話」「デジタルマネー」「金融(銀行や証券)」「コンテンツ(映像・音楽・書籍)」などが1つのアプリから利用できる。

↑「Twitter」が「X」に名称変更し、「ツイート」も「ポスト」に。メディアなど各所では「X(旧Twitter)」といった表記もよく見られた

 

さまざまな企業が経済圏のシェア獲得を競う

この「経済圏」を提供している企業やグループは現在いくつか存在し、優位性の違いはあるものの、いまだに決定的な地位を取得している企業はありません。

 

もっとも有名なのが「楽天」でしょう。楽天ポイントを軸に、楽天市場・楽天銀行・楽天モバイル・楽天でんきなど、多岐にわたるサービスを提供しています。楽天市場や楽天カードという強力なBtoCサービスを持ち「楽天経済圏」と呼ばれる強力な囲い込み戦略を実施してきましたが、携帯電話では参入障壁に苦しんでいます。そして12月からは、強みだったポイント戦略を大幅に変更したことで話題になりました。

 

ソフトバンクは「ヤフー!」「ペイペイ」「LINE」の統合により、スーパーアプリの実現を目指す姿勢を明確にしています。グループ全体で大きな損失があったため機会損失も発生していますが、これまでずっと仕掛けてきた戦略が実るかどうかというところです。

 

意外に見逃せないのが「メルカリ」。SDGsの推進により「中古売買」のイメージが爆上がりして、メルカリは新しいコミュニティとして誇れる場になっているのです。デジタルマネー「メルペイ」という決済手段も提供しているため、スーパーアプリ化することも十分考えられます。

 

他にも、2024年春には「Vポイント」と「Tポイント」が統合され、新しい「Vポイント」になります。知名度が高く顧客データも豊富なTポイントとの統合で、新しいポイント経済圏が生まれることでしょう。

 

海外に目を向けると、中国では「Alipay」や「WeChat」などが有力視されています。このように統合されたサービス提供システムに、イーロン・マスク率いる「X」も参入しようとしているということです。彼が自分の思うスーパーアプリ、経済圏を構築できるかはわかりませんが、彼が成功しても失敗しても、デジタルマネーが世界を変えていくというフェイズがやってくることだけは間違いありません。

 

デジタルマネーによる膨大なデータから新しいサービスが生まれ顧客に還元される

デジタルマネーによる決済は、顧客にもメリットをもたらします。先にお話ししたように、デジタルマネーの特長は決済情報を記録できるということ。そうして集まった情報を他のビッグデータとつなげ、新しいビジネスモデルを作るというチャレンジが始まっています。そこから生まれたサービスで、顧客にさまざまな価値を還元していくことができるのです。「ポイント」も、そうして生まれた象徴的なビジネスモデルといえるでしょう。

 

この、ビッグデータによって既存の枠を超えたビジネスモデルを作り、顧客に還元していくという流れが今後も加速していくのは間違いありません。

 

 

撮影/映美 取材・文/湯浅顕人 ヘアメイク/新井裕梨

話題の「フジコーズ」から友恵温香&小杉怜子&入山七菜&藤本理子が登場!「女子大生たちのハプニングをどんどん見せていきたい」

深夜番組「オールナイトフジコ」(フジテレビ系)から生まれたアイドルグループ「フジコーズ」をご存じでしょうか。コンセプトは「日本一期待されていないアイドルグループ」ながら、昨年12月13日にデビューシングル「ウェーイTOKYO」をリリースして赤丸急上昇中! このほど、リーダー・友恵温香さん、小杉怜子さん、入山七菜さん、藤本理子さんを緊急招集。現役女子大生たちのかしましトークをお届けします。

 

フジコーズ…「オールナイトフジコ」に出演中の現役女子大学生からなるユニット。グループのコンセプトは「日本一期待されていないアイドルグループ」。1期生…雨宮凛々子、安藤令奈、今井陽菜、上杉真央、エブラヒミ椎菜 沖 玲萌、小杉怜子、佐藤佳奈子、鈴木心緒、髙村栞里、出町杏奈、友恵温香、笠野咲藍、松尾実季果、和智日菜子、2期生…井手美希、入山七菜、久木田帆乃夏、坂本結菜、藤本理子、山中ありさの21名で現在活動中。X(旧Twitter)Instagram

 

【友恵温香さん&小杉怜子さん&入山七菜さん&藤本理子さん撮り下ろし写真】

 

フジコーズは大学でもモテモテ!?「医学部の男子学生が見にきて」

──デビュー曲の衣装がバブリーですね。率直な感想を聞かせてください。

 

入山 もっと清楚な衣装を想像していました(笑)。坂道系アイドルみたいなイメージで、メンバーとも「ロングスカートとミニスカートどっちかな?」みたいな話題で持ち切りでした。

 

藤本 してた!

 

入山 「ロングがいいよね」とか話していたよね。それが、あまりにも布の面積が少なくて「マジか……」とあっけにとられたのを覚えています。

 

小杉 歌の前に衣装だったもんね。

 

友恵 あまりにも露出が多いだけに「どんな曲なんだろ……」と怖かったですね。

 

小杉 事前に友恵ちゃんは衣装を見ていたよね?

 

友恵 そうそう。私と沖 玲萌で衣装を下見するロケに行かせていただいたんです。貸していただける衣装が出てきた時にカメラが回っていたので、「すご~い!」とか言って目を輝かせていたんですけど、「これ大丈夫かな?」と内心不安でいっぱいでした。脚は露出しているし、肩を全部出している子もいるだけに「これはメンバーに怒られるかもな」と。

友恵温香●ともえ・はるか…2001年6月13日生まれ。京都府出身。関西医科大学。X(旧Twitter)Instagram

 

小杉 でも、意外に評判がいいんですよ。最初こそ友達から「ヤバい衣装じゃん」と驚かれましたが、「見ているうちに愛着がわいてきたわ」とだんだん好きになってもらっています。確かに見れば見るほどかわいく見える衣装なんですよね。第一印象とはガラリと変わりました。

 

藤本 分かります! 私は私服が完全に真逆のスタイルなので最初は戸惑いがありました。だけど、かえっておいしいですよね。今の時代にこんなに露出のある衣装でデビューするアイドルは希少ですから。

 

入山 確かにいないジャンルだよね。

 

藤本 うん、フジコーズっぽいなって。

 

友恵 もともとはAKB48さん用に用意された衣装なんです。ただ、あまりにも露出が多すぎてNGになったそうで……。

 

小杉 前田敦子さんや大島優子さんが在籍していた時代みたいです。MCの峯岸みなみさんが着る予定だった衣装を着ている子もいます。

小杉怜子●こすぎ・れいこ…2004年2月7日生まれ。神奈川県出身。青山学院大学。X(旧Twitter)Instagram

 

入山 過激すぎてお蔵入りになったものが時空を超えて復活したわけですね!

 

友恵 そうだよ。あのAKB48さんの衣装を着させてもらっているだけに胸を張ってステージに立ちたいですね。

 

小杉 あくまで“着る予定だった”ですけどね(笑)。

 

友恵 そうだ! 予定だったわ(笑)。

 

──デビュー曲ではノリノリのダンスを披露していました。どのくらいの期間で振付を覚えたんですか?

 

入山 1日で振付を覚えて、それをどんどんブラッシアップしていく流れでした。

 

小杉 短い期間で詰め込んだ感じはあるかも。

 

友恵 学生なので学校の授業が最優先なのでレッスンに来られない子もいっぱいで。小杉なんてほとんど来られなかったと思います。

 

小杉 そうなんです。大学2年生で朝から晩まで講義を入れていて1~2回しか行けませんでした。ダンスの経験がなかったからしんどかったです。

 

藤本 母がダンスの先生でヒップホップを中心に私も習っていたんです。それでも、かなりブランクが空いていて不安でしたけど、振付師のCRE8BOYさんがすごくユニークな方で楽しく練習できました。

 

友恵 お母さんには相談とかしたの?

 

藤本 しました。振りというよりはMVを撮影するときに「とりあえず、笑ってれば大丈夫だよ」とサラっと助言をもらいました。言われたように笑顔はアイドルの真髄ですよね。

 

友恵 私はダンス経験がなかった1人なのにセンターに抜擢されて不安でした。体の動かし方から上手な見せ方とか。ダンスの経験のある子を見て研究したり、分からない振りを教えてもらったりして助けてもらいましたね。

 

小杉 自らウインクをするまでに成長しましたよね。

 

友恵 そうそう(笑)。昨年12月13日に放送された「FNS歌謡祭」(フジテレビ系)では入山ちゃんもかましていたよね?

 

入山 “ウインク仲間”です! 放送当日にスタッフさんから「もし余裕があればウインクとかしちゃえば」と言われていて。それで「やったるか」との思いで実行しちゃいました。

入山七菜●いりやま・なな…2003年2月6日生まれ。東京都出身。東洋大学。X(旧Twitter)Instagram

 

友恵 FNS歌謡祭といえば、反響がすごかったよね?

 

小杉 終わった後のLINEの通知がヤバかったです!

 

藤本 分かります! 特に同世代の子からたくさんの連絡をいただきました。私たちが出ている「オールナイトフジコ」が深夜に放送されているだけあって、もう少し“大人”の人たち向けの番組だと思うんですが、FNS歌謡祭は早い時間帯だったので普段とは違う層の方に見ていただけたんでしょうね。

 

友恵 たくさん反響があったの?

 

藤本 はい、うん……まぁ、はい(笑)。

 

友恵 え! なになに?(笑)

 

藤本 小学校を卒業してから全く連絡を取っていなかった友達から連絡がきました。

 

友恵 めちゃくちゃ共感できる。ぶっちゃけると、大学で連絡先を交換しただけの顔と名前が一致しない子からも来た。

 

藤本 名前を見て10秒くらい考えて、「あ、この人だ!」と思い出す感じですよね。

藤本理子●ふじもと・りこ…2002年7月3日生まれ。神奈川県出身。日本映画大学。X(旧Twitter)Instagram

 

友恵 そうそう。一度も同じクラスになったことない子とか。しゃべったことないけどお互いに名前だけは知っているみたいな。

 

入山 私も「友達として誇らしい」とメッセージが来たんですが、中には、「あれ? 友達だったかな?」と思うような人のもあって……。

 

友恵 コラコラ! 闇が出ているよ(笑)。

 

入山 だって本当に絡みのない人なんですもん(笑)。でも、大学でも少しずつ私たちの存在が認知されてきましたね。

 

小杉 「キャンパスでこすこを見た」という目撃情報を友達伝手に聞きます。意外と見られていてビックリでした。これからは気軽に学食でラーメンもすすれませんね。

 

友恵 確かに、ラーメンを食べているところを見られるのは恥ずかしい。

 

小杉 よくチャーシューを追加で載せるんですけど、「こすこは100円多く払ってチャーシューをトッピングするんだ」なんて思われているのかも。

 

藤本 なぜか直接は声をかけられることはほとんどなないんですよね。私も大学の事務員さんに「この間、1年生の子が見たって言ってたよ」と伝聞で聞かされています。

 

友恵 私の場合は、大学で出待ちというかチラ見されることがあって。看護学部に通っているから基本は女子しかいないんだけど、別の棟に医学部があって、わざわざ休み時間とかに男子学生が見に来ているみたいで……。

 

小杉 お医者さんの卵にモテモテでうらやましい。

 

友恵 え、お医者さんを狙ってんの?

 

小杉 いえいえ、私たち文系なので理系の方と交流しているだけでうらやましくて(笑)。

 

「オーディション当日の朝3時までリアタイしていた」

──改めて「フジコーズ」に応募した理由を教えてください。

 

友恵 一昨年、「オレたちゴチャ・まぜっ!~集まれヤンヤン~」(MBSラジオ)で「ヤンヤンガールズ」の14期生として活動していて、昨年の春に卒業するタイミングでオーディションのお話をいただきました。まだまだ芸能活動を続けたいと思いエントリーしましたね。

 

小杉 私は大学1年生の時に「フレッシュキャンパスコンテスト」というミスコンに出場していて、そこの運営の方からオーディション情報を教えていただきました。ミスコンでグランプリを獲らせていただいて、その時に応援していただいた方に恩返しする意味を込めて、目に見える形で活動したかったのが応募した理由です。

 

友恵 にしても、番組のテイストには驚いたよね?

 

小杉 はい(笑)。

 

友恵 「オールナイトフジ」(フジテレビ)の令和版と聞いていたので、お色気要素のある番組だと覚悟してオーディションに臨んだんですが、審査員の方から「さすがに令和だから、コンプライアンスを意識するよ」というふうに言っていただけて安心している節がありました。それが完全なるお色気路線で……(笑)。

 

小杉 とか言いながら、1回目の放送で「パンツ見せます」と宣言していましたよね?

 

入山 私も視聴者として覚えてます!

 

友恵 多分ギラギラとしたやる気に満ちていたんだろうね。やっぱり、出るからには売れたいじゃない? 佐久間宣行さんから「誰かパンツとか見せる人いないの?」と聞かれたときに「見せられます!」と思わず手を挙げてしまって……。

小杉 かなりいい返事でしたよね!

 

友恵 こればかりは、ファンの方にも心配されてしまいました。

 

入山 「友恵ちゃんってこんな人なの……」と唖然とした記憶があります。「MISS CIRCLE CONTEST」の先輩でもありましたし。

 

友恵 こんな先輩にはなりたくないと思ったの?(笑)

 

入山 いえいえ……(笑)。

 

友恵 ちなみに入山ちゃんのキッカケは?

 

入山 もともと番組の大ファンだったんです。毎回、リアタイ視聴していて、同世代の女の子たちが頑張っている姿に刺激を受けていました。2期メンバーの募集があったら申し込みたかったぐらいだったんですよ!

 

友恵 そこに2期メンバー募集が来たわけね。

 

入山 そうです。もともと在籍していた事務所を辞めてオーディションを受けました。

 

友恵 すごい決断だね。

 

入山 実はオーディションの当日の3時まで番組をリアタイしてて……。

 

友恵 え!? じゃあ、ほとんど寝てないんじゃない?

 

入山 はい(笑)。仮眠をとって8時には家を出ていたと思います。だいたい3時間ぐらいしか寝てないんじゃないかな?

 

友恵小杉藤本 え~!!

 

入山 でも、オーディションには気合を入れて臨みましたよ! 1期生のみんなが選抜をかけて対決してきた姿を見てきていますからね。軽い気持ちで受けちゃ絶対にダメだと考えていました。

 

藤本 同じ2期生でも私の場合はちょっと違ったかもしれません。もともと1期生の上杉真央ちゃんとの共通の友達から「2期生の募集あるから応募してみたら?」と勧められたのがキッカケで応募しました。ちょうど大学3年生で就職活動について先生からも口酸っぱく言われるようになっていた時期でもあって、悩んでいたタイミングの話でもあったので「こんなチャンスめったにないよな」と考えてエントリーしたのを覚えています。その時に初めて番組を視聴しました。本当に締め切りギリギリだったと思います。ただ、デビューに向けて番組が進行していたのを見ていたはずなのに、ちゃんと理解が追い付いていなくて、オーディションに受かった後にデビューのことをちゃんと意識するようになりました。

 

友恵 そうだったの?

 

藤本 はい。もともとアイドルが好きだったわけでもありませんでしたし、もちろん、アイドルとして活動したこともありませんでした。右も左も分からない状況下に1期生の皆さんが真剣にガチで熱い気持ちを持って取り組んでいる姿を見てかなり刺激をいただきました。

 

友恵 そんなふうに見られていたんだ。

 

小杉 なんか恥ずかしい(笑)。

 

──1期生と2期生で交流はあるんですか?

 

友恵 実は1期生と2期生とで楽屋が別々なんですよ。まずは、同期同士で結束させるという事務所の方針で分けているそうです。最近はレッスンや仕事で2期生と接する機会も増えてきました。変に先輩を舐めている子もいませんし、みんな礼儀正しくて大好きになっちゃいました♡

 

小杉 私は楽屋の垣根を越えたことありますよ。仲良くなろうと思って2期生の楽屋に行って「ここでお弁当食べていいですか?」と聞いて。快く「おいで~」と歓迎してくれてうれしかったです。

 

入山 どっちが先輩か分かりませんよね(笑)。

 

──友恵さんはリーダー兼センターに大抜擢されました。

 

友恵 番組の方に決めていただきました。

 

小杉 でも、最初からリーダーっぽい感じでした。最初にメンバー同士のLINEグループを作ってくれたのも友恵ちゃんでしたし。多分、みんな予想していたと思いますよ。

 

友恵 私自身は全然リーダーシップをとるつもりはなくて、ただ人の役に立つことが好きなだけなんです。めちゃくちゃきれいごとに聞こえるかもしれませんが、「みんながやらなうなら私がやるよ」みたいなフランクな気持ちで行動しています。時には空回りしちゃうこともありますけど。

 

入山 みんなをまとめている姿に全く嫌味がないんです。普通、まとめ役の人って嫌われ役になりがちだと思うんですけど、友恵ちゃんの場合は嫌われるどころか、みんなから好かれているんですよ。

 

友恵 褒めちぎられて恥ずかしいな……。これまでは、キャプテンというよりは副キャプテンの立ち位置が多かったように思います。高校生の時に在籍していた吹奏楽部でもリーダーの補佐役のような立ち回りでしたし。

 

小杉 確かに吹奏楽部っぽいですよね。

 

藤本 私は勝手に女子バレー部だと思っていました。

 

友恵 それは今の髪形を見て判断したでしょ!

 

小杉 球技をやる女子の髪形ですよね。ちなみに私は図書委員でした。校内に掲示するポスターを制作する担当で「シン・ゴジラ」の絵を描いていました。

 

友恵 確かに絵を描くのが上手だよね。でも、図書委員の中でも暇だったから絵を描いていたんじゃないの?(笑) ゴジラのイラストを描くのに半年ぐらいかけていそう。

 

小杉 そんなに時間かけていませんよ! 色鉛筆で手早く描いていました。それこそ番組公式の「LINEスタンプ」をデザインしたこともあります。いつかフジコーズのメンバーのイラストバージョンを番組の名場面を集めて作りたい! 実写よりもイラストの方が実用的だと思いますし。

 

友恵 例えば、ここにいる3人だとどんなスタンプを作るの?

 

小杉 藤本ちゃんのは、2期生として最初に登場した回で友恵ちゃんに「絶対負けません!」と宣戦布告したシーンかな。

 

藤本 ありましたね(笑)。あの時は収録が終わった後に友恵ちゃんに謝罪したなぁ……。「いいよ全然。どんどん来てもらって大丈夫よ!」と言っていただけて、なんてかっこいい人なんだと感動した記憶が今でも残っています。

 

友恵 照れちゃう!

 

小杉 友恵ちゃんの場合はなんだろうな……。

 

入山 「1番好きな花はバラです」じゃないですか?

 

友恵 いやいや、そんなの使えないでしょ!

 

小杉 ドラマ「いちばん好きな花」(フジテレビ系)の出演をかけたアピール合戦を番組で行った時のやつですね。無事に出演を勝ち取ったのを祝して作りましょう!

 

──どのシーンに出演したんですか?

 

友恵 キャストの方が見ているテレビの中で放送されている映像として出演しました。いわゆる劇中劇です。話を戻します! 入山ちゃんは清純派のイメージだけに爽やかな「おはよう!」なんていいんじゃない?

 

小杉 なんかテキトーですね(笑)。

 

友恵 でも、一番しっくり来ると思うのよ。

 

入山 一番使われそうなスタンプでうれしいです。あと、「お疲れ~」なんかどうですか?

 

小杉 ピッタリですね。じゃあ、採用で! ちなみに私はどんなイメージですか?

 

入山 本当に天真爛漫の一言です。とにかくかわいい“ビジュアル担当”としてテレビで見ていました。

 

小杉 おお! ありがとうございます。ここは絶対に書いてくださいよ(笑)。

 

──そういえば、今日取材をしているメンバーでは小杉さんが一番年下なんですね。

 

小杉 はい。全メンバーの中でも19歳の世代が一番年下です。

 

藤本 私の方が年上なんですけど敬語を使っています。それでも、最初の頃が1期生全員に敬語を使っていたんですが、仕事をしていく中で徐々にタメ口で話す1期生も増えていますね。ただ、友恵ちゃんと小杉ちゃんには敬語のままです(笑)。

 

入山 リーダーとビジュ担だもんね。

 

友恵小杉 やめてよ~!

 

藤本 とはいえ、皆さんが本当にフレンドリーに接してくださるので、気が付いたらタメ口になっちゃう時もあります。

 

友恵 そっちの方がありがたいよ!

 

「打ち上げの席でMC陣といいカンジになったメンバーがいたゾ!」

──番組では生放送ならではのやらかしエピソードはありますか?

 

小杉 実は私が収録中に初めて涙を流したフジコなんですよ。4人組アイドルグループ「#2i2」(二一二)の天羽希純さんと「鉄棒ぷるぷるコマーシャル」と題した対決で勝利して泣いてしまいました。

 

友恵 あったね。

 

小杉 天羽さんが勝てば番組中に歌を披露できる流れの中で勝ってしまったんですよ。番組の最後に天羽さんが謝りながら泣いちゃって、「これは炎上してしまう……」と不安になってしまって私も「勝ってしまった……」と号泣してしまいました。でも、これがキッカケなのか「TOKYO  IDOL  FESTIVAL」でコラボライブをやらせていただきました。

 

友恵 まさに「禍を転じて福と為す」だね。放送事故がハイライトになることは多々あると思います。生放送中に泣くこともそうだけど、ルールがあるわけじゃないから、正解が分からないところだよね。

 

入山 私は友恵ちゃんのBKB(バイク川崎バイク)とのコラボが好きです。かなり振り切っていた(笑)。

 

友恵 大好きな芸人さんだったからね。ちゃんとやりきるしかないという意気込みだったで必死だったのよ。

 

小杉 私はタピオカミルクティーを口に含んで見ていましたよ。

 

友恵 笑ってくれなかったよね。

 

藤本 私はガチへこみしたやつがあります!

 

友恵 なになに?

 

藤本 サウナでさらば青春の光の森田哲矢さんに暴露話をした回です。ディレクターさんから分かりやすい暴露を注文されて、番組のギャラが安いことを話しちゃったんです。

 

友恵 あったね!

 

藤本 あまりにも生々しい話をしてしまっただけにネットにも賛否両論のコメントが出ていて……。「面白かった」と褒めてくれるものもあったんですけど、中には批判的なものもあって。それでも、森田さんをはじめとするMC陣が上手にフォローしてくださって、番組そのものが面白かったのだけが救いでした。その後に1期生の沖 玲萌ちゃんとお茶をする機会があった時に「早いうちに失敗しといた方がいいよ」と励ましていただきました。

 

小杉 言いそう(笑)。

 

藤本 ちゃんと失敗だったんだと改めて認識させられましたね(笑)。

 

小杉 そこは「事故じゃなかったよ」とかじゃなかったんですね(笑)。

 

藤本 そこは反省しつつ、ずっと引きの姿勢だったら成長もできないから、「どんどん挑戦して自分の適性を見つけていきな」とアドバイスをいただきました。そこから、どんどん前に出ていきたいなと思えるようになりました。

 

友恵 玲萌ちゃんは語り出したら止まらないタイプだけにいいこと言うね!

 

──MC陣との交流はあるんですか?

 

小杉 収録がメインになります。森田さんやオズワルドの伊藤俊介さんからは「小杉は楽しそうだな」とよく声をかけていただけますね。料理をするコーナーでよく声をかけていただきます。

 

友恵 確かにね。

 

小杉 佐久間宣行さんからも「番組の名場面といえば、小杉の料理中に炎が燃え上がったシーン。あの時は番組が終わると思ったわ」と言っていただけて(笑)。

 

入山 焼きそばを作った回ですね。

 

友恵 私は村重杏奈さんに無礼をはたらいてしまって……。実家で作った料理の写真を番組で披露した時に、盛り付けられたお皿が「イヴ・サンローラン」で、それを見た村重さんが「いいとこの子なんだ」とイジってくれたんです。なのに私がテンパってしまって「村重さんほどじゃないですよ」と返答しづらい返しをしてしまったんです。かなり失礼なキラーパスになってしまったので全力で謝罪した記憶があります。それでも、「大丈夫だよ」と優しく慰めていただけて。これがやらかしエピソードかも。

 

入山 私はMC陣との絡みはサウナぐらい。あとは、この前、番組の打ち上げがあって……と思ったけど、私はMC陣としゃべってないや。他のみんなはしゃべったんじゃないかな?

 

友恵小杉 私もほとんどしゃべってないかな。

 

藤本 私はたまたま席が近かった伊藤さんと話しました。

 

友恵 確かにかなりいい雰囲気だったよね。気安く2人の会話に割り込もうとしたら、「あ、これは入ったらダメなやつだわ」と察してしまう空気感があった。

 

藤本 そんな大げさな(笑)。でも、芸人さんと一緒にお酒を飲めるシチュエーションにアガっていたのは間違いないです。3か月前までは夢にも見ていない光景でしたからね。伊藤さんも森田さんもかなり優しいんです。ちゃんと1人ひとりに話を振っていただけて。こんな私にまで真摯に向き合ってくれるんだと感激しちゃいました。

 

友恵 何かアドバイスはもらえたの?

 

藤本 ポロっと女優を目指していることを話したら、「豪快な女優になってくれよ」と伊藤さんがエールを送ってくださって泣きそうになりました。

 

友恵 こりゃ、だいぶ酔ってたな(笑)。大学を卒業したら女優を目指すの?

 

藤本 学校では演出なども学んでいて、演じることと両方やれるのが理想ですね。でも、具体的にはノープランに近いです(笑)。友恵ちゃんは看護師さんになるんですか?

 

友恵 2月に国家試験を控えていて、今はその勉強に追われる日々かな。本当は配信とかやりたいことたくさんあるんだけど、勉強が最優先!

 

小杉 暗記が基本なんですか?

 

友恵 いや、暗記よりは理解が大事かも。高校の生物の授業は暗記がメインだったかもしれないけど、それ以上に免疫や病気についてちゃんと理解しないと解けない問題なのよ。なんとか芸能活動と両立したいところだけど……。合格して卒業しちゃう、フジコーズを続けられるかが今のところ未定なんだよね。女子大生なのが大前提のユニットだし。

 

小杉 今、マネージャーさんが苦笑いしているのが見えちゃった。

 

一同 爆笑

 

友恵 少なくとも、国家試験に落ちたらフジコーズに残留することは決まっています。入山ちゃんは卒業後の目標はあるの?

 

入山 私は女優を目指しています。NHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」に出演していたのんさんの演技に憧れています。まだまだ、経験も実績もありませんがやれることがら頑張りたいです。最後に小杉ちゃんは?

 

小杉 私は中川翔子さんみたいなタレントさんが目標です。「ポケットモンスター」が大好きで物心ついた頃から、中川さんが出演していたポケモンのテレビ番組を観ていました。ゲームや絵を描くことが好きなのも共通していて、おこがましい話なんですが、どこか通じるものがあると思っているんです。

 

──ちなみにポケモンはどの世代を最初にプレイしたんですか?

 

小杉 「ブラック・ホワイト」です。お兄ちゃんが「エメラルド」をやっていたので、さらに昔の世代のポケモンの知識もあります。それこそ、1日に1匹の色違いポケモンを捕まえるのをも目標にしてプレイしていましたね。4000分の1の出現率はやりがいがありますよ!

 

友恵 かなり難しいんじゃない。4000匹も出会わなきゃならないんでしょ?

 

小杉 それが楽しいんですよ。

 

友恵 4000匹全部対戦するの?

 

小杉 戦ったり、逃げたりですね。出会ったら、まず初手で「でんじは」を当てて麻痺させるんですよ!

 

友恵 知らん知らん! ほら、誰も話に付いて来れてないよ!(笑)

 

──最後に2024年の抱負を聞かせてください。

 

藤本 全国ライブツアーをやりたい! もっと私たちの存在を知ってもらえる機会になりますしね。ステージでパフォーマンスをするたびに、ファンの方からたくさんのパワーをいただいています。

 

小杉 あまり、具体的ではありませんが、ズバリ! ありのままの自分で一年間を楽しみたい!!

 

入山 セカンドシングルを出すのが目標です。カップリング曲の「思い出泥棒」のメンバーを含めて、メンバー全員でパフォーマンスできる曲をいただけるとうれしいです。そもそも、ライブツアーをするためにも曲数は必要ですし。

 

友恵 国家試験の結果次第にもなりますけど、フジコに残れる場合は「オールナイトフジコ」という番組をもっとバズらせたいですね。私たちがありのままを出せれば自然に面白くなると思いますし。女子大生たちのハプニングをどんどん見せていきたいですね。

 

 

<Information>

フジコーズ
デビューシングル「ウェーイTOKYO」絶賛発売中

 

オールナイトフジコ

フジテレビ系 毎週金曜日 24:55~26:55 https://www.fujitv.co.jp/allnight-fujiko/

構成・撮影/丸山剛史 取材・文/多嶋正大

波乱万丈なアイドル人生とは? 愛来「ソロでの活動がAMEFURASSHIに還元できたらうれしい」

4人組ガールズグループ「AMEFURASSHI」のメンバーとして活躍する愛来。昨年5月にTikTokのダンス動画がバズったのをきっかけに注目を集め、ソロ活動も活発化。「オオカミ少年 ハマダ歌謡祭」(TBS)で歌唱力の高さが話題になるなど、地上波のバラエティでも頭角を現し、Z世代を中心に注目を集めている。小学生の頃から芸能活動を始めた彼女の波乱万丈なアイドル人生に迫る!

 

愛来●あいら…2002年12月8日生まれ。東京都出身。2011年よりアイドル活動を始め、2018年に「アメフラっシ」(現・AMEFURASSHI)結成。2020年4月より「めざましテレビ」(フジテレビ)にイマドキガールとして出演中。【AMEFURASSHI】公式サイト【愛来】公式Instagram【愛来】公式TikTok

 

【愛来さん撮り下ろし写真】

 

初めてももクロさんに会ったときはうれしくて大号泣

──愛来さんは小学3年生からアイドル活動を始めたそうですが、どういうきっかけで事務所に入ったんですか。

 

愛来 過去にお母さんがモデルをやっていて。その繋がりでお母さんの友達が、私の写真をスタダ(スターダストプロモーション)に送って、面接をしていただいて、所属することになりました。だから何も自分では理解できていなかったです。事務所の偉い方がいらっしゃって、見た目がすごく怖い方なんですが、まだ子どもだったので何も気にせずに、その人の前で、机でお絵かきをしていたのを覚えています(笑)。

 

──大人の方と接するのは平気だったんですか?

 

愛来 苦手でした。そもそも人見知りなんです。小さい頃にダンスを習うことになって、ダンス教室に行ったんですけど、初回レッスンがダンスの先生と一対一で。それも耐えられなくて、何もしないで帰りました。

 

──よく事務所に入ろうと思いましたね(笑)。

 

愛来 「みにちあ☆ベアーズ」というチアリーディングをテーマにしたアイドルグループがあって、初めてスタダの面接に行ったときに、「入りませんか?」と言われたんです。当時、チアリーダーに憧れていたので、習い事感覚で入りました。

 

──当時、TIF(TOKYO IDOL FESTIVAL)でみにちあ☆ベアーズのパフォーマンスを見たんですが、まだ幼い女の子たちが、曲に合わせてチアをやっている姿が衝撃でした(笑)。

 

愛来 小学生のメンバーがほとんどだったので、危ないから人を跳ばしちゃいけなかったんです。だからダンスとも言えないようなパフォーマンスで、ポンポンを持って「イエーイ!」みたいな(笑)。

 

──みにちあ☆ベアーズには途中加入で、先輩もたくさんいましたが、すぐになじめましたか?

 

愛来 なかなかなじめませんでした。年齢も離れていたので。

──ダンスは得意だったんですか?

 

愛来 めちゃくちゃ下手でしたけど、楽しかったです。ただ私は当時から身長が大きかったから、下の土台を任されることが多くて。それはちょっと楽しくなかったけど、「愛来に任せておけば大丈夫」と周りから持ち上げられていたので、「まあね!」みたいな(笑)。

 

──アイドル自体に興味はあったんですか?

 

愛来 全くなかったです。事務所に入るときに、「うちにはももいろクローバーZというアイドルグループがいて」と教えていただいたんですが、そのときはももクロさんにもまだ興味がなくて。でも事務所に入って1、2年経ってからももクロさんのすごさが分かってきて、(百田)夏菜子ちゃんが大好きになりました。

 

──なぜももクロさんがいいなと感じたんですか?

 

愛来 きっかけは覚えていないんですけど、初めて買ったアーティストのCDが、ももクロさんのアルバム「バトル アンド ロマンス」(2011年)でした。その後、「ももクロ秋の2大祭り ~女祭り2012~」で流れるVTRに、幼少期の高城れにちゃん役で出演させてもらって。そのときに初めてももクロさんにお会いして、あまりのうれしさに大号泣しました。

 

──れにさん役だったけど、夏菜子さん推しなんですね。

 

愛来 そこは触れないでください(笑)。

 

──夏菜子さんのどこに惹かれたんですか。

 

愛来 当時は漠然と「好き」だったんですけど、一緒にお仕事させていただく機会も増えていくうちに、軸がしっかりしていて、オンとオフの線引きもちゃんとしていて、後輩にも気を遣ってくれて、笑顔が素敵で、いくつになってもかわいいですし……挙げだすとキリがないんですが、全てが最高です!

 

──今も夏菜子さんと会うと緊張するのでしょうか?

 

愛来 超緊張します! ももクロさんで緊張しないで接することができるのは、「浪江女子発組合」で一緒に活動していたあーりん(佐々木彩夏)ぐらいです。あーりんとは同じグループで、いつまでも緊張していたら逆に失礼かなと。

 

アイドルの自覚が出てきたのは3B juniorの活動が始まって1年ぐらい経ったとき

──2012年から一年間、みにちあ☆ベアーズと並行してアイドルグループ「KAGAJO☆4S」(以下、カガジョ)でも活動します。

 

愛来 どういう経緯でカガジョに入ったのか分からなくて、気づいたら掛け持ちしていたみたいな。カガジョはアイドルグループというよりも、冠番組があって、その中のドラマがメインでした。ドラマの世界から飛び出したという設定でアイドル活動もやっていました。私は「ハイスクール・ミュージカル」(2006年)が大好きで、ずっとお芝居に興味があったので、ドラマのお仕事は楽しかったです。

 

──カガジョは四姉妹という設定で、愛来さんは四女でした。

 

愛来 年齢的にも一番年下で、私が10歳のときに二十歳のメンバーもいたので、本当のお姉ちゃんみたいで。みんな優しくしてくれて楽しかったです。ただ当時は歌が苦手だったので、初めてちゃんと歌う曲があって難しかったです。

 

──その時点で将来的にもアイドルでやっていこうという意識はあったのでしょうか。

 

愛来 当時は芸能界にいるという感覚が全くなかったです。自覚が出てきたのは、3B juniorの活動が始まって1年ぐらい経ったときです。

 

──3B juniorは当初メンバーが26人いて、2014年11月から本格的な活動が始まります。

 

愛来 みにちあ☆ベアーズの活動が終わるときに「今後、女優とアイドルのどっちでやっていきたい?」と聞かれて。まだ小学生だったから自分で考えて選ぶことができず、仲の良い子がアイドルを選んだので、私もアイドルにしようって感じで3B juniorに入りました。

──26人もいて人見知りは発動しなかったんですか?

 

愛来 なかなかなじめなかったです。もともと、みんなで一緒に楽しむというよりは、一人でDSをするみたいなことばかりしていて、団体行動自体が苦手でした。オーディションで入ってきたメンバーも多かったので、面識のある子も少なかったですし、輪に入るのが難しくて。これだけ人数がいたら、私は埋もれるだろうなという気持ちもありました。結局、3B junior時代は一緒に遊びに行くほど仲が良い子もいなかったですし。その中で言うと、後にアメフラのメンバーになる子たちとは仲が良いほうでした。

 

──学校でも一人行動が多かったんですか?

 

愛来 学校では活発で、男の子と一緒になって鬼ごっこやサッカーをやっていました。そんな感じだったので、小学校でのあだ名は“ゴリラ”(笑)。嫌だったけど、確かに自分はゴリラっぽいなと思っていました。見た目も女の子っぽくなくて、前髪をちょんまげにしていましたし。だから女の子だけの3B juniorでは、なかなか自分を出せなかったのかも。

 

──アイドルの自覚を持ったきっかけは何だったんですか?

 

愛来 3B juniorの初期は年下組というのもあって私は一番後ろの端っこでした。そのうちグループ内ユニットの「ロッカジャポニカ」と「はちみつロケット」の活動が活発になるに従って、立ち位置がセンターに近づいていって、それがうれしくて。ダンスと歌を頑張れば頑張るほど前のほうのポジションに立つことができたので、やりがいもありました。

 

──愛来さんも2014年に「奥澤村」という4人組グループ内ユニットのメンバーに選ばれます。

 

愛来 奥澤村はれにちゃんプロデュースのユニットで、途中から湘南乃風さんのカバーもやらせていただいて。どのユニットよりもライブを盛り上げている自信がありましたし、すごく楽しかったです。

 

──奥澤村のメンバーとは仲良くやれていたんですか?

 

愛来 人数も少ないので、なじむことができました。中でも中村 優ちゃんとは家族ぐるみで仲が良くて、今もアメフラのライブを見に来てくれます。昨年8月にアメフラが「JAPAN EXPO MALAYSIA 2023」に出演したときは、たまたま優ちゃんのご両親がマレーシア旅行中で、特典会に来てくれたので驚きました。

 

──苦手意識のあった歌とダンスに自信がついたのはいつ頃ですか。

 

愛来 ダンスは毎年あーりん(佐々木彩夏)のバックダンサーで出演させてもらうようになってからです。振り付けの日は、ニュアンスなどを忘れないようにダンス動画を撮るんですが、それを見ると自分がものすごく下手で。今まで以上に練習したら、どんどんうまくなるのが自分でも分かって、より打ち込むようになりました。歌は「清塚信也のガチンコ3B junior」(フジテレビNEXT)という音楽番組が始まって、ピアノを伴奏に歌うという内容で。いろんなアーティストさんと一緒に歌わせていただいたり、作詞や作曲にも挑戦したりするうちに、歌うのが楽しくなって、もっと歌の練習を頑張ろうと思いました。

 

語学留学するかアイドルを続けるかで葛藤の日々

──3B juniorの後半、愛来さんはセンターが定着。しかし2018年11月3日のライブで3B juniorの活動は休止。同時に3B juniorのメンバー5人によるアイドルグループ「アメフラっシ」の活動が始まります。

 

愛来 ロッカジャポニカとはちみつロケットがデビューすることになって、羨ましい気持ちもありましたが、アメフラっシ結成を聞いたときは素直に喜べなくて。というのも3B junior解散ライブの後にアメフラッシの初お披露目があったので、解散前から並行してリハをやっていて、「終わるのに始まる」という状況に気持ちが追いつかなかったです。それにアメフラっシのメンバーは、3B juniorの中では比較的に内気であまり目立たないポジションの子たちが集まったので、全員気持ちがふわふわしていました。

 

──結成当時のアメフラは伸び悩んでいた印象です。

 

愛来 正直、コロナ禍前まではライブやイベントを開催しても集客がないし、私たち自身もふわふわした状態が続いて、活動を続ける意味があるのかなと思ったりすることもありました。メンバー間の信頼関係もまだ築けていなかったと思いますし、言われたことをやるだけという感じでした。

 

──アイドルを辞めようと思ったことはなかったんですか?

 

愛来 何度もありました。特に高校3年生でコロナ禍になって、進路のことを考えなきゃいけない時期は悩みました。英語が話せるようになりたくて、高校を卒業したら語学留学しようかなとも考えていたんですが、アメフラの活動が中途半端な状態だったから、このまま辞めるのも嫌だなと。私はBTSさんやBLACKPINKさんなどK-POPが好きなので、そういうアーティストになりたい気持ちもあって。もっとアイドル活動を頑張りたいという気持ちと、区切りをつけて語学留学したい気持ちの間で、ずっと葛藤していて。その上、コロナ禍だったので、何もしたくなくなって、家に引きこもっていました。

 

──そんな状況でも、アメフラの活動はあるわけですよね。

 

愛来 その時期はお仕事もマネージャーさんに調整してもらって、ちょっとずつ休ませてもらいました。休んだからと言って他にやりたいこともないし、解決策があるわけでもないので、あんまり気持ちも変わらなくて。理由もなく休んでいたから、メンバーの中には不信感もあったと思います。そのままの状態で活動を再開したんですが、気づいたら時間が解決したというか。留学したい気持ちは今もありますけど、いくつになっても行けるし、今は頑張りどころだなと思って芸能活動1本に絞りました。

──2020年からダンスを主体としたクールなパフォーマンスを前面に押し出したスタイルに変化して、2021年11月にはグループ名の表記がAMEFURASSHIになります。

 

愛来 2020年7月1日に配信スタートしたシングル「メタモルフォーズ」からダンスに力を入れ始めて、コロナ禍が収束して、がっつりライブでダンスを踊るようになって。そもそも同じSTARDUST PLANETのとき宣ちゃん(超ときめき♡宣伝部)みたいにかわいい曲が似合うメンバーが、アメフラには一人もいないですからね(笑)。だからこそ「アイドル・シーンのNEW RULESを最新のダンス・ミュージックで表現する」というグループのコンセプトが4人に合っていて、すごく可能性を感じました。

 

──その後、着実にアメフラの人気は拡大して、昨年12月22日に品川ステラホールで開催した結成5周年記念ワンマンライブは早々にソールドアウトしました。現在はソロとしての活動も目覚ましいですが、もっとソロ活動に力を入れたい気持ちもありますか?

 

愛来 めちゃめちゃあります! 同じスタダで言うと、北村匠海さんや佐野勇斗さん、もちろん夏菜子ちゃんもですが、個人でも活躍されていて、それによってグループがより多くの方に知ってもらえる機会にもなって、さらに人気が出ているじゃないですか。私もソロで活躍することで、アメフラに還元したい気持ちが強いです。やっぱり私の中では、グループとしてさらに前に進みたいのが一番にあるから、それに繋がることだったら何でもします。

 

ととのう方法を教えてもらってからサウナにハマってます!

──プライベートで今ハマっていることは何ですか?

 

愛来 趣味はサウナです。幼なじみの女の子と一緒にサウナに行ったときに、ととのう方法を教えてもらって、それまでは冷た過ぎて、水風呂に入れなかったんです。でも、サウナに入って、水風呂に入ってを頑張って繰り返していたら、めちゃくちゃ気持ち良くて、完全にハマっちゃいました。普段は3セット、足りないなってときは5セット。よく行く施設には岩盤浴もあって、汗かくのって最高です!

 

──サウナ以外でオフはどう過ごすことが多いですか。

 

愛来 寝ること、食べること(笑)。この間、0時に寝て、14時に起きたんですよ。1時間ぐらい起きていたんですけど、すぐに寝て、19時に起きてごはんを食べて、また寝ました。疲れているわけじゃなくて、寝るのが本当に好きなんです。あとメンバーの(鈴木)萌花と飲みに行くこともあります。

 

──お酒は何を飲むことが多いんですか?

 

愛来 飲めるお酒が少ないんですけど、ジャスミンハイとジントニックをよく飲みます。「ソーダとオレンジで甘すぎないお酒を作ってください」とオーダーしたりすることもあります。

 

──二人ともお酒は強いんですか?

 

愛来 強いわけではないんですけど、私も萌花も顔に出ないですね。外で飲むと気が引き締まるから、あまり酔わないんです。

 

──市川優月さんは昨年11月で二十歳になって、小島はなさんも今年2月で二十歳になりますが、いずれは4人で飲みに行くこともありそうですか?

 

愛来 あの4人で飲むのは怖い……。私と萌花は落ち着いているタイプでウエーイ系じゃなくてニコニコ系だけど、ゆづ(市川)はすごそう。お酒なしでカラオケに行っても、盛り上がり方がすさまじいですからね(笑)。でも一回ぐらいは4人で飲みに行きたいです。

 

 

 

AMEFURASSHI ワンマンLIVE

日時:2024年3月15日(金) open 18:00 / start 19:00

場所:EX THEATER ROPPONGI

◆一般 1階全自由 ¥7,800(税込・入場時別途ドリンク代・整理番号付き)
※お一人様2枚まで ※女性エリアあり

◆U-25 1階全自由 ¥6,500(税込・入場時別途ドリンク代・整理番号付き)
※お一人様2枚まで ※女性エリアあり

※公演当日25歳までの方が対象です。入場時、年齢のわかる身分証をご提示いただきます。身分証の確認ができない場合は、一般チケットとの差額をお支払いいただきご入場となります。
なお、身分証の確認ができない場合、払い戻しは行いません。忘れずに身分証をご持参ください。

・2階席 バルコニー席 着席指定席 ¥7,800(税込・入場時別途ドリンク代)
※お一人様2枚まで

・2階席 ファミリー指定席 ¥7,800(税込・入場時別途ドリンク代)
※お一人様4枚まで

※大人のみ、子供のみでのグループでの購入はできません。大人(中学生以上)/ 子供(3歳~小学6年生以下)
※大人の方は着席でのご観覧になります。
※背の高いお子様には係員より着席をお願いする場合がございます。
※後方のお客様にご留意いただきますようお願いします。

【全席種共通注意事項】
※チケットは全て電子チケットとなります。
※小学生以下のお子様連れのお客様はファミリー指定席をお申込み下さい。小学生以上有料。未就学児はひざ上観覧は無料。ただし、お席が必要な場合チケット購入をお願いします。

オフィシャル2次先行 1/16(火)12:00〜1/29(月)23:59

プレオーダー受付 ※クレカ決済のみ 2/2(金)12:00〜2/12(月・祝)23:59
https://eplus.jp/ameflash/

(問い合わせ)H.I.P. 03-3475-9999 / www.hipjpn.co.jp

主催・出演:AMEFURASSHI

 

撮影/河野優太 取材・文/猪口貴裕

恋人の過去を見られたら? 関水渚「末澤誠也さん演じる一郎と過ごした幸せな日々は全部印象的」ドラマ「彼女と彼氏の明るい未来」

末澤誠也さんと関水渚さんがW主演を務めるドラマ「彼女と彼氏の明るい未来」が、1月11日(木)よりMBSのドラマ特区枠で放映スタート。ある秘密の過去を恋人に知られてしまうヒロインを演じる関水さんが撮影中のエピソードなどを語ってくれた。

 

関水 渚●せきみず・なぎさ…1998年6月5日生まれ。神奈川県出身。2019年映画「町田くんの世界」でヒロインに選ばれ、女優デビューを果たす。2021年「八月の夜はバッティングセンターで。」で連続ドラマ初主演。1月17日スタートのフジテレビ系「婚活1000本ノック」に出演。Instagram

 

【関水 渚さん撮り下ろし写真】

 

役作りはとにかく丁寧に台本を読む

──出演が決まったときの心境はいかがでしたか。

 

関水 今ノリに乗っているいらっしゃる橋爪駿輝監督とご一緒できると聞いてうれしかったです。

 

──原作と台本を読んだ感想を教えてください。

 

関水 原作は谷口菜津子先生で、私、谷口先生の絵柄が大好きなんです。実は私はアニメとマンガが大好きで、特に、谷口先生のような女性をセクシーに描いているタッチの絵が好きなんです。ストーリーも生感があって面白いと思いました。マンガなので盛っている部分もあるけど、現実にありそうだなって。台本になると一層生々しい感じが増して、これは現実でもあり得るだろうなって思えて、そこが自分にとってはすごくツボでした。

 

──今回演じられた佐々木雪歌は、つらい過去を抱えた女性です。関水さんは雪歌をどんな女性と捉えていらっしゃいますか。

 

関水 台本を読んで自分なりに考えてみたのですが、そもそも女性って男性に比べて、自己肯定感が高い人が少ない気がするんです。雪歌は過去にいろいろとトラウマがあることによって、それが明確に表れている気がしました。ただでさえ自己肯定感が低いのに、過去のトラウマが重なり、自分のことが好きじゃない。だから自分は愛されなくて当然だと思っていたんでしょうね。そうだったんだけど、そんな考え方を変えてくれるような彼と出会って、今はとても幸せという状況から始まります。

 

──役作りとして事前にどんな準備をされましたか。

 

関水 マンガ原作ということはあまり意識せず、台本を丁寧に読みました。私のやり方としては、台本を頂いて内容が分かったら、ノートとペンを持ち歩いて、「あそこのシーンの気持ちって、こういう理由なのかも」って思い付いた瞬間に、バーッといつでも書くようにしているんです。そういう感じで、とにかく丁寧に読んで役作りをしていくようにしました。

 

満たされている雪歌の笑顔に注目してもらいたい

──雪歌を演じていかがでしたか。

 

関水 演じていてものすごく幸せでした。自己肯定感が低い人って、どうしても自分では埋められない部分って絶対にあると思うんです。そこは人によってじゃないと埋まらないから。撮影は短期間でしたが、撮影中は末澤(誠也)さんが演じる青山一郎に雪歌の足りない部分を埋めてもらって、本当に幸せでした。こんなに自分のことを好きでいられる自分になれるなんてって気持ちになりました。

 

──一郎役の末澤さんの印象を教えてください。

 

関水 初めて会ったときから「あ、一郎みたいかも」って思ったかもしれないです。実はごあいさつする前、一発目の私の発言が「トイレ行ってきます」だったんです(笑)。衣装合わせと台本読みの日で、扉を開けた瞬間に立ち上がった監督が目の前にいらっしゃって。でもすごくトイレに行きたくて、「本当にすみません。立ち上がっていただいて申し訳ないのですが、ちょっと一瞬トイレに行ってきます」と。「良かった! 末澤さんをお待たせせずにトイレにも行けた」って思いました(笑)。でも実は末澤さんは監督の横で穏やかに立っていらっしゃって、後から「あれ? 末澤さんだ!」って思いまして。原作で雪歌が初対面の一郎に感じた印象が「メガネ汚れてる」と「なんかいい人そう」なんですけど、私の末澤さんの印象も「いい人そう」だったかもしれないです。

 

──一郎と雪歌として撮影して印象的だったシーンは?

 

関水 一郎と過ごした幸せな日々は全部印象的でした。雪歌として、こんなに自分を満たしてくれる人がいるんだってすごく感じました。途中から幸せな毎日が変わり始めるので、監督に「幸せなシーンはここまでだよ」って言われたときは涙が止まらなくて。それぐらい一郎と雪歌のラブラブなシーンには思い入れがあります。一郎といることによって、満たされている雪歌の笑顔に注目してもらいたいなって思います。

 

──心から幸せそうな笑顔をするために意識したことはありますか。例えば原作の雪歌の表情を意識していたとか。

 

関水 それをやってしまうと、表面的なお芝居になってしまう気がしてしまって、どの作品でも内面から出るものを大事にやっていこうと思っています。原作の雪歌に息を吹き込むのが私の仕事だから、あの顔は雪歌として生きて自然に出た笑顔です。

 

過去が見えたら……両親が出会ったときを見てみたい

──雪歌は雑貨屋さんで働いている設定ですが、雑貨屋さんでの撮影中の思い出はありますか。

 

関水 雑貨屋さんでの撮影は1日で、観葉植物がたくさん売られていました。私は観葉植物が大好きなので、すごく大きい観葉植物があって欲しいと思いました。しかも右肩上がりの形で縁起も良さそうで(笑)。2メートルぐらいあるから、これを買ったとしたらどうやって持って帰ろうかって、撮影以外の時間は1日中ずっと考えていました。

 

──この作品には過去が見られるVRマシーンが登場します。もし過去を見ることができたら、誰のどんなところが見たいですか。

 

関水 両親が出会ったときを見てみたいですね。どんなふうに好きになって、どんな恋愛をして結婚したんだろうって、その過程を見てみたいです。

 

──ではタイトルにちなんで関水さんが考える「明るい未来」とは?

 

関水 一生女優がやりたいのと、いっぱいいい役に恵まれることでしょうか。一生、今の仕事を続けたいです。プライベートはマキシマム ザ ホルモンのライブに全部当たったらいいな(笑)。あと、ドラゴンボールの一番くじ、欲しいやつ全部当たりたいです。

 

とにかく「ドラゴンボール」は全部好き!

──先ほど、マンガやアニメが大好きとおっしゃっていましたが、普段はどんな作品を読まれますか。

 

関水 「ハレ婚。」、「チェンソーマン」、あと「ドラゴンボール」! 鳥山明先生は「SAND LAND」、「Dr.スランプ」も好きです。でも……今は「ドラゴンボール」が一番好きかなぁ。でも「ハレ婚。」も好きだな。「ハレ婚。」たまんないなぁ(笑)。

 

──たくさんタイトルが出てきますね(笑)。「ハレ婚。」はどんなところがお好きですか。

 

関水 「ハレ婚。」は一夫多妻制が認められた日本が舞台なんですけど、主人公の小春ちゃんとだんなさんの2人が心で繋がっている感じが好きです。小春ちゃんだけが特別なんだけど、だんなさんが自分の気持ちに気付いていないところもいい! 「ドラゴンボール」は鳥山先生の絵もストーリーもキャラクターも大好きです。アニメは声優さんが本当に素晴らしい! 私はフリーザが大好きで、自分も早く戦闘力53万になりたいです。善バージョンの魔神ブウとチャオズも好きですが、一番好きなシーンは、ご飯の前でピッコロが亡くなるシーンです。あんなに一緒に過ごしてきたのに! って。とにかく「ドラゴンボール」は全部好き!

 

──「ドラゴンボール」を語り始めると止まらない感じですね(笑)。子供の頃からお好きなんですか。

 

関水 マキシマム ザ ホルモンの「F」という曲をライブで聴いて、フリーザって何だよって思ったんです(笑)。こんなに悪役な歌詞で、フリーザって一体どんなキャラクターなんだろうって思ったのがきっかけです。

 

──まさかのマキシマム ザ ホルモンきっかけ(笑)。

 

関水 はい、曲がきっかけです。それで見始めたらすごくハマってしまって! 今は一番くじを引くことに命をかけている(笑)。次は一体何が出るんだろうって楽しみにしています。前回はオレンジピッコロが当たって、でっかい箱を抱えて帰りました。それを男子大学生風の方に見られて、「デカッ!!」と言われまして。すごく恥ずかしくて、静かにサササササッと走って帰りました。

 

私、ハマり性で一度ハマるとすごく熱中します

──もしかして一度ハマると夢中になるタイプですか。

 

関水 私、ハマり性で一度ハマるとすごく熱中しますね。音楽はマキシマム ザ ホルモンとJUDY AND MARYのYUKIちゃん、アカシックというバンドが大好きでよく聴いています。絵を描いたり、陶芸をするのも好きで、手びねりでオブジェみたいなものを作っています、絵は最近水彩にハマっていますね。それから服も大好き。VIVIANOとYanYanというブランドにハマっています。女の子の夢って感じで大好き! YanYanはニットブランドですごく上質な毛を使っているので、繊細なんです。とにかく傷をつけないように気を使っていて、友達に腕を触られたら「YanYanのニットだから触らないで」ってお願いするぐらい大事に着ています(笑)。

 

──フィギュアも大切にしていそうですね。

 

関水 大切にしています。1回置き場所を移動したんですが、そのときはしっかり新聞紙にくるんで、絶対に崩れないように細心の注意を払って移動しました。友達が家に来たときに倒したりした日には、私どうなるか分からない(笑)。

 

──1回ハマったら長く好きになりそうですね。

 

関水 ずっと好きですね。お友達も仲良くなるとずっと好きです。

 

 

ドラマ特区
彼女と彼氏の明るい未来

1月11日(木)スタート MBS 毎週(木)深夜24・59~
テレビ神奈川、チバテレビ、テレビ埼玉、とちぎテレビ、群馬テレビで順次放送

MBS動画イズム、TVerにてMBS放送後から一週間、無料見逃し配信

【ドラマ「ドラマ特区 彼女と彼氏の明るい未来」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
原作:谷口菜津子「彼女と彼氏の明るい未来」(ビームコミックス/KADOKAQWA刊)
監督:橋爪駿輝、八重樫風雅
脚本:伊達さん、橋爪駿輝
出演:末澤誠也 関水渚
中川大輔、山谷花純、青木瞭、三原羽衣、落合モトキ

 

撮影/映美 取材・文/佐久間裕子 ヘアメイク/井手真紗子 スタイリスト/後藤仁子

高梨臨「夫をじわじわ攻めるような復讐劇が1つ、2つと展開されていくのが爽快な部分もあり、楽しんでいただけるかも」ドラマ「夫を社会的に抹殺する5つの方法 Season2」

2023年1月期に放送され、話題を集めたドラマ「夫を社会的に抹殺する5つの方法」のSeason2が1月9日(火)より、テレ東で放送開始。キャストは一新され、最愛の息子を失い、夫への復讐心を募らせる主人公・日野美咲を高梨 臨さんが演じる。「大切なものを失い、愛が憎しみへと変わる気持ちは共感できます」という高梨さんがドラマの見どころなど語ってくれた。

 

高梨臨●たかなし・りん…1988年12月17日生まれ、千葉県出身。2012年第65回カンヌ国際映画祭コンペティション部門にノミネートされた映画「ライク・サムワン・イン・ラブ」に主演。その後NHK連続テレビ小説「花子とアン」、「恋がヘタでも生きてます」などに出演。2023年はドラマ「VIVANT」、「単身花日」などに出演。出演待機作に、日英合作映画「コットンテール」(3月1日(金)公開予定)がある。Instagram

 

【高梨 臨さん撮り下ろし写真】

 

美咲が復讐にとらわれていく姿が怖くもあり、面白く感じられるポイント

──キャストを一新してのSeason2となりますが、改めて「夫を社会的に抹殺する5つの方法」って興味をそそられるタイトルだなと思いました。

 

高梨 最初に聞いたときは私もインパクトが強すぎると思いました。Season1を知っていたので、お話を頂いたときはSeason2をやるんだと思いました。このタイトルは、キャッチーでインパクトもあるし、Season2はどうなるんだろうってワクワク感を視聴者の皆さんに伝えられるのかなって思います。

 

──Season2の脚本をお読みになった印象はいかがですか。

 

高梨 ドラマチックな復讐劇ではありますが、根本にあるのは誰もが持っている普通の感情だと思います。私が演じる日野美咲は最愛の息子を亡くしたことがきっかけで、夫との問題に向き合い、愛した人への感情が復讐心へと変わっていく。美咲が復讐にとらわれていく姿が怖くもあり、視聴者の皆さんにとって面白く感じられるポイントなのかなって思いました。

 

──美咲という女性をどんな人物だと捉えていらっしゃいますか。

 

高梨 私ぐらいの年齢の人から見ると、等身大の女性に感じられると思います。ずっとマンガを描くという夢を見てきて、でも好きな人と出会い、結婚して子供が生まれ、子供の幸せを一番に願っている。そして子供が生まれてからは子供のための人生を送っている……それはよくある話だなと思うんですね。そんな普通の主婦が夫のせいで子供を亡くし、ドラマチックな復讐劇が始まるのは、なかなか現実感のある状況ではなくなりますけど、もともとは自分の意見や思っていることもなかなか言えないタイプ、でも幸せな家庭を築いている、そんな等身大な女性だと感じました。

 

愛は憎しみにも変わりやすい感情なのかな

──美咲はもともとマンガを描くのが大好きでしたが、編集者の夫に劣等感みたいなものを植え付けられているのかなって思いました。そんな美咲を演じる上で楽しみにしていることを教えてください。

 

高梨 モラハラっぽい夫の言葉に抑圧されたり、義理のお母さんに嫌味を言われても言い返せないところは、セリフのない表情での芝居が多いなと台本を読んでも感じていました。そこは丁寧に演じていきたいと思っています。美咲のそういう1つひとつの我慢が、復讐へのパワーになっていくんですね。息子を失った美咲はもうどうなってもいいって気持ちになっていましたが、復讐心によって生きる希望を見出していきます。その復讐心に取り憑かれてしまうところが、この作品の面白さだと思いますし、演じる上でその感情をどれだけ表現できるかがとても大切になると思うので、うまく表現できたらいいなと思っています。

 

──愛して結婚した夫に対して復讐心を抱く気持ちは理解できますか。

 

高梨 愛は憎しみにも変わりやすい感情なのかなって思うと、あり得ると思います。しかも美咲は子供という一番大切にしていた宝物を失って、裏切られた気持ちになり、怨みに変わってしまう。私にはその経験はありませんが、すごく理解できます。

 

社会的地位みたいなものを傷つけられることが一番感情に刺さる

──Season1の野村周平さんは見ているだけでムカッとする夫を演じていましたが、栁俊太郎さん演じる夫・日野 透についてどう思っていらっしゃいますか。

 

高梨 私も野村くんが演じるSeason1の夫は、なかなかインパクトがある夫だなと思いながら見ていました(笑)。栁くんは以前共演したことはありますが、向かい合って一緒にお芝居するのは今回が初めてなんです。ちょっと影があるところがすごく魅力的な方なので、幸せなところから始まり、だんだんと様子がおかしくなっていく2人を演じる過程で、化学反応が起きればいいなって思っています。

 

──栁さんご自身の印象はいかがでしょうか。

 

高梨 この作品では写真撮影が初めてのご一緒させていただく現場でしたが、スタジオに入ってきた瞬間から、スタイルが良くてオーラがすごくて。こんなにスタイリッシュな夫、すごく楽しみって思いました(笑)。お芝居に関しては、やりながら2人でいろいろとアイデアを出して、いい感じに生み出していければいいなと思っています。

 

──Season1は夫の弱いところを的確に狙って、ダメージを与える分かりやすい復讐を面白く見ていました。Season2はどんな復讐劇になりそうでしょうか。

 

高梨 原作ともちょっとストーリーが変わっていますが、タイトルどおり、夫の弱い部分をじわじわとせめて社会的な痛手を与えていくのはSeason1と共通しています。夫の透は社会的地位みたいなものを一番気にしているので、その部分を傷つけられることが一番感情にグサッと刺さるんですよね。そういうじわじわ攻めるような復讐劇が1つ、2つと展開されていくのが面白いし、爽快な部分もあり、楽しんでいただけるのではないかと思います。

 

次々に登場する怪しい人物たちの行動を見ながら推測してほしい

──だんだん復讐そのものを楽しむようになっていく妻の姿も見どころになりそうですね。

 

高梨 美咲の復讐は、最初は悲しみを抑えられずに始まるけれど、復讐していくことによってパワーみたいなものが自分の中に生まれてくるんでしょうね。果たしてそれでいいのか、幸せなのかと台本を読みながら考えさせられました。

 

──ステイタスのようなものに固執する人間を社会的地位から失墜させるのは、精神的にダメージを与える一番の方法かもしれないですね。

 

高梨 私も外で働いている人間として、周りにどう見られているか気になったり、気にしていないようでも承認欲求みたいなものももちろんあると思うんです。なので、社会的評価をどんどん下げられることって、生きている上で一番つらいことなんじゃないだろうかって思いました。

 

──登場人物が全員怪しくて、最終回まで気になる展開が続きそうですね。

 

高梨 みんながみんな怪しいですよね。その辺りは原作とはまた違うお話になっているので、原作を読んでいらっしゃる方も「どうなるんだろう」って、次々に登場する怪しい人物たちの行動を見ながら推測していただいて。それもこのドラマの楽しみの要素になっていると思います。

 

ウェアをカラフルにしたり、普段はしないような格好ができるのが楽しい

──それではここからは高梨さんがハマっているモノやコトについてお聞かせください。今まさにハマっているものって何かありますか。

 

高梨 今はゴルフです。寒くなってきましたが、お休みの日に月2回ぐらいは行っています。

 

──ハマったきっかけは?

 

高梨 コロナ禍でなかなか外に出られず、仕事も休みになって時間ができたところから始まりました。早朝に起きて、自然に囲まれた木がたくさん植えられた場所で運動するのが気持ち良すぎて。そこからどんどんハマっていきました。

 

──もともとスポーツはお好きなんですか?

 

高梨 はい、大好きです。走るのもすごく好きで、いつも家の近所を走っています。中学生ぐらいのころから駅伝とかやっていました。ランニングはずっと続けている趣味ですね。

 

──ゴルフやランニングするときに着るウェアにこだわりはあったりしますか。

 

高梨 とにかくゴルフなら派手な服が着られるみたいなところはありますね。短いスカートを履いて調子に乗っているんですけど(笑)。それはゴルフだから着られるっていうくらいのウェアがすごく好きです。ランニングウェアもそうですけど、カラフルにしたり、普段はしないような格好ができるのが楽しいです。

 

「乙女のポリシー」は走るペースにちょうどいい

──ランニングするときに音楽を聴いていらっしゃいますか。

 

高梨 普段走るときは聴いています。フルマラソンを走ろうと思って、真剣に走っていた時期があって、その頃は曲も聴かずにタイマーだけ持ってストイックに走っていましたが、今はリラックスするために好きな曲を聴きながら走っています。

 

──走っているときに気持ちいい曲は?

 

高梨 そのときにハマっている曲を聴いています。あとは「美少女戦士セーラームーン」の「乙女のポリシー」。子供のころ、すごく好きで聴いていたんですけど、走るペースにちょうどいいのでよく聴いています。

 

──ではお仕事のときに必ず持っていくものはありますか。

 

高梨 私、特に何もこだわりがないんですけど、時間が空いたときは永遠にケータイアプリでパズルゲームをしています。パズルゲームって、本当に何も考えないのがすごく楽なんです。ゲームをやりながら、セリフを覚えたりもします。パズルしながらセリフを読むと、すごく脳が楽なんですよね。どこかで脳をリセットしながらセリフを入れているんでしょうね。

 

 

(C)テレビ東京

ドラマチューズ!
「夫を社会的に抹殺する5つの方法 Season2」

1月9日(火)スタート テレ東ほか 毎週(火)深夜24・30~25・00

 

(STAFF&CAST)
原作:「夫を社会的に抹殺する5つの方法」アップクロス・三田たたみ/CLLENN
監督:上村奈帆、的場政行
脚本:上村奈帆
出演:高梨 臨、栁 俊太郎、桜井玲香、工藤 遥、市村優汰、稲葉 友、藤田朋子、佐戸井けん太

【公式HP】https://www.tv-tokyo.co.jp/otosatsu2/
【公式X(Twitter)】@tx_otosatsu https://twitter.com/tx_otosatsu
【公式Instagram】@tx_otosatsu  https://www.instagram.com/tx_otosatsu/
【公式TikTok】  @tx__otosatsu  https://www.tiktok.com/@tx__otosatsu

(C)テレビ東京

 

撮影/映美 取材・文/佐久間裕子 ヘアメイク/高取篤史 スタイリスト/岡本純子

新春振り袖インタビュー! 森山みつき「2024年は、さらに全国を“どアホウ”にしたい!」映画「野球どアホウ未亡人」

クセがすごすぎるギャグや読めなすぎる展開が話題となり、昨年8月の公開からリピートを重ねる「どアホウ」が増殖中の「キャスト8人の野球映画」こと、『野球どアホウ未亡人』。異常な盛り上がりの応援上映が行われ、再上映が行われたかと思えば、4か月近くロングラン上映する映画館が現れるなど、謎すぎる作品で主演を務めた森山みつきさんが、再び登場! 前回(https://getnavi.jp/entertainment/901967/)のインタビューから4か月余り。前回のユニフォーム姿から一転、可憐な振り袖姿で、「どアホウ」現象を振り返りつつ、2024年の意気込みについて語ってくれました。

 

森山みつき●もりやま・みつき…11月3日生まれ。大阪府出身。森永乳業アロエヨーグルトのCMなどで活躍後、21年に「共振」で映画デビュー。22年に「REVOLUTION+1」に出演するほか、主演を務めた「死後写真」ではイタリアの映画祭「Sipontum Arthouse International Film Festival」にて最優秀女優賞を受賞している。X(旧Twitter)Instagram

 

【森山みつきさん撮り下ろし写真】

 

地方の劇場のお祭り・歓迎ムードがすごかった!

──都内(池袋シネマ・ロサ)での上映が終了し、9月から愛知(刈谷日劇)と大阪(シアターセブン)など、地方での上映が始まりました。初日舞台あいさつなどで訪れて、いかがでしたか?

 

森山 ロサさんのときは、私たちの方から「観に来てください!」とお客さんにお願いして、口コミで広まっていきましたが、愛知も大阪も、事前に地元のラジオ番組で取り上げてくださったこともあり、「待ってました!」な感じのお祭り・歓迎ムードがすごかったです! 刈谷(日劇)さんは劇場の入口を装飾した「どアホウゲート」を作ってくださって我々よりも“どアホウ”を追求してくださっていて感動を覚えましたし、私の地元・大阪にある(シアター)セブンさんは、20歳のときに人生で初めて行ったミニシアターだったんです。

 

──森山さん初のミニシアター体験は、何の作品だったんですか?

 

森山 大好きな満島ひかりさんが主演した「海辺の生と死」でした。まさか自分の主演映画で、ここに戻ってくるとは思いませんでしたし、ドキドキしながら映画館に入った思い出もよみがえりました。さらに映画「死後写真」と合わせて主演映画2作同時公開、通称「もりや祭り」でも盛り上げてくださって、全く毛色の違う両作をハシゴして違いを楽しんでくださる方が多くてうれしかったです。11月には長野(千石劇場)でも上映されたんですが、歴史を感じさせるレトロな映画館での上映も、どこか感慨深かったです。大阪ではチラシ配りをするために、ユニフォーム姿で甲子園球場にも行き、海外の方と国際交流もできました。あと、地方に行くと、ファンの方がお菓子や袋麺など、地元の名産をプレゼントしてくださるので、東京に戻るときはスーツケースがパンパンになるんですよ(笑)。

 

──さらに10月には、東京・新宿ロフトプラスワンにて、映画を観ながらツッコミを入れる応援上映「野球どアホウ未亡人+1」が開催されました。

 

森山 「どうしていいか、分からない空気感の中、皆さん探り探りになるのかな?」と思っていたんですが、全く心配無用でした! 映画が始まる前から「みんな、声出していくぞー!」という部活ノリがすごくて、こっちが圧倒されましたし、お客さんのツッコミに逆に笑っちゃう感じでした。映画を観ているお客さんの顔を横から見られたのですが、皆さん本当にいい顔されていたし、私が演じた夏子が必殺技を決めたときに、場内が大歓声と拍手で包まれたりして、本物のスポーツ観戦のようで楽しかったです。

 

──3月には、大阪ロフトプラスワンWESTにて、第二回応援上映「野球どアホウ未亡人-1.0」が開催されます。

 

森山 今度もライブハウスが会場ですし、やはりお酒を飲みながらの応援上映は楽しいと思うんですよ。あえて、野次を飛ばしに行くというか、ストレス発散するために行くぐらいの感覚で、遊びにきてもらえたらうれしいですね。

 

お客さんの感想によって、映画の輪郭がハッキリしていった

──そして、11月には「第33回映画祭TAMA CINEMA FORUM」に参加されました。

 

森山 21年のカナザワ映画祭、22年の福岡インディペンデント映画祭以来の映画祭への参加だったんですが、ステージ上にお花が置かれていたり、初めて映画を観るお客さんもかなりいたり、いつものホームというか、緩い雰囲気とは違ったので(笑)、「ちゃんとしなきゃ」「しっかりしゃべらなきゃ」という身が引き締まる気持ちになりました。

 

──そして、12月の「MOOSIC LAB 2024」や池袋・新文芸坐での上映、年末年始のシアターセブンでの再上映や神戸・元町映画館の上映に続き、ついに1月13日(土)から池袋シネマ・ロサでの再上映が始まります。それを祝し、劇場の外看板を「野球どアホウ未亡人」が飾り、場内では振袖姿の森山さんの巨大タペストリーが迎えます。

 

森山 外看板のインパクトはすごいですよね……! 池袋の街中に突如としてあのビジュアルが現れるわけですから……実際に普段映画を見なさそうな方からも反応があって、これを機にミニシアターに初めて足を運ぶ方がいてくれたらなぁなんて夢見たりしています(笑)。着物も何枚か持っているほど和装は好きで、無条件にテンションが上がるので、事あるごとに着たくなるんですよ。今日、着付けていただいた(スタイリストの)CHAM TEDUKAさんの着物モデルも、一度させてもらったこともあるんです。

 

──このような広がりから、森山さん自身の「野球どアホウ未亡人」に対する捉え方は変わりましたか?

 

森山 作品を観てくださる人が増えていく中で思ったのが、お客さんの感想によって、映画の輪郭がどんどんハッキリしていったことです。作品を作っているときって、自分たちが面白いと思っていても、確かじゃないというか、どこかモヤモヤしている感じだったんですよ。でも、お客さんが「こういうところが面白い!」「こういう楽しみ方ができる!」といったことをどんどん発見してくださることで、「実はこういう映画だった」と教えてもらっているような気がします。それこそ、「私は野球だ」というワードも名言に思えてくるんですよね(笑)。

 

──今後、どのような展開に期待したいですか?

 

森山 まだまだ知られていないなか、すでに上映した場所でさらにどれだけ広げられるか? というフェーズにも入ってくると思うので、逆にめちゃくちゃ酷評されても面白いかなとも思うんですよ。今までいい意見がほとんどだった中で、そういう意見が出てきたら、こんな見方もあったのか! とよりこの映画のことが分かるような気がします。そんな状況が起こるぐらい、普段こういった映画に触れない方々にまで広い範囲に届けたいです。そして、北海道から沖縄まで、できるだけ多くの映画館に舞台あいさつに行って、全国どアホウ化計画を進行したいです!(笑)

 

乗馬ライセンスを活かせる役を演じたい!

──また、森山さんの趣味についてもお聞きします。劇中で披露した歌唱力の評価も高いですが、もともと音楽をやられていたんですか?

 

森山 私はずっと掲げている夢に「音楽映画とアクション映画に出たい」というものがあって、もともと音楽映画が好きだったんです。小学生の頃は「ハイスクール・ミュージカル」や「オペラ座の怪人」をよく観ていて、その後は「さよならくちびる」「味園ユニバース」「サヨナラまでの30分」といった作品が好きでした。でも、私自身は特に、楽器をやっていたとか歌のレッスンを受けていたわけではないんです。

 

──そんななか昨年10月に、Instagramに「野球どアホウ未亡人のテーマ」をギターで弾き語りしている動画が突然アップされました。

 

森山 「野球どアホウ未亡人」に出演した22年に、実はスリーピースガールズバンドの映画の出演が決まっていたんです。最終的に撮影前に企画が流れてしまったんですが、その役作りでギターレッスンを受けて、そのときはASIAN KUNG-FU GENERATIONの「ソラニン」とか、きのこ帝国やHump Backの楽曲をカバーしていました。映画の話が流れた後もギターの練習はしていて、スタジオに入ったときに「持ち歌あるじゃん!」と、「野球どアホウ未亡人のテーマ」をカバーしたんです。あれはそのときの動画をアップしたんです。

 

──そんなわけで、2月11日のシネマート新宿での上映で「森山さんの弾き語りライブ」が行われることも決定しました。最後に2024年の抱負を教えてください。

 

森山 昔から馬好きで、念願の乗馬ライセンスを昨年取ることができたので、それを活かせるような役柄を演じたいです。そういう意味では商業映画にも出演したいですし、地方に住んでいる家族や友だちが気軽に見られるドラマやCMに出る機会もさらに増やせたらうれしいですね。

 

 

野球どアホウ未亡人

1月13日(土)~26日(金)東京・池袋シネマ・ロサにて、カムバック上映
2月4日(日)長野・松本シネマセレクトにて上映

2月11日(日)「MOOSIC LAB 2024」東京・シネマート新宿にて上映(森山さんのミニライブあり)
3月2日(土)「野球どアホウ未亡人-1.0」」(応援上映+トーク)大阪ロフトプラスワンウエストにて上映

【映画「野球どアホウ未亡人」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
監督:小野峻志
脚本:堀 雄斗
プロデューサー:堀 雄斗
出演:森山みつき、井筒しま、秋斗、工藤潤矢、田中 陸、関 英雄、柳 涼、藤田健彦

(STORY)
夫の賢一(秋斗)を支える貞淑な妻・夏子(森山みつき)。ある日、草野球に出かけた賢一が突然亡くなり、絶望のなかで暮らす夏子だったが、賢一が所属していた草野球チーム・多摩川メッツの監督・重野(藤田健彦)から野球の才能を見いだされる。賢一の残した借金を返済するため、野球を始めることになった彼女は、重野からの激しい特訓を重ねるうちに、野球の快楽性にとりつかれる。さらに、義妹の春代(井筒しま)やプロ野球スカウトマンの古田(工藤潤矢)ら一癖も二癖もある人物に囲まれ、夏子は歩みを進めていく。

公式Twitter:https://twitter.com/ONOKANTOKU

 

撮影/河野優太 取材・文/くれい響 スタイリスト/GHAM TEDUKA

芳根京子「常に前の年を超えたいです。2024年も年末に心残りがないよう “今年もやりきったぞ!”って思える一年にしたい」映画「カラオケ行こ!」1・12公開

変声期に悩む合唱部の男子中学生・聡実と歌がうまくなりたいヤクザ・狂児の交流をコミカルに描いた、和山やま氏の人気コミックを綾野剛さん主演で映画化した「カラオケ行こ!」が1月12日(金)より公開。映画オリジナルキャラクターである合唱部の副顧問・森本ももを演じる芳根京子さんが、大きな転機となった初主演ドラマの思い出を振り返りながら、自身初となる教師役について語ってくれました。

 

芳根京子●よしね・きょうこ…1997年2月28日生まれ。東京都出身。2016年NHK連続テレビ小説「べっぴんさん」でヒロインを演じた。以降、映画「累 -かさね-」(2018年)、「Arc アーク」(2021年)、ドラマ「それってパクリじゃないですか?」「オールドルーキー」など多くの作品に出演。2018年には、「累 -かさね-」「散り椿」で第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。現在、デビュー10周年記念写真集「京」(ワニブックス)が発売中。Instagram

 

【芳根京子さん撮り下ろし写真はこちら】

 

「表参道高校合唱部!」は、私にとってもファンの方にとっても大切な作品

──人気コミックの映画化で、芳根さん演じる森本ももは、映画オリジナルキャラクターになります。オファーを受けた時はいかがでしたか?

 

芳根 「原作にないオリジナルのキャラクターです」と言われたら普段ならどこか不安というか、「原作のファンの方にどう思われるかな?」とか思ってしまう気がするんです。でも、山下敦弘監督と脚本家の野木亜紀子さんが組まれる作品に出演するのは、ドラマ「コタキ兄弟と四苦八苦」に続いて、今回が2作目になります。なので「お二人が私に任せてくださった役が楽しみ!」と純粋にうれしい気持ちでいっぱいでしたし、台本も楽しく読ませていただきました。

 

──森本ももは、中学校の合唱部副顧問という設定です。芳根さんが合唱部員を演じ、初主演された連ドラ「表参道高校合唱部!」(以下、オモコー)から8年後に、このような役柄を演じるには感慨深いです。

 

芳根 「ついに、先生役を演じるときが来たか!」とうれしかったですし、合唱部の話と言えば、やっぱり自分の役者としてのキャリアの中で「オモコー」という大きな作品があるので、そういったご縁を感じられたこともうれしかったです。あの頃の出来事は、今でも強く心に刻み込まれていて、鮮明に覚えているんですよ。

 

──そんな「オモコー」出演当時の思い出を教えてください。

 

芳根 「オモコー」はいろんな意味で、自分にとって転機となった作品です。16歳で女優デビューして2年ほどで連ドラの主演をやらせてもらう重みやプレッシャーみたいなものもありましたし、とにかく経験値爆上がりの現場でした。昨年デビュー10周年を迎えて、その10年を振り返っても、やっぱり「オモコー」っていうドラマは外せないですね。9月に、初めてのファンイベントをやったときも、「『オモコー』からずっと好きです!」というファンの方が本当に多くて……! だから、私を応援してくださる方にとっても、大切な作品だったと思います。

 

こんなにもうれしいご縁が重なるんだ!

──志尊 淳さんや高杉真宙さんなど、一緒に合唱部員を演じた俳優さんの現在の活動は、やはり気になりますか?

 

芳根 例えば、ネットの情報解禁のニュースで皆さんのお名前を見かけると、やっぱり見ちゃいますし、「うれしい!」とか「私ももっと頑張らなきゃ!」と思います。もちろん「またご一緒したい!」とも強く思うので、今でも「オモコー」のメンバーは仲間であり、ライバルであり、本当にかけがえないない存在だと私は勝手に意識しています(笑)。ときどき、ほかの現場でもお会いすることもあるんですが、どこか同窓会のようで、「どんなふうにしゃべったらいいんだっけ?」って、ちょっと照れ臭くなりますね。

 

──ちなみに、「オモコー」で主題歌「好きだ。」を担当していたLittle Glee Monsterは、「カラオケ行こ!」では主題歌として、X JAPANの「紅」をカバーしています。

 

芳根 この作品に参加させてもらうことが決まったときもうれしかったですけれど、「山下監督と野木さんの映画、うれしい!」「『オールドルーキー』でご一緒させていただいた綾野さんが主演、うれしい!」「合唱部の設定、うれしい!」ときて、「主題歌リトグリちゃん、うれしい!」ですからね。「こんなにもうれしいご縁が重なるんだ!」と思いました。リトグリちゃんとは試写会で一緒に作品に見たんですが、「また皆さんとご一緒させていただいてうれしかったです」とごあいさつさせていただきました。

 

──劇中、ももはピアノを弾き、関西弁もしゃべりますが、役作りはいかがでしたか?

 

芳根 どの角度からもカメラで撮られていいよう、ピアノはたくさん練習しました(笑)。幼稚園から高校生ぐらいまでは、レッスンに通っていたんですが、この仕事を始めてからは、ほとんど弾いてなかったんです。それで、今回演奏する楽譜をいただいたら、“昔やっていました”程度の人間には弾けるような曲ではなかったので、1日6~7時間の練習を2か月間ぐらい続けました。関西弁も確かに大変でしたけれど、あの頃は「私は音大に通っているのかも?」と錯覚するような生活を送っていましたね(笑)。

 

「今年もやりきったぞ!」って思える一年にしたい

──もものちょっと抜けた天然キャラクターについては?

 

芳根 山下監督からは「芳根ちゃん、そのまんまでやって!」と言われたんですよ。なので、あんまり考えずに、ももが発するセリフに無理ない程度に、能天気なキャラを演じさせてもらいました。いいのか悪いのかは別として、もも自身はそんなに責任感が強いキャラではないですし、生徒の皆さんと同じ目線に立てる人でいたいなと思いました。私は実際に合唱部員だったことはないですが、「オモコー」での経験を思い出しながら、ももの気持ちを作っていきました。

 

──ちなみに、8年前の「オモコー」の合唱部と今回の合唱部の雰囲気の違いは?

 

芳根 「オモコー」のメンバーは、最年少だった私が高校卒業したぐらいだったんです。堀井新太さんは5歳ぐらい上でしたし。今回の合唱部の皆さんは聡実役の齋藤 潤くんをはじめ、現役の中高生だったので、とにかく若くて、エネルギッシュで、キラキラしていました。先読みみたいなことはなく、純粋に真っすぐ突き進んでいる姿がまぶしく感じました。「私はちゃんと年齢を重ねているし、そりゃ、先生になるわ」と改めて思いましたね(笑)。

 

──完成した映画をご覧になったときの感想は?

 

芳根 私は綾野さんたちとの絡みがなかったので、「自分の教え子が、こんなことになっていたなんて!」というか、ももが知らない大人たちの世界がいっぱい描かれていて、純粋に楽しませてもらいました。綾野さんがカラオケで「紅」を歌うシーンなど何度も笑わせてもらいつつ、この作品に参加させてもらえたぜいたくさを感じさせてもらいました。

 

──最後に、2024年の抱負を教えてください。

 

芳根 毎年のように思っていることですが、常に前の年を超えたいです。それは別に作品の数や量ではなく、目の前の作品に精いっぱい向き合い、年末に心残りがないよう「今年もやりきったぞ!」って思える一年にしたいですね。

 

カラオケ行こ!

1月12日(金)より公開

(STAFF&CAST)
監督:山下敦弘
原作:和山やま
脚本:野木亜紀子
出演:綾野 剛、齋藤 潤、芳根京子、橋本じゅん、やべきょうすけ、吉永秀平、チャンス大城、RED RICE、八木美樹、後 聖人、井澤 徹、岡部ひろき、米村亮太朗、坂井真紀、宮崎吐夢、ヒコロヒー、加藤雅也、北村一輝

(STORY)
合唱部部長の岡聡実(齋藤)はヤクザの成田狂児(綾野)に突然カラオケに誘われ、歌のレッスンを頼まれる。組のカラオケ大会で最下位になった者に待ち受ける“恐怖”を回避するため、何が何でも上達しなければならないというのだ。狂児の勝負曲はX JAPANの「紅」。聡実は、狂児に嫌々ながらも歌唱指導を行うのだが、いつしかふたりの関係には変化が……。聡実の運命や如何に? そして狂児は最下位を免れることができるのか?

公式HP:https://movies.kadokawa.co.jp/karaokeiko/

(C)2024『カラオケ行こ!』製作委員会 (C)和山やま/KADOKAWA

 

撮影/映美 取材・文/くれい響

12年ぶりにタクミくんシリーズが新キャストで映像化!森下紫温&加藤大悟「タクミとギイの世界をさらに作り上げていきたい」Blu-ray&DVD発売中

累計500万部を超える人気ボーイズラブ小説を、新たなキャストで映画化した『タクミくんシリーズ 長い長い物語の始まりの朝。』(Blu-ray/DVD発売中)。劇中、人間接触嫌悪症の託生(タクミ)と誰よりもひと際目立つ存在の義一(ギイ)を演じた森下紫温さんと加藤大悟さんが、お互いの初対面の印象からプライベートに迫ったエピソードまで語ってくれました!

 

【森下紫温さん&加藤大悟さん撮り下ろし写真】

 

紫温こそ、自分が求めているタクミそのもの

──お2人はオーディションで抜擢されたとのことですが、そのときのお互いの印象を教えてください。

 

加藤 僕が先にギイ役に決まって、タクミ役を決めるオーディションにも立ち会わせてもらったんですが、紫温と台本読みしたときに、なんか間がしっくりしたというか、相性も良かったし、「彼こそ、自分が求めているタクミそのものだな」と勝手に思えたんです。それは周りの方々の意見も同じだったようで、紫温に決まって良かったです。

 

森下 最終オーディションで、初めて大悟くんにお会いしたんですが、緊張感に包まれて、ちょっと重い空気の中、大悟くんのテンションがやけに高かったんですよ(笑)。一瞬で、明るい空気に変えてくれて、本当にギイみたいで。だから、一緒に台本読みしたときも、ギイのイメージがしやすかったし、声のトーンや話し方も僕がイメージしていたギイと近くて、とてもやりやすかったです。

森下紫温●もりした・しおん…2002年10月25日生まれ。静岡県出身。『タクミくんシリーズ 長い長い物語の始まりの朝。』のW主演に抜擢。ミュージカル「テニスの王子様」4thシーズン 青学vs六角や、舞台「ナナシ-第七特別死因処理課-」などに出演。 X(旧Twitter)Instagram

 

──12年ぶりに復活した、人気シリーズのキャラを演じることについては?

 

森下 これは大悟くんが言っていたことですが、「とても歴史の長い作品で、多くのファンの方がいて、十数年前に実写化されているけれど、それを参考にしすぎたり、物まねをしたりするんじゃなくて、森下紫温にしか出せないタクミくんと加藤大悟にしか出せないギイにしたい」って……。その言葉を聞いたとき、なるほどと思ったんです。自分の個性を消してしまってはダメだから、自分にしか出せないタクミくんを考えながら演じなきゃなと。具体的には、台本を読んだときに自分が感じた声色や言い方、表情や動きを大切にして演じました。

 

加藤 せっかく新しいタクミとギイに選んでいただいたので、過去の作品にリスペクトを持った上での反骨心というか、やっぱり負けたくないじゃないですか! 一役者として、自分たちの作品が、「タクミくんシリーズ」で一番良かったって思われたいですし。だから、紫温にそういうことを言ったんですが、常にそういう気持ちを持っていないと、役者をやっている意味がないと思うんですよ。

 

シリーズを経ていくことで、一緒に成長していきたい

──お2人とも映画初出演だったことに対するプレッシャーは?

 

森下 僕に関しては、映画どころか、初めての映像の仕事で、本当に経験値ゼロだったんです。なので撮影が近づくにつれて、緊張や不安でいっぱいでした。撮影前日も全然眠れなかったですし、現場では常に手探り状態でした。共演者の方の芝居を見て、それに対する監督の演出を聞きながら、「自分はこうしてみよう!」と試して、トライアンドエラーを繰り返すような感じでした。

 

加藤 僕はずっと舞台をやらしていただいて、ちょっとした映像には出演させていただいたこともあるんですが、映画は全くの初めて。映像の芝居は舞台と違いますし、生ものな舞台と違って、ラストシーンを初日に撮影したり、気持ちの作り方も違うので、やっぱり戸惑いもプレッシャーもありましたし、実際難しかったですね。

加藤大悟●かとう・だいご…2000年9月19日生まれ。愛知県出身。主な出演作は、「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-」、舞台「魔法使いの約束」、ミュージカル「刀剣乱舞」、舞台「漆黒天 -始の語り-」など。X(旧Twitter)Instagram

 

──2023年5月に劇場公開されたときのファンの方からの感想や反響はいかがでした?

 

加藤 それでこそ、いろんな意見がありましたが、僕の中の最高にうれしい感想があって、それは勝ち負けじゃなくて、「前と違って、今もいいよね」というものなんです。「この2人が今、作り上げる『タクミくんシリーズ』も素晴らしかった」っていう意見は本当にありがたかったですし、どこかでやってやった感もありました。

 

森下 ファンの方の反応やコメントはいろいろ見ましたし、親とか身近な人からもありがたい意見も聞きましたが、自己評価としては「もっとうまく表現できたんじゃないか?」「もっとこうしたら、タクミくんの良さが出たんじゃないか?」といった反省点もあるんです。でも、ちょうど1年前に撮影していたこの作品は、そのときの自分の気持ちや心境も映し出していると思うし、シリーズを通した成長物語でもあるので、タクミくんの成長と自分の成長がリンクしているとも捉えています。だから、シリーズを経ていくことで、僕も一緒に成長していきたいです。

 

先輩からの「飯行くか!」の言葉はうれしいし、ありがたい

──それだけに、続編に対する思いや意気込みは、かなり強いですね。

 

加藤 もし、今後そういったシリーズ化のお話があるなら、すごくやりたいです。僕としても、初の主演映画なので、紫温と一緒に、さらにタクミとギイの世界を作り上げていきたいという気持ちは強いです。

 

森下 それは僕も同じ気持ちです。僕にとっても、初出演・初主演をやらせていただいた作品ですが、役者としての初めの一歩でもあるし、シリーズとしての始まりの物語なので、大悟くんを始め、キャストの方と、またご一緒したいと願っています。

 

──仲が良い雰囲気が伝わりますが、プライベートでも食事とか行かれるんですか?

 

加藤 はい、行きます。僕が役者として、新たな人生の一歩を踏み出したとき、いろんな先輩にすごく面倒を見てもらったんです。自分が行き詰まっているときの、先輩からの「飯行くか!」という誘いの言葉って、すごくうれしくて、ありがたいんですよ。そういう先輩のかっこいい背中を見て育ってきたので、僕もいい先輩になれたらいいなっていう思いもあって、ちょいちょい紫温を誘っています。

 

森下 カラオケにも一緒に行きましたよね? 実は撮影前の段階から「今度、ウチで一緒に台本読みしようよ」と誘ってくださったし、僕自身「今度、ご飯連れてってくださいよ」とはなかなか言えないキャラなので、大悟くんからいろいろアクションを起こしてくれて、とても助かっています。だからこそ、ギイのイメージも作りやすかったのかもしれません(笑)。

──今、お気に入りのモノやアイテムについて教えてください。

 

加藤 コアマンさんから出ているシーバス(スズキ)釣り用のルアー「VJ28バイブレーションジグヘッド」ですね。シーバス・アングラー(釣り人)なら絶対に持っておきたい最強のワームルアーなので人気があり、地元の名古屋では全然売ってなかったんですが、ふらっと入った東京のお店で見つけて即買いしたんです! 1か月ぐらい前に買って、2回ほど使いましたが、まるで本物の魚のような動きをするんですよ。……でも、まだ釣れていません(笑)。ルアーは実家にあるものを含めると40個ぐらいありますが、今一番のお気に入り。今まで釣り上げたシーバスの最長は58㎝ですが、これで80㎝ぐらいのものを狙いたいです。

↑加藤さん愛用のルアー

 

森下 リップ、アイシャドー、アイライナー、コンシーラーなど、軽いメイク用具は欠かせないですね。BTSなど韓国アイドルが好きで、プライベートでもよくメイクしますし、この間出演した作品でも自分でメイクしました。ブランドにはあまりこだわりがないんですが、自分の肌のパーソナルカラーがイエベ(イエローベース)秋なので、それに合ったメイク用具を探すのが楽しいです。服選びもイエベ秋を基準にしていますね。ただ、「タクミくんシリーズ」の祠堂学院高等学校の制服はパキッとした水色なので、イエベ秋とあまり相性が良くないんですよ(泣)。

↑森下さんの必需品・化粧ポーチ

 

加藤 ちなみに、僕のパーソナルカラーは、制服の水色がいちばん映えるブルベ(ブルーベース)夏です(笑)。

 

 

タクミくんシリーズ 長い長い物語の始まりの朝。

Blu-ray/DVD発売中

Blu-ray 初回生産限定版 6,800円(税込)
DVD初回生産限定版 5,800円(税込)

◆初回生産限定版特典(BD・DVD共通)
特典映像 メイキング、舞台挨拶 約80分
(特典映像はDVDディスクの収録になります)
特典音源:オーディオコメンタリー
特典CD:サウンドトラック、主題歌「0%(movie ver.)」
三方背ケース

(STAFF&CAST)
監督:横井健司
原作:ごとうしのぶ
原作イラスト:おおや和美
脚本:金杉弘子
出演:森下紫温、加藤大悟、中山咲月、高橋璃央、野口友輔、植村颯太、永島龍之介、坪倉康晴、木津つばさ

公式HP:https://takumi-kun.jp/

(C)2023 ごとうしのぶ/KADOKAWA・「タクミくんシリーズ」製作委員会

 

撮影/映美 取材・文/くれい響 ヘアメイク/伊東真美 スタイリスト/扇野涼子(森下)、MASAYA(加藤)

松雪彩花「何が起きても動揺せず、自信を持って情報を伝えていくことは、視聴者に安心感を与えるためにも心がけています」ウェザーニュースキャスター連載・第18回

24時間365日、最新の気象・防災情報を発信し続ける「ウェザーニュースLiVE」。YouTubeの登録者数は113万人を超え、日々の生活を支えるコンテンツとして、ますます多くの人に愛されています。この番組を毎日生放送でお届けしているのが気象キャスターたち。GetNavi webではそんな皆さんの活動を紹介するとともに、それぞれのプライベートな一面に迫った連載「夕虹は晴れ! ウェザーニュースキャスター」を展開してきましたが、このたび短期集中連載として復活。今回は今年5月に復帰された松雪彩花キャスターにご登場いただき、復職されたときの心境や気象キャスターという仕事に懸ける思いを伺いました。

 

<ウェザーニュースLiVE×GetNavi web連載>

連載「夕虹は晴れ! ウェザーニュースキャスター」一覧はこちら

 

松雪彩花●まつゆき・あやか…1991年9月6日生まれ。埼玉県出身。0型。ウェザーニュース気象キャスター。2014年にウェザーニューズ入社。現在、同社が配信する「ウェザーニュースLiVE」の気象キャスターとして活躍中。趣味・特技は映画鑑賞、料理、クラシックバレエなど。X(旧Twitter)Instagram

 

【松雪彩花さん撮り下ろし写真】

復帰初日は平常心が保てず、反省ばかりでした

──少し期間が空いてしまいましたが、短期集中連載の3回目は、小川千奈キャスターから松雪キャスターへのバトンとなります。松雪さんから見て小川さんはどのようなキャスターですか?

 

松雪 せんちゃん(小川)はすごく素直な子ですね。その素直さは番組にも表れていますし、飾らずに自分の言葉でちゃんと伝えているという魅力や良さは視聴者にも届いているはずなので、このまま変わらず真っすぐなキャスターでいてほしいなと思います。

 

──なお、小川キャスターから松雪さんへのメッセージとして、「すべてが大好きです!」、「《シャケ子姉さん》と《梅子》として動画の共演までさせてもらったのは一生の思い出です」との言葉を承っております。

 

松雪 私が復職してすぐぐらいに一緒に動画を撮ったんですよね。せんちゃんはなぜか初対面のときから、私のことをすごく好いてくれていて(笑)。まさにあの動画撮影を境に、より一層、「あやちさん! あやちさん!」って寄ってきてくれるようになりました。社内でばったり会っても、「あやちさん、どこに行くんですか? 私も一緒に行きます!」「あやちさん、一緒にコンビニ行きましょう!」って着いてくるのが本当にかわいくて。あいりんさん(山岸愛梨キャスター)や私にくっついて、いろんなことを吸収しているんだと話していました。

 

──番組引き継ぎのクロストークで松雪さんを見る目が完全にハートになっているときもありますよね。

 

松雪 最近は私とせんちゃんのクロストークのことを“ファンミーティング”と言われています(笑)。でも、せんちゃんに限らず、ウェザーニュースLiVEのキャスターになる子はみんな優しさに溢れているなって思いますね。社内で顔を見たら、先輩後輩関係なく友達のようにおしゃべりをしますし、誰かの誕生日になると、それぞれがプレゼントの渡し合いをしていて。どうやったらこんなにいい子たちばかりが集まるんだろうって、不思議に思います。

 

──特に松雪さんにとっては、お休みをされる前と後ではキャスターの顔ぶれが大きく変わっていたので、新鮮さもあったのではないかと思います。

 

松雪 そうですね。今出演しているキャスターでいえば、私の先輩はもう、あいりんさんしかいないんです。私の入れ替わりでゆかりん(白井ゆかりキャスター)清音さん(江川清音キャスター)がお休みに入られましたし。それもあって、最初は“はじめまして”のキャスターさんに先輩としてしっかりとしたところを見せられるかすごく不安でした。私が担当する番組の時間帯も、お休み前は夜帯が多かったんですけど、復帰後はお昼に変わりましたし、そのことで夜の番組が多いあいりんさんともほとんど会社内で会えませんでしたから。

 

──確かに、後輩ばかりの環境というのは違ったプレッシャーがかかりそうです。

 

松雪 でも、そこに愛に溢れたせんちゃんが目の前に現れてくれたので、“あ〜、大丈夫だ!”と思えたんですよね(笑)。最初の数日間は不安になるときもありましたけど、今は全くそんなことはないですし、楽しく働かせてもらっています。

 

──復職された日の心境はいかがでしたか?

 

松雪 めちゃくちゃ緊張していました(苦笑)。それまで1年半ほどお休みをいただいていたので、天気を確認し、視聴者に解説するという脳の部分を全く使っていなかったんです。ですから、“自分がこれまでどんな言い回しをしていたんだろうか”とか、“全国のお天気を伝えるときってどういう順番だっけ?”とか、そうした感覚を取り戻すまでにしばらく時間がかかりました。

 

──復帰される前に少し研修をされたとか。

 

松雪 はい。2日間やりました。本当は1日だけだったんですけど、私の方から「さすがに1日だけじゃ怖いです」とお伝えして(苦笑)。それに、私がお休みしている間にスタジオが変わって、広くなっていたんですよね。当然、新しいスタジオは生放送で使っているので、そこで練習するわけにもいかず。初めて新しいスタジオの席に座ったのが復帰初日の5月4日でしたので、そうしたドキドキもありました。

 

──そうだったんですね。となると、カメラの位置とかも全然分からなかったのでは?

 

松雪 全く! なんとなく、“このカメラかな?”と思いながら、最初は探り探りでした(笑)。

 

──とはいえ、やはり復帰1回目の放送を拝見したときは、情報を伝える正確性と番組進行の安定感にさすがだなと感服しました。

 

松雪 いえ、私の中では反省だらけでした。自分が思っている以上にお天気の解説ができていなくって。そのことがすっごく悔しかったの覚えていますね。イメージしていた流れどおりにできませんでしたし、番組内で使うツールもスムーズに出せなかったりして。最終的にスタッフさんから「ツールの操作はこちらでやりますから大丈夫ですよ」と助けていただいて、本当に自分が情けなく思っちゃいました。私はあまり緊張が表に出るほうではないのですが、初日は自分でも平常心ではないのが分かるほどでしたね。

 

──確かに、“もしかして緊張されているのかな?”と思ったのが、松雪さんの特徴でもある手や指の動きが以前と比べて少ないかも……と感じたことでした。

 

松雪 本当ですか? それは初めて言われました。よく気づかれましたね(笑)。おっしゃるように、手の動きについては昔からよく言われるんですよ。“あやちは、口と同じぐらい手がよくしゃべってる”って(笑)。そうかぁ、そんなところにも緊張が出ていたんですね。

 

──3時間という本番の長さにはすぐに慣れましたか?

 

松雪 慣れました。というより、以前から3時間ってあっという間だなという感覚が強かったんです。でも、特に復帰初日は早く感じました。というのも、お伝えしたいことがたくさんあったんです。応援して待ってくださっていた皆さんにありがとうの感謝の気持ちを届けたかったですし、もちろんお天気の情報もお伝えしなければいけませんでしたから。ただ、話したいことがたくさんあるのに、頭の中の言葉をうまく紡げないというもどかしさがあり、それで気づいたら放送時間の終わりになっていて。そこも反省点でしたね。

 

──それを思うと、すぐに3時間の生放送に対応していく新人キャスターたちのすごさに改めて驚かされます。

 

松雪 本当に! せんちゃんとも普段から番組のことをよく話すんですが、内容の深さに、“……あれ? せんちゃんって、今年入ってきたんだよね”とびっくりさせられることがたくさんありますし。りえなちゃん(小林李衣奈キャスター)だってデビューしてまだ1年半ほどですが、解説の仕方がとっても豊かで、“なるほど、こういう天気のときはこんな言い方もあるんだ”と学ぶことが多いです。やっぱりキャスターを長年やっていると表現が偏ってきてしまいますし、最近仲間になった皆さんの言葉使いなどをたくさん参考にさせてもらっています。

 

──松雪さんはウェザーニュースLiVEの前身であるSOLiVE24時代から番組に携わっていらっしゃいますが、現在の番組自体にどのような変化を感じますか?

 

松雪 今はSOLiVE24のとき以上に、キャスターの個性にスポットライトが当たっているなと感じます。もちろんお天気の情報が番組の軸であることに変わりはないのですが、プラスアルファとして、キャスターそれぞれの魅力や趣味などプライベートに関するところも視聴者さんは楽しんでいるのかなって思うんです。

 

──スタッフさんもそうしたキャスターたちの個性を広げてあげようとしている感じがします。

 

松雪 そうなんです。私が勝手に始めたモン活(スイーツのモンブラン活動)も、スタッフさんがわざわざ番組の中で時間枠を作って、コーナーっぽくしてくださったりして。“番組をこんな感じで私物化しちゃっていいのかな”とも思うんですけどね(苦笑)。でも、そうやってキャスターたちのいろんな個性が出ることで、同じ番組でも見え方が違ってくるでしょうし、そこがSOLiVE24とは異なるウェザーニュースLiVEの魅力の一つでもあるのかなと思いますね。

 

何をすればキーワードランキングで褒めてもらえるのか、いまだに正解が分からないです(笑)

──改めての質問になりますが、松雪さんが気象キャスターになろうと思われたきっかけを教えていただけますか。

 

松雪 もともと話すのが大好きなんです。会話ではなく、与えられた文章を読むのが好きで。それを最初に実感したのが小学校低学年のときの授業での音読でした。あれが本当に楽しくて、そのときに話すことを職業にしたいなと思ったんです。ただ、私は個性が強い方ではないですし、タレントになるのは違うなとも感じていたので、アナウンサーや気象キャスターに憧れを持つようになりました。ウェザーニューズ自体はキャスターになる前からアプリを愛用していたので知っていたんです。それで大学3年生だったか、4年生のときにアプリ内にあった《お天気お姉さん募集》というバナーを偶然見つけて。“お! これはいけるかもしれないぞ!”って謎の自信とともに(笑)、応募しました。

 

──音読が原点だったというのが面白いですね。松雪さんの話し方や声の聞き取りやすさには定評がありますが、普段から言葉遣いなどで意識されていることはありますか?

 

松雪 私は根っからの文系で、小説を読むのが大好きなんです。ですから、“この文章の言い回しは番組でも使えそうだな”と思うと、そこからつまんで自分らしい言葉に変えていくということはたまにしていますね。でも、勉強のために意識して本を読むとか、そんな大げさなものではないです。話し方については、常にゆっくりとした口調を心がけています。昔はものすごく早口だったので、そこはより意識していますね。

 

──以前は早口だったというのは意外です。

 

松雪 本当に昔の話で、学生の頃ですけどね。文化祭の実行委員長をしていて、初めて人前で話をする機会があったんです。でも緊張していたからか、ものすごく早口になってしまって、あとで放送委員の子に「何を言っているのか全然分からないです!」って怒られちゃって(苦笑)。そのときに、自分は話すスピードが速いんだと自覚し、人前ではなるべくゆっくり話すようになったんです。それに、ゆっくりと話しをしたほうが自分の言葉を自分で理解しながら相手に伝えられるので、私にはこれが合っているなと思うんです。

 

──なるほど。ただ、松雪さんの場合はいつもゆったりとした口調なのに、必要な情報は漏らすことなくきっちりと時間内に収めていらっしゃいますよね。そこにいつも驚かされます。

 

松雪 ありがとうございます。それは話すスピードやテンポなどを全部のコーナーで変えているからですね。最近だと「最新newsイッキ見!」のようなお天気の情報をお伝えするときは笑顔を少なめにして、報道っぽくテキパキと原稿を読むようにしていますし、逆に、お天気が全国的に穏やかな日のウェザーリポートでは、皆さんから送られてくるリポートに相槌を打ちながら友人と会話をするように話していたり。そうやって、場面に応じて話し方を変えるようにしているんです。それに、ずっと同じトーンで話してしまうと子守歌みたいになってしまいますからね(笑)。ただでさえ私の声は「眠くなる」って言われるので(笑)、緩急をつけていくことは意識しています。

 

──また、現在は番組で「コーヒータイム」(午前11:00〜午後2:00)と「アフターヌーン」(午後2:00〜5:00)を担当されることが多いですが、好きな番組の時間帯はありますか?

 

松雪 「コーヒータイム」は好きですね。穏やかなお天気の日はまったりとしていることが多いので、私の性格にも合っているなって思います(笑)。それに、今はお天気に関する専門用語や気象の状況などを解説する「ウェザーニュース天気図鑑」という枠が新たにできましたけど、ほかの時間帯と比べてコーナーが少ないんです。その分、1つひとつのコーナーやお天気の解説にじっくりと時間を割けるのも嬉しいですね。

 

──復職される前は夜の時間帯に入ることが多かったですよね。

 

松雪 はい。夜は夜で好きでしたね。夜の時間帯はご覧になっている方々も天気のベテランさんが多いような印象があって。以前は「予報フィードバック」という、朝にお伝えしていたお天気アイコンと実際のお天気がどれくらい当たっていたかをエリアごとで振り返るコーナーがあったんです。そのときも皆さんからの投稿には一般のお天気番組ではあまり聞かないような専門用語がよく使われていたので、余計にそういった印象があるのかもしれないです。

 

──ちなみに、お休みをされていたときは松雪さん自身も番組をご覧になられていたのでしょうか?

 

松雪 ちょこちょこと見ていました。というのも、見ると寂しくなっちゃって。私は2014年にデビューして、そこから8年ほどキャスターとして突っ走ってきたので、最初は番組を離れることに、「イエーイ、お休みだぜ!!」って喜んでいたんです(笑)。でも、1週間もしないうちに、“あれ!? やることがない!”って思っちゃって。もちろん、産休というお時間をいただいていたわけですけど、すぐに“番組でおしゃべりしたい!”って寂しくなってしまったんです。キャスターさんたちが楽しそうにお話をしているのをうらやましくも感じましたし。それもあって、アプリは毎日活用していたものの、番組からはちょっとずつ遠ざかっていくようになりましたね。

 

──ということは、気象解説員の宇野沢達也さんが松雪さんのことをいじっていたり、マイクトラブルなどが起きると山口剛央さんが“リボンさんの呪いだ”とネタにされていたこともご存じなかったんですか?

 

松雪 あ、それについては風の噂で聞いていました(笑)。あいりんさんやゆかりんとは連絡を取り合ったり、ときどき会ったりもしていたので、「山口さんがまた何か言ってたよ〜」というのは耳にしていて。“え、私の呪いってどういうこと?”って(笑)。

 

──(笑)。ただ、視聴者側としては宇野沢さんや山口さんたちのイジりを毎日のように見ていたので、松雪さんがいない寂しさが少し緩和されていました。

 

松雪 それもすごく言われました。一切そこに本人はいないんですけど、やけに存在感だけはあったみたいで(笑)。視聴者さんも私に成りすましてリボンの絵文字付きのコメントをたくさん送ってくださったりと、そうやって私を使って遊んでくださることはうれしかったですし、愛を感じてましたね。

 

──では、お休み中に番組を客観的にご覧になったことで改めて感じたこの番組の魅力にはどのようなものがありましたか?

 

松雪 やはり視聴者さんと双方向で作り上げているのが一番大きいんだろうなと思いました。地上波などの一般的な天気予報だと、早ければ30秒ぐらいで終わったりしますよね。でも、“どうしてこんな天気になるんだろう?”とか、“明日の天気の注意点はどこだろう?”と思う方っているはずで。そうした疑問を視聴者さんが番組に投げかけることで、答えとして返ってくる。そこが魅力ですよね。それに、刻一刻と変わる天気の状況を皆さんのほうから番組にリアルタイムで伝えていただけるのも良さの1つで。そうしたこともあって、お休み中はテレビなどで天気予報を見ると少し物足りなさを感じるときがありました。“あれ? もう終わっちゃうの!?”って(笑)。

 

──分かります。うっかりしていると聞き逃しちゃったりしますし。

 

松雪 そうなんです。でも、ウェザーニュースLiVEでは絶えず天気をお伝えしていて、仮に晴れのアイコンが出ていても、場所によって「雨が降ってきました」というコメントが届くと瞬時に最新の情報をお伝えできますし、(スタジオの)隣の席にいる気象予報士さんにその後の天気がどうなりそうかも、すぐに聞くことができる。本当にいい番組だなって思います。それに解説員の皆さんも、“社内でオーディションでもやりました?”って思うぐらいキャラの濃い方ばかりですしね(笑)。

 

──解説員の皆さんの天気の読み解き方にも個性があり、それぞれ見ているポイントが違っていたりするのも興味深いです。

 

松雪 使っている資料も違っていて、面白いですよね。森田(清輝)さんだと衛星画像から天気を読み解く技術に長けていらっしゃいますし。また、得意とする分野もそれぞれにあって、宇野沢さんは減災のプロですし、飯島(栄一)さんはお天気の話しだけじゃなく、山や宇宙のことまで教えてくださるので、いつも感心しながらお話を聞いています。ただ、残念なのが、最近は担当している番組の時間の都合で、なかなか宇野沢さんと共演する機会が減ってしまったんですよね。

 

──お2人の掛け合いが少ない寂しさは視聴者も感じていると思います。

 

松雪 スタジオの裏ではしょっちゅう天気と関係ない話をしていますけどね(笑)。「宇野沢さん、私、フィンランドに行ってみたいです」って言うと、「あぁ、そう。別にいいけど、フィンランドは寒いからな」ってぶっきらぼうに返されて(笑)。でも、そこには愛があって、本当に優しい方だなっていつも思います。

 

──宇野沢さんは、松雪さん相手だとちょっと毒っけがあるところが魅力ですよね。キーワードランキングのコーナーでは妙に辛口になったり(笑)。

 

松雪 あれ、ちょっとひどくないですか? 私、どうしてあんなに怒られるコーナーになっちゃったのか、全然分からないんですけど(笑)。

 

──ときどき、クイズの解答予測の仕方に対して、「人として間違っている」ぐらいのことを言われてますよね。

 

松雪 そうなんです。クイズに正解して褒めてもらえると思ったら、「いや、でもなぁ……」って言われたり。“あれ? 私、今、正解しましたよね!?”って驚いちゃいます。宇野沢さんだけじゃなく、山口さんや視聴者さんからも同じような対応を受けるんですよ。私はあのコーナーが始まった当初から、ただただ全力で臨んでいるだけなのに、正解したらしたで、視聴者さんから「残念です」ってコメントがきたり。一体どんなコーナーなんだって思います(笑)。

 

──連続正解なんてしようものなら、視聴者がどんどん引いていきますし(笑)。

 

松雪 ほんとに!(笑) 「だってまだ3連勝でしょ?」とかコメントで言われるんです。厳しい。ほんと、厳しい(笑)。私は何を成し遂げたらあのコーナーで褒められるのかいまだに分かんないです。どうしたらいいんでしょうね(笑)。

 

後輩たちのお手本となり、いつも見守っているような存在になれれば

──さて、2023年ももうすぐ終わりますが、松雪さんにとってはどんな一年でしたか?

 

松雪 やはり復職したというのが私のなかでは大きな出来事でしたし、同時に、一からまた仕事を学び直したような一年でもありました。「コーヒータイム」を担当するのも久々でしたから、改めてスタートラインに立ったような気持ちにもなって。それに、頼れる後輩たちの姿を見ながら、自分自身の立ち位置も含め、“私はどうすればいいんだろうか”と考えることも多かったです。

 

──立ち位置というのは?

 

松雪 私が、かなりまったりゆったりとした性格ですので、後輩ばかりの環境の中で、“こんな先輩のままでいいんだろうか?”と悩んだりするんです。とはいえ、今さらそんなに大きく変化できるわけでもないですし。それに、私の番組を参考にしてくれる子や仕事のことで相談にきてくれる子も多いので、みんなのことを引っ張ることはできなくても、後輩たちのお手本となり、いつも見守っているような立場になれればいいなと思ったり。そうしたことをたくさん考える一年でもあったなと思います。

 

──おっしゃるようにキャスターの数も増え、それぞれに個性溢れるメンバーが集まっていますが、そうしたなか、松雪さんはご自身のことをキャスターの中で“何担当”だと思いますか?

 

松雪 ん〜、これは難しい質問だぞ(笑)。何かなぁ……。逆に私って何が得意だと思います?

 

──言葉の切り返しのうまさやボキャブラリーの豊富さにいつも驚かされるので、その意味で毎回クロストークをすごく楽しみにしていますし、松雪さんのお人柄が一番発揮される瞬間なのかなと思います。

 

松雪 本当ですか? うれしいです!

 

──ただ、いつも時間ギリギリまでしゃべっているので、“これ、天気の引き継ぎ、間に合うのかな”とヒヤヒヤすることもあります。そのドキドキ感もまた楽しいんですが(笑)。

 

松雪 そうかぁ(笑)。そうですよね。私、ほんとにたくさんしゃべっちゃうんですよね。あれ、絶対によくないですよね。ほぼ毎回スタッフさんからイヤモニで、「はい、もう終わりでーす!」って指示が入りますし(笑)。でも、そういえばこの前、占い師さんに「あなたにはメンターの素質がある」と言われたんですよ。それがすごく私のなかに残っていて。「相手のいいところを引き出す能力があるから、そこを伸ばしたほうがいいよ」と言われたので、それ以来、“私でもキャスターみんなのいいところを引き出せていけるのかな”と思うようになったんです。そう考えると、クロストークは得意分野と言えるのかもしれないですね。だからといって、話が長くなる言い訳にはなりませんけど(笑)。

 

──(笑)。確かに、松雪さんのクロストークを見ていて思うのが、いつも相手の話をしっかりと聞き、肯定したり共感したりしながら会話を広げていっているなと感じます。

 

松雪 私から見るとみんな後輩ですから、どうしてもほかのキャスターは私に気を遣うと思うんです。ですから、クロストークではなるべく誰もが話しやすい内容から入り、お友達のような感じでおしゃべりできる雰囲気を作りたいなというのは心がけていますね。それに、相手の言葉を否定しないとおっしゃっていただきましたが、私はそれを解説員の山口さんからすごく感じるんです。お天気のことを質問すると、まず「そうなんですよ」から始まりますし、私が少し見当違いなことを言ってしまっても、「それも間違いではないんですが、でもこっちの天気図を見ると、ちょっと違うんですよね」とさり気なく正確な情報へと導いてくださる。そうした話の流れの作り方は参考になりますし、自分にも取り入れていきたいなと思っていますね。

 

あの切り抜き動画はガチャピンのかわいさと松岡修造さんのお人柄に助けられました

──少し話がそれましたが、2023年といえば、7月に「ウェザーニュースLiVE ファンミーティング」がEX THEATER ROPPONGIで開催されました。

 

松雪 そうでした。久々の有観客のイベントだったこともあって、胸にくるものがありましたね。あんなにも大きな会場が満員になるのもすごいことでしたし。私たちは、普段は画面を通してしか皆さんと会話ができないのですが、実際にあの場にいると、これだけ多くのサポーターさんに支えられているんだなとも実感できて。女性のお客さんもたくさんいらっしゃいましたし、なかには《あやち、呪って!》と書かれたものを掲げていらっしゃる方もいて、そのときは“どうすればいいんだろう”と頭を悩ませましたけど(笑)、終始、皆さんからの愛をたくさん感じられて、ちょっと涙が出そうになりました。

 

──山岸さんは泣いていましたよね。

 

松雪 そうなんです。そのあいりんさんの泣いている姿を見てたら、私は若干涙が引いていきました(笑)。変な意味ではなく、“あいりんさんが泣いているから、私は頑張って耐えよう”って。というのも、やはりあいりんさんの番組への思いというのは、私と比べものにならないくらい強くて濃いと思うんですね。だからこそ、あの満員のお客さんの光景にこみ上げてくるものがあったんだと思います。

 

──振り返ると、あの日の松雪さんは通常の番組を終えて駆けつけたので、途中からの参加でした。

 

松雪 大変でした。ほんとに大変でした! 「コーヒータイム」を終えてからでしたので、当然リハーサルに参加できるわけもなく。台本もいただいてなかったので、会場に着いても「何をしたらいいんですか?」とバタバタしていて、「とりあえずステージに出てくれればいいから」って言われたんです(笑)。

 

──でも、その状況で舞台を成立させられるところに本番の強さを感じます。

 

松雪 それは先輩方の姿を見てきたからこそですね。あいりんさんもそうですが、どんな状況でも物怖じしないんです。何があってもおどおどせず、自信を持ってやっている姿を届けていく。普段の番組もそうですが、やはり一番大事なのは視聴者やお客さんを不安にさせないことで。私たちが慌てていると、ご覧になっていらっしゃる方々の不安は2倍にも3倍にもなってしまいますから。

 

──普段から突然何が起きるか分からない気象を相手にしているから、突発的なアクシデントがあっても平常心で挑めるわけですね。7月のイベントでもいきなりヘッドホンから音が出ないということがありましたが、そこからすぐに別のルールに変えて、対応されていましたし。

 

松雪 そこがウェザーニュースLiVEのキャスターみんなのすごさでもあるなと思います。それに、アクシデントを楽しめるのはサポーターの皆さんもそうで。予定外のことが起きても、みんなで笑って“ウェザーニュースLiVEらしいなぁ”って思ってもらえる。それも、長年にわたって築き上げてきた関係性があるからこそですよね。

 

──また、動揺のしなさについては松雪さんも伝説を残されていますよね。ガチャピンがクロマキーの中に消えるというトラブルも笑いに変えていらっしゃいましたし、松岡修造さんがゲストで登場した際も松岡さんのペースに巻き込まれることなく、「こんなに動揺しないキャスターは初めてです」と驚かれていました。

 

松雪 懐かしいですね。今でもたまに当時の切り抜き動画がおすすめで出てきてびっくりします(笑)。修造さんのときは事前の台本が一切なかったんですよ。ですから、全部が行き当たりばったりで。でも、修造さんとのやりとりにスタッフさんたちから笑いが起きていましたし、“あ、この雰囲気でいいんだ”と思って(笑)。それに、私は予測できない化学反応を楽しみたいところがあるんですね。前日に修造さんのことを勉強していきましたけど、情報を入れすぎると想定内の会話ばかりになってしまうし、それもつまらないなって思ったんです。その結果、ウィンブルドンで活躍されたことも知らず、「えっ!? 知らないの?」という反応をされたのですが(笑)、修造さんのお人柄とトーク力の高さで楽しい流れにしていただきました。ですから、あのときに生まれた面白さは、私が動揺していなかったというより、修造さんのお力のおかげなんです。ガチャピンの事件もそうですね。ただただガチャピンのかわいさに助けられただけです(笑)。

 

──そういえば、前回の連載のインタビューで、小川キャスターが初めてウェザーニュースLiVEのことを知ったのは、松雪さんとガチャピンの切り抜き動画だったとおっしゃっていました。

 

松雪 私もせんちゃんから聞きました。思えば、あの事件のときも番組の担当が急遽私に代わったことで、事前の準備がほとんどできていなかったんです。そうしたなか、いきなりクロマキーのなかにガチャピンが消えちゃったもんだから、この先なにをすれば正解になるのか分からなくなっちゃって(笑)。とはいえ、やはり、私たち気象キャスターがやらなければいけないことは一番にお天気を伝えることですし、スタッフさんがなんとかガチャピンが映るように技術面で調整してくださっていたので、私は落ち着いて、事故のないように天気を伝えることに専念できたんですよね。

 

──そうした対応も松雪さんの冷静さがあったからこそだと思うのですが、普段から慌てないために意識されていることなどはあるのでしょうか?

 

松雪 いえ、いつも緊張はしていますし、何かが起きると心のなかでは慌てているんです。むしろ、ほかの人以上に緊張する方だと自分では思っていますし。ただ、それが顔や行動に出ないだけなんですよね。思わぬことが起きて、テンションがグワッと変に上がることもないですし。それに、慌てていてもどこか自分のなかで、“こうなっちゃったらしょうがないよね”っていう気持ちもあって(笑)。それが冷静な対処をしているように見えるだけなんだと思います。

 

──なるほど。では最後に、2024年は松雪さんにとってキャスターデビューから10年目になりますが、どんな一年にしていきたいですか?

 

松雪 そうですねぇ……(長考)。

 

──もしや、あまり計画は立てないほうですか?

 

松雪 ですね。全く立てないです(笑)。なんとな〜く、“こういうことをしたいな”とかはあるんですけど、わりとその場その場で決めちゃうタイプなので。ですから、来年になったら考えたいと思います(笑)。そのときは番組内でもお伝えしますね。

 

──楽しみに待っています。また、2024年最初に連載にご登場いただく次のキャスターは10月にデビューしたばかりの青原桃香キャスターになります。青原さんの魅力についてお話しいただけますか?

 

松雪 ももちゃん(青原)とは番組が前後することが多く、クロストークでよくお話をさせていただくんですが、すでに新人とは思えないほど落ち着いているなと感じます。解説員の皆さんに質問をするときも簡潔で、内容自体はまだ素朴なものが多いですが、だからこそ視聴者の視点に近い番組になっているのではないかと思います。それに、ほんわかとしたキャラクターですので、ほかのキャスターと打ち解けるのも早かったんですよね。そうそう、先日、クッキーを焼いてきてくれたんです! お料理が得意だと言っていたので、いつか手作りのお菓子が食べたいなって話していたら、すぐに作ってきてくれて。

 

──クロストークで話されていたことですよね。でも、そのときは「器具を実家から持ってきていない」と青原さんがおっしゃっていたような気がするのですが。

 

松雪 そうなんです。それが、クロストークで話をした翌日からたまたま実家に帰る予定があったみたいで、そのついでに作ってきてくれたんです。クマちゃんのかわいいクッキーでした。すっごくおいしかったですし、いただきながら、“なんて、いい子なの!”って、親の心境になっていましたね(笑)。同じく10月にデビューしたゆいこちゃん(岡本結子リサキャスター)もハロウィンの特番でご一緒しましたけど、お2人とも自分からどんどんと行動に移すタイプですし、本当に素直で、素敵な子たちばかりで。番組を拝見していても、新人ならではのしなやかさと柔らかさを感じますので、そうした魅力をそのまま自分らしさにつなげていってほしいなと思いますね。

 

《松雪キャスターに16の質問!》

 

Q01.ご自身ではどんな性格だと思いますか?

松雪 相当な面倒くさがりやです(笑)。ですから、普段の生活ではいろんな家電にめちゃくちゃ頼って生きていますね。ただ、その場やそのときになってワチャワチャと慌てるのも嫌なんです。それもあって、あとからラクをするためにも準備はしっかりするようにしています。

 

Q02.もしキャスターになっていなかったら、どんな職業に就いていたと思いますか?

松雪 憧れていたのは女優さん。絶対にできないし、なれるとも思っていませんでしたし、「やってみる?」と言われてもやれませんけどね(笑)。ただ、作品ごとに違う自分になれるのって楽しそうだなと思って。それに、今の気象キャスターのお仕事もちょっと似ているところがあるなって思うんです。コーナーやお天気の状況に合わせて声のトーンや話し方を変えたりしますから。機会があれば、ぜひ番組で朗読とかもやってみたいです。私の声は眠くなるそうなので、読み聞かせをしながら、皆さんを寝かせる自信はありますよ(笑)。

 

Q03.キャスターになったことで感じる自分自身の変化は?

松雪 人生が100倍楽しくなりました。お天気に限らず、季節の美しさやその時期ならではの楽しみなどを多くの方と一緒に追いかけることが日常になりましたから。実は、キャスターになる前はそれほどでもなかったんです。でも、季節の移り変わりなどを意識的に感じ始めてからは、なんでもない日々がすごく充実するようになっていって。四季折々の楽しさがある国に生まれ、気象キャスターという仕事に就けて、本当に幸せだなって思います。

 

Q04. 2024年版のカレンダー撮影で印象に残っているエピソードを1つ!

松雪 暑かった! とにかく暑かった(笑)。なので、撮影が終わってから、さやっち(檜山沙耶キャスター)とせんちゃんの3人でアイスを食べに行ったんです。それがいい思い出になっていますね。

 

Q05.最近の雨女エピソードを1つ!

松雪 ないです(笑)。カレンダー撮影の日も見事な晴れでしたから。そもそも私、別に雨女じゃないと思うんです。なのに、なぜか視聴者の方々から、“くもち”とか“あめち”って言われていて、気づいたら雨女のキャラになっていたんですよね。どうしてそんなことになったのか、自分でも本当に分からないんですけど。誰が言い始めたんでしょうね。しかも、曇っている日は番組のコメント欄が楽しそうに盛り上がっているのに、晴れてる日はみんなだんまりなんですよ。あれ、ズルくないですか? “「あやち、晴れているよ!」って言ってよ!”って思います(笑)。この雨女説の謎だけは、いつか解明したいと思っています。

 

Q06.モン活に続いて、次にキャスター内で流行らせたいものはありますか?

松雪 これからの季節だとイチゴですね。早くイチゴのシーズンが来ないかなぁって楽しみで楽しみで。今もスーパーに行くたびにチェックしているんですけど、まだまだみかんが売り場を牛耳っています。せんちゃんもイチゴが大好きだそうで、「どんぐり・いちご」という名前でも活躍しているほどなので、シーズンが来たら一緒にいちご狩りにも行きたいですね。

 

Q07.天気にまつわる好きな言葉は?

松雪 晴好雨奇。《晴れの日には晴れの、雨の日には雨の美しさがある》という意味で、まさにそのとおりだなと思います。青空だけがきれいなわけではないですし、身の回りにあるすべてのものに美しさや良さがある。そうした、日常にあふれるいろんな素晴らしさを見逃なさいように生きていきたいなと思います。

 

Q08.ウェザーニュースアプリのなかでお気に入りの機能は?

松雪 今はやはり「服装予報」ですね。秋や冬になっても夏日並みの気温の日が何度かあり、すごく重宝しました。私自身、毎日、服装に悩むタイプなので、「服装予報」はぜひ皆さんにも使ってほしいです。それと、子どもが生まれたことで、以前よりも気温を細かく見るようになりました。子どもって気温にすごく左右されるんです。夏はよく汗をかくし、冬は逆に寒さに強くて。大人は厚着をしていても、子どもは薄着でいいってことがよくあるんですよね。そのほかにも、「雨雲アラーム」はお買い物や洗濯物を取り込む予定を立てるのにとても便利ですし、今では一般的になりつつある“天気痛”の予報を伝えてくれる機能もありますので、皆さんもたくさん活用して、生活に役立てていただければと思います。

 

Q09.「ここだけは絶対にほかには負けない!」という埼玉県の魅力は?

松雪 お、難しい!(笑) 埼玉の魅力ですか? えーと……みんな優しい(笑)。それに自分たちのことをわざと自虐的にディスってみたりと、ちょっと卑屈なところもかわいいなって思います。実はそれって、素直であることの裏返しだとも思いますし。「翔んで埼玉」のような映画を笑って楽しめるのも優しい県民性ならではでしょうし、ほんと、素敵な映画を作っていただき感謝です(笑)。

 

Q10.映画が趣味とのことですが、繰り返し観る作品は?

松雪 ミュージカルが特に大好きで、「オペラ座の怪人」と「ウエスト・サイド・ストーリー」は数えきれないほど観ました。そしたら、やっぱり血筋なんだなと思ったのが、祖母も「ウエスト・サイド・ストーリー」を公開当時に観て大好きになり、映画館で何十回も観たと話してました。どちらも名作なので、未見の方は絶対に観てほしいです!

 

Q11.ずっと習っていたというクラシックバレエの近況を教えてください。

松雪 少し前までは週に一度ぐらいの頻度でちょこちょことレッスンに通っていましたけど、子どもができてからは機会が減り、今はかなり遠ざかっていますね。でも、バレエの音楽を聞いたり、たまに動画で見たりはしています。あと、よく夢に見ますね。それを考えると、やっぱりバレエが大好きなんだなと思います。ただ、夢の内容はたいてい舞台袖にいて、“やばい! トゥシューズが履けない!”って焦ってるようなものばかりなんですけど……(苦笑)。

 

Q12.今新たに趣味にしたいなと思っていることは?

松雪 新たにというか、今は以前と比べて自分の時間がなかなか取れないので、少しずつ自分の時間を作れたらなという思いがあります。時間ができたら最初にやりたいのが筋トレ。もともとずっとやっていて、腹筋も割れていたし、体脂肪率も10%台だったんです。なのに、いつの間にやら見る影もなく(笑)。やっぱり、運動を続けているときのほうが体が軽いですし、汗の質も違う気がして。今もたまにジムに問い合わせだけはするんです。でも、「いつ頃から来られますか?」と聞かれると、なかなか日にちを伝えられなくて、結局行けずじまいの日々が続いています(笑)。

 

Q13.最近の自分へのご褒美は?

松雪 タリーズコーヒーのアイリッシュラテを飲みました。毎年楽しみにしているぐらい大好きで、今年もほぼ毎日のように飲んでいます。ご褒美にしては多すぎますけどね(笑)。でも、あの味はまさしくご褒美ですよね。ちょうどいい甘さですし、心も温かくなるので、いつも絶対にホットを頼みます。

 

Q14.2023年にやり残したことは?

松雪 え〜、やり残したことだらけな気がします(笑)。やり残したことに気づいてないものもいっぱいありそうですし(笑)。それこそ運動をしよう、昔の体を取り戻そうと思いつつ、結局できなかったですし。最近は本当に自分の時間が少なくって、だからこそいろんな家電に頼って生きています。ほんと、素晴らしい世の中になりましたね(笑)。

 

Q15.ご自身を家電で例えると?

松雪 そうだなぁ……加湿器かな。絶対に必要なものではないかもしれませんが、あると便利だし、“側においておくと何かといいことがあるかもしれませんよ”という意味で(笑)。ウェザーニュースLiVE自体も同じだと思うんです。お天気番組って予報を見るだけなら短い時間で事足りますが、プラスアルファの情報を知ることで、より生活が潤うと思いますので。今、“生活の潤い”と“加湿器”をかけてみました(笑)。

 

Q16.GetNavi webということで、普段愛用している家電を教えてください。

松雪 偶然にも答えが同じになっちゃうんですが、象印の加湿器が大好きなんです。今使っているのは2023年モデルのもので、見た目もポットみたいでかわいくて。あまりにも好きすぎて、リビング用と寝室用とプラスアルファで使うためのものとして3台持っています。スチーム式なので、部屋が温かくなるのもいいんですよね。それと、毎日活躍してくれているのがデロンギのエスプレッソマシン。豆を入れるだけの全自動なので本当に便利なんです。少し高価なものではあるんですが、カフェで飲むよりも経済的だなと思って。……と、いいながら、毎日のようにアイリッシュラテを飲んでいますけど(笑)。また、いつも必ず持ち歩いているのがワイヤレスイヤホンです。Sudioという北欧のメーカーのイヤホンで、卵みたいなケースも含め、デザインがかわいくて愛用していますね。このイヤホンを使っていつも出社前に電車の中で番組を見て、事前に天気の流れなどをチェックしています。

↑松雪さん愛用のイヤフォン。出社時の必需品

 

松雪彩花さんのサイン入り生写真を3名様にプレゼント!

 

<応募方法>

下記、応募フォームよりご応募ください。

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSd6vnh6Dws15RjqU_i8knnLvcAFMvQGBrLWuJOfAouuJdMdkA/viewform?usp=sf_linkhttps://forms.gle/2aZVYE2eDKNSthTs8

※応募の締め切りは1月31日(水)正午まで。
※当選は発送をもってかえさせていただきます。
※本フォームで記載いただいた個人情報は、本プレゼント以外の目的での使用はいたしません。また、プレゼント発送完了後に情報は破棄させていただきます。

 

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撮影/干川 修 取材・文/倉田モトキ

【M-1グランプリ2023特集】ガチンコ大予想! 声優界のお笑いファン・久保ユリカが選ぶM-1優勝コンビは誰?

日本一の漫才師を決める頂上決戦「M-1グランプリ2023」が12月24日に開催される。今大会では、敗者復活戦の大幅なルール変更や、新・審査員に海原ともこさんが加わることが発表され、女性審査員2人体制になるなど、早くも話題を呼んでいる。

今回、「M-1グランプリ2023」の優勝者を予想してくれるのは、人気声優の久保ユリカさん。普段から、劇場に通ったり、芸人のラジオを視聴しているという生粋のお笑いファンの彼女に、今年の優勝者をがっつり予想してもらいました!

 

久保ユリカ●くぼ・ゆりか…5月19日生まれ。奈良県出身。声優・歌手。これまでの主な出演作に「青春ブタ野郎」シリーズ(梓川かえで役)、「ハイスクール・フリート」シリーズ(知床鈴役)、「せいぜいがんばれ!魔法少女くるみ」(プリマピンク(安土桃山くるみ)役)、「少女終末旅行」(ユーリ役)、「りゅうおうのおしごと」(水越澪役)、「ようこそ実力至上主義の教室へ」シリーズ(櫛田桔梗役)、「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」シリーズ(ロキ役)、「大家さんは思春期!」(里中チエ役)、「ラブライブ!」シリーズ(小泉花陽役)など多数。X(旧Twitter)InstagramYouTube

 

 【久保ユリカさん撮り下ろし写真】

 

「関西弁を摂取したい…!」東京に出てきて気づいた、当たり前にお笑いがあった日々

──まずは、久保さんがお笑いを好きになったきっかけを教えてください。

 

久保 私は奈良県出身なのですが、やっぱり関西の人がよく言うように、当たり前にお笑いを見ていた環境だったんですよね。テレビをつけたら漫才をやっているとか吉本新喜劇が放送されているという。なので、好きだからわざわざ見ようって感覚は当時は全然なかったんです。でも、東京に出て来てから、例えばシャンプーハットさんの番組が放送されてなくて、びっくりしました(笑)。

 

──関西で当たり前に見ていたお笑いが、東京では放送されていなかった。

 

久保 そうなんです。今まで自然に受け入れていたお笑い番組が関西ローカルだって知ったときは、驚きでした! そこから「関西弁を摂取したい……」という時期が来て、チュートリアルさんやライセンスさんのトークイベントの映像などをラジオ感覚でよく見ていましたね。

 

──当時は、劇場に見に行ったりもしていたんですか?

 

久保 いえ、ちょくちょく足を運ぶようになったのは、実はコロナ禍前くらいからなんですよ。奈良にいた頃も、テレビをつければお笑いを見れる環境だったのもあって、自分から生で見に行ったことはほぼなくて。すごくもったいないことをしていたのかもな、と後から気づきましたね。当時は、和牛さんを応援していて、よく通っていました。なので、今はあの頃を思い出して、ちょっと寂しい気持ちにもなったりして……。

 

──先日、和牛さんは解散を発表されましたよね。

 

久保 悲しいという気持ちもありますが……お2人の今後も応援したいと思っているところです。応援している方には、会える時に、会いにいこうと思いましたね。

 

 

生で見るお笑いの良さ。「知らない芸人さんを知れるのが楽しい!」

──ちなみに、コロナ禍になってからは、どう過ごされていたんですか? 劇場ライブが減ってしまったと思いますが。

 

久保 はい! ですが、代わりに、配信ライブが増えたんですよ。なので、そちらを見るようになりました。コロナ禍でみんな平等にできることが減ってしまった状況の中で、自分一人でも楽しいことがしたい、楽しいものが見たい、と感じるようになって、その選択肢の1つに配信ライブがありました。その期間があって、コロナが落ち着いてからも、引き続き劇場に足を運んでいます。

 

──やはり生で見るお笑いは楽しいですか?

 

久保 テレビで見るのとは違いますよね。劇場に行くといろんな芸人さんを知ることができますし。それでなのか、分からないですが、自分の意志で見に行くようになってから、視野が広がった気がするんです。私は一度好みじゃないかなと思ったら、一生好きにはなれない頑固なタイプだと思っていたんですけど、今では“知らない感覚だ”とか“変な人だ!(笑)”という捉え方をするようになって。好みやセンスが1人ひとり違うのは当たり前ですが、それ拒絶せずに一度受け入れようと思うようになりました。

 

──それは、さらにお笑いを見ることが楽しくなりそうです。

 

久保 まさにそうで、以前は特に刺さらなかったコンビが、後々また見て「え、めっちゃ面白いかも!」って変わっていたりして。より楽しませていただきながら、日々過ごしています。

 

「M-1グランプリ2018」を見て……「毎年緊張して、落ち着いて見れないんです(笑)」

──さて、いよいよ「M-1グランプリ2023」が開催されます。過去の大会で印象に残っている年などはありますか?

 

久保 毎年見てはいるのですが、誰が優勝するか、どんな点数なのか、意識して見るようになったのは霜降り明星さんが優勝した2018年大会からですね。ファイナルに残ったのは、他に和牛さんとジャルジャルさんで。今でも弱ってるときに見ると涙がこぼれてしまうくらい、熱い戦いでした……。思い出に残りすぎてDVDも買っちゃいました(笑)。

 

──印象的な年でしたよね。

 

久保 霜降りさんの勢いと場の空気をガラリと変えた感じは忘れられません。でも、ジャルジャルさんはラストイヤーで気合が入っていて、和牛さんも積み上げてきたものをしっかり発揮されていて……。優勝発表の直後に、和牛の水田(信二)さんとジャルジャルさんが肩を叩いて、称え合っていたのもグッときました。そういう青春感に弱いんですよね……。あの時から、どのコンビにも優勝してほしいけど、誰か1組決めなきゃいけない、それがM-1なんだって意識するようになって。

 

──全員実力はお墨付きですが、やはり賞レースですから最後には明確な順位が決められてしまいます。

 

久保 それで次の年から、何もしない自分まで緊張するようになってしまって(笑)。今まで楽しみだね~って見てたのに、改めてすごい大会なんだって気づいてしまった。もう落ち着いて見れなくなっちゃいました……!

 

──今年も緊張していますか?

 

久保 はい……ドキドキです。でも今年はクリスマスイブに開催されるじゃないですか。私は、ちょうど自分のイベントでリアルタイムで見れないんですよ! なので、完全に情報をシャットダウンしようと思っています。結果を知らないまま、録画を見れるか……今年はその緊張もありますよ(笑)。

 

決勝進出コンビ9組を解剖。久保さんは「声」に注目!

──それでは、今年の「M-1グランプリ2023」についてお話いただければと思います。まずは、ランダムにコンビを上げてもらい、ネタの印象などを教えてください。

 

【1組目】くらげ

久保 まずは、くらげさんから。実は勉強不足で恐縮なのですが、今回の決勝進出コンビの中で、くらげさんだけ存じ上げてなくて。発表後に、さっそくYouTubeチャンネルでアップされているネタを拝見させていただきました。第一印象としては、見た目と漫才スタイルでギャップがあってちょっと驚きまして…!

 

──ツッコミ担当の渡辺翔太さんのアロハシャツは印象的ですよね。

 

久保 アロハな雰囲気で、勝手にネタっぽい感じなのかしらって思い込んでしまっていたんですけど……良くないですね(笑)。テンポの良いしゃべくり系漫才をされていました。それでいて、ネタの内容はポップで分かりやすい。ポンポンと掛け合いが続いて、心地良かったです。

 

──くらげさんは、いつも新しいシステムや構成を編み出していて、どんなネタをしてくれるのか毎回楽しみなコンビです。

 

久保 いくつか動画を拝見させていただいたのですが、違ったタイプの構成の中でも、どれも共通してワードチョイスがいいなと感じましたね。いい意味で、言葉の選び方がちょうどいいというか。例えば、強い特徴のあるワードが入っていると、何かの伏線なのかなって思って気になっちゃうと思うんですよ。でも、聞きなじみある単語とバランスの取れた会話で、すんなり次のターンに入れている印象がありました。

 

──なるほど! ネタの構成ももちろんですが“言葉選び”も得意なコンビというのは、確かにそうかもしれません。

 

久保 もしかしたら今回の大会で初めて見る方も多いかもしれませんが、テレビの前の方にも親しみやすい漫才なんじゃないかと思います。クリスマスイブに放送されるので、ご家族で見る方も多いと思うんですよ。もしそういった部分まで考えられて、ネタ作りされていたらすごいなと思ってしまいますね。私的には、いつか劇場で生の温度感で拝見したいコンビです。

 

【2組目】カベポスター

──続きまして、カベポスターさんです。

 

久保 昨年大会で、カベポスターさんは1番手で登場されました。めちゃくちゃ落ち着いていて素晴らしかったですね。ですが、もし出順が後だったら……とも思ってしまいました。

 

──M-1グランプリでは出順も大切ですよね。今大会でも生放送中の「笑神籤(えみくじ)」で順番が決まるようです。

 

久保 昨年のネタ、大好きでした。「大声大会」というネタで、単語を重ねて後半どんどん盛り上げていく形で、視聴者の方も「あ、こうやって笑えばいいのね」と分かりやすい作りになっていたと思うんです。

 

──ボケを重ねていく中で、伏線もあって面白かったですね。

 

久保 先日、カベポスターさんが滝音さんと開催されていたイベントを見に行かせていただいたんですが、その際に「あ、今年も決勝に上がってくるだろうな」と感じました。ただ、2年連続で決勝進出となると周囲や審査員の方の期待値が上がってくるのも事実ですよね。

 

──もしかしたらプレッシャーに感じる場合もあるかも、という。

 

久保 そうなんです。ですが、そこを超えてくる実力がカベポスターさんには、もちろんあると思います。あと、これは私の職業柄なのですが、ツッコミの浜田(順平)さんのお声がとても聞き取りやすくて素敵だなと思います!

 

──おお、声優さんの立場から見てもいいお声とは……アドバンテージですね。

 

久保 ちょっと癖はあるんですけど、声質、ボリューム感、とても耳に入ってきやすい、ちょうどいいお声だと思うんです。イケボ、というのとはまた違うと思うんですけど、“通る声”なんですよ。ご本人もそれを自覚されているのか、声量に任せていない感じに好感が持てます。

 

──久保さん的なポイントとしては「声に注目!」というところですね。気にして拝見してみようと思います。

 

【3組目】さや香

久保 声のお話でいうと、さや香さんの声量と勢いには圧倒されますよね。新山さん、すごいボリュームです(笑)。ですが、あれだけがなっているようで、ちゃんと言葉が聞こえるのは、かなりの技術をお持ちだと思います。

 

──スピード感もあるのに、ちゃんと耳に届きます。

 

久保 昨年は準優勝という結果でしたね。関西人で還暦も超えた母親は、さや香さん推しでして(笑)、母親世代でも関西の方にとっては、やっぱり受け入れやすい王道漫才なんですよね。今年は、関西でのテレビ出演が増えたようで、母は「全然興味ない」とか言いつつ「でも2人は仲悪いんやんな」とか情報をちゃんと仕入れてて、めっちゃ好きじゃん! と。

 

──あははは。お母さま、よくご存じで。仲が悪いとご本人たちが公言しているようですもんね。

 

久保 でも、もしかしたら昨年ファイナルまで行ったことで、本当は絆が深まっているのかも? と期待してしまいますね(笑)。私は、個人的に「自分の相方はコイツしかいない」みたいな互いに尊敬し合っているコンビを推したくなってしまうタイプなので。

 

──2年連続で決勝進出というのは、すごいことですから。お互いの力を信頼していないとできないことかもしれません。

 

久保 しかも、昨年はボケとツッコミを入れ替えたパターンでの決勝進出ですよね。ポジションを入れ替えれるなんて、やっぱり2人の信頼と積み重ねてきたものがあるんだな、と感じますね。昨年の悔しさもあると思いますし、今年は更なる熱量を見せてくれるんじゃないかと思います。

 

【4組目】モグライダー

──続いて、モグライダーさんについては、いかがでしょう。

 

久保 モグライダーさんは、2021年大会で初めて決勝進出されて、今回は返り咲きということですね。21年の大会では、1番手で登場されて場の空気を大いに盛り上げて、最高のトップバッターと言われてました。めちゃくちゃ良かった……。

 

──モグライダーさんがいてこその21年大会でした。

 

久保 ボケのともしげさんが噛んだり、ミスをして、それに芝(大輔)さんがツッコミを入れるスタイルの漫才ですが、どこまでが台本で、どこまでがともしげさんのその場のテンション感なのか、分からないところがすごいですよね。でも、ずっとともしげさんが甘噛みしているのは気になっちゃいます(笑)。

 

──声優さんの立場で考えたら、そうかと思います。

 

久保 ですが、それでも成立して、それすらも活かした内容になっているのが、唯一無二のコンビですよね。そして、何より芝さんの安心感が大きい。どうとでもしてあげるぞ、という雰囲気でドーンと構えてくれている感じがあるから、こちらも楽しく笑えるんですよね。ともしげさんも、あの、いい意味で……。

 

──ポンコツ、ですか(笑)。

 

久保 あ、はい……!そう言っていいのか分からなかったんですけど、ちょうどいいポンコツ具合でいらっしゃるというか! あまりにどうしようもなかったら、実際笑えないと思うんでね。なんなら、ともしげさんはすべて計算づくで、普段から狙ってやっているんじゃないか、と思っています。本当のところは分かりませんが。

 

──そこもモグライダーさんの魅力ですよね。

 

久保 返り咲きといいますと、相当ブラッシュアップしているんだろうなと思いますし、実際にパワーアップしているお2人を見せてくれると思います。今年はたくさんテレビにも出演されていたのに、決勝まで上り詰めてきたわけですから、期待大ですね。

 

【5組目】ヤーレンズ

──次に、ヤーレンズさんについて伺いたいと思います。

 

久保 ヤーレンズさんは、昨年大会で初の準決勝進出を果たされていました。私の以前のメモ書きで「生で見たいな」と書いてあったのですが、恐らく昨年の敗者復活戦で拝見した時に書いたものだと思います。

 

──メモを取っていらっしゃるんですね。すごい。

 

久保 いつも取っているわけではないんですけどね。昨年、ヤーレンズさんはラーメン店のネタをされていたんですが、まず初めの方で耳に残るワードが出てきて、それが最後の大オチの手前にもう一度出てきて、伏線回収的な構成になっていたんです。それがすごい面白かったんですが、あえてラストの爆発では使わないんだって思って、そこに“余裕”を感じたんですよ。

 

──大きなオチに持ってきてもおかしくないボケだったということですね。

 

久保 はい。それを見た時に、ヤーレンズさんのそういった作り込みが好きなお客さんの温度感を生で感じてみたいと思ったんです。笑うタイミングとか雰囲気とかを一緒に味わいたいな、と思って。

 

──なるほど。生で見たらまた違った印象を受けるかもしれませんし。

 

久保 そうなんですよね。それもまた楽しそうだな、と思いつつ、まだ拝見できていなくて。ボケの楢原(真樹)さんの強めのキャラクターもぜひ生で見てみたいですね。声を自在に操れる方だと思うので、そこも臨場感ある場で感じてみたい。ちなみに、昨年のメモでは「音を聞かせる」とも書いてありました。

 

──音を聞かせるとは、どういったことでしょう?

 

久保 言葉のボケだけじゃなくて、オノマトペや音まねがうまい方だと思ったんですよ。すると、コント漫才がよりリアルに感じられますよね。ただ、昨年は敗者復活戦が野外ステージだったので、細やかなところまでは聞き取りづらかった。今年は、決勝の舞台で昨年よりはフラットな状態が聞けるので、それも楽しみの1つですね。

 

【6組目】真空ジェシカ

──続いて、今年で3年連続決勝進出となった、真空ジェシカさんはどうでしょう。

 

久保 真空ジェシカさんは、最初1回目に決勝に上がってきたときは、恐縮なんですが存じ上げていませんでした。それもあって、ちょっと初見でお声が聞き取りづらいな、と思ってしまったんですよね(笑)。

 

──確かにツッコミのガクさんは、ご自身でも声がこもっていると仰っていました。

 

久保 ボケの川北(茂澄)さんも、ボソボソッとした感じで、とんでもない数のボケを発してくるじゃないですか。これは完全に自分自身がなじみがなかったせいなのですが、もっとしっかり聞き取れたらな、と後悔したんですよ。でも、後から余裕を持って録画を見たら、こういうボケだったのかとちゃんと理解できて「めっちゃオモロい……!」となりました。知的なボケの応酬で、最初から最後までしっかり笑える漫才でした。

 

──そこから、昨年も再び決勝に上がってこられましたね。

 

久保 めちゃくちゃ失礼なことを言って申し訳ないのですが、昨年の決勝では、前年に見た時が嘘のように聞き取りやすくて、大笑いしました! もしかしたらガクさんも川北さんも、聞き取りやすさや伝わりやすさについてブラッシュアップされた部分もあるのかなと感じました。そうだとしたら、とても真面目な方々なんだって、個人的には「推せる!」と思ってしまいましたね(笑)。

 

──やはり一度、決勝の舞台を経験していると強いですよね。

 

久保 そう思います。ちなみに、私としては、ボケツッコミが明確でとても分かりやすかったのですが、松本(人志)さんには「ツッコミとボケの声量が逆の方がいい」とコメントされていましたね。それぞれの声量を変えてしまうと、ボケのキャラクターの意味合い自体が変わってしまうので難しい指摘だとは思いましたが……。

 

──そういった指摘を受けながらも、今年はなんと3年連続決勝進出となりました。

 

久保 本当にすごいですよね。おそらく昨年の課題をクリアして、パワーアップした状態での決勝進出。楽しみでしかないです。今年は「M-1ツアースペシャル2023」というM-1グランプリ出場者の方々が出演するライブを見に行かせていただいたのですが、真空ジェシカさんが一番自由度が高くて、肩の力が抜けていました。会場の空気を読んで、ステージを作っている感じは、余裕があったというか、場数を踏んでいるんだなと体感しました。その自由な感じを3年目でどう落とし込んでくるのか。ますます注目したいと思います。

 

【7組目】ダンビラムーチョ

──続いての、ダンビラムーチョさんは昨年の敗者復活戦で、楽器を使いながら、森山直太朗さんの「生きとし生けるものへ」を歌うネタを披露して、大きな話題となりました。

 

久保 最高でした。私は、よしもと∞ホールでのライブを見に行った時に、たまたまダンビラムーチョさんが、そのネタをやっていて見たことがあったんです。めちゃくちゃ面白かったので、やるならこれしかないよね! と思っていたのでうれしかったですね。

 

──会場も盛り上がっていた感じでした。

 

久保 テレビの前でも伝わってきましたよね。私は見たことがありましたし、会場も流れをつかんで、どうなるかなんとなく分かっているはずなのに、あの待ち望んでしまう感じ! 一体感がありました。お笑いを見ているって感覚がなくなってしまうくらい(笑)、気持ちの良い素敵な時間だなと感じました。

 

──今年はその歌声が決勝のステージで聴けそうです。

 

久保 まだ正統派な漫才をする可能性ももちろんありますが、昨年見て知った方々は、それが見たいと思っているんじゃないでしょうか。歌ネタは、ちょっと勘のいい人だと、次サビがくるぞ~ボケがくるぞ~とちょっと先が読めちゃう。でも逆にみんな、絶対予想どおり来てくれることを待っているまである。そこが、楽しい部分だと思います。

 

──ノーマルな漫才とは違って、やはり特殊な部分はありますね。

 

久保 なので、出順も重要ですよね。トップバッターで来ちゃったら……ビックリする視聴者の方もいるかもしれません! ただ、順番さえ良ければドカンとハマる可能性も大きそうです。さらに、1本目歌ったら、2本目また歌っても絶対面白いじゃないですか!

 

──そこも、みんなの期待に応えて盛り上がるという流れですね

 

久保 そうなんですよ。出順、そして前後のコンビがどうなるか、気になるところです。

 

【8組目】令和ロマン

──令和ロマンさんは、昨年の敗者復活戦で惜しくも2位という結果でした。

 

久保 ネタを見た直後、これは決勝に行ったんじゃないかと思いました。「ドラえもん」を題材にしたネタで、誰もが分かりやすく、笑いやすい漫才でした。たとえ「ドラえもん」を見たことがない人が見ても分かるくらいに(笑)。

 

──テレビを通してでも、会場全体の笑い声が聞こえてきていました。

 

久保 大ウケでしたよね。野外ステージでやってあれだけ笑い声を拾っていた。相当すごかったんでしょうね……。技術力もあると思いますが、ただただ純粋に面白くてウケていた。

 

──今年はどんなネタをしてくれるんでしょうか。

 

久保 令和ロマンさんは、何か題材となる作品やテーマがあって、それを膨らませていくのが得意な方々ですよね。なんなら、どこまででも広げられそうで昨年ももっと見たいと思ってしまいました。こちら側に、題材の知識がなくても、ツッコミの(松井)ケムリさんがしっかりフォローしてくれるので、笑いやすい。あと、お2人ともお声が聞き取りやすいです。

 

──たしかに、小さい声でも響くトーンというか。

 

久保 そうなんです。声を張ったり、そこまで大きな声量でもないのに、しっかり届くタイプです。また、ケムリさんの強すぎないけど、受け止めてるだけでもない、ちょっと不思議な感覚のツッコミも良い。ほかにいらっしゃらないタイプな気がしています。

 

──出順はどのあたりがいいと思いますか?

 

久保 うーん、どこで出てきても安定して面白そうなんですよね。順番に左右されないコンビなんじゃないかな、と思います。ご本人たちも、そういった心構えができていそうです。

 

──令和ロマンさんは、決勝進出者発表の瞬間が「落ち着きすぎている」「すでに王者の風格」と話題になりました。

 

久保 驚きましたよ! もう行くだろうと確信していた雰囲気というか、未来が見えてたんじゃないかと思っちゃいました(笑)。あの瞬間って、性格が出る部分だと思うのですが、令和ロマンさんは、まだまだ読み取れない面白さを秘めているんじゃないかと感じさせてくれましたね。決勝の舞台で、それを爆発させて欲しいです。

 

【9組目】マユリカ

──そして、現段階で決まっているファイナリストでは最後の9組目。マユリカさんについてお聞きしたいです。

 

久保 私は、マユリカさんの冠ラジオ「うなげろりん」のリスナーなんですが、幼なじみで仲の良い2人の掛け合いがいつも本当に楽しくて。実は私もお2人と同い年なので、とても応援しています。あと、マユリカさんのコンビ名は、マユさんとユリカさんというそれぞれ妹さんの名前が由来になっているのですが、私もユリカなので勝手に親近感を持ってますね(笑)。

 

──おお、たしかに! マユリカさんは、漫才でもトークでも息がぴったりで仲の良さが滲み出ています。

 

久保 そうなんですよ。マイクの前に立って、一瞬普通に会話が始まったと思うくらいに自然なキャッチボールで。関係性ができあがっているからこその空気感を醸し出している。彼らは、コント漫才が中心ですが、個人的には、2人ともオバサンの役が似合うなと思っていますね。一見、オバサンの役は中谷さんの方が似合って、良い意味で気持ち悪い感じもするのですが、実は阪本さんも似合うし、ちゃんと気持ち悪い(笑)。

 

──あははは。キャラクターが立っていますね。

 

久保 マユリカさんて、ラジオリスナー的に言うと「気持ち悪い」って安心して言える存在というか、そこが良さというか。いや、駄目なんですけどね!(笑) でも、そういうイジられキャラ的な立場が好感にも繋がっていると思うんです。そう考えると、今回の大会では何位になっても面白くなりそうというか、爪痕を残しそうな気がしていて。たとえ、最下位になってしまっても“おいしい”というか……。

 

──なるほど。昨年も、10位のダイヤモンドさんが大きな爪痕を残していました。

 

久保 もちろん優勝を狙える実力も十分あると思います。今年は、関西から東京進出も果たして、本人たちも気合が入っていて、勢いもある。やってやるぞという気概が感じられる上に、2人で何十年も一緒に積み上げてきた信頼の力もある。そういったストーリーの先に、優勝があったらかっこいいと思いますし、期待しています。

 

運命の敗者復活戦!決勝に進出する10組目のコンビは?

──ここまでファイナリスト9組について、分析を頂きました。ここからは、予想タイムです!  まずは敗者復活戦の予想からお願いしたいと思います。今年は、敗者復活戦のルールががらりと変わります。

※敗者復活戦の新ルール

ABCの3つのブロックに出場コンビが振り分けられ、各ブロックから観客票で勝者を1組ずつ選出。その3組の中から、5人の芸人審査員が最終的なジャッジをして、決勝進出者1組を選出。

久保 今までとは、全く違った緊張感のある闘いになりそうですね。リアルタイムで客席から見たお客さんの“生”の投票であるのと、芸人審査員の5人の方々も、錚々たるメンバーで、決勝さながらのスタイル。こういった形式の審査となると、よりその場のウケ具合が重視されると思うんです。つまりは、本当に面白いネタが評価される。人気や知名度も多少は、お客さんの投票に関わってくると思うのですが、最終的にはとにかく単純に面白かったコンビが勝ち上がるはず。それを踏まえて、私が選んだのは……。

 

★敗者復活枠 ドーナツ・ピーナツ

──おお!これは意外な予想です! ドーナツ・ピーナツさんは、関西の「よしもと漫才劇場」に所属されているコンビですね。

 

久保 やはり関西勢が持つ、勢いとパワーは今年の審査システムの中で、際立ってくるんじゃないかと考えています。その中でも、ドーナツ・ピーナツさんは、勢いだけでなく、ネタがしっかりしていてボケ数が多いので、笑いの総量が多いだろうと考えまして。それに、関東の方にも受け入れてもらいやすそうな掛け合いとテンポだと思うんです。そして、単純にいま「推し」ているので!(笑)

 

──審査システムと実力、そして応援したい気持ちを併せた選択ということですね。

 

久保 はい。より面白いかどうかが重視される評価基準で、私がいま面白いと思っている方々を選ばせていただいた形です。ですが、実はまだドーナツ・ピーナツさんを生で見たことがなくて……。もし決勝まで進んでくれたら、東京でライブをしてくれることも増えると思うんです。そうなったらうれしいなという願望もありますね。

 

──ピーナツさんの癖強めな飄々としたキャラクターと、ドーナツさんの鋭いツッコミのバランス感は、東京でも人気が出そうですね。

 

久保 今は関東での知名度はそこまでですが、ネタ重視の今年の敗者復活戦でなら、2人の質の高い漫才がきっと光ると思います。

 

2023年のM1グランプリを制するのは? トップ3&優勝コンビ予想を発表!

──では、最後にファイナルラウンドに勝ち上がるトップ3、そして優勝コンビの予想をしてもらいたいと思います! 実際にM-1グランプリでは、視聴者も参加できる「三連単」予想企画が開催されています。もしかしたら、久保さんの予想がピタリと的中するかもしれません!

 

久保 いや~難しすぎます。正直、全然決められません!(笑) 多分明日には考えが変わっているかもしれないですね……。あと、決勝戦では“出順”と“会場の空気感”がかなり重要だと思うので。そればかりは、本番になってみないと分からないので、予測がつかない……。ですが、決めました。まずは第3位は、このコンビです。

 

★第3位 カベポスター

久保 3位に選んだのは、カベポスターさんです。昨年も決勝戦に進出していて、実力はお墨付きのコンビ。そして、関西勢ながら東京でも受け入れやすいバランスの良い漫才のスタイルは、審査員の方からも支持がありそうだと思ったので。また、昨年は、トップバッターだったこともあって、ファイナルへの切符を逃してしまったんじゃないかな、とやっぱり思うんです。順番が違っていたら、違う未来もあったんじゃなかって。

 

──今年は順番によってはファイナル進出の可能性大ですね。ですが、3位の理由は何でしょうか?

 

久保 どうしても3組に残った時に、他が動きとパワーのあるコンビになったら、カベポスターさんは落ち着いて見えてしまうんじゃないかな、と思います。

 

──なるほど。ファイナルでは、ネタの質ももちろんですが、勢いも大切ですもんね。

 

久保 あと単純にカベポスターさんの2本目のネタが見たいですね。次は何してくれるんだろう! と気になるタイプなので。そんな思いも込めた選出です。

 

──2本目を見れるのも醍醐味ですよね。さて、続いて準優勝となるコンビは?

 

★第2位 ダンビラムーチョ

──おお!昨年の敗者復活戦で話題をさらったコンビが準優勝と予想。その心は?

 

久保 これは、もしダンビラムーチョさんが昨年のような盛り上がりのある歌ネタを披露されたら、会場の支持も得てファイナルまで駆け上がってくれそうだなと思ったんです。それには、正当な理由もあって、2020年大会で、同じく歌ネタのおいでやすこがさんが、準優勝された経緯を踏まえてです。あの時の、審査員と会場中を巻き込んだ一体感、すごかったじゃないですか。歌とお笑いが融合した時のパワーを皆さん肌で感じ取ったと思うんですよね。それを今度は、ダンビラムーチョさんにも起こしてほしいと思っています。

 

──素晴らしい分析です。個別の分析でもお話されていましたが、1本目を見たら、2本目も見たい! という気持ちにさせてくれそうです。

 

久保 もし会場が重い雰囲気でも、ダンビラムーチョさんならガラッと空気を変えてくれそうです。今年の台風の目になると信じています!

 

──楽しみですね。それでは、ついに優勝予想コンビの発表です。久保さんが選んだのは、一体だれなのか! お願いします。

 

★第1位 マユリカ

久保 私の優勝予想コンビは、マユリカさんです!!!!

 

──わー!やっぱり幼なじみパワーは強いと!

 

久保 今年、満を持して上京してきた気合、大阪で磨き上げられた実力、長年培ったお互いへの信頼、そして、私の素直な応援したい気持ちで、大きな期待を込めての優勝予想です! 頑張ってほしいです。

 

──日本一への条件はしっかりそろっていそうですね。

 

久保 ただ、個別の分析でもお話しましたが、何位になっても絶対面白くしてくれると思っています。本当にごめんなさい! とは思っているけど、最下位の姿もやっぱり見てみたい(笑)。そういうエンターテイナーな部分も含めて、素晴らしい結果が出ることを楽しみにしています!

 

──24日が待ち遠しいですね。最後に、今回の予想を振り返りつつ、総評をお願いします。

 

久保 実は、もともとこの予想企画はお受けすることは、めちゃくちゃ悩んだんです。もちろんお笑いは大好きですが、細かいことを話せるわけではないし、あまり深くは考えず楽しい!  という気持ちだけで見ていたり、感情だけで話してしまうことも多いものですから。お笑い好きな皆さんに、え? と思われるかもしれないと思って、躊躇もしていました。

でも、M-1グランプリって普段お笑いに触れない人も見てみようって思うすごい大会じゃないですか。それを考えた時に、私みたいに言葉でうまく表現できなくても、どんな人が出ているか知らなくても、「ただ楽しく、笑いたい」という気持ちがあればいいんだよ、というのを伝えられればと思いまして。全然何も考えずに、楽しんでほしいなって。

今年のキャッチフレーズは「爆笑が、爆発する。」だと聞いて、シンプルだけど、めっちゃいいなと思いました。そう、笑いたいだけ。なので、皆さん、どうぞただ楽しんでください。そして、よかったら劇場に行って、生のお笑いも浴びてみてください。

 

──素敵なお話でした。ありがとうございました!

 

 

構成・撮影/丸山剛史 取材・文/kitsune

 

【M-1グランプリ2023特集】初決勝のくらげがM-1ドリームは手にする!? 「これで気が楽だわ、俺の人生。10位でもいいわ。決勝行ったしな」

M-1ファイナリストが発表された12月7日、オズワルドの伊藤俊介さんがXにこんなポストをした。「負けたのは悔しい。ただ、世話になってる先輩と可愛い後輩と泥水すすった同期がいったのが死ぬほど嬉しい」──この「泥水をすすった同期」こそ、今大会のダークホース的存在、くらげ。現在もアルバイトを続ける2人、M-1についてあますことなく語ってもらった。

 

くらげ…渡辺翔太と杉昇による漫才コンビ。2018年結成。吉本興業所属。NSC東京校17期出身。(写真右)渡辺 翔太●わたなべ・しょうた…1988年8月23日生まれ。静岡県出身。X(旧Twitter)(写真左)杉昇●すぎ・のぼる…1988年5月7日生まれ。福岡県出身。 X(旧Twitter)

 

【くらげさん撮り下ろし写真はこちら】

 

1位予想はさや香。現場にM-1見に行ってついでに出られる感じ

──芸人仲間の方が「くらげこそM-1ドリーム」だと言っていました。「ダークホース」と書かれたメディアもありますが、どう思いますか?

 

渡辺 圧倒的にダークホースです。YouTubeにある「優勝候補予想ランキング」動画で最下位だったんです。投票率2%でしたよ。倍率はエグいです。公営ギャンブルだったらとんでもないことになる。

 

 僕もさや香、モグライダー、真空ジェシカの三連単、一番王道に賭けます。

 

──公式の三連単順位予想、やったんですか(笑)。

 

渡辺 1位はさや香だな。僕も予想するとしたらそうだな。現場にM-1見に行ってる感じです。ついでに出られるっていう。

 

──いやいや決勝まで進んでいますからね。初挑戦はコンビ結成年の2018年で、1回戦で敗退されました。

 

渡辺 2回負けてます。早めに受けると、再エントリーというルールでもう1回出られるんですよ。そこでも落ちました。

 

──(笑)。2019年は準決勝まで行って、無名ながら敗者復活戦の視聴者投票で8位でした。

 

 本当に行けると思っていなかったので「ラッキーだね」という感じでした。

 

渡辺 準決勝進出の発表がある日はライブで、「2時に渋谷に集まろう」という約束をしていたんです。12時に発表があって、スマホで結果を見た相方から「な、なんか……準決勝行ってるけど……?」と連絡があって。「じゃあ早めに集まるか」と。

 

──この準決勝のネタをユウキロックさんが絶賛されていたと。

 

渡辺 ユウキロックさんは絶賛します。大体ほかの人もめちゃくちゃ褒めてくれます。僕らだけ見ると僕らだけ褒めているように見えますけど、全員褒めてくださってます。

 

──(笑)。そうでしたか。渡辺さんが女心について「わかんねえけど」と言いながら芯をつくというネタをもう1度見たいのですが、公式YouTubeで非公開にしていますよね。

 

渡辺 そうなんです。YouTubeはすべて彼がやってくれています。字幕入れてくれています。

 

──作業量がすごいですね。

 

渡辺 漫才のネタ動画をアップして、企画とかあまりやってないんです。

 

準々決勝で、走馬灯になるレベルでウケた

──今回、1回戦から準決勝まで勝ち上がった過程で、印象的なシーンはありましたか?

 

渡辺 準々決勝ですね。

 

 今までで一番ウケすぎて。「笑い待ち」ってあるじゃないですか。出る前は「それを意識しよう」と話していたんですが、それ以上の笑いで。

 

──そんなにいつもと違う感じだったんですか。

 

渡辺 死ぬとしたら、走馬灯はあそこです。「あんだけウケたもんな~」という感じでしたから。今までのウケ方と違いすぎてネタが飛んだほどだったんです。「え!? こんなにウケるんかい!」と無駄なことを考えちゃって。運がよかったくらい、いいお客さんでした。出番順もよかったんです。

 

 袖で見ていた芸人んが「ヤバかったね!」みたいなことを言ってくださって。後日、その芸人さんがほかのライブで、劇場の全員に「くらげがすごかったよ」と言ってくれたらしいんです。

 

──ちなみにどなたですか?

 

渡辺 いぬの有馬(徹)さんです。

 

 いぬさん、某ライブには「ねこ」で名前変えて出てるんです。

 

渡辺 言うな言うな。いぬさんが某ライブにねこで出て2連覇した話言うな。

 

 絶対書いてください。

 

──いい話ですね(笑)。袖にもインパクトを与えるくらいすごかったんですね。準決勝の手応えはいかがでしたか。

 

 なかったです。準々決勝がウケすぎたので。

 

渡辺 準々決勝が100点満点中150点くらいの感覚になっちゃったんです。その影を追い求めてしまって。スベっていたわけではないんですけどね。

 

──比較してしまったんですね。準決勝が終わって決勝発表までの間は、なにをしていましたか?

 

渡辺 オズワルドの伊藤(俊介)と豪快キャプテンの山下ギャンブルゴリラとスタミナパンの麻婆さんと、ダブルヒガシの大東(翔生)とフースーヤの谷口(理)と、あとからロングコートダディの堂前(透)が来て、ご飯に行きました。伊藤が「とにかくみんな誘って行こう」という感じで。伊藤が全部出してくれました。麻婆さんのほうが先輩だけど、伊藤が出しました。麻婆さんは自分が払いたくないから、あの瞬間だけ僕らと同期になった。

 

 一個先輩なのに? たまにそういう人いるけど。

 

渡辺 「同期だよ」「そうなの?」って話してたら、上だった。

 

──(笑)。皆さんどんな話をしましたか?

 

渡辺 やっぱりエゴサとかしちゃうんですよ。「準決勝 くらげ」とかで。褒めている人もれば「ちょっと甘かった」という人もいて、半々で。「これは無理だな、全員に褒められる人が決勝に行くんだよ」とか。それで途中で伊藤が「もうそういうのやめよう! 普通にエロい話しようぜ!」って、無理やり話を変えて。でもまた途中からエゴサしちゃうんですよ。

 

結果発表時、オズワルド畠中が「話が違うぞ」

──ドキドキがすごいですね。杉さんは?

 

 僕はオズワルドの畠中(悠)と真空ジェシカのガクの3人でご飯に行きました。ガクは自信がありつつも「まだわからない」と言っていて、僕は「くらげとオズワルドはちょっと今回厳しいかな」と。畠中と「俺ら2人で帰ろう」と言っていたんですが、まさか僕らと真空ジェシカが受かってオズワルドが落ちるなんて。結果発表直後、泣いている僕に畠中が寄ってきて「話が違うぞ」って。

 

──あはははは! 一緒に帰ると話していたのに(笑)。

 

 あとで畠中が3人でご飯を食べている写真をXにポストして「このときは楽しかった」と書いていましたね。

 

渡辺 僕も堂前さんに「どうやった?」と言われて「多分無理っすねー」と話していたから、名前呼ばれて泣いているときに堂前さんが来て祝福してくれつつ「話しちゃうやん!」で、2秒ではけて行きました。

 

──そんなやりとりがあったんですね(笑)。

 

渡辺 でも、名前が呼ばれた瞬間はみんな優しかったです。ダイタクさんとかオズワルドとか来てくれて。みんな抱き合ってくれて。

 

──温かいですね。

 

渡辺 絶対に辛いはずですからね、自分たちも。

 

──辛さよりも仲間を思って。

 

渡辺 ダイタクさんは、僕らの東京漫才師の兄さんなんです。

 

──皆さんダイタクさんにお世話になっているんですね。名前を呼ばれた瞬間のことは覚えていますか?

 

 名前を呼ばれるとは思っていなかったので、エントリナンバーが2109なんですが、エントリーナンバーを呼ばれた瞬間にもう涙が出ちゃって。ネット上では、「どうやら、『エントリーナンバー!』のときにすでに杉が泣いていた」という変な噂がたっていて。

 

渡辺 ヤバいな。

 

──あはははは!

 

渡辺 「2100……」の時点でほぼくらげなんですよ。2100番台のナンバーはいないから。僕も名前を呼ばれた瞬間に「マジか!」と叫んで、もう泣いていました。すぐ近くにいたダンビラムーチョさんがガッツポーズをやってくれたし、奥にいた令和ロマンの(高比良)くるまが、いつも冷静でそんなことするようなヤツに見えないのに、僕らに向けてガッツポーズをくれて。

 

 あとで決勝発表の動画を見たら、「令和ロマン!」と呼ばれた瞬間、後輩のくるまが先輩の僕らに「おめでとう」をやってくれたのに、僕らはそんなことやってないの。自分たちのことで必死で、泣いてて。めっちゃ恥ずかしい。

 

渡辺 泣いてるから誰が呼ばれたかも覚えてないしね。

 

 2人であとで確認し合ったんですよ。

 

渡辺 あとで全員が並んだときに「あ、この人たちが通ったんだ」って。

 

こんなに汚くて華がないヤツを選ぶなんて“ガチ”じゃん! って

──それどころじゃないほど噛み締めていたんですね。泣いていたときどんなことを考えていましたか?

 

 ようやく夢の舞台に立てるなと。このためにやってきたので。それがうれしかったですね。

 

渡辺 僕はまず親の顔が出てきて、2番目にゆにばーすの川瀬(名人)さんが出てきて。一番お世話になっているので。3番目に同期のまんじろうの大寺(惇平)が出てきて、「なんでだよ!」とちょっと笑ってしまいました。

 

──なぜですか(笑)。

 

渡辺 前日に一番長くアツいLINEをくれたんです。「このネタやるなら絶対行けるよ!」っていう、言ってしまえばスカスカの内容なんですけど、一番アツく言ってくれました。

 

──川瀬さんもやりとりがあったんですか?

 

渡辺 川瀬さんは準決勝のネタが出来上がったときに「これで決勝に行けるぞ。おまえらが多分一番近いから」と言ってくれたんです。4月くらいかな。

 

──そのネタはいつ頃出来上がったのでしょう。

 

渡辺 1年前にできて、少しずつ改良して、4月に8割くらい出来た感じです。川瀬さんはネタを褒めてくれることは今までもありましたが、「行けるよ! 決勝行ける!」という褒められ方は初めてだったんです。

 

──そう言われて、実感はありましたか?

 

渡辺 もちろん自分たちでも思っていましたが、今まで決勝に3回行っている人が言うから「ガチか……」となりました。

 

──決勝に行ける人って、それまではどんなイメージでしたか?

 

渡辺 いや、すごい人……僕らは「行けるわけがない」と思っていました。準決勝は行けるけど、準決勝から決勝って、もう想像ができないんです。選ばれた人です。だから僕らが選ばれた時点で「ガチすぎるな」と思いました。選ばないよ、こんなに汚くて華がないヤツ。出すに値しない可能性もあるじゃないですか。テレビ番組ですし。……となったとき、「俺ら? ……ガチじゃん!」と思いました。

 

──真正面から実力勝負なんだなと。

 

渡辺 本当にそう思いました。めっちゃリアルなんだなって。目指していたけど行けるとは思っていないというものあって。「行ける・行けない」じゃなくて、「多分行けないんだろうな」って。

 

──決勝の舞台に立ったとき、どんな心境になるんでしょうね。

 

渡辺 まずは舞台上の明るさがどれくらいかを知っておかなきゃ。

 

 何度かテレビに出させてもらっていて、あの明るさを知っているからあまり緊張せずにすむかも。初テレビが決勝だとちょっとヤバいと思いますけど、敗者復活戦にも出たし。そのときは初めてのテレビだから緊張しました。

 

2019年、無名すぎて先輩の福田麻貴が「ソニーちゃうんや!」と驚がく

──2019年の敗者復活戦が初めてのテレビ? じゃあ本当に一般視聴者にとっては無名だったんですね。

 

 ほかの芸人とかも、M-1で初めて存在を知ったと思います。3時のヒロインの福田(麻貴)さんに後日∞ホールで会ったとき「吉本なんですか?」って言われましたから。

 

渡辺 敬語でね。他事務所の先輩だと思われてた。

 

 吉本の後輩だったっていうね。

 

渡辺 ∞ホールにゲストで来ていると思われてて。「えーー! ソニー(ミュージックアーティスツ)ちゃうんや!」

 

──なぜソニーさん(笑)。

 

渡辺 パッと見てにじみ出る雰囲気にソニー感があったんですかね。

 

──(笑)。結成間もなかったから知らなかったんですかね。

 

渡辺 それもあります。∞ホールのシステムの一番下にいたし、敗者復活戦の後にスタッフさんと会ったら「君らがくらげか!」と言われて。いや俺今まで何度もすれ違ってるけどなあ……って。今いないですけどその人は。

 

──あはははは! ちょっとイヤな感じがあった?

 

渡辺 なんだかあの時期はありましたね、今はないですけど。下すぎて人権ないもんな。あいさつされなかったり。「おはようございます」と言っても「……はい」みたいな感じで。

 

 気持ちはわかるんです。何百人もいるから、向こうからしたら1人ひとり丁寧にできないと思うので。

 

渡辺 敗者復活戦の次の日に会ったときに「おはようございます」と言ったら、「おはようございまーす!」と言われたときは、「おお! やっと魂が入ったんだな! 人になったんだな俺らは」と思いました。

 

──やっぱりそういうのって覚えてますよね。

 

 そうですよね。あと最初に「わかんねぇけど」のネタを構成作家さんの前でやったとき「こんなネタじゃ無理だよ」と言われてそのまま準決勝まで行ったら、その日、「今日もこのネタめっちゃよかったよ」って、急に。

 

渡辺 「前から俺は評価してたよ」みたいな。途中で質問したらマジでキレられたもんな。「いいよいいよ! その感じでいくならもういいよ。下にいなよ」みたいに言われて。

 

──そういう方いるんですね(笑)。

 

 でもその人ももう今はいないです。

 

渡辺 みんないなくなるんだ。

 

 原因は分からないですけどね。

 

──ちょっとなにかある人は消えるんですね。

 

渡辺 いるけど僕らが見えていないだけかもしれないですけどね。

 

一緒に泥水をすすった芸人から「希望だよ」

──そういう目に何度も遭ってきたんですか。

 

渡辺 僕らがこういう話一番あると思います。泥水をすする系の話は。特にコロナ禍は営業が全部なくなって、∞ホールのシステムもうやむやになって。

 

 そのときは1人の社員さんが600人くらいマネージメントしていて。

 

──そのころの時期に一緒に切磋琢磨した芸人さんから、今回反応はありましたか?

 

渡辺 めっちゃLINEが来ました。「夢がある」「俺らでもいけるかもしれない、と思わせてくれてありがとう」とか。どんどん芸人がやめなくなっていくよ。

 

──皆さんの希望ですね。

 

渡辺 ぶくろ旋風のヒデミールさんという方から「本当に希望だよ」というLINEが来ました。

 

 まだいる?

 

渡辺 ヒデミールさんはガンガンいる。東久留米でライブやってる。

 

──(笑)。消えていなくてよかったです。杉さんは、決勝が決まった週にお子さんも生まれているんですよね。

 

渡辺 ピークが多いんだよな。

 

 めっちゃ忙しい週でしたね。奥さんは出産で入院していて、僕が上の子を見ていて。周りの人が手伝ってくれましたが忙しかったですね。

 

渡辺 おまえの子どもが生まれた日、うちのアパート断水だったんだぞ。

 

 知らん!

 

渡辺 トイレ流れんかったんだぞ。

 

──ハッピーな日と断水の日で(笑)。決勝までどんなふうに過ごしますか?

 

 ネタをどうしようかという話をしていますね。

 

渡辺 あとは疲れないようにしています。とにかく体調管理ですね。すべての食物に生姜をかけています。体が冷えないように。

 

──すごい心がけですね(笑)。

 

渡辺 なに食べてもあんまりおいしくない。

 

 僕は準決勝で咳がちょっと出てヤバかったので、病院で決勝までの日数分の薬をもらいました。

 

ライブの合間にUber Eatsやって日焼け

──ちなみに、皆さんが「ドリームだ」と言うということは、今アルバイトをしていますか?

 

渡辺 してます。ファイナリストで僕らだけですね。バイトしてるの。給料一桁も僕らだけじゃないですか?

 

 バイトしてるっていうことはそういうことですよね。

 

渡辺 だから周りのみんなが祝福するわな、と思います。

 

──歴代のファイナリストでは、2020年に決勝4位になった錦鯉さんが、当時はまだバイトしていましたね。今は何のバイトをしていますか?

 

渡辺 僕はダンボールを組み立てるバイトをしています。日によって解体か組み立てかあって、この前なんて、「こっちのダンボールを組み立てたあと、そっちのダンボールを解体しておいて」と言われて、俺は何をやっているんだろうと思いました。

 

──あはははは!

 

渡辺 もしかしたら、監視カメラでめっちゃ金持ちのヤツが道楽で見ているのかなと思いました。酒飲んでステーキ食いながら見てるのかなって。

 

──(笑)。それを週にどれくらい?

 

渡辺 派遣なので融通が効くんです。でも決勝が決まってからは行かないようになりました。だから今月のギャラが一番しんどいかもしれないですね。

 

 僕はUber Eatsの配達と、地下アイドルの握手会の剥がしをやっています。この前、僕が剥がす側なのに「お時間です」と言われて僕が剥がされたんですよ。意味がわからなかったです。

 

渡辺 剥がされ顔じゃないのになあ。

 

──(笑)。それはどんなツテでできるバイトなんですか?

 

 もともと先輩の芸人がやっていて紹介してもらいました。シフトの融通も効くので、行けないときはほかの芸人に行ってもらったりして。Uberも好きなときにやっています。

 

渡辺 一回こいつ、Uber先でUberして、川崎まで行ったこともありましたね。

 

 あと夏に∞ホールでライブやって、5時間くらい空き時間があったのでその間にUberやって帰ってきたら、めっちゃ日焼けしてた。

 

渡辺 おまえ焼けてんじゃん! って。

 

 次の出番で急に日焼けして出たんです。

 

──あはははは! 本当に休む間を惜しむほどバイトして。そんな2人が決勝に行くとなったら、それは周りもアツくなりますね。

 

親はあいさつ周り、母校は生徒に呼びかけ、アツい応援!

──決勝が決まった後の記者会見では「グッズのステッカーが圧倒的に人気がなくて、自分たちで購入した」と話していましたが、グッズも動いたんじゃないですか?

 

渡辺 8位までになったらしいですね。

 

 知らなかった!

 

渡辺 「買いたい」と言ってくれている人もいて。前は杉が2万、僕が4万円分買って1位になったことがあったんですが、今回は自分で買ってないのに。ネットでも買えるので、実家関係が買っている可能性もありますね。

 

──ご実家の反応はいかがですか?

 

 父が喜んでくれて。決勝が決まった翌日に近所に「息子がM-1に出ます」とあいさつ回りしたみたいです。小学校、中学校、保育園にも行ってきて。20年前に通っていて、知っている先生も園長先生くらいなのに。

 

──ありがたいですね!

 

渡辺 僕は地元の中学校の新聞に、「卒業生が夢を追ってM-1グランプリ決勝へ。みんなで応援しましょう」と書いてくれて。それはうれしかったんですが、今朝、母親から来たLINEを読んでゾッとしたんです。2、3日前の給食の時間に、校内放送で「卒業生の渡辺さんがM-1決勝に出るので、皆さん24日は応援しましょう」と流れたそうで。くらげなんて知らないし、クリスマスイブですよ? 中学生は「え……」という感じですよね。

 

 僕は高校時代に野球部で、そのときのコーチがいま母校で先生をやっているんですが、その先生も毎授業「おまえら、くらげを見るように」と言っているそうで。無理やり見せるものじゃないから。見たい人だけ見てくれればいいです。

 

──そうですね(笑)。地元の方も熱がこもっていますね。身近な芸人さんはいかがですか?

 

渡辺 まずはやっぱりダイタクさん。抱き締めてくれて、記者会見のときに「どっちが大さんか拓さんかわからなかった」と言いましたが、全然わかっていて、大さんが抱き締めてくれたんです。その後で拓さんが鼓舞してくれて。控室ではダンビラムーチョの大原(優一)さんが、「もうバイト辞められるな!」と抱き締めてくださって。マユリカの中谷も一緒にいて、3人で抱き合いました。あと、オズワルドの伊藤が泣いてくれました。Xに「初めて、決勝に行けなくてうれしいが勝ったわ」みたいなポストをしれくれて。「もう止まらんからもう一言言わしてくれ。負けたのは悔しい。ただ、世話になってる先輩と可愛い後輩と泥水すすった同期がいったのが死ぬほど嬉しい。死ぬほど嬉しいに決まってるのよ」って。

 

ダイヤモンドからのアドバイス「最下位は取らないほうがいいらしい」

──アツい……! 同期ですもんね。

 

渡辺 僕に関してはNSCで同じクラスだったんです。1組で、クラスの中でABCのランク分けがあって、僕ら2人ともCクラスでした。杉も畠中も違うクラスのCです。

 

──そのときは伊藤さんとどんな仲だったんですか?

 

渡辺 伊藤もあまり人と仲良くしないスタンスで。お互いにNSC時代は唯一しゃべって飲みに行っていました。

 

──10年以上のお付き合いですよね。

 

渡辺 先にオズワルドが結果を出しまくっちゃいましたけどね。

 

──そのときはどんな心境で見ていましたか?

 

渡辺 ちょっと夢ありましたね。いい指標になりました。「あいつら、努力でいったな」というのが一番うれしかったです。

 

──オズワルドさんが指標ということは、お2人とも芸能人とお付き合いされていて、渡辺さんもそうなる可能性がある……?

 

渡辺 なるほどね! 僕は38歳から45歳くらいの女性からしかDM来ないです。

 

──なぜでしょう(笑)。

 

渡辺 わからないです。ちょうどいいんじゃないですかね? 緊張もしないんでしょう。一度、熟女キャバクラで働いているバツ2の女性からDMが来て飲みにいったんですが、そのときに「言っておかなきゃいけないことがある」と。何を言われるのかと思ったら「本当はバツ2じゃなくてバツイチです」と言われて。変な盛り方! ムズすぎる!

 

──なんで増やしたんでしょう(笑)。迫りくる24日ですが、緊張していますか?

 

渡辺 ダイヤモンドの野澤(輸出)さんから会うたびに言われるのは「最下位は取らないほうがいいよ。わかんねぇけど」って。いや、わかってんるじゃん。「あと、わかんねぇけど、ウケたほうがいいらしい、どうやら」と言っていました。野澤さんはボケっぽくして緊張を和らいでくれているんだと思います。小野(竜輔)さんは「もし最下位になっても最下位を集めたライブがあるから、それはそれで笑いになるよ」と言ってくださって。

 

──じゃあどんな結果になっても。

 

渡辺 何をやってもノンプレッシャーでいける、と思えるのが一番いいですね。でもやっぱり松本(人志)さんの前でやるのは緊張しますよね。松本さんの画像とか事前に見ておこう。あと、出囃子の音、あるじゃないですか。僕はあの音源をいまYouTubeで聴きまくっています。

 

 いいねそれ。僕もやろう。

 

渡辺 ブラックマヨネーズさんが優勝した2005年からかな? 初めてそれが流れたんです。で、それを誰かがラジオで「あの音を聴くと、その瞬間に『うわ! M-1!』ってなるから聴いておいた」と。聴き続けていると聴いたことがないBメロみたいなところまでいって、そっちを聴きすぎて、逆にヤバくなったと。

 

──あははは!

 

渡辺 その前に流れる曲も聴いてる。

 

 それも音源あるの?

 

渡辺 あれ、「トイ・ストーリー2」のサントラなんだよ。2本目の出囃子の音源もあって、それも聴いてる。

 

「これでもう死ねる」

──いいルーティンですね!(笑) お2人にとって、M-1はどんな存在ですか?

 

 人生を変えるために、一番近道なのがM-1だと思います。僕らみたいな芸人は。

 

渡辺 テレビで売れないだろうしネタにポップさがないし、SNSも積極的にやっているわけじゃないので。意外とM-1に向けて頑張るのが近道なんですよね。中1のときにM-1が始まって、M-1を好きになってからの人生の方が長いので、もう「M-1=人生」みたいなことにはなっています。

 

──本当にお2人のような芸人さんのためにある大会だと。

 

渡辺 かっこつけるわけじゃないですけど、決勝が決まったとき、真っ先に思ったのが「バイトを辞められる」とかじゃなくて、「これでもう死ねる」と思ったんです。結婚したり幸せになったり離婚したり、人生の中でいろいろあるかもしれないですが、「死ぬときに思うな」と思ったんです。「決勝出たしな」って。病気になっても「でも決勝に1回でも行ったもんな」と思えるというか。マジで、それだけはすぐに思いました。「これで気が楽だわ、俺の人生。10位でもいいわ。決勝行ったしな」って。M-1の小さい年表にコンビ名が載るじゃないですか、それだけで十分です。これ、2人くらいにしか言っていないです。

 

──すごく貴重な、いい言葉をありがとうございます。最後に、決勝に懸ける意気込みを教えてください!

 

 決勝の光景を見ずに辞める芸人が割合的に多いじゃないですか。そんな中で行かせてもらっているので、その人たちの分……と勝手に思っています。決勝進出を喜んでくれた人がいるから、自分たちだけの舞台じゃないなと思います。

 

渡辺 辞めた芸人がめちゃくちゃLINEくれるけど、そいつらはもう社会人をやっていて「おまえらすごいよ」と言ってくれるんですが、でも絶対に辞めたやつのほうがすごいんですよ。そいつらに、バチッとやっている姿を見せたいです。

 

 

構成・撮影/丸山剛史 取材・文/有山千春

【M-1グランプリ2023特集】初決勝の舞台へ! ダンビラムーチョ、当日まで「声優推薦のミンティアで乗り切る!」

2人が到着する前の取材部屋にて、マネージャーが教えてくれた。「ゆにばーすの川瀬名人が準決勝のネタを見て『決勝の一枠、潰れたわ』と言っていたんです」。芸人仲間が自信たっぷりに推すのは、ダンビラムーチョ。昨年の敗者復活戦では野外で堂々たる歌声を響かせインパクトを与えた2人が、今年、初めてM-1グランプリの決勝の舞台に立つ。決勝直前、M-1にまつわる本音をあますことなく聞いた。

 

ダンビラムーチョ…大原優一と原田フニャオによる漫才コンビ。2011年結成。吉本興業所属。NSC東京校16期出身。Instagram(写真左)大原優一●おおはら・ゆういち…1989年11月06日生まれ。山梨県出身。X(旧Twitter)(写真右)原田フニャオ●はらだ・ふにゃお…1989年05月19日生まれ。長野県出身。Instagram

 

【ダンビラムーチョ撮り下ろし写真】

 

川瀬名人が「仕上がっている!」と絶賛

──マネージャーさんから川瀬名人が絶賛していたと聞きました。

 

原田 川瀬には2か月くらい前から、「おまえらとくらげは、今年絶対に決勝に行けるわ」と言ってくれていましたね。

 

大原 「座・高円寺」というライブハウスで、素敵じゃないか主催のライブがあって、そこで初めて川瀬が準決勝でやったネタを見て言ってくれたんです。あいつ、そういうこと言うんですよ、M-1好きすぎて。早い段階で、決勝行けるかどうの判断をすごいする。

 

──(笑)。川瀬名人さんだけじゃなく、ほかの芸人さんも絶賛されて。

 

原田 そうですね。川瀬がいろんな人に「ダンビラムーチョが仕上がってる」と広めて。ネタを知らない人たちからも「今年、決勝に行くらしいね」とすごく言われましたね。

 

──周りの反応は、ご自身も納得な反応ですか?

 

原田 全然そんな意識はなかったですけどめちゃくちゃ言われるので、自然と「決勝に行けるかもしれない」というマインドにはなっていきました。

 

──「座・高円寺」でのライブの段階で、準決勝はそのネタにすると決めていたんですか?

 

大原 いや、川瀬や周りが「絶対そうやろ」「あれやらんかったらおかしい」と言うから「あれをやるかな」と。でも実際に、今年一番ウケるネタではあったんです。

 

──今までのM-1で、周りからそんなふうに言われたことはありましたか?

 

原田 今年ほどはないですね。2018年に初めて準決勝に行けたときのネタも周りから褒めてもらいましたが、今年は異様に言ってくれていたんで。

 

──ネタができたのはいつ頃ですか?

 

大原 今年の夏くらいですね。

 

──それができたとき、「一番面白いネタができた」という実感がありましたか?

 

大原 そんなこともなかったですね。でも「どこでやってもウケるな」とは思いました。∞ホールでやったり、広島の劇場でもやったり、どこでもウケたので客層を問わないのかなと。

 

原田 周りの声もすごくよくて。マネージャーが「今年はあのネタですよ。絶対アレ! 任せてください! 僕には分かります!」ってすごい断言してきました。それが自信にもなりました。

 

──準決勝会場のお客さんの反応はいかがでしたか?

 

大原 よかったですね。応援ムードというか、多分昨年の敗者復活戦があって、お客さんが僕らが歌ネタをするイメージを持っていてくれていたと思います。それで「こいつらまたなんか歌うよ」という空気はありました。

 

昨年の敗者復活戦の楽器の、意外なヒストリー

──昨年の敗者復活戦は森山直太朗さんの「生きとし生ける物へ」を歌うという、しかも楽器も取り入れて。インパクトがありました。

 

原田 順序や野外の雰囲気とかが相まって、神様が味方してくれた感じがするんですよね。

 

──楽器を取り入れるという発想は、今までにないことだったんでしょうか。

 

大原 それ、すごく言われるんですけど、まず歌しりとりをやって、一緒に歌いだすときにベース音みたいなのをやり出す、次にハモり出す……となったら、次はもうボケとして楽器を使うことしか残されていなかったという感じなんです。

 

原田 最初は、大原が吹くカズーという小さいラッパみたいな楽器だけだったんです。それを急に吹き出してもなんのことか分からないし、その楽器もめっちゃ不思議だし、見ている方が「何が起きているんだ?」となったとき、大原が楽屋で「これ!」みたいな感じでどんぐりマラカスを僕に渡してきたんです。「まずは原田がどんぐりマラカスを鳴らし出したら、次にカズーでいこう」という構成になって。

 

大原 すぐそこ(∞ホールの近所)の楽器屋さんで買いました。

 

──急遽調達してきたんですか。

 

大原 そもそもオズワルドの畠中(悠)が、歌うライブのときにカズーをくれたんです。そこから「これ、使えるな」と使い始めました。

 

原田 カズーにも歴史があって。最初はプラスチックのカズーを使っていたんですけど、それだけ見たらなんのこっちゃ分からないんですよ。今のは、それをもっと分かりやすくするためにラッパっぽい装飾の付いた、2代目カズーなんです。それで見ている人に伝わりやすくなったんですけど、初代も2代目も知っているしずるの村上(純)さんが「カズーを寄せてんじゃねえ。カズー寄せる人初めて見たわ」と言っていて。

 

──カズーを寄せる(笑)。

 

原田 一応そんなヒストリーもありますね。

 

オズワルド伊藤の涙に、もらい泣き

──準決勝後、ファイナリストとして名前が呼ばれたときにほかの芸人さんが集まってきてくれたと、M-1公式YouTubeで話していましたね。誰が来てくれたんですか?

 

大原 シシガシラ、オズワルド、くらげ、ダイタクさん。普段∞ホールに出ている仲間たちです。

 

──自分が呼ばれるか否かではなく、仲間ということで皆さんが来てくれたんですね。

 

大原 それが一番うれしかったですね。

 

原田 ダイタクさんは「やったな!」みたいに鼓舞してくれて、オズワルドの伊藤(俊介)は長年ずっと一緒にやってきたんですけど、その伊藤がめっちゃ泣いてくれて。それがヤバかったです。それでもらい泣きですね。

 

──自分が呼ばれたときに泣いたのではなく、もらい泣き(笑)。

 

原田 「こんなに喜んでくれるんだ」という嬉しさでしたね。

 

大原 それで僕は泣きすぎてコンタクトがズレちゃって、すごい茶を濁しちゃいました。

 

原田 はいつくばって泣いていると思ったら、「ここにコンタクトがあるから!」って。

 

──コンタクトを探していたと(笑)。ソフトレンズですか?

 

大原 そうです。そしたら目の端にありました。

 

──よかったです(笑)。原田さんはお母さまに電話していましたよね。

 

原田 すぐに親と、お世話になっているもう中学生さんに電話しました、まず親に電話すると「すごいじゃん、収入が増えるね」みたいなことを言ってくれて。そのあとに電話したもう中さんはめちゃくちゃ泣いて「本当によかったね」と。「本当にずっと、お茶の間にお笑いを届けてくれると思ってたんだよ。本当に良かったよ」って。それで、「いろんなものに感謝して。芸人さんとかにも感謝。あとスタッフさん、あとお花さんにも感謝して」「お花さん……お花さんってなんなんですかもう中さん!(泣)」という会話をしました。

 

──さすがもう中学生さんですね!(笑) 大原さんも電話したんですか?

 

大原 電話はしなかったです。でもとにかくLINEがいっぱい来ていたんで、めちゃくちゃ返しまくっていました。200~300くらい来ましたね。

 

──すごい! 愛されていますね。

 

大原 というか、M-1の力ってほんとうにすごいなと思いましたよね。知らない人からもLINEが来るんですよ。

 

──優勝したら来るのは分かるんですが、決勝に上がった段階でも同じなんですね。

 

原田 いやあ、決勝はやっぱりすごいです。認知度がありすぎて。

 

24日までは体調管理「喉が終わったらもう0点です」

──決勝を決めたすぐ後の∞ホールでは、お客さんの反応が違ったりしますか?

 

大原 そんなことはないです。一発目の∞ホールのライブ、全然ウケなかったですね。

 

──なぜでしょう(笑)。

 

大原 新ネタだし、あんまり面白くないし、午前中でお客さんもちょっと寝ぼけてるし。全員が寝ぼけてる。

 

──そんな感じなんですね(笑)。これから24日まではどんなふうに過ごしますか?

 

大原 風邪を引かないように、それだけですね。

 

原田 とにかく丈夫な体を運ぶだけです。ネタを見直したり変える人もいるっぽいですけど、僕はそんなことできないので、とにかく元気いっぱいやる準備だけをしています。

 

──あとは喉を整える?

 

大原 喉が大事です。本当に。

 

原田 喉が終わったらもう0点ですね。

 

大原 最近、「声優推薦!」みたいに謳っているミンティアを見つけて、それから調子いいですね。

 

──商売道具ですもんね。家でずっと加湿器をつけたりも?

 

大原 全然やらないんです。だからヤバい。でも結構喉は強いほうだと思うんです。お酒も結構飲むのに大丈夫だから。

 

原田 たしかに大原はいつも強い声を出しているのに、大学時代から一緒ですけど、ダメになったことは一度も見たことないですね。

 

大原 大丈夫かなー、一気に来るんじゃないのかな、このタイミングで。

 

原田 34年分のが、地震みたいに。

 

大原 それは困りますね。

 

──怖い!(笑) そういったことも含め緊張しますが、緊張と楽しみ、どちらが強いですか?

 

原田 当日になってみないと自分がどんな感情になるのか分からないですけど、今のところはワクワクしています。CMを見て「これに出るんだ……! 僕が映ってる!」という感じなので。

 

2019年の準々決勝で、忘れられない大スベリ

──準決勝まではどんな心境でやっていましたか?

 

大原 やっぱり緊張します。準々決勝が一番緊張するかもしれないですね。

 

原田 準々決勝で何度もスベってきてるので。

 

大原 準々決勝から準決勝に上がるのが、だいぶ大変なんですよ。準決勝に上がっただけで芸人たちから「おめでとう」とめっちゃ言われますから。

 

原田 準決勝は“最初のゴール”ですね。

 

──そこを突破するには、どんな力がいるのでしょう。

 

原田 それも分からないです。とにかくウケたい! という気持ちでやっていますが、めっちゃウケたからといって絶対に突破するわけでもないし。だからといって考えたりできないから、もうとにかく教えてほしいです。

 

──突破できない壁を感じたことは?

 

原田 山ほどあります。

 

大原 でもやっぱり、ちゃんとウケたらイケる、というのは分かります。「これじゃムリだな」も全然分かりますし。

 

──舞台上で感じる手応えは、確実なんですね。

 

大原 お客さんの反応でなんとなく分かる感じはします。

 

──じゃあ今年は「行ったぞ」という手応えがあった。

 

大原 現場にABCのスタッフさんがいて、僕らのネタ終わりで、こう(サムズアップ)やってきたので「これは行ったかも?」と思いました。昔から撮ってくださっている人なので、そんな人がこう(サムズアップ)やってくれたから。

 

原田 それで落ちたら「マジで!? 落ちるんだ……」って思いますけどね。

 

──期待させておいて(笑)。今までの戦歴を見ると、2010年、NSC在籍時に初出場して、2015年と2018年、そして昨年は準決勝まで行っています。

 

大原 安定感がないのがヤバいですね。普通は、13年もやっていたら安定感が出てくると思うんですよ。

 

──安定感、ないですか? どうしてそう思うのでしょう。

 

大原 本格的にスベるときがあるんです。技術力がないので、本当にダメなときは本当にダメなことになるんです。

 

──本格的にスベったときのこと、覚えていますか?

 

大原 2019年の準々決勝が本当にヤバかったです。「どっちがスポーツに詳しいんだ」というネタで、最初、僕が急に苦しみ出すんです。「うわ! なにかが入ってくる! やめろ……! ……スポーツ……!」「どうした!?」「私は、スポーツのクイズを出題する魔界の王スポイツだ。貴様がスポーツに詳しいというからこいつの体に憑依したんだ」と、別人格が憑依するんです。この「スポーツ!」のときにシーーンッ! となって、そこからゼロ笑い。

 

「笑わないお客さんの静止画が脳裏にこびりついていた」

──ゼロ!?

 

大原 ずっとでした。そもそも会場の雰囲気が重かったというのはあったんですが、ヤバかったです、アレは。僕しか笑ってなかったです。

 

──あはははは!

 

原田 僕もスベりすぎてお客さんをあまり見たくないので、大原の後ろに立ったんですよ。なるべく「僕は関係ない」と。見たくないし、見られたくないし。結構芸人が袖で見学しているんですけど、捌けて、大原が芸人の前で「スベった~!」と言ったら、「それ言ってくれるんだ……!」という雰囲気になって、そこで初めてドーンとウケました。

 

大原 気を使ってくれてね。

 

原田 みんなうつむいていたんですけど、大原が「スベった」と言ったから「あ、いいんだ」と、共感笑いをしてくれて。

 

──会場が重い、というのは原因があったんですか。

 

大原 長丁場でお客さんもすごい疲れているし、ちょっとやそっとじゃ笑わないし、その上知らないヤツが出てきたらウケないじゃないですか。前の出番のウエストランドさんやロングコートダディさんとかも全然ウケていなくて。「僕たちがそれを変えてやると」と思ったら、それ以上にですね……。

 

原田 超えちゃいました、僕ら。

 

──もう見られたくない! くらいの心境になっても、ずっとやり続けなきゃならない。

 

大原 本当にやりたくなかったですよ。ウケないのを分かっているのに、最後までやるのかと。

 

原田 お客さんが止まっている映像が、すごい脳裏にこびりついているんです。だからあの舞台に立つとそれが思い浮かぶ。ただ、今年はその静止画が動画になって。「笑ってくれている!」というのがうれしかったですね。

 

大原 スベったことをほかの舞台で笑い話にできることも助かっていますね。

 

原田 「スベってるのがめっちゃ面白い」って言われるんですよ。僕らはすごいイヤなんですけど。フルスイングで頑張っているのに全くウケないことが。それはそれで1つの武器、とまではいかないですが、ヘコみはしないですね。

 

大原 テンポがいい漫才をする人たちがスベっていると見ていられないところがあるけど、僕らはテンポが悪いので、ギリギリ見ていられるんじゃないかなって。

 

結果発表直前、ダイタクからエゴサ禁止令

──今回、伊藤さんやもう中学生さんのほかに、周りの方から印象的な言葉をかけてくれた人はいますか? 逆に、嫉妬されることはないんですか?

 

大原 ないですね。周りのみんなは本当にいい人が多くて。人の気持ちが分かるから、落ちる人の気持ちも分かる。本当に優しく包み込んでくれました。

 

原田 ダイタクさんはすごく喜んでくれました。「東京吉本のみんなで頑張って売れていこうな」みたいな。仲間意識が強いから、くらげが決勝にいくこともめっちゃうれしいし。「敗者復活戦で上がるから、待っとけよ!」みたいな。ダイタクさんはずっと漫才を教えてくれていたので、すごくうれしかったです。「これつまらないよ」「あのツッコミ、普通は言わないよ」とか、厳しく教えてくれるから、だいぶ成長させてもらいました。一生そういう感じでいてほしいなと思います。

 

大原 準決勝が終わって、発表までの間に、僕らとシシガシラさん、ダイタクさん、エバースの町田(和樹)でご飯を食べに行ったんです。正気じゃいられないから。そのときみんなから「おまえらのネタって、漫才の部分が少ないよね」「ほとんどがおまえの特技披露だよね」と言われて、マジでそうだと思って。

 

原田 歌の部分が多くて。「ただ特技を披露して、合間の数十秒でちょこっとだけしか漫才をやってねえんだよ」と。そのとおりだと思いました。

 

──でも漫才だからこそ決勝に進んだんですよね(笑)。

 

大原 ほかに特技披露している人がいないからかも。

 

原田 特技枠ですね。

 

──(笑)。そこでは、ほかにどんな話をしましたか?

 

大原 ダイタクさんが「エゴサ禁止な!」と言って、エゴサしたいけどいつもどおりの会話をして、「みんなで決勝に行けたらいいな」という話をしていました。

 

原田 僕はトイレに行ったときにやっぱり我慢できなくなって、自動的に指がエゴサーチしているんです。はっと気づいて、「やばいやばい! 違う違う!」となっていました。

 

──ご飯を食べ終え、結果発表までの間、どんなことを考えていましたか?

 

大原 急に結果発表が始まるから、あまり覚えていなんですよ。

 

原田 全コンビにカメラが向けられて、ちょっと異様な空気で、僕は「来い! 来い」という気持ちではいました。

 

──その後で密着カメラが近づいてくるんですね。

 

大原 そうですね。準決勝が終わって、夜中まで決勝で使うVTRを撮ったりインタビューとかがあって。次の日、僕らは山梨で子どもたちにキャッチボールを教える仕事がありましたが、早速そこについてきてくれました。その後日、劇場でのライブ終わりで立ち飲み屋さんで飲んでいるところも密着されましたね。

 

──山梨では、子どもたちが祝福してくれましたか?

 

大原 幼稚園児とかなので誰も知らないから、先生が促して「ダンビラムーチョさん、おめでとうございまあす!」と声をそろえてくれました。

 

原田 よく分からずに言わされてね。

 

巨人の岡本選手が笑神籤プレゼンターで「夢が叶った」

──野球関連の仕事があるのは、YouTubeの「高校野球あるある」の再生回数が多いことが要因ですよね。

 

大原 YouTubeは月に一度集まって撮っていて、メインでやっている感じは全然しないんです。

 

原田 バズってくれて再生数が多くなって、野球の人みたいになっていますが、僕ら的には月1回グラウンドに行ってヘラヘラ動画を撮ってラッキー、という感じです。コロナ禍のときは本当に助かりました。

 

──だからでしょうか、お2人は豊かな感じがします。

 

原田 もうずっと楽しんでやっているからですかね。

 

大原 たしかに、バイトは2018年の終わりくらいからやらなくてすんでいて、一応は芸人の稼ぎだけでやれてはいます。

 

原田 YouTubeやライブ配信をやる人も増えて、若手も結構稼げるようになってきたイメージですが、くらげはまあ増えていなくて。だから、くらげが一番M-1ドリームをつかんだ感はありますね。僕らはずっと楽しんでやっているから、ストイックさがないというか。

 

──いや、そんなネガティブな意味ではないんです。

 

原田 いやいや、全然ポジティブに言っています。僕らからしんどさが出たら、多分ウケないと思うんですよ。

 

──笑神籤で出番順が決まりますが、何番目がいいですか?

 

大原 そもそも、笑神籤を引くのは栗山英樹さんと巨人の岡本和真選手じゃないですか。僕は巨人の大ファンで、岡本選手のユニフォームを持っていますし、そのニュースを見たときにそれだけで泣きそうになりました。「こんなにすぐに夢が叶うのか」と。絶対に写真撮ってもらう! と思いました。もうXのアイコンにする未来が僕には見えているんですよ。岡本選手とツーショットのアイコンが。

 

原田 めっちゃ冷たかったらどうする?

 

大原 いや、そんなことはない。「ラビット!」(TBS系)も出てたし。もうずっと巨人ファンで。今年はくらげの渡辺(翔太)と5、6回東京ドームに行ったんです。その東京ドームで見ていた人が、笑神籤を引くって……めっちゃ夢……みたいな。

 

──認知もされますもんね。

 

大原 岡本選手に認知されるってヤバいですよね!

 

──(笑)。それで、何番目がいいですか?

 

大原 トップバッターでもいいかなと思いました。めっちゃウケた人の後だけはイヤですね。昨年7番目だったダイヤモンドさんは、ずっと「来るか来るか……! 来ない……!」という時間を過ごさなければならず、「あれが辛すぎる」と言っていましたね。

 

原田 ダイヤモンドの野澤(輸出)さんから聞いたのは、ダイヤモンドさんは最下位だったんですけど、せり上がりのときに小野(竜輔)さんがカメラに向けて「いくぞ!」みたいなしぐさをしたんですよね。「ああいうのは最下位になるからやめとけ」と。だから絶対にやらないようにしないとと思いました。

 

大原 そういうところでふざけない方がいいということですね。

 

M1への意気込みは「井上咲楽ちゃん振り向かせる!」

──今日(※12月17日)、審査員7人が正式発表されました。新たに海原ともこさんが加わりましたね。

 

大原 お会いしたことも生でネタを見たこともなくて、どんなふうになるのか全く分かりません。僕は同じ巨人ファンのナイツの塙(宣之)さんがめっちゃ好きです。あと、松本(人志)さんがいますからね……。

 

原田 笑ってくれたらうれしいです。審査員席って近いんですよね?

 

大原 おまえの方から見えるよね。

 

原田 松本さんに見てもらえるのか、すごいな。とんでもないことですね。僕ら、「ダウンタウンDX」(日本テレビ系)の前説をやっていたことがあるんです。

 

大原 「ダウンタウンさんの登場です!」と言うと出てきて、軽くしゃべるんですけど、そのときにちょっとイジってくれたこともあります。

 

原田 「前説のアンデス山脈が頑張ってくれたから」「いや、ダンビラムーチョです!」なんてやりとりをしたときは、すごい幸せでしたね。「松本さんが僕らに向かってしゃべってくれているぞ!」と。今回、松本さんネタが見てくれるのが本当にうれしいです。

 

──M-1は、お2人にとってどんな存在ですか?

 

大原 小・中学生の頃から見ていた憧れの存在です。アンタッチャブルさん、チュートリアルさん、ブラックマヨネーズさん……すごく面白いなと思って見ていた場所に出られるのが、本当に光栄です。

 

原田 子どもの頃から、出番になったら出て、ただただ笑かして仕事を終えて、「ありがとうございました」と言ってバーっと帰って行く姿を観て「漫才師ってかっこいいな!」と思っていて、ずっとそういう人になりたいと思っていました。M-1の決勝で跳ねたら、自分のその存在になれるのかな、という自信が持てそうな気がします。「漫才師になれるかもしれない」という気持ちですね。

 

──最後に、決勝への意気込みを教えてください。

 

大原 井上咲楽ちゃんを振り向かせるぞ!

 

原田 そんなに「好き」みたいなこと言ってなかったのに。急に。

 

大原 畠中がさ。悔しいじゃんやっぱり。

 

──畠中さんが井上咲楽さんとフライデーに熱愛を撮られていましたもんね(笑)。

 

大原 まさかあいつがタレントと付き合うとは……。

 

原田 M-1ドリーム。めっちゃいいカップルですよね。1回飲みにいかせてもらいましたが、井上咲楽ちゃん、とにかくステキな子で、いいカップルだなって。

 

大原 ああ見えてエレファントカシマシを歌うんですよ。渋いんです。それに足も速いし。だから、そんな井上咲楽ちゃんを振り向かせる気でいきます!

 

原田 僕は畠中は振り向かせる! 井上咲楽ちゃんに取られちゃった畠中を振り向かせるぞ!

 

──(笑)。ありがとうございました!

 

 

構成・撮影/丸山剛史 取材・文/有山千春

俳優・中島セナが今ハマっているモノ「芥見下々先生の容赦ない感じが好き」『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』配信インタビュー

ディズニーによる実写とアニメで2つの世界を描くオリジナルファンタジー・アドベンチャー『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』が12月20日(水)よりディズニープラス「スター」で配信開始。奥平大兼さんとW主演を務めた中島セナさんに、撮影エピソードや共演者の印象に続けて、GetNavi web恒例の今ハマっているモノについて聞いた。

 

『呪術廻戦』愛が止まらない!

 

──本作の撮影を通して、印象に残っているコトはありますか?

 

中島 セットのこだわりや規模感が印象に残っています。ナギのお母さんの部屋にはたくさんの絵があり、出水ぽすか先生のキャラクターデザイン画も貼られていました。ぽすか先生が作画を手掛けた漫画『約束のネバーランド』(集英社)も読んでいたので、『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』のキャラクター原案を先生が担当されると聞いた時は、すごくうれしかったです。

 

──漫画好きの熱が伝わってきます。今ハマっているモノも、やはり漫画でしょうか?

 

中島 はい! 漫画ですね。ジャンプ系の作品を読むことが多いです。特に『呪術廻戦』(集英社)はずっと読み続けていて、アニメが始まる前からファンです。アニメも観ています。

 

──『呪術廻戦』のどんなところが好きですか?

 

中島 まず絵が好きです。難しいところもありますが、もちろん物語も好きですね。アクションのテンポが良く、スピード感がある作品だと思います。あとは作者の芥見下々先生の容赦ない感じが好きです(笑)。

 

──まさかの展開が続くこともありますね。

 

中島 はい、先生の潔さを感じます(笑)。「人気キャラだからこうしよう」ではなく、先生は物語を第一に考えていらっしゃる。先生のインタビューも拝見したことがありますが、実際にそうおっしゃっていました。物語の展開として面白い方を選択しているんだなって。

 

──少年ジャンプの発売日には『呪術廻戦』の展開でSNSがザワザワしますが、読者の反応は見る派ですか?

 

中島 そうですね、ネタバレはそこまで気にしません。人気作なので、どうしたって感想が流れて来てしまうから「ああ、そうなのか」って(笑)。ネタバレされても単行本は集めますし、アニメも観ますよ。King Gnuさんが好きなので、第2期『渋谷事変』のオープニングテーマをKing Gnuさんが担当されるのを知った時は、テンションが上がりました! それから私も絵を描くのが好きなので、すごい作画を見ては「アニメーターさんってすごいんだな」と感動しています。

 

──その他の作品でいうと『スター・ウォーズ』シリーズもお好きだそうですね。

 

中島 はい! もともと父が好きで、家にDVDが全部あったので、小さい頃から観ていました。SFやファンタジーは好きな世界だったので、今回こうしてディズニープラスのファンタジー作品に出演が決まってうれしかったです。

 

『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』

12月20日(水)ディズニープラス「スター」で独占配信開始

 

【『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』よりシーン写真】

 

(STAFF&CAST)
キャスト:中島セナ、奥平大兼、エマニエル由人、SUMIRE
津田健次郎、武内駿輔、嶋村侑、三宅健太、福山潤、土屋神葉、潘めぐみ、宮寺智子、大塚芳忠/田中麗奈、三浦誠己、成海璃子/新田真剣佑(友情出演)、森田剛
監督:萩原健太郎
アニメーション監督:大塚隆史
脚本:藤本匡太、大江崇允、川原杏奈
原案: solo、日月舎
キャラクター原案・コンセプトアート:出水ぽすか
プロデューサー:山本晃久、伊藤整、涌田秀幸
制作プロダクション:C&Iエンタテインメント
アニメーション制作:Production I.G
話数:全8話

© 2023 Disney

 

(STORY)
現実世界<横須賀>に住む空想好きな女子高校生ナギはある日、異世界<ウーパナンタ>からやって来たという落ちこぼれのドラゴン乗りタイムと出逢う。別々の地で、ふたりは周りと少し違う自分に生きづらさ感じている似た者同士だった。そして2つの世界に滅びゆく危機が迫るとき、遥かなるふたりの出逢いは、壮大な運命のはじまりだったことを知る──。

 

撮影/映美 取材・文/佐久間裕子 スタイリスト/柴原コトミ ヘアメイク/SHUTARO(vitamins)

中島セナ、森田剛は「離れていてもオーラを感じた」ディズニー実写×アニメ『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』主演インタビュー

ディズニーが日本のゲームや漫画の要素を取り入れ、実写とアニメで2つの世界を描くファンタジー・アドベンチャー作品『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』が12月20日(水)よりディズニープラス「スター」で配信開始。制作陣には実写映画『東京喰種トーキョーグール』の萩原健太郎監督、アニメ『劇場版 ONE PIECE STAMPEDE』の大塚隆史監督、漫画『約束のネバーランド』(集英社)の作画担当・出水ぽすか氏、注目の若手俳優・奥平大兼さんと中島セナさんが集結した。

中島セナ●なかじま・せな…2006年2月17日生まれ。東京都出身。2017年からモデルとして活躍。2018年に映画『クソ野郎と美しき世界』で俳優デビューし、2021年に大塚製薬「ポカリスエット」のヒロインに起用され大きな注目を集める。映画『WE ARE LITTLE ZOMBIES』(2019)、『光を追いかけて』(2021)、VaundyのMV『まぶた』(2023)などに出演。

 

周囲に馴染めない女子高校生・ナギを演じた中島さんは、奥平さん演じる異世界から来た少年・タイムと運命的な出会いを果たし、やがて世界の危機に立ち向かっていく。「不安とプレッシャーもありましたが、それ以上に楽しみでした」と撮影当初を振り返った中島さん。実写×アニメの大変さから共演者とのエピソードまで語った。

 

【中島セナさん撮り下ろし写真】

 

並行した実写・アニメ制作「自分で想像しなければいけない」

 

──実写とアニメで2つの世界を描く作品ということで、この企画を最初に聞いたときはどう感じましたか?

 

中島 壮大なファンタジーで面白いと思いましたが、どこでどのようにアニメが入ってくるのかなど、台本を読んでも想像がつきませんでした。参考映像もなかったので、とにかく「どうなるんだろう」と。実際に撮影しながら理解していく部分が多かったです。

 

──実写パートを撮るにあたり、アニメ部分は確認していたのでしょうか?

 

中島 実写の撮影からスタートして、並行してアニメが作られていきました。そのため最初は、アニメ部分は全く見られない状態で、後半は原画のようなものを見せていただきながら実写の撮影を進めましたね。

 

──実写とアニメで描く作品ならではの大変さはありましたか?

 

中島 自分で想像しなければいけない部分が多いのは、他の作品との違いであり、難しいところだったと思います。そして脚本通りに順撮りしていくわけではなく、順番がぐちゃぐちゃになることも。完成した作品を観て「ここと、ここが繋がっていたんだ!」という発見がありました。

 

──CGを使った作品ならではの難しさもあったのではないでしょうか?

 

中島 ありましたね。例えば、タイムの相棒であるドラゴンのガフィンとの撮影。テストではガフィン役の方がいて目線を合わせて動いてくださりますが、本番はガフィンのいるべき位置に、何もない状態になるのです。何もないところを見て目線を動かすのが、最初はとても難しかった。そもそもCGをこれだけ使った大規模な作品に出演すること自体、初めてで新鮮でした。

 

ナギの共感覚は「貴重だけど、周囲に馴染めないことにも繋がってしまう」

 

──中島さんは現実社会に生きる高校生・ナギを演じられています。ナギは同級生に馴染めなさを感じて生きている女の子ですが、演じる上で意識したことを教えてください。

 

中島 演じた時の私の年齢が、ちょうどナギと一緒だったんです。タイムと出会うまでのナギは普通の高校生なので、等身大であることをすごく意識しました。それからタイムと出会い、徐々にナギの心情が変わっていくことを表現しようと心がけました。

 

──ナギを演じるにあたり、萩原監督とはどんなお話をされたのでしょう?

 

中島 「こうして欲しい」とはあまり言われず、現場でその都度「こうしてみようか」と相談していく感じでした。ただ作品全体を通して、タイムを見る“目の変化”については指導いただきました。タイムを信じられないところから徐々に信頼するようになり、一緒に夢を見るまでになる気持ちを、表情の変化などで表しました。

 

──ナギというキャラクターのどこに、魅力を感じられましたか?

 

中島 最初に台本を読んだ時、ナギはいろんなことを諦めている人だと思いました。でもタイムとの出会いを通し、人を信じることに前向きになって、周りの人と向き合おうとしていきます。そこが魅力的です。そしてナギは、音に色が付いて見える共感覚と呼ばれるものを持っています。それはすごく貴重な感覚だけど、周囲に馴染めないことにも繋がってしまう。だから軽々しくは言えないですが、やはりその感覚を体験してみたいと思いました。

 

奥平大兼さん、新田真剣佑さん、森田剛さんらとの共演

 

──奥平大兼さんとのW主演ということで、奥平さんの印象を教えてください。

 

中島 台本読みで初めてお会いした時、タイムというキャラクターに対して、自分なりの答えを持って挑んでいらっしゃるんだなとわかりました。演じることにすごく熱意のある方だなと。現場ではソン役のエマ(エマニエル由人)くんと3人で過ごすことが多く、たわいもない話をして毎日楽しく撮影していましたね。こうして取材が始まり、2人で話す機会ができた時には「タイムってこんな人だよね」と役柄についてお話をしました。

 

──一緒に取材を受ける中で、撮影時とは違う奥平さんの一面を発見することはありましたか?

 

中島 撮影中のタイムはずっと同じ衣装で、同じ髪型だったんです。演じる上で奥平さんはエクステを付けていらっしゃったので、容姿を変えられなかったのですが、取材でお会いした際「あ、髪を切ってる」と新鮮に感じました(笑)。

 

──現実社会に馴染んだ髪型と服装になっていたと(笑)。ほかに共演者とのエピソードがあれば聞かせてください。

 

中島 新田真剣佑さんは同じ現場になる機会があり、奥平さん、エマくん、私の4人でお話させていただきました。とても優しい方でした。森田剛さんは現場でなかなかご一緒できなかったものの、すごく雰囲気のある方だとわかりました。不穏な空気を纏っている役柄で、離れていてもオーラを感じました。

 

『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』

12月20日(水)ディズニープラス「スター」で独占配信開始

 

【『ワンダーハッチ -空飛ぶ竜の島-』よりシーン写真】

 

(STAFF&CAST)
キャスト:中島セナ、奥平大兼、エマニエル由人、SUMIRE
津田健次郎、武内駿輔、嶋村侑、三宅健太、福山潤、土屋神葉、潘めぐみ、宮寺智子、大塚芳忠/田中麗奈、三浦誠己、成海璃子/新田真剣佑(友情出演)、森田剛
監督:萩原健太郎
アニメーション監督:大塚隆史
脚本:藤本匡太、大江崇允、川原杏奈
原案: solo、日月舎
キャラクター原案・コンセプトアート:出水ぽすか
プロデューサー:山本晃久、伊藤整、涌田秀幸
制作プロダクション:C&Iエンタテインメント
アニメーション制作:Production I.G
話数:全8話

© 2023 Disney

 

(STORY)
現実世界<横須賀>に住む空想好きな女子高校生ナギはある日、異世界<ウーパナンタ>からやって来たという落ちこぼれのドラゴン乗りタイムと出逢う。別々の地で、ふたりは周りと少し違う自分に生きづらさ感じている似た者同士だった。そして2つの世界に滅びゆく危機が迫るとき、遥かなるふたりの出逢いは、壮大な運命のはじまりだったことを知る──。

 

撮影/映美 取材・文/佐久間裕子 スタイリスト/柴原コトミ ヘアメイク/SHUTARO(vitamins)

 

「egg」を復活させた元編集長・赤荻瞳が今度は校長に! 「JKから身に着ける“稼ぐ力”」と「令和のギャルマインド」を語る

伝説のギャル雑誌「egg」を復刊させた元編集長・赤荻 瞳さんが、2023年4月に「渋谷女子インターナショナルスクール」(シブジョ)を開校。27歳にして校長に就任し、話題となっている。校舎を「東急プラザ表参道原宿」内に構える、超都市型スクールのシブジョでは、赤荻さんの多彩な経験からカリキュラム化された授業や、有名講師陣の特別レッスンが受けられるという。今回は、赤荻氏に「シブジョ」で学べる“稼ぐ力”、そして令和のギャルマインドについて語ってもらった。

赤荻 瞳●あかおぎ・ひとみ…1996年9月6日生まれ。埼玉県出身。高校1年のころから渋谷の高校生サークルで活動。高校中退後、2015年、広告制作会社に入社。2018年3月にギャル系雑誌「egg」の編集長に21歳で就任。そのビジネスの手腕に注目が集まり、メディア出演など自ら表舞台に立って渋谷カルチャーを牽引している。現在は、ガールズマーケティングのリーディングカンパニーである株式会社エムアールエー代表取締役社長のほかに、“渋谷女子インターナショナルスクール”という英会話、動画制作など、社会ですぐ使える技術を学びながら高卒資格が取得できる通信制サポートスクールの校長を務めている。Instagram

【赤荻瞳さん撮り下ろし写真】

 

ゆうちゃみを輩出した「egg」での経験から……「女の子の夢をサポートできる場所を作りたい」

──赤荻さんは、ギャル雑誌「egg」の復刊に携わり、編集長を務められていました。そして、23年4月に「渋谷女子インターナショナルスクール」の開校して、校長に就任されましたが、開校までの経緯を教えていただけますか。

 

赤荻 もともと19歳の頃に広告代理店に勤め始めて、そこのプロジェクトの一つとして「egg」のWEB版での再始動に関わりました。そこから2019年に紙媒体として復刊して、22年3月まで編集長を務めていたのですが、この学校を立ち上げたのには、「egg」での経験も関係しているんです。

というのも、「egg」って、もともと有名なモデルの子を起用してを盛り上げている雑誌ではなく、今まで芸能活動もそこまでしていなかったようなギャルの子たちにも出演してもらっているんですよ。ほんと名前のとおり“モデルの卵”たちですね。その子たちに「eggモデル」っていう肩書きも使って、夢や目標を叶えてもらって、次のステップが決まったら卒業するという媒体だと私は思っていまして。

 

──実際に「egg」からは人気のギャルタレントの子たちを多数輩出されています。

 

赤荻 そうですね。例えば“ゆうちゃみ(古川優奈)”は、今テレビで大活躍していますが、当時はそこまで有名ではなかったんです。でも、その頃から「将来毎日テレビに出るようなギャルタレントになりたい……なります!」ってずっと言っていて。他にも、いろんな夢を叶えている子たちを間近でサポートさせてもらって、自分としてもすごく楽しいなと思ったんですよ。

 

──なるほど。そこから今度は“学校”という新たな形でのサポートに至ったわけですね。

 

赤荻 はい。私が25歳になって、「egg」自体を次の世代にバトンタッチしようとしたときに、自分自身は次ステップアップするのに何をするか、と考えまして。そこで、ギャルの子たちだけじゃなくて、日本の女の子たちの夢や目標のサポートできる場所を作りたいと思い「シブジョ」の立ち上げに至ったんです。

 

──ご自身としても「egg」での経験からやりたかったことであると。

 

赤荻 そうですね。ですが、学校という場所と10代という一番大事な時期というか、女の子たちにとって高校3年間というのは、その先の人生を左右する貴重な時間だと思うんで、その時間をお預かりするっていう部分では、編集長時代もそうでしたが、より一層責任感を持って向き合わせていただいています。

 

昔のセンター街のように“リアルで集まれる場所
「渋谷にはいろんなチャンスが転がっているから」

──校舎があるのは、渋谷の「東急プラザ 表参道原宿」という都心のド真ん中ですね。渋谷という場所を選んだのにも理由がありますか?

 

赤荻 私は、10代の頃は渋谷ギャルサーに所属して活動していたのですが、そこで多くの経験をして、さまざまな人との出会いもありました。その時に、渋谷はいろんなチャンスが転がっていて、大きな可能性がある街だなと思ったんですよ。実際にこの学校を立ち上げるのにも、渋谷で作ったコネクションで多方面から協力してもらいましたし、講師の方も渋谷の繋がりでご紹介いただいた方も多いですから。社会人になってからも当時の経験が役に立つことが多いですが、今の時代って、夢を持って、目標を叶えたいと思う子たちが“リアルで集まれる場所”が少ないなと思っていたんですよね。

 

──SNSの時代ですもんね。

 

赤荻 そうなんです。昔は、センター街に行けば誰かしらがいたような感じでしたから(笑)。そういった何者かになりたい、人生を変えたいと思う子たちが、リアルに集って高め合える場所を渋谷に作りたいと思ったのも理由の1つですね。

 

──実際に、今の10代の女の子たちと触れ合ってみて、ご自身の頃との違いや感じることは何かありますか?

 

赤荻 そもそも、この高校に入学しようと決意してくれるのって、当たり前ですが、中学生の時なんですよね。ここに自分の意志で入学してきてくれた子たちは、みんな将来の先の先まで見据えた選択ができている子ばかりで。事実、目標を聞くと「起業して自分のブランドを立ち上げたい」など、かなり明確な将来設計があって驚きます。自分が中学生の時なんて、全然そんなこと考えていませんでしたし、渋谷に行けばなんとかなるって思ってたんで(笑)。

 

──今の子たちは、人生設計がはっきりしている子が多いんですね。すごい……。

 

赤荻 逆に目標がしっかりあると、こちら側としてもサポートはしやすいですよね。株式会社が運営しているので、ビジネス面での実践経験や、他社との繋がりで通常の学校生活ではできないようなチャレンジを手助けすることも可能です。一人「推しのYouTuberさんと仕事をしてみたい」と夢を語ってくれていた子がいたんですが、「TGC teen」でのインターン体験授業があり、そこで夢が叶ってしまって……!(笑)

 

──おお! それは素晴らしい経験ですね。

 

赤荻 そういった形で、リアリティーある体験ができるのは本校の強みですね。もちろん、やりたい方向性は個々で全く違うので、どれだけ今いる子たち1人ひとりに向き合えるかっていうのは、私たちの課題でもあります。

 

ギャルサー時代からegg編集長の頃まで……「自分自身の経験したことが詰まったカリキュラムです」

──学校のカリキュラムには「ビジネス」「ファイナンス」といった実践的な授業も組み込まれていますね。

 

赤荻 私たちが大切にしているのは「生きる力」「稼ぐ力」という部分で、より現場的な技術や知識を学ぶことに重きを置いているので、自然とカリキュラムもより実践に近いものを組み込んでいますね。今、公立高校の先生方って、学校以外の一般企業に就職した経験のある人が5.5%しかいなくて。先生が悪いわけでは全くないですが、ビジネス面での稼ぐ力や、どうしたら活躍できるかといったマインドについては、現場を知る講師の方々が語れることが多いと思うので、そういった方々に講師のオファーをさせていただいています。

 

──もちろんインターナショナルスクールですから、英語の授業も多そうです。

 

赤荻 そうですね。渋谷から発信して、世界で活躍するような女の子をサポートすることは私の夢でもあるので、力を入れています。私自身としても、頭が柔らかいうちに英語学習はもっとやっておけばというのは、ちょっと人生の後悔ポイントではあるので(笑)。「egg」時代にも、もっと世界にアピールしたり、現地に行って営業できたかもしれないと思う部分もありますから。

 

──ご自身の経験が学校の方針にも反映されているんですね。

 

赤荻 むしろ、それが詰まってる感じです。これさえやっていれば、もっと稼げてたのかもしれないし、もっと日本以外でも活躍できていたかもしれない。実体験だからこそ、学んでもらいたいと思うことを落とし込んでいます。

逆に、当時自分が経験しておいて良かったと思うことも組み込まれていますね。ギャルサー時代にやっていたことが社会人になってから生きてきたりもしますし。あの頃、サークルの幹部になるために100人くらいの前でプレゼンとかもしていて(笑)。

 

──えー! それはすごいですね。

 

赤荻 当時、人前で自分の考えを話す機会なんてそうないじゃないですか。やっていて良かったと思いますね。実際に「egg」復刊の時に、スポンサーさんへの営業は自分でプレゼン周りしていたので、そういった意味でも、若いうちのリアルな体験は大切だなと思っています。

 

──最近は、10代、20代で起業するような子も増えていますが、ご経験から伝えたいことや、教えたいことは何かありますか?

 

赤荻 “周りの環境や繋がりを大事にして、初心を忘れない”ということですかね。ビジネスをスタートさせて、それが軌道に乗ったり、うまくいった後にどうするかが大切だと思います。周囲のサポートや協力があってこそ、今があると思うので。どうして事業を立ち上げることができたのか、というきっかけを忘れずに行動できれば、大失敗することはないと思いますから。

 

ギャルは、本物のギャルを見抜ける! ?「ダサいことをしたらギャルじゃないという意識が強くなった」

──赤荻さんが、大人になってから改めて気づいた、社会で生きる“ギャルマインド”って何かありますか?

 

赤荻 やっぱり好きなことを貫くことと、一生自分が主人公ってことですかね! 社会人になって、それこそコミュニケーションや人間関係がより重要ですが、自分の目標や考えは常に持っているべきだと思うので。あとは何か失敗しても「なんとかなるっしょ」の精神です(笑)。

 

──大事ですね。逆に、赤荻さんは、いろんなことにチャレンジされて成功されているので、イメージは沸かないのですが、失敗したなと思う瞬間はあるんですか?

 

赤荻 そうですね、ポジティブすぎて失敗したと思うことはないんですけど、全然ミスとかはありますよ(笑)。ただ、いい経験になったなって考えるタイプなので後悔していることもないですね。自分で経験した方が早く覚えられるとも思っているので。試行錯誤の繰り返しです。

 

──なるほど。プラスに転換することですね。まさしくギャルマインドが生きている感じがします。

 

赤荻 そうですね。ちなみに、今ってギャルの種類が増えて、昔と違って見た目の定義もないので、ギャルの“マインド”の部分がかなり注目されているなと感じますね。やはり中身がかっこよくないとギャルじゃないというか。昔はギャル自体のイメージが良くない時代もありましたが、今のギャルの子って明るくて中身もしっかりしている子が多いですし。

 

──たしかに、平成と令和のギャルでは全然イメージが違いますね。

 

赤荻 「egg」編集部時代も、ギャルのモデルの子たちには、絶対どこの現場に行ってもあいさつはしっかりして、ちゃんと自覚を持って行動しなさい、と話してはいました。でも、モデル同士でもそういった部分をちゃんと意識するようにしていて「そういうことはしない方がいい」とか「やり直した方がいいよ」とかお互いに指摘し合って仕事をしていたんですよ。

 

──すごいですね。普通は言いづらいことかと思いますから。

 

赤荻 そうなんです。そういった面からも“ダサいことをしたらギャルじゃない”という意識が、以前より強まっていると感じますね。それに、ギャル同士って相手が本物のギャルかどうか、結構見極められる力があるんで、すぐ分かっちゃいますね(笑)。

 

──え、そんな特殊能力的なことが……!

 

赤荻 フィーリングですけどね。どういった人かと言えば、やりたいことをしっかり人に伝えたり、自分の意見を言える人。周りに迷惑かけるようなことはしないけど、自分を持っていて、いろいろチャレンジできる人。好きなことを好きって言える人とかですかね。

 

──なるほど。どれも今の時代に必要なことばかりです。

 

赤荻 どれも少し意識するだけで、よりポジティブに生活できると思いますよ。ぜひギャルじゃなくても、ギャルマインドを身に着けてもらえたらと思いますね。

 

JK社長誕生の日も近い!「在学中の起業や海外での実践もサポートしていきたい」

──最後になりますが、今後の「渋谷女子インターナショナルスクール」の取り組みについて何かあれば教えてください。

 

赤荻 まずは、生徒の子たちの目標を叶えるために力を注ぎたいと思います。現在、起業をしたいという夢を持っている子が多いので、学校側でも在学中にスタートできるようにサポートしてあげたいと。

 

──シブジョから“JK社長”が誕生する日も近そうです。

 

赤荻 できる限りのことはしてあげたいですね。常日頃から話しているのですが、とりあえずやりたいことは何でも相談してもらって、失敗してもいいから行動に移してみようと。やはりチャレンジしないと、好きか嫌いかさえも何も分からないので。一人ひとりに寄り添って手助けができたらと思いますね。

 

──学校として、新たに挑戦したい事業などはありますか?

 

赤荻 今後は、生徒の皆さんが高校を卒業してからの進路についても、サポートできればと考えています。その一環として、海外にも分校や協力校を立ち上げられればと思いますね。18歳で卒業しても、もう少し専門的な分野を学びたいとなった場合に、現地での実習もできるような専門学校が設立できたらと。もちろん自分自身としても、もっと視野を広げられたらと思います。次なる目標ですね!

 

──今後もご活躍楽しみにしております。本日はありがとうございました。

 

 

渋谷女子インターナショナルスクールHP https://shibujyo.com/

 

構成・撮影/丸山剛史 取材・文/kitsune

人気声優の礒部花凜&船戸ゆり絵&小泉萌香が新ユニット「MIX JUICE from アミュボch」を結成。本物の三姉妹のように仲の良い関係性に迫る!

アミューズの所属声優9名がさまざまなことにチャレンジするYouTubeチャンネル「AMUSE VOICE ACTORS CHANNEL」(以下、アミュボch)発のスピンオフユニットとして、礒部花凜、船戸ゆり絵、小泉萌香の3人で結成された「MIX JUICE from アミュボch」。11月29日にファーストミニアルバム「MIX JUICE」をリリースした彼女たちに、本作の聴きどころ、他己紹介、今ハマっていることを話してもらった。

 

【礒部花凜さん&船戸ゆり絵さん&小泉萌香さん撮り下ろし写真】

 

アミュボ三姉妹の他己紹介で知られざるキャラクターに迫る

──「MIX JUICE from アミュボch」は、アミュボch初のスピンオフユニットですが、どういう経緯で結成することになったんですか。

 

小泉 アミュボchの中でも波長の合う3人で、花凜が “アミュボ三姉妹”というハッシュタグでSNSに写真などを上げていたんです。

 

礒部 スタッフさんへのアピールもあったんですけど、そこまで大きな展開は考えていなくて、3人で企画やロケができたらいいな、ぐらいに考えていて。

 

船戸 アミュボchの延長線上かなと思っていたら、まさかのスピンオフユニット結成で、1st Mini ALBUM「MIX JUICE」まで出すことになりました。

礒部花凜●いそべ・かりん…1994年5月26日生まれ。奈良県出身。2015年、大学在学中にTVアニメ「Go!プリンセスプリキュア」のオープニング主題歌担当に抜擢。2017年、テレビアニメ「Just Because!」で主演・夏目美緒役を務め、声優としてデビュー。女優としても多くの作品でメインキャストを演じるなど、声優・女優として活動の幅を広げている。 主な出演作は、アニメ「ヒーラー・ガール」(藤井かな役)、「アリスのふしぎのくにのベーカリー」(アリス役)、ゲーム「アイドルマスター シャイニーカラーズ」(月岡恋鐘役)、「プロジェクトセカイ カラフルステージ!feat. 初音ミク」(天馬咲希役)、「ウマ娘 プリティーダービー」(ダイイチルビー役)、舞台「やがて君になる」、ミュージカル「薄桜鬼」、「October Sky -遠い空の向こうに-」、「シデレウス」、a new musical「ヴァグラント」など。2023年9月19日に、自身初となる写真集、礒部花凜1st写真集「私めく」を発売。公式HPInstagramX

 

──仲良し3人組ということで、他己紹介をしていただけますか。まずは長女の礒部さんについて。

 

小泉 しっかりしているし、見た目もお姉さん味があるので、いつも甘えています。

 

船戸 花凜ちゃんはアミューズの“貴族”で、ゆったりと、しっとりと、おティーを飲んでいる姿が美しいなと普段から感じています。普段はふんわりしているけど、やるときはやる! というギャップがかっこいいです。お料理が上手なので、ぜひ私にお料理を作ってほしい。

 

──2人に手料理を振る舞ったことはあるんですか?

 

礒部 まだないんですよ。

 

船戸 アミュボchの企画ではオムライスを作ってくれたことがあるんですけど、すごくおいしかったです!

船戸ゆり絵●ふなと・ゆりえ…1994年9月18日生まれ。埼玉県出身。2016年「ドリフェス」で声優デビュー。主な出演作に、テレビアニメ「俺だけ入れる隠しダンジョン」(レイラ・オバーロック役)、「八月のシンデレラナイン」(椎名ゆかり役)、「マジカパーティ」(クラっち役)、ゲーム「けものフレンズ3」(オーストラリアデビル役)、「アサルトリリィ Last Bullet」(横田悠夏役)など。2021年には趣味が高じて「唎酒師」の資格を取得。2022年11月には自身初となるフォトブック「前田佳織里×船戸ゆり絵 日本酒フォトブック たびとおさけ」を発売。2023年10月放送のテレビアニメ「星屑テレパス」に、主演・小ノ星海果役で出演中。公式HPX

 

──次女の船戸さんはいかがでしょうか。

 

小泉 ふーにゃん(船戸)はアミューズの“空気清浄機”という通り名だけあって、いてくれるだけで周りがほんわかするんです。あと不思議なことをするので目が離せない! ずっと面白いんですよ。

 

礒部 良い意味でボケているところが長所で、正常なふーにゃんを想像できない。でも実はしっかり考えているんだと思うこともあって、「自分はこうしたい!」みたいな意志も強くあって、ただボケているだけじゃないんです。

 

船戸 自分ではボケてるつもりはないんです。後になって、「なんでそんなことを言ったんだろう……」と反省することが多くて。

 

礒部 そうなの!?(笑)

 

小泉 一人反省会をしているんだ。

 

船戸 みんながいじってくれるから、助かっているところもあって。

 

礒部 それが面白いんだよ!

 

船戸 そう言ってくれてるからありがたいんですけど、個人的には反省しちゃいます。

 

礒部 そんなこと思わないほうがいい。

 

小泉 考え過ぎてもどうすることもできないから(笑)。

 

船戸 根本は変わらないけど、もっとしっかりしなきゃなっていう思いはあります。

小泉萌香●こいずみ・もえか…1996年2月27日生まれ。兵庫県出身。2014年に「アミューズオーディションフェス2014」歌うま・声優部門でグランプリを獲得し、アミューズに所属。主な出演作に、「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」(大場なな役)、「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」(三船栞子役)、「D4DJ」(笹子・ジェニファー・由香役)、アニメ「オッドタクシー」(市村しほ役)、舞台「やがて君になる」、「私立探偵 濱マイク -我が人生、最悪の時-」、「トワツガイ」など。 2021年3月に「きまぐれチクタック」で声優の岩田陽葵と女性声優ユニット「harmoe」としてデビュー。これまでにシングル4枚、ミニアルバム1枚、アルバム1枚をリリース。2023年7月~8月に東阪にてharmoe 2nd LIVE TOUR「GOOD and EVIL」を開催。10月11日、5thシングル「Love is a potion」をリリース。女優・声優・アーティストとしても今後の活躍が期待される。公式HPInstagramX

 

──最後は三女の小泉さんについて。

 

礒部 アミューズの“最終兵器”と呼ばれているんですが、脱力系でニュートラル。あまり感情に起伏がないところが末っ子っぽいというか、周りに流されずに、自分は自由にやるみたいな、そこがすごく魅力的です。あと人の良いところや、日常の中で楽しいことを見つけるのが上手です。

 

小泉 そうなの? 無意識だな。

 

礒部 ニュートラルだからこそ、興味があることに自然と乗っかって、そのままの調子でパーっと行ける、生きるのが上手だなって思います。

 

船戸 普段はニュートラルなんですけど、時々変なスイッチが入って、急に「ははははは」って笑いだします(笑)。特に車の中だと、急にテンションが上がるのが面白いです。

 

小泉 免許は持ってないんですけど、ドライブが好きなんですよ。最近事務所の社用車に乗る機会があって、音響設備が素晴らしくて、重低音がすごくて最高でした!

 

──確かに車の話になると急にテンションが上がりましたね(笑)。

 

小泉 自分で車を買うなら、同じぐらい充実したカーオーディオを搭載したいです! めちゃめちゃ高いと思いますが(笑)。

 

自分のご機嫌を自分で取るようにしたい

──11月29日にファーストミニアルバム「MIX JUICE」をリリースしましたが一曲ずつ聴きどころをお聞かせください。

 

船戸 1曲目は「仲良し三姉妹」という設定からインスパイアされた私たちの自己紹介ソングです。すごく楽しい曲で、掛け声やコール&レスポンスもそれぞれ録ったんですが、ライブでファンの方と一緒に掛け合いをしたいです。

 

小泉 歌詞はもちろん曲調もメンバーによって変化するので、私たちのことを知らない人でも、キャラクターが分かりやすい1曲になっています。

 

船戸 私のパートでは、特技のフルートも実際に演奏して録音させていただきました。

 

礒部 2曲目の「Rain or Shine」の歌詞に登場する主人公は、大変な日々の中でも、自分自身で楽しみを見つけて、ポジティブを掴みにいくんです。私自身、日頃から自分のご機嫌を自分で取るようにしたいなと思っているので、すごく共感しました。

 

小泉 いつも努力が報われるほど甘くはないという現実を突きつけられても、楽しくするのは自分次第というか。私たち声優で言うと、どれだけ日頃から頑張って、オーディションを受けに行っても、簡単に落とされてしまうことがあります。それって、どんな世界でもあることで、自分が一生懸命頑張っても、受け入れてもらえないことってたくさんある。それでも進んでいけば、プラスになることと巡り会えるかもしれないから、自分を信じて歩き続けることが大切で。誰かに声をかけてもらったとしても、歩み出すのは己だから、勇気を振り絞って歩み出したら、きっといいことがあると信じて、今日も一日頑張っていこうと勇気づけられる楽曲になっています。誰かの背中を押してあげるような楽曲になったらうれしいですね。

 

──ここからは、それぞれのソロ曲が並びます。曲によって視点が違いますが、3曲目は礒部さんが“君”に送る曲「巡る日々を追いかけて」。

 

礒部 人それぞれが思い描くドラマってあると思うんですけど、そのテーマソングになるような、人に寄り添った曲です。日常って滅多に大きな出来事は起きないですし、同じことの繰り返しになってしまうことも多いと思います。そんなときに、この曲を聴いて、何気ない毎日がキラキラした、ちょっと特別なものに感じてもらえたらうれしいです。

 

──4曲目は船戸さんが歌う“僕ら”の曲「Voyager!!」。

 

船戸 キャッチーで楽しくて明るくてキュートな楽曲で、イントロから乗れるアップテンポな曲です。ノリノリかと思ったら、テンポが急にゆっくりになったりと緩急があって、私的に技術的な面でチャレンジだったんですが、すごく良い感じにレコーディングできました。

 

──最後の曲は小泉さんが歌う“私”の曲「One day song」。

 

小泉 大人の余裕がある歌詞と、落ち着いた曲調で、個人的に今まで歌ったことのなかったタイプの楽曲です。私は歌でも踊りでも先走っちゃう癖があって、この曲はリズミカルな要素もあるので、焦ってテンポが上がるなど苦労しました。“鈍行列車でうたた寝 ありふれた午後 ゆらゆら揺れて景色に溶けてく”というフレーズがあるのですが、歌詞のように余裕を持って歌うことを意識しました。焦って周りが見えなくなったときに、この曲を聴いて、リラックスしてもらえればなと思います。

 

三者三様のおうちの過ごし方

──最後に、それぞれ今ハマっていることを教えてください。

 

礒部 チャイにハマっています。チャイの茶葉やスパイスを自分で煮るんです。きび糖(さとうきび由来の糖)の分量を調節して甘くしたり、スパイシーにしたり。ポットに入れておけば、朝起きたてで飲めるし、アイスはもちろん、これからの季節はホットで飲むのもいいし。

 

──お店で買うのではなく、自分で作るんですね。

 

礒部 お気に入りのカフェのチャイがおいしくて、チャイとシロップとミルクの割合など、店員さんがおいしく作れるコツを教えてくれたんですよ。そこで使用している茶葉を買ってみて、それがきっかけで始めたんですけど、今はいろんな茶葉を買って試しています。帰ってくると部屋中にチャイの良い香りが広がっているので、ほっこりします。あとは先日、せいろ蒸し器を買ったので、それを使った料理にも挑戦しようと思っています。

 

船戸 アロマストーンにハマっているんですが、最近プレゼントしていただいた木製のアロマウッドがお気に入りで。そこにアロマを垂らして、部屋に香りを充満させています。

 

──石と木で違いはあるんですか?

 

船戸 そんなに詳しいわけではないので、個人的な感想ですけど、石のほうが均一に香りが広がって、木は周辺に濃厚な香りがする印象です。アロマウッドを枕元に置いておくと、スーッと眠りにつきやすくて。寝る前は「Pokémon Sleep」(睡眠ゲームアプリ)とセットで香りに癒されています。

 

小泉 私は本当に趣味というものがないんですが、強いて挙げるなら「予定を入れること」ですね。人と一緒にいるのが好きなんです。

 

礒部 へー、そっちのタイプなんだ。

 

小泉 人と一緒にご飯を食べるのが好きなので、お仕事が早めに終わったときは、誰かに声をかけて「空いてる? ご飯食べに行こう!」みたいな。

 

礒部 なんで私たちには声をかけてくれないの!?

 

船戸 そうだよー。

 

小泉 2人ともおうちが逆側で距離があるから(笑)。私は家が近い友達が多いんですよ。そういう子から順番に声をかけていくし、声をかけてくれることもあるし、おうちに友達を招くこともあります。もしかしたら暇がない状態がうれしいのかもしれない。

 

──一人でゆっくり過ごすのは、あまり好きじゃないってことですか?

 

小泉 家にいると、ソファに座ったきりで、ずーっとYouTubeを見ちゃうんですよ。ずっと真顔で、たまに笑ってみたいな(笑)。そういう過ごし方も嫌いではないんですが、人と会ってワイワイ話すだけでストレス発散になるし、予定を入れたい派かもしれないですね。

 

 

 

1st Mini ALBUM
「MIX JUICE」

好評発売中!

 

【Type A 盤】
フォトブック(28P)付
価格:2,900円(税込)

 

【Type B 盤】
ソロアナザージャケット3枚付(全9種/ランダム封入)
2,600円(税込)

 

<収録曲>全5曲(2形態共通)
1. ぐるぐるミックスジュース/ MIX JUICE fromアミュボch

2. Rain or Shine / MIX JUICE fromアミュボch

3. 巡る日々を追いかけて/礒部花凜

4. Voyager!! /船戸ゆり絵

5. One day song /小泉萌香

 

ファンミーティング
「MIX JUICE from アミュボchファンミーティング2024 ~生産者の集い~」

日程:2024年2月17日(土)
会場:NEW PIER HALL(東京都・竹芝)
出演:MIX JUICE from アミュボch (礒部花凜、船戸ゆり絵、小泉萌香)

公式サイト:https://avac-fes.com/
公式YouTube:https://www.youtube.com/c/amuse_voiceactors_channel/
公式X:https://twitter.com/AMUSE_VOICE

 

★チケット先行受付:
チケットぴあ 「プレリザーブ」受付12/16(⼟) 12:00 〜12/24(⽇) 23:59
https://w.pia.jp/t/mixjuice-fm24/

★チケット一般発売:2024年2⽉3⽇(⼟)10:00〜

 

撮影/西邑泰和 取材・文/猪口貴裕

森崎ウィンが家族愛を描いたミュージカル「ジョン&ジェン」で新境地「2人ミュージカルという言葉に心を奪われたんです」

1995年にオフ・ブロードウェイで初演されたミュージカル「ジョン&ジェン」。舞台に登場するのはジョンとジェンの2人のみという“2人ミュージカル”の日本初演で、Wキャストの一人としてジョン役を務めるのは森崎ウィンさん。俳優として数多くの映像作品や舞台に出演する一方で、音楽活動も精力的に行っている森崎さんに、仕事への向き合い方や、愛用しているガジェットなどを語ってもらった。

 

森崎ウィン●もりさき・うぃん…1990年8月20日生まれ。ミャンマー出身。ミャンマーで生まれ育ち、小学4年生の時に来日、その後中学2年生の時にスカウトされ、芸能活動を開始。2020年、アジアから世界に発信するエンターテイナー“MORISAKI WIN”として7月1日に「パレード-PARADE」でメジャーデビュー。俳優としてもさまざまな役を演じ活躍する中で、2018年に公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督の新作「レディ・プレイヤー1」で主要キャストに抜擢され、ハリウッドデビューを果たす。2020年に映画「蜜蜂と遠雷」で第43回日本アカデミー賞新人俳優賞。また、ミュージカルの世界でも映画版「キャッツ」(20年日本公開)ではミストフェリーズ役の吹替えを担当。近年の舞台主演作には、ミュージカル「SPY×FAMILY}、ミュージカル「ピピン」、ミュージカル「ジェイミー」、ミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」Season2などがある。公式HPXInstagramYouTube/TikTok

 

【森崎ウインさん撮り下ろし写真】

 

苦しい先にある場所に到達したときの喜びは大きい

──森崎さんは俳優として数多くの映像作品や舞台に出演する一方で、音楽活動も精力的に行っており、今年4月にセカンドアルバム「BAGGAGE」をリリース、初全国ツアーも開催中です。普段の音楽活動がミュージカルに活かされている面も大きいですか?

 

森崎 ミュージカルはセリフと歌詞が組み合わさって歌になることも多いので、普段やっている音楽と全く違う部分もあれば、通じる部分もあって。両方やっているからこそ、どちらかで得たものが活かされている面は間違いなくあると思います。「ジョン&ジェン」の音楽はクラシックの要素も入ったポップスなので、いつもの音楽に通じるものがあって、すごく入りやすかったです。

 

──俳優活動と並行して音楽活動も行っていて、切り替えるのが大変そうだなと思うのですが。

 

森崎 そんなに僕は引っ張らずにいけるタイプだと思います。ありがたいことに次から次へとお仕事が続いていくので、切り替えていかないといけないというのもあります。さすがにドラマが被っていたときは、「あれ? 大丈夫かな」みたいなこともありましたけど。ただ、ここで伝えておきたいんですが、皆さんが思っている以上に僕は追い込まれているということ(笑)。

 

──確かに、いつも平然と物事をこなしていくイメージがあります。

 

森崎 よく「緊張してないでしょう?」とか「簡単そうにやっているよね」って言われるんですけど、人は見かけによらないというか、心の中では「やべー」って瞬間もあって、寝られない日もあるんです。でも、もの作りってそういうものですし、僕に限らず、一つの作品を作るのってすさまじい労力です。今回、僕たちがやる「ジョン&ジェン」は1995年にオフ・ブロードウェイで初演されたミュージカルの翻訳劇ですが、ゼロから作った人たちは本当にすごいなと思います。既に出来上がっている作品があるので、いろんなヒントが散りばめられているのに、それを演じるだけでも大変ですから。でも苦しい先にある場所に到達したときの喜びは大きいですし、そうして作り上げたものがお客様に伝わったときはめちゃめちゃ気持ち良いから、しんどいことも耐えられるんです。

 

──映像と舞台が続いたときも、前の役は引きずらないですか?

 

森崎 確かに舞台をやった後に映像だと、ところどころしゃべり方が引っ張られているなって感じることがあります。今年3~5月にミュージカル「SPY×FAMILY」でロイド・フォージャーを演じさせていただいたんですが、低い声でしゃべる役柄だったんです。そのせいか舞台が終わった後に出演した映像作品では、「妙に声が低いな。これだとロイドじゃないか」と感じたので、すぐに切り替えるのは難しいかもしれません。ただ、そういうところも俳優の面白さだと思うんです。

 

──というと?

 

森崎 そのとき、その俳優がどう生きているかが、少なからずお芝居に反映されるんですよね。その人の人生観だったり、こういう人なんだろうなっていうのが、何となく役を通して見えたりする。だから今お話ししたように、前の役を引きずったまま演じることもある。俳優って一つフィルターを通して言いたいことを言っているなと感じる瞬間があって、やっぱり自分の血も入っていますから、100%誰かになりきるのは難しい。「ジョン&ジェン」も森崎ウィンとジョンを行き来していると言いますか、その狭間を見せるのもエンタメの面白みではないかなと。僕自身も好きなスターの作品を見るときは、「この人はこういう顔をするんだ」とか、「怒ったらこういう感じなんだ」とか、役を通して俳優を見ているんですよね。だから演じているときでも、どこまで自分をさらけ出すかというのも面白いです。

 

オフの日もたくさん宿題が溜まっている

──お忙しい中、オフはどう過ごすことが多いですか?

 

森崎 正直オフって言葉は忘れました(笑)。先日、一日仕事がないって日もあったんですが、次の作品の準備だったり、映像編集だったりと、たくさん宿題が溜まっているんですよ。何かしら仕事に関することをやっているので、自分の中で休んだ気にはなれないんですけど、今はそういう時期かなと思っています。

 

──そこにストレスは感じないのでしょうか。

 

森崎 やることが詰まっている状態が好きな瞬間もあれば、ストレスになるときもあります。だから、できるだけ期日ギリギリまで回すというか、もう提出しないとヤバいよっていうほうが自分としては逆にストレスにならないんです。性格的に先々まで計算してというのが苦手なんですよね。

 

──音楽活動と俳優活動、それぞれ重点を置く時期は分けて考えているんですか?

 

森崎 あまり分けてないですね。舞台の場合は早くから予定が組まれているので、「この期間にツアーをしましょうか」とか何となく読めるんですけど、映像作品は急に入ってくることも多いですからね。なのでうまくスケジュールを組めないというのもあります。もっとキャリアを積んで、ある程度は先読みができるぐらいの立場になったら、もうちょっとバランスを取りながらやれるんじゃないかなと思うんですけど、今は目の前にあることに全力で取り組むことが大切なのかなと。

 

──多岐に渡る仕事をしている森崎さんにとって、仕事道具で手放せないものは何ですか?

 

森崎 パソコンですね。今のMacには音楽関係や作品の企画書など、いろんなデータが入っています。ただ整理したつもりが、どこにファイルを置いたっけ? ということが多くて。マネージャーにデータを再送してもらうことも少なくないので、そこは改善したいです。

 

──常にノートパソコンを持ち歩いているんですか。

 

森崎 基本的に持ち歩いていますね。たまにPCを持たない日もあるんですけど、iPadは絶対にカバンに入っています。

 

──ずっとMacユーザーなんですか?

 

森崎 そうですね。音楽やってる人ってMacユーザーが多いので、データのやり取りもスムーズなんです。あと音楽制作は「ガレバン(GarageBand)」から入ったので、その流れで今使っているツールが「Logic Pro」なので、そういうことも含めてMacは一番使い勝手がいいです。ただ、そこまで使いこなせているわけではないので、もうちょっとAppleユーザーになろうかなと思っています。

 

──今狙っているガジェットってありますか?

 

森崎 外付けのハードディスクを軽量化したいなと思っているので、2TBぐらいのSSDを検討しています。僕は動画制作もするので、データを外付けハードディスクに分けているんですけど、普段持ち歩くには重くて。ただちっちゃくするとスピードも落ちたりするので、口コミやYouTubeを見て、どれがいいのか探しています。

 

──動画制作はどういうきっかけで始めたんですか?

 

森崎 昔から興味はあったんですけど、なかなかやる機会がなくて。そしたら富士フィルムミャンマーのアンバサダーをやらせていただいたときに、カメラをいただいたんです。ちょうどキャンプを始めたばかりで、キャンプ動画を撮っている方がいたので、自分でも始めてみたらハマって。今は一眼レフ二台と、最近出た「Osmo Pocket 3」というのを使って撮影しています。エド・シーランのカバーをするPR案件があったんですが、せっかくなら自分で動画を作りたいと思って、バンドを呼んで、カメラを置いて、音も録って、編集してと、自分でプロデュースしました。

 

──多忙なのに、さらに自分から作業を増やしているような(笑)。

 

森崎 それはあるかもしれない(笑)。編集なんて本当に面倒くさいですけど、好きなんですよね。ファンクラブ向けに上げる動画の素材もあるんですが、今は稽古もあるので、なかなか編集に手が回らないんです。

 

「ジョン&ジェン」に運命を感じてキャストの一員として加わらせてもらった

──「ジョン&ジェン」のオファーがあったときのお気持ちはいかがでしたか?

 

森崎 「SPY×FAMILY」で座長という貴重な経験させていただいて、今後、どんな舞台に出るのかを考えたんです。もちろん映像もやりたい。そんなときに「ジョン&ジェン」のオファーをいただいて、「2人ミュージカル」という言葉に心を奪われたんです。エンタメ要素に溢れたミュージカルをやった後に、アートに近いようなディープな内容で、ストレートプレイもやりたいと思っていたので、運命を感じて、今作のキャストの一員として加わらせていただきました。

 

──初めて脚本を読んだときの印象はいかがでしたか。

 

森崎 日本初演となる今作は家族のお話ですが、家族の問題は万国共通だし、僕自身も共感することがたくさんある心温まる脚本だなとワクワクが止まりませんでした。成長すると、自分の親も一人の人間なんだと分かる瞬間ってあるじゃないですか。そういう誰もが経験したときの気持ちに訴えかけてくるんですよね。

 

──一幕が姉(ジェン)と弟(ジョン)、二幕が母(ジェン)と息子(ジョン)の話ですが、共感する部分はありましたか。

 

森崎 たくさんありますが、特に母親の行き過ぎた愛を受け止め切れない二幕のジョンには共感しました。

 

──Wキャストを務める田代万里生さんはミュージカル界の大先輩ですね。

 

森崎 万里生さんは楽譜もパッと読めますし、歌も教えてもらっていて、頼りっぱなしです。いろんなことを万里生さんに教えてもらいながら自分の中に取り入れています。ただ万里生さんと僕ではタイプが全く違っていて、お芝居のアプローチも違いますし、それがWキャストの醍醐味かなと思います。

 

──ジェン役の新妻聖子さん、濱田めぐみさんの印象はいかがですか。

 

森崎 新妻さんは外国に住んでいた経験があるので、感情を前面に提示するタイプで、めちゃくちゃパワーがあります。濱田さんはキャリアがある方なので自信と余裕があって、すごく人間味のある方です。お二人もタイプが全く違うので、共演していて本当に楽しいです。

 

──最後に今回の舞台で楽しみにしていることは何でしょうか。

 

森崎 「明日への一歩を踏み出す勇気をくれるミュージカル」と銘打っているのですが、勇気を与えるにはいろんな形があると思うんです。ストレートに明るい気持ちになれる作品もありますが、「ジョン&ジェン」は重いシーンもあります。ただ、ジョンとジェンの姿を見ると、「誰もがこうして何かしらに向き合って生きているんだな」って感じると思いますし、「足りないところがあるのは当たり前」「あなたは一人じゃない」ということも伝わるはずです。「完璧じゃない自分を受け入れることから始めようじゃないか」というふうな勇気を与えるミュージカルになっているので、「ジョン&ジェン」を観たことによって、「明日へ一歩踏み出してみよう」と思ってもらえたらうれしいですね。

 

 

 

PARCO PRODUCE 2023 ミュージカル『ジョン&ジェン』

【東京公演】
日程:2023年12月9日(土)~12月24日(日)
会場:よみうり大手町ホール

【大阪公演】
日程:2023年12月26日(火)~12月28日(木)
会場:新歌舞伎座

 

(STAFF&CAST)
音楽:アンドリュー・リッパ
歌詞:トム・グリーンウォルド
脚本:トム・グリーンウォルド、アンドリュー・リッパ
演出・翻訳・訳詞・ムーブメント:市川洋二郎
企画製作:パルコ

出演:森崎ウィン、田代万里生(ジョン役Wキャスト)、新妻聖子、濱田めぐみ(ジェン役Wキャスト)

 

(STORY)
[第一幕]
1985年、6歳の少女ジェンの家に、ジョンが生まれる。弟を温かく歓迎するジェンは、暴力を振るう父親から守り抜くことを誓い、ふたりは支え合いながら成長する。やがて10代になったふたりの関係は少しギクシャクし始めるが、ジェンが大学進学のため家を出る時になると、ジョンは姉を引き留めようとする。しかし、自由を望むジェンは、振り払うように出ていってしまう。NYに出てきたジェンは、刺激的な環境で生活を始める。一方で、ジョンは父親の影響を受け始める。やがて、アメリカ同時多発テロ事件が発生。それは、イラク戦争勃発の引き金となり、ふたりの人生をも大きく変えてしまうことになるのだった。

[第二幕]
時は流れ、2005年、ジェンは恋人ジェイソンとの間に息子を授かり、弟にちなんでジョンと名付ける。弟の面影を重ねながら、手塩にかけて息子の世話をするジェンだが、当の本人は過保護な母親を少し疎ましく思うのだった。ジェイソンとの別れや父親との確執など、様々な問題を抱えながらも母親として必死に頑張るジェン。一方で、母の期待とは裏腹に叔父のジョンとはまるで違った人間へと成長していく少年ジョン。やがてジョンが大学への進学のために家を出ると決めた時、母子それぞれが、自らが抱える人生の問題と直面することになる。

公式サイト:https://stage.parco.jp/program/johnandjen

 

 

撮影/河野優太 取材・文/猪口貴裕 ヘアメイク/KEIKO スタイリスト/AKIYOSHI MORITA

水上恒司、若者は「国のためにというより、家族や大事な人のために」映画『あの花』で福原遥とW主演

「初めて愛した人は、特攻隊員でした──」小説投稿サイトで公開され、2016年に文庫として刊行された汐見夏衛氏による『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』。SNSを中心に「とにかく泣ける」と話題になり、シリーズ累計発行部数は85万部を記録。現代の女子高生・加納百合と、特攻隊員・佐久間彰の時を超えた切ない恋物語が描かれている。

水上恒司●みずかみ・こうし…1999年5月12日生まれ。福岡県出身。2018年にドラマ『中学聖日記』(TBS系)で俳優デビュー。2019年に『博多弁の女の子はかわいいと思いませんか?』(FBS福岡)でドラマ初主演を、2020年に『弥生、三月-君を愛した30年-』で映画デビューを果たす。2021年のNHK大河ドラマ『青天を衝け』への出演をきっかけに、現在放送中の連続テレビ小説『ブギウギ』にも出演中。XInstagram

 

この世代を問わず泣ける小説が、ついに12月8日(金)に実写映画で公開。百合役・福原遥さんとW主演を務める彰役は、戦争作品に縁があるという水上恒司さんだ。戦争に対する強い思いがあるからこそ、演じるうえで生じた葛藤、福原さんとともにした覚悟、そして映画に興味を持つ若者たちへのメッセージなど赤裸々に語った。

 

【水上恒司さん撮り下ろし写真】

 

映画『あの花』における水上恒司の葛藤

 

──テーマが「戦争」ということで、オファーを受けた当初はどんなお気持ちでしたか?

 

水上:高校3年生で野球部を引退した後、演劇部の顧問にスカウトされて1番最初に演じたのが、舞台『髪を梳かす八月』での特攻隊員役でした。また長崎の高校に行ったこと、親族が広島にいることも合わせて、僕は戦争というものに触れられる機会が多かった学生時代を送ってきました。だからこそ、戦争に対する思いが強い故に、映画『あの花』を引き受けるうえでは葛藤を抱えました。

 

──葛藤、といいますと?

 

水上:今回は、百合と彰のラブストーリーです。決して戦争を蔑ろにはしていませんし、時代背景もしっかりと描かれてはいますが、残酷な部分はあえて描かれていない。じゃあ僕の戦争に対するこの思いは? と、彰を演じる上では不要となってしまう自分の思いに、どう折り合いをつけるか悩みました。だから僕の思いは、このような取材などで少なからず発言していきたいと思いました。

 

──彰の演技には不要だと判断した、水上さんの思いについてぜひ聞かせてください。

 

水上:まず前提として伝えたいのが、あの時代を僕は……想像しがたいですよね。戦争の資料や、特攻する前に終戦になって生き残った方々のインタビューを拝見していくと「とんでもない時代だったんだな」って……。簡単に言葉にできないというか、語れないというか、僕はそれを見て知ることしかできないので。それから日本に生まれて良かったと思うことはたくさんありますが、あの時代に生きていた方々のように「国のために何かしなければ」という感覚が、僕には想像できないわけですよ。

 

現代の多くの若者がそうじゃないかなと思います。国のためにというより、家族や大事な人のためにという、もっと細分化している気がします。だから僕は「国のために命を懸けて突っ込んでいく彰」を想像することが難しかった。そして、やっぱり彰は、本当はもっと生きたかったのではと思ってしまったんです。夢もあって、大事な人が目の前にいて。生きたい気持ちを置いといて「それより僕は国のために、やらないといけないことがあるんだ」というのが、あまりに健気であり、悲劇であり……。

 

──戦争の残酷さとして “彰の本音をどこまで表現するか”というところで、一つ葛藤があったのですね。

 

水上:はい。ただ彰が言いたかったことは、百合が言ってくれている。男性が優位にあった時代に、女の子が堂々と「戦争に意味があるの⁉」と言う姿に、彰は衝撃を受けたでしょう。彰が本当は世の中に叫びたいことを、百合がずっと叫んでくれていたから、彰は百合に惹かれたんでしょうし、救われたんだろうと思いました。

 

──彰が見せなかった思いは、百合が表現してくれたと。

 

水上:それから戦争の残酷さは僕が表現しなくても、ラブストーリーとしての作品が表現してくれると思いましたし、完成した作品を見てそう思いました。彰は特攻隊員として潔い部分しか見せませんが、演じていて「あっ、僕はこの子ともっと生きていきたい」と彰が思ったであろう瞬間に出会ったんですね。思わず心で泣いて、そんな自分を責めたくなるような瞬間に。それは百合の天真爛漫な真っ直ぐさを目の当たりにしたからなんです。「おかしいものはおかしい」という百合の感覚は現代ならではで、百合が抗えば抗うほど、戦争の残酷さが表れてきました。

 

──百合と彰のラブストーリー自体が、水上さんが表現したかった思いも表しているのですね。

 

水上:ただやっぱり、彰から百合に対しての思いは隠していますよね。一緒にいたかった、添い遂げたかった、もっと苦難を一緒に乗り越えたかった……。説明しすぎてもチープになってしまうので、見ている人に伝わったらいいなと思って演じました。彰の思いを、想像してくれたらうれしいです。

 

「『何もしない』のと、『あえてしない選択をする』のは全く違う」

 

──脚本を読んだ際、彰の魅力をどこに感じましたか?

 

水上:「赦し」ですかね。ちょうどここ数年、赦しって能力がないとできないし、心に余裕がないとできないことだと感じていました。あるシーンで仲間の特攻隊員が、当時としては受け入れがたい行動をとるのですが、彰はその行動を責めなかった。赦した彰は魅力的ですし、彰の役作りをしやすくなった部分でもあります。

 

──水上さんは学生時代、仲間と一緒に野球に打ち込まれていましたよね。彰と重なる部分もあったのではないでしょうか。

 

水上:重なる部分より、自分にはないからこそ目指すべき部分を多く感じました。僕は人のために、あんなに言葉をかけられるほどできた人間ではない。自分の思いはさて置き、今目の前にいる子を元気づけようと思ったり、逃げようとする仲間を肯定しようと思ったり。「俺だって苦しいんだよ」とか、「俺はお前と行きたいよ」とか絶対あるはずなのに、「僕は行かないといけないんだ」と笑うのは、能力がないとできないと思いました。

 

──そんな彰の役作りに関して、成田監督からは「彰だけ別世界にいるように」と言われたとか。

 

水上:たしか“人間味のない彰”という役作りを、僕が成田さんに提案したんです。彰は達観しすぎていて、人間味がなかった。すると撮影の途中で成田さんが、わざわざそう伝えに来てくださったんです。うれしかったですね。それで極めて無駄なアウトプットをしないことを目指しました。派手な言動をすればするほどキャラは立つので、人によっては「彰は何もしていない」ように見えることも想定していますが、「何もしない」のと、「あえてしない選択をする」のは全く違うと思っています。

 

──水上さんが考えに考えた結果の、彰という役なのですね。

 

水上:作品を作るうえで、彰のことを最も考えたのは僕だと思っています。それから「彰は普通の人とは違う」とは分かっていたものの、その「普通」が難しいとも悩みました。普通って、人によっても時代によっても違いますよね。よく「普通の女子高生がタイムスリップしちゃった!」なんてありますけど、その普通が難しい! 先に普通と設定されているのが、役者としてしんどいところです。

 

「『戦争を知ってほしい』という僕の願いです」

 

──全体を通して、しんどい役だったことが伝わってきます。精神的に苦しくなってしまう瞬間がありそうですが。

 

水上:それはないですね。僕は人殺しの役もやったことがありますが、役にそれほど引っ張られないです。自分自身とくっつけてしまうと、これから先も芝居できないと思うんです。それよりも、やっぱり自分の戦争に対する思いを表現できないことが苦しかった。「これで伝わるかな、間違って伝わらないかな」という苦しみがありましたね。あ、誰のせいでもないですよ、ただ僕が勝手に苦しんでいるだけです(笑)。

 

──そのように苦しくなった際、誰かに話はしたのでしょうか。

 

水上:はい。作品に携わっている方々は、みんな僕の思いを知っています。「僕が思いを伝えたうえで、作品であえて表現しない」のは、「伝えていなくて表現しない」のとは全く違うことなので。僕の思いを聞こうという姿勢を貫いてくださったスタッフの方々には、感謝しかないです。

 

──2021年のドラマ『ウチの娘は、彼氏が出来ない‼』(日本テレビ系)以来2度目の共演となる福原さんとは、どのようにコミュニケーションをとったのでしょう。

 

水上:矢面に立つのはW主演の僕ら2人であり、戦争というテーマを扱っている責任と覚悟もあり、「これじゃ伝わらないよね」「こうしたほうが、作品が言いたいこと、百合が言いたいこと、彰が言いたいことが伝わるよね」と、ずっと会話していました。同じ立ち位置だったからこそ、同じ熱量でお話することができた同志だと僕は思っています。

 

福原さんが自分の役と同じように、僕の役のことも考えてくださったからこそ、僕もそれに応えたかった。今回、すごく良い関係性のまま撮影を終えることができたと思います。前回の共演では、福原さんは1つ年上で、芸歴もはるか先輩なので「今日、何食べました?」「はぁ、そうですか!」くらいの会話を敬語でしていました(笑)。

 

──百合と彰のシーンでは、映画のメインビジュアルでもある、百合の花が一面に咲いた丘でのシーンが印象的でした。当時の撮影の思い出はありますか。

 

水上:役者の永遠の呪いみたいなものですが、あのシーンでは福原さんと、この作品における演技を振り返っていました。もちろんその時のベストを尽くしているつもりでも、見てみたら「違ったな」ということは多くあります。それでも作品は世に出ていってしまう。あのシーンでお互いが本音を吐露し合えたことで、あらためて心してかからないといけないと思いました。

 

──お二人の並々ならぬ覚悟が伝わってきます。さて2023年、海外では新たに戦争が起きてしまいました。若者が戦争映画に興味を持つことも増えるかと思いますが、あらためてメッセージをお願いします。

 

水上:映画『あの花』は、「戦争を知る」入り口を広げています。今の子たちは、僕の学生時代とも全く違う青春を謳歌されていると思いますが、この作品が、今起きている情勢も含めて学んでいくきっかけの1つになればいいと思います。「戦争を知ってほしい」という、僕の願いです。「これを見て、こう思ってください」というのはないです。ただ知るきっかけになってくれれば、それだけで僕は、今この時にこの作品を公開する意義になると思っています。

 

──ちなみに、水上さん自身が戦争を知ったきっかけは何だったのでしょう?

 

水上:何だったんでしょうね。僕は小学2年生の時には、広島の原爆ドームの絵を描いて学校に提出していました。戦争について、人から教えられた経験はないんですよ。当たり前のように平和学習をしてきました。その中で、もし自分が戦争を経験した当事者だったら、憎しみや怒りがあふれ出してしまって、戦争のことを伝えられないだろうと思いました。こうして平和に生きている人間だからこそ、当事者たちの代わりに伝えていかなければと思っています。

 

──ありがとうございました。最後にGetNavi webということで、水上さんが今ハマっているモノについて聞かせてください。

 

水上:パナソニックの「LAMDASH PALM IN(ラムダッシュ パームイン)」です。これ(手のひら)くらいのひげ剃りなんです。通常のひげ剃りは、これ(両手を広げる)くらいじゃないですか。それがとても小さくなって、でもパワーは大きいのと変わらず、充電も2週間もつんです。これは革命です、パナソニックさん!

 

──映画『あの花』の現場でも使われていたのですか?

 

水上:もちろんです。小さいので剃りやすいんですよ。男にはちょうど良い剃り具合っていうのがね、あるんですよ。大変使いやすく、すごく良いです!

 

映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』

12月8日(金)全国公開

 

映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』よりシーン写真

 

(STAFF&CAST)
主演:福原遥、水上恒司
出演:伊藤健太郎、嶋﨑斗亜、上川周作、小野塚勇人、出口夏希、坪倉由幸、津田寛治、天寿光希、中嶋朋子/松坂慶子
主題歌:福山雅治「想望」(アミューズ/Polydor Records)
原作:汐見夏衛 『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(スターツ出版文庫)
監督:成田洋一
脚本:山浦雅大 成田洋一
製作:「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/ano-hana-movie/

 

(STORY)
初めて愛した人は、特攻隊員でした──。親や学校、すべてにイライラして不満ばかりの女子高生・百合(福原遥)。ある日母親と喧嘩をして家出をし、近所の防空壕跡に逃げ込むが、朝目が覚めるとそこは1945年、戦時中の日本だった。偶然通りかかった彰(水上恒司)に助けられ、彼の誠実さや優しさにどんどん惹かれていく百合。だが彰は特攻隊員で、程なく命がけで戦地に飛ぶ運命だった―― 。

 

撮影/映美 ヘアメイク/Kohey(HAKU) スタイリスト/川崎剛史

「ブギウギ」でドラマ初出演の黒崎煌代「朝ドラの現場は和気あいあいとしていて、新人の僕を優しく包み込んでくれた」

現在放送中のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」がドラマデビュー作ながらも、新人離れした演技力が大きな話題を呼んでいる黒崎煌代さん。現在公開中の「さよなら ほやマン」でも映画デビュー作にしてメインキャストを務め、生まれつき障害がある主人公の弟という難しい役柄を、明るく爽やかに好演しています。いま最も注目される新星に、2作品の撮影エピソードや、俳優になるきっかけなどについて聞きました。

 

黒崎煌代●くろさき・こうだい…2002年4月19日生まれ。兵庫県出身。2022年にレプロエンタテインメントの30周年記念で開催された役者オーディション「レプロ主役オーディション」に応募し、全くの素人ながら約5000人応募の難関を勝ち抜き合格。同年に参加した2023年後期NHK連続テレビ小説「ブギウギ」のオーディションにて、メインキャストであるヒロインの弟役を勝ち取り俳優デビュー。「さよなら ほやマン」が映画デビューとなる。公式HPInstagram

 

【黒崎煌代さん撮り下ろし写真】

 

趣里さんは実の弟のように接してくれた温かい方

──朝ドラ「ブギウギ」で主人公の趣里さん演じる鈴子の弟・花田六郎を演じて話題を呼んでいますが、これが俳優デビュー作になるんですよね。

 

黒崎 事務所に入って半年ぐらいで受けたオーディションだったんですけど、どうせ落ちるだろうなと思っていたので、合格と聞いたときはビックリして、どっきりかと思いました(笑)。ドラマのオーディション自体が初めてのことだったので、事の大きさも分かっていなかったです。

 

──選ばれた理由は聞きましたか?

 

黒崎 “ピュア”さと言われました。そんなこと言われたこともなかったし、僕自身もピュアだとは思っていないのでピンとこなかったですけど。

 

──出演が発表されたとき、周囲の反応はいかがでしたか?

 

黒崎 ほとんど連絡を取っていないような人からも「おめでとう」って連絡がありましたし、すごい影響力を感じました。ただ親に関しては、「どうして事務所に所属して半年で朝ドラに出られるの?」というのが第一声で。もちろんうれしいんでしょうけど、息子がうまくいきすぎているから、逆に心配だったみたいです。

 

──花田六郎を演じる上で、どんなことを意識したのでしょうか。

 

黒崎 六郎は拾ってきた亀をペットにして、いつも一緒にいるぐらいピュアで好奇心旺盛な男の子。僕も一つのことにのめり込むタイプなので、自分自身の好奇心を拡張させて演じました。

 

──現場の雰囲気はいかがでしたか?

 

黒崎 とにかく楽しかったです。聞いたところによると、大阪制作の朝ドラは、いつも以上に和気あいあいとした空気になるそうなんです。というのも東京だったら現地で集まって解散ですけど、みんなが同じホテルに泊まって、一緒にご飯に行くことも多かったので、自然と仲良くなれるんです。キャストの皆さんは僕が新人ということもあってNGを出しても笑ってくださって、優しく包み込んでくれました。

 

──朝ドラは撮影期間も長いので、一体感がすごいとよく聞きます。

 

黒崎 そうなんですか? まだドラマの現場は一本だけなので、他の現場が分からないんですが、デビューが朝ドラで良かったなと思います。

 

──六郎の家族を演じた俳優さんの印象をお聞かせください。まずは主人公の趣里さん。

 

黒崎 実の弟のように接してくれて、何度もご飯に連れて行ってくれて、とても温かい方でした。朝ドラのヒロインで大変なことも多いのに、全員に気を配っていて、ザ・座長ですね。お芝居もすご過ぎます! たとえば泣くシーンを何度も何度も画角を変えて撮るんですけど、その度に同じタイミングで涙を流すんです。

 

──父親・梅吉役の柳葉敏郎さん、母親・ツヤ役の水川あさみさんはいかがでしたか。

 

黒崎 お二人とも裏表がなくて、ものすごく優しく接してくださいました。柳葉さんはよく笑わせてくれましたし、水川さんがいるからこそ和気あいあいとした空気が作られていて現場のキーマンでした。

 

──錚々たる役者さんが揃う中でお芝居をするプレッシャーは相当なものだったのではないでしょうか。

 

黒崎 最初は緊張で手が震えて、それを抑えるだけで必死でした。でも周りの方のおかげで徐々に慣れていって、早い段階で溶け込むことができました。

 

MOROHAのアフロさんは根っからのエンターテイナーで、生きるパワーがすごい

──映画「さよなら ほやマン」もオーディションで決まったそうですね。

 

黒崎 初めて受けたお芝居のオーディションでした。

 

──それでメインキャストに選ばれるってすごいですね。

 

黒崎 運命を感じましたし、ありがたかったですね。

 

──シゲル役を決めるオーディションだったんですか?

 

黒崎 そうです。オーディションの段階では、もっとシゲルは重い障害を抱えていたんです。だから事前準備として自閉症に関する本を読んだり、「さよなら ほやマン」のストーリーラインが「ギルバート・グレイプ」という映画とコード進行が一緒なので、久しぶりに観返したり。「ギルバート・グレイプ」で重い知的障害のある弟を演じたのがレオナルド・ディカプリオなんですけど、何回も観返すとディカプリオになってしまうので、参考程度にとどめて。現場では監督とディスカッションしながら、シゲルをチューニングしていきました。

 

──撮影は宮城県石巻の離島で行われたそうですね。

 

黒崎 石巻から船で30分ぐらいの場所にあって、のどかで良い島でした。本当に何もないんですけど、そこがいいんですよね。撮影期間は3週間だったんですが、一度も島から出なかったです。

 

──島で買い物をすることもなく?

 

黒崎 なかったです。だから島では1円も使わなかったです(笑)。

 

──3週間という撮影期間はいかがでしたか?

 

黒崎 体感としては一瞬で、とにかく楽しかったです。おそらくスタッフさんたちは大変だったと思うんですけど、僕たちには見せないようにしてくれていたのかなと。

 

──メインキャストの3人は初めて尽くしなんですよね。

 

黒崎 主演のアフロさんは俳優初挑戦で映画初主演、呉城久美さんは初ヒロイン、僕も映画初出演。庄司輝秋監督もこれが長編デビュー。だからプロデューサーの方は心配だったらしいですけど、庄司監督のチャレンジ性を買ったんでしょうね。それに津田寛治さん、松金よね子さんとキャリアも実力も絶対的な方々がいたので、やりがいのある現場でした。

 

──アフロさんも黒崎さんも映画初出演とは思えないほど堂々たる演技で、お二人は本物の兄弟のようなリアリティーがありました。

 

黒崎 島に行く前に、アフロさん、呉城さん、僕の3人で何度もリハーサルをやりましたし、ご飯にも一緒に行って。仲は深くなってからの島入りだったので、やりやすかったのはあります。島の宿舎でも、1階のホールに3人で集まって練習しましたしね。

 

──アフロさんの印象はいかがでしたか。

 

黒崎 漁師役ということで、小型船舶の免許を取得して、素潜りのスクールにも通ったそうで、役への入り込み方がすごかったです。撮影以外でもずっと人を楽しませたくてしょうがないといった感じで、よくそんな力が残っているなと感心しました。島にいる間に曲も一曲作っていましたしね。あとは美術部、衣装部など各部署の方々に好きなものを聞いて、こっそりネットで島まで取り寄せて、それをサプライズでプレゼントするんです。根っからのエンターテイナーで、生きるパワーがすごいなと。

 

──ひょんなことで兄弟と共同生活を送る漫画家の美晴を演じた呉城さんの印象は?

 

黒崎 初ヒロインとはいえ、演技経験は豊富な方なので、我々のむちゃくちゃな芝居を受け入れてくれて、分かりやすくアドバイスもくださって、とても優しい方でした。

 

──庄司監督の演出はいかがでしたか。

 

黒崎 わりとリハーサルのときから好きなようにやらせてくれて、現場で細かい指示はなくて、委ねてくれました。ただ撮影始まった当初は毎晩LINEで「今日はどうでした?」とか「素晴らしい演技でした」とか気遣って励ましてくれて、それが支えになりました。

 

──ちなみに、ほやは好きですか?

 

黒崎 そもそも、ほやという存在も知らなくて、初めて島で食べたんですけど、大好きになりました。獲れたてのほやを海水で洗って、そのまま刺身で食べて、たまらなかったですね。蒸しほやや焼きほやも食べましたけど、生が一番です!

 

恥ずかしいけどラブストーリーをやってみたい

──この世界に入ったきっかけを教えていただきたいんですが、どうして「レプロ主役オーディション」に応募したのでしょうか。

 

黒崎 中学生の頃から、将来は映画に関係する職業に就きたいなと思っていて。ずっとVFXに関心があったんですけど、大学生になって、まずは実際に行動してみようと。それで、たまたまInstagramのストーリーでオーディションを見つけて応募しました。

 

──映画に興味を持ったのは誰かの影響ですか?

 

黒崎 父が映像関係の仕事をしていたのもあって、小さい頃から父と一緒に映画を観ていて、映画は身近なものでした。中学生になると自主的に大量の映画を観るようになって、高校時代は気の合う友達と脚本を書いたり、撮影をしたりしていました。

 

──最初にハマった映画は覚えていますか?

 

黒崎 「スターウォーズ」シリーズです。そこで特殊メイクに興味を持って、キャラクターの物まねなんかもしていました。

 

──「スターウォーズ」の物まねをしても、同級生には伝わらないですよね。

 

黒崎 全く学校では伝わらなかったですね。みんなが仮面ライダーごっこをする中、僕はクリスマスプレゼントでもらったライトセーバーのおもちゃを持って、ダース・ベイダーやダース・モールのまねをしているわけですから(笑)。

 

──映像に興味を持ってからは、それ以外の道はあまり考えずに?

 

黒崎 考えられなかったですね。

 

──それは家族にも伝えていたんですか?

 

黒崎 伝えてなかったです。事務所のオーディションも合格してから事後報告でしたし、親は僕が俳優になるのも賛成ではありませんでした。「さよなら ほやマン」の出演が決まった後も、「そろそろ就職活動もしないとね」みたいなことを仄めかされていて。「ブギウギ」の出演が決まって、ようやく「頑張ってみなさい」と認めてもらいました。

 

──大学も映画に関わる専攻ですか?

 

黒崎 全く関係なくて、法律を学んでいます。なぜかと言うと、YouTubeやSNSに無断で映画やドラマを切り抜きしてアップロードして問題になっているじゃないですか。そういった著作権の問題を、ちゃんと学びたかったんですよね。

 

──高校時代にオーディションを受けようとは思わなかったんですか?

 

黒崎 そうですね。兵庫県にいましたし、友達と一緒にもの作りをすることで満足していたんですよね。たまたま東京の大学に受かったので上京しましたけど、それほど東京に行きたいという気持ちも強くなかったんです。

 

──上京して生活は一変しましたか?

 

黒崎 大学1年生のときは、いろんな映画館に行って映画を年間300本ぐらい観まくって、観た映画を脚本に書き起こす日々でした。コロナ禍というのもあってサークルにも入らなかったので、たくさん時間があったんです。

 

──事務所に所属したのは2022年5月で、大学2年生のときだったそうですが、それまでお芝居経験はあったんですか?

 

黒崎 全くの未経験でした。

 

──それで、よく「ブギウギ」と「さよなら ほやマン」のオーディションに合格しましたよね。どうして合格できたと自己分析しますか?

 

黒崎 まだまだ自分の演技が良いとは思えないんですが、おそらく映画はたくさん観ているほうだと思うんです。いろんな役者さんの動きを研究していましたし、小学生の頃から鏡の前で物まねをして遊んでいました。だから初めて人前で演技をしたときも恥ずかしさは一切なかったです。まあ頭のネジが飛んでいるだけかもしれないですけど(笑)。

 

──特に物まねをした役者は誰ですか?

 

黒崎 ライアン・ゴズリングですかね。

 

──事務所に所属して生活に変化はありましたか。

 

黒崎 あまり変わらないです。一つ挙げるとしたら、これから邦画に関わっていく人間なので、より邦画を観るようになりました。去年は邦画の歴史を意識しながら、新旧の作品をたくさん観たんですが、特に印象的だったのが「清作の妻」(1965年)で、僕の中では邦画No.1です。

 

──増村保造監督作品ですよね。

 

黒崎 「妻は告白する」(1961年)も最高でしたけど、増村監督は画作りがすごいんですよね。比較的に最近の邦画で言うと「シン・ゴジラ」(2016年)も面白かったです。

 

──ワークショップにも通っているそうですね。

 

黒崎 まだお芝居初心者なので、基礎を学べる大事な場所ですし、めちゃくちゃ勉強になります。ただ全て鵜呑みにするのはどうかなと思っていて。もちろん、ちゃんと言われたことをやるのも真面目で素晴らしいことですけど。そういうのを見ると逆張りしたくなる性格なんですよね(笑)。

 

──今後出演したいジャンルは何ですか?

 

黒崎 恥ずかしいんですけど、ラブストーリーをやってみたいです。いわゆるキラキラ系じゃなくて、たとえばリチャード・リンクレイター監督の「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離」(1995年)のように奥の深いラブストーリー。あとはジム・キャリーやベン・スティラーといった役者が大好きなので、コメディにも出たいです。でも今は、どんな作品でもチャレンジしたいですね。

 

 

 

連続テレビ小説「ブギウギ」

NHK総合【毎週月曜~土曜】 午前8時~8時15分(*土曜は一週間を振り返ります)
BSプレミアム【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
BS4K【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分

(STAFF&CAST)
脚本:足立紳、櫻井剛
主題歌:「ハッピー☆ブギ」中納良恵、さかいゆう、趣里
音楽:服部隆之
語り:高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー)

出演:趣里、水上恒司/草彅剛、蒼井優、菊地凛子、生瀬勝久、小雪、水川あさみ、柳葉敏郎ほか

公式サイト:https://www.nhk.jp/p/boogie/ts/NLPYVZYM29/
公式Instagram:https://www.instagram.com/asadora_bk_nhk/
公式X:https://twitter.com/asadora_bk_nhk

 

 

さよなら ほやマン

全国公開中

【映画「さよなら ほやマン」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
監督・脚本:庄司輝秋
音楽:大友良英
エンディングテーマ:BO GUMBOS「あこがれの地へ」(EPIC RECORDS)
アニメーション:Carine Khalife

出演:アフロ(MOROHA)、呉城久美、黒崎煌代
津田寛治 / 園山敬介、澤口佳伸 / 松金よね子

(STORY)
豊かな海に囲まれた美しい島で、一人前の漁師を目指すアキラ(アフロ)は、「ほや」を獲るのが夏の間の仕事だ。船に乗ることができない弟のシゲル(黒崎煌代)と2人、島の人々に助けられてなんとか暮らしてきたが、今も行方不明の両親と莫大な借金で人生大ピンチに直面中。そんな折、都会からふらりと島にやってきたワケありっぽい女性、漫画家の美晴(呉城久美)が兄弟の目の前に現れた。「この家、 私に売ってくれない?」その一言から、まさかの奇妙な共同生活が始まる。3人のありえない出会い、それは最強の奇跡の始まりだった。

 

公式サイト:https://longride.jp/sayonarahoyaman/index.html

公式X:https://twitter.com/hoyaman_movie

 

(C)2023 SIGLO/OFFICE SHIROUS/Rooftop/LONGRIDE

 

撮影/武田敏将 取材・文/猪口貴裕

俳優・林遣都が今ハマっているモノ「何周もして、やっとたどり着きました」映画『隣人X -疑惑の彼女-』公開インタビュー

人間そっくりの姿をした「惑星難民X」と、Xに翻弄される人々が描かれた異色のミステリーロマンス映画『隣人X -疑惑の彼女-』が12月1日(金)に公開。主人公・笹役を演じる林遣都さんには、本作に込めた想いから15年ぶりにタッグを組んだ熊澤監督とのエピソード、初共演となる上野樹里さんの印象まで語っていただいた。続けて、GetNavi web恒例の今ハマっているモノについて聞く。

 

「何だコレは!」林さんが衝撃を受けた“ご飯のお供”

 

──本作の撮影を通して興味を持ったモノ・コトなどはありましたか?

 

 僕、心霊スポットやお化け屋敷が全然怖くないタイプなんですよね。惑星難民Xということで、心霊スポットとかに少し興味を持ち、ふと考えることがありました。一般的に、あまり良くないことかもしれないですが(笑)。

 

──実際にXのような存在がいると言われたら、林さんは信じるのでしょうか?

 

 「そんなモノいるわけないだろう」とは思っていないですが、特に影響されないと思います。Xが危害を加えてこないなら、最初から危ないと判断することはありません。

 

──先ほどのお話であがっていた、人を見かけで判断しない良子(上野樹里さん)に通じるモノを感じました。最近ハマっているモノはありますか?

 

 最近は「今日は何食べようかな」と考えることが一番の楽しみで、常にご飯のお供を探しては試しています。その中で一番ハマっているのが「やみつき薬味 山わさび納豆」(タカノフーズ株式会社)ですね。スーパーに売っているパックされた納豆で、辛子の代わりに山葵がついているんですよ! 毎日のように食べています(笑)。

 

──美味しそうですね。辛いモノが好きなのですか?

 

 そういうわけではなく、スーパーで商品の新規開拓をするのが好きなんです。美味しそうな商品を常に求めています。いつも通る納豆コーナーでわさび納豆を見つけて、試しに買って食べてみたら「何だコレは!」と衝撃を受けました。そこからドハマりですね。

 

──いろいろ試された中で、行き着いたのですね!

 

 そうですね。何周もして、やっと辿りつきました。とにかくご飯に合います。わさび納豆を海苔で巻いてご飯を食べると、お寿司屋さんの納豆巻のようになってさらに美味しいです。ぜひ皆さんにも、試していただきたいです。

 

──このあと買いに行きます! ありがとうございました。

 

【林遣都さん撮り下ろし写真】

 

映画『隣人X -疑惑の彼女-』

12月1日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショー

 

【映画『隣人X -疑惑の彼女-』よりシーン写真】

 

(STAFF&CAST)
出演:上野樹里 林 遣都 黃姵嘉 野村周平 川瀬陽太/嶋田久作/原日出子  バカリズム 酒向 芳
監督・脚本・編集:熊澤尚人
原作:パリュスあや子「隣人X」(講談社文庫) 音楽:成田 旬
主題歌:chilldspot「キラーワード」(PONY CANYON / RECA Records)
配給:ハピネットファントム・スタジオ
制作プロダクション:AMGエンタテインメント
制作協力:アミューズメントメディア総合学院
©2023 映画「隣人X 疑惑の彼女」製作委員会 ©パリュスあや子/講談社
公式サイト:https://happinet-phantom.com/rinjinX/

 

(STORY)
ある日、日本は故郷を追われた惑星難民Xの受け入れを発表した。人間の姿をそっくりコピーして日常に紛れ込んだXがどこで暮らしているのか、誰も知らない。Xは誰なのか? 彼らの目的は何なのか? 人々は言葉にならない不安や恐怖を抱き、隣にいるかもしれないXを見つけ出そうと躍起になっている。

週刊誌記者の笹は、スクープのため正体を隠してX疑惑のある良子へ近づく。ふたりは少しずつ距離を縮めていき、やがて笹の中に本当の恋心が芽生える。しかし、良子がXかもしれないという疑いを払拭できずにいた。良子への想いと本音を打ち明けられない罪悪感、記者としての矜持に引き裂かれる笹が最後に見つけた真実とは。嘘と謎だらけのふたりの関係は予想外の展開へ…!

 

撮影/映美 取材・文/kitsune ヘアメイク/竹井 温 (&’s management) スタイリスト/菊池陽之介

若葉竜也「 “横にいる人のことを本当に分かっているのか?”ということを喚起したかった」映画「市子」12・8公開

観客からの支持を得て再演もされた舞台「川辺市子のために」を、杉咲 花さんを主演に迎えて映画化した「市子」が12月8日(金)より公開。プロポーズを受けた翌日に、突然失踪した市子の行方を捜す恋人・長谷川を演じた若葉竜也さんが独自の役作りについてはもちろん、シブすぎる趣味についても熱く語ってくれました。

 

若葉竜也●わかば・りゅうや…1989年6月10日生まれ。東京都出身。2016年、第8回 TAMA映画賞・最優秀新進男優賞を受賞。作品によって違った表情を見せる幅広い演技力で数多くの作品に出演。若きバイプレーヤーとして評価を高める。映画「葛城事件」(16年/赤堀雅秋監督)での鬼気迫る芝居で注目を集め、「愛がなんだ」(19年)や「街の上で」(21年)など今泉力哉監督作品で欠かせない存在に。主演映画「ペナルティループ」(24年3月公開予定)が待機中。Instagram

 

【若葉竜也さん撮り下ろし写真】

 

 

「誰が気づくんだ?」というこだわり

──3年間一緒に暮らしながら、過去を知らなかった市子を捜索する長谷川という役柄を演じるにあたり、どのような役作りをされましたか?

 

若葉 映画を観ているお客さんと一緒に市子を捜していく役柄なので、常に鮮度というか、とびきり新鮮なリアクションを意識しました。だから、普段の映画の準備の仕方とは、ちょっと違うものになったと思います。「台本を読み込む」という役者なら当然のことを捨てるということをやり、嘘にならないようにすることを考えました。戸田(彬弘)監督からは、そこまで細かい指示はありませんでしたが、市子の過去に立ち入らない優しさもありつつ、見たくないものに蓋をしてきた長谷川のズルさや軽薄さみたいなことは意識しました。

 

──戸田監督が作・演出されていた原作となる舞台「川辺市子のために」はご覧になられましたか?

 

若葉 戸田監督から「見てほしい」と言われていないこともあり、見ていません。長谷川は、もともと大阪出身の設定で、台本のセリフも関西弁で書いてあったんです。でも、(市子の母親役の)中村ゆりさんも、(刑事役の)宇野祥平さんも関西の人だし、(市子役の)杉咲 花さんは、僕と同じ東京出身ですが、朝ドラ「おちょやん」で1年間、関西弁に触れていた人なので、そんな人たちの中で、えせ関西弁をしゃべる僕が出てきたら、関西の方が冷めてしまうと思ったんです。それで早い段階で、戸田監督に「長谷川を東京出身に変更できますか?」という提案をさせてもらいました。

 

──若葉さんの役作りの1つとして、髭と髪の長さがあると思いますが、今回に関しては?

 

若葉 戸田監督から「髭はない方がいいですね」って言われたので、こうなりました(笑)。ただ、市子がいなくなった後の長谷川は、毛穴をちゃんと映すという判断から青髭状態で撮っているし、回想シーンはファンデーションで髭を消しています。僕の中では、市子と長谷川の過ごした幸せに見える時間っていうのは、イ・チャンドン監督の「オアシス」で障害のあるヒロインが急に健常者に戻る幻想的なシーンに近いかなと思っています。あと、現実を目の当たりにすることで、長谷川は呼吸を始めたと僕は捉えたので、汗も作りものじゃなく、全部本物の汗なんです。そう考えると、「誰が気づくんだ?」というところまで、細かくこだわっていますね(笑)。

 

台本に書かれていない感情が、いろいろ詰め込まれた

──市子役の杉咲花さんとはNHK連続テレビ小説「おちょやん」などで共演されていますが、本作での共演はいかがでしたか?

 

若葉 僕が同年代の女優さんだったら、本当に消えてほしいと思っちゃうぐらい、ちょっと次元が違う俳優さんですね。誤解を恐れず言うんだったら、技術的に杉咲さんより達者な方はたくさんいると思うんですよ。でも、技術じゃ到底たどり着けないところに杉咲さんはフワッとジャンプしてタッチしてくるんです。「おちょやん」のときよりも、いろんなものを削ぎ落して、どんどんシンプルになっているし、芸歴とかそういうことでは出せないような表現をしてくるので、「市子」を観たとき、「この後、どこに行くんだろう?」と思いました。いちファンとして、30代になったときのお芝居も楽しみですね。

 

──宇野祥平さんとの共演シーンでは、無言で感情表現されている印象が強いです。

 

若葉 この映画は台本に書かれていない感情が、いろいろ詰め込まれた作品だと思います。宇野さんが演じられた刑事の人物像も、もともとは普通の刑事だったんですが、長谷川と一緒に行動するにあたって、虐げられた一人ぼっちの男にした方がいいんじゃないか? というアイデアが出てきたり、原付で走り去るシーンが生まれたり、毎日いろんな変化が起きるような現場でした。だから、台本を超えられたような気がします。

 

──役者同士の熱量がハンパじゃない作品だけに、ほかの共演者の方とのエピソードもお願いします。

 

若葉 僕が直接共演したのは、杉咲さんと森永(悠希)くん、宇野さん、中村ゆりさんですが、宇野さんと中村ゆりさんに関しては、僕らみたいな役者が監督と話して、こういう感じにしたいと思ったものを見て、それをズバーンと受け止めてくれるんですよね。そういう人間力というか、安心感に甘えさせてもらった部分はありますね。森永くんに関しては、僕と全く質感の違う役者さんですね。市子に「もう私に関わらないでくれ」と言われるシーンで、よくこんな真剣な表情で「なんでやねん」と言える芝居できるなと思いましたし、森永くんの台本の読み方が気になりました。

 

邪念みたいなものを排除したい思い

──振り返ってみて、どのような体験をした現場だったと思いますか?

 

若葉 初めての経験じゃないですが、作品を試写で観たときに、あまり見たことのない顔をしていたんです。例えば、プロポーズのシーン。なんなら「おちょやん」で一回プロポーズが失敗しているから、それぐらいのトーンでやろうと思っていたんですけど(笑)、思いのほか、自分の心がザラザラとよく分からない方向に行ったんですよね。あとは、森永くんとの対峙や中村さんとのシーンなど、それを切り取ってくれた戸田監督や撮影監督の春木康輔にすごく感謝しています。自分の想像の範疇では収まり切れない奇跡に出会えると、すごく嬉しいんです。

 

──この作品が、観客にどのように伝わってほしいと思われますか?

 

若葉 公式コメントにも出したんですが、僕は自分が安心したいから、人をカテゴライズしていくってことに対して、すごく気持ち悪さみたいなものを感じているんです。例えば、通り魔のニュースが流れて、犯人が捕まって、犯人はこんな家庭環境だったから、こんなことになった。だから、自分とは違う人種なんだという考え。だから、この作品を対岸の火事のようにしたくなかったし、横にいる人のことを本当に分かっているのか、ということを喚起したかったんです。

 

──今や日本映画界には欠かせない存在となった若葉さんですが、この数年間での状況の変化をどのように捉えていますか?

 

若葉 さかのぼると「葛城事件」あたりから、明確に変わっていったと思うんですが、ご一緒したかった監督からのお声がけが増えたんです。そして、ありがたいことに自分が好きだと思える脚本を手渡されていることも増えました。それで、実際に成功しているかどうかわからないですけど、より邪念みたいなものを排除したい思いは強まりましたね。例えば、役者として良い評価を得たいっていう欲望は、映画にとっては邪魔になることがあると思うんですよ。僕はもともとそういうタイプではないですが、よりなくしていきたいと思う、今日この頃です(笑)。

 

こんな趣味だから、全く女性と話が合わない

──今後こういう役をやりたいなど、希望や展望があれば教えてください。

 

若葉 特にないんですよね。まだ情報解禁になってない作品も含めて、苦しめられて、追い込まれて疲弊していく役が多いんですよ。だから、沖縄ロケでハッピーな映画をやりたいですね(笑)。なんだかんだ神経を使う間抜けなバカ役は多いですが、底抜けに明るいバカ役はないんですよ。でも、そういう役が来たら……うーん。いや、やっぱやらないかも(笑)。

 

──気分転換にやられている趣味などがあれば教えてください。

 

若葉 スケボーとか、デッドストックのスニーカーとか、あとはクルマというか、旧車。男臭い趣味ばかりですが、かなり地味に塊根植物とか盆栽とか、植物の世話するのも好きなんですよ。もともとグリーンが好きだったんですが、ここ1年ぐらいで塊根のかっこよさにめちゃくちゃハマってしまって……。パッと見はショウガなんですが(笑)、今では10種類ぐらいあって、少しずつ成長していくのが楽しみです。昨日、仕事で一緒だった池松壮亮さんに、お気に入りのオペルクリカリア・パキプスの写真を見せたら、「ただの木じゃないですか!」と一蹴されました。盆栽は6つぐらいあるんですが、すごく高価だし、手もかかるんですよ。

 

──なかなか、シブい趣味ですね。

 

若葉 あとは、金魚ですね。国産の金魚だけ扱っているお店で購入しているんですが、自然発生的に生まれたような柄とは思えないかっこよさというか、その個性がアートに落とし込まれる意味もわかるぐらいきれいなんですよね。「死ぬのは寂しいから、道ずれにする」という理由から、本当は名前を付けちゃいけないんですが、ペット愛に目覚めてしまったようで、あまりにかわいすぎて、飼っている2匹に名前付けちゃっているんです。こんな趣味だから、全く女性と話が合わないんですよ(笑)。

 

──現場に必ず持っていくモノやグッズがあれば、教えてください。

 

若葉 キャメル色のレザーの台本カバーです。新しい作品が始まるときに、そのカバーに台本を入れ替えるんですが、その瞬間から「これから始まるぞ」って気分になるんです。それまでお金がなくて、紙のカバーみたいなものを付けていたんですが、「葛城事件」の直後に、仲のいい先輩が「もっといいモノに替えろ」と、プレゼントしてくれたんです。だから、「南瓜とマヨネーズ」(2017年)あたりから、ずっといろんな死闘を繰り広げる現場のお供をしてくれている感じです。かなり擦れたり、血糊とか付いていたりしますが、マブダチのような存在です。あと、タバコとお茶の3点セットですね。

 

 

 

市子

12月8日(金)より、テアトル新宿、TOHOシネマズ・シャンテほか全国公開

(STAFF&CAST)
監督:戸田彬弘
原作:戯曲「川辺市子のために」(戸田彬弘)
脚本:上村奈帆、戸田彬弘
音楽:茂野雅道
出演:杉咲 花、若葉竜也、森永悠季、倉 悠貴、中田青渚、石川瑠華、大浦千佳、渡辺大知、宇野祥平、中村ゆり

(STORY)
3年間一緒に暮らしてきた恋人・長谷川義則(若葉竜也)からプロポーズを受け、その翌日にこつ然と姿を消した川辺市子(杉咲花)。途方に暮れる長谷川の前に、市子を捜しているという刑事・後藤(宇野祥平)が現れ、彼女について信じがたい話を告げる。市子の行方を追う長谷川は、昔の友人・吉田(中田青渚)や高校時代の同級生・北(森永悠希)など彼女と関わりのあった人々から話を聞くうち、市子が違う名前を名乗っていたことを知る。

公式HP:https://happinet-phantom.com/ichiko-movie/

(C)2023 映画「市子」製作委員会

 

撮影/映美 取材・文/くれい響 ヘアメイク/寺沢ルミ スタイリスト/Toshio Takeda(MILD)

「人が人を傷つけない社会になってほしい」林遣都、15年ぶりタッグの熊澤監督と映画『隣人X -疑惑の彼女-』に込めた想い

人間そっくりの姿をした「惑星難民X」を受け入れた日本と、Xに翻弄される人々を描いた異色のミステリーロマンス映画『隣人X -疑惑の彼女-』が12月1日(金)に公開された。林遣都さんはXの正体を追う週刊誌記者を演じている。“SFミステリー”の設定がありつつも真摯なラブロマンスであり、現在の日本社会に通じるメッセージも込められた本作に、林さんが乗せた特別な想いとは?

林遣都●はやし・けんと…1990年12月6日生まれ、滋賀県出身。2007年、映画『バッテリー』で俳優デビュー。同作で第31回日本アカデミー賞ほか多くの新人賞を受賞し注目を集める。近年はNHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜」(2019)、NHK連続テレビ小説『スカーレット』(2019)、TBS日曜劇場『VIVANT』(2023)と話題作に出演。ドラマ『おっさんずラブ-リターンズ-』(テレビ朝日系)が2024年1月に放送開始を、映画『身代わり忠臣蔵』が2024年2月9日に公開を控えている。

 

【林遣都さん撮り下ろし写真】

 

 

「未だに悲しいニュースが絶えない世界で生きるのは大変 」

 

──人間の姿をした惑星難民Xが、日本社会に紛れ込んでいるという設定から始まる物語ですが、脚本を読んでどのように感じられましたか?

 

 タイトルを聞いた時「熊澤(尚人)監督が、SF要素のある作品を撮るんだ」と思いました。しかし実際に脚本を読んでみると、近年の自分たちの生活を振り返らせてくれるような内容や、現代社会において目を向けなければいけない問題が多く描かれていたんです。すごくやりがいのある作品だと思いました。

 

──たしかに近年のコロナ禍での生活や社会的偏見、差別など実社会にも通じるテーマが存在していると感じました。作品を作るうえで、大事にしたことはありますか?

 

 脚本を読んだ時に、監督が世の中に伝えたい想いが込められていると強く感じました。監督と常に確認し合っていたわけではないですが、自分も周りも、監督と同じ想いを込めて作品づくりに臨んでいました。

 

──それは、どういった想いでしょうか?

 

 簡単な話ではないですが、「人が人を傷つけない社会になってほしい」という想いです。コロナ禍の混乱だけではなく、未だに悲しいニュースが絶えない世界で生きるのはすごく大変で、やむを得ず人を傷つけてしまう場合が誰にでもあると思います。それでも一人ひとりが心がけを変えて、自分ばかりでなく誰かの幸せを願って生きていれば、そんなに悪いことは起こらないんじゃないかなって。僕自身、日頃から人を無意識に傷つけないよう心がけていることもあり、そんな想いが伝わればいいなと思っています。

 

──素敵です。林さんが演じた笹役には、どのように向き合ったのでしょう?

 

 僕が演じた主人公の笹は、週刊誌記者として、Xの疑惑がある女性・良子(上野樹里さん)を追いつつ、だんだんと彼女に惹かれていく役柄です。そして記者としての仕事で悩んでいるうちに、良子さんのことを傷つけてしまいます。ただ笹が良子さんを傷つけてしまった理由も、僕は理解できるんです。行動の裏には誰しも理由や事情があると思っているので、笹のように「人を傷つける行動をとってしまった人」の気持ちも知りたいと思いながら演じました。でも最終的には、やはり「人を傷つけることはなくなって欲しい」というのが自分の思うところですね。

 

林さんが大事にしている「10代の時に熊澤監督からいただいた言葉」

 

──熊澤監督とは2008年の映画『ダイブ!!』以来のタッグとなりますが、15年ぶりに撮影に臨んでいかがでしたか?

 

 監督とは16、17歳の時にご一緒させていただき、「これからどんな大人になっていくのか」という時期の自分を見ていただきました。若い時にお世話になり、すごく信頼している方とお話すると、あらためて今の自分と向き合うことができます。もし監督が、今の僕を見てガッカリしたら「僕は何か間違えているのかな」という判断基準にもなりますし、初心に戻れます。

 

──これまでにも監督と交流はあったのでしょうか?

 

 はい。数年前に監督が映画の試写会にいらして、感想をくださったことがありました。「お芝居が面白かった」ではなくて、「俳優をやる上での覚悟を感じることができた」と、僕の作品への取り組み方を見てくださったのが、とてもうれしくありがたかったです。10代の時に監督からいただいた言葉は、今もお芝居をするうえで大事にしています。

 

──どのような言葉か、聞いてもいいですか?

 

 「自分自身を磨き続けること」ですね。「高め続けていかないと、人を演じるなんてできないよね」とお話いただきました。僕自身、俳優はいろんな経験をして、いろんなことを知るのが大前提だと思っています。今回の撮影で「今も意識しています」と監督にお伝えすると、「それをすごく感じたし、今後も大切にしていってほしい」と仰っていただきました。これからも大事にしていきたいです。

 

上野樹里さんと初共演「プロ意識にすごく惹かれました」

──初共演となる良子役の上野樹里さんには、どのような印象をお持ちになりましたか?

 

 樹里さんに初めてお会いしたのは本読みとリハーサルの時で、その夜は監督とプロデューサーさんと樹里さんとで食事をする予定でした。でも納得いくまでやり続けた結果、時間が足りず中止になったんです。その樹里さんの作品や役に対する姿勢、妥協せず作り込んでいく瞬間が僕はものすごく好きなので、本当に充実した時間でした。

 

──上野さんは、とことん追求するタイプなのですね。

 

 そうですね。作品と役に対する責任感をお持ちで、そのプロ意識にすごく惹かれました。作品への心がけや取り組む感覚が同じだと感じ、1日で「この人となら演じる中で良い関係性が築ける」と思いました。その気持ちは撮影が終わるまで変わりませんでしたね。

 

──劇中では良子と笹が、お互いに少しずつ心を通わせていきます。良子のキャラクターは笹から見て、どう映っていたのでしょうか?

 

 良子さんは、笹にとっても世の中においても必要な人間だと思います。人を見かけで判断せず、本質を見つめることができる。そして弱みや痛みを知っているからこそ、他人のそれらに気づくこともできる。笹は知らないうちに良子さんに救われていて、そんな彼女を傷つけてしまったからこそ、新たに気づけたことがあるのかなと思いました。

 

映画『隣人X -疑惑の彼女-』

12月1日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショー

 

【映画『隣人X -疑惑の彼女-』よりシーン写真】

 

(STAFF&CAST)
出演:上野樹里 林 遣都 黃姵嘉 野村周平 川瀬陽太/嶋田久作/原日出子  バカリズム 酒向 芳
監督・脚本・編集:熊澤尚人
原作:パリュスあや子「隣人X」(講談社文庫) 音楽:成田 旬
主題歌:chilldspot「キラーワード」(PONY CANYON / RECA Records)
配給:ハピネットファントム・スタジオ
制作プロダクション:AMGエンタテインメント
制作協力:アミューズメントメディア総合学院
©2023 映画「隣人X 疑惑の彼女」製作委員会 ©パリュスあや子/講談社
公式サイト:https://happinet-phantom.com/rinjinX/

 

(STORY)
ある日、日本は故郷を追われた惑星難民Xの受け入れを発表した。人間の姿をそっくりコピーして日常に紛れ込んだXがどこで暮らしているのか、誰も知らない。Xは誰なのか? 彼らの目的は何なのか? 人々は言葉にならない不安や恐怖を抱き、隣にいるかもしれないXを見つけ出そうと躍起になっている。

週刊誌記者の笹は、スクープのため正体を隠してX疑惑のある良子へ近づく。ふたりは少しずつ距離を縮めていき、やがて笹の中に本当の恋心が芽生える。しかし、良子がXかもしれないという疑いを払拭できずにいた。良子への想いと本音を打ち明けられない罪悪感、記者としての矜持に引き裂かれる笹が最後に見つけた真実とは。嘘と謎だらけのふたりの関係は予想外の展開へ…!

 

撮影/映美 取材・文/kitsune ヘアメイク/竹井 温 (&’s management) スタイリスト/菊池陽之介

唐田えりか&芋生悠「実際の私たちも映画の中の2人の関係性にすごく近いです」映画「朝がくるとむなしくなる」

人生に諦めを感じていた女性が、同級生との再会を機に自分らしさを取り戻していく再生の物語「朝がくるとむなしくなる」(12月1日(金)より公開)で、中学の同級生である希と加奈子を演じた唐田えりかさんと芋生 悠さん。お互いを“芋ちゃん”“唐ちゃん”と呼び合うほどプライベートでも仲良しのお二人が、映画初共演の思い出を振り返ってくれました。

 

【唐田えりかさん&芋生 悠さん撮り下ろし写真】

 

私たちなら脚本以上のものが生まれるかもしれない

──プライベートでも友だちのお二人ですが、何きっかけで知り合われたのですか?

 

唐田 芋ちゃんは私が芸能の仕事を始めて、初めて出来た友だちなんです。18歳ぐらいのとき、カメラマン志望の地元の高校の同級生が「この間、こんな子を撮った」って言って、芋ちゃんの写真を見せてくれたんです。そのときは芋ちゃんのことを知らなかったんですけど、「めっちゃかわいい子!」と思って、Instagramをフォローしたら、芋ちゃんからメッセージが来て、それ以来の繋がりです。

 

芋生 唐ちゃんからInstagramをフォローされて、「ありがとうございます」から、わりとすぐに会おうって流れになりました(笑)。それで、唐ちゃんはカメラが趣味なので、遊びに行きつつ、写真をいっぱい撮ってもらいました。今年お互い26歳になるんですが、やっと共演できましたね。

唐田えりか●からた・えりか…1997年9月19日生まれ、千葉県出身。2015年にドラマ「恋仲」でデビュー。ドラマ「こえ恋」「トドメの接吻」「凪のお暇」のほか、韓国Netflixドラマ「アスダル年代記」に出演。映画では、主演作「の方へ、流れる」(22年/竹馬靖具監督)、ヒロイン役「死体の人」(23年/草苅勲監督)など。待機作に、2024年Netflixシリーズ「極悪女王」がある。Instagram

 

──石橋夕帆監督は唐田さんを当て書きして、脚本を書かれたようですが、事前の打ち合わせでは、唐田さんは監督とどんなお話をされたのでしょうか?

 

唐田 パーソナルな部分をお話しました。とはいえ、かなり深い話をしたというわけではなく、「普段どんな生活していますか?」とか「どんなものが好きですか?」といった監督からの質問に対して、友だちに話すような感じでした。その後、出来上がった脚本を読ませていただいたのですが、全部が全部ではないにしろ、希の普段のテンションや言葉の使い方、あとはインドアなところなど、自分にかなり近いものを感じました。

 

──いっぽう、芋生さんは女子高生役を演じた石橋監督の前作「左様なら」に続く出演になりますが、今回は社会人役ですね。

 

芋生 まず、また夕帆さんと一緒に映画ができるということが嬉しかったです。そして、それが唐ちゃんとの初めての共演作で、社会の壁にぶつかっている加奈子という役を演じられることが意義のあることだと思いましたし、「もしかしたら、私たちなら脚本以上のものが生まれるかもしれない」という期待感もありました。

 

加奈子にとって希は大切な存在、唐ちゃんも私にとって大切な存在

──劇中、希と加奈子は好きだったマンガ「FAIRY TAIL」などの話題で盛り上がりますが、実際にお二人が盛り上がる話題は?

 

芋生 お互いK-POPが好きなんです。それで2人で新大久保に韓国料理を食べに行くことも多いです。最初に会ったのは吉祥寺? いや、「スクランブル交差点すごいね!」って言っていたから、渋谷だったと思います(笑)。

 

唐田 週3ぐらいで会っていたときもあって、一緒にご飯モリモリ食べてましたね。あと、銭湯もよく行ってましたし、お互いのお家に遊びに行って、お泊りもしてました。私の方が酔っぱらうと、芋ちゃんよりテンション高めになることもそうですが(笑)、実際の私たちも、映画の中の希と加奈子の関係性にすごく近いです。

芋生 悠●いもう・はるか…1997年12月18日生まれ。熊本県出身。2015年にデビューし、主演映画「ソワレ」(20年/外山文治監督)で注目され、映画やドラマ・舞台・CM と幅広く活躍。「37セカンズ」(20年/HIKARI監督)「ひらいて」(21年/首藤凛監督)「左様なら」(19年/石橋夕帆監督)などに出演。 Instagram

 

──ボウリング場や居酒屋などのシーンでの長回し撮影やアドリブがとても印象的です。

 

芋生 もともと加奈子は親の影響からボウリングがうまい設定で、希に投げ方を教えるんですが、私があまりにも下手すぎて……。だから、ずっと練習していました(笑)。夕帆さんは、その場の感情を大事にしてくださる方なので、「ここは自由にお願いします」というところは、いろいろアドリブを入れていくんですが、もともとの台本がすごく面白いから、そこから会話が膨らんでいくことが多いです。

 

唐田 居酒屋のカウンターでお酒を飲んでいるシーンだったり、その帰り道のシーンの方が、ボウリング場よりもアドリブが多いかもしれないですね。芋ちゃんがバンドマンの話をしたり、私がマイケル・ジャクソンの真似をしたりするあたりは、完全にアドリブです。

 

──終盤、加奈子が発する「大丈夫」というセリフがキーワードとなりますが、そのシーンの撮影エピソードを教えてください。

 

芋生 加奈子にとって希は大切な存在だし、実際の唐ちゃんも私にとって大切な存在だし、その思いがあまりに高まりすぎて、どうしても泣いちゃうんですよ。しかも、部屋の中のシーンでは、唐ちゃんが本当に真っすぐ思いを伝えてくれるので、できるだけ泣かないよう、ちゃんとコントロールしなきゃなって堪えましたし、実際に何テイクもやらせてもらいました。

 

唐田 もともと、あのシーンは脚本の段階で涙を流すとかは一切なく、わりとサラッと終わる感じだったのですが、段取りのときに私も感極まってしまって……。それで石橋監督やスタッフさんが「このシーン、こういう感じに変更しましょうか?」という話し合いをしてくださったと思うんです。それで石橋監督から「このシーンをいちばん感情が高まるシーンにして、ラストに繋げましょう」とディレクションがありました。とてもありがたかったですね。

 

大切な宝物みたいな作品になりました

──芋生さんから見て、2度目の参加となった「石橋組」の特徴とは?

 

芋生 夕帆さんは、そこにいる人たちの空気感を作るのがすごくうまい監督さんなので、現場に行ったら、自然とリズミカルな会話も生まれますし、どこか魔法にかかった不思議な感じがします。その空間にいるのは役者同士なのに、そんな感じが一切なくて、役として会話が始まるんです。

 

──仲良しなお二人の初共演作ですが、それぞれのキャリアにおいて、どのような作品になったと言えますか?

 

唐田 芋ちゃんと初めて共演できて、石橋監督とも初めてご一緒できて、とても貴重な時間でしたし、大切な宝物みたいな作品になったと思います。

 

芋生 夕帆さんと一緒にやらせてもらえる作品は、まるで走馬灯のように、自分の思い出の一部になるんですが、今回も思い出の一つになりました。唐ちゃんと過ごした時間が映像として残っていることは自分にとって特別なものだし、私も一生の宝物になったと思います。

 

──それではモノやコトについて教えてください。いつも現場に持っていくモノやアイテムはありますか。

 

芋生 私は待ち時間が長くなりそうな現場には必ず、ストレッチマットとスーパーポールを持っていきます。そして、身体が硬くならないように、できるだけほぐします。スーパーボールは、ふくらはぎや脚をぐりぐりすると、むくみも取れるし、なかなか効くんですよ。

 

唐田 私もむくみやすいので、電気バリブラシと電動かっさを持ち歩くようにしています。電気バリブラシを全身にやってから、電動かっさを使うと、血流がさらによくなるんですよ。現場はむくむことが多いので、寒さ対策よりむくみ対策ですね(笑)。

 

 

朝がくるとむなしくなる

12月1日(金)より渋谷シネクイントほか、全国順次公開

 

(STAFF&CAST)
監督・脚本:石橋夕帆
出演:唐田えりか、芋生 悠、石橋和磨、安倍 乙、中山雄斗、石本径代、森田ガンツ、太志、佐々木 伶、小野塚渉悟、宮崎太一、矢柴俊博

(STORY)
会社を辞め、コンビニでアルバイトとして働く24歳の希(唐田えりか)。バイト先でもなかなかなじめず、実家の親にも退社したことをいまだ伝えられないまま、今日もむなしい思いで朝を迎える。そんなある日、中学時代のクラスメイトだった加奈子(芋生悠)がバイト先にやってくる。最初はぎこちなく振る舞う希だったが、何度か顔を合わせるうちに、加奈子と距離を縮め、彼女の日常を少しずつ動かし始める。

公式HP:https://www.asamuna.com/

(C)Ippo

 

撮影/中田智章 取材・文/くれい響 ヘアメイク/尾曲いずみ スタイリスト/小宮山芽以 衣装協力/Eimee Low、AS KNOW AS PINKY、CHIGNON、CAMPER

収集歴30年以上、イジリー岡田がソフビ愛を語る。「ソフビを手に取ると……まだ汚れていない、ベロの動きが遅かった頃の僕に会える」

古くは60年代末〜70年代の大ブームに始まり、その後も90年代末、2000年代半ばにフィギュアブームの渦中で盛り上がりを見せたソフトビニール人形=ソフビが、近年また新たなブームを迎えています。当時モノから現行品まで「版権モノ」と呼ばれる特撮・アニメ・漫画のキャラクターを商品化したものや、インディーズメーカーによるオリジナルの怪獣・怪人、あるいはカワイイ系のマスコット的なキャラクターなど、そのジャンルは多岐にわたり、コレクター垂涎のレアアイテムは軒並み価格が高騰。特にビンテージ系ソフビの人気は高く、海外コレクターの大量参入も手伝って専門店の商品在庫が常時枯渇気味という状況も招いています。そんな中、80年後半からずっと60年代末〜70年代半ばの当時モノを集め続けてきた著名人のコレクターが、お笑いタレントのイジリー岡田さんです。最近は自身のYouTubeチャンネルでソフビ関連の動画をコンスタントにアップし無類のコレクターぶりを披露している岡田さんが、そのこだわりに貫かれた蒐集遍歴を振り返り、永遠の少年として集め続けずにはいられないソフビの魅力を語り倒します!

 

イジリー岡田●いじりーおかだ…1964年9月23日生まれ。埼玉県出身。1987年4月デビュー。特技はものまね。主なものまねれレパートリーには三沢光晴、岡田武史、名古屋章、渡辺篤史など多数。テレビ東京『ギルガメッシュないと』にレギュラー出演し、「日本一のエロタレント」のジャンルを確立。深夜枠にも関わらず高視聴率を記録するなど人気を博した。代表的な芸に「高速ベロ」があり、一秒間に18回上下させる記録を持つ。バラエティ番組に多数出演するほか、映画・ドラマなどにも出演、活躍の幅を広げている。InstagramYouTube「イジリーチャンネル」

 

【イジリー岡田さん&ソフビ撮り下ろし写真】

 

子供の頃に叶わなかった夢を求めて

──イジリーさんはどういうきっかけで、ソフビ収集を始められたんですか?

 

岡田 幼稚園のときにタイガーマスクのソフビを父親に買ってもらったのが最初なんですけど、やっぱり子供の頃ってそんなに買ってもらえないので、悪役レスラーも含めて持っていたのが全部で6体ぐらいで。でも、友達の家に行くと毎日1体ずつタイガーマスクの悪役レスラーを買ってもらってどんどん増えていくのを目の当たりにして、「あ、いいな」と。だからその子は全部揃えてたんですけど、自分はその夢が叶わず……。それで大人になってから、南青山の骨董通りにあったレトロ玩具の専門店(ビリケン商会)に当時まだ中学生だった弟と行って、こういう昔のおもちゃを扱うお店があるんだということでいろいろ調べたんですよ。昔は下北沢に「2丁目三3番地」や「懐かし屋」「ヒーローズ(ねずみ小僧)」とか、そういうお店が5軒ほど(残る2軒は「オムライス」と「アートストーム」)あったので、それで子供の頃の夢が膨らんでいって、子供の頃に買えなかったものを手にするってことで、20代前半から7つ歳下の弟と一緒に30年以上集めてきました。

 

──80年代後半からビンテージ玩具の収集を始められてたんですね。当時はまだお宝ブームが来る前で、60年代末から70年代のキャラクター玩具が安く買えた時代というか。

 

岡田 ウルトラマンAのスタンダードサイズが、まだ2000円で買えましたからね。今だと5万円以上するソフビが5000円くらいで買えたりして。ただ、当時はソフビ一つで5000円は高いなぁという感覚でしたから、買えるか買えないかギリギリのラインで集め始めて、それが気づけば今に至ったという感じです。

 

──あと、当時はまだビンテージ玩具の専門店だけじゃなく町の普通のおもちゃ店に古い玩具の在庫が眠っていたりもして。

 

岡田 昔、浅草になべやかんちゃんから教えてもらった穴場のおもちゃ屋さんがあって、そこで仮面ライダーストロンガーと電人ザボーガーのスタンダードサイズが袋入りで売ってたんですよ。1個5000円で。それが今は「まんだらけZENBU」(まんだらけ出版部が発行する通販用カタログ誌)のオークションで15万円スタートですから。そういう店があった頃のほうが夢はありましたよね。テレビで「(開運!なんでも)鑑定団」(テレビ東京系/1994年4月スタート)が始まって、あれでみんな古いものに価値があることを知ったから、それよりも前のほうが安く見つけられたというのはありました。そういえば、「ギルガメッシュないと」(テレビ東京/1991年10月スタート)に出る前に出演したドラマの主演女優さんの実家がおもちゃ屋さんで、「倉庫はあるんですか?」って聞いたら「ありますよ」って言われたんですけど、「そうですか」って……それ以上は踏み込めなかったですね(笑)。1990年だったから、まだいろいろあったと思うんですけど。

 

──今はもう、そういうところから掘り出し物が出てくることはほぼないかなと。

 

岡田 ないですねぇ。ただ、2005年くらいに浅草の普通のおもちゃ屋さんで「マジンガーZ」のDr.ヘルのミニソフビが8体くらい新品同様で置いてあったんですよ。で、最初は復刻されたのかなと思ったんですけど、いや、これは当時のものだろうと。それで、僕は人見知りで普段は人に声をかけられないんですけど、そのときは「これはおもちゃのためだ」と思って、すごく小さな声で「すみません、あのDr.ヘルは復刻ですか?」って聞いたら、「これはたまたま昨日、倉庫を掃除してたら当時のものが出てきたんで置いてるんですよ」って言われて、「そうですかぁ……これ、いくらで売ってくれますか?」「500円でいいですよ」「全部ください」って(笑)。「やった! 2000年過ぎてこういうことあるんだ」と思って、あれはすごくラッキーでした。今はまんだらけで6000円なので12倍ですよね。あれからどんなおもちゃ屋さんでもとりあえず覗いてみるのが癖になりました。

 

Yahoo!オークションでやらかした手痛い失敗

──1999年にYahoo!オークションが日本でスタートし、2000年代後半には広く普及したことで、2000年代以降はビンテージ玩具を入手できる手段が格段に広がりました。

 

岡田 僕はYahoo!オークションというものがあるのに気づくのが遅かったんですが、あるときタイガーマスクの袋入り(未開封品)がヤフオクに出ているという連絡が弟から来て、これは子供の頃からの憧れだから絶対落とそう、もういくらでも出す、ってことで7万円で落としまして。それが快感になってからヤフオクにハマっていくんですよ。

 

──で、ハマった結果、怪しいものをつかまされることに(笑)。

 

岡田 あ、YouTubeをご覧になられたんですね(笑)。

 

──はい。未開封で入手していたミスター・ノーやバイキングキッドのレアカラー版が実は偽造品なんじゃないか、未開封と思われた商品のいくつかがヘッダーやタスキを偽造した開封品かもしれない、ということでその真贋をまんだらけで査定してもらったら、これがことごとくニセモノをつかまされていたという動画を(笑)。

 

岡田 あの怪しいものは嫌な思い出なので、すぐに実家へ送り返しました(笑)。だから、ここにはないんですよ。(パチモノのソフビを手に取って)こういうのはいいんです。ちゃんとパチモノ、ニセモノですよってことで売ってるから。でも、あれは偽造品が本物として出品されてたので……やられちゃいましたねぇ。

 

──ご本人的にはしんどいことだと思いますが、YouTubeを見る側としては面白い動画で、とても勉強になりました(笑)。

 

岡田 ハッハッハッ! ありがとうございます(笑)。動画でも言いましたけど、薄々気づいてる自分もいるんです。だけど、YouTubeがなかったら一生「俺は騙されてない」と思って死んでいったと思うんですよ。ちなみに、ヘッダーの厚みが違うというのは入って2年目の女性マネージャーが触って気づいたんです。30年集めてきた俺が気づいてなかったのに。というのも、普段は段ボールにずっと入れたままなので。ところが、動画撮影のために事務所に持ってきて「こういうのあるんだよ」って見せたら、「あれ? 岡田さん、これ分厚くないですか?」「え? ……ホントだ!」って(笑)。

 

──昔は今ほどちゃんとしてないので、同じ商品でもヘッダーに使ってる紙が違うみたいなこともなくはないというか、その可能性にすがって本物だと思い込めなくもないですけど、あえて真贋を確かめた結果、討ち死にしてしまうという(笑)。

 

岡田 そうなんですよぉー(笑)。ニセモノなんだろうなと思いつつ、コメントに「バイキングキッドって黄色いパンツもあるんじゃないですか」とか書かれていて、それをちょっと信じちゃったんですけど、査定の結果「一切ない」って言われて(笑)。あと、タイガーマスクは面取れなので、マスクを右手に持った素顔の状態で袋に入って売られてたんですよ。だから、袋入りでマスクを被った状態のものは一度開けられてるんじゃないかということで、自分が持ってるのは実際一度袋から出されちゃってるものなんですけど、まんだらけさんで聞いた話だと、こういう商品(マスクを被った状態)も当時あったということだったので、いろいろ勉強になりましたね。もう絶対に騙されません(笑)。当時はガラケーだったから騙されたんですよ。小さい画面で写真を見て、タイトルに「珍色」って……こんな珍しいものはないみたいに書いてあるのを全部信じて、5体で総額25万円くらいやられちゃいました。

 

──なかなか高い授業料になりましたね。

 

岡田 それと、これはニセモノじゃないんですけど、「がんばれ!ロボコン」のロボトン(スタンダードサイズ)は赤ハチマキと青ハチマキがありまして。ヤフオクでタイトルにわざわざ「赤ハチマキ」って書いて出品されてるのを見つけて、青ハチマキより高価なのかなと思ってものすごく争っちゃって13万くらいで落としたんですよ。それで、中野のまんだらけ変やに行ったとき、番組でお世話になったベテランの店員さんに「青ハチマキより赤ハチマキのほうが高いですか?」って聞いたら、「青も赤も一緒です」って言われて(笑)。ということは10万もいかないものですねってことで……あれもやっちゃいましたね。

 

──今回は「タイガーマスク」のほかに「仮面ライダー」のソフビもたくさんお持ちいただきましたが、「タイガー」が1969〜71年、「ライダー」が1971〜72年の放送で、イジリーさんの世代にはまさにドンピシャな作品ですよね。

 

岡田 そうです。「タイガーマスク」が幼稚園で、小学1年生のときに「仮面ライダー」が始まったので、それはそれはラッキーな世代でした。

 

──作品自体はそんなに見てなかったり、世代がズレていてもおもちゃ自体に魅力を感じて集めているコレクターの方も大勢いますが、イジリーさんの場合は原則として収集対象が原体験に基づいていて、そこはすごくわかりやすいですよね。

 

岡田 「タイガーマスク」「仮面ライダー」、そして「ジャイアントロボ」「ゴレンジャー」「ロボコン」の5作品が、特に自分にとって子供のときのいい思い出なので。だから、基本的には当時モノのコレクターですけど、「仮面ライダー」や「ジャイアントロボ」は近年になってメディコム・トイさんから発売された新しいソフビも買ってます。

 

──「ジャイアントロボ」は当時、敵怪獣はほぼソフビになってないですし、「仮面ライダー」のショッカー怪人も当時は途中までしか出てないですからね。

 

岡田 ライダー怪人の当時のソフビはカメストーンで止まっちゃってるじゃないですか。そこまでの怪人も全部は出てないですし。でも、メディコム・トイさんの東映レトロソフビコレクションは全怪人を出してくれるということで、それでもう10年以上買い続けてるんですけど、そしたらスタンダードサイズだけじゃなくて途中からミドルサイズも出し始めたので、それも全部集めていて。

 

──スタンダードサイズはリリースの順番がランダムですが、ミドルサイズはほぼ話数順に出ていて、最近ついにショッカー怪人ラストのウニドグマに到達しましたね。で、ゲルショッカー怪人も順番どおりガニコウモルから発売されると思ったら、なぜか一発目がクラゲウルフという。

 

岡田 ですね。クラゲウルフはこないだ渋谷まで注文に行きました。

 

──あ、ネット注文じゃなくて、わざわざ1/6計画(メディコム・トイの直営ショップ)の店頭で買われてるんですか?

 

岡田 はい。ネットが信じられないので(一同笑)。毎月、店頭まで注文しに行ってるのは僕ぐらいじゃないですか。もう10年間ずっとなので、カランコロンって店のドアを開けたら、そこからレジに着くまでの間にちゃんとカタログが出てきます(笑)。

 

愛してやまないお気に入りのコレクションたち

──これまで30年以上、長らく集め続けてきた中で一番好きなソフビは?

 

岡田 やっぱりタイガーマスクですね。「マスクを取ったら伊達直人に早変わり」というCMのキャッチコピーも「えぇー⁉︎」って驚きがあって……幼稚園の頃にその魅力を刷り込まれたので、今見ても触ってもたまらないものがあって、やっぱこれが一番ってなっちゃいますよね(しみじみ)。で、悪役レスラーを買ってもらえないからウチにあったバルタン星人と戦わせたり、ウルトラセブンをジャイアント馬場さんに見立てて「馬場対タイガーだ!」とかやってましたから(笑)、そういう状況で「大人になったら全部集めよう」という気持ちが育まれたのかもしれない。で、その代わり5体騙されるという(一同笑)。

 

──ちなみに、タイガーマスクのスタンダードサイズは何体お持ちなんですか?

 

岡田 中嶋製作所のヤツは8体ですね。なんでかというと、まず手が違うんですよ。グー(パンチ)とパー(チョップ)で。あとはマスクも違って、黄色いマスクの1期、オレンジマスクの2期と、耳の中が白い一番最初のレモンイエローバージョンと。だから、全部集めようと思ったら結構な数になるという。あとは、他のメーカーのものも数えるともっと多くなりますけど。

 

──そういう細かいバージョン違いをコンプリートするのもコレクションの醍醐味ですね。

 

岡田 そうなんです。子供の頃はそういう違いがあるのを知らなかったですから、じゃあ全部揃えたいなと思って。両手グーと両手パー、右手チョップに左手チョップと、腕の違いだけで4種類買っちゃいましたね。僕が子供時代に持っていたのは左手がパーで右手がグーだったんですけど、たぶんタイガーマスクは右利きなので右手チョップで戦わせたかったんです。グーの右手を上げると「コラーッ!」になっちゃうので、それは違うんですよ(笑)。

 

──続いて、手に入れられて一番嬉しかったソフビは?

 

岡田 それはコレクションを始めてからですよね? 単純に一番となっちゃうと、やっぱり最初に父親に買ってもらったタイガーマスクになってしまいますね。買っていいか確認しなさいと言われて公衆電話からお袋に電話して、浦和の西友のおもちゃ売り場で山積みになってる中から選んで、家に帰ってちゃぶ台の上に乗せて、マントが風になびいてるという光景を今でも覚えているので。我が家に来た第1号のソフビで、すべてはそこから始まっていますしね。でも、コレクションを始めてからということになると、モモレンジャーのスタンダードサイズですかね。

 

──YouTubeの動画でも紹介されていましたが、ゴレンジャーのスタンダードサイズの中でモモレンジャーが一番入手難易度が高いんですよね。

 

岡田 女性キャラだから男の子はあまり欲しがらなくて、単純に現存している数が一番少ないんですよ。

 

──お持ちのモモレンジャーはかなりコンディションがいいので、そこも重要なポイントかなと。

 

岡田 面取れのマスクはもちろん、なくなりやすいマント、バーディー(腰の両側に付いているパーツ)、ブーツに貼られてる番号のシールが全部ありますからね。だから、ほぼ完璧な状態のものを確か5万円くらいで……。

 

──安っ!

 

岡田 そうなんですよ。手に入れたのが、みんながまだあまり興味ない頃だったので。今だとまんだらけさんで袋入りが40万ですけど。

 

──昨今のソフビブームで、値段の高騰化がすごいことになってますよね。ということで下世話な質問ですが、イジリーさんがお持ちのソフビで購入価格が最も高かったのは何ですか?

 

岡田 ロボット刑事(バンダイ製のスタンダードサイズ)ですかね。

 

──あれってハンチング帽が別パーツなので、開封品だと軒並み帽子が紛失していて完品は滅多に出てこないという激レア物件ですね。

 

岡田 その袋入りをここ10年以内だったと思いますけど15万で買いました。すでに弟が持ってたから悔しくて。弟はかなり前に5000円くらいで買ってるんですよ。で、弟は未開封でも袋から出すタイプなので、それをガラスケースに飾っていて。だから「帽子をちょっと貸してくれ」って言って、マスクの付いてないタイガーマスクを安く買って、なぞの魔人(虎の穴の幹部)が黒スーツを着てるから首を外して、伊達直人の頭となぞの魔人の胴体を合体させて、それにロボット刑事の帽子を被せてスーツ姿の伊達直人を完成させました。

 

──贅沢なマニア遊びですねぇ(笑)。

 

岡田 今の値段で総額いくらかかってるんだみたいな(笑)。これは今まで誰もやってないんじゃないですか。たぶん岡田兄弟だけだと思います。

 

──すごく素敵な遊び方だと思います(笑)。

 

岡田 わかっていただけて嬉しいです(笑)。でも、そのあとに電人さんからスーツ姿の伊達直人が出ちゃったんで、「あぁ、まあいいか」ってなりましたけど。

 

──しかし、ロボット刑事のスタンダードサイズ未開封が15万円というのは、今の相場で考えるとむちゃくちゃお得な買い物ですね。

 

岡田 今年、ヤフオクで見かけたときはかなり競り合って100万円くらいになってましたからね。あくまでヤフオクでの値段なのでショップ価格はそこまでじゃないと思いますけどすごいなと。それと比べたら安いですけど、自分が手に入れた当時も高いは高かったというか、ソフビ一つに15万って決して安くはないですからね。だから「どうしよう?」と思ったけど、15万でも今買っとくべきじゃないかな、これは戦うしかないなと思い、戦って競り落としました。

 

──それは賢明な判断でしたね。というか、あのロボット刑事がちゃんと帽子付きで2体もある岡田家がマジですごいなと。

 

岡田 弟のは開封済みだけど、僕のは段ボールに一つだけ入れて別格扱いで保管してます(笑)。

 

──それでは最後にベタな質問ですが、イジリーさんにとってソフビの魅力とは?

 

岡田 ソフビって何時間でも見ていられますよね。普段は段ボールに入れて保管してるから、これだけ自分のコレクションが一つのテーブルに並んでるのって実は初めて見る光景なんですけど、もうたまらないですね。ちょっとしたレトロ玩具屋さんの棚ぐらい揃っていて。で、ソフビを手に取ると一瞬で幼少期に戻れるというか……まだ汚れていない、ベロの動きが遅かった頃の僕に会える(一同爆笑)。今は人の歯ブラシやリップクリームを舐めるのに使ってますけど、まだアイスクリームにしかベロを使ってない頃のピュアな自分に戻れます(笑)。

 

 

構成・撮影/丸山剛史 取材・文/鴬谷五郎

野元空がアイドルのセカンドキャリアを描いた「ファンファーレ」で映画初主演。「自分の人生に近かったのでリアルに演じることができた」

2011年、中学生時代にダンス&ボーカルグループのメンバーとしてキャリアをスタートさせて、現在は俳優として舞台を中心に活動する野元 空。自身にとって映画初主演となる公開中の映画「ファンファーレ」で演じるのは元アイドルグループのメンバーだった駆け出しのスタイリスト。自身の境遇に似ていて共感することが多かったという本作の撮影エピソードや、俳優の道を選ぶまでの道のりを語ってもらった。

 

野元 空●のもと・そら…1997年11月9日生まれ。鹿児島県出身。2011年にデビュー。現在はダンスや歌の経験を活かして、俳優として舞台をメインに場広く活動中。主な舞台出演作に、「アサルトリリィ・御台場女学校編」(2021年)、「比翼の人」(2022年)、「TOKYO TOKYO COL-CUL COMEDY」(2022年)など。映画出演作に「30S」(2023年)など。公式HPX(旧Twitter)InstagramTikTok

 

【野元空さん撮り下ろし写真】

 

アイドルのセカンドキャリアを描いたストーリーに共感した

──これまで映画の出演経験はありましたか?

 

野元 「ファンファーレ」が2作目です。同じく今年公開の映画「30S」が1作目で、短いスパンで撮影がありました。

 

──映画出演2作目にして初主演はすごいですね。

 

野元 オーディションで選んでいただいたんですが、(水上)京香ちゃんとW主演という形で出させていただいて、私にとって大切な作品になりました。

 

──オーディション前に大体のストーリーは知らされていたんですか?

 

野元 事前に台本をいただいていました。それを読んだ時点で絶対に出たいと思って、「このチャンスに懸けよう!」という思いでオーディションに臨みました。

 

──物語は、野元さん演じるスタイリストの玲、水上さん演じる振付師の万理花、そして喜多乃愛さん演じる、かつて二人が所属していたアイドルグループ「ファンファーレ」の現役メンバー・由奈を中心に進んでいきます。

 

野元 長いこと一緒のグループで活動してきた二人がアイドルを辞めてからのお話なので、自分の人生と被るところが多くて。だから余計にやりたいと思ったんです。

 

──オーディションの時点で、それぞれの役は決まっていたんですか?

 

野元 この3人の誰かでということでオーディションを受けました。まず私の経歴から言って、由奈ではないだろうから、万理花か玲だろうなと。この2人だと、私の性格に近いのは玲なんですよね。私も小さい頃からダンスをやり続けているので、そこは万理花に共通するところもありましたけど。

 

──オーディションの手ごたえはいかがでしたか。

 

野元 気合を入れて臨んだので、力み過ぎたなという部分もあって、自分の中で思い描いていたほどうまくできなかった気がして100%落ちたと思いました。オーディションが終わったその足で近くの喫茶店に入って、めちゃくちゃ落ち込みながらコーヒーを飲みました(笑)。だから玲に決まったと聞いて、めっちゃうれしかったです。

 

──性格は玲に近いと仰っていましたが、落ち着いたテンション感も共通しているんですか。

 

野元 ほとんど一緒です。3人が集まって、「初めてファンファーレのメンバーが揃ったときのシーンを再現してみよう」というシーンがありますが、そのときに自己紹介する感じとかも一緒でした。だから私としては本当に演じやすかったですし、玲で良かったです。

 

──役作りについて、監督から具体的な指示はあったのでしょうか。

 

野元 女の子の人生を覗き見しているような作品にしたいというお話があって、「あまり演じようとせず、飾らず、ありのままで」みたいなことを仰っていました。そもそも玲は私に近い性格というのもあって、フラットに演じようと思いました。

 

──玲と現役ファンファーレメンバーとの、ちょっとぎこちないやりとりがリアルでした。

 

野元 玲は後輩との付き合い方が分からなくて、慕ってくれるのはうれしいけど、すごく面倒見が良いかというとそうじゃない。私自身、そういうところがあるのでリアルなのかもしれません。

 

──玲は上司や取引先の人とコミュニケーションがうまく取れずに悩みますが、そこも共感しましたか?

 

野元 私自身は誰かと折り合いが悪いみたいな経験はないんですけど、人付き合いが得意なわけではないので共感しました。世渡り上手な人って、すごくうらやましいです。玲と「そんなふうにうまく生きられたらいいのにね」って話しながらお酒を飲みたいです(笑)。

 

──水上さんと喜多さんも、演じた役に近いところはあるんですか?

 

野元 近いですね。それを踏まえて、監督もキャスティングしたと思います。京香ちゃんも乃愛ちゃんも今回が初めましてだったんですが、本当に10年来の仲だったんじゃないかというぐらい、一緒にいて居心地が良くて。準備期間1週間、撮影期間1週間、トータル2週間ぐらいしか一緒にいなかったのに、すごく仲良くなりました。映画の取材で半年ぶりに会ったときも、「久しぶり」って挨拶もなく、いきなり「聞いてよ。昨日こんなことがあってさ」って、ずっと一緒にいたような空気感でいられるんです。

 

──まさに映画の関係性と一緒ですね。

 

野元 2人ともサバサバしていて、肩の力を抜いて接することができるので、縁と言いますか、会うべくして会った気がします。まだ2人のことを知らなかったときは、どうやって長いこと一緒にいるという空気感を出そうかとか、どうやって関係性を築いていこうかとか考えたんですけど、余計な心配でした。そういう雰囲気って出そうと思って出せるものではないですから。

 

──顔合わせして、すぐに打ち解けられたんですか?

 

野元 最初に監督が、3人だけで話す時間を作ってくださったんです。お菓子と飲み物が置かれた部屋に入れられて、「1時間後にまた来るから話しておいて」と(笑)。そのおかげで、すぐに仲良くなって、自主的に3人でご飯に行きましたし、撮影が始まる前も3人で過ごして、普通に友達になったというか。映画での関係性を作るために仲良くなろうとしたわけじゃなくて、普通に仲良くなっちゃったみたいな。

 

一人で歌って踊る勇気はなかったし、過去にいたグループ以外での活動も考えられなかった

──「ファンファーレ」は元アイドルのセカンドキャリアが描かれています。野元さん自身も同じ芸能とはいえ、歌とダンスをメインにした活動から、俳優へとシフトチェンジしました。

 

野元 私の場合、前にいたグループの活動が終わることもあって、致し方ない状況ではあったんですが、前の環境から抜け出して、役者をやろうと決めたのは間違いなく自分の選択でした。私自身、なかなか思い描いていたような活動ができない時期もあったからこそ、玲の気持ちが分かるし、それを考えると苦しくなりました。

 

──前の事務所を退所されて、しばらくはフリーランスで活動されていたんですよね。

 

野元 一年半ほどフリーランスでやっていたんですが、いかにそれまでの環境が恵まれていたのかを痛感しました。自由な活動はできたんですけど、自分で責任を負わなきゃいけないじゃないですか。自分で選んだ道なので、そこを楽しむことはできたんですが、細かい話ですけど、請求書やスケジュール管理、ギャラ交渉も自分でしなきゃいけない。それまでマネージャーさんたちがやってくれていた事務的なことを、自分でやらなきゃいけない状況になったときに、事務所のありがたみを感じました。守ってくれる人がいないから、自分の身は自分で守るしかないですしね。

 

──ギャラの未払いや契約内容と違うみたいなトラブルに見舞われる可能性もありますからね。

 

野元 その点で言うと、私は本当に人の縁に恵まれていて。これまでの人生を振り返ったときに、周りの人にたくさん助けていただいているんですよね。だから何かあったとき、たくさん周りに相談したので、精神的に助けられた部分も大きかったですし、一人で不安になることもなくて。なんだかんだ楽しくやれていました。

 

──そもそもお芝居に興味を持ったきっかけは?

 

野元 メンバーや先輩が出ている舞台を観劇しているうちに、すごく面白いし、いつか自分もお芝居をしてみたいなと思ったんです。そしたら19歳のときに初舞台に出ることになって、やってみたら演じるのも楽しかったんです。

 

──それまで演技レッスンは受けていたんですか?

 

野元 受けてはいたんですけど、遊び半分みたいなところもあって。本格的な稽古が初舞台でした。それでお芝居の楽しさを知ったんですが、やっぱり事務所の演技レッスンは自分に合わないなと感じて。もっとお芝居を勉強したいなと思って、20歳のときに友達に紹介してもらって、自分でお金を払って外部の演技レッスンに通い始めました。

 

──すごい情熱ですね。

 

野元 そこで知り合った演技トレーナーの方には、今もお世話になっていて。たまたま今所属している事務所の演技レッスンも担当していらっしゃるんですが、ずっとその方に教わり続けていて、もう5、6年経ちます。

 

──相性的なものが大きいのでしょうか。

 

野元 そうですね。何でも話せて、親戚のおじさんみたいなところもあるんですけど(笑)。お芝居のことで分からないことがあったときに質問すると、ちゃんと答えが返ってくるんです。当たり前のことに聞こえるかもしれないですけど、意外と難しいことだし、そこも相性かもしれません。お芝居の課題は尽きないので、今後も末永くお世話になると思います。本当は卒業したいんですけどね(笑)。

 

──どのタイミングで、お芝居をメインに活動しようと考えたんですか。

 

野元 最初はそこまで深く考えていませんでした。ただただお芝居が好きだったので、演技レッスンが楽しい、もっと上手になりたい、いずれは映像作品もやってみたい、という感じでした。だからこそグループの活動が終わるときに、役者になるという選択肢ができたのかもしれません。

 

──グループでの経験を活かした選択肢はなかったんですか?

 

野元 もちろん歌って踊ることは大好きなので、そのまま続ける選択肢もあったんですけど、一人で歌って踊る勇気はなかったですし、そのグループ以外での活動も考えられませんでした。それで一人になったときに、何をしたいのかを考えて、やっぱりお芝居だなと。役者をやるんだったら、事務所を辞めようと思ってフリーランスになったんです。

 

──ダンス経験がお芝居に活きている部分はありますか。

 

野元 直接的に関わっているわけではないんですが、間の取り方なんかは感覚的に活かされているのかなと思います。特に2.5次元の舞台では、リズムの取り方などが役立っています。逆に変な癖がついているところもあるみたいで、ある現場で振り向くシーンがあったときに、「振り向き方がダンサーっぽいのでやめて」と言われたことがあります(笑)。

 

今は自分のやりたいことを、自由にさせてくれる環境

──2022年からASOBISYSTEMに所属していますが、前にいた事務所との違いはありますか?

 

野元 以前はグループだったというのもありますが、前の事務所は待っていたらお仕事が来て、来たお仕事をやるという感じでした。今はお芝居のお仕事に関してはオーディションがあったら、自分で頑張って取りにいかないといけないし、それ以外でも自主性が必要です。SNSに強い事務所なので、どれだけ自分の個性で目立っていくかみたいなところが大事なんですよね。

 

──フリーランスを経験したことで、事務所という後ろ盾があることで安心感も大きいのではないでしょうか。

 

野元 そうですね。事務的なこともやってくれますし、事務所という看板に守ってもらえるのはありがたいです。演技レッスンにも通わせてもらっていますし、私はファッションが大好きなので、そういう系統のお仕事もさせてもらっていて。自分のやりたいことを、自由にさせてくれるところは大きいですね。

 

──「ファンファーレ」に出演して、映画ならではのやりがいって感じましたか。

 

野元 監督が役のことを大事にしてくれていて、好きな食べ物は何とか、どういう彼氏がいそうとか、実際のストーリーには関係ないところまで一人ひとりの設定を細かく作るんです。しかもめっちゃリアルで、「玲に彼氏がいたら同棲をしてどうこう」と2人で話し合いながら紙に書いていくという時間があって、それによって役を膨らませることができました。見た目も、玲を演じるためにインナーカラーを入れたんですけど、個人的にスタイリストさんってインナーカラーが入っているイメージがあるんですよ。玲はスタイリストさんについているアシスタントさんなので、とにかく忙しい。だから髪の毛の色も綺麗に染まっているんじゃなくて、インナーカラーを新たに入れる暇もなく抜けっぱなしになって、ちょっと汚いみたいな。

 

──細かいですね~。

 

野元 そういう役を演じると美容師さんにお伝えして、「根元から入れるんじゃなくて、なんならプリンぐらいからスタートしてください」とリクエストしました。そういう細かいところまで監督と話し合って作ったのが玲というキャラクターですし、キャストさんとスタッフさん全員で一緒に作ったと実感できる現場でした。すごくいい経験でしたし、より映画が好きになれました。

 

──最後に改めて「ファンファーレ」の見どころをお聞かせください。

 

野元 アイドルのお話ですけど、誰にでも自分と同じだなと思えるところがある作品だなという思いがあって。理想と現実のギャップがある中、それでも自分の選んだ道で生きていかないといけないから、必死にもがいて、ちょっと報われたり、全く報われなかったり、いっぱいいっぱいになって泣いちゃったりして。万理花も玲も大きな壁にぶつかるわけじゃなくて、ちっちゃなしんどさが積み重なっていくんですけど、そういう状況に置かれている人って多いと思うんです。だから、こういう苦しさってあるよなって共感してもらえると思いますし、そこに救いもあって、また明日も生きていこうという希望が持てる映画です。

 

 

ファンファーレ

全国公開中!

【映画「ファンファーレ」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
監督・脚本・編集:吉野竜平
出演:水上京香、野元空
喜多乃愛 / 橋口果林、松崎未夢、白井美海、外原寧々
松浦慎一郎、土居志央梨、中島歩

(STORY)
同じアイドルグループ「ファンファーレ」にいた万理花(水上京香)と玲(野元空)。2人はグループ卒業後、振付師とスタイリストの道へ進んでいた。そんなある日、かつての仲間だった現ファンファーレメンバーの由奈(喜多乃愛)から、卒業ライブのために振付と衣装を担当して欲しいと声がかかる。自分の夢や現実と向き合っている日々のなかで突然やって来たチャンス。しかし追いつかない技術や、決して良好ではなかった過去の関係により衝突が発生する……。それでも自分と向き合って前に進もうとする彼女たちの姿を、準備期間からライブ当日までを追いかけた物語。

 

公式サイト:https://funfaremovie.com/

公式X(旧Twitter):https://twitter.com/FunFAREmovie

(C)「ファンファーレ」製作委員会

 

撮影/武田敏将 取材・文/猪口貴裕

伊礼姫奈「キラキラしたタイトルから想像したものと、いい意味でギャップがある作品」映画「シンデレラガール」

「子宮に沈める」「飢えたライオン」など、社会の歪みを真正面から描いてきた緒方貴臣監督が、義足のファッションモデルに訪れる心境の変化を描いた映画「シンデレラガール」が11月18日(土)より公開。主演を務める伊礼姫奈さんが、「推しが武道館いってくれたら死ぬ」のアイドル役とは全く異なる力強いヒロイン・音羽の魅力について語ってくれました。

 

伊礼姫奈●いれい・ひめな…2006年2月7日生まれ。群馬県出身。4歳から女優活動をスタートし、これまでに数多くの作品に出演。主な出演作にNHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」、WOWOWオリジナルドラマ「向こうの果て」、「TOKYO MER~走る緊急救命室~」などがある。 映画「マイブロークン・マリコ」や連続ドラマから映画化もされた「推しが武道館にいってくれたら死ぬ」にレギュラー出演するなど、今後も出演作が多数控える。現在、DMM TVにてドラマ「EVOL (イーヴォー)」が配信中。Instagram

【伊礼姫奈さん撮り下ろし写真】

新たなシンデレラストーリーって、どんなものだろう?

──今回の音羽役はオーディションで選ばれたそうですが、最初に「義足のファッションモデル」の話と聞いたときの印象は?

 

伊礼 身近に義足の方がいないこともあり、どこか馴染みのない印象でした。オーディションのときも、いくつかのシーンの台本をいただいただけだったのですが、緒方監督から事前に、音羽の性格やどのような思いでこの作品を作りたいという説明があり、それを聞いたときに「私もこの作品に携わることができたらいいな」と思いました。だから、オーディションで選んでいただいたときは、純粋に嬉しかったです。

 

──ちなみに、緒方監督からの事前の説明とは、どういうものだったのでしょうか?

 

伊礼 もちろん、周りの人たちの支えがあって、成長していく部分はありますが、音羽自身がすごく確立したものを持っていて、自分の意思で前に進んでいく、自立していく姿を丁寧に描きたいというお話でした。それで、「今までのシンデレラ像ではなく、新たなシンデレラストーリーを作りたい」って仰ったんですが、それを聞いて、「新たなシンデレラストーリーって、どんなものだろう?」と、とても惹かれました。

 

──その後、脚本をすべて読んだときの感想は?

 

伊礼 緒方監督の作品らしく、日常生活を切り取っていて、そのシーンが長く続くわけでもなく、スパンって切れて、また新たな生活のシーンが切り取られていくので、どこかドキュメンタリーみたいな雰囲気が伝わってきました。なので、脚本を読みながら、「どういうふうに撮影するのかな?」っていうワクワク感がありましたし、ネガティブなことを言わないところに、音羽らしい強さが出ていると思いました。

 

「天井から吊られていることを意識する」ランウェイの歩き方

──音羽の役作りについてですが、伊礼さん自身はどのように考え、緒方監督からはどのようなアドバイスをされましたか?

 

伊礼 まずは実際に義足を付けられている方に直接お会いして、日常生活ではどういうふうに歩いているとか、いろいろお話を伺いました。また、義足の付け外しの瞬間も見せていただき、それを基に音羽が送る日常や心情に生かしました。あと、セリフだけでなく、細かい表情からもどこか自信があるような感じを意識しました。緒方監督とはリハーサル前も、リハーサル後も、撮影に入るまで、細かく話し合いました。一番は「このシーンでは音羽をこういう女の子に見せたい」「このときの音羽の表情を大事に撮りたい」といったことで、ほかにもそのシーンの意味やセリフの意味も照らし合わせたりしていきました。

 

──モデルとして、ランウェイの歩き方については?

 

伊礼 今までコレクションなどに出たことがなかったので、たくさん練習しました。実際にモデルをやられている方と一緒に歩くシーンだったので、そのモデルの方にいろいろ教えていただいて、撮影までずっと歩く練習をしていました。「天井から吊られていることを意識する」とか、ちょっと変えるだけでも、すごくかっこよく見えたりするので、いろいろ研究しました。緒方監督と話し合い、義足であることは意識しつつ、お芝居では表現しないことを心がけました。結構ちゃんとできていたかなと思います。

──撮影中の印象的なエピソードを教えてください。

 

伊礼 緒方監督は、できるだけカット数を少なめにしたい監督さんなので、ワンカットの撮影が多かったです。例えば、お母さんとのシーンは、生活の一部を覗いているような演出で、演じていても新鮮な気持ちで楽しかったし、出来上がったものを観たときも「すごいな」と思いました。あと、セリフと信号のタイミングを狙っていたクルマの中のシーンやクラスメイトとの関係性や距離感など、その場で生まれるものが多くて、ちょっとした緊張感があったのも楽しめました。

 

自ら発信することの大切さや楽しさ

──完成した作品を観たときの率直な感想は?

 

伊礼 撮っているときは、ほかの作品と変わらない雰囲気だったのですが、完成した映画を観たときに伝わってくる緊張感はなんかすごくて、一観客として独特な世界観に引き込まれました。ランウェイでのシーンは、かっこいいだけでなく、ライティングとかで、いろんな含みのあるシーンになっていたと思います。やっぱり、あの現場で生まれた空気感は印象的でしたし、キラキラしたタイトルから想像したものと、いい意味でギャップのある作品になったと思います。

 

──今回の現場で、学んだことや勉強になったことは?

 

伊礼 見せ方とか作り方みたいなものを肌で感じることができました。今までは作品に参加するみたいな感覚程度だったのですが、今回は2度目の主演作というのもありますし、この力強い物語で、音羽を演じるからという部分も大きかったと思います。緒方監督も、私の意見を求めてくださる方だったので、できるだけ自分から発信することの大切さや楽しさにも気付くことができました。

──伊礼さんといえば、映画化もされたドラマ「推しが武道館いってくれたら死ぬ」のアイドル・舞菜役というハマり役も印象的ですが、実際の伊礼さんはどんな性格の方ですか?

 

伊礼 友達からは、よく「ハッキリした性格だね」とは言われます。好きなものは好きだし、苦手なものは苦手。その人にとって、自分が必要だなって思ったときは、その場にいますし、自分が必要ないとか、大丈夫だなって思ったときは、ちょっと距離を置くようにしているし。このお仕事をしていると、「大人っぽい」とも言われることが多いです。このお仕事を小さい頃からやっていると、いろんなことを学びますし、吸収した素敵なものが積み重なったことで、「大人っぽい」にたどり着いたのかなと思いますね。でも、子供っぽいときも絶対あるし、むしろ高校生らしく楽しんじゃうこともありますよ(笑)。

 

いろんな方から必要とされる女優さんになりたい

──「どんな女優さんになりたい」など、将来の希望や展望を教えてください。

 

伊礼 憧れの女優さんが清原果耶さんとキム・テリさんなのは、以前から変わっていません。あと、必要とされる女優さんになりたいです。視聴者・観客の方に、「あの人の芝居見たいね」って言われるのもですし、撮影現場で「あの人がいたら、安心感あるよね」だったり、ファンの方から「応援したい」って思っていただけたり、いろんな方から必要とされる存在になれたらなと思っています。

 

──いつも現場に持って行くモノやグッズを教えてください。

 

伊礼 高校2年生のときに、お母さんがプレゼントしてくれた台本カバーです。今までは、かなり以前に買った透明なものを使っていたんですが、お母さんが「推し武道」のお仕事が決まる直前ぐらいのタイミングでプレゼントしてくれたんです。「革り小物Aster*isk」さんというところで、皮の色を選ぶところから、お母さんが全部選んでくれたんですが、私の名前も入っているので、世界に一つの宝物です。現場に持っていくバッグも、ここでオーダーメイドで作ってもらったもので、持ち手の部分を台本カバーと同じ色にしました。

 

──ちなみに、カメラが趣味だそうですね?

 

伊礼 写真は私が生きていくうえで、常に近くにある存在なので、フィルムカメラでも、一眼のカメラでも撮ります。最初は興味から初めたんですが、その場の空気感とかも写るので、現場にはよく持っていきますね。現像して出来上がってくるのが楽しみですが、3台ぐらいをメイン使って、あと2台のフィルムカメラはあまり使いこなせてないかもしれません。メーカーはニコンが好きですが、今後余裕があるときに、大人の趣味的なもので楽しめたらなと思っています。

 

 

 

シンデレラガール

11月18日(土)より、新宿K’s Cinemaほか全国順次公開

【映画「シンデレラガール」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
監督・脚本:緒方貴臣
脚本:脇坂豊
出演:伊礼姫奈
辻千恵 泉マリン 太田将熙 輝有子 佐月絵美 三原羽衣 田口音羽 筒井真理子

(STORY)
12歳の時に病気で片脚を切断し、入退院を繰り返していた音羽(伊礼)。中学の卒業式に参加できなかった彼女だったが、病院の屋上で同級生が開いたサプライズの卒業を映した動画がSNSで話題になり、モデルのオファーが舞い込む。“義足の女子高生モデル”として注目されるも、その後の仕事は義足を隠したものばかり。「義足を障がいの象徴でなく、個性として捉えてほしい」という声に心を動かされた音羽は、もっと義足を前面に押し出していこうと決心する。

公式HP https://cinderella-girl.paranoidkitchen.com/

(C)2023映画「シンデレラガール」製作委員会

 

撮影/干川 修 取材・文/くれい響 ヘアメイク/塩田勝樹 スタイリスト/世良 啓 衣装協力/HUNDRED COLOR

モーニング娘。’23新メンバー・井上春華&弓桁朱琴インタビュー。「ファンの皆さんから名前を呼ばれるのがすごくうれしい」

9月から秋の全国ツアー「Neverending Shine Show」を開催しているモーニング娘。’23。2022年には結成25周年を迎えたモー娘。に、今年5月、17期新メンバーとして井上春華さんと弓桁朱琴さんが加わりました。オーディションから初めての全国ツアーまで、目まぐるしく変わった環境の変化とともに、加入から半年が過ぎた今だからこそ話せる2人だけの貴重なトークをお届けします!

 

モーニング娘。’23●モーニングムスメ トゥースリー…テレビ東京系「ASAYAN」でのオーディション企画、「シャ乱Qロックヴォーカリストオーディション」に落選した5人が、インディーズのCDシングル「愛の種」を5日間で5万枚売り切ることを条件にメジャーデビューを果たす。グループ名の由来は「いろいろついてくる、盛りだくさん、おトク感、親しみやすい」を表したもの。シングル「モーニングコーヒー」でメジャーデビュー。7thシングル「LOVEマシーン」で初のミリオンを記録。その後、女性グループが持つ数々の記録を更新し続けている。2014年1月1日よりアーティスト名の後ろに、西暦の年号を入れて表記する。それに伴い2023年1月1日よりアーティスト名が「モーニング娘。’23」に改名。メンバーは、譜久村 聖、生田衣梨奈、石田亜佑美、小田さくら、野中美希、牧野真莉愛、羽賀朱音、横山玲奈、北川莉央、岡村ほまれ、山﨑愛生、櫻井梨央、井上春華、弓桁朱琴。公式HPYouTube

 

【井上春華さん&弓桁朱琴さん撮り下ろし写真】

 

初めての秋ツアーと17期の絆を深めた「ゼリー事件」

──現在、秋ツアー「Neverending Shine Show」の真っただ中。初のコンサートツアーを含めてどのような毎日を過ごされていますか?

 

弓桁 週末はツアー、平日は撮影やリリースイベントがあります。25日に発売したシングルの「個別お話会」や「お見送り会」のようなCDを購入していただいた皆さん向けのイベントにも出させていただいています。ファンの皆さんの前に出る機会が増えて本当にうれしいです。

 

井上 私もコンサートでファンの皆さんの熱気に後押しされています。リハーサルまでは「ちゃんとできているのかな?」と緊張して固くなりがちなのですが、本番のステージではファンの皆さんの熱のこもった声援のおかげで、私のテンションが上がって楽しい気持ちになります。

 

弓桁 そうそう。まず学校だと私に直接好意を伝えてくることなんてないじゃないですか? それが、コンサートではファンの皆さんが振ってくれるペンライトの色を見て「この人は私のこと推してくれているんだ」と一目でわかります。正直、人に好意を持たれた経験がないので少しテレてしまいます。なんか新鮮な感覚ですね(笑)。ツアーでは行ったことのなかった土地に行けたのも楽しかったです。大阪で食べたたこ焼きや仙台で初めて食べた牛タンの味は忘れられません。

 

井上 悔しかったのは仙台で「ずんだシェイク」を飲めなかったこと。時間がなくて、代わりにずんだシェイク味のグミを買って食べました。小田さくらさんと北川梨央さんにも食べてもらったんですが、「本物はもっとおいしいよ」と言われて(笑)。残念ながら、すでに帰りの新幹線だったので時すでに遅しで……。

 

弓桁 私は小田さんが飲んでいるのを一口もらいました。甘い抹茶みたいな味でおいしかったです。

 

井上春華●いのうえ・はるか…2006年5月6日生まれ。京都府出身。特技:書道7段、フィンランド民謡を歌うこと。趣味:歌うこと。座右の銘:落ち着く ハロー!プロジェクト加入:2023年5月23日(モーニング娘。加入日)

 

──忙しい中でもちゃんとツアーを満喫されていますね。ちなみにコンサートでファンがステージに送る「コール」でお気に入りはありますか?

 

井上 「はるさん」と一斉に名前を呼ばれるのはうれしいですね。あと、私は曲のイントロ部分でファンの皆さんが「オイ! オイ!」と盛り上げてくれるかけ声が大好きです。この煽られている雰囲気で気持ちが高ぶります。

 

弓桁 めちゃくちゃわかる! 私は「ゲッター」と呼んでいただいていてすごくうれしいです。学校の運動会をやっている気分になります。小学校6年生の時に運動会の応援団長をやっていて、その頃の“お祭り感”を思い出してしまいます。この時は声を枯らして応援していました。

 

──今年の5月23日「モーニング娘。25周年記念オーディション」でグループに加入しました。オーディションを受けたきっかけを聞かせてください。

 

井上 もともとアイドルという存在が好きで、「ハロー!プロジェクト」を含むいろいろなアイドルグループの楽曲を聴いていました。どちらかというと、アイドルにかかわる仕事に就きたい願望の方が先にありました。マネージャーさんたちのような裏方さんの方を将来像としてイメージしていました。でも、十代の年齢で挑戦できるのは表に出る方だけじゃないですか。だから、今のうちにチャレンジしてみようと思いました。あと、なによりも私は歌うことが大好きなんです。「ハロー!プロジェクト」のグループは歌に力を入れているイメージがあります。そこで私も歌えたら素敵だなと思って応募しました。

 

弓桁 私は年長の頃からミュージカルをやっていて、小学校3年生まで本格的なスクールにも通っていました。4年生ごろから年に1回ぐらいのペースで地元・静岡のミュージカルにも出させていただいていたんですが、新型コロナウイルスの自粛期間に入ったときに世の中の芸能イベントも中止になってしまって、「芸能を仕事にしたら食べていけないのかな?」と半ば芸能の仕事を諦めていた時期がありました。だけど、中学生になったぐらいに「やっぱり目立つのが好きだな」と思い始めていた矢先にオーディションの情報が耳に入りました。お母さんの後押しもあって応募を決めました。

 

──「ハロー!プロジェクト」を知ったきっかけは?

 

弓桁 小学校低学年の頃から自然に知っていました。私のお母さんもモーニング娘。のファンで、コンサートに行くほどではありませんが、グループが出演するテレビ番組を録画して一緒に見ていました。ちなみに好きな曲は「浪漫~MY DEAR BOY~」です。OGの藤本美貴さんに憧れていて、藤本さんが在籍していた時期のモーニング娘。の曲を聴いている中で出会いました。昨年のROCK IN JAPAN 2022でも最初の曲で流れていて、改めて「この曲好きだな」と再認識できました。それこそ、ミュージックビデオの雰囲気も好きで、紫色の衣装も運動会の応援団みたいで、とにかく全部大好きです。

 

井上 「ハロー!プロジェクト」が気になりだしたのは、スマイレージ(現アンジュルム)さんの「夢見る 15歳」がキッカケです。初めてミュージックビデオを見た時に「なんでこんなにキラキラしているんだろう?」と衝撃を受けたのを昨日のように覚えています。スマイレージさんの曲を一番聴いていたかもしれません。

 

弓桁朱琴●ゆみげた・あこ…2008年7月8日生まれ。静岡県出身。特技:バレエ、卵焼きを作ること、腕の関節を曲げられること。趣味:アニメを見ること、写真を撮ること。座右の銘:初志貫徹 ハロー!プロジェクト加入:2023年5月23日(モーニング娘。加入日)

 

──晴れて合格したオーディションでは厳しいレッスンも課せられました。

 

井上 正直、レッスンまでたどり着けるとは思っていませんでした。その喜びもあっただけにあまりしんどいとは思いませんでした。ただ、歌とダンスの経験がなかったので、受かる自信はほとんどなくて。もうダメでもともとな気持ちでしたね。ダンスの振りを覚える前にカラダの使い方を練習する「アイソレーション」というがあるんですが、「どうしてこんな動きができるんだろう?」と不思議な気持ちでしたね。

 

弓桁 もともと、ミュージカルのオーディションでも役を頂けた喜びと同時に落ちてしまって泣いている子たちの姿を見てきたので、他の応募者の方の気持ちも考えて、責任をもってやらなきゃいけないと考えていました。3次審査を通過したあたりで自信も付いてきて「私は受かるんだ!」という気持ちが湧いてきたんですが、反対に自信喪失していた時間もたくさんありました。とにかく、合宿中は泣いてばかりで……。YouTubeに上がっているレッスン中の動画では泣いていないんですけど、レッスンが終わった後にトイレの中で泣いたり、宿舎に帰った後にまた1人で泣いたり……と当時を思い返すと涙ばかり流していましたね。「アイドルになりたい」という純粋な思いで受けに来たのに「(この辛い時間は)いつかは終わる」と心の中で言い聞かせている部分もあって……。そんな自分が悔しかったです。

 

──2人で励まし合う場面もありましたか?

 

弓桁 それは1回もありませんでした(笑)。

 

井上 泣いていたことも知りませんでした。

 

弓桁 私はライバル意識が高かったと思います。

 

井上 私はライバルとは考えていませんでした(笑)。というのも、そこを気にしちゃうと終わりだと思っていました。本当にネガティブな性格なんです。そもそも、今回の合格までにいくつかのオーディションに落ちていて……正確な数はわかりませんが、たぶん10回以上落ちているはず。だから、ついついネガティブになってしまって……。

 

──そんな2人の距離を縮めたハプニングがあるんですよね?

 

弓桁 「ゼリー事件」ですね(笑)。合宿審査の最初の日にボーカル指導の菅井秀憲先生を待っていたときの話です。ちょうど吸うタイプのゼリー飲料を持っていたんですけど、一緒に待っていた井上とはまだ仲が良くなく、あの菅井先生との時間を前に、とにかく焦りまくってしまっていて。なぜか蓋が空いたままの状態で机の上にポーンって置いちゃったんです。そしたら、中身が全部出てきてしまって。アクシデントであたふたしていた状況を井上が助けてくれたんです。ティッシュを持ってきて拭いてくれて。

 

井上 ティッシュを持っていった記憶がない(笑)。

 

弓桁 持ってきてくれたよ!

 

井上 全く覚えてないです。プレッシャーもあって忘れてしまったのかも……。

 

弓桁 そのときに2人でゼリーを拭きながら、お互いに笑ったりして距離が縮まりました。

 

──仲良しになれてよかったですね。では、グループに加入して感じたギャップを教えてください。

 

井上 ギャップというよりは“不安”なんですけど、「ハロー!プロジェクト」の中で一番曲数の多いグループなのでちゃんと全部マスターできるか心配です。今も秋ツアーでやっている曲しか覚えていなくて、まだ20~30曲くらいですしね。入る前から不安でしたが今も“不安”の真っただ中にいます。

 

弓桁 私はリハーサル期間の短さに驚きました。参加させていただいていた地元のミュージカルだと1本の作品の通し稽古で1か月半ぐらいの時間をかけていました。ところが、モーニング娘。はツアーの1曲目から30曲目までを完成させる工程をたったの1週間でやってしまうので……。今までのペースでやっちゃって痛い目に遭いました。9月に国立代々木競技場第一体育館で開催されたHello! Project 25th ANNIVERSARY CONCERTと秋ツアーの両方で「What is LOVE?」を披露させていただいたんですが、同じ曲なのにそれぞれのコンサートで立ち位置が違っていて。このころは代々木の後に秋ツアーのリハーサルがあって頭がパンクしそうで、同じ曲なら練習しなくても大丈夫だろうと思っていざ秋ツアーの本番を迎えたら代々木の動きを取ってしまってメンバーとぶつかってしまいました。本当に反省です。

 

井上 私はじっくり自分が納得できるまで練習しないとダメなタイプ。なのにそれができないぐらいタイトなスケジュールでした。リハでは本当に踊れませんでしたね。

 

弓桁 もちろん、ダンスだけじゃなくて歌の練習もしなきゃいけないし、代々木の時は他のグループの先輩たちにもご挨拶をししたりバタバタでしたね。

 

初めてのシングルCDと卒業を控えるリーダーへの思い

──そんなお2人は8月3日と4日のファンクラブイベントで初歌唱を披露しました。それぞれが歌った曲の選曲理由を教えてください。

 

井上 私はOGの光井愛佳さんのソロ曲「私の魅力に 気付かない鈍感な人」を選ばせていただきました。ちょうど、私たちが加入した時期にファンの方たちの声出しも解禁されました。そんなファンの人たちの声が聞きたいと思い選曲させていただきました。

 

──歌の経験がないのに「しゃくり」が巧みでした。

 

井上 これはつい癖でやってしまうんです。全く意識していなくて。ボイトレの先生には「この癖はやめた方がいいよ」と注意されることもあります。曲によってはウィークポイントになりますからね。この癖をうまい具合に使いこなしたいです。

 

弓桁 私もファンの方に声を褒めていただくこともあるんですが、ボイトレの先生は「ドスが効きすぎている」と注意されます。今は喉の奥で発声している状態なんですが、それを鼻あたりから発生するように矯正しています。割りばしや鉛筆を咥えながら練習するんです。そして、私がFCイベントで選ばせていただいたのは、インディーズデビュー・シングルの「愛の種」でした。発売当時のOGの方たちも新人時代に歌われていた曲で、同じく新人として初めてファンの皆さんの前で歌う曲としてピッタリだと選曲しました。今の自分にしか出せない初々しさを見てもらいたくて! かなり真面目な理由で選ばせていただきました!

 

──8月23日に東京・池袋サンシャインシティ噴水広場でアルバム「モーニング娘。ベストセレクション~The 25周年~」で“噴水広場デビュー”を果たしました。

 

弓桁 楽しい時間でした! 最前列で踊る場面もありましたが、私は「前に出たもん勝ち」という思考で育ってきたのでめちゃくちゃドヤ顔をしていたと思います。私は上手にいたと思うんですが、ファンの皆さんの目をバッチリ見ながら踊っていました。

 

井上 緊張していました。それは、最前列にいようが端っこでも真ん中でも関係なかったと思います。初めてのサンシャインは普段のステージとの違いに驚きました。後ろを見ても上を見ても人がいるし(笑)。

──アルバム収録曲「なんざんしょ そうざんしょ」では初めての歌割もありました。

 

井上 まさか歌い出しとは思いませんでした。先に歌詞カードで歌割を確認していたんですけど、実際に流れていた曲を耳にしても自分の声だと気づけないぐらいで(笑)。

 

弓桁 本当にいつも間にか流れていた感覚でしたね。2人して1番と2番の最初を任せてもらえたんですが、新メンバーだからなんじゃないかな? すでに「新メンバーじゃなくなったら……」という不安が頭をよぎることがあります。今は前列に行かせてもらえますし、CDのジャケット写真でも真ん中の方に配置させてもらえますけど……、とにかく新メンバーじゃなくなっても前列にいけるように頑張らなきゃと思います。

 

──ニューシングルの中で「Wake-up Call~目覚めるとき~」では2人で歌い出しでしたね。

 

弓桁 そうなんです! 同期で存在感を出せていけたら最高です。私はラップパートも担当しました。石田亜佑美さん、野中美希さん、北川莉央さんの中に私も入っていますが苦労しましたね‥‥。それこそ、リズムが崩れると悪目立ちしてしまいますし、絶対に噛めないし、息継ぎのタイミングも難しいですし。レコーディングの段階でもラップの音程はわからなかったので、ノリと勢いでやった思い出です。もともと「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle」というアニメが好きで、タイトルにあるようにこの作品を通してラップは身近なものでした。今回はこの作品で流れる曲と石田さんのラップを聴いて勉強しました。

 

井上 私も先輩と一緒に歌うパートがいくつかありましたけど、自分のダンスを覚えるのに精いっぱいで‥‥。「先輩と一緒だから」と考える暇もありませんでしたね。

 

──今回のシングルはリーダー・譜久村 聖さんのラスト参加シングルでもあります。

 

井上 本当に寂しいです。仕事の合間に話したりするちょっとした時間が大切なものになっています。

 

弓桁 私たちは譜久村さんの卒業発表の後に加入しています。その発表を聞いたときには、「え!  卒業しちゃうの!?」という気持ちでした。ただ、私たち2人とも今の仕事に食らいつくことに精いっぱいであまり感傷に浸る時間がありません。卒業公演も迫っていますし。まずはステージで迷惑をかけないように頑張らなきゃです!

 

17期のユニークな特技が炸裂!「実は私も……」

──ところで、弓桁さんは「ラジオ体操」の「腕を上下に伸ばす運動」が得意なんですよね?

 

弓桁 プッ(吹き出す)。そうなんです、今でも舞台裏で緊張をほぐすためにやっています。6月の武道館公演でお披露目のときにリラックスするためにやったら思いのほか効果があったので。小学校3年生からバレエを習っていた影響で周りから「ラジオ体操のキレがいいね」と言われていました。体も柔らかくて関節も曲げられますよ!  ほら!(腕をねじってみせる)

 

井上 すごい!  こんなの初めて見ました!!  でも、実は私もバレエを習っていたんです。

 

弓桁 そうそう。歴は井上の方が長いかも。

 

井上 あまり言わないようにしていたんですけど、Y字バランスができるぐらいには体は柔らかいんですよ。

 

弓桁 私もY字バランスはできますけど、私より井上の方が柔らかいんですよ。

 

井上 ただ、本当にダンスが苦手で……。あと、弓桁が特技として最初に言っていたので被らないように言わないでおこうと思って。そもそも、バレエも得意じゃありませんし。

 

弓桁 言った方がいいのに。

 

井上 自信がないの……。

 

弓桁 確かに通うバレエ教室によって変わるものなんです。私のところは基礎に1時間半ぐらいかけるところでした。井上はどんな教室に通っていたの?

 

井上 ウチのは「バレエを楽しむ」をコンセプトにした教室だったかな。長く続けることができて、体は柔らかくなったんですけど、センスがなかったのかあまり技術は身に付かなくて……、特に回るのが苦手ですぐに目が回ってフラフラしていました。

 

弓桁 それはめちゃくちゃわかる。私もターンが苦手で止まれないタイプでした。だけど、せっかくだから2人でバレエの動きを活かした振付を披露したいですね。

──井上さんはチョコミントが大好きの「チョコミン党」なんですよね?

 

井上 はい。もともと、甘ったるい食べ物が得意じゃなくて、さわやかなミントとチョコの組み合わせがすごくマッチしていると思うんです。アイスが一番おいしいんですけど、お菓子もチョコミントのフレーバーをついついお店で探してしまいます。Tシャツとか化粧品もあるんですよ。

 

弓桁 好きすぎるよね。私も最初は「マジか!」と思いました(笑)。

 

井上 でも、一時期食べていたよね?

 

弓桁 そうそう。オーディション中に井上に勧められて食べてハマった時期があったんです。ただ、今は苦手になっちゃって……。あまりにもミントの配分の多いチョコミント味のアイスを食べてしまったのがトラウマで……。

 

井上 北海道で食べたチョコの部分が少なかったやつでしょ?

 

弓桁 うん。それで今は苦手になっちゃいました(笑)。あと、井上は飴もコレクションしているよね?

 

井上 スーパーで売っているやつじゃなくて、いわゆる飴屋さんで売られているのを買っちゃいます。例えば「千歳飴」とか。彩りがきれいで飾ったりするんですが、結局食べちゃいます(笑)。

 

弓桁 たまに仕事の合間にも分けてくれますね。私も梅味が大好きです。梅のお菓子と交換してます。

 

17期の知られざる「ジェラシー」トーク「本当は最年少だし甘えたい」

──2人はお互いにうらやましいと思う一面はありますか?

 

弓桁 あります! 井上はめちゃくちゃ甘え上手なんですよ。

 

井上 え~!

 

弓桁 グイグイ先輩に甘えに行けるのがうらやましい。例えば、北川さんが井上の顔の前に手の平を出して、そのまま井上が顎をのせにいくみたいな光景がよく見られます。私にはできない行動です。もし、同じことをしても誰も喜んでくれないんじゃないかと考えてしまって……。

 

井上 そんなことないよ。

 

弓桁 井上が甘えキャラを確立しつつあるので、私には求められていないと思ってしまいます。「先輩が嫌がったらどうしよう」という思いばかりが先行してしまって。本当は最年少だし思いっきり甘えたいんですけど、なかなか行動に移すことができません。

 

井上 でも、私も甘えるタイプじゃないんですよ。家には妹もいましたし。その環境がグループに加入して変化したのが影響しているのかな? 上京した寂しさから甘えてしまうのかもしれません。とにかく、誰かとコミュニケーションを取らないとネガティブなことばかり考えてしまいますから。それを防ぐために先輩に甘えてしまいます。反対に、弓桁の大人っぽい見た目なのに子供っぽい内面のギャップがうらやましい。私の憧れの先輩はOGの工藤 遥さんなんです。あのボーイッシュなキャラクターなのにかわいらしい一面のあるギャップに惹かれます。卒業コンサートでも、アンコールで「もしも・・・」を歌われていましたよね。弓桁も身長も高いし、服装も大人っぽいのにいい意味で子どもっぽいんです。わかりやすくいうと明るい子(笑)。

 

弓桁 多分そのキャラクターを出せているのは井上の前だけなんです。先輩からはおとなしいと思われている節があるんですが、逆に学校ではどんどん人に話しかけて友達を作るタイプなんですよ。グループに加入しておとなしくなっていますね。

 

井上 これからどんどん正体を現すのかも(笑)。そういえば、弓桁は教育係の羽賀朱音さんに怒られる夢を見たんだよね?

 

弓桁 うん(笑)。でも、なんで羽賀さんが出てきたのかわかりません。その日にマネージャーさんに怒られたことをそのまま羽賀さんが再現していました。でも、普段の羽賀さんはめちゃくちゃ優しいんですよ!

 

井上 そうそう。私の大好きなチョコミントのスイーツを買ってきてくれて一緒に食べたこともありました。

 

弓桁 本当に友達みたいなんですよ。例えば、「さっきのあれこうだったよね」とか、たまたま階段でスレ違った時とかにフランクに話しかけてけてくださって。まるで譜久村さんに話しかけるのと同じテンションなんです。私たちと羽賀さんは知り合って半年弱じゃないですか。それなのに、何年も一緒に活動している仲間のように接してくれてうれしいなって。ちなみに井上はメンバーの夢を見るの?

 

井上 全然見ない(笑)。1回も夢にメンバーが出てきたことがないんですよ。出てきているのかもしれないけど、夢を全く覚えていなくて……。

 

弓桁 え、そうなの!?  私なんて毎日のように“悪夢”を見るのに。この前も場位置を全く覚えずにステージに立つ夢を見ました。

 

井上 もしかしたら、私に負けじとネガティブなのかもね(笑)。

 

 

<ニューシングル>

モーニング娘。’23 73rdシングル
『すっごいFEVER!/Wake-up Call~目覚めるとき~/Neverending Shine』

好評発売中

 

<ツアースケジュール>

モーニング娘。’23 コンサートツアー秋「Neverending Shine Show」

11/18(土)宝山ホール(鹿児島)
開場/13:00 開演/ 13:45

11/18(土)宝山ホール(鹿児島)
開場/16:45 開演/17:30

11/19(日)福岡サンパレス ホテル&ホール(福岡)
開場/12:30 開演/13:30

11/19(日)福岡サンパレス ホテル&ホール(福岡)
開場/16:30 開演/17:30

11/25(土)札幌文化芸術劇場 hitaru(北海道)
開場/13:00 開演/14:00

11/25(土)札幌文化芸術劇場 hitaru(北海道)
開場/16:45 開演/17:45

 

モーニング娘。’23 コンサートツアー秋「Neverending Shine Show」SPECIAL

11/28(火)横浜アリーナ (神奈川)
開場/17:00 開演/18:00

ゲスト/安倍なつみ、保田圭、矢口真里、石川梨華、辻希美、高橋愛、道重さゆみ、田中れいな、佐藤優樹、森戸知沙希

 

モーニング娘。’23 コンサートツアー秋「Neverending Shine Show 〜聖域〜」譜久村聖 卒業スペシャル

11/29(水) 横浜アリーナ(神奈川)
開場/17:00 開演/18:00

詳しくはモーニング娘。’23公式HPで確認ください。

 

構成・撮影/丸山剛史 取材・文/多嶋正大

望海風斗「“あの経験があったから今の自分がある”と思えるほど、成長のきっかけになったコンサートでした」

圧巻の歌唱力を誇り、近年出演したミュージカル『DREAMGIRLS』『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』の話題も記憶に新しい望海風斗さん。元宝塚歌劇団雪組トップスターとして活躍し、2021年に退団。その同年に開催した初のコンサート『望海風斗CONCERT「SPERO」』がホームドラマチャンネルにてオンエアーされます。構成、演出、衣装などこだわりが詰まった公演の見どころ、また当時の心境などを放送に先駆け御本人にたっぷりとうかがいました。

 

望海風斗●のぞみ・ふうと…神奈川県出身。女優・歌手。宝塚歌劇団入団後、2003年に月組公演『花の宝塚風土記/シニョール ドン・ファン』で初舞台を踏む。2017年、雪組トップスターに就任。2021年の退団後は舞台を中心に幅広く活躍。主な出演作に『ガイズ&ドールズ』『DREAMGIRLS』『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』など。2024年には『イザボー』、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』(再演)の出演が控えている。公式HPInstagram

望海風斗さん撮り下ろし写真

私にとっての“初めての一歩”。選曲にもこだわりました

──2021年に開催された『望海風斗CONCERT「SPERO」』をあらためて振り返っていただくと、ご自身にとってどのようなコンサートだったと感じていますか?

 

望海 やはり“はじめの一歩”という印象が強いですね。宝塚歌劇団を退団して最初のコンサートでしたから、“私に何ができるのか?”ということを模索しつつ、その結果として、いろんな扉を開くきっかけになった公演だったように感じます。

 

──構成・演出・振付は旧知の仲である川崎悦子さんでした。当時はコンサートに向けて、どのようなお話をされたのでしょう?

 

望海 悦子先生が作る世界観は少し大人な趣きがあり、それが私自身にはまったらいいなというお話をさせていただいたのを覚えています。また、そもそもの経緯として、仮に初めてお仕事をさせていただく演出家さんとステージを作るとなると、全く違う自分になってしまうのではないかという懸念もありまして。ですから、宝塚歌劇団のことをよくご存知で、かつ、反対に外の世界を知らない私に厳しく(笑)、いろいろと教えてくださる悦子先生にお願いするのが一番なのではと思ったんです。

 

──選曲も一緒に考えていかれたのでしょうか?

 

望海 はい。実はここが一番の悩みどころで、こだわった部分でもありました。宝塚時代は男役しか演じてこなかったので、普段私が聴いていた音楽も男性ボーカルのものばかりだったんですね。それもあって、いざ女性の曲を歌おうと思っても、頭に全然浮かんでこなかったんです(笑)。とはいえ、コンサートをするからには新たな自分を見せたいという思いが強かったので、悦子先生と何度も相談しながら決めていきました。

 

(C)梅田芸術劇場

 

──当時は女性の曲を歌う望海さんの姿を見られるのは貴重でしたし、お客さんの期待値も高かったと思います。

 

望海 そうなんです。言い換えると、私にとっても、ファンの皆さんにとっても、ある意味で未知の世界でした(笑)。でも、それこそがこのコンサートのテーマでもあったんです。タイトルにもなっている「SPERO」はイタリア語で“希望”を表す言葉ですし、私が新たな一歩を踏み出し、それをご覧になる皆さんも私と一緒に未来に向かって進んでいきたいと思ってもらえるようなものにしたいなって思っていたんです。

 

──その想いがしっかりと伝わったようで、公演後のSNSでは感動の声を多く見かけました。

 

望海 本当にありがたかったです。私はドキドキでしたけどね(笑)。特に公演初日は、皆さんの期待以上のものをお届けできているかが自分では分からなくて。幕が開くまで、“大丈夫かな?”“喜んでいただけるかな?”と不安でいっぱいでした。でも、多くの嬉しい感想をいただけたので、そこで手応えを感じ、残りの公演も楽しく行うことができましたね。

 

(C)梅田芸術劇場

 

──コンサートの構成も《Cinema》、《Jazz》、《Musical》、《Japan》(※J-POP)と4つのテーマで魅せていく演出がとても素敵でした。

 

望海 ありがとうございます。これも、“いろいろな面を見せていきたい”というアイデアから生まれたものでした。

 

──また、楽曲に合わせて、男役の俳優が出番を終えて一人の女性と変わっていくというストーリー仕立ての展開もドラマチックでした。

 

望海 まずは宝塚時代を彷彿とさせる私を見せ、そこから徐々に違う面を表現していくような物語を感じていただきたいなと思ったんです。ですから、衣装も最初は皆さんが見慣れた服装にし、ちょっとずつ変化を出していくようにしました。ただ、このコンサートではまだスカートを履いていないんですよね。無理しているように思われちゃうかなという懸念もあり(苦笑)、多少は露出の多い衣装ではあるものの、自分にとっても違和感のないデザインの服を用意していただきました。楽しくもあり、大変だったのはお芝居のほうです。どうしても全部が男役っぽい動きになってしまって(笑)。ただ、そこは徹底的に悦子先生に演技指導をしていただき、そのおかげで、コンサートを作っているはずが結果的にお芝居も成長させることができましたね。

 

──では、セットリストのこだわりについてもお聞かせいただけますか?

 

望海 今お話しした経緯もあり、最初の《Cinema》のコーナーでは男役時代の曲も入れるようにしました。退団したからといって封印するのも違うなと思いましたし、何より私自身が男役時代の曲が大好きなんです。とはいえ、やはり“新たな一歩”がコンサートのテーマとしてあり、今までとは違う私の一面もお見せしたかったので、その点では選曲のバランスをすごく考えていきましたね。

 

──確かに序盤は懐かしさなどがありつつも、後半には新しさを見せていくという流れになっていますね。

 

望海 《Musical》のコーナーは特にそうですね。例えば、「そばにいて」は以前、『タカラヅカ プレイズ ディズニー』というカバーアルバムで歌わせていただいた曲なので、お客様にとっても馴染みのある歌なんです。ただ、当時は男役として歌ったので、それを今の自分が表現したらどうなるんだろうという思いがありました。それ以外は私にとってチャレンジであり、夢を叶えた曲ばかりですね。『ジキル&ハイド』の「あんな人が」や、『ドリームガールズ』の表題曲、それに『モーツァルト!』の「星から降る金」はいつか歌ってみたいとずっと思っていたんです。

 

(C)梅田芸術劇場

 

──実際に歌ってみていかがでしたか?

 

望海 男役として歌うときと比べ、キーの高さや感情の込め方が異なりますので、最初はやはり戸惑うところもありました。でも、ステージに立って、公演を重ねていくうちに、どんどんと自分のものになっていく感覚があったんです。それに、これらのミュージカル曲を歌ったことで声の表現の幅が広がりましたし、振り返ると、“あの経験があったから、今の自分がある”と思えるほど、成長のきっかけになったように感じています。

 

── いっぽう、《Japan》のコーナーで披露したJ-POPの曲ではいろんな側面が見られて新鮮でした。なかでも「LA・LA・LA LOVE SONG」は女性ボーカルで聴くことで、よりラブソングとしてのテーマ性が強く表現されていたように感じました。

 

望海 そう言っていただけると嬉しいです。最初はどうしても歌声が男性っぽく聴こえてしまっていたので、悦子先生にたくさんご指導いただきました(笑)。また、「月光」は歌だけでなく、G-Rocketsさんによるエアリアルのパフォーマンスも入っていたりと、楽曲の世界観を視覚的にも表現できたのですごくお気に入りの演出になっていますね。「始まりのバラード」は、実は存じ上げない曲だったんです。でも、とっても素敵で、初めてのコンサートで歌う曲としてピッタリだなと思い、本編の最後に披露させていただきました。

 

──そうかと思えば、まさかの「横浜市歌」もあり、一瞬何が始まったのかと驚きました(笑)。

 

望海 そうですよね(笑)。でも、自分のコンサートの横浜公演でこの曲を歌うのが夢だったんです。これをJ- POPのカテゴリーに入れてしまっていいものか悩みどころではありますが(笑)、横浜は私の地元でもありますし、コンダクターの西谷亮さんも横浜のご出身ということで、この機会に歌わせていただきました。

 

──そしてアンコールでは「SUPER VOYAGER!-希望の海へ-」と新曲の「SPERO」を披露!

 

望海 私自身、やはり宝塚歌劇団のショーが大好きでしたので、最後にショーを感じさせる「SUPER VOYAGER!」で皆さんと一緒に盛り上がりたかったんです。また、「SUPER VOYAGER!」のタイトルにある《希望》や《航海》になぞらえ、新たな希望に満ちた冒険を表現した曲として、最後に「SPERO」をお届けしました。

──『SPERO』の制作に関してはどのようなリクエストをされたのでしょう?

 

望海 “希望”であったり、“前に向かって進んでいく”というキーワードだけをお伝えし、あとはお任せでした。作曲の長谷川雅大先生は宝塚時代から大変お世話になっている方で、退団前に開催したコンサート『NOW! ZOOM ME!!』でも曲を作っていただいていたんです。そのときは男役として作曲してくださっていたこともあり、今回の『SPERO』を聴いたときはまるで異なる世界観に驚きつつ、なんて優しさのある曲なんだろうと感動しました。ファンの方に向けたメッセージも込められていますし、この曲を歌うことで私も皆さんと一緒に前に進んでいけると強く思える。本当に素敵な曲をご提供くださり、感謝の気持ちでいっぱいです。

 

──こうしてアンコールも含めて全体を振り返ると、当時の望海さんのすべてが詰まったコンサートだったなと感じます。

 

望海 私もそう思います。きっとファンの方も最初は、“どんなコンサートになるんだろう?”と予想できなかったと思うんです。でも、公演を終えたあとにいただいたお手紙などを拝読すると、“これからもついていきたいと思いました”という感想がとても多くて。こちらの想いが伝わっていたんだなと嬉しく思いました。また、この公演にはゲストとして素晴らしいお三方が出てくださり(※ラミン・カリムルー/2021年8月9日〜11日、井上芳雄/10月2・3日、海宝直人/10月4・5日に出演)、今思えば本当に恐ろしいほど怖いもの知らずだったなと感じるほどなんですが(笑)、でもそのゲストをきっかけに私のコンサートを観にきてくださった方もいらっしゃったようで。その意味では、多くの新たな出会いや素敵な関係が作れたステージだったなと感じますね。そして、何よりコンサートを無事に成功させられたのはミュージシャンやスペシャルダンサーの皆さんのお力があってのこと。皆さんのパフォーマンスは映像で見るとより細かく堪能することができますので、ぜひこの放送で卓越した技術を楽しんでいただければと思います。

 

 

望海風斗コンサート「SPERO」

CSホームドラマチャンネルにて放送

放送日時:2023年11月18日(土)午後8時30分〜/11月26日(日)午後6時30分~

※冒頭に望海風斗撮り下ろしインタビュー特典付きで放送!

「望海風斗セレクション」特設ページはこちら https://www.homedrama-ch.com/special/nozomifuto

 

撮影:宮田浩史 取材・文/倉田モトキ 舞台写真:(C)梅田芸術劇場

STU48・今村美月&甲斐心愛&瀧野由美子「ファンの皆さんにも6年間の“思い出”を見つけてほしい」10thシングル「君は何を後悔するのか?」

2017年の結成当初から、STU48を支えてきた瀧野由美子さんの卒業シングルとなる「君は何を後悔するのか?」が、11月15日(水)にリリース。記念すべき10枚目のシングルを通じて、絶対的エースから語られる最後のメッセージとともに、これからのSTU48を支えていく今村美月さんと甲斐心愛さんに、今後の目標を語ってもらいました。

 

 

【今村美月さん&甲斐心愛さん&瀧野由美子さん撮り下ろし写真】

これからも後悔しないよう、未来に向かって生きたい

──瀧野さんの卒業シングルとして、初めて楽曲を聴いたときの感想は?

 

瀧野 歴代の先輩の卒業シングルからしっとりしたバラードになるのか、前向きになれる盛り上げ曲になるのか、いろいろと考えていたのですが、そのどちらでもないSTU48らしいメッセージ性の強い楽曲をいただきました。それがとても嬉しかったです。ただ、私は今まで後悔をしない選択肢を取ってきたし、アイドル人生を充実させてきたと思うので、このタイトルにはちょっと驚きました。

 

瀧野由美子●たきの・ゆみこ…1997年9月24日生まれ。山口県出身。17年よりSTU48一期生として、デビュー曲「暗闇」からの10曲中、8曲でセンターを務めた。11月3日には、広島グリーンアリーナにて卒業コンサートを開催。鉄道好きとしても知られる。公式HPX(旧Twitter)Instagram

 

──今村さんと甲斐さんは、どういう印象を持ちましたか?

 

今村 この楽曲を最初に聴いたとき、ピアノのイントロから始まっていく、誰もが想像しやすいアイドルの楽曲とはだいぶ違う緩急あるリズムやメロディラインが印象的でした。4thシングルの「無謀な夢は覚めることがない」と同じジャンルに入るような楽曲だと思うんですが、ゆみりん(瀧野)のソロパートがうらやましいと思いつつ、今回も激しいリズムに合わせたダンスがあるかもとも思いましたね。歌詞も自分の人生と照らし合わせてみて、共感できるところや気づかされることもありました。

 

甲斐 タイトルと同じ、問いかけるサビがとにかく印象的でした。メンバーのみんなもいろいろ考えたと思うんですけれど、私は今まで生きてきて、自分が後悔したことがなかったことに気づかされました。ひょっとしたら、後悔したら落ち込む性格なので、できるだけ考えないようにしていたのかもしれません。これからも後悔しないよう、未来に向かって生きたいと思いました。

 

今村美月●いまむら・みつき…2000年2月19日生まれ。広島県出身。17年よりSTU48一期生として活動し、20年からは二代目キャプテンとして活躍。「FATALISM ≠ Another story」などの主演舞台にも出演している。X(旧Twitter)Instagram

 

──今回のダンスの特徴について教えてください、

 

瀧野 曲の最初と終わりに、メンバー全員が手を伸ばした先の真ん中に私がいるフォーメーションは、実はデビューシングルの「暗闇」と同じなんです。その話を聞いたときに、「この振りは、3rdシングル『大好きな人』ぽいかも?」とか、これまでのシングルへのオマージュだと感じる振り付けがいくつかありました。そういう意味でも、10枚目という節目に、ファンの方と過ごした6年間を振り返っている気がしています。ファンの皆さんにも、そんな6年間の“思い出”を見つけてほしいです。曲の最後に振り返るタイミングに関しては、これまで感じたさまざまな思いを胸にして感情を込めています。

 

今村 きれいなメロディラインに乗せて、きれいに勢い良く踊りたいと思っていたんですが、振り付けをしてくださったCRE8BOYさんから「余計なことは考えず、感情でぶつかって」と教わったこともあり、できるだけハートでぶつかっていくよう、内から出るものでパフォーマンスするよう心がけています。サビや落ちサビの振りは、キャッチーでまねしやすいので、ファンの皆さんにもやってもらいたいです。

 

甲斐 私なりの振り付けのポイントはスカートを持つところ。冒頭で(瀧野)由美子が歌っている横で、波をイメージしてスカートをひらひらさせるんですが、これがなかなか難しいんですよ(笑)。冒頭で失敗すると、かなりのダメージを受けるので、初披露したときは、緊張で手が震えてしまいました。今ではもう慣れましたが、難しいのは変わりません!

 

ゆみりんが卒業したことを後悔するようなグループにしたい

──今回のMV撮影はどこで、どのようなキャラを演じましたか?

 

瀧野 今回はシングルでは初めて、メンバーそれぞれが瀬戸内7県に分かれて撮影しています。私は出身地でもある山口県だったんですが、朝日と一緒に撮ったり、岩国を走る錦川清流線の駅で撮ったりしました。今回はドラマ仕立てではないですし、キャラ設定みたいなものもないので、等身大の自分で演じました。

 

今村 私は広島県での撮影だったんですが、平和記念公園の川沿いを歩きながら歌っています。あと、みんなと同じく、ちょっとした決意をして走り出すシーンも撮りました。

 

甲斐 私も広島県の撮影だったんですが、宇品港でした。そこは、もともとSTU48の船上劇場が見える思い出深い場所なのですが、そこで夜に物思いにふけて、自販機でコーヒー買うシーンとか、たそがれて歩くシーンとかを撮りました。

 

甲斐心愛●かい・ここあ…2003年11月28日生まれ。広島県出身。17年より、STU48第一期生として活動し、CM「長崎ちゃんめん」出演のほか、ドラマ「叫ばないと生きていけない」では主演を務めた。X(旧Twitter)Instagram

 

──卒業を控えた瀧野さん(取材時)の今後の希望や展望を教えてください。

 

瀧野 卒業するまでは、いろんな方に感謝を伝えながら、恩返しができるような活動をしていきたいです。卒業してからは、今までグループ活動してきた時間を有意義に使って、女優さんを目指していきたいと思います。いろんなことを勉強して、1から頑張っていきたいですし、大好きな鉄道を語るタレントとしてバラエティ番組にも出たいです。また、モデルさんとしても活動したいですし、来年1月にはセカンド写真集も発売されるので、多方面で頑張っていきたいです。

 

──今村さんと甲斐さんは、瀧野さんが卒業したSTU48をどのように引っ張っていきたいですか?

 

今村 結成当初からSTU48の先頭に立って引っ張ってくれた、ゆみりんが卒業することで不安に思うメンバーやファンの方もいると思うんですが、私はゆみりんから約7年学んできたことがたくさんあるので、あまり不安には思っていないんです。三期生も加入したことですし、みんながなんでも言い合えるような関係性にして、ゆみりんを安心させるというか、卒業したことを後悔するようなグループにしたいです!

 

甲斐 お姉ちゃんばっかりの1期生のメンバーと一緒にいると、どうしても妹キャラになってしまいがちなんですけど、もうちょっとお姉さんになって、しっかりあいさつすることや人生経験から説得力あるパフォーマンスができるという、由美子から学んだことを後輩に受け継いでいきたいです。あと、ライブやメディアに出られなかったときに「私、STU48に貢献できているのかな?」という気持ちにもなったんですが、「もっと前に出たい」と思って頑張ったことが、今に結びついているんです。そういう熱い気持ちも忘れないようにしたいです。

 

宮島ロケで買ったメンバーとおそろいのストラップ

──いつも現場に持っていくモノやアイテムについて教えてください。

 

瀧野 私が一番好きな新幹線である「こだま500系」型のモバイルバッテリー「もちてつ」です。スマホを充電している間は、ヘッドライトが点灯するんですよ。ほかの車輛タイプも持っているんですが、常に持ち歩いているのは500系。かわせみのくちばしをモチーフにした先端がかっこいいのに、車体断面が円形に近くてかわいいんですよ! キティちゃんやエヴァンゲリオンともコラボもしているし、なにより私と同い年(1997年)なので、幼なじみみたいな存在なんです。ただ、これを分かってくれるメンバーはいないですね(笑)。でも、ドクターイエローのような珍しい新幹線を見たときに連絡をくれるメンバーはいます!

↑瀧野さんのお気に入りのモバイルバッテリー

 

今村 のどが痛くなるときだけじゃなく、心の支えにもなっている「龍角散ののどすっきり飴」。銀色のパッケージに入った「龍角散」の粉末や、スティックタイプの「龍角散ダイレクト」も使いこなしていますが、ライブのときにはステージドリンクに「のど飴」を3つ入れて、私なりのドリンクを作って飲んでいますね。あとは指輪。メンバーの高雄さやかちゃんと谷口茉妃菜ちゃんに勧められて、初めてオンラインの占いをしたんですが、「アクセサリーをたくさん付けると、もっと輝ける」と言われたんです。それで舞台で演じた役名だったことで好きになったヒナギクの花の形をしたものと、あとは小さい指輪をいくつか買って持ち歩いています。

↑今村さんの必需品、のど飴とアクセサリー

 

甲斐 メイクポーチに付けている2つのストラップです。1つは尾道の烏須井八幡神社の「願い玉」で、ボールボーイ佐竹さんから「広島カープの大瀬良(大地)投手が持っている」という話を聞いたので、カープとコラボのものを買いに行きました。願いが叶ったら神社に返しに行かなきゃいけないんですが、まだ叶っていないので、どんなお願いをしたかは教えません(笑)。もう1つは、この前、みちゅ(今村)と迫(姫華)ちゃんとちほ(石田千穂)と宮島ロケしたときに盛り上がって、おそろいで買ったやつです。人型をしたもみじまんじゅうで、私とみちゅがマッチョバージョン、迫ちゃんが鹿バージョン、ちほが考える人バージョンを選びました!

↑甲斐さんの思い出が詰まったストラップ

 

 

STU48 10th Single「君は何を後悔するのか?」

2023年11月15日(水)発売

●10thシングル 表題楽曲選抜メンバー
石田千穂・石田みなみ・今村美月・岩田陽菜・沖 侑果・尾崎世里花・甲斐心愛・工藤理子・小島愛子・信濃宙花・高雄さやか・瀧野由美子・中村 舞・福田朱里・吉田彩良・立仙百佳

価格:各¥1,800(税抜価格¥1,636)
形態:MAXI+DVD
[初回限定盤]
応募抽選シリアルナンバー券封入【※CD帯裏にシリアルナンバー記載】
[通常盤]
生写真1種ランダム封入

●収録内容
〈Type A〉
【初回限定盤】品番:KIZM-90787~8
【通常盤】品番:KIZM-787~8

CD 計6曲収録予定
M-1「君は何を後悔するのか?」
M-2「雨とか涙とか」
M-3「愛をもらったこともあげたこともない」
M-4 M-1(off vocal ver.)
M-5 M-2(off vocal ver.)
M-6 M-3(off vocal ver.)

DVD
1.「君は何を後悔するのか?」Music Video

〈Type B〉
【初回限定盤】品番:KIZM-90789~90
【通常盤】品番:KIZM-789~90

CD 計6曲収録予定
M-1「君は何を後悔するのか?」
M-2「楡の木陰の下で」
M-3「愛をもらったこともあげたこともない」
M-4 M-1(off vocal ver.)
M-5 M-2(off vocal ver.)
M-6 M-3(off vocal ver.)

DVD
1.「君は何を後悔するのか?」Music Video

〈劇場盤〉
価格:¥1,250(税抜価格¥1,136)
品番:NMAX-1423

CD 計6曲収録予定
M-1「君は何を後悔するのか?」
M-2「幽体離脱と金縛り」
M-3「愛をもらったこともあげたこともない」
M-4 M-1(off vocal ver.)
M-5 M-2(off vocal ver.)
M-6 M-3(off vocal ver.)

 

STU48公式サイト:https://www.stu48.com/
STU48公式X(旧Twitter):https://twitter.com/STU48_official_
STU48公式Instagram:http://instagram.com/stu48.official/
STU48公式TikTok:https://www.tiktok.com/@stu48.official

 

撮影/中村 功 取材・文/くれい響

「これは“もう一人の自分”が綴っている言葉なんです」キャイ~ン・ウド鈴木が自身で書き溜めた短歌を書籍化「ウドの31音」

お笑いコンビ・キャイ~ンのウド鈴木が、短歌集『ウドの31音』(飯塚書店)を発売した。何年もの間、X(旧Twitter)で投稿をし続けた自作の短歌をまとめた一冊で、4月に発売されて以降、各所で話題になり「あのウドちゃんが短歌!?」と驚くお笑いファンも多い。今回は、念願であった書籍化について、その思いを聞いた。

 

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:kitsune)

ウド鈴木●うど・すずき…1970年1月19日生まれ。山形県出身。天野ひろゆきとコンビを組むキャイ~ンではボケを担当。X(旧Twitter)

【ウド鈴木さん撮り下ろし写真】

言いたいことが多すぎて…「短歌というルールがあれば、伝えられるんじゃなかって」

──今年4月に短歌集を発売するまで、長い間、X(旧Twitter)で短歌の投稿を続けていらっしゃいました。初めに投稿を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

 

ウド そもそもなんですけど、僕がX(旧Twitter)を始めたのは、当時放送されていたバラエティ番組「リンカーン」(TBS系)の企画からだったんです。特にこれを伝えたいって強い意志があって始めたわけでもなかったので、何も考えず頭の中に浮かんだことをふんわり綴って行って、108投稿目で一旦辞めたんです。

 

──煩悩の数で辞めたんですね。

 

ウド はい。それで3年以上経ってから、今度は自分の考えや思うことを発信してみようかなと思い立った時期が来た。明確な意思がありましたね。そこでまた、投稿を再開したのですが、今度は文字数の問題が……。

──140字という制限がありますもんね。

 

ウド 自分の思ったことを投稿しようとすると、すぐ文字数がパンパンになっちゃうんですよ……。僕、昔からそうで、番組のアンケートなんかも回答欄のカッコから、いつも文字が溢れちゃう。仕方ないから、余白部分に縦で書いたりしてたら、昔はファックスで返信していたから、全部答えが切れちゃったりして!

 

──あははは。伝えたいことが多すぎるというか。

 

ウド そうなんです。天野(ひろゆき)くんは、簡潔に分かりやすく書くのがうまくて、同じアンケートを書いても2行とかで終わっている。でも、その一言で天野くんの文章は面白い。僕の方はと言うと、面白い要点まで行きつかず寄り道ばかり。そこで、この癖をどうにかしようと思って、文章を端的にするために、ある一定のルールを決めようと思い立った。それが短歌だったんです!

 

──なるほど。文字数を制限するためだったんですね。

 

ウド はい。短歌は五七五七七の31文字。俳句や川柳だと五七五だから、ちょっと短いな……というのもあって、短歌の文字数がぴったりちょうど良かった。31文字という枠組みを決めておけば、言いたいことをまとめられるんじゃないかと考えたんです。

 

天野くんに「もう1人のウドちゃんの言葉だねと言われました

──短歌を投稿し始めて、周りの方の反応はいかがでしたか。

 

ウド 最初は全然(笑)。特に何も言われなかったですよ。ただその後、ツイートを見てくださる皆さんから、「ウドちゃんいいこと言うね」とか「私もそう思う」など、だんだんコメントを頂けるようになりました。

実は僕の短歌は、誰かに強いメッセージを込めて放っていた言葉じゃなくて、自分自身に向けて発している言葉が多かったんです。なので、見てくださっていた方々も初めは戸惑っていた部分があったのではないか、とは思います。

 

──なるほど。ご自身だけに言い聞かせているような言葉が多かったから、ということでしょうか。

 

ウド そうです。自分が言われたいようなことを綴っている、自分が元気になったり、自分の胸がほっこりしたりすることを書くようになっていたんですよね。それは、たぶん“もう一人の自分”がいて、僕を励ましてくれているんです。実際、天野くんにも「もう1人のウドちゃんの言葉だね。普段の仕事では表現できないことが、短歌に表れているんだね」と言われました。

 

──自分自身への言葉が多い理由は何なのでしょうか。

 

ウド 僕は人生で、何か大きなことを成し遂げたという経験がほとんどない、と根底では考えているんです。小さい頃から甘えん坊ですし、自分の甘えた部分を見ないふりをして生きてきた人間だと思っていて、途中で投げ出したり、やり遂げられなかったり、たくさん失敗をしてきました。

ただ、そこでさらに自分を責め立てて、自分を追い込むと余計悲しくなって、悪い方向に進んで居場所がなくなってしまう。それが分かっているので、ダメな僕でも認めてあげて心の拠り所になるようにと“もう一人の自分”が励まし始めたんだと思います。もう十分周りの皆さんには甘えさせて頂いてはいるんですけど…(笑)。

 

──そうなんですね。実際に、ポジティブな言葉が多くて素敵だなと感じていました。

 

ウド 僕自身に向けた私的な言葉ではあるんですが、見てくださる人が 僕と同じように自分に対してそう思ってもらえればいいな、とは思っています。

 

中学生の時のある失敗で…「幸せになるための方法に気づいたんですよ」

──子どもの頃や学生時代から文章を書くのは得意だったんですか。

 

ウド いや、全くでしたね。読書感想文でも、ほとんどあらすじになっちゃって、自分の感想は書けず、てんで駄目でした。卒業文集で書いたのも一言だけで、それは俳句でした。「大晦日 賽銭箱に 手を伸ばす」って詠んで。

 

──あははは! その頃から五七五のリズムはお好きだったんでしょうかね。でも、それはどういった意味で?

 

ウド 分からないです(笑)。もちろん実際にやってはいないですけど、大晦日にふと浮かんだ一句がなぜか頭の中に残っていて、文集に載せようと思ったんです! ほんとリズムだけは良いですよねえ。ただ、そういう一句を文集に載せてしまうような奴というか、褒められた子どもじゃなかったんですよ。

 

──あまのじゃく的な気質があったんでしょうか。

 

ウド そうかもしれません。人に認めてもらいたいけど、人見知りで何もできない。目立ちたいけど、面白いことができない。だから、みんなが静かにしている時に限ってワーッと騒いでみたりとか、誰かの邪魔をしに行ったりとか、そういう目立ち方をしていました。注目の集め方が分からなかったんですよね。

──なるほど。当時のウドさんなりに試行錯誤されてたんだとは感じます。

 

ウド 何の工夫もセンスも才能もないやり方ですよ。でも、そんな僕でも人一倍幸せになりたいって気持ちは強くて、何かやらなきゃとだけは考えていたんでしょうね。

それである時、雑誌の通販広告で「幸運のペンダント」ってものが載ってて、僕、それを買ったんです(笑)。送料込み7,700円で中学生にとっては大金です。でも、これで幸せになれるんだって思ったら、1週間で失くしちゃったんですよ!

 

──なんと!(笑)  それは辛いですね。

 

ウド 打ちひしがれましたね。それで、どうしたと思います? 今度は、おばあちゃんに「お小遣いくれ!」って泣きついて、もう1個同じペンダントを買ったんですよ! これでやっと幸せになれると。でも、結局そのペンダントも1週間で失くしてしまった!

 

──ええ……!? それは不運すぎます……。

 

ウド さすがに自分の学ばなさには、呆れましたね(笑)。でも、そんな時、ペンダントの箱と一緒に入っていた小さな手引きを手に取ったんです。すると、そこには「物事に積極的に取り組んで、人に感謝をして、いつも笑顔で過ごそう」と書いてあった。衝撃でした。幸せになるための本当の方法は、これなんだと気づいた瞬間でしたよ。それからは、幸せはお金で買えないし、人に感謝して生きようと考え始めたんです。

 

──その経験で、しかも中学生でその考えに至るのはすごいことです。

 

ウド それは、ずっと僕の心の中にあることで。それこそ短歌にも、その思いが宿っている。自分は立派な人間ではないし、天野くんや周りの人にも迷惑をかけてしまうけれど、感謝を忘れずに、ちゃんとした人間になろうよって。自分が自分に言い聞かせている。言い続けていれば、実際に本当になるかもしれないからと。

 

自分で出版社に営業も!「(書籍化は)人生を終える前にやっておきたいことの一つでした」

──そして、ついに短歌集を発売されました。こちらの本は、1ページに一首、短歌のみが掲載されている、なかなかシンプルな構成になっていますね。

 

ウド 僕の好きな詩人の三代目魚武濱田成夫さんの詩集が、そういったスタイルだったんです。それに感銘を受けまして。でも、僕がそういった構成や形式にこだわりすぎて、最初は書籍化が実現できなかったんです。周囲の方にはすごく頑張って頂いたんですけど、僕に柔軟性がなくて。でも、そこからやるだけやってみようと思って、自分で出版社さんに電話したんです。

 

──ご自身で営業したんですね。すごい。

 

ウド そこで、今回書籍化してくださった飯塚書店さんに出会うことができました。短歌集を多く手掛けている出版社さんで、社長さんが電話に出られたんですが、ものすごくビックリされていましたね(笑)。聞くと、うちの事務所の浅井企画と仕事をされた経験もあるそうで、そういったご縁も繋がって、書籍化することができました。

──本当におめでとうございます。紆余曲折ありながらも、本が発売されたお気持ちはいかがですか?

 

ウド 本当に感無量です。本を出したかった自分と、短歌を綴ってきた自分、そして自分が読んだ一首一首が喜んでくれてるんじゃないかなと感じます。自分のことだけど、もう一人の僕がいるのもあって、自分のことのように嬉しいというか。

 

──周りの方の感想はお聞きになられましたか?

 

ウド 正直、天野くん以外誰にも差し上げてないんですよ。気恥ずかしさもあるし、押しつけがましいかなって思う部分もあって(笑)。

 

──ウドさんらしい考え方だなと感じます。

 

ウド 誰かに読んでほしいというよりかは、自分自身が本を出して一つやり遂げたいという気持ちが一番強かったからだと思いますね。人生を終える前にやっておきたいことの1つだったので。なので、読者の皆さんにも、集中して読んでもらうというよりかは、何も考えずにぺらっとめくって閉じてもらう……そんなふうに読んでもらいたいですね。

 

「これからも天野くんと漫才をやっていきたい!」

 

──今後も短歌は詠まれますか?

 

ウド 一応、今回本を出したことで「短歌で気持ちを表す」ことは一区切りついたかな、と感じています。でも、また川や月を見ながら浮かんだ時に、ぽつりぽつりと詠みたいと思います。

 

──またウドさんの書く言葉が読みたいとは思います。

 

ウド 一度、ポケットビスケッツの活動で、「GREEN MAN」という歌を作詞したことがあるんです。その時は、テル(内村光良)さんに突然「次の曲のボーカルはウド!」と言われて、千秋ちゃんと共に、ビックリ仰天! そして「作詞もウド!」というテルさんの一声もあり、歌詞を書くことに。まさに青天の霹靂でした! ありがたかったですね〜! 改めて振り返りますと、いろいろな企画で歌詞を書かせていただいていて、ある時は、アーティストの後輩にお願いをして作詞をさせていただいたこともありました。また機会があったら、挑戦してみたいです!

──それは楽しみです。では、今回夢を1つ実現されたウドさんですが、今後やりたいことや、新たな目標はありますか?

 

ウド やっぱりキャイ〜ンの活動、そして漫才をやりたいっていうのはありますね。漫才は一番楽しい。ただ、今までは、天野くんが書いてくれた100%面白いネタを僕が120%でしっかり覚えるっていうシステムできてるんですが、最近は満足に覚えられなくなっちゃってきて。今後はちょっとパーセンテージを変えなきゃいけないですねえ~。

 

──(笑)。これからもお二人で漫才が見たいです。

 

ウド はい、ぜひとも! 漫才はやりたいですし、天野くんと一緒だったらなんでもいいんですけど、テレビ、ラジオ、舞台いろいろ続けていきたいです。

あと、個人的なことでいうと、僕の旅の師匠、神様である伊能忠敬が歩いた道を巡って旅をしてみたいですね。55歳から旅に出て、全国の測量を始められたそうで、私も自分の年齢を重ねてもいつか旅をしてみたい。いつかこの人生で成し遂げたいです。

 

──今後も応援しています。ありがとうございました。

 

【ウドさんが、いまのお気持ちとGetNavi WEBについて短歌を詠んでくれました】

 

 

<書誌情報>

ウドの31音

著者:ウド鈴木

出版社:飯塚書店
価格:定価800円(税別)

全国書店およびAmazonなどネット書店にて絶賛発売中!https://amzn.asia/d/aBQJ9G5

「Baby you」が世界8カ国のバイラルチャートでトップ10入りのシンガーソングライター・有華が、これまでの軌跡を振り返る

18歳から大阪を中心に活動を始め、2022年に「Partner」がSNS総再生回数13億回越えをするなど大ヒットを記録、さらに今年リリースしたメジャーデビューシングル「Baby you」がTikTokを中心に国内のみならず海外でもバズっているシンガーソングライターの有華。満を持して10月25日にメジャー1stフルアルバム『messy bag』をリリースした彼女に、これまでの軌跡を振り返ってもらった。

 

有華●ゆか…大阪府出身。幼少期からピアノ、コーラスを始める。18歳から大阪を中心にシンガーソングライターとして活動中。Instagramに写真や動画を公開したことにより、インフルエンサーからのフォローや大好きなおしゃべりと容姿のギャップが共感を得て、現在までに同性を中心に支持を集めている。2023年1月18日メジャーデビューデジタルシングル「Baby you」をリリース。ビルボードが発表した「TikTok Weekly Top20」で1位を獲得し、TikTok上半期トレンド大賞2023ミュージック部門にて受賞。国内のみに止まらず世界の8カ国のバイラルチャートでトップ10入りを果たしている。他アーティストへの楽曲提供など、活動の幅を広げている。公式HPYouTubeInstagramTikTokX(旧Twitter)

【有華さん撮り下ろし写真】

大学時代、憧れだった絢香さんとオリックス劇場で一緒に歌うことができた

──これまでのキャリアを振り返ってもらいたいのですが、幼少期から音楽に親しんでいたのでしょうか?

 

有華 音楽とは無縁といってもいいような両親でしたが、二人の姉が習い事でピアノとコーラスをしていたこともあって、自然と私も習うようになりました。それで私だけが高校生までピアノを続けたんです。習字とそろばんも習ってはみたのですが、全然続かなかったんですよ。でも音楽だけは続きました。特に明確な理由もなく、「何となく好き」という感じで毎日歌っていましたし、自然なことだったんでしょうね。

 

──ピアノを始める前から、音楽が好きだったのでしょうか。

 

有華 物心ついたときから、音楽番組を見るのが好きで。幼少期のビデオを見たら、自分でステージみたいなものを作って、モーニング娘。さんやミニモニ。さんなどのアイドルソングを歌っていました。

 

──小さい頃から人前に出て何かするのが好きだったんですか?

 

有華 好きでした。小学校でも勝手に教壇をステージにして踊っていました(笑)。私と同じように歌って踊るのが好きな友達が多くて、「誰がセンターに立つ?」みたいなバトルもやっていましたね。

 

──ピアノはいかがでしたか。

 

有華 ピアノを弾くこと自体は好きだったんですが、ピアノを突き詰めようというよりも歌を深く学んでみたいなと思って。それで高校生のときにピアノの先生繋がりで声楽のレッスンを受けるようになりました。姉の影響で始めたコーラスは歌の技術を習うというよりも、みんなでハーモニーを作ることが重要だったので、歌を本格的に習ったのは声楽が初めてでした。クラシックを中心に歌っていたんですが、高音を出す曲が多かったので、発声や裏声の出し方などの基礎を学べたのは、ためになりました。

──中高は音楽一色という日々だったのでしょうか。

 

有華 部活は音楽と関係ないものをやっていました。中学時代はバスケットボール部だったんですけど、散々バスケをやったので疲れて、高校では楽しく部活をやりたいなということで、ダンス部に入りました。コンテストや大会を目指すような本格的な部活ではなく、お遊びクラブみたいなものだったので、少女時代やKARAなど、当時流行っていたK-POPのコピーダンスをしていました。

 

──ダンス経験も今の活動に活きていますか?

 

有華 MVでダンスを踊るシーンがあるときは、高校時代の経験が活きていますし、ミュージカル映画が好きで、シーンの一部をMVで再現させてもらったこともあって、それもダンス経験があるからですね。そういえば小学生のときもダンススクールでヒップホップを習っていました。振り返ってみると、いろいろ両親は私にさせてくれたので感謝しています。

 

──音楽を志すようになったきっかけとなったアーティストはいらっしゃいますか?

 

有華 私が小学生の頃、絢香さんが「I believe」でデビューされてから、「絢香さんみたいになりたい」と思っていました。テレビで絢香さんが歌ってらっしゃる姿がとても幸せそうで、のびのび歌っているところがすごくかっこいいなって、憧れていました。それで家族にもずっと「オーディションを受ける」と言っていたんです。オーディション雑誌を買って、勝手に応募してしまおうかなと思いましたが、応募するには写真を撮ってもらわないといけなくて。それで諦めました(笑)。

 

──絢香さんのファン歴が長いんですね。

 

有華 小学生の頃からずっとです。大学時代、動画を事前に送って選ばれた人が、ファンクラブイベントで絢香さんと一緒にオリックス劇場で歌えるという企画がありました。そのときに動画を送ったところ、選ばれて一緒に「はじまりのとき」を歌うことができたんです。

 

──オリックス劇場で歌うってプロでも難しいですよね。

 

有華 ですよね。オリックス劇場でファンクラブイベントをされている絢香さんがすごいんですけど(笑)。そこで初めて知らない人の前で歌わせていただきました。それ以降、絢香さんには、ライブは観に行っているものの、お会いしたことはないです。いつまでも憧れの方なので、ライブで共演するとか、そういう場でお会いしたいなと思っています。

 

──歌唱力には当時から自信があったんですか。

 

有華 ずっと根拠のない自信がありました。周りも褒めてくれていましたし。だから絶対に歌手になると思っていたんですけど、初めて高校生でオーディションを受けたら落ちてしまって、「どうして?」ってびっくりしました(笑)。

 

友達に手紙を書く感覚で曲作りを

──曲作りを始めたきっかけは何だったのでしょうか?

 

有華 高校3年生のときに受けたオーディションの審査員の方が電話をくださって、「ピアノが弾けるなら自分で曲を作ってみたら」って仰ってくださったのがきっかけで作るようになりました。それまでは自分で曲を書きたいとはあまり思っていなくて、単純に「歌えればいい」という感じでした。

 

──高校時代はオーディションに明け暮れていたのでしょうか?

 

有華 そうですね。何十社も受けたのに駄目でした。当時、めっちゃ太っていて、体型をカバーするために脚をクロスしたり、腕を全力で後ろに回したりして添付する写真を撮ったりしたものの、今みたいに盛れるアプリがなかったこともあって……体重もマイナス10キロぐらいで書いていたから、「こいつ嘘つきだな」って思われていたでしょうね。それで多分落ちたんだと思います(笑)。それでもへこたれなかったのは、自信があったんでしょうね。

 

──高校時代、印象的だった学校行事はありましたか?

 

有華 文化祭です。高校3年生の文化祭で、体育館で絢香さんの「ブルーデイズ」を歌ったのが、初めてみんなの前で歌を披露した経験です。私はクラスの中で盛り上げて笑いを取るだけの女子だったので、「え、この子、歌えるん? すごいやん」みたいな感じになりました。とりあえず男子には茶化されて「有華マジか~」って、ずっとヤジを飛ばされていたんですが、女の子たちは真剣に聴いてくれました。そのときの友達は今も私の活動を応援してくれています。

 

──オーディションの審査員から曲作りを薦められてからは、精力的に楽曲を作っていたんですか?

 

有華 意外にハマりました。最初は友達に手紙を書く感覚で曲を作り始めて、曲を作るのが楽しいなと思ってからライブで演奏し始めました。それで自分の曲で喜んだり泣いてくださったりする方が間近にいらっしゃるのを実感して、自分の歌でそんなことができるってすごい! うれしい! と思いました。

──早い段階からそういった反応があったんですか?

 

有華 最初は、5人くらいのシンガーソングライターが出演するブッキングライブに出たのですが、私はお客様がいなかったので、他のアーティストさんのお客様に届けるところからスタートしました。私のキャラの問題なのか、なかなかお客さんがつかなくて。それでInstagramに動画を投稿し始めたら同世代の方々が見てくれるようになりました。

 

──大学に進学されていますが、音楽への思いがありながら進学しようと思ったのはなぜでしょうか。

 

有華 音楽系の専門学校に行ったほうがいいのでは? とも思ったんですが、家族に「4年制の大学に行きなさい」と反対されました。でも音大だと音楽関係の友達しかできないので、関西で見つけた総合大学の音楽学部に行きました。

 

──大学に進学して良かったことは何ですか?

 

有華 主に音楽療法を学ぶ学部に進んだのですが、実習で音楽の力を実感したり、楽譜の作り方を学べたりしたのはいい経験になりました。

 

──どうして音楽療法を学ぼうと思ったのでしょうか。

 

有華 学部の中に、教員になる学科と音楽療法の学科の二つがあって、2年生まではどちらも体験できるんです。それで音楽療法の実習で高齢者施設や保育園に行って。高齢者の方やお子さんに音楽を聴かせたら、目に見えて音楽が響いているのが分かるんです。しゃべるのが不自由な方が昔の歌謡曲を聴いて歌いだしたり、手足が自由に動かない方が音楽に乗せて体を動かしたり。その光景を見て、素晴らしい仕事だなと思って、音楽療法を専攻しました。そのときに自分が生まれる前の曲も聴くようになったんですが、若いときに聴いた曲を幾つになっても口ずさめる曲の力がすごいなと思いましたし、自分の曲もそうなればいいなと強く思いました。

 

上京してからの1年が一番辛かった

──ライブハウスでの活動を始める中で、音源を出したのはいつ頃ですか?

 

有華 2014年から活動を始めて、2016年に音源を出していました。その頃は、1枚ずつコピーしたCDを手売りしていました。買ってくださるのはSNSを通じて私の存在を知って、オンラインで買ってくださるSNS世代の方々が中心でした。

 

──音源を出したことで流れは変わりましたか?

 

有華 やっぱりInstagramは影響力があって、それによって全国ツアーを回れたり、今まで行ったことのないところでもワンマンライブができたりしたので、いい経験になりました。

 

──SNSで発信するうえで心掛けていることは?

 

有華 嘘をつかないというか、ありのままでいることです。個人的にSNSと実物が違うのは、あまりいいギャップじゃないなと思います。だからSNSでも素を出すことを意識しています。あとは投稿する歌も、続きを聴きたいと思ってもらえるようにフルで上げないとか、会いたいと思ってもらえるように工夫しています。SNSに力を入れ始めた頃は、「大好きな絢香さんがこんなことをしてたら私はどう思うんだろう」「こうしてもらったらうれしいな」「『逆にないな』って冷めちゃうかな」など、絢香さんに対する自分の気持ちを基準にして考えていました。

──ファンとの交流で得たものが曲に反映されたことはありますか?

 

有華 DMで恋愛相談されることが多くて、「みんないろんな恋愛しているんだな」と。そういう子たちに少しでも「これ分かる」「私のことを歌っている曲かも」って思ってもらえるような曲作りを意識しています。もちろん自分の経験がベースですが、恋愛相談からインスピレーションを得ることもあります。

 

──大学卒業後、平日は会社員、休日はミュージシャンと二足の草鞋を履いていたそうですね。

 

有華 1年ぐらいですけどね。「大学を卒業するまでに事務所が決まっていなかったら就活をする」と親と約束していたのですが、就職が決まった後にInstagramでワーッって反響が増えて、音楽だけでもいけるかもって思ったんです。

 

──上京したのは幾つのときですか?

 

有華 26歳のときです。上京してからの1年が一番辛かったですね。最初、ライブハウスで活動していたときも、「なんでお客さんつかないんだろう」って思っていましたが、周りにいた人たちも同じような状況で、みんなで頑張ろうっていう雰囲気があったんです。一人だなと感じることはなかったし、そこからInstagramきっかけでツアーができるようになりました。ところが、このままちょっとずつ階段登れるぞ、というタイミングでコロナ禍が始まりました。それまではSNSにカバー曲も上げていましたが、カバーするだけの人だと思われたくなかったので、コロナ禍をきっかけに頻度を減らしたら、初めてフォロワーが減ってしまって……。ライブ配信を見ている人が減るという現実を体験したので、やっぱりカバーも上げたほうがいいかなとか、ちょっとぶれ始めて。ツアーやイベントをしても、以前ほど人が集まらない。一度上昇した状態を経験したからこそ下降するのがすごくきつくて、「もうこれで潮時かな、周りも結婚していく。私も落ち着きたいな」などと思っていました。

 

──コロナ禍の影響はかなり大きかったんですね。

 

有華 よりステップアップできると思って東京に来たのに、環境に慣れるのに苦労したり、頑張っても結果がついてこないプレッシャーのようなものを感じたりした1年でした。そんな中でリリースした「Partner」で多くの方々に聴いていただけたので、またここからがスタートだなと。「Partner」で売れなかったらもう無理かなって思うくらい私のなかで賭けていた曲だったのでうれしかったですね。

 

「Partner」のサビは中毒性があって記憶に残るからSNSで使ってくれたら

──メジャー1stフルアルバム『messy bag』は「Partner」から始まりますが、どのように作られた曲なのでしょうか。

 

有華 CHIHIROさんとの共作なのですが、私の恋愛観をもとに一緒に歌詞を書いていったので、他人事ではない、私の経験がちゃんと書かれた曲です。歌い方も、それまでの歌い方とはちょっと違って、より女の子らしくというか、かわいく歌うことを強く意識したので苦労しました。サビの「あいあい」の歌い方も、レコーディングのときに「こうかな、こうかな」と話し合っていたら、あっという間に12時間ぐらい過ぎていました。

 

──サビの「あいあい」は、SNSにぴったりですよね。

 

有華 もともとCHIHIROさんが作ったデモに、あのサビの部分がまるまるあったんです。「このサビは中毒性があって、記憶に残るからSNSのカップル動画で使われたらいいよね」という話はしていました。

──ヒットする確信みたいなのはありましたか。

 

有華 楽曲が出来上がったときは、「みんながSNSで使ってくれたらうれしいな」と思っていました。ただ、それは狙ってできることでもないんです。リリースしたのは2022年4月20日だったんですが、GWの後半に、若いカップルの方々が使ってくれたことがきっかけで広がり始めました。そのスピードがすごくて、「よっしゃー!」というより「ホンマ?」というような信じられない気持ちでした。

 

──SNSで支持される曲を作ろうという意識は強かったのでしょうか。

 

有華 「Partner」の前年にリリースした「一蓮星」という曲も、SNSにサビの部分を乗せたことから始まった楽曲だったので、多少はありますね。トレンドとして、SNSをきっかけに楽曲が広まるとことが多いので、そこから派生してくれたらというのはありました。ただ、TikTokが本格的に流行り出したのは、コロナ禍になってからだと思うんです。瑛人さんの「香水」が出てきたあたりから、SNSで流行る曲を意識し始めました。それまでも、Instagramにカバーとかオリジナル曲は上げていましたが、これほど爆発的に広まると考えたことはなかったです。TikTokが普及するまでは、あんまりバズることを念頭にしてなかったのかもしれません。

 

──ちなみにご家族は有華さんの音楽活動を一貫して応援してくれているんですか?

 

有華 はい。特に父は、私の出演したテレビやラジオを全て録り貯めて保存していますし、こういうインタビュー記事まで、全媒体をチェックしてくれています。職場でも布教活動がすごいらしくて、恥ずかしいのでやめてほしいんですけど……。おそらく今回のアルバムも会社で配りますね(笑)。

 

 

Major 1st Full Album
『messy bag』

好評発売中!

【初回限定盤】¥4,950 (tax in)
【通常盤】 ¥3,300 (tax in)

(収録曲)
1.Partner
2.Bestie
3.Baby you
4.恋ごころ
5.#Me
6.HAPPY DATE
7.Darling Darling
8.キミエール
9.ずるいね。
10.Gentleman
11.Baby you -Reprise-

 

有華ワンマンライブ2024「messy bag」

(スケジュール)
日時:2024年1月27日(土) open 17:00 / start 18:00
場所:日本橋三井ホール(東京)

日時:2024年2月3日(土) open 17:00 / start 18:00
場所:サンケイホールブリーゼ(大阪)

 

撮影/河野優太 取材・文/猪口貴裕 ヘアメイク/Akiko Hachinohe

さらば青春の光・森田哲矢&東ブクロ「僕らはネタがストロングポイント。ネタはやり続けないと駄目」ライブDVD発売「目標は2万本」

テレビ、YouTube、ラジオなど、あらゆるジャンルで惜しみなく笑いを提供しているお笑い芸人のさらば青春の光。2023年5~7月にかけて東京・大阪・名古屋など全国6都市を回った単独公演「すご六」で約2万人動員した。ありそうでありえないオリジナリティー溢れる設定で、観客を“さらば”の世界に引き込んでいく。その貴重な公演のDVDが2023年11月1日発売した。“さらば”の笑いをご家庭でもどうぞ!

 

さらば青春の光●さらばせいしゅんのひかり…2008年8月結成。大阪府出身。キングオブコント2012-2015、2017、2018ファイナリスト、M-1グランプリ2016ファイナリスト。現在のレギュラー番組は、テレビ、ラジオ、WEBでレギュラー17本。YouTubeも積極的に更新。YouTube「さらば青春の光Official Youtube Channel」

【さらば青春の光さん撮り下ろし写真】

 

台本を覚えられないんです。その時、出た言葉でええやんって感じ

──今回、このDVDを売っていきたいと思っています! 何本目標にしますか?

 

森田 そもそも前回は何本売れたんですか? 2500本? じゃあ、目標3000本で(笑)。いや待てよ、劇場来た人全員買ってくれたら、2万本なんで、2万にしておきましょう!

 

東ブクロ 2500で充分でしょう。

 

森田 いやいや、前回は超えたいでしょ!

 

東ブクロ だってオレ、お笑いのDVDは借りたことあるけど、買ったことないですもん。何千人も買ってもらえるだけでありがたい。

 

森田 生で観てない人は観たいだろうけど、生で観た人もDVDで観たいって人もおるって。それにDVD集めている人もいますし。

 

東ブクロ まぁ、作家とネタを振り返った特典も付いてるしな。

 

森田 ということで目標は2万本で!

 

──それにしてもテレビ、動画、ゴルフ(笑)とお忙しいのに、なぜコントネタの単独ライブを続けていくんですか?

 

森田 真面目な話、僕らはネタがストロングポイントだと思っているんで、ネタはやり続けないと駄目だと思っています。

 

東ブクロ まぁ、やらなしゃあないですから(笑)。

 

森田 ブクロにコメント求めても照れのコメントしかでませんよ(笑)。

 

東ブクロ いやいや、ホンマにやりたくないんですよ、大変過ぎますから。

 

森田哲矢●もりた・てつや…1981年8月23日生まれ。大阪府出身。さらば青春の光が所属する「株式会社ザ・森東」代表取締役社長。モルック日本代表。日本モルック協会公認モルックアンバサダー。X(旧Twitter)InstagramYouTube「さらば森田の五反田ガレージ」

 

──そうですよね、一番最後の「タネ飛ばし」(※以後出てくるコント内容はDVDを要チェック)のネタは、東ブクロさん、めちゃくちゃセリフ多かったですよね。「コイツ、ゴルフばっかしてるから、セリフ増やしたろ」って増やしたんですか?

 

森田 ハハハハハ! それはないです。あくまでも笑いを取るための手段ですから。

 

東ブクロ 正直なところ、セリフは一言一句覚えてないんで、ホンマに。流れで覚えてるんで。一言一句間違えないでやれって言われたら、できないです(笑)。

 

森田 オレだってご機嫌伺いながらやってるんすよ。セリフ多すぎたら、削るようにしてますし。そもそも客演の仕事きたら「セリフの量多いわ!」って機嫌悪くなるのか心配です。

 

東ブクロ そもそも客演なんてやらないから! 僕、ここ数年で分かったんです、台本を覚えられないんです。その時、出た言葉でええやんって感じでやってる。

 

森田 かっけーこと言うな! 急に語りだした。

 

東ブクロ だから全公演見た人は、毎回、この部分のセリフ違うやんって思ってるかも。

 

森田 今回、「タネ飛ばし」のネタは、セリフ多いから大変だったとは思いますけど、他は楽だったと思いますよ。「野球人生」っていうネタは袖でカンペ読んでますからね(笑)。

 

東ブクロ (苦笑い)。

 

どうやったら面白くなるかいろいろ枝部分を考えて辿り着いた

──一方で森田さんは、肉食的なビーガンの人という設定の「パリヴィ」で、激しいセリフ回しでゼイゼイして、次の「野球人生」の監督の役でゼイゼイして、体力的に大変だったのでは?

 

森田 「パリヴィ」からの「野球人生」はめっちゃしんどかったです。野球の監督役なのに一番汗かいてるし。衣装さんも「コイツどんだけ汗かくねん」って。衣装チェンジの時に脱がせにくいし、着させにくかったですから。順番いじればよかったんですけど、いじれなかったんですよね。

 

東ブクロ●ひがしぶくろ…1985年10月6日生まれ。大阪府出身。「株式会社ザ・森東」副社長。趣味はゴルフ。ベストスコア72(10/30現在)の腕前。YouTube「さらば青春の光東ブクロのゴルフ学校~芸能界No.1目指します~」

 

──今、話が出た中でもいろんな設定のコントがありますが、今回、苦労された設定はありますか?

 

森田 設定出すところまでは、そこまで大変じゃなかったんですけど、いざ作ってみると、大変だったのは、先ほどから話に出ている「タネ飛ばし」ですね。“青春”中毒のおじさんが10億円の賞金がかかったさくらんぼの種飛ばし大会を開催するってネタなんですけど、最初の段階では「青春」ってキーワードはなかったんです。どうやったら面白くなるかいろいろ枝部分を考えて辿り着いたんです。

 

東ブクロ 僕は作る段階で苦労していたなんて全く知りませんでした。台本もらって初めて設定を知る感じなんで。

 

森田 一回、ブクロがアドリブで下ネタをぶわーって言いだしたんですよ。「そこまで下じゃないんだよ。このおじさんは“青春”に興奮を覚えるんやから」って注意したことあった。

 

東ブクロ その辺の擦り合わせできてないから、僕がアドリブで下ネタばっか言ってた(笑)。

 

森田 そう、こいつ、すぐ下ネタいくから!

 

東ブクロ そりゃ、下ネタ行くわ。ただ一番苦労したネタではある。

 

森田 めちゃくちゃ苦労しましたね。

 

──肉食系なのにビーガン男子という設定の「パリヴィ」はかなり突飛な設定でしたね。

 

森田 公演時にはビーガンなのにクラブにいるイケイケ男子になっていますが、もともとは違う設定だったんです。当初はゴミ屋敷にいるビーガンの人という設定でした。ゴミ屋敷に住んでるくらいだらしないのに、食べ物に関しては繊細みたいな。ただお客さんに見せる時に分かりづらいかなと思って。それでもう少し分かりやすくしたくて、クラブの設定に変えました。

 

東ブクロ 「パリヴィ」は、最初、台本もらった時は、言葉のやりとりで見せるコントかと思いました。あそこまで舞台装置使って、音楽にのせてやるネタになるとは。最初の台本段階から一番、印象が変わったネタですね。今回、初めて音楽を流した中でネタをやる難しさもあったので、ある意味、新鮮ではありましたよ。

 

森田 このコントの中で僕がラップする場面があるんですけど、あれは実は勝手に足したんです、ハハハハハ。まぁ、まぁ、ウケたからその後の公演でもやってくことにしました。

 

やしろさんの演出のおかげでお客さんに満足感を与えることができる

──思いのほかウケなかったネタは?

 

東ブクロ 「それでもボクはやってない」では、ウケるのはウケるんです。設定はAV女優が電車に乗っていたので痴漢モノの撮影していると思って、触りにいった大学生が駅員に捕まって……という内容なんですけど……。

 

森田 この「痴漢」ネタは、『カチコチTV』(FANZA TV)やっていたからできたネタですよ。AV女優さんと収録の合間でしゃべっている時に、有名女優さんが今日、電車で来たという話になって。「え! 電車乗るんですか」って(笑)。「AVと思われて痴漢とかされないんですか?」って(笑)。そこから発想したネタなんです。

 

東ブクロ ネタばらして笑いがボーンってくるところもあれば、徐々に笑いがくるところもあって。その土地その土地で笑いがバラバラでした。

 

 

──今回の「それでもボクはやってない」、電動マッサージを開発した企業の人がAV現場にクレームを言いに来る「AV」(2015年)、やたらと芝居にこだわるAV男優のネタ「男優」(2015年)は、AV三部作と勝手に呼んでいるんですけど。

 

森田 おー、ありがとうございます! ただもう、AV関連のネタがなくなってきてるんだよなー!

 

──そういえば、演出家、ラジオパーソナリティのマンボウやしろさんがすでに5回も単独ライブの演出されているんですね。

 

森田 単独ライブ「真っ二つ」(2018年)から演出をお願いしているんです。やしろさんにお願いするきっかけは、以前、バイク(川崎バイク)さんに誘われて、やしろさんが作・演出した舞台を新宿に観に行ったんですよ。その時の演出とか舞台装置がすごくよくて。多分人生で初めてプロジェクションマッピングみたいのをこの日、見たんちゃうかな。それでぜひやしろさんにお願いしたくて、やしろさんのラジオの本番中に「単独の演出やってくれませんか?」って直談判しました。もう、断れない状況で、ハハハハ! 今でもやしろさん、このこと恨んでいるみたいですよ。「あれは卑怯だ」って(笑)。

 

東ブクロ やしろさんの演出があるからこそ、ネタが笑いに変わってるってことありますよ。ある意味、ネタの雰囲気も想像とは違うものに変わったりしますし。幕間の映像も作ってくれているんですが、あれもすごくかっこいい。何よりも以前は、映像とかなかったんで幕間の時間がないから「早く着換えろ!」って感じで。それもなくなりましたし。単独公演としての格が何百倍にもなった。

 

森田 何百……。何千やと思います、僕は(笑)。

 

東ブクロ さすがに何千はないやろ!

 

森田 さすがにって…。やしろさんの演出のおかげでお客さんに「観たなー」っていう満足感を与えることができるんですよ。

 

東ブクロ ホント、一緒にやらせていただいて何の不満もないです。あ、1つだけ髪形は気になりますけど(笑)。

 

森田 あれも演出やろ、自己演出や(笑)。

 

ゴルフクラブのタイアップよろしくお願いします!

──幕間に流れた「メモリー」って曲もやしろさんが作ったんですか?

 

森田 あれは、音響チームが頑張ってくれました。「こんな曲にしてください」って音響チームに投げるんですよ。全部やってくれるのでホント、助かります。ただわりと音響チームが声出したいとか、歌いたいって人が多くて。ただ一番、社長が声出したがりです。大城音響事務所の大城さん(笑)。「野球人生」で出てくる野球部の声とか、一番前のめりでやってくれました。

 

──すみません、そろそろ時間が……、最後になりますが、モノを紹介するゲットナビということで、熱くなれるモノとかありますか?

 

森田 急やな~。僕はスニーカーですかね。結構、買っちゃいます。僕は定番のスニーカーが好きなんですよ。スーパースター、コンバースのオールスター、エアフォースワンとか。今日履いてるのも、コンバースのスエードなんです。高校生の時はエアフォースワンを履いていました。今、エアフォースワンを履いてたりすると、「エアフォースワンのオリジナルですよね」って分かる人には分かる。なんかタイアップあったらよろしくお願いします!

 

東ブクロ 僕はゴルフクラブですかね。アイアンは地クラブを使ってますし。

 

森田 じクラブ???

 

東クラブ 大手メーカーじゃなくて、各地域で生まれた小規模なメーカーがこだわりをもって作ってるクラブのことや。

 

 

森田 あー、地酒の「地」ね。地クラブね。

 

東ブクロ 僕は他の人と同じじゃない物珍しいものを使いたいというのがあって。1つひとつ丁寧に作ってるんやろなとは思います。正直、打っててそこまで分からないけど、職人さんのこだわりは感じられるので。

 

森田 コントも丁寧に1つひとつ作ってますけどねー(笑)。ハハハハハ。それは感じ取れないものですか?

 

東ブクロ 地コントではない!

 

森田 地コントやろ! 全部、自分たちで考えて丁寧に作ってるんやから。

 

東ブクロ 僕は今、アイアンもウェッジもEPONを使ってるんですが、スコアも上がりますし、気持ちも上がりますよ。EPONは新潟の燕三条の会社で鉄の技術がすごい企業です。

 

森田 コントもそれぐらいこだわってほしいんやけどな。まぁ、まずはゴルフクラブのタイアップよろしくお願いします!

 

東ブクロ お願いします(笑)。

 

 

 

さらば青春の光 単独LIVE『すご六』

3,740円(税込)

 

(CAST)
さらば青春の光(森田哲矢、東ブクロ)

(収録内容)
2023年5月~7月にかけて東京・大阪・名古屋・福岡・北海道・宮城の全6都市を周り、約2万人を動員したさらば青春の光の最新単独ライブの模様を紹介。

オープニングコント
イエスマン
それでもボクはやってない
ガンジスのしらべ
パリヴィ
野球人生
タネ飛ばし
※名称変更になる場合がございます。

 

販売元:ポニーキャニオン
発売元:TBSラジオ

(C)2023 TBS RADIO/THE MORIHIGASHI

 

撮影/映美 取材・文/浦澤 修

世界中で愛されるミュージカル『スライス・オブ・サタデーナイト』で不良役を演じる一色洋平が役者の原点を振り返る。ティーンエイジャー時代の美しい原風景

1960年代のロンドンのはずれを舞台に、ティーンエイジャーの青春と葛藤を30曲を超えるロックナンバーとともに描くミュージカル『スライス・オブ・サタデーナイト』。1989年4月の初演以来、世界中で300回以上上演され、9か国語以上の言語で翻訳されるほど愛されている名作だ。92、93年に日本でも上演された本舞台が、約30年ぶりに上演。今回、チンピラだが目を離せない魅力の持ち主・エディを演じる一色洋平さんに、今回の舞台へかける思いとともに、ティーンエイジャー時代の思い出を振り返ってもらった。

 

一色洋平●いっしき・ようへい…1991年8月6日生まれ。 神奈川県出身。2010 年、早稲田大学演劇研究会にて俳優活動を始める。舞台を中心に活躍、確かな演技力と圧倒的な身体能力を併せ持つ。近年の主な舞台出演作に、『鋼の錬金術師』(主演:エドワード・エルリック役/23)、『くるみ割り人形外伝』(「演劇の案内人・クララの父役/23)、『飛龍伝 2022〜愛と青春の国会前』(主演:山崎一平役/22)など。公式HPX(旧Twitter)YouTube

【一色洋平さん撮り下ろし写真】

 

ティーンたちの成長物語の一夜が描かれている『スライス・オブ・サタデーナイト』

──今回、ミュージカル『スライス・オブ・サタデーナイト』のオファーがあったときのお気持ちをお聞かせください。

 

一色 僕は大学生の頃から、今回の演出を担当している(元吉)庸泰さんが主宰されている劇団「エムキチビート」の舞台をよく観ていたんです。いつかご縁がないかなと思っていたんですが、ようやく念願が叶って、一緒に賑やかな作品を作れそうだということでワクワクしました。

 

──今回はロックミュージカルですが、大好きなジャンルだそうですね。

 

一色 ロックミュージカルの熱量や使われる楽器も好きですし、否応なしに身体を躍動できるところも魅力です。身体表現を大事にしてきたタイプの人間なので、言葉と身体をリンクさせがちで、ロックミュージカルと自分がやってきたことの相性が良いなという感覚があるんです。

 

──60年代のイギリスが舞台ですが、その時代のロックに馴染みはありましたか。

 

一色 24時間BGMを流してくれる配信サイトがあるんですが、それでオールディーズを聴くことが多くて。僕がよく聴くサイトは、ただオールディーズを流すんじゃなくて、カーステレオっぽい音質で、当時の雰囲気を感じさせるんですよ。その中で唯一グループ名を意識して聴いているのはビートルズで、僕の初舞台のタイトルも『ラヴ・ミー・ドゥ』でした。

 

──ビートルズのデビューシングルで、今回の舞台のセリフにも出てきますよね。初めて『スライス・オブ・サタデーナイト』の台本を読んだときの印象はいかがでしたか。

 

一色 率直に言うと難しいと思いました。難しい内容ではないからこそ難しいというか。「CLUB A Go-Go」というクラブで起きる一夜の物語ですが、登場するティーンエイジャーにとっては毎週来ている場所で、その一夜を切り取っています。各キャラクターのエピソードが断片的に描かれていて、一見するとオムニバス的なんですが、これまで上演されてきた『スライス・オブ・サタデーナイト』のどれよりもサブテキストが細かいのではないかと。だから結果的にオムニバス的にはならず、きちんと彼ら彼女らティーンたちの成長物語の一夜が描かれているなと感じました。

 

──一色さん演じるエディはヤク中の不良でありながら、どこか憎めないキャラクターです。

 

一色 ドラッグに手を出している人物をステレオタイプに演じると、へべれけで千鳥足みたいなのを想像すると思います。でも僕が着目したいのは、どうしてドラッグに手を出してしまったかということ。エディという人物を形成したのは、この舞台で描かれている土曜の夜ではなくて、その他の週6日の時間だと思うんです。だから自分の中でサブテキストを細かく作ったんですが、彼がドラッグに手を出した理由は、悲しいのか、別にそうでもないのか……その中間を僕は狙っています。

──そもそもドラックの影響を受けているシーンも少ないですしね。

 

一色 今回、舞台上にいるんだけどセリフがないときの芝居を、みんなで「オフ芝居」と呼んでいるんですが、芝居のメインは下手で行われているけど、ずっと上手にいるみたいなシーンがあって、そこで少しだけドラッグの中毒症状を入れています。あとは川平慈英さん演じるクラブオーナーのエリックは、エディがヤク中であることを理解しています。だからエリックと会話するところで、肉体的な中毒症状を表現しています。

 

──役のバックグラウンドをご自身で膨らませているんですね。

 

一色 稽古の序盤に庸泰さんから、当時のイギリスの文化的背景をお聞かせいただいたんですが、ほぼほぼ役作りは任せていただきました。

 

──今回生バンドで演奏されますが、どんな音楽になるのでしょうか。

 

一色 曲数は31曲もあるんですけど、当時の音楽はビートルズぐらいしか知らない僕ですら、どこかで聴いたことがあるなという曲ばかりなんです。その感覚を解き明かすために、音楽監督の大嶋吾郎さんが1時間ぐらいかけて、座学で当時の音楽史を教えてくださって。このナンバーは、この曲のオマージュであるというのも解説してくれました。エディはアニマルズが大好きだけど、石川新太くん演じるテリーはモッズが好きだったりする。音楽史的には「モッズあってこそのアニマルズ」なので、テリーの音楽嗜好には反論できないよね、みたいなことも教えていただきました。

 

──ロックの知識が豊富だと、その辺の細部も楽しめますね。

 

一色 今回と同じシーエイティさんプロデュースの舞台に『BACKBEAT(バックビート)』がありますけど、あの舞台はまさに60年代を切り取った、しかもビートルズに着目した作品。だから『BACKBEAT』をご覧になって、もっと当時の音楽史を知りたいと思った方にも馴染みの良い言葉と音楽がたくさん出てくるはずです。

 

──稽古場の雰囲気はいかがでしょうか。

 

一色 本当に楽しくて、文化祭みたいな雰囲気です。あと今回は主演の河下楽くんと熊谷彩春ちゃん、僕と高田夏帆ちゃんという感じで、各々カップリングがあって、カップル同士で建設的な話し合いができているなと感じます。日々、二人で話し合っていくうちに、対話の温度も変わっていくんですよ。最初は初めましてということもあってお互いに気を遣うんですけど、どんどん会話のトーンが低くなっていく。話している音色が低くなっていくのって気を許した証拠だなと思うんです。僕も夏帆ちゃんとはたくさんお話しさせてもらっています。

 

高校時代は部長として陸上部の部員を意識改革

──一色さんのティーンエイジャー時代のお話を伺いたいんですが、高校時代に打ち込んでいたことは何ですか?

 

一色 僕は陸上競技をずっとやっていたんですけど、高校3年生のときは陸上部の部長をやっていて。「脱いだジャージは畳め」とか、「靴を揃えろ」とか、「先生には何度でも挨拶していいんだから、一日何度でもしろ」とか、競技のことよりも、マナーなどに口うるさい部長でした(笑)。

 

──高校生でマナーに厳しいって珍しいですね。

 

一色 応援されるチームになりたかったんです。この記事を部活の先輩が見たら申し訳ないんですけど……。当時、僕が通っていた学校の陸上部は、めちゃめちゃ競技に強かったんです。ところが、それこそジャージをほっぽり出して競技に出るとか、自分たちの仲間の選手が競技をしていても応援に行かないとか、集団としてどうなんだろうという点が多かったんです。神奈川県大会だと他の学校とは敵対関係ですけど、関東大会になると、神奈川県同士として一致団結しなきゃいけなかったりする。でも、うちの高校だけそれに馴染めなかったり、他校の先生から「どうなんだろうね」って首を傾げられたりしているなって、高校1年生のときに感じていて。だから、僕は自分の競技人生は正直いいから、部長になって、この部活を変えてみたいという野望が芽生えたんです。

 

──ご自身から部長に立候補したんですか?

 

一色 そうは言っても、自分でなれるものではなかったので、とにかく日々の素行を良くするという立ち振る舞いをしていました(笑)。

 

──実際に一色さんが部長になって、部員の意識は変わったんですか?

 

一色 自慢みたいになってしまいますが、僕らが高校3年生で引退する頃には、他校の先生から「変わったね」と言ってもらえましたし、うちの高校がやっている応援の仕方を他校が真似てくれることもありました。

──部員も一色さんの方針に好意的だったんですね。

 

一色 ただ一人だけ、僕の方針に反抗していた選手が同級生にいたんです。それこそ僕が「ジャージを畳め」と言っても、「それよりも競技のほうが大事だろう」と反抗し続けていました。ところが高校3年生の部員にとって引退試合となるインターハイの試合で、選手紹介のときに、彼がちゃんと服を畳んでいるところがテレビに映ったんです。僕も同じ会場にいたんですが、彼の私物が仕舞ってある籠にジャージから何から全て綺麗に畳んであって。それを見たときは、本当にうれしかったです。その後、彼は110mハードルでロンドンオリンピックにも出場しました。

 

──そこまでマナーに気を遣っていたのは、ご家族の影響ですか?

 

一色 いえ、親は特にうるさいわけではなく普通でした。ただ中学校の陸上部が厳しくて、「良い競技者である前に良い人間であれ」みたいなことを常に言われていました。その考え方に僕自身が納得できていたので、中学で学んだことを、高校でも生かしたいなと勝手に思っていたんです。

 

──陸上部での経験は今の仕事にも活きているのではないでしょうか。

 

一色 衣装や小道具など、物を大事に扱うという精神は、もちろん活きています。あと陸上競技をやっていたときに、自分では「気づき力」って呼んでいるんですけど、いろんなことに気づく力みたいなものも培われたと思います。

 

──具体的にどういうことでしょうか?

 

一色 僕は大学で演劇を始めたんですが、最初にやったことはスタッフ側だったんです。役者がやりたくて早稲田大学の演劇研究会に入ったんですけど、最初は先輩の公演を支えなければいけないという立場にあるので、音響や制作、舞台美術などを経験しました。最初はどうして役者をやらせてもらえないのかという気持ちも強かったんですが、周りを知ることで意識も変わったんですよね。どうやって舞台が作られているのか、どのようにチケットが出回って、どのように売られていくのか、なぜスピーカーはそこに吊られているのか、なぜ照明はこの向きで吊られているのか、どうしてケーブルは裏でこう這わせなければいけないのかと総合的に学べたときに、舞台が総合芸術と言われる理由がよく理解できたんです。役者だけをやっていたら、絶対に分からなかったことですからね。それも陸上部で気づき力を養わせてもらったからこそ、舞台業界に入ってからも、いろんなことに気づかせてもらえたのはあるかもしれません。

 

──舞台を俯瞰して見られることで、お芝居に役立つ部分も多そうですね。

 

一色 よく「第三の目を持ちなさい」なんて言いますけれども、それは客席から自分を見る目ということだと思うんです。それを特に鍛えさせてもらったなと思ったのは、音響のオペレーターをやらせてもらったときです。毎日、客席の一番上に立って俳優の芝居を見て、音楽を流し、そのパラメータを上下するということをやっていると、こういう芝居が音楽を呼びやすいんだなとか、お客さんの体感リズムを良くさせてくれる俳優の演技はこうなんだなとか、照明にうまく当たるにはこうすればいいんだとか、毎日一番いいところから先輩たちの演技を見させてもらった分、たくさんのことを学びました。

 

役者を志したきっかけになった高校の文化祭

──最初に観た舞台は覚えていますか?

 

一色 最初に観劇したのは6歳のときで、地球ゴージャスの第2回公演『紙のドレスを燃やす夜 〜香港大夜総会〜』(97)をシアターコクーンで観たんですが、そのときの感想は「こんなに大きい音がする場所があるんだ」ということと、「大勢の人が笑っている」ということ。歌もダンスもあるので子どもでも分かりやすいですし、みんなが笑うと空間が揺れるのが面白くもあり、ちょっと怖さもありました。

 

──舞台は小さい頃からお好きだったんですか。

 

一色 父の一色伸幸が脚本家なので、舞台が面白いというよりは、父の仕事場に連れて行ってもらっているみたいな感覚でした。劇団四季の『ライオンキング』も観に行きましたし、演劇だけではなくSMAPさんのコンサートにも連れて行ってもらいましたし、ドラマとか映画の撮影現場にも連れて行ってもらって、皆さんにかわいがってもらった記憶があります。

 

──お父様は映画やドラマなど映像作品を中心に活躍されていますが、一色さんは俳優を志したときから、舞台を中心にやりたいと考えていたんですか。

 

一色 当時はお芝居というとドラマや映画の印象が強かったんですが、演じられたらいいやと思っていたので、特にこだわりはなかったです。いろいろあってお芝居をやりたいと思ったとき、父に相談したんですが、今でも鮮明に覚えていて。父の書斎に行って、「役者をやりたいんだけど」と言ったら開口一番、「やってもいいけど舞台からやりなさい」と言われたんです。それには二つの理由があって、まず一つはテレビやスクリーンといったフィルターを通さずに、目の前のお客さんを笑わせたり、感動させたりできるような人になりなさいということ。もう一つは舞台というものが一体どうやって作られているのかをゼロから知れて、自分たちでやれる場所に行きなさいということ。それで早稲田の演劇研究会に入ったんです。

 

──どうしてお芝居に興味を持ったんですか。

 

一色 幼少期は極度の恥ずかしがり屋で、初対面の大人と接するときは、マンガみたいに父や母の後ろに隠れるみたいなことをやっていた子どもでした。ところが父が脚本家だと、そうもいかなかったんです。小学校だとお楽しみ会、中学高校だと文化祭と、学校で劇をやる機会ってあるじゃないですか。そうすると必ず「お前のお父ちゃんは脚本家なんだから脚本を書け」って言われるんですよ。

 

──一色さん自身が書いているわけじゃないのに(笑)。

 

一色 そうなんですよ。しかも、みんな主人公は恥ずかしがってやらないから、「主人公もやれ」と言われて、小中高とずっと脚本と主人公を担当させられてきたんです。

──それは大変ですね。

 

一色 ただ高校生になると、意識も変わって、男子校だったんですけど、やたらとイケメンが集まる高校で、関東で一番女子高生が集まる文化祭と言われていたんです。確か二日間の来場者数は4万人ぐらいでした。

 

──とんでもない規模ですね!

 

一色 だからモテそうな出し物でもやれば良いのに、なぜか全クラス芝居をやるんですよ。そういう伝統みたいなものが続いていたから、学校の地下室には100台ぐらいピンスポットがあって、好きなものを使っていいよと。それで毎年、各クラスが芝居を上演するんですけど、お客さんの投票によって良かったクラスが決まって、企画賞という賞状をもらえるから、張り合いが出るんです。これも自慢になってしまいますが(笑)、僕は1年、2年と脚本と主演を担当して、連続で企画賞を獲ったんです。

 

──1年生から頭角を現していたんですね。しかも2年連続で企画賞!

 

一色 みんなが「一色と同じクラスになると企画賞が獲れる」って言ってくれるようになったんですけど、3年生のときは、そのプレッシャーに負けて、三谷幸喜さんのマイナーな作品をパクって脚本にしたんです。そりゃあ三谷さんの作品ですから、みんなが「面白い!」って絶賛でした。でも稽古をしていくうちに、それに耐えられなくなったんです。盗作で企画賞を獲ってうれしいはずがないと気づいて、ある日の放課後、みんなを集めて泣きながら「実は盗作だったんだ。だから、もう一回、俺にオリジナルで書かせてくれ」と直談判しました。

 

──とてつもなく勇気のいることですよね。

 

一色 本当に辛かったです。自分の気持ちがどうこうよりも、みんなが授業中も教科書の裏に隠した台本を読んでセリフを覚えているのを、はす向かいの席とかから見ていましたから。でも僕が直談判したら、全員が「いいに決まっているじゃないか。俺たちも一色が書いた脚本で企画賞を獲りたいに決まっているじゃん」と快諾してくれて、そこから急いで脚本を書き上げた結果、3年連続で企画賞を獲ることができました。そのときは大号泣でしたね。

 

──ドラマティックな展開ですね。

 

一色 そのときに忘れられないのが、昼間は動物園みたいにうるさい男子校なのに、劇を作るっていう時間になると、みんなが一言もしゃべらず、セリフを覚えたり、舞台セットを作ったり、照明の当てる練習をしたりという時間があったんです。放課後、秋だから西日が綺麗に差し込む教室の中で、もの作りに没頭するみんなの姿を見たのが、役者を目指す最初のきっかけでしたね。

 

──高校時代って一生懸命やることに照れもあったりしますけど、ものすごい団結力だったんですね。

 

一色 男子校の良さでしょうね。もう一つ、そのときに忘れられない出来事があって。引っ込み思案のNくんというクラスで目立たない存在の子がいたんですけど、みんなに劇で何をやりたいか聞いたときに、「役者をやりたい」「音響をやりたい」と次々と手が挙がる中、彼だけは隅っこで黙っていて、「この時間が早く過ぎればいいな」という雰囲気だったんです。僕は文化祭実行委員でもあったから、彼を先導して「Nくんは何をやりたい?」と聞いてあげなきゃいけない立場だったのに、それを聞くのが怖くて、そっとしておいちゃったんです。そしたらアメフト部のTくんという子が、「俺、Nの描く絵が好きなんだ。だから舞台美術を一緒にやろうぜ」って声をかけてくれたんですよね。そのとき、Tくんは素晴らしい目を持っているなと。

 

──鮮明に情景が浮かんでくるような素晴らしいエピソードですね。

 

一色 先ほど舞台は総合芸術という話がありましたが、自分のできることに心血を注ぐだけではなく、誰かの才能をリスペクトして、適材適所で活かすという姿勢に感動しましたし、今でもTくんには感謝しています。先日出た舞台が僕にとって60作品目だったんですが、そのときの文化祭の光景はいまだに思い出す僕にとっての原風景ですね。

 

 

ミュージカル『スライス・オブ・サタデーナイト』

(STAFF&CAST)
作:ザ・ヘザーブラザーズ
翻訳・訳詞:小田島創志
演出:元吉庸泰
音楽監督:大嶋吾郎
振付:原田 薫
出演:河下 楽(AmBitious)/
神里優希 一色洋平 石川新太 /
黒沢ともよ・ダンドイ舞莉花(W キャスト)熊谷彩春 高田夏帆 田野優花 /
HideboH/川平慈英 ほか

(公演スケジュール)
【東京公演】2023 年 11 月 3日(金・祝)~19 日(日) 有楽町よみうりホール
【大阪公演】2023 年 11 月 21 日(火)~23 日(木・祝))松下 IMP ホール
【仙台公演】2023 年 11 月 28 日(火)~29 日(水) 電力ホール

 

(STORY)
イギリス・ロンドンのはずれのサタデーナイト。地元の人気店「CLUB A Go-Go」は人生の学校、青春の世界。ティーンたちが集い社会のすべてを知るために学ぶ場所。無邪気なリックと優しいシャロン。シャイな二人は互いに好き合っているのに恥ずかしくて言い出せない。気弱なスーは崇拝しているゲリーと付き合っている。けれどハンサムで自信家のゲリーはセクシーで魅力的なペニーや他の女の子にもちょっかいを出す。男の子たちは、粋がっているエディに、クールなリーダー格の女子ブリジットを閉店までに口説き落とせと挑発している。個性豊かなティーンエイジャーたちが織りなすロマンスや葛藤をクラブオーナーのエリックは揶揄しつつも励まし、見守っている。まるで家族のように。1960年代ティーンズのファッションと彼らを取り巻く様々な青い体験をネオノストラジックな30曲超のナンバーに乗せて届ける。

 

撮影/友野 雄 取材・文/猪口貴裕

今注目の若手俳優・青木柚×伊礼姫奈×服部樹咲インタビュー。『EVOL』実写化の役作りは「私生活にも影響が」

現実に絶望し、自殺を図った3人の少年少女が織り成すドラマ『EVOL(イーヴォー)~しょぼ能力で、正義を滅ぼせ。~』がDMM TVで11月3日に配信スタート。原作は漫画家・カネコアツシ氏による人気同名コミック。主人公の3人を演じるのは青木柚、伊礼姫奈、服部樹咲という注目の若手俳優だ。鬱屈した中学生を演じた3人だが、撮影は楽しく行われたよう。撮影中さながらのわちゃわちゃトークで舞台裏から互いの印象、今ハマっているモノまで語った。

(中央)青木 柚●あおき・ゆず…2001年2月4日生まれ。神奈川県出身。2016年公開の映画『14の夜』でメインキャストに選ばれる。映画『うみべの女の子』(2021)、『はだかのゆめ』(2022)、『まなみ100%』(2023)など主演作多数。ドラマ『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(2023・日本テレビ系)ではキーマンとして話題を集めた。主演映画『The Night Before 飛べない天使』が12月15日(金)に公開予定。

 

【青木柚さん×伊礼姫奈さん×服部樹咲さん撮り下ろし写真】

 

「正義ってなんだろう」「とにかくワクワクだらけ」原作の魅力

(左)伊礼姫奈●いれい・ひめな…2006年2月7日生まれ。群馬県出身。4歳から俳優活動を始め、2016年にNHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』にレギュラー出演。2022年には1000名を超えるオーディションで映画『18歳、つむぎます』(2023)の主演に抜擢された。主な出演作にドラマ『推しが武道館いってくれたら死ぬ』(2022・テレビ朝日系。2023年には劇場版が公開)、『離婚しようよ』(2023・Netflix)など。主演映画『シンデレラガール』が11月18日(土)に公開予定。

 

──原作漫画をお読みになった感想からお聞かせください。

 

青木 のめり込むように読みました! 舞台はヒーローが存在する街。ドラマで僕らが演じた3人が命を絶とうとしたときに、特殊能力が芽生えるという設定に引き込まれました。子どもと大人、善と悪といった相反するものたちの葛藤が丁寧に描かれていますし、とにかくワクワクだらけで早く続きを読ませてほしい! と思いました。

 

伊礼 絵も内容も斬新で「何で今まで読んでいなかったんだろう」と思うくらい面白かったです。しかも、いろんなメッセージが込められている。「正義ってなんだろう」と考えるきっかけになるほど、さまざまなモノを受け取りました。この実写化に出演できることが、すごくうれしかったです。

 

服部 私にとっては、漫画の面白さを教えてくれた作品です。初めて全部読んだ漫画が『EVOL』だったので、すごくインパクトが強くて。それまでは「何でみんな、ヒーロー作品にハマっているんだろう」と思っていたのですが、『EVOL』を読んで、メインキャラクター3人の個性が強くて愛おしくて、面白いなと思いました。

 

──原作に思入れが強い分、役作りで特に意識したことはありましたか?

 

青木 みんなビジュアル⾯を意識していたと思います。僕が演じたノゾミは、⽬が隠れるぐらい前髪が⻑く、映像ならではのCGや、マスクや合成などで前髪を短くする案も出ていました。ですが、その前髪もノゾミのアイデンティティーに直結する部分だと思い、こだわりたくて……ヘアメイクさんをはじめとするスタッフの皆さんの⼒をお借りして、前髪の⻑いスタイルで演じることができました。また、⾐装さんも原作そのままのTシャツを⽤意してくださり。チームで作り上げたノゾミだなと感じています。

 

伊礼 私の中でもヘアスタイルが大きかったです。漫画独特の髪型だし、実写化したらどうなるんだろうと考えていました。原作のアカリに寄せるために髪を切り、監督と一緒にビジュアルを作っていきましたね。目の強さを出すために、眉毛の角度にもこだわりました。アカリの表情を出すために、監督からは「もっと睨んで」と言われて。鏡を見てたくさん練習しました、私生活にも影響が出るぐらい(笑)。

 

服部 私も金髪にしたのが一番のポイントです。たぶんアカリはあの髪型にしたことでドーンと落ちたと思うけれど、私は金髪にすることによってギャルになりました(笑)。悪い言葉や勢いよく言うセリフが多く、監督からも「もっとギャルっぽく!」と言われるので、“マインドギャル”というのは保てるように頑張りました。

(右)服部樹咲●はっとり・みさき…2006年7月4日生まれ。愛知県出身。4歳からバレエを始め、国内外で数々の輝かしい成績を収める。俳優デビュー作となった映画『ミッドナイトスワン』(2020)で第44回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。主な出演作に映画『日曜日とマーメイド』(2022)、ドラマ『競争の番人』(2022・フジテレビ系)など。映画『唄う六人の女』(2023)が10月27日(金)に公開したばかり。

 

──伊礼さんのように私生活に影響はありましたか?

 

服部 私は楽しんで生活していました(笑)。

 

青木 チャラかったです(笑)。

 

──撮影中に、一番印象に残っていることは?

 

青木 3人で空飛んだことじゃない?

 

伊礼・服部 あー……(笑)。

 

青木 あ、違うみたい(笑)。ビルの屋上にクレーンを運んで、ワイヤーで釣られて空中から3人で飛び降りたんです。あのシーンをきっかけに3人の距離が縮んだ気がしたけど……2人はどう?

 

伊礼 私はトラックで突っ込んで爆破されて、3人で笑い合うシーン。遅い時間なので寒かったし、撮影は大変だったけれど、ノゾミとサクラを見たときに、私自身も「この2人と、もっといろんなことをしてみたい」ってすごく思えたんです。金子(ノブアキ)さんも好きなシーンだとおっしゃっていました。

 

服部 言われちゃった! 私は3人で走って逃げてからの病院での屋上シーンが印象深いです。クランクインしてそんなに経っていないころで、空き時間が3、4時間あったんです。その間に、コンビニに行ってアイスを買って公園で遊んで。3人が仲良くなったのが、あの日だったと思うから。

 

青木 確かにそうだね。小中学生が遊んでいる公園で、金髪と、キノコと、前髪ギザギザの3人衆が馬の遊具に乗っているっていう(笑)。

 

服部 ブランコに乗ってから楽屋に戻りました。グッと距離が縮まった気がして、すごく楽しかったです。

 

「役者としても人間としても尊敬」高め合う若手俳優たち

 

──俳優としてのお互いの印象はいかがですか? まずは青木さんの印象から。

 

伊礼 青木さんは……って、恥ずかしいな(笑)。

 

青木 良いこと言ってよ!

 

伊礼 私は映画観賞が好きで、柚くんの作品も観ていたので、共演できるのがまずうれしかった。本人にも伝えましたけど、俳優としてすごく尊敬できる方です。実際に共演しても支えてもらいましたし、お芝居を近くで見ることができたのが一番うれしかったです。

 

青木 ありがとうございます!

 

服部 私は……。

 

青木 何詰まってるの!?

 

服部 役者としても一人の人間としても尊敬できました。周りへの気遣い、現場での居方、演技に対する姿勢を学ぶことができたので、感謝していて、仲良くなれたのがすごくうれしかったです。

 

──青木さんと服部さんから見た伊礼さんについても教えてください。

 

青木 アカリは3人の中でも深いところまで落ちていく役柄なんです。その役への密接度がすごいというか。もちろん裏側で伊礼さん自身がすごく落ちているわけではなく、僕らとも仲良く話しているんですけど、絶対に役と切り離しちゃいけない譲れない部分があるんだろうなって感じました。

 

服部 現場ではしんどいシーンを見たことがなかったので、完成作品を観て「こんなの撮ってたんだ!」って驚きました。柚くんの言う通り、アカリの闇の部分を演じる上で、譲れない部分があるのは本当に感じました。

 

青木 集中力の高さを垣間見た気がします。伊礼さんの年齢の頃の⾃分とは全然違ったなと。「無理しないでね」と思ってしまうくらい。自分も見習うべきところだなと思いました。

 

服部 3人で仲良くするときはわいわい楽しくやっているので、切り替えがすごい。3回くらい印象が変わったギャップが多い子です。会う前はしっかりしたイメージが強く、実際に会うとめちゃめちゃ可愛く、今は可愛い部分はそのまま、ひょうきんで面白い子って印象(笑)。

 

伊礼 え、ひょうきん? 今、意味を調べてもいいですか(笑)。

 

──ひょうきんの自覚はないと(笑)。では服部さんはどんな人ですか?

 

青木 自分の意思をしっかり持っているんだなと、表情からも感じました。「原作に忠実に」ということを一番大事に演じていたのが印象的です。服部さんが過去に出演した作品も拝見していましたが、サクラはどの作品とも違う役柄でしたし、素はどんな感じなのだろうとも思いました。一番年下だけど、服部さんに引っぱってもらいながら自分も演じることができた気がします。

 

伊礼 とても頼っていたし、心の癒やしを樹咲に求めていた気がします。現場にいるだけですごく落ち着くし、映像になると画になるし。独特な空気をまとっていて、包んでくれるような優しさを持っている方です。年齢は一つ下なんですけどね。

 

服部 うれしいです! 柚くんが言ってくれた「どの作品とも違う役柄」っていうのは今回、自分ではあまり自信がないところだったので。

 

青木 リップサービス、リップサービス(笑)!

 

服部 うわー残念(笑)!

 

NewJeans、BMSGからスイーツまで。10~20代が熱く語るモノ

 

──撮影中に流行っていたモノ・コトなどありましたか?

 

青木 NewJeansじゃない?(※韓国の5人組ガールズグループ)

 

服部 現場で踊っていたね。

 

伊礼 衣装がNewJeansに似ていて。撮影場所の雰囲気もエモくて、画になるところだったから「なんか踊りたくなっちゃうよね」って。

 

青木 その踊っている姿を見て、ひょうきんだなって思った(笑)。白い衣装と、病院の屋上のちょっと緑赤がかった照明を見て「NewJeansぽくない?」って。

 

──現場がNewJeansのミュージックビデオみたいだったんですね。

 

服部 そう、MVごっこしていました。

 

青木 韓国語も流行ったね。

 

伊礼 樹咲が喋れるんです。それに憧れて、喋れるようになりたいねって。

 

服部 ちょっとずつ教えました(笑)。韓ドラがすごく好きで、1年間ずっと見つづけていたらわかるようになりました。

 

青木 撮影が終わるまでにペラペラになるんじゃないかと言っていたけれど、全然ならなかったです(笑)。

 

──GetNavi webということで、今皆さんがハマっているモノも教えてください。

 

伊礼 ドーナツ! 2人におすすめのドーナツ屋さんを調べてきました! 2人は私よりも甘いモノを食べないタイプなので、甘さ控えめでパンに近い、でもちゃんとドーナツっていう、麻布十番にある「ダンボドーナツ」をおすすめします。

 

──美味しいドーナツは、インターネットで調べるんですか?

 

伊礼 はい。調べて実際に行って食べて、レポートを書いてます。私しか見られないですけど(笑)。

 

青木 えっ、それはお仕事に繋がるんじゃない?

 

伊礼 本にできるくらい食べに行きたいですね。甘いものを手で食べられるのが一番の幸福! 輪っかの真ん中に達する瞬間が一番好きで、そのためにドーナツを食べています。

 

──青木さんと服部さんはいかがですか? 趣味でも!

 

服部 趣味ほどではないけれど、最近始めたのは、おからパウダーで作る蒸しパン。タッパーにおからパウダーと卵、牛乳を入れてチンすればできます。それだけだと味がないから、焼いたお肉や野菜を上に乗せて食べています。

 

伊礼 体に良いコトしてる!

 

服部 手間がかかるから暴食防止になるし、ヘルシーでボリュームもあるんです。作り方はYouTubeで知りました。ダイエット系のパンレシピを上げている方がいて、いろいろ種類があるんですよ。バナナと、自分で作った甘くないクリームを乗せて、ラップで包んで切って断面がきれいなサンドイッチも作りました。

 

青木 僕はBE:FIRSTが所属しているBMSGという事務所です。「Be MySelf Group」の略で、「⾃分が⾃分のまま輝ける場所」という意味もあって。グループはもちろん、同世代のラッパーやシンガー、デビューを控えているトレーニーもいるのですが、その全員が唯⼀無⼆の輝きを持っていて。提供楽曲でさえも、⾃分ゴトのように表現されている様が、脚本を演じる⾃分にとって刺激的で……。

 

伊礼 熱がすごい。本当にハマってるんだね。

 

青木 それぞれの⼈間性が反映された⾳楽がすごく魅⼒的なんです。俳優は⾃分を表現するというより、役と向き合って演じる存在だけど、アーティストは⾃分⾃⾝を表現することが多いじゃないですか。BMSG は「⾃分はこうありたいんだ」っていうものを強く⾒せてくれるんです。

 

──熱く箱推ししてるんですね。

 

青木 BMSG を観ていると「⾃分もこうありたい」と、強く思えるというか。演技をしていないときの、⽇常⽣活の⾃分も⼤事にしたいなと。⾃分を⽀える⼤きな柱の⼀つがBMSG なんです。

 

ドラマ『EVOL(イーヴォー)~しょぼ能力で、正義を滅ぼせ。~』

DMM TV 11月3日(金)配信開始

 

【ドラマ『EVOL(イーヴォー)~しょぼ能力で、正義を滅ぼせ。~』よりシーン写真】

 

(STAFF&CAST)
監督:山岸聖太『正しいロックバンドの作り方』『もっと超越した所へ。』
出演:青木柚 伊礼姫奈 服部樹咲 金子ノブアキ 芋生悠 占部房子 西田尚美・石黒賢(特別出演)安田顕
原作:カネコアツシ『EVOL(イーヴォー)』(ビームコミックス/KADOKAWA刊)
主題歌:Tempalay「Superman」(作詞、作曲:小原綾斗、編曲:Tempalay)

 

(STORY)
世の中に絶望し、自殺を図った3人の少年少女。病院で目を覚ますと彼らの身には、不思議な「異能力」が宿っていた。 その力は「ヒーロー」と呼ばれる、血統でのみ継がれる「正義の味方」しか持ち得ないはずのものだった──。

戸次重幸「西田敏行さんが演じたあの猪八戒を受け継ぐことが、いまだに信じられないです」舞台「西遊記」開幕

1970年代にドラマ化され、一世を風靡した『西遊記』が装いも新たに豪華キャストで舞台版としてかえってくる。片岡愛之助さん演じる孫悟空らと一緒に三蔵法師のお供として天竺に向かう猪八戒役には戸次重幸さん。かつて西田敏行さんが演じ、コミカルさと愛嬌たっぷりの存在感で人気を博したこの役に、果たしてどのような生命を吹き込んでいくのか──。会話の中にも“西遊記愛”と“猪八戒愛”が溢れ出る戸次さんに、舞台への意気込みを伺いました。

 

戸次重幸●とつぎ・しげゆき…1973年11月7日生まれ。北海道出身。1993年、北海学園大学にて森崎博之、安田 顕、大泉 洋、音尾琢真とともに演劇ユニットTEAM NACSを結成。劇作家、演出家、作家、ナレーターとしても活躍。レギュラー番組に「SONGS」(NHK総合/ナレーター)、「おにぎりあたためますか」「ハナタレナックス」(いずれもHTB)など。近年の出演作にドラマ『スタンドUPスタート』、舞台TEAM NACS Solo Project 5D2 -FIVE DIMENSIONS II-『幾つの大罪〜How many sins are there?〜』(作・演出・出演)など。

【戸次重幸さん撮り下ろし写真】

大泉洋とずっと物まねをして遊んでいたぐらい猪八戒が大好きなんです

──絢爛豪華なキャスト陣が集結した舞台『西遊記』が間もなく開幕します。最初に、出演が決まったときのお気持ちをお聞かせください。

 

戸次 純粋に嬉しかったです。僕と同世代の方なら共感してもらえると思いますが、『西遊記』といえば堺正章さん主演のドラマの印象が強く、僕も大好きでした。もちろん、今作は当時のドラマの舞台化ではないのですが、とにかく『西遊記』という作品に携われることが幸せで。しかも、この共演者ですからね。誤解を恐れずに言うなら、お客さま以上に僕自身がこの舞台の稽古と本番を楽しみにしている自信があります(笑)。

 

──このインタビュー時はまだ稽古前の段階ですが、すでに台本は読まれたのでしょうか?

 

戸次 ええ。共演者の方々とも話したのですが、みんな口を揃えて言うのが、“新しい西遊記になっている”ということなんです。二部構成の舞台で、第一部は誰もが知るエピソードが盛り込まれ、第二部は完全オリジナルになっている。特に第二部は“ザ・エンターテインメント”といえるほど、さまざまなキャラクターが登場し、派手な演出も用意されているので、かなりの壮大さと新鮮さを感じていただけると思います。何より、僕が猪八戒を演じるというのが意外ですよね。だって、豚の妖怪なのに太っていないんですから(笑)。その意味では、“もしかして、かなり新しい部分を担っているんじゃないか……!?”という強い重責も感じています(笑)。

 

──猪八戒といえば、やはりドラマで演じた西田敏行さんのイメージが強いです。先日の製作発表の際、戸次さんも猪八戒役の西田さんをリスペクトされているとお話しされていましたね。

 

戸次 子供の頃から大ファンでした。大学時代も、よく大泉(洋)と一緒に物まねをして遊んでいましたね。例えば、美女に出会ったときの福島弁なまりの猪八戒のセリフとか。「あんれ、これまた、めんこい子でね~の」って(笑)。堺さん演じる悟空との掛け合いなんて、極上のコントを見ているようでしたから。それと、大好きだったのが猪八戒の筋斗雲で。彼の雲にはハンドルが付いているんですよ(笑)。で、たいてい黒煙をはきながら墜落していく。「あらぁ、調子悪いなぁ、あら、あら、あらららぁぁぁ〜〜〜」って(笑)。

 

──物まねがどれも激似なのに文字では伝わらないのがとても残念です(笑)。そうした熱い想いを、直接西田さんにお伝えしたことはあるんですか?

 

戸次 これが実はあるんですよ。30歳の頃にTEAM NACSが北海道から東京に進出して、個人としてもいろんなお仕事をさせていただくようになったのですが、僕が初めて東京で出演した舞台をたまたま西田さんが観に来られていたんです。それで、終演後に飲み会を開いてくださって。その後に下北沢のスナックにまでお呼ばれして(笑)。そのとき、ここぞとばかりに僕の“西遊記愛”を語り、当時のいろんなエピソードを根掘り葉掘りお聞きしました。やはり悟空と猪八戒の掛け合いの面白さは堺さんと西田さんのアドリブだったことなどを教えていただき、僕にとっては忘れられない、夢のような一夜でしたね。その西田さんが演じられた役を、約20年後に自分が演じるわけですからね。嬉しさや感慨がありつつ、まだどこか現実味がわかないというのが正直なところです。

 

──そこまで思い入れのある役だと、お芝居にも無意識のうちに西田さんの猪八戒像が滲み出そうですね。

 

戸次 どうなんでしょうね。でも、きっとオマージュ的な部分は少なからず出てしまうと思います。それに、台本を読む限り、マキノノゾミさんが書くセリフにも、“これ、西田さんが漏れ出てるよな……”というところがいくつかあるんです(笑)。ですから、もはや切り離せない部分があるんだと思います。とはいえ、そうやって過去の西田さんの素晴らしい猪八戒の表現を継承しつつ、やるからには戸次重幸なりの新しい猪八戒もお見せしていきたいなと思っています。

 

松平健さんの牛魔王、眼力だけで割り箸程度なら折れそうな迫力

──演出の堤幸彦さんとは2015年の舞台『スタンド・バイ・ユー ~家庭内再婚~』ですでに一度お仕事をされていますね。

 

戸次 舞台はそれ以来になります。ほかの作品でも、ドラマ『ヤメゴク〜ヤクザやめて頂きます〜』でゲスト出演させていただいたぐらいで。

 

──舞台の演出にはどのような印象をお持ちですか?

 

戸次 稽古中、役者に対して、いい意味でどこまで本気か分からない泳がせ方をする方ですね(笑)。「これ、本当に本番でもやるつもりですか?」と聞きたくなるような動きを我々に求めてくるんです。それで結局本番ではやらない(笑)。でも、きっとそれは堤さんの作戦のひとつで。そうやっていろんな方向性のお芝居を役者にやらせることで、最終的に“これしかない”と残る正解を浮き彫りにしていっているんだと思います。ですから、今回もそのムチャブリのような術中にはまりながら、楽しく、いいお芝居を作っていけたらなと思っています。

 

──お話を伺っているだけでも稽古が楽しそうです。

 

戸次 すごく楽しいですよ。でも、怖さもあります。というのも、堤さんは特に僕で遊びたがるんですよ(笑)。僕がなんでも言うことを聞くと思っているのか、“それ、絶対に作品を壊しちゃいますよ!?”というような演出を要求してくるんです(笑)。

 

──それだけ信頼が厚いということなんでしょうね。

 

戸次 どうなのかな(笑)。でも、そうだとしたら、役者にとってこれ以上嬉しいことはないですね。

 

──また、孫悟空を演じる主演の片岡愛之助さんとは昨年、舞台『奇人たちの晩餐会』で共演されました。そのときの印象はいかがでしたか?

 

戸次 皆さんがイメージされる、そのままの方です。裏表がなく、ユーモアがあって、それでいてお名前のとおり愛に溢れている。我々役者やスタッフたちだけでなく、お客さまのことをすごく愛していらっしゃって。また、御本人もおっしゃっていたことですが、愛之助さんは父子相伝で歌舞伎役者になられたわけではなく、養子として歌舞伎の世界に入られた方なので、役者の仕事が出来ることに対して感謝の気持ちでいっぱいなんですよね。だからこそ、誰に対してもとても優しく、愛に満ち溢れていらっしゃるんです。

 

──そんな愛之助さんが演じる孫悟空がとても楽しみです。

 

戸次 まだ稽古前ですが、僕の中ではすでに明確なイメージが出来あがっています。きっと朗らかさがあり、陽気な孫悟空になるのではないかなと。それに、マキノさんが書かれる悟空はすごく頼れる男なんですよ。それがとにかくかっこいい。堺さんが演じられた悟空もかっこよかったですが、お師匠さんを大事にしつつ、ちょっと暴れん坊のイメージがあったと思うんです。でも、今回の悟空にはハードボイルドさがあって。それを愛之助さんがあのミステリアスな笑顔で演じるわけですから、想像するだけで楽しみです。なんといっても、僕は笑顔の信用できない役者さんが大好きなので(笑)。

 

──(笑)。その嗜好はいろんなところでお話しされていますね。ご自身が作・演出される舞台のキャスティングでも“笑顔の信用できない役者を選ぶ”とよくおっしゃっています。

 

戸次 ええ。愛之助さんはその筆頭ですから(笑)。もちろん、これはお芝居の上での話ですし、僕にとっては最大級の褒め言葉です。本当に心から笑っているのか、それとも裏で何かを企んでいるのか……。そうやって勘ぐって見てしまうような演技をされる方が大好きで。その意味でも、愛之助さんはきっとこれまでにない悟空像を見せてくれるのではないかと思います。

──ほかにも、三蔵法師役の小池徹平さんや沙悟浄役の加藤和樹さんなど、豪華な旅の一行になっていますね。

 

戸次 お二人とも初共演なんです。ですから、どんな稽古になるのか楽しみですね。僕は本番以上に稽古が大好きなタイプなので、今からワクワクしています。また、『西遊記』のいちファンとして楽しみにしているのが松平健さん演じる牛魔王です。製作発表の場で初めてお会いしたのですが、存在感といいますか、醸し出すオーラや圧が半端なくて。目をカッと見開いたら割り箸程度なら折ることができるんじゃないかと思えるほどでした(笑)。まさに、牛魔王ですよ(笑)。それにキャラクターの設定も素敵なんです。台本を読むだけでも、人間の弱さを持った牛の妖怪という感じがして。それを松平さんがさらにどのように表現されていくのか、楽しみは尽きないです。

 

──牛魔王との立ち回りはあるんですか?

 

戸次 それについては本番までのお楽しみということで(笑)。ただ、猪八戒の殺陣はふんだんにあるということはお伝えしておきます。とはいえ、ちょっとだけ僕のなかで不安要素がありまして。日本刀を使った立ち回りは大好きですし、得意でもあるんですが、猪八戒が持っているのは鍬なんです。ビジュアル撮影のときに持ってみたのですが、これがとてつもなくバランスが悪い(苦笑)。日本刀は剣先が軽くて柄が重く、すごく振りやすい構造になっているのに対して、鍬は先端が重いんです。農具なので当然なんですが、これまで培ってきた殺陣のノウハウが生かされるかどうかが怪しくて。もしかすると、本番では撮影時のものとは違う鍬を用意していただけるのかもしれませんが、そこは課題の一つだなと感じています。

 

──なるほど。そのほか、稽古以外で楽しみにされていることはありますか?

 

戸次 やはり、稽古後の飲み会でしょう! と言いつつ、ここにも一つ懸念材料がありまして。今回はアンサンブルの方が18名もいるんです。さすがに全員を引き連れてお店に行くのは無理なので、どうしようかなと頭を悩ませています(笑)。

 

──稽古後の飲み会でのコミュニケーションは大切ですし、ちょっとずついろんな稽古場でも、そうした時間を作ることが解禁されてきていると聞きます。

 

戸次 そうなんです。それに、こうした飲み会を開くのは年上の義務だと思っているんです。というのも、以前、中井貴一さんと舞台で共演させていただいたとき、何度も飲みに連れていってもらったんですね。そのたびに恐縮していたのですが、貴一さんが言うには、「僕たちも先輩たちにたくさん奢ってもらってきて、その御礼をシゲたちに返しているだけだから」と。「だからシゲにも後輩ができたら、俺への御礼として後輩たちに同じように奢ってあげな。役者の付き合いってそういうものだから」とおっしゃったんです。その言葉が僕のなかに金言として残っていて。だからこそ、若い子たちを飲みに連れていきたいと思っているんです。とはいえ、もしかしたら、そもそも僕と飲みたくないと思っている人もいるかもしれませんけどね(笑)。そこは稽古を通して、探っていきたいと思っています。

 

今、“張り子”に多大な可能性を感じています

──ここからは、GetNavi webということで家電やマイブームのお話もうかがっていきたいのですが、最近購入されたガジェットなどはありますか?

 

戸次 直近だと、iPhone 15を発表されたと同時に予約して、すぐさま購入しました。もちろんPro Maxです。なぜかって? 老眼だからです(笑)。もう、Pro Maxのサイズじゃないと見えづらいんですよ(苦笑)。フォントの設定も、最大の大きさから2段階下ぐらいのサイズにしていて。妻からは、「文字でかっ! らくらくホンか!」ってツッコまれました(笑)。

 

──(笑)。スマホは新機種が出るたびに買い替えるほうですか?

 

戸次 いえ、そんなことないです。今回もiPhone 12からの買い替えなので、久々に新調しました。ストレージ容量はいちばん大きな512GBにしていますね。どうしたって家族の動画や写真が増えていきますから。今、1人目の子が小1なんですが、以前は写真をメインで撮っていたんです。でも、どんどんとカメラが高性能になっていったので、これはもう絶対に動画のほうがいいなと思い、最近は動画撮影が中心になっています。ですから、正直に言うと、512GBでも足りないくらいで。きっと近い将来は1TBとか2TBが標準装備になっていくでしょうし、もしそうなれば、子どもたちが生まれて成人するまでの成長の軌跡や記録を常に手元に持っていられるようになる。本当に便利な時代になったなと思います。

 

──では、最近はまっている趣味などは?

 

戸次 この前、息子が誕生日でNintendo Switchを買ってあげたんですよ。僕も人生で初めてマリオカートをやったんですが、ものすごくはまってますね(笑)。どうしてもコンピューターに勝てなくて、息子と2人でムキになってやっています(笑)。それと、最近になって始めた趣味といえば張り子です。

──張り子って、あの張り子ですか?

 

戸次 そうです。ダルマとか赤べことかの。これも家庭の話で恐縮なんですが、もともとは息子が自由研究の工作として張り子を作っていて、それを手伝ったことがきっかけだったんです。そしたら、息子以上に僕自身がのめり込んでしまって。

 

──張り子というと小学生の頃にお面を作った記憶がありますが、製作の過程は同じなのでしょうか?

 

戸次 基本は同じです。ただ、きっとそのお面は風船に新聞紙や和紙を貼って作っていったと思うのですが、本格的なものは木彫りの型を使うんです。この型が何よりも大事なんですよね。今、非常に張り子の可能性を感じています(笑)。

 

──完成したものはどこかで発表されるんですか?

 

戸次 せっかくなのでSNSなどで披露していこうかなと考えています。そのためだけにInstagramを開設しようかなと。やはり、誰かに見てもらうことでモチベーションも上がりますから。

 

──お会いするたびに趣味が増えていっているようですし、日々の生活を謳歌されていますね。

 

戸次 のめり込むとはまっちゃうタイプなんですよね。ここまで来たら、あとはもう作業場の確保ですね。アトリエを手に入れたい。それが今の一番の夢ですね(笑)。

 

 

日本テレビ開局70周年記念舞台
『西遊記』

(STAFF&CAST)
作:マキノノゾミ
演出:堤 幸彦
出演:片岡愛之助、小池徹平、戸次重幸、加藤和樹、村井良大、藤岡真威人、中山美穂、松平 健 ほか

(公演スケジュール)
大阪公演 2023年11月3日(金・祝)〜5日(日)オリックス劇場
福岡公演 2023年11月10日(金)〜23日(木・祝)博多座
名古屋公演 2023年12月27日(水)〜2024年1月2日(火))御園座
東京公演 2024年1月6日(土)〜28日(日)明治座

<札幌上映会&スペシャルトーク>
12月16日(土)、17日(日)カナモトホール(札幌市民ホール)

公式サイト https://saiyuki-ntv.jp/

 

撮影/小澤正朗 取材・文/倉田モトキ

本業そっちのけ!? 100台以上のレトロ自販機を稼働させる社長の変態的愛情に、玉袋筋太郎も感服

〜玉袋筋太郎の万事往来
第29回ラットサンライズ社長・斎藤辰洋

 

全日本スナック連盟会長を務める“玉ちゃん”こと玉袋筋太郎が、新旧の日本文化の担い手に話を聞きに行く連載企画。第29回目のゲストは、神奈川県相模原市で中古のタイヤとホイールの販売店「中古タイヤ市場」を運営する一方で、店舗の側で100台以上のレトロ自販機を稼働させている有限会社ラットサンライズ社長の斎藤辰洋さん。昭和の息吹を感じさせる自販機の数々に、若かりし日の玉ちゃんの記憶が蘇る!

 

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:猪口貴裕)

入手した自販機を2年がかりで直すことも珍しくない

玉袋 今やレトロ自販機の聖地となっている中古タイヤ市場さんですが、先ほど周辺を歩いたら、海外からのお客さんもたくさんいました。なぜタイヤ転がし屋から、レトロ自販機を転がそうと思ったんですか?

 

斉藤 もともとは趣味なんですよ。最初にネットオークションで買ったのが瓶のコーラの自販機で、それからコツコツ自販機を集め始めたんです。

 

玉袋 瓶の自販機といえば、子どものころに悪さをしたなぁ。金を入れて扉を開けたときに2本同時に取るなんてハッキングをしてましたよ。パチスロの目押しみたいなもんでね。あと、栓抜きの下に王冠が落ちるじゃないですか。当時は裏に「あたり」がついた王冠があってキャッシュバックできるんだけど、落ちた王冠は手で取れないから、糸に磁石を括りつけて吊り上げていくんだ。スーパーカーブームのときはスーパーカー、『スターウォーズ』1作目公開のときはスターウォーズのキャラクターが裏に印刷されていて、それも集めたね。タバコの自販機なんかもさ、硬貨にママレモンをつけて機械をバカにするとかさ。まあ昔の話だから時効だ(笑)。そうやって社長は自販機を集めて、倉庫なりに置いとくじゃないですか。でも、どうせなら販売したいって気持ちになったんですか?

 

斉藤 集めた自販機を会社の駐車場に置いといたんですが、従業員に「車を停めるところがなくて困る」と言われたんです。ただ壊れた自販機ばかりだったので、どうしようかなっていうことで、専門家の知り合いがいたのでお話を聞いて、自分で直し始めたんです。

 

玉袋 メンテナンスも自分でやったんですか。本業がタイヤ屋さんだから、技術も工具もあるしね。

 

斉藤 技術はなかったんですけど(笑)。道具はいろいろあったんで、動くようにして。本業でお客さんを待たせてしまうので、その自販機を設置したら、思いのほか喜んでもらえて。そのうちタイヤのお客さんだけじゃなくて、一般のお客さんも来るようになって。それで調子に乗って、どんどん自販機を買って、並べて設置するようになったんです。

 

玉袋 面白いね! 幾らぐらいで落札したんですか?

 

斉藤 趣味で買っていたころは、5万とか、10万とか、自分の小遣いで買える程度だったんですけど、どんどん価値が上がっちゃって、今はとても買えないですね。古い自販機は縁がないと入手できないことも多くて、特別に譲ってもらうこともあります。

 

玉袋 買ったけど修理できなくて、諦めた自販機もあるんですか?

 

斉藤 ほぼほぼないですね。なんとか直しています。2年がかりで直すことも珍しくないです。

 

玉袋 すげー! クラシックカーみたいなものだよね。古いものを大切にするのは素晴らしいことだよ。パチンコ台のコレクターとかもいるしね。

 

斉藤 自販機なんて、そんなにコレクターがいないと思っていたら、結構いるんですよね。

 

玉袋 ここで一番古い自販機は何ですか。

 

斉藤 おそらくガムの自販機で昭和35年製です。

 

玉袋 俺が子どものころ、お袋がガムの自販機の横に座って、お金を崩して、それを入れるアルバイトやってたみたいな話を聞いたことあるな。板ガムって、まだ売ってるんだね。一番売れているのはクールミント?

 

斉藤 うちでは梅ですね。

 

玉袋 梅ガムも昔からあるもんな。今、何台ぐらい稼働しているんですか?

 

斉藤 確か112台ですかね。

 

 

玉袋 すごい! それぞれに玉(商品)を入れなきゃいけないわけでしょう。

 

斉藤 補充作業は一日がかりですね。

 

玉袋 112台もあったら、それぐらいかかるよね。友達の親父が大工でさ、自分ちの敷地内に自動販売機が置いてあって、子どものころに自慢されたよ。自販機って買い取りなんですかね。コインパーキングの横とかにも自販機があるじゃない。

 

斉藤 それはレンタルですけど、昔は買い取りが多かったと思います。

 

玉袋 ぐるぐる渦になって、そこにパンとかが置いてあって、ボタンを押すと前に出てきて落っこちて来る自販機がありますよね。

 

斉藤 スパイラルですね、

 

玉袋 やっぱ名称があるんだ。昔の自販機のままだと、当時のお金しか使えないでしょう。

 

斉藤 今のお金を使えるように、そのパーツを丸ごと取り換えるんです。

 

うどんやラーメンは自社製造。ハンバーガーは特注

玉袋 カップ麺の自販機を見ると思い出すのが『トラック野郎』でさ。桃さん(星桃次郎)も、やもめのジョナサン(松下金造)も、自販機でカップ麺を買って手繰っているシーンがあるじゃない。国道沿いなんかにズラーっと自販機が並んだ施設に名称がありましたよね。

 

斉藤 オートレストランですね。

 

玉袋 そうそう! 自販機からお湯が出るっていうのも斬新でしたよね。

 

斉藤 あれは自販機の中でお湯を沸かしているんです。

 

玉袋 水道から水を引っ張って?

 

斉藤 そうですね。

 

玉袋 子どものころ、ずーっと押しっぱにしていたらお湯が空になった記憶があるんだけど、あれはどういうからくりだったんだろうな。

 

斉藤 たぶん温度が下がると水も止まるんです。

 

玉袋 なるほどね。調理した生の食べ物を販売している自販機もたくさんありますけど、レトロ自販機の代表格でもあるうどんの自販機はどこが作っているんですか?

 

斉藤 うちにあるのは富士電機ですね。川鉄計量器(現・JFEアドバンテック株式会社)やシャープも出していました。

 

玉袋 ハンバーガーの自販機は?

 

斉藤 製氷機なんかも出しているホシザキ電機ですね。

 

玉袋 あのホシザキなの? うちのスナックでも使っているよ。昔、神宮球場の草野球場の横にハンバーガーの自販機があってさ、野球を観に行くときによく買ってたよ。出てくるまで、ちょっと待つんですよね。

 

斉藤 60秒ですね。

 

玉袋 ハンバーガーの玉はどうしているんですか。

 

斉藤 もう作っているところがないので、近くの食品会社に頼んでいます。

 

玉袋 それはすごい! 自販機のハンバーガーって、マックやロッテリアと違って、パサパサ感があってさ。それも含めて、「自販機の駄目ハンバーガーを食う俺たち」みたいなのが良かったんだ。

 

斉藤 当時のハンバーガーに近づけるために、あえて味もシンプルにしてもらっています。

 

玉袋 うどんやラーメンの玉はどうしているんですか?

 

斉藤 うちで作ってます。

 

玉袋 ええ!? 本業タイヤ屋さんじゃないの? 頭おかしいよ(笑)。

 

――専門のスタッフがいらっしゃるんですか?

 

斉藤 いますし、僕も作っています(笑)。

 

玉袋 ものすごい変態だよ(笑)。もちろん誉め言葉だけどね。それで、うどんは幾らで出してるの?

 

斉藤 300円です。

 

玉袋 リーズナブルだね。うどんには、どんなこだわりがあるんですか。

 

斉藤 25秒で出てくるので、その時間に合わせた麺を取り寄せています。だしは業務用ですけど、いろいろ味見をした結果、比較的いいだしを使っているので、コスパはいいはずです(笑)。よそで作ると運搬の時間がかかるので、自社で作るしかないんです。

 

玉袋 補充も大変でしょうね。何人で回しているんですか?

 

斉藤 3、4人です。

 

玉袋 もはや飲食店じゃないですか(笑)。こないだ、「町中華で飲ろうぜ」(BS-TBS)の取材でママさんがワンオペでやってる中華屋に行ったんだけど券売機が置いてあってさ。「町中華で飲ろうぜ」のロケで券売機のお店って滅多にないから、「券売機は珍しいね」って言ったら、ママが「うちの従業員です」って上手いこと言うんだ。券売機=従業員なんて洒落がきいてるよね。ここも3、4人で回しているけど、それぞれのマシンがお金を生み出して、接客もしているわけだから、従業員の数は相当なものだよ。ちなみにうどんの機械は幾らぐらいで落としたんですか?

 

斉藤 90万ぐらいですね。

 

玉袋 修理に時間がかかっているとはいえ、すぐに減価償却できたでしょう。これだけ、たくさんの商品を扱っていると仕入れも大変だよね。

 

斉藤 相当な数の会社さんから仕入れをしていますし、営業に来られる方もいらっしゃいます。

 

玉袋 仕入れや補充、さらに製造とフル回転で、本業のタイヤ屋は大丈夫なの?

 

斉藤 私に関しては9割方、自販機の仕事ですね(笑)。

 

玉袋 それはマニア冥利に尽きるね。だって、お金を生んでくれるんだから。いろんなコレクターがいるけど、転売でもしない限り、そうそう儲けは出ないよ。修理中の自販機はどれぐらいあるんですか。

 

斉藤 30台ぐらいあると思います。

 

玉ちゃん、少年時代の自販機の思い出を振り返る

玉袋 (自販機内にディスプレイしてある1リットルのコーラ瓶を見て)子どものころ、寒い時期の神宮に行ったときに、この空瓶を持っていって、カップヌードルの自販機のお湯を入れて湯たんぽ代わりにしてたな。新日(新日本プロレス)の第2回「IWGP」のときも、これを持って蔵前まで行ってさ、暴動になったときに空瓶を投げたからね(笑)。お酒の自販機も置いてありますけど、お酒の販売もしているんですか?

 

斉藤 お酒は一般酒類小売業免許が必要なので扱っていませんが、カップ酒と同じような容器に入ったドリンクなどを入れてあります。

 

玉袋 この前、大阪のドヤ街に行ったら、ビールの大瓶が売っている自販機があって、感動したね。昔の女に会ったみたいな気持ちになったよ。お酒の自販機は販売時間も決まっていますよね。

 

斉藤 23時から5時は販売禁止ですね。

 

玉袋 昔、近所に夜中でも買えるお酒の自販機があって重宝したなぁ。あと思い出すのがガキのころ、近所に酒屋があって、酒屋の横に角打ちがあってオヤジが飲んでたわけ。そこに300円ぐらいのおつまみが売っている自販機があって、お金を入れなくても、ボタンを押すとグルーッと展示された商品が回るんだ。

 

斉藤 うちにもありますよ。

 

玉袋 本当? それが楽しくて、ずっと押してた。あとガキのころで言うと、小遣いがねえとさに、お釣りの返却口や自販機の下を見て10円拾ったりしてね。それがエスカレートして、返却口に何か詰めて、お釣りが出ないようにして、後から回収に行くとか。ひどいことをやってたね。いわば俺たちのジャックポット(笑)。エロ本の自販機も懐かしいね。うちの近所なんて、駄菓子屋の横にあったんだから。

 

斉藤 今では考えられないですね(笑)。

 

玉袋 マジックミラーになってて、昼間は見えないけど、夜になると見えるんだ。あるとき、エロ本を買うお金がない奴が、プラスチックの板を割って展示しているエロ本を持って行ったんだ。しばらくしたら、その自販機が復活して、グレーチングみたいな金網が設置してあってね(笑)。そういや、かつて高田馬場にあった自販機で、エロ本が陳列されているんだけど、一か所だけ何も展示されてない番号があって。そのボタンを押すと、月曜発売の『週刊少年ジャンプ』が、金曜日に買えたんだ。いろいろ思い出すね。ここにはレトロゲームもたくさんありますけど、さっきピンボールをやったらコンディションいいですね。たまに温泉場で見つけたらやるんだけど、大体コンディションが悪いんですよ。これも社長がメンテしたんですか?

 

斉藤 ピンボールは業者ですけど、細かい修理は自分でやります。

 

玉袋 100円で腕相撲するのも懐かしいね。昔、河童にボールを当てるゲームもあったな。確かモグラたたきゲームの後に出てきたのかな。モグラたたきゲームなんて劣化しやすいだろうし、まずハンマーがダメになっちゃうんだよね。野球拳もあったね。あれも、くだらなかったんだよ。勝つと女の子が脱いでいくんだけど、最後まで勝つと景品のパンティがコロコロって出てくるんだ。以前、江頭(2:50)と鬼怒川温泉に行ったとき、野球拳のゲームがあったんだ。あいつもスケベだから、パンティが欲しいって5000円ぐらい使ってたよ。普通に買いに行けよって話だけどね(笑)。

 

自販機は我が子のようで情も湧く

玉袋 全国にレトロ自販機を置いている場所があるけど、ここまでの規模って他にあるんですか?

 

斉藤 たぶんないと思います。

 

玉袋 子どもがいたら、ディズニーランドに行くより、ここに連れてきたほうが、よっぽど良い教育になるよ。俺だったら、こっちが夢の国だって言うね。うどんなんてワンコイン(500円)で、200円パックだからね。

 

――釣銭だけでも相当な金額ですよね。

 

斉藤 回収するのに2時間ぐらいかかりますね。重たいですし。銀行に持っていても、結構な手数料がかかりますし。銀行員の方も嫌な顔をします(笑)。

 

玉袋 銀行も、「また社長が来たよ」ってなもんで慣れっこでしょう(笑)。今狙っている自販機はあるんですか。

 

斉藤 直している途中の自販機もたくさんありますし、メンテが必要な自販機もあるので、入れ替え入れ替えていこうかなと考えています。

 

玉袋 ここは24時間営業だから、自販機を人間に置き換えたらブラック企業だ(笑)。だからこそメンテもしなきゃいけないし、そうすると機械でも情が湧いてくるだろうから、かわいい子たちだよね。

 

斉藤 そうなんです。だから、この子たちを乱暴に扱われると腹が立ちますよね(笑)。すぐ壊れるので、手間もかかるんです。

 

玉袋 「この子」ってことは、やっぱり子どもなんだね。社長は車も好きなんですか?

 

斉藤 あんまり興味ないですね(笑)。

 

玉袋 そうなんだ(笑)。今日はレトロ自販機を目当てにやってきたお客さんもたくさん見たけど、往年のスターに新しいファンが付いたりとか、昔の名画や懐メロがリバイバルで人気を集めているのと同じものを感じたね。多い日で、どのぐらいのお客さんが来場するんですか。

 

斉藤 週末は1000人ぐらい。土曜日は渋滞になりますからね。

 

玉袋 すごい人気だ! 本当いい子たちだよ。社長は100人のキャバ嬢を束ねてるようなものだな。まあ売り上げは出してくれるけど、すぐにへそを曲げるからケアもしないといけないし、それだけの労力もあるってことだね。

 

玉袋筋太郎

生年月日:1967年6月22日
出身地:東京都
1987年に「浅草キッド」として水道橋博士とコンビを結成。
以来、テレビ、ラジオなどのメディアや著書の執筆など幅広く活躍中

一般社団法人全日本スナック連盟会長
スナック玉ちゃん赤坂店オーナー(港区赤坂4-2-3 ディアシティ赤坂地下1階)

<出演・連載>

TOKYO MX「バラいろダンディ」
BS-TBS「町中華で飲ろうぜ」
CS「玉袋筋太郎のレトロパチンコ☆DX」
夕刊フジ「スナック酔虎伝」
KAMINOGE「プロレス変態座談会」

田原総一朗「制限のあるテレビの中で、どこまで権力と喧嘩できるかというのが面白い」89歳の田原が次世代に伝えたい“3つ”のこと

田原総一朗、89歳。ジャーナリストであり、作家や評論家としても活躍するが、近年は『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)などのテレビ司会者として知られる機会が多いかもしれない。歯に衣着せぬ物言いで問題の真相に迫り、これまで総理大臣を3人辞めさせてきた田原だが、その思想の根本には「この国を少しでもよくしたい」という真摯な想いがあるという。これまでの半生から、政治論、ジャーナリズム論まで熱量たっぷりに語り尽くした10,000字インタビュー!

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:小野田 衛)

 

田原総一朗●たはら・そういちろう…1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年よりフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。テレビ・ラジオの出演多数。近著に『激論 アメリカは日本をどこまで本気で守るのか?』(ケント・ギルバートとの共著/ビジネス社)、『会社が変わる! 日本が変わる!! 日本再生「最終提言」』(牛島信との共著/徳間書店)など。公式HPX(旧Twitter)

【田原総一朗さん撮り下ろし写真】

偉い人たちが言うことは信用できないなという考え

──お元気そうですね。近著『堂々と老いる』(毎日新聞出版)では「滑舌も悪くなったし、物忘れも激しくなった」などとぼやいていたので、少し心配していたのですが。

 

田原 健康の秘訣は仕事をし続けていることだろうね。やっぱり人に求められているうちが華ですよ。ところで今日は何の取材なの? ジャニーズ問題?

 

──そこはまったく想定していませんでした(笑)。でも、世の中で話題になっているのは事実です。ジャニーズについては、メディア報道のあり方も厳しく問われていますよね。

 

田原 メディアなんて最初から情けないものだよ。特にテレビは全然ダメ! そもそもテレビって免許事業だからね。政府が免許を与えてくれたうえで、彼らは放送できるわけ。だから基本的に政府に睨まれたらおしまいなんですよ。そういった制限のあるテレビの中で、どこまで権力と喧嘩できるかというのが面白いと僕は考えてきたんだけれど。

 

──そこはまさに田原さんの真骨頂でしょうね。ただ一方で若い人の中には田原さんのことを『朝まで生テレビ!』などで知り、番組の司会者として認識しているケースも多いと思うんです。なぜジャーナリストを志したかも含め、今回は今までの歩みを掘り下げていければと考えています。

 

田原 なるほど。そういうことなら、やっぱり太平洋戦争のことに触れないわけにはいかないだろうな。つまり第二次世界大戦だ。今、僕は89歳。日本が戦争に負けたのは小学校5年生の夏休みだった。小5の1学期から軍事教練が始まったこともあり、僕自身は典型的な軍国少年だったんですよ。学校の先生が言ったのは、「この戦争は悪の侵略国であるアメリカ、イギリス、ヨーロッパ諸国を打ち破るものである」と。「アジアは不当にアメリカやヨーロッパの植民地にされている。だからアジア諸国を解放させ独立させるのが、この戦争の真の目的なんだ」という説明だったわけ。

 

──大東亜共栄圏の構想ですか。

 

田原 そうそう。「だから君らも早く大人になって、ちゃんと戦争に参加して、天皇陛下のために名誉の死を遂げなさい」って当然のように言われていたんだから。ところが1945年に終戦になって、NHK(当時は日本放送協会)のラジオから玉音放送が流れ始めた。ラジオのない家も多かったから、近所の人たちもうちに集まって聴いていたことは覚えているんだけど、ノイズが多いうえに言葉遣いも難しくてね……。

それでもわかったのは「敵は新たに残虐なる爆弾を使用して」という原爆投下を指す文言と、「堪え難きを堪え、忍び難きを忍び」という表現。それを聴いた近所の人たちは、まだ戦争が続くものだと勘違いしたくらいだから。

 

──「もっと堪え忍びながら、限界まで戦え!」とも受け取れますしね。

 

田原 ラジオでは「負けました」とはっきり言わなかったから、それですごくわかりづらかったんだよね。だけど、その日の夜になると街に電気がついたので「あぁ、戦争は本当に終わったんだな」と納得した。ずっと戦争中は夜間に電気をつけることができなかったので。

そして問題はここからなんだけど、先生たちは急に手のひらを返したようなことを言いだしたわけ。「実はあの戦争は絶対やってはいけないものだった。戦争は悪だ。完全に間違えていた」って。それは学校だけじゃなくて、ラジオや新聞も同じ。臆面もなく「正しいのはアメリカとイギリス。戦争は悪いものだから、若い人たちは平和のために頑張ってほしい」みたいな主張に変えてきた。

 

──軍国少年にしてみれば、裏切られた気分になるのも無理はありません。

 

田原 偉い人たちが言うことは信用できないなという考えが、ここで芽生えてきたね。さらに混乱するのは、そのあとで朝鮮戦争が起こったじゃない。太平洋戦争に負けたことで「戦争=悪」という考えが浸透したはずなのに、朝鮮戦争の頃になると「戦争反対」と口にしただけで「バカ野郎! お前はいつから共産党員になったんだ!」って学校の教師から怒られる世の中になった。なにしろ当時、戦争反対ということを正面から唱えていたのは共産党だけだったから。そしてアメリカ・GHQは共産党員を追放していった。

 

──いわゆるレッドパージですね。

 

田原 だから僕らの世代というのは、2回も価値観を根本からひっくり返されているんですよ。「こいつらの言うことは信用できない」という不信感が、2回の原体験によって根強く残っているわけ。政治家、学校、新聞やラジオなどのメディア……嘘ばかりついてきたからね、これらの連中は。

そういう中で子供だった僕が不思議に感じたのは、「じゃあ一体、誰がそういったことを最初に言い出したんだろう?」ということ。「やっぱり悪の戦争でした」と言っておきながら、舌の音も乾かないうちに「戦争反対なんてバカか!」と変節して……。こっちとしては一次情報を直接確かめたかった。伝聞・推定は信用できなかった。そこは今でも同じで、僕はオンラインの情報をまったく信用していない。とにかく直接会って確認したかった。

 

一番にあるのは単純な自分の好奇心

──なるほど。そこがジャーナリスト・田原総一朗の原点ということになりますか。

 

田原 そういうこと。僕は、わかったふりをしたくないんですよ。だから、わからないことは本人に直接聞いちゃう。安倍晋三には「なぜ集団的自衛権の行使を認めるんだ?」って疑問をそのままぶつけてしまう。岸田文雄にも「なぜ防衛費を大幅に増やす必要があるんだ?」だったり、「なぜ原発を推進させているのか? 安全だという根拠は?」と直接訊ねるわけです。

 

──それは視聴者や読者のために本人から聞き出すということですか?

 

田原 いや、違う。一番にあるのは単純な自分の好奇心。「視聴者のために」なんて、そんなのおこがましいですよ。

 

──話を学生時代に戻すと、田原さんはジャーナリスト志望であると同時に文学志向も強かったと伺っています。

 

田原 うん、最初は政治やマスコミに対する不信感だとか、社会の真実を追求することを小説を通じてやりたかったんだね。だから高校でも大学でも同人誌を作るようなサークルにいたけど、結局はダメだった。文学というのは、文才のある人が努力することで初めてモノになるんです。でも僕は、はっきり言って文才というものが一切ないから……。

──さすがにそんなことはないと思います。

 

田原 いや、これは本当の話! しかも、その頃に出てきたのが石原慎太郎や大江健三郎だったからね。2人が書いた『太陽の季節』や『死者の奢り』を読んだら、逆立ちしても敵わないなって思った。

 

──のちに石原さんは政治家に転身し、田原さんと対決する場面もありました。

 

田原 要するに石原という男は、小説『太陽の季節』で書いたことを現実社会で成立させたかったんだよ。だけど理想と現実に開きがあるのは当然の話であって、これはなかなかうまくいかなかった。そして政治家として混迷の最中にあるとき、月刊誌で僕と対談をしたんだ。そのときに僕は「石原さん、あなたのことは作家として大いに認めるけど、政治家としてはまったく認めない」って面と向かって言ったんです。政治家失格だとまで僕は言い切った。

当然、その場で大喧嘩になったし、対談自体もギスギスした雰囲気のまま終了。その様子は雑誌にもそのまま掲載された。でも、どういうわけか発行から1週間くらいすると石原の秘書から連絡があったわけ。「あの対談、うちの講演会のパンフレットで再掲載していいですか?」って。つまり大喧嘩したにもかかわらず、内容的には気に入っているみたいなんだよ。

 

──そのあたりは石原さんの度量の大きさなんですかね。

 

田原 そういうことなんだと思う。ちょっと感心したよね。それで改めて会ってみると、「田原さん、ハト派っているでしょ? 俺はあの連中が何を言っているのか、さっぱりわからないんだ。話をしたいから、悪いんだけど紹介してくれないか?」とか言われてさ。

 

──そんなの政治家の仕事じゃないですか! 田原さんが間を取り持つ必要あるんですか?

 

田原 まぁでも頼まれたから、加藤紘一とか小渕恵三とか何人かと話し合うことになったんだけどさ。論争になると、そこでは石原が勝つんだ。やっぱり弁が立つものだから。だけど政治家は相手を論破するのが目的ではなく、政策を遂行しなくちゃいけないわけですよ。それじゃダメだって僕は石原に伝えたよ。

でも、石原は石原なりに命懸けで日本を変えようとしていたのは確かだろうね。そのことはよく伝わってきた。今、同じだけの気迫で取り組んでいる政治家はいないでしょう。

 

──たしかに清濁併せ吞むような臭みのある政治家は減っている印象があります。

 

田原 そこが一番の問題! 結局、田中角栄はどんな手段を使ってでも勝とうとしたわけでしょう。それでカネをバラ巻いた。あるいはカネじゃなくて、圧力で権力を握るタイプもいるけどね。とにかくトップに立つ政治家というのは、反対派を全部説得しなくちゃいけない。安倍晋三は日本を強国にしたかった。だから、そのための手段を択ばなかった。

そして政治の世界にはフィクサーと呼ばれる存在が常にいたんだけど、今はそれがいない。それはなぜかと言うと、総理大臣になったところで理念やビジョンがないからなんですよ。人によっては、小泉(純一郎)内閣のときの竹中平蔵を最後のフィクサーと呼んでいるみたいだけどね。今の時代になって竹中はボロクソ言われているけど、一方で小泉バッシングは起こらない。これも不思議な話で、小泉の命令で竹中は動いたんだから、本当は小泉も同じくらい叩かれるのが自然なんだよ。

 

文章の才能だけじゃなく、就職活動の才能もなかったねぇ

──すみません、石原さんの話からつい再び脱線してしまいました。大学時代の田原さんが文学に挫折したあたりに話を戻したいのですが……。

 

田原 いや、こちらこそ申し訳なかったです(笑)。それで文才がなかったから小説家になることは諦めて、就職のときにマスコミを片っ端から受けたんですよ。朝日新聞、NHK、TBS、日本放送……結果は見事に全滅。文章の才能だけじゃなく、就職活動の才能もなかったねぇ。

 

──田原さんを落とすなんて、ずいぶんマスコミの採用担当も見る目がないですね。

 

田原 今にして思うと、自分が悪いんだよ。面接のときに社会批判ばかりしたものだから、敬遠されたんじゃないかな。それで最終的には岩波映画製作所という会社で働くことになった。ここでは最初、工場建設の過程を記録するPR映画の撮影助手を務めたんだけど、これが本当に失敗続きで……。あっという間に社内で干されて、やることがなくなっちゃった(苦笑)。

 

──不器用というか、要領が悪かったんですかね。

 

田原 そうこうするうちに、いつまでも遊んでいるわけにはいかないということで、今度は『たのしい科学』という日本テレビの子供番組を手伝うことになったんだ。だから、このへんからテレビとの関りができてきたわけ。正直、テレビの世界は岩波映画よりもいい加減だし、自由だと思ったね。すごく可能性を感じた。そうした中で東京12チャンネル(現・テレビ東京)が開局するという話が出たので、「ちょうどいいや」と移籍することになったんです。

 

──テレビマンとしての田原さんは、ラジカルなドキュメンタリーを数多く制作しています。

 

田原 最初は苦労が絶えなかった。なにしろ当時の東京12チャンネルなんて三流局もいいところで、「テレビ番外地」なんて呼ばれる始末。スポンサーもつかないものだから、自分でスポンサーを見つけて番組を作っていたくらいだから。とにかく前提としてあるのは、日本テレビやTBSと同じような番組は作れないということ。だから危ない番組を作るしかない。そのへんは会社の上層部もわかっていたから、放任してくれた部分は多分にあったよね。なので、やりたい放題やった。だけど調子に乗りすぎて、最後は辞めることになった。それが42歳のときかな。

 

──何があったんですか?

 

田原 70年代に起こった原子力船『むつ』の放射線漏れ事故。僕は原発について取材し、テレビとは別に『展望』という雑誌で「原子力戦争」という連載をしたんだ。当時は全国に原発反対運動が広がっていた。だけど一方で原発推進運動というものがあることもわかった。そちらを調べてみると、推進派のバックには電通がいることが判明した。それをそのまま書いたら、大問題になってね。電通は「こんな記事を書くディレクターがいるテレビ局のスポンサーは降りる」と東京12チャンネルに圧力をかけてきたわけだ。

そして自分の上司に当たる部長と局長が譴責処分になった。さらに親会社の日経新聞から来た社長室長が「連載をやめるか、会社を辞めるか?」と迫ってきたから、さすがにもう潮時だなと諦め、フリーランスになったんですよ。

 

──原発の問題は想像以上にデリケートだったということですか。

 

田原 そうだね。それと電通がそこまで強い力を持っているとは思っていなかった。逆に僕の中では電通に対する興味が強くなって、「電通に関する記事を書きたい」っていくつかの編集部に打診したんだよ。どこも返事は渋かったけど、『週刊朝日』だけはOKということになったから連載することになった。ところが連載1回目の原稿を書いた3日後に編集長から連絡が来て、「全部、書き直してくれ」と(苦笑)。

 

マスコミが権力に対して腰が引けていたら話にならない

──そこは本当に聖域なんですね。

 

田原 僕だって別に電通を糾弾したいわけじゃないんだよ。「こんなタブーみたいな扱いを続けていて本当にいいのか?」って問いたかったんです。電通だって「こうしたほうがいい」と考えながら動いているわけでしょ。臭いものに蓋をするっていうのは、どうなのかと思う。

それで『週刊朝日』の件は、二転三転したんだけど結局は原稿をそのまま載せることになってね。さらにそれをまとめた単行本がベストセラーになった。この前の東京オリンピックでも、みなし公務員がどうだとか電通の問題はいろいろ騒がれたけど、それは昔から綿々と続く話でもあるわけです。マスコミが権力に対して腰が引けていたら話にならない。

 

──ディレクター時代の田原さんは、ほかにも「ヒッピーたちの全裸結婚式」「俳優・高橋英二の癌手術から死に至るまでのノンフィクション」「カルメン・マキと天井桟敷の役者との同棲ドキュメント」などの問題作を連発しました。NY郊外のマフィア酒場では、撮影許可をもらうために黒人娼婦と本番ショーを敢行したということもあったのだとか。

 

田原 それくらい過激なことをやらないと、東京12チャンネルは注目されなかったんです。実際、テレビ局に勤めていたとき、僕は2回も警察から逮捕されているから(笑)。それでも会社をクビになることはなかったし、オンエアも予定通りされた。何かあるたびに「コンプラ的に大丈夫か?」って言い出す今のテレビ業界では考えられないことだよね。

 

──テレビ局を退社した田原さんは、当初、雑誌を中心に活躍しました。テレビマン時代は社会ネタ全体を広く扱っていましたが、このあたりから政治にフォーカスしていったような印象があるんですよ。

 

田原 それは、おそらく田中角栄を扱ったことが大きかったんじゃないかな。ロッキード事件後、世の中すべてが角栄を全否定していたでしょう。そんな中で僕は角栄の言い分を5時間のインタビューで聞いたうえで、それを記事にした。実は彼自身はまともにやろうとしていてたんだけど、アメリカにやられてしまったんだということだよね。話として面白いなと思った。

 

──四面楚歌状態だった田中角栄もそうですが、政治献金で騒がれた鈴木宗男やライブドア事件渦中のホリエモン(堀江貴文)などにも田原さんは好意的なコメントを出しています。

 

田原 リクルート事件のときも、江副浩正冤罪論を打ち出したしね。これは弱者の味方をするというより、世論の反対に進むという面が強いかな。今のウクライナとの戦争にしても、世論が全部「ロシアが悪い!」という方向に傾いているときに、あえて鈴木宗男はロシアに行こうとしているじゃないですか。その是非はともかくとして、話は聞いてみたいと僕なんかは思ってしまう。

あと僕が政治を中心に扱うようになった理由としては、能力の問題も大きかった気がする。いろんなことに幅広くアンテナを伸ばすのって本当に大変なことですから。「芸能も扱って、スポーツも扱って……」とやっていくのは想像以上に難しいんです。それと、もうひとつ。政治のことを扱うと単純に視聴率がよかったんだよね。だからテレビ局や編集部が話に乗ってくれたわけで。

 

──それは意外です。『朝まで生テレビ!』なんて深夜枠だし、視聴率は度外視しているのかと思っていました。

 

田原 いやいや、とんでもない! 今でも深夜枠の中で『朝生』は数字がいいほうですよ。他局が0.何パーセントとかいう時間帯なのに、調子がいいときは4~5%いきますから。深夜放送としてはズバ抜けていいはずです。

 

『朝生』は偶然性が重なった部分が非常に多い。スタッフにも恵まれているしね

──そもそも『朝から生テレビ!』は、どういった経緯でスタートしたんですか?

 

田原 『朝生』が始まった97年当時、深夜放送で隆盛を誇っていたのは女子大生がたくさん出演する『オールナイトフジ』(フジテレビ系)。それでテレビ朝日の編集局長から「うちも深夜放送をやりたい。何か考えてくれ」って言われたの。だけど予算的な理由から有名タレントを使うわけにはいかない。ハイヤー代も出せないから、1~2時間で終わるのではなくて始発まで続く番組を作らなくてはいけない。そして深夜でも視聴者に観てもらうためには、内容的にも刺激がないといけない。そういったいくつかの事情があったわけです。

 

──たしかに扱う題材は「部落問題」「新興宗教」「原発の是非」「日本国憲法」など刺激的なテーマばかりでした。

 

田原 でも「天皇の戦争責任」を取り上げたときは、「それだけはやめてくれ!」って編集局長から厳しく言われましたよ。だから「わかった。『オリンピックと日本人』に変更します」ってその場では伝え、新聞のテレビ欄にもそのように打たれた。だけど生放送が始まって30分くらい経ったら、「今日はこんなテーマで討論している場合なのか?」と僕が唐突に問いかけ、CM明けにはそのまま昭和天皇論に移行するという展開になった。完全なスタンドプレーですよ。編集局長を裏切ったわけだから、もうこれで降板になって仕方ないと半ば諦めていました。

 

──局内では大問題になったでしょうね。

 

田原 ところが、このときの視聴率が予想以上によかった。そうすると現金なもので、「大晦日の特番も天皇論でいこう」という話になったわけ。『朝生』はこうした偶然性が重なった部分が非常に多い。スタッフにも恵まれているしね。

 

──思えば『朝生』以前の討論番組って、政治家や有識者など各々が自分の考えをPRするだけでした。おおよそ議論の体をなしていなかったです。

 

田原 別に僕は司会者をやっているつもりもないし、仕切ろうとなんて考えていないの。ただ誰に対しても本音でしゃべるし、嘘がつけない男なのは事実。出演者に喧嘩させようと思っているわけではないけど、話をまとめようとすら考えていない。番組としては、そこがよかったんじゃないかな。あの場は完全な真剣勝負だから、ハプニングやアクシデントも頻出するし。出演者も野坂昭如や大島渚を筆頭に、容赦なくぶつかってくるタイプばかりなものだから。

 

──余計な駆け引きはしないという田原さんの信条が、出演者にとってもプラスに作用しているのでしょうね。

 

田原 そこは大事なポイントだと思う。僕は200人以上の街宣右翼と九段会館で話し合ったこともあるんです。そのときは2時間半以上にわたって「日本をどうしていくべきか?」と議論し、最終的に向こうからは「あなたと考えは違うけれど、国を想う気持ちは同じだ」って言われた。相手が右翼だろうが政治家だろうが同じことですよ。小泉純一郎だろうが、安倍晋三だろうが、岸田文雄だろうが、言うべきことがあれば「あんた、これ間違えているよ」って本人に直接言う。

 

──そうした大物政治家たちも、田原さんの意見を聞きたがっている部分があるんじゃないですか?

 

田原 そこはわからないけどね。でもたとえば安倍さんなんかは、首相だった2013年12月に靖国神社を参拝した。すると、それまでの中国と韓国からの非難に加えて、アメリカからも苦言を呈されたんですよ。そんな中で安倍さんからは「田原さん、もう一度、靖国に行きたいと思っているんだ」って相談されたこともあったの。だけど僕は「絶対にやめろ」って強く言っておいた。

なぜならば彼はA級戦犯として逮捕された岸信介の孫でしょう。さらに第1次政権時から「戦後レジームからの脱却」を謳っていた。でも、それってアメリカから言わせると歴史修正主義という話になる。戦後の対米従属から独立するということは、戦前に戻ると捉えられても仕方ない。「もし安倍政権を続けたいと本気で考えているなら、戦後レジームからの脱却など二度と口にするな。靖国に行くのも絶対にダメだ」って伝えましたよ。本人も「よくわかった」と頷いていました。

 

──そんなことがあったんですね。

 

田原 小泉純一郎が総裁選に出たときのことも印象に残っているね。彼は首相になる前に2度落ちていたじゃない。もし次も落ちたら、政治生命が終わってしまうかもしれない。それで「田原さん、どうしたらいいと思う?」という話になったんだ。

そこで僕が話したのは「今の日本の総理大臣は、結局のところ、田中角栄だ」と。田中派(経世会)の全面支持を受けた人間だけが首相になれるわけだから。そこで彼には「真っ向から公然と田中派と喧嘩するしかない。田中派をぶっ壊す勢いでやるべきだ」と言った。

 

──ひょっとして「自民党をぶっ壊す」という有名なフレーズは、田原さんの提言によるものだったんですか? しかも、それってカメラが回っていないところでの会話ですよね。

 

田原 もちろん。テレビの前であろうとなかろうと、僕が言うこと自体は別に変らないですから。

 

──田原さんは「今まで総理大臣3人を間接的に辞めさせた」と言われることもあります。

 

田原 「間接」じゃなくて「直接」ですよ。具体的には宮澤喜一、海部俊樹、橋本龍太郎。テレビで徹底討論したら、3人ともボロが出て失脚してしまった。だけどそれでどうなったかといえば、結局、日本は変わらなかった。そこは少し反省した点でもあって、テレビでの公開討論じゃなくて、直接本人に伝えるやり方に変えたんです。だから小渕恵三、小泉純一郎、安倍晋三あたりは直接話していますね。

──直接の対話ということは、視聴率にも雑誌の部数にも還元されないですよね。自民党から献金されるわけでもないのに、なぜそんなお人好しみたいな真似をするんですか?

 

田中 「この国をよくしたい」という気持ちだろうね。損得勘定とか考えていたら、こんなことはできないよ。正直に言うと、共産党以外の全政党から「国会議員になってください」って出馬要請されたこともあります。だけど、すべてお断りした。僕は権力なんてまったく関心がないですから。

 

──いやはや、改めてすさまじいバイタリティです。今後、若い世代に伝えたいメッセージはありますか?

 

田原 言いたいことは3つです。1つは言論・表現の自由を守ること。世の中にはタブーなんて存在しません。2つ目は絶対に日本に戦争をさせない。どんな理屈があっても戦争は許されないですから。戦争をしようとする政治家は失脚させるべきです。そして3つ目は野党を強くする。自民党がこれだけ自分勝手な真似をしているのは、野党が強くないからです。アメリカではトランプですら失脚するし、ドイツではメルケルだって辞めざるをえないんだよ?

今日はいろんな話を好き勝手にしたけど、次世代の人たちにもこの3つだけは頭に入れてほしいなと思う。民主主義が機能していない国なら、僕みたいな人間は真っ先に抹殺されているでしょう。だけど僕は本音でぶつかっていけば、人間はいろんな状況を突破できると信じているから。打算もなく好奇心だけでここまで僕はやってきたけど、そういう面で後悔は一切したことがないですね。

 

朝まで生テレビ

テレビ朝日系  毎月最終金曜日深夜放送

<次回の放送> 11月25日(金)テレビ朝日系 深夜1:30~4:25

(文中敬称略)

深川麻衣&大木亜希子「自分で自分のことを勝手に決めつけることが、一番もったいない」映画『人生に詰んだ元アイドルは、 赤の他人のおっさんと住む選択をした』

元SDN48メンバーの作家・大木亜希子さんが自身の体験に基づいて執筆した私小説を映画化した『人生に詰んだ元アイドルは、 赤の他人のおっさんと住む選択をした』が、11月3日(金・祝)から公開。劇中、主人公・安希子を演じた元乃木坂46の深川麻衣さんと大木さんが、セカンドキャリアを歩む元アイドルの苦悩について語ってくれました。

 

【深川麻衣さん&大木亜希子さん撮り下ろし写真】

いい意味で、タイトルに裏切られました

──今回の映画化で、自身の役を深川さんが演じると聞いたときの大木さんの感想は?  いっぽうで初めて原作を読んだ深川さんの感想は?

 

大木 深川さんが出演してくださるという話を聞いたときは、嬉しさのあまり腰が抜けるほど驚きました(笑)。深川さんは私と同じく元アイドルという境遇で、ひそかにシンパシーを感じていました。映画『愛がなんだ』でお芝居を拝見したとき、難しい役柄を繊細に演じられていてすごいなと思いましたし、女優さんとして活躍されている姿を見て励まされていたので、深川さんに安希子役を演じてもらえるなんて、この上ない幸せでした。また、井浦さん演じられるササポンとかけ合わせることで、「どんな化学反応が起きるんだろう?」という期待に胸を膨らませていたのを覚えています。

 

深川 ありがとうございます。原作はすぐに読み終わるぐらい面白過ぎたんですが、いい意味で、タイトルに裏切られたという印象もあったんです。どちらかというと、もっとコメディー寄りで、アイドルだったときの話も描かれると思っていたから。でも、セカンドキャリアで壁にぶつかったり、直面する悩みというのが、ものすごく生々しく描かれていて、そのギャップにグッときました。そんな安希子を自分が演じられるんだということが本当に嬉しくて、撮影に入るのがとても楽しみでした。

深川麻衣●ふかがわ・まい…1991年3月29日生まれ。静岡県出身。2011年から乃木坂46の1期生として活動をスタートし、2016年にグループを卒業。主な出演作に、映画『愛がなんだ』、連続テレビ小説「まんぷく」、大河ドラマ「青天を衝け」、「日本ボロ宿紀行」「特捜9」シリーズ、「彼女たちの犯罪」などがある。Instagram

 

──共同生活をすることになるササポン役を井浦新さんが演じることについては?

 

大木 普段の井浦さんのイメージは幅広い役柄を演じられるかっこいい俳優さんだったので、一体どんな「普通のおじさん」になってくださるのかと思っていたんです。でも、当時のササポンそのままイメージをつかんでくださって、とても感激しました。

 

撮影現場は原作の世界観そのもの

──アイドル時代に「聖母」と呼ばれる癒やしキャラだった深川さんが、逆に中年男性に癒やされる役を演じることについては?

 

深川 これまで演じた役と似ている、似ていないというより、安希子の感情の機微にすごく共感できたこともあり、そのときの安希子の気持ちをどう表現したら伝わるかということを結構考えました。あとは、新さんと実際に向かい合ってみて、生まれるものを大切にしましたし、穐山茉由監督もその空気感を大事に切り取ってくださいました。本当に、みんなで一緒に擦り合わせながら作っていきました。

 

──元アイドルである深川さんが脚本を読んで、共感したセリフやシーンは?

 

深川 安希子は、元アイドルという経歴が今の仕事にプラスになる話のネタだと思っていて。でも取引先の会社の方にはそれがイマイチ伝わっていないシーンは印象的でした。私自身もアイドルグループに属していた経験も含めて今の自分がいると思っているからこそ、独り立ちして認めてもらえるようにより頑張らなきゃいけないという気持ちだったので。だから、安希子の焦りみたいなものは、すごく理解できました。あと、「もう若くないんですよ」と言う安希子に対して、「自分のことを必要以上に年寄りだと思わないほうがいいよ」というササポンの言葉には、ハッとさせられました。自分で自分のことを勝手に決めつけることが、一番もったいないし、実際自分が30歳になるときに、ドラマの現場で先輩の中村梅雀さんに「まだ何でもできるじゃん」って言われたことを思い出しました。

 

大木 私自身、完成した映画を見るまでは「深川さんという元アイドルの俳優さんが演じてくれることで、セカンドキャリアや人生の迷いをリアルに感じる作品になるだろう」と思っていたんです。でも、実際に試写を観たら、元アイドルという境遇に関係なく、一人の悩める女性として共感できる作品になっていると感じました。

大木亜希子●おおき・あきこ…1989年生まれ、千葉県出身。2005年、ドラマ『野ブタ。をプロデュース』で女優デビュー。2010年、SDN48のメンバーとして活動開始。解散後はWEBメディアで、営業担当及び社員記者として3年間働く。現在は作家として独立。著作に『アイドル、やめました。AKB48のセカンドキャリア』(宝島社)、『シナプス』(講談社)。最新の連載小説は『マイ・ディア・キッチン』(別冊文藝春秋/料理監修 今井真実先生)。 X(旧Twitter) / Instagram

 

──大木さんも見学された現場の雰囲気はいかがでしたか?

 

大木 私が見学したのは、友達と朝まで飲み明かして、二日酔いになった安希子がササポンと庭いじりをするシーンだったんですが、原作の世界観そのものでした。初めて深川さんとお会いする日で、すごく嬉しかったんですけど、原作者とはいえ、この空間に土足で踏み込むようなことはしてはいけないと思えるほど、世界観が出来上がっていたので、できるだけ邪魔しないよう、昼食に出してもらったお弁当だけ食べてすぐに帰りました(笑)。

 

深川 ほっとできる安心感のある現場でした。辛いシーンはありつつ、すごく温かい作品ですし、穐山監督も寄り添ってくれるし、新さんもすごく穏やかで何でも受け止めてくださる方ですし、安心感がある現場でしたね。お友だち役の松浦りょうちゃんと柳ゆり菜ちゃんも、すぐに距離が近くなれたし、役の延長線上にみんながいるような現場でした。

 

批判的な言葉を気にしていると、いつまでもブレイクスルーできない

──そんなお二人が壁にぶつかった際、乗り越えたエピソードも教えてください。

 

大木 2019年に書籍化のきっかけとなった記事をWEBメディアで配信したとき、SNSを中心に大きな反響がありました。Twitter(現・X)のトレンドランキングで上位になったときに、やっぱり温かいコメントだけではありませんでした。「こんな生活、おとぎ話に決まってる」とか「元アイドルのライターが何か言っているwww」みたいな辛辣なコメントに最初は傷ついたんですけど、そういう言葉を気にしていると、いつまでもブレイクスルーできないってことに気づいたんです。それを客観的に受け入れることで、少しずつ前に進むことができました。

 

深川 20代の頃は仕事が全てで、仕事の評価=自分の存在価値みたいに思っていたんですよ。でも、それってすごく疲れちゃうことだし、壁にぶつかって、仕事がうまくいかなくなったときに、自分から見る存在価値が揺らいじゃうんです。だけど、30代に突入して、周りの先輩が「30代は肩の力が抜けて楽しいし、ようこそ!」みたいな感じで迎えてくださったんです。それで、まず真ん中に自分を置いて、大事な仕事、友達や趣味があってっていう考え方に変えたら、ちょっと楽になりましたね。

──年齢の離れた部下との接し方に悩む読者にアドバイスがあれば教えてください。

 

大木 私がササポンと住んでいたときに、何が一番心地良かったというと、彼が無理に距離を詰めてこなかったことなんです。ちょっとゴリゴリくるような熱血おじさまに、無理矢理ポジティブにさせられたら、元気になるどころか、さらに落ち込んでいたと思います。でも「あなたはそこにいるだけでいい」「回復するまでは、無理のない範囲で働けばいい」と、「期待を求めない」「見返りを求めない」「リアクションを求めない」という3つのことをしていただいたおかげで、自分が回復への道をたどることができました。もし、若い部下の方との接し方が悩んでいる方がいたら、「私はそういうことが嬉しかった」と伝えたいです。

 

深川 「ポジティブにさせたい」「元気を出してほしい」という気持ちはありがたいかもしれないけど、そこに無理矢理持ってくんじゃなくて、その人をまず受け入れてあげることが大事だと思います。自分も同じ立場だったら、それが嬉しいし、否定しがちなときに、「それでいいんだよ」と認めてくれたら、気持ちが楽になる気がしますね。そのうち、時間が解決してくれることもあると思いますし。

 

──ちなみに、「詰んだ」ときに、気分転換となるストレス解消法を教えてください。

 

大木 大好きな屋久島の檜を使った、純正のオーガニック・アロマオイルをアロマストーンに垂らして嗅ぎますね。それだけで思考がクリアになってリセットされます。あとは、双子の姉の奈津子が勧めてくれる美容家電を使います。

 

深川 凝り固まっているなぁという時は、電動のヘアブラシで頭をほぐしたりします。緊張している時期とか考え事をしている時は頭も意外と凝っているので、頭や身体をほぐすと自然と心もリラックスしてくる気がします。

 

 

人生に詰んだ元アイドルは、 赤の他人のおっさんと住む選択をした

11月3日(金)公開

 

(STAFF&CAST)
監督:穐山茉由
原作:大木亜希子
脚本:坪田文
出演:深川麻衣 松浦りょう 柳ゆり菜 猪塚健太 三宅亮輔 森高愛 河井青葉 柳憂怜 井浦新

(STORY)
元アイドルの安希子(深川)は、幸せで充実した人生を歩んでいると自分に言い聞かせながら日々の仕事に励んでいた。ある日、メンタルを病み、会社を辞めることになった彼女は仕事もなく、男もなく、手残り残高10万円という厳しい現実に直面。そんなとき、友人から一軒家でひとり暮らしをする56歳のサラリーマン・ササポン(井浦)との同居生活を提案される。

公式HP:https://tsundoru-movie.jp/

(C)2023映画「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」製作委員会

 

撮影/中村 功 取材・文/くれい響

川井田夏海&大塚剛央「いつだって世界は彩り豊かだと伝わってくるアニメ」映画『北極百貨店のコンシェルジュさん』

装画家・イラストレーターとしても活躍する西村ツチカによる漫画『北極百貨店のコンシェルジュさん』。人間と動物が織りなす奇想天外な世界観が魅力の本作を、「ハイキュー!!」シリーズや「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」など、数々の名作を世に送り出してきたProduction I.Gが映像化した映画「北極百貨店のコンシェルジュさん」が公開中。今作で劇場アニメーション映画初主演を務める川井田夏海さんと、数多くの人気アニメに出演する実力派若手声優・大塚剛央さんの二人に、本作の魅力や、今ハマっていることを語ってもらった。

 

【川井田夏海さん&大塚剛史さん撮り下ろし写真】

 

原作の漫画は読めば読むほど自分の中で世界が広がっていった

──『北極百貨店のコンシェルジュさん』は、来店されるお客様が全て動物という不思議な百貨店を舞台に、川井田夏海さん演じる新人コンシェルジュの秋乃が、フロアマネージャーや先輩コンシェルジュに見守られながら成長していくストーリーです。原作と脚本をそれぞれ読んだときの感想をお聞かせください。

 

川井田 オーディションにあたって原作を読ませていただいたんですけど、独特な絵のタッチを、どういうふうに映像化するんだろう、どういう構成になるんだろうというワクワク感がありました。脚本は、春夏秋冬を通して、秋乃の目線で成長していく姿がしっかりと描かれていて、上手に1本にまとまっているなと思いました。

 

大塚 最初に原作を読んだとき、パッと読んだだけでは理解できないことが多かったんです。特に僕が演じさせていただいたエルルは謎のペンギン、いつも百貨店内を歩いているキャラクターで、この発言はどういうことなんだろうとか考えて。人間に対する皮肉だったり、人間と絶滅種の動物とのやり取りの温かさだったり、読めば読むほど自分の中で世界が広がっていくという印象でした。台本は秋乃を中心に描かれていて、すごく人情味が強いというか、温かい雰囲気が感じられました。だからエルルを演じる上でも、前向きな姿勢で臨んだほうがいいのかもしれないと思いました。

川井田夏海●かわいだ・なつみ…2月18日生まれ。愛知県出身。主な出演作品は、「放課後ていぼう日誌」(帆高夏海役)、「ひげを剃る。そして女子高生を拾う。」(結城あさみ役)、「RPG不動産」(ルフリア役)など。今作で劇場アニメーション映画初主演を務める。公式サイト

 

──アフレコのときは、どのぐらい絵は出来上がっていたんですか?

 

川井田 色はついていなかったですが、かなり完成形に近くて、キャラクターがヌルヌル動いていたので、分かりやすかったです。たとえば秋乃が走るシーンで、お客様がいるときは正しい姿勢なんですけど、そうじゃないと雑になるところなどは、息遣いの演技するときに参考になりました。森さん(※秋乃の先輩コンシェルジュ)のスンとした感じも、アフレコの時点で十分伝わってきました。

 

──役作りでどんなことを意識しましたか。

 

川井田 秋乃が持っている素直さやひたむきさ、一生懸命さを豊かに演じようと思いました。あと、くじけないところですね。たとえばトキワさん(※秋乃を厳しくチェックする外商員)に「向いてない」とバシッと言われたときに、森さんに頼ることなく、泣きながらも「何くそ!」ってへこたれなかったり、お客様に土下座させられても、「私が見送ります!」と食い下がったり。ちょっと頑固なところもあるけど、そういうところも魅力だなと思うので、そこも含めて豊かに演じられるように意識しました。

 

──川井田さん自身、秋乃に共通するところはありますか。

 

川井田 私はド末っ子なので、すぐに私生活では「うえーん」って泣きつきます(笑)。ただお仕事のときは、うまくいかないときでも「何くそ!」ってなるので、そこは秋乃に似ているのかもしれません。

大塚剛央●おおつか・たけお…10月19日生まれ。東京都出身。2020年、第14回声優アワード「新人男優賞」を受賞。主な出演作品は、「風が強く吹いている」(蔵原走役)、「もののがたり」(岐兵馬役)、「【推しの子】」(アクア役)、「アイドルマスター SideM」(眉見鋭心役)など。公式サイトX(旧Twitter)

 

──大塚さんはエルルを演じる上で、どんなことを意識しましたか。

 

大塚 まだ若手の僕をエルル役に選んでいただいたので、若さがあったほうがいいのかなと思っていたんですけど、いざ現場でやってみたら、「もっと落ち着きがあって、しっかりとした説得力が欲しいです」と言っていただいたので、エルルの深みを意識して演じました。エルルは哲学的なことを言うので、百貨店に対してどう思っているのか、秋乃に対してどう思っているのかなどは、原作と脚本を照らし合わせながら考えて作り上げていきました。

 

──アフレコは何人ぐらいで行われたんですか。

 

川井田 大体3、4人ぐらいでした。

 

大塚 まだ制限があったので、掛け合いのある人たちで一緒に録るという感じでした。

 

川井田 私は一日スタジオにいて、シーンごとにキャストの方々をお迎えして、掛け合いで一緒に録らせていただいて、収録が終わって帰られて、次のキャストの方々をお迎えしてと、本当にコンシェルジュさんになった気分でした(笑)。

 

人生は季節のように巡っていくんだと前向きになれる作品

──お二人はこれまで共演経験は?

 

大塚 初めてですね。

 

──共演した印象はいかがでしたか。

 

川井田 ザ・落ち着き。

 

大塚 (笑)。

 

川井田 個人的に、この作品で一番難しい役はエルルじゃないかなと思っているんですが、大塚さんはかっこよく演じていらっしゃって、落ち着いていて、とても頼りになるし、たくさん助けていただきました。あまり会話をする時間もなかったんですけど、多くは語らずとも、どしっといてくださってすごく心強かったです。

(C)2023西村ツチカ/小学館/「北極百貨店のコンシェルジュさん」製作委員会

 

──大塚さん自身がエルルのような存在なんですね。

 

川井田 そうなんです!

 

大塚 そんなことはないです(笑)。川井田さんもお話した通り、この作品は、会ってすぐに「始めましょう」みたいな感じだったので、なかなかお話する機会はなかったんですけど、真っすぐぶつかって演じている姿は秋乃と重なって素敵だなと思いました。その後、別の現場でご一緒したときに改めてお話しをしたんですが、いつも元気に接してくださるので、自然と現場が明るくなるんです。

 

──完成した作品を観た感想はいかがでしたか。

 

川井田 すごい映像作品が出来上がったなと思いました。一体、何枚絵を描いたんだろうと不思議になるぐらい動きが素晴らしくて、そこに色がついて、音楽がついて、周りのざわめきや呼吸が加わって。クリスマスのシーンではオーケストラもあって。良いときもあれば、悪いときもあるけど、いつだって世界は彩り豊かだというのが伝わって来て、まるで人生みたいな作品だなと。つらいことがあっても、ずっと続くわけじゃない。人生は季節のように巡っていくんだと、観たら前向きな気持ちになれます。

 

大塚 多種多様な動物がいて、その中には絶滅種である“V.I.A”(ベリー・インポータント・アニマル)もいて、その説明も丁寧に描かれていて、原作を知らない方でも楽しめる作品だなと感じました。音も繊細で、たとえば足音一つとっても、それぞれ動物によって違いがあって、いろんな楽しみ方ができるなと。僕は試写を二度観させていただいたんですが、二回目のときは、「ここに注目しよう」みたいな見方もできて、何度も観たくなる作品です。

(C)2023西村ツチカ/小学館/「北極百貨店のコンシェルジュさん」製作委員会

 

──お二人は、どういうときに百貨店を利用しますか?

 

川井田 食べ物を探しに行くときですね。季節のお菓子が好きなので探しに行って、目当てのものがなかったら別のお菓子を買ったり。まあ、大体あんみつなんですけど(笑)。自分では作れないお菓子がたくさん売っているので、自分へのご褒美として買っています。

 

大塚 僕も食べ物ですね。今日はいつものスーパーじゃなくて、美味しいものを買って帰ろうかなみたいなときにデパ地下に寄ります。寄った結果、あれも欲しい、これも欲しいって、いっぱい買っちゃうみたいな(笑)。

 

二人がハマっている家電とゲームとは?

──最近、購入して重宝している家電を教えてください。

 

川井田 とても生活が変わったなと思ったのが、今年買った最新のiPad Airです。オーディションや仕事の原稿などが家にどんどん溜まっていくので、見返したいとなったときなどに「あの原稿どこだったっけ?」って探すのが大変だったんです。「だったらiPadに入れてしまおう」ということで、iPadを買ってからは荷物が軽くなりました。

 

──基本はお仕事で使うことが多いんですか。

 

川井田 そうですね。それこそ原作の本を読んだり、映像のチェックをしたりも全部iPadでできて便利なんです。ちょっとした時間に映画を観るときも、スマホよりも画面が大きくて臨場感があるので、生活の水準が上がりました(笑)。

 

大塚 僕はソニーのサウンドバーです。家で過ごすのが大好きなので、ゲームをしたり、映画を観たりするときに、どうせなら良い音質で楽しみたいなと思って買いました。ただ買って結構経っているんですが、いまだに設定に苦労するんですよね。一応、「シネマ」とか「ミュージック」とかボタンが付いているんですけど、自分の感覚で聴きたい音声はどれがベストなのかを探すのが難しいです。

 

──大塚さんはゲーム好きで知られていますが、最近は何にハマっていますか?

 

大塚 最近は『TROPICO』というシミュレーションゲームにハマっています。自分が大統領になって、政治や経済を動かして街づくりをするんですけど、YouTubeで動画を観て、面白そうと思って始めました。

 

──川井田さんはハマっているゲームはありますか?

 

川井田 最近、Nintendo Switchの『ピクミン4』を買ったんですけど、よくやっているのは『ドラゴンクエスト』です。もう何度もクリアしているんですけど、またリセットして一から始めるぐらいドラクエが大好きなんです。映画にしても同じ作品を何度も観て、同じところで泣けるタイプなんですよね(笑)。それはゲームも同じです。

 

──お二人ともインドア派ですか?

 

大塚 そうですね。基本的に休みは家で過ごすことが多いです。連休があったら、旅行に行きたいですけどね。国内でも行ったことのない場所がたくさんありますし、京都も修学旅行以来行ってないですし。最近は地方に行くのはお仕事になるので、プライベートで行きたいです。

 

川井田 私もずっと家にいますね。大袈裟じゃなく、一日中同じ場所に座って動かない、みたいな(笑)。それでソファに座ってゲームをやったり、映画を観たり。外出するとすれば、大好きな観劇をするときぐらいで、連休のときは実家に帰ることが多いです。しかも、いつも地元で同じものを食べるんですよ。鴨うどんを食べて、ラーメンを食べて、おいしいクレープ屋さんでクレープを食べて、スーパーのお団子を食べて。それを全て食べたら東京に戻ります(笑)。

 

 

北極百貨店のコンシェルジュさん

絶賛上映中!

【映画「北極百貨店のコンシェルジュさん」よりシーン写真】

(CAST)
秋乃:川井田夏海
エルル:大塚剛央

東堂:飛田展男
森:潘めぐみ
岩瀬:藤原夏海
丸木:吉富英治
給仕長:福山 潤
トキワ:中村悠一

ワライフクロウ夫:立川談春
ワライフクロウ妻:島本須美
ウミベミンク娘:寿美菜子
ウミベミンク父:家中 宏
クジャク:七海ひろき
クジャク彼女:花乃まりあ
二ホンオオカミ:入野自由
二ホンオオカミ彼女:花澤香菜
カリブモンクアザラシ:氷上恭子
ゴクラクインコ:清水理沙
バーバリライオン:村瀬 歩
バーバリライオン彼女:陶山恵実里
ネコ:諸星すみれ

ウーリー:津田健次郎

(STAFF)
原作:西村ツチカ『北極百貨店のコンシェルジュさん』(小学館「ビッグコミックススペシャル」刊)
監督:板津匡覧
脚本:大島里美
キャラクターデザイン・作画監督:森田千誉
コンセプトカラーデザイン:広瀬いづみ
美術監督:立田一郎[スタジオ風雅]
動画検査:野上麻衣子
撮影監督:田中宏侍
編集:植松淳一
音響監督:菊田浩巳
音楽:tofubeats
アニメーション制作:Production I.G
製作:アニプレックス、Production I.G、KDDI、ADKマーケティング・ソリューションズ、トーハン
配給:アニプレックス
主題歌:「Gift」Myuk(Sony Music Labels Inc.)

 

(STORY)
新人コンシェルジュとして秋乃が働き始めた「北極百貨店」は、来店されるお客様が全て動物という不思議な百貨店。一人前のコンシェルジュとなるべく、フロアマネージャーや先輩コンシェルジュに見守られながら日々奮闘する秋乃の前には、あらゆるお悩みを抱えたお客様が現れます。中でも<絶滅種>である“V.I.A”(ベリー・インポータント・アニマル)のお客様は一癖も二癖もある個性派ぞろい。長年連れ添う妻を喜ばせたいワライフクロウ。父親に贈るプレゼントを探すウミベミンク。恋人へのプロポーズに思い悩むニホンオオカミ……。自分のため、誰かのため、様々な理由で「北極百貨店」を訪れるお客様の想いに寄り添うために、秋乃は今日も元気に店内を駆け回ります。

 

公式サイト:https://hokkyoku-dept.com/

公式X:https://twitter.com/HOKKYOKU_Dept

公式Instagram:https://www.instagram.com/hokkyoku.dept/

(C)2023西村ツチカ/小学館/「北極百貨店のコンシェルジュさん」製作委員会

 

撮影/友野 雄 取材・文/猪口貴裕

武田玲奈「この作品をきっかけに、大人の女性の役が増えてほしい!」映画『唄う六人の女』

竹野内豊さんと山田孝之さんがダブル主演を務め、美しく奇妙な6人の女によって、森の奥深くに監禁された2人の男の運命を描いたサスペンス・スリラー『唄う六人の女』が、10月27日(金)より公開する。個性的な女性キャラが登場するなか、優しい雰囲気を放つ“包み込む女”と、都会に生きる“かすみ”という対照的な二役を演じた武田玲奈さん。いくつかの“初めて”が重なった役柄の思いについて語ってくれました。

 

武田玲奈●たけだ・れな…1997年7月27日生まれ、福島県出身。2014年Popteenレギュラーモデルとして芸能活動スタート。映画『暗殺教室』(15年)にて女優デビュー。2023年福島県いわき市の観光や食の魅力を発信する「いわきツーリズム推進特命部長」任命。主な出演作に、ドラマ「おいハンサム!!」(22年)、「あなたがしてくれなくても」(23年)、映画『真・鮫島事件』(20年)などがある。現在、MCを務めるeスポーツ番組「eGG」(日本テレビ)が放送中。X(旧Twitter)Instagram

【武田玲奈さん撮り下ろし写真】

 

このタイトルなのに、私、歌わなくていいんだ(笑)

──最初に脚本を読んだときの感想を教えてください。

 

武田 私自身、自然がとても好きなので、自然が大きなテーマになっている作品に参加できることは楽しみでした。そして、そこで描かれるエコやサステナブル、SDGsといったメッセージ性にも胸打たれました。実際に、ゴミの分別や自然に優しい素材を使うことを考えたり、調べたりしていたので……。あと、「このタイトルなのに、私、歌わなくていいんだ」と思いました(笑)。

 

──「オー!マイキー」などで知られるアーティスティックな作風で知られる石橋義正監督の最新作としての印象はいかがでしたか?

 

武田 初めて石橋監督とご一緒するということで、以前の作品を観させていただいたんですが、独特な世界観のなか、かなりCGを使ってらっしゃるので、台本を読みながら「このシーンでは、どのようなCGが足されるんだろう?」と考えていました。あと、今回はコメディ要素がないので、「これまでの石橋さんの作品とは違った雰囲気の作品になるんだろう」と思いました。

──今回、武田さんは竹野内豊さん演じる萱島の彼女・かすみと、森の中で萱島が出会う六人目の女“包み込む女”の二役を演じられています。

 

武田 まずは“包み込む女”ですが、台本を読んだだけでも、現場に入ってもなかなか分かりにくい、かなり難しい役柄だったと思います。目にカラコンを入れたり、奇抜なデザインの着物を着たり、最終的に森の中に生息する妖精のような感覚で臨みました。一方のかすみは、都会でバリバリに働くかっこいい女性。全く違う役どころなので、二つの役を演じ分けることに関しては、そこまで難しくなかったと思います。

 

恋人役の竹野内さんは、すごく気さくで、親しみやすい方

──また、かすみは萱島との子どもを欲しており、“包み込む女”は自らの子どもを守っているように、母性の強さに関しては共通しています。

 

武田 かすみに関しては、気が強い性格でもあるので、だいぶ年齢の離れた萱島を守りたい、助けたいという思いから、自分の意見をしっかり言ったり、ときには叱咤したりすることもあります。“包み込む女”は、反対に無表情で無口で、石橋監督からは「ただ、そこに存在している。佇んでいることを意識してください」というアドバイスをいただきました。ただ、子役の子どもたちと触れ合っているときの芝居が難しかったです。普通なら笑顔で接すればいいのですが、“包み込む女”は歯を出して笑顔にはなれない。あと、子どもを抱っこすることもあまり慣れていなかったので、そこも大変でした。

 

──人里離れた森林での撮影はいかがでしたか?

 

武田 森林のシーンは、京都の原生林の中だったり、奈良の山奥だったり、数か所で撮影しました。電波も繋がらない原生林の中に入っていくときは、かなり慎重に行動していました。みんなヘルメットをかぶって、ガイドさんに案内されながら、指定された道以外を歩いてはいけないといった、植物を守るためのいろいろなルールに従って移動していました。

 

──竹野内さんのほか、共演者の方とのエピソードを教えてください。

 

武田 竹野内さんも山田(孝之)さんも、今回が初共演だったんです。竹野内さんはどこか寡黙そうなイメージがあって、「年齢差のある恋人役が演じられるかな?」と思っていたんですが、全然そんなことなくて(笑)。すごく気さくで、親しみやすい方だったので、全く抵抗なく役に入り込めました。山田さんは結構キツいというか、怖い役どころだったので、ちょっと怯えていたんですが(笑)、山田さんも優しく紳士的な方でした。あと、竹中(直人)さんとのシーンは、ちょっと緊張感がほぐれる雰囲気だったので、竹中さんが作られた空気に乗っからせていただく感じで、楽しくやらせてもらいました。

 

「自然を大切にしたい」と思ってくれる人が増えてほしい

──完成した作品をご覧になったときの感想は?

 

武田 どこか奇妙な雰囲気ではあるんですが、すごく美しいビジュアルの作品になったと思いました。6人の女たち、それぞれの違う個性、違う美しさがあるので、皆さんハマっているなと思いながら観ていました。あと、私が現場では見ていなかった、すごいアクションや、グロい感じのシーンもありながら、最初に脚本を読んだときよりも、強いメッセージ性を感じました。

 

──本作は武田さんとしても、いろんな意味で、挑戦作だったと思います。

 

武田 初めての二役というのもありますし、全くセリフがない役どころも初めてでした。そういった意味での挑戦もありましたし、子どもを持つ母親という役も、今までほとんどなかったので、「この作品をきっかけに、大人の女性の役どころが増えてほしい」って思いました(笑)。また、この作品をたくさんの方に観てもらうことによって、「自然を大切にしたい」と思ってくれる人が増えてほしいです。

──いつも現場に持っていくモノやグッズについて教えてください。

 

武田 「SHIRO」のハンドクリームとか、いい香りがする消毒用のハンドジェル。あとは「nahrin」のロールオンタイプのハーブオイル。それから、「THERA」の塗香(パウダー状のお香)で、シナモンと混ざった匂いのものを手に塗りこんだりしています。現場や寝る前とかに、匂いを嗅ぐことでリフレッシュするようにしています。個人的には甘めというより、スーッとする匂いの方が好きですね。

↑武田さんが愛用するハンドクリームなど。撮影の合間には匂いでリフレッシュを図るとのこと

 

 

(C)2023「唄う六人の女」製作委員会

唄う六人の女

10月27日(金)より全国公開

 

(STAFF&CAST)
監督・脚本:石橋義正
脚本:大谷洋介
出演:竹野内豊 山田孝之 水川あさみ アオイヤマダ 服部樹咲 萩原みのり 桃果 武田玲奈 大西信満 植木祥平 下京慶子 鈴木聖奈 津田寛治 白川和子 竹中直人

(STORY)
父の訃報を受けて帰郷した萱島(竹野内)と、萱島の父が所有していた土地を譲り受ける予定の宇和島(山田)は、車で山道を走る途中で事故に遭い気を失ってしまう。目を覚ますと、2人は“刺す女”(水川)、“包み込む女”(武田)ら、謎めいた6人の女たちによって、森の奥深くの屋敷に監禁されていた。

 

【映画「唄う六人の女」よりシーン写真】

公式HP https://www.six-singing-women.jp/

(C)2023「唄う六人の女」製作委員会

 

撮影/映美 取材・文/くれい響 ヘアメイク/円谷歩美 スタイリスト/小川未久
衣装協力/ビューティフルピープル、リュニック エ モア、STEFANO POLETTI、リューク、プリュイ

最も泣ける恋愛リアリティ『あいの里』みな姉&中さんの“その後”は?「いくつになろうとも、素敵な恋愛をする権利は平等にある」

中高年にフォーカスした恋愛バラエティ『あいの里』(Netflix)が人気爆発したことは記憶に新しい。番組では多くのドラマやカップルが誕生したが、中でも視聴者に絶大なインパクトを与えたのが絵本作家・みな姉(60歳=配信時・以下同)と大家業を生業とする中さん(60歳)だった。渦中の2人を直撃し、“その後”の様子を伺うとともに、「大人が恋愛することの難しさ」や「高齢化社会の結婚観」についても持論を展開してもらった!

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:小野田 衛)

 

「キラキラしていない!」「リアルすぎる!」という驚きの声が多くの視聴者から上がった『あいの里』は、参加資格が35歳以上という中高年限定の恋愛バラエティ。番組の中で出演者たちは“人生最後の恋”を求め、古民家で自給自足の共同生活を送ることになる。社会的地位も高く、酸いも甘いも噛み分けた人生の猛者ばかりだけあって、そこでの恋愛模様は人生観や生き様も色濃く反映されるのが特徴。既存の恋愛番組にはない生々しさがあった。

最終エピソードの告白シーンでは残念ながらカップル成立とならなかったみな姉と中さんだが、ラブ・ヴィレッジでの番組収録後、2人は交際に発展。しかしオンエア内ではその過程説明が駆け足気味だったため、ファンの多くが「どういうことだ!?」とザワついたのも事実である。一体、どんなドラマがあったのか? カメラが追っていなかった物語の深層に迫った。

 

【みな姉&中さん撮り下ろし写真】

今は人の悪口なんて外で絶対に言えない。下ネタなんて、もってのほか(笑)

──単刀直入にお伺いします。今、2人はどのように過ごしているんですか?

 

中さん 普通にきちんとおつき合いさせていただいていますし、平和に暮らしています。とりたてて変わったこともないですし。

 

みな姉 それじゃ話を端折りすぎでしょ(笑)。平和に暮らしているのはたしかだけど、実際はいろいろ起こるんですよ。年齢も年齢だから、それぞれ背負っているものもあります。2人の間には課題もたくさん存在するから、ときにはぶつかり合いながらも解決に向けて話し合いを重ねている感じですかね。

 

中さん 2人で街を歩いていると、たまに声をかけられたりします。この前は駅で軽く言い争いをしていたところ、「みな姉と中さんですよね? 写真を撮っていただきたかったんですけど、ひょっとしてケンカしていました?」とか言われて気まずかった(笑)。

 

──みな姉はオールナイターズだったこともあるくらいなので、騒がれるのも慣れているのでは?

 

みな姉 いやいや、あの頃はインターネットなんてなかったですから。どこで見られているかわからないから、今は人の悪口なんて外で絶対に言えない。下ネタなんて、もってのほか(笑)。Netflixだから、海外からの反響も大きかったんですよ。英語圏ではない国からのコメントもたくさん届きました。

 

中さんに対しては、私自身も誤解していた部分があったから、謝りたかった

──ラブ・ヴィレッジで、中さんはみな姉にフラれる格好となりました。その後、どのようにして2人は交際に至ったんですか?

 

みな姉 番組の構成上、私たち2人は告白シーンでお断りしたらジ・エンドということになっています。だけど実際は一緒に暮らしていた期間もあるわけだし、縁を切りたいというわけではなかったんですよね。実際、他の女性出演者たちと収録後も仲よく集まったりしていました。そういう中で「お断りしたとはいえ、人間的に嫌いになったわけじゃないんだから、中さんと会うのもアリなんじゃないの?」みたいな若干おせっかい気味な意見も出たんです(笑)。私としては「そうかなぁ。でも本当に好きだったら、向こうからまた声をかけてくるんじゃないの?」みたいな感覚だったんですけど。

 

中さん いや、それは無理ですよ~。こっちはフラれた立場なのに、どの面下げて「もう一度会えませんか?」って誘うのか……。そんなのストーカーじゃないですか(笑)。男の出演者だけでアンチョビのお店に集まって、同窓会みたいなことはやりましたけどね。

 

みな姉 中さんに対しては、私自身も誤解していた部分があったから、そこを謝りたいという気持ちがあったんです。

 

──誤解とは?

 

みな姉 別に私のことを大して好きというわけでもなく、流れ的に鐘を鳴らしただけかと思っていて……。奥さんへの想いも強いようだし、ともちんにもアプローチをしていたので、どう考えても私に対して本気と信じられなかったんですよ。でも周りの女性陣から「それじゃ中さんがかわいそう。彼は本気だったのに」って言われ、「そうだったのか……」と気づいたんですね。

──なるほど。きちんとけじめをつけたかったわけですね。

 

みな姉 それと忘れ物の話もありましたね。最後は古民家からドタバタと撤収したものだから、スタッフさんによると忘れ物が結構あったらしいんですよね。どういうわけか中さんの私物を私が預かる格好になっていて、それを返さなくちゃいけなかったんです。今さらスタッフさんに返すのも面倒くさいですから。

 

中さん こっちからすると、狐につままれた感覚ですよ。いきなり連絡が来て「謝りたいから一度会いたい」とか言われても、「なんのことだろう?」って困惑しちゃって……。

 

みな姉 そりゃそうだよね(笑)。

 

中さん 連絡が来た時点で番組の収録は終わっていたけど、まだ配信は開始されていなかった。だから2人で会っているところを誰かに見られたらマズいなと思ったんです。番組の中では僕が見事にフラれているのに、そのへんの居酒屋とかでコソコソ密会しているところを目撃されたら「おいおい、話が違うじゃん」って騒ぎになるじゃないですか。

 

製作陣からは「それぞれの人生なので、おつき合いされることはもちろん自由」

みな姉 仕方ないから私の家で会うことにしたんですけど、いきなり男性を自宅に上げるのことに抵抗感もあったんです。だから最初は中さんから玄関に段ボールを敷いて、そこで飲もうかという話も出たくらいなんだけど、結局は普通にリビングに上がってもらいました(笑)。

 

中さん 2人ともお酒は好きなほうだから、あの日は結構飲んだ気がする。みな姉は日本酒、僕はジャック・ダニエルだったかな。みな姉の作ってくれた料理がおいしかったから、それはすごくうれしかったですね。

 

みな姉 そんなロマンティックな雰囲気でもなかったんですよ。「こんなこともあったよね」とかラブ・ヴィレッジでの思い出話をする感じでした。……だけど……気づいたらどういうわけかキスする流れになっていて(笑)。

 

中さん そこは僕のほうからしましたね。

 

みな姉 そのとき、私、確認したんです。「これ、どういう意味なの?」って。単に酔っぱらった勢いでキスされたら嫌だなと思ったので。そうしたら、「つき合うということでしょ」という話をしたので、「そういうことなら」と受けることにしました。

 

──素晴らしい! しかし番組スタッフも、まさか収録後にそんなドラマが進行するなんて予想もしていなかったでしょうね。

 

中さん そこなんですよ。番組の内容と矛盾が生じるのはマズいと思ったので、みな姉がスタッフに伝えたんです。まだ配信前でしたし。制作陣も「収録してから先はそれぞれの人生なので、おつき合いされることはもちろん自由です。むしろわざわざ言ってくれて、ありがとうございます」といった調子でした。

 

みな姉 そこからは結構な頻度で会っていますね。そのへんは若い人の恋愛みたいです。

 

中さん 僕の仕事が、パソコンひとつあればどこでもできるものですから。それに僕の場合は恋愛すること自体が前の妻と出会った25歳以来久しぶりだったから、そのへんの感覚が猪突猛進でグイグイ進む20代で止まっているのかもしれない。要するに落ち着いた大人の恋愛ができない(苦笑)。

 

子供の問題はリアルに突き当たっている現在進行形の話です

──みな姉さんはバツ2で、息子さんが1人います。中さんは8年前に奥さんと死別し、2人の子供を育てるシングルファザー。お子さんには納得してもらえましたか?

 

みな姉 私のほうは息子も結婚しているくらいだし、「好きにすればいいんじゃないの?」という感じでしたね。正直なところ、子育てもとっくに一段落している感覚なので。問題は中さんのほうですよ。お子さんが2人とも多感な時期だから……。

 

中さん 2人の子供は番組をまだ観ていないんです。実はモノクロの再現シーンに少しだけ2人は出演しているんですけど、そこだけ確認していたかな。ひょっとしたら、父の恋愛する姿を直視したくないのかもしれない。

 

みな姉 絶対そうだと思うな……。

 

中さん もちろんラブ・ヴィレッジに行く前から「こういう恋愛番組に出るんだよ。パートナーができるかもしれない」と説明はしました。「もしそうなったら、ちゃんと会ってくれるよね?」って確認もしましたし。帰ってきたときは「パパ、フラれちゃったよ」って笑いながら言いました。

 

──ひょっとしたら、娘さんはホッとしたのかも。

 

中さん そのへんはわからないですけどね。「実はあれからいろいろあって、みな姉とつき合うことになったんだ」と家族会議で伝えたら、「ふ~ん……」みたいなテンション低めのリアクションでした。娘は高校2年生と中学1年生で多感な時期ですからね。

 

──今後、みな姉さんは中さんの2人の娘さんに受け入れてもらう必要があるわけですか。

 

みな姉 難しいですよね。こればかりは簡単に答えは出せない問題。中さんの場合、離婚ではなくて死別ですから。お嬢さんたちからすると、パパの相手は永遠に前の奥さんという気持ちもあるんだと思う。気持ちの切り替えはそう簡単にできないですよ。もちろん時間が解決するという面はあると思いますよ。だけど私も決して若くはないから、「10年待ってくれ」と言われたら70歳になってしまう。そうなると、もう本格的なおばあちゃんなので。

 

中さん 娘のことが大事なのは言うまでもないけど、一方で僕の人生は僕のものという考え方もあると思うんです。

 

みな姉 それはたしかにその通りだけど、娘さんたちを傷つけてまで私たち2人が幸せになるのは絶対に違うと思う。他人の不幸のうえに幸福な恋愛なんて成立しないですよ。そこは不倫と一緒。

 

中さん 子供の問題はリアルに突き当たっている現在進行形の話ですね。本音で向き合いながら、どこかで折り合いをつけなきゃいけないと考えています。

 

『あいの里』は恋愛をテーマにしつつも、社会派ドキュメンタリーとしての一面も持つ異色の番組だった。高齢化社会と若者の結婚離れが加速度的に進む中、日本人はどのような恋愛や結婚を目指すべきなのか? 恋愛至上主義の終焉、高齢出産のリスク、働き方と家庭とのバランス……さまざまな問題がラブ・ヴィレッジ内で浮き彫りになる中、自分の胸に手を当てて考えさせられた人も多いはずである。

 

「そうか。俺はまだ恋愛できるんだ」って、ふと気づいた

──そもそも2人は、どういう経緯で番組に出演することになったんですか?

 

みな姉 私はもともと恋愛バラエティが好きだったから、「『バチェラー』の熟年版があったら面白いのにね」なんて冗談半分で息子と話していたんです。息子は「いやいや、50代や60代の恋愛なんて番組にしたところで面白くないから」って鼻で笑っていましたけど(笑)。そうしたら本当にそんな番組ができるということを知って、「これ、いいじゃん」という感じで迷わず応募しました。

 

──みな姉自身に「恋愛したい」「パートナーを見つけたい」という意思があったということですね?

 

みな姉 もちろんです。変な話ですが、既婚者からのアプロ―チはこの年齢になってもあるんです。でもそんな先の見えない今だけの恋愛をしている余裕はないですし、そもそも人の道からはずれていることですからね。この先の人生を一緒に過ごせる相手を真剣に探したかった。番組を通じてだったら、お金目的の変な人とかは事前に落とされているはずだし、ちゃんとした出会いもあるんじゃないかと期待したんですよね。

 

中さん 私は仕事が不動産関係ですけど、それとは別に趣味で俳優のエキストラもやっているんです。その流れで『あいの里』オーディションの告知を目にしたんですね。妻が亡くなってから8年間は子育てと仕事に忙殺されて、恋愛どころじゃないというのが正直なところでした。だけど番組募集のことを知った瞬間、止まっていた恋愛頭脳が再び動き出したんです。スイッチが8年ぶりに入った感覚。「そうか。俺はまだ恋愛できるんだ」って、ふと気づいた。

 

──まさに番組が中さんの運命を変えたわけですね。

 

中さん その通りです。オーディションに受かったので番組に出演することになったわけですけど、もしオーディションに落ちていても恋愛相手を探していたはずです。それくらい決定的に出演者募集の告知でスイッチが入ったんです。それと、もうひとつ。大家をやっていると隣人同士の揉め事を解決しなくちゃいけないんですけど、やっぱり世間が想像している以上に80歳くらいの高齢の方の恋愛トラブルって多くて。

 

みな姉 そうなんだ……。

 

中さん 2人のおばあちゃんが、1人のおじいちゃんを奪い合うとか普通にありますからね。そういうケースを目の当たりにしていると、恋愛に年齢の上限はないんだなとしみじみ気づかされるんです。

 

──番組初期のみな姉は、バツが悪そうにしていましたよね。

 

みな姉 それは単純に年齢のこと! 中高年専用の恋愛バラエティと聞いていたのに、実際は私が60歳で、その下の女性はトッちゃんとユキえもんの45歳。50代もいなかったし、私からすると全員が若いんですよ。下手したら、自分の娘くらいの感覚ですから。その人たちを相手にムキになって戦うなんて、私には無理だなと気持ちが萎えちゃったんです。

 

──古傷をえぐるようなことを聞いて申し訳ないのですが、番組の中でも言及されていた2回目の結婚相手はかなり年下だったのでは?

 

みな姉 たしかにそうなんですけど、あのときは私もまだ若かったですからね。40歳の時点での19歳年下と、60歳のときの19歳年下は意味が全く違いますよ。21歳の男の子から見て、40歳はギリギリお姉さんかもしれない。だけど41歳の男性から見た60歳の女性は、おばあちゃんみたいなものですから。

 

──逆に年下だから恋愛対象にならないということはないんですか? たとえば沼ぴぃは42歳。みな姉からすると、考え方が子供すぎるとか。

 

みな姉 う~ん、年齢が若いから未熟だとは思わないですけどね。沼ぴぃはすごくいい人じゃないですか。気もすごく合ったし、私とカップルになったら当面はすごくうまくいった気もするんです。だけど10年後、私が70歳になったとき、彼はまだ働き盛りの52歳。私が80歳のおばあちゃんになったとき、彼はまだまだ元気な62歳。そのとき、下手したら私は認知症とかになったりしているかもしれない。そういう相手の負担を想像すると、さすがに躊躇しますよね。

 

年を取ったら、女性陣も基本的に全員が平和主義

──出演者は中高年に限定されていましたが、若者の恋愛との違いはどんなところで感じましたか?

 

中さん 通常、こうした恋愛バラエティはバトルとかサバイバル的な要素が根底にあるじゃないですか。だけど年齢を重ねていると、忖度の気持ちが前面に出るんですよ。「どんな手段を使ってでもライバルを蹴落とす」というよりは、「集団の輪を乱さないように留意しつつ、自分の願いを叶える」という方向に意識が向かうので。私の場合、収録には途中参加でしたけど、その時点でたあ坊とゆうこりんがいい感じになっているのは明らかだった。そうすると、ゆうこりんは最初から恋愛対象外になってしまうわけです。

 

──それは恋の駆け引きとは違うものなんですかね。

 

中さん 自分の中で「恋愛の掟3箇条」があるんです。「1・友人の彼女には手を出さない」「2・会社関係の女性には手を出さない」「3・習い事で知り合った女性にも手を出さない」という内容なんですけど。ゆうこりんは1の理由からダメということになります。

 

みな姉 そのへんは『あいのり』などとの大きな違いでしょうね。年を取ったら、女性陣も基本的に全員が平和主義。たとえば誰かが「この人、ちょっといいな」と好意を寄せるオーラを出していたら、そこはみんなで応援に回っちゃう。逆に制作スタッフは肩透かしを喰らっていましたけどね。「中高年の恋愛って、こんなにもバトル要素が少ないのか」って(笑)。

 

中さん 番組的には僕と沼ぴぃがライバルとしてバチバチ戦ったほうが面白いのかもだけど、実際は妙に譲り合い精神みたいなものが出ちゃって……(苦笑)。

 

──マドンナ・みな姉を巡り、外野フライのお見合い状態になっていたわけですね(笑)。

 

みな姉 あと「この年代だからこそ」という点に関しては、若い人よりも現実に即した悩み……一例を挙げると「財産分与をどうするか?」みたいな切り口も避けては通れないですよね。仮にだけど、両者ともに子供がいたとします。2人はめでたく結婚しました。でも2人のうち、1人は先に死んでしまいました。じゃあ遺産はどうなるのか? 子供に半分、配偶者に半分でいいのか? このあたりは結構大きなポイントになると思うんです。

 

──実際、世の中でも揉めているケースがごまんとありますよね。加藤茶さんの奥さんはやいのやいの言われて悩んだみたいですし、紀州のドン・ファンこと野崎幸助氏の事件でも罵詈雑言が飛び交いました。

 

みな姉 私もネット上では同じように言われていますよ! 「みな姉は中さんが持つ不動産目的で近づいたに違いない。たいしたタマだぜ」とか(苦笑)。もう半ば諦めていますけど、どうしてもそんなふうに見られてしまう。

 

──出演者の中で、たあ坊とゆうこりんは日韓での家族観の違いに悩んでいました。子供の恋愛じゃないから、国籍のほかにも「親の介護」「宗教問題」「子育ての方針」といった生々しい現実問題にも直面すると思うんです。

 

みな姉 10代~20代の恋愛においては、介護のことなんて普通は視野にも入らないじゃないですか。だけど私たちくらいの年齢になると、親の介護はもちろんのこと、自分が倒れたら誰に介護してもらうのかという点も考えなくちゃいけない。すごく切実な問題ですよ。もしパートナーが倒れたら、きちんと最期まで介護できるのか? そういうこともリアルに考えなくてはいけないわけです。だから若い頃の「超カッコいい! 好き♡」みたいな恋愛より覚悟が問われると思う。

 

性に関しても含めて難しいですよね、中高年の恋愛は(笑)

──性に関してはいかがでしょうか? 60代以上の恋愛・結婚となると、「セックスなんて別に必要ない」と考える人も増えてくるはずです。

 

中さん そこは難しい問題ですよね。人によって考え方が大きく違うと思います。

 

みな姉 私たち2人の間でもズレがあるポイントかもしれない。私個人に関していうと、そもそも若い頃からセックスは子供作りするためのものだと捉えていたんです。快楽のためという考え方も理解できるんですけど、あくまでも最初に来るのは妊娠とか繁殖目的。だから子供を作る必要がなくなった今は、肉体関係にこだわる必要もないと思っちゃうんですよね。それよりは心の繋がりがメインになるというか。……中さんはまだまだ現役世代だから、そのあたりは考えが違うみたいなんだけど(笑)。

 

中さん 僕個人としては、やっぱりセックスは恋愛の中で大きな要素を占めるという考え方。自分の気持ちを一番オープンにして、相手のことを好きだと心から思えるのは、セックスのタイミングですから。ただ、セックスというのは相手の同意があって初めてできることじゃないですか。

 

──男性器が機能しない年齢になっても、添い寝してイチャイチャしたがる男性も多いそうです。

 

みな姉 添い寝はいいですよね。それは私もわかるな。猫とかも飼い主にくっついてくるけど、信用できる人とくっついて寝ると幸せを感じますから。セックスまでいかないまでも、相手の体温を感じていたいというのは共感できます。

 

中さん 性に関してはまだ模索中というか、僕ら2人の課題かもしれません。僕自身も10年後や20年後、気持ち的にしたくでも機能的にできなくなるかもしれないですし。そういうことも含めて難しいですよね、中高年の恋愛は(笑)。

 

年齢を重ねたゆえの魅力というのが絶対にある

──『あいの里』は好評だったため、第2シーズンが制作されることも発表されています。番組を観て励まされたという中高年も多いと思いますが、改めて同世代の人たちにメッセージをお願いできますか。

 

中さん 正直な話、あいの里へ行く前はもう1人でいる人生でいいと思っていたんです。子育てが終われば嫌でも1人になるし、そこにパートナーがいなくても全然OKじゃないかという考え方で。今はネットやサブスクのサービスも充実しているから、1人でいても時間を持て余すことはないじゃないですか。そういう考え方の人って意外に多いと思いますよ。

 

みな姉 たしかにそうだろうね。

 

中さん だけど、みな姉とつき合うようになってから考えが変わりました。自分の趣味は今まで通り持ちつつ、パートナーとも新たな楽しみを発見すればいい。つまり、恋愛をすれば人生の楽しみが2倍に広がるんですよ。この記事を読んでいる人の中には「恋愛なんて面倒くさい」と腰が重たくなっている人もいっぱいいるはずですが、ぜひ第1歩を歩み出していただきたいなと思いますね。

 

みな姉 出演者の中で私はズバ抜けて高齢だったから、番組収録の初期は完全に自信を失っていたんです。「60歳ともなると、もう恋愛とか言ってる場合じゃないのかな……」って。だけど、その考え方は間違いだった! 70歳になっても80歳になっても、女は女なんですよ。死ぬまで異性から愛されて大いに結構じゃないですか。もし世の中の女性が「私はもう50歳だから恋愛は無理」とか「60歳なのに人を好きになるなんて恥ずかしい」と感じているなら、それは自分の可能性に蓋をしている行為だと思う。

 

──含蓄があるお言葉です。

 

みな姉 肌の質感や表面上の美貌では、20代のお嬢さんに敵わないかもしれない。だけど、60代には60代ならではの美しさもあるはずですよ。そのことを自分で信じてあげてほしいんですよね。もちろん男性だって、年齢を重ねたゆえの魅力というのが絶対にあるはずですし。

 

──今後、日本はますます高齢化社会になっていきます。老人ホームでの色恋沙汰みたいなケースも増えていくことでしょう。

 

みな姉 50代以上限定のマッチングアプリが出たら流行るんじゃないですかね。「人生を最期まで一緒に歩みたい」という中高年の恋愛には、「私も彼氏が欲しい~」とか浮かれている若い子と違う想いがありますから。

 

中さん いや、でも本当に勇気を出して番組に出演してよかったですよ。全国に顔と名前がさらされるわけだから、そりゃ少しは否定的な意見も飛んできました。でも、結果的には最高の結婚相談所だったと思う。番組の回し者じゃないけど、シーズン2のオーディションはまだ受け付けているみたいだから、少しでも興味がある人は応募したらいいんじゃないかな。

 

みな姉 私も最初は「1人だけ60歳のオバサンで、場違いだったかな?」って少し後悔したけど、最後は2人の男性から声をかけられたから安心しました(笑)。なによりも番組を観てくれた人から「勇気をもらった」「励まされた」と言われるのが一番うれしいですね。いくつになろうとも、素敵な恋愛をする権利は平等にあるんだなと改めて感じました。

 

 

あいの里

Netflixにて独占配信中

※シーズン2配信決定!https://lovevillage2cast.com/

出演:田村淳、ベッキー

大原優乃「生徒たちとはお菓子交換をしたり、恋バナしたりしました(笑)」シリーズ最新作「おいしい給食 season3」

市原隼人さん主演で送る、映画化もされた人気ドラマシリーズ最新作「おいしい給食season3」が放送中。今作からヒロインとして大原優乃さんが参加しています。新たな給食マニアの教師VS給食マニアの生徒の戦いの舞台は函館の中学校。学校給食を愛してやまない中学教師・甘利田(市原)を尊敬する英語教師・比留川愛を演じる大原さんに、撮影で食べたおいしい〇〇〇パンの話や、生徒たちとの楽しい思い出などを語ってくれました。

 

大原優乃●おおはら・ゆうの…1999年10月8日生まれ、鹿児島県出身。NHKEテレ「天才テレビくんMAX」のオーディションに合格し、ダンス&ボーカルグループ、Dream5のメンバーとしてデビュー。Dream5の活動終了後は、グラビアやドラマなど幅広く活躍中。現在、ドラマ「秘密を持った少年たち」(日本テレビ系)にヒロイン・吉野ユキ役で出演している。X(旧Twitter)InstagramYouTube

【大原優乃さん撮り下ろし写真】

 

二人の噛み合わない感じが、この作品に合っているんじゃないかな

──「おいしい給食」は2019年に始まった人気シリーズです。シーズン3から参加することが決まったときの心境はいかがでしたか。

 

大原 たくさんの方に愛されている「おいしい給食」に参加できることをとても光栄に思いました。主演の市原隼人さん、綾部真弥監督をはじめ、シーズン1、シーズン2と参加されてきた皆さんに負けないくらいの作品愛を持って現場に入らせていただこうと、「おいしい給食」の世界観を理解するために、改めて過去作品をすべて拝見しました。

 

──大原さんが演じられた比留川愛先生は帰国子女の英語教師です。どんな役作りをされましたか。

 

大原 80年代の物語なので、髪形を聖子ちゃんカット風にしたり、服装や小道具もすべて昭和っぽく用意していただき、言葉遣いや所作もその時代に合わせるところから役を作っていきました。それと比留川愛先生は、先生らしくない、ちょっと頼りないキャラクターなんです。市原さんのまくし立てるような早口の芝居が印象的だったので、対照的にゆったりした口調のヒロインになるように作っていきました。二人の噛み合わない感じが、この作品に合っているんじゃないかなと思ったので。

(C)2023「おいしい給食」製作委員会

 

──髪形も服装もリアルに80年代っぽい感じでした。80年代風のファッションを身に付けた感想を教えてください。

 

大原 この作品に携われているすべての方が、「おいしい給食」という作品が大好きなんだなって思いました。衣装にも小道具にも、愛が込められていて、その1つひとつを使わせていただいたことによって、愛先生という役を作ることができたと思っています。

 

どんなときも私を信じて、大きな器で受け止めてくださる優しさに救われた

──市原さんがテンション高く、おいしそうに給食を食べるところも見どころだと思います。市原さんと共演した感想をお聞かせください。

 

大原 今回が初共演でした。どんなときも私を信じて、大きな器で受け止めてくださる優しさに救われていました。お芝居の相談をすると、「優乃ちゃんがやりたいように、自由にやっていいよ」っておっしゃってくださるので、いろんな角度から挑戦させてもらうことができました。その全てを大きくして返してくださるので、ありがたい分、私もちゃんとしたものをお芝居で渡さなければいけないといい緊張感がありました。

 

──比留川先生は楽しそうに給食を食べる甘利田先生をのぞき見てから、尊敬の目で見るようになりました。比留川先生は甘利田先生のどんなところを尊敬したのだと思いましたか。

 

大原 私も甘利田先生のどんなところを尊敬したんだろうって、探りながら役に入りました。でもあるシーンで甘利田先生は真っすぐで嘘がない、その姿に愛先生はいつも救われているんだろうなって、市原さんの芝居を通して感じたんです。それからは純粋に甘利田先生を想うことができるようになりました。

 

私の場合は笑い声だけ大きいみたいです(笑)

──帰国子女の愛先生は「英語なら怒鳴れるんです」と劇中で言っていましたが、大原さんは普段大きい声を出すことはありますか。

 

大原 会ってみると意外と静かだねって言われます。明るい役や笑顔の写真が多いので、元気な印象を持っていただくことが多いんですけど、人見知りなので普段は静かなほうです。私の場合は笑い声だけ大きいみたいです(笑)。

 

──愛先生が英語なら大きい声が出せるように、「これがあれば」はっきり言えるんだけどというものはありますか。

 

大原 時間があれば(笑)。作品に入ると、最初は人見知りしてしまって、市原さんにも緊張し過ぎて、「最初怒っているのかと思った」って言われてしまいました。そのぐらい人見知りですけど、時間があれば……。そこは直したいところでもあります。

 

──大原さんご自身の給食の思い出を教えてください。

 

大原 小学校の頃、食べるのがとても遅くて、昼休みになっても1人残って食べている生徒でした。当時はあまり食に興味もなくて。だから当時、甘利田先生に出会えていたらなって思います。

 

──好きなメニューはありましたか。

 

大原 揚げパンとABCスープです。アルファベットの形をしたパスタが入っているポトフみたいなスープでした。

 

──撮影で食べておいしかったのは?

 

大原 コッペパンです。「おいしい給食」のコッペパンは、お芝居がしやすいようにと、この作品のために考慮されて作られているものなんです。市販のものより2倍くらい大きくて、お芝居がしやすい硬さになっています。味もミルク風味で、ほんのり甘くてすごくおいしいんです。撮影でコッペパンが余るとスタッフさんたちの間で争奪戦になっていました(笑)。フードコーディネーターさんが作ってくださる給食は、どれも本当においしいです。給食のシーンは昼休の前に段取りをして、昼休の後に本番を撮るんですが、みんなお弁当を我慢して給食を食べるぐらいでした(笑)。

(C)2023「おいしい給食」製作委員会

 

──甘利田先生の食べっぷりは近くでご覧になっても気持ち良さそうですね。

 

大原 私は食べるお芝居が一番難しいと思っています。食べ物を美しく見せながら、その役として表現されている市原さんのお芝居を見せていただいて、本当にすごいなって改めて尊敬しました。

 

先生らしくなかった愛先生がどのように成長していくのか、ぜひご覧になってください

──中学生ぐらいの世代の子が多い現場だと思いますが、現場の雰囲気はどんな感じでしたか。

 

大原 今回が初の教師役でした。今までたくさんの生徒役をやらせていただいた分、先生役はとてもプレッシャーでした。自分に務まるのかなって不安があったんですが、生徒の皆さんが私を先生にしてくださったなと思っています。休憩時間に「愛ちゃん、愛ちゃん」っていつも話しかけてくださって、お菓子交換をしたり、恋バナをしたりしました(笑)。クランクアップのときは、生徒の皆さんが市原さんと私にサプライズで寄せ書きをプレゼントしてくださって、涙が止まりませんでした。

 

──では改めて「おいしい給食 season3」の見どころを教えてください。

 

大原 給食を通して数々のドラマが展開されていきます。私が演じた愛先生に関しては、最初は先生らしくなかった彼女が、全10話を通して、どのように成長していくのか、ぜひご覧になってください。

 

ちょっとでも時間があれば愛車に触りに行くくらいです

──ここからはモノ、コトに関することをお聞かせください。今、サウナと車にハマっていらっしゃるそうですね。

 

大原 サウナは3年前、コロナ禍の前からハマっています。そのときに入っていた作品が、私以外全員サウナーで、空き時間に現場の近くのサウナをいつも調べていたんです。好きなものをお話されているときって、一番魅力的ですよね。共演者の方々からお話を聞いて、自分も行ってみたらハマってしまいました。

 

──1人で行くことが多いんですか。

 

大原 1人で行くときもあれば、友達と行くこともあります。その日の体調や行くサウナに合わせて、今日は何分まで入ろうかなって時間調節するようにしています。あと車の話にも繋がるんですが、車が届いたので、弟とドライブして、新規開拓をしたりもしています。

 

──車はもともとお好きだったんですか。

 

大原 今年の1月に免許を取ったばかりです。今は作品に入っているので、誰かとドライブに行ったりできないんですが、ジムに行くときによく運転したり、親友が犬を飼っているので、お家まで迎えに行って、夜の代々木公園を散歩しました。

 

──免許を取ったら車は買おうと決めていらっしゃったのでしょうか。

 

大原 そうですね。ペーパードライバーになる前に買いたいって思っていました。私は鹿児島県出身で、車社会で育ったんです。人混みが苦手で自然が恋しくなることもあるので、休日は弟を連れて、自然に癒されたくて車で出かけることもあります。

 

──「これだ」って思う車にはすぐめぐり合えたのですか。

 

大原 試乗しに行くまでが長かったですね。もともと車をそんなに知らなかったので。でも凝り性なところがあるので、全部調べて知った上で、「これかな」って思ったものがあり、1回試乗して決めました。それが今の愛車でひと目ぼれしました。

 

──ポイントは何だったんですか。見た目? それとも乗りやすさ?

 

大原 どっちもでした。親の意見は聞きませんでした(笑)。「こっちの色がいいんじゃない?」って言われましたけど、結局乗るのは自分だから。私は長く愛せるものがいいな思ったので、内装の色をカスタムしたりしましたけど、全部自分で決めました。

 

──車に対する愛情が深まっていそうですね。

 

大原 ちょっとでも時間があれば愛車に触りに行くくらいです。作品に入っている間は我慢しているんですけど(笑)。

 

 

 

おいしい給食season3

10月9日よりテレビ神奈川、TOKYO MX、BS12 トゥエルビ、TVerほかにて順次放送中

【「おいしい給食season3」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
監督:綾部真弥、田口桂
脚本:永森裕二
出演:市原隼人
大原優乃、田澤泰粋、栄信
六平直政、いとうまい子、高畑淳子、小堺一機

(C)2023「おいしい給食」製作委員会

 

撮影/河野優太 取材・文/佐久間裕子

菅生新樹「鈴木亮平さんは言葉一つひとつの言葉の重みと深みが、僕たちと全然違う」日曜劇場『下剋上球児』

鈴木亮平さんを主演に加え、数々のヒット作を生みだしてきた新井純子プロデューサーと塚原あゆ子監督のコンビによる初の日曜劇場作品としても注目を集めるドラマ『下剋上球児』。弱小野球部のキャプテン・日沖誠役を演じている菅生新樹さんは、実は野球は全くの初心者だったと言います。半年に及ぶ球児のオーディションを通して、野球の楽しさを知ったと語る菅生さんに、オーディションからこれまでをお話いただきました。

 

菅生新樹●すごう・あらき…1999年8月26日生まれ、大阪府出身。2022年LINE NEWS VISONの縦型ドラマ『トップギフト』でドラマ初挑戦、俳優として本格デビューを果たし、ドラマ『初恋の悪魔』で話題に。その後、主演ショートムービー『イカロス片羽の街「豚知気人生」』や主演ドラマ「凋落ゲーム」、「なれの果ての僕ら」などに出演。X(旧Twitter)Instagram

【菅生新樹さん撮り下ろし写真】

野球ってこんなに楽しいんだって、オーディションということを忘れるぐらい

──日沖誠はオーディションでつかんだ役。オーディションの様子はU-NEXTで先行配信されていましたが、決定した瞬間は涙ぐんでいらっしゃいましたね。

 

菅生 安堵の涙でした。発表のときは役名を言われただけでしたが、僕にはキャプテンというわかりやすい情報があったので、「うわ、僕がキャプテンできるんだ」と思ったら、素直にうれしくて。みんなをまとめるキャプテンを任せてもらえるんだってうれしさと同時に、不安もありましたけど、より頑張らなきゃって思いました。

 

──オーディションは半年間かけて行われたそうですが、大変だったことはありましたか。

 

菅生 まずオーディション期間が長いのが大変でした。他のお仕事もやりながらだったので。でも一番大変だったのは野球の練習ですね。3次が野球の実技審査で、それが僕にとっては一番の壁でした。その壁をどうやって乗り越えようか考えて、実際に高校野球のコーチをしている友達がいたので、オフの日に一緒に練習してもらって。動画で確認してアドバイスしてもらったりしました。でも、今思うとそれも大変というよりは楽しかったんですよね。ただその頃の気持ちとしてはすごく怖かったんです。それ以外は大変だったことはあんまり記憶がないんですよね(笑)。

 

──楽しいことの方が多かった?

 

菅生 オーディションではありましたけど、実技審査中もすごく楽しくみんなとはしゃいで、大人数の仲間たちでスポーツをするって感覚でした。良いプレーをしたらみんなでハイタッチしたり、声を出したり。自分は下手でノックが全然取れないんですけど、取れなくてもみんなが声を出して盛り上げてくれるし、僕も盛り上げました。そうしようって話し合ったわけじゃなくて、自然とそうなったんです。野球ってこんなに楽しいんだって、オーディションだってことを忘れるくらい楽しんでいました。逆にそういうところが評価に繋がったと言っていただきました。

 

愛を持っている人物だから頼りたくなる……そういう存在かな

──半年間一緒に戦ってきた仲間たちはどんな存在になっていますか。

 

菅生 野球部のメンバーはライバルであると同時に、お互いに刺激し合える関係で、ちゃんと相談もできる間柄になりました。言いづらいこともあると思うんですけど、「自分はこうしたいから、こうしてくれ」とみんなで言い合えるんです。甲子園球児だった人もいるので、「自分にはこういうシーンがあるんだけど、実際の野球だとどうなのかな」って、わからないことがあれば素直に聞けるし、真剣に教えてくれます。何も恥ずかしがらずに聞ける関係が築けていると思うので、自分にとっては大好きなメンバーだし、頼もしいメンバーです。そして、自分もオーディションの配信を見て、受けた人たちそれぞれの物語があるので、ドラマに出演することになった僕らは、オーディションを受けた人たち全員分の想いも届けなければいけないと思っています。

 

──日沖誠は野球部に1人だけになっても黙々と練習を続けてきた3年生。菅生さんは日沖誠をどんな人物と捉えていらっしゃいますか。

 

菅生 日沖誠は1人でも野球部に残るぐらい野球が大好きなんです。そして幽霊部員の生徒たちにも「もう1回やろう」と奔走するぐらい、野球部のみんなのことが大好き。指導してくれる先生が来たら、先生のことも信頼して大好きになるし、弟のことも好きなので、すごく愛に溢れている人物だなと僕は思っています。周りのみんなのことを思って行動するから、性格もキャプテンっぽい。うまくないから野球ではみんなを引っぱれないし、泥くさくてかっこよくはないんだけど、応援したくなる。そんな愛を持っている人物だからこそ頼りたくなる……そういう存在かなって思います。

 

──ご自分と似ていると思うところはありますか。

 

菅生 僕も人に興味を持つことが多くて、今回のメンバーのことも大好きなので、積極的に話しかけるようにしています。僕は野球が全然うまくないのに、僕がキャプテン役と発表されたときも、みんながすぐに納得してくれて。それがすごくうれしかったんです。大きくくくると愛を持つ人間というところは一緒なのかなって思っています。

 

──塚原あゆ子監督から言われたことで印象に残ったことを教えてください。

 

菅生 塚原監督は僕らの良いところを引き出そうとしてくださいます。自分が出ていないシーンで、監督の後ろで見ていると、今演じている役者さんをすごく応援していらっしゃるんですよ。実際に演じている人に向けて「頑張れ」って声を掛けるし、何かあればすぐに走ってきて、僕らがやりやすいように、「これはどう?」って提案してくださいます。解決するまで真剣に相談に乗ってくれて、本当に粘ってくださるので、塚原監督の言葉と言動、すべてに僕は感謝しています。僕以外の球児役のみんなも大好きで、僕らが頑張ろうと思える存在になっています。

 

亮平さんが自分は業界では一番強いとおっしゃるので、僕も負けませんよと……

──今回は弟のいる役ですが、実際の菅生さんは末っ子ですよね。弟がいる兄役を演じるのはいかがですか。

 

菅生 弟の日沖壮麿を演じる小林虎之介は、実年齢は年上なんですけど、性格的にすごくかわいらしくて、抜けている部分がたくさんあるんです。エピソードでいうと、地方ロケで一緒の部屋だったときに、疲れているせいからなのか、大浴場から出た後で「やべえ。シャンプーまだ洗い流してねえ」って言ったんです(笑)。

 

──それは……相当疲れていたんですね(笑)。

 

菅生 でも、みんなも同じように疲れているじゃないですか(笑)。しかも彼からすると普通のことなのか、「やっべ!」って焦っている感じではなく、ぼそっと「洗い流してねえ」って大浴場に戻ったんですよ。そういうところが徐々に見えてきたのと、おっちょこちょいなんです。ホテルの鍵を刺しっぱなしにしたたま寝そうになったり。とにかくそういうエピソードがいっぱいあって、かわいいんですよ。僕も最初はお兄ちゃんできるかなって思っていたんですけど、彼のおかげで逆にお兄ちゃんにしてもらっているというか。別に本人は頼ろうとしているわけじゃないんですけど、何かしてあげたくなる存在です。

 

──主演の鈴木亮平さんの印象はいかがですか。

 

菅生 亮平さんは言葉一つひとつの重みと深みが、僕たちと全然違うなって思います。その言葉を受けるからこそ、僕たちが反応しやすいんだろうなって。芝居ってキャッチボールみたいなもので、良いボールが来たらキャッチして良い音が鳴ると思うんです。亮平さんの言葉からは伝わるものがあって、それに対して僕らは反応して返すことができるんです。監督に僕らのことまで相談してくださって、僕らもそれに気がついて、「ああ、そうか」って思うこともあります。1対1のシーンでは、お互い集中して無言だったりもするけど、芝居ではちゃんとぶつかり合うことができて、何をしても亮平さんが返してくれるという安心感があります。そして普段は本当に仲の良い先生って感じです。この前もみんなで手押し相撲やりました。亮平さんが超強いっていうから、みんなで「じゃあやりましょうよ」ってなりました(笑)。亮平さんがそうやって僕らを向かい入れてくださるので、良い関係性が築けています。

 

──ちなみに手押し相撲の勝敗はどんな感じでした?

 

菅生 亮平さんが自分は業界では一番強いとおっしゃるので、僕も負けませんよってなって(笑)。手押し相撲って体格が良いから強いわけじゃないんです。バランス感覚が大事だから、僕も自分より強い相手を倒して来たので、「勝てるぞ」と思っていたんです。休み時間が30〜40分くらいしかなくて弁当を食べるのを一旦やめて、5回戦くらいやりました。結果としては僕が負けてしまったんですが、「日沖、お前本当に強いよ。久しぶりにこんなに強いヤツに会ったよ」って言ってくださって。嬉しかったけど、集中力が途切れてしまったのでちょっと悔しかったです(笑)。

 

伊藤あさひくんや中沢元紀くんとは、夜に電話でめちゃめちゃ話ながらサッカーゲームしています

──ここからはモノやコトにまつわるお話をお聞かせください。今の現場に必ず持っていくものはありますか。

 

菅生 野球のシーンでたくさん声を出すので、龍角散のど飴を持って行きます。あとは空き時間でゲームをやることもあるので、モバイルバッテリーも絶対に持っていきます。ジェスチャーゲームのアプリをスマホに入れて、移動中にみんなでやったりします。それと鈴木亮平さんが撮影に入るときに、みんなにお守をくれたので、それを台本ケースに付けています。

 

──最近ハマっているものや趣味を教えてください。

 

菅生 僕はテレビゲームとボードゲームがすごく好きです。頭脳を使う系のゲームがすごく好きで、トランプみたいなカードを使うインサイダーゲームというのがあって、6人でやるとしたら、1人がカードをめくってお題を見るんです。もう1人マスターという人がいて、その人もお題を知っているんです。そのお題に関して5人はマスターに質問をしていってお題を当てるんです。お題が当たったら、じゃあ誰がお題を知っているインサイダー(内通者)だったか会話をして当てていくんです。僕はそのボードゲームが大好きで。会話をすることによって、その人が出すワードや話し方から性格が分かるんですよね。だから仲が良い人や仲良くなりたい人とやると、すごく盛り上がるんです。僕はトランプも好きなので、野球部のメンバーとも一緒にやっています。

 

──メンバーの皆さんとも一緒にゲームもするんですね。

 

菅生 最近サッカーのゲームにハマっていて、寝る前に1試合、2試合……3試合やったりします(笑)。伊藤あさひくんや中沢元紀くんとは、夜に電話でめちゃめちゃ話ながらサッカーゲームしています。

 

──撮影でもずっと一緒で、夜も一緒にゲームするって本当に野球部みたいですね(笑)。

 

菅生 僕の性格上、作品中は出演者と仲良くなりますね。でも今回は今までで一番仲良くなっているかもしれないです。オーディションを一緒に戦ってきた仲間ということもありますから。

 

 

TBS日曜劇場「下剋上球児」

TBS系 毎週(日)後9:00~

 

(STAFF&CAST)
原案:「下剋上球児」(カンゼン/菊地高弘著)
脚本:奥寺佐渡子
演出:塚田あゆ子、山室大輔、濱野大輝
主題歌:Superfly

出演:鈴木亮平、黒木 華、井川 遥、生瀬勝久、明日海りお、山下美月(乃木坂46)、
きょん(コットン)、中沢元紀、兵頭功海、伊藤あさひ、小林虎之介、橘 優輝、生田俊平、菅生新樹、財津優太郎、鈴木敦也、福松 凜、奥野 壮、絃瀬聡一、鳥谷 敬、伊達さゆり、松平 健、小泉孝太郎、小日向文世

 

撮影/映美 取材・文/佐久間裕子 ヘアメイク/永瀬多壱(ヴァニテ) スタイリスト/小林洋治郎

浅川梨奈「撮影しながら『これ、とんでもないドラマなるな』って思っていました」ドラマ『帰ってきたらいっぱいして。』

10月19日(木)にスタートする新ドラマ『帰ってきたらいっぱいして。』(読売テレビ 毎週木曜 深夜0時54分~)で、Aぇ! groupの小島健さんとW主演を務める浅川梨奈さん。“ちょっと刺激的”な妄想シーンも話題を呼んでいるドラマで、崖っぷちのアラサーTL(ティーンズ・ラブ)漫画家・朱音を演じる彼女の役作りはもちろん、プライベートも垣間見れる友人とのエピソードも教えてくれました。

 

浅川梨奈●あさかわ・なな…1999年4月3日生まれ。埼玉県出身。16年、映画『14の夜』にて長編映画デビューし、翌17年公開の『人狼ゲーム マッドランド』では初主演を務める。そのほか『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』(19・21年)、『胸が鳴るのは君のせい』(21年)、『KAPPEI カッペイ』(22年)、『おとななじみ』(23年)などの話題作に出演。近年のドラマ出演では、「親愛なる僕へ殺意をこめて」「大病院占拠」などに出演。X(旧Twitter)Instagram

 

【浅川梨奈さん撮り下ろし写真】

 

30代、40代の友だちから人生相談をされることも多いです

──とても意味深なタイトルを聞いたときの率直な感想は?

 

浅川 やっぱり、すごいタイトルだなと思いました(笑)。個人的に、TL(ティーンズ・ラブ)漫画の実写化の出演は初めてでしたし、そういうシーンもいっぱいあるのは分かりつつ、「一体どこまで、どう描くんだろう?」っていう気持ちでいっぱいでした。

 

──現在24歳である浅川さんが、アラサー女性を演じることについては?

 

浅川 私自身は、アラサーの役を演じることに違和感なかったんですけど、こういう取材とかで結構聞かれることが多いので逆に驚いています。これまで実年齢より上の設定の役どころを演じることが多かったですし、私生活でも「20代の精神年齢じゃない!」って言われ続けてきたし、実際に制服を着る機会がどんどん減ってきているんですよ(笑)。ただ、原作の33歳設定はさすがに無理があると思ったので、ドラマでは30歳の設定ということになりました。

 

──「20代の精神年齢じゃない!」と言われる理由は?

 

浅川 基本、同世代の友だちがあまりいなくて、年上の方が多いからだと思うんですけれど、気づけば30代、40代の友だちから人生相談をされることも多いんです。撮影現場でも「本当に24歳?」と聞かれますし。早く大人になりたかったこともあって、実は昔からキャピキャピしているように見えて、かなりドライな性格だったんです(笑)。

 

ここまでゼロベースで役作りしたのは、久しぶり

──原作・脚本を読んだうえでの朱音の役作りは?

 

浅川 脚本を読ませていただいてから原作を読んだのですが、「あら、すごい」と思いました(笑)。これまではわりと自分と共通点がある役が多かったので、「ここが似ているよね」というところから繋ぎ合わせていくことが多かったんですが、今回の朱音ちゃんは本当に自分と似ているところがなかったんです。だから、原作を読み込んで、キュンキュンするポイントや、「これ、ときめくな」と思った部分などから自分が共感・同情できる部分を見つけて、それを台本と照らし合わせるところから役を作っていきました。ここまでゼロベースで役作りしたのは、久しぶりで、だからこそ客観的に役を見ることができたと思います。コミカルな芝居のさじ加減に関しても悩んでいたんですが、現場に入って編集長役の中村中さんに助けていただきました。

 

──ちなみに、浅川さんには朱音のような妄想癖はありますか?

 

浅川 私、現実主義なんで、妄想しないんです。好きなことになると、それしか見えなくなる仕事人間みたいなことは、朱音ちゃんと通ずる部分はあるかもしれませんが、根本的な性格は、全く違いますね。オドオドしたり、キョドったりもしないので、全くかわいらしくないです(笑)。あと、漫画家としては崖っぷちな設定だったので、これも悩みました。私の周りの崖っぷちな人って、「結婚どうしよう」って、焦っている人ですから、ちょっと違うんです。

 

──世界が変わるようなキスシーンがある「第1話」から、少女漫画原作とは異なる濃厚なラブシーンを演じてみていかがでしたか?

 

浅川 少女漫画って、女の子が「男の子に、こういうふうにされたい」っていう夢だったり、憧れの塊だと思うんですけど、TL漫画って、そこにリアリティがプラスされて、ちょっと濃厚な描写もあると思うんです。今回は、そのリアルな部分をコミカルな演出を強めて描いているので、私も抵抗なくできましたし、皆さんにも笑いながらツッコんでもらえる仕上がりになったと思います。後半の展開になるにつれて、普通にキュンキュンする直哉(小島健)くんと朱音ちゃんのシーンも、複雑な心情のドラマも描かれますし、いろんな楽しみ方してもらえるかなと思っています。

 

朱音ちゃんと直哉を温かく見守ってほしい

──劇中、年下男子を演じる直哉役の小島健さんは、実年齢では同い年ですね。

 

浅川 小島さんとは同い年なうえ、B型同士で、芸歴も同じなんですよ! 最初は「自分が果たして、小島さんの年上に見えるのか?」ということが不安だったのですが、実際の小島さんは、どこか直哉にも通じるとても少年のような方だったので、そこに乗っかって、なんとか乗り切りました(笑)。あと、見た目でどうにかするというよりは、「ここぞ!」というときに、直哉を包み込んであげる優しさや温かさを出せることで、朱音ちゃんが年上であることを出せるよう心がけました。

 

──どんどん進んでいく朱音と直哉の関係も気になるところです。

 

浅川 「第1話」と「第2話」で、ハラハラドキドキがスピーディーに連続していき、朱音ちゃんの女性としてのちょっとした成長と直哉の心情の変化がある「第3話」。そこで一旦ピークを迎えた後、お互いがお互いの気持ちに気づき始め、お互いのライバルが現れて、という盛りだくさんの展開になっていくので、そんな朱音ちゃんと直哉を温かく見守ってほしいです。私自身も撮影しながら、「これ、とんでもないドラマなるな」って思っていたので、楽しんで見ていただけるんじゃないかなと思います!

──さて、劇中には朱音の心の支えとして、初めてもらったファンレターが登場します。浅川さん自身も、そのようなエピソードはありますか?

 

浅川 ファンの方たちが赤い台本カバーをプレゼントしてくれたんです。そこには「not alone(一人じゃない)」と印字が入っていたんですが、新しい道に進むことに不安も感じていたので、とても大きな励みになりました。今でも、ずっと大事に使っています。

 

求められたもの以上のお芝居ができる女優さんに

──グループを卒業されて4年。女優としての今後の展望も教えてください。

 

浅川 この作品をやれたので、「もう怖いものはないな!」って思っているんです。いわゆる挑戦的なシーンもありつつ、感情のお芝居をすることも大変だったので。最終話のラストシーンを撮る前日、原作を読み直して、台本も第1話から読み直しました。そういうこともやりつつ、いろんなお芝居もできた学びある現場であったので、かなり自信がつきました。今後も求められたもの以上のお芝居ができる女優さんになれるよう頑張りたいです。あとは、もう一度高校生役やりたいですね。あと、1回くらい(笑)。

 

──いつも現場に持っていくモノやアイテムを教えてください。

 

浅川 「この現場ではこのゲームする」とか、「この現場ではこの曲聴く」とか、現場ごとに自分のブームが変わるんです。皆さんと会話が多い現場だと食べ物になって、会話が少ない現場だとゲームになりがちなんですが(笑)、今回の現場に関しては、グミとチョコです。それを毎日カバンに入れて、ちょっとした撮影の空き時間とか、集中できなくなったときに食べていました。

 

 

ドラマDiVE「帰ってきたらいっぱいして。」

2023年10月19日(木)より、毎週木曜0:54~読売テレビにて放送
放送後TVer見逃し配信あり

【ドラマDiVE「帰ってきたらいっぱいして。」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
原作:ましい柚茉「帰ってきたらいっぱいして。~アラサー漫画家、年下リーマンに愛でられる~」(小学館『&フラワー』)
監督:澤田育子、高橋雄弥
脚本:下亜友美、澤田育子、湯田美帆
出演:小島 健、浅川梨奈、宮崎秋人、西原誠吾、めがね、辻 凪子、しゅはまはるみ、中村 中、神尾 佑

(STORY)
一流企業勤めのイケメンエリートだが、女癖が悪いクズ男の高城直哉(小島)。いっぽう、TLマンガ家のアラサー女性・福永朱音(浅川)は、恋愛経験が少ないためネタに行き詰まり中だった。ひょんなことから直哉は、朱音の“参考資料”という役目を請け負うことになり、2人で刺激的な同居生活を始めることになる。

公式サイト:https://www.ytv.co.jp/kaeshite/

(C)ましい柚茉/小学館/「帰ってきたらいっぱいして。」製作委員会

 

撮影/干川 修 取材・文/くれい響 ヘアメイク/石川ユウキ(Three PEACE) スタイリスト/髙橋美咲(Sada I suud) 衣装協力/シー ニューヨーク、シースキー

「絶対にバラエティタレントになりたい!」元BiSHハシヤスメ・アツコが直談判で叶えた“夢”とその思いの深層とは?

元BiSHのハシヤスメ・アツコが、本格的にバラエティタレントへ舵を切った。現在、テレビで観ない日はないほどの活躍ぶりで、早くも初めてMCを務めるバラエティ番組『金曜日のメタバース』(テレビ朝日系)もスタート。バラエティに対する熱い思いと、自分の力で叶えた”夢”を、語ってもらった!

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:有山千春)

 

ハシヤスメ・アツコ… 9月27日生まれ。福岡県出身。2015年8月よりBiSHのメンバーとして活動をスタート。BiSHのメガネ担当で、欠かせないムードメーカーとして活躍。2018年にはワンマンライブにてソロデビューを直訴し、翌年ソロシングル「ア・ラ・モード」をリリースした。BiSHは2023年6月29日東京ドームにて惜しまれつつも解散。X(旧Twitter)InstagramTikTok

【ハシヤスメ・アツコさん撮り下ろし写真】

 

 

「ラブマゲドン」でZAZYと手つなぎ「収録中はドキドキしっぱなし」

──6月29日にBiSHが解散となり、翌日にホリプロ所属になりました。いま、テレビで観ない日がないくらいですよね。ちょうど昨日(9月12日放送)も『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)を観ました。「ラブマゲドン」企画にご出演され、ZAZYさんとカップリングしていましたね。

 

ハシヤスメ・アツコ(以下、ハシヤスメ) 『ロンドンハーツ』には、グループ時代に一度ドッキリ企画で出させていただきましたが、「ラブマゲドン」は初めてで。恋愛系自体もやったことがなかったので、それこそ芸人さんと手をつなぐなんていうこともなかったですし、収録中はドキドキしっぱなしでした。

 

──どんなドキドキ感ですか?

 

ハシヤスメ 今までやってこなかったことをやることに対して、「応援してくれているファンはどう思うんだろう」とか、自分の中ではドキドキしながら挑んだ、大きな1歩でしたね。

 

──ファンの方からはどんな反響がありましたか?

 

ハシヤスメ もっと荒れるかと思いましたが、意外とそこまで荒れなかったです。いいんだか、悪いんだか(笑)。なかには「誰にも選ばれないでほしいけど、最後のひとりになったらかわいそうだな」みたいなコメントもあって。

 

──やさしいですね。

 

ハシヤスメ そしてZAZYさんと結ばれたのですが、「気持ちが入っていない」なんて言われてましたけど入ってました! 手をつなぐということ自体は、グループ時代に握手会などでしてきてはいたものの、やっぱりファンの方からすると、「異性と手をつないでいる場面を見るなんて……何を見せられているんだ……」という気持ちだったと思います。でも、自分はこれからバラエティメインでいろいろやっていきたいという覚悟を決めた瞬間でもあったので、どんなことにもチャレンジするハシヤスメを応援していただけたらうれしいです。

 

──バラエティ番組に対する意気込みへのアツさがすごいと思います。6月30日に所属されて、いまは毎日のように出演されて。どれくらいのペースで仕事していますか?

 

ハシヤスメ でも週2日は休日があるので、みなさんと同じくらいです。ありがたいですが、もっといっぱい仕事したい! という気持ちです。

 

明石家さんまとの掛け合いは、台風のよう「めちゃくちゃ踏ん張っていました」

──これまでさまざまな方と共演したと思いますが、そのなかで印象的な出来事はありましたか?

 

ハシヤスメ 明石家さんまさんとお話したときは、なんだかいつもとすごく感覚が違うというか……風が吹いたんですよ。

 

──『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)ですよね。どういうことですか?

 

ハシヤスメ さんまさんと掛け合っているとき、ずっと台風の中に入っているくらい、ゴウンゴウンッ! という感じになって。「この風に負けちゃいけない!」という気持ちになったんですよね。こんな感覚初めてで……なんだろう……なにと戦っていたんでしょうね。とにかく、感じたことのない風がスタジオに吹いていたんです。すごい汗をかきました。

 

──ステキな表現ですね。吹き飛ばされないように、ぐっと踏ん張って。

 

ハシヤスメ そうですね、めちゃめちゃ踏ん張っていました。なんでそうなったのかわからないんですが、たぶん、いろんなワードがいっぱい飛んできて、その中で負けないように風の中でめっちゃ踏ん張っていた、という感じがして。それで、トークがほかの方に移った瞬間に、ふっと風は収まったんですけど、話している間は信じられないほどの突風でした。そのあと番組を観たら、当然風なんて吹いていなかったんですけどね。

 

──これまでのライブなどでもそういうことはなく?

 

ハシヤスメ なかったですね。グループ時代にもバラエティ番組に出ることはありましたが、吹き荒れる風はありませんでした。

 

──どんな話をしたんでしょう。

 

ハシヤスメ 夜中になるといらないものを買ってしまうというトークで、綿あめ機を買ったという話をしました。

 

──暴風の中、手応えはいかがでしたか?

 

ハシヤスメ やりきった! という感じはありました。もちろん、自分のトークが終わったあとに「時間を戻せるなら、もっとこんなことを言ったほうが面白かったかな」と思ったり、反省点はいっぱいありましたが、そのとき自分ができることを120%やりきったなという感じはありました。

 

推し芸人・コカドケンタロウと「一緒に銭湯ロケに……」

──以前から大ファンを公言されている、ロッチのコカドケンタロウさんとは共演しましたか?

 

ハシヤスメ コカドさんは今日、夢に出てきました。

 

──おお! どんな夢ですか?

 

ハシヤスメ 一緒に銭湯ロケしてました。

 

──リアルですね(笑)。

 

ハシヤスメ リアルですし、なんでそんな夢を見たんだろうって感じなんですけど。でも現実ではお会いしていなくて、お仕事でもプライベートでも。これだけ夢に出てきているのにずっと絡みがないので、いつお会いできるだろうなあとすごい楽しみにしています。夢の中では、「やっと夢が実現した!」と思っていたんですけどね、目が覚めてがっかりしました。

 

──残念です(笑)。

 

ハシヤスメ 一度会ってお話してみたい一方で、自分の気持ちが上がるのか下がるのか、というのが知りたいですね。

 

──たしかに、実際に推しと会うと「あれ?」となることがあると聞きますよね。

 

ハシヤスメ そうなんですよ。10年くらいずっと好きで応援している方なので、お会いしたときに自分がどんな気持ちになるのか怖くもあるので、正直、まだこのままでいいのかなという気持ちもあります。

──夢のままで。

 

ハシヤスメ 夢のままでいいです。

 

──バラエティに出る前とあとでは、ご自身の中でどんな変化がありましたか?

 

ハシヤスメ いままでは音楽のことをずっと考えて、グループのためを想っていた8年間で、一人になった今もグループの話をすることもあるので頭の片隅には置きつつ、ただ、いまは“ハシヤスメ・アツコ”として勝負をしていて。もっとバラエティの勉強をしないといけないなと実感しています。まだ小学1年生レベル……いや、歩きたてレベルなので、いろんなバラエティ番組を観たり、カメラの前で自分がどんな人間かというアピールというか、自己紹介をしていきたいなって思っています。

 

──共演者の方で、「この人はすごい」と感じた方はいましたか?

 

ハシヤスメ そうですね、麒麟の川島(明)さんはすごかったですね。BiSHを解散した翌日に『ラヴィット!』(TBS系)に出させていただいて、川島さんはどんな状況でも助けてくださるし、守ってくださるんだろうなというのを感じました。

 

──信頼感がすごいんですね!

 

ハシヤスメ そうですね。自分も至らない点が多々あって、発言とか「これであっているのかな」と考えてしまうことがあるんですが、川島さんはたぶんいろんなことを毎日経験されて、ハシヤスメの発言もうまく拾ってくださって、調理してくださって、すごく信頼できる方だなと思いました。

 

出演番組をすべて録画し、すべてチェックする徹底ぶり

──家に帰って膝を抱えることもあるんですか?

 

ハシヤスメ ありますね。収録後に帰宅して「あのとき、この発言をすればよかったな」とか、放送を観て「あ! ここ、こういうコメント入れられたのにな」とか、思うことがいっぱいあります。

 

──出演番組、全部チェックしているんですか?

 

ハシヤスメ 全部チェックしてます。自分が出ているバラエティは全部観て、「あれ使われてなかったな」とか、「ここ、喋ったのに使われてないな、自信あったのにな」とか、「このときガヤ入れてたらこの場が変わったのかな」とか、反省することがいっぱいありますね。

 

──昔から同じように、録画を観て反省点を頭に叩き込んで、とやっていらっしゃったんですか。

 

ハシヤスメ グループ時代はただ録画をするだけだったんですが、自分ひとりでしゃべるようになった、ここ2、3か月は研究するようになりました。

 

──誰かからそういった教えがあったり?

 

ハシヤスメ いろんなタレントさんが、雑誌やテレビで「録画をして観るのが大事だ」と喋っていたのを取り入れたり、ホリプロの方からも「観た方がいい」と言われたので、テレビで自分のどこが使われているのかを観るようしています。

 

──全部って、すごい量だと思います。

 

ハシヤスメ いやいや、あっという間に観終えますよ。

 

──ところで、なぜバラエティの道へ舵をきったのでしょう? BiSHの解散発表が2021年でしたが、その頃から今後のことについてなど、考えていらっしゃったんですか?

 

ハシヤスメ 私もメンバーも、この8年間、全員がBiSHのことしか考えていなくて、なにかやるにも「グループのため」という意識でした。解散発表をしてからも同じで、ツアーも続いていたし、12か月連続リリースもありましたし、自分のことよりもグループのこと、でした。スケジュールはパンパンで、グループのことしか考えられなかったし、1人のことを考えるモードになれなくて。そんなとき、WACKの社長の渡辺淳之介さんに「この先、どうするんだ」と聞かれまして。そのときにようやく「先のことを決めないといけないんだ」と気づいたんです。それが、2022年の冬でしたね。

 

──ということは結構ギリギリなタイミングですね。

 

ハシヤスメ そうなんですよ。グループの活動がとにかく大切だったので。

 

──そこでなぜバラエティへ?

 

ハシヤスメ もともとグループでは「コント担当」みたいな感じでやらせてもらっていました。ほかのメンバーは音楽に特化したり、作詞作曲ができたり、自分も音楽や歌うことは好きですが、こんなに素晴らしい音楽をやるメンバーがいて、自分も音楽をやっていくのはどうもしっくりこなくて。などと考えた中で、自分はずっとバラエティが好きで、テレビの人になりたかったんですよね。それで、「絶対にバラエティタレントになりたい!」という気持ちが強く固まっていき、ホリプロを選びました。

 

ホリプロスカウトキャラバンを5回受け「すべて書類落ち」の過去

──以前から公言されていますが、『王様のブランチ』(TBS系)に出るのが夢だそうですね。

 

ハシヤスメ 好きですね。トレンドのスポットに行って、いち早く体験したりとか、ディズニーランドに行って「楽しい! 面白い!」ということを伝えたいんです。レポーターの方たちが楽しそうにしているのを見て、「自分もそこにいる人になりたいのに、なんで行けないんだろう」と、ずっともどかしく思っていました。

 

──ディズニーランドではしゃぐハシヤスメさん、見てみたいです! ホリプロ所属ですが、かつてホリプロスカウトキャラバンを受けていらっしゃると聞きました。

 

ハシヤスメ はい。5回受けて、全部書類で落ちています。

 

──オーディション用写真を親御さんに写真を撮ってもらったり?

 

ハシヤスメ いえ、全部自分でやりました。『月刊Audition』や『De☆View』という雑誌があって、そのお手本に沿って「自撮りじゃダメなんだ」とか「頭から爪先まで入るように撮らなきゃ」とか、「黒髪ストレートのほうがいいのか」とか、忠実に守って撮っていましたね。

 

──めちゃくちゃ真面目ですね。

 

ハシヤスメ あと「切手の料金不足は事務所に迷惑かかっちゃうよ!」という注意書きを気をつけたり、「封を開けたとき、写真側が表になっていたほうがいいのかな」とか「糊で貼ったらベタベタになっちゃうから、履歴書をどんなふうに入れて封をしよう」とか、いろんなことを考えて送っていました。

 

──開けやすさまで考えて!

 

ハシヤスメ 「テープで貼ったほうがいいのかな」とか、そういうことばかり考えていました。絶対に受かりたかったので。

 

──「可愛い写真を撮ろう」といったこと以外のところまで気を配っていて、とてもステキですね。

 

ハシヤスメ 鉛筆で下書きを書いてから清書していましたしね。どうしても入りたかったので、気持ちがあふれていたんですよね。特にホリプロは第1希望だったので絶対に入りたかったんです。

──おキレイですし、路上スカウトもあったのでは?

 

ハシヤスメ それがほとんどなくて。学生時代も原宿の竹下通りを歩いたりしたんですけど、「え、これってスカウトなのかな……?」という懐疑的なものはありました。

 

──怪しさがわかるんですね。

 

ハシヤスメ 聞いたことがない事務所だったり、本当に実在するのかなというものとか。だから、自分が「正しい」と信じられるものだけをやっていこうと思っていました。

 

──すごくしっかりされていますね。

 

ハシヤスメ 違和感には敏感だったと思います。

 

──それで、BiSHを経て、原点ともいえるホリプロに所属されて。学生時代のお友達の反応はいかがですか?

 

ハシヤスメ 高校時代の友達はスカウトキャラバンを受けたことを知っているので、「ほんとうにおめでとう!」「夢が叶ってよかったね!」とめちゃくちゃ祝福してくれました。

 

ホリプロに所属を直談判!「今までも全部自分たちでやってきたので」

──ちなみに、ホリプロからのオファーがあったのでしょうか? 「うちに来ませんか?」みたいな。

 

ハシヤスメ 来てないですね。自分で「入りたい」と渡辺さんに相談したら「俺じゃどうにもできないよ」と言われまして。でも、どうにかいろいろな方法でホリプロさんまでつなげてもらい、自分で「面接してください」とお願いしたんです。

 

──それも自分で!

 

ハシヤスメ 自分でやりましたね。いままでも自分がやることが多かったんです。それこそ、6月29日の東京ドームのBiSH解散ライブの打ち上げも、会社から「打ち上げ会場を手配して」と言われて私がやりましたし。

 

──アーティスト本人が会場を手配!

 

ハシヤスメ 昔から衣装管理も自分たちだし、作詞もそう。振り付けはメンバーのアイナ・ジ・エンドがほぼやってくれていましたし。だから事務所をホリプロに決めたのが自分なのも、自然の流れでした。

 

──かっこいい!

 

ハシヤスメ もちろん、たくさんの方に支えはありましたが、今振り返るとほぼ自分たちで決めてやることも多かったグループなんだな、と実感しています。

 

──以前から自分たちで動いていたからこそ、自分の力を信じて責任が持てる、という印象を受けました。

 

ハシヤスメ たしかにそうかもしれません。なにがあっても自分が選んだことだし、衣装を忘れても自分の責任でした。いま、事務所を離れてほかのタレントさんと話すと、「あれ、これって当たり前じゃなかったんだ」と思うことも多いです。特殊だったけど、変わらず大好きな事務所です。

 

──その経験値が武器になっていそうです。でも、ホリプロも自分から、だとは。

 

ハシヤスメ 自分で扉を開きました。

──10月6日からはMCを務める番組『金曜日のメタバース』(テレビ朝日系)もスタートします。

 

ハシヤスメ お話をいただいたときは「まさか!」という感じでしたが、ずっと、MCやレギュラー番組をやってみたかったので、とてもうれしかったです。

 

──MCとゲストでは、全然違いますよね。

 

ハシヤスメ そうなんです。受動的に待つのではなく、自分から振っていくというスタンスに変わるので、いま、本当にすごく考えています。

 

──MCが決定したことなど、メンバーの方から喜びの連絡があったりしますか?

 

ハシヤスメ MCのことではないですが、『アッコにおまかせ』(TBS系)に出たときや、ほかのテレビ番組に出演したときは、アイナ・ジ・エンドが「すごいね」と連絡をくれたりします。

 

──やさしい! BiSHの皆さんは、それぞれ多様な道に進んで、それぞれがそこにハマっていらっしゃると思いますが、突出した個性がひとつのグループに集まり約8年間を共にしたことは、奇跡的だと思います。

 

ハシヤスメ それぞれが、いままで出会ったことがないタイプで、無口で全然喋らないメンバーもいれば、ダンスも振り付けもできるメンバーもいて、歌が歌えるメンバー、MCができるメンバーもいて。出会ったことがないタイプだからこそ尊敬していたし、同じ時間を過ごしていくことで取り扱いが分かっていきました。それに、つねに全員が「この子になにかあったら、支えよう」という意識でいましたね。お互いに尊重し合っていたからこそ、6人でひとつのものが作れていたんだと思います。

 

 

 

金曜日のメタバース

テレビ朝日系 毎週(金)午後11時45分~

MC・芝大輔(モグライダー)ハシヤスメ・アツコ

初主演作公開! 中井友望「圧倒的に、自分に自信がついた作品になりました」映画『サーチライト-遊星散歩-』

ヒロインの一人を演じた映画『少女は卒業しない』をはじめ、透明感ある存在感と類まれな表現力でネクストブレイクとして期待される中井友望さんが、単独初主演を務めた映画『サーチライト-遊星散歩-』が10月14日(土)より公開する。「ミスiD 2019」グランプリ出身の彼女が、自身が当て書きされたという脚本との運命的な出会いや今後の展望について語ってくれました。

 

中井友望●なかい・とも…2000年1月6日生まれ、大阪府出身。18年に開催された「ミスiD 2019」でグランプリ受賞。20年、ドラマ「やめるときも、すこやかなるときも」(日本テレビ系)で俳優デビューし、21年には映画『かそけきサンカヨウ』(今泉力哉監督)、『シノノメ色の週末』(穐山茉由監督)、『ずっと独身でいるつもり?』(ふくだももこ監督)に出演。23年にはヒロインの一人を演じた『少女は卒業しない』(中川駿監督)のほか、『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』(阪元裕吾監督)、『炎上する君』(ふくだももこ監督)などに出演。現在、ドラマ「君には届かない。」(TBS系)に出演中。X(旧Twitter)Instagram

【中井友望さん撮り下ろし写真】

 

私と果歩は、人との関わり方が似ている

──今回、初となる単独主演映画が決まったときの率直な感想は?

 

中井 女優になりたいと思い始めたときから、主演映画というのは夢の一つだったので、素直にうれしかったです。いろいろあって、最初にお話をいただいたときから、2年後に撮影が始まったときも嬉しかったですし、完成から1年半ぐらい経って、ようやく劇場公開される今も嬉しいです。

 

──最初に、脚本を読まれたときの感想は?

 

中井 脚本を私に当て書きで改稿してくださった小野周子さんには、それまでお会いしたことも、お話ししたこともありませんでしたが、私のイメージというか、自分とこんなに近い果歩という役で、初主演をやらせてもらえることって、そうあることでもないので、どこか運命的なものを感じました。だからか、役作りをするようなこともなく、とにかく演じやすかったです。

 

──具体的に中井さんと果歩の共通点を教えてください。

 

中井 私と果歩は、人との関わり方が似ていると思います。同級生の輝之(山脇辰哉)がいろいろ心配してくれて、親切に接してくれるのに、なぜか壁を作っちゃう感じとか。あと、私も果歩も友達がいないわけでも、孤立しているわけではないんだけど、ふとしたときに「なんか1人だな……」って思ってしまうところとか、絶妙なラインも似ていますね。あと料理が得意なところも! 私も高校生のときに、自分でお弁当を作っていました。

 

これまで知らなかった感情を知ることもできました

──ちなみに、脚本の小野さんや平波亘監督からのアドバイスはありましたか?

 

中井 お二人といろいろ話し合ったとか、どういう作品にしたいって言われることはありませんでした。ただ、私の中では、「貧困」という大きいテーマを扱っているけれど、そこをあまり考えすぎなくてもいいかなと思っていました。それよりも、果歩は「ただ一生懸命生きたい」「普通に幸せになりたい」という気持ちだけで生きていることを大切に演じました。

 

──真冬での河原での撮影など、現場での印象的なエピソードを教えてください。

 

中井 ほかのキャストの皆さんは、「ものすごく寒かった」と言っていたんですが、私はあんまり寒かった記憶はなくて……(笑)。演技に集中していたということにしましょう! 決して順撮りではなかったので、しんどいシーンでは私の気持ちが追いつかないことがありました。「そこに標準を合わせて、頑張るのって難しいな」って改めて思いました。たとえば、ラブホテルでの山中崇さんとのシーンは、山中さんが本当に怖かったけれど、すごいなと思いましたし、自分もそれに引っ張られて、テイクを重ねるごとに良くなっていくのが分かりました。あと、花火のシーンは、初めて果歩が輝之と笑い合えるシーンなので、撮っているときも楽しかったです。

 

──ちなみに、主演としての心構えみたいなものは?

 

中井 決していいことは言えないんですが、「主演として、しっかりしなきゃ!」みたいなプレッシャーみたいなものは全くなかったんです。そういう意味でも、本当に自由にやらせてもらいましたし、主人公で主演だけど、すべての登場人物、いろんな方に、助けてもらったし、引っ張り出してもらったなと思いました。そんななか、「このセリフを言うと涙が出るんだ」とか、これまで自分が知らなかった感情を知ることもできました。

 

いちばん暗くて、いちばん明るい女優さんになりたいです(笑)

──女優デビューから3年余り。このたび劇場公開される『サーチライト-遊星散歩-』は、中井さんのキャリアにおいて、どんな作品になりましたか?

 

中井 圧倒的に自分に自信がついた作品になりました。女優としてお芝居を楽しめるようになったし、人間としても成長できたと思いますから。この映画の後に、『少女は卒業しない』の撮影に入ったんですけれど、気持ちが全然違いました。そして、『炎上する君』『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』と作品を重ねていくうちに、ちょっとずつ余裕も出てきました。ホント、ちょっとずつですが(笑)。

 

──『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』で演じられた死体処理業者・宮内では、これまでと違う陽キャな役どころでした。中井さんが俳優としての今後の展望や目標を教えてください。

 

中井 例えば、宮内のように感情を爆発させるような役を演じるのも楽しかったですが、あの役は私が普段から持っている要素がゼロというわけでもないんです。あのときも何も考えず、自分の中から出てきましたら。これからも「自分と違う」「自分と似ている」だけでなく、いろんな役を演じていくと思いますが、どんな役を演じるにしても、中井友望としての要素は必ず入れていきたいなと思います。そして、その場、その場で臨機応変に対応できる、いちばん暗くて、いちばん明るい女優さんになりたいです(笑)。

 

──中井さんが現場に必ず持っていくモノやグッズを教えてください。

 

中井 小説です。昔は活字が苦手だったんですが、3年前に「夜だけがともだち」という舞台をやったときに、作・演出のふくだももこ監督に、西加奈子さんの小説を勧めてもらったのがきっかけです。コロナ禍で、好きな監督の好きな作家さんを知ろうと思い、いろいろ読み始めたら、すごく面白かったんです。ほかにも、『少女は卒業しない』の朝井リョウさんの小説も好きになりました。今では読みたいときに、いろんな小説を読んでいますが、西さんの作品は自分を肯定してくれる作品が多いので、お守代わりに現場に持っていきます。なので、西さんの原作をふくだ監督が映画化した『炎上する君』に出演できたときは、めちゃくちゃ嬉しかったです!

──宮﨑あおいさんが05年に出された写真集「20TH ANNIVERSARY 光」も、中井さんにとって大切な一冊なんですね?

 

中井 宮﨑さんは小さい頃から好きで、とにかくかわいいじゃないですか! それでどうしても、この写真集が欲しくて! 当時18歳ぐらいで、あんまりお金がなかったんですけど、頑張って買いました。ずっと部屋に飾って、いつも元気をもらっています!

 

 

サーチライト-遊星散歩-

10月14日(土)より新宿K’s cinemaほか、全国順次公開

【映画「サーチライト-遊星散歩-」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
監督:平波亘
脚本・企画:小野周子
出演:中井友望 山脇辰哉 田口 洸 都丸紗也華 西本まりん 詩野 安楽 涼 水間ロン 大沢真一郎 橋野純平 安藤 聖 山中 崇

(STORY)
父を亡くし、病気の母を抱えて経済的に追い詰められている女子高生の果歩(中井)。大家族を養うため、アルバイトに明け暮れる同級生の輝之(山脇)は、そんな果歩のつらい状況を知り、気にかけるようになる。だが、先の見えない人生に夢も希望も持てない果歩は、女子高生であることを利用して「JK散歩」の世界へと足を踏み入れていく。

公式:https://searchlight-movie.com/

 

(C)2023「サーチライト 遊星散歩」製作委員会

 

撮影/金井尭子 取材・文/くれい響 ヘアメイク/横山雷志郎(Yolken) スタイリスト/粟野多美子 衣装協力/VL BY VEE、IN-PROCESS Tokyo、TALPA、TAKE-UP

「保証がなくても、とりあえず行動しちゃう」島崎遥香、“ゆとり世代”語るも「結局は人」映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』

宮藤官九郎氏のオリジナル脚本で、2016年に連続ドラマとして放送された『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)。岡田将生さん、松坂桃李さん、柳楽優弥さん演じる「ゆとり第一世代」のアラサーたちが、社会問題や恋愛に葛藤する姿が描かれ話題に。2017年にはスペシャルドラマも放送され、2023年に待望の映画化となった。

 

島崎遥香さんが演じるのは、岡田さん演じる坂間正和の妹・坂間ゆとり。その名のとおり平成生まれの”真性ゆとり”であり、兄の生き方を「古い」と批判しては合理的に生きてきた。当映画では就職や恋愛を経た、ゆとりのその後が明らかになる。島崎さんには、役との共通点や新世代に対して思うこと、さらに役者意識からGetNavi webおなじみの“今ハマっていること” まで聞いた。

 

【島崎遥香さん撮り下ろし写真】

 

坂間家、集結!「『サザエさん』みたいだなって」

 

──連続ドラマ『ゆとりですがなにか』が映画化すると知り、最初に思ったことを聞かせてください。

 

島崎 2017年のスペシャルドラマを撮影したあと、“絶対にまた続きがある!”と信じていたので、うれしかったですね。

 

──続編があると言われていたのでしょうか?

 

島崎 それは全く言われていなかったです。“続編をやってほしい”という願望が強くありました。

 

──楽しい現場だったのですね。久しぶりに集結した坂間家の雰囲気はいかがでしたか?

 

島崎 何にも変わっていなかったです。どういう感じになるのだろうと私も不安でしたが、現場に行った瞬間に、昔と変わらない空気感を感じました。やっぱり、すごく居心地が良かったです。

 

──具体的に、現場での坂間家はどのような空気感なのでしょう?

 

島崎 なんていうんだろう……坂間家は『サザエさん』みたいだなって思っていて。ほんわかした感じです。家族みたいな感覚で、自然体でいられるんです。本当に、たわいもない会話をしますよ。

 

──例えばどんな会話をされたのか、うかがっても?

 

島崎 たわいもなさすぎて覚えていないです(笑)。それから、ほんわかした中で監督が「よーい、スタート」と言ってカメラがまわったときも、“戻ってきたなぁ”という感覚になりましたね。懐かしさが蘇りました。

 

島崎遥香は「ゆとりちゃんのようなタイプの人間」

 

──島崎さんは『ゆとりですがなにか』のタイトルを体現する “坂間ゆとり”役ですが、一貫して意識していることはありますか?

 

島崎 “ちょっとドライに見える”ことかな。年配の方が見たら”冷めて見える”というか、何を考えているかわらかないというか、媚を売りすぎないというか……。ゆとり世代って付き合いが悪いとよく言われますし、そんなふうに見られるイメージがあるので。そこだけはブレないようにしようかなと。

 

──映画ではゆとりのその後が描かれていましたが、台本を見た時、どう思ったのでしょう?

 

島崎 ゆとりちゃんのその後について、ここまでの予想はしていませんでしたが、「まぁ、どうせこうなるよな」って思いました(笑)。ただ自分がゆとりちゃんのようなタイプの人間なので、ゆとりちゃんの生き方は、特に不思議に感じることもなく、自然と受け入れていましたね。

 

──ゆとりと島崎さん自身に、重なる部分があると?

 

島崎 はい。目立ちたがり屋というよりは、ちょっと内気っぽいところが似ています。あとは思ったことを行動に移す速さ、後先考えずに行動する感じが似ているかもしれないです。

 

──行動派なのですね。具体的なエピソードをうかがっても?

 

島崎 例えばですが、ゆとり世代から「会社辞めた!」ってよく聞きますけど、私も辞めようと思ったら、何も決まっていなくてもすぐ辞めますね。多くの人は、計画を練ってから行動するじゃないですか。私は保証がなくても、とりあえず行動しちゃう。意外と行動派なんです。

 

──ちなみにドラマの視聴者からは、ゆとりと、元彼である“まりぶ”のその後について気になるという声もあがっていました。

 

島崎 気になりますよね! 私も気になっていました。一応2人だけのシーンはありましたが……少しでした(笑)。ギュッと詰め込んだのだと思います。正直「どういうことなんだろう!?」と思う部分もありますが……時間が限られている映画なので、しょうがないですねぇ。

 

──視聴者の想像にお任せします、ですかね。島崎さん自身もゆとり世代にあたりますが、実際に「ゆとりですがなにか」と思った体験はありますか。

 

島崎 当事者だと、“ゆとり”だと感じること自体、あまりないかもしれないです。「あなた、ゆとりだよね」なんて、そんな直接言ってくる人もいないですし(笑)。ニュースで“ゆとり教育”を耳にしていたくらいかな。土日はお休みでしたし、ゆとり教育を受けていたんだなっていう実感はあります。

 

──では平成生まれの真性ゆとりや、Z世代に対して違いを感じたことは?

 

島崎 年が離れている弟がいて、まさに新世代ですね。受験方法が変わったり、英語を小学生からやるようになったり。あと今はダンスも授業に含まれているんですよね。それらはなかったなぁって。ただ、そういう実際に変わったことはあっても、「この世代だから、こうだよね」ってことはないと思うんです。結局は人。何でもそうですけど、人によりますね。

 

──この作品でも、同じ世代でさまざまな人が登場しますしね。

 

「自分の感覚を入れないと演じるのが難しいんです」

 

──ドラマ放送から映画化までの7年間に、さまざまな作品に出演された島崎さん。役を演じるうえで、意識が変わったことはありますか?

 

島崎 ないです。たぶん今後も変わらないです。頑固なので。私、どの役でも「自我」を入れたいんですよ。その「自我」の部分はずっと変わらないと思います。

 

──「自我」を入れたい、と。演じるうえでの、こだわりなのですね。

 

島崎 そうじゃないと、できない。自分に照らし合わせて、自分の感覚を入れないと演じるのが難しいんです。感情がうまく乗らないというか……。だから、どの役でも「島崎遥香っぽいな」って、見る人に感じてもらえると思っています。これまでの作品でも、ファンの人だったら分かるんじゃないかな。

 

──自分と真逆のタイプの役でも?

 

島崎 はい。どこかしら共通する部分を見つけるようにします。そうしないと、私らしくない。自分らしさを大切にしています。

 

──強い意思を感じました。最後にGetNavi webということで、現場でも思わず楽しんでしまうような、今ハマっているモノやコトを教えてください。

 

島崎 全部かき氷になっちゃう! どこでも言っていますが、かき氷が好きで、お店に食べに行きます。撮影現場でも、休憩時間があれば近くのお店を調べて、行けたら行きます。1年中食べているので、普通の人よりかは食べていると思います(笑)。

 

──1年中ということは、冬も食べられるのですか?

 

島崎 食べます。冬は、寒いです。だからダウンを着て行きます(笑)。あったかいお茶が入ったマイボトルを持参して。

 

──また強い意思を感じました。ぜひ、かき氷の良さを教えてください。

 

島崎 味変がしやすいことです。氷って、味がついていないじゃないですか。お食事系にもできるし、スイーツにもなるし、無限の可能性がある! お店では2、3杯食べるので、おなかいっぱいにもなります。白米みたいなものですね。身体が冷えても食べ続けますよ、途中からは試練だと思って食べていますけど(笑)。

 

映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』

10月13日(金)全国公開

 

【映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』よりシーン写真】

 

(STAFF&CAST)
監督:水田伸生
脚本:宮藤官九郎
プロデューサー:藤村直人、仲野尚之(日テレ アックスオン)
出演:岡田将生、松坂桃李、柳楽優弥、安藤サクラ、仲野太賀、吉岡里帆、島崎遥香 / 木南晴夏、上白石萌歌、吉原光夫 / 中田喜子、吉田鋼太郎
主題歌:「ノンフィクションの僕らよ」感覚ピエロ(JIJI.Inc)
配給:東宝
公式サイト:https://yutori-movie.jp/

 

(STORY)
<野心がない><競争心がない><協調性がない>【ゆとり世代】 。かつて勝手にそう名付けられた男たちも30代半ばを迎え、それぞれの人生の岐路に立たされていた……。夫婦仲はイマイチ、家業の酒屋も契約打ち切り寸前の正和(岡田)、いまだに女性経験ゼロの小学校教師・山路(松坂)、事業に失敗し、中国から帰ってきたフリーター・まりぶ(柳楽)。≪Z 世代≫≪働き方改革≫≪テレワーク≫≪多様性≫≪グローバル化≫……彼らの前に、想像を超える新時代の波が押し寄せる!  時代は変わった。俺たちは……どうだ!?

 

© 2023「ゆとりですがなにか」製作委員会

 

撮影/中田智章 ヘアメイク/信沢Hitoshi スタイリング/黒瀬結以

北香那「今までとは違う、新たな私を見てほしい!」映画『春画先生』

江戸文化の裏の華で、“笑い絵”ともいわれた「春画」の世界。その奥深さを真面目に説く変わり者の春画研究者と、しっかり者の弟子が繰り広げる春画愛を描いた『春画先生』が、10月13日(金)より公開。まさにオトナのためのコメディドラマで、内野聖陽さん演じる芳賀先生の相棒となる弓子を演じる北香那さんが、これまでのイメージを覆す“挑戦”について語ってくれました。

 

北 香那●きた・かな…1997年8 月23 日生まれ、東京都出身。17年、ドラマ「バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~」(テレビ東京系)でジャスミン役に抜擢され、注目を集める。18 年、アニメ映画『ペンギン・ハイウェイ』では声優初挑戦ながら主演を務める。主な出演作にドラマ「アバランチ」(21年)、「恋せぬふたり」(22年)、「拾われた男」(22年)、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の 13 人」(22年)、「ガンニバル」(22年)、「インフォーマ」(23年)、NHK大河ドラマ「どうする家康」(23年)、主演ドラマ「東京の雪男」 (23年)、「口説き文句は決めている」(23年)、映画『バイプレイヤーズ もしも 100 人の名脇役が映画を作ったら』(21年)、『なんのちゃんの第二次世界大戦』(21年)などがある。Instagram

【北香那さん撮り下ろし写真】

 

改めて春画に触れて分かった、それだけでない面白さ

──「何としても、弓子を演じたい」という気持ちで、オーディションを受けられたそうですが、その理由は?

 

 塩田(明彦)監督が書かれた脚本を読んだとき、とても面白くて、何事にも一生懸命で、1つひとつの言動に嘘がない弓子にとても魅力を感じたんです。それにプラスして、ちょっと自分とシンパシーを感じる部分もあったことも大きいです。気が強い部分もそうですが(笑)、私も1つのことに夢中になると、それを追い続けてしまうんです。例えば、お芝居をしていると楽しくて、「もっともっと、何かないかな?」とか。それで「弓子を演じたい、塩田監督の演出を受けてみたい」と強く思い、自分を奮い立たせながらオーディションに行きました。

 

──『月光の囁き』などで知られる塩田監督作ならではの“歪んだ愛情表現”については?

 

 確かにいろいろな形の愛情表現があるなと感じましたが、弓子だけでなく、登場人物全員が一直線に幸せに向かっているところに惹かれました。例えば、内野聖陽さんが演じた芳賀先生に対する弓子のちょっと歪んだ愛情だったり、柄本佑さんが演じた辻村の歪んだ思いやりだったり、それらがちょっとズレていて、滑稽で面白いというのが、この作品の魅力だと思うんです。最初に台本を読んだときも、「この人たち、一体何なんだ?」と何か惹かれるようなものがあって夢中になってしまいました。

 

──ちなみに、北さんは春画の存在について知っていましたか?

 

 中学生の頃、クラスの男の子たちが「江戸時代のエッチな本があるらしい……」という話をしていたのをある時、聞いてしまったんです。それで家のパソコンで検索して、初めて春画の存在を知ったのですが、「こんなところをお母さんに見られたら、どうしよう!」と思うぐらい恥ずかしかったです(笑)。でも、今回役作りでいただいた資料を読んだり、自分なりに春画の歴史を勉強して、改めて春画に触れてみると、表現として豊かで面白いんですよ。それを想像する面白さや絵の繊細さなど、見れば見るほど、奥深いというか、最初は春画を何も知らなかった弓子が、どんどんのめり込む理由も分かりましたし、そこは『春画先生』と重なっている気もしました。

 

安達祐実さんの迫力に飲み込まれそうになりました

──『罪の余白』以来、8年ぶりとなった内野聖陽さんとの共演はいかがでしたか?

 

 前回は1シーンだけの共演でしたが、今回はガッツリお芝居させていただき、内野さんの芝居への集中力に引っ張られました。内野さんのお芝居は、リハーサルや本番でテイクを重ねても、一切ブレないし、その空気感によって現場が締まるんです。私もそれに感動しつつ、「このままじゃいけない!」と身が引き締まる気持ちになり、さらに弓子と向き合うきっかけをいただきました。

 

──実際に演じることで、弓子が芳賀先生に惹かれていく理由は分かりましたか?

 

 芳賀先生は、一見気難しそうに見えるけれど、「めちゃくちゃ少年じゃん!」みたいなところがあるんですよ。そういう愛らしさ、かわいらしさというところに、ある種のギャップを覚えました。実際、すごくモテているのも理解できました。撮影中、芳賀先生のことを好きになりすぎた弓子が芳賀先生から久しぶりに連絡が来て、ダッシュして家に向かうシーンがあるのですが、実際にすごい距離を走ったんです。電車が来るタイミングを狙って、何度も全速力で走って、汗だくになって。翌日は全身筋肉痛になったことを思い出しました(笑)。

 

──キスシーンもある安達祐実さんとの共演はいかがでしたか?

 

 安達さんと対峙すると、迫力というか勢いがすごくて、まるで爆風や竜巻を受けるような感覚でした。何度もそれにのみ込まれそうになりましたが、そこを何とか踏ん張って、抵抗していく姿が映像として残っているように思えます。あのシーンに関しては、役作り云々というよりは、ほぼ自然体です(笑)。その後に、内野さんを叩くシーンになるのですが、リハーサルを繰り返した後、内野さんが「遠慮なく叩いてくれ!」とおっしゃったので、そこは遠慮なくさせていただいて(笑)。それが弓子と芳賀先生に火をつけている感じも出ていて、情熱的なシーンになったと思います。

 

──完成した作品を観たときの感想は?

 

 撮影中は「自分がどう映っているか?」とか、チェックするようなことはなかったのですが、撮影が女性を美しく撮ってくださる芦澤明子さん(『レジェンド&バタフライ』など)だったので、完成をとても楽しみにしていたんです。実際に、ものすごくきれいに撮ってくださって、弓子の魅力を倍増させていただいたので、とても感動しました。自分が弓子を演じたことを抜きにしても、クライマックスまでの伏線がいろんなところに張られているし、面白いはたくさんセリフはあるし、オトナのためのコメディとして、おススメできる作品になったと思います。

 

新たな第一歩を踏み出すきっかけ

──ドラマ『バイプレイヤーズ』でのジャスミンの印象が強かった北さんですが、本作は自身のキャリアにおいて、どのような作品になったと思いますか?

 

 役柄的に、いろんなことに挑戦した以外にも、顔の表情で表現したり、ハッキリと発声したり、これまでのお芝居から180度変えるような挑戦もしました。そういう挑戦がいっぱいあったので、新たな第一歩を踏み出すきっかけとなる作品になったと思います。本当に自分の中で、すごく大切で、大好きな作品になりました。だから、いろんな人に見てほしい気持ちはありますし、ずっと私を応援してくれている両親にも「今までとは違う、新たな私を見てほしい!」という気持ちです。お父さんは、ちょっとビックリしちゃうかもしれないけど(笑)。

 

──今回の現場を通じて、強く感じたことは?

 

 これまで映画の現場をあまり経験してなかったこともあって、『春画先生』の現場を通して、「映画を作ることは、こんなに一体感があって、簡単に妥協しないもの」ということを知り、ものすごく気持ちよかったんです。塩田監督がすぐにOKを出さずに、テイクを繰り返すことでの安心感というか、粘ってくれたことで、濃厚な毎日を過ごすことができて、とても感謝しています。そういう意味では、これからたくさんの映画の現場を知りたいなと強く感じました。

 

──北さんが現場に必ず持っていくモノやアイテムについて教えてください。

 

 『春画先生』のときは、鎌倉の鶴岡八幡宮の厄除けのお守をずっと下着に付けていました(笑)。「たくさんの思いが詰まった作品の撮影が、何かのアクシデントで中断することなく、無事終わりますように」という気持ちが強かったので。あと、スピリチュアルな石とかも好きで、現場にはできるだけスギライトを身に着けていきます。ちなみに、個人的なパワースポットは芸能の神様がいる新宿の花園神社です。

 

 

春画先生

10月13日(金)より東京・新宿ピカデリーほか全国公開

【映画「春画先生」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
監督・原作・脚本:塩田明彦
出演:内野聖陽 北 香那 柄本 佑 白川和子 安達祐実

(STORY)
肉筆や木版画で人間の性的な交わりを描いた「春画」の研究者である「春画先生」こと、芳賀一郎(内野)は、世捨て人のように研究に没頭する日々を過ごしていた。そんな芳賀から春画鑑賞を学ぶ春野弓子(北)は、春画の奥深い魅力にのめり込んでいくと同時に、芳賀に恋心を抱く。やがて、芳賀が執筆する「春画大全」の完成を急ぐ編集者・辻村(柄本)や、芳賀の亡き妻の姉・一葉(安達)の登場により、大きな波乱が巻き起こる。

 

公式サイト:https://happinet-phantom.com/shunga-movie/#modal

 

(C)2023「春画先生」製作委員会

 

撮影/映美 取材・文/くれい響 ヘアメイク/南野景子 スタイリスト/鵜嶌帆香
衣裳協力/AOIWAKA、MARTE、Jouete、seven twelve thirty

ナイツ塙の「劇団スティック」の魅力とは? ~オーディションに落選したライターがその魅力に迫る~

漫才協会会長でもあるナイツの塙 宣之さんが「棒読み」演技の役者を集めた「劇団スティック」を立ち上げたのが2021年。「棒読み」とはとにかく規格外なコンセプトで、その「棒読み」が笑いを誘うという想定外の芝居が見られる劇団なのです。実はオーディションにも応募した筆者が、このたび劇団スティックの面々にインタビューできることになりました!

 

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:金田一ワザ彦)

塙 宣之●はなわ・のぶゆき…1978年3月27日生まれ。千葉県我孫子市出身。漫才コンビ・ナイツのボケ担当。相方は土屋伸之。一般社団法人漫才協会会長。マセキ芸能社所属。兄はお笑いタレントのはなわ。著書に「言い訳 -関東芸人はなぜM-1で勝てないのか-」「極私的プロ野球偏愛論 -野球と漫才のしあわせな関係-」「ぼやいて、聞いて。」「静夫さんと僕」がある。24年公開の漫才協会のドキュメント映画の監督としてデビュー予定。X(旧Twitter)

 

劇団スティック●げきだんすてぃっく…「棒読み」「棒演技」がコンセプト。劇団員はおもにネットでのオーディションで選ばれた。YouTubeチャンネル「ナイツ塙会長の自由時間」内でミニドラマやトークの配信、舞台公演などの活動を行う。今回インタビューに参加したメンバーは以下の通り(敬称略)。上段左から、高橋テルノブ、鈴木三点倒立、コマネチ、スガモ智之、越川みつお、堀江俊介。下段左から未確定空白、暇田桂子、座長・塙宣之、岩井洞子、イザベラ今回欠席はちはね、おきちえり、東堂祐太郎、田荒井優佑。

【劇団スティックさん撮り下ろし写真】

ラジオで困ったら劇団スティックの話をすればいい

 劇団スティックの取材なんて、どうかしてますよ。ドッキリみたい(笑)。

 

──最初に塙座長から、劇団スティックを作ろうと思った経緯を教えてください。

 

 オーディションをスタートしたのはコロナ渦になって1年ぐらい経った2021年春ごろです。連続ドラマに出ていた時、自分の演技を「棒読み」ってすごくイジられていたんで、それならいっそ棒読みの劇団を作ろうということで、劇団スティックという名前で2021年9月6日に立ち上げました。

 

──そもそもドラマに出たきっかけは?

 

 出たいという気持ちはまったくなかったんです。『警視庁・捜査一課長』(テレビ朝日系)は2018年(シーズン3)からなんですけど、話がきた時は、断るのもなあ、やればネタになるな、ぐらいの気持ちでした。

 

──次のシーズンのオファーが来たときはどう思いました?

 

 テレビ朝日の人はすごく変わってるんでしょう(笑)。

 

──ドラマの仕上がりも変わってますね。

 

 でも僕が入った時は、まだそんなに変なドラマではなかったです。だんだん収拾つかないぐらいもうわけわかんなくなって。まあ皆さんに助けられたって感じです、内藤剛志さんや本田博太郎さんに。

 

──周りはすごい方々ですよね。で、そうこうしているうちに、ラジオで高田文夫先生から……。

 

 そう、「流れるような棒読み」っていうね。キャッチコピーをつけていただいたので、それは今でもネタに使わせていただいてます。

 

──そこから劇団立ち上げという発想は急展開な気がするんですが。

 

 コロナ禍だったから暇だったんでしょうね。それでもラジオがあるから。基本的に月~木が『ラジオショー』(ニッポン放送)で、土曜日『ちゃきちゃき大放送』(TBSラジオ)。週4日30分のオープニングをやって土曜日もあるので、とにかくラジオのネタが欲しいわけです。伊集院 光さんもそうみたいですけど、自分でネタを作るしかないんですよ。YouTubeで「地下芸人ラジオ」もやって「なんであんなことまでやるんだ」って言われますけど、これもラジオでしゃべるネタのためにラジオをやってるわけです(笑)。だから劇団をやることによって、もうとにかくネタに尽きない。困ったら劇団スティックの話をすればいいじゃないですか。

 

一同 (笑)。

 

──オーディションはどのように進めたんですか。

 

 応募がけっこう来たんです。200人とか300人ぐらいかな。

 

──240人から44人に絞ったとYouTubeでおっしゃってました。

 

 忘れてました(笑)。書類審査、あと写真を見て、「棒」みたいな人を選んでいったんです。応募者は全国にいらっしゃって、全部リモート面接でオーディションは進めました。ただ棒読みかどうかっていう判断は自分ではできなかった(笑)。なので、セリフを読んでもらうよりも会話をする中で、人柄とか、そういうもので選んでいきました。

 

──今日はいらっしゃらないですけど、ちはねちゃんは神戸からの応募でしたね。

 

 いずれ上京するということを聞いたのと、あとハイスクール漫才(吉本興業主催の高校生の漫才日本一を決めるコンテスト)で優勝したっていう、とんでもない実績があったので、面白いかなと思って。

 

芝居公演をやったほうがいいかなって、落ち着きました

 ネタ作りの一環、そういう自己満足で始めちゃったところはあるんですけど、YouTubeでドラマ作ったりしていた時より、3月に旗揚げ公演をやった時は、やっぱり生の舞台はいいな、劇団やってよかったと思いましたね。大学の時も落研で部長やってコントとか作っていたので、そういうみんなに何かを作っていくのが久々にできた感じがして、すごく楽しかったです。大学の時の一個上の先輩が旗揚げ公演の脚本を書いてくれた小川さん(放送作家・小川康弘)なので、久々に一緒にやったのがまた楽しかったですね。

 

──キングオブコントにも劇団スティックとして2年連続出場して、昨年は1回戦敗退でしたけど、今回は準々決勝までいきました。本気のメンバーがいたとか。

 

 恥ずかしくなっちゃいました(笑)。控室で劇団のみんなが「決勝行ったら次の日あの番組に出るのか」とか言ってる時点でもうちょっとダメだなと思いました。

 

一同 (大笑い)。

 

 行くわけねえだろと思いながら、一人だけやっぱり冷静で。去年は1回戦突破が目標でした。今年は2回戦まででよかったと思ってるんですよ。多分、劇団のメンバーたちはわかんないかもだけど、俺はわかったんです。準々決勝での本気の芸人たちのまなざし。「荒らしに来んなよ」っていうのが。自分はM-1グランプリも予選から参加したから、これ、ちょっとよくないなと思って。来年以降は参加するなら劇団スティックのメンバーの方たちだけでいいかなと思いましたね。

 

──演出に専念しますか。

 

 演出……まあ演出というか、何もしないです。

 

一同 (笑)。

 

 演出すると口出したくなっちゃうんで。

 

──ネタ作りでも、頭に浮かぶのは時事ネタばかりで、コントが作れないと?

 

 それはもう申し訳なかったですね。やっぱり限界ありますよね、時事ネタだけだと。実は時事ネタを思いっきりやったんです、準決勝で。だけど、そういうことじゃなかったんだなって思いました。小屋によるところがあるでしょう、お笑いって。今回やったネタはちっちゃいとこだとウケる笑い。完全に2回戦の小屋の大きさのものを準々決勝の大きな舞台でやってしまったので、もう余白がすごかったです、サイドの余白が(笑)。全然使いこなせない。

 

──去年チャレンジした様子はYouTubeに公開されていますが、今年のはまだですね。

 

 今年のネタはもう撮らないです。アナザーストーリーみたいなのをYouTubeにもうすぐあげるんですけど、多分一番面白いのがウチで合格発表の時に「おっしゃ!」ってなってたところ。

 

一同 あはははっ。

 

 あれ以上のものはもうできないです。ネタはYouTubeであげられない映像です、そもそも(笑)。

 

──以前作られていたミニドラマ、刑事ものの『泥棒めし』はわかるんですが、医療ものの『ジーニアスドクター』にもチャレンジされてて、お金もかかるのにすごいなと思いました。

 

 大変でしたね。お金もそうですが編集も大変、時間もかかる。僕のYouTubeっていろいろな制作会社が入ってるんですけど、制作の人から「これ誰がお金払うんですか?」みたいな話になって、全部持ち出しでやってました。なかなかドラマって簡単に撮れない。

 

──それでもクローズアップとかを多用してちゃんと医療ドラマになってるなと思って見ていたんですけど、手術のシーンでカメラが引いちゃって「あきらかに手術台が単なるテーブルだ」って思ってドキドキしちゃって。

 

 よく見てますね。そんなのあなただけでしょう?

 

一同 (大笑い)。

 

 見なくていいでしょう、あんなの(笑)。今振り返るとあのころはなんだったんだっていう時期ですね。何をやってたんだ俺たちはっていう。

 

──『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』のパロディみたいなのもありましたよね、自撮りカメラで揺れる映像の。

 

 あった! あれなんだっけ?

 

岩井洞子 ホラードラマを撮りたくて。見ていただいたんですね、ありがとうございます。

 

──いやいや、見てて楽しいんですけど、再生回数が気になったので、見たら488回でした。

 

一同 がははははぁ。

 

──そういう時期を経て、舞台公演になっていったんですね。

 

 そうですね。もともとYouTuberじゃないので、ちゃんとした芝居公演をやった方がいいかなっていうふうに落ち着きましたね。まあ、1年に1回でも2年に1回でもやろうということで。

 

──で、春先に旗揚げ公演(2023年3月24日・豊島区南大塚ホールで開催『君があの子で私も誰かで』)があって、夏にはキングオブコントへのチャレンジがあって、今どういう時期ですか?

 

 今は何もないですよ。ナイツの独演会がもう来月から始まりますから。今日だっていち早く帰ってネタ作りたいんですから。

 

旗揚げ一発目にしては難しいやつやっちゃったっていう感じでした

──旗揚げ公演の内容なのですが、「棒演技」の方々にはまったく向いてないような、難しいストーリー(※1)に敢えてしているように思えました。

※1…『君があの子で私も誰かで』は、2人の妊婦が神社の石段からいっしょに落ちて、心と体が入れ替るという話。武器としての「棒」使った殺陣のシーンなどでも、さまざまな人物がぶつかるたびに心と体がどんどん入れ替わる。

 

 一発目にしては、ちょっと難しいやつやっちゃったっていう感じでした。

 

──妊婦の心と体が入れ替わるなんて、すごいアイディアですよね。

 

 そうそう。お腹の子どもまで入れ替わってるかもみたいな。

 

──見てるほうも、なんと言ったらいいか……知らない人と知らない人が入れ替わっても、どう見たらいいかわからなくて。

 

一同 うなずく。

 

 さすがです。そうです、そうです。だからもうなんか最後みんな麻痺してて、戸田恵子さん(※2)に対してやりすぎなんじゃないか、もうちょっと抑えてもいいぞって、俺は思ったんですけど。

※2…ゲストとして芝居の終盤に戸田恵子さんが登場。見事な入れ替わりの演技を見せた。

 

──すごいハイテンションでしたね。

 

 逆に戸田恵子さんが浮いてる感じ。

 

一同 わはははははぁ。

 

──ところがそのハイテンションが入れ替わったら効いてくるという。

 

 そういうことです。戸田さんがすぐ察してそういうふうにしたほうがいいんじゃないかと。要するに入れ替わりを見せなきゃいけませんからね。ただ、もう殺陣シーンの練習のときから、誰が誰に入れ替わってるのか、みんなわかってなかった。

 

──妊婦役のお2人、暇田桂子さんとおきちえりさんはかなり出番が多かったですね。

 

 暇田(桂子)さんとおき(ちえり)ちゃんはほぼ主役、出ずっぱりでした。『マツコ会議』(2023年9月23日に最終回を迎えた日本テレビの番組)でも取り上げられて。そうそう、『マツコ会議』を見てた亀梨(和也)君が、今度やるときは見に来るって言うんですから。亀梨君は『マツコ会議』二度見たって。

 

一同 拍手。

 

──今YouTubeで公開されている旗揚げ公演の模様はゲネプロの映像ですが、本番との違いはありますか?

 

 本番のほうがウケてましたね。本番で高橋(テルノブ)さん、セリフを噛みまくって面白かったです。そうそう、ゲネプロを撮影してた佐藤さんがいびきかいたのも面白かった。思いっきり寝てたみたいです。びっくりしますよね、ほんとに。

 

圧倒的エースです、「棒」という意味で。本当にできないやつだから

──ではメンバーの方からコメントいただきます。鈴木さんから順番に。

 

鈴木三点倒立 ドラマとか映画のオーディションになかなか受からず、やめようかなと思った時期に、母親がラジオリスナーで劇団スティックのことを知りました。今のところ手応えはないです。いまだにオーディションは落ちてます。

 

 スティックの中では実力派なのにね。

 

──実力というのは「棒」ってことですか?

 

 「棒」じゃないです、一番上手いぐらいです。

 

──スガモさんはバスケット選手の衣装ですね。

 

スガモ智之 バスケットの富永選手のモノマネで冨短(とみじか)選手をやってます。僕は本当に入れてもらって感謝しかないです。

 

 20年来の付き合いですが、この場所を押さえてくれるっていうだけでいる、正式メンバーではなく研修生です(笑)。

 

スガモ 僕はネタとかも、もう棒読みっていうか、抑揚がなくて。一人コントもできなくて。

 

 圧倒的エースです、「棒」という意味で。本当にできないやつだから腹立ってくる(笑)。

 

──コマネチさんはビートたけしさんのファンですか?

 

コマネチ そうです。自分は社会人劇団とかあったら入ろうって思ってたんです。トイレの個室で合格通知のメール開いて「ああ!」って叫んじゃいました。入ってみたら刺激が強くて、知らないことばかりで幸せです。

 

 小道具とか作るのが上手いんですよね、実家が看板屋さんで。殺陣の木刀を作ってくれました。

 

──またこちらも変わった名前ですね、未確定空白さん。

 

未確定空白 音楽大学の作曲科を出て、譜面作ったり、伴奏の仕事をしていたんですが、コロナで全部失いました。それで舞台に上がりたい気持ちもあったところで募集を知って、就職活動のエントリーシートを出す感覚でした。テレビの取材とか、思った以上にいろいろなことを経験させていただいています。「スティック飯」を作ったのも光栄でした(※3)。

※3…棒状の料理で競う企画「【劇団スティック】第一回スティック飯選手権」は2022年10月10日公開。

 

 暇田桂子さんは本名わかんないですから。

 

暇田桂子 「暇」っていう漢字が好きなんです。

 

──舞台を見て「棒読み」の見本みたいな方だと思ったんですが、小さいころからなんですよね……。

 

暇田 はい、よくからかわれていたので、それを活かせることができるのかなと思って。

 

──あの量のセリフを全部覚えて。

 

暇田 絶対間違えないぞって思いで頑張りました。周りもみんな感動してくれました。ふだんはふつうの会社員で、会社のみんなも応援してくれて。

 

 暇田さんが考えた「イチジク」っていう作品も、いつかちゃんと作って公開したいね。公園で土の中から出てくるホラー。一応撮ったんですけどね。こだわりが強くて、なかなかまだ編集できてなくて。

 

──続いては岩井洞子さん。

 

 ズーム面接していて洞子さんが一番最初に合格って感じでした。喋り方とか発声もしっかりしてるわけじゃないから、面白いなと思って。でも舞台はもう全然違って上手でした。

 

岩井洞子 舞台は……大変でした。高橋(テルノブ)さんが……とにかく噛みまくってて、それに釣られないようにするのが……。

 

一同 (笑)。

 

 もともとお笑いファンですよね。THE Wも一人で出て去年は2回戦まで。

 

岩井 もともとナイツファンなんです。THE W、今年は一回戦で落ちて。あとM-1も出たんです。

 

 M-1も出たの! 誰と?

 

岩井 ちょっと内緒で。

 

 なんでだよ(笑)。

 

岩井 空白さんと(笑)。ダメだったんですけど。

 

 どんどんやってください。そういうの面白いですよ。

 

──どういうネタなんですか。

 

 気になりますよね。

 

空白 「コミュ障のコミヤで~す」っていうのを、洞子さんが言うネタです(笑)。

 

──THE Wでのピンネタはどんな感じで?

 

岩井 不動産屋のお客さんが上の階の人に通報されちゃったっていうから、草でも育ててらっしゃるんですか、っていうような……。

 

 面白いね。洞子さんは頭の中が面白いから。

 

岩井 自分としては地道に思い出作りをしていきたいなと思ってます。

 

──高橋さんはルシファー吉岡さんと似てるってネットに書かれてますね。

 

高橋テルノブ よく言われます。僕は10年以上演劇をやってきて、この中の誰よりもうまいと思っていたんですが、今回舞台をやってみたら誰よりも下手だった。見に来た家族にもお前よりうまいやつたくさんいたって。

 

 でも、舞台のバミリ(立ち位置などの印)付けるのうまいですから。

 

高橋 それ、裏方(笑)。バイトで病院の事務をやってて、コロナもあって舞台もやめようと思ってたんですよ。ひょんなことからYouTubeの募集にたどり着いて。旗揚げ公演では、俺が一人で頑張らなきゃみたいに思ってたんです。

 

一同 (爆笑)。

 

高橋 でもそうじゃなかった。

 

 すぐわかりましたよ(笑)。

 

高橋 経験者として引っ張っていくぞと思ったら、引っ張られてた(笑)。

 

──イザベラさんは衣装を担当されているんですね。

 

イザベラ 本業はスタイリストなんですけど、今は舞台進行の仕事をしてます。今も本番中で、今日お昼公演を東京芸術劇場のプレイハウスでやってきて。アーサー・ミラー原作の『橋からの眺め』です。

 

 本当にいつも関わっていただいてますけど、大丈夫なんですか?

 

イザベラ こちらが第一優先です。

 

一同 (笑)。

 

イザベラ 旗揚げ公演の本番前が激務だったので、なかなか稽古に出られず、それが本当に心残りでございます。戸田恵子さんと絡むとても大きな役をいただいていたのですが、戸田さんとは当日だけお会いして、立ち位置だけ決めるみたいな時に、いろいろ話をさせていただいて。

 

──あそこのシーンはちゃんと心と体が入れ替わってるように見えました。

 

イザベラ あれはもう本当にゲネプロの時も本番の時もどういう風にするかを戸田さんと話をして。戸田さんのアクションをとにかく見て、変わった瞬間にあれになるっていうのをもうそこだけはちゃんとやりたかったので。戸田さんの胸を借りる、もうそれだけだったので、お客様に伝わっていたのなら、本当にありがたいことでございます。

 

──越川みつおさんは、男性アイドルグループBOYS AND MEN出身ですが、すごい人がまた入りましたね。

 

 越川くんはオーディション組じゃなくて、木根尚登さんから託されたんです、越川を頼むねって。そう言われてもどうしたらいいだろうか、じゃあ劇団スティックに役者として入ってもらえば、頻繁に会えるかなと。入ってもらってよかったですよ。いいフックになってますよね。実際に舞台の経験もあるので。木根さん、旗揚げ公演の当日、車ぶつけてしまって来れなかったんですが。

 

一同 (笑)。

 

 落ち込んでそのまま家に帰ったらしいです。来てほしかったですよね。

 

──越川さんから見て、塙座長はどんな方ですか。

 

越川 本当にお笑いの第一線でやられている方が、芸人さんもいらっしゃいますけども、素人を集めてなんかよくわからないことをやってるわけじゃないですか。で、誰よりもゲラゲラ笑ってらっしゃるので、その姿を見ると、懐は広いし、いい意味で変態なんだなと思いましたね。

──旗上げ公演はいかがでしたか?

 

越川 僕も今までいっぱい舞台立ってきましたけど、これまでで一番怖かったですね。

 

 「入れ替わりが来たぞう」って言ってよ、バカでかい声で(笑)。大好きなんですよ、あのセリフ。一人だけめちゃくちゃ声通るから。

 

越川 (笑)。でも、もう怖くて、稽古やってても小屋に入っても、最後まで手応えがなくて。でもお客さんの反応を見て、あ、こういった価値観もあるんだなってことを初めて知れてよかったなと思ったんですけど……。

 

 お笑いと芝居、どっちでもないから難しいよね。このスティックの舞台は。面白くしても、真面目にやりすぎても。

 

越川 いっそ僕も棒読みでやったほうがとも思ったんですけど、普通にやってくれればいいっていうふうに言われて、気が楽になったんです。普通にやることで、周りが際立っていくことが今は喜びなので、自分が目立とうとは一切思ってなくて、本当にフューチャーされる人がたくさんいてよかったです。今までとは全然異次元の舞台でしたね。新たな扉が開きました。

 

──最後はお弟子さんですね。

 

堀江俊介 漫才56号・堀江です。最初劇団をやるって聞いたときは、僕らはスタッフというか、裏方に回るのかなと思ったら、一応研修生という扱いで、出させていただけるっていうので、それこそオーディション組もいる中で、参加していいんですかみたいな気持ちがありました。師匠が与えてくれた経験なので、これきっかけで何かに活かせたらいいかなと。演技も初めてしますし。本当に勉強になります。

 

 ほかの弟子とは温度差があって。

 

堀江 僕は皆勤です。

 

──動画見ててもいつもいらっしゃる。

 

 それがいいところです。

 

堀江 師匠のためですから、何でもやります。

 

 動きも早いし。だから今日のこの集会所も堀江が押さえられるので、スガモはもういらない。

 

スガモ いやいやいや。押さえますよ!

 

──今日参加されていないメンバーについても塙さんのコメントをください。ちはねさんは入団の経緯をさきほどお聞きしましたが……。

 

 彼女は芸人として売れてくれればいいなと思っています。おきちえりさんは、色々な音楽を作ってくれているので助かっています。劇団のムードメーカーで副座長的な存在です。

 

──吉本所属のなんとかずの東堂さんと田荒井さんは?

 

 2人は漫才をやりたくて入っているので、芝居よりもバイトを優先してしまうこともあるのですが、ギャグとしてありかなと。今回お芝居をしたい後輩、漫才をしたい後輩がわかったというのがやってみてわかりましたね。

 

それぞれ輝いてほしい、ハッピーになってもらえばいいです

──劇団スティックの活動の方向性ってあるんですか。

 

 方向性はまだわからないですが、1年に1回、春に公演をやって、それと自分が漫才しか書けないもんで、そこは無理しないで、小川さんに座付き作家になって書いてもらおうかなと。

 

──最終目標はありますか。

 

 最終目標って(笑)。テロ組織みたいな、やめてください(笑)。最終目標はやっぱりまあ、僕は自分の仕事があるんですけど、皆さんがどういうことを目的にしているかわからないので……だから芸人やってるメンバーもいれば、演劇やられてる人もいて、みんながそれぞれ輝いてほしい、ハッピーになってもらえばいいです。だからあんまり劇団スティックがあることによって大変だな、みたいになっちゃうと申し訳ないので、趣味のサークル的なものがいいかなと思ってます。

 

──ミュージカルに挑戦するともおっしゃってましたが、来年の春はその方向ですか?

 

 一応小川さんにはミュージカル作ってくれって。場所は南大塚ホールという我々のホームで。

 

一同 (ざわめき)。

 

 来年は2日押さえようかなって。やってくれるイベンターさんがいればね。

 

──ところで、じつは私も劇団に応募してたんです。塙さんは書類審査の時からご自身で審査されていたのですか。

 

 書類審査から自分でしていたのですが……金田一さんがいたのは記憶にないです。

 

──なんか変な空気にしてすみません(応募写真、ふざけすぎていたか……)。

 

 

 

MISATO ANDO、アーティストデビュー。幼少期からBiSH、そして現在まで語り尽くします!

元BiSHのリンリンが、アーティストMISATO ANDOに生まれ変わったーー。BiSH時代から、独自の世界観を展開し、衣装デザインも担当するなどその才能を発揮させていたが、今年6月30日より本格的にアートの道に進むこととなり、10月6日よりMEET YOUR ART FESTIVAL 2023「Time to Change」で初出展を控える。”無口担当”だったMISATO ANDOの幼少期から現在まで、そのミステリアスな世界を深掘りすると、意外なほどあますことなく話してくれた。

 

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:有山千春
会場協力/寺田倉庫)

MISATO ANDO●みさと・あんどう… 3月9日生まれ。静岡県出身。2023年6月にBiSHが解散し、翌日にリンリンからMISATO ANDOに改名。改名後はアート活動中。Artist Spokenにて『子宮のラジオ』を毎週金曜配信中。アートフェス『MEET YOUR ART FESTIVAL2023』にてアーティストデビュー。X(旧Twitter)Instagram

【MISATO ANDOさん(&作品)撮り下ろし写真】

 

初出展に向け、午前3時まで制作する日々「作業中は戸川純さんの『肉屋のように』をループ」

──今日は何時頃まで作業しますか?

 

MISATO ANDO(以下、MISATO) 今日は、解散してから初めてみんなに会うBiSHの仕事があるので、夕方前には終わりにします。いつもは、昼すぎに来て夜中の3時くらいまで作業しています。集中すると食べるもの忘れてしまって、1日1食で大丈夫な日もあって、いい感じです。

 

──いい感じですか(笑)。音楽などかけていますか?

 

MISATO 作業中は、戸川純さんの『肉屋のように』を、ずっとループしています。

 

──1曲をずっとループですか?

 

MISATO はい、時間が分からなくて済むから。アルバムだと、どのくらい時間が経ったか分かっちゃって、「全然進んでないじゃん!」ってなるので。この曲は「やってやるぞ!」と兵隊みたいな気持ちになれるのもいいです。

 

──それはいい案ですね。いつから製作していますか?

 

MISATO 1週間前からです。最初は自宅で作業しようと思っていたんですが、家具とか全部出して。でも、無理でしたね。寺田倉庫さんがここを貸してくださってよかったです。

 

──現時点で、巨大な顔と両手を、針金で形づくっていて。そこに、太陽のお面やキッズサイズの靴、ぬいぐるみ、衣装などが置いてあります。コンセプトは?

 

MISATO 今回、人生で初めて世に出す作品なので、最初は、自分の描いた絵をいっぱい散りばめてお部屋のようにしたいなという欲望がありました。でも「そうじゃないな」と思って。自己紹介のような、ルーツを伝えることをテーマにしました。

──ここに置いてるものは、MISATOさんのルーツにまつわるもので、それをコラージュしていくんですね。この衣装も同じようにコラージュするんですか?

 

MISATO はい。これはBiSHの衣装オークションに出品された衣装で、ファンの方が落札して、私は手に入れることができなかったんですよ。そうしたらそのファンの方、とてもパンクで、発送先を事務所にしてくれていたんです。

 

──えーー! すごい! その方は、MISATOさんが欲しがっていたのをわかっていたんでしょうか。

 

MISATO BiSHのルーツを伝えるためにはパンクな衣装がいいと思っていたし、しかもパンクな方から頂いたものだし、だからこの衣装を飾りたいと思ったんです。

 

マイクも重いほど非力だったが、重作業で「筋肉がぼこっと。いまマッチョです」

──もっとも苦労したのは、現在まででどの工程ですか?

 

MISATO まず、コレの名前も分かっていないくらいのレベルで。使ったのも初めてなんですよ。

 

──電動ドライバーでしょうか?

 

MISATO だから最初から苦労だらけです。この大きな作品を、どんな素材を使って作ったらいいんだろうか、ということも分かっていなくて。まずはいろんな方の作品づくりを見るなかで、今こういう大きな立体物を作るとき、発泡スチロールを使うのが主流だと知って。でも私は、もっと原始的なやり方が知りたいと思ったんです。初めての展示作品だから、いちから手をかけたくて。それで辿り着いたのが、ニキ・ド・サンファルというアーティストでした。製作過程の映像の中で彼女は、硬そうな針金や金網を使っていて、「これだ!」と。とはいえ、設計など分からないので、分かる人をお呼びして、最初の軸となる部分の作り方を教えていただき、あとは基本的に自分でやっています。

 

──使ったことがない素材や工具を初めて使い、挑む姿勢、思いきりがありますね。それに、初めてとは思えないほど、金網の曲線がとてもきれいです。

 

MISATO いまのところうまいこといっています。ただ、硬くて結構危ないから、手、傷だらけなんです。手袋もボロボロだし。

 

──ほんとうだ! 引っかき傷が多数ありますね。

 

MISATO この太い針金が普通の力じゃ曲がらなくて、顔の周囲の長さをねじるのに5時間かかります。おかげで、肘の下の筋肉がぼこっと丸くなっていて、いま、マッチョです。

──体力づくりなどしていますか?

 

MISATO いえ、もともと筋肉がなくて、マイクも重たくて持てないくらいでした。でもBiSHの8年間は毎週土日は絶対にライブをやっていたから、自然と体力はついたみたいです。

 

──形づくることのほかに、自宅からルーツにまつわるものを運ぶ作業もあるんですよね。

 

MISATO そうですね、たとえば、ちっちゃい清掃員の子からもらった手紙とかも持ってくるつもりです。私は大人になっても、ちっちゃいときの記憶や好きだったものが、今も同じ軸で残っているんですよ。だからそういう子たちにとっても、将来、私がなにかしらの存在として残るかもしれないと思うと、好きになってもらえたことがすごくうれしいんですよね。そういうのも、ここにコラージュしたいなと思っています。

 

──MISATOさんも幼少期からの”好き”が脈々と続き、いまを形成しているということですね。完成が楽しみです。

 

無類の洋服好き! 100着の服で埋もれた部屋は「電気が隠れて暗いんです」

──アーティストとしては6月30日から活動を開始しましたが、アーティスト写真のコンセプトが「筆と結婚」でした。

 

MISATO あれは、「アートをやります」ということはつまり、「アートと結婚だ」と思って、家族写真のような結婚写真を撮ろうと思ったんです。

 

──最もこだわったのはどんなところですか?

 

MISATO 王冠と、写真の質感です。いわゆる家族写真のような質感にしたくて。あとは、夫を生身の人間じゃなくてマネキンにして、写真の上からペイントしたことです。

 

──王冠はどこで手に入れたんですか?

 

MISATO 以前からお世話になっているスタイリストの服部昌孝さんが、あちこち飛び回って持って来てくださって。古い木箱に入っていました。

──MISATOさんは、物に対する愛情がすごく深いと感じます。特に、月日を経た二度と手に入らないような物に対して。ご自宅にもどんどん集まっているのでは?

 

MISATO そうですね。好きだった物を捨てられないタイプです。実家にも小さいときに使っていたカバンやポーチ、おもちゃが残っているし、今の家には古着がたくさんあって。古着を買い始めたのは7、8年前からですが、古着ってほんとうに一期一会の出会いで。なおかつ、昔の人のこだわりがすごく表れているんですよ。刺繍や、ひとつひとつ異なるビーズやボタンがついていたり。そういうのを見ると作った人の気持ちが伝わってきて、捨てられない気持ちが芽生えてしまうんです。

 

──家にあるもののなかで、思いが強い物はどんなものですか?

 

MISATO そうですね、親戚のおばさんからもらった昔のエルメスのスカーフや、おばあちゃんやおじいちゃんが使っていたハンカチとか。

 

──スカーフは普段の私服でも取り入れたり。

 

MISATO はい、使います。

 

──Instagramにアップしているコーデ、いつもとてもオシャレですよね。普段はどんなふうに服を選んでいますか?

 

MISATO 基本、前日に決めるんですよ。当日の朝に1時間で決める……とかだとすごく困っちゃうので。最近は、洋服を組むだけの遊びみたいな日もあって、それがすっごく楽しいんです。あとは、行く場所や気分に合わせて、派手にいくのかラフにいくのか、などいろいろと選んでいます。

 

──お洋服、家どれくらいありますか?

 

MISATO めっちゃある……100着は絶対ありそう。2段のラックがひとつ、長いラックがひとつ、もうひとつラックがあって。全部に服がぎゅうぎゅうに詰まっていて背が高いので、そのせいで電気が隠れて部屋が暗くなっています。そのくらい、服まみれ。

 

──もはや衣装部屋ですね。

 

MISATO 部屋の3分の1が服ゾーンで、台所に絵の具などを並べています。冷蔵庫を開けるのも一苦労みたいな、足の踏み場もないです。

 

──自宅というか、アトリエですね!

 

MISATO そうかも。寝れればいいや、みたいな。

 

キース・ヘリングとの出会いで世界が一変し「BiSH時代に公募サイトにこっそり応募したり」

──絵を描き始めたのは2019年頃からなんですよね。

 

MISATO はい。小さい頃から図工の授業が好きで、絵を描くことが好きで、BiSHに入ってからも落書きはよくしていましたが、2019年頃に山梨にある中村キース・ヘリング美術館に行き、初めてちゃんと心からアートに触れたんです。キース・ヘリングの作品は、説明文を読む前に自分なりに理解できて。その後に読む説明文が、自分の理解と一致していたときに、意気投合した気持ちになって、パワーがすごかったんですよね。そこからアートが好きになったのと、キース・ヘリングがアクリル絵の具で描いていたので、私もアクリルで描くようになりました。

 

──それまでは、違った目線でアートを鑑賞していたんでしょうか。

 

MISATO それまでは「色合いが好きだな」「このTシャツがあったら欲しいな」「こんなに昔なのに、すごくおしゃれな絵だな」とか、そういう感じで見ていて、描いた人の気持ちや込められた想いに目を向けるようになったのは、キース・ヘリングに出会ってからなんです。

 

──キース・ヘリングの作品には、自然に思いを馳せるようになったんですね。

 

MISATO そうなんです。すごく分かりやすいんですよ。「怒っている」「苦しんでいる」「応援している」とか、子どもでも分かる優しさがすごくいいなと思い、胸を打たれました。

 

──それで絵を描くようになり、どのくらいうペースで描いていましたか?

 

MISATO BiSHの活動の合間に、結構描いていましたね。公募サイトにこっそり応募して、ニューヨークの展示に出してみたり、賞をいただいたり、チャレンジしていました。

 

──こっそりやっていたんですか。メンバーもスタッフも知らずに。

 

MISATO 一応、渡辺(淳之介)さんには「勝手にやります」と伝えたら「好きにやったらいいよ」と言ってくれました。

 

消えゆくストリップ劇場への「アートとして残したい」という深い愛情

──どんなところからインスピレーションを得てますか?

 

MISATO 人と話しているときが多いですね。誰かがなにか発言して、「それ、絵にしたら絶対面白いじゃん」と思いついてメモして、そこから妄想が膨らんでいきます。あとは散歩をしたり、小さいときの記憶を突然思い出したとき、とかですね。ほかには、動物の番組を見ていたとき、ナマケモノの体には虫が100種類以上住んでいると知ったときとか。人間は虫嫌いな人が多いけど、ナマケモノって顔のパーツが結構人間に似ているんですよ。だからお風呂に入れてあげようとおもって、大浴場に浸かっているナマケモノの絵を描いたり。そういう絵を、ノンストップでずっと描いています。6時間ずっと描いていても疲れないし、楽しいし。

 

──描くことで、なにかを昇華しているんでしょうか。

 

MISATO 自分が作ったものの中には、今しか得られない情報、いつかなくなってしまう情報があると思っていて。たとえばギャルの絵を描いていたんですが、ギャルはいつまでこの日本にいるか分からないという不安があって。いてほしいなって思うんですよ、民族のように。そんなふうに「いましかないもの」を作品に残せることが、すごく楽しいんです。しかもそれを、どんな色を使ってもいいし、自分の世界の中で描ける。

 

──消えてしまうものに対する愛が強いんですね。

 

MISATO そうですね。ここ2、3年でストリップ劇場が好きになったのもそうなんですが、昔はストリップ劇場って日本に300軒くらいあったのに、いまは20軒もなくて。どんどん消えていくし、法律で、新しく建てることができないようになっているし。その事実を知り、会えない寂しさと、今知ることができてよかったという気持ちが強くあり、残せるものはアートとして残していきたいなと思っているんです。

 

──ストリップ劇場に通っていらっしゃるんですよね。いちばん好きな劇場はどこですか?

 

MISATO 福岡県北九州市にあるA級小倉劇場です。すごくステキな劇場で、メインステージから伸びた花道の先に円形の回転するステージがあるんですが、そこで踊り子さんがすべてを脱ぎ捨てた瞬間、メインステージ後方のカーテンが開くんです。そうすると、ステージを半円で囲むようになっている座席が鏡に写り、360度観客がいるように見えて。客席から見えない、踊り子さんの体の部位も見えて、ピンクのライトに照らされて……その異空間に、すごく感動しました。

 

──MISATOさんが見た光景が作品に落とし込まれるのを見てみたいです!

 

歴史の資料集で知った春画に大興奮「そういうこと、架空の世界の話だと思っていたんです」

──春画もお好きなんですよね。昔から、秘事に対して興味があったのでしょうか。

 

MISATO はい。幼稚園くらいから興味があり、小学生のとき、お祭りでおっぱいの形をした柔らかいヨーヨーを母にねだって買ってもらったりしていました。
でも、家ではすごく隠されてきたんですよ、エッチなものとか、「見ちゃダメ」と。ドラマで女性が自分を売るシーンがあると、私は興味があるけど親はチャンネルを変えてしまったり。だからなおさら気になっていたところ、歴史の資料集に載っていた春画の本を、先生が「君たちにはまだ早いから言わないけど、春画というものがある」と、黒板に書いたんです。それからもう気になって気になって。それが小6くらいのとき。急いでおうちに帰り、パソコンで「春画」と調べたら、すっごいのがでてきて。それではじめて、大人の裸を知ったんです。

 

──そこで初めて! 小6だと、男女の性について話題にするお友達もいそうですが。

 

MISATO そういうこと、私は架空の世界の話だと思っていたんですよ。「ある」と言われているけど「そんなわけない」と思うタイプの小学生だったんです。
春画を知る前は、百人一首の坊主めくりという遊びが好きでよくやっていたんですが、絵札には着物を着たお姫様やお殿様が登場しますよね。私は呉服屋の娘ということもあり、着物を着ている人たちは、品のある貴族のような方々だと思っていて。そんなときに着物を着た人たちの春画を見たので、すごくびっくりしたと同時に、「この人たちも人間なんだ」と思って、うれしくなったんです。本当の本当の秘密を知ってしまった感覚が、面白くて。

 

──見てはいけないものを見てしまった衝撃とギャップが、より強かったんですね。

 

MISATO そこから妖怪春画を好きになったり。ユニークなものが好きなんです。

 

原点は母の手仕事「母の仕事が終わるまで、人形を縫いながら待っていたんです」

──実家が呉服屋さんなんですね。

 

MISATO はい。ひいおじいちゃんが着物に絵を描く友禅師で、母は美大を卒業していたり、家族全体が美術系が好きでした。母は、私の図工の授業のために、かわいい空き箱や包装紙、リボン、卵のパックなど、いろんなものをとっておいてくれて、図工の授業のときになんでも作れたんです。だから、今の私は母の影響が大きいかもしれないですね。幼稚園から中学校まで、学校で使う袋類はなんでも手作りしてくたし、昔、願いが叶う人形が流行りましたよね?

 

──ブードゥー人形でしょうか?

 

MISATO 買うと1つ500~800円するから「買うならお母さんがもっとかわいいのを作るよ」と作ってくれたり、基本、なんでも作ってくれて。だから私も自然と作ることが好きになりました。

 

──図工の授業で、先生や友達から一目置かれたことなどありそうです。覚えていますか?

 

MISATO えーー、なんだろう。あ、トンボを作ったことがありました。トンボの目が卵のパックで、中に、お母さんがくれた玉虫色のきれいなリボンを詰めて。体はトイレットペーパーの芯で作ったと思います。あと、これも、小3か小4のときに作ったものなんです。

 

──この太陽のお面ですか!? え! すごい……!!

 

MISATO いろいろ取れてしまっていますが、ネックレスを切ってデコレーションしたりして。マニキュアとかも使っていたと思います。

 

──生気に満ちていて、見ていると感動してなんだか泣きそうになります。これも実家から持ってきたんですね。

 

MISATO そうです。明日と明後日でまた帰って、ここにコラージュできる分だけ掘り出してこようかなと思っています。あとこの人形は、両親が共働きで、幼稚園の頃に母の職場で母を待ちながら作っていたものです。お手伝いのおばさんと一緒に、着物の切れ端で作っていました。だから縫い方が荒いんですよ。

 

──ほんとうだ。待っている間の想いが伝わってくるような感覚になります。そういうとき、たいていの子どもはテレビに夢中になると思いますが、そういう選択肢はなかったんですね。

 

MISATO テレビよりもおもちゃで遊ぶほうが好きでした。シルバニアファミリーとか、あと、当時はたまごっちの人生ゲームがどこを探してもないほど人気でしたが、サンタさんがくれたんです。

 

──いいエピソードですね。

 

MISATO それが大好きで毎日のように遊んでいましたが、お留守番は1人なので、5人で遊んでいるように1人で遊んでいました。1人で順番にルーレットを回して、ゴールしたら1人で「やったー!」とか喜んだり。

 

小学生のときは男の子を従え探検隊のリーダーに。昆虫好きの意外なルーツ

──かわいすぎますね。気の合うお友達はいましたか?

 

 

MISATO 近所に同世代の子がいなくて、基本的には1人で遊びつつ、小3、4年の頃は、幼稚園とか低学年の男の子と一緒に遊んでいました。

 

──年下男子とどんな遊びをしていましたか?

 

MISATO 私は虫がすごく好きなんですよ。だからみんなで虫捕りに行ったり、荒れた空き地を探検したり、蟻の巣をほじって卵を回収して持ち帰って育てたり。私は恥ずかしがり屋なんですが、ちっちゃい子たちがいるときは、自分が探検隊のリーダーだと思ってあちこち行っていました。

 

──蟻の卵って育てられるんですね!

 

MISATO 勝手に生まれていました。

 

──ひとつひとつの体験がリアルだからこそ、ルーツとして体に染み付いているんだと感じました。

 

MISATO だからいろんな虫を飼っていて、今回の作品に間に合えば、いままで飼った虫を作れる限り作ってここにコラージュしたいなと思っています。

 

──これまで見て、触って、感じたことが、すべてここに凝縮されるんですね。特に外での体験が反映されている。

 

MISATO ちっちゃい時から外が好きで、今も空を見上げて歩いたりして、普段見えていない看板に気づくみたいなことが多くて。外に出ることは、自分にとってとても大事なことです。そんな、「外」をジャングルに見立てて、ジャングル=カラフルな経験、として、「いろいろな経験を背負ってアートの世界に出てきた私」という意味を込めて作っています。

 

──ああ! それでこう、にょっきりと手と顔が出ているんですね! これまで話をうかがったように、さまざまな事象に影響を受けてきたと思いますが、影響を受けた人間は?

 

MISATO やっぱりキース・ヘリングです。いろいろな出来事を絵にして、人目に触れるよう伝えて、なんでも行動してみるものだ、ということをキース・ヘリングから教わったし、それは優しさでもあるんですよね。今生きてくれていたら、コロナ禍を彼はどう描いてくれたんだろうな、と思ったりします。

 

──キース・ヘリング以前に影響を受けた人はいますか?

 

MISATO BiSHでライブをするうえで、戸川純さんみたいになりたいと思っていました。加入したばかりの頃は、戸川純さんの『蛹化の女』をコンセプトに、衣装にまったく合わないリアルな昆虫のヘアピンをつけて、ライブで叫んだりしていました。

 

──ファンの方がよく、「戸川純を彷彿とさせる」と言っていますもんね。

 

MISATO そのように言ってくださる方もいますね。

 

「いまは知識がないからこそ楽しいことばかり」今後訪れる産みの苦しみにドキドキ!?

──そういう個性が出せるのが、BiSHのステキなところですよね。MISATOさんが衣装をデザインしたこともありますよね。2021年にローソンで発売した「BiSHくじ2021」のメインビジュアルの衣装です。

 

MISATO そうですね。ローソンの由来を調べたら、元々は牛乳屋さんだと知って。BiSHが牛乳屋さんをやるなら、絶対に明るくはないと思って、「山奥に孤立して住んでいる6人組が営む、牛乳屋」をコンセプトにしました。みんなどこかにエスニック柄が入っていたり、不気味な6人組になるように。でも、ハシヤスメ(アツコ)は意外とかわいい服が好きなので、かわいらしいデザインにしたり、頭にもかわいい飾りをつけたりしました。

 

──それぞれの好みを反映しているんですね。

 

MISATO そうですね。みんなが喜んで着てくれそうなものにしました。ハシヤスメが「すごくかわいい!」と言ってくれたのを覚えているし、普段、服に興味がないメンバーも喜んでくれました。「これを着てライブをやりたい」と言ってくれたのがうれしかったです。

 

──人のために作ることと、自分のアドレナリンの赴くままに作ることは、表現にちがいがありますか?

 

MISATO 変わらないです。全部、自分の好きなように作っているので。

 

──いつか、産みの苦しみが訪れるでしょうか。

 

MISATO ありますでしょうねえ。いまは、いろんな物を触ったり、観たり、素材を冒険して作っている最中で、知識がないからこその楽しさを謳歌しています。だから、そうではなくなったときにどんなものを作っているのか……は、ちょっとドキドキしながらも、楽しみでもありますね。

 

──そのうち、日本では手に入らない素材を求めて、世界に探し出しそうな感じがします。

 

MISATO いろいろ旅してみたいです。世界は、見たことがないことしか、ないので。

 

──行きたい場所はありますか?

 

MISATO 両親が新婚旅行で行ったアフリカには行ってみたいです。実家に、マサイ族の置物や写真がたくさん置いてあるんですよ。そこで一緒にお絵かきとかしてみたいです。そこに住む方々の色彩感覚や模様はわたしとはまったくちがうだろうし、一緒に見て楽しみたいです。

 

──最後に、今後の展望を教えてください。

 

MISATO キース・ヘリングが来日したとき、青山の路上にチョーク絵を描いたり、壁画にペイントをしていて。その壁画は今はないのですが、当時壁画があった建物の向かいがワタリウム美術館なので、そこでいつか展示をしたいというが、今の目標です。

 

──きっと叶うと思います。

 

MISATO ありがとうございます。

 

完成作

 

 

【MISATO ANDOが初出展するMEET YOUR ART FESTIVAL】

MEET YOUR ART FESTIVAL 2023「Time to Change」

会期:2023年10月6日(金)〜10月9日(月・祝)
会場:東京・天王洲運河一帯
開催時間:11:00〜20:00(9日〜17:00)
※6日は終日内覧会。マーケットエリアのみ16:00〜21:00
※アートエリアは7日から。

料金:一般 1500円(前売り)、2000 円(当日) / 学生 1000 円(前売り)、1500 円(当日)いずれも要学生証

URL:https://avex.jp/meetyourart/festival/