アフリカ宇宙局が誕生! 途上国が挑む「宇宙開発」の狙いは?

スペースXやテスラ、ツイッターなどのCEOを務めるイーロン・マスク氏が火星移住計画を打ち立て、実業家の前澤友作氏が民間人として宇宙旅行を楽しむなど、昨今の宇宙開発は目覚ましいものがあります。しかし、そんな宇宙開発は先進国に限ったものではありません。ナイジェリア、ルワンダ、パキスタンなどの途上国も宇宙開発事業に取り組んでいることをご存知でしょうか?

途上国も宇宙開発に挑む

 

アフリカ諸国

アフリカ連合加盟国は2023年1月、同大陸における宇宙開発のハブとしてアフリカ宇宙庁を設立し、本格的に宇宙事業に乗り出しました。マスク氏が率いるスペースXも、南アフリカでの衛星の打ち上げを支援しています。その一方、現在、世界の多くの国々や民間企業が宇宙事業に参入しているなか、国際協調による平和的な宇宙探査を目的とした「アルテミス協定」に日本をはじめ、アメリカ、カナダ、イギリスなどが署名していますが、アフリカの国として初めて署名したのがナイジェリアとルワンダでした。

 

カザフスタン

旧ソビエト連邦を構成していたカザフスタン、アゼルバイジャン、トルクメニスタンには、独自の宇宙機関や宇宙関連の民間企業があり、合計11の衛星を飛ばしています。なかでも技術的に優れているのが、カザフスタン。超小型衛星の開発に成功し、他国へのサービス提供も間もなく始まるとみられており、宇宙開発分野での国際協力も積極的に行っています。

 

トルコ

トルコでは、同国の宇宙庁が宇宙開発市場に参入するための目標を掲げた10年戦略を策定。トルコ人を宇宙に送り込むことや、同国で初となる観測用衛星を確立することなどが盛り込まれています。トルコは二国間協定や民間企業との協力を積極的に進めていることが特徴。例えば、パキスタンと衛星や宇宙プロジェクトに関する協定を結び、エルサルバドルと衛星システムに関する覚書を締結したほか、スペースXの協力のもと衛星の打ち上げも行っています。さらに、世界初の商用宇宙ステーションの開発を進めるアメリカのアクシオム・スペースとも協定を結んでいます。

 

パキスタン

パキスタンは1962年にアジアのイスラム圏で初めて宇宙開発事業に参入しました。インドとの長期にわたる国境紛争などの影響もあり、その計画は必ずしも順調に行かなかったようですが、同国が掲げる現在の「宇宙ビジョン2040」では、国産の衛星の開発と配備が主な目標とされています。パキスタンは、トルコ、タイ、UAE、中国などと協定を結び、近年はパキスタン人の宇宙飛行士の派遣に意欲を燃やしているそうです。

 

鍵は国際協力

宇宙開発は最先端の技術はもちろん、莫大な資金が必要なため、アメリカのような大国を除いて、途上国や新興国の一国だけで始めるには限界があります。そこで鍵となるのが二国間協定のような国際協力。例えば、インドは60の国と5つの国際機関の間で230以上の協定を結んでいます。2月下旬には、インドの宇宙研究機関(ISRO)とアルゼンチンの宇宙機関(CONAE)が宇宙開発の協力について会談を行ったニュースが報じられました。また、中国を抜いて人口が世界一多くなったインドは、アメリカや中国のように宇宙開発に関する長期的な目標の達成に向けて、民間企業を巻き込んで宇宙開発事業に乗り出しています。

 

このように、先進国だけでなく途上国や新興国も宇宙開発に積極的に取り組んでいますが、その目的の一つに自国の衛星システムの確立があります。日本では当たり前に利用されている衛星ですが、途上国や新興国はそうではありません。そこで、このような国々は自国の衛星を飛ばして、インターネットの普及を促進するだけでなく、そこから得た情報を活用して、国内の災害対策や森林管理、農業支援、安全保障などに活用しようとしているようです。そこでは先進国の知見が役に立つでしょう。

 

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国際的な基準値の30倍。深刻化するインドの大気汚染

インドの大気汚染は、日本でも頻繁に報道されるほど深刻化しています。ひどい時期には、白っぽいモヤが空いっぱいに広がっていることが確認できます。現在、世界規模で温室効果ガスの削減が進められていますが、インドも2070年までに二酸化炭素排出量をゼロにする目標を掲げました。インドの大気汚染の現状と二酸化炭素を減らす取り組みについて説明します。

青天時でもモヤがかかっているインドの都市

 

インドにおける大気汚染物質PM2.5の値は普段でもとても高いのですが、最近は平均150~300とWHOが掲げる基準数値の30倍にもなってしまいました。特にインドのお正月(ディワリ)の時期がピークで、PM2.5の値は首都デリーを中心に最高値の300に達します。原因としては、お祝いの花火や爆竹、小麦を収穫した後のわら焼きが大きく関係しています。さらに、クルマの排気ガスを合わせると、非常に多くの有害物質が大気中に存在することになります。

 

雨が降ると大気中の汚染物質は落ち着きますが、ディワリの時期は乾季のため雨はめったに降りません。よって、汚染された空気はしばらく大気中に残り続けます。首都デリー周辺の学校は外出できるレベルではないとして、2022年11月初旬には学校を当面休校にしました。その他の地域の学校でも空気清浄機をつけたり、マスクを配布したりと対策をとっています。

 

さらに、心筋梗塞や肺の疾患、頭痛といった身体の不調も、大気汚染が原因で発症することが多いとされています。

 

インドの約束

2021年11月にはイギリスで、持続可能な社会を目指した「国連気候変動枠組条約第26回締約会議(COP26)」が開催されました。地球温暖化の問題が取り上げられ、各国の代表がさまざまな誓約をする中、インドのナレンドラ・モディ首相も5つの誓約をしました。

 

  • 2030年までに非化石燃料の発電容量を500GWにする
  • 2030年までにエネルギー需要の50%を再生可能エネルギーにする
  • 2030年までに予測されるGHG排出量を10億トン削減する
  • 2030年までに経済活動によってもたらされる二酸化炭素の量を45%削減する
  • 2070年までに二酸化炭素の排出をゼロにする

 

その後、インドでは本格的に二酸化炭素削減に向けての取り組みが始まりました。さらに、身近にある具体的な取り組みとして下記のことが行われています。

 

  • 交通を抑制し、車両数を減らす
  • 各都市にスモッグ計測装置を設置する
  • 爆竹の販売と購入を非合法化する

 

交通量規制については、以前はナンバープレートが偶数か奇数かによって通行できる曜日を決めるという施策もありました。ただ、一部の地域だけで実施されていたので徹底されておらず、交通量はいまだに減りません。

 

また、爆竹の販売が非合法化されているにもかかわらず、2022年のディワリもたくさんの花火や爆竹を目にしました。インド人からは「去年はコロナでできなかったからみんな待ち望んでいた。店に行けば爆竹は売っている」との声が聞かれました。

 

ゼロエミッション事業を推進

完成に向けて建設が進む高速道路

 

排出量ゼロに向け、政府規模で実施している取り組みもあります。その一つはグリーンテクノロジーの導入に向けた動きで、グリーンエネルギーの容量を2027年までに275GWにする施策です。

 

さらに、電気自動車の導入も進んでおり、インド政府は、2030年までに自動車の30%を電気自動車にすると公約しています。

 

2022年には日本政府主導のもと、UNDP(国際連合開発計画)とインドの気象庁が共同でネットゼロエミッション(※)事業を開始しました。脱二酸化炭素や持続可能な研究開発を行うためには気候変動や気象学の知識が欠かせないとして、気象庁が中心となって取り組んでいます。全予算のうち約12%の資金がインドに割り当てられました。この資金を原資とし、電気自動車の充電ステーション設置やソーラー電池を導入した診療所の拡大、中小企業へのグリーン技術の導入促進などが行われます。

※ネットゼロエミッション:正味の人為起源の二酸化炭素排出量をゼロにすること(参考:一般財団法人環境イノベーション情報機構

 

さらに、車両数を削減する取り組みとして、高速鉄道の設立が始まりました。ムンバイからアーメダバードまでの約500キロメートルを結ぶラインをつくることが決まり、現在工事が着々と進んでいます。高速鉄道ができることで、都市部の渋滞が緩和し、クルマの流れがスムーズになるとの期待が高まっています。

 

このようにインドは二酸化炭素の排出ゼロに向けて、少しずつではありますが確実にプロジェクトを進めています。ただ日常生活においては、大気状態が改善されなかったり、交通渋滞が収まらなかったりと、まだ実感することはできません。世界規模で地球温暖化がクローズアップされている現在、なかなか浸透しないこれら取り組みを徹底させるためには、政府だけでなく社会全体も一丸となり、継続的に訴えていく根気強さが必要なのかと思われます。

 

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EVで先進国入りを目指すインドネシアの戦い

世界の自動車産業がガソリン車からEV(電気自動車)へシフトする中、最近、大きな注目を集めているのがインドネシアです。同国はEV産業の鍵を握る資源・ニッケルの世界最大の生産国であり、それを生かして多くの雇用を作り、先進国になろうとしています。しかし、そこには課題も含まれており、世界各国がインドネシアの動向を注視している状況です。

EVに賭けるインドネシア

 

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領(通称ジョコウィ)は、2019年にEVを推進する大統領令に署名しました。その内容は、2025年までにEVの利用者を250万人まで引き上げるというもの。その実現を目指し、インドネシア国内におけるEV産業の促進、充電ステーションの整備、電気料金の規制、EV購入に際する税金の軽減や財政支援などが盛り込まれています。

 

この施策の象徴的な存在が「グリーン・インダストリアル・パーク(グリーン工業団地)」。3万ヘクタールに及ぶ敷地内は主に水力発電でまかなわれ、交通手段としてEVが整備されるという、環境に配慮した住宅地になる予定です。

 

インドネシアがEVを推進する大きな理由は、EVのリチウムイオン電池の原料となるニッケルの生産量が世界で最も多く、約22%を占めているから。ジョコウィ大統領は国内でニッケルの原料を加工するために、2019年から鉱物の輸出を規制し始めましたが、最近では2022年内にはニッケルの輸出を課税する可能性があるとも報じられています。ニッケルの需要が急増している中、インドネシアは輸出税を導入し、バリューチェーン(価値連鎖。企画や生産など企業の一連のビジネスプロセスにおいて付加価値がいかに生み出されているかを示すフレームワーク)で価値を高めたい意向。このような背景を考慮すれば、2022年4月にヒュンダイ・モーターズ・インドネシアが初の国産EVを発売したことは、同国のEV産業にとって画期的な出来事であると理解できるでしょう。

 

EVは経済成長にとってプラス。インドネシアの人口は約2億7000万人ですが、オランダを拠点とするING銀行によると、インドネシアの自動車生産量はASEAN(東南アジア諸国連合)でタイに次いで第2位である一方、販売台数は年間約65万8000台と第1位です。パンデミックの影響で直近では販売台数が落ち込んだものの、2022年には前年比8.7%増、2023年には1.8%増になる見込み。そんな中でEVの生産が盛り上がれば、販売や修理などの関連産業も活発化し、経済成長率が高まる可能性があるとINGは述べています。

 

EV促進の犠牲は環境?

その一方、懸念されるのが環境への影響。環境保護団体の間では、グリーン・インダストリアル・パークは環境アセスメント(環境影響評価)が杜撰に行われており、ニッケルを採掘しているのは許可を得ていない業者が多いという見方があります。もしテスラといったEVメーカーが「インドネシアのサプライチェーン(供給連鎖)は環境への配慮が足りない」と思えば、彼らは環境意識の高い投資家や消費者を考慮して、インドネシア産の資源を使わないかもしれません。その他にも、「これからEVを所有する人が増えれば、大気汚染は改善されるかもしれないが、交通量や渋滞は減らないのではないか?」や「ニッケルを生産するために森林伐採が続き、住民の土地が脅かされるのではないか?」という懸念があります。

 

このような課題を抱えつつ、国内のEV産業に賭けているジョコウィ大統領。ニッケル輸出の規制を巡り、EUやWTO(世界貿易機構)はインドネシアを「国際貿易のルールに反する」と非難しています。しかしジョコウィ大統領は、輸出を規制することで、外国の企業がインドネシア国内により多く投資し、雇用が創出されることを狙っているので、「われわれは閉鎖するのではなく開かれるのだ」と金融メディア・Bloombergのインタビューで主張し、日本や韓国などに投資や技術支援を求めているのです。豊富な資源を自国の経済発展につなげることができるのかどうか、インドネシアから今後も目が離せません。

 

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東京メトロの5倍以上の路線延長へ! インドの地下鉄が「日本と韓国を追い抜く」勢いで発展

網目のように地下鉄の路線が張り巡らされた東京は、世界有数の交通ネットワークを誇る都市。アジアの中では中国の北京や上海、韓国のソウルも、地下鉄の路線延長や利用客数において大きな規模を持っていますが、現在、日本や韓国を上回る勢いで地下鉄を発展させているのが、アジアのもう一つの大国・インドです。

インドの首都・ニューデリーの地下鉄の様子

 

2023年には、中国を抜いて人口が世界1位になると予測されているインド。人口爆発に伴い、急速に経済発展を遂げている同国では、公共交通機関の整備が喫緊の課題です。インドの政府系シンクタンク・NITI Aayogによると、同国で登録された自動車の台数は急増しており、1981年ではわずか540万台でしたが、2019年には2億9500万台まで増加。この影響により渋滞や大気汚染、交通事故などの問題が顕在化してきました。

 

長年、インドを支援してきた日本もこの問題を深刻に捉えており、外務省は2016年の「対インド国別援助方針」の重点分野として、主要産業都市の鉄道や国道などの輸送インフラの整備を挙げました。

 

そこで進められてきたのが、地下鉄の建設です。例えば、同国首都・ニューデリーの地下鉄「デリーメトロ」は2002年に開通し、総延長は390kmになります(12路線)。東京メトロは9路線、総延長は約195kmなので、デリーメトロの規模の大きさがわかります。

 

それまで市民の足となっていたバスは治安面で不安がありましたが、地下鉄の完成によって女性でも安全に移動できるようになり、インドの人々の生活が大きく変わっていきました。

 

ニューデリーの地下鉄の影響は他の都市にも及び、いまではインドの20の都市に地下鉄網が張り巡らされ、総延長は810kmにまで拡大。巨大な交通ネットワークが構築されていますが、さらに今後は地下鉄を有する都市を27まで増やし、総延長が980kmにまで伸びる予定です。

 

ハーディープ・シン・プリ石油天然ガス大臣は、インドのケララ州の都市コーチで11月4日から開かれた「第15回アーバンモビリティ・インディア(UMI)会議&エキスポ2022」で、この新しい建設計画について言及し、「インドの地下鉄網は近いうちに日本や韓国を抜く」と述べました。この発言の裏には、このような計画があったのです。

 

人口爆発と経済発展を支える

交通網が発展する一方、課題もあります。それは公共交通機関の料金とラストマイル交通(Last-mile connectivity)。前者については、公共交通機関の利用料金が収入の20~30%を占めている家庭が、人口全体の半数近くになるそう。人々の移動をより利便にする存在とはいえ、地下鉄などがそれほど家計を圧迫するのは好ましい状態とは言えません。

 

他方、ラストマイル交通とは、最寄りの駅から最終目的地までの近距離の交通手段のこと。例えば、最寄りの地下鉄の駅から自宅までをどのように移動するか? その際の交通手段として、インドは電気自動車やライドシェアなど、より安価で利用できるテクノロジーの導入を積極的に推進。この取り組みは「スマートモビリティ計画」として知られています。

 

東京や大阪などの都市に人口が集中する日本と同じように、インドでは2050年に人口の7割が都市部に居住する見込み。交通網の整備はこれからもっと必要になりそうです。

 

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インドネシア初の「高速鉄道」9割完成ーーその背景には、日本と中国の熾烈な対決が…。

もうすぐインドネシアで、同国初となる高速鉄道の建設が完成を迎えます。首都ジャカルタの混雑を緩和することが期待されていますが、インドネシアがここまで至るまでには、日本が中国に出し抜かれるという波乱がありました。さまざまな思惑が交錯する中、この高速鉄道はインドネシアのインフラを変えようとしています。

↑開業に向けてラストスパート!

 

この高速鉄道は、インドネシアの首都ジャカルタと西ジャワ州の州都・バンドン間の約142㎞を結ぶもの。これまで3時間かかっていた2都市間の移動を約40分に短縮するもので、2016年から建設が開始され、およそ6年を経て、9割が完成する状態にまでなったそうです(2023年6月に開業予定)。先日、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領(通称ジョコウィ)がバンドン駅を視察し、車両などを確認したことが国内外で大きく報じられました。しかし、このニュースに一番安堵しているのは中国かもしれません。


もともと、この高速鉄道プロジェクトは日本が働きかけていました。安全性が高く、しかも定時に運行する日本の新幹線は、世界でも高く評価されています。その技術は海外でも活用され、日本政府も日本の新幹線や鉄道の輸出に力を入れてきました。2019年にインドネシアで初めて誕生した地下鉄は、日本が全面的に支援していたのです。この高速鉄道プロジェクトでも当初は日本が有利とされていました。

 

一方、日本に劣らない技術と経済力を持っていると主張しているのが中国。2015年に中国はこの高速鉄道建設プロジェクトの入札に参加しました。インドネシア政府による債務保証を伴う円借款を提案していた日本と違って、中国は債務保証を求めませんでした。インドネシアは財政負担を避けたかったのです。

 

熾烈な駆け引きがあったと報じられるなか、結局、インドネシア政府は中国を選び、中国の国家開発銀行が総工費の75%を融資することになりました(残りの25%はインドネシアと中国の企業からなる合弁企業の資金で賄う)。

 

中国の落札の裏には、2013年に習近平国家主席が打ち出した「一帯一路」戦略があります。これはアジア各国やヨーロッパに陸路と海上航路の物流ルートを作り、巨大な経済圏を構築する構想。かつて中国とヨーロッパの間にあった交易路「シルクロード」の現代版と言えるでしょう。インドネシアの高速鉄道建設を一帯一路の一環と捉えた中国は、積極的な支援に乗り出すようになり、日本に勝ちました。

 

このように、この高速鉄道プロジェクトには中国の威信がかかっているとも言えます。車両の設計と製造は中国中車青島四方機車車両が行いました。最高速度は時速350kmに達するとのこと(日本の新幹線の最高速度は現時点で時速320km)。この列車は、インドネシアのような熱帯気候に適応するよう改良されているそうです。

 

とはいえ、この計画は落札後も順調に進んでいたわけではありません。土地の購入が計画した通りに進まないうえ、新型コロナウイルスが発生。そのため、当初は2019年に開業予定でしたが、度重なる延期に見舞われました。最終的には750kmの距離まで延伸される予定ですが、ひとまず第一段階としてジャカルタ—バンドン間の開通にこぎつけるまでに至ったのです。

 

紆余曲折を経て高速鉄道が完成すれば、インドネシア国内の物流が良くなることは確か。2014年の大統領就任からインフラの改善を掲げてきたジョコウィ氏は「この高速鉄道がモノとヒトの移動をより速く、より良くし、インドネシアの競争力を高めることを祈っている」と述べています。中国のプレゼンスは高まっていますが、日本のまき返しにも期待したいですね。

 

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世界最高の送金コストを減らせ! アフリカで「デジタル通貨」導入の動きが加速

【掲載日】2022年8月2日

世界各国で進展している自国通貨のデジタル化は、アフリカ大陸において急激な進展を見せています。すでにナイジェリアは、中央銀行発行のデジタル通貨「eナイラ」を2021年にローンチした一方、南アフリカとガーナはパイロット運用を実施中。さらにケニア、タンザニア、ナミビアなど約8か国が、将来の本格的な導入に向けて詳細なリサーチを開始しており、安定した金融制度を確立するために奔走しています。

中央銀行デジタル通貨(CBDC)がアフリカ諸国に広がる

 

各国政府の中央銀行によるデジタル通貨は「CBDC(Central Bank Digital Currency)」の略称で呼ばれており、自国の法定通貨建てで、中央銀行の債務として発行されて流通している自国通貨のデジタル版となっています。価格変動の激しい暗号通貨と異なり、政府の規制で介入されるので、安定度の高さが見込まれるのが特徴。

 

アフリカ諸国は、政情不安やインフレなどによる通貨の激しい値動きに長年悩まされ続けてきました。さらに銀行口座を持っていない国民も多く、個人に向けた給付金などが想定通りに配布されないなど、多くの問題が存在しています。また、海外からの送金においてもサブサハラ(サハラ砂漠以南の国々)地域の平均手数料は約8%と、送金コストが世界で最も高いグループに属しています(世界銀行によると、2021年第1四半期における世界の送金コストの平均は6.4%で、南アジアが最低の4.6%。持続可能な開発目標では2030年までに3%に抑えることを目指している)。CBDCはこのような問題を解決できる可能性を持っており、それゆえに本格的な導入に向けた取り組みが熱を帯びているのです。

 

当然ながらデジタル通貨の導入には、解決すべき問題も多数存在しています。前提条件として、国民がデジタル通貨を活用するためのデバイスの所有や、広範囲な接続網などのインフラ整備が不可欠。また、デジタルゆえに、サイバー攻撃による資産や情報の流出リスクを常に警戒する必要があります。アフリカだけでなく他国でも、CBDCの導入を巡る議論においては自国の状況を踏まえながらメリット・デメリットを検証するため、リスクが大きい場合は慎重にならざるを得ません。

 

しかし、デジタル通貨の流通には大きな利点があります。それは金融包摂で、貧困や差別により既存の金融システムから除外されてしまった人々に対して手を差し伸べることが期待できるのです。デジタル通貨やブロックチェーン、NFTといった「フィンテック」は、すべての人々に対して経済的に平等な権利を与える意味でも革新的な技術。より多くの人たちが金融サービスにアクセスできるようにすることは、途上国だけでなく先進国の課題でもあるので、アフリカの先駆的な取り組みは世界が見守っています。

 

デジタル通貨の到来に向けたビジネスでは、アプリやセキュリティ、スマートカードの提供など大きなチャンスが存在しています。途上国ではフィンテックを活用した新しいビジネスモデルが続々と生まれていますが、デジタル通貨の導入に向けた動きが加速する中、アフリカの動向から今後も目が離せません。

 

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世界最高の送金コストを減らせ! アフリカで「デジタル通貨」導入の動きが加速

【掲載日】2022年8月2日

世界各国で進展している自国通貨のデジタル化は、アフリカ大陸において急激な進展を見せています。すでにナイジェリアは、中央銀行発行のデジタル通貨「eナイラ」を2021年にローンチした一方、南アフリカとガーナはパイロット運用を実施中。さらにケニア、タンザニア、ナミビアなど約8か国が、将来の本格的な導入に向けて詳細なリサーチを開始しており、安定した金融制度を確立するために奔走しています。

中央銀行デジタル通貨(CBDC)がアフリカ諸国に広がる

 

各国政府の中央銀行によるデジタル通貨は「CBDC(Central Bank Digital Currency)」の略称で呼ばれており、自国の法定通貨建てで、中央銀行の債務として発行されて流通している自国通貨のデジタル版となっています。価格変動の激しい暗号通貨と異なり、政府の規制で介入されるので、安定度の高さが見込まれるのが特徴。

 

アフリカ諸国は、政情不安やインフレなどによる通貨の激しい値動きに長年悩まされ続けてきました。さらに銀行口座を持っていない国民も多く、個人に向けた給付金などが想定通りに配布されないなど、多くの問題が存在しています。また、海外からの送金においてもサブサハラ(サハラ砂漠以南の国々)地域の平均手数料は約8%と、送金コストが世界で最も高いグループに属しています(世界銀行によると、2021年第1四半期における世界の送金コストの平均は6.4%で、南アジアが最低の4.6%。持続可能な開発目標では2030年までに3%に抑えることを目指している)。CBDCはこのような問題を解決できる可能性を持っており、それゆえに本格的な導入に向けた取り組みが熱を帯びているのです。

 

当然ながらデジタル通貨の導入には、解決すべき問題も多数存在しています。前提条件として、国民がデジタル通貨を活用するためのデバイスの所有や、広範囲な接続網などのインフラ整備が不可欠。また、デジタルゆえに、サイバー攻撃による資産や情報の流出リスクを常に警戒する必要があります。アフリカだけでなく他国でも、CBDCの導入を巡る議論においては自国の状況を踏まえながらメリット・デメリットを検証するため、リスクが大きい場合は慎重にならざるを得ません。

 

しかし、デジタル通貨の流通には大きな利点があります。それは金融包摂で、貧困や差別により既存の金融システムから除外されてしまった人々に対して手を差し伸べることが期待できるのです。デジタル通貨やブロックチェーン、NFTといった「フィンテック」は、すべての人々に対して経済的に平等な権利を与える意味でも革新的な技術。より多くの人たちが金融サービスにアクセスできるようにすることは、途上国だけでなく先進国の課題でもあるので、アフリカの先駆的な取り組みは世界が見守っています。

 

デジタル通貨の到来に向けたビジネスでは、アプリやセキュリティ、スマートカードの提供など大きなチャンスが存在しています。途上国ではフィンテックを活用した新しいビジネスモデルが続々と生まれていますが、デジタル通貨の導入に向けた動きが加速する中、アフリカの動向から今後も目が離せません。

 

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