女性に朗報? インドの航空会社が試験導入する新機能とは

飛行機の座席という狭い空間で、見知らぬ男性の隣の席に座ることに抵抗を感じている女性がいるかもしれません。そんな女性たちにとって朗報となるかもしれないのが、インドの航空会社による新しい試みです。

↑名案?

 

インドでシェアを拡大している航空会社のインディゴでは、女性がフライトを予約する際、隣の乗客の性別を確認できるサービスを8月から試験導入します。「男性の隣の席に座りたくない」と思うなら、女性の隣の席を選択できて、安心して搭乗できるというのです。

 

この機能は女性客のみに有効で、男性客が予約するときは隣の席に座る乗客の性別は確認できません。

 

この機能は市場調査に基づいて導入するに至ったそうです。おそらく、女性客から「女性の隣の席に座りたい」という声が実際に寄せられていたのでしょう。

 

インドは男性優位の考えが根強く、「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート」でも男女格差が大きい国と評価されています。そんなインドの社会背景もあり、インディゴは女性客のフライトを快適にするためにはどうすればいいのか、調査をしていたのだそう。

 

インディゴは「当社はすべての乗客に他に類を見ない旅行体験を提供することに尽力しており、この機能はそのために講じている方法の一つに過ぎません」と紹介しています。

 

インディゴでの実験が成功したら、他の航空会社でも同様のサービスが広がっていくかもしれません。

 

【主な参考記事】

Indy100. Airline gives female passengers the option to avoid sitting next to men for first time. July 22 2024

エアコンよりいい!? 冷蔵庫にもなる「インドの冷却装置」とは?

首都デリーで5月末、52.9℃の気温を記録したインド。今は雨季に入り気温が下がり始めましたが、それでも容赦ない暑さに見舞われています。そんな同国には何千年もの間、利用されてきた独特の冷却装置があります。

↑インドの伝統的な冷却装置

 

その冷却装置とは、「マトカ」と呼ばれる粘土製の素焼きの壺に水を入れるという方法。粘土は多孔質であるため、その微小な孔から水が壺の外に達すると、暑い外気に触れて蒸発します。水は蒸発するときにエネルギーを消費するため、周囲の空気や壺の中の水から熱を奪い、これによって周囲の空気と壺の水が冷やされる仕組みです。

 

この原理を利用して、壺をいくつも組み合わせたのが、産業革命以前に利用されていたという冷房装置です。この方法は、粘土製の壺が安価で用意できるうえ、電気を使用しないことが最大の利点。簡単に設置できて、運用コストも抑えられます。この壺の冷却装置を利用して食材を冷やす冷蔵庫もあるそうです。

 

国内の世帯数が3億以上にもなるインドで、自宅に冷蔵庫を持っている人は3分の1、なんらかの冷却装置を持っているのは4分の1未満。自宅にエアコンを設置している世帯はわずか5%程度と推測されるそうです。そんな国にとって、この伝統的な冷却装置はシンプルな仕組みでコストも低く、まだまだ役に立つと言えるかもしれません。

 

熱波に見舞われる地域が増えている2024年の夏。冷房に頼るだけではなく、古代から利用されてきた人々の知恵で、周囲を冷やすアイデアに目を向けてみてもいいかもしれません。

 

【主な参考記事】

Wired. This Ancient Technology Is Helping Millions Stay Cool. July 9 2024

インドが巨大決済ネットワークをVisaやMastercardへと開放するワケ

 

インドで大きなシェアを占める小口決済インフラ「UPI(United Payments Interface)」が、Visa(ビザ)やMastercard(マスターカード)にも開放する準備が進められていると、現地紙のThe Morning Contextが伝えています。UPIの国際クレジットカードブランドへの開放は、同国の決済市場にどのようなインパクトを与えることになるのでしょうか。

 

インドで急成長する巨大決済ネットワーク

2016年4月にスタートしたUPIは、スマートフォンを利用し、24時間365日、リアルタイムで銀行口座間の送金を行う決済システム。利用者の決済手数料は少額であれば基本的に無料。手数料が発生した場合でも従来より少額で済むのが特徴、インドではショッピングモールから道端の屋台にまで、約2億3千万個のUPIのQRコードが設置され、さまざまな送金手段として利用されています。2022年12月には、約13兆ルピー(約1600億円)の決済を処理しました。うち個人間の送金が約10兆ルピー、残り約3兆ルピーが商店での買い物などQRコードを利用した決済となっています。

 

UPIの普及を後押ししているのが、インドにおけるフィンテックのパイオニアであるPaytmです。商店などは、月額2ドルでレンタルできるハードウェア「Soundbox」を使うことで、手軽にUPIでの決済が可能になりました。

 

UPIへの国際カードブランド参入を後押しする現地銀行

ただ、銀行預金から即時決済するシステムであるUPIは、少額であれば利用者の手数料が不要なため、預金口座からATMで現金を引き出しているのと変わりません。一方で銀行は口座保有者に預金額の金利を支払う必要があります。しかしこれらの一部をクレジット決済に移行できれば、加盟店舗から得られる決済手数料を銀行とUPI、カード発行会社と分け合うことができるのです。

 

The Morning Contextによれば、インド準備銀行(RBI)はVisaとMastercardに、UPIのオンライン決済プロトコルへのアクセスを認めることを計画しているそうです。これにより消費者は物理的なカードを利用することなく、クレジットの限度額まで買い物が楽しめるようになります。同国で発行されるクレジットカードはVisaとMastercardが9割を占めるなど、寡占状態が問題視されていることもあり、UPIの国際クレジットカードブランドへの開放は、現地のカード会社など既存業者からの反発も予想されていますが、上記の理由で現地銀行がこれを後押ししていると報じられています。

 

巨大な決済市場を国際カードブランドへと開放しようとしているインド。同国の決済シーンは、今後大きな変革期を向かえることになりそうです。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

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食料危機と気候変動対策に「きび」が急浮上! その理由は?

「2023年は国際雑穀(ミレット)年」。国連が2023年をそう定めているのをご存知でしょうか? ミレットとは、きび、あわ、ひえなどの雑穀類の総称で、米・ニューヨークにある国連本部では先日、雑穀をテーマにした展示会が開催されました。きびなどの雑穀に国連がそれほど熱い視線を注いでいるのは一体なぜなのでしょうか?

きびはいかが?

 

きびなどの雑穀が注目されている背景には、世界人口の増加と食料不足への懸念があります。国連の「世界人口推計2022年版」によると、世界人口は2022年に80億人を突破し、2030年に約85億人、2050年には約97億人になる見込み。それに伴い食料が不足していくことが以前から危惧されています。

 

そこで注目されているのが、きびなどの雑穀。きびはイネ科キビ属に分類される作物で、推測されている原産地は中央アジアや東アジアの温帯地域。今日の日本ではほとんど栽培されなくなりましたが、アジアやアフリカ諸国の中にはきびを主食として食べてきた所があります。特にインドでは、きび、ひえ、あわなどの雑穀それぞれの品種に現地語名があり、人々に長いこと親しまれてきました。

 

栄養面については、たんぱく質や食物繊維を多く含むほか、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄などのミネラルも豊富。栄養価がとても高いのに安価なことが大きな特徴です。

 

今日の世界情勢を見てみると、パンデミックに加えて、ロシアのウクライナ侵攻で、日本を含め多くの国々がインフレに見舞われています。特に食料のインフレが激しいのが、ジンバブエ、ベネズエラ、レバノンといった国。ジンバブエでは、食料の価格が例年に比べて285%も上昇し、日常生活に大きな打撃を与えているのです。きびなどの雑穀に待望論が持ち上がっても不思議ではないでしょう。

 

また、きびなどの雑穀のメリットとして、厳しい環境でも栽培しやすいことが挙げられます。年々深刻化している気候変動により、世界では水不足で干ばつが起きたり、逆に暴風雨に見舞われたりする地域が増えているのが現状。そこで多くの作物が被害を受けていますが、きびなどの雑穀類は、痩せた土壌や干ばつが起きるような環境でも、肥料や農薬などに頼らず育てることができるとされているのです。

 

桃太郎の精神

このように、栄養価が高く栽培しやすいきびなどの雑穀は、世界中の農民や人々を救う光になりつつありますが、普及を考えるうえで問題になるのは味。

 

きびはくせがなく、味は淡泊です。米に混ぜて食べる以外に、ピザ、パスタ、クッキー、ケーキなどの小麦粉を使った食べ物に加えたり、シリアルやスムージーに混ぜたり、さまざまな使い方が可能。そのため、多様な食文化や人々の好みに合わせて柔軟に取り入れることができると言われています。

 

SDGsの目標2の「飢餓をゼロに」や、目標13の「気候変動に具体的な対策を」など、SDGsの数多くの目標達成にも役立つと考えられる雑穀。アミーナ・J・モハメッド 国連副事務総長は「雑穀は豊かな歴史と可能性に満ちている」と述べています。きびは現代の日本でマイナーな存在かもしれませんが、昔話の『桃太郎』できびだんごが出てくるのを誰もが知っているように、私たちにとって必ずしも遠い存在ではありません。しかも、この物語に登場する鬼は人々に「飢餓をもたらす気象現象の主」であったかもしれないという見方があり(日本大百科全書)、現代社会に通じる部分があるでしょう。きびの力に目を向けるときが再びやって来ているようです。

 

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早期教育とSTEAMに転換したインドの教育政策、700万人以上の教師の確保が課題

インドでは2020年7月から、新たな「国際教育政策(NEP2020)」が施行されています。教育政策の見直しは30年ぶりのことでしたが、その主眼は個人の能力を伸ばし、IT発展後も世界で活躍できる人材を育てること。「公平でインクルーシブな教育」を重要視しながら、誰もが質の高い教育を受けられることを目指します。今後の課題についても触れながら、インドの教育現場がどのように変化しつつあるのかを説明します。

インド農村部の学校に通う子どもたち

 

3歳からの早期教育を重視

まず大きく変わったのは、早期教育に重点を当てる教育制度になったこと。従来の教育システムでは6歳から始まる「10・2年制度」でした。今回の改訂では「6歳以前から脳の発達が育まれる」という考えに基づきながら3歳からの早期教育を導入し、「5・3・3・4年制」を採用。新しい教育システムによると、子どもたちは基礎段階で5年間、準備段階で3年間、中期段階で3年間、中等教育段階で4年間を過ごします。

 

現在、幼児はまず近くのプレスクールで日中を過ごし、4歳ごろになると幼稚園で2年間を過ごします。そして、就学開始時の6歳になると小学校に入学するのが一般的です。経済的な理由から、幼稚園には通わずに就学する子どもも多くいます。

 

インド政府は言語習得をはじめ、数字に関する感覚の基盤がないとその後の学習に大きく影響すると考え、言葉が発達する幼児期の教育が大切だと判断。政策の見直しにより、3歳から教育を受け始めて8歳まで同じ学校で学び続けることができるようになりました。新しい教育政策によって、基礎段階である幼稚園から小学校低学年まで一貫した教育を5年間受け、その後中等教育への準備段階にあたる小学校高学年の学習を3年間受けるという形になったのです。

 

3歳からの義務教育化によって有料の幼稚園やプレスクールに通わせる必要もなくなり、教科書代などを除けば基本的に教育費用は無料。さらに、統一されたカリキュラムに沿って授業が行われるようになり、どの子も公平に教育を受けることが可能となりました。

図工の時間に絵を描く子どもたち

 

暗記学習からSTEAMへ

また、新たな教育政策では個人の能力を伸ばす方向へと舵を切ったことも特徴。そのために、これまで暗記学習主導だったカリキュラムを体験学習や応用学習、分析・探求学習、STEAM教育を意識した学習へと移行しています。

 

これまでインドの教育は暗記中心型で、20段まである掛け算の九九も言えるなど九九や数式などの暗記を重視してきました。暗記ができた生徒から黒板の前に立って全員の前で暗唱し、できなければ覚えるまで続けるなどの手法で、他の科目も同様でした。

 

しかし今後は、新たな教育政策のもとで、暗記中心の教育から、個人の能力を伸ばす教育に転換していくことになります。具体的には、個人が抱く関心や興味を大切にし、批判的思考も養いながら、ディスカッションを通して学んでいく手法を導入。例えば、地球温暖化など自分が興味を抱いた一つのテーマについて自由に調べたうえで意見を発表し、さらにクラス内で意見交換するなど、従来の受け身から自らが進んで学ぶといった学習に変化します。

 

また、職業学習、数学的思考、データサイエンスやコーディングなど最新のデジタル技術を用いた体験学習を導入すると同時に、新たに科目選択制ができるようになり、芸術や体育など副教科とされるものについて自分の興味のある科目を選択できるようになりました。

 

教員側には、生徒の教育的、肉体的、精神的な満足度や幸せを対象に含めた新たな評価モデルが取り入れられていますが、これら全ては、将来に備えて子どもたちを真のグローバル市民に育て上げることを目標に設計されているのです。

休み時間には鬼ごっこに似た遊び「カバディ」を楽しむ

 

質の高い教員の確保が課題

新しい教育政策を進めていくうえで重要になるのが、教師の存在です。「NEP2020」を背景に、2022年1月から国内45の教育機関が新たな「統合教師教育プログラム(ITEP)」を開始しました。質の高い教師の育成に向けたもので、「ITEP」のコースは全国共通入学試験や教育技術評議会のスコアに基づいています。

 

これまで教師を目指す人は卒業と学士号取得まで5年間かかるなど、日本の大学の教職課程よりも長かったのですが、ITEPの学士号プログラムでは4年間に短縮。才能のある若者などにとって大きなメリットになると言われており、2030年以降はITEPが教師採用の基準になるようです。

 

しかし、インドでは教師の給与は高いとはいえず、むしろ低賃金の職業とされています。NEP2020によって700万人以上の教師が必要になると推定されていますが、どのように優秀な人材を確保していくのかが今後の重要課題です。

 

新たな政策のもと、大きく変わりつつあるインドの教育。筆者が知る学校では3歳からの早期教育プログラムが始まっており、子どもたちは自然の中で学習したり、造形活動をしたりと五感を使って楽しそうに学んでいます。社会的・経済的階級や背景に関係なく、全ての子どもが公平に質の高い教育を受けられるようになることは、格差社会を改善する第一歩となるでしょう。

 

執筆/流田 久美子

 

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人口増加のインドで「スーパーリッチ層」が増加。コロナ禍で貧困が拡大との指摘も…

最近、インドで中産階級と「スーパーリッチ」と呼ばれる層が増えています。主に生産年齢人口の増加が経済成長を押し上げており、所得が増加しているのです。しかしその一方、コロナ禍により貧富の格差が拡大したとの指摘もあり、国内で議論が続いています。インドで拡大する中間層や所得格差の現状について説明しましょう。

幅広い中間層が集まり、活気が溢れる南ムンバイ

 

近年、インドで中産階級は増加しています。ニューデリーの経済調査会社PRICEによると、年間世帯収入が50万~300万ルピー(約79万円~470万円※)の中産階級の割合は、2004~2005年の14%から2021年に31%に倍増し、2047年までに63%になると予測されています。

※1ルピー=約1.58円で換算(2023年1月19日現在)

 

しかし中産階級といっても、この層は幅広いため、一般的には2種類に分類されます。50万~100万ルピー(158万円)未満までの所得がある層を「アッパーミドル層」、それ以上の100万以上~300万ルピーまでの層を「リッチ層」と呼びます。アッパーミドル層にはテレビやエアコン、冷蔵庫を所有し、家を保有している人もいる一方、リッチ層は飛行機で家族旅行に出かけ、高級車や自宅を所有するといった暮らしを送ります。さらに収入が中産階級以上のスーパーリッチ層になると、持ち家は大きく、何人ものメイドを雇うなど、とても裕福な暮らしをしています。

 

中産階級に届かない下層階級の人たちの暮らしと比べると、大きな差があることがわかります。

 

生産年齢人口の増加

インドで中産階級や、後述するようにスーパーリッチが増加している背景には、人口が大きく関わっています。同国の人口(約14億756万人)は中国に次いで多く、2027年には中国を抜いて世界一の人口になると予測されています。それに伴い15歳以上〜65歳未満の生産年齢人口の割合も増加しており、現在は全人口の67%と3分の2以上を占めるようになりました。それにより経済成長が続き、年々GDPの値も上昇。2018年から2020年まではかなり低下したものの、2022年から2023年の成長率は7%の見込みであるとの予測が出されています。

 

このような経済成長を背景に労働者の収入が増加。保険分野のコンサルティング企業・Aon plc社がインドの1300社を対象に調査したところ、2022年の給与上昇率は10.6%で、2023年には10.4%上昇の見込みとされています。2022年の給与上昇率は米国が4.5%、日本が3.0%だったため、インドの成長率の高さが如実に表れているでしょう。

 

経済成長の別の理由としては、生産年齢人口の増加だけではなく、消費活動が活発化したことも挙げられます。インドにおける個人消費額は2008年から2018年の10年間で約3.5倍増加。さらに、次の10年間である2028年までには、約3倍増加する見込みです。

 

特にコロナ禍をきっかけに公共交通機関の利用に抵抗感を持つ人が増え、自家用車を購入する動きが加速しました。2回目のロックダウンが起きた2021年4月から5月の車両販売数は、2020年同時期と比べて19.1%も増加したとの報告があります。

 

このように中産階級が増加した結果、インド全体の不平等は少しだけ緩和されたとの報告もあります。数値が高いほど経済面の不平等が大きいことを示すジニ係数は、2021年のインドでは82.3となりました。インドの不平等は引き続き高い水準ですが、2015年には83.3だったため、1ポイントとわずかですが改善した傾向にあります。

 

コロナ禍の影響により、スーパーリッチ層はさらに増加したといわれています。最近発表されたIIFL Wealth 社のリッチリストによれば、2012年には100人のインド人が100億ルピー(約157億円)以上の資産を所有していましたが、2022年にその人数は1103人に増加。2019年から2022年のパンデミック期間に353人がリストに追加されたそうです。

 

その要因の一つとして、コロナ禍をきっかけにワクチンの製造を含め製薬業界が潤ったことが挙げられます。インドのスーパーリッチ層1103人のうち約11%にあたる126人が製薬業に携わっています。その後には、化学および石油化学産業とソフトウエア産業、サービス業が続きますが、コロナ禍をきっかけに在宅ワークやオンライン授業が増加し、ソフトウエア産業やサービス業に関わる層も資産を増やすことができたと見られます。コロナ禍でお金持ちがさらにお金持ちになったとも言えるでしょう。

 

格差は拡大、それとも縮小?

スラム街と高級住宅が存在するムンバイ

 

しかし、先述したジニ係数の改善とは反対に、格差は広がったとの指摘もあります。低所得層はパンデミックの間に職を失い、家計が苦しくなりました。休職や解雇で所得ゼロの月が続き、その日に食べるものを確保するのに必死だった人たちが続出したと言われています。

 

また、インド政府の公的医療への支出は世界で最も低いレベルなので、民間機関のヘルスケアを受けるためには高額のお金が必要となります。そのため、低所得者層の中にはコロナ禍で医療費のために借金をする人が増加するなど、多くの人が貧困に追いやられました。

 

インドの貧困層は1億7000万人以上に達し、その割合は世界の貧困層のほぼ4分の1に当たります。インド政府は子どもの無償義務教育や若年層の技能開発教育など貧富の格差改善につなげる取り組みに着手しているものの、早期の改善を期待するのは厳しい模様です。

 

経済発展を遂げることで中産階級やスーパーリッチが増えているインドは、確かに国全体が少しずつ豊かになっているようです。ジニ係数が微減し、貧困は徐々に減りつつあるとも言えますが、コロナ禍をきっかけに超富裕層と低所得者層の格差が大きくなったのも事実でしょう。この点に関する国内の議論はまだ続いていますが、インドの主要援助国である日本もこの問題から目を離さず、経済協力を続けていくことが期待されます。

 

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インドの「家電市場」が成長。女性の社会進出に期待が膨らむが…

近年、インドで家事を軽減するために家電を導入する家庭が増えてきました。このトレンドにはどのような背景があるのでしょうか? 調べてみると、中産階級の拡大や女性の社会進出に向けた動きなどが関係していることがわかりました。女性の働く機会の増加は家電市場の成長を促す一方、そこには複雑な問題も存在しています。

 

家電の普及と女性の負担軽減

家電は女性のエンパワメントを助ける

 

インドでは冷蔵庫や洗濯機がないという家庭が多く、家事の大変さや時間がかかることに驚きます。家電の普及率はまだまだ低く、統計市場調査プラットフォームstatistaの2018年調査によれば、冷蔵庫は33%、洗濯機は13%とのこと。

 

それでも、近年は冷蔵庫や洗濯機を購入する家庭が次第に増え、市場は成長しています。グローバルジャパン社によると、2018年〜2019年のインドの家電市場の規模は約1兆1680億円でしたが、2025年には2倍に達すると言われています。さらにインドのリサーチ企業・Mordor Intelligence(MI)が、2022年〜2027年における同国の家電市場の動向を予測しており、そのレポートによると、年平均成長率は5%になるとのこと。都市部で急成長している中産階級と農村部の需要が中心であると述べられており、可処分所得の増加やオンライン販売の拡大、より快適な生活への願望が、インド人の購買力を高めているようです。また、地方における電力アクセスの改善や配電網の整備が、テレビやクーラーなどの需要を増やす可能性があるそう。

 

筆者がインド人に話を伺うと、LGやサムスンなど韓国製の家電が人気ということ。インドで見られる家電は、日本製と比べて必ずしも機能性が高いわけではありませんが、インド人はどちらかといえば、機能性よりもカスタマーケアが迅速に行われる点を重視する傾向が見られます。

 

MIのレポートに付け加えるとすれば、家電市場の成長の背景には、女性が働く機会が少しずつ増えて所得水準が上昇したのに加え、時短への意識が進んでいることも考えられます。家電の普及は家事軽減につながるとともに、女性の社会進出を後押し、世帯収入を増やしていると言えるかもしれません。

 

女性の社会進出の現状と課題

以前からインド政府は「女性の社会参画を進めよう」と唱えており、2013年の会社法では一定規模の会社に対し、1名以上の女性取締役会の選任が義務づけられました。労働法でも女性の産休取得期間が12週間から26週間に拡大され、約180万人の女性に利益をもたらすことにつながりました。妊娠・出産後も仕事を続けることができるような環境作りが、少しずつ整ってきています。

 

社会の男女平等指数を示す「グローバルジェンダーレポート2022」で、インドは146か国中135位になりました。2021年は140位だったので、確かに少しだけ上昇したとは言えます。しかし、先進諸国や他の南アジアの国と比べると、男女の格差が依然として大きいことが伺えます。

 

非営利団体Catalystが2022年に実施した調査によれば、インドの大多数の人が男女平等を肯定的にとらえると公言しているものの、その多くが「仕事が少ない時は男性が優先的に扱われるべき」と回答していました。

 

さらに、就労機会が増えているにもかかわらず、多くの女性が職場でのハラスメントや嫌がらせを受けているという問題もあります。女性が外で仕事をしても見下された態度を取られることも少なくないとの理由から、家事・育児に専念する人もいる模様。表面には出にくいこういった事象が、女性が社会に出ることを妨げる要因になっています。

 

識字率の問題も見落とせません。義務教育制度のため5歳から13歳までの子どもの就学率は高い水準を保っているものの、なかには家庭の事情で中退せざるを得ない女児が一定数いることも事実。また、子どもの頃は学校に通うことができても、義務教育が終わると教育の機会に恵まれないという女性も数多く存在しています。15歳から29歳の女性のうち45%は高等教育を与えられておらず、この数値は男性の6.5%と比較すると大きな差があります。

スラム街で読み書きの練習をする子どもたち

 

インドの女性就業率はまだ20%程度とされていますが、社会参画への動きが進むにつれ、拡大していく可能性があります。2022年7月にはドラウパディ・ムルム氏がインド史上2人目となる女性大統領に就任し、女性がいきいきと活躍できる社会の実現に向けて機運が高まっています。しかしその一方、男女差別の温床となる風習も依然として存在しており、女性の社会進出は一筋縄では行かないのが現実と言えるでしょう。家電市場の発展が、少しずつでもその動向を後押ししていけるか今後に期待です。

 

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ECサイトのフェイクレビューを一掃! インドで「オンライン消費者レビュー」の新基準が制定

 

オンラインショッピングやホテルを予約する際、購入者や利用者のレビューを参考にしている人も多いのではないでしょうか。しかし最近は、レビューが信頼できないケースも増えてきました。こうした問題に対処すべく、インドで世界初となる「ECサイトからフェイクレビューを排除する基準」が導入されました。

 

ECサイトレビューの自主的な開示を義務化

The Times of Indiaの報道によると、2022年11月25日以降、インドにおけるすべてのEC業者や旅行・チケット販売ポータル、オンライン食品販売サイトは、スポンサーのレビューなどを自主的に開示しなければならなくなったと言います。これは、インド基準局(BIS)が作成した「オンライン消費者レビュー」に関する新基準に則ったもの。

 

それにともない、ユーザーなどから購入したレビューや、人を雇って書かせたレビューなどが公開できなくなりました。独立した第三者機関がオンライン上にレビューを投稿する場合にも、この基準が適応されることになります。

 

今回の基準は、製品やサービスに関する偽りや、消費者を騙す目的のレビューを排除するのが目的。違反した場合は不公正な取引とみなされ、事業者は消費者保護法に従って処分されることになります。

 

GoogleやMetaなどのグローバル企業も協力

オンラインレビューにおける新たな基準の策定には、GoogleやMetaといった大手企業も委員会の一員として参加しています。外国資本の意見を取り入れることで、高いコンプライアンスの実現を目指しているのです。

 

BISはレビューの適合性に関する評価方法を策定し、それにのっとったウェブサイトの認証に着手。認証されたウェブサイトは、BISからの証明書を表示することが可能になりました。

 

中央消費者保護局のNidhi Khare(ニディ・カレ)氏は、「オンラインレビューの新基準の焦点は、適切な情報開示。オンラインサイトは消費者が誤解しないように、レビューが収集された期間を明示しなければならない」と語っています。さらに、購入されたレビューは「詐欺以外のなにものでもない」と強調しました。カレ氏によれば、トルコやモルドバでは偽レビューに関するビジネスが横行しているとのこと。

 

日本国内のECサイトなどでも、同様のフェイクレビューが後を絶たない現在、レビューの信頼性を高めようとするインドの取り組みは、その実効性も含めて大いに注目したいところです。

 

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国際的な基準値の30倍。深刻化するインドの大気汚染

インドの大気汚染は、日本でも頻繁に報道されるほど深刻化しています。ひどい時期には、白っぽいモヤが空いっぱいに広がっていることが確認できます。現在、世界規模で温室効果ガスの削減が進められていますが、インドも2070年までに二酸化炭素排出量をゼロにする目標を掲げました。インドの大気汚染の現状と二酸化炭素を減らす取り組みについて説明します。

青天時でもモヤがかかっているインドの都市

 

インドにおける大気汚染物質PM2.5の値は普段でもとても高いのですが、最近は平均150~300とWHOが掲げる基準数値の30倍にもなってしまいました。特にインドのお正月(ディワリ)の時期がピークで、PM2.5の値は首都デリーを中心に最高値の300に達します。原因としては、お祝いの花火や爆竹、小麦を収穫した後のわら焼きが大きく関係しています。さらに、クルマの排気ガスを合わせると、非常に多くの有害物質が大気中に存在することになります。

 

雨が降ると大気中の汚染物質は落ち着きますが、ディワリの時期は乾季のため雨はめったに降りません。よって、汚染された空気はしばらく大気中に残り続けます。首都デリー周辺の学校は外出できるレベルではないとして、2022年11月初旬には学校を当面休校にしました。その他の地域の学校でも空気清浄機をつけたり、マスクを配布したりと対策をとっています。

 

さらに、心筋梗塞や肺の疾患、頭痛といった身体の不調も、大気汚染が原因で発症することが多いとされています。

 

インドの約束

2021年11月にはイギリスで、持続可能な社会を目指した「国連気候変動枠組条約第26回締約会議(COP26)」が開催されました。地球温暖化の問題が取り上げられ、各国の代表がさまざまな誓約をする中、インドのナレンドラ・モディ首相も5つの誓約をしました。

 

  • 2030年までに非化石燃料の発電容量を500GWにする
  • 2030年までにエネルギー需要の50%を再生可能エネルギーにする
  • 2030年までに予測されるGHG排出量を10億トン削減する
  • 2030年までに経済活動によってもたらされる二酸化炭素の量を45%削減する
  • 2070年までに二酸化炭素の排出をゼロにする

 

その後、インドでは本格的に二酸化炭素削減に向けての取り組みが始まりました。さらに、身近にある具体的な取り組みとして下記のことが行われています。

 

  • 交通を抑制し、車両数を減らす
  • 各都市にスモッグ計測装置を設置する
  • 爆竹の販売と購入を非合法化する

 

交通量規制については、以前はナンバープレートが偶数か奇数かによって通行できる曜日を決めるという施策もありました。ただ、一部の地域だけで実施されていたので徹底されておらず、交通量はいまだに減りません。

 

また、爆竹の販売が非合法化されているにもかかわらず、2022年のディワリもたくさんの花火や爆竹を目にしました。インド人からは「去年はコロナでできなかったからみんな待ち望んでいた。店に行けば爆竹は売っている」との声が聞かれました。

 

ゼロエミッション事業を推進

完成に向けて建設が進む高速道路

 

排出量ゼロに向け、政府規模で実施している取り組みもあります。その一つはグリーンテクノロジーの導入に向けた動きで、グリーンエネルギーの容量を2027年までに275GWにする施策です。

 

さらに、電気自動車の導入も進んでおり、インド政府は、2030年までに自動車の30%を電気自動車にすると公約しています。

 

2022年には日本政府主導のもと、UNDP(国際連合開発計画)とインドの気象庁が共同でネットゼロエミッション(※)事業を開始しました。脱二酸化炭素や持続可能な研究開発を行うためには気候変動や気象学の知識が欠かせないとして、気象庁が中心となって取り組んでいます。全予算のうち約12%の資金がインドに割り当てられました。この資金を原資とし、電気自動車の充電ステーション設置やソーラー電池を導入した診療所の拡大、中小企業へのグリーン技術の導入促進などが行われます。

※ネットゼロエミッション:正味の人為起源の二酸化炭素排出量をゼロにすること(参考:一般財団法人環境イノベーション情報機構

 

さらに、車両数を削減する取り組みとして、高速鉄道の設立が始まりました。ムンバイからアーメダバードまでの約500キロメートルを結ぶラインをつくることが決まり、現在工事が着々と進んでいます。高速鉄道ができることで、都市部の渋滞が緩和し、クルマの流れがスムーズになるとの期待が高まっています。

 

このようにインドは二酸化炭素の排出ゼロに向けて、少しずつではありますが確実にプロジェクトを進めています。ただ日常生活においては、大気状態が改善されなかったり、交通渋滞が収まらなかったりと、まだ実感することはできません。世界規模で地球温暖化がクローズアップされている現在、なかなか浸透しないこれら取り組みを徹底させるためには、政府だけでなく社会全体も一丸となり、継続的に訴えていく根気強さが必要なのかと思われます。

 

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東京メトロの5倍以上の路線延長へ! インドの地下鉄が「日本と韓国を追い抜く」勢いで発展

網目のように地下鉄の路線が張り巡らされた東京は、世界有数の交通ネットワークを誇る都市。アジアの中では中国の北京や上海、韓国のソウルも、地下鉄の路線延長や利用客数において大きな規模を持っていますが、現在、日本や韓国を上回る勢いで地下鉄を発展させているのが、アジアのもう一つの大国・インドです。

インドの首都・ニューデリーの地下鉄の様子

 

2023年には、中国を抜いて人口が世界1位になると予測されているインド。人口爆発に伴い、急速に経済発展を遂げている同国では、公共交通機関の整備が喫緊の課題です。インドの政府系シンクタンク・NITI Aayogによると、同国で登録された自動車の台数は急増しており、1981年ではわずか540万台でしたが、2019年には2億9500万台まで増加。この影響により渋滞や大気汚染、交通事故などの問題が顕在化してきました。

 

長年、インドを支援してきた日本もこの問題を深刻に捉えており、外務省は2016年の「対インド国別援助方針」の重点分野として、主要産業都市の鉄道や国道などの輸送インフラの整備を挙げました。

 

そこで進められてきたのが、地下鉄の建設です。例えば、同国首都・ニューデリーの地下鉄「デリーメトロ」は2002年に開通し、総延長は390kmになります(12路線)。東京メトロは9路線、総延長は約195kmなので、デリーメトロの規模の大きさがわかります。

 

それまで市民の足となっていたバスは治安面で不安がありましたが、地下鉄の完成によって女性でも安全に移動できるようになり、インドの人々の生活が大きく変わっていきました。

 

ニューデリーの地下鉄の影響は他の都市にも及び、いまではインドの20の都市に地下鉄網が張り巡らされ、総延長は810kmにまで拡大。巨大な交通ネットワークが構築されていますが、さらに今後は地下鉄を有する都市を27まで増やし、総延長が980kmにまで伸びる予定です。

 

ハーディープ・シン・プリ石油天然ガス大臣は、インドのケララ州の都市コーチで11月4日から開かれた「第15回アーバンモビリティ・インディア(UMI)会議&エキスポ2022」で、この新しい建設計画について言及し、「インドの地下鉄網は近いうちに日本や韓国を抜く」と述べました。この発言の裏には、このような計画があったのです。

 

人口爆発と経済発展を支える

交通網が発展する一方、課題もあります。それは公共交通機関の料金とラストマイル交通(Last-mile connectivity)。前者については、公共交通機関の利用料金が収入の20~30%を占めている家庭が、人口全体の半数近くになるそう。人々の移動をより利便にする存在とはいえ、地下鉄などがそれほど家計を圧迫するのは好ましい状態とは言えません。

 

他方、ラストマイル交通とは、最寄りの駅から最終目的地までの近距離の交通手段のこと。例えば、最寄りの地下鉄の駅から自宅までをどのように移動するか? その際の交通手段として、インドは電気自動車やライドシェアなど、より安価で利用できるテクノロジーの導入を積極的に推進。この取り組みは「スマートモビリティ計画」として知られています。

 

東京や大阪などの都市に人口が集中する日本と同じように、インドでは2050年に人口の7割が都市部に居住する見込み。交通網の整備はこれからもっと必要になりそうです。

 

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インドが「Web3.0」 で世界をリードする3つの理由

最近、耳にすることが増えた「Web3.0」。1990年代から普及が始まったインターネットの新時代を指す用語で、ブロックチェーン技術を活用したデータの分散化(脱中央集権化)を概念としていますが、このWeb3.0を巡ってインドが野心を燃やしています。

インドの時代へ?

 

まず、Web3.0について簡単に見ておきましょう。インターネットの発展の歴史は大きく3つに分けることができ、それぞれ大まかに以下の特徴があります。

 

Web1.0(概ね1991年〜2004年):ユーザーは消費者。コンテンツは静的(テキスト中心)

Web2.0(概ね2004年〜今日):ユーザーはコンテンツの消費者だけでなく生産者。コンテンツは動的(動画や画像が中心)。巨大IT企業がプラットフォームを構築し、ユーザーのデータを所有

Web3.0(これから):ユーザーは消費者であり生産者。ブロックチェーンに基づく脱中央集権化

 

現在、インターネットはWeb3.0に移行しているところですが、これまでのように米国の巨大IT企業がユーザーのデータを独占的に所有してきた時代とは異なり、これからはユーザーがデータを所有すると言われています。

 

では、どうしてインドがWeb3.0の世界をリードすると期待されているのでしょうか? インドの関係者は3つの根拠を挙げています。

 

1: Web3.0人材が豊富

インドの主要IT関連企業が加盟する団体「NASSCOM」は、インドはWeb3.0で豊富な人材を持っているので、この分野をリードする力を十分に持っていると述べています。毎年、200万人以上がSTEM分野で学位を修めており、ブロックチェーンや暗号資産(仮想通貨)関連での雇用は2018年から138%増加したようです。分散型IDプラットフォームのEarth ID社でリサーチ&ストラテジー担当の副社長を務めるSharat Chandra(シャラット・チャンドラ)氏によれば、世界におけるWeb3.0関連の開発者の11%をインドが占めており、その数は世界で3番目に多いそう。さらに今後12〜18か月の間に、同国でのWeb3.0開発者が120%以上増えるとの見通しも伝えています。

 

2: インドにおけるWeb3.0の市場規模

NASSCOMによれば、インドには450社のWeb3.0スタートアップが存在し、そのうちの4社はユニコーン企業(評価額が10億ドル〔約1400億円〕を超える、設立10年以内の未上場ベンチャー企業)。2022年4月までにインドのWeb3.0エコシステムは13億ドル(約1810億円※)を調達しており、今後10年でインド経済に1兆1000億ドル(約153兆円)をもたらすと期待されているのです。

※1ドル=約139.3円で換算(2022年11月14日現在。以下同様)

 

3: 関連製品の開発

CoinDCXやポリゴン(Polygon)、コインスイッチ(CoinSwitch)などのスタートアップを含め、インドのWeb3.0関連企業は、分散型金融(特定の仲介者や管理者を必要とせずに金銭のやり取りを可能とする制度)やゲーム用NFT(非代替性トークン)、マーケットプレイス、メタバース、分散型コミュニティ(企業や組織ではなく、ユーザーが所有する共同体)、オンチェーン調整メカニズム(ブロックチェーン上で暗号資産の取引などを処理する仕組み)などに関する製品を国内だけでなくグローバル向けに開発しています。

 

一方、NASSCOMはインドが克服しなければならない問題も指摘。同国では暗号資産業界と政府、金融当局は必ずしも一枚岩ではなく、暗号資産の利益に対する高い税率や、曖昧な規制などによって、人材と資金が流出していると言われています。

 

このような課題があるものの、インドのWeb3.0業界は世界をリードしようと意欲満々。アメリカの大手IT企業がリードしてきたWeb 2.0の時代とは異なり、Web3.0では「インドの時代」がやって来るかもしれません。

 

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ジャンプ漫画が人気のインドでも! 世界中で『北斎漫画』が絶賛されている

江戸時代中後期の浮世絵師、葛飾北斎(1760-1849)。力強い荒波の向こうに富士山を描いた『神奈川沖浪裏』は、レオナルド・ダ・ヴィンチの『モナリザ』に並ぶ名画として、世界でも高い評価を受けています。そんな葛飾北斎の作品と現代の漫画がコラボレーションした展示会「Manga Hokusai Manga」が2022年10月、インド東部のチェンナイにおいて、日印国交樹立70周年を記念したイベントの一つとして、在チェンナイ日本国総領事館などの主催で開かれました。

葛飾北斎の影響は世界中に時代を超えて広がる

 

葛飾北斎といえば、『神奈川沖浪裏』を含めた浮世絵『富獄三十六景』で有名ですが、これまでに残したコレクションは4000点に及び、その中には現代の漫画の原点ともいえる絵が数多くあるのです。それが、全15編からなる絵手本(指導書)『北斎漫画』。魚の種類を図鑑のように描いたものから、庶民が稲作にはげむ様子や米俵をかつぐ姿を表したもの、桃太郎や妖怪が出てくる物語風のスケッチなど、実にさまざまな絵が描かれています。

 

今や世界的に広まった、日本の漫画文化。インドでもその人気は絶大で、書店の漫画コーナーには、日本の『DEATH NOTE(デスノート)』『僕のヒーローアカデミア』『東京喰種 トーキョーグール』などの作品が数多く並んでいるそう。インドでも漫画やアニメが人々の間で根付いてきているようですが、そんな現代の漫画に無意識的に影響を与えてきたのではないかと考えられるのが、葛飾北斎というわけです。そこで、『北斎漫画』と現代の漫画の接点を探ろうと今回の企画展が行われました。

 

本展示会では、『北斎漫画』の一部を展示。さらに、市川春子、五十嵐大介、今日マチ子、西島大介、岡田屋鉄蔵、しりあがり寿、横山裕一の7名の漫画家が今回のために作った作品を展示。また、日本の漫画の特徴でもある、オノマトペ(擬態語や擬音語)の一つひとつに複雑なデザインを施している様子を紹介していました。

 

今回の展示に際し、在チェンナイ日本国総領事館の総領事は、「葛飾北斎は美人画のほか、山や川などの自然を描いた山水画で有名ですが、現代の漫画に通じるスケッチもたくさん描いていました。過去と現代の漫画家たちの間には対話があるはずです」と話していました。そのような視点から葛飾北斎の作品を改めてみると、漫画の魅力がより一層深まるかもしれません。

 

今回の展示に関するコメントではありませんが、『北斎漫画』を紹介したSNSの投稿には「すばらしい!」「傑作だ」「19世紀の漫画を初めて見た」などのメッセージが世界から寄せられています。きっとManga Hokusai Manga展も、日本の文化に興味を持つ人たちの感性に響いたことでしょう。

 

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インドが中国を抜いてトップへ!「世界人口」がもうすぐ80億人に到達

国連経済社会局人口部の『世界人口推計2022年版』によると、2022年11月15日に世界人口は80億人に到達します。その約6割はアジアに集中する一方、サハラ以南のアフリカ諸国などでは人口が著しく増加していく模様。ヒトへの投資がますます重視されています。

人口はあっという間に80億人へ

 

世界人口はわずか100年の間に爆発的に増加してきました。初めて10億人に達したのは1804年。その後、1927年には20億人となり、それから100年も経たないうちに、その数は4倍増えることになります。

 

ただし、多くの国で出生率が低下しているなどの理由で、増加率は鈍化。2030年には約85億人、2050年には約97億人、2080年には約104億人になると見られていますが、人口はその頃にピークに達し、2100年まで104億人の数字でとどまると国連は予測。

 

大陸別に見ると、アジアの人口が際立っています。世界人口推計で人口が最も多い国は中国(14億4850万人)で、次がインド(14億660万人)。そのため、米ポータルサイト・Big Thinkの概算によれば、アジアだけで世界人口の58%を占める模様で、アフリカでさえも2割にもなりません。対照的に人口が最も少ないのはオセアニアで、わずか4400万人。これは日本の首都圏の人口(2020年に4434万人)とほぼ同じレベルにあたります。

 

【大陸別の人口と割合(概算)】

1位 アジア(約47億人、58%)

2位 アフリカ(約14億人、17.5%)

3位 ヨーロッパ(約7.5億人、9%)

4位 北米(約6億人、7.5%)

5位 南米(約4.4億人、5.5%)

6位 オセアニア(約4400万人、0.5%)

(出典:Big Think)

 

現在、世界人口ランキングのトップを争うのが中国とインド。これまで人口が爆発的に増えてきた前者ですが、2022年7月時点で人口は14億2589万人となり、若干の減少が見られるようになりました。日本と同様に、中国でも少子高齢化が進み、労働人口が減少していることから、これから人口がどんどん減少していくと見られています。

 

それに対して、インドは2023年に中国を抜いて世界トップになる見込み。2063年頃に16億9698万人に達すると、その後は減少していくと予測されており、結果的に2100年時点での人口は中国が約5億人、インドは約10億人になるそうです。

 

また、中国やインドと共にBRICS(近年、著しい経済成長を遂げたブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5か国を指す)を構成するロシアは、世界で最も面積の大きい国であるものの、人口は1億4580万人と世界第9位。インドの東側にあるバングラデシュの人口(1億6700万人)よりも少ないのです。バングラデシュでは人口が増加傾向にあるのに対し、ロシアは少子化が進み、両国の差は今後さらに開くものと考えられます。

 

もっとヒトに投資を

一方、国連は、2050年までに増加が見込まれる世界人口の半数超が8か国――コンゴ、エジプト、エチオピア、インド、ナイジェリア、パキスタン、フィリピン、タンザニア――に集中すると見ており、その過半数をサハラ以南のアフリカ諸国が占めると予想しています。

 

とはいえ、サハラ以南アフリカの大半の国々とアジア、南米、カリブ諸国の一部では最近、出生率が減少したようで、それによって生産年齢人口(25歳から64歳の間)の割合が増加。この変化は一人当たりの経済成長を加速する機会(専門用語で「人口ボーナス」と呼ばれる)をもたらすそうですが、その利益を最大化するためには「人的資本のさらなる開発に投資すべき」と国連は説き、ヘルスケアや質の高い教育へのアクセス、雇用を促進することが必要だと述べています。

 

日本は世界一の高齢化社会であるものの、世界人口の増加はアジアに集中。サハラ以南のアフリカを含めて、両大陸の人口の動向から目が離せません。

 

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電気代ゼロも可能! インド初「100%太陽光発電の村」が誕生

世界中でエネルギー価格が高騰する一方、化石燃料に頼らない、再生可能エネルギー確保の重要性が叫ばれています。そんななか、インドのナレンドラ・モディ首相は先日、グジャラート州にあるモデラで「太陽光発電100%の村」が誕生したと高らかに宣言しました。インド初となる太陽光で成り立つ村は、どのようになっているのでしょうか?

太陽光発電で希望の光を灯す

 

モデラは、グジャラート州の州都であるガンジナガールから約100㎞離れた場所にある小さな村。ここに中央政府と州政府が80.66億ルピー(約145億円※)を投じて、1300台以上のソーラーパネルを住宅の屋根に設置しました。さらに近くのサジャンプラ村には12ヘクタール分の土地を確保し、バッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)を導入。このBESSは、ソーラーパネルで発電した電力を貯蔵できるシステムで、太陽光発電には欠かせない存在です。これらの設備により、日中はソーラーパネルから、夜間や曇りの日にはBESSから電力が供給され、住民はそれを利用することができるのです。

※1ルピー=約1.8円で換算(2022年10月17日現在)

 

また、村の中にはソーラーエネルギーによる電気自動車の充電ステーションも設けられたそう。村の住民は正真正銘、太陽光から得たエネルギーだけで生活できるようになるのです。従来、この村には政府が電力を供給していたそうですが、今後、住民は電気代を60%〜100%減らすことができるとされているうえ、さらにソーラーパネルで得た電力を売って収入を得ることも可能。モディ首相は「モデラ村の住民は、電力を消費する立場であると同時に、電力を生産する立場でもある。ぜひ電気を売って、収入を得てほしい」と呼びかけました。

 

モデラ村があるグジャラート州は、年間を通して雨が少なく、冬の間はほとんどの日が晴れているそう。夏はモンスーンの季節ですが、日差しは強く、気温が40度以上になる猛暑日が多くなります。そんな気候は太陽光発電に適していると言えるのでしょう。

 

インドでは、2030年までに太陽光発電などの再生可能エネルギーを500ギガワットまで導入し、2070年までには温室効果ガスの排出をネットゼロ(正味ゼロ)にする目標を掲げています。その中でインド初の太陽光発電の村の存在は、モデルケースとして今後ますます注目を集めていくことでしょう。

 

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インドが「ソバの生産」に注力! 不透明感が増す日本のそば事情を変えるか?

2022年9月、インド東部のメーガーラヤ州にソバの実を生産する農家が集い、そば粉から作ったパンやスイーツなどが披露されるなど、そばをテーマにした一大イベント「メーガーラヤ・ソバ・グローバルショーケース2022(Meghalaya Buckwheat Global Showcase 2022)」が開かれ、日本の関係者も招かれました。一体なぜメーガーラヤ州は、ソバの実の生産に注力しているのでしょうか?

日本とインドの間で”細くて長い”貿易になる?

 

そば粉の原料になるソバの実の生産にメーガーラヤ州の農家が注力している理由の1つは、そばの高い健康効果。食後の血糖値の上昇度を示すグリセミック指数(GI)というものがあり、糖質が多くて食物繊維の少ない食品はGI値が高く、血糖値を一気に上昇させて、糖尿病や肥満を起こす原因になると考えられています。GI値が70以上は高GI食品に、56〜69の値だと中GI食品になりますが、そばのGI値は55前後。糖分を穏やかに吸収しながら、糖尿病や肥満などを防ぐ低GI食品なのです。また、そばは繊維質が豊富で、良質なタンパク質を含んでいるため、栄養価が高く、栄養バランスに優れた「スーパーフード」の1つとされています。

 

インドは、都市部の約28%の人が糖尿病または糖尿病予備軍と言われるほどの糖尿病大国。そこで、小麦や米をソバに切り替えて、健康的な生活を送ろうという動きが出てきているのです。

 

もう1つの理由として、ソバの実の需要が世界的に増加していることが挙げられるでしょう。インドのMarket Data Forecastによると、2022年における世界のソバの実市場規模は14億ドル(約2040億円※)。2027年までの今後5年間で、年平均成長率2.9%で伸びていくと見られています。2020年の国連食糧農業機関(FAO)の統計によると、世界のソバの実の生産量は約181万t。生産量の多い上位国はロシア(89.2万t)、 中国(50.4万t)、ウクライナ(9.7万t)です。生産量で世界第6位の日本も7~8割程度を輸入に頼っており、ロシアや中国、アメリカから多くを輸入している状況。最近では、米中摩擦の影響で中国が減産するなどしたため、ソバの実の価格は高騰していますが、上述した健康的な側面から、そばの需要は世界的に伸びていくと予測されているのです。

※1ドル=約145.7円で換算(2022年9月22日現在)

 

インドのソバ輸出に日本も期待

比較的栽培しやすいと言われるソバ。メーガーラヤ州ではここ3年間で、理想的な植え付け時期を把握するために、何度もソバ栽培を試みるなどして、地域での最適な農法を探ってきました。同州はようやくその農法を確立しつつあるようで、少しずつ栽培面積を拡大していく段階に至っていると見られています。

 

それに加えて、メーガーラヤ州では日本が道路建設プロジェクトを支援するなどしてきた歴史があり、昔から日本とつながりのある地域。そのため、そばの輸出先の1つとして日本に熱い視線を送っているようです。今回のイベントに出席した在インド日本国大使館の北郷恭子公使は「そばは日本文化の1つであり、日本のソバ栽培の専門家たちは技術移転という形で、ソバ栽培技術の普及に取り組んでいます」とコメント。日本もインドに期待を寄せているようです。

 

最近の日本では、2021年に中国産のそば粉が値上げしたうえ、2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻によって、ロシア産のソバの実の供給が止まる可能性も取り沙汰されており、そばを巡る状況は不透明感を増しています。今後インドは、日本にとって重要なソバの実の生産国になるかもしれません。

 

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世界2位の4億2000万人もの利用者を抱える「インドのオンラインゲーム市場」

インドのオンラインゲーム市場が目覚ましい発展を遂げています。スマートフォンユーザーの増加やモバイルゲームの拡大などによって、同国のゲーム人口は急増。この動向はインド企業だけでなく日本のゲーム関連企業にも大きなチャンスかもしれません。

もっと盛り上がろうぜ!

 

まずは、インドのオンラインゲーム市場について見てみましょう。同国のThe Economic Times紙によれば、インドのオンラインゲーム市場は成長率38%を記録し、世界のモバイルゲーム市場の上位5位に位置しているとのこと。また、インドには400社以上のゲーム会社があり、世界で2番目に多い約4億2000万人のオンライン利用者を抱えていると言われています。

 

インド国内に目を向けると、同国のゲーム市場は過去5年間、安定的に成長しており、2025年には3倍の39億ドル(約5400億円※1)に到達する見通し。オンライン利用者数も2020年の3億6000万人から、2021年には3億9000万人に増え、ゲーム人口は2023年に4億5000万人を超えると予測されています。

※1: 1ドル=約138.4円で換算(2022年8月31日現在)

 

このような成長の主な要因として、同紙は「若年層の増加」「可処分所得の増加」「新しいゲームジャンルの導入」「スマートフォンやタブレットのユーザー数の増加」「インターネットの高い普及率」が挙げられると分析。加えて、新型コロナウイルスのパンデミックによる「巣ごもり」も、インドのオンラインゲーム市場の拡大を加速させたと見られています。例えば、2020年9月に同国ではオンラインゲームのダウンロード数が73億回になりましたが、その数は世界で最も多く、全世界のダウンロード数の約17%を占めたとのこと。

 

それでは、インドではどのようなオンラインゲームが注目されているのでしょうか? 同国のスポーツ専門サイト・Twelfth Man Times(TMT)によれば、パズルやファーストパーソンシューティング(FPS※2)、バトルロイヤルゲーム(※3)などが人気を集めているそう。例えば、バトルロイヤルゲームの1つ『PUBG』の場合、インド市場は全ダウンロード数の25%を占め、月間5000万人のアクティブユーザーが登録しています。

※2: ゲームを操作する本人が主人公になり、銃などの武器を使って標的を倒すゲーム

※3: 多数の個人または複数のチームがゲームに参加し、他のプレイヤーもしくはチームを全て倒すゲーム。最後の1人もしくは1チームになると勝ち

 

一方、ゲーム機を利用する「コンソールゲーム市場」も高い人気を集めるようになりました。この分野では2022年から2026年にかけて年間10%の成長が見込まれています。さらに、インドオリンピック委員会が公式スポーツに指定した「eスポーツ」が盛り上がりを見せており、そのプレイヤー数は2022年に100万人に達する見込み。

 

ゲームパブリッシャーへの投資は不足

TMTによれば、インドのゲーム業界におけるゲームスタジオの数は、2009年の15社から2021年には275社へと大幅に増加したとされています。また、世界的に著名なスタジオもインドに事務所を開設し、インド市場におけるブランド確立を目指している模様。しかしその反面、インドのゲームパブリッシャーはまだまだ開発の余地があるとされており、同国のオンラインゲーム市場の成長には、ゲームパブリッシング業界へのさらなる投資が不可欠と指摘されています。

 

日本にはゲーム機やソフト、オンライン/スマホゲームを作る企業が多数存在しており、海外の企業と資本・業務提携をするなどしてグローバルに競争しています。次の戦いの舞台は、インドのオンラインゲーム市場かもしれません。

 

読者の皆様、新興国での事業展開をお考えの皆様へ

『NEXT BUSINESS INSIGHTS』を運営するアイ・シー・ネット株式会社(学研グループ)は、150カ国以上で活動し開発途上国や新興国での支援に様々なアプローチで取り組んでいます。事業支援も、その取り組みの一環です。国際事業を検討されている皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料もご用意しています。

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かなり画期的! インドのデジタル戦略「NDAP」公開の衝撃

【掲載日】2022年7月1日

近年、民間セクターでは、ビッグデータやAIによる分析に基づいて経営やマーケティングを行うデータドリブン企業が多数存在していますが、同じような傾向は途上国の政府でも見られます。インドでは最近、政府が大胆な情報公開戦略を実施。インド政府の透明性と業務の効率化が高まると同時に、同国への進出を検討している企業の意思決定にも良い効果を与えそうです。

インドのパブリックデータを調査せよ(画像提供/NDAP公式サイト)

 

2022年5月、インドの政府系シンクタンク「NITI Aayog」は、政府所有のデータを閲覧し分析することができるプラットフォーム「National Data and Analytics Platform(NDAP)」を公開しました。統計学の回帰分析やデータマイニング、AIが組み込まれているNDAPは、農業やエネルギー、資源、財政、ヘルスケア、交通などの幅広い分野の基礎的なオープンデータを提供。それらは相互運用ができるため、ユーザーは異なる分野を横断的に分析することができます。

 

NDAPの導入によって、インドのデータエコシステムが強化され、データドリブンの意思決定がさらに促進される見込み。例えば、NDAPには治安を保つ機能があります。インドでは警察関連機関がデータ管理能力の向上に取り組んでおり、2022年3月には、インド工科大学カンプール校のベンチャー企業が警察活動を支援するために、高度なAIが搭載された検索エンジンを開発していると報じられました。これにより犯罪捜査はもちろん、監視や犯罪マッピング、分析などにおいて、警察のリソース配分が改善されると見られていますが、政府や警察などの執行機関はさまざまな形で犯罪関連のデータを利用することができ、NDAPでは、それらが金融関連データなどと紐づけられているようです。

 

他国と同様に、インドは政府のデジタル化に取り組んできました。2015年にナレンドラ・モディ首相が公共サービスの電子化を進めるキャンペーン「Digital India」を開始。それ以降さまざまな取り組みが行われ、2021年にNDAPのベータ版が一部のユーザーだけを対象に試験的に導入されました。NDAPの一般公開について、情報通信技術に関するプラットフォームを運営するOpenGov Asiaは「かなり画期的な出来事だ」と述べています。

 

このようなインド政府のデジタル化は、民間企業や海外からの進出企業にとっても有益でしょう。インド進出を目指している日本企業は、自社が所有するデータと政府の公開データを掛け合わせていくことで、より実現可能性の高い戦略やビジネスモデルを構築することができます。NDAPで公開されている情報が、勝敗を分けるかもしれません。

 

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インドでシェア拡大を目指す「ジャパニーズ・ウイスキー」、しかし国内市場に変化が…?

【掲載日】2022年6月29日

近年、日本産酒類の輸出が目覚ましいペースで増加しています。2021年の輸出金額は過去最高額の1000億円を超え、2022年は前年を上回る勢いで推移。主な輸出先である米国や中国で高級品として受け入れられているジャパニーズ・ウイスキーや日本酒は、途上国でも市場の拡大を目指しています。しかし、ターゲット市場の1つであるインドではウイスキー市場に大きな変化が起きており、競争がさらに激しくなりそうです。

インド市場を攻略するためには……

 

日本が輸出する酒類の中で最も多いのは日本酒と思われるかもしれませんが、実際には輸出額の第一位はウイスキー。2021年の清酒輸出額の対前年比は約66%増でしたが、ウイスキーはそれを上回る約70%増という驚異的な伸長を示しました(国税庁『最近の日本産酒類の輸出動向について〔2021年12月時点〕』)。国際市場では、スコッチ、アイリッシュ、アメリカン、カナディアンに加えて、ジャパニーズが世界的に有名なウイスキーの産地として認識されています。これは、日本のウイスキーメーカーが品質に徹底的にこだわり、国際品評会などで激戦を勝ち抜いてきた結果と言えるでしょう。

 

今後、ウイスキーの市場規模が爆発的に拡大すると見られるのは新興国ですが、その中でも一際大きな注目を集めているのがインド。国際物流網の混乱によって、インド国内のウイスキーメーカーが2020年頃から急成長しています。巨大な人口を抱えるインド国内のウイスキー市場は約188億ドル(約2兆5000億円※)規模と言われており、現在では、さまざまなフルーツの香りや黒コショウなどの新感覚で楽しめるシングルモルトウイスキーの人気が高まっている模様。プレミアム感の高い輸入品に依存していたインド人の嗜好を変えるために、国内メーカーが奮闘していますが、それが国産や輸入品を問わず、ウイスキー人気に拍車をかけるでしょう。

※1ドル=約134.6円で換算(2022年6月24日現在)

 

現在のインドのウイスキー輸入関税は約150%であるうえ、高温多湿の気候条件が海外メーカーのハードルになってはいますが、自由貿易の枠組みが進展すれば、そのハードルは下がります。ウイスキーだけでなく、日本酒を含めて考えると、日本にはかなり多くの銘柄が存在しており、そのどれもが国内競争で勝ち残ってきた逸品。日本産酒類が本当に世界を席巻するのは、これからが本番ですが、インドを含めた新興国で成功するためには早めの戦略策定が必要。日本での功績に陶酔している時間はありません。

 

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データとトレンドで見るICT産業大国「インド」の全て

【掲載日】2022年5月19日

 

NEXT BUISINESS INSIGHTSでは、世界で注目される発展途上国の現在を様々な視点で紐解いています。本記事では、そんな豊富な記事をより深く理解するために、国別に知っておきたい基本情報をまとめました。今回は、2030年には世界トップの人口数になると予想されている「インド共和国」。世界的大企業がいま率先して投資を始めている、インド市場の現在を知っていきましょう。

 

 

データで見るインドの概況

 

●人口…13.5億人

●2050年の人口予想…15.3億人

●平均年齢…28.5歳

●インターネット普及率…34%

●携帯電話普及率…87%

●スマートフォン普及率…24%

●一人当たりのGDP(円換算)…2300円

●総GDP…2719億ドル

●その他…地域ごとに大きく異なる気候特性、連邦法・州法の採用、英語の他にヒンディー語・マラティー語・タミル語など地域ごとに様々な現地言語が残る

 

インドは、この先10年足らずでGDPは日本を超えて世界3位の経済大国になると言われています。その大きな要因として挙げられるのは、ボーナス期で伸び続けている人口数です。現在の平均年齢が30歳未満と今後の経済担う若年層人材が潤沢であることから、市場としての将来性に注目が集まっているのです。

 

いまだインターネット普及率、スマートフォン普及率ともに30%前後ではあるものの、インドのICT産業や人材の持つ能力には多くの国が注目し続け今や「IT大国」と世界的に呼ばれる位置にいます。約300万km2もの広大な面積の土地には、29州で構成されており、最高40℃~最低10℃までと寒暖差の激しい地域もあれば、雨季にはモンスーンが発生するような地域もあったりと環境特性に様々な違いがあり主要産業も地域別に異なっています。

 

世界的に将来性の高い国であるインドの特性を、さらに4つのパートに分けて見ていきたいと思います。

 

【パート1】農林・水産

(概況・特徴)

・総人口に対する農林水産業の従事者比率…約50%

・農地面積…17,972万ha(2016年時点)

・主な農産物…さとうきび、コメ、小麦、馬鈴薯、バナナ、マンゴー、グアバ、トマト、パパイア、オクラ、チャ、ショウガ、牛乳など(農水省ホームページ、2019年)

(課題)

・人口増加に反して農業人口が減少

・フードロスの増加

(新たな動き)

・スマート農業、先端技術を持つベンチャー企業の活発化

・加工食品へのニーズが増加

・都会的で向けのコーヒーショップや、ベーカリーが増加

 

インドの農産物で生産量1位を誇る品目シェアと単収。3段目のマンゴスチンの生産は、実態としては稀となる

 

前述の通り人口が増加し続けているインドではありますが、一方で農業従事者の人口が減少傾向にあることが課題として挙げられています。また、その生産・加工技術は体系化されているものではなく小規模農家が多いため、フードロスが増加していることも大きな課題。

 

インドの農林水産では、近年新たなアグリテックが多く生まれていることも特徴です。その内容は、衛星画像やセンサーを活用したデータ分析(営農情報提供サービス)から、新たな農業資材に関する情報、農機レンタルあるいはシェアリング、ファイナンスなど多岐に渡ります。

 

近年都市部では洗練されたスターバックスのようなコーヒーショップが若者を中心に人気を集めており、おしゃれなパッケージのフィルターコーヒーなども販売されています。

 

雰囲気のいいベーカリーも増えており、中には日本式のカレーパンやチーズケーキが販売されていたり、日本のようにトングとトレーで店内で買い物をするタイプの店も出てきています。また中間層や働く女性も増加しているため、キノコや乳製品などを中心に食の安全・安心や保存のきく加工食品へのニーズが増加していることも、今後日本企業でも進出可能性が高く見られるポイントでしょう。

 

インドで展開されているコーヒーショップ「Third Wave Coffee」のフィルターコーヒー

 

【パート2】保健医療

(概況・特徴)

・平均寿命…68.5歳(男性67歳/女性70歳 2016年時点)

・妊産婦の死亡率…10万人あたり145人(2017年時点)

・乳幼児の死亡率…1000人あたり37人(2018年時点)

・疾病構造や死亡要因…循環器疾患27%、感染症・周産期・栄養不全26%、その他非感染症疾患13%、呼吸器疾患11%、傷害11%、がん9%

・医療費支出額…800億ドル

(課題)

・医療従事者が数、質ともに不足している

・医療教育への十分な投資がされていない

・全人口の保険加入率が25%程度に留まっている

・老年看護や高齢者ケアの概念が浸透していない

(近年の新たな動き)

・POC機器市場の伸長

・民間企業による高齢者ケアのための医療サービス提供

・健康志向が高まり、ジムや健康食品への関心が高まっている

 

 

 

医療と衛生状況も向上しているインドではありますが、国全体の課題としては医療機関・従事者の体制が万全でないことに加え、医療教育もまだまだ十分に追いついているとは言えない状況です。医療機関も都市部には集中していますが、地方ではまだまだ環境が整っていません。しかし、そういった状況が近年、求めやすい価格で簡易検査を可能とする「POC機器」市場を伸長させている一因でもあります。2020年時点ではインド国内で約700もの医療機器メーカーがあり、インドの医療機器市場はアジアでも4番目、世界でも20位内に入る規模となりました。

 

機器とともに知識不足がゆえに課題となっていることには、糖尿病も挙げられるでしょう。インドの糖尿病患者数は世界で最も多く、2025年には1億5000万人にも達すると言われています。生活習慣病である糖尿病にとっては、日常的な検査と適切な治療が求められそれらの体制が万全でないことが問題点として挙げられているのです。しかし、その反動として社会的に健康志向意識が高まり、近年トレーニングジムや健康食品に注目が集中する現象が起きています。

 

環境が整っていないという意味では、医療教育が普及していないことと老人介護・高齢者ケアの概念が浸透していないことも大きな課題です。インドでは伝統的に家庭内での高齢者ケアが一般的で外部にケアを依頼することが浸透していません。しかし、調査では約45%が「重荷である」と回答しているのです。そういった声をもとに、病院・NGO・民間企業によって、検査・診察・看護・理学療法・緊急対応・健康モニタリングといった医療サービスの提供がスタートしています。

 

【パート3】教育・人材

(概況・特徴)

・学校制度…5・3・2・2制

・義務教育期間…8年生まで(6歳~14歳まで)

・学校年度…4月1日~3月31日

・学期制…3学期制(1学期:4月~8月/2学期:9月~12月/3学期:1月~3月)

・15-24歳までの識字率(2018年時点)…91.66%

・15歳以上全体の識字率(2018年時点)…74.37%

・総就学率(2017年時点)…就学前13.7%/初等113%/中等73.5%/高等27.4%

・初等教育の純就学率(2013年時点)…92.3%

・就学人口(2011年-2012年度)…幼稚園/保育園333万6365人/初等学校9131万5240人/上級初等学校6254万2529人/中等学校3777万6868人/上級中等学校4266万8238人

(課題)

・児童・生徒数に対して教員人材が足りていない

・教員人材訓練の環境が万全ではなく、訓練未履修の教員が存在している

(新たな動き)

・海外への留学が増加。留学先はアメリカを中心に各国へ分岐している

・EduTech産業が急伸している。新型コロナウィルス感染症流行後、オンラインでの遠隔教育を中心に様々なEduTechソリューションが発展している

 

 

人口ボーナス期であるインドは、約40%の人口が5~24歳の若年層です。今後数十年に渡り目覚ましい成長を見せることが予想されますが、若年層の数に対して教育環境が整っていないことが現在の大きな課題です。

 

初等教育の就学率は92%と高いものの、15歳以上になると識字率の男女格差が生まれ始めて一定の年代以上における教育格差が見受けられます。最大の課題は、増加する就学児に対してしっかりとした訓練を受けた教員が足りていないことでしょう。インドではいまだ地域、身分にとどまらず部族や宗教間など様々な視点での格差が根差しており、その格差を埋めて国内で均等で十分な教育環境を整えることが必要とされています。

 

反面、ICT産業で世界的注目を集めているインドでは、教育とテクノロジーを掛け合わせた「EduTech」産業が凄まじい成長を遂げています。国内では4400もの新興企業が稼働しており、その数は世界でアメリカに次いで2位にランクされました。新型コロナウィルス感染症流行してからは、その技術をもって遠隔教育が盛んに採用。EduTechソリューションのユーザーは2倍になり、利用者のオンラインで過ごす時間は50%増加したと言われています。

 

【パート4】IT・インフラ・環境

(概況・特徴)

・主要港数…13

・港湾処理能力(1TEU…20フィートコンテナ1個 2018年時点)…1638万TEU

・鉄道網(2019年時点)…6万7368km

・道路網…560万km以上 国道(2019年度)…13万2500km 州道(2017年度)…17万6166km

・輸出製品構成…石油製品14%/宝石類11%/機械製品7%/その他68%

・輸入製品構成…原油・石油製品32%/機械製品13%/宝石類11%/その他45%

(課題)

・製造分野の零細企業制が多い

・石炭中心の電気構成や車両増加による都市部の大気汚染が深刻化

・道路網への依存が高いなど、物流サービスが非効率

(近年の新たな動き)

・再生可能エネルギーが最も安価な国であるため、太陽光電池の開発などが盛ん

・2030年までに新車のEV化を国家目標に掲げるなど、電気自動車産業への積極的な取り組み

・Eコマースの需要拡大に伴い、数多くのブランドや店舗が参画

・製造業振興の国策「Make In India」の推進

・90億ドルもの資金調達を達成した、FinTech市場の伸長

 

 

インドが世界で最も注目されるITや、インフラ、環境を見てみましょう。まず2014年にモディ政権下で提唱された製造業振興策「Make In India」からも見てとれる通り、インドの目下の課題は製造業のテコ入れにあります。当初はインドが抱える様々な課題から政策はうまく実行できずにいましたが、第2次モディ政権では法人税の引き下げや労働法改革、電気自動車産業など新産業の推進を掲げて今後の展望が期待されています。電気自動車の新産業とともに、太陽光産業など再生可能エネルギーをローコストで運用できることもインドの強みです。

 

IT産業においては、新型コロナウィルス感染症流行を皮切りにEコマースの積極導入が図られるばかりでなく、FinTech市場において世界でも記録的な額である90億ドルの資金調達を達成するなど、先進技術によるIT成長率には目を見張るものがあります。

 

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●アイ・シー・ネット株式会社「海外進出に役立つ資料集」

次なるフロンティア! 急成長するインドの「メンタルヘルス」市場

【掲載日】2022年5月12日

近年、世界各国でメンタルヘルス(精神衛生)の重要性が認知されている中、特に注目を集めている国の1つがインドです。同国では多くの人々が心のケアを求めており、国全体でメンタルヘルスの問題に取り組んでいますが、精神科医が圧倒的に不足。この状況を打破するために、インドのスタートアップ企業がAIやロボットを活用しようとしています。

↑心の苦しみを誰に打ち明けたらいいのか?

 

2022年2月、世界経済フォーラムは、インドでメンタルヘルスの認知度が高まっているものの、人材不足の問題が深刻であると述べた記事を掲載しました。同国は2016年に、メンタルヘルスに関する国民的な議論を喚起するため「Live Love Laugh」というフォーラムを立ち上げ、啓蒙活動を行なっています。メンタルヘルスを前向きに捉える人の割合が2018年の54%から2021年には92%に増えるなど、国民の意識は大きく変化した模様。しかし、人材不足は解消されておらず、同国では10万人の患者に対して精神科医がわずか0.75人しか存在していません。

 

メンタルヘルスケアへの需要は増えています。新型コロナウイルスのパンデミックが宣言された2020年、アメリカの大手ソフトウェア企業のORACLEが、11か国で約1万2300人を対象にメンタルヘルスに関するアンケート調査を行いました。その結果、メンタルヘルスで最も苦しんでいる国はインドであることが判明。例えば、同国の従業員の89%がコロナ禍で精神の健康を損ない、さらに93%がその影響は家庭にも及んでいると述べています。

 

また、インドでは96%がリモートワークに伴うストレスを指摘していますが(比較すると日本人は71%)、それと同時に91%がメンタルヘルスの問題について職場のマネージャーではなくロボットセラピストに相談したいと回答。上司よりもロボットを好む傾向の高さは中国と同じですが、この問題におけるインドの取り組み方を考察するうえで、その事実は示唆的です。

 

すでにインドはロボットセラピストやメンタルヘルス向けのAIの開発に注力し始めています。近年、同国ではメンタルヘルス分野のスタートアップ企業に対する投資額が増加中。アメリカと比べると圧倒的に小さいものの、インドのメンタルヘルス産業は過去5年間で2000万ドル(約26億円※)の規模に拡大しており、コロナ禍における需要の爆発的な高まりから、同市場はこれから急拡大していくと見られます。

※1ドル=約130円で換算(2022年5月10日現在)

 

上述した世界経済フォーラムの記事の見出しは「Better access to treatment is the next frontier(より良い治療の提供が次なるフロンティア)」。メンタルヘルスケアを提供する日本企業も、巨大市場に成長する可能性を秘めたインド市場の動向に注目すべきかもしれません。

 

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日本の知見が必要だ!「有機農業」への道を模索するインド

【掲載日】2022年5月9日

2022年4月、インドのカルナータカ州政府は、化学肥料や殺虫剤を使用しない農作物の栽培に注力することを発表しました。同州政府は約4000エーカーの土地で野菜や果物の有機栽培に取り組む計画。今後の収穫結果の動向にも左右されますが、多くの地元農家が成功を期待しています。

有機農業へのシフトは言うは易く行うは難し

 

先進国と同様に、インドでも健康意識の高まりから、有機栽培による農産物を求める消費者の声が強くなっていますが、同国の農業がここまで発展するまでの道のりは平坦ではありませんでした。1960年代半ばに大飢饉がインドを襲いましたが、この危機から同国を救ったのは、1970年代にノーベル平和賞を受賞した故ノーマン・ボーローグ博士による「緑の革命」。これにより、高収量を目指すことができる品種が導入されたり、化学肥料などを活用して生産性が向上したりしました。この取り組みは飢饉を抑える原動力になった一方で、人体や生物への影響、所得格差の拡大といった問題点も浮き彫りになりました。そして、現在のインドは有機栽培による品質向上だけでなく、アグリテックの活用による農作物の大量生産を目指しているのです。

 

しかし、有機農業へのシフトを図るインドの前には、厳しい現実が待ち構えています。インド農家の多くは、成長促進や商品としての見栄えを考慮して、ホルモン剤や硫酸銅などを注入していると報じられています。また、工業施設近辺の農家では、有害金属が含まれる工業排水を農作物に与えることがあるため、汚染濃度の高い農産品も少なくありません。インド食品安全基準局は多くのガイドラインを定めていますが、まだ目標としている段階まで到達していないのが現状。

 

一方、高品質で安全な農産物を消費者が享受できるように、インドの州政府もさまざまな取り組みを行なっています。生産者が共同使用できる冷蔵室や熟成室、衛生機器、廃棄物処理施設などを提供したり、研修プログラムや能力開発支援を定期的に開催したり。しかし、州政府の戦略策定と現場への導入との間にはギャップが存在しており、有機農業へのシフトは難航しています。

 

有機栽培において日本は深い知見を持っています。例えば、農林水産省の認証制度やJICAと民間企業による連携事業など、インドの参考になる事例が数多くあるでしょう。また、環境負荷が少ない生産方法や流通網で農作物を提供することは、インドの販売企業にとっても多大なメリットが見込まれます。それだけでなく、高品質な農産物を生産してきた日本の民間企業にとっても、これは大きなビジネスチャンスと言えるでしょう。

 

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人口爆発でサブサハラが台頭! 2050年の「メガシティー」予測

【掲載日】2022年4月22日

現在の日本では、高齢化や人口減少がすでに大きな社会問題に発展していますが、その一方で爆発的な人口増加の状況下にある国々も数多く存在しています。ビジネスの世界においては、人口増加率や平均年齢の若さなどが将来の市場の成長性を見出す大きな要素の1つであり、グローバル展開を検討している企業にとって、将来の大きなリターンが見込まれるチャンスになり得るでしょう。では、将来のメガシティー(巨大都市)はどこで生まれているのでしょうか?

メガシティーに向かって走れ!

 

国際連合の経済社会局人口部は2021年に『Global Population Growth and Sustainable Development(世界の人口増加と持続可能な開発)』を発表しています。このレポートによると、2020〜50年の間に高い人口増加率が見込まれる上位10か国はインド、ナイジェリア、パキスタン、コンゴ民主共和国、エチオピア、タンザニア連合共和国、エジプト、インドネシア、アメリカ合衆国、アンゴラ(人口増加数が高く見込まれる順)。

 

サブサハラ(サハラ砂漠以南のアフリカ)地域だけで約半分の5か国を占めています。この上位10か国は、下位グループでも約5000万人以上の人口増加が見込まれ、上位のインドとナイジェリアに関しては約2億人以上も増加するとのこと。これらの国々では人口爆発と経済発展に伴い、都市化が進むと見られます。

2020年〜50年の世界各国の人口変動予測(出典: 国連『Global Population Growth and Sustainable Development』2021年

 

サブサハラに着目すれば、この地域では今後のビジネスにおいて高い成長性が見込まれる国が多数存在しており、デジタル経済の発達や国の経済力をはかる指標の1つである名目GDP(国内総生産)の上昇が顕著である国も多く、それゆえにGoogleやMetaに代表されるような巨大IT企業が続々と巨額投資を行い、将来のグローバルビジネスで覇権を得るべく近年顕著に事業を展開しています。

 

このような人口動態や開発は日本から想像しにくいかもしれませんが、上記のグラフの下位に目を移せば、2050年までに最も人口が減少するのは中国で、日本とロシアがそれに続きます。数十年前、関西のある著名経営者は日本の人口減少について「顧客候補になる人間が1人減るということは、目、鼻、口、耳、触感など五感にまつわるビジネスがいくつも減るということ。それが広がっていくことの恐ろしさを本当に理解していますか?」と警鐘を鳴らしていたそう。いまこそ日本の経営者は近くではなく、もっと遠くを見るべきかもしれません。

 

【出典】United Nations Department of Economic and Social Affairs, Population Division (2021). Global Population Growth and Sustainable Development. UN DESA/POP/2021/TR/NO. 2. https://www.un.org/development/desa/pd/sites/www.un.org.development.desa.pd/files/undesa_pd_2022_global_population_growth.pdf

 

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インドでは約6200億円規模に! 途上国で急成長する「EdTech」市場

【掲載日】2022年4月8日

インターネットなどの最先端テクノロジーを活用して、教育分野でイノベーションを起こしている「EdTech」。この産業の成長は途上国において顕著に見られます。新型コロナウイルスのパンデミックによる対面学習の制限やデジタルインフラの拡大が成長を牽引する一因となっており、EdTech市場は、多くの人口を抱える途上国において今後さらに成長していく模様です。

EdTech市場は途上国でますます広がる

 

EdTechは、幼児教育から大学等の高等教育機関まで、さらに専門分野の職業訓練における社会人をも対象にしており、生涯学習の観点も考慮すれば、ほぼ全ての世代が顧客対象になる爆発力を秘めています。また、パソコンや学習関連機器などのハードウェア、教育コンテンツとしてのソフトウェア、通信環境としてのインフラ関連、教師に向けたトレーニングなどビジネスとしての裾野が広いこともあり、さまざまな分野、業種の企業が大きな盛り上がりを見せています。

 

例えば、インドのコンサルティング企業「RedSeer社」が発表した2022年3月のレポートでは、同国のEdTech市場における高等教育や生涯学習の分野は、2025年までに50億ドル(約6190億円※)の市場まで急成長すると予測されています。各大学と企業の提携によりオンラインでの学位取得が広まったことや、コロナ禍の不安定な経済情勢が引き起こした生涯学習の必要性に対する認知向上などが大きく影響しており、ビジネスチャンスの到来と判断した新興企業が続々と設立されています。

※1ドル=約123.7円で換算(2022年4月6日付)

 

一方、フィリピンでは現地の教育関連テクノロジー企業である「CloudSwyft」が同国の教育省と連携し、デ・ラ・サール大学などの大学に向けて、オンライン環境におけるバーチャルラボ設置ソリューションの試験運用を開始しています。同社のプロダクトは、クラウドベースのソリューションによってハイブリッド学習への移行を可能にするものですが、インフラ整備が未成熟なフィリピンにおいて、デスクトップパソコンを持っていない学生でもモバイル端末があれば、同システムを活用することが可能。このようなユーザー視点の設計が、ハードウェアと設備投資の問題を大きく軽減させることができるものとして高い評価を受けています。

 

また、CloudSwyftはエンジニアリングや建築、工業デザインなど広範囲な学習内容に適合できるように設計されており、マレーシアやインドネシア、シンガポールなど各国の高等教育機関に採用されています。新興国から教育関連のテクノロジー分野でグローバル展開を果たした同社は、まさに途上国におけるEdTechの成功例と言えます。

 

現時点で世界をリードしている先進国を人口規模で勝る後進国の人々は、学習や職業において人生を変革できる大きなチャンスと捉えているでしょう。未来を担う世代に向けたトレーニングツールとして今後も右肩上がりの成長が見込まれるEdTech市場は、かなり有望なビジネスチャンスでもあるのです。

拡大するインドの「高齢者ケア」のニーズ! 日本参入のカギを探る

昨今、人口増加がますます加速するインドでは、経済と医療の発展によりここ数十年で平均寿命も大幅に延びています。そのため、高齢者の人口も徐々に増えつつありこのままのペースで推移すると、2030年にはインドの総人口の約20%にあたる約3億人が高齢者になると予測されています。しかし、まだ若年層の人口比率が多いインドでは、高齢者の介護という概念も低く高齢者ケアに対する医療や福祉制度も整備されていないのが現状です。そこで、まだ発展途上の段階であるインドの高齢者ケアサービスの課題やニーズを紐解きながら、高齢化社会の先行国である日本のインド市場参入への可能性を探ります。

 

【参考資料】

IC Net ニュースレター

 

インドの高齢者ケアにおける状況と潜在的な課題

 ここ数年でインドの高齢者ケアを取り巻く環境は大きな変化を見せています。そこで注目すべきは、高齢者の増加や可処分所得の増加に伴う高齢者ケア市場の急激な拡大です。

 

高齢者ケアサービスは、在宅ケア、施設ケア、日帰りで通うデイケアの3つに大別されます。なかでも、インドでは在宅ケアの市場規模が最も大きく、今後もさらなる拡大が見込まれています。

 

 

なぜインドでは在宅ケアの需要が高く、市場規模も大きいのでしょうか。これは、インドの社会的背景や環境の変化が大きく関係しているといわれています。家族の結びつきが密接なインドでは、家庭内で高齢者ケアを行うことが伝統的に良しとされており、施設などの外部に介護を依頼することはあまり一般的ではありません。

 

しかしその一方、自宅で介護にあたる家族には大きな負担となっているのも事実です。実際に家族介護者に高齢者ケアがどれくらいの負担になっているかを聞いた調査では、下記の表で示した通り中等度~重度の負担または重度の負担と答えた方が全国で見ると約45%に上っています。また、女性の社会進出のほか都市部や海外への出稼ぎの増加により、家族間における介護の担い手が減少していることも負担増幅の大きな要因となっています。

 

 

民間企業の参入により、高品質な高齢者ケアサービスが増加

これまでインドの医療業界では、ボランティアをベースとしたNGOや高齢者施設が中心となり高齢者ケアを担ってきましたが、安価な分サービスの質の低さが指摘されていました。そんななか、多様なニーズが求められる高齢者ケア市場に新たな動きがはじまっています。とくに顕著なのは、民間企業による高齢者向けの在宅ケアサービスへの参入です。インドでは専門的な医療サービスを自宅で受けたいというニーズが根強く、民間企業は富裕層に向けた高品質な在宅ケアサービスを展開し、ここ数年で業績を伸ばしています。また経済の発展により、インドの富裕層と上流中産階級の人口比率は増加傾向にあり、さらなる高齢者ケア市場の拡大や需要の高まりが期待されています。

 

 

高齢者ケアサービスを定着させるために必要なインドの課題

民間企業の参入により高齢者ケアサービスの提供が進む中、さまざまな課題も明らかとなっています。一般的に高齢者ケアには、診察や検査、看護などをメインとした医療サービスと日常生活のサポートや学びの場の提供などを行う非医療サービスがあります。インドの病院や民間企業では高齢者に対する医療サービスの提供は増加傾向にありますが、非医療サービスの提供に重きを置く病院や企業が少ないのが現状です。これは、インドの医学部や看護学部では「老年介護教育」を行っていないため、介護という概念が希薄であり、非医療サービスに関する知識やノウハウが浸透していないことも要因のひとつとなっています。

 

しかし、時代の変化とともに高齢者ケアを担える家族介護者が減少しているインドでは、入浴や食事の手伝い、排せつなどの日常的なサポートを行う非医療サービスこそ潜在的なニーズがあるのではないかと考えられています。そのため、非医療介護者の能力開発や国家制度、ガイドラインの整備などは急務の課題となっています。

 

また、高齢者人口の増加に伴いインドでは今後さらに医療機関のインフラ整備の強化が求められるでしょう。そんな中、インドの医療機器の市場規模は、日本、中国、韓国に次いでアジアで4番目に位置し、世界でも20位以内に入っています。なかでも注目すべきは診断機器の市場です。2033年には、約22億ドルに達する見込みとなっており、とくにPOC(Point of Care)機器*の市場は、大きな成長率を見せています。インドでは質の高い医療機器や医療人材が都市部へ集中していることと貧富の差が激しいことから、求めやすい価格のPOC機器の需要が高い傾向にあるのです。また、第一次医療、第二次医療施設の整備や医療機器の配備の遅れが指摘されており、今後さらなる需要拡大が見込まれます。さらにインド国内で販売している医療機器の約70%は海外から輸入しており、海外製品への依存度が高いことも注目すべきポイントです。

*POC機器……病院の検査室またはそれ以外の場所でリアルタイム検査を行うための小型分析器や迅速診断キット

 

 

日本の高齢者ケアサービスのノウハウがインド市場参入へのカギ

現在日本では、人口の約30%が65歳以上となり、超高齢化社会に突入しています。そのため、他国に比べ高齢者ケアへの理解や人材育成、制度の整備が急速に進み、日本の高齢者ケア市場はさまざまな広がりを見せています。

 

なかでも介護職の需要は高く、国家資格を持つ介護福祉士や認定資格のホームヘルパー(訪問介護員)など、専門知識と技能を持つ非医療介護者の能力構築は率先して行われています。さらに介護福祉士からケアマネージャー(介護支援専門員)の資格取得を目指すなど、キャリアアップをサポートする仕組みも整えられています。

 

こうした日本の高齢化対策の実績は、介護という概念があまりなく人材育成や医療、福祉制度の整備が遅れているインドにおいて大いに参考になるでしょう。そのため日本の高齢者ケアサービスのノウハウを伝えるコンサルティングや非医療介護者の人材育成は、インド市場への参入の足掛かりになるかもしれません。また、日本のホスピタリティを生かした介護施設や高品質な在宅サービスは、高所得者が増えているインドで新たなニーズとなる可能性もあります。

 

さらに、インドの高齢者人口の増加に伴い、高齢者ケアサービスを提供する機関や施設が増えることで、介護用品や医療機器の需要が高まることも予想されます。とくに高品質な日本の高齢者ケア用機器は、まだ発展途上の段階にあるインドの高齢者ケア市場において注目を集めるビジネスアイテムとして大きな期待が寄せられています。

 

【参考資料】

IC Net ニュースレター

 

「NEXT BUISINESS INSIGHTS」を運営するアイ・シー・ネット株式会社では、開発途上国の発展支援における様々なアプローチに取り組んでいます。新興国でのビジネスを考えている企業の活動支援も、その取り組みの一環です。そんな企業の皆様向けに各国のデータや、ビジネスにおける機会・要因、ニーズレポートなど豊富な資料を用意。具体的なステップを踏みたい場合の問い合わせ受付も行っています。「NEXT BUISINESS INSIGHTS」の記事を見て、途上国についてのビジネスを考えている方は、まずは下記の資料集を参照ください。

●アイ・シー・ネット株式会社「海外進出に役立つ資料集」

中国とインドが激突! 熾烈な覇権争いが繰り広げられる「中央アジア」とは?

【掲載日】2022年2月22日

2022年1月、中国とインドが別々に中央アジア諸国とサミットを開催しました。これは中央アジアの重要性が増していることを示していますが、どのような背景があるのでしょうか? 中央アジアの特徴を概説しましょう。

カザフスタンのステップ(草原)。同国を含む中央アジアを巡り、熾烈な覇権争いが行われている

 

中央アジアはユーラシア大陸の中央部に位置し、概ね5か国(カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)からなるとされています。かつてのシルクロードにおいて東西貿易の中枢に位置しているこの地域は、乾燥地帯や山岳地帯、砂漠などの厳しい自然環境と常に向き合ってきた一方、中央アジアの覇権を巡るイギリスとロシアの戦い「グレート・ゲーム」の舞台となり、諸民族による絶え間ない争いの歴史も有しています。

 

中央アジアは多民族で構成されており、キルギスのように日本人に似ていると言われている民族も存在します。また、中央アジアは「トルコ人の土地」を意味する「トルキスタン」とも呼ばれており、トルコ系住民が多く、キルギス語やカザフ語、ウズベク語などのトルコ系諸語が話されている一方、ロシア語も広く使われています。

 

中央アジア5か国は、宗主国であった旧ソビエト連邦が1991年に崩壊した時点から、それぞれに主権国家として独立の道を歩んできました。各国共にイスラム教の強い影響を受けており、カザフスタンやトルクメニスタンに代表される石油や天然ガスなどの地下資源および農業、畜産業、綿繊維などが主要産業です。外務省によると、各国のGDPは、カザフスタン1712億ドル(約20兆円※)、キルギス77.5億ドル(約9000億円)、タジキスタン80億ドル(約9200億円)、トルクメニスタン473.5億ドル(約5.5兆円)、ウズベキスタン599.3億ドル(約6.9兆円)と、カザフスタンの経済力が抜きんでています。

※1ドル=115円換算(2022年2月17日時点)

 

中央アジア5か国の人口とGDP

カザフスタン キルギス タジキスタン トルクメニスタン ウズベキスタン
人口(万人) 1900 650 970 610 3390
GDP(億ドル) 1712 77.5 80 473.5 599.3

出典:外務省

 

この5か国の経済は貿易、特に輸入に支えられています。総人口7500万人を超える将来的な巨大市場の獲得を目指して、中国、インド、ロシアを中心に、さまざまな国がアプローチしています。特に、インドはアフガニスタンでタリバン政権が復活し、敵対している隣国・パキスタンとの外交問題もあるため、輸送ルートを見直しており、その中で中央アジアとの関係強化が重要視されています。

 

アメリカの影響力が低下する中で……

2022年1月にはインドのナレンドラ・モディ首相による同国初の中央アジア5か国との首脳会議が開催されました。タリバン暫定政権のアフガニスタンの安全保障に関する問題がメインの議題とされています。また、中央アジア開発へ無償の協力金を提供するなど他国(特に中国)に後れをとるまいとの強い意気込みが感じられます。一方、中国は「一帯一路」構想の重要エリアとして中央アジアに今後ますます接近することでしょう。なお、トルクメニスタン以外の4か国が、既に上海協力機構に加盟しています。

 

もちろん日本も外交を展開しており、2015年には安倍晋三総理大臣(当時)が中央アジア5か国を訪問しました。さらにJICAによるODAや人材育成支援など、数多くのサポートが実施されています。アメリカのアフガニスタン撤退の影響もあり、中央アジアを巡る覇権争いは激しさを増していますが、この地域では日本も重要なプレーヤーなのです。

 

 

インドで取得数2位!「就労ビザ」から読み解く日本とインドの親密な関係

【掲載日】2022年1月25日

現在、インドでは就労ビザを有するアジア人が高い比率を有しています。2021年12月にインド外務省が公表した資料によると、同国で就労ビザを有する外国人の総数は2万607人。そのうちの約51%がアジア3か国で占められており、韓国(4748人)、日本(4038人)、中国(1783人)となっています。2位であるものの、日本の数字は親密な日印関係を象徴しているでしょう。

就労ビザの取得数が示す良好な日印関係

 

インドは13億人を超える世界2位の人口を誇り、生産年齢人口(15~64歳)の比率が多い人口ボーナス期に加えて、欧州や中東、アフリカ、アジア各国などとの地理的近接性や言語的優位性(英語)も持っています。しかし、これらのインドの強みは日本以外の国から見ても同様であるため、インドの中で日本独自のアドバンテージを見つけることが大切です。

 

日印両国においては、2015年に安倍晋三元首相とナレンドラ・モディ首相によって調印された「日印ヴィジョン2025特別戦略的グローバル・パートナーシップ(日印共同声明)」が、二国間の信頼関係を強力に後押ししており、インド太平洋地域における投資や安全保障、人的交流などの分野で強い影響力を持っています。

 

製造業にチャンスあり

また、2014年からモディ首相が推進しているインド製造業振興策「メイク・イン・インディア」も日本企業は考慮したほうが良いかもしれません。日本のインド進出企業においては製造業の比率が高く、外務省の海外進出日系企業拠点数調査によれば、2020年において日系企業のインド拠点総数4948の中で、製造業の割合は1731と約35%を占めており、最も比率が高い業種になっています。IT大国として知られるインドですが、日本との関係性においてはインド国内製造業の強力な振興策が、さらに深淵なパートナーシップを推進していることになるでしょう。

 

一方、インドにおける欧米諸国の就労ビザ取得数がアジア諸国より少ない要因については、インドをどのようなビジネスパートナーとして見るのかによるでしょう。筆者が外資系企業の日本支社で勤務した経験から述べると、例えば、欧米の巨大IT系企業におけるマネジメント層の就労を中心とした展開と、日本の製造業のような各部品の品質管理を行う現地担当者を要するビジネスでは、就労ビザの数が大きく変わると思われます。

 

さらに、インドでは雇用ビザを有していなくとも国内に配偶者等を有する人物に付与される永住権ビザ「OCI(Overseas Citizen of India)カード」が存在しており、欧米の就労者がこのビザを活用する傾向が高いため、就労ビザの取得数が少ないとも言われています。二国間のビザの取り扱いについては国ごとにルールや状況が異なるため、自国に付与されている詳細内容を確認する必要があります。

 

就労ビザの発行数だけで単純に比較することはできませんが、日本のプレゼンスが高まっていることは間違いありません。インドの将来的な経済成長力を見込んで、ビジネス展開を検討する日本企業は今後も増えていくでしょう。

 

「電気自動車」の“覇権”をかけたグローバル競争に挑むインドの課題と可能性

【掲載日】2021年12月17日

最近のインドでは、「充電スタンドに投資しませんか?」という広告が増えています。これは、同国が官民一体となってEV(電気自動車)により一層力を入れていることを示していますが、この広告の裏にはどのような背景があるのでしょうか?

インドの首都ニューデリーに設置されている充電スタンド。EV環境を整えるためには、もっと必要だ

 

今日、EVは世界各国で国家戦略の一つとして位置付けられています。EV分野におけるイニシアティブを早めに握ってしまえば、企業のみならず国家の隆盛を決定づけてしまうほど、EVは経済的にも政治的にも重要な分野なのです。しかし、現実では車両開発技術以外にも、インフラ整備や車両価格など数多くのハードルが存在しており、各国で掲げられている長期目標が絵に描いた餅になってしまう可能性も十分にはらんでいます。

 

自動車販売台数と生産台数の面で世界第5位の自動車市場を有するインドは、温室効果ガスの排出量削減や再生可能エネルギーへの移行を目指したe-モビリティの推進による構造転換を急ピッチで進めています。エコカー普及政策のFAMEや国内製造業に向けた生産連動型のインセンティブ制度(PLI)など、消費者と生産者の双方に向けた施策で国家としてのエコシステムを構築する戦略を実施しています。

 

問題点はあらゆる分野に及んでいますが、最大の問題の一つがインフラ。EVの普及には充電設備の充実と莫大な電力をまかなう電力設備の強化が伴います。現在インドの家庭用充電インフラ設備は国内に約1800か所ありますが、普及に向けた試算では290万か所の公共充電ステーションが必要になるとされており、現時点では全然足りていません。このような課題を乗り越えるためには、政府の膨大な追加支出が必要です。

 

また、EVの知見を有する技術者の数も大幅に不足しています。熟練労働者に至るまでにはさまざま訓練が必要であり、民間企業の努力だけでは達成困難でしょう。また、日本と比較すると道路の質が悪い地域が多く、悪天候による崩落も日常茶飯事です。中央政府、州、市など全ての政府系機関が互いに協力し、ガバナンスと財政の両立を目指す施策の展開が必須であると思われます。

 

消費者の視点から見れば、購入価格も普及に向けた大きな課題でしょう。一回の充電による走行距離や速度の問題は時間の経過と共に解消されていくはずですが、従来の自動車と比較してはるかに高価なものであると感じられる状況のなかでは、気持ちのうえでは環境保護のためにEVを購入したいが、経済的事情のためにあきらめざるを得ないと考える人々が多いのも容易に理解できます。

 

公共の充電スタンドの設置は認可不要

数多くのハードルが存在し、政策によるEV普及の達成まで長い道のりのように感じられるかもしれませんが、インドでは公共の充電スタンドの設置に関しては現時点で認可が不要で、電力省(MOP)や中央電力庁(CEA)が定める基準や仕様に準じている限り、個人や団体でも設置することができます。トラブルが発生する可能性もありますが、新たな時代に向けた社会構造の転換タイミングでは、このような方針が有効かもしれません。それが爆発的な普及に向けた礎になるかどうかは、今後の動向を見守っていくことでおのずと判明することでしょう。

 

世界各国の自動車メーカーは、新たなEVの開発に向けた資材調達のプラットフォームを構築しており、さまざまな国の最先端技術を有するメーカーの参加を促しています。すでに多数の日本企業が外国自動車メーカーの調達プラットフォームに参加を表明していますが、インフラ事情やEV展開を支える技術者育成の問題のように、視点を変えることで大きなビジネスチャンスが潜んでいるかもしれません。可能性のあるマーケットは世界中に広がっています。

 

【参考】EXPRESS mobility. Do Indian EV policies provide enough assistance for charging infrastructure to help the country’s mobility transition? 2021 November 17. https://www.financialexpress.com/express-mobility/do-indian-ev-policies-provide-enough-assistance-for-charging-infrastructure-to-help-the-countrys-mobility-transition/2371112/

「電気自動車」の“覇権”をかけたグローバル競争に挑むインドの課題と可能性

【掲載日】2021年12月17日

最近のインドでは、「充電スタンドに投資しませんか?」という広告が増えています。これは、同国が官民一体となってEV(電気自動車)により一層力を入れていることを示していますが、この広告の裏にはどのような背景があるのでしょうか?

インドの首都ニューデリーに設置されている充電スタンド。EV環境を整えるためには、もっと必要だ

 

今日、EVは世界各国で国家戦略の一つとして位置付けられています。EV分野におけるイニシアティブを早めに握ってしまえば、企業のみならず国家の隆盛を決定づけてしまうほど、EVは経済的にも政治的にも重要な分野なのです。しかし、現実では車両開発技術以外にも、インフラ整備や車両価格など数多くのハードルが存在しており、各国で掲げられている長期目標が絵に描いた餅になってしまう可能性も十分にはらんでいます。

 

自動車販売台数と生産台数の面で世界第5位の自動車市場を有するインドは、温室効果ガスの排出量削減や再生可能エネルギーへの移行を目指したe-モビリティの推進による構造転換を急ピッチで進めています。エコカー普及政策のFAMEや国内製造業に向けた生産連動型のインセンティブ制度(PLI)など、消費者と生産者の双方に向けた施策で国家としてのエコシステムを構築する戦略を実施しています。

 

問題点はあらゆる分野に及んでいますが、最大の問題の一つがインフラ。EVの普及には充電設備の充実と莫大な電力をまかなう電力設備の強化が伴います。現在インドの家庭用充電インフラ設備は国内に約1800か所ありますが、普及に向けた試算では290万か所の公共充電ステーションが必要になるとされており、現時点では全然足りていません。このような課題を乗り越えるためには、政府の膨大な追加支出が必要です。

 

また、EVの知見を有する技術者の数も大幅に不足しています。熟練労働者に至るまでにはさまざま訓練が必要であり、民間企業の努力だけでは達成困難でしょう。また、日本と比較すると道路の質が悪い地域が多く、悪天候による崩落も日常茶飯事です。中央政府、州、市など全ての政府系機関が互いに協力し、ガバナンスと財政の両立を目指す施策の展開が必須であると思われます。

 

消費者の視点から見れば、購入価格も普及に向けた大きな課題でしょう。一回の充電による走行距離や速度の問題は時間の経過と共に解消されていくはずですが、従来の自動車と比較してはるかに高価なものであると感じられる状況のなかでは、気持ちのうえでは環境保護のためにEVを購入したいが、経済的事情のためにあきらめざるを得ないと考える人々が多いのも容易に理解できます。

 

公共の充電スタンドの設置は認可不要

数多くのハードルが存在し、政策によるEV普及の達成まで長い道のりのように感じられるかもしれませんが、インドでは公共の充電スタンドの設置に関しては現時点で認可が不要で、電力省(MOP)や中央電力庁(CEA)が定める基準や仕様に準じている限り、個人や団体でも設置することができます。トラブルが発生する可能性もありますが、新たな時代に向けた社会構造の転換タイミングでは、このような方針が有効かもしれません。それが爆発的な普及に向けた礎になるかどうかは、今後の動向を見守っていくことでおのずと判明することでしょう。

 

世界各国の自動車メーカーは、新たなEVの開発に向けた資材調達のプラットフォームを構築しており、さまざまな国の最先端技術を有するメーカーの参加を促しています。すでに多数の日本企業が外国自動車メーカーの調達プラットフォームに参加を表明していますが、インフラ事情やEV展開を支える技術者育成の問題のように、視点を変えることで大きなビジネスチャンスが潜んでいるかもしれません。可能性のあるマーケットは世界中に広がっています。

 

【参考】EXPRESS mobility. Do Indian EV policies provide enough assistance for charging infrastructure to help the country’s mobility transition? 2021 November 17. https://www.financialexpress.com/express-mobility/do-indian-ev-policies-provide-enough-assistance-for-charging-infrastructure-to-help-the-countrys-mobility-transition/2371112/

インドの美容市場が熱い!「女性起業家」が率いるコスメ企業がIPO

【掲載日】2021年12月16

2021年10月、インドのユニコーン企業FSN E-Commerce Ventures Limited(Nykaa)がインド国立証券取引所に上場しました。Nykaaはコスメやパーソナルケア商品を中心としたビジネスをオムニチャネルで展開しており、オンラインではECサイトを運営する一方、オフラインではインド国内38都市で73店舗を構えています(2021年12月時点)。

IPOを果たしたNykaaの創業CEO、Falguni Nayar氏(左から4人目)(画像提供/Nykaa公式ウェブサイト)

 

2012年に投資銀行出身の女性起業家Falguni Nayar氏が創業したNykaaは、同氏が59歳の誕生日を迎える年にIPO(新規株式公開)の偉業を達成しました。50歳で起業の決断をしたこともさることながら、現時点で世界にわずか24人程度しか存在していないと言われる女性起業家のIPOは、世界中の起業家マインドを有する女性に勇気と刺激を与えることでしょう。

 

Nayar氏はすでに65億ドル(約7380億円※)の純資産を有し、インド国内では2番目に裕福な女性となっています。IPOに至るまでのハードルは想像に難くありませんが、世界各国からスター経営者として賞賛された喜びが彼女のマインドをさらに高めたことで、今後の事業展開が大いに期待できるものとなるはずです。

※1ドル=約113.5円換算(2021年12月13日時点)

 

日本においても今後Nayar氏のような女性経営者が増加すれば、ビジネス界における多様性が強化されていくことと思われますが、それは今後の日本企業を取り巻く状況や意識の向上によっても大きく左右されることでしょう。また、女性の社会進出においては、それぞれの国や地域における文化や信仰、教育、社会規範、価値観の違いなどが高いハードルになる場合が多いのです。

 

女性のエンパワーメントにつながる可能性

インドにおける化粧品市場は成長を続けており、Statistaによると2016年に75億米ドル(約8530億円)だった市場規模が、2022年には111億5000万米ドル(約1兆2680億円)に達すると予想されています(2016年比で約149%)。インド以外の途上国でも化粧品市場は成長しており、携帯電話の普及で、YouTubeやInstagramなどのソーシャルメディアでメークの方法などを知ることができるようになってきたことで、農村部でも美容への関心が高まっています。

 

美容には私たちの見た目だけでなく、気分や自尊心といった内面を高める働きがあるでしょう。これまで化粧品などを入手しづらかった農村などの地域において、現地に適した価格で良質な化粧品を提供することができれば、女性のエンパワーメントというSDGsの目標5の達成にもつながります。日本の化粧品メーカーが自社のみで途上国の農村部に展開することは簡単ではありませんが、Nykaaのような現地企業と連携することは一つのオプションになるでしょう。

インドで築いたネットワークを活かし、 ODA事業・ビジネスコンサルティング事業に取り組む

国際協力に従事するプロフェッショナルに、開発途上国の現状やビジネスチャンスについてインタビューする本企画。初回に登場するのは、10年以上インドに駐在し、ODA事業やビジネスコンサルティング事業に携わる大西さん。異なる業務に取り組む中で大切にしていることや、インド市場の特徴、ビジネスチャンスが期待できる分野などをお聞きしました。

 

●大西由美子/2004年からアイ・シー・ネットで勤務。南アフリカの農村開発に1年半従事したのち、インドへ異動。2006年から4年間は旧JBIC・JICAのインド事務所でODA事業に携わる。2011年頃からはODA事業のモニタリングや評価の業務をメインで担当。ビジネスコンサルティング事業部でインド進出を目指す日本企業の支援も行っている。

 

幼少期にタイで過ごした経験が、国際協力の仕事に興味を持つきっかけに

――まずは、大西さんがインドでお仕事をされるようになった経緯を教えてください。

 

もともと国際協力の仕事に関心があり、発展途上国で働きたいと考えていました。興味を持つきっかけになったのが、幼い頃にタイで過ごした経験です。私自身、生まれは日本なのですが、日本に住んでいたのは合計7年ほど。子どもの頃はタイで6年半、アメリカで9年間を過ごしました。中でもタイでの暮らしは日本の生活とは異なるところが多く、「タイはまだまだ発展途上だ」と子どもながらに感じていました。このような国のために何かできないかと思い、国際協力の仕事をしたいと考えるようになっていったんです。

 

インドに来ることになったのは、インド人の夫と結婚したことが大きな理由です。数年後に、アイ・シー・ネットで正社員として働き始めてからはずっとインドで仕事をしていて、現在デリーに住んで15年ほどになります。気が付いたらデリーが人生で一番長く過ごしている場所になりました。

 

――長年インドに住まれていて、変化を感じたことを教えてください。

 

最初のインド生活は地方でした。地方都市に住んでいたときには周りに外国人がとても少なく、外を歩くだけでかなり目立つような状況でした。そして日本のものはおろか、海外製品もほとんど出回っておらず、インドのものしか手に入らなかったので生活は少し大変でしたね。数年後にデリーに移り住んだときには、外国人も多くいて、比較的便利な生活を送れたので、地方都市に比べると遥かに都会だと感じました。

 

しかし現在のデリーはさらに状況が変わっていて、例えばレストランもインド料理だけではなく、中華や本格的なイタリアンが味わえるようなお店が増えていたり、富裕層向けではありますが、輸入品を取り扱うスーパーマーケットなどもオープンしたりしています。外国人が増えて、海外のものが手に入りやすくなったことは、この15年間で大きく変化したことだと実感しています。

 

 

政府機関と民間企業を相手に、毛色の異なる業務に取り組む

 

成果をまとめることで“将来の事業”を成功に導く、「事後評価」の仕事

――大西さんが現在インドで取り組まれているお仕事について、具体的に教えてください。

これまで多かったのは、ODAの「事後評価」の仕事です。事後評価では例えば、政府機関が大規模なインフラ整備事業などを行った後、その事業で資金がどのように使われたのか、どのような成果をもたらしたのかなどを調査して、報告書にまとめたりしています。

 

今は、JICAがインドのバンガロールで行った上下水道事業の事後評価を進めています。この事業はJICAが継続的に取り組んでいるもので3つのフェーズに分かれており、現在は2006~2018年に行われていたフェーズ2の事後評価をしているところです。

 

フェーズ2では、浄水場を1か所建設することや下水処理場を11か所建設することなどがあらかじめ計画されていました。評価では、これらの施設が計画通りに建設され、きちんと運営されているか実際に足を運んで確認したり、下水処理場から提出してもらったデータの数値に異常がないかをチェックしたりします。例えば今回、もらったデータを確認すると、水の処理容量が規定値から外れていた時期がありました。このように何かしら問題を見つけたときには、水道局の職員と直接話をして原因のヒアリングを行うこともあります。

 

――事後評価の仕事で特に苦労するのはどのようなところでしょうか?

事後評価のために必要な膨大な情報を集めるのには、毎回苦労しています。そして、ただデータをもらって終わりではなく、そのデータが本当に正しいのかを確認したり、数値に問題があったときにはその原因を追究したり、細かく地道に進めていく作業が多いのも大変なところ。さらに作業は基本的には私一人で、一年以内に終わらせなければなりません。しかし、事後評価を通して成果や課題をまとめた報告書は、将来、別の発展途上国で同じような事業に取り組むときの指針にもなります。事業で得た学びを少しでも未来に活かすべく、責任を持って日々仕事に取り組んでいます。

 

インド進出を目指す日本企業をサポートする、ビジネスコンサルティングの仕事

――ODA事業以外で取り組まれているお仕事についても教えてください。

ビジネスコンサルティング事業部でもさまざまな業務を担当しています。例えば今行っているのは、仙台のベンチャー企業が開発した、太陽光パネルに使われる資材の品質をチェックする機械を、インド企業に売り込むサポートです。現在インドでは、太陽光発電の普及にとても力を入れています。そこに注目した日本のベンチャー企業が、「機械の導入によってインドで製造されている太陽光パネルの品質向上が見込める」と、インドへの営業を始めているんです。

 

しかしコロナ禍の影響で大企業が投資するのを控えていることもあり、なかなか思うように進んでいないのが現状です。また、機械自体も新しい技術を使って開発されたものなので、高額であることも課題の一つ。現地からも「もう少し安くできないか」という声を聞いています。そうしたフィードバックを受けて現在は、もう少し価格を抑えた機械を開発したり、性能を理解してもらうためにサンプル試験をお願いしたりして、試行錯誤をしているところ。どうしたら製品の良さを伝えられるのか、納得して購入してもらえるのかを考えながら、今後もサポートを続けていきたいと思っています。

 

積極的なコミュニケーションを図り、人間関係を築いてきた

――ODAとビジネスコンサルティングという異なる業務に取り組む中で、大西さんが大切にされていることを教えてください。

 

私が仕事でずっと大切にしているのは、「人間関係の構築」です。例えば、ODA事業で築いた政府機関とのネットワークは、企業が求める情報を集めたり、つないでほしいところを紹介したりする際にも役立っていて、ビジネスコンサルティング事業にも活かすことができていると感じています。

 

人との関係を築いていくためには、やはり直接会ってコミュニケーションを取ることがとても大事だと考えています。インドでもコロナ禍で、これまでよっぽどのことがなければ使用しなかったオンラインツールが、急速に普及しました。それでも私は、チャンスがあればできるだけ直接会いに行くことを心掛けています。そのほうが相手に顔や名前を覚えてもらいやすいですし、何かを頼んだときにも対応してもらいやすい印象があるんです。インド人からも、特に年配の方からは「直接会いに来て話してほしい」と言われることが多いように思います。また、以前、ある人から情報をもらおうとオフィスまで会いに行ったときには、「隣の部屋にいる○○さんのほうが詳しいから紹介するよ」と言ってもらえて、新たな出会いにつながったこともありました。これはオンラインではなかなかできないこと。私としても直接会って話をすることで、一緒に仕事がしやすい相手かどうかを、より見極めることができると感じています。

 

長年インドでさまざまな人との関係を築いてきたおかげで、今では、仕事で何か頼まれたときに、インドで「この人に聞けばわかる」「ここに行けば情報が手に入る」ということを、常に伝えられるようになりました。今後も積極的なコミュニケーションを図りながら、さらにネットワークを広げていきたいと考えています。

 

多様な市場を持つインドには、ビジネスチャンスも多くある

――インドの市場の特徴や、日本企業が今後進出できそうな分野について教えてください。

 

インド市場の特徴は、とにかく多様であるということです。インドと言えばどうしても、首都・デリーがある北インドの印象が強いのですが、地域によって、言語や食文化など、あらゆる面で大きな違いあります。そのため、例えばデリーで上手くいかなかったビジネスも、他の地域ではチャンスがあるかもしれません。インドを一つの市場として捉えるのではなく、たくさんの可能性がある市場として、日本企業にも知ってもらえたらと思っています。

 

今後、日本企業にとって可能性がある分野の一つは、食品加工産業です。インドは農業大国ですが、食品加工の技術があまり進んでいないため食品の貯蔵や保存ができず、フードロスが多いことが課題になっています。日本の食品加工技術や温度管理の技術によって、それらの課題を解決できるのではと期待が高まっているところです。また、インドにはレトルトなどの加工食品がまだまだ少なく、今後ニーズが高まっていくと考えられています。例えば、日本はカレーやパスタソースなどのレトルトパウチ食品が豊富で、品質も良いので、このような加工食品は今後インドに進出するチャンスがあるのではないでしょうか。

 

さらに、高齢者ケアも注目されている分野と言えます。私も今まさに、日本の高齢者ケアのサービスをインドに持ってくることができないかと、調査しているところ。さらに高齢者ケアのサービスだけでなく、日本が製造している介護器具にも可能性があると感じています。

 

日本だけでなく、世界のさまざまな国とインドの架け橋になりたい

――大西さん自身が今後取り組みたいことは何ですか?

今後もインド進出に関心のある日本企業をサポートしていきたいと考えています。そして逆に、インドから日本というベクトルでも何かお手伝いできることがあるのではと思っていますね。例えば近年インドでは、お酒に対する抵抗感も地域によってはだいぶ減ってきて、「インドワイン」などが出回るようになっています。また、インドと言えば紅茶のイメージが強いのですが、実はコーヒーも多く生産していて、最近ではスタートアップ企業がおしゃれなコーヒーショップを出店したりもしているんです。日本人はワインもコーヒーも好きな人が多いので、チャンスがあるのではと思っています。

 

私はこれまで、特定のジャンルを自分の得意分野にして仕事をしたいと考えていましたが、最近になって、自分の強みはとにかく「インドを知っていること」だと思うようになりました。今後も長年築いてきたインドでのネットワークを活かして、日本はもちろん、世界のさまざまな国とインドをつないでいきたいと考えています。

 

――最後に海外で働きたいと考えている人へ、メッセージをお願いします。

「インドで一度仕事をすれば、きっと世界のどこでも仕事ができる」ということを伝えたいです。インドは、同じ国内でも場所ごとに言語や宗教や食などの文化が大きく異なっていて、本当にさまざまな人がいる国。だからこそ大変なことも多く、日本では考えられないような問題に直面することも日常茶飯事です。しかし、その多様さこそがインドの魅力であり、面白いところでもあります。ビジネスの分野でも国際協力の分野でもきっと役に立つ学びがあるはずなので、短期間でもぜひ、インドでの仕事を経験してみてほしいです。

経済成長やコロナ禍で変化するインドの「食」ーー 食品加工分野の新たな可能性とは?

現在インドでは、人口増加による経済成長を理由に、人々の生活が変化しています。食生活の変化もその一つ。デリーやムンバイなどではインド料理以外のレストランや輸入食品を扱うスーパーマーケットなどが増え、女性の社会進出などによって調理に時間がかけられない家庭も出てきました。そんな変化の中で注目されているのが、インドの「食品加工」の分野です。

 

本記事では、インドに長年在住する大西由美子氏から、現地で実感しているインド人の食生活の変化や具体的なニーズを聞きながら、インドの農業や食品産業の現状を解説。「インドにおける食の変化」を探ります。

 

 

お話を聞いた人

大西由美子氏

2004年からアイ・シー・ネットで勤務。南アフリカの農村開発に1年半従事したのち、インドへ異動。2006年から4年間は旧 JBIC/JICAのインド事務所でODA事業に携わる。2011年頃からはODA事業のモニタリングや評価の業務をメインで担当。ビジネスコンサルティング事業部でインド進出を目指す日本企業の支援も行っている。

 

世界有数の農業大国・インド。生産性を高め、「産業化」することが課題

まずはインドの農業と食品産業について解説しましょう。インドは、農地面積が世界第一位で、世界の農地面積全体の11%を占めています。主な生産物は、さとうきび、コメ、小麦、ばれいしょ、バナナ、マンゴーなど。しかし、単位面積当たりの収穫量が世界平均から見てそれほど高くない作物もあります。世界有数の農業大国であるインドですが、その多くは小規模農家で、生産性や加工技術、物流網の脆弱さなどが課題となっており、フードロスが多いのが現状です。

 

 

しかし近年のインドでは、大規模な農家などが中心となり、農作物を扱うビジネスや企業との協働による流通システムへの関与などの新しい動きが出てきています。この背景の一つとして、現在インドでは人口が増加している一方、農業人口が減少し始めている状況があります。人口増加分の食糧をこれまでよりも少ない担い手で支えていかなければならず、より効率を重視した生産性の高い「産業」にしていくことが、喫緊の課題です。

 

そのためインド政府は現在、農産物の生産性や品質の向上、食品加工、コールドチェーン整備などに関する海外からの技術に大きな期待を寄せているところ。また、AIやIoT、データ分析といった先進的な技術に関連するベンチャー企業も活発化していて、それらの企業とのパートナーシップも見込まれています。

 

注目が集まっている「食品加工」の分野

近年、インドの食品産業で注目されているのが「食品加工」の分野です。なかでもレトルト食品などの加工食品のニーズは徐々に高まってきています。その理由の一つは、人口増加に伴う経済成長によって、富裕層・中間層や働く女性が増加し、人々の生活が変化したこと。大西氏も現地で、加工食品への需要の高まりを実感していると語ります。

 

 

 

「インドの家庭ではもともと、フレッシュな食材を調理して食べることが一般的で、出来合いのものより、作り立ての料理を好む傾向があります。そのため今も、長期保存ができる加工食品などはあまり多く販売されていないのが現状です。しかし、特に都市部で働く女性が増えたことで調理時間の確保が難しくなったり、若い世帯が自炊をしなくなったりと、ライフスタイルが変化していることによって、加工食品のニーズが徐々に増えてきています」

 

「私がこれから特に需要が増えると考えているのは、海外旅行や海外出張をするインド人をターゲットにした加工食品。現在インドでは、富裕層・中間層の拡大によって海外に行く人がとても増えています。しかしインドにはベジタリアンが多いこともあって、海外に行ったときでも肉を含む現地の食事ではなく、できるだけ普段の食事をしたいと考える人が多くいます」

 

「例えばインドの旅行会社では、インド料理やベジタリアン向けのレストランでの食事がツアーに組まれていることもよくあるほど。数日間の旅行であればなんとかなりますが、出張で長い期間海外に行く人のなかには、食事に苦労する人も多いようです。海外出張の際にレトルトのインド料理と一緒に、自宅で作ったロティ(全粒粉を使ったパンの一種)を持っていく人もいる、という話を現地で聞いたこともあります。家庭での使用はもちろん、海外に行く際に持っていくことができるような加工食品が、今まさに求められていると感じています」

 

「日常食」のレトルト食品にニーズがある

インドでは、市場に出回っている数がまだまだ少ないレトルトなどの加工食品。この市場に対して、日本企業が強みを活かせるビジネスチャンスはどこにあるのでしょうか。大西氏は、日本でも市場規模の大きいレトルトカレーやアルファ米の技術などは、インドのニーズともマッチするのではないかと分析しています。

 

日本では、レトルト食品総生産量の約4割をカレーが占めています。2017年度にはレトルトカレーがカレールウの売り上げを追い越し、その売上高は461億円にものぼりました。コロナ禍でも需要が増え、現在も市場規模が拡大しています。

 

そのほか、日本では備蓄食品としても重宝されているアルファ米についても、「インドへの流入が期待できるのでは」と大西氏。炊飯後に乾燥させて作られるアルファ米は、パックの中にお湯を入れると15分ほどで炊き立てのようなごはんに戻すことができます。さらにパッケージには酸素を通しにくい高性能フィルムなどが使用されているため、品質を保ったまま長期保存が可能。日本では現在、白米だけでなく、ドライカレーや炊き込みご飯など、豊富なバリエーションの商品が展開されています。これらを踏まえ、現地で感じた具体的な商品のニーズについて大西氏に聞きました。

 

 

日常の食卓に並ぶ、ヘルシーなインド料理

「現在もレトルトのインド料理はスーパーなどで手に入れることができますが、その種類はあまり多くありません。しかも販売されているのは、バターチキンなど、北インドのレストランで出されるようなカレーが中心です。油を多く使ったバターチキンのようなカレーは、インドの家庭で普段から頻繁に食べられているものではありません。庶民的な家庭で食卓に並ぶことが多いのは、豆などを使用し、脂分も少ないカレー類。このように日常的に食べる料理のレトルト食品がインドにはまだないため、求めている人は多いと考えられます」

 

ロティや米などの主食

「インドでは地域によって主食が異なっていて、例えば北インドではロティやナンなどのパンが主食、南インドではお米が主食です。現在、すでにレトルトのお米は販売されているのですが、温めてもお米の食感が固いものが多く、個人的にはまだまだ品質改善が必要だと感じています。日本とインドではお米の種類が違いますが、アルファ米のような技術はインドでもおおいに活かすことができると考えています。

 

パンに関しては、常温で長期保存できるロティなどがまだ販売されておらず、求めている人が多いと感じています。日本には缶詰や袋に入った長期保存できるパンがあり、その保存技術やパッケージ技術を活用すれば、いつでも出来立てのようなロティが食べられるようになるのではと期待しています」

 

インドの主食は地域によって異なり、北部では小麦、東部・南部では米、西部では米と小麦の両方が主に食べられているという

 

レトルトパウチのパスタソース

日本でも市場規模が拡大しているパスタやパスタソース。保存性の高さや調理の簡便さなどが人気の理由です。パスタソースは種類も豊富で、トマト系、クリーム系、オイル系、和風など、さまざまなものが販売されています。そのためイタリアン好きが多いインドで流入が見込める製品の一つではないかと大西氏は語ります。

 

「インドの都市部では、インド料理だけではなく、中華やイタリアンなど、さまざまな国の料理が味わえるレストランが増えてきています。なかでもイタリアンが好きなインド人は多いのですが、自宅で作ることにはあまり慣れていません。そのため、温めるだけで食べられるレトルトパウチに入ったパスタソースは需要があるのではないかと考えています。現在、スーパーなどで手に入るのはガラス瓶に入ったアメリカの輸入品くらい。日本のように様々な種類のパスタソースがあれば、インドでも購入する人がいるはずです」

 

大西氏は、「現在のインドでは、『誰でも知っているインド料理』しか、加工食品として販売されていない印象がある」と話します。インドの食文化が地域によって異なることや、日常的に家庭で食べられている料理がどのようなものなのかを、調査してニーズを正確に把握することで、インド人の生活に寄り添うような加工食品が生まれるのではないでしょうか。

 

「そのほか、日本の技術が活かせる可能性があるのは食品加工機械。例えば北インドでは、おやつとして『モモ』(餃子)がとても人気です。デリーやムンバイなどの都会では、夕方の6時頃になると街でおやつを買って食べる人が多くいて、私も度々買いに行くことがあります。モモは道端の屋台のようなお店で販売されていて、大量の皮は全て手作業で作られています。インドは人件費が安いため、小規模なお店ではなかなか機械を導入することが難しいと思いますが、今後、大規模なラインで作られるようになっていけば、餃子を包むような機械にもニーズが出てくるかもしれません」

 

コロナ禍は「食」を考え直すきっかけに

日本はコロナ禍で、長期保存食のニーズが高まったり、家庭で調理をする人が増えたり、食生活におけるさまざまな変化が見られました。インドでも、日本以上に厳しい外出制限が強いられ、食生活をはじめ生活のあらゆる面で変化があったと言います。

 

「インドでも日本と同じように家にいる時間が増え、自宅で食事を作ることに時間をかける人が多くいました。そのためか、さまざまな産業が打撃を受ける中、食品産業にはそれほど大きな影響は出ていないようです」

 

「コロナ禍でこれまで全く料理をしなかった人が、ケーキやクッキーといったお菓子を作るようになったという話も聞きました。その背景には、コロナ禍で『他人の手に触れたものを食べたくないから自分で作ろう』と考える人が出てきたこともあるのではと感じています。しかしインドでは日本のように、お菓子を作るときに使う調理器具や材料などがあまり販売されておらず、パティシエが利用するような専門店でないとなかなか手に入れることができません。そのため、材料があらかじめ全て入っているお菓子のキットなど、新たな需要も生まれました」

 

 

「またインドでは1回目のロックダウン中、飛行機の運航が全てストップしていました。そのため地方からデリーなどに働きに来ている若者の中には、田舎に帰ることができなかった人もいました。普段は自炊をせず3食外食をしているような若者たちは、レストランなどに行くことができず、相当困ったと聞きました。そんなときに長期保存できる加工食品の便利さを実感した人も多いはず。コロナ禍は、インドの人々が『食』についてあらためて考えるきっかけになったと思っています」

 

人口増加による経済発展やコロナ禍で変化しているインドの食。中でも食品加工産業で求められている「長期保存性」や「安心・安全性」などは、日本が得意とする技術をおおいに活かすことができるところです。今後、ここに新たなビジネスチャンスを見出し、インドに進出する企業が増えることが期待されます。

コロナ下の苦境を乗り切れ!――インドでマンゴー農家の窮地を救ったJICA主導の直販プロジェクト

「インドのマンゴーを守れ!」――新型コロナウイルス(以下新型コロナ)のパンデミックで人々やモノの動きが止まるなか、インドで農作物の流通を滞らせないための取り組みが注目を集めています。それはインターネットを介して生産者と消費者を結ぶ直販プロジェクト。同様のプロジェクトは、日本をはじめ世界でも始まっていますが、インドでの取り組みの背景には、旧態依然とした農業が抱えるさまざまな課題と、それらを解決しようと奮闘する人々の思いがありました。

 

今回、インドの水プロジェクトに長年携わってきた水ジャーナリスト・橋本淳司さんが現地からの声をリポートします。

 

【著者プロフィール】

橋本淳司

水ジャーナリスト、アクアスフィア・水教育研究所代表、武蔵野大学客員教授。水問題やその解決方法を調査研究し、さまざまなメディアで発信している。近著に『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『水がなくなる日』(産業編集センター)、『通読できてよくわかる水の科学』(ベレ出版)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)など。「Yahoo!ニュース 個人 オーサーアワード2019」受賞。

 

私は2015年頃から、インドの水に関するいくつかのプロジェクトに携わっています。インドは水不足が深刻になりつつあるため、それに対応する雨水貯留タンクの製作や実装、水質調査をはじめ、一般向けや学校向けの水教育などを行っています。水は「社会の血液」と言われるほどで、あらゆる生産活動に必要ですが、とくに農業は大量の水が不可欠。また、水があるからこそ、農作物を加工し販売することができると言えます。そして今回のインドにおけるコロナ禍は、ほかにもさまざまな問題を浮かび上がらせました。

 

日本では、3月上旬以降、学校の一斉休校が始まると給食が休止となり、さらに緊急事態宣言により飲食店や百貨店に休業要請が出されたため、収穫された野菜が行き場を失いました。収穫されないまま農地で廃棄される野菜の様子が報道されるなどし、「もったいない」と感じた人も多かったと思います。同様の問題はインドでも起きました。とりわけ農業技術や流通網の整備が不十分な地域では、事態はより深刻でした。

 

よく「バリューチェーン」という言葉を耳にしますが、農作物においては、生産の過程や加工することなどで食品としての価値を高めつつ、消費者の元に届けるプロセスのことだと個人的に考えています。このプロセスなくしてバリューチェーンは成り立ちません。実際、インドでもコロナ禍によるロックダウン(都市封鎖)が実施され、農作物を流通できず、農家が苦境に立たされました。現地からそうした情報を聞き大変心配しましたが、その救世主となったのが、JICA(独立行政法人 国際協力機構)による、生産者と消費者を直に結ぶ取り組みでした。

 

苦境に立たされたインドの農業

インドでの新型コロナの累計感染者数は、3月3日の時点では5人でしたが、同月24日には492人と急増(9月7日時点での感染者数の累計は420万4613人。アメリカに次いで感染者が多い)。3月25日からは、全土でロックダウンが実施され、ほぼすべての人々の移動や経済・社会活動が制限されました。その後、生活に最低限必要な活動や移動は可能になりましたが、依然として公共交通機関は止まったまま、リキシャー(三輪タクシー)や私用車の利用は禁止され、近隣の町への移動も制限されたままでした。

 

そのため農業従事者が農地に行けない、収穫された農産物を運べない、加工や販売ができないという事態が発生し、流通網がズタズタに寸断されてしまったのです。4月になると、インドはマンゴー収穫の時期を迎えます。このままでは大量のマンゴーを廃棄することにもなりかねません。

↑収穫したマンゴーを箱詰めする現地マンゴー農家の人々

 

この窮地を救ったのが、“Farm to Family”(農場から家族へ)と名付けられた直販プロジェクトでした。オンラインで生産者と消費者を結びつけるデリバリーサービスです。

 

熟したマンゴーを信じられない価格で提供

舞台となったのは、インド南部・デカン高原に位置するアンドラ・プラデシュ州です。人口は4957万人(2017年調査)で、そのうちの62%が農業に従事し、農耕可能な面積は805万ha、ほぼ北海道と同じ面積になります。この広大な農耕地で生産されている作物は多岐にわたりますが、トマト、オクラ、パパイヤ、メイズ(白トウモロコシ)の生産高はインド国内1位、マンゴーは2位、コメは3位という農業州です。

↑収穫時期のマンゴー農園

 

同州にはもう1つ強みがあります。流通の拠点となる海港を5つ、空港を6つも擁しているのです。州政府は農業と流通インフラという強みを活かし、農作物の生産から加工、流通までのフードバリューチェーンを構築し、食品加工産業の発展に注力してきました。ロックダウン下においては、農業従事者が畑に行って収穫することはできましたが、地元の仲介人が収集することも、販売網を通じて販売することもできませんでした。行き場を失ったマンゴーたちは、廃棄せざるを得ません。農家の収入はそもそも多くないのですが、これでは無収入になっていまいます。

 

危機的な状況を受け、州政府はこの地で実施されていたJICAの事業の一環として、州園芸局やコンサルティング会社と対応策を検討しました。そこで考え出されたのが、寸断された流通網をIT技術で修復するという画期的な方法でした。

 

プロジェクトのチラシにはこう書かれていました。「グッドニュース! マンゴーのシーズンが到来しました。政府は、COVID-19でピンチになった小さな農家を支援します。仲介者やトレーダーをなくすことで、農家と消費者に双方にメリットがあります。自然に熟したマンゴーを信じられない価格で提供します」

↑直販プロジェクトの開始を告知するチラシ

 

このプロジェクトには、約350人もの農業者が参画。ネットを使用してコミュニティーごとに需要を把握し、直接消費者に販売しました。ハイデラバードの3つのコミュニティでスタートして以来、これまでに3トンのマンゴーが販売されたほか、12のコミュニティから10トンの事前予約が寄せられ、ロックダウンの解除後も直販体制を継続することが予定されています。

↑農園に集まったプロジェクトメンバー

 

現地のマンゴー農家であるテネル・サンバシバラオ氏はプロジェクトについてこう話してくれました。

 

「この取り組みには大変感謝しています。品質のよいマンゴーを適切な価格で、直接消費者に届けることができました。販売にかかる運搬費や仲介料がかからなかった点もとても助かりました」

 

このコメントの裏からは、農家の深い悩みが窺えます。インドでは一般的に最大4層の仲介業者が存在し、農家には価格の決定権がありません。農家が仲介業者を通じて出荷すると、見込める収益の数十パーセント程度の価格で買い叩かれてしまい、農家の生活は厳しいものとなっているのです。“Farm to Family”(農場から家族へ)は、ロックダウンで分断されていた農家と消費者双方に果実をもたらしたと言えます。

↑出荷を待つマンゴー

 

農業、流通という強み。水不足、技術不足という弱み

そもそもJICAのプロジェクトは2017年12月からスタートしていました。農業と流通に強みをもつアンドラ・プラデシュ州ですが、一方で課題もありました。 まず、バリューチェーンの根幹となる、農作物の収穫量と質が安定していません。そこには農業生産に欠かせない「水」の問題がありました。世界の淡水資源のおよそ7割が農業に使われるというほど、農業と水は切っても切り離せません。

 

アンドラ・プラデシュ州では農業用水の62%を地下水に依存していますが、現在、その地下水の枯渇が懸念されています。これに関しては、原因がはっきりとわかっているわけではありません。私がプロジェクトを行なっている北部のジャンムーカシミール州の村では「雪の降り方が変わったことが地下水不足につながっている」と言う人もいますし、もう1つのプロジェクト地であるマハーラーシュトラ州の村の人々は「森林伐採の影響を受けているのではないか」と主張します。つまり場所によってさまざまな要因が考えられると言えます。

 

また、生産量の高まりとともに地下水の使用量が増加しているという声も多くの州で聞きます。なかには、どれだけの水を農業に使用しているのかわからないという地域も。アンドラ・プラデシュ州も同様で、節水などの地下水マネジメントは急務とされていました。

 

水を管理するうえで、もう1つ重要なのが灌漑用の施設の整備です。施設が老朽化すると水漏れも多くなり、貴重な水が農地まで届きません。それが水不足に追い討ちをかけています。

 

一方で、生産や加工の技術が不足しているという悩みもあります。品質のよい作物を育て、最適な時期に収穫するといった営農技術、収穫後の付加価値を高める加工処理技術などが十分に定着していないため、農産品の加工率が低く、販路が狭くなっています。

 

灌漑設備の改修とバリューチェーンの構築

こうしたさまざまな課題を解決するため、JICAが現地で取り組んでいるのが「アンドラ・プラデシュ州の灌漑・生計改善事業」という、灌漑設備の改修をはじめ、生産から物流までのバリューチェーンの構築を支援するプロジェクトです。「プロジェクトにはいくつかの柱がありますが、重要な柱の1つが、灌漑施設の改修です」とはJICAインド事務所の古山香織さんです。

 

州水資源局によって20年以上前に整備された灌漑施設はあるのですが、前述したように老朽化や破損による漏水、不適切な管理によって、失われる水の量が増えています。農業への水利用効率(灌漑効率)、すなわち農業用に確保した貴重な水の38%しか農地に届いていないのです。実際、末端の水路を利用している農家の中には雨水に頼らざるを得ないところもあります。近年は気候変動の影響で雨の降り方が以前とは変わっているため、収穫量は不安定で一定品質の農作物がつくれません。

↑改修前の灌漑用水路

 

「そこで老朽化した設備を新しいものと交換したり、地面に溝を掘っただけの水路をコンクリート張りの近代的な水路に変えています。 事業は着実に進捗しており、2024年に完了する見込みです。さまざまな規模の灌漑施設の改修が完了(470箇所を予定)すれば、灌漑農業による農作物の収穫量と質の改善が期待できます」(古山さん)

↑改修後の灌漑用水路

 

同時に、現地NGOと連携して地元の農家による水利組合づくりを手伝い、施設改修後の維持管理作業を自分たちで行うことができるよう研修も実施しており、実はこれが大変重要な取り組みなのです。技術を提供するだけでは不十分で、壊れてしまった途端放置される水施設がとても多いことが世界各地の水支援の現場で共通する問題であり、それを防ぐためには、技術を現地に根付かせるための人材育成が欠かせません。

 

さらに灌漑施設の改修を生産量の増加に結びつけるために、関係政府部局と現地NGOで構成する農業技術指導グループも組織しました。

 

「灌漑施設の改修、生産農家の組織化の支援、営農支援などを行うことで、それらが相乗効果をもたらして、高品質の農作物が安定的に生産されるようになります」(古山さん)

 

プロジェクトでは、さらにフードバリューチェーン全体の整備も支援しています。先述のように、マンゴーであればおいしくて大きな果実を育て、それをいちばんよい時期に収穫し、消費者のもとに届けること、あるいは収穫したマンゴーを顧客のニーズにあった製品に加工して付加価値をあげることです。

 

「消費者のニーズに合った加工品を開発・販売することで、付加価値の向上と農産品のロスを抑えることができます。小さな農家同士を組織化することにより、仲介人を介さず消費者と直接取引ができるようになれば、農家の収入向上につながりますし、逆に消費者の立場で考えると、購入できる農作物の種類と品質が向上することになります」(古山さん)

 

実現すれば農作物の収量と品質が高まりますし、農業者の収入も向上・安定します。農業セクターの重要性も高まります。同時にインドの食料安全保障の改善にも寄与していると言えるでしょう。

 

コロナ禍で起きた農家の考え方の変化

新型コロナの世界的な収束は、まだまだ先が見えない状況ですが、人々の心境の変化、生産や流通に対する考え方の変化が確実に起きているとJICAインド事務所のナショナルスタッフであるアヌラグ・シンハ氏は話します。

 

「新型コロナをきっかけに、農家の考え方に変化が起きています。販売のためには農産品の品質の向上が重要で、そのためには収穫のタイミングや選別がとても大切であるという認識がこれまでより強くなりました。同時に、消費者との直接取引などでデジタル・テクノロジーを有効活用すべきとの意識も芽生えています」

↑コミュニティーで販売されるマンゴー

 

農家と消費者が直接つながることで関係性が強くなり、農家は相手に対して「よりよいものを提供しよう」、消費者は「顔の見える生産者を応援しよう」という気持ちが生まれるなど、相乗効果も期待できそうです。

 

またインドでは、テクノロジーを活用して農業の効率と生産性を向上させる「アグリテック」の分野が、2015年頃から注目を集めるようになっています。データを活用した精密農業システム導入のほか、スマート灌漑システムなどの生産性向上、農業経営に特化したクラウドサービス拡充などその事業内容は幅広いのですが、新型コロナはこうした動きを加速させることになるでしょう。

 

一方、日本国内に目を向けると、国産の農林水産物を応援する「#元気いただきますプロジェクト」をはじめ、農家(生産家)と消費者を結ぶさまざまなプロジェクトが立ち上がっています。このような取り組みは今後も世界的に広がることが予想されます。

 

新型コロナにより、従来の社会は大きく変貌を迫られています。しかし、必ずしも悪い面ばかりではありません。大量生産と大量消費を繰り返し、食品廃棄など大量の無駄が存在していたこれまでの社会。しかし、今回ご紹介した、地域社会を大切にし、水や食料を大切にする新しい流通網の構築への取り組みなどは、私たちの社会を持続可能な方向へと向かわせてくれるのではないでしょうか。

 

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